保守
保守
保守するぜ
保守
つか、新スレ早々書き込みが保守だけって……
乙です
があるだろ?
オリジナルオンリーなところが書き手には壁だが、金看板でもある
と勝手に思ってる
たとえアイディアはあっても、書き上げるとなるとそれなりの労力がかかるからなあ
そういえばここって保管庫無かったんだっけ
総合保管庫にでも依頼した方が良いかな
まかせた
12 :
10:2008/08/18(月) 02:34:28 ID:WQYwktwO
残念だが俺は●持ってないから過去スレの保管依頼はできない
●持ってる人頼む
↑ぐぐってみたが意味わからず
”●”て何?
つうか時間がないよ
立って2週間で20レス行かないと即死するんだよな、確か
ざあとらしいけど、ちょいと保守するぞ
ファンタジーは簡単なようで、意外と難しいな
戦闘描写や魔法の効果等視覚に訴えるものを如何に文章化するかで
あと、王城などでの丁寧な言葉遣い
保守
>>16 更に一次だと世界観の設定とかも煮詰めないと薄っぺらくなるしな。
たまに伝記モノとかすげー羨ましくなる。
道具から乗り物から常識から、何から何まで身の回りに揃ってるもの使えばいいんだし。
もっとも、それ故の制約もあるんだろうけどね。
伝記モノじゃねーやい
伝奇モノね。
そんなこんなで即死回避完了ですか
あれれ、完了してたか
未投下の短い文見つけたから手直ししてたのだが
まあ、久しぶりに落としていくかな
>>16 10年くらい前の富士見ファンタジア文庫のラノベ、たとえば魔術士オーフェンシリーズやスレイヤーズシリーズとかを参考にしてみると良いんじゃないか?
最近のでも問題無いと思うけど、最近ので魔法が出てくるのってあんまり知らないんでな
ドラクエの小説なんかも王城の言葉遣いの参考になるかも
ついでに言ってしまえば、説得力さえあれば多少適当でも問題無い
適当すぎるのは問題だけどなw
魔法も攻撃魔法や回復魔法は四大元素や土地の精霊がどうとかで説明して、
攻撃力や防御力をいじる、いわゆる補助魔法は対象の筋肉や神経なんかに作用してるとかなんとか
言葉遣いはともかく、魔法やモンスターを実際に見たことがある人なんかいないんだから、ハッタリかませば良いんだよ
さんくす
他のスレで苦戦しててね
ここの前スレでかなり勉強させてもらった
24 :
レイズデッド-1 ◆wZraoCNSHo :2008/08/19(火) 01:41:49 ID:Ff13+xHj
急所に剣が突き刺さり、剣に宿った魔法で黒焦げになった魔物が倒れている
じゅぅ〜・・と死体が燻る音を耳にしながら、その脇に小柄な少女僧侶が
立ち尽くしていた
激闘の末、怪物は討ち取った
しかし、こちらの被害も大きかった
魔物が死に間際に放った炎の一撃を正面で戦っていた剣士が
まともに蒙ってしまったのだ
もう体力が限界に来ていた戦士はひとたまりもなかった、
十メートルも飛ばされ、岩壁に叩きつけられて、それっきり動かなくなっていた
少女僧侶は仲間の元へ歩み寄る
心臓の音を確認する必要などないほどひどい状態
腹は大きく抉り取られるように黒焦げで肉の焼ける匂いをあたりに
撒き散らしている
「ひどい・・ 果たして、上手くいくかどうか・・」
少女は意を決して集気を開始、仲間を蘇生させる術に取り掛かった
蘇生術は復調術の中でも高等術である
結った金髪に丸い大きな眼鏡をかけた僧侶は実際の年齢より、さらに幼く見える
青と白の僧衣は丈を間違えたのかと思うほどぶかぶかで
果たしてこんな子供にそんな真似が出来るのか疑問を抱かずにおれない
風体であった
そんな彼女の口の中にふんわりと光が宿っていた
戦士の頭の傍に膝まづき、息をしていないその口に唇を寄せて行った
色気などまったくの無縁
男性とは手を繋いだことすらないと言われても普通に納得出来る
そんな少女僧侶のぷにぷに柔らかい唇が、やんわりと死体の口と重なる
「ふぅ〜・・・」
少女の口から生気が吹き込まれる
動かないはずの男の体がぴくんと震えた
「よし・・ 貸魂成功」
僧侶は集めた霊気を死体に吹込み、一時的にゾンビのような状態にした
死体の額に手を乗せ呪文を唱える、屍がぴくぴくと震え出す
「これくらい、気が行き渡れば、どうにかなるでしょ・・」
僧侶は両手を死体の腹の傷に当てた
そして呪文を詠唱しながらまた集気を開始する
手からオレンジ色の光が溢れ、徐々に傷が小さくなっていく
治癒される側に少しでも生気が無ければ、それはただの固形物に過ぎず、
治癒術は何の効果も現れないため一時的に男に霊気を吹き込み
擬似的に生体反応を起こせるようにしたのである
やがて、致命傷となった傷は消えうせ、無惨だった死体は単に眠っている
だけに見えるくらいに綺麗なものとなった
「我ながら上出来・・ でもギリギリね
これ以上損傷してたら、駄目だったかも」
僧侶は束の間休憩を取る、しかしぐずぐずしてはおれない
なるべく早く復活させないと、生前の記憶や知識がどんどん失われて
いくからだ
僧侶は死体から着ているものを剥ぎ取っていく
全部脱がし終わったあと、自分も僧衣を脱ぎはじめた
するり・・と足元に落ちた厚ぼったい衣から足を抜く少女僧侶
ほっそりとした体の中で、胸だけは年齢を主張している
すっ・・と白い肌が、血の気の失せた厳つい体の上に覆い被さった
集気を開始する僧侶、密着した二人を光が包んでいく
僧侶は呪文を詠唱し続ける
人が死を迎えた瞬間、体から抜け出した魂気を呼び戻し
代わりに入り込んだ死神の邪気を追い払うのだ
すすぅ・・と周囲を漂う見えない霊気が集まってくる
そのうちのひとつが死体に忍び寄る
僧侶は心気眼で見極める
「あなたではない!・・ 立ち去りなさい!」
浮遊してきた他人の霊に憑依させまいと僧侶は死体の頭を
胸にしっかりと抱いて防御する
その霊は憑依を拒否され、虚空へ消え去った
別の霊が近づいて来た
「あなたね・・ まちがいない
待って、まず、私の体に乗り移って・・・」
男の魂であることを確認すると僧侶は相変わらず
邪霊に隙を見て入り込まれないよう男の顔を胸にみっちりと
挟み込んだまま、尻を高く持ち上げ足を開いた
「間違えないで・・・ お尻のほうから来て」
少女僧侶の尻の穴の周りにこちょこちょとしたくすぐったい感触が走る
「ん・・・」
腰を捩りたいのを耐え、動かずに待つ
やがて、僧侶の尻の穴から霊が侵入し始めた
ずすぅ・・・
「はぁ!・・・」
小ぶりな尻をぴくぴくさせ、出すほうの穴を逆流される
生温かい異様な感覚に耐える
「くぅ!・・ まだ、入って・・くる・・」
広がった肛門を擦りながら、ぬずぬずと入り込む感触が腸内でとぐろを巻く
敏感な粘膜を霊体に舐めずられながら容赦ない侵入を受け入れる
「う!・・ううう!・・」
腸から胃へ、湿った霊体に体内をずずぅ・・と遡られ、少女の体がぶるぶる震える
耐えること数分、すぽん・・と霊が残らず僧侶の体内に入り込んだ
「ふは・・ 全部、おさまった・・
く・・ ふぅ・・ 体の中が・・ 異様に熱い・・」
ここからは手早く手順を行わないと、僧侶自身が意思を乗っ取られる恐れがある
僧侶の口から、彼女の体内を旅して来たものの一端が、ぼや・・と覗いている
「さあ・・・ 元の体に、帰るのよ・・」
体の中からじんじん伝わる不気味な感触に耐えながら
緩んだ口元を死体の口にゆっくりと重ね合わせる僧侶少女であった
死体と接吻を交わす僧侶
冷たくなった唇を少女の温かい唇がぬち・・と咥え込み、体内の霊を
口移しで元の体へ還元させていく
死体の喉元がごく・・ごく・・と蠢く
時折垂れ下がって邪魔をする舌を僧侶の舌は巧みに絡め取って退ける
・・う・・・うぅう・・・
死体に魂気が戻り、体をがくがく震わせている
男の魂と、死神の邪気が内側で戦っているのだ
「ここからが勝負だわ・・」
僧侶は男に勇気を与え、邪気の出口を確保する作業に入る
・・ぐ!・・ ぎぎぃ!・・・
男は相変わらず、邪気と戦っていた
僧侶少女は頭を下半身に移動させると、可憐な口を男根に近づけた
「・・・がんばって・・ ぺろ・・」
邪気を抜き出す出口・・ 男根を温めるべく、ちろちろと舌を走らせる
ちゅっ・・ちゅっと湿った音を立てながら、男の弱点を責め立てる
・・おぉ・・ おおぉ!・・
興奮しだす半死者、徐々に熱く力を漲らせていく
僧侶は鈴口を笛のように吸いたて、やがてぱくりと口腔深く咥え込んだ
・・ぐ!おおおぉ!!・・
全身に痺れるような感触を受けて仰け反る半死者、
僧侶はびくびくと戦慄く肉管をぐぷぅ・・と根元まで呑み込むのだった
生温かい少女僧侶の口の中で舌が妖しく蠢き、男根にまんべんなく
甘い唾液を塗りつけ、じわりと暖めていく
・・ぐ!・・ ふぅ! ぐぐぅ!・・
「ふぁ・・んばっへ・・ がんふぁっ・・へ・・ むぐ・・ んぐ」
・・ご!・・ ああ!・・
男の肉管が僧侶の口の中でいよいよ充分堅く太く展張する
「むぶ・・ ふぅ・・ そろそろ・・」
少女僧侶がすぽっ・・と頭を半死者の下半身から退けた
次の瞬間、死体ががばあ!と起き上がる
そして少女の肩を掴んで地面に磔にした
「きゃ!」
一瞬、驚いたものの、すぐに体勢を取る
僧侶の眼鏡に自分の唾液ででろでろに濡れ光りながら、逞しく勃起した
半死者の男根が自身の体に狙いをつけてるのが映っていた
「さあ! いざ!」
ほっそりとした足を、半死者の眼下で一杯に広げる少女僧侶
・・ぐごぉ!!・・
半狂乱に陥ってる半死者は、僧侶の体に襲い掛かり
いきり立った物をその薄桃色の股間に押し付けるやいなや、
ずぶり!と一気に貫いた
「く!・・ はあ・・ん」
半死者と生者の性器が結合していく
死者の肉体を受け止める僧侶の肢体がぴくぴくと海老反る
やがて僧侶少女は根元まで完全に挿入されると、がくんと体から力が抜けた
・・ごう!・・ おう・・ ごお!・・ ぐぉ!・・
「は!・・ あん・・ はふ!・・ ふは・・」
岩陰で蘇生の奥義が展開されていた
僧侶は蘇生者の体に巣食う邪気を自らの懐中に吸引すべく
半死体と肉体を交えていた
こうすることにより、邪気と戦う帰還霊を励まし、助力となるのである
ことに男性霊にはセックスは効用高い
「あ! は! がん!・・ばって! あん! はん・・」
僧侶少女は人身御供となって、仲間を必死に励ます
・・ぐ!・・うぅ・・・
半死者の腰が弱まる
「あ・・ だめ! くじけて・・は!」
邪気に飲まれそうになった彼の頭を、僧侶は手を伸ばして掴み
自分の顔に引き寄せる
ぐちゅぅ・・と、半死者と僧侶の口が吸い付く、
半死者の舌を僧侶の舌先がこちょこちょとくすぐる
僧侶は魔力混じりの息を必死に吹き込む
「まけないで・・ まけないで・・・力を・・とりもどして・・」
まだまだ濁った死者同然の目と、眼鏡の奥の憂えた瞳が見詰め合う
濁って閉じかけた半死者の目に再び炎が揺らめき出す
口の中でくすぐる僧侶の舌に半死者の舌が応えるように絡め取った
「んぐ・・ そお・・ さぁ私の舌を・・ぎゅっと・・結んで」
ん・・ん・・ ぐちゅ・・くちゅり・・
夢中になって、へばりつくように接吻を交わす二体
だらだらと涎がこぼれ、僧侶の青々とした首筋を濡らす
半死者は必死に僧侶の舌に己の舌を巻きつけて甘い魔力混じりの唾液を
吸い上げていた
「んん・・ん・・ さぁ・・ 私を・・ 精一杯・・抱くの」
・・う・・ うぅ・・ うおぉ・・ おおお!・・・
半死体の腰が、僧侶少女の中で威勢を取り戻す
「そう・・ そうよ・・ さあ・・がんばり・・なさい 私が・・ついてるから」
ず!・・ちゅ ず!・・ちゅ ず!・・ちゅぅ
「あ!・・ ひぁ!・・ うぁ!・・ はひ・・」
邪気と戦う半死者に水音激しく抜き挿される僧侶
・・お・・ぁ・・ ごぉ・・わ・・ う・・ぐぁ・・・
必死で腰を振り立てる男の口の中から、二種類の音声が流れる
「はひ・・ はふ・・ いつでも・・あなたの・・中の 不吉な・・もの
受け取る・・ 準備は・・ できて・・ますぅ・・・」
蘇生の術巧もたけなわ、邪気に勝利目前の半死者は僧侶少女を
猛々しく突き抜く
「あぅ!・・ はぅ! くは!・・ひは!」
激しい律動に白い肌を紅く染め、眼鏡をずらかせる
一見、翻弄されているように見えて、しっかりと蘇生者を下から抱き締め、
揺れ弾む乳房でむにむにと半死者の上体に熱気を送る
小柄な童顔少女は僧侶として、毅然と半死者とセックスを行っていた
僧侶の産道を行き来する男根がいよいよ堅く太く戦慄きだす
「は! は! いい! タイミング!・・だわ・・・」
「さあ!・・ さあ!出して!・・ 出しなさい!・・
穢れを!・・残らず・・ 我が中へ!!」
少女のしなやかな足が、半死者の腰に絡みつくように巻きつき
二人が結合してる個所に意識を集中させた
・・うう!!・・ごおぉ!!・・
きゅっ!と僧侶の中が食い込むように狭くなり、搾り抜かれるように
半死者はドス黒い気を噴き出した
「ぐぅ!・・ きた・・ あ・・あああ・・・」
身をぶるぶる震わせ、ヘドロのような邪気を受け止め続ける
・・うご!・・うぉ・・ふぉ・・・
半死者の中から、真っ黒な邪液が繋がった僧侶の中へ抜かれて行くにつれ、
彼の顔に血色が、瞳に光が、体に温もりが戻っていく
「はぁ・・ 上手く・・いった・・ようだわ・・・ あ・・」
僧侶少女は、最後に一際濃い感じのうねりを体奥に受けて安堵の息が漏れた
すぅ、すぅと寝息を立てている剣士を検分し蘇生が完全に成功したことを確認した
膣の奥からどろりどろりと溢れてくる異臭を放つ邪の精液を聖水で拭う少女僧侶
「・・帰ったら、清めの室から当分出られないわね・・・」
子宮の奥に尚留まった瘴気は少女の卵子を弄び、時に不浄の子を宿させる
度々経験してきたこととはいえ、この瞬間だけは涙を禁じえない少女であった
「ふふ・・ まだまだね・・私」
この世界では女だけが僧侶となれる
僧侶とは、身を呈して穢れを受け入れ、人々の浄化を受け持つ者達の
ことをいう
穢れを一万回受け入れた僧は天上で天使となると伝えられる
(終わり)
>>31 ドラクエの僧侶がザオリク使うたびにおっきするようになったらお前のせいだ超GJ
全くもって想定外なGJ!!
34 :
木の精 1/8:2008/08/24(日) 00:38:09 ID:B5W/I/z8
森を歩いていると、思い出すことがある。
それは国境近くの小さな村から依頼を受け、最近住み着いたという魔物を退治に、村の
側にある小さな森に向かったときの出来事。
幸いにして魔物はたいした強さではなく、さほど時間を掛けずに依頼は済ませることが
できた。
それから少し後、森に魔物が残っていないか調べていたときのことだ。
その少女と出会ったのは。
*
誰かにつけられている……その事に気付いたのは、森に入ってすぐだった。
『まだ生き残りの魔物がいたのか?』
最初はそう考え、気配を探ってみた。
だが跡をつけるその存在からは、こちらを観察してる気配が感じられるだけで、敵意や
悪意のようなものは感じられなかった。
だから、最初は気にせずにいた。
……いたのだが。
「ん〜、どうしたものかな……」
こちらが無視しているうちに、その気配の行動はどんどん大胆になっていった。
最初は遠巻きにこちらの様子を伺っているだけだったのに、次第に視界の端に小さな人
影がうつるようになり、いまや数歩くらいの距離まで気配は近づいていた。
そのくせ、そちらに視線を向ければあっという間に気配は消えうせ、どれだけ目を凝ら
しても影も形も見当たらない
試しに一度、あからさまな隙を見せてみたりしたのだが、仕掛けてくるようなこともな
く、敵意が無いのは確かなのだが、その視線はどうにも気になって仕方がない。
「仕方がない……少し手を出してみるか」
呟いて、呪文を唱える。
幻術と転移術。
今いる場所に自分と同じ幻像を残し、先ほど気配が消えた位置から少し外れた場所に転
移する。
35 :
木の精 2/8:2008/08/24(日) 00:39:16 ID:B5W/I/z8
幻像があるおかげで転移したことに気付かれにくく、幻像自体も自分自身の姿だからそ
う簡単に見破られることもないだろう。
その状態で、先ほど気配が消えた辺りを観察する。どう対処するにしても、まずは相手
の正体を確かめなければ始まらない。
「…………」
程なくして、木のなかから緑色の髪をした少女がひょっこりと顔を出した。
少女は僕の姿を探しているのかきょろきょろと周りを見回し、先ほどと同じ位置に僕の
姿を見つけると、じーっと観察し始めた。どうやら幻術とは気付かれていないようだ。
うまく行ったことに安堵しつつ、少し離れた場所から少女のことを観察する。
少しとがった耳と長い緑色のまっすぐな髪の毛、ほっそりとした身体つきとエルフに似
たその面差し。
なるほど、跡をつけていたのはドライアドだったのか。確かに木の中に隠れられたので
は、どれだけ目を凝らしても見えるはずがない。
そうしてドライアドの少女をしばらく観察しているうちに、
「あ、あれ? どうしたんだろ、なにしてるのかな?」
動かない僕の姿をいぶかしく思ったのか、少女は木の中から全身を現すと、幻像に向か
って近寄り始めた。
ちょうど良い頃合だろう、そう思い後ろから声を掛ける。
「こんにちは。なにか御用かな?」
「きゃっ!?」
予想外の方向からいきなり声を掛けられて驚いたのか、少女がびくっと硬直する。
「なるほど、ドライアドだったとはね。木の中に隠れられたんじゃ、どれだけ目を凝らし
ても気付かないわけだ」
「あ、あれあれ? だって、あれ?」
緑の髪の少女は混乱した様子で、目の前の僕と立ち止まったままの僕の幻像とを交互に
指差している。
「ああ、あれはね。幻術。ほら、見てごらん」
ぱちんっ、と指を鳴らすと、立ち止まっていた僕の幻像が光に溶けて消えていく。
たれ目がちの瞳を丸くして、ドライアドの少女はそれを呆然と見つめていた。
36 :
木の精 3/8:2008/08/24(日) 00:40:20 ID:B5W/I/z8
「それで? 何の御用かな?」
できるかぎり友好的に聞こえるように話しかける。ここで逃げられては元の木阿弥だ。
そうして声を掛けられて、少女は初めて今の状況を理解したようだ。
びくっと身体を震わせると、真っ赤な顔で謝り始めた。
「あああああのあのっ! ごっ、ごめんなさいっ!」
「ああ、良いよ。つけられたことは気にして無いから」
往々にして妖精は臆病で恥ずかしがり屋なものだ。
大方話しかけようとしながらタイミングを見出せず、ずるずると跡をつける形になって
しまったのだろう。
「ほほほほんとはっ! ちゃんと声を掛けて! おおお、お話しようって思ってたんです
けどっ!」
それにしても……この少女のうろたえっぷりは、妖精の臆病さを考えに入れても度を越
しているような気がしないでもない。
果たしてこれは、この少女が極度に臆病で恥ずかしがり屋だからか、……それとも僕が
怖いせいなのか?
「落ち着いて、えーと……そうだ、名前を聞いてなかったね。僕はシモン、旅の魔法使い
だ。君の名前を教えてもらえるかな?」
「わっ、わたし、シルヴィアって言いますっ。こっ、この森のドライアドですっ!」
少女を宥めるようにできる限り優しい声で話しかけてみたが、あまり効果は無いようだ。
まあ仕方がない、直に慣れてくれるだろう……そう思いながら話を続ける。
「よろしくね、シルヴィア。それで、話って?」
「ははは話ですかっ!? ああああのあのっ、はっ、話なんですけどっ!」
真っ赤になってうつむくシルヴィア。
それと同時に、ざわざわと周りの木々がざわめき、下生えの草がうねうねと蠢き始める。
「なっ、なんだ……森が!?」
森全体が揺れている。
地震とも違う、まるで森そのものが姿を変えようとするかのように、木が、草が、ざわ
めいている。
37 :
木の精 4/8:2008/08/24(日) 00:41:18 ID:B5W/I/z8
何かの天変地異の前触れか、そう思ったのもつかの間、
「えっ? あっ、ごごごごめんなさいっ!?」
シルヴィアが謝った瞬間、ざわざわとざわめいていた草木がぴたりと動きを止めた。
あとには、何事も無かったかのような穏やかな森があるだけだった。
「あのあのっ、わっ、わたし、時々無意識のうちに森を操ってる時があって……もう大丈
夫ですっ、気をつけますからっ!」
「いや、大丈夫、気にしなくて良いよ。それでなんだっけ?」
実際、少々、いやかなり驚いたのだが、その事に触れるとややこしいことになりそうだ
し、このままだといつまでたっても話が進みそうも無い。
そう思ってシルヴィアに話を促すと、わずかな沈黙のあと、彼女は勢い良く話し始めた。
「あのあのっ! わわっ、わたし、その……まだ、花をつけたこともなくてっ!」
花をつけたことがない、とはなんだろう?
シルヴィアの髪には一輪の花が挿されている。彼女にお似合いの、白くて可憐な花。お
そらく、そのこととは関係ないのだろうが……
そんな僕の疑問を置き去りに、壊れたオルゴールみたいな感じで、シルヴィアの言葉は
続く。
「ほんとはほんとは! もうこのくらいの齢になったら、ちゃんと花を咲かせて、実をつ
けないといけないんですっ! でもでも、まだ花もつけたことなくてっ!」
「…………」
聞き返さなくて良かった。
思わずほっと胸をなでおろす。
実をつけるとは繁殖行為の結果であって、花をつけるとはつまり……なんというか、こ
れが種族の違いなんだなぁ、と実感する。
そんな僕の内心は置き去りに、シルヴィアの話は止まらない。
「そそそそのですね! あのあの、わ、わたっ、わたしとっ!」
「お、落ち着いて、シルヴィア!」
わたわたとシルヴィアがうろたえていくのにあわせて、周りの草木が再びざわざわと蠢
き始めたのに、思わず焦った声が出る。
「あっ! ごっ、ごめんなさい、わたしったらつい……」
再びぴたりと止まる木々のざわめき。……なんというか見事すぎる。
38 :
木の精 5/8:2008/08/24(日) 00:42:19 ID:B5W/I/z8
同じ失敗をしてしまい落ち込んだのか、しょんぼりとうつむくシルヴィア。本当に感情
の振幅が激しい娘だ。
「大丈夫、逃げたりしないから。だからシルヴィア、もっと落ち着いて話して」
「そっ、そうですね……はい、もう大丈夫ですっ! おっ、落ち着きましたっ!」
あまり落ち着いたようには聞こえなかったが、木々のざわめきが収まったことで良しと
しよう。
「そう、良かった……それで?」
そうして先を促すと、少しためらった後、意を決するような様子でシルヴィアが口を開
いた。
「わっ、わたしにっ! 魅了の魔法を教えてくれませんかっ!?」
「は?」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
魅了の魔法を……教えて欲しい?
「えっと……どうして?」
わけが分からずに聞き返す。
そもそもドライアドは生来魅了の魔法が使えるはずで、その魔法は人間の使う魔法なん
かよりもずっと自然で洗練されている。むしろ、人間の使う魅了の魔法が、ドライアドの
魔法を模倣したものではないかと言われているくらいだ。
にもかかわらず、何故僕に教えて欲しいなどと言うのだろうか?
だが聞き返した瞬間、ただでさえ赤くなっていたシルヴィアの顔が、火が出るんじゃ無
いかってくらいの勢いで真っ赤に染まった。
「ごっ、ごめんなさいっ! ごめんなさいっ!」
あっけに取られる僕の目の前で、シルヴィアが泣き出しそうな声で謝り始める。
それと同時に、彼女の周囲の草木がものすごい速さで伸び始め、あっという間に彼女の
姿を覆い隠してしまった。
「ごめんなさい、ごめんなさいっ!」
もはやシェルターと化した草木の中から、シルヴィアがひたすら謝り続けてくる。
「やっぱりダメですよね!? 魅了の魔法を教えてもらって、それでシモンさんを魅了し
て……なんて、そんなのダメですよね!?」
……なるほど。シルヴィアはそれがばれたと思って隠れたのか。
39 :
木の精 6/8:2008/08/24(日) 00:43:24 ID:B5W/I/z8
魔法を教わって、教えてもらった相手にその魔法を使ったら、すぐにばれると気付きそ
うなものだが……そのことに、怒るよりも呆れるよりも、むしろ微笑ましい気持ちになる。
「ああ、大丈夫。気にしなくて良いよ、怒って無いから。だから、そこから出てきてくれ
ないかな?」
「ダメです……会わせる顔がありません……」
木を通してしょんぼりとした声が返ってくる。
その声には先ほどまでのうろたえた様子は無い。
どうやらシルヴィアは、極度の対面恐怖症のようだ。
それならむしろ好都合、落ち着いて話をするならこちらの方が良さそうだ。
「それじゃあ、そのまま話を聞いて。さっきどうしてって聞いたのは、ドライアドなら生
まれたときから魅了の魔法が使えるのに、って思ったからなんだ。別に何に使うかを聞き
たかったわけじゃ無いんだよ」
「あ……そうだったんですか。そうですよね。それなのにわたし……」
消え入りそうなシルヴィアの声。
これ以上つつくのも悪いし、先ほどのことは聞かなかったことにしておこう。
「それで、もう一度聞いて良いかな? どうして魅了の魔法を教えて欲しいなんて?」
「…………」
沈黙。
おそらくは、シルヴィアのデリケートな部分に触れる質問なんだろう。
僕は問い直すことはせず、彼女の答えを待つことにする。
程なくして。
「あの……実はわたし、魅了の魔法が使えないんです。何度も試したんですけど、うまく
行かなくて……」
ぽつぽつと、彼女が話す。
魅了の魔法が使えないドライアド。
先ほどから草木を動かしたりしているのを見るに、魔法自体が使えないというわけでは
無さそうだ。
では何故?
そしてまた、それとは別の疑問が沸いてくる。
40 :
木の精 7/8:2008/08/24(日) 00:44:29 ID:B5W/I/z8
「シモンさんは魔法使いですよね? どうすればシモンさんみたいに、魅了の魔法が使え
るようになりますか?」
その疑問に重なるような、シルヴィアの言葉。
「確かに僕は魔法使いだけど……なんで僕に頼むのかな? 僕は……」
そう、なぜそれを僕に頼むのかという問い。
だが、僕のその言葉を遮って、シルヴィアが声をあげる。
「だって! シモンさん、わたしに魅了の魔法を掛けたじゃないですか!」
「え?」
ちょっと待った、今、なんて?
「森でシモンさんを見かけてっ! 魔物から森を護ってくれてるのを見たときから、ずっ
とお兄さんのことが忘れられなくてっ!」
だがこちらの疑問に気付くことも無く、叫ぶような声でシルヴィアは続ける。
「気になって、どきどきして……これって魅了の魔法そのものじゃないですか!」
それが魅了の魔法の効果だと告げるシルヴィア。
彼女のその様子に、僕は言いかけていた言葉を続けるべきかどうか迷う。
「だからすぐに魅了の魔法を掛けられたって分かったけど、それに気付いてもちっともい
やな気持ちにならなくて……」
そもそも。僕は魅了の魔法を使えない。
だからつまり、彼女のそれは魅了によるものではなく。
「こんな風に魅了の魔法が使えたら素敵だな、って……。やっぱり……ダメですか?」
おそるおそる聞いてくるシルヴィア。
だが、答える言葉が出てこない。
参った。こんなことは想定外だ。
魅了の魔法を掛けて、それを恋だと騙しているというのなら分かる。
実際、そういった使い方をする下衆な魔法使いを、僕は何度か懲らしめたことがある。
だが、魅了の魔法を掛けてもいないのに、掛けられたと信じているこの状況は、果たし
て騙していることになるのだろうか?
41 :
木の精 8/8:2008/08/24(日) 00:45:34 ID:B5W/I/z8
「ダメですよね……わたしなんかには教えられませんよね……」
驚きのあまり黙り込んでしまった僕を、拒絶と受け取ってしまったシルヴィアが泣き出
しそうに呟く。
あまりにもしょんぼりとしたその声に、彼女のことを放っておくこともできず、
「ああ、ごめん。分かった、そういうことなら……良いよシルヴィア、教えてあげる」
気付いたときにはそう答えてしまっていた。
「ほんとですか! あのあの、よろしくお願いしますっ!」
彼女を覆い隠していた草木が解け、先ほどまでのしょんぼりとした様子が嘘のように、
シルヴィアが勢い込んで話す。
「あ、ああ……うん、よ、よろしく、シルヴィア……」
そんなシルヴィアの様子に、やっぱりダメと言い出せるだけの強さは僕には無かった。
だが、と考え直す。
先ほどシルヴィアは、僕に魅了の魔法を掛けるつもりだったようだ。
魅了の魔法を教えたら、おそらくは僕に最初に使うだろうし、それなら僕が掛けられた
振りをすれば済む。そして頃合をみて、本当のことを伝えてやれば良い。
案外シルヴィアもそれで自信をつけて、普通に魅了の魔法が使えるようになるかもしれ
ない。そうでなくとも、彼女が魅了の魔法を使えない理由が分かるかもしれない。
「うん、そうだね、きっとそうだ。よろしく、シルヴィア。大丈夫、君ならすぐ使えるよ
うになるよ」
気を取り直し、シルヴィアに、そして自分に言い聞かせるように、力強くそう伝える。
大丈夫、きっとうまく行く。
「そそそそそ、そうですねっ、ががががんばりまふっ!」
真っ赤になってあわあわとうろたえながら答えるシルヴィアに、やっぱり少し前途多難
かなと思いながら。
でもそれすらも楽しい時間になりそうだと、彼女の姿を見つめながらそう思うのだった。
保守がてら投稿させてもらいました。
一応続き物になります。
枯れ木も山の賑わいということで、楽しんでいただけたら幸いです。
>>42GJ
続きもあるということなので期待して待ってます。
シチュが俺の好み直撃すぎて涙出た
防災の日保守
>>42 全裸で続き待ってるうちに夏休みも終わってしまった
>>46 この際、山の木が枯れるまで裸でいなさい。
「ああああの、それでっ! どどどどうすれば良いんですかっ!?」
魅了の魔法を教えるに当たり、僕らは場所を移動していた。
そのまま森の中で続けても良かったのだが、シルヴィアが強硬に反対したのだ。
理由を聞けば、森の中だと回りの木々に見られて恥ずかしいらしい……良く分からない
感覚だ。
「落ち着いて、シルヴィア。まずは深呼吸してごらん?」
今いるのは木々の合間にできた、草で編んだような壁に区切られた部屋の中。
小屋くらいの広さの部屋の中には、蔦でできた机に椅子が二脚、そして草と葉っぱでで
きたベッドが一つ。部屋の中は、森の奥深くのような清浄な空気で満たされている。
「すぅ〜、はぁ〜、すぅ〜〜……っ!? ごほっ、ごほっ!」
「シルヴィアっ!? だっ、だいじょうぶ!?」
息を深く吸い込みすぎたシルヴィアがむせて咳き込む。
そんなシルヴィアであるが、この部屋を作ったのもまた彼女なのだ。
少し開けた空間でシルヴィアが念じると、あちこちから草木が寄り集まり、五分とかか
らずにこの空間が作り出された。
その手際は見事で、彼女の力が他のドライアドに比べても群を抜いて高いことが分かる。
「すすすすす、すみません、わたしったらほんとに……」
うなだれるシルヴィア。
うーん、どうにも緊張しすぎだなぁ……適度な緊張は悪くないが、こうも硬くなってい
ると、この先に支障が出てくる。
「それにしても……」
シルヴィアの緊張をほぐすために、違う話題を振ってみることにする。
「来てからずっと思ってたけど、この森は綺麗だね」
「そそそそうですか!? あのあの、うっ、嬉しい……です……」
真っ赤になってうつむくシルヴィア。
……なんだろう? 今の話に赤くなるようなところがあっただろうか?
気にはなったが、とにかく話を続ける。
「家の近くにも森があってね。大きさは広いんだけど、ものすごく荒れていて……森はそ
んなものだとずっと思ってた。だからここに来たときは、正直おどろいたよ」
「そ、そうなんですか……。あの、もしかすると、その森には森の精がいないのかも知れ
ないです」
「そうかもしれない。古い森なんだけど、昔そこに住み着いた邪霊との戦いがあったらし
くて……。だから、その時にいなくなってしまったのかも……」
あ、まずい。
落ち着いたのは良いが、しんみりした感じになってしまった。
慌てて話題を元に戻す。
「ああ、そうか。ここの森にはシルヴィアがいるから、こんなに綺麗なんだね」
口にしてから気付く。
今の台詞がまるで口説いているようだと。
何を言ってるんだ、僕は。
「そそそそそんなことないです! わたしなんて全然っ! だって、魅了の魔法も使えま
せんしっ!」
ぶんぶんと首を振って慌てふためくシルヴィア。
でも、どことなく嬉しそうに見えるのは、自分の棲んでいる森が褒められたのが嬉しい
からだろうか?
ドライアドにとって自分が棲んでる森は、自身を同じようなものなのかも知れない。
「魅了の魔法ならこれから教えてあげるから。うん、大丈夫。シルヴィアなら、きっとす
ぐに使えるようになるよ」
僕が保障するから……と、調子の良い嘘に内心悶え苦しみながら、台詞を続ける。
それでも、これでシルヴィアの緊張が解れるのなら安いもの、と……
「はっ、はいっ! ががががんばりまふっ!」
あ、噛んだ。
まあ良い。それでも最初に比べればかなりましな方だ。
これなら落ち着いて話を進められそうだ。
一呼吸おいて話を始める。
「それじゃ、始めようか。でも、その前に……」
そう。
魔法を教える振りをする前に、試しておきたいことがあった。
「シルヴィア、魅了の魔法を使ってもらえるかな?」
それは、シルヴィアが魅了の魔法を使えないのは本当かどうか。
「えっ!? でっ、でもでも、わたしは……」
「うん、分かってる。ただそれでも、教える前に一度、シルヴィアが使うところを見てお
きたい」
ダメかな? と、できる限り優しく聞こえるように問いかける。
もちろん、シルヴィアが嘘を吐いているなんて思っているわけではない。
ただ、シルヴィアのことだ。魅了の魔法が成功しているのに、掛かっていないと勘違い
して、使えないと思い込んでいる可能性もある。
さすがに無いと思いたいが、念のために確認しておきたかった。
「あ、えっと……でも……」
シルヴィアに嫌がる素振りは無い。
それでもためらうのは、どうして使えない魔法を僕が見たがるのか、か?
「使い方は分かるんだよね。魔法を使うところを見れば、使えない理由も分かるかも知れ
ないし……シルヴィアがイヤじゃなければ、だけど」
シルヴィアの疑問を、それっぽい言葉でごまかす。
実際それも確認しておきたいことではあるし、嘘を言ってるわけではない。
「そ、そうですね……わっ、わかりましたっ! やってみますっ!」
納得してくれたのか、シルヴィアが魔法を使おうと立ち上がる。
まずは第一段階クリアかな。
これでシルヴィアが魅了の魔法を使えたなら、何も問題は無いのだけど。
「大丈夫、だいじょうぶ……きっとだいじょうぶ……」
ぶつぶつと何かを呟いているシルヴィアを見つめながら、魅了の魔法がちゃんと発動し
た場合に備えて、こっそり心の中で精神系の防壁を展開しておく。
大丈夫だと思うのだが、もし魔法が発動した場合、シルヴィアの魅了に抵抗できるかど
うか自信が……いや、何を言っているんだ僕は。
念のために備えることに、理由なんて必要無いのに。
「そっ、それじゃ、いきますっ! いいですかっ!?」
僕が頷き返すと、シルヴィアは静かに集中し始めた。
ドライアドのような妖精たちは、魔法の使用に呪文や動作を必要としない。ただ念じる
だけで魔法が発動する。
シルヴィアの集中と共に、彼女の周りに魔力が構成されていくのが分かる。
一見ばらばらで、その実すべてが見事に絡み合った魔法構造。生まれながらに魔法を使
える妖精たちならではの、自然な美しさを持つ魔法構造だった。
だが。
魔法が組みあがる直前、その魔力はぽふんっ、と霧散した。
「あ……」
あまりに唐突な出来事に驚く僕に向かって、
「ど、どうですか……? みっ、魅了の魔法っ、かかか掛かりましたか……?」
シルヴィアがおそるおそるたずねてくる。
この様子では、魔法が成功したかどうかも、何が悪くて使えないのかも分かっていない
に違いない。
「失敗……だね。魔法がちゃんと構成できてないみたいだ」
魔力の構成に問題は無い。
ただ、シルヴィアの魔法には、魔法構造をつなぎとめる何かが欠けていた。
それが何かは、残念ながら妖精の魔法に詳しくない僕には分からない。
「そうですか……こ、今回はうまく行きそうな気がしたんですけど……」
しゅんとなってうなだれるシルヴィア。
だが、彼女の言葉を信じるなら、これまで使えなかったのが、あと少しで使えるように
なるところまで来ている可能性もある。
そうであれば、あとは何かきっかけがあれば使えるようになるに違いない。
「落ち込まないで、シルヴィア。大丈夫、僕の魅了の魔法なら、教えればシルヴィアなら
すぐ使えるようになるよ」
「そっ、そうですかっ!? わわわ、わたしっ、がんばりますっ!」
そう言ってシルヴィアの頭をぽんぽんと叩いてやると、今までうなだれていたのが嘘の
ように、シルヴィアが勢い良く答えた。
その姿を、単純だなぁ、と思いながら、同時にその素直さを少しだけうらやましく思っ
た。こうまで誰かを純粋に信じることができるのは、シルヴィアの人生が幸せなものだっ
たからだろう。
この純真無垢なこの少女を傷つけぬよう、魅了の魔法を教える振りを最後まで遣り通す
ことを静かに誓う。
「それじゃ、シルヴィア。魅了の魔法の使い方を教えるから良く聞いて」
「ははははい!」
僕の言葉にこくこくと頷くシルヴィア。
これから教えることはまったくのでたらめだが、これだけ信じてくれるのならそれだけ
で効果があるかもしれない。
「良いかい? 魅了の魔法を掛けるときは、まず相手の目をじっと見つめ」
言いながら、シルヴィアの瞳をじっと見つめ、
「妖精語は分かるよね? そうしたら呼吸を止めて、心の中で『好きになって』と妖精語
で11回、丁寧に念じるんだ。その間、呼吸をしてはいけない」
呼吸を止めた。
見つめられて、シルヴィアの深緑の瞳が落ち着き無く動く。だが、決して視線を逸らそ
うとはしなかった。
「…………」
最初は適当に済ませるつもりだったのが、シルヴィアの真剣な様子に形式だけは真面目
に行うことにする。
シルヴィアの瞳を見つめながら、心の中でゆっくりと11秒数える。
ただ、心の中で念じるのは止めておいた。
自分で言っておいてなんだが、これは恥ずかしすぎる。
やがて。
「……ふぅ」
11を数え終わり、大きく息をつく。
そして、ぱんっ、と手を打った。
「はい! これで今掛けた魅了の魔法は解けた。どうかな、シルヴィア?」
「えっ、えっ!? あのあの、えっと……」
状況についていけず、わたわたとうろたえるシルヴィア。
「どきどきした? しなかったのなら失敗だけど……」
「あっ、あの! ど、どきどきしましたっ! 本当です、掛かってました!」
嬉しそうに答えるシルヴィア。その姿に心が痛む。
そんなこと、魅了の魔法の効果であるわけが無い。
こんな至近距離で見つめられて、この純情な妖精がどきどきしないはずが無いのだ。
「そ、そう? 良かった。それでどうかな、シルヴィアもできそう?」
きりきりしてくる胃の痛みをごまかしながら、シルヴィアに尋ねる。
「あっ、はい! 大丈夫だと思います! あっ、あれあれっ、でもでもっ!」
わたわたしながら、シルヴィアが首をかしげる。なんて器用な。
「あのあのっ、最初に魅了の魔法に掛けられたときには、わたしシモンさんにこんなに長
い時間見つめられた覚えが……」
「あ〜っと! それはね!」
大きな声でシルヴィアの言葉をさえぎる。
まずい。まさかそんなところにまで気が回るとは。
「こ、今回教えるのは基本の魅了。何事もまずは基本からね。そのときの魅了の魔法はも
っと高度なものだから、教えられるのはもっと後になるよ」
慌ててごまかしながら、これはうかつなことはできなさそうだ、と気を引き締める。
これまでの受け答えの様子から、冷静さのかけらも無いかと思いきや、普通に頭が回る
くらいの余裕はあるようだ。
どうやらシルヴィアのことを少々見くびりすぎていたのかも知れない。
「そっ、そうですよねっ! あんなにすごい魔法は、シモンさんくらいにならないと使え
ませんよね! わっ、わたしっ! がんばります!」
そう言いながら、きらきらとした瞳でシルヴィアが見つめてくる。
……止めてくださいシルヴィアさん。
お願いだから、そんな瞳で僕を見ないでください。
うう、胃が、胃が……。
「そ、それじゃ今度はシルヴィアがやってみて。やり方は覚えてる?」
「は、はいっ! だだだいじょうぶですっ!」
こくこくと頷きながらシルヴィアが答える。
本当に大丈夫か?
あまり大丈夫そうには思えないシルヴィアの返事を聞きながら、とりあえずシルヴィア
の様子を見て、効いてる振りをするかしないか決めることにしようと考える。
「そそそそれじゃっ! それじゃいきますっ!」
そう言ってシルヴィアは大きく息を吸い込むと、呼吸を止め、僕のことをじっと見つめ
てきた。
「…………」
「…………」
部屋の中に沈黙が広がる。
そうして澄んだ深緑の瞳に見つめられて。
いまごろになって初めて、シルヴィアの美しさに気付いた。
滑らかな白い肌、エメラルドグリーンの艶やかな髪、桜の花びらのような可憐な唇。
たれ目がちな眼差しは今はしっかりと見開かれ、まっすぐに僕のことを見つめてくる。
おどおどとゆれる瞳しか見たことが無かったせいかその視線は新鮮で、不覚にもどきん
と鼓動がゆれた。
「…………」
「…………」
沈黙は続く。
始まってわずかに経って、僕は少し前の自分の言葉を激しく後悔していた。
『好きになって、と心の中で唱える』
なんて馬鹿なことを言ったのか。
今シルヴィアは、まっすぐに僕を見詰めてくるその瞳の奥で、「好きになって」と繰り
返しているはずで……
いかん、考えるな、考えるな……
顔が赤くなりそうになるのを、必死になって堪える。
それにしても、長くてもわずか11を数える間のはずなのに、いったいどれだけの間見
詰め合っているのか……
儚げで幻想的にも思えるその姿の中、瞳だけは一途に僕のことを見詰めてきて……次第
にその瞳に吸い込まれそうに目が離せなく……
だが、そんな印象も。
「ぷはあっ! おっ、終わりました!」
シルヴィアが口を開いた瞬間に、幻のように消え去った。
「どどどどうです!? 魅了されましたか!?」
「あっ、ああ……。そうだね……魅了されたよ、シルヴィア」
シルヴィアに頷き返す。
魅了の魔法がかかったか、と聞かれたら、どう答えるか考えただろう。
だが、魅了されたか、と聞かれたら……YES、と答えるしかない。
「ほほほほほ、ほんとですかっ!? どきどきしますかっ!? どきどきしてますか!?」
「ああ、本当だ。どきどきしてるよ、シルヴィア」
だから、そう答えてしまったからには、せめて最後まで魅了されている振りを続けよう。
胃の痛みも、嬉しそうなシルヴィアの笑顔に比べればなんてことは無い。
そして。
「あのあの、それじゃ! わわっ、わたっ、わたしのことをどう思ってますか!?」
初めて魅了が成功したことに喜ぶシルヴィアが、嬉しそうにその効果を確かめ始めた。
まずは質問からか。
「可愛いと思うよ。君の事を想うとどきどきする」
正直に思っていることと、ほんの少しの嘘を。
「あっ、あうあう……。そ、それじゃ、あのっ! ててて、手を握ってもらえますか!?」
次に行動。ここまでは予想通り。
僕はシルヴィアの手を取ると、騎士が貴婦人にするように、その手に軽く口付けをした。
「ええええっ!? あ、あのあのあのっ!」
「あ、ごめんシルヴィア。いやだったかな?」
まずい、少し調子に乗りすぎたか?
これでばれては、シルヴィアを傷つけてしまうし、それでは本末転倒だ。
「いっ、いえ!? あのその、しっ、して欲しいなぁって思ってたことをされたから、び
びびびっくりしただけです!」
そう言って、うわぁ、魅了ってすごいんだなぁ……と呟くシルヴィア
「わ、分かった。これからは言われたことだけするようにしよう」
そう答えながら、ぽつりと思う。
ああ、思えば今回の依頼は楽だったなぁ……と。
襲ってくる魔物を避して、周囲に被害が出ないように気をつけながら、ひたすら攻撃魔
法を叩き込む。なんてシンプル。これこそあるべき冒険の姿だろう。
純真無垢なドライアドを嘘とごまかしでだまくらかす、なんてのは、冒険者の役目から
はずれているにもほどがある。
「そそそそれじゃ、つぎつぎつぎはっ! キキキキキ……」
「落ち着いて、シルヴィア。大丈夫、僕は逃げないよ」
嘘です、もう泣いて謝って逃げ出したいです。
「キッ、キッ、キッ、キス! キスしてしてして、くくくくくださぁい!」
顔を真っ赤にしながら言い終えたシルヴィアが、目を瞑って顔を寄せる。
だが、そのお願いは想定の範囲内。
ぷるぷると震えながら、小さく唇を突き出すシルヴィアに顔を寄せると、唇ではなくそ
の額に口付けをした。
「あっ、えっ!? ああああのあのっ! キっ、キスは唇にっ!」
「残念、同じお願いは一度きりです」
いきなり新ルール登場。
さも当たり前のような発言だが、当然そんなルールは無い。
「ええええっ!? そそそそうなんですかっ!」
だが疑うことを知らない純真なドライアドは、それも魅了の決まりと受け入れてしまう。
キスを避わすためとは言え、ここまで素直だと逆に悪い気がしてくる。
「ええーと、それじゃ、うーん……」
新ルールの登場に、いきなり真剣に考え出すシルヴィア。
……しかし、これは困ったな。
このままではいつぼろが出るか知れたものじゃない。
それにしても、一体いつまでシルヴィアは魅了の効果を確認し続けるつもりなんだろう。
始まる前は、効果を確認できたら、シルヴィアはすぐに魅了を切るだろうと思っていた。
僕を魅了し続ける意味が無いし、この状態では魅了を教わることもできない。
シルヴィアが魅了の魔法の効果を疑っているというのなら分かる。それなら、疑いが晴
れるまで効果を確認をし続けたくなるだろう。
だが今のシルヴィアは明らかに魅了の効果を信じきっており、疑っている様子はかけら
も感じられないのだ。
それなら何故、何を理由にこれを続けるのだろう……
「そっ、それじゃ、次に行きます!」
そんな僕の疑問をよそに、ようやく考えがまとまったのか、シルヴィアはこちらに向き
直ると、再びお願いを口にした。
「あのあの、わたしの身体をシモンさんの両手でぎゅっと、優しく抱きしめてください!」
う、いきなり要求が具体的になっている。
やはりこの娘、侮ってはいけないようだ。
「……分かった」
必死になって考えてみたが、よほど無茶な解釈をしない限り、このお願いを避わすこと
はできそうにない。
仕方が無い。
覚悟を決めてシルヴィアの身体を抱き寄せた。
「シルヴィア……こうで良いか?」
シルヴィアは抵抗することなく引き寄せられ、柔らかく華奢な身体がすっぽりと僕の腕
の中に納まる。
「はははははいっ! あのっ! もっとぎゅっとしてもらってもっ、いいい良いですか?」
言われるがままにシルヴィアの身体をぎゅっと抱きしめる。
「それにしても……」
思わず呟く。
「なっ、なんですかっ!?」
「いや……強すぎないか、シルヴィア?」
ぎゅっと、優しく、とはいきなり矛盾した要求だと思っていたが、こうやってみるとそ
うでもないことが分かる。
「だっ、大丈夫です……。ちょうど……良いくらいです……」
耳元で囁かれるのをくすぐったそうにしながら、シルヴィアがふるふると頭を振って答
える。そのたびに、若草色をしたシルヴィアの髪から、爽やかな緑の香りが漂う。
「つ、次はですね……あのあの、わたわたっ、わたしの名前を呼んで……それから、それ
から……」
時々声をかすれさせながら、シルヴィアが耳元で囁く。
そのたびに鼓動が乱れるのを感じる。これは僕の鼓動か、それともシルヴィアのか。
……いや、その前に、ドライアドにも心臓はあるのだろうか?
身体は温かいし、頬に朱が差すことから血の巡りがあることも確かで、それなら心臓が
あるのは当たり前の話で……
「シモンさん、それから……好きだって……言ってください」
どくんっ、と心臓が大きく鼓動を打ったのがはっきりと分かった。
あらぬ方向に跳んでいた思考が、シルヴィアの一言で一瞬のうちに正気に返る。
「……分かった」
この要求も、前よりはましであるが、やはり外して行動することはできそうに無い。
「……シルヴィア。好きだよ、シルヴィア」
シルヴィアを抱く両腕に力を込め、耳元で囁く。
囁いた後に、離れてから言えばよかったと気付いたが、もはやあとの祭りだった。
「わっ、わたっ、わたしも! わたしもシモンさんのことが、すす好き好き好きですっ!」
あう、三回も言っちゃった……。
思わずといった感じの、聞かせるつもりではないシルヴィアの呟きが、一番効いた。
たまらずシルヴィアの身体をぎゅっと抱きしめる。
もう自分でも、魅了された振りをしているのか、そうでないのか、行動の線引きが怪し
くなっている。
理性と知性を切り札とする魔法使いにはあるまじき行いだ。
そんな内心の葛藤を置き去りに、腕の中のドライアドは、次なる要求を口にする。
「今度はですね! あのあの、めめ目を瞑って、少ししゃがんでもらえますか!?」
今までとは毛色の違う要求。
少し考えてみるが、特に問題になりそうなことは無い。
「これでいいかな、シルヴィア?」
いや、先ほどの経験を生かして、抱きしめていたシルヴィアの身体を離す。
そして、言われた通り目を瞑って少し身を屈めた。
「ははははいっ! あのあの、それじゃすこし、そそそそのままでええぇぇ……」
酔っ払ったみたいにシルヴィアの語尾が伸びる。
視線が無くなればうろたえるのも収まりそうなものだが……
そんなことを考えていると、両方の頬に手が添えられたのがわかった。
一体なにを? そう思う間もなく、
「んむっ!?」
唇に感じる柔らかな感触に、要求も忘れて目を開く。
目の前に、目を瞑り震えながら唇を寄せるシルヴィアの顔。
「……!?」
キスされている。
頭ではそう理解しているのだが、思考が付いてこない。
ただ唇に感じる、シルヴィアの柔らかく甘酸っぱい唇の感触で頭の中が一杯になる。
程なくして。
「……はぁ」
顔を離したシルヴィアが、ため息をつく。
そうして目を開いたところで……目が合った。
「…………」
「…………」
わずかな沈黙。
次の瞬間、火が出るかというような勢いで、シルヴィアの顔が真っ赤に染まった。
「あああああうあうっ!? ななななな、なんでっ!? めめめめ目を開けちゃダメです
よっ!?」
「す、すまんっ! もう開けても良いか、シルヴィア?」
慌てて目を閉じ、シルヴィアにたずねる。
「ダメダメ、ダメですっ! まだ開けないでくださいっ! しばらく開けちゃダメなんで
すっ!?」
シルヴィアが慌てふためく様子を聞きながら、胸の奥になんとも言えない衝動が湧き上
がってくるのを感じる。なんだろう、この感情は。
もう要求は終わらせたはずなのに、またシルヴィアのことを抱きしめたくて仕方なくな
ってくる。
「そ、それじゃ、次に行きます。良いですか、シモンさん?」
しばらくしてようやく落ち着いたのか、シルヴィアが話し始める。
その言葉に頷きで答えると、わずかな沈黙の後、ゆっくりと口を開いた。
「目を瞑ったまま聞いてください……最後のお願いです」
これまでと打って変わった静かな声。
「シモンさん、わたしを……」
目をつぶらせたままなのは、最後くらいは口ごもらずに言いたいからだろうか。
それなら、ちゃんと聞いてやらねばなるまい。
だが。
「わたしをっ! だっ、だだだだだだだだっ!」
待てっ、どこへ行くつもりだ、シルヴィア!?
決してシルヴィアが走り出したわけでは無いのだが、ありえない方向へ駆け出して行き
そうな様子だったシルヴィアは、
「抱いて……くらふぁい……」
僕の身体にしがみつくと搾り出すような声で囁いた。
「…………」
その言葉が終わるのと同時に目を開ける。
胸にしがみついたシルヴィアは、言い切るのにそれだけの勇気が要ったからか、あるい
は最後のお願いすら噛んでしまったからか、その瞳に涙を一杯にためていた。
「……分かった」
静かに答える。
そして僕は腕を伸ばすと、
「これで良いな、シルヴィア」
胸にしがみつく彼女の身体を、ぎゅっと、優しく抱きしめてやった。
もちろん、彼女のお願いが文字通り抱きしめることではないことくらい分かっている。
だが。
ここで彼女を抱くわけには行かない。
最後の最後で彼女の想いを裏切ることになってしまったこと良心が咎める。
今頃になって気付く。彼女が何故魅了の効果を確かめ続けたのか……いや、気付いてい
たのに、気付かない振りをしていただけだ。
それでも、ここで彼女の願いどおり抱いてしまったら、最終的にはきっとシルヴィア自
身を深く傷つけることになる。彼女は自分の気持ちに気付いてすらいないのだ。
だから、今ここで彼女を抱くわけには……
「ダメですよ……ちゃんと抱いてください……」
まるで僕の心の中を見透かしたかのようなタイミングで、シルヴィアが囁く。
その言葉は静かで、裏切られたばかりの少女の言葉には聞こえない。
「シルヴィア……さっきも言ったとおり同じお願いは……」
決定的となる言葉を発しようとしたその時、シルヴィアはしがみつくその手に力を込め
ると、震える声で囁いた。
「一度だけ、ですよね……。だから、抱きしめるだけじゃダメですよ。そのお願いは……
もう聞いてもらいましたから」
「あ……」
しまった、とも、やられた、とも思わなかった。
震えながらしがみついてくるこの少女を……心の中でただただ賞賛した。
もう認めるしかない。
僕はシルヴィアに、この恥ずかしがり屋で、あわてんぼうで、そのくせとんでもなく頭
の回る妖精の少女に、心の底から惚れてしまっている。
だが。だが、しかし。
シルヴィアの身体をゆっくりと離すと、頭を下げながら告げる。
「すまない、シルヴィア……それはできない……」
だからこそ、彼女を抱くことはできない。抱くわけには行かない。
たとえそれがシルヴィアの願いだとしても、嘘を吐いたまま、魅了されているのかいな
いのか、あやふやな状態の彼女を抱きたくは無かった。
だが。
頭を上げたとき、沈み込んでいるかと思っていたシルヴィアは、変わらず静かに僕のこ
とを見つめていた。
そして視線が合った瞬間、僕の瞳を見つめながら、にっこりと微笑を浮かべた。
「し、シルヴィア?」
突然の微笑みに不意を打たれ、どきんっ、と鼓動が高まる。
それと同時に、その微笑から目が離せなくなった。
美しい。
可愛らしい。
抱きしめたい。
ただただシルヴィアを愛しく思う気持ちが溢れて止まらない。
抱き寄せて、自分のものにしたくなる。
「…………」
そんな僕の気持ちにこたえるかのように、シルヴィアは目を瞑るとキスをせがむように
小さく顎をつきだす。
その唇に、誘われるように顔を寄せ……
ぱんっ!
「……っ!?」
シルヴィアが手を叩いた音で、はっと我に返った。
……一体僕は何をしようとしていたのか。
「い、今のは!?」
魅了の魔法?
思わずシルヴィアに顔を向けると、シルヴィアがこくん、と頷いた。
これが……ドライアドの魅了の魔法……
いつの間に掛けられたのか、まったく気付かなかった。
これまで何度か魅了の魔法を使われたことがあったが、シルヴィアの魅了に比べれば、
まるで子供のお遊びだ。
「使えるように……なったのか……」
「はい……。シモンさんの……おかげです……」
おもわず呟いた言葉にシルヴィアが答える。
「いや、僕は……」
「分かったんです……どうして魅了の魔法が使えなかったか」
嘘を吐いていた、そう続けようとした僕の言葉をさえぎって、シルヴィアが話し始める。
「ドライアドは……生まれたときから魅了の魔法が使えるわけじゃ無い……恋をして、初
めて魅了の魔法が使えるようになるんです。ようやく、わかりました……」
囁くようなシルヴィアの声。
嬉しそうにも、哀しそうにも聞こえるのは、何故だろうか……
「だっ、だから……シモンさんのおかげですっ! わっ、わたし、馬鹿だから気付かなく
って……」
「シルヴィア……」
ちがう……馬鹿はこっちだ。
シルヴィアの気持ちを知っていながら、騙すことになると言い訳してごまかしていた。
「シモンさんが好きですっ。だっ、だからだから……お願いです、だっ、だだだだ……」
「もう良いよ、分かったから……ごめんねシルヴィア」
搾り出すような声で話すシルヴィアの身体をそっと抱き寄せる。
触れた瞬間びくっと震えたものの、シルヴィアは抵抗することなくその身を委ねてきて
くれた。
「シモンさん……」
「…………」
柔らかなシルヴィアの身体を抱きしめながら思う。
思えば簡単な話だった。
彼女は僕に恋をして、僕はそんな彼女を傷つけたくなかった。そして今、僕はシルヴィ
アに惚れている。魅了も何も関係ない、それだけは確かな真実だった。
これまで何度も朴念仁と呼ばれてきたが、ここまで言われなければ気付けないなんて、
どれだけ罵られても足りないくらいだ。
「そうだね、確かにそうだ……好きだよ、シルヴィア。愛してる」
「わわっ、わたっ! わたしも……んむっ!?」
またうろたえ始めてしまったシルヴィアの唇をそっとふさぐ。
さっきしたのより、もっと深いキス。
突然の口付けに硬直していたシルヴィアも、目を瞑って答える。
二度目のそのキスは、お互いの気持ちを確かめ合うように、長くながく続いたのだった。
というわけで、
>>41 の続きです
待っていてくれた方、遅くなってすみません
なんだか前回の倍以上の長さになった上に、いまだエロ無しという……
一応、次でおしまいになると思います。全編エロエロ……だといいなぁ……
gj!!!
た、堪らんじゃないか!ハアハア
>>67 たっ・・・たまらぁん!!
甘々な感じがすばらしい!
俺もちょっと魅了の呪文かけられてくる
このスレ、俺向きだ……!
というわけで、長編、投下します。
以下注意がき。
@ エロまで結構かかります。しかもオールレイプです。量も少ないです。
A 設定や文体が、猫……ではなく、中二病まっしぐらです。邪気眼共鳴警報発令中。
B 世界観設定がヘボです。細密とか緻密とか綿密とかという言葉とは無縁です。
C ギャグも萌え燃えもほとんどありません。説教シーンばかりです。
D 展開的に、結構グロいシーンあります。痛いのは嫌よ、という人はスルー推奨。
悪魔がいました。
悪魔は、とてもとても強い体をもっていました。落ちる巨岩をその身に受けても、傷ひとつ受けません。とても
とても強い魔法を受けても、血ひとつ流しません。勇者様の剣をその身に受けても、眉ひとつひそめません。
「……意味は、あるのでしょうか?」
けれど、そんな悪魔は、とてもとても弱い人間たちに問いました。
捨てられた子猫のように、その身を小さくさせて、少しずつ、言葉を紡ぎ続けました。
それは、意味を成さない言葉なのかもしれません。しかし、勇者だけは、どこか得心がいったように、驚愕の表
情でその悪魔の姿を見すえていました。
「お前は……情を知る、というのか?」
「わがままばかり言って、暴力ばかりふるって、それで、どうなるの、でしょうか……」
「お前は……」
「どうして、人は、人を裏切るのでしょうか……。ひとりだと、駄目なのに……」
悪魔は、惑い、悩んでいました。
勇者も、惑い、悩んでいました。
片や、自身にわいた感情のために。片や、自身にわいた疑念の心に。
「分かる日が来るだろう」
「そう、なのですか?」
「そういうものだ」
「そういう、ものですか。……ふふ、なんか、わからないけど、あったかいです」
そう言って、悪魔は笑いました。
勇者も、笑いました。
けれど、次の瞬間。
悪魔は、炎に包まれていました。
「……え?」
勇者は、呆然としました。
紅の焔は、とてもとても綺麗で。とてもとても、悲しい色で。
勇者が背後を見れば、杖を構える、とてもとても偉い魔法使いが、ひとり。
「あ、ぁあ……」
勇者様は呆然と、その炎を見つめました。しかし、その唇は、ゆがんでいました。
安堵の、かたちでした。
けっきょく、悪魔は、悪魔のままだったのです。
けっきょく、人間は、人間のままだったのです。
降りしきる雨の中、レンガ造りの家々が、その身を濡らしている。赤い体を、茶塗りの体を、灰色の身を、わず
かばかり濃くしながら。黒雲から落ちるしずくのひとつひとつが、跳ね、散り、飛んで舞う。しめった空気の中で、
薄くもやのかかる景色を、さらなる霞色に染める、そんな雨。
落ちるしずくは揺らがず。空気の抵抗を受けてもなおのこと、垂直落下。愚直と称されるほどの落下運動は、彼
らが雨水であるゆえんか。水ひとつひとつが集まり、その結束によりて、雨となる。
黒雲に覆われているせいだろうか、夕闇がそこここを支配する時刻だというのに、周囲は夜のように暗く、冷た
い。雨音のせいで、夜のような静けさはないものの、灰色の空間が場を支配している。夜の不気味な雰囲気がそこ
ここに満ち満ち、濡れた石畳が落ちる雨粒を跳ね返す。
レンガ造りの家屋が立ち並び、形成された道は、細く細く細い。家々から漏れるランプの明かりが、薄暗闇を切
り裂き、また別の淡い光と混じり合い、灰色の空間を柔らかく切り裂いている。
落ちる雨粒。家屋から漏れ出る淡い光に照らされて。されどそれも一瞬のこと。地に落ち、跳ねて消え、あるい
は水たまりの一部と化す。
そんな風景のなか、とあるひとつの家屋の窓際に、影ひとつ。
それは、少女だった。いや、背丈の低さと小柄な体躯からすると、童女や幼子といった表現の方が適切なのかも
しれない。そのかんばせを構成するパーツのひとつひとつが、幼さ特有の青さとみずみずしさに満ちあふれていた
からだ。
その姿は、雨の景色と厚いガラス窓を挟んでも、なおのこと鮮明である。童女の存在が色濃いせいか、それとも
雨の風景がことに希薄であるからか。
幼子の姿は、奇異といえば奇異であった。プルシアンブルーのみで構成されたワンピースの上に、フリル多めの
白いエプロンをつけている。ウエスト部分はしっかりと引きしめられ、その代償と言わんばかりに、広がりを見せ
るスカート部分。エプロン部分となる布地のそこかしこには、十字架を紋様が刻まれている。
童女の小柄な体躯とも相まって、さながらその姿は妖精のよう。羽はなくとも、その整った姿は、ひとつの絵画
を想起させる。
幼子の顔立ちは、人形のように整っていた。目鼻立ちを構成するパーツ、その配置具合も絶妙。白い白い肌と、
プラチナブロンドの頭髪をセミロングにして流し、ちょこんとその場に直立不動。子供そのものといった姿である
のに、その表情は鉄そのもの。鉄面皮、氷のつら。
白い肌理と桜色の唇のそばには、翡翠の双眸が加わる。全ての要素が、人形そのものといった雰囲気。もしも、
この幼子が四肢の力を抜き、壁にもたれかかると同時にまばたきせねば、恐らくは人形と勘違いする者も多々いる
ことだろう。逆を言えば、それほどまでに、恐ろしいほどに、整っている。
つつ、と童女の指がガラス窓をなぞる。数センチメートルの、決して強くはないへだたり。それを挟んだ先には、
片や雨粒満ちる寒い外。片やランプの光と暖炉の光がまぶしい屋内。
童女の指は、窓の表面をなぞる。結露は指によって裂かれ、同時に道が形成される。
つつ、つつり、つるる、と。
童女の指は動く。ただそれだけであるのに、どこか幻想的なのは、雨景色と童女の整った容姿のせいだろうか。
それとも、寂寥感すら感じられる、灰色の雲のせいだろうか。
恐らく、それは誰にも分からないだろうが。
夜闇と黒雲の中、結露をぬぐった、指ひとつ。
雨の降り止まぬ町並みを睥睨しながら、少女――リザは誰にも聞こえぬように溜息をついた。
よもや、こんな事態になるとは予想だにしていなかった。おとなりさんの家に、からかい目的で遊びに行くまで
は良かった。しかしついつい話し込んでしまい、気付けば空には灰色の雲。慌てて窓まで近付けば、夜空を雨粒が
支配する状態となってしまっていた。
苛立ちまじりに、窓にひっついた結露を指でぬぐい、絵を描く。四肢を伸ばした巨人が、矢を受けて口から吐血
している絵だ。なんともまあガキくさいことを、と自身にあきれると同時、手のひらを動かしてその絵を消す。
当然、手のひらが濡れた。自業自得である。
ゆえに、苛立ち増加。自業自得である。
それでも表情が変わらないのはどうなのか、とリザは窓に映った自分の顔を見て思う。童女そのもの、といった
幼い顔立ちだが、そこに色は感じられない。若々しい青さ以外は、何もない。
なんとも生意気そうな顔である。自分の顔を見つつ、リザはそう思う。
「あっぱらぱー」
ごまかしの意味を含め、とりあえず脊髄が思いついたことを口に出してみる。
即座、後悔する。仕方のない話だ。知能を持つ者は、後悔という二文字と常に友人関係なのである。それはリザ
も例外ではない。
プルシアンブルーのエプロンドレスをひるがえし、リザは窓に背を向ける。必然、彼女の視線は屋外から屋内へ
と向くことになり。翡翠の瞳に新たな光景が刻まれる。宝石のように輝く彼女の双眸が、椅子を、暖炉を、テーブ
ルを、その上にたたずむランプを、映していく。
一般的な家屋の内部風景である。木製のテーブルに、添うようにして木製の椅子が四つ。その奥にレンガづくり
の暖炉がどっしりとそこに腰を落ち着けている。リザの左手側には洗面所へと続く扉があり、右手側には別の部屋
へと続く扉が。
ごく普通のリビングルーム。そこに、リザはいた。
部屋の中を歩きまわる。ぺたん、ぺたん、とスリッパの間抜けな音がこだまする。すんすんと鼻を鳴らしてみれ
ば、即座に入る、隣人の家特有の匂い。どこか青いような、それでいて染みわたるような、不思議な匂い。
暖炉は今、機能していない。残り火のような燃えかすめいた赤が、その奥に少しあるのみだ。部屋の中心に位置
する場所からともるランプが、ぼんやりと部屋の中を照らすかたちとなっている。赤くもあり黄色くもある淡い光
が、薄ぼんやりと夜の闇を切り裂いている。
光は、小さい。それでもなお、リザの流す白銀の髪は、キューティクルのきらめきをそこに残す。白銀が黒を、
柔らかく裂く。
それは、見る者を魅了せしめるほどに幻想的な光景であったろう。美しき幼子の髪は、さらりと流れて夜に舞い、
光の残滓がランプの主張と混ざり合う。妖治なる姿、と称しても差し支えなかろう。
「ぱらりらぷー」
その当の幼子が、脊髄言語を口から駄々漏れにしていなければ、の話ではあるが。
リザ、再び心の中だけで頭を抱えて後悔する。知識ある生き物というのは、過ちをくり返しながらも成長してい
くというが、とてもそうは思えない。何度も戦争が起きるように、何度も痴情のもつれが起きるように。往々にし
て、学習できぬ事柄、というのはあるものだ。
リザの脊髄は、よくよく脳を押しやって自己主張する。仕方のない話である。
さて、当の幼子であるリザの精神状態はといえば、あきれの色が濃い。やることも特にないからといって、窓の
外を眺めて絵を描き、わけの分からない独り言を漏らす。そんな間抜けな行動をしていれば、誰とて溜息のひとつ
やふたつは垂れ流したくなるだろう。
リザは、居間の東側に位置する扉を見やる。扉は動かない、まだ動く気配がない。
待ち人をするのも苦痛なものだ。そう思いつつ、リザは脊髄と脳を戦わせ続けた。
雨の音をしばし聞いていれば、やにわに右の扉が動く。
リザがそちらに視線を向ければ、ゆっくり開かれる、木製のそれ。ぎきぃ、と耳障りな音を立てて開いた先から、
ひとつの影が躍り出る。
「悪い悪い、待たせたみたいだ」
リザの前に降り立ったのは、ひとりの青年である。長身痩躯、茶色がかった黒髪をやや長めに伸ばしたその姿は、
どちらかといえば優男の部類に入ろう。男性にしては白めな肌と、長い四肢も、その印象に拍車をかけている。
青年は、リザの方に視線を向けた。同時、頬をひくつかせた。
「大丈夫です。私も、今、来たところですから」
痛烈とも言える皮肉を吐くは、青年の視線を受け止めたリザ。紡がれる言葉こそ苛烈であるものの、声色はまさ
しく鈴を鳴らすがごとく。高く高く、高すぎず。
そんな彼女の言葉を受けた青年は、眉を八の字にしつつ、どこか所在なさげに視線を横にそらした。
「相変わらずだなあ……。というより、この部屋、寒い、暗い、怖い」
「そうですね」
「風邪、ひいてないか?」
「私はひきません。あなたはどうか知りませんが」
表情を変えずに言い切り、リザはぴょこぴょこと部屋の奥まで歩いていく。エプロンドレスと白銀の髪を揺らし、
暖炉のそばまで行き、道具を手に取る。片方は火かき棒、片方は燃料。
「あ、暖炉、やってくれるのか?」
「このままあなたに不満げな顔されると嫌ですから。こちらの精神衛生上の問題です」
「意訳すると『べ、別にアンタのためにやっているわけじゃないんだからねっ!』ってとこ?」
「他人の脳内修正に口を挟む気は、こちとら寸毫たりともありませんので。どうぞご自由に」
青年のからかいをぴしゃりと切り捨て、リザは氷のつらのままに作業を続ける。手を動かし、道具を使えば、暖
炉の赤は色濃くなり、その光量を増していく。手つきそのものは慣れたそれだが、小柄なリザが暖炉の手入れをす
るのは、どこか滑稽であった。
「なんだかんだ言って、優しいよな」
「受け取っておきます、ありがとう」
「皮肉で返さないのか?」
「あなた相手に、それは、さして有効ではありませんから」
にべもない、という言葉そのものといった様子で切り捨てるリザに、青年はやれやれと溜息をつく。それは、あ
きれというよりかは、親愛と諦観のこもった息だった。
「相変わらず、可愛くない女っすね、リザ」
「それは言うまでもないことです。――アスト」
ぱちぱちと火の爆ぜる音がする。火の粉がレンガの壁に体当たりし、しかしレンガは動かず揺るがず、ひとつの
焔が消えたのちに、また別の焔が。淡い赤がそこここを照らし、雨音激しい夜の闇を、薄く裂く。
雨足は、先よりもなおのこと苛烈になっている。窓を打ち付けるたびに、ばこばこと自己主張。耳障りですらあ
るそれは、ひっきりなしに響き渡る。
薄ぼんやりと、焔の色彩。それに照らされている自分を自覚しながら、リザは椅子に座り、眼前の青年、アスト
と対峙する。線の細い優男ではあるが、一応はリザの友人、兼、隣人である。それなりに敬愛のような思いは、最
低限のラインではあるが、とりあえずはある。
テーブルに肘をつき、窓の外で落ち続ける雨景色を見つつ、横目でちらちらとアストの方へ目をやる。彼は、あ
まり表情を変えずに、リザの姿をぼうっと見ていた。
「雨、止まないな」
やがて、ぽつりと青年は言う。リザはその言葉を聞くと同時、ほんのわずかに目を細めた。次いで、首を動かし、
青年の方へと視線を向け、小さく頭を下げて言う。
「そうですね。というわけで、泊めてください。嫌ならあきらめますけど」
「別にいいけど……ひとつ屋根の下で、男と女が、というのは」
「下半身問題に傾倒してばかりの大衆意見を重んじてどうするんですか。こともあろうに、私のようなメスガキに」
結構な毒を垂れ流し、リザはその幼子に相応でなかろう雰囲気の溜息をひとつ。あきれもしているし、わずかな
がら揶揄の意味もかねている。が、どちらかといえば歓喜の念が大きい。勿論、口に出せば本日のジンマシン発生
数が過去最高記録を突破するだろうから、言の葉にはせぬが。
戸惑う男の様子に、一種の嗜虐的な感情でも引き起こされたか、リザは唇の端を少しだけ上げてみせた。それは、
彼女なりの笑顔である。
「……というより、私、はじめてなんですよね」
「だろうなあ」
テーブルの上を、指で弾きながらリザが言う。その言葉は、先程の言葉よりも、とげの数が減っている。とはい
え、その冷たい流れと音階は変わることがなく。結局のところ、人形めいたというよりかは人形そのもの、といっ
た印象を崩さぬ姿のままになったリザ。勿論、当人は気にしない。
そんな彼女の姿を見、一度逡巡するかのような仕草をしたのち、苦笑するのはアスト。優男のつらが、さらに細
い、線のような印象を放つ表情となる。
「そう、はじめて。『悪魔』に対して、そんな気をつかう言葉を吐く人間」
「だろう、なあ」
どこか自嘲めいた唇のゆがませ方をするリザに、青年は、曖昧に微笑むのみで返した。
――悪魔。
それはもはや、この世にほとんどいないであろう存在。人間よりもはるかに高い残虐性と闘争本能をもち、その
個々の力も、人間など歯牙にもかけぬほどに高い。過去、人間たちがこぞって悪魔を襲撃した際、悪魔はその手を
一振りしただけで、大地に幾多もの不恰好なミートローフを作り上げたという。
彼らの姿は、おとぎの世界にあるような竜のそれとは違う。彼らの格好は非常に人と似通っており、体格の微妙
な違いこそあれど、少し細工をするだけで人間と変わらぬ姿を見せることが出来た者もいるという。
つまりは、人間社会に容易に紛れることが可能であり、その気になれば、その隠密性は人間たちを震撼させるで
あろうこと請け合いだ。
とはいえ、今現在、悪魔はいない。もしいたとしても、そんな過去の書物にしかないような絶滅危惧種、とっと
と捨て置け、という始末。
これは、悪魔が非常に突出した闘争本能をもつがゆえの、間抜けな帰結である。簡単に言えば、彼らは、暴力を
振るって振るって振るって、暴虐の限りを尽くした結果、他の生物にえらく嫌われることとなってしまったのであ
る。当然といえば当然であろうが。
いかに悪魔が強いとはいえども、皆に嫌われていれば袋叩きされるのは自明。共通の敵を認識すれば、仲間意識
と団結力が目覚める。同じ目的意識を持った者たちは、道は違えど、集団で悪魔討伐することが多々あった。
気分的に言うなれば、魔王ひとり相手に、勇者と戦士と僧侶と魔法使いが四人がかりのタコ殴りをするそれと似
たようなものだ。数は力である。
おまけに、同族争いもよくよくあるのだから、弱ったところを攻撃されて死ぬ、というケースも多々あった。ど
う考えても間抜けとしか思えない、苦い歴史の一ページである。
と、このような間抜けなプロセスを経て、悪魔という存在は確立する。要は、力が強いだけの阿呆、という認識
を残して。
一般人の考えとしては、悪魔はいるんだろうけれど、探したいとも思わない。残った数少ない種族で、どうにか
細々とやっているんじゃなかろうか? というものばかりだった。つまりは、興味の対象となりえない。それほど
までに衰退した種だ、とも言える。
が、一時とはいえ、人間社会を引っかき回したことは事実なので、とりあえず、悪魔という単語は人々の心に刻
み込まれることとなった。
そんな種が、いるのである。
リザは、その数少ない、悪魔のひとりだった。
「何度も何度も何度も聞くけど。本当にリザって、悪魔なんか?」
「うい。いっつ、とぅるー、とぅるー」
暖炉の弾ける音の中でアストがたずねれば、リザは右手をぴんと上げて肯定する。同時、白銀の髪とエプロンド
レスが揺れ、その妖精めいた絶世の美が小さな焔に照らされ、鮮明な姿となる。
容色美麗、幼子そのもの、といった姿をもつリザは、誰がどうみようとも悪魔のそれには見えない。それよりか
はむしろ、精霊だの神のつかいだのといった、神聖な役職が相応かと思わせるほど。
「駄目だこの幼女……。本当にただの人間にしか見えないべ」
「クソ生意気な、という言葉が先に付きますが。あと私は26です」
「歳とるの、遅いんだっけ?」
「とは言っても、人と比べれば微々たる違いですが。私は単に、歳を重ねても成長しない体質みたいです」
自分より4つ年下の男を見ながら、リザは目を細め、暖炉の火を見やる。ぱちぱちと爆ぜる音の向かい側では、雨
の降りしきる音が響いている。
「なんか悪魔っていうと、荘厳な口調で、我が眷属にならぬかー、とか」
「それはただのアホです。そんな偉そうなイタい台詞、ガキぐらいしか言いません」
「いや、色々な方面に喧嘩売っていないか? その発言」
「いいんですよ、別に。アホが荘厳な口調やっても、単なる自己陶酔ですから。まあ、言うなればガキのままごと
と同じです。ガキのそれよりかは、七億倍タチが悪いですが」
つばでも吐きそうな勢いでそう捲くし立て、リザは小さな小さな吐息ひとつ。その仕草だけ見るのならば、悪戯
を失敗した子供が浮かべるそれと、なんら変わりはない。
そんな彼女の姿を見ながら、苦笑するのはアストである。その眼光には、悪魔と相対している際にありがちな、
恐怖の色は微塵もない。のみならず、こんな毒舌幼女に怯えるのはどうかと思う、という考えが、ありありとにじ
み出ている。それは、おとなりさん同士の色眼鏡であったのかもしれないが。
「宿泊代として、何かさせてください。掃除でも洗濯でもいいですから」
「そういうとこ律儀だよね、リザは」
「いい人を演出したいわけではありません。単なる相互利益に基づく関係を壊したくないだけです」
「意訳すると……」
「べ、べつにあなたのためじゃないんだからねっ」
「うわー、ちょー棒読みー。ぜんぜん嬉しくねーや、あははー」
全く表情を変えずに、抑揚ゼロの調子で、お決まりの台詞を垂れ流すリザに、アストは乾いた笑いで返した。ど
うにもこの外見幼女の悪魔は、表情が変化しない癖があるのだな、などと考えながら。
リザの鉄面皮は今に始まったことではない。数年前、アストと初の邂逅を果たし、今よりもずっと冷たい雰囲気
でいた頃。彼女はずっとずっと、鉄のつらを保ち続けていた。月日を経るにつれて、変な冗談も真顔で返す程度の
機転は身につけるも、相変わらず表情は変わらなかった。
結局、癖である。直せない方の癖である。表情変化に乏しいことは、無論、リザ本人も知悉している。だからこ
そ、可愛げというものを捨てて、口から遠慮なく毒を飛ばせるのかもしれないが。顔面から媚を捨てれば、口から
も媚が消えるのは、ある種の必然だったのかもしれない。
「まあ、冗談はここまでにしておきまして」
こつん、とテーブルの表面を指で弾いて、リザは鼻息ひとつ。
「過度の要求は相手に負担となり得ますので、これを最後にします。何かしてほしいこと、ありますか?」
あまりにあけすけな物言いに、リザの言葉を聞いた青年は苦笑する。
彼女は、いつもそうだった。言葉を額面通りにしかとらえられない。だからこそ、変な場所で馬鹿正直な物言い
をする。それはコミュニケーション能力の低さと交流回数の不足がもたらした結果であったが、いびつな誠意のあ
らわれであったともいえた。
リザは、幼いのだ。実年齢ではなく、そのありようが。
だから幼女の姿でいるのかもしれない。肉体が精神に引っぱられているのかもしれない。
アストはそう考える。その結果、苦笑がにじみ出る。
「特に……ないかな。もしも明日、寝坊したら叩き起こしてほしい、それくらい」
「了解です。えせ探偵、兼、えせ便利屋は大変ですね」
「えせは余計だ、えせは。俺の方より、そっちはどうなんだ?」
「ぎりぎりです。薬の売れ行き、悪いです。副業でどうにかしている状態です」
そう言って、リザは妙に素早い動作で、ふところからひとつのぬいぐるみを取り出し、それをすぽりと左手へと
はめてみせた。
ワニをデフォルメした、微妙に不細工なぬいぐるみである。底部の穴は、小さな女性がどうにか手を入れられる
程度の大きさ。パーマネントグリーンを主としたそのワニの姿は、誰がどう見ても、大体同じ評価を下すであろう。
センス悪い、と。
その本能的な嫌悪感を刺激される姿を垣間見、アストが頬をひきつらせると同時、
「貧乏薬屋もどうにかしねェとな? リザっちみてぇな幼女が身を売るようになりゃ、世も末ダぜぇ?」
ぺこぺこ、とゴムが跳ねるような音を振りまきながら、リザの左手に装着されたワニのあぎとが上下する。同時、
どこか奇妙な声が、雨音を切り裂きながら、薄暗い室内にこだまする。
その声色は、成人男性一歩手前の、生意気盛りの青いそれ。発生源は定かではなく、リザの唇は全く微動だにせず。
『副業』の一部を演出するリザの姿を見て、またもアストは苦笑い。
「そっちの仕事の方が稼ぎが良いくせに、よく言うよ」
「じゃかマしい、優男メ! テメェ、この前、王城のそばにいるパツキンの女騎士、タラしてたろーが!」
「いやいやいやいや、あれはですね、友人の妹という交流関係でして、特に邪なことは」
「あ、彼女、左の乳首が性感帯です。処女なので、もしも抱くのならば優しくしてあげてください」
「なんで知ってんだリザ!? というより、そいつとふたつの声で攻撃するのやめて、本気でやめて」
アストの言葉を受け、リザはゆっくりとそのワニのぬいぐるみを引っ込める。その際、ヘタレな青年が、ありあ
りと安堵の吐息を垂れ流したことは、彼の名誉のために黙っておくことにしたリザだった。
「ちなみに、そいつ、ではありません。フェルナンデス、という名前がちゃんとあります」
「ワニのくせに、なんて大層な名を……」
がくり、とうなだれる青年を見て、リザの唇の端はまた持ち上がった。
リザは、自覚していた。気分が高揚している自分を自覚していた。
普段ならば、商売のひとつである腹話術を、そうそう何度も金なしで見せたりはしない。一応、特別な場以外は、、
自重するように心がけている。はたから聞けば、吝嗇だの何だの言われるかもしれないが、とりあえずのポリシー
だ。止める気はない。
あんまり甘いことばかり言っていると、明日の食卓にパンひとつない状態が続くこととなるだろうから。
こんなに笑った経験もあまりない。笑いながら腹話術をした経験もさしてない。人間と、こんなに交流したこと
もさしてない。
色々と気が置けない仲であるアストに対し、リザは好意を抱いている。それは勿論、恋情ではない。どちらかと
いえば、間抜けだけれど真人間である兄に対する、親しみのそれのようなものだろうか。もしも彼に結婚相手なん
ぞ出来たのならば、指をさしてげらげらと笑ってやるのも良いのかもしれない、本心からそう思う。
恋や愛といった、そういう感情は、リザにはよく分からない。だが、信用や信頼、友愛といった概念は、大体な
らば理解できる。それを踏まえ、リザは、アストを様々な面で信用している。単なる隣人ではないが、友達、と言
うわけでもなく。とかく不思議な関係だ、とリザは思った。
だが、こういう、よく分からない関係に馴染んでしまうのも良いのかもしれない。リザは、薄暗い部屋の中で、
慌てるアストの姿を見ながら思う。
悪魔だからといって、暴力を振るってばかりいることが良いわけではなかろう。悪魔とてものを食べる。人に似
た姿を持つ。だから、人ごみに紛れるのも良いのではないか、と思う。その思いは、ある意味、愚かでもあったろ
う。その思いは、所詮、リザ自身が語った『ままごと』に近しい思い込みなのだから。
「もし良ければ、媚薬、あげましょうか? ピナスに悪影響が残らない、弱めの効力の……」
「やめてください、本当に勘弁してください、リザ様。平に、平にご容赦を!」
「……ちっ、これで不人気商品がやっとひとつ減らせる、と思ったんですけど」
「俺、残り物処理機ッ!?」
リザは、自分をいつわりながら、この甘いぬるま湯じみた場に耽溺する。おぼれふける。
それが、ままごとじみた、人間ごっこであるとしても。
鬱蒼とした森の中。フクロウの鳴き声と、湿った空気が支配する、種々様々な木々がそこここに立ち並ぶ場所。
湿り気の多い土が大地を覆い、野生の動物の荒い息づかいが、さながら音楽のように飛び交い、ひとつのうねりと
なって響き渡っていく。
夜闇に彩られたその場所は、人口の光は無論のこと、月光すらも届かない。時折、葉と葉と葉の隙間から漏れ出
る淡いきらめきが、細々とした線となって、地を小さく照らしているだけだ。
数々の巨木のとなりに、小さなしげみ。そのそばには、うじゃうじゃと小さな虫が徒党を組んで行進している。
静寂とした森の中。獣たちの小さな声と、虫の鳴き声を除けば、そこに無粋な音はない。
そこで、かたり、と。
小さな音がこだました。
虫や風の音色ではない。それと比べるべくもないほどにいびつで、禍々しい音。耳に入れるだけで、掻痒感をも
たらすような音。
響いた音は、木々の隙間の夜闇へと。黒に溶けて、黒に響く。たったひとつの違和が、不協和音の原因をつくる。
瞬間、夜闇の中で金色が踊る。さざなみのごとく、ゆらりと流れて、淡いきらめき。
巨木と巨木の隙間から、影と夜に溶けるようにして、ひとつの人影が現れる。どこか遠い、人間とは隔絶した雰
囲気をもってして、そこに。
夜の静謐は打ち破られる。その存在に、壊される。
しばしの時を経て、金色の影は去っていく。あとに残るは、どこか胡散臭い沈黙を保つ森の姿、ひとつ。先と違
い、沈み込むような静寂とは程遠く。虫の声も、鳥の鳴き声も、風の音色も、どこか遠く。それは、あたかも、先
の金が、音に込められる魅力という魅力を全て吸い取ったかのよう。
美麗なる流れは、もうそこにはなく。あるのはただ、偽物めいた美しさだけ。
先程まで金色の影があったその場所には、小さな焼け跡がひとつ、あった。
茂みを焦がし、あたかも全てのものを切り離すかのように、ひとつ。
焦げた匂いは、この森の中において、この瞬間、最も鮮明な要素だった。
静かな音は、もう戻らない。
投下終了です。
まだエロなし。この時点でものすごく邪気眼がうずきます。
スレ盛り上げのために短編にしたかったのに、気付いたら200KB近い量になってる俺アホwwww
どうぞ、暇なら、生温かい目で見守ってやってください。
次回投下は近いうちに。
可愛いなGJ!!
文体と作風が凄い合ってる
続きを投下します。
サーリア、という名の小さな町がある。
鬱蒼と茂る森を背面に、さほど大きな面積を有するでもなく、そこにちょこんと存在する町だ。大規模な町や城
からはかなり離れた場所にあり、関所などのそういった建造物からも遠い場所にある。当然、行商が来る頻度は非
常に低く、のみならず、その町の存在自体、覚えている者がさほどいない、という状態である。
町、というよりかは、規模で言うのならば村に近しいだろう。レンガ造りの家屋が密集し、道を形成し、とりあ
えずの形を成している点、村よりかは何とか大きな面積を有している点、それらがサーリアを、町にカテゴライズ
する要因だった。
過疎化は、日に日に進んでいる。漁業をやるでもなく、目だった交流をするでもなく、特産物をつくるでもなく。
ただ単に、計画的な都市づくりをしなかったゆえの弊害で生まれた町。ある意味では、うたかたのように希薄なる
存在感を有する町ともいえる。
それでも、人がいるかぎり、町として機能はする。日が昇れば仕事をする大人たちが交叉し、日が沈めばランプ
の小さな光が町のそこここを照らす。
いつ消えるとも知れない、風前へとさらされた小さな焔。それが、サーリアの町。
その場所を注視する者は、ほぼゼロに近しい。大陸でも有数の軍事力を誇る王都などと比べれば、それこそ豆粒
と山脈である。注目するしないの問題ではなく、はじめから目に入らない。
だから、誰もその場所を調査しようなどとは思わなかったし、そこの住民を調べようなどとは思わなかった。
一体、誰が想像できるだろうか? その町に『悪魔』がいるという事実に。
『悪魔』の正体を知りながらも、人間のように接している青年がいるということに。
「あ、ニンピニンソウ、注文しすぎました。おお、失態失態」
「おいおい、平気なのか? それ、結構高級な薬草だと……」
「はい。五日ほど、豆と塩のスープで我慢すればどうにかなる程度です」
「程度じゃないよそれ! なんか分けてやるからうちに来い! 隣人が栄養失調なんてシャレにならん!」
「すみません。いつか面白おかしいかたちで、仕返しします」
「仕返し!? お返しじゃないの!?」
『悪魔』の家計簿は、常に火の車だということに。
陽射しの強い日だった。
吹きぬける風は冷たく、そこここを闊歩する人々の肩は、自然と縮こまる。小さな鳥の鳴き声が、青い空を震わ
せ、透徹した印象を壊す。勝手に競走を続ける雲の数は、あまり多くない。空気が乾燥しているせいだろうか、そ
れとも別の要因があるのか。
日に照らされ、淡い光に彩られたレンガ造りの家屋。赤と茶色の組み合わせが、どこか鈍重な雰囲気を醸し出す。
遠くには緑の数々。空の景色を切り裂きながら、ただそこに直立不動のままでいる。
どこにでもあるような、平凡も平凡といった、さして美しくもない景色。そんななかに、ひとりたたずむ、小柄
な女性。
プラチナブロンドの髪を伸ばし、人形のように整った美貌を、人形めいた鉄の表情でそこにさらす。まとう衣服
は、ナイトブルーとホワイトのコントラストがまぶしいエプロンドレス。くるぶしまで隠すほどに伸びたスカート
部からは、茶塗りの革靴がぴょこりと顔をのぞかせている。
その姿だけならば、まさしく絵本の中から出てきた妖精のごとき容色ではあったろう。
が、その可憐な姿を見せる時間はわずかのこと。彼女はやにわに、ふところからワニのぬいぐるみを取り出し、
それをすぽりと左手にはめる。見る者の心に微妙な嫌悪感を抱かせるような、絶妙な不細工加減のぬいぐるみ。可
憐きわまりない少女の、ガラス細工じみた五指に、不細工なワニが覆いかぶさる。
そうして、妖精のごときイメージは、今ここで壊される。
「朝ですね、フェルナンデス」
「いちイち分かりきったことを聞くんじゃねェよ、この幼女! テメェ、幼女だからってなんでも許されると思う
なヨ! ああ、オイ、分かってんノか?」
鈴の音色にかぶさるように、不可思議な旋律のデスボイスが、朝もやに覆われた空気を染め上げる。
無論、発生源は言うまでもない。女性の、そばからだった。
「分かっています。ええ、意味のないことをしゃべりたい気分なんです」
「要は落ち込んでイる、ってことだな、テメェ。仕方ねェじゃねぇか。ミスぐらいすんだろ、仕事は」
「いえ、アストに借りを作ったことが屈辱なんです」
「うわァ、プライド高いな、この幼女。つーカ、ひとりで対話して空しくなンねぇか?」
そのワニ、フェルナンデスの言葉をきっかけに、妖精の印象を見事に壊した女性は溜息をついた。
「……練習、おわり」
女性――リザは、目を伏せる。妙なむなしさに全身を支配されながら。
サーリアの町の朝は、さほど早くはない。皆がのんびり、のんびりと行動しているせいだろうか、町そのものの
雰囲気すら、のんびりとしている。朝、ちょっと人通りの少ない場所を選べば、容易にひとりになることが出来る。
多くの人々が、ひっきりなしに道を行き交う、などという例があまりないからだろう。
過疎化ではあるのだが、それはリザにとっては好都合であった。副業の練習場所を見つけ出すことが、容易であ
るからだ。屋内ばかりでやると、声がどれだけ響くのか、たまに不安になる。声量調整として、リザは、朝に誰も
いない通り道で、こっそりと腹話術の練習をすることがしばしばある。
本当は、町の裏にある森でも練習してみたかったのだが、リザは自重している。というのも、過去、森の中で練
習していた際、不快なデスボイスを聞きつけたのだろう、イノシシめいた姿の猛獣から強烈な洗礼を受けることと
なった。
狩ろうと思えば狩れたのかもしれないが、薬屋であり腹話術師でもあるリザが、猟師の真似事をするのはさすが
にはばかられる。結局のところ、ほうほうのていで逃げ出し、どうにかことなきを得た。無論、この事件が、リザ
の心に自重の二文字を刻みつけたことは否定しきれない。
悪魔の癖に、血生臭いことに積極的に関わろうとはしない。リザとはそういう女性であった。言うなれば、単な
るヘタレである。
練習を終えたヘタレ女は、ぬいぐるみをしまって道を歩く。ぴょこぴょことゆっくり歩を進めながら、周囲の景
色を目に焼き付ける。
朝の空気は、冷たいが爽やかだ。肺に入れて出せば、青い流れが体の中に満ちるようで、気分も良くなる。遠く
から聞こえる鳥の鳴き声も、爽やかな朝を演出するひとつの要素だろう。耳をすませば、人々の話し声も聞こえて
くる。
「さて」
誰に言うでもなく、ひとりつぶやいて、リザは大通りに足を向けた。
瞬間、目に入るのは巨大な噴水と、それを取り囲むようにして設置してあるベンチの数々。多くの子供たちと、
多くの大人たちがそこにおり、思い思いに動いている。
噴水広場、である。町の中心部に位置するそこは、広場としては最も大きい。露店もいくつか見受けられ、待ち
合わせの場所にもよく指定される。塔のような形状のオブジェである噴水は目立ちやすく、また、そのデザインセ
ンスの悪さから、妙な親しみを持つ者も多い。
多くの人間がいるその場所に、リザは降り立った。ナイトブルーのエプロンドレスをまとう、容色美麗な彼女が
その場に立つ姿は、どこか滑稽ですらあった。周囲にいる者たちと比べて、色々と違う点が見受けられるから、と
いうのもあるのかもしれない。
リザは、この噴水広場においては、異端だった。サーリアの町で、リザを悪魔と知っている人間は、アストしか
いない。だが、やはり、というべきか。立ち振る舞いやその雰囲気が、普通とは少し違うのである。無論、そこの
辺りの微妙な差異も、リザは知っている。だから微妙な劣等感が、彼女の胸の中にある。
「どーん!」
「げぶらばぁっ」
もやもやとした気分が心を支配しそうになった瞬間、リザは背後から衝撃を受けて吹き飛んだ。腰に強い痛みが
走り、石畳の床にその身を打ち付けそうになるも、どうにか諸手を地に当てて体勢回復。汚れた手のひらを払い、
視線を背後に向けてみれば、やはりと言うべきか見知った顔。
「朝から根暗だね、お姉ちゃん」
「……イリス。素敵なタックル、ありがとうございます」
リザの眼前にたたずむは、思わず蹴り飛ばしたくなるほどに綺麗な笑みを向けてくる、子供だった。幼女めいた
体躯をもつリザよりも、なお小柄。質素なバーントアンバーのワンピースをまとい、栗色の髪をまとめてひとつに
したその姿は、素朴という言葉がしっくり来るであろう。
顔立ちは幼く、とかく幼く、赤らんだ頬が可愛らしい。イリス、という名をもつその子供は、リザの友人であり、
リザのからかい役でもあり、リザのからかわれ役でもあった。
「……ちっ、今日こそはお姉ちゃんに一太刀入れられると思ったんだけれど」
「毎日こちらのタマを狙わないでください。殺伐人生は嫌なんです」
「いいじゃない。お姉ちゃん、無駄に身体能力が高いし」
「だからといって、こちとら万能生物じゃないんです。不意打ちされれば、普通にやられます」
先よりもいくばくかぶすっとした様子でリザが言えば、眼前にたたずむ少女はきゃらきゃらと笑い出す。リザよ
りも幼いイリスではあるが、その言動や態度は、どちらかといえば『おしゃま』なそれである。
「けっ、この不良薬屋め。大体、営業はどうしたの?」
「気まぐれ経営です。……それに、副業の方が収入がいいんですよ」
「で、やる気が下降気味?」
「というより、この町には病気や怪我する人があまりいない、というのもありまして」
薬屋がもうからないのは、ある意味では平和ではないのか、とリザは思う。無論、生活は大変になるだろうが、
それはそれ。稼ごうと思えば、なんとか別の道があるのかもしれない。あくせくと働いて躍起になって、目的も手
段も見失う、という事態だけは避けたかった。
だから、リザは慌てない。本業が化石化寸前であろうとも。しかし、さすがに隣人に迷惑をかけ続けるわけには
いかないので、死なない程度には頑張らなければいけないが。
と、気付けばイリスからの視線を感じ、リザは小首をかしげる。
「どうしました?」
「……んー、いや、ちょっとね。お姉ちゃん、やっぱり綺麗だよね、美形だよね、殴りたい」
「最後だけ、前後の文脈が繋がっていませんが。それと、過大評価はやめて欲しいです」
「あ、自覚のない人間を殴り倒したくなる人の気持ちがちょっと分かった」
そう言われると同時、リザはイリスに足をげしげしと蹴り続けられた。手加減はしてくれているのだろうが、そ
の蹴りは地味に痛い。じゃれつきの範疇とはいえど、塵のような痛みも重なればそれなりにはなる。リザは心の中
だけで痛みに顔をしかめつつ、イリスの頭を引っつかみ、その五指にぎりぎりと力を込めた。
「やあぁっ……! 痛い、だめぇぇっ! お姉ちゃん、らめええぇぇぇっ!」
「人様に誤解されるような声を上げないでください、このマセガキ」
「とか憎まれ口を叩きながら、ちゃんと手加減してくれてるね、お姉ちゃん」
「暴力は嫌いですから、私」
いけしゃあしゃあと語りつつ、リザはイリスを解放した。この間抜けなやりとりも、ふたりなりのじゃれ合いで
ある。現に、噴水広場にいる人々は、ふたりの微妙にバイオレンスなやりとりを、生温かい目で見ているという始
末。ある意味では駄目駄目なのかもしれないが。
「お姉ちゃんはさ」
「ん?」
場の空気もいい具合にゆるやかになってきた時、弛緩した糸をひっぱるかのように、ぽつりとイリスが言う。そ
の、子供らしからぬ響きの言葉に反応したリザは、またも小首をかしげた。
「どうして、今の職業に就いたの?」
「あなたもそれですか? ……別に、一番やりたいことをしているだけですよ」
「兵隊さんとかは……?」
「それはさすがに勘弁を。私、痛いのとか怖いの、すごく苦手なので」
両手を振って、いやいやと首をも横に振るリザ。そんな彼女の姿を見ながら、イリスは何やら不満げな表情で、
ぶつぶつと文句を垂れ流している。
「この前、あのでっかいの、蹴り飛ばしてたじゃん」
「あれは、まぐれですよ。もう一度同じことをしろ、と言われたら、小便もらして腰ぬかします」
「……んー、でも、お姉ちゃんが兵士さんになると、平和が近付くと思うんだけどねえ……。正義の騎士、みたい
な感じでさ。みんな助けてくれそうっていうか」
瞬間、リザの表情が、凍りついた。
それは、本当に本当に小さな時間。目視することが出来るのかどうか、というほどに短い時間。肉眼で視認する
こと自体が困難かと思わせるほどの時間。たったそれだけの間ではあるが、その際、彼女の人形めいた美貌は、揺
れたのだ。氷の上に、氷柱が突き刺さって、いびつながらも、彩りを見せたのだ。
だが、それを周囲の者が悟る前に、リザは鉄面皮へと表情を戻す。氷柱の上に、鉄板をむりやり打ち付ける。
「……いやいや、実は私、結構びびり屋でして。本番に弱いんですよ」
「そっかあ。あれだけ凄かったのに、勿体ないな」
そう言って、リザの眼前で、イリスは遠くに視線をやる。大方、この前の『事件』のことでも思い出しているの
だろう。リザにとってはあまり思い返したくないことであったが、それでも誰かの考えをとがめられる権利などは
どこにもない。
心中、苦虫から出た汁をちゅうちゅうすすり、リザはひたいを押さえて溜息をひとつ。顔を上に向ければ、憎た
らしいほどに透き通った空の色。流れる冷たい風が、リザの思いを冷やしていく。
「……まあ、それはともかくとして。誰か薬を必要としている人、いませんか?」
「いないよ、貧乏不良薬屋の、お姉ちゃん」
「ぐぬぬ……、そりゃ困りましたね。しょうがない、雇われ給仕でもしますか」
「本当に貧乏なんだね、お姉ちゃん……」
自分の半分も生きてはいないであろう幼子に、あろうことか同情の視線を向けられるリザ。
本当に、世の中はままならない。彼女は強くそう思った。
イリスと別れを済ませ、リザは町中を闊歩する。レンガ造りの家屋の隙間を歩いていき、様々な商店をその目に
焼き付ける。さほど活気はないものの、陰鬱な空気は皆無。だからこそ、こうして目的も何もなく、ただぶらぶら
と散歩するのが心地良いのかもしれない、リザはそう思う。
今頃は、どこぞの国と国で戦争でもしていて、たくさんの死傷者が生まれているだろう。戦乱の世、ではないが、
ここ最近はやたらと争いが絶えない。現に、数日前もどこぞの地域で、小規模ながら戦いがあったようだ。
きっかけは、領空侵犯だったらしい。俺の巣に土足で踏み込むなボケ、という話から始まり、それからぐだぐだ
と戦いが続いて、気付けば目的がすりかわっていた。お前の庭をよこせ、という話になっていた。
よこせ、ふざけるな、なんだと、殺すぞボケ、じゃあ俺がお前を先に殺しちゃうもんね。この一連の流れが、最
近の戦争の理由だったりする。歴史の教科書によくよくあるパターンだ。過ちはくり返すまい、と思っても、くり
返してしまうのが人間なのである。
もしかすると、人間は闘争本能を根絶せしめることが出来ないのかもしれない。この大地に増えすぎた生物は、
本能で、間引きをしているのかもしれない。しかしその反面、最近になって出生率が跳ね上がったのだというから、
本当によく分からない。
リザは、人間の道徳観があまり分からない。
悪魔だから、というのもあるのかもしれないが、生来の気質も災いしたのだろう。
基本的に彼女は、冷めた目で物事を見やる。知らない人が死んでも悲しまないし、この世で最も大切なのは自分
の命だ。知り合いや友人が殺されれば、それは悲しいと感じるだろうが、恐らくはすぐ忘れる。命の危機にさらさ
れれば、恐らくは泣いてみじめに命乞いをするに違いない。
人助けは嫌いだし、ボランティアなぞも嫌いである。恩義は返すが、無上の信頼などというものは持てない。基
本、持ちつ持たれつの関係を旨とする彼女にとって、情というものは最もよく分からない行動基準のひとつである。
だから、どこで誰が殺し合いをしても、全く関係ないと考える。彼女の行動理由は、全てが自己満足のために、
である。崇高な理由なんぞはゴミ箱に捨てて、犬の餌にでもしてしまえば良い、本心からそう考えている。
人殺しをしまーす、と宣言して人を殺すのと、人殺しは嫌よ、と宣言して人を殺す。信念や考えの違いはあるだ
ろうが、結局、物的事象に微塵の変化もない。いいわけは責任転嫁のあらわれであるし、恥知らずに徹することが
出来るほどに、リザは盲目的でもなく。
その帰結として、町のすみの家屋に住まう、万年貧乏薬屋が出来上がる。
貧乏薬屋は良い。戦争があっても、見向きすらされない。貧乏人は帰れ帰れ、である。余計な争いごとに巻き込
まれる心配もない。それ以前に、サーリアの町自体が見向きすらされないのだが。
そんな利己主義一直線の彼女は、小さな幸せに包まれながら、散歩を続けた。家計簿の件を、無意識内に脳味噌
の範疇外へと追いやって。
橙色のなかに、黒が混じりつつある空の色。そんな時間帯になれば、人々の姿はまばらになっていく。夜は、闇
と暗殺者と変質者の時間である。自ら危険に首を突っ込もうとしない人々は、思い思いに足を進め、それぞれの拠
点へと帰っていく。
赤らんだ顔の大男や、疲労の色を強くにじませる中年女性。そんな種々様々な姿の町人たちのなかに混じり、白
銀の髪を揺らしながら、リザも足を進ませていく。
噴水広場を抜けて、いつも通りの道をいく。ひと仕事終えたせいだろうか、体の節々が泣いている。それは主に、
精神的な疲労の面が大きい。悪魔の体は、無駄に、とにかく無駄に、無駄に頑丈なのである。それこそ、腕一本を
切り落とされても、切断面同士をぐりぐりとねじりこんでやれば、くっつく程度に。落石を脳天に受けても、とり
あえずは死なない、という程度に。
とはいえど、いくら頑丈な体をもっていても、痛覚はある。子供に足を蹴られて、痛いと感じる程度には。
自身の変な体を訝る暇もあらばこそ、リザは目的地にたどり着く。赤茶色のレンガで形成された、それなりに大
な家屋。庭こそないが、屋根も煙突も窓もあり、きちんと家の様相を成している。玄関口には木製の扉がたたずみ、
そのそばには柵らしきものも見える。
リザは扉まで近付き、手の甲でそこを軽く叩く。何度か叩けば、がたり、という音と同時に出てくる人影。黒い
髪に、柔らかい表情。隣人のアストだった。
「どちらさま……って、お前さんか、リザ」
「はい。借金、返済します」
そう言って、ふところから布の袋を取り出し、リザは直接手で渡す。無論、放り投げるようなまねはしない。
「ひい、ふう、み……。うん、ちゃんとぴったりあるが。相当、無理したんじゃないか?」
「いえ。自宅の倉庫をあさってみたら、なんか変な兜と鎧を見かけたので。売ったらこういう始末に」
「いい加減、ちゃんと片付けようよ……」
「自分の部屋とか、掃除するの嫌いなんですよ。公共の場だとあまり抵抗を覚えないのですが」
袋の中にある金貨を確認したアストは、リザの平然とした物言いに対し、盛大な溜息で返す。リザは全く動じる
ことはない。所詮、いつものやり取りだからだ。
「しかし、よくここまでの額を……。その兜と鎧、結構な品だったんじゃないか?」
「店の主人が言うには、そうらしいですね。なんか、雷と氷の魔法の力がこもってうんぬん、生半可な剣では太刀
打ち出来ないとか。あと、なんか、魔力射出とかなんとか。売った後で話を聞きました」
リザがそう言った瞬間、アストがむせた。ぶふぉ、と下品に。
「それ、多分、捨て値で売っても、この程度の金額では済まないんだが……」
「そうですか。まあ、騙される私が悪いんでしょう。おお、失態失態」
「無欲だなあ、相変わらず。でも、ご愁傷様」
「いやいや、変にお金あると、なんか怖い人から狙われそうで嫌なので。逆に僥倖でした」
ぶんぶんと手を振りながら、リザはここ最近にあった王都での出来事を思い出す。とある富豪が、強盗殺人事件
でその命を散らしたのだ。ちなみに犯人はすぐに捕まった。犯人いわく「金が欲しかった。見つかったから殺した。
今は反省している」らしい。
ヘタレ一直線なリザは、その事件を覚えており、金は欲しいがそこそこでいい、と常に考えている。この女、金
銭面でもヘタレであった。
微妙な空気が流れる。リザはぽりぽりと頬をかいた。アストもアストで、リザからもらった金貨入りの布袋を、
どこか気まずそうな表情でながめている。
とりあえず、打ち消すべきだろう。そう考えてリザは口を開く。
「というわけで、傷心の私を泊めてください」
「いやいやいや、前後の文脈が繋がっていないから。別に泊めるのはいいけどさ」
「無論、宿泊代は払います。あなたが嫌なら無理強いはしませんが」
「別にいいけどね……、もう慣れたし。まあ、俺も嫌じゃないし、泊まっていいよ」
どこか諦念の混じった声で、アストはがくりとうなだれ、溜息ひとつ。対するリザは小首をかしげる。今の会話
の中、もしかして粗相をしたろうか、と思ったが、アストの表情に嫌悪や憤怒の色はない。
リザは、とにかく空気が読めない。いい具合に誤解してばかりいる。おかしな方向に走らないのが、救いといえ
ば救いなのであろうが。
そんな彼女の気質を理解しているのだろう、きびすを返したアストの背には、妙な哀愁が漂っていた。
「まあ、入ってよ。防具を売却した件も聞きたいし」
「はい、ありがとうございます。嬉しさのあまり、はしたない汁が出そうです。おお、風情風情」
「……つっこまない、俺はつっこまないぞ」
「突っ込むのはピナスだけで充分でしょうね。しかし、13で非童貞とは、あなたもなかなかやりますね」
「な、なんで知ってんの!?」
「パン屋のマリィさんに教えてもらいました。ご近所通信網」
アストをからかいながら、リザは彼の家の中に入っていく。そこに色めいた雰囲気は微塵もなく、あるのはただ、
変な兄妹がぐだぐだとからかい混じりのじゃれ合いをする、なんともいえぬ空気のみ。
夕闇の色が、ふたりを染め上げる。弛緩した空気が漂う。それにこそ、リザは満ち足りたものを感じて。
「まあ、別に面白い過去なのでいいんですけど。避妊はしっかりやってくださいよ?」
「あの頃は、若かったんだ……」
「今も若いでしょうが。私なんて、26で処女ですから、売れ残り臭ぷんぷんで」
「本当か? なんか、意外と言えば意外だし、納得できるといえばそうなんだが……」
「まあ、膜はブチ切れていると思います。結構激しい運動した経験、いっぱいありますから」
「わーい、青少年の浪漫が崩れていくなー」
「身勝手な願望を抱くのは勝手ですけど。押し付けちゃうのは駄目駄目です」
「それについては同意するよ、26歳処女」
「……やっぱり、微妙に嫌ですね、そう言われると」
シモの話を続けた。
この女、とかく空気が読めないのである。合掌。
投下終了。
エロはまだ先です。ごめんなさい。
gj!
今のところ平和なふいんきだけど、
この先グロだのレイープだのをどう盛り込んでくるのか楽しみだぜ
続きを投下します。
薄暗い灯火のなか、ふたりの男女が顔を見合わせながら席に座っている。片方は小柄な銀髪の女性、もう片方は
線の細い男性。木製のテーブルを挟んで向かい合う両者のそばには、いくつもの皿がある。
真っ白な液体のなかに、ぷかりと浮かぶ赤や黄のかたまり。狐色に焼けた断片のそばに、緑色の棒状のもの。そ
のそばに添うようにして、茶色いかたまりがある。それらはいずれもかぐわしい香りを発しており、両者の鼻腔を
つつき続ける。
「では、馳走になります。いただきます」
「んむ、苦しゅうない。いただきます」
などと言えば聞こえは良いのかもしれないが、何のことはない、リザがアストと共に、夕食をとろうとしている
だけの話である。テーブルの上には、煮込まれたクリームシチュー、マスのポワレ、アスパラガスの塩茹でが乗っ
ている、ただそれだけの話。
だが、リザの眼光は鋭い。炯々、という言葉が似合いそうなほどに。
「私の好物ばかりですね。おお、素敵素敵」
「まあ、たまたまだあね。俺とお前さんって、食べ物の好き嫌いが似ているから」
「実においしそうです。料理できない私にとっては羨ましいですよ、本当に」
「むしろ、手先がやたら器用なお前さんが何故に料理できないのかが俺には分からん」
食い入るようにテーブルの上の食器類、の上にある料理類を見つめて、リザは嘆息する。その仕草だけ見れば、
淑女やら何やらという言葉とは無縁、意地汚いやらはしたないやら、そういう言葉が相応だ。
とはいえども、リザのその態度も仕方のない話なのかもしれない。とろり、と音が聞こえそうなほどになめらか
な表面を描くシチューは、光沢を放ちながら、野菜の島を浮かべており、今にも一帯を占領したくなるほど。その
横には、表面を、これでもかと言わんばかりにかりかりに焼かれたマスがあり、とろみのあるバターソースは、そ
の匂いを鼻に入れるだけで唾液が止まりそうにない。そっと横に添えられたアスパラは、ぷくぷくと肥え太り、噛
み切ればじゅわりと青い旋律が広がるであろうことは想像に難くない。皿の横に置かれた黒パンは、かぴかぴとし
た光沢が、逆に食欲をそそる。
たまらん、実にたまらん。リザは心の底からそう思った。
「うはぁ、うめぇです。相変わらずさすがですね」
「……そうやって食べてもらえると嬉しいことは嬉しいんだが、お前さん、自分の姿、鏡で見たことあるか?」
「ありますよ? いつもいつでもガキ体型。世は理不尽。ああ、本当においしい」
「あー……。名画に黒インクぶっかけるって、想像以上に、精神に来るもんだなあ」
フォークとナイフとスプーンとを、気持ち悪いほど奇妙に使いこなし、がっつくリザ。そんな彼女を見て、料理
の作り手たる青年は盛大な溜息をつく。
リザの食べ方は下品ではない。が、上品でもない。健啖家そのもの、といったその食べ具合は、間違っても人形
めいた容貌に似合わない。彼女らしいと言えばらしいのだが、その行為は、まさしく名画に黒インクぶっかけ。い
くら素材が良くてもどうにもならない。所詮、そういうものである。
「たまりまへん、うまいですね」
「……なんだろう、この、嬉しいのにやるせない気持ちは。見慣れたはずなんだが」
微妙な空気が一部流れた食事が終わり、食後の紅茶の時間が来る。空気もそれなりに弛緩し、リザにも落ち着き
が来る。それを待っていたかのように、彼女に向かって、アストが口を開いた。
「そういや、聞きたかったんだが。防具の話」
「ああ、私が間抜けにも騙されてしまった、あの話ですか」
悪意まんまんに語ってカップをかたむけるリザだが、その顔に憎悪やその類の感情はない。彼女の表情にあるの
は、満腹感、ただそれだけである。
「どうして防具なんて持ってたんだ? リザには不要だったんじゃないのか?」
「ええ、不要です。ちょっと前にですね、とある偶然が重なって、色々とごたごたがあって……まあ、あれは鉱石
と引き換えにゆずり受けたんですよ。でも、私は防具とか装備しませんよ、なんてその場の雰囲気では言い切れず。
結局、倉庫にぶち込んで終わり、という話に」
「鉱石と引き換えか……。で、どういう品だったんだ?」
「ええと、スタールビーとやらと引き換えに、なんかやたら冷たいチェインメイルと、やたらびりびりくるヘルム
でしたね。私、貴金属類を肌に着けるのは苦手なので……って、アスト、どうしました?」
テーブルの上に突っ伏して、カエルを潰したような声を上げるアストを見、リザは小首をかしげた。
「お、お前さん、騙されすぎ……。いや、もう、いいや。なんかつっこみを入れる気もなくしてきた」
「私、昔から騙されていたんですか。おお、失態失態」
「これを機に、色々な道具の価値とか学んでみるのもいいんじゃないか?」
「ん、それもいいですね。……勉強は嫌いなんですが」
そういう問題じゃねぇよ、というアストの視線をさらりと受け流し、リザはテーブルの上で湯気を立てるカップ
を取る。宝石は確かに美しいだろうし、鎧や兜はまとえば命を守れるだろうが、リザにとっては無用の長物である。
今の彼女は、この熱い熱いダージリンティーの方が、よっぽど価値があるというものだ。
のどに液体を流し込み、はふぅ、と溜息。
「そういや、どこで売ったんだ? 武器防具を扱う店なんて……」
「王都ぐらいしかないですよね。ええ、行きました。魔法を使って、ばびゅーん、と」
「魔法か……。そりゃまた、お前さんが使うなんて珍しい」
「今回ばかりは特別です。借金、とっとと返さないと信用問題に関わりますので」
右手を上げて、頭のそばでくるくると人さし指を回すリザ。同時に、その動きに合わせて、ゆらゆらと白銀の髪
が揺れ、彼女特有の甘い匂いが流れる。変なところで色気のある女だった。
魔法、というものは実際にある。とはいえども、それはおとぎの世界にあるような、便利なものではなく、どち
らかといえば危険なもの。練習すれば誰でも使えるし、やり方も至極単純である。が、反面、その威力と危険性が
高すぎる。その特性を利して、魔法を使って犯罪行為に手を染める奴原も、年々、増加の一途をたどっているとい
う話だ。
無論、それに対する抑止力はある。戦争以外は危険な魔法行使を禁ずるだとか、魔法を用いて人を傷付けた際に
かぶる罪は大きいだとか。ただ、それで死刑制度賛成派の意見が色濃く出てしまい、モラルの低下が見受けられる
のも現状だった。牢獄の需要がなくなっていくのも問題である。
そのため、どこの場所でも、徹底的な魔法の制限が求められる。罪の段階も細かく設定し、様々な取り決めも作
られた。そんな面倒なものをつくるぐらいならば廃止してしまえば良いのでは、という意見を出す者もいるだろう
が、そうは問屋がおろさない。
魔法はすでに、人々の生活に深く関わっている。高度な魔法を使って生活を支えるような職もいくつかあるのだ。
この期に及んで魔法廃止、などと言えば、失業者たちがあふれることとなるし、魔法を日常的に使用していた者た
ちからのストライキが来ることは必然である。
幸いなのは、あまりに強い力を使うと、反動として本人の肉体が傷付く、という点だろうか。人をぶっ殺してや
るぜ、と考えて強力な魔法を使えば、全身疲労に裂傷ですぐばれるのが関の山、というように。世の中はとかく、
ままならないものである。
などといった背景があり、今でも魔法は『便利だが、使いすぎるといい顔をされない』というもので落ち着いて
いる。魔法ばかりに頼って運動せずに、肝硬変で死んだ男の事例があってから、その傾向はより顕著になった。な
んとも間抜けな話なのかもしれないが、そういうくだらない風聞が、民衆の関心を引くのは言うまでもなく。
結果として、魔法とは微妙な立場に腰を下ろす破目となった。
無論、リザも魔法が使える。食べ物を冷やして保存する魔法をきっかけとし、火を用いて湯を沸かす魔法、水を
用いて体を洗う魔法、などなど。
彼女が王都まで行った際に用いた魔法は、突風を起こして自分の体を吹っ飛ばすものである。勿論、着地のこと
など考えていないのだから、王都からやや離れた場所にある平原に、背中から激突、背骨が粉砕骨折となったこと
は言うまでもない。悪魔の身を持たなければ、一生ものに近しい大怪我である。荷物袋と、その中身の鎧や兜が壊
れなかったことは、僥倖以外の何物でもない。
この魔法の使用例は、間抜けというほかにないが、リザはそれを楽しんでやっている。馬鹿に耽溺したい気分に
なることとてあるのだ。たまに後悔はするが。
閑話休題。
「……よくそんな強力な魔法を使って、反動こなかったな」
「来ましたよ? 毛細血管ズタズタ、全身微妙に疲労、血もちょっと吐きました。まあ、この悪魔ボディあっての
やり方ですから、もうハチャメチャというほかなく。再生能力でどうにかしましたが」
さらりと語るリザ。全く表情を変えずに、声だけでゲタゲタと笑う姿は、ひいき目に見ても見ずとも気持ちが悪
い。そんな彼女の姿を見て、青年は、また盛大な溜息をついた。
「よくご先祖様は、悪魔とか倒せたなあ」
「いや、存外簡単ですよ? せっかくの機会ですから、悪魔殺しの方法とか教えましょうか?」
紅茶をすすりながら言うリザに、アストはしばし訝りの視線を向けるも、やがて観念したかのようにうなずいた。
「ありがたいけど。自分の殺し方を教えていいのか?」
「いいんですよ、別に。ちょっと考えればすぐ分かることでしょうし、それに……まあ、話を聞いていれば理解で
きると思います」
くるくると、自分の髪を指でもてあそびながらリザは言う。
「まず、数ですね。いくら悪魔が人間より強靭だからって、数の暴力の前には勝てません。とりあえず十数人がか
りで捕縛の魔法を打ち込むか、氷魔法の杭で四肢を大地に縫い付けて固定しちまいます。
動けないところで、さっさとのどを潰してやりましょう。声帯を再生させなければ魔法はろくなもん使えません。
あとは循環をつかさどる臓腑を……この場合は心臓ですね、引っこ抜きます。悪魔の体は放っておくとすぐ再生し
ますが、心臓を取ればそれを抑制することが可能です。あとは脳味噌を破壊して、焼けば終わり。簡単ですね」
ぺらぺらと得意げに、自分の殺し方を語るリザに対し、アストはどこまでも渋面だ。食後、という時間が災いし
たのもあるのかもしれない。とはいえ、さすがにえせ探偵をやっている青年は、すぐに顔色を平静の色に取り戻す。
「一対一の場合は?」
「逃げた方がいい……のでしょうが、逃げるのは困難です。まあ、基本的に悪魔ってアホなんで、油断したところ
を目くらましして、さっさととんずらする方がいいかと。あとは罠にはめるのとかも有効。結構、知略に弱いんで
すよ。自分の種族ながら、このアホっぷりはどうかと」
そこまで語り、ただ、とリザは指を立てながら話の流れを一度切る。
「やっぱり、力が強いのは困りますね。こぶしを一発受けただけで、人間の骨、ぐしゃぐしゃになるでしょう。そ
れと、腕とかもぎ取っても、すぐポコポコ再生してしまう。脳味噌以外なら、焼いても再生するんですよ。本当、
やっかいきわまりない相手です。……そこで」
「そこで?」
「とある道具を相手の体に打ち込めば、あらゆる能力をほぼ抑制することが可能です。まあ、今度、暇があれば見
せます。結構高価でかさばるものなので」
「なんでそんなものを、悪魔本人であるリザが持っているんだ?」
青年の疑問の声を聞き、リザはすぐさまふところからぬいぐるみを取り出す。あの不細工なワニの形状をしたそ
れを、すぽりと右手にはめ込み、ぱくぱくとアゴを上下運動。ランプの淡い光に照らされ、薄闇の中に緑が見える。
「それはモチロン、リザっちが暴走した際、殺し方を知らないと困るダろ? 悪魔なんて、未だにその正体が薄闇
に包まれているンだ! 保険はいくらあっても足りネーよ!」
青年は、その言葉を聞いて、眉をしかめることしか出来なかった。
がたり、と音を立ててリザが席を立つ。表情は、相変わらずの鉄面皮。仕草も挙措も何ら変わりない。いつの間
にやら、あのワニのぬいぐるみ、フェルナンデスはふところにしまわれている。
「ちょっと、夜の散歩に行ってきます」
「大丈夫か……、という言葉はいらないよな、お前さんには」
砕けた調子でアストが言うが、その言葉はいつもよりよどみがかかっている。それも仕方のない話なのかもしれ
ない。先の発言は、リザの殺し方を説いたも同然の流れであり、彼女の抱えている不安をあらわにするような内容
でもあったからである。
だから、リザはあまり多くを語らず、アストの家から出ていく。空気を悪くしたのは自分だから自分が悪い、と
いう思いを抱えながら。
「ふぅ」
背後で扉の閉まる音を聞きながら、白銀の髪を揺らし、エプロンドレスを揺らし、悪魔はひとりで溜息ひとつ。
空を見上げる。小さなきらめきがひとつ、ふたつ、みっつ、たくさん。技術が発達し、家屋には灯火の数が増え、
闇夜の色は薄くなりつつあるこの時代でも、星のきらめきは残っている。光量はいくばくか弱々しくなったものの、
黒のなかに見えるきらめきの美しさは、心に何かを介入させる。
それがどういった気持ちなのかは分からない。ただ、リザは、こういう風に夜空を見上げられる時が、ずっと続
けばいいな、などと考えてしまう。稚拙で、つまらない、あまりにメルヘンチックなそれ。だが、幼稚な意見だか
らこそ、リザはそういう類の思いは嫌いではなかった。
静かに町の中を歩く。レンガ造りとはいえども、多少の声は外に出る。家族たちの奏でる談笑の音色は、夜闇に
流れる鳥の声と混じり、奇妙な二重奏を演出する。
ブーツと石畳がぶつかり、硬質な音が鳴る。かつかつ、と夜空に吸われて消えていく。足は自然と、噴水広場へ
と向いていた。
薄茶色とクリーム色のオブジェが、ひっきりなしに水を排出し、くみ上げている。そこから放射状に伸びるよう
にして、石の床とベンチの数々。昼間のにぎわいはそこになく、今はただ、むなしく水の音が風の流れに混じり、
乗って、消えていくだけだ。
遠くに薄ぼんやりと見える上弦の月は、不恰好ながらも珍奇な妖しさを演出している。淡い輝きが、住居から伸
びる小さな輝きと合わさり、弱々しい光を噴水広場にもたらす。はかなげな、その微光は、水のきらめきを反射し
て、妖艶ですらあった。
広場に設置されているベンチのひとつに腰かける。そのまま、空を見やる。黒い空は、遠い場所にあるが、何故
だろう、さびしげに見えた。それはずっとひとりだからだろうか。誰かと一緒になることが出来ないからだろうか。
自分と、同じ性質の者と、手を繋ぐことが出来ないからだろうか。
リザにそこの辺りはよく分からない。ただ、空を見て、寂しげだな、という所感をなんとなく抱く。ただそれだ
けの話。
「お姉ちゃん?」
やにわに背後から声をかけられて、リザは首を戻しつつ、振り向いた。赤茶けた髪を流し、白いワンピース姿で、
どこかいたずらめいた笑みを浮かべたままにたたずむ子供がそこにいた。
「イリス?」
「お姉ちゃんも、夜の散歩でしょ?」
訝り、小首をかしげるリザ。そんな彼女を一瞥し、イリスはぽすん、とリザのとなりへと座る。
「危ないですよ。夜は危険が一杯です。怖い悪魔が食べちゃうぞ、です」
「悪魔って……、狼とか言った方が、まだ信憑性があるよ」
「そりゃそうですね。それより、親御さんが心配しますよ。早く帰らないと」
「やぁだ。私、夜の景色、好きなんだもの」
いやいや、と首を横に振るイリスの姿を見、リザは溜息をつく。この、おしゃまな友人が頑固なのは、リザが昔
から分かっていたことだ。大方、親の目を盗んで出てきたのだろう。彼女は放浪癖、というよりかは、脱走癖があ
るのだから。
季節的に、夜はまだ寒い。やや薄手のワンピース姿は、脂肪分の少ない体の彼女には寒かろう。現に、イリスの
指先は白くなり、微妙に震えている。
仕方ない、とばかりにふところをまさぐり、何故かあったマフラーを取り出す。恐らく、リザが暇な時に寝ぼけ
眼で突っ込んだものだろう。寒い、用意しよう、眠いからそのままでいいや、といった具合に。なんとも不精な女
であった。
とはいえ、こういった局面では頼りになる。深紅の色をしたマフラーを、ふわりとイリスの首にかけるリザ。
「……あ」
「べ、べつにあなたのためじゃないんだからねっ」
超、という言葉が付くほどに棒読みで言ってみれば、一拍遅れて、イリスはげらげらと笑い出す。
「あはは! なにそれ、なぁにそれ! 全然似合わないよ、お姉ちゃん!」
「おかしいですね。世間では、こういう『素直じゃないあの子がいいのよ』みたいな人が好かれると」
「それ、男の子と女の子の間での話だって!」
「あ、そういやそうですね。おお、失敗失敗」
イリスに頭をべしべしと叩かれながら、リザは無表情のままに己の失態を確認する。とはいえども、これも所詮、
じゃれ合いの範疇のようなものだ。
ひとしきりイリスが笑い終えたのちに、沈黙が戻る。夜の静けさが、またやってくる。
「……お姉ちゃんは、笑えないの?」
そこで、唐突に放たれる一言。
「どういうことですか?」
小首をかしげるリザ。確かに自分は鉄面皮だろう。だが、表情を変えずに、ゲタゲタと笑うことは何度もあった
はずである。やはり、イリスはそこの辺りの機敏が分からないのだろうか? そう考えた瞬間。
「なぁんか分からないんだけれど。大口あけて笑わないの、ちょっと、と思って」
「それは、表情的な意味で、ですか?」
「んー、よく分からない。でも、なんか無理しているような。いや、ごめんね、変なこと言って」
ぱたぱたと手を振り、イリスはごまかすように言う。だが、リザはごまかされはしなかった。イリスの指摘は、
ある意味で、正鵠を射ていたから。
所詮、悪魔である。リザは人間の真似事しか出来ない。悪魔は人間よりも力が強い。だからこそ、日常会話をし
ているだけでも、いわゆる『上から目線』が根付いてしまう。それを自重しよう、自重しよう、そう躍起になって、
気付けばリザは、表情が凍っていた。
肉体的なアドバンテージは、死生観の面においても影響される。ある程度のことならばどうにかなってしまうで
あろう、そういう楽観視は、別の面からとらえれば、軽侮のそれに近しいのかもしれない。嫌だ嫌だと思いつつも、
結局、一度根付いた優越感を完全に根絶せしめることはかなわない。
だからリザは自重する。いつか、人を、完全に見下してしまう時が来るのかもしれないから。今も見下している
のだろうが、これ以上自分が駄目駄目になるのは願い下げだった。これは、人のためではなく、自分自身が堕する
ことを屈辱と思う、矜持のせいである。
結局、リザは自分のためにしか動いていない。だからこそ、甘言を発することはない。
単に不器用なだけなのかもしれないが。
「……そうですね。無理はしています。ですが、まあ、なんといいますか」
「なに?」
戸惑い、つっかかりながら、空を見上げてリザは言う。
「無理することそのものが、生きることと言いますか。……うえ、格好つけてますね、私。気持ち悪っ」
空の色は黒い。星は明るい。それを確認して、リザは嘆息する。
ふと横を見てみれば、幾分か大人びた表情のイリスがいる。赤茶けた髪を揺らして、闇夜に躍らせるその姿は、
ひいき目に見なくとも美麗だと感じられる。
「なーんか、似合わないけれど、お姉ちゃんらしい気がする」
「おお、感謝感謝。まあ、私は基本的に裏方で雑用するのが好きなので。無理するのが基本でいいんですよ」
「あ、そういう考えはぜんぜん似合わない気がする」
「なにを言いますか、全く……っと、そろそろ帰らないと、本当に親御さんが心配しますよ?」
席を立ちながらリザが言えば、すぐに不満げな表情を見せるイリス。彼女が、一度決めればてこでも動かない性
格というのは知っているが、こういう局面においては存外に困る要素と成り果てる。
さてどうしたものか、とリザが首をひねり、むりやり引きずってやろうかと考えた瞬間、イリスが動く。
「腹話術、して。見たら帰るから」
その言葉に、リザは反射的にうなずいてみせた。本当ならば、商売関係うんぬん、という理由であまり人には見
せたくないものだが。こういう、ちょっと寂しい月夜の晩に、友人とふたりでの空気の中ならば、それも許される
のではないかと。何故か、強くそう思った。
だから、リザはふところからぬいぐるみを出す。
「……ただの漫才、は聞き飽きましたでしょうから」
「から?」
「ちょっとした、おとぎばなしをします。私が語り部、フェルナンデスは相方で。語調も変えてみます」
「ぱちぱちぱち」
拍手をするイリス。
歳相応の姿を見せる彼女を前に、唇がゆるみそうになる暇もあらばこそ。
イリスは、不細工なワニと対話するようにして、語る。
『昔々、あるところに、とっても強い勇者様がいました』
『で? 勇者様がいるということは?』
『無論、魔王もいました。魔王はとてもとても悪い奴で、みんなを困らせていました』
『ふんふん』
それは、どこにでもあるような話だった。
勇者がいて、魔王がいて、お姫様がいる。
勇者がお姫様に恋をする。お姫様は魔王にさらわれる。
だが、話の途中で、悪魔という存在が出る。
悪魔はとても醜い姿だが、優しい心をもっている。
最初こそ悪魔を嫌悪する勇者たちだったが、次第に悪魔と仲良くなり、うちとけていく。
『悪魔は、涙を流しました。自分を理解してくれる人がいたからです』
『やっぱり、友達がいるってのはいいもんだよな』
『悪魔は勇者と一緒に、お姫様を取り戻そうとしました。けれども』
『けれども?』
『実は、悪魔も、お姫様に恋をしていたのです』
『ほうほう!』
思いが交叉している。勇者は、それを偶然知ってしまう。
そして、勇者は悪魔にひどいことを言ってしまう。
お前のような醜い奴が、姫の心を射止められるものか! と。
悪魔は放心し、裏切りにも近しい言葉を受け、失意のままに、逃げるように去ってしまう。
孤独となった勇者は、後悔しながらも魔王の居城へと向かい、ついに魔王と対峙する。
しかし、魔王はとても強く、勇者でも敵いそうにない。
万事休すか、と思われたその時、悪魔が勇者の前に降り立ち、魔王討伐の手助けをしてくれる。
勇者は、自らの汚い心を恥じ、悪魔と一緒に戦い、魔王を倒した。
だが、悲劇はここからだった。
『やっぱり悪魔は、勇者様たちにとって悪いやつだったのです』
『どうしてだ? 友情が戻って、姫も助かって、幸せなんじゃないのか?』
『ふたりは、お姫様を救出できました。そして、勇者が言葉を紡ぎ出す前に言ったのです』
『愛の言葉を、か?』
悪魔は、言った。姫様、私はあなたのことを愛しております。
私はあなたとひとつになりたいほど、深く深く、あなたのことを愛しております、と。
『そうして……。悪魔は、お姫様の体を食べました』
『おいおい!』
『勇者にとってそれは、ひとごろし、でしたが……悪魔にとっては、愛の合体、だったんです』
『価値観の相違ってやつだな……』
そうして、悪魔は、お姫様の顔を得た。醜い体に、姫の顔。それはまさしく合体だった。
しかし勇者はそうもいかない。怒りで、我を忘れて、背後から悪魔の体を剣で貫いた。
悪魔は最後に、どうしてですか、とお姫様の声で言い、事切れる。
その言葉が、勇者から正気を失わせた。
『結局、悪魔ががっついて姫様に告白するのを後回しにすればよかったのか』
『冒険ばかりに着目していた勇者が、価値観の違いを認識すればそれで済んだのか』
『今となっては分かりません。ですが、勇者の心ない一言が、悪魔の心から余裕を奪っていったとも』
『きっかけは魔王かもしれない、だが、魔王が全て悪いわけでもない』
『責任の行方は、どこにあるのか分からずじまい』
そして、あとに残るは、戦いの傷跡である、荒廃した大地だけだった。
話を終えて、リザはぬいぐるみをふところにしまった。同時、小さな拍手を耳に入れる。
「結構楽しかったよ、ありがとう」
「んー……、物語としては、五流なんですがね。オチが弱いうえ、つっこみどころありありですし」
頭をひねりながら言うリザに対し、イリスは満面の笑顔で首をゆるゆると横に振る。同時に、彼女の髪と、赤い
マフラーの切れ端が揺れた。
「さ、帰りましょう。おくって行きますから」
「ありがと、お姉ちゃん。紳士だね」
「淑女ですよ、私は」
「知ってる」
ふたりは顔を見合わせて、笑い合った。とは言っても、リザは唇の端を曲げるだけだが。それでも、ふたりの間
に流れる空気は、あたたかで、ゆるやかなものだった。
夜の風は冷たく、身は切られるように寒いけれども。何故か、変に心は温かい。救いようのない物語を聞いても
そんな気分になれるのは、月明かりの中で、ふたりだけの講演会を開いたがゆえか。奇妙な連帯感じみたその感情
は、昂揚感すらもたらした。
ふたりして、歩を進める。
そこで唐突に、イリスがリザに問いかけた。
「お姉ちゃんはさ」
「はい」
「勇者の立場だったら、悪魔を許せる?」
「無理でしょうね」
立ち止まるイリス。
そんな彼女の前方を歩くかたちとなったリザは、振り返って言う。
「私だって、多分、大切な人を蹂躙されたら、怒りに身を支配されるでしょうから」
投下終了。
次回はエロありますので、ありますので……なにとぞご勘弁を……。
どんだけ筆が早いんだぜ
GJ
>>109 お話は最後まで出来ています。ちまちま落としているだけっす…。
しかし、他に人いるのかなあ……。微妙に心配。
投下します。
エロありです。強姦です。
穏やかな風が流れている。雲ひとつない晴天は、太陽の自己主張を引き立てる。乾いた空気のなか、ほこりの匂
いが混じる。
かような自然の息吹を感じながら、白銀の髪を流しつつ、リザはサーリアの町の中を闊歩していた。今日も今日
とて、薬屋に以来はなく、家計は火の車である。真夜中の散歩で、イリスに話を聞かせてから二日後、何故か未だ
に眠気が残っているような気がして、慣れない。
あくびを噛み殺しつつ、町内を歩く。劇の依頼もなければ、金も何もない。必然、散歩をするという選択に限ら
れる結果となる。普通ならば必死こいて別の仕事を見つけるだろうが、どうにもこうにもそういう気が起きない。
「今日も平和ですね、やたらと」
陽光のまぶしさに目を細めながら、リザはそう思う。まとう衣服は、いつものエプロンドレス。さしてえげつな
い装飾があるでもなし、エプロンのすみにスープの染みがついていても、違和感のないいでたちだ。
何も考えずに足を動かしていれば、自然、噴水広場へたどり着く。子供たちの笑い声と、大人たちの談笑風景。
何のことはない、日常を彩るページのひとつ。
リザは、最近になってやっと、このだらだらとした日常に馴染みつつあった。
「リザ」
と、そこで横から声をかけられる。視線を移せば、そこには見知った顔。黒いシャツをまとった優男、アストが
そこにいた。
「珍しいですね。朝から私に声をかけるなんて」
「自分でもそう思う。それより、ほら」
リザが小首をかしげている隙をついて、いきなり手のひらの上に温かいものが乗せられる。見れば、それは紙に
包まれた焼き菓子だった。ほこほこと湯気を立て、甘い匂いを振りまくそれは、あたかも食ってみやがれと挑発し
ているかのよう。
リザは一瞬、反射的にかぶりつきそうになるも、どうにか自重。それを手渡しでくれた男の顔を見やる。
「これは?」
「パンケーキみたいなもんだな。おすそ分けしている最中だったんだ」
「ご近所の皆に配っているんですか?」
「いんや、適当に持って歩いていれば、子供たちがどうせ群がるだろう、と考えて」
つまり私はガキと同じ扱いか、などと考えつつも、しっかりと菓子をむさぼるリザ。この世は弱肉強食、早いも
の勝ちなのである。食べてしまえば取り返せまい。他者の吐瀉物をすする趣味がなければ。
などと幼稚なことを考えつつ、あっという間に食べ終えたリザは、けふ、と吐息ひとつ。
「ごちそうさまでした。……んー、なんか、またお菓子が欲しくなってきましたね」
「だったら、王都の方でも行けばどうだ? なんか今、小さな祭りがあるらしいし」
「行ってきます。砂糖と脂肪が私を呼んでいるのです」
言うや否や、リザはわき目もふらずに、町の外へと駆け出した。砂煙を上げそうな勢いで全力疾走。いつの時代
も、女子は甘いものに弱い。皆が皆、そうというわけではなかろうが。食に関しては変な執着のあるリザは、すぐ
さま己の欲望にしたがって、誰もいない場所へと駆けていった。
そんな彼女の後ろ姿を見て、アストは盛大な溜息をつく。
「あの馬鹿女……。また魔法で自分を吹き飛ばす気では……」
青年が自分自身に問うかのように放ったその言葉の返答は、空気を揺るがす重い音だった。
めごしゃっ、と鈍い音がこだまする。
鬱蒼と生い茂る森の中、折れた巨木を背後に、リザはその場に倒れ伏していた。毛細血管が切れ、その白磁の肌
の一部には裂傷も見受けられる。出血はほとんどしていないが、背骨と肩甲骨は粉々だ。
普通ならば、痛みのあまりに七転八倒するかもしれないが、あいにくと悪魔には痛覚を抑える技術がある。とは
言っても、単にアドレナリンを増やし、ちょっとした処理を全身にほどこす程度なのだが。
己の骨が再生するのを待つ間、倒れ伏した状態では、何もすることがなく。仕方ない、とばかりに視線をゆるゆ
ると持ち上げてみれば、木の根の近くに、赤い色をしたキノコが生えていることに気付く。
リザが目にしたのは、毒キノコだった。食べれば、発熱、嘔吐、下痢などの症状を引き起こす、典型的なもので
ある。つばとつぼがあるのが特徴であるそれは、死に至る類のものではないが、少々厄介なものでもある。
が、それを用いて、薬なども作ることが出来る。薬の知識があるリザにとっては、毒キノコさえ、調合用の材料
となる。
ゆっくりと手を伸ばして、キノコを千切る。幸い、袋はいつも服の内側に用意している。そこにキノコを入れた
瞬間、またも遠くに見える、何らかのキノコ。
傷が治ったことも忘れて、リザはキノコにばかり注目した。菓子のことなどは、もはや意識の埒外まで追いやら
れた。彼女の頭の中は、キノコ一色となった。
「これは……研究のしがいが……」
リザは立ち上がり、森の中を捜索する。そもそも、菓子を食べよう、などという思いつき自体、突発的なもので
ある。別種の突発的な発見で上塗りされるのは、仕方のない話と言えた。女子は甘味が好みだが、リザは研究材料
の方が興味をそそられる、ただそれだけの話だった。
王都からやや離れた場所にあるこの森は、たまにキノコがたくさん生えている。リザは、王都自体行くことが少
なかったので、キノコうんぬんの情報は知らなかった。が、知ってしまえばこの通り。初志を貫徹できずに、奇妙
な形状の菌類に翻弄されるという結果。
しばし、キノコを狩る。正体が分かりにくいものは放っておき、分かりやすいものだけを取る。結果、ほとんど
が毒キノコになったが、それはそれで仕方がない。誰にとがめられるでもない狩りの時間は、リザをして、時間を
忘れさせるほどの幸福であった。
キノコを千切る悪魔なんて、おとぎの世界にもないだろうに、などと考えつつ、リザは苦笑する。自分が悪魔と
いうことを忌まわしく思っているかたわらで、自分が悪魔ということに関しての優越感をも抱いている。それは、
ただの思いあがりであろう。
自重自重、などと思いつつ、作業に集中する。
と、そこで、小さな違和感。
「……よどみ?」
森の中で見つけた、どこかちぐはぐな空気。悪魔特有の嗅覚が、それを嗅ぎつける。血のような、それでいて、
どこか甘美な。耳たぶをちりちりと焼くような、掻痒感にも似た違和のかたまりは、リザの心にひとつの危機感を
発現せしめる。
駆ける。違和感のもとへと行く。何か良くないことが起きそうな気がする。何かが始まるような気がしてしまう。
天秤の、受け皿の、その端に、指先ひとつかけているような気分。言葉にしきれぬ、強烈きわまりない掻痒感。そ
れはぞくぞくと、リザの背を、全身を、血潮を、這い回る。
ほどなくして、リザがたどり着いた場所は、ひとつのひらけた空間だった。いや、強制的に、ひらけた空間にさ
せられた場所、と言うべきだろうか。
大地に小さなクレーターじみた穴が空き、そこを中心として焼けただれたような跡が広がっている。茂みは荒く
刈り取られ、そのそばにある木々は焼け焦げたあとがいくつも。明らかに、誰かの手によって出来た、生々しい傷
跡であった。
「ぅあ……」
リザは、震えた。それは恐怖か、はたまた歓喜か、果ては別の何かか。その焼け跡の正体が分かってしまったが
ゆえ、彼女は身を震わせた。ぶるぶると、まるで寒空の下に全裸で放り出されたかのように。歯をかちかちと鳴ら
し、己の身を抱きすくめて、へたり込む。
リザは、分かった。分かってしまった。
――『同族』の感覚である。
普通の悪魔ならば、恐らく、気付けないであろうが。人間社会に紛れて、人間らしくしようと日々奮闘している
リザは、そのよどんだ空気の流れを感じ取ってしまった。有害物質を焼却したかのような、とてもとても臭い、そ
んな悪魔のにおいを感じ取ってしまった。
焼け跡の中心部から感じられるのはわずかだ。気配察知、などという高尚なものではなく、感覚的に分かる、う
ずきとよどみ。よもや自分が、このような能力を得られたとは、などと驚愕する暇もあらばこそ、さらなる情報を
取り入れたリザは、無表情のままに顔を青ざめさせる。
気配が、伸びている。王都から離れた森の中を開始地点として、ゆっくりと伸びる、リザの感覚のみで分かる、
ひとすじの道。それが向かうは、サーリアの町方面。
「もしかして、もしかして……!?」
杞憂であってくれ、と願いながら、リザはキノコを放り捨て、気配をたどる。伸びる伸びる、不可視の道。細い
糸のようなそれは、寸分たがわず、サーリアの町方面へと伸びていく。それを追って走れば、いつの間にやら森は
遠くの背後に。
杞憂であればいい。余計な心配であればいい。だが、念をおしておかなければ、もしかして、もしかして。そう
考えたリザは、ゆっくりと言葉を紡ぎ出す。
強力な魔法を使うためには、色々と手続きが必要だ。そのひとつとして、呪文、というものがある。言うなれば、
力を溜め込む行為だ。それを一気に爆発させるのである。
もしも同族が、町にいるのならば、余力を残さねばなるまい。そう考えつつ、リザは言葉を紡いで。
自分の体を、吹き飛ばした。
町の近くにある森の中に、イリスはいた。赤茶けた髪を後ろでひとつにしばり、厚手のズボンとシャツ、という
いでたちで、木々の間を歩み行く。虫の声と鳥の声が聞こえるそこは、青い匂いに満ち満ちており、歩くだけでも
草木がそばにあるような感覚すら抱く。
背に負う、不恰好なザックの感触が今は心地良い。それは軽度の疲労のため、というのもあったが、あの無表情
な人形じみた女性からもらった、という点が大きいだろう。
イリスには、家出癖がある。とはいっても、親子の仲違いから、という深刻な状況のそれではなく、好奇心に任
せて色々な場所へ、親の制止も振り切って行く癖があるということだ。深夜にリザと邂逅した時のように。どの家
の親であれ、夜中に幼子を町中にひとりで出すことを好しとはしないであろう。
「うーん」
あんまり親を心配させちゃいけませんよ、というリザの言葉を思い返し、イリスは胸に軽い痛みを覚える。そう
いえば、彼女は26だったか、もう結婚して子を作ってもおかしくはない年齢だ。本人は結婚するような意思はない
と言っていたが、案外、母性が強いのかもしれない。
数年前、ひょっこりと町に来たリザのことを、イリスは思い出す。
最初に出会った時は、人形のような水晶のような少女だ、と感じた。冷たい相貌に、翡翠の瞳を持つ少女。だが、
その姿とは裏腹に、年齢は既に成人を過ぎていた。意外に冗談も通用するし、何より、行動や仕草や言動が、基本
的に泥臭い。見かけだけならば、どこぞの姫のようなのにもかかわらず、所作は庶民そのものといえる。
そのような、見かけと中身の差に興味をもってしまったのか、気付けば、イリスはリザと友人になっていた。年
齢こそ離れていたものの、つきあいそのものは対等であった気がする。時には、イリスが口でリザをあしらってし
まうほど。
子供みたいなところばかり目立つリザだが、正直、イリスは彼女のことを慕っている。一年ほど前であったろう
か、両親と共に、少し遠くの町までおもむいた際、平原に凶暴な獣が現れた。後で知ったことだが、その獣は密猟
者に、子供を盗まれ、怒り心頭で森から出てきたらしい。
とはいえども、関係のない人間にとって、向こうの事情は知ったことではなかろう。同時に、獣にとっても、人
間の事情は知ったことではなかった。平原を歩いていた旅人らしき男が、目を白黒させている間、獣はすぐに距離
をつめていた。
殺される! と遠くで見ていたイリスが目をつぶろうとした瞬間、そこに見えたのは、地面を盛大に転がり、悲
鳴を漏らす獣の姿と、五体満足な旅人の姿。そこで状況を理解し、周囲を確認し、イリスは驚愕した。
リザが、獣の頭部を蹴り飛ばしていたのである。あの、小柄な、子供のような容姿の彼女が、地を蹴り体をひね
り、浴びせるようにして獣の頭部を蹴り飛ばした。危なげなく地面に着地し、相変わらず鉄面皮のままに獣をねめ
つける彼女の姿は、イリスの目には絵本の中にいる騎士のように見えた。
獣はその一撃を受けてなお、殺意を消さず、今度はリザと対峙した。だが、はたから見ても、獣は怯えの色に瞳
を染めていた。しかしリザは追撃するようなまねはせず、ただゆっくりと。
「子供を盗んだ人間は、つかまりました。今、騎士たちが、あなたの子供を輸送している最中ですので、もう少し
だけ待ってください。……暴力を振るった私が言えた義理ではありませんけど。お願いします」
どこか疲れを含ませた声で、そう言った。その言葉が獣に届いたのかどうかは知らないが、獣は、リザを襲うよ
うなまねはせず、ただ平原に立っていた。しかし、警戒の色は消していない。対するリザも、警戒したまま。
息の詰まるようなにらみ合いが終わったのは、獣の子供が戻ってからだった。
そんな事件があってから、イリスは、リザに羨望の視線をよこした。それは、絵本の勇者に憧れる、子供特有の
感情に近しいものだ。およそ綺麗とは言いがたい尊敬の念である。
事件の後、どうしてあのような場所にいたかリザに問えば「仕事最中に、子供盗難とかうるさくて。人づてに聞
いて、なんとか出来るかもしれない、と考えまして」などと、こともなげに言い切った。だが、言葉の端には、ど
こか羞恥の色が見え隠れしていた。
何故、羞恥の色なのか、イリスには分からなかったけれども。友人の意外な姿を見ることが出来たのは、収穫で
あったから、すぐ忘れてしまっていた。
「……変なところで、微妙に格好良いんだよね」
回想から現実に意識を戻しつつ、イリスはあきれ混じりの吐息と同時に、ひとりごと。家出最中だからだろうか、
ひとりでいることの寂しさを紛らわしたかったのかもしれない。
イリスは、森の中を歩く。時折、使えそうな野草があれば、それをひょいひょいと失敬してザックの中に入れて
いく。この家出は、散歩も兼ねていたし、野草採取も兼ねていた。サーリアの町の近くにある森だからか、所有権
だの何だのは、もうないも同然である。
あと少し、薬草かそこらを失敬して帰ろうか、とイリスがそう思った瞬間。
「ふふ、お嬢ちゃん、おひとりかしら?」
ざわり、と。
声が聞こえた方向、すなわち背後を振り返ってみれば、イリスの眼前にはひとりの女性がいた。
歳は、成人寸前、といったところであろうか。淑女めいた姿の中に、どこか青さを感じさせる。成人男性よりや
や低めの背は、どちらかといえば長身の部類に属するだろう。髪の色は金、肌は雪のごときそれ。顔立ちは整いに
整い、どこか人形めいている。
ふわり、とその場にたたずむ所作は、貴族だと称しても疑われぬであろう。ひとつの挙措がとかく優雅で、落ち
着いている。この、虫と鳥の声が聞こえる森のなかにおいては、似つかわしくないほどに。
女性のまとう衣服は、ドレスめいた黒い布である。引き締まった腰と、豊かな乳房は、子供であるイリスの目を
してさえ、美しく、それでいて妖艶だと感じられた。
「あなた、は?」
イリスの声は、凍っていた。
緊張と恐怖のために、固まっていた。
その人形めいた美貌を見、どこかリザに似ているかもしれない、とイリスは思えたが、即座にその思いを否定す
る。リザは、違う。いつも間抜けで、いつも何かドジを踏んでいて、こんな淑女そのものといった美は決してあら
わにすることは出来ないだろう。
こんな、『作りものめいた美しさ』は、リザとは違う。イリスはそう思い、左の肩を右手でひっつかみ、深呼吸
をくり返す。
あからさまに挙動不審といった姿を見ても、女性は動じない。あくまで、優しい優しい、美しい笑みでイリスの
顔を見たまま、行動によどみすらもたらさない。
「私は……、そうね、フィロ、とでも呼んで頂戴」
「それで、その、フィロ……さんが何の用で」
何故だろう、自分が遠い、とイリスは感じる。背が寒い、足はがくがくと震える、唇は氷のようで、歯は先程か
らがちがちと大合唱を続けている。
恐怖、だろう。これは間違いなく恐怖である。だが、イリスはその感情の正体を知ることが出来ない。怖い思い
をしたことぐらいは何度もある彼女だったが、今回ばかりは、その感情の波が大きすぎて知覚すら出来ない。だか
ら、どうして良いか分からない。寒気に全身を支配され、ただ震えることしか出来ない。
そんなイリスの姿を見、金色のロングヘアーを流しつつ、女性はいたずらめいた微笑を浮かべる。それは、恐ろ
しいほどに綺麗なかんばせであったが、同時に、どこか人形めいてもいた。
「んー? 少し、滑稽よねえ……と思って」
「何が、ですか?」
震えるイリスの声を聞いた瞬間、フィロは、今までの淑女ぶりをかなぐり捨てて、げらげらと笑う。顔を天へ向
け、腹を抱えて。
「今から食べちゃう子に、自己紹介なんて、ねえ?」
言葉を聞く、理解する、きびすを返す、走り去る。
イリスは、相手から言葉をぶつけられると同時、弾かれたように逃げ出していた。彼女の精神は、もうまともな
言葉を発することはない。ただ、肉体が、四肢が、骨髄でさえも、殺される、という思いに従って動いているだけ
である。
殺される。このまま立っていると、自分はあの金髪の美女に殺される。そう現状把握できたのは、しばらく走っ
てからだった。誰か助けて、と声を出そうにも、のどと舌は凍りついたかのように動かない。恐怖という縛りが、
イリスから逃走以外の選択肢をなくしている。
「粗相は罪よ、お嬢ちゃん」
瞬間、イリスは転んだ。何のことはない、ただ彼女は、いつの間にか横から飛び出てきた足払いの一撃を受けて、
無様に体勢を崩してすっこけただけのこと。
だが、その事実が、イリスの心の中にある恐怖の感情を増幅させたことは言うまでもなく。
気付けば、イリスは首をひっつかまれ、木に背を叩きつけられていた。
「ぁぐぅっ……!?」
「あら、豚みたいな声を上げると思ったのに、なかなか根性あるじゃないの?」
ぎりぎりと首を絞められながら、違う違う、と言わんばかりにイリスは首を横に振る。声を上げないのではなく、
上げられないのだ。恐怖と、首の圧迫感のために。
「でも、そういうおしゃまなところ、だぁいきらぁい」
ぶんと、フィロが腕を振るう。それだけでイリスの体はゴミのように吹き飛び、地面に叩きつけられ、二転三転。
バウンドし、転がり、木の根にあばらを打ちつけ、悶絶する。
口からよだれが流れそうになるも、イリスはどうにか飲み込む。逃げなきゃ、逃げなきゃ、という思いだけが空
回りし、全く四肢は動かない。いきなり現れた女性、いきなり振るわれる理不尽な暴力。頭がどうにかなりそうで、
イリスは唇を噛みしめる。
「……ぅ。どう、して?」
地面に倒れ伏したままにイリスが問えば、フィロは金髪を揺らしながらゲタゲタと笑う。
「弱い子が嫌いなのよ。あなたみたいな脆弱なの、楽しそうに生きているだけで、吐き気がするの」
「……ぅう」
泣いては駄目だ、そう考えるも、イリスの眼球の堤防は決壊寸前だった。それを必死に抑える、抑える。そうし
ないと、駄目な気がしたからだ。
そんな彼女の殊勝とさえ言える努力すら、金髪の女性は興味がないとばかりに嘲笑で切り捨てる。
「揃いも揃って、人間、人間……。ひとりじゃ悪魔に勝てないくせに、ひとりだとなぁんにも出来ないくせに。そ
うやって徒党を組んで、馴れ合いっこしているのが癪に障るのよ。特にあなたみたいな、おしゃまなクソガキは」
「あく、ま……?」
「ええそうよ。私は悪魔よ。過去に人間たちを蹂躙した、悪魔よ?」
嘘を言うな、などと現実逃避できるほどのすべを、イリスは持っていなかった。むしろ、彼女は、与太話にも興
味を示す体質であり、このように自己宣言されて否定する気はさらさら起きなかった。
そこでようやく得心が行き、イリスはまたも背を震わせる。ああそうか、私は悪魔に襲撃されたんだ、と。その
冷たい事実が、彼女の体から熱と正気をどんどんと奪う。
イリスがここで発狂しなかったのは、咄嗟にリザのことを考えたからだろう。いくら彼女でも、悪魔の前では、
すぐになぶり殺しにされるのが関の山だ。そう考えたイリスは、人を心配するという行為によって、正気を手放す
ことを破棄した。
思いの力、などという高尚なものではない。現実逃避を一時的に先延ばしにしただけの話だ。海の上で漂流した
際、わらを引っつかむようなものである。
金の髪を流す悪魔を見ながら、イリスは内心で唾棄する。この女、外見こそ美しいが、実際は悪魔であるという
高台に乗り、人間を見下しているだけだ。そう評価したイリスは、この悪魔とあの友人は似ているのではないか、
などという思いを一瞬でも抱えたことを恥じた。
金色の悪魔は、右手の人さし指と親指で、つい、とイリスのあごを持ち上げる。姿だけ見れば、接吻をかます寸
前のそれに見えたろうが、イリスにとっては吐き気をもよおしそうな体勢であった。
「反抗的な目ね。……弱い癖に、本当、無様。いいわ、ちょっと遊んであげる」
悪魔はイリスから離れ、何かぶつぶつと呪文を紡ぐ。一言ごとに、悪魔の周囲から漏れ出る空気は重さを増し、
物理的な圧力にすらなって、イリスの背筋を震わせる。
やがて、悪魔が言葉を紡ぎ終えれば、イリスの体の下からどどめ色の瘴気が湧いて出てきた。それはまさしく、
毒霧のよう。まがまがしさに満ち満ちた霧は、イリスの小さな体の下で、ぐずぐずとうごめき、大地を鳴かせる。
何かまずいことが起きる、とイリスは身をよじろうとするが、それは出来なかった。いつの間にやら、彼女の右
手と左手は、タコのような触手で拘束されていたのである。もしかして、とイリスが地面に視線を向けるも、時は
すでにおそかった。
どどめ色の触手、四つ。それは寸分違わずイリスの四肢へと巻きつき、絶妙な具合でしめつける。ぬるりとした
感触は、触手の吸盤の中心部にある穴から、とめどなく流れる透明な粘液のせいか。
生理的な嫌悪感にイリスが眉をしかめるが、悪魔はそんな彼女の姿を見て、笑っている。
「冥界生物召喚術。これ、悪魔にしか出来ないのよ? 光栄に思いなさい」
そう語る金髪の悪魔のそばには、全身を黒い筋肉で覆った、成人男性ほどの背丈を持つ人間がふたり。髪はなく、
瞳の色もどこか虚ろで、衣服もまとっていない。その股間にあるのは、怒張した生殖器。
ようやくここに至り、イリスは自分が何をされるのか知る。
「い……や……」
「あら、私が何をしようとするのか、分かるの? おませねえ、あなた」
きゃらきゃらと、童女のような笑みを浮かべた悪魔は、絶望に身をよじるイリスの姿を見て、瞳の色を愉悦のそ
れに染め上げる。次いで、隣町に買い物に行くかのように、何気ない口調で、
「犯しなさい」
処刑宣言をした。
その光景を、人が見たらどう思うのだろうか。
静かな森の奥深く、金髪の美女が手頃な大きさの岩に腰かけ、愉悦の表情で体を揺らす。その美女の視線の先に
あるのは、見るもおぞましい光景。地面から湧くようにして発生しているどどめ色の霧、そこから伸びる巨大な触
手が、幼い少女の四肢を拘束している。
少女は粘液と脂汗でその身を濡らし、歯を食いしばりながら、四肢をばたつかせてもがく、もがく。だが拘束は
外れることがない。そんな無力な少女を嘲弄するように、全裸の男が二体、ゆっくりと少女に足を進めていく。
さながらそれは、悪魔の宴といったところか。実際、金の髪を流すその悪魔にとっては、宴以外の何物でもない。
少女がもがくたび、涙を流すたび、口から小さな悲鳴を出すたび、くすくすと笑い、のどを鳴らす。
「……っく、あははっ! 大体、ほどかれること前提で拘束なんてするわけがないのに! そんなに暴れちゃって!
これだから脆弱な人間は困るのよ」
とうとう悪魔は腹を抱えて笑い出す。少女は、体中を粘液まみれにされながらも、もがき続ける。
「このっ……くっ……!」
「あら、あらあら、頑張りますわねぇ。そぉんなにもがいている暇、あるのかしら?」
「何を……ひっ!?」
もがき続けた少女につきつけられたのは、無慈悲な現実。黒の体躯を持つ男ふたりが、少女の体をがっしとつか
む。思いがけぬほどの握力と、思いもつかぬ威圧感に、とうとう少女の、イリスの心が悲鳴を上げた。
男の裸体は、黒光りしていた。それだけでイリスは、吐き気を覚えた。今から、自分は、身も知らぬ相手に犯さ
れるのだと。冷静な思考の一方で、誰か助けてくれることを懇願していた。だが、この朝時、森の奥深くに入るよ
うな酔狂な人間など、イリスはリザ以外に知らない。
リザ。その単語を頭の中で思い浮かべ、心を屈さぬように決意した少女が顔を上げる。だが。
「イラマチオをしなさい」
悪魔の命令は、幼子の意思をも蹂躙せしめる。
少女の口に、男根がぶち込まれる。小さな体躯が、びくんびくんと震え出す。剛直と称しても良いほどに太いピ
ナスは、容赦なく少女の可憐な口を蹂躙する。前戯も何もあったものではなく、ただ入れる場所があるから入れた、
とでも言いたげな、無機質で、無造作で、無粋で、暴力的な口腔挿入。
それは少女の喉を直撃し、一瞬だけ、少女の時間を止める。
「ん゛むぅっ!?」
少女は目を見開く。次いで、強烈な嫌悪の色をそのかんばせに浮かばせる。だが、それは前後する性器の前に、
無駄な抵抗と化した。
赤茶けた髪がゆらゆらと揺れ、吐瀉物でも垂れ流すかのようなあえぎ声が、木々の隙間を抜けていく。無表情の
ままにピナスを少女の口につきたてた男は、何もしゃべらず、何も感情の色を見せず。ただ、唾液と胃液と粘液が、
ぬちゃぬちゃとこだまする音ばかり。
「ぐむぅぅぅっ!? ん、ん、ん゛んんんんんっ!?」
「あっはは! カエルみたい! かわいい顔がだぁいなし! どう? どう? 臭い? 冥界の住人様のピナスは、
さぞかし美味でしょう? カエルさん、どんな気持ち? 今どんな気持ちぃ?」
楽しそうに、心底楽しそうに手を叩き、悪魔はゲタゲタと笑い続ける。同時、少女にとっては地獄のイラマチオ
が終わりを告げる。どくり、と男の精が、少女の喉に向かって吐き出されたためだ。
「ん、うぐぇぇぇぇっ!? ……ぅぶ、ぅあ、ぁぁ……」
「あら、早漏だったのね、あの男。……それとも、あなたの口が良かったから、なのかしら?」
「げほっ! かはぁぁっ……! や、めてぇ……」
イリスの心はへし折れる寸前だった。無理もなかろう。大人の男性に迫られるだけでも恐ろしいのに、あろうこ
とか、その性器を口腔にぶち込まれ、おまけに精液を喉に流されたのである。信じられないほどに生臭いそれは、
少女の意識と喉を同時に焼いていた。
わずかな吐瀉物と精液の混じったものを、少女は吐く。げぼり、と漏れ出る薄茶色の液体は、血液すら混じって、
少女の衣服を汚していく。触手から精製される粘液の上に、少女自身の体液が流れていく。
「え? もう駄目なの? つまらないわねぇ、あなた……。いいわ、さっさとやってしまいなさい」
「え? ……ぅぁぁっ!?」
ぬべり、と生理的嫌悪感をもよおすような音を出し、触手がもう一本生える。それは少女の股の付近。
それに追随するかのように、男ふたりは少女の衣服を力任せに引き破る。一瞬だけ抵抗があったものの、すぐさ
ま散りゆく、布の生地。宙を舞う断片が、はかなく散り、そこらの茂みに引っかかる。
触手が、動く。あらわとなった少女の股間の前で、上下運動をくり返す。その触手を性器と見立てるのならば、
素股に近しい。少女の両足は広げられているので厳密には違うだろうが、しかし、その触手の粘りが、ぴちりと閉
じた少女の性器をなぶっていく。
桃色の内部すら見せない、筋そのものといった様相の性器が、どんどんと透明な液に蹂躙される。
「ゃ、ゃああっ!? なにこれ、なにこれぇぇっ!?」
「さーっすが、淫欲の触手。名に恥じぬ仕事ね。一応、説明しておいてあげるけれど。そのねばねばした液体は、
媚薬の効果もあるわ。……って、聞こえてないわね」
「やだぁぁぁぁぁっ!? こんなの、こんなのぉぉ……!」
少女の頬は、どんどん、どんどんと赤らんでいく。未知の快楽は、少女の理性を一気に削り取る。性器から流れ
る快楽は、いかに我慢しようとも、冷徹にその役目をともなう。少女の理性が、溶けていく。
触手からにじみ出る粘液は、少女の肌を通り越し、とうとう血液に乗って流れ始める。性器をうずかせ、欲情さ
せるその効果が、少女の身を内側から焦がす。
「ふぁっ!? ゃあっ……!? ん、ぁぁっ、だめ、こんなのやぁぁっ!」
「いやらしいわねぇ、はしたないわねぇ……。カエルの癖に、一丁前に欲情しちゃって」
悪魔は立ち上がり、つかつかと少女のもとまで歩いていく。
「ほぅら、ほら」
「やめてぇぇぇぇっ! こんなの、んぁぁぁぁぁっ!?」
金髪を揺らし、悪魔は少女の胸を踏む。しかし力加減は絶妙に、快楽が走る程度に抑えて。こりこり、と音がし
そうな具合にひねり、少女の身発達な乳房を攻める、攻め続ける。
荒い息。うるんだ頬。制止を呼びかける懇願の声。少女が見せた苦悶の表情は、悪魔の心に嗜虐の心をわき立た
せるには充分に過ぎた。
「踏まれて悦んでいるの? ガキのくせに、踏まれて気持ちよくなっちゃってるの?」
「だめぇぇぇぇぇっ!? ふまないで、ふまないれぇぇぇっ!!」
「呂律も回ってないじゃない。ほら、ほら、ほらほらぁ!」
「んああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? だめぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
薄桃色のニプルを、重点的に攻めるように悪魔が踏めば、少女はびくんびくんと反応する。陸に打ち上げられた
魚のように、跳ねる、跳ねる。口元からはしとどに流れる唾液、目は涙がにじみににじみ、頬は今や林檎のように
赤く。はたから見ても、少女は欲情し、快楽に身をもだえさせていた。
ねちゃり、ねちゃり、と淫猥きわまりない粘着質な音が、悪魔のはくブーツの裏側から響く。少女の小さな白い
肌は、無骨なブーツによってなぶられ、同時に粘液がぱちゃぱちゃと飛沫になって飛び散る。
やがて、悪魔の足は、少女の性器へと伸びていく。未発達な淫核へと。荒い息をついて肩を上下させる少女は、
金髪の悪魔の足の動きすら視認できず。そうして。
「イきなさい」
こり、と。悪魔の足が、性器で最も敏感な場所を刺激した。
「あぁっ!? やあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
少女は絶頂に身を震わせ、性器から透明な液体を大量に垂れ流す。痙攣、と称しても差し支えないほどに全身を
跳ねさせ、びくびくと快楽の海嘯に身をさらわれる。
少女は、生まれて初めてのオルガスムスに、理性をへし折られた。
脱力。少女は、もはや抵抗すら出来ず、ただその場所であおむけに倒れ伏すのみ。もれ出る荒い息の中に、屈辱
の色は残存していたが、先よりもそれは薄まってしまっていた。
何も考えられず、何も出来ず。少女は、自分が人形のようになってしまった錯覚さえ抱いた。見えるのは、空に
向かって伸びる木々の数々と、生い茂る緑のみ。どうしてこんなことになったのか、などと考えても、その思いは
すぐに、焚き火にくべられた雪のように消え去ってしまい。
「さて。ではそろそろ本番ね。ふたりとも、彼女の膣に、その棒を突き入れなさい」
またも絶望が、少女の心を支配した。
どこか冷たくなった心で、イリスは考える。
強烈な痛みは、一瞬だった。あとは断続的に、鋭い痛みが襲ってきた。いっそのこと殺せ、と思い、舌を噛み切
ろうとすれば、触手がそこに入れられた。あの、無造作に入れられたピナスと同じ味、同じ臭い。
下腹部を襲う痛みは、もう熱さを通りこして、苦痛そのものの一部になりつつある。男ふたりが、かわるがわる、
棒を性器に突き入れてくる。それに大して快楽を覚えている自分が、どうしようもなく、みじめで、無様で、汚く
て、悲しかった。
「あっははは! 血がどばどば出て、雨みたい! 失禁までしているわ! はしたない、はしたなぁぁいっ!」
どうしてこんなことになったのだろう、と虚ろな意識で物思う。家出癖があったからいけないのか、それとも、
今日に限って森に入り、奥まで進んだのが悪いのか。
だが、それは考えるだけ詮無いことだろう、とイリスは思う。ことが起こったあとで、原因となる行動を否定し
たとしても、どうにもならない。人間は後悔する生き物だが、いちいち、あの時にああすれば良かった、などと考
えては、未来も過去も否定することになってしまう。
自分は、そう、自分は襲われただけなのだ。だが、それが犬畜生の類ではなく、とてもとても凶悪な存在である
こと。これが最大の不幸であり、最大の致命傷であったのだろう。それだけの、話なのだろう。
「ん? 壊れちゃったのかしら? 二本挿しをしようと思ったんだけれどねえ……」
こんな凶悪な存在がいるなんて、イリスは今まで知らなかった。それと同時に、理解する。こんな時に勇者様が
助けに来てくれるなんて嘘っぱちだ、と。いまさらになって、あの白銀の髪を流す友人の感情を、それとなく理解
できるのもどうかと思うが。
そう思うかたわらで、心の中だけでイリスは苦笑する。どうしてこんなに危ない状況におちいっても、私は、人
のことを考えているのだろう、と。自分に問えば、何故かすぐに答えは帰ってくる。
そう、寂しいのだろう。人はひとりでは生きられないと言うが、産まれる時と死ぬ時は、必ずひとりだ。だから、
心の中だけでも、となりにいてくれる人を求めてしまう。ひとりは寂しい、ひとりは悲しい、ひとりは怖い。だか
らこそ、心の救済を求めてしまうのかもしれない。
こうして、突然の理由で、人はひとりになってしまうのだろう。そう考えると物悲しくもある。
「しょうがない。もっと遊びたかったんだけれど。ああ、あなたたちはもう還っていいわよ」
もう駄目だろうな、とイリスは思う。死ぬことは怖いが、両親や友人を泣かせてしまう悲しみの方が大きい。こ
んな状況にいたってもそう考えられる自分は、結構間抜けだと思う。
願わくは、もう一回でいいから、リザの腹話術を見て、一緒にお茶をして、おしゃべりをしたかった、ただそう
思う。どんな小さな場所でもいいから、どんな舞台でもいいから。リザと一緒に、くだらない話をして、笑い合う。
あの憎たらしいワニに触らせてもらうよう懇願するのもいいのかもしれない。
そう思い、リザは微笑を浮かべて。
「さよ、なら……。リザ、おねぇ、ちゃ……」
「死になさい、カエル。ゴミのようにね」
末期の言葉を、悪魔の宣告に重ねた。
急いでサーリアの町に戻ったリザは、町そのものを取り囲む雰囲気が暗いことに気付いた。
どうしたものか、と急いで噴水広場に行ってみれば、遠くに人の山が見える。
「みんな、どうして……」
それを確認すると同時、あの、悪魔特有のいけすかない感覚が、皆のいる方向へと伸びていることに気付いた。
リザは急いで人ごみの方へと駆け込み、半円を描くようにした人たちの群れに、身を入れる。
人と人との間をかきわけかきわけ、円の中心部へと急ぐ。小さな体躯を精一杯動かし、半円を突き抜けるように
して進む。
人のかたまりを、抜ける。
その先にあるものは。
「え?」
――腹に大穴が空いた、
「……あれ?」
――見知った顔の、
「う、そ」
――少女の、骸が。
イリスの亡骸が、担架の上で、静かに横たわっていた。
投下終了。
ぎゃああああああ誤字ったあああああ
>>122 最後あたりの一行、イリスがリザになってるうううう
脳内修正お願いします……。油断した、すみません。本当にすみません。
……自分にネーミングセンスがねぇのはわかってます。すまん。マジすまん。
イリスさんは本当にいい子だったんだけど、現実は非情です。
人間って、あっけないところであっけなく死ぬもんです。本当に。
>>124 エロエロでGJ!
でもここまでグロとはあああ
いや、グロ耐性ないのに無理して読んだ俺が悪かったです
それでも続きが気になってしまって…
最初にちゃんとグロ注意って書いてくれてたのに
いや、それでもおもしろかったんで仕方ないです
続きを投下します。
少女は、人の真似事を始めた。
全くゼロからのスタートは、想像以上に困難だった。無理もない話である。器自体が違うのだから、相手の気持
ちを分かることなど、未来永劫できるはずもない。古今東西の物語を読みふけり、物語の感想書をも読み、なるべ
く温厚そうな人間を見つけて話をする。
この一連の作業は、想像以上に大変だった。そもそも、空気を読むことが出来ない。話のなかで、相手を怒らせ
ることなどしょっちゅうだ。それでも、根気強く、どうしてか、何故か、理由を求めた。
返礼は、大抵が言葉だったが、たまに肉体言語の場合もあった。理由をしつこく聞けば殴られる、そんな体験を
したことも、一度や二度ではない。無論、責任は自分にあると少女は知っていた。だから謝る。謝ることしか出来
ない。それが、心からの謝罪かどうかは分からなかったが。
理不尽を知ったのもその辺りからである。ある時は、謝罪すれば性器をつきつけられ、奉仕を強要された。ある
時は、謝罪すれば逆に激昂され、ナイフで腹部を刺されかけた。ある時は、いわれのない罪をなすりつけられそう
になった。
正直、人間は、あまり褒められたものではなかった。自分と同じぐらいの駄目さ加減だ、と嘆息する暇もあらば
こそ、少女はとにかく人間と交流を続けた。結局、寂しかったのだろう。孤独を軽んじることなどないから、上辺
だけのくだらない関係であっても、それに埋没したいと願う。
少女は、弱虫だった。常に安全な場所がないと落ち着けない。争いごとを苦手とするのは、安全な場所がめちゃ
くちゃになることを恐れるゆえだ。
少女は、臆病で、弱虫で、怖がりで、どうしようもないほどに身勝手だった。
ある日、盗賊たちが幼子の集団をさらい、強姦しようとしていた。
少女は、特に何も考えず、盗賊たちの首をすべて、その両腕で引き千切り殺した。衝動的な善意だった。
返ってきたのは、幼子たちの石つぶてと罵声、盗賊たちの家族の怨恨、それと追撃だった。
ことここに至り、少女は得心する。結局、この世の中は、巨大な天秤で成り立っているのだ、と。誰かを殺せば
誰かを救えるが、誰かが救われるかたわらで、被害者の家族は、こちらを『悪役』として認識する。
よくよく考えてみれば、すぐに分かることだった。
百人中、十人だけ受かる試験がある。ひとつだけ願いをかなえてくれる神様のおかげで、その十人の中に入るこ
とが出来たのならば、受かった者にとって、その神様は救世主となり得るだろう。同時に、試験にぎりぎりであぶ
れた十一人目にとっては、かの救世主は悪鬼以外の何者でもなく。
個人的主観の問題である。ある意味では、戦争のようなものだ。どちらも正しいと信じている。客観的な視点で
見てみれば、結局は、同じ穴に落ちてぎゃあぎゃあ乱痴気騒ぎをしているだけ。
少女は学習した。自覚のない善意こそが本物の『悪魔』なのだと。
どんな理由があろうとも、自己を正当化してしまえる。自分は正しいことをしている、という逃げ道が出来てし
まう。人ひとりの行動は、必ず何かに影響を及ぼす。それにすら気付かない、気付けない。それは、とてもとても
恐ろしいことだ。狂信者となんら変わりはない。
同時に、少女は逃げ道をひとつ見つけた。
自己満足のために行動している、という、ありきたりな一文を。
――だが、月日が経った今でも、彼女はまだ、人間の考えが分からない。
悪魔は、放心する。
なんだこれは。一体何が起きている。私の意識を凍結させるようなことが起きている。これは何だ。これは何事
だ。これはどういうことだ。こんな事態は考えていない。予測はしていた。だから何だ。こんな。何故。どうして。
何のために。
ありとあらゆる言語と言語と言語が、頭の中でぐるぐると混ざり合い、しかしリザは一言も発することが出来な
い。何もかもが過ぎ去って、何もかもが意味を持たず、何もかもが意味を失う。
眼前には、ひとつの遺体が横たわっている。人の頭ほどもある大きさの穴を腹部に空けて、絶命しているイリス
の姿がある。赤茶けた髪と、おしゃまな雰囲気のある顔立ちと、白めの肌がそこにある。
腹の穴からは臓物がこぼれ落ちている。全身は生臭い、性のにおいがする。顔やわき腹には、打撲傷とすり傷が
ある。
「どういう、こと……」
背後から町人たちの視線を感じながら、リザは、がくりと大地に膝をつく。
「後ろの森で見つかった。つい、少し前にだ」
人ごみの中からアストが出てきて、リザのとなりまで駆け寄って、状況を説明する。彼の表情は硬い。雰囲気も、
いつもとは違って無機質だ。
「野草を取りに行った奴が第一発見者だ。遺体を発見した時、わずかに金色の髪が見えたらしい。性的暴行をされ
た跡もある。致命傷は腹の傷だ。……なんだってこんな子供を」
言葉が素通りする。リザは茫然自失、表情はいつもの鉄面皮だが、全身は悪寒に支配され、小さな動きすら抑制
されている状態。
後ろから、町人たちの声が聞こえてくる。イリスと仲が良かったからつらいだろう、やっぱり信じられないだろ
うな、なんであんな女の子をねえ、こんな殺し方をするなんて酷い奴ね、などなど。
うつむいたまま、リザは深呼吸する。とにかく、落ち着くべきだ、と。
目を少し上に向ければ、血と精液と何らかの粘液にまみれた友人の骸が見える。だが、それにかまけてばかりで
は、何も出来ない。落ち着くよう、落ち着くよう、呼吸して呼吸して。
「はなして!」
大声が聞こえる。それは、リザの背後にある人ごみの一角からだ。見れば、イリスの母親が半狂乱になって暴れ
出し、それを三人ほどの男が止めている光景だった。はがいじめにしても抜け出されそうなので、大の男三人がか
りでやっとどうにかなっている、という状況。
無理もなかろう、とリザは思う。友人である自分でさえ、この始末なのだ。人間をまねる悪魔でさえ、この始末。
人間同士、しかも肉親となれば、正気のひとつやふたつ失ってもおかしくはなかろう。
どこか居心地の悪さを覚えて、リザは立ち上がり、そばにたたずむアストに軽く会釈する。
「殺してよ! イリスを殺した奴を、殺してっ!!」
瞬間、リザは背を震わせた。
殺して、とイリスの母は言った。それは、怒りのためだろう。怒りのために、あのような、残酷なことが言える
のだろう。だが、イリスの母にとってその言葉、は残酷でも何でもなく、正義の鉄槌そのものだ。
そういった事情を踏まえて、リザは身を震わせる。自分も、あの言葉が、残酷とは思えなかったからだ。
同時、イリスは、あの錯乱した姿の女性を頭の中で描く。憎悪に身を焼かれたイリスの母は、普段の温厚ぶりな
ど、どこ吹く風といった姿だった。憎悪は人を変える、とは誰が言っただろうか。
人ごみは、時間が経過するにつれて、その密度をどんどんと薄くさせていく。ひとり離れて、ふたり離れて。遺
体は運ばれ、やがてそこには、先の喧騒など忘れたかのように、静寂を保ち続ける町の一角だけがあった。
リザは、ずっとそこにたたずんでいた。イリスの血が少量落ちていたその場所に、ずっと。皆が去って、被害者
の母親も強制的に連れ去られて。あとに残るは、放心状態のリザだけ。
人は死ぬ。あっけなく死ぬ。理不尽な理由で死ぬ。物語と絶対的に違う点はそこだ。いかなる伏線も、いかなる
論理も、いかなる道徳も意味を成さない。あっけなく、本当にあっけなく、死んでしまう。
イリスは、殺された。誰に殺されたのか、皆は検討がつかないだろう。
だが、残念なことに、リザは分かってしまう。あの森の中、唐突に目覚めた力。感覚で悪魔のにおいと残滓を追
うことが出来るリザには、犯人の目星がついてしまう。
イリスを殺した者は、自分と同じ、悪魔だと。
「……悪魔」
瞬間、リザの肌が粟立つ。内から漏れる、黒い海嘯。もてあまし、どうにもならず、爆発させたくてもさせられ
ない感情。言うまでもなく、それは憎悪だった。
リザの心は、今、憎悪に染められつつある。いや、もう染まりきっている。手は震え、歯はがちがちと鳴り、心
拍の数は平静時よりも多く。
リザは、そこらの壁やものを蹴り飛ばしたい衝動に駆られた。
「駄目。……駄目」
深呼吸をする。心を落ち着けようとする。だが、出来ない。肺臓を、黒い炎が焼いているような感覚。物理的な
痛みはないのに、胸の内側が痛くなる。疼痛ではなく、それは激痛だった。
イリスを殺した悪魔は、正直、憎い。だが、それでリザが私怨に狩られて復讐したとしてどうなるのだろうか。
あとには何も残らないし、自分の意思でひとりの存在を殺した瞬間、リザはその憎んだ相手と同列にまで堕すので
ある。
加えて、イリスを殺した悪魔に、もしも友人がいた場合、リザはその友人に怨まれることとなるだろう。憎悪は
憎悪の連鎖を呼ぶ。そんなことは、大昔から分かりきったことだ。
だが、それでもリザは。
「殺します。自分の意思で、復讐される覚悟を、返り討ちされる覚悟を、全ての覚悟を背負い、手を汚します。も
ともと汚れてはいましたが……、今回は、自分の意思で、全てを受け入れて、殺します」
誰もいない空間で、挑発するようにそうつぶやいた。それは、自分自身に言い聞かせる言葉である。殺す、と決
めた瞬間、殺害対象の知り合い全ての苛烈な怨恨を受ける覚悟をもたねばならない。しかし、それは罪の認識など
という高邁なものではなく、あくまで自己保身の心。
そもそも、ひとつの存在を殺すことに、善悪や罪過や正悪の概念など意味を成さない。良いこと、悪いこと、そ
ういう考えは、社会というルールの中においてのみ適用される。あらゆる道徳と倫理観は、暴力の前に意味を失う。
殺すことは、殺すこと。それだけが真実なのだから。
リザという悪魔は、この時、イリスを殺した悪魔を殺すことを、覚悟した。
リザは、自宅へと足を向ける。目的を完遂するに必要な道具を取らねばならないからだ。
だが、自宅の扉を見かけた際、その前にたたずむひとつの影を見つけた。茶色がかった黒い髪に、細い体躯の青
年。神妙な顔つきでリザの方を見やる、アストの姿を。
「……どうするんだ?」
自宅の前でたたずむ彼に近付けば、いきなり問われる。主語も何もない、簡潔な質問。普段ならばそれを指摘し
てからかうのだろうが、今のリザにそんな余裕はない。
平和な世界に耽溺し続けていたのである。日常は続くが、理不尽はどこかに降りかかる。それがたまたま、リザ
の友人だったのだ。だから荒れる。心が荒廃する。ささくれ立った心は、明確な色彩の焔となりて、リザの心に行
動原理を発現せしめる。
リザは、親指を立て、喉の前で横薙ぎにかき切る仕草を取る。
「犯人を殺します」
「分かるのか?」
「ええ。犯人は、私と同じ、悪魔です。……アストは、気付いていたのでしょう?」
「まぁな。あくまで予測、ではあったが」
リザが問えば、どこか恥ずかしそうに視線を逸らしながら、青年は言う。いつもと違ってぎこちないやりとり。
それがなんだか遠く、どこか薄ら寒いものに感じられて。リザはぶるりと身を震わせる。
「悪魔の位置は、私しか察知できません。単身、乗り込みます」
「義憤による復讐か?」
「いいえ、恣意的感情による『人殺し』です」
言外に、あらゆる言語は意味を成さない、と語るリザ。そんな彼女の目をしばし見つめて、観念したかのように、
青年は溜息をつく。
空気が、弛緩する。
「……お前さんってさ、本当に、本当に、本当に、馬鹿で不器用で駄目女だよなあ」
「否定はしません。ですが……今回ばかりは、もう止まりません」
「そうなのか? 表情が変わっていないから、分かりにくいが」
「私、今まで本気で怒ったことがないんです。嘘くさいですけど。でも……多分、今回は本気で怒っています」
感情に流される、ということがリザにはほとんどなかった。あっても、ただの気まぐれで済んでいたし、さして
重大な事件を起こすでもなかった。だが、今回ばかりは毛色が違う。
恐らく、犯人は、リザの憎悪など知ったことではないのだろう。それは当たり前だ。殺す殺さないという問題の
中に、個人的事情は意味を成さない。倫理を無視するのならば、精神面での事柄は全て芥同然だ。物的事象のみが
絶対である。
「まあ、いいけどな。正直、人間が悪魔を倒すのならば、その被害は大きいだろうし。お前が鎮圧してくれれば、
僥倖だよ。それに、イリスの両親の敵討ちにもなるしな。……と、ここまでが大衆的所感だ」
「で、あなたの本心は?」
あきれたように肩をすくめてリザが問えば、アストは珍しく獰猛な笑みを浮かべて、言う。
「余裕があれば、俺の分まで一発でいいからぶん殴ってほしい」
「了解です。余裕があれば、強烈な一撃を与えてやります」
アストの横をすり抜け、リザはいったん、自宅に戻る。レンガ造りの小さな家は、必要最低限の機能しかなく、
世辞にも薬屋には見えない。それを証明するかのように、玄関口に貼ってある依頼書は、見事な白紙である。
ここまで繁盛しないと、喜劇にしかならないな、と思いつつ、リザは自宅の最奥部へと進み、そこにあるタンス
をどける。どけた先にあるレンガの壁は、一見、何の変哲もないように見える。
が、そこへ手を伸ばし、上下に動かせば、がちゃりと音が鳴り響き、壁の一部が不恰好な蓋のように、外れて落
ちる。壁に小さく空いた穴。リザはそこに手を入れ、中にあったものを一気に引き抜いた。
「……よし、上等上等」
リザが手に取ったのは、50センチメートルほどの長さをほこる、杭だった。真っ白なそれは木製で、見れば見る
ほどに、吸い込まれそうな魅力がある。神秘的、とでもいおうか。きちりと切り揃えられたそれは、竜の角のよう
な威厳に満ち満ちていた。
それを背中に回し、特別丈夫なリボンと紐を用いて、器用に体に縛りつける。エプロンドレスが不恰好なかたち
になるが、それはそれで仕方がない。
最後に。棚から薬を漁り、飲む。疲労回復と精神沈静の作用があるそれを、ひとつ、ふたつ。
げふぅ、と息を吐いて、荒れた自室をあとにする。
「なにをしていたんだ?」
玄関を出てみれば、道の端にいるアストから声をかけられる。待ってくれていた、ということは、激励の言葉の
ひとつふたつでも投げかける気なのだろう。リザは彼のもとへと近付いていく。
そばまで歩み寄り、そこでくるりと体を反転させ、背中がアストに見えるようにする。しばし待ち、また、くる
りと一回転。今度はアストと向き合うかたちとなる。
「……杭か?」
「はい。以前話した、対悪魔用の必殺武器です」
「誇張じゃないんだな?」
「……さすがに、こんな空気の中、私もふざけたことは言えませんよ」
頬をかき、無表情のままに言うリザ。だが、言葉の端々は、いつもより荒々しい。
「殺します。ですが、殺し方は私個人の指針に乗っ取り、やります」
「町人のひとりとしては、勝手にやれ、という感じだな。悪魔を殺してくれればなんでもいい。……しかし、ひと
つ疑問なんだが。どうして町に入って、俺たちを皆殺しにしなかったんだ?」
「それは、知ったことではありません。私はそろそろ行きます」
首をひねるアスト。だが、リザはそれを切り捨てる。
嫌な話だが、同じ悪魔であるリザは、どうしてひとりだけをなぶり殺したのか分かる。恐らく、悪魔特有の嗜虐
心と、残虐性が原因だろう。暴力を振るうことに悦楽を覚える悪魔のことだ。少女ひとりをいたぶり、つい調子に
乗って町の人間に見つかりかけ、今はほとぼりが冷めるまで遠くに逃げて待機、というところか。
集団における優位性を、悪魔は知悉している。それに、人間社会のつながりの広さは、様々な面で厄介だ。だか
らこそ、慌ただしく去り、体勢を整えているに違いない。リザはそう予測した。
「行ってこい、不器用女」
「行ってきます、優男」
軽口を交わして、リザは悪魔の気配を追って、町を出た。
そこは、多くの木々が立ち並ぶ場所だった。青々とした匂いと、土特有の鈍重な匂い。闇夜のなかにおいても、
なお鮮明に見える、枝葉の緑色。
立ち並ぶ木々の数々は、月明かりの淡い光を受けて、薄茶色に輝いている。夜の空気は、冷たく、とかくとかく
冷たく、それでいて静謐だった。
そう、静謐である。この森の中には、あるべきものがない。鳥と虫の声も、風の音色も、木々のざわめきも。ま
るでそれは、森そのものが死んでいるかのよう。ただ風景を構成するものがあるだけで、それに付随する要素は何
もなく。作り物めいた風景が、そこにある。
そんな作り物めいた空気が蔓延するなか、作り物めいた美を持つ者が、ひとり。金色の髪を流し、真っ黒なドレ
スをまとった、絶世の美を見せる女性の姿。めりはりのある肉体を揺らし、木と木の隙間を抜け、唇を上げたまま、
ゆっくりと歩いていく。
ほどなくして、女性は歩みを止める。背後を振り返り、目を細める。
女性の眼光の先にあるのは、森の中においてなお目立つ、ひとつの太い木だった。どっしりとたたずむそれは、
樹齢三桁に達するのかもしれない。表面にはいくつもうろがあり、伸びる枝の数も多い。
そんな木の後ろから、女性の視線を受けて飛び出すように、ひとつの影。
月光の残滓を受けて、淡く輝く白銀の髪。無粋ともいえるほどに安っぽいエプロンドレスをまとい、紐やリボン
で腰や腹の辺りを縛り、鉄のおもてをたたえてそこにたたずむは、女性の姿。体格は小柄も小柄、子供のよう。た
だ、発せられる雰囲気は、青さというものを廃すそれ。
金の髪を持つ悪魔と、白銀の髪を流す悪魔は、今ここで向かい合った。
「つけていたのね。いい趣味しているじゃない、ガキのくせに」
金のロングヘアーを手でいじりながら、その女性は嘲りの念を言葉に乗せて言う。だが、それを受けても、白銀
の髪をもつ方は動じない。鉄面皮のまま、氷の表情のまま、ただ言葉を受けて、その場に立つだけ。
「質問があります」
鉄のおもてを崩しもせず、白銀の髪の女性――リザは、一切の怯えも見せずに問うた。
「なにかしら?」
そんな彼女の挙措に苛立ちを覚えたのか、眉をひそめながら金髪の女性――フィロは、リザに渋々応じる。
「今日の朝。やや早めの時間帯。……赤茶色の髪の女の子を、手にかけましたか?」
相対する者から視線を一切外さずにリザが問えば、フィロの方は一瞬だけ瞠目するも、それから楽しそうに笑い
出す。淑女めいた所作で、小さく、くすくすと。
「ええ、そうよ。私が殺してやったわ。あなた、いい勘しているじゃない。ガキのくせに」
「どうやって殺しましたか? 悪魔なりの手段で?」
「……本当に、いい勘しているのね。いいわ、今日は気分も上々、話してあげる」
「ありがとうございます」
ぺこり、とわざとらしくリザが会釈をすれば、金髪の悪魔はまたも眉をひそめるも、その殺人の経緯を思い返し
ているのだろう、にやにやといやらしい笑みで、八の字の眉を打ち消した。
金髪の悪魔は語る。陵辱劇と殺人手法。野草を採取する少女と出会い、会ってすぐさま痛めつければ、カエルの
ような悲鳴を上げたこと。冥界の生物で四肢を拘束し、媚薬で狂わせ、乳房を踏み、男性型の下僕を使って、陵辱
したこと。それを見て楽しんだこと。最後に、精神が壊れたから、腹部を思い切り右手で貫き、えぐるようにして
臓器を引き抜いてやったこと。
それを、悪魔は、リザの前で、主観も交えて懇切丁寧に説明した。
「もう、あの無様なカエルじみた悲鳴ったら、おかしくっておかしくって!」
「いい趣味していますね」
「……なぁんかその物言い、皮肉を言っているようにしか聞こえないんだけど?」
「今頃気付いたんですか? 頭悪いんですね、あなた」
瞬間、空気が凍りつく。発生源は、金髪の悪魔、フィロから。それは明確な怒気であり、明確な殺気であった。
もしも一般人がこの空気を何も知らず吸ったのならば、悪寒に全身を支配され、金縛りでもされたかのように動
きを止めるであろう。
だが、リザは動じない。悪魔の殺気は、悪魔が受け取るのならば何の問題もないからだ。ただ冷徹に、翡翠の瞳
を光らせて、殺気をみなぎらせる相手の顔をねめつける。
「言うじゃない、クソガキ。その慇懃無礼な態度も、演技?」
「いいえ。これは素です。さて……場も温まりました。そろそろ自己紹介といきましょう」
有無を言わせぬ勢いでそう言い、リザはぎこちなくスカートの端と端とを両手でつまみ、ぺこりと可愛らしく礼
をする。仕草そのものは洗練されていないが、人間臭いとも言えるその動きは、リザの美貌とも相まって充分に映
える様相であった。
「私の名前は、リザ。しがない薬屋、兼、腹話術師です」
そう言ってふところから不細工なワニのぬいぐるみを取り出し、アゴをぱこぱこと動かす。
「俺の名前はフェルナンデス! リザっちの相棒! よろしく!」
この凍った森においては場違いなほどに陽気な声が響き渡る。だが、リザの表情は変わらない。相も変わらず、
大真面目である。
「私はフィロ。悪魔よ」
そんなリザをあきれと諦念のこもった目で見る金髪の女性。それでも、リザは絶対に動じない。生来の鉄面皮を
揺るがしもせず、ただそこに立ち、女性の姿を、言動を、雰囲気を、ありようを、全てを白眼視している。
「フィロ、ですか。自己紹介ありがとうございます。で、早速ですが」
そう言って、リザはぬいぐるみを取り外し、だらりと両手を下げ、腰も少し落とす。丁度、ゾンビがいれば、こ
のような格好になるのかもしれない。妙ちきりんなその脱力姿は、しかし、滑稽ではなかった。むしろ、珍妙だか
らこその不気味さがある。
そんなリザに呼応するかのように、森はさらなる静謐に包まれる。悪魔と悪魔が対峙しているせいだろうか、森
が、呼吸を、いななきを、全てを止めている。
「まあ、言ってしまえば、私はこれから、あなたに敗北という素敵な味を教えちゃいます。一応、情報として教え
ますけど。あなたが殺した人は、私の友人だったんですよね。というわけで、私に倒されてください」
「へえ……?」
何の気はなしに、まるで明日の天気を語るかのようにリザが言えば、とうとうフィロは目を細めて怒気をあらわ
にする。だが彼女は、リザの言葉の裏の意味を察していた。これから戦いましょう、という。
「あなたは、私に熱をくれるのかしら?」
「そんなもん、いっぱいあげますよ。斬られたり殴られたりすると、痛いを通りこして熱いですし」
「……ふぅん、本当、生意気な女ね」
「言われ慣れました、それ」
ぴしゃり、と相手の言葉を切り捨てて、どんどんと態度が無礼に、言動が皮肉げになっていくリザ。それは、鉄
のかんばせの裏にある、内なるどす黒い炎のせいだろうか、はたまた悪魔がゆえの本能なのか。
そんな自分に冷却処理をするかのように、ふう、と一回息を吐いて場の空気をいったん変える。
「……正直、犯人が私レベルの小物とは思いもよりませんでした。いや、強姦殺人なんてする時点で、小物だと察
して然るべきだったんでしょうが。ちょっと残念です」
「小物とは、言ってくれるじゃない、悪魔を前にして。そんなに死にたいの?」
「いや、死にたくはないですね。私、臆病ですから。死ぬのも痛いのも怖いのも大嫌いです」
「よく言うわよ、このクソガキ」
フィロの怒気は高まりつつある。そんな彼女の姿を見ながら、リザは、そろそろ頃合いだろう、と考え、さらに
全身の筋肉を弛緩させる。だらりと垂れ下がる手から、ますます力が抜けていく。
「私は、あなたのその驕慢を正面からへし折ることを第一目的とします。まあ、半死半生の目にあわせることが目
安なので……、死ぬ気でかかってきてください」
「本当、命知らずね、あなた。よくもまあ、悪魔に向かってそこまで言えること」
「宣言しておくんですよ。あと、とっとと本気で来てください。あなたが負けたあとで、本気じゃなかった、とか
そういう類のいいわけをされると困るんで。まあ、言っても無駄でしょうけど」
リザがそう言うと同時、空気が爆ぜた。
唐突にも過ぎる、静から動への転化。土が跳ね、空気は揺らぎ、風は流れる。わずかに遅れて、たん、と地面を
蹴る音が、そこここにこだまする。
フィロが、リザに肉薄していた。それは本当に一瞬のことで、まばたきの間に、両者の距離をほぼゼロまで縮め
るその脚力は、さすがは悪魔としか言いようがなく。
全く動かず揺らがずの姿でいるリザに、フィロの右手が伸びる。人間とは比較するのも馬鹿らしいほどの膂力で
放たれた、抜き打ちの手刀は、まっすぐにリザの心臓へと向かっている。
その指の先端が、彼女の衣服に突き刺さろうかという瞬間、ゆらり、と影が揺らめいた。
「ぐ……がぁっ!?」
カエルを潰したような悲鳴が響き、両者の位置が入れ替わる。それは一瞬の出来事であったが、その一瞬の間に、
状況はすでに劇的な変化を見せていた。
リザは、右手を横へと投げ出すような格好で、あとはだらりと脱力の様相。その身には、いや、その身にまとう
衣服にさえも、傷ひとつ付いてはいない状態。表情は全く変わらず、鉄と氷のそれ。
そんな彼女の背後には、もんどりうって地面に膝をつくフィロの姿が。彼女は苦悶の表情で脂汗を流し、左手で、
右手の首を押さえている。ありえざる方向にへし曲がった、右手首の骨を、押さえている。その翡翠の瞳の色から
は、納得いかないと言わんばかりに、剣呑な光が、ぎらぎらと。
両者は振り向きあい、距離を取る。リザは脱力の様相で鉄面皮だが、フィロは憤怒の形相でリザをねめつけ、手
首を押さえている。
とはいえ、常識外の回復力をもつ悪魔のこと。しばし向かい合えば、金髪の悪魔のへし折れた右手は、いつの間
にやら、平常時のそれへと戻る。
「あなたは……」
目を細め、歯をぎりぎりと鳴らしながら、射殺さんばかりの視線を向けるフィロ。だが、リザは応じない。全く
言葉を発さず、ただ、脱力の様相のままに、あごを小さくしゃくるだけ。
その仕草が、何よりも雄弁に、彼女の気持ちを表していた。
戦いが、始まる。
投下終了です。
次回、苦手分野。またの名を戦闘シーン。
ぅゎ ょぅι゛ょ っょぃ
投下します。
悪魔っ娘同士の魔法対決、なんて可愛いものでは断じてないです。
一応、戦闘シーンなので、それなりにえげつない表現があります。注意。
流血沙汰や痛いのが嫌な人はスルーの回。
今回は視点変更が多いので、参考として*マークをつけています。
マークは絶対ではありませんが、目安としてどうぞ。
リザは、悪魔である。
勇者でもなければ、お姫様でもない。きらびやかな場所とは無縁だし、泥臭く這いつくばり、ひいこら言う役が
最も似合っている。勇者たちのような華美なるきらめきをまとうことなど、未来永劫ないであろう。
絶対に得られないものを求めようとするほどに、リザの心は純粋ではなかったし、綺麗でもなかった。
リザは、勇者の戦い方が出来ない。戦っている最中にしゃべることは出来ず、目的を見つければそれのために手
段は問わない。一般人を守りながら、などというやり方は、彼我の実力差が天と地ほどあって、やっとのことこな
せるかどうか、という程度である。
彼女は孤独を嫌うが、戦う場においては孤独を好む。それは、彼女がどうしようもない弱虫で、どうしようもな
い非才の身だからだ。
集団を統治するカリスマ性もなければ、友人ひとりの死すら容易に受け入れられない。
所詮、悪魔の強靭な肉体をもっていても、中身は脆弱なのである。突剣で甲殻の隙間を突かれ、なかをくちゅく
ちゅとかき回されれば、それだけでリザは終わる。
人間らしい感性をもっているからこそ、その弱みはあるのかもしれない。しかし、彼女はそれを不幸だとは思わ
ない。むしろ弱くなって良かったとすら考えている。
強くても弱くても、暴れ続ければ、いつか鉄槌が下るだろう、と考えているから。その可能性は、殺害数が多け
れば多いほどに跳ね上がる。
世界を滅ぼせるほどの力があれば、思うがままに暴れられるのだろうが。所詮、それは夢物語に過ぎない。リザ
は弱い、とにかく弱い。人間に囲まれて袋叩きにされるだけで、すぐ死ぬ。それは絶対不変の事実である。
だが、弱いからこそ、成せることもあろう。
弱者の相手は、弱者が相応しいのだから。
*
金の髪の先端部を土で汚した悪魔は、リザの方を見て、歯ぎしりを続ける。それこそ、歯が粉々に砕けて、空気
の中に溶けてしまうのではないか、と言わんばかりに。
普通ならここで挑発のひとつも入れるのであろうが、リザは出来ない。戦いの最中にしゃべることが出来ない。
隙が出来るのが怖いからである。臆病者の本領発揮だ。
が、激昂しやすい相手ならば、挑発は絶対に必要である。右手を相手の方へと伸ばし、手のひらを天に向け、人
さし指をくいくい、と二回ほど曲げる。さすがにいくら頭が悪くても、この程度の挑発には、
「この……メスガキィィィィィッ!!」
ひっかかった。
その事実に驚嘆する暇もあらばこそ、リザはすぐさま横っ飛び。肩から地面にぶつかるようにして逃げ、ころり
と転がり、先程まで自分がいた場所を見やる。そこは、まるで小規模な落雷があったかのような惨状。地面は焼け
焦げ、その余波で、いくつかの木々の表皮も黒ずんでいる。
恐怖はない。さすがに、いくら鈍いリザでも、猿叫じみた声と同時に右手を向けられれば、その直線上から外れ
ようと考えるのは当然である。
放たれた攻撃は、恐らく、雷撃かそこらの魔法であろう。一般人はなかなか使えぬ類のものではあるし、町中で
放てば即刻逮捕、すぐさまブタ箱に入れられて、尻穴をほじられ続ける素敵な一生か、首ちょんぱで人生終了か、
そのどちらかだ。
アナルファックには興味がない、とリザは思いつつ、木と木の間に身を隠しつつ、退避。あまり魔法を使われる
と、この森が火事になってしまいそうだが、知ったことではない。自分の身を守るので精一杯なのに、森なんぞ気
にかけていられようか。
背後でいくつか轟音がこだまするが、大抵は見当違いの方向だ。どうやらフィロとやらはこちらの姿を見失った
らしい、とリザは判断し、強張りつつある全身の筋肉を弛緩させる。
「ほらほら! どうしたのよ、クソガキ! 逃げるだけかしらぁ?」
リザは、頭を抱えたくなった。勿論、体はちゃんと迎撃準備をしているが、それでも抱えたくなった。なんだっ
て、こんな、夜の森という場所で、わざわざ自分の場所をさらすかのように大声を出すのだろうか、と。隠密性、
という文字を真剣に考えたくなってきた。
もしかすると罠なのかもしれないが、あれだけ魔法をどんどん放ち続けては、罠も何もあったものではない。危
険性は極めて薄い、とリザは判断を下す。
とはいえども、そろそろ攻めなくてはいけない。盾を構え続けても相手の首は切り落とせない。とりあえずは、
子供騙しではあるが、けん制の意味も兼ねた得意技で。
力を抜いて、左手に意識を流す。
瞬間、ばりっ、と肉が裂けるような音と同時、少量の血が飛沫となって、大地を汚した。
*
轟音が断続的に響き渡る。それは、黒いドレス姿の美女、フィロの手のひらから発せられる、雷撃の魔法のせい
であろう。視認すら困難なほどに高速で飛来する、細い雷の一条は、人に当たれば容易くその命を奪うことが出来
る。彼女が手のひらを向ければ、次の瞬間にはその先が焼け焦げているのだ。
それは、圧倒的な暴力の体言であった。細身の美女が歩く先には、焼け跡ばかりが残る。
「かくれんぼしていないで、出てきなさいよぉ! 偉そうなのは、口だけなのぉ?」
フィロが大声を出す。彼女は挑発をしているつもりだろうが、それは自分の位置を教えてしまうだけの結果にし
かならない。そういった行為の代償は、どんどんと溜まっていき、いつか目に見えるかたちで借金として払わされ
る破目になる。
それを、フィロは知らなかった。だからこそ、やにわに走る、左腕の感触にすぐ気付くことが出来なかった。
「……え?」
それは、手だった。リザの細い五指が見える、小さな手。それがフィロの左腕をつかんでおり、ぐい、と力が込
められると同時。
先の雷撃とはまた別種の轟音が鳴り響き、フィロは、そばにある巨木に顔面を叩きつけられていた。
「あ゛がぁぁっ!?」
鼻血を噴出し、悶絶する。悪魔は痛覚をある程度遮断できるが、予測不可能な攻撃に対しては、咄嗟にそうする
ことが出来ない。つまり、少しの間、痛みをそのまま享受するしかない。
白い肌に美しいかんばせの悪魔は、鼻を押さえてくぐもった悲鳴を漏らす。その頭の中は、混乱、の一言で埋め
尽くされていた。
フィロは、リザに腕をつかまれ、そのまま頭陀袋のように体を振り回されていた。だが、リザの気配はどこにも
ない。フィロは全く気付くことが出来ない。予想外からの攻撃と痛みに、彼女の心に、初めて焦りの色が見える。
同時に、わずかな、理解できない感情をも。
空気を刈る音のみを目印とし、みっともなく無様に、フィロが転がれば、先までいた場所をえぐり取るようにし
て飛来するリザの腕らしき影。
かわせた、という思いにフィロがとらわれたその瞬間、彼女の前髪をひっつかむ、もうひとつの手。
その感触に、彼女は戦慄する。が、全ては遅すぎた。リザの右手が、勢いよく下に向かい、髪をつかまれたまま
のフィロは大地と熱烈な接吻をかますに至った。
「ぎっ!?」
腕はふたつある。誰だって知っていることだ。子供とて分かりきっていることだ。だが、フィロは気付かない、
否、気付けない。混乱と、焦燥と、彼女自身も分からない感情にとらわれたその身では、気付けるはずもない。
そもそもにして、覚悟から違うのである。自分の引き起こした出来事における連鎖関係を、片や考え、片や考え
ることすらせず。先の見通しすら出来ぬ者に、戦闘の流れを掌握する計画を練ることなど、どだい不可能な話なの
である。
この時点で、フィロは、詰んでいたと言っても過言ではなかろう。しかしリザの方に、決定的な動きはない。相
手をじわりじわじわと追い詰めるその手法は、まさしく狩人のそれだった。その事実を薄々感じ取ったフィロは、
さらに焦燥に身を震わせる。まさしくそれは、悪循環だった。
「……なによ。なによなによなによぉっ! あのクソガキ、もう許さない!」
しかし、そこで折れることのない傲岸不遜ぶりを発揮するのが、フィロという悪魔である。怒りによって一時的
とはいえども、全ての感情を凍結させ、野生的な本能のみを用いて、リザを探すべく、足を動かす。
リザの手は、不規則なリズムで飛んでくる。どこに本体がいるのか分からない、疾風のような身の隠し方。フィ
ロが右を向けば左側から髪をひっつかむ手が伸び、上を向けば背後から掌底が襲ってくる。いつ、どこに飛んでく
るか分からない攻撃を、フィロは野性的な感覚で避け続ける。
とはいえども、何度か喰らってしまうのは仕方のない話である。しばし時間が経過すれば、彼女の衣服には血の
染みがいくつも出来、その白い肌は土にまみれてぐしゃぐしゃ。屈辱、の二文字を体言したその様相に、フィロは
さらに怒りをわき立たせる。
森が、わずかに生き返る。風の流れが戻り、木々はざわめきを取り戻し。その、葉の擦れる小さな音が、フィロ
を嘲笑っているかのようで、彼女の怒りはさらに増す。
「そぉこかあぁぁぁぁぁっ!!」
ほどなくして、フィロはリザの居場所を感知する。伸びる右手、響く雷鳴。切り株のそばにある、ひとつの大木
が黒ずむと同時、リザがそこから転がりながら出現、体勢を立て直す。
リザは、土と血と小枝だらけのフィロと違って、完全な健康体だった。転がった際に少し泥が服にひっついた程
度で、全くの無傷。それがフィロの心を、身を、全てを、赤い炎で燃やし尽くす。それは憎悪ではなく、明確なる
殺意のあらわれだった。
「あははっ! 見つけた、みぃつけた、見つけたぁ! さんざんコケにしてくれて、本当、遊ぼうなんて気はなく
しちゃったわ! とっととブチ殺してあげるからねぇぇ!」
叫び、哄笑するフィロの姿は、もう淑女めいた所作の残滓すらなく。落ち着き、という言葉とは無縁であり。そ
の姿は、奇しくもリザと対極を成すありようで。
淡い光に照らされた森の中で、ひとつの美が砕け散った。容姿の総合的な美しさで言えば、リザよりもフィロの
方に軍配が上がったではあろうが、今は違う。血走った目で、よだれを流し、汚れた姿で叫ぶフィロの姿は、もう
醜悪としか言いようがなかった。
鉄の仮面の下で、リザがこっそり嘆息してしまうほど、今のフィロの姿は醜く、それでいてみじめだった。
フィロが、右手を前方に向ける。
同時、リザは左手を横へと向ける。
轟音が、響き渡った。
肩を上下させ、荒い息をつき、フィロは土煙の中、笑う。
彼女の眼前にたたずむ数々の木は、半ばから上がほとんど消滅し、残る枝が重力に従って自由落下を始めている
状態。大地には巨大な爪跡が刻み込まれ、さながら局所的な台風が起こったかのごとく。
雷撃に颶風を組み合わせたそれは、余波を受けただけでも全身打撲はまぬがれぬであろうし、直撃を受けてしま
えば遺骸は原型すら留めない。暴力そのもの、といったその魔法行使は、フィロの身にも浅からぬ負担をかけてい
たが、それもこの威力の代償ゆえ、である。
直撃はせずとも、痛手ぐらいは与えただろう、とフィロがわずかに気を抜かし、全身の筋肉をゆるめさせる。が、
その瞬間、無慈悲な現実は彼女に鉄槌を下す。
瞬間、背中から、先の攻撃とは比べものにならぬほどの衝撃を受け、フィロは吹き飛んだ。それこそ、ゴミのよ
うに、地面を一回、二回、三回、転がりながらバウンドし、最終的に木の根へとあばらを打ち付けるかたちで静止
する。
あまりの衝撃とあまりの痛みに、声も出せず、かひゅうかひゅう、と無様な吐息を漏らすことしか出来ず。ばた
つき、のたうち、顔を上げれば、そこに見えるは上空を舞う、銀色の髪。
「な……!?」
飛翔していた。
フィロの敵手たる存在、リザは、飛翔していた。翼を生やすでもなく、道具を使うでもなく、宙に浮き、フィロ
の相貌をただねめつけていた。
瞠目するフィロははっきりと見た。リザは、左腕を、十数メートルほど遠くまで、文字通り『伸ばして』いた、
その光景を。淡い桃色の光の帯が、リザの左腕から伸び、わずかな血液をまといながら、遠くへ遠くへ伸びている。
肉体を伸ばすリザの姿は、フィロの意識をおぼろにさせるには充分に過ぎた。
彼我の距離差はかなりある。手を前にかざせば、敵手の姿を覆い隠せるほどに。にもかかわらず、フィロは、相
手の眼光をしっかととらえてしまう。
よどんだ光を放つ、翡翠の相貌を見た瞬間、フィロの身は今度こそ強烈な寒気に支配された。
リザは、弾丸のような勢いで飛来する。空中で体を丸め、くるくると、まるで風車のように回りながら、倒れ伏
すフィロに向かって飛来する。その距離は縮まり、縮まり、縮まり、やがてゼロになろうかというその瞬間、腰に
ひねりが加わり、回し蹴りが放たれる。
受け側は、どうしようもなかった。痛みと衝撃で動けなかったのだから、その蹴りを甘んじて受けるしかなかっ
た。だが、加速のついた蹴りは、いかな幼子の体躯で放たれた蹴足とはいえど、その威力を飛躍的に上昇させる。
それはリザも例外ではなく。
一瞬だった。その一瞬で、フィロの美しい顔は、頬の肉と、歯と、歯ぐきと、舌の先端部を、一気に、こそぎ取
られるかたちとなった。
さらに、追い討ちをかけるように、残るリザの足はフィロの鼻骨を踏み台にする。ごりゅごりゅと醜い効果音を
付け加え、衝撃と全体重を受けた彼女の鼻は、肉が爆ぜるように砕け散る。衝撃が走り、木にぶつかり、血飛沫を
撒き散らしながら吹き飛ぶフィロ。
痛みは、すでに熱へと転化していた。
確かにリザは、フィロに熱をくれていた。斬られたり殴られたりすると痛いが、蹴られても痛いのだということ
を、この時、フィロは学習した。
*
ゴム製の球体のごとく吹き飛ぶ敵手を見ながら、リザは蹴足の反動で浮かんだ体を、地面に降り立たせる。それ
と同時、伸びた左腕を完全に戻すべく、血振るいするかのように大きく一振り。肉と鉄の入り混じった擦過音がこ
だまし、リザの腕は元通りになった。
がしゃん、と機械めいた音を立てると同時、肩をひねり、接着を確かめる。
児戯だ、とリザは思った。
フィロを追い詰め、何度も打撃を加えた、この両腕ではあるが。やりようそのものは、子供でも考えつかないほ
どに稚拙なものである。だからこそ、こんな馬鹿なやり方を考える者もいないだろう、という狙いもあるのだが。
予想の外を突くのにはなかなかいい、ただそれだけの技である。
蛇腹剣、という武器がある。刃そのものをいくつか分断させ、芯鉄(しんがね)の部分にワイヤーを仕込み、鞭
のようにしならせて、連結点を切り離し、広い範囲を攻撃することを目的とした武器だ。無論、構造上の欠陥から、
実際は使えるはずのない道具ではあるが。
リザは、これに着想を得て、腕で応用することにした。応用、とは言っても、それはすでに別物である。手首、
肘、肩、そこらの関節部を切り離し、断面と断面を、魔法によって形成した光のワイヤーで繋いだだけだ。輪切り
の野菜と野菜とを、針金で連結させる図を想像すれば分かりやすかろう。
無論、この方法は人間には使えない。いちいち攻撃のたびに腕を輪切りにする馬鹿はいないだろう。悪魔の回復
力があるからこそ、この馬鹿らしい技を初めて行使することが出来るのである。
このワイヤーをしならせ、腕そのものを飛ばすのが、基本的な使用方法。とにかく、手の射程が飛躍的に伸びる
ことが最大の利点である。遠くのものをひっつかむことも可能、遠くの敵を殴り倒すことも可能。あまり細かい動
きは出来ないが、髪をひっつかんで地面にキスさせるくらいのことは出来る。
もうひとつは、遠心力を利用した移動方法である。これは、森のように、柱となるべき障害物がいくつかないと
使えない。腕を前方に伸ばして、手頃な木や柱をつかみ、腕を縮ませる。腕は縮もうとするも、五指はしっかりと
柱をひっつかんでいるから動けない。結果として、リザが引っぱられるかたちとなる。連結作用は、何もリザを基
点とするわけではないがゆえだ。
その、腕が縮む過程で、リザは高速のままに空中を飛ぶことになる。その際、もう一本の腕を伸ばし、横にある
柱をひっつかむ。同時、最初に握った方の手から力を抜く。かくあれば何が起きるか。
慣性の法則に従って飛来するリザが、急激に基点を変える。すると、重心が変化し、運動エネルギーのベクトル
は円運動となり、その外側へと流れ出す。
柱を基点として、ぐるりと円を描くようにリザは飛ぶこととなる。だが、基点となる柱とリザの間に形成される
ワイヤーが障害物に当たった場合、円周は急激に狭まることとなる。
身もふたもない言い方をすれば、ロープを使った三流サーカスの演技のようなものだ。その飛翔の終着点に敵の
姿があれば、腕を戻しつつ踊りかかり、蹴りのひとつも加えるのは造作もない話である。
一度蹴りを入れてしまえば、反動で浮かび上がり、木を踏み台にして追撃すら可能なのは言うまでもない。
蛇腹剣ではなく、蛇腹腕、とでもいおうか。この、稚拙で無様で下劣な技を、リザは好んで使っていた。
遠くで倒れ伏すフィロの姿を視認し、そろそろか、とリザは大詰めにかかる。
リザは、イリスを殺した悪魔がどんな存在か知りたかった。だから出会った時に、色々と話を聞く気になった。
もしも殺すだけならば、会話なんぞせずに、とっくに襲いかかっている。
だが、イリスに強姦の痕跡が見受けられた結果、犯人は相当の下衆と判断、リザはそこでひとつ思い立った。た
だ殺すだけでは駄目だ、と。拷問趣味はないが、リザは、イリスの死体を見、犯人の話を聞いた時に決断したので
ある。この悪魔を殺しはしない、と。
リザは無力化を狙った。それは、相手を殺すことより難しい。
だが、それでもリザは無力化を狙いながら戦った。相手を殺す気など、はなからなかったのだ。
それでも、リザは当初の目的に従って動いた。それすなわち、相手の驕慢を根本からへし折り、叩き潰し、焼却
処分したのちに、その傷口に塩を練りこみ、蹴足をかまし、ぐりぐりとえぐることを第一としたのだ。はっきり言
えば陰湿な目的であろうし、はっきり言わなくとも陰湿な目的である。
殺す気だったのならば、ぶっ殺すだの何だの、いちいち御託を並べ立てはしない。邂逅する前に、喉を横一文字
に裂き、心臓をえぐり出し、脳味噌を焼いてしまえばいいのだから。
体に巻きついている紐やリボンを、一気に切り裂き、リザはとうとう切り札を取り出す。50センチメートルほど
の長さをほこる、白木の杭。
がっしとそれを左手の五指で握り締め、自由な右手の感覚を確かめて、眼前の光景をねめつける。
「ぶっ殺してやる!! このクソガキィィィィィィッ!!」
怒号。いや、それは咆哮と言うべきか。まるで猛獣のごとく、天に向けて雄叫びを上げ、憎悪と憤怒にまみれた
表情でリザの姿を見やるは、傷を再生させたフィロ。その顔には、もう正気の二文字は残っていない。ただ、そこ
にあるのは、ゆがめられた、前衛芸術じみた様相のかんばせのみ。
怒っているのだろう、だから語彙力も貧相なんだ、という言葉を飲み込み、リザは杭の感触を確かめる。
手に握られた切り札。振り上げられたこぶし。
白木の杭は、敵にとって脅威となり得るだろう。だが、同時に、リザにとっても脅威となり得る。相手は悪魔、
リザも悪魔。それだけは絶対に変えられない事実である。
同族だの何だの語る気はない。今はただ、決められた目的を完遂するだけの話。
覚悟は、決まった。
身を倒す。間一髪のところで、飛来する雷撃を回避する。
背後でぷすぷすと木が煙を上げる。同時、リザは敵の危険性を再認識、打倒するための手段を考える。
またも飛ぶ、雷撃。地面を無様に、泥臭く転がって回避する。雷撃が飛来する。飛来する。どんどん、どんどん
と、際限なく飛ぶ。それはまるで、豪雨のよう。決して止まらぬ、激しい雨。切れ目など見つからない、見つかる
はずもない。
リザは木の背から木の背へ、逃げて逃げて逃げ続ける。さすがに、雷撃を受けて無事で済むとは思わない。
木に身を隠しながら、右手の平を空へと向ける。同時、集中する。風が集う。
魔法を使う準備である。あの、蛇腹腕のような簡易型のそれとは違う。明確に、ただ相手を打倒するためだけに
生み出された手法を用いる。生活のために使う魔法ではなく、敵手を殺すための魔法。
雷撃が、丁度、止む。その瞬間、リザは木から飛び出し、腕を振りかざした。
腕を回す。目の前で円を描く。その動きに追随するようにして、流れる風。巻いた渦はエメラルドグリーンの帯
となりて、リザの指の奇跡を追う。吹き荒れる力の奔流が、枝葉を揺らめかし、茂みをざわめかせる。
巻き起こる、翡翠色をした風の円。その中心部へ向けて、リザは、拳打一閃。
「っぁ!」
風を操り、螺旋を形成し、拳打を放つ。荒れ狂う颶風の力が込められた渦は、拳打の破壊力を飛躍的に増幅せし
め、暴風のような衝撃波となって、遠く離れた対象の身を打ち砕く。さなきだに、尋常ならざる膂力をもつリザの
拳打なれば、その攻めの勢いは強烈を通りこして凄烈ですらあったろう。
だが、実はこの方法には構造上の欠陥がいくつも見受けられる。だからこそ、ある意味では、賭け気味のけん制
であったろう。攻撃の際には必ず隙が生まれる。それはもう、どうしようもないことだ。
リザは、この攻撃方法に名前を付けることなどしなかった。
技と呼ぶにはあまりにも無様な手法である。予備動作が長い、動きが直線的、隙が大きすぎる、何よりも右手か
らしか放てないのが一番痛い。こんな駄技の直撃を受ける者など、三流を通りこして七流である。よほどのことが
ない限り、当たりはすまい。
リザはそう考えていたから。放つと同時に響いた風切音に遅れて、肉のひしゃげるような音と、くぐもった声が
聞こえたのは、全くの予想外であった。
木々の隙間を抜けて、茂みを蹴り飛ばし、前方へと身を躍らせる。ひらけた視界の先で見えたものは、鮮血を左
腕部と腰部からしたたらせ、煙を上げながらその傷を再生している最中の、敵の姿。
リザの接近が、向こうの状況にとっては悪いものだったのか、即座にしかめられる、フィロのかんばせ。
「ぐぅ……!?」
苦し紛れなのか、雷撃をいくつか放たれるも、全くの見当違いの方向なので回避するまでもなく。リザは、地を
這うようにして駆け、手のひらを土で汚すと同時、相手の足を払う。
バランスが崩れる。が、今度は相手の顔面と地面をキスさせるようなまねはさせない。足を払うと同時、弾かれ
たようにひざを上げる。めごしゃっ、というあまり聞きたくない音が木々の間をさざめかすと同時、生温かい感触。
フィロの顔面と、リザの膝が、熱烈な接吻をかます結果となった。
「ぶふぅ゛ぅっ!?」
鼻骨をへし折らんばかりの膝蹴りを受け、敵手は吹き飛び、巨木に背を打ち付ける。恐らく、肉体的損傷は軽微
だろう。プライドはどれだけへし折れたか知れないが。
そろそろ頃合いだろう、と考える。こうまで一方的にやられれば、いかなる間抜けでも戦力の差ぐらいは容易に
想像できるというものだ。リザは三流だが、相手は七流以下である。それだけの話だった。
正直な話、もうちょっと、いや、もっと苦戦するとリザは考えていた。相手の技量を推し量れぬわけではない。
が、こと戦闘においては、わずかなきっかけで状況など劇的に変化するものだ。今回のように、相手を殺害するの
が目的ではない場合、その可能性は一気に跳ね上がる。なぶる、という行為は、自分の身にも危険が迫る。追い詰
められた者が、戦況をくつがえす例など、いくらでもある。
ゆえに、圧倒的優位に立ちながら、リザはまだ油断しない。百を行くのならば、九十を半ばとするのだ。終わり
辺りが最も気のゆるむ瞬間である。そう、こんなことを考えてしまう程度に、リザの気はゆるんでいる。それを、
自己叱咤によって引きしめる。
勝利を確信してはいるが、勝利を妄信してはいない。確信した者が反撃を受けて殺される例など、星の数ほどあ
るのだから。それを頭の中に浮かべる時点で、もう戦闘開始時の緊張を持つことはないであろう。だから、せめて
もの自己暗示で、とりあえずの妥当な線まで緊張感をもっていく。弛緩した気を、張り詰めさせる。
左手の感触を確かめる。杭が、リザの五指を温める。
リザは、フィロの顔をねめつける。
フィロは、リザの顔をねめつける。
片や覚悟で。
片や恐怖で。
リザが左手を大きく振りかぶる。
フィロが右手を前方に向ける。
「っぁあ!!」
「来るなああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
互いにどんな思いを抱えようとも、決着は一瞬だった。その一瞬は、あまりにあっけなかった。
あっけなく、リザはフィロの雷撃を回避し。
あっけなく、フィロは無防備になり。
あっけなく、リザの左手が叩きつけられ。
服の端を焦がしながら、右足を大きく前に出し、左足を後ろに、リザは刺突の体勢のままに固まっていた。そん
な彼女の左手の先は、無残にえぐられた大地。破壊の道程と、その終着点として金髪の悪魔の姿。
金の悪魔の腹部には、白木の杭が刺さり、その身は背にある巨木へと縫い付けられていた。それは、奇しくも、
リザとフィロが初めて邂逅をした際、リザが隠れていた巨木と、全く同じものだった。フィロは、白木の杭に貫
かれ、丁度、はりつけとなるようなかたちで、その身を巨木にあずけていた。
「あ……ぐ……がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」
絶叫。腹部に重い傷を負った悪魔は、恥も外聞もなく泣き叫ぶ。涙も、鼻水も、よだれも、思い切り流しながら、
それでもなお、信じられない、という言葉を翡翠の双眸に乗せて。
瞬間、リザは全身の筋肉を強張らせ、弛緩させ、直立不動の体勢となる。その、ぴちりとした姿を崩さぬまま、
つかつかとフィロのもとへ歩んでいき、
「……ふう、ようやくしゃべることが出来ます。本当なら、あらぬ限りの汚い言葉をぶつけるつもりだったんです
けれど。油断が一番怖い。こんなこと言う時点で、今も微妙に油断しているんでしょうが。そろそろしゃべらない
と、私、憤怒でドタマがどうにかなっちゃいそうで」
軽口を叩いた。腹部からどくどくと血を流す女性を見て、なお、顔を全く変えずに。
そんなリザの姿に恐怖を覚えたのか、お前は誰だ、と言わんばかりに光る、フィロの眼球。それを受けて、リザ
は、居住まいを正し、憎々しいほどに綺麗な礼をして、言う。
「私の名前は、リザ」
「しがない薬屋、兼、腹話術師、兼」
「――悪魔です」
投下終了。
拮抗した戦いのように見えて、その実はフルボッコ。
蛇腹腕は趣味です。説明を見なくても、本編にはぜんぜん全く関係ありません。
細かい突っ込みはスルーでお願いします。俺の理科の成績は『がんばりましょう』ですので。
なにとぞご勘弁をば……。
これで「戦闘シーン苦手」なんてよくも言ってくれたもんだw
息するのも忘れて読んだ。リザつえええええ
可愛い、強い、毒舌。
見事な三拍子が揃ってますね
投下します。
ハイパー主人公タイム、リローデッドです。
エロあり。とてもとても、えげつねぇ言動と表現あり。
苦手な人はスルー推奨。本当に推奨。
その森は、静寂に包まれていた。全ての生き物が、全ての自然が、音をなくしている。
中心よりやや外れた地にて、その戦場の爪跡はあった。木々がへし折れ、焼け焦げ、大地はえぐれている。その
中でたたずむは、白銀の髪の悪魔と、金色の髪の悪魔。
腹を白木の杭に貫かれた悪魔は、うつろな表情で、勝者を見やる。
「あなたも、あく、ま……?」
「はい、実は私も悪魔でした。自己紹介の際に言うべきだったんでしょうが。ついつい、忘れちゃいました」
白々しくそう言ってのけるリザの瞳は、軽い口調に反して剣呑な光を宿している。
最初から全ての情報を提示するなど、間抜けのやることである。戦闘において恐ろしいものは、不意打ちと慢心。
少なくともリザはそう思っていた。だからこそ、相手が油断していればやたらと楽になるだろうな、と踏み、事実
その通りになった。
最初から、自分も悪魔だ、と宣言していれば、恐らく相手は多少警戒したであろう。リザのこの勝利は、相手の
慢心を肥大化させたからこそのもの。その恩恵として、リザは無傷で立っている。
リザは、目と鼻の先で、杭に貫かれている悪魔をねめつける。金色の髪を流し、豊かな乳房に細い腰、ところど
ころが破れた黒いドレス姿の美女。だが、その本性は、愚にもつかぬ驕慢ばかりを肥大化させ、リザのような三流
の悪魔にも完敗する、七流の悪魔。
こんな馬鹿にイリスは殺されたんだろうな、と人間臭い思いをリザが抱えたその瞬間。彼女は、『うっかりと』
白木の杭をつかんで、上下にぐりぐりと動かしていた。
「いだい、痛い痛いいだい゛いだいぃぃぃっ!? ごれなに゛いぃぃぃぃっ!?」
悪魔の、フィロの反応は劇的だった。先まで見せていた、やたら淑女めいた姿は今や微塵もなく。涙もよだれも
鼻水も垂れ流し、口から血液を飛び散らせ、絶叫する。
そんな彼女の姿を白眼視しつつ、リザは杭をいじる手をやめ、溜息ひとつ、口を開く。
「いっつ、ぷらぐまてぃーっく、ばんかー。遠き地で、霊樹と呼ばれる神聖な巨木がありまして。その一部を削り
取り、薬草と聖水に浸したのち、教会のような神聖な場所の周辺にある土に埋めて、ちょっとしたまじないをほど
こし、九つの夜を越せば出来上がりです。
言うなれば、対悪魔用、拘束武装です。勿論、やり方をちょっと違う風にすれば、充分に殺すことも可能です。
対象の力を著しく奪うと同時、気つけの作用をも果たします。再生能力も封印可能。教会の過激派連中が、喉から
手を出して欲しがるほどの逸品。
……これに貫かれている限り、あなたは魔法も使えず、再生能力も使えず、容易に気絶することすら出来ません」
律儀に説明をして、ほぅ、と息をつくリザ。対して、フィロは、その顔面を蒼白にしてぶるぶると震えていた。
対悪魔用の武器は、作成も困難であるが、その効果も劇的である。現に、フィロの腹部の肉は戻らない。だが、
悪魔の生命力だけはどうやっても抑えようがない。腹部を貫かれた程度では死なない。
つまり、今、リザはやりたい放題できるということだ。それが何を意味するかは、フィロでなくとも分かるだろ
う。
「やだ……いやぁ……。お願い、助けて……」
涙をぽろぽろとこぼし、必死に懇願するフィロのその姿は、男性ならば大いに嗜虐芯をそそられることだろう。
汗と血で濡れた頬は、えもいわれぬ艶めかしさを演出しており、垂涎必至の艶姿、と称しても、何ら差し支えない
ほどだ。
しかし、そんな姿を見ても、リザは全く表情を変えない。むしろ、瞳の奥にある炎を、さらに大きく燃やす結果
となっている。
「自分の嫌がることを人にしちゃいけない、と先生に教わらなかったんですか? いまさら言うことじゃないです
よね、その科白。まあ、こんなことして、私が言える義理でもありませんけど」
吐き捨てるように言い、つかつかとフィロのそばまで歩んだリザは、いきなり平手打ちをかます。一度、二度、
三度。コンパクトにまとめられたそれは、リザの見た目に反して威力は強大である。みるみるうちにフィロの白い
頬は真っ赤になり、痛々しい輝きを見せる。
子供をしかるように頬をはたかれ、フィロは幼子のように、ぽろぽろと涙をこぼす。保護欲をわき立たせるであ
ろうその姿を見ても、リザは何の感慨も湧かず、無機物のように揺らがず、言葉を紡ぐ。
「ここで、どこぞの物語ならば、あなたを逃がして、強くなったあなたに私がやられるのでしょうが」
それは、もはや作業だった。リザの言動も、行動も、全て作業的であった。何の熱も入っていない、石ころじみ
た姿のリザ。それこそが、フィロの恐怖を最も刺激する要因だった。
「現実は、そうはいきません。実戦で負けるのは、死と同義ですから」
「やだぁぁ! 死にたくない! お願い、やめてぇっ!」
「いや、私、初志貫徹という言葉が大好きでして」
「あの子のことは謝るからあぁっ! ……あなたが、あの子の友達なのは分かったから。お願い、やめてぇ!」
すんすんと鼻をすするフィロの言動は、勝手も勝手だが、情が深い者ならばころりと許すのかもしれない。もし
も、寛大な心を持つ者だったら、説教のひとつやふたつで済ませるかもしれない。
だが、リザは悪魔である。それも、初志貫徹という言葉が大好きな。極端な話で言えば、リザは死刑推奨派であ
る。懲役なんぞ考えない。囚人が更生する可能性を、はなからゼロと決め付けている。それは、正義の味方や勇者
や英雄にあるまじき考えなのかもしれないが。
「正義を語る気はありません。理由づけをする気もありません。私は、あなたをただひたすらに蹂躙する。それだ
けが目的です。どんなに精神的な理由や要素があろうとも、物的事象には影響しません。私は初志を貫き通す。た
だそれだけです」
ことここに至り、ようやくフィロの方も事情を察することが出来た。よもや、よもやよもや、リザが悪魔とは思
いもよらなかったのである。何故ならば、悪魔らしい、びりびりと肌を刺すような殺意と敵意、敵愾心や暴力性、
それらが全く感じられなかったからだ。
しかし、彼女は思い違いをしていた。リザは、今まで『人間らしくふるまっていた』だけだったのである。その
暴力性を、闘争心を、攻撃性を、理性か何らかの精神的な防壁によって、抑えこんでいただけの話だったのだ。つ
まり、フィロは、竜の巣穴に手を突っ込んでしまったのである。愚行、まさしくそれは愚行であった。
しかし時は戻らない。ようやく、フィロは、自分と同族の――それも自分よりはるかに強い――存在の逆鱗を、
いじり引っかき唾吐いた、ということを悟った。
「さあ、悪魔のおあそびに付き合ってもらいますよ、悪魔様?」
皮肉たっぷりにそう言ったリザは、つかつかと歩んで、フィロから距離を取り、右手を広げて集中し出した。
同時、その小さな五指の付け根から、どどめ色の霧が発生する。
フィロの顔は凍った。見覚えのあるその霧は、冥界の生物を召喚する際に発生するそれだからだ。ただ、規模が
フィロとは全く違う。段違い、いや、格違いである。濃霧のような規模のそれは、またたく間に、リザを、フィロ
を、木々を、森を覆っていくのだから。
このような規模の霧を発生させることが出来る悪魔など、フィロは知らない。だからこそ震えが止まらない。目
の前にたたずむリザが、その無機質な姿が、この上なく恐ろしいと彼女は感じていた。
「なんで……なんでこんなに!? なんでこんなことが出来るのに、人間と……!」
何故、人間風情と友人なのだ、という言葉を飲み込むフィロ。だが、それはリザの瞳に察知された。それに怒る
でもなくあきれるでもなく、ただ静かにリザは、霧を生み出し続けながら言う。
「私、長いものには巻かれるんですよ。だって、私は絶対、人間には勝てませんもの。だから人間に溶け込み、人
間をまねして生活していましたが……、まあ、情が移ったんでしょうね」
情、というものを語る瞬間だけ、リザは少しだけ目を細め、石ころの雰囲気を霧散させた。が、それも一瞬のこ
と。すぐに、氷のような鉄のような空気を発生させる。
「そりゃあ、悪魔の力を使えば目立つでしょう。力を誇示することが可能でしょう。だから嫌なんですよ」
溜息、ひとつ。
「目立つのは嫌です。力を誇示するのも。思うがままに暴威を振るい、暴力を振るい、つかの間の充足感を得たと
しても、いつか自分より強い者に殺されることでしょうから。私なんぞを片手であしらえる輩なんて、それこそ、
ごまんといるでしょう。私のようなザコは、小さな町で昼寝しているのが似合いなんです」
では、その、雑魚たる彼女に負けた自分はどうなのだ、とフィロは思った。
完敗、という言葉すら生ぬるいほどの敗北。こちらが放った雷はひとつとして通らず、対して、リザの放った蛇
腹の拳打はこちらの五臓六腑を痛めつけ、骨肉に悲鳴を上げさせ。どう、と自分が地に倒れ伏した瞬間に見えた、
リザの神々しくすらある可憐な姿を、フィロは生涯忘れることはないであろう。
憎悪を覚えるほどに美しく。怨恨を覚えるほどに凄艶で。殺意を覚えるほどに可憐な。その、リザの姿を。傷ひ
とつすらない、絶世の美貌を。
「私はただ、のんびりと生活したいだけなんですよ。おしゃべりと惰眠が恋人ですから」
そう言って、リザは――笑った。
その笑顔は、まるでひとつの絵画のように、美しく、凄艶で、同時にまがまがしくもあった。内なる黒い炎を、
笑顔という名の牢獄で閉じ込めているかのよう。にじみ出る悪意と憎悪と怨恨の色彩は、まさしく皆、同じような
所感を抱くことだろう。
恐ろしいほどに綺麗な笑みだ、と。
「ぅあ……ぁあ……」
崩れ去る。がらがらと。フィロの矜持が、瓦解する。
彼女が今まで生きてきた全てが。彼女が形づくってきた、己だけのルールが。
「自分なんて、この世界の中で生きる、無能なひとりに過ぎません。誰かに料理を作ってもらって、誰かの作った
家に住んで、誰かがデザインした時計を使って。太陽と月の恩恵を受け、朝と晩を確認し、生活サイクルを形成す
る。間接的に、私たちは様々な人たちの、自然たちの、様々な恩恵を受けて生きているんです。
……なんですか? もしかして、自分ひとりで何もかも、なんでも出来ると思っていたんですか? 私が言う権
利はありませんが。……ずいぶんと盲目的ですね、それ」
リザは、瞳に浮かばせた光を色濃くし、残る左手で器用にふところからぬいぐるみを取り出し、装着する。その
不細工なワニのぬいぐるみの姿さえも、今のフィロには、矜持をへし折るための刀剣類にしか見えない。何故なら、
そのぬいぐるみは、リザの絶対優位性を物語る、明確な証だからだ。
「私は弱いんですよ。ヘボで、駄目女で、身勝手で、どうしようもないほどに価値の薄い存在です」
自嘲の言葉ではあったが、確認の言葉でもあった。リザは、自分に言い聞かせるように、言った。
「そんな私が出来ることなんて、少しだけ。薬を売ること、腹話術をすること。……暴力を、振るうこと。それく
らいしかないんです。それくらいしか、出来ないんです。幼子を庇護できるわけでもなく、誰かの望みをかなえら
れるわけでもなく。悪魔は、所詮、悪魔なんです」
歌うように、なめらかに語るリザを見て、フィロはぶるぶると震える。それは、単純な恐怖ではない。
彼女を彼女たらしめていた、悪魔の力。それを真っ向から否定され、自意識そのものが揺らいでいるのだ。物理
的にも、精神的にも、追い詰められ、いつの間にやらフィロは足すらも震わせていた。
やめろ。それ以上言うな。それ以上言ったら。
世界が。私の世界が。私の矜持が、アイデンティティが、すべてが。
そう考えつつも、リザに痛めつけられた彼女の心と体は、動いてくれない。
フィロの身は動いてくれない。指一本すら、微動だにしない。
そんなフィロを嘲弄するかのように、リザの左手に装着されたワニのぬいぐるみが動く。がぽがぽ、と癇に障る
音を立てて、アゴを動かす。その一連の動作すら、今のフィロの心のひびを広げるには充分過ぎた。
「リザっちだって、色々な人間に助けられて、どーにかヒィヒィやってんのさっ! 感謝こそすれど、蔑むいわれ
なんて、寸毫微塵たりともねーよなァ! 人間様のおかげで、なんとか助かってんだぜぇ!?」
そのぬいぐるみを追うようにして、リザは、わざとらしく盛大な溜息をつく。
「まあ、料理の才能が壊滅的にないですからね、私。おお情けない情けない」
ざん、と音を立てて、リザがフィロに一歩近付く。右手からどどめ色の霧を出したまま、左手にぬいぐるみをは
めたまま。そのちぐはぐな、滑稽ですらある姿さえ、フィロにとっては心に絶望しかもたらさない。まさしくそれ
は悪魔。そう、悪魔の姿だった。
「いや、やめて、やめて……」
また一歩、近付く。リザとフィロの距離が、縮まる。
「暴力は暴力で、というのが自然界の基本ですけれど。社会という共同体を形成した人間たちは、同族殺しを禁忌
とし、様々な糸を形成しました。絆、信頼。それはとても細くもろく、愚かしさのみで形づくられたものでしょう
けれども……私たち悪魔は、そんな愚かしい糸に、負けたんですよ」
また一歩。さらに一歩。
「皆が皆、綺麗な人間じゃありません。腐った残飯のような人間だっています。人は裏切る生物です。信頼をゴミ
のように捨て、自分だけが甘い汁をすすり、それによって恨みを買った人間に殺されても、理解すら出来ない人間
なんて、ごまんといます。それでも、ね……、私みたいな駄目女を、慕ってくれる人間もいるんです」
詰める。歩いて距離を詰める。
「私は、負けてしまいました。人間たちに、負けてしまいました。社会面で、生活面で、精神面で、色々な面で助
けてくれる友人たちの『親切心』に負けてしまいました。でも……、とてもとても、清々しかった。人間に負けて、
とてもとても、嬉しかった。そんな経験は初めてで……それでいて、最高の気分でした」
斟酌の間に縮まる。
「人だけではありません。悪魔だって、ひとりでは、生きていけないんです。月並な言葉ですけど」
リザは、そっと左手のぬいぐるみをフィロの眼前へと伸ばす。ぱこぱこ、と音と立ててアゴが動く。
次いで、ひと呼吸おいて、決定的な言葉を、
「そんなことすらも気付けねェから、テメェは、リザっちみたいなザコより」
ぬいぐるみと一緒に、
「弱いんですよ」
言った。
――フィロの世界は、崩れた。
「う……」
金髪の悪魔は、うつむく。それと同時、リザが彼女から距離を取る。何か、爆発するだろうと踏んでだ。
「うるさい! うるさいっ! うるさぁぁぁぁい! 黙れぇぇっ!!」
案の定、と言うべきか。砕け散った矜持を認めたくないため、八つ当たり気味に絶叫するのは、リザの想定の範
囲内である。フィロのもつ、驕慢をへし折り、その傷口を蹂躙することを目的としていたが、この様子ではそれも
無理なのかもしれない。叫ばれ続けて終わりであろうから。
目的は、半分達成といったところか。そう思いながら、リザは、次の目的を頭の中に浮かばせる。その準備は、
ほとんど終了している。
「嫌です。どうせ黙るのは、あなたの方でしょうし。私、別にあなたに意見を同じくさせたいわけじゃないので」
「何を……?」
フィロの質問には答えず、リザは右手に力を込めて、五指をぶるぶると震わせる。
「冥界生物召喚術の際に発生する霧は、実のところ、認識疎外の能力があるんですよ。勿論、人間が頑張れば、す
ぐさま壊されますが。……ご先祖様は、この秘奥を、他の種族に見つかることを恐れたんでしょうね。なんだかん
だ格好つけたこと言ってたくせに、内心ではビビっていたんですよ。おお情けない情けない」
リザがそう言うかたわらで、フィロは悔しさのあまり歯を食いしばり、ぎりぎりと音を鳴らしていた。
ふざけたその口調とは裏腹に、リザの右手からほとばしる紫の濃霧は、恐ろしいほどの集中力で練られたそれで
ある。フィロの召喚術が、子供だましとしか思えぬほどに濃厚な霧。それが、両者の力量差を如実に物語っている
ようでもあった。
だからフィロは歯噛みする。白木の杭に腹部を貫かれ、その能力をほとんど封印されても、なお。それはリザへ
の抵抗の心があらわになったものであろう。
だが。悪魔は、傷口を踏みつけ、えぐり、蹂躙することに迷いはない。
「……お願いします。とあぁーっ」
気の抜けるかけ声と同時、リザは、その右手を地面に叩きつける。ばしん、と豪快な音が鳴ると同時に、リザの
手を中心に、旋風が渦巻き、周囲の木々をざわめかせる。霧はなおのこと濃くなるも、周囲の景色は揺らがず。吹
き荒れる風と、吹き荒れる濃霧。
ほどなくして、風は止む。霧は濃さを取り戻す。
「力を貸してください。報酬は払います」
フィロが瞠目するかたわらで、リザは背後を振り返りながらそう言った。
そこにいるのは、黒い体躯の男たち。身長は、リザと比べれば子供と大人ほどの差があり、身を包む筋肉も厚い。
腕は太く、足も太く、股間の生殖器も勃起すらしていないのに、かなりの大きさである。しかも、男たちの背には
皆、一対の翼が生えており、顔立ちも皆違う。口からはちらりと牙が見え、さながらそれは、絵本で描かれている
『悪魔』そのもの、といったいでたち。
数にして七。屈強な男たちのその姿は、妙な威圧感すらある。リザの小さな姿が、これ以上ないほど脆弱に見え
てしまうほどに。
だが、男たちはリザの姿を見るなり、そろってひざまずく。まるで王に忠誠を誓う騎士のごとく。そんな光景を
見て、フィロは顔をしかめた。
悪魔だけが使えるこの召喚術は、術者の力量によって、現れる生き物が違う。姿やかたちは同じでも、理性があ
るのとないのとは別物のように。リザのそれとフィロのそれとは、天と地の違いほどあった。それがフィロのへし
折れた矜持を、さらにさらに踏みにじる。
「報酬とは?」
「仕事と兼用です。私の後ろに、力を封じられた悪魔がいます。彼女を犯してください」
「……いいな、それは。簡単で、実にいい」
「引き受けてくれますか?」
「ああ」
事務的に言葉を交わすは、リザと、ひざまずいた男たちのうちのひとり。黒い体躯をうごめかせ、子供にしか見
えぬ容姿のリザと、真っ向から対峙する。
そうして、数秒。男たちがいっせいに立ち上がり、リザの横を抜けていった。
「ああ、あと。彼女、処女なので、なるべく乱暴にヒーメンをブチ破ってください。私は木の陰からのぞいていま
すね。臆病者ゆえ、他者をいきなり信用するとか無理なんで。あと、条件を言い忘れました」
七人全員がリザの横を通り過ぎた際、振り向きもせずに彼女は言う。感情ひとつ入れず、あくまで事務的に。そ
の言葉を受けて、男たちのうちのひとりがリザの背を見、にやりと笑った。
「おお、怖ぇ怖ぇ。さすが悪魔様だぜ。で、条件って何だ?」
軽い口調。そこに敬いの気持ちは微塵もない。だが、それでもリザは全く態度を変えず、
「殺してはいけません。わめいてうるさいようだったら、歯をへし折るなり、腕をねじり切ってそこに焼き串をぶ
ち込むなり、まぶたやラビアを鉋でこそげ落とすなり、どうぞご自由に」
場を凍りつかせる言葉を放った。権利など知ったことか、と言わんばかりに、さも当然のごとく。事務的である
その口調は、しかし、冥界の生物である男たちの肌を粟立たせるには充分に過ぎた。彼我の実力差と脅威を見極め
きれないフィロとは違い、男たちはすぐにリザのありようを悟ってしまったのである。
この女、やると決めたらとことんまでやる悪魔だ、と。
「……あ、ああ。分かったぜ、ご主人サマ」
あまりの言葉に震えるフィロを尻目に、どもりながら男が言えば、リザは髪を指先でくるくるともてあそぶ。
「いいですよ、無理して敬うふりしなくても。精神、壊れかけたら言ってください。気つけ薬と回復手段はこちら
で用意してあります。なるべく、廃人になる前にやめておいてください。治療、結構大変なんで。やばい状態にな
らなければ、いくらでもやっていいですよ。どうぞ精液まみれにしてやってください」
こともなげに放たれた言葉に、今度こそ、この場におけるリザ以外の者が皆絶句する。だが、リザはやはり動じ
ることはない。皆が引け腰になっている事実も気にせず、ぱちり、と指を鳴らして紫の霧をまたも出す。
瞬間、大地から伸びたどどめ色の触手が、木にはりつけとなっていたフィロの四肢へとからみつき、おまけとば
かりに伸びた最後の一本が、フィロの口腔へと飛び込んだ。
「ん゛むぅぅぅっ!?」
イリスの意趣返しじみたその行為に、フィロはもがくも、力を封じられた状態では、触手ひとつ振りほどくこと
すら出来はしない。かつて自分が使役した僕に、抵抗する余地すら奪われる。それはいかばかりの屈辱であろうか。
「すみません、最後にひとつ。杭が抜ける心配はしなくていいですよ。それは、一応、魔法の杭ですので。悪魔が
抜くことは出来ないんです。その触手……ああ、あなたたちはフラクスと呼んでいましたね。それ、一応餞別です。
媚薬効果が浸透した頃合いを見計らって、抜いてやってください」
実は、白木の杭は悪魔を一時的に拘束することしか出来ない。リザぐらいの悪魔ならば、時間さえかければ、そ
の効果をくつがえして、自分で血反吐を飛ばしながら、引っこ抜くことが可能である。ゆえに、あくまで白木の杭
は、心臓を抜いて脳を焼くという作業を確実化させるための道具でしかない。
とはいえど、フィロのような悪魔が引っこ抜けるほどに、聖なる杭は弱くない。抜こうとすれば、全身が痺れ、
指一本動かすことすらままならなくなる。
最後の餞別を終えたリザは、唖然とする男たちを尻目に、ぴょこぴょこと歩き出し、フィロからかなり離れた場
所にある木の後ろへと隠れた。そこから顔を半分、手を半分のぞかせるようにして、フィロの姿を見つめる。悪魔
のえげつなさの本領発揮である。
一方、フィロの方は、もう何も考えられなかった。絶望に次ぐ絶望。それをこれから味わうのである。口に入れ
られた触手から漏れ出る粘液は、すでにフィロの全身に回り、媚薬の効果を十二分に発揮していた。おまけに、白
木の杭だけでも拘束は充分であるのに、四肢をも拘束するそのえげつなさ。
股間がうるみ始め、背は震える。だのに自慰すらすることも出来ず、そんな彼女の眼前に、屈強な体躯の男たち。
「ぃ、ゃあ……」
弱々しく声を出す。大声を上げないのは、先程のリザの残虐発言が原因である。あの悪魔ならば、口にしたこと
を容易に実行するであろう。それも、表情ひとつすら変えずに。
フィロのみならず、男たちもそれを分かっている。だから男たちは、満身創痍のフィロを見て、にやにやと下卑
た笑みを浮かべてばかりいる。所詮、悪魔に召喚される者だ。嗜虐心のひとつやふたつ見せたところで、なんら違
和感はなかろう。
「悪いな、お姉ちゃん」
「仕事は完遂しなくちゃいけないんだ」
「そうしないと、そこのご主人にどやされそうだからな」
好き勝手なことを言う男たちを見て、フィロは、現実逃避を始めつつあった。
なんだこれは。一体、どうして私がこのようなことになっている? 私はあの女の子を殺した。ああ殺した。だ
が、誰とて生きるために殺しているではないか! 何故、私がこんな目に遭わねばならない? 何故、私でなけれ
ばならない? あの、リザとかいうクソ生意気な偽善者のせいでこんなことになっている。何故だ? 何故にこう
なった? もう分からない。何も分からない。
などという考えをしていたフィロだが、唐突に引き抜かれる触手の感覚と、引っぱられる髪の感覚に、現実逃避
すら中断された。
腹部の傷は、じんじんと彼女に強烈な熱を与えている。だが、気絶するほどではない。しかし、髪を引っぱられ
れば、そちらの方に頭が行き、同時に身じろぎもすることになる。すなわち、傷口が、広がる。
「痛い痛い! いだい゛ぃぃぃっ!? やめてぇぇぇぇぇっ!?」
「うわ、三人寄らなくても女ってかしましいんだな」
「なんだその格言。……ほれ」
「むぶう゛ぅぅぅぅっ!?」
四肢を拘束され、傷口を広げられたフィロは、髪を引っぱられているせいか、丁度おじぎをするような体勢でい
る。そんな彼女の口に、男たちのうちのひとりが、勃起したピナスを突っ込んだ。へそに届こうかというほどに怒
張したピナスは、やすやすとフィロの小さな口の中に収まる。
そのまま、上下運動。二メートル近い男のピナスは、身長に比例するかのように長い。生まれて初めて体感する
イラマチオの感覚に、フィロの脳はかき回されつつあった。獣の濃密なにおいが口腔内を蹂躙するうえ、のどの奥
に鋭い痛みが断続的に走り、おまけとばかりに呼吸すら困難になるのである。
リザの暴力とはまたベクトルの違った暴力に、フィロは折れそうになっていた。涙をこぼし、嗚咽を漏らそうと
するも、圧倒的な質量の肉棒に精神と肉体を蹂躙される。
畜生、畜生! そんな思いがフィロの心の中を埋め尽くす。もしもリザにやられていなければ、万全の状態であ
れば、こんな厄介な杭などなければ、こいつらを消し炭にすることなど造作もないのに。そんな、悔しさと怒りの
混じった思いが、かろうじてフィロの精神を支えていた。
やがて、強制口腔奉仕は終わりを告げる。男の腰が震え、オルガスムスの奔流が、フィロの喉に叩きつけられる。
いがいがするような感触が走ると同時、強烈な生臭さに、フィロはえづく以外の選択を取れない。
「げほぉぉっ!? がはっ、かひ、ぶはぁっ……!?」
「あーあー、吐き出されちゃってんじゃねぇか」
「ご主人が処女って言ったけど、信憑性高そうだなあ」
「というより、俺もう、会ったばかりなのにご主人に勝てる気しねぇ」
「言えてる。というより、あれは本気で怖い」
息苦しさと屈辱と怒りに震えるフィロを尻目に、冥界の男たちは揃って勝手な言葉を並べ立てる。フィロは、目
から涙をぼろぼろとこぼし、ただ間の抜けた呼吸音を漏らすだけ。イラマチオ一回で、気力も何も、根こそぎ吸わ
れたような感触を、彼女は味わっていた。
だが、敗北者に休む暇などはない。男たちの太い腕が伸びる。ひとつは右の乳房に、ひとつは左の乳房に、ひと
つは秘所に。初めて男性に触られるという感触に、フィロはおぞましさを覚え、身じろぎするも、またも口に男根
が突き入れられ、言葉すら発することままならぬ状態。
胸を揉まれ、股間をいじられ、奉仕を強要され、フィロはあまりの感覚に暴れようとするも、腹部の傷がそれを
許さない。巨木に背を預けるかたちで、フィロは思うがままに蹂躙されていた。媚薬で昂ぶったその女体は、すで
に男を受け入れる段階にまで来てしまっている。
「ん゛んーっ!? ん、んむ、んむぅぅぅぅ!?」
いっそのことピナスを噛み切ってやろうかとフィロは考えるも、そうすればリザに拷問されかねない。鉋で自分
の敏感な部分を削り節にされる図を予想し、フィロは恐怖で身を縛られる。
ドレスが破られる。勃起したニプルをいじられる。皮のかぶったクリトリスを指で押しつぶされる。的確な性感
帯の攻めを受け、フィロはくぐもった声でひたすらあえぐ、あえぐ。どう抵抗しようとも、快楽に流される未来予
想図しか、彼女の脳には浮かばない。それがまた、絶望感を深くさせる。
痩身のフィロの姿は、今や、男性ならば正視できぬほどに艶やかだった。粘液まみれの四肢は、細く長く、引き
締まり。その折れそうな腰に反して、乳房は豊かで、幼児体型のリザとはもはや違う生物のよう。涙と血液にまみ
れた腹部は、杭が刺さり、桃色の肉がはみ出ているが、それも妙な嗜虐心を湧き立たせる。
並の男性ならば、直視した瞬間に射精してもおかしくはなかろう。屈辱と怒りに震える彼女のかんばせは、妖艶
ですらあった。
森の中、腹部に杭を打たれたまま、男たちに輪姦される。フィロがそんな未来を予想していなかったのは仕方が
ない話なのかもしれない。だが、彼女は気付くべきだった。誰かを殺した際、その知り合いの恨みを受ける可能性
があるということを。その知り合いが、自分を絶望のふちに叩き落とす存在となり得るかもしれない、ということ
を。しかしもう、それは詮無い話であった。
おぼろな意識で、フィロは顔を上げる。その先に見えるは、木を壁にして、輪姦劇の一切合切を観察するリザの
姿がある。そう、観察している。リザは、フィロが犯されるという事実にすら、作業の一工程に組み込んでしまっ
ている。それは、色のない彼女の瞳を見れば、即座に分かるであろうことだ。
おまけに、リザは諸手に翡翠色の光をまとい、いつでも迎撃体勢に移れるように準備している。恐らく、この場
で彼女を襲おうとした者がいるのならば、次の瞬間には不恰好なミートローフにされているに違いない。
その『臆病者』の姿を視認しつつ、フィロは内心で歯噛みする。
今は陵辱を甘んじて受けているが、隙をつけばどうにかなると彼女は考えていた。だが、その希望は今や霧散し
ていた。今のリザの警戒度合いは、フィロと邂逅した際のそれよりも、はるかに上だからである。怯えて、怖がり、
しかし隙を見せず。
木陰に隠れるリザの姿は、誰がどう見ても、格好悪い以外の何物でもなかった。だが、そのようにあおられたと
しても、リザは眉ひとつ動かさないであろう。死ぬよりましだ、と彼女は言うだろう。どんなに格好をつけたとし
ても、死ねばその時点で全てがなくなる。
それを知っているからこその臆病度合い。フィロは、脱出経路が完全に封鎖されたことを悟った。
「うぐっ……!?」
いきなり口からピナスを抜かれ、フィロは目を白黒させる。あらんかぎりの罵倒をぶつけてやろうかと彼女は思
うも、リザの脅しが効いているせいか、それも出来ない。ただ、悔しさと怒りに涙し、それでも駆け上ってくる快
楽の波を甘受することしか出来ない。
どうして口からモノを抜いたのか、と問おうかとした瞬間、みぢみぢと彼女の股間に痛みが走る。
もしかして。
そう思い、彼女が自らの秘部を見ると、そこには硬く、赤黒い男根が光っており。唾液と粘液にまみれたそれが、
濡れに濡れたラビアに接触したかという瞬間。
「う……ぁぁああぁぁぁあぁぁあああっ!?」
矜持をへし折られた悪魔は、この陵辱劇が始まってから、かつてないほどの大声を上げた。
苦痛と怨嗟の叫び声であった。
暴力的ですらあるサイズのピナスは、フィロの華奢で小さな身を貫いていた。それは、さながら串刺しのごとく。
腹には白木の杭、膣には赤黒い男根。図らずとも苦痛の二本挿しの体で蹂躙される彼女の瞳は、腰を一振りされる
たびに、目からその灯火の規模を小さくさせつつあった。
気持ち悪い、気持ち悪い、痛い、痛い、気持ち悪い、なのに何故全身は快楽を訴えるのか? などという思いに
彼女がとらわれていれば、
「ふぁっ……!」
あえぎ声。甘く、空を指で撫ぜるようなそれが発せられるは、彼女の口元から。
「違う……! ちがうぅ……! ゃ、私、かんじ、てなんかああぁぁぁっ!?」
貫かれた場所を高速で抜き差しされ、秘部からどろどろと粘性の高い液体を、彼女は流す。膣が鳴いている。流
れる液体、血液はもはやほとんど流れず、ピナスが上下にうごめくたびに、きゅうきゅうと彼女の性器はぜん動を
くり返す。
彼女自身が意図せずとも、子宮はうずき、膣はリズミカルに挿入された棒を締め上げ、徹底的にしごき上げる。
全身を走る甘い痺れに、彼女が翻弄されるのはいたしかたない話だったのかもしれない。三大欲求は、悪魔の驕慢
すら忘却せしめる。
「んぁぁっ!? やあぁあぁぁぁ熱い、あついぃぃぃっ!?」
貫かれる。精を膣の奥に叩き込まれる。ピナスが抜かれる。また新しいピナスが入れられる。同時始まるピスト
ン運動。的確に膣奥をごりごりと攻められ、まるで小娘のごとくひいひいと鳴く。
犯され続けるフィロ。その時、彼女はリザと目が合った。時間にしてみれば本当にわずかな間かもしれないが、
それでも、フィロはとらえてしまった。リザの唇が動き、声なき声が伝わってしまった。
「淫豚」
その言葉の意味を理解した瞬間、フィロは――堕ちた。
「あふぁぁぁぁぁっ!? そんなとこ突かないで、突かないでぇぇぇっ!?」
「いや……イく、またイくぅぅぅぅっ!?」
「やだ、やめ、今入れられぇぇぇぇぇぇぇぇっ!? ぴぃ゛ぃっ!?」
「や゛あぁぁぁぁぁッ!?」
一体、どれだけの時間が経過したのだろうか。挿され、口内奉仕を強要され、白い精を胎内や体内のみならず、
その美しい肢体にもぶちまけられ。腹部の傷もどこ吹く風、と言わんばかりに、金髪の悪魔は快楽に流される。心
がこばもうとも、流され続ける。
空が夕闇に支配されそうになったその瞬間、ぜいぜいと荒い息をくり返し、がくりとフィロが脱力する。それが、
明確な終了の合図だった。今の彼女は、様々な液体で無事なところはなく、いたる場所にすり傷をこしらえ、精液
によって全身を白く染められている。
粘液と血液は腹部を中心として広がり、その膣からはぼたぼたと大量の白濁液が流れ、木の根や茂みを醜く汚し
ていった。
哀れ。そんな一言が似合う敗北者の姿を一瞥、男たちはきびすを返し、リザの方へ視線をよこす。
「いい仕事でした。今、還します。しばしお待ちを」
木陰から出もせず、白銀の髪の悪魔はそう言い、右手から濃霧を発生させる。それが森を包むまでにかかる時間、
しばし。そんなわずかな時間のなか、リザは表情も変えず、態度も変えず、木に身を隠したまま言う。
「意外でした。途中で裏切って、私もろとも彼女を犯すと思っていたんですが」
とんでもない言を受けて、男たちは苦笑する。この依頼主は、最初から最後まで全く変わらないな、とでも言い
たげな表情だった。
「アンタ、絶対に油断しないだろ? 俺らだって無駄なことするのはごめんだからな」
「ぐげげ、そう言われると何も言えませんね、こちとら」
「まあ、アンタ自体は嫌いじゃなかったぜ。暇ならまた呼んでくれや」
「絶対に嫌です。いつか不意打ちで襲われそうな気がします」
「つれねぇなあ。本当、隙のない悪魔様だ。じゃあな」
やたら友好的に言葉を交わしたのち、男たちは、リザの発生させた霧の中に紛れ、消えていった。正確には、も
ともといた場所に、還ったのである。術の成り行きを見守り、しばし様子を見たのち、リザはやっとのことで木か
ら離れ、その身を躍らせた。
そのままつかつかと歩き、白濁液に全身を染めた、あわれな敗残者のもとまでリザは近付く。全身をびくんびく
んと振るわせた美女は、うつろな瞳でリザをねめつけた。理性の光は、消えていなかった。
「リ……ザ……!」
「あら、はじめて名前で呼んでくれましたね。嬉しすぎて、いやらしい液体がいっぱい出そうです」
「こ、の……クソ、ガキ……!」
「いや、この局面で憎まれ口を叩ける時点ですげぇですよ、あなた。そこら辺は尊敬します」
もはや、ことここに至っては、フィロの気丈な姿もみじめさを増す結果にしかならなかった。先程まで快楽にあ
えいでいた、という引け目もあるのだろう。いくら強気でいても、フィロはもう、折れていた。
そんな哀れな彼女の姿を見て、リザもそろそろ拷問をやめる、などということには全くならない。
彼女は、やると決めたからにはとことんやるのだ。
「長らく私に付き合ってもらい、ありがとうございました。それでは、最終段階に入ります」
「え?」
「拷問は趣味ではないのですが。過去の悪友に、ちょっとやり方を聞きまして」
「まさ、か」
そのまさかである、などと答える間もなく、リザはこぶしを前方へと突き出した。同時、めぎょり、と肉が曲が
り、ひしゃげ、たわむ音が聞こえる。リザのこぶしはフィロに届いていない。だが。
フィロの頬には、赤黒いあざが刻まれていた。
「ぐぅっ……!?」
「どんどんいきますよ」
拳打を放つと同時、その衝撃をピンポイントで離れた相手に与える攻撃。リザが用いたのはそれである。これも
児戯に他ならぬであろうが、こういった拷問をやる際には、威力的にも範囲的にも丁度良い。
打つ、打つ、打つ、打つ。手加減しているとはいえ、悪魔の膂力で放たれた衝撃波は、成人男性の蹴足に勝ると
も劣らない。一発ごとにフィロの頬に、腹に、腕に、あざが刻まれ、肌に付着した体液が舞う。何度も何度も何度
も、単純な暴力によって、フィロは痛めつけられた。
吐瀉物は口から垂れ流しになり。股間からは精液のみならず小便すら漏らし。嘔吐、失禁、という屈辱を味わわ
されながら、単純な暴力でめちゃくちゃにされる。
「がぎぃっ!? げばァ!?」
「最後です。アストの分、どうぞ」
数十発放たれた拳打よりも、やや力を強めた一撃が、フィロの腹部の傷を正確に狙って放たれる。命中と同時に、
彼女は口から血を吐き出し、絶叫した。
もはや金髪の悪魔の美貌は、欠片ほども残っていなかった。顔は、どこぞの岩壁のようなありさまとなり、はた
から見るだけでは顔面であるかどうかすら判断に困るほど。全身も無事なところはほとんどなく、吐き出したもの
の臭気も相まって、そこはさながら地獄絵図である。
しかし、それでもリザは鉄面皮を崩さない。作業だからである。目的を完遂するための工程に、一喜一憂しては、
手間がかかって困るからだ。
「さて、大詰めですね」
ぱちり、と音を立てて、リザが刃物を取り出した。刃渡り十数センチメートルの、どこにでもあるようなナイフ
である。エプロンドレスから取り出されたそれは、どこの家庭にあってもおかしくないであろうものだが、この局
面においては、フィロの心を恐れさせるだけ。
「ひっ……!」
「いやですね、そんな目に見えて怯えないでください。悪魔でしょう? 悪魔なのでしょう? 私たちは、こんな
ナイフよりもより殺傷力の高い攻撃手段を、いくつも持ちえているでしょう?」
にじり寄る。鉄面皮のリザから発せられる気味の悪さは、ここに来て頂点へと到着した。悪鬼羅刹のごときその
姿は、フィロの股をゆるめ、再度の失禁をさせるには十二分だった。
「悪魔は……、本当の悪魔は、あなたよ!」
だが、それでもフィロは叫ぶ。それは彼女に残された、最後の矜持の残滓だったのかもしれない。
しかし、それすら。
「そんなに褒めないでください、照れちゃいます」
リザは切り捨てる。
瞬間、銀光が舞い、鮮血が飛び散った。
小さなナイフを手にもって、片手で放ったリザの梨割りは、しかし、頭部を切り裂きはしなかった。縦一文字の
銀閃は、愚直に、ただ愚直に地へと走り、その過程として破壊の爪跡をフィロの身に残す。
リザの放った一閃は、フィロのひたいを、左目を、左の乳房を、わき腹を、太ももを、一気に裂いた。
「びゃ゛ォ゛げゃ゛あ゛あ゛ぁア゛アァァァァァァァぁぁぁぁ゛ッ!!?」
大絶叫。左半分の視界と光を奪われた、哀れきわまりない敗残者は、喉から血が出るまで絶叫した。
血が噴き出る。どろどろと命の水がこぼれ落ちる。白いものが桃色の肉の隙間から垣間見える。ぬべり、と粘着
質な音が空気を震わせる。ナイフの先端に、帯がひっつくようにして、なびく薄黄色のゼラチン質。
白濁液にまみれた乳房にぱかりと切れ目が入り、腹部からは脂肪と内臓がわずかながら垣間見える。割れたもも
の隙間からは、血液にまみれた薄桃色が、綺麗に飛び出てぷるぷると震える。
凄絶、と称して良い様相であった。だが、しかし、リザは、それでも動じない。
悪魔である。鮮血と精液の付着したナイフを一振りし、それでも氷のつらを崩さないリザは、悪魔そのものであ
る。まとうエプロンドレスの泥臭さが、逆にその恐ろしさを助長させる。
ナイフを握る手がまた動く。今度は、刺突の体勢。そのまま、フィロの肋骨付近へ、ゆっくりとナイフを刺して
いく。ゆっくり、ゆっくり、上下に『うっかり』大きく動かしてしまいながら。
「ぎぃぃぃぃぃっ!? いいい、いいい、い゛い゛い゛い゛っ!?」
「私、刃物はあまり使ったことないんですよね。だから打撃専門なんですよ」
「抜い゛で抜い゛でぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
「あ、秘密言っちゃいました。べ、べつにあなたのためじゃないんだからねっ」
超絶的な棒読みでそう語るリザの前には、鮮血を流しながら、もはや何の生物かと判断すら出来ない顔で、泣き
叫び、絶叫するフィロの姿がある。ふたりのその姿は、恐ろしいほどに醜悪で、おぞましいほどに美しい。
が、そんな第三者的事情は、フィロにしてみれば知ったことではなかろう。今まで受けてきた傷は、その全てが
打撲だった。だが、刃物による痛みは違う。それは、内側からにじみ出るような痛みとは違い、瞬間的でありなが
ら、強烈な、雷光のごとき性質の痛みなのである。
リザはナイフを抜くと、また新しい場所にナイフをゆっくり突き入れる。そのままかき混ぜ、また違う場所をも。
常人ならばとっくに死んでいるだろうが、拷問を受ける側は悪魔である。なまじ生命力が強いだけに、拷問時間を
延ばす結果となったのは、皮肉としか言いようがない。
ナイフを動かす手を止める。血まみれのフィロがリザの眼前で息を漏らす。ひゅうひゅう、と。
「……おね゛、がい、でずがら……やめ、て」
「敬意のない敬語を聞いて、初志を変更する気にはなりません。寸毫微塵たりとも」
鋭く切り捨て、また刺突。また絶叫。いつ終わるとも知れない、地獄の宴。
しばし続き、またもリザが手を止める。その瞬間、フィロの口がわずかに動いた。
「ころ、して」
耐えられなかったのである。このまま死ねたらどんなに楽か、という拷問に、フィロは耐えられなかった。それ
はそうかもしれない、と冷えた心の奥でリザは思う。自分とて、このようなまねをされたら、すぐに根を上げてい
るだろうから。
死が救済となることとはごまんとある。長らく与えられる苦痛より、一瞬の苦痛で終わらせる方が、どれだけ楽
か。それぐらいはリザも察している。
「殺して欲しいんですか?」
「はい……! はい゛っ……!」
一も二もなくうなずくその悪魔の姿には、もはや思いあがりだの驕慢だの、そういった言葉とは一切合切関係が
なくなってしまっている。哀れも哀れ、その姿は、誰の目にも憐憫をもよおすものであったろう。
だから、リザは大きくナイフを握った手を振りかぶり。
思い切り。
肩を動かして。
「お断りだ、ぼーけ」
『うっかり』フィロの右乳房に突き立てた。
絶叫が、夜の森を支配した。
数刻後。
巨木にはりつけにされた肉のかたまりが、どろどろと赤黒い液体を流している。もう、それは未来永劫動くこと
はなかろう。
虫たちの声と、鳥たちの声が戻っている。木々のざわめきと、柔らかな風が、肉塊から伸びる金髪を優しく撫で
た。こんな時でも、自然は、皆に優しい。
ぱたぱたと音がする。
白銀の髪を流した女性が、右手に竹筒を持って肉塊に近付いた。左手で、肉から白木の杭を抜き、それに竹筒の
中身をぶちまける。それは、ただの水だった。
洗浄を終え、女性は、木によりかかる肉に右手を向けた。
ぱん、と音がして、肉塊から脳髄がえぐり出される。
次の瞬間、それは赤い赤い炎に包まれ、やがて消えていった。
悪魔が、ひとり、死んだ。
悪魔が、ひとり、殺した。
柔らかな風が、悪魔の頬を撫で、木々を撫でた。
その小さなざわめきは、まるで、夜空が発した慟哭のようだった。
投下終了。
ハイパー主人公タイムリローデッド、終了。
えげつない表現はこれで最後です。
次回の投下で終わりです。エピローグです。
もうちっとだけ続くんじゃ。
GJ!あなたが神か!
リザかぁいいぜ……
まだエピローグが残っているが・・・・・・・
リザの今後も猛烈に気になる。いい悪魔だ誰か絵にしてくれ。
投下します。
それと、また、許されない誤字……。
>>129の6行目最初、『イリス』じゃなくて『リザ』ですね。名前間違いは酷すぎ。
誤字チェックはしているのですが、それでも見落としがありました。
これも私のアホさゆえです。深く謝罪します。
ではエピローグ、どうぞ。
あの凄惨な事件から、十数日が経過した。サーリアの町は表面上こそ平静を取り戻したが、時折、人々の顔に暗
い色が落ちる事実は否定しきれなかった。
凄惨な死体。陵辱の爪跡。遠く離れた森で、大量の血液が飛び散っていたという自警団の情報と、町に再び凶刃
が来ぬという理由から、町人たちは、この事件を終わったものと認識した。
いや、終わった、と認識したかったのだ。それだけ、あの事件は、色々な人の心に、様々な感情を残していった。
イリスの母はいくぶんか持ちなおしたが、やはりその顔に暗い色が差すことは何度もあったし、イリスの父は、前
よりも溜息をつく回数が多くなったという。
イリスの友人である子供らは、彼女の存在を日に日に忘れていった。誰もが皆、忘れていくのは仕方のない話で
ある。明確な死の概念をつかめぬ年齢である子供ならば、それはなおさらの話だ。
そんななか、リザはというと。
「行くのか?」
「ええ。私が、私でありながら、私を捨てるために。……うわ、格好つけすぎですね、これ」
ザックを背負い、白木の杭を腰にさし、旅の準備を始めていた。
リザは、あの事件の起こった日、フィロという名の悪魔を殺した。その工程はあくまで作業的であり、心を凍ら
せて行ったものだが、やはりいくつか穴は空いていたのだろう。
リザは、嗜虐の心と優越感を覚えていた。同時に、小さな闘争本能をも。仕方のない話である。悪魔は、元来、
闘争本能や嗜虐心に基づいて行動する生き物だ。リザが平穏を愛するのは、あくまで、意地になってでも人間に紛
れようとした、強情な心があるからこそ。
だが、やはり心というものは不完全だ。どんなに意地や矜持があろうとも、ささいなことで穴は空く。ささいな
ことで心はひび割れ、ささいなことで人は間違いを犯す。それでいて、ささいなことで、誰かは誰かを憎む。
怖かったのだ。全ての『作業』を終えたリザは、いつの間にか、股間を濡らしていた。歩くたびにドロワーズが
ぬちゃぬちゃと卑猥な音を立てた。拷問をして、殺しをして、性的興奮を覚えた。
それは体質のせいであったのかもしれない。だが、事実は事実である。リザの股間は濡れていた。それだけが冷
たい現実だった。
もしかすると、いつか、快楽に流される日が来てしまうのかもしれない。そう考えると恐ろしさを覚え、町の人
と接しても、どこか満たされぬ日々が始まる。イリスを失って、人間でありたいという小さな意地もわずかな規模
となり、あとに残ったのは、悪魔であるという事実のみ。
と、数日前まではリザも思っていたのだが。ある日、思い立った。
たまには受動的ではなく、能動的になってみても良いのではないか、と。
悪魔の本能を沈められる手段がどこかにあるとすれば、行くのも良いのかもしれない。リザはそう思った瞬間、
すでに旅支度を始めていた。
希望はどこにあるか分からない。だが、希望が確実に存在するという理由もない。しかし、最初からあきらめる
のは、時として良いが時として悪い。現状に満足していないのなら、多少乱暴でもどうにかせねばなるまい。そん
な考えを抱き、リザは、己と向き合ってみようと決断したのである。
拠点を捨て、遠くの地を歩み、情報を得、知識を養いながら、生きてみようと決断したのである。
青空が広がっている。小さな風が、ひっきりなしに流れている。暖かな陽光は大地を照らし、建物を、人々を、
全てを照らしていく。
広遠なるアクアブルーのその下で、青年と悪魔は言葉を交わす。
「行くあてはあるのか?」
「はい。とりあえず、世界各地にいる、有名な魔女様や賢者様たちに会ってみようかと」
「信憑性は?」
「ゼロに近いですが……、まあ、このまま怯えて生活するのも嫌なんで、あがいてみようかと」
どこか気恥ずかしげに言い、リザは微笑した。鉄面皮が揺らぐその瞬間は、彼女の眼前にたたずむアストをして、
眉唾ものの出来事だったのだろう。アストは瞠目し、まるで絶滅危惧種でも見たかのように、間抜けな吐息を漏ら
した。
「でも、そんな崇高な理由ばかりじゃないんです。怖かったんです。暴力、振るっちゃいましたから。私が最も嫌
うそれを、私自身で行ったことは事実ですから。どんなに自己嫌悪をしたとしても、罪は罪です」
「罪は消えない。償えない。だから逃げ出したい。そういうことか?」
「……はい。贖罪という逃げ道が封じられますと、ね。怖くて怖くて。私、臆病ですから」
「……本当、不器用だな。でもまあ、お前さんらしいと言えばらしいが」
どこか寂しげに笑うアストを見て、リザは遠くに目をやる。その視線の先には、小さな小さな墓石が見える。
「墓参りはしないのか?」
「私にそんな資格はありません」
「資格なんて必要あるのか?」
「はい。あるんです。だから、行きません、行けません」
目をつぶれば、リザは思い出す。
赤茶色の髪を揺らして、無邪気な笑顔でからかってきたイリスのことを。この町に来てから、初めての女友達で
ある彼女の記憶は、未だ鮮明に残っている。
思えば、どうして彼女に自分の正体を未だに伝えられなかったのだろうか、とリザは後悔する。やはり、人を信
じているとか言うかたわら、どこかで猜疑心はあったのだろう。これはリザの精神の脆弱ぶりが招いた結果なのだ
ろう。もやもやとした霧を、胸中にて抱え、もう二度と会うことはない彼女のことを思えば、リザは恐らく、これ
からずっと、イリスの笑顔を追い続けることになるのだろう。
だから悲しい。だから怖い。
だから、前に進んでいこうと考えられる。
きびすを返す。白銀の髪が揺れる。風が、頬を撫でる。
「私の家は好きにしてかまいません。今までの礼です、アスト」
「……とっておくよ、アホ女。克服したら、また戻ってこい」
背中にかけられた言葉に、リザは一瞬だけ目を見開き、それから振り向きざまの苦笑で返した。
「気が紛れたら、戻ってきます。お互いに生きていたら会いましょう」
そう言って、リザは足を前へと投げ出した。
かつん、と音がする。ブーツと石の路がぶつかった音、硬質な音。
この音を聞く日がまた来るのかどうか、神ならぬ身であるリザには分からない。けれども、この音を、覚えてい
こうと思う。どんなにありふれた音であっても、この音は忘れぬよう、心に刻む。
悪魔の身は人よりも強いが、心はそれに反して脆弱だ。もしかすると、その隙をつかれて、あっさり殺されてし
まうのかもしれない。あるいは、リザが殺した悪魔の知り合いたちが、復讐の炎でリザを焼き尽くすこともあるの
かもしれない。
生まれつきの上から目線は、もう変えられない。だからこそ生じる欠陥があり、だからこそ生じる惰弱な精神が
ある。それをリザは知悉している。だからこそ、だからこそ、惑い、悩む。
だが、それでも、立ち止まってはいけない時というものは、必ず存在するものだ。
足を進める。サーリアの町を出て、平原を歩む。ゆっくりと、それでいてしっかりと。
リザは、歩き出す。
誰かが言った。
生きることは、罪を重ねることだ、と。
生物は食べなければ生きていけず、食べることは命を奪うことである。生きている以上、殺していかねばならぬ
現実がそこにある。ダニを殺しても罪悪感ひとつ抱かないのにもかかわらず、身近な同種を殺すことには罪悪感を
覚える。これを滑稽と言わずとして何と言うのか。
罪悪感を抱けるのは、まだ現状に余裕があるからだろう。言うなれば、それは甘えである。だが、リザはその甘
えがなければ、恐らく、本当の悪魔に堕してしまう。本物の悪魔になれば、いずれ人間に袋叩きにされ、殺されて
しまうだろう。
人間性を失わず、しかし、甘さのみに耽溺してはいけない。リザが生きるには、そうせねばならない。
それは茨の道ではなく、誰しもが体験する道である。自分と向き合う、ただそれだけの道。
がんじがらめに絡まった糸。がんじがらめに絡まった鉄線。ひとつ切れればどこかが落ち、ひとつ繋げばどこか
が切れる。天秤は、両方に都合よくかたむきはしない。
だが、それでも。
「まずは、南の方にでも行きますか。……寒くなりそうですし、ね」
遠くの空を見ながら、悪魔は歩き続ける。その先に何があるか分からない。分からないからこそ、歩を進める。
世界は巨大な天秤で出来ている。何かがあれば、別の何かがどこかにある。代償は常にそばにある。
悪魔は、拠点を捨てて新天地へと向かう。あの拷問の際に感じた優越感と嗜虐心は、未だに彼女の胸中に残存し
ている。それに対しての嫌悪の情も、無論ある。
だが、反面、そのおかげで自分という存在が少しだけ分かった。何も悪いことばかりが起きるわけではない。前
向きに、前向きに考えていけば、いつかは何かを見出せる、そんな気すらしてくる。
また新しい地で、何かが起こる気がする。それが吉と出るか凶と出るかは分からない。
ただ、今は、この希望にも似た、一抹の思いを抱えて。遠くの空を、見据えて。
「いってきます」
前へ前へと、歩き出す。
(おしまい)
以上です。結構あっさりでしたが、これでこの話は終わりです。
こんな話を読んでくださった方、感想をくれた方、本当にありがとうございました。
回収していない伏線は、脳内補完でお願いします。
アストだけなんでリザの正体を知っているのか、とか。教会の過激派連中って何? とか。
リザはなんで悪魔の弱点を知ってるのさ? とか。色々と。
設定ひっかきまわすときりがないので、なにとぞご勘弁を……。
機会があれば、外伝的や続編的なのも作って補完してみたいとか無謀なことを考えたり。
それではこちらは服を脱いで、他の職人様の作品を待つ作業に戻ります。
とかくとかく、色々とご迷惑をおかけしました。誤字とか誤字とか誤字とか。
変に長い間スレを使ったこと、深くお詫び申し上げます。それでは。
一番槍!
ほんっと可愛いな
ああ、リザちゃん出て行っちゃうのか…
ひたすらGJ!面白かったー。
まっ魔女はまだかっ!魔女は!
ほし
人はいるか?
いるよノシ
ひとりだけな
187 :
名無しさん@ピンキー:2008/10/03(金) 19:59:51 ID:ASO27s4R
ここにもいるぞノシ
ごめんさげ
キタ━━━━(Д゚(○=(゚∀゚)=○)Д゚)━━━━━!!
こんな娘が蛇腹拳とかするのかwww
>>189 わーいわーい、ウッヒョォォォ! イラストだー! ありがとおおお!
自分の作ったお話のキャラを絵にしてくれると興奮しますね。
もう感謝の気持ちでいっぱいです。褒美としてオプーナの購入権利書を(ry
遅くなりましたが、
>>48-66 の続きを投稿します。
途中までですが、ちと長くなったのできりの良いところまで。
先に懺悔しておきますが、終わらなかった上にエロも無しと色々残念なことに……
>>189 かわええ〜。
本編も良かったけど、イラストがまたどストライクですよ。
「シモンさん……わたし、シモンさんと……実をつけたいです……」
実をつけたい、とは、人間で言うなら、子供が欲しい、というところだろうか。
ドライアドは人間と交わって子を生す。
シルヴィアがその相手に僕を選んでくれたことが、たまらなく嬉しかった。
「わかった……シルヴィア、優しくするよ……」
「シモンさん……」
僕の言葉に小さく頷いて応えるシルヴィアに、深く口付けをする。
「ん……ふ……ちゅ……」
小さく息を漏らしながら、シルヴィアが口付けに応えてくれる。その唇は、本当の意味
で甘酸っぱい。口付けに味がするのは、何度してみても不思議な感覚だ。
その味を十分の味わった後、くたっとなったシルヴィアの身体を、草でできたベッドの
上にそっと横たえた。
そして、目をつぶって恥らうシルヴィアの身体に手を這わせていく。
腰から背中、そして胸へ……シルヴィアが身にまとう葉っぱをより集めたような服は、
見た目とは裏腹に手触りは滑らかで、シルヴィアの柔らかな身体の感触を損なうことなく
伝えてくる。
そのことに満足を覚えながら、いよいよ本格的に両手でシルヴィアの胸を触ろうとした
その時、
「ままま待ってくださいっ!?」
突如あがったシルヴィアの声に、その手が止まる。
「そそそそんなところっ! なっ、なんで触るんですかっ!?」
「なんでって……え? え? なんで?」
叫ぶように抗議しながら、両手で胸をガードするシルヴィア。
その姿に、なにかまずいことをしてしまったか、とうろたえるが、考えてみても思い当
たることは何もない。
抱きしめて、キスして、そして胸に……いたって普通の流れだと思うのだが……
「あのあのっ! そそそそんなところ触らないでも良いですよっ! そっ、それより、早
くして欲しいですっ!」
だが、シルヴィアはお気に召さない様子。
いや、そう言われても、物事には順序ってものが……うーむ、触られるのがそんなに恥
ずかしいのだろうか?
……胸が小さいからとか?
いや、服の上から触った感じでは、思っていたのよりは大きいかったし、むしろ大きす
ぎず小さすぎず、手のひらに収まるくらいの程よい大きさだった。
やはり良く分からない……だが、これほどまでに嫌がっているのを、無理に触るわけに
もいかないだろう。
「分かったよ、シルヴィア……」
仕方が無い、次のステップへ移行しよう……
少し残念に思いながら、胸に伸ばした手を下のほうへと持っていく。
おそるおそる太ももに触れてみるが、シルヴィアは一瞬身体を震わせただけで、拒む気
配は感じられない。
そのことに安堵しつつ、脚の外側の方から手のひらを少しずつ上へを這わせていく。
「それにしても……」
シルヴィアに聞こえないように小さく呟く。
初めてなのに、いきなりこっちの方から触るのはどうなんだろうか?
嫌がっているから仕方が無いのだが、シルヴィアをいい加減に扱っているように思えて悪
い気がしてくる。
そんなことを思いながら、腰の辺りにたどり着いた手を動かして、服の上からシルヴィ
アの大事なあたりに触れた瞬間、
「ひゃあっ!?」
シルヴィアが悲鳴を上げて飛び起きた。
「シシシシモンさんっ!? こっ、今度はどこに触ってるんですかっ!?」
顔を真っ赤にしながら、泣きそうな目でこっちを睨んでくるシルヴィア。
そんな顔で睨まれても、怖いどころか可愛くて仕方ないのだが。
それにしても、困ったな……恥ずかしがり屋だとは思っていたが、こうまで恥ずかしが
られるとは……正直、予想外だ。
「シルヴィア、恥ずかしいのは分かる。だけど、ちゃんと準備してからじゃないと、シル
ヴィアがものすごい痛い思いをすることになるんだ。僕は君にそんな思いをさせたくない」
だから、少しの間だけ恥ずかしいのはがまんして……
そう続けようとした僕の言葉を、シルヴィアの声が遮った。
「準備とか、痛いとか……シモンさんが何を言ってるか分かりませんよっ! わたしはし
てくれるだけで良いって、さっきから何度も言ってるじゃないですかっ!」
怒ったような口調でまくし立てるシルヴィア。
「してくれるだけって……」
子を生すために、行為だけして欲しい、と言うことか……?
だが、その言葉を「はいそうですか」と聞けるはずが無い。
そんなことをすれば、シルヴィアにどれほどの痛みを与えるか。
そして、例えシルヴィアの目的がそれだけなのだとしても、僕はちゃんとした形で愛し
合いたかった。シルヴィアもそのはずだと思っていたから……
……いや、待て。
この状況はどうにもかみ合わない部分がある……もしかすると僕は、とんでもない勘違
いをしているのではないだろうか?
「シルヴィア……教えてくれ。してくれる、っていうのは、そんなにすぐに終わるような
ことなのか?」
「そっ、そうですよ。おしべがめしべにちょんっ、て……なっ、なんで頭をかかえるんで
すかっ、シモンさん!?」
……ああ、やっぱりそうだった。
頭を抱えて呻く。なんなんだ、この植物は。
「……参考までに聞くが」
「はっ、はい、なんでしょう……?」
力なく呟いた僕の言葉に、怪訝そうな声で答えるシルヴィア。
「シルヴィア……おしべとめしべは、どこにある?」
「え……?」
聞き様によっては、とんでもなく変態的な質問。
いや、聞き様とかなんとか関係なしにオヤジくさい。
「えっ、あのあの、えっと……こっ、ここら辺……でしょうか?」
しばし首をかしげた後、唇の辺りを指差すシルヴィア。
だが、自信なさげに答えるその言葉は、尻すぼみに小さくなっていく。
「…………」
まいった。
それが正直な感想だった。
同時に、笑い出したい気持ちと怒りたい気持ち、シルヴィアを滅茶苦茶に抱きしめたく
なる気持ちで一杯になる。
まったくこのドライアドの少女は、本当に僕のことを驚かせる。
「し、シモンさ……」
「シルヴィア」
黙り込んでしまった僕を怪訝に思ったのか、呼びかけようとするシルヴィアの声を遮っ
てその名を呼ぶ。
「は、はい?」
「シルヴィア、好きだよ……だから、僕のことを信じてくれるかな?」
止めるか続けるか、迷いは一瞬だった。
もちろん、止めるなんて選択、あるはずは無い。
ただ……多少強引に行かないと、いつまでたっても最後までたどり着かない……それだ
けが問題だった。
「えっ!? はっ、はい……信じます、けど。……シモンさん?」
何故僕がいきなりこんなことを聞いたのか、良く分かってないのだろうが、それでも信
じると答えてくれたシルヴィアを、ぎゅっと抱きしめ囁く。
「ありがとう、シルヴィア。それじゃ……僕に任せて。ちょっと強引になるかも知れない
けど、我慢してね」
「はっ、はい! あ、でもでも、強引って……」
信じるとは答えたものの、おそるおそるといった様子で聞き返してくるのは、何をされ
るか不安だからだろうか。
だが……この時の僕は困るのと同時に、何故だろう、酷く楽しい気持ちで一杯になって
いた。
その気分に導かれるまま、僕はにこやかにシルヴィアに答える、
「大丈夫、痛くはしないから。シルヴィアには、ちょっと恥ずかしいかもしれないけど」
言葉だけは優しく、しかし疑問には答えることなく、あたかもシルヴィアの不安を煽る
かのように。
「えっ!? あのあの、しっ、してくれるだけで良いんですけどっ!」
「分かってるよ、シルヴィア。だから、僕を信じて」
そう、分かってないことを分かっている。
そして、それを分かってもらわなければ、シルヴィアの望みには届かない。
だからつまり、これからやることは、シルヴィアにとって必要なことなのだ!
……自分でも分かっている、こんなのはただのお題目でしかないと。
白状しよう。僕はこの状況を楽しんでいた。
「しっ、信じますけどっ! し、シモンさん、なんでそんなに楽しそうなんですかっ!?」
さて、何故だろうね、シルヴィア。
僕が思うに、君が可愛すぎるせいなんじゃないかな?
心の中でそんなことを呟きながら、うろたえるシルヴィアに構わず手を伸ばす。
肩から羽織っていたショールを外し、身体に纏うチュニックに手を伸ばしたところで、
「まままままって、まってくださいっ、シモンさん!? だっ、ダメです、ふふふ服を脱
がせちゃダメですよっ!」
何をされようとしているのか、ようやく気付いたシルヴィアが、抗議の声を上げた。
「そのお願いは聞けません。先に聞いたお願いを実行中です」
だがシルヴィアの抗議の声も、今の僕を止める役には立たない。
構うことなく、身体の前をガードする、シルヴィアの両手を絡め取る。
「そそそそんなっ!? わたっ、わたしは、ははははだかにしろなんてひと言もっ!」
展開についていけないのか、あうあう…とうろたえるシルヴィアの抵抗は鈍い。
これ幸いと、掴んだ両手を脇に退け、再びシルヴィアの服に手を伸ばすが、
「あれ? シルヴィア、これはどうやって脱がせれば良いのかな?」
シルヴィアのチュニックは、葉っぱが幾重にも重なり合ったような不思議な素材ででき
ていて、どうにも脱がせ方が分からない。
まさか破くわけにも行かず、シルヴィアに尋ねると、
「あ、それは楓の葉っぱが重なってくっついてるから、ずらしてやれば……って、あっ!
だ、だから、脱がせちゃだめですってばぁ!」
答えてから過ちに気付くのは、人が良いのかなんなのか、まったくもってシルヴィアら
しい。
そうこうしているうちに、シルヴィアが身に着けた服は一枚、また一枚と数を減らし、
「ままま待ってくださいっ!? みっ、見ちゃダメですよぉ……」
「…………」
やがて最後の一枚を脱がし終え、あらわになったシルヴィアの一糸纏わぬ姿に、僕は言
葉も無くしばし見惚れていた。
傷一つ無い滑らかな白い肌。
身体は細いのにその線はあくまで柔らかく繊細で、そのくせ出るべき所にはちゃんと肉
がついていて、儚げな印象ながらしっかりとした生命力とほのかな色気とを感じさせる。
「綺麗だ……」
「ははは恥ずかしいです……」
思わずこぼれてしまった僕の言葉に、シルヴィアは真っ赤になって両手で顔を隠すと、
恥ずかしそうにいやいやをする。
シルヴィアの裸身を見つめる僕の視線は、美しい曲線を描く双丘を辿り、真っ白なおな
かと可愛らしいおへそを経て、シルヴィアの脚の付け根へ。
若草色の薄い草むらに囲まれたそこは、可憐な薄紅色をしたたてすじが刻まれていた。
「ここも人間のと変わらないな……」
良かった……本当に花が咲いてたりしたらどうしようかと思っていたのだが、どうやら
普通にすれば大丈夫なようだ。
そのことにほっとため息を吐いたところで、
「だっ、だめだめだめですっ!? そそそそんなところ、見ちゃダメですよぉっ!?」
どこを見られているのかようやく気付いたシルヴィアが、慌ててそこを隠そうとする。
「ほら、手で隠さない。君のことをちゃんと見たいんだ、シルヴィア」
「そっ、そんなぁっ!? はっ、離して下さいっ! ははは恥ずかしいですよぉ」
隠そうとする手を絡め取り、視線を遮ろうと伸ばされた手をそっと払いのけ……そうや
ってしばらく、じゃれあうような攻防が続いただろうか、
「だだだ大体っ!」
「ん?」
僕に手をゆるめるつもりが無いことを悟ったのだろう、もがくのをやめたシルヴィアが、
今度は大きな声で文句を言ってきた。
「しっ、シモンさんは服を着ているのにっ! 何で私だけ、ははは裸なんですかっ!?」
シルヴィアなりに考えたであろう、精一杯の抗議。
なるほど、確かにその通りだ。
「言われてみればそうだね……」
「そそそそうですよっ! だからもうっ……」
そう呟いた僕の言葉に、服を着させてください、と続けたかったのだろうが、今の変な
スイッチが入ってしまった僕が、この程度のことで止まるはずが無い。
「わかった、それじゃ僕も服を脱ぐよ。それで一緒だね」
「えええええっ!? そっ、そんなことは一言も……」
まさかそう返されるとは思ってもいなかったのだろう、シルヴィアが抗議の叫びをあげ
るが、
「わわっ!? しっ、シモンさぁん!? こっ、こっち向いて脱がないでくださいっ!」
構わず僕が服を脱ぎ始めると、真っ赤になって慌てて視線を逸らした。
「あっ、ああ……す、すまんシルヴィア……。わ、悪いけど、少し向こうを向いててくれ
るかな……」
真っ赤になって顔を背けたシルヴィアを見た途端、いきなり羞恥心がこみ上げてくる。
似合わないことをしている自覚はあったが、さすがに今のはやりすぎだった。
「それにしても、まいったなぁ……」
心の中で呟く。
正直、勢い任せでできるのもここまでだ。
これ以上続ければ、強引どころか無理矢理になってしまうし、シルヴィアに泣かれでも
したら、とてもじゃないが続ける自信は無い。
これからどうするか……考えながら振り向こうとしたその時、
「きっ、ききききのこっ!? なっ、なんですか、それっ!?」
シルヴィアの素っ頓狂な声が、僕の動きを止めた。
「し、シルヴィア……?」
ぎぎぎぎぎ……と、首だけでシルヴィアの方に振り向く。
振り向いた先には、顔を真っ赤にしたまま、両手で瞳を覆い隠したシルヴィアの……い
や、よくよく見れば、その手の指の間からこちらを凝視するシルヴィアの姿。
その視線の先には……と、そこでシルヴィアと目が合った。
「みっ、見てないですよっ!?」
一瞬の沈黙の後、弾かれたように背を向けたシルヴィアが、大声でまくし立ててくる。
「みっ、見たとしてもっ! しっ、シモンさんも私のを見たからおあいこですっ!」
馬脚を現すとはこのことか。
誤魔化そうとするあまり、言わなくても良いことまで口にするシルヴィア。
「それは、僕の身体を見せれば、シルヴィアの裸を見ても良いってことかな?」
「ええっ!? そそそそれはっ……」
そんなことだから、からかうように冗談を返しただけで、面白いほどにうろたえまくる。
まったくもって、からかい甲斐のある相手だ……だが、いつまでもこうしているわけに
もいくまい。
「冗談だよ、シルヴィア」
「あ……」
うろたえるシルヴィアの横に少し向きを変えて腰を降ろし、そちらを見ないようにしな
がら、優しく右手を頭の上に乗せる。
シルヴィアはまだうろたえていた様子であったが、少しずつ落ち着いてきたのか、身体
から力が抜けていった。
そんな妖精の少女に、できるだけ優しく聞こえるように声をかける。
「ごめんね、シルヴィア……まだ恥ずかしい?」
「はっ、恥ずかしいですよぉ……シモンさんは酷いですっ!」
拗ねたようなシルヴィアの声。
ああ、これは怒らせてしまったなぁ……そう思って、再度謝ろうとしたそのとき、
「でも……」
囁くようなシルヴィアの声と共に、右の肩に温かな重みを感じた。
「いっ、いやじゃ……ないです。ははは、恥ずかしいですけどっ!」
シルヴィアが僕の肩に頭を持たれかけながら、囁くように……いや、最後は叫ぶような
声になっていたが、そう告げてくる。
「シルヴィア……」
そっとシルヴィアの裸の肩を抱き寄せると、一瞬硬直したものの、シルヴィアは身体の
力を抜いてその身をゆだねてくれた。
「シモンさんの……男の人の身体ってがっしりしてるんですね……びっくりしました」
囁くようなシルヴィアの声。
どうやら、少しは落ち着いてくれたようだ。
「旅でそれなりに鍛えられてるからね。でも、僕なんてまだ華奢な方だよ?」
「そっ、そうなんですか? それじゃ、身体とかもっと……あっ、あのあの、大きかった
り……」
大きかったり?
シルヴィアの言葉に違和感を感じ、視線を戻す。
そこには、恥ずかしそうに顔をそらしながら、しかし時折ちらちらと、とある方向に視
線を向けるシルヴィアの姿。
その視線の先には……
「…………」
ま、まあ、なんだ。
興味を持ってくれるなら、色々やりやすくなるし、それに越したことは無い。
だが、うーん、なんだろう……やはりドライアドだけに、植物っぽいものには興味を引
かれるのだろうか?
完璧に臨戦態勢になったそれを隠したくなる気持ちを抑えながら、そんなことを考えて
いるうちに……ふとシルヴィアと視線が合った。
「…………」
「…………」
一瞬の沈黙。
そののち、壊れたオルゴールみたいな様子で、シルヴィアが喋りだす。
「あっ、あのあのっ! にっ、人間の男の人って、わたしと全然違うんだなぁ、って……
ななな、なんなんですかっ、それっ!?」
「え? え、えーと、それは……」
う、まさかストレートに聞かれるとは。
思わぬ問いかけに、しどろもどろになりかけたところで気付く。
これは、先に進めるための絶好のチャンスだと。
ごほん、と一つ咳払い。
そして意を決すると、僕は話を始めた……ドライアドの少女に、性教育を施すために。
「シルヴィア、いいかい? これはね……」
……何故こんなところで性教育をしなければならないのか……考えても無駄なことを考
えるのはもう止めた。
さて。
シルヴィアに施した説明をかいつまんで話すと、こうなる。
♂おしべと、♀めしべ。おしべをめしべに押し込んで、ちょんっ、ってします。
「……という感じなんだけど」
僕のかなりぼやかした説明に、少し考え込んでいたシルヴィアだったが、
「おしべを……めしべに……って、えええええっ!? むりむり無理ですよぉっ!?」
説明の意味するところに気付いたのか、泣き出しそうな声をあげた。
ああ、やっぱりこういう反応になるよなぁ……そう思いながら、シルヴィアを落ち着か
せようと声をかける。
「落ち着いて、シルヴィア……大丈夫、ちゃんとできるようになってるから」
「でででも、でもっ! しっ、死んじゃったりしませんかっ!?」
涙目になりながら、必死な様子で聞いてくるシルヴィア。
「よ、良く分からないけど……死んじゃったりは、しっ、しないんじゃないかなぁ……」
シルヴィアのその姿のあまりの可愛らしさに、悪いとは思いつつも思わず吹き出しそう
になってしまった。
それを隠そうと必死になって堪えようとするが、
「ななな、なんで笑ってるんですかぁっ!? ひっ、酷いですよぉ、シモンさん!」
「ああ、ごめん。ただシルヴィアが可愛いなぁと思ったらつい……ごめんね、シルヴィア」
ああ、やっぱり気付かれたか……いや、吹き出しそうになっていたんじゃ、隠すも何も
あったものじゃないか。
そんなことを思いながら、宥めるようにシルヴィアの頭を撫でてやると、シルヴィアは
まだ怒った様子ではあったが、大人しくされるがままにしてくれた。
そうして。
しばらくたって笑いの衝動が収まったところで、シルヴィアに話しかける。
「笑ってごめんね、シルヴィア……そうだね、女の子なら怖いよね」
宥めるように、優しく言葉をかける。
今の状態で、これ以上先を強引に進めるつもりはない。だから、まずはシルヴィアの恐
怖心を取り除くところから始めないと……
そう思って言葉を続けようとするが、
「う〜……こっ、怖くは無いですよっ! ただっ!」
「ただ……?」
その言葉をシルヴィアが遮った。
「ただ……あのあの、わっ、わたしもしたいんですっ! でもでも、わたし、なっ、なん
にも知らないしっ! それで変なことしちゃって、シモンさんを困らせちゃったらいやだ
なぁって……」
「…………」
まったく。
怖いし恥ずかしいだろうに……僕のことを心配する余裕なんてないくらい、いっぱいい
っぱいだろうに。
どこまで人が良いのかと、ちょっと呆れてしまう。
「シルヴィア……優しくするから怖がらないで。それに、僕のことなら気にしなくても良
いから」
「えっ!? でもでも……」
おろおろと不安そうな瞳で、シルヴィアが僕のことを見つめてくる。
だが、その不安自体無用なもの、むしろ、逆に気を使わせてしまって悪い気がしてくる。
「まあ、なんていうか……男の方は気持ち良いだけだからね。なるべく優しくするつもり
だけど、初めてだと女の子はやっぱり痛いと思うし……」
「そっ、そうなんですか? でも、それって……なんだかずるいです……」
そうかもしれないね、と苦笑を浮かべながら同意する。
それでもシルヴィアの不安が薄れたのは確かなようで、そのことに少しだけ安堵する。
これであとは、シルヴィア自身の緊張さえ取り除ければ……
「ちゃんと準備すれば、痛みも少しはましになると思う。それに、僕もシルヴィアには気
持ちよくなって欲しい……だから、恥ずかしくてもちょっと我慢してくれるかな?」
「あっ、あうあう……」
真っ赤になって顔をうつむかせるシルヴィア。
その身体をそっと抱き寄せ、囁くように重ねて問いかける。
「良いかな……シルヴィア?」
「あっ、あのあのっ! やっ、優しく……して、ください……」
尻すぼみに小さくなるシルヴィアの言葉に頷いて答えると、そっとその身体をベッドに
横たえる。
「こっ、怖いことはしませんかっ!? だだだ大丈夫ですよねっ!?」
大人しくされるがままになったものの、それでもまだ覚悟が決まらないのか、シルヴィ
アがわたわたとした様子で尋ねてくる。
「だいじょうぶ、シルヴィア。僕を信じて」
そう、シルヴィアを怖がらせるつもりなど微塵も無い。
やはりまだ緊張しているのだろう、シルヴィアの少し潤んだ瞳を、安心させるように見
つめながらそう答える。
「ははは、恥ずかしいのはいやですよっ! イヤだって言ったら、やっ、やめてくれます
かっ!?」
「うっ…………」
もちろん、と答えるはずだった。
だが、実際には言葉は出ることなく、逆に言葉に詰まってしまった。
どうにも、僕は嘘を受けない体質らしい。
「…………ど、努力する」
それだけを何とか搾り出す。
答えはもちろん本心からのものだが、最後まで理性を保っていられるかどうか、魔法使
いにあるまじき事ながら、自信が無いというのが正直なところだった。
「なっ……なんで視線をそらすんですかぁっ!? ちゃんと目を見て言って……んうっ!?」
だが、そんな言葉がシルヴィアに通じるはずも無く。
叫ぶような声で抗議してくるシルヴィアの言葉を、キスでふさいで黙らせる。
シルヴィアは抗議するかのようにじたばたと暴れていたが、キスを続けているうちに次
第に動きは弱まり、程なくしてその身体から力が抜けていった。
「シルヴィア……」
くたっとしてしまったシルヴィアから唇を離し名前を呼ぶ。
シルヴィアは涙目で僕のことを睨んでは来たものの、先ほどの抗議を続ける気力は無い
のか、そっぽを向いて話し始めた。
「もっ、もう……良いですっ、分かりましたっ! すすす、好きにすれば良いですよっ!
わっ、わたしはシモンさんを信じてますからっ!」
信じてますからねっ! と声を上げながら、再び半分涙目な視線で見つめてくるシルヴ
ィア。
その言葉に頷き返しながらも、僕は理性を保つ自信が薄れていくのを、なおさら強く感
じるのだった……
以上です
さすがに次で最後になるはずですが、一回やらかしてますし、もし終わらなかったらごめんなさい
ともあれ、楽しんでいただけたなら幸いです。
一番槍GJ!
GJGJ!かわいい!
きのこwwwww
GJ!
ところで前スレの過去ログ、誰かもってないか?
なんか読みたくなってきてさ。
百合の人の続きこないかな
推敲しながら保守
ほす
保守
保守
魔女待ち保守
保守
個人的にはラブオブスレイブオブラブに続きがないか気になる
読んでいる人もいるだろが姫スレにもファンタジー物あるね
hosyu
ほ
し
ゅ
保守
ファンタジーに銃火器は邪道
と思う人ってどれだけいるのかな
古代中世ネタオンリーだから自動銃はNGだろうね
ただ架空の武器として魔法を連射する銃なら大目に出来るんじゃないか
あとは固有名詞含む用語だね
近世以降に出現したような言葉は雰囲気的に×じゃないかな
ピストル○
ハンドガン×
火縄銃○
ライフル×
曖昧だが、こんな感じじゃない?
銃とか詳しくないから、いつぐらいから出てきた物なのか分からないけど。
>>226 リボルバーはおkだがオートマチックはあうちだなあ。
その手の話をしてると
どっからともなくミリオタがパラダイブしてくるよん
古代中世だったらリボルバーも個人的にはちょっと先進的だなあ。
先込めのフリント銃がいいなあ銃出すとしたら。
厳密に古代中世までのアイテムでやろうと思うと、火縄銃とか火矢止まりになる
これに限らず調べると中世と思ってたものが実は近世以降でないと存在しない
なんてものは山ほどあるんだな
今も船について調べてて、ヨーロッパの中世時代なんてバイキング船なんだな
三本マストの大型帆船なんて近世にならないと登場しない
じゃあそれを出したからといって読者が違和感を覚えるかといえば
大半の人は読み流すだけだと思うんだよね
またここではファンタジーが主で魔法の存在も認められてるわけで
大型帆船どころかFFみたく飛行機械だって上手くやれば出せる
それを飛行機と言わずに浮遊器だの空飛ぶ船だのの表現で
上手く違和感覚えさせずに登場させるのも書き手の腕だと思うよ
銃についても然りだね
銃を出したい時は「新大陸から来た」人物としとけばおkじゃね。
爆炎のスペルを封じたカートリッジをベルト状にしてタスキ掛け
両手にそれぞれ持った射出器から相手がチリも残さぬほど打ち込みまくる女魔術師
魔法を撃つ銃と聞いて
真っ先に浮かぶのが
ファイナルファンタジーアンリミテッドのマガンな俺って・・・
「貴様に相応しいソイルは決まった!」は好きだったが
俺はダイの大冒険の魔弾銃だな。
ギリシアの火はNG?
幻想子供か、あれは良いアニメだった
中世ファンタジーということで、やや中途半端ですがベタな女魔術師陵辱ものを
書いてみました。
ランカスタ王国の王都、復興都市エル・アルハザートの郊外に一棟の鄙びた塔
が建っている。
付近の住民から『メイオールさんの塔』と呼ばれて不気味がられているその小
さな三階建ての塔は、三年前に老衰で逝った大魔術師トスカ・メイオールのか
つての住処として有名で、主を失った今ではその弟子が跡を継いで住んでいる
という。
弟子は名をカティアといい、見目麗しい姿をした年頃の娘だった。
もっとも、女魔術師の外見ほどあてにならないものはない。
三百年近くを生きたとされる先代のメイオール同様、その弟子である彼女もま
た、すでに百年は生きているというのがもっぱらの噂だ。
怜悧な美貌も、年頃の外見も、すべて魔術によるまやかしであるという。
高名な大魔術士が残したただ一人の高弟。そんな彼女には容姿や実年齢に関す
る噂以外にも、様々な風聞が絶えることがなかった。
たとえば、身分ある貴族がもう何人も、彼女の妖しい魅力に囚われて夜な夜な
彼女の寝所をおとなっているだとか。
先代メイオールのただ一人の弟子である彼女の力を求めて、近隣の軍事大国ト
ラキアが秘密裏にスカウトに動いているだとか。
正鵠を射ているものから、まったくの的外れなものまで。彼女に関する噂は実
に多岐に及んでいるのだ。
そんな数々な風聞のなかで、最も有名で、最も恐ろしげなものは、彼女が自ら
の美貌を保つために行っているという、怪しげな秘術に関わるものだった。
いわく、彼女はその美貌を保つために、毎夜のごとく近隣から子どもたちを浚っ
てきては、自らの住む塔に連れ込んでいる。そして夜な夜な、禁じられた魔道
の秘術を用いて、まだ幼い子どもたちに淫らがましい呪術を行い、精気を搾り
取っている――というのだ。
まだ昼も早い時間だというのに屋上に無数のカラスを留まらせ、しんと静まり
返った彼女の塔は、その悪評に相応しくいかにも不気味にみえた。
そのぶ厚い石の壁に耳をあてれば、彼女に囚われた子どもたちのすすり泣く声
が今にも聞こえてきそうである。
近くを通りかかった住民の多くは、この悪名高い不気味な塔をみあげては、そ
こに住まうという魔女の噂を思い出し、身を震わせて足を速めるのが常だった
――さて。その、噂の魔女が住まうというメイオールの塔の内部。
厚い石壁に囲われ、防音の効いたじめじめとした薄暗い部屋では、今まさに、
百年の時を生きるという妖艶な魔女が、泣き叫ぶ子どもたちを相手に何やらい
かがわしい行為をしている――のかというと、そうでもなかった。
いかにも怪しげな外観とはうらはらに、趣味の良い調度品で整えられた室内は、
ちょうど今、そのイメージとは遠くかけ離れた喧騒の真っ只中にあった。
「ねえねえ、カティア先生ッ! 次はこの本よんでよっ」
「あ――ッ、ずるい! セシルったらずっと先生を独り占めして。次はわたし
の番よ、わたし、先生と一緒にお歌を歌うの!」
「ボクは先生の竪琴が聞きたいな! ねえ先生、いつもみたいにきれいな曲を
弾いて聞かせてよ!」
口々に好き勝手なことを言って騒いでいるのは、十歳前後のやんちゃそうな子
供たちだ。
騒々しい彼らに囲まれて、塔の魔女――カティアは、絵本を閉じてゲンナリと
した表情を浮かべた。
年のころは二十歳前後だろうか。栗色のストレートヘアに理知的な弧を描く細
い眉。切れ長の美しい瞳。ややキツめの感じだが、噂どおり、なかなかの器量
の持ち主だった。
――残念なことに、今は疲れきった様子で、その魅力をやや減じてしまってい
るが……。
彼女は鼻先にかけた眼鏡のフレームを指で抑えて、
「……いいかね、キミたち」
身に纏った黒のローブの前で腕を組んで、重々しく言った。
「私はキミたちの親御さんから、キミたちに学問をみてあげるように頼まれてい
るのだ」
「知ってるよぅ」
「でも、お歌を歌うのも立派なお勉強だよね」
「そうそう、机の上の勉強だけやってるとバカになるって、先生いつも言ってる
じゃない」
「そう、ジツガクだよ、ジツガク」
口々に反論してくる子どもたちに、カティアはさらにため息を重ねた。
(……ったく、口ばっかり達者になって。いったいどこで覚えてくるのやら)
もしも独り言を聞かれたら「先生に教わったんだよ」と反撃されるに違いない
ので、ぼやきは心の中だけで留めておく。
カティアは気を取り直して子どもたちに向き直った。
「とーにーかーく! 今日は算術をやる。やると言ったらやるのだ。だから絵本
はここまで。歌も竪琴もまた今度だ!」
きっぱりと宣言して、書物を開いて無理やり授業を始める。
「……えー、では、この前の続きから。立方体の体積を求めるために必要な考え
方と、具体的な計算式についてだが――……」
「イ・ヤ――!!」
「ミーシャはお歌がいいの――ッ」
「竪琴――ッ!」
たちまち、子供たちの間から盛大なブーイングが起こる。
「えーい、煩い!」
「ヤなもんは、ヤ・だ――ッ!!」
「おーうーたー!!」
叱りつけても子どもたちは少しも動じない。
彼らは自分たちの先生が見た目は少し怖そうでも、子ども対しては十二分に甘
いことを熟知しているのだ。
だが、今日のカティアは一味違った。
実をいうと、先日、彼らの親御さんから、小言を言われたばかりなのだ
彼女は断固たる決意を持って言った。
「今日は数の学問をやる。やると言ったらやるのだ!」
「むー」「うぬー」「うむむー」
カティアの頑迷な抵抗を受けて、子どもたちが口々にうなり声をあげる。
口で説得するのが無理そうだとわかると、次に彼らは実力行使に出始めた。
まず、一番やんちゃそうな、こげ茶頭の男の子が、背後からカティアにタック
ルを仕掛けてくる。
「ぐえっ!」
子どもとはいえ、十歳ともなれば相当な質量だ。参考書を片手に偉そうにソファ
にふんぞり返っていたカティアは、不意を打たれて情けない声をあげた。
「こ、こら、なにをするか」
「あーッ、いいな。ずるい。ボクもやる!」
「ミーシャも――ッ」
なにが彼らの心の琴線に触れたのか、子どもたちは嬉々として次々とカティア
の背中に飛びのってくる。
あっという間にカティアは三人の子供たちの下敷きにされてしまった。
「ぐは、お、重い――」
重労働は石のゴーレムに任せきりで、日ごろから運動らしい運動もしていない
カティアである。腕力勝負では子どもたちにすら勝てないのだ。
その様子に子供たちが勝利を確信して叫んだ。
「どーだ、まいったか! どいて欲しかったら絵本の続きを読むのだ」
「観念してミーシャとお歌を歌いなさい」
「おとなしくトウコウして竪琴を弾いてくれたら、ジョウジョウシャクリョウの
余地はあるぞう」
意味がわかっているのかいないのか、子供たちは口々に騒ぎながら、カティア
の上で「まいったか」とばかりに飛び跳ねてくる。
カティアの体は柔らかくて気持ちがいいらしく、それ自体が遊びとして楽しい
のだろう。大満足の様子だった。
だが、下敷きになったカティアの方はたまったものではない。子供たちの温か
な体温は嫌いではなかったが、それでも三人も寄れば暑苦しいし、そしてなに
より重い。
「わかった、まいった。……まいったから、退いて……っ」
たまらず降参すると、ようやく子どもたちの肉まんじゅうから解放された。
乱れ放題になってしまった長い栗色の髪をかき上げて、ずり落ちてしまった眼
鏡の位置を直す。
それからカティアはぐったりとソファの上に這い戻った。
(くっ……生活のためとはいえ、子守も楽じゃないわ)
わずかな給金につられて安易に引き受けてしまった自分の底の浅さが恨めしい。
――と、そこでカティアはふっと力を抜いて思い直す。
でも――、気疲れはするけれど。
力ある魔術師として軍に招聘され、戦争の道具にされることに比べれば。
身分だけが取りえの男に囲われて、妾として日々を暮らすことに比べれば。
子供たちの相手の方がはるかに自分の性に合っている。
齢百歳を超える老婆だとかどうとか、噂では好き放題に言われている彼女だが、
実際にはまだ見た目通り、二十歳になったばかりの娘だ。
優れた魔術師として、または美貌の持ち主として、様々な機関から引く手数多
の彼女だったが、そんな彼女が生活のために選んだのは意外にも近所の子ども
たちの家庭教師というごくごく平凡な職業だった。
もちろん、収入は雀の涙ほどでしかない。
若く才気ある彼女がこうした隠遁生活を送ることを惜しむ声も多かったが、カ
ティアはそういった声に一向に耳を貸そうとはしなかった。
彼女は別に富や名声には興味はないのだ。
彼女はただ、自分の知識欲を満たすことができればそれで満足だった。
家庭教師の安い給金でも、彼女一人が暮らしていく分には何の不足もない。
そして幸いにも、ここには先代のメイオールが集めた、彼女が一生かけても読
みきれないほどの蔵書が残されているのだ。
さんざんぼやいてはみせたものの、実のところカティアは今の生活にまったく
不満を持っていない。
(……この子たちも、悪い子たちではないしね)
内心で呟いてから、カティアは彼女を囲むようにぐるりとソファの前で正座し、
目を輝かせている子どもたちをちらりと見やった。
遊んでもらえるのが楽しみでしょうがないのだ。そんな子供たちの様子につい
カティアも口許も緩んでしまう。
「しょうがないな……。今日だけ特別だぞ」
意識して渋々といった表情を作ってみせると、カティアは小声で呪文を囁いて、
パチンと指を鳴らした。
すると、まるで魔法のように――実際魔法なのだが――彼女の手のなかに小さ
な木製の竪琴が現れる。
『物質転送』
簡単そうにしてみせたが、実際には限られた高位の魔術師のみがなし得る脅威
の秘蹟である。
「おおーっ!」
目の前で見せられた手妻に、子どもたちから無邪気な歓声があがる。
なんだかんだと言いながら、子どもたちを喜ばせるのが嫌いではないカティア
だ。
「見せて見せて!」と騒ぐ子供たちの要望に応えて、虚空から取り出した竪琴
をじゃじゃーん!と効果音つきで見せびらかせる。
見た目で冷たい印象を与えることの多い彼女だったが、こんな時には驚くほど
優しい表情をみせた。
そうして一通り相手をして、子供たちが静かになるのを待ってから、カティア
は手にした竪琴を爪弾き、よく響く低い声で弾き語りをはじめた。
「これから語られるのは、生まれたばかりの伝説。一人の少女の物語……」
韻を踏んだ独特の節回し。流れるような語りだしで、カティアは子どもたちを
あっという間に物語の世界に惹き込んでしまう。
リクエストはお話と歌と竪琴。
子供たちの要望を一々叶えていては時間がかかってしょうがないので、竪琴を
使った弾き語りですべて済ませてしまおうというのが彼女の魂胆だった。
歌って弾いて、物語にもなっている。
ついでにこの国の歴史を歌ってしまえば、歴史の授業の完成でもあった。
転んでもただでは起きないカティアなのだ。
数刻後――
「はい、おしまい」
と彼女が竪琴を置くころには、子どもたちはポロポロと涙を流してぐずってし
まっていた。悲運のヒロインに深く同情してしまっているのだ。
「お姉ちゃんかわいそう……」
「ねえ、お姉ちゃんは、いまもトラキアの王様に捕まっているの?」
「違うよね、きっともう大丈夫だよね?」
子どもたちが口々に尋ねてくる。
そこでふとカティアは返答に困ってしまった。
この話は史実であり、現在進行形の物語なのだ。ハッピーエンドは用意されて
いない。
「さあ、どうかしらね……」
正直に告げると、子どもたちが一斉に「えーっ」と不満を唱えた。
彼らの顔があまりに悲しそうで、心がチクリと痛む。
(いずれは知らなければならないことだけど。この子たちにはまだ少し早かっ
たかしらね……)
この国のおかれた現状。四年前の負け戦。そこで生まれた悲しい物語。
それは、王都に住む大人なら誰もが知っている物語だ。
不落を誇った城壁が崩れ、街が炎上し、王国に滅亡の危機が迫っていたあの時。
たった一人の聖女がこの国を救ったのだ。
彼女ただ一人の働きで、滅亡寸前のランカスタは隣国と講和にまで持ち込むこ
とに成功した。
――だが、同時に。支払った代償もまた大きかった。
聖女の存在を脅威と見なしたトラキアは講和の条件として当然のように彼女の
身柄を要求し、ランカスタも断りきれずその条件を呑んだ。
あれから四年。聖女の身柄は今もトラキア皇帝ボドウィンの許にある。
皇帝の妾として後宮に納められているのだ。
この国の大人たちは救国の聖女を自らの保身のために売り払った。――そんな
汚い政治の世界を子どもに告げるのは躊躇われた。
語る物語を間違えてしまったのだ。ここから先はとても子供たちに聞かせられ
る話ではない。
「……そうね。ノイエ様を救うために、ノイエ様のお父上、バフマン様が出奔さ
れたという噂がある。きっと今頃は、バフマン様の活躍でノイエ様は救われて、
二人でどこかで幸せに暮らしていらっしゃるわよ」
実際にそんな噂があるのは嘘ではなかった。だが、この噂が指し示す事実は別
のところにあるだろう。
聖女の父親は報復を恐れた国の権力者たちによって騎士団長の任を解かれ、追
放されたのだ。
それでも、彼女が創作のハッピーエンドを付け足してやると、子どもたちはと
もかくも安心したようだった。
その後、満足した彼らに少しだけ算術を教えることにも成功したカティアは、
帰宅する子どもたちを外まで見送ってようやくその日の仕事を終えた。
子供たちの姿が角に消えると、大きく一息入れる。
(やっぱり弾き語りが効果的ね。……次は、立方体の体積を求める数学者の物語
でも考えてみようかしら?)
そんなとりとめもないことを考えつつ、身を翻して屋敷に戻ろうとする。
――その時。
カティアの足がぴたりと止まり、眼鏡の奥の目がすう、と細められた。
塔の内部に仕掛けてある感知装置が、何者かの侵入を知らせてきたのだ。
そのタイミングにカティアは嫌な予感を覚えつつも、すぐさま魔法の詠唱を開
始し、塔の内部に転移を果たした。
カティアが戻ったとき、居室には三人の男たちが侵入していた。
男たちの足許に転がる石の残骸をみて、カティアは大きく眉をひそめる。
それが、彼女が長年愛用していたストーンゴーレムの成れの果てだったからだ。
忠実な彼女のゴーレムは侵入者を排除しようとして果たせず、逆に返り討ちに
あってしまったらしい
カティアは髪が逆立つのを感じながら低い声で言った。
「……わたしの部屋に何かご用? 野蛮人」
急に背後から声をかけられて、男たちがギクリと身体を強張らせる。
男たちはすぐに気を取り直したように用心深く向き直ってきた。
リーダー格の真ん中の男が粘着質の気持の悪い声で彼女に話しかけてくる。
「……さすがはメイオールの一番弟子、といったところですかな。いかに住みな
れた我が家とはいえ、こうも容易く我らの近くに転移を果たすとは。
このゴーレムもなかなかのものでしたよ」
男の言葉にカティアの柳眉が逆立つ。
「それはただの台所用ゴーレムだ! 三人がかりで潰して喜ぶな、この無能!」
「……は、あいかわらず、口汚くていらっしゃる」
余裕をみせたつもりのようだったが、男は少なからずプライドを傷つけられた
らしく、こめかみにピキリと太く血管が浮かび上がっていた。
それでも、言葉だけは下手に続けてくる。
「ですが貴女の実力、我が主はたいそう評価しておられるのですよ」
「……そりゃあ、貴方たちみたいなのしか手駒がいないんじゃ、新しい魔術師が
欲しくもなるでしょうよ」
カティアの挑発に男は一瞬押し黙り、低い声で言ってきた。
「……言わせておけば。口の聞き方には気をつけたほうがいいぞ、小娘」
「貴方の方こそ。前来た時は髪の毛までこんがり焼いてあげたというのに、まだ
お灸が足りなかったらしいわね」
言葉と同時にカティアの背後に無数の火球が生みだされる。
男たちの実力では到底防ぎきれない圧倒的な魔力を背景にカティアは宣言した。
「今度こそ、二度とわたしの前に顔を出せないよう、徹底的に痛めつけてあげる」
「……ふ、ふん、誰が貴様のような化け物と二度も正面からぶつかるものか!
――これを見よ!」
そういって男が懐から取り出したのは手のひらサイズの水晶の球だった。
その磨きぬかれた鏡面に映された見覚えのある子供たちの姿に、カティアの笑み
が凍った。
「――セシル、トト、……ミーシャ……!」
それはついさっきまで彼女が家庭教師をしていた子供たちだった。
水晶に映った子供たちはそれぞれ、ふたり組みの男によって手と口を封じられて、
今にも泣き出しそうな顔をしている。
今回は屋敷に侵入した三人の他にも仲間がいたのだ。
「……どこまでも下衆な男ね。飼い主の質まで知れるわ」
「おおっと、憎まれ口はそこまでにしておいた方がいいぞ。次に反抗的な口を聞い
たらあの三人の子供のうちの誰かの指を落とす」
「………」
子供たちを盾に取られてはどうすることもできない。
(せめて目の前で人質にとってくれたなら……)
今回は相手も事前にかなり計画を練ってきたらしい。子供たちの姿を水晶に見せ
るに止められては、いかにカティアといえど救出は難しかった。
「……それで。何が望みなの?」
「くっく。いつぞやの聖女どのといいおまえといい。この国の女は気味が悪いほど
の馬鹿ばかりだな。ただの子供の安全と引き換えに自分の身を差し出そうという
のか」
「……とりあえず、今のところはね」
「よろしい。では、この薬を飲んでもらいましょう」
「――これは……?」
差し出された緑色の粘性の高い液体をみて、カティアが表情を曇らせた。
薬の中身はわからない。
だが、薬で無力化されてしまっては反撃の余地がなくなってしまう。
そんなカティアの内心を見越したのか、男は嬉しそうに続けた。
「なあに、怖がることはありません。中身はただの媚薬ですよ。ただ気持ちよくな
れるだけの薬です。しかも、効果のほどはかの聖女どのでたっぷりと実験済みだ。
そりゃあ、すごかったですよ? あの穢れを知らないまったくの生娘が、清楚に
整った愛らしい相貌をぐちゃぐちゃに崩して。公衆の面前で股座から愛液をよだ
れのように垂らして、絶頂に告ぐ絶頂。――あれは実に良い見物でした」
「げ、下衆……!」
「ふふ、今の言葉。本来なら子供の指がなくなるところです。が、今回だけは聞き
逃してあげましょう。――しかし、二度目はない」
男はカティアの目の前に薬瓶を差し出して言った。
「飲め。それから貴様の身体にたっぷりと再教育を施してやる。女など、男の一物
を咥え込み、よがり狂うだけのただの肉壷に過ぎないということをな……!」
カティアがためらっていると、男は続けた。
「5秒だ。それ以内に飲まなければガキを一人殺す。さあ、5……4……3……」
「わかったわよ!」
悩んでいる暇はなかった。カティアは男の手からひったくるように薬瓶を奪うと
蓋をあけて一気に中身を飲み干す。
それからわずかな間をあけて、急激な眩暈と体温の上昇に見舞われた。
「う……あ……?」
まっすぐ立っていられなくなって、カティアはその場にカクリと膝をついてしまう。
床に倒れたカティアの頬を靴底で踏みにじって、男が歓喜の笑みを浮かべる。
「さあ、楽しい楽しい奴隷調教のはじまりだ。いままでの屈辱、何十倍にも増して
返してくれるぞ……」
男の言葉に、そして頬に受ける靴底の感触に、カティアの身体は歓喜を覚え始めて
いた。そのことに心の底からの恐怖を覚える。
気がつくと他の二人の男たちも、すぐ近くまで来て彼女を取り囲んでいた。
「さあ、気が触れるまで徹底的に犯しぬいてくれよう」
「まだまだ、薬が足りぬであろう。たっぷりと飲み干すがいい……」
力の入らない口を無理やりこじあけられ、先ほどの数倍の量の媚薬をさらに飲まさ
れていった。
「う……ぐ……むぅ……う!」
この……量は……。
飲んでしまったら、もうもとの身体に戻れない……。
男たちの目をみて、カティアは男たちの真意を悟った。
彼らはもはや魔術師としてのカティアを懐柔し支配する気はないのだ。
以前はそのつもりだったのだろう。だが、今回はもはや懐柔を諦め、潜在的な脅威
である彼女をただ排除することだけに目的を切り替えてきている――。
――壊されてしまう。
口に溜まった媚薬を無理やり嚥下させられながらカティアの心に絶望が広がる。
だが、もはやどうすることもできない。
続く数分のうちに、カティアの瞳から理性の光が完全に抜け落ちていった。
残ったのは獣欲を滾らせた男たちと、哀れなで無力な供物。
そのローブのしたに隠された柔らかな媚肉に男たちはハイエナのように群がっていっ
た。
床に組み伏せられたカティアの顔から眼鏡が外れて落ちる。
長いローブを足もとから胸のうえまでまくりあげて、シンプルな飾りの下着をずり
降ろし、両足を大きく左右に開くと、男は準備をするまでもなく濡れそぼったカティ
アの入り口にいきりたったモノをあてがい、一気に貫いていった。
「くはァアッ」
途端にカティアの唇から感極まったような高い声がほとばしる。
「ははは! 様をみろ! このオレを虚仮にした報いだ!」
女の柔肉に包まれながら男が歓喜の叫びをあげる。
残るふたりの男たちもそれぞれ股間に腫れあがった一物を取り出し、それぞれカティ
アの唇と乳房に興奮しきった表情ですりつけていった。
リーダー格の男はカティアの腰に爪を立てるようにして力いっぱい掴みながら獰猛と
もいえる猛烈な勢いでガツガツと盛大に腰を振りたくる。
犯して犯して、犯しぬいてくれる……!
じきに、子供を人質にとっていた男たちもこの場に集まってくるだろう。
この年若い女魔術師ひとりを贄とした男たちの宴は、まだはじまったばかりなのだ。
こ、これはどう続くんだろう・・・
いきなり十年後とかで
人質に取られた少年が成長して
先生助けに行って
心が傷付いた先生を癒すかの様ならぶらぶエッチを・・・
な展開を期待
>>232 おれは何故か某ライダーシステム一号連想したな
(0M0)の人?
ノイエ様のくだりはいつになるんだ!
そんなものはない!
252 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/29(月) 10:02:54 ID:zIn0LROx
保守
253 :
31:2008/12/30(火) 15:12:01 ID:nNnBYj5P
こんにちは、前々スレの終わりくらいから投下しておりましたが
二月ほど前からサイト立ててやっております
http://4zen.x.fc2.com/ 前スレで割と評判よかったような気がするノッポ姐御と短足舎弟など
大幅リメイクで公開しておりますので、ぶらりとお立ち寄り頂ければと存じます
以上、圧縮間近の保守代わり宣伝でございました
明けましておめでとうございます。
今年は精進を重ねて、皆さんに喜んで頂けるよう頑張ります。
2009・元旦・中華風の者
256 :
253:2009/01/05(月) 22:12:13 ID:ZhgNmnah
いきなりFC2に凍結されちまったよ
んなアホな
登録時にエロカテ選ばないと凍結とか削除とかされたと思う
>>223あたりで話題になってますけど、
古代・中世ファンタジーで、たとえば、
魔法が発達した国と、科学が発達した国の戦いとかってありですか?
260 :
259:2009/01/11(日) 02:36:20 ID:Dg+un22I
ミスりました。
>>224です。すみません。
銃火器の話題です。
BOF4なんて、そんな話だったよね
>>257-258 すぐに復活いたしました、向こうのミスだったのでは無いかと思います
念のためはっきり年齢出てる部分ぼやかしたり、絵の修正強めたりは
いたしましたが
何にせよ、お騒がせいたしました
おきにいりついか
500KB超級の作品とかだともうエロシーンよりストーリー気になっちゃうよな
>>262 FC2はアダルトに設定したからって一体何が変わったかわからなくてちょっと困っちゃうよな
どこまで描写していいんだよ、みたいな
規約見ても結構ザルだったりするし
誰か前スレをupしてくださいorz
ノイエ様のログがPCとともに吹っ飛んだ…
同じくoru
スレの最初で保管庫の話があったけど、あれはどうなったんだろうな
oruだけに折れてるんじゃないか…?
266の足が凄いことにww
突然ですが、数レス使用して投下させていただきます。
人外要素があるので苦手な人はスルーお願いします。
270 :
勇者と魔王:2009/02/01(日) 02:35:35 ID:n7qIyuDy
光の剣を抜きし者よ、予言を与えてやろう。
お前はこれから各地の魔物を討ち果たし、魔王の城へと辿り着く。
お前は勇者と呼ばれるだろう。
宿屋の一室で、一人の少女が剣を磨いていた。
短い黒髪から覗く顔はあどけないものだが、均整の取れたしなやかな体つきは、
彼女がただの無力な少女ではないことを示している。
勇者ミア、それが彼女の名前だ。
いまだ力は未熟だが、各地の魔族を打ち倒し、人々の希望となっている存在だった。
ミアはふと剣を磨く手を止め、かじかんだ指先にはあっと息を吐く。
幾度もの戦いをくぐり抜けているにもかかわらず、その刀身は曇ることがない。
勇者の証でもある聖剣は、神殿の聖女から受け取った時のままに、白く輝いていた。
なので、ミアとしては
「手入れはしなくても良いんじゃないかなあ」
とも思ったのだが、同行の女戦士に大目玉を食らってからは毎晩布で磨き、
傷や曇りがないかをチェックしていた。
「やっぱ不思議だな〜」
ミアは剣を握り直し、刀身をついとなぞってみる。
滑らかで、歪みの一つもない刃。
「一体どうやって作ったんだろ? こういうのをオリハルコンって言うのかな?」
ランプにかざしてしげしげと眺めていると、どこからか鈴の音が聞こえてきた。
りいん
音自体は小さく、聞き逃してしまってもおかしくないような密やかな音。
けれど、その音を耳にした途端、ミアの手から聖剣がするりと落ちた。
床に落ちた剣が派手な音を立てたが、ミアは拾い上げもせずに中空を見つめていた。
りいん、りいん
二度、三度と鈴が鳴る。
鈴の音が重なるほどに、快活だったミアの表情がすっぽりと抜け落ちていく。
だらりと両手を下ろし、壊れた人形のように佇むミアは、どう見ても異様だった。
りん、りん、りん、りん、りん
鈴の音が段々激しくなっていく。
ミアは空洞のようになった瞳を大きく見開いて、大きく痙攣した。
「あああああっ!!」
どさり、と寝台に倒れ込む。
そうして、
りりいん
一際高く鳴り響いた鈴の音を最後に鈴が止んだ。
271 :
勇者と魔王:2009/02/01(日) 02:45:34 ID:n7qIyuDy
忙しなく胸を上下させていたミアが、鈴の音が途切れるとぴたりと動きを止める。
「あ……う……」
みるみるうちに顔に生気が戻っていく。
そうしてゆっくり身を起こすと、自分の側に立っている人間に気が付いた。
「ラーガイル! 来てたんだね」
ミアはぱっと顔を輝かせると、突然現れた男に何の躊躇いもなく抱きついた。
「来てくれて嬉しい。ラーガイルが来てくれなかったらどうしようって思ってたんだ」
そう言って、目の前の男の腕に顔を埋める。
ラーガイル、と呼ばれた男は唇にうすい笑いを浮かべて、勇者の体を抱きしめた。
「遅くなって済まない」
短く切りそろえたミアの髪を撫でながら詫びると、ミアはしまったと言う顔をして
ブンブンと手を振った。
「違うの、責めてるんじゃなくて! この地方の魔族も倒して行き来しやすくなったし、
そろそろ来てくれるんじゃないかなーって思ったりしてたけど、でも、ラーガイルは
忙しいんだもんね、うん! べっ、別に寂しいとかそういうワガママ言って困らせる
つもり、全然無いからっ……」
ここまで言って、またしまった、と言う顔をする。
「すまん」
「うっ………うう〜、違うの、全然違うんだよっ……」
じたばたと暴れながらうーうーと唸るミアの唇を、ラーガイルの手が軽く塞いだ。
「あまり暴れるな。周りに迷惑だぞ」
低い声でそう告げると、ミアはたちまち真っ赤になって、恥ずかしそうに身を縮めた。
「……うう、ごめんね」
ラーガイルはしおしおとうなだれるミアの頭を軽く撫で、そっと抱き寄せた。
272 :
勇者と魔王:2009/02/01(日) 02:52:53 ID:n7qIyuDy
闇が辺りを蝕んでいる。
ランプの灯りもなく、星あかりすら届かない部屋の中で、ミアの声だけが響いていた。
「あっ、あう……」
漆黒の闇が蠢いている。
ベッドの上で仰向けになっているミアの上でうぞうぞと蠢く闇が、ミアに何事か囁いた。
すると、ミアはこくりと頷いて、口を開く。
開いた口に、闇がするりと滑り込んだ。
「……ん、んう」
ミアの唇から入り込んだ闇は、ミアの口から何かを吸い出していた。
聖剣の発する光にも似た、何か。
闇の中で白く光る何かが、唇を媒介として、ミアの体から闇の中へと移ってゆく。
ごくり、ごくり、と光を闇が飲み干すほどに闇は膨れ上がり、ミアの体をひたひたと
覆い尽くしていった。
「んん…………あうぅ!!」
闇がざわりと膨れ上がる度に、ミアは感極まった叫びを上げてきゅ、と闇にしがみついた。
「あ、おっき……ふぁ、やぁあ……」
闇は、時折人の形のように見えることもある。
けれど、その実体はどこまでも深い闇だった。
闇はその性質のままに少女の体に蓄えられている光を喰らい、塗り替えてゆく。
「ラーガ、イ…ル………っ、やっ、ぁあああんっ!!」
魔性の力を帯びているとしか思えない歪な闇に、ミアは何の疑問も持たずに犯されていた。
どころか、自ら喜んでそれを求め、受け入れている。
その動きに闇はぶわりと膨れ上り、ぐぐぐ、と空気が軋むような音を立てて笑った。
身の毛もよだつようなその音も、今のミアには恋人の睦言にしか聞こえない。
耳元で闇が何事かを囁くと、初めは恥ずかしそうに首を振って躊躇っていたが、
より深く受け入れられるようにと闇に足を絡み付かせた。
「あはぁっ……ひぁっ!」
最奥まで侵入してくる闇に体を貫かれながら、壊れるほどに腰を振る。
闇の輪郭をぴちゃぴちゃと舐め、最奥までも浸食してくる闇を歓喜でもって受け入れた。
「あっ、ひあああぁぁああ!」
女性の体の最も無防備な部分へと侵入した闇は、ミアの内部でぶわりと大きくなり、
内部からずぶずぶとミアの体を浸食していった。
「んっ、んっ………はぁぁ…」
体内へと流し込まれた魔性の力を、ミアは嬉しそうに全身で味わっていた。
魔性の力は、人の体を、心を蝕んでいく。
聖剣を持つ勇者ですら、その力に抵抗することは困難だった。
ましてや定期的に、直に体に流し込まれている状態で太刀打ちするなど不可能に近い。
「ラーガイル……ラーガイル、だいすきぃ……」
かくして勇者は、魔王の力に為す術もなく屈服する。
嫌悪の色など微塵も浮かべず自ら口づけを求め、闇と戯れる姿は、勇者と呼ぶには淫乱すぎた。
闇に溺れた淫猥な雌犬は、ぴちゃぴちゃと嬉しそうに闇を啜っていた。
273 :
勇者と魔王:2009/02/01(日) 02:59:51 ID:n7qIyuDy
そして、同じ宿屋の違う部屋で。
「あはぁっ、ひぃっ……。はっ、入ってくるぅ……」
獅子の頭に、人間の体。
どう見ても魔物としか見えない異形に体を貫かれながら、女僧侶は腰を振っていた。
四つんばいになり、後から貫かれてひいひいと喘いでいる姿は、普段の彼女を知る
人間から見たら信じられないものだったろう。
「ああっ……もっと、下さい……」
神に純潔を捧げたはずの身で、獣さながらの行為に陶酔しきった女に、獅子の頭を
持つ男はくぐもった笑いをこぼした。
その隣の部屋では蛇の舌を持つ男に、女戦士が組み敷かれていた。
「ひうっ……はぁぁぁっはああああっ」
男の指が蛇のように、肉付きの良い体をうねうねと這い回る。
「ぐうっ、ああっ、うああああぁぁ……」
ぬらりと黒光りする指に嬲られ歓びの声を上げる姿からは、剣一本をたよりとし、
自らの命を晒して戦う者の凛々しさなど微塵も感じられなかった。
そうして三者三様の夜が明ける。
魔族の力をたっぷりと注ぎ込まれ、指一本も動かせないほどに消耗した三人は、
遠ざかる鈴の音を聞きながら眠りに落ちた。
光の剣を抜きし者よ、予言を与えてやろう。
お前はこれから各地の魔物を討ち果たし、魔王の城へと辿り着く。
魔物を倒すほどにお前の力は強くなるが、その旅の終わりに
お前はその力を魔王の元へと差し出すだろう。
以上です。
なんていうか、勇者僧侶戦士ってくると、どうにもドラクエを想像しちゃうな。
そういう想像で良いのかどうかわからないけどGJなんだぜ。
これは序章で魔王の城が本番ということなのかな。ひゃっほう。
魔王の城へ辿り着くまでも楽しみなんだぜ。
魔族の力を注ぎ込まれた三人が
そのことに気付いているのかいないのか。
なんとなく気付いていながら、侵食されながら
それでも魔王を倒すため城を目指す、
とかだったら鼻血出そう。
…ええと、私の妄言は気にしないでください。
とにかくGJ!
久しぶりに覗いたら新作が
面白かった
GJ!
俺が魔王なら力より身体を捧げて欲しいところだが
幼少の国王の生母でエロの場合、体の疼きをもてあまして乱脈に走るのと、
後ろ盾になってる権臣に無理強いされてとどっちが好み?
>>279 女性のキャラによる
が、俺は後者かなw
俺も後者
がひねくれ者の注文として
その権臣は太后の元婚約者で先王に引き裂かれたとか
先王の父王が王位簒奪の際にしいした兄太子のご落胤とか
そういう事情が欲しいな
>>279 ストーリー重視なら後者でエロ重視なら前者かなぁ。趣味と実益を兼ねて色気で臣下に忠誠を誓わせるのも
見てみたい
自分の体を武器にして、臣下や外国の大使を手玉に取りながら我が子を守り、
国を繁栄に導くというのもいいかも
>>281 それだと幼少の国王は権臣の胤とか・・・
ありきたりかな
大野治長タンですね、わかります
むしろ秦の呂不イとか
(いが変換できない)
奇貨置くべし
の人だと幼君成長後に失脚しそうだ
むかーし見てた大奥のドラマの月光院と間部詮房を思いだした。
野心家の間部が、身分は低いがとある美女を見出し礼儀作法教養一般などを教え込む。
女は間部に惚れて彼のためにと頑張る。が、間部は最初から彼女を主君への献上品として
磨いていただけだった。結局彼女は惚れた男のために別の男のものとなる。
時は流れ、彼女は見事男子出生、主君は将軍になり更にその子が後継ぎに。
主君の死後、幼い将軍家継の生母として、今や家臣の間部より身分が上になった月光院。
そこでむにゃむにゃ、と。
生母の方から権臣を誘う、って意味では
>>279の前者ぽいけど
その昔に事情ありってところは
>>281に近い。
昔惚れてた、でも相手されなかった、今は自分の方が身分が上だから自分の好きにできる、
っていう一種歪んだ愛情というか愛憎半ば相まった月光院の行動がえらくエロかった記憶がある。
ともあれ古ーい断片的な記憶でしかないから実際のドラマと違ってたらどうしようw
ほ
ら
前スレの少年と魔女は、もう来ないのでしょうか?待ち続けてもいいのでしょうか?
292 :
名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 07:12:32 ID:2iwgsj3+
ほしゅあげ
木の精の続きはまだかな…
ノイエさままだかなぁ
>>291 自分も待ってる
最強勇者も待ってるんだけど、このスレだっけ?
途中で落ちたよな、そのスレ
299 :
sage:2009/03/07(土) 02:35:08 ID:iMQlyhk/
ありがちな、アホな魔王様をたっぷり書いてみたくなりました。
新参者なのですが、投下して宜しいでしょうか?
うわあああ。sageミスごめんなさい。
それより、投下はまだでしょうか
かぜひいちゃうyo
それでは投下させていただきますー。最初は気軽にあらすじなどを。
「魔王:全てに於いて、魔を携え、魔の頂点に君臨する王の総称。
……簡単に書いてくれる。」
ぱたん。と、本を閉じる音がやけに、耳に残る。
その音は、一つの物語を読み終え、感服した際に聞く音に、良く似ていた。
しかし、どこか諦め、苛立ち、不快な音が混じっているように聞こえるのは、読み手の意思が表れている他ならない。
「どうせ、歴史書に残すんだったら、魔王本人に書かせろよ…。
俺なら、こう書くね。
腐ってしまうほどの、寿命があり、特になにをするわけでもないのに、
ありとあらゆる力がデカイ。本性の図体もデカイ。ついでに、ち○こもデカイ。
その割に、あっさり封印されたりするしな。頂点に君臨するとか、どんな大言壮語だよ…
おまけに、ぐーたらが多い。代表格は俺だ。
あー、そうだ!寝るのが好きだな。数百年とか、普通に眠ってる馬鹿も一人や二人じゃない。」
本を指先でくるくると回しながら、一人言をぶつぶつと喋り始める。
「やること…ねぇな。」
で、一人言を、締めくくる最後の台詞はコレ。誰もが、一度は思ったり呟いたりしたことがあるだろう。
一人言を喋り始める状態というのは、どういうときなのだろうか?
動悸?息切れ?湿疹?
どれも違う。そう、要するに暇な時なのだ。
言葉、物腰、息遣いで分かるように、まさにこの人物に当てはまる。
暇でも少しはやることがあるだろう?そう思って読み始めた、歴史書も、途中は面白かったが
自分の種族の項目に差し掛かった所で、気分を害し、閉じてしまう。
そう。 この人物は魔王。 幾百幾千を生き、膨大な魔力と力を持ち、そして暇なのである。
相変わらず、魔王様は暇だった。
「ふぅぅぅ…。またしてもやることが、ない。勘違いな勇者とか、盗賊でも、忍び込んでこればいいのによ。」
漆黒のベッドに仰向けになり、頭の後ろに腕を組みながらそう呟く。
目に入るのは、曇りの無い夜空と、森。耳に入るは、虫の鳴き声、獣の遠吠え、風の音を合わせた交響楽。
最高の風流の中で目を瞑り、先ほど呟いた事を頭の中で思い出す。
「勇者…か。あいつは良い暇つぶしだった。」
勇者が攻めて込んできたのは3年前。
「なんで魔王がこんな所でベッドに寝ているんだ!」
という勇者の怒号がはっきりと思い出せる。あんぐりと口を開けた勇者の仲間もなかなか見ごたえがあった。
森の中にベッド一つ。その上に魔王。攻め込んできたというよりは、ばったり会ってしまった!というのが適切ではなかろうか。
まさに、
「 まおうが あらわれた ! 」である
「なかなか強かったが、何が失敗だったんろーな…もうこないだろうなぁ。」
これはいい暇つぶしの相手が現れたな!と喜んでいたのだが、もうここ20年顔をみない。
楽しくて楽しくて、倒れてからも、仲間に回復魔法をわざとかけるタイミングを与え、何度も何度も転がしたのが不味かったのか。
聖剣の一撃を受けてみろ!なんていう勇者に対して、歯の頑丈さを見せたのが悪かったのか…
魔族の王たる所存を見せてやる為に、尻尾をぶん回して、4人とも吹き飛ばしてやったのが致命傷だったのか?あれは良い音がしたからな。
「んーむぅ…だって勇者だろう?だったらこっちも魔王らしい所を見せないと失礼だしよ。」
またもごちりながら、勇者のパーティをなぎ払った尻尾を顔の前でふりふりと動かす。
普段は羽も尻尾も角も使わない為隠してあるが、勇者との戦闘を思い出して動かしてみる。
戦闘が終わった後に、仲間に連れられて帰っていった勇者の顔が脳裏に浮かんだ。まるでサキュバスに精気を吸われた少年だったと。
「礼節に非はない、よな。ちゃんと最初に頭を下げたし、寝ている所に不意打ちも寛大な心で許したぞ俺は!
とすると、褒美か!褒美が足らなかったのか!魔王を倒したら、褒美が出るものだものな。
そりゃあ、ベッド一つしかない無い所を見たら、やる気を無くすのも無理はない」
盛大な勘違いである。
「闘争にしても、代わりばんこに攻撃するとか、何かあったはずだ!むおお…俺としたことがっ!
全力を出さなかったのもいけなかったんだな!ちょっとでも、長く戦舞に興じていたいというのは俺の我侭だもんな。
ようし、次のイベントは全力でこなすとしよう。おっと、真摯と誇りも忘れてはいかんな。魔王たるもの…」
分かった!と無邪気な子供がクイズの答えを発見したかのように、本当に嬉しそうな顔をしながら壮大にレベルアップした勘違いをまた呟く。
しかし近いうちにこの言葉の変なプライドが、自身の暇を、女体と、闘争と、政治と、宇宙を覆う愛で塗りつぶしていくのを彼は知らない。
とりあえず二話ほど投下させて頂きました。エロは4・5話くらいから導入される予定です
色々と練っていたら、長くなってしまいました。
楽しんで読んでもらえると嬉しいです。
これは期待できそうな
続きがんばってください!
「 〜逢魔ヶ時の夜魔の森〜
入るは穴の如し、出るは牢のごとし
巡り巡って迎えるは夜魔の寝所
夜の帳が落ち、目覚めるは王
立ち入ってはならぬ、立ち入っては… 」
「ならぬ〜っと♪こんな唄を知ってるかい、嬢ちゃん?。
おおっと、唄ばかりじゃなく注文も聞いてもらわないと」
「あはっお上手な唄ですね。これと、この赤いのと黄色いのを。ああっこちらの果物も綺麗」
「かぁーっ!分かるねー。そいじゃあこいつもおまけだ!果汁が溢れて食べごろよ!
王宮の物にだって負けやしないよ!オペラの町の果物屋さんはよ!」
「まあ!ふふふ。」
よくある客商売のやり取り。それが行われているここ、オペラの町。
人口2000。町としては小さな規模ではあるが、町の上に立つ、城と王宮、そう、城下町なのである
北西に位置するこの場所は、寒気が多いものの、冬でも特有の温暖風が吹き、果物がよく育つ。
「いつもありがとうございます。」
「なぁに、いいってことよ!さぁさぁ日が暮れないうちに、お姫様に届けてやんな!。」
「はい。姫様もお喜びになられます!。」
他愛ない会話と共に袋に果物を入れ、お札を受け取り、袋を手渡す果物屋。
不意に果物屋が不安げな顔をして城を見上げながら少女へ尋ねる。
「なぁ嬢ちゃん。一応国民として聞くぜ?
次期オルガノ国王は、まだ決まらないのかい?。」
「それは…まだ決まっておりません。私は侍女ですので詳しい事は話せませんが、この国は必ず立ち直ると信じております。」
「俺も含めてよ、結構民衆も不安になってきてやがるんだ。そこのところ、大臣に伝えちゃくれないかい?」
「分かりました。必ずお伝えいたしますね。」
「ありがとうよ。湿っぽい気分にさせて悪かった。それとなさっきの唄だが、ただの唄じゃないんだ。
お嬢ちゃん、町と城の間にある、あの森。いつもあの森を通ってくるだろう?。」
「はい。これといった獣もいませんし、真っ直ぐオペラへ向かえます。どちらかといえば並木道みたいで歩きやすいんです。」
「確かにそうだけどよ、あの森に夕刻以降は入っちゃいけねーぜ。
なんでも、三年前ほどにどっかの勇者様が仲間を引き連れて、日が沈むか沈まないかくらいあの森に入っていったんだが、
次の日ボロボロになった勇者が、「魔王がっ魔王がっ」って何度も呟やきながら床に伏せっちまったらしい。
この唄が指してるのはあの森で、こんな逸話がある以上危ないってことは確かだからな。」
「分かりました。とても親切にありがとうございますね。」
「おう。さー森を通るなら日が暮れる前に通りな!。」
少女は一礼すると、帰り道の方へと歩き始めた。毎度ありという暖かい言葉を背中に受けながらも、
頭の中で城の様子、国王相続の事がめぐり始め、顔が陰り、歩く速度も遅くなっていった。
「はぁ…。」
果物屋で買い物を終え、俯きながら帰路を歩いていく少女から心底落胆したため息が漏れた。
その原因は国王相続である。オルガノ国の王、ターマス前国王。
元大貴族の出であり、その財を巧みに操り、貿易などを潤わせ、オルガノの平定を守ってきた王。
普通に考えれば、知性に富み、貿易などを発展させ、オルガノの国を潤してきたように思える。
だが、城の中を知る少女に取ってはそんなもの、聞こえが良いだけにしか聞こえない。
実際は、口が上手く、私財を持ってさまざまな貿易を取り付けたり、意味もない徴兵をしてその数に満足したり、
あろうことか、敵対国である南の帝国ロウディアの姫姉妹二人を莫大な金でもって娶り、南の帝国は力をつけ、宣戦布告をされるという始末。
大臣達の言われるがままに、その私財と国財を動かし、後先考えず政治という名の豪遊を嗜んでいたにすぎない。
そのおかげで不安を覚えた兵士、忠誠心無い家臣が、国財を持ち出し夜逃げ。兵も財も、一国どころか、町単位しか残っていないのだ。
おまけにその国王本人は、貿易を結んだ国、主に南の帝国ロウディアからのプレッシャーで床に伏せり、病死。
侍女の私にだって、分かるくらいの悪政。町へ噂が届かないのは一緒になって楽しんでいた大臣達の口止めによるものだろう。
こんな滅びそうな国を、誰が継ぐのであろうか。
3話目投下してみました。エロの欠片もない話ですが、前フリなのでご容赦くださいませ。
期待して読んで頂けるようなエロさと面白さを組み込んでみたいと思います。
酷い国政を考えると頭が痛くなり、予想できる未来に恐怖を覚える。侍女の私でさえこうなのだ。
ふいに、自分が仕えて世話をさせて頂いている南からこられた美しい姉妹の翳った顔を想像し、ぴしゃりと頬を叩く。
「ん。しっかりしなくちゃ!。美味しい果物を姫様に召し上がって頂くのよ!」
そう思い顔をあげた少女が、さっきまでの不安をかき消す新たな不安に襲われる
考え込んでた為に、歩くスピードが遅く、いつの間にか辺りは薄暗くなっていた。
なんとか、目の前の道は視覚できるものの、来たときとは違う感じがする森に、果物屋の唄を思い出し震える。
そうだ、町まで出ればと、後ろを振り返ってみる。しかし、ずっと真っ直ぐ歩いていたはずなのに!道が――――――無いのだ。
言い知れない恐怖。不気味な何かを感じて肌が粟立っているのを明確に感じとってしまう。
「きっと、少し外れて歩いていたのね、そうだわ!きっと。」
自分を奮い立たせると、もう一度前を振り向きなおす。
「どういう…こと…?。」
振り向いた先には、樹木の壁。人一人通れる道さえもないのが分かる。
周りを見回してみると、どこにも道がない所か、囲まれるように、樹木が立っている。
――――――もう自分がどこにいるのかすら分からない。
足が竦む。声が震える。息が出来ない。そして聞こえてくる風と虫と獣の遠吠えと、さらにもう一声。
「ん?おい、そこのお前。」
びくっと一度震えて振り返るとと少女は思いっきり叫んだ。
「きゃあああああああああああああ!食べないで!呑まないで!連れて行かないで!」
「うおおおおっマンドラゴラでも、踏んでしまったのか、俺は!」
少女と声をかけた黒い影は同時に叫びながら飛びのく。少女の目には今まで写ってなかったはずの黒いベッドを境界線のようにして。
「「はぁっ…はぁっ…」」
何故か両者荒い息。少女は自分がどこにいるのか分からないが、行ける所まで後ろに飛びのいた。
背中に当たる冷たい樹木の温度が夢ではないと告げていた。落ち着け、落ち着いて!私は侍女なのよ!
木を背に落ち着いて目を凝らしてみる。目の前にはよく分からないけど、黒い影と黒いベッド。周りは樹木の壁。
普通の状況なら失神して倒れるくらいのこの状況を、落ち着いて捉えているのは、王宮のごたごたに揉まれた精神なのはいうまでも無い。
サクッサクッと草を踏みしめながら黒い影が近づいてくる。良く見ると、赤い目が暗闇の中でギラギラと光っている。これは怖い。
ああ、私食べられてしまうのね、姫様ごめんなさいと、覚悟してしまうのも無理はなかった。
ぴたっと、黒い影の歩みが止まる。赤い眼が上から下まで舐めるように行き来する。そしてまた下から上まで目線が戻り、
少女の視線とかち合う。震える少女の耳に自分の心臓の音がこだまする。ここで、食べられてしまう…逃げろと告げているように。
そして…黒い影が、行動を起こした―――
「お前、町娘か?それにしては気品があるよな」
と、低く通る声で黒い影から訪ねられる。眼が点になるとはこの事だろう。
オマエマチムスメドコカキヒンアルカ? 答えは はい…?だ。
森に迷い込み、退路を絶たれ、黒く赤い眼をした影に少しづつ近寄られたら誰だって襲われる覚悟を決める。
だが、その覚悟をあざ笑うかのように、起きたのは問いかけ。一瞬だが安堵してしまい、少女はずるずると木を擦りながら地面にぺたんと
腰を下ろしてしまった。
4話目投下させていただきました。エロに届くまでもう少しだけお付き合いください。
とはいえ少し、でしゃばりすぎたので、一旦休憩します。
前に見たんだけど娘が演説しているとき親父が後ろに立って
娘とやっていたんだけど集まっていた市民は気づいていないで
おやじ(王)が娘を守っているんだと勘違いしてるやつ知らない?
1レス1話か…。
エロだけで何話いくんだろう。
過疎ってるが良スレハケーン
特にタマネギ氏の作品が凄く好きだ 氏が書いた作品って他には無いの?
>>311 色んな所を省いたのに…。手が止まりません。
魔王様が軽く二桁に届きそうな勢いです。
どこかで打ち切らないと。
>>313 とりあえずもうちょっとまとめて投下したほうがいいぞ
あと変に馴れ合おうとしないこと
そこらへんは変に波風立てたくないなら気をつけた方がいいと思う
もちろんエロが長いのはバッチコイだ
315 :
魔王5:2009/03/08(日) 19:53:18 ID:z9QbEOPB
アドバイスありがとうございます。それでは纏めて5〜10話まで投下させて頂きます
魔王様は相変わらず暇だった。と始まるこの物語も今回ばかりは違うようだ。
―――――何かがいる。俺の張った結界の前に背を向けて。
そう、魔王が感じたのは、勇者の持て成し方を飽きて考察し終わった後だった。
本当は、辺りが薄暗くなる頃から気配があったはずなのだが、あまりに魔力が小さいせいか、読書や考察をしていたせいか、
はたまた魔王が間抜けなだけか、気づくのが遅れ、今に至る。
どうして?なんの目的で?どうやって入った?等を考える前に、魔王は結界を解いて、小さき者へと声をかけた。
電話派?メール派?と聞かれたら、直接会う派だな、と漢らしく答えそうなこの魔王の行動のおかげで、
「きゃあああああああああああああ!食べないで!呑まないで!連れて行かないで!」 と悲鳴を上げる事になる。
ぺたりと、寝所の隅で腰を下ろす少女を不思議そうに見つめる魔王。一度、上から下までじっくり見たが、なかなかの気品のある顔だちを
している。さすがに町娘ではあるまいと声をかけた所、ぺたんと座ってしまったのだ。
長年生きてきた魔王もこればっかりは、どういう意味を持った行動なのか最初分からなかったが、今日の俺は冴えてる!
といわんばかりに、ベッドに腰をかける。座って話しをしたかったのだな、と。
思えば、客人をいつまでも立たせて置くのは、魔王の威厳としてどーなのか。むぅぅ…やはり城くらいは持っておくべきだったかと
途方もない勘違いをしていると、前方から綺麗なソプラノに、震えでビブラートがかかった声が響く。
「あの…貴方は誰なのですか?ここは一体どこなのですか?」
もっともすぎる質問に、しまった、先に名を聞かれ礼を欠いてしまった。と思っているのはきっとこの魔王だけ。
「名はブレヌ・ミィ・マリギュラ。長いし、マリギュラでも、ブレミィでも好きに呼んだらいいぞ。
どこかと言われれば、森だ。
俺の寝所でもあるが、ここだけだしな。
ところで、そういうお前は誰なんだ?。」
周りを見渡しながらそう答える魔王。なんてことはないただの森に、結界を張ってベッドを置いただけの、魔王の巣。
「わ…私は、オルガノの城の王宮で、侍女をしております。ステラ・シェル・オールドダッドと申します。
お初にお眼にかかります、マリギュラ様。」
混乱と緊張の渦に巻かれているはずの、少女の口がすらすらと動いていく。舞踏会などでの礼節と長年王宮に勤めてきた証を物語る。
「その丁寧な挨拶。町娘にはない気品。そして艶のある栗色髪。やはり宮廷の者だったのか。俺の眼も捨てたものではないな。」
その心が分かるのか、うんうんと、腕を組みながら頷く魔王。それを見ながら少女はあっけに取られる。
喰われるでもなく、殺されるでもなく、普通に会話しているこの状況。最初は死を覚悟していたはずの少女だが、
何故だか今はそれがない。混乱はしているが、恐怖というものが会話するたびにそぎ落ちていく。
姿は薄暗くて見えないが、人語を喋れるというのが、決め手だったのだろう。
恐怖は薄れ、冷や汗は引き、心には余裕が生まれ、そして頭には疑問が浮かぶ。
「あの、マリギュラ様。失礼を承知で申し上げるのですが、名はお聞きしました。ですが貴方様は何者なのでしょう?。」
名は名乗ってもらった。だが、何者なのか?についてはまだ聞いていない。そう思っていたら不思議と口に出てしまったのだろう。
返ってくる言葉を知っていたなら、質問などしなかっただろうか?
その言葉が、「魔王だ。」と知っていたなら。
316 :
魔王6:2009/03/08(日) 19:54:12 ID:z9QbEOPB
「魔王…。」
魔王と口に出された瞬間、出した瞬間、ステラはピリピリと、空気が変わったように思えた。大気が震えているようなそんな感覚。
驚いたりしなかったのは、その空気に気おされていたのと、果物屋の唄を魔王といわれた瞬間に、はっと思い出したから。
震えるような空気の中でその空気をつんざく、低い声がマリギュラから放たれる。
「我ら魔王の理で語るのなら、統べる種は夜魔。統べる力は静眠と氷寂。狩猟と闘争を称え、交わりを赦し、月を祝す魔王、だそうだ。」
その声は静かに響き、胸の奥まで沈んでいく。人間の王と似て、非なる厳格さを持った声に、ああ、本当に魔王なのだと、頷いてしまう。
さらに言葉どおりの月の祝福だといわんばかりの月明かりが、マリギュラの寝所を照らす。
月明かりで少しずつ象るマリギュラの姿形に、ステラは眼を驚愕に見開き、自分が唾と息を呑むのを感じた。
黒曜石が露に包まれ煌きを帯びているようなその黒髪。赤い眼と言われれば畏怖の対象でしかないが、紅玉と冠せば何よりも輝きそうな眼
黒と白を基準にした外套から漏れる蒼白い肌で作られた逞しい胸板。どこか危険な匂いを漂わせる魔の美を前に、ステラの眼は捉えられていた。
なんて美しい、と。王宮で会った美男子、美しい宝石、そのどれもが、目の前に広がる光景に勝てないだろう。
永遠にも感じられそうな美しいこの光景。誰にも邪魔できない魔王の作るこの光景。だからこそそれを台無しにできるのもやはり魔王だけなのだ。
「とまぁ、偉そうに語ってみた所で、実際は何もやることがなくて、退屈している魔王って所だ。
そこに丁度お前のような来客が来たから、助かったもんだ。
隣に座って話しでもしてくれないか?いいだろ?いいだろっ?」
ぶち壊し。まるでブチ壊しである。情事の際に、愛しているか?と聞かれ、あ、その前にトイレ行って良い?と答えんばかりのブチ壊し。
魔が差したと言っても良い。しかして、その台無しが、ステラとの距離を縮めるものであり、人間と魔王の談笑会の口火を切ったのである。
マリギュラの厳格な雰囲気もどこへやら。ぽんぽんとベッドの隣を叩く、その姿にステラは微笑をもらす。
「くすっ…今、参りますから。」
ベッドの前まで行くと淡いピンク色で染まったショートドレスの裾を両手でちょこんと持ち上げ、一礼して、ぽふっとマリギュラの隣に座った。
「おお、なかなか堂に入ってるな。さすがは王宮の侍女。佇まいからして1・2年の貫禄ではあるまい?」
「はい。15の時から南のロウディア2年、オルガノで2年と、姫様の侍女を変わらず4年勤めさせていただいております。」
「4年もやってりゃ、堂にも入るわな。ロウディアっつーと、帝国か?あそこは暮らしにくいだろう?暑くてたまらねぇよ。」
「ふふっマリギュラ様は、暑いのは苦手でいらっしゃるのですか?。」
「あーダメダメ。大体暑いと喉が渇くし、汗もでる。ベタベタしたのは嫌いなんだ。」
ベッドに座った所までは、まだ緊張も恐怖もなかったといえば嘘になる。だがこういいながら、
ぱたぱたと手を振るマリギュラを見て、ステラの恐怖感や緊張はどっかにすっとんでいってしまった。
「魔王様であっても、苦手な物もございますのね。」
「そりゃそうだ。基本的にはお前たち人間と変らんからな。無駄な力と寿命と生態系くらいなんじゃあないか?」
「そうなのですか?古来より魔王はあらゆるものを超越した
畏怖の存在であり、逆らえば、7代に渡って災厄を振りまかれると聞きました。」
「どこの教典だよそれは!7代に渡ってとか、あらゆるものを超越したとか。大きく書きすぎなんだ。
大体畏怖の象徴だとかなんとか言うが、怖いか?」
どさっと後ろのベッドに倒れ込みながらマリギュラがごちる。
「あ、いえマリギュラ様は話もしてくれますし、なんだか心地良い感じがします。」
そうだろ、そうだろと猫のように笑いながら話かける魔王に、ステラは愛らしさのようなものを覚え、また少しずつ近づいていった。
317 :
魔王7:2009/03/08(日) 19:55:30 ID:z9QbEOPB
相変わらず楽しそうに話す二人を月は祝福し、穏やかな風が頬を撫で、悠久の心地よさを育む。
その心地良さからか、ついにステラは胸に秘めていた想いの棘を外へと抜き捨ててしまう。
オルガノ前王の悪政に始まり、王宮での様子、溜まっていた全ての想いをぶちまけてしまった。
「私の国は、もう滅んでしまうかもしれないのです、何がいけなかったのでしょうか」と。
ぽつぽつと語り始める、ステラの話を体に染み込ませる為、眼を瞑り聴くマリギュラ。
ステラの真剣な姿勢に答えるように、緩んでいた頬をきっと締め、ベッドに倒れていた体も起こした。
「王…か。我々魔王にも理がある。魔王とは、知を持って、力を持って、魔を持って王とし、誇りをかかげ、轟然と立つと。
どんな魔王にもこれが当てはまらぬことはない。逆に当てはまらないのであれば、魔王になる資格なし、とな。
最初からその前王には国王の資格がなかったのだろう。」
慰めるようとも、悟らせるようにも取れる言葉に侍女は目頭が熱くなるのを覚えた。
「無論、理を全て備えている魔王の存在など稀だ。力無く膨大な魔を持つ魔王も存在する。
しかしその魔は理を、覆い尽くし、新たな理を作る。魔族の中でも無二の魔を持つ、稀なる存在と、な。
それを他が認め、賛美されるのならば、それもまた魔王となるに相応しい。」
マリギュラという一つの存在ではなく、魔王として奮う荘厳な雰囲気と言葉をステラは甘んじて飲み込む。
「膨大な財を持ち、口上に長け、その財を振るったとしても、多くがそれを認めなければ、ただの道化よ。」
ふっと笑いながら、ステラの頭に手をあてゆっくりと髪を梳く。
ステラはもう止められなかった。胸にささっていた棘は涙に変わり、頬を伝う。
相手が畏怖たる誇り高き魔王だというのも忘れ、胸板に飛びつき、胸のうちをすべてぶつけていた。
マリギュラは自分の子供をあやすかのように、静かに頭を撫で、思いついたように羽を広げ、ステラを包む。
まるで、邪魔する者も、見られる事もない。安心して鳴けばいいと言いたげなその行動にステラはまた火を灯され、
嗚咽としてその苦渋の残滓を吐き出す。ステラの震えが止まるまで、マリギュラは微動だにしなかった。
「落ち着いたか?。」
「あ…はい。申し訳ありませんでした。はしたなく泣き崩れてしまい、お恥ずかしいです。」
「魔王の前で泣きじゃくる人間というのも、珍しくていいな。こいつは貴重な体験をした。」
くくっと魔王らしくない含み笑いをするマリギュラに、ステラは顔を染めて、拗ねた声を出す。
「いじわるをなさらないでくださ…。私も女なのですから、その…羞恥も感じます…。」
そーかそーかと、お決まりの猫っぽい笑顔を作りながらくしゃくしゃと栗色の髪を撫でる。
ステラはそれだけでもう、どうしようもなくなってしまい、淑女、侍女としての振る舞いも忘れて
それに夢中になり、身を委ねてしまう。その行為で、その心地よさで一度空になった胸の中に、新たな想いが募る。
もしもこの方が王になってくれたのならば、と。付き従う姫に罪悪を覚えながらも、もしも私がこの方の侍女となれたのなら、と。
そして、想いは誰にも止められず、ステラの胸の想いは、意思となり覚悟となり行動となり、マリギュラの前で示される。
318 :
魔王8:2009/03/08(日) 19:56:09 ID:z9QbEOPB
どうした?。」と声をかける暇がなかった。それほどにその動きは洗練され、
見入ってしまっていた。仮にも魔王たるこのブレヌ・ミィ・マリギュラが、だ。
隣にいたステラが真正面へ移動しドレスの裾を広げ、屈するように座り、胸に手を沿え、祈るように眼を瞑り、
「ブレヌ・ミィ・マリギュラ様。どうかお聞き届け下さい。オルガノの王として君臨してはいただけませんか?。」
という口上を述べるその行為に。
見入ったのも確かだが、困ったのも確かだ。魔王が人間の王になるなんて話、1300年ほど生きているが、聞いたことがない。
正気か?ぐーたらな俺だから良いものの、気性の荒い魔王だったら首跳ねられてるぞ。
ステラは俺の言葉をじっと待つかのように、微動だにしない。どうするんだこの状況。
落ち着け。真意を問いただすのだマリギュラよ。人間の言葉は幾重にも意味が重なっていることがあると爺から聞いた。
「本気でいっているのか?魔王だぞ。魔王。お前たち人間が畏怖する象徴であり、なんだっけか…えーと7代まで祭られるんだぞ?。」
何喋ってるのか良く分からなくなってきた。格好良く魔王らしさを見せて、悩みを聞き、持て成した所までは良かったはずだ!
「マリギュラ様はそんな方ではないと、自分でも仰られたではないですか。」
真剣な眼で俺の眼を見てステラがそう言う。そんな眼で見るなよ…ああ。言った、言ったさ。確かにそんな事を言ったような気がする。
「しかし、我には魔王としての矜持があり、人間に傅く事などできぬ。そもそも何の義理があって人間に力を貸さねばならない?
贄も、利も、俺に届けぬ人間の、願いを聞くことは理に背く!」
決まった!これは決まったな。魔王らしい言葉遣いと威厳に乗っけて
よくこんな口からでまかせが出たもんだ。やればできる子だという爺の感は正しかったぞ。
理に背くとか笑っちゃうね、マジで。どこの三流キザ魔王だよ。そんなことを考えながらステラを見る。
やべぇ。なんか震えだしたぞ。この女。
眼を潤ませてこっちを見てるし、ちょっと顔も赤い。人間の女も捨てたもんじゃないな。庇護欲ってやつをそそるって言うのか。
これはフォローが大事だな。サキュバスやインキュバスが、アメとムチが共存に達する道だと言っていた。
「ま、まぁ。膨大な力を持つ魔王が、少しの力も分け与えぬのも、理に反するのかもしれ…「私が贄では…いけ…ませんか?。」
待て。今なんつった侍女。ステラを見るとドレスの胸元を手でぎゅっと握り
何かを決意したような涙目でこちらを見ている。これは正直そそる、エロい。いやいやいや。落ち着け。
基本に戻るんだ。魔王の礼節は威厳、尊重、誇りに満ち溢れていなくてはならない。
「今なんと申した?。」
「私が生贄では、不足なのでしょうか?覚悟は決めております。」
生贄の意味が分かって言ってるのか?命とか、体とか、一生を捧げちまう事だぞ?生贄ってのは。
まだ19だろ?これからこう、ああ、王子様なんて素敵なのかしら…?とか言って、私を愛してくださいましとかそういうのが
やってくる年頃だろ!?誰だよこいつの父親は!どういう教育してんだ。出て来いブッ殺してやる!
「不足〜とか、覚悟〜とかどうでもいいとして、
お前、意味分かって言ってる?生贄っつーのはだな、そのなんだ。命を捧げたり、体を捧げたり、生涯を賭したりして
あと戻りとかできねー事いうんだぞ?。」
とりあえずゆっくりと考えさせる。どうも、この女、暴走すぎなのは確かだ。なんでこうなったかは良く分からないが
落ち着いて考えさせれば多分大丈夫だ。ちょっと怖気づいたような様子を見ても、もう馬鹿な事も言わないだろ。
「マリギュラ様!ステラは足も震えて!体も震えてしまっております!ですから逃げ出さないうちに、
私を奪ってください!
お捧げ致します。身も心もマリギュラ様の為、国の為、お捧げ致します…。」
319 :
魔王9:2009/03/08(日) 19:56:52 ID:z9QbEOPB
据え膳食わぬは男の恥!今この状況がまさにそれだった。
俺の前に、佇む少女。侍女ステラ。少し震えながらも、両手で体を抱きしめ、顔は朱に染まっており目は潤んでいる。
しかも、目は俺から離さず、おまけに身も心も捧げますときた。これに欲情しないほど俺は無粋な魔王じゃない。
捧げますとか馬鹿な言葉で契りやがって。ここだけの話…かなりぐっときた。これはもう、捧げさせてもいいんじゃないか的な。
どすっと、ベッドに寝そべると上半身だけ起して、ステラを呼ぶ。
「どうした?俺の為に身も心も捧げるんだろ?。」
ステラは、蚊の鳴くような声ではい…と呟くとベッドにそろそろと近づいてくる。
ステラが靴を丁寧におき、ベッドに乗るとぎぃっとベッドの軋む音が聞こえた。まるで交わりの開始を知らせるように。
ひざ立ちで、ゆっくりと俺の方に近づいてくるステラ。その目は少しだけまだ迷いがあるように見えた。
俺はそれが少し気に食わなかった。身も心も捧げるとかいったくせに、その眼はどーなのよ、と。
ステラの位置が俺の腕の届く範囲まで来るのを見計らって、俺は考えていた事を実行に移す。
素早くステラの手をとり引き寄せ、唇を多少強引に奪う。そして勿論舌をねじ込む
「…マリギュラ様?きゃあっ!…あっ…んむぅ…ふ、むぅ?んむぅっ…はあっあっ舌がっ…はあっ」
なんて犯しやすい口唇だ。小さく、それでいて中は狭く、舌だったら3度も動かせば中を蹂躙してしまいそうだ。
1・2・3と本当に三度でステラの口内を蹂躙できるか試す。ぴちゃぴちゃという唾液の音がなまめかしい。
「はぁぁ…マリギュラ…さまぁ。」
一旦口を離すと、ステラの眼を見る。もう迷いはなくとろんとした、女の媚びた眼に変わっているのに少し口を吊り上げながら
俺の口とステラの口で、できた銀の橋が壊れる前にもう一度唇を奪う。
「ふむぅっ!?…むぁん、んっんっんっ…。」唾液をステラに送り込み、嚥下したのを確認すると俺はぴたりと動きを止める。
さぁ?どうするんだ?身も心も捧げるはずのお前は俺に対してどうするんだ?と視線を投げかける。
ステラはきゅっと一度だけ眼を瞑ると、俺の首に両手を回し、唇を押し付けてきた。
「んっ。ちゅ…は、ぁ…んんっ…んふっんちゅ…んはぁ…ふぅんむ…ちゅ…あぁむ…。」
たどたどしく、舌を一生懸命に、俺の口内に這わせる。俺の口はでかいからな、やりがいがあるだろう?
ぬろぬろと動く舌にちょっとした悪戯をしたくなり、動きが少しとまったところで、俺の舌で思いっきり巻き取りしごく。
そのたびにびくんと跳ねる体が愛らしい。
ゆっくりと一度頬を撫でた後、唇を離し、耳を甘噛みしながら、ステラのドレスを脱がしていく。
甘噛みされるのがくすぐったいのか、首に回している両手をさらに巻きつかせ、俺の体にぴったりとくっつける。
「くっついたままじゃお前の体が見えないだろう?これから捧げるお前のその体をきちんと俺に見せろ。余すとこなくな。」
ステラは首に回していた両手を俺の肩に置くと、肘を伸ばし、俺との距離をあける。
露になったステラの体が月の光で俺に晒される。形の整った乳房と、くびれたウエスト。少し朱に染まった白い肌が美しさを強調する
恥ずかしさからか、顔を横に向けているステラ。
「恥ずかしい…です。マリギュラ様。どこかおかしい所は、その、ございませんか?」
「ないな。顔をこちらに向けて、俺の目を見ろ。」
ゆっくりと視線がかち合う。またも羞恥の感覚を覚え、そっぽを向こうとするステラを視線で逃がさないようにする。
はぁぁ…と荒い息を付くのを頃合と見て、本格的な交わりを告げる言葉を口にする。
「さぁ、可愛がってやるからな。何度も鳴き、果て、全て俺に捧げるがいい。」
320 :
魔王10:2009/03/08(日) 19:58:57 ID:z9QbEOPB
リラックスさせ存分に火のついたステラの体を、本気で愛撫しにかかる。
目の前にさらされた乳房を感触を確かつつ、もみしだく。
「あっ…やぁっああっ駄目ですっ…そんなに揉まないでください…形が…ひゃん、あぁっうくっ…」
柔らかい。すべすべとした肌が、手に吸い付いてくる。これはココも期待できそうだ。
「そこは…引っ張らないでっ!ああっいやぁっ!くぁっふぅ」
二つの丘の上に立つ桃色のでっぱりを引っ張り、こりこりと親指と一指し指の先でこねる。
「はああっ…ああっ…駄目ぇ…駄目ぇ…先が痺れて、取れちゃう…あぐっ」
「駄目、じゃないだろう?少し触っただけで、ぷっくり立たせやがって。どれ?味の方はどうだ?」
俺はわき腹と首に手を置き、ピンク色の乳首にむしゃぶりつく。
「ふぁ…あぁっあ!舌がんぅあっ!ぬるぬるして、ひああぁぁぁ…んうぅっ!巻きつかれてるっ…。」
静寂な夜に響き渡る、嬌声。さらにそれとは違った、歯ごたえのあるものを噛んだ音が確かにステラに響き渡る。
こりっっ!
「ああああっー!噛んだっ…噛んだぁ…はぁっ…あんっ…」
「大分良い顔になってきたな。こりこりされるのと舐められるのと噛まれるのとどちらがいい?。」
右だけでは不公平だなと、左の乳首を弄りながらステラに問いかける。
「ひぅっ…そんなあっ…どれも、強すぎてぅ…選べなぁくぅあっ!」
「全部がいいのか。欲張りなやつだな。侍女が聞いてあきれるぞステラ。」
くくっと含み笑いをすると、乳房を二つ寄せて乳首をくっつける。親指で頂点を4・5度擦ったあと、おもいっきり乳首を舐めまわし
噛み、吸い上げる。
じゅるっ!ちゅるるっ!こりこりっ!ずーっ!ぢゅっ!ぢゅっ!
「ああっ待ってぇっ…両方なんて…あふぁああっ!ああーっ!はっふっ…きゃああーっ!いひぃっ!ひぅっ!あうぅっー」
たまらず、俺の頭を両手で抱きしめ、嬌声をあげながら髪を振り回すステラ。
さて、どうやってトドメを刺そうか。やはりこういうときは予想外の刺激に限るよな。
嬌声を上げているステラに気づかれないよう、首においた手をゆっくりとステラの秘所に向ける。
手のひらを下から上へ、ステラの秘所に密着させながら擦り上げる。
ぴちゃり!ちゅにっ!にゅぐぐっ!
「ひっ!?うああっあっあっあっ!ひあああああああああああああああああああ―っ!。」
突然の下腹部から感じる快楽に、ステラは背をのけぞらせる。
途中こりっとした感触がしたのはクリトリスだろう。胸の愛撫で極みに達していたステラは秘所を手のひらで擦り上げられ昇天した。
「はあっ…はあっ…ああっ…マリギュラ様ぁ…マリギュラ様…もう少し…あっはぁ…加減をしてください。」
息も絶え絶えになり、頭に回してる両手がかろうじて指先で組まれ留まっている。そんなになるほど乱れた状態でステラは俺の名前を呼ぶ。
なんて可愛いやつなのだろう。これはもっと乱して、鳴かしてやらないとな。
「可愛い鳴き声をあげたな。良い子だ。さぁ今度はもっとしっかり、しがみついていろよ?。」
俺はそう言うと、秘所を擦りあげた手のひらでそのままふとももをゆっくりと撫ではじめる。
「お待ちになって…ください。お願いです。ステラはもう達してしまって…。」
「 ダメだ。 」
ふとももをゆっくり撫でていた、手をステラの眼前に晒す。ぬらぬらと光った手がいやらしい。
その手をゆっくりと折って行き、握りこぶしを作る。にちゃあっと愛液が絡まった音にステラは、顔を真っ赤にした。
握りこぶしから、跳ねるように人差し指と薬指を立たせる。意味を理解したのか、ステラが泣きそうな力のない講義の声をあげる。
「マリギュラさまぁっマリギュラさまぁ…お願いです…ステラはそんなことをされたら死んでしまいます…あぁやめてぇ…。」
「そんなことってどんなことだ?」俺は意地悪く聞き返しながらゆっくりとステラの視線を絡み付けたまま指を下に降ろして行った。
ここまでです。ありがとうございました。
空気読まない様だが
宮廷侍女一人って魔王が人の王になる対価として適当だろーか
魔王というより面白兄ちゃんな性格だし、そういうダメな取引しちゃうキャラなんだろ。
結構好きだぜ、こういうキャラ。
で、ランス的な展開が始まるんだろ? 作者よ
325 :
魔王11:2009/03/13(金) 17:45:09 ID:LSYE3+WO
ランス的な展開か、どうかは分かりませんが投下いたします。
ここで一度区切りです。感想指摘してくださった方ありがとうございました。
軽い流血シーンなどありますので苦手な方はスルー推奨です。
>>320 「ひぃっあっ!やぁっ…。」
「おーおー、だだ濡れだ。すんなり指が入るどころか、逆に吸い付いてくるな。離さねー。」
森の中で行わていれるマリギュラとステラの情事。淫靡な水温が樹木を音叉にして響き渡る。
「そ、それはマリっぁぅっ…ギュラ様ぁがあぁっ!。」
ぢゅっ…ちゅくっ!にゅくにゅくっ!くちゃり…
秘所に指を突っ込み、何度か指を折り曲げて弄んでいると、嬌声で講義をあげるステラ。
「ほーぉ。ステラは俺が悪いっていうんだな?俺が。」そういいながら、指を秘所から出し入れしてやる。
断続的な水音と嬌声が重なり、鼓膜に響く。指を一度出し入れするたびに、跳ね上がるステラ。
「ひぅぅぅっ!やああっ!ふあっ…くひぃっ…んぐっくあっ!」
「おおっと危ねぇ!」
首に回された両手から力が抜けるのが分かり、慌てて翼をステラの背中で交差し、包み支える。
バサァっと翼のはためく音が、アクセントのように、情事を彩る。
情事を行っているのは、魔王と人間。そう、知らせるこの翼。
「あっ…ふ。羽?これが…マリギュラ様の羽。」
翼といえ翼と。コンチクショウ。1980円の安物みてーじゃねぇーか。
確かめるように声を出して俺の翼に触る女を表す細い指。汗ばんだ指がちょっとくすぐったい。
「そういや、意識して触るのは今が初めてか。ほれほれ、どんどん触っていいぞ。」
そういいながら、翼を背中に添って、するすると撫でるように動かす。
「ふぅっ!もぉ、悪戯なさらないで、ちゃんと触らせてください。」
そう言いながら俺の翼をなぞる様にして触れていく。「艶やかで、柔らかくて、滑らかです。ずっと触っていたい…」
はぁと、感嘆にも似た溜息を漏らすステラ。最近全然使ってないが、ここまで褒められると翼生えてて良かったーと思ってしまう。
さすが侍女。褒め上手だな。これは、俺も負けていられない。
「夢中で触っちゃって。これは俺もお返し、しなくちゃな。
ピンク色で、指を突き刺せば飲み込んで、動かせばうねうね形を変えて、本当にやらしいなー。」
秘所に入れたままの指を再度動かして行く。手に伝わる熱い感触とぬめりが気持ち良い。
ぢゅぐっ!にっちゃにっちゃ!にゅるる…っちゅぶっ!
「え?あ?ひぃやぁあ!んふぁぁぁ…ひぃぃああっあっあっ!。」
「声もいい。澄んだ声でひぃひぃ言っちゃって。私もう盛大でぐっちゃぐっちゃで飛んじゃってますー、みたいなよ。」
「そんな、恥ずかしい事…あうっうっ言わない…でぇ。ああっ!。」
「よぅし。もっと飛べるように。ココも触ってやらないとなー。」
いつの間にか、指で擦れていたのか包皮が剥けて、むき出しになっている突起に親指を当てると、ぐりぐりとこねまわす。
「そこはぁっ!あっひぃ!あーっ!あーっ!あああっ?来るっ来ちゃう…いやあっ!。」
イキそうになってるのか、ふとももがぷるぷると震えだし、綺麗な腹部がつんっと張る。
「よーし、良い子だ。そのままイけっ!よがりくるって踊れっ!。」
秘所をむちゃくちゃにこねくり回しながら、突起をはさんで引っ張る。
「んああああああああああああああーっ!やああっあっあーーーーーーーーー!。」
だらしなく涎を垂らしながら盛大にイくステラ。栗色の髪を振り回しながら、俺の足の上で、文字通り踊る。
「はあっ…はあっ…あっふぅ。」荒い息を付きながら、俺の胸板に倒れ込むステラ。
顔は赤く蒸気し、黒いくりくりした目は涙目だ。こいつはたまらんね。
326 :
魔王12:2009/03/13(金) 17:45:58 ID:LSYE3+WO
「さて、と。」
ステラがはぁはぁ言って、胸板に倒れてる間に、いそいそと服を脱ぎ出す。
しまった。ステラが足にいるこの体制だとズボンが脱げないな。かといって、退かすのも気が引ける。
ちょっと考え込んだ後に、翼と同じように普段使ってない部分が頭の中に再生されたので、それを利用することにする。
ずるっと、背中とケツの間から黒い尻尾を引きずり出すと、ステラを巻くようにして絡みつかせ持ち上げる。
「きゃっ!?ふぅふぅ…な、なん…ですか?尻尾?」
なんて便利なんだっ…!尻尾ってやつは。魔王やってて良かった!
ズボンを膝まで降ろすと、足を少し引き抜き、今度は足を勢いよく戻す。すっぽーんと飛んでいくズボン。
そして露になる俺の肉棒。そう、履いてないってやつだ。パンツ?なんてものは窮屈でしょうがないからなっ!
「え?え?きゃあああああああっ!。」
尻尾に巻かれて、目の前には剛直。予想外の出来事に、ステラが悲鳴をあげる。
魔王様、傷ついたぞ、マジで。
「悲鳴はないだろ、今から大事な大事な儀式を行使する為の神聖なブツに悲鳴は。」
「あ、い、いえ。申し訳ありません。ただ…その…。」
ちらちらと俺の肉棒に視線を感じる。
「色、とか…大きさ…とか…えっと。その…ですね」
もじもじとしながら答えるステラ。そう言われ俺もつられて、自分のブツを見る。
黒い。亀頭は紫で、大きいのか小さいのかは分からないが、結構不気味かもしれない。
でもよーそこは、まぁご立派!ってのが侍女なんじゃねーの?
「んー細かい事は気にするな。色なんざ白でも黒でも赤でも一緒だ!。
翼や尻尾があるんだ!ち○こが黒で紫だとしても不思議じゃないだろ!。」
「は、はぃぃ!。」
俺の迫力に怯えたのか、必死に頷きながら、はい、と答えるステラ。
「さー優しくしてやるからな。何も心配しなくていいぞ。
すぐに何も考えれなくなるほど感じるから。」
「ちょ…ちょっとお待ちください。マリギュラ様覚悟はできていますが、その、誓いの言葉とか、心の準備とかが…。」
「もー!ぐだぐだ言うな!心の準備はヤってる間にすればいいし、誓いの言葉は終わってから聞くからいい。
さ、気持ちよくなろうな。」
尻尾で巻き取ったステラをそのまま尻尾で引き寄せる。俺の肉棒とステラの秘所がぴたっと合わさる位置まで。
「あ、あの…優しくして愛してください。その…初めてではございませんが、ご無沙汰というか…なんというか…。」
愛い愛い。皆まで言うな。どっぷり浸かってもらうからな。
尻尾を手前に引くようにして、ステラの秘所と肉棒を照らし合わせ、そのまま沈める。
づぷっ…ぬぶぶぶぶっ!
「はああああっ…入って…くるぅ…。」
「くおっ…久々、だな。こいつは気持ち良い。」
そういえば、俺、女と交わったのっていつだっけな。酒池肉林サキュバス30匹切り以来なんじゃないか?
肉棒を包むようなぬめりとした感触に満足しながら、徐々に動いていく。
327 :
魔王13:2009/03/13(金) 17:46:37 ID:LSYE3+WO
――――人間と交わる。その行為がここまで良いとは俺とて予想しなかった。著ブレヌ・ミィ・マリギュラ
「奥まで入って…ああっ!あああああああああっ!。」
一番奥まで俺の肉棒が突き刺さったのか、嬌声をあげながら、ふぅふぅと苦しげな息を漏らすステラ。
狭い…な。んでもってきゅうきゅうと締め付けてくる。
「どうだ?ステラ。魔王と交わってる気分は?。」
「くあああっ!あんっ…あっ!擦れるっ…だめぇっ!ぐりぐりってああっ!。」
…聞いちゃいねぇ。メインは俺なのに、なんだ、この扱いは!
ちょいと腹正しさを覚えたので、フリーになってる両手を乳首に当て、そのまま尻尾でステラを上下させる。
「ひぃぃっ!?乳首が擦れっ…ひぃあぅっ!取れちゃうっ!ぎゅりぎゅりってうああっ!。」
あられもない嬌声を上げながら感じまくるステラ。それが楽しくてどんどんと尻尾を上下させていく。
「すげぇ乱れ方。侍女って称号は撤回だな。どー見ても娼婦にしか思えないぞ?ステラ。」
「そんなあっ!そんなああああっ!だってっ!奥にこつこつってっ!当ってますぅ…当てられてますぅっ!。」
いい。きゅうきゅうと締めてくる秘所が、今度はギチギチと搾り取るような締め方に変わる。
人間相手が、ここまでいいとは誰が思うよ?
たまらなくなった俺は、ステラの腰を掴み、尻尾を解き、その先を口にくわえさせる。そしてそのままがつんがつんと腰を振る。
「むぅ?むぅあっ!あむっ…あっ!んっんっあっ!むふぅ…。」
尻尾の先と口の先から、悩ましげな声が漏れる。俺自身、尻尾に性感はないのだが、その口から尻尾に当たる苦しげな吐息に興奮する。
尻尾を伝ってくる唾液のくすぐったさが、また俺の征服欲を刺激する。
あられもなく俺の体で、喘ぎ、淀を垂らし、目を見開いて髪を振り乱す。細い体を蹂躙され、体を朱に染めるそれ。
こいつは…こいつは俺の物だ。快感に当てられ、体温が高まり、魔王としての人間にない絶対欲が鎌首を擡げる。
征服欲。何かを掌握する、征服する、自分だけの領地、従者、それらがなければ我慢ならない暴虐な魔王の欲。
魔王の中でも俺は、その欲がかなり薄めな方だが、こんなに美味そうなモノを見て我慢が効くほどタマなしでもない。
ステラと目が合う。黒い目に爛々と燃える欲望の火を確認した後、一度に肉棒を引き抜きステラを押し倒す。
「ふっうあ…マリ、ギュラ様?。」
不安げな呟きを他所に、正常位の状態で両足を掴み、逃げられなくする。そして、俺は腰を浮かし、押しつぶすようにして
ステラの秘所に肉棒を突っ込む。
どすっという音がしそうな挿入に、何度目か分からない悲鳴が、丁度真上にある月に向かって放たれる。
「いっあああああああああああああああああっ!深ぃぃぃっ!くっはあっ!あがっ!かっ…はあっ。」
「お前を、俺のモノにする。俺でしか反応しないように、俺を求めなければ気が狂ってしまうように。」
覆いかぶさり、そんな囁きを耳に入れさせる。ぶるっと一度体を振るわせるこの女が、
―――愛おしい。愛おしい。愛おシイ。イトオシイ―――
ぐあっと頭を上げ、牙を伸ばし、ステラの首に凶牙を振り下ろす。
ずぶっと肉に牙が埋まる感触。口内を潤す甘美な甘い液体。かはっと息を吐く、俺のモノ。
甘い。滑らかで。さらさらとしていて、美味い以外の感覚で表すのが失礼なくらいに。
ごくごくと、ステラの血を、喉を震わせながら、舌で味わいながら嚥下していく。
328 :
魔王14:2009/03/13(金) 17:47:39 ID:LSYE3+WO
月明かりに照らされる二つの裸体と、鮮血、てらてらと光る愛液と汗。
「くああっ!吸われてっ!血が血が出てるっ…いいっ…いいのぉっ!どうしてっ!どうしてえぇぇっ!。」
ステラが俺の口から垂れる血と自身をぬらす血液の感覚に怯え、戸惑い、そして狂っていく。
教えてやろうか?と流し目でステラを上から舐め、腰を振っていく。
ヴァンパイアのような、生命活動を維持するでもない吸血行為は、すべからく快楽があるんだよ。
勿論、それは小さく、痛みの方が普通は大きい。
だが、夜魔の魔王、となれば話は別だ。サキュバスやインキュバスなどの色魔。シルフやフェアリーなどの妖精。
どれも特殊なフェロモン、体液、鱗粉を持っている。それらを統べる王が、何も持っていないわけがない。
俺の意思で、牙から分泌されるこの唾液は、どんな痛みでも快楽へと導く。
人間に使うのは初めてだがなっ!
どすどすと腰を振り、ステラの中を蹂躙していく。行き届いてない場所などないように
「あっはっぁっ!あううーっ!ひっ、はっ、あっっ!奪われて…るっ。」
そう。お前は奪われてる。魔王に。この俺に。マリギュラに。
だんだんと思考も失われていく。なんのことはなく、ただ集中しているだけなのだが、
強大すぎる力は、どの行為にでも強大に働く。忌々しい魔王の性。ただ集中する行為にしても多大なのだ。
目の前の女がどんな状態なのか、自分がどんな状態なのか、周りがどんな状態なのか。それらが一瞬にして頭に入ってくる
上で、さらに快楽を感じ、どこか冷静な防衛本能さえも頭に残す。驚異的な情報処理能力。
それを今、全てといかないまでも大きな範囲を一人の少女に割いている。
「ステラっ!ステラッ!。」
所有権は俺だ。そんな意味合いを心の中から乗せ、ステラの名前を呼ぶ。。
「くふぁああっ!マリギュラ様!あああっ!もうっ!もっとっ!吸って!奪って!何も考えられなぃっ!。」
これが答えですと。もっと血を吸ってと俺の頭を抱きしめ、もっと突いてと腰を密着させはしたなく叫ぶステラ。
その言葉に、行為に、新たな感覚がこみ上げる。射精感。子を作り、幸せな家庭を作り上げるような純白な感覚ではなく、
一人の少女を染め上げ、汚し、奪う、どす黒く生ぬるい感覚。
「ぐっ。出すぞステラっ!受け止めて見せろ!全て受け止めろ!逃げることは許さんっ!。」
逃げられない姿勢を強いた上でさらに強引に言葉で意識を押し倒す。
「あああ…っ…ひゃあぁんっ!はひっ!らへっ!もぉ飛ぅっ!子宮がらめぇっ!」
もはや呂律も言葉の意味も無い言葉を聞きながら、ステラの体内へと精液をぶちまける。
体の全てから染み込んでくる逃れない快楽が俺もステラもを覆う。どくどくと煮えたぎる俺の欲望がステラを汚していく。
「あうあああっ!あっ!ひぅうううううううううううううううっ!。」
押し倒していたはずのステラがびくびくと跳ねる。びたんびたんとステラの子宮口を精液が叩いて戻り、俺の肉棒をも叩く。
さらに首筋に当てている牙から、どくんどくんと流れ込んでくる血液を喉で受け止める。
ステラを奪い、奪った分だけ俺を染み込ませるような感覚に酔いしれる。
しばらくして、一度火のついた征服欲が収まり、ふうぅと息を大きく吐いて余韻を振りほどく。良い気持ちだった。
ふと、はふっと小さな息が俺の胸に当たる。くったり、という表現がぴったりなステラが微笑を携えこっちを見ている。
といっても目の焦点はあってなく、呼吸は小さい。そりゃ血を吸われ、魔王の雰囲気に当てられ、快楽があれだけ押し寄せれば
これだけの疲弊は予想の範囲、と頭が気分を害する答えをはじき出すのを無視して、ゆっくりと介抱することにした。
329 :
魔王15:2009/03/13(金) 17:50:13 ID:LSYE3+WO
さぁぁと、風に撫でられていく草と木りんりんと、上質な鐘の音に似た虫の声。
いつもの荘厳な夜魔の森、その静かな光景に不釣合いな黒いベッド。その上でじゃれ合う二人が魔王と人間だなんて
誰が信じるんであろうか。寝そべるマリギュラと、それに抱かれるステラ。
「調子に乗ってちょっと激しくしすぎたな。」「…優しくしてくださると仰いました。」
そういってぽりぽりと頭を欠くマリギュラ。ふいと、顔を背け胸板を抓っているステラ。
とてもあの魔物染みた行為に浸っていたとは思えない穏やかな二人の顔を月が優しく見下ろしていた。
「大体お前、慣れすぎじゃねぇか?侍女ってのが嘘かと思うほど乱れてやがった癖に。」
「む。失礼です。私はちゃんと誠意精神、身も心も捧げる覚悟で抱かれたのですから、あれくらいは…。」
先ほどの行為を思い出しているのか、ぽっと赤く顔を染め上げるステラ。
「肝が据わっているっつーかなんつーか。魔王に抱かれてヨがり狂って、あまつさえ文句を言い出す侍女をはじめてみたぞ俺は。」
「それは、その…快楽に溺れてしまう、侍女だって王宮では少なくないのですよ?。」
「ホントかよ…。まぁ俺も調子に乗って血とか吸ったりしたから、何も言えないが…。」
「そうですよ。マリギュラ様が優しくしてくださらなかったのがいけないのです。」
マリギュラの胸板に頭を擦り付けて、拗ねるその表情は侍女ではなく、一人の熱に浮かされた女のそれだった。
「それより、ひょっとして私もう太陽の下を歩けないとか、そんなことになってたりしますか?。」
首に飽いた二つの小さな穴を撫でながら、ステラは心配そうな上目遣いでマリギュラを見る。
「あー心配ないない。別に血を吸う自体に悪影響とか、俺の流し込んだ唾液に何かあるとかそういうのは心配するな。
吸血鬼みたいな劣等種と違って、魔王は都合よくできてるんだよ。」
マリギュラはそういいながらステラの頭を撫でる。くすぐったげな微笑をもらしてステラはかけられたシーツを腕で抱く。
「退屈が埋まるな…。」
ぼそっともらしたマリギュラの呟きに、ステラが訪ねる。
「退屈、ですか?。」
「そうそう。生まれてからこの方、大きなコトは起したことがねーんだが、今日起しちまったからな。
魔王が人間の王になる。歴史書に載るな、こいつは。」
ステラに指を向けながら、意地悪くマリギュラは笑っておかしそうに語る。
「その、やっぱりマリギュラ様が人の王になるというのは大変なことなのですか?
先ほどの事は、えと、忘れないでいてくだされば私は…。」
くっくっくと含み笑いをし始めるマリギュラに訝しげな視線を送り、少し睨むステラ。
どーでもいーだろ。そんなことはと、そういいながらステラを抱きしめる。
「魔王が人の上に立つってのが別に禁止されてるわけでもねぇし、思ってみれば一番適任なのは俺なのかもな。
夜魔は人間共と、結構近い位置にあるからな。サキュバスが美少年に絆されて、一生を尽くすなんて話だってよくあることだ。
そう思えば、不思議でもなんでもないだろ。」
「ですが、そのやっぱり…。」
「ここまで来て、ひっくり返すのはナシだ。それにだな、こう、何かを手に入れ、それに愛され、愛でるのもそう悪くないと感じた。
お前のいる城で俺の庭を作り、人間共の世話をするのもまた一興なのかもしれないと、そう思ったわけだ。」
「マリギュラ様…。」
「そんなことを心配する前に、どうやってお前の城の王になるかを考えてくれ。一人落すだけでもこの労力なんだ。
お前も侍女なら俺に楽をさせてくれよ。」
そういって笑うマリギュラと釣られて笑うステラ。ステラがあれこれ考え、入れ知恵をし、マリギュラは王になるはずだったのだが、
「俺が魔王マリギュラだ!お前らの王になりに来た!いいか!」
と剛速球を放ちながら、正面突破するのはまた別のお話である。
これで区切りです。期待して待っててくれた方がいたのなら嬉しい限りです。
ありがとうございました。
アホ魔王かわいいよアホ魔王
良作だな
面白い
GJ!
面白かったですー
面白いね〜
GJ
>俺が魔王マリギュラだ!お前らの王になりに来た!いいか!
吹いたじゃねーかw
いやGJなんだがw
このスレ、保管庫はないのか?
ないんだ残念ながら
感想を頂いて嬉しいアホ魔王の書き手です。つらつらとアホ魔王の続きを書いていたのですが
先にちょいサド傭兵が完成しそうなので、投下させていただきます。
読みきりで、要素自体アホ魔王と似ているのですが、別ノリで書いて見ました。
腕がふっ飛ぶというのは何時だって唐突だ、そんなのが日常茶飯事。それが俺の住んでる世界だ―――。
沼地をずるずると這いながら、片腕、両足を使い必死に逃げている青年を見ながら、本当にどうしようもない世界だと思う。
青年が何から逃げているのか?何に追われてるのか?そいつは青年の後ろにぞろぞろ並ぶ7匹程のリザードマンにでも聞いてくれ。
ついでに追われている方は、
「頼む、僕を助けてくれぇ!君だって、このリザードマンの退治を頼まれた人間だろうっ!?」
だとさ。同じ依頼だから助けるのか。傭兵稼業はいつからママゴトになった?
「ついさっきまでの威勢どーした?大層な事言って、舞い上がっていただろう?
僕は、貴方達のような善良な村人からはお金は頂けません。どーしてもと言うのなら、向こうの方に差し上げてください。
必ずリザードマンどもを一網打尽にして見せますよ!、だったか?」
生憎と俺は今日に限って物覚えがいいらしい。一字一句間違わずに覚えてるぞ、お前のキメ台詞。
この青年、何を勘違いしたのか、南の辺境の村で俺と同じリザードマン退治の依頼を受け、報酬はお前にやるから見てろと言い出した。
大人しく見ていることにしたら、3匹目の死体が前に倒れ込んでくるのを避けた所を捕まって、腕をふっ飛ばされたって寸法だ。
…実は腕を吹っ飛ばした隙に逃げる高度な逃げな選択だったりしたのか?どちらにしても哀れな子羊と言うほか無い。
その子羊が、沼地のぬかるみから浮かぶ大き目の岩に座り、まるで助ける気のない俺に向かって必死に叫ぶ。
「そ、そんなっ!?そうだっ!報酬だって譲っただろう!2000メドっ!僕らは一時でも仲間!そう仲間だ。だから助けてくれ!」
仲間なら後ろに沢山いるじゃないか。8対1だぞ。どうみてもお前の勝ちだ、良かったな。
「お前がタダで奮闘するって言うから、見に来てやったんだろう。……ところでそんな事喋ってる余裕はあるのか?
ほら、先頭の奴が走ってきたぞ?すっげぇ舌なめずり。腹減ってるんだな」
沼地の芝生にある石を、適当に青年の方に投げながら、ちょっと脅してやる。
「ひぃぃぃぃっ!」
おお、感心にも青年の這いずるスピードが上がった。人間、死ぬ気になればなんでもできる。
だが、ズルズルという這いずりの音と、ぐっちゃぐっちゃと沼を踏みしめて走ってくる音。
どちらが、テンポが速いかなんて簡単に想像がつく。這いずる青年の姿を、大きな影が覆っていく。
あー…追いつかれた。リザードマンが思いっきり振りかぶって、青年の頭に狙いを定める。
人間の頭がリザードマンの持っている、農民から奪ったであろう錆びた斧でカチ割られる、よくある話だ。
「うわああああああああっ!」縮こまって人生最大の悲鳴をあげる、青年。顔つきからするに享年21歳ってところか。
「グギャアアオ!?」ん?何故かリザードマンも、小さな悲鳴を上げて目を押さえてやがる。
ああ…つい退屈で石投げて遊んでた俺の石が当たっちまったワケだな。
手元を見ながら、何故リザードマンが悲鳴を上げたのかに納得する。
これはすまない、続けてくれという俺の心とは裏腹に、リザードマンはお楽しみの瞬間を奪われたせいか、俺の方を見て
フシュルルルルルと舌を出しながら威嚇し始める。そんな顔するなよ、わざとじゃあない。
「ひっ!助かった?助かったああああ!うわああああ!」
リザードマンに隙ができたのを本能で感じ取ったのか、ガクガクとおぼつかない足で立ち上がり逃げ出す青年。
演技が上手いな、腕も一本飛んだし、体も張ってる。でも笑えない。立ち上がって逃げれるならハナからやれ。
やれやれ、と岩から腰を上げ立ち上がる俺。腰と背中の間にストッパーで止めていた武器を引き抜き、
リザードマンに指差すように向ける。
「やれやれ…一匹残らず皮剥いで干物にしてやるから、元気一杯かかってこい。トカゲ諸君」
いきすぎた芸術に、絵だと分かっていてもこんなものは絵ではないと叫ぶ凡人の感覚。
それが沼地でリザードマンに相対している男の抜いた武器にそのまま当てはまる。
形は剣である…形は。
エクスキューショナーソードに酷似したソレ。両刃であり、厚みはmm単位、幅は3cmくらいなはずなのに、右左ともにほぼ刃はなく、
刀身1メートル、厚みは5cm、幅に至っては20cmもある。ほぼ、刃がないと表現したのは厳密に言えばある、ということに他ならない。
刀身の90cmくらいの位置から終わりまでに渡って、日本刀の切っ先を巨大化させそのまま取ってつけたように刃がある。
これが果たして剣であるのか?どのような武器であるか?は、この物語の主人公である男に体を持って語っていただこう―――
「キシャアアアアアア!!」奇声をあげながら走ってくるリザードマン。
青年から完全に俺を標的にうつした先頭の一匹だ。息を荒くしながら俺に向かってくる。
斧を振りかぶりながら突進してくる様は実にシュールだ。
「落とし穴でも、しかけて落けば良かった…確実に爆笑できる。くっくっく。」
俺は口元を吊り上げ笑い、剣をリザードマンに向けていた最初の姿勢から後ろに剣ごと腕を引く。そこからぐんっと腰に力を入れると、
腕を引き絞った上体からブーメランでも投げるかのような気楽さで剣を投げつける。
ドスっと鈍い音がして、走りよってきたリザードマンの心臓あたりに剣の切っ先が易々と突き刺さり、リザードマンが絶命し倒れる。
後続にいたゆっくりと忍び寄ってくる6匹のリザードマンは、一体何が起こったのか分からず、足が止まる。
武器を離してハンデをやったつもりなのに、なんという知恵遅れ。
まぁいいか、と。足に力を溜め、跳躍し絶命したリザードマンの死体まで近づく。
着地と同時に倒れてる死体の顔を蹴り上げ、無理矢理上体を起し、剣のグリップを掴み、胴体に前蹴り。
ズドォ!!と突き抜ける音と蹴りぬいた感触が足に気持ちいい。
掴んだ剣を前蹴りの反動と後方に飛んでいく死体の勢いを利用し引き抜く。
死体が勢いをつけて後続のリザードマンへと飛んでいく。横に広がっているリザードマンのうち、2体ほどに飛んでいった死体がヒット。
死体がぶつかり怯んでいる2匹。その機を見逃さず、疾駆し、死体が当たった2匹の首を剣の切っ先でなぞる。
ぱっくりと、首に切り口が施され、首から噴出する紫の血液、倒れる死体。
スッと軽いステップで死体の下敷きにならないようにバックステップする。
俺の動きと倒れる死体に、ようやく自分達の置かれている状況が分かったのか、4匹のリザードマンが金切り声を上げながら
ぞろぞろと俺に近づいてくる。
突っ込んでこないのは最初の一匹が、走っている途中で絶命したからなのか、取り囲みたいのかどっちかだろう。
しっかし、いちいち奇声をあげないと動けないのか。
とりあえずうんざりするほど不協和音な奇声を掻き消しててやるため、
横に広がっているリザードマンのうち、一番左側のやつまで横飛びで移動し、わき腹を狙い、剣をフルスイング。
メッキャッバキィ!剣の刃のない部分がリザードマンをくの時に曲げる。骨の折れる音と内臓の潰れる感触が手のひらを叩く。
コレは痛そうだ。だらんと緑色の巨躯が、力なく剣にひっかかり、ずるっと地面に落ちる。
地面に落ちた死体を合図にゴウッ!っと風切り音を鳴らし、俺の顔面に飛んでくる、どいつかの尻尾。
それに対して剣を横にし、広い刀身で受け止め、逃げられないように尻尾を掴む。
盾にも剣にも鈍器にもできる。便利だろう?三倍美味しい俺の武器。
尻尾を掴んだやつの頭に剣の切っ先を向け、尻尾を俺の方に思いっきり引く。バランスを崩し倒れ込んでくるリザードマンの頭に
突き刺さる剣の切っ先。
初めて見たぞ、トカゲの串刺し。心なしか、コイツ…顔が気持ちよさそうだ。美術館には飾れそうもない
さて、串刺しをやったはいいが、とっても突き刺さってる死体が邪魔。その隙をチャンスとでも思ったのか、
残りの2体が、豪腕を振り上げ、攻撃してくる。なるほど、低脳な頭で考えたのか?死体が邪魔だから逃げられないとでも。
トカゲの浅知恵が人間様に通用すると思うな、ド阿呆がっ!
ドッゴォォン!リザードマンの豪腕が轟音と共に地面に突き刺さる。動きを止めるリザードマン。
「振り下ろしが遅いな。そんなだから腕を飛ばした哀れなカエルにも逃げられるんだ」
腕が振り下ろされる瞬間、武器から手を離し背後のリザードマンの股をくぐり抜け、俺は攻撃を回避した。
トンっとそいつの肩に乗り、左腕を頭を抱くようにして手をあごにひっかけ、左腕を思いっきり引っ張る。
ゴキゴキゴキィっ!決して曲がってはいけない方向にリザードマンの頭が曲がる。
「おめでとうおめでとう!お前が最後の一体だ、思い残すことはあるか?」
一瞬にして首が曲がった為、倒れることのない変死体の肩に乗ったまま、リザードマンに話しかける。
「クッキュルアアアギュー!」さすがの怪物でも一匹になれば恐怖を覚えるのか、舌を巻き込んだような悲鳴をあげながら突進してくる。
ドガッと変死体に体ごと突っ込んでくる最後の一匹。
「残念だった。今度は頑張ってもっと繁殖しておくんだな。地獄で子作りにでも、励め。」
土下座して、平謝りしてきたらちょっと許してやろうと思ったが、しなかったのでお仕置きすることにした。
変死体の肩を始点に飛び上がり、突進してきた奴の頭に拳を上からめり込ませ拳ごと地面に叩きつける。ぐちゃりっ!
ドサッと倒れ込む二つの物言わぬ抜け殻。
ぬちゃりという音を立てながら拳を頭から引き抜く。あたりに匂い渡る生臭さに軽く顔をしかめる。
奇声、斬撃、打撃音がコーラスを奏でていたときとは打って変わり沼地に不気味な静寂が訪れ、それが戦闘の終わりを告げる。
拳を沼の水でさっと洗い、死体に刺さっていた剣を回収し、一度素振りをして紫色の血を払った後背中のストッパーに剣を差し入れる。
ハッと息を一つ吐いて、周囲を見渡す。紫色に染まった大地と転がっている10匹のリザードマンの死体。
化け物をたった10匹殺せば金が手に入るような、腐った世の中。
失敗すれば腕一本吹っ飛んだりする。頭の痛い事にこれが俺の住んでいる世界だ。お分かり頂けただろうか
太古の世界には、こんなトカゲ野郎どもなんぞ、いなかったらしいのだが、この星と他の星が衝突し、全ての生物が死滅した後、
星と星が合体し、挙句生態系が変わり、恐ろしい怪物が生まれるようになったらしい。
偉そうな貴族やら王族やらが、帝国作ったり戦争したりと実に平和だが、
モンスターは黙っててくれないから、こんな依頼があり、傭兵稼業が増え、腕が飛ばされるというわけだ。
南の首都ロウディアでも、北の首都オルガノでもそれは変わりない。
ちなみに、土下座して平謝りするリザードマンはまだ見たことがない。いつか見れると信じている。
「リザードマン…ね。皮でも剥いで持っていけばアイツに売れるだろうか。」
沼地でリザードマンを刺身にし、依頼を終えた俺が向かった先は、南の首都、帝国ロウディアからやや離れた街、テレパだ。
帝国から近いだけあって、人口は4000、結構ある。
リザードマンの血やら臭いやらを落す為に、依頼を受けた辺境の村で入浴して涼んできたが、
南の地、特有の気候の為かなり暑い。ちょっとずつにじんでくる汗と、がやがやと群がる人ごみを
うっとおしく思いながら、大袋を担いで街を歩く。馬車でも借りて行けば良かったなと本気で思う。
小一時間ほど歩くと、見慣れた看板がついた店が目に入ってくる。
その店のドアを開け、大またでカウンターらしき所まで歩いて行き、ドサっと無人のカウンターに大袋を載せる。
一息ついて防具や武器が所かまわず配置してある店内を見回す。
「アルチェ!素材を持ってきた。」と多少大きめの声をあげる。その声にカウンターの下から返事が返ってくる。
「いらっしゃーい?あっ!旦那じゃない!元気、してた?。」
ハスキーな声と共に、カウンターの下からひょっこりと女の顔が飛び出す。
髪はコバルトブルーに染まっており、ゆるめのウェーブとふわふわとした髪つき。目は茶色。
シャツとミニスカートの上にエプロンを着ている奇抜なファッション、背は150くらいと小さいがグラマーな体のライン。
何度見ても武器、防具屋の店主には見えない。おまけにカウンターの下で居眠りの職務怠慢つきだ。
「今なんか失礼な事考えてたでしょ?もしかしてアタシのおっきなおっぱいでも触りたくなった?」
胸を両腕で持ち上げながら、うふ、と流し目で俺を見つめるアルチェ。
まぁ…確かにお前の胸はデカイ。90は鉄版だ。その分、脳に栄養が回ってないようだ。
「相変わらず脳みそが足りてないようで、安心した。利益はちゃんと計算しろよ?」
「むー…冷たい!でも、今日は蒸し暑いからいっか!それじゃ見せてもらうね。」
アルチェはそういうと、ピンク色の皮手を両手にはめ、俺の持ってきた大袋を開け、中身を手に取り、真剣な目で吟味する。
唯一俺の利用する武器、防具屋だけあり、格好や態度はアレだが、コイツの腕と目はかなりのものだ。
「ふぅん、リザードマンの皮かぁ…厚さは…鎧にするには十分。鱗のないタイプなのがいいね。
なめし易そうだし、手間がかからない点を大きく加味して一匹分、300でどう?」
「200でいいぞ。但し即金でな。」
「ホントぉ?もーぉっ!だから旦那ってスキっ!どんな客より話が早いんだからぁっ!」
そういいながらアルチェが抱きついてくる。ふにゅんと形を変える胸が俺の頭に当たる。
「どうでもいいから、さっさと金をくれ。領収書はいらんぞ。というか離せ、暑苦しい。」
「いけずぅ。抱きしめ返してくれたってイイのに。あどけない顔してる癖に、超ドS。」
ブツブツと俺に文句を言いながら、金庫の鍵を開け、2000メドを取り出しカウンターの上に置くアルチェ。
「ありがとよ。遠慮なく頂く。商売繁盛を願ってるぜ。」
俺は少し微笑をもらして、テーブルの上の札束に手を伸ばす。札束に手を触れた所で、ぽんとアルチェの手が重ねられる。
「んふふ〜ぅ。す・き・あ・り♪」
「なんだ?まだなにかあるのか?」
不機嫌さを隠そうともしないまま、アルチェの方を見る。なにかなー?といった表情で首をかしげ空いている手の小指を唇に当てている。
「腕でも切り落とされたいのか?」
なんとなく展開は読めている物の、するっとこういう言葉が出てくるのが俺の性分。
「んもぉ、そういうドSな所を見せるから発情しちゃうの。さっきの会計の差額1000円分、水浴びでもしていかない?
汗かいてるでしょ?旦那。」
何度目か分からない誘い方に、ふぅ、と下を向きながら、わざとらしく溜息を吐き、空いてる方の手でアルチェの首を
掴み引き寄せ、キスをする。俺の受け方も毎度毎度同じ。人の事は言えないな。
「んんっ!?ぷっはぁ…いつも通りイキナリ、だね旦那。やる気になった?」
「少なくとも、さっきのリザードマン退治よりは幾らかは。」
「たっぷりサービスしなきゃ、ね。」
俺だって男だ。売られた喧嘩は買わねばなるまい。
「なにもお前、脱衣所まで一緒に入ることはない、と思うんだが?」
「雰囲気ないなぁ…そゆトコがまたいいんだけど…
今日は何から何まで、あたしがするのっ!旦那は黙っててくれるだけでいいんだから、ね。」
というわけで脱衣所。ドアを背に背伸びしながら俺の服を徐々に脱がしていく下着姿のアルチェ。
純白の下着が肌を控えめに浮き上がらせ、髪を際立たせ、レースガーターがコケティッシュな色気を醸し出している。
店に来る少年傭兵どもが知ったら、フル勃起に違いない。
「ん〜。あたしの作った装備にぃ、この胸板〜。旦那、あたしもう堪らないんだけど。」
そのアルチェは俺の胸板に頬擦りしながら、すんすんと匂いを嗅ぎ、涙目でこっちを見ている。
「堪らないのはいいから、とっとと脱がせ。押し倒すぞ。」
「はいはーい。我ながら、複雑な着脱式の装備作っちゃった。あ、剣はそこに立てかけておいてね。」
言われたとおり、武器をストッパーから抜き洗面台に立てかけておく。そうしている間にも
俺の装備に文句を言いながらパチパチとボタンやベルトを丁寧に外していくアルチェ。
「そういえば、全部、お前がやるんじゃあなかったのか?」
意地悪そうに笑って、アルチェを見ると、いじわる…と少しこちらを睨みながら見上げている。
「だってそれ、重すぎてあたしの腕じゃ持ち上げられないよ。広くて太くて硬くて、でも切っ先は物凄く鋭い。
…なんか旦那に似てる?えっち。」
「何がえっちだ。下を脱がしながら、視線を股間に一点集中して言うのは止めろ。」
「あは、ゴメンゴメン。そんなこと言ってる間にもう脱がし終わっちゃったね、ちょっと残念。」
てへっと舌を出したいたづらっぽい顔をこちらに向けたまま、両手で純白のブラジャーを外し、下に落す。
豊かな胸が、ブラジャーから開放された弾みでぶるんっと揺れる。
「何度も見てるが、お前の体の方がよっぽどやらしい。」
「それは胸?唇?それとも…アルチェの大事なトコ?」
「全部だ。わざと見せ付けている癖に、艶っぽさが滲み出てくる時点で、お前は反則だ。」
変な欲を出さず上から下まで見てみる。
実際、かなりイイ女だ。武器防具なんざ作らずに玉の輿でも狙えば、いい所までいくだろうに。
「ふふ〜っ、嬉しいなっ!旦那に褒められちゃった!ねね、早く入ろっ?」
くぅ〜っと左手の握りこぶしを口もとに当てながら、後ろ手で風呂場のドアをガラガラとあけ中に入っていく。
風呂場は、目の冴えるような一面ピンク色だ。浴槽も、風呂桶も、椅子も全てピンク。
「ここに入った時の第一声は目が痛い、これに限る。お前の頭の中もこんな感じか」
「勿論そーよぉ?女のコはね、いつでもどこか、お姫様気分で、お花畑に囲まれていたいって思ってるの。
防具や武器を扱っていたってあたしも、そういう夢みる乙女の一人だから、ピンク色なの。」
意味不明な脳みそピンク色お花畑理論を、嬉しそうに喋りながら、風呂場の真ん中の椅子の後ろに回り、
正座しながら両手を広げこちらを見る。
「はーい。いらっしゃぁい〜旦那っ。さっ、お背中流してあげるっ!座って座って?」
「成る程な。お前の脳みそピンク色理論も、たまには悪くないかもしれない、
そのコバルトブルーの髪色が、華やいで見えるし、な」アルチェの髪を一度撫で、どかっと椅子に座る。
どうやら、俺の脳みそもこの一面ピンク色に犯され始めたようだ。
「ふふふふ〜♪だーは旦那のだー♪ふふふーん♪」
意味不明な唄を歌いながら、自分の体に掛け湯をし、石鹸を風呂桶に溜めたお湯で泡だたせ始める。
「あわあわ♪うん。これくらいでいーかな。」
十分に泡だった泡を見て、満足そうに頷くとその泡を手に取り、自らの胸に塗りたくる。
「んっ…本当はぁ、旦那にこうやってもらうのがいいんだけど、してあげるって決めちゃったものね。」
大量の泡がぬるぬると胸をデコレーションしていく。ふるふると揺れる乳房。
「完成!旦那専用マシュマロたわし♪うふっ、綺麗にしちゃうんだからっ。」
俺の脇に腕を回して抱きつくアルチェ。背中にずっしりと潰れ、それでいて柔らかい乳房の感触が背中を染めていく。
「どぉ?柔らかいでしょ?アルチェのおっぱい。」
「いつもどおりだ。たぷたぷとした感触がちゃんと伝わってくる。」
「えへへー、でしょ?いいでしょ?さ、もっと頑張るから、楽にしててね。」
そういうと、ずりずりと滑らかな肢体を俺の背中にこすり付けていく。時折、首筋に軽いキスや、腕に乳房を乗せて滑ったり
至れり尽くせりだ。にゅるにゅるとした乳房の滑る感触と、時折当たる乳首が過激ではないが、穏やかな快感を奏でる。
「確かに為すがままのいつもと違ってサービス精神旺盛だな。気持ちいいぞ。」
素直な感想を述べる。正直な所、これで喜ばないやつがいたらそいつは種無しだ。
「当たり前、でしょ?んふぅ…んん…はぁ。背中広いから結構大変。時々乳首も擦れて、あたしだって気持ち良いもの。」
「このサービスなら、そこらへんの、娼婦なんざ相手にならないだろうな。」
俺がそう言った瞬間、アルチェの動きがピタっと止まる。同時に背中から物凄い寒気が。
「そこらへんの娼婦って、だぁれ?」と囁かれた耳がかじかじと、アルチェに甘噛みされる。
なんとなく、ヤバイ匂いがする。空気の流れが何故か重い。なんでだ?
「そこらへんっていえば、そこらへんだろ。そこらの騎士様が、場末の遊郭に入っていくのをよく見るだろ。」
「ふぅ〜ん。旦那もそういう所行ったりするの?」
「金取られてまで、ヤリたいほど、落ちてはない。ヤリたい相手はヤリたい相手で選ぶさ。」
そう言って答えると、何故だか空気が軽くなった気がした。さっきのは気のせいか。
「んー♪そうだよねぇ!旦那の体を一番知ってるのはあたし、なんだから相手くらい選ぶわよねぇ〜。」
何故か満足した様子で耳から離した口を、肩に置き、ちゅーっと音すらしそうなくらいに吸い付かせて、また体を
動かし始める。しばらくして、
「うんっ!背中は綺麗になったよ、旦那。今度はこっち向いて?。」
わき腹から腕がするりと抜けていき、後ろからそんなことを言われる。
言われたとおりに後ろのアルチェの方に振り向くと、アルチェがとんっと俺の膝の上に体ごと乗っかってきて、
首に腕を回し思い切り抱きついてくる。
「はぁ…っん〜、やっぱり顔が見えないと寂しい。後ろからだと密着感薄れちゃう。」
さらに密着感を増やしたいのか、うねうねと肢体をくねらせながら、はふぅと首を肩の上に置く。
「今日はやたらと甘えるな。そういう日なのか?」
「うん、そーいう日よ。旦那こそ、いつもより勃起のが早いよ?
ギンギンのが太もも撫でたりして、誘ってるんだからぁ。一発、先に抜いちゃおっか?。」
さて…どうするかな?
一旦ここまで、ですー。どんな話でも、
できるだけ似たような場面を作らずに書いていきたいと思います。ありがとうございました。
これは読みごたえあるなぁ
GJ!
347 :
名無しさん@ピンキー:2009/03/23(月) 00:23:01 ID:ANP/sKro
GJ!!
次回作にも期待する
大変遅くなりましたが、
>>194-207 の続きです。
全編エロになります。
それと、今回も先に謝らせてもらいます、ごめんなさい。やっぱり終わりませんでした。
「それじゃ、触るよ……」
こくん……
シルヴィアが小さく頷いたのを確認し、僕はそのふくらみに手を伸ばす。
「ん……」
指先に感じる滑らかな感触。
肌の表面を撫でるようにそっと手を這わせると、くすぐったいのか、シルヴィアがぴく
ん、と身体を硬くする。
だが、緊張しているだけで、嫌がっているわけでは無さそうだ。
その事に少し安堵する。
そのまましばらく、ふくらみの美しい形を確かめるように手を動かしたあと、今度は少
し指先に力を込めてみた。
「んっ……」
息を詰まらせるシルヴィア。
程良い大きさのふくらみは、まだ熟しきらない硬さを残しながらも、なんともいえない
柔らかな弾力を僕の指に返してくる。
「痛くない? シルヴィア」
そう尋ねると、シルヴィアが口をつぐんだまま、ふるふると頭を振って答える。
……大丈夫かな?
まだ緊張が解けていないようではあるが、とりあえず大丈夫そうだと判断し、いよいよ
本格的にシルヴィアのふくらみを揉み始めることにした。
始めは弱く、それから少しずつ力を入れて。柔らかな感触を楽しみながら、ゆっくりと
手を動かしていく。
「ん……ふ……」
指の動きにあわせて、シルヴィアが吐息を漏らす。
そうして、シルヴィアのふくらみを揉んでいるうちに、手のひらにつんとした弾力を感
じるようになってきた。
見れば、ふくらみの頂で可憐な薄桃色をしたつぼみが、健気にも自己主張を始めていた。
「シルヴィア……」
小さくその名を囁きながら、ふくらみを揉んでいた手を少しずらす。
そして、つん、と尖った乳首を指先でつつくように触れると、一瞬の間をおいて、今度
はきゅっと摘み上げてみた。
「んぅっ!?」
ぴくんっ、とシルヴィアの身体が硬直する。
きゅっ、きゅっ、と指先に力を込めると、そのたびにシルヴィアの身体がぴくっ、ぴく
っ、と硬直して、シルヴィアの反応を教えてくれる。
「ここはどうかな? シルヴィア」
「わっ、分かりませんっ!」
強く、弱く、指先に力を込めながら囁くと、いやいやをするように首を振りながら、叫
ぶような声で答えるシルヴィア。
可愛らしいその仕草に、思わずいじめたくなってしまうのは何故だろうか?
その気持ちのまま、思ったことを口にする。
「そう? それじゃ、分かるようになるまで、舐めてみようか」
「あっ!? まっ、待ってくださ……ななな舐めちゃダメですよぉ!?」
僕の言葉に驚いたのか、慌てて起き上がろうとするシルヴィア。
だが、もとより返事を求めての言葉ではない。
僕はシルヴィアの肩を押さえると、シルヴィアのふくらみに顔を近づけた。
「んあっ!? やややや止めて……んっ、やっ、あぁん!」
可憐なつぼみに舌を這わせると、シルヴィアの口から甘やかな声が上がる。
その反応に満足しながら、舌先でころころと刺激するうちに、シルヴィアの乳首は完全
に勃ち上がり、ぷにぷにした弾力を舌先に感じるようになっていた。
ちゅっ……ちゅぱっ……んちゅ……
右のつぼみを舌で転がし、押しつぶすように刺激する。
そして今度は左のつぼみを、唇ではさんでくにくにと摘みながら、吸い上げる。
そのたびに、シルヴィアの細いからだが、ぴくっ、ぴくんっ、と跳ねる。
「んっ! あっ!? シモンさ……ひゃんっ!? しっ、シモンさぁんっ!」
乳首を刺激するたびに上がるシルヴィアの声をもっと聞きたくて、夢中で舌を這わせる。
だが、ふと聞こえたシルヴィアの泣き出しそうな声に、その動きが止まる。
顔を上げると、真っ赤な顔で泣き出しそうな目をしたシルヴィアの姿が目に入った。
「し、シルヴィア……ごめん、痛かったか?」
「いっ、痛くは無いですけどっ……」
その姿に思わず口にした謝りの言葉に、シルヴィアがふるふると頭を振って答える。
だが、少し間をおいてから、でも……と言葉が続く。
「なんだかじんじんして……せっ、切ないですよぉ……」
上げた声は泣き出しそうで、そのくせ上気した頬に潤んだ瞳は艶っぽくて。
シルヴィアが見せる新たな面に、思わずどきりと鼓動が高まるのを感じた。
「切なくて、苦しいですっ……シモンさんっ、ぎゅっ、ってして欲しいです……」
「ん、そうか……好きだよ、シルヴィア……」
すがるような瞳で紡がれたその言葉に優しく囁き返すと、重くならないように身体を横
にしながら、シルヴィアの身体をそっと抱き寄せた。
「シモンさん……」
ぬくもりを感じて安心したのか、僕の腕の中でシルヴィアがうっとりとした声で囁く。
シルヴィアの緊張も多少はほぐれてきたのか、身体からは良い感じに力が抜けている。
素肌をさらしたときの反応に比べると、肌を触れ合うことにはさほど抵抗は無いのかも
知れない。
この様子なら先に進んでも大丈夫かな?
そう判断すると、僕はシルヴィアの背に回した手をそっと動かした。
「ん……ふぁ……」
滑らかな背中を宥めるように撫でると、くすぐったそうにシルヴィアが身体を揺さぶる。
それをそっと抱きとめながら、背中の手を少しずつ下へ下へ……背中からほっそりとし
た腰を辿り、やがてその手は小ぶりなお尻へと到達する。
「ああああのあのっ……」
そこでようやく気付いたのか、シルヴィアが再び身体を硬くする。
……仕方が無い、ここは一旦間をおくとしよう。
お尻に触れた手をそのまま下へと通過させ、シルヴィアのしなやかな太ももに触れる。
「あ……」
お尻から手が離れたことに安堵したのか、ほっ、とため息をつくシルヴィア。
そのシルヴィアの身体を、より密着するようにぎゅっと抱き寄せる。
「シモンさん……」
シルヴィアが僕の胸に顔をうずめるようにしながら囁く。
時折乱れる呼吸は甘酸っぱく僕の肌をくすぐり、肌は柔らかくすべすべでどこまでも手
触りが良い。
いつまでもこうして触れ合っていたい気持ちも無くは無いが、そういうわけにもいかな
いだろう。
僕は腰に回した左手で身体を抱き寄せると、太ももに触れていた右手をその付け根の方
へと這わせた。
くちゅ……
「やややややっ!」
小さく水音が立ったのと、それをかき消すかのように悲鳴のような声が上がったのは、
ほぼ同時だった。
慌てたシルヴィアが両脚を閉じ合わせてガードしようとするのが分かったが、先ほど肌
を密着させた時に太ももを挟み込ませておいたおかげで、脚を閉じることもままならない。
その隙にさらに先へと指を進め、指先に感じるぬるりとした感触を確かめるように指を
動かすと、くちゅくちゅと水音が立ち、同時にシルヴィアの口から高く声が上がる。
「あっ、あっ! だっ、やっ!? あぁっ、しししシモンさん〜っ!?」
指から逃れようとシルヴィアが身体を動かすのだが、お尻の方から触っているために後
ろには逃れられず、前に逃れようとすれば僕の太ももに秘処をこすりつけることになり、
結果、身動きがとれず泣きそうな声をあげることしかできない。
「力を抜いて、シルヴィア。痛くはしないから……」
「いいい痛くは無いですけどっ! でもで……んあっ!? ま、待ってくだっ、やぅっ!
はっ、恥ずかしいですよぉっ……」
真っ赤になりながらじたばたともがくシルヴィア。
その身体が、僕が指を動かすのにあわせて、ぴくっ、ぴくんっ、と小さく跳ねる。
その可愛らしさに、思わず指をめちゃくちゃに動かしたくなるのを堪えながら、少しず
つ少しずつ、丁寧にシルヴィアの反応を引き出していく。
指先に感じる蜜は次第に量を増し、ぴったりと閉じあわされていた秘唇もほんのりと熱
を持ち始め、少しずつほころんでいく。
「あっ、あっ……ふぁっ、だだだだめですっ……もっ、もう、んやっ……へっ、変な声
が出ちゃいますよぉ……」
だが、素直に感じ始めた身体に比べて、シルヴィア自身の反応はいまいち硬い。
緊張が抜け切らないのか上がる声はうわずっているし、身体も半分硬直したような状態
でひたすらしがみついてくるばかり。
感じてくれてはいるのだろうが、素直に感じるのを拒んでいるようでもあり、まるでシ
ルヴィアのことをいじめているような気分になってくる。
もう十分に潤ってはいるのだが……それでも緊張が解けず身体を強張らせた今の状態の
ままでは、シルヴィアにすごく痛い思いをさせてしまうに違いない。
うーん……これは一度、きちんとイかせてやった方がいいのだろうか。
そう判断し、いったん秘処に触れていた指を止めると、そっと身体を離した。
「あ……はぅ……」
ようやく息をつけるようになったのか、はぁ、はぁ、と大きく息を乱しながら、シルヴ
ィアがくったりとする。
意識が朦朧としているのか、膝に伸ばした腕に力を入れてもされるがままで、上気した
顔と汗ばんだ身体が、なんともなまめかしい。
これは好都合。
頬にそっと口付けをすると、シルヴィアに気付かれぬよう静かに身体をずらしていく。
少しずつ、少しずつ、下の方へ……開かせたシルヴィアの脚の間に、ゆっくりと顔を埋
めていく。
「…………」
そうして間近に見るシルヴィアの秘処。
溢れる蜜でとろとろになったそこは、髪の色と同じ若草色の茂みに彩られた中、わずか
に紅色が顔を覗かせている。
その秘唇に指を這わせると、そっとくつろげた。
くちゅっ……
「ああああうあう……」
いまだ朦朧としているのか、シルヴィアはうわごとのように呟くだけで、何をされてい
るか気付いた様子はない。
くつろげられた秘唇から覗く、はっとするような紅色。その果肉からとろりと蜜が零れ
落ちる。その中で、点のようにしか見えない入り口が、まるで見られることを恥ずかしが
るかのように、ひくひくと震えている。
しみ一つ無い真っ白な身体に、その紅色はひどく扇情的で、思わず水蜜桃のようなそこ
を舐めあげた。
「やややややっ!? なっ、舐め舐め……ふぁあっ!」
秘処を舐められて驚いたのか、シルヴィアの太ももが僕の顔を挟み込んでくる。
「あっ!? ごごごごめんなさ……んあっ!?」
僕の顔を太ももで挟み込んだことを謝ろうとしたのだろうが、僕が構わず舌を這わせる
と、その言葉は甘い悲鳴に取って代わっていた。
「やっ! そ、そんなとこっ……ななな舐めちゃ……ああっ!」
泣き出しそうな声を上げながら、多分今度は本当に抗議するつもりで、シルヴィアが太
ももを挟みつけてくる。だが、力の入らない太ももでは少々苦しいだけで、柔らかな太も
もの感触がむしろ心地良い。
そんな些細な抵抗すらも、舌を這わせ続けているうちにあきらめたのか、程なくして顔
を挟む圧力は消えていった。
そのことを確認すると、シルヴィアを感じさせるために本格的に舌での攻めを開始する。
ぺちゃ……ぴちゅ……
「んっ、んあっ! やっ、はうっ……」
ほころび始めた秘唇全体を舐めあげ、内側をくつろげてその隅々に舌を這わせる。
舌に感じるシルヴィアの蜜。
その甘さと、秘処からただよう湿った露草の香りとに、目の前の少女が違う種族なのだ
と改めて実感する。
それでも感じるところは変わらないのか、舌を這わせるにつれシルヴィアの秘処は可憐
なたたずまいをそのままに、少しずつ淫らな色をにじませていく。
「あっ、あああぁ……ふぁっ……やんっ!?」
秘窟の入り口を舌でつついてやると、シルヴィアがびくっ、と身体を波打たせ、同時に
きゅっと窄まった入り口から中に溜まった蜜があふれ出る。
そのまま舌先で秘窟の入り口を刺激する。
初めは硬く口を閉ざしていたそこは、舌先をこじ入れるように刺激するうちに、次第に
柔らかく解きほぐれていき、やがてひくひくと何かを待ち望むかのように震えるようにな
っていった。
「あ……はう……」
一旦舌を離すと、大きく息を吐いてくたっとなるシルヴィア。
そうして力の抜けたところで中指にたっぷりと蜜をまぶすと、ひくひくと震える入り口
にあてがった。
「あっ!? し、シモンさ……?」
「シルヴィア、力を抜いて……」
シルヴィアの瞳が不安そうに揺れる。
優しく見つめ返すと、シルヴィアはしばし迷うように視線をさまよわせ、それから静か
に瞳を閉じた。
シルヴィアの身体が力が抜けたのを確認し、僕はゆっくりと中指に力を入れる。
つぷり……
「はう……ははは入って……きます……」
慎重に慎重に、シルヴィアの中に指をもぐりこませていく。
傷つけないように気をつけながら指を進め、ようやく指の中ほどまでもぐりこませたと
ころで一息つく。
柔らかく解きほぐされてはいたが、やはりそこはひどく狭く、もぐりこんだ指がぎゅう
っと締め付けられる。
「痛い? 大丈夫、シルヴィア?」
「ちょ、ちょっとだけ……はうぅ、じんじんします……」
指を動かさないようにしながらたずねると、シルヴィアが涙ににじんだ瞳で答える。
だが、十分に濡らしておいたのが良かったのか、指先に感じる抵抗はそれほどでもない。
これなら……
シルヴィアの反応を見ながら、入り口のあたりで、ゆっくりと指を抜き差しする。
ちゅぷ……ちゅぷ……
「あっ!? んっ……ふ……」
シルヴィアは一瞬びくっと驚いたものの、それほど痛がる様子は見られない。
その事に安堵しつつ、抜き差しする指を、少しずつ少しずつ奥へともぐりこませていく。
初めは第一関節までしか入らなかった指が、第二関節のあたりまで受け入れられるよう
になったあたりで、今度は少しひねりを入れながら抽挿を開始した。
「あっ……ふぁっ……あんっ……」
痛みも薄れたのか、シルヴィアの上げる声に甘いものが混じり始める。
そうしてゆっくりと指を抜き差ししているうちに。
「なっ……なにか、へへへ変ですよぉ……。何かが……来ちゃいそうですぅ……」
シルヴィアが小さく身体を波打たせながら、戸惑った声を上げる。
指を締め付ける秘窟もひくつき始め、快楽の頂が近いことを告げてくる。
激しく昂る気持ちを抑えながら指の動きを止めると、最後の仕上げと、いままでわざと
触れずにいたクリトリスに舌を這わせた。
「ひあっ!?」
反応は劇的だった。
ぷくりとふくらんだクリトリスに舌を這わせるたびに、息を詰まらせるようにシルヴィ
アが身体を硬直させる。
「だっ……め、ダメですっ!? あっ、まってまって! あっ、あっ、なななんですかっ、
これ!?」
おそらく初めて感じるだろう未知の感覚に、泣き出しそうな声をあげながらシルヴィア
がじたばたともがく。
だが、ことここにいたって止めるつもりは無い。
クリトリスに舌を這わせながら、再びシルヴィアの中で再び指を動かし始める。
「あっ! あっっ!? だめっ、ダメですっ、シモンさんっ! やっ、はうぅ……」
びくびくっ、と身体を震わせながら喘ぐシルヴィア。
泣き出しそうな、それでいて、とろけるような甘い声。
このまま焦らすのも可愛そうだ。
僕は舌を離すと、充血してざくろの実のようになったシルヴィアのクリトリスに唇をあ
て、ちゅぅっ、と吸い上げた。
「やっ!? ダメっ、やめやめやめっ……あっ、ああぁぁっっ!!!!」
その刺激で、シルヴィアはあっけなく絶頂に達した。
細い身体がびくびくっと跳ね、秘窟はもぐりこんだ指をぎゅっと痛いくらいに締め付け
てくる。
脚の間に挟んだ僕の頭を、柔らかな太ももで挟み込み……やがてかくんっ、と糸の切れ
た人形のようにその力が抜け落ちた。
「はぁ……はぁ……」
「イった? シルヴィア」
くたっ、と力の抜けた身体で大きく息をするシルヴィアの身体をそっと抱きしめる。
「あ、あのあの……いった、って……」
それに応えようと、力の抜けた腕でしがみつくように抱きついてくるシルヴィア。
その姿が可愛らしすぎて、ついいじめるようなことを口にしてしまう。
「それじゃ、気持ちよかった?」
「わわわ分かりませんっ……ははは恥ずかしいです、シモンさん……」
シルヴィアが恥ずかしそうに僕の胸に顔をうずめながら、消え入りそうな声をあげる。
その仕草がたまらなく愛しくて。
衝動のままにシルヴィアの身体を強く抱きしめる。
「し、シモンさん……?」
「ごめんね、シルヴィア……僕もそろそろ理性の限界……」
腕の中にいる妖精の少女を、今すぐ僕のものにしてしまいたい。
その衝動が止められない。
その気持ちに気付いたのか、シルヴィアはしばらくおどおどと視線を彷徨わせたあと、
僕に向かってしっかりと眼差しを向けた。
「わっ、分かりましたっ! ああああのあのあの……よっ!」
よ?
「よろしく……おねがい……します……」
次第に消え入りそうに小さくなっていく言葉を、それでも最後まで言い終え、ふるふる
と震えるシルヴィアにそっと口付けをする。
「行くよシルヴィア……力を抜いて……」
そして限界まで硬くなっている肉棒をシルヴィアの入り口にあてがった。
「きっ、来てください……すすす少しくらい、いっ、痛くてもっ! だっ、大丈夫ですか
らっ!」
怯えたような口調なのに、それでも最後までしっかりと言い切ったシルヴィアの姿に、
意を決してぐっと腰を押し込む。
ずぐっ……
「痛っ……」
先端がはまり込んだ感触。
さきほどあれだけほぐしたのに、入り口は狭く押し広げるのに抵抗を感じる。
今度はもう少し強めに腰に力を入れてみる。
ずっ……
「んっ!?」
頭の半分くらいが柔らかな感触に包まれ、同時にびくんっ、とシルヴィアが息を詰まら
せる。
このまま奥まで……そう思い力を入れるのだが、シルヴィアの中は狭く、そこからなか
なか進んでいかな。
「シルヴィア、もっと力を抜いて……」
「い…たい……です……。まっ、まだなんですかぁっ!?」
涙目で訴えるシルヴィア。
痛くて仕方ないだろうに、大きく息を吐いて力を抜こうとしている姿が健気でいじらし
い。
「ごめんシルヴィア、まだ頭が入っただけだ……」
「そそそそそんなっ!? あっ、やっ! おっ、奥にぃっ……!?」
シルヴィアの努力のおかげか、少しずつではあるが肉棒が奥へと呑み込まれていく。
わずかに引っかかりながらも奥へと進んでいくうちに、肉棒の先に一際大きな抵抗を感
じた。
ドライアドにも処女膜はあるのか……そんなことを思いながらシルヴィアを見ると、痛
みに涙を一杯に湛えた目で、それでもしっかりと頷いたのが分かった。
そんなシルヴィアに唇を重ねる。
初めは優しく、次第に激しく舌を絡めるように。
そしてシルヴィアの身体から力が抜けたところで、
「っっっ!!!?」
一気に腰を押し込んだ。
「〜〜〜〜!!!!」
最後の抵抗を押し破った瞬間、キスでふさいだシルヴィアの唇から、声にならない悲鳴
があがった。
痛みに歯をかみ締めたシルヴィアに舌を噛まれたが、彼女の痛みに比べれば……と我慢
することにし、せめて痛みを一度で終わらせようとさらに腰に力を入れる。
処女膜を破ったところできつい抵抗があったものの、あとは力を入れるだけで、そのま
まずぶずぶ……っと、肉棒はシルヴィアの奥に呑み込まれていった。
そうして一番奥までシルヴィアの中に収めたところで唇を離す。
「入ったよ……大丈夫、シルヴィア?」
「いっ、痛いですよぉ……。裂けちゃいそうですっ……」
痛みにぎゅっと閉じた瞳からぽろぽろと涙をこぼしながらシルヴィアが答える。
実際、シルヴィアの中はぎちぎちに狭くて、下手に動くと壊してしまいそうだ。
「ごめんね、シルヴィア……しばらくこのままでいるから、もう少しだけ我慢してくれる
かな?」
シルヴィアを労わるようにそっと抱きしめながら囁く。
だがシルヴィアはふるふると頭を振ると、涙に濡れた瞳でそれでもしっかりと微笑んだ。
「だっ、大丈夫……ですよ、シモンさん。痛いけど……でもでも、うっ、嬉しいんですっ」
涙のにじんだ瞳で微笑みながらそう言って、シルヴィアがぎゅっと抱きついてくる。
その身体を抱き寄せながら、再びシルヴィアに口付けをした。
「ん……ちゅ……」
大人しく口付けを受け入れていたシルヴィアだったが、舌を絡めようとしたときに、は
っと何かに気付いたかのように唇を離した。
「そっ、そういえばっ! あのあの……ごめんなさいっ、シモンさんっ! さっき思いっ
きり舌噛んじゃって……だ、大丈夫ですか?」
おそるおそるといった様子でシルヴィアが尋ねてくる。
「ああ、大丈夫。気にしなくて良いよ、シルヴィア。呪文を使ってれば、舌を噛むことな
んて日常茶飯事だからね」
実のところかなり痛かったのだが、傷がつくほどでもなかったし、シルヴィアが噛み締
める力を抜いてくれたのも分かってる。
「そっ、そうなんですか? でもでも、森で戦ってた時には、そんなこと一度も……」
「いいから。こんな時に気を使わないでくれ……まだ痛いんだろ?」
シルヴィアの言葉を遮ってたずねる。
「いっ、痛くないですよっ!? もっ、もう大丈夫ですっ!」
シルヴィアが慌てた様子で平気だと答える。
だが話す言葉は震えていて、瞳にはうっすらと涙が浮かんでいる。身体は強張ったまま
のうえに、シルヴィアの秘窟は頑ななきつさで僕のものを追い出そうとするかのように締
め付けてくる。
これで痛くないなんて言われても、到底信じられるはずがない。
「まったく……無理しなくて良いんだよ。大丈夫、シルヴィアの痛みが治まるまでちゃん
と待っててあげるから」
シルヴィアの頭を優しく撫でながら、宥めるように囁く。
痛みを和らげることはできずとも、せめて素直に甘えて欲しい。
何より、純潔を失ったばかりでまだ痛くて仕方ないだろう少女に、気を使わせたくはな
かった。
その気持ちが伝わったのだろうか、無理に微笑もうとしていたシルヴィアが、くしゃっ
と顔を歪めた。
「そっ、そうですかっ!? ほっ、ほんとはっ! やっ、やっぱり、いいい痛いですっ!
がっ、我慢しますけどっ! でもでも、痛いですよぉ……」
泣きそうな声で、ぎゅっ、としがみついてくるシルヴィア。
「痛くしてごめんね、シルヴィア……大丈夫?」
優しく抱きしめながら、宥めるように囁きかけると、涙に濡れた瞳でシルヴィアがキス
をせがんでくる。
『いかんなぁ……』
シルヴィアと口付けを交わしながら、心の中で呟く。
そんな仕草をされると、優しくしたいと思う反面、シルヴィアへの愛しさで肉棒がます
ますたぎってしまう。
理性、理性……シルヴィアの艶やかな髪を撫でながら、心の中で自分に言い聞かせる。
そうして、撫でるように身体に触れているうちに、落ち着いてきたのか痛みに強張って
いた体から力が抜けていく。それと共に、きつく締め付けるだけだった秘窟が、次第に柔
らかく絡みつくように変わってくるのがわかった。
「まだ痛いか、シルヴィア?」
抱きしめていた身体を少し離し、シルヴィアの瞳を見つめながらたずねる。
「あのあの、まだちょっとだけ……。でも大丈夫です、我慢できます」
だから……そうシルヴィアが囁く。
とりあえず無理をしているわけではないようだ。
頷き返しながら、ひそかに安堵する。シルヴィアのことと、そして自分の忍耐とに。
本当はもう少し時間をおいて、シルヴィアが慣れるまで待ってあげるべきだと思う。
だが、正直なところ、こっちがもう限界ぎりぎりだった。
シルヴィアの秘窟が気持ちよすぎて、これ以上動かずにいるのが耐えられない。今だっ
て、シルヴィアに構わず激しく腰を動かしたくなるのを、理性で必死になって堪えている
状態だ。
狭くてきついのに柔らかくてとろとろで、熱い秘肉が吸い付くみたいに肉棒に絡みつい
てくる。動かなくてもこれだけ気持ち良いのに、動かしたらどんなことになるのか……こ
のままだとその誘惑に耐えられなくなりそうだ。
自制心はあるほうだと思っていたのだが……まったくもって情けない。
「わかった。それじゃ、ゆっくり動くから、痛かったら言ってくれ」
こくん、と頷くシルヴィアにそっと口付けをすると、身体を離しゆっくりと腰を引く。
シルヴィアの中から引き抜かれていく肉棒は、純潔の証に紅く染まり、その色にドライ
アドの血の色も紅いのだな、などと場違いな感想を抱く。
どうやらもう出血は止まっているらしく、紅い色はわずかににじんでいるだけで、新た
に湧き出てくることはなさそうだ。
そのことに安堵しつつ、そのままシルヴィアの浅いところでゆっくりと動き始める。
ちゅ……くちゅっ……
「んっ……あっ……」
抽挿にあわせて、シルヴィアがあえぐ。
痛みに眉をひそめながら、それでも抽挿を受け入れようと身体から力を抜くその姿に、
速まりそうになる腰の動きを抑えながら、優しくシルヴィアの秘窟を擦り上げる。
シルヴィアの秘窟は、頑なな締め付けの中におずおずと絡みつくような動きを見せ始め、
肉棒を刺激してくる。
そうして、根気良く抽挿を繰り返すうち、
「あっ……あぅっ……ふっ……んぁっ……」
耳元であがるシルヴィアの声の中に、次第に甘い響きが混じり始めるのが分かった。
「シルヴィア……大丈夫、痛くない?」
「あっ……まだちょっと痛いですけど……んっ!?」
囁きかけると、何かを堪えるように閉ざしていた瞳を開けて、シルヴィアが答える。
その瞳はわずかに潤んでいるだけで、もう痛みに涙を流してはいないようだった。
いや、それどころか……
「な、なんだか……ふぁっ……変な感じですよ……」
秘窟が時折ひくつきながら、きゅんっ、と締め付けてくる。
もしかして、感じ始めているのだろうか……?
その想像に、気持ちが昂っていくのが止められない。
「しっ、シモンさん! あのあのっ!」
「あっ、ごめん、シルヴィア。強かったか?」
腕の中で、あえぐようにシルヴィアが声をあげる。
まずい。気付かないうちに夢中になって、激しくしすぎていたかもしれない。
慌てて腰の動きを止め、いたわるようにシルヴィアに話しかける。
「あっ、だっ、大丈夫です! あのあの、そうじゃなくてっ!」
ぷるぷると首を振って答えるシルヴィアに、少し安堵する。
では、いったいなんだろうか?
訝る僕の前でシルヴィアは少しの間恥ずかしそうにためらった後。
「しっ、シモンさん! わっ、わたしの中……ききき気持ち良いですかっ!?」
「…………」
くらっ、と。
一瞬、意識が揺らいだのが分かった。
「な、な、な……」
何を言ってるんだ、と言いたいのだが言葉にならない。
そんな僕の気持ちを余所に、シルヴィアが言葉を続ける。
「わっ、分かるんですっ! シモンさんが……わたしの中にいるのが……熱くて、硬くて
……だから、きっ、気持ちよかったら良いなぁ、って……シモンさん?」
言うだけ言ってから、僕の反応が無いことに気付いたのか、シルヴィアが怪訝そうな声
を上げる。
だが、もうその時には、僕の理性はとっくに限界を超えていた。
「シルヴィア……ごめん、ちょっと我慢してくれ」
「えっ!? あっ、は、はい……あ、でも、なにをで……」
それでも最後に確認をとったことに、僕は僕の理性を褒めてやりたいと思う。
狭いだけだったシルヴィアの秘窟は、今や柔らかく絡みつくようになって、肉棒にたま
らない快感を与えてくる。
この中で激しく動かしたら……それはどれほどの快感になるだろうか。
そんな誘惑を、シルヴィアの痛みが和らぐまではと、理性で必死にとどめていたのだ。
それなのに……こんなことを言われては!
僕はシルヴィアの返事を最後まで聞くことなく、肉棒を大きく突き込んだ。
「んあっ!?」
突然のことに、シルヴィアの口から悲鳴が上がる。
それに構うことなく、シルヴィアの中を激しく動き始める。
「あっ、あっ、あっっ! やっ!? しっ、シモンさっ……ま、待ってくだっ……いっ、
痛いですっ!!」
痛みに悲鳴をあげるシルヴィア。
頭の中では酷いことをしていると分かっていた。
だがそれでも僕の腰の動きは止まらない。止められない。
ぎちゅっ! ぐじゅっ! じゅずっ……
水音と粘膜の擦れる音を立てながら、シルヴィアの中を肉棒で激しく突き上げる。
「あっ、あうっ!? おっ、おねが……ですっ! もっと……ゆっ、ゆっくり……してく
だっ……んあっ!?」
僕の動きを止めようとしたのか、泣きそうな声をあげながらシルヴィアがしがみついて
くる。
その声に、少しだけ理性が戻ってくる。決してシルヴィアを泣かせたいわけではない。
激しく突き上げるだけだった腰の動きを緩め、シルヴィアの中を浅く深く、かき混ぜる
ような動きに切り替える。
「んっ……あっ……」
多少は楽になったのか、シルヴィアは痛みに眉をひそめながらも、僕の動きを受け止め
ようと身体を動かしてくる。
その動きがいじらしくて、可愛らしくて。
思わず意地悪で、シルヴィアが動こうとするのとは逆方向にいきなり動きを変えてみる。
「ひ、酷いっ……ですよぉ……んっ、んあっ!? やっ、そっ、そこは……ふぁあっ!」
シルヴィアが苦情の声を上げるが、その声も秘窟をかき混ぜるように動きながら、その
動きにあわせてふるふると震えるふくらみに舌を這わせると、あえぎの中に消えていく。
その甘い響きにわずかに残された理性さえも捨て、ただただシルヴィアの声を引き出す
ように、シルヴィアの身体を貪るように、その身体を蹂躙する。
「シ……モンさんっ……シモンさあんっ……!」
シルヴィアの泣き声に、はっと我を取り戻す。
いつの間に泣き出したのだろう、涙をこぼすシルヴィアの身体を組み敷いて、叩きつけ
るように激しく腰を突きこんでいた。
そして気付く。
その泣き声が、痛みからだけではなく、快感のあえぎが混じっていることに。
「シルヴィア……シルヴィアっ!」
その甘い響きと、絡みつくような締め付けに、急速に高まる射精感。
やばいっ、と思った時には、堪えられる限界をとっくに超えていた。
「くっ、出るっ!!」
わずかに残された理性で、まるで犯すように蹂躙していた少女の中から、咄嗟に肉棒を
引き抜く。
「んあっ!?」
どくんっ! どくっ、どくっ……
シルヴィアが小さく悲鳴をあげたのと、肉棒から勢い良く白濁が迸ったのは同時だった。
目も眩むような快感の中、最初に放たれた白濁はシルヴィアのふくらみを汚し、続いて
まっしろなお腹に、若草色の茂みに飛び散っていく。
これまで感じたことも無いくらいの快感。
そのためだろうか……最後の一滴を放ち終わるまで、僕は自分の過ちに気付かなかった。
「はぁっ、はぁっ……あ、あれ? 待てよ……」
すごい量が出たな……シルヴィアの身体に飛び散った白濁を見て、自分の事ながらその
量に驚く。
その頭の片隅で何かが引っかかる。なにかがおかしい……いや、間違ってる?
「な、なんですか、これ……? なんだか、栗の花みたいな匂いがします……」
「っ……!? ごっ、ごめん、シルヴィア! それは……っ!」
そんな僕の目の前で、のろのろと身を起こシルヴィアが身体に付着した白濁を指で拭う。
その姿を見て、ようやく僕は自分がしでかした間違いに気がついた。
子種を与えるためにしていたはずなのに、何故僕は外に出してるんだ!?
「……? ……あっ! もっ、もしかしてっ!」
聞かずとも態度でわかったのだろう、シルヴィアの言葉に、僕はただ頷き返すことしか
できなかった。
「そっ、それじゃダメじゃないですかぁっ! なんで外に出しちゃったんですかっ!?」
「す、すまん……つい……」
シルヴィアがずいっと迫られおもわずたじろぐ。
僕のことを責めながら、その声は今にも泣き出しそうで、なんと言ってやれば良いのか
言葉が浮かんでこない。
「やっ、やっぱりいやだったんですかぁっ! ひっ、酷いです、シモンさん……あんなに
痛かったのに!」
「う……悪かった、シルヴィア……」
だから、謝る。
謝るしかない。
恥ずかしいことに、あの時の僕はシルヴィアの身体の気持ちよさに我を忘れていた。
シルヴィアの痛がる声も無視し、まるで陵辱するかのようにただひたすらに彼女の中を
蹂躙し、射精する段になってようやく我に返り、膣内に出すのだけは避けようと咄嗟に引
き抜いたのだ。
行為を考えれば、そのまま膣内に出すこともはばかられる訳で、どちらにしても許され
ることではない。
「痛いの我慢したのにっ! そっ、それは、最後の方は少し気持ち……ごにょごにょ……」
「え……シルヴィア、今なんて?」
そんな後悔に押しつぶされそうになっていた僕は、語尾が小さくなっていくシルヴィア
の言葉を聞き漏らしてしまった。
思わず聞き返すが、
「ななな、何でもないですっ!! とっ、とにかくっ! 違うんだったら……もっ、もう
一度、ししししてっ、くださいっ!」
シルヴィアはその問いには答えずに、真っ赤になって叫ぶようにそう言った。
そして、一瞬の間をおいてから、
「いいですっ、今度はわたしがします!」
耳を疑うような言葉を口にしたのだった。
以上です。
気付けば半年近くとか、ありえないくらい間が空いてしまいましたが、
待っててくれた方もいたようで本当に申し訳ないです。
書いているうちに愛着がわいてきて、どんどん長くなってしまっていますが、
ちゃんと完結させるつもりはありますので、もう少しだけお付き合いいただければと思います。
GJ!シルヴィアかわいいよシルヴィア
うおー!
全裸で待ってた甲斐があった
半年近く全裸で待ってたのかw
巨大な天秤の人の文体が
エロゲーだけど あやかしびと と バレットバトラーズ の文章に凄い似てるな。
リザのキャラがあやかしびとのキャラに似てたんでさらにそう思った。
それはそれとして話が面白くて、いい陵殺なのもポイントたけぇ。凄いよかったわ。
投下乙
GJ
保守
圧縮保守
保守
なかなか来ないな
保守
保守
保
酒
保守
どなたか 前スレの ログを いただけないでしょうか
ありがとうございます!
ふぅ・・・
親切な人だ
何か書いて欲しいな
保守
良くも悪くも日本の『ファンタジー』に多大な影響を与えた栗本薫先生が亡くなられたそうな。
ご冥福をお祈りしながら保守。
ご冥福をお祈りします。
先生……
温帯は抱えてたシリーズ完結前に亡くなってしまったけど、
御大は完結してホスイ・・・
本は読んでないけど、先生のBL評論は面白かったな。
私は男になって男を犯したい、っていうのが凄いと思った。
396 :
名無しさん@ピンキー:2009/06/07(日) 00:24:54 ID:3RuNzFFA
保守
保守
ノイエ様の続きを待ち続けるぜ!
400 :
名無しさん@ピンキー:2009/06/18(木) 00:59:10 ID:0lbd9N6z
次にシルヴィアたんを拝めるのはいつだろうか
401 :
名無しさん@ピンキー:2009/06/22(月) 03:10:03 ID:oR19w3T5
待ってます
かなり迷いましたが、こちらに投下させていただきます。
リョナ・百合・和姦ほか、ジャンルが多岐にわたるので、投下の度に内容を記しておきます。
エロが無い回もありますが、平にご容赦を。
以下、NGワードは「ヴァリオキュレの森」でお願い致します。
★ヴァリオキュレの森 一話「克己的少女の受難」(リョナ・触淫)
剣で、魔法で。男達は絶え間ない戦乱を繰り広げていた。
いやになった女たちは、志をともにする者を集い、理想郷をもとめて世界の辺境へと旅立った。
それが後に‘女剣士の森’と呼ばれる処、大陸の四分の一を占める風光明媚の地、ヴァリオキュレである。
先頭に立って森を開拓したのは、‘雌銀狼’エバ。
ヴァリオキュレをひとつの国としてまとめ、女の園と化した森に男を近づかせないよう尽力した。
三百年経った現在、内外での戦乱がようやく影をひそめた。
危うさをはらんだ平和を堪能する人々のなかにあって、毎日を修行にあけくれる少女がいた。
リベカという名の彼女が、十五をむかえたその日。
ある少年が‘偶然’森に迷い込んだことにより、運命の歯車が回りはじめた……
―――
飛び散る汗。鳴りひびく剣戟。気勢のかけ声。
歳若い少女と精悍な女性が、朝も早くから剣の稽古にはげんでいる。
まだ春陽も起ききらない頃合いではあるが、この二人にとってそれは瑣末にもならない事項だった。
「…………ふぅっっ!」
黒髪をひとつに結った少女――リベカが、両手で駆る細身剣で力の入った一撃を見まう。
相手である長い銀髪の女性――ラケルは、少女の渾身のなぎ払いを片手でもつ長剣で息を乱すことなく受けとめる。
「っ……はっ!!」
少女は一旦距離をとって、再度斬りかかった。
この間、僅かに半秒。
しかしその迅速な剣さばきも、女性にとっては児戯にすぎないかのように避けられる。
勢いを殺さずすぐに二撃目に転じようとするが、なにゆえか少女の身体はよろよろとあさっての方向へいき、そのまますっころんでしまった。
女性が攻撃をかわすと同時に、足を引っかけていたのである。
「……………………」
黙ったまますぐに立ち上がったリベカは、端正な無表情をラケルの方へとかたむけた。
彼女はといえば……いつ取り出したのか、煙草をくわえながら剣を杖代わりにして、少女をながめつつ一服なんぞをしている。
リベカはまとっている赤い衣服のように、闘争心が否が応にもあおられていた。
「…………続きを」
「いつも言ってるじゃないか。稽古の最中は、あたしが何してようと斬りかかってきていいって。さあ、早く来――」
セリフと、煙草の煙がとぎれた。
異様な速さで襲来する細身剣を、女性は片手で操る長剣でいなす。
少女は果敢にも二合・三合・四合と剣を打ち込んでいくものの、受ける相手はどこへ振るわれるか分かるかの如く、剣撃を易々とさばいてゆく。
「くっ……」
リベカは、なんとはなしにラケルから身を引いた。
もう随分と息が上がっているこちらに対し、対象は憎たらしいほどに余裕綽々としている。
一体、この力の差はなんなのだろう?
焦りと不安、そしてラケルに対する嫉妬と羨望が、リベカの心中にうずまく。
両者の歳の差は倍ほどもあるのだから、そこまでに至るほどでもないはずなのだが……
――と、リベカは呼吸を整え、感情を映さない凛々しいおもてをラケルに向けると、
「……ひとりでやる」
ぼそっと言い残し、きびすを返してすたすたと歩き去ってしまった。
まだ規定の稽古量をこなしていないというのに。
「あ、そう」
鮮鋭な顔を天にあおがせながら、ラケルは少女を興味なさげに見送った。
表向きこそ無関心にみえるが、実際には思慮深く行動するのがこの女性の食えない部分である。
実はリベカの今後の動向が気になってしょうがない。
「……あたしみたいにならないで欲しいね」
育ての親である彼女がそう思っていても、リベカに淡白にしか接しないのには深いわけがあった……
―――
少女は、森中にしては木々が少なく開けたところにいた。
格好は尋常である。
麻布の長そで胴衣、足首までの脚衣。額当て、皮手袋と、いずれも赤色で統一されている。
唯一、短靴だけは茶色いものの、その一見大人しい性格に反して派手な色が好きなのかもしれない。
さて、リベカは細身剣を正眼――切っ先を相手の目にむけて中段に構える――にもち、双眸を閉じている。
身体は微動だにせず、相当集中しているのが判る。
ビュォッ!!
ふいに、少女の周囲に白き光がたちのぼった。
‘剣気’である。
特別優れた剣の使い手のみが揮える力を、彼女は齢わずか十二にして会得した。
それから三年経ったいま、すでに剣気を自在に操れる段階まで踏みこもうとしている。
ラケルの指導の厳しさももちろん要因のひとつだが、なによりリベカ自身がきわめて克己的な少女であることが大きい。
「ふ…………くぉぉおぅ………………」
リベカの眉間にしわがうかび上がり、その冴えざえした容色がゆがんでいく。
白き光はだんだんと鮮明になり、厚みを増していく。
強大な剣気の奔流は天をめざしてたちのぼり、入り組む木々をすりぬけて女剣士[ヴァリオキュレ]の森から顔をのぞかせた――
スゥウンッ………………ぬけるような乾いた音がひびき、あれほど膨大な剣気が突如にして消えうせた。
同時に、魂が抜けたようにくずおれる少女の姿。
「っはぁぁぅ……っ……!!」
両手で地面の土をおさえつけ、ひときわ大きな途息をはきながら涎を垂らす。
少女の顔は汗だくであった。
「はぁ、はぁ、はぁ…………っ……ふぅ」
弾んでいた息はまたたく間におさまり、少女はすぐにも立ち上がった。
‘剣気放出’は精神的に疲弊はするものの、体力的な疲労はまったくない。
だからといって、大量の剣気を発したあとは無理をするなと「あの女」から忠告されているのだが……
関係ないと言わんばかりに、リベカは右手に細身剣をもったまま走りこみをしに、林道の奥へと消えていった。
―――
リベカの朝は、異常に早い。
陽が射す前に自然とおきあがり、身だしなみをととのえ、すでに準備万端のラケルに稽古をつけてもらう。
‘稽古場の板に陽が当たった’ら手合わせは終わりという決まりだが、少女は今日陽が射すだいぶ前に出ていってしまった。
次にやるのは、剣気を限界まで解放する‘朝の習慣’である。
これはリベカみずからが自主的にやっていることで、「こうすることで一日は始まる」「毎日一回、限界まで解放することで、自然と剣気が大きくなる」という考えのもとにやっているものだ。
実は、後者はその根拠が実証されていない。
人間個々がもつ剣気の大きさは剣の腕に比例するものといわれており、むしろ解放することで消耗してしまうので、有事のとき以外は行使するべからずという風潮さえある。
むろん、こちらにも根拠は無い。
とはいえ、結局どうなのか明らかではないうえ疲れるので、剣気は普段から抑えている者のほうがはるかに多い。
リベカのように全力で放出したり常に質を確かめたりする人間は、捜し当てるほうが難しいとして過言ではないだろう。
さて、剣気を発しまくったあとは走りこみである。
ラケルに指示された量をこなすのだが、これまた尋常ではない量だ。
何しろ朝食の時間まで、二回の休憩をはさんでひたすら駆けつづけるのだ。
およそ一日の十分の一以上を、この朝の走りこみに費やしている。
しかも合間にさしはさむ休息にしたって、地べたに座り込んで呼吸がととのったらもう疾走にもどっている。
並の気概ではこうはいかない。
そして――
「おっ、早かったじゃないか。もう二十三周したのかい?」
中性的な女性は短剣をとぎながら、息を切らしてもどってきた少女に背をむけたまま声をかけた。
丸太小屋の入り口に姿をみせたリベカは、心なしか不機嫌そうに感じだ。
「…………きょうは、二十八周してきた……」
息継ぎすることなく言葉をつづり、余裕感をよそおいながら女性のほうへ歩みよる。
顔どころか、服も汗によって相当濡れている。
習慣とはいえ激しい運動をこなしたあとだというのに、少女はもう普段の息づかいになっていた。
「ほお、余計に五周もしたのか。稽古を早めに切り上げたとはいえ、それはすごいな」
やや淡々と、大半は感心するような様子で、リベカを褒めた。
称賛を浴びた少女はといえば、ちっとも嬉しそうに見えない。
汗の浮かんだ無表情のままラケルの言葉を聞き流しつつ、食事が用意されている自分の席にこしかけた。
「じゃあ、今度からは二十五周に増やせるかい?」
不敵にほほ笑む女の口上は、食べ始めようとしていた少女の動きを止めるには十分だった。
「…………あなたが仰るのであれば、如何様にも」
わりと早めに答弁したが、なにも昂じかけた感情に任せてのものではない。
たった二周程度、増えたところで大して変わらないと思ったからだ。
既存の量の、十分の一も増えていないではないか……
「そっかそっか。最近あんたかなり体力ついてきたみたいだし、もう少し増やそうかとも考えたけど、まぁとりあえずは二十五周でいいだろ」
女性のセリフにちょっとばかり不快感を覚えたが……
大きく息を吸い込んで、吐きだすことによって、すぐに平常心をたぐり寄せた。
「それと、あんた例によって忘れてるかもしんないけど」
女性はまだ朝食に手をつけておらず、未だ台所で短剣をといでいる。
なにやら意味ありげな前置きに、リベカは思わず黒い瞳をしばたたかせた。
「今日はあんたの、十五の誕生日だからね。ちょうどあたしの半分だ……すぐに届かなくなるけど。ま、食べ終わったらちゃんと「子産の母」の所にいっとくんだよ」
凛々しい少女は、嫌悪の溜息が出そうになるのをどうにか堪えた。
自分の産みの親である「あのババア」の所に行く。
彼女はそれがいやでいやで仕方がなかった。理由を思いだすのすら阻まれる。
だから――そんな訳があるから、誕生日を失しているのではない。
……素で忘却しているのだ。
「……気持ちはわかるけど、早く食べとくれよ。冷めちまうじゃないか」
リベカの表情は依然として何らかの情をうつすものではなかったが、ラケルの発言を受けいれると、すぐにも食事にありつきはじめた。
―――
物心ついた時からずっと、リベカはラケルと二人暮らしである。
リベカが十のころまでラケルは家を長期にわたって空けることが多かったが、今はもう殆どない。
ほんの五、六年まえまで、ここヴァリオキュレの森は戦乱にあけくれていた。
……というのを、少女は女性から言われているだけで、その理由とか、どのようにして納まったかなどは全然きかせてくれない。
興味がないかといえば嘘になるが、あえてふかく探ろうとはしなかった。
話さないのにもそれなりの理由があるのだろうと察したから。
「………………」
リベカは、ひとつに結った黒髪をなびかせながら森の中を疾駆していた。
正直こんなことは、さっさと行ってさっさと済ませたい。
時間が勿体ないのもあるが、なによりあのババア――自分の産みの親のご機嫌取りは非常につかれるというか、だるい。
ラケルに命じられなければ絶対に足を運ばなかったと思う。
行かねばならない義務はない。その証拠に、リベカ以外の子は全員疎遠になっているときく。
なぜ自分だけ、一年に一回だけとはいえせっせと通わなければいけないのだろうか――
「止まれ!!」
その声質と、突如にして眼前に立ちはだかったものを見、赤い衣服の少女は眼をむいて急停止した。
男だ。
齢の頃は二十代後半だろうか?
野生的な顔だちとみじかく刈り込んだ金髪が印象的な、いかにも傲岸不遜な雰囲気をかもしている碧いまなざしの人物だ。
胸元のあいた上下一体の紫装束を着込み、背には大剣をしょっている。
とにかく、どう見繕っても男だ。
……外界に住む‘魔物’が、なぜここにいる?!
なんとはなしに腰の剣帯に手をかける。
すると、‘魔物’――男は片手をあげて、
「あー、あんまり警戒すんなよ。ちぃっとばかし訊きたい事があるだけだ」
この言葉を信じるつもりなど微塵にもない。
リベカは顔色ひとつかえず、鋭い視線を男に向けたまま剣柄を握っている。
「ここによ、俺の弟が迷い込んじまったらしくてな。捜してんだよ。知らねーか?」
「知らない」
つぶやくような、しかしよく通る声で即答した。
すると、男は右手で顔をおおいながら天を仰いで「やっぱりかー」などと吹いたあと――冷笑がもれた。
「そりゃ良かった……」
言下に、顔に当てた右手をそのまま背に送り、大剣をぬきはなった。
いかにも尊大そうな仕草や表情で、少女にむかって宣戦布告する。
「ちょっくら付き合ってもらうぜ、嬢ちゃん」
ビュォッ!
男の周囲に白き光――剣気が発生した。
さっきまでとはまるで違う、険の深い表情と双眸がリベカを射抜く。
ビュォッ!
ぞくっとした戦慄を感ずる前に、少女も負けじと剣気を放出して抜剣しながら大地を蹴った。
相手がその気なら、それ以上に楽なことは無い。
「はっはぁー! 俺とやる気たぁ、命知らずだなおい!!」
舌なめずりしながら挑発するが、この少女相手にはなんの効果も及ぼさない。
あっという間にリベカと男の距離が縮まった。
「だらぁっ!」
大剣をなぎはらうと、派手な衝撃波が奔った。
意外に迅い……そう考える余裕すらもって衝撃波を避わし、少女は一瞬で男の左側面に移動し、体重をかけた細身剣の一撃を――
ガィイン!
「…………ッ!!?」
リベカはまたも眼をむいた。
右手で剣をなぎはらった後は、身体の左半身はがら空きになる。
それを見越して最短時間で剣撃をしかけたのに、こうもあっさり止められるというのは……?
「ほぉ……全く無駄のない動き、それに驚くべき速さだな」
相手は片手で容易くうけとめたのに対し、こちらは両手で斬りこんだ側なのに、もの凄い圧力が剣を通して伝わってくる。
「だがま、経験は違いすぎるし、なにより…………ふんっ!」
「っ!!」
少女の身体が、(微妙)→球のようにふきとばされた。
「ぐぁぅっ!」
ドゴッ――と、鈍い音をひびかせて背中から大木にたたきつけられ、ずるずると根元にもたれかかる。
「う゛ぅぅ…………ぉえ……」
喘鳴をもらしながら吐き出した唾液は赤くそまっている。
予想外の出来事なためか、いつも修行で味わっているはずの苦痛が必要以上に大きく感じる。
「女じゃ、男に敵うわけねぇからな」
男の完全に見下した口調が、神経を逆なでする。
リベカは、‘意識して’血をたぎらせた。
カッ――と少女の鋭敏な黒瞳が見開かれる。
朦朧とする意識を叩きおこし、激痛をふきとばして即立ちあがり、追い打ちをかけにきた「魔物」を見すえた。
これには男も驚嘆したようだ。
「こりゃすげえ。今のでへたれねえたぁ、みあげた根性じゃねぇか!」
相当に愉しげな声をあげ、赤い標的めがけて大剣をふりかぶる。
ザンッ!
――だが、真っ二つにしたのは巨木のみだった。
それでも、男は冷たく嗤っている。
「…………またそれかぁ?!」
ガィイン!
男の頭部に振り下ろされた細身剣は、大剣によってスレスレの位置で阻まれていた。
「っ…………!!」
「甘いぜぇっ!」
うしろに目すらくれず、大剣に力をいれてふたたび少女を吹っ飛ばした。
だがリベカも二の轍は踏まず、障害物に激突することなくゆるやかに大地に降りたつ。
さらに、すかさず標的への接近を試みている――それも異様な速度で。
「腕だけは認めてやる……が」
せまりくる少女に背をむけたまま喋る男の声色には、奇怪なまでの余裕がこもっていた。
「俺には勝てねぇよ。残念だったなっ!」
バッ、と後ろへふり向いた男の眼光が、少女を強烈につらぬいた。
そんなものに気圧されるリベカではないが――
スウゥン…………かわいた音が、静かに辺りへとひろがった。
「……――なっ?!」
気づけば剣気は失しているし、身体も金縛りにあったように動かない。
さしものリベカも、初めて感情を表さない仮面をとった。
凛々しいおもてに恐怖の色を微かに塗って、それでも漆黒の瞳は男を捉えてはなさない。
「くくく……どうだ、‘魔法’をかけられるのは初めてだろ、嬢ちゃん」
リベカはその単語を聞き入れても表情をうごかさなかった。
魔法……剣法と異なり、男のみが行使できる力。
そのため、女は魔法になすすべがない。
百二十年まえに起きた、「外」の男達と森の女達の戦争は、相手軍の三倍以上の死者を出しながらも奇跡的に勝利したが……
「こんな下位魔法でも、女を縛るにゃあ十分だからな。うかつに競り合って怪我するよりいいぜ……さて」
口上を重ねながら冷たい笑みをむけて、右手にもっていた大剣を背におさめた。
欲望に満ちた視線でながめつつ、微動だにしない少女にじりじりと近寄る。
「男とよろしくすんのは初めてだろ? この俺が…………お?」
愉悦の表情のままリベカの眼前に立った男は、頓狂に疑念符をはっした。
身体が、僅かだが動きはじめている――
「ぐぅぅう…………ふぃあぁぁあ!」
「おおっ、っとぉ!」
少女は玉のような汗をほとばしらせながら斬り払ったが、緩慢もいいところで命中ることなど不可能だった。
「あぶねえな、むんっ!」
「っ……うあ゛っ!!」
先刻よりつよい金縛りに遭い、痛々しい苦鳴がひびく。
さらには、いつのまにか細身剣が手からこぼれ落ちている。
男が金縛りをかけるとともに手首を強打したためだ。
「ふーっ……手クセの悪ぃ嬢ちゃんだぜ、ったく」
男は掌を額にあて、大仰な溜息をついた。
リベカの方は、今度ばかりは絶対絶命だった。
だが、こんな状況においても……表情はすずしいものだった。
顔色こそ蒼ざめているが、恐ろしさや焦りをおもてに出すことはしない。
彼女の自尊心と、この‘魔物’に対する負けん気が、それを許さないからだ。
「こんな時でも怖がらねぇとは、感心だなぁおい」
少女の態度を単なる強がりととったのか、男の口ぶりは明らかな嘲りにみたされていた。
固まったリベカの肢体を、正面からいやらしい眼つきで舐め回すように堪能し、
「……意外に良い体してやがんじゃねえか」
などと端的に感想を述べながら、赤い胴衣に手をのばし始めた……
―――
リベカ……今日はあんたの十四の誕生日だね。話しておきたいことがあるんだ……なに、そんなかまえることないよ。
初潮はもうすませたんだろ? ……え? わかるに決まってるじゃないか。あたしを誰だと思ってるんだい。
ともかく、あんたはもう立派な‘女’だ。
本来ね、女ってのは子を成すためのいきものなんだよ。少なくとも、‘外’の世界ではそれが普通なのさ。
まあそれは置いといて……あんたは今まで十四年間生きてきて、‘魔物’に遭わずに済んできた。
でも、これからその可能性がないとは言い切れない。
だから、あいつらに遭遇しちまったらどうすべきか、教えとくよ。
……は? ばかだねあんたは。基本的に女ってのは‘魔物’に勝てないいきものなのさ。
身体能力だけでも劣ってるのに、やつらは女が使えない魔法も行使できる。
剣法での対抗だけならいざ知らず、魔法を使われたらいくらあんたでも勝ち目は薄い。
もちろん、剣法と同様に魔法も限られた‘魔物’しかつかえないみたいだけど。
……リベカ、もしもそういう強い‘魔物’と闘わなければならない状況になって、手も足も出ずに打ち負かされても、殺されはしない。
なぜか解るかい?
……………………知らないか。まあここにはそういう書物もないし、当たり前っちゃ当たり前なのかね。
人間の雄ってのは厄介ないきものでね、周期的に女を求めるんだよ。
……説明せずともわかるだろ? 恥ずかしがることはないんだよ。
あんたが自分でしていることを、誰かにしてもらいたいと思ったこともあるだろ?
まあ、あってもなくても、実際あんたが自涜に及んでるところを見たからねぇ。
……らしくないね。恥ずかしいことじゃないんだから、そんなにどぎまぎしなくていいんだよ。
禁欲主義なあんたのことだから、大した回数やってないんだろうけどさ。
ま、ともかく。‘魔物’はあんたに勝てたとしても、いきなりは殺さないだろう。
容姿も身体もわりと良いものを持っちまってるから、まず間違いなく犯される。
けどね、リベカ……なにも黙ってやられることはないんだよ。
いいかい、ここからが重要な話だ。
よーく頭にたたき込んでおきな――
―――
「………………」
「……お? ずいぶん大人しいじゃねえか。さっきまでの気概はどうした、ん?」
無表情で自分を見つめてくるリベカを煽りたてる。
さっきまでの抵抗とはうってかわって冷静なのに、やや物足りなさをおぼえているのだ。
「……まあいい。いやでも落ち着いちゃあいられなくしてやる」
男は言下に、両手で赤い胴衣を左右にはだけさせた。
十五にしては豊かな、さらしを巻いた胸があらわになる。
彼はそこで間を置くような、焦らしが好きな性格ではない。
間髪いれずにさらしを引っつかむと、強引にやぶりとった。
少女の、あどけなさがのこる双丘が、野生的な男の双眸にうつされた。
まさに悪漢というべき薄笑いをしながら、ふと少女のおもてを窺ってみる――鋭利な黒瞳から、涙を流しているではないか。
リベカの顔には、一切の感情がぬけおちているかのように見えるが、それも男を昂ぶらせる材料にすぎなかった。
「強がっても身体は正直だな、え? なんとか言えよ……いや、言わせてやるよ」
言うなり、男は少女の胸に顔をちかづけた。
「…………っ……!」
その瞬間、何ともいえない生理的な嫌悪感が、リベカの身体をかけめぐった。
‘魔物’が自分の乳首を口にふくみ、ちゅくちゅくと吸い上げている。
あまった方の胸は手で弄られ、その異様な感覚と屈辱に、声を洩らしそうになってしまう。
いっそ出してしまえば楽になれるかもしれない。
だが、無駄なほどに自尊心の高い彼女の意識が、それを許さないのだ。
それになにより……
「おい、気持ちいいんだろ? 正直に言えよ、おら」
胸に顔をうずめながら、神経を逆なでする口上をリベカにぶつけてくる。
悔しかった。
中身までも最悪な彼にふれて、ただでさえ忌み嫌っている‘魔物’をさらに嫌いになった。
そして、その‘魔物’に対して抵抗できずにいる自分自身に一番腹がたった。
――男の右手がふいに、服ごしに少女の陰部に触れた。
声こそ発さなかったが、はっきりとした不快感にリベカの顔が微かにゆがむ。
男はこれを見逃さなかった。
「所詮は雌犬だな、おい」
あざけりながら、今度は脚衣のえりに右手を近づけ、引っぱって中に侵入した。
「……っ」
嫌な予感がした。
赤い脚衣の股間部が男の右手によってもりあがり、うごめいている。
その中で器用にも下着をずりおろし、それこそ無遠慮に、‘魔物’の触手が少女の陰部にふれた。
「――ぁ…………!!!」
しまった。
決して油断していたのではないが、声を漏らしてしまった。
「……「ぁ」? なんだよ、もっと早く言えよ。望みどおり、愉しませてやるんだからよ」
男はにやにやしながら、無表情だが頬を赤くして汗ばむ少女をながめた。
「どんなに強情張ろうが、女は女だなぁ!」
男の右手が、脚衣のなかで少女の淫核に触れる。
「っ!!!」
成熟しきらない肢体がビクンと震えたが、男はそれに構わず膣内へ指を侵入させる。
すでに濡れ始めていたためか、すんなりと入ってくれた。
「は………………ぅ……………………っ!!」
出し入れされるその指の感覚を、リベカは認めたくなかった。
油断すると涎が出そうになるし、顔色も湯気が出そうなくらい紅潮している。
快感を覚えているということを、この‘魔物’にさとられるわけにはいかない。
だがはた目には、少女が感じていることは一目瞭然かもしれない。
反応がないのは表情だけで、ひざは笑っているし、まばたきの回数も異常に多い。
「ぃ……う………………く…………あっ……!!」
くちゅくちゅという淫音が耳に入ってきて、さしものリベカも平静を保つのが難しくなってきた。
立ったまま胸を吸われ、花弁を攻められる中、昇りつめようとしている少女の表情は……それでも感情を表していなかった。
「っ!! ふ…………――――――う゛っっ!!!!」
リベカの口から涎が吹き出した。
初めてはっきりと顔色を変えた瞬間でもあった。
眼をぎゅっと閉ざし、眉間にしわくちゃにして歯噛みする様は、とても‘苦しそう’だった。
赤い脚衣の内部では、少女のおさない秘部から快楽の潮がながれている。
愉悦の余韻が、秘唇をひくひくとわななかせる。
一部始終を見続けていた男の様子は、とても満足げだった。
「……くはははははは! 文字通り、身体は正直だよなぁ! けどよ……これからが本番なんだぜ」
悦楽が微かに尾を引いていた少女は男の言葉を聞き入れても、未だにある事項だけを気にし続けていた…… 一話・おわり
……6/10の十五行目に余計な文が混入していたことを、深くお詫び申し上げます
触淫って触手プレイの事?
お疲れ様です。
415 :
名無しさん@ピンキー:2009/06/24(水) 19:57:52 ID:ZEInhIMH
GJ
面白かった
GJ!
「ヴァリオキュレの森」二話です。
NGワードは上文括弧内でおねがいします。
以下ネタバレ
今回は3〜5に、手と口での前戯のあと、和姦があります。
少々猟奇的なのは毎回のことかもしれません。
付け加えますが、邪気眼や厨二病が苦手な方にはおすすめできません。
★ヴァリオキュレの森 二話「激情を掬い取るもの」 (手満・口淫・和姦・リョナ)
「――せやっっ!」
ザンッ!!
意気にあふれた女声とともに、標的となった大イノシシは瞬く間にくずれ落ちていた。
単に長剣を軽く振りおろしただけに見えるが、対象物はなんと縦に真っ二つになっていたのである。
人間業かと疑問をぶつけたくなるような場面だったが、この‘雌銀狼’ラケルにとっては茶飯事でしかない。
「ふぅ……」
さも当然といわんばかりに、長剣を背におさめつつ吐いたため息もきわめて控えめなものである。
彼女の格好はいたって簡素なもので、上半身には浅緑色の半そで胴衣いちまいに、同色の短脚衣。それに長鉄靴と、軽装を絵に描いたようなものだった。
時は東雲――ようやく東の空に雲がたなびいてきた明け方。
そんな頃合いだというのに、彼女はすでに養女のリベカと朝食をすませたばかり。
リベカが「子産の母」のところへ出向したあとは、最寄の狩場に足をはこんだ。
ところが、狩場に到着するまえに、本来いないはずの大イノシシが姿をあらわした。
今さっき軽く斬り捨てたものの、これには異変を察しざるをえない。
――何かが起ころうとしている。
「…………まさか、ね」
精悍な面差しを虚空にかたむけながら、ラケルは逡巡げにつぶやく。
実際に朝から……いや、昨夜あたりから悪いきざしはあった。
その感覚をさとる度に‘あの戦乱’を想起してしまうから、自らに気のせいだと言いきかせていた。
しかし……わかっていながら、そんな自分に対しての嫌悪感をぬぐい切れない。
ほんの数年前なら、現実に向かいあわず逃避するなどありえないことだったのに……
「……らしくないな」
素手で顔をおおいながら独語する。
平和に慣れて自分を律しきれないのはある程度しかたないのかもしれないが、それにしたって腑抜けすぎではないか……――
突然に。
女の切れ長の瞳孔がおおきく見開かれた。
「………………」
そのまま数十秒の沈黙。
ビュオォッ!
突如大量に剣気放出したかと思うと、東の方角へと走り出した。
尋常ならざる脚力だ。
彼女の体は女性の中でもはっきりと大柄なのに、疾駆速度はそれを身上としている者にひけをとらない……いや、それ以上に迅い。
白光をまといながら、長狼髪の女性は無表情で駆けつづけた。
目標にたどり着くまで、そう時間はかからなかった。
それは、大きなきりかぶに寄り添うようにして眠っていた。
――美しい少年だった。
スゥ……剣気を静め、注意深く周囲をみまわしながら幼き‘魔物’にちかよる。
顔つきから見るに十代半ばの、見様によっては少女と違えてもおかしくないほど、流麗な面容の少年だ。
足首までをも覆うあわい赤外套に、立派な蒼き外衣と同色の脚衣、それに茶色の短靴と、わりかしひかえめな色合いの装備である。
首にかかる黒曜石が妖しげに煌いているが、これは魔気のみなもとなのだろう。
波打つみじかめの紫髪は十分に梳かれており、その陶磁のようにきめ細やかな白皙の肌をひきたてている。
外界にいる女たちの大半を泣かせたに違いない……じゃなくて。
さて、どうしたものだろうか?
というのも、何か重大な見落としをしているような気がしたのだ。
少なくともこの少年からは危険を感じない。
いまさら悪い予兆が思いすごしだったなどと自己暗示したくはないので、何が原因なのか確かめる必要がありそうだ――
「……………………うっ……」
「っ!」
ぴくり、と少年の体がふるえた。
目を覚ますらしいな……ラケルは背の長剣に左手をおくり、注視する。
まもなく、彼は意識をとりもどした。
まぶたをゆっくりと開き、最初に映されたのは、ひきしまった肢体の大柄な女剣士である。
少年はさして驚いていない様子で、口を開いた。
「…………あなた、は……?」
「あんたね……よくそんな平気でいられるもんだ。ここが何処だか知ってるのかい?」
あきれ果てたうえにおどすようにして、少年を見据える。
相手に敵意はなさそうだが、万一がある。油断はならない。
ところが、彼のほうはといえばラケルには殆ど警戒していない様子で、むしろ他の何かに意識を強く向けている。
「……申し訳ない。詳しい事は後で………………やはりか」
ラケルと話すのを片手間に、少年は‘何か’を感ずるためか、双眸を閉ざしている。
なにやらただ事ではなさそうだがどんな事態か不明瞭なので、周囲に目を配りつつ少年に意識をむけた。
「…………兄さんだ。僕を追ってきたのか……」
「なんだって? この森にもう一人男が入ってきたのかい?」
彼が判り、自分は判らなかった――かなり遠くに「兄さん」がいるということか。そして、この少年は自分以上の……
「って、もしかしてそれは北東の方角に二十程度の地点か?!」
「仰るとおりです。その様子だと、僕一人の問題じゃあなさそうですね……――急ぎましょうか」
初対面してわずかな会話をかさねただけの女性と少年は、同じ目標に向かって走りはじめた。
―――
「はぁ……はぁ……はぁ…………」
「くくく……どうした嬢ちゃん? ずいぶん色っぽい息遣いだなあ」
ぐしょ濡れの女陰に舌を挿れながら、男は少女をなじる。
羽織ははだけ、脚衣はおろされ、両腕を後ろで固定されているあられのない格好で、リベカは眼下の‘魔物’をねめつけていた。
「せっかくよがらせてやってんのに、その態度はどうなんだぁ? 俺がマジんなったら、切り刻みながらブッこんでおわりだっつーのによ」
恨めしいが、確かにこの男の言うとおりだ。
恥辱を受けている自分が生かされている以上、下手に扇情するべきじゃない。
ほどよく犯されつつ刻を稼ぎ、そして…………――
「……は………うっ…………」
ちゅぷ、ちゅぷ、と‘魔物’の舌が淫核に吸いついてくる。
わきあがって来る快感はごまかし様がなく、嬌声となって口から出そうになるのを必死にこらえる。
さらには二本もの指が膣内を這いまわり、奥深くをえぐるように動くたびに、認めたくない気持ちよさが少女の肢体を震わせる。
「くふっ……ん、あっ…………ひゃぁ……」
つい先刻達したばかりなのに、また絶頂にとどいてしまいそうだ。
もう表情をつくろうことが出来なくなっていた。
両の目をふさぎ、対照的に開けた口からは初々しい喘ぎ声があふれでてしまっている。
「――っ!! ひぁっ! あんっ! あぁぁん…………っ!」
おもいのまま稚けない艶声を発し、秘処からいきおいよく愛液を吹き出す。
リベカは黒い馬尾髪を揺らしながら、激しすぎる心地よさにひたすら顔を歪めた。
――なさけない。
快楽につつまれながら、少女は歯噛みして悔恨にとらわれた。
この男に遭うまで、彼女は自慰行為にふけったのはわずかに二回。
つよい疲弊と劣情感が体力的にも精神的にもわるいので、本当は一度たりともしたくはないのだが……
十三歳になってすぐ一回目にした時は、もう絶対にしないとちかった。だが、一年半後についやってしまう。
あまりの自己嫌悪からラケルに隠れて独り泣きじゃくったほど、リベカには強固な目的意識があるのだ。
あの日から半年経ったいま……わたしは何をしているんだろう?
いともたやすく愉悦に身をゆだね、本能にあらがうことなく声をあげて……
「顔も声も最高だったぜぇ。なんだ、やりゃあ出来るじゃねぇか」
屈辱だ。
それでも、泣くのだけは必死に堪えきった。
もの凄く自尊心の強いリベカとあって、これはいき過ぎなほどの辱めだった。
少女がいまかかえる情念はひとつだ。
――殺す。
この外道は必ず殺す。
「でも、忘れちゃ困るぜ。本番はこれからってな……」
‘魔物’の手が、‘魔物’自身を包む紫装束を剥ぎはじめた。
リベカは瞳を閉じて、それから先を正視するのを拒んだ。
金縛りはいつまで続くのだろう。それが少しづつ薄れてきているのにこいつは気付いているだろうか。ラケルが助けにこないかな……
最後の考えだけは否定したくなった。
もうしばらく殺すつもりはないらしいから、金縛りが解けたら隙をうかがって殺すことができる。
とにかく、どんな形でもいい。
この屑を消さなければやりきれない。
「安心しろよ。痛くなくしてやっからよ」
聞きたくない――
少女は両肩に力がはたらくのを察すると、唇におとずれた感触に身震いした。
接吻されながらあお向けに横たわらせられて、口に当てられていた気持ち悪いものはすぐに離れた。
次いで、中途半端におろされていた脚衣が完全に脱がされ、両ひざを掴まれると、だんだんと股が開いていくのが分かった。
恥部を完全に晒していることも、おそらく奪われるであろう処女も、いまさらどうでもいい。
この‘魔物’に対し何の抵抗もできず殺されるのを、リベカは最も懼れていた。
「……ほんと、ガキの癖にいい体してやがるぜ」
「………………」
‘魔物’の腕が、完全に脚を拡げた少女のふとももをつかんだ。
と同時に、リベカはふと薄気味わるい感覚が迫ってきて、背すじがぞくっと冷たくなった。
胸に手を当てているわけでもないのに、動悸がはっきりと聞きとれるのだ。
もはや自分に嘘をつくことはできなかった。
この高揚感の正体は……
「――うあ゛っ!!!」
それの襲来は、あまりにも唐突だった。
何かが破られるのに加わって、なんともいえない激痛がリベカをふるわせる。
なかに侵入してきた男に対し、少女の身は勝手に強張っていた。
「うおぉ……しっ、しまるな…………」
もはや、これの一声に耳をむけられるほどの余裕はない。
…………痛い!!
想像以上の痛覚に、さすがのリベカも悲鳴をあげたくなるほどだった。
というよりも、痛みなどそこまでのものじゃないと決めつけていた。
では何を考えていたか……。
思い起こしたくない――
「……っ……く……か……はっ!!」
男が腰をふりはじめると、少女の口から押し殺したような呻きが発される。
苦痛と恥辱のまじった意中で、リベカは希望が霞んでいくような感覚にとらわれていた。
金縛りが解ける気配がまったく無いのだ。
ついさっきまで徐々に弱まってきていたのに、そこから状態がまったく進展しない。
このままでは事後、この‘魔物’に殺られてしまう……
「死んだ魚……みてえ、な……目ぇして、なに考えてやがる。……今ごろ、感付いたか。え? おい」
「……は?」
心に留めておくべき疑念がついもれ出てしまった。
いや、そんなことも、これと一つに交わっていることも、瑣末な問題だ。
わたしが感づいた? なにに?
疑念の面持ちを‘魔物’に向けたが、彼は嗤っただけだった。
「へっ、まあいい。今更、どうにも……ならねえ、し……ぐ!!」
「っ……う! ……うぅっ!!」
突如、男の顔がさらなる険をおびると、腰を振るうごきも異様に速くなっている。
‘魔物’もいままで無理に動かしていたのだろう。
大して長く合わさってはいないのに、もう果てる寸前らしい。
無理に出し入れされていたリベカも、未開発とあってやはりきつく、相当な痛みを伴っていた。
「くっ、く…………膣内に、だす……ぜぇ!!」
「くっ! …………――っ!!!」
ドク、ドク、と熱くドロドロした男の精が、リベカのなかにぶちまけられた。
顔色を殆ど変えず、ただぼうっとそれを受け入れる少女。
やはりというべきか、依然として彼女の身体の自由が解放されることはなかった。
捨て鉢になったわけではないが、リベカは半ばあきらめていた。
このまま抵抗できずに殺されるのはしかたない。それもわたしの運命ならば、いさぎよくぶつかってやろう。
だから……最後まで怖れずに、この‘魔物’の前では堂々としていてやる……!
「ふー…………ちっ。おい、もうちょっと反応したらどうだよ? 指だと鳴くくせに、こっちだと人形みてえになりやがって」
「………………」
「おい……おいっ! 無視すんなコラ! 聞いてんのか!!」
「………………」
「てめえ……このっ!!」
「ぐぅっ!!」
むき出しの腹を踏みつけられ、うめくリベカ。
秘処からは白濁液がたれ流されており、ほぼ全裸に近い格好とあって、傍目には目を覆いたくなるほどの惨状かもしれなかった。
「調子づきやがってよ……おらぁっ!!」
「っ、がはっ!!」
思いっきり蹴り上げられ、リベカの肢体が宙を舞った。
一緒に吐きだした血液が弧をえがいてとび、受け身も満足にとれずに地面にたたきつけられる。
「ぐ、がは! ゴホッ、ゴホッ……」
「ケッ、しらけたぜ。まぁいい。てめぇは持ち帰ってたっぷり調教してやっから、覚悟しとけ! くそガキが!!」
愚弄の物言いと唾を吐きかけつつ、男は少女のそばにしゃがみこんだ。
…………助かるらしい。
ただ、非常にけわしい道程になると見て間違いないだろう。
魔法を前にすれば、どんな修行を積んだところで女は無力なのか。
そんなわけない。必ず何か、対抗手段があるはずだ。
それを‘魔物’のもとで、奴隷のような扱いをうけながらさぐっていかなければならない――
ズジャアァァ!!
「なんだっ!!?」
突如ひびいた撃音。
少女の傍らにいた男は眼を剥きながらも反応していた。
「うをぉっ!!」
‘それ’を、男は間一髪で避けた。
少し前までかれがいた大地に、強烈な亀裂が生じている。
ほんのすこし反応が遅れていれば、ただでは済まなかっただろう。
「だ……誰だっ!!」
‘それ’がおそってきた方向からは、すでにふたつの影がせまってきていた。
「この距離からじゃあ、さすがに無理だったか」
と、ふたつの影の大きな方――長い銀狼髪の女性がちょっと口惜しげにいった。
もうひとつの影――綺麗な紫髪の少年も、黙したまま二人の眼前におりたつ。
命のともし火を吹きかけられた男は、驚愕をあらわに口を開いた。
「きさま、まさか‘雌銀狼’か!?」
「答える義務はないね。――さっさとその子を置いてとんずらしな。そうすりゃ、命だけは助けてやるよ」
「……アベル!! お前、この女に何吹き込みやがった!?」
アベル――というのが、この美しい少年の名のようだ。
アベルは、秀麗な顔だちに似合う複雑な表情――自覚していそうなほどさまになっている――を金髪碧眼の男にむけた。
「兄さん……悪いけど、僕はもどるつもりはない」
「な……お前、ここで暮らせると思ってんのか! 許すわけねぇだろ、ここの連中が!!」
さっきから怒ってばかりで、傍目にはいきなり卒倒するのではと憂慮してしまうほど、顔が真っ赤な男である。
話をすりかえられたことにすら気づいていない。
「父上に伝えてください。『勘当していただき、深謝しております』と」
「てめ…………っ、くそ!」
「わかってるじゃないか。さっさと退きな」
この二人を前にしてはさすがに勝機はないと悟ったのだろう。
彼は森の東へ足をむけ、駆け去りながらこう吐き捨てていった。
「レヴィアタン家の手は一生ついてまわるぞ! 腹ぁ括っとけ、アベル!!」
「こっちのセリフです」
その切り返しは兄の耳に入らなかった。
ラケルは、あっという間に退散した男の姿を見送ると、すぐ傍に横たわる少女を銀眼にうつした。
「…………かわいそうに」
見るも無惨な状態で、少女は気絶していた。
身体のあちこちが腫れ上がっているものの、命に関わる傷はない。
だが……彼女が心にうけた傷は深そうだ。
自分をこんな目に遭わせた‘魔物’を逃してしまったとあれば、リベカがどんな反応をするかは容易に察せるというものだ。
「申し訳ありません。僕が来たばかりに、あの子が……」
兄のせいにしない辺り彼の性格があらわれているな、と感心したラケルである。
しかも、あられのない格好のリベカを平気で正視できているところも、何げなくすごいことだ。
だが……
「……あんた、この子とは顔を合わせないほうが良いよ。冗談抜きで殺されるかもしれないからね」
「いえ、それはいけません」
らんらんと輝くすみれ色の瞳が、女の端整な面を見すえた。
「ここで僕が姿を消してしまったら、彼女が感情をぶつける対象がなくなる。僕にはそれを受ける責があります」
「ほお……」
ゆるぎない決意のこもった口上を聞き届けると、なんとはなしに感嘆していたラケルである。
けど……久しぶりに大変なことになりそうだね――
銀色の狼髪をかきあげつつ、紫髪の妖美な少年へ視線をおくる。
「とりあえず、あたしの住処に移ろうか。詳しい話はそれからだ」
アベルは仏頂面のまま、静かに首肯した。
―――
ヴァリオキュレの森全体に春陽が射す、昼寝したくなりそうな青天白日の折。
女二人が住むにしては大きな丸太小屋。その一室の窓に天日の光が侵入し、リベカの凛々しい寝顔に直照りを浴びせた。
「……………………っ!!!」
少女は眼を覚ますなり、もの凄い勢いで上体をおこした。
あたたかな寝床で絹の毛布をかけられて眠っていたリベカの肢体には、下着と包帯のみが着けられている。
額あても付けておらず、いつもは後頭部で一つにまとめて垂らす髪も、きちんと梳かれておろされていた。
痛みはさほど大きくない。
毎日の修練の中であじわう苦痛のおかげだが、それ以上に心の中にうずまく炎の熱さに、少女は煮え立ちそうになっていた。
「眼を覚ましたかい」
扉のないリベカの部屋に、大柄な女性がはいってきた。
と、もう一人見慣れぬ小さな影が…………
「――ラケル!! その‘魔物’、なんで……?!!」
「落ち着きなリベカ。少なくとも彼に敵意はないよ」
「けど……!」
魔物呼ばわりされたアベルは、至って平然としていた。
相当に豪胆な魂をもってるね、と感じたラケルだった。
顔つきはあどけなく美しいが、心はその容色に似つかわしくない、極めて剛の深い少年のようだ。
先刻まできいていた彼の凄惨な過去話は、どうやら全て真実らしい……
――と、その彼がいきなり歩き出し、リベカの眼前まで足をはこんだ。
女ふたりが僅かにほうけたのに構わず、こう切り出した。
「リベカといったね? ……すまない。僕のわがままのせいでこんな目に遭わせてしまった。その事の償いはしよう」
……面妖な光景であるといえた。
リベカは頭を垂れる少年を睨みつけてはいるものの、かなり大人しく話を聞いている。
能面のようだが、さっきまでの憤怒や焦燥に駆られた感はいっさい無い。
「なんでもする……と誓いたいところだけど、その前に一つ済ませたいことがある。…………カインを――兄を殺させてくれ」
「「え……?」」
ほぼ一緒に疑念を発したラケルとリベカである。
「きみが望むならば、カインに引導をわたすのはゆずってもいい。僕にとって彼は…………いや」
彫像のように彫りの深い面立ちは、動きのひとつひとつもいちいち美しい。
双眸を閉じてことのはを途切らせたアベルの顔を、少女がまじまじと見入っている。
真剣な顔だし、リベカのことだからまさか惚れたわけじゃないだろう。というか、これは……
かたわらで様子を見守るラケルは彼女の感情をおもんばかると、空気のようにその場からいなくなっていた。
「……とにかく、そうしなければ気が済まないんだ。きみの為にもね。許可してく……?」
「………………」
少女は、うつむいたまま押しだまっていた。
黒い前髪がまゆのうえにかかっており、口も瞳も、何ゆえか固く閉ざされている。
少年はなんとなくリベカの心情に感づいたが、言う事をかえるつもりはなかった。
「大丈夫。ふたりで力を合わせればやれるよ。僕に期待して――」
「してない」
アベルの口上を遮断したリベカの一語は、すでにかすれていた。
「ひとに、期待なんかしてない!!」
激情に満たされた怒声だった。
まぶたをおろした両眼から涙がつたいおち、歯を食いしばって体をぶるぶるとわななかせている。
白い肌の多くが露出しているのだが、少年のほうはといえば些細にも動じていない――表向きには。
「わたしは、自分にしか、期待してない! ひとに、期待したって……意味、なん……か…………」
「期待値が高すぎるんじゃないかな?」
「っ!!?」
少女はその言葉を生理的に拒否したくなったが、アベルは考えさせるいとまを与えなかった。
「きみは強くなるため、十分努力しているのだと思う。兄さんに敵わなかったのは仕方ないことさ」
「……そ…………そ、そ、そう……かなぁ……?」
腕で涙をぬぐいながら、ふるえ声でやっと喋ることができた。
それは奇妙なことだったかもしれない。
本来ならばもっと感情をぶつけたかったはずだ。
なんなのか判らないが、この少年の放つ異彩な雰囲気がそれをさせないのだ。
「そうさ。どんなに蛙ががんばっても、蛇には勝てないじゃないか。違う?」
もっとがんばれば、勝てるかもしれない――なんて、屁理屈をこねてみたくなる。
もちろん、自尊心の強い彼女にそんな下らないことはいえない。
「ちがわない。……けど……け、ど………………うっ……ぐす……」
しゃくりあげながら両肩を震わせ、顔中が涙と鼻水でくしゃくしゃになっている。
よほど悔しかったんだな……少年にも自然と推しはかれる泣きっぷりだった。
「……ほら、拭きなよ」
「………………っ」
少女はさしだされた木綿の手拭いを無造作にうけとり、押しつけるようにして泣きっ面を隠した。
リべカにとっては下着姿よりも、頬を濡らしてしまったことの方が恥ずかしいのかもしれなかった。
くしゃくしゃだった顔をきれいにすると、ふたたび話しだす。
「けど…………やっぱり、妥協は……だめ。期待したい…………自分に……本当に……」
「これからは、僕にも期待していいんだよ」
「………………え?」
その表白の意味するところが知れず、泣きはらした黒瞳をしばたたかせた。
我ながら、おちつくのが早いなぁ……他人事のようにそうかんじた少女だった。
しかしなんと返せばよいのか計りかねていると、アベルは決意をみなぎらせて堂々宣言したのである。
「――いっしょに行こう、リベカ。ふたりなら怖いものなんてないさ」
「……………………ありが……とう……」
……やりとりの一部始終をひそかに傾聴していた長身の女は、腕をくみながら意味ありげな微苦笑をたたえていた。
―――
ナルシルの丘は、ラケルとリベカが住まう小屋の南東三十二ていどのところにある。
崖っぷちに面しているそこは森面積が少なく、でこぼこした荒野が多い。
昼下がりだから足元は見えるとはいえ……その崖っぷちには、締まった体躯の男が平然と起立していた。
胸元のあいた上下一体の紫装束を着込み、背に大剣をしょっている彼は、金髪碧眼をいただいたおもてを崖下にむけている。
「……来たか。弟くんよ」
カインは嘲弄した。
勝ち目など到底望めない戦いに身を投じるアベルにむけてのものだ。
背には二つの‘気’を感じた。
アベルの魔気と……リベカの剣気。
「あのガキも一緒か……付属の品物は中古です、ってか? ぎゃはははは!!」
一人で言って、一人で大笑いした。
が、刹那のうちに険のふかい様相へと変貌している。
「俺をなめんのも大概にしとけよ、アベル……」
――言下に、崖を背に後方へふり向いた。
黒く鋭利なまなざしと、紫の粛然たるまなざしとが、カインをつらぬいていた。
少女のほうも邂逅した時と同様、赤い羽織に腰帯をまいた格好にもどっている。
「まさかすぐに来るとはな。覚悟はできてんだろうな? 死ぬ間際に失禁しちまうと格好わりぃから、しっかり用は足しとけよ」
完全に見下す口調で、殺気あふれる二人を挑発する。
「ごたくはいい。はやく始めようじゃないか、兄さん」
言い切ったアベルの台詞には、淀みの一切が失せていた。
ヒュァン!
彼はすぐに黒き光――魔気を放出すると、人差し指を天につきたてた拳を顔前にかざし、ゆらゆらと動かしての詠唱にうつっている。
「させるか馬鹿が!」
ビュォッ!
男も白き光――剣気を放出しながら大剣を抜きはなった。
「死んどけっ!!」
野性味あふれる剛声とともに迅速すぎるほどのなぎ払いをはなつと、極うすだが横軸に広い衝撃波が発生した。
アベルの前に立ちはだかっていたリベカは、舌打ちをもらしそうになるのを堪えた。
少女にはこれを相殺するすべを持っておらず、かといって躱せば後ろにいる少年に直撃してしまう。
ならば自分にできることは…………
ビュオォッ!!
少女の周囲に、ものすごい勢いの剣気が発生した。
そして、切っ先を大地にむけるよう細身剣を縦に構えて待ちうける。
白光の衝撃波がだんだんと近づいてくる。だけれど、リベカの精神はずいぶんと安定していた。
「……本物の馬鹿だったか、ガキ!」
必殺の衝撃波をはなったあともカインはふたりへの接近を試みていたが、リベカのこの行動には呆れるのを通り越していた。
この技の正体を知らないか、知っていたとしたら、やはりこのガキは馬鹿にすぎねぇな……
ほどなくして……胸の高さにせまってきた衝撃波が、リベカの細身剣にぶつかった。
剣気の白刃は、リべカの左胸部を守るようにたてていた細身剣にふれた部分だけが、音もなく欠けた。
ガシュッ!!
「ぐぼぁっっ!!!」
痛烈な呻き声に、吐血。
薄いやいばは少女の胸部に命中ったが、断ち切ることはできなかった。
のこった部分がアベルを素通りして後方へと抜けていく。
リベカをまとう赤い羽織が斬れ、中のさらしがあらわになる――ある一部分をのぞいて、胸は血まみれになっていた。
「受けて、打ち消しやがった……」
カインが驚愕の呟きをもらす。そして……
「――《魔気同調》!!」
ヒュンッッ!
アベルが中空に描いた印が、乾いた音をたてて消えうせた。
同時に少年をおおっていた黒光をも失せたが――
「がっ!!!」
険相の男の碧眼がみひらかれ、大きな体躯を硬直させる。
浅はかなのは、無抵抗でアベルの魔法をうけてしまったカイン自身だった。
はぎしりする口元から涎が垂れ、血走るまなこが魔気を放っている弟を捕らえた。
「ぐ…………くそったれが!!」
大剣をふりかざしながら悪罵する。
その様子を動揺のかけらもなくながめるアベルの双眸は、見る者すべてを戦慄させるような冷たさに満たされていた。
「リベカ、大丈夫?」
慄然とした血相に反して、少女にかける声色はやさしいものである。
「大丈夫」
棒読みのような一言のあと、リベカは胸部を裂かれた赤い羽織をぬぎ放った。
これで上半身は、齢のわりに豊かな胸を覆う布ざらしのみになったが、衝撃波を受けた部分からは血があふれ出している。
とはいえ普通なら身体を切断されるはずの技なのに、彼女は剣気を最大限に放出することにより、それこそ無理矢理消失させたのだ。
とても十五の少女がやってのける所業ではない。
「ていうか……いたい方が、やりやすいし…………」
とんでもない事をいうリベカだった。
だが少年はそんな発言に対しても、妖しげな微笑をうかべるだけである……
「――兄さん。これで堂々と勝負できるじゃないか。僕はもう何もできないのだから」
「………………」
カインは眉間をゆがませながらも黙っている。
どういうことかといえば、アベルの行使した魔法により、両者共に魔法を行使不可になったのだ。
相手の魔気に同調したうえ自らの魔気を完全に失することで、相手の魔気をも消すことが可能というわけである。
「借りはかえす…………覚悟……」
少女のつめたい声が、紫装束の男を射抜くようにひびく。
「地母神サメク、わたしに力を貸して――」
ビュォオッ!!
「うぉっ…………!」
強大な魔気がリベカの身体を躍るように発生すると、カインはおもわず少しうろたえた。
が、すぐに平静を装い大剣をかまえるあたりは、さすがに百戦錬磨のつわものといえた。
「上等だ、アベル…………」
険の深さをいつにも増して、あたりによく通る男声をこだまさせる。
「俺の剣がこの雌ガキを料理するのを、眼ぇひん剥いてながめてろや!!」
ビュォオッ!!
彼もまた、大剣を正眼にもっての剣気放出をしてみせる。
意地と意地のぶつかり合いが、激しく火花をちらしながら始まろうとしていた…… 二話・おわり
リベカの容姿・衣服描写が若干一話と変わっています……ごめんなさい
終わり?
乙
続きも楽しみにしてるよ
gj
432 :
名無しさん@ピンキー:2009/07/01(水) 15:16:27 ID:hQdSuOFb
乙
「ヴァリオキュレの森」三話です。
上記括弧内をNGワードとしてください。
以下ネタバレ
今回はエロ無しです。
本当に申し訳ない……
厨臭さが嫌な方は回避を推奨します。
★ヴァリオキュレの森 三話「揚々たる童子の門出」(エロ無し)
随分ながいあいだ、ふたりは視線を交錯させていた。
少女の胸部は横一文字にえぐられ、何重にもまいたさらしからの出血は留まるところを知らない。
彼女にとっては、ズキズキとする痛みなどより体力を奪われていく方が問題だった。
だが、眼前五十歩ほどのところにいる男には……隙が生まれない。
自分と同じく正眼にかまえた大剣に強い威圧感をおぼえて、なかなか踏み込めずにいる。
かといって向かっていかないことには、相手から来そうな気配を感じないのがやっかいなところだった。
ならば――
「はあぁっ!!」
ダンッ、と少女が右足をふみこむと、ありえない光景があらわれた。
明らかに人間業ではない速さで、大地を‘滑空’しているのである――
「……んなっ!?」
ガイィン!
驚く余裕もほとんど与えられず、本能的に頭上へかかげた大剣がリベカの細身剣を受けとめていた。
しかもそれを認識した時にはもう姿を失している。
……いや、もとの場所に――さっきまでアベルがいたところに戻っている。もう彼は別の場所にうつっているが……
ふざけるな、とぶちまけたくなった男である。
いかに剣気や魔気を極めていようがあんな芸当はできるはずがない。
聞いたことも見たこともない。
大人があるいて五十歩もかかる距離を一秒ていどで詰めるなど、それこそ《高速》系統の魔法でなければ不可能だろう。
しかも、これらの魔法は詠唱を要するのに比べ、先刻の大地を‘滑空’する移動方は一目したところ代償がなさそうである。
リベカが依然として鋭い視線をむけている中、カインは冷静に考え続けているが……
少女が深く息を吸いこんだのを視認するや、男は大剣を脇構えにあらためた。
「はあぁっ!!」ダンッ!
「バァーカッ!」ヒュバァッ!
二人の行動はほぼ同時だった。
男が横軸の衝撃波をはなったのにかまわず、少女はまっすぐに対象を目指した。
今度は腹の高さにせまってきた白刃。
地に足を付けていなければこの走法は成立しないし、かといってアベルを護った時のように被刃することは不可能だろう。
いきおいが良すぎて切断されてしまう可能性がきわめて高いからだ。
左右への移動も跳ぶこともできない今、かわす方法はひとつだけ――
結果的に、リベカは衝撃波をよけきった。それも頓狂なものだったが。
「――??」
カインは声も出せなかった。
少女は地に足をつけて地面を‘滑空’したまま、頭を擦りそうなほど身体をおもいっきり反らしたのである。
逆にいえばそれだけで、いとも容易く危機を脱してしまったのだ。
そして、一瞬とはいえ呆けてしまった男には隙が生じていた。
がら空きになった左半身に照準をあわせ、少女は‘浮かせていた’右足をふみこんで男の眼前に仁王立ちした。
男は危険を察知して右へ横っとびしたが、遅かった。
ザンッ!!
「がぁっ!!」
苦痛に呻きながらも大剣を少女にあびせると、細身剣ごと軽い身体がややふきとんだ。
男は斬りとばされた左腕の方へ駆けようとしたが……すでにリベカが目のまえに立ち塞がっていた。
――迅すぎる。
長身の男は、ほんの一瞬だけ茫然とした表情をあらわにしてから、思いのままに叫んだ。
「ッザケんなオラァあっ!!!」
右腕ではなった突きは、しかしリベカを捉えられなかった。反対に――
ザンッ!!
「っ!!」
残った上肢をあっけなく断ち切られても男は声をあげないどころか、口元には不敵な冷笑をうかべている。
むしろこれが狙いだったのだ。
細身剣をふり払った少女に、カインはあるかないかの制止時間を見い出した――
「っしゃぁ!!」
「ぐフっ! …………」
音も声もにぶいものだった。
渾身の力で蹴りあげられた少女の華奢な肢体が、血の弧を描いて宙をまう。
その姿をながめている間もなく、次なる刺客はすでに側に居た。
アベルである。
それを確認した時すでに遅し――
「くっ……ぐっ! くそ!!」
リベカに左腕をやられたときから、こうなることは判っていた。
カインは《魔気同調》を解かれたあと、自分の十八番である《眼縛》をかけられていた。
それも自分のよりずっと強力な《眼縛》だった。
使い勝手こそ良いものの、習得には多くの労力と努力と時間を要するこれを、アベルはこの齢で――十六で行使できるのだ。
二十八のカインと魔法を比較したら、その差は歴然どころじゃあなくなる。
「…………っ」
両腕を斬られた姿でしゃがみこみながら、険相の男は歯噛みして自分を見下ろす妖美な弟を見上げていた。
「痛くないのかい、兄さん。うらやましいなあ」
「んだとコラ……なんもかんも思い通りできるてめぇに何がわかる!」
「そうか。父さんに改造してもらったんだっけ。楽だよね。いつまで周りにそれが隠し通せるか……」
「ぅっせえ! あの方を……てめぇの親をなんだと思ってやがる?! この化け物が!!」
「失礼だな。‘色人’ではあるけど、いちおう僕は人間だ。それに……」
「あぁぁ耳が腐る! さっさと殺しやがれ人でなし野郎が!!」
「あっ、そう…………」
カインは一瞬、自分の言葉を後悔した。
アベルの周囲には禍々しい黒光が雲のようにうずまいており、頭上には太陽の如し炎の球体がごうごうと熱音をたてながら肥大化している。
もう自棄だった。
「くそっ、卑怯者が! 一対一とか宣言しといて、雌ガキがやられたら自分がきやがって! 恥知らずがっ!! 嘘は――」
「お前が言うな」
少年が放った極寒たるひと言は、男に届いただろうか?
どちらにせよ、カイン=レヴィアタンの存在は塵一つ残すことなく、またたく間にこの世界から抹消されていた。
ナルシルの丘には、大きな一軒家四棟に相当するほどの焼け野原ができている。
やりすぎた――額を押さえてよろめきながら、少年は反省した。
‘あの日’強く誓ったはずなのに、こうも容易に強大な魔気を放ってしまうとは……何か対策を考える必要がありそうだ。
「…………」
アベルは波うつ紫髪を揺らしながら、昏倒して横たわっているリベカに視線をうつした。
彼女には悪いことをしたけど、これから借りを返す機会は山ほどあるだろう。
それに、僕は……
決意を新たに、少年は少女のほうへと歩みはじめた。
―――
彼女が目をさました時、周囲はもう闇に落ちていた。
丸太小屋の窓からのぞく森景色は淡い月光にてらされ、鈴虫の旋律が微かにきき取れる。
「…………くすっ」
自然ともれたほほ笑みに、リベカは自分でおかしく感じた。
そこは悔しがらなきゃいけないところ……と諫めようとするも、どうにもそうしきれない。
おそらく彼のせい……いや、彼が‘原因’で自分の中の炎が鎮まってしまっているのだろう。
なんとはなしに首を振り、長い黒髪をゆらめかせる。
自分らしくない。もっと血をたぎらせるべきだ。
心の中で何度そう唱えても、芯からそれを望むことはできなくなっていた。
だが不思議と、そんな自分が悪いものとは思わなくなっているのも事実かもしれない。
リベカは寝床から出て、隣の部屋にあるき出した。
ここでようやく(カインに蹴られた)額の痛みに気づいたのだが、胸の傷の方が大きかったのでどうでもいいくらいだった。
「……?」
なにやら、ちょっと騒々しい。
アベルとラケルが揉めているみたいなのだ。
となりの部屋の境には扉がもうけられていない為、リベカは入り口付近の壁にくっついて耳を傾けた。
「……ですから! さすがにそんなに短いのは……」
「いいじゃないか、大きさもぴったりだし。あの子はこういうの着たがらないし、むしろあんたの方が似合いそうだ」
「冗談言わないでください。いや、似合ったとしてもこれでは隠し通せる自信はありません」
……なんの話だろうか?
起きていることが女には割れているのだろうが、少女はこっそりと、隣の部屋をのぞいてみることにした。
――少女の凛々しいおもてが、喜色を満面にしていた。
堪えようとしたが、到底無理な話だった。
彼女がこれほどに破顔したのは何年前か知れないほどである。
「いやいや、あんた素質あるよ。この肌に顔、それに身体といい、創造神ときたら余計なもんつけて肝心なもんつけ忘れたとしか思えないねぇ」
「僕は男であることが隠せればそれでいいんですから! もっと控え目なのをください!」
アベルの顔はだいぶ紅潮していた。
身体は……女物の服、それもかなり色めいたものを着ている。
それがさまになっているとあって、リベカは彼が忌まわしい‘魔物’であることさえ忘却しそうなほどだった。
「まあそう言わないで……おいリベカ、こっち来なって。お前だって似合うと思うだろ?」
ご指名を受けたなら仕方ないと、少女は笑みを消そうと努めつつおずおずと部屋に入っていった。
少年が思わず紅葉が散った美顔をそむけたおかげで、微かににやけたリベカを見ずに済んだ。が。
「……ほら、リベカもわらってるじゃないか。この服、かなり彼女……じゃなかった、彼に似合ってるだろ?」
無理矢理に女装させた少年に浴びせる言葉としては、神経を逆なでするにもほどがある発言であるはずだ。
女ふたりに背を向け、むきだしの両肩をいからせているのをうかがうと、傍目にはいつ爆発するかとひやひやする場面のはずなのだ。
実際、リベカは少し案じていたが、杞憂であった。
「……で、どうなんだいリベカ? 僕の女装は、‘魔物’であることを隠し通せるものなのかな?」
言下に、少女に扮した少年は、黒髪黒瞳の純然たる少女に向きなおった。
――似合うなんてものじゃない。
もともとが少女と見紛うてもおかしくない顔だちだが、いまのアベルは完全に美少女としか判断できない。
最初から質の良い肌を、おしろいを施していることでさらに強調している。
ぬけるような紫の髪が両頬に垂れて首もとにかかり、細面を際立たせている。
大きなすみれ色のひとみと小さく高い鼻梁はそのままだが、形の良い唇には薄紅が塗られて、少女特有の艶めきを感じる。
上半身は、緑と白もようのそで無し胴衣いちまいと、アベルが元から身に付けていたあわい赤色の長外套。
胸が寂しい気もするが、さらしている両肩がそれをおぎなっている。
下半身は……これまた非常に短い、しかも純白の脚筒きれをまとっていた。
すらりとむき出している大腿部がまぶしく、男のものとは思えないほどあどけない色っぽさがかもされている。
手には白い長手袋、足には緑の長靴下が着けられているものの、確かに女装としてはやりすぎな格好ではないか?
少女はそういった意向をラケルに伝えると、
「む、あんたはそう思うのかい? いいと思うけどねえ。かわいくて」
単に楽しんでいるだけなのか、実際にそう思っているのか、まさか心から心配しているのか、はたまた…………
この女性は本当になにを考えているか分かったものじゃないから困る。
「…………承知しました。これでいきましょう」
「へえ、気に入ってくれたかい。よかったよかった」
少年の様子はといえば、とても涼しい表情で頷いていたものであった。
やけになったわけでも、ふっきれたわけでも無さそうだ。
気のせいだと思うのだが、少女の目には彼が本気で女装を気に入ったようにしかうかがえなかった。
「さて、ひと段落ついたことだし、そろそろ話しちゃどうだい?」
銀狼髪の女は、美少女の格好をしたアベルに耳打ちし、彼もまたこくんと頷いてリベカに向きなおった。
心なしか、その仕草も少女のようにしとやかだったのは思い過ごしではないだろう。
「…………リベカ。僕は、きみと共に旅をしたいんだ」
少女の顔がいきなりシャキっと引き締まり、いかにも真面目そうな無表情になる。
さっきまで微かに顔を綻ばせていたのがうそのようだが、これが彼女の本来の姿なのだ。
久方ぶりに相好をくずしたためか、表情の作り方を失してしまったのかもしれなかった。
ラケルは吹き出しそうになるのを堪えたが、アベルは気にせずに話し続ける。
「僕が勝手に兄に……カインに引導を渡しちゃったのは、本当にすまなかったと思ってる。でも、それの償いをしようというわけじゃない。
わかると思うけど、この地に訪れたのにはわけがあるんだ。この地にしかないものを、僕はつかみにきた。
一人でも手に入れてやるって気概を持ってたけど、なんのめぐりあわせか、きみらに会うことができた。
ラケルさんは快く協力してくれるって仰ってくれたんだけど…………リベカ、できれば僕にはきみを随行させたいんだって」
一息につむいだ口上を言い終え、アベルはふっと息をついた。
あらためて少年の容貌をながめ、見事なまでの美少女ぶりにリベカは息をのんだ。
そんな場合ではないし、少女はそっちの趣味はないが、それだけアベルの女装は完璧すぎるのだ。
ラケルの言うとおり、神様は本当につけるものを違えてしまったのではないかと勘ぐりたくなってくる。
「…………リベカ?」
「あ……えと、わたしは、一緒にいきたい」
一切の迷いもない、彼女にとっては当然の返答だった。
この少年と一緒にいたいという純粋な気持ちと、もう一つ、リベカが抱く野望にも似た望みが、心を突き動かしていた。
もう彼を‘魔物’と認識しなくなっていた自分に、全く違和感を覚えなくなっていたことに気づいていないリベカである。
言葉を受けいれた少年は、嬌笑をたたえた整ったおもてを表した。
胸に迫る認めがたい情を感じた少女は、なんとかそれを表に出すのをこらえた。
「よかった……リベカ、本当にありがとう」
頭の中が真っ白になりそうだった。
普通に考えれば別にたいしたことじゃない。はず、なのだが……
少年のか細い手で両手をにぎられながら、リベカは頑なな無表情を崩さないでいるのが精一杯だった。
もっとも、その頬もわずかに紅く染まっているが。
……と、少女がふと気づくと、アベルがまじまじと自分の掌に食い入り、触っているではないか。
恥ずかしさと、何やらもやもやした気持ちが込み上がってきて、思わず双眸を閉ざして顔をそらした。
「……すごいね……何したらこんな手になるの?」
考える間もなくラケルが後を継ぐ。
「すごいだろ? この子さ、あたしの知らない範囲で修行してるから、やりすぎで怪我することもあるんだよ。悪いとは言わないけどねえ」
「いや、これはすごいよ。すごいけど……」
すごいすごい言われて、ちょっとした高揚感を覚えていたリベカだった。
「やりすぎなような……かわいそう、って思っちゃうくらい、固い」
「………………」
「でも、これはむしろリベカにとって嬉しいことなんだよね? だったら……」
だったら? 次ぐ台詞をわくわくと待ち受ける少女。
「がんばって。僕はがんばる人が大好きだから」
少女は一瞬、全身に電流を通されたかのごとく棒立ちになった。
それから、何か言いたげに口をパクパクさせ、意味もなくあたりをキョロキョロと見回す。
みごとな挙動不審ぶりである。
リベカの様子を目にして笑いながらも、大柄な女はアベルに強く感心していた。
「あんた……大したやつだね」
「? 僕がですか?」
「そんなセリフ、二人っきりでも中々言えるもんじゃないだろ。ましてや保護者であるあたしがいるのに。度胸あるよ、あんた」
「そうでしょうか……」
「そうだよ。ま、そういった経験値はこれからリベカとゆっくり育んでいくんだね」
最後の口上は密かにつげたラケルである。
どこまで事実かはおいておくとして、過去の話を聞かせてもらったため彼に女経験がないことはわかっている。
それに…………と考えていると、今度はアベルが耳打ちしてきた。
「いちおう言っておきますけど……僕は彼女と、その……本能的にはあれですけど、理性的に考えればしたくはありません」
「…………うん??」
微妙に心情が読み込めない。
「ですから……僕は虚言を弄するのは嫌なんですよ。だから……」
「あー、わかってるよ……そばに本人がいるんだ、また後でな」
ひどく残念そうに女をみつめた少年だった。
リベカはといえば、変にもじもじしながらも訝しげにこちらの様子をうかがっている。
「ふー……」
ラケルは長狼髪をゆらしながら涼しげに途息すると、未だ紅潮している少女に口をひらいた。
「リベカ、本来の今日の目的を忘れちゃいないかい?」
びくっと反応し、女に向き直る少女。
それから頭を回転させてみるが……何なのかさっぱり思い出せない。
リベカがよく物忘れするのはいつものことなので、別に堪えることもなく教えてやる。
「『子産の母』だよ」
「あー…………」
「今日はもう遅いから、明日行ってきな」
そしていつもの様に、心の中では「あー、じゃないよ」と突っ込んでいたラケルであった。
「けっこうな夜更けですしね。僕も眠くなってきました」
「そうだね、寝る準備するか。言うまでもなく、あんたは一人だからね」
「おかまいなく」
「………………」
無表情に戻っているリベカが何か言いたげだったが、大体の察しはつくので放っておいた。
―――
スズメのさえずりが聞こえる暁旦の頃。
旭日に照らされた森はそよぐ風も心地よく、ここナルシルの地の周辺はよき散歩日和であった。
時候は春、それも始まったばかりとあって、今なお肌寒さを感じることもある。
今日はまさにそういう日なのもあって、少年は寝床から出るのが億劫で仕方がなかった。
が、そんなアベルに容赦なく襲い掛かってくる……大きな女性。
「あら、まだ寝てるのかい? ほら、起きた起きた。もうメシは出来あがってんだよ」
「…………あと五分……」
「あんた……いつもこんな時間まで寝てんのかい? 先が思いやられるねえ……」
そんなに早く起きる必要もないだろうにどこがこんな時間なのか、と訊きたくなった少年だった。
そもそも、この森には時計がないから不便でしょうがない。
現在時刻はおおよそ六時ごろだろうか?
アベルが今まで起床していたのが七時すぎのため、早いんじゃないかと思うのもやむなしだった。
しかし、どうやらこれが彼女らの普通らしい。
……尋常じゃない。
「ま、でもちょうど良いかもしれないね。リベカはあんたを気に入ったみたいだし、ちょっと頭は弱いけど世話焼くのは好きそうだ」
「いま、彼女は何を?」
「朝まだき頃から走ってるよ。もうそろそろ戻ってくるはずだ」
……呆然としてしまった。
夜も明けきらない薄暗い時間からということは、二時間以上は前を指すのだろう。
四時まえから…………
一体どういう生活をすればそんなに起きていられるのか?
確かに前途多難であると予感したアベルだった。
「あとあとの為にも、今起きといたほうがいいよ。あいつには、あんたに早起きを強要するなっていっとくけどね」
「……そうします」
美しい少女――を装っている少年は、素直に首肯した。
女装に不備がないよう、鏡と十分に向き合ってから食卓にむかう。
朝食にはあまり期待を抱いていなかったが、料理を拝見して間違いであると判明した。
一体どこで獲れるのか、ほど良く脂がついた白身魚はとろけそうな甘露煮にしてある。
なんの肉かアベルには分からなかったが、香草焼きをほどこした肉料理からは涎を垂らしたくなる匂いが漂ってくる。
…………だが。
文句など言える立場ではないが、本来主食であるはずのあれが抜けているのはどうだろう?
粗相なきよう訊ねてみることにした。
「……すいません。いつも主食を召し上がってないんですか?」
「主食? なんだいそりゃあ?」
「小麦焼き……ですけど」
何か、やはり訊いてはいけない事を訊いてしまったのかもしれない、と案じたアベル。
返ってきたのは意外な答えだった。
「あれか……あたしはあった方がいいんだけど、リベカが大嫌いだからね」
「え…………」
「あの子は毎日朝から晩まで狩りやら修行ばっかりだから、精神的に余裕がないのさ。かわいそうだろ? せめて食事くらいは好きなものを食べさせてあげたいじゃないか」
「………………」
さまざまな疑問が沸いてきて、複雑な感情をもてあました少年だった。
なぜ彼女はそこまでして自分を追い込むのだろうか。
なんの見返りもない……わけではないが、ただ日々の暮らしを全うするためだけにそんなに修行しているとは思えない。
この女性にしても、どうしてリベカに厳しい修行を課すのだろう……
――アベルが思惟にふけっている間に、赤羽織をまとった少女が汗だくで帰ってきた。
「お、速いね。ごくろうさん」
「はぁ……はぁ…………」
流麗な馬尾髪――後頭部の高い位置で一つにまとめて垂らしている黒髪が、汗によって微かに光っている。
しかし困ったことに、少年がつぎに目を付けてしまったのは胸だった。
羽織と布さらしを被せているが、ふたつの膨らみははっきりとわかる、ほど良い大きさである。
凛々しく、またかわいいと形容してもおかしくないがやや険の帯びた顔つきといい、十五より二、三うえにおもえる。