昨日、そうこが房中試験を受ける直前が、ユキにとって最後の機会であった。
夜の帳が下りきり、もう少しでくのたま長屋を離れてしまうそうこに全てを告げようと一人意を決したその時、慌てて部屋に入ってきた
トモミの言葉が、ユキの決心を鈍らせた。
『ね、ね、さっきそうこちゃんの試験用の格好見たんだけれど、もう、すっごく綺麗だったの! お化粧とかして、なんか胸とかお尻とか
透けて見える着物纏ってて…あれでオちない男なんて居やしないわよーって位色っぽくて!』
『相手、潮江先輩だったら良いわねぇ。あんなそうこちゃんの姿、この先見られるかどうかも怪しいじゃない?』
『きっと、先輩惚れ直すと思うのよね。そうこちゃんだって満更でも無い顔してたし』
――そう、ね。潮江先輩だと、いいわね。
上っ面の笑顔を浮かべて、答える事しか出来なかった。
そしてユキは、言葉を失った。
「で、でもっ、トモミちゃんは悪くないのっ! ひぃっく、あた、あたしがっ……意気地なしで、伝えられなくって…ごめんっ、っく、
ごめんなさい、そうこちゃん……本当、に」
顔を真っ赤にさせ、幼子のように泣きじゃくるユキの拙い言葉を、そうこはただ黙って聞いていた。
そして、ユキの肩に置いていていた手を震える背中に回すと、あやすように、ぽんぽんと軽く叩いた。
「ユキちゃん、最近何か言いたそうにしてたのは…これだったんだね」
「っ……!」
肩が、びくんと脈打つ。戸惑うユキに、そうこは更に言葉を続けた。
「あたしこそ、ごめんね。…気付いてあげられなくて。ユキちゃんは、自分の事よりもあたしの事、心配してくれたのに」
「あ、当たり前じゃないっ! ……っく、友達、なんだから」
でも自分は――口走った直後に感じた後ろめたさを、解きほぐすようなそうこの掌の温かさが、少しずつ伝わってくる。
「うん、そうね。……だから、さ、今度はあたしにユキちゃんの心配させて? ユキちゃん、試験これからなんでしょ?」
ひっく、大きくしゃくりあげたユキに、そうこはふわりと微笑んだ。
涙で滲んだ視界の向こうの彼女は、柔らかな『女』の顔と、芯の強い『くの一』の顔と――。
「……うん」
優しい『友達』の顔を併せ持っていた。
障子越しの日の光が照らす一室。
ユキは、心底安堵した顔で友の肩に頬を寄せ、涙を一粒こぼした。
*
「……茶番とはまた、酷い言い様ですねぇ」
片眉を上げ、三郎は先程の自分の言葉を一蹴した男の顔を見る。
顔自体は徹夜による疲労から、凶相極まれる有様ではあったが、表情は何の感情も映し出していないようにも見えた。
「茶番を茶番と言って何が悪いか。三文芝居とでも言い換えて欲しいか? お前の目的が何かは俺の知った事じゃないがな、
下らん話を聞かせる為にここに来たなら帰れ」
「言下に伏すだけじゃあ、只の負け惜しみにしか聞こえませんよ先輩? 『戦う会計委員長』ともあろう方が何の論も講じない
なんて、柄にも無い事されても似合いませんし」
この場に他の同級生が居たならば、おそらく全力で三郎の口を塞ぎ暴言を止めただろう。
忍術学園の内でも、武闘派として名高い目前の男――潮江文次郎を煽るのは、命をドブに投げ込む事と同義であった。
だが、それでもいいと三郎は思っていた。
すぐ目の前で、嫉妬に狂う男の姿が見られる――この上なく『面白い』モノを目にすることが出来る。
理由など、それだけで充分だった。
だが、文次郎の表情は変わらない。相変わらず何の感情を映す事なく口を閉じるのみであった。
いや――微かな変化が起こった。
文次郎は静かに目を閉じ、会計委員会室の淀んだ空気を吸い込んだ。
そして、薄い唇を開く。――ただ違うのは一点。紡ぎだしたのは、
「……上邪(じょうや)」
お馴染みの怒号ではなく、ある漢詩の一篇だった。
上邪
我(わ)れ君と相知り、
長命、絶え衰うること無からんと欲す。
山に陵(おか)無く、
江(かわ)の水、竭(つ)くるを為し、
冬に雷、震震として、
夏に雪雨(ふ)り、
天地 合すれば、
乃(すなわ)ち敢えて君と絶たん。
「……?」
確か『短編鐃歌十八曲』の一つだったか――うろ覚えの知識を掘り返す三郎に、文次郎は、聞き覚えは無いかと問うた。
「まあ…馴染みの薄い詩ですね。授業で習った記憶が無いですよ」
それでも分かるだけマシではあるのだが。
三郎の返答に、文次郎の口端が僅かに歪んだように見えた。
「何です」
ようやく文次郎は変貌を見せたが、これは己が求める『顔』じゃない――三郎の意を知ってか知らずか、文次郎は歪んだ口元を
戻す事無く尋ねた。
「……鉢屋。お前、くのたまとの勝負に負けたな?」
「!!」
狭い会計委員会室で相対する二人――その姿は、奇しくも数日前、職員室前で文次郎が山本シナと対峙した様に似ていた。
違うのは、あの時の文次郎の立ち位置にいるのが、自分だという事。
『千の顔を持つ男』鉢屋三郎の今の顔は、同級生・不破雷蔵の『面』である。故に多少の表情の変化は見られても、真にどういう顔を
しているかは、まず相手に悟られない。
だが、おそらく今の『己の顔』は――頬に汗を伝わせ、青ざめた表情は――文次郎に見透かされていた事だろう。
「これは、今回の試験の元になった俺との『鍛練』で、くのたまが馬鹿の一つ覚えみたいに口上に使っていた詩だ。アイツの事だ、
房術試験でも変えやしなかっただろうな」
三郎の脳裏に、障子戸を開けた時のそうこの唇がよぎる。――まさか、あれは『上邪』と口にしていたのか?
だとしたら、自分の行為は、本当は。
「………」
「五年ともあろう者が、尻も青いくのたまの手管に陥ちるとは、精進が足りんぞバカタレが」
っていうか鍛練って何ですか――などと軽口を叩き返す余裕も、今の三郎には失われていた。
ただ、『面』の表情を変える事無く、ぐらつく足元を踏み止まるだけで精一杯だった。
――審判とこの男にのみ通じる二重の『符丁』とは、あの娘もやってくれるな。
確かに『本物の』潮江文次郎ならば、勝負などする前に結果が知れていただろう。正に合言葉の名にふさわしい有様であった。
――けど、それがどうだって言うんだ。
胸の中にある一つの真実。それが三郎の芯に再び火を灯す。
しかし、続く文次郎の言葉はその火さえ消しかねないものであった。
「それとな、鉢屋。お前は物凄く下らん勘違いをしとるぞ。……アイツの自身はアイツのものだ。お前のモノでも、俺のモノでもない。
どれだけ肉体を陥としめたとしても、アイツがくのたまである限り、くの一を目指す限り、何も変わる事は、無い」
――は?
言っている意味が分からない――この男は、恋人ではないのか?
口にすると文次郎は、理解なんぞされたくも無いがな、と憎まれ口を叩いた。
「惚れたハレただの、好きだ何だだの、胸焼けしそうな甘ったるい考えなんぞ必要ない、という事だな。俺もアイツも忍びを目指す身だ。
町の小娘や若造みたいに浮ついた言葉なんぞ、とっくの昔に捨てたわ」
「…そ、れじゃあ」
「お前の言葉が本当でも嘘でも、俺もまた同じく何も変わらんという事だ。……六年を侮るんじゃねぇ」
ぴしり。
三郎の胸の内に付けた仮面に、ヒビの入る音が響く。――なんてこった。
踊らせようと目論んだ自分が掌の上で踊らされていたなんて、間抜けにも程がある。
*
外で秋風の吹く音が、聞こえた気がした。
障子越しの月の光が、ほんのわずか強まったような気がした。
「………め」
紅色の唇が紡ぐ幽かな言葉と共に、吐息も混ざるほど近付いていた三郎の唇は少女の掌によって遮られた。
「そうこ…?」
「……鉢屋先輩…ですよね? …駄目、です、よ。上手に…化けてたみたいだけど……やっぱり、誤魔化せないみたい」
ぬるり。下半身に覚えるぬめった感触が、繋がっていた肉体を離された事実を伝える。
体の下の少女は身をよじると、被さる三郎の体から抜け出し、上気した頬もそのままに身を起こした。
「……はは、やっぱり、恋人の真似、は…無理があったかねぇ。…自信はあったんだけどな」
気だるさの戒めから解けぬまま、三郎は気弱に笑った。その声は、もう『潮江文次郎』のものではなかった。
正体をバラす前に悟られてしまうという、己にあるまじき失態を犯したせいだろうか。
あるいはそれで救われたと感じたのだろうか。
先程まで自分の中で渦巻いていた、彼女に対するどす黒い感情は、精とともに放たれてしまったかのようだった。
そうこはそんな三郎に首を振り、本当に、上手でした、と返す。
「とても…その、溺れてしまいそうな位……でも、一つだけ違うの。…あの人、ね」
ちら、と天井に目を遣り、そうこは審判員の耳に届かないよう三郎の耳に唇を寄せると、こう囁いた。
あたしの名前、一度も呼んだことないから――だから、分かっちゃった。
――何だそりゃ。そんなのアリか。
「ぷっ、あはははっ、ははは、はは……な、成る程ね、そりゃ私の調査不足だ。孫子の兵法も呆れる。はははは」
布団に伏しつつ、三郎はしばし予想外の答えに笑い続けた。
わずかな月光を吸い込んだ障子戸を背に、そうこも少しだけ照れくさそうに笑っていた。
「…で、どうする? もう止めるかい?」
三郎の問いは、心の底から彼女を気にかけたものだった。
「あいにくと他の『顔』の持ち合わせは無いんだ。君が『符丁』を口にしさえすれば、私はこれ以上、君の恋人の顔で君を
抱いたりしないで済むんだけど」
とはいえここで、自分の『符丁』を口にしようと考えない辺りが、鉢屋三郎の鉢屋三郎たるところではある。
そうこは目を閉じ、再び首を振った。
そして静かに目を開け、横になった三郎と視線を合わせた。
「あたしだって、負けを認める気なんてこれっぽっちも無いわよ。……だって、あたし」
言葉を切りそうこは、一度事を終えた後とも思えないほどの滑らかな仕草で三郎の腹の上に跨ると、そのまま上体を沈め、
首筋に唇を付ける。
ぞくり。――この先に控える行為を予感したか、三郎の肌がわずかに粟立った。
「……くのいちに、なるんだから」
かりっ。
少女の歯が首筋に、小さな傷を残した。
今なら――文次郎の言葉を耳にした今なら、あの時のそうこの言葉の意味も理解できるかもしれない。
彼女は、何も変わらない。
悲しみも、憎しみも、憐れみも、何一つ胸に抱える事無く男を迎える彼女は、淫乱とは対極の位置に存在していた。
只一つの目的の為に、己が心を刃で絶つ――自覚は無くとも、一人前の『忍び』だった。
*
かぁぁ…ん、と外で鳴り響く鐘の音が、静寂に包まれていた会計委員会室にも届く。
文次郎は格子窓にちらりと視線を遣ると低い声で、もう昼か、と呟いた。
「いつまでここに居座るつもりだ鉢屋。俺だって一応人の子だ、腹も減りゃあ便所に足を向けたくもなるんだが、お前が居たままじゃ
部屋を離れるに離れられん」
こつこつと帳簿の表紙を指で叩き、やや苛付いた声で文次郎は尋ねた。
対する三郎は首筋を片手で押さえ、何か独り言のような、枯れた声を喉奥から搾り出した。
「何だ」
「…私は、彼女が先輩を只の『通過点』として見ているとは思えませんけどね。大体、先輩はそれで満足できるんですか?
忍びとしてじゃなくて、男として」
「自分の定規だけで物事全て測れるなんぞ、思い上がりも甚だしいな鉢屋。固定概念は足元を掬われる因だぞ」
ぱらぱらと帳簿の端を捲りつつ、文次郎は返す。
「答えになってませんよ潮江先輩」
「お前に教えて何の得があるんだ」
今回は、牽制の後の内情は話す気は無いらしい。一文字に閉ざした文次郎の口に三郎は、それでも、と思う。
――それでも、この男の傍にいる時の彼女に、謀略や損得の気配は感じなかった。
心の底から笑い、怒り、喜ぶ、市井の娘と変わらぬ感情を、まっすぐこの男にぶつけていた。
それすら、この男は否定すると言うのだろうか。
そういえば――先ほどから心の奥に引っかかっていた疑問を、三郎は目の前の男に向け、口にする。
「潮江先輩。…先輩は彼女が『上邪』を『符丁』に使うと分かってたんですよね」
三郎の言葉に、文次郎の目に今まで気配も無かった剣呑な光が宿る。
「それがどうした」
「…ああ、何で分かったかなんて野暮な事は聞きませんよ。只でさえガラの悪い目なのにそんな睨まないで下さい。厠行ってないのは
私も同じですから、失禁しちゃいます。…そうじゃなくて、『上邪』ですよ。先輩はあの詩の意味を知ってるのかな、とね」
一言二言、口が余計なのは生まれつきである。
だが、口にせずには居られなかった。――何故ならあの詩は。
「お前上級生を馬鹿にするのも大概にしろよ。……『上邪』は貴い身分の存在。今で言えば主君だの殿だのといった所だな。
つまり、あの詩は主君に変わらぬ忠誠を誓う詩だろ」
――ああ、やっぱりこの男は。
ふん、と鼻息一つと共に、自信満々に答える六年生に――半目で、三郎は呆れて溜息を吐いた。
「…潮江先輩、漢詩得意じゃないでしょ」
――分かってはいたけれど、どこまで色恋沙汰と無縁なんだろう。
何だと、と眉間に皺寄せる文次郎に、ホントの事でしょ、と言い返す。
「主君に対する忠誠の詩なんて、何で毎度毎度囁かなきゃなんないんですか。あの詩の『上邪』は、心の底から好いた相手の事です。
惚れた相手と、ずっと添い遂げたいっていう強い思慕を謳ったモノですよ」
「なっ……!!」
――こりゃあ、あの娘も苦労する筈だな。
今更――本当に今更ながら、顔を赤らめうろたえ始める男の姿を目前に、三郎はようやく一矢報いる事が出来たな、とほくそ笑んだ。
「随分熱烈に惚れられていますねぇ。……セ・ン・パ・イ」
「う……うるさいっ!! いい加減にしやがれこのバカタレィ!!」
秋の昼下がり、会計委員会室を抜け、廊下をドタバタと駆け回る男二人。
がっちゃがっちゃと10キロ算盤を振り回しながら血眼で追う六年と、腹を抱え笑いながら逃げ続ける五年。
無茶をしたり、背伸びをしたり、強がったりしても、二人はまだまだ青い若造であった。
――馬鹿馬鹿しいなあ。
追撃をかわしつつ思う三郎は、今、己の視界を霞ませるものは笑い過ぎて滲んだ涙だと、自分に言い聞かせた。
傷心なんて甘い感情はまだ、自分には似合わない。
*
「………んがっ!!」
がばっ、と布団を蹴り上げ跳ね起きると、辺りは既に水底のような闇を湛えていた。
微かに部屋の外から漏れる月光と虫の声が、夜が更けて随分経つ事を、寝ぼけ眼の文次郎に教えた。
――ゆ、夢か。
「…何で夢ン中でまであの野郎を追いかけ回さにゃならんのだ」
胡坐をかき、一人ごちながら寝汗の滲む顔を撫でると、指先にざらりとした無精髭の感触。
――どれだけ寝たんだ俺は。
同室の男の姿の無い部屋の障子戸を開ければ、十三夜の月が庭先から廊下まで皓々と照らしていた。
房術試験最終日、深夜。
大なり小なりの揉め事はあれど――試験は終了した。
洗い場で顔を洗い、ついでに月光と手燭の明りを頼りに髭をあたる。
只でさえおっさん臭い顔が余計老けて見える――と、かつて苦言を呈したのは、今は医務室に隔離された同級の男である。
余計なお世話だと文次郎は思うが、確かに学生らしからぬ面相は頂けない。
手拭いで顔を拭き、元結を結い直せば、首筋をひやりとした秋の風が通り抜けた。
「…体でも動かすか」
状況が状況だけに、試験中夜間の鍛練は控えるよう、教師陣より通達は届いていた。
故に、文次郎はこの数日間会計委員会室に篭もり、帳簿と向き合う鬱屈した日々を過ごしていた訳だが、それも今晩で解禁だ。
支度を終え、軽く走りこんで体を慣らす。
そして、部屋から持ち出した道具から、袋槍を出し組み立て、手に取る。
長年使い込まれた槍柄の感触が、馴染んでいくのと相反する妙なむず痒さを掌に伝え、文次郎は一人苦笑した。
――体を鍛えるのはいい。動く間は無心になれる。
腰を落とし構え、添え手はそのままに突き手に捻りを加え――抉りこむように一撃を放つ。
「ふっ!!」
間髪入れず突き手を引き、次の一撃に移る。
――動く間は。
突き手を引き、次へ。
――動く。
次へ。
――私は、彼女が先輩を只の『通過点』として見ているとは思えませんけどね。
「…やかましい!!」
槍柄を地に突き立て、虚空に向け文次郎は怒鳴った。
どれだけ身体を動かしても、数日前の男の言葉が脳裏から離れないのが、文次郎の苛立ちを募らせた。
「キサマに何が分かるか!!」
自分でさえ言葉に出来ないものを――ましてや他人になど、わかられてたまるか。
ぎちっ、と音立てるほど槍柄を握り締め、男は独り立ち尽くす。
秋の夜風が、木の葉を揺らし、草をなびかせる音を文次郎の耳に届ける。
「………」
気が付けば文次郎は、忍たま長屋とくのたま長屋を隔てる築地塀の前に立っていた。
土壁に瓦の葺かれた屋根を持つ塀を見上げれば、今にも月を背に、くのたまがひょっこり顔を出してきそうな、そんな予感がした。
――あの日も、こんな月夜だった。
『思い直せ。無駄花を散らしたいんだかどうだかは知らんが』
こんな所で暴挙に出るな――言いかけた台詞は、無駄じゃないわよ! と叫ぶ少女の声に遮られた。
『無駄かどうかはあたしが決める事でしょう? どうして勝手に決めて、勝手に壁作っちゃうの? あたしは…』
ぱたっ。少女の手の甲の上に、雨粒に似た雫が落ちる音がした。
『……くのいち、に、なるんだよ』
月光が、うなだれる少女の頬を、流れる涙を青白く照らしていた。
一番最初にくのたまとの『鍛練』を始めた日――。
夏の、熱気冷め止まぬ夜の事だった。
一度目に少女が降り立ったのは、嘘か真かもわからぬ告白をしでかした時。
二度目に少女が降り立ったのは、彼女の目指すものを知った時。
三度目は――どうしたいんだ。
築地塀に槍を立てかけ、文次郎は黙々と屈伸運動を始めた。
かつて、髭も生えぬ一年ボーズの頃ならば人馬が必要だったであろう高い塀も、今ならば一人で越えられる。
何をしようとか、目的がはっきりしている訳でない。乗り込む先が先なだけに、後先見ない無謀な行為だ。
それでも自分は――壁を乗り越えなければいけない。
分かっていれば、それだけで充分だった。
目を閉じ、静かに夜風を肺に取り込み、そして静かに吐き出す。
身を屈め、足先にぐっと力を込めると、開眼と共に文次郎の脚は強く地面を蹴り、高く跳び上がった。
築地塀の屋根に両手が掛かる。懸垂の要領で身を持ち上げ、じりじりと体を屋根へと運び――上半身を乗り上げたその時。
ごがっ。
額に走った衝撃と共に、文次郎の目の前に数多もの星が散った。
「!? な、何ぃッ!?」「いったあぁーっ!」
自分の叫びと共に、もう一人誰か――問うまでもない少女の声がした。
「くのたまっ!?」
額を押さえる文次郎の目前で、同様に額を押さえて上半身を屋根にへばりつかせていたのは誰あらん、そうこ本人であった。
忍たま・潮江文次郎と、くのたま・そうこ。この二人の関係を知る一部の者達は、
「もっ…文次郎先輩!?」
口を揃えて二人を『似た者同士の(鍛練)バカップル』と陰で称しているが、知らぬは当人ばかりなり、という話である。
*****
スマンかったー!!(多方面に土下座)だが、おっぱい豆腐に関しては反省はしない。
人物の立ち位置はいつも綱渡り状態です。今回も色々踏み外した気がしてなりません。
今回はここまで。続きは一週間ちょっとかかります。(秋の話なのに延び延びになって申し訳ないです)
容量的に、続きは次スレに投下すると思われます。
もし宜しければお付き合いください。
544 :
秋風書き手:2008/09/18(木) 08:48:22 ID:shjbt5jR
今回なんかやたら連投規制が酷かったような気がしました…。
朝イチはキツイのかな…うむむ。
前回レス下さった方、ありがとうございます。
まだまだ修行中なので恐縮しつつも励みになります。
あと、竹谷好きな方、すみませんと今のうちに謝っておきます。
息するのも忘れて読み入った。
すごい!すごいよ!
よし、おっぱい豆腐を探す旅に出るわ。
GJ!!!みんな最高すぐる
おっぱい豆腐がすっかりマイブームです
す、すげぇ・・・。
一気に読み耽ってしまいました。ご馳走様!
恐縮する事なんてない!もっと自信持ってください!
で、おっぱい豆腐てwwwwあれか?プリンからか?wwww
>>546 や め な さ い wwwww
GJすぎる! 明日朝早いのに夢中で読んでたよ!
初っ端から派手に吹いたんだがww豆腐www
そうこちゃん可愛いよそうこちゃん。
素敵な物語をありがとう、今から次回が楽しみです。
気がつけば489KBとは、3ヶ月で1スレ…何気に凄いなココ。
次スレも色々賑やかになりますように。
まってましたよ秋風さん!GJ!!
鉢屋・そうこ・潮江の立ち位置、思惑の錯綜が素晴らしかった。
いい作品をありがとう。
物語性が強い作品とか、シリーズ物が多いしね。
このスレの魅力の一つ(もちろんそうではない作品も)です。
>>554仕事はやおw
豆腐が食えない自分でも、おっぱい豆腐なら食える気がする…
というか
にっきのひとあたりから、このスレでは文次郎×そうこでFA?
文次郎×そうこ好きにはたまらんスレであるよ
人気はあるけど、その組み合わせじゃなきゃ
だめってことはないんじゃないの。
うん、新たな発見もあるから敢えて違うカプでも良いかも。
色んな発見があって面白いよ。
新スレたったのか
ではこちらはまたーりやらせてもらおうかな
こっそりと……
誰か先生でやってもらえないかなぁ、と。
こっそりと…wiki更新してくれないかな…。
自分テキスト直貼りしか出来ないから続き物リンクとか、わからんのよorz
ボスケテ
こっそりと・・・
伊作編続きこないかな。
こっそりと…
562に同意
伊作ものは少ないから貴重だよね
伊作か…。書きかけがあるのを思い出した。
頑張って書いてみる。
こっそりと…お知らせとか懺悔とか。
・すみません事情により秋風来週明け位の投下になりそうです。気長にお待ち頂ければ幸いです。
・誤:『くのたま長屋』→正:『くの一屋敷』今日気付きました(遅っ!)
もし保管する事がありましたら変換お願いします。
こっそりチラ裏
・土曜日のアニメのおかげでまた長カメフィーバーが…。
でも原作の鬼蜘蛛丸とカメ子ちゃんの甘いスキンシップも好き過ぎて困る。肩だっこ最強。
「もういっそ3Pしちゃえよ!出来た子供がどちらに似ているかで旦那が決まる
『妻をめとらば同時種付け対決』とかしちゃえばいいよ!」
とかいう電波を竹谷が飛ばして来るのですが、どうしろと。
カメちゃんの妻問婚
二人が体を奪いあうという、、
跡取りはカメちゃん似の女の子なのかな。
お借りしてこっそり妄想。
>>565 竹谷wwwwおまwwww
凄く良いと思います。
>>565 ゆっくりで良いと思う。そんなに焦る事はないんじゃないかな
気長に待ってるから、頑張れ!
つか竹谷wwwすっかり種付けキャラになっとるwwwwww
折り合い見て自分も投下すっぞ!
不思議なことに竹谷だといやらしい感じがしないw
>>568見る専者は新規参入をいつでも全裸でお待ちしております
自分がエロパロ見始めたときは其の一だったのに…
良く育ったものだと
しみじみしてしまうのは秋のせいかしら
(しかし所詮エロパロ されどエロパロ)
自分、その一は見損ねた。
その二を偶然見つけて、忍たまでエロパロとは
これいかにと覗いて以来、居続けてるよ。
このスレを見つけて以来
保健室の先生が若い女の先生だったら…と考えてしまって仕方無い。
新野先生ごめんなさい。
亀ですまんが、秋風さんすごい!GJ!!!!
一気読みしてたら風呂に入りそびれたじゃないかwww
もんじろうがもっともっと好きになった。
素晴らしい物語をありがとう。
よく考えたらカメ子ってエロい幼女だな
>>571 保健室に教育実習生が来るとかどおよ
新野先生が休みでその代理とか
伊作と二人きりが多いだろうしね。
布団も敷いてあるし。
来る人がいなくなった夕方の保健室。
「伊作君、この薬この棚でいいのよね?ってキャア!」
伊作が悲鳴に驚き振り向いた先には、頭から液体の薬を被った教生さんがいた。
「服まで濡れてますよ!風邪引きますから脱いでください。僕、拭きますから。」
自分で拭くから・・と言う間もなく、布団に座らせて、
服が伊作の手によって抵抗する間もなく脱がされていく。
伊作は看病しなれているから服脱がすくらい何とも思わない。
だけど教生さんは裸で全身拭かれて恥ずかしい。
不運移り天然辱められ
を感染されました。
で、できれば女王様風保健室のお姉さまで…
>>577 伊作乙と言うべきか
新野先生乙と言うべきか
保健室のおねーさんとは…正直盲点だったが萌えるな。(百合貝合わせのぞき妄想的な意味で)
豚切って悪いけど生理ネタってどうだろう…
相手は保健的な意味で伊作とかいけどん的な意味で小平太とか
>>579 生理ネタは自分としては気になるところではあるけど、やっぱ注意書きは必要だと思う。
伊作は解るけれど何故小平太?w
>>579 あまり生々しさが伺えると、読む人を選ぶかもしれないですね。
でもくのたま11歳だし、丁度そういう時期なのかー(個人差あり)。
小平太はアレですか、
『まだ女として目覚めてないなら暴走機関車7MA2号で叩き起こしちゃうぞ』
プレイ(長いよ)ですか?
早い子は本当に早いよ、9歳とかいるし。
『まだ女として目覚めてないなら暴走機関車7MA2号で叩き起こしちゃうぞ』
な げ え よ wwwwwww
もうすっかり7MA2号扱いだなw
初潮がきたのにびっくりして泣きながら保健室にやってきたくのたまに
保健室のおねえさんが優しくれくちゃあ
まだ子供だからとお触り未満のお付き合いだったのが
このたび大人の体になりました!とくのたまから押し倒す。
生理前はムラムラする人もいるらしい。
「明日生理日なんで中に下さい!」と乱れるくのたまっていいなあ。
>579
私いまちょうど妄想してた。下ネタ注意。
ある日、食堂に行くと、何故かお赤飯。
「ちょ、なに?このお赤飯・・・・」
嫌な予感のユキちゃん。
「みんな、今日はユキちゃんが女の子になった日だから、おばちゃん
特別にお赤飯たいたのよ。お残しは許しまへんでーーーー!」
突然KYなおばちゃん。
「ちょ!!!!何言って・・・!」
鉢屋「ユキちゃん、おめでとうwwww」
仙蔵「大人の階段のぼったなwww」
(こ、こいつら・・・・・・・・・!!!)
ドS二人組はいやらしい笑顔をうかべている。
「てゆうか!なんでそんなこと知ってるんですかぁ!!!」
「え、だって保健委員の善法寺伊作くんがね・・・・・」
「はぁ!?」
振り向くとそこには得意げにたたずむ不運委員長の姿が。
「保健委員長の私が説明しよう!保健委員を6年もやっていると、
女子の初潮を見抜くのなんてお茶の子サイサイなのだよー!!!!」
「ハァァァァァァァ!?」
「ユキちゃん、避妊ってしってる?ちゃんとしなきゃダメだよ。あ、それとね、
生理痛ひどかったらいつでもおいで、私が薬を・・・・」
「ちょ───っと待ったぁぁぁぁ!」
「ん?お前は五年ろ組竹谷八左ヱ門か。」
いつものように虫取り網片手に颯爽と登場。相変わらずひどい髪の毛だ。
「生物委員の存在も忘れないでもらいたいな!!!ユキちゃん!」
(なにこの人誰なのキモイしでもちょっとかっこいいけどでも髪の毛ヤキソバみたいなんですけど・・・・・)
「いやぁ、めでたい!また一人繁殖能力を授かったくのいちがここに!!!」
お前女を何だと思ってるんだ竹谷、という声が聞こえてきそうである。
「・・・・・・!!!」
「忍術学園の全ての生命(いのち)は、我々生物委員会が管理しているのだ──!」
「はぁっ!?なんかスケールでかくね?生物委員!」
地味委員として仲間意識を持っていた火薬委員、久々知は思わず口から豆腐をこぼす。
「俺の子でよければいつでも生んでくれな。責任は取るよ!」
ユキの手をとり頬を赤らめる竹谷八左ヱ門、14歳。
「ナプキンやタンポンならいつでも僕がとりかえてあげるから。」
屈託のない笑顔を咲かせる善法寺伊作、15歳。
その後、食堂に血の雨が降ったのはいうまでもない。
*
*
雷蔵「竹谷、よかったね、伊作先輩が竹谷の分までフルボッコくらってくれて・・・」
鉢屋「てか、もう不運どころじゃなくね・・・・・?」