1 :
名無しさん@ピンキー:
>1乙式。
3 :
名無しさん@ピンキー:2008/06/06(金) 10:54:46 ID:HKt/CCj2
スレ立てた本人が保守
5 :
名無しさん@ピンキー:2008/06/08(日) 09:50:04 ID:OevbIoJJ
保守
保守
7 :
名無しさん@ピンキー:2008/06/10(火) 19:03:06 ID:s/sIP7tQ
保守
余計なことかもしんないけど
容量485オーバーしたスレは数日放置しとけば勝手にdat落ちしますよ。
中途半端な埋め立てするよりそれを待った方が早いかと。
「あっ……はぁん……あぁぁん」
夜更けの住宅街。
単身者向けの小さなアパートの一室から、女の喘ぎ声が微かに漏れ聞こえて来る。
声の主は恩田理沙。このアパートに独りで暮らしている、二十一歳の娘だ。
アパートの二階にある彼女の部屋には、明かりが点いているものの、
カーテンがしっかりと引かれているので、中の様子は全く判らない。
独り身の理沙が、こんな夜更けに、淫らな喘ぎ声を漏らしていったい何をしているのか――。
「んんっ……あん、あぁん……気……持ちいい……ああっ、オナニー、気持ちいい!」
理沙は今、自慰行為の真っ最中であった。
電気を点けたままの部屋で、姿見の前に置いた大きなクッションにもたれ、
全裸になり、大股開きで自分の性器を弄くり廻していた。
田舎から上京し、スーパーのレジ打ちとして勤めだしてから早五年。
東京には縁故もなく友人もいない。
都会に馴染めない理沙の唯一の愉しみが、この、夜ごと自室でひっそりと行う自慰行為なのである。
それでも、始めの頃のそれは、もっと慎ましやかに行われていた。
六畳のワンルームの明かりを消し、布団を被り、パンティーに手を入れる。
必死に声を押し殺し、窮屈そうに、疼く陰裂を指でなぞる。
それが、十五歳の理沙のオナニーだった。
だが彼女のオナニーは、日を追うごとに大胆に、淫らに変貌していった。
どうせ独りの部屋なのだ。誰にもばれない。誰にも――咎められやしない。
そんな思いが、理沙の行為をどんどん自堕落なものにしていった。
今や理沙は、仕事から帰って眠りに就くまでの時間、その殆どを自慰行為に耽って過ごしていた。
まず帰宅するとすぐに服を脱いでシャワーを浴びる。
そして、バスタブの中で片足を上げ、股間に当てたシャワーの水圧で、一度達する。
風呂から上がるとテレビをつけ、ぼんやりと画面に眼をやりながら、
スーパーで売れ残った惣菜で、簡単な夕飯を済ませる。
その後はもう、オナニー以外にすることもない。
小さくテレビの音をつけたまま、理沙は姿身の前でパンティーを下ろす。
パンティー以外に何も身に着けていないのでもう丸裸だ。
姿見に映る白い裸身と、理沙は暫し向き合う。
透き通るような肌理の細かい肌。細く尖った肩。
膨らみの薄い乳房にのった、小さな乳首。直立すると隙間の出来る太腿――。
「お姉ちゃん……」
硬い姿見に手を宛がい、理沙は、低く呟く。
理沙は鏡に映る己の姿に、故郷に残った双子の姉・美奈の面影を見ていた。
実家にいた頃、理沙は、いつも美奈と一緒だった。
ハキハキとして、しっかり者だった美奈と、甘えん坊で少し内気な理沙。
二人は学校でも家でも、常に一緒に行動していた。
食事や入浴はおろか、トイレの個室にまで二人で入った。
そして、性の目覚めも――。
それは、二人が同時に初潮を迎え、少し経ってからのことだった。
美奈と理沙はベッドの中で一冊の漫画本を読んでいた。
学校の友人から借りたその漫画には、かなり露骨な性描写がたくさんあって、
彼女達は、きゃあきゃあ騒いでそれを見ていた。
先に様子がおかしくなったのは、美奈だった。
急に口数が少なくなり、ぼんやりとした表情でしきりに両腿を擦り合せはじめた。
やがて、手が布団の中に潜り込んだかと思うと、
スカートの下でもぞもぞと股間を弄くり始めたようだった。
「お姉ちゃん?」
「んん、なんか……変なの」
理沙は、姉のその部分をパンティーの上から触ってみた。
クロッチの中心部が、じっとりと濡れていた。
「おしっこじゃないし……オリモノとも違うみたい」
理沙は下着越しに、姉の陰裂に沿って指先で撫で上げた。
何度も繰り返すうちに、姉の頬が紅潮し、呼吸が荒くなってきた。
「お姉ちゃん? どうしたの? ……大丈夫?」
「んっ、はっ、な、なんか、すごく…………ああっ!」
理沙の指先が、パンティーの中のコリコリした部分を強く弾いたとたん、
美奈は、甲高い声を上げて全身をわななかせた。
「お、お姉ちゃん?!」
尚も声を上げ、自分にしがみ付いてくる美奈の感触に、
理沙は、自分の性器が熱を持ちつつあるのを感じていた。
大きく息を弾ませ、ぐったりと凭れ掛かる美奈の下で、理沙は、自分の陰裂に手を這わせてみた。
案の定そこは姉と同じように、しとどに濡れそぼっていた。
それと同時に、触れた部分から甘く蕩けるような快感が広がって――。
「あ……何、これ?」
初めての感覚に理沙は戸惑い、思わず手を引いた。
しかし、それと入れ替わるように、美奈が理沙のパンティーに指を入れてきた。
「理沙……私がやってあげる」
美奈は、理沙の性器のコリコリした部分を指先で震わせた。
「あ、あ……だめ、だめ……お、姉、ちゃ……!」
失禁してしまいそうな感覚と共に、何か、抗いようのない性器の快感に飲み込まれ、
理沙は身を仰け反らせた。
とろとろと続く快感に押し流されそうになった理沙は、両脚をピンと伸ばしてそれに耐え――。
「ああ……あぁああぁぁ……」
鏡の中の痴態が、佳境に入っていた。
大きくM字に拡げた脚の間、真っ赤に充血した股間部分には蜜が溢れ、
肛門を伝って、クッションの尻の下に小さな染みを作っていた。
片手は陰核を、もう片方は膣口を弄り廻しているために、
性器の様子は手で隠れてはっきりとは判らない。
だからなのか――理沙は、時折ぬめる指先で陰唇をパックリと開き、発情しきった性器を、
鏡に映して確認するように見つめた。
勃起した乳首を摘まみあげ、紅く膨張した女陰がヒクつく様を眺めていると、
恥ずかしさで、より興奮が昂まるのだ。
それに、この恥ずかしい姿は自分だけのものではない。
「ああっ、おねえちゃん……」
鏡に向かって、理沙は呟く。
双子の姉の美奈は、当然のことながら、理沙と瓜二つだった。
初めて互いの性器に触れ、揃って性の悦びを知った姉妹は、その後も淫らな遊戯に耽溺し続けた。
いつも一つの布団で寝ていた二人は、就寝前、どちらからともなく相手の性器に手を伸ばし、
触り合うのが日課になっていた。
ただ触り合うだけではない。
舌で刺激すると指とは違った快感を得られると知れば、すぐさま互いの股間に顔を埋め、
ぴちゃぴちゃと舐め合った。
陰唇や陰核を指で弄るだけでは物足りないように感じ出すと、
マッサージ器を宛がったり、シャープペンシルを挿入したりして、膣の入口付近を刺激した。
だが、美奈と理沙を何より夢中にさせたのは、そういった触りっこではなかった。
「はぁ、はぁ……お姉ちゃあん……一緒に、気持ちよく、なろ?」
性器への刺激で欲情が昂まると、決まって理沙はこう言った。
すると美奈は理沙を抱き――ぴったりと併せた躰を蠢かせて、肌と肌とをすりすりと擦り合せた。
唇を唇で。乳首を乳首で。陰核を陰核で。己の性感帯で、相手の性感帯を刺激する。
それは続けていると、融けあって一つになってしまうような錯覚を、彼女達に起こさせた。
相手の快楽と、自分の快楽の区別がつかなくなるような――倒錯に満ちた悦び。
姉妹は――特に理沙は、この行為の虜になっていた。
来る日も来る日も繰り返し、もはや病的と言ってよかった。
しかし。そんな蜜月の続く中、姉妹は、次第に不安な気持ちに囚われるようになっていった。
双子の姉妹という、最も近い近親同士で行う性行為に没入し続けること。
これが普通ではないということは、世間知らずな幼い彼女達でも、理解はしていた。
それでも、この甘美な行為を自分らの意志だけで止めるのは、不可能に思われた。
そんな折、村の中学校で、集団就職の希望者を募る旨が知らされた。
理沙は、思い切ってこれに応募した。
村から遠く離れた都会に独りで行くことに、不安が無かった訳ではない。
それでも。こうして無理やりにでも離れなければ、二人とも駄目になってしまう。
美奈は、そんな理沙の心情を理解してくれた。
旅立ちの前夜。
最後のあがきのように激しい絶頂を繰り返したあと、美奈は理沙の肩を抱き締めて、泣いた。
理沙も泣いていた。
「頑張ってね。躰に気をつけてね」
何度も繰り返される美奈の言葉に、理沙は涙に暮れながら、ただ、頷いた。
理沙は美奈にしがみ付き、その唇に、そして、乳頭に、塩辛いキスをした。そして――。
「お姉ちゃあん……もう一度……これで、終わりにするから……」
理沙は美奈の背に腕を廻し、二人は、再びもつれて寝床に転がった――。
「んん……お、姉ちゃ……!」
鏡から粘液が糸を引いている。
理沙が腰を上げ、濡れた性器を鏡面に擦りつけたからだ。
この姿見は、就職して最初に貰ったボーナスで、真っ先に買い求めたものだった。
作りのしっかりした上質なそれは、この安普請の部屋から少し浮いて見える。
だが理沙には、この位の重量感のある鏡が必要だったのだ。
しがみ付いて、腰を揺さぶってもガタつかない程度に、重みのある鏡が――――。
上京して暫くの間は、生活の激変に適応するのに精一杯で、淫らな欲求を忘れていられた。
でもそれは、本当に僅かな期間に過ぎなかった。
夏になる頃にはもう、若い躰は姉との淫戯を恋しがり、
独りきりのいやらしいオナニーで、その欲求を解消するしかなくなっていた。
離れ離れになってはいても、鏡の中にはいつでも姉がいる。
鏡を見ながら理沙は、姉の指を、舌を、柔らかな肌の感触を思い出し、
すぐに恍惚の園へゆくことができた。
「あぁぁ……見て、お姉ちゃん……理沙のえっちなおまんこ、もっと見てぇ……」
最近の理沙は、ワザと淫らな言葉を口にして、自らを辱めるオナニーにはまっていた。
鏡に向かって女性器の呼称を連呼したり、その状態を実況したりしていると、
鏡の中の美奈に蔑まれているような気になってきて、余計に性器が気持ちよくなった。
――――うふふ……理沙ったら。そんなやらしーこと言って、恥ずかしくないの?
鏡の向こう側で、美奈が、笑って理沙をたしなめる。
「はぁん、は、恥ずかしい……でも、気持ちいい。気持ち、いい、のぉっ」
――――えっちな言葉を言うのが気持ちいいの?
じゃあ今、理沙がどんな風に気持ちがいいのか、お姉ちゃんに詳しく話してごらん?
「はぁ、はぁ、お姉ちゃん……り、理沙は……
真っ裸で、お股を拡げて、おまんことお尻の穴を丸出しで、乳首と、ク、クリトリス……あぁん、
クリトリスを指で弄り廻して、えっちなオナニーをして、気持ちよくなってるの!
ほら、見てっ! このおまんこの穴、ヒクヒクさせてっ、おまんこ汁をいっぱい出して、
こんな……こんないやらしいこと言って、感じるのぉっ!!」
言いながら、濡れた陰核を擦り上げる。膣口に指を挿し入れる。
膣穴がヒクついて淫らな液が溢れ出すたびに、
くちゅくちゅくちゅくちゅと、粘膜が破廉恥な音を響かせる。
そんな理沙の痴態を、鏡の中の美奈は涼しげな眼で眺めている。
――――そう……おまんこを丸出しにしながら、オナニーするのが気持ちいいのね?
ふふっ、えっちな理沙。なら今度は……
“丸出しのヌレヌレおまんこがお姉ちゃんに見られて気持ちいいです”って言ってみて。
美奈の恥ずかしい命令に、理沙の膣口がピクッと震える。
そんな、そんな言葉――――。そう思いながらも、理沙は唇を一舐めし、口を開いた。
「あぁん……お姉ちゃあん……私……お姉ちゃんにおまんこ見られるの、気持ちいいぃ……
理沙の、はぁう、ま、丸出しのヌレヌレおま……んこぉ……お姉ちゃんに見られて……ああぁん!
お姉ちゃん見てぇん……理沙のヌレヌレおまんこ! おまんこ! おまんこぉっ!」
――――理沙……すごいよぉ。すっごく、いやらしくてスケベなのね、理沙のおまんこは。
はあん……理沙ぁ……。
理沙のえっちな姿を見てたら、お姉ちゃんも変な気分になってきちゃったぁ……。
鏡の中の美奈が、理沙の眼の前に、グチョグチョに濡れ光る女陰を曝け出した。
――――理沙……お姉ちゃんのおまんこも、見てぇ……。
理沙のオナニーを見て、こんなに欲情しちゃったお姉ちゃんのおまんこぉ……。
美奈は、理沙と同じポーズを取って陰部に指を這わせ、陶然と身を仰け反らせた。
その淫猥な姿に、理沙の、手淫の指の動きも加速する。
クチュ、クチュ、クチュ、クチュ――
ズチュッ、ズチュッ、ズチュ、ズチュ、ズチュ、ズボッ、ズボッ、ズボッズボッ――――。
「はあ、はあ、お姉ちゃん、お姉ちゃんすごい……私、私もうイッちゃいそう……」
――――ああん理沙……お姉ちゃんもイキそうよぉ……理沙、一緒に、一緒に……あああっ!
美奈がグッと腰を反らすと同時に、真っ赤に染まった膣口から肛門にかけての肉が、
ピクッ、ピクッと痙攣した。
姉が達したのだと判った途端、理沙の性器にも、堪え切れないほどの快感の波が押し寄せた。
「おぁあ! おぉ、いい、イクッ! お姉ちゃん、お姉ちゃんのおまんこと一緒に!
理沙のおまんこ! えっちなおまんこ、おまんこ、おまんこ、まんこまんこまんこまんこおぉっ!」
理沙は甲高い淫声と共に、M字に開いていた脚をパッと上げて、伸ばした。
そのV字の両脚の間でドクンドクンと蠢く陰部の上の方――
つまり尿道の穴から、無色透明の液体がピュッ、ピュッ、と射出される。
「あ、あ、あ…………」
恍惚のあまり半ば白目になりながら、理沙は足の親指を伸ばし、
ビクビクと絶頂の余韻にわななき続けた――――――。
前スレの埋め草に小ネタでも投下しようと思ったら、
中途半端に要領が足りなかったので此方にも落とさせて頂きました。
宮田でも美耶子でもSDKでもないんで詰まらないでしょうが、保守ということで。
何度書きまくっても
>>1乙しちまう。これじゃあ俺も用無しだ。
15 :
名無しさん@ピンキー:2008/06/12(木) 20:43:41 ID:5q4JXWz9
>>14 GJ!!ツン子、その他キャラものじゃなくても十分エロかったです。ごちそうさまでした。
>>8 まず
>>1を見てほしい。前前スレ、前前前スレともにdat落ちだったんだ。
しかし、前スレでやっと終了条件が達成しそうなんだ。ちゃんと終わらそうと思うのはわがままだろうか?
16 :
名無しさん@ピンキー:2008/06/12(木) 21:04:21 ID:5q4JXWz9
あっ、書き忘れたけど、
>>14前スレ埋めお疲れ様です。おかげで終了条件2達成出来ました。
>>15がなぜそうも完走に拘るのかがよくわからない。
それに、完走させたいと思うのは勝手としても、やり方が酷すぎる。
あの保守や埋めの連書きは、はっきりいって荒らしにしか見えなかった。
あんな不細工な真似をしてスレを汚すくらいなら、何もしないで流れに任せて貰う方がいい。
>>14のように、SSで埋めてくれるようなスキルがないんなら、その方がいい。
他の住人がどう思っているかは知らないが、(てか他に住人が居るのか知らないが)俺はそう思う。
>>14お疲れ様でした。
理沙って処女だったのかな?
森下くるみの芸名でAVでてます
20 :
名無しさん@ピンキー:2008/06/16(月) 08:48:04 ID:WCoRBZXp
保守
21 :
SIREN:2008/06/17(火) 21:57:34 ID:/MHP82AH
前スレのハードシリーズ、全員分書いてくれないかなあ
あれは面白かったw
22 :
名無しさん@ピンキー:2008/06/20(金) 09:36:44 ID:UFwi4WRm
保守
23 :
名無しさん@ピンキー:2008/06/21(土) 19:15:58 ID:XGl56pGy
保守
24 :
名無しさん@ピンキー:2008/06/22(日) 18:33:47 ID:R6MvmRrv
保守します
保守
保守
>>14 途中で落ちてて探してた!
恩田姉妹好きですー。実体でもお願いします!
保守
29 :
名無しさん@ピンキー:2008/06/29(日) 11:37:13 ID:yOJXD04V
保守
30 :
名無しさん@ピンキー:2008/06/30(月) 10:11:40 ID:4wHW95rZ
保守
31 :
名無しさん@ピンキー:2008/06/30(月) 14:58:52 ID:Y+10cAHU
サイレンって時間を止めるタイムフリーズ能力持ちの敵が現れて
時間を止められ反撃も抵抗も出来ずに陵辱され時間が動いた時には雨宮さんは膣内も身体も白濁色の液体にまみれて悲鳴と共に倒れて他のメンバーはズタズタ状態で倒れる。なんてシチュも有り得るんだよね
なにそのスタンド能力
ザ・世界?
33 :
名無しさん@ピンキー:2008/07/02(水) 14:48:34 ID:j9kSx1i7
保守
保守
保守
宮田×美耶子
本番無し クリトリス責め&足コキ
注意事項:読み返したら宮田が変態過ぎるし美耶子が淫乱過ぎる気もしたので、許容出来ない方はスルー推奨。
宮田司郎は、鏡の前に居た。
深夜。しんと寝静まった神代の屋敷。
村医である宮田は今、この、村随一の旧家である神代家の奥に用意された、
特別な部屋の片隅に仁王立ちしていた。
彼の背後には一人の美少女。
つややかな黒髪を腰の辺りまで垂らし、朱に染めた頬を誤魔化すように、そっと顔を俯けている。
「美耶子様」
宮田に名前を呼び掛けられて、少女の肩がぴくりと揺れる。
雪白の肩――ぷっくりと実り始めの可憐な乳房。
ぽつんと窪んだ臍の下にある、穢れを知らぬ小さな割れ目。
美耶子は、何もかもを曝け出した全裸でもって、宮田の後ろに佇んでいた。
宮田は、鏡に映る己の姿を見据えたまま、怜悧な声で美耶子に問う。
「美耶子様……ちゃんと、御覧になっていますか?」
美耶子が曖昧に頷くのを視界の端で捉えつつも、彼の視線は真っ直ぐに自分の姿を――
美耶子と同じく、生まれたままの丸裸になったその姿を、じっと見つめている。
顔から、硬い胸板、引き締まった腹部と目線を落とし、剛い毛に覆われた局部に留める。
亀頭の露出した赤黒い陰茎を鏡越しに見て、宮田は薄く笑った。
数刻前。
白衣を纏った宮田は、いつも通り屋敷の裏門から車を乗り入れた。
「あの方は既にお待ち兼ねで御座います」
挨拶もそこそこに。女中に案内されて、曲がりくねった長い廊下を進む。
幾つかの角を曲がったのち、日本家屋には相応しくない、無骨な鉄扉の部屋に辿り着いた。
「それでは、私はこれで……終わりましたら、インターホンでお知らせ下さい」
逃げるように立ち去る女中の足音を聞きながら、宮田は鉄扉を開けた。
「宮田です。定期健診に上がりました」
部屋の入口で一礼する宮田の頭に、勢いよく何かが飛んでくる。
宮田は反射的にそれを避けた。背後の壁から、薬瓶の割れるけたたましい音が響いた。
宮田は全く臆することもなく、瓶を投げ付けた人物に眼を向けた。
黒いワンピースを身に着けた神代美耶子が、勇ましく肩を怒らせて立っていた。
「……帰れ!」
小鳥のように澄んだ声が、鋭く叫ぶ。
宮田はそれにもまるで頓着せず、部屋に入って扉の内鍵を掛けた。
「帰れったら! お前なんか大嫌い!」
「これは……また派手にやらかしましたね」
滅茶苦茶に荒らされた室内を見渡し、宮田は苦笑いをする。
羽生蛇村における神代家の権力は、まさしく絶対君主のそれと同等である。
宮田が院長を勤める医院は、その神代家に使役される家臣のような立場にある。
よって神代の家の人々は皆、医院を下賎な存在と見下しており、
特に昔の、神代が今以上の権勢を誇っていた時代を知っている年寄り連中は、
医院に立ち入ることすら嫌った。
そんな彼らが医院まで足を運ぶのを避けるため、神代の屋敷には、医院に匹敵する設備を
備えた特別な診療室があった。
大概の病気や怪我に対応出来るのは無論のこと。
奥には滅菌室を隔て、手術室までが用意されていた。
もっとも。
この、豪奢とも言うべき立派な診療室は今、まるで台風の直撃を受けたような惨状を示している。
「あーあ。薬棚が全滅してるじゃないですか……こないだ新しく入れ替えたばかりだったのに」
「うるさい! 黙れ! こんな部屋、無くなっちゃえばいいんだ!」
「此処が無くなっちゃったら、御病気の時、病院まで来て貰わなきゃならなくなりますよ?
村のガキ共と一緒に、お尻を出して座薬入れたりされたいんですか? 美耶子様?」
「うるさいうるさいうるさいうるさい!
病院なんか行かない! お前とも会いたくない! 早く出て行け! 此処から出て行け!」
美耶子は髪を振り乱して喚き散らす。宮田はため息をついた。
「やれやれ……いい加減、聞き分けて頂きたいものだな」
宮田が近付く気配を察知し、美耶子は怯んで後ずさる。
部屋の出口に駆け寄ろうとするが、宮田の腕は、素早く美耶子を捕えた。
「いや! 放して……放せえっ!」
宮田は、激しく身悶える細い躰を軽々と抱え上げた。
「大人しくなさい。これ以上おいたをするようなら、お仕置きですよ」
威圧感に満ちた静かな口調。宮田の腕の中、美耶子の表情が恐れに歪む。
その微かな変化によって、神秘的なまでに端整な顔立ちが、何ともいえない妖艶さを帯びた。
身を硬くした美耶子を抱いて、宮田は奥の診察台へと向かった。
ゆったりと掛けられる長椅子の両脇に添えられた意味深な足乗せ。
椅子の下には、汚水を受ける為の排水桶。
女の裂け目を覗く為に作られた、婦人科用診察台だ。
その周囲は、美耶子が暴れた名残りで酷く散らかっている。
倒れた椅子や散乱した医療器具を足で払い、宮田は、診察台へと美耶子を運んだ。
人を相手にするというより寧ろ、物を取り扱うような冷淡な態度。
美耶子に対してこれは、ある意味正しい態度であるともいえる。
生まれながらに、人としての生を諦めねばならないこの少女に対しては――。
神代美耶子には戸籍が無い。
女系家族である神代本家は、必ず二人の女児を授かる。
妹娘は神に捧げられる実。姉娘は次代の種を残す実。
いにしえから続くしきたりは、現代に至っても変わることは無い。
生まれながらに神の花嫁であることを運命付けられた美耶子は、
いずれはこの世から消え去る運命にあるのだ。
居なくなることが予め決まっているから、存在の証明も必要無い。という訳である。
その代わり。神への捧げ物として、美耶子は神代の家の中で最も尊ばれた存在ではあった。
神の御許に捧げられるその日まで。その身に傷が付かぬように。汚れが付かぬように。
美耶子は、それこそ桐の箱に仕舞われるが如く丁重に扱われ、様々な奉仕を受けていた。
宮田医院の院長がじきじきに執り行なう、この定期健診もその一つ。
捧げ物の実は、健やかであらねばならない。
美耶子の健康はその貞節同様、常に完全なものが求められていた。
「さあ。良い子にしていて下さいよ。すぐに済みますからね」
股座をよく観察出来る形の診察台に、美耶子を載せる。
美耶子は大人しくされるがままになっている――
と思いきや、彼女は未だ抵抗を諦めてはいなかった。
「うっ?!」
手の甲を襲った激痛に宮田が呻く。美耶子に噛み付かれたのだ。
宮田は、凍て付くほどに冷たい瞳で美耶子を見据えたのち、
その眼を閉じて、美耶子を診察台に押さえつけた。
「……何度も同じことを言わせないで下さいよ」
宮田が眼を閉ざしたことにより、視界を奪われた美耶子が痛ましい声を上げる。
生来盲目である美耶子はいつも、他人の視界を覗き見る、
“幻視”という能力を使って視界を確保している。
それは、神代家の血筋にのみ稀に現れる特殊な力だ。
その力を自らの意思で自在に操れるのは、神代の中でも美耶子ただ一人。
盲目であるが故、秘められた能力が強まったのかも知れないが、真実は誰にも判らない。
しかし、神代の家を始めとする村の誰しもが、
それこそ美耶子が、完全なる神への供物である印しであると、信じて疑わなかった。
美耶子は此処で、ずっと宮田の視界を頼りに行動していた。
そんな彼女が突然視界を閉ざされ、混乱した隙に。
宮田は、眼を閉じているとは思えぬほどの正確さでもって美耶子を診察台に固定し、
これ以上の悪足掻きを封じるために、四肢にしっかりと拘束具を取り付けた。
「さて、こんなもんかな」
一連の作業を終え、宮田は瞼を開いた。
彼の眼下には、高々と両脚を掲げ、それを開いた状態で拘束された、
哀れな美少女の姿があった。
「全く。毎回こう世話を焼かされるんじゃあ、堪ったもんじゃない」
大仰に肩を竦め、宮田は次の作業に移る。
成長と共に、美耶子の精神は不安定になりつつあった。
日毎増す、その美しさと比例するが如く。
己の運命への絶望の中から、時折、強烈に湧き起こる生への渇望。執着。
それらの感情の間を振り子のように揺れ動き、少女の心は悲鳴を上げる。
そして一種の、ヒステリー状態に陥るのだ。
少し前から宮田は、この状態の美耶子に対して特別な処置を行うようにしていた。
「あぁ……いやぁ……」
美耶子が小さく嫌々をしている。
宮田にワンピースを剥ぎ取られ、股間を覆う下着さえも慣れた手つきで剥ぎ取られ、
うら若き乙女として最も他人に見せたくない部分を、剥き出しにされたのだ。
「貴女がいけないのですよ。診療室をこんなにして……では始めます」
ラテックス製手袋を嵌めた宮田の手が、美耶子の恥ずかしい部分に伸びる。
大理石のような内腿の中心部で、暗紅色に翳って見える未熟な裂け目。
ぷりぷりと張りのある大陰唇は、未だ無垢な子供の瑞々しさを保っているものの、
そこに薄っすらと繁った柔毛や、肉の合わせ目から微かにはみ出た桃色の小陰唇が、
美耶子の肉体が春に目覚め始めていることを、如実に表していた。
宮田の指先は、綻びかけの性器の裂け目を、半ば強引に開いた。
くちゃり。と粘液質な音が鳴り、処女性器の芳香が、むっと鼻を衝いた。
「ああ……相変わらず洗うのが下手ですねえ……」
ぱっくりと広げられた小陰唇の内部。色味の薄い繊細な生肉のそこかしこに、
白っぽく粘ついた汚れが付着している。
盲た美耶子はいつも女中に介添えされて入浴しているが、
他人の手ではどうしても細かい部分に手が届かないらしく、美耶子の其処は大抵、
こんな風に汚れていた。
なので、宮田は美耶子の健診をする際、毎回美耶子の性器を洗浄させられる破目になる。
不潔にしていて雑菌でも入ったら事だ。
結果、美耶子の性器を清浄に保つのも、実質的には宮田の役割となりつつあった。
美耶子の股間に、洗浄器具の細いノズルが伸ばされる。
待ち構える美耶子は、これから為される行為を既に理解している。
そして、怯えた様子で顔を強張らせる――
だがその一方で、宮田の前に晒された性器の唇には血の気が差し、
まるで、何かを期待するように自然に開き始めていた。
そんな美耶子の姿を横目に見ながら。
手の平で水圧と温度を確認したのち宮田は、ノズルから噴き出す湯を美耶子の性器にかけた。
「ひっ……」
細い水流が膣口に当たり、美耶子は微かな声を漏らす。
「水圧が強いですか? 少し緩めましょうか……これでどうです?」
噴き出す湯の量を微妙に調整しつつ、宮田は美耶子の性器の汚れを丁寧に落としてゆく。
小陰唇を指先で摘まんでめくり、大陰唇との境目の部分を少し強めの水流でなぞった後、
今度は内側の方を、緩めの湯にゆっくりと浸す。
落ちにくいに汚れにはノズルをぎりぎりまで近付け、軽い震動を与えて器用にこそげ落とした。
これらの行為を受ける内、いつしか美耶子は、虚ろな表情で押し黙っていた。
診察台の背もたれに身を預け、ぐったりとしながらもその眼は不思議な輝きを放ち、
唇からは絶えず、浅い呼吸が漏れ出でる。
やがて。
「あぁ……は、あは……んん……」
開かれた部分がすっかり綺麗になる頃には、その呼吸は切なく乱れ、
自由の利かない躰の、腰の辺りがもじもじと落ち着きなくうねり始めていた。
強く。弱く。ぬるま湯で刺激され続けた敏感な粘膜はすっかり充血し、
もはや独りでに割れてしまっている紅い陰唇の頂点では、珊瑚色に輝く陰核がぴょこんと飛び出て、
持ち主の呼吸に合わせ、ぴくぴくと恥ずかしい疼きに震えていた。
「陰核が勃起したようですね」
宮田は白衣のポケットからペンライトを取り出すと、美耶子の幼い真珠を冷たい光で照らす。
「いやっ……」
「ああやっぱり……ほら美耶子様、見えますか? この陰核の根元ですよ。
溢れ出しそうなくらい恥垢が溜まっている。こりゃあ凄いな……落とし甲斐がありそうだ」
陰核亀頭と包皮の間に詰まった、カッテージチーズ状の恥垢を指さし、宮田は美耶子に声を掛ける。
美耶子は何も返事をせず、ただひたすらこの屈辱の時間に耐えていた。
宮田は美耶子の激しい羞恥心を全く無視し、陰核と包皮の境目にノズルを近づける。
始めは弱い水圧で――それを、段々と強めてゆく。
円を描くように。陰核の根元を細く、細く――。
「うあ……ああっ! いや……いやああ!」
「動かないで下さいよ。此処の汚れは取るのが難しいんだ……
くそ、やはりこのままだと埒が明かんな。美耶子様、失礼致します」
言うや否や、宮田は美耶子の陰核包皮に指を沿え、それをくいっと根元の方に引っ張った。
「やっ?! ああっ、や……やめろ、やめろおぉ!」
「ちょっと違和感があるでしょうが、我慢して下さい。
剥けるだけ剥かないと、奥の方の垢が取れそうにないんです。だって見て下さいよ。
こんなに詰まっているんですから……」
宮田の言う通り。
美耶子の剥かれた包皮の下からは、白い滓が湯に流され、ぽろぽろと零れ出していた。
そしてしぶとくこびり付いた汚れが落とされる度、彼女の会陰の部分が、
ぴくり、ぴくりと痙攣する。
無理もない。普段、包皮によって守られている陰核の根元は、飛び出している部分よりも
ずっと刺激に敏感で、柔弱なのだ。
「あああ駄目……」
震える声と同時に。美耶子の陰核が一瞬、きゅっと強張る。
そしてその下で。濡れそぼった膣口が、ぴくっ、ぴくっ、と収縮を始めた。
「おや……もうオルガスムスに達してしまわれましたか。
これが終わったら、陰核マッサージを行う予定でしたが。手間が省けましたね」
全身を桜色に染め、額に汗を滲ませた美耶子は、わななきながら動物めいたうめきを上げている。
宮田は水圧を極限まで上げたノズルを、美耶子最大の泣き処である、
陰核裏側の窪んだ割れ目に押し当てた。
「ひぃ……ぐ……うあ、うあああああっ」
収まりかけていた絶頂の快楽を呼び戻された美耶子は、
愛らしい顔を醜く歪め、余りにもはしたない嬌声と共に泣き喚く。
そこに宮田は、更なる追い討ちを掛けた。
「うぅあ……あ? あふ、あっ、あぁっ……」
「美耶子様も随分と慣れて来たようですからねえ……。
こうやって膣口も同時にマッサージした方が、より強い絶頂を感じることが出来るんです。
大丈夫ですよ。処女膜に傷など付けぬよう、優しく揉んで差し上げますから。
どうです? 陰核と膣口。両方の気持ちのよさが増しているでしょう?」
これもまた、宮田の言う通りであった。
陰核の鋭敏な快感と、膣口の内側から蕩け出すような快感。
二つの異なった快感が、それぞれの快感を増幅し合い、
美耶子を、更なる性悦の高みへと押し上げていた。
「あっ……あっ……あぁ……」
激しく蠢く膣穴の内部から、湯とは違う粘りを帯びた液体が溢れ出すのを感じながら。
宮田は、膣口を揉む指先をやんわりと摩り、興奮を宥める動きに変えて行った。
「はあ……はあ……」
性器を蕩かす快楽の余韻に、美耶子は暫し揺蕩っている。
紅く火照った粘膜を晒したままで――
その恥ずかしさすら忘れ、少女は、幼い性の悦びに浸っていた。
「少しは落ち着かれましたか?」
美耶子を陶酔境から引き摺り下ろす、容赦の無い宮田の声。
忌々しい思いで、彼女は宮田から顔を背ける。
「ご気分が回復されたようでしたら……続きをしなけりゃなりませんのでね」
「続き……って?」
思い掛けない宮田の言葉に、美耶子は驚いて問い返す。
「実はまだ……終わっていないのですよ。此処の掃除が」
宮田は、美耶子の陰核の先をちょんと突付いた。
「あ……ん」
「この根元の皮の部分にね。まだ挟まってるんですよ。でかい塊が。
そいつを取る前に、貴女はオルガスムスに達してしまわれたから……」
「もういやぁ……!」
快楽の余韻から醒めて、正気を取り戻した美耶子の悲鳴が室内に響く。
しかしそれは、完全防音であるこの診療室から外に漏れることは無く、
また、仮に漏れた処で、今の美耶子を助けに来る者など、此処には一人として居はしないのだ。
「オルガスムスを迎えてしまうと、陰核は萎縮してしまいますから。
汚れを落とす為には……申し訳ありませんが、もう一度、陰核を勃起させて頂かないと」
「いや……! もういや! 無理! 今日はもう……出来ない」
達したばかりの敏感な粘膜を、ひくひくと蠢かせて美耶子は叫ぶ。
あの、屈辱に満ちた快楽に堕とされるのはもういやだ。
少女の繊細な心は、我と我が身を恥じる思いで張り裂けそうになっていた。
「辛いのはお互い様ですよ」
宮田は、遺憾の念を込めてこうべを振る。
「私だって、何も好き好んで貴女に恥ずかしい思いをさせている訳ではない。
これも仕事なんです。
私には、貴女が神の御許に嫁がれる日まで、そのお躰の健康をお守りする義務がある。
ですから――美耶子様の大切な処に、汚いものをくっ付けたまま放置する訳には参りません。
仕方の無いことなのですよ」
そう言った後、宮田は、美耶子の濡れた陰部やその周辺――
内腿や、尻の谷間に至るまでを、丁寧にタオルで拭った。
それから濡れた手袋を外し、美耶子の乳房に手を添える。
「あ……?」
早春の蕾の如く硬い乳房を包まれて、美耶子は小さな声を漏らす。
「陰核を勃起させる為です」
宮田は、張り詰めた二つの膨らみをやわやわとまさぐりながら呟く。
「直接刺激して、無理矢理勃起させても構わないんですけどね。
それでは貴女もきついでしょうから……自然に勃起して頂けるようにしましょう。
こうやって……」
宮田は美耶子の乳を手の平全体で円く辿ってから、指先で乳首を摘まみ、きゅっきゅっ、
と、絶妙な力加減で押し潰した。
親指と中指を、紙縒りを作るように摺り合わせ――
たまに、ぴんと起き上がったその尖端を、人さし指で軽く突付いた。
「はあ……ふう……ふう……う」
乳房や乳首からもたらされる甘い感覚。美耶子の瞳は潤み、呼吸も再び乱れ始めている。
「もう陰部が充血して来ましたね。
陰唇も広がって……膣の入口が収縮してるのがはっきり判りますよ」
乳房と乳首をマッサージしながら、宮田は美耶子の性器に眼を落とす。
「どうします? 乳房と同時に、陰核のマッサージもしましょうか?
それとも、水圧で直接刺激する方がいいですか?」
唐突な問い掛け。美耶子は、困惑気味に眼を泳がせる。
「黙っていては判りません。早く答えて下さいよ。でないと、いつまで経っても終わりませんよ?」
宮田は、苛立ちを含ませた声音で美耶子を急かす。
「水は、もう嫌……」
急きたてられた美耶子は、聞こえるか聞こえないかの小さな声で、やっと返事をする。
宮田は少し呆れたように微笑む。
美耶子は、ぬるま湯による刺激が本当に嫌な訳ではあるまい。
ただ、「指で弄ってくれ」などと自分から言い出すのが躊躇われるので、
こんな言い方をしただけだ。
こんなに幼い少女でありながら、すでに女らしい小狡さを備えている美耶子を、
宮田は寧ろ微笑ましく、好ましく感じていた。
「そうですね……では、いつも通りにマッサージしましょう」
宮田は白衣のポケットを探り、中からワセリンの容器を取り出した。
潤滑剤として、美耶子の陰核に塗り付ける為である。
指先に取ったワセリンをぽつんと丸い陰核に乗せると、美耶子は咽喉の奥でくっ、と呻いた。
「あ……何? 何か変……」
「ああ。少しメントールを配合してあるんです。スースーして気持ちいいでしょう?」
「ううぅ……」
美耶子の陰核に、薬剤の刺激が染み渡る。
冷たいような熱いような、何とも言えない感覚に、敏感な肉の芽は瞬く間に反応し、
硬く起き上がり始めた。
「この程度では未だ駄目ですね。もっと最大限に勃起して頂かないと」
宮田は、陰核の裏側に指先を宛がい、そこを撫で摩り、小刻みに震わせた。
「あ……ふう……くぅっ!」
「美耶子様、今度は勝手に気を遣らないで下さいね。
でないと、また最初からやり直しになっちまう」
親指と中指で陰核を摘まんで揉み、人差し指の先でちょんちょんと突付く。
揃えた二本指でぶるぶると震動させる。
そんなマッサージを繰り返しながら、宮田は冷淡な口調で美耶子に注意を促す。
しかし美耶子は、もうまともな返事の出来る状態ではなかった。
「はぁん……ああっ、ああん……」
内腿の筋をぴくぴくと痙攣させながら喘ぐ美耶子の膣口からは、
水飴のような粘液が溢れ出し、会陰を伝って椅子に垂れそうになっている。
宮田はすかさず吸引機のノズルを膣口に宛がい、
蛍光灯の明かりにきらきらと光って見える美耶子のよがり汁を、器械で啜った。
「さて。もうだいぶん大きく勃起はしたが……美耶子様、どうです?
これ以上勃起出来そうですか?」
「う、あ、あはぅ」
「美耶子様?」
「あぁ……む、無理……これ以上されたら、もう……」
美耶子の快楽が限界に迫っていることを悟り、宮田は陰核を責め苛む手を止める。
そして、大きく紅く膨らんだ陰核を見つめて思案した。
極限まで硬直して起き上がり、尖りきった陰核の根元。
その包皮の内側の、美耶子から見て左側の部分に――芥子粒ほどの白い塊が挟まっている。
陰核包皮に深く嵌まり込んだそれは、宮田の丁寧なマッサージにもビクともせず、
其処から出てくる気配はまるで無かった。
ピンセットで摘まみ出そうにも、露出している部分が少な過ぎる。
これはやはり……水で押し出す他ないだろう。
「美耶子様。ちょっと我慢して下さいよ」
宮田は、陰核の付け根を二本の指で挟み、ぐっと押さえ付けた。
空いた方の手で洗浄器のノズルを取る。
「あっ……やだ、やだ」
これから為されることを察した美耶子は、脚を突っ張り、儚い抵抗を試みようとする。
しかし拘束具で縛められ、宮田の手の平で局部を押さえられた状態の美耶子に、
身動きが取れようはずも無い。
抗う術も無く。美耶子は陰核とその包皮の隙間に、凄い勢いのぬるま湯を浴びせられた。
「ひい……い、あっ、あっ……!」
「堪えてください美耶子様。これじゃあ駄目か……美耶子様、もう少し強くしますからね」
宮田は噴き出る勢いを最大限まで上げ、陰核の根元に――
僅かに覗く白い塊に、接触せんばかりにまでノズルを近づけた。
「うああっ?! ひゃ……ああううぅっ!」
「動かないで。ほら、滓がちょっと動いてます。これならいけるかも……」
宮田は少女の小さな部分に眼を凝らし、水圧に流されそうになっている白い塊を、
更に押し出す努力をする。
敏感な脆い箇所を凄絶なまでに責め立てられて、美耶子は断末魔の如く躰を仰け反らせる。
初潮さえも迎えていない幼い美耶子を襲う、未曾有の感覚……。
もはや快楽なのか苦痛なのかも判らぬままに。
美耶子は息をつめ、全ての意識を陰核に持っていかれた状態に、ひたすら耐え続ける。
「うぅ……あああ……いぁ……いああぁ……」
痛い。むず痒い。気持ちいい。気持ちいい。気持ちいい……。
視界では、今しも弾けそうに熟しきった赤い実が、ぬるま湯に打たれて震えている様が、
いっぱいに映っている。
陰部全体は、宮田の分厚い手の平でもって押さえ付けられている。
その温かさ。そして流れ落ちるぬるま湯が、陰裂をなぞる感触。
このような仕打ちに耐え切れる女は、この世に存在しないだろう。
まして美耶子は、全くの初心な生娘なのだ。
快楽に蕩かされ、その身が陥落してしまうのに、ものの数分も掛かりはしなかった。
「ひい……あ……め……も、あぁ……はぁ、う!」
宮田の手の中、可憐な割れ目が快感の発作にひくつき、
紅い陰核は崩れ落ちる寸前の強張りを見せる。
尿道口からはさらりとした熱い汁が噴き出し、ぬるま湯と一緒くたになって、
宮田の白衣の袖口まで汚した。
宮田は少女の陰核の付け根を指先できつく挟み込み、縮んでしまわぬように捻り上げる。
もう少しで滓が取れそうなのだ。
此処で陰核を引っ込ませるわけには行かない。宮田も必死だった。
絶頂に達した陰核を強く摘ままれた美耶子は、腰の奥までがじいんと痺れ、脱力してしまう。
半開きになった唇からだらしなく涎を垂れ流し、虚ろな眼を見開いて、
美耶子は性器の快楽にただ没頭していた。
――ああ、きもちいい……もう、もう死んでもいい……。
恍惚の波に飲まれた美耶子は、心の中でうっとりと呟く。
強すぎる快感で遠ざかる意識の片隅に、己の陰核の姿を捉えながら――。
宮田の指先に捉えられた肉の芽の付け根。
繊細な包皮の内側からは、白い塊が半分以上も露出している。
鬱血しそうなほどに強く摘ままれた陰核からそれは飛び出し――
とうとう、ずるりとその全体像を現した。
「ああ……出たあ」
陰核に挟まり続けていた汚れが落ちるのを確認し、美耶子は安堵した声で呟く。
そしてそれきり。神の幼き花嫁は、薄く眼を開いたまま、静かに気を失ってしまった。
それから――。
間もなく眼を覚ました美耶子は、通り一遍の健診を受けることと相成った。
未だ朦朧とした状態の美耶子を、宮田は手馴れた様子で扱う。
身体の測定をし、血圧と脈拍を測り、心音や肺の音を聴診器で調べる。
耳たぶから血を抜いて採取した後は、採尿もしなければならない。
「じゃあ美耶子様、起きてそこのおまるに……」
宮田がそう言い掛けた処で、突然、美耶子の足が宮田の鳩尾を蹴り飛ばした。
予期せぬ攻撃を受けて、さすがの宮田も膝をついて咳き込んでしまう。
美耶子は診察ベッドから降りて立ち上がり、身を屈めた宮田の躰を、
やたらに蹴ったり叩いたりした。
「殺してやる! お前なんか殺してやる!」
快楽の余韻から醒めた途端、怒りがこみ上げてきたのだろう。
激情に顔を歪め、美耶子は少し泣いているようにさえ見える。
こんなことは初めてだ。宮田は、少なからず驚きを覚える。
陰核のマッサージを行った後、美耶子はいつも、ぐったりと大人しくなるのが常だった。
前院長からこの仕事を引き継いだ数ヶ月間、それはずっと変わらなかったのに。
――御印の下りる日が、近付いているのかも知れない。
宮田は胸の内で呟いた。
御印とは――即ち初潮のことだ。
いつに無い美耶子の激昂は、所謂PMS(月経前症候群)に因るもののように感じられた。
もしもそうだとしたら、一大事である。
美耶子が初潮を迎えれば、それは神の花嫁たる資格を得た“印し”となる。
花嫁は、直ちに神の御許へと送られる慣わしだ。
数十年ぶりに、村を上げての聖婚の儀が行われ、美耶子はこの世から消えて無くなるのだ。
「美耶子様、お止めなさい……落ち着いて!」
宮田は、尚も己を殴り付けようとする美耶子の両腕を掴み、ベッドの上に押さえ込んだ。
「貴女に取って、こんな検査は嫌なものなのでしょうけど……
だからといって私を殴っても、どうにもなりはしませんよ。
神代の家が決めたことに、逆らえはしないんですから。私も、貴女も……」
上気した顔で息を荒げている美耶子に、諭す口調で宮田は言う。
美耶子の怒りの形相が、くしゃりと泣き顔に崩れた。
「もう嫌……みんな大嫌い……この村も。お前も。みんな、みんな……」
全裸で腕を掴まれ、さめざめと涙を流す美耶子を、宮田は暫し見下ろしていた。
いや寧ろ、見とれていた、というべきか。
美耶子の泣き顔を見ている内に。
宮田の胸中は、彼の性情に似つかわしく無い、ある種の同情心のようなものに、
満たされてゆくのであった。
「しょうがないな」
宮田は、美耶子の腕を放した。
ぼんやりと泣き濡れた眼を向ける美耶子の前で、宮田は床に跪いた。
「五分、時間を差し上げます。
その間でしたら……俺を殴るなり蹴るなり、お好きになさって結構ですよ」
宮田の言葉に、美耶子は一瞬きょとんとした表情を浮かべる。
それが、余りにも思い掛けない提案だったからだ。
宮田は白衣を脱ぎ、カッターシャツとズボンの姿で正座に直っている。
美耶子は、おずおずと彼の前に立った。
そして言われた通りに宮田を打つべく、手の平を翻す。
ぱん、と小気味の良い音と共に、宮田の頬に美耶子の指の痕が付けられた。
「もう終わりですか?」
微かに疼く頬を摩り、宮田は愛らしい暴君を見上げる。
挑発的とも取れる台詞を受け、美耶子はもう一度宮田を打とうとしたが――
不意に、その手を引っ込めた。
「脱げ」
花びらのような唇が言う。
「何で私だけ裸なんだ! お前も脱げ!」
「……はい」
宮田はシャツのボタンを外し始めた。
シャツを脱ぎ、ズボンを下ろし、下着と靴下を取り去る。
「脱いだら、そこの鏡の前に立て」
硬い声で美耶子は命じる。
――なるほど……この少女は、自分と同じ屈辱を俺に味合わせるつもりでいるのだな。
宮田は得心し、散らかった診療室の隅にある鏡の前へと裸足の足を運んだ。
――そっちがその気なら、お望みどおりにしてやろう。
幼い少女の命令に諾々と従いつつも、宮田の心は落ち着いたものであった。
宮田は鏡の前に立ち、己の躰をじっくりと美耶子に見させてやった。
淡々とした態度で鏡に映る肉体を視界に入れる宮田に対し、
それを望んだはずの美耶子の方は、何とも気まずそうな面持ちで顔を伏せている。
無理もない。
神代の家において、生まれつき特殊な存在である美耶子は、
神代の屋敷の奥深くに仕舞い込まれ、家人と顔を合わせることすら稀である。
当然、男と接する機会などは皆無に等しい。
実の父親とさえ、殆ど会話をしたことが無いくらいだ。
ましてや男の裸など――
まともに見物したのは、生まれて初めての経験なのではないだろうか?
「どうです? 美耶子様の御躰のように美しくはないでしょう? まあ、こんなもんですよ。
つまらんもんです。男の裸なんざぁね」
宮田の軽口に返事も出来ず、美耶子はうろたえたように黙り込んだままだった。
美耶子は当初、宮田に仕返しをしてやりたいと考えていた。
それで、大した考えもなく宮田を裸にさせたものの――これからどうすればいいのか、
皆目見当がつかない。
一方の宮田は、外面では相変わらずの冷たいポーカーフェイスを気取っているが、
その心中はいささか冷静とはいい難いものになっていた。
困惑を露わにする裸の乙女と、同じく裸で鏡越しに対面する内に、
躰の奥底から、妖しくなまめかしい衝動が湧き上がりつつあった。
宮田は鏡に背を向けて、美耶子の方を振り向いた。
「美耶子様……」
己の方を向いた宮田から奇妙な威圧感を覚え、美耶子は少し後ずさる。
それを追うように、宮田は足を踏み出した。
――何をする気でいるんだ……。
宮田は自問する。
しかし自らの問いに、宮田は答えることが出来ない。
宮田は美耶子の眼の前に立つと、黒髪に縁取られた小さな顔を見下ろした。
息が掛かるほどの近い位置でじっと見つめられると、美耶子は恥じらいを隠しきれない。
頬を染め、潤んだ瞳を誤魔化すように、目線を落としてあごを引く。
すんなり伸びた両の腕は、躰の両脇にだらりと落ちたままで、
激しい鼓動に弾んで見える乳房や、ついさっき宮田に洗浄され、慰めを得たばかりの陰部を、
隠すことさえ忘れているようだ。
宮田は、美耶子の立ち姿を黙って見つめ続けていた。
この世の者とも思われない、浮世離れのした美しい姿。
そう、確かに美しい。宮田は眼の前に居る少女の美貌を、改めて認識し直す。
未だほんの小さい時分から。
美人の家系だと言われている神代家の中でも、美耶子の美しさは段違いに際立っていた。
それは母の佐矢子は勿論のこと、二つ上の姉・亜矢子さえも霞ませてしまうほどのもので、
神代の家の中で、美耶子が居辛くなる一因となっていた。
「あれはいいお供え物になるわね」
佐矢子は美耶子に対して、母親らしい情愛を示すことは皆無だった。
美耶子のことは、神に捧げる生贄の家畜として見なすことに決めているのである。
生んですぐ、奥座敷に放り込んだきり。その存在に眼を向けようともしない。
そうした佐矢子の態度に、神代の家人は倣う他なかった。
どうせいずれはこの世から消えてしまう娘。変に情を移しても、家での立場が悪くなる以外、
何もいいことなどありはしないのだ。
宮田は病院を引き継ぎ、神代の家に往診に来るようになってから、美耶子の閉塞的な状況を、
目の当たりにすることになる。
誰からも疎まれ、拒絶され、盲導犬だけを唯一の友として無聊を慰めるしかない、孤独な心。
少女の気難しく高圧的な態度は、寂しさの裏返しだ。
自身、孤独な幼少時代を送ってきた宮田には、それが手に取るように理解出来た。
それでも宮田は、今日まで美耶子のことは、単なる受け持ちの患者の一人として、
必要以上の関心を持つ事を避けて来た。
どれほど美しく、共感を抱かせる対象であろうとも。
美耶子は神の花嫁であり、自分如きがどうにか出来るような立場の娘では無い。
宮田は己にそう言い聞かせ、他の人間達と同じように、美耶子に対して心を閉ざして来た。
しかし今夜。
美耶子が初潮の前触れを予感させた今夜。
宮田は初めて、この美少女への執着心を明確に自覚した。
この濡れたように艶めく長い黒髪も。
瑞々しく透き通る白い肌も。
あどけない中に時折、憂いに満ちた女の表情を覗かせる、美しい面差しも。
もうすぐ常世のものとなってしまうのが判ると、どうしようもない焦燥感が宮田を襲った。
神の花嫁が、村に取って重要な存在であることは承知している。
太古の昔から村で崇められている神の恐ろしさ――花嫁を捧げなければ、
どれほど酷い災厄が村を見舞うか――。
村の支配の一端を担う“病院”の院長である宮田は、その事実を嫌というほど周囲に教え諭されて来た。
――判っている。これ以上はいけないんだ。これ以上は……。
宮田の理性は、我と我が身に注意を促す。
だが理性に従い、己の欲望を完全に抑え込んでしまうことは、宮田の若さが許さなかった。
「あ……」
宮田の手が髪に伸びて来るのを察し、美耶子は小さく声を上げた。
指先が、さらりと髪の毛を梳る。
それは優しい仕草だった。今までの彼からはついぞ感じたことのない、労わりに満ちた動作。
この、いつも自分に不躾な仕打ちを強要してくる若い医師が示した、
思いもよらぬ慈愛の態度に、美耶子は寧ろ薄気味悪さを覚える。
「何を……」
不安になった美耶子は、宮田に問い掛けようとする。
宮田は何も答えず――髪を撫でていた指先を、頬をたどっておとがいの方に移し、
俯き加減の顔を上に向かせた。
半開きの蠱惑的な朱唇を見つめ、そして――。
「いやっ!」
次の瞬間。宮田の躰は、美耶子に突き飛ばされていた。
彼の動きを察知する前に。
美耶子の腕は、ほとんど脊髄反射に近いほどの速さで反応していた。
胸元を押され、宮田はよろめく。
体勢を立て直そうとするが――運悪く、彼の足元には薬瓶が転がっていた。
「うわっ?!」
背中に強い衝撃。派手な音が室内に響く。
気が付けば、宮田は仰向けになって床にひっくり返っていた。
「痛っ……ああ、畜生」
宮田は軽く舌打ちをして額に手を置き――やがて、くっくっと自嘲気味に笑い始めた。
「邪念に囚われ、不埒な行いに及ぼうとしたらこの有様だ。やっぱり、神様には敵わんな」
宮田は、無表情に立ち尽くしている美耶子を見上げ、苦々しく微笑んだ。
その様子がおかしかったのか、美耶子も片頬を微かに上げて笑い顔を見せる。
そのまま二人は、少しの間しょんぼりと笑い合っていたが、
美耶子は、何かを感じ取った顔で、宮田の下腹部に目線を落とした。
宮田もつられて己の下半身に眼を向ける。
先程から硬度を増していた宮田の陰茎が、目覚め始めた小動物のようにそっと震えていた。
赤みを帯びたそれが――いきなり何の予兆もなく、びん、と天井に向かって起き上がった。
「うあぁっ?!」
宮田の陰茎の突然の変貌に、美耶子は驚いて悲鳴を上げる。
「何? 何でそうなってるの……?」
男のことなど何も知らずに育って来た美耶子は、初めて目撃した陰茎の奇怪な反応に混乱する。
「刺激を受けたからですよ」
宮田はあたかも他人事のように、平然と己の勃起について説明した。
「美耶子様も、マッサージなどで刺激を受けると陰核が勃起なさるでしょう?
あれとおんなじですよ。
男の陰茎も、外からの刺激によって興奮し、勃起するように出来てるんです」
「でも、お前のこれ……全然触られてないのに」
「性器に直接触れなくても、刺激するのは可能なんですよ」
青筋を立て、ぴくぴくと腹側に向かいつつある陰茎を眺めながら、宮田は言った。
「性器以外の性感帯……乳首だとか肛門周辺だとか。
躰の、敏感な粘膜状になっている処を刺激することでも、性器を興奮させるのは可能です。
さっき、美耶子様の乳房をマッサージして差し上げましたよね?
あの行為でも、美耶子様の陰核は勃起し、膣から分泌液を漏らされた」
「お前はそんなこともされてない!」
美耶子は、何故か苛立った声音で詰問する。
「なのに何で……それ、そんな風になるの?!」
「視覚による刺激です」
宮田は、美耶子の盲た瞳を見据えた。
「男性は女性と違い、皮膚に受ける刺激よりも、視覚情報を受けて性的興奮する割合が高いのです。
要するに……性行為の対象となる女の裸を見ることによって、興奮して勃起する」
宮田の眼が、美耶子の肢体を真っ直ぐに射る。
美耶子は思わず裸の胸元を隠した。
「お前……」
美耶子の声は、咽喉に絡まるように掠れている。肩を竦め、汚いものを見る顔で宮田の方を向く。
でも、決して彼の傍から離れようとはしないのだ。
「私を見るな」
美耶子が捉えている宮田の視界は、彼女自身の白い裸身で占められている。
「見るなってば!」
美耶子は、息苦しく耐え難い思いで再び叫んだ。
それでも宮田は、美耶子の躰から目線を逸らさない。
宮田の視線に晒されている。
その事実の認識は、美耶子に単なる羞恥心ばかりでなく、不思議な興奮を与えている。
頭が逆上せあがり、性器の奥底がひくつくような――。
呼吸が勝手に速くなり、足元さえも覚束なくなる。
宮田の視界の中、薄い恥毛に覆われた躰の中心部が、ほんのりと紅く染まりつつあった。
「……やめろおっ!」
我慢の限度を超えた美耶子は、一際甲高い声で叫びを上げると、
天を衝く勢いで勃起している宮田の陰茎を、真白い素足で踏み付けた。
硬直しきった幹を、柔らかな足の裏で強く踏まれ、宮田は低く呻いた。
「汚らしい……気持ち悪い……」
美耶子は、憎き宮田の陰茎に打撃を与えてやろうと思った。
足先に力を込めて、陰茎の硬い部分や、少し窪んで割れたようになっている部分を、
ぐりぐりと踏み躙った。
「うう……」
美耶子の足の動きを受けて、宮田が苦しげに瞬きをするのが感じられる。
陰茎がびくん、びくんと震える様子も、足の裏越しに伝わって来る。
「気持ち悪い! 気持ち悪い! 気持ち悪い!」
宮田が苦しんでいるのが判ると、美耶子の行為は勢いを増した。
美耶子は足の裏で宮田の陰茎の幹だけでなく、大きな陰核のようにつるりとした亀頭や、
毛に覆われた鶏卵のような睾丸までも蹂躙した。
「うっ、うぅ……」
勃起した部分をどれほど足蹴にされようとも、宮田は一切反抗しなかった。
美耶子の気が済むまで、好きなようにさせるつもりなのだ。
それをいいことに、美耶子の足は、ますます傍若無人な振る舞いに及んだ。
「これは何?」
美耶子は、足の親指と人さし指で宮田の亀頭の膨らみを器用につまみ上げて問う。
「それは……亀頭です。陰茎の中でも、最も敏感な部分です」
「敏感なの? じゃあ……こうしたら痛い?」
美耶子は、滑らかな亀頭を足の指先で挟み込み、ぎゅっと指の股を締めてごしごし扱いた。
「……っ! いや。痛くはありませんよ……」
宮田は息を荒げながらも、努めて平静を装った声音で返事をした。
「そう……だったら、もっとしても平気だね」
そう言うと美耶子は、足の指を摺り合わせるようにして、亀頭を擦った。
宮田の息遣いが、いっそう激しくなる。
そうして擦る合間にも美耶子は、踵で陰茎と睾丸の境目辺りを嬲ったり、
足裏の膨らみで、幹をがしがしと蹴り付けるように踏んだりと、様々な虐待行為を行った。
いつもいつも、性の快感によって、宮田に屈服させられ続けていた美耶子は、
その宮田を足下に置いて虐げることで、僅かに溜飲を下げていた。
大の男が、自分のような少女にこんな風に陰茎を踏まれ、足の指でいたぶられるというのは、
どんな気持ちなのだろう?
美耶子はそんなことを想像し、密やかな嗜虐の快感に酔った。
口では平気だと言うものの、宮田の呼吸は苦しげな、喘ぎに近いものになっている。
自分がいつもそうするように、いずれはこの男も、音を上げて許しを請うのではないか?
美耶子はそれを期待していた。そして、亀頭の先の縦に入った亀裂を、足の親指で躙る。
その途端、ぬるぬるした液体が、じわりと亀裂から滲み出て、指に絡みついた。
「うわ……な、何?!」
「尿道球線液です」
荒い呼吸の中で宮田が言う。
「陰茎に刺激を受け、性の絶頂が迫って来ると出て来るのです。
美耶子様がマッサージで出されるバルトリン氏線液等の分泌液と、同じようなものですよ」
「な……?!」
「美耶子様が、あまり弄くるからですよ。
足でとはいえ、勃起した男性器をそんな風に悪戯されたら、いずれは射精してしまう。
そういうものなんです」
美耶子は、熱に浮かされたようにぼんやりと、宮田の言葉を聞いていた。
何となく、予想はしていた。
自分の行為によって宮田が感じているのは、単なる苦痛だけではない、と。
しかし、それを当の本人の口から直接告げられることは、言いようのないほど強く、
激しい刺激となった。
美耶子は、宮田の言葉に催情したのだ。
「お前……!」
今や、宮田に負けぬほどに息を弾ませた美耶子は、見えない眼を、
餓えた獣のように光らせて宮田の前に立っていた。
片足で宮田の急所を踏み付けたその姿はさながら、獲物を捕らえ捕食する寸前の、
若き雌豹といった風情である。
「お前は不潔だ!」
美耶子は踏み付けていた片足を上げ、宮田の陰茎に、踏み潰さん勢いで、
ばん、と足の裏を叩き付けた。
「あっ……くうっ!」
容赦の無い美耶子の仕打ちに、宮田は眼を閉じて唸り声を漏らす。
何度も何度も。足を上げて振り下ろす動作を繰り返し、美耶子は宮田のこの部分を攻撃し続けた。
足を上げて振り下ろす動作――それは、意外な感覚をも美耶子に与える。
即ち、足を上下に動かすことによって、剥き出しの割れ目の粘膜同士が擦れ合い、
優しい愛撫にも似た快感を、秘められた部分に与えてしまうのだ。
「美耶子様、どうされました?」
火照った粘膜がくちゃくちゃと音を立て始めたので、美耶子は動きを止めていた。
二人で共有している視界には、髪の長い少女が淫らな表情を浮かべ、
小さな乳首を硬くしこらせ、紅く染まり、欲情に濡れた股間の割れ目を、
内股気味になって誤魔化そうとしている、恥ずかしい姿があった。
「はあ……はあ……」
理性が崩壊しつつあるのを意識しながら。
美耶子は、白い指先を静々と己の股間へと伸ばしていた。
片足では、宮田の勃起した陰茎を踏み付けたまま――
その足を今度は陰茎に沿って前後に動かし、亀頭から根元の方へ、扱き下ろす動作を始めた。
「美耶子様……!」
足の裏で陰茎の裏側を強く扱かれ、宮田は掠れた声を上げる。
「いけません。本当に射精してしまいますよ……判っているんですか?
俺の精液で足を汚されても、構わないと言うのですか?」
宮田の制止に耳を貸さず。
美耶子は足の裏で、足の指先で陰茎を摩擦し続ける。
いやが上にも快感を高められた陰茎の先から、溢れ返った先走りの淫液が、
足の動きにつれて陰茎全体に延ばされる。
股間に挿し込まれている手の方は、動くでも動かぬでもなく、ただしっかりと、
熱く疼く部分を押さえていた。
これまで宮田に、幾度となく性の快楽を味合わされた美耶子であったが、
未だ、自らの指で持って性器を慰める術は知らない。
指先にぬめり蕩けた膣口を感じ、それを強く押すことで曖昧な快楽を得ることは出来ても、
そこから先には進めないのだ。
満たされない欲求の捌け口とばかりに、美耶子は、宮田の陰茎を凄まじい勢いで擦り立てた。
「うぅっ、ちょっと痛いですよそれ……でも、悪くはない……ああ、もう射精しそうです。
美耶子様、射精しても宜しいですか?」
「うるさい!」
宮田の訴えに、美耶子は癇癪を起こして怒鳴りつけた。
大声を出すと、熱した膣口がひくりと収縮するのが、また疎ましい。
宮田は、射精寸前の興奮のるつぼにある割には、冷静過ぎる眼差しを、
美耶子のその場所に向け、言った。
「美耶子様。手をどけて下さい」
「何?」
美耶子には、宮田の言っている意味が判らない。
「貴女が股座に宛がっておられる手をどけて、見せて欲しいんです。貴女の、女性器を」
宮田は、重ねて美耶子に希求した。
「どうして……」
「美耶子様の性器を見ながら、射精したいからです。その方が、射精の快感が増しますから」
宮田の一方的な言い草に、美耶子は深い反感を覚えた。
カッとなり、性器どころか二つの乳房さえも空いた手で隠してしまう。
しかしそれは、ほんの一時のことだった。
「ああ……」
美耶子は、宮田の強い視線を己の女陰に感じるにつけ、そこをもっと見つめられたいという、
奇妙な衝動を覚えた。
片手で覆った乳房から流れ込む、快美感にもそそのかされ――
美耶子は、性器を隠すように押さえていた手を外し、あまつさえそこを、両手を使って寛げた。
片足で宮田の陰茎を踏み付けているので、がに股の珍妙な形で性器を晒す結果となる。
そのみっともない姿で、美耶子は桃色の潤みきった粘膜を丸出しにし、
宮田の視界に向かって、必死になって誇示した。
「ああ美耶子様……もう、出ますよ」
宮田は美耶子の、痛々しいくらい広げられた部分に眼を凝らすと、自らの欲望を解放した。
美耶子の足の爪先の下、縦長の裂け目が軽く開いたかと思うと――
そこから糊のような固練りの白濁液が湧き出でて、
びゅっ、びゅっ、と、何回かに分かれ、大量に噴出した。
「ああっ……?!」
粘度の高い青臭い液が、美耶子の足の裏や指の間は当然のこと、
踝から脛の辺りまでも汚してゆく。
気色の悪い……でも、その気色悪さは本能的に心を惹き付ける魅力にも満ちており、
何故だか手放しがたかった。
――嫌なことなのに……恥ずかしくて、辛いことのはずなのに……。
不可解な陶酔に、足先から腰全体まで飲み込まれ、美耶子は混乱して立ち尽くす。
足の下では、精液を出し尽くした宮田の陰茎が、未だ硬度を保ったまま、微かに脈打っていた。
「……俺はきっと、神罰を受けるんでしょうね」
「……うるさい」
力の抜けた宮田の呟きに、美耶子はぼそりと悪態で返した。
「医者の奴、やっと帰ったのか」
健診を全て終え、女中を伴って奥座敷に戻る途中の美耶子を、淳が待ち構えていた。
狭い廊下で、通せんぼをするように立ち塞がる淳の横を、美耶子は無理に通り抜けようとする。
「待てよ」
淳は、美耶子の腕を掴んで引き留めた。
「お前はもう下がれ。美耶子は俺が奥に連れて行くから」
戸惑う女中に命じると、淳は美耶子の腕を引っ張って、さっさと廊下を歩いて行った。
「やめろ! 放せ!」
「今日はまた随分時間が掛かったな」
美耶子の抵抗を気にも留めず、淳は勝手に話し始める。
姉の許婚である神代淳は、いつもこの調子であった。
相手の都合など全く考えず、いつでも好き放題、我儘放題にしたいことをする。
「なあ。あの医者、いつもお前に何してるんだ?」
「……」
「真面目に健康診断してるだけじゃ、ないんだろう? だって時間が長すぎるもんな。
院長が前のじじいから、あいつに変わってからさ……。
何か、いやらしいことでもされてるんじゃないのか? なあ、そうなんだろ?」
「そんなことしか考えられないの? 馬鹿みたい」
美耶子は淳の当て推量を、涼しい顔で受け流す。
「真面目に答えろよ!
これはお前だけの問題じゃない、村の存続に関わることなんだぜ?!」
廊下の壁に美耶子を押し付け、淳は語調を荒げる。
「神の花嫁は、絶対純潔でなけりゃいけないんだ。そういうしきたりだからな。
もしもそれが守られなければ、聖婚の儀式は失敗する。村に神罰が下るんだ。
だからもし、あいつがお前に何か良からぬ行いをしていたら……」
「していたら?」
「お義父様に報告するさ。そうなりゃあいつはおしまいだ。
村に居られなくなるどころか、命だって危ないかもな。何しろ神に刃向かったんだから。
それぐらいの罰は当然だろう」
「それはいいね」
美耶子は小悪魔のように微笑んだ。
「あいつが殺されてこの世から消えたら、私も嬉しいよ。だって私、あいつが嫌いだもん」
「やっぱりそうか! じゃあ正直に話せよ! あの野郎に、どんな悪戯されたんだ?!」
淳は、勢い込んで美耶子に問い質す。
美耶子はうるさそうに顔をしかめ、淳の腕を振り払った。
そして、淳に見えない眼を向けて言う。
「何も、無い」
「嘘言うな!」
「嘘じゃない。嘘をつく理由が無い」
「でもあいつに死んで欲しいって……」
「いくら嫌いで死ねばいいと思ってても、嘘の罪を作り上げる訳にはいかない」
美耶子は淳に背を向け、一人で歩き始めた。
慣れた道のり。此処まで来ればもう、介添えが無くとも座敷に戻れる。
背後で尚も騒ぎ立てる淳を無視しつつ、美耶子は奥座敷のある離れへの格子戸を開けた。
「もう付いて来るな。この先は、お前は入っちゃいけない決まりのはず」
「構うもんか、俺はもうすぐ神代の当主になるんだ! それより美耶子!」
「しつこい。いい加減にしないと大声を出すよ?
そうしたら、医者より先にお前が罰を受けることになるかもね?」
美耶子が冷たく言い放つと、淳は一瞬怒気を露わにしたが――
舌打ち一つを残し、逃げるようにその場から立ち去った。
54 :
神代美耶子/神代家廊下/数ヶ月前/23:59:59:2008/07/13(日) 12:40:14 ID:kIRIFEvT
淳の気配が消えたのを確認すると、美耶子はふっと安堵の息を吐いた。
そして気付く。自分が、宮田の身を案じて庇っていたのだということを。
――ううん、違う。私はただ、淳の思い通りにさせたくなかっただけ。
淳は、以前から宮田を疎んじていた。
医師という立場上、自分よりも美耶子に――美耶子の肉体に接することの出来る宮田に、
淳は嫉妬しているのだ。
かといって淳は、美耶子を愛している訳ではない。
淳が美耶子に抱いているのは、執着心と独占欲だけだ。美耶子はそれを見透かしていた。
――淳は私を自分の持ち物だと思っていて、それを他人に取られたくないだけなんだ。
そんな下らない理由で宮田を失脚させようとする淳が、美耶子には腹立たしかった。
――そんな我儘であいつを……あの医者を、私から奪おうとするなんて……。
ここまで考えて、美耶子はハッとする。
自分は、宮田のあの健診を、望んでいる?
違う。そんなはずはない。
あの羞恥と屈辱の時間を自ら欲しているなんて、そんな馬鹿げたことは……。
美耶子は一人首を振り、大きく深呼吸をした。
息を吸うと、未だ鼻腔に残っている宮田の精液の香が蘇り、美耶子の躰を熱くする。
足の裏で感じたあのしなやかな硬さ。切ない震え。そして、そして――。
「いやあっ!」
闇の中で美耶子は叫び、手探りで座敷の中に駆け込んだ。
用意されていた夜具に伏し、早鐘を打つ胸を布団に押し付けた。
「こんなの嫌。みんな嫌い。大嫌い……」
火照る躰が、宮田の感触を反芻しようとするのを拒絶するように。
美耶子は枕に顔を埋め、弱々しく呟いた。
【了】
>>54 超絶エロい!!!!
宮田が容赦ないけど、良い意味で鬼畜な感じがしない
GJです!
うおーエロいし話も読めるなぁ
すごいなぁ
ありがとお!
幼女が大量投入されました
いいかぁーお前らー!幻の女と書いて幼女だ!分かったか!!
美耶子は幼女じゃないけどな
>>54 二人の間に愛を感じてしまうじゃないか!
よかったら二人の逃避行ENDを期待する。捏造でかまわないんだっ
>>54 GJ!!エロかったです。ごちそうさまでした。
それにしえも今回の規制は長かったな。一週間とちょっとか……
>54
読み応えありました!乙!
エロさもさることながら、二人の心情描写がいいな
>>54 GJ!!
美耶子かわいすぐる(´д`*)
64 :
名無しさん@ピンキー:2008/07/19(土) 18:25:46 ID:hiTzwdHh
美耶子が獣姦されている妄想したのは漏れだけ?
>>64 とりあえずその妄想の詳しい内容を書いて貰おうか。
克明に。
まさかケルブに…っ!
すげっエロいしうまいし重量級だ…!
ミヤコ オレト エチスル
すげぇエロい!GJ!!
でも宮田を初めてきもいと思ってしまった…
ハワードの声で安易に脳内再生できてわろす
ミヤコアシヒライテ!
ミヤコ!モウミセテ!
ミヤコ シャガンデ
メ トジテ
クチアケテ シタダシテ
SDKが現れたら外に出てはいけない
誰も見てない・・・いまだ!
無印の好きなキャラでくやしい・・・!・・・でも感じちゃう!(ビクッビクッ
『美耶子ハード 』
須田と吊橋をわたり終えた美耶子。
しかし、それは淳の巧妙な罠だった。
「美耶子の純潔は俺に捧げる為に築いてきたんだよな」
「恭也が居れば…こんな奴なんかに!」
「良かったじゃないか ケルブのせいにできて」
「んんんんんんんっ!」
「おい、亜矢子を呼べ。みんなで気持ちよくしてやる」
(耐えなきゃ…!!今は耐えるしか…!!)
「美耶子の生胸ゲ〜ット 」
(いけない!乳首が感じやすくなってるのを悟られたら!)
「生美耶子様の生下着を拝見してもいいですか?」
「こんな村のやつらに…くやしい…! でも…感じちゃう!」(ビクッビクッ
「おっと、乳首に当たったようだな。甘い痺れがいつまでもとれないんだろう。」
『牧野ハード 』
八尾を探して大字粗戸をさまよう牧野。
しかし、それは堕辰子の巧妙な罠だった。
「求道師様の儀式は堕辰子様に捧げる為に築いてきたんですよね」
「八尾さん一体どうしちゃったんだ・・・(゜Д゜;)」
「良かったじゃない 弟のせいにできて」
「んんんんんんんっ!」
「おい、屍人を呼べ。みんなで気持ちよくしてやる」
(耐えるんだ…!!今は耐えるしかない…!!)
「求道女のベールゲ〜ット 」
(いけない!知子ちゃんの生徒手帳も盗ったのがばれたら!)
「生求道師様の生手ぬぐいを拝見してもいいですか?」
「こんな人たちに…くやしい…! でも…感じちゃう!」(ビクッビクッ
「おっと、マナ字架に当たったようだな。甘い痺れがいつまでもとれないんだろう。」
『安野ハード 』
竹内と橋で思い出に浸る安野。
しかし、それは志村の巧妙な罠だった。
「安野の心臓はわしに撃たれる為に築いてきたんだろう」
「バットがあれば…こんな狙撃手なんかには撃たれなかったですよー!」
「いいじゃないか 竹内のせいにできて」
「んんんんんんんっ!」
「おい、羽屍人を召集しろ。みんなで気持ちよくしてやる」
(耐えなきゃ…!!先生早く帰って来て…!!)
「安野の生胸ゲ〜ット 」
(いけない!学生証の先生の隠し撮りが見られたら!)
「生安野の生学生証を拝見してもいいですか?」
「こんな屍人に…くやしい…! でも…感じちゃう!」(ビクッビクッ
「おっと、乳首に当たってしまいましたか。甘い痺れがいつまでもとれない様にな。」
『宮田ハード 』
美奈を倒す為病院内を探す宮田。
しかし、それは恩田姉妹の巧妙な罠だった。
「先生の純潔は私に捧げる為に築いてきたんですよね」
「ネイルハンマーがあれば…こんな女なんかに!」
「良かったじゃないですか 牧野さんのせいにできて」
「んんんんんんんっ!」
「おい、うりえんを用意しろ。終了条件2を未達成にしてやる」
(耐えろ…!!今は耐えるしか…!!)
「宮田の生乳ゲ〜ット 」
(いけない!乳首が感じやすくなってるのを悟られたら!)
「生宮田先生の生ネイルハンマーを拝見してもいいですか?」
「こんなしつこい女に…くやしい…! でも…感じちゃう!」(ビクッビクッ
「おっと、乳首に当たったようね。甘い痺れがいつまでもとれないんでしょう。」
『理沙ハード 』
宮田に連れられて病院に非難した理沙。
しかし、それは宮田と牧野の巧妙な罠だった。
「理沙さんの純潔は私に捧げる為に築いてきたんですよね」
「非常ベルが押せれば…こんな双子なんかに!」
「良かったじゃないですか 美奈さんのせいにできて」
「んんんんんんんっ!」
「おい、美奈も呼べ。二人とも気持ちよくしてやる」
(耐えなきゃ…!!今は耐えるしか…!!)
「理沙さんの生乳ゲ〜ット 」
(いけない!お姉ちゃんと同調しそうなのを悟られたら!)
「生理沙さんの生死に顔を拝見してもいいですか?」
「こんな先生に…くやしい…! でも…感じちゃう!」(ビクッビクッ
「おっと、屍人化したようだな。死に顔までよく似てるよ。」
『須田ハード 』
叫び声を聞きつけ美耶子を保護した須田。
しかし、それは美耶子の巧妙な罠だった。
「おまえの純潔は私に捧げる為に築いてきたんだよ」
「マウンテンバイクがあれば…こんな女の子なんかに!」
「良かったじゃない 石田のせいにできて」
「んんんんんんんっ!」
「おい 神代の血を混ぜろ 屍人化を防いでやる」
(耐えなきゃ…!!今は耐えるしか…!!)
「恭也の生乳ゲ〜ット 」
(いけない!俺の火かき棒が熱くなってるのを悟られたら!)
「生恭也の生・・・・・・見えない・・・」
「こんな盲目の子に…くやしい…! でも…感じちゃう!」(ビクッビクッ
「あ、乳首に当たった。甘い痺れがいつまでもとれないのよ 」
『つちのこハード 』
羽入蛇つちのこ委員会の手配を避け廃屋に侵入したつちのこ。
しかし、それはSDKの巧妙な罠だった。
「実は俺、猟奇殺人よりつちのこを生け捕りにするためにこの村にきたんだよね」
「手配書がなれば…こんな高校生なんかに!」
「良かったじゃないか 100万円のせいにできて」
「んんんんんんんっ!」
「おい 風呂の水を流せ 鍵と一緒に捕まえてやる」
(逃げなきゃ…!!今は排水溝に吸い込まれるしか…!!)
「風呂の栓ゲ〜ット 」
(いけない!蛇行出来ないことを悟られたら!)
「生羽入蛇村で生つちのこを拝見してもよろしいですか?」
「こんなオカルトマニアに…くやしい…! でも…感じちゃう!」(ビクッビクッ
「おっと、逃がしてしまったか。甘い痺れがいつまでも取れないだろう」
79 :
名無しさん@ピンキー:2008/08/15(金) 02:28:18 ID:30T9QNsh
つちのこwww
つちのこワロタ
つちのこ斬新過ぎw
面白すぎwオチがwww
クリムゾン絵で想像しちゃったよ!!盛大に吹いたwwwww
頭脳屍人べラ×メリッサの百合物が思いついた俺は屍人
>>85 ず、頭脳屍人のべラはちょっと怖すぎないかw
最初見たとき、リアルでうわぁって言っちまったぞw
87 :
名無しさん@ピンキー:2008/08/30(土) 00:50:42 ID:U7LFxTi9
宮田先生、急患お願いします!
88 :
名無しさん@ピンキー:2008/09/03(水) 13:04:01 ID:KVL+COs/
ミヤコ!ホシュ!
ひとつくらい幸江(人間の頃のでも屍人になってからのでも)
の話はあってもいいと思うけど、需要無しかな
俺は書けないけど
と言うかみんな幸江はどう?
ナースで美人でおっぱいが気になる犀賀の(元)女なんだが
正直、美奈より幸江の方が可愛いと思えてきた
91 :
名無しさん@ピンキー:2008/09/17(水) 17:27:00 ID:4tHG1tCS
じゃあ美奈と幸江で何か一つ
92 :
名無しさん@ピンキー:2008/09/24(水) 10:11:58 ID:7htSPoir
保守
屍人たちに美弥子タンが林間されるのが見たいです
誰もいない…三番煎じするなら今のうち…
『 加奈江ハード 』
脩と島を脱出の為に灯台に潜入する加奈江。
だが、それはともえの巧妙な罠だった。
「加奈江の純潔は 私に崩される為に築いてきたんですものね」
「本来の力が出せれば…こんな女なんかに…!」
「よかったじゃないですか 漁師のせいにできて」
「んんんんんんんっ!」
「へへへ おい、懐中電灯を用意しろ。みんなで輪姦してやる」
(耐えなきゃ…!!今は耐えるしかない…!!)
「加奈江の生乳ゲ〜ット」
(いけない…!左乳首が感じやすくなってるのを悟られたら…!)
「生加奈江様の生×××を拝見してもよろしいでしょうか?」
「こんな奴らに…くやしい…! でも…感じちゃう!」(ビクッビクッ
「おっと、光が当たってしまったか。鈍い痛みがいつまでもとれないだろう?」
『 三上ハード 』
加奈江に会う為に冥府の門を開ける三上。
だが、それは鳩の巧妙な罠だった。
「三上の弱視は お母さんに取り込まれる為に築いてきたんですものね」
「ツカサがいれば…こんな触手なんかに…!」
「よかったじゃないですか 阿部のせいにできて」
「んんんんんんんっ!」
「へへへ おい、地上へ出る用意をしろ。みんなで人間を殲滅してやる」
(耐えなきゃ…!!今は耐えるしかない…!!)
「三上の生肉体ゲ〜ット」
(いけない…!同行者を見失ったのを悟られたら…!)
「生三上様の生情けない声を拝見してもよろしいでしょうか?」
「こんな奴らに…くやしい…! でも…感じちゃう!」(ビクッビクッ
「おっと、肉体が消滅してしまったか。魂はいつまでも解放されないだろう?」
だめだ笑うwwww
そういや4スレ目に投下されたハードもWikiに入れて欲しいと思う今日この頃
美耶子さまのワンピースを献上しますのでお願いします
やったーワンピースゲットしたよー!
ついでに自分の書いた奴を少し修正しましたがお気になさらず…
乙SDK
決して死なない猫、しにゃんこ(屍猫)のssはまだですか?
101 :
名無しさん@ピンキー:2008/10/11(土) 13:11:58 ID:XNeqyfHr
三上吹いたわww
生情けない声www
102 :
名無しさん@ピンキー:2008/10/24(金) 00:01:44 ID:1oq2o+g+
ネイルハンマー!!!!
君がくれた勇気はSDK!SDK!
まったり保守
保守
あー失礼
キーはichiko
宮田×女牧野とか俺以外需要なさそうだけど見てみたい…。
弟×姉。
>>108 女体化やら元から女設定は、この板ではあんまり好まれないかもよ
>>108 この板だと反応は微妙だとは思うが、元の設定があれだから
確かに「見てみたい」という気持ちは分かる気がするな。
SIRENのサントラを買ったんでさっそくTHE BUSTER!をMP3プレイヤーにぶち込んでみた
聴き続けているとSDKになった気分だw
>>110 兄じゃなくて姉だったら宮田もコンプレックス持たずに済んでたかもな。
殺して成り代わる展開もないだろうし違う結末だっただろうな。
個人的には三上があのポジションで女じゃないのが悔やまれてしょうがない
が、まあ美耶子と被るどころじゃないから仕方ないね
ところで市子ステージ「喪失」ってどうしてもしょじょ…いやなんでもないんだ。
MYK
117 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/16(火) 19:32:45 ID:jmf4j338
そっちのスレに落としてくれれば、見に行くよ!
ほっしゅ
保守ダッシュ
しゃがみ保守歩き
ここの住民的に、美耶子と美耶古どっち派なんだろうか
自分は加奈江派だが
ともえ派
どっち派とかいう以前に住民がおらんやろ
いても女牧野とかほざいてる腐女子だけだ
ぶっちぎりで依子
異論は認める
どう考えても市子
依子は俺の
教え子
SIREN NTの文子いいなぁ
伊東家の二階にいる、聖子ちゃんカットのJK
JC
GJ
今更だけど
美耶子に後半名前を連呼された恭也は勝ち組でおk?
それだとハワード立場無いなw
133 :
名無しさん@ピンキー:2009/02/17(火) 21:32:47 ID:u/YOHlTI
a
134 :
名無しさん@ピンキー:2009/02/17(火) 22:54:39 ID:w9hL4yQV
(゚∀゚o彡°ツン子!ツコ子!
ツン子の黒髪で髪コキされたい……と、SDKが申しております。
髪コキしたいじゃなくて、髪コキされたいがミソなのかw
死守
廃屋の納戸でSDKが床を踏み外した後の
みゃーこ「くすっ ぐーず」
↑にやられたのは俺だけだろうか
>>137 あるあるあるw
美耶子は本当にカワイイよな
ぐーず☆
140 :
名無しさん@ピンキー:2009/03/07(土) 22:18:55 ID:RnIQy/jH
にぱー、ぐーず☆
>>137 やはり無印だな
それよか「みゃーこ」
にやられたんだが
ぬこっぽいハァハァ(´д`*)
142 :
名無しさん@ピンキー:2009/03/13(金) 23:35:16 ID:jZVYTuBx
たまには宮田美奈で付き合いはじめの幸せえっちがみたい。
神様お願いします…
そもそもあの2人はどうやって付き合いだしたんだろう?美奈が惚れたんだろうなーとは思うけど、宮田が了承する流れが想像出来ない。
つか宮田は美〜奈をちゃんと愛してたんかな
医者なのに20そこそこの若い娘に中出ししたあげく絞殺してポイかよ
ペットや玩具に抱く程度の愛着ならあったと推測する。
自分は宮田が実は愛情表現があまりに下手だっただけで美奈を愛してたと妄想してる。
一番最後の「今行くよ」
の言い方が宮田にしては優しいというか、柔らかい感じだったから。
あとNTで宮田ポジションの犀賀がゆきえを愛してたみたいだから宮田も…?と。
NTネタって今まで出てないの?
宮田さんは美奈を愛していた
俺はそう信じている
知子ちゃんは牧野に恋していた
俺はそう信じたい
宮田って美奈のこと「しつこい女だ」って言ってなかったっけ
外見美人で思考はゾンビの屍人に集団逆レイプされたい
犀賀と幸江で何か一つ書いてくれる職人いねがー
美耶子に蹴られたい
>>154 GJ!!みやみや密かに待ち続けてた甲斐があったよ。
エロくて面白くて、何よりもこういう読後感大好きだ。
自分は全然手間じゃないよ。
保管庫に入れてくれたという報告があればとんで見に行く。
規制あっても公開できる場があるのはいいね。
>>154 ありだと思います!
いやーすっごく良かったです
前の宮美耶の続きが見れるとは思わなかった。この2人大好きだ。最期の美奈との会話は本当に有り得そうだった。美奈のキャラもリアル。結局、美耶子との逃亡は宮田の妄想だったってことで良いのでしょうか?
個人的には2人で逃げ切って欲しかったな…残念だけど、このバッドエンドが非常にサイレンらしかったです。
犀賀幸江の方は2人なりのハッピーエンドですよね?幸江の犀賀にべた惚れな感じが微笑ましかった。この2人は両想いが公式なので安心して読めました。
やっぱりサイレンには少し後味悪いエンドが似合いますね。サイレンの中で純粋なハッピーエンドが似合うのって恭也美耶子くらいな気がします。
できれば作者さんにはその後恭也と会う美耶子も書いて欲しいです。
感想長くてすみません。
>>156 すみません!この感想重大なネタバレでした…ごめんなさい。
今日初めて来たんだけど、保管庫のキバヤシ×ともえのキバヤシの最低さにワラタ
ともえカワイソス
阿部×ともえはほのぼのしてて良かったな。ともえの娘は阿部の子だと信じてる。
屍人とか闇人に凌辱されるやつが好きだけど、やっぱえげつないからか少ないね。
好きな人だったものに犯されて、嫌なのに感じちゃう!な女の子が好物なので
母胎(キバヤシ)×郁子はすげー萌えた。
>>154 >>152ですが、目茶目茶良かったです。GJ!
最後の最後まで目を引く展開が流石。幸江可愛すぎる。
宮田美耶子の続きまで読めて、大満足です。
ここでお知らせしてくれれば、保管庫に直接投下でも構わないと思う。
職人さんのやりやすい形でやってもらえれば。
絵板ってあったっけ?あったらいいなあ
絵板欲しいな
エログロ
162 :
名無しさん@ピンキー:2009/04/11(土) 12:23:21 ID:jSgAeMtl
ほしゅ
お初だが、永井の名前はあんま出てこないのな
>>151 (↓ナースの様相も声もそれぞれ普通です)
夜中の廃病棟を散策する151…
しかし途中でこげ茶ロングヘアーの美人ナース(血は出てない)に
「だぁれ〜〜・・・・?? ま〜ち〜な〜さ〜い…」
と追いかけられる…
そして行き止まりに(逃げ込もうとした部屋の鍵がなかった)…
覚悟を決めた151。
そこへ…
ガチャ・・・
と逃げ込もうとしてた部屋のドアが突如開く…
中から出てきたのは黒セミロングのナイスバディなナースが
「しまった!」そう思ったときにはすでに遅く
黒セミロングに腕をつかまれてしまう…
ガシッ!
黒髪「ど〜しましたか〜〜〜??」
「は、はなせ! このっ!」
黒髪「いやぁ〜〜よぉ・・・・患者はおとなしく・・・ふふふふふ しなきゃぁ・・・」
「や、やめろ・・・!」
しかし黒セミロングだけに気を集中させていたためその後ろにいる
もう一人の深緑ロングヘアーの小悪魔系ナースの発見に遅れてしまい…
「…っ! まだいんのかよ!」
深緑「やぁだぁ・・・何の音・・・」
「く、くるな・・・・! バカ… やめ・・・」
こげ茶「つかまえた〜〜 さぁ〜 治療しましょ〜ね〜…」
「やめろ! 死にたく…! 死にたくない!
やめ・・・? う、うん?
…ちょ、あ、ああ! あぁぁああああああんん!!」
こうですか?
165 :
名無しさん@ピンキー:2009/04/15(水) 22:57:17 ID:gmNJ8Wl8
ビッチじゃない美奈が見たい…。
牧野に恋する知子が見たい…。
美奈はビッチじゃないよ
美浜はビッチだけど
ビッチといえば百合だろう
依子は処女
保守あげ
170 :
名無しさん@ピンキー:2009/05/12(火) 18:23:50 ID:LiyxdKpr
ちっぱい
ジャンプの漫画と間違えやすいタイトルだな。
依子のメガネぶっかけを希望する
美耶子の犬(名前忘れた)バター犬化を希望する
親父とともえの近親相姦を希望する
幸江の巨乳を活かしたパイズリを希望する
ソルとメリッサのラブロマンスは突然に18禁バージョンを希望しなくもない
あげちまったごめん
そういえばトルコかどこかの料理でケルブサンドってあったな
ケルブ×美耶子×ケルブ
こうですか!?わかりません><
加奈江は非処女
ハァハァ
ごめん
ケルブサンドじゃなくてケバブサンドだった
ほんとごめん
素で間違えてた
このゲーム遊んだことないんだけど、こんなにエロいのか?
>>182 1の主人公は初潮直後の聖処女と血の契りを結び文字通り無敵の男♂になる
2の主人公(?)は美少女に『待ってたの…私と一つになってくれる人を』
とか言われてホイホイついていき
そこには『私を見て…』胸をはだける美少女の姿が!
(まあ合体直前で別の女に邪魔されるが)
控えめに表現してもこんな感じだ
>>182 俺は2未プレイだが、1だけでもこんなにエロい
>>183の聖処女の他にもナースや幼女、JC、メガネっこ女子大生、
アイドル、女教師などなど……どの層も大満足なゲームだ
「んっ……しょっと」「ひゃ……んっ」のようなエロボイスも聞ける
しかも女教師なんて自己犠牲心のカタマリだしな
ほしゅ
こうしてNTは華麗にスルーされた
NT(笑)
NT
NTはミヤコのちょっと大人びた美麗さとサイガ先生の微妙な良い人っぷりに萌えるゲームです
おっと幸江の乳を忘れてもらっちゃ困る
二代目ロリコンもでたじゃまいか
>>154 遅レスだけど久々に来たらみやみや続きがあって嬉しかった。ありがとうありがとうー。
この作者さんの原作リスペクト精神は大好きだが、最終章のこの絶望感。まさにSIREN。
憎らしい!どうしてくれる!だがそれがSIREN。
トランクの黒と白の対比、絶望をイメージさせる黒が希望の象徴で、白を逆にしてるのも面白かった。
エロ薄めと思ったら犀賀×幸江の方でエロエロさせてたのな。GJGJ!
またみやみや読みたい
原作の範囲内だとこれ以上は難しいのだろうか
出来なくはない。
196 :
名無しさん@ピンキー:2009/06/28(日) 17:49:52 ID:C9ZeMWYS
落ちるなー
197 :
名無しさん@ピンキー:2009/07/09(木) 23:52:40 ID:s2gD7fmX
age
屍人(闇人)沖田×市子ってありかな?
>>198 ありじゃないかな。
市子はなんか苛めたくなる。怖いけど。藤田と市子ってのも好きだ。
>>199 藤田と市子かあ、個人的に藤田から襲うってのは全然想像できないから市子から襲うっていう逆レイプものしか想像できん・・。
ちょっと沖田と市子で作品考えてみます。
>>200 良いねー
覚醒前の市子はほんとに可愛い。弱々しくてキャーキャー言ってるかんじがなんともいえん。楽しみにしてる!
期待
203 :
黒い少女NT:2009/07/12(日) 19:27:17 ID:Sm6kMYlt
美耶古がハワードとはぐれてしまい、一人で歩いているときのことだった・・。
「ねぇ・・どこ・・・。」
そのときだった・・・。
美耶古は「何か」に掴まれ、そのまま上空へと運ばれてしまった・・・。
「離せ!このぉ!」
必死で抵抗するがなかなか離れなかった・・。
「何か」の正体は羽根屍人だった・・・。
上空へ運ばれた美耶古のもとに、約六匹の羽根屍人が集まる。
そして二匹の羽根屍人に手足を完全に固定されてしまった。
(私・・死ぬの?)
死を覚悟した美耶古が受けた行為は、あまりに予想外の事だった。
「きゃっ!いや・・・、やめて!!」
甘い感覚が美耶古を襲った・・。
なんと羽根屍人の一匹が、黒いワンピースの上から美耶古の控えめな胸を揉みだしたのだ・・・。
「あ・・あふ・・やめて・・んっ・・!」
何度も何度も揉みしだき、先端の乳首をブラをつけていない服の上からつまむ・・・。
乳首をつままれると、よりいっそう強力な甘いしびれが美耶古に襲い掛かる・・・。
「や、やめろ!んはぁっ!あ、ああん・・・。」
するともう足を掴んでいた羽根屍人が美耶古の足を大きく開脚させた・・。
そしてもう一匹の羽根屍人が、美耶古の黒いスパッツを引き裂いた。
「やめろ!何をする気だ!」
そして、開脚した足の間に羽根屍人の顔がうずくまり、まだ毛の生えていない秘所を舐め上げた。
「んああぁぁぁっ・・・!!」
大きな快感の波が美耶古を襲う・・。
さらに残る羽根屍人も美耶古の体に群がり、美耶古の体をもてあそぶ・・・。
どうやら、下着だけを脱がし、服を脱がさないのが彼らの趣味のようだ・・。
ワンピースの間に手を入れ、乳首をこねくり回し、弄ぶ。
「いやっ・・はぁっ!ああああぁぁぁんっ!!」
同時にワンピースのスカートの脚の間から頭を入れ秘所を何度も舐められる・・。
「ああんっ、んんっ・・・・・んあぁぁぁ!!!」
上空で弄ばれているため、美耶古の愛液が雨のように滴り落ちる・・。
この行為が2時間以上も続き、美耶古は完全に自我を失っていた・・・。
飽きたのか、羽根屍人達はグッタリとした美耶古をどこかへ運んでいた・・。
─続く─
GJ
205 :
黒い少女NT:2009/07/13(月) 22:29:54 ID:WhVaBhhv
美耶古が運ばれた先は蜘蛛屍人の巣だった・・・。
そこに一人落とされた美耶古は、力の入らない体を精一杯動かし、下着を着けていない状態で徘徊する。
「うっ・・、あいつら・・よくも・・・。きゃうっ!」
いきなり蜘蛛屍人に押し倒され、美耶古はつい子猫のような声を出してしまった・・。
「もっ、もしかしてこいつも・・・。」
美耶古の予感は的中した・・・。蜘蛛屍人は細い両腕で、美耶古の胸を服の上から揉む・・。
「くぅ・・、はぁん・あっ・・、んんんっ・!」
美耶古はあまりの快感に、ついいやらしい声を出してしまう・・。
蜘蛛屍人が何匹も美耶古の周りに集まる・・。
すると一体の蜘蛛屍人が美耶古の股間に顔を近づけ、69の体制をとった。
そして、ワンピースのスカートをめくりあげると、秘所にざらざらの唇を吸い付け、愛液を吸う・・。
「はぁぁぁっ!!んんっ!んあぁぁぁぁっ!!!」
チュゥゥといういやらしい音とともに、美耶古のあえぎ声が響き渡る。
それで興奮したのか、ほかの蜘蛛屍人達も、美耶古に近づいてきた。
そして、服の上から乳首を吸い上げられる。同時に秘所も吸われ、二重の快感が襲い掛かる・・。
「んあぁぁぁぁぁっ!あぁぁん・・・、いやぁっ・、んんんんっ!!」
何度も何度も、吸い上げられ、ついには達してしまう!!
「んあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
服は一切破かれたり捨てられていないので、美耶古の外見は普段と変わりなかった。
しかし、息を乱し、明らかに意識が朦朧としているところだけが違っていた。
「はぁっ・・、はぁ・・・。」
達したのもつかの間、また蜘蛛屍人たちによる吸引が開始された。
「また・・あふっ・・、んぁぁぁぁぁ!!」
今度ばかりは、さっきと比べ物にならない快感が何度も襲い掛かる。
「んあぁぁ・・、あぁぁぁんっ!んんんんっ・・・・。」
どのくらい吸引されただろうか・・。
続く吸引に美耶古の意識が飛びそうになりかけた瞬間。
人のシルエットが美耶古の視界に入った・・。
─続く─
保管庫のSS増えてる?
保管庫に弟を切るダブルパロktkr!!!ヌゲー大作GJ!
>>205といい神の流れですね
208 :
黒い少女NT:2009/07/15(水) 20:17:43 ID:O42Gjda7
頭脳屍人だった・・・。
意識が飛びそうになった美耶古は、そのおぞましい姿に完全に意識を取り戻した。
体は通常の人なのだが、頭部が違い、無数の百足のような触手が完全に頭部を支配していた。
「あ・・・ひぃ・・。」
快感を味わった後というのもあるのだが、それよりも恐怖で足が動かなかった。
すると、頭脳屍人は無数の触手を美耶古の服へともぐりこませた。
「いやっ!もう・・、いやぁぁ!!」
すると、百足のザラザラとした足が、美耶古の乳首や秘所の割れ目に触れるたびに甘い感覚が美耶古を襲う・・。
「んん・・・、はぁ・・・、んああぁ・・・。」
そして、服の中の触手は、美耶古の乳首を完全に包み込み、吸いあげた。
「んんんっ・・・!!んああぁぁ!!!」
蜘蛛屍人の時とは比べ物にならない快感が襲う・・。
どうやら頭脳屍人の触手には性感を上げる効果があるようだ。
さらに触手は、秘所の中に入らないまでも、割れ目をなぞるようにくすぐる・・。
比例するように、美耶古の体がのけぞる。
「んあぁぁっ・・!!んん・・・あぁぁぁんん!!」
この行為を何分も続けた後、割れ目から出てきた愛液を吸うように、触手は美耶古の肉芽を吸い取る。
頭脳屍人のなかには、女の精液を好んですする者もいるようだ。
「んああぁぁぁぁぁぁぁ!!んんん・・・・・!!」
美耶古は心の中では拒んでいた・・。しかし、心の本当の奥には、微量ながら求めている部分もあったのかもしれない・・。
しかし、プライドのたかい美耶古は屈したことを認めなかった。
しかし、その態度は頭脳屍人をさらに奮い立たせる・・・。
頭脳屍人はさらに服の中へもぐりこませる触手を増やす・・。
乳首を撫で、吸い、秘所をこすり、愛液を吸い取る・・・。
「あぁぁぁぁん・・・!!んん・・・んあぁ・・・!!」
結局頭脳屍人の行為は終わりを迎えなかった・・・。
美耶古はすでに抵抗を諦め、頭脳屍人に身をゆだねた・・・。
─終わり─
宮田×美耶子の第三弾投下。
長くなりそうなので連載形式にします。
暗闇の中に身を潜めていた。
濡れた土の匂いが濃厚に漂う闇の中。
息を殺し、のろのろと覚束ない足音が近付くのを、じっと待ち続けていた。
もう少しだ。もう少しこちらに来い。
吊り橋を渡り、粗末な線路を辿って、廃材に突き刺さった発煙筒を検めに行くがいい。
足音が石段の前を通り過ぎた。
このままやり過ごして、そっと吊り橋に向かっても構わない。
相手は銃を持っている。相手にするのは避けた方が賢明だろう。
――いや、待てよ……。
銃を持った相手に背中を向けるというのも、それはそれで危険な行動であるような気もする。
今は発煙筒の煙に気を取られているからいいが、急に気が変わって元の場所へ――
吊り橋の方へ戻って来ないという、保証もない訳だから。
きびすを返してあとに戻った。
相も変わらず覚束ない、酔漢のような足取りで進む奴の背後へ、静かに歩を進める。
真後ろに立った処でようやく奴は気がつき、間抜けな声と共に振り向こうとする。
だがもう遅い。
右手が振り上がる。
小さいけれど重みのある金属製のスパナが微かに煌めき――
奴の脳天めがけ、真っ直ぐに振り下ろされた――。
ベッドの端で、不安定な躰が傾いだ。
何が起こったのかも判らぬまま、彼は――宮田司郎は、全裸のままベッドから落ちた。
「うぅ……」
意味もなく呻いて、カーペットの床から起き上がる。
ばりばりと頭を掻いてベッドを見た。
美耶子はまだ眠っている。
つややかな黒髪に覆われた後ろ頭をこちらに向け、今の騒ぎに気づく様子もなく、
安らかな寝息を立てている。
宮田は大きく欠伸をし、枕元の携帯電話に手を伸ばして開いた。
携帯の画面は目覚ましを鳴らした時刻、AM7:00を表示したまま止まっている。
嫌な予感がして画面を元に戻すと、時刻はすでに8:00間近になっていた。
「いかん」
宮田は慌てて立ち上がり、洗面所へと向かった。
大急ぎで身支度をしてアパートを出ると、眩い朝の光が寝不足の躰に突き刺さった。
古ぼけた建物も、薄汚れた街路さえも煌めかせる夏の朝。
宮田は眼を眇め、鉄筋アパートの入口真横にある自転車置き場に向かい、
一番手前に置いてある黒い自転車のチェーンを外して跨った。
診療所まで、近道を通って自転車を飛ばせば五分とかからない。
宮田はいつも通っている大通り沿いの道ではなく、
狭く曲がりくねって通り辛い、歓楽街の裏道の方へと自転車を走らせた。
ピンクチラシが大量の護符のように壁に貼り付いているガード下をくぐり、
夜中に酔っ払いが残して行った吐瀉物や、学校へ向かう小学生の群れを避けてすり抜け、
風俗店が軒を連ねている細い路地に入り込んだ。
そのまま通り抜けようとした彼の視界の端に、煙草を燻らせてたむろしている、
数人の女の姿が入った。
「宮田先生やん」
女の一人が声をかけてきたので、宮田は自転車を止めた。
ソープランドの裏口。彼女らは、早朝ソープで働く嬢達だ。
「なあ先生、いつになったらうちの店来てくれるのん?」
「ほんまや。約束したやんなあ。サービスしたろ思てあたしらずっと待ってんねんで?」
女達の台詞に、宮田はふん、と鼻を鳴らす。
「やなこった。
俺はなあ、お前らみたいなへちゃむくれ相手に落す金は、持ち合わせてねえんだよ」
「へちゃむくれやて」
「ひどいなあ」
宮田の言い草に女達は不満の声を漏らすが、
その言葉とは裏腹に、大して応えている様子もない。
「それよりお前らの方こそ、そろそろうちに来いよ。前の検診からもう三ヶ月近く経ってるぞ。
また面倒なのに土産持たせて騒ぎになっても知らないぞ」
宮田は真面目くさった顔つきで女達を見廻す。
通常、ソープランドでは月に一回、嬢達の性病の検査を行うきまりになっているものだが、
彼女らの働くソープはその義務を果たしていない。病院代をけちっているのだ。
宮田が勤務医として働いている診療所は、ここと場所も近いことから、
格安の料金で彼女達の自主的な診察を受け付けているが、
それでもやはりこの、「自主的」というのがネックになっていて、
こうして促さないとなかなか来ようとしないのが現状だ。
「おっと……こんな処で油売ってる場合じゃなかった。遅刻しそうなんだ……。
いいかお前ら、次の日曜だ。全員、午後一番で診療所に来い。
俺が休日出勤してまとめて診てやるから。いいな? 忘れんなよ」
女達を指さして言い、宮田は自転車のペダルを踏んだ。
生ごみと小便の臭いが入り混じった風を頬に受け、
朝の光に煤け、くたびれたしどけない素顔を晒した裏道を進んで、職場へと急いだ。
「犀賀診療所」は、歓楽街から僅かばかり外れにある雑居ビルの三階に居を構えていた。
エレベーターもついていないビルの狭い急な階段を、一段抜かしで駆け上がり、
宮田は、診療所の名前が入ったプレートつきドアを勢いよく開ける。
三階への階段途中から漂い始めていた薬品の臭いが、扉を開けた途端いっそう明瞭になった。
そして――。
「あら宮田先生、おはようございます」
入口ドアのすぐ手前、受付の札を出した机の奥で、看護婦の河辺幸江が、
くりっとした眼を上げ宮田に挨拶をした。
「おはよう幸江さん……犀賀先生は?」
「川崎さんの処に往診に出かけてるわ」
「そうか……助かった」
宮田はほっと胸を撫で下ろし、自分の席に向かうと、座り込んで大きなため息をついた。
犀賀診療所の所長である犀賀省悟医師は、厳格な性質の男で、特に遅刻にはうるさかった。
どちらかというと宮田はその逆で、一年前まで自身が院長を務めていた村の病院でも、
看護師達にさして厳しい態度を取りはしなかった。
二人ともかつて、山奥の僻地にある村でただ一つの病院を経営していた、
という共通項があるのに、そういった面では全く対照的である。
「途中で道草食ったせいで、大分遅れたからな。
危うくまたお小言を頂戴するところだったよ……ところで、川崎さんはどうしたんだい?」
「うんまあ、特に何かあったってわけじゃないんだけどね。今の処血圧も安定してるし……。
ただ、あのおじいちゃん例の調子だから、心配なんでしょう」
川崎家はこの診療所の創設以来、もう三十年近い患家であった。
だが、犀賀がじきじきに取り上げた二人の娘は、すでに嫁いで余所の土地へと移り、
その母親も、二年ほど前にくも膜下出血でこの世を去っている。
七十歳の川崎氏は独り団地に取り残され、やもめ暮らしの日々を送っていたが、
最近になって認知症の兆候が現れてきたので、犀賀は気にかけているらしかった。
「川崎のおじいちゃんも、奥さん亡くしてがっくりきちゃったのかしらねえ」
「嫁が居なくなると男は本当に脆いからなあ。
幸江さんも、躰は大事にしてくれよ? 犀賀先生がぼけたら俺一人じゃ面倒見きれん」
幸江は、目尻に愛らしく皺を寄せて笑う。
五十路のベテラン看護婦である幸江は、犀賀の仕事上のパートナーであるばかりでなく、
実生活においても内縁の妻として犀賀を支えていた。
二人の付き合いはこの町に診療所を構える以前、
まだ、村の病院の若き院長と新米看護婦であった時代から続いていると聞いたけれど、
それほどの期間一緒にいながら、なぜ二人が正式な夫婦として籍を入れないのかは不明である。
犀賀も幸江もそこの処は詳しく語ろうとしなかったし、
宮田も無理に問い質すことはしなかった。
誰にだって事情はあるし、他人に言えない秘密だって何かしら抱えているものだ。
宮田は、自分と美耶子のことを考えていつも納得するのだ。
そしてこうも考える。
自分と美耶子が、なぜ二人してこの町に住むようになったのかを知ったとして。
犀賀と幸江は、それでも自分達を受け入れてくれるのだろうか――と。
その後、犀賀診療所では何事もなく時間が過ぎて行った。
宵っ張りなこの町の診療所は午前中割りあい暇で、
しかも訪れる患者は、いつも通院してくる常連がほとんどであったから、
宮田の仕事も、世間話ついでの問診をし、処方箋を書いて渡すぐらいしかなかった。
ただ、往診に出た犀賀はなかなか戻って来なかった。
幸江によれば、おそらく、川崎家以外の独居老人の家にも立ち寄っているのだろう、
ということだった。
元々は日雇い労働者達のドヤ街として発展したこの町も、
今や住民の高齢化が深刻化しているのは、御多分に漏れない。
彼らの大半は身寄りもないし、地域が共同体としての機構を失って久しい現在、
躰が弱って来院することもままならないような老人に対しては、
こちらの方から積極的に診ようとするする努力が必要だった。
そうはいっても、犀賀がこうして外に出て廻れるようになったのも、この一年ほどのこと。
宮田がこの診療所に勤めるようになってからのことだった。
「宮田先生が来てくれて、本当に助かってるわ」
患者が途絶えた後。書き仕事の手を止めて、幸江は宮田に言う。
「これまでは、往診受けるのも大変だったからねえ。
なにしろドクターが犀賀先生一人なんだもん。でも今は宮田先生が居てくれるから。
犀賀先生もすごく心強いし、安心できてると思うのよ……。
あの性分だから、そんな態度はおくびにも出さないけれどね」
宮田は小さく笑う。
犀賀が己の感情――とりわけ、人に対する情愛や感謝の念、
といった類のものを表に現すのが苦手な男であるのは、宮田も重々承知していた。
それに関しては自身も似たようなものなので気にしない。
気にしているのは、どちらかといえば幸江の方だろう。
「それにしても……もうすぐ十一時かあ。ちょっと遅過ぎるかもね。携帯にかけてみよっか」
幸江は電話の受話器を取り上げる。
それを見計らったように、入口のドアが開いた。
「ただいま……よう、ごくろうさん」
白衣姿の犀賀省悟が、幸江と宮田それぞれに声をかける。
診療所の所長である犀賀省悟は、今年で五十八歳になった。
長身で、この世代の男にしては手足が長く、
筋肉の引き締まった均整の取れた躰つきをしているため、見た目の印象はかなり若々しい。
ただし、その頭髪の半分は筋を入れたような感じで白くなっていたし、
鬢の毛に至っては見事に真っ白く変じてはいたが。
でもそれは、端整な顔の額や口元に刻まれた皺と同様、彼の重ねてきた人生を物語っていて、
かえって好ましい医師としての威厳と説得力にも繋がっていた。
その犀賀が部屋に入るのを見ると、どうやら彼は、傍らに小柄な人物を伴っているようだ。
「さあ、こっちだよ」
犀賀にそう促され、大事に庇うように部屋に招き入れられたその人物を見て、
宮田は眼を見開いた。
「美耶子!」
現れたのは、宮田が共に暮らしている盲目の少女、美耶子であった。
「あらあ、美耶子ちゃん久しぶりねえ。元気だったあ?」
「こ、こんにちは……幸江さん」
たどたどしく幸江に挨拶をした後、美耶子は宮田の下へ歩いて行った。
「……お兄ちゃん」
美耶子は長い黒髪を後ろで一つに束ねていた。
ついこの間、スーパーマーケットで買い与えたばかりの黄色いキャミソールに、
下はぴったりしたデニムのバミューダパンツ。
膝丈より少し上のデニムの裾から、素晴しく長い色白な脚がすっと伸びていた。
「美耶子、お前なんだってここに」
「君ん家のアパートの前をうろうろしてたから、連れてきたんだ」
犀賀の言葉を聞き、宮田は美耶子にとがめるような目線を送る。
「美耶子、また勝手に部屋を出たのか?」
「だって、ケルブがまた窓から出ちゃったから……捕まえようとしてるうちに前の道まで、
つい」
宮田は眼を閉じ、首を横に振った。
宮田と美耶子の暮らしているアパートの部屋は、一階にある。
部屋を借りる際、全盲である美耶子が、宮田の留守に窓から落ちたりしないように、
と、配慮をして一階の部屋を選んだのだが、これがどうやら間違いの元だった。
通りに面した窓の柵が低いのをいいことに、美耶子がこうして勝手に部屋を出てしまい、
あげく自力では戻れなくなって、宮田が帰宅するまで外で待っている、
というような事態が度々起こっているのだ。
「住む場所が失敗だったわねえ」
幸江にもはっきり言われてしまった。
「そりゃあ、あそこら辺はこの町の中でも山の手の方だから、
昼ならそれほど危なくはないけどさ。
眼の見えない女の子を独りで置いとく場所としては、ちょっとねえ」
確かにその通りではある。
窓の外の路は、車両の入れない遊歩道であるから事故の心配こそないが、
盲目の美耶子が独りで表に出るということ自体、歓迎すべきものではない。
「もう留守中に窓を開けない、窓から出ないと約束しただろう?
暑ければ冷房を入れればいいんだから」
「それは判ってたけど……ケルブがベランダに出たがって……。
ちょっとだけ開けたの。そしたら通りまで行っちゃって」
「ケルブは腹が減ったら戻って来る。猫なんてそんなもんだ。放っておけばよかったんだよ。
それをお前は……」
「まあ、それぐらいにしておけ宮田君。
幸江の言うように、あんなアパートに妹さんを閉じ込めている君にも問題はあるんだ」
犀賀が美耶子に助け舟を出す。美耶子は、ここぞとばかりうんうんと頷いた。
「犀賀先生、こいつを甘やかさないで下さいよ。ガキだからすぐ調子に乗るんです」
「ガキじゃないもん。ちゃんと生理だってあるんだから」
美耶子の言い様に、犀賀は声を上げて笑った。
「……生理といえば美耶子ちゃん、もしかして今そうなのかい?
少々顔色が冴えないようだけど」
「ううん。今は来てない、です」
「そうか……ご飯はちゃんと食べてるの?」
「ちゃんと食わせてますよ。俺と同じものを」
宮田が口を挟むと、犀賀は眉をひそめた。
「君と同じものを? それはつまり、碌なものを食っとらんということじゃないか。
それじゃ栄養が偏って顔色が悪くなるのも道理だ」
まだ成長期なのに、と付け加えて犀賀はため息をつく。
「美耶子の健康が心配だったら給料上げて下さいよ。
そしたらうちの食糧事情も向上して……」
と言いかけた宮田を、犀賀は睨みつけて黙らせる。その時、美耶子のお腹が鳴った。
「今日、まだ何も食べてなかったから……」
気恥ずかしそうに言い訳をして美耶子は俯く。
食事の話を聞いて、空いた腹が反応してしまったのだろう。犀賀は肩を竦めた。
「しょうがないな。美耶子ちゃんが貧血でもおこしたら事だ。ちょっと早いが昼飯にしよう。
そうだな……栄養をつけるために鰻でも取るか。幸江、電話してくれ。四人前な」
「それって先生の奢りですか?」
宮田が問うと、犀賀は黙って頷く。宮田は満面の笑みを浮かべた。
「やった得した。おい美耶子、お前これから毎日ここに来い」
「この野郎」
半ば本気で、犀賀は宮田の頭をはたいた。
一日の診療が終わり、宮田は美耶子を連れて帰宅の途に就いた。
美耶子を後ろに乗せた自転車で、夕暮れの町をゆっくりと走り抜ける。
結局、この日美耶子はずっと診療所に居続けた。
暇を見てアパートに連れ帰るつもりでいたのだが、思いのほか午後の患者が多く、
タイミングを逃してしまったのだ。
「ごめんね美耶子ちゃん。退屈でしょう?」
受付の横でちょこんと座っている美耶子に、幸江もすまなそうに呼びかけたが、
美耶子は微笑んでかぶりを振っていた。
確かに美耶子は、“心の眼”を使い、患者を診ている宮田を“視”ていただろうから、
さほど退屈はしていなかったはずだ。
「晩飯どうする?」
背中にぴったり張りつく美耶子に、宮田は訊いた。
「うーん……お昼たくさん食べたから、夜はあっさりしたのがいいよ」
「じゃあ、まだ素麺が残ってたから、あれを湯掻こうか」
「うん」
夕日のオレンジに染まった路は、少しずつ翳って夜を迎える準備に取りかかっている。
灼熱の昼間から開放される安堵に、町全体がぐったりと和やかな表情を見せる。
そんなひととき。
アパートに辿り着くと、窓の柵の上に灰色の老猫が座って待っていた。
「ケルブ!」
自転車を飛び降り美耶子は駆け寄る。
猫の方も、すとんと柵から降り立ち、尻尾を立てて女主人のふくらはぎにすり寄った。
「ケルブもご飯にしないとね」
結構な大きさの、ふてぶてしい面構えをした猫を抱きかかえて美耶子は言う。
老猫ケルブは、このアパートに住み始めたその日に美耶子が拾った。
美耶子は、他者の視界を己のものとして捉える特殊能力・幻視を使って、
ものを見ることが出来るが、宮田が仕事に出かけている間は、
近くに視界を持つ者が居なくなるので、それもできなくなってしまう。
「この子を新しいケルブにしたいの、いいでしょ?」
美耶子の懇願に、宮田は頷くしかなかった。
村に居た頃、美耶子はケルブという白い大型犬を、盲導犬代わりにつき従えていた。
いつも孤独な美耶子だったけれど、ケルブと居ることで僅かな慰めを得ることができたのだ。
彼女を闇と孤独から守るため。動物を宛がうことは、ある意味必要不可欠であるともいえた。
コンクリ造りの建物内の廊下を一番奥まで進んで、突き当たりのドアに向かう。
104号室。ここが宮田と美耶子の現在の住まいだ。
青く塗られた鉄扉を開けると、靴箱の上に置かれた鉢植えのポトスが、
瑞々しい葉を広げて出迎えた。
アパート内には他にも、至る処にこういった観葉植物や花などの鉢が置かれている。
全ての部屋――それこそ、トイレや浴室も含めて置いていない場所はない。
ケルブと共に、宮田不在の間、美耶子の孤独を癒す役目を果たしているのが、
この植物達なのだ。
美耶子は毎日、甲斐甲斐しく草花の手入れをしていた。
緑や花を楽しめる視力を持っている訳でもないのに――。
それでも美耶子はケルブ同様、植物達にも愛情を注いだ。
部屋に戻ると、宮田はすぐにキッチンで鍋を火にかけ、夕飯の仕度を始めた。
美耶子はその横で、ケルブに与える缶詰を、慣れた手つきで開けている。
四畳半のダイニングキッチン。
その向こう側は六畳の居間、さらに、同じく六畳の寝室へと続いている。
単身者、及び小家族向けと思われるこのアパートは、大きな田舎の家で育った二人には、
少々手狭な印象があった。
宮田の方はまだしも、美耶子は村から一歩も出たことが無かったので、
新しい住まいの予想外な慎ましさに、当初は驚きを隠せない様子であった。
けれどそれは、本当に最初のうちだけだった。
好奇心旺盛な少女は、この小さな部屋にすぐさま順応し、快適に生活するようになっていた。
なにより、部屋が狭ければ、いつでも宮田の存在を間近に感じられる。
美耶子に取ってそれは、この上なく嬉しい、かけがえのない悦びだったのだ。
「ねえお兄ちゃん」
二人がけのダイニングテーブルで、向かい合っての夕餉の席。
見えない眼をものともせず、器用に箸を使いながら、美耶子は言った。
「犀賀先生って、優しい人だね。最初に逢った時は、もっと怖い人かと思ってたけど」
「ああ……」
「ケルブが居ないの、って言ったら、犀賀先生一緒に捜してくれたんだよ。
診療所に行く時は、ずっと手を繋いでてくれた。
途中で色んな人が先生に挨拶したけど、みんな、先生が好きみたいだった」
犀賀省悟は、そういう男だ。
愛想笑いをするような性格ではないので、初診の患者――特に小さな子供なんかには、
威圧感を与えて萎縮させてしまうのだが、辛抱強く付き合いを続けると、
その、思いやりに満ちた温かい心に気づかされることになるのだ。
急患の知らせがあれば、夜中だろうが明け方だろうがすぐさま飛んで診に行くし、
料金の支払いに苦慮する患者の相談にも乗る。
常に患者の立場に立ってものを見るその目線は、まさに「医は仁術」の手本そのものだ。
宮田は、そういった犀賀の医師としての姿勢に強く惹かれ、感銘を受けていた。
治安の悪い掃き溜めのようなこの町で、三十年近くもの間、
理想を見失わず、地道な町医者稼業を続けてきた犀賀は医者として、そして人間としても、
尊敬に値する人物だと思った。
だからこそ宮田は、犀賀の診療所で、犀賀の下で働くことを決意したのだ。
もっと条件のいい金になる仕事も、探せば見つけられたことだろう。
しかし宮田は、そのような安易な道を選択しなかった。
誰のためでもない、自分自身のために。
病に苦しむ人々を救う医者として生きていきたい。
それは、暗黒の村の深淵を担うよう運命付けられていた彼が、
けっして叶えられないと諦めていた、長年の夢だった。
「お兄ちゃん、お風呂沸いたよ」
素麺と、ゆうべの残りの惣菜での簡単な夕食の後。
居間のソファーで、発泡酒の缶を片手にテレビのナイター中継を見ている宮田に、
美耶子は声をかけた。
「まあちょっと待て。今、赤星が出塁したとこだから」
「駄目。お風呂いくの」
美耶子は宮田の腕を引っ張り、半強制的に浴室へといざなう。
美耶子は風呂好きな少女だ。
綺麗好きとだからいうより、どうやら風呂で躰を洗ってもらうことが好きらしい。
「要するに、甘えん坊なんだ」
以前宮田は、揶揄するように言ったことがある。
しかしそれは、必ずしも正しいとはいえない見解である。
なぜなら美耶子は入浴の際いつも、単に甘える以上のことを宮田に望んでいるからだ。
極々ささやかな、洗面所を兼ねた脱衣場で服を脱いで浴室に入る。
中ではすでに全裸の美耶子が、床に敷いたマットに座り、宮田が来るのを待っていた。
狭い浴室からはみ出しそうになっている脚を微妙に折り曲げ、後ろに両腕をついて、
ぼんやりとした瞳で宮田を見上げている。
宮田は、美耶子の肢体に暫し感嘆の眼を向けた。
美耶子と暮らすようになってから約一年。
初めて美耶子の裸を見た時から数えたら、もう少し経っているだろうか?
とにかく。その頃の美耶子はまだ、幼い貧弱な少女であった。
手脚がすっきりと長く伸びているのは今とあまり変わらないが、
それはあまりにもか細く頼りなく、風が吹いただけでも手折れてしまいそうなほど、
儚い印象のものであった。
乳房の膨らみも硬くて未熟な蕾そのものだったし、瑞々しい大陰唇の膨らみの狭間、
陰裂をそっと包み隠していた恥毛だって、しょぼしょぼと量が少なく、
その部分を守るにせよ誇示させるにせよ、中途半端で役立たずの代物でしかなかった。
けれど今の美耶子は違った。
あの頃と比べると明らかに成熟し、脂が乗って女としての美しさに磨きがかかっていた。
膝から下が見事に長い脚線への微妙な肉付きは、単なる美しさ以上の妖しい色香を付け加え、
その上に連なる胴体の魅力を、よりいっそう引き立てている。
豊かに広がった腰の線。胴の真ん中は絞られたようにくびれ、
近頃ことさらに目立ち出した乳房の丸みを乗せて、少々不自然に見えるほどの、
妙なる曲線を描き出していた。
宮田は浴室の壁に身を擦り付けるようにしてしゃがむと、
美耶子の白い首筋から乳房に手を滑らせ、淡い処女の色味を残して息づく乳頭に、そっと触れた。
「先に頭を洗って」
「……判ってる」
そう答えながらも、宮田の指先は美耶子の乳頭を離れることはない。
そしてその視線は美耶子の女の源泉、つややかに生え揃った逆三角形の恥毛の中身へと、
じっと注がれていた。
黒く輝く若草の中。
ぷくぷくっと二つに割れて合わさった陰部の肉からは、
かつての張り切って指先を弾き返すほどの新鮮さは失われていたが、
代わりに、淫らがましいほどの柔らかさで指先に吸い付くようになっていた。
「お兄ちゃんやだ……まだ、洗ってないのに」
気づくと宮田は、美耶子の膨らんだ割れ目に手を伸ばして大陰唇を軽く突付き、
微かにはみ出た薄紅色の小陰唇を、くすぐるように撫で始めていた。
美耶子は逃げるように腰をよじった。
真っ直ぐに伸びていた腿が、少しだけ開く。
汗の匂いに混じった美耶子そのものの匂いが漂い、宮田の肉体を強制的に昂ぶらせる。
「お兄ちゃん、先に洗ってってば」
「後でやる」
宮田は、美耶子の躰の上に身を重ねた。
家族風呂と呼ぶには手狭過ぎるこの浴室は、性行為の場所として、
あまり使い勝手のいいものではなかった。
ちょっと股を開いただけでも、躰のあちこちが壁やら浴槽やらにぶつかってしまうし、
そもそも手足を伸ばして寝そべることができるほどの奥行きもないので、
小さく縮込まっての窮屈な作業になってしまう。
「美耶子、立って壁に手を着け」
愛撫もままならない状態に焦れた宮田は、美耶子を立ち上がらせ、
後ろ向きに尻を突き出させた。
白くて形の良い尻の谷間を割り、奥の女陰を指で押し広げると、
そこはすでに、滴るほどに濡れて熱を持っている。
宮田は柔らかく解けた陰唇の内部粘膜をくちゅくちゅ鳴らしながら、揉んだり摩ったりした。
もう一方の手は乳房に廻し、ふっくらと突き出た乳房の肉を探って、
頂点の乳首を指先に挟んで押し潰す。
美耶子は甘い声を漏らした。
快楽を教え込まれた若い躰は、こんな悪戯だけでも他愛なく舞い上がり、
頂点を極めてしまいそうになるのだ。
「なあ美耶子。
犀賀先生や幸江さんは、俺達がこんなことやっているのを知ったら、何て言うのかな?」
「ううっ、やぁ……し、知らないよぉ……」
「二人とも、お前のことはまだほんの子供だとばかり思いこんでるからなあ。
こんな、すぐに性器を濡らして、オルガスムスに達してしまうような女だなんて知らないんだ。
毎日最低、三回は絶頂を迎えている躰だなんてこと……」
「それは……お兄ちゃんが、そうさせるから」
「でも、実際に性器を痙攣させているのは、お前だ」
宮田は美耶子の片脚を背後からすくい上げ、
煮えたぎって切なくひくついている穴に、ぐっさりと陰茎を挿し込んだ。
「うあぁあっ……いやっ、いや……こんな格好」
卑猥過ぎる恥ずかしい姿勢を強いられた美耶子は、いやいやと首を振って拒絶を示す。
だが宮田は美耶子のそんな、うわべばかりの恥じらいの仕草にまるで頓着することはなく、
ぐっと奥まで腰を押し進め、幼い女性器が受け入れられる限界の位置まで、
陰茎を到達させるのだった。
宮田と美耶子は、世間的には兄妹の触れ込みで生活している。
無論、二人は血縁同士でも何でもないし、戸籍上の関連だって何もない。
それ以前に、美耶子は戸籍そのものさえ持ち合わせていなかったが……。
それでもとにかく。
職場や近隣の人々に対して妹だと紹介し、あまつさえ、自分を兄と呼ばせている少女の膣に、
こうやって陰茎を突き立てることは、ある種の背徳的な罪悪感を伴う行為であった。
だからこそ、その快楽も強くて凄まじい。
しこしこと締まりながらも夥しくぬめり、繊細な襞で絡みついてくる美耶子の膣の中、
宮田はいつも込み上げるような劣情を覚え、自分でも不可解なほどの勢いでもって、
亀頭を震わせ、盛大な射精をしてしまうのだ。
「あはぁ、お、お兄ちゃん……お腹、熱い、あぁ、あぁ……うああああっ」
片脚を小便する犬のように上げられ、思い切り大きく広がった美耶子の膣口が、
白濁した粘液を降り零しながらどくん、どくんと収縮する。
膣の奥底から湧き起こった波状の蠕動は、宮田の陰茎を最後の一しずくまで、
搾り取る動きをしていた。
嵌まった陰茎の射精につられて、呆気なく頂点を極めた美耶子の性器を、
宮田は慈しむように優しく撫でる。
ついでに、粘液に浸った硬い陰核をもつるりと撫で上げ、指の先でころころと玩んだ。
「んんっ! あは……あぁ、ああ、あぁああー……」
一番の急所である陰核を弄られた美耶子は、収まりかけていた絶頂のわななきが引き戻されて、
最後のあがきのように弱々しい痙攣を、再び繰り返してしまうのだった。
「はあっ……はあ、はあ、はあ……」
永い永いオルガスムス地獄からようやく開放された美耶子は、
崩れ落ちるように床のマットに座り込んだ。
終わりかけた絶頂の波を、快楽の釦を弄くることによって蘇らせ、引き伸ばす、
という淫らな責め苦を、短時間のうちに何度も繰り返されて、
精も根も尽き果ててしまった様子である。
そんな美耶子の姿を横目に見ながら、宮田はシャワーのコックを捻り、
噴き出した熱い湯で床に散った二人の体液を洗い流した。
「美耶子、顔を仰向けにしろ。頭洗ってやるから」
熱情から醒めた宮田は、美耶子の入浴を介助するという、本来の役割に立ち返る。
手の平でシャンプーを泡立て、美耶子の頭皮をマッサージし始めた。
美耶子は全盲ではあったけれど、生まれ持った幻視能力と長年の勘により、
その日常生活において、健常者と比べてもほとんど遜色のないくらい、自由に行動できている。
しかし入浴に関しては、やはり独りだと難しいものがあった。
少し訓練すれば、これも通常に行えるようになるのかもしれない。
だが宮田は、その訓練をしようとは考えていなかった。
自分が美耶子を洗ってやれば済むことだし、なにより、それが楽しかったからだ。
「痒い処ありませんか?」
「うふ……大丈夫でーす」
美耶子の長い髪の毛を洗うのは、結構な重労働だ。
面倒くさいので、短く切ってしまおうかと考えたこともあったが、すんでの処で思い留まった。
この美しい黒髪を切ってしまうのは、やはりもったいない。
この、絹のように手触りのよい黒髪も、美耶子の強い魅力の一部なのである。
奪ってしまうことはできなかった。
そして洗髪が終われば、次は当然躰の方だ。
美耶子の躰を洗うのに、宮田はタオルやスポンジの類を使わなかった。全部手で洗う。
美耶子の肌が弱いから――というのをその理由にしていたが、もちろんそれは建前だった。
「お兄ちゃん、背中もっと強く」
肉の薄い背中を手の平で摩ると、心地好さげなため息と共に美耶子は言う。
「なんか最近、凝るんだよね。歳かなあ?」
「馬鹿、子供の癖に何言ってんだ。ただの運動不足だよ。家でじっとしてるからだ」
「でもそれは、しょうがないじゃない。勝手に表に出たら駄目なんでしょう?」
「家に居たって運動はできる。腕立て伏せとか腹筋とか」
「……つまんないからやりたくない」
宮田の手は、背中から腰のくびれを辿り、前に廻って乳房をくるくると撫で廻した。
美耶子は嬌声を上げて宮田の手を押さえる。
「あはは……やだあ、おっぱいそんな風にしないで」
「感じてる場合か。こっちは真面目に洗ってやってんだ」
そんなことを言うわりには、宮田の手は少々執拗過ぎる動作で、
ねちっこく乳房の上を這い廻っている。
手の平に埋まる乳房の重みが、また少し増しているように思えた。
その感触も、以前の痛々しいまでの硬さがなくなり、ふわんと柔らかく、
かつ、熟してみっしりと実の詰まった感触に変わっていた。
宮田はその、旨そうに熟れ始めた乳房を、手の中でぷるんぷるんと揺すった。
「ああ、駄目だってばぁ……おっぱいが張ってるの。生理、近いから……」
そういえば美耶子は、大体いつも月末頃に生理を迎えていた。
前の時から計算するに、おそらくは明日か明後日ぐらいには来るのだろう。
昼間、美耶子の顔色が冴えなかったのも、きっとそのせいだ。
犀賀医師の見立てに、間違いはなかったということか。
宮田は、通常よりも敏感さを増しているであろう美耶子の乳房を、労わるようにそっと撫ぜ、
硬く尖った乳首を泡の中でくすぐった。
美耶子は大きく息を吐くと、宮田の胸に背中をもたせかける。
泡にまみれた躰が、宮田の胸元をぬめぬめと刺激した。
「ほら、そんなにくっつくな。まだ洗い終わってないんだから」
「お兄ちゃん、またしたくなっちゃう?」
美耶子はくるりと振り返り、首を伸ばして宮田の唇に口づけた。
宮田は美耶子の頬に手を添え、紅い唇を強く吸った。
熱した舌を絡み合わせながら手を下腹部にやると、美耶子の陰部は火照りを取り戻していて、
石鹸の泡とは違うものでぬらついている。
もう一度姦してやろうか……。
一瞬そうも考えたが、それはやめておくことにした。
ここで二回も射精しては、この後がきつくなる。
そのまま美耶子の全身を洗い上げ、濡れた女陰はシャワーで慰めてやった。
M字に股を開かせて、陰核を中心に勢いのある温水を浴びせてやるのである。
この強い刺激は、美耶子お気に入りの、長年慣れ親しんだ淫戯である。
そしてそれは、宮田のお気に入りでもあった。
その熾烈さに耐えかねて、美耶子は達する瞬間、いつもとっさに陰部を手で押さえようとする。
それを無理やり押さえつけ、限度を越えた快楽のどん底に叩き込んでやるのが、
宮田には爽快なのであった。
そうして、全身くまなく洗い上げた美耶子を湯船に浸からせている間に、
宮田自身は極々短い時間で自分の躰を洗ってしまう。
その後、美耶子と入れ替わりに申し訳程度湯船に浸かれば、入浴の工程は全て完了である。
――いや、まだあった。美耶子の躰をバスタオルで拭い、髪を乾かさなくてはならない。
美耶子の長い髪の毛は、完全に乾かすのには大変な手間ひまと時間を要した。
ドライヤーを用いても、二、三十分はかかるのだ。
宮田はその間、自分の髪を乾かすどころか、服さえまともに身に着けない。
美耶子と暮らすようになってからというもの、宮田の生活は何事につけても、
美耶子を中心として動いていた。
まるで、独りで子育てをしている母親のようだ。
美耶子の世話をしている時、いつも自嘲気味に宮田は思う。
しかし、虚しさや煩わしさといったものは別段感じなかった。
これほどまでに若く美しい娘を独占する以上、これぐらいの苦労は当然のことと心得ていた。
こんな苦労なら悪くない。むしろ、悦びですらあった。
「お兄ちゃん、疲れた?」
居間のソファーで、飲み残しの発泡酒を喉に流し込む宮田に寄り添い、美耶子が言う。
宮田は黙って美耶子の肩を抱いた。
ソファーの足元では猫のケルブが長く寝そべり、ごろごろと喉を鳴らしている。
平和な時間だった。
村に居た頃とは大違いの安らかな幸福。あの村で過ごした、苦渋に満ちた半生が嘘のような。
シャンプーの甘い香りを漂わせた美耶子を見下ろす。
美しい横顔。見ているうちに、ふっと現実味が喪失してめまいを起こしそうになる。
この美少女と共に暮らしているのだという事実が、にわかに信じがたくなる。
美耶子の顔が、宮田を見上げた。
盲いた瞳に見つめられ、宮田はなぜか気恥ずかしさを覚える。
「どうしたの、お兄ちゃん?」
宮田の変化を気配で察知したのか、美耶子が不思議そうに尋ねた。
宮田はそれを誤魔化そうとして美耶子の髪を撫ぜ、こう言った。
「久しぶりに――踏んでくれないか」
宮田と美耶子は、寝室へと場所を移した。
寝室、とは言ってもそこは、居間とアコーディオンカーテンで仕切られているだけの、
ベッドと衣類箪笥しかない簡素な部屋である。
本来ならば、寝室と居間の間は引き戸で仕切られていたものと思われるが、
今その引き戸はなく、代わりにアコーディオンカーテンがかけられていた。
多分、前の住人が勝手に付けて行ったのだろうが、別に不都合はない。
これだと閉めていてもケルブが入って来やすいというので、美耶子も歓迎していた。
セミダブルのベッドの上で、宮田はうつ伏せに寝そべっている。
天井の蛍光灯は豆球だけしかついておらず、室内はぼんやりと薄暗い。
そして、Tシャツ一枚の彼の背中の上には、これもまたTシャツだけを身に着けた、
美耶子が立っていた。
「転ぶなよ美耶子」
「大丈夫だよ……ここら辺?」
壁に手を添え、ゆっくりと足踏みしながら、美耶子は問う。
いつも身の廻りの世話をしてくれる宮田に対し、美耶子はお返しとして、
時々こうやってマッサージのサービスをするのだ。
宮田が美耶子の世話を厭わないように、
美耶子に取ってもまた、宮田に対するこうした奉仕は好ましいもののようだった。
愛人への情というよりそれは、父親に甘える娘の気持ちに近いのかもしれない。
「ああ、もう少し上……肩甲骨の間ぐらい……そうそう」
細身の美耶子は、全体重をかけても重過ぎないので、こうしたマッサージにはうってつけだ。
「楽になったよ……最後に肩を踏んで終わりでいい」
美耶子は宮田の横に降りて、右、左と順番に片足で押した。
「……はい、ありがとう」
安らかなため息をついて礼を言う宮田の背中に、美耶子は頭を乗せる。頬擦りをするように。
背中から肩に。するりと滑って、耳元で囁いた。
「ねえ……他の処も踏んで欲しくない?」
美耶子の手が、Tシャツの中に潜り込んで宮田の躰をまさぐっていた。
その手は、やがてトランクスの中へと進む。
指先が鞭のようにしなやかな陰茎を捕らえ、確かめるような動きで扱き始めた。
「力が弱い。やるんならもう少し強くしてくれ」
「やって下さい、でしょ?」
美耶子は宮田の躰を横から押した。仰向けになるよう促しているのだ。
宮田は美耶子の望みどおりの姿勢を取る。
そしてTシャツを、トランクスを脱ぎ去った。
早くも勃起をして赤味の増した陰茎が、大きく揺れて天井を向いた。
「やって下さい女王様。これも、足で踏み躙ってくれ……」
笑い混じりにそう言うと、美耶子も微笑んだ。
彼女はヘッドボードの棚から、雛菊の鉢に隠れたローションボトルを、手探りで取り上げる。
そして、その口を宮田の下腹部に向け、透明なジェル状の液体をとろとろと垂らしてから、
立ち上がってTシャツとパンティーを脱いだ。
赤味がかった弱い照明の下、均整の取れた素晴しい裸身が夢のように現れ、静かに躍動する。
美耶子はその真白き足を上げ、天井を衝く宮田の陰茎を、足の裏で腹の方に倒した。
芯の通ったように硬い、聞かぬ気の陰茎は、ローションにぬめって微かに脈動している。
以前、未だ美耶子が性交に慣れていなかった頃には、
苦痛を和らげる潤滑剤として活躍していたローションだったが、
もう美耶子の膣が陰茎の出し挿れにすっかり慣れ親しんだ現在でも、
こんな役割を果たすため、ベッドの枕元にいつでも常備されていた。
美耶子は足の指を開き――首を絞めるようにカリ首を挟み込んで、締め上げた。
その快感に耐え、宮田は硬く眼を閉ざした。
「うう……」
宮田が小さく喘ぐ声を聞くと、美耶子は満足そうに口の端を上げ、足の動きを激しくしてゆく。
足の指が、濡れて光る亀頭の膨らみをきゅっと挟み、まるで手の指のような器用さで、
扱いたり、ずりずり摩擦をしたりと立ち働く。
角ばった踵は根元の強張りを絶妙な力で揉みほぐし、
足の裏のぐねぐねとした肉は、反り返った裏側を追い詰めるようにぎゅうと圧迫した。
「お兄ちゃんは、ここが好きだよね?」
親指の腹で亀頭裏側の窪みをべたりと触れて、美耶子は言う。
張りつめた筋をくすぐり、細かく震わせながら、
残りの指でくびれ目上部の張り出した部分を刺激した。
変幻自在の指の蠢きと、強く激しい足の裏の摩擦に耐えかねて、
鈴口の裂け目からはぬるい液体が漏れ出し、ローションと入り混じって、
ねちゃねちゃとぬめり流れる。
亀頭自体も真っ赤に膨張し、血管の絡む太い幹は金属のように硬く、
睾丸は、せり上がって今しも精液を押し出したがっているようだ。
「もう出したい?」
少女の足に玩弄される快楽に耐えている宮田に、美耶子は訊いた。
足の動きにつれベッドも揺れて、美耶子の声を震わせている。
裸の乳房も。てっぺんの乳首も。
宮田は閉ざしていた瞼を上げ、妖しく揺れる美耶子の肉体を見た。
あともう少し。このまま強く擦り上げて貰えば、陰茎の快感は限度を超え、
広がった尿道口から止め処なく溢れ出ることだろう。
噴き上がった精液は美耶子の白い足を、よりいっそう白い色に染め上げ、
どろどろに穢してしまうに違いない。
けれどそれでは物足りない。
宮田は手を伸ばし、蒼い静脈が透けて見える美耶子の足の甲に触れた。
「美耶子……足はもういいから、跨ってくれ」
美耶子は小首を傾げる。
こんな場合に宮田が跨れと言ったら、それは美耶子が上になって陰茎を膣に嵌めろ、
という意味だというのは判っていた。
なのに美耶子は、わざと空とぼけて見せるのだ。
「どうしようかなあ……だって私、最近お兄ちゃんの出す処見てないもん。
それに、もうお風呂場で一度されちゃったからなあ」
美耶子は足の裏で宮田の陰茎を責め立てることをやめぬどころか、かえって意地悪く、
射精に至る淫擦を続けようとするのであった。
悪戯好きの残酷な妖魔と成り果てた美耶子。彼女を見上げる宮田の眼が光った。
「きゃっ!?」
ベッドの上でにわかに風が起こり、美耶子の足元を不安定にさらった。
上下の感覚が消え去り――
気がつくと美耶子は、宮田と躰を入れ違え、
仰向けになってベッドに横たわっているのであった。
絹のような黒髪が、ベッドいっぱいに広がってつやつやと輝く。
「跨ってくれないんだったら、こっちが跨ってやるまでだ」
美耶子の上に覆い被さる宮田の影。
黒い褥の上で。二人の意識は、美耶子のなまめかしく紅潮した表情だけを捉えていた。
しかしそれも、美耶子の半開きの唇に宮田の唇が重なったことで暗転し、
何も見えなくなってしまう。
強い力で舌を吸い上げられ。逆に、口の中を舌で掻き廻され。
粘膜の触れ合い、吐息同士の交わり合いは、美耶子の意識を桃色に溶解させる。
ねばねばする足の裏をシーツで拭くように滑らせれば、
開いた腿の間で宮田の巧みな指先が躍って、ぞわりと物狂おしい快味を伝える。
美耶子のそこは、触れられればほとんど自動的に濡れて開く。
それはもう、条件反射といっていいほどのものだった。
「もうこんなに……風呂であれだけいかせてやったってのに。全く……とんだ淫乱症だな。
このお姫様は」
「んん……あはぁ、ぜ、全部、お兄ちゃんのせいだもん」
唾液が糸引く唇を離し、美耶子が反発の声を上げる。
しかしそんなものは、濡れた膣口を丹念に揉まれ、指先に絡んだ淫液を、
包皮を弾き飛ばし、ぴょっこり顔を出した陰核に塗りつけられる心地よさの前には、跡形もない。
美耶子はそこに、早く亀頭の丸みを押し込んで貰いたい気持ちでいっぱいになり、
自ら大きく股を広げて、宮田の攻勢を待ち侘びるのだった。
頃合よしと見た宮田は、腰をおっ立てると淫欲に疼いてむず痒い陰茎を捧げ持ち、
喘ぐように入口をぱくつかせている陰門に、ぐずりぐずりと埋没させた。
「あはぁああ……」
美耶子は悦びの声を漏らし、腰を突き上げて膣に這い込む陰茎を迎え入れた。
一年前まで全くの生娘だった美耶子だったが、
ほぼ毎晩欠かすことなく宮田によって続けられた性交の賜物で、
今では全く苦痛を訴えることはなくなった。
膣粘膜の濡れ方は夥しく、膣壁の筋肉もよく発達しており、その部分に関しては、
もうすっかり一人前と言っていい。
ただ、ぽってりと腫れぼったい膣孔の狭さは、やはりまだ幼い少女のものだし、
特に、かあっと熱を持った奥の方は、幼いだけにさすがに未熟で、
大人の女のように、そこで骨も砕けるようなオルガスムスを感じて狂乱し、意識さえも失う、
という塩梅にはならなかった。
でも、そんなことはたいした問題でもないだろう。
時間が経てば躰は成熟するものだ。性的な感覚も。
現に初交の時から一年が過ぎた今、美耶子は見違えるほどに美しくなり、
その躰が快楽を受ける割合も、いっそう深くなっているではないか。
それに、この先さらに美耶子の躰を開発する余地があるというのは、幸福なことだ。
細い腕を背中に廻し、しがみついて夢中になっている美耶子を抱き、
未知なる快楽に想いを馳せて、宮田はほくそ笑むのだ。
そうだ。
これからますます美耶子が、そして自分自身が、性の悦びを享受し得るようにするために。
美耶子にはもっともっと様々なことを――様々な性交のやり方を、教えてやらねばならない。
宮田は美耶子に乗りかかって数回抜き挿しを行った後、
躰を横向きにし、その反動を利用するかのように美耶子を上にさせた。
「よし。このまま動いてごらん……この前、教えたように」
美耶子は、乱れて頬にかかる髪もそのままに、虚ろに潤んだ瞳を宙に泳がせて、
こっくりと頷いた。
ここ暫くの間、宮田は美耶子に、それまでの受身の性交以外に、
自ら能動的に動いてする性交を教え込んできた。
それまでにもそうした試みは幾度かしていたし、
かつて二人の間に確かな繋がりを築くきっかけとなった、足を用いた陰茎の摩擦も、
ある意味美耶子が主導権を握る、能動的な性行為と呼べなくもないだろう。
しかし、この度はもう一歩踏み込んで、美耶子自身が性器の快感に陶酔しながら、
なおかつ、宮田の方にも満足を与えるという状態を目指しているのだった。
この一年間で、美耶子の性交の技術もかなり上達している。
そろそろ完璧な状態――美耶子が上になって絶頂し、それと同時に宮田も果てるという、
完全なるクライマックスを経験する刻も、近かろうと思えるのだ。
「腰を使って――もっとお尻を上げ下げするんだ。こうして支えていてやるから……。
そうだ、いいぞ」
宮田は下から腰を突き上げつつ、細身ながらもむっちりと肉付きの豊かな腰を両手で支え、
跳ね躍る臀部の感触を腿の付け根で味わった。
無論、膣に嵌まって快擦される陰茎の、蕩けそうな感覚はこの上なく、
宮田は、射精を堪えて引き伸ばすのに苦労した。
「あんっ、あっ、あ、あ、あ、あ、あ」
美耶子は、宮田の突き上げに翻弄される感じで尻を弾ませていたが、
次第に、膣の気持ちのよい場所に陰茎を擦りつける勘どころを把握し始め、
宮田の動きを押し返してねっちりと、錐揉み状に渦巻くような動きをして、
性器と性器を上手いこと揉み合わせるようになりつつあった。
宮田は下から、はちきれんばかりに充溢して膨れ上がった乳房が揺れるのを、見上げていた。
恍惚とした美しい顔が顎を反らして悩ましく歪む様に、うっとりと惹き込まれていた。
美耶子が、自らの快感のために淫らがましく腰をくねらせ、
しっとりと汗に濡れた肌をほの赤く染めて、喘ぎ声を漏らしている。
長い黒髪はさらさらと音を立てて舞い散り、まるで、この世のものとも思われないほどの、
妖しさ、霊妙さを醸し出して、粗末な寝室を不可思議な別世界へと変えてしまった。
蜜を振り零す陰唇は、軟体動物めいた伸び縮みをして陰茎から離れず、
性の頂点に向かって狭く、きつくなってゆく膣の穴は、淫猥に襞をのたくらせながら、
宮田を欲望の化身を扼殺しようとしていた。
宮田は、美耶子の膣に腰から下を喰いつかれ、込み上げてくる感覚を、
制御しきれなくなってきた。
美耶子が達するのを待ちたい。けれどもう堪えきれない。ぶちまけたい。
宮田が理性と本能の狭間で揺れ動き、苦悶とも快楽ともつかぬ境地で歯を食いしばっていた、
その時だった。
「うあぁ、お兄……ちゃん……いい、ああぁ、いあぁああ……!」
宮田の脇腹を掴み、尻をくるくると回転させていた美耶子が、ばっと仰け反った。
しこりきった乳首が天井を向くほどに弓反った躰の下の方、なだらかな下腹部が、
びくんびくんと痙攣している。
膣の内部では、未だかつてないほどまで深く突き挿さった陰茎の亀頭が、
強烈な蠕動運動の波に巻き込まれ、行くことも引くこともできぬままに快感が来て、
精巣ごと吸い出されそうな物凄い衝撃と共に、淫欲の塊を勢いよく放出していた。
宮田は頭の後ろがじいんと痺れ、背筋がぞわぞわする奇妙な悪寒に肌を粟立たせながら、
陰茎と膣、どちらのものだか判らない痙攣に、身を委ねた。
脱力感に、美耶子を支えていることもできなくなって手を離すと、
美耶子はそのまま、ぱったりと後ろの方へ倒れてしまう。
そうして二人は、互いの脛の間に頭を挟んだ姿勢で、重なって仰向けに横たわり、
荒く湿り気を帯びた呼吸を繰り返すばかりの、完全なる弛緩状態となった。
焼け爛れたような意識の中、宮田は自分の試みが成功したことを知り、
深く深く充たされた気持ちになっていた――。
真夜中を過ぎて、ふと眼が覚めた。
交接が終わった後、胸の中に抱いて眠ったはずの美耶子の躰がない。
「……美耶子?」
美耶子は宮田の隣に居た。
裸のまま上半身を起こし、立てた膝を覆うシーツの上に両手を乗せて、
じっと暗闇を見つめていた。
宮田は美耶子の横顔に眼を凝らし、そして息を飲む。
美耶子は泣いていた。
「どうした」
宮田は、躰を起こして美耶子の肩に触れた。
垂れた髪の毛で指先が滑る。
頭のてっぺんからシーツの上まで流れ落ちる黒髪は、漆黒の水を思わせる。
美しいことは美しいが、不吉な印象があるのも確かだ。
美耶子は宮田の呼びかけに答えず、無言で顔を伏せた。
「……どこか痛いのか?」
とりあえず訊いたが、顔を伏せたままかぶりを振るだけ。泣き止む気配もない。
宮田は困惑した。
「なんだよ……黙ってちゃ判らんじゃないか。俺、何かお前に嫌なことをしたか?
なあ……」
「……怖いの」
宮田の言葉を遮るように。前屈みになってシーツに顔を埋めた美耶子は、ぽつりと呟いた。
「怖い夢でも見たのか?」
「そうじゃない……」
美耶子はようやく顔を見せた。涙に濡れた眼元を指で拭い、洟を啜る。
「ねえ……私達が村から出て……もう一年になるんだよね」
「ああ、そうだな」
「一年前……本当はあの時、私は儀式に出なくちゃならなかったのに……
黙って逃げ出したんだ。お兄ちゃんと一緒に」
「もう済んだことだ。気にする必要はない」
「済んだこと?」
「そうだ。今さら考えたってどうしようもない。考える意味がない。
何しろもう……村は無くなっちまったんだからな」
一年前まで、宮田と美耶子は、三方を山に囲まれた寒村で暮らしていた。
美耶子は村随一の旧家の娘で、宮田は、その旧家に古くから使えていた村医の家の、
跡取り息子だった。
嫌な村だった。
旧い因習にいつまでも縛り付けられ、常に陰鬱な呪いに包囲されているような、
ほの暗くて薄気味の悪い土地柄。
そして、村の呪いの中心にあったのが神代という旧家であり、取り分けその中でも美耶子は、
その呪いの全てを一身に受け、また、身をもって贖罪せねばならない宿命をも帯びていた。
「一年前のあの時。もしもお前があのまま村に居続けていたら……
お前は聖婚の儀式で、神の花嫁として常世に送られていただろう。
つまり、殺されたってことだ。あの土地を支配していた神への、捧げものとして、な」
宮田は、美耶子の手の上に自らの手を置いて言った。
神代の家で生まれた妹娘としての宿命。それにはさしたる理由などなかった。
ただ、昔から決まっているしきたりだからそうする。それだけのことだった。
美耶子はそのしきたりに抗った。
家業を継いで医師となり、神代家の主治医として屋敷に出入りしていた宮田に身を任せ、
連れて逃げてくれるよう、彼に懇願したのだ。
宮田は迷ったあげく――美耶子の頼みを聞き入れ、共に村を出奔したのだった。
そぼそぼと雨の降りしきる夜だった。
今でも忘れることはない。
雨に濡れ、診察室の入口に立ち尽くした美耶子の姿。
酷い惨めな有様だったが、その瞳は、希望を抱いてきらきらと輝いていた。
宮田という男を信じきり、一途にすがって胸に飛び込んだ。
その純真さ――そしてそのまま、初めての交接までも許したいじらしさ――。
美耶子の処女性は、神ではなく宮田を選んだのだ。
「あの夜――ほんとはすっごく痛くって、死ぬんじゃないかと思ったけれど……。
でも、お兄ちゃんがとっても優しくしてくれたから、私は幸せだったよ。
もう、どうなったっていいと思えた。
村を出て……もしもすぐに捕まっちゃったとしても、後悔はしないって、そう思えた。
だけど」
宮田の手の下、美耶子の手が、ぎゅっとシーツを掴む。
「結局私達、捕まりはしなかったんだよね。だってあの夜、村には神罰が下ったから。
私が居なくなったことで儀式は失敗して……村は丸ごと、土砂に飲み込まれちゃった」
「美耶子、いいか」
宮田は美耶子の手を握り締め、盲いた瞳を真正面から覗き込んだ。
「あれは単なる偶然だ。あの夜起こった土砂災害……。
考えても見ろ。あの夜の雨、物凄かっただろう? 地盤が緩んで山が崩れたって仕方が無い。
自然の摂理だよ。神罰なんてものじゃあ、断じて無い」
「でも!」
美耶子は髪を振り、宮田の視線から顔を背けた。
「村が、あそこに住んでいた全ての村人が消えて無くなっちゃったのは、間違いない。
私達だけ助かったんだ。村を裏切って……神を裏切って逃げ出した、私達だけが」
「美耶子……」
「なのに……あれから一年が過ぎても、私達はこうして普通に暮らしてる。
普通に……ううん、多分普通より、ずっとずっと幸せに。
ねえ、どうして? 裏切り者の私達なのに、どうしてこんなに幸せでいられるの?
どうして私達だけ、神の呪いから無事でいられるの?」
「神の呪いなんてものは……最初からなかったんだよ、美耶子」
宮田は美耶子の肩を引き寄せた。
「考えてみりゃあ、当たり前の話だ。そんな馬鹿げた話……本気にする方がどうかしてるのさ。
ま、そうは言っても俺だって、村に居た頃には、神様に処女の生贄を捧げる儀式をすることに、
さして疑問を感じていなかった訳だからなあ。
そういう意味では偉そうなことを言えた義理でもないが」
言いながら、宮田は美耶子の肩を撫で摩った。
美耶子は宮田の肩に頭を乗せる。流れる黒髪が、さらりと彼の二の腕を撫ぜた。
「でも、やっぱりなんだか怖いよ……村が無くなって、私達だけ生き延びて……
なのに毎日、こんなに幸せで。それに」
不安を述べようとする美耶子の唇を、宮田は唇で塞いだ。
「んん……ん、お兄、ちゃ」
「つまらんことに頭を悩ませるのは、退屈している証拠だ。
躰の疲れが足りんから、その分無駄に頭を使って気疲れをしちまう。
解消するには、めいっぱい躰を動かしてくたくたになるのが一番いいんだ。
だから……こうしてやるよ」
宮田は頭を落とし、美耶子の乳首にちゅっと吸い付いた。
「やだお兄ちゃん! もう遅いのに……明日遅刻して犀賀先生に怒られても、知らないよ?」
「そしたら理由を説明するさ。
うちの妹がつまらないことで悩んで夜泣きするんで、遅くまであやしていて寝過ごしました。
ってな」
「もう……すぐ変なこと言うんだから」
美耶子は、宮田の頭をぺちんと叩く。宮田に宥められ、どうにか機嫌は直ったようだ。
暗い部屋には小さな忍び笑いの声が続き――
やがてそれが淫らな息遣いに変わるのに、そう長い時間はかからなかった。
今夜も宮田は、充分な睡眠時間を取れそうにない。
【Continue to NEXT LOOP…】
*このエロパロSSはフィクションであり、
実在のゲーム・キャラクター・団体・事件及び地域などとは一切関係ありません。
みやみやktkr!!
でれでれですなw
もうひとカップルもそろっちゃったことだし、
続き楽しみにしてまつ
保管庫にも超大作きてたんだ〜!
大変読み応えがありました。
今までWIKI用に編集してたのかな
演出も良かった。超GJ!
どうかこのまま平和でいてくれ…
宮田×美耶子の二話目です。今回本番なし。
月下奇人は今後も分岐を足していく予定です。
全シナリオをアップできたら保管庫かスレでお知らせします。
ゲームにしたくて吉里吉里までダウンロードしていたけれど、
文節ごとにタグを埋め込む作業に心が折れました。
床に伏した駐在警官の成れの果てを足下に置き、食堂内部を見渡した。
二十七年前の土砂災害で失われたはずの商店街。
ついさっき、バス停前で拾った恩田理沙を連れてこの地区から脱出し、
早く病院へと避難せねばならないというのに、わざわざ寄り道をしてこの大衆食堂まで来た。
ふとした気掛かりがあった。この、朽ちて荒れ果てた食堂は通らねばならない。
そんな気がしたのだ。
厨房扉の手前で不安げに佇んでいる理沙を尻目に、駐在が座っていた席を調べる。
卓の隅に、黒いパスケースを見つけた。
中に入っているのは学生証のようだ。手に取って調べる。
〈中野坂上高等学校・須田恭也〉
この近辺にある学校の名前ではない。なぜここに、こんなものがあるのだろう?
学校名、氏名の隣に添えられた学生の顔写真を見た。
十代半ばくらいの、ごく普通の少年が写っている。
真面目くさった表情を浮かべている少年の眼が、何かを訴えかけるように見返してきた――。
毎日毎日飽きもせず、暑い日々が続いていた。
暦も今日から八月。
宮田と美耶子の暮らすこの町も連日熱帯夜で、アパートの冷房はつけっ放しの状態だ。
(電気料金が物凄いことになりそうだな……)
暗澹たる思いで宮田は心に呟いたが、美耶子のことを思えばそれも致し方ない。
治安の悪いこの町で、迂闊に窓を開けて過ごすのは危険だ。
夜は言わずもがな。宮田が仕事に出ている間、
美耶子独りがアパートに取り残される昼間だって、注意は必要である。
現に以前――まだ春先のことであったが、美耶子は昼間、危険な目に合っている。
例の遊歩道に面した窓を開け、日向ぼっこをしていた美耶子の目前で、
変質者が全裸になって自慰行為をしていたことがあったのだ。
露出癖のある男からすれば、美耶子のような美少女に見られながらの自慰は、
さだめし快感であったことだろう。
ただ彼に取って誤算であったのは、美耶子が盲目で、
いかにその眼の前で卑猥な姿態を取ろうとも、全く気づかれることがなかったということだ。
しかもその時、美耶子は耳にイヤホンを挿してラジオを聴いていた。
よって、男が喚き散らしていたいやらしい言葉さえ、
彼女はまるで聞いていなかったのである。
「マムちゃんは、ババァをババァ呼ばわりするけど、
ちゃんとババァを思いやっているのが判るから、みんな怒らないんだよ」
近隣住人の通報により男が逮捕された後、事情聴取の警官に向かって、
美耶子はこのように供述した。
この事実を知った変質者は力なく項垂れ、
己の罪を悔い、故郷の母親に対する謝罪を口にしたという。
とにかく。ことほど左様に、ここは危険な町なのである。
宮田と美耶子のように、元居た土地から逃げて隠れる者に取っては、
懐の深い、居心地のいい場所ではあるのだが、常にそれ相応のリスクは覚悟せねばならない。
玄関に施錠をするという概念すら浸透していなかった、山村の暮らしとは違うのだ。
この日も宮田は、独りアパートに残した美耶子の安否を気遣いつつ、
診療所からの帰路に就いていた。
日曜日なので、本来ならば診療所は休みなのだが、
宮田はこの日、ソープ嬢達と性病の検診をする約束をしていたのだ。
四人の嬢を相手に一通りの検診を行い、
ついでに毛じらみの予防だと言って、全員の陰毛を涼しげな丸剃りにしてやった。
爽やかな気分で自転車を走らせていたのだが、自宅アパートが見えてきた辺りで、
少々不穏なものを目撃して立ち止まる。
うだるような陽射しがようやく傾きかけた、午後の遊歩道。
自宅の窓からカーテンがたなびいているのが見える。つまり、窓が開いているのだ。
そしてその窓の前で――薄い緑のワンピースを着た美耶子が、地面にうずくまっている。
美耶子の前には、リュックを背負い、モスグリーンのシャツを羽織った少年が、
棒立ちになっている。
二人のそばには、おそらくは少年のものと思われるマウンテンバイクが、
横倒しになっていた。
宮田は自転車を捨て、美耶子の元へ走った。
「美耶子!」
脇目も振らず美耶子に駆け寄り、その肩を掴む。美耶子が顔を上げた。
その瞬間、彼女の胸元が赤黒い血の色に染まっているのを見つけ、宮田はぎょっとする。
しかしそれは、美耶子の流した血ではなかった。
「ケルブ……」
それは、美耶子が大事に抱きかかえている猫、ケルブの血だった。
「君が?」
宮田は、傍らで突っ立ったままの少年に向かって問う。少年は、蒼白な顔で頷いた。
「この路をチャリで横切ろうとした時に……。
猫が居たなんて、気づかなくて……避け切れなくて、それで」
灰色の体毛をしたケルブは、石畳の地面と同化して見えにくかったのだろう。
「お兄ちゃん」
涙で顔をぐしゃぐしゃにし、すがるように宮田を仰ぎ見る美耶子から、ケルブを受け取る。
老猫は、すでに事切れていた。
「駄目だ。もう死んでる」
宮田がそう言うと、美耶子はわっと泣き伏した。
こんな場面になるといつも、宮田はどう身を処せばいいのか判らず、本当に無力だった。
もう少し婉曲した、美耶子に衝撃を与えない言い廻しをすればよかったのだろうか?
そうも考えるが、死んでいるものは死んでいるのだし、
どう言い換えようがその事実に変わりはないから、あまり意味が無いようにも思える。
宮田は美耶子の前にしゃがみ込んだまま、炎天の名残りの熱気に炙られながら、
俯いている他なかった。
「あの……」
一番先に口火を切ったのは、少年だった。
「その猫……俺がどっかに埋めてきますよ。轢いちゃったの、俺だし」
「いや、動物の死体を勝手に埋めるのは、いけないんじゃなかったかな?
どうするんだったか……生ごみで出せばいいのかな?」
宮田は顎を捻る。
美耶子が顔を上げた。決然とした表情でまず宮田に一発。次いで立ち上がり、少年にも一発。
盲人とは思われぬほどに敏捷な仕草で、感性の鈍い二人の男どもに、
鋭い平手打ちを食らわせたのだった。
「まあ座ってくれ」
アイス珈琲を淹れたコップを二つ手に持ち、宮田は少年に声をかけた。
少年は「どうも」と口の中で言い、ソファーの隅に腰を下ろした。
少年の乗っていたマウンテンバイクは、タイヤがパンクしていた。
ケルブを轢いた時、一緒に何かの破片でも踏んだものか。
近くの自転車屋まで連れて行ってやったが、日曜なので閉まっていた。
それで仕方なく、アパートへと一時撤退した訳だ。
「あの……妹さん、大丈夫なんですかね?」
アコーディオンカーテンを閉め切った寝室を見やり、声を潜めて少年は問う。
あの後美耶子は、ケルブの亡骸を抱いたまま離さず、自転車屋へ出かける二人に背を向け、
寝室に篭ってしまっていた。
部屋に居るのは間違いないが、二人が帰っても何も反応しない。
「放っておけばいいさ。単に不貞腐れてるだけなんだから。気が済んだら出てくるだろう」
「で、でも……」
「いいんだ。そもそも俺の留守中、
勝手に窓を開けてはいけないという約束を破ったあいつにだって、非はあるんだから」
宮田はカーペットの床にどっかりと腰を下ろし、アイス珈琲を一気に飲み干した。
実際宮田は、美耶子のことはあまり心配していなかった。
出掛けに聞こえていたすすり泣きの声も今はやんでいる。泣き疲れて眠ったか。
それより今気になっていたのは、この、眼の前に居る少年の方だった。
「君はどこから来たんだ? この辺に住んでる人ではないだろう」
宮田が訊くと、少年はこっくり頷いた。
「俺……東京から来たんです」
「東京から? まさかあのマウンテンバイクでか?」
「いや、この地方に来るまでは列車を使いました。マウンテンバイクを持って来たのは、
こっちで色々と見て廻るつもりだったから」
少年の説明によると――
東京の高校生である彼は、夏休みを利用し、
この地方の有名ミステリースポットを巡る計画を立てていたのだという。
「俺、オカルトマニアなんですよ。
ネットとかで面白そうな場所見つけては、そこへ探検に出かけるのが趣味なんです」
暇を見つけて、いわく因縁のある廃墟などに赴いてはそこの写真をデジカメで撮り、
感想レポートを添えてインターネット上にアップする。
一年ほど前から彼はそんな遊びをしていたのだが、
最近、そのミステリーレポートのネタに困るようになってきたそうだ。
「もう、東京近郊のめぼしい場所にはほとんど行っちゃったんです。
俺のアップ、楽しみにしてくれてる人も居るのに、申し訳なくて……。
それでこの夏休みに思い切って遠出して、余所の土地のスポットも廻ってみようかなあ、
って」
彼はこの夏、この町を拠点に、一週間ほどかけてオカルト探訪をするつもりでいた。
なるほどこの町なら、日雇い労働者向けの簡易宿泊所がごまんとある。
近年は外国人バックパッカーも多数訪れ、利用しているのだとも聞いた。
「……それで今日この町に着いて、ちょっと町ん中見て廻ってから宿を取ろうかなあって、
思ってたんすけど……まさか、あんな大変なことしでかすなんて」
「もうそのことは気にしなくていいよ、本当に。
仕方のないことだし、君も悪気があった訳じゃないんだろ?
美耶子だってそれは判っているはずだ。そうだろう、美耶子?」
宮田は、アコーディオンカーテンをばっと引いた。
驚いたことに、カーテンの向こうでは、美耶子がケルブを抱いて立ち尽くしていた。
その状態で、二人の話を立ち聞きしていたものと思われる。
少年は、ぽかんと口を開けて美耶子を見つめる。
美耶子は、顔をしかめてそっぽを向いた。
「それで美耶子。ケルブをどうするんだ?
腐敗して白骨化するまで、そうして抱いているつもりか?」
宮田が言うと、美耶子は険のある眼つきを見せたが、何も言い返すことなく眼を閉じ、
ケルブに頬擦りをして答えた。
「ケルブのお墓、作る」
ケルブを埋葬する場所に、宮田はアパート裏の花壇を提案した。
花壇と言ってもそれは、アパート駐車場の縁に作られた、
ささやかな植え込みスペースに過ぎない。
宮田は、近い場所がよかろうと思ってそこを挙げただけなのだが、
花のある場所にケルブを埋葬するというのが、美耶子の感傷的な心情に合致したらしく、
彼女はえらくご満悦の様子だった。
埋葬には宮田が付き添うつもりでいたが、少年は、どうしても自分が行きたいと言い張った。
彼なりに責任を感じてのことらしいので、宮田はあえて異を唱えなかった。
「いちおう、気をつけてやってくれ。こいつ、ここが利かないから」
玄関先でスコップを手渡しながら、宮田は自分の眼を指さして見せる。
少年は少しびっくりした顔で美耶子を見たが、すぐに落ち着きを取り戻した。
「判りました――じゃあ行こう」
「あ、ちょっと」
宮田の呼び止める声に、二人は振り向く。
コンクリで造られた、薄暗いアパート通路の中央に立つ彼らは、
その釣り合いの取れた衣装の色合いといい、しっくりと釣り合いの取れた様子が、
さながら、子供向け冒険小説の主人公とヒロインの図、といった感じで、
どうも、何かの物語を予感させている気がしてならない。
「どうしたんですか?」
呼び止めたまま何も言わない宮田を前に、少年が不思議そうに口を開く。
宮田は少し照れ臭そうに頭を掻き、少年に言った。
「いや……そういえばまだ、君の名前を聞いていなかったよな」
「ああ。俺、恭也っていいます。須田恭也」
眩いくらいに明るい笑顔を見せ、少年はそう名乗った。
恭也と美耶子がケルブの埋葬に出ている間、宮田は三人分の夕食を作って待っていた。
飯を炊き、冷凍食品等を温めるだけだから大した手間ではない。
三十分もすれば戻るだろうと見当をつけた宮田の予測から少し遅れ、
四十分ほど経ってから二人が戻って来た頃には、すっかり食事も出来上がった。
「泥だらけだな。恭也君、先に風呂入ったらどうだ?」
恭也の手や衣服には泥汚れのみならず、ケルブの流した血液もこびりついていた。
今日逢ったばかりの、見ず知らずの人間に風呂と食事を勧められた恭也は、
さすがに遠慮をしてみせる。
しかし美耶子に、
「いいから早く入ってきなよ。それまで、ご飯待っててあげるから」
と言われると、大人しくタオルと着替えを持って浴室に向かうのだった。
「ねえお兄ちゃん」
恭也がシャワーを使う音が響き出すのを待つように、美耶子が口を開いた。
「あのねあのね、恭也ってね……ちょっとエッチだよ」
「何かされたのか?」
「ううん、何も。でもね……恭也の眼、私の胸ん処いっぱい見てたの」
宮田は美耶子の胸元を見た。
淡い緑の格子柄ワンピースは襟ぐりの深い作りになっていて、彼女が少し前屈みになれば、
そのふっくら盛り上がった白い膨らみが、頂点の辺りまで見えそうになるほどのものだった。
「まあそのぐらいなら、しょうがないさ。気にするほどのもんじゃない」
そう言って美耶子の頭をぐしゃぐしゃと掻き廻すが、宮田の心は僅かにざわめいていた。
それは、恭也が美耶子の肉体を意識していたことに対してのものではない。
美耶子が――出逢って間もない恭也に、簡単に打ち解けてしまったことに対してだった。
羽生蛇村では家族も含め、ほとんど他者と接することなく過ごしてきた美耶子は、
並外れて人見知りの激しい、人との付き合いが下手な少女に育っていた。
それは当初、宮田が考えていた以上に根深いものだった。
なにせ美耶子は、この土地に来て宮田に教えられるまで、いわゆる敬語はもちろんのこと、
「おはよう」とか「こんにちは」などといった普通の挨拶の言葉すら、
口にしたことがなかったのだ。
それに、都会の雑多な人間達そのものにも馴染めなかった。
始めのうちはあの、人当たりのいい看護婦の幸江に対してさえ物怖じしてしまい、
いくら挨拶を促しても、宮田の背中にへばりついて震えているばかりという有様だったのだ。
それなのに――。
いくらあの頃よりも美耶子が町に慣れ、人間に慣れた賜物とはいえ。
初対面の少年と二人きりになることを恐れなかったどころか、
すぐさま「恭也」と名前を呼び捨てにし、
ケルブが死んだことを忘れてしまったようなはしゃぎ振りで、彼の話しに興じるとは。
――いや……。
宮田は小さく唇の端を上げ、己の中の憂鬱な暗雲を払いのけようとする。
美耶子が同年代の少年と仲良くなれたというのは、喜ばしいことに違いない。
それは美耶子の精神的な成長を意味している。
美耶子が、人として当たり前の社会性を身に着けつつあるという、証明でもあるのだから。
気がつくと、普段よりも一人分多い夕食を居間のテーブルに並べる宮田を、
部屋の隅に立った美耶子がじっと見つめていた。
いや、実際にその眼が宮田を見ている訳ではないのだろう。
けれど美耶子はひどく鋭い、心の深淵までも見透かすような視線を、宮田に向けているのだ。
美耶子が時おり見せる不思議な眼差し。
もしかすると彼女は本当に、人の心の内部を覗けるのかもしれない。
通常の視力を持たない代償は、幻視能力だけではないのかも――。
(美耶子……お前のその眼に、俺はどんな風に映っているんだ?)
戯れに宮田は、心の中で美耶子に問いかけてみる。
けれど美耶子は、何も答えはしない。
宮田を見ていた視線もいつしか外してしまい、つまらなそうな表情を浮かべ、
あらぬ方向に顔をそむけてしまった。
恭也の入浴は、烏の行水だった。
「本当に、ちゃんと洗ってきたの?」
いつも宮田と長い時間をかけて入浴している美耶子は、五分足らずで出てきた恭也に、
驚き呆れる様子を隠せない。
「……洗ったっての」
口を尖らせる恭也を居間に招き入れ、三人での夕食を始める。
小さなソファーに宮田と美耶子が並んで掛け、恭也には床の座布団に座って貰った。
その座布団はもともとケルブ愛用のものであったが、宮田も美耶子も、
それには触れないでおいた。
「全然、普通の人とおんなじなんですね」
美耶子が器用に箸を使う様子を見て、恭也は感心したように言った。
「もう、ずっとだから」
おそらくは宮田に向かって言ったと思われる恭也の言葉に、美耶子は自分で答える。
「生まれた時からだもんな」
宮田もまた、美耶子の髪の毛をかき上げてやりながら答えた。
食事の時も美耶子は幻視を使っているので、誰かが見ていてさえくれれば、
食事の手を誤ることなどはない。
入浴と違って、これには介添えの必要などなかった。
しかし今夜は恭也の手前、美耶子があまりおおっぴらに幻視を使うことは、憚られた。
それで宮田は、形ばかり食事の手伝いをしてやることにする。
「美耶子、ここに唐揚げ置いとくからな」
美耶子の手を取り、小皿に触れさせ場所を知らせる。
まさしく手取り足取り、普段よりも密着しての食事に照れたのか、
美耶子はくすくすと笑っている。
「仲いいんですね」
並んで食事をする宮田と美耶子を見て、恭也は柔らかく微笑んだ。
「宮田さんは、そうやってずっと妹さんの――美耶子さんの面倒、見てきたんですか?」
「ああ、そうだ」
当然のように宮田は言う。
「美耶子の面倒は、俺が見る以外にないからな。
俺はずっと、美耶子のそばに居てやろうと決めているんだ。俺が……死ぬ時までな」
美耶子の箸が、ふっと止まる。
宮田が死ぬ時。
その時は、いつか必ず訪れる。
けれど美耶子は――。
「それじゃあ宮田さん、長生きしないと駄目ですね。なあ、そうだよね」
二人の事情を知らぬ恭也は、なんの屈託もなく宮田に、そして美耶子に言った。
美耶子は長いまつげを伏せ、
「うん……」
とだけ返した。
「美耶子の生活を補うために、盲導犬を手に入れようと思っている」
夕食が終わった後、宮田は、美耶子と恭也に向かって語り始めた。
「俺も一日中家に居て、美耶子の世話だけしているって訳にはいかないしな。
昼の間、俺の代わりに美耶子の眼になる存在は必要だ。
それも確実に、忠実に仕事をしてくれる存在が。やはり猫には荷が重かったんだ」
恭也と美耶子は黙って耳を傾けている。宮田は続けた。
「――まあそうはいっても、盲導犬というのはそう簡単に手に入る代物でもない。
費用や手間の問題もあるが、何より数が少ないからな。
欲しいと言ってはいどうぞと貰える訳じゃない。
美耶子自身にも盲導犬を使いこなす訓練が必要だし、時間がかかるだろう」
「そんな特別な犬じゃなくても大丈夫だよ? 前のケルブだって、普通の犬だった」
美耶子はそう言うが、宮田は「いや」と首を横に振った。
「美耶子は……勘がいいから、確かに現状でも、健常者と変わりなく行動できている。
村に居た頃なら、あのケルブみたいな、普通よりも少し賢くて大人しいという程度の、
ありきたりな犬でよかったのかもしれん。
しかし美耶子、ここは都会なんだ。人も車も多い。ただ外を歩くだけでも注意が必要だ。
だからこれまで、お前を独りで外に出すことができなかったんだ。
俺だって何も好きこのんで、お前をこんな狭い部屋に閉じ込め続けていた訳じゃない。
それは判ってくれるだろう?」
「うん、判ってる……」
「それにな」
と、宮田はなおも続ける。
「普通の犬ではこんなアパートじゃ飼えないよ。きちんと訓練された犬じゃないと」
美耶子は、考え込むような顔つきで口を閉ざした。
宮田は、今度は恭也の方に顔を向けた。
「それで――だ。すぐさま盲導犬を手に入れることができない以上、
美耶子は当分の間、眼になってくれる存在を奪われた状態に陥る訳だ。
俺が出勤して家を出ている間、美耶子は闇に閉ざされた世界で、
孤独に部屋に引き篭もっていなければならないことになる……」
恭也は心苦しそうに目線を落す。
「――ところがここに、思わぬ僥倖が舞い込んだ。東京から遠路はるばるやって来た高校生だ。
夏休みの暇を持て余し、胡散臭いオカルトスポット巡り以外にすることもない。
おまけに泊まる場所の当てもなく、ドヤ街の不潔な寝苦しい安宿で、
強盗や変質者の脅威に怯えながら、不遇な生活を送ろうとしているんだ」
実際のところ、この町の宿泊所も昔とは違い、
安全かつ清潔で快適なものに変わって久しいのだが、
恭也を脅しつけるため、わざと宮田はそう言っている。
「恭也君……どうだろう? 君、暫くここで過ごしていかないか?」
恭也は、丸く眼を見開いて宮田を見た。
「君がどういうスケジュールでオカルトスポットを見て廻るつもりか知らないが、
一週間の間休みなく廻ってるって訳でもないんだろ?
それだったら、日中の何時間かでも美耶子のために割いてくれれば……。
君はまあまあ人並みの寝床と風呂と、今夜食った程度の食事を、
この地方に滞在中ずっと確保できることになるんだ。しかも、完全に無料で」
「それは……すげえ助かるっていうか、まじ半端ないんすけど……でも」
恭也はちらりと美耶子に眼をやる。
果たして美耶子が自分を受け入れるのか? 恭也の気がかりは、そこにあるようだ。
「こいつなら心配ない。君のことはすっかり気に入ってるよ。俺には判る」
「お兄ちゃん!」
美耶子は頬を膨らます。そんな美耶子の肩を宮田は抱き寄せ、激しく揺さぶった。
「何だ、間違ってないだろ?
同年代の男の子とあんなに仲よさそうにしているお前を、俺は今日初めて見たぞ。
素直に認めたらどうなんだ?」
「違うもん! そんなんじゃないんだから!」
美耶子は顔を真っ赤にして立ち上がり、ぷいっと後ろを向いてしまう。
恭也は落胆を隠し切れない様子だ。
「……でも、恭也は泊まる処がなくて可哀相だから、ここに置いてやるのはいいと思う」
少しの間を置いて、背中を向けたまま、美耶子は言った。
宮田と恭也は顔を見合わせ――共に、苦笑いを浮かべた。
その後の話し合いの結果、
恭也は暫定的に、十日ほどこの部屋に滞在するということが決まった。
暫定的、というのは、恭也の旅行期間がはっきりとは決まっていなかったからだ。
最初に一週間と言っていたのも、主に金銭的な問題でそのくらいが限度だろうから、
というだけの話で、実際にはさほど綿密に計画だてて決めたものでもないらしい。
「ここに寝泊りさせて貰える、ってことだったら……せっかくだから、
遠過ぎるって理由で計画から外してた場所とかにも、行って見たいような気もします。
でも、あんまり長いとやっぱ迷惑ですかね?」
「こっちは全然構わない。“美耶子の眼”には、長く居て貰う方がむしろ助かる」
宮田は寛容な態度を示しながらも、この、どこの馬の骨とも知れぬ少年に対し、
自分がこうも気を使って歓待している理由が解せず、なんとなく落ち着かなかった。
その落ち着かなさは、恭也が当分の間この家で過ごすことが決まって、
花が咲いたように明るい、喜びの表情を露わにしている美耶子を見ることで、
いっそう明確になっていた。
「美耶子、風呂に入るぞ」
もやもやした形のない感情を持て余した宮田は、美耶子を引き連れて浴室へと逃げた。
その夜の入浴は、これまでに類を見ないほどに淡々とした、作業的なものとなった。
それは恭也の存在を意識してのことだ。
あまり長い時間、二人きりで浴室に篭っていては変に思われるだろうし、
淫らな行いに及んで声などを発し、それが聞かれてしまっては大変だ。
美耶子もこの日は、いつものように甘えてくることはなく、
宮田の泡まみれの手が全身を這い廻っても、触診を受けている時のような神妙な態度で、
じっとしているだけだった。
双方共に性的な気分に陥ることのない入浴は、日頃の半分にも満たない時間で済んだ。
風呂から上がると、恭也はテレビをつけて待っていた。
床に座り、画面に顔を向けているが、番組の内容の方は頭に入っていない様子だ。
「俺達が一緒に風呂に入ってるの、おかしいかい?」
パジャマ姿の美耶子をダイニングの椅子にかけさせ、髪を拭いてやりながら、
宮田は恭也に向かって言った。
恭也は一瞬、不穏な敵意にも似たものを発して躰を硬くしたが――
すぐにそれは治まり、今までと変わらぬ人懐っこい笑顔で、かぶりを振った。
「眼が見えないんじゃ、しょうがないっすよね」
「そうだな、しょうがない。手の掛かるやつなんだよ、こいつは」
宮田は美耶子の髪をバスタオルで挟み、ぱんぱんと叩く。
「眼もあれなんだけど、肌も弱くてね。躰を洗う時にタオルの類が使えないんだ。
だからいつも、手で洗ってる」
「手で、ですか?」
「そうだよ」
言いながら、洗面所からドライヤーを引っ張ってきてスイッチを入れる。
強い風が吹き出し、美耶子の洗い髪の表面が舞い上がった。
「手に石鹸をつけて撫でるんだ。全身を隈なくな。知ってるか?
皮膚の洗浄は本来それで充分なんだよ。ナイロンタオルなんかでごしごし擦るのは、
皮膚表面を保護するのに必要な皮脂までこそげ取ってしまうから、あまり宜しくない」
「け、けど……」
手で躰を撫で廻すなんて……という言葉を飲み込み、恭也は押し黙る。
「それに、そうして躰に触れることで、躰の状態を知ることもできるしな。
乳房を触れば、張り方でホルモンの状態が判るし、乳がんの検診にもなる。
骨が曲がっていないか。内蔵に異常はないか。それだけじゃない。生殖器を指で探れば……」
「お兄ちゃん」
美耶子が、ドライヤーを使う宮田の腕を押しこくった。
「ああごめん、熱かったか?」
美耶子は緊張したように肩を怒らせ、火照った肌を汗の雫でぬめらせて、俯いた。
恭也はそんな美耶子にちらりと眼をくれ、横を向く。
憮然とした表情。しかし、こちらを向いた耳が真っ赤に染まっている。
宮田は、彼らのぎこちない態度に全く気づいていないような無反応を決め込み、
美耶子の髪の毛の束をを掴んでは熱風に当てる作業のみ、淡々と行った。
いつもより少々雑に美耶子の髪を乾かし終えた宮田は、恭也の寝床を用意しにかかった。
「こいつが、真の姿を現す時が来たな」
ソファーの背もたれを倒すと、それはフラットなソファーベッドに変じる。
別にどうってことのない、ありきたりなものなのだが、美耶子はとてもびっくりして、
「凄い凄い」と手を叩いた。
美耶子の無邪気さに恭也は呆れる。
「君ってほんとに子供だよな」
からかい口調で恭也に言われると、美耶子は「いーっ」と、顔をしかめた。
その表情は、完全に子供だ。
しかし宮田は知っている。
彼女がそんな無邪気さ、あどけなさとはまったく別の、妖艶な女の顔も持っている、
ということを。
恭也が思いも寄らないであろう、美耶子の房事での姿を思い起こすと、
宮田は胸のすくような優越感に充たされ、気持ちが楽になった。
ソファーをベッドに変えると、狭い居間はよりいっそう狭くなった。
まだ宵の口だったが、彼らはもう寝てしまうことにした。
「俺達はこっちに引っ込むけど、君は好きにしてていいよ。
テレビを見るもよし。冷蔵庫のものだって、適当に飲み食いして構わん」
美耶子の肩を抱いて寝室に入り、アコーディオンカーテンの隙間から宮田は言った。
「いや、俺ももう寝ますよ。色々……疲れちゃったし」
宮田に渡されたタオルケットを手に、恭也は答える。
「そうか。じゃあおやすみ」
「おやすみなさい」
「……おやすみ」
宮田と恭也、そして美耶子は、それぞれに声をかけ合う。
そして、アコーディオンカーテンは閉められた。
電気を消してベッドに横たわると、エアコンの運転音がやけに耳についた。
暗闇の中、宮田は、隣に寄りそう美耶子の腕を、ゆっくりと撫で摩る。
今日は、美耶子の生理が明けているはずだった。
いつもなら、束の間の禁欲状態から開放された美耶子の躰を思う存分責め立て、
随喜の涙に咽んで、気も狂わんばかりになるまで追いつめてやるところだが、
今宵それはできない。
ほとんど厚さのないアコーディオンカーテンの向こう側に、赤の他人がいる状態では、
さすがにそんな気にはなれなかった。
それは美耶子もやはり同じのようで、宮田の躰にぴったり身を寄せてはいるものの、
それ以上の生々しい接触を望んでいる素振りは見せなかった。
互いの吐息を間近な位置で感じ合いながら。
二人の意識は、眠りの世界に少しずつ引き込まれ、間もなく途絶えてしまった。
エアコンの室外機が、突然唸り出す音を聞き、宮田の意識が浮上した。
未だ真夜中だ。
つい今しがたまで、なんだか妙に印象の強い夢を見ていた気もするが、
眼が覚めると同時にすっかり消え失せてしまい、覚えていない。
その夢には、確か恭也も出てきたように思えるのだが――。
その恭也はといえば、左側にある居間の方で、大人しい鼾を規則的に響かせ、
未だ眠りのさなかにある。
右側で壁に沿って寝ている美耶子は横向きに、宮田に背を向けているようだ。
違和感を覚えたのは、その息遣いのせいだった。
寝息にしては浅く、乱れて震えているようでもある。
シーツを伝い、小刻みな震動が伝わっていた。
その震動は下の方――美耶子の腰のある辺り、いやもっと正確にいえば、
美耶子の股間の辺りから、密やかに起こっているらしかった。
宮田は腕を伸ばし、後ろ向きの美耶子の股座に、すっと手を差し挿れた。
裸の皮膚がそこにあった。
ずり下ろしたパジャマのズボンと下着の中から。
熱く湿った尻たぶの間で、ぬらぬらと濡れた肛門の手触り。
そして会陰の上で、ぬめってふやけきった指先の爪が、宮田の爪とぶつかって、
かちりと鳴る感覚。
微震動が、ぴたっと止まった。
宮田は手の指を滑らせ、自らの性器を覆っている美耶子の手を掴んだ。
美耶子が自慰行為を覚えていたことは、宮田からすれば案外であった。
この一年の間、様々な教育の合間にいつか教えてやろうと思ってはいたが、
まさか自分で勝手に覚えてしまうとは。
美耶子の手を探ってみると、彼女は中指を膣の穴に埋め込んでいる様子だった。
穴からは、物凄い量のよがり汁が溢れ出し、
こうしている間にもどくどくと湧いて流れ、陰部から指の股からもうべっとりだ。
――陰核は触っていなかったのだろうか?
そう思い、まずは親指を調べてみるが、他の指と比べても、それほど濡れている様子はない。
もう一方の手は、と手を動かせば、それはかなり上の方、
パジャマの上着の中に潜り込んでいた。
パジャマの中で、乳房の膨らみをぎゅっと握り締めていた。
宮田はそっと寝返りを打つと美耶子の背中に寄り添い、パジャマの釦を外した。
乳房に宛がわれている美耶子の手を、上から押さえる。
その指先は、しっとり湿っていた。
おそらくは、つい先ほどまで、こっちの指で陰核も刺激していたのだろう。
宮田は乳房から彼女自身の手を取り外して、乳房に触れた。
いやに乳首がぬらついている。
美耶子は、膣孔から漏れ出る淫水を乳首に塗り込めていたようだ。
「う……」
宮田はぬめった乳首を、人さし指で素早く弾いて震動させた。
すると股間を弄っている方の手が、再び蠢き出した。
「お前……いつもこんなことしてたのか?」
美耶子の肩に顎を乗せ、宮田は耳元に囁いた。
「俺が居ない時にやってたのか? いつからだ?」
「……夜中、お兄ちゃんがあれの最中に、診療所に呼ばれて行ったその後に」
それだったら随分前のことだ。宮田は驚いた。
犀賀診療所での仕事にも慣れた昨年の晩秋、
宮田は美耶子と交接を行っている途中、急患で呼び出しを喰らったことがあった。
宮田は美耶子の中から陰茎を引き抜くと、濡れた箇所の始末もそこそこに、
自転車を飛ばして診療所へ駆けつけた。
犀賀と二人で患者の救急処置を施し、一命を取り留めた処で設備の整った大病院に搬送し、
その日はそのまま診療所で仮眠を取った。
アパートに戻ったのは、その後一日の勤務が終わってからだった。
確かにあの時、美耶子からすればいきなり性交を中断された状態で、躰が燃え上がって、
居ても立ってもいられなかったことだろうとは思う。
――それで、独りで処理したって訳か……。
宮田が乳房を愛撫している合間に、美耶子は両手を使って性器を玩弄していた。
片方の手の指を膣に挿入し、もう片方の手の指は、陰核を手淫しているらしい。
宮田が両乳房を揉みしだき、乳首をきゅっと摘まんでやると、
美耶子はぐうっと頭を反らせる。
だが、それでも彼女は快楽に喘ぐ声を漏らしはしない。
やはり、隣の部屋を気にしているのだ。
荒くなる吐息さえも我慢しようとしている風で、食いしばる歯の軋む音が、
すり寄せた耳に聞こえていた。
なのに自慰行為をやめようとしないのは、もう快感の頂点が近いからだろう。
今さらやめることのできないくらい、性器が気持ちよくなってしまったのだ。
美耶子の背後から手を廻して乳房を捏ねくる宮田は、片手を下ろし、
自ら快楽を貪っている美耶子の手の動きを、触れて確かめた。
柔らかな恥毛を掻き分けて陰核を擦る指先は、すりすりと忙しなく動き、
膣の穴に突き挿さった指の方は、彼女の欲望の深さを表すかのように貪婪に、
凄い速度の抜き挿しをして膣の内部を攪拌し、淫液の飛沫を飛び散らせるのだ。
その手の所作はすっかり身に馴染んだ、自らの性感を知り尽くした女のそれだったが、
膣に突っ込んだ指がたった一本だけ、という処に、せめてもの初々しさを感じさせた。
宮田が、片手で器用に両乳首を弄りつつ、膣の周辺や会陰部をぐいぐい押してやると、
美耶子の膣口は、瞬く間にオルガスムスの収縮を行った。
「く……う」
美耶子は、漏れ出そうになる声を必死になって押し殺した。
独りでにぴくぴくと蠢く膣からもたらされる、蕩けそうなほどの陶酔に耐え、
長い脚をきゅっと窄めて息を震わせていた。
宮田は、全ての動作を止めて絶頂に酔い痴れている美耶子の膣の中に、
未だ彼女自身の指先が埋まったままのその場所に、脇から指を割り込ませた。
「んっ……!」
尋常ではないほどに熱を持った粘膜の肉襞は、新たな異物の侵入に少し緊張するが、
すぐに歓びでざわめき、もっと奥へといざなうように吸い付いた。
動かすこともままならないほどに狭窄な肉筒の中で、宮田の指は美耶子のそれと重なり、
締め上げられて鬱血してしまう。
それでも強引に指を曲げ、膣の上の方、陰核の裏側に当たる箇所を、こりこり刺激する。
美耶子の肩が、わなわなと震えた。
「……はあっ、う……くぅ」
続けざまに快楽の発作に陥った美耶子は、火のような吐息を吐いた。
痙攣の只中にある膣口から零れた淫水は、股の下から流れ、
シーツに恥ずかしい染みを作っていることだろう。
堪らないオルガスムスがゆるゆると続く中、美耶子は渾身の力で躰を動かし、
宮田の方を向いた。
ざんばらに乱した髪の隙間から恨みがましい眼を覗かせ、宮田の股間に手を這わせると、
陰茎を掴み出して握った。
すでに勃起しかけていたそれは、美耶子の指の中でむくむくと膨れ上がり、
充血して硬く強張る。
(欲しいのか……)
宮田は美耶子の腰を抱きかかえようとするが、美耶子はそれを拒んで押し返した。
「大人しくして。手でやってあげるから」
声を潜めてそう言うと、膣から出た淫水にまみれた指で、
宮田の陰茎をぬちゃぬちゃと摩擦する。
本格的な交接となれば、どれだけ静かに行おうとも、それなりの物音がしてしまう。
美耶子はそれを恐れていた。
音を立てて、隣室の恭也に気づかれることは避けたい。そう考えていたのだ。
宮田は、それを圧して姦してやろうかとも思ったが、あまりに大人げがない気がして、
やめた。
その代わり、また美耶子の陰部を手淫することにした。
「んんっ」
宮田に縮こまりかけた陰核を摘ままれて、声が出そうになった美耶子は、
空いた手で口を塞いだ。
そして、より熱心に宮田の陰茎を扱き立てる。
宮田と美耶子は並んで仰臥し、腕を交差させて互いの性器を手淫し合った。
声を殺し、物音を立てぬように注意しながらの弄り合いは、殊の外刺激があって興奮した。
もし、こんな場面を隣室の少年に見られてしまったら……。
下着をずり下ろし、陰茎を勃起させ、女陰を濡らしてぴちゃぴちゃ鳴らしている、
みっともないこんな有様が、ばれてしまったら……。
そんな緊張感は劣情を煽り、それぞれの性器の充血に一役買った。
結局そのあと、二人は夜が白むまで手淫を続け――
美耶子が十三回、宮田も三回、絶頂を繰り返すこととなるのであった。
【Continue to NEXT LOOP…】
*このエロパロSSはフィクションであり、
実在のゲーム・キャラクター・団体・事件及び地域などとは一切関係ありません。
こんなに早く続きがくるとは…!恭也が現われて波乱の予感。すごく面白かったです!続き楽しみにしてます。
ていうか月下奇人もあなただったんですね。いつもお疲れ様です。
ずっとタイトルを付け忘れてました。
今回から付けます。
次回の投下は少し先になりそうです。
辿り着いた病院は、見知らぬ病院だった。
あの商店街と同じく、二十七年前に消えたはずの病院。
奇妙な胸騒ぎ。これがあの夢と同じ場所であるのなら――ここには、あれがあるはずだ――。
「お姉ちゃん!」
物思いを遮るように、理沙が叫んだ。
窓に駆け寄る。
しかし窓の向こう、霧に包まれた中庭に、何も見つけることはできなかった……。
「宮田先生――宮田先生!」
聴診器を持ったままぼんやりしている宮田に、患者の母親が呼びかける。
宮田は、ふっと我を取り戻して眼の前の患者を見た。
もうすぐ四歳になる男の子が、両手で自分のシャツをまくり、宮田の診断を待っていた。
「ああ……特に変な音はしませんね。肺炎の心配はないでしょう」
宮田は穏やかな声で言うが、母親は何やら気まずそうな顔をしている。
「あのう……先生? ちょっとその……」
「はい? どうされましたか?」
「いやあの、それなんですけどぉ」
母親が聴診器を指して口ごもる。宮田は少し苛立った。
「何か問題があるならはっきりおっしゃって下さい」
「はあ。それじゃあまあ、言いますけどねぇ……それ、耳に挿しとかないと、
意味ないんちゃいますのん?」
聴診器のイヤピースは、首にぶらさがったままになっていた。
これでは何も聴こえないのは当然だ。
幼子が、「いみない」と、喉の炎症にしゃがれた声で、母親の言葉を復唱した。
「らしくないわねえ。あなたがあんなヘマやらかすなんて」
患者親子が帰った後、幸江が含み笑いをして言った。
「今日は、朝からずっと塞ぎ込んでたわよねえ? 何か悩み事でもあるの?」
「いや、別に悩み事って訳じゃないんですが……」
答える宮田の声音には、疲労が滲んでいる。
須田恭也が宮田のアパートに滞在するようになってから、今日で四日目だ。
恭也は、連日ミステリースポット巡りに飛び廻る一方で、
宮田の留守中、美耶子の手助けをするという仕事を、忠実にこなしていた。
朝、宮田が出勤して暫く後に起床し、日中は部屋の掃除や洗濯などの家事をしつつ、
アパートで美耶子と過ごす。
ミステリースポットへは、夕方になってから出かけた。
「こっちとしても、その方が都合いいんです。
やっぱそういう場所調べに行くのは、暗くなってからの方が雰囲気ありますから」
初日、夜遅くに戻った恭也は、宮田にそう話した。
確かに、彼がそういうスケジュールで動いてくれれば、
美耶子の孤独な時間は宮田が帰宅するまでの二、三時間で済むから、
どちらに取っても利がある。
これまで、宮田が独りで背負い込んでいた雑多な家事をも手伝って貰えているし、
宮田からした処で、いいこと尽くめのはずなのだ。
問題があるとすれば――やはりそれは、美耶子との性の営みに関してのことだ。
「お帰りなさい、お兄ちゃん!」
いつになく弾んだ声と同時に、美耶子は宮田に抱きついた。
これもまた初日、どうなることかと気にかけつつも出勤した宮田が、一日を終えて戻った、
玄関先でのことである。
「あのね、恭也は今日、トンネル見に行くんだって」
美耶子はその日恭也と話したことを、仔細に渡って宮田に伝えた。
それは、宮田が帰宅してからずっとずっと続いた。
食事中も、入浴中も、美耶子が口を閉ざすことはなかった。
宮田は、こんなによく喋る美耶子を、今まで見たことがなかった。
こんなに口を動かし、くるくると表情を変えて、身振り手振りまでも交えて。
「恭也はね、今は大手のオカルト掲示板にスレッド立てて投稿してるだけなんだけど、
もうすぐ自分のサイトを開くんだって。
それで、来年車の免許を取ったら、もっともっと色んな場所に行くんだって。
ネット上で友達も沢山できたから、そういう人達と集まって、
オフのツアーを組んだりもしたいって……」
美耶子が早口でまくし立てる話の内容は、宮田には半分ぐらいしか理解し切れなかった。
美耶子にしたところで、口にしている単語の数々は全て恭也の受け売りで、
ちゃんと理解している訳ではあるまい。
けれど美耶子は、そのよく判りもしない恭也の話を、嬉々として語り続けるのだ。
宮田はそれを美耶子の望ましい成長の証と考え、辛抱強く耳を傾け、付き合い続けた。
恭也が帰って来ると、美耶子はすぐさま彼に、その日の冒険の土産話をねだった。
使い古したおもちゃのように宮田を放り出し、ずっと恭也のそばにくっついて廻る。
これには、鷹揚な性格の恭也も、さすがに閉口したようだ。
なにせ恭也が便所に行こうが風呂に入ろうが、お構いなしで話を聞き出そうとするのだから。
「美耶子、そのぐらいにしといてやれよ。恭也君が可哀相だろ」
見かねた宮田がそうたしなめるが、美耶子は止まらなかった。
「ねえ、写真も撮ったんでしょ? 見せて見せて?」
「見せろったって……君、見れないじゃん」
「いいから! 大丈夫だから! ねえ早く出してよぉ」
仕方なく恭也は、デジカメの記録画像を、小さなモニターに映し出して見せた。
「……暗くて小さくてよく判んない」
「パソコンがあれば、もっと大きく表示できるんだけどなあ」
「お兄ちゃん、パソコンだって!」
この家には、ほとんど使われたことのないノートパソコンが眠っていた。
以前診療所で使っていたものを、買い換えた時に譲って貰ったのだ。
いつか本格的に勉強しようと思いつつ、時の過ぎ行くままに放置していたそれを、
恭也は手慣れた様子で扱い、デジカメと繋いで、画像を大きく写し出した。
「……ほら、これがトンネルの入口。んでこれが、近くにあったなぞのお地蔵さん……
ほんとに判ってんの?」
次々に画像を表示しつつ恭也は、疑り深げに美耶子を見る。
「少しは判ってるはずだよ。全盲じゃないから。
光とか輪郭とか……それぐらいなら、ぼんやりと見えているはずだ」
宮田は仕方なくそう言った。
現実には美耶子は全盲なのだが、幻視能力の説明は難しいし、
それを判らせたとして、恭也がそれについて良い印象を抱くとも思えない。
そんな宮田の懸念には気づかず、恭也は美耶子に写真の説明を続ける。
「ここは幽霊トンネルとか言われててさ。
落ち武者の霊とか、そういうのの目撃談に事欠かないんだ。
俺も、通った時何となくぞくぞくっと来て……」
「ここ、何もないよ?」
トンネルの画像に見入っていた美耶子が、ぽつりと呟いた。
「何もないって?」
「幽霊なんて居ないってこと。だって何にも見えないし、感じない」
美耶子は眼を閉じ、画面に手をかざして言った。
「このトンネルより、さっきの崖の写真の方が気になったよ。
幽霊とかと違うけど、ちょっとだけ……あの世に近い場所って感じがした」
恭也は勢い込んで尋ねた。
「ちょっ、それって……もしかして君、見える人なの?」
「ううん。眼は見えない」
「いや、眼とかじゃなくてさ! 幽霊とかそういうの、判んのかって」
「おかしな奴は、気配ですぐ判るよ。その気になれば話しもできる……。
このアパートにもね、最初は居たの。そこの窓枠からぶら下がってたおじさん。
でも話を聞いてあげたら、もう気が済んだからって、成仏して居なくなったけど」
恭也と宮田は、硬い表情で居間の窓枠を見つめた。
「どうりで……ここの部屋だけ、他より家賃が安かった訳だ」
宮田は、ぼそっと独りごちた。
「見える人」であることが発覚した美耶子に、恭也の関心は一足飛びに高まったようである。
それもそのはず、恭也はオカルトマニアなのだ。こういった不可思議な話には目がない。
恭也と美耶子の会話は盛り上がり、いつまでも途切れることが無かった。
それはもう、宮田の入り込む隙もないほどに。
その夜は結局、夜中の二時過ぎぐらいまで二人は話し込んでいたようだった。
宮田は先に寝てしまったので正確な処は判らないが、のちに美耶子がそう言った。
深夜、ベッドの中に、息を潜めて入ってくる美耶子の気配を、微かに覚えている。
美耶子はすぐに眠ってしまった。きっと喋り疲れたのだ。
半覚醒状態の中で宮田は、眠ってしまった美耶子の躰に触れようと思ったのに、
なぜだかそれができなかった。
怖かった。
美耶子の躰の中に、恭也の残滓が残っていたら――。
そんな、あるはずもない妄想におののき、宮田は逡巡し続けた。
心身共に疲れ果て、眠らなくてはいけないのに、意識の一部分が妙に冴えて寝付かれず、
仕方がないので宮田は自慰をした。
こんな時、美耶子を裸に剥いて玩弄し、深い満足感の中で射精をしてしまえば、
そのまま眠ることができるのに。
それが叶わない今、宮田は、美耶子と恭也の安らかな寝息に挟まれたこの場所で、
息を殺して陰茎を摩擦するほかない。
異様な橙色の照明に満たされたトンネルの中や、雑草の生い茂った道路沿いの森の中で、
恭也に抱かれている美耶子の姿を脳裏に思い浮かべ、宮田は虚しい絶頂を遂げる。
惨めな想念に責め立てられながらの自慰は、歪んで捻じくれ曲がった負の快楽であった。
嫉妬と憎悪が残酷なまでに胸を焼き、心臓が高鳴って苦しくなる。
しかし、そんな狂おしさと共に湧き起こる射精は物凄く、
切羽詰った暴力的な迸りが、無理やり尿道を割って出るような痛烈な感覚が、
宮田の陰茎を苛んだ。
彼が今までの人生でついぞ味わったことのない、被虐的な快感――。
だが、所詮は自慰なので興も薄くて味気なく、一度の射精では物足りないので、
つい何度も繰り返してしまった。
何度も何度も。
まるで、射精の快感を知り初めし思春期の頃のように――。
そんな夜が、もう三晩も続いているのだ。
宮田は、今日これで何度目だか判らぬ、力ないため息をついた。
別に、今までの三日間、全く美耶子を抱いていないという訳ではない。
診療所から帰宅し、恭也が戻って来るまでの数時間は、二人きりの時間なのである。
浴室で、宮田は美耶子をいつも通り抱いた。
美耶子もさすがにこの時間だけは恭也のことを口にせず、宮田とのまぐわいに集中していた。
「うあぁ……お兄ちゃん……お兄ちゃん、怖い」
一昨日の夜、宮田は浴室で、美耶子の躰を両腕に抱え上げ、床に立ったままで陰茎を挿した。
美耶子は宮田の首に腕を廻し、脚を腰に巻きつけ、完全にぶら下がった状態だ。
以前にもこうやって美耶子を抱え、駅弁売りのような姿態で性交をしたことはある。
けれど浴室ではしたことがなかった。危ないからだ。
普段の宮田なら、こんな馬鹿げた行いに興じたりはしない。
常日頃から、冷静沈着を売りにしてきた宮田である。
羽生蛇村で病院の院長だった時代はもとより、犀賀診療所の勤務医となってからも、
その冷静さ、緊急時にも動じぬ対応の的確さは変わらず、
そういった点に関しては、あの犀賀医師が感心し、手放しで褒め称えるほどであった。
「あんまり動かない方がいい。足を滑らせて転ぶかもしれんぞ」
猛烈に突き上げられる衝撃に子宮も震え、尻をかくかく動かす美耶子に宮田は言う。
その宮田はといえば、自らの台詞に反して凄まじく腰を振るい、
泡立った淫液をあちこちに飛散させて、大変な熱の入れようである。
宮田は膣を突き上げる合間に、躰をぐっと前屈みにして美耶子を揺さぶる。
すると姿勢が不安定になって、陰茎が膣から外れそうになる。
膣穴を気持ちよく圧迫するものが抜けそうになる心細さ、そして床に落ちそうな恐怖から、
美耶子の膣はぎゅうっと締まる。
ただならぬ締め付けは宮田を夢中にさせ、彼はわざと美耶子の躰が不安定になるように、
様々に姿勢を変えるのだった。
「あぁああっ、ああぁっ、うあっ、くう、ううぅ」
恐怖と快楽に顔を歪めながら、美耶子は眦に涙を浮かべ、宮田のうなじに爪を立てる。
嗜虐的な仕打ちに及ぶ宮田が、膣を突き通す逞しい陰茎が憎らしくて、
美耶子はわざと、彼の膚を傷つけるのだ。
「うううぅ、ううっ、ああ、いや……もういや……死にたい……もう、殺してやりたい……」
意味の通らぬ世迷言を涎と共に垂れ流す唇を、宮田は強く啜った。
胸板の上で乳房が揺れる。乳首が滑る。
繋がり合った性器同士は燃えて、滴る淫液ごと発火してしまいそうだ。
異物の詰まった銃身が暴発するような勢いで、宮田は果てた。
瞼の奥底に火花が散り、耳鳴りがして意識も揺らぐ。
宮田の腕の中、美耶子の下肢が引き攣れ、腰に廻ったふくらはぎが、変な風に痙攣していた。
「うぅうんん……あぎぃ、いゃあぁあぁああぁ」
躰の芯を貫くオルガスムスの快感に、美耶子は全身を硬くした。
例によって、宮田の精液を搾り取ろうとする膣穴の蠢動だけが、なまめいて柔らかだ。
どうにもくすぐったくなった宮田は、湯船の中に美耶子を落とした。
「ああぁあ、入っちゃう……お湯、入っちゃうぅ……」
ざぶんと浴槽に沈められた美耶子の性器は、湯の中で未だひくつき、
吸引の動きをしていたので、ごくごくと飲み干すように風呂の湯を吸ってしまうのだ。
宮田は美耶子を湯船から引き上げると、後ろから抱え、
子供に小便をさせるような感じでがに股に足を開かせる。
精液や膣液と一緒くたになった風呂の湯が、穴からぴゅーっと噴き出して放物線を描く。
「美耶子、尿道口からも出てるぞ」
膣だけではなく、尿道にも湯が入ったのだろう。放物線は、二本の軌跡を描いていたのだ。
「あああ……やあぁ……漏れちゃう、漏れちゃうよぉ」
尿道口から溢れた湯が、途中から檸檬色の尿に変わっていた。
放尿しきった美耶子の性器は、恥じらいを込めてひくりと最後の痙攣をしていた。
時間を限られた二人の営みは、より激しく濃密なものになっていた。
しかしそれは、一日の内の本当に限られた間だけだった。
恭也が戻って来れば、美耶子は恭也にべったりだ。
無論それは、恭也がその日に見たこと、体験したことを知りたいという、
好奇心のみの感情がそうさせているのは明らかで、
けして美耶子が、恭也自身に特別な気持ちを抱いてのことではない、ということは判っている。
それでも美耶子が、最前までこの上なく淫らな性交に耽っていたこの娘が、
そんな素振りは一つも見せず、まるで無垢な処女でもあるかのように、
清潔で邪気のない笑顔を浮かべて恭也と接しているのを見ると、
その変わり身の早さと平然と己を偽る態度に、女の強かさが如実に現れている気がして、
宮田は複雑だった。
美耶子とベッドに入っても、隣室に恭也が居るので何もできないし、
鬱屈した感情は、表に出ることを許されずに体内を駆け巡り続け、
結局宮田は、自分の手を使って、それを陰茎の先から吐き出す行為に頼るほかなかった。
かといって、彼の中にあるわだかまりは、自慰行為などで完全に解消しきれるものでもない。
よってそれは、否応もなく何度も何度も繰り返されることとなる。
精巣の中身を全部排出し、もはや精液とも呼べないような、
ゼラチン状の薄い唾液程度のものしか出てこなくなり、ついにはそれさえ無くなって、
絶頂の痙攣を起こしても、本当に痙攣が起こるだけで煙も出ない、という域に達するまで、
執拗に続けられるのだ。
その翌朝は過度の自慰で躰はだるく、頭も上手く働かなくて、
仕事にまで差し支える破目に陥ってしまう、という体たらくだった。
その日の勤務時間が終わると、宮田は待ちかねたように診療所を飛び出した。
家路を急いだとて、アパートでは一時の爛れた交接と、
それから続く永い徒労の時間が待っているだけなのだが、
それでも宮田は、自転車を漕ぐ足を緩めることができなかった。
昼から続いていた気掛かり――今日、アパートに電話した時に誰も出なかったのだ。
宮田は昼休み、いつもアパートに電話をかけていた。
それは美耶子の無事を確認するためでもあったし、なにより、独りで寂しく過ごす美耶子が、
それを望んでいたからだ。
恭也がアパートに来てからも、もちろんそれは続けた。
「俺だ――変わりはないか?」
「うん。今ねえ、恭也がホットケーキ焼いてるの」
「あいつ料理なんかできるのか」
「時々やるって言ってたよ。家庭科の授業で習うんだって!
あのね、恭也は学校の授業で、日本史が一番好きなんだって!
それはね、日本史の先生が面白くて授業の他にも――」
「判った判った。あとは帰ってから聞くよ。昼休み終わっちまうから。じゃあな」
ここでも美耶子はやはり、恭也の話しかしなくなっていた。
それまでだったら、宮田がいつ帰るのか、宮田が今何をしているのか、
そんなことしか訊いてこなかったのに。
(子供の自立を見守る親ってのは、こんな気持ちになるものなのかね)
そんな、柄にも無く感傷的な気分で、いつものように診療所ビルの入口付近に立ち、
携帯電話を耳に当てた宮田だったが、聞こえてきたのは美耶子の声ではなく、
無機質な、留守番電話の録音メッセージであった。
(――美耶子?)
不審に思いつつ、少し間を置きもう一度かけてみたが、やはり誰も出ない。
――どうしたんだろう。
宮田は、一度アパートに戻ってみようかと思った。
だがその時、宮田の元に駆け寄ってきた人がいた。
それは、近くの定食屋の女性店員だった。
「宮田先生! 店で、怪我人が……」
宮田は上に戻って診療鞄を取ると、定食屋へ駆けつけた。
店では、フォークを持った男が頭から大量の出血をしながら暴れていた。
どうやら彼が患者らしい。
彼の足元には血の付いたビール瓶が転がり、その横に、なぜか外れたかつらも落ちている。
かなり酒が入っている様子の男の背後に忍び寄った宮田は、
後ろから羽交い絞めにしてフォークを取り上げ、男が怯んだ処で背中に馬乗りになって、
躰を押さえつけた。
宮田の拘束の下、男はなおも暴れ廻り治療どころの騒ぎではなかったが、かといって、
この状態の男に麻酔等を使うのは危険だ。
仕方がないので首根っこを手で押さえ、耳元に威しの言葉を囁きかけて大人しくさせた。
後から詳しい話を聞いてみた処、昼間から仲間と酒を飲んでいたこの患者は、
仲間に不自然なかつらを笑われたことに逆上し、
かつらを投げ捨て、自らの禿げ頭にビール瓶を叩き付けたあげく、
「同情するなら髪をくれ」などと意味不明なことを叫びながら、
店中の人間に襲いかかろうとしていたそうな。
そんな具合にその日の午後は忙しく、家に帰る暇など無いまま過ぎてしまった。
尋常ではない速さでアパートに辿り着き、
自転車のチェーンも付けないまま地面に捨て置いて、部屋に向かいドアを開ける。
部屋は、無人だった。
薄暗い居間の片隅で、留守番電話の赤いランプが、無為に点滅を繰り返していた。
メッセージは……一件。宮田が自分で入れたものしかない。
ズボンのポケットから携帯を出してみるが、もちろんそこにも、着信の形跡はない。
宮田は嫌な胸の高鳴りを抑え、部屋の中をうろつき廻った。
洗面所の洗濯機の脇には、恭也のリュックが置いたままになっている。
箪笥やクロゼットも調べたが、美耶子の衣類は全て揃っていた。
(ならば逃げ出した――って訳ではない)
宮田は、自分を落ち着かせるように胸に呟く。
しかし現実に、彼らは今現在部屋に居ない訳である。
一言の断りも無く。二人揃って、いったいどこに出かけたというのか?
「そうだ……花壇」
もしかしたら、ケルブを埋めた花壇に墓参りでもしているのではないか?
そう考えた宮田は、部屋を飛び出しアパートの裏に廻った。
陽が落ちて暗くなったアパート駐車場に、人の気配は無かった。
一応、声をかけながら付近を捜し廻ってもみたが、応える声はない。
宮田は落胆した。
もう一度携帯を見る。
(こんなことなら、美耶子にも携帯を持たせとくべきだったな……)
あるいは、恭也の携帯の番号をあらかじめ訊いておくべきだった。
己の迂闊さが今さらながらに悔やまれたが、
どちらにせよ、彼らが明確な意思を持ってアパートを抜け出していた場合、
連絡手段があったとしても、意味はないのだろうが……。
とぼとぼと道を戻り、遊歩道まで歩いてゆく。
自宅窓の前。恭也と初めて出逢った場所に立ち、遠く見える町の灯りに眼をやった。
どこかの家から漂って来る、玉ねぎを炒める香ばしい匂い。テレビの音。
子供の騒ぐ喧しい声。
ほのぼのとした家庭の気配が、宮田の孤独をいっそう際立てる。
心細さに、彼はそっと眼を閉じた。
「お兄ちゃん」
懐かしい声がした。
宮田は振り向いた。
――美耶子が居た。
美耶子は髪を後ろに束ね、バミューダパンツに紺のタンクトップという出で立ちだった。
肩から紙袋を下げ、首には見覚えのないネックレスを着けている。
美耶子の後ろには恭也が、美耶子の三倍ぐらいの大荷物を持って控えていた。
「お兄ちゃん、早かったんだね。今日は診療所、遅くまでやってる日じゃなかったっけ?」
「今月は診療時間がずれているんだ。……それより美耶子」
感情を抑え、深呼吸をしてから言う。
「どこへ行ってたんだ?」
美耶子は、恭也と二人で町中へ遊びに出かけたのだと言った。
「今日はね、恭也はミステリースポットお休みして、この町を見て廻ることにしたの。
それで私に、どこか面白い場所知らないかって……」
だが美耶子は、この町に来て一年になろうというのに、町のことは何も知らなかった。
アパートを出て歩き廻ることなどほとんどなかったのだから、当然である。
だから連れて行って欲しいと頼んだ。
恭也に、自分を町に連れて行って欲しいと頼んだのだ。
「それでね、恭也と一緒にいろんな場所を見たんだよ。
この町って、変わってて面白いね。道路に青いシートを張った小屋みたいのがいっぱいあって、
そこで物を売ってたりするの。
恭也はどれも安いって驚いてたよ。それで、私にも色んな物を買ってくれたんだ」
夜の遊歩道で、嬉々として美耶子は語った。
遊歩道を照らす街灯の下、銀色のネックレスを光らせながら――。
「そのネックレスも買って貰ったのか」
宮田が訊くと、美耶子は大きく頷いた。
「美耶子――ああいった露店で売られている品物が、どういうものだか判っているのか?」
宮田は美耶子と、その後ろで下を向いている恭也に向かって言う。
「この町のああいう露店に限って言えば、まともに仕入れた品物なんぞ、
一つも無いと断言できる。盗品か……あるいはただのゴミだ。いわゆるバッタ品ですらない。
まともな人間なら、あんな場所で物を買ったりはしない。
それを、よりにもよって装飾品だなんて……どんな不潔な代物だか判ったもんじゃない。
外した方がいいぞ」
「嫌!」
宮田の言葉を聞くと、美耶子はネックレスを庇うように握り締め、
首を横に振りつつ後ずさる。
「美耶子!」
宮田の手が振り上がった。
「やめてください!」
恭也の声にはっとした。
振り上げた手を下ろし、手の平を見つめる。
(俺は今――美耶子を殴ろうとしたのか?)
自分で自分が信じられなかった。
その場に居たたまれなくなり、逃げ出したい気分に陥る。
美耶子は何が起こっているのか判らず、険しい表情でネックレスを庇い続けているだけだ。
「……二人とも先に帰っててくれ。俺は……少し出かける」
ようやくそれだけを言うと、宮田は美耶子達の横をすり抜け、歩き去ろうとした。
「お兄ちゃん?」
「宮田さん!」
呼び止める二人の声に一瞬足を停めたが――そのまま、早足で歩き続けた。
振り返ることもなかった。
今振り返ってしまったら……彼らに対し、何を口走ってしまうか判らない。
破裂しそうな怒りと同時に、何か得体の知れない敗北感に胸を噛まれながら、
宮田は、夜の道をひたすらに突き進んだ。
あてどもなく歩き続けた宮田は、診療所ビルの前まで戻ってきてしまった。
何も考えずに歩いていたら、ついつい通り慣れた道を歩いてきてしまったようだ。
(習慣というのは、怖ろしいな)
診療所の窓を見上げると、まだ明かりがついている。
(幸江さんか犀賀先生が、残っているのかな?)
宮田はビルに入り、階段を上がった。
診療所のドアには、鍵が掛かっていた。
ノックをし、声もかけてみるが、返事はない。
少し迷ったが――宮田は、貰ってあった合鍵を使い、鍵を開けた。
診療所に入り、間仕切りの向こう側を覗くと、そこにはナース服を着た幸江の姿があった。
診察室の中央に丸椅子を置き、後ろ向きに、背中を丸めてしょんぼり座っている。
「幸江さん、何してるんだい?」
宮田が呼ぶと、幸江はゆっくり振り向いた。
幸江の顔は、昼間の時より血の気が失せて白くなっているように見えた。
年相応にふっくらと肉付きのいい躰が、なぜだかいつもよりもか細く、
小さいように感じられる。
そして、その黒目がちな瞳からは――真っ赤な血の涙が流れ落ちていた。
宮田は驚き、凍りついた。
「……あら、宮田先生」
しかし次の瞬間。幸江の姿は、普段通りの様子に戻っていた。
「どうしたの……? なんか忘れ物?」
言いながら、照れ臭そうに俯くと、しきりに眼元を擦っている。
彼女は、泣いていたようだった。
「いや……下を通りかかったら、明かりが見えたもんで……」
「そう」
幸江は椅子から立ち上がると、奥のロッカーへと向かった。ナース服を着替えるのだろう。
「……いいの? 独りにして出てきちゃって」
ロッカー前のカーテンを閉めながら、幸江は言う。
何のことか判らず訊き返そうとした刹那、それが美耶子のことを言っているのだと気づいた。
「大丈夫です。実は今……東京から、親戚の子が来てるんで」
「あらぁ、あなた達ご親戚の方がいたの」
カーテンの中から幸江は言う。
「ええまあ……遠縁なんですけどね。なんだかこの町に興味があるらしくて。
高校生の男の子なんですけど」
「それぐらいの年なら、冒険したい盛りよねえ。
だけど、よりにもよってこんな町に観光に来なくたって」
「全くですね。そう思います、俺も」
「でも良かったじゃない。美耶子ちゃんいつも独りで可哀相だったし。
さぞかし喜んでんでしょうねえ」
着替え終わった幸江が、カーテンを開けて出てきた。
「そうですね……美耶子の奴、随分明るくなったみたいです」
宮田は微笑んで答える。
診療所の出入り口前。幸江は、宮田の微笑む顔を暫くじっと見上げていたが――
目尻を下げ、本人がいつも、「小さい患者さん向け」と称している、
極上のビッグスマイルを見せた。
「じゃあ宮田先生、今夜は少し遅くなっても大丈夫なのね?」
「はあ、まあ」
「それだったら――」
と、今度は悪戯な子リスのような笑顔。
「だったらちょっと、今から付き合いなさいな。
それとも……こんなおばさんと一緒じゃあ、いやかしら?」
その台詞に相違し、有無を言わさぬ口調で彼女は言った。
幸江の向かった居酒屋は、この界隈にしては珍しいくらいに静かな、
落ち着いた雰囲気の店だった。
薄ぼんやりと間接照明の灯る店内には、
長く奥まで続いたカウンター席と、テーブル席が四つほど。
テーブル席は一つ一つが背の高い木の板で仕切られていて、世間を忍ぶ関係の男女が、
内緒の話を囁き合うのにちょうどよさそうな風情だった。
この町の飲み屋といえば、もっと大衆的でべらぼうにアテが安く、
酔った労働者達常にでごった返している、という印象があったのだが、
こんな店もあったとは驚きだ。
「あの人が見つけたのよ」
カウンターの隣の席で、幸江が言った。
幸江があの人、と言えば、それは犀賀のこと以外にない。
「ついちょっと前まで、よく一緒に来てたんだけどねえ……最後に来たのが、
五年前くらいになるかしら」
「それ、全然ちょっと前じゃないですよ」
宮田が笑うと、
「あなたはまだ若いから。私らぐらいの歳になったら、五年なんてつい最近よ」
そう言って、カンパリソーダのグラスを傾けた。
「――私とあの人ってね、駆け落ちだったんだぁ」
頬杖をつき、うっとりと瞼を伏せて幸江が言った。
「変な村だったの、私達の村。なんか、元々は隠れキリシタンの村だったらしいのね。
でもそれが時代を経て、その前から村にあった他の宗教とごちゃ混ぜになっちゃって……。
“カルト”っていうのかな? なんか、そんな感じの変な宗教になっちゃったの」
「異教の村、ですか」
羽生蛇村以外にも、そういう村があったのか。
少し複雑な気分で、宮田はビールのジョッキに口をつける。
「あの人は嫌っていたんだわ。
変な宗教とかしがらみとか、そういうのに縛られて生きるのが、本当に嫌だったって……。
もっとも、そんなこと話してくれたのは、村を出たずっと後だったけど。
村の病院の院長やってた頃は、そんな愚痴さえこぼせなくて、
独りで悩んで苦しんでたみたい」
カンパリの氷が、からんと音を立てて崩れた。
橙がかった赤い液体が、幸江の顔色を上気した色に照らした。
「あの日――あの人が、立ち入り禁止のはずの旧病棟に入っていったから、
私はこっそり後をつけたの。でもあの人には気づかれてたみたい。
廊下の角で待ち伏せされて……彼、私を捕まえて言ったわ」
「……何て言ったんです?」
言葉を切って黙りこくってしまった幸江に、宮田は先を促す。
幸江はカウンターに突っ伏し、「うふふ」と笑い声を漏らした。
「ううん。やっぱり言えない。だって恥ずかしいもん」
「何だそりゃ」
「まあとにかく。その時あの人は、もう村には居られないって思ってたみたいなのよ。
この村は狂ってるって。だから一緒に逃げようって。
私……嬉しかったぁ。あの人が私を信頼して、そう持ちかけてくれたことが。
もちろん即OKよ。そのまま二人、先生の車でこっそりと村を出たわ。
村人に見つかるとまずいからっていうんで、何の仕度もできないまま、
身一つで出て行く羽目になったけれど……私はあの人さえ居れば、それでいいと思ってた」
「そりゃあお熱いことで」
「けどね」
幸江の表情が、ふっと翳りを帯びた。
眉根が寄せられ、瞳に、澄んだ悲しみの光が宿る。
「そんな風に私達が村を捨てて逃げたその翌日、村は無くなっちゃったの」
「無くなっちゃったって? それは、どういう……」
「だからぁ! そのまんまよ! この世界から消えて無くなったの!
土砂災害で……丸ごと姿を消したのよ!」
時が止まった。
宮田は一切の表情を失い、薄暗いカウンターで、呪われた石像と化した。
「……あれから、もう二十八年が過ぎたわ。
私も、村での暮らしより、この町で過ごした時間の方が長くなった。
だけどね、あの村のことはけっして忘れられない。
残してきた家族。村や病院の人々……。私ねえ、時々考えてしまうのよ。
ひょっとして、あの村が無くなってしまったのって……私のせいなんじゃないか、って。
私が村を見捨てて逃げてしまったから……。
あの村は神様の怒りを受けて、消されてしまったんじゃないか、って。
そう考えるとねえ、私、もうどうしようもなく不安で、そして怖くなってしまうのよ。
私が捨てたせいで村は消えた。村人達もみんな死んだ。
それなのに……私だけがこうしてのうのうと生き残って、
しかも、あの人と一緒になって幸せに暮らしている。
本当に……思い返すとこの二十八年間、色んなことがあったし、大変だった時もあるけど……
私とあの人の周りには、いつでも幸せしか無かったように思えるのよ……。
あの人との関係も、ずっと変わらず上手くいっているし。
どうしてなの? 村の裏切り者であるこの私こそが、
本当なら、もっとも神様に憎まれて然るべきなんじゃないの?
それなのに、どうして私には、こんなに幸せが……」
「幸江さん」
ビールのジョッキを掴み、静かな声で宮田は言った。
「幸江さんが暮らしていた村……何という名の村なんですか?」
「村の名前? そんなの……言ったって判らないでしょう?
宮田先生が赤ん坊の頃に無くなった村なんだもの」
「いいから教えて下さい。知りたいんです」
カウンター奥に並んだ酒瓶を見据え、緊張に強張った口調で問う宮田に、
幸江は怪訝な眼を向ける。
しかしすぐに、小さく息を吐いて言った。
「まあ……別に、隠し立てする必要もないからいいけどさ。その村の名前はねぇ――」
「宮田先生、大丈夫?」
幸江が顔を覗き込んでいた。
暗くぼやけていた視界が、ゆっくりと光を取り戻して明晰さを増してゆく。
眼の前のジョッキが向こう側に倒れて、僅かに残っていたビールが、
カウンターの上に広がっている。
宮田が眼をしばたかせながらおしぼりで拭こうとすると、素早く店員が駆け寄ってきて、
始末をしてくれた。
「ああ、悪い……大丈夫ですよ幸江さん。少し酔っ払っただけだ」
店員と幸江にそれぞれ謝って見せ、宮田は手で顔を撫で上げた。
「ちょっと飲み過ぎたみたいねぇ。お冷貰おうか。すいませーん」
幸江は、空のジョッキを下げる店員に水を頼む。
「本当に大丈夫です……参ったな。
いつもなら、ビール一杯程度でこんなに酔わないんだけどなあ」
「何言ってんの。あなたはもう、大ジョッキ五杯空けてんのよ?」
「えっ? そうでしたっけ……」
宮田は記憶を辿ろうとするが、どうにもぼやけて判然としなかった。
やはり飲み過ぎのようだ。
「――それでね、さっきの話しなんだけど」
冷たい水を飲み干し、宮田がいくらか落ち着きを取り戻すのを見計らってから、
幸江は口を開いた。
「あなたの気持ちも判るけどねえ、
私は……美耶子ちゃん達に、あんまりきつく言わない方がいいと思うのよ。
そりゃあ、保護者であるあなたに黙って、勝手に遊びに出かけたのは悪いことだけどさぁ。
難しい年頃だし、あまり頭ごなしに叱りつけるのも、かえって逆効果な気がするの。
大丈夫よ。美耶子ちゃん、あんなに素直でいい子なんだから。
子供だけでこの町をうろつくのが、どれだけ危ないか。
美耶子ちゃん達の姿が見えなくて、あなたがどれほど心配したか。
そういったことを、筋道立てて話して聞かせれば、きっと判ってくれるはずよ。
ねえ? まずは落ち着くのよ? あなたにならできるはずだわね?」
宮田は幸江の並べ立てる言葉に対し、眠たそうな顔で、曖昧な相槌を打ち続けていた。
「やあねえ。ちゃんと聞いてんのぉ?」
幸江にぺちんと腕を叩かれると、陰気な笑い声を漏らす。
「美耶子も……いずれは俺のそばから離れて、どっか行っちまうんですかねえ」
「そりゃあ、しょうがないわよ。美耶子ちゃんだって、いずれは好きな人ができて、
その人と一緒になりたいって思う時が来るでしょうよ。女の子なんだもの」
突然宮田は、幸江の肩にもたれかかった。
幸江は驚く。肩の上、宮田の頭が小刻みに震えている。
「いやだ宮田先生、あんた泣いてんの?」
幸江の肩の上に顔を伏せたまま、宮田は何も返事をしない。
ため息一つ。幸江は宮田の背に腕を廻し、宥める仕草でぽんぽんと叩く。
「先の話よそんなの。まだまだ、ずっとずっと先の話――」
酒瓶の群れを通り越した遠い彼方を見つめ、幸江はそっと呟いた。
その後、幸江と別れた宮田は、ふらつく足取りでアパートに向かった。
躰に酔いは残っていたが、意識はしっかりしている。
幸江は宮田と美耶子のことを心配し、アパートまで付いて行くと言い張っていたが、
それは丁重に断った。
この町で夜に女が歩き廻るのは、危険過ぎる。
「ねえ。判ってるわね? 感情的になっては駄目よ?
美耶子ちゃんの言い分もちゃんと聴いて上げるのよ? いいわね?」
町外れの住宅街にある、犀賀と幸江のマンションの前まで彼女を送る途中、
彼女はずっとそんな忠言を繰り返していた。
「全く。おせっかいなオバハンだよなぁ……」
思い出すと笑えてくる。宮田は肩を揺らした。
あれでもきっと、若い頃にはそれ相応に愚かしく、可愛い娘だったんだろうに。
考えてみれば、惚れた男の後をこっそりつけ廻したりなんてのは、尋常な話ではない。
いくら思い募ってのこととはいえ。
そういう点からいっても、若い時分の幸江の気性が忍ばれるというものだ。
犀賀もきっと、手を焼いたことだろう――。
「ん?」
宮田は自分の回想に違和感を覚え、ふと首を捻った。
自分はいつ、幸江にそんな話を聞いたんだったか?
考えてみるが思い出せない。そもそも今夜、幸江とは美耶子の話しかしていなかったはずだ。
「いかんなぁ……やっぱり飲み過ぎた……」
軽く頭を振るう。通りがかりのコンビニエンスストアの時計を覗くと、
ちょうど十一時になろうとしているところだった。
明日も早い。さっさと帰らねば。宮田は、自宅アパートへと急いだ。
アパートに着いて玄関を開けると、居間から恭也が飛び出してきた。
「宮田さん、あのっ」
恭也は、おずおずと玄関の床に両手をついた。
「あの、すいませんでした! 俺、勝手に美耶子さんを、連れ出しちゃって……」
そう言って、頭を下げる。
「……美耶子は?」
「あ、もう寝てます……」
「そうか」
宮田は土下座をする恭也に眼もくれず、奥の寝室へと向かい、
アコーディオンカーテンを開けた。
恭也の言う通り。美耶子は明かりの消えた寝室のベッドに横になり、
頭からシーツを被っていた。
宮田は、そのシーツを剥いだ。
生成りの、病人服のような型の寝間着を着た美耶子が、怯えた眼を見開いている。
「なんだ、起きてるじゃないか」
「宮田さん……あの」
宮田の後を付いて来た恭也が、美耶子と宮田を見比べながら、困り顔で声をかける。
しかし、それでも宮田は恭也を見ず、さっさと服を脱ぎだした。
「恭也君……話なら明日にしてくれ。もう遅いし、疲れてるんだ……」
酒の臭いを散らしながら、ランニングシャツとトランクスだけの姿になって、
ベッドに入る。
美耶子の躰に、被さるように。
「お兄ちゃ……!」
恭也は、棒のように真っ直ぐに身を硬くしている美耶子と、
美耶子の躰に腕を乗せて横になった宮田の姿を、じっと見つめていた。
「……何だ? 俺達を見ていたいのか?」
「いえ!……そ、そんな」
恭也は頭を左右に振り立て、アコーディオンカーテンをがしゃがしゃ鳴らして閉めた。
寝室が暗くなる。
それでもアコーディオンカーテンの隙間から、隣の居間の明かりが漏れて入るので、
完全なる闇とはならずに、僅かな視界は確保できた。
宮田は、美耶子の隣でうつ伏せになり、彼女の胸の上に片腕を投げ出したまま、
暫く静止していた。
硬直した美耶子は天井に顔を向け、そのまま、宮田が眠ってしまうのを息詰めて待っている。
しかし残念なことに、宮田は大人しく眠りに就くつもりなど、さらさらなかったのだ。
宮田の腕は、強引な力で美耶子を抱き寄せ、骨も折れよと抱き締めた。
あまりの強さに、美耶子の喉からは、「くっ」と呻く声が押し出される。
いい匂いがした。石鹸とシャンプーの甘ったるい香り。美耶子は、風呂に入っていた。
自分の留守に、どうやって? 宮田は考える。まさか……恭也が入浴の手伝いをしたのか?
「……あいつが」
「んんっ……」
宮田の唇は、美耶子の唇に吸い付いていた。
これもまた容赦のない、物凄い力だ。
吸って吸って、吸いながら、口内粘膜を、やたらめったら舌で掻き廻す。
我ながら酷い接吻だと思った。
こんな、酒臭い口に責め立てられる美耶子は、苦痛しか感じていないのではないか?
けれどもそんな風に考えると逆に溜飲が下がって、ざまあ見ろ、といった気分にもなる。
もっともっと酷い目に合わせてやろう。宮田は、美耶子の股座を手で鷲掴みにした。
突然のことに美耶子は叫びかけたが、その唇は宮田の唇で塞がれていたので、
声は漏れなかった。
失敗したと思った。
思い切り叫ばせて、その声を恭也に聞かせてやればさぞかし面白かったろうに。
まあいい。声なんか、これから幾らも出させてやれる。
唇を合わせたまま、宮田は美耶子の上に躰を乗せた。
全くの手加減なしだ。
全体重をかけているから、美耶子の力では抜け出せまい。
現に苦しくなった美耶子が下で懸命になって暴れているようだが、こちらはびくともしない。
「あんまり暴れると、恭也君にばれるぞ」
そっと言ったつもりだったが、意外と大きな声が出てしまった。
美耶子の躰がすっと冷えて固まる。
それを幸いと、宮田は美耶子の着ているものを引き裂いた。
脱がしたのではない。本当に引き裂いたのだ。釦を外すのが面倒だったから。
ぶちぶちと釦が弾け飛んで寝間着の前が開くと、
柔らかくてもっちりとしたおっぱいが、一丁前の大人のような顔をしていて生意気だったので、
歯形がつくまで噛み付いてやった。
乳首は音を立てて力いっぱい吸い上げる。
「ひい……」
美耶子が泣き声を上げるのが面白くて、何回もやった。
「お兄ちゃん……もうやめて……」
美耶子はいまわの際のような囁き声を出して懇願するが、宮田は聞こえない振りをした。
そして、汗ばんだ下腹部に張りついた、邪魔なパンティーを剥ぎ取りにかかる。
「お兄ちゃんお願い。本当に……今だけは」
「奴と姦った後だからか」
腿を閉ざし、腰も上げない非協力的な美耶子の下半身から、
苦心して小さな布切れを取り去ると、だるそうな声で宮田は言った。
「そんな……」と絶句する美耶子の性器を探れば、陰唇はぴったり閉じたままで、
陰茎を受け入れる態勢がまるで整っていない。
だが、舌打ちをして指で広げ、膣口を探ってみると、中の粘膜はしとどに濡れそぼっていた。
やはり気持ちがどうであれ、こうして男にまさぐられれば、躰は自然と気ざしてしまう。
そういうものなのだ。
「充分いけそうだな」
乳房に向かって呟くと宮田は、酒のせいか、未だ硬くなりきらない陰茎を掴み上げ、
手の力でもって無理やりに押し込めようとする。
これは、思いのほか骨の折れる作業であった。
途中、中折れして何度も頓挫しかけるのを、膣口を捏ねくりつつ、騙し騙し押し挿れてゆく。
そんな努力は、美耶子の躰に意外な作用をもたらした。
「うぅ……はあ……はあ……あ」
美耶子の吐息が、切なく乱れて桃色に染まっている。
半ば柔らかいままの陰茎に膣口をいびられ、這入るとも這入らないともつかない、
中途半端な状態を長く続けられたせいで、じりじりと焦らされ通しの膣が勝手に昂ぶり、
火照りながらうねって、早く硬い大きなもので埋めて欲しいと、
浅ましく涎を垂らしてひくつき出したのだ。
美耶子の明らかな発情の態度に、宮田の陰茎も本気の実力を発揮して、硬さを増す。
膣の中で陰茎がむくむく大きくなるのを感じると、その充溢感から美耶子の膣も悦び震えた。
投げ出していた脚が自ら大きく広がって宮田の腰を挟み込み、
白い乳房は膨らみを増して、荒い呼吸に大きく上下した。
宮田は、久しく忘れていた心地好い密着感に、ほっとため息をつく。
考えてみれば、ここ暫くの性交は、窮屈で自由の利かない浴室でしかやっていない。
それだって別に悪くはないが、こんな風に手足を伸ばせる、
柔らかなベッドの上での行為の方が、躰も楽だし気持ちも落ち着いた。
落ち着いた処で、宮田は美耶子の乳房に顔を埋め、ゆったり腰を使い始めた。
「うぅ……ん」
詰めていた息を堪えきれずに大きく吐き出し、美耶子は少し仰け反った。
尻の下で、マットのスプリングがぎいと軋む。
どくどくと血の気が差して傘の開いた亀頭が、膣の中に湧いていたよがり汁を掻き出すと、
快楽に喘ぐ肉の穴は、じゅぶっじゅぶっ、ぶちゅぶちゅぶちゅっ、と、
卑猥で滑稽な音色を奏でた。
宮田は腰の動きを大きく、いつもより陰茎の抜き挿しをするストロークを長くしていた。
ぐっと下腹を押し付け、陰茎を毛際まで挿れられるだけ挿れたあと、
ずるずるずるっとそれを抜き出し、危うく亀頭が膣口から外れそうになるまで、
ぐうっと腰を引く。
最初は緩やかな動き。
美耶子の体温が上がり、汗に湿った躰がくにゃくにゃもじもじ身悶えし始めると、
段々動作を速くして、高まる性器の快感をよりいっそう煽り立てていった。
「はあっ、あぁあっ!」
ついに美耶子は、白い喉から明確な悦びの声を漏らし出した。
淫らな悦びにまみれた声は、それ以降、ひっきりなしに続いた。
美耶子が抑えの利かない状態になったのを知ると、宮田はそっとほくそえみ、
大きく使っていた腰の動きを短く、より素早く切迫したものにする。
ぐりぐりと。恥骨に恥骨をなすり付けるようなその腰の使い方は、この上なくふしだらで、
それでいて、人を小馬鹿にしたような印象でもあった。
しかしそれは、美耶子は当然のこと、それを実際に行っている宮田自身にだって、
あずかり知らぬ事実である。
彼らは今、性器同士を摩擦し合う行為にすっかり没頭しているのだから。
宮田は、ぬめる襞にカリ首を絡まれ、根元をどくどく絞り込まれる感覚に、
絶えず呻いていたし、美耶子は、擦れ合い縺れ合う恥毛の中で陰核を強く押しひしがれ、
そこから融けて流れてしまうような快美感に酔っていた。
「あぁあ、うあ、うぅうんっ」
みっしり埋まった陰茎に柔らかな粘膜を蹂躙されながら、
重みのかかった陰核を揉みくちゃにされる美耶子は、
もはや性悦の頂点への階段を駆け上がりつつあった。
通常であればここいらで、「お兄ちゃん、お兄ちゃん」と、
うわ言のように宮田を呼び続けるくだりだが、今夜の営みにおいてそれは無かった。
やはりまだ、心の一部分では隣を気にしていた。
こうなってしまった今でも。
それはもちろん、宮田も同様であった。
いや、彼はむしろ、はなからそれを意識して行為を始めているのだから、なおさらだろう。
がに股に押し潰した美耶子の腿の間、宮田は全く遠慮のない動きをして、
陰茎で膣を擦り立てる。
熾烈な速さで上下する躰はベッド全体を揺るがし、床を伝って壁や箪笥までをも震動させる。
その大仰な動きは、明らかに隣室の恭也を意識してのものだった。
――どうだ。お前に、この真似ができるか……?
美耶子を抱き、狂おしく喘ぐ声や、悩ましい物音を聞かせる。
宮田は年端も行かない少年に対し、自らの力を誇示して見せていた。
羞恥心も、大人としての分別も消え失せていた。
勝手な行動を取った美耶子と彼に対する憤り。もしくは、堪りに堪った鬱憤の爆発。
あるいはもっと単純に、酔って理性をなくしただけのことなのかもしれない。
別に、どうだっていいと思った。
とにかく今は、陰茎が気持ちいい。もう、いつだって射精できそうだ。
眼を落とせば、黒髪に縁取られた美耶子の顔が、しっとりと潤んだ瞳が、
あまりの恍惚に半ば閉ざされながらも、救いを求めて宮田を見上げていた。
彼女も、限界に達しようとしている。
煮え立ってぬかるんだ膣の奥はもどかしく、むず痒いように疼いて切ない。
何とかして。これを、何とかして欲しい。
そう訴えかけている美耶子の瞳を見据えた宮田は、彼女の両膝を裏から抱え上げると、
宮田の体重に押し潰され、ひしゃげていた尻を持ち上げ、
腰を上げてほぼ真上から、浅くなった膣の最奥をずしんと貫いた。
子宮頚管。すなわち、膣にせり出した子宮の入口を亀頭が小突いた瞬間、
美耶子は今までに出したことのない、獣じみた咆哮を上げた。
端整な麗しい顔を醜く歪め、全身で魚のようにびたんびたんとのた打ち廻り、
白目を剥いたあげくに、上と下、両方の唇の端から泡を吹いて、大きく痙攣した。
その美耶子の醜態を見つめながら、宮田も果てた。
どっくんどっくん脈動しながら迸り出るさなか、
宮田は、閉ざされたアコーディオンカーテンに眼を向ける。
隣室からは、何の気配も感じられない。
しかし宮田は知っている。
カーテンを閉めて以降、恭也はその前から一切動いていない。
今だって、その向こう側に息を潜めて立ち尽くしているはずだった。
彼は今、どんな顔をしているのだろう。そして、何を思っているのだろうか?
燃え尽きたような躰を美耶子の横に投げ出し、
シーツの上に息を吐きながら、宮田はそれを、とても知りたいと思った。
【Continue to NEXT LOOP…】
*このエロパロSSはフィクションであり、
実在のゲーム・キャラクター・団体・事件及び地域などとは一切関係ありません。
どーなるんだ
無理をせず、また続きを投下しに来てください
宮田かなりまいってるね…
みやこは恭也と、宮田のことをどう思ってるんだろう。続き待ってます!
今頃、羽生蛇村では異変の真っ最中でしょうかね。
注意事項:今回、中盤に若干のグロ描写があります。
病院の中を彷徨い歩いていた。
あいつを――あの女を見つけ出さなくてはならない。
地階に辿り着く。
ここには倉庫の他に、ボイラー室と霊安室ぐらいしかない。
――どこに居やがる……?
取りあえず、ボイラー室の扉を開けてみた。
一見無人に見えた暗い部屋の天井から、奴は舞い降りた。
血と泥にまみれたナース服。
身にまとう衣服同様、変わり果ててしまったその顔。
あまりにもおぞましい、いっそ笑いを催すほどに酷いその顔。
叫び出したくなる気持ちを抑え、手の中にある金槌を構えた――。
眼を覚まして携帯を開くと、時計は九時を廻っていた。
ぎょっとして飛び起きた処で、今日が日曜であったことを思い出し、またベッドに寝直した。
ため息と共に天井を見上げる。
隣に美耶子は居ない。
ダイニングの方で小さくラジオの音がするから、多分起きてそこに居るのだろう。
食事は、テーブルにパンを置いておいたから、それで済ませているはずだ。
(もう一眠りするかな……)
気だるく寝返りを打ち、宮田は眼を閉じた。
三日前の夜以来、恭也はアパートから姿を消していた。
恭也が居間で聞き耳を立てている隣で、おおっぴらに美耶子を抱いた、あの夜以来である。
あの翌朝、起きた時に彼の姿はすでに無く、荷物も無くなっていた。
居間のテーブルに「今までお世話になりました ありがとうございました」
とだけ書かれたメモが残されていたことからも、彼が自分の意志で出て行ったことは、
明白だった。
意外だったのは、美耶子の反応が薄かったことだ。
恭也が黙って姿を消したことを告げても、少し寂しそうな表情を見せただけで、
特に何も言いはしなかった。
もっとも美耶子からすれば、自分と宮田の関係が恭也に知れてしまった自覚もあるだろうし、
彼に合わせる顔も無い、という気持ちもあるのかもしれない。
すなわち、恭也に対する執着よりも、恥じ入る気持ちの方が強かった、
ということなのだろう。
しかし、もちろん美耶子が、恭也の失踪を歓迎するはずもない。
おかげでこの二日間というもの、美耶子は宮田に対し非常によそよそしく、
また、冷淡に接するようになってしまった。
まず、宮田と顔を合わせようとしない。
話しかければ最低限の受け答えはするものの、その表情は硬く、以前のように甘えたり、
可愛らしい我が侭を言うようなことは皆無となった。
夜の生活も似たようなもので、試しに躰に触れてみれば、拒むことこそしないのだが、
その肌の感触は冷たく、乗り気ではない様子がありありなので、
自然、宮田も興趣が削がれてしまい、それ以上の行為に発展しないのだ。
そして今日で三日目――生理日でもないのに美耶子と性的な触れ合いを持たないのは、
彼女と暮らし始めて以来、初めてのことであった。
本当にあの夜以来、宮田は美耶子の裸すらもまともには見ていない。
恭也が居なくなった日の夕方。
独り残した美耶子を案じ、大急ぎで診療所から帰宅してみると、
すでに彼女は風呂を済ませていた。
「お前……独りで風呂入ったのか?」
「……うん」
「独りで……大丈夫だったのか」
「……うん」
このアパートで暮らし始めて一年。
すでに美耶子は、浴室の物の配置は全部記憶しており、
勘だけで入浴することが可能になっていたのだ。
今までそれをしなかったのは、単に宮田との入浴が望ましかったから、
というだけの理由だった訳である。
(参ったな……)
ベッドに横たわった宮田は、瞼の上に手を置いて、美耶子のことを考えた。
女がこんな風に臍を曲げた時、何を言っても無駄だから、
ご当人の機嫌が直るまでは触らず放っておくしかない、ということは承知している。
大抵の場合、数日経てば元に戻るし、
こちらとしても(勝手にしろ!)というような気持ちもあるから、それはまあいい。
不安なのは――こういう怒り方が、美耶子の性情にあまり似つかわしくない気がしたからだ。
美耶子はその神秘的な外見とは裏腹に、どちらかといえば直情的で、口も悪く、
思ったことは躊躇なくずけずけと言う方だ。
そして、言いたいだけ言ったら、後はこちらが拍子抜けするぐらいにけろりとしている。
そういう娘だったはずだ。
今みたいに宮田に対する不満や怒りを胸に溜めて、無言の行を続けるというのは、
彼女本来のやり方ではないように思えるのだ。
それとも、あるいはこれは、美耶子の恨みがそれほどまでに根深く、尋常なものではない、
ということを物語っているのだろうか?
「ふ……」
様々に考えを巡らしている内に、宮田は段々と自分が滑稽に思えてきた。
あんな小便臭い小娘ごときを相手に、大の大人である自分が、
こうも真剣に思い煩っているとは。
かつて、かの村で最も忌まわしき恐怖の象徴であった“宮田医院”の院長として、
数々の残虐な仕事をこなして村人達に恐れられて来た、この、“宮田司郎”が。
(馬鹿馬鹿しい)
色々と考え事をしていたら、頭が冴えて二度寝をするような気分でも無くなった。
宮田はベッドから起き出し、寝室のアコーディオンカーテンを開けた。
その時、玄関のドアがノックされた。
ダイニングの椅子から立ち上がろうとしている、白っぽいサンドレス姿の美耶子より先に、
ドアへ向かってスコープを覗くと、そこに居たのはなんと恭也であった。
ドアを開けると、宮田の姿を見た彼は明らかに動揺していた。
「み、宮田さん……何で?」
「何でってそりゃあ、ここが俺の家だからだ」
二人で間抜けな会話をしていると、玄関に出て来た美耶子が、宮田の背中から顔を出した。
「恭也……今日、日曜」
「あ……」
夏休みのせいで、曜日の感覚を喪失していたのだろう。
しまった……という表情を浮かべて顔を見合わせている二人を見て、宮田は悟った。
つまり恭也は、宮田が出勤した後、こうやって美耶子に逢いに来ていたのだ。
全く、とんだロミオとジュリエットだ。
キャピュレット公こと宮田は、呆れ果てて言葉も出なかった。
この事態をどう収めるべきか――心中なんてさせる訳にもいかないし、
取りあえず恭也を部屋に上げ、言い訳の一つも訊いてやるべきか。
宮田がそう考えていた矢先、恭也は、全く予想外の台詞を口にした。
「宮田さんちょっと……出ませんか?」
「何だって?」
「外で話をしたいんです。二人だけで」
宮田は、ぽかんとして恭也の顔を見つめた。恭也は真剣だった。
恭也は真剣に――宮田に対し真正面から、美耶子を賭けた戦いを挑んでいるのだった。
日曜日の公園は、大勢の人でごった返していた。
とは言ってもそれは、公園の風景と聞いて普通一般の人々が思い浮かべるものとは、
少々趣きが異なっていて、いわゆる休日を謳歌する家族連れなんかの姿は一切見られない。
居るのは、我が物顔で公園を占拠し、朝っぱらからサイコロ賭博に興じている男達や、
マグロのようにごろごろと寝ている、生死不明の者達だ。
その不潔に荒んだ有様――
にも関わらず、彼らの居る場所とフェンスを隔てた向こう側のグラウンドでは、
少年野球の試合が極々平然と行われている、という出鱈目さで、
まさしく、この町の象徴とも言える混沌とした風景である。
宮田と恭也は、グラウンドを見下ろす高台の小道を歩いていた。
アパートを出てからここに至るまでの間、双方共に全く口を利いていない。
「――おい」
業を煮やして先に言葉を発したのは、宮田だった。
Tシャツにスウェットのズボン、という寝起きの姿のまま、
顔も洗わずこうして恭也について来た訳だが、肝心の恭也は何も喋らず、
ただ黙々と歩き続けるだけで、その後について歩く宮田は、いい加減苛立っていたのだ。
「どこまで歩くつもりなんだ? まさかこのまま東京まで連れてく気じゃないだろうな?」
恭也は立ち止まり、振り向いた。
母親に「勉強しなさい」と怒られた子供のような、恨みがましい眼つき。
その、口を尖らせた不貞腐れ顔。
こうやって改めて見ると、本当に子供だと思った。
そして自分は、そんな子供と女の話をつけようとしているのだ。
恭也は宮田を見つめていた視線を外し、その眼をグラウンドに向けた。
バットの音。子供達の歓声。
宮田は恭也の隣に立ち、ダイヤモンドを駆け廻る野球少年たちを見下ろした。
「今、どこで寝泊りしているんだ?」
「……あんたには、関係ないだろ」
「関係なくもないだろう? これでも美耶子の保護者なんだぞ。俺は」
「あんた、本当は美耶子の兄貴じゃないんだろ?」
恭也は、宮田をきっと睨みつけて言った。
「あいつに……美耶子に聞いたのか」
「俺が頼んだんだ。本当のこと、教えてくれって……美耶子は全部打ち明けてくれた。
村から逃げた理由も。幻視のことも。それに……あんたのことも」
宮田は、恭也の言葉を無言で受け止めていた。
美耶子が自分の留守中に恭也を部屋に上げ、村のことも彼女自身のことも、
そして宮田との関係についてまで、洗いざらい喋っていた。
それを美耶子の不実と取るべきか。
それとも、それほどまでに自分が美耶子を追い詰めてしまったのだ、と取るべきなのか。
正直なところ、宮田は量りかねていた。
「俺……はっきり言って、よく判んなかったけど……。
だって、呪いとか生贄とか言われたって、そんなのまじであんのかよ、って感じだし」
「君はそういうのが好きなんじゃなかったのか」
「まあそうだけど……って、そんなのはどうでもよくて……とにかく俺は」
「美耶子が俺と寝てるのが気に入らない……か?」
恭也の顔が、かっと紅潮した。
「あの日の晩……君はずっと寝室の前で聞き耳を立てていたんだろ?
それで俺達の関係を知り、居たたまれなくなって出て行った。
けれども美耶子に未練があったから、俺が出勤した頃合いを見計らって部屋に戻った。
美耶子も君には関心を持っていたからな。
俺さえ居なければ……どうにでもできただろうさ。あいつも退屈していただろうし。
俺以外の男と試してみたいって気持ちも、多少なりとあっただろうしなあ」
「あんた……何言ってんだよ」
「今さら気取って見せることはない。俺は構わんよ。
君がいつまでこっちに居るつもりか知らないが……。
ま、その間は精々、あいつと仲良く遊んでやってくれ。
ただし。後始末だけはきちんと片付けて行くんだぞ? 後から俺も使うんだからな。
俺だって、お前の精液の臭いを我慢して寝なけりゃならん義理は、無い訳だから……」
突然恭也は、宮田に殴りかかった。
宮田は恭也の拳を避ける。その腕を捻り上げ、地面に突き倒した。
恭也はすぐに起き上がり、なおも宮田に掴みかかる。
「やめろ」
胸倉を掴もうとする手を振り払うと、宮田は面倒臭そうに恭也の顔を平手で叩いた。
一発。さらにもう一発。
恭也がよろけて倒れると、仰向けの躰に馬乗りになった。
「この、下種野郎!」
恭也は、宮田に向かって唾を吐きかけた。
顔面をべたりと汚された宮田は頭に血が昇り、恭也の喉笛を掴んだ。
「貴様……!」
両手を首に廻して、ぐいぐい締め上げる。
恭也の顔は鬱血して膨れ上がり、赤く、次いで、紫色に変わった。
宮田の下敷きになった躰が、必死の力で抵抗する。
首を絞める手に、爪が立てられる――。
――せ……ん……せ……。
眼下の少年の顔が、蒼白な女の顔に変わった。
「う……ううっ?」
思わず宮田は首から手を離し、立ち上がって大きく後ずさった。
今のイメージは、何だ?
いや、判っている。今のは――あの女だ。間違いない。
それは間違いないのだが――それよりもなぜ、どうして――。
宮田が密かに恐慌をきたしているとも知らず、咳き込みながらやっと躰を起こした恭也は、
絶叫と共に宮田の顔面を蹴りつけた。
それは見事な一撃だった。清々しいほど綺麗に入った。
宮田大きく後ろに吹っ飛び――そのまま、安らかに意識を暗転させたのだった――。
――寂しいの……一緒に来て……。
執拗に追って来る女を振り切って、病院の中庭に出た。
建物の地階に無い以上、あと怪しむべき場所といえばここだけだ。
こけおどし的な威容を見せつけ、鎮座している石の胸像。
案の定、像の後ろの地面には、引きずったような跡が微かに残っている。
肩を使い、重たい石像を押した。
退かされた像の下から現れた、四角い縦穴。
下へと伸びる梯子を降りれば、すぐ向こうに扉が見える。
そうだ、きっとここが……。
何十年もの間、呼び掛けてきた声。いよいよだ。いよいよここで、逢えるのだ。
気がはやる。異様な興奮と緊張に耐え、震える手を、そっとノブにかけた――。
「せん……せえ……」
目覚めると、美奈の顔が間近に迫っていた。
「うわあっ!」
「ひゃっ? な、何よっ」
驚愕して飛び上がった宮田の勢いに驚愕した幸江が飛び上がった。
その途端、宮田は鼻の痛みに顔をしかめた。
「あれ? 俺はいったい……」
鼻を押さえつつ周囲を見回す。
ここは診療所だ。診療所の診察ベッド。
「もう……びっくりさせないでちょうだいよお。日曜だってのにさぁ。
仕事増えちゃったじゃないの」
冗談めかして幸江が言った。
「そうか……俺は、恭也に」
思い出した。自分は恭也の蹴りを顔面に喰らって気絶したのだった。
しかし、なぜ診療所に?
「あの男の子――恭也君? 彼がここまで運んで来てくれたのよ」
宮田の考えを見透かした幸江が言った。
「しっかし、宮田先生も大人げないわねえ。あんな子供と喧嘩するなんて。
しかもそれで、のされちゃうなんてさあ」
「しょうがねえだろ。出会い頭のラッキーパンチってやつだ……いや、キックか」
「あの子、随分気を揉んでたわよ。何度も何度も『死にませんよね』って訊いてくるの。
だから――」
「叱っといてくれた?」
「――もしもの時は、口裏を合わせといてあげるからって、言ってやったわ。
きょとんとしてたけど」
そう言って、幸江は笑いながら衝立の向こう側に姿を消した。
宮田は肩を竦め、鼻の穴から血の染みた脱脂綿を抜き取った。
「それで、その恭也は? もう帰っちまったんですか?」
返事は無い。宮田は、衝立向こうの診察室に出た。
幸江は机に向かっている。丸めた背中。何やら、帳簿を広げて熱心に見ているようだ。
診療所は休みだというのに、ナース服を着てナースキャップまでもきちんと着けている。
「ご精が出ますねえ。日曜だってのに」
「……もう忘れちゃったの?」
「え?」
幸江が振り返った。
「そんな話をしに来たんじゃないでしょう?
もっと他に重要な、大変な話があったんじゃあなかったの?」
「――そうです」
宮田の顔つきが引き締まる。そうなのだ。今は与太話なんかをしている場合じゃない。
大変な事実に気づいたのだから。大変な、恐るべき事実に……。
「まあ、そこにお座りなさいよ」
幸江が眼の前の丸椅子を勧めるので、宮田は座った。
「それじゃあ話して下さいね」
患者に問診する医者のように、幸江は言った。
「何があったの?」
「ええ、実は俺――人を殺したんです」
ビルの一室にある診療所は、妙に薄暗くなっていた。
さっきまで、窓から射す光が燦々と眩しく、ブラインドを下ろさなければ、
暑くて仕方のないほどであったはずなのに。
雲が出てきたのだろうか?
暗く翳った部屋からは、時間の感覚も、現実感さえ失われてしまい、
まるで、麻酔の中で見る曖昧な夢の世界のようだった。
「一年前――この診療所で働き出す前、俺は、とある山奥の村で開業医をやっていました。
代々続いていた家業を継いだんです。
そのことは、犀賀先生にも幸江さんにも話しましたよね?」
幸江は黙って頷く。
「その病院で俺は、看護婦を殺したんです。まだ若い……確か、二十一歳の娘でした。
当時俺は、そいつと付き合っていて……。
いい娘でしたよ。情が深くて、従順に尽くす女だった。本当に、今どき珍しい……。
でも殺したんです。こう、真正面から首に手を廻して――ぎゅっと。
細い首でした。あれだったら、思い切り力を入れればへし折るのも簡単だったろうな、
って思います。
でも、それだと何だか勿体無いような気がしてね。
綺麗な子だったから、なるべく原型を留めたままにしておきたかったんですよ。
だから気道を塞ぐだけにして、死んでゆく彼女の顔をじっと眺めていました。
窒息して赤く膨れ上がり、次いで蒼く、黒っぽくなって――
痛々しい苦しげな表情が、抱いてやってる時の表情に似ていて、すごく淫らな感じがしました。
最期の刻は、思いのほか安らかな顔になっていましたよ。
頚動脈を傷つけたせいで、少しだけ血を流していたけれど、
それさえなければ、本当にただ眠っているとしか見えなかった」
「でも死んでいたのね」
「そうです。死んでいたんです」
宮田は異様に輝きの増した瞳を虚空に向け、その時の光景に思いを馳せているようだった。
幸江は少し俯いて視線を落す。眼の前の男から、眼をそらすように。
「恋人を殺したのね。どうしてそんなことを……」
「彼女の言ったひと言が、どうしても許せなかったからです」
真剣な面持ちで、宮田は言った。
「美奈は……あいつは俺に……母と同じ言葉を吐いた。
耐えられない、あれだけはどうしても……」
「何を言ったの?」
幸江の問いに、宮田は激しく首を横に振る。自らが口にするのも嫌な言葉であるらしい。
「俺も医者ですから――それまでにも、患者の死に目には幾度も会っていたし、他にも……。
特殊な村だったんで、普通なら手が後ろに廻って然るべきことも、色々とやっていました。
元々、うちの病院は土地の権力者のしもべのようなものでしたから。
表向きは普通の病院ですが、現実には子飼いのやくざとえらく変わりませんでしたよ……。
とにかくそんな訳だったんで、この手で人を殺した、と言っても過言ではないようなことも、
ずっとやっていたんです。だけど……あれはそんなもんじゃなかった。
俺は、自分の意志で美奈を殺したんだ。
意志? いや、違うな。本当は殺すつもりじゃなかったのに。
あいつとは、冷静に話をするつもりでいたのに。どうしてかなあ。
何だって、あんなことになったんだろうなあ……」
そう言って宮田は、手の平でごしごしと顔を擦った。
大変な事実に気づいたのだから。大変な、恐るべき事実に……。
「まあ、そこにお座りなさいよ」
幸江が眼の前の丸椅子を勧めるので、宮田は座った。
「それじゃあ話して下さいね」
患者に問診する医者のように、幸江は言った。
「何があったの?」
「ええ、実は俺――人を殺したんです」
ビルの一室にある診療所は、妙に薄暗くなっていた。
さっきまで、窓から射す光が燦々と眩しく、ブラインドを下ろさなければ、
暑くて仕方のないほどであったはずなのに。
雲が出てきたのだろうか?
暗く翳った部屋からは、時間の感覚も、現実感さえ失われてしまい、
まるで、麻酔の中で見る曖昧な夢の世界のようだった。
「一年前――この診療所で働き出す前、俺は、とある山奥の村で開業医をやっていました。
代々続いていた家業を継いだんです。
そのことは、犀賀先生にも幸江さんにも話しましたよね?」
幸江は黙って頷く。
「その病院で俺は、看護婦を殺したんです。まだ若い……確か、二十一歳の娘でした。
当時俺は、そいつと付き合っていて……。
いい娘でしたよ。情が深くて、従順に尽くす女だった。本当に、今どき珍しい……。
でも殺したんです。こう、真正面から首に手を廻して――ぎゅっと。
細い首でした。あれだったら、思い切り力を入れればへし折るのも簡単だったろうな、
って思います。
でも、それだと何だか勿体無いような気がしてね。
綺麗な子だったから、なるべく原型を留めたままにしておきたかったんですよ。
だから気道を塞ぐだけにして、死んでゆく彼女の顔をじっと眺めていました。
窒息して赤く膨れ上がり、次いで蒼く、黒っぽくなって――
痛々しい苦しげな表情が、抱いてやってる時の表情に似ていて、すごく淫らな感じがしました。
最期の刻は、思いのほか安らかな顔になっていましたよ。
頚動脈を傷つけたせいで、少しだけ血を流していたけれど、
それさえなければ、本当にただ眠っているとしか見えなかった」
「でも死んでいたのね」
「そうです。死んでいたんです」
宮田は異様に輝きの増した瞳を虚空に向け、その時の光景に思いを馳せているようだった。
幸江は少し俯いて視線を落す。眼の前の男から、眼をそらすように。
「恋人を殺したのね。どうしてそんなことを……」
「彼女の言ったひと言が、どうしても許せなかったからです」
真剣な面持ちで、宮田は言った。
「美奈は……あいつは俺に……母と同じ言葉を吐いた。
耐えられない、あれだけはどうしても……」
「何を言ったの?」
幸江の問いに、宮田は激しく首を横に振る。自らが口にするのも嫌な言葉であるらしい。
「俺も医者ですから――それまでにも、患者の死に目には幾度も会っていたし、他にも……。
特殊な村だったんで、普通なら手が後ろに廻って然るべきことも、色々とやっていました。
元々、うちの病院は土地の権力者のしもべのようなものでしたから。
表向きは普通の病院ですが、現実には子飼いのやくざとえらく変わりませんでしたよ……。
とにかくそんな訳だったんで、この手で人を殺した、と言っても過言ではないようなことも、
ずっとやっていたんです。だけど……あれはそんなもんじゃなかった。
俺は、自分の意志で美奈を殺したんだ。
意志? いや、違うな。本当は殺すつもりじゃなかったのに。
あいつとは、冷静に話をするつもりでいたのに。どうしてかなあ。
何だって、あんなことになったんだろうなあ……」
そう言って宮田は、手の平でごしごしと顔を擦った。
「酷いことをしたものね。要するにあなたは、自分の弱さに負けて彼女を殺したんだわ」
「そうです」
宮田は、開いた膝の上に拳を置き、大きく見開いた眼を床に向けて答える。
「全くもって酷い話です。俺のしたことには、全く弁解の余地もない。
決して許されるものでは……それなのに」
宮田の手が、自らの膝頭を掴んだ。
「それなのに俺は、忘れていたんです」
「何を」
「俺が、美奈を殺したという事実をですよ! 美奈を殺した後、美耶子を連れて村を出た。
それからすぐにこの町に来て――それ以来一年もの間、思い出しもしなかったんだ!
一度たりとも! 完全に忘れ去っていた……こんなことってありますか!?
自分の女を殺したんですよ!?
俺は美奈を殺した時、激昂はしたが心神喪失していた訳ではなかった。
まともな精神状態だったはずだ。今だって……。
仮にこの件で裁判にかけられた処で、精神鑑定の結果は俺を助けはしないだろう。
それなのに……」
「それだけ、あなたの中で消したい過去だったということなんでしょう」
あっさりした口調で、幸江は言う。
「上手くできてるものなのね、人の脳って。
それに……あなたに取ってはきっと、それが幸いだったのだわ。
自分の罪を忘れていたからこそ、あなたはここで平穏に暮らせた。
そうでなければ今頃、無闇に村に戻ったりとか下手な不審行動を取ったりして、
とっくに警察に眼をつけられ、捕まっていたことでしょうね」
「いや、それはないと思いますよ。
俺の犯した罪は、俺が警察に自首して出ない限り、まずばれやしません」
「大した自信ね。でも日本の警察を舐めては駄目よ。
昔に比べると検挙率は下がってるとはいえ、まだまだこういった犯罪には……」
「それが、そうでもないんです。美奈の殺害を立証するのは、まあ無理ですよ。
何しろ、村全体が埋まってますからね……昨年の土砂災害で。全滅したんです。
俺と美耶子を除いて、村の人間も巻き込まれて全員いなくなってしまったし……もう」
そう言って、宮田は苦々しく笑った。
本当に、なんという悪運の強さなのか。
これでは、罪なくして殺された美奈も浮かばれまい。
宮田の微苦笑を前にして、幸江の顔は微かに蒼ざめていた。
彼女は言った。
「一つ……訊いてもいいかしら」
「何です」
「あなたが罪を犯した場所……あなたと美耶子ちゃんが暮らしていた村の名前」
「村の名前、ですか?」
おかしなことを訊くもんだ。宮田はそう思った。
昨年あの地方を襲った大規模な土砂災害は、
テレビのニュースや全国紙でも、取り上げられていたはずだが――。
――まあ、そうはいっても、それほど世間の注目を浴びた訳でもなかったからな。
小さな山村が一つ無くなったという程度のこと、そうそう覚えているものでもないか……。
そう考え、宮田は村の名前を教えた。
その途端、世界が崩壊した。
光が消え、上も下も無くなって、全ては渦巻く闇の中に流される。
それは濁流だった。
混沌という名の濁流が、何もかもを飲み込んで、世界を無に返そうとしていた。
抗う術はないし、叫ぶ声すらない。
そうして流れ落ち、深淵よりもさらに深い奈落へとその身は向かう。そして――。
「宮田さん!」
眼を開けると、狼狽した恭也の顔が真上にあった。
夏の青空をバックに、暗く翳ったその顔を一瞥した後、宮田は地面から起き上がる。
鼻血を拭い、背中についた泥を払った。
「だ、大丈夫ですか?」
「俺――何分ぐらい気絶してた?」
後ろから、おろおろと尋ねてくる恭也に問い返す。
「いや、何分ってほどじゃあ……ほんの一瞬ですよ。三回呼びかけたら起きましたから」
「そうか」
そう言って振り返りざま、恭也の腹に右フックを入れた。
軽めに手加減はしたけれど、そこはフックなので、恭也は派手にひっくり返った。
「ふん……これでちゃらだ」
その前に、ビンタやら首絞めやらを散々食らわせていたことも忘れ、
すまし顔で宮田は言った。
苦しげに腹を押さえた恭也は、何か言い返そうとしたが諦め、がっくりと肩を落とした。
「二人共……何して来たの?」
アパートに戻った宮田と恭也を前に、美耶子は呆れてそう言った。
確かにそう言いたくなるほどに、この二人の様子は只事ではなかった。
恭也は頬をぱんぱんに腫らしているし、宮田も鼻筋に傷をつけている。
おまけに二人共、全身泥まみれなのだ。
「お前のせいなんだからな、美耶子」
薬箱を出し、自分の顔に手当てしながら宮田は言う。
「何で私のせいなの?」
「いや、美耶子は気にしないでいいよ」
気の優しい恭也は、氷で顔を冷やしつつ美耶子を宥めた。
こうして、恭也はまたアパートに寝泊りすることが決まった。
恭也の中で、美耶子が宮田に抱かれ続けていた、という事実が、
どのように処理されているのかは不明だったが、
少なくとも彼は、そのことについてあえて言及するつもりはなさそうである。
幼い少女の癖に、一廻り以上も歳の離れた男と関係していた美耶子のことを、
不潔だとは思わないのか? 裏切りを受けたと感じ、憎む気持ちにはならないのだろうか?
宮田にはこの、何事も無かったかのように美耶子と談笑している少年の心情が、量りかねた。
「いいか。二人で出かけるなとは言わん。ただ、行く時には必ず俺に知らせてくれ。
行き先と、帰宅時間もな。それが最低限のルールだ。後は好きにしたらいい」
宮田のこの言葉に対しても、恭也は、宮田の眼を見て素直に頷いた。
全く邪気の無い態度。それが本心からのものという確証こそないものの、
少なくとも今の恭也は、真っ向から宮田に歯向かおうという意志は持っていないように見えた。
あくまでも穏便に、この家の主として、また、美耶子の保護者としての宮田を立て、
敬おうと努力しているように感じられる。
それならそれで、まあいいだろう。
宮田はもう、深くは考えないことにした。
だいたい今はそれどころではない。他にもっと大きな気掛かりが発生しているのだ。
「ありがとうございます。
ぶっちゃけ、野宿きつかったんですよね……躰のあちこちが虫に食われるし」
恭也は苦笑いをし、首筋をぼりぼり掻いている。
未だ彼の首に残っている扼痕を眺め、宮田は複雑な気持ちになった。
あの時――唐突に思い出した美奈の最期。
本当になぜ、今の今まであんな経験を忘れていられたのだろうか?
「じゃあお兄ちゃん。今から恭也と出かけてもいい?」
久方振りに笑顔を見せた美耶子が、さっそく宮田に提言した。
「今日は恭也、廃病院を見に行くんでしょ? 私も行きたい」
「例のミステリースポットってやつか? お前がついってっても邪魔になるだけだろう」
「あ、そんなことはないです。
だって美耶子は霊感あるから……色々教えて貰えれば、こっちも助かるんで」
恭也と美耶子は、親密そうに顔を見合わせる。
仕方なしに宮田が首を縦に振ると、後はもう完全に二人の世界だった。
勝手に宮田のノートパソコンを起動すると、その病院までの道のりなんかを詳しく調べ出し、
ああでもない、こうでもないと二人で言い合うのだ。
「マウンテンバイクがあればこの山道を越えて簡単に行けるんだけどな……。
美耶子が一緒となると……やっぱこの駅から、バスに乗って行くのが一番かな」
「じゃあ、バスの時間も調べた方がいいんじゃない?」
「あの、よかったら宮田さんも一緒に行きませんか?」
いきなり恭也は宮田に話を振った。
「俺も?」
二人を放って新聞を広げていた宮田は、少し驚いた様子で片方の眉を上げる。
「いや、美耶子も行くんだし、どうせならって思ったんですけど……」
「行こうよお兄ちゃん。どうせ暇でしょ」
美耶子が、宮田の膝に手を置く。
「それに、お兄ちゃんが一緒なら車に乗れるもん。遠廻りする必要がなくなるよ」
「なるほどな。お前らの狙いはそれか。俺を脚代わりにしようって訳だ」
美耶子と恭也は、照れ臭そうに笑っている。
結局、美耶子の強引な頼みに負けて、宮田も一緒に出かけることになった。
アパートに独り残ったところで、どうせ美奈のことを思い煩うだけなのは眼に見えていたし、
それだったら外に出て、美耶子達のために運転手でもしていた方がまだましというものだ。
村を出る時に乗っていた車はとうの昔に処分してしまったので、レンタカーを借りる。
そういえば――と宮田は考えた。
村を出る前、美奈の死体を車で運んだような記憶がある。
とにかくこれを隠さなければ。そう考えて、森の奥に埋めに行ったのだ。
温もりを残した柔らかな死体を、トランクに詰め込んで――。
(いや違う。あの時確か、トランクには美耶子を入れたはずなんだ。
村から逃げるために……)
やはり記憶が曖昧になっている。
あの時、自分は美奈をどこへやったのだろう?
今となってはもう判らない。真実は、全て土砂に飲み込まれてしまった。
日曜の道路は、行楽に出かける家族連れの車が多く、混雑していてなかなか進まなかった。
それでも途中のドライブインを過ぎて山道に入る頃には、急速に道が空いてきた。
それもそのはず。ナビを見ると、この先には山が続くばかりでほとんど何もないのだ。
(まるで、あの村に続く道のようだ……)
失われた故郷の村も、周囲には山ばかりで何も無かった。
と言うより、何も無い場所にあの村だけがぽつんと存在していた、といっていい。
本当に、あそこは隠れ里のようなもので、知らない人間なら、
あんな山の中に村が存在するなどと、想像もできないのではないだろうか?
「これから行く廃病院――病院っつうか、正確には療養所だったみたいですけどね」
後部座席から身を乗り出して恭也が言う。
「なんかそこの若い看護婦さんが、頭のおかしい医者に監禁されて、殺されたらしいんです。
病棟の中で……。殺した医者ってのは、その病院の跡取りだったそうなんですけど、
看護婦を殺した後に自殺して……結局、病院自体も潰れちゃって。
以来十年間、そこは放置されたままなんだそうです。
でもたまに近くを通りかかったハイカーが、
電気の通ってないはずの建物の窓が、明るくなってるのを見つけたり。
それでその窓から、看護婦がじっとこっちを見下ろしてたとか。そんな噂があって」
「そりゃあ誰かの悪戯なんじゃないのか?」
恭也の言葉を、宮田は素っ気なく受け流した。
「勝手に建物に入り込んで、遊んでいた奴がいたんだろう。
それを別の人間が見て、面白おかしい話に仕立て上げた。多分そんな処だ。
行っても、君が期待するようなもんにはお目にかかれないと思うよ」
「そんな身も蓋もないこと言わないで下さいよ……。
第一、行ってみないことには判んないじゃないですか。なあ」
恭也は助手席の美耶子に救いを求める。
「雲が出てきたね……空気、湿ってる」
美耶子は、全く話を訊いていなかった。
廃病院に辿り着いた頃には、随分と空が暗くなっていた。
昼下がりの時間だというのに、もう夕方みたいだ。雨雲が増えたせいだ。
「これは一雨来るかも知れんなあ」
灰色の建物の前に車を停め、宮田は空を見上げた。
出発前にはあれほど眩く照り付けていた太陽も、今は分厚い雲に隠れ、全く見えない。
恭也は天気のことなどに頓着せず、病院の外観をデジカメで撮影するのに夢中だった。
「いい感じに薄汚れてんなあ。廃墟マニアが喜ぶよ、これ」
「廃墟マニアなんて人達が居るの?」
恭也の傍らで美耶子が訊くと、
「そりゃあ居るよ。廃墟の他にも、工場マニアにコンビナートマニア、
ダムマニアなんてのも居るくらいだ。なんでも居るさ」
と、当然のように答えた。
外観の撮影が終わると、いよいよ一行は病院内部に侵入する。
宮田は車で待っていようかとも思ったが、ただ待っているのも退屈だし、
何より、美耶子のことが心配だったので、やはり付いていくことにした。
建物の中は、予想以上に暗かった。
窓のほとんどが板で封印されているからだ。
宮田は、家から持参してきた懐中電灯を点ける。
恭也も、ジーンズのベルトに挟んでいた懐中電灯を取り出して点けた。
病院内部は、まさしく廃墟であった。
入り口ホールの受付カウンターには埃が積もり、
待合室のベンチも、薄汚れて表面の革が破けてしまっている。
天井からは蜘蛛の巣が垂れ下がり、
床には割れた硝子や、崩れた壁材などの破片が散らばって、靴の下で乾いた音を立てた。
「随分荒れ果てているな……美耶子、足元に気をつけろよ」
宮田は美耶子に声をかける。美耶子は恭也の背にすがり、「うん」と小さく頷いて見せた。
そうして恭也の後ろにくっ付いて歩く美耶子は、場所が場所だけに、
なんだか幽霊のように見える。
今日、美耶子は長い髪を下ろしたままだし、
おまけに衣装が白地のサンドレスときているから、余計にそう見えた。
これは失敗だった。こんなことなら、何か別の服に着替えさせてから出て来るべきだった。
宮田は後悔を覚えるが、廃屋探検に集中している若き勇者達に取って、
そんなのはどうでもいい些末事であるようだった。
「どう美耶子? 何か感じる?」
「ううん、ここでは何も」
恭也の問いかけに、美耶子は淡々とかぶりを振った。
宮田は彼らの後ろに立ち、病院の廊下にぐるりと視線を巡らせる。
こんな廃屋に這入るというのは、嫌なものだ。そこが病院ならば、なおのこと。
思えば――かつて院長を勤めていた病院も、この廃墟のようなものだった、と宮田は思う。
病院だけではない。黒い山陰に包囲された村そのものだって――。
どこへ行っても薄暗く、陰気に煤けてひんやりと冷淡で。
生きているのか死んでいるのか判らない村。
そうだ。あの村には、いつでも哀愁を帯びた死の匂いが漂っていた。
(まるで、死を象徴しているような村だった……)
「――殺された看護婦が監禁されてた部屋は、地下にあるらしいんです」
廊下を進みながら、恭也は言った。
「だから、地下への階段がどっかにあるはずなんだけど……」
「これじゃないか?」
宮田は、突き当たり手前にある扉を懐中電灯で指す。
理由は無く、なんとなく当てずっぽうで言っただけに過ぎない。
ところがそれが正解だった。扉を開けた先には、地階へと続く階段があったのだ。
「すごいっすね宮田さん!」
恭也は素直に感心するが、宮田自身はあまり嬉しくなかった。
どうにも落ち着かない感じがした。
この感じ――どうも、以前にも経験しているような気がしてならないのだ。
例えばここが村の病院に似ているとか、
もっと昔に遡って、かつての学び舎だった大学病院と似ている、とでもいうのなら話は判る。
けれどもここは、そのいずれとも共通項はなかった。
ならば自分はいつ、どこでこの病院を知ったのだろう?
「あ……」
扉が開いた途端、美耶子が少し嫌な顔をした。恭也がその顔を覗き込む。
「美耶子? どうしたの?」
「ここ……何か嫌だ。嫌な感じがするよ……」
「嫌な感じって、どういう?」
「この下から……別の……ああっ!」
突然美耶子は、扉に背を向けて走り出した。
「あ……お、おい、ちょっと待て!」
恭也はその後を追う。二人は、瞬く間に廊下を走り去った。
宮田はその場に留まり、立ち尽くしていた。
美耶子を連れ戻さなくては。理性はそう促している。
しかし宮田は、それをしようとしなかった。
扉の奥の下り階段に、懐中電灯の明かりを向けた。
(この先に――何が)
宮田は、階段を下りて行った。ゆっくりと。
逆らうことなどできはしなかった。
この先にあるものを、見届けなくてはならない。
それは好奇心というよりも、むしろ義務感とも呼ぶべき衝動だった。
地階に下り立つと、右の方に廊下が続いていた。
いくつかの扉が見える。
一番手前は倉庫。その向こうが機材室。
機材室の角を左に折れて、手前から順に、ボイラー室と、霊安室。
「……違うな。ここじゃない」
そう呟いて、宮田は首を横に振る。そう。あれがあるのは、多分ここじゃない。
ならばどこだ? 地階には、他に部屋なんか――。
その時、宮田の脳裏にふとある考えが浮かんだ。
中庭のど真ん中に据えられたあの胸像。
やつらの視界越しに確認しただけだが――どうにもあそこは気になる。
(もしかすると、あの下に……)
宮田はきびすを返した。
一階に戻り、遠廻りをして中庭に出る。空はよりいっそう暗い。しかも雨が降っている。
悪天候の中、まるで何かの見えない意志にそそのかされるように、宮田は胸像へと向かう。
驚いたことに、石像の手前にはすでに地下への入口が開いていた。
「ここに……」
宮田は梯子を下り、地下の秘密の扉を開けた。
一瞬の眩暈ののち、むせ返るような血の臭いが宮田を出迎える。
血と、甘ったるい臓腑の臭い。陰気な空間を酸鼻に彩る女達の悲鳴。
そして――。
「やあ、宮田君か」
タイル張りの部屋の中央。
二つ並んだ手術台の間に挟まって立っている術衣の男は――犀賀省悟だった。
「犀賀先生? 何で、こんな処に……」
呆気に取られて犀賀を見つめる。
それから、手術台に並んだ二つの白い女体も。
「まあ、ちょっとした実験をな――それよりも宮田君、ちょうどいい時に来た。
少し手伝ってもらおう。それを着てこっちへ」
犀賀が顎で示す方を見ると、緑色の術衣一式が、棚の上に折りたたんで置いてあった。
宮田は、仕方なしにそれらを身に着けた。
「犀賀先生――これは、何の実験なんですか?」
術衣を着け、手袋を嵌めながら宮田は訊く。
犀賀はこちらに背を向け、奥の方の手術台の上に屈んで、何かをしているようだ。
「奴らの変容について調査したかったんだ。奴らの異常な治癒能力――。
何しろ、頭部や心臓を撃ち抜いても復活して襲って来るんだからな。
医者の端くれとして……この謎に少しでも迫る努力をしなければ、
それこそ死んでも死に切れん。そうは思わないか、君も」
そう言って、犀賀は振り返る。
彼の顔は、血まみれだった。
酷い返り血を浴びている。どれだけ派手な切り方をしたらこうなるのか。
しかし犀賀は、それを不快に感じている様子も無い。
手術帽とマスクの間から覗いた眼が、微かに笑っていた。
「君にはそっちを任せるから、好きにやってくれ」
そう言われて、手前にある手術台を見下ろせば、
そこには、革のベルトにぎっちりと拘束された裸の女が待っている。
醜い女だった。
躰は華奢ですんなりと均整が取れているし、肌もなめらかなのだが、いかんせん顔が酷い。
額から何やらぶよぶよした、ナマコみたいな大きな腫瘍を四つもぶら下げているのだ。
さらに口の周りも、その腫瘍の小さ目のもので覆い尽くされている。
無事なのは、顔の中央に位置している通った鼻筋のみ。
これでは元々どんな顔をした女だったか、全然判らない。
「これは……どういう病気なんだ一体」
「そっちもあれだが、こっちもなかなか凄いぞ」
犀賀が担当している女の方は、少し小振りな腫瘍の房を、
ざっと見て八つほど顔にくっ付けている。
しかもその女の腫瘍は、微かにぴくぴく蠢いているのだ。
腫瘍そのものが生きているとしか思えない動き方で。まるで――芋虫か何かのように。
「顔はこんなになってしまったけどな、躰の方は無事だったから良かったよ。
ほら、変なものはくっ付いていないだろう?」
犀賀は、愛しくて堪らない、といった様子で女の豊かな乳房に手を添える。
ゴム手袋の中で、真っ白な膨らみがふるふると揺れた。
「だけど……そっちのおっぱいには穴が開いてるじゃないですか」
宮田は指をさす。
犀賀が触っていない方――左乳房は、皮膚が裂け、柘榴のように肉が割れているのだ。
「剣で突き刺した上に、散弾銃まで食らわせてしまったからな。
さすがに治りきらなかったらしい。しょうがないだろう」
そう言うと、犀賀は無事な方の乳房の付け根にメスを当て、柔らかな膨らみを、
胸部から剥ぎ取りにかかった。
「ああ、そっちは綺麗なままなのに勿体無い」
「大丈夫だよ。すぐに生えてくるから」
女の凄まじい絶叫をものともせずに、犀賀は乳房の肉を切り取り、
傍らにあったホルマリンの大瓶に漬け込んだ。
よくよく見ると、その瓶の中には十個近い乳房の塊が浮いている。
面白そうだな……。
宮田は単純にそう思い、自分に宛がわれた女の乳房を切ってみようと、
横のワゴンに手を伸ばした。
ステンレスのトレーからメスを取り上げ、いざ、と女に向かったが、彼女の乳房の膨らみは、
隣の女に比べるとあまりにもささやかな、薄べったいものだった。
「これじゃあなあ……」
「小さ過ぎて切る気がしないか? なら乳首でも切ったらどうだ?」
「乳首だけをホルマリン漬けにするんですか?
それだったら、レーズンのラム酒漬けでもこしらえた方が、なんぼかましですよ……」
「そうか? まあ、別に乳にこだわる必要もあるまいよ。
他にも楽しめる場所は幾らでもあるんだからな」
他の場所となると――。
取りあえず宮田は臍の下にメスを宛がい、すっと一直線に切り裂いた。
腫瘍に縁取られた唇が、甲高い悲鳴を上げる。
何度でも蘇る不死の肉体。それでもやはり痛みはあるのか?
「どんなもんだね、お嬢さん?」
恥毛が黒く萌えている真上まで切り下ろし、腹腔の中に指を挿し入れると、
女の叫びは狂った笑い声に変わった。
それは宮田をして、侮蔑的な笑いに感じられた。
胃の腑が冷たくなるほどの怒りを催した彼は、突っ込んだ手で子宮を握り、引きちぎった。
どぶんと暗い色の血が溢れ出し、濃厚なソースのように白い肌を染める。
肘から先を血に染めた宮田は、トレーに載せた洋梨状の子宮にメスで切れ目を入れて、
割ってみた。
子宮内膜には、爪の先ほどの小さなタツノオトシゴがへばり付いていた。
「ほう。妊娠していたのか」
宮田は女の顔を見た。
女は腫瘍に犯された気味の悪い顔を、左右に振り立て喚き続けている。
でろんと揺れる半透明の腫瘍の内部、巡っている血液が、床屋のサインポールのように、
行ったり来たりしているのが薄気味悪い。
「こんな女に、情けをくれる男がいるとはねえ」
宮田は、まだ胎児にも満たないそれを、犀賀に見せてやった。
「子供か……」
吹けば飛ぶような塊を手の平に乗せ、犀賀は、ふと寂しそうな眼を見せた。
「こちらの方の子宮には入っていなかったな。空だった。妊娠していなかったんだよ」
「そりゃあ、こいつらのご面相で妊娠してる方が珍しいでしょう」
宮田の軽口を黙殺し、犀賀はじっと胎芽を見つめている。
「気の毒なことをしたな」
眼から下を覆うマスクの中で、犀賀はぽつりと呟いた。
「結局俺は、あいつに何もしてやれなかった。
あいつは、あんなにも俺を慕ってくれていたのにな。
その気持ちを……俺は踏み躙ってしまったんだ。
幸せを与えてやることはおろか、命を守ってやることすらできなかった……」
胎芽を乗せた手の平を、そっと握り込む。
「こんなことなら……せめて、子供ぐらいは与えてやりたかったよ。
こっちでなら、それもできたはずなんだ。だが、俺にはそれだけの覚悟がなかった。
あいつも、自分から何かを要求してくるような女じゃなかったからな……それでもあいつは」
「犀賀先生……何を言っているんですか」
「俺はなあ、宮田君。もう随分前から気がついていたんだ。
そう。現在我々が居る世界の本質に、気がついてしまったんだよ。
別にきっかけなどなかった。ある時ふと思い立ったんだ。
“なぜ今、俺達はこんなに幸せなのか?”“俺と彼女の人生には、なぜ幸せだけがあるのか”
……その結論はすぐに出た。恐るべき真実だった。
あの日からの俺は、あいつにその真実を気付かせないためだけに生きて来たようなもんだ」
犀賀の眼は、遠い処を見ていた。
宮田は、眼の前に立って喋っている男が、本当に犀賀であるのかと疑い始めていた。
この支離滅裂な言動も怪しいのだが、それ以前に、どうも宮田の見知っている犀賀に比べ、
若過ぎる印象があるのだ。
声もそうだし、眼だけしか見えないのではっきりしないが、顔も何だか違っている気がする。
「宮田君」
宮田の疑念を余所に、犀賀は宮田を、真剣な眼差しで見つめた。
「君に忠告しておいてやる。いいか……何も考えるな。
君が現在置かれている状況に――過分な幸福、理不尽なまでの居心地の良さに対して、
疑いの心をもってはいけない。
疑うことさえしなければ、その幸福はずっとずっと続くんだ。
もし、万が一本当のことに気づいてしまったら、そうなってしまったら……」
「犀賀先生?」
不意に、天井の照明が明滅しだした。
電球が切れかけているのか?
ちらちらと暗くなる室内からは、急速に現実味が失せてゆく。
ついに照明が途絶えてしまった。
闇の中、酷く遠い場所から、犀賀の声が聞こえた。
――忘れろ……ここで俺と話したことも、君が殺した女のことも。全て――。
「犀賀先生!」
宮田は声を張り上げた。何だ? 彼はいったい、何を言っているんだ……。
しかしもう、手の届く場所に犀賀の気配は無かった。
血の臭いも、女達の悲鳴も消え失せた闇の中、寄る辺も無く宮田は立ち竦む。
深く、濃厚に取り囲む闇は全ての感覚を奪い――ついに、足下の地面さえも消え去った。
宮田は、声も上げずに堕ちた――。
居間の壁にかかった時計は、七時を指そうとしていた。
宮田はソファーから身を起こす。部屋はもう、だいぶん暗くなっている。
「やれやれ……随分眠り込んじまったな」
不安定な姿勢で眠ってしまい、首が少し痛む。
ごきごき鳴らしながら、天井の明かりを点けた。
廃病院に出かけた恭也と美耶子は、もうすぐ帰って来るはずだった。
携帯を見ると何通かのメールが入っている。全て恭也からだ。
《廃病院に到着しました!》
《病院内部……》
《調査完了。今から帰ります》
いずれのメールにも、その場その場で撮影したと思しき画像が添付されている。
建物の写真。建物内部の写真。そして、その全てに必ず美耶子の姿が写り込んでいるのだ。
これは恭也なりの気遣いなのだと、宮田は受け止めた。
アパートで待っている宮田を心配させまいと、わざわざ美耶子の画像を撮り、
逐一送って寄越していたのだ。
「律儀な奴だな……」
宮田は軽く微笑んだ。
最後のメールには、
《晩飯買って帰ろうと思ってるんですけど、何かリクエストありますか?》
という文章と共に、この町の駅に向かう電車の中で撮られた画像が添付されていた。
電車のドアに寄りかかってのツーショット写メール。
「あいつ、電車の中でこんなものを撮ったのか」
周りの乗客の眼には、普通のデートを楽しんで来た高校生カップルとしか、
映らなかったことだろう。
そういえば、宮田は付き合っている女と外に出かけても、
写真なんかはあまり撮ったことがなかった。
撮ったとしてもそれは、例外なく女が望んだものだった。
いずれ――美耶子と外に出かける機会があれば、
こうして写真を撮ってやるのも悪くないかな。そんな風に宮田は考える。
やはり美耶子は、宮田に取って特別な存在だった。
今までに付き合って来た女達とは次元が違う。
昔の女のことなんて――今思い出そうとしても、ぼんやりと印象が薄くて、
はっきり頭に浮かんでこないほどだ。
携帯を手にそんなことを考えていると、玄関のドアがノックされた。
美耶子と恭也が戻って来たのだ。
「お兄ちゃん、一個ぐらいメールに返事してよ」
ドアを開けるなり、美耶子は宮田に文句を言った。
「悪いな。お前らが出かけた後ずっと眠りこけてた」
「やっぱりね。そんなことだと思ってた。だったら私達と一緒に来れば良かったのに」
「冗談じゃないよ……何が悲しくて、医者が休みの日にまで病院に行かなきゃならないんだ」
「そうだよ美耶子。たまの日曜ぐらい、宮田さんだって休みたいだろ」
恭也は、両手にぶら下げたフライドチキンの袋を、ダイニングテーブルに置いて言った。
「チキン、晩飯にと思って」
「そうか。悪いな」
宮田は恭也に代金を渡そうとしたが、恭也は笑って断った。
「これは、奢らせて下さい……今朝のお詫びです」
照れ臭そうに恭也は言う。宮田は、自分の鼻に貼った絆創膏に触れた。
全く律儀な少年だ。
恭也の幼さの多分に残る横顔を、くすぐったいような気持ちで宮田は見つめた。
「すいませんけど宮田さん……ここ、虫刺されの薬とかってありませんか?」
久々の三人での夕食を済ませ、風呂に入った恭也は、申し訳無さそうに宮田に訊いた。
美耶子、恭也、宮田の順に済ませた入浴の後。
美耶子は、やはりこの日も独りで入浴した。
彼女に取っては、それがもう当たり前のことであるようだった。
実際にそれで事足りている以上、無理に元通りにさせる訳にもいかない。
「薬? ああ、あるよ。どっか刺されたの?」
「ええ、ちょっと……躰のあちこちを。野宿してたら、本当に色んな虫に食われたみたいで」
「なんだ、そんなに不衛生な場所で寝てたのか? ちょっと診せてみろ」
宮田は、恭也に服を脱ぐよう促した。
恭也は、ダイニングで髪を拭いている美耶子の方を気にしている。
「美耶子は眼が見えないんだ。気にしないでいい。早くしろ」
そう言われて、恭也はやっとTシャツを脱いだ。
蚊に食われた痕とは別に、蚤にやられたと思しき水疱や、
南京虫特有の二つ並んだ斑点なども見られる。
宮田が薬を付けてやろうとすると、恭也は手の平を翳してそれを拒んだ。
「あ……いいですよ。薬くれたら、自分で付けますから」
「遠慮するなよ。背中なんかは自分じゃ塗りにくいだろう」
「いや、まあそうなんですけど……他にもちょっと、付けたい場所が……」
恭也は、ごにょごにょと口ごもる。
「どうした? 性器でも刺されたか」
宮田が言うと、恭也の顔は真っ赤になった。どうやら図星だったようだ。
「それも診せてみろ」
宮田はにこりともせずに言った。恭也はびっくりして眼を剥く。
「いや、でも、あの」
「陰茎に発疹などの異常がある場合、病気に罹っている可能性もある……。
自己診断は避けた方が無難だ。構わないから診せてみろ。これでも医者なんだぞ、俺は」
恭也は、また美耶子の方を見た。
美耶子は居間に背を向けて座り、ひたすらタオルで髪を拭いている。
恭也はかなり躊躇をしたが、やはり、医師の宮田から病気の可能性を示唆されると、
不安な気持ちが頭をもたげたようで、思い切って、診せてしまうことにした。
穿いていたハーフパンツを下着ごとずり下ろし、宮田の前に下半身を晒す。
宮田は、ほとんど全裸となった少年の陰茎を覗き込んだ。
「ふん、結構立派なもん持ってるじゃないか」
「……からかわないで下さいよ」
「ちょっと触るからな」
宮田は、恭也のその部分を摘まんで診た。
包皮の部分に、小さな赤い発疹が見られた。陰嚢にも。
「これは痒みだけか? 他に異常は無いか? 小便する時に痛みがあったりとか」
「いや、それは無いです。ただ痒いだけで」
「そうか。だったらやはり、ただの虫刺されだな。特に心配はなさそうだ」
「そうですか……」
恭也は、ほっとしたように息を吐いた。
「じゃあ美耶子、恭也君に薬付けてやってくれ」
宮田の言葉に、背中を見せていた美耶子がぎくりと身を硬くした。もちろん恭也もだ。
「な、何言ってるんですか、宮田さん!」
「そうだよお兄ちゃん! 変なこと言わないで!」
美耶子が振り返ったので、恭也は反射的に前を隠した。宮田は呵々と笑う。
「今さら隠したって意味ないぞ。美耶子の奴、幻視を使ってずっと見ていただろうからな」
「そんなこと、してない!」
火のように赤い顔をして、美耶子は反論した。
「なんだ。それじゃあ、何のために恭也君を裸にしてやったのか、判らんじゃないか」
宮田の言い草に、美耶子はさらに赤くなった。
顔ばかりでなく、ノースリーブシャツの胸元までが赤い。
「どっちにしても、恭也君だって俺みたいなむさい男に触られるのは嫌だろう。
お前は、恭也君にさんざん世話になっているんだ。
それぐらいの恩返しはするべきじゃないのか?」
「いやだから……俺、自分で塗りますって……」
「お兄ちゃんの馬鹿!……できる訳ないじゃない! お兄ちゃん以外の人の、そんな……」
美耶子がそう言うと、恭也の表情は少し暗くなる。
宮田はソファーから立ち上がると、ダイニングに居る美耶子の手首を掴み、
居間に引っ張った。
「恭也君。すまないが、ソファーの背もたれを倒してくれ」
「お兄ちゃん……何するつもりなの?」
眉根を寄せて美耶子は尋ねる。
恭也もまた、硬い表情で宮田と美耶子を見比べながらも、パンツを上げ、
注文通り、ソファーを平らにした。
宮田は、ベッドの状態になったソファーの上に美耶子を座らせ、自分はその横に座った。
恭也は、二人と向き合い突っ立ったままでいる。
「恭也君」
宮田は言った。
「どうしたんだ? 下も脱いで、早くこっちに来い」
「そんな……だって、そんな」
「嫌か? 美耶子に触れられるのは」
恭也は、険しい顔をして黙り込んだ。
そんな恭也に、美耶子は黒い瞳を向けたまま、やはり何も言わない。
「嫌に、決まってるよ……」
悠久にも思われる沈黙の間を破り、言葉を発したのは、美耶子だった。
「当たり前だよ。恭也は私に触られるのなんか……嫌に決まってる」
「いや、それは違うよ!」
「じゃあどうして!」
美耶子は、恭也に向かい身を乗り出す。
「どうして……病院の時、手を繋いでくれなかったの?」
「触れなかったってことか。俺の手垢がついた女だから」
宮田が言うと、恭也は怒りに燃える眼で宮田を睨み付けた。
強い感情の篭った、光り輝く瞳――。
恭也は、ハーフパンツを脱ぎ捨てた。
細身でありながらも、硬く引き締まって逞しい裸体を曝け出し、
ソファーの中央にどっかりと胡坐を掻いて座る。
宮田はソファーの隅に身を引き、美耶子に向かって顎をしゃくった。
「彼はいいらしいぞ……美耶子、薬を付けてやれ」
美耶子は、宮田の放った軟膏のチューブを手に取った。
ぎこちない手つきで、五センチほども軟膏を押し出し、指先にすくう。
「じゃあまず上半身からだ。俺の視界を使うといい……ここで、見ていてやるから」
宮田が恭也の背中に眼をやると、美耶子は恭也の真正面に座り、
腕を廻して背中の発疹に薬を付けた。
それは、恭也と抱き合っているような格好だ。
恭也の躰にぴったりと身を寄せ、背中のあちこちを指でなぞる。
真っ直ぐに背筋を伸ばし、微動だにしない彼の鼻先は、
美耶子の洗い髪の香りに強く刺激されていることであろう。
果たして前に廻ってみれば、恭也の陰茎はすでに雄々しくそそり立っていた。
「背中はもういいだろう。今度は前だ」
宮田は、恭也の局部の変化が眼に入っていないかのように、そ知らぬ顔で美耶子に命ずる。
「その姿勢だと塗りにくいだろ。恭也君、横になりなさい」
宮田にじっと見つめながらそう言われ、恭也は戸惑いの顔を見せたが、
やがて、意を決したように仰向けに寝た。
屹立した陰茎があからさまに天井を衝こうとするのを、もぞもぞと手で押さえて隠す。
美耶子は気付かぬ振りで顔を背ける。宮田は薄く笑った。
「脛をいっぱい食われてるからな。まずはそこからだ。それが終わったら陰部を……」
「ううん。太腿も食われてるから、そこにも塗らないと」
美耶子に言われてよく見てみると、確かに脚の付け根の、
陰毛の繁り始めている生え際の辺りに、ぽつんと赤く腫れている箇所がある。
あまりに小さ過ぎるので、宮田は見落としていたのだ。
「ほう……よくぞこんなものまで。よほど恭也君の躰を凝視していたんだなあ。幻視で」
返す言葉も無くなり、美耶子は首を竦める。
赤く茹った顔は今にも湯気が立ち上りそうなほどで、
首筋の頚動脈が激しく脈打っているのが顕著だ。
そしてそれは、恭也もまた同じようなものだった。
宮田と美耶子の見守る中、全裸で無防備に横たわった恭也は激しい羞恥に全身を赤くし、
額には、薄っすらと汗の雫を浮かせている。
「どうした? 呼吸が苦しそうだな」
恭也が忙しなく口で息をしている様を見て、宮田は言う。
恭也は歯を食いしばり、顔を横に向けた。
「美耶子に裸を見られるのがそんなに恥ずかしいか?
でもちゃんと見せてやらなきゃ、薬が塗れないだろう。さあ、諦めてその手も退けるんだ」
宮田は、恭也の股間を隠している手を退かそうとした。
「や、やめ……」
手首を掴まれ、無理に上げられた手の下からは、赤黒い陰茎が再度お目見えする。
しかしそれは、先ほどまでのように直立して空を踊ることはなかった。
だいぶ大人しく、起き上がり方も控え目な感じだ。
おそらく、彼なりに努力したのだろう。
しかし、彼の努力はすぐさま水泡に帰すこととなるだろう。
美耶子が彼の陰茎に薬を塗るため、そこに触れようとしているからだ。
「ちょっと、ごめんね……」
美耶子が半ば勃起したそれにそっと指を添えると、恭也の喉仏は大きく上下した。
「美耶子、袋の方もだぞ」
美耶子は相変わらず赤い顔で、瞳を異様なまでに煌めかせながらも、
務めて冷静さを装っている風に、静かに頷いた。
そして、持ち上げた陰茎の下の陰嚢に、丹念に薬を塗り込んだ。
「う……」
睾丸に柔らかな刺激を受けた恭也は、ぴくりと眉を動かし、小さな呻き声を漏らす。
それにも気付かぬ振りをして、美耶子は陰嚢を指で摩る。
掴み処の無い二つの塊を、労わるように揉み解すその指先は、
やがて、陰茎の根元にまで到達した。
すると、それを待ち構えていたかのように、陰茎がむくりと頭をもたげて起き上がった。
美耶子がはっと息を飲む。
「ご、ごめん……」
恭也は、硬く眼を閉じ美耶子に謝罪する。
「気にすることはない。美耶子だって知らない訳じゃないんだ。男の生理については……。
そうだよな、美耶子?」
宮田の問いかけに、美耶子は返事をしない。
「それにしても……冗談抜きで、恭也君のこの陰茎は大したものじゃないか?
大きさといい、反り返り方といい……。どうだ美耶子。食ってみたくならないか?」
「お兄ちゃん、やめて」
「考えてみれば、お前は俺しか知らない訳だからな。その俺とも、もう一年になる。
そろそろ飽きてくる頃だろう。全く、恭也君もちょうどいい頃合に現れてくれたものだな。
ケルブは、最期まで主人に尽くす猫だった、ってことだ」
美耶子は、ソファーの脇にしゃがみ込んだ宮田の方に躰を向けると、手の平を翻した。
宮田の頬を打とうとしたのだ。けれども宮田は、軽々とその手を避けた。
「お兄ちゃん!」
「ふん、ケルブのことは失言だったか。しかしそうとんがることもないだろう。
恭也君と出逢いが、お前に取って喜ばしいものであったのは、間違いないんだから。
そんなことより……お前、恭也君のこれをどう始末してやるつもりなんだ?
気の毒に、こんなに勃起させちまって……」
宮田は恭也の陰茎を視界に入れる。
それはもう、恭也自身にも制御の難しい段階にまで来ているようで、
凄まじく赤く、大きくなってびくびくと脈打ち、血管を浮き立たせていた。
「この状態のまま放っとかれるなんてのは、まさに生殺しだぞ。
少し楽にさせてやった方がいいんじゃないのか?」
美耶子は、今度は何も反発の態度を示さなかった。恭也もだ。
中途半端な接触を続けた若い二人は、焦れていた。
心が、そして何よりその肉体が。
二人の間を仕切っている理性という名の障壁は、もはや決壊寸前だ。
宮田はその障壁に、最後の一撃を加えた。
美耶子の手を取り、恭也の陰茎を握らせたのだ。
美耶子はそれに触れた時、躰をぴくんと痙攣させた。
むき出しの二の腕に、一瞬だけ鳥肌が立ち――それが治まると、陰茎を握った手を、
ゆっくりと上下させ始めた。
「あ、あ……あ!」
ゆっくりと二回。素早さを増し、根元から亀頭までをくるりと捻るようにしながら、三回。
呆気ないものだった。
たったそれだけの動作で、恭也は、達してしまった。
せり上がった陰嚢を収縮させ、幹を震わせどくんどくんと。
重たく濃厚な精液は、尿道口を開いて、ぐっ、ぐっと噴き上がり、あちこち飛び散って、
生々しい臭気を辺りにまき散らした。
粘り気のきついそれは、美耶子の腕にはもちろん、躰にまで飛んでどろりとこびり付いた。
美耶子は、手の指に垂れ落ちた精液を口に含む。
恭也が驚愕の面持ちで見守る中、指の一本一本をしゃぶり上げ、手首に舌を這わせる。
美耶子に取って、これは当たり前のことだった。
男の精液は躰に取り込むべきもので、それが膣に出されたものでない場合――たとえば、
口の中に出されたのであればそのまま飲み込むし、指での奉仕で出されたものなら、
こうして舐め取る。
宮田が、そういう風に教育したのだ。
さらに美耶子は、恭也の股間に顔を寄せる。
恭也自身の躰や、未だ屹立して震え続けている陰茎にまとわり付き、
尖端の割れ目からじんわり溢れ出している精液まで、綺麗に舐め取ろうとしているようだ。
恭也は、美耶子にされるがままであった。
呆然と眼を見開いたまま――美耶子の美しい唇が、桃色の舌が、己の性器を這い廻り、
己の排出した欲望の塊を躊躇なく舐めてゆく様を、ただ見ているだけだった。
「こんな風にされるのは、初めてか?」
宮田に問われても、虚ろな表情で頷くだけだ。
287 :
名無しさん@ピンキー:2009/08/03(月) 22:20:29 ID:iZHm7SXR
「そうか。しかし、やっぱり君は若いんだな。
あれだけ大量に射精をしたのに、まだ勃起したままだ。まだまだ足りないんだな。
そうなんだろう?」
「……そんなこと」
「遠慮することはないさ。時間が短ければ、満足感も少ないのは当たり前だ。
それに、単純に射精しただけ、というのではな」
宮田はソファーの縁に顎を乗せた。そして恭也の耳元に囁く。
「なあ、やられっぱなしじゃ悔しいだろう。仕返しをしたっていいんだぞ?
多分、美耶子もそれを望んでいる」
恭也は、言葉もなく宮田を見つめ、次いで美耶子の方を見た。
美耶子は、丈の長いノースリーブシャツの胸元を摘まんで引っ張り、
そこに付いた精液の臭いを嗅いでいる。
恭也は起き上がり、美耶子の肩に両手を置いた。
その手をゆっくりと下にずらし――ノースリーブの細い布地を、肩からずり下ろした。
胸元から、張りつめた乳房がぽろりと零れ出す。
薄紅色の乳頭が、起き上がって呼吸と共に微かに震えた。
「美耶子……」
形良く並んだ乳房を見据えながら恭也は、喉に絡まる声で美耶子に呼び掛ける。
美耶子は何も答えぬ代わりに――そのま白き腕を、恭也の肩に廻した。
「美耶子!」
いきなり恭也は叫び、美耶子の躰をソファーに押し倒した。
美耶子はそっと眼を閉じ、恭也のするがままに身を任せる。
ノースリーブシャツをむしり取られても、乱暴な力で乳房を揉みしだかれても、
眉間に微かな皺を寄せるだけで、一つも抗おうとしない。
もはや完全に歯止めが利かなくなった恭也は、美耶子の肢体をぎゅっと抱き締め、
むっちりと盛り上がった二つの乳房に頬を擦り付け、
股座の、すでに腹を打つほどにそっくり返って武者震いをしている陰茎を、
美耶子の太腿にごりごりと押し付けるのだった。
暫くそうやって美耶子の肌の感触を味わった後、
いよいよ恭也は、美耶子の最後の場所を隠す布切れに手をかける。
互いの汗と、立ち上る熱気に湿ったその布切れは、くるくる捩れて下腹部から剥がれる。
そしてその内部からは、焔立つようにふわりと逆立った恥毛が、
悦びの源泉の強烈な目印となって現れるのだ。
「ああ……」
恭也の手によって最後の、一番恥ずかしい場所を露わにされた美耶子は、
さすがに恥じらいを隠し切れず、切ないため息をついて片膝を折り、
股間の割れ目を隠そうとした。
だが恭也は、低く唸る声と共に美耶子の膝を掴んで、外側に引き倒した。
ぱかんと割れた股の間から、美耶子の、桃色にぬかるんだ女性器が丸出しになる。
そう。そこはすっかりぬかるんでいた。
淫靡なかぐわしい匂いを発散しながら、男を求めて充血し、濡れそぼっていた。
「ふふ……ご覧の通りだ。恭也君、ちょっと触ってみろよ」
宮田に言われるまでもなく、恭也は美耶子のそこに指先を伸ばした。
濡れて綻びかけた陰唇のぬらぬらとした先っちょに、ちょんと指で触れ――
それから、その粘膜をぱくっと広げて、中のよりいっそう敏感な粘膜に、
くちゅくちゅと悪戯をした。
その刺激に美耶子は腿を震わせ、悩ましげに喘ぐ。
「なんだ、随分と上手くやるじゃないか。経験があったのか」
「い、いや、そんなこと、ないんですけど……動画とかで、見たことあるし……」
宮田の言葉に答えるたどたどしい口調に反し、その指先は巧みで、かつ貪婪だ。
開いた性器を立て筋に沿ってやわやわと掻きむしり、頂点で硬く膨れた陰核の尖端を、
そっと撫で上げ、震わせる。
そんなことをされると美耶子も堪らず、肌を薄っすらと赤く染め、
高く、低く、快楽に揺れる喉から声を漏らして、腰をねくねくねらせる。
自分の両乳房を握り締め、大きく広げた股の間、発情して淫液を垂れ流す膣口は、
襲い来る性悦に耐えながら、ぱくぱくと収縮を繰り返すのだった。
「う……く……はあっ、あぁ……はあぁあん……」
「どうだ美耶子。恭也君の手淫の具合は?」
淫らな声でむせび泣く美耶子の耳に、宮田は囁きかける。
「うあ……い、いい」
「もういきそうか?」
「い……きそう……すごい……もう」
「よし。恭也君、手を離せ」
宮田は恭也の手首を掴み、美耶子の性器を弄ることをやめさせた。
寸止めの状態にして、美耶子を責めるためだった。
しかし、事は宮田の思うようには運ばなかった。
恭也の指先が煌めく粘液の糸を引きながら離れたというのに、
美耶子の喘ぎ声は止まらなかった。
彼女は股を広げたまま、背中をぐっと反らし、膨張しきった乳房の山の向こうで、
甲高く切羽詰った叫びを上げた。
長い脚を横一文字にぴんと伸ばし、極限まで膨らんだ陰部の肉全体が、
どくんどくんと自律的に身動きをし――
あまつさえ、尿道口から男の射精のように体液を噴射さえして見せた。
すでに高まりきっていた美耶子の性器は、恭也の手が離れたというのに達してしまったのだ。
「あ……は……はあ……は……あ」
二人の男の眼に絶頂する性器を見せ付けた美耶子は、見えない眼を虚ろに開き、
狂おしく呼吸する。
火照った肌はしっとりと汗に濡れているし、快感を極めた性器から溢れ出た淫水は、
彼女の尻の下に淫猥な水溜りを作っていた。
「この数日間の禁欲生活が利いたんだな……」
宮田は半ば感心していた。
まだまだ幼いと高を括っていたが、美耶子はすでに、
これほどまでに発達した性感を獲得していたのだ。
また、恭也は恭也で、色好みの匂いなど微塵も感じさせないあどけない風貌でありながら、初めて触れる女の性器に的確な愛撫を加え、悦びの頂点まであっさりと導いてしまう。
宮田の眼には、彼ら二人ともに、幼形成熟めいたアンバランスさが際立って見えるのだ。
そして、そんな風に感じる自分は、きっと古い人間なんだろうとも思う。
宮田がそんな物思いに耽っていることなどつゆ知らず、恭也は美耶子の蜜に浸った指先で、
猛り狂った硬い陰茎を握り締め、いよいよ美耶子の肉体を完全に征服せんと、
踊りかかっていた。
「うっ、あ、あ……恭、也……」
美耶子の広がった髪の毛の中に頭を突っ込み、美耶子の躰にぴったりと躰を被せた恭也は、
尻をもぞもぞ動かして、目当ての場所を懸命に探り、
そこに陰茎を嵌めこもうと躍起になっている様子であった。
だが、なにぶん初手のこととて上手いこと行かず、
美耶子の陰部の、見当違いな場所を突付き廻しているらしい。
「おい恭也君、少し落ち着け。慌てなくたって美耶子のあそこは逃げやしないよ……。
美耶子、お前もちょっとは協力してやれ。
こういった行為に関しては、お前の方が先輩なんだから」
宮田にそう言われても、美耶子は何もしなかった。
しない、というより、できない、と言った方が正確か。
恭也が美耶子の躰をがっしりと押さえ込んでいるので、彼女は身動きが取れないのだ。
仕方がないので宮田は、密着した二人の下腹部の間に手を挿し入れ、
恭也の骨が通ったように硬いものを持って動かし、美耶子の膣口まで導いてやった。
「ほら、ここだよ。いったん腰を上げて……そうだ。そのまんま進めてみろ。ゆっくりとな。
抜き挿しを繰り返しながら、少しずつ……」
宮田の言葉を無視するように、恭也の腰は勢いよく、性急に沈み込んだ。
恭也の下で、美耶子の躰がびくんと跳ねる。
美耶子の白い脚が、恭也の腰を挟み込むように折れ曲がった。
腕も。
硬く締まった背中にゆるゆると巻き付いて、愛しげに撫でている。
どうにか上手く納まったらしい。
深く繋がりあった満足感からか、二人は深いため息をついていた。
「……すっかり這入ったんだな」
二人の傍ら、床に腰を据えた宮田は、静かな口調で美耶子に確かめた。
「うん……」
「恭也君、どうだね? ご感想は?」
「え……はあ、まあ……」
「はあ、まあ、じゃ判らん。初めての性行為だろう、もっと何かないのか?
気持ちいいとか感動したとか」
そうは言われても、恭也からすればそんなコメントをするどころじゃない、
というのが正直な気持ちであった。
美耶子との行為に没頭したい彼に取って、宮田の存在は邪魔者以外の何ものでもないのだ。
宮田とて、それは重々承知している。
かといって宮田は、この二人を二人だけにさせてやるつもりなど、さらさらないのだ。
「まあ、俺のことは気にしないでいいから、やりたいようにやってみろよ。
それこそ、徹底的にな。美耶子が、お前から離れられなくなるぐらいまでやってやれ」
そう言うと宮田は立ち上がり、天井の照明を消してやる。
室内には闇が落ちるが、カーテンを透かし、
表の遊歩道から常夜灯の光がぼんやり射し込むので、完全な暗闇にはならず仄かに明るい。
それでも周囲が蒼い闇に沈んだことで、
少女の愛人であり、保護者でもある男の監視下で初の交合を行う、
といった異常な現実から心を反らすことができたのか、
恭也は少し、落ち着きを取り戻した様子であった。
これで性交に没頭できる。
恭也は小さく息を吸うと、美耶子の腰に腕を廻し、すこすこと腰を上げ下げし始めた。
恭也は、本当にこれが初めてとは信じられないくらいに、上手に腰を使った。
女の躰を体重で押し潰して身動きを封じてしまったり、
独りの手淫と同じような感覚で膣を扱い、暴力的な摩擦を加えてしまう――あるいは逆に、
腰を使うという概念がはなからなくて、挿れたままぼおっと静止したままでいる、
などといった、初体験の時にありがちな過ちを犯すこともなく、
美耶子の躰と巧みに戯れている。
美耶子もまた恭也の動きに応え、開き気味にした股の間に挟んだ恭也の下半身を、
しっかりと受け止め、半球形の尻をくいくい突き上げて、
彼の陰茎をぬめった膣襞に擦りつけるのだ。
「う……ううん……くぅ」
膣をずこずこと姦されながら、躰を折り曲げた恭也に乳首を舐められ、
美耶子は控え目な声を漏らす。
それに合わせ、くちゃんくちゃんと鳴っていた二人の結合部から、
熱く煮凝った淫液が堰を切ったようにどっと溢れ、
濁った音は、よりいっそうの凄絶な迫力と卑猥さを増すのだった。
「声を殺すな美耶子。もっと思い切り鳴いて聞かせてやれ。その方が男には嬉しいもんだ。
自分の行為が相手に悦びを与えているという、満足感を得られるからな。
恭也君もだよ。気持ちがよかったらそれを隠すな。美耶子に知らせてやるんだ。
お前達は今、同じ一つの快感を共有しているんだ。それを互いに認め合え。
より深い快楽に到達するために……」
「ああっ、あっあ……き、恭也……恭也あ……」
美耶子は、宮田に教え諭された通りに声を上げ、恭也の背中に廻した腕に、
ぎゅっと力を込めて抱き締めた。
恭也は美耶子の乳房の中で荒い呼吸をし、ただひたすらに腰を蠢かしている。
最初、怖々と確かめるような感じだった彼の動作は、
次第に積極的な、確信を得たものとなり、情熱的な熾烈さをもって美耶子の躰を揺り動かした。
きつく結ばれ合った一つの震動体と化した彼らは、ソファーを揺らし、
カーペットの床さえもみしみしと鳴らして、その響きを宮田の元に伝えた。
変調子のその響きを下半身に感じ、宮田は気が遠くなるほどの興奮と、
異様な情欲に身と心を苛まれる。
宮田は、己のかけがえのない愛人である美耶子が、
どこの馬の骨とも知れぬ風来坊の少年に抱かれ、あえかな声をあげてよがり、
美しい白い肌を、夜目にも明らかなほどに赤く染めている様を目の当たりにし、
すぐさま彼らを引き離して、どちらとも構わず殴りつけてやりたいような衝動に駆られたが、
その一方で、この苦しみの中から、途轍もなく歪んだ快感を得ていることも自覚して、
そのどうしようもない魅力に絡め取られ、抜け出すことも叶わずにいるのだ。
他の男に抱かれている美耶子の、悩ましい姿。
うっとりとしたその表情も、陰部から絶えず溢れ続け、淫らな芳香を放っている淫水も、
自分ではない、他の男の行為によるものであるという事実。
しかもその悪夢のような事実は、他ならぬ、自分自身によって引き起こされたものなのだ。
ここに至り、宮田の自我は混迷をきたす。
――俺はなぜ、美耶子と恭也、そして、他ならぬ俺自身に対して、
こんな非道な仕打ちに及ばねばならないのだろうか……。
手足を絡め合いながら躰を波打たせる二人を見ながら、宮田は密かに動悸を早め、
全身汗にまみれ、陰茎を、近年類を見ないほどに激しく勃起させる。
疼いて燃えるその部分は、今しも勝手に射精してしまいそうで、
うかつに触れることさえできやしない。
そんな苦しみに身悶えつつも、表向きだけは淡々と、涼しい顔で観察していると――。
「うぅっ……う、み、美耶子……!」
恭也の動きが、完全に理性を失ったように、滅茶苦茶な、がむしゃらなものに変化していた。
息ざしは大きく乱れ、まるで命を懸けているかのような、
死に物狂いの気配が色濃く伝わってくる。
もはや、射精の瞬間が間近いのだろう。
恭也の捨て身の攻勢を受けて、美耶子の喘ぐ声は一オクターブ高くなり、
くりくりと蠢く尻も切羽詰った感じにうねり、
恭也と密着した部分から漏れ聞こえる粘液の音が、急ピッチの忙しないリズムを刻んでいた。
そして彼らの一連の動作が最高潮に達した時、突然恭也は顔を上げた。
「だ、駄目だ美耶子、放して! も、もう……出、出……」
恭也は、下から腕と脚でもって絡み付いてくる美耶子から、
躰を引き剥がそうともがいていた。
けれど、性の快楽が高まっている美耶子はそれを許さず、恭也を抱く手に力を込めて、
思い切り強くしがみつく。
「ああぁ……いいの、このまま、出して……」
「でっ、でもっ……うっ」
上半身を起こした恭也は、ぴたりと動きを止めて呻いた。
苦悶の表情。食いしばる歯の隙間から荒ぶる呼吸を漏らしながら、肩から臀部にかけて、
ぴくぴくと律動を起こしている。
彼の下に居る美耶子もまた、仰け反った丸い乳房をひと揺れさせて、
大きく淫らな声で鳴きながら、足先をぴくんぴくんと痙攣させた。
彼らは、ほぼ同時にオルガスムスを迎えたのだった。
初めて性交を体験する少年が、そつなく女を絶頂まで導いたばかりか、
その快楽を見事に一致させるという、熟練した大人でも難しい業を達成して見せたのだ。
彼らは、永く永く声を上げ続けた。
不思議なことに、深くこうべを垂れ、膣の中に精を吐き出している恭也と、
白い喉を震わせ、黒髪の中に埋もれて恍惚に酔い痴れる美耶子の姿は、
猥雑さよりはむしろ、清しいまでの神々しさを感じさせる。
それは、何か運命的な力によって結び付けられた一組の男女の、
この世の全てに祝福された、望ましい大宇宙の摂理のような印象でもあるのだった。
そんな少年と少女の結合を目の当たりにした宮田は、嫉妬などという生易しいものではない、
暗黒の深淵から噴き出るような、絶望の昏い炎を浴びせられ、射精を伴わぬままの、
はげしい絶頂感に躰中を灼き尽くされる。
その、叫び出してしまいそうなほどに凄まじい快感の奔流が終わるのを待ってから、
宮田は静かに立ち上がった。
便所に向かい、白い便器の中に、もうもうと湯気の立つ小便を放つ。
膿んだように熱を持った頭の中で、今見た光景を反芻した。
出逢って間もない余所者の少年にあっさりと身を任せ、
その胎内に彼の精液さえも受け入れた美耶子。
不貞な女。裏切り者。
それでも、美耶子はやはり美しい。
怒りや憎しみを感じたことも確かだったが、それが彼女に対する、
より強い執着心にも繋がった。
嫉妬することでかえって情愛が深くなり、彼女を手放し難い気持ちになるのだ。
居間に戻って明かりを点けると、二人はまだ陶酔の只中に揺蕩って、重なり合ったまま、
ぐったりと四肢を投げ出していた。
「終わったのなら、さっさと起きたらどうなんだ」
感情の篭らぬ声で宮田が言うと、恭也と美耶子は、
夢から醒めたような面持ちで躰を動かし始めた。
互いの顔を見つめ合い――どちらからともなく自然に唇を重ね、愛しそうに吸いつき合う。
接吻しながら、名残り惜しそうにしっかりと抱擁を交わしていた。
あまりに永いことそうしているので、再び性交を始める気なのかと宮田は危ぶんだが、
暫くすると二人は唇を離し、上下に折り重なっていた躰も横にずらした。
外れた性器が、白濁した粘液の筋で繋がっている。
美耶子の股間と、恭也の陰茎の先とを繋いでいるそれは、
若い二人が自分の知らない処で交わした、秘密の約束の証のように、
宮田の眼には見えたのだった。
【Continue to NEXT LOOP…】
*このエロパロSSはフィクションであり、
実在のゲーム・キャラクター・団体・事件及び地域などとは一切関係ありません。
わあードロドロだー
エロよりも話の展開に気がいってしまう
大作ですな
面白い!ミステリー!
胸を締め付けられる切なさに満ちていて、物語全体が素晴らしく上質で。
好きだ大好きだ。
文章のクオリティが高すぎるぜ…!
書き始めの頃は60レス程度で済むだろうと高を括っていたのですけど、
無駄に大作になってしまいました。
あと一回ぐらいで終わるといいなあ。
時間的には今月中には終わらせるつもりです。
注意事項:美耶子のクリトリスがちょっとだけ痛いけれど、たいしたことはないです。
「ま、あとは仲良くやってくれ」
若い二人を残して診察室を後にした。
少年の血の輸血により、娘の方は危機を免れたし、少年も何とか無事に眼を覚ました。
暗い廊下を歩き出す。
廊下の先に小さな人影を見た。
長い黒髪を背中に垂らした、華奢な少女のシルエット。
誘うようにこちらを見返りながら、しずしずと歩いてゆく。
「はあ……今度は何だ?」
肩を竦め、ため息をついて呟いた。
あんな少女、放っておいても構わないのだが、これも何かの縁だろう。
それに、どうせ今は他に達成すべき目的もない。
つかず離れず、距離を置いて先をゆく少女に続き、病院の出口に向かって足を向けた――。
「じゃあ、お先」
診療時間が終わり、白衣を脱いだ宮田は、幸江に向かって挨拶をした。
「お疲れ様でしたー。宮田先生、じゃあまたお盆明けにね」
幸江は、いつものように朗らかな笑顔で宮田に会釈をする。
その笑顔を見て、宮田は複雑な気分になる。
明日八月十二日から、犀賀診療所は例年よりも長めの盆休みに入ることになっていた。
「幸江と二人で、ちょっと旅行にでも出ようかと思ってるんだ」
宮田に休みを告げる時、犀賀はそう言って静かに微笑んだ。
「診療所を始めて何十年もの間、あいつには苦労のかけ通しだったからな。
労う意味も込めて……まあそんな訳だから、宮田君もゆっくり休んでくれよ」
仕事の虫である犀賀のものとも思われないその台詞に、宮田は少々面食らった。
「そんなこと言って……俺を体よくお払い箱にする気じゃないでしょうね?」
「馬鹿言うなよ。今、君に辞められたら困るのはこっちの方さ。
本当に他意はないんだ。ただ、ちょっと幸江を休ませる必要があるみたいなんでな……」
「調子悪いんですか? 幸江さん」
「いや……躰の方は至って健康そのものだ。
ただ最近、ちょっと気疲れしているというか……情緒的に不安定になることがあってなあ。
突然訳の判らないことを言い出したり、夜中に独りで泣いていたこともあった」
「更年期ですかね」
「かも知れんな。まあ何にしても、そう大したことではないと思うんだ。
景色のいい場所にでも連れて行って、気晴らしをさせたらきっとすぐ元通りになる」
幸江の様子がおかしくなっていることは、宮田も勘付いていた。
表面上は元気に、機嫌よく仕事をしている素振りを見せていたが――
時折ふっと憂鬱な表情で俯いたり、
話しかけても返事をせずに、何やらぶつぶつと独り言を呟いたりと、
彼女らしからぬ不審な態度が眼につくようになっていたから。
それに宮田は知っていた。
それは数日前のこと。その日は、珍しく宮田が往診に出ていた。
自宅療養中の患者に注射一本打つだけの簡単な仕事で、
早々に済ませて診療所に戻ると、犀賀と幸江が、珍しく口論になっていたのだ。
しかもそれは、かなりの荒れ模様になっていた。
フロア中に響き渡るような幸江の大声に、
宮田は戸を開けることもできずに困惑していたのだが――。
「冗談じゃないわよ! 何でもかんでも勝手に決めないで欲しいもんだわ!
あんたはいつでもそう! 昔からいつもいつもいつも……宮田先生のことだってそうよ!
私は反対だったのに、勝手に決めて……」
「今さら何を……お前も納得したはずだったろう?
これ以上、俺一人でやっていくのには限界があるって」
「してないわよ! してるわけないじゃないのよ!
……ったく、人雇うのだって只じゃないってのに、
あんな、どこで何をしてきたとも知れない胡散臭い風来坊を雇うだなんて!
あんたはどうかしてるわ! 私は、今でも認めちゃいないんですからね!」
これには、さすがの宮田もショックを覚えた。
確かに、そんな風に思われた処で仕方のない身の上ではあるのだ。
詳しい事情を他人に語ることのできない逃亡者。脛に傷を持つ流れ者。風来坊。
警戒されるのも無理はない。
だがしかし、あの気のいい親切な幸江が、未だに自分のことをそんな眼で見ていたとは。
気さくな表向きの顔の裏側に、そんな本音を隠し持っていたとは……。
――仕方のないことだ。所詮は他人なんだから。
そんな風に自分自身を慰めると同時に、宮田は気付く。
この居心地のいい町に――居心地のいい診療所に、自分がいかに馴染みきっていたのかを。
煩雑ではあるが、それなりに穏やかな日常。
無口で厳しい態度の中に、温かい心を秘めた所長。母のような包容力を見せる看護婦。
そう。宮田に取って犀賀と幸江は、この町における両親のような存在になっていたのだ。
彼らが居なければ宮田も、盲いた愛人と二人きりの生活に耐え切れたかどうか……。
自嘲気味に、あるいは自制を促すように、宮田は独り微笑んだものだった。
所詮は他人。頼りきるのは間違っている。彼らにだって事情はあるのだから。
そう――それにこちらの方だって、彼らには言えない事情を抱え込んでいる。
胸の内で燻り続けていた、あるひとつの考え。
この一件を契機として、宮田はそれを具体的に、明確に自覚し始めた。
日常の些末事に埋没させ、封印させたきりだった懸案。
幸江の言葉は、それを引っ張り出すのにいいきっかけだった。
そして、そのきっかけはもうひとつあった。
それは今、アパートで二人仲良く夕餉の支度に勤しみながら、
宮田の帰りを待っているはずだ。
「宮田さん、おかえりなさい」
アパートに着いてドアを開けると、味噌汁の匂いと恭也の声が出迎えた。
「飯、ちょうどできた処です。食べますよね?」
「ああ……」
返事をしながら、宮田はダイニングと居間を見渡した。
美耶子の姿がない。
トイレや風呂ではなさそうだ。寝室のアコーディオンカーテンを開けようとすると――。
「あ、彼女、寝てます」
慌てて寄って来た恭也が宮田の腕を引いた。
「寝てるって……こんな宵の口なのに?」
時計は、まだ七時を廻ったばかりだ。
「実は昼間、美耶子と言い合っちゃって……怒らせちゃったみたいなんです。それで」
「なんだ不貞寝か、馬鹿馬鹿しい。おい美耶子」
宮田は、構うことなくアコーディオンカーテンを開けた。
暗い寝室のベッドで、美耶子はこちらに背を向けて横臥している。
太い横縞のロングTシャツ姿。
手足を小さく縮込めて――眠ってはいないようだが、拗ねているのか振り返りもしない。
「飯だぞ。さっさと起きないか」
「宮田さん……」
美耶子の肩を揺さぶる宮田の後ろで、恭也は首を横に振った。
「放っておいてあげて下さい。それに……宮田さんにも話さなきゃいけないこと、あるし」
宮田は恭也を振り返った。
居間からの逆光を浴びた恭也の翳る顔には、あの日の朝と同様に、
重たい決意の表情が見て取れたのだった――。
美耶子と恭也とを無理やり結び付けた放埓の夜から、今日で三日目になる訳だ。
あの夜には結局、美耶子と恭也は、ただ一度きりの交接をしただけで終わった。
「本当に、もういいのか?」
元通りに寝間着を着て、いつも通りに寝室のベッドに入った美耶子の耳元に、
宮田は囁きかけた。
「あっちで寝たって構わないんだぞ? お前がそうしたいんだったら――」
「どうして?」
闇の中、美耶子は盲いた虚ろな瞳を宮田に向ける。
その瞳には、責め立てるような怒気を孕んだ光が微かに宿っていた。
宮田は、美耶子の光る瞳を無言で見返す。
居間の方からは、恭也が聴いているポータブルプレイヤーのヘッドホンから漏れ出る音楽が、
断続的なリズムを刻んでひっそりと響いていた。
「お兄ちゃんは――私をどうしたいの?
恭也とあんなことをさせて……私が辛い思いをするの、面白がってるの?」
「辛い思いなんてしてない癖に」
「してるよ。だって私は……お兄ちゃんとしか、したくないのに」
「嘘だな。だったらなぜ彼を拒まなかった?
途中でやめることだって出来たはずなのに、なぜお前はそうしなかったんだ?」
美耶子は、宮田の首っ玉に両腕で齧りついた。
「お兄ちゃんの……馬鹿!」
強く囁く声。そして彼女は宮田の唇に接吻をする。幾度も幾度も。
そうしながら首に廻していた腕を滑らせ、宮田の股間を探り出した。
大人しく萎びた陰茎を、陰嚢ごと優しく揉みしだく。
宮田は暫くの間、美耶子のしたいように手淫をやらせていたが、
やがて、細く冷たい指を引き剥がすと、寝返りをうって彼女に背を向けた。
「お兄ちゃん……」
媚びるような甘え声と共に。美耶子は宮田の背中にすがりつく。
「もう私のこと、嫌いになった?」
宮田は美耶子を振り返った。
夜の闇に浮かび上がって見える白い頬を、そっと撫ぜる。
美耶子の瞳に涙が溢れた。
「何で泣くんだ……」
宮田は指先で美耶子の涙を拭う。美耶子の涙は、後から後から溢れ出して止まらなかった。
「俺は、そんなにお前に酷いことをしたのかな?」
「したよ。さっきからそう言ってるじゃない。私もう、どうしたらいいのか判らないよ……」
宮田は宥めるように美耶子を抱き寄せ、ぽんぽんと背中を叩いた。
そうすることしかできなかった。
抱き締めている美耶子の躰からは、恭也の精液の匂いが立ち上ってくるようで、
どことなく不快感があってそれ以上のことをする気になれない。
かといって、こうして涙している顔を目の当たりにすれば、邪険に扱うのも躊躇われた。
結局宮田は美耶子が寝入るまで、そうして彼女を胸に抱いたままで過ごすこととなった。
くたびれ果てた美耶子が、寝息を立て始めた後も――。
恭也のヘッドホンから漏れていた音楽が途絶え、周囲がひっそりと静寂に包まれた後も、
宮田は冴えた眼で闇を見据え、夜が終わるのを孤独に待ち続けるだけだった。
そうして何とかその夜をやり過ごし、眠り続ける二人を残して仕事に出かける宮田の心情は、
奇怪なものだった。
もう暫くして眼を覚ませば、彼らはきっと、ゆうべの続きをし始めるのに違いないのだ。
眠る前、美耶子は宮田に操を立てたいようなことを言っていたが、
そんな決意は、間近にいる恭也が少し強引に迫れば、脆くも崩れ去ってしまうことだろう。
そう考えると、自分の留守中、好き勝手に愛欲を貪るのであろう彼らのことが、
腹に据えかねる。
だがその一方で、宮田自身、そうなることを期待している節がないでもなかった。
自分の居ない間に、恭也に抱かれる美耶子。絡み合う二つの裸体を思い出す。
心に鋭い痛みを感じるものの、その痛みには言い知れぬ快感が潜んでいた。
気もそぞろなまま一日の勤務を終えてアパートに戻ると、
美耶子と恭也は静かに宮田を迎え入れた。
二人共にきちんと衣服を身に着け、性行為の名残りのしどけない様子などは、
微塵も感じさせなかった。
居間のソファーや寝室のベッドもそれとなく点検したが、
いずれも清潔に整った状態に保たれており、乱れた形跡は残っていない。
(なんだ、何もしていなかったのか?)
拍子抜けしてしまった。安堵の気持ちと、予想が外れて肩透かしを食い、
落胆したような気持ちとが綯い交ぜになった、不可思議な気分。
しかしそんなぬるま湯のような安らぎは、ほんの一時のものに過ぎなかった。
夕食の後、浴室に入った途端に、宮田が当初覚悟していた気配がむっと全身を包囲した。
ぬくもった湿気に混じり、隠そうにも隠しきれないそれは、
男女が情交の際に漏らす淫液の臭気に他ならなかった。
排水溝のカバーを外して調べると、髪の毛や石鹸滓の汚れに混じって、粘りの強い何かの液体が溝の中に絡み付いている気がした。
(そうか……ここで)
風呂から上がった宮田は、恭也と美耶子を寝室に呼んだ。
「遠慮しないで、君もこっちに来なさい」
寝室の入口で、棒立ちになって躊躇している恭也を、宮田はベッドに招き入れる。
あまり大きくはないセミダブルのベッドは、三人で腰かけるとぎちぎちと窮屈だったが、
冷房の利いた室内では暑苦しさを感じることもなく、それぞれの肌と肌の触れ合う感触が、
いっそ官能的で心地好かった。
「さて美耶子。裸になって股を開け。今日の成果を見せるんだ」
恭也と美耶子は、びっくりして眼を丸くした。
「何言ってるのお兄ちゃん。また酔っ払ってるの?」
「酔ってない。いいから早くしろ。それとも、無理やり引ん剥かれたいか」
「宮田さん……もういい加減やめませんか? そういうの」
呆れた口調で言う恭也に、宮田は冷たい視線を浴びせる。
「ふん、今さら気取ったことを言うな。風呂の排水溝にしこたま精液を垂らし込んでた奴が」
恭也の顔が、盛大に引き攣った。
「大方お前達は、今日一日セックスだけして過ごしていたんだろ?
俺が戻るまでに身仕舞いをし、部屋を片付けていたのは偉かったが、
証拠隠滅と呼ぶには詰めが甘かったな。
でもまあそれはいい。とにかく、初心者の恭也君と過度の行為に耽って、
美耶子の性器が爛れていたりしないかと心配なんだよ、俺は。ただそれだけだ」
「そんな……俺そんな乱暴にやってませんよ」
「恭也!」
口を滑らせた恭也を美耶子が叱りつける。全く、語るに落ちるとはこのことだ。
宮田は苦笑いをして肩を竦めた。
「ふ……乱暴にはしてないって? 本当か? どれ」
宮田は、美耶子の躰を膝の上で仰向けにさせた。
パジャマのズボンをパンティーと一緒に引きずり下ろして、眼に沁みるほどに白い太腿と、
その真ん中に萌え立つ黒い恥毛を露わにした。
今日、散々見たのであろうその場所から、恭也はそっと眼を逸らす。
逆に宮田は、恥毛の中から微かに透けて見える鮮やかな紅色の粘膜に顔を近づけ、
指で探りながら大きく掻き分けた。
「ああ、お兄ちゃん……」
気恥ずかしそうに額に手を翳す美耶子の正面に廻り、秘められた部分をさらに凝視する。
美耶子のその部分は、この一日で一目見て判るほどの、あからさまな変化を遂げていた。
宮田は言う。
「おい、随分と小陰唇が膨張してるじゃないか」
そうなのだ。
美耶子の、元来どちらかというと慎ましやかだった陰唇が、
ぽってりと普段の倍ほどの大きさに膨らんでいたのだ。
陰裂から大きくはみ出たそれは、紅く色づいた様子といい、まるでたらこのようだった。
「こりゃあ、かなり摩擦したみたいだな――こっちはどうだ」
柔らかく膨らんだ陰唇の上の方を探り、頂点の肉の芽を包皮からくるりと剥けば、
それもまた、絶頂間近でもあるかのように丸く飛び出し、真っ赤に熟れて艶々と輝いていた。
「ここも弄り倒されてるなあ。美耶子、ちょっと痛いんじゃないのか?」
「うーん、痛くはないんだけど……ちょっとだけひりひりしてる……かな」
「え!? そ、そうなの?」
恭也は慌てて振り返る。
「ご、ごめん美耶子。俺……気付かなくて」
「大丈夫だよ。恭也が悪いんじゃない。ちょっとだけ……し過ぎちゃっただけだから」
「そんなにか。何回やったんだよ」
「……八、いや、七回……です」
「四回くらい、かな」
恭也と美耶子は、それぞれ全然違う数を言った。
「どっちなんだ」
よくよく訊いてみれば、発覚した事実は驚くべきものだった。
要するに二人は、昼の間ほとんどの時間を繋がり合ったままで過ごしていたのだった。
そのさなかに恭也が七回、美耶子が四回、オルガスムスに達したのだと、
まあそういうことらしいのだ。
「いい気なもんだな。この暑い中、こっちは汗水垂らして働いてきたってのに……。
お前達は部屋に篭って日がな一日セックス三昧か」
「しょうがないじゃない。お兄ちゃんが、私達をこんな風にさせたんだよ?」
美耶子が小生意気に言い返すので、宮田は剥き身の陰核を指先で弾いてやった。
「ひっ」
美耶子はぎゅっと眼を閉じ、小さく腰を跳ね上げる。
「確かに俺は、お前らに姦ってもいいと言ったがな。
一日中嵌めっぱなしで過ごしていいなんてことは、一言も言ってないぞ、こら」
そう言って、腫れた陰核を人さし指でぐりぐりと押し潰す。
「ああ、はあぁ……」
美耶子は眼を潤ませ、切ない吐息をはいて、膣口をひくりと蠢かせた。
ひくひくと震える穴からは、白く泡立った粘液がどろっと溢れ出る。
その反応の速さに、宮田は驚いた。
日中ずっと快楽に耽り続けた躰は、性の感覚が鋭敏になって、
すぐさま男を迎え入れる準備が整ってしまうもののようだ。
「あ、あ……お、お兄ちゃん」
瑞々しい鮮紅色の肉襞をひくつかせる美耶子は、
宮田の指によって、膣穴から溢れ出る淫液を陰裂に沿って伸ばされ、
尖り震える陰核に塗り込められると、半開きだった脚を自ら広げ、
膝を立てて濡れそぼつ穴をぐっと前に突き出してしまうのだった。
「ふん、何て格好だ美耶子。はしたない」
嘲弄の言葉を浴びせ、宮田はふやけた指を陰部から離した。
「ああ……」
会陰から内腿、尻の穴の方までひたひたに濡らしたまま、
美耶子は赤く上気した顔を苦しげに歪めて喘いだ。
パジャマを着けたままの胸元を上下させ、
両乳房の頂点の突起を殊更に目立たせている美耶子をじっと見つめた後、
宮田は恭也を振り返った。
「続きは君がやってやれ」
恭也は、赤らんで怒ったような表情を浮かべつつ、宮田と躰を入れ違えて、
美耶子の前に座った。
「恭也……」
美耶子は、救いを求めるように恭也に向かって腕を伸ばす。
早くも絶頂の兆候を現している膣口は、恥知らずなまでの露骨さでぱくぱくと、
陰茎を乞うて濁った体液を垂れ流した。
「ひりひりしてるとか言ってたからな。ぶち込む前に、ちょっと舐めてやるといい」
宮田は後ろから恭也に言う。
「それとも、そんなことは昼間にもうやったか?」
「いいえ……してません、まだ」
振り返らずに恭也は答えた。
そして身を屈め、美耶子の股の間に顔を埋める。
「あんっ! やっ、恭……」
恭也の頭が深く沈みこんで美耶子の中心部に接した途端、
美耶子は慌てたように脚をばたつかせたが、次の瞬間にはなまめかしく呻いて喉を反らし、
太腿で彼の頭を挟み込んだ。
「美耶子、そんなに締め付けると、恭也君が窒息してしまうぞ」
宮田が注意をするも、美耶子の脚はその力を緩めない。
それどころか、がに股の状態でもって足首を交叉させて、
もっともっと恭也の口を性器に押し付けようとして、渾身の力を込めるのだった。
恭也は恭也で、そんな風に苦しい状態を強いられているのに、
まるで苦にする様子も見せず、濡れてわななく性器にがっぷりと口をつけ、
べちゃべちゃ音を立てながら、美耶子の快楽の源泉である場所に、献身的な奉仕を繰り返す。
「恭也君も。
あまりきつく舐め廻すんじゃなく、舌を柔らかくしてそっと撫でるようにやるんだ。
それにもっと、陰核の裏側とか、膣孔の周囲なんかを重点的に舐めてやった方がいい」
宮田はやり方を指示すると同時に、美耶子の泣き所をも知らせてやるのだが、
恭也は宮田の言う通りにしようとはしなかった。
ほとんど本能的に、自らの欲望に煽り立てられるままに、滅茶苦茶な動作で首を動かし、
陰核といわず、膣穴といわず、尿道口といわず、恥毛のへばり付いた大陰唇といわず、
餓えた犬畜生のように舌で蹂躙するばかりだった。
そんな暴力的な啜門行為を受けながら、美耶子は蕩けるような声を上げてよがる。
蛍光灯の明かりの下で艶のある黒髪を振り乱し、
茹った顔も、赤味の差した首筋までも汗びっしょりにして喘ぎ身悶えた。
宮田はベッドから降りて美耶子の枕元に廻り、汗に湿ったパジャマの前を開け、
それを脱がせようとする。
すると突然、美耶子の両腕が宮田を捉えた。
美耶子は、宮田の背中に腕を廻して強く抱き寄せた。
そしてほとんど強引に接吻をする。唇を吸いつけ、口の中に燃える舌を送り込んで、
ねっとりと絡んで舐め廻す。
宮田は仕方なしに接吻に応え、開いた胸元から乳房を掴み出して、やんわりと揉みしだいた。
ぴんぴん尖って指先を衝く乳首に微妙な震動を加え、次いでくりくりと転がして嬲る。
別々の男の手によって、陰部と乳房を同時に責め立てられた美耶子は、
他愛もなく果ててしまった。
「ん……ううんんんっ」
絶頂の発作に喉から漏れ出す淫声は、宮田の口に封じられ、苦しげに押し篭められる。
それでも美耶子は唇を外そうとしない。
宮田の口腔に桃色の熱い息を吹き入れながら、美耶子は恍惚のわななきに全身を委ねる。
強張った乳房が、激しい鼓動に弾んでいるのを胸板で受け止める一方で、
宮田は、美耶子の股座に顔を突っ込んでいる恭也の方を横目で確かめる。
恭也は、美耶子の性器の収縮を、舌の先でじっと味わっているようだった。
最後まで、彼女の快楽の発作が収まり、首の周囲にきつく巻きついていた脚が、
力を失ってシーツの上に落ちるまで、そうして静止し続ける。
完全に埒が明いたのを確認してから、彼はようやく美耶子の性器から顔を離した。
ずっと息苦しい状態でいたためか、その顔は鬱血したように赤黒く、
美耶子の体液と、自身の汗とでぬらぬらぬめって酷い有様だった。
「これで拭け」
宮田は美耶子から離れ、恭也にタオルを手渡した。
彼が顔を拭いている間に、達したばかりの美耶子の性器を覗き込む。
そこはさっきよりも物凄い見た目になっていた。
腫れた陰唇は白濁した体液にまみれてべろんと捲れ上がっているし、
勃起したまま収まらない陰核は、上向きにぴょっこりと、
包皮から弾き飛ばされたみたいに突出して、なおも刺激を欲しているようだ。
よほど舌で突き廻されたのか、黒い口を開いた膣孔は、
内部の血の色をした縁肉さえもはみ出させてふやけきっていた。
「優しく労わってやったという感じではないな、これは。
普通に性交をしたのと変わりないじゃないか」
呆れた声で宮田が言うと、美耶子の指先が伸びて、何かを掴もうとするように、
中空をゆらゆら彷徨った。
「どうした美耶子」
「……お願い」
片手を差し伸べた美耶子は、空いた手を自らの陰部に宛がい、そこをくっと寛げる。
舐め廻されただけでは、足りないのだ。
もっと奥まで――深い場所まで、慰めて欲しい。
ぼんやりと気の抜けた表情を浮かべてはいても、美耶子の肉体は、
貪欲に男の陰茎を欲していた。
「俺のでいいのか?」
訊いても答えないので、宮田は勝手にズボンを下ろし、
勃起しかけた陰茎を美耶子の手に握らせてみた。
「ああ……」
美耶子は眉間に皺を寄せ、馴染んだ感触を愛しむ手つきで宮田の陰茎を撫で廻した。
恭也はベッドの片隅に縮こまり、硬い表情で美耶子の手元に見入っている。
「いいだろう……では美耶子、ちょっと起きてみろ」
宮田はベッドに胡坐を掻くと、美耶子の背中を抱いて膝の上に乗せた。
向かい合うのではなく、二人で同じ方向を向いて密着した訳である。
「この状態で腰を落せ。お前が自分で挿れるんだ。できるだろう?
視界は恭也君のものを使えばいい」
美耶子は、恭也の方を向いて少し戸惑った素振りを見せていたが、
すぐに腰を上げ、股の下に手を伸ばし、上向いた宮田の陰茎を掴んで、己の膣口に宛がった。
そして、そのままぐっと腰を沈めた。
「ああ……あ」
待ち望んでいたものを深く埋め込まれ、美耶子は歓喜の声を上げる。
すかさず宮田は腰を突き上げた。
背後からくびれた腰を抱き締め、乳房の膨らみを手で持って、
不自然な姿勢をものともせずに、くいくいと巧みな腰使いをする。
下から貫かれる美耶子はうっとりと躰を反らし、M字にぱかんと股を広げた。
足の裏はベッドについて自らの体重を支え、尻を揺すって下からの突き上げに応える。
瞬く間に気ざした膣粘膜は、じゅぶじゅぶと音を立てながら硬い陰茎を強く挟み、
襞をぐねぐねのたくらせて摩擦した。
恭也は、明るい場所でその全容を曝け出している美耶子と宮田の結合部を、
食い入るように見つめていた。
眼を大きく見開いて、寄せた眉をぐっと吊り上げたそれは、阿修羅の表情そのものだ。
「あん、あ……いい……いい!」
美耶子の唇から抑えきれない悦びの声が漏れ出し、乳房を掴んでいる宮田の手に、
そっと自分の手を重ねているのを目の当たりにした時、恭也の我慢は限界を越えたらしい。
恭也は獣のような雄叫びを上げて、宮田との交接に酔い痴れている美耶子の躰を、
無理やり自分の方に引っ張った。
態勢を崩され、結び合った性器を変な方向に捻られて、
美耶子と宮田は揃って小さな悲鳴をあげる。
恭也は、股からぬるっと粘液を垂らした美耶子をベッドに押さえつけ、
一気呵成に陰茎を突き立てると、これ以上は不可能なくらいに尻を沈ませ、
せかせかと落ち着きなく抽送を始めた。
「お前なあ……」
恭也の小さくこりこりとした尻が動くのを眺めながら、
宮田は呆れて笑い混じりの声を出した。
昼間七回も射精しておいて、それでもなお美耶子を独占したいというのか。
しかもその七回というのだって、宮田の手前控え目に言った回数だろうから、
実際にはもっと沢山やっている可能性が高いのだ。
「全く。こいつをどうしてくれるんだ」
宮田は、美耶子の残滓にぬめり、物欲しげにびくびく脈打っている陰茎を手で掴んだ。
そのまま、反対向きになった美耶子の頭の方へ廻る。
美耶子は激しく躰を揺さぶられ、性の快感に揺蕩いながらも、
少し困惑している眼を宮田に向けた。
――ご、め、ん、ね。
揺れて震える唇が、大げさに動いて言葉を紡ぎ出す。声はない。唇の動きだけだ。
その唇の前に陰茎を突きつけると、美耶子は躊躇なくそれを咥えた。
自分に姦されている美耶子が、片手間にそんなことをしているのを知った恭也は、
憎悪の篭った瞳で宮田の陰茎を見据えるも、結局どうしようもないことで、
諦めて膣の摩擦に没頭するしかなかった。
一方の美耶子は、己の出した膣液にまみれた陰茎を、それにも構わず大きくすすり、
頬を窄めて熱心な吸茎を行った。
口腔粘膜で亀頭全体を揉んだり摩ったりしながら、指で陰茎の根元を締め付け、
それを急速に前後に動かして擦り上げる。
「上手くなったな、美耶子」
宮田はベッドに手をついて眼を瞑り、美耶子の口と手がもたらす快感に耽溺した。
やがて、まずは恭也が皆に先駆けて快感の頂点へと昇り詰め、
狂おしく呻いて乳房を掴み、陰茎を膣の一番奥まで届かせるように、
ぐっと腰を反り返らせた。
ずん、と深い場所に衝撃を受けた美耶子は、陰茎を咥えたまま「んぐっ」と息をつめ、
舐めたり擦ったりするのをいったんやめて、慎ましやかな絶頂を迎えたようだった。
宮田は、恭也に膣を姦され、
それで絶頂を迎えた美耶子の口に愛撫されているのだという強い自覚の中で、
鋭い快感を伴う射精を行った。
尿道管を焼け火箸で突き刺されたような熾烈な感覚は、宮田の全身を硬直させ、
下半身を不随意的にがくがくと震えさせた。
美耶子は宮田の精液を、喉を鳴らして飲み干した。
一滴も残すまいと吸い尽くし、擦る動きは、治まりゆく宮田の律動に合わせて、
次第に穏やかに、宥めるようにゆったりしたものに変えてゆく。
精液を出しつくし、骨が抜けた心地の宮田は、陶酔に霞む眼を開けた。
開けた途端、美耶子の胸に顔を乗っけていた恭也と、なぜか眼が合ってしまう。
照れ笑いを浮かべて見せるものの、その内心はあまり愉快なものではなかった。
宮田はすぐに目線を反らした。恭也という現実から眼を背けるように。
射精直後に見た恭也の顔は、宮田の胸に、ざらついた後味の悪さを残した。
その次の日も、事の成り行きは似たようなものだった。
宮田が仕事に出かけている間中、美耶子と恭也は爛れた愛欲の時間を過ごす。
宮田が帰宅してからは詰問。
そして、そのまま三人で縺れ合っての複雑な性交に突入する。
奇妙なことだが、恭也と関係を持って以来、美耶子は以前にも増して、
宮田に甘えるようになっていた。
昼間、恭也と濃密な不貞行為を働いたことに対するある種の後ろめたさが、
美耶子をして、そんな態度を取らせる要因となっているのかもしれなかった。
「ねえお兄ちゃん……寝ちゃった?」
夜も更け、恭也は居間のソファーで、宮田と美耶子は寝室のベッドでそれぞれ横になった後。
明かりを落とした寝室で、美耶子は宮田の背中に躰を張りつけ、耳元に囁きかける。
「もう寝ろ……もう充分だろう、今日は」
それほど眠い訳でもないのに、宮田は疲れた風な声を装い、
ランニングシャツの胸板やら下腹部やらをまさぐってくる指を、冷たく振りほどいた。
「お前、昼間に奴と十一回も姦ったんだろう? いったのは五回だったか?
あんまり姦り過ぎると糜爛(びらん)になるぞ」
「平気だよ。あそこ、ちっとも痛くないもん。
今日は、ずっと挿れたまんまにじゃなかったから。
それに……今日は私、控え目にしてたんだよ。お兄ちゃんのために。
あんまりいき過ぎないようにしてたの」
「何でだよ」
「お兄ちゃんに……いかせて貰いたかったから」
美耶子の腕が、背後からぎゅっと宮田を抱き締めた。
「それにお兄ちゃん、今日は一度もいってないじゃない。
私が口でしてあげたのに、今日はいかなかった。だから――」
美耶子は起き上がり、掛布を剥いで宮田の上に跨った。
簡素なネグリジェも、下着も脱いでさっさと裸になる。
「見て、お兄ちゃん」
膝立ちになった美耶子は、二本の指で性器の割れ目をぱっくりと広げて見せる。
蒼い闇の中、彼女のその部分は、淫靡な桃色に濡れ光って見えた。
「私のここ……お兄ちゃんを欲しがってるの……恭也じゃ駄目なんだ。乱暴すぎるから。
お兄ちゃんみたいに優しく、恥ずかしいくらいに苛めてもくれないから……」
宮田は、じゅくじゅくと発情液を湧き出させてうねり震えている美耶子の性器に、
醒めた視線を送った。
あくまでも冷静に――だがその反面、トランクス一枚に覆われたのみの陰茎は、
頼りない布地を貫きかねない勢いで突き上がり、びくびく震えるその頂点に、
卑猥な濡れ染みまで作っていた。
「お兄ちゃん……」
宮田の躰の反応を気配で感じ取ったのか、美耶子はうっとりとした吐息を漏らし、
そそり勃った部分に手を伸ばそうとした。
「駄目だ美耶子」
宮田は、美耶子の手を強く押し返した。
「嵌める前に――お前のものをもっとよく見せろ。
俺の眼の前で、どんな風にまんこを弄って欲しいのか、自分でやって見せるんだ。
俺の居ない間、いつも独りでやっている時のようにな」
「そんなこと……」
「やれよ。苛めて欲しいんだろ?」
宮田は腕を伸ばし、美耶子のなめらかな太腿を、さらりと撫ぜた。
美耶子は意を決したように息を吸い、膝をにじらせ宮田の眼の前に股間を突きつけると、
すでに充分過ぎるくらいに大量の粘液にまみれた女性器に、静々と指を這わせた。
嫋やかな白い指先が躍り、幾重にも折り重なる襞に包まれた膣口をもぞもぞとほじくったり、
陰裂を何遍にも渡って掻き廻したり。
もう一つの手は両乳房を行き来しながら、桃色乳首の尖りを、くりくりと捻って押し潰す。
膣から溢れる夥しい粘液は、指が動く毎にくちゃくちゃと快楽にまみれた音を鳴らし、
それが高まるのに合わせ、美耶子の唇からは、性器の快感に蕩けた甘い声が漏れ出し、
密やかに淫らにベッドの上を満たしてゆくのだった。
「美耶子。なぜ陰核に触らないんだ」
宮田は、勃起しきって根元からもっこりと盛り上がっている陰核を指さして言った。
美耶子のもっとも敏感な赤い釦。肉の真珠を触らずに自慰をするというのは、
少々不自然なことに思われた。
「ここは……」
「何だ? 言ってみろ」
宮田は、眼の前でひくひく震えている陰核を、ぞろりと撫で上げた。
美耶子は肩を跳ね上げ、大仰に顔をしかめて腰を引いた。
「ごめん、ちょっと……」
股間を手で押さえ、誤魔化すように美耶子は笑う。
「痛んだのか?」
宮田は眉をひそめる。美耶子の手を外し、眼を凝らして陰核の辺りを注視した。
暗いのではっきりとは判らないが、こうして見る限り、特に異常はないように思える。
「恭也が――私をいかせようとして、そこばかり強く弄ったの。それで」
美耶子の言葉に、宮田は舌打ちをした。
「言わんこっちゃない……擦り切れちまったんだろう。まあ仕方ないな。
この二日間の、ご乱行のツケが廻ったんだ」
宮田は陰核の頂点にそっと触れて、持ち上げた。
よくよく見ると、陰核の裏つらのへこみが若干赤くなっているようだ。
そこに、これ以上ないくらいの柔らかなタッチで舌を宛がう。
「ああ……」
美耶子の表情が、痛みとは一転した恍惚に蕩けた。
「美耶子、やはり今日は大人しく寝ておけ。
この程度なら、一晩弄らずそっとして置けばすぐ良くなる。だから――」
「嫌っ」
美耶子は、宮田の上に覆い被さってかぶりを振った。
「そんなに姦って欲しいのか」
宮田が訊くと、美耶子は真剣な面持ちで、こっくり頷く。
「しょうがないな……じゃあ、四つん這いになってケツをこっちに向けろ」
美耶子は、すぐさま言われた通りの姿勢を取った。
宮田は起きて裸になり、膝をついて、美耶子の尻を背後から抱え込む。
後ろからなら、陰核に負担を与えないだろうと考えたのだ。
雌犬の姿勢を取った美耶子の陰門を亀頭の先で探り、力を込めてずぶずぶと侵入する。
美耶子は弓なりに腰を反らせ、歓喜の叫びを上げた。
宮田もまた、美耶子の襞の弾力を味わいながら、満足げに呻いた。
邪魔の入らぬ二人きりの状態での挿入は、本当に久しぶりのことで、
そのせいか、美耶子の肌の感触や、火照って煮え立ったみたいな肉穴の蠢きが、
殊のほか新鮮に、魅力的に感じられる。
深く浅く。直線的に貫くかと思えば、くるくると螺旋状に腰を捻り廻して、
膣の奥深い場所を隈なく捏ねくり、強烈に摩擦する。
宮田の動きに応え、尻を突き上げたり回転させたりする美耶子もまた、
生きた蛇のように千変万化の動きをする陰茎に我を失い、
夢中になってあられもなくよがり狂って、膣穴を収縮させた。
ぱんぱん、ぐちゅぐちゅ、と互いの肉や粘膜、それに垂れ流しの発情液の音が、
この上なく淫蕩に鳴り響く中、二人の性器の快楽は際限もなく高まってしまう。
彼らは理性も分別も、何もかもがすっ飛んで消え去ってしまうあの瞬間を求めるだけの、
ふしだらな獣に成り下がってしまった。
「おお、お、お兄ちゃん……お兄、ちゃあん!」
先にその瞬間に到達したのは、美耶子の方だった。
無体な快感に耐え切れず、上半身をベッドに突っ伏して尻だけを高く掲げ、
全身の力を膣で陰茎を締めることだけに使いながら、
無我の桃源郷にその身を舞い上がらせた。
びくびくと尻を震わせながらすすり泣き、意味不明の世迷言を喚く美耶子は、
美耶子の子宮は、膣の入口まで下りてきて、宮田の亀頭に強く吸い付く。
それは、射精を乞う動きだった。
宮田は眼を閉じ、美耶子の胎内で起こっている凄まじい性の蠢動の中で陰茎を波打たせ、
どくどくどくどく精液を放った。
真っ白な可愛い尻の肉を両手で掴み、腰を何度も跳ねさせて、絶頂の痙攣を繰り返す。
いっそ苦痛であるほどの悦楽の刻がようやく終わり、宮田は美耶子から離れる。
宮田の支えを失って、美耶子の尻はシーツの中に落ちた。
その時、居間との仕切りであるアコーディオンカーテンが、微かな音を立てた。
音のした方に目線を送る。
カーテンの隙間に、光る眼があった。
なるほど、あれだけ派手な音を立てて狂態を演じていれば、
隣室にいる恭也が気付かない訳がないのだ。
恭也から視線を外した宮田は、「またか」と、どこかで思いながら、
うつ伏せで荒い呼吸を繰り返している美耶子を見下ろした。
長い大量の黒髪をシーツの上に撒き散らした美耶子は、気付いているのかいないのか、
小さく寝返りをうって、アコーディオンカーテンに背中を向けたのだった。
(ひょっとすると、美耶子と恭也の喧嘩は、ゆうべのあれが原因になったのかもしれんな)
居間のソファーで、恭也の準備した夕食に箸をつけながら、宮田は密かに考える。
床に座った恭也の方を見た。
恭也もまた宮田を見返す。
二人の背後にあるテレビでは、お笑い芸人達が集まって、どうでもいいようなトークをして、
喧しく盛り上がっていた。
「あのですね――」
少し味の薄い野菜炒めの、やたら大きなキャベツ片を口に運んで飲み下した後、
恭也は口火を切った。
「俺、もう東京に帰ります」
「……そうか」
思いもよらない台詞だったが、まあ当然といえば当然の話だ。
恭也は、夏休みを利用して旅行をしているのだ。
夏休みならいつかは終わるし、終われば、元通りに家に戻って学校に通わなければならない。
「実は……親から携帯に電話がかかってきちゃって。
俺はもう少しこっちに居たいって、言ったんですけど」
「いつ帰るんだ」
「お盆が終わるまでに――十五日までには、絶対帰って来いって。
でなきゃ、二度と家には入れないって」
「そりゃあ仕方ないな。君は、一週間で戻ると言って出てきたんだろう?
それがもう、今日で十一日目だ。親御さんだって心配になるさ」
宮田が言うと、恭也はしかつめらしく頷いた。
「それでですね、明日……新幹線のチケット予約しようかと思ってて」
「明日? 随分と急だな」
「今の時期は新幹線も混むから、早く席取らないと。それに……早い方がいいんです。
あんまりゆっくりしちゃうと、つらくなるから」
「何がつらい?」
恭也は、何も答えずに味噌汁をすすった。
宮田も味噌汁の椀に口をつける。豆腐と葱の味噌汁は、少し冷めていた。
「寂しくなるな」
箸を置き、恭也を見つめて宮田は言った。恭也は眼を伏せ、しょんぼりと微笑む。
「そうですね……」
「でもまあ、東京とここならそれほど離れているって訳でもないからな。
新幹線を使えば二時間半――電車の乗り継ぎを鑑みても、三時間半程度だ。
来ようと思えばいつでも来られる。また遊びに来ればいい」
「……はい」
「ああ、そういえば恭也君。自転車はどうするんだ? 新幹線で持って帰れるのか、あれ?」
「折り畳み式なんで、小さくして運べるんです」
「宅配便で自宅に送った方が、楽なんじゃないか?
混雑した新幹線の中じゃあ、置き場所にも苦労しそうじゃないか」
「いやあ、まあそうかもしれないっすけど。何とかしますよ。
宅配便なんて使っちゃうと、金かかりそうだし――」
宮田と恭也がそんな話をしていた処、アコーディオンカーテンが派手な音を立てて開いた。
強い感情を爛々とその眼に湛えた美耶子が、唇を震わせている。
「何で……そんな風に言えるの……」
低く唸るような声で、美耶子は言った。
「二人とも、何でそんな、何でもないことみたいに、そんな……」
「美耶子? どうしたの?」
言葉を詰まらせ、泣き出した美耶子を見て、恭也は心配そうに立ち上がった。
美耶子のそばへ行き、肩に手を置こうとするが――。
「お前達は、勝手過ぎる!」
突然、美耶子が大きな声を出したので、恭也はびっくりしてその手を引っ込めた。
「時間が来たからもう帰るだなんて……寂しくなるなって、それだけで終わりだなんて……。
どうして? どうしてそんな、簡単に言えるの?
今まで私をあんな風にしてた癖に、どうして……」
美耶子は両手で顔を覆った。
恭也はどう対処したらいいのか判らず、ただおろおろと美耶子を見つめている。
宮田もまた何も言わず、身動き一つせずにじっと美耶子を見上げているだけだった。
「結局……お前達は、私で遊んでただけなんだ!
それでもう飽きたから……私を恭也に抱かせたり、それも飽きたらさっさと終わらせる。
ただそれだけなんだ! 私の気持ちはどうだっていいし、私がどうなったって、
関係ないと思ってる……」
「そ、それは違うよ……」
「うるさい! 嘘つき嘘つき嘘つき! お前だってそうだ!
もう私に飽きたから、そんな簡単に家に帰るなんて言えるんだ!
私と逢えなくなったって、別にいいと思ってる! ふざけるな!
私は……私はお前の、お前達のおもちゃじゃない!」
そう言うなり、美耶子は恭也を押し退け、玄関に向かって走り出した。
柱やらダイニングのテーブルやらに躰をぶつけながらも、
ほとんど迷うことなく玄関ドアまで辿り着いたが、
掛かっていた内鍵を開けるのに手間取っている。
それを、すかさず恭也が捕まえた。
「美耶子、待って」
「嫌! 離せ!」
「行かせてやれ」
恭也と美耶子が揉み合っている玄関先に、宮田の声が響いた。
「宮田さん……でも」
「いいんだ。ここから出て行きたいというんなら、好きにさせればいい」
宮田は恭也と美耶子の間に割り込み、玄関の内鍵を開けた。
「ほら行けよ」
ドアを開け、薄暗い明かりの灯った廊下に美耶子を押し出す。
美耶子は憎々しげに表情を歪めた後、裸足のままで駆け出した。
「美耶子!」
手探りで、危なっかしく廊下を去ってゆく美耶子を追って行こうとする恭也を、
宮田は引き留める。
「俺が行く。君はここに居ろ」
「宮田さん……」
「大丈夫だ。俺がちゃんと話しておくから――君は、片付け物でもして待っていてくれ」
宮田はひらりと手を振り、サンダルを突っかけて廊下を歩き出した。
アパートの外に出ると、ちょうど美耶子が建物の角を曲がっていく処だった。
多分、裏の駐車場に行くのだろう。宮田は後を追う。
駐車場の奥、ツツジの植え込みの前に、ぽつねんと佇んだ美耶子の後ろ姿が見える。
電柱にくっ付いた外灯の光が、美耶子の立ち姿をスポットライトのように照らし出していた。
「そこか? ケルブの墓にしたのは」
カバーのかかった車の陰から声をかける。美耶子は振り返らないし、何も返事をしない。
宮田は美耶子のそばへ行き、煉瓦で組まれた花壇の縁に腰かける。
そこからは、美耶子の端整で冷たい横顔がよく見えた。
「美耶子、こっちへ来て座れ。話がある」
宮田は言ったが、美耶子はなおも立ち尽くし、押し黙ったままでいる。
「……お兄ちゃんは、もう私に飽きたんだ」
ようやく口を開いたかと思うと、美耶子はそんな言葉を吐き出した。
「前にお兄ちゃんは、私に言った。
もう一年も付き合っているから、お前もそろそろ、俺に飽きただろうって。
でもそうじゃなかったんだ。飽きていたのは、ほんとはお兄ちゃんの方だったんだ。
だからあんなことをした。私を恭也に押し付けてしまって、それで、私から開放されたい。
そう思ってたんだ」
「そんなことはない」
「嘘だ!」
「嘘じゃない」
落ち着き払った静かな口調で宮田は言った
「いいからこっちへ来い美耶子。俺は――お前に話さなきゃならないことがあるんだ」
美耶子は、硬く強張った表情を浮かべて宮田の眼の前に立つ。
宮田は美耶子の手を取り、引っ張って自分の隣に座らせた。
「俺がお前を恭也に抱かせたのは、お前がそれを望んでいることに気付いたからだ」
「じゃあ、あれは私のせいだって言うの!?」
「いや、そうじゃない」
「だって……」
「美耶子」
宮田は美耶子の手を握った。
「恭也に出逢ってから、お前は変わったよ。
おそらく、お前自身は気付いていないんだろうけどな。
あの日――ケルブの喪われた日を境に、お前は恭也に惚れたんだ。
傍目から見れば明白だったよ。
恭也がアパートに来てからというもの、お前はいつでも恭也ばかりを視ていた。
俺のそばに居ても、お前の頭の中が恭也のことで一杯になっているのが、はっきりと判った。
だから」
そう言ってから、美耶子の手を握る力を強くする。
「だから俺は……俺自身の手によって、お前と恭也とを結びつけたんだ。
俺が知らない間に、恭也がお前を奪ってしまうことは許せなかったし、
耐えられないと思ったから。
無論どんな経緯であれ、お前と恭也が性交をするのは歓迎すべきことではなかった。
でもそうするしかなかった。
俺は、どうあっても状況を自分自身でコントロールしたかったんだ」
「……やっぱり勝手だよ。お兄ちゃん」
宮田に手を握られるに任せ、美耶子は力なく呟いた。
「勝手にそんな風に思い込んで、勝手に……。ほんと、馬鹿みたい。
私を何だと思ってるの?」
「生き甲斐だと思ってるよ」
思いもよらぬ台詞を聞き、美耶子は思わず顔を上げた。
「それに関しては、お前と村を出ると決めたあの夜から、なんら変わっていない。
お前と共に在るために、俺は今、こうして生きているんだ。
言ったろう? 俺は、俺が死ぬ最後の刻までお前のそばに居る。いや、居なければいけない。
俺自身が決めたことなんだ。
この先何が起ころうとも、その決意が揺らぐことはない。絶対に」
宮田は、強い意志を篭めた視線を、前方に向けて語った。
これといって何を見ている訳でもないその視線は、
強いて言うならば、未来に向けられたものであったのかも知れない。
「そんな風に思ってくれてるなら……恭也と、あんな風にさせないでくれればよかったのに。
それだったら、私も我慢して、それでいつかは忘れられたはずなのに……」
「それについてはさっき話した通りだ。だいたい、お前にはまだ難しいかも判らないが、
人間の心というのはそう単純にはできていない。
抑え付けた欲求というものは、必ずどこかに支障を及ぼすものだ。
下手をすれば爆発を起こしてしまうかもしれない。それは避けたかった」
「でも! 恭也とこんな風になっちゃってから別れる方が、私にはつらいよ」
「だったら……別れなきゃいいじゃないか」
「え?」
美耶子は、不思議そうな表情を宮田の方に向ける。
宮田は悪戯っ子のように微笑んだが、それは美耶子には判るまい。
「東京に帰る恭也を追って、俺達も東京に越せばいいのさ。
そうすれば、お前はいつでも好きな時に恭也と逢えるようになるだろう?」
宮田の提案に、驚いた美耶子はぽかんと口を開ける。
「お兄ちゃん、それ……本気で言ってるの? だってそんな……診療所はどうするの?」
「まあ、辞めざるを得ないな。
これまで世話になった犀賀先生を裏切るようで、申し訳なく思うけど……仕方ない」
「そんな! 東京に行って、お兄ちゃんはどうするつもりなの!?」
「大学の医局に戻ろうかと思ってる。そこで、ある研究をしたい」
「研……究? 何の研究?」
「お前の血に関する研究だ。
お前の――神代家に伝わる、“死ぬことのできない呪い”をもたらす因子についての研究。
“永遠に続く不完全な不死”を治療する方法を見つけ出すんだ。
永遠に続く苦しみから、お前を解き放つために」
美耶子は、はっと息を漏らした。
「お兄ちゃん……」
「本当を言うとな、もうずっと前から考えていたことなんだよ。
この土地で働きながら生活の基盤を作り、ある程度落ち着いたら始めるつもりだった。
けれど、少々落ち着き過ぎてしまった。この町での生活が、肌に合い過ぎたんだな。
いつまでもこんなことではいけない。こうしている間にも、時間はどんどん進んでいるんだ。
俺の頭と躰が達者な内に始めなければ……。
恭也のことは、その事実を思い起こすいいきっかけだったよ」
「お兄ちゃん!」
美耶子は、宮田の肩にもたれかかった。
宮田の首筋にしっかりと頭を食い込ませ、嗚咽を漏らして彼女は泣いた。
「――もちろん、俺がお前の血の秘密を解明しきれる保証はない。
俺にそこまでの天分があるかどうか……だが努力はする。少なくともお前をあの、
神代の屋敷の地下遂道に棄てられた御隠居様達のような目に合わせはしない。
それだけは約束する」
「うん……うん」
「ただし。研究のために時間を裂く都合上、
これまでのようにお前とゆっくり過ごすことは難しくなるだろうから、
それだけは覚悟しておいてくれよ。
そんな研究をしているだけじゃあ食えないから、
余所の病院でバイトもしなけりゃならなくなるだろうしな。
東京は物価が高いから、暮らし向きだって今より厳しくなるかもしれないし――」
「私は……お兄ちゃんが一緒に居てくれれば、それだけでいいよ」
宮田の肩の上で、美耶子は小さく囁いた。
「他に何もいらない。もしも、お兄ちゃんの研究が上手く行かなくったって……。
お兄ちゃんが私を助けようとしてくれたってことだけで、それだけで私は嬉しい……」
「馬鹿、上手く行かないかも、なんて言うな。
最初から負けるつもりでかかったら、勝てる喧嘩も勝てなくなる」
「うふ……お兄ちゃんに取って、お医者の研究は喧嘩と一緒なの?」
「そうさ。神様を相手にした喧嘩だよ」
宮田と美耶子は、鼻をつき付け合って笑った。
そして久々の、本当に久々の、和やかな口づけをする。
まだ時刻は八時前で、駐車場前の道にはぽつぽつと人通りがあったが、
彼らの手前にある銀色のカバーをかけた車が、寄り添い合う二人の姿を上手く隠してくれた。
話が終わって宮田と美耶子がアパートに戻ると、食事の後片付けを終えた恭也が、
居間のテーブルでノートパソコンを開いて何やら調べ物をしていた。
「あっ、美耶子……」
彼は美耶子の姿を見るなり立ち上がり、
「心配」という文字を大きく書き込んだような顔をして駆け寄った。
「もう心配ないよ、恭也君。美耶子にはちゃんと言って聞かせたから」
「うん。ごめんね恭也。心配かけて」
「あ、ああ……そんなこと」
恭也は、数十分の間にすっかり機嫌を直して穏やかに微笑んでいる美耶子を前に、
戸惑いを隠しきれない面持ちになった。
そんな恭也を見て、宮田と美耶子は並んでほくそ笑む。
「な、なんすか二人とも……」
「うふふ……何でもないよ。そんなことより……ねえ、パソコンで何を見てたの?」
「新幹線のチケットか?」
「ああ、そのつもりだったんですけど……ちょっと、気になるものを見つけちゃって」
それは、恭也行きつけのオカルトサイト上にある、一件の記事であった。
かいつまんで述べると、今から三年前の夏、とある海水浴場が突然の高波に襲われ、
多数の海水浴客が犠牲になるという痛ましい事件があって、
それ以来、その海水浴場では時おり、水着姿の小さな女の子の霊が現れるようになったと、
まあそういった内容だ。
「その海水浴場っていうのが、どうも名古屋にあるらしいんですよ。
名古屋って、ここと東京のちょうど中間点じゃないですか。
それで、帰る前にちょっと寄ってみようかなあ……と
ここから愛車を使って行けば、交通費の節約にもなるし」
恭也のその言葉を聞いて、宮田は噴き出した。
「ここから名古屋まで自転車で行くだと? 正気かお前」
「厳しいっすかね」
「二百キロぐらいあるんだぞ。まあどんなにがんばっても、丸一日以上は確実にかかるだろう。
途中で宿を取ることを考えたら、交通費の節約どころの騒ぎじゃない」
話している最中、宮田と恭也は、背後にちょっとした気配を感じて振り返った。
美耶子が、何かを期待するかのように瞳を輝かせている。
「美耶子どうしたの?」
「海、行きたい」
美耶子は恭也の方に顔を向けて言った。
「私、本物の海見たことない。見たい。海見たい!」
「うわっ!」
突然美耶子は、恭也に掴みかかった。恭也は美耶子ごと床にひっくり返る。
「い、行きたいって……そんなこと言われても」
「大丈夫だよ。お兄ちゃんが車で連れてってくれるから」
「おい」
「車だったら自転車より早く行けるもんね。交通費の節約もできるし、一石二鳥だよ」
「……そ、そうかな」
「こら!」
勝手に話を進める二人の傍らで、宮田は声を上げた。
「ねえ、いいでしょお兄ちゃん?
せっかく明日からお盆休みなのに、家でじっとしてるだけなんてつまんないよ。
それに……一緒に行けば、恭也とのお別れも先に延ばせるし……」
美耶子は恭也から離れると今度は宮田の腕を取り、
それを軽く揺さぶりながらおねだりをする。
こうやれば、宮田が当然自分の言うことを聞くものと信じて疑わない素振り。
事実、美耶子の目論見は、確実に成功しているのであった。
「しょうがないな……」
ため息混じりに宮田が言うと、美耶子は「わあっ」と歓声を上げて宮田に抱きついた。
「ありがとうお兄ちゃん! 私、嬉しいよ!
恭也とお兄ちゃんと、みんなで一緒に海に行けるなんて、ほんとに夢みたい……」
躰をぴったりすり寄せてしなだれかかる美耶子を抱きとめ、宮田は苦笑いをする。
怒ったり泣いたり笑ったり――短時間のうちにくるくると表情を変える美耶子は、
まるでスロットマシーンのようだと思った。
しかし今夜の美耶子は、宮田に取ってはずれの目を出した。
「お兄ちゃん。私、今日はあっちで寝る」
明日にはさっそく出発しようということに話が決まり、
早いうちから部屋の明かりを落とした寝室で、美耶子は、至極素っ気なく言った。
「昼間にね、私、恭也に酷いこと言っちゃったの、色々と……。それを謝りたいの。だから」
暗闇の中、美耶子の瞳は静寂の光を湛えて宮田を見つめた。
「構わんけど、静かにやるんだぞ」
宮田が答えると、美耶子は深く頷き、
そして、アコーディオンカーテンの向こう側に消えて行った。
独り残された宮田は、ベッドに仰臥して息を詰める。
隣の部屋からは、密やかな衣擦れの音と共に、
彼らの囁き合っている声が微かに聞こえてくる。
やがて、それらの物音が収まり、急にしんと静まり返った。
(始まったな)
じっと澄ませている宮田の耳に、一定の旋律を持った、
何かの擦れ合うような響きが伝わって聞こえてくる。
衣擦れとは明らかに異なっているそれは、裸の肌と肌とが合わさって立てている音に、
相違なかった。
その音が高まるのにつれ、二人の息ざしが荒く乱れ始めているのも判る。
「お兄ちゃんは……」
「だって恭也は……だから……ちょっとだけ」
「違うの、もう少し下……うぅんっ」
睦言を囁く美耶子の声が、引き攣れたように裏返った。
そんな妖しげな物音を耳にしているうちに、宮田の陰茎には血が集まりだしていた。
勃ち上がった陰茎にそそのかされるように、宮田はすっと起き上がり、
音もなくアコーディオンカーテンに近づいて、隙間から隣を覗いた。
物凄いものが見えた。
表の街灯に薄っすらと照らされたソファーベッドの上には、
美耶子と恭也の肉体だけがあった。
クッションもタオルケットも、互いの衣服も床に捨て去り、
裸の二人は、声を押し殺して絡み合っている。
こちら側を向いた美耶子は、躰を横向きにして真っ直ぐに寝そべっていたが、
片方の膝を持ち上げて大きく股を広げていた。
恭也は美耶子の躰に背中から寄り添い、脇から廻した手で乳房を弄くりながら、
下の方では節くれだった指先をもぞもぞと蠢かせて、
広がりきった美耶子の性器に手淫を施しているのだった。
美耶子の性器の様子は、恭也の手にすっぽり包まれてしまってよく見えはしなかったが、
自らの手でもって口を押さえている美耶子の、眉根の寄った苦しげな表情や、
恭也の指先の蠢きにつれて、ぴくっぴくっと震える太腿や足の親指の動作によって、
感じている快楽がこの上ないものであることは、明白だった。
暗く見通しの悪い中、宮田の視線は、
陰核に押し潰すような愛撫を受けている美耶子の股間に、じっと注がれる。
すでにすっかり物慣れた様子である恭也の手は、美耶子の恥毛を掻き分けて、
陰核や、そのずっと下に位置する膣の入口をしきりに弄り廻していたが、
おもむろにその手を止めると、美耶子の割れ目をぱっくりと広げたようだった。
濡れた粘膜の分かれる音が微かに鳴り、次いで、美耶子の股の間から、
膨れ上がった恭也の亀頭がぴょこんと顔を出す。
美耶子は瞼を僅かに開けて、恭也の亀頭を手で包んだ。
少し躰を折り曲げ、初々しい桃色をしたその肉の玉を、膣に埋没させる手伝いをしている。
間もなく、闇に沈んだ恭也の下半身が美耶子の尻を押し上げ、
ソファーベッドをぎいと軋ませると同時に、美耶子が堪えきれずに喘ぎ声を漏らし出した。
恭也の陰茎が、美耶子の膣を姦したのだ。
そこまでを辛抱強く見守っていた宮田は、さすがにもう辛抱ならず、
寝間着のズボンの中から自らの陰茎を引きずり出した。
異様な胸の高鳴りと耳鳴りとに苛まれながら、反り返ってかちこちに強張っているそれを、
静かに摩擦する。
揉んで、扱いて、ぬらぬらと撫で廻すその手の淫乱さとは裏腹に、
彼の眼は美耶子と恭也の交接の様子を冷静に観察する。
まだ三日ほどしか経っていないのにも関わらず、もう二人は互いの躰に馴染み合い、
その腰の動かし方も、小気味いいまでに調子が合っていて、
まるでダンスでも踊っているかのように見えた。
特に美耶子の方は、背後から突き上げる恭也の直線的な抜き挿しを受け止めながら、
腰をよじり、くねらせ、回転させるようにしながら微妙に震わせる、といった、
巧みにして繊細な動きをして、性交の快味を高める努力を怠らない。
宮田は美耶子の、鍛え上げられた俊敏な動作を見せる腰の辺りや、
淫らに突き出し、ふるふると揺れ弾んでいる乳房、
そして、性の快楽に歪みながらも、見る者を惹き付けずにはおけない可憐な美しい顔を、
感慨深く眺めた。
無垢で清らかな神の許嫁であった美耶子。
それをこんなにふしだらな、男の淫夢の中にしか出てこない、
夢魔のような女に育て上げたのは、他ならぬ自分自身だ。
にもかかわらず、美耶子の美しさ妖艶さは、その宮田にさえ計り知れぬほどの、
強烈な輝かしさを放って圧倒してくるのだ。
こんなにも素晴しい女に成長した美耶子が、
自分ではない、他の男に抱かれ、性欲快楽に酔い痴れているのだという事実。
耐え難い残酷な事実が宮田の胸を食い破り、陰茎の真芯を捻り上げて、
嫉妬の昏い炎でちりちりと炙る。
もはや宮田は、摩擦や漏れ出る粘液の音を隠すことも止め、
がっしがっしと乱暴に、暴力的に陰茎を擦り、自慰に没頭していた。
しかし、美耶子も恭也も、宮田の立てる物音になど気付きはしない。
彼らの営みも、すでに最高潮に達しようとしていたからだ。
恭也が背後からぎゅっと抱きすくめている上半身の下で、
陰茎に挿し貫かれた美耶子の下半身は、理性も技術も失った滅茶苦茶な、痙攣的な動きをして、
そこいら中にあるものをぎしぎしと狂おしく振動させている。
陰茎が出たり這入ったりする毎に、膣穴から漏れ聞こえるぐぼっぐぼっという怪音も物凄く、
肉のぶつかり合う音や、限界に向かって激しく熾烈になる息遣いなんかとも合わさって、
途轍もない卑猥さを醸し出していた。
やがて、完全にのぼせ上がった恭也は、後ろからぐっと美耶子の躰を押し倒し、
華奢な背中に乗りかかって、がくがくと腰を揺さぶり始めた。
真っ白なか細い肢体に圧し掛かっている恭也の有様は、
肉食の獣が逃げそこなった若い雌鹿を食い荒らしている姿、そのものだ。
恭也の体重を受け止める美耶子も、もはや激しい快感が来かかっていて、
重さを感じるどころではなく、むしろ膣の奥底より湧き起こる衝動に従って、
膝をつき、丸い尻を高く突き上げ、恭也の攻勢に抗うように、ぐりぐりと下半身を捻り廻した。
この凄まじい、まさに命懸けの男女のまぐわいを前にして、
宮田の手淫の手もどんどん素早さを増してゆく。
そしてついに、二つの躰が一つに融け合ったように、
びくんびくんと屈曲しながら、大きく痙攣したかと思うと、
二人の口から絶え入るような呻き声が吐き出され、
そのまま、震えわななく下半身以外の全てを硬直させて、快感の頂点を極めた。
見事に一致した幼き二人の絶頂――。
永く引き続くそれは、二人の躰を捕らえて離さぬようで、
限度を越えた快楽が苦しくなったのか、美耶子はソファーの縁に爪を立て、
恭也の躰の下から抜け出そうと懸命になって身を悶掻く。
一方の恭也は、そんな美耶子を逃すまいと悪鬼の形相でその身に喰らいつき、腰を突き立て、
絶頂の痙攣を繰り返している膣の奥に、暴行じみた打撃をずんずんと加え、
度を越えた快楽に気を失いかけている美耶子の躰を、
ソファーから突き落とさんばかりの勢いでもって、前に押し出してゆくのであった。
しかしそんな彼の狂態は、断末魔のあがきにも似たものに過ぎず、
いきなり「ううっ」と呻くと同時に躰を強張らせ、
尻を変な風にくねらせたあげくに、糸が切れたように美耶子の背中に倒れ込み、
そのまま、臀部の筋肉を引き攣らせながら、すすり泣くような息ざしをして、
動きを止めてしまった。
宮田は、彼らの動作が完全に静止して、嵐のような呼吸のみとなり、
それさえも段々と大人しく治まってゆくのを見届けた処で、
自らの手の平に向かって小刻みな射精を行った。
腰が砕け、思考力を失くした頭の中で、紅い閃光が幾つも明滅して眩暈を催す。
骨が蕩けてくずおれてしまいそうな感覚に耐え、宮田は出した精液をティッシュで拭った。
美耶子と恭也は、性交を終えた時の姿勢のまま、ソファーからずり落ちそうな格好のまま、
じっとして動かない。
どうやら、完全に気を失っているようだった。
「ったく。しょうがねえなあ」
宮田は、舌打ちをするとそっとアコーディオンカーテンを開き、
ソファーの下に落ちているタオルケットを拾い上げて、二人の躰に掛けた。
「風邪を引かせる訳にもいかん」
ついでに彼はキッチンに向かう。喉が渇いていた。
しかし、冷蔵庫の中には何も飲み物がなかった。
発泡酒の缶はもちろんのこと、牛乳さえも残っていない。
水で我慢しようかとも考えたが、この土地の不味い水道水を飲みたい気分でもない。
少し迷ったあげく、宮田は財布を持ってアパートの外に出た。
コンビニエンスストアにでも行って、何か冷たいものを買ってこようと考えたのだ。
夜の道には、引くことを忘れたような昼間の熱気が、しつこく留まり続けていた。
地面からじわじわと立ち上ってくるそれは、陰鬱な湿度をまとって肌に絡み付き、
躰を重たく感じさせる。
ぬるい沼の底に居るみたいな不快な空気の中を、
歩くというより泳ぐような心持ちで進んでゆく――。
マンションの立ち並ぶ住宅街の一角に、ふと白い人影を見た。
小さく華奢な後ろ姿。背中に下ろした長い黒髪。奇妙な感覚に胸が疼く。
おそらく、年若い少女であると思しき彼女は、どこかで見覚えがあるような気がした。
宮田に見られていることに気付いたからか、彼女は急に走り出す。
宮田は――反射的に、彼女の後を追っていた。
「――おい!」
背後から呼びかけてみるも、彼女は立ち止まることはおろか、振り返りさえしない。
いつしか宮田は、本腰を入れて彼女を追跡していた。
宮田は気付いてしまったのだ。
今日、駐車場に行った美耶子と同じく、彼女は裸足だった。
放って置いてはいけない気がした。
だが、白っぽいワンピースらしきものを身に着けた彼女は、裸足であるにも関わらず、
異様な俊足だった。
宮田がほぼ全速力で追っているというのに、一向に追いつけない。
いくらこちらがサンダル履きの走りづらい状態とはいえ、これは解せないことだった。
宮田は、少々むきになって少女の背中を追い続けた。
(こんな夜更けに、大の男が女の子を追っかけ廻してるなんざ、尋常なことではないな。
人に見咎められたら警察沙汰になる)
心の片隅でそう考えるも、ある意味幸いなことに、通る道すがら他の人影は全く見られない。
それでいて、少女にも全く追いつけない。
そうして、暫く走り続けているうちに、とうとう少女に撒かれてしまった。
少女を見失った宮田は、息を切らし、膝に手を置いてがっくりとうなだれる。
「くそ……」
額の汗を手の甲で拭い、頭上の突き出し看板を見上げると――。
〈犀賀診療所〉
診療時間が終わっているので看板の電気は消えているものの、
そこにあるのは、紛ごうことなく診療所の看板であった。
宮田は、看板を仰いで呆然と立ち尽くす。
自分はいつの間に、こんな場所まで走って来たのだろう?
走って来た道のりもまるで覚えていない。
これではまるで……あの少女に、この場所までおびき寄せられたようではないか。
薄気味の悪い思いに、背中の汗がすっと引く。
その時、明かりの消えた診療所の窓の中で、小さな光が揺らめくのが見えた。
宮田はにわかに緊張する。そして、現実的な恐怖心が胸の中を満たした。
大して儲かっている訳でもないのに、犀賀診療所には時おり賊が侵入することがある。
たいがいは、覚醒剤の類が目当ての薬物依存症患者なので、
それほど大きな被害が及ぶこともないのだが。
「ああいった連中は例外なく躰が弱っているからな。
警察なんかを呼ぶまでもなく、いつも俺が自分でとっ捕まえてるんだ。
そして、うちの患者にしてやる。その方が稼ぎになるから建設的だろ?
まあ、よほど酷ければ専門の更生施設を紹介するがな」
以前、診療所が荒らされた際、犀賀は事もなげにそう言ったものだった。
「警察に突き出さないで済むんなら、それに越したことはないんでしょうけど……。
しかし、もし逆上した犯人が襲い掛かってきたらどうするんですか?」
宮田が問うと、
「そんな時には君、こいつがものを言うのさ」
そう言って犀賀がロッカーから掴み出したのは、なんと狩猟用の散弾銃であった。
銃口を突き付けられた宮田は思わず両手を上にあげたが、それを見ていた幸江は笑った。
「大丈夫よぉ。それ、弾は入ってないから。ただ相手を脅かすのに使うだけよ」
訊けば犀賀は、故郷の村では狩猟が趣味だったそうで、
村から出て来る時に一応銃も持って来たのだが、
こんな都会ではなかなか狩りを楽しむ機会にも恵まれないので、とりあえず弾を抜いて、
“威嚇用”として診療所にしまってある訳だった。
(あの猟銃を使う破目にならなけりゃいいけどな)
素早く階段を駆け上がった宮田は、診療所のドアの前に立って中の様子を伺う。
ドアノブに手を掛けると――やはり、鍵は開いているようだった。
宮田は音を立てないよう注意しながらドアを開けて、中に入った。
下から見えたあの明かりは、位置的に診察室で灯っていたものに間違いないが、
今、衝立の向こうにある診察室は、暗い闇に沈み込んでいる。
ここから伺ってみても、人の気配は感じられない。
(勘違いだったのか? しかし、鍵が開いていたのも事実だ……)
一応調べておいた方がいい。
宮田は、入口の脇に置いてある非常用の懐中電灯を手に取った。
診療所の入口は一つしかないから、万一賊が隠れていたとしても、
こっち方面を確保しておけば逃げられないはずだ。
受付と待合室を兼ねた入口ドア前のフロアから、診察室の入口である衝立の隙間へと、
そろそろ進んでゆく。
懐中電灯を中に向け――前触れも無く、スイッチを入れた。
懐中電灯の光は、小柄な人物の姿を照らし出した。
白い服を着た女の後ろ姿。
一瞬、夜道で見かけた少女のことを思い出す。
しかしここに居る女は、さっきの少女とは明らかに別人だ。
女は――ナース服を身に着けているのだ。
宮田は息を飲んだが、すぐに落ち着きを取り戻して女に呼びかけた。
「……誰だお前は。ここで何をしている?」
女は、ゆっくりと宮田を振り返った。
髪をひっ詰めて結い上げ、ナースキャップを頭に取り付けた女の容姿は、
幸江に酷似していた。
だがこれは幸江ではない。歳が違う。
この女は、どう見たって二十代の半ば以上には見えない。
五十過ぎの中年女である幸江と比べれば、親子といってもいいほどの年齢差だ。
「宮田先生……」
女の発する声もまた、その容貌と同様に幸江とよく似ている。
嫌な感じだった。何とも言えず不気味で、そして不吉な感覚。
宮田の悪感情を煽り立てるかのように、女は薄っすらと笑みを浮かべた。
「宮田先生……あのねえ……私、判っちゃった」
虚ろに微笑む女は、虚ろな声で語り出す。
「そう……判っちゃったの、全部。気が付いちゃったんだ。
あーあ。せっかくここまで、上手く行ってたのになあ。
あともうちょっとで、完全に気付かないまま、
そのまんまで終わらせられるはずだったのにさあ……。
つまんないわあ。ほんと、つまんない。これというのも全部あんたのせいなのよ」
「……俺のせい?」
「そうよ」
女の笑顔がかき消える。その声音も、暗く陰鬱なものに変じてしまう。女は続けた。
「最初にあんた達を見た時、何となく嫌な感じはしたのよ。
あんたとあの女の子――うん、とっても嫌な感じだった。
見た途端、左のおっぱいが疼いたもの。
私、悪いことが起きる時って、決まって左のおっぱいが疼き出すのよ……。
だから私、あの人に言ったのよ。
彼は素性が判らない人だから、雇うのはやめといた方がいいって。
なのにあの人、聞き入れてくれなかった。
初めてだったわ。あの人が、私の願いを聞いてくれないなんてこと。
この町に住むようになってから、あの人は、私の言うこと何でも聞いてくれていたのに。
それもきっとあんた達のせいね。
あんた達がここに持ち込んだ、あっち側の空気のせいなのよ……。
だけどさ、ほんとに不思議なものよねえ。
こういう誤差ってさ、何か勝手に修復されてしまうものらしいのよね。
小さな傷が独りでに、気が付かないうちに治ってしまうみたいに――。
そう。私もあんたも、この世界の小さな傷の一つに過ぎないのだわ。
だったら見逃してくれればよさそうなもんなのに、けちね。
同じような傷がひとつ処にできるのは、傷が深くなり過ぎるから宜しくないって、
まあそういうことなのかもしれないけれど」
「お前は……何を言っているんだ」
宮田は、からからに干からびた喉から声を絞り出した。
感情は押し殺したつもりだったが、それは成功していない。声に怯えが滲み出ている。
女は、けたたましく笑い出した。
「あはははは……どうやらあんたも気付き始めたみたいねえ……くく、いい気味だわ。
このままあんたも気付いちゃえばいいんだ。全部終わらせちゃえばいいんだ!」
女は両手を高々と掲げ、癇に障る笑い声を辺りに響かせた。
宮田は耳を塞ぎたくなる。
あるいは、女を縊り殺して永久に黙らせてしまいたいとさえ思った。
「聞きなさい!」
宮田の考えを見透かしたように、女が叫んだ。
「あんたにも教えてあげるわよ! この世界の真実ってやつを!
ねえ? あんただって一度ぐらい、不思議に思ったことあるでしょう?
今の自分が、どうして幸せなのか?
自分たちの生活に、なぜ幸せだけがあるのか?
私もねえ、幾度となく悩んで考えたものよ。
考える度に怖くて怖くて、どうしようもなくなった……。
でもね、やっぱり知りたかったのよ。
真実から眼を塞がれているのって、とっても不安なものだもの。
馬鹿みたいよね。そんな無意味なこと、思い煩ったってしようがないのにさ。
それでも多分、私とあの人の前にあんた達さえ現れなければ、
そんな不安を抱えたままでも平穏に、幸せの日々を続けられたはずなんだけど……」
女の表情が、寂しげな翳りを帯びた。
「だけどもう駄目。私は気が付いちゃったから。私の暮らしに幸せだけがある理由。
それはね……」
女は宮田を真正面から見据える。そして、宮田の方を真っ直ぐに指さして、言った。
「それは全部、ただの私の夢だからなのよ!」
宮田は、高らかに言い放った女の顔をまじまじと見つめた。
呆れ果てて言葉も出ない。毒気を抜かれるとは、まさにこのことだ。
「――信じてないのね?」
指さしていた手を下ろし、女は不敵に微笑む。
くすくすと笑い声を漏らしながら、女はゆっくり後ずさった。
「でもね、本当のことなの。この世界の全ては、みんな私の見ているただの夢。
あんただって、私が作り出した夢の中の住人に過ぎないのよ……。
どう? 驚いたでしょう? それともまだ信じられないかしら?
くっく……まあいいけど。だったら今から、その証拠を見せてあげるわ」
女は窓際まで後ずさると、掛かっていたブラインドを引きちぎって、大きく窓を開いた。
生ぬるい夜風が、ぞわりと部屋に這入り込んで、女の後れ毛を舞い上がらせる。
「いいこと? この世界は私の夢だから、私の願いは何でも叶うの。
本気で願いさえすれば、どんなに突拍子もないことだって実現できる……。
今からその証拠を見せてあげるわ!
私、ここから空飛んで見せてあげる!
堕ちやしないわよ! 堕ちて怪我なんてしないし、もちろん死ぬことだってないわ。
だって私の夢なんだもの。私の望まないつらいことは、何一つ起こりゃあしないんだから、
安心してちょうだい。じゃ、行くわよ!」
女は窓枠に飛び乗ると、何の躊躇もなくそこから飛び降りた。
いや、女からすれば、飛び降りるつもりなどさらさらなかったのかもしれないが、
三階の窓枠から外に踏み出せば、遥か下の地面に墜落するのが道理だ。
なぜならここは、彼女の言う処の「私の夢の世界」なんぞではない、
ただの現実世界であるからだ。
宮田はため息をつくと、のろのろと窓枠に近づいた。
女を見殺しにしてしまったようで後味は悪かったが、その一方で、
いささかばかりほっとしたのも事実だ。
――やはりここは、夢の世界なんかではない。普通の世界なのだ……。
しかし。
そんな宮田の儚い安堵は、窓から顔を出して、下を見た途端に消失してしまった。
下の道路に、女の姿が無かったのだ。
「……馬鹿な!」
街灯に照らされた地面に眼を凝らす。居ない。女が居ない。
「そんな……この一瞬で、どこにも行ける訳が……」
その時、はっと思う処があり、宮田は顔を上げた。
そういえば――女は確か、空を飛んであげると言ったのだ。
夜空を見上げる。
薄汚れ、星ひとつ見えないみすぼらしい夜空には、暗闇以外の何ものも見当たらない。
懐中電灯を虚空に翳して必死になって見廻したが、そこにもやはり、
何も見出すことは叶わなかった――。
【Continue to NEXT LOOP…】
*このエロパロSSはフィクションであり、
実在のゲーム・キャラクター・団体・事件及び地域などとは一切関係ありません。
おお…一体どうなるんだ
乙です!
エロも淫靡でいいけど、ストーリーから目が離せない…!
どうなるんだー!
終わりませんでした。(TдT)
あと一回続きます。
少女を追って歩き続けて、もう何時間になるのだろう?
ちらりちらりと。
長い黒髪を、真白き二の腕を物影から見え隠れさせながら誘いをかける、
少女の後に付いて歩き――。
気付けばこうして、奴らの築き上げた、いびつで不可解な建造物の中にまで迷い込んでいる。
「……おい」
瓦礫や廃材を寄せ集めて、でたらめな形に組み上げられた橋桁の隙間から、
少女に対する何度目かの呼びかけを試みる。
まあどうせ、これもまた黙殺されるのであろうけど……。
そう思いきや、少女は立ち止まった。
生臭い雨水に浸食された瓦礫の山を背に、少女はゆっくりこちらを見返る。
光の無い暗い路地。
ずっと離れた位置に居る彼女の白い顔が、闇にぽっかり浮かび上がって見えている。
そして、その顔は――。
アパートの外は、うんざりするほどの快晴だった。
狂暴なまでにぎらつく太陽。毒々しい青色に塗り込められた空には、雲ひとつない。
今日も暑くなるのだろう。まだ朝の九時だというのに、今からこうでは先が思いやられる。
しかも今日は、盆の帰省ラッシュによる混雑の予想される道で、
長時間に渡って車の運転をしなければならないのだから、堪らない。
あの不可解な現象を目の当たりにした後、帰宅した宮田は、一晩中まんじりともせぬまま、
朝を迎えてしまった。
眠ることなどできはしなかった。
消えた少女。消えた女。女の投げかけた、意味不明な言葉の数々。
――あれらの事象こそが、全部ただの夢だったのだ。
そんな風に片付けてしまうことも試みたが、それは無駄だった。
サンダル履きで走り続けたためにできた小さな靴擦れの痛みが、
ゆうべの体験が現実であることを、容赦なく裏打ちしているからだ。
様々な思考を無為に巡らせながらベッドの中で輾転反側し続け、
赤い眼をして居間に出てきた宮田を見て、恭也は驚きの声をあげたものだった。
「宮田さん……何でそんな、ゾンビみたいな顔になってるんですか」
洗面所の鏡を覗くと、確かにそう言われても仕方のない、やつれ果てた顔が映っていた。
「そんなんで、車の運転大丈夫なの?」
美耶子の心配は、主に今日の旅行のことであるらしい。
「大丈夫だよ。海水浴が楽しみで眠れなかっただけだ……。
さあ。そんなことより今日は忙しいぞ。
今から旅行の準備を始めて、夕方までには宿に着かなけりゃならんからな」
名古屋の海に泊りがけで行くことは、昨夜のうちに決まっていた。
恭也がインターネットで付近の宿を検索し、電話で予約を取っていた。
ちょうどオンシーズンで良い宿はみんな塞がっていたが、少し外れにある民宿には、
僅かばかりの空きがあった。
「ねえ恭也。民宿……って、どういうの?」
「ええ? 民宿は民宿だよ。こう、畳の部屋とか風呂とかがあって……」
「お風呂ならこのアパートにもあるよ? このカーペットを捲ったら畳だってあるし」
「うーん……まあ、行けば判るさ。それより美耶子、水着とか持ってんの?」
当然持っているはずもない。
宮田もそうだし、恭也だって水着持参でこの土地に来た訳ではない。
「出発の前に水着を買わんとな。他に買い揃えるべきものは――」
点検、確認してメモを取る。一連の作業を終えると、宮田は立ち上がった。
「じゃあ、俺は先に出かけてくる。
銀行で金を下ろさにゃならんし、車も借りなきゃならないからな。
こっちの用意ができたら電話を入れるから、それまでお前達はここに居ていいよ」
「判りました。じゃあ俺、掃除とかしておきますから……これで最後だし」
「ああ……ありがとうな」
宮田が恭也達より一足先にアパートを出たのには、理由があった。
些末な用事を片付けるためというのは、表向きの言い訳に過ぎない。
出かける前に――彼にはどうしても、確認しなければならないことがあったのだ。
犀賀と幸江のマンションは、町に隣接する高級住宅街の中ほどにあった。
閑静な気品溢れる通りの佇まいからは、
このすぐそばに、あのスラム街のように不潔で混沌とした町があるのだということが、
どうにも想像し難い感じだった。
白いタイルを基調にした外壁の、瀟洒な十二階建てマンションを見上げる。
犀賀がこのマンションを買ったのは、今から十三年ほど前であるそうだ。
マンションが建つ前の完成予定図を見て、幸江が一目惚れをしたのだという。
エントランス前に設置されたプレートの部屋番号――803を入れ、呼び出しボタンを押す。
呼び出し音が小さく響くのを聞きながら、宮田は小さく深呼吸をした。
休暇初日の朝っぱらから、上司の家に赴きたいと考える人間は、あまりいないことと思う。
無論、宮田だってそうだ。
しかも前もって何の連絡も入れず、いきなり訪問しようというのだから、
さすがの宮田もいささかばかり緊張を覚えている。
アパートを出る前、宮田は昨晩のことを伝えておこうと、犀賀に携帯で電話をかけた。
あの消えた女のことはともかくとして、診療所の鍵が開いていたのは事実だ。
報告の義務があると思った。
ところが、かけた電話には、誰も出なかった。
否、正確にいうなら――『おかけになった電話番号は、現在使われておりません』という、
無機質な案内メッセージのみが返答したのだった。
このマンションの固定電話のみならず、犀賀と幸江それぞれの携帯電話も、
さらには、念のためにかけた診療所の電話でさえも、同じ反応だったのだ。
これはただごとではない。
眩い朝の光を打ち消すような、寒々しい恐怖心にも似たものが、宮田の体内を駆け巡る。
矢も盾も堪らず、宮田は犀賀のマンションまで来ていた。
昨日聞いた話では、犀賀と幸江が旅行に出かけるのは午後以降のはずだから、
今日はまだここにいるはずだ。
『――はい』
呼び出し音が途切れ、女の声がスピーカーから流れた。
「幸江さん? 宮田です。どうもこんな朝早くに……」
幸江の声が聞けたことにほっとして、息せき切って宮田は喋り出す。
が。
『……どちら様でしょうか?』
氷のように冷ややかな声。
しかもその声は、幸江のものではなかった。
重く冷たい塊が、宮田の胃の底に、ごろりと転がり込む。
「あの……そちらは犀賀さんのお宅では」
『違います』
感情を交えぬ声で女は言い放つ。冷淡というよりは、緊張して強張っている感じの硬い声。
突然やって来た、素性の判らぬ訪問者を訝る若い主婦、といったところか。
スピーカーからは、背後で小さな子供がはしゃぎ廻っているような声が、
喧しく漏れ聞こえていた。
宮田は、慌てて自分の入力した部屋番号を確認する。
803。何回見ても間違いない。
そして、犀賀の自宅がここであることだって、間違いないはずだった。
ここには何度か来ているし、上がらせてもらったことだってある。
そうだ。未だに忘れてはいない、幸江の言ったあの言葉。
「本当は、この上の角部屋も空いてたんだけどさあ。ここの部屋番号が気に入ったのよ。
803……八月三日。それはね、私とあの人が、初めてこの町に来た日なの――」
背後から頭をどやしつけられたような気持ちで、宮田はマンションを後にしていた。
本当はもう少し粘って話を訊きたかったのだが、
相手の女から一方的にインターホンを切られてしまったのだ。
「どうなってるんだ……」
とぼとぼと歩き続け、やがて診療所ビルの前まで辿り着く。
そして宮田は見た。
三階の窓の脇。簡素な突き出し看板は、真っ白だった。
消えているのだ。
昨夜までそこに書かれていたはずの――「犀賀診療所」の文字が。
「君、ちょっと」
宮田は、ちょうど真横を通り過ぎようとしていた、白い厨房着姿の女性の肩を掴んだ。
彼女はこの近くの定食屋で働いている店員で、
以前店の客が暴れて手が付けられなくなった時、宮田に助けを求めてきたことがある。
「あの、あそこの看板はどうしたんだ? 診療所の看板は」
宮田が白い突き出し看板を指さして問うと、彼女は怪訝そうな顔でそれを見上げたが、
すぐに「ああ」と気の抜けた声を出して言った。
「あそこの診療所……潰れはりましたよ?」
「潰れた!?」
「はい。そうですねえ……もうふた月ぐらい前だと思うんですけども。
不景気ですからねえ。厳しいんと違いますか? 歯医者さんも」
そう言って女性店員は笑ったが、
その笑顔は明らかに、初めて対面する相手に向けられたものであった。
女性店員が立ち去った後も、宮田はじっとその場に留まり続けていた。
虚しく看板を仰ぎ見ているその表情は哀しげだったが、
なぜだか少し、笑っているようでもあった。
半笑いの彼は、よろめきながらビルに入る。
内壁の塗料と埃の臭いの入り混じった階段を上り、三階まで進んで、
プレートの無いドアを開けた。
ドアの向こう側には、がらんとした灰色の空間が広がっていた。
内装工事を途中で放っぽり出された、剥き出しのコンクリ壁や配線類に覆われた部屋。
そうか。物が無い状態だと、ここはこんなに広かったのか。
場違いな感慨に耽っていると、部屋の中央で、黒い塊がむっくり身を起こした。
雑然と薄汚れた部屋と同化していたその黒い塊は、人だった。
ぼろを身にまとって寝ていた、浮浪者の老人だった。
大柄な彼は宮田を見ると、歯の抜けた口で何かを喚き立てながら近寄ってきた。
非常に聞き取り難いのだが、その言葉は英語であるらしい。外国人か?
そういえば、黒く汚れた髭もじゃの顔の中で、異様に光っている瞳の色が随分と薄い。
老人に掴みかかられそうになったので、それを振り払って宮田はドアを閉めた。
もうここに用はない。
虚ろに穴の開いた心を抱いて、宮田は階段を下りて行く。
暗い、もう彼とは無関係になってしまった古いビルの外に出ると、
膨張しつつある太陽が、汚い町を痴呆じみた光で焼き尽くそうとしていた。
それからの宮田は何も考えず、目の前にある、差し当たっての責務のことだけ考え、
それをこなしてゆく作業だけを淡々と進めた。
すなわち。銀行で金を下ろし、ついでに各種振込みなどを済ませ、
レンタカー屋へ車を借りに行く。
しかしここで問題が起こった。免許証を忘れて来たらしいのだ。
いつも財布に突っ込んであるはずの運転免許証が、どこを探しても見当たらない。
免許証がなければ車は借りられない。
仕方がないので、いったんアパートへ探しに戻ることにした。
「アパートに、まだ俺の部屋があればいいがな」
独り呟き、くすくすと笑いながら立ち去る宮田を、レンタカー屋の若い男性店員が、
困ったような笑顔で見送る。
アパート裏の駐車場前まで来た時、猫の鳴き声がしたので見ると、
銀のカバーが掛かった車の下に、灰色の猫がうずくまっているのが見えた。
「……ケルブ?」
躰が大きく、ふてぶてしい顔をしたその猫は、死んだケルブによく似ていた。
だがしかし、そんなはずはない。ケルブは死んだのだから。
案の定、宮田がそばに近寄ると、灰色猫は車の後ろに走り、
植え込みの奥に姿を消してしまった。
「ケルブじゃない、か。そりゃあそうだ……しかしよく似てたな」
カバーの掛かった車のボンネットに手をついて、猫の消えた先に眼をやる。
ケルブが埋まっているのは、確かあの辺りだっただろうか。
そんなことより――ふと気になることがあった。
今、この手で触れている車のことである。
「これは、もしかすると――」
宮田は思い切ってカバーを取り払った。
カバーの中から出てきた車は、あまりにも懐かしいあの車だった。
村から美耶子を連れ出す時に乗って来た、あの青い車。
それなりに愛着のある車だったから、
手放した時には少々寂しい思いをしたものだったが――。
「そうか……お前はずっとここに居たんだな」
ズボンのポケットを探ると、当然のようにキーがある。
なるほど。ここにこの車があれば、わざわざレンタカーを借りに行く必要もない訳だ。
「何でも願いは叶う。どんな突拍子もないことも実現できる――か」
跳ね返った泥水で汚れたままの車のボディーを撫で、声を上げて宮田は笑った。
ますます強さを増した太陽の光線が、車と、陰気な笑い声を上げる宮田のうなじを、
じりじり音を立てて焼いていた――。
「美耶子ほら、あれが海だよ」
〈わ〉ナンバーのミニバンの窓を開け、恭也が海を指さしている。
予想にたがわぬ渋滞の高速を乗り越え、湾岸沿いの道に下りると、
途端に空気が変わってしまった。
生命の源泉を感じさせる潮風が奇妙な清しさで胸をさらい、太陽の放つ熱波も、
濃紺の海の水に和らげられて、煌めき四散している感じがする。
あれから――あの懐かしい車と再会してから、宮田はアパートに戻り、
免許証を持って予定通りに借りた車で出発した。
あの車を使う気になれなかったからだ。
「ああ、免許証ですよね? 玄関先に落ちてましたよ」
帰るとすぐに、恭也が拾っていた免許証を渡してくれたから、何ら問題はなかった。
消えてしまうこともなく、アパートで留守番をしていた美耶子と恭也をピックアップした後、
何事も無かったかのように買い物を済ませ、車を走らせ数時間。
予定を大幅に遅れたものの、何とか陽の高いうちに海まで来ることができたので、
三人ともほっとしていた。
目当ての海水浴場は、思ったほどには混雑していなかった。
駐車場にもかなり余裕があったし、浜に出ても芋洗いとはならず、
それなりに泳ぐことを楽しむことができそうな塩梅だった。
「やっぱ三年前の事件が後を引いてんのかもしれないですね」
水着の上にいつものモスグリーンシャツを羽織り、デジカメを手にした恭也が、
山に囲まれて横たわる鈍色の砂浜を見渡して言った。
「それほど大きな海水浴場でもないから、元々こんなもんなんじゃないか?」
水着に半袖のパーカー姿で、海の家で借りたパラソルを砂の上に突き立てながら、
素っ気なく宮田は言う。
彼らの後ろでは、黒いワンピースの水着を身に着けた美耶子が、
小さくなってしゃがみ込んでいた。
「どうした美耶子? ご希望通り、海に連れて来てやってってのに」
「うん。海は嬉しいんだけど……」
美耶子はもじもじと足元の砂を弄る。
「水着って……ちょっと恥ずかしいね。なんだか裸でいるみたい」
「そんなの慣れれば平気だよ。みんな同じような格好なんだからさ。
恥ずかしがることないじゃん。ほら」
恭也は美耶子の手を取って立ち上がらせた。
水着姿の美耶子は、普段とはまたちょっと趣の違う美しさを放っている。
彼女の着ている黒い水着は、大型量販店に寄った際、
手近にあったものを宮田が適当に選んで買い与えたもので、
飾りも何も無い質素な作りのものだったが、まるで美耶子のためにあつらえたかのように、
よく似合っていた。
海獣の皮膚のような光沢をもって躰にぴったり張り付いているそれは、
美耶子の肢体のラインを美しく際立たせているし、
その布地の黒さもまた、彼女の透けるような肌の白さを、よりいっそう強調している。
実際、美耶子が立ち上がった途端、周囲に居た人々は老若男女問わず、
みんなが美耶子に注目したものだった。
羨望、憧憬、欲望、嫉妬――様々な感情の篭った視線が、美耶子の長い脚や、横顔や、
潮風に煽られる髪の毛などに集まっている。
それらを肌で感じ取った美耶子は、物怖じするように肩をすくめる――。
「美耶子、泳ごう」
美耶子に絡みつく不躾な視線を振り払うように、明るい声で恭也は言った。
「すいません宮田さん、荷物お願いします」
そう言ってシャツを脱ぎ、デジカメを包んでレジャーシートの上に放ると、
恭也は美耶子の手を引いて、波打ち際へと走ってゆく。
彼らの後姿を見送り、宮田はシートに座った。
パラソルの下で、波と戯れる美耶子と恭也を遠く眺める。
初めのうちこそ、周囲から投げかけられる視線や、異様に塩辛い海の水などに戸惑い、
怯える素振りを見せていた美耶子だったが、
やがて、白い泡となって弾ける波のしぶきや、波に引かれて蠢く足元の砂の感触、
寄せては返す海水のうねりの不思議な面白さに魅入られ、夢中になってそれらに触れ、
すくい上げ、躰を浸してはしゃぎ廻った。
そんな美耶子の姿に、当初あからさまな欲望の視線を送っていた男共も、
これはただの子供と見たか、すぐに興味を失って散ってしまった。
宮田もまた、呆れ笑いをして視線を外し、パーカーを脱いでシートに横たわる。
シート越しに伝わる、熱を持った砂の感触が心地いい。
燦々と煌めく太陽。熱気と湿り気とを孕んだ潮風。
人の声やざわめきの向こうで、果てることなく繰り返される波の音。
――まあ、来てやって良かったかもしれんな。
豊穣な自然のもたらす安らぎに眠りを誘われた宮田は、
そのまま、舌の上のボンボンのように、とろとろと意識を蕩かしていった――。
曖昧な夢から覚めて意識を取り戻した時、すでに陽は翳り始めていた。
吹き付ける潮風は涼やかになり、傾きかけた太陽が、砂の上に長い影を落としている。
「あ、お兄ちゃんが起きた」
いつの間にか隣に座っていた美耶子が、
紙コップに入ったカキ氷をストローで突付きながら、宮田の顔を覗き込む。
「やめろ」
ストローの先に付けた氷の雫を胸の上に垂らされた宮田は、
美耶子の手を押さえて顔をしかめた。
「宮田さんも氷食べますか? なんなら俺買って来ますけど」
美耶子の後ろから顔を出した恭也が言う。
宮田は「いや、いい」と言いながら躰を起こし、脇に置いた携帯を見た。
時刻は四時を十五分ほど廻ったところ。二時間ばかり眠っていたことになる。
「ちょうどいい頃合だ。そろそろ民宿に向かおうか」
宮田は立ち上がって荷物をまとめにかかった。恭也はそれを手伝う。
「民宿、民宿」
歌うように繰り返しながら、美耶子はぶらぶらとその辺をうろついている。
その美耶子の動きが、急にぴたりと止まった。
美耶子は、浜のずっと向こう側に見える木の茂みの方を向いている。
「どうしたんだ、美耶子」
宮田が肩を叩くと、その肩が微かに震えた。
振り返った顔からは、一切の表情が失われている。
「ケルブ」
「え?」
美耶子は真っ直ぐ腕を伸ばし、茂みを指した。
「今あっちの方にね……ケルブが居たみたいなの。気配を感じた」
「何だと?」
宮田は深い緑の塊に眼を凝らす。
しかしよく判らなかった。位置が遠過ぎるのだ。
もっと近づいてみれば――足を踏み出しかけたところで、
自分のしようとしていることの馬鹿馬鹿しさに気付き、舌打ちをする。
「ケルブがこんな処にいるはずないじゃないか」
独りごちる言葉を吐くと、
「そうだよね……うん、そんなはずはない」
と、美耶子もぼんやり頷いた。
予約を取った民宿は、海水浴場から車で三十分ばかりの場所にあった。
貧相な松並木がしょぼしょぼと点在している海岸の、突き当たりに見える小さな岬。
そこにぽつんと建っている、黒い屋根瓦の二階建ての家がそうだ。
砂利敷きの駐車場に車を停め、蝉の死骸がそこら中に転がった緑の中の小道を通り、
開きっぱなしのガラス戸の玄関に立って声をかける。
「ゆうべお電話いただいた……ああ、はいはい」
出迎えた小さな老婆は、一般家庭のものより気持ち広い程度の土間の隅に据えられた、
受付というか、荷物置き場と化している棚の上から宿帳を取り、老眼鏡でそれを確認して、
幾度も頭を上下に振った。
「それではお部屋に案内しますんで……ああ、スリッパはそこ」
老婆は上がり框の横の靴箱を指してから、
板張り廊下のすぐ手前にある木の階段を、よたよたと上がって行く。
案内されたのは、八畳ほどの、角の二面に障子の張られた部屋だった。
障子の向こうは窓になっていて、松林に囲まれた小さな入り江を見下ろせる。
「ここにも海があるんだね」
恭也と並んで浜を見下ろした美耶子が言う。
「あそこも泳げる場所なのかな?」
「泳げないこともねえんだけど、岩がごろごろしてっから……。
近所の子供くらいだねえ、あすこで泳ぐのは」
美耶子の言葉に答えて老婆は言った。
「じゃあ、今からあそこで泳いでもいいの?」
美耶子は老婆を振り返った。宮田は呆れて口を挟む。
「美耶子お前……たった今泳いできたばかりじゃないか」
「でもちょっとしか泳いでないよ。私、もっと泳ぎたいもん」
美耶子が口を尖らせて言うのを見て、老婆はしゃがれた声で笑った。
「晩飯までに戻って来なさんなら、構わねえけど……。
だけんど、あんまり沖まで出ねえようにしてな。特にあの、洞窟んとこには近づかんように」
老婆は、入り江の先の向こう側を指さした。
夕日を浴びた黒い岸壁の下の方に、ひときわ黒く窪んでいる場所がある。
「あの洞窟は……あの世と繋がってる場所だからねえ」
「あの世と繋がってるって、どういう意味なんですか?」
老婆の言葉に、恭也は即座に食いついた。
オカルトマニアとしての好奇心にその眼が燃えている。
その勢いに怯むでもなく、老婆はのんびりと答えた。
「あすこに入るとねえ、神隠しに遭うんよ。消えちまうの。この世から。
危ねえから入っちゃ駄目だよ」
そう言って総入れ歯の口をにっと剥いて見せた後、よろりとお辞儀をして、
老婆は部屋を出た。
「神隠しの洞窟か……」
開け放した窓から半分海に沈んだ洞窟を見やり、物々しく恭也は呟いた。
「海水浴場は外したっぽかったけど、思わぬ処で思わぬ情報をゲットしたな。……よし」
恭也はリュックサックから、未だ湿っている水着と、デジカメ、懐中電灯を取り出す。
「おいまさか、今から入るつもりなのか?」
宮田は微かに顔をしかめる。
「やめとけよ。もう夕方なんだぞ。神隠しうんぬんはともかく、
中がどんな構造になっているかも判らない洞窟の探索を始める時間じゃない。
やるんなら、せめて明日にしておけ」
「そうだよ恭也。やめた方がいい」
美耶子も、恭也の腕を掴んで止めた。
「そんなことより、今は私のそばで一緒に泳いで。私独りじゃ無理だもん。お願い」
美耶子にお願いをされると、恭也は逆らえない。
部屋で水着に着替えた二人は、夕焼けで真っ赤に染まった小さな入り江に出る。
宮田も、彼らの後に付いて出た。部屋に一人で居たって仕方が無い。
入り江は、砂も乏しくごつごつと岩だらけで、
老婆の言うようにあまりいい浜ではなかったが、それでも美耶子は、楽しそうに海の水と戯れ、
明るい歓声を辺りに響かせて遊んだ。
恭也は、はしゃぎ廻る美耶子に辛抱強く付き従い、彼女の眼となり、時には手足ともなって、
我がまま王女の水遊びの手伝いをしている。
彼の態度からは、それを苦にしている雰囲気は全く感じられず、
むしろ、様々な新しい発見を珍しがっている美耶子の、驚きや感動に共感し、
一緒になって楽しんでいるようにさえ見えた。
宮田は海べりの黒い岩の上に腰かけて、
夕日に照り映え、水しぶきをまとって輝く美耶子の姿を眼で追った。
「お兄ちゃーん」
やがて、熟しきった夕日が海の向こうにある山の稜線に触れて、その形を失い始めた頃。
ようやく気が済んだのか、美耶子は宮田のもとに戻って来た。
恭也は海の中に腰まで入り、例の洞窟を遠巻きに写真撮影しているようだ。
「夕日の洞窟を撮っておくんだって」
岩に上がり、潮水をしたたらせる躰を宮田の隣に寄せて、美耶子は言う。
「好きだなあ、あいつも」
真っ赤な光の中、黒ずんだ影法師と化した恭也の上半身に視線を投げかけ、
宮田は片方の頬を上げた。
夕日の入り江は、穏やかな倦怠感を湛えて一日の終わりを迎えようとしていた。
波の音。周囲の林から聞こえてくるひぐらしの声。
夕飯を煮炊きする匂いが、どこか懐かしい記憶を呼び起こすように、切なく胸に迫る。
「お兄ちゃん……今日はありがとうね。海まで連れて来てくれて」
美耶子は濡れた髪を向こうに掻き上げ、宮田の肩に頭を乗せる。
「――ねえお兄ちゃん。お兄ちゃんだけに教えてあげる。
まだ恭也にも話してない、私の本当のこと」
「何だよ」
「あのね、私の眼――恭也だけが見えるの」
遠く海面に眼を向けて、美耶子は言った。
「今までもね、草や木は見えてた。ケルブみたいな猫とか、動物なんかも。
だけど……人で、あんなにはっきり見えたのは、恭也が初めてだった」
海から、ひときわ強い風が吹き上がって、美耶子の髪をなびかせた。
「でもね、見えているって言っても多分、お兄ちゃん達が見てるようなのとは違うんだ。
光が……躰の輪郭に沿って出ている光が見えてるの。
それはね、生き物ならみんなが出してるものだから、
集中すればお兄ちゃんのだってちゃんと見えるんだよ? だけど……」
「恭也のは、集中するまでもなくよく見えている……か?」
「そう! 本当に、全然違うんだ。あの日――初めて恭也を見た時、本当にびっくりした。
見たことなかったから。人なのに……あんなに強くて……あんなに綺麗な光」
宮田は、何も言わずに、美耶子の告白に耳を傾けていた。
(俺の光はどう見えるんだ?)
そんな疑問が心をかすめたが、そんなものは、聞くだけ野暮なものだと思った。
やはり彼と美耶子は、確かな運命によって結び付けられた者同士だった。
恭也と邂逅したあの日、宮田が立ち並ぶ二人の姿に対して抱いた印象は、
それを示したものだったのだ。
ぼんやりと、心を躰から乖離させた宮田の視界で、恭也の影法師が真っ直ぐ横に腕を伸ばし、
何かを指した。
美耶子は、彼に向かって何かを言いながら岩を降り、浅瀬の中を歩いてゆく。
宮田は、恭也と同じ影法師に変わってゆく美耶子を、美耶子の残した水溜りと共に見送る。
民宿の軒下にある外灯が、思い出したように小さく点り、視界の端で白く瞬いた。
茜色の空がすみれ色に変わり、群青色の星空と成り果ててしまうのに、
そう時間はかからなかった。
「今夜の客はあんたらだけだから、サービスしといたよ」
そう言う老婆と、この家の嫁と思しき痩せた中年女が部屋まで運んで来た夕飯の、
予想以上の量の多さに驚きながらも、三人で黙々とそれを平らげてしまうと、
入り江の見える部屋にはすっかり、夜の帳が下りていた。
「風呂は時間で別れてますんで。九時までが男風呂で、九時から十一時半までが女風呂です」
夕飯の後、食器を片しに来た中年女が、無表情にそう告げる。
「お兄ちゃん……」
美耶子が傍らで腕を突付いた。
先頃、アパートでは独りの入浴を覚えた美耶子だったが、勝手の判らないこの場所で、
それを行うのは無理がある。
宮田は、中年女にそのことを話した。
美耶子と一緒に風呂に入らねばならぬこと――美耶子の眼が不自由で、
入浴に介助が必要であることを説明する。
中年女はぽかんとして聞いていたが、神妙な顔をして首を傾げた後、
「今夜はお客さん達だけですから大丈夫ですけど。
一応お入りになる時、暖簾を降ろしといて下さいね」
と、それだけを言って、食器を乗せた盆を運んで行った。
部屋に残された三人の間に、僅かばかりの沈黙が流れた。
「あの……」
真っ先に沈黙を破ったのは、恭也だった。
「お風呂、お先にどうぞ」
「いや、君が先に行けよ。こっちは多分、時間がかかるから」
宮田の台詞をどう受け止めたのか、恭也は少し顔を赤らめそっぽを向く。
「みんなで入ったらいいじゃないの」
美耶子が、何の躊躇もなくそう言った。
「さっき水着を絞りに行った時、お風呂場がちょっと見えたけど結構広そうだったよ。
あれだったら三人でも入れるはず」
美耶子は座布団から立ち上がった。
「み、みんな一緒にって、でも……」
「駄目なことないでしょ。もうみんな、何度も裸を見せ合ったんだから」
それを聞いた宮田は、声を上げて朗らかに笑った。
「美耶子の言う通りだ……今さら体面を取り繕ったって、意味はないってことだな。
じゃあ行こうか」
宮田はスポーツバッグからタオルや着替えを入れた袋を取り出す。
「どうした? 君も早く仕度しろ」
「いや、やっぱ俺……後でいいっす!
あの洞窟のこととか、民宿の人達にもっと訊いてみたいし……。
俺のことは気にしないで、お二人でお先にどうぞ」
恭也は、逃げるようにして襖向こうの廊下へ行き、階段を下りてしまった。
「お兄ちゃん。何で恭也はあんなに恥ずかしがるんだろう?」
「さあなあ……そういう性格なんだろう。
まあいいさ。とりあえず、俺達だけで風呂を済ませちまおう」
風呂場は、階段を下りて、そこから折り返した廊下を真っ直ぐ歩いた突き当たりにあった。
紺地に「男湯」と、白く染め抜かれた暖簾を言われた通りに外し、
磨りガラスの引き戸を開けると、温かな湯の香りが、ふわりと漂って躰を包んだ。
板張りの脱衣所で服を脱ぎ、中に入る。
家族風呂を少し大きくしたぐらいの風呂場は、
洗い場も、掘り下げた形の浴槽も、石を模した黒っぽいタイルに覆われている。
カランは四つ、二つずつが壁に面してついており、それぞれの蛇口の上には、
横に長い鏡が張ってあった。
「ここ、お屋敷のお風呂に少し似てる」
宮田の腕に寄り添って、裸の美耶子は言った。
「お屋敷……神代の家のことか」
美耶子は頷く。
「あそこのお風呂の方が、もうちょっと広かったけど……でも、何となく似てるよ。
浴槽の縁が低いとことか」
「風呂の形状なんて、それほど種類のあるもんじゃあないからな……。
さあ美耶子、こっちへおいで」
宮田は美耶子の手を取り、鏡の前、カランの上の出っぱった部分に座らせた。
「……少し日に焼けたな」
美耶子の顔も躰も、昼間に浴びた日光に火照って赤味を帯びている。
夏の熱気を吸収し、艶々と輝いている手脚の中心で、
水着に隠されていた胴の部分だけが蒼白さを残し、妙な生々しさを発散していた。
宮田は、美耶子の前にひざまずき、肩に残っている水着の線を辿って、
冷たくふやけた感じのする乳房を、手の平で包んだ。
「また少し大きくなった」
張りつめて上向いた乳房を、ゆっくりと撫で廻す。
「こんな処で……悪戯しないで」
美耶子は、長いまつげを揺らめかせながら言うが、それでいて、
自ら進んで宮田の手の動きを止めようとはしない。
それをいいことに、宮田は美耶子の乳房を両手で掴み、
海の匂いがする胸元に顔を埋めてしまった。
「ああ、お兄ちゃんってば」
乳房の谷に触れる宮田の唇は、そのままなめらかな肌を滑り落ち、
下腹部を通って黒い茂みにまで届く。
そこには、ひときわ強く海の匂いが留まっているようだった。
「そういえば……こうしてお前と風呂に入るのも、随分久しぶりのことだ。
独りで入るようになっちまったからな、お前。
どうだ? ちゃんと独りで洗えているのか?」
宮田は美耶子の太腿に手を置き、ぐっと左右に押し広げた。
一日を海で過ごした美耶子の性器は、そこはそれほど焼けてはいない内腿の中心で、
ちんまりと唇を閉ざして沈黙している。
二本の指を使って開いてみても、
薄い桃色の膣口は、ぽつんと小さな窪みを見せているだけだし、陰唇に埋もれた陰核は、
その所在さえも判然としない。
宮田は、包皮の上から陰核をくりくりと扱き、針の穴のような膣口を、
もう一方の手の親指で揉みほぐした。
美耶子は「はあ……」と心地好さげにため息をつくと、少し腰を前にずらし、
宮田が弄りやすいように性器を突き出す。
やがて、しこり出した陰核が、包皮から珊瑚色の顔を覗かせるのと同時に、
揉まれて柔らかくほぐれた膣口から粘液が溢れ出して、
宮田の親指をぐいぐいと飲み込む蠢きを始めた。
宮田は中指で美耶子の汁をすくうと、それを陰核に塗りつけ、
すりすりと裏側から撫で上げたり、てっぺんに細かい震動を与えたりして刺激する。
「あ……ふ……くうっ」
「だいぶん勃起してきたな」
美耶子の陰核が、硬く尖って指先を押し返すようになった処で、宮田は手を止めた。
ぴくぴくとわななき、包皮からずる剥けになった陰核の根元を、
最大限まで引っ張って見つめる。
「やっぱり……ここに滓が堪ってる」
宮田は、陰核の左の根元を指で触れた。
「嘘っ」
「嘘じゃない。視てみろ、ほら」
宮田は美耶子の股間に眼を近づける。
宮田の言うことは、正しかった。
陰核包皮の左の根元には、白い塊が小さく挟まっているのが、はっきりと見えていた。
「そんなあ。毎日皮を剥いて、ちゃんと洗ってたのに!」
美耶子は頬を赤らめ、困惑した声で叫んだ。
「お前の性器は、どうしてもここに滓が堪りやすい構造になってるみたいだな。
昔っからそうだった……そう。俺が初めてお前の健診をした時にも、確かこうなっていた」
宮田は、その時のことを懐かしく思い返していた。
忌まわしきかの村の、忌諱の中心地であった美耶子の生家・神代家。
こけおどし的に豪奢な造りであるにも関わらず、どこかうら寂しく、
薄ら寒い印象を抱かせるあの屋敷で、初めて宮田は、医師として美耶子に接した。
少年の頃より、その存在だけは知っていたし、遠くから姿を見る機会も幾度かはあったが、
至近で対面したのは、あの時が最初であっただろう。
日本人形のように髪の長い、虚ろな眼をした美少女。
己の運命に絶望し、この世の孤独と悲しみを一身に背負って心を閉ざしていた美耶子は――
陰核包皮から溢れ出さんばかりに、恥垢を溜めていたものだった。
「なあにお兄ちゃん? 何で笑ってるの?」
美耶子がむっと頬を膨らませている。
宮田は、笑い声を噛み殺しながら首を左右に振った。
そう、あの時にも宮田は笑ったのだ。
戦慄を覚えるほどに美しい少女だった美耶子を、裸に剥いて股座を覗き込んだ時、
その美しさにそぐわない、あまりに酷い性器の汚れように、
宮田は、腹を抱えてげらげらと笑い出してしまったのだった。
宮田の態度に立腹し、泣きべそを掻いて喚き散らしていた美耶子の幼い顔を、
今でもはっきりと覚えている。
「美耶子――お前は大人になったよ。
村に居た時から比べると、本当に大人になって、綺麗になった」
「そんなお世辞言って。何かいけないことでも企んでるの?」
「お世辞なんかじゃないさ。
神代の屋敷で初めてお前と対面した時には、ほんの子供にしか見えなかったのに。
今ではこんな……少なくとも躰だけは大人になったし、女になった」
「当たり前じゃない。もう一年以上経ってるんだよ? あれから」
「ああ、そうだよな……」
あれから一年。
たったの一年で、こんなにも美耶子は成長した。
そして、これからも成長していくだろう。
その代わり、自分はどんどん年老いてゆく。
老いて力を失ってゆく自分を取り残し、美耶子は、美耶子の女としての性は、
眩いばかりの大輪の花を咲き誇らせるに違いない。
宮田は確信していた。
今後、長い年月を生きていくさなかに、いずれ美耶子は自分を捨てる。
今の彼女がいくら否定しようとも、それは未だ、庇護者の存在なしには生きられない彼女の、
幼く頼りない心がそう言わせているだけのことだ。
弱りゆく男を捨てて、美耶子は選ぶのだ。彼女と同等の、若さに満ち溢れた新しい男を。
他者の視界に頼ることなく、初めてその眼でじかに見ることのできた、
暖かい光輝に包まれているという、あの少年を。
「美耶子」
宮田は美耶子の名を呼び、美耶子の悦びの源泉に唇を押し当てた。
火のように紅い陰核に、吸いついて、吸いついて――。
「ああっ、お、お兄ちゃ……!」
いきなり激しく吸い上げられた美耶子は、苦痛じみた快感を陰核の芯に受けて、
ぐっと腰を反らせた。
「――汚れを取らなきゃならんからな」
言い訳するように宮田は言い、唾液を絡ませた舌を伸ばすと、
陰核の根元をべちゃべちゃと舐め廻した。
「あう……や、そ、そんなの……っ」
通常であれば、こういう汚れを落すにはシャワーの強い水圧を当てるものなのだが、
この民宿の風呂にはシャワーが無かった。
だから、舌で無理やりこそげ落すしかない。
強く強く。陰核の根元をえぐるように舌で突き廻しながら、すくい上げるように弾く。
熾烈なまでに責め立てられて、美耶子の顔は悦楽に歪む。
しかし今、宮田が舌で小突いている場所は、
美耶子本来の泣き処である陰核の裏側からは場所がずれているため、
決定的な刺激ではないのがもどかしく、美耶子は、靴の上から足を掻いているような、そんな、
焦れるような快感に苦しめられる。
「ああん……もっと……もっとぉ」
激しくも見当外れの責めに耐えかねた美耶子は、自ら股を大きく広げ、
陰核の真下にある尿道口の辺りをしきりにひくつかせて、淫らな責めのとどめを乞うた。
それでも宮田は無言のまま――口が塞がっているのだから仕方がないのだが――
とにかく、何も返事をせずに陰核の根元を舌先で弾き続ける。
そうして、どれくらいの時間が過ぎたのだろうか?
「――取れたぞ」
舌の先でこそげ取った白い滓を、人さし指の先に乗せて宮田は言った。
眼の前にそれを掲げて幻視を促すも、美耶子はぐったりと大股を広げたまま、
尋常ならざるほどに大きく膨れ上がった陰核を丸出しにして、
狂おしく肩で息をし続けるだけだった。
「お……兄……ちゃん」
やがて美耶子は、情欲に酩酊しきった声音で宮田を呼ぶと、
ふらりと危なっかしく腰を上げる。
尻の下まで垂れていた発情液が、いやらしくタイルに糸を引く。
今にも転んでしまいそうな美耶子の躰を、すんでの処で宮田は抱きとめた。
その勢いのまま美耶子は、濡れたタイルの床に宮田を押し倒し、
狙いたがわず唇に吸いついた。
たった今まで己の汚猥を掻き混ぜていた舌に、ためらうことなく舌を絡めて、
ぬるぬると扱いた。
塩辛い陰部の味とは一転し、少女の甘い唾液を送り込まれた宮田の舌が、痺れて蕩ける。
背中の下の硬い感触。胸板の上で、充実した乳房の重みが心地好かった。
「して……今すぐにして、お兄ちゃん……お願い」
唇を外さずに、美耶子は囁いた。
吐息が熱を帯びている。
さらに熱を帯びた股間が、無意識的に動いて宮田の強張ったものをぐりぐりと挑発していた。
宮田はふっと笑いを漏らすと、素早く起き上がって美耶子と躰を入れ違えた。
「姦ってやるのは構わんがな。あまり大声を出すんじゃないぞ?
さっきの婆さんなんかにばれて、心臓発作でも起こされたらかなわん」
言いながら、陰核の裏つらを指でこちょこちょくすぐった。
それだけで美耶子は、うっとりと首を反らせて喘いでしまう。
べたべたに濡れきった膣口も。欲しがって、泡立った汁にまみれながら、
ぱくぱくと穴を収縮させていた。
すでに出来上がった状態である美耶子の肉の穴は、しなやかに勃起した陰茎を、
瞬く間に飲み込んでしまう。
しこしこと濡れた熱い肉襞に胴締めをされた陰茎は武者震いをし、
すぐさま、張り出したカリ首でもって粘つく孔内を攪拌し始めた。
「ああん、あ、あっ、あっ、あ……」
美耶子の紅い唇から、牝の声が漏れる。
短い動きでぐいぐいと。微妙な捻りを加えながら、ずずっと奥まで。
硬いタイルの床に肘と膝をついた宮田は、突いたり、しゃくり上げたり、
膣穴上部のしこりをぶるぶると震わしたりと、変幻自在の動きで若い膣を翻弄する。
それは、宮田が知りうる限りの技術を総動員した、快楽の動きであった。
淫魔そのものと化したかのようなその腰の使いようは、
宮田をして、最後の悪あがきにも似たものであっただろうか。
――まだだ。まだ俺は、美耶子を……。
「やはあっ! や……おに、お兄ちゃ……凄……」
タイルに押し付けられ、激しく揺さぶられる美耶子は、宮田の動きを受け入れて、
懸命になって腰を突き上げる。
両腕を床につき、限界を越えるほどに尻を持ち上げ、弓なりに躰を反らせて、
宮田の下腹部に恥骨をすり合わせる。
宮田は、美耶子の腰のくびれを、両腕で抱きかかえた。
ぐっと引き寄せた美耶子の躰は、すでにオルガスムスの兆しを見せている。
しっとりと汗ばみ、硬く張りつめた二つの乳房は、風船のように膨れ上がっているし、
反対方向に折り曲げられた膣穴は、ぎりぎりと狭くなって、脈打つ陰茎を喰い締めている。
それでいて、濡れたくさむらに覆われた穴の周りのびらびらは、
たぐまったり伸び広がったりしながら、柔らかくぬめって陰茎の根元を優しく舐り、
ぐじゅぐじゅと恍惚の汁をまき散らしながら、甘ったるさに酸味の混じった、
淫らがましい匂いを強く濃く立ち上らせた。
そして、宮田の腕が、乱れて絡まった黒髪ごと美耶子の背中を抱き締めた時、
美耶子の灼熱の膣も、ついに快楽の限界に達した。
「あああっ」
宮田の腕の中、自分で自分を支えることさえできなくなった美耶子は、
抱き締める腕の中に完全にその身を預け、白い尻を中心に、ぶるんぶるんと全身を律動させる。
むらむらと盛り上がって波状に蠢く膣の肉は、陰茎を吸い上げて奥深い子宮の中に取り込み、
こりこりとした入口で吸い付いて、咀嚼しようとしていた。
美耶子の女の器官に亀頭を、尿道口をねっとり喰いつかれた宮田は、
陰茎の芯を揺るがし、滾りに滾った欲望の昂ぶりを、一挙に放出した。
どばっと噴き出したそれは、美耶子の子宮頚管に打ち当たり、
じわりと跳ね返って狭い粘膜の中を循環し、膣の入口からどぼどぼと溢れ出る。
それさえ逃すまいと、収縮を続ける美耶子の膣孔の痙攣はきりもなく続き、
至上の快楽を味わう二人の性器を嬲って、蕩かせて、いつまでもいつまでも離さなかった。
強烈な快楽を共有し終わった二人は、だるい躰を起こして躰を洗う作業にかかった。
といっても、実際に作業をするのは宮田一人だ。
「お兄ちゃんに頭を洗って貰うの、久しぶりだね」
美耶子の長い髪を、シャワーの無い風呂場で洗うのは一苦労だった。
しかし美耶子は、洗面器に湯を溜めては泡立った頭にかけるという、
宮田の労働を手伝うでもなく、ただ、頭を反らせて眼を閉ざしているだけだ。
「全く……こんな苦労をさせられるんだったら、お前なんか、
さっさと恭也にくれてやった方がいいかもな」
「駄目ですよーだ。私はこれからも、ずっとずっとお兄ちゃんと一緒だもん」
湯船の中で、美耶子は宮田にしなだれかかって甘え声を出す。
確かに彼女は今、本心からこの言葉を言っているのには違いあるまい。
けれどそれは――あと何年続くものなのだろう?
苦み走った笑みを浮かべ、宮田は美耶子の肩に湯をかけた。
日に焼けた肌にさら湯が沁みて、美耶子は少し眉をしかめた。
「やっぱあの洞窟は当たりっぽいです。お二人が風呂の間に、色々判りましたよ」
たっぷりと時間をかけた宮田と美耶子の入浴の後で、
例によって、瞬く間に入浴を終えた恭也は、濡れた頭にタオルを載せて語り出した。
宮田達が不在の間、恭也は、民宿の老婆やその孫らしき子供達を中心に、
訊き込みを行っていたのだ。
それによると――あの洞窟は数十年前まで、近くの神社の奥宮だったのだそうだ。
神社はとうの昔に廃れて無くなってしまったのだが、あの洞窟に入った中の方には、
今でも鳥居が残されているのだという。
「何でもですねえ、この辺りの集落では昔、秘密の儀式が行われてたとかで……。
洞窟の神社は、その儀式をするのに使われてた場所らしいんです」
儀式の内容は、老婆の口からも訊くことはできなかった。
老婆がこの家に嫁に来た頃には、神社も儀式もすでに絶えていたのだ。
「あすこはあの世と近えから、あの世との境目を開いて、
あの世に逝っちまった人達をお出迎えすんのに、ちょうどいい場所だったんだと思うよ。
まあ、この辺流のお盆の迎え方だったってえことだね」
老婆は、恭也にそう語ったそうだ。
「それで、ちょうどその場に民宿の子が居たんで、話を訊いてみたんです。
洞窟に入って見たことがあるかって。そしたら、あるって」
老婆の前では白を切っていた子供達も、場所を変えて問い詰めると、
案外あっさりと白状した。
当然といえば、当然のことだ。
あんなおあつらえ向きの遊び場を見逃す子供など、この世に存在するはずがないのだ。
あの洞窟は、この界隈の子供達に取って、もっともポピュラーな肝試しの場所として、
不動の地位に君臨していた。
ただその肝試し場所も、近い将来、無くなってしまうことになりそうだとのことだった。
「あの洞窟のある断崖が、崩されちゃうみたいなんですよ。
もう、今年中には工事が始まるらしくて。だから調査するのは、今しかないんです。
いやあ……今夜ここに来られたのって、本当に運が良かったですよ」
開け放した窓から、海の向こうで黒く沈む洞窟を見やり、感慨深げに恭也は言った。
「恭也。あそこに行くの?」
洗い髪を扇風機の風に当てながら、心配そうに美耶子は尋ねる。恭也が振り返った。
「美耶子は、あそこから何かを感じる?」
美耶子は座布団から腰を上げ、恭也と並んで窓辺に立った。
「――あの世かどうかは判らないけど……確かにあそこは、どこか遠い処と繋がってると思う。
それも、何だか……」
女舎監のような厳しい顔つきをして、美耶子は言いよどむ。
「美耶子がそう言うってことは、やっぱあそこは本物なんだな。廃病院でもそうだったし。
美耶子が、『ここは駄目』っつって逃げ出した場所をデジカメで撮ったら、
妖しい光の玉とかがわんさか写ったもんな。ようし……テンション上がって来たー!」
恭也は元気よく拳を上に掲げた。
美耶子は、呆れた風に彼から眼を背け、宮田の方を向く。
宮田は卓袱台に頬杖をつき、
売店で買い求めた袋詰めのナッツでビールをちびちびやりながら、
眠たそうな顔で彼らの話に耳を傾けていた。
「どっちにしても、全部明日にするんだな。今日はもう遅いし、外にはやぶ蚊がいっぱいだ」
コップに残ったビールを飲み干し、宮田は大きく欠伸をした。
「悪いけど、俺は先に寝るぞ。ゆうべは全然眠れなかったからな……。
さすがにそろそろ、限界だ」
宮田は卓袱台を端に寄せて布団を敷いた。
「私ももう寝るよ。なんだか疲れちゃった」
美耶子も寝てしまうのなら、恭也も独りで起きていたってしょうがない訳である。
一同は美耶子を中心に、川の字になって床に着いた。
「いっちゃだめ――」
闇の中の囁き声を聞いて、眼を覚ました。
どれくらい眠っていたのだろう?
明かりを消して布団で横になった途端、泥濘に飲まれるように、宮田は眠りに落ちていた。
頭の中で大きな割合を占めている諸々の気掛かりも、
ずっしりと重たい疲労がかき消してくれていたので、眠りの妨げにはならなかった。
最も深い場所にまで行きついていたはずの、安らかな眠りが途絶えた原因は何なのか――?
その答えは明らかであった。
宮田の左隣にある美耶子の布団が空になっている。
彼女は、向こう側にある恭也の布団の上に居た。
藍色の闇の中、長い黒髪に覆い尽くされた美耶子の背中が、
恭也の上で妖しい動きをしているのが、ぼんやりと見えている。
二人共、裸だった。
美耶子の布団の上では、彼女の脱ぎ捨てた水色のロングTシャツと、
淡いピンクのパンティーが、ちんまりと小山をかたどっている。
その小山の向こう側で、美耶子は恭也に圧し掛かり、顔を寄せて、
濃密な接吻をしているようだ。
宮田は息を殺し、薄眼を開けて彼らの様子を盗み見る。
彼らは薄い掛け布団を足元の方に撥ね退け、抱擁と接吻とに夢中になっているように見える。
不意に、恭也が美耶子の唇から逃げるように首を横に振った。
彼の顔がこちらを向いたので、一瞬宮田は緊張したが、どうやら彼は、
硬く眼を閉じていて宮田の視線に気付いていない。
逃げた恭也の首筋に、美耶子はそっと唇を押し当てる。
恭也は、美耶子の唇が膚の上を這い廻る度に、胸板に載った手の指で乳首を弄くられる度に、
悲壮なまでの激しい息を吐き、苦悶の表情で歯を食いしばって、
漏れそうになる喘ぎ声を堪えているのだった。
「静かにして。お兄ちゃんが起きちゃうでしょ」
はあはあと荒い呼吸を繰り返す恭也に、美耶子はそっと耳打ちをしている。
その囁きのさなか、美耶子のうつ伏せの尻は、くいくいと上下動をしていた。
それを見て、宮田は初めて気がついた。彼らがすでに、性器と性器を結合させていることを。
「美耶子……ちょっと待ってって! でないと俺……もう」
「こんなくらいで? お兄ちゃんなら、この倍以上はがんばるよ?
ねえ、お願いだから、あとほんのちょっとだけでも我慢して。
もうちょっと……私が、ちゃんといくまで」
美耶子は、恭也の肩の上に顔を伏せた。
天井を向いた美耶子の尻が、くるくると回転を交えつつ、
いやらしくも本格的な上下動を始めると、恭也は真っ直ぐ伸ばしていた膝を立て、
美耶子の背中に腕を廻し、美耶子の動きに控え目に呼応する動作を返した。
切迫した射精感を堪えながらの、怖々とした腰の動き。
しかしながら、そんな大人しい交接が、いつまでも続くはずはない。
宮田がそう考える間もなく、畳を伝わる微震動は、徐々に大きな激震へと変わっていた。
複雑な蠢きをしながら絡み合う二つの黒い塊が、狂ったような息ざしを交えながら、
どすんどすんと暴れ廻っているその様は、何か奇妙な化け物が、
苦しみの中で死に絶えようとしている姿にも見える。
それは卑猥さよりも、なぜだか必死の哀れさを感じさせた。
しかし宮田は思うのだ。
哀れなのは、こんなにもがむしゃらに、無心に性交に耽っている彼らではなく、
それを傍観して陰茎を熱くしている、自分の方であると。
もやもやとした嫉妬と情欲の炎が腰の奥で燃え立っているのに、
目覚めきらない躰はぴくりとも動かせず、どうしようもないまま、
ただ見守っている宮田の前で、彼らの営みは、あっという間に頂点を迎える。
部屋を湛える暗闇の底で、「ううっ」と断末魔の呻きが上がり、恭也の頭が枕を越えて、
畳の上に反り返り、全身の動きを止めて硬直する。
彼の上にしっかとしがみついて離れない美耶子は、射精をしているのであろう恭也の陰茎で、さらに膣を摩擦し続けていたようだが、その内になんとか埒が明いたようで、
「く、く、く……」と引き攣れた声を漏らしながら、びくびくと背中や尻をわななかせ、
病的な動きで痙攣をして、オルガスムスの発作を表した。
後はただ、嵐の後の息遣いのみ。
性的快楽の余韻の中、死に絶えたように躰を重ね合うばかりだ。
宮田は、寝返りを打つ振りをして彼らに背を向けて、眼を閉じた。
悄然と暗い心のまま、膨らみかけた陰茎を手で玩んでみるも、やはり疲れが酷いのか、
睡眠欲の方が勝ってしまい、中途半端な性欲興奮を腰の内部でくすぶらせたまま、
再び、眠りの中に意識を沈み込ませてしまった――。
二度目の覚醒は、無理やりもたらされたものだった。
「宮田さん――宮田さん!」
恭也に肩を揺す振られて眼を覚ますと、未だ辺りは暗かった。
眠りしなより湿度が上がっているようで、むしむしとした夜気が膚にまつわりついて、
気持ちが悪い。
しきりに揺り起こそうとする恭也の手をうるさく感じながら、しぶしぶ躰を起こすと、
またしても美耶子の布団が空だった。
「大変です! 美耶子が……美耶子が居ないんです!」
恭也がそれに気付いたのは、つい先ほどのことだという。
ふと眼を覚ましてみると、美耶子の姿が消えていた。
独りで便所にでも行ったかと見に行ったがそこにもおらず、
他に、民宿内のめぼしい場所も見て廻ったのだが、一向にその姿が見当たらないのだという。
「確かに全部見たんだな?」
「見ました。だけど全然……」
「外もか」
「い、いや、外はまだ」
宮田は、舌打ちをして部屋を飛び出した。
玄関に向かって靴箱を調べてみると、美耶子の靴はそのまま残されていた。
けれど、そんなことにはあまり意味は無いだろう。
スリッパのまま表に出た可能性だってあるのだから。
宮田は、開きっぱなしのガラス戸の外に出て、美耶子の名を叫んだ。
宮田を追って、恭也も外に出る。
「あの、民宿の人にも捜して貰った方がいいですかね?」
「そうだな……いや、まずはこっちの方を捜してからにしよう」
宮田は、民宿の真横に広がる入り江の方を指した。
深夜の入り江は、たった一つの外灯に照らされ、ひっそりと波の音だけを響かせていた。
宵の口に見えていた満天の星は、夜半に現れたと思しき分厚い雲に隠されてしまい、
周囲には、何とも言えぬ陰鬱な空気が立ち込めている。
「ひと雨来そうな空気だな……」
そう言うなり、頬をぬるい水滴がかすめた。すでにぽつぽつと降り始めている。
宮田が空を見上げた時、恭也が後ろではっと息を飲んだ。
「どうした?」
「いえ、もしかしたら美耶子……あの洞窟に行ったんじゃないかな……って」
恭也は、入り江の右側の先にある洞窟を指さして言った。
「そんな馬鹿な……何で美耶子があんな場所に行く必要がある?
だいたい、眼の見えない美耶子がどうやってあそこまで泳いで行けるというんだ?」
「いや、泳ぐ必要はないはずなんです。
あの洞窟、夜中になると潮が引いて歩いて行けるようになるんだって、
民宿の子が言ってましたから」
宮田は、漆黒の海の向こう側に眼を凝らしてみた。
なるほど言われてみれば、入り江のそこかしこの海面には、
夕方には見えなかった数多くの岩礁が顔を出しているのが見える。
波打ち際も随分と遠くなっているし、断崖の下には、細く頼りない地面らしきものが、
微かに見て取れるのだった。
「それに……寝る前に美耶子、俺に言ってたんです。
あの洞窟から……誰かに呼ばれてる気がする……って」
美耶子は、夕方にあの洞窟を見た時から、何かを感じ取っていたらしい。
宮田が寝入った後、恭也がこっそりと部屋を抜け出して洞窟を見に行こうとしていた時、
美耶子は、そのことを恭也に告げた。
そして彼女は言ったのだ。
「あの場所に呼ばれてるのは、私一人。だけど私はあそこに行く気は無い。
怖いの。あそこは良くない場所。恭也だって行かない方がいい」
それから美耶子は、着ているものを脱いで恭也にすがり付いた。
あのまぐわいは――洞窟へ行こうとする恭也を、引き留めるためのものだったのだ。
「しかし、それだったらなおのこと。
美耶子があそこに行ってるはずなんか、無いんじゃないのか?
そんなに怖がって、お前が行ことするのさえ、
躰を使ってまで引き留めようとするほどに忌み嫌っている場所に、
なんで独りでこっそり出向いたりすると思うんだ?」
「それは……」
恭也が何かを言いかけた、その時だった。
周囲に、不吉な怪音が鳴り響いた。
高く。低く。波打ち、耳の奥底にまで、渦を巻くようにして入り込んでくるその音は、
怖ろしげな獣の鳴き声のようでもあり、また、奇妙なサイレンの響きのようでもあった。
同時に起こる、大きな地震。
頭蓋骨の中で、脳髄を揺さぶられるかのように。
不可解な感覚に囚われ、宮田も恭也も、その意識を奪われそうになる。
宮田は、そばにある岩にすがり付いて、激しいめまいに耐えた。
「……くそ!」
暫しのち、不気味な揺れがようやく収まり、周囲にとりあえずの静けさが戻った。
「……大丈夫か恭也君?」
「はい……」
宮田の後ろ、恭也は、砂の上に這いつくばって地震に耐えていた。
「しかし……酷い揺れだったな……これは津波が心配だ」
宮田は海の方に眼を向け――そのまま、凍りついた。
「どうしたんですか、宮田さ……」
起き上がり、躰から砂を払った恭也も、海を見て言葉を失う。
闇の空の下、広がる海の色は、一面の赤に染まっていた。
見間違いかと思い、幾度も眼を擦って確かめた。
だがそれは、見間違いなどではなかった。
それは血の色だった。それは傷の色だった。
海の水は、見渡す限りの毒々しい赤色の水溜りに変じていた。
「これは……いったい」
本格的に降り始めた雨の中、宮田は呆然となって赤い海を見つめる。
降りしきる雨の雫はなぜか生臭く、
心なしか、これも普通より赤い色をしているように思えるのだった。
「う……うわ……!」
恐慌をきたした恭也が、海から後ずさってどこぞへ逃げ出そうとしているようだったが、
それを留める余裕など、今の宮田には無い。
背後で、恭也のあわただしい足音が響く。
ところが、恭也はすぐに宮田のもとへ戻って来た。
強く腕を掴まれ、宮田は振り返る。
恭也が後方を指さした。
常夜灯に照らされた民宿の玄関から、小さな人影がこちらに向かって歩いて来る。
それは民宿の老婆だった。
よろよろと覚束ない足取り。
ぎくぎくと不自然な動き。
言いようの無い違和感が、その全身に満ち溢れている。
宮田と恭也は、老婆の手元を見つめた。
小さく萎れた彼女の手には――
大きく湾曲した刃を持つ草刈り鎌が、しっかりと握られていたのだ――。
【Continue to NEXT LOOP…】
*このエロパロSSはフィクションであり、
実在のゲーム・キャラクター・団体・事件及び地域などとは一切関係ありません。
リアルタイムで読んだ。
気になる。次で終わりか。なんだか早いな。
頑張れ
やっぱサイレンだ。
ただ平和なだけのエンドにはならないんだろう。
宮田のみやこへの、愛のような違うような感情が切ない。
どんなラストになるか全く予想出来ないけど、楽しみに待ってます。
ついに…と感じる展開だ…
ラスト楽しみにしてます!頑張ってください!
349 :
名無しさん@そうだ選挙に行こう:2009/08/30(日) 19:15:53 ID:K3ptdyZa
あげ
自分の同人誌かホムペでやれよこんなの
ミヤコ=自分乙
↑まあそう言わずに
あくまで「エロパロ」なんだから
>>350
長編乙でした!
美耶子がえろくて可愛かった!
>>350 大作乙!
最後の最後まで展開読めなくてハラハラした
354 :
名無しさん@ピンキー:2009/09/03(木) 07:10:57 ID:Q87HXhbs
乙!
サイレンな展開にグッと来た。
牧野涙目(笑)
お疲れ様でした。宮田ってゲームではサイボーグみたいだけど、SSにすると人間臭さが新鮮ですごく良いね。
関係ないけど無印で宮田と戦うシナリオあったら楽しそうだ。
357 :
沖田×市子0:2009/09/06(日) 19:14:36 ID:W9jhOLu6
>>200です
闇人沖田×市子ss投下します
拙い出来ですがもしよろしければ見てやってください
(・∀・)wktk
359 :
沖田×市子1:2009/09/06(日) 19:19:40 ID:W9jhOLu6
夜見島小中学校の大道具倉庫の裏側に矢倉市子は隠れていた。いや、隠れていたというよりは、どうしていいか分からずに途方に暮れていたというほうが正しい。
釘をまきあの邪魔な軽トラックをパンクさせるところまでは何とかなった、がそのトラックが思いもよらぬ場所に突っ込んだおかげで新たな敵が出現してしまったのだ。
黒い装束を巻いたよく分からない物体が壊れた裏門からわらわらと沸いてきて、屍人と戦い始めたのである、その隙に脱出しようと市子は裏門へ向かったが、
如何せん敵の数が多い、抜けようにも何度も通せんぼされては体当たりを受けた。
このままでは明るく安全な場所に避難するまでに力尽きてしまうと考え、大道具倉庫へと逃げてきた。幸いなことにあの黒装束の物体は、
扉を開けられないようでこの小運動場には侵入できないようだし、
屍人も黒装束に夢中になっていて市子がいるということは、気づいていなさそうだ。
そんなこんなで市子は大道具倉庫の裏で途方に暮れていた。
隠れながら市子は様々な事を考えていた。
「(これからどうしよ・・・ずっとここにいるわけにもいかないし・・。もうなんなんだろ船で目が覚めてから変な事ばっかり起きて・・・
あのお巡りさんと合流できて助かったと思ったら・・・、何なのさっきの・・?!クラっ・・てなったと思ったらいつのまにか私・・?!
もう嫌!家に帰りたい・・!)」
市子の精神はもう限界まできていた。
一時間ほどたった頃、市子はこれからどうしようかと考えた。
このままここでじっとしていても埒が明かない、いっそのこと戦うか?そう思いながら手に持っている鉈を見た。
ここの屍人から奪い、何度もそれをこれで倒してきた。
だけれど、今校庭や校舎裏の道を徘徊しているものは、屍人とは何かが違った。
今、懐中電灯をつけなければまともに行動出来ないほど暗い、
だが今一番近い敵の視界を覗くと、まるで昼間のように明るかった。屍人の視界はこうはいかなかった。
360 :
沖田×市子2:2009/09/06(日) 19:20:48 ID:W9jhOLu6
もう一度、一番近い敵の視界を覗く。
「・・・え?」
階段が見える。小運動場を目指すように上っていた。
自分が居る小運動場に向かっている?
自分が隠れているのが分かっている?
視界ジャックをしながら市子は考えを巡らせた。
視界ジャックを解き、市子は手に鉈を持った。
きいい・・・
扉が開く音がする。
そっと扉の方を覗く。そこに居たものは今まで戦ってきた屍人とは明らかに違っていた。
361 :
沖田×市子3:2009/09/06(日) 19:26:52 ID:W9jhOLu6
その風貌は黒い装束を身にまとい、まるであの裏門から出てきた物体のようだった、だが形は人の形をしていた。
顔にあたる部分は不気味なほど白く、頭には青い黒みがかったターバンのようなものを巻いている。
そしてその手には銀色に鈍く輝く小銃があった。
あまりの不気味さに市子は「ひっ・・」と声を漏らした。
その声に気づき化け物がこちらに近づいてくる。
市子はもうだめだと思い、その場にへなへなと座り込んだ。
「・・・お母さん、助けて・・」
叶うはずの無い希望に市子は願った。
やがて大道具倉庫の影で見えなかった化け物がぬっと現れた。
近くで見るとますます不気味だった。
化け物は白い顔を歪めてにたあっと笑った。
『見つけたあー』
その声に市子は化け物の顔を見る、その顔はあのトラックを運転していた屍人によく似ていた。
「(いや・・・死にたくない・・!)」
そう考える市子の前に化け物が銃口を向けた。
ぎゅっと市子が目をつむる。
ばん。
銃声がひびく。
市子が目を空けると市子の足の付け根のところから少しずれた所の地面に着弾していた。
煙をあげた地面を見てあまりの恐怖に市子は失禁してしまった。
小さな子供のようにおしっこを漏らす市子を見ながら、化け物はにやにやと笑っていた。
化け物は再び市子に銃口を向けた。
今度こそ殺されると思い、市子はこの世の終わりのような顔をして歯を食いしばった。
だが銃口は思いもよらぬ場所へ向かった。
銃口は市子の胸元まで来るとセーラー服の胸当ての部分に先っちょを引っ掛けて、
一気に下に下ろした。セーラー服がブラジャーを巻き込んでずたずたに破れ、市子の未発達な乳房を露にした。
「え・・・いやああっ!?」
思いもよらぬ出来事に市子は驚きが隠せずに叫ぶ。
化け物はニヤニヤと笑いながらしゃがみこみ、
市子の胸を覆っている両腕を片手で無理やりつかみ、大道具倉庫の壁に固定した。
「いや・・・・!!」
この時すでに市子は自分がこれからなにをされるのかがなんとなく分かっていた。
だが化け物―――生前は沖田とよばれていたものは
市子が考えているものよりも酷い辱めを市子に受けさせようとしていた。
362 :
沖田×市子4:2009/09/06(日) 19:29:49 ID:W9jhOLu6
沖田は余った片手で、まだ市子の体に残っているセーラー服の残骸を剥がした。
「やだっ」手をふりほどき抵抗しようとしたが、とてつもなく強い力で押さえつけられ、どうしようもならない。
残骸を剥がしつくし、上半身裸になった市子の裸体をまじまじと見つめた。
未発達な小さな胸は、市子自身が震えるのにあわせて、プルプルと振動していた。
沖田は身にまとっている黒装束の一部をビリビリと破るとそれを縄のようにして市子の両手首を縛った。
そしておもむろに市子の乳房を揉みしだいた。
「あううっ・・・」
初めて受ける感触に市子はなんともいえない感覚になった。
乳房を揉みしだきつつ沖田は親指で乳首を押した。
「いやあっ・・・」
『ここがいいのかあ?』
人差し指と親指で乳首をつまむ。
市子の顔はどんどん紅潮していった。
『あんまりここばっかだと物足りないだろお?』
そういいながら市子の濡れたスカートをたくし上げた。
たくしあげられたスカートのなかには濡れたスパッツがあった。
細い市子の太ももを頼りなく覆っている。
沖田はスパッツを鬱陶しそうに破る。
「やめて・・・やだ」
力なく市子は抵抗した。
破れたスパッツの中にはぐっしょりと湿ったパンツがあった。
この年頃の少女が履くにしては子供っぽい白くリボンがちょこんと付いただけのパンツだった。
沖田は、今度は破らずにずすっと脱がせた。
「やめて!いや!変態!」
声を張り上げての抵抗も虚しく、市子が身にまとっているものはスカートと靴下と靴だけになった。
市子の足の付け根には、乳房と同じく発達しきっていない割れ目があった。
沖田はアヒル座りのような形で座っていた市子の体を大道具倉庫の壁にもたれかからせ、
無理やりM字開脚の形にさせた。
『いい格好だなあ・・、くっくっく、さっきは痛い目に合わされたからこっちもお返ししないとなあ』
「いや・・・おかあさん・・」
沖田は手袋に包まれた自分の中指を市子の膣口にあてがった。
次の瞬間ぐっと勢いよく指を押し込んだ。
「痛いっ!痛い」
指一本でもきつきつなのに、沖田はまた1本指を追加しようとした。
市子は力を振り絞って沖田の腹に蹴りを入れる、だがそれも弱弱しく、沖田にダメージを与える事はできなかった。
それどころか、沖田の何かに火をつけてしまい、3本もの指を一気に差し込まれた。
「痛い痛い痛いいい!!!」
あまりの激痛に市子は気絶しそうになった。
沖田が指を膣の中でピストンさせる。
じゅぶっじゅぶっといやらしい水音がするたびに市子は痛みに顔をゆがませた。
幾度かのピストンの後、沖田は指を出した。
その指には血がべっとりと付いていた。
363 :
沖田×市子5:2009/09/06(日) 19:32:28 ID:W9jhOLu6
あまりの痛みに市子の思考は停止しかかっていた。
『おっと、ここで気絶されたらつまらなくなるじゃないか・・、ほらっがんばれがんばれー』
ニヤニヤと笑いながら市子の頬をぴしゃぴしゃとたたいた。
『そろそろだなあ』
そう言いながら沖田は迷彩柄のズボンのファスナーを開け、何かゴソゴソとしたかと思えば、
自分の屹立した陰茎を露出させた。
その陰茎は不気味なほど白くなにか深海生物の様だった。
沖田はその陰茎を先ほど自分が弄んだ膣口にあてがった。
市子が「嫌!お母さん!」と叫んだ。
『暴れると痛いぞお・・?』
そう言いながら市子の腰を両手で持ち少し浮かばせた。
「嫌!助けて!」
市子が叫び終わるか終わらないかの辺りで、
沖田の陰茎が先ほどの指のように一気に膣へと侵入した。
「・・・・・・・・・!!」
「ああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
さっきの指の痛みがちんけに思えるような痛みが市子を襲った。
「いやああ、痛いよおっ!」
「やめてえええええっ抜いて!!」
そんな市子の悲鳴を無視しながら沖田は腰を動かした。
沖田が腰を上下する度に市子の体も揺れた。
市子の膣内から出た血が、沖田の陰茎にかかる。
364 :
沖田×市子6:2009/09/06(日) 19:35:18 ID:W9jhOLu6
しばらくそうしている間に市子の悲鳴はだんだん小さくなり、
その代わり時折大粒の涙を流しながら悲しそうに「あっ・・・あっ・・・」と呟いた。
そのうちに沖田が『うっ』と言ったかと思えば小刻みに揺れ顔を少し歪め、
沖田は市子の膣内で射精した。
市子は腹の中に何か暖かいものを感じ、ぞっとした。
「(いやああ・・・妊娠しちゃう・・)」
子供っぽい市子もさすがにどうすれば子供ができるかは知っている。
その時ふと親友の倫子のことを思い出した。
「(倫子も中島君とこういうことを・・・?)」
・・・こんな時に何を考えているのだろうと市子は思った。
沖田が陰茎を引き抜くと市子の膣からぬたあーと白濁した液体が溢れてきた。
「(これからどうなるんだろう・・・殺されちゃうのかな)」
沖田が市子の体から手を離すと市子の体がドサリ、と地面に落ちた。
まだしぶとく勃起し、精液と市子の愛液にまみれた陰茎を沖田は市子の顔に近づける。
『ほら、綺麗にしろよ』
根元を掴みながらぐっと陰茎を市子の口元に持っていく。
「いや・・・」
市子は口を閉じて拒絶した。
365 :
沖田×市子7:2009/09/06(日) 19:38:39 ID:W9jhOLu6
『ふーん・・・』
沖田はまたいやらしい笑いを浮かべながら市子の鼻をつまんだ。
『いつまで耐えられるかな?』
しばらくし激しい運動の後というのも手伝って、息苦しくなった市子はとうとう口を空けてしまった、
そこに沖田の陰茎が無理やり侵入してくる。
「むぐっ・・ぐうう・・」
口の中いっぱいに、青臭くてドロドロした陰茎が入ってきて市子は苦しそうに呻いた。
沖田の大きな手で頭をガッチリと押さえつけられ、身動きが取れなくなってしまった。
『噛んだら撃つからなあ・・』
市子の首に、手に持った小銃の銃口をあてる。
沖田は、自分の手を動かしながら市子の頭前後に動かした。
喉に亀頭が当たるたびに市子は苦しそうに「うぐっ・・」と言った。
やがてまた先ほどのように沖田が射精する。
口の中に広がっていく精液を市子は一刻も早く吐き出したかった。
が、沖田は陰茎を市子の口から抜き出すと同時に『全部飲めよ、一滴でも吐き出したら撃つからな』と言い、今度は小銃の銃口を、市子の頭にあてた。
恐怖に震えながら市子は口を閉じ、精液を飲み込んだ。
「うええ・・・苦いよう苦しいよう・・・」
初めて体験する不快感に市子は嘔吐しそうになった。
『よーし、全部飲んだな?』
市子の顎を持ち、口を開けさせて沖田は確認した。
366 :
沖田×市子8:2009/09/06(日) 19:42:49 ID:W9jhOLu6
そして、壁にもたれかかっている市子の小さな尻を、両手で掴むとひょいっと宙に持ち上げた。
「(・・?なんなんだろう・・・?)」幼い市子には何が起きるのか全く予想できなかった。
持ち上げたまま市子の背中を壁にもたれかからせ、沖田は自分の陰茎をまた市子の膣に押し入れた。
「うっ・・・・・!?」
先ほどの痛みほどではなかったが、十分痛かった。
沖田はまた自分の腰を動かした。
沖田と市子の体が揺れるたびに、市子の膣から精液がポタポタと滴り落ちた。
「(痛い・・・もういや・・・こんなの)」
「(こいつが満足するまでこんなのを何度もされるの・・・?)」
市子はそう考え絶望した。
「(誰か助けて・・・誰でもいい・・誰か・・)」
市子がそんな考えを巡らせている時、ピタリと沖田の動きが止まった。
367 :
沖田×市子9:2009/09/06(日) 19:45:54 ID:W9jhOLu6
『・・・井も野暮な奴だなあ・・』
沖田はそう呟くと市子から陰茎を引き抜き、市子の体を地面に落とした。
乱暴に落とされたため市子は地面に仰向けに倒れたが、そのまま人形のようにじっとして動かなかった。
沖田は市子に目もくれず小銃を掴むと、そのまま走って小運動場を出て行った。
「(何?助かったの・・?)」
何が起きたのか分からない市子は倒れたまま沖田の視界を覗いた。
階段が見える、さっきとは違って凄い速さで降りている。
度重なる疲労と痛みにより市子は気を失いかけていた。
少しして、沖田の視界に、銃を構えた若い自衛官が現れ、こちらに向かって発砲して・・・。
そこまで覗いたところで、市子は気を失ってしまった。
終わり
最後の後どうなったかは想像にお任せします。
ここまで読んでくださった方ありがとうございます。
期待してくださった方ありがとうございます、期待にそえていたら嬉しいです。
GJ
>>370 最初に時間軸のおかしい所があります、と書いておくのを忘れてしまいましたorz
すみません