2get
1乙!
4 :
名無しさん@ピンキー:2008/07/01(火) 05:39:09 ID:MgzILBUv
6 :
エビフリャー:2008/07/01(火) 11:12:54 ID:1yg56/RZ
タモリ鉄道博物館
・名古屋市営地下鉄の車内搭載発車促進メロディーはフジテレビ系「なるほど・ザ・ワールド」の時間切れ前警報音を参考にして考案されたものです。
・ドレミファモーター(京浜急行)は芸能界の鉄道ファンタモリさんがテレビ朝日系「タモリ倶楽部」の中でで考案しました。
・名鉄パノラマカー7000系の発車音・走行音・減速音・停止音は日本テレビ系「欽ちゃんの仮装大賞」の不合格の時の効果音に似ている。
・西鉄のnimocaは歌手でタレントで倖田來未の実妹であるmisonoさんが考案したのもです。
タモリ空耳アワー
・高校三年生: あ、あー、あ、あ、あー 合ーコン三年生ーーーーーーーーーー
タモリさん名古屋大好き
・タモリさんはエビフリャーの名付け親です。
・タモリさんは日本の中で名古屋が一番好きであり、且つ地元の人以上に名古屋の文化や風習に詳しい人です。
・タモリさんは自分の第2のふるさとは名古屋であると言っており、将来名古屋市役所から名古屋親善大使として任命されると思います。
遅いけれど、1乙!!
このスレももう3歳差かぁ…。
3歳差といえば、中学生になった!と思えば、相手は高校生、高校生になった!と思えば、相手は大学生。同じ学校すら通えない、もどかしい(美味しい)年の差だ…。
ほしゅ
★
>>8 大学生になっても4年生はもうほとんど学校に来ないって事もあるしな。
もどかしい思いをしているに違いないw
お久しぶりです、初代スレから幽霊屋敷シリーズを投下させて頂いているものです。
忙しさにかまけて期間が開いてしまいましたが、続きが出来ましたので投下させて頂きます。
古すぎて話が分からなくなっているかもしれませんが、過去のお話は保管庫を参照して頂くとお分かりになるかと思います。
今回の題は「十二年を埋める迄」です。
十二年を埋める迄
プシッという破裂音が、校庭に響く。手にした缶コーヒーのプルトップを、治が勢い良く開けた音だった。
治が校庭が見渡せる木製のベンチに腰かけて、開けた缶コーヒーに口づける。
その隣には、緑茶のペットボトルを手にした、薄紫色のサマーセーターにワンピース姿の女性が座っていた。
平日には生徒達の掛け声で賑う校庭に、人影は無い。日曜とあってか、部活は早目に切り上げられているようだ。
「それで、いいんですか?」
隣の女性が握ったペットボトルを見ながら、治が訪ねた。
「ええ、これ好きなの」
その問に、校庭の向こう側を見ながら、女性が答える。
浮世離れした深く、悲しげな瞳。
十二年という歳月を隔てても変わらないものなのか。治は心の中でひとりごちながら、缶に口を戻した。
「こっちに、帰ってたんですか」
唇を湿らせる程度にコーヒーを飲んだ後、話しかける。
「つい最近ね。今月に入ってから」
「てっきり、死んでたんじゃないかと思ってましたよ」
思わず皮肉が出る。予期せぬ再会に、治は自分の心が平静で無いことを悟っていた。
どうして、彼女が。
坂口庵子(さかぐちあんこ)
自分よりも一つ上の先輩。そして、初恋の人。
缶コーヒーを持つ左手が震えている。
あまりにも突然過ぎて、身体と心が一種の緊張状態にあるのだ。
気を抜けば、声も震えてしまうだろう。それを抑えるために皮肉めいた口調になる。
自分の精神が彼女、坂口庵子という存在に対して、過剰防衛ともいえる反応を取っているのだ。
(くそっ、俺は何をしたいというんだ)
言いたいことは、それこそ数えきれないくらいにある。あり過ぎて、何から言葉にすれば良いのか分からないのだ。
不安をかき消すかのように、ブラックコーヒーを喉の奥へと注ぎ込む。苦い。
「酷いわね」
治の皮肉を耳にした彼女が、庵子が口元だけで笑う。
その自嘲めいた笑顔があまりにも綺麗で、治は見とれてしまった。おかげで口元からだらしなく、茶色の液体が漏れ落ちた。
「でも、そのとおりね。私はもう、死んでいるから」
事も無げに庵子が答えた。治の買ったペットボトルの蓋を開けるでもなく、ただ手の中で弄んでいる。
治は口元に残った茶色を拭いながら、庵子の顔を見た。
何を考えているのか分からない、微笑を浮かべたままの表情が、校庭の先に映る風景を眺めている。
海山手高校は、その名のとおり海に面した山の斜面に造られており、丁度校庭から海を見渡すことが出来た。
深く入り込んだ入り江を中心とし、海から駆け上がるようにして伸びていく山手に発展してきたこの町である。
海を隔てた先には、造船のドックを中心にした街と、小高い山々が広がっていた。
「そっすか」
治は短く答えると、庵子と同じ方向に視線を向けた。山の頂上に建てられた展望台が、茜色に染まる空を背にして聳え立っていた。
かつては日本三大夜景の一角を担ったこの町の夜景が、眼下に一望出来る場所である。
「変わらないんですね、先輩は」
いつの間に開けたのだろうか、庵子はペットボトルのお茶を口に含んでいる。
夏にしては肌寒い風が、二人の間をすり抜けた。
「そうよ」
ややあって、庵子が答えた。
「私はずっと死んでいるもの。治くんに出会う、ずっと前から」
その答えに、治の口が真一文字に結ばれる。眉間に皺がより、厳しい表情が露わになった。
「そう、でしたね」
ぴきりと音がする。コーヒーの缶がわずかにへこむ音。
何故かは分からない。しかし言いようの無い力が、缶を握る手に入ったのである。
「学校の連中も、先生達も、うすうすは感じていました。だけど、言葉にはしていなかった」
「………」
「先輩は、坂口庵子は死んでいると」
「………」
「正確には『死んだような目をしている』ってことですが、それだけじゃない」
独白と言ってもよい、治の言葉が校庭に響く。
過去。十二年という時の流れは、決して短くはない過去である。
しかし、治は思い出していた。思い出す事が出来た。
色褪せない、青春時代の思い出。それは彼女が居たからこその思い出だったのだから。
「先輩は、俺たちにとっては別の世界の人だったんです。全く俺たちとは関わらない、誰とも必要以外の話はしない。」
「………」
「綺麗だけれども掴み所が無くて、すぐに姿を消して、まるで―――」
「幽霊女?」
治の言葉を繋げるかのように、庵子がそれまで黙っていた口を開いた。
そうだ、幽霊女。
学生時代、学校の連中が彼女へと付けた渾名そのままだった。
治の知る限り、面と向かって彼女に言ったものは居なかったはずだが、陰では誰もがそう言っていたことは知っている。
お高くとまった幽霊女―――。
「そこは否定して欲しかったわ」
気がつけば、庵子はベンチから立ち上がり、治を見ていた。
悲しさを湛えた瞳。見ている者を引き込まざるを得ない、魔性を帯びた視線だった。
「幽霊なんて言われて、喜ぶ女の子が居ると思う?」
「あ…、すいません」
治は呆然としていた。
彼女が自らの悪口を彼女自身の口から言うのに、驚いてしまった。
いや、正確には彼女自身がその陰口を知っていたからだった。
「その顔は何?私が知らないとでも思っていたの?」
「え、ええ」
「馬鹿ね。陰口というのは嫌でも耳に入ってくるのよ、それに」
耳に掛かった長い髪を、人差し指で掻き上げながら庵子は俯く。
伏せた瞼に憂いが混じるのを、治は胸の高鳴りと共に感じていた。
男の心を蕩かせるその仕草は、商売女の計算し尽くされたそれとは比べ物にならないほど、自然で美しい。
「…一回ね、後輩の子に言われたことがあるのよ」
寂しげに彼女が呟いた。
「その子の彼氏が私のファンだったみたいで、気に食わなかったのかな。自分という彼女がいるのに、私の方ばかり見ている彼氏に我慢できなかったみたい」
ああ、もう十年以上も前の話だから忘れていた。治は確かにその噂を聞いたことがある。
幽霊女にケンカを売った奴がいる。正確には「売った」と「奴」の間に一つ形容詞が入っていたはずだ。
「馬鹿な」という、哀れみを帯びた形容詞が。
「放課後に、体育館裏に呼び出されてね。『この幽霊女!私の彼氏を誘惑しないでよ!!』って言われたの」
その女生徒は治の同級生だった。クラスは違うが、二・三度見かけていたはずである。
「私は何もしていなかったのにね。本当、私が学校の皆に色目を使うはずが無いのに」
彼女の言うとおりだった。彼女が学校の生徒に色目を使うなどということは考えられなかったのだ。
だから皆、あの女生徒を二つの意味で「馬鹿な奴」と言ったのである。
一つは、心配しなくても良いことを邪推するという意味で、もう一つは、彼女に喧嘩を売った事実に対して。
「可哀想だったわね、あの子」
治は目を閉じた。その女生徒がどうなったのか、よく知っていたからである。
庵子に喧嘩を売ってから数日後のこと、彼女は学校から姿を消した。
担任からの説明では転校だということだったが、その背景に裏があることは皆が熟知していた。
転校という学生にとっての一大事にも関わらず、その挨拶に本人の姿が無かったためである。
「ええ」
幽霊女に消された。
直後にこんな噂が流れたのは言うまでも無い。
それを信じさせるだけの背景が、坂口庵子という女生徒にはあった。アン・タッチャブル、何者も手を出すことの出来ない存在。
そう、見えているのに透けて、手の届かない――
幽霊女という渾名には、そういう意味もあった。
治もその渾名に怯えていた一人だった。だからこそ、出来なかったのだ。
十二年前、目の前にいるこの女性に、自分の思いを伝えることが。
「ねえ、治くん」
自分を呼ぶ声に、治は振り向いた。いつの間にか、庵子が鼻先三寸のところに居る。
治は思わず、身を仰け反らせていた。
「あら…」
予期せぬ反応に、庵子が僅かにたじろぎ、目を見開く。
だが、驚きに染まった治の顔を見ると、口元に薄い笑みを浮かべた。
「照れているの?今更」
図星だった。治は、自分の鼓動が高鳴っているのを感じていた。
庵子のいない十二年の間に、治も人並みに彼女を作り、女性の経験もそれなりにはある。
しかし、男というものの悲しさか、初恋の人を前にしては、誰もが思春期の少年になってしまうのだ。
(畜生、教師が聞いて呆れるな…)
なんて様だ。治は自嘲(わら)った。
多感な高校生の兄貴分であり、恋愛相談にも乗ってやる若手教師という立場。
そんな自分が、年端も行かぬ子供のような反応をとっていることを知り、自嘲が止まらなかった。
「駄目よ、治くん」
頬を引きつらせて自嘲う治とは対照的に、庵子は浮かんだ笑みをすっ、と消しながら治を見つめた。
悲しく、そして冷たい視線。生理的な嫌悪感を感じ、治は思わず目を伏せた。
「もう、遅いの」
ごつん。と、目に見えない金槌で頭を殴られたような衝撃が治を襲った。
ああ、切れてしまった。
彼女の言葉は、自分の奥底に残っていた淡い期待が、完全に断ち切られたことを意味していた。
庵子にとって、自分は過去の人なのだ。
あわよくば……と思っていたのは自分だけだったのだ。
「私が『死ぬ』前に出会っていればよかったのにね」
寂しそうに庵子は告げた。治にしてみれば文字通り死の宣告ともいえる言葉を。
「どっちにしても、駄目だったでしょうね」
自分でも痛々しさを感じるほどの強がりを告げて、治は耐えた。でなければ、今にも身体が崩れ落ちる気がしていた。
「俺は『死んでいた』先輩しか知らなかったんですし、それに」
そんな先輩を、好きになったんです。
最後の言葉は心の中だけに留めた。
何を言ってももう遅く、口にしたところで空しいだけである。
「まぁ、もう昔の話です」
コーヒーを飲み干して、話を終える。しばしの間沈黙が続いた。
茜色の空に、段々と薄紫が混じってゆく。思っていた以上に、時間は通り過ぎているようだ。
「こっちには、いつまで居るんですか?」
沈黙を破ったのは治だった。
「わからない。でも長くは居ないと思う」
ペットボトルの蓋を閉めながら、庵子が答えた。
「この街には、思い出が多すぎるから」
「なるほど」
庵子が治に背を向ける。話の終わりが近づいているのだ。
「でも、用事を済ませてからになると思うわ」
「用事?何ですか、それは」
「秘密。まぁ、今まで出来なかったことをするつもり」
治は首を傾げた。よく意味が分からない。
「しばらくはここに居るつもり。時々はここに来るかもしれないから、そのときは宜しくね」
狐につままれたような顔の治を残して、庵子は立ち去ろうと歩き始めた。
と、少し歩みを進めてから、不意に彼女は踵を返した。
「あ、そうだ。私ね、もう坂口庵子じゃないのよ」
「……?」
「今の私は庵、坂口庵というの」
「さかぐち、いおり?」
聞き覚えがある名前だった。
たった一文字、庵子から一文字消すだけのその名前が意味するところを、治は知っていた。
「うん、おじいちゃんがね、死ぬ前にこの名前をくれたの。可笑しいでしょ?一文字削ったのに、くれたなんて」
「そうですか、あいつが」
その名前はあの男が、庵子の保護者であるあの男が、唯一愛した女の名前だった。
そうだ、元々庵子があの男に引き取られたのも「名前が似ている」ことが切っ掛けであった。
庵という名を刻み込むことによって、あの男は、まだこの女性を閉じ込めようとしているのか。
治は缶を持つ右手に力を込めた。
ぴきっ、とスチールがへこむ音が校庭の中に響いた。
帰宅した僕はただいまと言うのも忘れ、一目散に洗面所へと駈け出した。
靴を脱ぐのももどかしく、どたどたと音を立てて廊下を走り、勢い良く洗面台の蛇口を捻る。
母さんの呼ぶ声が聞こえたが、今はとにかく唇を洗いたかった。
眼鏡を外し、流れ出る水を両手で掬い、顔にかける。夏の熱気で生暖かいが、頭を冷やすには丁度いい冷たさだ。
二・三度同じことを繰り返す。特に唇は念入りに洗った。
鏡を見れば、水浸しの僕の顔が情けなく映っている。唇に手を当てて拭ってみたが、口紅は付いていないようだった。
僕はほっとして溜息を付くと、洗面台に備え付けられたタオルを手にして、顔を吹いた。
「周。帰っとったとね」
吹き終わって、タオルを元の位置に戻した時に、母さんが台所からやってきた。夕飯の支度をしているためか、山吹色のエプロンを掛けている。
「ただいまくらい言わんね、そがんあせがらんで(焦らなくて)よかたい」
「あ、うん。ごめん、母さん」
「ひゃ〜また汗ばかいて、早よ脱がんね。シャワーも浴びらんば」
母さんの言葉通り、学校からここまで走ってきた僕の体は、汗で塗れていた。
言われるがままに服を脱ぎ、洗濯籠に放り投げる。…勿論母さんを洗面所から追い出してのことだが。
風呂場に入り、シャワーを浴びる。冷たい水が、僕の体に染み付いた汗と彼女の匂いを消してくれることを願って。
規則正しい雨の中、僕は肌の上を雫が滑っていくのを呆然と見ていた。
しばらくしてから風呂場を出る。ふかふかのバスタオルで体を拭いていると、洗面台に置いていた携帯電話のランプが光っているのが見えた。
頭を拭きながら眼鏡を掛け、折りたたまれていた液晶画面を見る。
CTガールのネコちゃんが夕日に佇んでいる姿の待ち受け画面を横切るように『新着メールあり』の文字が浮かんでいた。
すぐに決定ボタンを押して画面を開く。受信ボックスの先頭には、「恋先輩」の名前があった。
直ぐに画面を開いてみる。
『心配だったので、メールをしてみました。私に出来る事があれば、可能な限り手伝いますのでいつでも連絡して下さい』
ああ、手紙を書いているかのようなこの文体は、恋先輩に間違いない。
思わず顔が綻ぶ。端から見れば無愛想極まりない恋先輩だが、僕のことを心配してくれていたのだ。
だが、さっき放送室であった事を思うと、喉の奥に厚いものを感じた。
奪われたファースト・キス。出来る事ならば、振られる前に恋先輩に捧げたかった僕の大切なもの。
唇に手を伸ばし、確認するかのように触ってみる。ぶわりと、あの時の奇妙な柔らかさが戻ってきたような気がした。
そうか、もう、捧げることは出来ないのか。
馬鹿なことを考えている。もう終わってしまった恋なのに。
どうして僕は恋先輩に対して、申し訳の無さを感じているのだろうか。言葉には出来ない奇妙な感覚が、胸の中に渦巻いていた。
一度携帯電話を置き、再び身体を拭い始める。
拭き終わった後に下着を身に着け、母さんが綺麗に折りたたんでいたジーンズを履く。
僕がもう一度携帯電話を手にしたのは、タオル掛けにバスタオルを戻してからのことだった。
『大丈夫、心配いりません。気にしてくれておりがとうございます』
二階の自室に戻りながら、文面を打つ。丁度部屋に入った時に打ち終わり、僕は送信ボタンを押した。
「ふ〜っ」
勉強机の上にある充電器に携帯電話を戻し、僕はベッドの上に寝転がった。
天井を見上げると、紐が垂れ下がった電灯がぼんやりと見える。
(今起きたってわけじゃ、ないんだよな)
起きてから今までの出来事が夢ではないということは、僕自身がよく知っていた。
それでも、あの放送室での出来事は夢ではなかったのかと思う。知り合ったばかりの女性、それもとびきりの美人によるキス。
しかもそれが幽霊屋敷の幽霊によるものだとすれば、あまりにも現実からかけ離れすぎていて…。
正直、思春期特有Hな妄想を見ていたというオチの方が幸せなのかもしれない。
はっきりと分かるのは、庵さんが現れたことにより、これまでの日常が変わりつつあるということだった。
謎の女幽霊、庵さん。
幽霊屋敷の主であるということ、僕に付き纏っているということ、そして、Hな人だということ。
そのくらいしか分からない。キスとかあそこを触るなど、僕を気に入っているようだが理由が分からない。
美形でもなく、大きくもなく、運動神経も良くないただの学生である僕を何故…?
ベッドの上を転がりながら考えるが、その答えは見つからなかった。
「あ、そうだ」
何度目かに転がった後、僕はあることを思い出して上体を起こした。
分からない時は、調べれば良いんだ。
ベッドから飛び降りて、部屋を出る。勢いよく階段を下りて廊下へと降り、父さんの部屋の扉を開けた。
「周ぇ、騒がしかよ」
母さんの声を後ろに扉を閉めると、僕は父さんの仕事机の上にあるパソコンの電源を入れた。
型の古いデスクトップ式のパソコンはインターネットに繋がれており、父さんが使わない時に限り家族で使うものだった。
起動画面が立ち上がり、父さんらしく壁紙も何もない基本画面がディスプレイに映る。
僕は直ぐにお気に入りのフォルダを開くと、いつものようにそのホームページの名前をクリックした。
『押忍!心霊道場』
オカルトマニア御用達とも言われる、心霊現象や幽霊関係の情報が満載されたホームページだ。
小学校でのパソコンを使った授業以来、僕が嵌っているところでもある。
濃い紫色に彩られたトップ画面にはメニューと共に日本地図が記載されており、カーソルを県の上に置くと、サイドメニューが出てくる。
僕は画面で自分の住む県を選択し、サイドメニューにある『有名所』の画面を開いた。
県でも有名な心霊スポットである『戦艦島』『モズ落としの滝』『野原城跡』『一盃公園』の写真とコメントがばらばらっと出てくる。
その中に幽霊屋敷の記載は無かった。まあ自分の県ということで、良くこのページを見ているから無いことは分かっていたが。
僕は画面の一番下にある、掲示板のボタンをクリックした。
画面がおどろおどろしい黒色に切り替わり、心霊スポット関係の掲示板の画面に切り替わる。
ここは新規の心霊スポット、巡礼の結果報告、考察などの情報が交換される場であり、僕も心霊スポットを探訪した時などに、時折書き込んでいるところだ。
シュウ:N県N市の海山手にある幽霊屋敷について、情報を知っている方居ませんか?
ハンドルネームと共に質問事項を書き込む。まずはこれで良し。
日曜日の午後だから、同じように掲示板を見ている人も多いだろう。回答にはそう時間はかからないように思えた。
次に、検索ページを開いて、「海山手 幽霊屋敷」で検索してみる。
十数件該当しているようなので、順次ページを開いていったが、ほとんどが地元の紹介文で、幽霊屋敷の幽霊について書いているものは無かった。
一件だけ、幽霊屋敷は明治時代の居留外国人が造った洋館を改装したものであると書いたブログがあったくらいだ。
十五分ほどそうしてネットサーフィンをしたのち、掲示板に戻ってみる。あまり時間が経っていないのにも関わらず、数件の書き込みがあった。
大場Q:>>シュウ
おひさ、シュウ。N県N市の幽霊屋敷って宰相坂の?
サブロー:>>シュウ
元気?元首相の谷崎一郎が建てた屋敷、それしか知らない
最初に書き込んでくれていたのは、大場Qさんだった。このサイトの古株で、初心者にも丁寧に回答してくれる人である。
どの時間帯でも素早く回答してくれるので、逆に何をしているか心配な人だけど。
続いての書き込みはサブローさんだった。
最近このサイトに参加するようになってきた人で、この県の人らしく、地元の話題で良く盛り上がる人だ。
彷徨う鎧:>>シュウ
知ってる、キレイな幽霊が居るんだろ、(;´д`)ハァハァ
大場Q:>>彷徨う鎧>>彷徨う鎧>>彷徨う鎧>>彷徨う鎧>>彷徨う鎧>>彷徨う鎧
詳細k
彷徨う鎧:>>大場Qうザスwww
あそこって元々娼館。美人多いの当然だろ
サブロー:>>彷徨う鎧
そうなの?こっちも初耳
彷徨う鎧さんは、僕と同じ時期に参加するようになった人で、心霊関係以外にも豊富な知識を持っている。
特に心霊スポットが「何故」心霊スポットになったのかという、由来話に詳しい。
何でも、地元の図書館に出向いて古文書を調べてくるというから、驚きだ。ハンドルネームの「彷徨う」も、そんな自分の性質から来ているらしい。
彷徨う鎧:>>サブロー
N市の海山手は明治時代になってからほとんど治外法権の場所になっていたらしい
それで、M山の遊郭から遊女を集めて、領事館員や船乗りたちのために非合法の娼館が作られたそうだ
普通の娼館とは違って高い身分の奴らが楽しむための施設だったから、女のレベルも高く、それなりに値も張ったらしい
貿易港としてのN市が没落するのと同時に、自然消滅したらしいがな
確か谷崎邸って、その跡地を買い取って作られたと思うが
あそこは娼館だったのか……
だとすれば、庵さんは当時あの館にいた女性なのだろうか。
勿論そんな所に行ったことは無いけれど、娼館がどんな事をする場所かは僕にだってわかる。
つまり、お金を払って女の人と、その、Hなことをする所だ。
庵さんがあんなにHなのも、そんなところにいた女性だからなのだろうか?
そしてあんなに悲しそうな瞳をしているのは、あの館のあった場所で亡くなったからなのだろうか?
わからない。
僕はもう一度唇に手を当ててみた。柔らかい感触が、指と唇の両方に伝わる。
不思議に、熱を持っているような感覚が伝わってきて、くらくらする。
僕は彷徨う鎧さんにお礼のレスを返すと、ページを閉じてからパソコンの電源を切った。
身売りをされてきた女性の悲劇というものは、僕も話に聞くくらいでしかわからない。
しかし、お金のためとはいえ、好きでもない人とするというのは、どんな気持ちなんだろう。
僕は母さんが夕飯を告げるまでの短い間、天井を見ながら考えていた。
以上で今回の投下を終了します。
段落のズレや誤字脱字、ご容赦ください。
ちなみに、本文中にあった改名の件ですが、時間はかかりますが家庭裁判所に申請すれば実際に可能です。
今回も乱文乱筆失礼しました。
GJです。ここまで来ると主人公はどこまでカンチガイ?のままで行くのかが気になってきましたw。
前スレは容量満たしてたのか
で、こっちに来てみればいきなりSSがあるわけですよ
GJ!!
☆
挙げ
保守
長編の様相を呈してきたな。>幽霊屋敷
今気がついたが、スレタイ、テンプレが、年の差カップル「に」エロ萌え
になってるな……
30 :
1:2008/07/23(水) 21:57:35 ID:liZthT+0
指摘されるまで気付きませんでした
すみません当方のミスです
お手数ですが次スレからは元通り(年の差カップルでエロ萌え)でお願いします
>>29 ある意味間違っちゃいないけどね
年の差カップルに萌えてる訳だし
もしかして全部一文字ずつ打ち込んでたっつー事かいな?
…御苦労な話だなおい
前スレで書いたもの(女性が七歳年上)の続篇です。
少し長くなってしまったので前後篇の二分割で投下します。
ちなみに、前篇はエロなしにつき予めご了承ください。
信号が赤から青に変わったことを目の隅で確認し、アクセルを踏み込み加速に合わせ
クラッチとシフトレバーを操作する。いつもならば、この単純な操作が楽しくて楽しくて
仕方ないはずなのだが、今はちっとも面白くない、むしろ苦痛だ。
目的地は事務所のアルバイトの男の子が通う大学のロータリー。後、三分もすれば
到着できるだろう。さっきの信号待ちでルームミラーを見て一通り確認したはずなのに、
また自分がどんな顔をしているのかが気になる。
──何やっているのかしら、私。
思わず溜め息がこぼれ苦笑してしまう。私がこれから迎えに行くのは、事務所を設立した
当初にスカウトした男の子だ。薄茶色の瞳と整った顔立ちも印象的だが、それだけでなく
高い身長や引き締まった体型に加えスラリ伸びた脚、どれをとってもモデルとしての素質は
抜群だった。
今でも彼に出会った日のことは忘れない。スカウトに出た私は声を掛けた若者から
ことごとく相手にされず、人ごみの中で途方に暮れていた。
そこに彼が現れた。
──きっと、駄目だろう。だって、こんなに魅力がある男の子なのだから、とっくにどこかの
事務所がスカウトしているはず。
そんなネガティブな感情を振り払い、私はなけなしの気力を振り絞り彼に声を掛けた。
とは言え、勝算がほとんどないと思ったのは事実だ。彼には今まで出会ったどの若者よりも
強い素質を感じていた。嬉しい誤算だったのは、まだ彼がどこのスカウトにも出会っておらず、
おまけに私の事務所のようなできて間もない無名のところからの誘いであっても、心良く二つ返事で
引き受けてくれたことだ。更に年齢を聞いて驚いた。まだ、高校一年生だというのだ。もっと
大人びてみえたから、私はてっきり大学生かと思っていた。
私の事務所の第一号男性モデルはアルバイトで、しかも高校生だった。
それから四年が経ち二十七歳になった私だったが、先の見通しはまるでなかった。
細々としたオファーをアルバイトのモデルに宛がってやりくりしながら、何とか事務所の態を
為すので精一杯だった。
そんなことを思いながら、ロータリーの入り口に着くと遠目ながら彼の姿を見つけることができた。
そして、その周りを幾人かの女の子が彼の気を惹こうと取り巻いている。
──妥当なところね。
彼には"華”がある。それを言葉で説明することは難しいが、一見した瞬間、『ああ、
この子は他の人と違う……別格なんだ』と思わせる何かを持っているのだ。だから、彼の
周りを女の子が囲うのは当たり前、というよりもそうでないと困る。それぐらいでなければ、
とてもではないがモデルとしてはやっていけない。
暫く様子でも見ていようかと思ったが、胸の奥を引っかかれるような疼きに耐えかねて、
車を彼の面前に滑り込ませてしまった。
ドアを開けて外に出るとき、また、サイドミラーで自分の姿をちらりと見てしまう。
「準備は大丈夫かしら?」
「ええ。一通り商品コンセプトとカメラマンの方の作品は目を通しました」
彼はそう告げると、助手席側に歩み寄ってくる。彼の周りを取り巻いていた女の子達は
ポカンとその姿を見ているだけだった。
「そう。じゃあ急ぎましょう、ヒカル君。少し遅れているから」
「そうですね。じゃあ、俺はここで」
ヒカル君は助手席に身体を滑り込ませると、窓から手を出し女の子達に右手を挙げた。
彼女達が手を振り返そうとする前に私はアクセルを踏み込んで、車を走り出させる。
「もてるのね?」
暫く車を走らせた後、窓の外を流れる景色を見ている彼に声を掛ける。
「違いますよ。みんな、語学のクラスが一緒なんです」
「分かってないわね。あの子達、あなたを見る時、目の形がハートマークになっていたわよ」
「美希さんが冗談を言うなんて珍しいですね」
彼は小首を傾げて楽しげに笑った。
「そう?」
私はもう一度ハンドルを握る手に力を込めた。
◆ ◇ ◆
その日、撮影が終わって私の車にヒカル君が乗り込んだ頃には夜十時を回っていた。
「遅くなっちゃったわね」
「気にしないでください。俺ももう高校生じゃないですから」
最初は彼が高校を卒業するまでの間のアルバイト契約だった。彼を手放さなければ
ならないのは惜しかったが、それ以外の選択肢はなかった。
しかしその後も、幸運なことに彼は都内の大学に進学し、アルバイトの契約延長に
サインしてくれた。正直な話、当時も今もヒカル君は紛れもなくうちの事務所の稼ぎ頭だ。
もし彼が契約を延長してくれなければ私の事務所は存続していたかどうかも疑問だ。
彼の”華”はモデルの間でも際立っている。公平なオーディション(残念ながら出来レースも
少なからず存在する)に出れば、百戦百勝とまでいかなくても、まず間違いなく何らかの
形で仕事が舞い込んできた。できて間もない素人の野球チームにプロ野球のエース・ピッチャーが
迷い込んできてしまった──それが彼と私の事務所の立ち位置だった。
助手席で窓を流れる風景を見ていた彼が仕事の後の疲労感からか、「フウ」と一度息を
吐いた。確かに、最近の彼のスケジュールは過密気味だ。少し仕事をセーブさせようと頭の中で
あれこれ今後の予定を入れ替える。
「疲れた?」
「いいえ……お腹が空きました」
四点式のシートベルトの上からお腹を押さえて、わざと元気なく俯いて見せる姿ですら、
何かの写真に使えそうに思えてしまう。
「じゃあ、どこかで食べていく?」
「是非、お願いします。今日のバイト代から天引きで構いませんから」
嬉しそうに彼がこちらを見るので、私は急いで近辺のお店の情報を記憶から引っ張り
出して、ヒカル君に喜んでもらえそうな所を何軒か思い浮かべる。
「何言っているの。それぐらい私がご馳走するわよ」
◆ ◇ ◆
間接照明を配して、全体として落ち着いた雰囲気を醸しだす店内には、品の良いジャズが
抑えた音量で流れている。椅子やテーブルなどの調度品は全て質素に見えるが、品が良く
適度に使い古されている。対照的に食器類は新品の如く真っ白で凝ったデザインだ。純銀製の
フォークとナイフもピカピカに磨きあげられている。
私が選んだのはモデル時代から通っているフレンチのお店で少し値は張るが、本当に
美味しいものが食べられる。普段は食事に合わせてワインを楽しむが、今日は車で来ている
から飲酒は控える。その代わり、彼のために少し多めに料理を注文した。
二人で談笑しながら食べる食事はとても美味しかった。一人で食べることの多い私が
忘れてしまった幸せをヒカル君は与えてくれた。
若いにも関わらず彼のテーブルマナーがしっかりとしていたことには驚かされた。どこで
学んだのかを尋ねると、彼は「学校の家庭科と、後はテレビの教養番組で一、二度見て
学びました」と答えた。確かにヒカル君ならそれだけで充分かもしれない。彼が一を聞いて
十を知るという稀有な才能の持ち主であることは私がよく知っている。だから、モデルの仕事も
最初からプロ並みに手馴れていた。本人曰く「初仕事の時は心臓が飛び出るかと
思いました」というが、落ち着き払ったあの様子を見る限りとてもそうは思えなかった。
ただ、そんな完璧な彼も一つだけ私に見せた弱みがあった。情けない話だが、私はその
弱みに付け込んで彼と身体を重ねた。卑しいことだと分かっていた。事務所のモデルに手を
出すというのは最低の行為だ。
モデルは決して悪い意味ではなく”商品”なのだから。
食後のコーヒーを飲みながら、ぼんやりと向かいの椅子を眺める。ヒカル君は今、トイレに
立ったところだ。彼がいなくなった途端に何だかコーヒーが味気なくなる。
──恋する乙女という年頃でもないのにね。
苦笑を噛み殺しながら、もう一口コーヒーを含んだところで誰かに肩を叩かれた。
このお店は仕事の関係者や昔のモデル仲間の間でも名が知れており、リピーターも数多く
いる。そのうちの誰かが偶然、来店していて私に気づいたとしても別段驚くことではない。
それでも、その時、肩に置かれたその掌から、私は電流にも似た強い衝撃を覚えた。
ゆっくりと振り向くと、そこには四年前に別れた彼が立っていた。
「やっぱり、美希か」
「……久しぶりね、孝弘」
声が震えないように注意したつもりだったが、無駄な努力だった。見るからに仕立ての
よさそうなスーツに、厚い襟の上質なシルクのシャツを着たその男の顔は今でも忘れない。
短めに切られた髪は清潔感を見るものに印象付ける。理知的ながらも野心のこもった魅力的な
その瞳に見つめられれば、多くの女性は舞い上がってしまうだろう──昔の自分も例外ではなかった。
「まだモデルをやっているのか?」
「いいえ。モデルは引退して、今はモデル事務所を立ち上げたの。あなたは?」
孝弘──それが私をフッた男の名前。別れて以来、久しぶりに口にした名前だけど、
それでも心の奥底がズキリと疼く。
「今はリッチモンド・バーゼルに移った。この前やっとパートナーになったところだ」
リッチモンド・バーゼル法律事務所は企業法務の世界で名を馳せる著名な弁護士事務所だ。
日本に五年前に開いた支部は瞬く間にこの国の市場を席巻し、今や有名企業は大枚を
はたき、こぞってリッチモンド・バーゼルの弁護士たちを顧問に迎えている。そんな
弁護士事務所のパートナーに二十代後半で昇格したということは異例とも言うべきことなのだろう。
そんな孝弘と知り合ったのはある財界のパーティーでのことだ。私はお飾りとして
パーティー会場へ呼ばれ、駆け出しの弁護士だった孝弘は自分の上役に付き従ってそこに
現れた。孝弘は上役が有名企業の重役と話し込んでいる間に、コッソリと抜け出して手持ち
無沙汰な私に話しかけてきたのだ。周囲がおじさん、いやお爺さんだらけのパーティーだったから
というわけではないが、私は彼にすぐに惹かれていった。彼の容貌は勿論、聞き手を
飽きさせないユーモアの効いた会話と頭の回転の速さも印象深かった。
別れ際に携帯電話の番号を走り書きした名刺をもらい、「気が向いたら電話してくれ」
と言われた。その名刺のことは暫く忘れていたが、ふとした拍子に私から電話を掛けたところ、
彼も覚えていたらしく二人で食事をする約束をした。後は、もうトントン拍子だった。
「おめでとう」
「ああ、ありがとう。これ、新しい名刺」
そう言って、彼は洗練されたデザインの名刺を差し出した。
私は黙ってそれを受け取り、何気なく裏返した。そこには、あの時と同じように携帯の
連絡先が走り書きされていた。慌てて振り向くと孝弘は口元に、けれんみのない微笑を
湛えている。
「気が向いたら電話してくれ」
「……それ前も聞いたわ」
同じ手に二度も──と思っても、心臓の鼓動が一段速くなったことは偽れない。
「連絡待っているから」
右手を軽く上げると孝弘は私の返事を待たずに立ち去った。あの時と同じように。
孝弘と入れ違いにヒカル君が席に戻ってくる。見られて疚しいことはないが、彼が私と
孝弘の会話を目撃していたら、どう思うだろうと考えると心がそぞろだった。それでも、
その後の彼の雰囲気を見た限り、どうやら気づかれてはいないようだった。胸を撫で下ろ
したのは、会計を済ませ店を出た後だった。
◆ ◇ ◆
「…き…さん、美希さん?」
「えっ…は、はい!?」
助手席のドアを閉めかけたヒカル君が私を呼んでいた。
「どうしたんですか?考え事でもあるんですか?」
「い、いいえ。ちょっと、ぼおっとしていただけ」
嫌な汗が背筋を伝い、ハンドルを握る手がジットリと湿る。
「そうですか。運転、気をつけてください。それから、ご馳走様でした」
彼は飛び切りの笑顔で私に微笑みかけてくれた。『そういう笑顔は私ではなく、撮影の
時か同年代の女の子のために取っておきなさい』と冗談半分で、彼に言ったことがある。
今みたいな顔を見せられると立場も年甲斐も忘れてドキリとしてしまう。
「ありがとう、おやすみなさい」
ヒカル君はもう一言二言、言いたげだったが「おやすみなさい」と告げて、助手席のドアを
閉じ車から離れた。
それを確認すると、軽くアクセルを踏みクラッチから足を離してギアを繋ぐ。
「……ダメね、私」
自然と口から出てきた言葉の通り、私は帰りの道中、孝弘のことを考えていた。
自分でも未練がましいと思う──捨てられた相手から差し伸べられた手に喜んでいる女
──それが私だった。今日会うまでは、今度顔を見たら絶対ひっぱたいてやると息巻いて
いたにもかかわらず、いざ会った途端に腰砕けになり、あまつさえ心まで掻き乱されている。
信号待ちで停車すると、額をハンドルに当ててわざと大きな溜め息をつく。
「あいつは……私を捨てたのに……どうしてなのよ」
思うままにならない自分の心に嘆きが止まらない。
◆ ◇ ◆
それからの数日間、仕事はまともに手につかなかった。
何度も孝弘の名刺を取り出し、ダイヤルをプッシュし掛けて指が止まるということを
繰り返していた。最後の数字を押してしまえば、もう後戻りはできないことぐらい自分でも
分かっている。だが、電話が繋がったとしてもいうべき言葉が見つからない。彼のことがまだ
好きなのか、それともただの感傷なのか判然としないまま、繰り返し逡巡している。
一つだけ分かったことは、一度は本気で好きになった男を簡単に忘れられるほど自分が
器用な女ではなかったということだ。おまけに今、心を寄せている男性との関係がとても
恋愛とは言えない状況にあることが輪をかけて複雑にしている。もしも、ヒカル君との関係が
違っていればここまで悩むことはなかっただろうに。
出てくるのは溜め息と迷いばかりだ。
ガチャリ
事務所のドアが開く音に弾かれ、机の上に顔を伏せていた私は姿勢を正す。
私の事務所は都内にある古びた雑居ビルの三階を間借りしており、在室中はドアに鍵を
かけていない。物騒だと思うが、盗られるものはなにもないからだ。
「美希さん、います?」
「ヒカル君!?ど、どうしたの?」
思いもよらぬ来訪者に言葉が詰まってしまう。
彼の次の仕事はまだ先だ。それに打ち合わせの予定も入れていない。
「ちょっと近所に寄ったんで。お邪魔ですか?」
「……ううん。別に構わないわよ。入って頂戴」
彼が部屋に入ってくると殺風景な事務所も、まるでドラマのセットであるかのように
見えるから不思議に思える。クリーム色の壁沿いに並ぶスチール棚と大型の
キャビネットは、もともとこの部屋に備え付けられていたものだ。キャビネットの前で
向かい合わせになっている二つの事務用机の上には書類やファッション雑誌が山積みだ。
普段は事務や経理をやってもらうために雇ったパートタイマーの女性二人が座っているが、
今日は共に休暇を取っているため空席だ。
取り合えず、窓際に置かれた大きめの私のデスクの横にある応接用の品の良い黒革の
ソファに来訪してきたヒカル君を座らせる。
「ごめんなさい、突然」
「いいえ。特に何をやっているわけでもないから、気にしないで」
手持ち無沙汰、その言葉が今の私にはピタリと当てはまる。普段は忙しいが、仕事の
オファーがパタリと来なくなる時──凪の時──には、本当に何もすることがなくなる。
忙しい時は良い。色々なことを忘れられる。時間を持て余している時は色々な意味で苦痛だ。
「お茶でも淹れますね」
「あっ、ええ」
ヒカル君が気を利かせて立ち上がる。部屋に隣接する給湯室は、この部屋を借りる時の
決め手の一つになった。内覧の時に、年老いた大家さんが「こんなボロいビルだけど、
ちゃんと給湯室があるんだよ」と笑顔で教えてくれた。
その給湯室から、二つのマグカップがのったトレーを手に持ったヒカル君が優雅に歩み
寄ってきた。
「コーヒーで、良いですか?」
「ええ。構わないわよ」
彼が、私の机の上にコーヒーと小さなチョコレート菓子を置いた。
その瞬間、目の前の光景がグラリと揺れる。乱れていた心が激しく揺すぶられ、どうして
いいのか分からなくなり、考えるよりも先に思わず言葉が口をついて出てしまう。
「ごめん……今日」
「す、すいません。あの……気にしないでください」
申し訳なさそうに呟いた彼は、慌てて背を向けて応接用のソファに座る。
目の前に置かれた銀色のカップと、そしてどこのコンビニでも買える赤い包装が目印の
安いチョコレート菓子。
そのお菓子が私達の間のサインだった。
ソファに座ってコーヒーを時間を掛けて飲み終わると、彼は給湯室で自分の使ったカップを
洗い、私に「さよなら。また、仕事の電話待っていますから」と言っていつもと変わらぬ
笑顔で──少なくとも私にはそう見えた──事務所を立ち去った。
彼が帰ってしまうとこの部屋はどうしようもなく淋しく感じられた。
一人で誰もいない事務所に慣れっこのはずが、孤独が耐え難い。手に持った
ノック式のボールペンを神経質にカチカチ鳴らしている自分に気づく。気を紛らわそうと
ぬるくなったコーヒーを飲み干し、自分の中に湧き上がった後悔と罪悪感が綯い交ぜに
なった感情がいつの間にか、先程までの悩みに取って代わっていたことに気づく。
◆ ◇ ◆
あの日──彼と初めて身体を重ねた日、けだるい倦怠感の中で目を覚ますと彼の顔が
目の前にあった。
「おはようございます」
「……どれくらい、眠っていたのかしら?」
ヒカル君は身体を反転させ、ナイトテーブルの上の置時計を見る。
「三時間ぐらいですよ?」
「そう」
なるべく素っ気無く答えたのは、心の中を彼に見透かされたくなかったから。
ヒカル君はそんな私を、飽きるでもなく切れ長の魅力的な瞳でずっと見つめていた。
それだけで鳥肌が立ってしまう。
「時間、大丈夫?」
「ええ。別に予定もないですから。それより美希さんって、結構可愛い寝顔なんですね」
──か、か、可愛い!?
頭にカアッと血が昇って、微笑んでいるヒカル君を見ていられなくなる。可愛いなどと
言われ慣れていないから、嬉しいやら、恥ずかしいやらで心の中がひっちゃかめっちゃかに
なり、シーツを掴む手にも知らず知らずのうちに力が籠もってしまう。
「……わ、私、二十五よ」
そんなことを言うつもりなどなかった。口が滑った。自分でもどうして、そんなことを
言ってしまったのか分からない。もう少し余裕のある大人の女になったと自分では
思っていたのに、実際は期待はずれも良い所だった。
「すいません」
「別に謝らなくても良いのよ」
この調子では、二人で肌を合わせることはこの一度だけで終わってしまいそうだ。始めは
一度だけと思い、気分転換とヒカル君を唆した。しかし、終わってみればそんな気持ちは
どこかへ吹き飛び、彼にのめり込んでいる自分に気がついた。何だかんだ理由をつけても、
結局のところ私が彼を求めていただけに過ぎないことに今更ながら思い当たった。
そうなってみると、当たり前だが七歳という年齢の差が疎ましく思えてきた。
いや、年齢の差というよりも女の私が七つも上なことが気を滅入らせているのだ。これが
逆なら、きっと全て上手くいくのだろう、と行為の余韻で鈍った頭で考えた。七歳年上の男性に
恋焦がれる若い娘という組み合わせであれば、有り得ない話ではない。だが、その逆を想像
することは私にはできなかった。
「ねぇ、気分転換はできた?」
「……え、ええ。でも、いきなり仕事というのは勘弁してくださいね」
冗談っぽく彼は相好を崩す。
「じゃあ、もう気分転換の必要はないかしら?」
「…………」
ヒカル君は私から視線を外して、押し黙ってしまう。彼の額に掛かった黒髪をそっと
払ってあげると顔を上げてこちらを見てくれる。
「今は充分かもしれないけど、そのうちまた必要になるかもしれないわね。その時になって
今日みたいなまどろっこしいのも嫌だから、合図を決めましょう」
暫くベッドの中で相談して、互いが好きなあのチョコレート菓子を合図にすることにした。
以来、ヒカル君が私を必要とする時は、あのチョコレート菓子を差し出すのだ。そして、
私が彼の申し出を断ったことは一度としてなかった。
◆ ◇ ◆
その日の夕方、私は受話器を取ると孝弘の名刺を裏返し、そこに書いてある番号を
プッシュした。
もやもやとした迷いは晴れ、心は決まっていた。
彼はすぐに出た。
『遅かったね』
あの時と変わらぬ第一声だった。なるべく、平静を装うために間を取ってから口を開く。
「今夜八時にあのレストランで待ち合わせ、どう?」
『ふむ……急だけど構わない』
「そう。じゃあ、待っているから」
次の言葉を聞かずに電話を切る。それで充分だ。
──大事なことは会って伝えるつもりだから。
時計の針が九時半を回ったところで、やっと孝弘は現れた。ストライプの開襟シャツ、
皺一つ無い細身のスラックスにブランドものの革靴を履いた孝弘は弁護士というよりも、
こちらの業界の人間に近くさえ感じられる。スラリとした背格好と整った相貌は、ヒカル君と
比べても遜色ないほどだ。
「待った?」
ウェイターが引いた椅子にゆっくりとした動作で座った彼の表情は、この後に起こること
全てを予測しきったように自信に満ち溢れたものだ。
「いいえ。そんなに」
私はグラスに注がれた白ワインを口に含む。愛車はマンションのガレージの中だ。
「そう。で?」
「……私をフッたこと後悔している?」
何を今更、といった表情で孝弘は首を振る。
「過ぎたことをどうこういうのは好きじゃないね」
「そうね。別に無理に聞きたい訳でもないから、答えはいらないわ」
テーブルに肘を突き、組み合わせた手の甲に顎をのせる。細い銀のブレスレットが揺れ、
照明を浴びて鈍く輝く。その乾いた金属音の響きが心地良い。
目の前の孝弘は売れっ子弁護士というのを差し引いても、女性を惹きつける要素を多分に
持ち合わせた男性であることは疑いようも無い。
「俺を呼んだからには理由があるんだろ、美希?」
彼の言葉に私は小さく頷く。決めたのだから、後は告げるだけだ。
「ええ」
そっと目を閉じて、心を落ち着かせる。光を抑えた落ち着いた室内に流れるピアノの
調べよりも自分の心臓の鼓動の方が遥かに大きく聞こえる。それほど緊張している。
──飛び切りの笑顔でキチンと言わないと。
モデル時代と同じく、最高の笑顔を作るために頭の中で太陽をイメージし、動かす顔の
筋肉に力を込める。
「今度、ここで会っても声を掛けないで頂戴。私、あなたのことを一生忘れないけど、
一生あなたに引き摺られながら生きていくのはイヤだから」
うまく──言えた筈だ。彼は、少し目を見開いて唖然とした様子でこちらを見つめているの
だから。私は組んでいた手を解き、横の椅子に置いたハンドバッグを取ると立ち上がる。
もうここにいる理由はなかった。
「お、おい、美希!」
慌てて立ち上がった孝弘を無視して、私は出口へと向う。一度だけ振り返って、多分、
もう二度と見ないであろう昔の恋人の顔を眺める。薄暗い店内だからなのか数段、素敵に
見えた。
「さよなら」
木製のドアを押し開けて、外に出た私はもう二度と振り向くことはなかった。
(後篇に続く)
以上です。
後篇はまた近いうちに。
>前スレでコメント頂いた方へ
スピンオフのご指摘頂いた方、遅くなりましたがその通りです。
また、紛らわしくて申し訳なかったのですが、”了”というのはあくまで、
一つの話として終わりという意味だけで、物語としては続く可能性も残していると
解釈してください(勿論、続かないかもしれませんが)。
>43
また作品が読めるのが嬉しいです
続き楽しみにしてます
>>43 気分転換のお話しの続きキタ━━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━!!
やっぱり働くお姉さんは最高だな、GJすぐる
GJ!
昔の男とか生意気そうなのが出てきやがったぜと思ったら、今回で即退場かw
美希さん(*´Д`)ハァハァ
>>34-42の後篇を投下します。
興味のない方はスルーでお願いします。
「はあぁぁ」
今日何度目だろうか、殺風景な事務所の光景を眺めながら頭を掻いた私は力ない溜め息を
吐く。パートタイムの事務員さんがいなくなるや否や、嘆息が止まらない。
孝弘に別れを告げて、もう三日が経った。彼からはあの後、二度ほど電話があったが全て
無視している。もう選んだのだから振り返ることはしないし、したくない。
気を取り直して、パソコンのディスプレイに映ったスケジューラーを眺める。何人かの
モデルにはちらほらと仕事の予定が入っているものの、ヒカル君へのオファーはまだない。
これでは彼に会えるのは当分、先になりそうだ。
彼に、ヒカル君に会いたい──これが私の偽らざる本音。
電話でヒカル君を呼び出せないこともない。仕事のオファーが来たので、打ち合わせを
したい、と嘘をつけば良いのだ。だが、それはマナー違反。あくまで、彼と私の関係は
ビジネスの延長線上にあり、残念だが恋愛関係にはない。
私の役割は所詮、一時の気紛れでしかない。それ以上を求める気持ちがないと言えば
嘘になるが、もう一歩踏み出せば、きっとこの関係は脆くも崩れてしまうに違いない。
気楽な後腐れのない関係だから、ヒカル君は私を相手にしてくれるのだ。そうでなければ、
彼のように魅力的な男の子が、私なんかを相手にするはずがない。今となっては、彼の
失恋を利用して、騙すように関係を結んだことが私の悩みの種になっていた。
禁断の果実──時に知らない方が良かったのではないかと思うことさえある。
「……自業自得なのよ」
視線をディスプレイから天井の蛍光灯に移す。
孝弘を捨てて、ヒカル君を選んだ理由──それは私自身にもハッキリとは分からない。
長い年月は過ぎたが、孝弘と元の鞘に戻ろうと望めばそうなることは充分に出来たと思う。
現に彼もそれを望んでいたのだろう。だから私の決意を告げた後も電話をかけてきたに
違いない。私も心を掻き乱されたのは事実。
強いて言えば、きっとそれは過去の私の残滓であり、今の私が望んだものではない
という思いがあったからだろう。
ヒカル君を選ぶ、などとおこがましいことを言うつもりはない。私には、彼を選ぶなどと
言う資格も権利もない。彼の気紛れのために自分を取っておく、という方が正しいのかも
しれない。彼は私との関係を遊びだと思っているに違いない。でも、私は──少なくとも
自分の中ではそう思えない部分がある。勿論、それを彼に押し付けるつもりはない。
それは私の心にあればそれで充分、それ以上は高望みし過ぎだ。
でも、今はその想いが疼く。心をズキズキと刺激し、私から集中力を奪う。
──会いたい、会いたい。彼に会って謝りたい。
あの時、心がざわついていたとはいえ、彼の誘いを断ってしまったことをひどく後悔している。
もしかしたら、もう二度と彼は私を求めてくれないかもしれない。
──そんなの嫌よ!…………イヤ。
私はヒカル君にとって都合の良い女でいなくては、ダメだ。ブラインドの隙間から差し込む
オレンジ色の西日の温かさにも関わらず、身震いするほどの孤独が押し寄せてくる。
こんなに一人が辛いなどと思ったことはなかった。孝弘にフラレて傷ついてから、ずっと
頑張ってきて、もう一生、一人ぼっちだって大丈夫だと信じていた。しかし、今なら分かる、
そんなのは嘘だ。それは人のぬくもりを遠ざけてきた自分の傲慢な考えにしか過ぎない。
私は結局、何も変わってない。だから、もう二度とヒカル君と抱きあえないかもしれない、
と思うだけで泣き出したくなってしまうのだ。
ガチャリ。
突如響いた事務所のドアが開く音に弾かれ、机に伏せていた私は慌てて顔を上げる。
「あの、お邪魔します」
信じられないが、ドアの隙間から顔を覗かせたのはさっきから私の心の中を散々に
かき回していた想い人だった。
「……ど、どうしたの?」
「いえ、この前、忘れ物をしてしまって」
ヒカル君は部屋に入ると、ドアを後ろ手に締めながら辺りをキョロキョロと見回している。
──忘れ物?そんなものあったかしら?
「お邪魔でしたか?」
「い、いえ。そんなことはないわ。私も一緒に探すからどんなものか言って頂戴」
わざわざ取りに来るのだろうから余程大事なものなのだろう、と思い椅子から立ち
上がって一緒に探そうとして彼に止められた。
「美希さんのお仕事の邪魔をするつもりはないので、自分でやりますから、気にしないで
下さい!」
珍しく慌てた様子のヒカル君が強い口調で告げるので、止むをえず引き下がることにした。
「そう。手伝って欲しければ言ってね」
何気ない会話を装ったが、そぞろ立つ胸の内は抑え切れなかった。デスクに戻って、
書類を広げても中身はまったく頭に入って来ない。あげくに事務所中を丹念に探して回る
彼の姿をつい目で追ってしまう。そのせいで、ふいに顔を上げてこちらを見たヒカル君と
目が合ってしまう。
「あの……」
「そ、そうだ。お茶、お茶淹れるね。少し、休憩しましょう」
ずっと彼を見ていたことに気づかれたかもしれないと思った私は、テレ隠しに給湯室へ
駆け込む。
──しまった。ちょっと無警戒過ぎたわ。
少し暗い給湯室の流し台の前で、何気なく頬を摩ると微かに熱を帯びている。きっと、
恋する乙女よろしく、ほっぺたが桜色にでも染まっているのだろう。
取り合えずお湯を沸かし、コーヒーの準備をする。
◆ ◇ ◆
「さあ、コーヒーも入ったし、少し休憩しない?」
「えっ、ええ」
忘れ物が気になるからだろうか、ヒカル君は複雑な表情を浮かべて私の向かいに腰掛ける。
きっと余程大事なものなのだろう。休憩が終わったら手伝うことにしよう。
「はい、コーヒー」
「ありがと……」
カップソーサーの上に乗せられたものを見て、彼は言葉に詰まってしまった。それも
当然だと思う。今までこんなことはなかったのだから。
「この前はゴメン。だから、たまには私から……でも構わないかしら?」
ヒカル君の視線は白い陶磁のソーサーの上に、私がのせた赤い色の包装紙に包まれた
チョコレート菓子に釘付けだ。
「……勿論です」
少し間があったけれど微笑んでくれた彼のおかげで、私の心を安堵感と高揚感が包んだ。
胸の鼓動を抑えながら私は腰を上げて、ヒカル君の隣に座り直す。彼がこちらを見た
隙を突いて、そのまま唇を奪う。一、二度触れるだけのキスをしてから、舌を彼の口内に
差し入れる。驚いて目を見開いていたヒカル君も私の舌が入り込むと積極的に絡めてくる。
合わせた彼の舌の柔らかく温かな感触に心が満たされていく。
──ああ、これだ。私が待っていたのはこれなんだ。
舌先も、表面も、側面も裏側も全てを存分に舐り、堪能した後、唇を離す。
「今日は積極的ですね?」
「私から誘ったのだから、たまには良いでしょ?」
私は彼に抱きつくと、そのままソファに押し倒した。
「ちょ、ちょっと、美希さん!事務所ですよ、ここ?」
「良いのよ。今日はもうお終いにするから」
公私混同も甚だしいとは言え、もう一秒も待てなかった。今、抱いてもらわないと、これ以上
淋しさに堪えられそうにない。だから、再び唇を合わせヒカル君を求める。
「んくっ……ふっ」
彼の口から漏れる浅い吐息が私の興奮を煽る。滑り込ませた舌で彼の口腔を舐め回して
いる自分が浅ましく思えるが、それを止めようという思いは微塵もない。むしろ、求める
気持ちばかりが後から後から、止め処なく込み上げてくる。
ふと気がつくと、彼の手が私の胸を軽く押している。どうやら、あまりに夢中で貪り過ぎて
彼に息苦しい思いをさせてしまったようだ。
「はっ……はっぁ……はぁぁ。ど、どうしたんですか、珍しいですね」
「大丈夫だった?」
「ええ。気にしないでください」
微笑んだ彼が私の背中に手を回し、強く抱き寄せてきた。
「大人しくしてますから美希さんのお好きなように、どうぞ。」
ヒカル君に耳元で囁かれると、ゾクリと背筋が震える。しかし、好きにしてもいいと言われても、
私は今までいつも彼のリードに身を任せ、快楽に悶え、幸せを噛み締めていただけだっただけに、
いざ自分からやろうとすると、頭の中が真っ白になってしまう。ヒカル君は切れ長の瞳で
何をするのか、興味深そうにこちらを眺めている。その視線に思わずたじろいでしまう。
しかし、いつまでも躊躇しているわけにもいかないので、取り合えずヒカル君が
普段してくれるように私もやってみることにした。
──私が気持ち良いのだから、彼だって同じはずよね。
もう一度彼の唇を吸い、それから細い首筋に舌を這わせる。ヒカル君を盗み見ると擽った
そうな顔をしているが、かまわず吸い付いて小さな痕をつける。彼の白い肌に自分が
付けた赤い痣がまるで、私しか知らない秘密の”徴”に思えて心が浮き立つ。できれば、
いつまでも消えないでいて欲しいものだ。
ヒカル君の薄桃色のカッターシャツに手をかけ、ボタンを一つずつ外していく。それすら、
不慣れな自分ではうまくいかず、もどかしい思いだけが募る。彼の前では大人の女を
演じているクセに、いざとなると未熟な自分に嫌気が差す。それでも彼が、苛立つ様子も
なくこちらを優しげに見つめてくれていることだけが唯一の救いだ。
シャツの下の彼の身体は引き締まり、胸板は厚く腹部もしっかりと割れている。男性
モデルの仕事上、肌蹴させなければならない場合もあるから、ある程度は鍛えておいて
欲しいと彼が仕事を始めた頃に言ったが、期待以上にトレーニングしているのだろう。
その胸板を掌で円を描くように摩る。私の場合はジンワリと気持ち良くなるのだが、
ヒカル君は相変わらずこそばゆそうに目を細めている。
──き、気持ち良くないの?私が下手なのかしら。そ、そうだ!
彼の左胸にある小さな突起を舌先で軽くなぞり、それから口に含んでみる。
──これなら。
が、彼の表情はあまり変わらない。一気に自分が情けなく思えてくる。それでも何とか
しようと口の中で彼の乳首を転がしたり、舐めあげたり努力した。立場が逆ならば、私は
とっくに言葉にならない喘ぎを漏らし、理性が欲情に負け始めている頃にも関わらず、
彼はまるで何毎も無いかのようにこちらを見ている。
「気持ち良くない……でしょ?」
「気持ち良いというよりは擽ったいですかね。でも、俺、嬉しいです」
彼の言葉の意味が分からず、私は固まってしまう。
「美希さんから、なんて今まで無かったですよね?」
頬にかかった髪を優しく払ってくれた彼の深みを湛えた瞳に思わず私は見入ってしまう。
「いつも、俺の我が侭で振り回してしまって申し訳ないなって思っていました」
「そんなこと思わなくて良いのに」
「そういう訳には……」
お喋りするのも嫌いではないが、今日はそういう気分ではない。彼の上に覆いかぶさり
何か言いたげな唇を塞ぐ。キスだけはヒカル君とこういう関係になってからというもの、
かなり上達したと自分でも思う。
肌蹴た彼の身体に抱きついているだけで──少しはしたないが下腹部が熱く灼けるように
疼き始めていることが分る。心も身体もヒカル君を求めて止まない淫らな自分がいた。
今この時だけは、こんな自分も許されると信じたい。
欲情に駆られるままベルトのバックルに手をかけ、ズボンの前をくつろげる。下着の
上から掌を添えただけでも、彼の”それ”が熱を帯びているがハッキリと分かる。こうやって、
布越し触ることすら滅多にないから、その先となるとまったく未知の領域だ。意識しなくても
心臓の鼓動が速くなり、何だか躊躇いを覚えてしまう。
──私は七つも上なんだから、うまくやらなきゃ。
気持ちを入れ替えて彼の下着に手を掛け、怖々ながらズリ下げるとヒカル君の男性器が
勢いよく跳ね出る。
「やっぱり、ちょっと恥ずかしいんですが」
慌ててヒカル君が、苦笑いを浮かべながら上半身を起す。
「ダメよ。今日は好きにさせてくれるんでしょ?」
「そうかもしれませんけど……なるべくお手柔らかに」
「あら、君が私にしてくれるのと同じだけ優しくするわ」
私がそう告げると、彼は渋々頷いて再びソファに身体を沈める。
人生で初めて、間近に男性の”それ”を見た。
率直な感想は少々グロテスクで、触わることを躊躇ってしまう。だが、ヒカル君の一部
なのだと思い直すと自然に手が動いた。右手で包み込んだ”それ”の形や大きさについて、
詳しい知識はないけれど、今まで不満を感じたことはないのだから、きっと私には丁度
良い形状なのだろうと思う。
取りあえず私は最初に決めた通り、いつもヒカル君が自分にしてくれることを思い
起こすことにした。彼が私の秘所を優しく撫ぜる手つきを思い出し、それを実践する。
「……んっ」
短い吐息が彼の口の端から漏れる。そっと視線を移すと、ヒカル君は目を閉じて眉間に
皺を寄せている。根元から先端まで指を這わせると、ビクビクと彼の”それ”は震えて
どんどん硬く大きくなっていく。
──これって……悦んでくれているんだ。私の手でヒカル君が気持良くなってくれて
いるんだ。
そう思うと嬉しさが湧き上がってきて、さっきまで少し不気味に思えた男性器も
あっという間に愛らしいものに思えてくる。掌で握り締め、指先を絡め、愛撫のスピードを
上げると益々、熱を帯びてくるのが分る。
──もっと、もっと、気持良くなって欲しい。
と、思って無我夢中で手を動かしているうちに、ヒカル君が身を捩る。ふと、気色を
伺うと顔が少し歪んでいる。これが良くない兆候であることは明らかだった。
愛撫を止めて、私は身を乗り出してヒカル君の目を見つめる。彼も彼で突然私の動きが
止まったので、驚いたのか閉じていた目を開いてこちらを見つめている。澄んだ薄茶色の
瞳に僅かに動揺、あるいは困惑の色が滲んでいる。
「ええっと、美希さん?」
「……どうして欲しいの?」
──しまった。『どうして欲しい?』ではなくて、『どうすれば良い?』と言おうと思っていたのに。
これではただのイヤらしい女だとヒカル君に思われてしまう。
でももう、撤回はできそうにない。だから、ただ彼を見つめた。私の一言でヒカル君の目は
一回り大きく見開かれ、顔を真っ赤に染めて恥ずかしそうに口をモゴモゴと動かしている。
「あの、その……もう少しゆっくりか」
速度を落とすのはあまり得策ではないことぐらい、経験の少ない私でも分かる。現に
動きを止めたせいで、彼の男性器は硬さと熱を少しずつ失いつつある。
「ゆっくりか、あるいは?」
ここまで来たら乗りかかった舟である。もう一つの答えも聞かなくては。
「潤滑油代わりに……何か……その」
普段は言い淀むことなどほとんどないヒカル君が珍しく口ごもっている。言葉に詰まり
視線を外す彼の姿など滅多に見られるものではない。
「何かしら、言って頂戴」
興味がある、というのは偽りない事実。彼の望むことを知りたい、彼を悦ばせたい一心
しかない私は思わずにじり寄ってしまう。
「た、例えば……唾液とか……」
消え入りそうな声だったが、二人しかないこの事務所であれば充分に聞き取れる。
──唾液?……それを潤滑油代わりにすれば良いのね。そうか、なるほど。
私は彼の硬く立ち上がった性器の上に、唇を窄め自分の唾液を垂らしてみる。何だか、
背徳的な感じがして胸がざわつくが、自分のものにすることを”唾をつける”というだけに
悪い感じはしない。
自分の唾液に塗れたヒカル君の”それ”に手を添えて、また愛撫を加える。彼の先端から
滲み出る粘液と粘りつく自分の唾とが混ざり合い、動かすたびにクチュクチュといやらしい
音が立ち上る。そしてそれに合わせて、握り締めたものがビクリ、ビクリと震えるから
口元も綻んでしまう。
──そうか。男の人もこうやって、相手が悦ぶときっと嬉しいんだろうな。
そんなことを考えながら、暫く一心不乱に手を動かしていると突然、ヒカル君が上体を
起した。
「はっぅ……ちょ、ちょっと!美希さん!」
「な、何?どうしたの?」
名前を呼ばれ思わず手を止めると、ヒカル君の手が私の背中に回り強く抱き寄せられ、
そのままソファの上で転げ体位が入れ替わる。私の腰の辺りに馬乗りになったヒカル君の
肩がフルフルと震えている。
──な、何!?
突然のことに頭がついていかない。何か彼の気に触ることでもしてしまっただろうか。
「……美希さんのせいですから」
──やっぱり。何か粗相があったのね。
「これ以上、我慢できそうにないです」
「えっ!?」
言うが早いかヒカル君からキスを求められ、彼の舌が私の唇を割り開いて侵入してくる。
彼の右手はジャケットを押し広げ、シャツの上から私の胸をまさぐる。そして、もう一方の
手がスカートの内側に走り、内腿を優しく摩り上げられる。
「んん……どうした……の?」
「前言を撤回して申し訳ないのですが、あのまま美希さんにやってもらっていると、手の
中でイッテしまいそうだったもので」
──えっ!?そ、それはズルイ。自分は何度も私を無茶苦茶にするくせに……。
抗議の意志は彼のあやすような手つきの愛撫が呼び起こす快感によって、すぐさま押し
流されてしまう。気がつくとシャツのボタンは外され、下着はたくし上げられて自分の
お世辞にも大きいとは言えない胸の膨らみと淡い色の先端が露になっていた。しかも
スカートは脱がされ、ショーツも見事に剥ぎ取られていた。
──やっぱり、私なんかより手馴れているわ。
きっと、私以外の女性を一杯抱いているからなのだろう。そう思うと何だか悔しいような
淋しいような思いと共に、彼を独占したいという暗い欲望が蠢く。いつもいつもそうだ。
彼に抱かれる度に、この疚しい想いが込み上げてくる。
──最低だな…………私って。
頭でも分かっても、心が言うことを聞かない。彼と肌を合わせるたびに湧き上がってくる
この感情を未だに持て余していた。
しかし、彼の指が私の中に入ってきた瞬間、意識は一気に彼との行為に引き戻される。
そして、思わずこれから起こることを想像して戦慄いてしまう。
「ぁぁあ、んんぅ」
意図しなくても荒い息が洩れてしまう。事務所の中だから、できるかぎり声を押し殺そうと
思っていたがもう限界だった。彼が指で掻き回すと、自分の恥ずかしい所から淫らな水音が
立ち上がる。そして、彼の愛撫が呼び覚ます背筋を焦がす刺激に合わせて何度も身体が
跳ねてしまう。
「はっ、ぁ……だ、ダメ!……も、もう」
もう何度目だっただろうか、込み上げてくる愉悦に理性が溶けていくのが分かる。本能の
赴くままにはしたない声を上げ、私は身体を大きく反らして果てた。
──気持ちいい……おかしくなるぐらい。
荒い息を吐きながら、弛緩した身体をソファに沈めた私をヒカル君が眺めていた。
「あの……」
「もう良いわよ。今度は君の番」
私の言葉を聞いたヒカル君はゆっくりと私の濡れそぼった秘所に宛がう。それだけでも、
ピリピリとした心地よい刺激が駆け巡り、全身が期待で総毛立つ。ゆっくりと彼の先端が
私の入り口を割り開き、少しずつ奥へ奥へと進むのがハッキリ分かる。そして、彼の熱い
ものが私の内側に全部埋まると、私は深い充足感に包まれた。
深いところで繋がっている──と感じるのは私の勝手な想い。ヒカル君にしてみれば、
私はただの気分転換の相手であり繋がるとか繋がらないなんて、きっと意識していない
だろう。でも、私はそう思うだけで、いつでも信じられないぐらいに幸せな気持ちになれる。
贅沢だとは思うが、一つ不満があるとすれば彼の熱をゴム越しにしか感じられない点だ。
初めての時だけは、ヒカル君の動揺の隙を突いてそのままで行為に及んだが、その後は
彼が避妊具を欠かしたことはない。私は大丈夫な日は構わないのだが、ヒカル君は
絶対に譲らない。私が避妊具はなしでも良いと言うと、彼は「子供ができたら
どうするんですか」と苦笑いを浮かべてやんわりと私の言葉を拒絶する。そう言われてしまうと、
私も「そうね」としか口にできない。でも本音はもし授かったならば是非、産みたい。勿論、
ヒカル君に迷惑は掛けないから産ませて欲しい。シングルマザーだとしても愛する人の
子供となら、きっと幸せに──。
そんなことを思いながらソファの上で抱き合っていた。しかし、ソファは本格的な行為に
及ぶには少し狭く、彼は思うように動くことができなかった。そのせいで、彼が求めた姿勢を
渋々取ることにした。
その結果、私は立ったままソファに両手をついてお尻を突き出すというあられもない格好で
背後からヒカル君に突かれている。
「はっ、恥ずかしい……んぁああ……ぅんっ」
普段は向き合って、彼が上でしかやったことがない。こんな恥ずかしい姿勢は初めて
だった。でも、羞恥に混じって自分が興奮していることは紛れもない事実だ。ヒカル君が
与えてくれる快楽とならば、どこまででも堕ちていけそうな気がする。
「ん……はぁぁ、っうく!!」
一際激しくヒカル君が私の内側に打ち込む。痺れにも似た感覚が身体の奥から
表層へと伝わり、意識は強風の中で舞う木の葉みたいに頼りなく快感に流されてしまう。
何度も何度も達しているせいで、身体はおかしいぐらいに敏感になり、ヒカル君が
突き上げ、擦り、抉るたびに繰り返し波が襲ってきて、まともに正気を保っていられない。
それでも、暫くヒカル君と愛し合っていなかったせいで、どれだけ感じても渇きが
収まらない。ずっと続いていた一人寝の夜に身体が疼いたことは一度や二度ではない。
彼と出会うまでそんなことは無かったが、ヒカル君と交わってから、私の身体は女の悦びに
目覚めてしまったのだろう。幾度も自分で慰めてみようかとも考えたが、いつも寸での
ところでその惨めさから思い留まった。だから、やっと求めていたものを与えられた今の
幸福感はとても言い表せない。
──ま、また!ダメ……。
もう何度目の絶頂だっただろうか。朦朧とする意識と満たされた感覚に、そのままソファに
倒れこもうとした瞬間、ヒカル君が私の手首を掴み脱力した私の身体を引き起こす。
自分の身体のはずが、まるで空に浮かぶ凧みたいだ。彼は私を引き上げると後ろから抱き
すくめ耳元で甘く囁いた。
「ごめんなさい。美希さん。もう少しだけ」
ねだる様な声の呟きに混濁した意識の私が頷くと、ヒカル君は背後から私を包みこんだ
ままリズミカルな抽挿を再開する。彼が腰を揺する度に、私の身体はガクガクと震え、床に
踏ん張った両脚も膝から崩れ落ちてしまいそうだ。でも私を優しく包み込むヒカル君の両腕は
それを許してくれない。
「はっ……お、お願い……ひんっ……ダメ……もうダメ」
駆け巡る快感と僅かで狂い出しそうになる自分に堪え切れず口を突いて出たのは懇願の
言葉だった。心はまだまだ彼を求めていたが、身体はもう既に限界を超えて快楽を貪っていた。
「許して…ぁああ…………お願……い」
そのまま視界が白くなり、私は意識を手放した。
◆ ◇ ◆
「……き…さん、み………ん、………さん」
心地良い倦怠感にまどろみながら、耳元で囁く優しげな声に少しずつ意識が戻り始める。
瞼を開くとすぐ前に私を覗き込む彼の顔があった。
「きゃっ!ヒ、ヒカル君!?」
「ああ、良かった。ごめんなさい。ちょっと無茶しちゃいました」
仕掛けた悪戯が思わぬ方向に転んでしまった子供みたいに彼は純粋な苦笑いを浮かべて
いる。そして、ヒカル君の細い指がそっと私の額に掛かる数条の髪をかき上げる。そうやって
触れてくれるだけでも再び背筋をゾクゾクした感覚が駆け上る。
「びっくりしましたよ。呼んでも応えてくれないんですから……すいませんでした」
彼が頭を下げる理由が行為の余韻で鈍った私の頭では理解できず、茫洋とヒカル君の
顔を眺めることしかできない。
「怒ってますか、美希さん?」
何の反応も示さない私に慌てたのか、ヒカル君は切れ長の瞳を不安げに揺らしながら
赦しを乞うようにこちらを覗き込んできた。
「そ、そんなことないわよ」
自分の演じた痴態を思い出すと、赤面するのを抑えられない。あまりの恥ずかしさに
ソファの上で抱えた膝に顔を埋めようとしたところで気がついた。私の衣服はちゃんと
整えられ、まるで何事もなかったかのようだ。それに彼と繋がっていた部分もベタついて
いる感じがしない。そう思って顔を上げると、彼が手にタオルを持っていることに気がついた。
「それ」
「すいません。勝手にタオル使っちゃいました。新しいのを買ってきますから」
「良いのよ。タオルなんか……」
彼の優しさに心がじんわりと温かくなった。
私の身繕いを優先したからだろう、ヒカル君はまだシャツが開いて胸が露なままだった。
だから、私は彼をソファに座らせ、お返しにボタンを掛けてあげた。
「あの、美希さん。それぐらい自分で」
「ダメよ、お返しだから。そう言えば、ヒカル君が探していた忘れ物って何かしら?私も
手伝うから教えて」
その途端、ヒカル君が珍しくうろたえた表情を見せる。
「いえ、べ、別に!その……ええっと、もう見つけたので、大丈夫です」
目を泳がせて答える様子に違和感があるが、本人がそういうのだから深い詮索はしない
ことにしておこう。あらぬ方向に視線を反らした、ヒカル君の顔は何だかほんのり赤い。
──一体、何だったのかしら。彼の忘れ物は?
(了)
以上です。
前篇にコメント頂戴した方、ありがとうございました。
また、どこかで。
あぁー!
二人の距離感がたまらない!!
>>58 畜生、最高に盛り上がってきたところで終わりか!!
だがGJすぐる!!
>>58 GJ!
この終わり方…、続きがあることに期待せざるを得ない…
>58
待ってました!!たまらん
またどこかで読めると嬉しいです
久し振りに年の差分を補充出来たぜ
29歳の女の人は食べ頃だと俺の煩悩が告げている
スカイ・クロラを観
誤爆な上に途中送信しちまった、すまん
68 :
名無しさん@ピンキー:2008/08/13(水) 00:54:53 ID:sTZ3MTYB
なんだよ、続きが気になるじゃないか
コミケで年の差エロ同人誌を買い漁ってきますた
これで1ヶ月は戦える
zipで
年の差分が足りないぞ、なにやってんの!!
スカイ・クロレラを観
じゃあ年の差分を補うために誰かオススメの年の差作品を紹介してくれ
自分はエロゲの『世界でいちばんNG(だめ)な恋』をオススメしておく
夏への扉
スカイ・アセロラを観
魍魎のハコ
天使の卵は抜けるし泣けるよな
>>77 >天使の卵は抜けるし泣けるよな
あれは眠かった
天野喜孝の絵を動かすのが難しいのはわかるのだが
声は根津甚八と兵藤まこしか出てこず、ふたりとも
あまり滑舌が良く無くって、ぼそぼそしゃべってるだけ
映画館で寝たのはあれだけだな
もう20年以上前の話だ
スカイ・フィッシュを捕
ドジっ子(*´Д`)ハァハァ
年上のドジっ子と申したか
G・スカイに乗
ラノベだけど「キーリ」に禿萌えた
歳を取らない青年と14歳少女が旅をするって設定だけでごはんが食べられる
85 :
名無しさん@ピンキー:2008/09/03(水) 22:30:13 ID:Oglp6mDv
>>84 『キーリ』は手代木史織の漫画版なら読んだことがある。
エロさは無いけれど物語として面白かった。
生きている人間と仲良くできない孤独な女の子(主人公)が、
苦悩しながら永遠を生きる男に心を開いていくという設定が良かった。
スカイ・パーフェクトTVに加
>>84 個人的にキーリは1巻で読み終わるのが吉かな
二人がどんどん傷ついていくのが辛いというか……
「機工魔術士」が好き
憧れの幼馴染みのお姉さん(六歳上)のために頑張る主人公に好感が持てる
あとは小手川ゆあの漫画かな
「おっとり捜査」とか「ARCANA」とか「死刑囚042」とか
一巻で止めといた方がいいのかぁ。
そうだよなぁ、どう考えてもずっと一緒にいても、その先にあるのは切ない現実だもんね。
キーリは時間を止められないからさ。
でも昨日から二巻読み始めちゃった…。ハーヴェイがいつ手を出すか妄想しながら頑張るよ。
ほかのオススメも読んでみる。ありがとう。
前スレで書いていたssの続きを投下します。
プルルルルル!プルルルルル!プルルルルルル!
ベッドで横になっているところに掛かってきた電話。
正直、電話に出るのも面倒なくらいに頭がフラフラで、身体も熱を帯びている。無視しちゃおうかな?
でも毛利さんからだったら、お礼を言わなきゃいけないし、
明日仕事に出れるかどうかも言わなきゃいけないし……静馬君、1人で心細いよ。
恋人が辛い目に会っているのに、今、君は何をしているの?
早く会いに来てよ……ギュッと抱きしめてアタシを温めてよ。
はぁぁ〜……仕事、休んじゃったなぁ。代わりに出てくれた毛利さんにはお礼をしなきゃいけないわね。
静馬君の部屋で倒れてしまったアタシは、夜遅くになって、意識を取り戻した。
そのままタクシーを呼び、夜間診療をしている病院へと行き、お医者様に診察してもらった。
疲労が蓄積してたところに風邪を引いちゃったんだって。
しばらくは安静にして、大人しく寝ているようにって言われちゃった。
大人しく寝ているようにって言われても……そう簡単には仕事、休めないのよねぇ。
今日は毛利さんに代わってもらえたけど、明日は無理だと思う。
となると、今日中に熱を下げて、働ける身体にならなきゃね!
……はぁぁ〜、静馬君、会いに来てよ。一人じゃ寂しいよ。
「はい、守屋です」
フラつく足取りで電話に出たアタシの耳に入ってきた声は、一番聞きたかった声だった。
『麗菜さんですか?静馬です、昨日はどうもすいませんでした』
無視しようかと思っていた電話の主は、一番話したいと思っていた静馬君。
危ない危ない、せっかく電話してくれたのに、無視するところだったわ。
「ううん、別に気にしなくてもいいよ。……おかげで一人で寂しく悲しい夜を過ごせたしね」
『う!……もしかして怒ってますか?』
「あははは!怒ってなんかないよ。……ただちょっとムカついてるだけ」
『やっぱ怒ってるじゃないですか!』
うふふふ、こうしたちょっとした会話で元気になれる。
さっきまでフラフラで、布団から出るのも億劫だったのにな。
好きな人の声っていうのはどんな薬よりも効果があるわね。
「うふふふふ、怒ってなんかないわよ?ただ、帰ってきたら覚悟しなさいね?」
『か、覚悟っすか?』
「そ、覚悟。だって恋人に寂しい夜を過ごさせたんだよ?……6回くらいかなぁ?」
『ろ、6回?』
「そ、連続6回。抜かずに6回」
『れ、れんぞ……抜かずに?ひ、ひでぇ!それじゃ拷問じゃないですか!』
「あはははは!冗談よ冗談!話半分で聞いていいわよ」
そう、話半分で聞いてね?という訳で、抜かずに3回頑張ってね。
『ビックリさせないで下さいよ。いくら俺でも6回は無理っすよ。
明後日には帰れると思いますから、帰ってから埋め合わせしますんで』
「うん、楽しみに待ってるわ。カレンダーに○印つけちゃおうかな?」
『ははは、待っててくださいね。じゃ、これで電話切りますね』
「え?もう?もう少し話そうよ。せっかく静馬君が電話してくれたんだから、もう少し話したいなぁ」
『すんません、あまり離れてると文句言われるんで』
「文句って何?そんなの言わせておけばいいのよ」
恋人との電話よりも優先するなんて、生意気ね!文句って誰が言ってくるのよ!
……もしかしてご両親?なら仕方ないわね。面倒な女と付き合ってるなんて思われたくないしね。
……静馬君、ご両親にアタシと付き合ってるって言ってくれてるのかな?
『じゃ、麗菜さん、また明日電話しますね。……おやすみなさい』
「うん、楽しみに待ってるから。静馬君、おやすみ」
せっかくの静馬君からの電話。
静馬君が電話を切ってもアタシはなかなか受話器を置くことができなかったわ。
……おやすみ?え?今ってそんな遅い時間なの?
慌てて時計を見てみる。……午後11時過ぎ。
えええ?もう11時なの?アタシ、今日一日ずっと寝てたんだぁ。
だからかな?少しは体調がマシになってる気がする。これなら明日は問題なく働けそうね。
そんな事よりも早く寝なきゃ、明日の仕事に響くわ。
静馬君の声も聞けたし、いい夢を見れそうな気がする。
愛する人の声を聞いて軽くなった足取りで、布団へと向かうアタシ。
そんなアタシの耳に、また電話の呼び出し音が聞こえる。
(また電話?もしかして静馬君かな?うふふふ、やっぱりまだ話し足りないんだ?)
慌てて受話器を取り、電話に出る。よし!今日は一晩中話しちゃおう。寝かせないからね?
「はいもしも〜し!麗菜で〜す!」
自分でも分かるくらいに上がっているテンションのまま電話に出てしまう。
これで毛利さんとかだったら、職場で何を言われちゃうか分かった物じゃないわね。
アタシがウキウキで出た電話の主は、毛利さんじゃなく、静馬君でもなかった。
電話の主は……前の旦那、島津義明だった。
『もしもし、麗菜か?俺だよ、義明だよ。なんかご機嫌な声してるな、いい事でもあったのか?』
「……アンタの声を聞いて不機嫌になったわよ。いい加減にしてよ!アンタ、いつまでアタシに纏わり付くわけ?
今アタシは幸せを掴むチャンスなの!邪魔しないでよね!」
せっかく静馬君からの電話だと思ってたのに……最低だわ。
そうだ、今度の休みにでも電話番号を変えてやろう。もう二度とコイツの声なんか聞きたくないわ。
『そ、そうか、邪魔する気はないんだ、すまない。今日電話したのはだな、俺、新しい就職先が決まったんだ』
「あら、そうなの?それはそれは……で、そんなどうでもいい事をアタシに言って、どうしたいわけ?
まさか、就職したからよりを戻せるかもなんて考えてるの?アンタとよりを戻すなんてありえないから」
コイツが浮気をしたせいで……コイツが浮気相手を妊娠させたせいでアタシの人生は狂ったのよ!
妻のアタシを妊娠させなかったくせに、浮気相手を妊娠させるなんて……馬鹿にするにも程があるわ!
新しく就職先が決まったからって許すわけないでしょ!ふざけないで!
『……すまない。酒に酔っていたとはいえ、あれについては言い訳もできない、俺がバカだった。
今日電話したのはだな、よりを戻すとかじゃないんだ。
俺のバカな行いのせいで苦労をさせてしまっているお前に、少しでも罪滅ぼしをしたいんだ。
俺も職が見つかり、ある程度の収入が見込めるようになった。
そんなに多くは払えないが、罪滅ぼしとして、お前に慰謝料を払いたいんだ』
……慰謝料?え?お金を貰えるの?やったぁ〜!これで少しは生活が楽になるわ!
引っ張れるだけ引っ張ってやる!苦労をさせられた仕返しよ!
「ふ、ふぅ〜ん、慰謝料ねぇ……今さら偉そうに言って、そんなもの払って当たり前でしょうが!」
『ぐぐ……す、すまない』
「ま、貰える物は貰うわ。アンタのせいで苦労してるんだからね」
『あ、ああ、分かった。で、お前はいくらくらい欲しいんだ?』
「そうねぇ……ひと月に10から20かな?」
『じ、10から20?む、無理だ!そんなには払えない!』
「はぁ?偉そうに電話してきて払えないだぁ?ふざけてんじゃないわよ!」
しまったなぁ、ふっかけ過ぎたかな?そういえば慰謝料の相場っていくら位なんだろ?
『払えてひと月6〜7万くらいだ』
「6,7万?少ないわねぇ、そんなはした金で慰謝料にするつもりなの?」
おおお!6万円も貰えるの?それだけあれば生活もだいぶ楽になるわ!
「ふ、ふぅ〜ん、7万円かぁ……ま、いいわ。それで手を打ってあげるわ」
『7万?わ、分かった、7万円振り込むようにするよ』
「アンタのせいで苦労をしてるんだから、今月分から振り込みなさいよね!」
『わ、分かった、今月分から振り込むようにする。
とりあえず、振込口座や、振り込む期間を話し合いたいんだが、一度会ってもらえないか?』
え?会う?アタシが浮気者のコイツと?なんで会わなきゃいけないのよ!
アンタはお金を振り込んでおけばいいの!静馬君に誤解されたらどうするのよ!
「……嫌よ!アンタと顔をあわせるのも嫌なの!振込先や振込み期間は、そうねぇ……また明日電話してきなさい。
明日、教えることにするわ。明日の夜12時過ぎに電話してきて。その時に教えるから」
『あぁ、分かった。明日の夜12時過ぎだな?……麗菜、今付き合っている男は、お前に優しくしてくれる男なのか?』
「……少なくともアンタなんかよりはね。じゃ、明日電話してきなさいよ」
最後の言葉に苛立ちながら電話を切る。
優しくしてくれるのかって?当たり前じゃない!
静馬君は浮気者のアンタなんかと違って優しくしてくれるわよ!……そう、なのかな?
アイツはアタシのことが好きだったけど、お酒に酔って意識していないうちに浮気をした。
静馬君は、アタシと付き合い好きだと言ってくれているけど、本当は別に好きな子がいる。
本人は気づいていないんだけどね。……どっちが優しいんだろ?
アタシのことが好きだけど、意識せずに浮気をしてしまったアイツと、
アタシを好きだと言ってくれてるけど、ホントに好きな子は他にいる静馬君。
どっちが……優しいのかな?
自分の気持ちとは関係なく浮気してしまったアイツ。
自分の気持ちに気がつかず、ホントは好きでもないアタシと付き合ってる静馬君。
どっちが……アタシにとって、本当に優しいのはどっちなんだろ?
「守屋ちゃん、風邪はもう大丈夫なのかい?急な話だったから、おばさん心配しちゃったよぉ」
「毛利さん、昨日は急に休んじゃって申し訳ありませんでした!」
午前中に病院に行き、点滴を打って貰ってから出勤する。
お店に着くと、毛利さんが心配そうな顔をして、アタシを迎えてくれた。
「やっぱり無理しすぎだったんだねぇ。それともアレかい?静馬君に無理させられてるのかい?」
「そ、そんなことないですよ!静馬君は……優しいですよ」
そう、静馬君は優しい……よね?
アタシに優しく接してくれてるのが本当の静馬君、だよね?
「や、優しいのかい?そうかい、静馬君は優しく攻めてくれるんだねぇ」
もし……もしも、だよ?
もしも静馬君が自分の気持ちに気づいて、ホントは彩ちゃんが好きなんだって気づいても……優しくしてくれるよね?
「きっとアレなんだろうねぇ。SEXの最中も耳元で『毛利さん、愛してるよ』とか囁いてくれるんだろうねぇ!
ヤダよぉ!おばさん濡れてきちゃうよぉ!この疼きは直ちゃんでも呼び出して治めようかねぇ」
妊娠しても責任取ってくれるよね?……アイツみたいに彩ちゃんと浮気なんてしないよね?
アタシを……捨てたりしないよね?
「守屋ちゃん?やっぱりまだ寝てたほうがいいんじゃないのかい?ボ〜っとしてるよぉ」
「……へ?だ、大丈夫ですよ!ちょっと寝すぎてまだ頭が起きてないだけですから!
1日休ませてもらったんですから、今日は働きますよ〜!」
腕まくりをして力こぶを作ってみせる。まぁ殆どでないんだけどね。
「う〜ん、ホントなのかねぇ?おばさん、心配だよぉ」
「大丈夫ですって!念のために点滴も打ってきたし、もう元気全開ですよ!」
「家に帰って静馬君に看病される方がいいんじゃないのかい?
濡れタオルで汗を拭いてもらい、そのまま押し倒されて……やだよぉ!おばさん、もう濡れ濡れだよぉ!」
いったい何を想像しているのか分からないけど、嬉しそうに話す毛利さん。
でもアタシは全然嬉しくない。……静馬君、君の彼女が苦しんでいるんだよ?
そりゃ御両親も大事だろうけど、君の大事な人が苦しんでるんだよ?
それに、ね?もしかしたら、もしかしたらだよ?……君の子供も苦しんでるかもしれないんだよ?
まだ検査してないけど、最近はずっと生でしてるから、きっと妊娠してるはず。
お腹を撫でて、妊娠していることを祈る。……はぁぁ、アタシってほんっとに卑怯な女だよね。
彩ちゃんに勝つためだといって、こんな卑怯な手を使うなんて……彩ちゃん?
そ、そういえば今、静馬君は実家だよね?ということは……もしかして彩ちゃんと会ってるんじゃないの?
だ、大丈夫、よね?昨日も電話してくれたもんね?今日も電話してくれる約束してるしね?
「……守屋ちゃん、ホントに大丈夫なのかい?なんか表情が百面相みたいにクルクルと変わってて面白いよぉ」
「……へ?んな!なんでもないです!さぁ今日も気合入れて働きますよぉ〜!
接客はいつもニコニコ爽やかに!さ、いきましょうか、毛利さん!お客様がアタシ達を待ってますよ!」
風邪が治ってないせいか、嫌な考えが頭をよぎる。
そんな考えを振り払うかのように必死に働くアタシ。
そのおかげで嫌なことを考える余裕もなく、仕事は無事にこなせたわ。
ただ、頑張りすぎたせいで、治りかけてた風邪をぶり返しちゃったみたいなの。
今夜は静馬君から電話があるんだから、頑張らなきゃ。
元気のない声を出して、心配なんかさせちゃいけないわ。頑張れ!アタシ!
ふらつく足取りで、部屋へと帰りついたアタシ。
化粧も落とさず、布団に倒れこむ。熱と疲れでウトウトしだしたところへ掛かってきた電話。
電話の相手は、もちろん待ちに待った静馬君。たくさんお話して風邪なんか吹き飛ばすパワーを貰わなきゃね!
「ねぇ静馬君、明日、帰ってくるんだよね?」
『えぇ、明日には帰るつもりです。いつまでも仕事、休めないですからね』
一晩ぶりに聞く静馬君の声。あぁ、なんか癒される気がするわ。
でもね、仕事ってなに?そこは嘘でもいいから、『アタシに会いたいから帰ります』って言ってよね!
「……うん、待ってる。あ〜あ、早く君と会いたいなぁ」
会って元気を分けてちょうだいよ。君の元気をアタシに注いでよ。
『ははは、俺も麗菜さんと会いたいですよ』
「あら?会いたいだけ?ホントは早くエッチしたいんでしょ?」
『れ、れれれ麗菜さん!なに言ってるんですか!』
あははは、カワイイなぁ。ちょっとした冗談で慌てるウブな静馬君。ホントにすっごくカワイイ。
静馬君がカワイイせいか、熱のせいなのか……体が疼いてきちゃった。
「アタシは……したいよ?君と、すっごくエッチなことしたい」
『れ、麗菜さん?どうしたんですか?なんか様子が変ですよ?』
「ウフフフ、確かに変かもね?」
熱のせいか、普段のアタシよりもすっごく大胆になっている。
体が静馬君を求めて、疼いている。エッチしたいと疼いている。犯して欲しいと疼いているの。
でも静馬君は電話の向こう。今すぐにアタシを犯してはくれない。
……なら電話越しに犯してもらおう。じゃないと体が疼いておかしくなっちゃうわ。
「……ね、静馬君。エッチしよっか?」
『俺もすぐにでもしたいです。明日、そっちに帰ったら、俺の部屋に泊まりに来ませんか?』
「うん、言われなくても泊まりに行くわ。でもね……今すぐエッチしたいの。君としたいのよ」
『は?今すぐって言われても……』
「静馬君、アタシ今から服を脱ぐね?だから……君も脱いで」
仕事でクタクタに疲れて、熱でフラフラ。
普通ならエッチなんかしたくない状態なのに、何故かさかってる。
アタシって、こんなにエッチな女だったっけ?
『麗菜さん!冗談は止めてくださいよ!』
「うふふふ、冗談じゃないよ?アタシね、ショーツを脱いじゃった。下半身裸よ?
君がつけてくれたキスマーク、もう消えちゃってるの。
今ね、君がキスマークをつけてくれた時のこと思い出して、そこを触ってるの。
足の付け根のアタシの入り口のすぐ側。君がいつも舐めてくれるところのすぐ側を。
ん……時々ね、入り口を触っちゃったりしてね、あん……気持ちいいよぉ」
太ももの付け根にそっと触れてみる。
まるでアタシの指が静馬君の指になったみたい。……ますます体全体が疼いてくる。
入り口にも指を這わしてみると、『クチュ』とイヤらしい音を出し、体が静馬君を欲していることをアピールしてる。
「ん、んん……ねぇ静馬君、聞こえるかな?アタシね、クチュクチュにね、濡れちゃってるの。
君にね、あん!してね、もらってるみたいにね、ん、やん!感じちゃってね……気持ちいいの」
「れ、麗菜さん……マジでするんですか?」
ハァハァと息荒く、声も少し震えている静馬君。
「ん、マジでするわよ?君がね、あぁ……アタシを相手にしない君が悪いの。
さ、君の触ってみて。ん、今から君の手はアタシの手。……アタシの指は君の指。
いつもアタシがしてあげてるように君のを触ってみて?」
電話越しに聞こえる服を脱ぐ音。ハァハァと興奮した様子の静馬君の荒い息。
静馬君も興奮してくれたんだ……今夜はたくさん気持ちよくしてね?
『麗菜さんの指が俺の胸をやさしく這って……うぅ、メチャクチャ気持ちいいですよ』
「ん、君の指もね、あん!アタシの胸を揉んでね、乳首をつまんでるの。
乳首を弄りながら、あん!アタシの中に入ってきて、クチュクチュ掻きだしてるの。
もうね、立ってられない位に気持ちいいの……ねぇ静馬君、胸、噛んで」
電話を首に挟み、左手で胸の先端をやさしく弄りながら時折キュッと摘む。
いつも静馬君がしてくれているエッチな行為。
右手はアタシの入り口に入り込み、クチュクチュと掻き出すように蠢いている。
電話越しに聞こえる静馬君の興奮した荒い息。
もうアタシの指は自分の指じゃなくなった。
今アタシを弄っているのは静馬君。胸を揉んでいるのは静馬君。
アソコを弄り、掻きだしているのも静馬君。
今、アタシは、静馬君に抱いてもらっている。電話越しだけど、抱いてもらっている。
電話越しでも静馬君の体温を感じている。あぁ……やっと抱いてもらえたんだ。
風邪なんか吹き飛ばすくらい激しく抱いてね?……ねぇ静馬君、いつものように、優しく噛んで。
『麗菜さん……すっげぇ感じてるんだ。こんなに乳首、立っちゃって……ヂュチュ、ヂュヂュヂュ!
「ひゃあん!つ、強い!静馬君、強く吸いすぎ!き、気持ちいい!凄くいいよぉ〜!」
静馬君の指を吸う音が聞こえた瞬間、胸を弄っていた指が勝手に乳首を抓り上げる。
抓って引っ張って……まるでホントに吸われてるみたい。
静馬君が電話越しに吸い上げる度に感じてしまい、頭の中が真っ白になる。
「気持ちいい!静馬君気持ちいいよぉ!ねぇ静馬君、アタシにも触らせて!君のおっきくなった物、触らせて!」
『えぇ、俺も我慢できないです。触ってください。麗菜さんを感じて完全に勃起しちゃってますから』
「あん……おっきくなってるのね?あぁ、凄く熱いわぁ……ちゅ、ちゅぢゅ……ちゅぢゅ、ずずずず」
アタシの指は静馬君の指。……アタシの指は静馬君のアソコ。
いつもアタシを貫いて、アタシを狂わせる静馬君のたくましいアソコ。
電話越しの静馬君に聞こえるように指を口に含み、わざと音を立てたてチュバチュバ攻める。
口の中に広がる気がする少し苦い味。いつも静馬君の先から出る透明な液体が口の中に溜まってる気がする。
アタシはそれをゴクゴクと飲み干し、さらに攻めあげる。
『あぁ、麗菜さんの口、すっげぇ気持ちいいです。俺にも麗菜さんを舐めさせてくださいよ』
「ぢゅ、ちゅぢゅ……あん、ダメよ。君がね、アタシを相手にしてくれなかったからもう我慢できないよ」
『そんなぁ、俺も舐めたいっすよ』
「ダ・メ。……もうね、アタシね、ドロドロになってるの。
指が濡れてベタベタになってて君を欲しがってるの。『早く君の精液を注いで欲しい』ってね」
ホントはアタシも舐めて欲しいけど……もう我慢できないわ。
君がアタシを相手にしてくれないからなんだよ?……入れて。早くアタシを犯して。メチャクチャにして!
『麗菜さん……俺も我慢できないっす!……入れます。濡れてべたべたになってる麗菜さんに入れます!』
「あん!……あぁ、静馬君がアタシを貫いてきたよぉ。……いいよぉ、気持ちいいよぉ!」
静馬君の声を聞きながら、指を中に入れる。キュキュキュっと締め付けてくるアタシ自身。
まるで静馬君が入ってきたことを喜んでいるみたいに。……ゴメンね?これ、アタシの指なの。
でもね、今日だけは静馬君のアソコだからたくさん入れてあげる。いっぱい気持ちよくなろうね?
『うあ!すっげぇ熱いです!熱くてヌルヌルで……キュキュって締め付けてきて最高です!』
静馬君も自身の指でアタシを感じてくれているのか、気持ちいいと声を上げてくれる。
うれしいなぁ……君もアタシを求めてくれているんだ?……んん!
「い、今ね、グチュグチュとね、犯されてるの。ああ!犯しながらね、クリトリスをね、弄られてるの」
『麗菜さん、入れられながら触られるのが大好きですからね。いっぱい触りますよ?』
「あん!触って!もっと激しく弄って!」
首に電話を挟んだまま座り込み、片手でグチュグチュとあそこを掻きだし、
もう片方の手で、いつも静馬君がしてくれるようにクリトリスを弄る。
グチュグチュと掻きだしながら、クリトリスをクチュクチュと指で押さえつけるように弄る。
いつも静馬君がしてくれているように……電話越しの激しい行為でアタシは一気に上り詰めはじめる。
「静馬君!静馬君!もっと、もっと犯して!好きにして!」
『うぅ、麗菜さんのが俺をキュキュキュと締め付けて……やばいっす、気持ちよすぎて出ちゃいそうです!』
「あん、まだダメよ。もう少し、アタシはまだイケそうにないわ。もう少し待って……」
『ダ、ダメだ!もう出る!……うっ、く、ううぅ』
苦しそうな声を出したかと思うと、ハァハァと荒い息を吐く静馬君。静馬君、もしかしてイっちゃった?
「あ、ん……もうイっちゃった?……今日はいつもより早いね」
電話越しに流れる気まずい空気。しまった!早いとか言っちゃダメだったわ!
『……あぁ、まずいっすよ……床に出しちゃいました』
よっかたぁ、早いとか言っちゃったのを気にしてたわけじゃないんだ。
……ティッシュを用意する暇もなくイっちゃったの?静馬君、かわいいなぁ。
「あははは!床に出しちゃったんだ?我慢できずに出しちゃったの?……そこまで気持ちよかったんだ」
『はい、最高でした。たまにはこういうのもいいっすね』
「たまにはいいかもね?まぁアタシはイケなくて欲求不満だけどね」
ホントは君の体温を直接感じたいんだけどね。今回は特別だよ?
『ぐぅ!……早くてすみません』
「あははは!ま、いいわよ。電話越しでも静馬君を感じることが出来たんだし。続きは明日、ってことでね」
『はいっす!明日は今日の分までがんばりますよ!』
「あははは!期待してるわよ」
『任せてください!すんません、あまり離れてるとうるさいんで、そろそろ電話切りますね』
「うん、早く明日になればいいね。……うるさいってご両親のこと?もしかしてアタシ、迷惑かけちゃってる?」
恋人であるアタシとの電話にうるさく言ってくるのであれば、アタシにいい印象派を持っていないはず。
……あれ?アタシ、何か失礼なことしたのかな?もしかしてバツ1のことがネックになってる?
いやいやいや、静馬君ですら知らない離婚のことを、ご両親が知ってるわけないわ。
じゃあなんで迷惑かけちゃったんだろ?もしかして静馬君がアタシのことを変に紹介したのかな?
……年上の恋人だって紹介してくれたのかな?アタシが年上だからかな?
『はははは!俺の親じゃなくて、前に話したことがあると思うんですけど、隣に住んでる彩って子ですよ』
……彩?アタシと話してたら、彩ちゃんがうるさいから電話を切る?
『今回の帰省だって、彩が熱がでて死にそうだって話だったから慌てて帰ってきたのに、ただの風邪でしたからね』
え?実家に急用が出来たって、彩ちゃんのことだったの?
『せっかく帰ってきたのに、彩の相手ばかりしててゆっくりと休めなかったんですよ』
「……その子はもう元気になってるの?」
『えぇ、慌てて帰ってきたらほとんど治ってましたね。ならなんで俺を呼んだんだって話ですけどね』
静馬君の言葉に、さっきまで感じていた幸せな充実感は消え去った。
アタシはまだ熱が引かずに苦しんでいるんだよ?それなのに君は……彩ちゃんを選んだの?
『病気にこじつけて、いろいろやらされましたからね。りんごの皮むきや料理まで作らされましたよ』
アタシが苦しんでるときに、そんなことをしてたんだ?
アタシが苦しんでることは、気づいてくれなかったのに……君にとってアタシはいったいなんなの?
『ホントに手のかかる我儘なやつなんですよね。じゃあ麗菜さん、相手をしないとうるさいんでこれで切り……』
ガチャン!
静馬君に切られる前に電話を切る。悔しくてたまらない。涙が溢れて止まらない。
静馬君、彩ちゃんのために、会社を休んでまで実家に帰ったんだ。
アタシと会う約束を無視してまで、彩ちゃんを選んだんだ。
静馬君は、アタシが風邪で苦しんでいることを知らない。
でも、知っていてもアタシじゃなく、彩ちゃんを選んだんじゃないの?……多分、選んでるんだろうな。
じゃなきゃ会社を休んでまで会いに行かないよ……悔しいよ。アタシじゃ静馬君の中の彩ちゃんを消せないの?
アタシじゃダメなの?……まだ手はあるわ。そう、静馬君の子供さえ妊娠していれば……うん、きっと大丈夫。
結構危ない日でも生でしてたしね、きっと妊娠しているはずよ!
……貴女が悪いのよ。病気にかこつけて、静馬君を独占しようとした貴女が悪い。
そう、彩ちゃんが悪いの。アタシの静馬君を誘惑する貴女が悪いのよ。
……こうでもしなきゃ、アタシに勝ち目がないんだから仕方ないわよね?
でもね、彩ちゃん安心してね。貴女の分までアタシ達、幸せになるから。
そう、貴女じゃなく、アタシを選んでよかったと思わせるから。
……彩ちゃん、貴女邪魔なの。風邪をこじらせて死ねばよかったのにね。
そうすれば、アタシに静馬君を取られるところを見なくてすんだのにね。
あらかじめ買っておいた、妊娠検査薬を持ち、トイレへと向かう。
この検査薬を使えば数分後には結果が出る。……アタシ達2人の子供が出来たって結果が。
電話が鳴っているみたいだけど、多分静馬君かな?電話、勝手に切っちゃったしね。
でもね、今は検査をするとこの方が先決よ。検査結果がでれば教えてあげるから。
『静馬君、貴方はパパになるのよ』ってね。
ドキドキしながら結果が出るのを待つ。……名前、なんて付けようかな?
男の子かな?それとも女の子?……無事に生まれてくれればどっちでもいいわ。
無事に、妊娠していればどっちでもいい。だから……お願い!静馬君をアタシだけの物にさせて!
祈るように結果を見てみる。結果は……ダメだった。妊娠していなかったわ。
妊娠していなかった……その結果を見て、アタシの中で何かが終わった。
そう、もうアタシは彩ちゃんには勝てないと悟ったの。
アタシでは彩ちゃんに勝てない……静馬君を自分の物に出来ないって分かってしまったの。
静馬君との関係ももう終わり……そんな考えが頭の中に浮かび、ボロボロと涙が零れてくる。
そんな中、また電話が鳴る。きっと静馬君からの電話。
ちょうどいいわ、この電話でもう終わりにしよう。
『鈍感なアンタなんかともう付き合ってられないわ!』ってフッてやろう。
あはははは、いきなり別れ話を切り出したら、驚くんだろうなぁ……ひっく、イヤだよ、別れ話なんかしたくない!
でも……目の前で取られるのはもっとイヤ。もう二度とあんな思いはしたくない!
別れ話を一気にまくし立て、電話を切ってやろう。そう覚悟を決めて電話に出る。
……涙を流しながら、電話に出る。……これが大好きな静馬君との、最後の会話になるだろうなと思いながら。
「……ぐす、はい、守屋です」
震える声で話しかける。これが最後の会話だと思うと、声が震えちゃう。
静馬君、アタシの様子が変だって分かってくれるかな?
……きっと分かってくれないよね。だって彼、鈍感なんだもんね。
『麗菜か?俺だよ、島津義明だ。昨日話した慰謝料についてなんだが、時間大丈夫か?』
……最低。何でアンタはこんな最悪な時に電話してくるのよ!
「……バカ。ひっ、なんで電話なんかしてくるのよ!」
『な、なんだ?いったいどうしたんだ?……何かあったのか?お前、泣いてるんじゃないのか?』
何かあったかですって?あったわよ!最悪なことがあったのよ!
なんでアンタなんかに心配されなきゃいけないのよ!アンタにアタシの何が分かるってのよ!
「ひぐ、アンタなんかに、アンタなんかに、アタシの何が分かるって言うのよ!」
『どうしたんだ?いったい何があった?』
「……ひっぐ、ばかぁ!なんでアンタが電話してくるのよぉ!……なんでこんな時に、アンタが電話してくるのよぉ!」
『だから何があったんだ?俺でよければ力になるぞ。いったい何があったんだ?』
「……熱で体はボロボロ、男には振られて心はズタズタ……最低よ!もう死んじゃいたいくらいよ!」
『麗菜……そうか、ダメだったのか』
ダメで悪かったわね!ダメになって悪かったわね!こうなったのも、全部アンタのせいなんだからね!
アンタが浮気なんかしなければ、アタシは静馬君と出会うこともなく、アンタと暮らしてたんだから!
全部アンタが悪いのよ!どうしてくれるのよ!
「バカ!アンタのせいよ!アンタが浮気なんかするから、アタシが苦しまなきゃいけないのよぉ。
……ひっく、慰めてよぉ。一人はもうイヤなの。もう一人じゃ生きていくのがイヤなのよ!寂しいのはもうイヤ!」
きっと熱で頭がおかしくなってたんだろうね。あれほど嫌っていたコイツに、部屋の住所を教えちゃったんだから。
すごくショックだったんだろうね。静馬君が彩ちゃんを選んだことが。
どうでもよくなってたのかな?静馬君の子供を妊娠していなかったことで。
だからかな?……コイツとえっちしちゃったのは。
静馬君と別れることを決めた夜に、違う男に抱かれる。アタシってこんな女だったっけ?
久しぶりにしたコイツとのSEX。正直気持ちよかったわ。
そりゃそうよね?付き合ってるときから何度もしてたんだから、アタシの気持ちいいところ、全部知ってるんだもんね。
……そっか。コイツはアタシのこと、いろいろ知ってるんだ。静馬君と違い、コイツはアタシを分かってくれてるんだ。
浮気者のコイツの胸に抱かれながら思う。……アタシ、コイツのこと、まだちょっと好きかも知れない。
コイツとだったら、静馬君の時のように遠慮なんかせず、言いたいことを言えるのかもしれない。
赤の他人の二人が家庭を作る。大事なのは、お互いに、言いたいことを言い合える仲なのかもしれない。
静馬君とは嫌われることを気にして、言いたいことを言えなかった。
彩ちゃんなんかよりも、アタシを大事にしてと言えなかった。言って、嫌われるのが怖かったから。
けど、コイツになら言えると思う。前の結婚生活では言えなかったけど、今は言える。
こういうことが、大切なんだろうね。夫婦生活っていうのは。……そっか。結局、アタシの相手は、コイツなのか。
遠回りしちゃったけど、やっと分かったわ。アタシの一番お似合いの相手は、コイツなんだって。
アタシの肩を抱き、幸せそうに寝ているコイツの顔をのぞいて見る。……なんか悔しい。えい、抓っちゃえ!
「い、いで!いでででで!な、何するんだ?」
「この顔でよくも浮気なんかしたわね!……次はないからね」
「いで、いでででで!つ、次はないって……え?い、いいのか?麗菜、俺とよりを戻してくれるのか?」
「ラストチャンスよ。次したら、慰謝料1億円ぶん取ってやるからね!」
「あ、ああ!1億でも10億でもいくらでも払うさ!俺は浮気なんかしない!お前一筋だ!」
「なに恥ずかしいこと、真顔で言ってんのよ!……そういうことは態度で示しなさいよね」
うれしそうな顔してさ、そこまでアタシとよりを戻したかったわけ?
……ゴメンネ、静馬君。アタシ、何も言わずにいなくなるね。
君は、突然いなくなったアタシを、必死に探すんだろうなぁ。
アタシをもてあそんだ罰よ、苦しみなさい!……彩ちゃんと幸せにね。
……早く気づきなさいよ?自分の気持ちに。……早く気づいてあげてね?彩ちゃんの気持ちに。
……あ、いいこと思いついちゃった。
「ねぇ、義明。再婚するにあたって条件があるの。聞いてくれる?」
もし静馬君が知ったら、驚くかな?彩ちゃんが知ったらどう思うかな?
「おお、何でも聞くぞ!お前の言うことなら何でも聞く、さぁ言ってくれ!」
「子供ね、男の子が生まれたら、名前は『拓』にしたいの」
「たく?なかなかいい名前だな、いい子に育ちそうだ」
「当たり前じゃないの、アタシの好きな人の名前なんだからね」
そう、アタシが好きな……愛した男の名前。素直で優しくて、かなり鈍感……そんな素敵な彼の名前。
「す、好きな人の名前って……そんなのを子供につける気なのか?」
「そんなのってなによ!でね、女の子だったらね……『彩』ってつけたいの」
「あや?いい名前だな。素直ないい子に育ちそうな名前だ」
アタシが愛した人の好きなこの名前よ?いい子に育つに決まってるじゃないの。
「うふふふ、当たり前じゃないの。アタシの恋のライバルの名前なんだから。……ま、完敗しちゃったけどね」
「おいおい、大事な子供にそんな名前を付けていいのか?」
「いいに決まってるじゃない!だって静馬君ってすっごくいい人よ?アンタなんかと違ってね!
その静馬君が好きな女の子の名前なんだから……彩もいい子に育ってくれるわよ」
いつかは生まれてくるであろう、アタシ達の大事な子供。
貴方達が生まれてくるころには、コイツとももっとうまく生活できてるかな?
「じゃあアタシ、今日からアンタのところに引っ越すから。仕事も辞めるからね。……しっかりと働きなさいよ?」
「え?きょ、今日から?でもまだ何も用意なんかしてないぞ?」
「な〜に慌ててるのよ。用意も何も、寝る場所さえあればいいわよ。……2人で一緒に寝れる布団が一組あればね」
さて、さっそく引越しの準備をしなきゃいけないわね!
ま、荷物は少ないから、コイツとアタシの二人いれば十分ね。アタシはまだ熱でフラついてるから、コイツ一人にさせよう。
時計を見てみる。もう朝の9時過ぎ。いつの間にか朝になってたんだ……ちょうどいいわ、このまま職場に行っちゃおう!
「じゃ、アンタはこの部屋の荷物を纏めててね。アタシは会社に行って、仕事を辞めるって言って来るわ」
辞める理由は毛利さんだけに話そう。毛利さんには公私共に、いろいろお世話になってるからね。
毛利さん、怒るかな?それともよかったねと言ってくれるかな?
毛利さんなら喜んでくれると思うんだけどなぁ……まさか激怒したりしないわよね?
「わ、分かった。適当に片付けておくよ」
「あまり荷物はないから、アンタ一人でも大丈夫でしょ?……下着、頭にかぶったりしないでよね」
「だ、誰がするか!下着はかぶるより、脱がすほうが好きなんだよ!」
「あっはははは!じゃ、任せたわよ。夕方までにはこの部屋出て行くんだからね」
服に着替え、部屋を出ようとしたら、ある雑誌が目に止まった。
これって、静馬君の部屋にあったのと同じもの。なんでこんなの買ったんだっけ?
……そうだ、この雑誌に載ってたアクセサリーを、誕生日プレゼントであげようと考えてたんだったわ。
「あぁ、そうだったわ。ねぇこの銀のアクセサリー買ってよ。ちょっと高いからアタシには手が出ないんだよね」
折り目のついたページを開き、丸印のついたアクセサリーを指差す。
どれどれと覗き込む義明。その表情は買ってあげる気満々といった顔をしてる。
「おお、再婚祝いだ、買ってやるよ。……け、結構な値段するんだな。お前、こんなアクセサリーつけてたか?」
「アタシはこんなのに興味ないわよ。これは……大好きな人への誕生日プレゼント。
最初で最後のプレゼントになるんだから、いい物をあげたいの」
そう、大好きな静馬君へのプレゼント。このアクセサリーを送ったら、どんな顔するかな?
「す、好きな男って…おいおい、それを俺に買わせるのかよ」
「そう、買わせるの。なんか文句あるの?」
渋る義明をにらみつける。とたんに視線をそらす義明。まったく情けない男ねぇ。こんな男を選んでよかったのかな?
「……いえ、ありません」
「ないなら文句を言わないの!……じゃ、行ってくるから」
義明を部屋に残し、職場へと向かう。もう二度とこの職場へ向かう道を歩くこともないんだろうな。
アタシの人生を変えた、大切な場所。駅前にある、派手な看板が目印のお店、パチンコチャンプ。
この会社に勤めていなければ、義明とよりを戻すこともなかっただろうし、毛利さんと知り合うこともなかった。
それに……静馬君と出会い、素敵な恋をすることもなかった。
今、アタシはこの大切な場所から旅立つ。新しい生活をするために。
「……うん、恋する乙女の時間は終わりね。これからは、旦那を支える妻としての時間よ。……おし!頑張るか!
『接客はいつもニコニコ爽やかに!』。この心意気で、頑張るぞ!」
気合を入れてお店に入る。人生の新しいスタートを切るために。
こうしてアタシ、守屋麗菜は、再び名前を島津麗菜へと変えた。
毛利さんにだけ、事情を説明し、引越し先を教えて。
……静馬君、何も言わずにいなくなってゴメンね?でもね、これはアタシのちょっとした復讐。
アタシよりも彩ちゃんを選んだ、君への復讐。アタシも苦しんだんだから、君も少しは苦しみなさいよね?
……少しは苦しんでくれるのかな?くれなきゃかなりショックだなぁ。
「おやおや、また来たのかい?静馬ちゃんはパチンコ強いから、あまり来られちゃ困るんだけどねぇ」
守屋ちゃんがお店を辞めて3ヶ月。守屋ちゃんがいなくなってから毎日のように静馬ちゃんはお店に来ている。
今日こそは、守屋ちゃんが来ているんじゃないかって期待してね。
「毛利さん、麗菜さんから何か連絡はありましたか?」
「ないねぇ、連絡の『れ』の字もないよぉ」
「そう……ですか。もし連絡があれば教えてください!」
「分かってるよぉ。静馬ちゃんには連絡するよぉ」
毎日繰り返される、同じやり取り。はたから見れば振られた男の、未練がましい情けない行動。
誰が思うだろうねぇ、振られたのはいなくなった女のほうで、捜している男が振っただなんて。
あたしも守屋ちゃんから聞くまで、信じられなかったよぉ。
静馬ちゃんには他に好きな女がいて、その子も静馬ちゃんが好きなんだってね。
守屋ちゃんも頑張ったけど、勝てなかったって。勝てないから身を引くんだってね。
……二人は相思相愛で、お似合いだと思ってたんだけどねぇ。ま、今、守屋ちゃんが幸せならどうでもいいんだけどねぇ。
今日も情報がないことに、がっくりと肩を落とし、パチンコ台に座る静馬ちゃん。
今日は池田直樹……直ちゃんは一緒じゃないんだねぇ。
守屋ちゃんがいなくなって、仲直りしたそうだけど……おばさんとも仲直りしてほしいよぉ。主に下半身だけをね。
……本当はね、おばさん知っているんだよぉ。守屋ちゃんが……島津麗菜ちゃんがどこに住んでて、何をしているのかを。
けどね、教えることは出来ないよぉ。
今、彼女は幸せに暮らしているんだ、今さら静馬ちゃんが出て行っても、もうどうにもならないしねぇ。
結局静馬ちゃんは知らないままだったんだねぇ。『彼女は×1』だったってことを。
これからも知らないんだろうねぇ……もう彼女は人妻なんだってことを。
昨日電話でね、嬉しそうに話していたよ。……妊娠したってね。
静馬ちゃん……守屋ちゃんは幸せになったんだ。今度はあんたが幸せになる番だよ?
早く気づくといいねぇ、自分には好きな子がいることをね。
守屋ちゃんもそう言っていたよ。……振られて悔しいから、教えることは絶対にしないでって言ってたけどね。
静馬ちゃん……あんたは若いんだから、いつまでも引きずってないで頑張んなさい!おばさん、応援してあげるからね!
今、あたしの目の前で、しょぼくれた顔してパチンコをしている男性、静馬拓。
このなかなかの色男を振った女性、守屋麗菜は、あたしの元同僚であり、×1でもあった。
でも、今、彼女は一人の女性としての幸せをつかんだ。……大好きだった静馬ちゃんとは違う相手とね。
そう、彼女は別れたた旦那と再婚をし、島津麗菜となった。……そう『彼女は人妻』になったんだよぉ。
……あたしもそろそろ若い男を引っ掛けて、結婚しようかねぇ。ねぇ直ちゃん?
以上で彼女は□□は終わりです。
長々とスレをお借りして申し訳ありませんでした。
読んでいただいた方、最後までお付き合いくださいましてありがとうございました。
最後に2レスほどおまけを投下させていただきます。
「ただいま〜!彩〜、いい子でお留守番してたかな?」
玄関のドアを開け、愛する娘に声をかける。
ウフフフ……今日は懐かしい顔に会っちゃったから、ちょっとテンション上がってるわね。
「ママおかえり!彩はいい子におるすばんをしていた。おるすばんをしてたら拓がかれーをたべたいといいだした。
だからきょうのばんごはんは、かれーがいいと思う。拓のためにかれーをつくってほしいのだが、どうだろうか?」
まったく誰に似たのかしらね?この女の子らしくないしゃべり方は?
はぁぁ〜……拓がカレーを食べたいなんて言うわけないでしょ?貴女が食べたいだけでしょ?
まったく……弟を利用するなんて悪い子ね。ま、いいわ。どうせ今日は家では食べないんだしね。
「あららら、カレーが食べたいの?う〜ん、どうしようかな?
今日はパパがお仕事でいないから、毛利おばさんのお店に、ご飯を食べに行くつもりだったんだけどなぁ。
拓がカレーが食べたいって言うのなら、お店に行くの辞めちゃおうかな?」
毛利さんの名前を聞いて、目がキラキラと輝きだした彩。
我が娘ながらとっても素直で分かりやすい子ね。我ながら惚れ惚れしちゃうわ。
「ええ?おばさんのおみせに行くの?ならかれーはちゅうし!」
「でも拓が食べたいって言ってるんでしょ?お姉さんは弟のために我慢しなきゃいけないわよ?」
「ちがう!拓はそんなこといってない!
わたしがたべたいからいったんだ……というのはうそで、ほんとはパパがたべたいといってた」
「あ〜や?仕事でいないパパがそんなことを言うわけないでしょ?ママね、嘘をつく悪い子は、お姉さん失格だと思うの」
「おねえさんしっかく?……ママ、しっかくってなに?おいしいの?」
何でこの子は食欲旺盛に育ったのかしらね?まぁそこが可愛いんだけどね。
「失格っていうのは、お姉さんになる資格がないということよ。つまりはね、お姉さんを辞めなきゃいけないってことね」
「え?お、おねえさんをやめなきゃいけないの?」
「そう、嘘をつく悪い子はおねえさん失格なの。じゃないと拓も嘘をつくようになっちゃうでしょ?」
「ひぃ、ひぐ……ごめんなざいぃぃ〜!あやがうぞをづぎまじだぁぁ〜!うわぁぁぁ〜ん!」
大きな口をあけ、ワンワンと泣きじゃくる可愛い愛娘。
あぁ、ホントに素直に育ってくれて、ママとっても嬉しいわ。
「よしよし、もう反省したわね?ならお姉さん辞めなくてもいいわよ」
泣きじゃくる娘を、ギュッと抱きしめ頭を撫でる。あぁ、こうして娘を抱きしめてると幸せだなぁって実感するのよねぇ。
「ほんどにやめなぐていいの?おねえざんでいいの?」
「うん、お姉さんでいいよ。その代わりもう嘘をついちゃだめよ?」
「うん!もううそはいわない!拓がうそをつかないようにもおしえてあげる!」
うん、とっても素直でいい子。あなたはママの自慢の愛娘よ。
「よし、今日は毛利おばさんのところで好きなもの食べていいわよ。ママ、今日はご機嫌だから何でも食べさせてあげるわね」
「わわわ!ホ、ホントにいいの?ママ、なにかいいことがあったのだろうか?」
「んん〜?それはねぇ……ひ・み・つよ」
「ママずるい!おしえてくれないなんてずるくはないだろうか?」
今日は毛利さんのお店で、昔話に花を咲かせちゃおう!
まさか静馬君にまた会えるなんて!静馬君は大人の男に成長してますますかっこよくなっていたわ。
静馬君が大人になる……つまりはアタシがおばさんになったってこと。
くやしくて、ついひどいことを言っちゃったけど、ま、いいでしょ?
嘘も方便っていうしね。……こういう時も使うのかな?
「そうだ!今日はおばさんの家に泊まっちゃおう!パパは出張でいないし、おばさんも彩とお風呂に入りたがってるしね」
「うん!あやもおばちゃんのあかいろあたまをあらいたい!」
ピョンピョンと飛び跳ね、体全体で喜びを表している。
毛利さんの赤色頭が気に入ってるたいね。……まさか自分も染めたいなんて言い出さないでしょうね?
「ママもね、おばさんと昔話をしたい気分なの。パパがいなくてちょうどよかったわね」
「……パパだけなかまはずれはよくないのではないだろうか?」
ピョンピョン飛び跳ねていたのが一転して暗い顔になる。
ホントにいい子ね。とても素直で優しくて……貴女はママとパパの自慢の娘よ。
「大丈夫よ。おばさんのところで、パパが大好きなお酒をお土産に買って帰るから」
「ならだいじょうぶ!パパもおおよろこびするとおもう!」
また跳ねだした彩。ホントに可愛いわ。貴女を産めて、ママはとっても幸せよ。
「じゃ、さっそく行こっか?彩は拓を連れてきてね。ママは出かける準備をするからね」
「うん!彩はしっかりとてをひいて、拓をつれてあるく!」
あぁ……ホントにアタシは幸せだわ。
愛する旦那と愛する娘達に囲まれて……来年にはもう一人、増えるんだけどね。
アタシが妊娠してるって彩が知ったらどう思うのかな?喜んでくれるかな?
またピョンピョン飛び跳ねて喜んでくれるかな?
毛利さん、また子供を産むのかいって驚いてくれるのかな?
……今日、久しぶりに静馬君に会って分かったことがあるの。アタシはまだ静馬君が好きなんだってね。
でも旦那も愛してるのは間違いないわ。……女って不思議な生き物ね。
二人の異性を同時に愛せるんだからね。ふふっ、毛利さんに話してみよう。
きっと毛利さんも賛同してくれるはずよ。あの人は恋多き女性なんだからね!
幼い弟、拓の手をギュッと握っている彩の小さな手を握り、部屋を出る。
懐かしい話をしに、あの時の同じ時間をすごした仲間の下へ。
今日は徹夜で話しちゃおう!毛利さんとあの頃の話を……パチンコチャンプで過ごした懐かしい時のことを。
彩、あなたもいつかは分かる日が来るかな?女という生き物は、恋多き生き物なんだってね。
……この子にもいつかは好きな男の子が出来る日が来るのかな?
連れて来たりしたら、バカ旦那は発狂しちゃうんじゃないのかな?
楽しみだなぁ、彩が好きになった子と話すのが。
早くその日が来ないかな?彩、その日までに女を磨いておきなさいよ?じゃないとママみたいに苦労しちゃうからね?
以上です。
乙。悲しい話やね。
やっと終わったか┐('〜`;)┌
悲しい色やね。
もう来んなよ〜
長丁場お疲れさまでした。最後まで書いてくれてありがとう。
GJでした。
気に入らなかったらスルーするのが良いと思う。
GJです!!
麗菜さんも幸せそうでなによりです
瀬能と美春の続きはまだかな…
瀬能と美春を待ち続けて10年たった気がする
もう投下されないようならこのスレともおさらばしよう・・・
しつこい
さっさと消えろ
年の差の王道ってなんだぜ?
美人教師×生徒か?
長らく潜んでいて申し訳ありません
久々すぎてトリを忘れた馬鹿です
瀬能と美春、7回目の投下いきます
現実は小説のようにはいかないが、事実は小説より奇也と言う言葉もある。
時には思いもよらない事があり、瀬能にとっては、美春との関係が変化した事がそうだ。
春、愛の告白と言うには少しばかり甘さのない、それでも嘘偽りのない言葉を美春に告げてから、美春は以前よりもいっそう、瀬能の元を訪れるようになった。
夏のある日も、美春は瀬能が渡した合鍵で部屋に来ており、瀬能が帰宅すると、カレーの香りに混じって美春の鼻唄が聞こえていた。
「ただいま」
「お帰りー、お疲れ様」
キッチンに立つ美春は、瀬能が帰って来ると、鼻唄を中断させて瀬能の方を振り返る。
常日頃から笑顔の絶やさない美春ではあるが、今日は特に機嫌が良いようだった。
「何かあったのか、鼻唄なんか歌って」
ネクタイを緩め、鞄を放り投げた瀬能は、食事の準備を手伝いながら美春に問う。
美春はにへら〜っと想合を崩しながら頷いて、カレーをよそいつつ口を開いた。
「瀬能さん、今週末は休みだよね」
「あぁ」
「じゃあ、海かプールに行かない?」
野菜がゴロゴロと入ったカレーが二つ、食卓に並べられる。
自分の分のビールと、美春の分のお茶を冷蔵庫から取り出した瀬能は、美春のお誘いに顔を天井へ向けた。
「…………」
「なに、その沈黙は」
「疲れるからヤだなー……とか思って」
「えー」
どちらかと言えば瀬能はインドア派だ。
しかも今は、夏休み真っ盛り。海にしろプールにしろ、家族連れやカップルが多いのは明白で、わざわざ人混みに疲れに行く気にはなれない。
しかし美春は、当然ながら不満そうで、唇を尖らせて食卓に座った。
「せっかく新しい水着買ったのにー」
「そう言うな。たまの休みぐらい、ごろごろさせてくれ」
「気持ちは分かるけどさー」
二人揃って「いただきます」と唱和するが、美春の表情は晴れない。
瀬能だって美春の気持ちは分かる。
しかし大学生の美春と違って、瀬能には比較的自由になる時間は少ない。デートは休日にしか出来ないし、そのデートも瀬能の部屋か映画を見に行くぐらいで、特に何処かに遊びに行った事も無い。
たまには──それこそ、小旅行ぐらいは行きたいとも思うが、それも出来ずに三ヶ月が経過している。
何より、人混みというのが瀬能にとっては苦痛であり、それを知る美春は、暫しぶうたれてはいたが。
「まぁ……仕方ないか。ゆうちゃん達と行こうかな」
カレーを頬張り苦い笑みを浮かべる。
こう言う時、美春の聞き訳の良さは助かる。仲の良い女友達と一緒なら、瀬能もいらぬ心配をせずに済むし、有り難い。
そうしてくれると助かる、と瀬能は口を開き掛けたが、美春は唐突に「あ!」と声を上げて、カレーを頬張った口元を押さえた。
「何──」
「じゃあさ、せめて水着だけでも見ない?」
「……ハ?」
「だって、瀬能さんと遊びに行こうと思って買ったんだもん。瀬能さんに見てもらわなきゃ」
「どう言う理屈だよ」
「あとで見せたげるね」
「聞けよ、ツッコミを」
名案とばかりににこにこと笑う美春に、瀬能は呆気に取られる。
けれど美春は気にする風もなく、大口を開けてカレーを口に運び続ける。
その様子に、さほど深い意味もないだろうと、瀬能も怪訝な表情ながらカレーを口に運んだが。
美春の性格上、それだけで済む筈が無かったのである。
翌日が休みともなれば、美春の帰宅時間にも余裕が生まれる。
普段は九時前には帰宅させるのだが、美春は何のかんのと理由を付けては、終電間際まで瀬能の家に居る事が多くなった。
その事に瀬能はあまり良い顔しなかったが、美春と共に過ごせる時間が少ないのも事実。そう言われてしまえば、返す言葉もなく、瀬能もそれを許容せざるを得なかった。
この日も、美春は翌日の授業が三限からだからと、十時を過ぎても帰宅する様子はなかった。
しかし瀬能は、翌日も七時半には家を出なければならない。
「俺、風呂入るな」
テレビを見ている美春に一声掛けて、瀬能は着替えを手に浴室へと移動した。
バスタオルと着替えを置き、服を脱いで風呂場に入る。
掛け湯のあとに湯に浸かり、親父臭いため息を漏らして、瀬能はのんびりと風呂を楽しむ。
夏場であろうとシャワーで済ませないのは、子どもの頃からの習慣である。
しばらくゆっくりと湯に浸かり、さて体を洗おうと腰を上げた瀬能だが。
「瀬能さんっ」
「うわっ!」
突然、美春が扉を開けて、風呂場へ入って来たのだ。
瀬能は慌てて浴槽に体を沈めたが、美春は平気な顔で中に入る。
その姿は裸ではなく、鮮やかなブルーのワンピースの水着姿。
「おま…な、に」
「水着、見せたげるって言ったじゃない。ほら、可愛いでしょ?」
少しはにかんだように美春は笑うが、瀬能はそれどころではない。
美春は水着を着ているから構わないのかも知れないが、こちらは文字通り完全な素っ裸。下半身を隠そうにも、タオルは美春の傍らだし、洗面器では情けなさ過ぎる。
仕方なく、浴槽にうずくまったまま、瀬能は美春を見上げた。
ナイスボディとは言い難いが、凹凸のある体は中学高校と続けたバスケットのお陰か、程良く引き締まっている。
なのに女性特有の柔らかさを感じ、そのアンバランスさは魅力的だ。
ふと、本能的に感じた思いに、瀬能は慌てて思考を振り払ったが。
「瀬能さん?」
余程、ぼんやりとしていたのだろう。
不思議そうな表情の美春が、ちょこんとしゃがんで、瀬能と視線の高さを同じくした。
「どうしたの? あ、もしかして見惚れてた?」
「馬鹿、いきなりで驚いたんだよ」
冗談めかす美春に、瀬能はいつもの調子で切り返す。
美春も例によって頬を膨らませると、立てた膝で頬杖を突いた。
「なあんだ。せっかく、瀬能さんのために買ったのに」
「ああ……いや、うん、可愛いよ」
「ほんと?」
「ほんと」
どうあっても、可愛いと言わせる美春の手段は分かっている。
ならば、先手を打っておけば、美春も納得するに違いない。
その考えはあながち間違いでもなく、美春はパッと表情を明るくすると、嬉しそうに笑った。
本音を言えば、水着のデザインが可愛いのではなく、水着を着ている事に多少の魔力があるのだが、それは言わない方が良いだろう。
それよりも、体を洗おうとしていた矢先の、突然の美春の乱入。
冬場ならまだしも、夏のこの時期に、いつまでも浴槽には居られない。
美春も、用件が終われば浴室を出るのかと思いきや、水着を買った時の事などを話し始める。
これでは、逆上せてしまうのも時間の問題だ。
「美春」
「ん?」
「体、洗いたいんだけど」
「あ……」
喋る美春の隙間を縫って、そう瀬能が切り出すと、今更ながらに瀬能の様子に気付いたらしく、美春は慌てて立ち上がった。
「ご、ごめん。すぐ出るね」
「ん」
慌ただしく浴室を後にする美春を見送り、瀬能はがっくりと頭を垂れた。
付き合ってまだ三ヶ月。もう三ヶ月。
その間、進展らしい進展も無いのは、ひとえに瀬能の努力の賜物である。
流石に、今日のような不意打ちは少ないとは言え、欲望に流されそうになった事は二度や三度ではない。
それでも瀬能は、美春に手を出す事に躊躇していた。
親友の子どもだからと言うのも理由の一つ。
これにけじめを付けなければ、瀬能はこれ以上前に進む勇気が持てない。
更に加えて、年齢の差故の躊躇いが、瀬能の中にくすぶっている。
「……つっても…流石になぁ」
先ほどの美春の水着姿で、僅かに首をもたげた己自信に情けなさを覚えて、瀬能は深々と溜息を吐いた。
****
それから二週間後。
余りの呆気なさに、瀬能は呆然と扇風機の前に座っていた。
その隣では美春が、授業のレポートに向き合っている。
「……馬鹿ばっか…?」
年季の入った扇風機によって、瀬能の声は散らされる。美春も気付いた様子は無い。
瀬能なりに悩みに悩んだ末、美春との交際を治樹に打ち明けたのは昨日のこと。
酒の席でもあったからか、はたまたお気楽な治樹の性格故か、瀬能が治樹に言われたのはたった一言。
『美春を泣かせたら七代祟る』
それだけだった。
美春の脳天気な性格が、父親譲りとは知っていたが、まさかこれほどまでに呆気ない結末があるなんて、まさに事実は小説より奇也である。
後になって知った事だが、既に美春は瀬能との交際の事を治樹に告げており、治樹は治樹なりに悩んでいたらしいのだが。あっさりと許されてしまった瀬能にとっては、最早どうでも良い事である。
「瀬能さーん、クーラー付けようよー」
辞書を開きながら、ぼやくような声で美春が言う。
長い髪は後頭部で団子に纏められ、そこから覗くうなじは、薄らと汗ばんでいる。
思わず目が行った自分に、瀬能はふるふると首を振った。
どうやら暑さにやられているらしい。
「無理。電池切れたまんま」
「うわっ……じゃ、後で買ってくる」
瀬能の答えに美春は一瞬眉を寄せたが、すぐに諦めたか、くるりとシャーペンを回してレポートに向かう。
ふと見れば、テーブルの上のアイスティーは、すっかり氷が溶けていて、グラスに付いていた水滴が、小さな水溜まりを作っていた。
「美春、新しいの入れるか?」
グラスを引き寄せ問いかけると、美春はレポートから顔を上げ、へらりと嬉しそうな笑みを見せた。
「いいや、後で入れ直すから」
「そっか」
やんわりと断られれば、瀬能も無理強いはしない。
素直にグラスを戻して、また元のように扇風機の前に座り直した。
「瀬能さん」
「んー?」
「ありがとね」
礼を言われるようなことなどしたかと、瀬能は首を捻って美春を見やる。
「お父さんに、ちゃんと言ってくれて。……安心した」
レポートから顔を上げずに、美春は淡々と言葉を紡ぐ。
けれどその表情は、少し照れ臭そうにも見えて、瀬能は知らず笑みを浮かべた。
「けじめけじめ。でなきゃ、こう言う事出来ねぇからさ」
瀬能の言葉に、美春は不思議そうに顔を上げる。
その隙を突いて、瀬能は美春の唇の端に、己の唇を寄せた。
「っ…せ、のう…さん!?」
何が起きたのか理解出来ず、美春は目を丸くして瀬能を見つめる。
そんな美春に、瀬能はにいっと笑いかけると、ぽんっと頭に手を乗せてやった。
「ほれ、早く終わらせろ。でなきゃ、いつまでたっても、クーラー付けらんねぇぞ」
「え……あ……、うん」
わしゃわしゃと頭を撫でてやると、美春はそれでも現状を理解出来ずにいるようで、存外素直にレポートに向き直った。
そんな美春の様子に、まだまだ先は長いかな、と瀬能はひっそりと呟いたが。
その呟きは、夏を謳歌する蝉の声にかき消され、美春に届いた様子はなかった。
今回は以上です
長々とお待たせしているのに、展開がとろくて申し訳ありません
以前のペースに戻せるよう、努力しますので…今しばらく、お付き合い下さい
GJです!
>>127 今年中に投下があるかなと思って気長に待っていましたが
ノーマークの状態で嬉しい誤算です!!
続き、楽しみにしています!!
GJ!
>>127 キタ━━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━!!
>>127 GJです!!もえました
続きも待ってます!
今思えば
ミサトさん28歳、シンジ14歳のカップルが理想かも。
普段は子供な大人と大人な子供。
でもちゃんと、大人と子供。
上手く表現出来ないんだけど
134 :
名無しさん@ピンキー:2008/09/18(木) 11:12:32 ID:iKwGYdz+
>>127 GJ〜〜〜〜!!
すっごい萌えました。瀬能の大人っぷりがたまらない
続き楽しみにしてます!!
>>133 これが大人のSSよ、帰って来たら続きを書きましょう
これは新しい死亡フラグ
投下行きます。エロあり。
二度目の五月。
茜の機嫌が悪い。
珍しいことだ。
ノートパソコンのキーボードをいつになく乱暴にタイプしていたかと思うと、突然その手を止めて、この世の終わりのような、深い深いため息を吐く。
三度それを繰り返して、四度回目に、ついに、ああ、とか細い声が漏れた。
「……センセイ?」
恐る恐る声をかける。茜はゆっくりと振り向くと、ああ、浅尾、とだけ呟いた。
まるで、いたのか、とでも言うような口調だ。
――ちなみに、今日は朝からずっといる。
酷いひとだ。
文句を言おうと口を開いたところで、携帯電話の振動音が、しんとした室内に無機質に響く。
はっと振り返ると、ベッドの枕元に置かれた茜の携帯電話が、ランプをぴかぴかと光らせてその存在を主張していた。
だけど茜が立ち上がる気配はない。こちらを振り向いた姿勢のまま、じっとそのランプが光るさまを無言で見つめている。
「……鳴って、ますけど」
「鳴っているな」
「出ないんですか?」
「…………メールだ、と思う」
「珍しいですね」
「うん、珍しいな」
一緒にいるときに、茜の携帯電話が鳴るなんてほんとうに珍しい。
彼女の携帯電話は、ほぼ総一郎からの着信専用なのだ。
先日、電話を眺めながら、おお、と無感動に呟くものだから何ごとかと思ったら、画面をこちらに向けて誇らしげに(少なくとも総一郎にはそう見えた)茜が告げた。
「メールボックスがすべて浅尾で埋まった」
それは、喜んでいいのかどうか実に悩ましい現実だった。
「……友達、いないんですか?」
「頻繁にメールを交換するような友人は、いない。みんな忙しいから」
大人ってそんなものなのかな、と不思議に思った。
回想を終えて耳障りな震動が止んでしまっても、茜が腰を上げる気配はない。
不信を抱いて、尋ねてみる。
「メール、見ないんですか?」
「見ない」
総一郎の目を見ないまま、さらり、と茜が告げる。
「なんで?」
「どうしても見たくない」
「急ぎの用事だったらどうするんですか?」
「そうなら電話をかけてくる」
「……なんか怪しい」
「なにが」
「俺の前で見たくないってこと?」
「ほう、まるで亭主の浮気を問い詰める妻のごときだな。私は疑われているのか?」
「違います。妻じゃないし」
「じゃあなんだ」
「メール見ないなんておかしいじゃないですか」
「おかしくない。こちらにはこちらの事情がある。受信したら即返信、の君のほうがおかしい」
「俺のほうが普通です。ってか、即返信はセンセイだけだし」
「そうか。君の返信があまりに早いから、時折私にもそれを強要されている気分になる」
「強要なんて、してないでしょ」
「それは君の主観で、私の受ける印象はまた違う」
「…………ちょっと、さっきからセンセイおかしいよ。なんで突っかかってくるんですか」
「先に突っかかってきたのは君だろう」
「メール見ないのがおかしいって言ってるだけじゃん」
「だから見たくないんだ」
「見たくないメールって事前に判っているなんて、ヘンだってば」
立ち上がって、茜の携帯電話を拾い上げた。
はい、とそれを差し出す。
手のひらに乗り切らなかったストラップのうさぎが、ゆらゆらと宙に揺れていた。
心底嫌そうな顔をして、茜も立ち上がってそれを受け取る。
大仰にため息をもう一つ落として、携帯電話を開く。
細い指がボタンを操る様に見とれた。
そういえば、あの営業スマイルの次に好きになったのはこのきれいな指先だったと思い出した。
特に、ガラス棒で溶解物をかき混ぜる仕種が好きだった。
丁寧に物を扱う爪の整ったこの指先に、高鳴る胸を押さえられなかったのだ。
のんきにそんなことを思い出しながら、彼女の手元ばかりを見ていたせいで、茜の無表情がどんどん固く強張る過程を見逃した。
はっと気付いた頃には、彼女の眉間にはこれ以上ないぐらいきつく皺がより、携帯電話を握る手が小刻みに震えていた。
「…………あの、セン」
みなまで言い切る前に、茜が、手にした携帯電話をぱちんと閉じると、おもむろにそれをベッドに叩きつけた。
「…………………………」
あまりの出来事に絶句した。
ぼす、と素敵な音をたててベッドに沈んだ携帯電話は、その衝撃を羽毛の布団に吸収されて壊れることはないだろう。
壁に叩きつけたりしないあたり、さすがの冷静さだ。
だけど、全く理解ができない。
往々にして無感動で無表情で、感情の読みにくい茜はある意味で穏やかだ。
こんな風に、総一郎の前で物に当たる姿など初めて見た。
「センセイ? あの、どうしたの?」
「…………………………いい、なんでもない」
「なんでもないように見えませんけど」
「下らないことなんだ。浅尾には関係ない」
きっぱりと告げられて、胸が痛んだ。
思い返せば、総一郎はずいぶんとさまざまな相談を茜にしてきた。
勉強方法も、進学先も、将来の希望も、たとえば些細な兄弟喧嘩も。
情けない、と思いつつも、話しているうちに状況を整理できたし、冷静な彼女のアドバイスは的確だったし、何より総一郎の本望へ答えを導くのもとても上手だった。
そうじゃなくても一緒に思い悩んでくれるその時間が、総一郎を幸福にしてきたのだ。
だけど、茜から相談を受けたことなど、一度もない。
何が飲みたい、などという日常的な会話は繰り返すものの、仕事の愚痴やなんかを聞いたことがない。
総一郎自身が高校生だった時分は言えなくても仕方がない、と理解していた。
大学生になれば、もう少し頼ってもらえるんじゃないかと、どこかで期待していた。だけどそれは実に浅はかな希望だったようだ。
今の総一郎が、茜にしてあげられることなんて、ほんの少ししかない。ないよりまし、程度の、ほんの少し。
今だって、彼女は何も口にしない。
こんなにもイライラと何事かを思いつめているのに、原因も、今何を考えているのかも、総一郎に明かしてはくれない。
いつもそうだ。
自分が頼りにならないのは判っているつもりではある。
だけど、こんなにもはっきりと拒否を誇示されると、己の存在理由を疑いたくなる。
――センセイにとって俺ってなに?
そんな、ばかばかしい質問をぶつけたくなるのだ。
いたたまれなくなって、その細い肩をぐっと掴んだ。
「……浅尾?」
「言いたくないなら、言わなくていいからさ。なんか、俺に出来ることって、ない?」
「浅尾?」
「コーヒー淹れて、とか、歌えとか、踊れとか、なんか言って」
「………………なにか?」
「うん」
「じゃあ」
総一郎をまっすぐに見上げていた、眼鏡の奥のガラス玉のような瞳がきらりと光った。
――――あれ、なんか嫌な予感がする。
茜に対しての直観は、それが悪ければ悪いほどよく当たる。
当たっても特に対策の方法はないので、非常に無意味で利用価値の低い特技だ。
「服を、脱いで。――出来るだけゆっくり」
「………………は?」
何を言われたか理解ができず、間抜けな顔で茜を見つめ返す総一郎をそのままに、さあどうぞ、と淡々と告げて、自分はさっさとクッションの上に腰を下ろす。
「意味が判りません」
「特に深い意味はない」
「……俺が服を脱ぐとなんかいいことあるんですか?」
「ある。私の気分が最高に晴れやかになりそうな予感がする。
さあ、私のためにストリップに興じたまえ」
「スミマセン、嫌です」
「む、そうか。では、あれだな。先日の償いをしてもらおうか」
「つぐない?」
これ、と茜が白い指でさらさらの黒髪を跳ね上げて、そのまま自分の首の根元を指した。
この距離ではやっとうっすらと見える程度の、白い肌に艶めかしく映るあかい痕。
確かに総一郎の仕業だ。
茜が眠っている間に、ちょっと加減を間違えて痕をつけたら思いのほか長く残った。
まだ消えない、と、滅多にかけてこない電話をわざわざかけてきて、文句を言われた。
相当根に持っている。
残りやすいから服で隠れない場所には二度とつけてくれるなと、こんこんと説教をされた記憶は実に新しい。
「あの時、何でもする、と言ったじゃないか」
言った、確かに言った覚えがある。そのあと、この上なく楽しそうな彼女の笑顔も目に焼きついている。
しぶしぶ、総一郎は頷いた。
「そうですけど」
「許しを請うならば、さあ、脱ぎたまえ」
ああ、もう逆らえない。このひとには逆らえない。
贖罪とか、断定的な口調とか、キャラクタとか。色々要素はあるけれど、結局――惚れた弱みなのだ。
「……くっそ」
乱暴に吐き捨てて、カッターシャツの袖のボタンに指をかけた。
男にストリップをさせて何が楽しいのか判らないが、確かに「何でも」と言った手前、従わないわけにもいかない。
ちら、と茜を見やる。
いつもの無表情だ。
それでも眼鏡の奥の茶色い目玉は、楽しげにらんらんと輝いている。
綺麗に引き結ばれた赤いくちびるが、息を吸うように軽く開かれた。
「ああ、いけない、浅尾」
「なに?」
「もっと、ゆっくり。色気が立ち上るように」
――意味が判らない。
だけど言われるままに、茜に視線をぶつけたまま、手首のボタンをそっと外す。
反対側も同じようにゆっくりとボタンホールを広げて、羞恥のような悔しさに下くちびるをそっと噛んだ。
たっぷり5秒もかけてボタンを外し、袖を肩から滑らせた。
手首も袖口から引き抜いて、半袖のTシャツを着たままの肘を露にさせる。
その肘を軽く撫でて、左の肩からも袖を抜き去る。
茶色い双眼は、相も変わらず総一郎を見据えている。
白地のシャツを脱ぎ捨てた。
絶妙のタイミングで、茜が手を伸ばす。
求められるままそれを手渡すと、一瞬だけそのシャツにくちづけた茜が手元を見ないままゆっくりとそれを畳み始める。
シャツの裾に手をかけて、ゆるゆるとまくり上げた。
暖房のいらない最近に、それでも外気がつめたく響いて皮膚が粟立つ。
また手を差しのべられて、温度の残るそれを手渡した。
ついでに、茜の目の前に膝をついて、そっとキスをする。
意外にも大人しく目を閉じて、総一郎とくちびるを重ねた茜の、赤いそれが開く気配はなく、困惑の表情を意図的に浮かべながら総一郎は顔を離して瞳を開いた。
驚くほど間近で彼女の黒目がぶつかり、少し眉根を寄せて総一郎は細い首の後ろに手を回した。
「センセイ……する?」
うん、と素直に頷かれることを期待しての発言だったが、予想外にその首は左右に振られた。
「だめだ。まだ、脱ぎきっていない」
ち、と喉の奥で舌打ちをして、ベルトに手をかける。
腰を床に降ろすと、差し出すように向けた足首に茜の手が掛かる。
そっと、足首を締め付けるくつしたのゴムに、細い指がかかって背筋がぞわりとした。
素早く踵を滑らされて、簡単に両方の黒いくつしたを奪い取られた。
同時に、ベルトの金具と、ファスナーを外したジーンズのウェストのボタンを外した。
足首をさわさわと撫でられて、身体中が情けなくびくびくと震えたがなんとか下着一枚の姿をさらして、茜をどうだと言わんばかりに睨みつける。
しかし、こんな日に限って今日の下着は、愛らしいねずみが散りばめられた子供っぽいものだった。
母親と妹が二人だけで行ったテーマパークの、お土産だと父親と弟と三人お揃いのこれを実は気に入っていたが、なぜ昨日の湯あがりにこれを選んだのか、激しく己を罵倒したくなった。
「……もういいでしょ」
「まだ、その可愛らしい一枚が残っている」
にやにや笑いを浮かべながら、びし、と指さされて頬が一気に熱くなった。
くちびるを小さな子供のように尖らせて押し黙ると、何を察したのか、ああ、と茜が小さく呟く。
おもむろに立ち上がると、ベッドに膝をついてクリーム色のカーテンを勢いよく閉める。
掛け布団を端によせてベッドの上に腰を下ろすと、艶然と微笑んで手を伸ばした。
「脱いだら、こっちにおいで」
その姿にどうしようもなく興奮と期待を強くする。
早く触れたい。
キスがしたい。
熱くとろけるあの感覚に、飲みこまれてしまいたい。
じっとこちらを見据える視線をからませ合うと、ますます内側から熱が沸いてくる。
トランクスを腰から滑らせようとして、一瞬立ち上がった肉茎がゴムに引っ掛かる。
それでも何とか床に落として足首から抜き取ると、ベッドに膝をついて、茜のひやりとした細い手を取った。
その手をぐい、と引いて、くちびるを重ねる。
眼鏡のフレームが、総一郎の頬にあたってかちゃんと小さく鳴った。
もぐもぐとくちびるをうごめかせて、薄く開かれた隙に舌を差し入れる。
つんと触れた茜の舌は、重ねたくちびるよりも熱かった。
唾液でぬるりと滑って捕らえそこなったそれを、追いかけて強引に絡ませる。
たったそれだけで、粟だった全身がかっと熱くなった。
ぐい、と胸を押されて、仕方なくくちびるを離した。
紅唇の端をつたった唾液を男前に手の甲で拭うと、茜の白い手がふわりと張り詰めた自身に触れた。
「もうこんなにして」
相変わらずのにやにや笑いを浮かべながら、ぎゅっと指の腹で握られて腰のあたりがぞくぞくする。
「だって……センセイが、」
「……私が?」
続けるべき言葉が見つからなくて、もういいやとばかりに薄い肩を押し倒した。
しかし茜は肘をついて転倒をきっぱりと拒否して、身を起こす。
優雅な眼鏡を外すし枕元に置くと、改めて総一郎に向き直って淡々と告げた。
「浅尾、後ろを向いてくれないか」
「後ろ?」
こう? と背を向けた。
「うん、ありがとう」
抑揚なく謝辞を述べた茜のくちびるが、そのまま肩にふれて音をたてて吸いついた。
吸われながらぺろぺろと舌をうごめかされて、痺れるような甘い疼きが身体の中心から湧き上がってくる。
十分に立ち上がっていたそれが、どくどくと脈を打つのが触れていなくても判った。
ぎゅっと目を閉じて、息を細く吐く。
吐ききったころに、後ろからぎゅっと抱きしめられて、きれいな手のひらが腹を撫で上げ、誇張をし始めた胸の突起に触れる。
「……う、」
情けなく漏れた声に、茜の含み笑いが肩に落ちてきた。
総一郎が声をあげると、彼女はこの上なく楽しそうに息を吐いて笑う。
その意地悪な表情を見たい、と思ったが、今日の自分に発言権はないのだと、ちゃんと理解している総一郎はぐっと腰に力をこめて、生ぬるい快楽をやり過ごそうと無駄な努力をする。
肩を撫でたつめたい手が二の腕を滑って手首を握った。
ぐい、とそれを一纏めにされたかと思うと、なにかごそごそとよからぬ音がして、平行に重ねたそこにするりと何かが触れた。
ぎょっとして肩越しにふり返ると、自分の骨ばった手首を白いタオルが巻きついてた。
「拘束プレイだ、浅尾」
「えっ、ちょっ」
縛られた。
その現実にショックを受けた。
目隠しプレイは、童貞喪失初日に宣言されたからいつか来るのかとある程度の覚悟はしていたが、縛られる、なんて予想の遥か斜め上を飛んでいた。
縛った当人は、この上なく楽しそうに笑うと、膝で移動をして総一郎と向き直る。
「ギブしたかったら言ってくれ。気分によっては聞き入れる」
恐ろしい宣言をして返事も聞かずに総一郎のくちびるを奪うと、舌を割り入れてねっとりと絡ませ合う。
「……ん、うう」
反論をする暇もなく与えられた息苦しくて官能的なキスを終えると、頬と耳たぶと顎にくちびるが落落ちてきた。
茜は、あれよという間に首筋から胸元をゆっくりと口づけて、驚くほどの手際で総一郎の身体を沸騰させていく。
違う、茜のせいじゃない。
こんな、身動きが取れなくて茜に好き放題にされている状況に、総一郎は興奮している。
ありえない。なのに、意思に反して総一郎自身は、見なくても判ってしまうほどの張りつめてその欲望を顕著に表現をしていた。
とんだヘンタイだ。
マイノリティな自分を認めたくなくて、異常な方向へ飛んで行った性癖を、誰かのせいにしたくなる。
「は、待って……、だめ…だって……!」
「…………何が?」
くすくすと小さく笑いながら、茜がくちびるをすべらせて胸の突起に吸いついた。
びりりと背筋に電流が走る。
普段好奇心の赴くまま好き放題に、茜のここを弄り回している。
だめだいやだと言われても、素直に解放をした試しもない。
こんなにも鋭敏な感覚を持っているだなんて、自分でも知らなかった。
「ちょっ……センセ…それマズイって……」
もちろん、抑止の言葉が全く意味をなさないとは分かっている。それでも腰が引けて、高まる射精感をどうにか追い払おうと、無駄な抵抗を試みずにはいられない。
「君は、ここが好きなんだろう?」
意地悪な声音にはっとする。
仕返しらしきことを、されているのだ。
悔しく思うものの、現在の総一郎は「償い」をさせられている状態なのだから、反論は許されていない。
ぐっと両目を閉じて快楽をやり過ごそうとしているのに、当の茜はとても楽しげに身を弾ませながら、ためらいもなく総一郎自身をぱくりと口に含んでしまった。
「…………ちょ、あっ……!」
息をのんで声が途切れたと同時に、先端を舌先でつつかれて腰が引けた。
はあ、と熱い息を吐いたのちに訪れた静寂は一瞬だけで、すぐに、ぴちゃりと湿った卑猥な音が室内に響く。
くちびるを噛みながらぎゅっと閉じていた瞳を開いた。
視界には、茜のさらさらとした髪が落ちる黒い頭しか映らない。
先端を咥えたまま、熱い手のひらがぎゅっと肉茎を握りこんだ。
とっさに身を引いてももちろん許されず、茜の手とくちびるが追いかけてきて総一郎を苛む。
ゆっくりと、総一郎を握った手のひらを上下させながら、唾液をたっぷりと含ませた口内で先端を舌先で包む。
裏側を伝った汁が、都合よく茜の手淫を助けている。
「あ、……あっ、センセイ…………っは!」
自らくちびるを塞ぐ手段も、茜を引きはがす自由も権利もなくて、総一郎はただ、強引に与えられる刺激を、不本意ながら受け入れる。
情けなく高い声が漏れる自分を面映ゆく思う。だけど、思考と身体がまるで分離をしていて、とてもコントロール出来そうにはない。
ちゅう、と先端を吸い上げられた。同時に手の動きが速くなる。
「……っ、だめ、だって、センセイ…ヤバイ……ってば!」
悲哀の混じった総一郎の哀願を聞きつけた茜は、一瞬だけ手を止めて、彼自身を咥えたままちらりとこちらを見上げた。
目があった瞬間に、とっさに、意思の疎通を量ろうと首を左右に激しく振るが、あとから思えばそれは逆効果だったに違いない。
なぜなら、直後顔を伏せた茜の手の動きと舌使いがますます激しくなったからだ。
「あっ……ヤバイって、マジで……で、出る…から……っ! あ、あ、……ぅ、あぁっ!」
茜の愛撫に、総一郎は抗いようもなく従順に精を吐きだした。
両目をぎゅっと閉じて、腰が砕けてしまいそうな快感を堪能する。
びくびくとした収縮を繰り返したのちに、はぁ、とようやく息をついて視線を落とすと、未だ視界には茜の黒い頭が写っている。
「……センセイ……あの、」
この状況は、今出した白いアレを茜が口で受け止めたということか。
もしやそうなのか。
嬉しいけれどそれよりも申し訳ない気持ちのほうが先だって、何ともいたたまれない気分になる。
茜は緩慢な動きで身を起こすと、総一郎と一瞬だけ視線を合わせてすぐに背を向けた。
白く骨ばった背筋越しに彼女の行動を観察する。枕もとのケースから数枚のティッシュを引き抜いて口元を覆う。
吐き出したのかそうじゃないのか。よく見えない。判別を致しかねる。
「…………セ、ンセイ」
恐る恐る声をかける。
マイペースに口元をぬぐう茜は、総一郎の呼びかけにも反応を示さない。
幾度かティッシュを引き抜き口元に運び、といった作業を繰り返していたが、手元のちり紙玉がある程度の大きさになったところでそれをぽいと捨てた茜が、こちらに向き直る。
まっすぐに見つめられて、動揺をする。
視線を反らすわけにいかない、とどこからか使命感を受信して、まばたきを激しく繰り返しながら茜を見つめ返した。
「……あの、もしかして……今の、」
「ん?」
「……………………飲んだ、りした?」
間髪をいれずに茜がくちびるの端を持ち上げて笑う。
それがどういう意味なのか、総一郎にはとっさに判断がつかなかった。
「さァ?」
「……………………え?」
「どっちだと思う?」
どっちだ、と問われても、行動を起こしたのは茜本人なので総一郎に真偽のほどが理解できるはずもない。
だけど希望を込めて、からからの喉から声を絞り出す。
「の、飲んだ!」
「……………………」
「えっ…出した……?」
質問には一切答えないまま、茜が膝立ちでこちらにすり寄ってくる。
胡坐をかいた腰骨にのしかかられそうになったところで、質問を重ねた。
「どっちですか?」
「…………ご想像にお任せしよう」
その言葉一つで、達したばかりの自身が再び硬度を増した。
茜は目を細めて柔らかく笑うと、両腕を総一郎の首に回して抱きつくような体制になる。
茶色い瞳で自分を見下ろして、戸惑いながら見つめ返した総一郎のくちびるをすばやく奪ってしまう。
舌先を割りいれられて、口腔を好きなように蹂躙される。
ますますと固くなった自身に膝の先でふれた茜が、喉の奥で笑いながら顔を少しだけ離して総一郎の眼を覗きこんだ。
「さぁ次は? どうする?」
「入れ…たいです」
そうかと笑いながら、素早く取り出した避妊具の袋をぺりと破り、取り出した中身をするすると被せていく。
その様子はうきうきとして見えるのだが、ふと、思いついて呼びかける。
「……あの、センセイ」
「ん?」
「楽しい?」
「楽しい。物凄く。君は?」
「楽しいというか、嬉しいです」
む、と茜が鋭く唸った。
上体を起こして総一郎と向き合うと、両の頬をその手で挟んだ。ぐいと乱暴に仰がされて、茜の黒い瞳と正面からぶつかり合う。
「その心は?」
「えー、これっていわゆるお仕置き?」
「そうだ」
「そりゃ申し訳ないんですが、どっちかっていうと至れり尽くせりです」
「……………………浅尾」
「はい」
「君には、不自由な体制を強いられた上に身体を開かされた羞恥とか、無理やりの射精に至った屈辱とか、そういう感情はないのか」
「うーん、あんまり? だってセンセイのすることだし」
これが事務的に行われていたらさすがに傷つくかもしれないが、なんていったって今日の茜は最高に楽しそうだ。
たぶん、総一郎がもっと嫌がったり恥ずかしがったりするのを茜は求めている気がしないでもない。
でもさっきの発射は、見た目のエロさはもちろん、罪悪感や背徳感や、いろんな感情がないまぜになって最高に気持ちよかった。
口元が緩んでも仕方ない、そうでしょうセンセイ。
締まりなく緩んだ頬を慌てて引き締めた総一郎を見て、茜がますます眉間のしわを深くする。
その表情にヤバイと直感を抱いた総一郎は、弁解のために慌てて口を開いた。
「あ、えっと、でも、身動きとれないのは、ちょっと悔しいです!」
「ほう。あー、浅尾。……触りたいか?」
「……触りたい、です」
「見たいか?」
「見たいです」
「じゃあ今その現状は不服か?」
「うん、物凄く不服です」
よし、と低く呟くと、総一郎の前髪をふわりと撫で上げて、その色素の薄い双眸で覗きこむ。
くちもとを歪めて満足そうに微笑むと、今日は着衣プレイだ、と言いながら黒いスカートを捲り上げる。
するりと器用に下着を脱ぎ捨てて、膝を立てて総一郎に跨った。
「……服、汚れるよ。せめて下だけでも脱いでください」
「だめだ。中身を想像して悶えるがいい」
総一郎にも手を添えて、先端を秘部にあてがうと、ためらいもなく一気に腰を落とす。
「ん、あっ!」
自分で奪った熱に自分で浮かされて、白い喉をのけぞらせた。
「……ぅん……んん…はっ」
薄く喘ぎながら、漏れる声をかき消すようにくちびるを重ねてくる。
その隙間から入り込んだ茜の吐息はとても熱くて荒くて、総一郎の思考を簡単に白く濁らせる。
茜の熱い体内に埋め込まれた自身が、その熱を吸い取るようにどくんと脈打った。
満たされているのに足りなくて、全然足りなくて、もっと欲しくて、ずん、と腰をつきあげる。
「あっ……!」
鼻にかかった声を上げた茜が、上体のバランスを崩してぎゅっと総一郎の肩に縋りつく。
もう一度、と不自由な身体をなんとか持ち上げると、だめ、と茜が耳元で囁いた。
その色のある声音にも、またぞくりとして自身が一層その質量を増やす。
そんな。
絞り出した声があまりにも余裕なさげに掠れていた。
「……だめって、言われても……」
「ん、だめだ、動くな……」
「も、無理、苦しいからさ……代わって。上手く動けないし」
「いや、だ」
「センセイ、……もう無理…。お願いします、ほどいてください」
「………………反省は?」
「してますごめんなさい」
「ほんとうに?」
「ホント、です。ごめんなさい、もう二度としません……センセイ、お願い」
懇願をしながら、繋がっただけでこんなにも身体中を駆け巡る快楽に、どこか冷静な自分が驚いていた。
「…………ん、」
たっぷりと悩んだのちに小さく息を吐くようにうなずいた茜の手が、肩から背へと滑って手首に届く。
やや時間がかかったものの、するりと衣擦れの音がして、がくんと両手が軽くなった反動に腕が震えた。
するりと茜の洋服の裾から手を差し入れて、滑らかな背中をなでた。
両腕で下着のホックを外すと、すっと下着の痕を撫でて両手を前に回し、柔らかな乳房を揉みしだく。
「んんっ!」
嬌声を上げた茜が身を引く。
追いかけて先端を軽くつねり、片手を細い腰に回してぐっと下肢を押し上げる。
「や、ふ……あっ!」
幾度か腰を浮かして身体を叩きつけたけれど上手くいかず、どうにももどかしい快楽に気が狂いそうになった。
一回出したというのに、己の元気のよさに我ながら驚きつつ、熱い吐息混じりにぽつりと呟いた。
「……あー、俺もうだめ」
背に手を回して、くちびるをぶつけた勢いのまま細い身体を押し倒す。
ぼす、と柔らかい音がして、半裸の身体がベッドに沈む。
乱れた洋服の隙間からちらりと見える乳房のふくらみが、言葉に表現できないほどエロい。
嫌がらせのはずの着衣プレイは、逆に総一郎を悦ばせている。何とも残念に違いない。
ベッドと背中に挟まれた手を引き抜いて、ぐっと裾をまくりあげた。
「あさ…っ、ん、や……ああ!」
抗議の声などまるで無視をして、薄く色づく先端に吸い付いた。
くちびるで甘く噛みながら、唾液をたっぷり含んだ舌先でころころと転がす。
茜は繋がったままの腰を逃げるように揺らしながら、くちもとを手の甲で覆って可能な限り声を漏らさないようにしている。
くぐもった悲鳴は、それはそれで艶っぽく青少年の興奮を煽るけれど、少しだけ面白くないのも事実だ。
茜が短い声を上げる度に、彼女を悦ばせているという自己満足に浸れるのだ。それが聞かれないなんて、勿体無いではないか。
「センセイ」
上体を起こして掠れた声で呼ぶと、茜が熱に潤んだ瞳を投げてよこす。
とんでもなく無防備なその表情を見られるのは自分だけだ、となんとなく考えたらどうしようもなく胸が熱くなった。
そっと赤いくちびるを覆う細い手を握り締める。反対側の手も同じように浚って、自分の首に回させた。
茜が何か言うよりも早く、膝の裏を抱えあげ大きく片足を開かせて、もっと深く身体をぶつける。
「あっ……や、も…んんっ……は…ん!」
この甘い声を聞けるのも、自分だけ。
「あさお、あさ…おっ……やだ、あ、ん…あっ! 浅尾!」
この赤いくちびるが泣くように呼ぶのも、自分の名前だけ。キスをしていいのも、髪を撫でていいのも、全部、自分だけに許された特権だ。
改めてそんなことを思いながら、彼女の中に収めたそれをぎりぎりまで引き抜いた。
再び最奥まで自身を潜り込ませる。その動作を繰り返す度に、ぐちゃぐちゃという卑猥な水音と、茜の嬌声と、自分の吐息が混じって響く。
「センセ…イ、っ……」
荒い呼吸の合間、途切れ途切れに呼ぶ。両目をきつくつぶった茜が、総一郎の首に回した手にぐっと力をこめてほとんど縋り付くように身を寄せてくる。
「も、や……あさお…浅尾! んっ……ああっ!!」
声になり損ねた息を漏らし、茜が上体を反らして全身を硬くする。
同時に、総一郎も堪えていた箍を外して、身の焼ききれそうな絶頂を享受した。
どくどく、という断続的な自身の痙攣も、徐々にスパンが長くなりやがて落ち着きを取り戻す。
未だ整わない息のまま、汗ばんだ額をぶつけて眼鏡のない茜の瞳を覗き込む。
ガラス玉のような双眸に総一郎を映した彼女は、優しげにふわりと微笑むとそっとまぶたを閉じる。
その微笑がいかにも幸せそうで、総一郎もつられて笑みをこぼして目を閉じた。
そっと乾いたくちびる同士が重なる。
「……ん、んー……」
漏れた満足げなうめきはどちらのものだったか。
余韻を味わうために絡ませた舌をゆっくりと動かしながら、縋り付かれたままの両腕にぐっと力が篭り引き寄せられて、また嬉しくなる。
茜に必要とされているような気がしたからだ。
調子に乗ってぐいと腰を押し付けると、身体の下の茜が身を捩じらせた。
身体中のほてりが一旦落ち着きを取り戻すまでこのままでいたいと思っていたけれど、大人しく身を起こす。
自身を引き抜いて汗ばんだ身体を離す。
服が汚れた、と茜が不機嫌そうな顔で呟いたのを聞きつけて、だから言ったのにとこっちも呟き返したらますます不機嫌そうな顔になってしまった。
「いい。お小言はたくさんだ」
総一郎に背を向けて、今更なのにもくもくと服を脱ぎ始めた。
後始末を終えた総一郎がベッドに舞い戻ると、指先に硬質な何かが触れた。
ひょいと拾い上げると、茜の携帯電話だった。
それを枕もとの眼鏡の隣に置くと、ふと思い出して尋ねてみる。
「結局さ、なんだったの?」
細身の体躯をうつぶせに投げ出して、ふかふかのクッションの柔らかさを楽しんでいた茜は、なにが、というように眼鏡のない顔をこちらに向ける。
艶やかな黒髪がさらりと揺れて、剥き出しの丸い肩の上で踊った。
ピントがあって無さそうなその視界にきちんと入るように、総一郎は屈みこんで自分の顔を近づけた。
「メール」
ああ、と小さく頷いた茜の細い腕が伸びてきて、そっと総一郎の前髪をかき上げる。
くすぐったくて肩をすくめた。
まるで子ども扱いだ、とは思うものの、茜にこうされるのは大好きだ。
数度それを繰り返した形のいい指は、名残惜しそうにそこから離れるとすっと自分の首筋を指した。
「これ」
先ほどと同じようにあかく肌に残る痕を示して、ほう、とため息をつく。
上気した白い肌に写るそれは、平常時よりも色味を増しておりますます淫靡に見えた。
「……えっと、スミマセン。反省してます」
「うむ、それは疑ってはいない」
「じゃあなに?」
「これのせいで最近はずっと首の詰まった服を着ていたんだがな、もういいだろうと思って昨日は油断をしたんだ。暑かったし」
「はあ」
「髪を上げていたのが敗因だ。目ざとい琴子に見つけられ散々からかわれて追求をされた挙句、
男の先生にも若い方はいいですなあ、とか、お盛んでうらやましいとか出来ちゃったは困りますよとか色々と言われてしまった」
「それってセクハラじゃないですかっ」
「まあ、セクハラだな。聞き流して忘れてしまえば、さほど大変ではないんだ。
しかし、休日にわざわざ緊急でない用事をメールしてきて最後に『せっかくのデートのお邪魔してしまってスミマセン』と付け足すのが許せない。ほんとうに邪魔だ」
「う、うん」
「だからメールなんて見たくなかったんだ」
はあ、と大きなため息をついて、茜はクッションに顔を埋めてしまう。
茜の不機嫌は、結局自分が根源だったのか。怒りの矛先は間違っていない。
脱げと言われたときは、なんて理不尽な、と少しだけ思ったが、結論としては総一郎の自業自得だったようだ。
「ごめんなさい」
小さく謝りながら、茜の隣に裸の身体を横たえる。
少しだけ顔を持ち上げた彼女が、茶色い瞳でこちらを見やって穏やかに笑った。
「もういいんだ。今日は君のお陰で、最高に晴れやかな気分になれた。ありがとう」
ぐいと身を乗り出して、くちびるを寄せてくる。
どうやら茜のご機嫌はほんとうに治ったようだ。
特に何かしたわけでもないのに、ありがとうと言われてそれを鵜呑みにして舞い上がるなんて、ちょっと単純過ぎるかなと考えた。
でも茜が笑ってくれたのが嬉しすぎて、キスが気持ちよすぎて、さっきまでぐずぐずと考えていたことすべてがどうでもよくなってしまった。
触れてすぐに離れたそれを追いかけて、深く口付ける。
仕方がないな、というように答えてくれていた茜が、ほんとうに幸せそうに小さく笑ったので、総一郎の胸の中も幸せな気分でいっぱいになった。
*
以上です。
レス番号8が抜けました。すみません。
お付き合いありがとうございました。
おおお、センセだ。
センセだ。
相変わらず可愛くて嬉しい。
昨今の中日事情で二人を心配してたよ…。
続編来てる!!
この職人さんてHP持ってたりしません?
GJ!!
まさか続きが読めるとは思っていなかっただけに、感動もひとしおです
先生かわいいよ先生
うあぁぁ なんというエロ可愛いさ
GJです!!
>>137-148 久し振りの総一郎と茜きたあああああああああああああああああああああ
ずっと待ってましたGJ
最近フランス人の彼女、というか同居人の女性と暮らしてて質問があるんだけどいいかな?
俺は大学3年でフランスともフランス語とも一切関係ないことやってる
で彼女は俺より一回り上なの
先日、奥にしまっといたAVが見つかって
へぇー●●もこういうの見るんだぁー、二人でふざけ半分に見てるうちにあやしくなってきて
俺が乳もんだりしてるうちに本番
セックスの相性を見たいだけだったら不和に終わった際に同居人として気まずさを禁じ得なかったろうし
その後に俺を半彼氏として扱うようになったところを見るとセックスはきっかけで口実に過ぎなかったのかとも思うし
この場合、彼女の利害勘定はどこに線引きがされたものと思われますか?
スレ違いだが敢えて言おう
本 人 に 聞 け
( 'ー`)。oO(そろそろ保管庫更新されないかな)
ん?保管庫ってwikiじゃなかったっけ?
ヘルプ読めば誰でも更新できたと思うよ
>>137 二度目の5月キタ━━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━!!
>>157 トップに編集権限を管理人のみにって書いてあったから、編集出来ないものかとオモタ
次はいよいよ浅尾の目隠しプレーだな期待してるぞ
密に琴子の方も期待しているんが
>137
GJ!!
職人さん達頑張ってくれ!
保管庫の更新乙
書店で立ち読みした「うさぎドロップ」に禿萌えした。
純粋な父親(代理)と娘のマンガなはずだから、ヨコシマでごめん…って思ったよ。
ダイキチ30歳とりん6歳が、10年後にはどうなるんだとwktk。
結婚はできないだろうけど。
青年が幼女を育てる(養う)ってシチュがものすごく好きなんだ。
よつばと! とか。
そういうの他になんか知らない?
166 :
名無しさん@ピンキー:2008/10/01(水) 11:46:37 ID:GwVAZX8D
スクライド(主人公16、女の子8)……は、違うか……
14歳の何でも殴って解決するDQNが
6歳の女の子を拾って二年間育てた後の話
>>165 うさぎドロップはいいよな
アルカイックシールドヒートってゲームは男上の年の差が2組いる
姫と育ての親兼従者のおっさん
暗黒魔導師だかなんかの青年と僕っ娘つるぺた少女
命令で青年が襲った里の生き残りが少女で、青年は自分のしたことに後悔、少女を守る宣言
魔法の力でイヤ〜ンな展開が見えるぞ!!
>>169 ゲームとかストーリーはまぁ大したことないんだが、
青年ボイスが 子/安/武/人 で 少女ボイスが 坂/本/真/綾 っていうね…
テラコヤスwww
流狼の旅がお薦め。
人狼が女の子を連れて旅をする話でほのぼのする。
仕事一筋27年、料理もろくに作れないお姉さんのが作った手料理を、
不味いのに美味しいと言いつつ無理して食べてくれる青少年
そんな関係が俺の夢です
今回の地獄少女の少年と人妻は報われなかったな。
仕事一筋27年、料理もろくに作れないお姉さんに
毎日美味しい手料理を作ってくれる青少年は?
仕事一筋27年、料理もろくに作れないお姉さんに
毎日美味しい手料理を作ってくれるおっさんは?
ずぼらでがさつなお姉さんと、家事が得意にならざるを得なかった少年の話とか…
スボラでガサツだけど時々妙に鋭いおッさんのケツを蹴る
気立て良し器量良しだけど決定的な場面で天然ボケの若い女性の湯煙旅情殺人事件
ってのはワリと良くあるのかもしれない。
ずぼらなお姉さんと家事が得意な少年といえば「てんぷら」があったな
もう終わっちゃったけど
てんぷら?
駅弁みたいな体位のことか?(´・ω・`)
「神童」て映画見て年の差的にめちゃくちゃ萌えた。コミックのほうは未読だが…
13歳の少女(ピアニスト)と19歳の青年(音大浪人)が主人公。
この二人のピアノの連弾のシーンは妙にエロく感じたw
貴賤結婚という年の差萌え用語を覚えた
またひとつ賢くなってしまった
歳の差萌えに限らないんじゃねーか?w
身分違いとか玉の輿ってよくあるネタだし。
こないだ「ぼくの地球を守って」読んで、9歳差のカップルに禿げ萌えた。
男が年下っていうのも結構良いな。
187 :
名無しさん@ピンキー:2008/10/18(土) 07:38:37 ID:2nhhEHet
映画「エリザベス」で他国からの恫喝にも一切動じない女王(四十歳くらい?)が、
ある日海賊が謁見してきて、若い船長(イケメン)が航海中の冒険について話してたら、部下が
「女王陛下、もう次の予定が入っております。こら、海賊風情はさっさと下がれ」みたいなことを言う。
そしたらそれまでずっと完璧超人みたいな描写ばっかりだったのに、女王がはっとして
「ちょ、ちょっと待って! そ、その、続けてちょうだいな……」
と動揺するシーンがある。
映画自体は微妙な出来だけど、そこだけはなぜか萌えた。
ずぼらなお姉さんとしっかりものな少年に萌えて仕方がない
それは別として、最近知り合いにすすめられた「十二秘色のパレット」にだだハマりした
白衣の先生×天真爛漫な女子生徒ってのも良いもんだね…
お互いの呼び方に身悶えてしまった
>>183 ヨーハン大公は兄(フランツ2世)にそっくりだなw
スレと全然関係なくてすまん。
>>184 貴賤結婚は王族と平民というように究極の身分違いの結婚のことで
年の差の意味ではないよ。
君主と貴族とだって貴賎結婚だよ
>>188 「十二秘色のパレット」いいよねー。同作者の作品は、
悪魔(100歳オーバー)×勝気な女子高生
虚弱体質小説家青年×異世界の宿の女主人
護衛の青年×次期当主の少女
とか、年の差カップルがてんこ盛りさ。人外が多いから自然と年の差になるんだ。
該当スレも存在するからぜひ見てきておくれ。
新婚スレに行くと幸せになれるかも
このスレの住人はただいま新婚スレに行くとよいでしょう
保守
やはり男なら尻に敷かれたいよな
投下します。
ずぼらなお姉さん(27)としっかりものの少年(19)。
妄想を詰め込んだら長くなりました。
深夜に似つかわしくない賑やかしい音をたてて、マンションのドアの鍵が乱暴に開けられた。
リビングのソファに怠惰に寝っ転がっていた僕は、読んでいた本から視線を外し時計をちらりと見やる。
午前一時半。ぎりぎり朝帰りではないだろう。
僕は本を開いたまま裏向きにテーブルに乗せて、わくわくと立ち上がる。
咲ちゃんが帰ってきた。二日ぶりの再会だ。
僕がリビングのドアを閉めると同時に、玄関のドアがばったんと大きな音をたてて閉じた。
深夜に帰ってきたら静かにドアを閉めて、と何度も言っているのに、咲ちゃんはちっとも聞いてくれない。
「咲ちゃんお帰り」
「ミッキー!」
僕の姿を見つけると、咲ちゃんはふにゃりと笑う。
「ミッキーただいま! 咲子さんが帰ってきましたっ、寂しかった〜?」
間延びした声でご機嫌にそう言うと、よたよたとした足取りでテキトーに靴を脱ぎちらかして、どたどたと大きな足音を立てて僕の方まで歩いてくる。
今日も咲ちゃんは疲れている。その上、盛大に酔っぱらっている。
ああ、めんどくさい。
咲ちゃんは酔っぱらうととにかくしつこい。楽しそうなのは結構だけど、僕に絡んで離れない。
理不尽なお説教とか、上司の愚痴とか、同級生の結婚とか出産とか、興味のない話を延々と聞かされる羽目になる。
「ミッキー」
僕の目の前までふらふらと歩み寄ってきた咲ちゃんが、重量のありそうな黒い鞄をどさりと床に投げ出して僕の首に両腕を回す。
あれ、と思う間もなく唇を塞がれた。
柔らかい舌と同時に、酒臭い息が入り込んでくる。ついでに、煙草の香りも。
ああ、咲ちゃん、ヤバイです。非常にヤバイです。
ふにゃふにゃとした身体が押し付けられているせいで、僕の理性は簡単に焼き切れそうなんです。
それでも僕は努めて冷静に、ねっとりと舌を絡め合わせて、そこに咲ちゃんがいると確認をするための緩やかなキスをする。
おかえりなさい、の儀式だ。今日も無事に帰ってきてくれてありがとう、の気持ちを込めて、丁寧に丁寧に舌を愛撫する。
やがてキスに飽きた咲ちゃんが、ぐいと僕の胸を押して顔を離して儀式は終了。
にっこりと笑った咲ちゃんは濡れた唇をぬぐいながら、ただいま、と改めて告げた。
その顔にどきりとする。
とても酔っているようには思えないきれいなきれいな笑顔で、小さい頃に憧れた「咲姉ちゃん」の優しい笑顔そのままだな、と僕は思った。
「お帰り、咲ちゃん」
「うん。あんたまだ起きてたの? 明日学校は?」
「本、読んでたから。それに明日は日曜日」
「バイトは?」
「午後から」
ふうん、とあんまり興味がなさそうに僕の脇をすり抜けようとした咲ちゃんの、二の腕をぐっと掴んだ。
「……なに、ミッキー」
「光秋。もう子供じゃないんだからちゃんと呼んでくんない? はい、上着脱いで」
咲ちゃんのほっそい肩に手をかけて、トレンチっぽい薄いジャケットをするりと脱がせる。
その下のスーツの上着も脱がせて左腕に引っかけると、薄いブラウス一枚になった彼女の身体をくるりと後ろに向けて、うなじに手をかけてネックレスを勝手に外す。
「ピアスも。指輪も」
咲ちゃんはめんどくさそうに眉間に皺をよせて、それでも従順にダイヤのついたピアスの片方を外して僕の開いた手のひらに載せる。
もう片方も、左手の中指にはまった青い宝石のついた指輪も外して順番に僕の手の上に載せていく。
「はい、よくできました。じゃあそのままお風呂へどうぞ」
「えーヤダ、めんどくさい。朝入る」
「駄目」
「やーだ」
「ダダ捏ねないの。いい子だから入ってきて」
「何よ子ども扱いして!」
「大きな子どもでしょ。自分のことも自分でできないくせに」
「あんた八も年下のくせに生意気」
「生意気でいいからお風呂入って。出てきたらお水あげる。ドライヤーもしてあげる」
う、と咲ちゃんが黙った。
髪が傷むのは嫌だけどドライヤーする時間が嫌いな咲ちゃんには効果的な誘い文句だ。
「ね、明日も仕事なんでしょ?」
「明日は、やっと休み」
「御苦労さま。じゃあ今お風呂入ったら、明日いつまででも寝ていられるよ。それに、どうせ僕のところで寝るんでしょ? 咲ちゃん煙草臭いから、お願い」
じっと咲ちゃんの、黒目がちな両の瞳を見つめる。
僕は煙草アレルギーだ。近くで煙草を吸われると全身にじんましんが出て痒くて仕方なくなる。
咲ちゃんはもちろんそれを知っている。だから僕の前では絶対に煙草を吸わない。
禁煙に成功をした、と威張っているが、それは嘘だ。
飲むと必ず煙草臭い息で帰ってくる。キスをしただけで耳の下が痒くなる。吸った、と聞くと逆切れをされるから、そこには触れないようにしている。
バイト先の禁煙中の先輩に聞いてみたら、どうやら飲むとどうしても吸いたくなって仕方ないらしい。咲ちゃんもたぶんそれなんだろう。
同僚に喫煙者が多い咲ちゃんは、ただ仕事をしてきただけの時は理性的にお風呂に入る。どれだけ疲れていても、僕のためにそうする。
入浴を拒否する今日はよっぽど眠たいに違いない。それは判る。
でも煙草臭い咲ちゃんと一緒に眠ると咳が止まらなくて、僕も咲ちゃんも一晩中眠れないんだ。
「……ん、判った」
ついに折れた咲ちゃんが、くるりと僕に背を向ける。
「はい、行ってらっしゃい」
にこにこと笑いながら僕はそんな咲ちゃんを見送る。
申し訳ないな、とは少し思うものの、ちゃんとお風呂に入ると疲れの取れ方が違う、と何かで聞きかじった僕は無理やりにでも咲ちゃんをお風呂に入れるようにしているのだ。
咲ちゃんのアクセサリーをリビングのボックスに放り込んで、上着をハンガーに掛ける。
バスタオルとフェイスタオルを掴むと、シャワーの音と石鹸の香りの漂う脱衣所にそれらを置く。下着とパジャマはどれを選ぶか判らないから、触らないことにしている。
毎日洗濯をして咲ちゃんの下着を干してはいても、持ってくるのとはなんとなく、意味あいがちがうのだ。
廊下に放置されたままの重いカバンを掴むと、リビングに戻ってそれをソファの脇に据え置いた。
対面式のキッチンに回り込んで、やかんに浄水器の水を入れる。
咲ちゃんは刑事だ。どんな仕事をしているのかは、守秘義務っていうのがあるらしく家族にも教えられないらしい。
それが本当なのかどうか、僕には判らない。ただ咲ちゃんが話すのを面倒がっているだけかもしれない。でも知っても僕にはどうにもできないだろう。
何をしているかは判らないけど、咲ちゃんがとんでもなく忙しいってのは知っている。
夜に帰ってこないのは当たり前。
僕が大学やバイトに行っている間にふらりと帰ってきて、シャワーを浴びて着替えを掴むとすぐに出て行ってしまうこともザラだし、たまに休みが取れた日には一日中眠っている。だから三日以上顔を合わせないことだって普通のこと。
帰ってきてくれたときはそれがどんなに深夜でも、どれだけ眠くても起き上がって咲ちゃんを出迎えて、荷物を受け取ってバスルームへと送り出し、簡単な食事を出すようにしている。
咲ちゃんは美味しいと言いながら、多少の苦労はしつつ全部平らげて、少しだけ眠るとまた仕事に出かけていく。
職場で仮眠を取っている、という言葉をどこまで信じればいいのか。
いつか彼女が倒れてしまうのではないかと不安で仕方がないけれど、仕事を辞めて、と言える立場ではないのだ。僕は、ただの大学生だ。
第一、咲ちゃんは仕事が大好きだ。
いらいらとして、殺伐として、情緒不安定になっていて、帰ってきた途端僕に当たり散らすこともあるけれど、それでも続けてるってことは、たぶん、自分の父親、つまり僕の伯父さんと同じ職業である刑事って仕事に誇りを持っているんだと、思う。
咲ちゃんに何をオーダーされてもいいように、カップ二杯分のお湯を沸かし終えたところでリビングのドアが開いた。
バスタオルをそのしなやかな裸体に巻いて、首からフェイスタオルを提げたいで立ちで咲ちゃんが登場をする。
「お茶漬け、食べる? 味噌汁、それともコーヒー?」
「ビール」
「もうだめ。水にしといて」
冷蔵庫を開けて、ペットボトルのミネラルウォーターを取り出す。大きめのグラスに一杯を注ぐと、どっかりとソファに腰かけた咲ちゃんの目の前に差し出した。
「ケチ」
「ケチじゃない。飲みすぎ」
むっつりとふてくされながら、咲ちゃんが僕の手からグラスを受け取る。
別に明日が休みならビールを出してもいい気がするけど、酒に強い咲ちゃんは飲みすぎなんじゃないかと勝手に心配をしている僕は、あまり飲んでほしくないのだ。
「咲ちゃん。ゴーする?」
「ん」
ドライヤーとなんかよく判らない髪用のクリームを取り出して、コンセントにプラグを差し込んで咲ちゃんの後ろに居場所を定める。
彼女が首に巻いたタオルで、がしがしと濡れた頭を拭う。抗議の声が聞こえたような気がするけど、気にしない。
それが終わると、両手にクリームを伸ばしてさっきよりは水分を飛ばした髪に軽く塗りこんでいく。
トリートメントというものらしいが、リンスとどう違うのは僕にはさっぱり理解できない。咲ちゃんが自分で髪を乾かす時にしているように、僕も倣っているのだ。
タオルで両手を軽く拭うと、ドライヤーのスイッチを入れて小刻みに揺らしながら咲ちゃんの茶色い髪を乾かしていく。
咲ちゃんの髪は短い。耳の下、肩の上あたりでふわふわと揺れるウェーブヘアだ。
あと一時間起きているのならたぶん、ドライヤーもいらないぐらいだろうけど、疲れ果てていて電池が切れたように眠ってしまう咲ちゃんにはあと一時間起きていろなんて、拷問に違いない。
今だって、ドライヤーの熱に暖められた身体が、こっくりと船を漕ぎ始めている。
くるんくるんと指に柔らかい髪を巻きつけながら、丁寧に髪を乾かしていく。
昔から、咲ちゃんの髪を触るのが好きだった。
さらさらとしていて、癖がなくて柔らかく、いい香りがして。小さい頃に母を亡くした僕にとって、女性用のシャンプーの香りが物珍しくてどきどきした。
咲ちゃんが複雑な形に結んでいるのを見るのも好きだった。
成人式のときにふわふわに結った髪が可愛くて、美容師になろうかなと呟いた僕に「ミッキーは勉強が好きなんだし、せっかくだから大学に行けば」と言ってくれたのは他ならぬ咲ちゃんだった。
いい加減腕が疲れてきたところでドライヤーのスイッチを切った。乾き具合を簡単にチェックする。
うん、こんなもんでしょ。
コンセントを抜いてコードを折りたたむと、ドライヤーを定位置に戻して咲ちゃんの隣に腰かけた。
「咲ちゃん、終わったよ」
ソファの手すりに寄りかかって眠ってしまった咲ちゃんが、うん、と小さく答えたものの起き上がる気配はない。
こりゃ大変だ。
こうなっちゃうと、起こすのにものすごく苦労する。しつこくすると逆切れするし。
起こすぐらいなら勝手にベッドに運んだほうが早いかなあ。
一応男だけど、ひょろひょろな僕の腕で咲ちゃんを持ち上げれるか非常に疑問だ。
それよりも、バスタオル一枚で青少年の前に登場するの、止めてほしいんだけど。
胸のあたりで挟み込んでいたタオルのふちがぺろりとはだけて、薄っぺらい胸の、谷間らしき部分が若干御開帳をしている。
正直言って目のやり場に困る。
咲ちゃんの裸なんてもう何度も見ているけど、それでも困る。
恥ずかしがったり隠したりするから見たいんであって、こうもあけっぴろげに「どうぞ」と据え置かれるとやる気がなくなる。
やる気っていうのは、その、襲う気とかなんだけど。
咲ちゃんはずぼらだ。
それはもう病的なほどだらしない。
僕がいるのにも関わらず裸で歩きまわるし(これは一番最初に懇願をしてやめてもらった)、片付けも掃除も死ぬほど苦手だし、料理も、味覚オンチな上に作っただけで飽きてしまうから結局あとは僕の仕事になる。
洗濯も山盛りに溜める咲ちゃんが、僕と暮らす前はどうやって生きていたのか甚だ疑問だ。
まあ僕が咲ちゃんを甘やかすから、彼女のずぼらに拍車がかかってる気がしないでもない。
あーあ。
小さくため息をついて、胸元のずれたタオルをそっと元の位置に戻す。
咲ちゃん、と試しに呼んでみる。咲ちゃんはぴくりとも動かない。
「ね、服着てベッドで寝て。風邪ひくってば」
剥き出しの肩に軽く触れてみる。さっきまで湯気を上げていた肌はすっかりと冷えて、しまっている。
あーもーどうしようかな、と一瞬悩んだ隙に、咲ちゃんのすらりとした両腕が伸びてきて僕の首に絡まった。
そのままぐい、と引かれて、僕は咲ちゃんの身体の上に覆いかぶさってしまう。
「ミッキー」
にやりと笑った咲ちゃんに、唇を塞がれた。
咲ちゃんのぬるりとした舌が、僕の歯列を軽くなぞった後に舌を絡め取る。僕は必死にそれに応える。突然のことに驚いたけど、僕は咲ちゃんとのキスを拒否できない。
煙草じゃなくて歯磨き粉の香りのする長い長いキスのあと、頬をほんのりと上気させた咲ちゃんが、ほう、と息を吐いた。
黒目がちな両の瞳を潤ませて、濡れた唇でミッキー、と僕を呼ぶ。
「なに、咲ちゃん?」
「咲子さんの胸、見てたでしょ」
「………………見てない」
「じゃあなんでここ、こんなになってるの?」
咲ちゃんの指先が、僕の股間をすっと撫で上げた。
パジャマの上から絶妙な力加減で快感を刺激されて、僕は女の子みたいな声を思わず漏らす。
普段、頭痛がするほど不器用なくせにこういうことだけは器用にしてみせるんだよな。
僕の反応に気を良くした咲ちゃんが、ふふ、と小さく笑った。
「今のキスのせいだよ」
「あーそう? なんでもいいわ。せっかくだし、ね、しよ?」
「咲ちゃん、疲れてるんじゃないの?」
「疲れてる。だからしたいの」
……なんかその理屈はよく判んないな。疲れてるんなら素直に寝た方がいいと思うんだけど。
「こんな時間だし、明日にしよ? 今日は大人しく寝て」
「嫌、今日したいの。今すぐにしたいの」
「咲ちゃん」
「あんたさ、誰に養われてるか判ってる?」
出た。咲ちゃんお得意の脅し文句だ。
確かに、僕は咲ちゃんに扶養されている身分だ。
今年の春に、僕の親父が不幸にも事故死をした。
母はとうに亡く、唯一の肉親だった父を亡くした僕は一人ぼっちになった。
母が死んでから金に苦労していた父は碌な保険に入っておらず、今後の生活の保障はどこにもなかった。
十八にもなる男を引き取るなんていう奇特な親戚がいるはずもない。付き合いの薄かった父方の親族は総じて自分の生活で手いっぱいだった。
母方の親族はそれなりに裕福だったらしいが、母が死んで以来縁が薄かった。
唯一、母の姉である咲ちゃんの家族と、盆暮れの付き合いがあっただけだった。
父は生活の困窮を、伯母や他の親族たちにまったく伝えていなかった。
察するに男のプライド的な理由と、今はもう亡き母方の祖父母の性格的に、それを告げようものなら僕と父はたちまち引き離される懸念があったからだ。
葬式の席で僕のこの先を案じた伯母に問われるがままに現在の預金額を告げると、それだけなの、と目を丸くした。そんな伯母の様子をみて、ああ、僕んちって貧乏だったんだと初めて思い知らされたのだった。
せっかく苦労して入学したけど、大学は諦めて働くしかないなあと僕は覚悟を決めた。
親父が亡くなったというのに、僕は非情なほどに冷静だった。
「ミッキー。あんた、大学行きたい?」
僕の前に仁王立ちになってそう言った喪服姿の咲ちゃんを見て、ああ、昔ちらりと思った美容師になろうかな、と僕は思った。
答えられずにぼんやりと咲ちゃんを見返す僕に、ウチにくる? と聞いたのだった。
「あんた家事得意でしょ?」
まあ、そこそこ。咲ちゃんよりは得意だよ。伊達に長く父子家庭やってませんから。
そう思ったけど、この数日でいろんなことが起きすぎて父の死を悼む暇もなく動き詰めで、前夜も一睡も眠れなくて疲れ果ていた僕は、かすれた声で、うんと言うのが精いっぱいだった。
「それ全部やってくれたら、私がミッキーを養ってあげる。そのくらいの稼ぎと貯蓄はあるのよ」
有無を言わせぬ迫力に、僕は思わず頷いてしまった。
感謝はしつつも、咲ちゃんの勢いに押されただけ、下心なんてまったくないと思っていたけど、
初めて彼女とセックスをした夜に、僕は子どものころからずっとずっと咲ちゃんが好きだったと思い知らされてしまったのだった。
「ミッキー?」
僕の女王様が、鋭く名を呼ぶ。
「言ってごらん? ここの家主は誰?」
「咲ちゃんです」
「生活費は?」
「咲子さんのお給料です」
「後期の学費。出したのは誰?」
「咲子さんです」
「光秋。私のこと、好き?」
「うん」
「ほんとに?」
「好きだよ、好き。咲ちゃんがいなかった生きていけない」
「じゃあ抱いて」
僕の首に回った両腕に、再び力が籠って引き寄せられた。
差し込まれた舌を甘く噛んで牽制をして、腕の中の咲ちゃんが怯んだ隙にぺろりと唇を舐めまわす。
腕の中で華奢な咲ちゃんの身体が、びくびくと震えた。
重ねた唇の隙間から、咲ちゃんの甘い喘ぎ声がぽろぽろと漏れる。
もう興奮を抑えるのに精一杯な僕は、慌てて身体を起して咲ちゃんの前髪を撫でた。
不満げにこちらを見上げてくる咲ちゃんに、僕はありったけの余裕を込めて微笑んだ。
「……ベッド、行こう? ね?」
「ヤダ。今すぐしたいって、言ったでしょ?」
「咲ちゃん」
「も、我慢できない」
上半身を持ち上げて唇を押しつけてくる咲ちゃんを、なんとか押しとどめた。
困った女王さまだ。
全部自分の思い通りじゃないと気が済まないんだから。
できることなら僕の都合も聞いてほしいんだけど。明日の予定とか、体調とか。男にも色々あるんだし。
でもこれ言っても、知ったこっちゃないって一蹴されて終わりかなあ。
「光秋」
「駄目、ソファが汚れる。僕の部屋に行こ……ベッドだったらそのまま寝られるよ?」
「…………じゃあ、連れてって」
甘えるようなしぐさで、咲ちゃんが両腕をのばす。
「抱っこ」
お願い、と小首をかしげて、僕を誘う。
くっそ、可愛いな。どうしようもなく可愛いな。
僕は負けたような気になる。
咲ちゃんはこれを計算でやっているんだろうか。
男らしくさばさばとしているかっこいい咲ちゃんが、可愛らしさを武器にするなんて思いもよらないけど、もしかして僕よりも八年も長く生きている年の甲ってやつなんだろうか。
「…………はい」
簡単に咲ちゃんにしてやられた僕は一旦床に降りて膝をつき、彼女の膝の裏と細い背中に腕を差し入れて、ぐっと力を込める。
「ちゃんと、捕まっててね。転んだらごめん」
その言葉を聞いた咲ちゃんが、眉間にきつく皺を寄せる。
「落とさないように頑張るから大人しくしてて」
やっぱり降りる、とまためんどくさいわがままを言い始める前に、咲ちゃんを抱き上げて立ち上がった。
その、予想外の軽さに驚かされる。
ちゃんとごはん食べてるのかな。ほんとに寝てるのかな。無理しすぎてないのかな。
仕事、辛くないのかな。
「咲ちゃん……」
「なーにー?」
僕の首に両手を巻きつけて、楽しそうに揺られている咲ちゃんがにこにこと上機嫌で返事をする。
その顔に、僕は喉元まで出てきていた言葉を慌てて飲み込んだ。
僕のために無理してない? なんておこがましいにも程がある。
僕の世界には咲ちゃんしかいないけど、咲ちゃんはそうじゃない。
咲ちゃんは自分の人生を生きている。その中に、僕は間借りをさせてもらっているだけ。
第一、養ってもらっている僕が出来るお説教なんて何もない。
「……電気、消して」
「ん」
リビングの出口付近で立ち止まって、咲ちゃんにぱちんとスイッチを押してもらう。
薄暗い廊下を歩いて、僕の部屋の前でまた同じように咲ちゃんにドアノブをひねってもらうと行儀悪く足で扉を開いて、するりと室内に滑り込んだ。
背中でドアを閉めたら真っ暗になってしまったけど、家具の配置は足が覚えているからまったく問題ない。
四歩目でベッドサイドにたどり着くと、ゆっくりと咲ちゃんをその上に下ろす。
バスタオルが巻きついた身体の下から腕を引き抜いて、そっと咲ちゃんに覆いかぶさった。
「咲ちゃん」
「ん?」
「好きだよ。世界で一番、咲ちゃんが好き。大好き。どこにも行かないで」
「……どこにも、行かないわよ? あんたがここに居てくれる限り、ちゃんと帰ってくるから大丈夫」
咲ちゃんの細い指が伸びてきて、僕の前髪を優しく撫でた。
むず痒い様なくすぐったさに僕の背筋がぞわぞわする。
「咲ちゃん」
囁くような小さな声で咲ちゃんを呼んだ。
嬉しそうに両目を閉じた咲ちゃんの、柔らかい唇にそっとキスをする。
ちょっと強引に舌を割りいれ、呼吸を奪うように激しく激しく口付けて、バスタオルの上から僕の片手がちょっと余ってしまうサイズの乳房に触れた。
軽く力を込めて、咲ちゃんの胸を揉みしだく。
「んん!」
くぐもった悲鳴が、重ねた口の下から漏れた。その声に、僕の興奮はどんどんと激しくなる。
耳たぶに舌を這わす。中の穴にまでねっとりと舐め上げたあとに、歯を立てて軽く熱い耳に噛みついた。
「咲ちゃん」
「あっ! やあっ……ん、だ…めっ」
「咲ちゃん」
「ぅ、ん!」
耳の穴の中に、直接息を吹きかけるように何度も何度も名前を呼ぶ。時々、思い出したように好き、とも付け加えて。
それだけで咲ちゃんの身体がびくびくと震えて、甘く高い声がひっきりなしに漏れる。咲ちゃんは、僕の声が好きなんだそうだ。
嫌がるように身を捩って、僕から逃げようとする咲ちゃんの右手に自分の左手を重ねて、きつく握りしめた。
首筋をぺろりと舐めながら、胸を撫でていた手を滑らせてバスタオルをはだけさせる。直接触れた咲ちゃんの肌は、うっすらと汗ばんでいて僕の手のひらに吸いつくようだった。
指の腹に軽く触れた乳首が、こりこりに硬くなって僕に興奮を伝えてくれていた。
嬉しくなって、指先でギュッと摘まむ。
「はっ、あん! や、あ…ううん!」
中指と人差し指で左胸の先端を弄びながら、空いた右胸にむしゃぶりつく。
舌先でころころと転がしたあと、唇で挟み込んだら、咲ちゃんの身体が弓なりに反れた。
「ひあ!」
悲鳴にも似た声に驚いて、僕は慌てて顔を離す。
思ったよりも強い力で吸い上げてしまったかもしれない。
「ごめん! 痛かった?」
「……ん、ううん」
やばい、力の加減ができないなんて、僕は相当興奮をしているみたいだ。
ちょっと落ち着かないと、入れる前に暴発してしまうかもしれない。
「ごめんね……もっと優しくするから」
「ち、がう、いいの、大丈夫……」
「ほんとに?」
「……あんたの触り方、優しすぎてくすぐったい。さ、さっきぐらいが、」
「このくらい?」
言うが早いか、指先の力を入れて先端をつねるように刺激する。
「ああん! ん、ぅく……や、ミッキー…んん」
「咲ちゃん、気持ちいい?」
「ん、んん……あっああ!」
「咲ちゃん」
「や…だめ、だめだめっ、は…ふ!」
だめ、と繰り返しながら、咲ちゃんが首を子どもみたいに振る。
「気持ちいいの?」
返事を聞かずに、再び白い胸に顔を埋めて蕾を唇で挟み込んだ。
「ああ! やっ…だ……ミッキー! んん、ふ、やあっ」
繋いだ手をきつく握り返されて、ちょっと痛い。だけど咲ちゃんが感じてくれてるのが嬉しくて、そんなことどうでもよかった。
「ね、咲ちゃん? 気持ちいい? どう?」
カチカチに硬くなった先端を舌先でつつきながら、咲ちゃんのほうを上目で見やった。
この反応からして、気持ちいいので間違いないとは思う。
だけど確認半分、意地悪半分で聞いてみる。
咲ちゃんは真っ赤に染まった顔を自分の手の甲で覆い隠すと、涙目で僕を睨み上ずった声で早口に答えた。
「気持ちいいわよ、バカっ! あ、あ、ああっや…はんっ!」
嬉しいお言葉をいただけたので、僕は思う存分咲ちゃんのささやかな胸を堪能する。
ひとしきりいじり倒して咲ちゃんが半泣きになったところで、僕は手を滑らせて、足の付け根へと指を這わす。
薄い茂みをかき分けて咲ちゃんのあそこへ触れると、どろりとした熱を帯びていた。
敏感なところに指先が掠めると、咲ちゃんが甘えたような声で僕を呼ぶ。
「ミッキー…………ね、入れて」
「まだダメ」
「な、んで!」
「咲ちゃん焦りすぎ。まだ始めたばっかじゃない」
割れ目をなぞってあふれた水分を指にねだりつけてから、尖った性器をつん、とつつく。
「あっ! や、触んな…いで! は、あっ……」
触んないでって随分と無茶な要望だ。
だけど流されるわけにはいかない。
ここで強請られるままに挿れてしまったら、次の日お腹が痛いと騒いで大変面倒なことになる。三回も同じ経験をしたら、嫌でも学習をする。
小柄な咲ちゃんの中はぎょっとするほど窮屈だ。
ちなみに僕のサイズは日本人標準だ、と思う。なにせ市販の避妊具がぴったりだし。だから断じて僕のせいじゃない。
そもそも、女性のこんな小さな穴に硬くなった男のものが全部入ってしまうってことからまず信じられない。
僕は突っ込むだけだから判らないけど、相応な準備をしないといけないものだってことは知っている。
痛いのは、誰だって嫌なものだし。咲ちゃんに痛い思いさせたくないし。
「いい子だから、もうちょっと待って」
僕はすばやく服を脱ぐと、咲ちゃんの細い足を多少強引に開かせて、その間に陣取った。
上体をかがめて、そっと内ももに顔を寄せる。
「やっ」
悲鳴みたいな声を上げて、逃げようとした咲ちゃんの腰を押さえつけて舌を伸ばす。
穴の中に舌先を差し入れると、くちゅ、と水っぽい音が響いた。
「や、だっ! あ、ミッキー! やめ……ふ、んん!」
咲ちゃんの足にぐっと力がこもって、僕の頭を挟み込む。
息苦しくなった僕は、片方の太ももを握って足を開かせて、シーツに押し付けた。
「だめ……だめ、ミッキー! 待って…待って――っひゃ!」
自由になった顔をぐいと伸ばして、咲ちゃんの中からどんどんと溢れてくる蜜を掬い取るように舐めあげた。
小さな突起を押しつぶすように舌先でつついてから吸い付く。
「んんッ!」
ちゅう、とわざと音を立てて吸い上げる。入り口の辺りに沿わせた指先を、焦らすために少しだけ中に入れてはすぐに抜く。
触れてほしそうにひくひくと蠢くそこに、一気に指を突き立ててから内部をぐるりとかき混ぜて。
そういったことを繰り返すうちに、咲ちゃんの愛液と僕の唾液で、僕の手はべとべとに濡れてしまう。
「……キ、も…や……やだ、ああっだめ、あ、あ、」
咲ちゃんの全身が硬くなって、僕の指をきゅうっと締め付ける。
そろそろ限界みたいだ。
「ね、咲ちゃん」
「やんっなに……あっ」
「もうちょっとだけ、イクの我慢して」
「なん、で! や、あ、やだあ!」
何でって、特に深い意味ない。強いて言えば、もっと咲ちゃんに気持ちよくなってほしいから。
もっと長い時間、僕を感じていて欲しいから。
入れてから発射までの時間に自信がない僕は、ここで時間を稼ぐしかないんだよね。
「やだってば、だめ…ミッキー! やだやだっ」
「やなの?」
「ちがっ、だめ、も、ダメなのぉ……んん」
そんな気持ちよさそうな声で、イヤとかダメとか言われても、全然説得力がないよ。
「何がダメなの?」
「み……あき! や、バカバカ! 嫌いっ」
「嫌い?」
「嫌い! キライキライ!! ああん! それ、やっ!」
嫌いは流石に傷つくなあ。
ただのうわ言で、全然本心なんかじゃないって判っていてもやっぱり傷つく。仕返しの意地悪をしたくなるじゃないか。
「ここ?」
「ひゃっ、そこッ! だめ…キライ、バカ、バカ……ぁ、も、むり!」
「まだダメだよ、咲ちゃん」
「なんでっ、やだ、やあ! なんでぇ!」
「だーめ」
口で弄りながら、中に入れた二本の指をばらばらに動かす。咲ちゃんがベッドを蹴るようにばたばたと暴れる。
僕はちょっと苦労をして空いた手でその身体を押さえつけた。
「ぐちゃぐちゃだよ、咲ちゃん」
「しゃべん…ないで……! バカっ、それだめだって…ばぁ!」
「これ?」
入口付近の柔らかい肉を指先でつつくと、またとろりと蜜を溢れさせて咲ちゃんの身体が硬直する。
「あん! やあっ!」
「イっちゃう?」
「……い、く……あ、やだぁ、やだやだっ! みつ――ああぁぁあっ!!」
咲ちゃんが一層に高い悲鳴を上げて、全身がびくびくと痙攣をさせる。指を受け入れている内部もひくついてきゅうと締め付け、絶頂を僕に教えてくれる。
「あ……あぁ、ん……」
幾度か荒い呼吸を繰り返して、ぐったりとしてしまった咲ちゃんのに指を残したまま身を起こす。
「イっちゃった?」
僕の声に、咲ちゃんは手のひらで口元を覆ったまま思いっきり顔を背けた。
「咲ちゃん」
「……見れば、判るでしょ。バカ」
「まだダメって言ったのに」
「知らない……あんた、言ってることと…やってること、違う、じゃない」
「そう?」
「そうよ」
「入れていい?」
「………………イヤ」
「まだ足りない?」
中に潜んだままの指を、くの字に折り曲げた。くちゃ、と湿った音が響く。
「やっ!」
咲ちゃんが身体をずり上げて、僕から逃げる。
「もっとする?」
「だめ、抜いてっ」
伸ばした細い指で僕の手首を掴むと、排除しようと強く握った。
ぎりぎりときつく握りしめられて、そろそろやばいかなあ、と思う。
これ以上やると、本気の蹴りが飛んできそうだ。
僕は大人しく指を引き抜いて、懇願するようにじっと咲ちゃんの瞳を見つめた。
「入れさせて。お願い」
たっぷり三秒間悩んで、咲ちゃんが小さく頷く。
僕はへらりと笑うと、枕もとに備えてあった避妊具を取り出して素早く装着する。
起き上がる気力もなさそうな咲ちゃんの膝を開かせて、先端を秘部にあてがった。
ぐい、と先っちょを押し込めると、咲ちゃんが喉を仰け反らせて薄く喘ぐ。
「んっ……や、もっと、ね……もっとぉ……」
「うん」
熱くって狭くって、どくどくと脈打つ咲ちゃんの中に、自身を埋め込んでいく。
焦れたように咲ちゃんが腰を揺らすたびに、ぞくぞくとした熱が背筋を抜けて腰が砕けそうになる。
一旦奥まで埋め込んで、またゆっくりとギリギリまで引き抜くと、咲ちゃんの両足が僕の腰に絡みついた。
もっと、と身体でおねだりをされて、僕の意識は弾けるように飛んで行ってしまった。
ずん、と乱暴に突き上げると、悲鳴と一緒に涙がこぼれて咲ちゃんの頬を濡らした。
咲ちゃんは、情緒不安定なんだと思う。セックスの最中に、しょっちゅう泣く。
もう慣れっこになってしまった僕は、お構いなしに腰を打ちつける。
「あ、あ、あッ、ミッキー! はぁっ! やっ…ああん!」
咲ちゃんの口から、引っ切り無しに高い声が漏れる。
嗚咽のようなその声に、僕の胸はちりちりと焦がれるように痛むのだけど、感情から切り離された身体の律動は止められない。
もう何も見ないようにして、僕は行為に没頭をする。
たぶん咲ちゃんは、もっと前から何も見えてないんだと思う。
半分眠った状態でセックスをしているんだと思う。
僕ができることは、早くこれを終わらせることだけかなあ。
そう考えたらちょっと虚しくなったので、気分を盛り上げるためにまた激しいキスをして咲ちゃんの呼吸を奪う。
泣きじゃくりながら咲ちゃんは、僕のキスに応えて、僕の首にすがりついて、何度も僕の名前を呼んで一度だけ好きと喚いて、細い身体で僕を受け止めて、
僕が精液を吐きだすと同時にもう一度びくびくと全身を震わせると、気を失うように目を閉じて動かなくなってしまった。
裸のまんま二人でぴったりとくっつき合って眠って。
翌朝いつもと同じ時間に、僕は咲ちゃんを起こさないようにベッドから這い出した。
死んだように眠り続ける咲ちゃんに、ふわりと布団を被せると、洋服に着替えて部屋を出る。
いつものように朝食を一人で食べて、洗濯をして、掃除をする。頭をからっぽにして身体を動かす。
全部終わったら少しだけ課題の本を読んで、また一人で昼食を食べて咲ちゃんの分を冷蔵庫に入れたら予定通り出かける時間。
部屋に戻ってベッドを覗き込むと、咲ちゃんは朝とまったく同じ姿勢で眠っていた。
まさかほんとに死んでないよね、とちょっぴり心配になって、呼吸を確認する。
浅いけど規則的な寝息がきちんと立てられていて、僕は安堵の溜息をついた。
「咲ちゃん」
頭を撫でて小さく呼ぶと、身じろぎをした咲ちゃんがまぶたをぴくりと振るわせる。
「なんか欲しいものある? お水は置いとくね」
「…………何時?」
「12時半。僕もうバイト行かなくちゃ」
「……帰りは?」
「7時ぐらい。お昼、置いてあるから食べて」
「ん、ありがと……いってらっしゃい」
ね、昨日、好きって言ったの覚えてる? もう一回言ってほしいな。
聞きたかったけど、すう、と寝入ってしまった咲ちゃんに、それ以上声をかけられなくて諦めた。
行ってきますと小さな声で囁いてもう一度髪を撫でると、鞄をひっつかんで家を出た。
咲ちゃんは、僕に好きって言わない。ごくまれに、セックスの最中にぽろっと漏らすことがあるぐらいだ。
僕には「好き?」って聞くくせに、言わせるくせに、自分では絶対に言わないなんてずるいと思う。
咲ちゃんは僕を大事に思ってくれている。大切にはされている。金銭面だけじゃなくて。それは判ってる。
だけど時々不安になる。
咲ちゃんは大人だ。僕みたいに「咲ちゃんだけいれば何にも要らない」なんて状態には絶対にならない。
そんなのたぶん、当り前のことだ。そのおかげで、僕は大学に通えている。
ああ、好きの度合いを数値化してくれる機械があったらいいのにな。
そうすれば、こんな馬鹿みたいなちっぽけなことで、女々しく悩まなくて済むし。
「僕のこと好き?」って、簡単に聞ければいいんだけど、万が一「違う」って言われた時のことを想像して、勝手に不幸になっている自分が大嫌いだ。
冷たい風が頬を撫でて、ぶるりと背筋が震えた。
急激に冷えが厳しくなるこの時期も、大嫌いだ。冷え切った暗い家に帰るのが、寂しくて仕方がない。
世界中のものすべてが嫌いになってしまう前に、僕は思考を止めてただ歩くことに集中をする。
後ろ向きでじめじめした男なんて、きっと咲ちゃんは嫌いだろうから無理やりにでも前を向いて歩いて行く。それが僕にできる精一杯。
バイトを終えて帰宅をして、玄関を開けると温かい空気が頬を撫でた。ついでに、カレーの香りも。
廊下の先のリビングのドアはあけ放たれていて、そこから柔らかい明りがこぼれている。
「ただいま」
恐る恐る声をかけて、靴を脱ぐ。簡単にそれらを揃え、慌て気味にリビングへと足を向ける。
入口で再び、ただいまと声をかけると、ソファで新聞を広げていた咲ちゃんが、首だけをこちらに向けて、に、と笑った。
「お帰り。ごはんできてるわよ」
たったそれだけのことなのに、どうしようもなく胸が痛くなった。
込み上げてくる正体不明の感情をごくりと飲み込んだ。
泣きそうになった頭をぶるりと振って気を落ち着かせ、目を上げてへらりと笑ってみせた。たぶん、今の僕はものすごく変な顔だろう。
新聞を置いた咲ちゃんが、神妙な顔で立ちあがる。
僕の目の前に立って、両手で僕の頬を挟むと、つめたい、と無表情に言った。
「外、寒いのね」
「……うん、寒いよ」
「お腹は?」
「空いてる。ペコペコ」
「ん、じゃあ座ってなさい」
ぽん、と僕の胸を叩くと、咲ちゃんがキッチンへと歩いて行ってしまう。
ああ、もしかして今、子ども扱いされたのかな。
お腹が空いてるから機嫌が悪いと思われたのかな。
でもそれでもいいや。案外、悪くないっていうか、素直に嬉しかった。
甘やかされるのって、こんなにも嬉しい。
世話を焼かれると、愛されているって感じがする。
もしかして咲ちゃんも、僕にこうされるのが嬉しいって、思ってくれているのかな。
大人しく席に着いて、湯気の立つカレーが目の前に差し出された僕は、その空腹を刺激する香りを思いっきり堪能する。
「はい、どうぞ」
「ありがと……。ね、咲ちゃん。僕のために作ってくれたの?」
そう尋ねると、当り前じゃない、というように眉をあげた咲ちゃんが、新聞を片手に目の前の席に腰を下ろす。
「早く食べれば?」
「うん。咲ちゃんは食べないの?」
「さっき起きて食べたとこだからまだいいわ。あとで食べる」
「そう。じゃ、お先にいただきます」
両手を合わせて、添えられたスプーンを手に取る。
一口分を匙の上に乗せて、なんだか妙に水っぽいカレーに嫌な予感を覚えつつ口に運ぶ。
入れたとたんに、むせそうになって微妙な表情になってしまった顔を慌てて取り繕う。
予想を悪い意味で裏切らない形で、カレーの味が薄い。
カレーって、誰が作ってもそれなりに美味しくできると思っていた。親父ですらそれなりのものを作っていたから。
咲ちゃんが料理苦手なのは知っていたけど、まさかここまでとは思ってもみなかった。
「ミッキー?」
広げていた新聞で口元を覆い隠した咲ちゃんが、僕の反応をうかがっている。
「どうしたの? ……美味しくない?」
ちょっと不安げに瞳を揺らした咲ちゃんに、僕は精一杯穏やかに笑って見せた。
珍しい気弱な表情に、ちょっとドキドキしたのはもちろん秘密だ。
「ううん、美味しいよ。咲ちゃんが作ってくれたんだから」
「そ。ならよかった」
ほっと息を抜いた咲ちゃんが、視線を新聞に戻す。
さっき一瞬見せた乙女な雰囲気はどこへやら。
背もたれにどっかり背を預けて、ばさりと新聞を繰るそのしぐさは、なんていうか、オヤジだ。
こういう、ギャップがたまらないんだよな。
もう一口、薄味と言えなくもないカレーを口に運ぶ。
その途中で、咲ちゃんが新聞から顔を上げないまま呟いた。
「ミッキー。自惚れていいわよ」
「……なにが?」
「咲子さんの手料理を食べれるのは、あんただけなんだから」
ああ、そうか。
咲ちゃんってずぼらでめんどくさがりだから、好きでもない相手のために時間を割くなんて器用な真似が出来ないのかな。スキって言いたいのかな。
何度身体を重ねても、そういう、基本的なところは判らない。
だから、スプーンを置いて聞いてみる。
「咲ちゃん。好きだよ」
「……なに、急に」
「咲ちゃんは? 僕のこと好き?」
「うん。好きよ。あんたそんなことも知らないの?」
「知ってるよ。知ってるけど、聞きたかったんだよ」
「あ、そ」
「うん」
「…………あんま変なこと言うと、襲いたくなるじゃない。どうしようか?」
「願ったりだけど、ご飯終わってお風呂入ってからにして」
「あーあ、あんたってダメばっかりね。お母さんみたい」
「咲ちゃんが我がままばっかり言うからだよ」
うるさいわね、と新聞に再び視線を新聞に落してしまった咲ちゃんに苦笑いをする。
改めてスプーンを取って、もうひとくち。
ご飯に水っぽいカレーが染み込んで、さっきよりはマシな口当たりになった気がする。
これなら完食できそうだ。
喜んだのもつかの間、ジャガイモだと思って口に入れたものが、固まったままのルーだった。意外なフェイクに僕は盛大にむせた。
妙に水っぽいのはこのせいか。
ちらり、と咲ちゃんがまたこちらを窺う。
慌てて水を飲んで、聞かれてもいないのに変な所に入っちゃったと言い訳をする。
「ばかね」
にこにこと笑う咲ちゃんに何も言えなくて、僕は笑顔を崩さないように気をつけながら、目の前のカレーらしきものを正しく胃に収めていく。
咲ちゃんは上機嫌で、そんな僕をずっと見ていた。
後片付けはもちろん僕の仕事。
僕の課題の本に夢中になっている咲ちゃんの眼を盗んで、カレーの手直しを抜け目なく終える。薄味の原因はルーが溶けてないだけだったから簡単だ。
後からそれを食べてさすが私とか言った咲ちゃんに、炊事は僕の仕事だから取らないで、って言うべきかどうか、僕は結構深刻に悩んでしまったのだった。
(おわり)
乙。
咲ちゃんかわいい
数値でて欲しいよね、うんうんと感情移入してしまった
ありがとう
おつおつ
いいなあなんか。しみじみと
すっげえ可愛い!
乙!!!
いいな、年下の気持ちがすっごいかわいいv
なんか新作キタ━━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━!!
超GJ!!
お久しぶりです。
瀬能と美春、8回目の投下です。
今回もエロ無し。
NGワードは「瀬能と美春」でお願いします。
意識的に一線を越えるのは、なかなかに難しい。
恋愛から長らく遠ざかっていた瀬能には、今までどうやって越えて来たのか、いまいち思い出せない。
何より相手は、二十歳も年下の、自分が初恋である美春である。
今時の若者は、瀬能の若い時分に比べれば、性的な知識も経験も豊富なのだろうが、こと美春の事に関しては、瀬能はまったくと言って良いほどに分からなかった。
一緒に居るだけで安らげる相手なだけに、なかなかきっかけが掴めないとも言うが。
そのきっかけが、不意に転がり込んで来たのは、十月も末になろうかと言う頃だった。
金曜日。
仕事を終えた瀬能は、飲みに行かないかと言う、同僚の誘いを断り帰宅した。いつもなら二つ返事で繁華街へ繰り出すのだが、今日ばかりはそうもいかない。
逸る気持ちを抑え帰宅をすると、部屋には美春が夕食の用意をして待っていた。
「お帰りなさい」
にへらと笑顔を浮かべる美春だが、その雰囲気はいつもより少し固い。
「ただいま」
僅かな笑みを見せ、瀬能は美春の頭をくしゃりと撫でる。
美春は少し目を細めると、瀬能の鞄に手を伸ばした。
「ご飯、出来てるから、手洗って来て」
「おう」
美春に鞄を渡し、瀬能も後に続く。
上着を脱ぎネクタイを緩めると、それらをベッドに放り投げて、洗面所へ。
その間、美春は鞄を置くと、キッチンへと向かい夕食の支度に取りかかった。
美春の妹の千秋が、昨日から修学旅行に行っている。
それに併せて、美春の両親も旅行に行く事にしたとかで、今日明日と、美春は瀬能の家に泊まる事にした。
親公認で付き合い初めてから、それらしい進展もないままに、三ヶ月が経過しようとしている。
これを好機と捕らえるか、はたまたお預け状態を続けるか。最初、その計画を聞いた時には、瀬能もどうしたものかと悩んだが、このまま付き合うならば、いずれ避けては通れない。
ならば、いっその事、この機会を逃す手はないだろうと、瀬能も腹をくくったのだ。
勿論、美春も薄々は感じているのだろう。
両親不在の状況になる、と話を切り出した時の美春は、珍しく口ごもっていたし、中々視線を合わせてもくれなかったのだから。
夕食は、根菜の入ったハンバーグに、色鮮やかな海草サラダ。
美春は近頃料理の腕を上げており、今日の夕食も、瀬能の舌を十二分に満足させた。
ビールを飲み、他愛ない会話を交わしながら、皿の上の料理は減っていく。
程良く胃が膨れた頃には、時刻は八時半を回っていた。
「御馳走様」
「お粗末様でした」
ビールを飲み干し合掌すると、美春はいつものようにへらっと笑って、後片付けに席を立つ。
普段なら、瀬能は新聞に手を伸ばすのだが、今日は目の前の食器を手にすると、流しに向かった美春の隣に並び立った。
「風呂、どうする?」
「先に入る? だったら準備するし」
「そうか? なら俺、洗っとくから、美春、頼むわ」
「うん」
短い会話の間、美春は瀬能の方を見ようとはしない。
瀬能の様子がいつもと違う事に、美春なりに緊張でもしているのだろう。
(……俺も、緊張してんのかな)
袖を捲り上げた瀬能は、パタパタと風呂場へ向かう美春の背中を見送って、僅かに苦い笑みを浮かべた。
*****
風呂に入り、美春を待つ間にテレビを付け、チャンネルを切り替える。
大して見たい番組もなく、有名な洋画のシリーズ続編をやっていたので、そこにチャンネルを合わせたまま、瀬能は席を立った。
冷蔵庫からビールを取り出し、再び居間兼寝室に戻る。
映画はちょうど中盤だったが、何度かテレビで見た事があるので、話の展開に付いていくのに不自由はなかった。
いつもよりペースを落としてビールを飲みつつ、鞄から携帯を取り出して充電器に繋げる。
こんな日でも、風呂上がりの日課は体に染み着いていて、それが何だか可笑しかった。
「はー、良いお湯だった」
タオルで髪を拭きながら美春が風呂場から出て来たのは、それから一時間近くが経過した頃だった。
瀬能のビールは遠に空になっていて、二本目を飲もうかどうしようか、瀬能は迷っていたのだが。
すっかりくつろいだ態の美春の姿に、瀬能は苦笑しながら手招きした。
「お前、実は親父だろ」
「違いますー。何でそう言う事言うかなぁ、瀬能さんは」
からかい混じりの瀬能の言葉に、美春は唇を尖らせながら、瀬能の隣にちょこんと座る。
暖まった体から、僅かに石鹸の匂いがして、瀬能は口許を緩めながら、美春のタオルを取り上げた。
「普通、女子大生が『良いお湯だったー』とか言うか?」
「言うよ。今時の女子大生は、わびさびの分かる女子大生なの」
「お前、わびさびの意味、分かってんのか?」
憎まれ口を叩く美春の頭を、瀬能は取り上げたタオルでくしゃくしゃと撫で回すようにして、髪を拭いてやる。
美春は尚も口を開こうとしたが、言葉になったのは「ちょっと、待ってよ!」と、瀬能に対する抗議の言葉だけだ。
「やだ、髪ぐしゃぐしゃになっちゃう!」
「後で梳かせば良いだろ」
「もー。子供扱いばっかするんだから」
肩まで届く長い髪からは、瀬能と同じシャンプーの匂いがする。
そんな些細な事に、何故か胸が詰まる程の幸せを感じて、瀬能は美春の髪を拭う手を止めた。
「瀬能さん?」
不意に止まった瀬能の動きに、美春は警戒心など欠片もない、不思議そうな表情で顔を上げた。
そんな美春に、瀬能は一瞬、耐え難い想いを抱く。
そう想った次の瞬間、瀬能はタオルごと美春を抱きしめると、濡れた前髪の張り付く額に、掠めるだけのキスを落とした。
「っ……せの、う…さん?」
「子供扱い、嫌なんだろ?」
美春の顔をのぞき込み、わざと意地悪く笑って見せる。
美春の頬が赤く染まっているのは、風呂上がりのせいばかりではないだろう。
「や、…嫌だけど……」
「驚いた?」
「……ちょっとだけ」
存外素直に、美春はコクリと頷く。
その様子に、瀬能は気を良くして、美春を抱きしめたままベッドにもたれ掛かった。
「じゃ、次はちゃんと予告する」
「良いよ、しなくて! そっちの方が恥ずかしいじゃない!」
体に掛かる美春の重みが心地良い。
こんなに近くに美春を感じた事など、今まで数える程しかなく。
更に言えば、誰にも何の遠慮もなく美春を独占出来るのが嬉しくて、瀬能は年甲斐もなく緊張していた事も忘れて、美春の首筋に顔を埋めた。
「うわっ!」
一際強くした抱擁にか、はたまた首筋に掛かる吐息にか、美春は驚きを隠せない。
新鮮な反応に、瀬能は内心笑いがこみ上げ、くつくつと喉の奥を震わせた。
「色気ないなぁ、お前」
「そ、そんな事言ったって」
「けど」
可愛い。
文句をぶつけようとした美春の耳元で、瀬能が小さく呟くと、美春は完全に戦意を喪失したようで。
「……ずるい」
「ん、俺、大人だから」
真っ赤になりながら、唇を尖らせた美春に、瀬能は優しく笑いかけて、ゆっくりと唇を重ねた。
今回はここまで
長くなりそうだったので、導入編ですがご容赦を
エロ有り後編は、今月中に
悶えるよ悶え転がるよこんなろー!
いつもながら良い仕事です
眼福です
ありがとう!!
悶えた・・・
このシリーズ大好きです
後半楽しみにして待ってます!
今月一杯は全裸待機か…
226 :
名無しさん@ピンキー:2008/11/07(金) 23:24:30 ID:8RQtX7B9
久しぶりに来たら新作きてるね。
職人さんどんどん頑張ってくれー!
ひさびさにナディアを見直したらサンソン&マリーの仲良しっぷりに萌える。
228 :
名無しさん@ピンキー:2008/11/15(土) 02:26:31 ID:8hb+SVf0
サンソンとマリーは最終回でビックリさせて貰ったんだぜ…
「こいつらくっついたらいいなぁ」と萌えのもの字も知らなかった頃に妄想したもんだが、
まさかマジであんな展開とはね…w
さげわすれた…
ごめん…
むしろアレで大人の男×幼女がトラウマになった自分orz
16歳の女の子は20歳の男の子のことが好きで、
その男の子は27歳のお姉さんのことが好きで、
そのお姉さんも男の子のことが好きなんだが、
まさか自分みたいなおばさんが相手にされるとは思っていないから、
男の子にはクールというか素っ気ない態度を取ってしまう
そんなモヤモヤした関係でハァハァしたいです
>>231 わかる、わかるぞ
年上ゆえに自信の持てないお姉さん、ストライクゾーンだ!
>>231 さあ早くその妄想を形にする作業に取りかかるんだ
多分、忘れておられる方が多いでしょうが、「幽霊屋敷」の最新版を投下します。
前回の更新から四ヶ月・・・。
内容を見返すと、ある意味もうエロパロではないのかもしれないと思ってしまいます。
背景については、「角福戦争」「椎名裁定」「ロッキード事件」をウィキで調べていただければお分かりになるかと思います。
今回、遂に濡れ場が登場します。しかし、内容について、満足できるものであるのかどうかは不安です。
それでは幽霊屋敷の続きを始めさせて頂きます。
今回の題名は「昔の夢が覚めるまで」です。
昔の夢が覚めるまで
夜の廊下に足跡が響いていた。
男が二人、廊下を照らす室内灯の下を歩いている。
一人は精悍な顔をした痩せぎすの男だった。険の強そうな切れ長の瞳と、鬣(たてがみ)のように波打った頭をしている。
年のころは三十代の後半だろうか、紺色のスーツに身を包んでいた。
もう一人はその男とは対照的に、恰幅の良い男だった。金壷眼に猫のような口をしており、少々軽薄そうな雰囲気を持っていた。
年のころは痩せぎすの男と同じくらいか、薄灰色のスーツを纏っている。
二人の左胸には、真新しい紫色のバッジが、さも誇らしげに付けられていた。
「いいのかなあ、森さん」
ポツリと呟いたのは、痩せぎすの男だった。細い目を更に細め、苦悶の表情をしている。
「何心配してんだよ、鏡ちゃん」
口笛を吹くかのような能天気さで、大柄な男が答えた。
「いくらオヤジの望みとはいえ、俺は……」
「おいおい、今更言ってもしょうがないさ」
悩む男に悩まない男。その体格の対比もあって、傍から見れば滑稽である。
「ほらほら誰だっけ、鏡ちゃんと大岡派の賀東宇八と一緒にYKIを組んだ……、ヤマなんとか君。彼だって若いのにもう囲ってるらしいじゃないか」
「山崎の豊さんのことですか?しかし、彼の場合と違って、オヤジの場合は……」
あたりを見回してから、痩せた男は言葉を続けた。
「七夕会の連中に嗅ぎ付けられたら、非常にまずいことになる」
「鏡ちゃんも心配性だなあ……。あっちはランボォ社事件でそこまで気が回るはずはないよ」
猫のような口を更に横に広げて、大柄な男は呟いた。
「ま、確かに高校生はまずいかなぁ」
ダメだ、この人は。
痩せぎすの男は呆れ果てた。この男は言葉も思考も軽いところがある。
将来上に立つ立場になった時、この性格で苦労をすることがありありと想像できた。
「まぁ、ここまでにしましょう」
右手に木製の扉がある場所に辿り着き、男たちは襟を正した。
痩せぎすの男が一つ深呼吸をして、扉の前に拳を突き出す。見るからに重厚そうな、装飾の施された樫の扉だった。
「あぁ」
ノックの後で、部屋の奥からくぐもった声がした。
その了解の返事を聞き、痩せぎすの男はゆっくりと扉を開けた。
「泉鏡一郎、入ります」
「森敦朗、入ります!」
直立不動の体勢で、名乗る。
二人の目の前には、まるでヴィクトリア王朝時代の貴族のそれを思わせる、茶色の装飾に満ちた部屋があった。
背の高い書架、マントルピース、ビロードのカーテン。
一見した者が、ここが日本なのかという錯覚を覚えるこの部屋は、部屋の主が大蔵官僚だった時に赴任していた、英吉利趣味で彩られていた。
その奥に、男たちがオヤジと呼ぶ男が座っていた。
マホガニー製の机を手前に、やや下膨れした顔に気難しそうな顔をして、焦げ茶色の和服を身に纏っている。
男は安楽椅子にゆったりと身をあずけていた。
例えるならば、国王が座る玉座。
実際、男の全身から発する鷹揚な雰囲気は、支配者であるものが持つカリスマそのものだった。
この男を国王に例えたが、それは誤りではない。
「国王」という者は、西洋において「神」から俗世の支配権を与えられた存在を指す。
その定義によると、この男は真の意味での「国王」であった。
「神」と呼ばれる、正確には「現人神」と呼ばれる存在から、国を統べる権利を与えられていたからである。
国王の名は、谷崎一郎と言った。
「神」から授かったその王権は、俗に内閣総理大臣と呼ばれている。
「久しぶりだなぁ、二人とも」
二人の男たちが目の前に来たのを見計らって、谷崎は口を開いた。
机の上に置かれていた葉巻入れから、半分にカットされたキューバ産の葉巻を取り出し、口に持っていく。
すぐに森と名乗った大男が駆け寄り、懐からライターを取り出して火をつける。
しばらくして濃い煙が宙に浮き、ゆっくりとした溜め息が漏れ出した。
「誰か、来られていたんですか?」
泉と名乗った男が、マントルピースの対面にある、テーブルを見て聞いた。テーブルの上に置かれた陶器の灰皿の上に、葉巻とは違う吸殻が残っている。
「ああ、椎名さんがね」
泉は直ぐに党の副総裁である椎名誠三郎の顔を思い出した。
成程、密談か。
谷崎の前に首相であった五木武之を引っ張り出し、そして五木が独自路線を歩み始めると「五木おろし」で潰した張本人に相応しい行動だ。
「田中の芳さんと、仲良くしろと言われたよ」
党内融和を図れということか、泉は即座に状況を理解した。
現在、谷崎内閣の支持率は芳しくない。政策の全てが裏目に出てしまい、国民からそっぽを向かれ始めている。
斜陽の内閣を知ってか、党内の最大派閥である七夕会、その領袖である田中芳栄の態度も目に見えて横着なものになっていた。
だから、七夕会を当面の味方にしろ。突き詰めれば七夕会の要求を政策に生かせということなのだ。
「椎名先生も難しいことを言いますね。あの土建屋こそ『琵琶戦争』の首謀者でしょう」
森が愛想笑いを浮かべながら、谷崎の機嫌を取る。
「ああ、難しいな」
だが、谷崎は笑み一つ浮かべずに言った。
彼の率いる八卦会と、田中芳栄率いる七夕会の対立は、子供ですら知っている。あまりの激しさに、『琵琶戦争』の名が冠せられるほどだった。
田中芳栄の「芳」の字と谷崎一郎の「一」の字、併せれば「芳一」。幽霊にも愛された琵琶法師の名前になる。
そのため、陰惨な権力闘争を、少しでも風流にしたいという一記者が、芳一から連想される琵琶という楽器を戦争の前に付けたのである。
それほどまでに、両派の対立は有名であった。
ケインズ式の公共工事を優先する七夕会と、健全財政を標榜する八卦会。同じ党でありながら、財政に対する考え方が完全に違うのだ。
暴力のない内ゲバ。派閥間抗争というものは、血を見ないからこそおぞましい。
死という明確な敗北の形がないこの戦いは、オセロゲームのように勝者と敗者が入れ替わる終わりのない戦いであった。
だからこそ、妥協というものが必要になる。表面上だけでも。
谷崎も泉も、そして森も党内におけるパワー・バランスの必要性について理解していた。
やらねば、潰れる。椎名はそう警告したのだ。
「で、お前たちこそこんな夜更けにどうしたんだ?」
葉巻を指にした谷崎が、話題を変えた。
「椎名さんとの話を早めに切り上げてまで時間を取ったんだ。つまらん用事ではないのだろう?」
言葉に棘がある。つまらない内容だったら許さないという無言の圧力だ。
泉は戦慄した。この男は怒らせると恐い。
自分たちが持ってきたのは、間違いなくこの男の食指を動かすはずの話だが、それでも不安になる。
しかし、その気配を全く読まずに、森が笑顔で口を開いた。
「例の用意が、出来ました」
ぴくり、と谷崎の眉が動いた。
「例の、用意?」
「ええ、先生の言っていたあれを!」
自慢気に森が胸を張る。
泉は複雑な表情で森を見ていた。あれが、誇れるようなことなのかと。
「本当、だろうな」
「本当に本当、本当ですとも、私は嘘を申しません」
何代か前の首相の台詞そのままに、森が言う。
もう、そろそろ黙ってくれ。泉は一度深く口元を結んだ後、森の言葉に続けて口を開いた。
「つい先日ですが、コンタクトに成功しました。話は私と森さんの手の者が付けてあります」
「おお」
感嘆の溜め息と共に、谷崎の目が見開かれた。
「もうこちらにも、連れて来ています」
「そうか、ははっ、はははははっ」
口を大きく開いて、谷崎が笑った。
ほとんど感情を他人に見せないこの男が、こんなにまで喜びを顕にするとは。
それほどまでに、この男の求めていた欲望は深いのか。泉は谷崎の笑いに、底知れぬ不気味さを感じていた。
響き渡る笑い声の中、燃え尽きた葉巻の灰が、灰皿の中にぽとりと落ちた。
十数分後、男達は屋敷の奥にある、部屋の前に居た。
その部屋は、数ある谷崎の寝室の一つだった。
この部屋のことを、泉や森をはじめとする若手たちは「ハレム」と読んでいた。無論、土耳古(トルコ)の皇帝が作った後宮を意味する言葉である。
「こちらです」
「ハレム」の扉をゆっくりと、泉が開ける。
ギィっという音がするのと同時に、ランプの薄暗い光が視界に入る。同時に、甘い香の匂いが鼻腔を刺激した。
トンキン・ムスク(麝香)を基調とし、性欲を増進させる作用を持つ香である。泉は自分の臍下が、わずかに反応するのを感じた。
茶色を基調とした波斯(ペルシア)絨毯が敷かれている部屋の中には、大きな仏蘭西の寝台が鎮座していた。
ロココ調の装飾が施され、天蓋まで着いた最高級品である。
その、薄紫色のシーツで覆われた寝台の上に、一人の少女が座っていた。
年のころは十代を少し越したばかりだろうか、長い黒髪を腰まで伸ばし、不安げな顔を扉のほうへ向けている。
色の白い、人形のような肌だった。切れ長の瞳にやや高い鼻柱が、薄明かりの下でぼんやりと見える。
身に纏っているのは、白色のブラウスのを下地にした紺色のワンピース。とある学校で、かつて制服として使われていたものだった。
「ば、馬鹿な」
谷崎は瞠目していた。
遠い昔、自分が恋した少女の姿がそこにあったためである。
「いおり、さん」
思い出の中の少女の名前を呼ぶと、谷崎は傍らの二人に目をやった。喜びを隠し切れない、満面の笑みがそこにはある。
「似ているのも当然ですよぉ、だってお孫さんなんですから」
森が誇らしげに胸を張る。
「苦労しましたよ。坂口一家は先生が潰して以来、行方不明でしたからねぇ……」
「ごほん。それよりも先生、ご満足頂けましたか」
余計な軽口を叩かれる前に、泉が森の言葉を遮った。
自分達に潰された一家の孫娘を前に、真相をバラす奴がどこにいる。事実、谷崎の瞳は森を鋭く睨んでいた。
「…ああ、何も言う事はないよ。二人とも良くやってくれた」
瞬時に瞳の色を変えて、谷崎が目を細める。殺気を隠したのだ。
「光栄です。この娘の両親には既に話をつけていますから、ご随意に」
谷崎の豹変に気づかずに、森が胸を張る。能天気もここまでくれば幸せものだと、泉は思った。
「話をつけた、とは?」
「経営支援を取り付けたら、喜んで差し出しましたよ。中高一貫の六年間を、こちらで面倒を見るという条件で」
「ははっ、流石は坂口の息子だ。親も外道なら子も外道か」
憎しみを込めた笑いを浮かべ、谷崎が言い捨てる。
「俺から庵さんを、石川庵さんを奪った外道が……」
背筋が凍るのを、泉は感じずにいられなかった。その憎しみは狂気に近いものだった。
「先生、あんまり怖い顔しないで下さいよ。ほら、この娘怖がっていますよ」
森の間延びした声が、異様な空気に包まれていた空間を破る。泉もこの時だけは、空気の読めない森の性格に感謝した。
確かに、寝台の上の少女は怯えた顔をしていた。
無理もない。見ず知らずの所に連れて来られて、その上で今まで経験したことがない行為をさせられるのだから……
「ああ、そうだったな」
大きく息を吸い込んで、谷崎は気持ちを落ち着けた。殺気立った雰囲気が次第に薄らいでゆく。
それを察したのか、少女が居住まいを正した。伏目がちな瞳と、上品な仕草が美しい。
沈黙の中、谷崎の荒い呼吸音が聞こえる。獲物を見つけた肉食獣のような音だ。
「わかって、いるね?」
泉が前に進み出て頭を垂れ、少女に耳打ちする。
少女は何も言わずに目を閉じると、首をゆっくりと縦に振った。
無言のまま、泉は背を伸ばすと扉まで戻った。
「我々は、これで」
言葉と共に、扉が閉められる。残っているのは谷崎と少女の二人。
がちゃり、と鍵を閉める音がした。
「ふぅ」
扉を閉めてからしばらく、応接間へと続く廊下の途中で、泉が大きく溜息をついた。
「なぁ、森さん」
口を真一文字に結んで、天を仰ぐ。陰鬱な表情だった。
「俺は、気分が重いよ。あんな、俺の息子と同じくらいの年の娘を、俺は…」
「……仕方がないさ。オヤジの為に働くってのが、俺達の立場だ」
森が遠い目をして呟く。泉と同じ思いなのだろう、所在無げに煙草を指で廻していた。
「わかっているさ、だが、だが……」
拳を握り締め、泉が俯く。派閥の長の関心をかうためとは言え、自分がやってきたことは何だったのだろうか。
泉は己の罪深さを呪った。
「罪のない一家を、滅ぼしてまでやることなのだろうか。俺は、オヤジを止めるべきだった」
「無理だよ」
以外にも、森が沈欝な表情で、煙草の煙を燻らせている。
能天気だが人情には厚い。若手議員一の粗忽者である森が可愛がられているのは、まさにその美点によるものだった。
「俺たちは、所詮コマさ。やれといわれたことをやるしかないのさ」
くしゃり、と煙草が潰れる音がした。
「やるしか、ないのさ」
同じ言葉を繰り返し、森は沈黙した。
薄暗い電灯が、寝台の上に並んで座っている二つの人影を写していた。
薄紫色をした絹のシーツが、橙色をした明かりに淡く映え、現実感を希薄にさせる。
加えて、部屋に焚き込められた麝香の匂いが、更に幻想的な雰囲気を醸し出していた。
噎せ返るような香りに当てられたのか、先程まで緊張しきりだった少女の瞳が、次第に焦点を失ってゆく。
雄の匂いである「麝香」は、強い銘酒のように、少女を酔わせた。
「怖くないよ」
わずかに上ずった声を、老人が発する。
自分よりもはるかに年下であるはずの少女に、年上の女性にかけるような声で。
恭しく、その手を少女の手に重ねる。
瞬間。少女は嫌悪の表情を浮かべ、さっ、と手を引いた。
「…これは、失礼」
少女の拒否にも動じることなく、老人はにっこりと笑顔を浮かべた。
「驚かせてしまったようだね。いや、慣れていないもので」
嘘だった。谷崎がこれまでに抱いてきた女は、三桁を数える。
政治家という、権力に密接な存在には、自然と人間の欲望が集まってくる。
「ずっと、この日を待っていたんですよ」
顔の皺を思い切り綻ばせて、老人が笑った。
「いおりさん」
その名前を聞いて、少女の肩が震えた。次いで、横に首を振る。
「ちがいます」
まるで理解できないというように、老人が首をかしげた。
「違う?どうしたというんですか?」
「私は、いおりじゃありません、私の名前は…」
少女が老人から離れるべく後ずさる。
しかし、老人は膝を詰めて少女に近寄った。
「何を言っているんですか、いおりさん」
近づいてくる老人を見て、少女は気づいた。
「その顔、その声、その髪…。忘れもしません、あなたはいおりさんです。僕が、誰よりも愛している」
老人が見ているのでは自分ではなかった。自分の後ろにある、祖母の面影だったのだと。
少女は体を翻して寝台から逃れようとした。
しかし、目の前にある部屋の小窓の厳しい視線が、少女の体を押し留めた。
自分を連れてきた男の一人、泉と名乗った男が、こちらを見ていたのである。
厳しく、そして険しい視線だった。口元は何かを耐えるように、真一文字に結ばれている。
その瞬間、少女は自分がこの場所に連れてこられた理由を思い出していた。
(お父さん、お母さんを助けたいと思うんだろう?)
誘いの手を伸ばしたのは、彼ら。しかしその手を取ったのは自分。
もう一度。今度は自分から手を伸ばしたくなるのをこらえて、少女は運命を受け入れるべく、頭を垂れた。
「いおりさんっ」
背中に衝撃を感じるのと同時に、少女はうつ伏せに倒れこんだ。
老人がその体を、後ろから抱きすくめたのである。
「いおりさん、ああ、いおりさん、いおりさんっ!」
胸を、腰を、古めかしい制服の上から撫で回す。荒々しい吐息が、少女の首筋に力強く触れた。
「俺の、もの。俺のものだっ。あなたの、全ては、俺のっ・・・」
老人は、少女の体を腕の中で回し、自分の正面に向けた。
「んっ、はあっ・・・」
最初は首筋に、次いで頤(おとがい)に、柔らかなゴムが吸い付いた感触。老人が少女の柔肌に、口付けているのだ。
気持ち悪い、気持ち悪い。気持ち悪いっ!
手とは違う、粘着質の器官が身を這うことに、少女は嫌悪感を覚えた。自分が蹂躙されてゆく、そんな気分だ。
「んあっ!?ひっ・・・・・・」
胸を掴まれる感触。制服と下着に守られた敏感な箇所に、老人の指が食い込む。
食い込んだ後に、指が蠢く。リズミカルなそれはまるで生き物のように、予測不可能な動きをした。
(な、にっ、これ・・・)
不思議なことに、少女の体に指が動く度、今までに経験したことのない感覚が走った。
本能的な、何かが。
知ってしまえば知らなかったころには戻れなくなるような何かが、少女の体に生まれ始めていた。
不思議なことに、少女の体に指が動く度、今までに経験したことのない感覚が走った。
本能的な、何かが。
知ってしまえば知らなかったころには戻れなくなるような何かが、少女の体に生まれ始めていた。
「・・・やっぱりだ」
切なげな声を漏らしながら、老人が上気した顔で語りかけてくる。
半分眠気の中にいるように、重くなった瞼で少女を見つめている。
いや、老人は本当に眠っているのかもしれない。初恋の少女を抱くという、何度も何度も見た夢の中で。
「いおりさんは、こういうのが、好きなんだ」
夢心地のまま、老人の手が制服のスカートの中に伸びる。
「あっ!」
敏感な内股を触られて、少女が高い声を上げる。
掌(たなごころ)と指を使い、肌を波打たせるような動きが、少女を刺激した。
「あっ、はっ、ああ」
何だろう、この気分は。
不思議な気分だった。触れられている胸を、太腿を中心に、熱が広がっている。
その熱の塊が、全身を駆け巡り、敏感な部分を駆け巡ってゆく。
「いい、匂い…」
今度は、首筋を吸われる感覚。
少女の黒髪を、頭で掻き分けるようにして、老人が首に口付けたのだ。
幼さの残る芳香に酔う老人の顔は、恍惚の域にあった。
「おんなじだ、あの頃とおんなじだ…」
息を荒げて、老人が懐古の喜びに身を震わせる。
半分閉じていた瞼は完全に閉じられ、老人が見ている光景は、彼自身にしか窺い知れない。
唯一つ言えることは、彼が抱いているのは目の前の少女では無く、記憶の中の少女だということである。
「あの頃は、出来なかったけど…」
唇を喉元に寄せ、両手で 少女の胸を包みながら、老人が思いを告げる。
「今の僕なら、あなたを…」
紺色のワンピースの脇から、白いブラウス越しに胸を揉む。
布越しにも、弱いと感じられる刺激。幼子を撫でるような動きだ。
「あなたを悦ばせることが出来るはずです」
喉元から唇を離した老人はそう呟くと、桜のような少女の唇を塞いだ。
最初の口付けとは違って、唇を舌で割る。
敏感な歯茎を転がすように舌が動き、少女の神経を刺激する。
「んぁ…、ふぁ……っ」
門のように閉じられていた少女の歯が、ゆっくりと力を失ってゆく。
次の瞬間には、少女の舌と老人の舌が絡み合っていた。
「んむ、あぁっ…、ふぅんっ!」
敏感な器官同士が触れあう。それは最初の侵食だった。
これほどまでに染み込むのかという、ざらりとした刺激。しかも、老人の舌は少女の口腔を余すところなく浸食した。
自分の身体の何処に、こんなに敏感な箇所があったのだろうか?
老人に目覚めさせられてゆく、秘められた自分の扉。
麝香の香りと、老人の手解きに酔いながら、少女は眼を閉じた。
充分に少女の唇を凌辱した老人は、ややあって上体を起こすと、和服の襟元を肌蹴た。
「練習、したんですよ。あなたに釣り合う男になるように」
「あなたが、好きです。僕とお付き合いしてもらえませんか」
呼び出した場所は、校舎の裏手にある、人気の殆ど無い神社の境内だった。
手紙に書かれていた時刻丁度にやってきた彼女に対し、彼は真っ赤に染めた顔で思いの打ち明けた。
冬の、この県にしては寒い日の夕方だった。境内に掲げられた『武運長久』の旗も、震えるように揺れていた。
少年の隣に居る少女は、鳶色の和服に木綿の襟巻という姿であった。
人形のように長くて美しい黒髪と、釣り目がちな瞳が特徴な、佳人だった。その美しさは『振り返らない者はなし』と町の噂になるほどだった。
少女は少年の告白に、一瞬目を見開く。
しばしの間、沈黙が続いた。
太鼓を乱打するように、少年の胸は高鳴った。期待と不安の入り混じったような瞳が、少女をしっかりと見据えている。
対照的に、少女は悪戯っぽい視線を、少年に向けた。明らかに侮蔑を含んだ視線。
しかし少年の純粋さは、その視線すら新鮮なものに映っていた。
「お気持ちは嬉しいのですが」
「そ、それじゃあ!」
早とちりした少年が、少女の手を握ろうと手を伸ばす。
だが、その手は空しく宙を掴んだ。少女がその手を隠すようにして、後ろに回したのだった。
「私、付き合っている方がおりますの」
「え…?」
ずぶり。と、胸元を刃で貫かれるような感触。
少年にとっては、文字通り衝撃の告白であった。
「あ、相手は…?」
失恋を受け入れる余裕を持つのに、少年は若過ぎた。
自分よりも先に少女を射止めた者を知りたい。好奇心が先に生まれた。
「…坂口の若旦那」
その名前には聞き覚えがあった。上海との貿易で羽振りの良い、商家の長男坊の名である。
「坂口の?あんな奴が…!?」
聞き覚えがあるというのは、悪名のことだった。
金に飽かせて女を買う、女給を囲うということで、少年の通う学校でも道楽息子の代名詞だった。
「あんな奴…?」
少女が不快な顔をした。どんな人間でも、好意を持っている人物の悪口を言われれば腹が立つということを、少年が知るのはまだ先のことである。
「『あんな奴』でも、あなたよりは良い人ですわよ」
「なっ…!」
見下していた男よりも卑下されて、少年の自尊心に傷が付く。しかも好きな女性からの一言は、その傷を深いものにした。
「あの人はあなたよりも良い顔をしていますし、商才もありますわ。そして何より、上手いんですもの」
妖艶な頬笑みだった。同じ年頃の娘たちのそれとは決定的に違う、色香に満ちた笑顔。
『女』の微笑。
少年が最後に見た少女の頬笑みは、何とも怪しく、そして美しかった。
「さようなら、一郎さん」
踵を返して、少女が神社の石段へと向かう。
「ッっ!ま、待って、待ってください、いおりさん!!」
少年は追いすがろうと、駆け出した。
だが、急な動きに下駄の鼻緒がぷつりと切れた。無様に、地面に膝が付き、仙台平の袴を汚した。
自然と、少年は少女を仰ぎ見る形になった。
物音に振り向いた彼女が、自分を見ている。その視線はひどく無機質で、まるで人形のようだと、少年は思った。
「…あなたはもう少し、女というものを知るべきね、御機嫌よう」
再び背を向けた少女は、それきり振り向くことなく、石段を下りて行った。
「ま、待って、待って!いおりさんっ、いおりさぁぁぁん!!」
少年の慟哭が、夕闇の迫る境内に響いた。
(何でっ!?どうしてッ!?)
信じられなかった。
会う度に自分に満面の笑みを見せていた彼女が、大雨の日に一緒に傘を使ったこともある彼女が、ずっと憧れていた彼女が。
自分以外のものになるなんて―――。
少年の絶望は深かった。日が落ちて、寒さが身を切る夜中になるまで、少年はずっとその場に泣き付していた。
しかし深い絶望の中でも、人は生きるため、最善の解決法をどこかに求める。
そして少年は、それを少女の最後の言葉に求めた。
(もう少し、女というものを知るべきね)
そうか、女を、女を知れば…
この時、少年は一度死んだ。
いや、正確に言えば狂ってしまったのかもしれない。
翌日から少年は人が変わったかのように、勉学、運動、そして嫌がっていた女郎屋通いに精を出すことになる。
女を知れば、女を悦ばせれることが出来れば、きっと…
政治家に、総理大臣にまで上り詰めた男の原動力はそれに尽きる。
女を抱くことに不自由の無い、そして自分の思い通りの世界を築くのに最も適した職業が政治家だった。
いわば、この少女を取り戻すためにだけ、谷崎一郎は政治を志したのである。
あの人は、僕の元に戻ってくる――――。
「綺麗だ…」
老人は、少女の肢体の美しさに声を上げた。
白色の下着姿になった少女が、自分の真下で、仰向けに寝転がっている。
自分の和服と、少女が身に纏っていた制服は、絨毯の上に散らかされていた。
白磁のような肌よりも白い、純白の下着が、背後の黒髪と見事な対比になっている。
芽生え始めた小さな胸も、肉付きの充分でない細い太腿も、老人が理想としていた光景に、驚くほど合致していた。
「本当に、綺麗ですよ、いおりさん」
あの、寒い日からどれだけの時間が経ったのだろうか。
初心(うぶ)な少年だった自分は、驚くほど変わってしまった。
でっぷりと肥えた身体には深い皺が刻まれ、髪の毛のほとんどは白く染まっている。
権力のために多くの者を蹴落とした。望まぬ結婚もした。女も、数多く抱いた。悦ばせる技も覚えた。
邪魔者も、消した。そして一つの家族を破滅に追いやった。
全てはこの日のため、本来ならば、あの寒い日から始まるはずだった幸せな日々を取り戻すためだった。
老人は少女に覆い被さると、背中に手を回し、下着の留め具を外した。
上体を拘束していた戒めが解かれ、少女が軽く声を漏らす。
(回っているか…)
トンキン・ムスクを基調とした香が、効いているようだ。
麝香には性欲を増進させる効果がある。少女の虚ろな目が、その効果を物語っていた。
「ひゃっ!……あっ」
左手でブラジャーを脱がせるのと同時に、老人は左手で少女の深い部分を触った。
下着越しでなく、直に触れられた拍子に少女が声を上げるが、否定の響きはない。指先に薄い恥毛の感触を味わいながら、徐所にその手を深い所へ忍ばせてゆく。
「だ、だめ、そこ、はっ、あぁ…」
自分でも触れた事のない部分に、指が入ってくる。少女は襲い来る快楽に耐えるように、羞恥の声を上げた。
ちゅくっ。
「ふあっ!?あああぁぁっ?」
指先が、肉芽に触れた。
瞬間、少女の身体が激しく震え、嬌声が漏れる。その部分から背骨を伝い、快感が脳天まで駆け抜けた。
「ひゃっ、う、嘘っ、あ、あっ、ああっ…!」
少女の反応に満足したのか、老人が、徐々に指先を動かす。その都度に快感が、少女の身体を貫いた。
「あっ、やっ、やめ、んっ、んんんんっ!」
段々と激しさを増す指の動きに、少女は腰を引いて逃れようとした。
しかし、老人はブラジャーを脱がせ終わった左手で腰を抱き、逃げることを許さない。
「あうっ、ああああっ!!」
今度は、別の指が肉芽の下、最も深い部分の入口を刺激した。
ぴったりと閉じられたその部分は、僅かな刺激にも敏感に反応する。
「やめっ、やめてぇぇっ!」
少女は老人を押しのけようと、両手で老人の頭を押さえた。
しかし、老人はそれを押しのけるべく、もっと強い刺激を肉芽と蜜壺、両方に与えた。
「ひゃっ、やあっ、ああああああッ!!」
一瞬意識が飛んで、全身の力が抜ける。
少女が軽く、絶頂に達したのである。
「はあ、はあっ……」
肩で息をする少女を見て、老人は満足げな表情を浮かべた。
泉の発案だろうか、性欲の増進効果を持つ香を焚き込めていたのが正解だったようだ。
性的に未発達な少女だから、痛みしか感じない場合はどうしようかと思っていたが、これなら安心である。
既に自分の欲望は、力強く滾(たぎ)っていた。
「…んっ?ふあっ!?」
快感の余韻に浸っていた少女は、自分の下半身がいきなり天に向けられ、驚きの声を上げた。
老人が自分の喉元に少女の尻を置き、下着に手を掛けたのである。
(あ…)
意味を理解して、少女が下着に手を伸ばす。だが、力の抜けた身体の動きは遅かった。
下着はするりと脱がされた。
全裸になった少女の、秘部が老人の眼前に晒される。
「おお…」
真っ白な肌の真ん中に、わずかな黒色の茂みと、紅色の肉襞。
少女の匂いを十分に残したその部分に、老人は感嘆の声を上げながら、顔を埋めた。
「ああっ、ああああぁ……」
老人の舌が、肉襞に触れるのと同時に、少女が声を上げた。
快楽のためか、それとも羞恥のためか、少女は両手で顔を覆い、首を振っている。
肉芽が鼻に触れ、少女の匂いを老人に深く染み込ませる。
恥毛が擦れる間隔を顔面で味わうのと同時に、老人は舌の強度を段々と強めていった。
「いやぁ、ああっ、だ、だめ、汚な、あぁ……」
少女は腰を引くように力を入れるが、しっかりと老人の両手に押さえられ、動かす事が出来ない。
「ふぅっ!んっ、はあぁっ…」
その内、舌が肉芽をも刺激する。まるで自分がその部分から食べられているような幻想を、少女は感じていた。
「まだ、固い…」
しばらく恥部を味わった後、老人は少女の身体を横たえ、寝台の側にあるテーブルに手を伸ばした。
テーブルの上にある硝子の瓶を手に取ると、老人はその口を開けて、中のどろりとした液体を手の平に溢(こぼ)した。
「そ、れ…?」
息も絶え絶えに、少女が得体の知れない物への恐怖を口にする。
「じきに、分かりますよ」
言いながら、老人が自分の欲望に、その液体を塗り付けた。
「っ!」
その光景に、少女は眼を反らす。
そそり立った男性の生殖器。老人が服を脱ぐ時は目を閉じていたから、始めてみる光景だった。
凶暴な獣のように、赤黒く牙を向き、自己主張をしている。
塗りつけられた液体によって益々そそり立つそれは、凶器以外の何物でもなかった。
「いおりさんにも…」
欲望を握っていたその手が、少女の秘部に伸びた。
「うううっ、や、ああ…」
冷たい。
熱気の中に居たためか、その液体は最初氷のように冷たく感じられた。
しかし、老人の手が離れた直後から、その液体は熱を持ち、秘部に十分な粘り気を与えた。
…老人が特別に造らせた媚薬入りの潤滑剤だった。
「さあ、いおりさん」
老人が瓶をテーブルに戻して、少女に向き直る。本能的な恐怖を感じて、少女は両足を閉じた。
しかし、抵抗むなしく老人は簡単にその足を開くと、強引に身体を少女の中心に移動させた。
「いきますよ…」
上体を少女に預けて、老人は腰を少女の腰に押し当てた。
「〜〜〜〜っ!!」
恐怖に、少女が両手でその身体を押しとどめようとする。だが、老人は両手首を取り、ばんざいをさせるような形で抵抗を封じた。
瞬間。
「あああああああぁぁぁぁっ!!」
刃で貫かれるような痛みが、少女を襲った。
熱い、熱い熱い熱い!!
秘部を中心にして、身体が焼け焦げそうだ。
「いやああああっ!!抜いてっ、抜いてえええっ!!」
首を何度も横に振り、痛みを訴える。
しかし老人はなおも挿入を続けた。
「あああっ、いおりさん…」
切な気な声を出して、奥へ、奥へと侵入していく。
「〜〜〜っ!んんんんっ!!」
段々と、少女の声が弱まっていった。
あまりの痛みに声も出せないのか、ぱくぱくと口を金魚のように動かしている。
「大丈夫ですよ……。段々と気持ちよくなっていきますからね」
最奥まで侵入して、少女の状態を気に掛ける余裕の出来た老人が、優しく声を掛けた。
「んっ、いおりさん……」
流れ出た涙を唇で拭き取るように、老人が少女の頬に口付けた。
老人の言った言葉は本当だった。
痛くない、そして、気持ち良い。
「あんっ、あっ、あっ、あああんっ!!」
しばらくの後、少女は快楽の声を上げていた。
体が、熱い。そして狂おしいほどに、刺激が欲しい。
身体の全てが性感帯になったかのように、感覚が鋭敏になっていた。
媚薬の効果は凄まじく、破瓜の痛みを始めとする全ての痛みを快楽にするかのようだった。
自分の上で懸命に腰を振る老人の動き一つ一つが、刺激を与えていた。
「いおりさん、いおりさん、いおりさんっ!」
少女の腰を抱えながら、谷崎が動く。
「はっ、はあっ、んんあっ!」
ぬちゃっ、ぬちゃっ、ぬちゃっ……。
薄紅色をした少女の秘部に、赤黒く染まった老人の欲望が出入りを繰り返す。
白い少女の内腿には、処女であった証が赤く散らされていた。
老人は少女の足を両脇で抱え込むようにして、その身体を支配していた。
「んっ、ん……、あっ……」
繋がりながら、老人が少女の唇を吸う。虚ろな目で、少女は自らも唇を求めた。
絡み合うお互いの唇。少女は自ら老人を求めて、その首に手を回した。
「くおおぉぉっ…、なんて、きついんだ……」
少女の膣内が生み出す刺激に欲望を締め付けられ、老人が言葉を漏らした。
「こんな刺激、初めてだ…」
初めての異物を押し出すためか、少女の膣内は侵入者に対し、全力での抵抗を試みていた。
しかし、それが老人には激しい刺激となって、更なる欲望を生み出していた。
「もっと、もっと、奥に……」
貪欲に、老人は侵入を試みた。
だが、成長の途中である少女の膣内は、未だ老人の全てを受け入れることが出来なかった。
欲望の根元を僅かに残し、少女が老人に満たされる。
「ああっ、やっ、やあっ…」
少女が首を何度も横に振った。
「変っ、変なの……」
「何が、変なんです……?くっ」
少女の様子に気づいた老人が、何かを察したかのように、少女に尋ねる。
「変、なんです…私、痛いのに、痛いのにっ…!」
自分の体に起こっている変化に脅え、少女が両手で顔を隠すようにして首を振る。
「ほぉ…、痛いのに…?」
老人はその顔の傍に自らの顔を横たえ、囁くような声を掛ける。その甘い響きに、少女は尚も首を振った。
「気持ち、いいんですか」
「い、やあ………」
女としての悦びに目覚め始めている。老人には少女の様子が手に取るように分かっていた。
営みに慣れていない女性が、女に変わってゆく様。
何人もの女を抱いてきたが、この瞬間を見るのが、老人にとっての最大の喜びだった。
「いや、私、違うのに、違うのにぃ…」
自分に生じている変化をあくまで否定しようとする少女。
「何が、違うんですか…?」
「私、そんなのじゃ、そんなのじゃ……」
今まで少女が育ってきた環境上、それを認めることはありえないことなのだろう。
自分の介入があるまで、お嬢様育ちだったというからそれは尚更だ。
しかし。
「そんなのって…?」
そのお嬢様が、乱れていく。
何とも言えない背徳感を感じながら、谷崎は少女の柔らかな耳の感触を味わっていた。
「い、やぁ……」
質問に答える気力もない少女は、ただ、いやいやをするばかり。
老人は少女の耳を口で弄びながら、残酷な事実を告げた。
「感じているんでしょう?僕に抱かれて」
「あああっ………」
事実を目の当たりに告げられ、少女が陥落の溜息を洩らす。
切な気で、どこか扇情的な少女の溜息を耳にして、老人は少女の胸の先端を摘まみながら、囁いた。
「本当に、淫乱なんですね、あなたは」
ぞくぞくっ、と、少女の背中を何かが駆け抜けた。
淫乱
背徳的な響きを持つその言葉に、少女の奥底が反応したのである。
(いんらん、私はいんらん……)
女というものは、「不自堕落(ふしだら)」ではいけません。
両親に教えられてきた、女性としての心得。「不自堕落な女」とは、自分には縁の遠い存在だと思っていた。
しかし、こうして初めて会う男に抱かれ、自分はこれまでに無かった快楽を感じている。
その快楽が、我慢できない位に気持ち良い……。
少女が、自分が女であることを自覚した瞬間だった。
「何て、淫乱なんだ。あなたは…」
「ああっ、ふっ、ふあっ!ああああんっ!何で、何で?こんなにぃ……」
「思っていた、通りだ。やっぱりあなたは好きなんだ。こういうのが好きなんだっ!」
「す、き…?私、が…?」
「ええ、あなたは間違いなく……」
老人の唇が、こりっ、と少女の乳首を齧る。
「いんらん、ですよ」
ぷつんっ。
飛んだ。
全身の力が抜けて、身体の重みが一瞬だけ消える。
「淫乱」という言葉は毒のように少女の身体を侵し、初めての絶頂を与えた。
「はあっ、は、あっ……」
徐々に、身体の芯から熱気が生み出る。
少女は肩で息をしながら、絶頂が生み出す脱力感の中にいた。
震えが止まらない。意識はあるのに身体が動かない、まるで金縛りだった。
しかし、その動かない状態が、途轍もなく気持ち良い。
「んっ…!」
そこに口付け。
満足げな顔で、老人が少女の唇を奪ったのだ。
「駄目ですよ。あなただけ……」
同時に、突かれる。腰に老人の手が宛がわれ、一気に。
「はっ!あああああんんっ!!」
達した直後の敏感な身体に、子宮の奥まで衝撃を受け、少女が叫ぶ。
ずんっ、ずんっ、ずんっ。
既に潤滑の良くなった膣内を、老人の欲望が走った。
「やっ、やっ、くぁ、あはっ…」
声が声にならない。思考が言葉になることを、本能が拒否しているかのようだ。
「ふっ、ははっ、ははははっ!!」
老人は腰を振りながら笑った。満足気に、自分の望みを叶えた喜びに笑っていた。
「綺麗だ・・・!ああっ、乱れるあなたはなんて綺麗なんだっ!!」
限界が近いのか、腰の動きがさらに激しくなる。
老人が見ているのは、目の前の少女か、それとも、過去の幻影なのか。
「愛しています。あなたをっ!こんなに淫乱なあなたをッ!!」
「・・・あいし、て・・・?」
愛。
その言葉に、少女がわずかな反応を見せる。
異性への愛というものを知る前に、女になってしまった少女が、名残惜しげに呟く。
「お願い…っ、はあっ…!言って…、んあっ…!私の、なま…え…」
せめて、せめて自分の名前だけを。
他人の替わりという形で失う「少女」でも、せめて失うのは自分でありたい。
しかし、その望みは簡単に打ち砕かれた。
「ええ、行きますよ…。もちろん、あなたの中へ・・・・・・」
老人は聞き違えた。少女が自分の中で果てることを要求したと、半ば狂った頭が判断したのだ。
「うっ、おおおおおおぉぉぉっ!!」
「や、あ、あああああぁぁぁっ!!」
白濁の液体が、欲望から発射される。
勢い良く吐き出されたそれは、瞬時に少女の膣内を満たした。
破瓜の血と交わった桃色の残滓が、寝台の布を染める。
「いおり、さん……」
放出を終えた老人が、愛おしい人の名前を呼びながら、力尽きた。
ぐったりと少女の上に覆いかぶさり、その身体を抱く。
老人が伏す間。少女はずっと天蓋の裏を見つめていた。欲望の熱気から目覚め、表情には何の感情もないように見える。
だが、少女の目には、一筋の涙の後があった。
(ちがう、私は、いおりじゃない。私の、名前は………)
「私の、名前はっ…!」
目覚めると、見慣れた天蓋が自分を見下ろしていた。
久しぶりに見る夢だった。
自分の破瓜。この屋敷に来た最初の日の出来事だった。
「……」
薄い黒絹のネグリジェが寝汗で濡れている。
あの夢は、悪夢だったということなのだろうか。庵は首を振って額を拭った。
「違う、私は、恨んでなんか、いない……」
寝台の横のテーブルに、手を伸ばす。
そこには、わずかに色褪せた写真立てがあった。
屋敷の庭の一角で、海山手高校の服に身を包んだ自分と車椅子に乗った谷崎が、微笑んで写っている。
あの後、自分に対する谷崎の庇護は、実の孫に対する以上のものだった。
表向きは後見人として、庵の中学、高校への進学の面倒を見、最高の教育と生活を与えたのである。
彼女に注ぐ愛情も、裏表の無い純粋なものだった。
無論、夜の営みについても、これまでに自分が蓄えた技を、存分に振るった。
庵が老人の囲い者になることに、何の躊躇いを見せなくなる−。
正確には全てを諦めるのには時間はかからなかった。
自らの戸籍上の名前を、老人の望むように変えたのもその為である。
それでも。
「呼んで、欲しかった……」
自分の名前を、本当の名前である庵子という自分の名前を。
息絶えるその時まで、谷崎にとって自分は「いおり」の代役だった。
最初に、破瓜の痛みとともに、自分は、坂口庵子は殺されたのだ。
「だから、いいよね……」
写真立てを置いて、庵が不意に笑う。
「殺されたんだから、私も殺して、いいよね……」
あの時に、自分は幽霊になった。坂口庵という過去の亡霊に。
亡霊は自分の恨みを晴らすべく、現世の者を取り殺そうとする。
その獲物を、彼女は見つけたのだ。
純粋そのもので、若さに満ち溢れた、少年。
幽霊屋敷に迷い込み、幽霊に見初められた哀れな少年。
「……楽しみだな」
あの性に戸惑いを覚える少年の顔が、どれだけ乱れ、汚れていくのか。
幽霊屋敷の女主人は、歪んだ妄想に思いを巡らせ終わると、寝汗を流すべく、風呂場へと向かった。
以上で、今回の投下を終わります。
初の濡れ場なのにじいさまが相手で、期待した方すいませんっ!!
まあ、谷崎と庵は歪んだ愛人関係なのですが、この後それぞれ、愛情が生まれますので、一応年の差カップルの範疇に入れました。
しかし、これが逆だと、さすがにもう書けません…。あと、塗れ場の描写の出来は、ご容赦ください。
次回の投下にどれくらいかかるか分かりませんが、次はちゃんと本筋に戻ります。
本文の誤字脱字、ご容赦下さい。
今回もお目汚し失礼しました。
あと、お礼が遅れてしまいましたが、Wikiにまとめて下さった方ありがとうございます。
自分の作品が乗っているのを見ると、嬉しく思います。
続きキタ━━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━!!
まさかの爺様www
GJ!!
ジジイ自重しろw
>>252 ジジィなんかに…
く、くやしい、ビクンビクン
>>231 見える!16歳の女の子が27歳のお姉さんに歳のことを持ち出し、
「そんなこと言われなくても分かってる」と切り返したものの
内心で落ち込みまくるシーンが見える!
予告通り、瀬能と美春の投下に参りました
今回はエロ有り
予想外に長くなってしまい、保守と言うにもおこがましいですが
導入部が短かったので、それもありかなと
以下投下
夢のような、と言う比喩がある。
美春を初めて抱いた時、瀬能の心境を一言で表すならば、まさしく「夢のような」時間であった。
柔らかな唇は、いくら重ねても飽き足りぬ程で。優しく舌でなぞれば、腕の中の美春は、その度にピクンと体を強ばらせる。
その反応が楽しくもあり、嬉しくもあり。
瀬能は美春の緊張を解してやろうと、じっくりと時間を掛けて唇を愛撫した。
付けっぱなしだったテレビから、車のクラッシュ音が聞こえる。
映画も佳境を迎えているようだったが、BGMにするには、いささか耳障りだ。
「美春、テレビ消すぞ」
「……ん」
ちゅっと音を立てて、美春の唇から己のそれを外して言うと、美春は瀬能の肩に顔を埋めるようにして、小さく頷いた。
耳まで真っ赤な美春に、瀬能は益々愛しさを募らせるが、まだ序の口。
リモコンを手に取りテレビを消すと、瀬能は美春を抱き抱えるようにして、ベッドの上に座った。
「あの、さ」
「うん?」
「何か……緊張する…」
眉を下げて笑う美春だが、その体は微かに震えている。
瀬能の知る限り、美春は異性と付き合った事がない。
子供の頃から、瀬能が好きだと公言してはばからない美春の事だ。
瀬能が知らないだけ、などと言う事はないだろう。
「んー……俺も、ちょっと緊張してる」
「瀬能さんも?」
優しく背中を撫でながら、正直な感想を口の端に上らせると、美春は口端を引き上げて瀬能を見上げた。
「そりゃ……美春相手だし。……してないっつったら、嘘になる」
「……じゃあ、お揃いだ」
照れ臭そうに笑う美春が、そっと背中に手を回し、瀬能を柔らかく抱きしめる。
瀬能は、まだ湿り気を帯びている美春の髪を、優しく梳いてやりながら、額に、頬に、唇を落とした。
くすぐったそうに目を細める美春は、それでもねだるように、瀬能との距離を近くする。
それに応えて再び唇を重ねると、薄く開いたその隙間から、舌を差し込み歯列をなぞる。
甘く弾力のある舌を捕らえ絡める。「ふ、」と、美春の口許から吐息にも似た声が漏れたが、瀬能はそれすらも飲み込もうと、後頭部を抱えるようにして、優しく、強く、舌を吸い上げた。
心は踊る。
だが、性急さは感じない。
自分の寝間着を掴む手だとか、漏れる吐息だとか。薄目を開けて様子を伺えば、きゅっと閉じた瞼は、瀬能が与える愛撫に、時折睫毛を震わせている。
(だから、親父のセックスはネチっこいって言われるんだな)
若い頃ならば、自分も快楽に溺れようと、行為に没頭していたのだろうが。今はただ、美春の反応の一つ一つが、瀬能には嬉しくて仕方がない。
キスだけで、美春の頬は、もう真っ赤に染まっている。
瀬能が唇を離すと、名残惜しそうに開かれた唇から、濡れた舌が覗いていた。
「明かり、消すか?」
「そりゃ……出来れば…」
いくら美春と言えど、明かりの付いた中で事に及ぶのは、流石に恥ずかしいようで、上目遣いに瀬能に視線を傾けた美春に、瀬能は小さく頷いて見せると、腰を浮かせて部屋の明かりを落とした。
オレンジ色の豆電球が、室内をぼんやりと写す。
そこに浮かび上がる美春の表情は、いつもの快活さは無く、むしろ仄かな色気すら感じ取れた。
腰を落ち着けた瀬能は、そろりと美春の寝間着代わりのTシャツの裾から、背中に手を這わせる。少し冷えた手には、美春の温度が心地良い。
直接触れた瀬能の手に、美春はピクリと体を震わせた。
背骨から肩胛骨へ、Tシャツをたくし上げるようにして、瀬能は美春の背を撫でる。
その動きに促されるように、美春が首を竦めた。
「ホレ、ばんざーい」
「もうっ」
子供の服を脱がすような、瀬能の軽い口振りに、美春は苦笑しながら両手を上げる。
その一瞬、こぶりながら形良く膨らんだ胸が視界に入ったが、Tシャツを脱がされた美春が即座に胸を覆った。
「瀬能さんも」
「俺も?」
「だって、恥ずかしいじゃない。一緒じゃなきゃやだ」
むぅっと唇を尖らせて睨む美春だが、そこに険は無い。むしろ恥ずかしさから、瀬能を睨んでいるのだろう。
思わず眉尻を下げた笑みを浮かべると、美春は尚も胸を隠したまま、片手で瀬能の寝間着のボタンに手を伸ばした。
「ほら、早く」
「はいはい」
ぎこちない動きで、美春がボタンを外そうとする。
瀬能はこみ上げる笑みを隠そうともせずに、急かされるままに寝間着のボタンを外し、美春のTシャツと共に寝間着をベッドの下に脱ぎ捨てた。
「あんま見るなよ。腹、出てるのがバレるだろ」
「瀬能さん、メタボ予備軍なんだ」
「馬鹿。良い歳になりゃ、誰だって腹筋ぐらい緩むっつの」
くすくすと笑う美春を抱きしめ、瀬能はベッドに横たわる。
「私も、そのうち緩むかな」
「あと二十年もすりゃ、緩むかもな」
「じゃあ、その頃には瀬能さんは、もっと緩んでるね」
「うっせ」
色事に及ぶ緊張感を紛らわせようとしているのか、美春の口調は軽い。
軽口に瀬能が顔をしかめて見せると、美春は小さく笑いながら、瀬能の首に両腕を回した。
三度唇を重ねながら、瀬能は腰を抱き抱えた美春の胸に、空いた片手を伸ばす。
決して大きくはないが、弾力のある胸を包み込むと、美春の口から小さな声が漏れた。
固く尖った胸の突起を指で挟み、やわやわと胸を揉みしだく。
美春は喉の奥から、甘えるような声を出して、瀬能の首にすがりつく。
ぴちゃぴちゃと互いの唾液が入り交じる音と、美春の甘い声が、瀬能の鼓膜を刺激する。
指で、挟んだ突起を強く擦り合わせると、美春は唇を離して、一際高い声を上げた。
「やっ、んん…っ!」
胸への刺激に、美春の腕が緩む。
その隙に、瀬能は腕から逃れ、首筋から鎖骨へと唇を滑らせた。
舌を這わせ、吸い付き、甘噛みを繰り返す。
腰を抱いていた腕を引き抜き、美春に覆い被さるように体勢を変えて、両手で胸を愛撫すると、美春は瀬能の頭を掻き抱いた。
胸元に唇を寄せれば、薄明かりの中、ぷっくりと膨らんだ頂が視界に入り、瀬能は躊躇う事無く、それを口に含んで吸い上げた。
「あぁっ!」
胸の頂を、頬張るように口に含み、態と音を立てて吸い、離す。
突起を舌先で転がしながら、乳房全体を揉みしだく。
美春は声を出すのが恥ずかしいのか、口許に拳を当てて、漏れ出る声を抑えていた。
「声、出して良いんだぞ?」
「んっ、や…やだぁ…っ」
胸を刺激する手は止めず、瀬能が声を掛けるが、美春は拳の下からくぐもった声を漏らして、子供のように首を左右に振る。
そうは言われても、甘い声を聞きたいと思うのが、男としては至って正直な気持ち。
瀬能は無理強いはしなかったが、その代わりに、より強い刺激を与えようと、胸の突起に唇を寄せた。
突起を唇で挟み、ちゅうちゅうと其処を吸い上げる。
そうしながら、片手を下部へと這わせ、寝間着代わりのハーフパンツの中に手を差し入れる。
弾力のある太股を撫で、更にその手を臀部へと回して、下着の上から強く掴む。
指先は秘部に触れるか触れないか。
じっとりと汗ばみ始めた美春の其処を揉みながら唇を離すと、美春は口許を覆ったまま、耐えきれないとでも言うように、喉の奥から声を漏らしていた。
「ふ、うぅ…っ、ふ…」
「我慢するなって」
「…や……ぁっ」
固く閉じた瞼は開かれない。
瀬能は僅かに苦笑したが、体を起こすと、両手をハーフパンツに掛けて、下着ごとそれを引き下ろした。
「美春」
膝を閉じた美春は、瀬能の声にゆるゆると瞼を押し上げた。
「美春」
優しく名を呼ぶ。
そのたびに、美春の体からは力が抜けているようで、瀬能は美春の膝を割り開いて、その間に居場所を定めた。
薄明かりの中でも分かるほど、美春の秘部はぬるりとした愛液に塗れている。
そっと指先を伸ばせば、美春の体がピクリと跳ねて、美春は再び瞼を閉じた。
なるべく優しく、閉じた秘弁を指で押し開く。
開かれた奥から、愛液はとろりと流れ、伝い落ちる。それを指先で拾い、割れ目に沿って撫で上げると、美春の口から吐息にも似た声が漏れた。
愛液を絡め、弾力を持って主張する秘部の突起を優しく撫でる。
美春は初めての経験なのか、喉を反らせて、小さく鳴いた。
その甘やかな鳴き声に、瀬能は気を良くして、尚も突起を刺激する。
「はっ、やあ…、あっ! ああっ」
瀬能の指の動きに併せ、美春の口から絶え間なく声が漏れる。
それを耳にしながら、瀬能は秘部に顔を寄せると、とろとろと溢れ出した愛液に舌を差し出し、美春の中へと進入させた。
「やぁ! せの…さ…っ!」
瀬能の動きを止めようと、美春が制止の声を掛けるが、突起を指で摘めば、それも直ぐに鳴き声に変わる。
舌で美春の中をかき回し、愛液を啜り、思う存分美春の味を堪能しすると、今度は指と舌とを入れ替える。
舌先で突起を剥き出しにし、唇で甘噛みを繰り返しながら、中指を美春の中へ埋め込むと、異物の進入を拒むかのように、美春の秘部はきゅう…と締め付けを強くした。
硬い肉壁を解すよう、愛液を絡め、ゆっくりと美春の中を乱していく。
指の腹を押し付けるようにしながら指を往復させ、茂みの中で主張する突起を吸い上げる。
瀬能の愛撫に、美春は息吐く暇もないようで、汗ばむ肢体がひくひくと揺れた。
「ひぅ、あ……ああぁっ!」
ある箇所を指で擦った瞬間、美春の口からは甲高い喘ぎ声が漏れて、瀬能は思わず顔が緩む。
その箇所を集中的に攻め上げながら、美春の中にもう一本指を埋め込むと、溢れた愛液が瀬能の手の甲へと伝った。
「や……も、だめ…ぇ」
全身をひくつかせる美春が、喘ぎ声の隙間から、泣き声にも似た懇願の声を上げるが、その言葉に反して、柔らかくなり始めた肉壁が、二本に増やした瀬能の指を包み込む。
「あ、ああっ、あ……やあぁっ…!」
これ以上無い強さで、美春の敏感な箇所を押し擦り、突起を強く吸い上げると、美春は全身を仰け反らせ、美春の体は瀬能の指を蠢くような動きで締め上げた。
荒い息を吐く美春は、瞼を開くのも億劫なようで、くたりと力を無くして横たわったまま。
そんな美春から指を引き抜き、瀬能は体を起こして、美春を抱きしめた。
「せ、のう…さん?」
耳元で、美春の声がする。
「美春のエッチ。俺の手、びしょびしょ」
「な……っ!」
態と意地悪な口調になるのも無理からぬ事。
勿論、瀬能の愛撫が無ければ、美春が乱れる事もなかったのだが。
「そ、れは…瀬能さんが」
「あんな可愛い声出されたら、もう限界」
「……え」
頬に口付けを一つ落とし、体を起こした瀬能は、下着を脱ぎ捨てると、枕元の箱から避妊具を取り出した。
いつか使うだろうと、二週間ほど前に買ったそれを自身に被せ、未だ力を無くしたままの美春の太股を持ち上げる。
「たぶん、入るだろうけど」
「ちょっ、や、まだ――」
「うん、分かってる」
絶頂に達したばかりの美春の動きは鈍い。
それを幸いにと、瀬能は美春の膝を胸に押し付け、張り詰めた欲望を美春の秘部にあてがった。
滑る愛液を絡め、熱を分け合うように擦り付ける。
ゆっくりと上下に擦り合わせると、美春は吐息と共に、再び甘い声を漏らした。
「ひぁっ、ん…っ」
「痛いだろうから……もうちょっと、な」
「ん…ぅ、あっ!」
本音を言えば、少しでも早く、美春の中を自分自身で一杯にしてしまいたい。
けれど、美春の負担を思えば、少しでもそれを和らげてやりたいとも思う。
快感を与えるだけが全てではないが、痛みだけが伴っては意味が無い。
「美春、気持ち良い?」
「ぅ、んんっ、いい…っ、せの、さんの…っあ……きもち、い…っ」
ぐちゅぐちゅと泡立つ愛液が、瀬能を包むゴムにまとわりついている。
淫靡な光景と甘やかな美春の声に、瀬能は唾を飲み込むと、腰の動きを早めた。
「ひ、ああっ、あん、ああぁっ」
美春の太股を持ち上げて、突起を擦るように自身を動かす。
ゴム越しに伝わる熱が、瀬能の背筋を震わせて、瀬能の吐息も荒くなる。
まだ入れた訳でもないのに、不思議と満足している自分が居る。
(美春だから…かな)
頭の片隅で冷静な自分が呟いたような気がしたが。
「せのう…さん…っ」
名前を呼んだ美春の手が、瀬能の腕を掴み、瀬能は美春の顔を見た。
「も、いい…。…ちょうだい、瀬能さんの…」
荒い呼吸の隙間から、途切れ途切れに美春が呟く。
紅潮したその表情は、瀬能の知る、どんな美春の表情とも違い、確かに「女」の顔だった。
「痛くても、瀬能さんなら………だから」
「ん」
皆まで言わせる気はない。
散々待たせた挙げ句、其処まで言わせてしまったら、男としての矜持に関わる。
尚も言葉を繋げようとした美春の唇を、自分の唇で塞いで、瀬能はゆっくりと顔を上げた。
「痛かったら、右手上げろよ」
「何それ…歯医者さんみたい」
冗談めかして笑いかけると、美春は小さく笑いをこぼす。
そんな美春にもう一度口付けて、瀬能は美春の膝に手を掛けた。
「途中で止めらんないとは思うけど」
「わ、かって…る。……たぶん」
怖くない筈はない。
美春にとっては初めての経験で、羞恥と不安が無い訳がない。
それでも強がる姿に、愛しさを感じながら、瀬能はゆっくりと美春の中に体を埋めた。
「っ…く…う」
先端を埋め込み、閉ざそうとする肉壁の中を進んで行く。
美春の口から、小さな呻き声が漏れたが、美春は拳に握った両手で口許を抑え、その声を押し殺そうとしているようだった。
「美春……」
気遣ってやりたい。痛みを代わってやりたい。
けれど、行為を途中で止めてしまえば、それこそ美春を傷付けるだけだろう。
「美春、噛んで良いから」
思い付くのは、これぐらいしかない。
瀬能は一旦動きを止めると、美春の両手を引き剥がし、その口に自分の手をやった。
唇を指で押し開き、薄く開いた歯の隙間に、親指の根元を押し付ける。
美春は拒否するかのように、首を横に振ろうとしたが、瀬能が再び腰を進めると、頼る物もなく瀬能の手を噛みしめた。
鈍い痛みが瀬能の手に走る。
けれど、美春の痛みは、その比ではないだろう。
傍目から見れば、強姦にも似た体勢だが、そんな事を気にしてもいられない。
さっき指で解したばかりとは言え、指と瀬能自身では質量が違う。
美春の体も、全てを受け入れられる程の余裕も無く、瀬能を包む肉壁のきつさは緩まない。
それでも時間を掛け、じわりじわりと美春の中へと体を進める。
美春の口からは、時折呻き声が漏れたが、口許にあてがった手に自分の手をすがりつかせた美春は、決して「痛い」とも「嫌だ」とも言わなかった。
「……美春」
全てを美春の中に埋めて、口許にやった手を離す。
美春は何故か泣きそうな顔で、それでも何処か嬉しそうに笑いながら、噛み痕の残る瀬能の手を握り締めた。
「全部?」
「ん、入った。……痛いか?」
「痛くないって言ったら、嘘。けど……」
瀬能の手に指を絡め、美春は目を細めた。
「凄く、幸せ」
照れ臭そうに表情を緩めた美春につられ、瀬能も頬を緩める。
締め上げる美春の体に、瀬能の欲望は弾けんばかりにビクビクと脈打つ。
全身を包み込むかのような錯覚に、脳髄が刺激されるが、瀬能はそれをやり過ごして、美春の体を抱き締めた。
「動かなくて良いの?」
「まだ、良いよ」
美春なりに気を使っているのだろうが、眉を下げた笑顔を見れば、無理をしている様子が伺えて、瀬能は美春の髪に顔を埋める。
まだ湿り気の残る髪からは、ふんわりとシャンプーの香りが漂って、胸の奥に暖かな物が募る。
幸せだ、と実感出来て、瀬能は何だか泣きたくなった。
「凄いね」
「何が?」
「うん……」
ちゅっ、と手に柔らかな感触を受け、瀬能は顔を上げた。
指を絡めた手に残る、赤く染まった噛み痕に唇を落としながら、美春は困ったように笑っていた。
「痛いけど、凄く幸せで、嬉しいの。瀬能さんが、やっと、私の方を向いてくれたって感じ」
何度も口付けながら、美春は言葉を選ぶように、淡々と告げる。
拙い言動だが、その一つ一つが、瀬能にはとても大切な事に思えて、瀬能は空いた手で美春の髪を撫でた。
「うん……待たせた」
「ほんとだよ」
「ごめん」とは言えなかった。
たぶん、二人にとってそれだけの時間が必要だったのだ。
年の差を埋める事は出来なくても、美春の想いの強さに見合うバランスをとれるようになるまで、瀬能には時間が必要で。美春もそれを理解していたからこそ、ようやく口に出来た本音なのだろう。
だからこそ、謝るのではなく、愛してやりたいと素直に思う。
「美春、そろそろ」
「うん……あんまり、無理しないでよ?」
「するかも。美春が相手だから」
「……ばか」
上体を起こす瀬能を見上げ、美春は少しだけ唇を尖らせる。
そんな姿に、瀬能は口許に笑みを滲ませた。
美春の膝裏に手を掛けて持ち上げる。
美春の髪を拭いていたバスタオルが視界の端に写り、申し訳程度に美春の腰の下に引いてやり、瀬能はゆるゆると律動を開始した。
腰を引けば、仄かな明かりの下でも、愛液ではない何かがゴムにまとわりついているのが目に入る。
「んっ、うぅ」
ゆっくりとした動きに、美春の眉は寄せられるが、絡めた指が解かれる事はない。
肉壁を擦るように自身を埋め、また引く。
何度も美春の体の中を擦りながら、瀬能は頬と言わず額と言わず、美春に口付けた。
「っ…う、あ、せの…さ……っ!」
指を絡めた手はそのままに、瀬能は熱を求めて、徐々に律動を早くする。
なるべく美春を気遣いながら、それでも本能に従った動きに、交わった秘部からはぐちゅぐちゅと水音が絶えない。
「あっ! んんっ、んぁっ!」
「美春…っ」
自身を包みうねる熱に、瀬能は何度も美春の名を呼びながら、文字通り体を突き動かす。
その動きに、美春は腰を浮かせて、手を握り締める事で瀬能に応えた。
「美春、もう…」
「ん、いい、からっ……せのう、さんっ…せの…さん……っ!」
目尻に涙を浮かべた美春の唇に、噛みつくような口付けを落とし、瀬能は抑えきれない欲望を美春の中に吐き出した。
体の奥から湧き出る衝動が、瀬能の全身を駆け巡る。
それを包む美春の体は、最後まで瀬能の体を離そうとはしなかった。
荒い呼吸を繰り返しながら、覆い被さるようにして、瀬能は美春に体を預ける。
そんな瀬能に、美春が腕を回して、愛おしいと言いたげに抱き締めた。
*****
翌朝、瀬能が目を覚ました時、美春はまだ夢の中で、瀬能の傍らで小さく丸くなっていた。
昨夜はあれから事後処理を済ませ、夜が明けるまで二人で睦言とも言えない、他愛ない会話を交わしていたのだが、最後の記憶は美春の小さな我が儘だった。
腕枕をして欲しい、と眠そうな声で呟いていた美春に、瀬能もやはり睡魔に負けながらも、美春の頭の下に腕を敷いてやったのだが。
「腕、抜けてんだろ」
完全に丸くなった美春の頭は、腕枕どころか、瀬能の胸の当たりにまで落ちている。
「仕方ないな」と小さく呟いた瀬能は、美春を起こさぬように美春の体に腕を差し込み引き上げる。
昨晩と同じように、腕を枕にしてやり抱き締めた瀬能の表情は、満ち足りた笑顔だった。
以上です
過去スレを見たら、一年以上二人にお付き合い頂いている訳で…
少しでも期待に答えられていたなら幸い
次回の投下で完結となりますが、なま暖かく見守って頂ければ嬉しく思います
gjです!
>>職人様
そもそも最初に「ヘンな電波」を受信してしまったモノですw
読んでいてなんだか泣けて来ちゃうくらいに感激してしまいました。
急がずマイペースで最後の締めくくりしてください!
ありがとうございました!!
270 :
名無しさん@ピンキー:2008/11/24(月) 23:17:37 ID:ak/3LtnT
次回で最終回………『瀬能と美春』楽しみにしていただけに寂しいような、嬉しいような……とにもかくにもGJでした!最終回期待してます。
次で最終回…、だと…?
そんなの俺は認めないぞ!!
GJです!
このシリーズ大好きでしたので最終回は残念・・・!
「夏のやくそく」というエロ漫画が最近の俺のマイブーム
ドライエッグの主人公が自分だったならと思わずには居られない
>>251 先生! 「僕」が幸せになってくれなきゃいやです!!
「先生!! 僕が幸せになってくれなきゃ嫌です!!」
「なにを言ってるの、○○くん?
この私と一緒にいられるんだから、○○くんが幸せなのは当選でしょう?」
「先生、恥ずかしい台詞は禁止です」
「あら、そう? 私は○○くんのもっと恥ずかしいことを知って──」
「い、いい加減にして下さいよ、もうっ」
「ふふっ、からかい甲斐のある子よね、全く」
ふんぞり返りながら堂々と語る先生が、僕は好きだった。
終
浅尾の目隠しプレイを全裸ニーソ&正座で待機。
同士はいるかな?
>>276GJ
Sな年上はストライクだ。いいぞもっとやr(ry
>>277 ここにも居るぜ。
浅尾にはギャグボールとか手錠とかも付けてほしい
俺がつけるからそれで我慢してくれ
最高じゃないか
ハァハァ
年上のお姉さんにフル勃起状態で放置プレーされたい
やっぱり年上は責める側じゃないとな!
強気な年上が攻められてるのもいいんじゃないか
始めは攻める側だったけどやがて知識と経験を身に付けてきた年下に攻められるようになる
それだ!!
むしろ童貞に責められまくるというのはどうか。
いやいや年上をいじめて満面の笑みを浮かべるようなビッチなおにゃのこという選択肢だってあるぞ
投下します。
三度目の十月
エロ薄め
突然くちびるがふってきた。
一瞬まぶたを掠めたそれは、すぐにくちを塞ぎにかかった。
とっさに逃げられなかったのは、両手に持った空の皿の上に乗ったフォークに気を取られていたからだ。
軽く食んで柔らかなくちびるの感触を楽しんだあとに、舌が入り込んできて絡まりあった。
ケチャップの味がする、と思った。
舌の裏側をつん、とつつかれて身体を震わせたら、フォークがかちゃんと鳴ってひやりとした。
落としてしまわないか気が気でなくて、平素のように応えることも身を引き離すことも適わない。
元々そんなに器用ではないのだから、横着をせずに一枚ずつ持てばよかったと、茜はひっそりと後悔をして、いや悪いのは彼のほうだと認識を改めた。
汚れた皿を放置するのは好きではない。
すっかりと口に馴染んだ食事を終えて、ごちそうさま、と皿を両手に立ち上がると、同時に立ち上がった総一郎が身を寄せてきた。
おや、と一歩後ずさったら壁にとん、と背をぶつけた。
そして今に至る、というわけだ。
茜の好きな、暖かい手が伸びてきてくびすじを撫でる。
肩に落ちた髪を弄びつつ、親指の腹で耳をさする、なんて器用なことをしてみせる。
くすぐったくて、肩をすくめた。またフォークがからんと鳴った。
ともすれば翻弄されて溶けてしまいそうな理性を、茜は必死で保つ。
だけど数時間前の情事の名残は完全には身体から抜けきっておらず、ひんやりとしているはずの全身に血が巡るのを自覚した。
これはやばい。いろんな意味で。
まず皿を落とす。その後に、たぶん、押し倒される。
この煽るようなキスは、彼が飢えている証拠だ。
このままでは流されてしまう。
ゆるくくびを振って、何とか口付けから逃れる。
は、と吐いた二つの吐息が混ざり合った。
「…………浅尾、」
呼びきる前に、目の前の総一郎がセンセイ、と熱っぽく呼んだ。その声音にくらりとしてしまう。
「お行儀が悪い」
ちょっと熱に浮かされたことを知られたくなくて、ぴしゃりと告げる。
犬のような総一郎は、悪びれもせずにだってといいながら、茜の横髪をゆるく撫でた。
熱い身体が密着をする。
どくんと胸が高鳴って、意識のどこかが期待をする。
だめだ、と必死に己に言い聞かせた。
「あー、君の欲望の象徴が当たっているわけだが」
「その官能表現やめてもらえません? ちなみに当たってるんじゃなくて当ててます」
「そうか。離れては、もらえないだろうか」
「嫌です」
子供のようなわがままを言って、総一郎が再びくちびるを寄せてこようとする。
顔を背けて嫌がって、彼の手に皿を一つ持たせた。
「君がやりたい盛りだとは知っているが、」
「それ傷つく……」
「む、言葉が悪かったか。あー……君が、性欲旺盛なお年頃だと理解はしている。だけど申し訳ないが付き合いきれない」
「なんで」
「日に二度はキツイ。年寄りを虐めないで欲しい」
年寄り、は自分で言って自分で傷ついたが、身体が辛いのはほんとうだ。
食事の前に求められるままに重ねた身体は、未だ力が入りにくくて、何より腰が痛い。
もっと力を抜けばいいと頭では理解しているのだが、気を抜くと我を忘れそうなほど追い詰められて、抗っているうちに知らず知らず全身余すところなく力んでしまう。
終わった後起き上がるのも辛いほどセックスとは体力が必要だっただろうか、と疑問に思う。
そういう訳だから、と言いながら、目線だけでベッドに誘う総一郎の顔を見上げれば、彼が拗ねたような表情をうかべて茜を見下ろしていた。
その顔はずるい。
茜はそれに弱いのだった。
しかも最近の総一郎は、計算でその顔をする。まったく可愛げのないことだ。
さらにとても始末の悪いことに――計略だと判っていても胸が痛んでしまうのだ。
ごめんごめん私が悪かった、と頭を撫でて、機嫌を取りたくなってしまう。
なんとらしくない。
そんなに彼を甘やかしてはいけないのに。
それに今回、自分は悪くない。
セックスとはお互いの気分が一致して初めて成り立つもののはず。
求められるのは悪い気はしないが、ただでさえ、昼間からの情事に罪悪感で一杯なのだから追い討ちをかけないで欲しい。
「センセイは、したくないの?」
「今のところ間に合っている」
「ふーん……試してみていい?」
なにを、と言いかけて、彼のペースに乗りかけていると気がつく。
触れられたら、たぶん、あっさり陥落してしまいそうな予感に慌てて首を振る。
「試さなくていい」
「ちぇ」
「せっかくお誘いいただき嬉しいけれど、またの機会でお願いしたい」
傷つけないように、やんわりと断り文句を口にする。
ナチュラルに気を使えるなど、丸くなったものだと自分に苦笑しながら、ほら、映画に行くのだろう、と微笑みかけた。
「判った」
その言葉に安堵する。
しかし安堵も束の間、総一郎がもう一つの皿も奪い取って顔を寄せる。
「じゃあキスだけさせて。それで諦めるから」
返事を迷っているうちに、ローテーブルに皿を置いた総一郎が再び茜に向き直って手を取った。
相変わらず熱い手だな、とぼんやり思った。
食後だから眠いのか、とも。
「キスだけ」
動く赤いくちびるに見とれた。触れたら気持ちいいだろうな、と思ってしまった。
キスだけなら、と頷いて、目を閉じた頬に、総一郎の吐息が落ちてくる。
髪を手ぐしで梳かれた。ぞわりと甘い痺れが背筋を伝う。
ちゅ、と軽い音を立てて、頬を滑ったくちびるは、何故かくびすじへと落ちた。
ぺろりと熱い舌で舐め上げられて身がすくむ。
「浅尾……っ」
まるで食事を終えた犬がその空になった皿をぺろぺろと舐めるように、くどく首筋を責められて息が乱れる。
センセイって、と総一郎がくちびるを少し離して吐息混じりに言う。
生暖かい息が吹きかけられて、またびくりと身体が震えた。
「くび、弱いよね」
「…………くすぐったい」
「ふぅん。じゃ、ここは?」
耳のすぐ下に軽く吸い付かれた。
「あっ、や……っ!」
身を捩る暇もなく、すぐに耳も口に含まれて高い声が漏れる。
ねちゃり、と耳から直接脳髄へと湿った水音が響いて、半ば溶け始めていた思考が本格的に白み始める。
「あ、待って、キスだけだ……」
「キスしてるだけですよ」
屁理屈だ、と反論も出来ないまま、楽しげに笑った総一郎の吐息にまた翻弄される。
気持ちいい。身を委ねてしまいたい。
だけど甘い疼きとともに湧き上がった鈍い腰の痛みが、茜を現実へと引き戻してくれた。
両手を突っ張って総一郎の身体を押し返す。
片方の手は握られたままだ。
「浅尾、だめだ……約束が、違う」
ぶるると身を震わせながらでは、説得力はない。
その証拠に総一郎は、にやと笑って、繋いだままの手を自分の口元に運んだ。
こら、と言おうとしたくちびるに、総一郎の暖かい指が軽く乗った。
囚われの、人差し指の背に口付けられた。
そのまま何のためらいもなくぱくりと咥えられて、全身の皮膚がぞわぞわした。
ぴちゃ、とわざと音をたてながら、総一郎が丁寧に細い人差し指を味わう。
第二関節まで咥え込んでから一度口を離し、付け根をぺろりと舐めるといった具合に。
人差し指が終われば息をつく間もなく、今度は中指を甘く噛まれる。
「んんっ……」
漏れた声を確認するように、ちらりと薄目でこちらを見た総一郎の表情が、酷く扇情的だった。
前は、煽るのは常に自分だったはずなのに。
茜に翻弄されて、顔を赤くして、それでも必死に応えてくれていた頃の彼を懐かしく思い出したら、なんだか何もかもどうでもよくなってしまった。
痛む身体も、映画の約束も、汚れたままの食器も。
きっと後で後悔するのだろうな、とどこかで冷静に思った。
熱くなりすぎた身体を持て余して、総一郎の注意を引くためにくちびるに乗った指をぺろりと舐めた。
顔の角度を変えて、かぷりと噛み付く。
抗議をこめて、少しだけ強く。
「って」
茜の指を咥えたまま、総一郎が小さく呻いた。
なに、と上げた顔を見据えたまま、くちびるを動かす。
「…………キス」
くすぐったそうに笑った総一郎のくちびるが近づいてきた。
一度軽く触れ合って、すぐに口付けは深くなる。
本能のままに舌を絡ませあって、貪りあって、お互いの身体を熱く火照らせていく。
「……んーふ、む……んん……」
言葉にならない声が、重なったくちびるの端からぽろぽろと漏れた。
熱い手のひらが茜の肩を撫でる。
気持ちいい。
もっと触って欲しい。
茜の思考を読んだかのように、その手が洋服の上からわき腹をなぞり腰をなでて太ももに触れる。
手玉に取られてなるものか、と誘いこんだ総一郎の舌を歯で捉えて、先端をつつく。
彼はそこが弱い。あとくちびると、舌の裏側も好きみたいだ。
意識がそちらに集中した隙に、こそこそと動いていた手が、白いパンツのボタンとファスナを素早く外してしまう。
おや、と思う暇もなく、下着の中に入り込んだ総一郎の指が秘部に触れ、膝から力が抜けた。
「ん! ……あ、ふ!」
よく判らないが、その指のすべり方からしてたぶん、しっかりと濡れているんだろう。
くちゅりと捏ねられて、がくがくと足が震えた。
背中を壁に預けたまま、ずるずるとずり下がる。
総一郎は追いかけるように身をかがませながら、執拗に濃厚なキスを繰り返す。
とうとう床にしりもちをついたところで、指が離れた。
湿っぽい息を漏らした総一郎が、潤んだ瞳をうっすらと開いて茜を見つめる。
「センセイ、…………しようよ。ね?」
こんなにお上手に誘われては、頷くよりほかないじゃないか。
「…………ベッドに、連れてってくれるなら」
腰が抜けた、と素直に申告すれば、嬉しそうに笑った総一郎の手が背中に回った。
茜も自分の両腕を伸ばして、彼の首に回した。
顔を、見られたくなくてぎゅっとしがみつく。
そろえた膝裏にも手が回って、ふわりと身体が浮いた。
やっぱり男なんだな、と嬉しくなる。
小さい子供みたいに抱き上げられるのは、案外心地が良かった。
一度ちょっとよろめいたのが気になるが、落とされることもなく無事にベッドに身体が沈む。
離れかけた身体を、ぐいと引き寄せてくちびるを奪った。
くびすじを爪の先でくすぐって、先程のお返し、とばかりに耳を軽く引っ張る。
前髪を掻きあげて、頬を挟んで、完全に理性が溶けてなくなってしまわないように意識的に指先を這わせる。煽るように、温もりを、分かちあうように。
ただで翻弄されるわけには、まだいかないのだ。
*
やっぱり身体が痛い。
最悪だ。
もう今日は外出などしたくない。
裸のままベッドにうつぶせて、胸のうちで悪態をつつく。
ちらりとテーブルを見やれば、食事をしたままの食器が目に入りさらに茜の気分を陰鬱とさせた。
はあ、と盛大にため息を落とす。
「……センセイ?」
後始末を終えた彼が心配そうに茜を覗き込む。
今度は、計算でなく捨て犬のような目をして。
怒らせたんじゃないかとびくびくしながら。
そんなには怒ってはいないが、意地悪い気分ではある。
「……食欲が満たされたらすぐ性欲か」
「ほんと、ケダモノですよね俺」
珍しく自虐的なその発言に、ちょっと驚いた。
総一郎はしゅんとして、申し訳なさそうに肩をすくめている。
「……その、身体が目当てなのかって言われても仕方ないなって思います」
まさか10代の女の子ではないのだから、そんな恥ずかしいこと言うはずがない。
「自分でもよくないって判ってるんだけど、その……」
「ん?」
「してもしても全然足りない。いくらでもしたい。俺ってどっかおかしいのかな」
もう少しで泣き出してしまいそうな表情で、ぎゅっとクッションを抱きしめた総一郎が可愛くて仕方ない。
それがいわゆるやりたい盛りなんじゃないか、と言いかけて、わが身を振り返る。
こんな風に、してもしても足りない、なんて時期あっただろうか?
少なくとも彼の年の頃には、そうじゃなかった。
――うん、しいて言えば、今、かな。
求められるのは嬉しいし、身体がついていけば何度でも肌を重ねたい、と思う。
我慢を強いているなら気の毒に感じるものの、しかし無理なものは無理なのだ。
体力がなくて申し訳ない気分にはなる。
気だるい上体をなんとか持ち上げて、総一郎の顔を下から覗き込んだ。
前髪を撫で上げる。
くせはないが、案外硬くて量が多い。たぶん彼は薄くならずに白くなるタイプだ、とどうでもいいことを思った。
別に、将来的に彼が禿げてもいいけど。一緒にいられるならなんだって。
「浅尾。大丈夫、怒っていない」
「ほんと?」
「うん。全然足りないって気持ちも、判る、つもりだ。誰彼構わず襲うんじゃなければ、別にいい」
もし誰彼構わずに欲情しているんだったら、淫乱、と罵りながら散々に扱ってやる、と考えていた。
その想像に、いいかも知れない、と思ってしまった自分が怖かった。
「センセイだけだよ。したいのはセンセイとだけ」
「……ん、ならいい。ただせめて、洗い物が終わってからにしてほしかった」
「ごめんなさい」
「身体が痛い。動く気になれない」
「もちろん俺が洗います」
その言葉を聴きつけて、よし頼んだと言いながらくしゃと髪を撫でた。
クッションを奪い取って、その腕の中にすっぽりと納まる。
後ろから抱きかかえられて、裸同士の胸と背中が密着して気持ちいい。
まるで吸いつくみたいに、ぴったりと重なる。
「センセイってさ」
「ん?」
「食べる時、ものすごくしっかり噛むよね」
「そうか?」
「そうです。食べ方も、すごくキレイだし、味わって食べてるし」
明るい場所で見られるのは一応恥ずかしいので抱き込んでいたクッションの隙間から、総一郎の手が入り込んで腹をなでた。
さっき食べたものの居場所を探るように。
「……俺のことも、味わって食べてるのかなぁ、と思ったらまたしたくなっちゃった」
否定はできない。
味覚が鈍感で、食に対する欲求が薄い自分が、総一郎の食事だけは美味しい、といつだって感じる。
そして総一郎自身を、こんな美味しいものはない、と思っている。
「………………味わっているとも」
顔をちょっと上げて、首と肩の間に鼻をうずめた。
浅尾の香りがする、と幸せに思う。
きっとこれはすっかりこの身体に移っていて、自分を形成するものの一つになっているのだろうな、と。
ううんと背骨を反らせて伸ばし、ほう、と息をつく。
まだだるさは抜けきらない。できるならこのまま少し寝てしまいたい。
「今日は、もう外出は嫌だ」
「うん。俺も出たくない」
「……ああ、また怠惰な休日を過ごしてしまった」
「いいじゃん。愛人とだらだら過ごす休日って贅沢らしいよ? 今フランス語でそんなようなことやってる」
愛人。そうか、愛人か。
あいするひと、か。それはいい言葉かもしれない。
非常に体力を消耗したけれど、二度目の情事も悪くなかった。
今日は出かけるから、とコンタクトレンズを入れていたおかげで、普段はよく見えない彼の裸をクリアに見ることができた。
今まで気がつかなかった場所にホクロも発見したし、なにより、射精する瞬間の表情をばっちり目撃した。
あんな顔をするんだ、と思い出したら、腰のあたりがまたぞわぞわして慌てて話題を探して口を開く。
身体を離せば手っとりばやいのだろうけど、もう少しだけこうしていたかった。
「そういえば、映画は? よかったのか?」
「うーん、また今度」
「そうか。その時は外で待ち合わせをしよう。迎えに来なくていい」
「えっ、なんでっ」
「…………今日みたいなことになるから」
しばらくの沈黙のあと、素直にはいと頷いた総一郎の喉元をごろごろと猫のように撫でながら、結局自分も性欲旺盛で欲望に素直なのだと思い知る。
これはこれで、バランスが取れていていいのかもしれない。
少なくとも利害は一致している。
結局映画に行っても、暗闇で手をつなぐその温度に、分け合って飲むジュースに、もしかしたらあるかもしれないラブシーンに、それにエンドロールの余韻にだって欲情をして、身体を重ねることになるのだろうなと予感はしていた。
お互いやりたい盛りなのだから。
予感はしていたものの、全くその通りになれば苦笑いを漏らすしかなく。
いつか途切れてしまうであろうこの旺盛な性欲が、できるだけ長く持続すればいいと、茜はひっそりと願った。
*
以上です。
お付き合いありがとうございました。
俺の浅尾キタ━━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━!!
馬鹿浅尾は俺のだ!
全裸ニーソで待ってたかいが…
あれ目から汁が
GJ!
神さま、2週間早いお誕生日プレゼントをありがとう。
というわけで総一郎はいただいていきます。
浅尾の人気に嫉妬
せんせ可愛いよ、せんせ
先生キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!
今から読ませてもらいますwktk
読んだ。
どこがエロ薄から理解出来ないくらいエロイw
相変わらず良いカップルでございます。
早めのクリスマスプレゼント堪能しました。
また続編をまったりとお待ちしてます!
日本語おかしいので訂正orz
読んだ。
どこがエロ薄なのか理解出来ないくらいエロイw
相変わらず良いカップルでございます。
早めのクリスマスプレゼント堪能しました。
また続編をまったりとお待ちしてます!
いいなぁ、ラブラブで
一次に嫉妬
目隠しプレーまだー?(・∀・ )っ/凵⌒☆チンチン
どなたか1年早い誕生プレゼントを…
誕生日にはまだ早漏すぎるので却下します
総一郎と茜キテタ!
茜とたぶん同い年な私は、二人が結ばれるまでの過程を
毎回必要以上に入れ込んで読んでいたのでw
普通の恋人(いや愛人)の日常を過ごす今の二人の話を読めて嬉しく思ったよ
>>290、ありがとう
これだから年の差萌えはやめられない
ヤリたい盛りかぁ
ヤリたい盛りだよなぁ
さて、クリスマス記念SSはなしかね?
(´・ω・`)
クリスマスSSがないなら、姫始めSSに期待するぜ
ヤリ納めがまだ残ってますよ
煩悩の数だけ腰を打たなきゃ
ho
今年ももう終わりか、早かったな…
おまえら、来年もよろしくな
あけおめことよろ
17歳の男の子が、26歳の美人OLお姉さんに襲われる話しでも妄想するか
勿論、お姉さんはタイトスカートに黒ストのスーツ姿だよな?
茜ちゃんのもコトコのも来てた
またやる気がでたようでうれしいね
今年も年の差で萌えるぜええええええええええええええええええええええええええええええええ
で、俺のための姫始めSSはまだかね
ほ
も
べ
ド
331 :
名無しさん@ピンキー:2009/01/10(土) 03:50:07 ID:aGXxo0yP
( ゚д゚)、ペッ
332 :
名無しさん@ピンキー:2009/01/12(月) 08:30:22 ID:ExD1VyZD
( ゚д゚)、ペッ
(゚Д゚ )アーン
めっ
ばっちいでしょ!
年上のお姉さんの唾液だったら喜んでかけられたい
俺の初めてを捧げるのは6歳以上年上の女の人と決めている
と、豊島好太郎さん(68歳無職)がおっしゃってました。
今年最初のSSは?
保管庫更新してくれた人、ありがとう。
だけど、スレごとじゃなくて作品ごとに表を並べているようなので、ページが2つほどダブっています。
ID持ってる方、ダブりの削除をお願いします。
保管庫修正乙!
やっぱり作品が整然と並んでいると気持ち(・∀・)イイ!!
更新おっつー
更新した人GJ
知り合いとかにマンション暮らしがいなくてどうにも感覚がよく分からないんだが、「一人暮らしの大学生の部屋の隣が中学生くらいの娘のいる家族」ってあるだろうか?
今更だが源氏物語って年の差の話だったんだな。
何か萌えてきたわw
一階が1LDKで二階が2LDK、西側が賃貸で東側が分譲、隣は母子家庭とか?
ふつうに2DK〜3DKの家族用の分譲マンションだが、一人暮らしの大学生は親が転勤で地方なり海外に行っている間、一人で残っているとか。
あとは「隣」に拘らないなら、マンション自体は単身者向け賃貸だけど、1つだけ大家なり住み込み管理人用の家族部屋があるとか。
取り敢えず、めぞん一刻を想像した
2LDKで一人暮らししてるけど、中学生の娘がいる家族もいれば高校生の娘がいる家族もいるZE
ただ俺は大学生ではないんだな…
大学生が金持ちor学習器材などで場所を取るってのはどうだろう
あるいは両親が海外赴任中一人で留守番してるとか
学生で広い場所に住む必要があるっていうと音大生とかしか思いつかないけど
音大生だと防音設備がしっかりした専用の所にしか住んでない気がするなあ…
防音設備がしっかりっていうか、建物丸ごとが「22時まで音を出してもいい」みたいに決まってて
音楽関係者ばっか住んでるからお互いに多少の音漏れは妥協するって場合が多いみたい。by元関係者
防音処理は壁の面積に比例してコストがかかるので、むしろ1R・1Kが中心かも。
じゃあ、美大生は?
美大生は、大学のアトリエに道具を置いてるので下宿先は広い必要がない。
油絵なら下宿先でも何とかなりそうだけど、彫刻とかはどうやっても無理だろ。
by関係者が友人
351 :
名無しさん@ピンキー:2009/01/24(土) 11:25:43 ID:rRvx/wA1
金の力〜スレの『あやしいバイト』萌へ〜(^w^)
ちょうど今某スレで勧められてたから読んできたとこだわ<あやしいバイト
かなり萌えた!
大学生じゃなくて社会人にすればいいじゃない。年の差ひゃっほうになるぜ
しかし大学生は大学生で家庭教師とかおいしいんだよなあ
社会人だと金と信用はあるが遊ぶ時間とか心理的な距離がなあ
そうか、大学時代に家庭教師の教え子だった→社会人で娘も成長(今ここ にすればいいのか
一人暮らしの塾講とか教師とかどうよ?
私立高校もところによっては高級取りだよ
年の離れた幼なじみがちょっと見ないうちに大人になっちゃって!はどうだろう?
>>356 友達の結婚式に出たら、そいつの妹がすっかり大人になってて驚いたんだが、そんな感じか?
ガキの頃は男の子みたいだったのになー…
友達にいっつもくっついてきてたオマメのガキがいつのまにか大人になって………萌えるな
中高のころダチの家に遊びにいくと邪魔なのにいつもチョコまかしてたチビが、とか
妹もいいが、性別逆で、女友達の弟がいつのまにかカッコヨク、というのも有りだ
その弟くんはカッコいいけどまだ童貞だったりして、筆おろしされる展開でお願いします
なんという妄想をかき立てられる流れ
ムラムラが止まらない
さらに弟でも妹でも、めちゃくちゃ自分好みに育ってくれちゃったりしてて
一目でズキュン、いやでもコイツはチビだったあの花子(仮・もしくは太郎)だぞ!?
と自問自答したりねww
素数を数えるんですね、わかります。
なら俺は年の差を数えるぞ
で、どれにする!?w
そうだな、先輩と後輩の設定で頼もうか
ここって獣姦あり?
どうやったら年の差と獣姦が結び付くんだw
妖狐と青年、その歳の差3000歳とか?w
後の我が家のお稲荷さまである
獣の種類による^^
>>367だが、
現代版鶴の恩返しみたいなヤツを思いついた。
ちなみに獣は猫。
375 :
名無しさん@ピンキー:2009/02/07(土) 19:45:21 ID:E1gktgCZ
意外とショタが登場するSSって投下されてないんだな。
ショタか。エロ抜きで良ければ書けるけどエロは苦手なんだよなぁ…
青年と少女で9歳差っていうのはアリかな?
年の差があるならなんでも大好物ですよ
…と思ったが、青年と言われるくらいだから仮に20歳だとしよう。
9歳差なので、そうすると少女は11歳ということになる。
俺のロリコンめッ!!
実験台にされてた少女(むしろまだ幼女の域)を青年が助けて、それから面倒を見てやってるって感じのを考えてるんだ。
何年も一緒にいて、幼女と少年だったのが少女と青年になって……っていうのかな。
やっぱりロリか、ロリコンになってしまうのか
ロリコンのなにがいかんのじゃい!
「男が童貞じゃなくなったころ女の子はまだ生まれてもいませんでした」な話が
大好物な私に謝れ!
私もそういうの物ッ凄く萌えますごめんなさい
よく考えたら全レスはまずかった。それもごめんなさい。
失礼しました
年の差って……
最高だよな………
>>382 お前さんは、書きたかったこと先に書かれて涙目の私に謝れw
>>381 その設定だけでハゲ萌えた
そういうの超好みだ……
仲間がいたとは
390 :
名無しさん@ピンキー:2009/02/15(日) 09:45:10 ID:gZwIYJnR
アンケート。あなたは歳の差好きとしてはどれに該当する?
1 「女が年上」が好き
2 「男が年上」が好き
3 どちらも好き
オレは1。
つまり男が年上ネタなんか(゚听)イラネと申すか
>>390 これは本人の属性にもよるんじゃない?
年上好きの男なら1寄りだろうし、年下好きの男なら2寄り
女も同じく
オレは3だが
>>390 3だが、どちらにせよ女性キャラのほうが賞味期限内でないと困るな
ちなみに俺の守備範囲は、容姿さえストライクゾーンなら最大40代半ばくらいまではいけるぜ
下限は、まあなんだ。行為が可能ならオッケー?
しかたない。需要ないと思われるのはいやなので敢えて表明しておく。
2に一票。
自分が年喰ったら1にシフトするかと思ったらそういうわけでもないんだな、これがw
2が好き
1は嫌い
>>390 基本2
でもまとめサイトで片っ端から読んで「食わず嫌いはいかん」と反省した。
結局3だ
どっちも好きだが1が比較的少ないから1がみたい。
398 :
名無しさん@ピンキー:2009/02/15(日) 19:08:09 ID:/5SC629m
2に一票
別に1が嫌いなわけじゃない
2の需要を宣伝する意味の一票也
どっちも好きに決まってるだろうがぁッッ
聞いてどうしようってんだ! 2だ!!
3だ。
「男」が好き
幼妻も姐さん女房も両方見たい。
3だけど
2は他のスレに腐るほどある
もし良かったらどこのスレにあるのか教えて欲しい、読みに行きたい
二次ものならわりとある気がする>男が年上の年の差
でも二次は原作に興味ないと意味不明だったりするしなあ
ロリ系のスレとか妹スレとかにいっぱいあるな
主従系のスレとかもな。
どちらかというと2だが、俺は両方見たい
ついでに男上でも、青年と少女よりおっさんと少女(お姉さん)が好みです、と希望を込めて言ってみる
大金持ちの爺の家に嫁いだ若妻とか?
2の筈なのに書くのや妄想するのは1ばかりになってしまう…
というわけで3だ。
年の差という属性に萌えているのだから、どっちがなんて選り好みはしないよ
好き嫌いを問われれば3だが
どちらに飢えていると言われれば1だな
412と同じ理由で1。
可愛いお姉さんが年下の男の子にほだされる話とかが見たいです。
おまえ達の願いを叶えてやりたいが、俺には文章力がない
男が13歳以下に限って1
女が16歳以上である場合において2
1
特に年齢が女>男かつ身長差も女>男を満たすのは少ないので希望。
ぶっちゃけキレイなお姉さんと可愛い男の子の話が読みたい
>>409 あれ…自分書き込んだっけ…
すごいドンピシャww
あぁバレンタイン、お姉さんが本命チョコなのに少年に義理チョコっぽく渡してへこんだり
少女がオッサンに本命手作りチョコを渡したのに、オッサンが分かってなくて、ガックリしたり、
少年は義理チョコでもヒャッホーとしてたら、お姉さんが会社のオッサンに
高そうなチョコを渡してるのを見て、ショック受けたり(自分の方が高いのは知らない)
オッサンは、同年代の男に渡しゃいいのにと思いながらも、
実際少女が少年にチョコ(義理)を渡してるのを見て、一抹の寂しさを感じたりする
そんなバレンタインデーがどこかの世界に存在すると信じてる
よし、それを今すぐ書くんだ!
>>417 よし、序章はそこまでだ
次は本編を頼む
ちょいと質問です
ここは完全、一次創作のみ?
それとも、二次創作の年の差パロもアリ?
最近あちこちのシチュスレで同じ質問を見かけるんだが、基本的にスレのテンプレに特に二次禁止と書いてない限り二次もアリだ
ただし、二次専用スレに比べて元ネタの分かる人の割合が少ないので、注意書きは書いておいたほうがいいし
反応が少なくても泣かないこと
自分の知らない作品の二次創作だと、
未だ見ぬ新たな萌えキャラを発見出来たりするのがいい
年の差がある萌えキャラカップルだと尚良し
二次ものはその専用スレがあるならそっちのほうがいいと思うけどね。
原作知らないとわからないネタとかもあるだろうし。
まあここに投下したいんなら、それが年の差ならば止めはしないが。
>>423 絢爛舞闘祭のSSを読んで、その内容を知った時は驚いたもんだ
年の差大好物なのに、年の差だからこそエロが書けないんだぜ……
年の差だからこその筆おろしですよ
428 :
名無しさん@ピンキー:2009/02/27(金) 13:30:24 ID:h+k/fuix
あげ
ここの小説はどれもこれも萌えすぎる
・年の差っつーと三島由紀夫に15歳の少女と25歳の青年のラブストーリーがあったな。
・田舎のドケチ金持ち老爺が貧民の美少女を買い取るが老齢のため何もできず。
老爺の死後、中年息子と美少女二人きりの暮らしが始まる。
いや、使用人はいるけど。
息子が自分に夢中なので、段々悪女になっていく美少女。
てぇのを読んだが、妄想の余地は十分にあるな。つか私は何度もハァハァした。
お久しぶりです
『瀬能と美春』、最終投下です
微妙エロなので「中途半端は嫌だ」って方は、タイトルをNGワードでお願いします
以下、投下
冬が過ぎ、春を迎える。
美春との関係は順調で、以前と比べれば、少し美春の我が儘も増えたが、それも気を許せばこそ。
目に余るどころか、こんな事まで遠慮していたのか、と、瀬能にしてみれば申し訳ない気持ちが先に立つが、二十年来の友人であり、美春の父親でもある治樹に言わせれば、瀬能は美春を甘やかしすぎ、らしい。
とはいえ、瀬能から言わせれば、治樹も嫁のみちるには甘い。
バツイチ経験のある瀬能には、どうすれば、結婚して二十年経過した今も、こんなにラブラブな空気が保てるのか不思議でならない。
治樹とみちるに比べれば、自分と美春の仲など、まだまだだと思う。
「ん、あんっ! あ、やぁぁっ!」
瀬能の腕の中で、美春が泣き声にも似た声を上げる。
抱き締めた体は、瀬能の律動に併せて揺れ、押し潰された両の胸が、瀬能の胸板に擦り付けられる。
「だめっ、いくっ! いっちゃ――」
「まだ、駄目…っ」
「やあぁ…っ!」
目尻に涙を浮かべる美春の腰を支え、向かい合わせに座る瀬能は、更に深く美春を突き上げた。
初めて美春と体を交わして、半年が過ぎようとしている。
最初の方こそ、痛みを隠せなかった美春だが、何度か繰り返すうちに(瀬能の努力の甲斐もあって)、着実に快感を得られるようになっていた。
相変わらず、社会人の瀬能と大学生の美春では、生活ペースに若干の食い違いはあるものの、月に一度は美春が泊まりに来る事もあり、その日は決まって長い夜を過ごしていた。
「やぅ、あっ、ほんと、だめ…だってぇ…っ!」
「美春、感じすぎ」
「だって、せの、さんっ……ああぁっ! や、い……ぅあぁぁっ!」
頬に伝う汗を舐めとり、一際強く美春の中を攻め上げると、美春は喉を反らして、ひくひくと全身をひくつかせた。
瀬能を包む熱は、美春の絶頂を示すかのように蠢くが、瀬能はまだ達さない。
これもまた、瀬能が覚えた努力の一つだが、それを美春に告げる気は、当然ながら無い。
「う、あ……は」
くたりと力を無くした美春が瀬能の肩にもたれ掛かる。
その髪を撫でてやりながら、瀬能は美春が落ち着くのを待った。
年の差故、生活ペースに差があれば、性欲に差があるのも当然の事。
かと言って、美春に付き合うだけのおざなりなセックスは御免だし、自分が満足したいだけならば美春を抱く意味が無い。
美春の心も体も満たしながら、如何に体力を消耗せずにいるか。
我ながら、馬鹿みたいな悩みだが、真剣に考えた末の努力の結果なのだ。
「またイった。何回目だ?」
「し、知らないっ!」
絶頂の余韻に浸る美春に、意地悪く問いかければ、美春はむっと眉根を寄せて、瀬能の首筋にすがりつき、同時に中に入ったままの瀬能自身を締め上げる。
瀬能は一瞬片眉を寄せたが、態と指折り数えて見せる。
「入れる前に二回、プラス今ので一回だから……」
「もう、ヤだ、瀬能さんっ!」
唇を尖らせた美春が、瀬能の肩を掴んで体を離そうとしたが、瀬能は少し笑って見せると、美春の体をベッドに押し倒した。
「じゃ、次は俺の番」
「う」
真っ赤に染まった頬の美春に、態と意地悪く口角を上げた表情を返し、瀬能はゆっくりとした動きで、美春の体を味わい始めた。
若い頃のような性急さは無いが、落ち着いたばかりの美春には、体を疼かせるには十分で。
何度か抜き差しを繰り返すうちに、美春はまた、泣きそうな甘えた声を漏らしながら、瀬能にすがりついた。
*****
春先とは言え、まだ肌寒い。
熱くなった体をすり合わせながらも、下着だけを身につけた二人は、毛布の中で心地よい疲れに満たされていた。
「なあ」
「んー?」
瀬能の手を握りしめ、半分眠そうな声の美春は、やはり瞼を落とした顔を、もぞもぞと瀬能に向けた。
小動物のような美春に、瀬能はごろりと向きを変え、美春を優しく抱きしめた。
「美春は、俺の事、好きか?」
わざわざ訊かなくても、答えは分かっている。
それでも瀬能は、美春の口からその言葉が聞きたくて、握られた手を握り返し、まるで内緒話をするように、耳元に口を近付けた。
「うん、好き」
にへっと笑う美春は、甘えるように瀬能の肩に顔を埋める。
「どれぐらい?」
「ん〜……」
時刻は深夜三時を回っている。
流石にこの時刻ともなれば、美春も眠いのだろう。
瀬能の肩に頬をぺたりとくっつけて、美春はしばし、小さく唸るような声を発していたが。
「……すっごく」
呟かれたのは、子どものような答え。
それでも、瀬能には充分に満足出来る代物で。
「そっか」
「ん」
優しく頭を撫でてやると、美春は更に小さな声で「おやすみ」と呟いた。
美春はそれから間もなく眠りに落ちたが、瀬能はしばらく、その温かな体を抱きしめ続けた。
そうして、十分ほどが経った頃、瀬能は美春を起こさないように、静かにベッドを抜け出した。
下着一枚の体に、晩春の夜気は冷たいが、それも気にならないほどに、瀬能の動きはゆったりとしている。
床に置いてあった鞄を取り上げ、もぞもぞと一枚の用紙を取り出す。
「……」
眉を寄せながら用紙を見やり、テーブルに広げた瀬能は、ボールペンを手に取ったが、何を書くでもなく、くるりと手中でペンを回した。
まだ、迷いはある。
けれど、用紙を受け取りに行った時は、確かにそのつもりだった。
『婚姻届』と印字された文字は、瀬能には黒歴史でもある。
かつて、妻と呼べる存在があった事は確かだし、彼女と共に役所に行った時には、まさか離婚するなどとは思わなかった。
たった紙切れ一枚で、彼女との繋がりは切れ、そうして今また、美春との繋がりを持とうとしている。
もちろん、美春ともそうなるとは限らないし、瀬能も腹をくくったつもりだったのだが。
不安がないと言えば嘘になる。
「……どうすっかな」
印字された三文字は、瀬能に決断を迫るみたいで、そこから視線を外そうと、瀬能はぐるりと辺りに視線を巡らせた。
と。
間接灯の部屋の中、ふと視界に入ったのは、テーブルの脇に置かれてあった美春の鞄だった。
鞄そのものは何の変哲もない、年頃の女の子が持つ代物だったが、瀬能の視線が捉えたのは、そこに飾られた古ぼけたキーホルダーだった。
そこに書かれていたであろう表情も、文字もすり切れて、辛うじて分かるのは元は熊だったのであろうと言う事だけ。
そう言えば、と瀬能は思う。
美春の鞄には、いつもこのキーホルダーが付いていた。
今更、見覚えがあっても不思議ではない。
けれど。
「……ああ、そうか」
それは、初めて自分の家に「家出して来た」と美春が来た時、一緒に行った動物園で、瀬能が買ってやった物だった。
「なんだ……」
口元に浮かぶのは笑み。
改めて美春に問う必要などなかった。
例え、表情がすり切れていても、メッキが剥げていても、美春がずっと、このキーホルダーを傍に置いている事が、全ての答えだ。
不覚にも泣きそうになりながらも、瀬能はしゃんと背筋を正すと、改めてペンを持ち直して、用紙に向き直った。
ペンを走らせる手に迷いはない。
躊躇う事無く、印鑑までを押した瀬能は、テーブルの上に用紙を広げたまま、灯りを消してベッドに戻った。
美春は静かな寝息を立てていたが、瀬能が戻ると、温もりを求めるかのようにすり寄って来る。
明日の朝、美春に婚姻届を渡してやろう。
美春の二十歳の誕生日は、今度の連休だから、それが明けたら直ぐにでも、一緒に届けを出しに行こう。
その後で、また二人で、動物園に行くのも良いかも知れない。
そんな事を考えながら、瀬能は美春に手を伸ばし、満たされた想いと、温かな体を抱きしめて目を閉じた。
以上です
元々が、保守のつもりで書き始めたのと、携帯投下の為に、多々見苦しい点もあったかと思います
それでも書き切れたのは、「乙」の声があったから
また何かあれば、ひっそりと投下に参りたいと思います
それでは、名無しに戻らせて頂きます
ぬぉぉぉ! 乙でした!!
瀬能さんと美春ちゃん、末永くお幸せに!!
名無しに戻ると言いながら
【3】の「春先とは言え」は
「晩春とは言え」の間違いですorz
皆様、脳内保管でお願いします……
では、今度こそ名無しに
今までの方も、これからの方も乙コール、有り難う御座いました ノシ
GJでーす
待ってましたァ!
GGGGGJ!!
神キタ━━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━!!
うぁぁGj!!!!!!!お幸せに!!
年の差ってだけでなんかエロいのに、エロパロだからエロがあって…最高だ…
>>436 いままで連載お疲れ様。
未完成作品がエロパロ板には数え切れないほどあるのだが、
きちんと完結させることができた貴方は凄いと思う。
GJでした!
スレの初期から今まで、続けて下さってありがとうございます。やっぱ結婚っていいよね!
やっぱり、愛だな。愛。
感動のフィナーレ美味しくいただきました、作者様GJでした。
最初に変な電波を受信して焚きつけた名無しより。
またひとつの伝説が終わる…
447 :
名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 10:10:10 ID:AWaWbKRC
俺28歳彼女19歳の年の差カップルなんだけど。世間的にゆるされる年の差かな?
そら、そう(あと5年も待てば世間的には全く問題なし)よ
450 :
名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 23:20:22 ID:AWaWbKRC
なぜ五年?
サブカルにどっぷり浸かってると、自分の価値観が世間のそれとズレてくるから困る
年の差もそうだが近親相姦とかも全く嫌悪感がなくなってしまった
そら、24と33なら、お互い大人だし、で終了じゃないか。
五年前の14と23なら犯罪だな。隣の家の中学生に手を出す医大生か……。
かくいう自分も10個年の差があるけど、だんだんそれ忘れてくるんだよね。
年の差を聞いた他人がびっくりするだけというか。驚かれ慣れたけど。
友人が25歳差なのは流石に驚いたが、その人も驚かれ慣れてるって言ってた。
453 :
名無しさん@ピンキー:2009/03/05(木) 04:25:19 ID:jMg37qQk
まぁーあれだな男がそういうのでロリコンとかいちいち言ってくるが、ようするに羨ましいだけだろうな。いやーそれにしても年の差最高だぜ!!!
今週の少年サンデーで年の差万歳発言があったな。
あの漫画は主人公がロリコン、レギュラー(でいいのか?)が年上好きを自称していてこれから期待できる気がするよ。
……メインヒロイン的なキャラはまだ居ないけど。
このスレは心のオアシスです。
例えどんなに親しい友人や家族にロリコンと罵られようとも
いいじゃないか!パッとしないオッサンと健気な少女とか最高じゃないかあ!
>>455 このロリコンめっ!!
安心しろ、俺もだ
俺だっている
458 :
名無しさん@ピンキー:2009/03/07(土) 00:29:04 ID:vy0WUnhi
まぢ男に生まれてよかった。だって男はあるていど年とっていても若い女と付き合えるしね。
※ただしイケメンに限る
男女でそういう差はねーだろwwww
年下を引きつける要素があるか、本人が心理的に抵抗がないかとかで決まるんじゃないか?
好き好んで若い相手を選んで付き合うって言うのは個人的にはあんまり萌えないが。
この年齢差はやばいだろと思いつつも恋してしまうっていうところが萌えるんだよな
こんなに年の差が開いてるんだから、好きになっちゃいけないんだって葛藤して
結局好きになるどころか愛しちゃうようなのに萌える
開き直りでも堕ちるのでも
いやいやこれ犯罪だろ、と悶々としながらも…というのに燃えるのである。
気が付いてみればごく自然にそうなっていた、というのもいいが。
某ラノベで久々に萌えのツボに入るツンデレロリコン野郎と幼女に出会えてほくほく
しかし何でああいう属性の主人公のライバルキャラはいたいけな少女を拾う確率が高いんだろうか、謎だ
まぁロマンだからいいけど。
今週の少年サンデーは確かにww
今後に期待したいけどどうなんだろうなぁ
レギュラーっぽい年上お姉さん好きの彼は今後ともフラれ続けるんじゃないかという予感がするんだがw
kwsk
どっちをだw
魔性の幼女とツンデレロリコンな自称悪党の件だったら、今深夜アニメでやってるぜ。
(多分もうあの二人はアニメには出てこないけどね)
原作に興味があるなら
2巻は飛ばしていいからとりあえず3巻まで読んでみて悪党さんのキレっぷりを楽しみ、
作者さんのあの独特のクセを受け入れられそうなら5巻を読んで幼女と悪党の遭遇を堪能するといいと思う
>>447の年齢差で男女を逆にしてくれるとツボなんだが
女の人が年上な場合、どれくらいの年齢差までが許せるかが問題だ。
ところで、相手がお姉さんの場合
1.私が教えてあげる的お姉さま
2.真面目で几帳面、年の割に奥手なお姉さん
3.ちゃきちゃき元気だが押しには弱い姐さん
どれがいい?
個人的には3が一番好きかも
年下君をワガママで振り回しつつ迫られると弱い、みたいな
年齢差は10歳くらいまでなら個人的にはおk
あと年の差は2つくらいしかなくても年下君に「先輩」って呼ばれるお姉さんが大好きです
これは年の差かどうか微妙だけど、2つか3つしか離れてない幼馴染のお姉ちゃんとか萌えるわー
あぁ、「先輩」っていう呼び方は憧れるな
『ウェディングベルを鳴らせ!』
http://www.weddingbell.jp/ 『パパは、出張中!』(85)、『アンダーグラウンド』(95)などの作品を世に送り出し、
2度のカンヌ国際映画祭パルムドールをはじめ、世界三大映画祭の制覇を誇るエミール・クストリッツァ。
無限大のイマジネーションと揺るぎない反骨精神で世界を熱狂させ、祖国・旧ユーゴスラビアの歴史を題材に、
生きることの厳しさと素晴らしさを描いてきた鬼才が新たに贈るのは、普遍的なユーモアにあふれた現代の寓話。
おじいちゃんとの約束を果たすため、田舎育ちの少年ツァーネが都会で嫁さがしに奔走するという、
これまでになく単純明快なストーリーは、誰にでもわかるようなシンプルなものにしたいと考えた監督が、
日本の昔話から着想を得たという。とはいえ、もちろん一筋縄ではいかないのも、クストリッツァ流!
『黒猫・白猫』(98)以来のドタバタ喜劇にして、観る者すべての心をポジティブなエネルギーで満たしてくれる
陽気な恋のおとぎばなしが誕生した!
セルビアのとある農村。おじいちゃんと2人で暮らすツァーネは、のんびり気ままな田舎生活を送っていた。
しかしある日、自らの余命が残り少ないと悟ったおじいちゃんから3つの約束を言い渡され、町へ向かうことに―。
その約束とは、
(1)牛のツヴェトカを売り、そのお金で聖ニコラスのイコンを買うこと。
(2)好きなお土産を買うこと。
(3)そして、花嫁を連れて帰ること。
はじめての都会に驚くのも束の間、ツァーネはすぐさま、ヤスナという美女に一目ぼれ!
「彼女こそ僕のお嫁さんだ」と、あの手この手で追いかけるが、そこには町を牛耳るマフィアの陰謀が…!?
年の差萌えとしては、これは期待せざるをえない。
聡一朗と茜ってまだつづいてる?
つづいてるならどれくらいの頻度?
浅尾なら俺の隣りで寝てるよ
476 :
名無しさん@ピンキー:2009/03/10(火) 19:44:28 ID:xnnfOWi7
ばっか
浅尾なら春休み入ってからずっと夕飯作って
私の帰りをアパートで待ってるわ
じゃあ茜は俺の嫁
いや、茜の嫁は俺だ
○
(( (ヽヽ 溢れ出した衝動がアッー!!
>_ト ̄|○
483 :
名無しさん@ピンキー:2009/03/12(木) 08:05:31 ID:3VxWbZY9
俺28歳で20歳の子をデートに誘おうと思うんだが…やっぱりきもがられるよな…orz
8才位たいしたことないだろ
485 :
名無しさん@ピンキー:2009/03/12(木) 08:32:37 ID:3VxWbZY9
>>484そういわれるとありがたいです。なんかやる気でた。
>>485 うちは10才差だけど歳の差なんて関係なかったよ。
頑張ってこい!
>>483 羨ましい。
今自分20♀で28♂の人が好きだから誘われたいわ。
頑張れ!!!!
微笑ましい流れだがエロパロではなくなっているな
頑張って!
489 :
名無しさん@ピンキー:2009/03/12(木) 21:18:58 ID:3VxWbZY9
>>483 はあ?それぐらいでキモがられるわけないじゃん。
20歳くらいだったら28歳なんて大抵の女はオッケーでしょ。
エロパロと関係ねーw
ここからパロの部分に繋がって、やがてはエロにまで繋がりSS化されるんだよ!!
金が好きなため常にコンビニでバイトしてる少年の前に現れた女性
12も年上なのにコピーもファックスも使い方がわからない、パソコンをワープロと呼ぶ
天然マイペースでいらいらするけどでもどこか隅におけない彼女にひかれていく少年
という話は思いついたがエロってどうすりゃなる訳??
そのお姉さんは隅に置けないんじゃなくて目が離せないんじゃないかと思うがw それいいな。
お姉さんは少年に「こんな年なのに男性経験がなくて恥ずかしいので、一晩一緒に過ごしていただけませんか」と頼んで、
少年はそれを引き受けるんだけど、終わった後にお金を渡されて虚しくなる。でもお金好きだから受け取り拒否はできない。
こりゃ上手いバイトだってことで「一回だけじゃ経験したって言えないズラ」とかなんとか言って、
何回もお姉さんとイタしてそのたびにお金を貰うけど、どうしても使えずにずーーーーっと持ち歩いてる。
ある日いつものように訪ねて行ったら、お姉さんが泣いていて、なんだなんだと驚いてたら
「もう来ないでください。お金が目当てなんでしょう? 欲しいだけあげますから、だから、もうわたしを自由にしてください……」
それを聞いた少年「金が目的じゃねぇ」って今までのお金全部突き返して、
「最初にこれ渡したのアンタだろ、金だけのドライな関係がよかったんだろ。俺の好きだって気持ち金に換算したの、アンタのほうだろ!
手切れ金渡してじゃあさよならって言えばいいだろ、なんでそんな風に泣くんだ!」と逆切れ。
「だって、わたしに出来るお礼って、何も思い浮かばなくて」
「金は好きだけど、アンタ泣かせてまで欲しくねぇんだよ。鈍感なのもいい加減にしろよ!」
……みたいな話に発展した。
>>494 もうそのままSS書いてくれ。いえ書いてください、伏してお願い申し上げます。
じゃあ私も地面に頭めり込ませて土下座します
493です。494氏凄え、マジ凄えよ
俺も必ず仕上げて投下するので、494氏の少年×お姉さんも心から待ってます。
>>471で書いてみた
エロに発展しなかったスマン。
手拭いを忘れた、と気がついたのは上級生と入れ替わりに汗臭いクラブハウスに入る直前だった。
同級生に一言断りを入れてから、多少距離のある武道場まで面倒ながらも小走りで戻った俺の目に飛び込んできたのは、
その入り口に腰を下ろして、退屈そうに頬杖をついた剣道部の主将だった。
剣道の強豪高で女だてらに主将を張る彼女は、この学校の名物のひとつだ。
数少ない剣道の特待生で一年生の時にインターハイに出場、惜しくも準優勝、去年はついに優勝をもぎ取るという恐ろしい強さの上、
作り物のような美人とくれば、目立たないはずはない。
「なにしてんスか、主将」
武道場の入口三歩手前で声をかける。
この恐ろしくも美しい主将を目の前にして、平然と振舞える一年生は恐らく俺だけだろう。俺にはそれだけの価値と実力がある、と自負をしている。
何せ、主将から一本をとれる一年生は今のところ俺だけだ。
とはいえ、一本は取れても二本目は絶対に取らせてもらえないので勝てたことはない。でもそれも、今だけのこと。すぐに追い越すつもりだ。
主将はこちらをちらりとも見ず、うーん、と気のない返事をよこす。
「あれだよ」
くい、とあごをしゃくった拍子に、高い位置に結われていた髪の束が、ゆらりと踊った。
視線の先をたどると、校舎が乱立したために偶然生まれた死角のような中庭に、もう一人の名物である副主将と制服姿の女が立っている。
女が、何ごとかを一生懸命しゃべり、副主将が神妙な顔でそいつを見下ろしている。
会話は聞こえてこないが、その様子はイマドキ珍しい告白のシーンそのものだ。
「……出歯亀っすか」
「言うね。微妙に違うけどそんなところだね」
俺の呆れ混じりの声音に、主将がやっとこちらを仰ぎ見て苦々しげに笑った。
そんな表情も、たまらなく綺麗だったりするから困る。
細めた瞳は夕陽を反射してガラス玉みたいに光るし、形のいい赤い唇から覗いた白い歯が究極に爽やかだ。
「いいんですか」
「なにが」
「副主将。頷いてますけど。あの子、ものすごく喜んでますけど」
「そんなの。正宗の自由じゃないか」
さてと、と勢いをつけて立ち上がる。
頭一つ分小さい主将が、またくるりと背を向けた。
その後ろ頭を眺めながら、出来上がりほやほやのカップルが、中庭から渡り廊下を横断して、こちらへ到着するのを辛抱強く待った。
副主将はこの時代珍しいほどの日本男児だ。女に歩幅を合わせるなんてことは、恐らくないに違いない。
なぜならば、普段から厳めしい顔をさらに厳しく歪めて、大股ですたすたと歩みを進めてあっという間に主将の隣に立ったからだ。小柄な女子生徒は小走りになりながらもまだ遥か遠くにいる。
副主将は夜叉のような顔で彼女を見下ろし一言、「これで満足か」と重々しい口調で吐き捨てるように言った。
「うん」
すぐ隣の副主将をちらりとも視界に入れないまま、主将が頷く。
「今度こそ、大事にすることだね」
赤い唇から漏れた言葉は、驚くほど冷たく響いた。
三歩離れた場所に立っていた俺にもはっきりと聞こえるほどの舌打ちを零して、副主将はまた大股で去っていく。最後に、俺の方を鋭く睨んで。
会話の意味が判らず、呆然とそれを見送る俺の耳に、アスカぁと間延びした高い声が飛び込んできた。
視線を戻せば、さっきの女が小走りでやっとここにたどり着いて、主将のくびにがばりと抱きついたところだった。
「飛鳥、あたしまだどきどきしてる。嘘みたい、夢みたい!」
「夢じゃないさ」
「うん。ほんとにありがと! あたしすごく嬉しい、幸せ……!」
「そうか。宗近のこと頼むよ。口べたで不器用だがまっすぐでいい奴なんだ」
「判ってるよ、任せといて!」
「……そうか」
主将の首にかじりついていたその女には見えなかっただろうけど、彼女の横顔に惹きつけられていた俺には見えてしまった。
いつもは勝ち気に吊り上っている眉が、複雑そうに顰められている様子。
潤みかけた瞳が、涙をこぼさないようにか知らないがキツく閉じられて、ふう、と形のいい唇から吐息を漏らした、その一部始終を。
息を吐ききった主将はぽん、と女子生徒の背を叩くと、さあ、と普段通りの凛とした声音で告げた。
「宗近と一緒に帰るのだろう? あいつは着替えが早いから、もう行った方がいいな」
「そうだね、行かなくちゃ。飛鳥、付き合ってくれてありがと、また明日ね!」
「うん、また明日」
花がこぼれるような笑顔を見せた彼女を見送り、ひらひらと片手を振る主将の後ろ頭を、相変わらず俺は見つめていた。それ以外、視線の定めようも身の置きようもない。
「さて」
短い制服のスカートを翻して、件の彼女が渡り廊下を曲がったところで主将がこちらを振り向いた。
「付き合わせて悪かったね」
目が合ってしまった動揺を一瞬隠せなかった俺を余所に、開口一番そんなことを言う。
「いえ」
努めて無表情に俺は答えた。
別に付き合ったつもりはない。立ち去るタイミングを逸しただけだ。ついでに、見てはいけないものを、聞いてはいけない会話を聞いてしまった罪悪感で居心地が悪い。
「ところで特待生」
「はい……っていうか、自分もでしょうが」
「うん、そうだな……っと、コテツ?」
名字は今着ている胴着の胸元に刺繍がしてある。まさか下の名前で呼ばれるとは思っていなかった俺は、改めて動揺をしてとっさに返事ができなかった。
幼いころからたたき込まれた剣道のおかげで、冷静さには自信があるはずの俺がやっと返事ができたのは、たっぷり五秒後のことだった。五秒あったら、この恐ろしく強い女との決着はついているだろう。
「……です」
「覚えやすくていい」
申し分なく爽やかに、白い歯を零して主将は笑った。
――それは、副主将の名前が「マサムネ」だからですか。
喉元まで出かかった問いをなんとか飲み込んだ。
今その名前は地雷だと、素早く判断をしたからだ。
「虎鉄。時間があったら自主練習に付き合ってくれないか」
「はい」
是も非もなく頷いてから、ふと思いいたって言葉を付け足す。
「ああ、でも。今の状況の、説明をしてくれるなら」
たかだか一年坊主の生意気な発言に、一瞬だけ両目を見開いた主将が鮮やかに笑った。
いいとも。嫌がられようとも語ってやろうじゃないか。
先ほどの塞ぎこんだような溜息から一遍、目に焼きつきそうなほどの華やかさで笑った彼女の明るい表情に、俺も嬉しくなる。胸が高鳴る。次の瞬間に、張り裂けそうに傷む。
紛れもなく、これは恋だ。
とんでもない高根の花に、俺は情けなくも恋をしている。
時間をかけたら何とか手に入る可能性があるかもしれないけど、間違いなく一生かかってしまいそうな高値の花に。
今だって、小走りに追いついて手を伸ばせば触れられる距離にいるのに、俺はそう出来ない。そういう距離があるのだ。
手は伸ばさないけれど、遅れずにあとに続いて扉をくぐった。
「腐れ縁という言葉を知っているか」
武道場に入った主将が真っ先に口にしたのは、その言葉だった。
ええ、もちろん。
素足の裏を板張りの道場にぺたぺたと張り付けながら、俺は答えた。
「私と正宗は、まさにその腐れ縁というやつなんだ。イトコ同士、家が同じ敷地内、同い年、通う道場が同じ――まァ、敷地内の祖父のところなんだが」
それは知っている。二人の祖父は、この界隈では有名な剣道の道場の師範だ。
「通う高校まで同じになった。必然だな、私たちも特待生だから」
「はい」
「子供のころはむしろ私の方が力が強かったんだ。あの正宗を、よく泣かせていたよ。
昔から、お互いだけがライバルだった。……それは、恋愛感情に酷似している」
「ああ……はい、判ります」
痛いほどそれはよく判る。自分自身がそうだからだ。
強さへの憧れが強いほど、強いものに惹かれてやまない。相手が同性であってもそうだ。異性だったらなおさら、錯覚のように恋心を抱くのも無理はない。
中学の頃は、近隣の同世代に敵などいなかった。
特待生として入学したこの高校の、同学年も同じく相手にならなかった俺から一番最初に鮮やかに一本を取っていったのはこの女だった。
その衝撃は未だに忘れられない。
背もさほど高くはなく、必要な筋肉もついていないような細い腕が振り下ろした竹刀は、疾風のような速さで俺の面を打ちつけたのだ。
油断をしていたのだ。相手が主将とはいえ女だったから。
「天才」の称賛を受け続けていた俺は、とっさにそう判断をしてもう一戦を申し入れたのだ。
改めて対峙したこのひとの、一戦前には気がつかなかった気迫に、数年ぶりに後ずさりそうになった。
一瞬の気の緩みをつかれて今度は見事な突きを食らい衝撃的に二本目を奪われた。俺の長く伸びた鼻は音を立ててぽきりと折れたのだった。
それからだ。この女のことが気になって仕方ない。これは、恋愛感情に酷似している。
それでも俺が恋心を憧れとして消化していたのは、あの無骨な副主将の存在があったからだ。
割って入ってはいけない空気が、二人の間には流れている。
主将は副主将に全幅の信頼を寄せているし、主将に下心を持って近づく輩には副主将が無言の圧力を与えてた。肝心なところでぼんやりしていそうなこの女の、防波堤を務めているのだと思っていた。
「ただ、問題があった。私たちはイトコだ」
「……それが? イトコは結婚だってできるでしょう?」
「母親同士が、双子なんだ。普通のイトコより近しい。そして血が濃くなると奇形が生まれると主張する祖父に逆らえる人間が我が家にはいない。
幼い頃から正宗だけは駄目だと言い含められて育った。私はそれを、従順に飲み込んだ。おかげで正宗に対する恋愛感情は持ち合わせていない。
だけど、」
言葉を切る。
息をのみこみ、ゆっくりと吐きだす。
一連の動作がスローモーションで行われている。余計な緊迫感を、俺に与える。
まるで、対峙をしているかのような緊張した空気が、がらんどうの武道場を支配していた。
「正宗は、違った。そういうことだ」
主将が自分の竹刀を取り出す。ぶん、と一度だけ振りおろした。
柄を握り締めるこぶしが、必要以上に力んでいる、ように見えた。
その一連の行動が何を意味するのか、他人の気持ちに敏くない俺には全く理解が出来ない。
「……まさか副主将に女の子あてがったんですか?」
「いくら私でもそこまではしないよ。宗近は目立つから、好きだと名乗りを上げる女の子は後を絶たない。
付き合っているのかと聞かれればNOと答えて、取次ぎを頼まれれば断る理由がない。
近くで待っててくれと頼まれたのは、さすがに初めてだけど」
言葉を切って、主将はくるりと振り返る。
素足が板張りの床にこすれて、きゅ、と高い音を立てた。
「私の取次ぎだと宗近は断らない。『忙しいから相手できないし、好きになれないかもしれないけどそれでもいいなら』と但し書きをつけて、交際を始める。その言葉の意味を、女の子は後に思い知る。
仲良く一緒に帰るけれどそれ以上のことはしない。たとえば、電話をかけたりメールを送ったり、休日に会ったりとか、普通の恋人同士のような関係は望めない。だって宗近の興味は剣道にしかない。宗近が自分から話しかけることすら滅多にない。
無関心は実に苦痛だよ。絶えられなくなった彼女が自ら離れていく。
別れたという噂を聞いて『私なら大丈夫』と名乗りを上げる女子が私に取次ぎを頼む。
高校に入学してからの二年間、これを繰り返してきた」
俺の顔をまっすぐに見つめたまま、主将は一息に言葉を吐いた。
作り物のように整った顔のその表情は、擦りガラスから差し込む茜色の西日が逆行となって窺えない。
泣きそうな顔をしていればいい。
俺はそんな酷薄なことを思った。
淡々とした声音で、こんな残酷な事情を話すのになんの感情も浮かべてないような、機械のような人間じゃないと信じたかったし、何よりも俺がその顔を見たかったからだ。
「宗近にも相手の女の子にも、私は酷いことをしている。宗近は私への当て付けで女の子と付き合う。私はそれを知っているのに取次ぎを断らない。
こんな利己的な私など早く見限ればいいのに、宗近にはそれができない。関係が、距離が、血が、濃すぎるせいだ」
ほう、と逆光でも判るほど大きな深呼吸をして、主将は肩をすくめた。
「以上、状況説明おわり。しゃべりすぎてしまったね、虎鉄は聞き上手だ」
「主将、質問です」
「ん?」
「自分のことを思い続けている男が、一番身近にいるのはどんな感じですか」
「…………少しだけ息苦しい、かな。だけど宗近は家族だから」
「家族」
「そう。気兼ねが要らないしあれでいて頼りになるんだよ」
「ブラコンってことですか」
「……そうかも、しれないね」
言い得て妙だ、と呟いた主将は、すぐに声を漏らして小さく笑った。
ぴりりと張っていた空気が一瞬にして緩む。
俺もつられて、口元だけで笑った。
「さあ始めようか。胴衣を用意して」
「あ、もうひとつ、いいですか?」
「うん?」
「主将が恋人を作ったほうが早いと思うんですけど。副主将よりもむしろ目立つでしょうが」
「ああ、うん……目立つとモテるは同義語でないらしくてね。言いよってくる男がいないんだ。まあこんなじゃじゃ馬のような女、相手にしたくない気持ちも判る」
「違います、副主将が牽制してるんですよ」
俺の言葉に、主将は小首をかしげた。どうやら判っていないらしい。
さっきもただ隣に立っていただけの無害な俺を、副主将は両眼を見開いてわざわざ睨んでいった。
俺じゃなければ竦み上がっていたかもしれない。
幸い、剣道を教わっている親父が同じような眼をするので、俺はさらりとそれを受け流せた。下心はおそらく見破られてはいない、ハズだ。
その一連の作業は、主将に見つからないように行われているわけか。ご苦労なことだ。
一人深く納得をする。
「主将は自分から行動しないと」
「……私は自分より強い男じゃないと駄目なんだ。興味が持てない」
拗ねた子供のような声音。そんな一面を初めて目にする。
「そんなの。副主将以外いないじゃないですか」
「そのとおりだ」
「副主将には彼女を作れっていうのに?」
「うん。昔から私が我がままを言う係で、宗近が従う係だった」
ひでぇ。思わず漏らした声に、主将が声を上げて笑った。
「そう。私は酷い女なんだ。宗近が実に気の毒だと思わないか」
笑いながら、胴衣を取り出して着々と身につけていく。
俺もそれに倣いながら、思います、などと軽口を叩く。主将がまた笑う。
今まで見ているだけ、一方的に声をかけられるだけだった主将が、こんなにも近くで笑っている。気が緩んでいたと、自分でも思う。
「じゃあ」
ほんとうに気が緩んでいた。後から思い出しても、赤面が出来てしまう。
不遜な態度の新入生。クールな天才。俺が周りに与えてきた印象は、それらのはずだった。
まったく間逆の言動だ。
「俺が一本取ったら、俺と付き合ってください」
さらりと言い捨てて、手拭いを巻きつけた頭の上に面をかぶり面紐をきつく引く。身が引き締まる。
慌てて面紐を引いた主将も同じのようだった。
双方の呼吸が深く一定になる。
姿勢を正して対峙する。剣先を交えて、間合いを取る。
だけど違和感を覚える。
主将の気が乱れている、と直感的に悟った。
気勢を発する。びく、と珍しく主将の肩が震えた。
その隙に、一歩踏み込んで面を打ち据えた。
一瞬の沈黙の後、竹刀を取り落とした主将がうめき声を上げてうずくまる。
小手を纏ったままの両腕を、頭頂に当ててさらに呻く。俺は慌てて主将に駆け寄って膝をついた。
「すいません! 俺、主将相手だと力の微調整とかできなくて!」
「しなくていい……!」
あったーとかてててとか意味不明な言葉を歯の隙間から漏らしながら、面紐を解いていく。
頭を振って面を外した主将の瞳は、痛みからか真っ赤に染まっていて、俺の罪悪感をさらに煽った。
自分も素早く面を取り外して、主将に改めて向き直る。
「……大丈夫ですか?」
「相当痛い。が、大丈夫だ。身長差の恐ろしさを改めて思い知ったよ」
――宗近は胴が得手だから。
さらりと言い切ったあとに、自分でその言葉の意味に気がついたのだろう。
一瞬神妙な顔をして、すぐに作り笑いになる。
「虎鉄が、妙な冗談をいうから油断をした。あれは卑怯だ」
似合わない作り笑い。
このひとは、自分で気が付いていないけれど結局、副主将の隣で一番綺麗に笑うのだ。
部活の合間中、スキあらば盗み見ていた自分が言うのだから間違いない。
「冗談じゃ、ありません。本気です」
笑みを消した主将が、両眼をゆっくりと瞬かせる。どうやら頭のほうの処理能力が追いついていないらしい。
「主将」
頭のてっぺんに乗ったままの腕を掴んで引き寄せる。
ふらり、と細い身体は簡単に傾いだ。胴胸に、汗の浮かぶ主将の頬がぺたりと張り付いた。
「こここ虎鉄!?」
「副主将がいるから諦めてきたけど、一目ぼれだったんですよ。そんな事情聞いたら、つけ込んででいい気がするじゃないですか」
「よくない、よくない!」
腕の中で主将が小さく暴れているが、気にせずに肩を強く抱く。
「主将より強い男じゃないとダメなんですよね? 俺、今一本取ったじゃないですか」
「偶然だ!」
「でももうすぐ追い越す予定だし」
「……っ! 〜〜っ!!」
「あと二月ぐらいで。俺、打倒主将目指してめちゃくちゃ努力してますよ」
「努力とは己でアピールするものではない……っ!」
最後にもう一つ拳に力を込めた後、呆れたように主将はぐったりと息を抜いた。
それをいいことに、俺は朗々と言を続ける。
「それに、副主将の牽制に勝てるの、俺だけだと思いません?」
「………………大した自信だよ、まったく」
「だって俺成長途中だし伸びしろ残してるし。第一、男女の差異は埋められないんだから女子には本気出すなって親父の教えだし」
「それで、私に二本取らせていたわけか?」
「いや、主将は例外っスよ。俺が本気出せる唯一の女子。でもすぐに追い抜きます。
だから、」
ぐい、と肩をひいて、両頬を真っ赤に染めた主将と向き合う。
「俺と、付き合いませんか」
痛みに両目を潤ませて、羞恥に頬を染めて、動揺に肩を震わせて主将が俺を見つめる。
今まで、こんなに真剣なまなざしをこのひとから受け取ったことがなかった。
俺の胸も、緊張で高鳴っている。
主将に聞かれてしまいそうだけど、同じように緊張をしているハズの主将の鼓動が聞こえないということは俺のも漏れているわけではなさそうだ。
数秒も続いた沈黙に耐えかねて、だけど続ける言葉も見つからず困ってしまった俺は、とりあえず想いの丈を行動で表すべく、尖った顎に小手を装備したままの手を添えてこちらを仰がせた。
そのまま、瞳を閉じて顔を寄せる。
「……っ! ま、て……!」
唇が触れ合う寸前のところで、正気に戻った主将が両腕を突っ張って俺を拒否する。
ち。
聞こえるほどの大きさのわざとらしい舌打ちに、額までを赤く染めた主将が眉を吊り上げた。
「まだ、何も言ってないうちに手を出すやつがあるか!」
「なら早急に返事をください。主将が好きです、アンドユー?」
「あ、う……判らない」
するりと、俺から逃げるように身を滑らせた主将が、ぺたん、と板張りの床に越を下ろした。
その様子に平素の威厳は見当たらず、まるで小さい子供のような座り姿だった。
「虎鉄は強い。じきに私を抜いてしまうだろう。それは認める。でも好きかなんて聞かれても判らない。だってさっきまで、お前には嫌われてると思ってたんだ」
「は? なんですかそれ」
「お前、女に負けたことなんかないだろう?」
「ええ。主将だけです。でもそんな理由で嫌ってたらただの負け犬じゃないですか」
「それだけじゃない。たまに視線があうと、睨むような目をしていた」
「俺的にはアツいまなざしだったんですが」
「いいや、睨んでいたぞ」
「だから誤解です。好きだって言ってるじゃないですか」
「何で告白してる立場の人間がそんなデカイ態度なんだ!」
ついこの間まで中学生だったくせに生意気な、とかなんとかつぶやいた主将は、頬を膨らませてぷい、と顔を背けた。
他人を子ども扱いしている高校生のやる行動ではない。
「じゃあ今日は返事いらないっス。今度俺が勝ったら付き合うって約束してください」
「お前、実は馬鹿だろう」
「嫌なら負けなきゃいいんですよ。当分負けるつもりないんでしょ?」
「当り前だ」
赤い唇を少し尖らせて、主将は大きく頷いた。
頷いたってことは言質取ったってことでいいだろう。都合よく解釈をさせてもらう。
納得した俺は途切れることなく持前のずうずうしさを発揮した。
「とりあえず今日の一本の報酬に、名前で呼んでいいですか?」
「え?」
「飛鳥」
「よよよ呼び捨てなど言語道断だ! 一年坊主だろう!」
「なら――――飛鳥、先輩。これならいいですか。二年の先輩も呼んでるし」
「好きにしろ、もう」
今度は子どもの我がままに呆れる表情だ。
こんな短い間に色んな顔をするこの人から、目を離したくないしもっと色んな表情をさせたいと思う。
まるで、好きな子ほど虐めてしまう小学生男子のようだ。
「飛鳥先輩」
「……なんだ」
「飛鳥先輩」
「……」
「飛鳥先輩、飛鳥先輩」
「う、うるさい、呼ぶな。やっぱりだめだ」
「さっき飛鳥先輩がいいって言ったじゃないですか。朝令暮改は横暴ですよ飛鳥先輩」
「だめだだめだ! 気恥かしくて耐えられん。次に呼んだら素手に小手を入れるぞ!」
「一方的な暴力は反対です、飛鳥先輩」
「虎鉄!」
澄んだ声で俺の名を怒鳴りながら、竹刀を振り上げて立ちあがった飛鳥先輩に、それからたっぷり五分間も追いかけられた。
防具をつけたままということもあり、疲れ果てて床にへたり込んだ所に、下校を促すチャイムが鳴り響いて、帰るぞ、とまた怒鳴った。
帰ってからまた爺様のしごきがあるのに無駄な体力使わせて。
愚痴る彼女に、俺だって親父のしごきあるしと反論をしたら、ローキックを食らった。
足技など、剣士にあるまじき行為ではないのか。
それから。
たっぷり二週間。飛鳥先輩は俺との対決をのらりくらりと避け続けた。
避けるがいいさと開き直ってそれを受け流し、俺は親父に倍のしごきを要求し、素振りの回数も増やし、朝連も三十分早く参加をし、地道な努力を重ねた。
その結果。三週間後に副主将の愚鈍な取り計らいで実現した一戦に、俺は見事勝利した。人生最高に劇的な一戦だった。
「飛鳥先輩」
部活動中は一応「主将」と呼び続けてきてきたが、改めて名を呼んでみた。
周りの人間がぎょっとして、特に審判を務めていた副主将の無表情が凍りついたような気がしたが、天才はそんな瑣末なこと、気にしないのだ。
「ああ、うん。強くなったな、驚いた」
「油断か動揺か手抜きか、どれもしてないですよね?」
「…………さあね、言わないよ」
しれっとした声音の表情は、どんなものだったのか。
飛鳥先輩は面を外さないままだったから、結局それは判らないままになってしまったけど、恋人の称号を手に入れた今となっては、どうでもいいことだった。
--おわり--
>>471を書いた当人だがこんなツボに直球ストライクな素敵すぎるシロモノを読めるとは。
>>498に後光が差して見える…!!!
やべぇマジでニヤニヤが止まらん。職人様ありがとう。ありがとう。土下座する勢いでありがとう。
なにこれ…gjすぎですっ
続き期待してもいいのですか?!
んでもキリがいいから終わった方がいいかー
うほぉぉいGJ!
飛鳥先輩可愛いな〜
こういう二人って萌える
虎鉄が冷静過ぎてイイ!!w
どんなことされたら目に見えて動揺するんだろうか?
( ゚∀゚)o彡゜ 虎鉄!! 虎鉄!!
( ゚∀゚)o彡゜ 飛鳥!! 飛鳥!!
GJ!
あれ、おれ男なのになぜか虎鉄に萌えたよw
3回読んで5回勃起した
>>513 勃起率1.66ですか。
なかなかですな。
飛鳥先輩は俺の嫁ランキングのベスト3にランクインした
>>516 あと二人は誰が入るんだ? 参考までに聞かせてくれ
弟(17)の彼女が25歳のお姉さんだった。チキショー!しかも黒髪ロング!羨まし過ぎる!
493です
お姉さんと少年の触りだけできたんで投下させて下さい
29歳女性と17歳少年です。
カップリングが合わない、エロなし合わないと思ったらスルーして下さい
「上がって何か飲んでいく?」
女にそういわれて期待しなかったら男じゃない。
動揺を隠しきれずに、いや、この人のことだから期待するな、と巡里は自分に言い聞かせる。
「いや、それはちょっと…問題が……」
「あ、お茶嫌い?」
やっぱり通じないです神様。予想通りだけど。
「ええ嫌いです。おやすみなさい」
「??ごめんね。今日もありがとう国元くん」
その声を拾ってしまう自分を恨めしく思いながら、巡里はマンションエントランスを後にした。 帰り道の途中で立ち止まり、思い切り溜め息をつく。
今日も告白できなかった。シフトを空けてまでデートしたのに。バイト時給換算して3500円を棒に振ってまで飯食いにいったのに。
自分の情けなさを自覚しながらも家路を歩く。
2月、空気の冷たい季節、屋上の吹きっさらしの風が冷たい。
「年上で美人だけど無職で金持ちな女ってどう思う?」
「無理っ!ババアとか無理」
ババアじゃねえよ、とかいつまんで祐子を説明する。
すると
「絶対旦那いるだろ」
という答えが返ってきた。
まあそう思うのが普通だろう。
菰田祐子は世間知らずで変な女だ。
舞台俳優の様な身のこなし、しかし無防備な態度、そして謎の大金の出所。
「旦那いないらしい。というか、アレは誰とも付き合ったことがない。マジで」
「何で分かるんだよ」
「下ネタを何一つ理解しないからだよ」
ひときわ強い風が吹いた。
巡里は震え、晶葉は肩を竦める。
「ナニを話してんだお前。………ウブな振りしてるだけじゃね?29歳でわからない訳無いだろ。 ま、かなみちゃんにフラれた翌日に美人に知り合えて良かったじゃん」
フラれた翌日にと出会ったと言えば運命的だが、出会いは自転車と自転車の正面衝突だ。 巡里の自転車に祐子が突っ込んできた。
特に外傷はなかったが鞭打ちに苦しみバイトしているところに偶然祐子が客として来て、というのが縁でちょくちょく会うようになり、
メールをするようになり、食事を、としているうちに 気が付いた時には巡里は引き返せない年の差恋愛の壁の前に立っていた。
「…やべー、あんな冗談も通じない厄介な女の何がいいんだろ」 「苦労してんな。かなみちゃんだってアレな奴だったし」 かなみちゃん、というのは巡里の初彼女で元・彼女だ。 顔と性格と身体は良かったが、男の趣味が悪かった。
「黙れその名を出すな思い出させるなっ!!やっぱもう辞めよう、会うの。全然バイト入れないから金たまんねえし」
「と言いながら連絡あったら?」「………会うに決ってんだろ」
2月、バレンタインデーを1週間後に控えた気温が低く、心が寒い時期の話。
2月のある木曜日、菰田祐子は友達二人と食事をしにいった。
きっかけは祐子と同様某TK歌劇団を退団し、現在は女優に転身している春野篝が相談事を持ちかけたこと。
悩みを抱え込むタイプの篝が相談と言う事で、これは大変と最近結婚退団した木下千春を誘い、 創作料理を食べて、それから近くのバーで少し飲んでから飲みやすいところでもう一軒とはしごしていった。
「もうどうしてあんな男の言いなりにならなきゃいけないの。演技力がないことなんてないのに自分の持論を押しつけてくるし
君は役を理解していない滑舌が悪いとか訳わかんないことばっかり言われるし本当にプロなのかとか言ってくるし 」
篝の口から飛び出した最初の愚痴は撮影中の監督に対して。その後はドラマの共演者の嫌味とマネージャーの注意の仕方に彼氏が料理が上手いことが悔しいと、苛立った表情でハイペースに酒を飲み干していく。
「なら、飲み過ぎじゃない?明日に響くよ」
「飲み過ぎるのはならの自業自得であってモコのせいじゃないさ。君、ジントニックを!」
「みゅーも飲み過ぎ。私モスコミュールで」
声は掛けるものの、さして篝の心配をする様子もなく千春も祐子もピッチを上げていく。
愚痴だけでなく、結婚、恋愛の話題になると、恋愛経験のない祐子を押し退けて二人で盛り上がってしまった為、祐子はマイペースに酒を飲み続けた。
「あ、私最近仲良い人がいるんだ」
祐子がその話題を切り出したのは全員が出来上がったときだった。
国本巡里は、口は悪いが優しく今時珍しい少年だ。
特殊な環境で育ったお陰で、祐子は今まで国本少年ほど若い男性と親しくなることがなかった。
優しい高校生とメールをしている、と話をした。そうすると、二人はとても微妙そうな表情をしていた。
「それはやめときな、モコ。犯罪じゃない?」
「いや、まあ恋に年齢は関係ないさ。」
「いや〜でもモコはこのままだと一生生娘っていうか本当に妖精になりそうだからな〜」
酔っぱらいとはいえ酷い言われようである。
「無い。国本くんと恋は絶対ない。本当に良い子で……自分の子供がこんな息子になったらいいなって」
「息子?!アンタ現実の男を本っ当に見てないな」
「それに…その子名前が゛めぐり゛って言うから」
「ああ、モコは美馬恵璃だから。自分と同じ名前を見つけると、確かに嬉しいな」
「みゅーは羽生焔歌で三浦千春で木下千春で名前が3つある」
「ならは奈良幸で」
「どうせ奈良行きだよっ!でもモコにそんな気がなくてもその子はどう思ってるかわからないね。男の子だし」
簡単に分かる方法があるよ、と言ってきたのは既婚者だった。
「モコ、少年にメールするんだ。14日に会いましょう、とね」 「みゅー、それで何がわかるの」「いいから。」
はぁぃ、と返事をしながら携帯を取出し言われた通りにメールを作ったあと、二人に文章をチェックされてから国本少年にメールを送ったところ、 数分もしない内に返信が帰ってきた。
「 『何時でも空いてます』 だって」
「じゃ彼に対してどう思ってるかしっかり言っておいで」
「やっちゃえやっちゃえ」
かなり酔っぱっている篝は無責任にけしかける。
「うん任せて。たんたかたん下さい」
グラスワインを飲み干し、新たな注文をする祐子に不安を隠せない千春だった。
次回は男を狼と思わなかったコモタユウコ29歳が痛い目合います。
ちなみにTKはサクラでも塚でもお好きに解釈お願いします。
ワッフルワッフル
家に帰って来たらスレに大作が投下されている予感がしたので飛んで来ました
たんたかたんってどんなのだよwww
お久しぶりです。幽霊屋敷シリーズを投下させていただいているものです。
以前の投下から約四ヶ月、遅筆に遅筆を重ねてしまい、本当に申し訳ありません。
今回は「彼女が僕を堕とすまで」と題する続編が出来ましたので、投下させて頂きます。
お付き合いくだされば幸いです。
彼女が僕を堕とすまで
どうしてこんなことになったのだろうか?
僕は囲碁部の部室の中で、一人拭き掃除をしていた。
夏の夕日が差し込む窓硝子越しに、雑巾を持った僕の姿が写っている。
「はぁ…、しまったなぁ」
溜息をつきながら、僕は窓拭きを再開した。
ことの発端は、今朝方まで遡る。
今日は月曜日、補習が始まるまでには余裕のある時間帯に起きたはずだった。
いつもと同じ、夏休みの朝の風景。
それが一変したのは、弟の襄と一緒に朝食を採っている最中のことだった。
恋先輩から架かってきた携帯電話。
正直、架かってきた瞬間にどうゆう用件なのか分かってしまった。
「……掃除、わすれてた?」
図星だった。
今日は朝から、みんなで囲碁部の部室掃除をする予定だったのを、すっかり忘れてしまっていたのである。
「こら〜、遠藤。わりゃ早くこんか〜」
恋先輩の向こうで、阿川の恨み節が聞こえる。
「こ〜りゃお仕置きが必要だね、お・し・お・き」
初芝の不敵な声が妙に響く。この時の初芝は何かよからぬ事を企んでいるのが常だ。
…実際、そのために僕はこうして居残り掃除をさせられているのだが。
「あ、あの、先輩…早く来たほうが良いと思います」
宮城さんの心配する声が聞こえる。
多分、その心配は現実になると思う。ありがとう、宮城さん…
「一応、始業まで待ってるから」
若干怒った調子で、恋先輩は電話を切った。
「しまっ、たなぁ……」
思わず、天井を仰ぐ。
不思議そうな顔で、顔を見つめている襄を無視して、僕は味噌汁を飲み干した。
僕に科せられたペナルティは、予想通り居残り掃除だった。しかも
「今週一週間部室掃除ね!ちゃ〜んと、碁盤もよ!」
なんて初芝の部長命令が下ってしまった。
確かに忘れていた僕も悪いけど、一週間は長すぎだと思う。
恋先輩も、阿川も少しくらい止めてくれれば……。
流石に宮城さんは気の毒そうな顔をしていたが、一年生の彼女に初芝を止められるわけがない。
…結果、こうして僕は掃除をしている。
「はあ…」
窓を拭き終わり、僕はバケツの水に雑巾を浸した。
薄い黒色に染まった水には、間抜けそうに眼鏡をかけた、僕の顔が映っている。
じゃぶじゃぶ、ごしごし、ぎゅるるる。
一度汚れた雑巾は、真っ白には戻らない。
だが、こうして丁寧に扱うことで、汚れを吸うようになり長持ちする。
さて、次は碁盤だ。
「はぁ……」
あと少しだというのに、また溜息が出る。
碁盤用の布巾はどこだっただろうか……
「ふ〜ん、大変そうね」
言われるまでもなく、大変だ。いや、この場合は面倒くさいというべきか…
「ええ、長引きますね…って、わあっ!」
出た。
その声、その姿、見間違えるはずがない。
幽霊屋敷の女主人、庵さんが何時の間にか部室の玄関に立っていたのだ。
今日は黒い薄手のチュニックに、深い紺色のセミフレアスカートといった服装である。
毎日服装が違うというあたり、幽霊でも女性ということなのだろうか。
「い、庵さん!どうしてここに」
「何って、開いていたから」
そう言って、庵さんは部室の引き戸を指差した。
ああ…。換気のために、窓と引き戸を開けていたんだ。
「そ、そうじゃなくて…。何で、ここが」
そうだ、何故僕がここにいることを知っているのだろう。
以前学校で庵さんに会った時に、囲碁部だと言っていただろうか?
「ふふ」
悪戯っぽく、庵さんが微笑む。
一瞬にして、引き込まれそうなその笑顔。彼女から危険な香りがすると分かっていても、その美しさには抗えない。
「さあ?どうしてかしらね」
探るような瞳。僕の反応を待っているかのようだ。
「ど、どうしてでしょう……?」
急な質問を前に、頭が働かない。僕の回答は、鸚鵡返しになってしまった。
庵さんの柳眉が、眉間に寄る。
「…質問を質問で返すのは、駄目よ」
何処かの漫画で見たような台詞。そして庵さんは、ふっ、と表情を和らげた。
「ま、わからないのも当然か」
視線を下に降ろし、寂しげに手を腰の後ろに回す。
「上がるわね」
ここでの話は終わりということだろうか。深紫のパンプスを脱ぎながら、彼女が部室に上がろうとする。
「あ、どうぞ…」
条件反射は悲しいものだ。僕はいつものとおり、肯定の返事を返してしまっていた。
「へえ…、茶道部と同じで、和室なのね」
「職員室横の茶道部も、同じ作りですから。って、茶道部を知っているんですか?」
「ふふ、何度か部室にお邪魔したから」
部室の碁盤を挟む形で、僕と庵さんは向き合っていた。
先ほどから、庵さんは部室の様子をしげしげと見ている。
天井、押入れの襖、窓のカーテンなど、その視線はどこか懐かしげだ。
「…変わらないのね」
ぽつり、と呟く。
彼女が何時この学校にいたのかはわからない。だが、その言葉には少なくない年月を重ねた響きがあった。
「変わらないんですか」
「多少は汚れているけど」
再び、自嘲気味な笑み。
「年を重ねたら、汚れていくから。物も、人も……」
何気なく発せられた庵さんの言葉。それには形容しがたい重みがあった。
「ん…これは何?」
先ほどの話は終わりとばかりに、庵さんが別の話題を振ってきた。
彼女の指が、何かを差している。見ると、指先は碁盤の上を指していた。
碁盤の上には、僕自身によって並べられた黒白の碁石が並べられている。
「え、ああ…これは詰碁です」
詰碁とは、石の死活……
つまり、どう打てばこの石を取られ、どうすればその石が取られないのかを問う問題みたいなものだ。
ある意味算数のドリルみたいなものというか、多分、実際にしてみないと説明は難しい。
「ふぅん、そうなんだ……」
分かったのか、分からないのか。庵さんは小首を傾げている。
「私、囲碁は全然分からないから」
どうやら、分からないの方だったようだ。
庵さんの様子を見ていると、碁笥にせよ、置いてある揚浜(取った石)にせよ、見るもの全てが珍しそうである。
「囲碁部なのよね、周君は」
「ええ、一応。弱いですけど」
若干の謙遜を込めて、答える。
部活メンバーの棋力は、恋先輩だけが際立っていて、他は似たり寄ったりといったところだ。
僕と初芝がほぼ同じ、阿川は二子、宮城さんに至っては、五子は置かないと勝負にならない。
決して弱くは、無い筈だ。
「じゃあ、お願いしようかな」
「お願い?」
「簡単なことよ」
一瞬、庵さんの瞳が、光ったように見えた。背筋に得体の知れない感触が、ぞくりと走る。
「囲碁を、教えてほしいの」
囲碁を、教える。
興味のない人ならば一生碁石を握ることもないから、僕より年上の彼女が囲碁を全く知らないということはあり得ることだ。
しかし、彼女は幽霊。しかも先日僕にセクハラじみた事をした前科がある。
あの時や、家に来た時は無事に済んだけど、今度が大丈夫という理由にはならない。
加えてここは夏休み中の夕方の部室。職員室とも離れているから、人気も殆どない。
憑り殺すには、もってこいの場所だ。
(駄目だ駄目だ!逃げないと!!)
心の中の僕が、警報を鳴らす。それに応じて、僕は腰を上げようとした、が
「教えて、くれないの?」
がっしりと、僕は庵さんから掴まれた。正確に言えば、掴まれたのは僕の心。
僕の目線から少し下がった位置、つまり彼女にしてみれば上目遣いになる形で、見上げられたのだ。
こう頼まれれば、嫌だと言える男はいない。男性が持つ保護欲を刺激する、麻薬のような目線だった。
この人が、僕よりも大分年上であるはずのこの女性が取る、幼女のように無垢な「お願い」の態度。
初芝や、もしかすると恋先輩でも、こんなことをしたら「ブリッ娘」と言われるような仕草。
しかし、どういう訳か庵さんが行うと、卑屈さや不自然さを感じない。
演技だと分かっていても、引き込まれてしまう。耐えがたい魅力があった。
「い、いえ…。そんなことは、ないです」
数秒後、心の中の僕は圧倒的な物量(?)の前に敗北を喫した……
庵にとって、どちらかと言えば囲碁は得意な方だった。
庵にこれまで接してきた男達は、例外なく何らかの趣味を持っており、囲碁はその中でも多い部類だったのだ。
「まず、この十九路盤は…」
顔を赤くして、出来るだけ分かりやすく説明をしている、眼鏡の少年を見るともどかしくなる。
(そんなこと、あなたが幼稚園に上がる前から知っているわ……)
庵は、思わず本当のことを話してしまいたくなるような衝動にかられていた。
囲碁に限らず、将棋、チェス、マージャン、カードゲーム…。谷崎の知り合い達は、頭を使うゲームを好んでいた。
だから、庵も相手の意に沿うように、かなり努力したのである。
その結果、庵の実力はセミプロ級と言ってもよいものがあった。
その彼女からすれば周の説明は釈迦に説法だったが、盤面を見て懸命に話すその顔が、とても好ましかった。
(いいわね、若いって)
一回りの年の差というのは、これほどまでに違うものなのか。
熱い、彼は決して運動上手には見えないが、囲碁に対する情熱で漲っている。
それに比べて、自分はどうなのだろうか。
(幽霊、ね)
心の中で、庵は自分を唾棄した。
夢も、情熱も、活力もない。あるのはただ、目の前の少年を汚したいという欲望だけ。
幽霊が人を憑り殺すのは、生きていることに嫉妬しているためだという話がある。
ならば、自分はやはり幽霊だ。少年の生命力に、出会いの時に自分の誘惑を拒んだ気高さに、嫉妬している。
だから、そんな光のあたる場所にいる存在を引きずり込みたい。自分と同じような闇の世界の住人に引きずり込みたい。
無垢な少年がどれだけ汚れてしまうのか、楽しみにしている自分がいる。
(そろそろ、ね)
目の前の少年からは、既に警戒心が消えている。
庵は静かに、膝を進めた。
「つまり、どうなっているのかしら?」
まず、周の下家(麻雀用語、周から見て右側)に着く。一度視線が合ったが、周はすぐに説明に戻った。
それを見計らって、距離を縮めていく。盤面を覗き込む振りをして、徐々に、徐々に。
数呼吸の後、彼女の体は周に触れんばかりになっていた。
「石を置く時は最初……って、わっ」
ようやく周が接近に気付き、声を上げる。
しかし庵は何事もないかのようにとぼけた。
「見難いから、来ただけよ。ほら、手元から見ないとわからないでしょ」
「は、はぁ…」
詭弁であり、冷静に聞けば、庵が囲碁に全くの無知であることを覆す言葉だった。
だが、集中していた周は、それに気付いていない。
「だから、こうして相手の懐を差さないよう…うわっ!」
だから、周が異変に気づいたのは、庵が背後に回って右手を重ねてきた時になった。
「いっ、庵さんっ!?」
周が驚いて振り向く。眼鏡の奥の瞳は、明らかに困惑していた。
「へえ、こうして打つんだ」
それでも、庵は平静を失わない。まるでこの状況が自然であるかのように振る舞う。
ゆっくりと、蜘蛛の糸が絡みつく。そんな表現が相応しい。
「こうして見ると、対面から見るのと違うわね……」
「え、ええ。だから…こうして、手を…」
焦りのためか、周の言葉があやふやになる。視線も、盤面と後ろの庵との間で定まらない。
(駄目押し…)
ここで、庵は自分の胸を、周の背中に押しつけた。
容姿、面体、仕草…
全てが完璧に見える庵も、その胸部だけは平均を下回っていた。
まっ平というわけではないが、女性としては小ぶりで、弾力的にも不足している。
しかし、その胸でも、思春期の少年には凄まじい威力があった。
「く、あっ」
柔らかな物体が背中に密着した途端、これまでとは違う声が少年から漏れ出た。
(おっ…ぱい…)
正直、今なら分かる。
父さん、母さん、「( ゚∀゚)o彡゜おっぱい!おっぱい!」は真理でした……。
この柔らかさを何と表現すればいいのだろうか、水風船よりも、粘土よりも柔らかい。
ああ、そんなのじゃなくて、早く離れてくれないと、僕の息が上がってしまう。
「は……っ」
胸が高鳴る。
本当に、何なんだ、これは。
頭では離れてほしいのに、心が体が離れることを拒んでいる。
ゴク、…っ。
ああ、緊張してるんだ。
自然に喉が鳴る。しかも大きな音がした。
「あら……」
同時に、溜め息のような音が耳の側で聞こえた。
怪しさを含んだ、甘い声。
ぞくぞくっと、背中に衝撃が走る。
「どうしたの?」
耳元で、もう一度甘い囁き。頬が熱くなるのを感じる。
「な、なんでも、ないです」
平静を装おうとしても、声が上擦ってしまう。
落ち着け、落ち着くんだ。動揺していることがこの人に知れたら…
「…緊張した?」
すっかりばれている。
このままでは、完全に主導権を握られてしまう。ほんの少し冷静さを取り戻した頭が、警報を鳴らす。
僕は上体を前に倒し、庵さんから離れようとした。
しかし、それを庵さんの両手が阻む。
蔦のように首元に絡みつく両腕。背中に感じる柔らかいものが、更に密着する。
「うぁ」
変な声が出た。
だってこの気持ち良さ、反則的過ぎる…
「慌てなくても、いいじゃない」
頭の後ろの声が、楽しさを帯びている。
まるで、いじめっ子のようだ。
「ね」
言葉は柔らかいが、僕の逃げ道を閉ざす断定的な台詞。
絡み、取られた。
「ふふ」
抵抗が無くなったことに満足したのか、庵さんが微笑む。
しばしの無言。
部室に響く油蝉の泣き声が、やけに煩い。
ああ、空調を聞かせておくべきだった。これでは、頭の中までふやけてしまう。
実際、僕の頭の上が柔らかい何かが覆っているようで…
「あ、あれ?」
スーっと、空気が抜けるような音がした。
「いい、香りね」
頭の上から響く、くぐもった声。
どうやら庵さんは、僕の髪の中に顔を埋めているようだ。
「ああ、本当に」
すりすりと、彼女の頬が動く。
まるで頭を撫でられているかのようで、心地よい。
脳髄が蕩けるというのは、こんな感覚なのだろうか。快楽の前に、僕の意識がわずかの間空白に陥る。
だから、庵さんの手がそこに触れるまで、僕は気づかなかった。
「あっ」
ゆっくりと音を立てて、ズボンのファスナーが降ろされる。
慌てて股間にある庵さんの手を取ろうと、僕は自分の右手を動かした。しかし
「いいの?やめて」
耳元で、庵さんが囁く。それは反則だ。
熱っぽい吐息が交じった誘惑。僕の背中がもう一度震える。
我慢出来ない、このまま庵さんの誘惑に身を任せれば、とても気持ちの良いことが待っている。
そう思うと、息が荒くなるのを止められない。
全力疾走をした時のように、何度も何度も呼吸をする。
でも、僕は
「や、やめて下さい…」
彼女の誘惑に、拒否の言葉を告げた。
間違っている。やっぱり、どう考えても間違っている。
好きでもない人とこういうことをするなんて、人として間違っている…!
「ふふ、本当に良い人なのね、周くんは」
僕の反応に、庵さんの声がわずかに低くなる。
「これだけ誘惑しても駄目か」
「………」
彼女の問いに、僕は沈黙で返す。
納得してくれたのだろうか?いや、それならば彼女はこの手を離しているはずだ。
しばしの沈黙。
それを破ったのは、庵さんの意外な言葉だった。
「じゃあ、好きになっては駄目?」
「え?」
「前に言っていたわよね、『こういうことは好きな人同士でないと駄目』って」
「そ、それは…」
それはそうだ。庵さんの誘惑を撥ね退ける時に言った僕の言葉。
いや、重要なのはそこではない。庵さんは最初に何て…?
「じゃあ、好き同士なら良いということね」
「そう、ですけど…わっ!!」
一気にファスナーが引き降ろされる。
同時に、僕の一番敏感な所が、庵さんの指に侵された。
「私は周くんが大好きよ。周くんはどうかしら?」
頭が混乱している。
庵さんが告げた僕への好意。これこそまさに奇襲というのだろう。
本当の意味で頭の中が真っ白になっていた。
彼女の真意は?僕の気持ちは?女性からの告白?彼女は幽霊なのに?
ありとあらゆることに疑問符が付く。
「沈黙は、肯定とみなすわね。決まり」
「あ、くううぅぅっ!」
これまでの刺激と誘惑で、僕の分身は下着の中でいきり立っていた。
そこに、普段は皮で覆われている部分へ指を当てられたのだ。
「もう、こんなになってくれているし、反論の余地はないわね」
「ち、が…」
違います!これは生理現象なんです!
と反論しようとしたが、庵さんの指がそこを一擦りする。
言葉が出ない。快感の前に反論が出来なくなっていた。
「これで私と貴方は恋人同士ね。よろしく、可愛い周くん」
唇を奪われる。
僕は何も出来ないまま、長い口付けが続いた。
おかしい。僕と庵さんが恋人?絶対に何かが狂っている。
庵さんが嫌いというわけではないが、僕が彼女に抱いているのは決して恋心ではないはずだ。
止めなくては、自分自身を止めなくては。
これでは、牡丹灯篭の精に殺された男の二の舞になる。
でも、「初めての恋人」という言葉が毒のように、僕の心を蝕んでいた。
「ねぇ、わかったでしょう、周くん」
油蝉の声が響く部室の中に、もう一つくぐもった声が響いていた。
庵さんから自分の分身を扱(しご)かれて、情けなく呻いている僕の声だ。
「女が好きでもない男に抱かれるようにね、男の子も、好きでもない女性(ひと)を抱くことが出来るの」
背後から僕を抱きかかえるようにした庵さんの指によって、僕の分身は見たことがないほど大きくなっていた。
片手で、あるいは両手の指で、僕を責めたてる。
「周くんの考え、とても素敵よ。でもね」
庵さんが何かを言っている。しかし、快感で一杯になった僕の頭は、考える余裕をなくしていた。
指が生み出す、自分でする時とは比べ物にならないほどの刺激と背徳感。
一気に出せば、どんなに気持ちよいのだろうか。
既に、僕の分身は射精のための準備に入っていた。
「男っていう生き物は、結局、出せれば良いのよ」
庵さんが何か、悲しいことを言っている。
そんなことはないと言いたかった。
しかし、こんな僕に、知り合ったばかりの幽霊が美人だからと言ってセックスを受け入れてしまった僕に、言う資格はなかった。
何が、『好きな人同士でないと駄目』だ。
僕は結局、堕落してしまっているではないか…
「どうせ出されるなら、好みの子が良い…私の気持ち、分かるかしら?」
それは女性を買う男の考えそのものだった。僕が嫌っていた考えだ。
しかし、非難なんて出来ない。僕だって、この人が美人だから、こんな事を許している。
分かりたくない気持ちだが、分かってしまう。
「そろそろ?」
限界が近づいていた。僕は黙って首を縦に振る。
庵さんの指の動きが、一層激しくなる。嫌らしい声を上げて、僕は頤(おとがい)を反らした。
「好きな女の子の事でも、考えて…」
誰だって、初めての相手は好きな人が良い。
庵さんの言葉は、それを奪おうとする相手である僕に対しての、一種の贖罪だったのかもしれない。
もしかして、庵さんも意に沿わない初めてを迎えていたのだろうか。
それならば、彼女も誰かのことを思いながら、他の誰かに…
「うっ、ああああっ!!」
思考は、急激に高まった射精感にかき消された。
僕の分身の一箇所に、全てが集まっていく。
「うっ、ああ、あ、で、る…!」
僕の頭の中に一人の女性の顔が浮かんだ。彼女を抱く妄想を瞬時に思い浮かべる。
その刹那、勢い良く白濁の液体が宙を舞った。碁盤を、畳を、そして僕の顔と眼鏡を汚す。
ああ、僕はもう、汚れてしまったんだ…
勢いを失う射精の中で、僕は無言のまま、泣いた。
「あっ、ああああ〜〜ん!!いっちゃう〜〜〜!!」
所は変わり、ここはとあるホテルの最上階。
このスイートルームの中でその饗宴は繰り広げられていた。
キングサイズよりもまだ大きい、特注のベッドの上で躍動する男女の群れ。
男は二人、女は少なくとも五人はいる。
皆一糸纏わぬ姿をしており、男二人に女が群がっている状態であった。
女は誰もが胸の大きい若い女性であり、いわゆる「小悪魔系」の化粧で彩られていた。
逆に男は二人とも肉付きのよい、いわば肥満体をしていた。一人は六十近く、もう一人は三十代半ばであろうか、どちらも女性には不釣合いな姿である。
「セ、センセっ!す、すごいっ!!駄目、駄目ぇぇっ!!」
「ふん!ふん!ふん!ふんっ!!ほりゃあ、イかんか!!ボ○イかんかぁぁ!!」
「あっ、あはああああ〜〜〜!!」
「○ボぉ、ボ○ぉぉぉ!!」
一際大きな声を上げて、六十近い男の情事が終わった。
ぐったりとして女性が伏せる。しかし、男は事が終わるとすぐに女から背を向け、指を二本立てた。
すかさず、他の女たちが煙草と灰皿を手に寄ってくる。
男は気だるげに煙草を受け取り、差し出されたライターで火をつけ、煙をふかした。
「あ〜、どいつもこいつも緩か○ボじゃの〜」
男は不満げな顔をして、頭を掻いた。その耳は柔道のためか、潰れて丸くなっている。
「も〜、山トヨ先生は絶倫なんですからぁ〜」
抱いていた女から離れ、三十半ばの男が山トヨと呼んだ男に向き直る。
「堀君、良か女はおらんとか〜」
「まったく、贅沢ですね、山トヨ先生は」
堀と呼ばれた男が、下卑た笑いを浮かべる。
「あ〜、抱きたかなぁ、良か女ば。あん女ごた」
「ん?先生は良い女を知っているんですか?」
「ああ、最高の女がおっとさ。谷崎ん所で世話になったときになぁ…」
「へぇ、谷崎って、あの元総理の…」
「ああ、あん女は最高ぞ。本当に、よかボ○ばしとったっさ」
「興味がありますねぜ、先生、もっとよく話を聞かせてくださいよ」
「おお、あん女はなぁ…」
その日、男達の密談は深夜まで続いた。
堀と呼ばれた男の部下が、海山手に向かうのはその翌日のことである。
以上です。
ちなみに最後の山トヨ先生が言っているボ○というのは、女性器の方言です。
次回の投下はもっと早いスペースを目指します。
乱文乱筆、ご容赦ください。
それでは、また。
悲恋か
エッチなお姉さんとショタの絡みを読んでみたい。
内容によっては今日中に買いに行きたいんで即レス希望
まとめにあった男が年上リストの「ベルセルク」って
病弱美少女がツンデレ大男に恋心抱いてたりそういう描写あり?
ググレ
ググッたら33巻もあるらしいがほんとに買うのか?
ベルセルクに純愛求めてるならやめた方がいいよ
恋人が主人公と初めて結ばれた次の日に、悪魔に犯されて人間の出来損ないみたいな赤ん坊産んで狂っちゃう的な鬱でグロい表現ばっかだから
グロ表現と金は大丈夫なんだが、Wiki見たら純愛は無理そうだな
即レスありがとう、また別の探してみるわ
ハアハアウッ!!
飛鳥先輩マダー?
>>540GJ!
このスレでは初投稿となります。よろしくお願い致します。
タイトル:『隣の奥さんの提案』
総文字数:約2万700字
エロ:○
カップリング:子持ち人妻(28歳)×男子中学生(13歳)
備考:一括投稿。不倫行為有り。エロ重視。
その他のキーワード:モテない少年筆下ろし膣内射精。手コキ。パイズリフェラ。騎乗位。正常位。裸エプロン台所立ちバック。足コキ。
『隣の奥さんの提案』
(ああ、ダルいなあ……)
緊張感の途切れる昼下がり。
とある中学校の一年生の古文の授業中に、
辻原文太(つじはらぶんた)は小さなため息をついた。
昼食後のこの時間帯はいつもやる気が出ない。
まあ、彼の場合、全ての授業において熱意を抱くことが無いのだが。
(早く放課後にならないかな)
文太の席は、黒板から最も遠い後ろに位置しており、なおかつ窓際である。
彼は視線を左に向けて外の風景をぼんやりと眺めることにした。
代わり映えの無い景色。
少しずつ気温が上がってきた六月の中旬の空は、やや曇っていた。
……傘を持ってきていないことを思い出し、余計に憂鬱な気分になってくる。
「こら、辻原! 授業に集中しろ!」
古文担当の教師が教壇の上から一喝する。
「あ、は、はい、すみません……」
クラスメイト達の口からクスクスという笑い声が聞こえてくる。
それはあまり温かい意味を持ってはいなかった。
文太にとって、それは"嘲笑"だった。
この教室内に、文太の友達はいない。
では、他のクラスにはいるのかというと、そうでもなかった。
彼は孤独だった。
顔立ちがあまり良くなく、勉強にも運動にも秀でていない。
彼には何一つ誇れるものが無かった。
加えて、人付き合いが苦手なので、自然と彼の周りには人が集まらないのだった。
苦痛でしかない授業が終わると、荷物をまとめてさっさと教室を後にする。
部活に所属しているわけではないので、放課後になれば学校にいる必要が無くなる。
彼にとってここは居心地の良い場所とは言えない。
一秒でも早く立ち去りたいというのが本音だった。
(ああ、やっと終わった……)
一日の疲れを感じながら、とぼとぼと通学路を歩く。
代わり映えしない風景を眺めていると、下校する時はいつもそうなのだが、
彼の頭が――――彼自身はそれを望んでいないにもかかわらず――――さっそく今日の出来事を反芻し始めた。
「ねえねえ、昨日のドラマ観た!? 主演の松原クンが超カッコ良かったよね〜!」
「オレ、B組の新崎さんにコクっちゃおっかなー!」
「サッカー部の伊沢先輩って、彼女さんいるんだってぇ。マジショックぅ〜」
過去の時間から聞こえてくるのは、クラスメイトの話し声だった。
誰も彼も、男女関係のことで熱心になっている。
身体が急激に成長を始める中学一年生の少年少女達は、そういったことに興味津々なのだ。
文太は彼らの会話を聞くのが嫌いだった。
なぜかと訊かれても、上手く答えられない。
強いて言うならば、"自分が関与できないから"かもしれないと彼は思った。
(僕には関係ない事だ)
自分ほど長所を持たぬ人間が、果たしてこの世にどれほど存在しているのだろうか。
そしてその人々は、自分と同じように、恋愛に関与せずに生きているのだろうか。
文太は、将来の自分の姿を思い浮かべてみた。
きっと、妻も子供もいない。
寂しい一生を送るに違いない。
そうとしか思えなかった。
今まで、一度も女性に好かれた経験など無い。
これからも女性とは無縁の生活が続くのだろう。
(もしも僕に、恋人がいたなら……)
遠くの夕焼け空を見つめながら、空想を広げる。
スタイルが良くて、優しい人。
料理が得意ならなお良い。
毎日、僕を起こしてくれて、僕のために弁当を作ってくれるんだ。
僕は一生懸命働いて、彼女の待つ我が家に帰る。
そして、夜は、夜は……!
と、そこへ――――チリンチリン!
後方からの音に夢想を掻き消され、慌てて後ろを振り返る。
それとほぼ同時に、一台の自転車が文太を追い越していった。
いきなり現実に引き戻された文太は、
もう一度架空の女性を頭の中に作り上げようとは思わなかった。
なんだか、空しい気分になってしまったのだ。
(早く帰ろう)
嫌な思いを振り切るように、彼はその足を速めた。
「あら、文太君じゃないの。おかえり!」
住宅が密集している通りの十字路に差し掛かった時、
半透明のビニール袋を右手に提げている大人の女性に声をかけられた。
「あ、どうも。紫織さん、こんばんは」
文太は少し元気を取り戻したような笑顔で挨拶をした。
女性の名は香山紫織(かやましおり)。
辻原家の隣に住む二十八歳の主婦だ。
夫は海外へ単身赴任しており、紫織は小学一年生の娘と二人きりで暮らしている。
(ああ、綺麗だなあ、紫織さんは……)
優しい性格が表に滲み出たような柔和な顔立ち。
すっきりとした輪郭に、栗色のロングヘアー。
毛先には、軽くカールがかけられている。
身体にぴったりと張り付くような薄い生地のTシャツとスリムジーンズは、
彼女のボディーラインをはっきりと浮かび上がらせていた。
全体的にほっそりとしているのだが、胸と尻だけは例外的に大きく突き出ている。
それらが持つ美しい曲線は、括れたウエストと組み合わさってさらに魅力を増しているように思えた。
いつまでも観賞していたいと思えるものだったが、ジロジロ見て良いわけはない。
邪な思惑を感じさせないように、注意しながら視線を送った。
「ねえ、今日は久しぶりにウチで一緒に晩御飯を食べましょうよ。一人で食べるのも寂しいでしょ?」
笑顔で紫織が提案してくる。
文太の母親は彼を出産した直後に他界しており、父親はこの春から遠方へ単身赴任していた。
そういうわけで、彼は自宅で一人暮らしをしている。
隣同士の辻原家と香山家は元々家族ぐるみで仲が良かったため、
文太が一人になってからは紫織が彼を積極的に食事に誘っているのだった。
「はい。それじゃあお邪魔させてもらいます」
満面の笑顔での二つ返事だった。
香山家に招かれることは文太にとって大変嬉しいことである。
モテない上に口下手な彼がまともに交流できる女性は紫織だけだった。
それに、彼は同世代の女性にあまり関心が無いのだ。
(紫織さんと比べると、クラスの女子なんか、ただギャーギャーうるさいだけのガキだよな……)
ふわり、と甘い匂いが鼻腔をくすぐる。
二人並んで歩いているうちに漂ってきた、隣の女性の芳香だった。
文太はこの匂いが好きだった。
年少の女子には無い、濃厚な大人の女の匂いだ。
(結婚、か…………)
もし一緒に暮らすなら、紫織のような女がいい。文太はそう思った。
「今夜はね、ハヤシライスよ。楽しみにしててね」
「はい。期待してます」
夕暮れの道を、二人で帰る。
一人で帰るよりも、ずいぶんと太陽が優しく見えた。
「それでね、ネットしてたら急に電源がプチッと切れちゃって……」
香山家の台所は、夕食の香りに包まれていた。
テーブルの上には、ハヤシライスとサラダとコーンポタージュ。
ハヤシライスもコーンポタージュも、文太の好物だ。
「う〜ん。何か変なページを開いたんじゃないですか? ブラクラの可能性があると思うんですけど」
文太はパソコンに詳しいので、機械に疎い紫織の相談を受けることがよくあった。
今も、料理を口に運びながらパソコンの不具合について談じている。
そこにはもちろん、紫織の娘である小学一年生の直子もいた。
もっとも、彼女はまだ幼いので、今の彼らの会話は難しすぎて理解できないようであったが。
「ブラクラ、とかそういうのはよくわからないんだけど……。とにかく、直接視てもらえるかしら?」
「いいですよ。それじゃあ、この後すぐにでも」
二人で、二階への階段を上がっていく。
香山家のパソコンは夫婦の寝室に配置されている。
この部屋に入るのは初めてではないが、やはり緊張してしまう文太だった。
中学一年生の彼の性知識は、主にインターネットで得られたものだった。
子作りがどういった行為であるのかを、彼は既にある程度知っている。
それゆえ、どうしてもこの部屋での香山夫婦の夜の生活を想像してしまうのだ。
「たぶん、直せると思いますよ」
「そう、良かった。それじゃ私は洗い物をしてくるから、後はお願いするわね」
上機嫌でそう言って、紫織は一階へ下りていった。
「これでよし、と」
復旧作業は思ったよりも早く完了した。
急に手持ち無沙汰になってしまった少年は、
なんとなくキョロキョロと部屋の中を見回した。
部屋に入って右奥にあるのが夫婦用のダブルサイズベッド。
その右横にあるのがパソコン。さらにその隣には、
紫織が使うであろう大きめの鏡台があった。
それを眺めながら、今ここには無い熟女の姿を想像する。
ベッドに背を向けるようにして鏡台の前に座り、
美しいブラウンのロングヘアーをブラッシングする寝巻き姿の大人の女。
そして髪の手入れを終えた彼女は、
くるっと振り向いて優しく微笑んでくれるのだ……。
(ああ、いいなあ。旦那さん、いいなあ……)
そんなことを思いながら、チラッと横目で鏡台の隣の木製の洋服ダンスを見る。
あの中には、紫織の衣類が入っているはずである。
(紫織さん、どんな下着を穿くのかな……)
不謹慎であると理解してはいても、いったん始まった妄想はもう止まらなかった。
清純そうな紫織にはやはり白が似合うだろうか、いや、それともピンク?
様々な色が文太の脳内をぐるぐると駆け巡っていく。
彼は女性の下着についてあまり明るくなかったので、その形状を詳細に想像することはできなかった。
しかしながら、自身の股間を昂らせるには充分だったようで、既にズボンの前方はパンパンに張っていた。
そうなると、邪な考えが浮かんでくる。
息を止め、周囲の音をうかがってみた。
下の階の方に意識を集中する。
未だ、紫織が二階に上がってくる気配は無い。
(ちょっと見るだけだ。ちょっと見るだけだから、いいんだ、うん)
自分を納得させると、彼は自分の手を、
四段ある洋服ダンスの上から二番目の引き出しの取っ手にかけた。
余計な音を立てないように、恐る恐る自分のほうへ引っ張っていく。
すると、そこには意外な光景が彼を待っていた。
(えっ……!? すごい………………!!)
原色かと思えるほどに鮮やかな赤、青、黄。
朝露を付着させた草原のような緑。
高貴さと妖しさを秘めた紫。
闇夜を切り取ったかのような黒。
思春期の少年を惑わせる魔性の色彩が、そこにあった。
(こっ……こんな派手なパンツを穿くのかっ、紫織さんは……!)
きちんと配列された色の数々が行儀良く彼を迎える。
文太は心臓の高鳴りを感じながら、その中の一つにゆっくりと手を伸ばしてしまっていた自分に気付いた。
見るだけだと決めていたが、文太の脆弱な理性は下着を目にした瞬間吹っ飛んでいたのだ。
(べ、別に盗るわけじゃないし……後でちゃんと戻しておくから、い、いいだろ……)
彼が手に取ったのは、一際目を引いた真紅のショーツ。
シルクの表面は複雑な装飾が施されており、保温などの基本的な下着の機能以上のものを彼に感じさせた。
さらに彼を驚かせたのは、その形状だ。
臀部を覆う役割を持つはずの部分はかなり小さめに作られており、
それはいわゆる"Tバック"と呼ばれているものに違いなかった。
中学一年生の文太には刺激が強すぎる下着。
同じタンスに収納されている他の下着も、同様の装いで彼を驚かせるのだろうか。
(…………いけない……いけない………………………………でも…………)
燃えるように赤いショーツを左手に持ち、空いた右手をそぉっと引き出しの中の下着へと近づけていく。
なんという恥知らず。なんという痴れ者。自身を蔑む言葉が脳内に無数に現れる。
しかし、少年の欲望はそんなものでは止まらなかった。
指先が、ラベンダー畑を小さく濃縮したような紫色の下着に触れる。
と、その時だった。突然、寝室のドアが勢い良く開いたのだ。
「――――――――わああああぁぁぁぁぁぁっっ!?」
「……っ! ちょっと、なにやってるの!」
怒声。
それはそうだ。
引き出されたタンス。
彼の手にはショーツ。
無罪を主張できる状況ではない。
この部屋の主は、今まで彼に見せたことの無い鬼気迫る表情で仁王立ちしていた。
興奮のあまり周囲への警戒が疎かになっていた愚かな少年は、咄嗟の弁解もできずに金魚のように口をパクパクさせるだけだった。
「で、どういうことなのか説明してくれるかしら?」
香山家宅の一階にある和室で、二人は向かい合って正座していた。
紫織は腕組みをして目の前の少年をじっと見つめている。
文太は目を合わせられずに俯いておろおろするばかりだ。
「それは、その……ええと、あの…………」
「はっきり言ってくれなくちゃわからないわよ」
「ううぅ………………」
羞恥でこれ以上ないほど赤面している文太は、
有益な意味を持たない言葉の羅列を口から漏らすばかりで一向に要領を得ない。
「ほら、怒らないからちゃんと言ってよ」
そう言われてやっと、少し緊張が解けたのか、文太はおどおどしながら言葉を紡いでいくのだった。
「あ、ええと、し、下着に……」
「興味があったのね? 見てみたかったのよね?」
「そ、そうです……」
「だからタンスの中を調べた。誰かに命令されてやったことじゃないのよね?」
「は、はい。すみませんでした」
観念し、罪を自白する。
彼の表情は諦めの色で染められていた。
(ああ、もうだめだあ……全部終わった……)
意気消沈する少年。
しかしながら、紫織の口から出た言葉は予想外のものだった。
「……それならいいのよ」
「はひっ!?」
思わず、素っ頓狂な声を上げてしまった。
何が「いい」というのか。
性衝動に突き動かされた物色行為に何の肯定要素があるというのか。
文太には理解不能だった。
「私はね、君がイジメっ子とかに強要されてやったんじゃないかと思ってたの。
こんなこと言うと失礼だと思うけど、文太君って気が弱そうでイジメられそうなタイプでしょ?
だからそういうことなんじゃないかなーって心配したんだけど、違うならいいわ」
「え、ええっと、でも僕……」
あれだけのことをした自分を、無罪放免にしてくれるということなのだろうか。
果たして、そんな夢のようなことがあっていいのだろうか。
いや、これはひょっとして夢の中の出来事では。
それとも、自分はとうとう現実と妄想の区別が出来ない人間になってしまったのか……。
そして、自分自身の正気を疑い始めた少年を現実に引き戻すように、人妻は真意を語り始めた。
「いいのよ。見つけた時はびっくりして怒鳴っちゃったけど、君ぐらいの年頃の男の子なら女性に興味を持ってて当然なんだから。私はむしろ、嬉しく思ってるくらいよ」
「う、嬉しい、ですかぁ……?」
文太は驚きのあまり顔を上げた。
ああ、もう何がなにやら。
紫織さんってこんな人だったっけ……?
「ええ。だって君、なんとなく現実の女性よりも漫画とかアニメに出てくる女の子を好きそうじゃない? そういう妙な人達とは違うんだなーってわかって、安心したのよ」
文太は一瞬自分の心の内側を覗かれたような気持ちになった。
図星だったのだ。
優しさの欠片も無い三次元の女よりも、自分の脳内で都合良く補正できる二次元の女のほうがずっと素晴らしいじゃないか。
紫織とその娘の直子という例外はあったものの、毎日そう思って生きてきたのだ。
二次元愛好家達への偏見はあまり気持ちの良いものではなかったが、
しかし、紫織に気にかけてもらっていたという事実は素直に嬉しいと思えた。
(というか、ニジオタって世間じゃ病人みたいに思われるのが普通なんだよな。紫織さんがそういうふうに悪く思うのも当然か……)
「……で、ここからが本題なんだけど」
少しだけ冷静を取り戻した文太に、紫織は話を切り出した。
心なしか、顔がうっすら赤くなっているように見える。
「君、大人の女の人に興味があるわけよね?」
紫織は恥ずかしそうに目を横に逸らしてみせた。
一体、何を言おうとしているのだろうか。少年には全くわからなかった。
「その…………もし……も、もしもだけど、あの……」
膝の上で組まれた手の指がせわしなくと動いている。
躊躇しているのだろう。
こんなにも含羞の色が濃い紫織を見るのは初めてで、文太は新鮮な感覚を覚えた。
「……お、教えてあげてもいいのよ、私が」
「え?」
「私が、文太君に、女の人の事を教えてあげるって言ってるの!」
「え」
「せ、セックス、したいんでしょ?」
「………………………………………………………………」
沈黙。
気まずい沈黙。
まさか、日頃付き合いのある隣家の子持ち人妻の口から、"セックス"という単語が飛び出てくるとは。
ぽかんと口を開けたまま、少年は思考停止してしまった。
「どうなの? 私と、したくない?」
追い討ちをかけるように、上目遣いで紫織が迫る。
文太の心が用意した返事は、実に本能に優しいものだった。
「うっ……うあっ……はあ、はあっ……!」
午後十一時半。
夜の寝室に、少年の喘ぎが浮かんでは消える。
ここは香山家の夫婦用ダブルサイズベッドの上だ。
幼い直子を寝かしつけた後、紫織は一度帰った文太を再び家に招いた。
今はお互いパジャマ姿で向かい合う形で接近しているのだが、
文太はズボンとトランクスをずり下ろされた状態だった。
紫織が脱がしたのだ。
あらわになった股間には、彼の年齢から考えるとやや大振りな突起が元気良く立ち上がっていた。
包皮が余っているようで、陰茎の表面にはシワが寄っている。
そしてそのカワッカムリのペニスには、細長く美しい指が絡んでいた。
白くしなやかな右手が上下に行ったり来たり。
包皮が亀頭に被ったかと思ったら、すぐ剥かれる。
その繰り返しで、少年の先端は痺れるような愉悦を感じさせられていた。
「うあっ、ううぅっ!」
「感じるのね? ここがいいのね? ふふっ」
しゃべれば顔に息がかかるほどの至近距離で、艶かしい声色を聞かせてくる。
紫織はまるで長年修練を積んだ娼婦のように、無経験の少年を圧倒していた。
その手つきに迷いは一切無く、器用に勃起を責め立てる。
文太には気付けなかった事なのだが、紫織は少年がすぐに終わってしまわないよう、手加減して楽しんでいた。
「すごぉい……こんなにピクピクしちゃってるわぁ。なんて可愛いの……」
セックスは人妻の十八番である。
紫織も人妻なのだから、ある程度のことは文太にも予想できた。
しかし、こんなにも淫靡な女性だったとは。
普段の彼女とは似ても似つかない妖しい雰囲気が感じられた。
全く色気を感じさせないピンク色の普通のパジャマに身を包んでいるのが不釣合いに思えるほどに。
(うっ……すっ、すごいぃぃっ! 自分でするのと、ぜんっぜん、違うよぉぉぉっ!!)
少年は背を反らせ、天を仰ぐようにして必死に快感と闘っていた。
小学四年生の頃に覚えたオナニーで、彼は手淫の気持ち良さを充分知っていたつもりだったのだが、しかしこれは別物だった。
自分の手と他人の手が、これ程までに快感度に大差を生じさせるものなのか。
一体、今までしてきた自慰行為はなんだったのだろうか。
そんなふうに思えるほど、隣家の人妻による手コキ責めの気持ち良さは桁違いなのだ。
「ほら、もう出そうなんでしょ? 出しちゃいなさい、遠慮しないで」
紫織は強張りを扱くペースを速くし始めた。
生まれて初めての抗えぬ性感に翻弄される文太。
自慰ならば快楽を自分で制御できた。
しかし、これは違う……!
無慈悲な魔手は他人の葛藤などお構い無しに性刺激を叩き込んでくるのだ……!!
性なるマッサージによって先走った透明な汁が、熟女の手を濡らしている。
それが文太には妙にエロチックに見えた。
沸き起こる射精への衝動は、今にも暴れだしそうなくらい高まっている。
「でっ、でっ、出る! 出ますっ!! 出ますぅっ〜!!!」
情けない裏声と共に、弱冠十三歳の肉茎は限界を超え、勢い良く白い内容物を吐き出し始めた。
激しい絶頂感に身を震わせ、ビュクビュクとスペルマを噴出し続ける彼の顔は、実にだらしなく呆けていた。
「ふふふっ、気持ち良かったかしら……?」
白いマグマの噴火は二十八歳の熟女の右手をたっぷりと汚した。
彼女は感触を確かめるように――――もしくは愛おしむように――――指で白濁液を弄ぶ。
なんて淫靡な戯れ。
「はっ、はいぃ、よ、よかったれすぅ……」
このまま眠ってしまいたいと思えるほど彼は疲弊していた。
初めて手コキをしてもらえたというのは嬉しかったのだが、極度の緊張感は肉体を大いに消耗させたのだ。
しかし、夜のスイッチがオンになってしまった淫妻は、
彼に休む暇を与えるつもりなど無いとでも言うかのように、すぐに次の行動に出た。
パジャマのボタンを上から外していき、前部分を露出させる。
ブラジャーは無かった。布地の間からは、たっぷりと肥大したHカップの双乳が覗いている。
「じゃあ、こういうのはどうかしら……?」
くすくすっと笑いながら、急速に萎んでいく肉茎を自分の乳房で挟む。
そして、顔をソレに近付けて――――
「はうぅっ!?」
イッたばかりの突起を刺激され、くすぐったいような感覚に襲われる。
(なっ……ええええっ!?)
紫織は大きな胸で挟んだペニスの先端を、舌でペロペロと舐め始めたのだ。
しかも、ただ舐め回しているだけではなかった。
口内の唾液を積極的に垂れ流し、精液まみれの陰茎をさらにグチョグチョに汚していく。
そして、胸を擦り付けるようにしてサオの部分をイジめてくるのだ。
「うああっ、ううっ、はあっ……!」
二十八歳の人妻による、至高のパイズリフェラ。
文太は普段から紫織の巨乳を気にしていた。
いつか、あの豊満なバストを思う存分揉みまくることができたら。
ああ、ずっと憧れの存在だった二つの果実は、
今、自分のペニスを右から左から圧迫して責め苛んでいるのだ……!
(なんて……なんてイヤラシイんだ………………紫織さん……!)
その興奮はすぐに末端へと充填され、生殖器が覇気を取り戻した。
「うふふっ、やっぱり若いのねぇ。ステキよ、文太君……」
硬くなった剛直へと、うっとりした表情を浮かべてみせる。
少年の名前を呼びながらも、意識は彼の股間に集中しているようであり、
まるでイチモツと会話しているかのように文太には思えた。
ふと見れば、彼女の乳首は健康的な美しいピンク色だった。
何者にも汚されていない純真さを感じさせつつも、それは確かな淫靡さを醸し出していた。
「――――あおぅっ!」
乳突起に見とれてボーッとしていた少年の意識を呼び起こすように、強い痺れが下半身を襲ってきた。
紫織が鈴口に舌をねじ込んできたのだ。
柔肉に挟み込まれた剛肉が、もう堪らないとばかりにヒクヒク脈動する。
それに敏感に反応した年上の女性は、目を細めて不満そうに呟いた。
「ええっ、もうイッちゃいそうなの? 情けないわねぇ。男の子でしょ、二回目なんだから、もっと頑張りなさい、ふふふっ」
紫織の揶揄に対しては、返す言葉が無かった。
どうしてだろう、むしろ、もっと言って欲しいとさえ思えた。
屈辱を感じれば感じるほど、文太の性感は鋭敏になっていくようだった。
(ぼ、僕ってこんなに変態だったんだ……!)
マゾヒスティックな快楽が、少年の身を焼いてゆく。
普段から親交のある隣家の住人に見下される屈辱感。
おそらく、紫織だからこそ許せるのだ。
もしもこれが同じクラスの女子ならば、同様の反応をしていただろうか――――いや、していないはずだ。
信頼の置ける相手だからこそ、その信頼を裏切るように悪態をつかれても構わない。
ああ、これは大いなる矛盾だろうか?
もはやどんなふうに踏みにじられても逆に快感となりそうで文太は少し恐怖を感じた。
「うっ……くぅっ…………はあ、はあっ……………………!」
「だらしない顔しちゃって、よっぽど気持ち良いのねぇ」
紫織も少年のマゾ性に気が付いたのか、積極的に言葉で嬲ろうとし始めた。
圧倒的なボリュームの乳果実、繊細に動き回る舌先、そして艶かしい声色で紡がれる言葉責め。
それら三要素が混在となり、相乗効果で身悶えするほどの快感を与えてくる。
「ああ、もう耐えられないの? しょっぱいお汁をこんなに溢れさせちゃって……」
二十八歳の子持ち人妻は、まるで食事をするかのように平然と肉竿を舐めしゃぶっている。
それが少年にとっては信じ難いことであった。
排泄をするための穴をこんなふうに口でいじくりまわすなんて、自分にはとてもできそうにない。
文太の思考の中に、香山夫婦の夜の営みの様子が浮かんだ。
紫織は夫とする時も、こんなふうに男を楽しませているのだろうか。
夫は、紫織の排泄孔を愛撫しているのだろうか。
望めば毎日のように紫織と愛し合うことのできる立場の夫に、文太は嫉妬した。
眼前では、唾液と精液と先走り汁にまみれた劣情ソーセージを、
柔らかな大型美白パイが包み込んで押し潰すように刺激していた。
年季が入っているその動きを見れば見るほど、この部屋で日常的に行われていたであろう夜の営みを想像させられる。
悔しさを噛み締めながら、文太は股間を直撃する衝撃と闘っていた。
腕利きの娼婦まがいの淫攻に、少年は「ひぃ、ひぃぃぃっ」と女々しい声を上げ続けている。
「あらあら、もう限界なのね。もういいわ、ふふふっ、いつでも出していいわよ……!」
「あっ、はっ、はいぃ〜! イキますぅっ! ああぅあぁぁぁっ――――――――!」
彼の絶叫と共に、内部を熱液が駆け抜ける。
「きゃっ!」
紫織は短い悲鳴を上げた。
二回目とは思えないほど大量に吹き上げた白濁が、勢い良く彼女の顔面を直撃したからだ。
「はぁ、はぁ…………っ、ごっ、ごめんなさい!」
「いいのよ。若いっていいわね。二回目なのにこんなに濃いなんて……」
妖しく微笑みながら、顔に付着したスペルマを指で掬い取り、また前のように指で弄び始めた。
そしてその指を口元へ近付けたかと思うと、なんと舌で舐め出したではないか。
(えっ……ちょっ……!?)
「うふふ、文太君の、おいしいわ…………」
それは淫靡な食事。
行儀の悪いその摂食は少年の目には毒とも言えるほど妖艶だった。
今の紫織なら、胸に付いている汚濁液すら美味しそうに口に運んでしまうだろう。
そんな人妻の様子を間近で見ていると、少年の中に小さな疑念が生まれた。
いや、正確には、それは紫織に誘われた時に生じたものだった。
そして文太は、胸の中でしこりのようになってしまった濁った思いを、小声で呟き始めた。
「どうしてですか……?」
「え?」
「どうして、こんなことしてくれるんですか……?」
文太は、視線を下に向けたまま、少し大きな声で続けて言った。
「僕は、何にも無い男です。勉強も運動もできません。見た目だって最低クラスだと思います。…………そんな僕に、どうしてこんなことをしてくれるんですか」
彼の声は震えていた。
自分の嫌悪している部分を次々と挙げていくというのは、
文太にとって自身の胸を抉るような行為であった。
だが、しかし、どうしても言わなくてはならないような気がしたのだ。
納得できなければ、それ以上前へ進めないような気がしたのだ。
真剣な顔で問い詰める文太に対し、紫織はしばしの沈黙の後、口を開いた。
「実はね、私……文太君みたいな男の子、大好きなの」
「ええっ!?」
「斜に構えてるような雰囲気かな。なんだか放っておけないっていうか……うーん、上手く言えないけど、母性本能くすぐられちゃうような感じね」
それはあまりに意外な回答だった。
自分は女性に好かれない――――むしろ、嫌われるタイプの男性だと思っていたからだ。
日頃親身に接してくれているとはいえ、まさか紫織が自分のことを好いてくれていたとは。
文太は目をまん丸にして驚くことしかできなかった。
「夫がいる身でこんなことするなんて、本当に悪い女だと思ってるわ。でもね、やっぱりどうしても君のことが頭から離れないのよ」
なるほど、紫織は単なる多情な女性ではなかったのだ。
性欲を第一の理由として迫ってきたのではなかったのだ。
文太はそう解釈した。
「…………それにしても、まさか、私の下着をこっそり見ようとするなんてね〜、うふふっ」
「あっ、す、スミマセン……」
「もういいのよ。許してあげる」
紫織はニコッと温かく微笑んでみせた。
文太が紫織に惹かれる最大の理由は、きっと彼女の母性なのだろう。
全てを優しく包み込んでくれるような紫織の雰囲気が、仕草が、言動が、
文太の無意識の中にある亡き母親を求める心を刺激するのだ。
「元気出して文太君。まだまだ夜はこれからなんだから……」
美しき人妻の艶かしい一言に、少年の股間は再び生気を取り戻し始めるのだった…………。
「ふふふ、そんなに見つめないで文太君。恥ずかしいわ……」
そう言ってはいるものの、紫織はどこか誇らしげな様子だった。
寝巻きを脱いだ二人はベッドの上で向かい合っている。
照明を点けたままにしてあるので、互いの裸身がよく見える。
(ああ、綺麗だ、本当に綺麗だ、紫織さん……!)
彼女の爆乳Hカップは全く垂れることなく、自重に逆らうようにして前方に大きく突き出ていた。
真横から見ればその美しさと量感がどれほど圧倒的であるかがよくわかるだろう。
二十八歳の成熟した肉体は童貞少年の視線を釘付けにしていた。
(これは夢なんじゃないだろうか。あの紫織さんと、僕が……)
小学三年生の時に、薄手の夏服に身を包む紫織を見て性に目覚めた。
小学四年生の時に、オナニー行為を覚えて紫織をネタに一人で楽しみ始めた。
そして今、憧れの隣家の子持ち人妻が、一糸纏わぬ姿で童貞を奪ってくれようとしている。
ひょっとしたら、自分は才能の代わりに幸運を持って生まれてきたのではないだろうか。そんなふうに思えた。
「それじゃあ、始めようかしら……」
紫織は文太を仰向けにさせると、その上に自分が跨った。
歳の差は十五。紫織が中学三年生だった頃に、文太は産声を上げたことになる。
生きてきた時間というものは、時に人と人との溝を深めてしまう。
"年上だから"、"年下だから"、という観念が障害になることがある。
そうして人は人を遠ざけてしまう。
そして、人生の時間差はどうにもならない。
人は一年間に一つしか歳をとれないのだ。
絶対的である年齢差は解消できない。
だが、人は繋がることができる。互いを求める気持ちがある限り。
「嬉しいわぁっ……文太君の初めてを、私がもらっていいのよね……!」
人間椅子の中心――――――――突起部分に紫織が腰掛けた瞬間、文太はニュプッという音が聞こえたような気がした。
「うあぁっ――――――――!」
高熱の肉に包まれるという未知の感触。
まるでじっくり煮込んでトロトロになった熱々の豚肉が
紫織の内部に存在しているのではないかと文太には思えた。
「ああんっ、久しぶりだから感じちゃうっ……!!」
歓喜の媚声。
何ヶ月ぶりの生勃起を咥え込むことができて、紫織は実に嬉しそうな表情を見せていた。
それはまさしく雌の悦びを充分に知っている成熟した獣のそれだった。
「どう、初めての女の人は?」
少年を見下ろしている上位の存在が問う。
口元に浮かべた笑みは余裕の表れでもあった。
「あ、あったかいですぅ……!」
それに、凄く気持ち良い。
自分が全く動かなくても、おそらく数分で果ててしまうだろう。
女の中というのは、これほどまでに非常な快楽を与えてくれるものなのか。
文太は至高の愉悦を教えてくれた紫織に感謝と畏敬の念を抱いた。ああ、彼女は女神そのものだ……!
「じゃあ、始めるわよ……ふふふ……」
「あっ、うおわっ…………!」
やおら腰を動かし始める。それはわずかな振れ幅だった。
しかしそれでも、文太にとっては大きな性感衝撃だった。
肉襞が傘の部分を擦り上げ、早く果ててしまえと苛んでくる。
紫織も傘で肉襞を引っ掻かれ、強い快楽を感じていた。
「あっ、はぁっ、あああっ……!」
少年を尻に敷き、腰を揺らして喘ぐ。
二十八歳の女の孔の道を、中学一年生の膨張した一部がヌプリヌプリと淫猥な音を立てながらゆっくりと出入りしていた。
「あはぁっ、カタいのってイイわぁ。若いって凄いのねぇっ。わ、私、負けちゃいそうよ、ああんっ」
今の紫織は、快感に身をくねらせながら少年のイチモツを賛美する卑猥な生き物。
それは醜悪な怪物ではなく、むしろこの上なく美しき幻獣のようだと文太には思えた。
「ねえ、見えるかしら……? 私と文太君、今一つになってるのよ。……ほら、繋がってるの、見える……?」
「あ、は、はいっ、見えますっ……くうぅっ……はあっ……」
それは甘美な光景だった。
劣情を溜め込んだ自分の一部が、ピンク色の二枚貝のような淫裂を突き刺しているのだ。
そしてその秘貝の奥にある雌孔から出たり入ったりを繰り返している。
グッチャグッチャと淫靡な摩擦音を響かせながら。
(すごい……こんな…………ああぁ…………!)
無上の感動が脳天を突き抜ける。
そして彼は、気付いた時には既に腰を動かし始めていた。
女の身体を教えてくれた紫織に報いるように、腰を打ち上げていく。
「あっ、ぶっ、文太君っ……!?」
突然の反撃に驚く紫織。そう、男が一方的に貪られるだけが騎乗位ではない。
(あっ、すごいっ、文太君ったら、童貞なのにっ、激しいっ……!)
文太の繰り出す初めてのピストンは、勢いは良かったがリズムが一定していなかった。
だがどうやら、それが功を奏したようだ。
「あはぁんっ、そっ、それイイっ! イイわぁっ! もっと突いてっ!」
意外性のある動きは、紫織を大いに惑わせ、そして悦ばせた。
その不安定な突き上げが四十回目に至る頃には
既に彼女の内部は本気汁でグチョグチョになっていた。
「ああっ、もうたまらないわぁっ!」
熟女の口から次々と漏れるアルトの媚声。
彼女の美爆乳が揺れる、揺れる。
清楚で慎ましやかなはずの隣家の子持ち人妻が、自分の上で跳ね、輝くような裸身を震わせている。
(ぼ、僕は本当に紫織さんとセックスしているんだ……!)
雌肉に絶えず締め付けられている男根の気持ち良さが、性交の実感をさらに強めている。
自分も腰を動かすと快感が更に増幅されるのがよくわかった。
あまりの気持ち良さに、文太は自身の終わりを間近に感じていた。
「うぅあっ、いっ、イキますっ! もう無理ですぅっ!」
拙い運動は終焉へ向けて加速を始めた。
今まで以上の力強さで上へ上へと腰をぶつける文太。
「あっ、だっ、出してぇっ、中に出してぇっ!!」
「うぅぁっ……あぁっ……!!」
文太は一瞬だけ頭の中が真っ白になっていく感覚に襲われた。
それは紫織も同様だった。
「ああんっ、イクぅっ、あああぁぁぁっー!!」
甘い叫び声が搾り出されたその瞬間、人妻の膣内で、少年の欲望が弾け飛んだ。
高圧で噴出された白濁の連射が、雌蜜でトロトロになった内部をこれでもかと叩きまくる。
元気な肉棒から次々と射出される白い雨。
まさに豪雨と言って差し支えないものだった。
この激しさは、結婚当初既に三十代半ばだった夫とのセックスでは味わったことが無かった。
紫織が受け止めたものは、少年の若さそのものなのかもしれない。
(はあぁ……これが、セックスなんだ……!)
官能が脳天を突き抜け、全身が吹き飛びそうな悦楽を感じて呆けていた文太だったが、突然口を塞がれて我に返った。
「んんっ…………!?」
自分の唇に触れているのは、紫織の唇だ。
そして真っ赤な口紅を引かれたその形の良い唇から、熱い舌が口内へ侵入してくる。
有無を言わさず押し入られたので、文太はなんだか犯されているような気分になった。
だが、もちろん嫌ではなかった。
好きな女性が積極的に迫ってきてくれるのはやはり嬉しい。
(普通のカップルがやってるようなことを、僕は今やってるんだ……紫織さんと……)
テレビドラマなどでよく見かける恋人同士のキスシーン。
それが現実になっているという非日常感。
まるでこのベッドの上が劇場の舞台のようだ。
ちゅぱっ……くちゅっ……ちゅぱっ…………ちゅぱっ……くちゅっ……。
上でも下でもつながっている状態。深い深い接吻は、少年により強い一体感を抱かせた。
「ん……キスは初めてよね……?」
「は、はい」
「ごめんなさい。順番が逆になっちゃったわねぇ……ふふふっ」
やはり普通は初キスの後に初エッチをするものなのだろうか、と文太は思った。
「んっ…………」
紫織がゆっくりと腰を上げると、女の穴から少年の突起が姿を現す。
男と女の生殖液でドロドロになったそれは、果汁を搾り採られた後の果実のように情けない姿を見せていた。
外気にさらされたそれは、急速に熱を失っていっている。
文太としては、もう少しだけ彼女の温かく気持ちの良い体内に入っていたかったというのが正直な気持ちであった。
達成感と一抹の寂寥感。
とにかくこれで一つ終わった、という気分になっていた文太だったが、しかしながら、紫織から口から意外な一言を聞くことになるのだった。
「……ねえ、もう一回できるわよね?」
「ひぃっ!?」
「若いから大丈夫よ、たぶんね」
いや、そんな……四回目なんて……。
文太は一日に六回射精した経験を持っているのだが、
こんなにも短い間隔で発射したことは一度もなかった。
勃つはずがない、と思っていたが、しかし紫織の右手に扱き立てられると、
役目を終えてしょげていた陰茎はすぐにその性機能を復旧させた。
あまりにあっけない再充填に、文太自身が驚きを隠せない。
「今度は、君が挿れてみて」
言われるままに腰を押し付けるが、しかし、なかなか上手くいかない。
仕方が無いので、紫織はペニスを持って自身の入り口に先端を当ててやった。
「どう? できるかしら…………あっ……んっ……」
すると今度はあっけなく入り込んだ。
ぬかるんだ洞穴は、その高い粘性でオスの侵入を促す。
「あんっ、あっ、あっ」
文太の抽送が始まると、すぐに吐息が乱れていった。
それと同時に、むっちりとしたフトモモが少年の腰に絡み付いてくる。
騎乗位の時よりも高い密着度は、文太に強い一体感を抱かせた。
女体の熱が、触れ合う肌から伝わってくる。
汗ばんだ二匹のケダモノは、互いの分泌液を交換するかのように身体をくっつけて動いていた。
「いいわあっ、文太君、最高よぉっ! あっ、あはあっ、あっ、もっ、もっと激しくっ! もっと激しくしてぇっ!」
ほんの数か月前まで小学校に通っていた少年が、成熟した色香を放つ大人の女性に覆いかぶさって腰を振っている。
それは実にインモラルな光景だった。
「んっ、あっ、ふあっ、んんっ」
下半身だけでなく、唇や舌も互いを求めて積極的に動く。
今、彼らは一体になっていた。
もうすでに二人の間にはなんの障壁も無いかように文太には思えた。
「ああんっ、文太君の、硬いのっ、すごいっ!」
正常位での単調な往復運動。
上手とは決して言えないであろうそのピストン運動は、しかしながら紫織の性感を大いに刺激した。
肉槍の突撃を受けるたびに、身体の芯が燃え上がる。
膣孔をぐちゅぐちゅ掻き回されると、失神してしまいそうなほど強烈な悦楽が全身に広がっていくのだ。
若いオスの元気なペニスは、ただ挿れられているだけでも気持ち良い代物だった。
そんな極上の肉棒で力強く擦られまくっているのだから、なおさら気持ち良くなってしまうのである。
「うあっ、ぼっ、僕もっ、紫織さんのでっ、すっごく、すっごく気持ちイイですっ!」
突けば突くほど、女の喘ぎは激しさを増す。
絶頂へと向かっていくほど、紫織との一体感が高まっていくように思えた。
「はあっ、もっと、もっとしてぇっ、私をイカせてぇっ!」
熟女の淫らなおねだりに応じるように、男子中学生は全力で下半身を動かし始めた。
先程の騎乗位の時よりは余裕があるが、しかしこれだけ激しい摩擦を受けていては我慢がきかなくなってくるというものだ。
(うっ、だっ、だめだっ)
終わりを悟ったその時だった。甲高い官能の叫びが耳に飛び込んでくる。
紫織のほうが一瞬先に音を上げてしまったのである。
「あーっ、イクっ、イクのぉ――――っ!!」
「あ、あ、ううぅっ」
腰の辺りをブルブルと震わせ、情けない声を上げながら、少年は果てた。
四回目にしては多めのスペルマが、熱く火照った肉洞へと吹き付けられる。
「はあ、はあ、はあ、はあ…………」
連続発射で疲れきった文太は、倒れるようにぐったりと身体を預けた。
彼を抱き止める紫織は、「満足だ」とでも言いたげに笑みを浮かべて深く嘆息する。
つながったままの二つの生殖器。その結合部からは情欲の白き残滓が溢れてトロトロと流れ落ちようとしている。
そして、少年と熟女はそのまま眠りについた。
「あっ、あっ、いっ、ああんっ」
あれから数十日後。
二人は昼間から台所でつながっていた。
紫織は毎日料理をするための場所――――すぐ横にはシンクがある――――に手をつき、
立ったまま尻を突き出して後ろからの衝撃を受け入れている。
文太は紫織の腰に手を当て、白く美しい尻に自分の肉根を叩きつけていた。
十五歳差の男女はまるで本当の夫婦のようにタイミングを合わせて腰を振っている。
毎日のようにセックスを繰り返していたので、
二人はまるで呼吸をするように自然にまぐわうことができるようになっていた。
「あはあっ、ひいっ、あああんっ」
「おわっ、イイっ、凄く締まってますっ! やっぱりこの格好でヤルと、紫織さん、興奮するんですよねっ?」
そう言って、舐めつけるような視線を紫織の"衣服"へと向ける。
彼女の背中は大きく露出しており、尻に至っては丸見えであった。
これは、紫織が裸体にエプロンしか身に着けていないためである。
これは完全に文太の趣味であり、成人向けの漫画の影響が色濃く反映されていた。
そしてその、全裸にエプロンのみを着用するという奇妙な装いが、紫織に新鮮な興奮を呼び起こしている。
一方、文太は全裸だった。
「ああっ、そっ、そんなことないわっ! あんっ、私、そんな変態じゃ、ああ、な、ないのにぃ! はあああっ……!」
「そ、そんなこと言って、紫織さん、こ、こんなに濡らしちゃってるじゃないですかぁ」
文太が焦らすようにゆっくりと抽送し始めれば、紫織は物足りないとばかりに自分で腰を動かそうとする。
一度つながってしまえば、紫織はもう文太のいいなりのような状態になってしまう。
少年にとって、年上の女性を弄ぶという愉悦はこの上ないものであるように感じられた。
「あぅんっ、ちっ、違うのぉっ、私、こんな……あっ……はあっ、ああっ、イイっ!」
自身の変態性を否定するために気丈な態度を表わそうとしても、肉の快楽には抗えない。
勢い良くドスドス突き込まれればいっそう強く喘いでしまう。
若茎ピストンの甘美な衝撃により、悦楽ではしたなく歪んだ顔が仰け反り、天井を向いた。
それは雌としての幸せを享受できた女の心底嬉しそうな表情であった。
後ろにいる文太にはよく見えなかったが、紫織の淫らな啼き声を聞いていればだいたい想像できた。
文太は、前に伸ばした指先で布地越しに乳首をコリコリと弄り始める。
刺激を受けてしこりきった乳頭はエプロンを押し上げてその存在をアピールしていた。
「ああっ、すごいっ、おっぱい、イイのぉっ!」
そして、充血したクリトリスを片方の手の指の腹でくじる。
その執拗な撫で回しは、まるで軟膏を塗り込もうとしているかのようであった。
乳豆とクリ豆の両方から痺悦を喰らわされ、彼女の性感神経はこれでもかと刺激される。
両手で愛撫をしていても、少年の陰茎は愛液の溜まった膣内を激しく撹拌することを忘れない。
ただ闇雲にピストンをしているわけではなく、その動きはきちんと紫織の気持ち良いツボを突いていた。
それだけでなく、少年は腰を複雑に円運動させることすらできるようになっていた。
文太は確実に成長しているのだ。
自分に何も無いと思っていた文太だったが、どうやら性交の才能はあったようで、
あの夜の初体験の時の拙さが嘘だったかのように、現在は紫織を簡単にイカせることができるほど上達していた。
紫織のほうはというと、文太の予想外の成長ぶりに喜びつつも、年下の少年に主導権を握られる悔しさを感じていた。
やはり彼女にも、年上の女性としてのプライドというものがあるのだろう。
女を極みへと導いた男は、付け上がって傲慢になることが多い。紫織はそれを危惧していた。
彼女はまだ上位の存在でありたいと思っているのだ。
文太としては、完全な主従逆転を狙ってはいないようだ。
ただ単に、自分の責めで感じてくれている紫織の様子が可愛く思えて仕方ないといったふうである。
(ああ、大好きだ、紫織さんっ)
家捜しに端を発した肉体関係により、文太の生活は一変した。
あれからずっと、隣家の子持ち人妻の身体で思春期の盛んな欲望を満たす爛れた日々を送っている。
右手が夜の恋人であった少年は、他人と一緒に快楽を共にすることの素晴らしさを知った。
なるほど、肉体関係を持つということは、こういうことなのか。
彼は夫婦になるということの利益を存分に堪能していた。
一方、紫織はというと、性欲を持て余す男子中学生を相手にするということがどういうことなのかをこれでもかと思い知らされていた。
中学生という年頃の少年は、健康体であるならばやはり性衝動が強いのが普通である。
それは文太も例外ではなかった。
いや、人一倍性欲の強い少年であるとも言えた。
短時間で四回、多い時では六回も射精できるという男性はなかなかいないだろう。
二人とも、何度身体を重ねても飽きを感じるということが全く無かった。
「文太君っ、あっ、あっ、わ、私、もう…………!」
まだまだ幼い顔立ちの少年に、十五も歳の離れた大人の女性は追い詰められてしまっていた。
「あっ、あっ、イクっ、イクイクイクぅぅぅぅ――――っ!!」
立ったまま後ろから突かれ、身体を前後に揺らされている紫織。
雌の悲鳴を上げると同時に身体を仰け反らせ、達してしまったことを少年に教えてしまう。
それに一瞬遅れて、文太の肉砲も火を噴いた。
体内に埋まったイチモツが激しく痙攣し、先端から白い劣情の塊が飛び出す。
熱く火照った膣壁に雄粘液を勢い良く叩き付けられ、紫織は更なる極みへと達してしまう。
「ああっ、またイク、イッちゃうぅぅぁぁああっっ!!」
剥き出しのヒップを震わせ、結合部からぷしゅぅっと女の汁を噴き出す。紫織は連続絶頂を極めた瞬間、潮を吹いてしまったのだ。
「ううっ」
反撃とばかりに括約筋がぎゅぎゅっと締め付けてくるので、文太はたまらず低く呻いた。
それはまるで、最後の一滴まで精液を搾り採ろうとしている雌そのものだ。
文太が腰を引いて分身を女孔から引き抜くと、逆流した精液が結合部から床へと垂れ落ちていく。
白く糸を引いている粘液は綺麗に掃除されたフローリングを汚していった。
「ああんっ…………」
若肉を抜き取られた時に人妻は不満そうな声色で甘く喘いだ。
そのままずっと挿れたままにしておいてほしいと言っているかのような調子だった。
「ねえ、キスして…………んっ……」
二人は抱き合って深く唇を重ねた。紫織のほうから情熱的に積極的に舌を絡めている。
(文太君……好きよ……!)
男として増長していく小憎らしさを感じつつも、やはり文太のことが可愛くて仕方ないのだ。
そうして長い間互いの唾液を貪りあった後、二人は次の行為を始めた。
「うっ……はあっ………………あぅっ…………」
文太はひんやり冷たいフローリングの床の上に尻をつけて座り、両手は身体を支えるようにして後ろに配置させていた。
「うふふ…………どうかしら……? こういうのは……?」
「はあっ、きっ、きもちっ、イイですっ……!」
「女の人の足で気持ち良くなっちゃうなんて、文太君、変態なんじゃないの? ふふふっ」
紫織は椅子に浅く座り、両足を使って文太のイチモツを弄んでいた。いわゆる足コキである。
「ああっ、はあっ、そっ、そんなぁ……」
文太が紫織に足コキをされるのはこれが初めてだ。
しかも突然だった。文太に具体的なことは何も知らせず全裸のまま床に座らせ、いきなり足で嬲ってきたのである。
(ああぁ、なんで、なんでこんなにイイんだぁ、ああっ)
最初こそ困惑していたものの、あっという間にその快楽に屈してしまった。
足の裏の厚い皮膚でサオを強めにシコシコされるのも、足の指で亀頭をクリクリされるのも、信じられないほどキモチイイ。
比較すると、やはり挿入行為のほうが上なのだが、足で弄ばれるのも非常な快感を得られる。
それゆえ、文太は無抵抗でイジられ続けているのである。
「あらあら、どうしたの? そんなにだらしない顔しちゃって。カッコワルイわよ、文太君……くすくすっ」
意地の悪い魔女がするような嘲笑。
圧倒的優位に立つ者が浮かべることのできる表情。
そう、文太とのセックスで快感負けしてしまうようになった紫織にできる唯一の反撃。
愛撫ならば、一方的に攻め続けることができるのだ。
「あぅうっ……!」
あの初体験から数十日が経っている。
握られただけで達してしまいそうだったあの時と比べ、我慢強さは飛躍的な進歩を遂げていた。
しかしそれでも、この足を器用に使った責めは実に耐え難い。
紫織との行為によってマゾ的快感に目覚めてしまった
――――いや、目覚めさせられた、と言うべきか――――
文太は、こういう被虐的なシチュエーションに酷く興奮し、強い快感を覚えてしまうのだ。
紫織を責めまくるのも好きだが、責められまくるのも好きだ。
守るべき愛しい女性に踏まれて気持ち良くなってしまうという情けなさもまた、官能を燃やす薪となっていく。
イジメられると、イイ。足で踏みつけられるように圧迫されると、もう堪らない。
(こんなことも、旦那さんにしてあげているんだろうか…………)
脳裏をよぎる、自分以外の男性の影。
ひょっとしたら、これは夫以外の男性との経験で培った技術なのかもしれない。
だとすれば、いったいどのような状況でどんな男に教え込まれたのだろうか。
男遊びなどしそうにない清楚な外見の紫織だったが、淫乱な本性を知ってしまった今となっては、そのような卑猥な想像も現実味を帯びてしまうのだった。
「ほらほら、もっと頑張りなさい、うふふふふっ……!」
苦戦する少年を面白そうに見下ろしている紫織。
彼女は先程まで着用していたエプロンを外しており、今は全裸の状態で台所の椅子に腰掛けている。
剥き出しの割れ目からは先程までの情交の余韻が糸を引いて垂れていたが、彼女は隠すことなく晒していた。
むしろ戦利品とでも言わんばかりに見せつけているようでもあった。
「だっ、ダメだあぁっ、もうダメっ、ダメですっ!」
始まりから終わりまでずっと劣勢のまま、決着がつく。
中学生の焦りに満ちた悲鳴は敗北の印だ。
「ああうぅっ、出るっ、出ちゃいますぅ――――――――っ!!」
恥ずかしい宣言と共に、ブルッと全身を震わせ、醜い欲望の塊を体外へ一気に放出する少年。
噴水のようにしぶいた粘性の高い子種汁が、落下先である紫織の白く美しい素足にびちゃびちゃと付着していく。
あっという間に汚濁された両足を、紫織は泥遊びでもするかのように擦り合わせて粘液を弄んだ。
「まったく……こんなに出しちゃって、イヤラシイ子ねえ…………これじゃあお掃除が大変よ…………ふふふっ」
ニヤリ、と勝ち誇った笑みを浮かべて見下ろす紫織。
女王陛下も裸足で逃げ出しそうな高貴さと傲慢さを兼ね備えているように文太には思えた。
(ああ、やっぱり紫織さんにはかなわないや……)
それから二人は、何事も無かったように仲良く一緒に夕食の準備をするのだった。今晩は文太の大好きなハヤシライスだ。
これからも二人の蜜月は続いていくだろう。それが二人だけの秘密である限り。
【どうなの? 私と、したくない?】
【…………ぼっ、僕は、したいですっ! ぼぼぼ僕はっ、紫織さんとしたいですッ!】
あの時、そう言えて良かった。文太は心の底からそう思っている。
『隣の奥さんの提案』 完
GJ
だがしかし28で熟女とか言われちゃうと
40才くらいからですよね?
エロいババアは最高ですよ。
28で熟女とかw
アラフォーの俺に謝れwwwww
とはいえ、作者様GJ!!
歌舞伎の市川猿之助はある意味このスレの理想の結婚をしていたんだね。
12歳の時に「将来この人と結婚する」と公言した初恋の相手(16歳上) と結婚。
奥さんは先日亡くなって、喪主として送り出した。
結婚したのは猿之助が還暦の頃だけどw
まぁ確かに熟女っていうと30後半から40代ぐらいなイメージかも
茜さんと総一郎君、明日は開幕ですよ?
大抜擢!
なので浅尾の続編を待ってるんだぜ
投下します。
エロあり。
目隠しプレイ。
「それ、やめてもらえませんか」
たっぷりと時間を掛けて脱がせた総一郎のシャツと、自分で脱ぎ捨てた複雑な形のセーターを軽く畳む茜に声を掛けた。
当の本人は、む、と低く唸ったが作業を最後まで終えてからゆっくりと振り返る。
「それ、とは?」
「そうやって、冷静に服を畳むの」
「しわになっては申し訳ないと思って」
茜はいつもこうだ。
どんなに激しいキスをして息を乱していても、服を脱いだらそれらを簡単に畳む。
さすがに下着までは畳まないけれど、ぽいと投げ捨てて求め合う、なんてことは滅多にない。
自分だけいつも盛り上がっているような、そんな気すらする。
「急に冷静になられると、虚しいです」
「うん、そうなんだが、その、終わって我に返ったときに丸まった服を見ると、背徳というか、不道徳感というか、罪悪というか、そういったものを覚える」
「イケナイことしてる気がする?」
「うん」
「悪いことなんですか?」
「悪くは、ない、と思う。……そうだな、君が嫌だと言うのなら今後気をつけよう」
どうも、お願いします、と軽く頭を下げた総一郎に、茜はふわりと笑いかけた。
「相互理解を深めるためにも、話し合いは必要だな。うん。他になにか要望はないか? ついでに聞こうじゃないか」
別におっぱじめた今じゃなくてもいいじゃないか、とふと思ったが、せっかくの機会なので乗ることにする。
ずっと、ずっと密かに抱えていた望みが、実はあるのだ。
「何でもいいんですか?」
「ああ」
「主導権を、ください」
沈黙を保ったまま茜は、眉根を寄せて嫌そうな顔をした。
何でもいい、と言ったくせにこれは駄目なのか。
「浅尾よ」
「はい」
「主導権とは譲られるものではなく、己で勝ち取って手にすべきだと思わないか」
「勝てないからお願いしているんですけど」
「なるほど」
重々しく頷いて、白い指できれいな顎を撫でる。
総一郎は今更ながら緊張をした。何を考えているのか、茜の表情からまったく読み取れないせいだ。
嫌なら嫌と、だめならだめとはっきり言えばいいのに、これは一種の焦らしプレイなのか。
背中が冷や汗を伝い始めたころ、彼女の眼鏡の奥で茶色い瞳が数回瞬かれたのち、ほう、と息が漏れた。
「判った、その要求を飲もう」
「え、ほんと?」
「ああ。具体的にどうすればいい?」
「じゃあ。……手、出さないでください」
「む」
「スタートね。はい、目、閉じて」
茜は何か言いたげに総一郎を見つめたが、結局何も言わずにゆっくりと目を閉じた。
両手を伸ばして、銀のフレームに触れる。
ぴくり、と肩が揺れたが頓着せずに、奪い取って枕元に置いた。
肩を抱いて、くちびるを重ねる。
まだ舌は差し入れずに、触れるだけのキスを何度も交わす。
茜が、総一郎を捕らえたそうにくちびるを薄く開くがその誘いには応じない。今日はこちらのペースでやらせてもらう日なのだから。
背後に回って、後ろから二の腕ごと細い身体を抱きしめる。
シャンプーの香りがする。
今日は、風呂上りに寝間着ではなく洋服を着ようと提案があった。自分もそうするから、と。
よっぽどじゃないと風呂に入らないとしたくないが、いつも寝間着では飽きが来る。それだけだ。単純な解決方法だ。
今日は彼女もやる気満々なんだから、多少のことでは断られない。そのはずだ。
くびすじから肩に落ちる黒髪を掬い取って、後ろくびに引っ掛けた。すっとしたきれいなくびのラインが露わになる。
くすぐったそうにすくめたそのうなじに、湿った吐息とともにくちびるを押し付けた。
「浅尾……くすぐったい」
喉の奥で笑いながら、茜が身を震わす。その様子はとてもとても余裕たっぷりだ。
見てろよ、と意地悪く思う。
服の上から、胸のふくらみにそっと触れる。
茜の身体が少しだけ強張った。緊張をほぐすように柔らかく触れる。もちろん、逆効果を狙ってのことだ。
後ろから、ブラウスのボタンを3つ目まで外す。上から覗くのはまた趣が違っていい。
ぼんやりとその様子を見つめる茜の耳元で、低く囁いた。
「まだ目、閉じてて」
再びゆっくりと瞳を閉じる様子を確認して、ジーンズのポケットからハンカチを取り出す。
一度三角に折り畳んだそれをまた折り曲げて、幅を調節する。
そのまま、茜の閉じた眼の上にかぶせて、髪を絡ませないよう注意しながら後頭部で結び目を作った。
「浅尾?」
「目隠しプレイ。結局やってないから」
「…………」
押し黙ったのを好意的に捉えて、顎を軽く持ち上げてくちびるを塞いだ。
触れた瞬間に、大げさに茜の肩が震えた。
それどころか、肩に手を置いただけで、くちびるを軽く舐めただけで面白いほどびくびくと身を震わす。
舌を絡ませあっても、いつもの迫力はなく、ただ自分の胸元をかき抱いて肩をすくめるのだ。
不審を抱いてくちびるを離す。
普段よりもずいぶん短いキスなのに、茜の息は不自然なほどすっかり上がってしまっていた。
ゆるゆると首を振りながら、肩で息をしながら懸命に口を開く。
「あ、浅尾……」
「センセイ?」
「だめだ、浅尾……だめなんだ」
「なにが?」
耳元で意地悪く息を吹きかけながら囁く。
また、細い肩が大げさに揺れた。
「……ッ、な、なくしたく、ない」
「なにを?」
「自分を。……だから、こんなのはだめだ」
「どっかいっちゃいそうなの?」
「そうだ」
ふぅんと呟いて、そのまま小さな耳をぱくりと口に含んだ。
「あっ……んん!」
高い声が漏れて、慌てて茜がくちびるの上に拳を作った。
構わずに耳を丁寧に舌でなぞる。
総一郎から逃れるように、だんだんと前のめりに倒れていく茜の腹に手を回して引き寄せた。
ついでに細い手首を握って、くちびるから拳を引き離す。
くびすじに歯を甘く立てて舐め上げた。これは茜の得意技だ。
「あ、さおっ! んんっ」
「……センセイ、感じすぎ」
「ちがう、あっ」
首もとに音を立てて吸い付いた。
顎の下をちろちろとくすぐるように舌でなぞる。
茜は息を乱しながら総一郎に応える。その乱れた吐息は、いかにも堪えられなくて漏れてしまった、というようで、大いに総一郎を満足させた。
物凄く楽しくなってきた。
総一郎の愛撫一つ一つに、あの茜が敏感に反応を示す。
幼いころ妹を虐めて楽しんでいたアレによく似ているな、と、なんとなく思った。
そうか、こうやってドSが形成されていくのか。
だとしたら茜を増長させたのはもしかして、素直に反応や反抗をしてみせてきた自分かもしれない。
ここらで一発逆転を狙わないと、と誓う。せっかく二人ともやる気満々なのだから。
くちびるの端にキスを落とす。
肝心のくちびるには一瞬だけ掠めるように触れて、すぐに反対側の耳へと移動させる。
ふう、と息を吹きかけ期待を高めて、だけどそこへは触れずにブラウスの上から肩へ口付けた。
絶えかねたように、茜が声を搾り出す。
「…………浅尾……どこで覚えてきたんだ」
「センセイしかいないでしょ」
「わ、私はこんなに、焦らしたりしない……」
いつも焦らしたい放題に散々とやってくれるのに、どの口がそれをのたまうのか。
だけど切羽詰ったような茜の声音が嬉しくて、ついうきうきと押し倒したくなる本能をぐっと押さえつけて、耳元へくちびるを寄せる。
「焦れてるの?」
「っ! ちが……」
違うんだ、と低く呟いて、くつろげた胸元から手を差し入れた。
下着の上からそっとふくらみを片手に収める。
「いやだ、まって……んんっ」
喋らせると面白くないことになりそうだから、さっさとくちびるを塞ぐ。
だめだいやだ、という割には、茜の身体はもう熱く汗ばんでいて、絡めた舌も浮かされたように蠢くし、どこに彼女の本音があるのか判らない。
でも本当に嫌なら、自分で目隠しを外せばいいのだ。
片手はまだ開いているし、総一郎が掴んでいる手も本当にゆるく握っているだけでしかないのだから、軽く振りほどけるはずだ。
腕力で押さえつけるようなことはしていない。
だから、このまま続けても怒られない、と総一郎は確信した。
噂に聞いた、目隠しは燃える、という話は本当らしい。
燃えすぎて理性的な茜はどこかへ行ってしまったみたいだ。
姿かたちは確かに茜のものなのに、別の誰かを抱いているような錯覚に陥った。
ブラウスのボタンをすべて外して、肩から滑らせる。
手首に袖が絡んだまま、むき出しになった肩へ、背中へと舌を這わせた。
整った形の肩甲骨。潔くまっすぐ伸びた背骨のライン。丁寧にくちびると舌を滑らせて、時々痕を残すようにきつく吸い付く。
くびすじは怒られるけれど、ここなら人に見えないし問題ないはずだ。
「ん……っ、いや、だ……あっ」
聞こえないフリをして、すっかり慣れた手つきで白い下着のホックをぷちんと外す。
それだけでまた、茜の身体が大きく震えた。
外気に触れたばかりのラインにもくちびるを落とす。
腕からするりと肩ひもとブラウスを抜き取り、ふと思いついてそのブラウスを後ろにまとめた細い両の手首に巻きつけた。
ゆるく結び目を作りながら、二の腕もぺろぺろと犬のように舐める。茜は、その舌に夢中になっているようだった。
うわごとのように浅尾、と高い声が繰り返す。
なに、と答えてくちびるを重ねれば、聞いたことのないねだるようなトーンで茜が言う。
「浅尾……あつい……ん……」
「下も脱ぐ?」
「…………う、ん……」
黒のズボンのボタンを外す。ファスナーも下げて、手を滑り込ませて剥ぎ取った。
脱がすのは楽しい。茜のお誘いに乗って服を着て、ほんとうによかった。
そのまま、ベッドの足元へと茜を追い詰める。
背中と壁の間にクッションを挟みこませて、ぶつけないように後頭部へ軽く手を回して、剥き出しの丸い肩を壁に押し付けた。
すごく、いけないことをしている気分だ。
目隠しと拘束の女教師。
どこのエロ本だ、と自分に突っ込みを入れる。
しかしよく出来たエロ本だ。
燃え上がりすぎて、自分もどこかへ行ってしまいそうだった。
「足、開いて」
さすがに調子に乗りすぎかなと身構えたが、意外すぎる程意外にもそろそろと立てた膝を開いていく。
その間に身を置いて、くちびるを塞いだ。
刺激を感じてとっさに閉じた膝が総一郎の身体を挟む。
「む……ん、ふっ…あ」
もう茜のくちびるから言葉は漏れてこない。溢れるのは意味をなさない音ばかり。
また丁寧にくびすじを舌で撫でて、柔らかな乳房の感触を楽しむ。
固く立ち上がった頂きを口に含んで、ちゅうと吸いあげた。
「あっ! ん、ふ……んん!」
もう片方は指で軽くつまんで刺激を与える。
壁に預けた背を弓なりにそらしながら、茜はくびを左右に振る。
ほんの少しだけウェーブを描く黒髪が、そのくびに汗で張り付いていた。
下肢に手を伸ばせば、そこはもうどろどろに熱く溶けていた。
まるで水でもこぼしたかのように、たっぷりと蜜を溢れさせて、白い身体から染み出した汗と一緒になってシーツをぐっしょりと濡らしていた。
センセイ、ほんとうに感じすぎです。
口には出さずに、そっと蕾からくちを離す。
「んっ……?」
名残惜しそうな息が漏れる。
身を屈めて、膝の横にくちづける。それだけでまた、茜の口から嬌声が漏れた。
そこから太股の内側にも、時折痕を残しながら丁寧に舐めていく。
がくがくと震えた膝が閉じそうになるのをてのひらで防いだ。
足の付け根にも吸い付いた。
ほのかな石鹸の香りに交じって、茜の香りが鼻孔に入り込む。
いつもの香水やシャンプーじゃなくて、茜自身の香りだ。
ふうと茂みに息を吹きかけると、高い声と共に細い腰が震えた。
だけどそこには触れずに、反対側の付け根に歯をあてる。
「んっ! あ、あ……」
逆の太股も、先程と同じように舐めていく。
膝をますます小刻みに震わせた茜が、腰をくねらせた。
「あ、浅尾……! やだ、も、やだ……っ」
「なに?」
「……いやだ、いや……」
「なにが?」
総一郎が言葉を発するたびに、吐息が秘部へと吹きかかる。その刺激に、また茜が追い詰められて首を振る。
「センセイ? ちゃんと言ってくれなきゃ、俺わかんないよ?」
ふと見つめた蜜壷が、ぴくぴくと収縮を繰り返して総一郎を誘っている。
今すぐにでも自身を埋め込みたい衝動に駆られたが、唾を飲んでぐっと押さえつけた。
まずは、茜だ。
彼女を陥落させなければ。
太股の内側に吸い付いた。茜の肌は柔らかくてほんとうに気持ちがいい。
「あぁっ! そこ、じゃない……っ、ん、……さわ、って……」
消え入りそうな声だった。
だけど、確かに言った、触れて欲しい、と。
すでにべとべとの花芯に吸い付いた。
唾液を溜めて、暑く火照った舌で舐めあげる。
「ああっ、くっ……んん! やだ、やだやだ、もう……っ!」
もう、なんだ? もう、辞めてほしい?
片耳で泣きそうな悲鳴を聞きながら、聞き返す余裕もなく本能のままに一番反応を示す尖りに吸い付いて、執拗に舐めあげた。
「いく……やだ、い、く……っ!」
イク? イクって言った、今?
「いやだ、やだ、ん、あ……いく、やだぁ!」
とっさに何故か指を差し入れた。
その瞬間、盛大に茜の背が逸れて、両のつま先がぴんと突っ張った。
中指の第二間接が、ぎゅっと締め付けられて、ああ、イっちゃったんだ、とぼんやり思った。
余韻を煽るようにぐるりとそれを回すと、さらに高い声が漏れて茜の腰が引けた。
「や……っ! も、抜いて……」
さすがに少し可哀想になってきて、名残惜しそうに総一郎の中指を締め付けるそこから、大人しく指を引き抜く。
はぁはぁ、と荒い呼吸を繰り返しながら、浅尾、と力なく呼ぶ茜にくちづけた。
信じられないほど従順に総一郎の舌に応えながら、茜が余韻の残った溶けるような音を漏らす。
そっと汗ばむ肩を撫でた。
逃れるようにその肩を引いて、かと思えばくちびるをぶつけるように顔を押し付けて、総一郎を求めた。
センセイ、どうしちゃったんだろう。
追い詰めたのは自分だ。間違いなく。
どうにかなってしまった茜を見てみたくて、やっと手に入れた主導権が嬉しくて、必要以上に焦らして、求めて欲しくて、言わせた。
もしかして怒っているのかもしれない。後で酷い目にあわされるかもしれない。
その前兆として、こんなにも大人しくなってしまっているのかも。
ハンカチが邪魔をして、表情が読み取れなくて余計に不安になる。
「あさ、お」
ため息まじりに呼ばれたその声音に、下肢がびくりと震えた。
そういえば自分は服を着たままだった、と慌てて脱ぎ捨てようとしたその顎の下に、茜のくちびるが触れる。
止まりかけた動きを必死に再開させて、もどかしく衣服を脱ぎ捨てた。
茜の背を撫でたら、ぴくり、と震えたものの、一度達した余裕からか、つっと優雅に舌で胸を撫でながら総一郎の右の乳首にたどり着いて、吸い上げた。
「ちょっ!」
抗議虚しく、ぺろりと舐められて肩が震える。
ぎゅっと閉じた瞳を一瞬空けて、目に飛び込んだ茜の、ブラウスが複雑に絡まった手首にドキリとした。
どきどきしている間に、茜が舌を突き出して時折吸い付きながら、腹をたどる。
ちくしょう、まだこんな技を持っていたのか。
突き出された赤い舌に、必要以上に欲情しながらそんな毒を吐く。
ぱくりと自身を咥えられて腰が引けた。
両手が不自由でもその舌技は確かで、興奮の絶頂にいた総一郎は不意の刺激に身を震わす。
見えないはずなのにそれを感じ取ったかのように茜は、更に彼を煽るべく喉の奥でちゅうと吸い上げた。
口腔に誘い込まれたまま舌をうごめかされて、しかも両手が使えない茜の姿に欲情して、総一郎の口元からも悩ましげな吐息が漏れる。
射精感がどうしようもなく高まって、茜の肩を抱いて起き上がらせた。
「センセイ」
小首を軽く傾けて、戸惑い気味の茜にくちびるを重ねた。
ヘンな味だ、と思ってすぐに、自分のか、と思い至る。
情熱的なキスを交わしながら、両腕のブラウスと後頭部の結び目を解いた。
顔を見るのがちょっと怖くて、そのまま背中を抱きながらそっと押し倒してキスを続ける。
大人しく倒された茜の両腕が、総一郎の首に回ってぎゅっと抱きついた。
このまま入れてしまいたくなる衝動をなんとか抑えて、身体を起こす。
うなじに絡んでいた茜の腕が、胸元を滑ってベッドに落ちた。
最短記録を軽く更新できそうな勢いで避妊具を取り付けて、茜に覆いかぶさる。
頬を撫でて、キスを交わす。
片手で額をなでながら、もう一方の手で柔らかで大好きな胸の感触を楽しむ。
重なったくちびるの下から、くぐもった呻るような短い悲鳴が聞こえた。
「…………ん……もう、いやだ、苦しい……」
キスの合間に、かすれた声が聞こえてきた。驚いて顔を上げる。
目に涙をためた茜が、苦しげに眉根を寄せてじっと総一郎を見つめ返している。
泣いてる。
泣かせてしまった。
やっぱりやりすぎたか。
「ごめん……もうやめる?」
正直に言えば止めたくはなかったけれど、茜を泣かせてまで続けたくはない。
苦しい、と訴えるぐらいだから、よっぽど限界なんだろう。
だけど腕の中の茜は、ゆるゆるとくびを左右に振る。
「やめない、で…………い、入れて、ほしい……」
今日は本当に、どうしてしまったのだろう。
天邪鬼が余りに素直すぎる。
喜びを通り越して驚きと疑いが渦巻く。
何か罠があるんじゃないか、と思わず泣き濡れた瞳を覗きこんだ。
「……っ、も…いやだ……はやく、ほしい……」
ぐいと総一郎を引き寄せて、茜が奪うようにくちづけてくる。
ああ、もう冷静でなんていられない。
「ああっ!」
前触れもなく挿入を果たす。
茜の身体が弓なりにそれて、白い手が総一郎の腕を掴む。
「んん! いや……あっ、ああッ!」
総一郎が身体をぶつけるたびに、普段より数倍大きな悲鳴が漏れる。
いつも気にしている隣の人はいいのかな、とふと思ったが、どうにかする余裕もなく腰を揺らし続ける。
なけなしの理性をすべてほうり捨てて、従順な天邪鬼の身体を貪った。
堪えていた絶頂は、すぐ間近に迫っている。
*
総一郎が果てると同時にぐったりと気を失うように目を閉じた茜は、彼がすっかり後始末を終えてしまっても起き上がってこなかった。
「センセイ」
肩を揺らしても反応を見せなくて不安になる。
規則的に聞こえる穏やかな吐息に、なんともないといいけど、と祈りつつ、後ろめたさを覚えながら下肢を開かせてティッシュでぬぐった。
普段ならこんなこと絶対にさせてもらえない。
だけど全身から力の抜けた茜が、目を開く気配はやっぱりない。
とりあえず布団をかぶせて、そっとしておくことにする。
あくびが出た。
茜はこのまま寝てしまうのだろうか。
だったら自分も一緒に寝てしまおうと、ベッドにもぐりこんで裸体を抱きしめた。
茜はもぞもぞと身体を滑らせたが、何か言う気配も起きる気配もない。
規則正しい寝息のみが聞こえる。
やっぱり眠ってしまっているようだ。
柔らかい髪に鼻を埋める。シャンプーの香りがする。
そういえば二人ともたくさん汗をかいたけれど、シャワーを浴びにいく気力もない。
怒られた場合の言い訳も考えなくてはいけない気がするがまぶたが重い。
起きたら色々考えよう。
ぬくもりを分け合うようにもう少しだけ強く抱きしめて、総一郎は寝息を重ねた。
*
くしゃみが漏れて目が覚めた。周りが明るい。
夜中に目が覚めたら何か羽織ろうと思っていたのに、ノンストップの睡眠で朝を迎えてしまったようだ。
腕の中の茜も、まだ何も身に付けずに眠っている。
茜の頭を乗せていた二の腕がしびれていた。
そっと引き抜いて、布団から這い出した。
寒い。
ベッドから下ろした足元に転がっている、くるくるに丸まってしわのついた茜のブラウスが目に入り、すぐに顔をそらした。
二人分の服も下着も床に散乱をしている。
なるほど、罪悪を覚える。
夕べの情事をリアルに思い出して、一人動揺をした。
やりすぎた。真っ先にそう思う。
夢中になって、調子に乗って、やりすぎた。泣かせるなんて、どう考えてもやりすぎだ。
お咎めが恐ろしい。
寝巻きを出してきて軽く着込んだ。ついでに、散らばった衣服も軽く畳んで隅に寄せる。
まだベッドの中でみのむしのように丸まっている茜の、顔を覗き込んで囁く。
「センセイ、風邪ひくからこれ着て」
うん、と寝ぼけた声が聞こえて、珍しく素直に茜の身体が動いた。
ゆっくりと起き上がった茜は、大きなあくびを一つすると総一郎から寝巻きを受け取って袖を通す。
「寒い」
ぼそりと呟いた茜に苦笑をもらして、誘われるままにベッドにもぐりこんだ。
寝間着を羽織った細い身体を、抱き枕のようにぎゅっと腕の中に閉じ込めた。
額の髪を撫で上げて、そっとキスをする。
くすぐったそうに茜がくちびるを歪めた。
機嫌は悪くなさそうだ。
だけど怒られる前に、自己申告を決めた。
「センセイ」
「ん?」
「ゆうべ、あの、ごめんなさい」
「何が?」
「やりすぎました」
「ほう」
「調子にのりました」
「ほうほう」
あれ、会話の調子が予想と違う。
深く静かに、今まで見たことのない怒り方をしている予感がする。
「あの、怒ってます?」
「怒られるようなことをしたのか?」
「だって泣いてたし」
「誰が?」
「センセイ」
「私が? そうか」
「………………覚えてないの?」
「…………」
「…………」
奇妙な沈黙の後、ああ、まぁ、と眠そうな声が低く呟いた。
「えっマジ?」
「マジだ。服をいつ脱いだのかも覚えていない」
それってかなり最初のほうですけど。
なんかおかしいと思ったら、ぷっつんしてたのか。
覚えてなくて、安心したような、がっかりしたような、複雑な気分である。
「ほんとうに、全然、覚えてないの?」
「全然、ではない。縛られたのはなんとなく。やってくれたな」
「センセイだってよく縛るじゃないですか」
「まぁそうだ」
「泣いたのも? 触ってとか、いくとか、入れてって言ってたのも?」
「そんなことを言ったのか」
「別人みたいに大人しくて、可愛かったのに」
「じゃあそれは別人だ」
言い切らないで頂きたい。自分が他の誰とあんな、ヘンタイぎりぎりのセックスをするというのだ。
自称、昨夜とは別人であるらしい茜は、ふふんとなぜか得意げに鼻を鳴らしながら、寝ころんだ態勢のまま身体をひねってこちらを仰ぎ見る。
「覚えていなければ全く羞恥がない。なんとでも言ってくれ」
ほんとうに覚えていないのかな、と疑問を抱いた総一郎は、茜の顔を覗きこんで、まっすぐにその眼を見つめた。
茶色い瞳は揺らぐこともなく規則的に瞬いていて、一片の動揺も見られない。
こうなってしまえば、もう総一郎には嘘かどうか見破れない。
ふと、昨夜から薄々抱いた疑問が、いきなり実態を持った。恐る恐るそれを口にする。
「……センセイって、もしかしてドM?」
「……………………浅尾」
「はい」
「そもそもサディズムとマゾヒズムは表裏一体。
片方の性癖だけではアンバランスすぎて、度を過ぎてしまう可能性が高い。
真の欲望を相互が深く理解しあって始めて成り立つ、至高の関係なのだ。
どっちと断言を、おそらくしてはいけない。そういうことだ」
――あれ、今って何の話?
歪んだ性癖の講釈だとは思うが、まるで授業のように朗々と語るものだからもっと、崇高な精神論を語られている気がしてくる。
とにかく、茜のスイッチがドMに入ると昨日みたいなことになる、というわけだ。
ああいう、素直に乱れる姿にぜひもう一度お目にかかりたい。
「……あのさ、昨日、すんごい楽しかった」
「それはよかった」
「また、目隠しプレイしませんか」
「……覚えてなくていいなのら、ぜひお受けしよう」
今度は総一郎がむ、と呻った。
「えーと、覚えててああいうのがいいんですけど」
「意識があれば理性を保つ努力をする。両立は有り得ない」
究極の二者択一だ。優柔不断の総一郎には選べない。
結論は、ゆっくりと考えさせてもらうことにする。
「……もう起きますか?」
「うん、起きようか」
じゃあ、と夜明けのコーヒーを入れるために、半身を起こした総一郎の腕をぐいと茜が引いた。
「時に浅尾、言っておかねばならないんだが」
再びベッドに押し戻され、それどころかいつになく素早い動きで総一郎の身体にまたがって肩に体重を乗せられて、身動きが取れなくなる。
身をかがめた茜に、顔を覗き込まれた。
「な、なんですか」
――――あれ、なんか嫌な予感がする。
茜に対しての直観は、それが悪ければ悪いほどよく当たる。
いつも思うことだが、非常に無意味で利用価値の低い特技だ。
「あまりに刺激的過ぎて君のトラウマになってはいけないと、段階を踏むつもりだったんだ。
男は視覚で勃起する生き物だと理解している。
だから私は縛りこそすれ、目隠しとのコンビネーションはあえて避けてきたというのに、君はあっさり踏み込んだな。
取っておいた楽しみを軽々と奪われて、私は腹立たしい」
やっぱり怒ってるんじゃないか。
総一郎は引きつった表情を浮かべて、ただその、朗々と読み上げられる罪状のような茜の声に耳を傾けた。
「ちなみに私が縛る理由はただ一つ、腕力の差異を拘束で埋めようという健気な努力の結果だ。
君はそんなものがなくとも、やすやすと私を押さえつけて好きに出来るだろう?」
それは普段、射精間近になると手を握り締めることを言ってるのだろうか。
だってそうしないと茜は自分の口を塞いでしまう。
それをされると声が聞こえないし、キスもできない。
なにより、その手や指に歯を立てるのが心配でならないからだ。
そんなに我慢をしなくていいのに。
不可抗力だ、と思いつつ、実はそれ以外にも壁に追い詰めたり無理やり後ろを向かせたり、絶頂後に逃げる腰を引き寄せていたずらをしたりもしている。
否定はできない。
「アンフェアだとは思わないか」
「……………………思います」
「よろしい、では覚悟したまえ。やられっぱなしは性にあわない」
「え、まさか今から?」
「そうしたいのは山々だが、身体が痛い。残念だ。今日は宣言のみ」
つまりいつ来るか知れないその日に思いを馳せておびえろというわけだ。プレイはもう始まっている。
「…………俺に拒否権は」
「ない。安心してくれ、倍返しぐらいで勘弁して差し上げるつもりだ」
諦めて、ため息をつく。
結局、茜には絶対に勝てないのだ。
いつか抱いたその予感は、嫌になるほど正確だったというわけだ。
ため息を聞き咎めた茜が、そっと前髪を撫で上げた。ひんやりとした手が、くすぐったくて気持ちいい。
「大丈夫、そこにあるのは愛だから」
最高に楽しそうにくちびるを歪めて、茜が顔を寄せる。
犬のように従順に、瞳を閉じてそのキスを受け取った。
愛があるのなら、まぁ、いいか。
いいよな……たぶん。
この愛の形は間違っていないよな?
誰にともなく問いかけて、その答えは自分が信じるしかない、とふと気付く。
茜が愛というならそうなのだ。
それで、いいはずだ。
細い背中に手を回し、ぎゅっと抱き寄せてそのぬくもりを腕の中に閉じ込めた。
幸せとか愛とかって、きっとこんな形をしているに違いない。
*
以上です。
お付き合いありがとうございました。
ふう………GJだ
次回も氏の素晴らしい作品に出会えることを、心の底から願っているよ
えーと、あれから4度目だからそういちろうは20才?
GJ!!
お疲れ様です。素敵です。
とても楽しく読みました。
素晴らしい
GJ
浅尾は私の弟
親父×幼女分が足りないとss書こうにも文才がない俺涙目。
桜見の季節おっさんが幼女肩車してあははうふふな光景が浮かんでいるというのに!
傍にいて、日々を一緒にすごし、微笑を交わす。
穏やかな時間を共有し、手を繋いで歩き、楽しさを共有する。
それは簡単なこと。そして、とても素敵なこと。
たとえば、親子水入らずの花見での穏やかな会話とか。
「ぱぱ」
しをりが喋りかけた。
「ん?どうした?寒くないか?」
「へいき〜」
桜が綺麗だったので、親子で花見。
しをりと俺は少し訳ありで今は離れて暮らしている。
「あのね、ぱぱ。しをりこの前たんじょーびだったの」
「うん、そうだな」
そんなのしをりが生まれた時から知ってる。
自信を持ってそう答えれば、しをりは我が意を得たりとばかりに目を輝かせた。
「だからね…あのね…しを、けっこんできる?!」
……多分お隣のしんくんとの事を言ってるんだろうな。
「もう少し大人にならないと無理だなー」
「えぇー!?もう大人なのに」
憤慨するしをりを見てやっぱり家の子は一番可愛いな、と思いながら、しをりをだっこしてやった。
「おっ、少し重くなったなしをり?」
「きゃー、高い〜わーいもっとたかいたかいしてー!!!」
滅多に出来ない家族サービスだ。明日の筋肉痛も考えず、俺は娘の要望に答えてやった。
12年後
「しをり、俺たち結婚しないか?」
「男は身長180あって私に優しくしてくれないとだめ。というか、そもそも付き合ってないよね」
そもそもパパ以外なんて眼中にない。
桜の花が舞う中、しをりは新を冷たくあしらった。
601 :
600:2009/04/04(土) 19:10:39 ID:ZeYuIfrl
>>583 ついに、ついに先生と約束していた目隠しプレーがきた!!
GJ!!
ありがとう!言ったらホントに来てくれて、有難う
あと新エース誕生おめでとう
>>600 俺の萌えを具現化してくれてありがとう、かなり嬉しい。
やっぱりいいな歳の差。
歳の差物探して本屋にいったら「愛に歳の差なんて!」っつー
65歳と15、6歳の女の子の読みきり単行本あって衝動買いしてきた
>>583-593 GJ
浅尾じゃなくて先生が目隠しプレイされるのかよwww
次はいよいよ浅尾が目隠しされる番ですよね!
2人組の怪盗に(理由はまだ思いついてない)誘拐されちゃう少女が
主犯格(女)にしょっぱな犯されちゃうんだけどもう1人の方(男)に優しくされて(打算も下心もなく)
ご飯食べたり一緒にラジオ体操みたいな運動をしたり二人で遊んだり(折り紙とかで)するうちにその人の事を
好きになって、ラスト前に誘拐犯だから捕まっちゃうその前に結婚の約束をするって話を思いついた
どう考えてもストックホルム症候群です、本当にありがとうございました
出勤前に俺を萌えさすなwww
ストックホルム症候群もまた新しいな、思い込みほど恐ろしい愛はない。
なんとなく
>>604のレスを読んで昔のクイズ番組思い出した。
……お見合い番組だったら萌えるなw
609 :
名無しさん@ピンキー:2009/04/09(木) 10:57:52 ID:3wKLUtvQ
>>604 お前は俺か<「愛に歳の差なんて!」衝動買い
今日の21時からBS2で「年下男子マニュアル 恋愛や職場で先輩女性体験」という神番組があったようだ…
金の力で困ってる女の子を助けてあげたい のスレは、その特性上か年の差カップル多くて萌える
>>610 どうしてもっと早くに気付かなかったんだ!!!!1!1!!
幼女「もーすぐ あっしゅく だってー」
おっさん「お前と俺の年の差も圧縮できたらなァ…」
幼女「なんか言ったー?」
おっさん「べつにー」
幼女「おっちゃんかわゆすなぁ」
おっさん「え?」
>>600 の親子続編 楽しい家族
「パパー」
「なんだ〜しをり?」
パパに抱きつくと、パパの腕はしをりを抱きしめたり。頭を撫でてくれたり、忙しく働いてくれる。
「あのね、服が欲しいから、つきあってほしいの」
「勿論いいよ」
「本当?!やったぁ」
パパが笑顔でそう言ってくれたから、しをりは緊張をほぐせた。
「パパのファッションセンス、ママよりしをりよりいいもんね!」
一応自分でも頑張って雑誌を見たり、服屋に入ったりするけど、どうも服を選ぶときに意識してしまう。
「この服、パパは好きかな」とか。
「これ、確かパパはナシって言っていたのに似てるかも」とか。
パパの好みの格好をしてみたいと思う気持ちを、気付かれないように上手にお願いする。
「いつにする?」
「今日!今から行くの!!」
予定を立てていきながら、こっそりママを見ると、複雑そうな顔をしていた。
そうだ、パパは忙しくて、パパとママはなかなか一緒にいられないのに、しをりは邪魔してるんじゃ!?
・・・・・・そういうときは、3人でお出かけしよう!
「ママ、お洋服着替えて。3人で行こうよ」
「えぇ?ママはいいよ、しをちゃん。パパと2人で行ってきて」
ママは3人でお出かけ、というかパパと外に出るのを嫌がってる。ママの方が「年上」で「オバさん」に見えるからパパと歩くのが嫌みたい。
「嫌!だめ!!今日はママも行くの〜絶対行くの〜〜!!」
「しをりが言ってるんだから」
「・・・うん。着替えてくるから、ちょっと待っててね」
ママが着替えている間にまだ10時を過ぎたところだからどこを回ろうかとか、お昼は何を食べようかとか、
そういえばママの誕生日はもうすぐだから何をあげようかな、とか今日の行動をシミュレートしてるとママが着替えてきた。
「・・・・・蛍光ピンクのスプリングコートに、目が覚めるような赤い豹柄スカーフ、おまけに黒レースが付いてるジーンズって
どんな組み合わせですか?!はい、やり直し」
「あの・・・コーディネートしてくれないかな?」
「俺が選んだワンピース着ればいいじゃないですか。あれ似合いますよ」
「あのワンピースは何か物足りなくて・・・」
「本当にオシャレ通り越してオサレだなあんた!」
パパのナシだっていうママの服装を見ても何の違和感もないから、しをりのセンスもやっぱり変なのかな、と思いながら、
時間はゆっくりと過ぎていった。
>>599氏の萌え、肩車してるようじょを書きたかった
次こそ肩車、その前にエロエロ展開!!
この流れに笑ったwwww
なんだか、必要以上に馬鹿の子、というかこう精神年齢が幼児から変わっていない子になっているような気がする。
圧縮回避
保守
622 :
青年×少女:2009/04/19(日) 06:26:50 ID:f3KEWzVf
ヒマだし小ネタ考えてみたー。青年×少女で2レスくらい
季節外れでごめん
「ねぇ。ひめはじめって何さ?」
「…………は?」
突拍子もない少女の問いに、青年は耳を疑った。
「だーかーらー、ひめはじめ!」
どうやら聞き間違えた訳ではなかったと理解すると、
まず彼は一呼吸おいて自分を落ち着ける。
「誰から聞いたの」
「言っちゃダメって言われたから、ナイショなのさ!」
シーッ、と言うと、
少女は立てた人差し指を自分の唇に当て、
ニコッと青年に無邪気な笑顔を向けてくる。
きっと少女は、『ひめはじめ』の意味など予想だにしないどころか、
その意味する行為すら、よく分かっていないだろう。
「はぁ……」
「そんなことより、意味教えてよ!」
ため息を吐いた青年の気持ちなど、少女が分かる筈もなく
少女は青年に抱きついて、まっすぐに彼を見上げた。
「うーん……ひめはじめって言うのは、大人の秘密だから
お子様には教えられないんだ」
「ええーっ!? そんなぁ!」
青年は少女に微笑むと、少女の真似をするように、
唇に人差し指を当てて首を傾げてみせる。
少女は如何にも不満というふうに青年を睨んで、片方の頬を膨らませた。
「でも私、もうお子様じゃないもん!」
「お子様じゃなくても。
お酒の飲めない歳の子はダメなの」
青年が言うと少女は俯いて、うううと唸り出す。
本当は知りたいのを、懸命に我慢しているようだった。
「そう膨れないの。
大人になったら、ちゃんと僕が教えてあげるから」
言って、青年がクスクス笑いながら頭を撫でてやると、
少女は拗ねた目をして青年を見る。
「本当?」
「本当だよ」
「嘘つかない?」
少女がまだ疑いの目で見てくるので、
青年は、自分の背に回されていた少女の腕を離すと、
少し屈んで、自分の手の小指と、少女の手の小指を絡めた。
「じゃあ、指切りしよう。そうしたら忘れないよ」
「……うん!」
すると、少女は今までの拗ねっぷりが嘘のように、
嬉しそうな笑顔で頷いた。
「じゃあ、ご飯の支度でもしようか」
「私も手伝うー!」
そうして、少女は青年と仲良く手を繋ぐ。
だがしかし、この時の青年の笑顔は
少女のように真っ白ではないのであった。
以上です……小ネタだから名前はつけてない。
変態っぽくて、しかも拙くてスマン……!
>624
こういうの好きだから萌えた
いつか本番も読んでみたいもんだ
627 :
名無しさん@ピンキー:2009/04/21(火) 03:50:04 ID:E0e65rRE
>>627 情報スレ見たら、圧縮になる前に、削除依頼が受理されたみたい
まだしばらくは、もやもや感が続きそう
しかし、そろそろ新スレの季節なんだが
板が微妙な状態でのスレ立ても怖いよな…
>>624です
反応もらえると思ってなかった、ありがとう!
投下ってしたことないから、心配だったんだけど。
あと、本番は書いたことないし経験ないから無理だw
このスレ的には『花と悪魔』ってどう?少女漫画だけど
200歳の悪魔と14歳の女の子のラブストーリーなんだが
>経験ないから
お前さんいますぐSS書きの控え室行って来い。
そんなもんなくても情熱と努力とほんの少しの知識さえあれば、書くもんは書ける。らしいぞ。
>>629 そういった現実的でない年齢のキャラだとどうだろう。
何百歳といっても外見年齢が若いとあんまり。
その作品知らないのでなんともいえないけど
少女漫画だと結構歳の差カップルはいるよね
>>629 題名通り、ツンデレ気味大悪魔と純粋無垢な女の子の同居話だよ。
少女マンガをモニョらずに読めるなら楽しめるかと。
花:悪魔が好き
悪魔:生命奪っちゃうから触れようとしない
花とゆめ作品は年の差が豊富だよ。
女子高生訪問ベビーシッターと人気アナウンサーとか
新人俳優と芸能界一の俳優とか
脱ヤンキー女子高生と俺様先生とか
無愛想菓子職人とバイトとか
女子高生の土地神とその神使とか
漫画家志望高校一年生と少女漫画家とか
花とゆめ読んでるけど、確かにそうかも。
ただ残念なのは、歳の差とはいっても微々たるものだってことだな〜。見た目若かったりね。
やっぱり少女マンガだからかな。
ところで、何年か前にえぬえっちけでやってた某アニメ。
少女と吟遊詩人が一緒に旅をしていたんだけども、少女が風邪をひいた話ではどう見てもラブラブだった。
見てるほうが恥ずかしかったあれは。
>>634 雪の女王だよ。
同じ監督の作品で白鯨物語?ってのもオイシイって聞いたんだ。ずいぶん前のアニメらしいけど、気になってる。
白鯨伝説はリアルタイムで見てた
もう10年以上昔の作品だな
主人公が14歳、船長が35歳(見た目はもっと上)、拾ったアンドロイドが青年な組み合わせ
年の差よりは、男装少女かも知れん
調べてみたら、DVDBOX出てんだな……
打ち切り回までしか見てないから気になるわ
なるほどな
最近何故か白泉社の漫画が部屋に溢れてきてたんだが
無意識に年の差に萌えていたんだな
今のアニメだとリストランテパラディーゾが良いな
初老のおっさんとピチピチの女の子
>>638 気になったので検索したら、オルガという人妻
「老眼鏡紳士しか雇わないという自分のわがままを〜」
なんじゃこの素晴らしい設定w
リストランテ自分も好きだ。
ただ、原作があまりに良すぎてアニメ版はどうしても正視できない。
>>640 自分も原作派だ
女の子がおじさんに恋っていう設定は割りと見かけるけど、逆が少ないのは気のせいかな
おじさんが女の子にキュンときちゃうけど俺はロリコンじゃ無いぞ!我慢我慢!
みたいなのが好きだw
自分もおじさんと少女は大好物ですよ
お姉さんと少年も好きだが、大抵の場合年上女性は悪女になっちゃうんだよな。
天然お姉さんに必死にアタックする純情少年とか読んでみたい。
少年がお姉さんを思いあまって押し倒しちゃったら実は処女で、
凄く大人だと思ってたお姉さんが、実はクラスの女子よりも初心だったりしたら萌え転がる。
>>642 エロくないスレに、それっぽいのがあがってたよ
職人さんも年の差スレと迷ったらしい
やふーの年の差漫画特集が気になって仕方ないんだが、
一番好みのおっさんと少女がないなー。
自分もおっさんと少女が一番好きだけど、なかなか無いんだよなー
やっぱいろいろとマズイことでもあるのかねぇ
一歩間違えれば犯罪のかほりが
なぜおっさんと少女だと犯罪って感じがしちゃうのかな
熟女と少年はそんなでも……ない気が、しなくもない……いや犯罪か?
乙女ゲーなんで駄目な人多いかも試練が、遙か3の先生と主人公は35歳と17歳で
程良い年の差な上に師匠と弟子という属性まで付いて色々とツボった
おっさん少女なかなかないよなぁ
確かに遥かもときメモGS?も年上いるけど、俺好みとなるともう少し体格差が欲しい。
少女よりも幼女がいい
コーセルテルの竜術士って漫画、おっさん←少女+育ての親+術の師匠でニラニラする
サブキャラだからあんま出てこないけどなー
スレチだがティアリングサーガをご存じだろうか
あれはいろいろ歳の差カプがあってよかった。ナイスなヒゲと小娘が…ハァハァ
「ねー、一緒にねてもいい?」
「んー? ……あと5年くらいしたらね」
「えー、長ーい! まてないーっ!」
「僕もー」
おっさんと少女でぱっと思いついたのがジルオールとアヴァロンコードだが
ジルオールのおっさんは「くっついた」までは妄想力が強くないときついか
スターオーシャン2もおっさん少女カップル作れるな
乙女ゲーもちらほらおっさんキャラを見かけるが、おっさんというよりおじさま系が多い印象がある
漫画でおっさんと少女を探すとなると脇役組がどうしても多いな
主役格は年の差カップルでも青年と少女だったりする
485KB
後30レスくらいは行けるか?
キンゲの悪役だったおっさんと孤児の女の子の逃亡はワンエピソードだけだったけど良かったな
リュボフ女史とママドゥ先生とか、いつの間にかゲイナーの部屋で寝泊まりしてたアデット先生とか、
キンゲは地味に年の差の宝庫だ
659 :
名無しさん@ピンキー:2009/05/04(月) 16:57:30 ID:YsBiSa3t
金の力スレの川島さんが最高です……
オレは『朝霧の巫女』っていう漫画に出てくる日瑠子陛下と警視庁抜刀隊隊長・斉藤の組み合わせが好きだ。
まだ幼い身でありながら日本の天皇である少女と、彼女を守るマッシュルーム頭のジジイ。互いに深く信頼しあっているのが良かった。
>649
その二人は、お姉さんと4歳(だっけ?)児という年の差も内包してるところも好きだ
実年齢数百歳の人外ロリとか良いなぁと
見かけとは裏腹にテクニシャンというのも良いし
逆に博識な癖に意外と恋愛下手というパターンも良い
これが人外ショタだと高確率で猫かぶりのエロ魔人
ところで年の差と聞くとCLAMP作品が頭に浮かぶ
ラノベで「ア.ニ.ス.と不機.嫌な魔.法使.い」シリーズは結構お薦め
何百歳年上な義理の父と、想像力が羽ばたきまくってる少女の掛け合いが微笑ましくて好きだ。
アニスには物凄く甘いのに、肝心の本人には全く通じてないところとか、
必死で親子をしようと努力してる二人が凄く良い。
>>660 設定とかガン無視したら、倉子と平田の組み合わせもいい
普通のバトルもの書こうとしてたはずが
結果年の差カップルのラブストーリーになってた
いや、普通のRPG的なバトルの話を書いてたんだけど
書いてるうちに主役カプじゃなくて、仲間の少女がピンチになって、その子を愛してる大人の男性が助けに来て、二人の絆が深まる話になっちゃったんだ……
おかしいな、こんなはずでは!
誘い受けウザイ
投下するならさっさと投下してくださいお願いします
>>662 > 実年齢数百歳の人外ロリとか良いなぁと
『狼と香辛料』は、けっこうそのものズバリな設定なんじゃないか?
ちなみに、自分の萌えツボ押されまくりな年の差カップルは、
天保異聞妖奇士:小笠原×宰蔵、往壓×アトル
神戸在住:日和さん×桂
アークザラッド2:イーガ×サニア
物の見事にマイナー作品ばっかりなんだぜ……
シン・シティは確かおっさんと少女のエピソードあったな。あれはなかなか良かった
個性強い映画だから好き嫌い別れそうだが
働くお姉さんに筆おろししてもらう男の子のSSはまだかね
672 :
名無しさん@ピンキー:2009/05/10(日) 22:20:14 ID:fFO6tjRN
やっぱり投下してくれる人ってレベル高いんだなーって、保管庫見てすごく思った
藤原伊織作の名作に「テロリストのパラソル」てのがあってだな
おっさんと二十歳の恋愛要素が含まれてなかったりなかったり・・・。
おっさんは設定上クール装ってるけど実は三ヶ月同居した好きな女に手を出さないという真性のヘタレ朴念。
ちなみにヒロインはツンデレ。というかおっさん萌え。
あとこれラノベではないです
流れ読まずに超短編。
エロなし。前に書いた青年×少女がもとです
とある街外れにある森の中に建つ、古びた洋館の一室。
「…えーと、うん」
机に備え付けて置かれた、一人用の黒革のソファで
瞼を閉じて考え込んでいるのは、この洋館の主人。
プラチナブロンドにYシャツ、黒のジーンズと、
至ってシンプルな出で立ちの青年・テオだ。
「うん!」
その彼に純粋な眼差しを向けるのが、テオの弟子――
群青の長い髪をポニーテールに結って、
白に赤い花の刺繍の入ったワンピースを着た少女・ロゼ。
「……あのね。男の人をお嫁さんとはいわないんだよ」
「ええっ!?
師匠、ほんとスか!」
「むしろ、君がお嫁さんにもらわれる側ね」
テオは複雑そうに少女から視線を外し、
頭をかきながら頷いた。
それにロゼは心底驚いたように、
目をしばたたかせる。
「えー、そうなの……じゃあ、
テオをお嫁さんにはもらえないのかぁ」
「いや……そもそも何故、
僕が君にもらわれる側なんだ」
つまらなそうに唇を尖らせたロゼを見て、
テオは納得いかないと眉間にシワを寄せた。
「だってさぁ。
お嫁さんは大好きな人になってもらうもんだっていうから。
だからさ、私もテオをお嫁さんにもらおうかと」
ロゼは小首を傾げて、エヘヘッと
はにかんで微笑む。
「ロゼ、それならお婿さんっていうんだよ……
いや、そうじゃなくて。
それは気に入らないな」
「なんで? 私のこと、嫌い?」
テオが静かに立ち上がり、
机の前に立っていたロゼに歩み寄ると、彼女は悲しそうに俯いた。
「あのね。僕は、もらわれる側……つまり
君より下に扱われるのが気に入らない、って言ってるんだ」
テオは指先でロゼの顎に触れ、くいと持ち上げてみる。
「し、下なんて、そんなつもりじゃないよっ」
そう言ったロゼが、あまりに悲しそうな下がり眉だったので、
テオは吹き出しそうになる。
「ロゼ。僕のお嫁さんになりたい?」
「?……うん?」
ロゼがきょとんとして頷くと、
そう、とテオは呟いて
ロゼの唇に自らの唇を重ねた。
「んっ!……んぅっ?!」
「じゃあ、約束したからね。
早く大人になるんだよ」
あまりに唐突で、状況を理解出来ないロゼに
テオは唇を離すと爽やかに微笑み、彼女の髪を撫でてやる。
「え、うん、あ…あ――っ!
私のファーストキスがぁぁぁ!」
「どうせ僕がするんだから一緒だろ?」
ようやく脳が状況についてきたロゼは、顔を真っ赤にしてテオを叩くが、
テオはクスクス笑っているだけ。
「うわぁん! テオのバカ! 夢も希望もない――!」
「いいじゃないか、別に」
「良くないーっ!」
あ、計何レスか書くの忘れた…すみませんorz
書いててこっぱずかしくなってきた。もっと精進します
何度もすみません
一応2レスでおしまいです
慌てすぎた
>>674投下乙
ふたりのやり取りがかわいすぎて和んだw
上で年の差小説の話があったので便乗
山本文緒の「眠れるラプンツェル」(人妻と少年)
小川洋子の「ホテル・アイリス」(老人と少女)
なんかはどうだろう、ラノベじゃないけど
とくに後者はかなりフェティッシュで淫靡っていうか耽美っていうかで有体に言うといかがわしい
>>166 オフィシャルが二人の間にあるものは愛ですって太鼓判押しちゃってるからな。
5年後の13歳のかなみがラストに少しだけ出てくる。
カズマは世界一熱くかっこいいロリコンだった…
昔読んだ少女漫画で、
ボサボサ頭に無精髭でヨレヨレの服の学校の先生が母親の恋人だか何かで、
ある日母親にパーティー(受賞パーティー?)に参加するように言われ、付き添いの先生と行くことに。
で、待ち合わせの場所に行くと髭を剃って髪を整えスーツを着た先生の姿にドキリ…。
というシーンを最近思い出したが何の漫画か思い出せない。
ところで年上が見せるギャップって素敵だよね。
>>680 海野つなみの「少年人魚」だと思う。
ちなみに同作者の「回転銀河」シリーズ内に、二人のその後の話がある。
ここは思い出せない小説のタイトルを教えてもらうスレか
ただし年の差ものに限る
CCさくらが公式で教師×生徒モノをやりやがったときは、
小学生ながら「これはヤバイ」と思ったものです。いろんな意味で。
あとさくらとおじいちゃんが血縁関係じゃなかったら
おじ様×幼女でうはうは出きるんだけどなー
684 :
名無しさん@ピンキー:2009/05/26(火) 07:22:43 ID:PeO+rWVS
>>684 乙
>>683 原作はともかくNHKのアニメ放送でペドやホモがカットされなかった事に驚いた
しかもNHK教育w
NHKはサンソンマリーという前科もあるからなw
>>686 年の差萌えについて教育してくれるのか!!
>>684乙
だが、スレタイを
年の差カップル「で」エロパロ
に戻してほしかった。5歳差の時は頼む。
691 :
名無しさん@ピンキー:
♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥
♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥
♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥
♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥
♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥
♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥
♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥
♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥
♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥
♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥
♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥
♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥
♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥
♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥
♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥
♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥