1乙
1乙。
1乙。
前スレは、良作が多かった。
このスレも、良作に恵まれますように。
>>1 スレ立て乙です。
さっそく投下させて頂きます。
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神殿を出てヴァンスターの街中を彷徨う。
平和な日常と人波の間を縫うように、目的もなく足の続く限り。
まるで自分が街から取り残されたように、耳が拾う喧騒は遠く、瞳は風景を流していく。
やがて街外れに造られた小さな公園に辿り着き、ベンチを見つけると腰を下ろした。
緩んだ左腕の包帯に気づき、いったん解いて丁寧に巻き直す。
程なく怒りが落ち着くと、クリスは頭を抱えてため息をついた。
この上なく最悪の気分だ。
世界で一番、自分が綺麗だと思う顔に、自分が手を上げるなんて。
手を振り上げた瞬間、避けようともしなかった彼女の姿を思い返すと胸が痛む。
囚われた自分がガーベラの無茶を招いたのだと自覚はある。
だがその落ち度を反省しても、自身の生命よりもクリスを優先した彼女の行動を許すつもり
は無かった。
ガーベラは確実な勝算があってした行為ではない。
直前に離縁を口にしたように、彼女は自覚の上でスレスレの賭けをしていのだ。
そのことに対しても怒りはあるが、看過できなかったのは意識を取り戻した後。
「クリスさんが無事で良かったです」
第一声があなたや旦那さまではなく、他人行儀にクリスさんと来た。
自身が口にした離縁を意識しての突き放し。
そのくせ自分の身よりも優先して、クリスが無事で良かったという矛盾した言葉。
彼女の不器用な気遣いが理解できただけに、愛しさの分だけ余計に腹立だしい。
一方で方便とはいえ、離縁を口にされた悲しさ。
ない混ぜになる複数の感情を突き破り、一つの事実が見えてくる。
人造生物の魔族を相手にし、再燃した部分もあるのかもしれない。
誰かを護る騎士としての矜持に並行した、人工生命という出自に根ざす観念。
彼女の覚悟は、目的の為なら道具でも良いという悪癖で成り立ち易い。
王侯貴族などそれを相手に望む者も存在するが、クリス自身はお断りである。
彼は普通の結婚とささやかな幸せを望み、ガーベラを一人の女性として愛している。
彼女にもそう伝えて求婚したのだ。
妻を道具として許容する考えは、たとえ死んでもご免だった。
ガーベラは自覚していたはずである。
何かの為に、別の何かを犠牲にする行為。
それは夫が最も嫌がる、仲間の血により名声を成す[死神]のジンクスを連想させると。
だから彼女は、自分が死亡した時のことを考えて離縁を口にしたのだ。
妻を犠牲にして生還した結果からクリスを守る為に。
クリスがガーベラの頬を打った手を見つめる。
彼女の行為を許せるはずが無かった。
感謝の言葉を告げる訳にもいかない。
妻を愛するからこそ、彼女の自己犠牲を認められないジレンマ。
彼は滅んだイビルソードを心から恨んだ。
あの魔物は勝負に敗れたものの、刃は夫婦の絆に傷を遺したのである。
手詰まり状態はガーベラも同じであった。
クリスを怒らせた罪悪感と、優しい彼が初めて自分に手を上げた驚愕。
強者であった彼女の長い時間の中で、頬を張られたこと自体も稀な出来事なのだ。ショック
は想像以上に大きい。
ひとしきり涙を流した後、自分が受けた衝撃はクリスに対する感情に裏打ちされたものだと
気づき、ガーベラは己の浅はかさを深く後悔していた。
何が自分の死に夫が囚われないよう離縁だ。
離れ難いのは、むしろ自分の方ではないか。
『……覚悟して下さい。もう、私の側を離れることを許しませんから――』
『――望むところです。どうか、離さないで下さいね、あたしの旦那さま……』
ファーディナントの姓を受け入れた日の言葉を思い出す。
自分の裏切りは単にクリスだけではなく、あの日から始まった夫婦の時間にも及んでいる。
もう二度とあんなことはしない。どうか許して欲しい。
謝罪の言葉はガーベラの胸でつかえ、出口を失ったまま腹中でわだかまる。
自分が謝れば、優しい夫は許してくれるのかもしれない。
しかし、それで報われるのはガーベラのみだ。妻に初めて手を上げたクリスの痛みは、彼の
心のどこかに残ったままである。
彼は事あるごとに思い出し、後悔して自責するのかもしれない。
原因である自分を傷つけないように、そっと一人で抱え込んだまま。
ガーベラは忘れることが出来ない。
手を振り上げた瞬間、クリスの顔が一瞬だけ浮かべたひどく傷ついた表情。
再び怒りで覆い隠されたそれを見て硬直したガーベラは平手を避けることを忘れ、剣の巧者
である彼女が回避できなかった事実は夫を更に傷つけた。
ノエルには怒りの余り退室したように見えたクリスの行動は、ガーベラの目には居たたまれ
なくなり、表情を見られぬよう背を向けたものと映っている。
これは愛で盲目となった者の、都合の良い錯覚なのかもしれない。
その自覚は十分にある。
自分の為に怒り、傷つくクリスの存在が嬉しく、今となっては頬を打たれた事すら、愛しく
思えかねない要因に感じてきそうだから。
先ほどまでは泣いていたのに、一転して胸を熱くして喜んでいる矛盾が我ながら可笑しい。
それを成したのは、ひとえにクリスという存在である。
いつぞやノイエが、結婚を控えた自分に話していたことを思い出す。
夫婦とは衝突とすれ違いを繰り返しながらも、互いに肩を並べて未来へと伸びて続いていく
色違いの二本の糸のようなものなのだと。
夫婦といっても様々だ。
互いに距離を置き、二本で平行して伸び続けていく糸もある。
些細なことから離れ続けて、二度と交差することもない糸たちもある。
しかし多くは寄り添い、絡み合って一本のより強い『絆』という糸になり、中には最期まで
貫き続けて、編み物のごとく一つの形を成す糸たちもあるという。
あの実感のなかった例え話は、今なら確かな重みとして理解できそうな気がしていた。
イビルソードの事件は二人の糸を断ったのか?
いいや、違う。たとえ断たれたとしても、新たに結び直せば良いだけの話だ。その結び目は
不恰好かもしれないが、固い節目を生んで二人を繋ぎ止めるに違いない。
ならば、お互いを繋ぎ止める手段は何が良いのだろう。
何気なく彼女は、倦怠期に入った夫婦の思考のようだと思った。
倦怠期という言葉に、ディアスロンドに滞在してノイエと交えた会話を思い出す。
その途端、火を噴いたように顔が熱くなった。
「……ふっ……ふふふ、あははは……」
傍に控えていたノエルが、ぎょっとした顔でガーベラを見た。
泣き止んで沈痛に押し黙っていた人間が、急にくすくすと笑い始めたのだから無理もない。
「驚かせて申し訳ありません、ノエル様。気が触れた訳ではありませんから、ご心配なく」
目尻に残った涙を拭いながら、ガーベラが微笑む。
「それとお願いがあります。お手数ですが、ノイエ様を呼んできて貰えないでしょうか?」
「いいですけど、お母さんに何か?」
「ええ、ガーベラから相談があるとお伝えください」
※
長考の割に、良い考えは何も浮ばなかった。
観念してクリスが神殿に戻ったのは、太陽の沈んだ夕闇の時刻である。
管理者に聞けば、ガーベラは治療部屋の使用を断って、先に自宅へと帰還したらしい。
恐る恐る妻の様子を尋ねると大丈夫そうであったと聞き、釈然としないものを感じながらも
ほっと胸を撫で下ろした。
だが、そうなると今度は自宅に戻る足取りが重い。
神殿へ残ろうにも、現在クリスは事件の処分を控えた謹慎と休暇を兼ねた状況であり、妻の
付き添いという神殿内の恩赦が無ければ、訪問を遠慮すべき立場なのだ。
これも妻に手を上げた罰なのかもしれない。
叱られて家を飛び出した子供のように、心的に遠い家路をゆっくりと目指す。
物理的な距離は裏切らず、あっさりと辿り着く我が家の扉。
深呼吸を繰り返し、手を伸ばしては引っ込めたりと、準備運動のように反復する。
やがて我が家にノックは要らないと思い当たり、気まずい思いで扉のノブを掴んだ。
「……ただいま」
いつも返ってくるガーベラの応えは無い。
少し気落ちしながら進むと、灯りの点いた応接間のテーブルには彼女の書き置きがあった。
内容は先に休むことを詫びる旨と、台所に食事を用意している伝言。
回復して間もない状態に加え、あんなことがあった自分を気遣うガーベラの対応に、クリス
の胸が温かなものを生む。
寝室で眠る彼女を起こさぬよう、静かに台所へと移動して有り難く食事を頂くとした。
用意されていた料理は、根菜と肉を甘辛く煮たものをメインに、葉野菜を塩茹でした副菜の
サラダ、卵を炒って赤いソースと共にパンに挟んだ素朴な三品。
薔薇の巫女の守護者として、非常時や野営に作る無骨な騎士料理しか経験の無かった彼女が、
結婚してから夫の為に覚え始めた家庭料理。
それは故郷や母の味ではなく、あり合わせの材料で家計の無駄を避ける主婦の味だ。
レピシ通りの前者とは違い、基本と応用を必要とする、普段は気づきにくい料理のスキル。
そういえば色々あって、今日はろくに食事を摂っていない。
急に空腹を覚え、クリスは慌てて料理へと手を伸ばした。
妙に旨かったのは空腹の為ではなく、久しぶり口にした妻の料理だからだ。
味わってから気づいたが、この三品は戻ってくる時間が定かでない自分を考慮して、冷めて
も美味しい品を選択している。
クリスは今、小さな幸せを文字通り味わっていた。
湧き起こる優しい気持ちが、妻への愛情へと自然に変換されていく。
残さず全て平らげると、満腹感と共に寝ずに妻へ付き添っていたツケが猛烈に襲ってきた。
これ以上は、目蓋の重さに耐え切れそうも無い。
行儀悪いと思いながら、クリスは台所の椅子を三つ並べて、即席の寝台を作る。
疲れていたのだろう。すぐに寝息を立て始めた彼は、しばらくして寝室のドアが開き、自身
にそっと毛布を掛けられても目覚める様子はなかった。
※
朝特有のひんやりと肌に触れる空気。
スープを温める良い匂いと、包丁が立てる軽快なリズム。
続いて水音と共に流れる曲は、愛妻が奏でる小さな鼻歌。
自然の目覚ましに揺り動かされて、クリスの意識が浅い覚醒を迎えようとする。
反射的に身じろいだ身体が椅子を軋ませ、その音に小さな鼻歌が中断された。
「おはようございます、あなた」
「……ああ、おはよ……ふぁあ〜あ〜あ……」
「うふふ」
目覚めたばかりで眠気の残る目を擦りながら、ぼんやりとした頭でクリスが考える。
何かが違う感覚がする。
日常の中の非現実というか、これは寝室でなく台所で眠ったこと原因なのだろうか?
そこで自分の身体に掛かっていた毛布に気づく。
ああ、これはガーベラが――――と、そこで昨日の妻に手を上げた事実を思い出した。
眠気が一気に吹き飛び、意識がはっきりと覚醒する。
「ガーベラ、聞いて欲しい! 昨日の……!」
「はい、何でしょう?」
顔を上げて妻を見たクリスの視界。
何かが違う感覚がする。
日常の中の非現実というか、薄紅色の慎ましいエプロンから伸びた二の腕と太腿がやけに白
くて眩しく、布地の脇から輪郭を覗かせている形の良い生乳は、いわゆる横乳の威力を放って
おり、エプロンの下は裸っぽいというか裸そのもので、は、はいてない、ハイテマセンヨ?
ああ、そうか。どうやら自分はまだ夢を見ているようだ。
何だ夢かと思うと、クリスの心が落ち着きを取り戻す。
これはたぶん、裸エプロンという趣向と判断される。
水着とは異なる素朴な面積とアングルは、その隙間に手を入れたくなる誘惑を放っていた。
なるほど。プロポーションの良い彼女には効果的だ。
「お気に召しました? 結構これ勇気いりますね」
赤面しながらガーベラがはにかむ。
夢なんだよな?
恐る恐るクリスが、バッドステータス回復スキル《インデュア》を使用した。
もし自分が眠っているのならば、一種の[転倒]状態にあるのだから、効果は発揮されると
思いたいが…………何にも変わらない…………ってやっぱりそうか、ああこんちくしょう!
「ガーベラ済まなかった! 私が頬を打ったりしたから、そこまで追い詰めたんだよな!?」
床に膝を着いて土下座の姿勢をとるクリス。
彼には妻がこういう態度を取った理由は他に考えられなかった。
「……ショックです」
「そうだろう、私も悪かったと反省を――」
「我慢できずに襲ってくるって『別冊エリンディル主婦の友』には書いてあったのに、土下座
をしてまで勘弁して欲しいなんて、そこまであたし魅力ないですか!?」
「ぶほっ! そうは言ってないだろうっ!」
「だって、さっきからあたしに触るとか、押し倒すとか、何も反応が無いじゃないですか!」
「そんな格好で何て発言をするんだ! そ、それに……反応なら……ある」
今度はクリスが下を向いて赤面した。
ガーベラが微笑みかけたが、慌てて冷たい表情を取り繕う。
「口では何とでも言えます。言葉だけでは信用できません」
「……本当だ。私が土下座の状態を続けているのは、何故だと思う?」
「えっ……」
男性が日々迎える朝の生理現象に加え、欲情した時にもたらされる自然現象。
夫の羞恥めいた告白に、ガーベラが赤面を強める。
不意に訪れる沈黙。
しばらくして、それを破ったのはガーベラだった。
目を閉じて一つ深呼吸をすると、開いた瞳は意を決したように強い輝きを宿している。
「……言ったはずです。言葉だけでは信用できませんと」
ガーベラが近づき、肩を押してクリスの上半身を後ろに倒した。
「ちょ、ちょっと待て! いったい何を?」
「だったら、証拠を見せて貰います。あたしに反応したから立ち上がることができなかった。
つまり本当ならば一目瞭然ですよね?」
あだっぽく微笑むながら、ガーベラが夫のズボンの裾に手を掛けた。
制止する暇を与えず、クリスの半ば大きくなったものが露わとなる。
夫婦となり何度も身体を重ねた関係とはいえ、夜の営みではなく朝陽の射す明るい時間帯の
行為という認識に加え、クリスのモノをまじまじと見る機会がガーベラを興奮させる。
裸エプロンで臨んだ決意もあり、普段は自制された貞淑な妻としての心の歯止めが、身体の
どこかで外れる音を彼女は聞いた。
「なっ? もう良いだろう? こんなことに《二回行動》を使うんじゃない」
「いいえ、まだです。それに使ったのは《ファストセット》もですから」
「――――っ!」
自分の分身に走る感覚にクリスが身をよじる。
「ほらね、もっと硬く大きくなった。反応しただなんて偽りの証拠です」
悪戯っぽく笑うと、ガーベラが白く長い指をクリスの竿に再び這わせた。
逆手に撫で上げ、指の腹でくすぐっては、五指で集い輪となってしごき降りる。
分身の背中を下からすくい上げ、辿り着いた竿の先端を手の平でくるりと円を描いて擦ると、
透明な糸が引いた。
「殿方も女性みたいに濡れるって、本当なんですね……」
ガーベラの囁きに、クリスが羞恥で言葉を失う。
一夜漬けであったが、ノイエから借りた『別冊エリンディル主婦の友』裏特集の手管の効果
にガーベラは内心驚いていた。
だが、おくびにも出さず、そっと触れていたものから手を離す。
中途半端なところで愛撫が終わられ、クリスが戸惑いの表情を浮かべた。
「……そういえば料理が途中でしたし、スープを火をかけたままでは危ないですよね」
艶やかな気配を一切消して、にっこりと笑うとガーベラが背を向けて離れる。
クリスは体面が邪魔して、続けてくれ等とは言えない。
それをあざ笑うかのように、ガーベラは調理を再開し始めた。
前とは異なり、裸エプロンの後ろ側は、結び紐しか存在しない無防備な状態である。
滑らかに輝く肌の質感、白い背中が描く美しいラインを降ると、胸とは異なる魅力を備えた
柔らかく形の良いヒップが視線を捉えて離さない。
その白い谷間の裾野に息づく秘裂が、鮮やかな桃色のワンポイントとして存在を主張する。
全てが美しく挑発的に動き、自分の存在を忘れたように無防備であった。
あの全てに触れ、組み敷いて、此処には男が居るのだと存在を示したい。
熱に浮かされたように、無意識にクリスの喉がつばを飲み込んで大きく鳴った。
続いて小さな金属音。
ガーベラが床にスプーンを落とし、それを拾おうとして膝を伸ばしたまま拾おうとする。
夫に背を向けたまま、挑発的に突き出される白い尻。
上を向いた秘裂を見た瞬間、クリスは駆け寄って妻の背中を抱き締めた。
「んんっ……」
抱き締めた腕に力が入り、ガーベラが吐息を洩らす。
首筋に顔を埋めると、しばらく離れていた甘い香りがした。
背中から回された腕に手を添えながら、ガーベラが呆れたような苦笑を浮かべた。
「……遅すぎです。本気で料理に専念しようかと思いましたよ」
「ああ、この人はもう! やっぱり私を罠にはめたな?」
「むしろこれからあたしをハメるのは、あなたの方じゃないですか」
「……反論はしない」
きわどい冗談をクリスが真顔で返し、隠すことなく熱く硬くなった欲棒をガーベラの尻へと
押し付けた為に、彼女の首筋が赤く染まった。
ようやく触れ合った体温を味わうように、じっと動かず無言の時間が流れる。
「……許してくれますか?」
ぽつりと震える声でガーベラが洩らした。
何をとは言わない。強いて言えば、今回のこと全てである。
互いの顔を見ない状況が幸いし、クリスはひどく優しい気持ちで彼女の声を聞いた。
抱き締めた身体の上昇した体温に、相手の緊張が手に取るように分かる。
「二度としないと誓えるのなら……」
何をとは問わないし、こちらが条件に加えるつもりもなかった。
逆に尋ねられても、たぶんクリスは答えられない。
「……心から誓います」
「そうか、良かった……」
クリスが満足してガーベラを抱き締めていた腕を緩める。
力を込めてしまった緊張は、相手に伝わったに違いない。
「じゃあ、誓いと仲直りのしるしに私に接吻をしてくれ。できれば、うんと熱いやつを」
「ええ、喜んで」
ガーベラが頷いて、クリスの腕の輪の中で身体の向きを反転させる。
溜めた涙を溢すまいと鼻をすすりながら、夫の首に両腕を絡め、ガーベラが顔を寄せた。
震える唇が重なり、相手の吐息すら奪うように激しく求め合う。
突き出した舌が互いの唇を優しくなぞり、絡み合って異なる唾液を味わった。
「あっ……」
「す、すまん!」
情熱的なキスに反応し、クリスの分身が二人の間で存在を主張して中断させた。
申し訳なさそうなクリスに、ガーベラが優しく首を振って微笑んでみせる。
「誓いの分は終わりましたから、仲直りのしるしをしましょう。あなた、知ってます? 男女
が喧嘩した後でする、仲直りの愛し合いって――――」
欲棒に遠ざけられた隙間を埋め、身体を密着させるガーベラ。
クリスの耳に唇を寄せて、熱い吐息を吹きかけながらぞくりとする声で囁いた。
「……すごく気持ち良いそうです」
彼女の白い腹に押し当てられた欲棒が脈打ち、主の期待を雄弁に伝える。
柔肌に伝わる灼けるような熱に、ガーベラもまた期待で胸を振るわせた。
※
後ろが無防備な裸エプロンの仕様上、基本は背後からの責め。
その体勢は征服欲を助長して止まない。
テーブルの縁に両手を着かせた妻のエプロン脇から手を差し入れ、しっとりと指の形に波を
打つ柔らかさを味わう。
目には見えない布地で隠れた部分をまさぐる行為が興奮を刺激し、手のひらの感触へとより
集中させる相乗効果に感心する。
下着とは違い、手の動きを妨げないエプロンのゆとりも丁度良い。
「また大きくなったんじゃないか?」
「……はぁ、はぁ、んくッ! ま、毎晩あなたが……愛していましたから……」
「言うじゃないか」
「ひゃあっ!」
軽く立った乳首を擦り上げる。
乳房と妻の反応を十分に楽しむと、今度は彼女に選択を委ねた。
「次はどうして欲しい? ガーベラの好きで構わないから」
夫の言葉を汲み、妻がこくりと頷いて前を向く。
頬を上気させながら、膝上のエプロンの裾を両手で摘んでゆっくりと持ち上げた。
「どうぞ召し上がって下さい、旦那さま……」
露わになったガーベラの金色の恥毛と、愛液を滴らせる秘所。
こぼれた潤みは太ももに透明な筋を作って光を反射している。
「じゃあ、その状態でじっとして」
「このまま……ですか?」
「そう、エプロンの裾を持ち上げたまま、動かないで」
クリスがガーベラの股間に顔を近づける。
彼女は動くなと言った夫の意図を理解した。
ガーベラの両手はエプロンの裾を持ち上げたままであり、反撃を封じられた形である。
また持ち上げたエプロンの裾は、彼女の視界を遮る覆いとなってクリスの様子を見せない。
まるでスカートの中に男を潜り込ませたようで、双方に倒錯と背徳感を与える。
「……あッ、んッ……んんんッ……ふッ……」
ゆっくりとクリスの舌が秘裂に沿って這う感触。
エプロン裾を持つ、ガーベラの腕がふるふると震える。
彼女の反応に気を良くしたのか、クリスの舌がより派手な音を立てて動く。
久しぶりの夫婦の営みに加え、仲直り直後の相手への愛おしさ。
身体と心の両面で火が点かない訳がない。
加えて普段とは違う、朝の時間帯と台所という場所、そして裸エプロンという状況。
クリスが我を忘れてのめり込み、いつも以上にガーベラが感じる。
舌の愛撫に加え、指の責めが加わった。
敏感な肉芽に潤みを擦りつけて、つつくように刺激を与える。
「あっ、ああン……んふ……ふあッ、ふあッ!」
ガーベラの漏らす声がクリスを駆り立てる。
指が肉襞の奥に埋め込まれ、内壁を擦るように下からガーベラを突き上げてかき回す。
「あうっ! ひあッ! んうううううッ!」
次の瞬間、肉芽に押し付けられた唇が吸い出すように刺激を与える。
「そんなッ? 駄目ッ、いや、いや、ふあ、ひあああああんッ……!」
立っていられないくらいにガーベラの膝が震え、溢れた蜜がポタポタと床に斑点を描いた。
指が引き抜かれ、溢れた愛液が白い内股に新しく伝う。
クリスが裾の下から抜け出すと、ガーベラが荒い息を共に堪えていた膝を着いた。
「……つ、次は……あたしが、しますね……?」
息絶え絶えにガーベラが伺うと、額の汗を拭いながらクリスが首を振る。
「気持ちは嬉しいけど、私は……したい」
「……か、構いませんわ。ちょっと、待って下さいね……」
猛々しく反り返った分身の頭を愛おしむように撫でると、ガーベラが立ち上がった。
テーブルに肘を着いて大きく足を広げると、彼女のほころんだ秘裂が露になる。
獣のような姿勢のまま、首を後ろに向けてガーベラが悪戯っぽく微笑んだ。
、、、、、、、、、、、、、
「……おいで、カラドボルグ」
自身の剛直を魔剣呼ばわりされて、クリスがぷっと噴き出す。
「ならば参る。我が最愛の鞘たる、薔薇の巫女の守護者よ」
夫の物言いに今度はガーベラが明るい笑い声を立て、互いの空気が安らかなものとなる。
ゆっくりと確かめるように挿入され、剣と鞘がひとつになる。
根元まで到達した途端、双方が満足げな感慨のため息を吐いた。
「どこまでも着いていきます。今日はあなたの好きなだけ、あたしで気持ち良くなって下さい」
「ちょうど明日も謹慎の身で休みだ。一日中、離さないかもしれないぞ?」
「……うふふ。でしたら今日はこうして繋がったまま、ご飯も食べさせてあげますね?」
「それは実に素敵な話だな」
後ろから貫かれたまま、ガーベラが顔を寄せて唇を求める。
応えて、クリスがしっとりと愛情を込めた口づけを送った。
「んふっ……」
今日のガーベラの膣内はいつもよりも熱い。
繋がったまま動かずにいても、クリスはひどく心地よかった。
するとガーベラが口づけの夫の舌を吸い上げ、腰を押し付けるように繋がりで円を描いた。
夫の快感の呻き声は、舌の自由を奪われて鼻息を洩らすばかり。
反撃とばかりにクリスが右腕を掴み、より深く突き入れようと妻の両脚の間に割って入る。
空いた左手は、鼓動を確かめるように妻の左乳房へ五指を絡めた。
勢い良く抽送が始まる。
汗が玉となって飛び、背を反らせたガーベラが白い腹に肋骨の筋を浮かび上がらせた。
揺れる髪は、クリスの鼻先を匂いと共にさわさわとくすぐる。
余りの激しさにキスが中断され、抑えきれない嬌声がガーベラの口をついた。
「あ、あああッ! も、もう、もうッ……くううッ!」
たまらず彼女はテーブルの上に上半身を預けて崩す。
クリスが両手を妻の腰に回し、固定させて更に腰の動きを速くした。
責め立てられて震える尻が、肉を打ち据える音を鮮やかに響かせる。
「す、すごい……だ、駄目ッ……もう、来るッ、来ちゃうッ!」
「……まだだッ、私も……もう少しでッ……!」
汲み出される快楽は、際限のない泉のよう。
加熱と加速にわななき、ガーベラの膣内がクリスを締め上げ、受け入れようと蠢動する。
火照った白い肌が桜色に染まり、汗で濡れてぞっとするほど妖しく美しい。
床に散った愛液の匂いが、熱気と共に辺りに漂っている。
ガーベラが奏でる濡れた声に奮い立ちながら、クリスは舌に残るキスの残滓を飲み込む。
視覚、嗅覚、触覚、聴覚、味覚と、五感の全てが相手に向けられていた。
時間と空間を彼女が占め、盲目の恋のように想い人だけしか見えない。
ガーベラが世界の全てであり、クリスは彼女という世界と繋がり同化している。
この瞬間クリスは、誰にも文句を言わせないほどに幸せだった。
しかし、幸せには必ず終わりが訪れることが世界の理でもある。
悲しくはない。
自分の心が伝わったように彼女が身を起こし、寄せて背中を預けてきたから。
だから両手でガーベラをかき抱くように迎え入れて、下腹部の熱を開放した。
深い突き入れと共に、汗を浮べて興奮に染まった彼女のうなじを甘噛みして。
「……ご、ご免なさい……もうッ、あうッ! あああッ! いやあああああァーーーッ!」
妻の叫びと共に、吐き出される白濁の奔流。
波打つそれは意識を灼き染める光と同じ色。
ガーベラという世界が内包する、胎内というセカイに注ぎ込まれた白い種が、新たな小さい
世界を芽吹かせる可能性を求めて最奥へと侵していく。
荒い呼吸に喉を鳴らしながら、クリスが目を閉じて肩越しに妻の頬へと顔を寄せた。
受けたガーベラが夫の頭に腕を回し、後ろ手に髪を撫でつつ目を細める。
穏やかな沈黙を共有しながら、二人は身体を繋げた状態で余韻に身を委ねていた。
※
頭を撫でていた妻の腕が離れた気配に、クリスが閉じていた目蓋を開く。
夫の息が落ち着くのを待っていたのだろう。
ガーベラが首を後ろに向け、ちょこんと人差し指を唇に当てて微笑んでいた。
心得て頷いたクリスがキスを与え、妻の舌に口をこじ開けられて目を白黒させる。
柔らかく濡れた物が流し込まれ、口中に果物の甘酸っぱさと芳香が広がった。
夫の驚く様に、ガーベラがますます笑みを深める。
見ればガーベラが肘を着いていたテーブルには、準備をしていた朝食の品があった。
『でしたら今日はこうして繋がったまま、ご飯も食べさせてあげますね?』
確かに彼女はそう発言をしたが、まさか口移しで食べさせるとは。
ならばとクリスもテーブルに手を伸ばし、湯がいた鳥肉の切り身を口に挟んで突き出す。
ガーベラは鳥がついばむようにキスをしながら、肉片を少しずつかじり取った。
こうなると楽しくなってくる。
再び甘酸っぱい果実。
半熟の目玉焼きの黄身。
蜂蜜をかけた、ふわふわとした白いパン。
野菜を煮込んだあっさりとした透明なスープ。
続いてクリスが新鮮なミルクを口に含み、相手の口へと流し込むが、運悪くガーベラが飲み
損ねて、口の端から零して顎から喉元に筋を描いた。
あたかもクリスの子種を口で受け止めたような、口周りを白く汚した状態。
偶然に出来上がった妻の絵に、クリスの分身は反応を示して胎内の中で大きさを取り戻す。
呆気にとられるガーベラを誤魔化すように、舌を伸ばして妻の口元を綺麗にする夫の顔は、
決まり悪さで少し赤い。
子供の拙い所作を見る母のように、婉然とガーベラが頬を緩めた。
「……ちょっと失礼しますね」
片足の足首を掴み、身体の柔らかさを利用して、回し蹴りのように夫との間へ足を通す。
「器用なものだな」
夫との繋がりを軸に、ガーベラの腰が回って向き合う形となった。
その過程で柔らかな内壁に擦られた刺激に、クリスのモノがますます硬さを得る。
しゅるりと結び紐を解く布音がし、はらりと床にエプロンが落ちた。
今日初めて目にする、一糸まとわぬ裸体が眩しい。
豊かな双丘の頂点で桜色の蕾が硬く張り詰めており、唇に含んで転がしたい誘惑を放つ。
絶妙なラインを描く白魚のような腹部は、柔らかさと鍛錬が共存した結果だ。
その下では愛液で濡れた茂みがあり、まだ乾かない結合部が見え隠れしていた。
「メイン・ディッシュという訳かな?」
クリスが妻の身体を抱えて、テーブルの上に優しく下ろす。
ガーベラがテーブルに手を着いて上半身を起こした。
「あらあら、甘いデザートとは言ってくれないんですか?」
「甘いものは時々食べる楽しみで、毎日に必要とする食事ではないだろう」
「無粋な意見ですけど、意味に免じて許してあげます」
くすりと笑う妻の乳房を、下からすくってクリスが口に含む。
「……本当に、毎日食べても飽きないくらいだ……」
ゆっくりと始まる抽送。
高められていく体温に、ガーベラは熱い吐息を漏らす。
「……あたしだって、毎日されても飽きませんから……」
彼女が蕩けるような表情を浮べながら、しがみつく様にクリスの首に両腕を絡めた。
腹部に響く衝撃に段々と息が荒くなり、更なる高みを求めて両脚が夫の腰へと回る。
快楽に身体を焼くように。
相手を奪い尽くすように。
惜しみなく与えるように。
攻守を換え、愛撫を交互しながら、二人の行為は一日を通して続く。
日々の食事をするように。
軽い冗談を交えるように。
愛と感謝を伝えるように。
休憩を挟み、日常を確認しながら、二人の時間を一日を通して結ぶ。
その日、夫妻の回数は新記録を樹立した。
==========================================
……今回の投下は以上です。
プロットではこの裸エプロンHまでしか考えておらず、この後はこれから考える訳ですが、
次回の投下を以って完結となる予定です。
余談ですが、参考資料としてネットで調べたところ、裸エプロンは女性解放運動の象徴と
して婦人誌で取り上げられたこともあるとか。
一般的には新婚さんや熟年夫婦の象徴行為ですが、海外ではヌーディストビーチで焼肉を
する際、汚れないように行われるそうです。
AVやアダルトグッズ等ではメイドさんがしているエプロンドレス風な、ひらひらとした
エプロンが主流ですが、愛好家サイトの意見で通常のエプロンより面積が広くなるため却下
だとあり、奥が深いものだと妙に感心しました。
では、また次回に。
まぁ、まずはお疲れ様とGJを送ろう。
裸エプロンを芸術にまで引き上げたのは日本人って話を聞いた気がする。
こんな時間まで、息子がお世話になりましたw
ガーベラの裸エプロン……いいですなぁ
>>1さま。
執筆再開の時を待ちながら、スレ立てお疲れ様です。
リプレイの展開をなぞりつつも、徹底的にエロスにこだわる、というのは、
まったくのオリジナルストーリーで話を作るより、ある意味難しいとは思いますが、
ぜひぜひ頑張っていただきたく !
>>14さま。
待ちに待った新妻ガーベラ(のエッチ) !
今回分を拝読して、わたくし気づいたことがあります。
実は、コスチュームに対するフェチ感覚なんて自分は持っていないと思って
いたんですが・・・。
いいな、裸エプロン ! (くわっと目を見開きながら)
それに、生活を共にする夫婦ならではの濃厚プレイ良い !
クリ×ガベ前作の時よりも、二人のハレンチ度すごいアップしてるし(笑)。
完結間近、頑張ってください。
それでは、こちらも。
不意に意識を失って、そして不意に目覚めた私。
・・・これは夢の続きなんだろうな、って・・・最初は、思っちゃいました。
取り乱して、駆け出した私。そして、意識を失ってしまった私・・・。
次に目が覚めると、目の前には私を見つめる灯ちゃんの顔。
優しく、温かい、赤い瞳。
《・・・・うん・・・エリス・・・》
その瞬間、これは夢じゃないって気づいたんです。
現実だって。本物の灯ちゃんだ・・・って。
泣きました。すごく、泣いちゃいました。申し訳なくて、でも会えたことが嬉しくて。
きっと、涙と鼻水で凄い顔になっていたんだろうな・・・。
でも、それくらいのこと、なんでもありません !
灯ちゃんを感じたくて、思わず抱きしめてしまって。泣いて、わめいて、何度も何度も
謝って。灯ちゃんに触れる。すると、灯ちゃんも私に触れてくれる。だから、もう私たち
は大丈夫なんだ・・・って、不思議とそんな風に思えて。
ひとしきり泣いた後で、温かな腕と力強い腕が、私たち二人を支えてくれました。
柊先輩の力強い支え。そして、くれはさんがしっかり身体を抱きとめてくれます。
私と灯ちゃんは、ゆっくり、とてもゆっくりですけど、自分自身の脚で歩くことができま
した。柔らかな灯ちゃんの腕が、脚が、胸が。その重みと温かさが。私の全身で感じら
れます。鼻にツンと少し、薬と湿布の匂い・・・。
「平気 ? もっとゆっくりのほうがいい ? 少し休みながら行こうか ? 」
私の問いかけに「・・・平気」「大丈夫」「ううん・・・」って、答えてくれる灯ちゃんの口
元は、少し微笑んでいるようでした。
(ああ、私たち元に戻ることができたんだ)
そんな実感がふつふつと胸の奥から沸いてきます。
長く続く白い廊下を歩くうち、
「ね、あかりんの部屋ってどの辺なの ? 」
くれはさんが言いました。すっ、と灯ちゃんが顔を上げ、斜め前方の扉を目で示しま
す。あとほんの数歩のところにその部屋はあるようで、確かに遠目で見ても、灯ちゃ
んの名前が書かれたネームプレートが掛かっているようです。
「あと、もう少し。頑張って、灯ちゃん」
彼女の身体をしっかりと支えながら、私は灯ちゃんに声をかけます。結構、無理をし
てるはずなんです。呼吸も不規則で、額にうっすらと汗がにじんでいるんですもの。
だけど、すごく不謹慎なんですけど、いま、ちょっとイケナイことを考えてしまっている
自分がいて。灯ちゃんが、こんなに大変な目に遭っているのは私のせいなのに。
私のせいで灯ちゃん、怪我をしちゃったのに。こうやって、灯ちゃんの側にいられる
こと・・・・・・ううん、はっきり言っちゃいます・・・こうやって、灯ちゃんに触れていられる
ことが・・・すごく、嬉しくて。
・・・・・・うぅ・・・ホントに、悪いコになっちゃったんでしょうか、私・・・
このたった二日間で、私どれだけ自己嫌悪に陥ってるんだろう・・・。
はあ・・・って、思わず溜息をついてしまう私に、
「・・・・・・エリス・・・疲れた・・・ ? もう・・・一人で歩けるから・・・」
灯ちゃんが気遣わしげにそう言ってくれて。
も、もう、私ったら ! 辛いのは灯ちゃんのほうなのに、逆に気を遣わせてどうするの !?
「あ、あはは。大丈夫だよ。私は全然平気だから。ほら、もう少し」
なんでもないよ、ってアピールするように笑ってみせます。
「・・・・・・うん」
「頑張ったね〜、あかりん。あ、ひーらぎ、先に行って扉、開けといて〜」
くれはさんに「おうっ」と答える柊先輩。たたたっ、と軽快な足音を響かせて、灯ちゃ
んの部屋の前まで駆けて行きます。
扉の前で立ち止まった柊先輩が、なにかに気づいたように隣の部屋に目をやると、
「なんだよ、絶滅社も結構、粋なことするもんだな」
こちらのほうを・・・いいえ、灯ちゃんのほうを見てそんなことを言いました。
「はわ・・・ ? 」
「え・・・・・・ ? 」
私とくれはさんが同時に疑問符を頭に浮かべます。
ふと、柊先輩の視線につられて灯ちゃんの顔を見ると。
「・・・・・・黙ってて。柊蓮司」
蚊の泣くような小さな声で、柊先輩にそう言った灯ちゃんの頬が。
ほんのりと桜色に染まって、とても綺麗で。
ズキンッ。
・・・胸が、締め付けられるように痛い。
なんて。なんて綺麗なんだろう。なんて、可愛いんだろう。灯ちゃんのいまの表情は、
恋をしている女の子の顔でした。愛しい人を胸に思い浮かべ、情熱をその内に宿した
女の子の顔でした。
「お前、隣の病室なんだな・・・命のヤツの」
柊先輩の一言が、私の耳を激しく打ちます・・・。
気づかないふりをしたって。忘れたふりをしたって。いつか突きつけられる現実は、
あまりにも唐突に訪れました。
真行寺命さん・・・。
灯ちゃんの恋人・・・だって聞いています。
詳しく話してくれたことはないけれど、柊先輩たちが何度も世界の危機を救ってきた
ように、かつてその身を賭して魔王の脅威から世界を救った人。命がけで、灯ちゃんを
護った人だ・・・って。
世界を救った代償として、いまは深い深い眠りについているんだ・・・って。
「はわ・・・。こう言うのも変だけど・・・よかったね、あかりん」
「・・・・・・・・・ん」
なんだか嬉しそうな灯ちゃん。やっぱり、胸が痛い・・・。
「おっと、油売ってる場合じゃねえな。灯も辛そうだし、おい、くれは。早く連れてきてや
れよ」
「はわわ。そうだったね。エリスちゃん、いこっか」
柊先輩にうながされて、私たちは灯ちゃんの身体を支え直しました。
開けてもらった扉をやっとくぐり、殺風景な病室のベッドに灯ちゃんを座らせると、じ
んわりと額が汗ばんできます。強がって、平気な風を装っていましたけど、やっぱり人
一人、ここまで運ぶのは大変でした・・・。
「・・・はい・・・これでよし。お疲れ様でした、灯ちゃん」
灯ちゃんの赤くて綺麗な長い髪は、研究室と病室の行き来の間に随分と乱れていま
した。携帯用のブラシで身だしなみを整え直し、服についたシワを直したり。
リクライニングのベッドの上。仰向けに横たえた灯ちゃんを見つめながら、私は自分
に言い聞かせます。
泣いちゃダメだよ。仲良しで大好きな灯ちゃんが目の前にいるんだもん。
私のせいでケンカして、傷つけて、本当に大怪我するくらいひどい目に遭わせちゃっ
て。それでも、こうやって私たち、元の二人に戻ることができたんだもん。これ以上を
望んだら、きっといけないはずなんだよ・・・。
・・・・・・私、強くなんかないんです。
いつもと同じ私でないとダメ。いつもと同じ、二人じゃないとダメ。
変わらない日常、ただそれだけを望んでいたのに。
それなのに。
いまは、変わらない二人の関係が、もどかしい。
でも、それを変えようとすれば、今度こそ本当に二人の絆は壊れてしまう。
だから私は、灯ちゃんに最高の笑顔を見せ続けなきゃいけないんです・・・。
「灯ちゃん。今日はもう、帰るね」
「・・・・・・・・・」
ベッドから、灯ちゃんが私のことを見つめています。その瞳が、寂しそうにこちらを見
ている、と感じたのは、自信過剰の錯覚だったのかもしれませんけど・・・。
「はわ、もう帰っちゃうの !? もう少しいようよ、ね ? 」
「いえ。それじゃ、灯ちゃんが休めませんから。早く休めば、その分早く帰ってこれます
よ。ね、灯ちゃん ? 」
なんて強がり。本当は誰よりここにいたいのに。誰よりここを離れたくないのに。
誰よりも灯ちゃんと一緒にいたいのに。
「でも・・・・・・」
「くれは、ここはエリスの言うのが正しいぜ。たしかにお前みたいなのがいたら、灯も
おちおち寝てられやしねえだろうからな」
「ちょっと、ひーらぎ。それどーゆー意味 !? 」
頬を膨らませて、柊先輩に抗議するくれはさん。それに対して意地悪く笑って、
「ほらみろ。騒がしいじゃねーか」
と柊先輩。
「・・・柊蓮司・・・・・・一本」
「はわー ! あかりんまでひどいよー ! 」
沸き起こるさざめくような笑い声・・・・・・よかった。いつものみんなだ・・・。
「それじゃ、灯ちゃん。またね。学校終わったら毎日お見舞いに来るから待っててね」
笑顔だよ。いつもの笑顔だよ・・・って。心の中で呪文を唱えるように自分に言い聞か
せます。ベッドの傍らから立ち上がり、最後に一度だけ、灯ちゃんの手に私の手を重ね
て。
「エリス・・・・」
「それじゃ・・・・・・また明日」
私に続いてくれはさん、柊先輩が立ち上がり、それぞれがそれぞれの別れの言葉を
告げています。立ち去る前にもう一度、扉の前で灯ちゃんを振り返った私。
笑顔という仮面で自分を誤魔化していることに、後ろめたさを感じながら、私は病室を
後にしました。
病室を、逃げ出しました・・・。
※※※
研究室に戻るとナイトメアさんの姿はもう見えなくて、扉の前ではアンゼロットさんが、
待合席に腰掛けて、退屈そうに脚をぶらぶらしているところでした。
なんだか、可笑しい。
見掛けよりはずっと年上だ、って以前柊先輩が言っていましたけど、こうしてみると
年相応の女の子って感じがして、とても可愛らしいんです。私たちに気づくと口を尖ら
せながら、
「遅いですわよ、柊さん ! いつまで待たせるおつもりなのかしら !? 」
・・・って、怒られちゃいました。
「なんで俺だけ名指しなんだよッ !? 別に道草食ってたわけじゃねーぞ !! 」
「ど〜ですかしらね〜 ? さ、そんなことよりさっさと戻りますよ。わたくしだっていつまで
もここにいられるほど暇ではないんですから。世界の守護者は多忙なんです」
たん、と軽やかに席から降り、アンゼロットさんがそう言います。
「へっ、そりゃ悪かったな。それじゃ、さっさと帰ろうぜ。もちろん、置いてったりしねーよ
な。俺だけ歩いて帰れ、なんてのは勘弁してくれよ」
「・・・柊さんが普段わたくしをどういう目で見てらっしゃるか、よーくわかりました。本当
に歩いて帰っていただきましょうか ? 」
思わずくれはさんと顔を見合わせて。
二人して、笑い出す私たち。ここにもいつもの楽しい風景がある。でも、いまの私は、
この日常にしがみつくために、必死でみんなに合わせているだけの偽者です。
くれはさんが私と顔を合わせるから。くれはさんが笑うから。その真似をして笑ってい
るだけなんです・・・。
「冗談はさておいて。さきほどから車は待機させたままですから、いつでも出られます
わ。みなさん、特に用事がないならさっさと乗ってくださいな」
アンゼロットさんに言われるままに研究施設を後にする私たち。次々とリムジンに乗
りこみ、重たい黒塗りのドアがバタンと閉まると、来たときと同じように音もなく、車は滑
るように走り出しました。
「・・・ここからですと、一番近いのは赤羽神社ですかしら ? ええ、ではそうなさい」
顔の半分を仮面で隠したリムジンの運転手さん(この人もロンギヌスの人なんでしょ
うね)が、アンゼロットさんの指示に頭を下げ、ハンドルを切ります。
ここへ来るときとは違い、空を飛んだりはしません。帰りは普通の車と同じように、道
路をきちんと走ります。
車内の空気も、さっきまでとは全然違っていました。
くれはさんが、アンゼロットさんに「よかったよ、ほんとによかったよ」って何度も何度
も繰り返しています。それをにこにこしながら「そうですわね、よかったですわね」って
アンゼロットさんが相槌を打って。
ちらりと横目で盗み見ると・・・柊先輩は、腕を組んだポーズで居眠りをしていました。
そんな柊先輩の寝顔を見て、少しだけ私は、笑うことができました・・・。
「はわー、あたしン家だー」
リムジンのウィンドゥのガラスにべったりと両手をついて、くれはさんが歓声を上げま
した。「すごいねー、リムジンはやーい」と、しきりに感心しながら、はしゃいでいます。
大きな鳥居に続く長い石段の、ちょうど真下にリムジンが停まると、真っ先にロンギ
ヌスの方が車を降り、ドアを開けてくれはさんをエスコート。
「はわわ、ど、どーも、どーも」
変に緊張しながらくれはさんがリムジンを降ります。くるっと振り返ると、
「ひーらぎー・・・って、寝てるし。ほんとしょーがないなーこいつ。あ、エリスちゃん、ま
たね。あの調子なら、あかりん、すぐに元気になるよー」
なんだか、私を励ますみたいに。くれはさん、すいません。頼りなくて、気を使わせる
後輩で・・・。
閉められた車のウィンドゥ越しに、お互い手を振り合って別れる私たち。
「それでは、エリスさんのマンションに参りましょうか」
というアンゼロットさんに、よろしくお願いします、と頭を下げて。ふと、お辞儀の姿勢
から頭を上げた私と、アンゼロットさんの目が合いました。
「あの・・・なんでしょう・・・? 」
なんだか、アンゼロットさんの瞳が沈んでいるような、そんな気がして、私は思わず
訊いてしまいました。あら、なにがですか・・・? って、いつもの口調でそう言うと、再び
なにごともなかったかのようなアンゼロットさんに戻ってしまいます。
私の気のせいかな・・・ ? 自分の気持ちがこんなだから、他の人のこともそう見え
ちゃうだけなんでしょうか・・・ ?
再び走り出したリムジンは、驚くほどのスムーズな走りで秋葉原の街を滑りぬけてい
きます。電気街の街並みをぼーっと眺めていた私の頭の中に、鮮明に甦ってくる私自
身の言葉。
《それじゃ、灯ちゃん。またね。学校終わったら毎日お見舞いに来るから待っててね》
・・・あんなこと言って。強がって、あんな約束して。私、本当に明日から灯ちゃんに、
普通の顔をして会えるんでしょうか ? こんな気持ちのままで。灯ちゃんの病室に、一
人でいけるんでしょうか ? 命さんの病室の隣の、灯ちゃんのところへ・・・。
そう思いながら俯いてしまった、その時です。
「ふごっ、がっ」
「きゃっ・・・ !? 」
私のすぐ真横で、動物のうなり声のような大きな音がして、私、飛び上がってしまい
ました。
「まあ、柊さんったら、なんて品のない ! 」
「・・・び、びっくりしました・・・いまの・・・柊先輩の・・・いびき・・・ですか・・・ ? 」
見ると、頭をかくんかくんと揺らしながら、すごく眉間にしわを寄せて、柊先輩が怒っ
たような顔で眠っています。私、その瞬間、全身が雷に打たれたように震えるのを感
じました。
私が辛かったあのとき、苦しかったあのとき。最初から最後まで一緒だった、励まし
てくれた人が、ここにいる・・・。あらゆるものに絶望したとき、自分の「死」さえも受け入
れようとしていた「あのとき」の私に、力強い言葉と勇気をくれた人・・・。「あのとき」、
たしかに私が「好き」だった人・・・。
「さあ、エリスさん。着きましたよ」
リムジンが停車して、アンゼロットさんに声をかけられても、私は柊先輩の寝顔を、
食い入るように見つめていました。
「エリスさん・・・ ? どうしまし・・・」
「・・・ッ、先輩ッ、柊先輩ッ !! 」
後で考えたら、わたしすごいことしちゃってたんだな、って思います。
私、眠っている柊先輩の服の襟を両手で鷲掴みにして、なんと前後に思い切り、先
輩の首がもげちゃうぐらい揺らしていたんです。
「おうっ !? うおおうぅっ !? な、なんだ、なんだよオイ、え、エリスかっ !? 」
「起きてください、起きてください、先輩っ」
がっくん、がっくん。
「お、起きたッ ! 起きたっつーのッ !! 」
はっ、となって先輩の襟を放して。あ・・・私・・・なんてこと・・・は、恥ずかしい・・・
で、でも、私だって必死なんですっ、柊先輩っ !!
「い、いったいなんだよ、らしくねーな、エリスがこんな・・・」
喉を手で押さえ、柊先輩が咳き込みます。すいません、先輩。でも、だけど、聞いてく
ださいっ !!
「せ、先輩っ。ここ、ここ私のマンションですっ」
「 ? お、おう、そうだな。それがどうし・・・」
「せ、せっかくですし、寄っていきませんかっ !? お、お茶でも飲んでいきませんかっ !? 」
柊先輩にすがりつくほどに接近していたことも、そのときの私は気がつかなくて。
でも、それぐらいの勢いで誘ったせいでしょうか。柊先輩、ちょっと口元をひくつかせ
ながら、
「な、なんだよ、いきなり。そんなすげぇ顔でお茶に誘わなくても・・・」
すごく、たじろいでしまっていました。
そのとき、
「・・・・・・柊さん」
ぴしり、と鞭を打つように鋭い声で呼ばわったのは、アンゼロットさんでした。
その声の鋭さに、私も、柊先輩も思わずそちらの方を向いてしまいます。
アンゼロットさんは・・・すごく真摯な瞳で柊先輩を見つめていました。口元は引き締
められ、いつもの、柊先輩と楽しく遊んでいるアンゼロットさんでもなく、宮殿で優雅に
紅茶を飲んでいるアンゼロットさんでもなく。それでいて、“世界の守護者”としての厳
しさを秘めたアンゼロットさんとも、どこか違う・・・一人の、誠実な、ただの一人の女性
としての、アンゼロットさんでした。
「柊さん。エリスさんにお呼ばれなさい」
「あん ? 」
「いいから。わたくしのいうことには、『はい』か『イエス』でお返事なさい」
有無を言わせない口調は、むしろいつも以上。文句を言おうとしたのでしょうか、柊
先輩が口を開きかけます。でも、アンゼロットさんの表情にぶつかって、なにかを思い
直したように、口をつぐみ。
「・・・そーだな。たまにはエリスのお茶とお菓子を独り占めさせてもらうのも、悪くねー
かもな」
私に向けて、明るく笑いかけてくれました。
アンゼロットさん・・・ありがとうございます。きっと、私が柊先輩と二人きりでいられる
機会を作ってくれたんですよね。
「よし、そんじゃ、久しぶりにエリスのマドレーヌ、たくさん食わせてもらうか」
「・・・・は、はいっ !! 」
よかった。これで柊先輩にお話聞いてもらえる。いまの私の悩んでいること、少しで
もお話できる。先輩と連れ立ってエレベータに乗り込み、最上階の私の部屋へ。
・・・なんだか、ドキドキします。
これから私が話そうとしていることは、灯ちゃんとのこと。
私が、灯ちゃんに対して、友達としてではなく、もしかしたら別の意味で「もっと好き」
なのかもしれないということ。それが正しいことなのか、いけないことなのか。どうした
らいいのか、どうしたらいけないのか。いまの私は、もうなにもわからなくなってしまっ
ているから・・・・・・。
リビングに先輩を案内して、お茶の準備に取り掛かりながら、先輩がどんな答えを
くれるのか・・・私の頭の中は、もうそれでいっぱいになってしまっていたんです・・・。
※※※
「え・・・っと。つまり、一言で言うと・・・こ・・・恋の悩みなんです」
二人分のカップに紅茶を注ぎ、お菓子をテーブルに用意した後。
おもむろに切り出した私の言葉に、柊先輩は思い切りむせ返り、紅茶をこぼしそうに
なりました。
「わ、私のことじゃないですよっ。その・・・クラスメートの・・・悩みを相談されて・・・」
ちくりと胸が痛い。また、嘘をついちゃった・・・。
でも、ほんの少しの「ずる」は許してください、柊先輩・・・。
「・・・その女の子には、好きな人が・・・いえ、好きかもしれない人がいるんです」
ぽつりぽつりと、少しずつ。私は、それが自分のことだとわからないように、話し始め
ました。やっぱり、心苦しい。友達の誰かから、恋の悩みを相談されたかのように嘘を
つく私の話を、柊先輩は居住まいを正し、真剣な顔つきで聞いてくれています。
柊先輩は、すこしも私の誤魔化しに気づいていないようです。
それなのに、どこの誰かもわからないはずの女の子の恋の悩みを、すごく真面目に
聞いてくれているんです。最初は、恋愛話を俺に振るのはどうかと思うぞ、って顔をし
ていたんですけど、私がどうしてもって食い下がると、しばらく考えて、
「・・・おう。俺のアドバイスがどこまでアテになるかわかんねえけど、それでいいなら
いくらでもきくぞ」
時々見せる、あのほろ苦い、どこか大人の男の人の雰囲気のする微笑みを浮かべ、
柊先輩は私の話を聞いてくれました。
「・・・でも・・・その女の子の前にはすごく高い壁があるんです」
「壁 ? 」
「・・・・・・はい。その、詳しく言うことはできないんですけど・・・」
その女の子が好きな相手の人は、実は女の子なんです。
・・・なんて、ちょっと言うことができなくて。私、言葉を濁してしまいました。
口ごもる私に助け舟を出すように、
「あー・・・あれか、たとえば家族に反対されてるとか、そういうやつか。ロミオとジュリ
エットみたいに」
と、柊先輩。私、ついつい吹き出しちゃいました。だって、すごく意外な言葉が飛び出
してきたんですもの。まさか、柊先輩の口からロミオとジュリエット、なんて言葉が出て
くるとは思わなくて(ごめんなさい ! )。
「な、なんだ。俺、なんかおかしなこと言ったか ? 」
「い、いえ、すいません。でも、そうです。そういうことです」
きっと無意識なんだろうけど、柊先輩のこういうところ、やっぱり素敵だなって思いま
す。さっきまで、暗い気持ちになっていた私の心を、あったかくほぐしてくれる。
それがどんな状況であっても、誰が相手でも、柊先輩はみんなに明るさとか、元気と
か、そういうものをたくさんくれる人なんだな、って。
柊先輩は腕組みをしながら、じっと考え込んでいます。
一分。二分。すごく真剣な、怖いくらい真面目な顔をして。
「・・・・・・壁、か・・・」
ようやく口を開いた先輩が、そんなことを呟きます。
「なあ、エリス。例えばの話だけどな」
「はい ? 」
続いて先輩の口から飛び出した言葉に、私は心臓が止まるかと思うほどびっくりして
しまいました。
「エリス。俺はお前のことが一人の女の子として好きだ。つきあってくれないか」
・・・・・・・・・。
え、え、え、い、いまなんて !? 柊先輩なにを言ったんですか !?
「・・・っ、え、あぅ、あぅ、せ、せんぱ・・・ひいらぎせんぱい・・・ !? 」
顔といわず身体中全部、突然熱を発したように赤く熱く火照ってしまう。い、いくら私
が、柊先輩にはくれはさんじゃなきゃダメだって諦めたからって、それでも先輩は私に
とっては初恋の人で、そんな人にこんな台詞を言われるなんて・・・!!
「・・・・って言われたとしたらさ。お前、困るだろ」
「・・・・・・・・・・・え・・・・・ ? 」
「あれ、聞いてなかったのか。だからさ、俺がエリスと付き合いたいって、例えばそう
言ったとしたら、お前困るだろ ? 」
・・・・・。
そ、そうですよね !? 当然例え話ですよね !? あ、あはは、ヤダ、私、なに慌ててるん
だろうっ・・・。
「あ、あの、なんていうか、困るというか、その・・・」
はっきりと答えられない私の語調は、だんだんと尻すぼみになっていってしまい。
そんな私を優しい目で見て、柊先輩は、
「・・・ここにも、壁ってあるじゃんか ? 」
と、そう言いました。
「ここにも、ですか・・・ ? それは、先輩と・・・私が、その・・・付き合うということにも、っ
ていう意味で、ですか」
「ああ。俺が、例えばエリスのことが女の子として好きで、恋人として付き合いたいっ
て思ったとして、さ。俺たちがそんな関係になれるまでに、俺には越えなきゃならない
壁がある。そうだよな ? 」
「え、えっと・・・ ? 」
「エリスが、もっとお洒落な男が好みだとしたら、ファッション雑誌やらなにやら買い込
んで流行を勉強しなきゃならない。これは俺にとって越えなきゃならない壁だ。エリス
がスゲェ面食いだったとしたら、俺はエステに通わなきゃならないかもしれない。これ
も壁だ。エリスに振り向いてもらうために、俺は幾つも壁を越えなきゃならないわけだ」
おどけた調子で柊先輩は言います。
少し、私は意外でした。
女の子の恋の悩みに大したアドバイスはできない、と言っていた柊先輩。
てっきり、「そんな壁なんて気にすんな ! 上手くいくにせよいかないにせよ、どーんと
ぶつかっちまえばいいのさ ! 」みたいに、豪快に笑ってそんな風に言うのかな、って
私は思っていたんです。
というか、そうやって臆病な私の背中を後押しして欲しかったのかもしれません。
なにも動き出せない私が、次のステップを踏み出すための力になってくれれば、って
思っていたのかなって・・・。動いた結果がどうなるにせよ、このまま窒息しそうなまま
で停滞しているよりはいっそ行動したほうがいいって思っていたから。
でも、結局私は踏ん切りをつけることができなくて、灯ちゃんと面と向かって話をする
勇気すら持てなくて、こうやって柊先輩にまた甘えてしまっている・・・。
私、いま気がついたことがあるんです。
先輩がこうやって噛み締めるように言葉を選んでいるのは、本当に、真剣に考えて
くれているからなんだなって。恋の悩みはわからない、なんて先輩は言うけれど、くれ
はさんっていう素敵な女の人と、心から通じ合っているんですもの。誰も入る隙間が
ないくらい、結ばれあった人ですもの。他人の恋とはいえ、誰かが誰かを好きになる
ことの大切さを、きっと誰よりもわかっているのが柊先輩なんだ、って。
だから、すごく真剣に考えてくれているんだな・・・って。
「だけどな、ここで大事なことは、だ」
一転、真面目な顔つきで。
「こっち側に越えなきゃならない壁があるってことは、相手にとっても越えなきゃいけな
い壁があるってことなんだよな」
・・・・・・・・・ !!
私、どうして気づかなかったんだろう。
そうです。柊先輩の言う通りです。
自分の目の前に立ちはだかる壁の大きさに面食らってしまって、それは例えば「私
たちは女の子同士だ」っていうこともそうだし、「灯ちゃんには最愛の恋人がいる」って
いうこともそうだし、そのことを、“私が越えなきゃいけない壁だ”って、私は思い込ん
でいたんです。
この気持ちを伝えたい。灯ちゃんはどう思うかな。でも、変な子だって嫌われるかも
しれない。どうしよう・・・・って。
・・・・・私、自分のことばかりでした。
私の想いに、灯ちゃんが応えてくれるということ。
それは、灯ちゃんに女の子を好きになって欲しい、と思うこと。
それは、灯ちゃんに最愛の人を忘れて欲しい、と願うこと。
・・・・・・そんなこと、求めることはできませんよね・・・。
あーあ・・・。私、進歩がないなぁ・・・。柊先輩を諦めたときのように、今度は灯ちゃん
への想いを捨てなきゃ、いけなくなっちゃうなんて・・・。
大切な人たちだから、好きな人たちだから、私は大好きな柊先輩とくれはさんが一番
幸せになれることをなによりも願いました。だってお二人は、お互いがお互いにとって
一番の存在なんですもの。
だから、それが灯ちゃんの場合でも同じです。
大切な人だから、好きな人だから、私は大好きな灯ちゃんが一番幸せになれることを
願っています。だって、きっと灯ちゃんと命さんは、お互いがお互いにとって一番の存在
であるに違いないんですから・・・。
なんだか、悲しくなってきちゃいました。
だって、私、柊先輩を好きになっても、くれはさんには敵わないからってすぐ諦めて、
灯ちゃんを好きになっても、今度は二人の間の壁を越えられないからって、また諦め
てようとして。
私の「好き」ってその程度なのかな。
私の気持ちってこんな簡単に変えたり捨てたりできちゃうものなのかな。
私、人を本気で好きになることができない、冷たい女の子なのかな・・・・
私の抱いていた柊先輩への気持ちってなんだったんだろう。今、抱いている灯ちゃ
んへの想いってなんなんだろう、って。
私、決めなくちゃいけません。
こんな曖昧でいい加減な気持ちなんて捨ててしまわなきゃ。
ちょっと辛くて、ちょっと悲しくて、胸が、すごく痛い。
明日、きちんと灯ちゃんに会って話をしよう。普通の、なんでもないいつものエリスに
戻って、また変わらない私たちでいよう。そう、私が心を決めたときです。
「エリス。その娘に会ったら伝えてやって欲しいんだけどさ」
柊先輩が私の目をじっと見つめて、そんなことを言います。
「・・・・はい」
また、あの考え込むときの深い色の瞳をして、柊先輩は少し考え込んで。
言葉を、胸の中で選んで、熟成して、ゆっくりゆっくり言い聞かせるように、先輩は語
り出します。
「もし、その娘が、自分の恋を諦めなきゃいけない、って思ったとしたら、さ」
「・・・・・・」
「そのことで、自分を責めることだけはすんなって、言ってやってくれよな」
「・・・・・・ !! 」
心臓が止まるかと、思いました。
私の本心、隠していた気持ち、それを全部見透かされたような気がしたんです。
自分は冷たい女の子。好きっていう気持ちを簡単に諦められる薄情な女の子。
だけど灯ちゃんに嫌われるのは怖くて、灯ちゃんと離れる勇気はなくて、自分の気持
ちも悩みもすべてなかったことにして、都合のいい日常を取り戻したいだけのズルイ女
の子。
自嘲を込めてそう認めそうになっていた私の心に、先輩の言葉がじんわりと染み込
んできて。
「・・・・・愛だの恋だのなんてもんには、壁ってつきものだと思うんだよな。もがいて、
しゃかりきンなってさ、その壁を越えようって、その娘はしてたんだろ ? 」
「・・・はい」
「でもさ、その壁を越えられなかったことで、自分を責める必要はねえんだ。そういう
壁ってモンはさ、一人じゃ絶対に越えられねえんだよ。自分と、相手が一緒ンなって、
足掻いて、やっと越えられるモンなんだ」
「・・・・・・」
「・・・その壁を、一緒に越えることができた相手を・・・・・・お互いにとっての一番の存
在っていうんだろうな、って俺は思うぜ」
「・・・それじゃあ、先輩。教えてください。一緒に壁を越えることができなかった相手っ
ていうのは・・・本物じゃないんですか・・・ ? 相手を大切に想う気持ちも錯覚・・・なん
でしょうか・・・ ? 」
先輩がくれる言葉に、いつしか私、引き込まれていました。
先輩の言葉に、私はなにかを・・・もしかしたら救いのようなものを・・・求めていたの
かもしれません。
「・・・もし、その娘がそういう風に思って自分を責めているんだとしたら、俺はこう言っ
てやるよ」
「・・・・・・」
「それは、お前がいつか本当に一緒に壁を越えられる相手に巡りあった時。その相手
の手を取るときのために、いずれ必要になる力をくれた相手だったんだ、ってな。本当
の一番に巡りあったときのために、一緒にもがいて、足掻いてくれたヤツの気持ちは、
絶対嘘じゃねえ。そいつのことを大切に想っていたその娘の気持ちも絶対本物だ。
だから、好きなヤツを諦めなきゃならなかったことを責めるのは止めろって、俺は言う
ぜ。想う気持ちは・・・・それがなんであっても、絶対本物だ、ってな」
ぽろ。ぽろぽろ。
私、私・・・。柊先輩の言葉を聞いているうちに・・・。
・・・・・・泣いていました。
「うおっ !? エ、エリス、なんだよ、なに泣いてんだ !? 」
柊先輩が、驚いてのけぞります。
もう・・・先輩のせいですよ。先輩の考えてること、それが形になった言葉、それがど
れだけあったかくて、熱く私の心に染みこんで、どれだけ私の救いになってくれたのか。
先輩には気づいてもらえないかもしれないけど・・・私、感動して・・・・・・。
不思議です。私、なぜだか「許された」、そう思ったんです。
私は嫌な女の子。冷たい女の子。ひどい女の子。でも、柊先輩に「そんなことねえぞ、
エリス」って言ってもらえたようで。
自己弁護かもしれません。それこそ、自分の嫌な面から顔を背けているだけなのか
もしれません。でも、私の心が柊先輩に勇気づけられて、前向きさを取り戻したのは
確かなことなんです。
柊先輩の言葉を借りれば、「想う気持ちは絶対本物」。
・・・・・・そうですよね、先輩 ?
「え、えへへ・・・ごめんなさい。柊先輩、すごくいい言葉です。私、感動しちゃいました。
きっと、その娘も同じ気持ちになると思いますっ」
「そ、そっか。ま、エリスがそう思ってくれたんなら、少しはアドバイスらしいことができ
たってことでいいのか ? 」
「もちろんです ! やっぱり、相談してよかったです。柊先輩は、やっぱり・・・」
「うん・・・ ? 」
急に言葉を切った私を、先輩は不思議そうに見つめます。
ふと、私は訊いてみたくなりました。
「さっきの話ですけど、先輩、くれはさんとの間にも越えなきゃならない壁ってあったん
ですか・・・ ? 」
途端に、先輩の眉が吊りあがりました。
「壁だぁ ? そんな生易しいもんじゃねえ。壁どころか山だ、山。なんせ、山ン中だから
な、お互いの声は届きにくいわ、ひどいときには遭難するわ、そりゃあ神経すり減らす
ぞ、くれはのヤツとつるんでると」
ったく、くれはのやつときたら・・・・・・って、柊先輩、愚痴をこぼし始めます。
うふふ。
惚気ているようにしか聞こえないのは、私の気のせいじゃないですよね ?
「ありがとうございました、柊先輩 ! 私、頑張りま・・・あ、その、頑張るようにその娘に
伝えます。本当に、お世話になりました ! 」
私、本当に久しぶりに心の底から笑えました ! 柊先輩が口数少なく、
「・・・・・・おう」
・・・って無愛想ないつもの言い方で答えてくれた響きは、やっぱりその奥にたとえよ
うもないくらい優しさがあふれていて。
ありがとうございます。柊先輩。
私、逃げるのやめます。自分の気持ちに向かい合ってみます。
今日一日、ちゃんと考えて私なりの答えを出して。
明日、灯ちゃんと会おう・・・そう、思います・・・・・・。
(続)
・・・またエロなしで(汗)。
どうしても、エリスの葛藤とか悩みの部分を書き込むと、エロに至るまでの
説得力を持たせないと納得いかなくて・・・
次回は、灯と向き合ったエリスが、ついにエッチを決意(?)するまでの話になります。
ですので、次回もエロは微エロのみ(いまのうちにお断りしておきます)。
次々回がやっと、エリス×あかりんの本番の回となります。
ある程度、ストーリーの骨子は完成しているので、すぐ投下に繋げられそうです。
ではでは。
ふぎぎ!ふっぎぎっ……!は、早く結婚すr(ry
ぬお、二つも来てる。
はだエプブラボー。
柊お前にせもんだろー!(褒めてる
>>30 カップリングを指定するという事は別の組み合わせのも期待してよろしいか
二つつもグッジョブ。
略してふっジョブ。
>>14 葛藤を乗り越える夫妻というのは言い話だし、
エロ差も言う事はないのだが。
裸エプロンの下りで腹筋を崩壊させた私を許しておくれ。
>>30 柊は、やっぱ柊だなー。
34 :
6:2008/06/21(土) 22:07:04 ID:hZUcbjGB
感想を下さった方々、ありがとうございました。
実は、裸エプロンに思い入れが無いため(だからネットで資料集め)、
手探りで書いたものなんですが、概ね好評で安堵しました。
感想の中でご指摘にあった通り、夫婦だからこそ、そして事件の後もあって、
前作とは異なり色々と制限を外せた想定です。
真面目な二人ですから普段は大人しく、始めれば熱中するのが私的な
夫婦のイメージだったり。
>>30さんも言っていますが、Hで動かし難いキャラの場合、エロに至るまでの
説得力がないと、自分も描く上で困ってしまいます。
>>18さん
毎度、乙です。
エリスの相談に対する柊の回答と、恋で自分を責めるなというフォローに、
素で感動してしまいましたわ。
エリス同様、壁なんて気にすんな!を予想してしまっただけに。
あと、命のことで頬を染める灯に対し、胸を痛めるエリスの描写。
ちょっと反応してしまいました。
自分の好きな相手の、一番嬉しそうな恋する姿に傷つく主人公。
古くは犬上すくねさんの短編集「未来の恋人たち」収録の「My Little World」、
最近だと、谷川史子さんの「くらしのいずみ」に収録の「早春のシグナル」
みたく、カップルの同性に恋する少女の、甘くて痛い姿は大好きです。
柊先輩のおかげで、灯ちゃんと向き合おうって心に決めた日の翌日。
最初に私がしなきゃいけなかったことは・・・
・・・きちんと学校に出席することでした。
すべての始まりとなったあの日。午後の授業を体調も悪くないのにさぼっちゃって。
次の日は、灯ちゃんとケンカをした挙句に保健室に運ばれて、その勢いで丸一日、
授業をエスケープ。
・・・なんだか、ホントの不良さんみたいですね、私・・・。
ちょっと気まずくて、登校するのにもほんの少し勇気が必要でしたけど、いろんなこと
に対して逃げないって決めたいまは、そんな些細なことで足踏みなんかしていられま
せん。早朝の教室へ、いつもと変わらない挨拶とともに顔を出した私のところに、クラス
メートのみんなが集まってきて、質問の雨を降らせます。
「志宝さん、大丈夫だったの !? 」
真っ先に私に気がついて、駆け寄ってきたのはやっぱり羽田さん。
眼鏡の奥の大きな瞳には、好奇心なんかじゃなく、本当に私のことを案じてくれてい
る気持ちがありありと見えて、ああ、私はみんなに心配をかけちゃったんだなあ、って
いまさらながらに実感します。
「ごめんね、羽田さん。もうなんでもないの。今日から元気な私に戻るから、大丈夫」
私の、心の底からの言葉です。羽田さんが口火を切ったのを皮切りに、「ホントに平
気 ? 」「具合悪くなったら遠慮なんかしないで」「なんかあったらすぐ言いなよ ? 」・・・
と、私のことを気遣ってくれるみんな・・・。
「ありが、とう・・・ごめんね・・・」
あ、どうしよう。声が震えて、目が潤んできて。みんな、優しい・・・。
「気にしない気にしない。志宝さんが元気になったんならそれでいいから。さ、みんな
撤収撤収 ! もうすぐ先生来るからね ! 」
それは、これ以上の詮索に私がさらされないための、羽田さんの気遣いだったんで
しょうか。まだなにか聞きたそうに私の周りを囲んでいた何人かが、そのことに気づい
て気恥ずかしそうに自分の席へと戻っていきました。
羽田さんが一度だけ私に振り向いて、
「志宝さん。おかえり」
小さな声で私だけに聞こえるように、そう言いました。
ありがとう、羽田さん・・・。
朝のホームルームを終え、私は教壇を降りる先生に駆け寄り、この二日間のことを
出来るだけ丁寧にお詫びしました。
先生は目尻に皺をつくって微笑みながら、
「気をつけているようでも、崩れるときは体調を崩してしまうものです。むしろ、一日で
元の志宝さんに戻れたことを、良しとしましょう」
一言のお叱りの言葉もなく、まるで私のことをいたわるようにそう仰ってくれて。
恐縮してぺこぺこと頭を下げる私を、手で柔らかく制しながら、先生が教室を出て行
かれます。その日一日は、ちゃんと授業を受けて、ゆっくりと放課後のチャイムを待つ
ことにした私は、灯ちゃんの病室を訪ねることを、一人静かに決意したんです・・・・・・。
※※※
ベッドの上で身体を起こした灯が、自分のすぐ横に腰掛けるエリスの手元を、じっと
見つめている。スチールパイプの質素な椅子にちょこんと座り、膝の上にプラスチック
の平皿を置いたエリスの両手を、飽くことなく凝視する灯の表情は、見るものが見れば
好奇心と感嘆に満ちていることがわかるだろう。
エリスの手には小さな果物ナイフ。膝の上の皿には、リンゴのウサギ。
器用に、それこそ魔法のようにナイフを操るエリスの手元から、一匹、また一匹と、
リンゴのウサギが躍り出る。次第に賑やかになっていく皿の上を、灯はさきほどから、
興味津々と見つめ続けているのだった。
「・・・・・・エリス・・・すごい・・・」
素直な感想が、ぽそりと灯の口から漏れた。
はにかみながら実に嬉しそうに、持ってきたお見舞いのリンゴの皮をエリスが次々と
剥いていく。たちまちウサギ園と化した皿を、備え付けの小さなテーブルに置くと、バッ
グの中から持参してきたフォークを取り出す。サクッと小気味良い音を立ててリンゴに
フォークを突き立てて、
「リンゴはね、身体にとってもいいの。たくさん食べて早く元気になって・・・って、怪我に
は関係なかったかな・・・」
そう言いつつ、エリスは灯の口元にそっとリンゴを寄せる。
「灯ちゃん。・・・・・あーん」
口を開ける真似をするエリスの笑顔とリンゴのウサギを、かすかにうろたえつつ、見
比べる灯。躊躇は一瞬、逡巡はわずか。
「・・・・・・あーん・・・・」
気恥ずかしさと、ほんの少しだけの戸惑いのせいか。灯の頬が朱に染まっているよ
うで。それでもエリスのうながすまま、親鳥から餌を受け取る雛のように、灯はそのリ
ンゴをおずおずと咀嚼した。
さりさりと音を立ててリンゴを食べながら、こく、こく、と灯が頷く。たぶん、「甘い」とか
「おいしい」とか言いたいのだろう、とエリスには理解することができたようである。
うふふ、と笑いながら次の一切れを差し出し、無言で、しかしいたく満足そうに口を
もぐもぐさせる灯の様子を、エリスはこの上なく幸せそうな表情で眺めていた。
「灯ちゃん。身体の調子は、どう ? 」
「・・・・・・だいぶ・・・いい・・・痛みはもうない・・・ただ・・・まだ手足の痺れは抜けてい
ない・・・」
灯がウサギを半分ほど食べつくし、エリスも二切れほどご相伴にあずかって、他愛も
ないお喋りをいくつか交わした後。今日の本題に入る前に、エリスが灯の体調を確認
する。少し・・・いや、かなり長くなる話だからこその、エリスなりの配慮であった。
「そう・・・それじゃ、灯ちゃん・・・お話・・・してもいい・・・ ? 」
「・・・・・・エリス」
瞳と瞳が見つめあう。
紅と蒼の双眸が、お互いの胸の内にそれぞれの気持ちを染み込ませるように。
「最初に・・・もう一度きちんと謝りたいの。ごめんなさい、灯ちゃん。昨日も一昨日も、
私、ひどいことを言ったり、したり、しちゃったから」
ふるふる、と灯が首を左右に振った。
もういいから・・・というよりも、あなたはなにも悪くない、というように。
「ありがと・・・でもね、私、昨日一日すごく考えて。あんなこと言ったり、したりしちゃっ
たことを、私なりにすごく考えて。それでね。気がついたこととか、教えられたこととか、
とにかくいろいろあったの」
「・・・・・・」
「上手く順序どおりに言えそうになくてごめんね。でもね、私、一から十まで全部、私の
思ったことや考えたこと、灯ちゃんに伝えなきゃ、って。灯ちゃんには絶対聞いてもらお
うって、そう決めたんだけど・・・聞いて・・・くれるかな・・・ ? 」
おずおずと尋ねるエリスの顔を、真正面から見据える灯。
返したのは、口数は少なくとも真摯な言葉。
「・・・・・・エリスの言葉なら・・・いくらでも聞くから・・・」
二つの視線がしっかりと絡み合い、お互いの心を認め合う。
もう、すべてを話すことになんのためらいもない。エリスが思った。
すべての言葉を受け止めよう。灯がそれを受け入れた。
エリスの口から紡ぎ出される言葉に、灯は静かに耳を傾けた・・・。
※※※
「羽田さんとの、お昼のときの話覚えてる ? ほら、私と灯ちゃんが、どうして知らない下
級生に挨拶されるんだろう・・・って」
とうとう・・・話を始めてしまいました・・・。
私の胸の鼓動は激しく高鳴り、上手く考えていること、思っていることを伝えられて
いるのか、それだけが心配でした。だから、少しでも順序良く話が出来るように、私は
あの日のお昼・・・私が灯ちゃんへの気持ちに気づいたあの昼の出来事から、話を進
めたんです。
「・・・・・・うん」
「あの時、すごく嬉しかったの。下級生の女の子に灯ちゃんが人気ある、って聞いて。
でも、もっと嬉しかったのは、私と灯ちゃんが仲良しでお似合いって、言われているこ
と・・・そのことが何倍も何十倍も、私、嬉しかった」
・・・・・・・・・。
・・・言っちゃった・・・。
聞きようによっては凄い爆弾発言を、私、しちゃってますよね・・・。
普通なら、仲良しのお友達としての二人を褒められて嬉しいんだ、って言っているだ
けのようにも聞こえますけど、私の本心はちょっと普通とは違うから・・・。
私は、話を続けます。
「でも、私そのすぐ後で、すごく悪いことを考えちゃったの。私、灯ちゃんのファンの子
たちにヤキモチを焼いちゃった。私のほうが灯ちゃんと仲良いのに、私のほうが灯ちゃ
んのことよく知ってるのに、私のほうが灯ちゃんのこと・・・大好き・・なのに・・・って」
私の中の汚いものや悪いもの、灯ちゃんに知られたら嫌われると思って、その日の
午後の授業で私は泣き出してしまった。
私の告白を聞くうちに、灯ちゃんはすごく辛そうな表情になっていきます。
赤い瞳が揺れながら、私のことをひたと見つめ。
「・・・エリス・・違う・・・私・・・エリスのこと・・・嫌いになんてならない・・・」
「・・・灯ちゃん・・・」
胸が詰まりそうです。私が早朝の学校であんなひどいことを言ったのに、そのせいで
怪我までしちゃったのに、灯ちゃんは私のこと嫌いにならないって、否定してくれるん
です。私は、なんて素敵な友達を持ったんだろう・・・そう思います。
だから、少しの躊躇いも、恥ずかしさも、私は完全に吹っ切ることが出来ました。
昨日、柊先輩に教えられて、一日必死で考えて。私なりに出した答えを灯ちゃんに
伝えなきゃ。私なりのけじめをきちんとつけなくちゃ・・・って。
すうー・・・っと息を吸い込んで。
胸に手を当ててドキドキを静めるように・・・。
「私、灯ちゃんのことが好き」
・・・言えた・・・。言えました。でも、顔中が熱くて、痛いくらい火照ってしまって。頭の
中で、自分が言った「好き」の言葉が何百にも何千にもなってリフレインして。心臓が
全身に血液を送り込むためにオーバーヒート寸前で。恥ずかしいのと、怖いのと、身体
や頭が普通じゃなくなっているのとで、私はもうパニックになりそうで。
でも、私、目をそらしません。灯ちゃんの顔をちゃんと見て、しっかりと向かい合って、
真っ赤になって泣き出しそうになりながら、正面から灯ちゃんとぶつかります !
「・・・・・・エリ・・・ス・・・」
灯ちゃんの首筋が、頬が、ほんのりと桜色に染まるのが、はっきりと見えました。
私の表情や、言葉の調子から、私の「好き」がそういう「好き」なんだって、灯ちゃん
にもはっきり伝わったんだと思います。でも、私と同じように真っ赤になりながら、絶対
私の顔から目を背けない灯ちゃんが、すごく愛おしくて。
嬉しい。こんな変なことを言う私と、こんなおかしな女の子の私と、灯ちゃんもきちん
と向かい合ってくれているんだ。
それは灯ちゃんの優しさの証。私のことを、私とのことを真剣に考えてくれている証。
二人の絆は、恋愛とか友情とか、そんな言葉を抜きにしても確かなものなんだ、って
いう証。
私、この証をしっかりと胸の中に刻み込みました。
・・・うん。もう、大丈夫。もう、これでいい。私の二度目の恋は、この証を手にするこ
とで報われたんです。
「・・・って、私、すごく変な女の子なんじゃないかって、心配しちゃったんだけどね」
あはは、って笑いながら、この淡い気持ち、幼い恋を、心の小箱の中に大切にしまい
こみます。
「・・・エリス・・・ ? 」
「昨日、柊先輩と少しお話したの。で、いろいろ考えて。私が灯ちゃんを好きなのって、
カッコいいし綺麗だし、憧れてる気持ちなの。これは、そういうものなんだ、って」
「・・・エリス」
「私、自分が変な子なんじゃないか、って、これでもすごく悩んだんだよ〜 ? このごろ
少しおかしかったでしょ、私。それで灯ちゃんにも八つ当たりみたいなことしちゃって。
ごめんね。すごく反省してる」
「エリス」
「驚かせちゃったね。でも、安心してね。そういうのじゃないから。違うから。第一、灯
ちゃんには命さんっていう素敵な恋人が・・・・・・」
「エリス !! 」
有無を言わせないようにまくし立てる私の言葉を、灯ちゃんの呼び声が力ずくでさえ
ぎります。お願い、待って灯ちゃん。最後まで言わせて。私、灯ちゃんのことを好きって
言えたからもういいの。灯ちゃんとの絆は絶対なんだってわかったからもういいの。
あとは、なーんだ、って笑って、勘違いだったねっていつもの二人に戻って、それで
もういいの。柊先輩が言ったとおり、私の気持ちは次の本当の恋の力になるはずだか
ら、それだけでもういいの。
灯ちゃんは、一緒に手を取り合って壁を乗り越えることは出来なかったけれど、お互
いを想う気持ちは本物で、決して嘘じゃないって思えるから、だからもういいの。
だから・・・・・・
「エリス・・・・・・・じゃあ・・・どうして・・・泣いているの・・・ ? 」
「・・・・・・え」
頬が、濡れて。前がなんだかよく見えなくて。熱いものが顎を伝って、握り締めた私
の両手の拳にぽたぽたと落ちて。
「あ・・・れ・・・なんで・・・あは・・・違う・・・違うよ・・・これ違うんだよ・・・」
「エリス・・・」
灯ちゃんが、私に向かって両手を伸ばして。まだ痺れてよく動かないって言っていた
はずの、自由の利かないはずの両手が、私の肩に置かれます。震えて力の入らない
両手なのに、私の身体はいともたやすく灯ちゃんに引き寄せられてしまう。
濡れた頬に柔らかな感触。灯ちゃんの・・・胸に抱かれている。ふくよかな二つの膨
らみは、心地よい弾力で私を包み込んでくれて。
「・・・エリス。全部・・・話して・・・一から十まで、って言った・・・そうでしょ・・・ ? 」
「・・・・・・うん・・・うん・・・ごめんね・・・あかり・・・ちゃ・・・」
灯ちゃんの身体に、私はぎゅっと抱きつきました。自由の利かない彼女の身体を、
私の両腕でしっかり支えるように。きつく、きつく抱きしめました。
・・・それから、どれだけ私は長く、長く話をしていたんでしょうか。
随分、たくさん話をしたような気がします。私の心の葛藤や、悩みに悩みぬいたこと、
灯ちゃんが怪我をしたと聞かされたときのショック、そして、私のマンションで柊先輩が
とても素敵なお話をしてくれて、今日、灯ちゃんと向かい合う勇気を貰ったこと・・・。
灯ちゃんの胸に顔をうずめながら、私はそんなことを話し続けていました。
「・・・エリス・・・ありがとう・・・」
「え・・・・・・ ? 」
「全部・・・話・・・してくれた・・・」
「うん・・・なんだか・・・カッコ悪いけど・・・ね・・・」
恥ずかしくて、消え入りそうになる私の声。でも灯ちゃんは、
「それは違う。エリスは・・・強くて・・・カッコいい」
そう言って、私の髪に頬をすりすり、すりすり・・・って、してくれます。
くすぐったい・・・。でも、すごく安らかで温かな気持ちになれるんです。灯ちゃんと、こ
んなに近くで、身体をぴったりと合わせてお互いの体温や感触を感じていられることが
嬉しい・・・。
「・・・ありがとう、灯ちゃん・・・もう・・・大丈夫・・・わたし・・・ちゃんと・・・考えたから」
かすかな、それは恋心なんて名前で呼ぶには、あまりにも幼い感情だったのかもし
れなくて。ただ、頭で理解しているつもりでも、気持ちの整理がついていないだけで。
「・・・全部・・・元通りになるよ、ね・・・ ? 時間が・・・経てば・・・」
そう言って、灯ちゃんの胸にうずめていた顔を上げた私。
その視界に、さっ、と淡い影が被さってきたのを、私はまるでスローモーションの映像
を見るように見ていました。
灯ちゃんの紅い瞳が。柔らかく細められて。
さらり、と長い髪が私の周りに、まるで赤いカーテンのように。
近づいてくる、灯ちゃんの綺麗な顔。もう、瞳が閉じられている。
「あ・・・・・・え・・・・・・ ? 」
唇が。吐息だけ滑り出すくらいしか、開かれていない唇が。
近づく。私に近づいてくる。灯ちゃんの唇が。
「あ、あかりちゃ・・・・・・ん・・・・・・くふ、むぅ・・・」
キ・・・ス・・・。
唇と、唇。誰の・・・ ? 私と・・・灯ちゃんの・・・唇・・・?
「ん・・・ふあ・・・ど、うして・・・あかりちゃ・・・」
離れた唇から脈打つ心臓が飛び出さないのが不思議なくらい、私の胸は高鳴って
いました。
「いま・・・エリスが・・・教えてくれた・・・あの話・・・壁を乗り越えるって・・・」
「う・・・ん・・・」
「エリス・・・私も・・・乗り越えるための・・・いつか乗り越えるための力が・・・欲しい・・・」
「え・・・・・・」
その言葉に、私はまじまじと灯ちゃんの顔を見つめます。
「・・・私も・・・弱い心を抱えているから・・・ときどき・・・待つことに・・・くじけそうになる
から・・・」
なんだか、灯ちゃんが泣いているように見えたのは目の錯覚でしょうか。
ひどく弱々しく、まるで荒れ野に置き去りにされた迷い子のように、はかない・・・。
灯ちゃんが、灯ちゃんの心がくじけそうになるほど、待ち続けなければいけないこと。
それがなんなのか、私はすぐに察することができました。
(あ・・・そうだ・・・命さん・・・)
いつ目覚めるのかわからない・・・いや、もしかしたら目覚めないかもしれない人を待
つということが、どれだけつらいことなのか。それはきっと、私なんかには想像もつかな
いくらい、大変なことなんだろう、って思います・・・。
灯ちゃんにも乗り越えなければいけない壁があるんだ。
その壁がどんなものなのか私にはわからないけれど、もしできるなら、私に力になれ
ることがあるのなら・・・私は、そうでありたいと思います。
「ごめんね・・・エリス・・・私は・・・あなたを利用しているのかもしれない・・・」
苦しげにひそめられた眉が、苦悩の深さをなによりも雄弁に物語っているようです。
私は何度も、首を力強く左右に振りました。
「そんなことないよ。嬉しい、すごく嬉しい。だって、灯ちゃんの力になれるんでしょ ?
私が灯ちゃんの力になれるって、灯ちゃんが認めてくれたんだよね ? だから・・・私を
求めてくれたんでしょ ? 」
傷を舐めあうだけかもしれない。都合のいい解釈をしているのかもしれない。でも、
そのことで灯ちゃんが自分自身を責めているのなら、私だって同じ。私だって同罪で
す。責めなくていい。責められなくてもいい。自分の気持ちが本物であることを、私は
教えられたんです。だったら、今度は私が。柊先輩が私に教えてくれたように、今度
は私が、灯ちゃんに教えてあげられる・・・。
「エリス・・・いい・・・ ? 」
「うん・・・こっちこそ・・・よろしく、ね・・・」
潤んだ紅い瞳に吸い寄せられるように、今度は私のほうから灯ちゃんに近づいて。
もう一度、今度はさっきよりも濃い、キスを。
「灯ちゃん・・・」
「エリス・・・」
お互いの名前を呼び合って。ベッドの上で、二人。
震える指をさしのべ、私は灯ちゃんの服に手をかけました・・・・・・。
(続)
間隔短いですが早速。
>>32さま。
あああ・・・誤解を招く書き方でスイマセン。二人以外のカップリングはないです・・・。
>>34さま。
そう言っていただけるとホッとします。
実は、柊が「ジジ臭い説教キャラ」みたいかな、とちょい心配で(笑)。
それと、「カップルの同性に恋する少女の、甘くて痛い姿」は、
当方も好物です。書くものにはやっぱり好みが反映されるのでしょうか(笑)。
次回、やっとエリスと灯が結ばれます。「エロ分足りない」については、まあ、自分も
主犯の一人かなと思っていたので、ようやく漕ぎ着けられそうでホッとしたり。
ではでは。
( ゜∀゜)o彡°エリ!あか!エリ!あか!
まさに柊
柊となら尻の穴を貸し借りしても良い
えー、ゴンザ×ノエルの作者です。
とりあえず一本書き上げたので投下します。
・今までのあらすじ
ゴンザレスとの勝負に踊り子の衣装で来てしまったノエルは、装備品を全て外すルールによりストリップをするハメに陥る。
更に人間なのか武装なのか怪しいトランはバラバラに分解されてしまった。
ゴンザレスの仕掛けるエッチな勝負にノエルは次第に快感を覚えるようになり、ついに処女を捧げてしまう。
いやらしい自分を自覚しつつも、人としての尊厳まで砕かれる扱いにノエルは涙するのであった。
・取り返した武具
踊り子の衣装、護りの指輪、アガートラーム、カラドボルグ
トランの右足、左足、右腕、左腕(黒焦げ)、頭(元から仲間として参加)
・壊れたもの
バックラー、闘志のバンダナ、フェザーアーマー、ヴァル、処女、人としての尊厳とか色々
ノエルは舞台の上で力尽きたようにうなだれていた。
淫乱で、苛められるのが大好きな変態で、おしっこをかけたほうが綺麗になるぐらい汚れてしまった自分。
わずか数時間の勝負でここまで堕ちるとは思わなかった。
肢体を纏うのはゴンザレスに与えられたエッチな下着のみ。
繊細なレースで仕上げられた上物だったが乱暴な扱いでボロボロになり、かけられた小水で黄ばんでいた。
全身にかけられた精液は流されきっておらず、大量に注ぎ込まれた膣からも溢れ出していた。
溢れ出す精液の中には赤いものが混じっており、ノエルの処女が失われたことを証明していた。
ふいに目の前にカラドボルグが差し出された。自分の愛剣、旅の道しるべとなる大事な品だ。
「ノエル君の勝ちだ。戦利品としてとっておきたまえ。」
ゴンザレスの声に意識を取り戻した。
(やっと、やっと戻ってきた!)
見るとアガートラームもある。
勝負はつらかったけど、これで買い戻せない物はあとトランの胴体だけだ。
失った物は多かったけど、あと1勝すればなんとかなる! ノエルの目に再び光が戻ってきた。
「では次の勝負に移るとしよう」
「すいませんっ、体を拭きたいんですけど……」
やる気が戻ったとたんに、恥ずかしさも戻ってきた。
かける恥はかき尽くし、もう堕ちるところはないだろうとは思うが、それでも出来るだけ頑張りたいと思う。
「ふむ、手短にな」
流石にこの短い時間に2度もシャワーと着替えを行なっているだけあり、ゴンザレスもいい顔はしなかった。
スタッフの人が水が入った桶とタオルを渡してくれた。
……これって皆の前で体を洗えってことだろうか?
(い、いまさら恥ずかしいとか考えている場合じゃないですっ!)
意思を奮い立たせ、開き直ってみる。
ほとんどボロ布の下着を脱ぎ全裸になる。観客達の冷やかし声が聞こえるが無視するっ!
無視できるほど成長した自分をちょっぴり褒めてあげたい。
水で体を流し、体に付着した精液を洗い落とし、最後に頭から水をかぶる。
ちょっと冷たい。でも火照った体には気持ちよかった。
タオルで体を拭き、着替えに手を伸ばす。戦利品の中に踊り子の衣装があるのだ。
失敗の始まりであり恥ずかしい思い出ばかりだが、今のノエルにはなによりもありがたい品だった。
踊り子の衣装を手にとって見ると、にちゃりと粘ついていた。
(そういえば観客席に投げちゃったんだっけ……)
それ以前に自分の愛液で濡れていたのだが、手に入れた観客が舐めまわした後に精液をぶっかけたらしい。
水を使い切る前に洗っておけばよかったと後悔した。
タオルでぬめりをふき取った後、着てみる。気持ち悪い違和感はあるが、服を纏った安心感があった。
“ナゾナゾ勝負”
「おまたせしましたっ」
「うむ、もう用意は出来ておるよ」
舞台の上には小さな箱が用意されていた。
なんだろう? と見ていると、箱から小さな妖精が飛び出してきた。
ノエルは、その身長40cmほどの妖精を眼前にした時、戦慄を覚えた。
「おおぅ、お久しぶりですノエルさん! 相も変わらずあなたは間の抜けた顔をしてらっしゃいます!!」
いきなり馬鹿にされた。
「いやいや、ノエルさんの成長ぶり、わたくし舞台裏からじっくり見させていただきました。
流石は薔薇の刻印の継承者、どれだけ堕とされても諦めない意思! 私だったら恥ずかしくてとっくに自殺してますよ!」
やっぱり酷いこと言われてる。見てたなら助けてくれてもいいのに……
「それより妖精さん、こんなところでなにをやってるんですか?」
「よくぞ聞いてくれました! 貴方に居場所を奪われた私は流浪の末ゴンザレス様につかまり、貴方に復讐することを条件に手を組んだのでございます。」
「そうなんですか〜、それはすいませんでした。」
そういえば神殿は崩壊しちゃったし、ウィガールはクリスさんが持っている。
妖精さんは仕事も居場所もなくなってしまったのだ。ニートってやつだろうか?
なんとなく申し訳なくなってしまった。
「ならば、我が復讐のクイズを受けていただきましょう!」
「わかりましたっ、妖精さんの勝負うけて立ちますっ!」
また勢いにのって安請け合いしてしまった。
「クイズはゴンザレス様と共同作成した一問のみです。ノエルさんが答えることが出来たらノエルさんの勝ち、間違えたらゴンザレス様の勝ちです。」
意外とシンプルな条件だった。
「ノエルさんが勝てば戦利品を得ることが出来ます。ただし、負けた場合は我が呪いを受けていただきますっ!」
いきなり恐いことを言い出した。
「の、呪いってまた禁句ですかっ!?」
ノエルはかつての恐怖を思い出し震え上がった。
「いえ、今回のは禁句ではありません。」
「じゃ、じゃあ……?」
「今回の呪いは……『ぱんつ禁止』です!」
……ぱんつ禁止?
「ど、どういう呪いなんでしょう? いえ、なんとなくわかるんですが……」
「お察しの通り、ぱんつを履くとペナルティが発生する呪いです。」
ああ、やっぱり。
「正確には股間に布を当てる行為が禁止です。ズボンなどもダメです。また膝下丈のスカートも不可です。
もしこれらを破ると股間に振動と電撃が継続的に与えられるようになります。これをうけると常時[重圧][放心]状態です。」
つまり下着無しで常にミニスカでいろということなんだろうか。これは恥ずかしい。
「この呪いは永続です。この舞台が終わっても生涯そのままです。」
「ちょ、まってくださいっ!」
いきなり凄いこと言い出した。
「まあ最後まで聞きなさい。解呪の方法もちゃんとありますから。
1千人の男性にぱんつを履いてないところをみせて証明しなさい。そうすれば呪いは解けます。
今この会場に200人ぐらい居ますから、あと800人頑張ればいいのです。」
街中でスカートをめくりあげ、男性におま○こを見せて回る自分の姿を想像する。
そんな痴女は男性に襲われても文句は言えないんじゃないだろうか……
「それでは問題です。」
ああっ、悩んでいるうちに事態が進んでしまった。待ったなしなんだろうか?
「待ちません。たった1度正解すればいいだけなんですから、ノエルさんにもいいチャンスだと思いますよ?」
「それは、そうかもしれませんけど……」
今まで散々そういう口車に乗って失敗しているだけに、励ましになってなかった。
「それに実はこの問題はノエルさんなら答えられるかと」
「え? そうなんですか?」
「はい、リドル妖精の名にかけて、答えられないようなクイズは出しませんとも」
なら落ち着いていけば大丈夫だ、前のときも焦ったりうっかりしたから失敗したんだ。平常心平常心。
「では、頑張りますっ」
「いい返事です。では問題です。」
緊張してきた。思わず身構えてしまう。
「ところで先ほどのフェラチオは見事でしたね? あれはどこかで練習なさったことでもあるんですか?」
いきなり妖精が変なことを喋りだした。
「も、問題はどうしたんでしょう?」
平静を保ち問題に備える。
「いえいえ、ノエルさんの成長っぷりを見て驚いた次第です。すっかり大人の女性といった風情です。
冒険者はなにかと危険も多いですし、女性の冒険者ともなりますと性的な危険に襲われることも度々あるでしょう。」
「は、はあ……」
流石にこんな酷いことは起きるとは思ってなかったです。
「とはいえ、一般の職業といえども理不尽はつきません。例えば私など遺跡の番人をやっていただけなのに今はこの有様です。」
「すいません」
遺跡の番人って普通の職業なんだろうか?
「他にも、エロゲーに出た声優さんなんかは変な目でみられることも多いと聞きます。」
ピキッ! 空気が凍る音が聞こえた気がする。
「そ、そうかもしれませんね」
引きつった声で答えるノエル。
「力丸さんも小牧愛佳とかやってましたよね?」
「ToHeart2は一般作です、ってノエルですっ!」
「ああ、そうでしたっけ?」
思わず興奮して反応しまった。
「えーと、ではフェラチオ大好きノエルさんへの問題です。」
「大好きじゃないですぅ!」
ううっ、精神面を攻められると弱いですっ……平常心を保たねばっ!
「エロゲー『魔法戦士スイートナイツ』においてフェラチオに定評のあるスイートリップ役の声優と言えば誰?」
ノエルはつっぷした。その際頭を床にぶつけてしまった。
わかるっ、わかるんだけど答えるのがツライッ!
体も心も汚されきって、もう堕ちるところはないと思っていた。
だがこの回答は魂まで堕とす覚悟を求めていた。まさか中の人まで責めてくるとは誰が考えていただろう?
周囲を見回すと妖精もゴンザレスも観客もニマニマ笑いながらノエルをみている。
(知ってて答えさせようとしてるんだっ!)
くうぅ〜!
ノエルは涙目になりながら歯軋りした。
(そりゃ恥ずかしいとは思うけど、仕事なんだからしょうがないじゃないですか!)
まったくもってその通りだが、声優という職業にアイドルのような夢を抱く人も少なくない。
それをわかった上でノエル自身に言わせようとしているのだった。
一旦沈み込んだノエルだが、負けるわけにはいかない。
声優だって人間、夢を抱くのは勝手だが、現実は現実として受け止めるしかないのだ!
ノエルは気力を振り絞って答えた。
「……り……力丸乃りこ、ですっ!」
「正解は『木葉楓』です。」
「そうでしたーっ!!」
落ち着いて答えればこんな簡単なひっかけには掛からなかったであろう。
だが、焦りと羞恥で混乱したノエルはいとも簡単にひっかかってしまったようだ。
「では早速、呪いを発動いたします。」
なにやら妖精が怪しい動作をするとノエルに赤い光が降り注いだ。
「ひゃあっ!」 ビクンッ!
ノエルは急に股間を押さえると跪いた。クリトリスに軽い電撃を浴びせられたのだ。
それ自身は軽い痛みしか与えないが、同時に凄まじい快感が背筋を駆け上った。
更に継続して股間に振動が襲い掛かる。振動は緩急をつけながらノエルの痴丘を刺激する。
どちらも我慢できないほどではない。だがパンツを履き続ける間ずっと続くとなると、年中発情状態になるのと同じだ。
ノエルは慌ててパンツの横紐に手をかけズリ降ろした。
「おやおや、はしたない娘ですねぇ」妖精の馬鹿にした声が聞こえる。
パンツを脱ぐと先ほどの刺激が止まった。股間がスースーして気持ちいい。
だが、あの刺激は気持ちよかった。少し残念かも。
ノエルは淫乱な思考をする自分を否定することが少なくなってきていた。
「さて、ぱんつを脱いだらどうするんでしたっけ?」
踊り子の衣装のスカートはとても短い。膝上どころか股下10cmも無い。
舞台の上に立っているだけで、近くの観客には股間は丸見えだった。
頭の中に『5』という数字が浮かんだ。どうやらしっかりカウントされているようだ。
ノエルは舞台の中央に立ち両足を広げる。カウントが少し上がった。
(今までストリップしたり何度も全裸になったりしているのに、スカートを持ち上げるのが何でこんなに恥ずかしいんでしょう?)
ノエルは顔を赤らめながらスカートの裾に手をかける。
「み、皆さん、ノエルの恥ずかしいオマ○コをみてくださいっ」
指示されるまでもなく恥ずかしい台詞を言いながらスカートをスルスルとめくり上げるノエル。
割れ目は開ききり濡れたビラビラがテカテカと光っていた。
膣口からは愛液と、先ほど注がれたゴンザレスの精液が流れ出て、ふとももに沿って垂れていった。
脳内でカウントが勢いよく上がっていく。
『30』
あれ? 止まった。
「近くで見ないと駄目なようですね。では千人まで頑張ってくださいね。」
妖精はそう言うと空高く飛び去っていく。
「そ、そんなっ」
「ぱんつを履いて刺激的な生活を楽しむのもいいですよ。
では、千人斬り達成したら私が現われますので、その時解呪いたします。それまでお元気で〜」
「後付けが多すぎですよ〜!」
ノエルはマスタリングに抗議したがどうにもならなかった。
「さあ、ノエル君、勝負を続けるかね? それとも観客たちの間をしばし歩き回ってみるかね?」
「ぐうぅ〜!」
ゴンザレスの言葉にうめき声で答える。
確かにここでカウントを稼いでおきたいが、これだけの人数相手に見せて回るとなると時間が掛かりすぎる。
ここで少し減らしても先の長い千人という目標を達成するためには別の手段を考えねばならない。
問題は後回しにして呪いを解く別の方法を探す手もある。
「最後の勝負ですっ、ゴンザレスさんっ!」
ノエルはゴンザレスに向き直ると毅然とした態度で言い切った。
スカートがひらめき、剥き出しの股間にあたる空気が気持ちよかった。
『31』カウントがあがった。誰かみてくれたようだ。
視線を具体的に感じることがわかって、ノエルはゾクリと快感を覚えてしまった。
とりあえずここまで。
次はいよいよ最後のポージング勝負です。
えー、私は力丸さんのファンですよ?w
いや、ホント。馬鹿にする気はないんです。
これからも声優として多方面で頑張ってほしいと思います。
相変わらず股間がおっ立つ文章をwwwwGJwwwww
これはエロイwwww
コミカルな感じの文章なのに、なぜにここまで勃たせるのかwwww
祝再開&乙ーっ !
公開猥褻だの処女喪失だのって、普通ならダークに展開する話でなぜ
笑えてしまうのか・・・(笑)
しかも笑える上にエロい ! 「ギャグ」と「エロ」の両立って至難だと思うので、
素直に脱帽いたしますです ! 次の勝負もwktkして待たせてもらいます !
ではでは、以下、投下でございます。
二人分の体重を乗せて、ベッドの脚がかすかに軋む。
仰向けの姿勢のまま、灯はどこか不安げにエリスを見上げていた。
身体を重ねることへの不安はない。怪我の後遺症で、いまだ自由の利かない四肢
がもどかしいのであろう。これから二人が身体を重ねる行為は、仲の良い友達同士が
行うスキンシップではない。性的な、まったく性的な意味での重なりである。
その行為を、自然とエリスがリードする形となるのは、現状では仕方のないこと。
身体を思うように動かせないのだから、必然的にすべての流れをエリスにゆだねる
ことになる。能動的に灯が取れる行動といえば、せいぜいわずかにゆっくりと手足を
動かすこと。それと、先ほどのようなキス。
だからこそ灯の心中は、
(・・・いまから・・・私・・・エリスに・・・抱かれる・・・・・・)
その思いが強い。
女同士での交わりどころか、男女の行為の片鱗すらも、エリスにとっては未知の領
域であろう。性行為のなんたるかを、まるっきり手探りの状態から始めさせなければい
けないことが、少し申し訳ない。
だからといって、自分がエリスをリードできるかといえば、それもなんだか心許なかっ
た。自分こそ、「性行為」については知識として多少の理解があるだけで、実戦経験は
ない。恋人とはいっても、命との接触はせいぜいが手をつなぐ、とかフレンチ・キスが
関の山だった。命は、灯のことをとても大事にするあまり、「その手」の行為には強靭
な精神力をもって自分を抑えていたらしい。きっと、自分と灯が輝明学園を卒業して、
学生という身分を脱却するまで、そのような行為を自重しようとしていたらしいふしが
ある。
だから、灯もエリスと同じように、その身に穢れを知らぬ処女であった。
熱を帯びた青い瞳が、情熱と慈しみをもって自分を見つめているのを、灯は心地良い
と思う。細い指がためらいがちに服の襟に触れ、戸惑うように動きを止める。
病室で着用する薄手の貫頭衣を、どう脱がしたらいいか、エリスは考えているようで
ある。しばし黙考の後、なにかを閃いたようにエリスがくすり、と悪戯っぽく笑い。
「・・・灯ちゃん。はい、ばんざーい・・・って、して・・・」
幼児をあやすように優しく。まるで灯の母親でも演じるかのように。
ぽっ、と灯の頬に朱が差した。
のろのろと腕を頭上に上げ、エリスが脱がせてくれるのを待つ格好になる。
エリスが、ベッドの上を移動する。首から足元までをすっぽり覆う貫頭衣の裾に手を
かけ、するり、するりと捲り上げる。
足首があらわになる。膝が剥き出しにされる。すらりとして、なお質感の十分な二本
の脚がさらされる。肉付きの良い、それでいてぎゅっと引き締まった腰を、服の裾が
ゆっくりと通過したかと思うと、はだけられた二つの胸が、その豊かなボリュームを自制
しきれずに、たゆん、たゆん、と大きく揺れた。
かっ、と灯の顔が真っ赤になる。
(・・・下着・・・もう少し大きいのにしておけば・・・よかった・・・)
ブラジャーという拘束など無意味、とでもいいたげな、たわわな双乳の無言の自己主
張。白い布地からこぼれ落ちんばかりの膨らみを、エリスが驚嘆するように凝視する。
青い瞳が、右に左に。
それは、わずかな灯の身じろぎに合わせて揺れ動く乳房を、エリスの視線が無意識
に追っているからであろう。
「・・・ス・・・・・・エリス・・・見・・・ないで・・・」
瞳をぎゅっとつぶり、灯が顔を背ける。雨に濡れた小動物さながらに震えながら、涙
声で懇願した。恥ずかしい。お互いの肌身をさらすことは、けっして初めてではないの
に。エリスのマンションにお泊りしたときは、一緒にお風呂で背中の流しっこだってし
たのに。こうして四肢の自由をなくし、自分ではろくに動けず、エリスのなすがままに
身体を預けるという行為の前では、普通の・・・いや、普通以上の羞恥心が、心の中
を駆け巡る。
「ダメ・・・灯ちゃん・・・私・・・灯ちゃんを・・・もっと見たい・・・」
うわごとのようにエリスが囁く。よじれた布を胸元から首へ。両手を上げた姿勢の灯
から、すっかり貫頭衣を剥ぎ取ってしまうと、エリスはぎしぎしと音を立て、ベッドから
降りた。
「・・・エリ・・・ス・・・ ? 」
「灯ちゃん・・・待ってね・・・ ? 私も、脱ぐから・・・」
ベッドの傍らで自分に背を向けるエリスの一挙手一投足を、灯は首だけ動かして余
さず目に焼き付けようとする。制服のブレザーとスカートが床に落ちた。それを、丁寧
に畳んで、重ねて置くのがなんとなくエリスらしくて。
エリスの下着だけの後ろ姿に、灯の胸も音を立てるほどに高鳴る。
おそろいの模様のパンティーとブラジャー。淡いブルーのストライプ柄が目に眩しい。
首筋から背中、腰からお尻へとなだらかな曲線が続く。とても少女らしい、きめ細か
い肌がとても綺麗だった。年若い少女の未成熟さ、コケティッシュな魅惑が交じり合っ
て、エリスの肢体に同居しているような、そんな不思議な魅力。
ゆっくりと振り返ったエリスの頬も、肌をさらす羞恥と灯と結ばれる歓びのせいか、紅
潮しきっている。ゆっくり、ゆっくりと。再びベッドににじり寄り、シーツの上に手をついて。
「灯ちゃん・・・その・・・こういうのよくわからないけど・・・頑張るからね・・・」
頑張る、というのがどういうことなのかはエリス自身にも理解できていないことなの
だろう。ただ、灯との行為に真剣なのだ、ということは間違いがなかった。
下着姿の二人の少女たち。体温は上昇し、呼吸は不規則なものとなって・・・。
大の字に寝そべる灯のかたわらに、エリスが腰を下ろす。ぎしり。ふたたび軋む音。
「ちょっと、ごめんね」
エリスが囁き、灯の腰の上に馬乗りにまたがった。
「重かったら言ってね・・・」
柔らかな手のひらで灯の頬を包み込み、エリスが言う。どちらからともなく二人の少
女は唇を開き、自分の舌を相手に向かって突き出した。
二つの舌がソフトなタッチでそれぞれの先端に触れる。そのまま、探り合い、お互い
の感触を確かめ合い。二枚の舌がなにか別の生き物のように、ちろちろと蠢き、相手
の舌に絡みつき、とろとろと大量の唾液を分泌しながらぬらりと光を帯びる。
エリスの身体の下に横臥する灯の口元へぽとりぽとりと、エリスの唾液が彼女の舌
を伝って滴り落ちていく。唇の周りを濡らしながら、灯は、
「・・・・・んむ・・・く、ぷぅ・・・んぐ・・・んんうぅぅっ・・・」
喉を鳴らしながら、それを次々と嚥下した。
二人の顔がより接近する。エリスが愛おしそうに灯の唇を吸い、唾液に濡れた頬を
さらに舐め、濡らしていく。頬といわず唇といわず、エリスの口づけは際限がなかった。
灯の唇を存分に吸い尽くし、頬の上をすべるようになぞったかと思うと、耳たぶへと
舌を這わせる。耳全体を口で含むようにしゃぶりつき、舌を耳の穴に差し込んだ。
「・・・エリス・・・く・・・くすぐった・・・い・・・」
ぞわぞわと背筋に走る電流。その心地よい感覚を、灯は殺しきれなかった。
こそばゆさより強いそれ以上の感覚が、すでに灯の全身の感覚を侵し始めている。
強化人間の強靭な肉体も精神も、懸命なエリスの口づけの前には頼りないほどに
脆く、崩れ落ちるまさにその寸前で。
「あ・・・ごめんね・・・・・・こ、こう・・・・・・ ? 」
エリスが一時、唇を離し、またすぐに灯の首筋へとキスの雨を降らせる。
くすぐったくないように、という配慮で強く押し当てた唇。力を入れて尖らせた舌が、
首から鎖骨、鎖骨から肩口へと、まるで指圧するかのような勢いで刺激を送り込んで
いく。
「・・・・・・ !! 」
敏感になり始めた身体に、続けざまの刺激をぶつけてくるエリスの責めは、愚直な
までに単調だった。しかし、単調ゆえにその刺激は一定の間隔をもって断続的に訪れ
る。ましてや、灯の肉体に「歓んでもらいたい」という一身で愛撫を繰り返すエリスの舌
技は、稚拙ではあったが懸命でもあった。
しかも、大切な相手。愛おしい親友。自分を好きだといった青い髪の少女の、全身全
霊の奉仕である。感じないはずがない。気持ちよくないはずがない。
灯は、その瞳を固く閉じ、歯を食いしばる。声を上げるにはまだ羞恥心のほうが強く、
あられもない嬌声を漏らすことに、おのずと歯止めをかけてしまう。
襲い掛かる快楽をこらえる灯に、新しい刺激がもたらされたのはその直後。
エリスの指が、灯のブラジャーのホックを容赦なく外す。
邪魔な布の拘束を失い、二つの丸い柔肉の球が、たぷっ、ぷるっと弾け、跳ね回っ
た。その双球の動きに、まるでエリスが玩具に飛びつく無邪気な仔猫さながら、両手
で乳房を掴み、押さえ込む。
「・・・わぁー・・・やっぱり灯ちゃん・・・胸おっき・・・」
うっとりとした表情で、掌中に握りこんだ乳房を見つめるエリス。
指の間からたっぷりと灯の乳肉がはみ出して、その豊満さが嫌でも強調される。
「・・・灯ちゃん・・・こねるからね・・・ ? 」
「・・・っ、・・・っ、・・・っ !! 」
首を縦に振る。いや、横にも振る。許諾していいのか、拒絶するべきなのか、もはや
灯にもわからなくなり始めていた。
エリスが五指を大きく広げ、手のひらの中心部を、ちょうど乳房の真ん中・・・灯の、
痛いほどに屹立した乳首に、ぐいっと押し当てる。そのまま、手のひらを円運動させる
ことで、固くしこった乳首をぐりぐりと刺激し、さらなる硬化を煽るように。
「エリ・・・ス・・・・っ !? 」
乳房を弄ぶ動きも、やはり懸命で。一生懸命に手を動かし続けるあまり、額に汗の
粒まで浮かべるエリスの表情はどこか真摯でもある。
「こうすると、どうかな・・・もっと動かしたら・・・どうかな・・・」
無意識に囁くエリスの口調には、灯を気持ちよくさせたいという願いが色濃く漂って
いる。灯の腰の上にまたがって、全力で乳房を揉みしだく姿は、どことなくパン生地を
こねているようにも見えて。
絶えることを知らぬように続けられる円運動に、灯がとうとう我慢の限界を超えたよ
うに音を上げる。
「エ・・・エリスっ・・・エリスっ・・・きつい・・・これ・・・きつ・・・ひっ・・・」
はっ、と顔を上げたエリスが、まじまじと灯の顔を見た。
虚ろに開かれた紅い瞳が許容外の快楽にぶれを生じ、涙を浮かべている。熱をたく
さん含んだ炎のような吐息は乱れに乱れ、唇からはたらりたらりとよだれをこぼし。
手足が動かせないためにエリスの愛撫を受け入れるしかなかった身体は、ひくひく
と力なくわななき続けている。
「ご、ごめんね、灯ちゃん・・・わ、私・・・よくわからなくて・・・」
「・・・はぁー・・・はぁー・・・」
「頑張るから、私 ! 初めてで上手くできないかもしれないけど、灯ちゃんがもっとよくな
れるようにするから ! 」
・・・・・・。
エリスの言葉の意味を理解するのに、数秒の時間を要した。
「・・・エリス・・・ !? ち、ちが・・・・・っ !?」
がばっ、とエリスが覆いかぶさってくる。
そうじゃなくて、少し休ませて欲しかっただけなのだ・・・と言おうとした唇が、エリスの
強引な口づけで永久に塞がれた。灯の唇を吸いながら、もぞりもぞりとエリスがもがく
気配を感じる。
(エリス・・・自分で・・・下着を・・・)
灯の口を封印したまま、エリスは自分の身につけた下着を不器用に脱いでいた。
二人の間をさえぎるものは、一枚の布でも剥ぎ取ってやろう、とでもいうかのように、
必死でブラジャーを、パンティーを脱ぎ散らかす。自分の身体の上で動き回るエリスの
おかげで、灯の肉体にはやはり絶え間ない刺激が与え続けられていた。
エリスの小振りな乳房が、灯のたわわな乳房を押し潰す。密着する四つの丸球が、
絡み合い、押し合い、ねぶりあう。その動きの最中、時折二人の固く尖った乳首が、
ピンポイントでお互いのしこった突起を突き合い、強烈な快感を共有させられるのだっ
た。
「んむーーーー、んむーーーーー・・・」
「ふぐ、ん、ん、んんんっっ・・・」
くぐもった二つの呻き。ベッドシーツはあまりの激しい運動でぐしゃぐしゃになり、二人
が流した汗を吸って、重たく湿り気を帯び始めている。
(・・・あ・・・私の・・・パンティーも・・・ ? )
最後に残された布の一枚に、エリスの手がかかった。二人の間を何物にも妨げさせ
ないという、どこか熱病にも似た情熱で、エリスの指が蠢いている。
ずるり・・・ぬちゃあ・・・。
(・・・・・・・・・ !!??!!?? )
最初の音は、灯のパンティーがずり下げられた音。二度目の音は・・・信じられない
ほど多量に分泌された愛液が、灯の股間と引き剥がされた布地との間に粘り気のあ
る太い糸を引いた音だった。
(・・・恥ずかしい・・・こんな・・・)
羞恥という感情をこれほど強烈に意識したのは、灯にとって初めての経験。
エリスの手が、灯の恥ずかしい体液を吸った下着をどこかへ放り投げた。
べちゃっ、ぼとっ。
「・・・・・・〜〜〜〜ッ !!?? 」
おそらく、どこかの壁に当たって落ちたのだろう。
大量の水分を吸った下着は、耳に明らかなほど重たい音を立て、壁に、床に愛液の
染みをなすりつけたはずだった。
(お願い・・・エリス・・・こんな恥ずかしい音・・・もう・・・)
濃密な口づけで言葉すらも奪われて、灯は心の中でエリスに懇願する。
しかし、そんな願いが叶えられるはずもない。
エリスは、ただただ必死に愛撫の手を動かし続けていた・・・。
※※※
エリスは、夢中であった。
灯ちゃんを気持ちよくしてあげたい、灯ちゃんと心ゆくまで交わりたい、灯ちゃんと一
緒にどこまでも昇りつめ、できることならドロドロに溶け合ってしまいたい。
そんな想いをただただ込めて、灯の唇を吸い、乳房を弄び、お尻を撫で続けた。
いまだ麻痺から回復しない四肢は、大の字に拡げられてだらりと力なく。
灯のそんな姿が痛ましくて、エリスは「もっと灯ちゃんを歓ばせてあげたい !! 」と、そ
れだけを純粋に思い込んでいた。
灯の唇を無我夢中で吸い、自分の下着を脱ぐ間も惜しむように、接吻と愛撫に決し
て空白を作ることなく、エリスは全身を絶え間なく動かし続ける。最後の着衣に指をか
けた瞬間、エリスは興奮のあまり視界が真っ白になってしまった。
(いま、私と灯ちゃん・・・なにも着てない・・・裸で・・・身体・・・くっつけて・・・)
灼熱を帯びた肉感のある裸身の弾力が、あまりにも心地よすぎて。
エリスは灯の言葉を奪ったままでその身体を強く抱きしめる。
自身の小振りな乳房を使って、灯の二つの肉球をぐにぐにとこねまわす。
両方の手は灯のお尻に回され、やはりボリューム十分の尻肉を鷲掴みにして、強烈
に握りこむ。
ぐにゅ、ぎちゅ、むにゅ、ぶにゅ。
全身を余すことなく使っての愛撫。灯の肉に、エリスの肉が溶け込む。エリスの肉に
灯の肉が蕩けだす。二人の少女の火照った身体は、互いの肉を貪欲に喰らい合うよ
うに混じりあっていった。
(ああ・・・き・・・気持ちいいよ・・・灯ちゃんの・・・身体・・・気持ちいいよ・・・)
エリスの脳裏を支配する思考。それは、灯の肉体の素晴らしさと、よりその肉体を熱
く昇華させてあげようという、それだけに尽きる。
エリスの細い肢体が、力を失ってだるんだるんと蠢く灯の二本の脚を、大きく開脚さ
せるように割り込んだ。脱力して、完全に押し広げられた脚の間の、灯の最も敏感な
部分に、エリスの腰が押し当てられる形となった。
「ぐ・・・んむぅぅぅぅぅぅぅっ・・・・」
喉の奥から搾り出される灯の悲鳴。
すでに大量以上の愛液をとめどなく分泌し続ける蜜壷を、エリスの腰骨の辺りの固い
部分が、ごりごりとすり潰すようにした。にちゃ、にちゃ、と灯の愛液がエリスの身体をも
濡らしていく。止まらない。肉体の火照りも、恥ずかしい体液の分泌も、いっそ恐怖を感
じてしまうくらいに、とどまることを知らない。
「ぷぅ・・・ふぁ・・・ん・・・」
エリスが、唇による拘束を外す。
灯が、ほっと一息をついた。ようやく、小休止・・・ではなかった。
灯の身体の上を滑るように下方へ、エリスが自分の身体をずりずりとずらし、隠すこ
とも出来ず大きく開かれた脚の間に、その顔を埋めたのである。
「・・・・・・っ !? 」
声にならない悲鳴を、灯は上げた。
びしょびしょに濡れた灯の股間に、ピンク色の肉襞がわななくように息づいている。
痛いほど張り詰めた肉芽は充血して、それを護っていた肉皮を自身の屹立でぺろり
とめくり上げるように肥大しきっていた。
くっぱりと開かれた蜜壷は、内臓まで覗けるほどに開放され、貪欲な恥穴はなにかを
待ち望んでいるように微弱な収縮運動を繰り返している。その深奥から、湧き水を思わ
せる勢いで、こぽり、こぽり、とあふれ出るのは、いうまでもなく灯の蜜。
エリスが、無抵抗の灯の股間の泉へと口を近づける。砂漠でオアシスに出会った旅
人のように。喉の渇きではなく、火照る身体の渇きを潤すために。
エリスは灯の源泉に顔を突っ込んだ。
しゃぶっ、しゃぶっ、じゅる。
舌を動かす。縦横無尽に動かす。じんわりとにじみ出る愛液を舌先でこそげ取り、ま
すますあふれ出す濃厚な肉汁で、本当に喉を潤した。
(気持ちよくなって・・・もっと気持ちよくなって・・・灯ちゃん・・・)
必死である。自分は、こういう経験がないから。よくわからないから。ただ一生懸命
に、してあげるしかない。
だから手を動かす。舌を動かす。動かし続ける。ただただ動かし続ける。
灯の股間に顔を埋めたエリスには、灯の反応がよくわかっていない。
かすかに身体をよじり、呼吸の音が断続的に聞こえるだけで、灯は少しも声を上げな
いから。
(き、気持ちよくないのかな・・・うぅ・・・上手くできていないのかも・・・)
だけど、気持ちよくなってもらうって決めたから。頑張って感じてもらおうと決めたから。
とにかく、エリスは灯を責めに責め続けた。
潤った内部の恥肉は、ところどころがぷっくりとした突起を持っていて、そこの部分を
とにかく丹念に舌でつつき、ねぶる。鼻の頭に触れるほど大きく勃起したクリトリスを、
絶え間なく擦りあげる。左右に顔をぐりぐりと動かし、舌の力だけでは補いきれない強
い刺激を送り込む。
ほんの少しだけ、灯が身じろいだ。
(この調子で・・・いいのかな・・・ ? )
わずかな変化に心強さを感じると、俄然やる気が沸き起こる。
(灯ちゃん・・・頑張るから・・・私、もっともっと頑張るから ! )
決意も新たに、エリスは舌を、顔をがむしゃらに動かし続けるのだった・・・。
※※※
エリスが密かに、けなげな決意を固めたとき。
灯は、襲い来る快楽に翻弄され続けていた。
動かないのは、動けないから。声を上げないのは、悲鳴が声にならないから。
押し開かれた股間に顔を埋没させたエリスは、灯の表情の急激な変化に気づけない。
だから、ただ愚直なまでに愛撫を徹底する。
(エリス・・・ ! お願い・・・ ! 気づいて・・・ ! きつい・・・ ! これきついっ・・・ !! )
内心の懇願を声に出そうともがいても、喉の奥から搾り出される呻きは引きつって、
口から飛び出す前に肺へと押し戻される。呼吸の度に、唇と腹腔の間を悲鳴が行き来
するだけで、陸に上がった魚のようにパクパクと口を開閉させるしかない。
つまり・・・快楽が強すぎて、身じろぎひとつ、声ひとつ出せないでいるのだ。
戦いならば引き際がある。絶滅社の耐久試験なら、研究者が限界値に到達する前
にテストを中止する。だがこれは。エリスによってもたらされるこれは・・・・・・。
際限がない。
いっそ、気絶できてしまえばよかったのだろうが、強化人間として肉体面のみならず
精神面においても増強の施術を行われた灯にとっては、耐えうる領域の感覚である。
でも、それがキツイ。
身体はすでに絶頂を迎えている。それなのに、エリスはどういうわけかその手を休め
ない。それどころか、舐める舌の動きが、愛撫する手の動きが、ますます加速する。
絶頂に次ぐ絶頂。途切れることのないオルガスム。
自分でもわかるぐらい、股間がどろどろに溶け、潤滑油を噴出する。全身の体液とい
う体液を、すべて愛液にして分泌しても足りないのではないか。
そんな、ありえない錯覚を覚えてしまうほどに、豊潤な噴射を続ける己の生殖器官。
「灯ひゃん・・・んぷ・・・わたひ・・・もっほ・・・がんば・・・ぷぅっ・・・」
愛液の泉を舌でねぶりながら、エリスが不明瞭な発音で言う。
「・・・ま(ってエリス)・・・や(すませて)・・・も(う限界)・・・」
灯が発したいと望む言葉は、単語どころか、単音節としてしか発音されず。
「ひもひよく・・・ひてあげぷ・・・からぁ・・・灯・・・ひゃ・・・ん・・・(ジュルウウゥッ)・・・・」
聞こえていない。もっとも、灯がはっきりといまの言葉を発音できたとしても、はたして
エリスの耳にそれが届いたかどうかはあやしいものだ。それほどまでに、灯を責めるこ
とにエリスは集中している。
「・・・ほ(んとうに)・・・だ(め)・・・く(るいそう)・・・」
瞳孔が開く。赤い瞳が忘我の涙を流す。舌を天高く突き出し、丸く開かれた唇を割っ
て出る。唇の端からあふれ出た唾液が、頬を濡らし、シーツに水溜りを作るほどに多量
にこぼれ落ちていった・・・。
※※※
「んっ、じゅっ、ぷはっ、ぷああぁぁっ・・・」
勢い良く、びしょ濡れの灯の股間から顔を上げ、エリスが吐息を漏らす。
はあ、はあ、と荒い息をつきながら、少し涙目になっているのは、舌を過度に酷使し
たために顎が痛くなってしまったのと、自分の不甲斐なさに悔しい思いをしているから
であった。
(気持ちよくしたいのに・・・灯ちゃんに歓んでもらいたいのに・・・)
その想いに、自分がついていけていない・・・そう、エリスは思っている。
窺うように灯を見ると。
真横を向いた顔に長く赤い髪がかぶさって、表情は良く見えない。
ただ、呼吸は乱れているようで、不規則に上下する胸の上、豊かな乳房がたぷたぷ
と揺れているのはわかる。
少しは感じてくれているのだろうか。少しは歓んでくれているのだろうか。
でも・・・。
(・・・・・・っ、ううん、ダメ ! くじけちゃダメだよ、エリス ! 灯ちゃん待っててね、絶対気持
ちよくしてあげるから ! )
いつの間にか、灯に快楽を味わわせることに、変な使命感を抱き始めているエリス
であった。
「・・・・・・よーし・・・」
一度決意してしまえば行動は早かった。エリスは脱力しきった灯の左足首を掴むと、
天井に直角になるよう、さらなる開脚を強制する。脚の間、その中心部で、灯の秘穴
がぽっかりと空洞をつくり、黒々とした深淵を空けていた。
エリスが、シーツに投げ出されたままの灯の右足に、自分のお尻を乗せて跨る。
そのまま、ずり、ずり、と灯の股間めがけて、自分の秘肉を近づけていく。
灯に対する愛撫の途中で、自身もたっぷりと濡らしていたのであろう。灯の脚の上を
エリスが座りながら移動すると、まるでカタツムリが這ったあとのように、半透明の愛汁
が線を描き、灯の脚の上でのたくった。
「ん・・・灯ちゃん・・・いま・・・わたしのと・・・灯ちゃんの・・・くっつけちゃうから・・・いい
よね・・・いいよね、灯ちゃん・・・ ? 私たちの・・・ぐちゅっ、てしちゃうからね・・・? 」
とろけた青い瞳・・・。エリスの腰が灯の股間を目指して、ついにその一点へと到達を
迎えたとき・・・・。
じゅぶ、じゅるるるるうぅぅぅ。
「あ・かり・・・ひゃあぁぁぁぁん・・・・・・ !! 」
「く・・・きゃ・・・あぅうあぁぁぁぁっ・・・・ !! 」
想像を絶するエクスタシーが、エリスの股間を焼き尽くした。濡れて、ぽってりと肉厚
の灯の秘唇が、エリスの肉の花びらへと巻き込むように絡みつき、捕らえて放さない。
互いの蜜が混ざりあった濃厚な愛液の混合汁が、二人の花弁を濡らし、最奥へ侵入
し、クリトリスを溶かすように塗りたくられる。
エリスの陰核が、瞬時に肉皮を割って突起と化す。すでに尖りきった灯の陰核に接触
を果たすと、互いが互いのもっとも敏感な器官を、競うように擦りあげた。
「あかりひゃ・・・すご・・・これぇ・・・」
腰を振り、灯の身体にのしかかりながら、エリスは愛しい少女の名を呼んだ。
綺麗な、赤い、長い髪を指でかきわけ、とにかく、とにかく灯の顔が見たくて、エリス
は灯の横向きになった顔に手を添える。限りない優しさをこめて、こちらに向かせた灯
の顔。その、赤い瞳とぶつかった瞬間、エリスの全身をいままで以上の絶頂と幸福が
駆け抜けた。
「あかりひゃ・・・きもひいいの・・・かんじてる・・・かんじてくれひぇる・・・の・・・ ? 」
涙を流す赤い瞳。高潮しきった顔。緩みきった唇からだらりと舌がこぼれ、唾液の線
が右へ左へと後を引き。これが、気持ちよくなっていない顔であるわけがない。感じて
いないわけがない。
ああ、私、灯ちゃんを気持ちよくしてあげられたんだ ! 私、いま、灯ちゃんと一緒に気
持ちよくなっちゃってるんだ !
至福の感情は、ますますエリスを追い立て、幸福感がさらなる快楽を煽る。
「エ、リス・・・エリ・・・ス・・・・」
過剰な快楽に神経を焼き切られながらも、灯の唇は、確かに自分の名前を呼んでく
れている。このことの、なんという歓びであることか。
エリスは泣いた。
快楽に泣き、幸福に泣き、腰を振り続けながらも泣き続けた。灯の太腿をしっかりと
抱え込み、のしかかる勢いで灯の唇をまたも奪った。口腔内に舌を差し込む。あふれ
る唾液を吸い、飲み込み、まだ自分からも注ぎ込む。喉を鳴らして、お互いの唾液で
渇きを潤し、今日、幾度目かの絶頂に昇りつめた。
さっきまで、灯の肉体を蹂躙していたのと同等のエクスタシーがエリスを見舞う。
極限まで押し上げられた感覚。理性は「もう限界、。もうやめなきゃ」と言っているの
に、本能がそれを許さない。
「えり・・・も・・・う・・・こわれ・・・・ !? 」
灯が息も絶え絶えに喘ぐ。
「あか・・・だめ・・・とま・・・んなひ・・・ !? 」
エリスが泣きながら灯を犯す。
とっくにリミットを振り切ったはずの少女たちの身体が、汗に濡れ、涙に濡れ、愛液に
濡れ、もしかしたらそれ以外の体液にも濡れていた。
ベッドが軋む。スチール製の脚が、金属疲労で折れ曲がるのではないかというほど
に音を立てる。
二つの瞳。紅と蒼の瞳が、涙を流しながら互いを見つめている。
エリスが、無限の愛情を込めて灯の唇に唇を重ねた。
「ん、ん、ん、ん、ん、ん、んうぅぅぅぅぅぅーっ !! 」
「ぐむ、ぷ、んぐ、んぐぅ、ぐっ、うぶうぅぅぅっ !! 」
ぴったりと重なり合った二つの唇の隙間から、くぐもった二人の悲鳴が漏れる。
ぶしゅ、ぶく、ぶくくっ。
最大級の快楽が到来すると同時に。
悲鳴を漏らした唇の隙間から白い泡が吹き出した。
同時に。まったく同時に。二人の少女の肉体と精神が限界を迎える。
灯の身体をしっかりと抱きしめたままで・・・エリスが気を失った。
エリスの腕にきつく抱きしめられたままで・・・灯も意識を喪失した。
ぎし・・・ぎし・・・ぎし・・・。
ベッドのスチールパイプが、軋み続ける。
失神してもなお、かすかな痙攣運動を続ける二対の裸身が、湿ったベッドシーツの
上で、ようやくその動きを止めたのは、いつの間にか安らかな二人の寝息が聞こえ始
めた、それから十数分後のことであった・・・・・・。
(エピローグへ続く)
どちらもGJ!エロイ!
>ノエル
羞恥プレイ良いよ、羞恥プレイ。見られた事が視覚的に自分と周囲に分かるなんて、ある意味、究極ですな。
声優ネタワロタw特に間違えたところwww
>エリス×あかりん
恥ずかしがるあかりんがエロ可愛い。おっぱい!おっぱい!
『はたから見たら鬼畜攻めにしか見えんなぁ』と思ったら、黒エリスにしか見えなくなってしまったがw
前スレの埋めネタが精霊獣に陵辱されるアゼルを救出する魔王’Sセッションの話に
なってる件について
アニメの絵柄で絡み合う二人を妄想したら、もうしんぼうたまらねえ……なんというGJエロス!
声優ネタずるいwwwwwwwwwエロ板なのにクソフイタwwwwwww
一時的な疲労であれば、最低限の睡眠と休息で体力を回復できることも、強化人間
として獲得した能力のひとつである。
お互いの全身全霊をかけた、フルマラソンのように心身を酷使する性交の後。
先んじて目を覚ましたのは、もちろん灯のほうであった。
激しい交わりの余熱もわずか。汗はほとんど引いて、呼吸も心拍数も平時のそれを
取り戻している。情欲の涙に濡れていた紅い瞳はすでに乾き、いつもの冷静さを漂わ
せていた。
全身に感じる重みに、視線をかすかにそちらへ向ける。
自分の裸の胸に頬を埋め、安らかな寝息を立てるエリスの寝顔がそこにはあった。
「・・・ふっ」
我知らずこぼれた笑みは、とても柔らかくて。
片方の乳房を枕のようにして、もう片方の乳房に手のひらを乗せて眠る姿は、まる
で母親の胸に抱かれる赤子のよう。その唇は、幸福そうな微笑みを形作っている。
・・・・・・あの清楚な唇が、幾度となく私に口づけをくれたのだ。
そう思うと、少し気恥ずかしいものがある。
「もうしばらく・・・このままで・・・いよう・・・ ? エリス・・・」
自分の胸の中で眠る少女が愛おしくて、この至福の時間が破られるのが惜しくて、
灯はそんなことを呟いてみる。しかし二人の甘い時間は、灯の胸で眠る青い髪の少女
自身に、唐突に破られた。
「・・・あふ・・・ふあぁ・・・んにゅ・・・」
エリスの目蓋がぴくぴくと動く。どことなくのんびりとした、悪く言えば間の抜けた寝ぼ
け声を発して、エリスが目を覚ましたようだった。
もぞもぞと、灯の胸の上で顔を動かし、その心地よい弾力を夢うつつで愉しむかのよ
うに、ぐりぐり、ぐりぐり・・・・・・と。
「・・・・・・っ ! 」
さすがに頬を赤らめて、灯が硬直する。
寝ぼけながらの行動とはいえ、あまり恥ずかしいことはしないで欲しい。エリスのまど
ろみを無粋に破るのは多少気が引けたが、背に腹は変えられぬ。
「エリス・・・起きて・・・」
声をかけると、エリスはようやくのろのろと顔を上げ、とろんとした表情のまま、まじま
じと灯を見つめている。まだ、半分、寝ているようだ。
「あかり・・・ちゃん・・・ ? あふ・・・オハヨ・・・」
「・・・・・・おはよう。エリス」
エリスのマンションでのお泊り会のとき、翌朝いつも見せるのと同じ表情に、灯はな
んとはなしにホッとする。うん・・・いつもの、エリスだ・・・・・・と。
「ごはんと・・・パン・・・どっちがいい〜〜・・・ ? 」
目をこすりながらエリスがそんなことを言う。
ああ、やっぱり。
「半分」寝ているのではなく、「完全に」寝ぼけているのだ。
もぞり、と起き上がり、なにげなく置いた手のひらが灯の豊満な乳房の上に乗せられ
る。
むにゅん。
「・・・・・・はれ・・・ ? 」
その感触に、ようやくエリスが「なにか違う」と感付いたらしく。自分の手を見下ろし、
その手のひらの中で灯の乳房を鷲掴みにしている自分に気づき。まして、自分が馬乗
りにまたがった灯は一糸纏わぬ全裸で。しかも、自分だって灯と同様、生まれたままの
姿のままで。切り貼りの写真のような幾つかの映像が、エリスの脳内で音を立てて意
味を成す連結を行い・・・・・・。
「・・・っ、きゃあっ !? ご、ごめんなさい灯ちゃんっ !? わ、わたし、わたし・・・」
両手で頭を抱え、ぺたんと尻餅をつくエリス。
さきほどまでの、灯との濃厚な交わりを完全に思い出し、あまりの恥ずかしさに顔が
火を噴いている。目をうるうるさせながら、上目遣いに灯を盗み見て、やっぱり灯の顔
を見ていられなくて目を伏せた。
灯の目には、そんな仕草さえ微笑ましく、可愛らしく映るのか。赤い瞳が眩しいもの
を見るように細められ、笑いを形作った唇が、
「エリス」
と彼女の名を呼んだ。
ふわり。裸の身体を裸の身体で包み込む。
「あ、灯ちゃん・・・・・・」
「エリス・・・もう・・・いつもの・・・エリス・・・ね・・・ ? 」
その問いかけに、エリスがハッと顔を上げ、微笑みかけてくる灯の顔をじっと見つめ
返した。じわっ、と青い瞳に涙を浮かべながらも、その顔は明るく光り輝き、力強い笑
顔を取り戻し。
「・・・・・・・・・うんっ ! 」
誰もがよく知るエリスの笑顔。灯がなじみのエリスの姿が、そこに甦っているようだっ
た・・・。
※※※
「・・・エリス・・・」
「ん・・・なぁに・・・」
いつもはしないような、すごく甘い声で灯ちゃんが私の名前を呼んでくれる。
なんだか、嬉しい。近くにいるだけで、私をその瞳で見つめてくれるだけで、名前を
呼ばれるだけでこんなに嬉しいなんて、思ってもみなかった・・・。
だから私もつい甘えるような声で、
「なぁに・・・灯ちゃん・・・」
・・・って。でも、続く言葉はずいぶんそっけなくて、私、なんだか肩透かしを食らった
ような気になっちゃいました。だって、「・・・そろそろ・・・服・・・着たほうが・・・」なんて
言うんですよ ? もう・・・あと少し、こうして二人でいたかったのに・・・。
「・・・・・・もう〜・・・灯ちゃんったら・・・」
わざと拗ねたように笑って言うと、ベッドから降りて。私は脱ぎ捨てた下着や制服を
拾い上げました。ブラジャーを着け、パンティを履いて・・・きゃっ !? つ、つめた・・・ !?
気づいて、また真っ赤になってしまう私。そうだ・・・さっき下着姿のままでしばらく灯
ちゃんとあんなことしてたから・・・あの時は気づかなかったけど・・・私・・・すごく・・・下
着濡らしちゃっていたんだ・・・。なんだか、乾いていない洗濯物を身に着けているみた
いで・・・ううぅ・・・きもちわるいよぉ・・・。
「エリス・・・私のでよかったら・・・備え付けの換え用がたくさんある・・・」
「う・・・ごめんね・・・洗って返すから・・・」
あう・・・最後の最後でしまらないことに・・・あ〜あ・・・後先考えないでいるから、こん
なことになっちゃうんだな・・・。しょぼーん、ってなっちゃうよ・・・。
「そのかわり・・・」
落ち込む私に灯ちゃんが声をかけます。
「・・・私も・・・着替えさせて・・・」
仰向けのままで震える両手を私に差し出す灯ちゃん。その仕草はまるで、ちっちゃい
子がお母さんに抱っこをせがむようで、すごく可愛くて。私、その手を取って、灯ちゃん
の身体を優しくベッドに寝かせてあげました。
病室に常備されたタオルを何枚か取り出して、最初に私がしたことは、灯ちゃんの身
体を拭いてあげること。少し、汗が引いてきたみたいだけど、このままじゃ怪我だけじゃ
なくて、風邪までひいちゃいますから。丁寧に、おでこから首筋、腕も脚も背中も、水分
を残さないようにしっかりと拭い取ります。
「あ・・・シーツの換えって・・・あるのかな・・・ ? 」
ためらいがちに、恥ずかしさを隠しながら、そう尋ねます。
ベッドのシーツも、もうぐちゃぐちゃに湿ってるんです。私たち二人分の・・・汗とか・・・
その・・・それ以外の・・・・・・や・・・やっぱり言えません !
「それも・・・備え付けがある・・・壁の・・・スライド式の扉の取っ手・・・」
言われてみると、入り口の扉の向かいの壁、たしかに私の胸ぐらいの高さの位置に
もうひとつ小さな戸棚の扉があって。
開けると中には、「殺菌・抗菌済み」って文字の書かれたビニールパッケージに、密
封されたシーツの替えが何枚もあって、いかにも病院で使うものって感じがします。
シーツのパッケージを一枚開け、拡げて床に敷き、灯ちゃんに肩を貸してベッドから
降りてもらうと、
「固い床にシーツ一枚でごめんね。でも、先にベッドメイクしてから・・・」
シーツの上に裸で体育座りもなんですから、私の制服のブレザーを羽織ってもらっ
て、大急ぎで濡れたシーツを新しいものに取り替えました。
「これで、よし。お待たせしました、灯ちゃん。はい・・・」
もう一度手をとって肩を貸して。乾いたシーツに座った灯ちゃんに、真新しい下着を
着せ替えて。
「はい、脚上げて・・・ちょっとお尻浮かせて・・・そう・・・次、ブラ着けるから・・・」
くす。
なんだか赤ちゃんみたい。
まるで灯ちゃんのお母さん気分です。下着を替え終わって、病室で着る服を頭から
すっぽり被せて、シワを整えたらはい、できあがり。
「お疲れ様、灯ちゃん。あ、下着とかシーツとかどうしようか・・・ ? 」
「・・・・・・ダストボックス」
灯ちゃんの視線を追うと、部屋の片隅には大きなスチールのゴミ箱があって、丸めた
布類を、私はまとめて放り込みます。うん。これでよし。
今度は私が灯ちゃんに借りた下着を着け、制服を着ます。
・・・病室にお見舞いに来たときと同じ・・・ううん・・・ちょっとだけ、関係の変わった二
人が、そのとき初めて我に返ったように見つめあう・・・。
私たちは。私たちの関係は、今日で変わってしまうのだろう。
友達という枠を遥かに超えた行為をしてしまった。させて、しまった。さっき灯ちゃんが
私に言った、
《エリス・・・もう・・・いつもの・・・エリス・・・ね・・・ ? 》
という言葉の意味。それは、この二、三日の私が明らかに普段の私と違っていたと
いうこと。そのことで、灯ちゃんに心配をかけたということ。
私は女の子なのに、灯ちゃんのことが好き。好きだ、って思い込んでいた。
その気持ちは、でも、やっぱり嘘じゃなくて、だけど憧れのような恋だった。
灯ちゃんの一番大切な人のことを思えば、灯ちゃんの一番の幸せを願うならば、こ
れは捨てなきゃいけない気持ち。諦めなきゃいけない気持ち。その辛さを和らげてく
れたのが、柊先輩の言葉だった。
私と灯ちゃんの間には絶対越えられない壁がある。でも、その壁を越えられなかった
からって、私たちの気持ちを否定するものじゃあ、決してないんだって。
いつか、私が誰かと手を取り合って、本当の恋にめぐり合えたとき。
たぶん、私が悩んだこと、灯ちゃんに迷惑をかけたこと、でも仲直りできたこと、泣い
たり怒ったり、喧嘩したりしたことや、これから私たちが一緒に経験すること、そんなも
のすべてが私の力になるんだろう。
だから灯ちゃんへの気持ち、灯ちゃんと過ごした時間、それは大切な大切な宝物な
んだよ・・・っ、て。
柊先輩の言葉の意味は、そういうことだったんだと思います。
でも・・・頭では理解していても、今日こうして灯ちゃんと会ってみて。
私に、とても真摯に向かい合ってくれた灯ちゃんと、絆の強さを確認できたからもう
いい・・・って。それで、私の気持ちは報われたって思ったのに・・・弱虫な私が泣きべ
そなんてかいちゃったから・・・
《エリス・・・私も・・・乗り越えるための・・・いつか乗り越えるための力が・・・欲しい・・・》
あんな台詞を灯ちゃんに言わせちゃったんだと、そう思います。
あの時は、そうは思わなかったけど。
灯ちゃんが言ってくれたあの言葉は、私が灯ちゃんと交わるために必要な免罪符の
ようなものだったのかもしれない。私に一線を越えさせるための、灯ちゃんの優しさか
らくる、温かい嘘だったのかもしれない。
灯ちゃんには愛する人がいるのに。私の弱さのせいで、それを裏切らせてしまった。
それこそが、本当に私が灯ちゃんに謝らなきゃいけないことで、でも謝ったぐらいで
許されるはずもない罪で、こんな私に本当に灯ちゃんに優しくされたり、想われたり、
そんな資格なんて・・・・・・・
「エリス」
冷たく、固い、灯ちゃんの声。
「え・・・・・・ !?」
我に返った私は、目を見張りました。
灯ちゃんが・・・・・・自由の利かないはずの二本の脚で、ベッドから起き上がって、私
のすぐ目の前に立っている。いまにも崩れ落ちそうなほどに脚が震えて、立っていられ
るのが不思議なぐらいのおぼつかない立ち姿で。
灯ちゃんを見上げようと顔を上げると、
ぱちんっ。
・・・やっぱり自由の利かない手で・・・弱々しい平手打ちが私の頬を打ちました。
なんて力のない・・・・・・平手打ち・・・。
「・・・エリス・・・また・・・なにか・・・おかしなことを考えてる・・・」
「あ、かり・・・ちゃん・・・」
「顔を見れば・・・わかる・・・なにか良くないことを考えているのなら・・・今度は・・・私
がエリスを怒る・・・本気で、怒る・・・」
目が怖い。本気の目だ。でも、怖いのに優しい。優しくて。優しすぎて・・・。
「で、でも、でも、私のせいで灯ちゃん、あんなこと私としてくれて・・・」
「私が・・・したかったから・・・した・・・」
「灯ちゃんには、恋人がいるのに、命さんがいるのに、私とあんなこと・・・」
「後悔することじゃない・・・間違ったこともしていない・・・」
「でも、いくら私のためだからってあんな・・・」
「エリス」
・・・・・・・。
私が自分自身を責める言葉。灯ちゃんに責めてもらいたかった言葉は、全部全部、
片っ端から灯ちゃんが否定して。
「私・・・嬉しかった・・・エリスの力に・・・いつか、エリスの力になれることが・・・すごく
嬉しかった・・・そのためなら・・・」
嘘も偽りもない真実を宿しながら、紅い瞳が燃えるように綺麗に光って。
「私は・・・・・・なんでもできる」
その言葉こそが、たぶん灯ちゃんが私に伝えたかった言葉だったのでしょう。
きっぱりと私にそう言い切ると、灯ちゃんの膝がガクンと折れて、私の胸に倒れこん
できました。
しっかりと灯ちゃんの身体を受け止めた私。でも、歯ががちがちと震えて。
悲しみ。後悔。申し訳ない気持ち。でもそれ以上の喜びが、私の胸を満たしていきま
す。でも、その感情が大きすぎて、爆発してしまって、なにを言ったらいいのか全然わ
からなくて・・・。
「エリス・・・私は・・・あなたに謝って欲しくなんかない・・・こういうときは・・・なんて言う
の・・・ ? 」
耳元で囁く灯ちゃんの声。
・・・・・・うん。そうだよね。私が・・・言わなきゃいけないのは・・・後ろ向きな「ごめん
なさい」なんかじゃなくって・・・。
「ありがとう・・・・・・灯ちゃん・・・・・・あり・・がとう・・・」
私の胸の中で・・・灯ちゃんが、小さく頷きました・・・・・・。
※
※
※
※
※
※
輝明学園へと登校中の生徒たちに混じって、一際目立つ姿の少女が歩いている。
連れだって歩く友達の姿もなく、ただ目的地を目指すためだけに歩いているような
無駄のない動き。ただ、彼女の歩みに合わせて、鮮やかな赤い色の長い髪だけが、
緩やかに微かに揺れているだけだった。
少女の名は・・・緋室灯。
横断歩道の信号待ちで、灯はガードレールの後ろに立ち止まる。
他の歩行者の邪魔にならないように、なるべく端のほうに身体を寄せながら。
信号の色が青に変わっても灯は立ち止まったままで、制服のスカートのポケットから
時間の確認のため携帯を取り出した。スケート靴の形をしたストラップがゆらゆらと揺
れる。
スケート靴の動きに合わせて、紅い瞳がかすかに揺れた。楽しそうに。嬉しそうに。
じっ、と携帯の刻むデジタルの時刻表示を凝視しながら、彫像のように動かず。
きっかり二分立ち尽くしたところで、灯の後ろから軽快な小走りの足音が届く。
灯が携帯をポケットに戻して肩越しに振り返った。
息せき切って、でもとびっきりの笑顔で。
青い髪の少女が走りよってくる姿が、灯の視界に映った。
※※※
「ハァ、ふぅ、お、おはよぅ〜、灯ちゃん」
灯ちゃんが退院したのは、あれから三日後のことでした。
すごい回復力です ! なんでも、アンゼロットさんから教えてもらったところによると、
《絶滅社強化人間収容施設主任研究員の定期レポートによると、感情制御システム
の安定度が期待値を遥かに上回った結果、身体回復を促進する代謝機能コントロー
ルシステムが通常以上の働きを・・・》
・・・・・・ちんぷんかんぷんでした。
と、とにかく退院した灯ちゃんと、いつものように朝の待ち合わせ。今日は、退院後
初めての登校なんです !
走ったせいで乱れた呼吸を、胸に手を当てて整えながら、それでも元気に挨拶をし
ました !
「・・・・・・エリス・・・おはよう・・・走らなくても・・・よかった・・・」
なんだか、最近聞いたような台詞。
「え、う、うん。でも、灯ちゃんが待ってるのが見えたから」
「・・・・・・そう」
灯ちゃんの口元が、笑っているようで。
「いこ ? 灯ちゃん」
信号の色が青に変わるのを待って、私たちは歩き始めます。
・・・実は・・・少しどきどきしているんです・・・。あんなことを言ってくれた灯ちゃんと、
こうしていつもどおり登校することが出来て。それはとても嬉しいことなんだけど、本当
に私たちは、あのときの私たちに戻れているのかな・・・って。
後ろからそっと、灯ちゃんの横顔を盗み見ます・・・いつもと・・・変わらないクールな
横顔・・・。ああ・・・私だけなのかな・・・まだ、こんなことを引きずっているの・・・。
「エリス」
「きゃっ !? は、はい、灯ちゃん !? 」
急に立ち止まって、灯ちゃんがこちらを振り向くと唐突に私に呼びかけます。びっくり
して、ついつい小さな悲鳴を上げてしまいました。
灯ちゃん・・・とても真剣な眼差しで・・・私のことを見ています。
どうしたんだろう。なにを、言おうとしてるんだろう。無意識のうちに喉を鳴らして、唾
を飲み込んでしまう私に、
「エリス・・・三日前・・・あなたに言おうと思って・・・言いそびれたことが・・・ひとつだけ
ある・・・」
灯ちゃんの声は真剣そのもの。なに・・・ ? 不安が私の胸の中に沸き起こります。
「いずれ・・・エリスが本当に・・・手を取り合える相手と出会ったとき・・・そのときの・・・
こと・・・」
「え・・・」
どきん。
まさか・・・こんな話をされるとは思ってもいなかったから、心の準備のできていない
私はどぎまぎして。
「そんな人と・・・めぐりあえて・・もしも結ばれるそのときは・・・」
「・・・・・・・は、はい・・・・」
「・・・少し・・・自分をセーブした方が・・・いい・・・」
・・・・・・・・。
「・・・・・・え・・・・・・ ? 」
きっと私、きょとんとしていたに違いありません。灯ちゃんの言っていることの意味が
わからなかったからです。
「エリスは・・・結構・・・猪突猛進型・・・結ばれた相手も・・・あれじゃ・・・保たないかも
しれない・・・」
・・・・・・・・ ? ・・・・・・・・・。 ・・・・・・っ!!
「あ、灯ちゃんっ !? な、なんてことっ・・・・・・ !? 」
き、きっと私の顔・・・ゆでだこみたいに真っ赤になっちゃってますっ・・・ !!
「・・・・・・あのときの・・・お返し・・・」
顔は笑ってないけど、灯ちゃん、目が笑ってるっ。わかる人にしかわからないけど、
目が楽しそうに笑ってるっ。ひ、ひどいよぅ〜、あのときのことは私も反省してるのに、
こんな恥ずかしい反撃は、反則だよぉ・・・・・・。
「エリス・・・遅れる・・・先に・・・いく・・・」
そう言って、ふいっと先に行っちゃうんです、灯ちゃんったら、もうっ !
「・・・・・・うふふ」
でも・・・・・・私、笑ってしまいました。
また変なことを考えそうになっていた弱い私に気づいて、灯ちゃんがあんなことを
言ってくれたんでしょう。そう思うと、自分のことが可笑しくて。
たった三日間で、私と灯ちゃんの関係は随分と変わったように思います。
はた目にはわからないけど、確実に。
私・・・変化するって、とっても怖いことだと思っていました。
たとえばそれは、いつもと違う他人。いつもと違う世界。そしていつの間にか変わっ
ていってしまう、なにもかも。
・・・・・・私、強くなんかないですから、誰かに迷惑をかけたり、落ち込んだり、そんな
ことばっかりなんです。
そんな自分を誤魔化して、隠して。いつもと同じ私、いつもと同じみんな、いつもと
同じ日常を守りたくって・・・・・・変わっちゃうことに臆病で。
でも、いまならわかります。
変化するってことは成長するっていうこと、なんですよね。
私は、変わる事を怖がっていました。
それは、かつて一度、私の世界のなにもかもがなくなっちゃった経験があるから。
「・・・だけど、変わっていいものもあるんだよね」
私は確信します。
変わってもいいもの・・・例えば私。例えばみんな。例えば、こんな日常。
私と灯ちゃんの関係は、三日前とはもう違います。でも、二人の関係は変わっても、
変わらないものだって、確固として存在しているんです。
形を・・・在り様を変えただけで、二人の間にはたしかに、変わらない絆があるんだ
と。
より強く結ばれた絆は、絶対に変わることがないんだ・・・・・・と。
「・・・灯ちゃんっ ! もう〜、おいていかないで〜 ! 」
私は走ります。もう、ずいぶんと先に行ってしまった、揺れる、紅く長い髪を追いかけ
て。
みんなが、柊先輩が、そして灯ちゃんが私にくれた新しい世界。こんなにも素晴らし
い世界を生きる機会をくれた世界中のみんなに、私は感謝してやみません。
・・・・・・これで、弱かった私の物語のひとつは終わります。
本当の強さを手に入れるのはまだ先かもしれませんけど、決して変わることのない
絆の強さがきっと、「強い私の物語」を作っていくことを、私は心の底から信じているん
です・・・・・・・。
(エリス〜変わらない絆〜END)
前より短かめの作品になるなどと、どの口が言ったのか(笑)。
やっと完結まで漕ぎ着けまして、長らくのお付き合い感謝いたします。
・・・難産でした。
エリスと灯で百合モノを、と思いついたはいいけど、問題山積み。
葛藤、二人の絆、エッチさせるための動機付け、二人の気持ちにどうやって
折り合いをつけ、どうやって昇華させたらいいのか・・・。
前作ベル×柊の「肉体接触のない性交」より、ある意味では難しくて。
追い込んだエリスの悩みを解決してあげるために、柊とのトーク、灯との行為、その後
の二人の会話、と三段の構えが必要になる始末。エリス、君は悩みすぎだ(笑)。
読まれた方にも、エリスの悩みの解決が腑に落ちてくれていることを祈って・・・。
また、新作なぞ出来ましたらお付き合いのほどを。
ではでは。
GJ!
乙であります!
難しい題材を上手くまとめたなあ。GJ。
ふぎぎ!ふぎg!結婚s(ry
いやあ、百合物も大好きな自分には最高のご褒美でした。
エリスのヒロイン力の半端なさを改めて実感。ありがとうございました!
どういたしまして、です(笑)。
実は黒エリス主役のネタもあって、暴走シャイマール化したエリスが、あかりんだけでなく、くれはもアンゼも食っちゃう話(笑)。
しかも、裏界へ帰還した皇帝が美少女魔王達をみんな凌辱して一大ハーレムを造り上げ、
「・・・すべてを貫く・・・私の×××・・・」(笑)
という馬鹿な決めゼリフ付き。書かなくてヨカッタ・・・(笑)。
ここで豆知識!
フェウス=モールはベルよりも貧乳らしいゾ!
(月刊ナイトウィザード・スタッフインタビューより)
ちょいと投下予約していいかな?
あと推敲だけだから、一時までには投下できると思う。
注意:アゼルの陵辱とかHR風味とか、人によってはわりと怒られそうなブツです。
84 :
83:2008/06/26(木) 01:01:46 ID:SZsSOLap
行きます。
なんか、前スレラストでアゼルコールが高まってたから、途中で放り出してたSSを完成にこじつけてみました。
予約の時も言いましたが、陵辱とかHR風味とか勝手設定とか、わりと好き放題やってますので
ご注意ください。って言うかごめんなさい。
"荒廃の魔王"アゼルは戦慄した。
彼女の眼前で悠然とたたずむ、男の姿に。
その二つ名の示すアゼルの能力は、無随意・無制限のプラーナの吸収。
その能力は彼女に服を着させることすら許さず、見渡す限りの大地を荒野に帰してなお余りある。
ゆえにこそ彼女は魔殺の帯を幾重にも巻き、その能力を封殺するものの、それでもなお漏れ出る彼女
の呪わしい能力は、そうして何もかもを無に帰すことを嫌う優しき魔王たるアゼルをして彼女の"居城"たる
荒野から動くことを許さない。
時折、ベール・ゼファーをはじめとするアゼルの能力を以ってしても痛痒を感じないだけのプラーナ量を
持つ魔王たちが訪れてくるものの、そんな彼女たちとて訪れるのはなんらかの思惑があってのことで、
意味もなくプラーナを吸収されることを良しとするわけもなく。
ゆえに荒野の魔王は、その荒野に1人たたずむ、すなわち孤独なる魔王であった。
だからこそ、アゼルは目の前の"男"に戦慄する。
彼女の能力を以ってしても涼やかな笑みを崩す事のない、目の前の男に。
能力が効いていないわけではない。
現に今も、男のプラーナがアゼルの身体へと流れ込んできているのを確かに感じる。
その量たるや、並のエミュレイターであるなら当の昔に10回は存在そのものが枯渇するほどである。
だが、それでも男は悠然と佇む。
理由は単純だ。
尽きないのだ。男のプラーナが、いくら吸収しても。
汲めども汲めども尽きぬ井戸のごとく、吸収しても吸収しても男のプラーナは減る気配がない。
まるで背後に、プラーナの巨大な貯水庫を背負っているかのように。
(まさか――?)
「お察しの通りですよ」
アゼルの心中の疑念を見抜いたかのようなタイミングで、男が頷く。
「ご存知ですか? 今、お隣のラース=フェリアが少々騒がしい事になっておりましてね。
そのどさくさに紛れて、少々プラーナを拝借しているのですよ」
男は笑う。可笑しそうにくっくっくと笑う。
「なに、拝借と言っても、混乱の中で失われていくものの、ほんの飛沫にすぎません。世界一つの
中でみれば、ささやかなものです」
アゼルは胸中で頷く。やはり、不可解なまでのプラーナ量は、外部からの供給によるものであった。
だが同時に、新たな疑問が首をもたげる。この男、今"ラース=フェリア"と言ったか。
その、ファー・ジ・アースと近くて遠い別世界が、今滅亡の淵に瀕しているのは知っている。
だが、そこに赴き、そこからプラーナを掠め取ってくる、そんなことを可能とするこの手腕は。
――男の見た目は、ごくごく平凡な青年のものだ。いや、『ごくごく平凡』と言うには、
その金髪碧眼と皺一つない純白のスーツの優雅な姿は、この不毛の荒野に似つかわしくない事おびただしいが。
(――金髪?)
ふと。
その男の構成する要素の一つが、アゼルの記憶を刺激する。まさか、この男は……!
「申し遅れました。私の名は、ルイズと申します。以後お見知りおきを」
男は優雅に微笑み、胸に手を当てて恭しく頭を下げる。
「貴方様もよくご存知の、"黄金の君"にお仕えする落とし子にございます」
「…………!」
予感は的中した。この男――ルイズの背後にいるのは、"黄金の魔王"!
だがなぜ? なぜ"黄金の魔王"の使徒が、今自分の前に現れる?
"黄金の魔王"は、先の事件の折にベルと、ベルと手を組んだ人間の逆襲に会い、その力を大きく削がれた
はずであり、その失った力をまた取り戻すために雌伏しているはずだ。
そのタイミングで、なぜ"黄金の魔王"の使徒が自分の元に……?
「そう身構えなくとも構いませんよ、アゼル様。何も私はあなたに害をなそうとしているのではありません。
むしろその逆です」
「逆?」
「ええ、このプラーナは……あなたに捧げるために用意したのですから」
そう言って、ルイズは無造作に一歩、足を踏み出す。
アゼルは反応しない。いや、反応する事を思いつかなかった。
アゼルの思考の中には、"間合い"という概念が存在しない。それもそうだろう。誰もが近寄らない
孤独の魔王であり、不用意に近寄る者は、彼女の意思にまるで関係なく消滅する。
その末に、自分から他人に歩み寄る事すら避けるようになったアゼルに、"身を引く"という概念など
想像しようもない。
だからこそ。
無造作に歩み寄ってくるルイズが目の前に現れるまで彼女は何もしなかったし。
不意に伸ばされた手が実際に彼女の肩を掴んだ瞬間の動揺は、彼女自身にも予想外のものだった。
「あっ……!」
肩から伝わる鮮烈な感触に、アゼルは混乱する。
かつて宝玉を巡る事件の際の偶然で人間に身をやつしていた間の記憶で、その感触は知っていた。
知っていた――はずだった。
だが、実際に触れられた感触は、そんな夢現な記憶など消し飛ぶほどに鮮烈で――甘美だった。
直接触れられたことでさらに奔流となって流れ込むプラーナを差し引いても、なお甘美だった。
混乱し、同時にその甘美さに酔いしれるアゼルは。
だから、そのまま肩を抱き寄せられて容易に唇を奪われた。
「………!!」
声にならぬ声を上げるアゼル。
彼女にとって、口とは声を発するだけの器官だった。プラーナの吸収は触れずとも自動的に行なわれるし、
他の魔王がするように擬似的に食事を楽しもうにも、全ての食材は彼女が口に運ぶ前に消滅する。
そんな誰も触れた事のない口を、ルイズはこじ開け舌を伸ばし、さらに侵食する。
さすがに反射的に身を引こうとしたアゼルだが、いつの間にかルイズの左手は彼女の首に回されていて、
逃げることができなかった。
「〜〜っ!………っっ!!」
アゼルの口の中を、ルイズの舌が這い回る。
歯を、歯肉を、頬の内側を、舌を。執拗なまでに、ルイズの舌は余す所なくアゼルの口腔内を蹂躙していく。
未知としか言いようのない感触に、アゼルは翻弄される。
だが、決して不快ではない。いまだ彼女の知らない、触れられる悦びが、そこにあった。
だからこそ、彼女の混乱には一層拍車がかかる。
だから当然、ルイズの右手が、魔殺の帯に覆われた胸に伸びている事に気付かなかった。
「っっ!!」
塞がれたままの口から声にならぬくぐもった声を上げながら、更なる強烈な刺激にアゼルが身を震わせる。
――彼女は裏界の魔王であり、人間の女性に見えるその外見は写し身に過ぎない。当然、人間のそれを
思わせる器官が、そうであるとは限らない。
だが、それでも。魔殺の帯で厳重に封じられたそこは、彼女にとってより『核』に近い、重要な器官である
事には違いなかった。
「……ぁっ……はあ……! んンっ……!」
それを、鷲掴みされた。魔殺の帯越しとはいえ、『核』に近い場所に触れられたことで、プラーナの
吸収はさらに勢いを増す。
その勢いと、そして始めて触れられことで生じる感覚、加えてさらに『核』に近い部分を探るように
胸をまさぐっていくルイズの手の感触に、アゼルはきつく眼を閉じて耐える。
ルイズの身体を拒むように添えられた両手に、まるで力が入らない。
そんなアゼルのささやかな抵抗などものともせず、ルイズの手は彼女の乳房を周囲から持ち上げるように
こね回し、押しつぶすようにつかみ、かと思えば、触れるか触れないかの繊細なタッチで外形をなぞっていく。
そうした刺激を受けて存在を主張し始めた先端を、指でつつかれ、弾かれ、摘み上げられる。
そんな風に存分になぶられた胸からやっと手が離れたかと思えば、反対の胸に移ってまた同じように
弄ばれ……いや、そう思ったのも刹那、また不意に元の胸に戻って愛撫を重ねる。
その間も、口腔内の蹂躙は休む事もなく、異なる二つの急所を間断なく責められる刺激に、
アゼルは抗う術を持たず。
「っはぁ! ……はぁ……はぁ」
ようやく唇を開放された時には、まさに「息も絶え絶え」と言うしかない状態だった。
瞳の焦点がぼやけ、腰に力が入らず、ともすれば崩れ落ちそうになる身体も、彼女の首から腰に移った
ルイズの手に支えられて倒れふす事も許されない。
ふと、胸元にひんやりとした感覚を覚える。
のろのろとそこに目を向ければ、ルイズの手が、魔殺の帯を緩めて胸を開放していた。
その先端で桜色に尖る乳首を晒されている事の意味を理解せずに、まとまらない思考でぼんやりと
眺めていると。
「……ひゃうぅっ!!」
いきなりその先端を口に含まれ、アゼルは甲高い悲鳴を上げながら頭をのけぞらせ、白い喉を晒す。
魔殺の帯越しでない直接届く刺激に、アゼルはさらなる未知の感覚に襲われる。
身をよじってその刺激を遠ざけようとするが、腰に回されたルイズの腕がそれを許さない。
その間にも、乳首への刺激は続く。
「あっ! やっ! ダメっ、だめぇ!」
唇でやわやわと弄ばれ、舌で舐め回され、口に含まれ乳房の形が変わるほどに吸い上げられ、
歯で甘噛みされ。
その刺激で、乳首はますます硬くなっていき、アゼルの視界には真白い閃光が幾度となく弾ける。
同時に股間を覆う魔殺の帯は、内部から溢れる蜜に晒され、その秘所の形を浮かび上がらせていた。
だがアゼルは、胸への攻撃に気をとられ、その最深奥への入り口の状態に気付かない。
そんな無防備な急所に、ルイズの右手は容赦なく奇襲する。
「ひうっ!」
魔殺の帯越しに、ゆっくりと筋に沿って指をなで上げただけ。
だが、それだけの行為でもたらされた刺激は今までで最大の波で、アゼルは背をそらせ身震いする。
反射的に太腿を閉じようとするアゼルだが、既に膝の間にはルイズの膝が割って入っており、
蹂躙者の手を太腿で挟むだけに終わる。
一方で蹂躙者の攻撃は続く。顔は胸への攻撃を休むことなく、同時に右指はゆっくりと秘裂を確認
するように上下になでられる。その動きにあわせ、水音が響く。
「くっ、くふぅ……!」
上下動は次第に激しさを増していき、水音もそれに合わせて甲高く響き渡り、それを耳にしたアゼルの
羞恥を一層あおる。
そうしている間にも、視界を埋める閃光は勢いを増していき。
「……ひっ」
その指がついにアゼルの肉芽を探り当てた瞬間。
「ひあああああ!!」
真白い閃光が、アゼルの視界を覆いつくした。
……くたりと力を失うアゼルの身体を腕一本で支えながら、ルイズは一つ息をつく。
「……さすがは"荒廃の魔王"、といったところでしょうか」
一方的にアゼルを弄んでいたように見えるルイズはしかし、余裕など欠片もなかった。
生半な存在など、視界に入っただけでプラーナを奪いつくす、"荒廃の魔王"。
それを相手にここまで踏み込み、じかに触れ、あまつさえ魔殺の帯で厳重に守られた急所すら
さらけ出したのだ。
莫大なプラーナの供給を受けているとはいえ、それすらも予想をはるかに上回る勢いで
吸収されていっている。こうしている今も、気を抜けば存在を根こそぎ消し去られそうなのだ。
ましてや、これからさらに吸収の激しさを増すであろう、アゼルの最深奥へと突入せねば
ならないのだ。それを想像するだけで、さすがの"黄金の魔王"の落とし子も身震いする想いだ。
だが、やらねばならない。やり遂げねばならない。
それこそが、彼の使命なのだから――。
「……よし」
ルイズは今一度覚悟を決めると、自由な片手で上着を脱ぎ、一振りする。
すると上着は手品のように大きく広がり、シーツとなって荒野の大地の一隅を覆った。
ゆっくりと優しく、意識のないアゼルをそこに横たえる。
一度、アゼルの髪を優しく撫でてから、ルイズは彼女の下半身に回る。
そしてアゼルの足を取ると、ゆっくりと左右に広げていく。
「…………!」
目の前にさらけ出される、アゼルの秘所。いまだ魔殺の帯に覆われながら、彼女の蜜に晒されて
広範に色黒く染まり、ぴっちりとその形をトレースしている。
ひくひくとうごめく、秘唇の様子までも手に取るようにわかるほどに。
その光景は、ルイズをして息を飲ませるほどに淫靡で、同時に美しく荘厳ですらあった。
しばしその光景に見ほれていたルイズだが、意を決しそこを覆う魔殺の帯に手を伸ばし、ずらす。
にちっ……。
粘つく液体が糸を引きながら、アゼルの秘所があらわになる。
初々しさと淫靡さ、神聖と魔性とが同居する光景に、再び息を呑むルイズ。
だが、いつまでも見とれている訳には行かない。
今こうして、絶頂を覚えたアゼルが自失状態であるこの時こそが、最大のチャンスなのだ。
絶頂を覚えたと言う事は、性的な刺激を受け入れたと言うことであり、自失していると言う事は
無防備だと言う事。
つまり言うなれば『鍵』が外れている状態であり、今ならばアゼルの『核』に最も近い最深奥に直接
プラーナを注ぎ込めるのだ。
ルイズは最後の仕上げを行なうべく、自身の陰茎をさらけ出した。
茫然自失状態のアゼルは、下半身に流れる甘い痺れるような感覚に意識を取り戻す。
それが、自身の秘唇に何かが触れている感覚だ、と気付くよりも早く。
「っんあああああああああああああああああああああああ!」
ルイズの剛直が、アゼルの膣を貫いた。
「あっ……んあっ……くふ……!」
今まで誰にも、自分ですら触れた事のない深部までを不意打ちで貫かれた衝撃に、アゼルは感覚の
処理が追いつかず呻くような吐息を漏らす。
だが、それに慣れるよりも早く、ルイズは律動を開始した。
「ひっ……」
自身を貫いた剛直が、引き抜かれていく感覚。内壁をすられ、同時にそれに吸い出され自分の中身
まで引っ張られるような感覚に、アゼルの脳裏に再び白い火花が散る。
そして剛直が入り口付近まで引き戻され。
「ひああああああああああ!」
再び勢いよく、深部まで押し込まれる。先ほど以上に、視界を埋める白い火花。
引き戻す、押し込む、引き戻す、押し込む、引き戻す、押し込む、引き戻す、押し込む……。
「あっ、あっ、あっ、あっ、ああ……っ」
間断なく刺激に晒され、彼女の身体が揺るがされるたびに、その動きにあわせて豊かな胸がたわわに
震える。
(急がねば……)
一方のルイズも、余裕はなかった。先ほどから繰り返す挿入は、再びアゼルを自失状態へと
追いやるための刺激であると同時に、アゼルの最深奥を探るためでもあるのだが、さすがに『核』の
至近ともなればプラーナ吸収の勢いも今までとは段違い……いや、桁違いだ。
一刻も早く最深奥を探り出さねば、プラーナが持たない。
ルイズはアゼルの膣内を探るように、挿入に変化を付け出した。
「ひぁ?!」
繰り返される挿入の刺激にも多少は慣れ出した頃、不意に刺激が変化した。
いままで刺激の少なかった部分に不意に強い圧迫が加えられ、その予想外の刺激にアゼルは背を
弓なりにそらせ白い喉を晒す。
その次の挿入も、また別の部分を擦り上げられる。
またその次もさらに別の部分が、さらにその次もまた別の部分が……。
「ふああ! ひあ! あっ! くふっ! かはぁ! ひゃん! あああん!」
単純な抽送の時にはなかった、一回ごとに異なる新鮮な刺激に、アゼルは硬く目をつぶり首を振って
耐える。
その唇から漏れる声は、今までになく甘く甲高い。
そうやってアゼルを翻弄しながら、しかしルイズは焦っていた。
『核』が、アゼルの最深奥が見つからないのだ。
それなりに、目的の場所に近いような感覚は感じられるのだが、ここだと確信できる手ごたえが
感じられない。
(ならば……)
ルイズは、抽送を止める。
「………?」
それまでずっと続けられた刺激が不意に止まったことに、アゼルは涙に潤む瞳でルイズを見やる。
ルイズはちらりとアゼルを見やって意味ありげに微笑むと、アゼルの片足をつかみ。
「? ……ひああああああああああ!」
挿入したままで、一気にアゼルの身体を半回転させ、うつぶせにさせる。
膣をねじ切られるかのような感覚にアゼルは悲鳴にも似た声を上げ、全身を震わせた。
アゼルの胸がシーツ越しに地に押し付けられ、押しつぶされ形をゆがめる。
そんなアゼルの様子に頓着せず、ルイズは彼女の腰を掴んで下半身を差し上げさせ、位置を調節した。
そして、抽送を再開する。
「あっ、あふ、ああ、ひぃん!」
今までよりも深く繋がる感触にアゼルはまた翻弄され、すがりつくかのようにシーツをきつく握り締める。
「ひ、ひう、ひぁぁん、ひゃぁぁ……ふわ、くふぅん、んぁ……あああん!?」
「!」
幾度か角度を変えながら抽送していると、明らかに反応の激しい部分を探り当てる。
再び同じ部分に突き入れると……。
「ひううううううん!」
ルイズはほくそえんだ。
反応が他と違う。彼自身、確かな手ごたえを感じていた。
間違いない。ここが、こここそが"荒廃の魔王"の『核』――!
ルイズはその部分を集中的に責め始める。
「あん! はあ! はひぃ! ふわぁ! はああん!」
明らかに今までよりも1オクターブ高い声を上げるアゼル。その脳裏は、間断なく白い閃光に
埋め尽くされている。
激しくアゼルを責め上げながら、ルイズは最後の仕上げを準備する。
陰茎にプラーナを、集中し、凝縮し、精製し、圧縮する。
プラーナの漲る剛直はさらに硬度と大きさを増し、一層にアゼルを攻め立てる。
「はふ、はふぅ、はふっ、はあ、あああ……」
(そろそろか……)
アゼルの様子を見て取ったルイズはギリギリまで陰茎を引き出し。
「ああああああああああああああああああああ!!」
それまでの最高の激しさで一気に最深奥まで突き入れると同時に、プラーナの結晶をアゼルの『核』
へと打ち込んだ。
その渾身の挿入と高純度プラーナの『核』への直撃、二つの衝撃をまともに食らったアゼルは
脳裏を埋め尽くす閃光に意識を奪われながら。
ずぐんと、自分の胎内で脈動する『何か』を感じた。
――さてここで一つ、考察をしてみよう。
今更ではあるが、『アゼル・イブリス』とは、一体何者なのか。
"荒廃の魔王"の二つ名を持つ、裏界の魔王。
他者を傷つける事を嫌う、魔王にあって珍しい優しい性格ながら、近寄るものから不随意に
プラーナを吸収しつくしてしまう恐るべき力をもち、近寄るものとていない孤独な存在。
だが、それ以上のことは誰も知らない。
ロンギヌスの調査により、アゼルのクラス分類は『人造人間』にカテゴライズされている。
魔王や、魔王に影響しうる存在を指して『人造』や『人間』という言葉が正しいかはさておき、
他者に何らかの干渉を受けて生み出された存在である事は間違いないだろう。
他者に干渉されて生み出された存在が持つ、他に類を見ない能力。
普通に考えれば、その能力には生み出した存在の何らかの意図が含まれていると考えるべきだろう。
そう仮定するなら、新たな疑問がまた持ち上がってくる。
その能力は一体なんのために、何の目的で、どのような存在に付与されたのか。
そもそもその吸収されたプラーナの行き先は、どこであるのか、どこへと消えたのか――。
ずぐん、ずぐん、ずぐん、ずぐん、ずぐん、ずぐん、ずぐん、ずぐん、ずぐん……。
脈動は収まらない。いや、時を追うごとにさらに激しさを増す。
その脈動にあわせるようにアゼルの腹部から淡い光が明滅し、それもまた脈動が激しさを増すのに
合わせて輝度を増していく。
「あ、あう……」
腹部を押さえ、その脈動に耐えるアゼル。
ずぐんずぐんずぐんずぐんずぐんずぐんずぐんずぐんずぐんずぐん。
「あ、ああああ、あああああ……」
だが、激しさを増すばかりの脈動に、アゼルは身悶えしか出来ない。
「もうすぐ……もうすぐだ……!」
そんなアゼルの様子を見ながら、ルイズは熱に浮かされるように笑う。
ずぐずぐずぐずぐずぐずぐずぐずぐ!
天井知らずに激しくなっていく脈動と光の明滅。いままでアゼルの胎内でぼやけて漏れ出ていた光は、
輝度を増していまやはっきりと、その黄金の輝きが見て取れる。
「あああああああああっ」
アゼルは、もはやその脈動の圧力を押さえきれないという風に大きく上体を反らす。
漏れ出る光は、いまや空を金色に染め上げるほどに強く輝く。そして……。
………… ず ぐ ん 。
「あああああああああああああああああああ!!」
一際大きい脈動と共に、閃光となった黄金の光が荒野を埋め尽くした。
「…………」
手をかざしてその閃光に耐えていたルイズは、その光が落ち着いてきたのを確認してそっと手を下ろす。
彼の目の前、アゼルの頭上に、黄金色に輝く球体が浮かんでいる。
身を反らした姿勢のアゼルは、やがて力を失い、くたりとシーツに倒れ伏す。
だがルイズは、すでにアゼルは見ていなかった。
「は、はは、ははははははは……」
熱に浮かされた眼で黄金色の球体を凝視していたルイズの口から、低い笑い声が漏れる。
そんなルイズの前で光の球はゆっくりと降下していき、やがて光は収斂し一人の少女の姿をとった。
年頃は、人間で言えば10に満たないほどであろうか?
何一つ身につけていない、生まれたままの姿の美しい少女であった。
その染み一つない滑らかな肌は白磁のごとく白く輝き、成長期前のなだらかな身体を幻想的に
彩っている。
今は瞑目したままであるが、その目鼻立ちのバランスは、完全な黄金律によって配置されたとしか
思えない完璧なものである。
そして何よりも目を惹くのは、太陽のごとく輝く、豪奢な金髪――。
「お帰りをお待ちしておりました、我が君よ」
感極まった表情で、ルイズがその少女の前に膝を突き、頭を垂れる。
「うむ」
短く答えながら、金髪の少女がその瞳を開く。
柔らかな瞼の下より姿を現したのは、外見に見合わぬ強い意志と誇りを秘めた、銀色の瞳。
まごう事なき"黄金の魔王"、ルー・サイファーの復活であった。
"黄金の魔王"ルー・サイファーは、転生者である。
例え死そうとも滅びを迎えようとも、再び転生し以前の記憶を蘇らせられる異能の持ち主である。
だがそれでも、何の代償もなく復活できるほど、転生と言うものは使い勝手はよくはない。
通常であるならば長い年月を経る必要があるし、それを避けるならそれ相応の代償が必要となる。
そしてルー・サイファーは、後者を選んだ。
もとより裏界最高位に立つものとしてそうそう滅びなど迎える事はなかろうが、それでもその立場上
敵には事欠かぬし、万が一つにも油断は許されなかった。
そして彼女は、迅速な転生のための"受け皿"を用意する事にしたのだ。
彼女の強大な力を再構成するために、際限なくプラーナを収集する能力を持ち。
その力やプラーナを狙われぬよう、その能力を暴力的なまでに強力に、無作為にし。
そして"受け皿"自身が無用な危険に身を晒さぬように、争いを避ける性格設定にし。
つまり。
アゼル・イブリスとは、ルー・サイファーが転生するためにあらかじめ用意した、高純度のプラーナを
注ぎ込む事で新たなるルーサイファーを産み落とす、母体であったのである――!
「――ふむ、さすがに成人体と言うわけにはいかぬか」
少女――ルーは、幼い自身の体つきを見下ろしながら一人ごちる。
それを聞き、ルイズはますます頭を垂れる。
「申し訳ありませぬ、私の用意したプラーナが十分でなかったばかりに……」
「よい。それでも我が自我は覚醒する事が出来た。あとは我自身でプラーナを採取すれば
すぐに力も取り戻せよう」
「はっ」
「……くっくっく」
「……我が君?」
ますます頭を垂れるルイズを前に、ルーは低い笑いを漏らす。
「ああ、そうだ。すぐよ、すぐにも我が力を取り戻して見せようぞ、くくくく……」
ルーの笑い声が、徐々に大きくなる。
「あ〜っはっはっはっはっは!! そうして力を取り戻した暁には、不敬にも我に歯向かいし不快なる
人間どもを八つ裂きにし、愚かしくも人間どもなどと手を組んだベルにも、自らの分と言うものを――
誰が裏界の真の支配者か、念入りに教え込んでやろうぞ、くははははははははは!!」
ルーの傲慢な笑い声が、荒野に響き渡る。
その声を聞きながらルイズは満足そうに微笑み。
「お行儀」
すっくと身を起こしたアゼルは、そんなルーの頭をぽかちんと叩いた。
「…………?!」
初めルーは、何が起こったかわからなかった。
「な、な、な、なぁ……っ?」
そして自分が、アゼルに叩かれたと判ると、さらに混乱する叩かれたと言っても、ルーにダメージは
皆無だ。今のは、ルーを害するために振るわれた攻撃ではない。むしろ、愛情すらこもっていたと
言ってもいい。
だがそれでも、裏界最高位の存在たる自分の頭を叩くなど、そんなその思いもよらない不敬ぶりに、
怒る事すら忘れるほどに動揺した。
そんなルーを前にして、アゼルは毅然と言い放つ。
「女の子が、そんなはしたない格好で、そんな物騒なこと言っちゃいけません」
「な、な、な、何を言って……?」
やっと反論の言葉を紡ぐものの、アゼルは一向にひるむ様子はない。
真正面からルーの眼を見つめて、強い口調でさらに言葉を重ねる。
「ちゃんといい子にしなきゃダメでしょ」
「………………!」
いい子? いい子と言ったか今? この"黄金の魔王"ルー・サイファーをして、いい子にしろと?!
あまりの言い草に、さすが"黄金の魔王"も言葉がなく、口をぱくぱくとむなしく開閉させる。
……余談だがルイズは、目の前で行なわれる彼の理解を超えた寸劇に反応する事も出来ず、
眼を驚きに見開いたままで呆然と見つめている。
だが、いつまでも呆然としているルーではない。ようやく頭脳が事態に追いついてきて、正しい感情を
選択する。
すなわち、怒り。
「わ、わ、我こそは裏界の支配者、"黄金の魔王"ルー・サイファーなるぞ?!
その高貴なる頭に手を上げるとは、何たる不敬か!」
「……………………」
びっしとアゼルに指を突きつけ、糾弾するルー。
アゼルは無言だった。
さすがに、"黄金の魔王"の怒りに触れ、自分の罪深さを知り畏敬と後悔に囚われた……
わけではなかった。
「な、なんだその眼は……!」
「……………………」
アゼルはあくまで無言だった。
ただ……唇をきっとかみ締め、眼は悲しげに伏目がちに、じっとルーの瞳を見つめている。
「……………………」
「……………………う」
見つめている。
「……………………」
「……………………ううっ」
あくまで見つめている。
「……………………」
「……………………うううっ……!」
じーっと見つめている。
「……………………」
「……………………ごめんなさい」
(ルー様が謝ったー!)
ついに折れたルーに、ルイズが心の中で驚愕する。
「うん」
一方で、"黄金の魔王"との対峙を指一本触れることなく制したアゼルは、それを誇るまでもなく、
ただ優しく、花が綻ぶような笑顔を浮かべた。
アゼルは敷かれたシーツを手に取ると、それをふわさっと広げ、ルーを包み込む。
そして優しく、ルーのその華奢な身体を抱きしめた。
「いい子ね……ぶったりしてごめんね」
「……………………」
豊かな胸に抱かれる感触と、優しく金色の髪をなでられる感触。
そこに言いようのない安堵と幸福感を感じる……感じてしまう自分に驚愕しながら、ルーは。
(我は一生こいつに逆らえぬやもしれぬ……)
心の中でそっと、そんなことを呟くのだった……。
……そして。
"荒廃の魔王"の"居城"たる、荒涼たる荒野。 その真ん中に……
卓袱台を囲む、団欒があった。
畳を6枚敷いたスペースの上、その中央に置かれた円形の卓袱台。
それを取り囲むのは、妙齢の男女に、一人の子供。
まごう事なき、団欒の風景であった。
ちょっと壁とかなくて周囲の荒野が丸見えなのがアレではあるが、どうみても団欒であった。
その中の子供が、先んじて食事を終えて、箸を卓袱台に置く。
「ごちそうさまー! 遊びにいってきまーす!」
「冥魔に気をつけるのよー」
「はーい!」
フリルで豪華に飾り立てられたドレスを翻して元気に走り去る少女を優しい目で手を振って
見送る女性は、誰あろうアゼルである。
ちなみに服装は輝明学園の制服+エプロン。ベルからもらったお下がりである。
そして当然、元気に出かけていった金髪の少女は、ルイズの主君……の、はずであった、ルーである。
(私は何をやっているのだろうか……)
右手に箸、左手に茶碗を持ったまま、遠い目をしてしまうルイズ。
無事に使命は果たした。
彼の主君の復活に成功した。
これで彼の主君はまた、また元のように裏界で権勢を取り戻してくれる、と思っていたのだが……
それがこの、卓袱台風景である。
ルイズはちらりと、アゼルを見やる。すると片付けをしていたアゼルと目があった。
アゼルは小さく小首をかしげ、声をかけてくる。
「もういいの?」
「え? あ、ああ。ご馳走様」
「お粗末さまでした」
アゼルはにっこりと笑うと、ルイズが置いた食器も片付け始める。
その様子は、とても楽しそうであった。
家族のためにしてあげることの一つ一つが幸せでたまらないと言う、どこから見ても優しい
お母さんな姿であった。
そんでもって彼は、そんなアゼルの旦那様(役)であった。
(本当に私は、何をやっているのだろうか……?)
「どうしたの?」
再び遠い目をし出したルイズの顔を、アゼルが覗き込んだ。
「あ、ああ、いえ、何でもありませんよ」
ぎこちなく笑うルイズに、アゼルはそう、と答え、片付けを再開する。
そして一通り片付け終わったアゼルは、エプロンの裾で簡単に手を拭くと、また卓袱台に腰を下ろす。
……今度は、ルイズのすぐ隣に。
「あのね、私はあなたに感謝してるの」
ルイズの肩に頭を預けながら、アゼルは不意にそんなことを言い出す。
「私の力のせいで、誰にも近寄れなくて、誰にも近寄ってもらえなくて……」
ルイズは、顔をアゼルのほうに向ける。……制服の貸主とアゼルの体格の違いの調整のために、
アゼルの制服は胸元が緩めてあるので、彼からだとわりと危険な誘惑に溢れる光景が見えるのだが
それはさておき。
「でも、あなたにたくさん触ってもらえて……こうして、触ることもできるようになって……」
言いながらアゼルは、ルイズの手に自分の手を重ねる。
……『ルー・サイファーの転生体の受け皿』としての機能を果たしたアゼルは、その吸収能力が
ずっと穏やかなものになっていた。
いまでは、魔殺の帯さえ巻けば、ほとんど外部に影響はないくらいまでに。
だからこのように、荒野に畳や卓袱台を持ち込め、彼女も服を着飾ることができるようになり、
こうして誰かと触れ合う事が出来る。
「一人は、本当に寂しかったから……だから、私は今、とても幸せなの」
その幸せをしみじみとかみ締める、そんな優しい口調であった。
「……それはよかったですねぇ」
ルイズはそう答える。彼としては9割の主命と1割の情欲からの行為であったのだが、
それをわざわざ今この場で正直に口にするほど、彼は命知らずではない。
だが、そんなアゼルに彼の主君は逆らえず、さらにその部下である彼は当然主君に従わざるを得ず。
こうして、親子三人で卓袱台を囲んで団欒をし、夜(?)には卓袱台を片付けて親子三人で
川の字になって寝る、仲睦ましい家族絵図を当分続けなくてはならないわけで。
……ファー・ジ・アースは当分、復活した"金色の魔王"に脅かされる心配はなさそうである。
「それでね、一人はやっぱり寂しいから……」
アゼルは微笑む。艶然と微笑む。
「あの子にも、たくさん弟と妹をつくって上げられたらな、って思うの……」
「は、はは、はははは……」
(し、絞りつくされる……?!)
……が、"当分"が過ぎたら、ファー・ジ・アースはわりと大ピンチ、なのかもしれない。
<おわり>
以上です。
,. -‐'''''""¨¨¨ヽ
(.___,,,... -ァァフ| あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
|i i| }! }} //|
|l、{ j} /,,ィ//| 『おれはアゼル陵辱SSを書いていたと思ったら
i|:!ヾ、_ノ/ u {:}//ヘ いつのまにか荒野のど真ん中で親子三人卓袱台を囲んでいた』
|リ u' } ,ノ _,!V,ハ |
/´fト、_{ル{,ィ'eラ , タ人 な… 何を言ってるのか わからねーと思うが
/' ヾ|宀| {´,)⌒`/ |<ヽトiゝ おれもどうしてこうなったかわからなかった…
,゙ / )ヽ iLレ u' | | ヾlトハ〉
|/_/ ハ !ニ⊇ '/:} V:::::ヽ プロットがどうにかなりそうだった…
// 二二二7'T'' /u' __ /:::::::/`ヽ
/'´r -―一ァ‐゙T´ '"´ /::::/-‐ \ キャラの一人歩きだとかネタ士の我慢の限界だとか
/ // 广¨´ /' /:::::/´ ̄`ヽ ⌒ヽ そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ
ノ ' / ノ:::::`ー-、___/:::::// ヽ }
_/`丶 /:::::::::::::::::::::::::: ̄`ー-{:::... イ もっと崇高な"母の強さと偉大さ"の片鱗を味わったぜ…
まぁアレです。言い訳になりますが細かい設定とか気にせず、ノリで読んでください。
関係ないですけど、作成中のファイル名「アゼル母さん」は、「アゼルバイジャン」と少し似ていますね。
ルイズ殺す!!
ハ、 ∧ ハ /\ /\ /\
,{! ヾ } / !i ヽ ___/\/ \/ \/ \/ |_
. |ソハ !} jレi \
} !/¨ 〃 '{ / ルイズを ぶ ち 殺 し ま す
ト{´{ .ハ} r'"´} !{ \
FY'弍{ }' 斥ァ`}ハ / が構いませんねッ!?
ヾ{:i /ノ〉` !rソ  ̄|/\/\ /\ /\
. ヽ /'f=ヘ ハト、 \/ \/ \/
,ノ´f\='/ノ!ヽ\._
/ノ !|`ヽ三イ ヽノノ `'ー-、._
/ r'/ | /::|,二ニ‐'´イ -‐''" /´{
{ V ヽ.V/,. -‐''"´ i / |
ヽ { r‐、___ i / ∩
} .ゝ二=、ヒ_ソ‐-、 i__,. '| r‐、 U
. | 〉 ,. -',二、ヽ. `ニ二i___ |:| l| |
|'}:} ,/|毒|\丶 i ,::'| 'ー' {
|ノノ |,ノ:::::|ト、 \ヽ ! i }`i´ r|
|_>'ィ毒::::ノ 丶 ハ し-' | ! | |
┌≦:::::::::::::/ lハ | ) U
/ィf冬::::::イ |::.. j: }lハ. |∩ '゙}
おまえwww
GJです。ちくしょうやられたw
急転直下で和みモードに突入したw
面白い設定だと思う
これは予想外wwwwwwwwwwwGJwwwwwwwwwwww
だがひとつだけ主張する。
>>99!!俺にも殴らせろ!!!
アゼル様がお母さんで、ルー様が娘とな!?
なにその俺の理想!GJ!!
だが、ルイズ。てめーはダメだ!
俺も
>>99に混ざらせて貰うぜ!
アゼル様がお母さんで、ルー様が娘とな!?
なにその俺の理想!GJ!!
だが、ルイズ。てめーはダメだ!
>>99!俺も混ぜろよ!
後半の一転した団欒に思わず和んだ
だがルイズ、てめーだけはダメだ
俺も
>>99についていくぜ!
……俺がルイズだ!
なんという一家団欒、GJです。
だがルイズ、てめえだけは許さねえ!
>>99、これを持っていけ!
つ天使核爆弾
オチで目が点になったw
何この和み光景w
「いってきまーす」してるルー様(10歳)をみてたら
「裏界には写し身を倒され弱体化し、幼女化した魔王達が
安全にプラーナを回復できる施設、魔王保育所が存在する」
という電波が来た。
あとついでに、
「ルイズ! その身体、アモーレ!!」と言っておく。
まあ、色々と言いたいことはあるにしても
節制の宝玉関連でひたすらキャラを幼児化させまくった俺が言うことではないな。
ロリベルとかロリアンゼとか。
,. -‐─────--- --、
,. '´::::::r-'´ ̄ ̄ ̄` ー- 、:::::::::::::\
. /::::::::::::::::`7 /`_ー--、  ̄ `ー‐'\
/:::::::::::::::::::::::/ `ヽ.::::\ , iヽ r=ミ、
. /::::::::::::::::::::::::.′ _,. -‐ミ、 }ノノ} ノ/'⌒ヽ. >ルイズ
/::::::::r─-、::::.′ <⌒`ー一' }一'‐'、イo`ヽ }
. !::::::::::i__>‐、 _,.--、 ` ̄ ̄`ヽ. \ー' (
. !::::/´/ ./ ̄ .',ヾ `ヽ` .冫 ヽ
. レ´ ',.:.ヾ. \. '/ .',
. / ∨ `ヽ. ヽ. -‐、 i
/ ノ} ヽ.:.:.:.:.:} }-‐‐ァノ i
,.-‐ヘ ',.:.:.:.:j i⌒/´___ .!
f´ .i、...:\ i.:.:./ ノ ̄ ̄_)/
| / ̄ ̄ ノ.:/ / '´/ /
ト、___,.-‐'´`ヽ / / .′
ヽ、 ノ、 /
,.-'´.:.:.:\_____.ノ
/ _,. -‐'´
>108
何故か、大冒険大陸とかゆー単語が脳裏をよぎったんですよデスフォート様
よし、ルイズ。
>>99とその取り巻きが繰り出す攻撃を無抵抗で受けろ。
何度でも、だ。
>>109 なにぃ、その素敵なユートピアはどこだ〜!?
保管庫見ても分からんorz
>>111 誰のせいだと思ってるんだ!(邪神ビーム!!)
>113
ああ、すまん。実際のセッションで、だ。
つまり、“神殺しの保父”柊が大活躍するわけですね。
なんだってー
ところで……
ルーはどこに遊びに行ったんだ。
そりゃベルさまのところですよ。
普段は犬猿の仲なのに、ロリルー相手だとなぜか強く出れないベルさまモエス
いやいや。自分を刺し貫いた柊のとこへ、敵情視察に行ってるかもしれん。
ところで話変わって希望コンの話だが、雷火の大人化のネタで霞みがちだが、
りゅういっちゃんがるんちゃんの群れに弄ばれるのは、神凪4コマを考えても性的な意味でしかあり得ないんだぜ!
>>122 どう見ても後ろの純潔をるんスタッフで失ってると思う俺はアッー!
前からは絞りつくされ、後ろには異物を入れられ、
全身を舐め舐めされて、それでも正気を保っていられた
彼の精神力は特筆に値すると思われる。
どう見ても妄想が間違っています。
本当にありがとうございました。
ルイズの人気に嫉妬
しつつ、読んでくださった皆さん、暖かいご声援くださった皆さんに感謝。
>>123 いつかのスレで見た井上純弌ハードを思い出した。
NWアンソロ読了。
「エリス、赤羽神社で世話になってる!?マンションでリッチに暮らしてると思ったのに!?くそ、SSで散々書いてしまった!?
うぬう、しかしアニメ公式シリーズ構成作家の書くことには逆らえん!?しょ、しょーがないな、もう!!」
(本音:「エリスの巫女服!?いいな、それ!?よし、私も以後それに準拠!」)
つまりエリスとくれはでの3Pというわけですね。わかります
>128
待て待て。
そっち方面に知識と実践の足りないあかりんにくれはとエリスが手取り足取りでレクチャーをというパターンもあ(射殺斬首コンクリ封印の上海底投棄)
燃料といえば空砦柊の魔器が魔剣さんからポッと出のウィッチブレードになって寂しい俺参上
……ずっと一緒にいるもんだと思ってたんだけどなー
ウィッチブレードには魔器の知恵詰まれてるからしゃべろうと思えばしゃべれるし
くそぅ、あのウィッチブレードは魔剣さんの忘れ形見とかそんな設定出てこないかな
もしくは魔剣さんの新しい姿とかそんな設定でも可
あと新しい装備にロンギヌスのらしきエンブレムが。みかき補正と考えるべきか、アンゼの仏心と考えるべきか、それとも束縛と考えるべきか
>新しい装備にロンギヌスのらしきエンブレム
噂のロンギヌス装備か?
高い修正値を持つがアンゼに絶対服従する呪いが掛けられてると言う……
データ的にはスターイーグル。
多分、支給品なんじゃね? 危険な任務だし
つまり、アンゼロットによる所有物宣言ですか
「柊さんは私のモノ」という
134 :
名無しさん@ピンキー:2008/06/29(日) 04:56:45 ID:K0JJBVoH
NWのアンソロ、P96のエリスの台詞を二行目から読んでくれ。
一見なんでもないセリフの筈が、すごい事になる。
>>134 お前は天才だな、いい意味でも悪い意味でもw
腐れ縁 ---- という言葉があります。
もしも、わたくしたち二人の関係を一言で言い表す言葉があるとしたら、一番近いの
がそれなのではないでしょうか。
なにかの折にふと顔が浮かぶ。人手が欲しいときについその名前を思い出してしま
う。暇を持て余したとき、ついついかまってしまいたくなる。そして、そのことがなぜか
楽しくて仕方がない。
楽しい、という感情を抱いてしまう間柄が、腐れ縁と呼べるものかどうかはともかく、
それ以外の言葉で表現しようとすると、なんとなくしっくりこなくて。少なくとも、相手の
方は、そんな言い方で二人の関係を表現しようとはしないでしょうね。
いや、ひょっとしたらもっとひどい物言いを、自分の見えないところではしているかも
しれません。
でも、お生憎様。情報網の広さと地獄耳には、ちょっと自信があるんです。
わたくしの悪口をどんな小声でいったとしても、絶対に聞きつけてお仕置きを・・・い
えいえ、コホン。
わたくしの悪口を言うような方のところには、きっと神様がばちをお与えになるに違
いありません・・・・・・たとえば、頭の上に空から金だらいが降ってくるとか・・・。
まあ、わたくしにとってはそれなりに優秀な人材と言えますし、そこそこの実績も経験
もある方なのは存じ上げていますから、有事の際には優先的にスケジュールを空けて
いただくことが多くなるのも事実です。
わたくしがそのことでいつも胸を痛めていることなど露知らず、わたくしの出動要請
にいつでも駄々をこねるというのは、どうなんでしょうね?
ああ、わたくしがこんなにも全幅の信頼を置いているというのに !
わたくしがこんなにも世界の危機を憂いているというのに !
今日も今日とてわたくしは、毎度毎度の度重なるコンタクトに心苦しい思いを抱きな
がら、彼の元へと訪れるのです。でも、それはこの世界を守護する者としての重責。
仏の心を鬼にしてでも、行動しなければならないのです !
さあて、あの方はいま、どこでなにをしているんでしょう?
「巨大捕獲用クレーン、ワイヤーつき超☆強力吸盤に、ヘリコプター。拡声器の用意も
出来ていますね?結構。あとはエミュレイターによる世界の危機さえ迫っていれば、
言うことなしなのですが」
「・・・恐れながら、目的を履き違えていらっしゃるのでは・・・」
わたくしに余計なツッコミを入れる無粋な台詞が背後から聞こえます。
「お黙りなさい。コイズミ」
「はっ。出すぎたことを申しました」
わたくしの忠実なる臣下の一人に、きちんと分をわきまえさせておいて、あることに
気がつきます。別に、世界の危機などなくとも彼と会うことにはなにも問題などありは
しないのではないか、と。わたくしとしたことが、彼と会うときはどうしてもそういう状況
であることが多いので、「普通の顔をして普通に会いに行く」ということが、いまひとつ
ピンと来なかったのでしょう。
そうですわね。
別段大した用事がなくても、ふらりとなんとなく出かけていって、顔を見に行くことだっ
て、わたくしたちの間柄なら「それもあり」なのではないでしょうか。
「コイズミ。外出の準備を」
「は。その・・・・・・やはりヘリで?」
いまさらなにを聞くのでしょう !
「当然です。わざわざ用意したのですから使わない手はありません」
意気揚々と、わたくしは外出の準備をします。彼の元へとおもむく前の、どことなく浮
かれた気分はいつものことですが、それも世界の守護者という立場のものとしては、
やはり自嘲するべきでしょうか?いえいえ、世界の守護者としての息をつく暇もない
激務の合間を縫っての、ひそかな娯楽ですもの。少々、浮かれ気分になってしまった
としても、どうか責めないでくださいましね?
世界を守護するもの ---- そう、それがわたくし、アンゼロット。
毎度のように行楽気分で訪れたファー・ジ・アースの地で、あのような大惨事・・・・・・
いえ、大珍事に巻き込まれてしまうとは、さすがのわたくしも、このときは気づかなかっ
たのですわ -------- 。
※※※
「---- 柊レーダーに反応あり。対象の現在地は秋葉原・赤羽神社」
仮面の男が至極真面目な態度で報告するのを、満足げに頷いて聞きながら、銀髪
の少女が湯気の立つティーカップを口元に運んだ。立ち昇る香気を楽しみながら、一
口紅茶をすする。小さな唇が一瞬、感嘆のために開かれると、
「このお茶は誰が用意しましたか?」
弾んだ声でそう言った。
「恥ずかしながら、不詳この私が」
仮面の男とは別にもう一人、ヘリの操縦桿を握っているのは年若い少女で、銀髪の
少女 ---- アンゼロットの問いに、妙にしゃちほこばった口調で返答する。
身につけたものはまだ真新しいロンギヌスの女性隊員用制服。肩肘張った感じが抜
けきれていないのは、少女がごく最近ロンギヌスに入隊したばかりであることを物語っ
ている。
「このお茶の味と貴女の顔、覚えておきましょう」
と、アンゼロットが微笑みながら言うのに、
「こ、光栄です ! 」
感極まって上ずった声で言いながら ---- 操縦桿を握ってさえいなかったら、おそら
く直立不動の姿勢を取って最敬礼をしていたであろう ---- 、新米ロンギヌスの少女
が頬を高潮させる。
ロンギヌス隊員は、このように世界の守護者アンゼロットに対し、最高の敬意と絶対
の忠誠を払う精鋭たちで構成されたエリート部隊なのである。数多の隊員たちの中か
ら、こうして彼女の外出の供に選ばれることさえ光栄なのに、紅茶を淹れる手前を褒
められた上に顔まで覚えられる、ということがどれほどの栄誉であることか。
敬愛する女主人への生涯の忠節を、少女は改めて誓ったに違いない。
もっとも、長く接すれば接するほど、アンゼロットの「親しみやすさ」 ---- 言い換える
ならば「俗っぽさ」 ---- に触れることになるであろう彼女が、アンゼロットへの忠節を
保ち続けていられるのかどうかは、また別の話ではあるのだが。
「赤羽神社上空、到着まで六十秒です」
あくまでも冷静な報告の声が、レーダーを注視していたもう一方のロンギヌス隊員か
ら、アンゼロットに向けられた。
「監視カメラからの動画像を」
きらきらと瞳を光らせて、アンゼロットが指示を出す。その目にはいかにも楽しげな、
遊び相手に出会えた子供のような無邪気な輝きが宿っていた。
「は。かしこまりました」
背後で承ったのは、ロンギヌス・コイズミ。アンゼロットの側近中の側近である。
手元のリモコンを操作すると、
「ANZELOT TV」 ------ 。
ヘリ内部のなにもない虚空に、テレビ画面大の映像が映し出される。
左右に灯篭を配した石段、数え切れないほどぶら下がった絵馬、真っ赤な鳥居と、
次々に映し出される赤羽神社の映像。カメラが次第に境内へと迫っていくようなライヴ
感満載の画像である。石段を登りきったところで、境内の全景が見渡せるアングルに
切り替わる。
「いましたわっ」
アンゼロットが小さな歓声を上げた。
境内のど真ん中。カメラに向けて背を向けてはいるが、その大きな背中は紛れもなく
目的の相手 ---- 柊蓮司に間違いなかった。
「・・・・・・ ? なにをしていらっしゃるのかしら ? 」
ふと、アンゼロットが不審げにつぶやく。
後ろ向きの姿の柊は、境内の土の地面にしゃがみこんでいた。
首をひねり、頭をがくんと下げ、また顔を上げる仕草をしては、視線を低く落とす。
両手をわさわさと動かしたり、頭をかきむしったり、なんとも忙しい様子である。
「音声も拾ってください」
好奇心に駆られてそう命じたアンゼロットの耳に、あの、いつもの柊蓮司の声が届く。
《・・・・・・で、結局お前はなんなんだ ? 》
《そのカッコ見りゃだいたい想像はつくけどよ》
《今度はなに企んでんだ、お前》
「・・・・・・・・・ ? 」
よくわからないが、柊蓮司は誰かと話をしているようだった。
しかし境内には柊の背中しか人影は見えず、どうも携帯で話しているのでもないよう
である。あの、しゃがみこんだ背中の向こう側に、確かに“誰か”がいるはずだった。
「カメラ、回り込みなさい」
その命令に忠実に、カメラがぐるりと柊の背後から前方へ向けて右回りに移動した。
カメラが柊の横顔を映す。心底困ったような、苦りきった顔である。視線は下方へ、
うつむき加減。その視線の先に、話し相手はいるようであった。
「しつれーなこといわないれ。わたしはなにもたくらんれなんかいないやよ」
呂律の回らぬ口調。年端も行かぬ子供が一生懸命大人びて喋ろうとしているかの
ような話し方。アンゼロットの背中に、ぞわぞわと悪寒が走る。この違和感の正体に
彼女が気づくのは、実にその十秒後のことであった。
「大体、ついてくるって言われても俺も困るんだが・・・・・・」
頭をぽりぽりとかきながら、視線の下の誰かをなだめるような柊の物言い。
「ひいらぎれんじ、わたしのゆーことききなしゃい ! 」
肩口まである銀色の髪はウェーブのかかったくせっ毛で。
両手を腰に添えて居丈高にふんぞり返った、年の頃で言うなら五、六歳の幼女。
身につけたものは、そのサイズに見合うように特注で作られたのであろうか、ずいぶ
んと小さな輝明学園の制服(幼児用)。
「・・・・・・なん・・・・・・ !? 」
アンゼロットが、回転を止めてフォーカスを合わせたカメラからの映像に絶句した。
後にロンギヌス・コイズミが語る。
あれほど驚愕にわななくアンゼロットさまを拝見したのは、宝玉戦争の折、宮殿内に
て二人の大魔王に一連の事件の真相を知らされたとき以来であった・・・と。
「な、な、な、な、な、なんですのあれは !? 」
震える指で画面を指差し、口元をぴくぴくと引きつらせながら。
画面の中には、柊蓮司がしゃがんだのとほぼ同じ身の丈しかない小さな女の子。
それはどこから誰がどう見ても、五歳児の姿へと変貌を遂げた、大魔王ベール=ゼ
ファーにしか見えなかったのであった -------- 。
※※※
「ガッデム ! どういうことか説明してください、柊さん ! 」
背後からいきなり罵声を浴びせられた柊蓮司が前につんのめる。
危うく態勢を崩しかけるのをなんとか立て直し、唐突なそして理不尽な発言者を振り
返ると、嘆息混じりに天を仰いだ。
「またうるせーのが出たな・・・」
「まあっ !? なんて言い草ですの !? 」
売り言葉に買い言葉で怒鳴り散らすのは、無論アンゼロットである。
本来ならば、柊蓮司専用捕獲用クレーンで吊り上げてやるところを、驚愕の映像を
見せられたことで頭に血が昇り、こうして転移魔法を使い神社の境内に降り立ったの
であった。背後にはロンギヌス・コイズミが控え、柊と目が合って目礼を交わす。
「なんだよ、その様子じゃお前も知ってて出てきたわけじゃねえんだな」
それはそれでどうしたもんかな、とこぼしながら立ち上がる柊。
「当たり前ですっ ! そもそもどうして・・・・・・」
つかつか ---- いや、神社の境内なので足音は土を蹴ってざりざりと、柊に歩み寄
るアンゼロットが、はたと足を止める。
その瞳は吸い寄せられるように柊の足元へと。
小さな大魔王と目が合ったのである。
柊蓮司の背後に身を隠し、彼のズボンをぎゅうっと小さな手で握り締めながら。
顔を半分だけ覗かせて、ずんずんと近づいてくる大きな自分をじぃーっ、と見つめて
いるのである。珍しく、アンゼロットが「ひるんだ」。さすがの彼女も幼児相手では勝手
がわからないのであろう。しかも、この小さな魔王は、わたくしに対して反感のような
ものを抱いている ---- そんな気がしたのであった。
しばし見つめあうアンゼロットとベール=ゼファー。
両者の間の微妙な均衡は、プチ大魔王によって破られる。
「・・・んべーーーーーっ ! 」
「・・・・・・ま、まあっ、なんてお行儀の悪い・・・ !! 」
「ですわっ」
「いまさら遅いですわっ ! 」
なんと、喧嘩が始まってしまったのである。
眉を吊り上げて思わず手を伸ばすアンゼロット。さすがに後で大人気なかったと猛省
したが、このときの彼女はなぜか、いたく冷静さを欠いていた。我に返ったのは、
「こらっ ! やめねーか、アンゼロットっ ! 」
よりにもよって、柊蓮司などにたしなめられたからである。ハッ、と普段の自分に立ち
返ったアンゼロットが呆気に取られる目の前で、
「ったく、いきなり喧嘩なんてすんなよ。まして、こんなちいせえ子に」
こともあろうに、身をかがめた柊が、その大きな両手をベール=ゼファーに差し出した
のである。とてちて、と危なっかしい足取りでなんの警戒もなく、ベル(推定五歳)がその
腕の中へ飛び込み、柊は軽々とその小さい身体を抱き上げた。
ぎゅううっ。
抱え上げられた自らの身体を思いっきり柊に預け、しっかりと彼の首に両腕を回すと
ベルは力いっぱい柊に抱きついた。
「ひいらぎれんじ、ちゃんとだっこしなしゃい」
「ちっさくても態度はでけーなぁ・・・はいはい、これでいいのか ? 」
逆らうことなく、ベルのことを抱っこしてやる柊に、アンゼロットのこめかみが青筋を
立てる。
「ちょっと柊さん !? なにをしてるんですの !? よ、よりにもよってだ、大魔王を、だ、だっ
こしてあげちゃうなんて、ハレンチにもほどがありますわっ !? 」
「人聞き悪いこと言うな !? ハレンチとはなんだハレンチとはっ !? 」
柊が声を荒げたところで、のんびり境内へ現れ、二人に声をかけたのはお馴染みの
二人である。
「はわ〜、ひーらぎお待たせー。ちょっと準備に手間取ったよ〜」
「すいません、柊先輩。まだ着付けに慣れてなくて、お時間とらせちゃいました」
最初の声の主は赤羽くれは。苗字が示すとおり、ここ赤羽神社の跡取り娘で巫女。
彼女自身、力あるウィザードであり、柊蓮司の幼馴染みでもある。
二人目は志宝エリス。かつての宝玉戦争における最重要人物であり、いまは戦いを
経てそのウィザードとしての力こそ失ったものの、こうしていまでも柊たちの大切な仲
間である。激動の一ヶ月間を戦いの内に暮らした彼女は、当時住んでいた秋葉原の
一等地にある高級マンションを引き払い、こうして赤羽家でお世話になっているので
あった。
「あ、アンゼロットもいる〜。珍しいね〜」
「こんにちは、アンゼロットさん」
仏頂面をして突っ立っているアンゼロットに気づいて、二人が挨拶をした。あえて、
彼女の不機嫌そうな顔の理由は問わない。
ひーらぎがどうせ余計な失言をかましたんだろうなー、とくれはは思っているし、エリ
スにいたってはアンゼロットが機嫌が悪いことにすら気づいていないふしがある。
一方、柊蓮司は空気も読まず ---- 。
「おっ、ようやくエリスの巫女服姿拝めたぜ。うん。可愛いな」
にこりと笑ってエリスに声をかけた。そう。エリスは赤羽神社で暮らすかたわら、神社
の境内の掃除や雑務を買って出ているのだ。
「せ、先輩・・・・・・あ、ありがとうございます・・・ ! 」
褒められて、エリスが耳まで真っ赤になる。実のところ、
「やっぱ巫女服でしょ、巫女服ー」
と、嬉々としてエリスに神社の娘としての正装をしつらえたのは、他の誰でもないくれ
はなのだった。もともと後輩の面倒見は大変良かったくれはでもあるし、一緒に暮らす
ようになった可愛い後輩に、いろいろキュートな格好をさせたいとうずうずしていた彼女
は、これ幸いとばかりにエリスに巫女服を着せてやっている。
エリス自身も、そこはそれ、年頃の女の子であるわけで。
普段は着られないような可愛らしい和装ができることが楽しいらしく、神社での用事
のときにはなるべく、この服装でいられるようにしている。
「うん。やっぱりエリスみたいなおしとやかな娘のほうが、そういうの似合うぜ。どうも、
巫女服っていうとなぜか俺にはがさつなイメージが・・・」
「ひーらぎ、なんか言ったっ !? ・・・・・・・って、ひーらぎ。なに、その女の子・・・ ? 」
あわや、小コントが始まりそうになったところを、くれはが止める。もとより、柊の抱き
かかえたベル似の少女に気づかないはずもなく。後ろから、ひょいっと柊の腕の中を
覗き込んだエリスなど、
「きゃ〜っ !? 可愛い〜 ! 柊先輩どうしたんですかこの子〜 ?」
可愛いものを目の当たりにした女の子特有の反応を過剰に示しつつ、瞳をウルウル
させている。
「どうしたもこうしたもありませんわっ。よく御覧なさいっ、どう見ても大魔王ベール=ゼ
ファーじゃありませんかっ」
アンゼロットが指摘するのに、
「はわわっ」
「えええっ」
と、柊の腕の中の少女をまじまじと見やる二人である。
「改めて見直さなくても、紛うことなき大魔王ですわっ。柊さんっ、事の顛末を説明して
いただかなくては、納得いきませんっ。事と次第によっては・・・って、なにしてらっしゃ
るんです、エリスさん、くれはさんっ !? 」
柳眉を逆立てアンゼロットが二人を叱り付けた。
世界の守護者たるアンゼロットは、この異常事態もエミュレイターの仕業 ---- 有体
に言えば、大魔王ベール=ゼファーの新たなる陰謀であることを視野に置いて行動し
なければならないのである。それなのに柊ばかりか、頼みの常識人二人ですらが、
「はわわ〜、ほっぺぷにぷに〜、あはははは〜」
「あ、ほら、くれはさん ! 私の人差し指握り返しましたよ ! もう〜、可愛い〜」
などと、きゃいきゃい言いながら戯れているのである。アンゼロットが、ついつい厳し
い声で叱責を飛ばしたのもやむなしといったところであろう。
「はわわわっ !? お、怒られちった・・・・」
「・・・ご、ごめんなさい・・・」
悄然とうなだれるくれはとエリス。
柊の腕に抱かれた小さなベルはと見れば ---- 眼下のアンゼロットを威嚇するよう
に睨みつけながら、ますます柊にきつく固くしがみついており。
その態度が、ますますアンゼロットの癇に障る。五歳児と同じレベルで、互いの視線
を火花を散らしながら交し合い、「うう〜〜〜〜」とキャンキャン吠える寸前の子犬のよ
うに、うなり声をあげている。
「子供なんだかオバハンなんだかわかんねーな・・・」
ぼそりと失礼なことをつぶやいた柊の言葉にも気づかぬように、剣呑なにらみ合いが
続く。
「・・・とりあえず、くれはやエリスにも聞いといてもらわねーといけねえ、とは思ってたか
らな。一から説明するから聞いてくれ。うーん・・・どこから話したもんか・・・」
少し長くなるかも、という前置きつきで柊が語りだす。
これこそが、宝玉戦争時に続く、『第二次ベル・アンゼ戦』と ---- 呼ばれることにな
るかどうかはさておいて、二人の強大で偉大なる力をもつ少女たちの、二度目の直接
対決として後に語られる(かもしれない)、戦いの幕開けなのであった ---- 。
(続)
「まったく、この世界(スレ)は・・・」とキリヒト風に言ってみる。
ちょっと前の保父・柊ネタとアンソロ本に触発されて、見切り発車で書き始めてみたり。
ああ、そうさ、思い付きさ !! だってDVD最終巻とアンソロ発売されて、NW熱が全然冷め
ないし(笑)。 あと、あまり日の目を見せて上げられなかったアンゼ様が書きたくて。
大丈夫か ? ちゃんと着地できるか、私・・・(笑)
ともあれスタート、でございます。またしばしのお付き合いを・・・。
一番乗りか? ぐっじょぶ。
その方向性、応援する! 着地など考えるな! ただただ高く飛べ!
そうすれば下がる勢いも一層と(ry
>>134 普通に読んでて、そう読んでしまったんだぜ。
慌てて前の行を読み直して『お菓』を確認したぜw
>>142 ポンコツ魔王グッジョブ!
アンソロ読むとリオンがなにかしたように思えるな>幼女化
アンソロのリオン先生の所業を見たあとだと
ぽんこつ幼女をお世話する保父柊
→育児に疲れたところでリオンお母さんがぽんこつを迎えに
→柊、リオンお母さんの大人の魅力にちょっとドキッ
とゆー策略にみえる気が。
ロリベル×ロリオンで妄想を膨らましつつあったのだが、これはアンソロ必読か!?
必読なんだな!?
さてさて、続け様ですがゴンザ×ノエルの続きを投下させていただきます。
迷走を続ける馬鹿勝負もいよいよ最後の“ポージング勝負”です。
“ポージング勝負”
「ふっふっふっ、なかなかの気合いですな。そうでなくてはこちらも張り合いがない。
あなたを徹底的に陵辱し、淫乱痴女として生涯恥を晒し続ける人生をおくっていただきましょう!」
ふぬーっ、ふぬーっ!
ノエルは性的な意味だけでなく勝負に興奮して鼻息が荒くなっていた。
体も、心も、中の人まで汚された。もう何も恐くない。
ポージング勝負、言われなくともエッチなポーズをとらされることはわかる。
今更恥ずかしがってもしょうがない。
(勝つためになんでもやってみせますっ! 考え付く限りのエッチなポーズをとって絶対に勝ってみせますっ!)
これから行なう自分の行為を想像して、ノエルはまたも昂ぶった。
踊り子の衣装の下で乳首が硬くなり、短いスカートの中の股間がジュンと濡れるのを感じる。
(ふふふっ、今の私のエッチさなら勝機はあるはずですっ)
ノエルはまたも間違った方向に自信をたぎらせていた。
「では、特別審査員をご紹介しようっ!」
ゴンザレスが宣言すると舞台中央にスポットライトがあたる。
床に穴が開き、そこから一人の男がせりあがってきた。どうみても変態さんだった。
上半身は裸の上に原色が多く使われた奇抜な上着を着ている。
下半身は黒のビキニパンツだけでもっこりと盛り上がりを晒している。
なにより異様なのは顔に女性物のパンティを被っていることだ。
しかもあのパンティは、先ほど脱ぎ捨てたノエルのものだ。
その変態仮面の下の顔は……なにやら見覚えのあるダリ髯がみえる。全体の輪郭もそっくりだ。
「……ピエール先生?」
「ノン! 今の私は流浪の変態紳士マスク・ド・ピエール! 天才画家ピエールではない!」
臆面もなく自分を天才と言ってのける、やっぱりピエール先生だ。
「えーと、ピエール先生ですよねっ!? なんでそんな格好してるんですか?」
「ふむ、よい質問です。これはピエールの裏の顔なのです。」
「裏?」
「天才画家ピエールは至高にして究極。真の芸術家は低俗なものは描かぬという信念を持っています。
しかし、ピエールといえども肉体を持った人間。肉欲という宿業からは逃れることは出来ないのです。
そこで、純粋に芸術を極めるため芸術以外の時間に発散することにより、その宿業に打ち勝っているのです。」
「な、なるほど〜」
「さらに、マスク・ド・ピエールは裏トラベルガイドの編集長でもある。今回御呼び立てたのはそのためでもある。」
ゴンザレスが横から追加説明する。
「裏トラベルガイド?」
「エリンディル各地の風俗情報をまとめたガイドブックだ。
毎年一回発行しており売れ行きは通常のトラベルガイドよりも良いそうだぞ。」
「へ、へ〜、そうなんですか〜」
裏なのに表より売れてるんだ……。人が性欲に掛ける情熱に驚く。
確かにエッチなことは嫌なことも多いけど、とても気持ちいいということはもうノエルにもわかっていた。
夢見ていたような素敵な恋の一幕とは違うが、皆がエッチなことをしたいという気持ちは確かに理解できた。
「そう、そして今回私がこの場に現われたのは! 裏トラベルガイドの表紙絵を描くためなのですっ!」
おおーっ! ピエールが高らかに宣言すると会場にどよめきが走る。
「表紙絵?」
トラベルガイドの表紙絵ならピエール先生が描くのも納得できる。
なにしろ今年のトラベルガイドの表紙絵はピエール先生がノエルを描いたものなのだ。
「って、まさか、また私を描くんですか〜!?」
ヒュンッ! ピシッ!
「あいたっ!」
ノエルの頭に投げられた筆が当たり高い音を立てる。抜き手も見せぬ瞬速の投擲だった。
「うぬぼれてもらっては困ります、ミス・ノエル。
表で表紙モデルが務まったとはいえ、裏でも務まるかと言うと答えはノーです。」
厳しい表情……はパンツで見えないが雰囲気で告げるピエール。
「裏ガイドの表紙モデルには裏ガイドなりの素質がいるのです。
それを見るために、私はこの“ポージング勝負”の審査員を引き受けたのです。」
「その通りだノエル君。名誉ある裏ガイドの表紙モデル、君に渡すわけにはいかんな。」
やる気満々にゴンザレスが言い放つ。
「ふっふっふっ、なにを隠そう前年度のモデルはこの私なのだよ。
史上初の二年連続モデルの座を勝ち取るためにも、この勝負負けるわけにはいかん。」
ゴンザレスが懐から昨年度の裏トラベルガイドを取り出し見せつける。
両腕で力瘤をつくった裸のゴンザレスが仁王立ちしている。
腰のあたりにフィルボルらしき少女が、やはり裸で縛られたままゴンザレスに絡み付いている。
背中からしか見えないが、おそらく挿入されて繋がっているのだろう。
振り向いた顔はとても気持ちよさそうな表情をしている。
(今年の表紙がわたしになったら……)
同じようにゴンザレスと繋がり、あられもない表情をしているところを想像する。
その様子は本を手にとった人全てに見られるのだ。股間がまた濡れるのを感じる。
ブンブンッと頭を振り想像を止める。その未来図がとても魅力的に思えてしまったのだ。
エッチなことに積極的になっている自分をしっかりと自覚してしまった。
「ゴンザレス氏の二年連続記録も楽しみですが、ミス・ノエルの表裏同時モデルもかつて例の無い事。
どちらにせよとても素晴らしい作品が出来上がることでしょう。とはいえ安心してもらっては困ります。
貴方達のポージングで私がインスピレーションを感じられないのなら、モデルの話は当然なしです。」
「わかりました。」
ゴンザレスが承諾する。
「ミス・ノエル、いいですか?」
未だ考え込んでいるノエルにピエールが話し掛ける。
「……は、はいっ! 頑張りますっ!」
どうせ勝たねばならない勝負なのだ、やるしかないっ!
(エッチな自分は認めたんだっ。ノエルは淫乱な変態さんなんだっ)
そう認めていても先の勝負では精神面の弱さを突かれて負けてしまった。
足りないのは強固な意志、自分は他人の意見に左右されすぎる。いつも叱られている通りだった。
(ノエルはエッチな娘、ノエルはエッチな娘、ノエルはエッチな娘……)
自己暗示をかけるべく、考えを繰り返す。どうせエッチな事をやらされるのは目に見えている。
ならばこちらから仕掛けるしかないっ!
ノエルは気づいた。大切なのは『開き直り』なのだ!
「では、勝負を始めましょう。二人のポーズを見て私の魂を奮わせることが出来たほうが勝ちです。」
曖昧な条件だったが、ノエルには自信があった。
(エッチなモデルさんなら、かわいい女の子の方が有利に決まってますっ!)
もっともな意見だった。
「はいっ! わたしからいきますっ!」
手を挙げてやる気を見せる。
「ほほう、随分やる気があるようですな。ではお手並み拝見といきますか。」
ゴンザレスが脇へと下がる。
ノエルは舞台中央に用意されたお立ち台に立つ。
勝負開始からもう何時間も経って日付もかわろうかという時間だというのに、観客席は満杯で熱気が溢れていた。
正面には特別審査席がつくられピエールがキャンバスに向かいつつ、こちらを見つめている。
「みてくださいっ!」
ノエルは踊り子の衣装を脱いで全裸になると、その場に座り込む。
胸を突き出し左腕でおっぱいを下から押し上げ強調する。
脚をM字に開き股間を露わにし、右手の人差し指と中指で割れ目を開き中身を見せつける。
(はずかしいっ! 今、わたし自分からもの凄く恥ずかしい格好してますっ!)
観客席からもひやかしの声援が聞こえてくる。
(ああっ、皆喜んでくれてますっ!)
ブルブルッと快感が背筋を駆け上る。
「みてくださいっ! ノエルの恥ずかしいところっ、みてくださーいっ!」
見られることがこれほど楽しいとは、これほど快感だとは思ってもみなかった。
観客達の歓声を聞いて、ノエルは激しく昂ぶり、見られているだけで絶頂に達してしまった。
股間からはダラダラと愛液が垂れ流しになり、顔は羞恥と歓喜で真っ赤に染まり口の端からよだれが垂れていた。
ヒュンッ! ピシッ!
オルガスムスの余韻に浸るノエルの額に飛来した筆が激しく打ち据え、ノエルを現実に引き戻した。
「いたたーっ」
ピエールが怒りの表情でノエルを見つめていた。
「ミス・ノエル、あなたには失望しました。」
「えっ……」
「確かに過激なポーズはエッチには欠かせません。
性経験が少ない貴女にはわからないかもしれませんが、過激なエロスは熱するのも早ければ醒めるのも早いのです。
淫乱娘が股をおっぴろげている絵など、ぶっちゃけ二束三文の価値しかありません。恥さえ捨てれば誰でもできることです。
貴女のポーズは本の半ばや後半に大量にあるエロ絵の一枚としてならとても素晴らしいものだったでしょう。
ですが、そのようなものは表紙には相応しくありません。表紙に必要なエロスと中身に必要なエロスでは質が違うのです。
誰もが手にとりたくなり、誰もが貴女に欲情し、犯りたいと思うポーズ。それが表紙に必要なエロスです。
そこのところをよく考えてくださーい。」
ピエール先生はエロポーズにも厳しかった。
ノエルはピエールの言ったことはよくわからなかったが、安易な手段を選んだことを批判されたことはわかった。
「残念だったね、ノエル君。」
背後からポンと肩に手を掛けるゴンザレス。
「今度は私の番だよ。」
背後から縄がノエルに巻きつけられた。
「えっ、むがっ、むー!」
口にギャグボールを差し込まれる。
ノエルはあっという間に縛られて身動きがとれなくされてしまった。
先ほど自分でとったポーズと同じくM字に開かれた両足に、両腕が縛り付けられる。
胸や股間を強調するような複雑な縛りは、ノエルにはどうなっているのかサッパリわからなかった。
「むーっ! むーっ!」
抗議の声をあげてみるが、ギャグボールでふさがれた口からはよだれとうめき声しかでなかった。
「なに、ノエル君に我が輩のポージングの手伝いをしてもらおうと思ってね。」
前年度の表紙絵を思い出す。あの少女が自分だったら……!
「では……いくぞっ!」
「むーっ!」
濡れたノエルの股間にゴンザレスの剛直が挿入される。
本日何度目かの刺激にもはやノエルの体は喜びしか感じなかった。
そのままノエルの体をかかえあげ、立ち上がるゴンザレス。
股間に体重が掛けられノエルに強烈な刺激を与える。
落ちまいとしたのか、それとも刺激に喜んだのか、ノエルの体は自然に反応し膣を強く締め上げた。
「ふっふっふっ、なかなか頑張るねぇ、ノエル君。」
正面からノエルの両足抱えたまま、ゆっさゆっさと上下に軽く跳ねるように動くゴンザレス。
ノエルの体重とゴンザレスの剛直が子宮を貫くように刺激を与える。
連続した上下運動が与えるあまりに強い刺激と快感に、ノエルは気絶しそうになる。
「おっと、まだ気絶してもらっては困る。」
お尻の穴に何かが当たる。ゴンザレスがアヌス用の張り型を挿入しているのだ。
前後、上下の口全てをふさがれたノエルは息が詰まって呼吸が苦しくなる。
ギャグボールの隙間から洩れた激しい呼吸音があたりに響き渡る。
前後の穴を同時にふさがれたことで、ノエルの膣が急激に締め付けれた。
「きたぞ、いい締りだノエル君。これが私の真のポージングだ!」
ノエルの両足から手を離し、左右で力瘤を作るゴンザレス。
ゴンザレスとノエルをつなぐのは股間の挿入部分だけ。
だが、ノエルの体はそのままゴンザレスと垂直に繋がったままだった。
いや、それだけではない。そのまま斜めに持ち上がっている。
ゴンザレスは己の勃起力だけでノエルの全体重を支えているのだ!
おおおおおーーーーーっ!!
ゴンザレスの驚異的な能力に会場から感嘆の声があがる。
その反応にゴンザレスもニカリと笑顔で応える。見事なポージングであった。
己の勝利を確信しピエールを見る。
ヒュンッ! ピシッ!
ナイフ投げで開いた額の穴に飛来した筆が突き刺さる。
「うがぁっ!」「ふごぉっー!」
額を押さえ尻餅を付くゴンザレス。その衝撃でひときわ激しい突き上げを受け、ノエルはまたもイッてしまった。
「ゴンザレス殿、貴方の技は確かに素晴らしいものでした。
相方の女性の体重は去年より重く、難易度の高い技に挑戦しているのは理解できます。
ですが、去年とネタが同じでは困ります。質を高めるのも重要ですが、新しいテーマに挑戦してこそ真の芸術なのです。
それに今回はロリ好みの前年度と違い、女性の体の美しさをアピールできるミス・ノエルでした。
勃起のみで支えることに拘らず、バックで繋がり彼女の体を正面から見せたほうが、よりポージングとして完成されたでしょう。
更にその際、ミス・ノエルのポージングも併せることで更なる高みを目指すこともできます。
拘束するのもいいですが、その際に彼女を美しく飾ることを考えるべきでした。」
「くっ! ……おっしゃる通りです。」
ゴンザレスも苦々しく顔を歪めながら失敗を認めた。
ノエルは全身を縛られ恥ずかしいポーズで身動きが取れないまま舞台に放り出されている。
(また失敗してしまった……)
朦朧とした意識を保ちながらノエルは涙を流した。
「二人とも私をエレクトさせるほどのポーズは見せられなかったようですねぇ……」
ピエールが残念そうな声で告げる。
「ですが、二人ともいいところまでいってました。お二人にもう一度チャンスを差し上げましょう。」
「なんと!」「ふごっ!」
ピョコンと起き上がろうとして、そのままつんのめる。
「私としても不本意な結果です。次こそ期待していますよ。」
ゴンザレスに舞台裏に引きずり込まれ、拘束を解かれる。
「ノエル君、ここは一つ協力してはどうだろうか?」
「はあ……協力ですか?」
「そう、我が輩もなんとしてもピエール先生を納得させるポーズを決めてみたい。
ノエル君としてもその想いは同じだろう?」
先ほどのピエールの指摘を思い出す。頑張ったけど認められなかった、その悔しさはある。
折角チャンスをくれたのだ、挽回してピエールにあっと言わせて見たい。
「はい、私もピエール先生に勝ちたいですっ!」
「うむ、打倒ピエールだっ!」
二人は揃って間違った方向に進みだした。
「そのために我が輩とノエル君、二人の合体ポーズというアイデアはどうだろう?
先ほどのピエール先生の指摘を考慮するに、そう間違ってはいないと思う。」
確かにノエルにとっては強引な方法だったが、ピエールは褒めていた。
しかもその際にノエルがポージングを決めるとなお良いとも言っていた。
それにゴンザレスに貫かれるのにももう慣れてしまった。むしろ体が求めているとも思える。
裸を見られるだけでもとても気持ちいいのだ。
先ほどは堪能できなかったが、見られながら自由にセックスできたらどれだけ気持ちいいのだろう。
思考が脇へそれたのを頭を振って冷静になる。
「でも、ピエール先生の考えている事をそのまま出しても、多分ダメだと思います。」
「うむ、そこでノエル君にもアイデアを出してほしいのだよ。」
(過激なエロスは熱するのも早ければ醒めるのも早いのです。)
(誰もが手にとりたくなり、誰もが貴女に欲情し、犯りたいと思うポーズ。それが表紙に必要なエロスです。)
ピエールの指摘を思い出す。
「ゴンザレスさん、服を着ている女性と裸の女性、どちらを犯したいと思いますか?」
「む? ふむ、なるほど。それは好みによると思うが、質問の内容はわかる。チラリズムの問題だな。
男は全裸の女性よりも、スカートから覗くパンツに欲情するというものだ。」
うぶなノエルにとっては意外な回答だった。しかしそれでピエールの言いたいこともわかったような気がする。
「なにか衣装とかありますか?」
「うむ、なにかいいアイデアが浮かんだようだな。こちらに小道具類を用意してある。色々考えてみよう。」
ノエルとゴンザレスは共にピエールを倒すポーズの相談を始めた。
「遅いでぇす。まだでしょうか?」
会場ではピエール達が待ち焦がれていた。
「お、お待たせしました!」ノエルの声が会場に響く。
舞台裏から長マントを羽織ったノエルとゴンザレスが現われた。
ノエルの顔は紅潮している。どうやらマントで隠したせいで股間を刺激する呪いが発動しているようだ。
「ほう、準備は万端といったところですね。ではみせてもらいましょう。渾身のポージングを!」
「は、はいっ!」「うむ、いくぞノエル君!」
ゴンザレスがノエルの後ろに立ち、二人のマントをバサッと投げ捨てる。
マントの下から現われたのは意外なことに、ごく普通の衣装を着た二人だった。
ゴンザレスはいつも通りの貴族風衣装。
ノエルはショールを纏い、民族風のドレスのようなものを着ている。手には篭をつるしており、買い物帰りの少女のように見える。
「む、この衣装は……」
ノエルの格好はトラベルガイドの表紙で着ている服装だった。
「ふむ、犯したい少女という要因を同じ表紙内ではなく外部のトラベルガイドから持ち込みましたか。
絵画としては邪道ではありますが、エロ絵としてはとても効果的です。
しかも、それだけでは終わらないようですね……」
ノエルはショールをとめている赤いリボンをゆるめる。開いた正面から奥に肌色が見える。
シャツもブラも付けずに素肌にコルセットを直接つけていたのだ。
ショールの丈も短めになっており、チラチラと胸の先端のピンクが見えそうになっている。
しかもよく見ると、素肌の上を斜めに走る縄が見える。
「ほう、この少女は調教中なのですか! なかなかよく仕込まれていると見える。」
ノエルは篭にかけてあった布を取り、篭の中身を見せる。
本来果物が入っていた篭の中には、幾本もの張り型やローション入りポーション等のエログッズが山盛りになっていた。
「ほほう、しかもそのまま買い物に行かせるとは、いやはや大したご主人様だ。では、その張り型は……?」
エプロンの裾を持ち上げ、口に咥える。胸への視線を邪魔しないように斜めに体を向けエプロンを誘導する。
両足を広げて立ち、スカートを持ち上げて中身を見せつける。
フトモモまである白いストッキングとそれを吊るすガーターベルト、そしてやはり白いパンティ。
白いパンティは既にぐしょぐしょに濡れて中が透けていた。ノエルにかけられたぱんつ禁止の呪いの効果もあるのだろう。
だが、最大の原因は他にある。パンツのなかで暴れる太い筒状の物体とそれを固定する縄。
「錬金バイブですかっ! 流石はゴンザレス殿、いい品をもっておられる。」
会場の視線を集めて昂ぶったノエルは絶頂に達しそうになり思わず膝をついてしまう。
「ノエル君、最後の決めだ、いくぞっ!」
「ひゃ、ひゃあい……」
ゴンザレスが後ろからノエルの膝をかかえて体を持ち上げる。
既に剛直はズボンから解き放たれ、ノエルの股間めがけてそそり立っている。
そのままノエルのパンツをずらして一気に菊門を突き上げる!
ノエルの目が見開かれ、意識が飛びそうになる。口が開きエプロンを落としてしまう。
ローションを塗ってあるとはいえ、この尻の穴が裂けそうな痛みはまだ慣れない。
「ノエル君、ポーズをっ!」
ゴンザレスの声に意識を取り戻す。
最後の決めをしなければっ!
篭から張り型を取り出し、口に咥えるようにそっと伸ばして先っちょを舐めるようにして、平静を装った笑顔をみせる。
細部は違うが、これでトラベルガイドと同じポーズになっているはずだ。
ピエールの反応を窺う。
「……ブラボー、おお、ブラボー!! 二人ともすばらしいでぇす。
トラベルガイドの気になる女の子、その裏の顔を描いてみせるポージング。しかと見せていただきました。
おお、創作意欲が沸き起こるっ! 描かずにはいられないこの昂ぶりはっ!」
フオオオオオッ!
両手に筆を持つと物凄い勢いでキャンバスに描き出す。
そこには今のノエル達の痴態がみるみる間に描かれていった。
ノエルの今のポーズとは若干違い、背後のゴンザレスだけでなく左右に男が立ちペニスを突き出している。
ノエルが両手にペニスを持ち紅潮した笑顔を浮かべながら舐めている。
ゴンザレスは背後から胸を揉み上げ、ショールも多めにはだけている。乳首は見えそうで見えない微妙な位置だ。
パンティは半脱ぎ状態で片方の太ももに引っかかっている。服の下でノエルを拘束している亀甲縛りで股間のバイブが固定されている。
更に背景に四つの絵が描かれている。それぞれノエルが様々な辱めを受けている絵だ。
先ほどの、舞台の上で股間を見せ付けているノエル。
前後の穴と口までふさがれ男達に犯されているノエル。
裸に首輪をつけられ犬のように街中を散歩させられているノエル。
最後の一つはよく見えないが、大の字に磔にされて皆に見られるノエルのようだ。
「ふう、ラフはこんなものでしょう。とても素晴らしいインスピレーションを得られました。お二人には感謝いたします。」
ピエールがノエルとゴンザレスに握手を求める。
「貴方達のポージングには感動いたしました。この勝負の勝者は、お二人ということでよろしいですかな?」
「はいっ!」「いいですとも」
ノエルは勝利の味をかみ締めた。なによりもピエールに褒められたことが嬉しかったのだ。
この勝負に負けたらトランの胴体は戻ってこなかったとか、この後ゴンザレスと戦うとか、
そういうことは既に頭から抜け落ちていた。
以上です。
この後クライマックス戦闘1回のあとエンディングの予定です。
書きたいものを適当に書きなぐってきた作品ですが、ようやっと終わりが見えてきました。
つたない作品ですが、最後までお付き合い願えたらと思います。ノシ
開き直んなwww
って書こうとしたら、
開きな女www
って誤変換した俺のPCは助平だと思います。
GJ!
一体何処に行こうというんだw
ピエール先生帰って来いwwwwwwwwwww
最近エロよりもネタのキレ味が鋭すぎて抜けないよ!!www
まったくだw
まあ、俺は
>>156のいい意味で品が無くて直球エロな作風は好きだぜ!
貴方はどこへ行こうというのだ……w
というか、ゴンザレスとノエル意気投合しすぎだw
おいおい…
なんかひーらぎ、失っちゃいけない大切なものを失ってるんだが…
ようやくその身を癒やして愛する主の許へと帰還を果たす魔剣タン。
しかし、自らがあるべき場所には既に新たなウィッチブレイドタンが居座り、
こともあろうか最初からクライマックスぐらいにしか出番のない自分とは違い、
移動シーンなどでも行動を共にする程の親密ぶりを見せつけられるのであった。
その身は傷一つなく蘇ったとしても、その心に走る無数の皹割れ…
多くを望んでいた訳ではない。ただ愛する主の側に在る事を望んでいただけ…。
心を持つという事がこの苦しみを得るという事であるならば自分はモノ言わぬ鋼のままで在るほうが良かった!
そして心の疼きのままに引き起こされる血の惨劇…
次回ナイトウィザード
「剣帰りたらば、幸遠からじ」
nicesowrd
和解してヒルコの様に融合すればいいじゃない(マリー
後、ソードの綴り違うぜ
あと、帰りたらばじゃなくて帰りなばじゃないかと思ふ。
>>162 んー?俺<三千世界の剣>使用時に数多ある剣の中から間違うことなく魔剣さんを引き抜く柊を幻視してるからノーダメージだぜー?
もしくは新しい魔剣を手に入れる時に
「魔剣は死んだ。もういない」
「けれど俺の心に魂に」
「一つになって生き続ける!」
とか言う柊を(ry
擬人化ワイバーンがノコギリを奮うわけですね、分かります
最初「猥バーン」と変換されてしまったのは何故だろう
猥褻な格好をした大魔王バーン様が頭に浮かんで吹いたw
こんばんは。
「いつか」などと言っていましたが、思いついたままのネタを下げて戻ってきてしまいました。
今度はコメディ。「ノエルと恥辱」氏の作品などと比べると、赤面してしまう出来なのですが…。
システム:真女神転生X
キャラクター:苺、チャーリー(退魔生徒会シリーズ)
傾向:コメディ(キャラ崩壊注意)
今度は書きながらなので、ペースの目途もつかない状態ですが、暇つぶしにでも付き合っていただければ幸いです。
むせ返るような夏の残暑が消え、空の色が高く澄み――
そして、その空にも、日によってはときどき鈍色が見えるようになった――そんな、
秋の終わりのある日のこと。
昇降口を出ると、澄んだ寒気が鼻に満ちた。
息を吸うごとに、口元にたつ白い靄。校門へと向かう足は、自然と速くなる。
風が吹けば、なお冷たい。
ザァッと波音をたてて、校庭の庭木が枝を振る。秋風に落とされた紅葉が、
サラサラと足元を流れてゆく。
世界は茜色。
雲間に顔を出す夕日は、ロウソクの火みたいに小さく弱々しく、どこか寂しい。
学園の正門を出たポニーテールの少女は、門柱のところで立ち止まり、
「はぁぁ〜〜」
ジトッと重い溜息を、秋風に流した。
ここは東京郊外に位置するミッション系学校、聖華学園。
明治年間より良家の子女を教育し、気品と文武を重んじてきた、名実共に備えた名門校である。
神代の丘にそびえ建つ校舎と、それよりも更に高く、天に向かって高々と十字架を掲げた
学園聖堂の尖塔は、周囲から見上げても、抜きん出た威容を誇る。
翻って学園からは、深大寺の緑を間近に見下ろす事が出来、森閑とした落ち着いた空気の中、
生徒達は勉学と技芸に励む。
――しかしてこの学園には、1つの秘密があった。
神代の丘。そこには名の如く、古代神を祭った祭場が隠されており、学園はその上に鎮護の
ために設けられたもの。
神気に呼ばれ、または龍脈より力を啜り上げようと、この学園には様々な魔物が跳梁する。
ゆえに学園の筆頭者たらんとする生徒達は、退魔の技を磨き、人知れず、日々悪魔との戦いに
身を投じる宿命にあった。
知る人は、彼らをこう呼ぶ。――【退魔生徒会】と。
「――はぁぁ〜〜」
……その退魔生徒会の切り込み役にして、現生徒会長、豊野香苺(とよのかいちご)は、
再び重い溜息をついていた。
それは、普段の彼女を知る人間には、らしくないと映る姿に違いなかった。
大きくキリッとした瞳に、一筆書きの眉。
小ぶりの鼻と、引き締まった唇。鋭角を描く顎。
立ち姿は白樺のようにすっきりと美しく、足取りは野鹿のように、静かでありながら力強い。
豊野香苺とは、そんな凛とした大和撫子だ。
だが今、目をしょぼつかせ、開いた口から延々と溜息をこぼし続ける彼女は、どこから見ても
疲れた人間にしか見えない。背中に揺れるポニーテールも、畑仕事に疲れた牛の尻尾のように、
プラプラと頼りなげで、背負った剣の包みも、重たげに傾いている。
「生徒会長、か」
呟いて、苺は歩き出す。特に当てもないままに、学園正門から伸びる坂を
下ってゆく。
先日の体育祭での活躍で、苺は学園の実力者である【十武神】らに打ち勝ち、見事生徒会長の座を射止めていた。
当初は荷が重いと、遠慮していた苺だが、前会長である結城柊のたっての頼みもあり、平和な学園生活を守るため、立候補したという経緯がある。
しかし一度決意してしまえば、元から正義感も責任感も強い彼女のこと、会長の役職を謹んで拝領し、学園と退魔生徒会を引っ張っていく気概を十分に燃やして
いた。
「……うう」
――筈なのだが。
「結構大変ね、会長って。……いや、それ自体はいいんだけど」
トボトボと坂道を下りながら、苺は鬱々と独り言を呟いた。
実際、就任早々なかなかにハードな日々が続いていた。
代替わりした生徒会が最初に手がける仕事は、来る10月30日の万聖節。
即ち、ハロウィンパーティーである。
毎年行われるお祭で、たいへん賑やかな行事らしいのだが、それだけに準備の方も膨大な作業が必要になってくる。
今日は放課後に、2回目となる打ち合わせがあった。
予算だなんだという実務レベルの調整は、副会長の渡会百合や、会計の星など、出来る面子が計らってはくれるが、意見要望への対応については、生徒会長が対応しなければならない。
道場で試合に立てば無類の胆力を発揮する苺も、会議室での言葉を用いた立会いには、いたく不慣れだ。
各クラスの委員の質問に晒され、苺はかなり気力を消耗する事となった。
……そして会議が終わったと思いきや、次には退魔生徒会の仕事が待っていた。
黒魔術研究会の召喚実験で湧いて出たグレムリンが、パソ研を襲撃するという事件があり、その掃討に
追われ――気が付けば時刻は6時前。下校時刻ギリギリである。
急いで出動記録をしたため、身支度を調えて、校門を出る頃には、苺はヘトヘトになっていた。
――緩やかな坂道を下りながら、苺はぐったりと目を閉じる。
「別に、学園のために頑張る事自体に不満なんかないけど……」
確かに疲れるし、時に怪我もする。だがそれは、程度の違いはあれ、いつもの事だ。
ただ……。
「なんか、流されてるなぁ」
振り返れば、入学以来、怒涛の勢いで様々なトラブルが降りかかってきた。
根性コートの生首事件。
プラズマ研の雪ダルマロボ暴走事件。
七夕のターミネーター事件、等々……。
それらに気を取られているうちに、気が付いてみれば生徒会長で、おまけに1年生の終わりも近い。
充実しているのは間違いないのだが、こんなふうに流されたまま、学園生活を終えてしまうのだろうか。
そう考えると、苺はなんだかやり切れない気持ちになる。
何故ならば――。
「……らぶが、ほしい」
疲れた声音で、少し壊れたセリフを呟きながら、苺は目を細めて夕空を見上げる。
――そう、恋だ。
足りないのは恋愛なのだ!
その容姿と立ち居振る舞い、そして学園でも五指に入る剣術の腕前から、苺はクラスや学年では、むし
ろ同性からの人気が高い。
しかしながら、苺自身は至ってノーマル、そっちの気は欠片もない。なので百合系の視線を向けられて
いる事は、大いに遺憾に思っている。
確かに、女にしては逞しいかもしれない。剣術の家に生まれついて、幼い頃から木刀を握らされてきた
し、夏には山篭り、冬には寒中稽古と、きつい鍛錬も課せられてきた。
手の剣ダコはとっくに潰れて、皮膚は厚く張ってるし、二の腕も腹筋も、筋肉がついて硬くて、女の子
らしい柔らかさなんか全然無い。
けれども、いやだからこそ、苺は女の子らしい恋愛に憧れる。別に男子に守って欲しいとかいう憧れは
――少しは、あるけど――いやいやでも、それは無くてもいい。要は自分を女の子として扱って欲しい
のだ。ドキドキするようなラブラブが、心の潤いがあれば、それでいい。
今年の春、真新しい制服に身を包んで、初めてこの坂を登った時に思ったこと。
――この学校で、『女の子』になる!
密かな希望を抱いて、入学してからは、身だしなみに気を使うようになった。
たとえば消臭スプレーの銘柄。
毎日稽古三昧で、または悪魔を追って走り回ってばかりで、いつも汗臭い自分。スプレーは前から使っ
ていたけど、どうせならいい匂いのするものに変えようかと思ったり。
たとえばリップのグロース。
以前は唇のコンディションなんか頓着しなかったけど、ある時欲しくなって、一本買った。
きっかけはクラスの友達が塗っているのを見た事。
唇を引き締め、片手に手鏡を持って、クリームの筒をそっと当てる、あの仕草。
その子が可愛い子だったためもあるが、とても艶かしい仕草に思えた。そして、自分もあんなふうにな
れれば、と思った。
あんなふうに――
そう、もっともっと、『女の子』したい!
……しかし現実は――。
「いい出会いって、なかなか無いものね」
坂の終わり、交差点の赤信号に立ち止まり、苺はうなだれる。
もう少し歩けば、最寄のバス停だ。
家に帰って、風呂を使い、疲れた体を休める事が出来る。そう考えようとするのだが、苺の気持ちは少
しも振るわない。
――恋は遠い。
入学してから今に至り、それなりに男友達も出来はしたが、恋愛に発展しそうな相手など皆無だ。
――黒魔術研究会の変態メガネ。
トラブルの種と呼ぶのが相応しい、生粋のバカだ。魔王ベルゼブブを召喚するとほざいて、変な儀式を
やった挙句、学食の食材を全部腐らせられたのは、今も鮮明な悪夢として脳裏に焼きついている。
――M字ハゲの若社長。
来世がどうの、新世界の創造がこうのと、いつもアブない話ばかりする男。これも論外。まあ言動以前
に、M字ハゲの時点で苺には許容できないが。
退魔生徒会の仲間は、さすがにもっと心を許せるが、こちらも恋人候補からは程遠い。
保険委員の溝呂木鱗(みぞろぎりん)は、クールで知的だが、時に好奇心を暴走させるマッドサイエン
ティストだ。それにどうも、恋愛には興味がないように見える。
そしてもう一人、生徒会2人目の副会長というポジションを、分不相応にも与えられているお調子者。
いつもヘラヘラして、勉強嫌いで遊ぶ事ばかり考えているような奴。友人としては気が許せるが、恋愛
対象なんて、ぶっちゃけあり得ない。
……そう言えば、今日の仕事が終わってから、姿が見えなかったが、どうかしたのだろうか。
「まあ、どうでもいいか」
あっさりと片付けて、苺は考えを引き戻す。
――ここまで恋愛運が悪いのは、もう前世の因縁というか、なにかの呪いなんじゃないだろうか?
だとすると、この先も?
黒瓜の召喚した悪魔の尻拭いをさせられたり、氷川の妄言に付き合わされたりする日々を、延々と送り
……気が付けば卒業式とか?
「……嫌」
呪殺(ムド)のような重低音で呟き、苺は体を震わせた。
「嫌、嫌、嫌……ぜぇーったいっ、イヤ!!」
――苺の叫びは木霊する事も無く、神代の山に、虚しく吸い込まれていく。
何が悲しゅうて、花の女子高生が変態やハゲの相手で学園生活を終えねばならないのか。
女の子が『女子高生』でいられる時間なんか、一生の内で一度しかないのに。
……いや、負けない。運命なんかに、負けてられない!
「そうだ。この際、あそこにお参りしていこうかな」
ふと思いついた考えを胸のうちでしばし転がし、苺は一人頷いた。
せっかくだし、あそこに寄って行こう。
決心すると、苺は普段使っているバス停を通り過ぎ、夕日に背を向けて歩いていった。
***
武蔵境の大通り。
いつものバス停より1つ先に行った所にある、そのバス停の名前。
「深大寺入口」。
端的な名前が示すように、そこが、その寺へ至る道の始まりだった。
バス停そばの脇道に折れ、1車線の細い道を進んでいくと、次第に周囲の雰囲気が変わっていく。
花屋やアパートなどの並ぶ普通の町並みが、徐々に、山の中に吸い込まれていくように、人家がまばら
になっていき、かわりに樹の気配が強くなっていく。
道沿いの街路樹は、だんだんと大きいものに替わる。大人三人でようやく抱えられそうな、太い幹の楠
。頭上広くに張られた枝の天蓋。道路から分かれる路地も次第に消え、家屋の影が――人の気配のある
空間が、次第に狭まっていく。
――かと思いきや、森を背にした大きなレストランが立ち現れたりして、まるで飛騨かどこか、山奥の
観光地へでも迷い込んだような気になる。
やがて道路の左手に、石畳の道と、その両脇を埋めるように建つ土産物屋や茶店が見えてくる。深大寺
の門前町だった。
浮岳山昌楽院深大寺。
その起源は奈良時代にまで遡るという。
かつてこの地に暮らした夫婦の間に、一人の美しい娘が生まれた。年頃になった娘は若者と恋に落ちた
が、娘を大事にする両親は、彼女を湖の島に閉じ込めてしまう。若者は水を支配するという神仏・深沙
大王に祈願し、娘と結ばれた暁には、大王を丁重に奉ると誓願。後に霊験で二人は結ばれ、その息子が
誓いを果たそうと興したのが、この寺であるという。
……そんないわれから、この寺は縁結びのご利益があるとされ、若者にも人気がある。
参道の石段を登りながら、苺は以前に聞いた寺の縁起を思い出し、決心を新たにしていた。
境内に入り、さっぱりとした庭の眺めなど目にも入れず、苺はジャリジャリと砂利を踏みしめ、本堂の
前まで進む。
サイフの中身を検分し、五円玉があった事に、内心密かにガッツポーズ。
が、そんな事は全く表に出さず、いかにも神前といった風な、神妙な表情で、賽銭箱に硬貨を落とす。
合掌して拝む。一心に、ひたむきに。
(いい出会いがありますように、悪縁はこれっきりになりますように!)
深沙大王の返事は、もちろん苺には聞こえなかった。
しかしなんとなく気持ちが晴れ、お祈りを終えた苺は、自然と微笑を浮かべた。
……深沙大王の返事が無かったのは、もしかしたら怒っていたからかもしれない。
後に、苺はそう思う事になる。
賽銭の額が少なかったからだろうか? それとも神仏の前で失礼があったから?
やがて訪れる悪夢を、この時の苺は、まだ知る由も無かった。
以上、短いですが書き込ませていただきました。
どうも改行に失敗したようで、申し訳ありません。
さて、前回は「闇のプロファイル」のシナリオフック、「救世主狩り」
がソースになっていますが、今回も同じく「闇プロ」が元ネタです。
それが何かは……いずれまたと言うことで。
をを、メガテンの人じゃありがたやありがたや…
今度は苺がコメディタッチにひどい目に遭うみたいですね。
続きを楽しみに待ってます。
さて、闇プロ読み返してみるか
続きまだー?
NWアンソロでまゆりんのナマチチをみて、
「ああ、きっと安藤さんはこいつを揉みながらいろんなプレイでハメまくったんだろうなぁ」
と瞬時に妄想した。
安藤さんを責めるな!
けしからん乳にけしからんことをして、なにが悪い!
そのあと、どんなプレイをしたとしても、だ!!
ぶっといナスとかお口につっこんでるしな!
あと温泉占領してることを知ってるあたり、実は覗いたことが一度はあるしな!
安藤さんの敵は大魔王猥バーン、アバン先生的な意味で
猥バーン「やりすぎてしまうかもしれん」
こんばんは。
NWアンソロジー、どうやらこのスレ的にはヒットのようですね。
私は買っていないため、話題に入れないのが、少し悔しいです。
さて、昨日の続きですが、一応ぼちぼちコメディが入り始めるところです。
そして、スレ的に一番の見所、Hですが……すいません、今回も後ろの方まで
ありません。
こんな代物ではありますが、暇つぶしとでも割り切ってお付き合い頂ければ、
幸いです。
お参りの帰り。
参道の店をひやかしながら歩いていた苺の鼻に、その香りは届いた。
――糖が焦げて、蒸しあがるような、甘く香ばしい匂い。
かいだ途端、ギュッと胃袋がすくみ上がる。
口の中がじわっと濡れて、喉がごくんと鳴る。
意識した途端、猛烈にお腹が空いてきた。
考えてみれば、会議やら悪魔退治やらで駆けずり回って、随分とエネルギーを使ったと思う。
そして時間は、もう晩御飯時だ。ならば、これぐらいの空腹は当たり前。今日はご飯3杯食
べても、自分で自分を許せてしまいそうだ。
(って、ダメダメ! 夏休みのダイエット失敗してるんだから!)
ブンブンと頭を振って、苺は己を戒める。
が、しかし。
元々体育会系の苺は、よく食べる。激しい運動をすれば、それだけカロリーは使うから、
当たり前だ。
まして苺の剣術は、一撃必殺を旨とする示現流。瞬発力と膂力を付けるトレーニングを重ねて、
もう随分と筋肉が付いてしまっている。
この状態でダイエットというのは、けっこう難しい。……食欲を抑えるのも。
キュルルッと、間の抜けた声で、腹の虫が鳴く。
苺は火を噴きそうなくらい、真っ赤になった。
慌てて辺りを見回し――誰もいない事に安堵し、溜息をつく。
「……そうよね、これはむしろ、夕飯を食べ過ぎないように小腹を満たしておくのよ。
つまりダイエットよ。これもダイエット、これもダイエット……」
ブツブツと自分に対する言い訳を呟きながら、苺は匂いに釣られて歩き出す。
やがてたどり着いたのは、道沿いに建つ茶店――ではなく、その隣の屋台だった。
屋台の裏手には、農作業に使うようなリヤカーが置かれており、荷台には小さな煙突がついた
ドラム缶型の釜が乗っかっている。主人と思しき男が、その前で何か作業をしていた。
――間違いない。やはり、石焼き芋だ。
『体重』という言葉が、一瞬、頭を掠め、苺は動きを止めた。が、もはやここまで来ては止まれない。
「すいません、1つください」
「ヒーホー、毎度あり!」
……聞き捨てならないセリフを聞いたような気がして、苺ははたと店主を凝視した。
――黄色い。
見間違いかと思い、目を擦る。
――やはり、黄色い。
店主の顔は、のっぺりと平坦で、真っ黄色い。
……お面だ。目鼻の部分がくり抜かれ、黒い空洞になっている。
ていうか、これは、カボチャ?
スーパーでよく見かける、緑色のやつではない。ハロウィンで使う、あれ。
緑のカボチャは、確かスクァッシュとかいうらしいが、これはまがうことなき、パンプキン。
「ヒホホッ、お客さん、大きさはどのくらい? 大、中、小とあるけど?」
そんなセリフを聞き流しながら、改めて店主の姿を見回してみる。
煤けて薄汚れたズボンと上着――工場とかで使ってる、ツナギと呼ばれる服を着て、その上からは、
やはりところどころ煤汚れのついた、紺のエプロンを付けている。
――そして、顔だけカボチャ面。
なまじ黒い頭髪が頭頂部(茎?)から生え出ているため、異様な違和感がある。
ホラーなのかコメディなのか、判別しがたい、シュールな光景だ。
……まあ、いいか。とりあえず無かった事にしよう。うん。
「……章姫(あきひめ)」
ちょっと気の抜けた呼びかけだったけど、愛剣は忠実に答えてくれた。
背中に負った包みが、ハラリと自然に解け、鞘に収まった古めかしい刀が姿を現す。
魔晶剣「章姫」。
日高示現流の家に伝承される、炎の精霊を宿した魔剣。
これまで数多の強敵を屠ってきた、苺が最も信頼する相方である。
引き抜かれた白刃が夕日を受けて燃えるように輝き、カボチャ店主は泡を食って手足をバタバタ振った。
「待つホ! オイラなんにも悪い事はしてないホ!」
「とりあえず、そういうセリフは、その顔をナントカしてから言ってね?」
冷たい笑顔でそう言うと、カボチャ男は一転、くり抜きの目口を(どうやってか)釣り上げ、憤慨の表情を作った。
「ひどいホ! アクマを顔で差別するなんて、ジンケン侵害だホ!」
「……突っ込みどころは沢山あるけど、まず、悪魔が往来で堂々と商売すなっ!」
スパコーンッ! と小気味のいい破裂音が、参道沿いの森の中に響き渡る。
峰打ち――ではなく、苺のもう片方の手には、仲間達への突っ込み用に持ち歩いている、ハリセンが握られていた。
無意識のうちに……習慣とは恐ろしい。
「――じゃなくてっ」
苺は目を回している(らしい)カボチャ男を引っつかむと、屋台の影に引きずり込む。
「とにかくあんた、その顔! それで【人間変身】してるつもりなの!?」
「あ、当たり前だホ! 今のオイラは、どこからどう見ても焼き芋のオジサンだホ!」
「……パンプキンパイの促販とでも言えば、まだ説得力はあるかもしれないけど」
そんなふうに苺が呟くと、カボチャ男はしょんぼりとうなだれた。
「そうなんだホ。今日一日あそこで店を出してたけど、たまに足を止めてくれるニンゲンはみんな、
『カボチャのお菓子ですか?』とか聞いて来るんだホ。それ以外のほとんどは素通りしていくか、
こっちを変な目で見てから、行っちゃうばっかり――上手くいかないんだホー。
……って、なんだホ、その生暖かい笑いは?」
「あー、まぁ、ねぇ」
曖昧に笑って、苺はヒュンヒュンッと、ハリセンを振り回す。
「それ以上何か話されたら、また一発かましちゃいそうだから、先に言うわね。――顔の変身の練習
しなさいよ、あんた」
「ヒホッ? この顔じゃダメなのかホ?」
「ダメも何もっ、変身して無いでしょうがっ!」
「毎年このくらいの時期になると、ニンゲンもみんなこういう恰好するホ?」
「あんたの故郷じゃどうか知らないけど、日本じゃハロウィンはそう盛んでもないのよ! あと寺に来て
ハロウィン仮装する奴はいない!」
ホーと、感心したような声でカボチャ男が言う。
「そうだったのかホ。だからお客さんが一人も入らなかったのかホ」
目をきつく閉じ、頭痛に耐えるように額に手を当てて、苺は呻く。
「そもそも、なんで悪魔が商売なんかやってるの?」
「世界征服のための資金だホ。指しあたっては、オイラがジャアク帝国内で成り上がる為のゼニだホ」
「……それは悪事なんじゃ?」
「人に迷惑はかけてないホ。おいしいイモでみんなハッピー、お金が入って、オイラもハッピーなんだホ」
章姫を鞘に納め、苺は溜息をついた。
バカバカしい。
どうも善悪という以前に、何も考えていないような手合いらしい。まともに相手をする必要も感じられなかった。
「まあ、頑張って――ていうか、頼むから騒ぎにならないようにしてね」
悪縁これっきりと願ったばかりなのに、こんな変なのに当たるなんて。
気疲れを覚えながら、苺は背を向け、さっさと退散しようとした。
「待つんだホ。いい事教えてくれたお礼に、今日はサービスするんだホ」
ム、と苺の動きが止まる。
しょうもない寸劇で忘れていた空腹が、猛烈な勢いで蘇ってくる。
サービス。
サービスとは……魅力的な言葉だ。先週買った秋物のセーターで、今月のお小遣い厳しいし。
だが、悪魔の売ってる食べ物なんか口にして、大丈夫だろうか?
「いや、そうね。問題があったらマズイから……私がまず確かめておく。うん、そうよ、それ」
ブツブツとひとしきり呟いて、苺はカボチャ男に向き直る。
「それじゃ、大――じゃなくて、中で」
「分かったホー」
リヤカーの釜を開け、カボチャ男がゴソゴソと火掻き棒を突っ込む。
中から黒いパリパリした塊が取り出されると、甘い香りがひときわ強くなった。
熱さもなんのその、カボチャ男は湯気を吹き上げる塊を新聞紙にくるみ、苺に差し出した。
「中一個、お待ちだホ。本当なら500円は取ってるところだホー」
「わっ、結構大きいのね」
両手で抱えるような大きさの塊を受け取り、苺は目を丸くする。
見たところ、フライドチキンとかの――鳥の腿肉の、1,5倍ぐらいの大きさはあるだろうか。
これで中とは――。大にしなくてよかった。
「食べてみるホ」
「う、うん」
焦げた皮を剥くと、中からしっとりと黄金色に光る、芋の実が現れる。
一口、齧って――
「――――おいっしいっ!?」
信じられないような顔で、苺は言った。
皮の中で蒸し焼きになった芋の果肉。
火傷しそうに熱く、齧ればホクホク、舌の上で転がせば、トロトロになる。
そして、この甘さはどうだろう。
砂糖を使った甘さではない。植物の持つ、天然の甘み。
ほのかで、香り高く、すっきりとして後に残らない。
石焼独特の、焦げたような香りが、味をぐっと引き立たせ、ほのかな甘みを鮮烈なものにしている。
まるでいくら食べても、飽きが来ないよう。
二口目を齧りながら、苺はカボチャ男に、素直な賛辞を送った。
「すごいじゃない。これはお客さんが並ぶわよ」
「ヒホ、そうかホ。そう言われると、なんだか元気が出てきたホー」
上機嫌になったカボチャ男が、もう一個包みを差し出す。
「おまけだホ。オイラこの辺で店を開いてるから、気に入ったらまた来て欲しいホ。あんたなら、
またサービスするホ」
「ありがと! うん、今度はちゃんとお客として来るかも」
笑顔で手を振り、苺は今度こそ背を向ける。
――悪縁これっきり。ちゃんと聞き届けられてるよ。これは得したもん。
そんなふうに、苺は無邪気に思っていた。
まだ、この時は。
「気になる噂を聞いたのですが」
白衣のマッドサイエンティスト、溝呂木鱗がそう言ったのは、会議も終わった放課後の事だった。
10月に入って、はや10日が過ぎていた。パーティーに向けた準備が本格化して、学内は騒がしい空気に包まれている。
生徒会の仕事も、目に見えて増えてきた。
買出しや資材調達といった力仕事から、各係の作業の調整、全体スケジュールの手直しなどの事務まで、仕事はたくさんあった。
今日も当日に用意する照明の件で、プラ研の大月先生をなだめすかし(プラズマ照明など、ハロウィンで使える筈がないのに!)、
生徒会室に引き上げてきた所で、鱗が口を開いたのだった。
「鱗が気になるって言う事は、またお仲魔がらみかにゃ?」
行儀悪く机の上に腰掛けて言うのは、ボブカットの髪型の、ボーイッシュな感じの少女。
笹塚千代。
やはり退魔生徒会の仲間ではあるが、彼女は人間ではない。霊猫の血を持つ、れっきとした悪魔だ。
しかし日頃のだらしない言動を見る限り、そこらのダメ女子高生にしか見えないが。
――モグ
「?……って、千代ちゃん! 下、下見えてる!」
「大丈夫にゃ。ちゃんとスパッツ履いてるにゃ」
「そういう問題じゃないでしょ!」
慌てる苺に、シシシッと悪戯っぽい笑いを向けてから、千代は鱗に視線を戻す。
「で、どうなんだにゃ?」
――モグモグ
「ええ、その可能性が高いです。でなきゃ、僕がこっちに来る理由は無いですから」
黒縁メガネを指で押し上げながら、鱗は壁にもたれかかる。
実は彼は、生徒会の役員ではない。退魔生徒会の仕事では一緒だし、表の生徒会運営でも、実質的に苺たちのブレーンなのだが、
どうも役員を面倒くさがっている節がある。
――モグモグ
「水臭いコト、言わないでください。仲間ナンですから」
そう言うのは、退魔生徒会最後の正規メンバー、件のお調子者、チャーリー・ウェリントン。
アメリカからの交換留学生で、見た目は金髪碧眼のハンサムボーイ、しかしちょっとその人柄に触れれば、その極楽トンボぶりに
幻滅する女子が後を断たなかったという、ひどい男だ。
おまけに、年増好みだし。
「? 今何か、聞こえたような?」
――モグモグ
「っていうか苺、あなたはさっきから何喰ってんですか?」
呆れたような顔で鱗が言った。
「あ、みんなも食べる? 美味しいんだよ、この焼き芋」
そう言う苺の会長席には、焼き芋の包み。
昼休みに抜け出し、まとめ買いしてきたのである。……だって、美味しいし。
「いえ、僕は」と、鱗は目を逸らすが、
「1つ貰いマース!」
「2個貰っとくにゃ。後でオニの兄貴と食べるにゃ」
他のメンバーはわっと群がる。
仲間達を横目に、鱗はどこか含みのあるそぶりで、頬を掻いた。
「……苺、あなた夏休み前に、焼き芋みたいに太りそうなのは気が引けるとか言ってませんでした?」
ゴフッ! と、血を吐くような勢いで、苺はむせた。
『太る』――太る、太る!
その一言が、どれほどの威力を秘めていることか。
電撃魔法(ジオ)でも喰らったみたいに、苺はSHOCK状態に固まった。
「こら鱗、苺のパラノイアを刺激するようなこと言っちゃダメだにゃ!」
「ングング……そうですよ。それにこれ、ホントにオイシイですヨ?」
仲間達の抗議に、鱗は溜息をついてみせた。
「僕の聞いた噂というのが、それと関係ありそうな話なんですがね?」
狐につままれたような顔で、チャーリーと千代が見詰め合う。
「それというと……」
「芋にゃ?」
「ええ。最近学内で、ある焼き芋が流行らしい、と」
デスクの芋に、ちらと視線を投げて、鱗は顎に手をやる。
「秋だし、別に変じゃないにゃ」
「ただ焼き芋が流行ってるだけなら、問題では無いと思いますがね。話題になっているのは、
『特定の焼き芋』らしいですよ」
「特定の?」
「ええ。他のスーパーや自前の焼き芋ではダメで、『その店の焼き芋』でなければ満足できない、とか」
「単に、その店がメチャクチャ美味いだけでは?」
「美味いのは確からしいですが……」
口ごもりながら、鱗は目を伏せる。
「何にゃ?」
「いくら美味いといっても、ダイエットしていた女の子が、我を忘れて貪るなんて事がありますかね?」
「リバウンドってやつにゃ?」
「……その子、保健室に運び込まれた時は半狂乱だったらしいですよ。『食べたいけど食べたくない』って」
異界化でも起きた様に、その場の空気が重くなる。
保険委員の後輩から聞いた話です、と鱗は言った。
なんでもその子の他にも、似たような相談を持ち込む生徒が増えてきているのだとか。
圧倒的に多いのが女子で、ダイエットが失敗しただの、太ってしまっただのといった、美容や健康に関する話がほとんどらしい。
いわく、『我慢しようと思っても、どうしても食べたくなる』。
いわく、『呪われているとしか思えない美味しさ』。
女生徒達からは恐怖を込めて、『悪魔の焼き芋』と呼ばれているらしい。
笑い話のようであるが、中には心を病んで不登校になったり、拒食症になった女生徒もいるとか。
「そして、これが一番、この噂の不気味なところなのですが」
前置きをして、鱗が言う。
「その芋を食べ続けると、10本目辺りから、本当に常軌を逸した太り方をすると言われているのです」
「そりゃ、食べ過ぎれば……」
「確かにサツマイモは高カロリー食品ですが、幾らなんでも、5、6本食べた位で劇的に体型が変わったりはしません。それに太るという事には、
体質からくる個人差があります。計ったように10本目から、というのは、おかしな話なんです」
「それ、実際に太っちゃった人って、いるんデスか?」
「残念ながら、既に2、3人いるらしいです。男子生徒だそうですが……」
「その店ってのは、どこなんだにゃ?」
「深大寺の周囲に出没する屋台、と聞いていますけど」
なんとなく――
特に合図があったわけでは無いのに、その場の全員が、苺を振り返る。
――苺のステータスは、SHOCKから、FREEZEへと悪化していた。
まさに『凍りついたような顔』と言うのが相応しい、軋んだ表情。
大きく剥かれた白目。
瞳孔が縮まって、瞳が点のように浮き出ている。
芋のかけらを口元につけているのが、少し間抜けだった。
「……思い当たる事があるようですね」
「苺、もしかして……?」
やれやれと頭を振る鱗。
パクパクと口だけを動かすチャーリー。
「……食べるの後にしといて、よかったにゃ」
千代の薄情な一言が、やけに大きく、生徒会室に響いた。
以上、二回目の書き込みとなります。
書きかけを含めて、ストック分はこれで全て……次回は当分先になりそうです。
……ムウ、コメディも難しいですね。
善処したいと思います。
189 :
名無しさん@ピンキー:2008/07/01(火) 22:47:58 ID:8dWNR4H6
>>177 別に責めてないって。
ただその妄想で今日だけで4発ヌけたから御馳走様という意味で書いただけだYO。
3発目からきつくなってきたから紅巫女のカラーページのスク水並べたけど。
んじゃ、最後にもう1発ヌいて寝るお。
これが・・・若さか・・・
「コイズミの恋」を読み終えて、
「一緒に宿題やりませんか?」
「私、保健体育が苦手で」
「じゃあ、お願いします!」
と脳内変換したのはナイショだ。
コイズミに手取り足取り腰取り、保健体育を教えこまれるエリス・・・
た、たまらん!
>>156さま。
相変わらずの破壊力・・・ラストバトルではどんなエロが・・・ ?
淫乱というよりおバカなノエル笑えるwww
>>188さま。
コメディ物、難易度高いジャンルだと思いますけど、ぜひ頑張ってくださいませ。
続きは当分先とのことですが、ギャグもHも期待してます !
ではでは、ちょっと間が空きましたが。
柊蓮司が赤羽神社を訪れたのは、アンゼロットが到着する三十分ほど前のことだっ
たらしい。たまたま任務もなく、家族も不在で暇な一日を持て余していたところに、くれ
はからの連絡があったのだ、という。
別段たいそうな用件があったわけではなく、「はわ。ただ呼んでみただけ。どーせ暇
なんでしょ。だったら来なさい」という、考えてみれば随分な呼び出しを喰らったという
わけだ。実際、任務やらなにやらがなければこの柊蓮司という男、いたって無趣味な
上に、時間の有意義な潰しかたというやつにも無頓着である。
自宅のマンションでぼーっとしているよりはマシか、と「ああ、それじゃいまからお前ン
家行くぞ」と、二つ返事をしたというところだった。
赤羽神社へ行く道すがら、くれはから一通のメールが届き、《ついし〜ん。はやくおい
で。いいものみれるかもよ ? 》、と意味深なことを書いてきたのも、実は少し楽しみだっ
たりもする。まあ、あのくれはの言うことだから、と過度な期待はしないものの、それで
もやはり神社へとおもむく足取りは軽く、速くなる。
「待ち合わせよりも、ちょっと早かったかな・・・」
場所は変わって赤羽神社境内。
携帯の時刻表示を見ながら、柊蓮司がつぶやいた。
時刻は午後三時を少し回ったところ。約束の時間が三時半だったので、二十分以上
も早く来てしまったことになる。
正直、しまったな、と思った。二十分の時間の潰し方が思い浮かばないのである。
いまどきの若者らしからぬどこか不器用なこの男は、例えば友達と愚にもつかない
メールのやり取りをするとか、携帯電話に備え付けのゲームで時間を潰すとか、そう
いった発想がない。しばし考え、境内までの石段をもう二、三往復してみればどうだろ
う、とか、暇の潰し方を考えているうちに約束の時間が来ないだろうか、などと、なか
ば真剣に無駄な思考を繰り返している。
さすがにそれはないな・・・とようやく思い至ったのが、十分も経ってからだった、とい
うところが柊蓮司らしい。
「お、随分時間が潰れたじゃんか」
と、会心の笑みを浮かべて機嫌を良くする所も、この男の愛すべき一面であるかも
しれない。ふと思い立ち、境内のあちらこちらをぶらぶらと歩くことにする。
歩いてみると、やはり真っ先に目に付くのは奉納の絵馬。
赤羽神社には参拝客もなかなかに多いので、それだけで一枚の大きな壁が出来上
がってしまうほど。なんとなく微笑ましいものを感じてか、柊がその中の一枚を手に取っ
てみる。合格祈願、恋愛成就、その内容も様々な絵馬の中で、柊が手にしたものには、
《祈・天文部存続 -------- 志宝エリス》
そう書かれていた。
「神頼みか・・・そんなに深刻なのか、今年の天文部は・・・」
思わず呟いた柊の視界の片隅で、小さな影が蠢いたのはそんなときだった。
視線をなにげなくそちらへと。ちょこちょこと、一生懸命にこちらへ向かって走ってくる
のは小さな子供の姿である。思わず口元がほころび、
「ああ、いまでも神社の境内で遊ぶ子供なんているんだなあ・・・」
そうつぶやいた柊の背中に、なんとも言えぬ悪寒のようなものが走った。
(なんか、あの女の子俺に向かって走ってきてねえか ? こっち目指して一直線って感
じだぞ・・・それに、なんというか見覚えもあるし・・・おかしいな、俺、あんなちっちゃな
子に知り合いなんかいねえぞ・・・。でも、見たことある。絶対見たことある・・・。そうい
や、あのくせっ毛、銀髪なんて珍しいな・・・着てる服が輝明学園の制服そっくりだ・・・
ポンチョなんか羽織っちまってまあ・・・)
このときの内心の動きの鈍さを、後に柊蓮司はこう弁解する。
ありえないものや認めたくないものは、人間なかなか認識できないものなんだ、と。
ともあれ、その小さな女の子が至近距離に走り寄ってくるまで、ぼけっと突っ立って
いたというのだから、歴戦の魔剣使いとしてはあまりにも不覚であろう。
あっ、と思ったときにはもう遅かった。柊の手前、ちょうど一メートルのところで、その
少女は全力疾走からの助走つきジャンプを敢行したというわけだ。つまり、柊蓮司の
脇腹めがけて。
「ぶほおっ !? 」
みぞおちのあたりに鈍い衝撃 ---- 解説するならば五歳児の全体重を乗せた体当
たり分の衝撃を受けて、柊はそのまま真後ろにひっくり返った。
「お、おごぉぉぉ・・・な、なにしやがる、こ・・・の・・・ガキ・・・・・・」
仰向けの身体を苦しげに起こしかけ、自分の真上にぴょこんと馬乗りになったその
女の子を叱ってやろうとする。銀色の髪の少女と、見上げた柊の目が合った。
「きゃははは、これだから、ひいらぎれんじはー」
嬉しそうに笑いながら、自分の腹の上でぴょんぴょん飛び跳ねる少女。
そのとき初めて柊蓮司は、
「べ、ベルぅっ !? 」
遅まきながら、そのことに気がついたのであった -------- 。
※※※
「・・・ことの成り行きはわかりました。それで・・・ ? 」
類いまれなる精神力で平静を装いながらも、わたくしは堪忍袋の緒がぷちぷちと切
れる音を聞いたように思いました。柊さんときたら、あれだけベール=ゼファーと事を構
えた経験を持ちながら、どうしてそこまでこの子の接近を許してしまったのでしょう !?
わたくしに言わせれば、この子が視界に飛び込んできた瞬間、月衣からご自分の魔
剣を引き抜いて斬りかかろうとしなかったのが、不思議でなりませんわ !!
「それでって、さっきお前も見たとおりだ。なんか、自分の名前がベルだってこととか、
俺のことが柊蓮司だってことくらいはわかってるみたいなんだが、どうにもそれ以外の
ことがはっきりしねえんだよ。だから、いろいろと聞き出そうと話してみたんだけど・・・
まあ、やっぱこんくらいの子供のいうことは要領を得なくてなー。困ってたところに、お
前が怒鳴り込んできて、待ち合わせてたくれはたちが来て・・・ってなわけだ」
事の重大さがまるでわかっていない太平楽な顔をして、柊さん。
しかも・・・・・・相変わらず大魔王を抱っこしたままで !!
わたくしの心の内などわかっていないのでしょうね、きっと。どれだけわたくしが怒り
に打ち震えているか。ああ、もう。さっきからくれはさんたちまでそわそわしています。
柊さんの腕の中にいるあのぽんこつ魔王を構いたくって仕方がないご様子で。
プチ魔王に向かってひらひらと手を振ってみせて、愛嬌なんか振りまいて。
エリスさんなど、こともあろうに一生懸命ご自分の名前を教えながら、
「エ・リ・ス。エリスだよ ? エリスおねえちゃんって言ってみて ? 」
などと、完全に篭絡されてしまっています。
「はわー、エリスちゃんばっかりずるい〜。あたしは、くれは。く・れ・は。くれはだよ ? 」
ああ・・・・・・頼みの綱が二本とも切れていく・・・。
でも、だからといってここでへこたれてなんかいられません ! 断固とした態度を取る
べきなのは自明の理ですから ! キッ、と三人をしっかりと見据えながら、
「とにかくその子はこちらで引き取ります。もし、ベール=ゼファーの新たな陰謀だとし
たら・・・」
と、シリアスにわたくしがキメているのに、
「はわーーーっ !? ちょっとちょっと、だめだよ、この子連れてっちゃダメーっ !! 」
だの、
「この子なにも悪いことしてないじゃないですか !? 連れてくなんてひどいですっ ! 」
だの、まるでわたくしを鬼か悪魔でも見るかのような目で騒ぎ立てる、くれはさんに
エリスさん。・・・お二人とも、わたくしのことを普段どういう目で見ているんですの・・・ ?
それはそれとして、いくらお二人の頼みでも、これには首を縦に振ることなどできませ
ん。断固として、毅然とした態度で接するべきでしょう。
「お黙りなさい」
氷点下の声色で、わたくしは言い放ちます。
「エミュレイターの、大魔王の姿など、いかようにも取り繕えるものです。いくら愛らしい
姿の女の子だとしても、です。それに、悪いことをしていないとおっしゃいますけど、悪
いことをしでかしてからでは遅い、とは思わないのですか」
くれはさんを、エリスさんを睨みつけながらいつものように理を説くわたくしの前で、
「は、はわ・・・・・・で、でも・・・」
「だからって・・・あの・・・」
みるみるしおらしくなるお二人の様子に、少々胸が痛まないでもありませんでしたけ
ど、ここでわたくしが甘い顔を見せては、この世界に重大な危機をもたらすかもしれな
いのだ・・・・・・ということだけは理解していただきたいんです・・・。
そうそう。ここで一番釘を刺しておかなければいけない方にも、ビシッと言っておかな
ければいけませんね。
「よろしいですわね、柊さん。この子はわたくしが責任を持って連れ帰りますけれど ? 」
反論など許しませんからね、と言外に匂わせて、柊さんを真正面から見据えます。
ところが、柊さんときたら、時々こちらの予想とは違う言動をなさるから気が抜けませ
ん。なかば気負いながら、反対されることを前提で柊さんに言葉を向けたわたしくは、
「ああ、それでいいんじゃねーか ? 俺も半分は、賛成だ」
なんておっしゃる柊さんに、なんだか肩透かしを食らった気分で闘志を削がれてしま
いました。
「ひ、ひーらぎっ !? ちょっとそれ本気で言ってるのっ !? 」
「柊先輩までひどいです ! ひんな小さな子を・・・う、うううっ〜・・・」
お二人の矛先が柊さんへ集中します。
「おう・・・・・・って、くれは、破魔弓しまえっ !! エリスも泣くなってっ ! ・・・ったく、お前ら
最後まで話は聞けよっ !! 」
くれはさんとエリスさんのただならぬ迫力に、柊さんが後ずさります。それにしても、
腹立たしいのは柊さんの腕の中の大魔王。この一触触発の空気をまったく読むことな
く、やたらと楽しそうにきゃっきゃとはしゃいでいるんですから・・・。
「い、いいから聞けっ ! お前らも、冷静に考えてみろよ ? この顔、この格好、俺の名前
が柊蓮司だって知ってて、自分の名前がベール=ゼファーってこともわかってる。たと
え他のことはなにも知らなくても、なにも悪いことはしてなくても、本当にこいつがベル
と無関係だと思うか ? お前ら、本当にそう思うのか ? 」
・・・・・・びっくりですわ。
柊さんのくせに、筋道立てた正論で相手を論破しようとするなんて。
気色ばっていたくれはさんたちも、意外といえば意外すぎる柊さんの変化球に、言葉
をつまらせています。まあ、わたくしさえも驚いたのですから、お二人の胸中はいかばか
りか・・・といったところでしょうね。
「でも・・・・・・でもさぁ・・・ひーらぎぃ・・・」
「柊先輩ぃ・・・・・・」
「あーーっ ! そんな目で見たって、こればっかりはしょうがねーだろ !! こいつが、どうい
う関係かは知らねーけど、あの大魔王ベール=ゼファーとつながってるのはまず間違
いないってことだっ !! 」
言い切る柊さんを恨めしげに見つめるくれはさん。悲しそうな涙目で見つめるエリス
さん。ちょっと意外な思いに打たれて言葉を失っているわたくしのほうをちらりと見て、
「・・・・・・と、ここまでが、アンゼロットに賛成する、俺の半分の意見だ」
・・・・・・ほーら、来ましたよ。あらあら、またいつもの甘ったるい理想論を振りかざして
わたくしのことを困らせる、いつもの柊さんの顔になっているじゃありませんか。
でも、そのことが。そのことのほうがなんだかわたくしには嬉しくて。
「・・・半分、とはどういうことでしょうか」
自然とわたくしは挑戦的に、柊さんに言葉の続きをうながしたのです。
「ほんの十数分かも知れねえが、俺はこいつと一緒に二人きりでいた。だけど、その
間エミュレイターの気配とか、危険な感じとかはまるでなかったことは確かだぜ。だか
ら俺には、こいつがアンゼロットの言うような危険なやつだとは思えねえ」
「・・・ひーらぎ・・・」
「柊先輩っ、そう、そうですよっ」
くれはさんとエリスさんの好感度をしっかりとアップさせておいて、柊さんが続けます。
「直感って言われればそれまでだがな。だから俺は、お前がこいつを連れ帰ってどう
こうしようっていうんなら、それは反対だ」
そこまでいうからにはそれなりの覚悟はおありなのかしら、柊さん ?
「だから、アンゼロット。お前に頼みたいのは、こいつを連れていくにしてもきちんと調
べて、身の潔白を証明してやって欲しいんだ」
「・・・身の潔白を証明、ですか ? つまり本心では、その子が潔白であると、もう柊さん
の中では決定しているんじゃありませんか」
わたくしの皮肉にも動じることなく ---- というか皮肉が通じていないようで。
「ああ。俺はそう信じてるぜ」
力強くそんなことをおっしゃいます。なんて、甘い。毎度のことながらこちらが呆れは
てるほどの甘ちゃんっぷりですわね。こんな柊さんだからこそ、意地悪なことも言いたく
なるというもので。
「それで、もしその子がベール=ゼファーとつながりのあるエミュレイターだとしたら・・・」
それに対する柊さんの返答は、わたくしの予想と一言一句違わぬものでした。
「そん時は、一番最善の方法を、俺たちみんなで考えるんだ ! 」
後ろでくれはさんとエリスさんが何度も何度も、うんうんと頷いています。
はあ・・・・・。柊さんという方は本当に・・・。わたくしの知る、一番有能で、一番扱い
やすくて、一番厄介なウィザードなんですから、もう・・・・・・。
「調べてもらうからには、俺たちもついていくぜ。調査の結果もお前と一緒にきくから、
そのつもりでいろよ。俺たちに黙っておかしなことはすんなよ、絶対に。これが、こいつ
を引き渡す条件だ」
「・・・・な、なんて条件を出すんですの !? そんな勝手な・・・」
激昂するわたくしに、柊さんが溜息混じりに言います。
「引き渡したくても引き渡せねえだろ、これじゃ」
苦笑しながら柊さんが、ご自分の腕の中を目線で示すと。
大魔王の姿をした小さな女の子は、柊さんの胸元にしっかりとしがみつき、親から引
きはがされるのを拒む子供のように、小さく震えているのでした ---- 。
※※※
柊さんに言いくるめられたようで癪なのですが、結局わたくしは言うとおりにせざるを
得なくなってしまいました。
いくらなだめすかしても、コイズミが柊さんの腕からあの子を引き剥がそうとしても、
頑としてそれを受け入れないのです。哀れコイズミなど、手を伸ばした途端に思い切り
指を噛まれ、情けない悲鳴を上げていました。つまり、ロンギヌスの精鋭たるコイズミ
に、“歯で噛むことで”ダメージを与えられる力を持っている、ということです。
このことに柊さんたちが気づいているのか、はたまた気づかないふりをしているのか
はわかりませんけれど、ね・・・・・・。
ともあれ、わたくしたちはわが宮殿へとやってきました。
あれだけ駄々をこねていた大魔王が、
「しょーがねーんだよ。わかってくれ。な ? 俺も一緒に行くから、さ」
と、柊さんが言うと、しぶしぶながらもこくりこくりと頷くのですから余計に腹が立ちま
す。こうして、くれはさんやエリスさんも同行して、宮殿のテラスでお茶を飲みながら、
いまこうして時間をつぶしているというわけです。
ロンギヌスの魔術師たちを総動員しての、あのプチ魔王の調査結果を待つ間。
本日のお茶は、ちょっとひねりはありませんが、フォートナムアンドメイスンのダージ
リンエクストラ。とはいえ、最高級品の茶葉を最高の腕前の給仕が淹れているのです
から、お味の方は格別です。
「そろそろ、ですかしら・・・・・・」
時刻はすでに調査開始から三時間をとうに過ぎ。
柊さんが、紅茶を風情なくガバ飲みして、三つ目のティーポットが空になった頃。
「お待たせしました。アンゼロットさま」
「待ちかねましたよ、コイズミ」
場の緊張感が高まり、コイズミの報告を待ちかねる柊さんたち。誰からともなく、ごく
りと生唾を飲む音が聞こえました。
「えー・・・なんと申し上げていいものやら・・・」
言葉を濁して、ちらりとこちらを見るコイズミ。
「なんですの ? 早くなさい」
「ははっ。それでは・・・調査結果を報告いたします。まず、あの少女の発する魔術波の
波長ですが、我らロンギヌスにおいて観測保管されている、大魔王ベール=ゼファー
の放つ特有の魔術波と、完全に一致しております。つまり、この一点においては、あの
少女はベール=ゼファーと同一存在であることが証明されました」
「同一存在 ---- というよりも、彼女はベール=ゼファーの写し身なのではありません
か ? 」
当然の疑問をわたくしは口にします。魔術波だけを観測するならば同一存在、という
奥歯に物の挟まったような言い方が、どうにも解せません。あの子が大魔王と同一存
在と言われて、緊張に強張った柊さんたちもその点は気にかかったようで、コイズミの
報告をじっと待っています。
「いいえ。あの少女が大魔王の写し身であるとするならば、疑問点がいくつか。まず、
あの通常時と異なる少女態形に関しては、エミュレイターがどのような姿をとろうが論
ずるにはおよびませんので、この際、問題とはしません。ただ、柊様のおっしゃってい
た、柊様と自分のこと以外の認識がない、という点に関しては、なぜベール=ゼファー
が自身の写し身にそのような記憶の操作を施したのか。または、それは単なる事故か
イレギュラーなのか、という疑問が残ります」
「その疑問の答えを後回しにしたとしても、結局あの子はエミュレイターなのではあり
ませんか ? それならば ---- 」
「あ、違います。エミュレイターではありません。あの少女は、エミュレイターではありえ
ませんから、その点は誤解なきようお願いいたします」
・・・・・・・・・。
「「「「 は ? 」」」」
恥ずかしながら、柊さんやくれはさん、エリスさんと一緒にこのわたくしまでもが、コイ
ズミの予想外の報告に、間の抜けた疑問の声を発してしまったのです。
「そ、それってどういう意味なんでしょう、コイズミさん。私、混乱しちゃいそうで・・・わか
りやすく説明してもらえませんか ? 」
おずおずと、教室で教師に質問を求める生徒のように手を挙げるエリスさんに、
「はっ。これからご説明いたしますので、しばしご清聴を願います、エリス様 !! 」
背筋を伸ばしてやたらと張り切って返事をするコイズミ。なんだか、わたくしに対して
よりもずっと敬意を払っているように見えるのは気のせいかしら・・・。
「さまざまな調査や実験の結果をご報告いたしますと、まずあの少女はエミュレイターが
エミュレイターたる所以・・・月匣を展開することができません。加えて、プラーナを吸収
する能力も持っていないのです。かつ、体細胞を摂取・分析した結果、その身体は我々
人間となんら変わりなく、年齢とともにあの姿から人間と同様の成長をおこなうであろう
ということがわかりました」
???????
つ、つまりそれはどういうことですの・・・ ? まさか -------- 。
「かつ、精鋭の夢使いたちによる深層心理調査も含めて端的に申しあげますと、以下
のように言えるかと」
ごくり。思わず四人揃って身を乗り出してしまいます。
「簡潔に申し上げますと、あの少女は ---- 大魔王ベール=ゼファーによって産み出
された写し身でありながらエミュレイターではなく、その身体調査からは人間となんら
変わりないとはいえ、魔力を持っている以上はウィザードである。すなわち、ベール=
ゼファーによって生み出された後、かの固体とは別の独立した自我を持つようになっ
たウィザードの少女である、というのが調査の結論です」
「そ、そんなことがありえるのですか ---- ? 」
おもわず茫然自失と言葉を漏らしてしまい(不覚ですわ ! ) 、その直後にハッ、と気づ
きます。
もしも、ベール=ゼファーの産み出した写し身が、なんらかの不慮の出来事によって
通常の姿からかけ離れた姿を取るはめになり、かつ彼女の制御下から離れるようなこ
とになったとして。仮初めの自我を得た写し身が、大魔王の下から自由になりたい、エ
ミュレイターをやめたい、と願ったとしたら・・・・・・。
それは可能なことでしょうか ?
当初は写し身であった以上、その能力はおそらく大魔王に準ずるもの。
大魔王に準ずる力を持ったものがそんな願いを叶えたい、と思ったら。
“大いなるもの”が、そんな“小さな奇跡”を願ったとしたら・・・。
「・・・ありえないことでは、ありませんわね」
おもわずつぶやいてしまったわたくしの顔を、くれはさんとエリスさんが揃って覗きこ
んで。
「はわわー ! それじゃ、あのコ、エミュレイターじゃないんだねー ! 」
「なにもしませんよね !? なにもしないですよね !? 」
きっと、わたくしは苦虫を噛み潰したような顔をしていたのではないでしょうか。なに
げなく視線を柊さんのほうへ向けると、実に嬉しそうなしてやったりという顔をして。
わたくしもついに、折れることを認めざるを得なかったのです -------- 。
(続)
・・・説明文多くて長く感じたらスイマセン。
相変わらずエッチシーンの到達までは気長に待っていただくことになるかと
思いますが・・・。
では、また。
ぐっじょぶです。
コレはアレか。ロリ魔王ブームか。
いつもGJです。こういう原作っぽい描写のしっかりしてる作品は、
自分的にはかなり好み。Hシーン外もきっちり楽しんでます
そしてアンソロ読んで、コイズミ×エリス普通にいいんじゃね?と思った俺がいる
コイズミって二十歳なんだよな
まぁマスクだから顔見えないだけではずしたら普通に美形の兄ちゃんかもしれんが
FEARの新しいサプリが売ってたので買ってみたが・・・
追加スキルのところ見て吹いちまったぞ、戦艦の装甲版とか大艦巨砲とかw
読参時代にもそんなこと言ってたからまさかと思ったら、流石きくたけ…ネタとしては最高だった
しかも、性別制限がないって言うのがちょびっと恐怖を煽られたぞw
輝く腹筋と盛り上がった胸筋(相応品)
(女性の)輝く腹筋と盛り上がった胸筋(相応品)
胸筋大事だぞ。ないと将来垂れるらしいじゃないか。
208 :
名無しさん@ピンキー:2008/07/03(木) 19:59:46 ID:xw7fJafl
垂れる?ハハハ、なにを言ってるんだ。我らがぽんこつ魔王様には垂れるものなんて無いじゃないか。
>>200 俺、このベル様が貰えるなら、ベル様の落とし子に鞍替えてもいい……。
デコっ娘じゃあかんの?
大艦巨砲→おでこがキラーンと輝く容姿
戦艦の装甲板→つるつると滑らかなおでこの容姿
・・・見た目あんまし変わらないような気もしてきた。
ならむしろ、ふたなr(バチューン
>>210 2nd出すんだろ
遊んでないで仕事しろ、ハッタリ
天羅WARのサプリもそろそろお願いシマス
さっさとマクFの2巻書けよ
>>213 まってー!数日前に出た小説だからソレー!?
もうやめて、ハッタリのHPは0よ!
・・・まあまだLPが削れるか、カオスフレア的に考えて。
LPが0になったら、皇位継承ならぬハッタリ力継承が・・・
【馬鹿は電源ゲームと混ぜてみた】
ご無沙汰しています。
エンディング投下しに来ました。
>>14からの続きです。
/ / /
さて、後日談である。
結局のところ、一連の事件は無事、収まるべきところに収まっていた。
横槍を入れた件の貴族は、神殿の妨害に雇った傭兵の中から魔族が出現するという騎士団の
目撃証言もあり、レントが予見した通り失脚をしている。
クリスの方は遺跡調査の任務を果たせなかったものの、最終的に調査隊が無事であったこと。
またイビルソードを退治した(ガーベラの活躍は諸事情により伏せられた)ことから、最終的に
お咎
めなしとなった。
その後は妻と共に、救出に力を貸してくれた人々へ礼を述べて回ったのは言うまでもない。
クリスは重ね重ねゴウラに頭を下げ、レントやエイプリルの「ガーベラに感謝しろ」という
冷やかしに言葉を詰まらせつつ、いつか借りを返すと約束。
ガーベラは借りていた薔薇の小箱をノエルに返し、ノイエには夫と和解の助力も含め、深く
感謝の礼を述べている。
全ては日常に埋没していくかに思えた――――ただ一つ、小さな余波を残して。
※
それは野バラの咲く、春と雨露の狭間の季節のこと。
夫婦の仲直りから一ヶ月の時が流れ、ガーベラはノエルと共に再び、ディアスロンドにある
ノイエの屋敷を訪れていた。
用件はガーベラの手元に残された魔剣カラドボルグの管理である。
当初から再封印の方針であったが、その場所が魔法の武具を求める皇帝ゼダンの直轄地では
彼や側近の思惑一つで再び、今回のような騒乱の種になる可能性が大きい。
そこでノイエを通じ、ディアスロンドの教皇ヴェラシオ・ハーヴェイに託すことになった。
一ヶ月の時を必要とした背景には、折りしも聖都では年に一度の大祭が近づいており、その
儀式の準備と招かれる各国の使者への応対で、神殿が多忙を極めた為である。
あの時と同じように、屋敷の女主人は庭先で薔薇の手入れをしていた。
朝露に濡れたピンク色の薔薇が、花鋏が振るわれる度に揺れて雫を飛ばす。
「お母さん、着いたよー!」
「お早うございます、ノイエ様」
客人の声に女主人が振り返る。
「いらっしゃい、二人とも」
母にノエルが手を振り、ガーベラは手にしたカラドボルグを掲げて示した。
屋敷に辿り着いた二人を、ノイエは客間へと招き入れる。
椅子を勧めながら、ふと彼女は首を傾げてガーベラをしげしげと見つめた。
視線が頭から爪先まで全身を行き来する。
「なっ、何でしょう? ノイエ様」
居心地の悪い思いで、ぎこちなく微笑むガーベラ。
「……ガーベラ。さては貴女、身ごもりましたね?」
椅子に腰を下ろそうとした二人の動きが硬直した。
「えっ、えっ? えっ! ええええええーーーっ!?」
唐突に発せられた母の言葉の意味が浸透し、ノエルが驚愕の声を上げる。
「ほっ、本当ですか、ガーベラさんっ!?」
ノエルの視線を受けたガーベラに否定の言葉はなく、微かに赤面して俯き、押し黙った表情
が肯定の返事となっていた。
「お母さん凄い! ねぇ、どうして分かったの!?」
「うふふふ、分かりますとも。あのね、ノエル。女は人生で三つの変化をするものなの。恋を
して可愛くなり、結婚を迎えて綺麗になり、そして――――」
視線を娘からガーベラに移し、ノイエが静かに微笑む。
「……命を宿して強くなるの。母親としてね」
ノエルの目にはガーベラは普段と変わりなく、その変化は全く分からない。
しかし、言われると何処となく、雰囲気が落ち着いているようにも感じられる。
改めて母に感心すると、ノエルはガーベラに祝福の言葉を送った。
ぎこちなくガーベラが謝意を返す。
「ねぇ、ノエル。申し訳ないけど、お茶を淹れて来て貰えるかしら? 妊婦さんを働かせる訳
にはいかないし、私はちょっと妊娠中について、ガーベラに話があるから」
快く応じたノエルが扉を閉めて退室する。
足音が遠ざかったことを見計らい、ガーベラが溜め息をついた。
「ノイエ様。先ほどの女性の変化ですが、最後の一つは嘘でしょう。マタニティ・ブルーなる
言葉もあります。むしろ初めて命を宿した女性は、不安に揺れて弱くなる者の方が多い。本当
に強くなるのは、出産を経た女性ではないでしょうか?」
「ご名答よ。ノエルは兎も角、私を含め、歴代の巫女の出産を見てきただけに、ガーベラには
お見通しか……」
あっさりと降参してみせるノイエ。
「本当の所はどうなのです? どうしてお分かりになったのですか?」
「いつもと違い、剣帯をきつく締めていないこと。顔色と肌の様子から体調の不調さ。ほんの
少しお腹を庇うような動作もありましたし、決定打は経験と女の勘ね。
あとね、雰囲気が落ち着き過ぎ。いかにも不安を押し隠している感じがしましたよ」
「……それだけのことで、よく分かりましたね。これは参りました」
今度はガーベラが苦笑して降参を示す。
「もうひとつ当ててみましょうか?」
「……怖いことを仰らないで下さい」
ノイエの言葉にガーベラが表情を引きつらせる。
見ればノイエは微笑んでいるものの、その目は全く笑っていなかった。
「……ガーベラ。貴女、クリスさんには妊娠のこと、まだ言ってないのね?」
絶句するガーベラ。
再び自分の推測が当たり、ノイエが壁に視線を逃がしてそっと溜め息をつく。
続ける言葉はない。
咎めることも追求することもなく、彼女は静かに沈黙を選んだ。
空気に耐え切れず、弁解するように慌ててガーベラが口を開く。
「ノイエ様! あたしは夫に心から感謝しているのです。かつてあの人が言った通り、夫婦の
幸せを知れば知るほど、あたしはこの手にかけた生命と、それに連なる存在から奪ったものの
重さを感じ取れるようになりました。
あたしは今とても幸せです。だからこそ、奪われる怒りと悲しみの耐え難さが理解できる。
我が罪からすれば、罰として今の幸せを奪われても、あたしは文句を言えない立場です。
ですが、あたしは……いざとなれば罪を忘れて、奪われることに抗うでしょう。奪った者に
対して、たやすく復讐鬼と成り果てるでしょう。
こんな罪深い者が、母となるのですよ? あたしは愚かにも、母になる日が来ることは予想
すらしていなかった。幸せの重みは、あたしが犯した罪の重さ。だから、あたしは……!」
饒舌は動揺の証。
珍しい感情を露わにし、ガーベラの肩が震える。
「―――あたしは、母になることが怖いのです。罪まみれのあたしが産む生命は……」
後は言葉にならずに、ガーベラが唇を噛み締める。
母になることの恐怖。
典型的なマタニティブルーのひとつだとノイエは思った。
出産は奇麗事ばかりではない。
自身の胎内に他者が存在する違和感。
育まれる生命が奪取する活力から生じる様々な不調。
内なる生命を守ろうと過敏になる神経に、妊娠の初期症状の代表であるつわりの始まり。
要因は個人それぞれであるが、生真面目なガーベラは自身の背負う罪と直結したのだろう。
「貴女は騎士だけでなく、神官の素質もあるようですね。それとも旦那さまの影響かしら?」
ガーベラは神聖視しすぎているのだ。
まるで初恋に憧れる少女のように、愛が表裏一体に持つ嫉妬や憎しみの存在を知らない。
確かに小さな生命は尊い存在だが、弱いだけでなく立派な欲求の塊でもある。
事あるごとに泣き喚き、排泄物を撒く、危なっかしくてハラハラする生命そのものだ。
でも、だからこそ愛おしい。
弱さは強さと切り離すことが出来ないように。
愛のように独善的で狭量な側面を持つが故に、美しさや優しさもまた成り立つのだから。
「いいですか、ガーベラ?」
視線を合わせながらノイエの口調が改まった。
親しき間柄のものではなく、かつての主従を想起させる厳かな口調。
いや、これは主として従者に向けた言葉ではなく、薔薇の巫女として諭す聖職者のものだ。
「母もまた一日で成る存在ではありません。出産まで時間が掛かるのは、お腹の中で小さな命
を育む為だけではなく、母となる準備期間でもあるのですよ?
それだけ出産は時間と大きな労力を割きます。ましてや、子育ては言うに及びません。
貴女が生命を奪った罪を享受するというのなら、生命を育む苦労を知ることは最大の理解に
繋がるでしょう。もっとも、貴女に罪を犯すことを命じた私が言うのも可笑しいですが」
大小に限らず、生きて過ちや罪を犯さない者など、世界には存在しない。
それこそ生まれたばかりの生命か、己の過ちに気づかない鈍感な心の持ち主かだ。
ノイエ自身は、罪と向き合うことでガーベラの贖罪は完了していると思っている。
背負い続けるものであるのならば、捨てずに歩む以外、他に道が無いではないか。
「忘れないで下さい。貴女が自分を責める罪は、私のものでもあります」
「……いいえ。我が身が背負う罪は、血で手を染めたあたし一人のもの。他の手に分け与える
など、騎士として恥ずべき行為に他なりません」
ガーベラが毅然と答える。
彼女に迷いはない。贖罪の答えは、既に彼女の夫が示したのだから。
「ならば問題はないはずです。生まれてくる無垢な生命に罪など無く、ましてや母の罪を負わ
せる必要もないのであるのならば。
母が我が子に初めてする手助けを……この世界に産んであげることを行いなさい。子の味方
をせぬ母など居りはしません。
たとえ世界中を敵に回しても、母だけは我が子を守るべき存在なのですよ」
かつて我が子の為に神殿の巫女でありながら、神殿と神竜に反旗を翻したノイエである。
体現した者として、その言葉は揺るぎない実感と自信が込められていた。
そしてガーベラは彼女に仕えながら、側で見て手助けをした騎士である。
ノイエの言葉に異論があるはずもなかった。
「もう一度、言います。お産みなさい、ガーベラ。貴女の愛しい人の為に。そして何よりも、
貴女の中に宿っている生命の為に……」
慈しみを込めて微笑むと、ノイエが大事なものを扱うようにそっとガーベラを抱き締めた。
ノイエは改めて気づく。
ガーベラは神竜に創られた存在であり、父母の触れ合いを経験したことがない。
家庭を持たなかった彼女が、夫婦を経て母になるなど、未知の不安に満ちて当然なのだ。
親愛と祝福を込めて、ノイエがガーベラの額にキスをして頭を抱え込む。
「それでは、妊娠の話は聞かなかったことにします。私たちがおめでとうを言うのは、貴女が
旦那さまに報告してからが良いでしょう。本来、夫婦が真っ先に分かち合う喜びを先駆けて、
私がクリスさんに嫉妬されては堪りませんからね」
ガーベラから返事はなく、代わりにノイエの腕に濡れた感触が走った。
震えと共に静かな嗚咽がノイエの胸元から生まれる。
そのままノイエは椅子に腰を下ろすと、震える背中を優しく叩いた。
あたかも心音のように規則正しく緩やかに。
数分後、扉をノックしてティーセットを持ったノエルが戻ってきた。
「お待たせしました……って、あれ?」
見ればガーベラがノイエの膝に頭を預けながら、穏やかな寝息を漏らしている。
それはまるで、母にすがりつく子供のよう。
「きっとね、気を張って眠れない日々が続いていたのでしょう」
場を外した方が良いのかと、躊躇して入り口でウロウロとする実の娘に母が説明をする。
「お母さんになるってことはね、色々と大変なのよ」
意味深に娘へウインクしてみせると、動けない母は眠り姫に掛ける毛布を所望した。
ティーセットを室内に置いて、ノエルが寝室の方へと引き返す。
辺りにお茶の芳香が漂う中、自愛を込めた手が新たな母の頭をゆっくりと撫で続けていた。
※
ガーベラが母親になったとクリスに告げた時、彼の喜びようはお祭り騒ぎであった。
両手で抱きかかえてグルグルと回そうとしたので、お腹が大きくなったら止めて下さいね、
と言うと、途端にうろたえて自重した様が可笑しい。
翌日から、彼女は壊れ物のように丁重に扱われた。
さすがに家事や外出の禁止を夫に請われた際は、時期が早過ぎだと断っている。
夫の口を通じて、友人・知人にもガーベラの妊娠は伝わった。
日毎に皆が祝福に訪れ、夫のように気の早い者からは、玩具や産衣の贈り物が届けられた。
神殿騎士団長ゴウラもまたその一人であり、彼はどちらでも良いよう、わざわざ男女一式の
子供服を送っている。
概ね幸せであったが、不安もまた存在した。
何せガーベラは古代竜ゾハールの造りし人工生命体である。
出産の形が卵だったり、生まれてくる子供が魔族や魔獣のような半人半獣や、ヴィーヴルの
ような人型の竜であっては非常に困る。
考えた末、同じ古代竜である久遠の森のケテルに相談をした。
答えは問題ないとのことである。
特殊な方法ではあるが、古代竜も人との間に子供を成すことができるという。
実際、古代竜“銀の”ケセドには、人間の子供がいるそうだ。
然るに、より人を模した生命体である自分ならば、全く大丈夫だろうと。
古代竜の言葉は、精神的に母胎の安定へと繋がった。
小さな生命を身に宿してから、ガーベラは自分の変化に気づく。
以前よりも、街中ですれ違う母子を目で追っている自分。
過敏になった耳が反射的に拾う、幼子の笑い声と泣き声。
敏感になる嗅覚と、微妙に変化する味覚と食べ物の嗜好。
しばしば起きていたつわりも、五ヶ月目には治まっていた。
反面、胎児の発育と共に母親の腹部が目立ち始める時期でもある。
乳房も乳腺の発達で膨らみを増し、また流産や早産の可能性が生じ始める。
七ヶ月目に入ると、腹部の膨らみはピークになった。
すっかり大きくなった腹部の重みで、支える背骨の負担は辛いものとなる。
ときおり貧血に見舞われ、その度に付き添ってくれているノエル母娘の手を借りた。
体調を気遣った日々の食事。
洗濯を始めとする家事の手伝い。
初産に対する医者の診察と産婆の助言。
ひとつの生命が誕生する際、様々な人の善意と助けを受けることを身を以って体験した。
書物や観察による知識ではなく、自らの時間と血肉による経験として学んだのだ。
その差は近いようでいて限りなく大きい。
騎士は廃業ですね……と漠然とした想いが胸に生まれた。
以前のように剣を振るい、非情に生命を奪うことは難しいだろう。
一瞬のためらいが死に繋がる世界では、命のやり取りが出来ないことは致命傷と言える。
昔の自分であれば、剣を手放すことを反発したに違いない。
でも、今のガーベラならば、引退を自然と受け入れられる。
そのことをクリスに話すと、夫は眩しいものを見るように目を細めた。
我が家の天使は偉大だな。
感慨深く洩らすと、大きくなった妻の腹部に手を当てる。
折り重ねるように妻が温かな手を重ねた。
最近では胎内を蹴る小さな反応も、頻繁に起きるようになっている。
気のせいかピクンと、ためらいがちに返事があったような気がした。
そろそろ陽が落ちてきたな。
クリスが呟くと、ガーベラのやや開いた襟元を正して、肩にショールを掛けて暖かくする。
季節は秋の衣を仕舞い込み、分厚く白い冬の外套を着込んでいる。
今年一年も、残り半月を切ろうとしていた。
――――それは野バラの季節より、八の月と八の日が流れた日のこと。
静かに舞い落ちる雪が、世界をゆっくりと白く積み上げていく。
街中にある小さな家の中で、暖炉の炎が揺らめきながら薪の爆ぜる音を立てている。
聞こえてくるのは、初めて世に声を上げる赤ん坊の泣き声。
その子の隣で額に汗を浮かべるのは、大役を果たし、顔を安堵で綻ばせる母親。
産婦に呼ばれて部屋に入ってきた父親であろう青年が、二人を愛しげに覗き込む。
父親は疲労に汗ばむ妻の額を拭きながら、彼女の健闘を大いに称えねぎらった。
仲睦まじい家族の傍らには、夫婦の共通の友人である少女が付き添っている。
友人の少女は、おもむろに言葉をかけた。
「この子の目鼻立ちはお母さん似ですね。きっと、将来はもの凄い美人さんになりますよ!」
その言葉に母親は夫の手を握りながら――――
「ありがとうございます、ノエル様。でも、この子には人並みの幸せさえ掴んでもらえれば、
それで十分ですから」
感謝の笑顔のままに、そう返した。
温かい表情と言葉に感じ入りながら、ノエルと呼ばれた少女は黙して微笑む。
「ね、あなた……この子の名前、あたしに付けさせて下さいませんか?」
「いいとも。もう、考えてあるのか?」
「ええ、心当たりがあるの。この子の名前は、ね――――」
母親は目を閉じて、一つの名前を口にする。
それは五人の守護者の遺志を継いで、薔薇の武具を創造した古の薔薇の巫女。
最初の“第六の武具”の名前でもある。
人並みの幸せを願うには過ぎた名前だ。
父親に意図を問われ、母親は万感の思いを込めて述べた。
誰かの為の“武具”でなく“人”として歩んで欲しいからだと。
かつて巫女の一振りの剣だった人工生命体。
彼女の古い主が選択し、辿った悲劇の最期。
二重に込められた想いを感じ取り、父親が妻の手を握って頷いた。
古の薔薇の巫女の名前。
それは運命の精霊の王、“銀の輪の女王”アリアンロッドに仕える大精霊と同じでもある。
「――――じゃあ、この子の名前は“ノルン”だ」
よろしくね、ノルンちゃん、と最後の薔薇の巫女が、小さな拳に指を添えて握手をする。
産衣に包まれた小さな生命。
その未発達な瞳が、はっきりと世界を映すのはもう少し先の話だ。
彼女に見せてやりたい。
自分たちが出会った人々、駆け巡った場所、薔薇の巫女と皆が守り抜いたこの世界を。
幼子が目にするだろう、暖かな空気の中で咲き乱れる春の花々。
幼子の頬を吹くだろう、山と海を越えて蒼穹を駆ける夏の快風。
何も季節に限ったことはない。
早朝の鳥の囀り、夕陽で茜色に染まる雲、流れゆく河川の冷たさ、雨音の途切れないリズム、
母の作る料理の匂い、父の肩車から見る高い風景、両親の声で流れるお休み前の絵本の童話、
そしていつの日か、せがまれて話すことになるであろう、父と母が出会った物語を。
人並みの幸せは、夜空の星たちのごとく無数でそれぞれの輝きを放っている。
この新しく小さな手は、どれだけの星を掴むのだろう。
父親は心から我が子の誕生を祝った。
母親は心から我が子の幸せを願った。
二人の笑顔に囲まれて――――
浅くまどろむ小さなノルンの行く末には、無限の愛と未来が待っている。
「アリアンロッド・リプレイ・ルージュ」SS
みっしょん10「ガーベラと薔薇の武具 ――― Gerbera II 」 完
以上、長々とお付き合い頂き、ありがとうございました。
今回でクリスとガーベラを巡る物語は全て終了です。
前作がクリス主体の物語でしたから、今回はガーベラとなり、タイトルも呼応してクリス⇔
ガーベラ、騎士⇔武具となっておりました。
当初タイトルの「薔薇の武具」はカラドボルグの意味でしたが、ラストで「(第六の)武具」
=古の薔薇の巫女=子供の名前となり、母娘の意味で終了できたと、後づけで考えています。
そんな訳でお気づきの通り、ラストは最終巻のプロローグとエンディングのオマージュです。
心から原作リプレイに敬愛と感謝を込めて。
今まで感想を下さった方々、本当にありがとうございました。
==========================================
作成に四苦八苦していて、しばらくスレ空けていたのですが、もの凄い流れですね。
これからログを保存して、ゆっくりと見返してきます。
では、また!
>>224 素晴らしい。ノルンとその両親、彼らを見守る優しき人々が一人残らず
幸せになってもらえるよう願わずにはいられない。
>>224 お疲れ様でしたーっ
・・・ガーベラ、幸せになってくれてよかった・・・クスン
・・・なっ、泣いてなんかないんだから、これは心の汁なんだからっ
イイハナシダナー
うおお、癒される!
クトゥルフによって、減らされたSAN値まで回復しそうだ……!
GJ!
むしろ、クトゥルフの正気度が回復した!GJ!
素晴らしくGJだッ! そして超長編オツカレサマー。
ガーベラの変化していく描写が簡潔かつ丁寧で良い。
ところで関係ないんだが。
雷火とサンプルサマナーの続きはまだかなァッ
>>230 俺も楽しみだが、まだ急かす様な時じゃない。
気長にまとうぜー。
俺も雷火を待ちこがれながら日々を過ごしているぜ
ちょっと遅くなりましたが、
>>224さま。
完結までの長い道のりお疲れ様でした。
クリス&ガーベラ、そして新しく増えた家族に幸多き未来があらんことを・・・。
騎士としては強く、一人の女性としては弱みも持ち、でも愛する男性のために強く
あることができ、宿した命のためにはもっともっと強くなれるガーベラ・・・という変遷は、
ひとつの「成長の物語」としても楽しませていただきました。
もう一度、「ご苦労様」を。
それではこちらも続きの投下を。
アンゼロット宮殿のテラスで、小さな少女への大魔王疑惑が晴れ、その喜びの歓声
をくれはやエリスたちが上げるのと時を同じくして。
話題の少女が、ロンギヌスの女性隊員に手を引かれて柊たちの前に連れてこられ
た。「柊様のところへ連れて行ってあげるから、と言い含めてようやくついてきてくれ
ました」 ---- と、からかっているのか責めているのかわからない物言いで女性隊員
が言うのと、その手を振り払った少女が柊の姿を見つけて駆け出したのはほぼ同時。
「ひいらぎれんじー」
舌足らずな口調で柊の名前を呼びながら、ぽてぽてと走り寄ってくる。
少女 ---- ややこしいので、しばらくの間はプチベルと呼称されることになる ----
が、小さな両手を柊に向けて差し出し、前のめりになりながら走ってくるところを、
「お、オイ、アブねーぞ、走るなよ」
思わず手を差し伸べた柊の危惧どおり、勢い余ってその腕の中に倒れこんできた。
「っ、とと !! あ、アブねーって言ったろ、ったく」
差し出された救いの手に受け止められたプチベルは、周囲に冷や汗をかかせたこと
などお構いなしで、むしろ大きな支えとなってくれるその両腕の中で、きゃっきゃっと
喜びながらころころ転がっている。
「お前なあ、少しは落ち着けよ・・・。まあ、こんな子供に言ってもしょうがねえか・・・」
深い溜息をつく柊に、
「こどもじゃないわよー。しつれいね、ひいらぎれんじー」
拗ねたように言う。そのくせ柊の近くには居たいようで、腰掛けた柊の膝に手を置く
と、「わたしもすわるー」と柊の脚の間に小さな身体を滑り込ませてきた。
「もちあげて。いすになるのよひいらぎれんじ」
一人前の命令口調は、ベルそのものだな・・・と、苦笑しつつも柊が、
「よいしょ・・・っと。これでいいのか、ベル ? 」
軽々と持ち上げて自分の膝の上に座らせてやる。
満足げに鼻を鳴らして柊を椅子に見立てると、背もたれ替わりのその胸に、背中を
預けてきた。
「んふふー。まあまあのすわりごこちね。ほめてあげるわ」
猫のような形の悪戯な瞳を細めると、柊の胸に頭をすりつけてくる。銀色の髪が柊の
胸元でくしゃくしゃ、とかすかな音を立てた。
「ずるい・・・ひーらぎばっかりずるい・・・」
「わ、わたしも、抱っこしたいな・・・」
指をくわえて非難の視線を向けてくるのは言うまでもなく、くれはとエリス。
真っ先にこの五歳児に篭絡された二人組である。
「別にずるくねえっ。なら、くれはも抱っこしてみればいいじゃねえか」
「はわっ、いいの、ひーらぎ !? 」
「あ、わたしも、次、わたしもいいですよね、くれはさんっ !? 」
柊とプチベルを囲むように、くれはとエリスがにじりよる。
くれはが猫撫で声を出しながら手を差し伸べ、
「ベルちゃ〜ん、おいでおいで〜。お姉ちゃんも抱っこしてあげるから〜」
にこにこ笑顔でそう言った。
が ---- 。
「いやよ。わたしはここがいいの」
「は、はわっ !? そ、そんなこと言わないでさぁ〜。こっちおいでよ〜」
プチベルの返事はとりつくしまもなく、くれはがどれほど甘ったるい声で誘っても、「い
やよ」の一点張りである。続いてエリスも、持ち前の優しげな口調で気を引こうとする
のだが、やはりプチベルは柊の膝の上を離れるつもりはないようであった。
二人が、柊を挟んで小さな少女の「抱っこ権」を獲得しようと奮闘を始めて数分。
ついに、エリスが切り札のカードを切った。
「・・・・・・ベルちゃん。マドレーヌ、食べたくない ? 」
「はわわわわっ !? エリスちゃんずるいっ ! それは反則だよっ !? 」
自分では決して持ちえない、強力な最終兵器をエリスに持ち出されたくれはがおろお
ろとする。
「・・・・・・えりすおねーちゃん」
明らかに興味を引かれたプチベルが、柊の膝の上から離れないとはいえ、初めて柊
以外の名前を読んだ。エリスの“お菓子で釣る作戦”は、どうやら功を奏したようである。
「や、やったっ。やりましたよっ。名前覚えてくれました〜」
勝利者の笑顔を浮かべるエリスとは対照的に、くれはがガックリとうなだれた。
大げさな表現ではなく、それこそこの世の終わりでも来たような顔をして、
「うう・・・私も抱っこしたいよ〜・・・」
と涙目になるくれは。その様子をじっ・・・と見ていたプチベルが、ちょっとためらいがち
な小さい声で、
「・・・・・くれは・・・おねーちゃん・・・」
と、くれはを呼ぶ。五歳の女の子でも、自分が不公平なえこひいきをしてしまったこと
ぐらい理解は出来るものだ。さすがに悪いことをした、とでも思ったのであろうか。
控え目ではあったが、きちんとくれはのことも名前で呼んだ。
「はわっ ! うん、そう、そう ! くれはおねーちゃんだよ〜」
手を差し伸べるくれはに、一瞬ためらい、数秒の間もじもじとし、それからプチベルが
柊の顔をを振り仰いだ。まるで、「遊びに出かけてもいい ? 」と親に尋ねる子供のよう
な表情である。
「おう、くれはやエリスんとこにも行ってやってくれ」
柊の言葉にコクン、と小さく頷くと。とてとてとて・・・・・・。
プチベルが、くれはの巫女服の紅い袴の上によじ登り、その膝の上に遠慮がちに腰
掛ける。気まずい思いをくれはにさせてしまったことから学習したのであろうか、その膝
の上からエリスを見上げ、
「まどれーぬ、やくそくよ ? 」
と、きちんとエリスにも、子供ながらもフォローを入れるところがいじらしい。
「もちろんっ。美味しいマドレーヌ、たくさん焼いてあげるからっ。あ、くれはさん。次は
私ですよ〜 ? 」
プチベルを柊からかっさらい、有頂天ではしゃぐ二人。
二人のお姉さんにもみくちゃにされて、恥ずかしそうにプチベルが顔を赤らめている。
そんな三人の少女たちの姿を和やかな目で見つめる柊に、
「こほん。こほん。おっほん」
わざとらしく咳払いをするアンゼロット。眉を八の字にしてそちらを振り返り、
「なんだよ。うるせーな」
柊が悪態をついた。
「う、うるさいとはなんですか、失礼な。柊さん、これからどうするおつもりなんですか」
「どうするってどういうことだ」
怪訝そうな顔の柊に、深々と溜息をつくアンゼロット。本当に柊さんは・・・と口の中で
呟いてから、
「決まっているじゃありませんか。あの子の身の振り方をどうするか。これから考えな
ければならないことは山積みなんですよ ? 」
アンゼロットの言うことももっともである。大魔王ベール=ゼファーの写し身という出
自を持つ以上、プチベルは親類縁者も戸籍もない天涯孤独の身の上なのである。
人並みの教養や常識を身につけるためには学校に通わせてあげることも考えなけ
ればいけないし、調査の結果ではウィザードとしての素質もありそうだから、やはりそ
れはそれで特殊な教育が必要になるであろう。幸い、ベテランのウィザードたちに拾
われたのだから、先達としての心構え等の指導は柊たちに任せるとしても、ウィザード
としての適正も調べ、それなりのケアをしてやらなければいけない。
「とにかく、いま思いつくままに並べてみただけでも、これだけのことを考えなければな
らないんですよ・・・・・・ちょっと、なにをニヤニヤしてるんですの、柊さん ? 」
人が真面目に話しているのに・・・と、アンゼロットが口を尖らせたところに、
「いやー、てっきりベルのこと嫌ってると思ったが、なかなかどうして、あいつのために
いろいろ考えてくれてんじゃねーか」
と、実に楽しそうにからかう柊。
「・・・っ !! な、なにを仰ってるんですのっ。ウィザードの素質を持つ子供が間違った道
を歩むはめになって、その力を悪用することにでもなればわたくしたちの迷惑になるん
ですよっ。そ、そうさせないためにわたくしは・・・」
「わかった、わかった。無理矢理言い訳しなくても・・・」
「い、言い訳じゃありませんっ」
ほのかに顔を赤らめるアンゼロット。始めは大魔王だなんだと言っていたくせに、結
局プチベルの将来を見据えているかのような言動をしてしまったことを柊に指摘され、
さすがに気恥ずかしかったのか。
いつの間にか、この子の存在を許し始めているのも、頑是無い幼子の可愛らしさに
アンゼロット自身がほだされてしまったからなのであろう。
とはいえ、当のプチベルはどうやらアンゼロットのことを嫌っているようなふしがある
のだが。
「と、とにかく、あの子の面倒は柊さんたちにおまかせしますからねっ」
「なんだとっ !? 」
アンゼロットがツン、と横を向いて言い放つと、柊の顔が途端に青ざめた。
面倒を見ろと言われても、イノセントの姉と二人暮らしのところに五歳の女の子など
連れ帰ったりしたら、いくら豪快で適当で、柊同様困った相手は見捨てられないあの
姉・京子であろうとも、
「蓮司・・・あんた、とうとう・・・」
と、犯罪者でも見るような目で弟を凝視するに違いなかった。
「あ、ひーらぎ。それなら私からお母さんに話してみようか ? ベルちゃん、家で預かれ
るかどうか頼んでみるよ」
くれはからの助け舟であった。
くれは本人を見る限りではとてもそうとは思えないが、これでも陰陽師の名家・赤羽
家の長女である。彼女自身、柊と同様に歴戦のウィザードであり、またくれはの実家も
多くのウィザードを擁する家系であった。エリスの面倒を見るのをすんなりと受け入れ
てくれるくらい、くれはの母は懐が深いし、ましてウィザード候補の幼い少女を預かる
事に関しては、むしろ積極的に援助を願い出てもおかしくはない。
「本当か !? もしそうしてくれるなら助かるぜっ。俺も一緒におばさんにお願いするから
さ。くれは、悪りィけど口ぞえしてくれるか ? 」
パンッ、と両手を合わせ拝むような格好で、柊が頭を下げる。
「まっかせなさ〜い。うん、お母さんもオーケーしてくれるはずだよ、絶対」
腰に手を当て胸をドン、と叩く心強いくれはの一言に、
「わ ! それじゃ、ベルちゃんと一緒に暮らせるんですね !? 嬉しい〜」
さっきに増して相好を崩すエリスであった。
「それはグッドアイディアですわ。わたくしとしても、柊さんにお願いするよりはくれはさ
んに預けるほうが断然安心できますものね」
「ぐぬ・・・・・・」
アンゼロットの反撃にぐうの音も出ない柊である。
その一言に、柊を除く一同がさざめくように笑いあったのもわずか ----
アンゼロット宮殿のテラスに響き渡るけたたましいサイレンの音が、団欒の一時を打
ち破った。
「何事ですの !? 」
椅子から立ち上がり、アンゼロットが声を強張らせた。
くれはが抱きしめていたプチベルをエリスに預ける。不穏な空気におののきつつも、
小さな少女を守るため、エリスがその幼い身体をきつく抱きしめた。
誰よりもいち早く、月衣から自身の愛用の魔剣を引き抜いて、臨戦態勢を取る柊。
その直感は、紛うことなき「敵」の襲来を告げている。
宮殿を取り囲む異界の海を一望できる、テラスの周囲の空間が文字通り“ひび割れ
た”。なにもないはずの虚空に黒い亀裂が生じたのは、目の錯覚ではありえない。
ぎしぎしっ、と霜柱を踏みつけたような耳障りな破砕音に続いて、空のひび割れが
ますますその大きさを増し、ついには等身大の虚ろな穴が穿たれる。
「まさかわたくしの宮殿に侵入を・・・・」
緊張に身を引き締めるアンゼロットの前に、すでにいつでも戦える姿勢を取った柊が、
彼女を黒い亀裂の発生源からかばうように立ちはだかった。一泊遅れてロンギヌス・
コイズミが、精鋭部隊を引き連れてテラスへと昇ってくる。
「アンゼロット様、申し訳ありません ! 宮殿内に敵エミュレイターの侵入を許してしまい
ました ! 魔術波の波長から推測される敵エミュレイターは・・・」
コイズミの報告をさえぎるように、アンゼロットが言う。
「うろたえてはいけません。防御結界の修復を急がせ、これ以上の敵勢力の侵入を
回避することに努めなさい ! 宮殿内のロンギヌスは各自の持ち場で己が職務を果た
すように。ここへ着たあなた方には、言うまでもなく死力を尽くしてもらいます ! 」
冷静な司令官の顔をしてコイズミたちに指示を出すアンゼロットは、もはや外見相応
の少女には見えず、すでに“世界の守護者”としての威厳に満ちていた。
「ああ、報告なんざしなくたってわかるぜ。この感じは“あいつ”以外にはありえねえ」
こめかみをつたう汗を拭うことすらせず、背筋を通り抜ける悪寒になぜか懐かしいも
のを覚え、柊が喰いしばった歯の奥から言葉を搾り出す。
アンゼロット宮殿の結界を突き破り、侵入を果たすことのできるエミュレイター。
歴戦のウィザードたちに冷や汗をかかせ、アンゼロットに無類の緊張を強いるもの。
ゆえにそれは、大魔王級以外では決してありえず。
膨大な魔力と、汲めども尽きぬ瘴気を撒き散らしながら現出したるもの ----
「久しぶりにお邪魔するわね、アンゼロット。ご機嫌いかが ? 」
裏界にその名を轟かす美しき蠅の女王。
大魔王ベール=ゼファーが、そこに居た。
※※※
ガッデム !
ああ、なんということでしょう !
よりにもよってこのわたくしの、そのたたずまいからして壮麗なるこの居城に、敵の
侵入を許してしまうとは ! しかも、侵入者があの大魔王ベール=ゼファーですって !?
許せませんわ ! わたくしの臣下にそのようなぼんくらがいるとは思いませんでした
が、みすみすわたくしのテラスまで接近を許したものたちのお給料は、大幅カットです !
・・・・・・まあ、もっともカットするためのお給料自体、支払ってはいませんけどね。
あわわ、失言ですわ。
ともかく、私の信頼するウィザードたちや忠実なるロンギヌスの精鋭たちは、世界の
守護者たるわたくしの身を、大魔王の襲撃から守るために立ち上がったのですわ !
「ベルちゃん・・・怖くない、怖くないからねっ」
「エリスちゃん ! 気をつけてっ ! 」
「くれは ! 俺の後ろにいろよ ! 援護はまかせるからな ! 」
「エリス様、ご心配なく ! このコイズミがお守りいたします ! 」
・・・・・・。
わ、わたくしの名前をどなたも呼ばなかったような気がするのですが !?
コイズミに柊さん ! この騒ぎが収まったら後でお話がありますからね !
そ、それよりも、気を取り直して・・・・・・。
「大魔王ベール=ゼファー。わたくし、貴女をお招きした覚えはありませんが ? 」
不躾な招かれざる客をやんわりと諫めます。まあ、これくらいでひるむ大魔王ではな
いことくらい、わたくしにもわかってはいるのですけれど、牽制の一言をぶつけておくの
も悪くはないでしょう。
「そう邪険にしないで、アンゼロット ? 戦うことが目的で来たんじゃないんだから」
案の定、涼しい顔をして、人を小馬鹿にした態度です。
「もっとも、貴女たちの出方次第ではどうなるかわからないけど ? 」
人差し指を唇に当ててウィンクなんかしてみせて。ああ、なんて芝居がかった嫌味な
仕草でしょう。第一、他人の庭にずかずかと土足で上がりこむだけでも図々しいという
のに、私たちの態度次第では戦うことも辞さないと、暗に言い切れる根拠のない自信
ときたらどうでしょう !
「まず、用件をおっしゃって下さい。わたくしがロンギヌスたちに号令を掛けるかどうか
は、せめてそれから判断して差し上げます」
きっぱりと言い切るわたくしの背後で、幾十、幾百のブルームが陣を連ねる気配。
わたくしが指をひとつ鳴らすだけで、精鋭たちの魔法が、剣が、大魔王に襲い掛か
ることでしょう。
「・・・部下の能力の把握はきちんとしておいた方がいいんじゃない ? 貴女がその指を
鳴らせば、何百人ものロンギヌスが私に攻撃をしかけるって寸法なんでしょうけど・・・
私が指を鳴らせば、その何百人を一息にケシズミに出来るのよ ? 」
うっすらと冷酷な笑みを浮かべて、ベール=ゼファーがテラスに降り立ちます。
その瞬間、後方からばたばたと、鈍い音が幾つかわたくしの耳に届き、思わず宿敵を
目の前にしているにもかかわらず、音のしたほうを振り返ってしまいました。
見れば、コイズミの引き連れたロンギヌスたちの幾人かが床に倒れ伏しているでは
ありませんか !!
「ベール=ゼファー !! わたくしのロンギヌスになにをしたんです !? 」
「え・・・ ? 別になにも・・・ああ・・・私の“気”にあてられたみたいね・・・あんまり脆弱な
人間を側に置くのはどうかと思うわよ ? アンゼロット。ほーら、自分の部下が可愛いな
ら、私の姿を見ているだけで震えちゃってるようなヤツとか、汗だくになってるようなヤ
ツは下がらせた方がいいんじゃない ? 私にその気がなかったとしても、“ベール=ゼ
ファーという現象”に耐えられないような貧弱な連中じゃ、この場に立つのは相応しく
ないもの、ね・・・ ? 」
唇を三日月の形に吊り上げ、嘲笑の言葉を浴びせかけてくる大魔王。
・・・・・・わたくし、たしかに自分の歯噛みする音を聞きましたわ。
「コイズミ」
「はっ、アンゼロット様」
「・・・戦えるものだけ残しなさい。それ以外のものたちは退去。かろうじて動ける面々
は、戦線離脱者を運び、速やかに持ち場へ帰るように」
目礼で答え、わたくしの指示通りにロンギヌスを指揮するコイズミ。仮面を着けてい
てさえ、大魔王を前に部下を下がらせなければいけないその悔しさと、みすみす部下
に被害を出してしまったことへの自責の念が見て取れます。
「・・・さて、と・・・“お片づけ”は済んだのかしら ? 」
「お黙りなさい ! わたくしのロンギヌスたちを侮辱することは許しません ! 」
・・・頭に血が昇ってしまうのを必死でこらえ。それでもわたくしは、声を荒げることだ
けは抑えきることが出来ませんでした。
「・・・ふん。まあ、いいわ。それじゃ、あまり長居するのも悪いから単刀直入に用件だ
け言うけれど・・・その子を引き渡しなさい、アンゼロット」
ベール=ゼファーが指を突きつけたその先には ---- エリスさんにかばわれたプチ
ベルがいます。エリスさんが短い悲鳴を上げ、くれはさんが息を飲み、柊さんが手にし
た魔剣を構え直して ----
「出来ねえ、って言ったらどうする ? 」
わたくしと大魔王の間に壁のように立ちはだかる柊さんの、大きな背中の向こうから
そんな声が聞こえます。あの子を絶対に渡すもんか、という強い意志を秘めた力強い
声。
「柊蓮司・・・。そう言うと思ってはいたけど、それでもあえて聞くわ。どうして“それ”を
かばうのかしら ? 」
「なんだと・・・・・・ ? 」
「だって、そいつは私の写し身なのよ ? そんなヤツをどうして貴方たちが守る必要が
あるっていうのよ」
ベール=ゼファーの問いかけに、後方に控えたくれはさんとエリスさんが、
「違うよっ ! このコはもうエミュレイターじゃないんだよっ ! 私たちと同じウィザードなん
だよっ ! 」
「私たちと同じ・・・人間なんですっ ! 」
反駁の言葉をぶつけます。その言葉に続けるように、
「わかったか、ベル。そういうわけだから俺たちは、お前にあいつを引き渡すわけには
いかねえんだ。俺たちがあいつを守る理由はそれだけで十分なはずだぜ」
しばしにらみ合う二人。先に口を開いたのはベール=ゼファーの方でした。
「・・・・・・もう、とっくにそれのことは調査済みってことね。でも、そうだとしても私の要求
は変わらないわ。それを引き渡すのよ、柊蓮司。しばらく時間を上げるから考えておき
なさい」
きびすを返すベール=ゼファーに、
「何度言われようが、どんだけ時間があろうが、俺たちの答えが変わると思ってんの
か、ベル ? 」
柊さんの真っ直ぐな視線を背中に受けて、大魔王が立ち止まり。最後にもう一度、
「ふん・・・」と鼻を鳴らすと、その姿が虚空の黒々とした亀裂に吸い込まれるようにし
て消えていきました。
その場を支配していた強烈な負の磁場が不意に掻き消え、わたくしの宮殿が平素の
平穏を取り戻し ---- ふとわたくしは、こちらを見つめる視線に気づきます。
プチベルが、エリスさんの腕の中でふるふると震えながら、わたくしの顔を睨みつけ
ています。でもそれは、わたくしへの敵意というよりは、大魔王の襲来によってわたく
しが、ベール=ゼファーの元へ自分を引き渡すのではないか、という不安。
でもその不安を、嫌いなわたくしに悟られるのが嫌なものだから、精一杯目を見開い
て。泣き声なんか上げないように一生懸命唇を噛み締めて。こんな小さな女の子が、
自分の居場所とプライドを守るために、必死で内心の恐怖と戦っているような、そんな
印象をわたくしは受けました。
・・・・・・この時でしょうね。わたくしがこの子のことを見直し、好きになったのは。
わたくしは、その場の全員に高々と宣言します。
「コイズミ。今後予想される敵エミュレイターの襲撃に備え、全ロンギヌス隊員に警戒
態勢を取るように伝えなさい。協力を要請しうるウィザードや傭兵にも声をかけること
を忘れないように。柊さんたちは、もちろんその子を守るために戦っていただきますが
よろしいですわね。もっとも『はい』か『イエス』でしかお答えしていただくことはできませ
んよ ? 」
「今回ばっかりは全面的にはいでもイエスでもなんとでも答えてやらあっ ! 」
握り拳をぐっと突き出し、わたくしに向けて豪快なサムズアップ。いつもこれくらい素直
だと助かりますのに。
「アンゼロット、私ももちろんここで戦うよ」
「あ、足手まといになるかもしれませんが、わたしも置いていただけませんか ? 」
「もちろんくれはさんには期待しています。エリスさんは・・・」
正直、本音のところを言いますと、エリスさんにここにいていただくのはどうかと思う
のです。なんと言っても、いまの彼女はウィザードではないのですから。ですが、もう
ひとつの本音を言いますと、エリスさんをここにおいておくメリットというのも実はありま
して ---- 。
「エリス様、お任せください。貴女たちのことはこの私が身を挺してもお守りいたします」
コイズミがやたらと張り切ってエリスさんにそう言います。
彼女がいることのメリット ---- すなわち、部下の士気が妙に上がること。
こういう部下が、実はコイズミだけに限ったことではない、というのは情けない話なの
ですが真実です。時折、わたくしの暇つぶしのお茶会にちょくちょく顔を見せたり、マド
レーヌを焼いてきてくれたりするエリスさんにファンが多いことも。
一部のロンギヌスの間では親衛隊が結成されていたり、幻のマドレーヌなどという、
ローカルな都市伝説が流布されていることもわたくしは知っています。
エリスさんがここに駐在していることで、彼女に対する護衛を割く必要があることは
デメリットですが、それを差し引いてもあまりある、部下の士気上昇というメリット。
わたくしの脳内計算機がはじき出した答えは、断然メリットの方が大きい、という結論。
ですが、その計算を決して誰にも悟られぬよう、わたくしは優雅に微笑みながら、
「エリスさんは・・・その子にマドレーヌを焼いてあげる約束をされているじゃありません
か ? 」
と、これ以上はないくらい慈愛に満ちた声を出してエリスさんにそう言います。
別に、みなさんに対してわたくしのパブリックイメージを上げてやろうなどと、そんな
浅ましいことは考えていませんよ ?
「そ、それじゃ、わたしここにいても !? あ、ありがとうございます !! 」
「ア、アンゼロット様・・・・・・」
なんですかコイズミ ! その無駄に嬉しそうな顔は ! ああ、もう。他のロンギヌスたちか
らもなんだか“幸せ臭”が漂ってきていますわよ !
「とにかく、その子ともども柊さんたちには専用の個室を用意させます。しばらく寝泊り
をしていただくことになりますが、よろしいですわね ? 」
言い残しておいて、わたくしはわたくしで自分の部屋へと戻ります。
突如として出現した大魔王ベール=ゼファーへの対処を熟考すべく。
そして、彼女のとった不審な言動への、わたくしの感じた違和感をわたくしなりに整理
すべく -------- 。
(続)
プチベルさんはいつ公式パーソナリティに追加されますか?
【聖姫を見るゲボクのような瞳で】
>>242 ゲボク通信緊急別冊
新たなる聖☆姫候補あらわる!
こうですかわかりません!
聖☆蝿姫(セント・フライ)…じゃあアレだから
聖☆飛姫(セント・フライ)かね。発音は一緒で
聖なんちゃら姫の時は☆は付かない
☆が付くのは 超☆ の時だ
つまり、「超☆ぽんこつ姫」ですな。
ところで、ルー様が姫のポジションについて、
「金色の聖水姫」といういかがわしさ全開の名称に
まあ昔から亀がプリンセスモンスターだったり下ネタ全開の属性だよな
ああ、すんません、雷火×武田の続きです。
肝心なこと書き忘れてへこみーorz
では、気を取り直して投下します。
封印から解放された彼女を待っていたのは、絶望だった。
青く透き通った空の中で、彼女は絶望した。
「あ……ああ……」
彼女を待っていた者が、既にそこにはいない事を、彼女は理解してしまった。
遥か空の彼方から見下ろしたそこに、彼女を待っていた者がいる標はなかった。
楔が消え、彼女が解放されたのではなく、標があったという痕跡すら、そこには存在しなかった。
「どうして……どうして……」
彼女を待っていた者が、そこにはいた。そのはずだった。
彼女を待っていて、彼女はそれを助ける為に……救い出す為に……その為に、その為に
だけ、永き時を封じられながらも、想いながら想いながら滅ばずにいられたのに。
そこに、彼女はいなかった。そこには誰も待っていなかった。
孤独から逃れる事が出来たと思ったのに、そこに待っているはずの者はいなかった。
孤独から逃れる事が出来たと思ったのに、そこに待っていたのは孤独だった。
絶望を晴らす事が出来たと思ったのに……そこには、絶望しかなかった。
彼女は最早その絶望が拭えない物である事を、知った。
絶望した者は、その絶望が拭えぬ物である事を知った時、どうするか。
答えは単純だ。その絶望の大元を、絶望をもたらした諸悪を、その根源を滅さんとする。
何もかもを滅しても、絶望だけは消えないという事を知りながら、人は……人ではなくとも、
想うという行為をする生き物は、まだかろうじて想うという事をしていた人でないモノは、何もかもを
その絶望の道連れにしようとしてしまう。
彼女もまた――
「あいつらのせいだ……」
彼女の目の前に、幻が現れた。憎き存在。彼女を、彼女の愛しい者を封じた存在の、幻が。
「あいつらのせいだ……あいつらのせいだ……あいつらのせいだ……あいつらの……!」
狂ったように……いや、最早狂気そのものの笑みを浮かべながら、彼女は呟き始め、
そして、次には叫び始めた。
「あいつらのせいだあいつらのせいだあいつらのあいつらのあいつらのあいつらのあいつ
あいつあいつあいつあいうつあいつあたおあいたいたたいちあつたああがああああああ
あああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
遥か空の上、その叫びは誰の耳にも届く事はない。
だが、その叫びをもしも誰かが聞いていたならば、こう想っただろう。
……なんて、悲しい声だろう、と。
こうして、悲しき獣は野に放たれた。
復讐という名の絶望の拡散を行わんと。
永き時を経て、衰えた力を取り戻そうと、彼女はまず減衰した魔力を取り戻さんとした。
その彼女が目につけたのは、若き、無垢なマナの持ち主が集まる場所。
つまり――学校。
ここまでマスターシーン2です。
続けてミドルフェイズ1です。
「おはよー、服部!」
いつもの通学路。いつもの挨拶。
一週間ぶりのその声に、雷火は張り詰めていた心が少しだけ緩むのを感じた。
「おはよう、武田殿。久しぶりですね」
「おう、久しぶり! 元気だったか?」
「それがしは息災です。武田殿もお元気そうで」
「元気とサモモンくらいしか取り柄ねーからな、オレ!」
「ふふっ……そんな事はないと思いますよ」
微笑を浮かべ、ふと気付く。
自分がこんな風に笑顔を見せるのは、彼に――武田正一対してだけだな、と。
――どうして、なんだろう?
最も近しい人間である祖父にすら、雷火は笑顔を見せた事がなかった。
――どうして、彼と話す時、自分は笑顔を――
「でもさ」
「……え?」
「一週間、一体何してたんだ、服部?」
不意に湧いた疑問は、彼からの疑問に掻き消された。
「ええ……少し、知り合いの仕事の手伝いを」
「知り合いの仕事……?」
「はい。詳細はお話できないのですが、少々手間取ってしまいました」
「へえ、よくわかんねーけど、大変だったんだな」
「ええ……その甲斐はあったと思います」
「そっかー。んじゃ、今日は放課後がっちりサモンバトルしようぜ!」
「そうですね。武田殿がよろしければ」
「よくないわけねーじゃんか。見せてやるぜ、オレの新魔術デッキ!」
彼との会話を楽しんでいると、時間はあっという間に経っていく。
これから待ち受けているであろう戦いの予感すらも、時間の経過と一緒にどこか他所へ
置き去ってしまいそうになる程リラックスしている自分を意識し、
――ああ、自分は気負っていたのだな。
今更ながら、雷火はその事に気付いた。
強く感じた戦い――それも、今まで経験した事のない類いの戦い――の予感に備えよう
とするあまり、固くなっていた自分が、彼との会話で解れていく。
「……ありがとう、武田殿」
自然に、感謝の言葉が雷火の口から漏れた。
「な、なんだよ急に」
「いや……何となく、感謝したくなったので」
「……変なの」
自然体でいられるかどうかは、戦いにおいて勝敗を左右する重要な条件の一つ。
これから先に待つ戦いに、雷火はどうやら自然体で望めそうだった。
笑顔を浮かべたまま、雷火は空を見上げた。
透き通るような青空が、どこまでも果てがなく広がっている、快晴と言うに相応しい空。
雨が降る時には黒雲が一面に広がり、そうでない時には雲一つ無い、極端とも言える、
この地方独特の空の姿は、今日も何も変わりないようだった。
「……武田殿」
しかし、そんな空の下であっても、全てが変わらないわけではない。
自分と彼との関係が変わったように、いい変化ばかりが起こればそれでいい。
だがしかし……変化は良い方に転ぶとばかり限ったものではない。むしろ、変化とは
安定を破壊し、混沌をもたらす悪である場合の方が多い。
きっと、この変わらぬ空の下で、日常を無理矢理変えようとする戦いが起こる。
だから……だから、先の感謝の言葉と同く、雷火の口からは自然に言葉が漏れていた。
「ん?」
「今日は……何か、嫌な予感がします」
「……嫌な、予感? 虫の知らせ、って奴か?」
「はい。ただの予感です。杞憂であればよいのですが……もしも、武田殿の身に何かが
起ころうとした、その時は……」
「そん時は……?」
「それがしを、呼んで下さい……きっと、お役に立てるでしょう」
本来は、口にすべきではない事かもしれない。異常事態の可能性など。
日常を守る為には、日常の中に身を置くものに、異常の可能性を報せるべきではない。
……それは、いわば鉄則のようなものだ。
だが、何故か、雷火は彼にそれを伝える必要を感じた。
――どうして、なんだろう?
再び、一度は掻き消えたはずの疑問が胸に浮かぶ。
――どうして、普段は黙っておくようなことを、彼にだけ――
「……なあ、服部」
だが、やはり疑問は掻き消された。今度は、彼からの疑問ではなく、彼からの怒りで。
「その予感とかいうのがなんだかんだとは聞かねーけどさ……」
彼は、怒っていた。
「何かあった時は自分を呼んでくれって……それじゃ、何かあった時、オレには何も
できないみたいじゃんか」
「え……あ、それは……ですね」
実際に、貴方には何もできないのだとも言えず、雷火はどう言うべきか言葉に詰まった。
奈落の存在と、その圧倒的な一般人に対する優位性を説明するわけにもいかない。自分が
クエスターであり、奈落に対する事のできる唯一の存在だなどと言ってみた所で、一笑に
伏されるか、熱でもないか心配されるかのどちらかだ。
しかし、そういった説明に窮しているという状況以上に、彼を怒らせてしまったという
事実に、雷火は酷く動揺していた。最早彼女の自然体などどこにも無く、ただ戸惑い、
焦り、慌てるだけの少女の姿がそこにはあった。
「……まあ、実際に何かできるかどうかはわかんねーんだけどさ、はははっ」
だが、そんな刹那の戸惑いの間に、彼は既に笑みを取り戻していた。
しかし、その笑みは普段彼が浮かべているような、ただ快活なだけの笑みではなかった。 一月ほど前、雷火と彼の関係が代わる切っ掛けとなった、固さを帯びた笑み。
彼が、悔しいと思っている事を、悲しいと思っている事を、そして今日は怒っている
という事を示す、だが同時に彼の強さも表す、そんな笑みだ。
「それでも、だ」
だが、その自嘲と決意を含んだ笑みすらも、今日は一瞬で消える。
「それでも、何ができるかはやってみなきゃわかんねーんだからさ……お前に何か
あったらさ……オレを呼んでくれよ」」
後に残ったのは、雷火を見つめる真剣な眼差し。
そして、彼は、その眼差しで正面から雷火を見つめながら、言った。
「オレは……お前のこと、大事に思ってるんだからさ」
その言葉と、その眼差しに、雷火は自分の心臓が強く鼓動するのを感じた。
「オレだけじゃねーよ。先生だって、クラスの連中だって、お前の事ちゃんとわかって
きて……今じゃ、クラスメイトとして大事に思ってるんだからな」
続く言葉は、雷火の耳には殆ど入ってきていなかった。
何故その言葉が自分にここまでの衝撃を与えているのか、それすらも考えられず、
雷火は物心ついて以来経験した事の無い、自分の頭が真っ白になるという状況に陥った。
「って……おーい、服部? 聞いてるか?」
「………………」
雷火は、彼の言葉にも応える事なく、ただただぽかんとした表情で、心ここに有らずと
言った様相を呈していた。
「……オレ、何か変なこと言ったっけな……? おーい、服部ー! おーいってばー!」
声をかけても、肩を掴んで揺さぶっても、まるで雷火は反応を返さず……。
結局、雷火が我に返るまで、十分弱の時間を要し、その結果二人は遅刻寸前の時間に
なってようやく学校に辿り着く事となり――その異変に、外から気付く事になった。
ここまで投下です。
乙なんだぜ!
乙!
そして武田少年が男前な件について
武田少年……この齢にして、眩しいほどに男よの!
>255
まさに……此れ即ち、快男児也り!
きっとプレイヤーはクレバー王子だなw
乙。
見える……見えるぞ!
5年後の武田少年が、無自覚フラグ野郎になっている姿が!
五年後……滅びた異世界から逃れてきたオーバーランダーのお姫様とお付きの
女性騎士とかが一人暮らしを始めた武田君の家に居候するんだな!
そんで、雷火は気が気じゃないんだな!
そして俺はバカだな!
そのオーバーランダーはプレイヤー:矢薙な巨大タコと見た!
タコに絡まれて触手プレイ寸前な武田少年を見て、雷火は気が気じゃないんだ!
うん、脳味噌が奈落に犯されるね
うん、怖いよね奈落って。
プレイヤーを考えると雷火が途中どこかでドSになりそうな気がしちゃうぜ
えんどーちんだしw
雷火「武田殿。これを……」(どこからかバンダナを取り出す)
こうですね、分かります。
つまりバンダナボーイズ結成ですねわかります。
雷火はくのいちだからいずれはそういうことも出来るようにならないといけないのかも?
あれだよ、中学生になったら体格差とか声変わりで武田少年を異性として意識してしまう雷火
逆に身体つきの変化に異性を感じて雷火を意識してしまう武田少年
夏休みとかにイベント発生しそうじゃない!
つまり、
武田「今回の雷火はエキストラの相当品でお願いします。
あ、遠藤さんの承諾取ってなかった」
セッション後に
GM「雷火大活躍でしたよ」
雷「そうですか。・・・さすがそれがし」
こうですねわかります。
武田少年のPLはクレバーですね。わかります!
まて、王子がPLだとフラグクラッシュされるぞw
ここは雷火を合鴨女史に任せてですね
ここでこはまーが登場、13歳にして年上のおねーさん役をこなす。
そこはキミくんと天で武田少年の幼馴染み美少女が出ればいいと思うよ!
王子PLだと、「○○○のクラス取ります! だって有利じゃないですか」
とか唐突な設定に目覚めそうで怖いw
ここは一つ、稲葉さんあたりでどうか。武田少年の男前度が倍増すること
間違いなし。
ハッタリにでも、「近所のおねーさんな力の執行者」をやらせておけ。
ついでにこじまめに土下座を。
英魔様には……ごめん、アレはBBNTだった。(お察し下さい
小学生だと、かわたなはないなぁ
中学生からならアリなんだが
武田少年の幼馴染みに男でOはた、女でキミくんで、恋の一方通行を
どうも初めまして。
ここでは始めての投下になります。
ナイトウィザードで、ありそうでない柊×エリスのSS投下させていただきます。
タイトルは【宝玉少女の斬撃舞踏曲】
エロは入る予定ですが、バトル分が多いかも。
基本シリアスで行かせて頂きます。
よろしくお願いします。
刃であれ。
剣であれ。
魔剣の担い手よ。
未来を切り開くための剣となれ。
ただそれだけのために、剣士は存在するのだから。
剣閃が翻る。
瞬くような瞬間、躍る剣閃は四線を越える。
常人にはほぼ同時にしか見えない閃光。
それに手首を返し、プラーナを込め、月衣で空気抵抗をキャンセルし、舞うように振り抜いた斬撃で弾く。音速を超えた斬撃が、剣閃を蹴散らす。
走る、疾る、奔る。
細かく足場を踏み変えて、タップダンスのような踊りを見せながら、瞬きすら許されない斬舞空間にそれは戦っていた。
金属音が鳴り響く。
音よりも迅い、閃光が迸り、それを魔剣が叩き落し、迫る刃を肘打ちで逸らし、纏わりつく処刑の刃を一閃する。
常人には見えぬ高速機動。
残像すらも許さぬ斬撃を振るい、周囲を舞い躍る異形の怪物――エミュレイターと戦う人物。
白いジャケット、手にはフィンガーレスグローブ、険しい目つき、茶髪に染めた髪、どこか不幸そうな雰囲気。
柊蓮司。世界でもっとも有名かもしれない、同時に有数のウィザード、魔剣使い。
「まずぃなっ」
ぼやきを洩らす――それが大気に届くよりも早く、その場から消えた。
次の瞬間、柊の頭部、首、胴体があった場所を切り裂く斬撃。
エアダンス――風の祝福を受ける魔法を用いての高速移動。常人には視認出来ない回避運動。
熟練のウィザードは人体の常識を超える。
存在力を強化するプラーナ、空気抵抗をキャンセルする常識遮断の月衣の加護、速度を強化する魔法の補助。
それらを用いれば音速を超える動きは可能。
銃弾すらも弾き落とすウィザードなど珍しくもない。
ならば、世界でも有数の魔剣使い――神殺しの魔剣を所有する柊蓮司ならばそれ以上の動きは可能。
躱した動作から、柊は周囲を見る。
紅い月匣の空、包囲するように柊を囲むのは無数のエミュレイター。
ただし、見たこともない形状。
例えるならば巨大なハサミ、歪な大鎌を二つ左右に備え付け、真ん中に人形の胴体を付けた異形。
雑魚とは思えぬ強さ。
裏界の魔王よりは弱いが、速度だけならば匹敵する速さ。
「確かに、これなら新人には任せられねえよな」
柊は思い出す。
アンゼロットに拉致されて、命じられた任務。
日本で発生する不可思議猟奇事件の犯人――エミュレイターの仕業だと断定、それを退治するシンプルな任務。
だが、単純めいているが故に、その敵は圧倒的に強い。
熟練の魔剣使いでもなければ、反応すら許せぬほどの戦闘能力。
詠唱している暇などなく、首を落とされるだろう斬撃の数々。
ああ、これは柊にしか任せられないだろう。
数で押すことは可能かも知れぬが、被害は甚大になる。
それならばたった一人の強者をぶつけるのが、もっとも賢い。
「せめて、灯ぐらいは欲しかったけどな!」
知り合いのウィザードの名前を愚痴る、そんな余裕は無いのに。
迫る斬首の斬撃。それを振り上げた魔剣の刃で弾き、同時に地面を踏みつけ、撥ね上げた蹴りがエミュレイターの胴体にめり込む。
ガラスが割れるような音共に砕け散るエミュレイターの胴体。上がる絶叫。
強靭な刃に比べて胴体部分は脆い。ガラスのようだ。
しかし。
「っ!?」
周囲から迫る無数の剣閃。閃光と称してもおかしくない刃の嵐。
プラーナを解放。動体視力と腕の筋力を上昇させる。
見えるだけの剣閃に、大気抵抗をキャンセルされたどこまでも静かな斬撃が激突し、弾き払う。
重なったかのような無数の金属音の合唱。
しかし、十を超える剣閃を叩き落すなど不可能。
迎撃を潜り抜けた刃が柊の肩を切り裂き、或いは太ももから血を迸らせた。
血煙が、斬舞空間を紅く染め上げる。
「っ!?」
痛みが走る。
動きが鈍くなる。その隙を突いて、新たな襲撃。巨大なハサミ、巨大な鎌、それらが輪を広げて飛び掛る。
点と線だけの斬撃の概念に、面という概念を介入させる攻撃。
一撃、ニ撃では消しきれない、刃の群。
「っぅ!!」
アドレナリンの分泌で加速する思考の中で、柊は考える。
打倒方法を。
時間をかければこっちがやられる。
――賭けに出るしかねえ。
悩むのは一刹那。行動するのは一瞬。
足を踏み出す――前へ。刃の群に飛び込む。
『!?』
エミュレイターが戸惑う。
予測外の行動に。
柊はプラーナを注ぎ込む、ありったけのプラーナを左腕に。強化に使う。鉄に迫る硬度を、鋼を超える硬度を、ダイヤモンドの如き硬度を求めて。
振り抜く――生身の握りこんだ左手を。刃の群に叩き込む。
肉が裂ける。血が迸る。
次々と刃が左腕を切り裂き、両断しようと食い込んで――
「魔器」
僅かな一瞬。
骨まで断たれるまでの僅かな隙を、柊は逃がさない。
盾にした左腕の痛み――泣き叫びそうな痛みを無視して、吼える。
「解」
絶叫。
腰を回す、足を踏み出す、絶叫を上げる、音速の壁をぶち抜く、大地が砕ける、魔剣が震える。
「放っっ!!!」
神も、魔王も、決められた運命すらも切り裂いた魔剣がエミュレイターの群を両断した。
その刃は止まらない。
鉄すらも切り裂くエミュレイターの刃、それが砕かれる。
鋼すらも断ち切るエミュレイターの刃、それが切り裂かれる。
ダイヤモンドすらも叩き割るエミュレイターの刃、それが両断される。
一匹、二匹、三匹――無数の異形がただの一撃で砕かれる、死んでいく。
キラキラとガラス細工のようなエミュレイターの刃が、月匣の空に舞う、舞い散る。
ダンッと振り抜かれた魔剣が、地面に刃を突き刺した。
「これで、どうだ!?」
柊が見つめる。
残ったのはたった一匹。
刃が砕かれた残骸、胴体が砕かれた残骸、粉砕された残骸、その中でボロボロの罅割れた刃を抱えた最後のエミュレイターが居た。
刃の砕けたエミュレイターなどもはや敵ではない。
柊自身重傷だが、勝てないほどではない。
「こいよ」
血を流す左腕をぶらさげながら、柊は魔剣を構える。
右手一本、握られる手があれば戦えるのだから。
『キキキキッ!!!?』
刃を震わせて、異様の悲鳴を上げたエミュレイターがバッと翻り、逃げ出した。
「っ、まてこら!!」
追いかけようと足を踏み出した瞬間、不意に空が晴れた。
青い空――異空間である月匣の解除の証。
「逃げられた」
悔しそうに呟きながら、柊は魔剣を展開した月衣の中に仕舞い込む。
異相空間である月衣。
ウィザードの力の恩恵の一つ。
同時に周りを見渡して、誰もいないことを確認する。
休日の昼間だが、運のいいことに誰も見て居なかった。
「問題はこれをどうっすかな」
左腕を見る。
プラーナを注ぎ込んでいるものの、やばいぐらいに血まみれで、傷だらけの左腕。
足と肩の傷も馬鹿には出来ない。しかし、回復魔法が使えない悲しい魔剣使いの身分。
アンゼロットに連絡するのも手だが、どうせ借りを作ることになりそうなので却下。
月衣から取り出したワイヤー(某守護者に落とされた時用に常備)で、肩と足の付け根を縛り、左腕の上腕部も軽く縛る。出血を抑える。
「えーと、まてよ? ここからなら、あそこに近いよな」
エミュレイターの探索任務。
暇ついでに顔を出そうと思っていた場所に、柊はさらに常備してある包帯を左腕に巻きながら歩き出した。
休日の昼。
赤羽神社の境内で、一人の少女が箒を使って境内の掃除していた。
「ふー、今日もいい天気です」
淡い紫色の髪、頭に付けたリボン付のカチューシャ、可愛らしい私服に、愛らしい顔つきの少女。
少女の名は志宝 エリス。
輝明学園の三年生でもある元ウィザードの少女。
宝玉戦争と呼ばれた戦いの果てに、ウィザードとしての力を失った彼女はこの赤羽神社に居候していた。
健気な性格である彼女は誰に言われることもなく、境内の掃除をしていた。
「ずっとこのまま平和だといいのに」
世界は常に危機に晒されている。
その事実を知っているからこそ今の平和が愛おしかった。
「よし、お掃除頑張ります!」
気合を入れて、エリスが再び落ち葉を拾い集める作業を再開しようとした時だった。
「お? エリスじゃねーか」
「え?」
聞き覚えのある声。
どこか懐かしい声に、エリスは顔を上げると。
そこには。
「柊先輩!?」
見慣れた学生服ではない、けれど見忘れるわけがない顔の青年が立っていた。
右手を振って、よぉっと声を掛ける。
「どうしたんですか? いきなり――」
慌てて駆け寄ろうとして、エリスは気付いた。
真っ白い柊の私服、その肩を、足を、左腕を染める紅い色に。
「きゃああああ! 柊先輩!!」
血だ。
血が流れていた。
「……悪い、ちょっとくれはかおばさんを呼んできてくれるか?」
柊の顔に浮かぶのは青白い血相。
左腕を包帯で覆っているものの出血は止まっていない。
プラーナでの応急処置だからこそ、ここまで歩いてこれた。本格的な治療が必要だった。
「あ、あのくれは先輩は今、京都のほうに出張で」
日本における陰陽師のグループによる集会があるのだと、今朝くれはが家を出たばかりだった。
帰ってくるのは早くても明日になると済まなそうに言われている。
そのため、エリスは結界が張ってある赤羽神社の境内から今日は出かけるのを控えるようにといわれたばかりである。
「っ、そうか。やべーな、くれはの治療を期待してたんだけどな」
「と、とにかく。家に入りましょう! 応急セットならありますから!」
そういって、エリスが慌てて柊に肩を貸す。
「お、おい。血で汚れるぞ」
まだ出血は止まっていない。
血まみれの柊に触れれば、どうしょうもなく血に染まる。
それを危惧して、柊は慌ててエリスに言うも、彼女は吼えるように否定した。
「気にしません!」
「そ、そうか」
十代の少女には厳しい男性の重みを肩に感じながらも、エリスは常にない強引さで赤羽家の中へと運んでいった。
赤羽の神社から外れた場所。
境内の外から、ギチギチと音を立てて、彼女達を見つめるボロボロのエミュレイターの姿があることに気付くことなく。
赤羽家の玄関廊下、そこに一人の情けない声を上げる男がいた。
むろん、上げた声の持ち主は柊だった。
「いつつ、やっぱり痛ぇなぁ」
肩の傷に消毒用のアルコールを付けられて、噛み殺すことが出来なかった苦痛の声が上がる。
「当たり前です!」
太ももの傷、左腕の傷に包帯とガーゼを当て終えたエリスは上着を脱いだ柊の肩に包帯を巻きつけていた。
その手は、その裾は柊の血のせいで赤く汚れていたが、彼女は気にすることなく手当てを続ける。
それしか出来ないから。
「こんな大怪我をして……死んじゃったらどうするんですか、柊先輩」
ウィザードですらなく、かつてあった慈愛の宝玉もなくなった彼女には治療魔法は使えない。
ただ消毒をして、止血を行うぐらいしか出来ない。
「悪い。でもな」
仕方ないんだ、と続けようとした柊が不意に言葉を呑み込んだ。
エリスは真摯な目つきで柊を見つめていた。
言い訳は許しません! という目に、柊は少しだけ気圧されて……
「出来るだけ怪我しないようにするから」
と答えた。
「それならよかったです」
エリスが弱々しく微笑む。
柊はきっと無茶をすると知っているから。
けれど、出来るだけ頑張ってくれると答えてくれたのが嬉しくて彼女は微笑んだ。
「あ、柊先輩。お昼は食べました?」
包帯を巻き終わり、立ち上がりながらエリスが柊に尋ねた。
んーっと、柊が首を傾げる。
「ん? あー、そういやアンゼロットに拉致られてから、食ってないな」
ちなみに彼がアンゼロットに拉致されたのはほぼ八時間ぐらい前である。
そこからずっとエミュレイターの追跡をしていた。
なお、拉致された時に紅茶を出されたもが、アンゼロットの紅茶など恐ろしくて柊が手を付けるわけがなかった。
「あ、それなら一緒にお昼を食べますか? 鉄分たっぷりのほうれん草のおひたしとかありますし」
「んー、いいのか? それってエリスの分もあるんだろう?」
くれはとその母親がいないのならば作るのは大体一人分のはずだ。
そして、エリス自体はそんなに大食というわけではない。
おかずはどうしても減ってしまうだろう。
「平気ですよ、分量を増やすぐらいならそんなに手間じゃないですし。やっぱり一人よりも、誰かと食べるほうがいいじゃないですか」
「そうか、そうだな」
任務の都合上、よく一人で弁当などを敵地で食べることも多い柊である。
その寂しさは簡単に想像が付いた。
「それじゃ、少しまってくださいね。すぐ準備しますから」
手の血を洗うためにパタパタとエリスが洗面所に向かう。
その様子を見ながら、柊は不意に月衣を展開した。
「確かポーションは切れてたんだよなぁ」
ポンッと月衣から飛び出たのは小さな手帳のような電子機器。
それを右手で受け止めると、器用にボタンで操作する。
「……まさか使うのを忘れてたヒーリング・プログラムに頼るなんてな」
今は即効性の高いポーションが流通し、需要のなくなった簡易型電子魔導書。
それを起動させながら、柊はゆっくりと目を閉じた。
科学による癒しの魔法陣、それがゆっくりと柊の傷を癒し出す。
痒いようなくすぐったい様な感覚に身を委ねながら、柊の意識はゆっくりと落ちていった――
一旦ここで終了です。
一応上中下の三篇での構成予定ですが、エロは次回から入っていくと思います。
無駄にシリアスですが、今後共よろしくお願いします。
拙い文章ですみません orz
うぁぁぁぁGJ!
くそぅ、俺のツボどつきやがってそんなに楽しいか!楽しいのかっ(錯乱中)!?
……ううぅ、柊普通にカッコよかったし。エリスヒロインだし。
ヒロインが敵に襲われそうなシチュエーション大好物すぎるからもう次回まで全裸待機するしかないじゃないですかぁ……
っつか、柊の0-PHONEスロット付きだっけ?
>>290 あ、補足です。
ヒーリングプログラムは別にスロットなしでも単独で使用できます。(スターダストメモリーズ参照)
ピグマリオンみたいなスロット付だと複数同時に使えるだけですね。
一応今回のはヒーリングプログラム=一つの電子機器(端末付)という演出で使わせていただきました。
>>291 うわ、すみません。スタメモ人に貸したっきり返ってきてないから馬鹿な質問しちまいました
ともあれいいもの見せて頂きました。次回投下を楽しみに待たせていただきます
ヒーリングプログラム、2ndだとなんかえらい微妙なものに収録されてるらしいな。
なんか、文章のフォーマットに見覚えが……気のせいか
エリスもの来てる !
NW好きで書いてるSSもメインなだけに、とても嬉しい !
柊を叱るエリス・・・
すごくツボなんですがーっ !?
それではこちらも・・・で、続きでございます。
執務室へと戻ったアンゼロットは、ロンギヌスにお気に入りのティーセットとお茶請け
だけ用意させると、すぐさま退出を命じて一人きりになった。
ほんの思いつきで出かけていった赤羽神社。そこから怒涛の如く展開した現在の状
況を整理するためには、あの騒がしい混乱の渦中から一時身を引かなければいけな
かったのである。もっとも、かくいう自分自身も喧騒の一因であることの自覚が、アン
ゼロットにあったかどうかは定かではないのだが。
とにもかくにも ---- 。
白い湯気を立てるティーカップを前にして、アンゼロットは思考を開始した。
その姿は、永遠の真理に想いを馳せる叡智の女神のごとく明晰で ---- といったら
少々褒めすぎであろうか。
いや、あの大魔王ベール=ゼファーの襲来と一連の彼女の挙動に感じた違和感を、
解明しようと沈思黙考するその姿は、たしかに見るものの息を止めるほどの美しさと
可憐さに満ちている。こういう姿をもっとロンギヌスたちや柊蓮司に見せれば、アンゼ
ロットの評価はおそらく四割増しぐらいにはなるはずなのだが・・・。
「 -------- どうも腑に落ちませんね」
カップの紅茶が冷めるまで微動だにしなかったアンゼロットが、ひとり呟いた。
彼女が直面したのは、あの場にいた誰もが気づいて当然の疑問。
しかし、それでいて気にするものさえ気にしなければ、おざなりにされてしまう類いの
わずかな違和感であった。
すなわち、“大魔王がプチベルを取り戻しにきたのはなぜなのか”。
もっというならば、そのことでベール=ゼファーにどんなメリットがあるのだろうか、と
いうことでもある。
ロンギヌスの調査では、あの少女はこの世に生み出された段階では大魔王の写し
身であったことが判明している。しかし、エミュレイターとしての特徴 ---- プラーナの
吸収能力や月匣の展開能力 ---- がないことも間違いのない事実である。
ウィザードであるロンギヌス・コイズミの身体に、噛み付くことで“傷を与え”たという
事象から類推するに、プチベル自身もウィザードであるか、またはウィザードとしての
資質をそのうちに眠らせた存在であることも、疑うべくもない。
すなわち、ロンギヌスの調査チームが出した結論とは、プチベルが『大魔王の写し身
という出自を持ったウィザードの少女』というものである。
そんなことがありえるのかという自問自答には、当のアンゼロット自身が答えを出し
た。写し身として生み出された直後、プチベルがなんらかの事故で、主体である大魔
王とは別の、小さな自我を持ったと仮定する。そして大魔王に従属することをよしとせ
ず、自らの意志でベール=ゼファーの束縛から逃れようとした。
大魔王の写し身であったなら、その力もベール=ゼファーに準ずるものであろう。
ゆえに、そんな ---- 写し身が魔王に離反するという ---- 奇跡も可能にすることが
出来たのだ。
“大いなるもの”と呼ばれる失われた古代神の一柱が行使する“小さな奇跡”。
それならば、一見不可能にさえ見える離れ業を、可能に出来るのではないだろうか。
これが、アンゼロットの類推した『プチベル誕生秘話』である。
だが、それならば。
エミュレイターではなくなってしまった写し身を、わざわざ取り戻しに来たベール=ゼ
ファーの真意はどこにあるのだろうか。敵地の真っ只中であるアンゼロット宮殿に、単
身乗り込んでくるだけの理由 ---- 言い換えればそれだけのメリットがなければなら
ないはずだ。いや、それとも“取り戻さないこと”で生じるデメリットを回避するためか。
「うーん・・・うーん・・・」
しまいには腕組みをしながら唸りだすほどに、アンゼロットは考えこんでいた。
堂々巡りである。
考えれば考えるほどに様々な可能性が頭をよぎる。
(自分の元を離反した写し身を始末しにきた・・・ ? )
プチベルがアンゼロットの庇護下にある現在、単身乗り込んできてまで実行するよう
なことではない。ほとぼりが冷めた頃にでも裏界から忍んで来て抹殺すればいいだけ
のことである。第一、わざわざ彼女自身が出向いてくるほどのことではあるまい。
それこそ、配下の魔王にでもやらせればいい仕事である。
出自が大魔王の写し身とはいえ、プチベルはただのウィザードの少女にすぎない。
まったくの想定外で、この世界に一人のウィザードを誕生させてしまったとはいえ、
そんなものをいちいち始末をしていたらきりがないだろう。
-------- プチベルが、ただのウィザードに過ぎない限りにおいては。
ここに思い至って、アンゼロットは思考の速度を速める。
あの子がただのウィザードなら、大魔王が自分の足で出向いてくることはない。
そうするだけの価値がある以上は、ただのウィザードではないのだ。
他のウィザードとの相違点がどこにあるか、明確な答えを出すには材料が足りなさ
過ぎるが、それがベール=ゼファーの行動を促すだけの価値があるものであるという
ことならば、それはやはり徹底して調査するべきであろう。
もしかしたら、裏界最強クラスのエミュレイターに痛烈な一打を与える最大の機会な
のかもしれないからだ。
「・・・もう少し、あの子のことを調査する必要がありますね」
呟きながら、彼女は暗澹たる気持ちになる。
(こんなことを切り出したら、柊さんはへそを曲げるに違いありませんね・・・。それに、
くれはさんも・・・エリスさんなんて、泣かせてしまうことになったらどうしましょうか・・・)
アンゼロットは、懊悩する。
懊悩と決断の人 ---- 彼女はまさしくそういう人だった。
アンゼロットを冷酷だ、と評するウィザードも決して少なくはない。
それは、彼女が“世界の守護者”であるということに起因して、アンゼロットという少女
の、ある一面のみをクローズアップした評価とも言える。
彼女は、現実の問題として世界に崩壊の危機が迫るとき、それを回避する手段として
しばしば人命という犠牲をも厭わない手段を選択することを迷わない。
それを評して、あるものは言う。
アンゼロットは冷酷な女だ、と。
だが、そうではない。表面上は見えにくいが、彼女の本質として、「慈愛」や「優しさ」
が、その根底にあるのは間違いのない事実である。ただ、それはひどく他人にはわか
りづらいだけなのだ。
アンゼロットは“世界の守護者”だ。世界を、つまりはこのファー・ジ・アースを、ひい
てはそこに住み、生きる人々すべてを愛している。また、世界に捧げる愛なくしては、
“世界の守護者”たりえないであろう。
それでも、世界の危機に直面したとき、非情な選択と決断のときはいやがうえにも
訪れる。この世界を救うために、幾千万、幾十億の生命を救うために、たったひとつの
命を切り捨てなければならないときがある。
そんなとき、アンゼロットは懊悩する。懊悩の末、決断をする。
いわく、「世界のために一人の人間を見殺しにする」。
その、切り捨てる決断をし、配下のものたちにそれを命ずる姿を評して、冷酷な女だ
と言われることになるのだった。
しかし、その決断をするとき、アンゼロットがどれだけ悩んでいるのかを知るものはい
ない。どれだけ胸をかきむしられる思いに囚われているのかを知るものはいない。
まして、人目につかないところで、アンゼロットがそっと涙を拭いた姿など見たものな
ど、居りはしない。
誰かを殺す決断をするということは、自分を殺す決断をするということだ。
気の遠くなる歳月の間、アンゼロットがどれだけ無垢の命と同時に己の命を殺し続け
てきたのか、彼女はそんな素振りをおくびにも出したことはない。
それでも、人は言う。
アンゼロットは、あれだけ無慈悲に命を切り捨てるではないか、と。
だが、それは彼女の苦悩を知らぬものの言うことだ。
アンゼロットが、実は慈愛と優しさの人だ ---- と知っていれば、その評価は真逆に
なる。彼女はその優しさゆえに、無慈悲に見られることを選んでいるのだ。
冷酷に“振舞わなければ”、無慈悲な決断を下すことが出来ない。
無慈悲な決断を下すためには、アンゼロットは自分が冷酷だと“思わなければ”、そ
うすることができないのだ。それは、逆説的に、彼女の優しさの証明でもある。
逆に言えば、さも申し訳なさそうな顔をして、「本当にすみませんが、世界のために
貴方の命が必要なんです」と、苦渋に満ちた顔で言うほうが、自分を誤魔化すには楽
であろう。
だが、アンゼロットは決然と、冷酷な判断をする。それは、己の罪を自覚しているから
こその非難の甘受なのである。
「・・・んっ。悩んでいても仕方ありませんわね。みなさんになにを言われても、わたくし
は ---- 」
わたくしのなすべきことをするのみですから。
アンゼロットが、そう思い定めたとき。
執務室の扉をノックする音がした。
「・・・? どなたですか ? 」
不審がるアンゼロットの誰何の声に、反応はない。ただ、控えめ・・・というか弱々し
いノックの音が繰り返されるのみである。
「誰か、と聞いているんです」
少し厳しい声で、再度の確認。わずかな沈黙があって、おずおずといった風な調子で
聞こえてきたのは、
「・・・・・・わたし。ここあけて・・・」
「ベルちゃ・・・・・・い、いえ、コホン、ベルさんですか ? 」
くれはたちの呼び方につられそうになって、慌てて言い直すアンゼロット。
「・・・そうよ。ここ、あけて」
なんというか。気まずそうな、恥ずかしそうな。そんな声。口調は横柄だが、声のトー
ンは随分としおらしかった。
「・・・鍵は掛けていません。どうぞ、お入りなさい」
「・・・・・・もん」
「はい ? 」
「・・・っ、とどかないんだもんっ ! 」
一瞬呆気に取られ、次いで吹き出してしまうアンゼロット。プチベルの言い方が、悔
しそうで、負けん気の強さがにじみ出ていて、それでいてなんだか泣き出しそうで可
愛くて。
「あらあら。しょうのない子ですね」
笑いを含みながら、席を立って扉に歩み寄っていく。ドアノブに手をかけて手前に引く
と、見下ろした視線の先にプチベルが立っている。
両手を後ろに回し、うつむき加減で。ちょっと涙目なのが可笑しくて。廊下に敷き詰め
られた絨毯の床をふてくされたように蹴り続けているさまは、完全に拗ねた子供の仕種
である。
「・・・どうなさったんです、こんなところにお一人で。柊さんたちと一緒ではなかったので
すか ? 」
「・・・おれい、いいなさいっ、て」
「え ? 」
「わたしのこと、いろいろかんがえてくれり、まもってくれようとしてるからって。だから、
わたしのためにしてくれるひとにはおれいをいうんだよ、ってひいらぎれんじがいった」
「柊さんがそんなことを ? 」
たしかに、生まれたばかりの赤子のような存在であるプチベルに、常識とかそういう
ものを教えてやらなければいけない、とその必要性を柊に説いたのは自分である。
しかし、まさかさっそく、こんな形で教育を始めているなんて・・・ウィザードの先達と
して ---- というよりは、まるでこの子のお父さんのようではないですか ---- そんな
ことを考えながら、微笑ましさについつい笑みを漏らしてしまうアンゼロット。
「・・・だ、だから、ひいらぎれんじがいったからきたのっ。いちおー、おれいしとくわっ。
・・・・・・・・・ありがと・・・あんぜろっとおねーちゃん」
顔を真っ赤にしてぺこりと頭を下げると、物凄い勢いで顔を上げ、プイッと横を向いて
しまう。呆気に取られて一連のプチベルの言動を見ていたアンゼロットが、ますますそ
の微笑みを深くして。
「・・・どういたしまして。せっかくですから、お茶でもいかがですか ? エリスさんのマド
レーヌほどではありませんが、美味しいお菓子もあることですし」
ぴょこん、と顔を上げるプチベル。「お菓子」という単語に反応したものか、内心の嬉
しさを隠すような、それでもやっぱり隠しきれていない微妙な表情で。
「しょ、しょーがないわねっ。およばれしてあげるっ」
えへん、とふんぞり返るその様も、いまやアンゼロットの目には可愛く映る。
「ようこそ、おいでくださいました」
笑いながらおどけて言うと、扉に手を掛けてプチベルをエスコート。
(そうですわね。少しくらいこんな時間を持たせてあげても、いいですわよね)
この程度のことが贖罪になりえないのは十分承知している。
しかし、後々行われるはずの綿密な調査の末、この少女を害さなければならなくなっ
たとしたら ---- せめて楽しい一時をいくらかでも感じさせてあげたいと思ったとしても、
それをアンゼロットの偽善と責めるのは酷であろう。
執務室の中央のテーブルに、もうひとつ椅子を用意してやり、アンゼロットにしては
珍しく、
「はい、お座りください、お嬢さん ? 」
わざわざ椅子を引いてやる。
椅子の手すりに手を掛けて、プチベルがよじよじと這い上がり、四苦八苦しながら腰
かけた。「ぷぅーっ」と一仕事終えて息をついて、
「て、ぐらいかしなさいよね」
と、アンゼロットに文句を言う。
「あら、わたくしとしたことが気がつきませんで。お詫びに美味しい紅茶とお菓子をすぐ
に用意いたしますわね ? 」
いそいそと、新しいティーカップを用意する。ちょうどよかったですわ、と内心ホッとす
るアンゼロット。いま、執務室に用意されているのは、お子様にも美味しくいただける、
甘い甘いホットミルクティー。しかも、お茶請けは動物の形のビスケット。
はじめは、随分子供じみたお茶とお菓子を用意したものだ、と呆れたが、結果的には
これで良かったのである。
お茶をティーカップに注ぐ。ビスケットを小皿に取り分ける。
そんな作業に夢中になっているアンゼロットは -------- 。
気づかなかったのである。
自分を見つめるプチベルの瞳の色に。
その口元に浮かんだかすかな笑みに。
「・・・・・・甘いわね、アンゼロット」
「えっ・・・・・・ !? 」
顔を上げた瞬間、アンゼロットは己の不覚を悟った。
突如として、執務室の床一面に赤色の魔方陣が展開し、アンゼロットの足はにかわ
で貼り付けたように床から動かすことが出来なくなった。足だけではない。腕も、手も
自由を失い、紅茶の入ったティーポットが大きな音を立てて転がり落ちる。
「まさか・・・ベルさん・・・い・・・いえ・・・大魔王・・・」
「ご名答よ、アンゼロット -------- 」
五歳の少女は、年老りた魔女の瞳でアンゼロットを凝視した -------- 。
※※※
「アンゼロット・・・貴女、この子がなんであるか調査したのよね ? 調査の結果から、ど
んな結論を貴女が導き出したのか、当ててみせましょうか ? 」
もはや口調も声音も大魔王ベール=ゼファーと化したプチベルが、嘲るようにそう言
うと、アンゼロットはその嘲笑を跳ね返すように睨み返した。直立不動の姿勢を強制さ
れて身動きひとつ出来ないが、幸い首から上は多少の自由が利く。見聞きし、話すこ
とぐらいは許されているようだった。
「出来るものなら当ててごらんなさい」
敗北感に打ちのめされそうになりながらも強がるアンゼロットに、ふふん、と鼻を鳴ら
したプチベル ---- 大魔王ベール=ゼファーがきっぱりと言い放つ。
「ずばり ---- エミュレイターであることを自らの意志でやめた私の写し身 ---- って
ところじゃないの ? 貴女たちの考えそうなことっていったら」
「くっ・・・・・・・」
まったくの図星。そう言われることの予想はしていたとはいえ、実際に当てられてし
まうとやはり悔しいものである。
たしかにアンゼロットの類推は、自我を持った写し身が大魔王を離反して人間のウィ
ザードとなった、というものである。大魔王は顔を仰け反らせて哄笑しつつ、
「この私がそんなことを許すと思っているの ? 馬鹿馬鹿しい。もし、それが事実なら、
この子は生まれた次の瞬間に滅ぼされているわ。私自身の手で、ね」
そう言った。
「それでは・・・それではその子はなにものだというのです・・・」
敵に教えを乞うのは癪だったが、好奇心のほうがそれに勝った。
「なにものって・・・ほとんど貴女の考えたので正解よ、実を言うとね。だけど、ただ違う
ところは、この子が生まれたのを望んだのはこの子ではなく・・・この子がこうあるよう
にって“小さな奇跡”を願ったのは、この私自身だということ」
「なん・・・ですって・・・ ? 」
「だ・か・ら。この子を生み出したのは私自身なの。ただ、願った奇跡の内容は ---- 」
「 ---- いつでも私が意識を乗っ取ることの出来る、私の元・写し身。エミュレイターで
あることをやめさせたのは私自身だけど、これって、貴女を狙う刺客としては適任だと
は思わない ? アンゼロット」
頭を重たい鈍器で殴られたような衝撃があった。ベール=ゼファーの狙いは、始め
からわたくしだったということですの ---- !? 敵の策略に見事に引っかかってしまった
という慙愧の念。
「私の写し身を素材として使ったのは、柊蓮司たちに興味を持たせるため。幼い姿を
取らせたのはあの甘ちゃんたちを油断させるため。ただのウィザードの意識を乗っ取
こともできるけど、それじゃいつまでたってもこの宮殿にはたどり着けないものね」
事実、ベール=ゼファーの言うとおりである。
プチベルが大魔王に瓜二つだという理由で懐中に呼び込んでしまったのはアンゼ
ロット自身だし、幼子の愛らしい姿を散々見せ付けられて、当初の疑念をほぼ完全に
捨ててしまったのも、アンゼロットなのであった。
甘いのはわたくしも同じ ---- ぎりっ、とアンゼロットが歯を食いしばる。
しかし ----
「もうひとつだけ・・・教えてください・・・さきほど貴女が単身乗り込んできた・・・その理
由を・・・わざわざわたくしたちの前に現れたのは・・・なぜです・・・ ? 」
くふふふっ。
大魔王が目を細めて笑う。
「私が乗り込んできた後、貴女はこう考えなかった ? 大魔王自身が乗り込んでくるか
らには、この子にはなにか秘密があるはずだって。私が引き渡せと要求するのに相応
しい力でも持っているんじゃないかって。それとも、この子を手元に置いておかないと、
私にとってなにか不都合があるんじゃないかって」
すべて。すべてその通りであった。まるで自分の思考をトレースしたかのような、流
れるような大魔王の饒舌に、アンゼロットは言葉もない。
「もうひとつの目的を果たすためにはね、私自身がここへ姿を見せる必要があったの
よ。これを見なさい、アンゼロット」
そう言って取り出したのは、魔法のコンパクト。
ベール=ゼファー愛用の品である。
コンパクトをアンゼロットに向けて床に置く。大魔王特製コンパクトは、魔力を供給す
ることで大きさを自在に変えられるらしく、みるみる巨大化して鏡の面は大画面のテレ
ビ並みの大きさまでになった。
「な・・・なんてこと・・・」
絶句するアンゼロットの瞳に映った光景。
それは、アンゼロット宮殿の画像を映し出していた。だが、その周囲の様子は・・・・
宮殿を取り巻く異界の空に、不吉な黒影が舞っている。
エミュレイター !
その数は百や二百ではきかない。様々な姿をした数千体のエミュレイターが、アンゼ
ロット宮殿を包囲し、その包囲網を狭めているのである。
「貴女が考えるようなことを考える輩が、裏界にも大勢いるのよ。私がアンゼロットの
ところへ単身乗り込むくらいだから、この子にはなにか秘密があるんじゃないのか、な
んてね。だから私、裏界中に偽の情報を流させたの」
愉しくてたまらない、という風に笑って、
「離反した大魔王ベール=ゼファーの写し身は、“本体の”核の一部を誤って受け継い
でしまった。それを取り戻すために、大魔王自らアンゼロット宮殿に乗り込んだ、って」
言葉の意味を吟味し始めて数瞬。アンゼロットがその意味するところに気がついて、
愕然とする。裏界の勢力は決して一枚岩ではない。“金色の魔王”ルー=サイファーが
退いたいまは、裏界帝国もかつての統率の基盤を失っている。魔王同士が、自身の
勢力拡大のため、相争うこともあるという。
そんな中で、ベール=ゼファーの偽情報に踊らされるエミュレイターや魔王たちも、
少なからず存在するはずだった。
つまり、ベール=ゼファーの勢力を削ぐためにプチベルを狙って、エミュレイターたち
が大挙してここアンゼロット宮殿を陥落せしめようと攻め込んでくる ---- 。
「あっははは ! 気がついたみたいね、アンゼロット ! 私の今回のゲームはね、先だって
の『宝玉戦争』のときの意趣返しよ ! あのときの貴女、裏界への侵攻作戦を企てていた
わよね ? だから、今回は私が貴女のところへ侵攻をしかけてやったのよ ! 」
「が、ガッデム・・・・なんという・・・こと・・・でしょう・・・」
なんという暴挙を許してしまったのか。自分の失策のせいがほとんどではないか。
後悔と絶望が、アンゼロットの胸の内を塗りつぶしていく。
「自分の手を煩わせるまでなく、アンゼロット宮殿侵攻軍が勝手に出来上がってくれ
たし、これで私に敵対する魔王たちの所在も知ることが出来た。おまけに、貴女の喉
元のこんなに奥深くまで入り込むことまで成功したわ。一石二鳥、いえ三鳥の成果だ
とは思わない ? アンゼロット」
五歳児の小さな身体を震わせて、大魔王が哄笑する。
いまごろは、コイズミを始めとするロンギヌスたちや、柊蓮司たちもエミュレイターの
大軍への対応で死力を尽くした戦いを強いられることになっていることだろう。
この戦い・・・・・・勝てないのだろうか・・・ ?
絶望に打ちひしがれそうになる心を、無理矢理奮い立たせて顔を上げる。
ここでわたくしが諦めてはいけない ---- その想いだけがアンゼロットの武器であっ
た。気丈にも自分を睨みつけてくるアンゼロットに、ベール=ゼファーが舌打ちをする。
ゆっくりと歩き、距離を詰め。
アンゼロットが、瞳を閉じた。
(ここでわたくしが大魔王に斃されることになっても・・・柊さん・・・くれはさん・・・なんと
してでも世界のこと、頼みますよ・・・コイズミ・・・あとの指揮は貴方に任せます・・・)
静謐な表情をするアンゼロットに、ベール=ゼファーは邪悪な微笑を浮かべる。
「馬鹿じゃないの ? 貴女、自分が世界のための殉教者にでもなったつもり ? 第一、
誰が貴女を殺すって言ったのかしら ? 」
吐き捨てるように言いながら、ベール=ゼファーが小さな身をかがめて床にしゃがみ
こんだ。幼子の小さな手がつかみあげたものは ---- アンゼロットの黒いドレスの裾
である。
びりっ、びりびり、びびびーーーーーっ !!
文字通りの布を裂く音に、アンゼロットが驚愕する。
「な、なにをするのですか、ベール=ゼファー !? 」
瞬く間に切り裂かれたドレスのスカートの隙間が、裾から腰元までを一息にあらわに
し、アンゼロットの足首からふくらはぎ、そして膝から臍の辺りまで、その真っ白い陶磁
器のようなすべらかな肌を露出させる。
下着は ---- 微細なレースの刺繍も美しい、漆黒のシルク地。
「ただ殺すなんて無粋な真似、私がするはずないじゃない ? むしろ、愉しませてあげる
んだから感謝しなさいよね、アンゼロット ? 」
幼児の顔で舌なめずりをしながら、大魔王が淫靡に微笑む。
アンゼロットが --------- 。
次の瞬間、魂の底からの悲鳴を上げた ------ 。
(続)
(Hシーンは以降でございます・・・)
なんという陵辱展開
これは目が離せませんな
>>303 プチベル可愛いですねーと思っていたら、騙された orz
ほ、ほのぼのだと信じていたのにw!
まさかのアンゼロット陵辱。柊が助けに来てくれることを祈りつつ、次回を楽しみにしてます!
と、こんな時間ですが、宝玉少女の斬撃舞踏曲 中篇を投下させていただきます。
ある意味いちゃいちゃしてます(まて)
あと少しグロテスク描写もありますので、注意です。
幾多の魔王を斬り殺し。
幾多の運命を変革し。
幾多の神を殺した。
語る必要は無い。
されど、憶えられるべきだ。
ただ独りの夜闇の魔法使い。
その手に持つ魔剣の歴史は、その担い手の命を。
憶えるべきである。
「せん……ぱい……」
虚ろな感覚。
声が聞こえるような気がした。
「ん?」
揺さぶられる感覚に、ぼんやりと柊が目を開く。
開かれた視界、そこに居たのは心配そうな顔をしたエリスの顔。
「柊先輩。お昼ごはんが出来ましたけど、食べれますか?」
心配そうに見下ろしたエリスの視線、そこにあったのは包帯で覆われた左腕。
勢いで食事に誘ったものの、食欲はあるのだろうかとエリスは心配する。
しかし、柊は軽く首を振った。
「あー、大丈夫だ。腹も減ってるし、エリスの料理だからな。食いっぱぐれるほうが拙い」
そういって柊は笑みを浮かべる。
多少血色は悪いが、しっかりとした笑み。
寝る前に起動しておいたヒーリング・プログラムは既に動作を完了させ、自壊していた。
内部の傷はともかく、表面的な傷はほぼ塞がっている。
失った血液は食べればなんとかなるし、深い傷は改めて帰ってきたくれはに頼むなり、時間をかけてプラーナで再生させればいいだろう。
よっこらしょっと言いながら、右手で立ち上がる。
「あ、柊先輩。手を貸しますよ」
「大丈夫だって、この程度の傷ぐらい日常茶飯事だ」
いつかの異世界の時は複数回に渡って死に掛けた経験もある男である。
深手を負った状態で無理をするのは慣れているともいえた……激しく間違っているような気もするが。
「いやー、エリスの飯も久しぶりだから楽しみだなー」
立ち上がった最初こそよろよろしていたが、柊は切り裂かれた足を少し引きずりながら食卓に向かう。
「……」
その後ろで、少しだけ寂しそうに見つめているエリスの表情に気付くことなく……
テーブルの上に並べられたおかず。
それはカツオブシの乗ったほうれん草のおひたし、よく味の染み込んだ肉じゃが、しっかりと出汁を取ったワカメの味噌汁、赤羽家の自家製たくわん。
立派な和食のレパートリーだった。
「おー、美味そうだ」
割り箸を持って、イスに座った柊が目を輝かせる。
見るからに美味そうである。
これを目にして食欲が出ないか? 出ないわけがない! 日本人ならば感涙を流して、喰らい付くべき品々の数々。
半ば半泣きになりながら感動している柊に、エリスはクスクスと微笑む。
「ご飯は三合炊きましたから、一杯食べてくださいね」
嬉しそうにエリスが告げる。その手には赤羽家に居候が決まった時に記念に買った綺麗な漆塗りの箸。
実際自分が作った料理に喜んでもらえるのは作った本人としては最大級の賛辞である。
それも彼女自身が――恋焦がれる相手ならばなおさらだった。
「悪いなっ」
柊とエリスが両手を合わす。といっても、柊は左腕が使えないから片手だけだったが、一応ポーズは取る。
「いっただきまーす」
「はい、頂きます」
命の糧となる食物に感謝の祈り。
ただの作法と化している、けれどその心だけは残された言葉。
それを唱えて、二人は箸を伸ばした。
「ん、美味い!」
まず柊が口にしたのは肉じゃがだった。
ほかほかと温かいジャガイモを熱々といいながらも、美味そうに頬張る。
「けっこう味が染み込んでるなぁ、ナイスだ、エリス」
「そ、そうですか?」
「おお。美味しい肉じゃがといえば、良き主婦の条件だからな。いい嫁さんになれるぜ」
「え、えええ!?」
まったく意識の欠片もなく、ポロッと柊の口から飛び出た言葉にエリスが声を上げる。
言葉の内容自体、昔から伝わるポピュラーなものだが、エリスが恋する柊の口から出ればなにやら特別な呪文のように聞こえた。
「いや、エリスってさ。料理も美味いし、気も利くし、俺が言うのも説得力ねえけど。美人じゃねえか。うん、いい嫁さんになれるぜ、絶対」
「ほ、本当ですか!?」
ドシンとテーブルを叩き、思わず身を乗り出すエリス。
そんなエリスに面を喰らったように柊が目を瞬かせる。
「いや、こんなことで嘘付く必要ねーぞ?」
戸惑ったように柊が言い訳のような言葉を吐き出した。
実際彼には他意がまったくない。
ただ心のままに思った言葉を吐き出すだけだ。
それが柊の長所でもあるのだが、いささか自分の発言の意味に気付いていない点がある。
否、どちらかというと大したことがないと過小評価しているのだろう。
彼は好意に酷く鈍感なのだから。
そんな柊の態度に、エリスは我に帰ったのか顔を真っ赤にしつつ、乗り出した体勢を元に戻す。
「そ、そうですよね」
舞い上がる気持ちを自重しつつ、エリスが誤魔化すように口にたくあんを放り込む。
ポリポリと音を立てて食べる姿がとても小動物を思わせた。
「?」
不思議そうに柊は首を捻りつつも味噌汁を啜り、たくあんを口に放り込む。
丁度いい塩辛さがご飯ととても合う……のだが。
「今気が付いた」
「なんですか?」
「片手だと飯が食いにくいな」
日本人の主食である米。
それが入っているのは茶碗。茶碗を食べるには一般的に左手で茶碗を持ち、右手の箸で摘んで食べる。
そう、左手で支えるという動作がある。
しかし、柊は左手が使えない。
どんぶりならその重みでなんとかなるが、茶碗だと摘もうとすると動いてしまう。
普段は楽々食べれるご飯が激しく難しいものに思えてくる。
「く、この!」
なんとか右手で食べようとするのだが、箸でご飯を動かした途端に、茶碗がガタガタと動いて乱暴に出来ない。
なんというか魔王よりも難敵な相手だと柊は思った。
――彼に斬り殺された幾多の魔王が草葉の陰で泣きそうな気がするが。
「柊先輩っ」
「え、あ、ん?」
不意にエリスの手が伸びる。
その手はしっかりと柊の茶碗を押さえていた。
「私が押さえてますから、どうぞ」
「あ、いいのか?」
「私は急ぐほどお腹空いてませんから」
あーんと差し出す勇気もないですから……と続くはずの言葉はごにょごにょとエリスの口元で生涯を終える。
柊の耳には届かない。
「じゃあ、言葉に甘えて」
少しは気恥ずかしいものの、まあいいかと柊は解決し、エリスが押さえてくれた茶碗からご飯を摘む。
口に放り込み、すぐさま肉じゃがを口に放り込む。もぐもぐとよく噛んだ。
「うめ〜!」
ダバッと柊の両目から涙が零れた。
漢泣きだった。それぐらい美味かった。
一品一品ずつのおかずも素晴らしい。
けれど、ご飯と一緒に合わせて食べた味は格別だ。
日本人にしか分からない、しかし日本人なら分かるこの味!
まさしく感動。ワンダフル。
「幸せだー」
もぐもぐとエリスの手を借りてご飯を食べて、おかずを摘んで、味噌汁を啜る。
至福の時だった。
「一杯食べてくださいね、柊先輩」
エリスの微笑みに見守られながら、柊はガツガツとおかずとご飯に手を伸ばす。
微笑ましい光景だった。
「ふー喰った喰った。相変わらず美味かったぜ、エリス」
「そう言ってくれると嬉しいです」
綺麗におかずの皿から、お釜の中まで空にして満腹といった表情の柊がエリスの入れてくれた緑茶を片手にずずーと茶を啜る。
だらしなく顔を緩めて幸せそうにお茶を飲む柊に、エリスは嬉しそうに笑みを浮かべながらカチャカチャと音を立てて食器を片付ける。
キッチンの洗い場に置いた事前に水を張った桶の中に食器を漬け込んで、エリスは手馴れた作業で汚れの少ないものから洗い出した。
「そういえば、柊先輩」
「ん?」
エリスは食器を洗いながら、気になっていたことを訊ねる。
「先輩、怪我をしてましたけど。もしかしなくてもエミュレイターと戦っていたんですよね?」
「ああ」
柊が一旦茶を啜る手を止めて、エリスの背中に目を向ける。
「じゃあ、お仕事は終わったんですか?」
「いや、まだだ」
「え?」
カチャリと洗っていた手を止めて、エリスが振り返る。
「一匹、傷は負わせたけど逃がした奴がいる。もうちょっと休んだら、すぐにでも追うつもりだ」
「そんな!? 無茶ですよ、そんな怪我で!」
あの傷を直視し、手当てをしたエリスは分かっている。
柊の怪我が決して軽いものではないことを。
熟練の治療術士――ヒーラーがいれば別だろうが、薬と包帯を巻きつけ、簡易型の治療魔導書であるヒーリング・プログラムだけで到底癒しきれるような怪我ではないのだ。
「アンゼロットさんに連絡して、ロンギヌスの方でも呼ぶべきじゃ――」
「ロンギヌスだと派遣されるまで時間が掛かりすぎるし、正直言うと今回のエミュレイターは下手するとロンギヌスでもやばいかもしれねえんだ」
「え?」
「コイズミかOOクラスでもないと、犠牲が増える可能性が高い。相手が瀕死の重傷だからって、油断は出来ねえ」
だから、俺がやると柊は静かに告げた。
自分の力量を正しく評価し、自分の義務を認識しているが故に言える言葉。
どこまでも柊らしい言葉。
それにエリスは――逆らうなんてことが出来るわけがなかった。
「怪我を……しないでくださいね」
「ああ。気をつける」
約束は守ると柊が笑う。
にっこりと少年のような笑み。あの激動の一ヶ月、何度となくエリスに向けてくれた笑みだった。
「すぐに行くんですか?」
「いや、喰ったばっかしだし、大体30分ぐらいしたら出るな」
食事した内容が胃の中に残ったまま、内臓にダメージを受ければ胃炎などを起こす可能性もある。
そうでなくとも喰ったばかりで動くのは動作に支障が出るものだ。
これは常識を無効化するウィザードであっても例外ではない。
「なら、鳥居まで送りますね」
それぐらいしか出来ませんけど、とエリスは心の中で付け足す。
彼女は今この瞬間ほどウィザードの力を失ったことを悔やんだことはなかった。
手助けをしたい人、共にありたいと思う男性、それについていけない力の無さに嘆いた。
くれはや灯、チハヤにマユリ、ナイトメアなど、彼女が良く知るウィザードたちと同じだけの力があれば堂々と一緒にいきますと言えるだろう。
けれど、今の彼女はただ事情を知るだけの力のない人間――イノセントに過ぎない。
イノセントにはウィザードにやってやれることなど殆どない。
休む場所を提供したり、食事を作ってあげたり、そんな当たり前のことしか出来ないのだから。
「ああ、ありがとな」
けれど、柊は気にしない。
いや、気付きもしない。
イノセントだとかウィザードだとか、それ以前に個人しか見てないから、彼はそんなことを考えもしない。
それ自体は素晴らしい美徳。けれど、だからこそ――柊はエリスの葛藤を気付けない。知りえない。
どこかすれ違った心のまま、柊とエリスは最後になるかもしれない30分の時を過ごした。
30分後、柊は赤羽家の玄関のガラス戸を開いていた。
「それじゃ、またな。エリス」
「はい、気をつけてくださいね。柊先輩」
どこか影を帯びた笑顔。
それにどこか腑に落ちない感覚を抱きながらも、柊は石畳の上を歩きながら鳥居へと向かう。
その少し後ろを、エリスが見送るために歩いている。
柊の足が鳥居の前に辿り着く。そこで、彼は振り返った。
「エリス。一応大丈夫だとは思うが、今日はあまり家から出るなよ。出来るだけ早く退治するけどよ、追い詰められたエミュレイターが何をするかわからねえから」
そう柊が告げるのには複数の理由があった。
一つはかつてシャイマールの転生体であり、その中のシャイマールの力が失われたとはいえ、彼女の力が失なわれていることを知らない魔王がいるかもしれない。
二つ目は柊やくれは、アンゼロットなどの有数のウィザードとの親交があることで人質に取られる可能性。
三つ目は――ウィザードでなくなったとはいえ、その身に保有するプラーナはウィザードに順ずる量を秘めているからだ。
プラーナが高い人間はエミュレイターに狙われやすい。
追い詰められ、傷ついたエミュレイターならなおさらに自己修復を兼ねて血眼で襲ってくるかもしれない。それを柊は危惧していた。
「はい」
自分の想いを押し込めて、エリスは真剣な眼差しで頷く。
対抗するための力がない彼女は自分の分を弁えていた。力がないのは悔しい、けれどそれで迷惑をかけたくないから。
「まああの傷でここの結界を突破するのは無理だと思うけどよ」
薄く笑いながら、柊が鳥居から足を踏み出し――
不意に何かが割れる音がした。
そう、それはきっと――世界が割れる音。歪む音。壊れる音。
視界が赤く染まる。
月光の光が、見えた。
「なっ!?」
「え?」
空を見上げる。
そこには紅い月が昇っていた。
「月匣――エリスッ!?」
魔剣を引き抜きながら、柊が振り返る。
振り返った先に見えたのは呆然としたエリスの顔と――空から降り注ぐ何か。
駆け出そうとした柊と立ち尽くすエリスの間に突き刺さったのは無数の――刃。
「なっ、に!?」
それは歪んだ刃。ボコボコに膨れ上がった歪な刀身たち。
ハサミの刃のようであり、大鎌のようであり、刀の刀身のようであり、剣の刃のようであり、斧の刃のようなものでもある。
しかし、その形状はどうだろう。まるで高密度に写生した刀身の絵に、水をたらして歪めてしまったような歪さ。
辛うじて刃物だと分かるだけの、奇怪なオブジェ。明らかに常識的な物体では無い。
だが、それを見て柊には感じるものが、思い当たるものがあった。
「まさか、あのエミュレイター!?」
つい先ほど討伐し損ねた生き残り?
その仕業か?
けれどどうやって赤羽神社の結界を破った?
――疑問は複数ある。
けれど、行動は一つ。
「エリス、そこを動くな!」
右手にプラーナを供給し、音速に迫る速度で魔剣を抜刀――刀身たちを打ち砕く。
歪な悲鳴にも似た金属音。きらめく刀身たちの輝き。
それらに目もくれず、柊は蹴散らした刀身たちを駆け抜けて、エリスを護るために駆け出して――
「っ、先輩っ!!」
血飛沫が舞った。
「あっ?」
駆け出そうとして――吹き飛んでいた。
その胸から血を噴出して、投げ飛ばされたかのように宙を舞っていた。
ベシャリとどこか湿った音と共に柊の体が石畳に叩き付けられて――ゴブリと口から錆び臭い喀血を吐き出して、ようやく柊は自分が何をされたのか気付いた。
斬られた。
それも柊が反応すら出来ない速度で、ぶった切られたのだ。
「ぅそ、だろ……」
自惚れているわけではないが、柊は自分をそれなりに実力のあるウィザードだと自覚している。
事実、彼が反応出来なかった攻撃など魔王すらも単独で斬殺せしめる女たらし騎士の剣や、裏界を支配する金色の魔王の魔法、世界を守護し観察していた神の写し身の力ぐらいしかいない。
機関銃の弾丸すらも戦闘体勢であれば切り捌くことも可能な柊が反応も出来ない斬撃。
それはどれだけの速さなのだろうか。
「柊せんぱぃいいっ!!」
全身に纏ったプラーナによる防護がなければおそらく胴体が輪切りにされていただろう。
攻撃力はまだ並だが、速度がやばすぎた。
次から反応できるか、自信はない。
エリスの絶叫を聞きながら、必死に柊は頭を巡らせる。
姿すらも捉えられない、化け物とどう戦うか。どうエリスを守り抜くか。どう――生き延びるか。
「これしかねえ、か」
ボソリと吐き出す喀血に紛れて、言葉を告げる。
体内を巡る存在の力であるプラーナを一点に、目に、全身に張り巡らせた神経に集中させる。
傍目からは紅い輝きを帯びたように見えるだろう光景。
「エリス、そこを動くなよ!」
下手に動けば狙われる。
今の敵の狙いは柊だ。ならば、その狙いを引き付けたままにする。
「は、はいっ!」
倒れ伏しながら、柊が叫ぶ。返事をするエリス。
瞬間、ザザザという擦れるような音が僅かに聞こえた。
きやがったな、という呟きは噛み殺し、柊は右手に握りしめた魔剣の感触を確かめながら言霊を紡いだ。
「風よ」
音が早まる。
全身の本能が危機を告げる。
「舞い踊れ――≪エア・ダンス≫!!」
風が踊る。
風の吹かぬ月匣の空に風が踊り出す。
瞬間、柊の姿が掻き消えた。風に乗り、常識を超えた速度で移動したが故に消えたように見えた。
その次の刹那、地面に残された血溜まりが金属音と共に弾け飛ぶ。
「そこかっ!」
瞬間、倒れ伏していた場所から数メートル離れた場所で柊がブレーキを掛けながら立っていた。
その目ははっきりと弾け飛ぶ血溜まりを見つめ、そこに通り過ぎたモノを睨んでいた。
再びキキキという擦れる音、視界の中を駆け抜ける捉えきれない影。
一瞬でも目を閉じれば、次に開いた時には首が胴体から離れていてもおかしくない。それほどの速度で駆け抜ける影は柊に迫り――
斬舞。
乱撃。
撃音。
金属音がけたたましく鳴り響き、虚空で火花が散った。
何度剣を振るったのか、常人はもちろん、下手なウィザードでは視認することすら許されない超音速の剣戟。
互いに常識を無効化するウィザードとエミュレイター。
ただ音だけが鳴り響く、大気は揺るがない。それがなおさらに不気味だった。
「おぉおおお!」
肘から先が掻き消えたような速度で魔剣を振るいながら、柊は血を流し、足を踏み込む。
速度を、威力を、力を、さらに乗せる。使えない左手の分も、その動きを持って補う。
出なければ勝てない。
強化人間に匹敵するほど動体視力と神経の伝達速度を強化しても、まだ彼の目には襲い来る斬撃の軌道しか見えないのだから。
事実、互角にやりあっているように見えて、彼は押されている。
半分は視認して叩き落し、残り半分はほぼカンで切り払っていた。
当然捌ききれない斬撃は彼の服を切り裂き、肌を散らし、肉をこそぎ落とす。
踊り、斬り合い、踏み出し、捌き、繰り出す。
人知を超えた光景。
紅い月の下、血臭の舞う世界の中で、悲鳴のような金属音が鳴り響く。
「せん……っ!」
それを見つめながら、エリスはただ祈るのみ。
彼女が恋する人物が勝利することを祈るしか出来ないから。声をかけることも許されない領域に踏み込む柊をただ見つめるだけしか出来ない。
もし柊が敗れれば、彼女の命は無いだろう。
エミュレイターに抵抗する力は彼女にはなく、近くに存在する輝明学園の生徒及び教師が気付くかもしれないが、この敵に対抗出来るだけの力があるものが何人いるか。
柊は気付いているのか。
エリスの命を彼が背負っているということに。
いや、気付いている。
だからこそ必死になる。足掻くのだ。“大切な仲間を護るという意思で”。
数百にも、数千にも至ろうとする剣戟の追走曲。
そこにまた一つ湿った音のラメンタービレが一つ。
「っ」
右手が浅く斬られる。
飛び散る血、走る痛み、そして“喪失感”。
僅かに手から力が抜ける、だが間髪いれずにプラーナを供給、一刹那の隙もなく速度を保つ。
だが、柊は気付いている。
長時間の戦いは彼に圧倒的に不利なことを。
こいつ、どんな手品を使いやがった?
姿すら捉えられぬエミュレイター、それに斬られるたびに感じる喪失感。
その正体は――“プラーナの奪取”。
まるで血を媒介に命を啜る吸血鬼の如く、その刃に斬られる度に少なくないプラーナが奪われる。
赤羽家での休息で多少は蓄えたプラーナは殆ど奪われて、ガリガリと鉛筆削りで削られる鉛筆のように柊のプラーナが奪われていく。
プラーナとはウィザードにとっての力でもあり、存在の力でもある。
命の力である生命力、魔法の元であり世界を捻じ曲げる魔力とも異なる根源たる存在の力。
それが全て奪われた時、待っているのは消滅だ。
ウィザードはプラーナが常人とは比べ物にならないほど多く保有しており、その力を利用して身体能力の強化、魔法の発動、或いはプラーナそのものを操る術を磨いて武術と変えたものもいる。
柊もまたプラーナを用いて身体能力の強化などに消費しているが、それ以上に奪われる量が危険だった。
多少の休息があったとはいえぶっ続けの二連戦、しかも二回目はプラーナを奪う能力を得ている。
枯渇していく存在の力に、体が、魂が悲鳴を上げそうだった。
長引けば命取りになる。
だから。
「舞い上がれ」
歌う。
迫る斬撃を叩き落しながら、柊の唇が言霊を紡ぐ。
「燃え上がれ」
詠う。
血を流し、痛みに泣き叫びそうになりながらも、戦慄を紡ぎ出す。
「万象を灰燼と化す焔よ」
祝詞を上げる。
イメージするは赫炎。
灼き尽くすための炎。
切り裂くための白炎。
焼き切るための魔剣。
魔術が現象に、幻想が現実に、イメージが顕在化する。
それこそが常識から剥離したウィザードの力。
「顕現しろ――≪エンチャント・フレイム≫!!」
その刹那、彼が振るう魔剣は炎と化した。
紅の空よりも眩く、煌く焔の軌跡を描いて、炎の魔剣が襲い来る刃と激突する。
瞬間、常識を無効化する月衣がそれ以上の圧力――剣圧を持って大気を圧縮した。それが二つ、片方は酸素を燃焼し尽くす魔炎の剣。
故に、それは激しい爆炎を撒き散らし、グレネードの着弾にも匹敵する爆音を轟かせた。
「キャアァ!」
あまりの爆音にエリスが咄嗟にしゃがみこみ、目を手で庇う。
月匣による仮初の空間すらも砕いて、赤い結晶を幻想的に舞い散る。
所詮は仮初。
本物の大地と違い、土煙すらも上がらない光景の先は爆炎の霧散と共に現れた。
「なんだ、こいつは?」
紅い炎を纏った剣を構えて、柊が呆然と呟く。
膨大な熱量に焼かれ、切り刻まれたそれは――異形。
全身を粘液状の紅い汚濁でまみれた壊れた刀身、ガラクタの塊――僅かに見えるのはエミュレイターの残骸。
だが、周りのはなんだ?
「いや、一応エミュレイターは倒したよな……」
腑に落ちないものを感じつつ、柊が魔剣から炎を霧散させた。
しかし、次に発せられたエリスの言葉に驚愕する。
「ひ、柊先輩! まだ月が昇ってます!」
慌てて柊の傍に駆け寄りながら、エリスが叫ぶ。
「えっ、なに!?」
思わず見上げればルーラーであるはずのエミュレイターを倒したというのに、まだ紅い月は顕在している。
「だけど、エミュレイターは倒したぞ!?」
足元に転がるエミュレイターはどう考えてもくたばって、消滅しつつある。
となれば、まだ他に生き残りがいた?
「くっ、エリス――俺と一緒に」
行動するんだと言おうとした瞬間、世界は一変した。
赤羽神社の境内、それを模したはずの世界が歪んでいく。
夜はなお暗く、闇はなお紅く、歪みはよりおぞましく。
ギチギチと世界が音を立てる。
まるで歯軋りでもするかのように。
歪な、歪んだ、剣が、刃が――世界を埋め尽くす。
「なんだ、こりゃ!?」
視界中を埋め尽くす刃の群。
錆びた刃、折れた刃、血の滴る刃、毒々しい色に染め上がる刃、ねじくれた刃、ありとあらゆる切断の証が、まるで地獄の剣林を模したかのように生え揃う。
そして、それは柊の足元からも生え出した。
「っ!」
全身を貫かれる前に反応。エリスを抱えて飛び上がり、迫る刃の腹を蹴り飛ばす。
伊達にいつもロンギヌスのキルキル叫ぶ洗脳部隊から逃げ回っていない。多少の軽業ならば身に付けないと生き抜けない人生を送っている。
「きゃああ!」
「エリス、しっかり掴まってろ!」
月衣に意識を集中させる。
ウィザードは常識の範囲外。物理法則など有って無きもの。
ならば、重力に引かれて落ちることは?
――ありえない!
「どりゃあぁっ!」
虚空を蹴り飛ばす。しっかりとした手ごたえっていうか足ごたえ。
世界結界が弱まって可能となった月衣による浮遊。飛行魔法を使えない、柊の滞空術。
なんとか安全な足場へとエリスを降ろさないと、どうにもならない――
刹那。
痛み。
駆け抜ける激痛。
「ぶふっ」
「え、先輩?」
エリスが見上げる。
そこには柊の顔――口から血を零す柊の姿が。
視線を降ろす、伸びた刀剣――柊の腹を貫く細い針。
「ぇ?」
エリスをしっかりと抱えていた手が緩まる。
安心できる感触が遠ざかる。
「あ」
エリスが滑り落ちる、柊の手から。
落下する。
真っ逆さまに、剣の山に、異形の牙に。
「ひいらぎ」
刀剣に突き刺さる刹那、伸びた無数の針がエリスの体を絡め取る。
衣服を貫き、器用に体を釘付けにする檻と化す。
衣服が落ちる。切り裂かれて、柔肌が晒される。
小さな乳房がむき出しに、伸ばされた刀身に押し潰される。
血が零れる。うっすらと白い肌を切り裂いて、血の赤が線をなぞる。
スカートの間を貫いた刃が、太ももに食い込み、小さな痛みを与えた。
刀剣の冷たい感触。晒された肌に異界の風が当たる、舐められたかのように生暖かい風、気持ち悪い。
エリスはまるでさらし者にされた聖人の如く――吊り上げられて――
「せんぱぁああああああああいいいい!!!」
それでもなお、エリスは見上げていた。
腹を貫かれ、引きずられるように連れ去られていく柊に手を伸ばしながら、絶叫した。
神殺しの魔剣使いは答えない。
ただ血を吐き零して、誰かを救うために、魔剣を掲げるのみ。
投下完了です。
次回本格エロが入る、かな?
バトルも次回が本番です。
長ったらしい戦いばかり続きますが、どうぞよろしくお願いします。
話の展開次第ではもう一話伸びるかもしれません すみません(汗)
ぐっじょぶ。
緊迫感のあるピンチ描写にハラハラだが、
これをスコンと爽快に打破してくれる柊に
蝶期待。
ザーフィー持ちあげられてんなー。
エリス成分は、いい。
>>318 乙ですー。エリスのヒロインっぷりと健気さに泣きそうッス
柊は柊で死なないなぁ
それにしても、「そういうこと」なのかな?いや、この時点で推測できない答えが答えならまったく意味のない考察になるのだけど
とにもかくにも、次回の更新を楽しみにお待ちしていますー
>ベル
まさに魔王。
だがそれが良い。
ベル様ー。貴方の落とし子になりますんで、その子ください。
そして、たまに俺を責めてください。
>エリス
流石は王道ヒロイン。
そして、柊の男っぷり。
バトルの仕掛けも気になるところ、続きを待ってるぜ。
アンゼロット宮殿の一角 ---- 執務室。
この豪奢な室内に響き渡った悲鳴は、屈辱と恥辱とに彩られ、聞くものの耳をふさ
ぎたくなるほどの絶望に満ちていた。
「おやめなさいっ ! こ、こんなこと、こんなハレンチな、はしたないこと、おやめなさい、
やめ、やめてっ、い、いやあぁぁぁぁぁぁぁっ !? 」
両脚を左右に大きく開かされ、直立不動の姿勢を取らされたアンゼロット。
黒のドレスのスカートは無惨にも引き裂かれて。
プチベルの意識を乗っ取ったベール=ゼファーがにやりと笑いながら、
「あら、下着も黒がお好みなのね ? ふうーん・・・なんだか・・・いやらしい」
軽蔑するような視線で、アンゼロットを見上げる。
「くっ・・・」
唇を噛み締めたアンゼロットが、白皙の美貌を赤らめた。
それを愉しむように眺めつつ、大魔王の小さな手が下着に向かって伸ばされる。
「うっ、くひっ !? 」
直立不動の姿勢から、バネの壊れた玩具のように跳ね上がり、背中を大きく仰け反
らせたアンゼロットの唇から、か細い悲鳴がほとばしる。
ベルの伸ばした手は、アンゼロットの両脚の間に。
下着の上から股間に指を食い込ませ、布地越しにアンゼロットの秘部を擦り上げる。
「おやめなさい、はっ、あ、あ、やめ、や・・・あぅっ ! 」
割れ目の部分を強烈な摩擦で刺激され、アンゼロットは言葉を途切れさせられた。
ごし、ごしっ、ずり、ずりり、ずりずりっ。
五歳児の指とはいえ、その動きをコントロールしているのはベルである。女が、女の
一番敏感な部分を、快楽を与えるために刺激しているのだ。子供の指であるにもかか
わらず、大魔王にされているのにもかかわらず、アンゼロットの声は次第に甘くとろみ、
力いっぱい閉じた瞳には涙がにじみ始めている。吐息は熱を帯び、頬の高潮は度合い
を増し、指の動きが加速すると、声にこもった切なさが倍加した。
ごしっ、ごじゅっ、ぐじゅっ、ぶじゅうっ。
股間から響く音に、多量の湿り気が混じり始め ---- 。
「あ、あ、とめ、て、とめ、なさい、こんな、こんなこと、い、いや・・・・・・」
「アンゼロット・・・貴女、こんな子供の手で股間をはしたなくびしょ濡れにしちゃって、
恥ずかしくないのかしら・・・ ? 世界の守護者が聞いて呆れるわ・・・この、変態」
指で責める。言葉で責める。ベルは、アンゼロットの股間の割れ目を指で擦り続けな
がら、まるで呪文のように「変態、淫乱、雌犬」と繰り返し唱え続けた。
「ち、ちが、う、ちがい、ます、ちが・・・うふうぅぅぅぅっ !? 」
小さな指の手淫の巧みさに、アンゼロットの蜜壷が蕩け始める。黒の下着は湿り気
を帯び出し、少女の身体のもっとも敏感な部分は異常なほどに熱を持ち始めていた。
「ふふふっ。アンゼロット、とりあえず一回イッときなさい ? 」
つぷぷぷっ。ベルが指に力を込める。アンゼロットの割れ目に侵入した指が、下着ご
と股間に埋没し、布地のざらつきが火照った内部の肉壁を余計に擦る。
「ぬ、抜いて、抜きなさい、こんな、こんなことで、わたくし、わたくひいいいぃっ !? 」
ごしごしと肉襞を摩擦される。じゅくじゅくとほとばしる愛液が快楽を加速させる。
ベルの指の速度は決して衰えることはなく、規則的に、強弱も巧みに、アンゼロット
の肉欲を駆り立てるためだけに動き続けていた。人差し指がめりこみ、親指はちょうど
アンゼロットの陰核があるはずの箇所をしっかりと押し潰し。二本の指が筋に沿って縦
に、割れ目を左右に開くように横へ、文字通り縦横無尽にアンゼロットの女体の恥丘
部分を蹂躙する。
--------そして、ついに “そのとき” は訪れた。
「・・・・・・あっ、ひっ、ひいいぃぃぃっ !? 」
アンゼロットの唇から、絶頂を示す悲鳴が上がる。さきほどまでのあえぎよりも半オク
ターブ高いキーで奏でられた快楽楽曲。奏者であるベルの巧みな演奏は、アンゼロット
という少女の姿をした楽器を自在に操り、耳にしたものを陶然とさせるような、淫猥な
調べを歌い上げさせた。
ぷしっ、ぷしゃ、しゃあぁぁぁぁっ・・・・・・
アンゼロットの淫声に伴奏をつけたのは、彼女自身の股間からほとばしる水音だっ
た。絶頂の中でアンゼロットは、このとき初めて自分の紅茶好きを後悔する。
プチベルの謎について考えていた間、わたくしはどれだけの、何杯のお茶を飲んだの
か -------- 快感に蕩け、締まりのなくなった下半身は、不意に襲い掛かった尿意を
とどめることが出来なかった。強烈なアクメを迎えた瞬間、アンゼロットの膀胱は、ほと
んど無抵抗に排尿行為を許してしまったのである。
「あーあ。きったない・・・・・・貴女、最低よ」
心底侮蔑の表情を浮かべ、大魔王はその手についた黄金の飛沫を振り払った。
そのとき初めて --------
アンゼロットは涙を浮かべた。
人前で。それも宿敵であるベール=ゼファーの前で。
彼女自身の指で無理矢理絶頂に昇りつめさせられたあげく、まるで赤ん坊のように
失禁までしてしまった。そして、その一部始終を余すことなく見られただけでなく、「最
低」と罵られたのである。
屈辱。羞恥。絶望。砕かれた誇り。ふがいない自分への怒り。
それらがすべて、涙となってアンゼロットの瞳からこぼれ落ちる。
噛み締めたはずの唇から、かすかに泣き声が漏れた。
「・・・う・・・ううぅぅぅ・・・・・・」
「なによ、泣いてるの ? 嫌だわ、これじゃ私が苛めてるみたい。せっかく気持ちよくし
てあげてるのに」
さも心外だと言わんばかりのベルの言葉が、アンゼロットの怒りに火を点けた。
涙を浮かべたままの瞳で対面の宿敵をキッと睨み、喉の奥から搾り出すように挑戦
的な言葉を吐きつける。
「このような下劣な手を使うなんて、貴女こそ最低です ! きっと報いを受けますよ ! 」
気丈にも崩れかけたプライドを建て直し、世界の守護者たる威厳を身に纏った少女
は、顔をしっかりと上げた。燃え立つような情念が青い双眸に甦り、引き締められた唇
には意志の強さを宿しながら。
さすがの大魔王が、アンゼロットの放つ神々しい威厳に、瞬間たじろいだ。
だが ---- 。
身体の自由の利かない今、大魔王ベール=ゼファーに挑戦的な態度を取ったことが
果たして賢明であったかどうか。ベルの顔が、アンゼロットに威嚇されたことと、それに
怯んでしまった自分に対する二つの怒りで青褪める。
小さな身体を震わせ、その怒りをふつふつと溜め込みながら、それを解き放つ時を
待つようにベール=ゼファーは引きつった笑みを浮かべた。
「優しくしてあげようとおもったけど気が変わったわ。そんな態度が二度と取れないよう
にしてやるんだから・・・・・・」
暗い炎をちろちろとくすぶらせた瞳が、アンゼロットをねめつける。
ひとたびは身体から離れた淫楽の五指が、アンゼロットの下着にかかると ----
乱暴に黒い布地を掴み取り、それを一息に剥ぎ取った。
「・・・・・・っ !? きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーッ !? 」
ふたたび執務室に響き渡った、絹を裂くような悲鳴を聞くものはいなかった。
犯すものと ------ 犯されるものの二人以外には ---------- 。
※※※
異次元の空を埋め尽くす異形の群れ。
まるで飴玉に群がる蟻の大群のように、じわじわと包囲を狭めていく裏界の軍勢で
ある。その数は千や二千ではきくまい。魔王級エミュレイターの姿は確認できないが、
数だけで言うならかつての『宝玉戦争』における土星での攻防 ---- あのときの総力
戦に迫る勢いの数のエミュレイターが、アンゼロット宮殿目指して迫ってきている。
テラスでオペレーターからの報告を受けたコイズミが柊たちにそう告げると、一同に
極度の緊張が走った。
「どういうことだ・・・おい、こんな簡単に突破されるものなのかよ、ここの結界は」
コイズミを睨みつけながら柊が語調を強めてそう言った。
仮面をつけていてさえ狼狽振りがわかるほどに、コイズミがどもりながら答える。
「そ、それが、さきほどの大魔王ベール=ゼファー襲来時に、数十箇所の次元の亀裂
が確認されました。そこを修復するために派遣したロンギヌスたちがいまだ帰還しない
ところをみると・・・」
「つまり、修復チームを片っ端からベルが潰していったってことか !? あいつ、とんでも
ねえ置き土産していきやがったっ !! 」
拳を手のひらに打ちつけて、柊が吐き捨てる。
「ひーらぎ・・・ !! そんなこと言ってる場合じゃないよっ ! ほら、もう近くまで・・・」
くれはの叫ぶ声に続いて、テラスに ---- いや、アンゼロット宮殿中に響き渡るのは
ロンギヌス・オペレーターの緊急放送であった。
《敵エミュレイター第一陣、百八十秒後に到達します ! その数、二百 !! 》
その意味するところを、この場にいる誰もが戦慄とともに理解する。
柊がくれはに頷いてみせ、くれはもなにも言わずに柊の瞳を見つめ返すと、こくり、と
頷き返した。
「エリスちゃん。とりあえずテラスから逃げよう。宮殿の中にいれば少しは安全・・・だと
思うから」
青褪めて、震える身体を両腕で抱きしめながらも、エリスが弾かれたように顔を上げ
る。わたしもここに ---- と言いかけて、それが無意味なこと・・・それどころか柊たちに
とっては負担となることにすぐさま気がついて、唇を噛み締めた。ウィザードの力を失っ
たいまの私は、この状況じゃただのお荷物なんだ・・・そのことが申し訳なくて、悔しく
て、エリスはその青い瞳に涙を浮かべる。
コイズミが近くにいた部下の一人に声をかけ、
「エリス様を、無事宮殿内部のシェルターまでお届けしろ」
と命じた。すぐさま、駆け寄ってエリスの肩を抱くようにかばいながら、女性隊員の一
人が避難を開始させる。
その背中を見送ってから、柊たちはふたたび迫り来る黒影群を振り向いた。
「よっしゃ。そんじゃ、いっちょやるか」
魔剣を構える柊。その背後につかず離れず、くれはも破魔弓に呪符を装填して待機
する。そんな二人を頼もしげに見ながら、コイズミは「この戦い、勝てるかもしれない」
と希望のようなものを抱き始めていた。
なんといっても世界最高クラスの、そして世界でおそらくは一番有名な ---- いろい
ろな意味で ---- 魔剣使いと、その女房役だ。心強く思うのは当然であろう。
大きくひとつ深呼吸をするコイズミ。
続いて口を開いたとき、その声は大音声となってテラスに響き渡った。
「ロンギヌス隊総員に告ぐ ! このテラスが我々の死守すべき場所だ ! 城にたとえるな
らば堀 ! 決して本丸まで、エミュレイターの侵入を許してはならない ! 」
飛ばした激に応じる、力強い声、また声。その気合十分の応答に頷き、コイズミは柊
に向かって頭を下げた。
「柊様。一人でも戦力が必要なときに申し訳ありませんが、私はここを離れます」
苦渋に満ちた声を絞り出すように、コイズミが言う。
それを受けて柊が莞爾と笑い、
「おう ! 自分の持ち場があんだろ ! いいから行ってこいよ ! 」
なにも事情を聞くことなく快諾した。
「は・・・・ ? し、しかし、あの・・・」
「お前のご主人様だろ、心配なのは。行ってこいよ。アンゼロットのところには、あのチ
ビもいるだろうから、そっちも頼んだぜ」
内心の衝撃を隠せずに言葉をなくし数秒。コイズミはようやく柊たちへ申し訳なさそう
に一礼すると、きびすを返して宮殿内部を目指して走り出す。
その背中を眩しそうに見つめながら、
「あいつ、男だな・・・・・・」
柊が呟いた。
「はわ。そりゃ男の人でしょ、コイズミさん」
きょとんと返すくれはに、
「バカ、そうじゃねえよ。気づかなかったのか ? コイズミのやつ、部下にエリスを連れて
いかせるとき、すげー未練がましい顔してたんだぜ。ありゃあ、きっとエリスにホの字に
違いねえ」
いまのご時勢、ホの字もないだろうとは思うが、柊はきっぱりと断言する。
「だけどよ、ホントはあいつ自身の手でエリスを守りたかったんだろうけど、それを抑え
て、アイツにとってもっと大事なモンを守りにいったんだ。アンゼロットにゃ勿体ねえ、
いーい部下だぜ、コイズミのヤツは」
「・・・・・・なんで自分以外のそーゆーことには気づくかな・・・」
「あん ? なにぶーたれてんだ、くれは」
唇を尖らせるくれはに不審の眼差しを向ける柊。自分と、自分の相方についてのこと
限定で、男女の心の機微に鈍感な柊に、くれはがへそを曲げたことなど、これっぽっち
も気がついていない様子である。
「・・・なんでもないっ。ほら、ひーらぎ、こんな話してる場合じゃないってばっ」
ぐきっ、と無理矢理首を前に向かせ、柊に、敵が目前に迫っていることを思い出させ
てやる。
「いででっ !! む、無茶すんなっ、くれは ! 敵と戦う前にお前に殺されたら洒落になんね
えだろっ !? 」
「文句言わないっ。ほらほら、ちゃきちゃき魔剣構えなさいっ !! 」
くれはの叱咤に、
「わーったよっ」
応えて臨戦態勢を取る柊の顔は、すでに百戦錬磨の剣士のそれ。
寄り添うくれはに背中を預け、迫り来るエミュレイターを見上げる。ざざざっ、と幾十も
の足音と共に、ロンギヌス隊員たちが柊とくれはを中心にして円陣を造り上げた。
「いくぜっ !! 」
柊の鬨の声に、応、と答えるロンギヌス隊の表情に翳りはない。柊とくれはに希望を
与えられ、この戦いの勝利を確信した顔だった。
後に、正史に記されることこそないが、『アンゼロット宮殿攻防戦』と呼び習わされる
こととなる戦いの火蓋が、いま切って落とされた -------- 。
※※※
とろけた愛蜜と自分自身の排泄液にぬらぬらと光り、外気に容赦なくさらけ出された
少女の秘密の場所。小さな女の子の姿をした大魔王が、しゃがみこみ、興味津々でそ
この部分を見上げながら、くすくすと笑い声を立てている。
股間をさらけだし、火が点いたように紅潮した美貌を羞恥にそむけ、がくがくと震えて
いるのはアンゼロット。その様を、ネズミをいたぶる猫のように愉しげに、眺めているの
はプチベルの身体を乗っ取ったベール=ゼファーである。
「しっかりお手入れしてるじゃない、アンゼロット ? つるつるしてて、とっても綺麗。それ
とも、もともと毛が生えてないの ? うふふ・・・ここも、ぷっくりしててすごく掴み心地良さ
そう・・・。お豆は随分小さいのね・・・皮に隠れて窮屈そうにしてるけど、指で剥いてあ
げちゃおうかしら」
形状を、状態を、こと細やかに解説されて、
「言わないでっ、言わないでください、そんなことっ !? 」
信じ難いベルの言動に、完全に取り乱すアンゼロット。
「この程度でおたつかないで・・・これから、もっと恥ずかしい目に遭うのよ・・・ ? 」
にたにたといやらしく笑う表情が、五歳児のままであるからなおさら不気味で淫靡で
ある。おぞましいものを見るように、嫌悪の表情を浮かべるアンゼロット。
次の瞬間 -------- 。
その視線の先に、より信じられないものを見て、アンゼロットは瞳を大きく見開いた。
「ベ、ベール=ゼファー・・・あ、貴女、いったい、それは・・・・・・ !? 」
「あら・・・もう、気づいちゃったの ? ・・・・・・まあ、無理もないわね、こんなになっちゃっ
てるんですもの・・・」
ベルが視線を落とす。自分のスカートの上に。幼児サイズの特注品である輝明学園
の制服のスカート。その中心部に ---- ありえるはずのない膨らみが存在していた。
スカートの布地を持ち上げて天を衝くそれは、少女の身体には存在しないはずの器
官である。本来は、男性が有するべき排泄器官であり生殖器官を、いやがうえにも
想起させる。
ベルが立ち上がり、自分のスカートを捲り上げた。
そこには、綿の子供用下着を突き破らんばかりに、屹立した怒張があった。
「・・・ひっ・・・・・」
その物体がなんであるか。なんのための器官であるか。それを使ってなにをするつ
もりなのか。自分がなにをされてしまうのか。
ベルが下着に指をかけ、無造作に脱ぎ捨てる。あらわになったそれのサイズに、ア
ンゼロットの顔から血の気が引いた。
始めは、誤った錯覚をしたのだ。
なぜ、ベルの股間から“腕”が生えているのだろう、と。
そう。アンゼロットがそんな誤認をしたのも無理はなかったのだ。それの大きさは、
太さも長さも、五歳児のベルの腕、肘から先までのものとほぼ等しかったのである。
「立派だけど、重たくてしょうがないのよね、これ・・・。でも喜んで、アンゼロット ? これ
でされると、ホントに天にも昇る気持ちになれるから・・・」
そう言いながら、本当に歩きづらそうにアンゼロットににじり寄る。
グロテスクなまでに巨大な男根を勃起させて、自分を犯そうと近づいてくる幼女の姿
に、アンゼロットは恐怖を覚えた。犯すといったところで、そもそもあんなものが入るの
か。入ったとしても、あんなものが体内を出入りしたとしたら、わたくしの身体も心もどう
にかなってしまうのではないだろうか。
「おやめなさい・・・無理に決まってます・・・入りません・・・入りませんったら・・・こ・・・
来ないで・・・いや・・・いや・・・」
ふるふると首を左右に振り、拒絶の言葉を吐いたとして ---- ベルがそれを聞くはず
もなく。
ぴったりと閉じられた十四歳の少女の割れ目に ---- 。
五歳の幼女の巨根があてがわれる。
「ふふっ。いきなりってのも可哀想かしら ? それじゃ・・・」
ベルが、己の一物を握り締め、狙いを慎重に定める。ペニスの先端をアンゼロットの
股間の薄いすじにぴったりと当て、そのまま腰を前後に動かし始めた。股間に巨大ペ
ニスの重みをずっしりと感じる。アンゼロットの割れ目で、肉棒をごしごしとしごいている
のだ。
ずり、ずり、ずりりっ。
硬くたくましく、熱くたぎった肉茎に擦り上げられ、アンゼロットはたまらず、
「あ、あう、うああんんっ」
悩ましげな悲鳴を漏らす。
「あはっ、なによ、もう感じ始めてるの、アンゼロット ? こんなことされて、犯されそうに
なって感じちゃうなんて、やっぱり貴女・・・」
「ち、違う、違います、違うんです、感じてなんか、いや、あ、あう、うあっ !? 」
ベルの亀頭の先端が、アンゼロットの股間につつましく隠れていた真珠大の肉芽に
触れる。それを庇護するように包み込んでいた肉の薄皮を力任せにめくり、ベルは肉
棒の先端の中心部をそこに押し付けた。
「くふっ・・・アンゼロット・・・ぷにぷにしてる・・・イイわ・・・貴女のアソコ・・・」
鼻息を荒くして、アンゼロットの肉の丘に自身のペニスをこすりつけ、先端で剥き出し
たクリトリスを押し潰す。
「い・・・ひいっ・・・あうん・・・やめ・・・て・・・」
自由な動きを許されているのは、ただ首だけ。がくがくと首を打ち振り、アンゼロット
は甘い声で拒絶の言葉を漏らす。淫欲にまみれたベルの瞳がちろりと光り、我慢の
限界を超えたかのような性急さで、アンゼロットの薄い胸を突き飛ばした。
「きゃあっ !? 」
突き飛ばされて仰向けに倒れる。魔法で身体の自由を奪われているために、受け身
を取ることができず、無防備な背中がしたたかに床に打ち付けられた。
豪華な柔らかい絨毯がなければ、息が詰まるほどの苦しみであっただろう。
「ごほっ・・・ぐっ・・・ごほぉ・・・」
軽く咳き込むアンゼロットに、ベルは追い討ちをかけるように言葉で嬲る。
「アソコが丸見え・・・いやらしいおつゆでどろどろに蕩けたいやらしいアソコ・・・ペニス
で擦られて欲情したんでしょ・・・ ? この、たくましいものを飲み込みたくて仕方ないん
でしょう・・・ ? 」
「ちがいます・・・げほっ・・・・・・わたくしは・・・」
「感じたんでしょう ? 」
「ちが・・・う・・・と・・・言ってる・・・でしょう・・・」
「もっとイかせて欲しいのよね ? 」ずり。「ちが・・・」ずりりっ。「擦って欲しい ? 」ずりず
りずりっ。「あう・・・」ずりゅりゅっ。「お豆が硬くなってきてるけど ? 」ずりゅ、ぬるるっ。
ずりっ、ごしゅ、ぬりゅ、ぷちゅっ、じゅるんっ、ぷちゅっ。
言葉でアンゼロットの心を犯しながら、ペニスによって与え続ける摩擦はますます激
しさをましていく。蕾の如くに閉じていたはずの少女の秘肉は、捲り上げられ、熱量と
湿り気にぽかっ、と開かれ、分泌された愛液のほとばしりが潤滑油になって、次第に
剛棒を受け入れる準備を整えだしている。
「こすられてイくのねっ ? イくんでしょうっ ? 気持ちいいのよねっ ? 」
「・・・・・・っ、ちっ、違いますっ、イきませんっ、イきたくなんかありませんっ ! 」
この言葉を漏らしたことが ---- アンゼロットの失策だった。
いままでどんな辱めを受けようとも、彼女はいままで一度も卑猥な、または下品な言
葉を使うことはなかった。それなのに、いま。アンゼロットは拒絶の意志を乗せたとは
いえ、『イく』という表現を使ってしまった。それは、心の堤防に亀裂を入れる、最初の
針の一穴。
「嘘おっしゃい・・・こんなに濡らして、こんなに無様な格好で、気取ってたって、感じて
るんでしょっ・・・ ? イくのよねっ ? イくのよねっ・・・? 」
「イきません、イきません、イきませんっ・・・ ! 」
瞳が蕩けた。口元が緩んだ。甘えるように鼻を鳴らした。
「私はイくわよ・・・貴女のを擦りながらイくわよ・・・・もうすぐ・・・もうすぐよ・・・だから貴
女もイくの・・・イっていいのよ・・・」
楽園の果実をイヴに喰らわせた原初の蛇は、きっとこんな声で囁いたに違いない。
「イきません・・・」「イって・・・」「イきま・・・」「イくのよ・・・」「イ・・・」「イくんでしょ・・・ ? 」
「イ・・・・・・っ !! 」「イくのよねっ !? 」
ぐしゅ。じゅぶっ。ぶぷっ、ぶじゅうっ、ぬりゅりゅうぅぅぅっ。
肉襞を押し広げられ、肉茎で摩擦され、アンゼロットの股間がいやらしい水音を立て
た。半透明の愛蜜が汁となって滴り落ち、ぶつぶつと小さなあぶくを幾つも吹いた。
「さあ、アンゼロットっ・・・・・・ !! どうなのっ・・・ !? イくのっ・・・ !? 」
「イ・・・っ・・・・・・」
(・・・あああっ・・・許してください・・・みなさん・・・わたくし・・・わたくし・・・)
懺悔の言葉は、絶頂を迎え入れる許しを請うたということだ。
「イ・・・っくうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ・・・・・・ !! 」
その悲鳴を聞いて、ようやくベルは満足げに腰を浮かせた。仰け反り、アンゼロットの
股間の割れ目の間に、自身の極大ペニスを挟みこんだまま、ラストスパートをかけるか
のように腰の前後運動を加速させ、
「わ、たしも、もうっ・・・・・・んふっ、んふうっ、出る、出る出る出るぅっ・・・ !! 」
陰茎の根元が、ぶくんっ、と膨らみ、竿を瘤のような隆起が先端へ向けて移動したか
と思うと、亀頭部分でその膨らみが始めた。
びゅっぶばっ、ぶぶっ、ぶびゅぶぶぶっ。
白く濁った粘り気の強い精液が、水滴というよりは濁流と呼ぶに相応しい勢いと量で
ほとばしる。その射出のあまりの激しさに、射精された白濁液がアンゼロットの顔にま
で届くほどである。
びちゃびちゃと音を立て、魔王の汚液がアンゼロットの唇を汚し、頬を濡らし、瞼をふ
さいだ。続けざまに放たれた第二射が、さらにその顔にぶちまけられ、ところどころにこ
んもりとした“精液溜まり”を造り上げる。
「うぶっ・・・おふぅ・・・あふう・・・」
唇を、半固形状のこってりとした濃厚液でふさがれたアンゼロットが、苦しげに呼吸す
る。荒い呼吸をついているのはベルも同様で、アンゼロットの恥肉の柔らかな感触を
存分に楽しみながら、射精の余韻に打ち震えていた。
「あ、ふぅ・・・はふっ、ふうぅっ・・・で・・・出たぁ・・・たくさん・・・」
大量の射精を終えたばかりの男根を、ベルはふたたび握り締める。
ごしごしごしごし。
「あっあっあっあーーーーーーっ ! 」
しごきながらベルが嬌声を上げた。自らに対しても呵責のない淫靡な責め苦を与え、
一度は射精して萎えたはずの男根が、みるみるうちに強度を取り戻す。
ふたたび天を衝いた男根が、先端を白く汚したままでひくひくとわなないた。
「くっ、ふぅん・・・アンゼロット・・・また・・・大きく硬くしてあげたわよ・・・うふふ・・・お待
ちかねの本番・・・さあ、気を張りなさい・・・壊れないように、ね」
最後通牒が突きつけられる。いまの射精は、男根の茎部分をアンゼロットの割れ目
でしごいていただけのもの。しかし、次は・・・・・・・。
ぴとり。まだ精液のこびりついたままの亀頭が、アンゼロットの肉壺の入り口に触れ
た。ベルがほんの十数センチ腰を押し付けるだけで、アンゼロットは少女の身体の最
後のとりでを破られてしまう。
「い、いや・・・・・・」
「いまさらお上品ぶることないじゃない・・・別に、処女ってわけでもないんでしょ ? 」
ぺろり、と舌なめずりをひとつ。ベルがその巨根でアンゼロットを蹂躙しようと腰に力
を込めようとした、その瞬間 -------- 。
「アンゼロット様、いずこに、いずこに居られます !? どうかお答えくださいっ、アンゼロッ
ト様−−−−−−っ !! 」
執務室の壁越しにも聞こえるほどの良く通る声。
ロンギヌス・コイズミ。
柊蓮司に主の身を託されたロンギヌスの精鋭中の精鋭が、宮殿内をただひたすらに
駆け抜けていた --------- 。
(続)
一番のりかな?GJ!この反応は間違いなく処女、アンゼロット様可愛いよアンゼロット様!
そして待てコイズミ!貴様の前に俺が部屋を見てきてやろう。
なぁーに、この実力はBランクだが本当の実力はSSSの俺に任せ……う、うわーだめだー
超☆女王時代にやりまくってそうだけどなー
エルンシャ一途だったのかしらん
GJっしたっ!
きっとエルンシャとイクスィムの3Pしかしたこと無いんだよ!
攻めてばかりだったから受けに回ると脆いんだよ!
つまりエルンシャは無抵抗というか、抵抗の余地も無く、手も足も出ない目にばかりあってたため、
こんな情けない上に争いの種になる奴はいらんと至高神にバラされてしまったのか
「つまり状況をまとめると……二人が同時にエルンシャのところに夜這いにいったってことですかね?」
「そうそう!それでエルンシャはとっくに至高神にばらばらにされてるんだよ!」
つまり、エルンシャと楽しんだと主張する二人のアリバイは偽装で、
その時点で既にエルンシャはバラバラになっていたと言うのが
この事件のトリックだと。
助手「真実とは常に残酷なんですね、先生」
実はエルンシャは超☆至高神のげB
至高神と超至高神は別なわけだが、どっちの?
ふふ、甘い…甘すぎる!
エル=ネイシアでのないすばでぃモードの体は一旦滅びて、新しくゲイザー好みのにゅーぼでぃーを手に入れてるのを忘れてはいけない
あのむっつりおやじのことだ、確実に処女の体だろうw
そしてその処女の身体を処女のまま、快楽だけを植え付けていく
むっつり調教を施しているので、初めてでもイッちゃう淫乱娘なわけですね!
………なんだと?おのれゲイザーめアンゼロット様になんという事を!
ちょっとセラも処女なってるか確かめてくる
まさか伝説の前処女アナル調教済みか…?
セラはエイサー国王と…。
王子時代の国王に監禁調教されて雌奴隷なんだよね
そーいや、
セラとアンゼロットって、どっちがえらいんだ?
神サイドのランク付けだと、
超至高神>白神&黒神>八大神>守護者&精霊王>守護天使(聖姫&闇姫)、
よって、アンゼロット様がセラより上。
ただ、守護者と守護天使では実力にピンキリっぽいところがあるから、
実力がどうなるかは知らんがな。
守護者は事務職だから、肉体荒事対処用(っつか、対古代神他用の兵隊)の天使(他)の方が強いとか言われてたな
昔、藤村まどかの所が出したきくたけ公認同人誌に載ってた
超女王様時代の聖姫のスペックをクラシックデータで表現したのは凄かったぞ
あんなのに拮抗する冥魔を倒せるようになったんだから、人類はどんだけ強くなったことか
とりあえず全員きくたけスレに帰れ
紳士的妄想するならともかく作品設定考察なら卓ゲ板行ってやってくれ
TiSのお世話係と、
ゲイザーの僕は、
どっちが…
…って程度の話だったんだ。
>350
うろたえるな。
この流れは紳士的妄想をするための下ごしらえよ。
例えばかの汚れ天使が体は処女でありながら前世で刻み込まれた悦楽の味に弄ばれて人質に取られたご主人様の目の前でアフンアフン喘いでしまったりする姿とかを思い浮かべるためのなぁ?
>350,>352
そう……すべては、すべては我らがビッグエロスのために!
>>330 とりあえず我慢できなかったので突っ込ませてもらう
どう見てもコイズミは木偶の○です本当に(ry
ところで紳士諸君、某所で話題がでたルー様と飛竜の過去話を待っているのは私だけかね?
>>354 だめだ!木偶○坊はダメなんだ!
奴がいると良い所で必ず邪魔が入るというジンクスが…
だれか、奴を槍で串刺しにして足止めを!!!
>>353 ビッグE! ビッグE! ビッグE! ビ(ry
その呼び声は、アンゼロット宮殿中に響き渡るのではないか、と錯覚してしまうほど
の大きな声だった。声の限りに喉も破れよと呼ばわる、己の主を捜し求める必死の叫
び。姿は見えずとも、その声だけで主を気遣う想いの確かさは痛いくらいに伝わってく
る。それがまして、自分を呼ぶ声 ---- 自分を想う声であれば、当のアンゼロットに通
じぬはずはなく ---- 。
「・・・・・・コイズミ・・・」
我知らず、側近の名を呟く声に、かすかな震えと潤みが混じる。
憎々しげに執務室の扉を振り返り、大きく舌打ちをしたのはベール=ゼファー。
脚を開脚させ、アンゼロットの濡れそぼった秘所に、自らの股間に生やした巨大な男
根を埋めようとしていた姿勢のままで、硬直する。
数瞬後、情欲と征服欲と嗜虐欲に満ち満ちていた大魔王の瞳から仄暗い炎が消え
去り、いつもの、怜悧でどこか人を喰ったような悪戯な目の色に戻っていた。
「・・・やーめた」
「・・・う・・・・・・あ・・・? 」
仰向けにしたアンゼロットの身体から離れるベール=ゼファー。
不審げな揺れる瞳で大魔王を見つめ返すアンゼロットが、最後の貞操の危機が去っ
た僥倖に、安堵の吐息を深く吐いた。
「残念。まさか部下が貴女を探しに来るとはね・・・」
ベルの悔しがる表情は本物のようだった。しかし、なぜ ? いくらコイズミがロンギヌス
の精鋭メンバーだったとしても、大魔王を退けるほどの力量は残念ながら持ち合わせ
ていないはず。
「感じて、イきすぎて、頭の動きが鈍くなったの、アンゼロット ? 不思議でもなんでもな
いわよ。気づいてないようだからサービスで教えてあげる。いま、私すっごい膨大な魔
力を消費しているのよ ? それこそ、たった一人のロンギヌスを相手にするのも躊躇す
るくらい」
わからないの、お馬鹿さん ? とでも言いたげな瞳をアンゼロットに向ける。
冷静に ---- 冷静に考えてみれば確かにその通りであった。
この短時間でベルの行った所業を一つ一つ挙げてみればいい。
手始めに、異次元に聳え立つアンゼロット宮殿へ単身乗り込んできたとき。
この周囲に展開された結界を破壊するためには、並みの雑魚魔王などでは持ち得な
いような強力な魔力が必要になる、というのがひとつ。
続いて、今回のエミュレイターの大軍襲撃。
同様の理由から、宮殿の周囲の結界は、生半可なエミュレイターでは突破不可能で
ある。だとすれば、次のことが推測される。
おそらくはベル自身、自分が突入するための結界の亀裂以外に、何十箇所もの次元
のほころびを創ってきたのに違いない。しかも、自分がコイズミに命じて結界修復を行
わせようとしたにも拘らず、侵入を許してしまったということは、ベルがあちこちを飛んで
回って、修復要員のロンギヌスを潰して回ったということだ。おそらく、二十回ないし三
十回の戦闘をこなしているに違いなかった。
そして、第三にプチベルの意識を乗っ取った、という事実。
これだって、微量な魔力の消費でたやすく行える行為ではないだろう。
これだけのことをしておいて、さらにアンゼロットの---- “世界の守護者”の行動の
自由を奪うほどの魔方陣の構築と、拘束の継続。もうひとつ付け加えるならばプチベル
の身体に仮初めの生殖器官を造るなど、エトセトラ、エトセトラ。
ざっと列挙しただけで、ベルはこれだけの所業をしてのけているのだ。
もしかしたら、いまの彼女は魔力が枯渇した状態なのではないだろうか ---- 。
ふん、と大魔王がつまらなそうに鼻を鳴らした。
「ま、いいわ。ここを襲撃することも出来たし、貴女に恥ずかしい思いをさせることもでき
たし、目的はほとんど果たしているんですものね」
「くっ・・・・・・」
「・・・・・・そろそろ貴女の忠実な飼い犬が着くころだから、私は裏界へ帰るわ。ね、ア
ンゼロット」
横臥するアンゼロットの顔の上をまたぎ、ベルが妖艶に笑う。
「気をつけなさい ? 次に隙を見つけたら、今度は最後までしちゃうわよ ? これで・・・」
と言いつつ、巨大な男根をアンゼロットの顔に近づける。肉棒を支え持つと、その頬
をぺちぺちとペニスで叩いた。
「い、や・・・・汚らわしい・・・ですわ・・・」
嫌悪感に眉をひそめ、顔を背けるアンゼロット。ベルが人の悪い笑みを浮かべると、
両手でその顔を挟み込み、無理矢理自分の股間正面に向けさせる。
「最後にもう一回だけ楽しませてもらうわ」
口の端を吊り上げてニヤリと笑い、アンゼロットの鼻をつまみ上げ呼吸をふさぐ。
たまらず口を開けるアンゼロット。
「息が・・・ぷあっ、な、なにをする・・・んぼおうぅぅぅぅっ・・・ !? 」
大きく開いたアンゼロットの口めがけて、ベルがペニスを押し込んだ。
もちろん、これだけの長さを持つ一物がすべて飲み込めるはずもない。だが、口腔内
と食道までを汚すだけなら、半分も飲み込ませる必要はないのだ。
ベルのペニスは直径も普通の男根より一回りは太く。アンゼロットの顎が外れそうに
なるくらいの太さを持っている。必死で、アンゼロットは口を大きく開け続けた。いくら
擬似的に魔力で生やされたペニスとはいえ、プチベルの肉体から生えたものである。
ベール=ゼファー本体が現れて自分にこんなことをしたのなら、噛み切ってやるとこ
ろだが、相手がプチベルの肉体なら、傷つけるわけにはいかない ---- だからこそ、
アンゼロットは懸命に大きく口を開け続けようとする。歯で肉茎を傷つけないように。
逆に言えば、そんな心理の動きを完全に読みきったからこそ、ベルも口内奉仕を強
制する気になったのだ。
「時間がないから、あんっ、私も、す、するわ、よ・・・うふぅん・・・」
アンゼロットの顔の上にまたがり、ペニスを飲み込ませながら肉棒を自分でしごく。
凄まじい速度。強引な、射精目的の自慰行為。喉を犯され、呼吸を制限され、アンゼ
ロットの意識が遠のきそうになる。それでも、耐える。死に物狂いで意識を正常に保と
うと耐え続ける。
「あーっ、出るっ ! アンゼロット、出るっ ! 喉だけじゃないわよ、直接貴女の胃袋を汚し
てあげるっ !! 」
ベール=ゼファー、絶頂の瞬間。
「じゃあね、アンゼロット」
(・・・え・・・・・・ !? )
ベルの ---- いや、プチベルの瞳から情欲の色が消えた。
「・・・・あ・・・あんぜろっと・・・おねーちゃんっ・・・ !? 」
射精の瞬間、ベルはプチベルの意識を開放し、自分自身は裏界へと帰還したのであ
る。
「どーして・・・やだ・・・なんでぇ・・・こんな・・・こんなこと・・・やだ・・・ごめんなさい・・・
ごめんなさいあんぜろっとおねーちゃん・・・や・・・やだ・・・やぁだあぁぁぁぁぁっ !!!! 」
泣きじゃくりながら、プチベルが射精する。五歳の幼女に突如訪れた、あり得べから
ざる男性器の絶頂感。性的な行為とはもっとも縁遠い年頃の幼女の身体を、股間を、
最大級の快楽が駆け抜けた !
「くひゃあぁぁぁぁぁぁっんっっ !? 」
プチベルの瞳が、ぐるん、と裏返る。絶叫する唇で、ごぼんっ、と音がして大量の泡
を盛大に噴き出す。涙と鼻水を大量に撒き散らしながら、アンゼロットの胃袋めがけ、
プチベルが精液をぶちまけた。
びゅっ、びゅぶっ、どびゅっ、どぷどぷどぷっ !!
最大級の絶頂にともなって吐き出された汚汁は、その量もいままで以上で。
同時に、派手な水音がプチベルの股間からしたかと思うと、またがったアンゼロットの
顔中に、黄金色の飛沫をほとばしらせる。温かな黄金の雨。
執務室に、かすかな臭気がただよった。
「ごぼっ !? おごっ、お゛ぉお゛ぉ〜〜〜ッ !? 」
突如、口腔内に注ぎ込まれた精液のあまりの量の多さに、アンゼロットが目を白黒
させた。極太の男根に唇を塞がれているため、逃げ場のない精液が口中に、喉の奥
に、胃袋に逆流する。それでも収まりきれない粘液が口中に溜まり、アンゼロットの頬
が、ぶくんっ、と膨れあがった。
「・・・かは・・・かひ・・・ひうぅぅ・・・・」
か細い断末魔の声を漏らし、プチベルの小さな身体がぐらり、と揺れた。仰向けに、
アンゼロットの身体の上に折り重なるように倒れると、その拍子にアンゼロットの口か
ら異形の男根がずるるるっ、と引き抜かれていく。
それが、結果的にアンゼロットの唇で再びしごかれる形となったせいで、口から完全
に抜けたと同時に、もう一度プチベルの股間の一物が最後の射精を行った。
どびゅうぅっ ! ぶっ ! びゅるるるるーっ !!
がくがくと幼い身体を痙攣させながら、アンゼロットを下敷きにしたままで、プチベル
がその巨根をぶるんぶるんと震わせる。人外の手段によって生み出された異形のペ
ニスは、最後の最後で常識外の射精を行った。吐き出された精液が、執務室の天井
までも白く塗りたくるほどの飛距離でぶちまけられる。
「きゃあぁぁぁっ ! やっ、やあぁぁぁぁっ ! 」
壮絶な射精を強制されたプチベルが拒絶の悲鳴を放つ。
天井にべっとりと大きく染みついた精液が、まるで雨漏りのように、二人の少女の全
身に降り注いだ。その膨大な量の射精が収まると ---- 精力と魔力の枯渇したペニス
は、霞の如く掻き消えた。
同時に ---- プチベルの悲鳴がぴたりと止まった。自身の放った精液にまみれなが
ら、完全に失神したのである。
アンゼロットは ---- 。
「げっ・・・げほっ・・・おうっ・・・うえぇぇっ・・・」
ペニスの栓を抜かれた唇から、唾液と精液の混じったどろどろの液体が、噴水のよ
うに噴き上がる。降り注いだ精液が、自分の吐き出した精液と混ざり合い、開いた口
めがけて流れ込み、さらにむせこんだ。いつのまにか、身体を束縛していた魔力は雲
散霧消し、アンゼロットは、完全に恥辱の罠から開放されたことを知った。
---- 安堵のあまり、気を失いそうになる。
しかし、ここで意識を手放してはならない。自分たちは大魔王の脅威から解放されて
も、まだ外では柊たちや配下のすべてがエミュレイターと交戦中なのだ。
(わたくしは・・・世界の守護者・・・身命を投げ打って戦う彼らの・・・司令塔とならなけ
れば・・・旗印とならなければ・・・)
その使命感だけが、彼女の意識をつなぎとめている。
そして、次第に近づいてくる声 ---- 自分の身を案じて叫び続けるコイズミの声も、
アンゼロットを失神から救った一因であった。
自分の身体にのしかかるプチベルの身体を、硝子細工でも扱うかのように丁寧に床
へと降ろし、アンゼロットは渾身の力を込めて身を起こした。がくり、と膝をつき四つん
ばいになる。胸ヤケがして、床へ向けて頭を下げると、
「げほ・・・ごほっ・・・お・・・おうぅぅっ・・・」
激しく咳こみ、胃の中の白く濁ったものをすべて吐き出す。
アンゼロットはドレスの袖で口元を拭うと、大きく息を吸い込み自分を呼ぶ臣下に答
えた。
「コイズミーーーーっ ! わたくしは執務室ですわーーーーっ !! 」
扉の外の廊下、その向こう側で慌しく駆けてくる音がして、
「ご無事ですか !! アンゼロット様ーーーーっ !! 」
コイズミが歓喜の絶叫を放った。
「す、すとっぷ ! すとっぷですわ、コイズミ !! 扉の外で待機なさい !! 」
慌てて押しとどめるアンゼロット。いくらなんでも、いま執務室に入ってこられるのは
困る。いまの部屋の惨状と自分たちの姿を、人目につけるわけにはいかない。
執務室には、精液と尿が撒き散らされ、匂いだって物凄い。自分自身も、ドレスのス
カートはびりびりに破られ下着もつけていないし、白濁液にまみれている。
プチベルにいたっては、痙攣したまま失神しているのだからなおさらだ。
それに ---- 自分たちが大魔王に陵辱の憂き目に遭うところだった、とコイズミが知
れば ---- 主を守れなかった自責の念のあまり、その場で自害して果てかねない。
「た、待機ですか !? し、しかしアンゼロット様・・・ ! 」
「しゃらっぷっ ! いまは貴方と議論している暇はありませんっ ! そうでしょうっ !? 」
扉の向こうで、ぐぬうっ、とコイズミがうなる。その隙に、アンゼロットは平素と変わら
ぬ司令官の声色で矢継ぎ早に指示を出した。
「現状での最優先項目は、大魔王ベール=ゼファーによって穿たれた結界の亀裂の
修復です ! 現在の当方の戦力から考えて、これ以上のエミュレイターの侵入は、致命
的。時間が経つほど、じわじわとこちらの戦力を削られていきます。それぞれの持ち場
もあるでしょうが、まずはそれに取り掛かりなさい ! 」
「はっ ! 」
きっと生真面目なコイズミのこと。互いの姿が見えないはずの扉の向こう側で、馬鹿
正直に最敬礼をしているに違いなかった。
「結界の修復が完了した時点で、敵残存総数の確認と報告 ! わたくしはここを司令室
とし、執務室より指示を行います。マイクの回線は生きていますね !? 」
「はっ・・・あ、いえ、大至急確認いたしますっ ! 」
「よろしい。では、私の今言った指示を速やかに遂行なさいっ ! 」
カツン、と小気味良い靴の踵を鳴らす音。アンゼロットはふっ、と微笑を浮かべ。
「コイズミ」
「・・・・・・はっ !! 」
「頼りにしています。それと ---- どうもありがとう」
コイズミの絶句する気配が伝わってくる。しかし、それでもこの言葉がアンゼロットの
偽りない現在の心境に違いなかった。
「勿体無いお言葉・・・ロンギヌス・コイズミ、任務に戻りますっ !! 」
無駄に声を張り上げたのは、嬉し涙に潤んだ声を悟られぬためか。
立ち去ろうとするコイズミを、
「お待ちなさい、コイズミっ ! 」
アンゼロットが呼び止める。
「はっ、はいっ」
「・・・柊さんに伝えてください。ベルさんもわたくしと一緒にいますから、安心して戦い
なさい、と」
「・・・・・・ ! は、ははっ !! 」
来た時と同じ、せわしない足音が遠ざかっていく。
アンゼロットはその足音を愛おしく思いながらも、厳しい表情を取り戻した。
自らを奮い立たせるように拳を握ると、アンゼロットは執務室の自分専用にしつらえた
黒檀のデスクに座り、マイクとモニターのディスプレイ用のスイッチを入れる。
「さあ、反撃ですわよ ! 覚悟なさいエミュレイター !! 」
最後の戦いが ---- 始まる。
※※※
宙を乱舞する幾十枚もの呪符が、迫り来るエミュレイターの身体を闇の鎖で束縛す
る。命を削る真剣勝負において動きと速さを殺されることは、文字通り自分が殺される
ことだ、と彼らは身をもって知ったはずで ---- 。
「くれは、ナイスサポート ! でりゃあぁぁぁぁーっ !! 」
気合一閃、剣閃幾十。
くれはの呪符の呪的効果による足止めは数瞬だったかもしれないが、歴戦の魔剣
使いたる柊蓮司にとっては、その数瞬こそが勝敗を決する要であり、またその数瞬が
あれば、勝利を握るのには十分な時間なのである。
空を断つ横薙ぎ。下段から摺りあげる死の軌跡。煌き、閃く剣の舞は、無骨なる剛の
動き。防ぎ、避けるどころか、逃げ、息つく間も与えない斬撃に次ぐ斬撃。
十の屍がテラスの手すりから異界の海へと落下し、二十の屍が存在の力を失って消
え失せる。三十、四十の屍を累々と積み重ね、なおも魔剣を振りかざす柊の姿は、まさ
しく人の姿を取った「滅び」のようだ。その動きは、見るものが見れば目を覆いたくなる
ような無謀なもので、防御や回避をとことんまで捨てた攻撃特化型の戦闘行動である。
ゆえに、エミュレイターの予測を超える速度で迫ることができる。
ゆえに、エミュレイターの防壁を無視するかのように容易く斬り下げることが出来る。
もっとも、柊がこんな戦法を取るのは、退けば破滅につながる息の抜けない絶望的
な戦いであったればこそ。すぐ側に守るべき弱いものがいるからこそ。ここを破られて
は、世界中のウィザードたちの心の要を失ってしまうことを、よく理解しているからこそ
である。
とはいえ、捨て身の作戦などという猪突猛進の戦い方は、本来の柊の戦い方では
ありえない。これだけ多くの敵が相手であれば、取るべき戦いかたは、「一撃一殺」。
その戦法を選ばせたのは、自分の身を守る術を知っているものが、自分の戦いを
援護してくれるものがいるからだ。そして、それが一番自分の信頼するに足る相手で
あるからだ。
背中を任せることに、躊躇も憂いも疑うべくもない存在。
それが、柊蓮司にとっての赤羽くれはなのである。
宮殿のテラスにしっかりとその両足で立ち、紅い袴の裾をたなびかせ、いっそ凛々し
い立ち姿で破魔弓を構える赤羽くれは。その横には、ロンギヌスの一人が武器庫から
運び込んだ装填補充用の呪符をうずたかく積み上げ、破魔弓が空になる前に魔力と
呪符を補填する。無尽蔵の援護射撃を受けることが出来るなら ---- そして、それを
してくれるのが赤羽くれはなら ---- 柊蓮司は一千のエミュレイターを相手にしても、
息を切らすことなく全力で戦えるだろう。
くれはの援護に遅滞なきよう、彼女の四方を盾となって護衛するのはロンギヌスの
精鋭たち。エミュレイターたちも、本能で「真っ先に倒さなければならないのは彼ら二
人だ」と察したのか、陣形もなにも無視をして、テラスの一エリアに集結をし始める。
《敵エミュレイター第四陣、二百秒後に到達 ! その数・・・五百 !! 》
オペレーターの声に悲痛さが増していた。
いくらアンゼロット宮殿の全ロンギヌスが総力を結集しているとはいえ、通常の対エ
ミュレイター戦の常識を大きく外れた戦いである。疲労の色が濃くなり始めたロンギヌ
スたちに、柊の底抜けに明るい声が届いた。
「どりゃあっ ! ・・・・っと、イッチョあがりぃ ! よっし ! 二百秒休憩できるぞ、みんな ! 」
一瞬。
テラスにいた全員が沈黙し ---- 次の瞬間、爆笑の渦が沸き起こった。
「な、なんだ、お前ら。笑ってる場合じゃねーだろ !? 」
抗議をするも、柊を除く全員 ---- くれはもロンギヌスたちも腹を抱えて笑っている
のである。あろうことか、柊を指差しながら、肩を叩きあって笑う輩もいるではないか。
「ひ、ひーらぎ〜、いまのサイコーにウけたよ〜。あはははは〜」
目に涙をためて笑いこけるくれは。
笑われている当の柊は、自分がどんな失態を演じたのかがわからず、仏頂面になる
だけである。ひとしきり笑いが収まったところに、つかつかと歩み寄ってきたのは、自身
も笑いをこらえながら帰還を果たしたロンギヌス・コイズミであった。
「柊様。私たちは、貴方のような方と戦場に立てたことを幸運に思います」
「ほめてんのかっ !? いいや、ほめてねーなっ !? 絶対馬鹿にしてるだろっ !? 」
「すねない、すねない。ひーらぎ、それコイズミさんの本心だよ、きっと」
くれはの言葉を裏付けるように、柊に向かって力強く頷く、幾十幾百の顔また顔。
知らず知らずのうちに、絶望に落ち込みそうになっているみんなの心を、自分が救っ
たなどとは露とも知らず、柊は仏頂面のままでそっぽを向いた。
そんな柊に、
「柊様。主、アンゼロット様はご健在。プチベル様も主と一緒におられます」
と、コイズミが言う。その言葉に、ロンギヌス一同が歓声を上げた。その喜びの声を
後押しするように、別の回線からの通信がテラスに届く。
《みなさんお疲れ様です。わたくしの美声を聞けなくて寂しい想いをしていた柊さん、
ご機嫌はいかがですか ? 》
「誰が寂しいって言った !? この非常時に、馬鹿かお前はーっ !? 」
あっけらかんとしたいつものアンゼロットの口調に、いつもの罵声で柊が切り返す。
ああ ---- と。
そのとき、ここにいるみんなが思ったのだ。いつものアンゼロットと柊、いつもの自分
たちを、やっと我々は取り戻した ---- と。
《まあ、馬鹿とはなんですか、失礼な。後でじっくりお話し合いしましょうね、柊さん ?
それはさておき、コイズミ。先ほどわたくしが出した指示はどうなっていますか ? 》
姿勢を正して声の方角に向け直り、コイズミが報告をする。
「はっ ! テラスへ上がる途中、結界修復可能な人員を至急現場へ送る指示を出しまし
た。オペレーター、状況を」
「大至急、とのご指示でしたので宮殿内の転送装置を全基フル稼働させ、四十名のロ
ンギヌス隊員を各ポイントに送り込み、これに当たらせました。結界の完全修復は、現
在時刻よりおよそ十五分後です」
報告をうけたアンゼロットの声が、かすかに翳りを帯びる。
《十五分・・・もっと早めることは・・・無理でしょうね・・・》
ロンギヌスたちも必死なのだ。貴重な戦力を割いて戦闘以外の任務に当たらせてい
るのだから、これ以上の無茶な指示も出せないだろう。
すうっ、と息を吸い込んで、アンゼロットが問う。
《十五分後の結界修復までに・・・どれだけのエミュレイターが侵入するか・・・予測計算
はできますか・・・ ? 》
「結界亀裂発生からの継続的侵入・・・結界突破数の傾向は増加して・・・いままでに
撃破した敵戦力を差し引き・・・十五分後・・・」
あらゆる要因を入力しながら、手元の演算器を操作するオペレーターの顔から、みる
みる血の気が引いていく。
「十五分後・・・結界内のエミュレイター残存総数予測は・・・五千から・・・六千・・・」
絶望の雲は ---- まだ、晴れない。
(ラストバトル〜エンディングへ続きます。もう少しお付き合いのほどを・・・)
リアルにGJ!
ベル様のすごい鬼畜っぷり
そしていよいよラストバトルか、どっちに転んでもwktkの展開だ
プチベルがかわいそすぎる><
しかし柊蓮司は柊蓮司だな。行動にイヤみがないのが凄いw
柊も魅力的だがコイズミの生真面目な忠誠もたまりませんのぅ。
・・・にしてもプチベル可哀相。
スレ住人の中に、記憶を操作できる夢使い様はいらっしゃいませんかー!?
このベルはつまり柊に相手をされなかった怒りと屈辱を宿敵アンゼロットにぶつけているわけですね。
柊が素で言ってるのがわかるぐらい馬鹿なのが素敵すぐるw
これでプチベルのオプション(特殊能力:超巨大武器適応)が消えずに残ったままだったりしたら……
_ ∩
( ゚∀゚)彡 ふたなり!ふたなり!
⊂彡
あと、
>>354 >ところで紳士諸君、某所で話題がでたルー様と飛竜の過去話を待っているのは私だけかね?
同士よ!
>>369ー、消えてる消えてるー。
それにしても柊蓮司は本当にあたまのわるい男ですなw
次回更新をお待ちしてます
PS
>>354>>370 ぶっちゃけ、地下にきて誉められるとは思わなんだ。プロットもどきは手慰みに書いただけだったのだけど>ルー×飛竜
まぁでも展開がアレだからもし仮にネタ神が俺に降りてきてもここに書くようなエロ要素がないんで俺には無理
ってわけで誰かエロ要素付きでここで書いてー
ウィザードとエミュレイターの永きに渡る戦いの歴史で ---- 。
近年における数限りない闘争の中においても、対するエミュレイターの総数が一度に
四ケタ台に突入することなど稀である。
記憶に新しいものでいえば、志宝エリスを巡る宝玉戦争の終盤 ---- あの土星での
一大攻防戦。大魔王ベール=ゼファー率いる魔王軍団とエミュレイター軍による、総力
戦が頭をよぎる。しかし、今回の戦いにおいて決定的に違う点。それは ----
ウィザード側に、前回同様の戦艦型箒のような巨大魔術兵装が不足していることで
ある。くわえて、対魔王戦などの大きな戦いを経験したウィザードが、今回は柊蓮司と
赤羽くれはの二人しかいないこと。絶滅社の誇る強化人間も、腹筋丸出しの夢使いも、
おむすび大好きな魔術師の少女もいないのだ。
敵側に魔王級エミュレイターがいないとはいえ、この差は大きい。
まして、今回の戦いはアンゼロット宮殿そのものを攻められているのである。
城を囲む外堀は、柊たちとロンギヌス。
そして、ここを突入されれば一気に本丸であるアンゼロットを攻略されてしまうのだ。
そうなれば、この局地戦における敗北が、世界中のウィザードの敗北へとつながる
ことは容易に想像できる。
“世界の守護者”たるアンゼロットがエミュレイターに斃されるということが、世界中の
ウィザードに与える影響は計り知れない。おそらく、ここでの敗北を呼び水に、ありとあ
らゆるウィザードたちの戦いは敗北を運命的に決定付けられることになるであろう。
暗澹たる思いに一同が捕らわれていると、追い討ちをかけるようにオペレーターが
叫ぶ。
「敵エミュレイター第四陣、待機・・・しました ! 後続の到着を待って・・・数で押し切るつ
もりです・・・ !! 」
五百体のエミュレイターの中に、多少の知恵が回るものがいたのであろうか。
第一から第三陣までは、結界突破順に闇雲に突入をしてきてくれたから、ウィザード
側にとっては各個撃破の良い機会を得ることになったのである。
ならば、我先にとアンゼロット宮殿を攻めるよりは自軍の増大を待つことのほうが、
エミュレイター側にとってははるかに賢明であろう。なんといっても十五分間待つだけ
で、五千、六千という大軍勢が出来上がるのだ。
憎きウィザードどもを駆逐するのに、たかが十五分の待機がなんだというのか。
エミュレイターたちの殺戮への渇きと期待が増大していく気配が、はるか彼方の空か
らも、肌を刺すように感じられる。
さすがの柊が、息を飲んで沈黙した。
背後のくれはも、その背中に声をかけることが出来ずにいる。
凍りついたように時が止まる。誰もが声を出すことを恐れるかのように黙りこくる中、
最初に口を開いたのは柊蓮司であった。
「ふーーー・・・・だめだな、やっぱ」
ぎくり、とこの場にいた全員が身を強張らせた。柊蓮司が ---- あの、どんな強大な
敵に対しても果敢に立ち向かい、世界中のウィザードを敵に回してでも自分の意志を
貫く青年が ---- 六千のエミュレイターの大軍を前にしては諦めるしかないのか !?
「ひ、柊様・・・・・・」
「・・・ひーらぎぃ・・・・・・」
情けない声を上げるロンギヌス・コイズミとくれは。しかし、振り返った柊の顔は、なん
だかやたらとさっぱりしていて。
「だめだ、だめだ。やっぱ、きりがねえ。ただエミュレイターをぶった切るんじゃ芸がねえ
とは思うんだが、もう少し楽な方法はねえもんかなぁ」
その言葉の意味は ---- その真意は、これだけのエミュレイターを相手に、いまだ
戦う意志を失っていないということだろう。ただ、柊は考えていただけである。もっと、
効率の良いやり方はないものか、と。柊が言った「だめだ」とは、自分には良い方策が
頭に浮かばなかったというだけのことであり、戦う意志を放棄したわけでは、決してな
かったのである。
「アーンゼロットーっ !! 」
上空に向かって、おそらくはアンゼロットのいるであろう方角へ声を張り上げる。
《なんですの、人の名前を大声張り上げて呼んで。わたくしの名前なんですから、もっ
とみやびやかな感じで発音してください》
柊も柊なら、アンゼロットもアンゼロットである。
今の状況がわかっているのだろうか、と疑いたくなるほどに普段と変わらぬ二人な
のだ。
「お前の名前の呼び方なんてどーでもいーっつーの ! それより、今の状況なんとかす
るのが先だろうがっ」
《当然ですわ。この事態を打開するための方策を立てる必要があるわけですが・・・》
ここで、アンゼロットは言葉を区切り沈黙する。
その沈黙はテラスに伝染し、ただ静かに時間が過ぎていく。膨れ上がるエミュレイ
ターの気配だけが増加していく中、周囲をぐるりと見回して、柊は愛用の魔剣の切っ先
を床にカチンと突き立てた。
「んじゃ、整理するか。エミュレイターの総数は六千。これはもうどうしようもない事実
なわけだ。おまけにその六千体すべてが、一丸となってここへ一気に攻め寄せてくる。
・・・はは、きついか、やっぱ」
そう言いながらも柊の物言いに悲壮感は欠片もない。
「でもよ、こりゃ考えようによっちゃ、ある一面で俺たちにとってラッキーでもある。この
戦力差で、例えば敵が千体ずつ分かれて六方向から攻撃されることの方が、俺たち
にはキツイはずだ。そうだろ、アンゼロット ? 」
《・・・続けてください》
うながすアンゼロットの声にはかすかな驚きの響きがあった。なんだか、柊さんのく
せに、いろいろ考えているじゃないですか、と言外に言っているようだった。
「・・・なんだかんだ言ったって、俺やくれは、ロンギヌス全員集めたって千人いるかい
ないかだろう。それが六つに分けられて、それぞれ千体のエミュレイターを相手にする
のよりも、俺たち千人対エミュレイター六千、のほうが気持ちは楽だ」
確かに柊の言うとおりである。こちらの戦力を分断されて戦うのと、一軍対一軍で戦う
のでは、実はどちらも戦力差は六倍であり、数字上の変化はない。
しかし、エミュレイターと違って我々人間であるウィザードには「心理」という大きな内
的要因が存在することを忘れてはいけない。
「仲間と分断されて戦力を減らされた挙句、千体のエミュレイターと戦わなければなら
ない」という言葉には、ネガティヴな要素しか見当たらないが、「仲間と一丸となって、
六倍の敵と正面からぶつかり合う」という言い方のすり替えをすれば、仲間意識による
戦意の向上、あるいは一種の英雄的行為からくる気分の高揚、などの心理的効果が
期待できるのである。
それを、「そのほうが気が楽だ」という本能的な理由で良しとしてしまうのは、柊蓮司
ならではだ。だから、彼に「軍師的素養」などというものを期待しても無駄である。
ただ、柊は知らぬ間に、みんなにとって最善の道を選ぼうとしているだけなのである。
「だからって、情況が劇的に好転することはねえんだがな。ただ、俺たちにとって有利
なのは、敵軍が固まってるって一事のみ、だ。もし、敵に大打撃を与える方法さえ俺た
ちの手の中にあれば ---- そうだな、艦隊戦のときの戦艦みてえな火力でもあれば、
それで一気に敵の主力を叩き潰すことが出来るだろう ? 」
《なるほど。考えましたね、柊さん。それで ? 》
「それで、って、なにが」
《なにが、じゃありませんわ ! そこまで言うのですから、柊さんの思いついた、ないすあ
いでぃあ、とやらを -------- 》
言いかけて、アンゼロットは自分でも馬鹿なことを言ってしまったと思う。
柊は最初に、良い手が思いつかないから自分に声をかけたのではないか。
つまり、それはアンゼロット艦隊のときのような魔術兵装が宮殿内のどこかに配備
されていないか、という柊の問いかけであったわけである。頭痛がしそうな頭を振り、
アンゼロットは臣下一同へ指示を出す。
《武器庫に、わたくしが極秘裏に作成しておいたフォールンエンパイア・改が百基保管
してあります。エナジーストーム、対物、及び対魔装甲板の箒オプションの他に、射撃
の苦手な方でも多少有利に扱えるよう、レーザーサイトのおまけオプションがついてい
ます》
アンゼロットの解説に指一本ずつ折りながら数を数えていたロンギヌス・コイズミが、
愕然と顔を上げる。
「ア、アンゼロット様、搭載可能なオプション数を・・・」
《アンブラ社には、内緒ですよ ? うふふっ》
なんということであろう。
アンブラ社製の次世代型複合箒の発展系と呼ばれるフォールンエンパイアを、勝手に
強化改造するにとどまらず、量産までしてのけていたか、アンゼロット ---- 。
「この際、ぜいたくも文句も言わねえさ。とにかく、武器はあるんだな ? 」
《戦艦の火力には遠く及びませんが、攻・防ともに性能抜群の、範囲攻撃可能な箒が
百基もあるのです。敵主力の殲滅とまでは行かないでしょうが、ある程度の打撃は
与えられるはずですわ。加えて、宮殿に内蔵された防壁魔方陣展開システムをフル
稼動させます。六千体のエミュレイターが相手でも、みなさんへの攻撃を多少はしのぐ
ことができるはずです》
「よしっ。それだけ聞けばあとは十分だぜっ ! 敵の勢揃いと、ここまで攻めて来んのに、
どれくらいかかるっ ? 」
柊の問いかけにロンギヌスの女性オペレーターが、
「結界の亀裂修復後、六千体のエミュレイターが集合するまで、およそ九分。進軍を
開始してここへ到達するまで、さらに三分。交戦開始は、およそ十二分後かと」
と、明快な回答をはじき出す。
「よっしゃあっ !! 急いで用意すんぞっ !! 」
柊の号令に応じたロンギヌスたちがあわただしく駆け出した。
決戦のときまで ---- あと、十二分。
※※※
上空に銃口をそろえて向けた百基の箒。
整然と横一列に並んだ死の砲列が、鈍い光を放ちながら開放のときを待つ。
その背後には破魔弓を構えたくれはが立ち、彼女を護衛するため、そしてロンギヌス
の現場指揮を執るために、コイズミがその右方を固める。
砲列を背中に魔剣を握り締め、仁王立ちするのは言うまでもなく柊蓮司。
彼の左右には、やはり何十人ものロンギヌスたち ---- 白兵戦に長けたものたちな
のか、手にはそれぞれ剣や白兵用箒を携えている ---- が控えていた。
遥か彼方の空から飛来するエミュレイターの一軍は、時間の経過とともに、上空の
一区画を黒い影で埋めつくしていく。その数、およそ六千余。
この広大な空が次第に、異形のものたちの影で塗り潰されていく様は、その勢力の
巨大さを雄弁に物語ってあまりある。
だが、見よ。
敵勢力を迎え撃たんとするロンギヌスたちの頼もしきこと。
背後に控える赤羽くれはの凛々しいこと。
陣の先頭に立ち、魔剣を携えた柊蓮司の力強きこと。
彼らは世界の盾である。世界の振るう剣である。宮殿に搭載された防壁システムと
いう鎧によって守護された彼らは、まさしく世界のための騎士である。
先刻、オペレーターの告げた「十二分後」が訪れ、互いの勢力が一触触発の間合い
に入ると -------- 。
「・・・っ、撃てえぇぇぇぇぇっ !! 」
コイズミが振り上げた手を降ろすと同時に、百基の箒が百条もの輝きで空を照らした。
対するエミュレイター側も負けじと、その輝きの六百倍もの死の光を宮殿めがけて吐き
つける。
しかし、エミュレイター側の攻撃は、一見薄い皮膜のようにも見える魔法防御システム
を傷つけることかなわず、ただただブルームの放つ輝きに自らの身体をさらすのみ。
焼けた鉄板に水滴を垂らしたときのような、じゅうっ、という耳障りな音を幾百も響かせ
ながら、エミュレイターの陣形の一角が消滅した。
「敵残存総数は五千二百 ! 残り半数にも、大小のダメージを確認 ! 」
オペレーターの報告が、一同を奮い立たせる。
勝利の凱歌にも似た歓声が沸きあがり、それをさらに鼓舞するようにコイズミが、
「エナジーストーム再装填 ! 」
武器保管庫からありったけの装備を持ち出してきたからこそ、可能な指示を出す。
魔方陣の防御に力を得て、ロンギヌスたちが次の攻撃の準備を意気揚々と行って
いる間 ---- 。
エミュレイターたちは続けて第二射目の攻撃を開始する。
降り注ぐ炎の雨、光の矢、闇色の瘴気の一斉掃射であった。
それが、ふたたび防壁システムに到達せん、とする瞬間 -------- 。
「ヴァニティワールドっ ! 」
エミュレイター群の漂う空の、さらに上空から。赤光を纏った闇の塊が、アンゼロット
宮殿めがけて放たれる。防壁を包み込み、蝕みながら、暗黒の球体がその護りを打ち
崩し、突然の第三勢力からの攻撃に戸惑うロンギヌスたちを、エミュレイターの攻撃が
容赦なく打ちのめした。
炎の雨に焼かれ、光の矢に貫かれ、闇色の瘴気に倒れ伏す、ロンギヌスたち。
《なんですって・・・・・・ !? 》
モニター越しに自軍の善戦を眺めていたアンゼロットが、身を乗り出して叫び声を上
げた -------- 。
※※※
臨時の司令室として執務室に腰を落ち着けていたアンゼロットが、愕然とモニターを
見つめる。配下のロンギヌスたちが次々と傷つき、倒れていく姿を呆然と眺め、信じら
れないものを見たかのように、虚ろな瞳を泳がせる。
はっ、と我に返りマイクを取り、
「カメラ、上、上です ! エミュレイター群、上空を映し出しなさいっ !! 」
まさか、まさか ---- 口の中で何度もつぶやきながら、見たくないものを見えないよ
うに祈るアンゼロット。しかし、彼女の期待は完全に裏切られ、当たって欲しくはなかっ
た予想は完全に的中してしまった。
ズームアウトした映像が、鮮明に解析される。
異界の空を埋め尽くすエミュレイターたちの上空、彼らに君臨するかのように宙に浮
かぶ姿はまさに威厳ある侵魔の女王のよう。
裏界にその名を轟かす、美しき蠅の女王。
その強大な力をもって、空を住処とするもの、翼あるものすべてを支配する ---- 。
大魔王 ---- ベール=ゼファー !!
「あっははははっ !! 無様ね、アンゼロット ! なんてお人よし、どこまで甘いのかしら !
私がただ裏界へ帰ると思ったら大間違いよ ! 所詮こいつらはどこかの魔王に送り込ま
れた下賎な下級エミュレイターどもに過ぎないわ ! 数が多いばかりの烏合の衆が、ま
さか貴女たちを“完全に”殲滅できるなんて思わないもの ! 」
「ベール=ゼファー・・・貴女は裏界に帰ったのでは・・・ !? 」
「だからお人よしって言ってるのよ、アンゼロット ! わたしが“それ”に施した仕掛けは、
もうひとつあるのよっ ! それは【門】としての役目 ! その娘がいる限り、私はどんな結界
も、時間すらも飛び越えて、その場に現れることが出来るのよ ! 」
高らかに歌い上げるように言い、ベール=ゼファーが遥か下界を見下ろした。
いまの彼女には、ロンギヌスたちが ---- いや、柊蓮司でさえも、地を這う虫のよう
に見えたであろう。
「アンゼロット。貴女にいいことを教えてあげる。“それ” ---- 」
と言いつつ指を差す先 ---- 距離と、幾枚もの宮殿の壁を隔ててはいるが、確かに
彼女の指差す先には、アンゼロットの執務室があり、“それ”とは当然プチベルを指して
いるのに違いなかった。
「“それ”が、私と密接につながっていることは貴女でもわかるでしょう ? いま、その娘
の息の根を止めれば、少なくともこの世界における私とのリンクは切れる。強制的に、
私は裏界へ帰還させられることになるわ。どう ? こんな劣勢を強いられた戦い、せめて
私一人ぐらいは戦線を離れさせた方がいいんじゃない・・・ ? 」
大魔王の言葉を、アンゼロットは直感的に真実だと感じ取った。
そして、次の瞬間、わたくしは試されているのだ、と気づいて背筋が凍る。
この戦いに勝利する確率を上げるためには、ベール=ゼファーの脅威を取り除かな
ければならない。そして、それは絶対に必要なことである。しかし、それにはこの部屋
の床で気を失って眠るプチベルを殺さなければいけない。
世界を守るため ---- 大を生かすために小を殺してきたいつものやり方をすれば、そ
れでいいのだ。“世界の守護者”としてはそれが当たり前の義務なのだ。
でも・・・でも、わたくしは・・・・・・。
「殺せばいいでしょ ? なぜ躊躇うの ? ほら、いつもどおり ------ 」
ベルの嘲る声に、アンゼロットが耳をふさいで机の上に顔を伏せる。
と -------- 。
執務室の絨毯がさわり、と擦れる音がした。
いつもの彼女を知るものからすれば驚愕するほどに、弱々しく、いまにも泣きだしそう
な表情をしたアンゼロットが、おそるおそる顔を上げた。
そこには ---- 失神からいつの間にか回復したプチベルが ---- 身体を起こし、床に
尻餅をついたままで、アンゼロットを見つめ返していた。
「ベル・・・さん・・・」
発する声まで弱々しく。アンゼロットは命の選択を迫られた幼子の名を呼んだ。
「・・・ごめんなさい・・・あんぜろっとおねーちゃん・・・わたし・・・わたし・・・」
喉が詰まる。なんと言っていいのか、なんと声をかけていいのかわからない。
産み出されたばかりの小さな女の子が、自分が何者であり、自分がどんな存在であ
り、自分がどれだけ大好きなみんなを、大好きな命を危機にさらしているのか ----
この少女はすべてを知って、そして自分を責めているのだ。
「わたし・・・いくわ・・・」
プチベルが静かに、しかし確かな決意を秘めてはっきりとそう言った。
「い、行くって・・・どこに行くというんですっ !? 」
アンゼロットの問いかけはほとんど悲鳴に近く。
なぜだか、それこそ何 ---- 年ぶりに、アンゼロットは泣きたくなった。
「わたし・・・ばかにされるのきらいだもの・・・ずっとまけているの・・・いやだもの・・・」
大魔王の元・写し身の少女は、こんなところは本体の負けん気の強さやプライドの
高さがやけに似ているのか、きっぱりそう言って唇を噛み締めた。
「だ、だからって貴女にできることなんか・・・」
押しとどめようとするアンゼロットと視線を合わせながら、よろよろとプチベルが立ち
上がり、にっこりと ---- ひどく、透明な微笑みを浮かべた。
「“ちいさなきせき” -------- 」
プチベルの身体を黄金の光が包み込む。
ふわり、とその小さな身体が床から離れ ---- 次の瞬間、執務室の窓を突き破るよ
うにして、プチベルは戦いの空へと飛び立った。
「・・・・・・っ、ベルさん・・・ベルさーーーーーーんっ ! 」
残されたアンゼロットの呼ぶ声は、おそらく、もう二度とは届かなかった ---- 。
※※※
一転、勝利への階から転落し、敗北の近づく足音を耳にして。
ウィザードたちは熾烈な戦いを強いられていた。
結界が大魔王の魔力によって破壊されたのを境に、仲間が倒れる鈍い音が幾つも
聞こえ始める。空を舞うエミュレイターたちの炎の息に焼かれ、着陸を続ける敵の数は、
次第に増大し、柊たちの戦線は崩壊へのカウントダウンを始めるところであった。
ただ唯一の救いは、ロンギヌスたちに与えられた箒がフォールンエンパイア ---- 射
撃、白兵両用の箒 ---- であったことぐらいであろう。
上陸を果たしたエミュレイターの姿に、ロンギヌスたちは武器の在り様をすぐさま変化
させ、接近戦対応に切り替える。それでも ---- 。
「くそっ、振り出しに戻されちまったぜ ! 」
愚痴をこぼしながらも、柊がエミュレイターの屍で山を築き上げていく。
しかし、さすがの柊もこの戦況にあっては ---- 軽口を叩く余裕はあっても、その表
情に余裕がない。いや、むしろ次第に無理が祟ったせいか、顔色に疲労感が滲み出
てきている。剣の勢いから次第に鋭さと力強さが失われていき、ついには ---- 。
「・・・・ひーらぎっ !! 後ろっ・・・・ !? 」
どこかでくれはが叫ぶ声を聞いた。振り向いたときには遅く。眼前に迫りくるエミュレ
イターの鉤爪が、柊の息の根を止めようとしているところだった。
「きゃあああっ !? ひーらぎぃーーーっ !? 」
「く・・・・っそぉ・・・」
くれはの悲鳴。柊が舌打ちとともに魔剣を防御のために頭上にかざす。だが、間に合
わない。顔をしかめ、だめか、と柊が観念したその瞬間。
ビクウゥゥゥゥゥゥ・・・・・・ン・・・・。
エミュレイターが攻撃の姿勢を保ったまま硬直した。
本能のままに生きる知性の低いエミュレイターであればこそ、この場に現れた異変と
自らの生存の危機を敏感に感じ取ったのか。小刻みに痙攣したまま、感情などという
人間らしさとは縁遠いはずのエミュレイターが感じたものは ---- 絶対の恐怖。
自らの異能の力を遥かに凌駕する強者の登場に、恐怖したのだった。
戦場の時間が止まる。
ウィザードもエミュレイターも、その別なく。
-------- 動きを、止めた。
「ばにてぃーわーるどっ」
舌足らずの声で唱えられる呪文。テラスに降り立ったエミュレイターたちが、闇に飲み
こまれ、消滅する。十、二十、五十、百、と。
「・・・おい・・・嘘だろ・・・」
「はわ・・・そんな・・・ベルちゃん・・・ !? 」
黄金の輝きに身を包み、手には澱のように凝った闇を携えながら、それでも静かに
わずかの邪悪の気配もなく、どこか寂寥たる空気を漂わせながら。
「・・・ひいらぎれんじ・・・くれはおねーちゃん・・・」
プチベルが寂しそうに呟いた。
「お前・・・まさか・・・」
苦悶に満ちた表情で柊が言う。
それには答えず、気丈にも顔を反らせて強気なままで。
「まったくー、ひいらぎれんじはー。しょーがないからわたしがたすけてあげるわー」
と、そんな台詞をいまにも泣き出しそうな声で言うのだった。
「ベルっ・・・・・・ !! 」
「ベルちゃん・・・・・・ !? 」
テラスに蠢くエミュレイターを瞬時に殲滅した少女は、最後に二人へ、ふふん、と笑っ
て、光り輝きながら天を目指して飛び去っていった -------- 。
※※※
「な・・・どういうことよっ !? 」
眉を逆立て、頬を引きつらせながらベール=ゼファーが叫ぶ。
来る。“あの娘”が来る。
地上から自分めがけて一直線に飛んでくる。それをさえぎろうとするエミュレイターた
ちを殲滅しながら、迫り来る。
百、二百、そして三百。ついには千体の侵魔を屠りながら。
闇色の光をその小さな手から放ち、エミュレイターの群れを蹴散らしながら !
瞬く間に、ベール=ゼファーの浮かぶ空に並び立ったプチベルは、その頃には六千
体のエミュレイターの半数までをも消滅させていた。
「・・・貴女・・・まさか・・・まさか・・・ !? 」
「・・・わたしはまけないんだもん。まけないちからをもつために、えみゅれいたーにもど
ることにしたのよ」
ベール=ゼファーの額に、球のような汗が浮かんだ。
自分の元・写し身がエミュレイターに戻ったということは・・・大魔王の写し身としての
力を持ったということではないか !! 言うなれば、自分に近い力を持つものとの戦い。
プチベルの存在は、ベール=ゼファーの“願った”ものである。しかし、そうやって造り
上げられた彼女自身は、決して大魔王の思惑に屈することなく、プチベル自身の持つ
“小さな奇跡”を願うことで、大魔王と対等の戦いの場に姿を現したのだ。
「くっ・・・・こんなの予定外・・・っ・・・」
毒づきながら、ベール=ゼファーが両手を振りかざす。黒い球体が血の色の紫電を
まとい、膨張しながら生まれてくる。プチベルがそれに合わせるように手のひらをかざ
し、同様の暗黒球を大魔王へと突き出した。
「ヴァニティワールドっ ! 」
大魔王の魔力がプチベルの身体を覆い尽くそうとした瞬間。
ベール=ゼファーは暗黒の壁の向こうで、幼い少女の声を聞いた。
「・・・・・・じ・あんりみてっど」
それ以上に膨れ上がる闇、そしてさらなる闇。
「な、なんですっ・・・・きゃあぁぁぁぁぁぁぁっ・・・・・ !? 」
絶叫とともにベール=ゼファーの仮初めの肉体が消滅する。
後に、正史に記されることこそないが、『アンゼロット宮殿攻防戦』と呼び習わされる
こととなる戦いの -------- ウィザードたちの勝利が確定した瞬間であった。
(次回が最後の投下、エンディングへ続きます・・・)
ふっ、小さな女の子があんなに頑張ってるんだ……ここで何も言わなかったら男じゃないな
超☆GJ!!
ベルはホント詰めが甘いなぁw
GJ!
さすが柊蓮司の”娘”と言うべきか……何と言う果断なる決断力
ボスへの一撃にリソース注ぎ込んでるんでしょうな
それこそクレバーに
え?クレバー王子に一撃をそそぎこむって?
歳とると涙腺脆くなってあかんなぁ(ずびー
ただのヴァニティワールドとアンリミテッドの差は高レベルだと絶望的差だからな。
リソースつぎ込んだら打ち合いでノーマルじゃ勝てるはずも無し。
ベル様、切り札切るタイミング間違えたなwwww
裏界に押し返されたベル様がリオンに小馬鹿にされてると思うと、
それだけで勃起する。
>>379 GJでした。
お、俺は信じてましたYO? プチベルがいい子だって!
やばい、感動して泣きそうです。
凄まじい名作の予感にwktkしながら、宝玉少女の斬撃舞踏曲(下)クライマックス編を投下したいと思います。
バトルメインです。
人を救うとは簡単なことじゃない。
本来人が助けられるのは自分を含めて一人ぐらい。
それ以上を求めるのは無理がある。
苦痛がある。
けれど、けれど、彼は如何な苦痛をも、苦しみであろうとも助けることを諦めない。
正義の味方なんてガラじゃない。
偽善に酔いしれているわけでもない。
ただ救いたいから。
それだけで手を伸ばす。
そんな奴――
鉄臭い味がした。
喉から込み上げる血が口内に溜まり、あまりの生臭さに吐き捨てる。
「ぶゅっ」
湿った音と共に喀血が零れた。
激痛が腹から、全身から走り抜ける。激痛という名の熱が脳を煮え滾らせ、焼け爛れてしまいそうに熱い。
気絶してしまいそう。
けれども、それは許されない。その手に抱えていた温もりがないのだから。
「エリス!」
大切な後輩、大切な仲間。
それを手放したしまった自分、助けなければならないという感情。
それをたった一つの支えに、痛みを、悪寒を、熱を、全身に感じながら彼は目を開いた。
渇いた砂のような大地に手を付いて、見上げた空は――銀閃に覆われていた。
それは刃。
それは剣。
それは斧。
それは刀。
それは鉈。
それは戟。
幾千、幾万の剣の担い手が一斉に刀剣を掲げたかのような、刃の群。
紅い、紅い空の下に、万華鏡よりも淫らに咲き誇る刃光があった。
「なんだよ、これはぁ……」
柊は血を吐き零しながら、呟く。
見たこともない月匣、倒したはずのエミュレイターによって解除されない世界、幾多の常識が通じない月匣とはいえこれほどの異相空間は濃厚な戦いを繰り広げていた柊でも経験がないほどの苛烈、異常、歪んだ世界。
止まらない出血を、腹に当てた手で食い止めながら、柊が呆然と呟いた時だった。
「かぁー!」
声がした。
それは鴉の鳴き声。
見上げれば、数匹の鴉が赤い空の下で舞っていた。
「なんだ?」
おかしい。
通常の鴉、いや生物は月匣内に侵入できない。招かない限り、単なる生物が入り込めるような異相空間ではない。
とすれば、エミュレイターか?
柊がそう考えた瞬間だった。
――血の雨が降り注いだ。
絶叫すらも上げる暇なく、空を舞う鴉たちを鋭く伸びた刃が貫いた。
一本、二本、十本、いや数百、数千にも至る刃が突き刺さり――切り刻んだ。肉も、血も、骨をも解体するかのように、嵐という言葉も生温い斬撃が起こる。
血の一滴、一滴すらも尊い、砕くべきだと歌うかのように剣閃が迸る。
斬、斬、斬。切る、斬る、刻む。
骨を断つ音も、肉を切り裂いた音も、血を砕いた音も、万を超える斬撃に両断される。
圧倒的な光景。
おぞましいはずなのに、どこまでも華麗だと酔い痴れてしまいそうな悪夢。
十秒にも至らない解体ショーの後に残ったのは、空へと薔薇のように咲き誇る刃たちと、その刀身に付いた鴉たちの血痕だけだった。
「なにが起こってやがる」
意味が分からない。
何故鴉を殺すのか、プラーナを奪うでもなく切り刻んで何の意味があるのか、理由が分からない。
だけど、けれど、一つだけ動かないといけない理由を見つけた。
バッとタッチボタンで開く傘のように万を越える刃の華が開いた時、僅かに晴れた銀光の向うに見過ごせないものを見つけたから。
「エ」
それは一人の少女。
彼が護るべき大切な仲間。
「リ」
その身は既に変わり果てた姿。
着ていた可愛らしい私服は既にボロキレとなって僅かに張りついて、その白い肌を隠すことすら出来ていない。
その細い手も、白い乳房も、小さく整った形の臀部も、何もかも晒し出されていた。
その身を覆い、貫き、囲むのは細い、無数の刃。彼女の肌に食い込み、細い刃は彼女の太ももを貫き、まるで生きているかのように脈動する。
彼女は刃に陵辱されていた。
肌を切り裂かれ、肉を貫かれ、その血を啜られる。
刀身陵辱。
彼女の体を傷つける刃はエリスの血に濡れて、紅く染まっていた。
「セン、ぱぃ」
エリスは泣いていた。
プラーナを貪れる痛みに苦しみを耐えながらも、血を流す柊を思って泣いていた。
自分の痛みなれば耐えられる。
如何なる辱めだろうが、耐え凌ぐ。
けれど、けれど、自分のせいで大切な誰かが傷つくのだけは耐えられなかった。
彼女と彼の間にあるのは万に至る刃の森。
刃に囲われる彼女からは柊が見えているのかどうかも分からない。
けれど、彼女は確かに柊のいる方向を見つめて、声を上げていた。
囁くような声で、悲鳴を上げていた。
「――スゥウウウウッ!」
視認した瞬間、柊の思考はぶっ飛んでいた。
それは怒り。
体を貫く痛みも、穿たれた傷も忘れるほどの憤怒。
残り少ないプラーナの量など忘れて、立ち上がり、駆け出していた。
出血など関係ない。プラーナさえあれば、プラーナで無理やり造血を行い、身体能力を強化し、音速に迫る速度で駆け出そうとして――
万に迫る刃の歓迎を受けた。
降り注ぐ刃。360度全てが殺意、凶器、必殺にして瞬殺。
それは必然だった。
しかし、運命を変えるのがウィザードならば、必然を覆すことも可能。
「どけぇっ!!」
瞬くよりも早く、その全身の血肉を粉砕する刃の群。
それに柊は右手に携えた魔剣の一撃を持って答える。
左手を添える。刀身に、血に塗れた左手を持って、己の血で刃を染め上げる――震える魔剣の咆哮。
生命の刃。命を喰らい、主の血を持って恍惚する魔剣の力。
迫る、迫る、殺意。それに足を踏み込み、血を吐き零しながら、腰を廻し、手を振り上げて、音すらも置き去りにした高速の斬撃が打ち砕く。
一閃。
一を持って、千を凌駕する。
振り抜かれた魔剣の軌道に沿って、迫る刀身たちが、バラバラとガラスのように砕け散る。まるで光のシャワー、高層ビルのガラス窓を全て砕いたような大轟音。
破片が柊の頬を切り裂く、肌を切り裂く、それはさながら散弾銃の嵐のように。
だが、関係ない。
ただ前へ踏み出す。右に、左に、前へと魔剣を振り抜きながら、柊は疾走する。
それは人知を超えた光景。
誰が想像しようか。万の刃に立ち向かう、たった一本の剣の戦いなど。
世界全てが敵であるかのような壮絶な戦いを。
風が戦慄いた。
斬撃。その概念の極みがここにある。
大地から、空から、生え出してくる無限の刀身。人間を粉微塵にして余りある処刑の刃。
それを柊 蓮司は踊るように打ち砕く。
手首を返し、プラーナを供給し、音速を超える斬撃――されど音も大気も震わせない矛盾、月衣の恩恵による限界無き一撃。
超音速の刃が、ほぼ同時に天と地を打ち砕く。
バラバラと散り行く桜の花びらのように刃の欠片が舞う、それを魔剣使いは縦横無尽に振り抜く刀身で打ち飛ばした。
如何なる魔技か。
魔剣の一撃で撃ち飛ばされた刃の欠片は弾丸のように疾走し、迫る刀身と衝突し、砕け散る。砕け散った刃は再び魔剣によって撃ち放たれ、砕くための刃となる。
なんたる矛盾。
ただ一人で世界とも戦い抜くためのウィザード、その戦い方。
無限の刀身に対抗するための無限の剣閃とでも語るべきか。
血を流しながら、喀血を撒き散らしながら、咆哮すらも切り刻まれる斬撃の合唱世界の中で、斬舞を踊る。
それは常識ではありえない世界。
正史より世界に語られてきた如何なる決闘劇よりも凄まじく、神話にすら至りそうな光景。
夜闇の魔法使い、それが生きるのは伝承であり御伽噺であり神話の世界だった。
しかし、限界は来る。
「ぶっ!」
何千本砕いたのかもわからないほどに魔剣を振るった柊の唇から、赤黒い喀血が零れた。
脚が止まる、すかさず迫る刃の洪水。辛うじて反撃、けれど手の動きが鈍い。
捌き切れない。
「やべええ!」
魔剣を振り下ろす、風が舞う。
術式を構築、震える足で砕けた刀身だらけの地面を蹴る。
プラーナを使用し、洪水を飛び越えるだけの脚力で重力の束縛を振り切る。月面を飛ぶかのように、高々と。
≪エアダンス≫
風の祝福。
重力の束縛を振り切った柊の動きを補助する不可視の風の渦。まさしく風の舞踏と証すべきほど動きが軽やかになる魔法。
数瞬前まで柊が立っていた場所を数百を越える斬撃が切り刻んだ後、縦横無尽に姿を超える刀身が上昇する。
下を見下ろす柊は見た。
早送りで流した薔薇の開花のように、刀身たちが螺旋を描きながら鋭く伸びてくる様を。
そう、それはまるで鴉を切り刻んだ解体ショーの再現のように。
「くそったれ!」
刀身を下に構える。
その刀身に――刃が突き立った。砲撃を喰らったかのような衝撃、戦車の前面装甲すらも貫通するだろう刺突が、数十発に渡り、柊の構えた刀身にぶちあたる。
吹き飛ぶ。踏ん張る場所もないから、ただ上昇する。飛び上がる、空へと向けて跳んでいく。
追撃してくる刃。
構えた魔剣の盾を潜り抜け、迫る刃に柊はちょうど三十九回目の刺突の勢いを利用して魔剣を翻した。
魔剣を後ろに振り回す、加速する上昇の勢い、エアダンスによる補助、さながら無重力空間のような束縛無き動き。
「はぁあっ!」
残り少ないプラーナを絞り出す、血を零しながら骨と肉と皮膚を強化する。
迫る刃、柊の首を、胸を貫き穿孔しようとする伸び上がる刀身――それを蹴り飛ばす。
何の変哲もないスポーツシューズ、毎度ボロボロになるので安物の靴、その靴底で――刀身の腹を蹴った。
僅かに歪む刀身の軌道。腹を掠める刃、プラーナが削られる、なんとも言えない脱力感。
「らぁあああああ!」
それでも無理やり脚の筋肉を踏ん張らせ、強引に避ける。
負傷していた太ももの傷が開く、じゅくりとズボンが血に染まる、問題ない。もう既に痛みなど感じる余裕がないのだから。
数百の刃が、軌道をそらした柊の横を突き抜けていく。
彼は見る。
無数に絡みつく刀身でそそり立つ刃の柱を、それは月まで届くかのようにどこまでも伸びていた。
見惚れそうな光景。
しかし、休む暇など呼吸一回分も存在しない。
柱が蠢いた。生き物のように、震える。
「っ!?」
開いた。
柱から、金属でありながら生物のように無数の刀身が飛び出す。蛇のように柊のように迫る、おぞましい光景。
「うぉお!?」
魔剣を振るう、体制の取れない状態で迫る刀身を弾く。けれど、二本目の刃が、三本目の斬撃が、柊の血肉を貫く。
血の華が華麗に咲いた。
「がぁああああああああ!!!!」
絶叫。
肩が貫かれ、わき腹を一度貫かれた傷口を抉るような刃。
ごきゅごきゅと音を立てて、刀身が蠢く。
もはや刀身は金属ではなかった。それは鋼色の肉。蠢く怪物。
醜い怪物。
ともすれば、失神してしまいそうなほどクラクラする意識の中で、柊は自らを貫く刀身を左手で掴んだ。
血が零れる、けれど離さない。歯を食いしばりながら、右手を振り抜く。
バキン、砕ける音。肩の、腹の刀身を砕いた音。
怯んだように刀身が蠢く、けれどすぐさまに伸び上がり、柊に迫り――動いた彼を捉えきれずに空を切る。
疾走する。
迫る刃を踏み台に、柱へと柊が踏み込む。
「っ! らぁああ!」
落下しながら、柊は虚空を蹴り飛ばす。
自分から見れば下、すなわち上空を踏み場に、月衣による常識破壊、己のルールで足場と成した上空を踏んで、回転するように魔剣を走らせた。
魔剣の刃が剣の柱に突き立ち――めり込む。
「きりさけぇえええええ!」
刃が砕ける、一本目。刃が折れる、二本目。刃が壊れる、三本目――
次々と、次々と、折れて、壊れて、切られて、断たれて、その数が五百二十七本目に至った時、衝撃が粉砕された欠片と共に柱の向こう側から噴出した。
緩やかに折れていく、巨木のように。
ズズゥンと支えを失い、自重と共に刀身の巨木は崩壊する。
その本体を蹴り飛ばし、飛び離れた柊の前で砕け散るその様は美しい。
耳が壊れそうな金属音が鳴り響く、崩壊の禁忌を奏でるようにガラガラと醜く歪んだ刀身たちが涙のように大地に降り注いでいく。
柊が地面に着地した時、柱は終わりを告げていた。
刃の森に、無数の歪んだ剣たちが突き刺さる。
まるで墓場のような光景だった。
「はぁ、はぁ」
汗が止まらない。
血も止まらない。
寒気でガチガチと歯を鳴らしながら、柊は息を吐く。生臭い、血の臭いを伴った息を。
体力は限界に近づいている。
魔力も消耗し、プラーナに至っては使用をするのすら危険なほどに使い果たした。
だけれども。
ジャキン。
絶望を告げるような音がした。
見上げる。
そこには崩れた刀身の柱、それを貫く無限とも思える刀身の群。
空を覆い尽くし、咲き乱れる威容。
変わらない光景。
戦い始めた時と同じ絶望的な光景。
「くそっ」
無駄な足掻きだったのだ。
そんな言葉を叩きつけられたような気分。
どうすればいいと自問。
ここは敵の月匣の中、ルーラーを倒さなければ破壊は出来ない。エリスも助けることは出来ない。
しかし、ルーラーを探すだけの余裕もなければ暇もない。
もしも仲間がいれば、協力してエリスを確保し、柊が粘っている間にでも広範囲魔法で吹き飛ばすなどという手段も取れただろう。
だが、今ここにいるのは柊ただ一人だった。
どうやって抗えばいい。
どうすれば、どうすれば。
メリメリ。
瞬間、音がした。
生々しい音が。
柊は顔を上げる、視線をそちらに向ける、音がした方角に。
それは遥かな高みに浮かぶ紅。
万の刃による茨の高み、その葛篭の中、ぶじゅるぶじゅると音を立てて刀身たちの隙間から滲み出る血液の音。
彼は気が付く。
その囲みを形成する刀身、それは血痕に汚れた血の刃、鴉を切り刻み、柊の血を啜り、エリスの血に塗れた歪んだ刀身。
嗚呼、嗚呼、とどこからか声がした。
おぞましいかな。
狂おしいかな。
歪んだ血液が音を立てて、形を成す。
それは、それは血の化身。
「……エミュレイター、なの、か?」
それは柊が傷つけたエミュレイター、それの成れの果てなのだろうか。
ぶよぶよと粘着質に歪んだ血液色の液体に閉じ込められた刃を持つ侵魔。まるで閉じ込められ、貪られたような末路。
狂気の塊。
見るだけで精神が冒されそうな異形。
感じるのは虚無である。
感じるのはおぞましさ。
肌が震える、魔王を見たときよりも吐き気が込み上げる、力ではなく性質が、その存在が魂に伝える。
それは許容してはならぬもの。
それは受け入れることが出来ない狂気。
破棄し、否定し、消し去るべき怪物なのだと。
柊は気付く。
この月匣に取り込まれる前に倒したエミュレイター。それは逃がしたエミュレイターではなく、柊が倒したはずのエミュレイターの残骸が操られていただけだったのだと。
「お前が、お前が――本体かぁ!」
柊の咆哮、それに応えるように血色の塊が蠢いた。
ゴムのように膨らんで――形を変える。
目には捉えきれぬ速度で。虚空を踏破した。
「なっ!?」
声を上げる暇もなく、目の前に迫る紅――それが柊を吹き飛ばした。
血が零れる。
血によって、迸る超音速の刃が柊蓮司の存在を否定しようとしていた。
心が引き裂かれそうだった。
流れる血よりも、彼女が流す涙のほうが多いと思えるほどに。
「せんぱぁいい!」
エリスが叫ぶ。
眼下で血を流す柊の姿に、悲鳴を上げていた。
血を纏うエミュレイター、それが出てからエリスの視界は僅かに晴れていた。
そして、それは彼女に絶望を与えた。
柊が魔剣を振るう――それよりも早く迸る刃が彼の腕を傷つける。
柊が足を踏み出す――無限に錯綜する刃が彼を吹き飛ばす。
柊が吼える――轟音が彼の声を叩き潰す。
圧倒的な力の差だった。
鴉の血を、柊の血を、エリスの血を、液体を束ね、折れ砕けた刀身の欠片を取り込んで鞭とした血鞭。
達人が振るう鞭の先端は音速を超えるという。
ならば、それを人知を超えた異形が振るえば?
それは先端のみならず、しなる鞭全てが音速を超える至上の斬撃となる。
蛇の擦れあうような音を立てて、柊の周囲の空間を数百を越える紅の輝線が覆い尽くし、切り刻み、破砕する。
世界を覆い尽くす刀身が、全てを切り裂く斬撃と打ち砕く猛連打という破壊に塗れ、砕け散る。
分子構造まで破砕するような破壊、それにきらめく刃が雪のように舞い散る壮絶な光景。
それは見ているだけならば美しく、儚い世界。
けれど、それに砕ける、傷つくものがいた。
斬撃結界とでも呼ぶべき中心で、柊で膝を着いていた。噛み殺そうとしながらも洩れる絶叫を垂れ流し、必死に抗っていた。
迫る三撃。
その内二つを辛うじて捌き、残った一撃が彼の胸板から血を迸らせる。
降り注ぐ六撃。
死に物狂いで四つ迎撃、残った二発が血肉を散らした。
柊の全身には傷ついていないところなんてない。
血が流れ、斬撃が交差し、飛び散る血煙をさらなる血が塗り潰す地獄のような光景。
「いゃ」
エリスは涙を零す。
嗚咽が洩れる。
「いや」
泣き叫びたい。
今すぐにでも駆け寄って、助けたい。
けれど、その身は拘束され、切り刻まれて、痛みに血を流す哀れな状態。
「やめて! 柊先輩をこれ以上傷つけてないで!!」
絶叫。
けれど、そんな声なんて届かない。
ただ応えるのは、その肢体を貫き、貪る刃のみ。
冷たく、彼女の肉を貫いて、不気味に脈動するねじれた刃が震えた。
「っぁ」
エリスは声を洩らす。
彼女を取り囲む刃が震える。冷たい感触、痛みによる快楽にも似た感覚に、全身が焼けたように熱くなる。
プラーナの吸引。まるで犯されているような感覚。魂が陵辱されたような気持ち悪い、泣き叫びたい嫌悪感。
汗が零れる、血と汗が混ざった体液が首から、乳房を伝わり、生白い太ももから滴り、愛液のように零れる。
冷たさと熱さが混ざった矛盾した感覚。
肌に食い込む冷たさが、流れる血潮の熱さが、眼下でいたぶられる愛しい思い人への悲しみが、エリスを狂わせる。
狂いたい、狂いたい、狂えば楽なのだろう。
発狂して、絶望して、目を閉じればきっと楽なのだ。
それは理解出来る。
それは分かりきっている。
けれど、けれど。
「せんぱぁぃ」
それだけはやっちゃいけないのだ。
かつて世界を滅ぼしかけた。
くれはが死んで、自分を責めて、何もかも残っていないと、自分はただの獣だと思い込んでいた。
その時、助けに来てくれたのは――彼だったのだから。
「……って……」
だから、エリスは言う。
あの時言えなかった言葉を。
「……んばって……」
助けを求めるのではなく。
手助けが出来ないのならば、せめてもの想いを乗せて。
「頑張って! 柊先輩ぃ!」
ただ声を、想いを、告げた。
大好きだから。
好きだから。
愛しているから。
だから、だから、告げるのだ。
言葉を、想いを、たった一言に乗せて。
「負けないで!」
そして、それが眼下の光景が変わる切っ掛けだった。
忘れていたことがある。
忘れちゃいけないことがある。
目にも見えない、捉えることも、防ぐこともままならない斬撃。
それに翻弄されて、ぶっ飛ばされて、死にかけて、それでも諦めないで、流れる血も少なくなってきた頃。
それは聞こえたんだ。
「負けないで!」
と。
「ぁあ」
背負っているものがある。
今ここで負ければ、きっとエリスは死んでしまう。
大切な後輩が、大切な仲間が――掛け替えのない女性が死ぬ。護れない。
かつて味わったくれはの死。
泣き叫びそうになるような絶望感。
そんなのはもう二度と、二度と!
「味わいたくないんだよぉ!」
魔剣を振り抜く。大地を削り飛ばし、魔力と生命力を込めて薙ぎ払うように前へ。
衝撃音、金属音、けたたましい轟音。
弾かれる血鞭。奇跡的なクリーンヒット。
僅かに緩む速度、視認が出来た。
高速、詠唱、展開、術式、解放。
「嵐の乗り手、彼方へ運べ!」
言霊を発する。
魔力が渦巻く、流れる血を舞き散らし、明日への道へと運ぶそれは。
「≪ストーム・ラン≫!」
誰かを助けるために走る男を進ませる魔法。
瞬間、柊の足が大地を蹴った。
鳥が飛び立つよりも速く、タンポポの種子が風に舞うよりも早く、噴出したロケットのように迅く。
駆け抜ける。
前へ、進むために。
その速度は、弾き飛ばされたはずの血鞭へと追いつくほどの速さ。
震える血。迫りくる柊を砕こうと先端が物理法則を無視して、翻る。
その尖端を、切り上げた魔剣が弾いた。ただの反応によって繰り出される軌跡、それならば予測可能。
「 !!」
切り上げた魔剣、それが手首を返し、大地を踏み込み、言葉にならぬ咆哮に共に振り下ろされる。
斬!
振り抜かれた魔剣、その刃が食い込んだのは血鞭の肌、そこに突き立つ。
ぐじゅりと音を立てる。
「どけよ」
魔剣が震える。生きているかのように、怒りに打ち震えるように、柊の咆哮に答えて振動する。
「エリスが」
ずぶり、ずぶりと音が立つ。肉を裂くような音と共に。
「――泣いているだろうがぁ!」
怒り。
ただ一人の少女のために柊は怒る。
命を燃やして、戦い抜ける。
「風を纏え!」
轟々と風が巻き起こる。
それは散らばる欠片を、流す血を、何もかも飲み込む嵐。
「燃え上がれ!」
魔剣が燃え滾る。
太陽のように、赤熱化し、血を蒸発させ、輝く。
「何もかも!」
血が迸る。
燃え滾る魔剣、その柄が蠢き血を啜る。
命を啜り、風を纏い、炎に輝いて。
彼は疾る、走る、奔る。
その先は――
「ぶった」
輝ける命。
プラーナを注ぎ込み、血を零しながら、前へと進む。
明日へと手を伸ばすように、魔剣が奔る。
音を立てて出現する、真の刃。
変形し、唸りを上げて、神殺しの刃が、想いを乗せた剣が突き進む。
無限の刃をものともせず。
異形の狂気を貫いて。
先へ、先へと続いていく斬撃。
「ぎれぇええええええええええ!!」
それはきっと世界すらも切り裂く一撃。
幾千、幾万の修練の果てに垣間見られるような絶技。
その刃は遥か彼方の敵を貫いた。
両断して見せた。
願いのままに。
想いを乗せて。
たった一人の少女を救うために、切り裂いた。
紅い夜が終わる。
ガラガラと刃の世界が崩壊していく。
同時にエリスを拘束していた刃たちがひび割れる。
「え?」
バキンと音を立てて、エリスが解放される。
その高みのままに。
「きゃあぁああ!」
下手なビルの屋上にも匹敵する高さから落下する肢体。
エリスはあられもなく悲鳴を上げてグングンと迫る地面に、一番の危機感を味わいながら目を閉じ――フワリと誰かに受け止められるような感覚がした。
「大丈夫か?」
「え?」
おそるおそる目を開く。
そこには魔剣を置いて、エリスを抱きとめた柊の姿があった。
「怪我ないか? って、怪我だらけだな。悪ぃ」
エリスの全身を見つめて、柊は心底ばつが悪そうな顔をして呟く。
なんで彼はこんなに優しいのだろうか。
怪我なら彼の方が遥かに負っているというのに。
「私は大丈夫です、柊先輩」
そう告げるエリスはどこか蠱惑的だった。
破れ破れの衣服が肌に張り付き、普段は隠してあるはずの乳房も臀部も露出し、全身が淫らに血に塗れて、どこか痛々しく、けれどもその白い肌と相まって扇情的だった。
「そうか」
「柊先輩のほうこそ……大丈夫ですか?」
柊の顔色はまるで死体のようだった。
全身が血に塗れて、荒く息を吐いて、脂汗はこちらからも見えるほど。
元々の格好が分からないほど、破れ、切り裂かれ、ボロボロになった格好は壮絶の一言に過ぎた。
エリスは気付いていないし、柊も気付いていない。
血まみれの男女が、ほぼ半裸で抱き合う。
その光景が外部から見ればどれだけ異常で、どんな印象をもたれるかなど。
分かっていない鈍い二人。
「あ。月匣が解けましたね」
空を見上げる。
崩壊していく世界は既にほぼ消失し、空は青くなっていた。
大地に散らばる刃の群は消失し、世界は青く、清浄な姿を取り戻し――
「ああ」
ぐらりと、柊の体が揺れた。不自然に。
「終わった、な……」
ゴプリという音がした。
ポタリとエリスの顔に熱い何かが掛かる。
それは血だった。
柊が吐き出した血。
「せん、ぱい?」
エリスが呼びかけ、その肩に触れようとしたとき――柊は崩れ落ちた。
前のめりに、まるで風に吹かれて倒れたかのように。
「柊せん、ぱいぃい!」
柊は動かない。
元の世界の石畳の上で荒く息を吐き、血を流し、ピクリとも動かない柊。
エリスが肌に触れる――恐ろしいほど冷たい。
そして、同時に感じる、見えた。
一瞬だけ、柊の姿が歪んだように見えた。
「え?」
蜃気楼のように、歪んだ。
或いはTVのチューナーが歪んだように、ノイズが走ったように見えた。
瞬時に理解する。
柊の存在を保つ、プラーナが枯渇し掛かっているのだと。
何度も何度も戦って。
何度も何度も消費して。
何度も何度も奪われて。
それでも、彼は文字通り自分の存在をかけて、エリスに力を使ったのだ。
自分が消える可能性も省みず、力を使って、体を削って、命を燃やし尽くして足掻いたのだと。
その結果が、これだった。
「いや」
このままだと柊は消失する。
プラーナを使い果たし、消えた存在は誰からも忘れられる。憶えていられるのはウィザードだけ。
ウィザードでは無い、今のエリスは忘れてしまう。決して取り返せない思い出になってしまう。
「いや、いや、いやぁ! 消えないで、死なないで、柊先輩ぃ!」
絶叫する。
誰か助けて。
柊先輩を助けてと泣き叫ぶ。
涙を流しながら、柊の体にしがみ付く。
失っていく体温を、その存在を繋ぎとめようとして、必死に声を掛ける。
「わりぃ、少し寝かせてくれ……」
声が洩れる。
柊のかすれるような声。
「寝ちゃ駄目です! おきて! 起きてください、せんぱい!」
「はは、は。こういうときはきびしぃんだな、エリス」
「喋らないで! 意識をはっきりしてください! すぐにアンゼロットさんを呼びますから! 死なないで!」
「ぁぃつ、うるせえからやめてほしいわなぁ。あとべつにしなねえよ、すこしねるだ……け……」
柊の目が閉じられる。
エリスが揺さぶっても、声をかけても、反応がない。
彼の存在が揺らいでいくのが分かる。
絶望的な光景が広がっていく。
「いやぁ」
なんでこうなるの。
なんで柊先輩が消えないといけないの。
泣き叫ぶ。
絶望する。
必死に、必死に助ける方法を模索する。
――えっとねぇ、緊急時なんだけど憶えておくといいよ。
エリスの脳裏に、くれはの言葉が閃いた。
それはウィザードになってから、教えられた力の使い方と一般的な知識。
その中に緊急時に置けるプラーナの供給法があった。
――まあ普通はやるような機会もないし、女の子だとちょっと躊躇うけどね。
――えっとどんな方法ですか?
――それはねぇ……
思い出す。
けれど、それはどこか後ろめたい方法。
意識もない、許可もない、勝手にやるべきではない行為。
だけど。
「柊……先輩」
死なせなくない人がいる。
失いたくない好きな人がいる。
だから、エリスは――
「ごめんなさい」
柊の頭を持ち上げて、ゆっくりと顔を近づけて。
唇を交わした。
想いを乗せて、舌を絡めた。
投下終了です。
次回はエピローグ やっぱり三話だけで終了しませんでした(土下座)
戦闘大好きなくせに、拙い描写ですみません。もっと修練します、反省します。
あと、エロくなくてすみません(大汗)
ちなみに接吻によるプラーナ補給は魔装機神からのお約束ですw
次回はエロいれるべきか、それとも無しで清いまま終わらせるほうがいいのか迷ってます。
読んでくださった方がいればありがとうございます。
では、また次回。
い…一番槍GJ。
ひーらぎはさすがだなぁ、なんて思う今日この頃。
待ってた……ずっと待ってたんだから……っ!>斬撃の人
うーんやっぱり柊蓮司は柊蓮司だなぁ(誉め言葉)ほんとうにあたまがわるいなこの男は。大好きだ!?
こっからエロ持ってくんならやっぱりこうしかないよなぁ、とは思ってたけども。うん、エリスいいよイイヨー?健気でヨイヨー?
次回もわくとき待ってますー
>ぷちべるの人
混乱しながら慌てて対応しただけの一撃と、多分全力注ぎ込んだ必殺の一撃とか…
ベル様、罰当たったな…w
ぷちべるにぐっじょぶ!
>斬劇の人
…なんちゅー熱い…。まさかエロパロでこんな作品が降ってくるとは。
…って似たような感想は何度か覚えた気がするが…w
ともあれ、柊にぐっじょぶ!
もう500k届くのか。今回豊作だったんだなあ。
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l/ヘ ヘ ヽ`、 |/下 ゝOヽ`l ヘ \ l ァィfゝO マヽ .l l .|
ヘ ハ \ ヽ{〈 !'l oj |i` ヘ ヽl .l ki´ ol.,l >l l .|
.ヘ ヘ ヽ\l ゝoー.'ソ ゝoー'ソ/ .l l |
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