3 :
前スレ625:2008/05/12(月) 00:40:43 ID:BZtcz3VX
すみません。
残り容量の確認を忘れて投下していました。
19スレが700後半代だったので、油断していた自分のミスです。
本当に申し訳ありません。
>>1乙
>>3 …まぁスレに活気があるってことで、気にせず、次から気をつければ。
そして、GJ。 甘々な夫婦を期待!
6 :
前スレ605:2008/05/13(火) 12:28:12 ID:LwDIOvSv
〉〉3
どうかお気になさらず。
・・・実は私も残り容量気付いてませんでした・・・
前スレ600番台前半だったので完全に油断して投下してました・・・。
私も気を付けないと。
あ、あと続編投下待ってましたよ〜。ガーベラの心情が切ないなぁ・・・。
彼女には、騎士としても女性としても、満たされる事を切に願って止みません(は、はっぴーえんど・・・ですよね?)
〉〉1
乙です。新スレ立てて頂いて早々ですが、続き投下させて頂きたく。
時間は夜になってしまいますが(仕事から帰ったら、投下しようかなと思います)。
「はわーーーーーーっ !? 」
げっそりとした様子で電気街に帰還した柊蓮司を、超弩級の「はわ」が出迎えた。
耳に人差し指を突っ込んで耳栓のポーズをする柊の後ろで、眉を顰める小柄な少女
が、
「・・・うっさいわねー・・・」
と文句を垂れる。
「はわ、はわ、ベ、ベ、ベル、ベル・・・」
目を白黒させて口をパクパクさせながら、赤羽くれはがわななく指先で柊とベルの
二人を交互に指す。深い、深い溜息を吐き出しながら柊が、
「あー・・・みなまでいうな・・・わかってる。わかってるって。・・・こちら、外国からのお
客さんで、ベル=フライさん・・・。仲良くしてやってくれ・・・」
「はじめまして。えーと・・・赤羽ぇ・・・くれはさん・・・ ? 」
「白々しい ! すごく白々しいよ、ひーらぎ !! 大魔王じゃない !? ベール=ゼファーじゃな
い !? ねえ、ひーらぎってば !! 」
胸倉を掴んでがっくんがっくん。
首を前後に揺らされた柊が、「落ち着け、落ち着け」とくれはをなだめる。
ここに至った経緯を説明するのに二十分。とりあえずベルが『大魔王休業中』で、な
んら危険はないことを納得させるのにたっぷり一時間。いつの間にか、日は暮れ始め
ており、時刻は夕方の五時ちょうど。
釈然としない様子で、それでも柊の言葉を信じるから、との理由でくれはがこの状況
を受け入れると、ようやく三人は平素の落ち着きを取り戻す。
「で、だ。これからお前、エリスん家だろ ? ほら、夕飯食いに行くって呼ばれてるじゃん
か」
「はわ、そうだよ・・・。っていうか、ひーらぎもでしょ・・・って、まさかひーらぎ !? 」
「みなまでいうな・・・・・・」
ここへ来る道すがら、脅迫、誘導尋問その他諸々の手練手管を駆使して、本日以降
の予定をすっかり全部、柊から聞きだしたベルは、志宝エリス宅の夕食に自分もお邪
魔するといって聞かなかったのだ。
「は、はわー・・・ひ、ひーらぎ・・・ちょっとだいじょーぶなの・・・ ? いくらなんでもエリス
ちゃんには刺激が強すぎない・・・ ? 」
「大丈夫・・・だと思う。俺やお前もいるんだし、灯も・・・って、そうか・・・灯を納得させ
るのも一苦労だな・・・。ま、エリスはあれで結構図太いところがあるというか、順応の
早いところがあるからな・・・そこらへんはあまり心配してねーけど・・・」
こそこそと顔を寄せ合わせながら、二人が相談する様子をいかにも愉しげに見物す
るベール=ゼファー改めベル=フライ。
「あ〜あ、お腹空いたわ〜。早く美味しい晩御飯食べさせてくれないかしら〜」
わざとらしく台詞を棒読みする。
「はわ・・・行く気マンマンだよ・・・」
「・・・くれは。俺はもう腹くくったぞ。だからお前も覚悟を決めてくれ」
決死隊に志願した兵士のような、何かを決意した男の顔で柊が言う。ぎぎぎ、と壊
れたロボットのようにぎこちないスローモーションで振り返ると、ベルがこちらにウィン
クを返してきた。
「しょうがねー・・・。ええい、なるようになれ、だ ! おい、ベル。こっち、ついて来い。
迷子ンなるなよ」
途端に、勝利者の笑みを満面に浮かべ、
「あは、それじゃあご相伴に預からせてもらうわね」
まるで体重などないように、羽毛が舞うような軽やかさで柊の真横に立ち。
「それじゃ、エスコートしてね、柊蓮司 ? 」
その二の腕に絡みつくように華奢な身体ごと預けるベル。しっかりと柊の腕を抱き、
ぴったりと密着しながら、
「さ、行きましょ ? 」
と、いかにも嬉しそうに笑いかけ。
「は、はわわっ !? 」
くれはがその光景を目の当たりに見せ付けられ、思わず叫び声をあげる。
じわ、と涙目で睨んでくるのを、ベルは鼻先で嘲り笑うと、ふふん、とくれはに顎をしゃ
くってみせ・・・・・・。
「おい。ベル。歩きにくいって。転んだらどーするんだよ、お前」
ぴき。
瞬間、世界が凍りついた。
唖然とベルが、柊の腕にしがみついたまま、その鈍感な発言者の顔を下から見上げ
る。信じがたいものを見たような忘我の表情で二、三秒。
「・・・え、えーと・・・柊蓮司、いまなんて・・・」
「だから、歩きにくいだろ ? って。それにお前、そんなしがみつきかたしたら、袖にシワ
寄っちまうっつーの」
すぽっ、と輪にしたベルの腕から自分の腕を引き抜きながら。
「ほら行くぞ二人とも。あー、俺もなんだか腹減ってきたなー」
すたすたと何事もなかったかのように、ましてやベルを振り返ることすらせずに、柊
は一人、歩き始める。
「・・・・・・・・・・・・っな・・・・・・」
絶句するベルの後ろから、ぽん、と肩を叩くものがある。
振り返ればそこには、赤羽くれはのなんだか申し訳なさそうな顔。
「ちょ、赤羽くれは、あれ、柊蓮司、なに、こんなのって、どういう、え、えぇぇっ・・・ ? 」
大魔王ベール=ゼファーともあろうものが、狼狽の極みを晒してしまう。
言いたいことは数あれど、あまりにも意外な柊の言動に、言いたいことがまとまって
口から出てこないのだ。
「はわわ・・・なんかもう・・・ゴメンね・・・なんていうか・・・あたしもさ、苦労してるのよ、
あれには・・・」
じっと、赤羽くれはを見つめる。ベルの瞳には、ゲームの好敵手を見つけた挑戦者
の気概と愉悦の炎が、ちろちろと燃え始めている。
「・・・でも、それでも柊蓮司を射止めたのよね、貴女って」
「・・・は、はわわっ !? 」
ぽっ、と顔を赤らめてあたふたするくれはを、今度こそベルは善きライバルを見つめ
る瞳で射抜く。
「・・・宣戦布告よ、赤羽くれは。柊蓮司、私のモノにするに値する男。そして貴女は、
競い合うに値する女だわ」
「は、はわーーーーーーっ !? 」
不穏な挑戦者のライバル宣言。くるりときびすを返し、顔だけでくれはを振り向いて。
「さ、腹ごしらえと行きましょうか ? 女の戦いには、物凄いエネルギーを使うもの、ね」
※※※
ほんの一時の屈辱なんて、次のステップへ進むためのバネに過ぎない。
そうやって気持ちの切り替えでもしなきゃ、やってられないってゆーのよ。
志宝エリスのマンションへ向かう道すがら、平気な風でいたけれど実は内心、柊蓮
司という男を攻略することの難しさに、爪を噛みたい衝動を何度抑えてきたことか。
だって、考えてもみてごらんなさいよ。
この私、空を飛ぶもの全てを統べる美しき蠅の女王、大魔王ベール=ゼファーが、
身体を密着させたゼロ距離状態でいるのにもかかわらず、よ !?
歩きにくいですって。転ぶから止めろですって。服の袖にシワがつくから離れろ、で
すって。
なんていう難易度の高さ。フラグ、とかいうのを立てるのがこれほど難しいとは考え
てもみなかったわ(私は他の魔王たちと違って、ファー・ジ・アースの恋愛文化にも造
詣が深いのよ。秋葉原、という土地はそういう知識の宝庫なんですって。リオンに言っ
た日頃の研究、ってのは、多くはここで手に入れた知識から来てるのよ)。
しかも、私の後ろを歩く最大の障害、赤羽くれは。
彼女はなんと、あの歩く木石、度し難い朴念仁、ヒロイン殺しの異名持つ柊蓮司を、
攻略してみせたという功績の持ち主。それはもはや偉業といってもいいレベルだわ。
だけど、ね。
そういうのって、燃えるじゃない?
人間たちの中には、登山家って言う人種がいるらしいんだけど、高い山ほど征服し
たくなるっていう感覚、私にはよーく分かるのよね。
相手にとって不足なしだわ、と心の中で拳を固めたところで、
「ほれ、着いたぞ。エリスん家」
柊蓮司が言う。
あの「七徳の宝玉」事件以降も、小娘には分不相応なマンションはどうやらそのまま
彼女の名義になっていたらしく(もともと買い与えてあったのか、アンゼロットあたりが
手を回したんでしょうね)、相変わらず柊蓮司たちの良い溜り場になっているみたい。
エレベーターの箱の中で、しばらく三人。ぴりぴりとした心地よい緊張感を肌で感じな
がら。ちぃん、と小気味良い音がして扉が開く。
最上階、「ELIS SHIHO」とネームプレートのかかったドアの前に立つ。
インターホンのボタンをプッシュして、待つこと数秒。
《柊先輩いらっしゃい ! 今すぐ開けますね ! もう灯ちゃんとどんぺりは来てますよ〜》
「おう、いつもワリぃな。今日はもう一人珍しい客がいるんだ。一人くらい増えてもいい
だろ ? 」
《はい〜、大歓迎ですよ〜》
・・・なんて太平楽なやり取り。
セキュリティシステムがドアを開錠したのか、ドアノブに手をかける柊蓮司。さっさと
中へ入っていく様を見て、まあ、ホテルのボーイのようにドア際に立ったまま私たち女
性陣を招き入れてくれる、なんてスマートな対応を期待したわけじゃないけれど、思っ
たとおりの気の効かなさに、やれやれ、と思ってみたり。
「また遠慮なくお呼ばれされるぜ、エリス。くれはも一緒に来てる。すまないな、卒業し
た後も度々で、よ」
「そんな、柊先輩やくれはさんはいつでも大歓迎ですよ。今日も腕によりをかけて・・・
って・・・あれ・・・ ? 」
ふふ。目が合っちゃった。
記憶を探っているっていうよりも、思い出したくないものがじわじわと頭の中からにじ
み出てくるのを待っているための時間の経過って感じ ?
「・・・ひ、柊先輩・・・ベ・ベベ・ベール・・・ !? 」
さっきの赤羽くれはと同じような反応してるわね。
あーあ、なんか小動物みたいにぷるぷる震えちゃって。無理もないと思うけど、そこ
まで怖がらなくてもいいのにねぇ。
ちょっと感心したのは先着していた緋室灯の対応の良さ、ね。
志宝エリスを守るように彼女の盾になれる位置にすばやく移動。月衣からいつでも
武器を取り出せるように臨戦態勢を取って、私に油断なく視線を配る。切り替えの速さ
はピカイチ。ま、さすがは柊蓮司とパーティーを組んでいただけのことはあるわ。
「あー、はいはい、説明するからちょっと落ち着け。エリスも灯も。噛み付かねえから
大丈夫だ」
「・・・ちょっと。私を犬かなんかみたいに言わないでくれる ? 」
「話こじれるから黙ってろって、ベル。あー、話すと長くなるんだがな・・・・・・」
三十分後。
柊蓮司の、要領を得ているんだかそうでないんだか、よくわからない説明を聞いて
いた志宝エリスと緋室灯の二人に、私は実はちょっと驚かされることとなる。
「な〜んだ。そういうことだったんですね。そういうことなら、はい、大丈夫ですよ」
こ、この娘、一体どういう理解の仕方をしたのかしら、って。本気で「この娘、もしかし
てオツムがちょっとアレなんじゃあ・・・」と思ったくらい。私、大魔王なのよ ? 例の事件
の時は(最終的には結果として味方したけど)、貴女を狙って暗躍していた張本人なの
よ ? それなのにこの娘ったら、
「なにか食べられないものとかありますか ? 好き嫌いはダメですけど、どうしても、って
いうものがあれば言ってくださいね」
なんて私に気を遣って。
一番説得が困難じゃないかって思っていた緋室灯の聞き分けの良さには、半分驚き
半分納得・・・というか感心。
「・・・柊蓮司が保障して、くれはが納得している・・・それなら、私にはそれで十分・・・」
・・・ふーん。なんだかんだで信頼されてるんじゃない、柊蓮司。
「・・・それに・・・別に今は任務を受けているわけじゃないし・・・」
こっちが本音でしょ、絶対・・・・・・。
「柊先輩が大丈夫って保障してくれるなら、絶対大丈夫ですよ・・・うふふ、なんだか
お客さんが多いのって嬉しいです。たっくさんお料理用意しちゃいますねっ」
なるほどね。宝玉事件を通じて柊蓮司が獲得した志宝エリスの信頼が、どれだけ
大きいものなのか。大魔王である私を招き入れることすらも許容の範囲ってこと ?
「はわー・・・時々二人には勝てないなーって思うよー・・・」
と、私の背後で赤羽くれは。
「あら、そんな簡単にへこたれないで ? ライバルさん」
途端にジト目で私を見つめ、すすすっ、と擦り寄ってくる。
「・・・ちょっと。さっきの話って、あれ真面目に言ってんの ? 」
ひそひそ声で私に牽制球を放ってくる。目が真剣。大事なものを取られるかもしれな
いという恐怖が瞳の奥で揺らめいている。なんか、虐めたくなるわね。
「・・・ねえ、気づいてる ? あなた、この世界で最高の男をその手にしてるのよ」
「は、はわ・・・ ? 」
「柊蓮司。世界の危機を何度も救った魔剣使い。歴戦のウィザード。蠅の女王の好敵
手。金色の魔王すらも退けた現代の英雄。世界の守護者の全幅の信頼を受け、その
魔剣の閃きは“神”すらも逃れることあたわず」
「はわ・・・」
「・・・どう ? この中のどれか一つだって、凡夫には得がたい栄誉なのよ。それをすべ
て成しえた男、柊蓮司。・・・これだけ聞いたら、どれだけのヒーロー、どれだけ類いま
れな英傑であることか・・・異性として、これだけ魅力的な男って、そうざらにいるもの
じゃないわ」
言葉を切って、キッチンの向こうにいる柊蓮司に視線を移す。同様に、赤羽くれはも
私と同じ男を見つめている。現代の英雄たる魔剣使いは・・・
「痛ってぇーーーーーーッ !! どんぺり ! てめえ、俺の指は餌じゃねーっつーのッ !! 」
フェレット相手に互角以下の戦いを強いられていた。
・・・い、色んなものが台無しだわ・・・。
「と、とにかく、そういうことよ。愛だの恋だの、そんなものにはさらさら興味はないけれ
ど、“男”としての柊蓮司にはとても興味があるって言ったら、貴女、どう ? 」
「は・はわー・・・」
みるみる涙目になっていく赤羽くれは。唇をぎゅっと噛み締め、私の言葉を心の中で
反芻しているよう。でも、さすがだわ。こんな言葉で揺れきってしまうほど弱くなんかな
いってことなのかしら。巫女服の袖でごしごしと目を擦って涙を拭いて。次に顔を上げ
た時は、もう笑顔。それもとっても挑戦的で、い〜い笑顔になっちゃって。
「えへへ・・・負ける気がしないんだもんね」
ですって。・・・なんか、こっちが悔しくなってくるくらい・・・。
「ふん・・・」
なんだか、それに言い返す言葉が見つからなくって、私はキッチンの方へと歩き出
す・・・・・・べ、別に逃げ出したわけじゃないわよっ。
「あ、もうすぐできますよ、テーブルについて待っててくださいね」
志宝エリスの満面の笑顔にぶつかって、思わず私は足を止めてしまう。
この娘の順応力の早さったらないわね。もう私に普通に話しかけてくるなんて。
で、言われた通りにしてやって、テーブルにつくと・・・。
腕によりをかけるとか、力作とか言うレベルじゃないわよ、これ !
いったい何品目あるのってくらい、テーブル狭しと並べられた料理、料理、料理。
とろみのある和風ソースが和えられた茸のソテー、ガーリック風味のローストチキン、
トマトとタマネギのタルト(なんか定番みたいよ、これ)。各員の席には、アスパラの緑
と茹でた人参のオレンジで彩を加えたベーコン巻きロールキャベツに、野菜たっぷり
クリームシチュー。テーブル中央には巨大な二つのボウルにそれぞれ、ポテトサラダと
明太子パスタ。飲み物は苺アイスフロートのシャーベット風ドリンク、etc、etc・・・と。
いい加減息切れしてきたからこれで止めるけど、これで全部じゃないのよ。目に付い
たメニューをざっと挙げただけでこれ。サイドメニューで用意された小皿や小鉢まで数
えてたら、ホンとキリがないわ !
「ちょ、ちょっと頑張りすぎちゃったかもしれません・・・」
えへへ、と頭を掻いて照れ笑いする志宝エリス。
ところが他の連中は、
「おっしゃー、こいつは食いでがあるぜー !! 」
「はわわわー、おいしそー、すごーい、しあわせー」
「・・・・・・望むところ」
って、食欲に火が点いたかのようなはしゃぎよう。我先にと席に着き、なんだかきら
きらした目でテーブルを見回してるのよね。呆れた。私を散々てこずらせてくれたウィ
ザードたちとは思えないわ。
すると、
「おい、なにぼさっと突っ立ってるんだ。お前も早く座れよ、ベル。お前が席に着かな
きゃはじまんねーだろ」
と、柊蓮司。
「へ ? 」
「だから、ここ来い、ここ。上座が空いてんじゃねーか。賓客席だぞ、一応」
ばふばふとクッションを叩く仕草。確かにテーブルの上座を空けて、みんな着席を済
ませてる。必要以上のアットホームな雰囲気に、なんだか私の方が罠に嵌められてる
んじゃないか、なんて錯覚を覚えてしまい、恐る恐る指定された席に着く。
「あ、ナイフとフォークはこのバスケットの中です。お箸のほうがよければお出しします
よ ? 」
傍らにいつの間にか志宝エリスの笑顔があった。まだ少し、びくついてる感じはする
けれど、ホストとして客をもてなす義務感からか、精一杯の笑顔。それでも、まあ並み
の肝の太さじゃないわね。
「あ、お構いなく」
・・・って、つられて普通の返事しちゃったじゃない。
「よーし、全員席に着いたところで、さっそくッ !! 」
「「「「いただきまーす ! 」」」」
柊蓮司の先導で、全員が食前の挨拶を唱和する。
私もついつい、
「い、いただきまーす・・・」
なぜか蚊の鳴くような声で。
皆が思い思いに料理に手を伸ばし、ハイペースで口に運んでいく。
(なにしてるのかしらね、私・・・)
私は自嘲気味に内心で呟き、この仮初めの食卓に参加することを決めたのだった。
※※※
最初の一口。
全員が好き勝手に食事をしているように見えて、実はこの一瞬にその場の全員が
注目していたのは言うまでもなかった。
タルトをさくさくと音を立てて口に運び、はわはわ喜んでいたくれはも、物凄いスピー
ドでサラダボウルからパスタを取り分けていた灯も、味わいもへったくれもない勢いで
料理を口に詰め込んでいた柊も、いそいそと配膳の続きに勤しんでいたエリスも。
ベルの最初の一口に、全員が注目していたといっていい。
難易度高めのクロスワード・パズルを解いているようなしかめっ面のベルが、ロース
トチキンをナイフで切り分け、フォークで突き刺し口元へ。
ぱく。
緊張の一瞬。
微かに目を見開いたベルが、ローストチキンを咀嚼し終える暇を惜しむように、続く
標的である茸ソテーの皿に手を伸ばしたのを見て、
「さあ〜、みなさんどんどん召し上がってくださいね、まだまだたっくさんありますから」
心底嬉しそうにエリスが微笑み、ようやくその場の不思議な緊張感は消え去った。
「エリスちゃん、また腕前が上がったんじゃないの〜 ? 」
「ありがとうございます ! 新しいメニューも多かったので、実を言うとちょっと心配だった
んですけど・・・」
「・・・・・・あなどれない」
「いやいや、ほんと美味いって ! 店出せるぞ、これ。・・・・って、オイ、なんで俺の皿か
らロールキャベツ持ってくんだよ、ベル !! 」
「うっさいわね !! ホントなら、人間の食事なんかじゃなくてプラーナでお腹一杯にした
いところなのよ、裏界の大魔王としては !! それを思えばお安いものでしょう !? 」
「あ、あ、ケンカはダメですよ。まだ鍋いっぱいにありますから・・・」
この食卓の風景を見たら、アンゼロットなど憤怒のあまり、ロンギヌスの精鋭を大量
投入して柊たちごとベルを抹殺させるのではないか、と思えるような和やかさ。
こうして、嵐のようなディナータイムが過ぎていき、時計の針はいつの間にか午後九
時を指していた。
食後のティータイムは、トワイニングのアールグレー。
「きりっと冷えたアイスティータイプでお楽しみくださいね」
と、エリスが注いでくれるのをみなでじっくり味わい(柊蓮司は味わうまでもなく一気
飲みで)、ほっと一息ついたところで。
「いかがでしたか、ベルさん」
エリスが心配そうに恐る恐る尋ねてくる。
「・・・悪くは・・・ないんじゃないかしら」
ベルの澄ました寸評に、
「良かったです。・・・こういうのなら、ちょくちょく来てくださっていいんですけど・・・」
大魔王としてではなくならば、いつでも歓迎の意を表する、ということなのだろう。
くれはも柊を見てくすくすと笑いかけ。それに対しては苦笑するしかない、といった風
情の柊であった。
「さーてと、飯もたらふくご馳走になったし。あまり遅くなると悪いから俺たちは帰ると
するか。エリスも灯も、明日は普通に学校だもんな」
「・・・私は・・・今日はお泊り・・・」
愛用のスポーツバッグを持ち上げて見せ、灯が言う。
「はわわ。あかりん、最近入り浸ってるね〜。ほとんど自分ちみたい」
「うふふ。私も灯ちゃんがいつも来てくれて楽しいです。・・・ここ、一人暮らしには広す
ぎて・・・」
少し寂しそうに笑うエリスに、
「お、それじゃ今度はくれはと俺もまた泊まりに来ようか」
柊蓮司が底抜けに明るく言うと、
「はわわ。あのテントどこにしまったっけ」
「・・・ってまた俺はテント暮らしかよッ !! 」
巻き起こる笑い声。その温かな団欒の場所から名残惜しげに立ち上がり、
「・・・んじゃ、またなエリス。灯」
柊が手を振った。
「はわー、お休み二人ともー」
くれはが続いて立ち上がる。ティーカップをカチャリ、とテーブルに置き、ベルも二人
に倣って席を立った。
三人を見送りに玄関口までエリスがついてきて、用意していたらしい包みを柊たちに
手渡した。お土産のマドレーヌ。これも、エリス宅を訪問したときの、いつの頃からかの
習慣のようになっていた。ドアを開け、立ち去ろうとする瞬間、
「あ、あの、ベルさん ! 」
意を決したように、エリスが呼びかける。
「・・・・・・・なによ」
無愛想に振り返るベルへ、
「ま、また大魔王のお仕事がお休みのときは、遊びにいらしてくださいねっ」
完全に虚を突かれた顔をして、ベルが黙りこくる。しばらく珍獣でも見るような目で
エリスを見つめると、
「・・・・・・・ふんっ」
きびすを返してエリスの部屋を後にした。顔を見合わせた柊とくれはが、エリスに別
れの挨拶を告げてからそれに続く。
三人の背中を、エリスがいつまでも、いつまでも見送っていた・・・。
(続)
違和感のないコミカル路線、面白おかしく堪能させてもらいました!
料理の表現が凝ってますね。
読んでてお腹がすきました(笑)。
アリアンといい、力の入った作品が続いて、在り難いことです。
楽しく読ませて頂きました。
本人は冷静なつもりでも、ベルが好意に堕ちていく(笑)様が微笑ましい。
それと今までの作品以上に、柊のイメージが抜群です。
格好良いのも彼の特徴だけど、コメディ要素も持ち味と思いますから。
続き、期待しています。
>>6 そう言って頂けると幸いです。
あれだけ面白いもの投下されていたのに、自分がスレ終了を早めたかと
思うと、読み手の方も含め本当に申し訳なかったので……。
大魔王の仕事がお休みのときワラタwwwwwwwww
でもベルはこういうケジメはキッチリつけるタイプに思えるから、
エリスの対応も正解かもしれん。
べるべるかわいいよべるべる
さっきメビウスとラース=フェリア買ってきたんだけど
カリンの魅力に今頃気付いた俺を罵ってくれ
誰か歴代勇者に性的に奉仕するカリン書いてくれないかな・・・
ところで今の時期になるとケープを羽織ったままというのは
とてもとても目だつと思うのだがどうか
つまりエリスに「ベルさんには、私の服のサイズでいいですか?」と着せ替えられるベ(ry
>>7 なるほどー。
こうやって、皇帝シャイマールは他の魔王を篭絡していったのか(違。
GJ。
※※※
さすがに百点満点とまでは行かないけど、ここまではかなりいい線いってると思うの
よね。予想した展開をほぼ忠実になぞる話運び、多少のイレギュラーはあっても基本
的な作戦に支障が出ることはまずありえない。ここまでシナリオ通りに事が運ぶのも、
なんだかタナボタっぽくてつまらないんだけど。
え ? もちろん、『柊蓮司攻略作戦』に関しての自己採点よ。
まあ、なんていうか、つくづく私って凄いと思うわ。
行き当たりばったり・・・じゃなくて、突発的に起こした作戦行動ですらここまで綿密
にストーリーを組み立てられるんですもの。
今回の作戦にあたって、落とすべき本丸は柊蓮司。
でも、いきなりの攻城戦は無駄にこちらも消耗するだけなのは自明の理。だから私
は、まず外堀を埋めることから始めたの。
外堀・・・つまり、赤羽くれはを始めとする、柊蓮司の仲間たちのこと。
人間の心理として、いきなり大魔王である私を全面的に信用するなんてできっこな
いじゃない ? だから、下準備もなしで私が柊蓮司にいくらモーションをかけたって、そ
れはただ怪しまれて終わるだけ。失敗して当然の愚策中の愚策。
柊蓮司の警戒を解くには、まず手始めに彼の周囲の人間が、『大魔王ベール=ゼ
ファーは危険じゃないんだ』って思うように振舞わせることが必須条件だったの。
大魔王は信用できないけど赤羽くれはたちは信用できる。信用できる仲間たちが
危険視していないのなら、自分も・・・って具合にね。
志宝エリス宅での夕食の時。
あの緋室灯ですら私を警戒することを止めた。ライバル宣言をした私をキナ臭く思っ
ていたはずの赤羽くれはも、最後には私と談笑するだけの余裕を見せ、志宝エリスに
いたっては、別れ際に「また遊びにきて」なんて頭のふやけたことを言う始末。
馬鹿も馬鹿。三人揃って大馬鹿だわよ、ホントに・・・。
自分たちが柊蓮司の心理的防壁になっていることなんて露知らず、私が柊蓮司の
心に入り込む隙間をわざわざ空けてくれちゃって、さ。
おかげで柊蓮司は、仲間を信用することで間接的に私を信用する羽目になる。
回りくどいかもしれないけど、柊蓮司の心理の壁を取っ払うには最上の方法だった
と自負しているわ。
さて、攻略作戦、続行と行きましょうか ?
※※※
「はわー、絶品だったね、ひーらぎ〜。エリスちゃんのお料理〜。なんか、お邪魔する
たびにレパートリーは増えてるし、美味しさランクうなぎのぼり〜。あ、なんかうなぎ
食べたくなってきちゃったよ〜」
「あれだけ食っといてかっ !? さすがに今はなにも腹に入らねぇよっ」
至福の表情で食後の感想を語る赤羽くれはに、柊蓮司が電光石火のツッコミを入
れる。うなぎは別腹だよ〜、と空恐ろしい発言をするのを、別の生き物を見るような
目で見ておいて、
「どーだ、ベル。エリスの料理、すげーだろ」
柊蓮司が自分の手柄のように、私に語りかけてきた。
「・・・なんであんたが威張ってるのかわからないんだけど」
腕組みをしながら顎をしゃくり、精一杯冷厳な眼差しで柊蓮司を見て。
「はっわわ〜。だけどしっかり全部平らげておかわりまでしてガッツいてたよね〜」
よ、余計なこと言わないでよ、赤羽くれは !!
「人聞きの悪いことを !! あれは、志宝エリスが私のお皿にどんどん料理を放り込むか
ら仕方なく・・・」
「・・・仕方なく全部食ってやったってわけか ? 律儀だなァ、大魔王」
「うぐっ」
・・・痛いところを突かれて言葉を失ってしまう。
なんだってこいつらは二人揃って嫌なことを言うのかしら !
「・・・エリスちゃんね、きっと嬉しかったんだよ。友達増えたみたいに思ったんじゃない
かな」
うつむいた私の顔を覗き込み、赤羽くれはがそんなことを言う。
「・・・ホントにお人よしだわ」
ぴたり。不意に私は足を止めて。
「・・・・・・え・・・・」
「・・・馬鹿じゃないの。貴方たちと変わらない姿してるからって油断して。大魔王ベー
ル=ゼファーと・・・エミュレイターと友達ですって ? なんか湧いてるんじゃないの、あ
の娘の頭ン中」
・・・・・・わかってるわよ。せっかく仲良しムードを作り上げてきたのに、なんでわざわ
ざそれをぶち壊すようなことを言うのか、でしょ ? ・・・でも、カチンときたんだもの。
だってこれは侮辱だわ。私たちにとって人間なんてプラーナの素。言うなれば餌。
餌を友達だなんて呼べるはずもない。人間なら、捕食する対象を愛玩動物なんて
偽善的な誤魔化しで呼ぶことも出来るんでしょうけど、エミュレイターは、大魔王は、
私は断じて、断じて違うんだから !!
「・・・は、はわわ・・・ご、ごめん・・・」
ッ、だっから、なんでそこであんたが申し訳なさそうな顔で謝るのよ、赤羽くれは !!
気に入らないわよ !! なんなの、この胸の中のモヤモヤは !!
「おい、もういいだろ」
沸騰した頭が途端に冷水を浴びせかけられたように冷まされる。
柊蓮司。
不覚にも。本当に不覚なんだけれども。私は次の言葉を次げなくなっていて。
「・・・ふん」
そうやってふてくされたように鼻を鳴らすのが精一杯で。
こんな私・・・。聞き分けの悪い小娘みたいな私を・・・。
だから、そんな目で見るんじゃないわよ・・・。見ないでよ、柊蓮司・・・。
あーあ。作戦失敗かしら。あっけなかったわ。ここまで順調、思惑通りに事が運んで
いたのに、ついついむきになって赤羽くれはに食って掛かっちゃうなんてね・・・。
「わりィ、くれは。今日はとりあえずここで別れるぞ。まあ、お前はあまり気にすんな」
気まずくなったのかしら。柊蓮司がそう言うと、
「はわ・・・そ、そうだね。ごめんね、ひーらぎ」
赤羽くれはも、その言葉が助け舟になったかのようにホッとした顔をして頷いた。
「気にするなって。また、な」
・・・・・・名残惜しそうな顔をして、一瞬だけ見つめあう二人。
恋人同士の甘ったるい場面を見せ付けられるんじゃないかって、そんな気がしてた
んだけど、驚くほど淡白に赤羽くれははくるりと振り返り、
「じゃね、ひーらぎ。おやすみ」
柊蓮司も片手を軽く挙げると、
「おう。気ィつけて帰れよ」
その背中を見送ることすらせずにきびすを返す。
なんだか、これだけさっぱりしていると、逆にこういう仕草で別れる方が、べたべた
まとわりつきあう男女よりも強く固い絆で結ばれているように思えたりもする。
いつでも結ばれているという確信。どこにいても繋がりあっているという自信。
そんなものが二人の間に確固として存在しているような、そんな感じ。
・・・ムカッとくるわ。
絆だとかなんだとか、そんなもの、脆弱な人間の脆弱たる所以じゃない。
そのくせに。結ばれあっていないと脆くて弱いくせに。結ばれあったときに垣間見せ
る「人間の強さ」ってやつはとても厄介で、私は何度も苦汁を舐めさせられてきたのよ
ね。
ここで、この二人を殺してやれたらどんなに簡単だろう、なんてことまで考えてしまう
けど、それはダメ。今回のゲームの趣旨とは違うものね。
はあ・・・。我ながら損な性格だと思うわ・・・。
ま、どっちにしても私の凡ミスで今回の作戦は失敗。そして終了。魔方陣を展開して
裏界へ帰還しようかしら、と溜息をついた私は、ここで本日何回目かの驚きを柊蓮司
に与えられることになる。
「ベル。はぐれんなよ。お前はこっちだっつーの」
「・・・・・・へ ? 」
あああああっ、なんて間抜けな声を出すのかしら、私ってば !
でも、だって、柊蓮司があまりにも予想外のことを言うから、混乱するじゃない !?
「ひ、ひーらぎ !? 」
ほら、赤羽くれはまで振り返ってこっち見てる ! ずかずか戻ってくるじゃないの !
私も思わず上ずった声で、
「こ、こっちって、あによ。どーいうことよ」
作戦終わりじゃなかったの !? 険悪ムードで喧嘩別れしてハイ、終了ってことじゃな
いの !?
「おまえなぁ、自分で言ったんだろうが。飯と寝る場所用意しろって。ホテル代なんて
出せないからウチのマンションで我慢すんだぞ。狭くても文句言わせねーからな」
呆れ顔でそんなことを言っちゃってるけど、こっちの方が呆れたわよ !
そりゃ、私がそういう約束取り付けたんだけど、ここへきて、そこまで律儀に約束を
守ろうとするなんて、完全に予想外の展開だわ !
「ひーらぎ !? もしかしてベル、ひーらぎン家に泊める気なの !? 」
そうくるわよ、赤羽くれはだって。この私が驚いたんですもの、当然の反応よね。
ところが柊蓮司ってばきょとんとした顔しちゃって、
「ん ? ああ、そういう風に約束したんだ、昼間。エリスんとこ行く前に、くれはにも話し
たろ ? まあ、ジュース代も持ってないようなヤツだし、ましてホテルなんてなぁ。いや、
冷静に考えてみたら、こいつ無一文なんだよ」
わはは、と笑う柊蓮司。
一方、笑っていられないのが赤羽くれはで、真剣そのものの表情で柊蓮司の顔を
じーッと見つめている。
「・・・ひーらぎ。だいじょーぶだよね ? 信用してるよ ? 」
「あん ? おう、そこんところは抜かりはねーぜ。こいつがエミュレイターで大魔王だな
んてことは、ちゃんと姉貴にもバレないよーに・・・」
「そこじゃないっ ! あたしが心配してるのはそこじゃないんだってばっ !! 」
「じゃー、なにが心配なんだよ」
あらら、夫婦漫才始めちゃった。ま、でも、私の作戦ってばまだ継続中ってことでい
いのかしら ? なんか赤羽くれはがキャンキャン言ってるのを困り顔で聞いてる柊蓮司
だけど、その様子を楽しむ余裕が私にも出てきて、思わずにやけてしまう。
赤羽くれはがなにを心配してるか、本当に解ってないのね、柊蓮司 ?
彼女が警戒しているのは、柊蓮司を一人の男として興味を持っているって言った、
私の言葉。そんな私が夜、彼のマンションに泊まりこむなんていったら、「正妻」の立
場から見たら穏やかじゃないわよね。
「・・・・・・はー。わかったよ。もーなにも言わない。ひーらぎに全部お任せするよ・・・」
なんか疲れきった顔をして、ついに赤羽くれはが自分から折れた。
「やっと納得したか。俺だってウィザードのはしくれなんだぞ。一般人に対する配慮っ
てもんくらいわきまえてるぜ」
ふん、と鼻を鳴らして偉そうにのけぞる柊蓮司。
「・・・えーえー、そうでしょーともー。その配慮の何分の一かでもあたしに回して欲し
かったわよ、ひーらぎのオタンコナスー」
「オタンコナスって、お前・・・ホントに使うヤツ、初めて見たぞ。俺と同い年のくせに」
あーあ、解ってない。柊蓮司はほんっとに解ってない。二人の会話、噛みあってるよ
うで全然チグハグだもの。ここまで鈍感で朴念仁で、女心の欠片も理解できていない
ような男を、よくぞ自分の恋人にできたわね、赤羽くれは。
「・・・ふーんだ。オッタンコナス〜、オッタンコナス〜のひーらぎ〜」
「歌うなっ ! ていうかひどい歌詞だな、それ !? 」
まったく、痴話喧嘩なんだかいちゃついているんだか。いい加減、放置されっぱなし
の私をどうにかして欲しいんだけど。
「・・・ったく。なに拗ねてるんだあいつは。おい、ベル。いくぞ。・・・くれは、またな」
自作の珍妙な歌を歌いながら遠ざかる赤羽くれはの背中に別れの挨拶を投げて、
柊蓮司は私についてくるように促す。
「・・・・・・ん・・・・・・」
振り返ってすたすたと歩き出す柊蓮司を横目に、一度だけ私は赤羽くれはが帰って
いった方角へと何気ない視線を送った。いつの間にか奇妙な節回しの歌は止んでい
て、視界の届くギリギリのところに立った赤羽くれはが、私たちの方を向いている。
・・・私のこと睨んでる。
それはまるで、ちっちゃな仔犬がドーベルマン相手に威嚇の唸りを上げているよう
な健気さで。数度、私と柊蓮司の背中を交互に見比べたかと思うと、
「・・・んべ〜〜〜・・・・・・っだ」
ひ、柊蓮司の言葉じゃないけど、いまどき「あっかんべぇ」って・・・。
でもそれが、これ以上は柊蓮司を引き止めないという、赤羽くれはの精一杯の抵抗。
柊蓮司を信じると言った彼女が、この私に報いたせめてもの一矢なのだ。
そう思うと、赤羽くれはも結構可愛いところがあるじゃない、なんて・・・そんなこと考
えてしまったりして。
「お・や・す・み」
言葉は発せず、音にも乗せず。吐息だけで囁く別れの挨拶。片目をつぶって、投げ
キッスの大サービスつきで。それに目を剥いた赤羽くれはが、真っ赤な顔して振り返
り、ずんずんと大股で歩み去っていく。
あっははは、なんかいい気分 ! 悪女の気持ちってこういうのをいうのかしら !
一人悦に入っている私に、
「こらー、ついて来いよッ、ベルーっ、迷子ンなるぞー」
と、遠くから私を呼ぶ柊蓮司の声。
なんだか嬉しくて、愉しくて、どういうわけか胸の奥がくすぐったくて。今は柊蓮司の
無愛想で無遠慮な物言いにも、なぜか腹も立たなくて。
「わかってるわよー ! あン、歩くの速いっていうの ! 待ちなさいよー ! 」
これじゃ、知らないヤツが見たら私たちのほうがいちゃついている恋人同士に見え
るんじゃないかしら、なんて・・・。
柊蓮司攻略作戦、一時頓挫の危機を迎えるもここに再開・・・
・・・ってことでいいわよ・・・・・・ね・・・・・・ ?
※※※
所変わって、ここは柊家。
志宝エリス宅、秋葉原一等地のマンション最上階(推定)二億円、とまではいかなく
ても、姉弟で二人暮らしをするには十分な広さがありそうで、今、ベール=ゼファーと
柊蓮司の二人は、ちょうどそのドアの前に立っているところであった。
「いやー、外で普通に晩飯食って、普通に帰宅。結構これって久しぶりなんじゃねー
かなー」
こみ上げる嬉しさを隠そうともしない柊蓮司に、
「・・・あんたも不憫ねー・・・」
率直な感想が、ベルの口をついて出てしまう。
「不憫って言うなっ。元はといえばお前らがちょくちょく裏界からこっちにちょっかい出
すせいで、俺たちが駆り出されるんだからな。少しは責任感じ・・・」
ズドバンっ !!
眼前の鋼鉄のドアが勢い良く無造作に開かれる。運悪くその前に突っ立っていた
柊蓮司が、その開閉のわずかな射程距離圏内にいたおかげで扉の直撃を受け、
「ぶべっ !! 」
としか文字表記しようがない面白い悲鳴を上げながらドア脇の壁に叩きつけられる。
「んな・・・」
本日何度目かの、ベルの絶句。
しかし、それも仕方のないこと。柊蓮司が、ウィザードが、自宅のドアに跳ね飛ばさ
れて悲鳴を上げるほどのダメージを受けるなど、普通では考えられないからだ。
言うまでもなく、ウィザードなら誰でも持っている個人結界は、通常の常識で作られ
た武器をすべて防御する力を持っているはず。
それなのに自宅のドアって ! 柊蓮司、あんたン家のドアはトラップか !
そうツッコミを入れそうになるベルの鼻腔を、煙草の匂いが刺激した。
開かれたドアの向こうでは・・・
「ウチの前で騒ぐんじゃないわよ、蓮司 ! ご近所迷惑だっていうの ! ・・・あれ・・・?
えーと・・・どちらさん・・・ ? 」
目つきの鋭いのは、長い髪を結い上げているだけの所為ではなさそうな、きつめの
眼光。二重で切れ長で、なんとなく柊蓮司に面影がだぶる。男物の麻のワイシャツを
だらしなく着崩し、すらりとした脚を黒のジーンズに包んでいる。
鋭い感じの美人。脚が長く背が高く、そのスタイルはまるでプロのモデルのよう。
柊蓮司の実姉、京子である。
「え、えーと・・・」
なんて自己紹介したらいいのかしら・・・とベルが思っていると、
「姉貴 ! もう少し静かにドア開けろよ ! 怪我したらどーすん・・・いてて・・・」
壁と扉の隙間から、復活した柊蓮司が割って入ってくる。
「なにそんなところで遊んでるのよ、バカ蓮司。ほら、出てこいってーの」
無理矢理襟首をつかんで引きずり出す。口調のぶっきらぼうなところが、姉弟だけ
あっててよく似ている・・・幾分、姉の方がガラが悪そうだが。
「いて、いてて、ちょ、こすれる、こすれてるって ! 」
「うっさい。こら、アンタ。一つ、姉にいうことがあるでしょーが。この娘、なんなの ? 」
くわえ煙草のままで、有無を言わせぬ詰問口調。
イノセントとは思えない迫力がある。ベルですら気圧されるオーラを発しながら、弟の
胸倉をつかみ、ちろーり、とベルの方へ視線を移す。
頭のてっぺんから爪先まで。コンマ三秒で、まるで値踏みするように流し見て。
「お・・・おー・・・。いきなりでワリイんだけどよ。こいつ、俺の知り合いでベル=フライっ
ていうんだ。くれはとも知りあいでさ」
「ふーん。で ? 」
「ちょっとワケありでさ。うちに泊めてやりたいんだ。人助けと思って目ぇつぶってくれ
ねーかな、姉貴」
(く、苦しい・・・いくらなんでも誤魔化しきれないんじゃないの・・・ ? どういう知り合い
で、どんなワケがあって泊めなきゃならないのか、状況説明一切なしじゃない・・・)
姉弟二人暮らしのマンションに、得体の知れない少女を連れ込んで、はいそーです
か、どうぞ泊まってくださいなどとは・・・
「人助け、か。なら、ま、いいでしょ」
・・・・・・・・・。
(ああああああっ !! なんなのよ柊蓮司の周りの人間どものお人よしっぷりは !!)
馬鹿じゃないの馬鹿じゃないの馬鹿じゃないの !? 心の中で罵倒の言葉が機銃掃射
のごとくほとばしる。
「で、くれはちゃんの知り合いっての、ホント ? 」
ベルの内心の憤懣など気づきもせず、のほほんと弟に声をかける京子。
「おう。灯やエリスも知り合いで・・・って、姉貴は二人のこと知らねーか。とにかく、俺
たち共通の知り合いってーのは本当さ」
「そっか。この娘がウチ来ることは彼女知ってんの ? 」
なおも質問攻めの柊京子。
「彼女? くれはのことか ? ああ、知ってる。さっきまで一緒にいたからな。こいつ泊め
ることもさっき言ったけど、それがどうかし・・・」
ごしゃ。
鈍い音ともに、柊蓮司の姿がベルの視界から消え去った。
※※※
な、なにごとーーーー !?
内心の驚愕をようやく抑え、視線をゆっくりと足元へ。
柊蓮司が・・・・・・「く」の字になって地面に転がっていた。
頭部から「ぷしゅうううう」と煙を吹き、ピクリとも動かない。慌てて目線を戻した私の
視界には、悠然とタバコを吹かしたままで、固く拳固を握り、実に男らしく雄々しい立ち
姿の柊京子。
・・・・・・って、イノセントがウィザードを殴ってダメージを与えられるものなの !?
「・・・ったく、この馬鹿」
「・・・・・ってえぇなっ !! なにすんだ、暴力姉貴 !! 」
か、回復したわ。
「正直者のあんたにご褒美。それと、ちゃんとこのことをくれはちゃんにも言ってあるっ
ていうから、一応ね」
「ご褒美でなんで殴られなきゃならねーんだ !? 」
怒鳴り散らす柊蓮司を、今度こそ本当に鋭い目で見据える京子。
「もしあんたが嘘ついてて、くれはちゃんにも黙ってたとしたら、ゲンコツ一個じゃ済ま
さなかったって言ってんのよ、お馬鹿 ! 」
それは、さすがのあたしも一瞬怯むほどの迫力で。ところが柊蓮司ときたら、豆腐に
かすがい、ぬかに釘、といった風情。あろうことか、
「くれはに黙ってるとなんで叱られなきゃならないんだ ? 」
・・・って、本気の不満顔。
こ、これは酷い ! いくらわたしでもこれは酷いって思うわ !
案の定、
「大馬鹿 ! あのねぇ。第一、あんた、くれはちゃんをウチに連れてきたこともないのに、
なんで他の女の子を先に連れて来るのよ」
あーあ。思い切り叱られてる。
そして、続けて発せられた言葉は、朴念仁・柊蓮司の真骨頂ともいえる名台詞だっ
たわ。
「 ?? ・・・だって、くれはをウチに呼ぶ用事なんかねーだろ ? 」
・・・こ、腰から下の力が抜けそう・・・。
京子の顔から怒気が完全に抜け、口をあんぐり。なにかを言いかけてやめ、実弟の
疑問符だらけのおマヌケ顔をまじまじと見つめると、たっぷり五秒、長い溜息をついて。
「・・・蓮司・・・あんた・・・ここではかまわないけどさ・・・それ、絶対くれはちゃんに言っ
たらだめだよ・・・」
「・・・ ? お・・・ ? おう・・・わ、わかった」
口の中で、京子が小さく「ったく、お馬鹿なんだから」と呟くが、私もそれにはまったく
同感。良く解らないけど、柊蓮司って、自分の知らないところで女の子を傷つけたり、
泣かせたりするタイプだわ、絶対。
「さて、と。ごめんね、見苦しいとこ見せてさ。たしか、ベルちゃんっていったっけ」
くるりと私の方を振り向いた時、一転して京子の切れ長の目が和やかになっていた。
笑うと、なんだかやたらと人懐っこい印象で。鋭い瞳からすらも、愛嬌が生まれる。
「え・えーとー・・・」
その豹変振りにどぎまぎしてしまう私に、
「あーあー、コイツぶん殴るのは日常茶飯事で挨拶みたいなもんだから気にしなくて
もいいし、怖がらなくてもいいからさ。ほら、頑丈でしょ、コイツ ? だからちょっとくらい
小突いても全然平気」
「んな挨拶あるかっ !? ってゆーか、コブできてんぞコブ !! とにかく、こいつウチに入れ
てもいいんだろ、姉貴っ !? 」
ひらひら。ひらひら。手で追い払うような仕草は了承の合図なのかしら。ぶつぶつと
口の中で悪態をつきながら柊蓮司が私を手招く。
「上がれよ、ベル。あ、靴はな、ちゃんとそろえて脱げよ。姉貴にどやされるからな」
「そんな行儀の悪いことしないわよ。失礼ね、柊蓮司」
私を完全に子供扱いしてくれちゃって腹だたしいったら。
でも、口ではこんな風に憎まれ口を叩いているけれど、私はこのゲームにチェックメ
イトをかけたられことに、心の中で快哉を叫んでいたの。
柊蓮司のマンションに招かれて。
柊蓮司のマンションで、共に一夜を過ごす。
もちろんお邪魔なイノセントなんか、私の展開する月匣ひとつで締め出しちゃえば
いいんだわ。
柊蓮司攻略作戦に完全勝利するための必要にして十分な条件は、九分九厘整い
つつあるといっても過言じゃない。
紅い月の下で、私と二人きり・・・そのとき柊蓮司は私の前に陥落するの。
ぞくっ。
愉しいゲームに興じているときのあの興奮 !
背筋をなにかが走り抜ける。無意識のうちに、私は乾ききっていた唇を舐めていた
ことに気づいて失笑する。
いくらゲームのクライマックスだからって、唇が乾くほど緊張するなんて、ね。
「んふふっ」
・・・い、いけないいけない。つい声に出して笑っちゃったわ。
ほら、柊蓮司がいぶかしげな顔してこっち振り向いてる。
「・・・なんだよ、なんか可笑しいか ? 」
「柊蓮司 ? いちいち女の子のする仕草に意味を求めるなんて、無駄なことよ。もしか
して知らなかったの ? 」
笑い出しそうになるのを押さえるのに必死。それでも顔はにやけちゃうし、声は弾ん
じゃうしで、余計に不審がられちゃった。
「・・・変なヤツだな」
それっきり、ぷいと向こうを向いちゃって。ええ、変なヤツで結構よ。でも柊蓮司、
このゲームに私が勝利するって思えば、そのくらいの悪態は許してあげる。
今夜もゲームを愉しみましょう ?
ただし、今夜のゲームの参加者は私たち二人きり。世界の命運なんて、これっぽっ
ちもかかっていない、たぶん最初で最後のゲーム。
・・・・・・最後に勝つのは、この私よっ !!
(続)
休みにかまけて外出もせずにSS書きとはこれ如何に。
たくさんのご感想ありがとうございました。
私版のベル様がはたして受け入れられるかがすべての鍵だったので、とりあえずは
一安心、かな ?
柊とベルの関係や、ベルが柊をどう思っているか、ということに言及していただけて
思わずこっそりとガッツポーズ。でも、キャラ造詣にお褒めの言葉をいただけたこと
(柊らしさやベル可愛い、等々と言っていただいたこと)が、実はスゴク嬉しかったり。
三回目を迎え、以降も事態はますます酷くなっていきます。
なにがって、大魔王様のポンコツ度が(笑)。
そして・・・
>>21 チクショー ! その発想はなかったー !
着せ替えベル様 ! ベル様のお着替え ! あんな服やこんな服をー !?
わ、私の妄想力も、まだまだということなのですね・・・(血涙)。
次回投下はちょっと先になるかもです。あと二、三回くらいでしょうか ?
では次回まで。もう少しおつきあいのほどを・・・。
ベル様の続きキテター( ゚∀゚)!!
>柊は知らないところで女を泣かせる
そして知ってるところでは全力で守ろうとするんだよなぁ・・・。
困ったヤツですな。
ところでお着替えベル様ですが、今なら間に合います!
パジャマ姿orネグリジェ姿のベル様ををを
えー、とりあえず柊殴らせて(誉め言葉)
>>33 ヘイヘイヘイ、忘れたのかブラザー?
画集を見るかぎりじゃ、ベッドの上でのベルは下着だけ
(もしかすると全裸)にシーツかぶっただけだぜ?
なんつう……難易度のゲームしてんですかベル様。
柊落とすのなんてバイオをナイフクリアした後怒首領蜂ノーミスで二週目火鉢クリアして
初見でKOFのボスキャラを95から全滅なしに順番に倒してから改造マリオをノーミス全クリするようなものだぜ……。
柊を攻略しているようで実は柊に攻略されているんですね、わかります
柊のねーちゃんはウィザードじゃないかと思いたくなる描写の連続…人目が無かったら声だして笑ってそうw
リオンの書物には結果がやっぱり出ているんだろうなぁ
ちなみに柊のねーちゃんがなんなのかという件はリオンの書物にも記述がありません
お泊りイベントなら風呂!
↓
「そういやあんた着替え持ってないね」
↓
「蓮司、アンタのシャツ貸してやんな。下着はあたしのがあるから」
↓
「…………さ、サイズが……合わない……(ワナワナ」
↓
「べっ、ベル、なんだそのエロ下着はぁっ?!」
Yシャツ+エロ下着のベルだとッッ・・・・・・!!
さらに猫のポーズをとらせると……!
s
【馬鹿は一言も発せず、塵と化した】
>>42!? 応答しろ
>>42ぃぃぃぃっ!?
くそっ、砕けてやがる…萌過ぎたんだ!
>「こ、こっちって、あによ。どーいうことよ」
萌えた
※※※
大魔王ベール=ゼファー。裏界第二位の実力を持つ蠅の女王。
柊蓮司が、“金色の魔王”ルー=サイファーの写し身を滅ぼしてからは、実質的に
裏界の頂点に君臨する偉大なる蠅の女王である。
ファー・ジ・アースにおいては、エミュレイターの手による大侵略作戦の多くを裏で画
策し、世界中のウィザードに悪名轟かす、魔王の中の魔王。
その彼女が・・・・・・思いも寄らぬ危機的状況に陥っていたのは、秋葉原のとある
マンションの中でのことだった。
「ちょっとー !! ひいらぎれんじー !! ひーらぎれんじーーーーーっ !! 」
響き渡る甲高い怒鳴り声。どこか慌てて、切羽詰っている。
大魔王らしからぬ・・・いや、ある意味ベルらしい、ヒステリックな金切り声だった。
ソファに寝そべって漫画週刊誌を読み耽っていた柊蓮司が、
「あん ? なに騒いでんだアイツ・・・」
面倒くさそうに起き上がると、読みかけの分厚い週刊誌をテーブルの上に放り投げ
る。リビングから廊下に出ると余計によく聞こえるのだが、ベルの金切り声はもはや
悲鳴に近い。足の裏にかすかな振動が伝わるのは、きっとどこかの部屋でどたばた
と暴れているせいだろう。
「・・・おいおい。床が抜けるってーの」
ぼやきながら頭を掻きつつ声のする方へ。近づくにつれ、ベルの声と言葉が次第に
鮮明に聞こえ始め、時折、京子の声もするので、きっと二人一緒に京子の部屋にいる
のだろうと見当をつける。
京子の部屋の前に立つと、ベルの声で「やめてよ」とか「さわるなっ」とかいう言葉が
聞き取れた。それに混じって京子の「ほら動くなって」とか「こっちはどうかな ? 」とか、
どこか愉しげな声が聞こえる。
ああ、ベルのやつ、姉貴につかまったか。
嘆息とともにかすかな同情心が沸き起こる。京子がああいう声の調子の時は、すこ
ぶる上機嫌の証拠であった。たちの悪いことに、京子の機嫌のいい時というのは、ほ
ぼ間違いなく、相手が大変な思いをさせられていることが多い。
相手が迷惑がっているから京子が上機嫌なのか、はたまた彼女が上機嫌になるよ
うな状況が相手にとって迷惑なのか。
鶏が先か卵が先か・・・どちらが先であろうとも、相手が被害をこうむっているのは間
違いがないのである。
苦笑しながらドアを二、三度ノックして、
「姉貴、入るぞ。開けるからなー」
その辺、最低限のマナーを守らないと京子の鉄拳制裁をお見舞いされるので、一応
は声をかける。ドアノブを押し開けた柊の目に、惨憺たるほどにちらかされた京子の部
屋の様子が飛び込んできた。
床一面に散らばっているのは、色とりどり、形さまざまの服の山。なんだこりゃ、と目
を剥いたところで、胸元にぼすん、と柔らかいものが飛び込んでくる感触。
目線をわずかに下ろして、それの正体に気がついた。
大魔王の威容も威厳もまるっきりどこかへ放り出して、“手に負えない”何者かから
逃げ出したベルが、その勢いのまま柊の胸に飛び込んできたのである。
風呂上りのせいか、まだ乾ききらないウェーブのかかった髪がしっとりとして、後れ毛
がうなじに張り付いたままである。水色の生地に、赤と紺色のチェック柄のパジャマを
着ているのだが、サイズがずいぶんと合わないようで。
二、三回ほどパジャマの袖を折り返しているのだが、それでもなお、尺が足らず。
袖口からかろうじて中指が見える程度のアンバランスさがなんとなく可笑しい。
パジャマのズボンはと見ると、もう完全に爪先が隠れきっていて、なおかつズボンの
裾がべろべろとだらしなく床をのたくっている。
「・・・・・ !! おお、忠臣蔵松の廊下」
手をぽんと叩いて、ひらめいたように柊が言い。
「うっさい ! 大きなお世話よっ !! 」
柊を、彼のその胸の中から見上げたベルが、顔を真っ赤にして抗議する。そして、
「柊蓮司 ! なんなのよ、あの女 ! こ、この私をおもちゃ扱いするなんて無礼よ ! 」
キーキーとがなりたて、京子を指差した。見れば、パジャマの上着はボタンの留め方
も中途半端で着崩れており、ずれた肩口から滑らかな鎖骨が覗き、おへそも丸見え。
いかなる騒動を経たものか呼吸も荒く、目には涙まで浮かべている。
「口悪いわねー、この娘。コラ、“あの女”ってのはないでしょ、いくらなんでも」
煙草を吹かしたままで器用に喋る京子。その右手には白のワンピース、左手には
黒いスカート。
「なにやってんだ、姉貴・・・」
「なにって決まってるじゃない。ベルちゃんしばらく泊まるんなら、ガッコの制服だけっ
てわけにもいかないでしょ。着るものぐらいは用意できるしさ。とりあえず、下着のス
ペアは明日にでも一緒に買いに行けばいいかな、てね」
今は、買い物に行くときの外出着を選んでるところよ、と京子は言う。
「私は別にいいって言ったの ! それなのにあの女・・・・・・」
癇癪を起こして声を荒げたベルに向かって、京子の手がすいっ、と伸びる。
「・・・・・・ ! い、いふぁいっ ! ひょっほ、ふぁにふるひょよっ ! 」
解読すると、『痛い、ちょっとなにするのよ』。京子にほっぺたをつねられて、ねじり
あげられ、爪先立ちになる。
「あの女、じゃないでしょ。京子さん、って呼びなさいよ ? 」
「・・・・・・ひゃ、ひゃれがよふもんれふか・・・・・・・いいいいいっっ !! い、いひゃ、いっ
ひゃい、ひゃめへ、ひゃめへ、ほめんなふぁい、ほめんなふぁい !! 」
みちりみちり、と音が聞こえそうなほどのつねりっぷりに、ついにベルが音を上げて
謝った。
「・・・う・・・うううっ・・・」
「・・・さん、はい」
「・・・・・・ごめんなさい・・・京子・・・さん・・・」
赤くなった頬をさすりながら、ふてくされたようにベルが言う。完全な涙目であった。
「なんか・・・いろいろすげーな・・・姉貴・・・」
ウィザードである自分に素手でダメージを与えるばかりか、大魔王のほっぺをつねっ
て泣かせる、などという常人離れした芸当は京子ならでは。本当にイノセントなのか、
といぶかしんだことも何度かあったが、今回のこれは極めつけのような気がする。
大魔王ベール=ゼファー相手にここまで傍若無人に振舞えるというのは、いくら知ら
ぬこととはいえ、ウィザードにだって出来ることではないだろう。
ウィザードよりも物凄いナニか、としか思えない。これ以上は怖い想像になるので、
柊はついに考えるのをやめることにする。
「別に。ただ、最低限の礼儀ってもんがあるからね。さてと、じゃあベルちゃん。この
ワンピ、ちょっと合わせてみよっか」
「あれ、よく取っといててあったなそんな服。たしか姉貴が小学生ンときのやつだよな」
びくり。
柊の腕の中でベルが硬直する。
「ん・・・ ? いつまでしがみついてんだよ、お前・・・それになんか変な顔して」
横目で、京子の持ったワンピースをじとーっと凝視するベルの顔が、色々と複雑な
感情を表している。なんというか、眉をへの字にして、まるで傷つけられたような表情
だった。
「・・・蓮司。もういいから、アンタ外に出てな」
溜息混じりに京子が言う。
「あ、ああ。着替えるのか。わりい。・・・っていうか、姉貴。こいつに着せてるの、俺の
パジャマじゃねーか。勝手に持ってくなよ」
「替わりは出して脱衣所のカゴん中。だってしょうがないでしょ、ベルちゃん、私のネグ
じゃヤダっていうんだから」
柊の腕から離れたベルが、所在なさげにうつむいて。
「・・・だ、だってしょうがないでしょっ。サイズとか丈とか全然合いそうにないし。似合
わない服を着るのって、それがなんであっても着るのは絶対嫌なのよっ」
唇を尖らして、ベルはそんな言い訳をする。
「丈が合わないって、今だってお前、忠臣蔵じゃねーか」
「コラ、蓮司」
ぽこん、と軽く京子のゲンコツを喰らう。
「いいから、さっさと出てく。ほら、アンタお風呂まだでしょ。さっさと入ってきちゃいな」
京子に言われて「へいへい、わーったよ」と言いながら、柊が退出する。
ぱたん。ドアが閉められ数秒。
「さ、ちょっとパジャマ脱いでみて」
京子にうながされた、ベルはしばし無言で。
「ん、どうしたのよ」
「・・・・・・小学生の服なんか着たくないわよ」
もう、完全にふてくされたベルが駄々をこねる。
そんなベルを、限りなく優しい目で京子が見つめ。
「そんなこと言わない。ほら・・・・・・」
自分の爪先をじっと見ながら突っ立ったままのベルの前に、京子は膝をつく。
掛け違えられたパジャマのボタンを、ひとつ、ひとつと外してやりながら、
「今の私見れば解ると思うけど、小学生とはいってもタッパがあったのよ。子供の頃な
んか蓮司よりも身長があってさ。中学入ってからじゃないかな。蓮司が私を追い越した
のって」
どこか懐かしむような目をして京子が言う。
「・・・いらないわよ、慰めてるんなら」
「そういうんじゃないわよ。・・・・・・あれ、まだほっぺ赤いわね。ちょっと強くやりすぎた
かな」
そっ、と。京子の手のひらがベルの頬に触れる。
「はは、乱暴な女だって思ったでしょ。そりゃ、出会いがしらに蓮司ぶっ飛ばしてたし、
ベルちゃんのほっぺつねったし」
「・・・・・・」
「ちょっと言い訳するけどさ。私、誰にでも手、あげることはしないわよ ? 」
するり、とパジャマを脱がしてやって。下着姿のベルに持っていたワンピースを着せ
てやりながら。
「わたし、蓮司のヤツをぶっ飛ばすとき、遠慮はしないんだよね。本気じゃやらないけ
ど、手は抜かずにぶん殴るんだ」
ワンピースの襟元を整えながら、京子の独白が続く。なぜか、口を差し挟む気にな
れず、ベルもその言葉に静かに耳を傾けていた。
「蓮司は私の弟だからね。私、殴る相手は選ぶのよ ? どうでもいいやつとか、嫌いな
やつには絶対手を上げないの。だって、殴れば私の手も痛いじゃない ? 」
意地の悪い笑みを浮かべながら。
「嫌いなやつのために自分の手なんか傷めたくないからね。だから、私が手をあげる
のは、大事な人とか好きなやつとか、そういう相手だけ」
「・・・・・・」
「つまりベルちゃんのことは気に入ってるって言いたいの。・・・やっぱ言い訳に聞こえ
るかな ? ・・・はい、できた。・・・可愛いよ ? すごく」
襟元に微細な花模様の刺繍をあしらった純白のワンピース。胸元には、模造品とは
いっても豪奢な造りのルビーのブローチ。服の純白に宝石の赤が綺麗に映えている。
スカートの色はどこか天鵞絨を思わせるつややかな黒で、ワンピースと美しいコント
ラストを描くよう。
「はー・・・。やっぱ、私よりも似合うわ。わたしはこんながさつな女だからさ。スカートと
かダメなのよね。ベルちゃん可愛いからきっとこれ似合うと思ったんだ。・・・うん。女の
子らしくていいわね、断然」
満足げに何度もうなずいて、京子がにんまりとベルを見た。
なんと言っていいかわからずに。どんな顔をしていいのかわからずに。ただただ、
下を向くばかりのベル。
「明日はさ、ま、あたしも大学自主休講しちゃうから。一緒に下着見に行こうよ」
立ち上がりながら京子が言う。
「・・・・・・・・・おくわ」
ようやく微かに、言葉として聞き取れるぎりぎりの小声でベルが呟く。
「ん、なんか言った ? 」
「に、二度も言わせないでよ。一応、お礼言っておくわ・・・・・・・って言ったのよっ」
まじまじとベルの顔を見つめる京子。ベルの顔が、ばつが悪そうな感じで歪んでい
るのを微笑ましく見つめるその目がとても温かい。
白い歯を見せて莞爾と笑いながら、
「お安い御用よ。さ、寝室用意するからついてきて。ベッドメイキング、手伝うのよ ? 」
ベルの白い手を取って、京子は満面の笑みを浮かべていた。
※※※
※※※
おかしい。どこかがおかしいわ。今日の私、ペースを乱され続けてる・・・。
秋葉原の街に颯爽と登場して、アンゼロットとその下僕どもを煙に巻いたときは、こ
んな展開予想もしていなかったもの。柊蓮司の予想のつかない言動は相変わらずだ
けど、志宝エリスや赤羽くれはがあそこまでの難敵だったとは思わなかったし、赤羽
くれはにいたっては、その偉業(つまりあの朴念仁・柊蓮司を射止めたこと)を認めて
しまったことで、私の方がライバル宣言までしてしまう始末。
そして、完全に、まったくの予想外だった伏兵が柊京子 !
ある意味、柊蓮司以上の難物かもしれないって、いまの私は思い始めているわ。
柊家に乗り込んだのはいいけど、初手から今の今まで、完全に彼女に主導権を握ら
れてるんですものね・・・。
私専用の部屋だ、といって通されたのは京子の寝室のちょうど向かい。リビングとは
別に、お客が来たときの歓談用で使っているという小部屋で、その隣が柊蓮司の寝室
らしかった。
小部屋とはいっても、私一人が寝泊りする分には十分な広さがあって、ソファとテー
ブルを少しずらすと、布団を敷くくらいのスペースはすぐに確保できる。
なぜか押入れから自分の布団を運ばされている私と、軽々と椅子やらソファやらを
ひょいひょい片付けていく京子との共同作業で、ベッドメイキング(ま、布団敷いただ
けなんだけど)はものの三分で完了してしまった。
「おつかれ。ちょっとリビングでお茶しよっか」
京子が私に声をかけてくる。
「ん・・・」
逆らう気が削がれるというかなんと言うか、まあ別にお茶するくらいで逆らう理由も
ないし、素直に後についていってやることにする。リビングではソファにだらしなく寝そ
べった柊蓮司が、頭の悪そうな漫画雑誌を頭の悪そうなぼけらっとした顔で読んで
いる。
「蓮司、ちょっと起きて。お茶入れてよお茶」
「あーん ? 茶ぐらい自分で・・・」
首だけで振り返る柊蓮司が、かすかに目を見開いて私を見る。にかっ、と歯を見せて
屈託なく笑いかけてくるのだ。・・・なに ? なに笑ってんのよ、こいつ・・・ ?
「へー。普段、制服姿ばかり見てるけど、そういうのは初めてだったかもなァ」
・・・・・・え?
・・・・・・っ !!
そ、そういえば今、私は京子から借りたワンピースにロングスカートを着せられてい
るんだったわ・・・ !! 咄嗟に、自分の腕で身体を隠してしまう。 い、いまさら遅いのは
わかってるけど、なんだか普段と違う自分の姿を見られることに、不思議に抵抗感が
あるっていうか・・・・・・。
「そういうの女の子らしくて可愛いな・・・・・・似合ってるんじゃねーか ? 」
ぼんっっっっっ !!!!
とんでもない不意打ち !!
火が出た ! 顔から火が出たわよ!! わかるもの ! いま自分の顔がすごく真っ赤なのが
わかってるもの !! コイツ、今とんでもないことさらっと言ってのけたわよ !!
「蓮司・・・・・・アンタさあ・・・・・・」
京子が溜息をついている。弟の爆弾発言に心底呆れているようだった。
私も驚き、かつ呆れ、また本気で度し難いって思うのは、柊蓮司のこういうところな
のよ。
赤羽くれはという恋人がいるくせに、平気で他の女の子を「可愛い」って言えちゃう
この感性。柊蓮司を知らないやつが見たら、コイツ、とんでもない女たらしか八方美人
のおべんちゃら使いか、って思うはず。
でも、そうじゃない。
柊蓮司って単純だもの。腹芸とか通じないし、お世辞使うとか、そんな気の遣い方
できないもの。思ったら思ったこと言うし、思ったら思ったように行動するバカだもの。
感じたことを感じたままに受け止めて、それで突っ走っちゃうような単細胞なんだも
の。
だから、柊蓮司が私のこと「可愛い」って言ったのは素直な感想で、嘘でもなくて、
本気で、正直に、私のことを可愛いって思ってる・・・ってこと・・・・・・で・・・・・・。
え、ええぇぇぇぇぇぇっ !?
ち、ちょっと柊蓮司、ふざけないでよ !? 貴方、本気で、ホントのホントにそう思ってる
の !? つまり、その、私を・・・そういう目で見てるってこと・・・なの・・・ ?
「姉貴、この服の選択は正解みたいだな。そういえば、スカート、ほとんど持ってなかっ
たんじゃねーか ? 姉貴がまだ女だったころの名残っていうか・・・」
ゴキンっっっ !!
「いってぇっ !! 」
「失礼なこと言うな !! 私は現役で女だっていうの !! 」
うかつな発言をして殴られる柊蓮司。
いつでも、誰が相手でも、会話を漫才にしてしまうのは、これも一つの才能かしら。
でも、二人のそんな会話なんか、まともに聞いている余裕がいまの私にはなくて。
《女の子らしくて可愛いな・・・・・・》
胸の内でリフレインする言葉が、くすぐったくて。
もともと、柊蓮司を篭絡するために始めた行動なんだから、この展開は私にとっても
有利なはずなのに。冷静さを欠いている自分に戸惑ってしまう・・・。
でも、これは計画達成の成否に関わること。
もし、柊蓮司が「女としての」ベール=ゼファーに魅力を感じているのが確かなら、
やっぱりこのゲームは私の勝ち、だわ。
私は内心ほくそ笑む。
王手はすでにかかっている。後は柊蓮司の投了を待つだけ。
胸の高鳴りは勝利を目前にして興奮しているから。理由はただそれだけで、他意は
ないの。ふと、部屋の壁掛け時計に目をやれば、時刻は午後十一時。もうすぐ、人間
たちがその日を終える時間。
眠りを貪るための時間の訪れが、すごく待ち遠しい。
「・・・悪いけど、私もう休むわ」
最後の一手に備えるため。私は用意された寝室に戻らなきゃ、ね・・・。
「あれ、ベルちゃん。お茶煎れるけど ? 」
「やっぱりいいわ。寝る前にお茶飲むと眠れなくなりそうだし」
と、断りの言葉でさらりとかわす。
「・・・っと。それもそうか。蓮司、やっぱ私もお茶いらないわ」
「うーい」
ふふ、呑気な顔していられるのも今のうちよ、柊蓮司。
きびすを返して、リビングを後にする。寝室へと戻って、部屋の扉をぱたりと閉める。
隣の自室に柊蓮司が戻るのが一時間後か、二時間後か。それはわからないけど、
ね・・・。
「柊・・・蓮司・・・」
唇に指を当てて彼の名前を呼んでみる。
とくん。とくん。胸が、ゆっくりと鼓動を早めていく。
クライマックスが・・・・・
確実に近づいていた・・・・・・。
(続)
次回投下は先になるかもなんて嘘でした(笑)。
だって、みんなスゴイ妄想するんですもの。
とりあえず当初の予定ではなかったパジャマ&お着替えのイベントシーンが急遽
追加になりました(愛してるぜ、みんな !!)。
カンフル剤を補給されて、予定外に一気に書きあげてしまって、「バカだなぁ・・・」
とは思いますが・・・。
とりあえず、エッチシーンは次回以降に持ち越しということで。
ではでは。
GJ!
次はつ、ついにくるのか……!?
あれが……!
どう考えても篭絡されています。
本当にありがとうございました。
やべぇ、京子×ベルとか浮かんだ。
柊X京子&ベルなら認める
アンゼ涙目
ならアンゼ×イクスィムをだな…
なんか…
柊蓮司に攻略されてるだけじゃなくて柊京子にまで攻略されてるなw
その内なんやかやで魔王総出で訪問してきそうだw
京子「ん? こんな格好で……大丈夫かい?」
アゼル「あ、あの…」
京子「ほら、女の子がこんな格好じゃいけないよ? さ、ちょっと来なさい(平然)」
アゼル「わ、私に近づくと貴女が…」
京子「? よくわかんないけどそのままじゃいけないよ?(平然)」
アゼル「え、えーと」
京子「ほらほら、キビキビ歩く」
姉ちゃん最強説
それ、脱がしたら姉ちゃん自身は平気だったとしても、周囲が大変だぞ。
ついでに柊弟がいたら、アゼルが毒を吸い込んでひどい目にあうw
恐ろしい姉弟だw
へし折ったフラグの数も弟以上の京子さん
そ、そーいや、京子おねーさんも柊力をもってるんだろーかw
相手を下げることで対照的に相手の絶対上位に立てるというタイプの柊力を持ってます
おねーさんがウィザードを殴れるのは、柊力を無意識でコントロールする事で相手の月衣の力を下げ、
干渉を可能にしているのです
逆に考えるんだ、「下がる」力でなく「上がる」力と考えるんだ
学年が下がる→周囲の年下率が上がる
レベルが下がる→任務の難易度が上がる
年齢が下がる→若さが上がる
そーだねー、無効化能力でも持ってるんじゃね?
ウィザードの能力も無効化できるから柊も普通に殴れる。
柊力も無効化できるから、姉の威厳も権力も下がらない。
ただ、相手が異能を持っている場合にだけ働く能力だから、
彼女自身はイノセントと変わらない、とか。
ボクはカミーユ=カイムン。
人はボクのことを詐術長官だなんて呼ぶね。
嘘吐き? 詐欺師? いいや、別にそんな大したものじゃない。
ほら、古代神の先達と違ってボクは普通の侵魔だったからね。
戦う力もそう強いほうじゃなかったから、ココ(頭を指差しながら)で勝負するしかなかったということさ。
――で、今日は何を、って?
魔王と呼ばれるまでになったボクだけど、やっぱり野望は尽きないものでね。
実力者であるためにはそれなりの実績が必要なんだ。……あ、レビュアータとかアゼル=イヴリスを引き合いに出しちゃいけないよ?
彼女らはそこに在るだけで威容を示すものだからね。そこ、核爆弾とか言わない。
ともかく。
現在裏界でもっとも厄介と噂されているウィザード、柊蓮司。
彼を抹殺することは尽く失敗しているし、何より神殺しだ。成り上がりたいボクとしては是非とも手勢に引き込みたいというわけさ。
そのためには多少卑怯な手も使わざるを得ない。まあ仕方ないよね?
で、どういう手段をとるかって? ほら、自分で言うのもなんだけどボクは人を篭絡することに長けてるからね。
彼にはかけがえのない姉君がいるそうじゃないか?
彼女はちょっとマナーがなってない。もう少し女性らしく有るべきだと思うのさ。
……だからそこでボクの男装について突っ込まないでくれたまえ。ボクのこれは軍を指揮する司令官としての演出なんだから。
上に立つものって結構気を使うんだよ? 華やかな装いは麗しい古代神の美女たちに任せて、ボクは凛と指揮を執るのさ。
話が逸れたね。そう、彼女、柊京子さんにちょっとマナー教室を開いてあげようと思っているんだ。
……そう、【ベッドのマナー】ってやつをね。
ああ、心配しないでくれたまえ。ちゃんとスクールメイズにも書いてあるから。
さて、作る写し身は戦闘はしないからレベル1でいいか。プラーナも勿体無いし。
えーと、属性とクラスはボクの固定だから【冥/冥】で使徒、と。うわぁ、ボクってレベル1だと死亡判定が絶望的だね?
ライフパスは……コロコロ、っと。【すっとこどっこい】と【ほれっぽい】? うわぁ、酷いなぁ……。
性格決めのためにヒロインチャート……は、振らなくていいか。ボクの分身だし。
よし、作戦決行だ!
呼び鈴『ピンポーン』
京子「はーい、どなた?」
カミーユ「あ、どうも全日本マナー協会のものです」
カ(ふふ、魔王の相手を魅了する声色。この誘惑に抗えるイノセントなんて……)
京「はあ」
カ「就職を控えた大学生向けに無料でマナー講習会が来しゅ」
京「いらない」
バタン、と閉まるドア。取り残されたボク。
――って、ここで頓挫? というかボクの力が効かない!?
カ(いや、何かの間違いだ!)
カ「いやそんなこと言わず! パンフレットだけでも!」
京「しつこーい!」
バン、と勢いよく開け放たれるドア。まともに食らい、吹っ飛ばされるボク。
――あ、分身とのリンクが切れちゃった。まあいい、頑張れボクLv1!
しかしイノセントの攻撃なんかで、なんでダメージ受けたんだろう?
カミーユLv1(以下、カ1)「痛たた……」
京「あ、ご、ごめんなさい。つい……」
カ1「いえ、大丈夫です」
京「立てる? ほら、手を」
カ1「あ……」
あ、あれ? どうした分身、何故頬を染める?
カ1「や、そ、その……失礼します!」
って、帰っちゃダメじゃないか帰っちゃ!
――で、どういうことなのかな分身?
カ1「……惚れた」
は?
カ1「愛とは美しい。それに気付くなんてなんという美談なんだ」
はい?
カ1「新しい名前はカミーユ……そう、カミーユ・美談なんていいかな」
いや待て。
カ1「京子、必ず君を手に入れてみせる。そういうことだから、さよならだ。カミーユ=カイムン」
おーい!?
かくして。その日、一体の野良魔王が誕生した。
なんか空手を習い始めて錬金術師にクラスチェンジしてトリコロールカラーで変形するエメスブルームを装備したらしい。
ボクはカミーユ=カイムン。二度とROCでダイスを振らないことを誓った女。
ちゃんちゃん。
71 :
強化(ry:2008/05/19(月) 04:57:28 ID:Ohl5BOQg
以上、アゼルに続く姉ちゃん便乗小ネタパート2でした
ところで女装キャラを作ったセッションがありましてね、そのときは演出だったんですよ
そしたら次のセッションで新キャラ作るときにダイスを振っても振りなおしても女装趣味が出るとかね、もうね
京子×カミーユ!?
悪くない!悪くないぞ!
と大興奮の私が来ましたよ?
前作に続いてネタにして頂いてどもです。強化さまのネタを読んで良からぬ妄想が(笑)。
京「君、凛々しくてカッコいいね。私の服、男物が多いから試してみる?(顎に指を添え)」
カミ「そんな・・・ボクは裏界の詐術長官だぞ・・・こんな・・・ボクは貴女のオモチャじゃな・・・やめ・・・脱がすな・・・」
京「肌、綺麗よ。スタイルもいいし。ボク、なんて言っちゃって、ココはこんなに女の子じゃない」
カミ「やめろ・・・やめて・・・いや・・・やめ・・・ないで・・・」
こうですね!?
スレ以降してたのか、全然気づかなかったぜ
柊京子…下げる女…っ!
ちょwカミーユ・ビダン化したwwww
アクセス規制中なんだと思っていたYO
……20スレ目のログ保存してねーぞ。
恥も外聞もなくギコナビのログくださいって言いTAY
柊 蓮司×京子 スキーにとってなんというご褒美
あ、いい加減そろそろ保管しとく。
前スレ、631で止まったよね?
631で500k越えしてるな
うぃセンクス。怠けててスマンカッタ。
>>77 ギコナビログ
tp://www-2ch.net:8080/up/download/1211199957147147.08o0nD
ありがとう! ありがとう優しいおじさんっ!
【卓ゲ黙示録】
※※※
あてがわれた寝室のドアに鍵を掛ける。
一つ。二つ。大きく深呼吸して高鳴る動悸を鎮めようとする。
ダメだ。やっぱりダメだ。
いくら胸の鼓動を抑えようとしても、呼吸を整えようとしても。心臓は早鐘を打ち、吐
息は乱れに乱れてしまう。
ならば。
なるようになればいいではないか。乱れるに任せてしまえばいいではないか。
ベール=ゼファーはそう思いを見極める。
この部屋から、壁一枚隔てた隣は柊蓮司の寝室。まだ部屋の主は、リビングでくつ
ろいでいるのだろうか。
あと十分 ? それとも二十分 ?
それまでに、ベル自身の準備を終えてしまわなければいけない。
彼女の目的はたったひとつ。宿敵、柊蓮司の篭絡。
端的に言ってしまえば、「柊蓮司に自分を抱かせる」。ただその一事に尽きる。
しゅる、しゅる、と衣擦れの音。男物のパジャマが、ベルの身体を滑るようにずり落
ち、上着が、ズボンが、床に脱ぎ捨てられていく。
どこか妖精を思わせる細身の身体。少女らしい華奢な体躯を覆うのは、幼さを残し
た胸元と、女性の神秘を秘めた「その箇所」を隠す、上下二枚の下着のみ。
細い腕を器用に背中へ回し、ブラのホックに指を掛ける。細微な刺繍が施された、
目にも鮮やかな白。
ぱちんっ。
はらり・・・・・とふっ。
胸元を拘束していた余計な布地が、ベルの白い陶器を思わせる肌を露にしながら、
柔らかな音を微かに立てて床に落ちる。ベルが身をかがめた。腰に手を当てる。
人差し指がパンティに差し掛かり、ずり、ずりり、と少しずつ布地がよじれる。
引き締まった、小さな丸い臀部が大気にさらされて。太腿にひっかかって紐のように
なったパンティを、ベルはもどかしげにずり下ろした。
つうううっ・・・・・・。
「・・・・・っあ・・・・・」
小さく、とても小さく溜息のような声が漏れてしまう。
下着と、自身の股間の間を、半透明の粘液の糸が引いていた。寝室に入ったときか
ら、こんなにも、こんなにも待ち遠しくて、私は濡れてしまっていたの・・・ ?
興奮と羞恥に頬がほんのりと染め上げられ。呼吸はますます激しく乱れてしまい。
いまや一糸纏わぬ姿となった偉大なる蠅の女王は、よろり、よろり、とおぼつかない
足取りで、寝室の中央まで歩みだし、ゆっくりとその場に膝をついた。
「・・・はぁー・・・っ、はああぁー・・・っ・・・」
血液が逆流しそうな興奮に、苦しげに喘ぐ。内心の湧き上がるものに翻弄されなが
ら、ぺたん、とベルは尻餅をついてしまった。まるで倒れるようにして、仰向けに寝そ
べる。少しずつ膝頭が上に持ち上げられた。
ほっそりとした二本の脚を、大きく、はしたなく開く。可愛らしく、ぷっくりと盛り上がっ
た「ソコ」は、まったくの無毛の丘である。まるで子供のように余計な体毛の一切ない
恥丘なのに、完全に女としての形と機能を持ったアンバランスな美しさ。
開脚しきった中央部で、てらり、ぬらり、と妖しいぬめりに輝くそこが、なにかを期待
するかのように、小刻みにわなないていた。
まだ。まだよ。まだ早いんだから。
自分を抑えるように、ベルは心の中で呟く。
指がふるふると震え、仰向けの腹をなぞり、小さく微かな乳房のふくらみへとずり上
がっていき、ちょうど上向いた乳首に到達したところで動きを止めた。
親指と。人差し指と。こわごわと、薄桃色の美しい二つの突起を、壊れ物を扱うような
繊細さでつまむ。
「・・・・っ、はうっ、んっ、んうぅっ・・・」
眉根を寄せて、声を殺す。敏感すぎる乳首の感覚に、驚いたように目を見開いて。
「・・・っふーっ・・・っふうぅーっ・・・な・・・なに・・・なんなの・・・こんな・・・感じ方・・・し
ちゃうの・・・ ? うそ・・・・・・」
やわやわと、両手で乳首を弄びながら、自慰がもたらす快楽の波の大きさに、ベル
は微かな驚嘆を覚えている。始めてなんかじゃないのに。セックスの快楽を知らない
小娘なんかじゃないのに。どうして、今夜の私はこんなにも、快楽への耐性がなくなっ
てしまっているの・・・・・・?
ベルの指は、彼女の内心の困惑とは裏腹に、プロのマジシャンのような滑らかさと
巧みさで、ピンクの膨らみを弄び続けている。
ごし、ごしっ、ごしぃっ。
愛撫はいつしか、強烈なしごく動きに変化していた。慎ましやかな乳房には不似合
いなほどに、乳首がむくむくと隆起し、勃起していく。人差し指の第一関節から先ほど
の大きさに肥大した突起物が、痛いくらいに天を衝き、
「・・・め・・・だめぇ・・・」
ベルは力なく首を左右にゆるゆると振りながらも、その動きを止めることができない
でいた。呼吸の乱れとともに、左右二本の手がそれぞれもたらす愛撫のスピードが、
異様なまでに加速していく。開かれた脚は、さらに極限まで拡げられ、その中央部で
くっぱりと奥深い暗黒を覗かせる女陰の洞が、荒々しい呼吸に同調するように、ぱく
ぱくと開閉を繰り返す。
幼女のごときすべらかな恥穴からは、とめどなくしたたる愛液。半透明に白く泡立ち
ながらこぼれ落ちるそれは、あまりに濃密なためにもはや液体とは呼べず、むしろ、
ゼリー状に近い。
こぽん、ごぽん、ごぼん・・・・・・
分泌する量が増えるほどに粘質を増し、ベルの股間をどろどろに汚していく彼女自身
の愛液。こぼれた蜜汁を指ですくおうと伸ばした指が、薄皮に包まれた自身の陰核に
触れた瞬間、「それ」は訪れた。
「・・・・・・っ、っ ! っんっひっ、ぃんんんんんっっ !! 」
常軌を逸して敏感になり過ぎた身体が、陰核への接触でバネのように跳ね上がる。
(・・・っ、そうだ、まだ二人とも起きてるんじゃない・・・ !? )
飛び出そうになる悲鳴をふさごうと、汗と愛液に濡れたままの両手で、口元を押さえ
る。鼻腔にをツンと突く、発情した雌の匂い。
その途端、吊り上がり気味のその瞳が、トロン、と垂れた。
自分の体液の放つ濃厚すぎる雌の匂いが、さながら、マタタビに酔った猫のように、
ベルをしこたま酔わせたのである。
それでも、尋常ならざる精神力を総動員して、ベルはなんとか正常な意識を持ちこ
たえた。
(だ、だめよ・・・もっと、もっと、もっと昂ぶらせなきゃ・・・柊蓮司を私の女の匂いだけで
発情させることができるくらいに、いやらしく、もっといやらしく、私の身体を女そのもの
に昂ぶらせなきゃ・・・柊・・・蓮司・・・は・・・堕ちない・・・も・・・の・・・)
これが、ベルの考える作戦の総仕上げだった。
ただの男が相手ではない。柊蓮司がその相手なのだ。
普通の男なら、ベルがその肌を見せ、小悪魔のように媚びた視線を送るだけで、赤
子の手を捻るように陥落せしめることが出来るだろう。
だが、ベルは柊蓮司という男が、そんな手管でどうにかできる相手だとは思ってい
ないし、その認識はまったく正鵠を得たものである。
柊蓮司を堕落させるためには、ベル自身も堕ちなければ。
彼女の声を聞いただけで、男は股間に怒張をみなぎらせるほどに。
彼女の体臭を嗅いだだけで、男は射精をうながされるほどに。
彼女の濡れた裸身を見ただけで、男は淫行の罪で地獄に叩き落されるほどに。
そこまで彼女自身の心身が淫らに乱れなければ、柊蓮司を誘惑することなどできる
はずもなかった。
そのためにはもっと感じなければ。そして、彼女の内に暴発寸前の情欲を溜め込ま
なければ。そして、そのためには・・・極限まで感じながらも、決して絶頂を味わうこと
の許されない、拷問のような自慰を自らに課さなければならなかった。
いつしか、ベルの手が左右ともに股間の蜜壷に埋没し、さらなる快楽を求めて狂っ
たように動き回っている。その動きのたびに、ぱしゃっ、ぱたたっ、と淫水がはねを飛
ばし、悲鳴をこらえようと歯を食いしばった口元から、だらだらと唾液がこぼれ出す。
「・・・・っ、・・・・っ、・・・・っ、・・・・・・っ」
気持ちいい。達してしまう。でもダメ。イッてはダメ。イキたい。イッてはいけない。
感じる。感じすぎる。耐えなければ。耐えられない。でも耐える。耐え続ける。
来た。また来た。スゴイのが来る。押し寄せてくる。でも跳ね返す。快楽を拒む。
「・・・っ、っ、っ、〜〜〜〜〜っ !! 」
ベルの裸体には全身べっとりと脂汗がにじみ、眼球が飛び出るのではないかという
くらいに見開かれた瞳からは、巨大すぎる快楽とそれに抗わねばならない責め苦の
苦痛に、滝のような涙が溢れ出している。
ぎし、ぎ、ぎし、きぃーーーー・・・ぱたん。
(・・・っ ! 柊蓮司が・・・寝室に入った・・・っ ! )
ゲームの終着はもうそこだ ! いま、隣の部屋に柊蓮司が一人きりでいる !
ベルの両手が加速する。陰核をつまむ。しごく。こすり、ねじり、押し潰し、引っ張りあ
げる。肉襞を指で挟み、上下にさすり、突き出した指を奥深くまで突き刺す。内壁を刺
激し続ける。穴をえぐり、ほじくり、貫き通す !!
「・・・・・・〜〜〜〜〜っ !? 」
ベルの身体が凄まじい速度でのけぞり、次の瞬間、胎児のように丸まったかと思う
とまたのけぞる。その動きを七、八回と繰り替えすと、ついにベルの身体は、弓なりの
状態で硬直したまま、ひくひくと痙攣し始めた。
がちがちと歯を鳴らし、ぼろぼろと涙をこぼし。
「・・・た、えた・・・耐えきった・・・わ・・・たし・・・一度も・・・イかなかっ・・・た・・・」
唾液まみれの口元が、会心の笑みを浮かべる。
準備が完全に整ったことへの充足の笑み。
よろり、とベルが立ち上がる。足元は酔いどれたようにふらついて、頼りなく。
「待っていなさい・・・柊・・・蓮司・・・」
むしろ彼女の方が堕ちきった表情で・・・ベルは寝室の扉をゆっくりと押し開けた・・・
※※※
私はゆっくりと、寝室のドアを押し開ける。
音・・・立てて、ないわよね・・・ ? なんてびくびくしながら。
なんだか、人の家でこそこそと泥棒みたいに、裏界の大魔王ともあろうこの私がな
んてざまかしら、って思うけどしょうがないわね。
音を立てちゃうとかいう以前に、私はいま、ゆっくりと、そろそろとしか動けないでい
るんですもの・・・。
敏感になりすぎてしまった身体は、いまは動かすのも辛い。
風がそよいでさえも、甘い吐息が漏れてしまいそうになってしまっている。
廊下を歩いているだけなのに、足の裏から膝を通じて届く振動が、交差するたびに
こすれる脚の間が、私の感覚を過剰に刺激してしまう。
ほんの七、八歩の距離を、たっぷり三分もかけて、私は歩ききる。
たどり着いた柊蓮司の寝室の前で。
私は深呼吸する。
もうすぐ。私は。柊蓮司に。抱かれる。
一息ごとに、区切るように内心で呟きながら。
扉の向こうの柊蓮司の気配を、痛いくらいに感じながら・・・。
私は自身の月匣を展開した・・・・・・ !!
戸外では当然、夜空の闇に冴え渡る紅い月が昇っているに違いなく。
私の生み出した膨大な魔力が、現実世界を侵食しながら堅牢な結界を造り出す。
私の背後から産み出されたものは、紅く彩られたラビリンス。
マンションを包み込み、私と柊蓮司の営みに不要なもの全てを、この月匣の外へと
追いやっていく。廊下も、壁をも、なにもかもを飲み込んで、私の真っ赤な世界には、
いま、私が欲しいものだけが存在していた。
柊・・・蓮司・・・。
さすが・・・歴戦の魔剣使いだわ。
私の魔力の奔流に以上を察知したのは、きっとすぐその瞬間のことだったのね。
月衣からすでに抜き放たれた愛用の魔剣を構え、腰を落とした姿勢のままで、いつ
でも戦いに備えられる体勢を取っている。・・・ま、パジャマ姿のままなのはご愛嬌、っ
てところかしら ?
「・・・大丈夫よ、柊蓮司・・・なにも危険なことなんてないから・・・魔剣なんて・・・いら
ないのよ・・・ ? 」
背後から、私は優しく声をかける。
振り返った柊蓮司が、
「・・・お前か、ベル ! この月匣を造った・・・の・・・は・・・っっ !!?? 」
言葉の途中で驚愕に顔を引きつらせたのが可笑しくて。
でも、驚くのも当然よね。振り返って視界に飛び込んできた私の姿をみたら。
だって私・・・生まれたままの姿で柊蓮司の前に立っているんですもの。
「うおっ !? ば、馬鹿、お前、なんてカッコしてんだ !? な、なんか着ろよっ !? 」
あらあら。まるで童貞の男の子みたいな反応するのね。なによ、顔赤くしちゃって、
イイ子ぶっちゃって。女の子の裸なんて初めて見るわけじゃないんでしょ ? 知ってる
んだから。赤羽くれはとはもう何度も交わっているくせに。聞いているこっちが赤面し
ちゃうような凄い悲鳴を上げさせてるくせに・・・。
「・・・服なんかいらないわよ。だって・・・柊蓮司に・・・抱かれたくて来たんだもの・・・」
じわり、じわりと距離を詰めながら、私は熱っぽい口調でそう言った。
「・・・・・・なんだと ? 」
柊蓮司の声のトーンが低く変わる。
ただ、その時の私はそれに気づく余裕がなかったわけで。
「ねえ・・・私が大魔王を休んで遊びに来た本当の理由・・・それなのよ・・・貴方に・・・
柊蓮司に抱かれるためなのよ・・・」
「・・・・・・・・・」
「気づかなかったでしょう・・・ ? 貴方が寝室に入る直前まで、私が部屋でなにをして
たと思う・・・ ? 貴方に抱かれる準備をしてたのよ・・・いつでも柊蓮司を受け入れられ
るように・・・貴方がすぐにでも私を抱けるように・・・身体をね・・・うんと火照らせておい
たの・・・前置きなんかいらないように・・・貴方のモノを、奥の、奥の、奥までくわえこ
めるように・・・あそこを熱く、ほぐしておいたのよ・・・」
うわごとの様に、私は柊蓮司に囁き続ける。吐息が熱を帯びて、喉が焼け付くぐらい
にひりひり痛い。
目前にぶら下がったゲームの終わり・・・もちろんそれは私の勝利で終わる・・・に、
思考も理性もがたがたに崩れ始めている。尖った乳首が、クリトリスが痛い。
じゅくじゅくと音を立ててしたたる愛液が、股を濡らし、膝をつたい、足の裏をひたす。
「柊蓮司・・・ねえ・・・いいのよ・・・はやく・・・」
・・・うふふふっ。そっぽ向いちゃって。なんか可愛い。わかるわよ、柊蓮司。こっち
を向いたら負けるって気づいてるのよね ? 裸の私を見たら、欲情して自分を誘う私
を見たら、歯止めが利かなくなるものね? でも、いいのよ。堕ちてもいいの。
むしろ、私と一緒に堕ちましょう ? 今夜のことは二人だけの秘密。赤羽くれはには
未来永劫黙っていてあげる。だから、仮初めの一夜を二人で愉しむのよ。
ね、柊蓮司 ?
「・・・いま、お前は大魔王じゃなくて普通の女の子なんだよな・・・」
かすれた声で柊蓮司がようやく言った。
「そう。そうよ。だから、エミュレイターとウィザードの間の確執とか敵意とか、そんなも
のは気にしなくていいの」
勢い込んで、私は声を上げる。
「柊蓮司は普通の男。私は大魔王ベール=ゼファーじゃなくて、普通の、輝明学園の
女生徒ベル=フライ。ね、普通の女の子が貴方に全てをあげるって、抱いて欲しいっ
て言っているの・・・ ! 」
興奮で自分が何を口走っていたのか・・・実は私、よく覚えていなかった。
でも、私がゲームに勝つんだ、柊蓮司が私を抱くんだ、ってそれを考えているだけで、
それ以外のことなんか全部もうどうでもよくなっていたわ !
「普通の・・・女の子・・・ベル・・・」
柊蓮司がこちらを向く。
見た ! 私を見た !
「柊・・・蓮司・・・・・・ !! 」
叫ぶように彼の名前を呼ぶ。彼の胸に倒れこむまであと四十センチ、三十センチ、
ああ、私の勝ち・・・・・・
ッ、パアァァァァンッ !!
「・・・・・・・・・・、っ、ふぇ・・・・・・・ ? 」
・・・柊蓮司が・・・消えた・・・。
・・・・・・なにが・・・おきた・・・の・・・ ?
いまの音ってなに・・・ ? すごく・・・私の近くで・・・鳴った気がした・・・
痛い・・・じんじん痛い・・・ほっぺ・・・灼けるように・・・いたい・・・いたい・・・
自分の身の上に起きたことが理解できなくて。次の瞬間、理解はしてもその事実が
今度は信じられなくて。私は・・・力任せに左に向かされた顔を・・・スローモーションで
柊蓮司の正面に戻した。
厳しい顔の柊蓮司が・・・目をそらすことなく私を見据え。
「いまのお前が普通の女の子だっつーんなら・・・こんなことをする女の子には、俺なら
こうするぞ !」
表情以上に厳しい声で、そう言った。
パジャマの上着を脱ぎ、ふわり、私の剥き出しの肩に羽織らせて。
「これがお前の言ういつものゲームだって言うならなおさらだぜ・・・もし、ゲームじゃな
くて、本気だって言うんなら・・・・・・・もう一発ビンタ食らわしてるところだ」
・・・・・・・・・。
叩かれた・・・の・・・ ? ほっぺ・・・平手打ち・・・されたの・・・ ?
唇がわなわなと震える。胸の内からふつふつと煮えたぎるものが、私の中心から外
へのはけ口を求めて荒れ狂う !!
「なによ ! なによなによなによっ !! 馬鹿にしないでっ ! ゲームだから怒るの !? 本気だ
としても怒るの !? わ、私がいつもどんなに、どんなに・・・ !! 」
奔流のように言葉が口をついて出る。
「わ・・・わたし・・・わたしは・・・いつだってどんなときだって、」
言葉に怒りと嘆きがこもる。
「・・・っ、本っ気でゲームしてるんだからぁっ !!!! 」
わかってると思ってたっ ! 柊蓮司は私がいつもどんな思いでゲームに興じているか
気づいてくれてると思ってた ! 本気だけどゲーム、ゲームだけど本気 ! お互いの命と
世界の命運をかけた、この世で一番スリリングで、全身全霊をかけるに値する行為 !!
なのになんで怒るのよっ !? なんでわからないのよっ !?
私を、私を抱くことを拒絶するのは、ホントはかまうけどかまわないわ !
でも、私のゲームを、私の本気のゲームを侮辱されたようで、私は・・・・・・ !!
「いいわ ! もういいわ ! 大魔王休業なんて止めよ ! 殺すんだから ! 殺してやるんだか
ら、柊蓮司 !! 」
声の限りにそう、叫んでいた。
※※※
怒りに任せて月匣内の瘴気を集める・・・・・・ !!
見えない力が渦を巻き、私を中心として凝り固まっていく。
飛び退り、魔剣を構える柊蓮司に向けて、私は殺気を込めた視線を送った。
「・・・っ、なによ、こんなもの !! 」
肩に羽織らされたパジャマが邪魔で、それを柊蓮司へ投げ返す。
それは力なく、柊蓮司の足元に落ちた。
赤い霧のような大気が、私の剥き出しの裸の身体にまとわりつき、それは瞬く間に
形を成し、いつもの輝明学園の制服へと変貌する。
「いくわよ ! 柊蓮司 ! 」
「・・・っこの馬鹿っ・・・ !! 」
湧き上がる私の殺気。噴き上げる柊蓮司の闘気。
それはもはや質量を有しているかのような、濃密な「気」の応酬 !!
戦いの開始からほどなく、私たちの二つの闘気が紅い世界に満ち充ちていき、それ
が絡み合ったその瞬間・・・私の身体に異変が起きた。
「・・・っふ、あァん・・・ !? 」
私の放つ殺気を絡め取るように、柊蓮司の生命のプラーナの輝きを帯びた闘気が
私を突き刺した瞬間・・・忘れかけていた情欲が、いままで以上の強烈さで私の子宮
を鷲掴みにした・・・ !!
過剰な敏感さのいまだ消えない私の身体を、柊蓮司の闘気が打ちのめす。
なに・・・なに・・・これ・・・戦いの最中だっていうのに・・・
私の変化に、柊蓮司が気づいた様子はない。裂帛の気合を声に乗せ、魔剣を横に
一閃する。
「どりゃあぁぁぁぁっ !! 」
びくん。びくん、びくん。
声が耳に届けば、それは耳元を愛撫されているかのようで。魔剣の刃風が胸元を
かすめれば、それは冷たい手のひらで乳房をもみくちゃにされたようで。
なんとかバックステップでそれをかわした私は、数メートル後方に着地した瞬間、
それに気づかされる。
ぐちゅん・・・。
新たに瘴気で創造したばかりの制服の下・・・真新しい下着の、アソコの部分が、も
うぐしょぐしょに濡れ始めている・・・。
(ああ・・・そう・・・そうなの・・・そうだったのね・・・)
気づいてしまった。
いつものゲームの真っ只中・・・命をかけた戦いの真っ只中・・・いつも私が感じてい
たあの興奮は、遊びに熱中していたせいじゃなかったんだ・・・
命をかける興奮は、性的な興奮と一緒で。女が絶頂のときに叫ぶ「死ぬ」という叫び
は、あれは私にとっては本当にリアルなもので・・・。
ああ・・・私はいつも・・・命がけで・・・・・・柊蓮司と・・・交わっていたんだ・・・。
※※※
絶頂に耐えに耐え抜き、極限まで昂ぶった身体のままで戦いに突入して、初めて
気づいたこと。さっきまでの怒りが嘘のように消え、私は、実はあんな作戦を立てる
必要なんかなかったことを知った。
だって、私、いつだって柊蓮司に抱かれていたんだもの。私だって、柊蓮司のこと、
いつだって抱きしめていたんだもの。命を削る交わりは一方通行だったかもしれない
けれど、ここまで深く、ここまで真剣に、ここまで愉しく、こんなにも命がけで、柊蓮司
に抱かれることが、貴女にできる !? 赤羽くれは !!
「あははははっ ! そうよ、柊蓮司 !! この私を仕留めてみなさい !! 」
手をかざし魔方陣を展開する。幾つもの魔力弾を柊蓮司に向けて放つ。それを続け
ざまにかわす柊蓮司は、私の投げたキスをたくみにかわす、つれない男のよう。
地を蹴り上げ、私に向かって突進してくる姿がたまらなく愛おしい。
横薙ぎの一閃が胸元をかすめ・・・・・・あうっ、んんうっ・・・・・旋回して攻撃を避ける
私の背中を刃の軌跡が風で薙ぎ・・・や、あんんっ・・・よろけつつ、かろうじてすかした
斬撃が、空を切って・・・ッ・・・くぅ・・・あぁあぁうぅぅぅっ・・・
「・・・っはっ !? 」
気づいたときにはもう遅く。柊蓮司の魔剣の切っ先が私のお腹に突き刺さり。
その瞬間私に訪れたものは・・・
(・・・・・・貫かれた・・・柊蓮司の魔剣で・・・あぁぁぁっ・・・だ・・・だめ・・・い・・・く・・・)
たとえようもない・・・絶頂感だった。
「・・・・・はーっ・・・・はーっ・・・・」
私を貫きながら、肩で息をしている柊蓮司。
それはまるで、行為の後に息を荒げる男のように、私の目には映っている。
ぽたり。ぽたりと。私の脚をつたって滴り落ちるものは、血だけではなかった。
「・・・くふ・・・ふふふ・・・本調子じゃないとはいえ・・・一対一で私を・・・いつの間に、
こんなに強くなっちゃったのかしら・・・柊蓮司・・・」
柊蓮司は顔を上げない。うつむいた顔が、なんとなく悲しそうな、後悔をしているよう
な、そんな表情を形作っている。あーあー・・・もう・・・ホント・・・お人よし・・・。
「ねえ・・・ちょっと・・・柊蓮司・・・遠いわよ・・・手が、とどかな・・・い・・」
腹部から突き抜け、私の背中からは魔剣の切っ先が覗いているに違いなく。
それでも私は、かまわず柊蓮司に近づいていく。
ず、ずずずっ・・・と、私の歩みに従って、深く、より深く、魔剣は私の身体に埋没して
いき。あ・・・やっぱり・・・痛い・・・わ・・・ね・・・。
「・・・・っくあっ・・・あは・・・つかまえた・・・」
ようやく柊蓮司の至近距離に到達したとき、私のお腹は魔剣の柄にまで触れそうに
なっていた。汗だくで、まだ呼吸の整わない柊蓮司の頬を、私は血まみれの手ではさ
みこんで。顔を、そっと近づけて。
ちゅっ、ちゅっ。
ソフトな口付けを一回、二回。
どういうわけか、柊蓮司は、私に唇を許してくれた。
「・・・ゲーム・・・・・・オーヴァー・・・・・・・うふふ・・・・」
気取って、そんな風に言って見る。
「・・・じゃあね、柊蓮司」
いつもの台詞、これだけはいつもの口調で。私に言える、最後の言葉。
それだけ残して・・・・・・私の身体はファー・ジ・アースから消え去った・・・。
(エピローグへ続く)
・・・・・・(*´Д`)ハァハァ GJ
流石は大魔王。自ら慰めるシーンが妖艶すぐるw
くそう、柊蓮司! オレと替われ!
エピローグも楽しみに待ってます
お、終わった……?
ば、ばかな!?これでおわるはずが……!
GJ!
エピローグに期待!!
今日程、柊(♂)に殺意を抱いた日は……あったけど!
それでもあんたGJだぁああ!エピローグ待ってます!
エピローグ:
ベルが帰った後、なぜかアンゼロットが柊宅へ。
京子と二人で柊を弄くり回す。
この件が裏界に知り渡り、物笑いの種になるベル。
そして、別の魔王が柊とくれはを捕らえ、拘束したくれはの眼前で拘束した柊を陵辱する。
だが、その時月匣が破られ、ベール=ゼファーが現われる……
次回、ナイトウィザード第25話
『紅月の刻』
たまにはロリコンもいいよね!AAry
>>83 エロさもGJ!ですが、ベルの理解に到る過程が物凄くいい。
視覚的なものよりも、心情の方がエロいと思いますゆえ。
>「・・・っ、本っ気でゲームしてるんだからぁっ !!!! 」
この愛の告白にも近い台詞は響きますね。
今までの作品の(純愛の)流れから、くれはと結ばれた柊と
ベルがどうHに発展するのか興味ありましたが、こう落とした
のかと納得しました。
個人的には、最後のキスはディープなやつを唇にお見舞い
して欲しかったりw
いや、血の味のキスってお約束じゃありません?
/ / /
朝陽がヴァン山脈のふもとから顔を出そうとしている。
転送ゲートに通じる遺跡の付近を囲むように、百人を超す傭兵が陣を取っていた。
人垣で張られた防衛線は明らかに侵入を警戒してのものだ。
傭兵たちより山頂に近い位置で、ガーベラは森の木陰に潜みながら眼下を眺めていた。
イビルソードとの約束の前日、飛行手段を持つガーベラは夜陰に乗じて一人ヴァン山脈に沿
うように移動を済ませている。
別行動のノイエたちが麓から傭兵を攻め、その背後をガーベラが突く算段だ。
傭兵たちは問題ではない。ノイエやゴウラが対処する以上、不安はないと言い切れる。
彼女にとって、イビルソードの強さだけが憂いの種であった。
腰に佩いたカラドボルグの柄に手を添えて、祈るような気持ちで唇を噛み締める。
全てはこの剣に懸かっているのだと。
それがほんの僅かな隙だったと気づいた時には、気配を殺し背中に忍び寄った人物に何かを
突き付けられていた。
相手に殺気が無いことを悟り、ガーベラが身体の緊張を解く。
それ合図にしていたかのように背中に触れていた物が離れた。
「結婚して日和ったんじゃないか?」
「いいえ、あなたが腕を上げたんでしょう」
ガーベラが振り返ると、赤いコートを着た長い金髪の銃士が立っていた。
元情報部十三班の現逃亡者、エイプリル=スプリングスである。
「あなたは一体どうやってここまで?」
「幸い空飛ぶ足があったんでな。ウィンドホークを駆って来た」
ウィンドホークとは、錬金術で作られた空を翔る魔法具のバイクである。
以前、神竜が待つ“空中庭園”テニアを目指す際に、ノエルたちが買い込んだ品だ。
帝国の逃亡者であるエイプリルが国境を越えるには、この上ない移動手段といえよう。
「ところであなたこそ、ご結婚はどうですか? 日和るのも悪くありませんよ」
先ほどの自分の発言に当てつけたガーベラの物言いに、エイプリルが渋い顔で答える。
「オレはご免だな。場末の酔った賢者も言うじゃねぇか、結婚は人生の墓場だって」
「それは上手いこと言いますね」
「何だと?」
「墓場は不吉な死の象徴です。でも、安らかに眠る終息の地の意味でもある。戦士として満足
な死地を得ることは、時として最高の幸せでしょう?」
「………………」
「もっとも、あたしはこんな事でもない限り、戦士は廃業に近いですけどね。
結婚は人生の墓場か。やっぱり、あたしには惚気に聞こえます。安心して逝くことができ、
自分を憶えてくれる誰かが、時々でも墓に花を添えてくれる。
これってそう悪くないと思いません?」
「ああ、そうかもな」
降参だと肩をすくめ、相手の笑いを誘った魔導銃士は、がらりと真摯な声色で告げた。
「……だけどな、クリスはそんなこと望んでないはずだ」
決して大きな響きでは無いが、はっきりと強い意思が木陰に染み込んで消える。
生まれたのは刹那の沈黙。
「どうしてそんなことを言うのです?」
微笑を絶やさないガーベラに、エイプリルが鋭い眼を向けた。
「今のお前は妙に澄んで綺麗だからな。戦場でそんな奴は大抵、仲間を生かす為に自分の死を
受け入れた奴だった」
「………………」
笑みと睨みが対峙する。
誤魔化しきれないと悟ったのだろう。
「レントさん曰く、あたしが勝つ見込みは一割にも満たないそうです」
観念したかのようにガーベラがぽつりと告げる。
しかし、その深刻さを鼻で笑う強さがエイプリルにはあった。
「お前はつくづく騎士体質が抜けない性質だな。いつも捧げたり尽くしたりばかりで、求める
ことに慣れてないんだろ?」
「……否定はしません」
「クリスを頼ってみろ。戦ったことがあるお前だって、あいつの手強さは知っているだろう?
敵が剣そのものならば、“盾”に徹したクリスは必ず頼りになるぞ」
敵が剣そのもの。そして盾という言葉にはっとする。
カラドボルグもイビルソードも両手剣であり、手を使用しないバックラーを除く盾とは無縁
の武器だ。
盾は防御を重視しなかった“妖魔王”バラールにもたらされず、“火の時代”に入ってから
ヒューリンが活用しだした防具である。
“火の時代”創世に誕生した薔薇の武具には鎧があっても盾は存在せず、攻撃力を追求した
両手剣を選択しているのには、そんな背景が関係しているのかもしれない。
何かがガーベラの心に引っ掛かったが、それは明確な形を成す前に薄れて消えていった。
仕方なく回収を諦めて、エイプリルの言葉に返事を返す。
「ですが、あたしは相手と一騎打ちを約束したんですよ?」
「別にいいじゃねえか。夫婦は一心同体って言うだろう? クリスは甘い奴だからな。独り残
されるくらいなら、一緒に死んでくれるはずだ」
そう言ってニヤリと笑うエイプリルに、ガーベラはため息を返した。
「縁起でもないことを言わないで下さい」
「相打ち狙いなんかしてみろ。間違いなく、あいつは身を挺してお前を庇うぞ」
エイプリルの読みに全面的に同意し、少しだけ嫉妬も自覚する。
彼女が自分の夫と肩を並べて戦い、クリスに対して深い信頼と理解を持っている事実を。
「約束は出来ませんが、助言はありがたく頂いておきます」
「じゃあな。こっちもらしくないことほざいたんで、クリスには黙っておいてくれ」
互いに背を向け、二人が歩き出そうとした瞬間、遠くで爆発音の響きがした。
ひとつ遅れて悲鳴と怒号が聞こえる。
足を止めたガーベラがエイプリルを振り返った。
「今のはあなたの仕業ですか?」
「ああ、来る時について来た金魚のフンがな……」
彼女にしては珍しく、きまりの悪そうな表情を浮かべている。
不思議がるガーベラにエイプリルは短く告げた。
「安心しろ。一応、陽動のプロだ」
※
以前、某悪の組織に触れた際に説明をしたが、ヴァン山脈は魔獣や竜の棲息地である。
ドラゴンライダーの能力を持つ“彼女”には天然の武器庫に等しい。
臨時でスカウトした野生の竜が放った吐息の余波が辺りを赤く舞い、傭兵たちが襲撃に混乱
している様を見て、陽動のプロは仁王立ちで高笑いを上げた。
「げーっひゃっひゃっひゃっあ! オレさま最強っ!」
元情報部十三班、七月こと“コールド・スナップ”ジュライである。
傍らには彼女のパートナーである氷竜が控えている。
この竜の背に乗り、彼女もまたエイプリルと同様に空から到着したのだ。
実はジュライは事情を全く知らなかったりする。
エイプリルから、あの数を相手にするのはお前には無理だろう? と煽られて乗ったのだ。
「いけっ! 薙ぎ払えぇぇぇえええーーー!」
爆発音が炸裂し、新たな悲鳴と怒号が生まれる。
久しぶりの大暴れに、彼女は満面の笑みを浮かべた。
ジュライの姿を認めた傭兵たちが襲撃の首謀者を討とうと殺到するが、氷竜の放つブレスが
それを許さない。
次々と凍えた犠牲者が地面に倒れ伏していき、彼らの仇を取ろうと新手が走り寄る。
炎舞と氷結の蹂躙という一方的な勝利を収めながら、ジュライは傭兵隊の半分を引き付ける
ことに成功していた。
その残りの半分は、部隊長を擁する云わば本隊である。
防衛線が手薄になっていく様子を見て、部隊長は舌打ちをした。
あからさまな陽動に対し、本命が攻め込むのを防がなければならない。
「神殿騎士団、二時の方角より来ました!」
間を置かず届いた物見の報告に、部隊長は自身の読みが的中したと膝を打った。
自ら陣営の先に進み出ると、整然と並ぶ銀光の眩しい騎影が遠目に飛び込んでくる。
その中央に居るのは、音に聞こえた神殿騎士軍団長ゴウラに違いない。
一定の位置まで進むと騎士団はその進軍を止めた。
だが、口上の使者を立てることもなく、沈黙を保った姿が不気味である。
睨み合いにしては戦意や覇気が薄い。
攻める気配が感じられず、どちらかと言えばこの雰囲気は静観ではないだろうか。
部隊長は自身の経験と直感を信じた。
これもまた自分たちの注意を引いておく陽動ではないだろうかと。
ならば本命は――――
瞬間、視界に走る淡い薔薇色の輝き。
それが膨大な数の光鎖と知った時には、部隊長とその配下は縛鎖に身を封じられていた。
傭兵たちの手足や胴はおろか、武器や備品に至るまで、びっしりと鎖が巻き付いている。
「馬鹿なっ……!」
このような大規模な魔術は見たことも聞いたこともない。
これではまるで、“遺跡の周辺一帯”を封印したかのようではないか。
「しばらくの間、動かないで頂けますか?」
場違いなくらい穏やかな声に振り返る。
百を越す光鎖の発生源を確認して、部隊長の驚愕は最高潮に達した。
騎士団とは反対の森から姿を現す術者。
この縛鎖は一人の女性による仕業だったのである。
「この度の件は、私の可愛い騎士を泣かせて下さいましてね。二度とこのような不愉快なこと
が起こらぬよう、禍根を断つべく足を運ばせて頂きました」
栗色の髪を頭頂で束ね、白いローブ姿の女性は神殿の関係者だろうか。
穏やかに笑顔を浮かべ言葉遣いこそ丁寧ではあるが、漂う威圧感が裏切っていた。
目に見えて証明するものは無いが、自信をもって断言できる。
この女はひどく怒っているのだと。
「そういう訳ですから、魔族の方も姿を現しても構いませんよ」
続く女性の言葉に、部隊長は再び驚かされる。
何を馬鹿なと呟きかけた途端、二人の部下の姿が一変した。
他人の姿を写し取る魔族として有名なドッペルゲンガー。
短剣を手にした老婆の姿を持ち、魔術に精通した殺戮の快楽者ニクネヴェン。
共に《変身能力》を使い、自由自在に姿を変える中位魔族である。
「舐めるな小娘! こんなヒューリンの術など我が破って――――!」
歯噛みしたニクネヴェンが吠えて、身を縛る光鎖に手を掛けて息を呑む。
優れた魔法使いでもある魔族は、光鎖を破壊するどころか、揺れ動かすことも困難な代物と
判って、鎖に込められた魔力の質に気づいたのだ。
「その鎖は神にも等しい古代竜の王を封じたこともあります。現役を退いたとはいえ、短時間
であれば、たとえ魔族であろうとも足止めすることは造作もありません」
「古代竜だと……!?」
女性の発言に魔族が絶句して硬直する。
人の身が古代竜を封じるなど滅多にあることではない。
記憶にも新しい事件が蘇り、鎖が放つ淡い輝きがある一つの単語を浮かばせる。
「……薔薇の巫女!」
ニクネヴェンは抵抗を諦めた。
神竜を封じていたこの術を破るのは、自分たちの主たる高位魔族でも難しい。
だが、彼女の数倍を生きる傍らの同僚はニヤリと笑った。
「いかに術が強力でも、術者そのものを倒せばよい。……殺れ!」
ドッペルゲンガーが鋭く命じると、帽子を被ったマント姿の人物が忽然と現れた。
透明になる姿隠しの帽子を所有し、敵に封鎖された場所でも《完全隠密》を実行できる中位
魔族アルプである。
姿を隠していた為、光鎖の縛から逃れていたアルプが短刀を構えて女性に走り寄る。
しかし、あと数歩に迫った足元に飛来した短剣が突き刺さり、魔族はとんぼを切って後退。
短剣を投げつけられた方向、森の木々の頂上を無言で睨みつけた。
「女を魅了する夢魔とはいえ、他人の妻に手を出すのは感心せぬな」
一際高い樹木の上に立つ、漆黒のマントった長身の男。
その顔には猛禽を思わせる仮面で覆われている。
マントの留め金と腰帯のバックルには、羽ばたきを意匠化した紋章が刻まれていた。
「その紋章、ダイナストカバルか!」
「いいや違う、『ネオ』・ダイナストカバルだ。そして余が大首領である。我が組織の新結成
を知らぬとは同盟者ではあるまい?」
「成るほど合点がいった。この妨害は、我が主に敵対する『あの女』の差し金であろう!?」
ドッペルゲンガーの問い詰めに、大首領は頭を振った。
「ディアスロンドの主婦より要請があったのでな。地域住民の期待に応えぬ訳にはいくまい」
魔族たちは気づかない。
大首領の発言に、依頼した主婦が目前で恥ずかしそうに目を伏せたことを。
「そんな馬鹿な話があるか!」
「知らぬのか? 我らは地域住民に愛される、地域密着型の悪の組織を目指している。
それに憎き神殿が力及ばず窮地に陥っているのだ。そこを我が組織が救うのも、何とも痛快
で胸がすくではないか」
大首領が片手を上げると、彼の立つ森から覆面をした戦闘員や異形の怪人が姿を現した。
その中にはノエルやレントの姿もあり、総数は捕縛された傭兵たちに匹敵する。
中位魔族とはいえ、アルプ一人では対処できない。
マントをたなびかせて華麗に着地を決めると、女性に歩み寄った大首領はドッペルゲンガー
に剣を抜くことなく語りかけた。
「余の目的は貴公らとの争いでは無く、良ければそちらの主に話をつけても良い。だから此処
はどうか我らに道を開けてくれまいか?」
威厳を保ちつつ温かく尋ねる大首領の隣で、光鎖を展開した女性が静かに魔族を見つめる。
大首領と女性の距離と雰囲気。
二人から半歩下がった位置にある少女の顔は、女性と非常によく似ている。
そして少女の左肩にある薔薇の形をしたアザを確認し、魔族は遅まきながら気づいたのだ。
この三人が家族であると。
※
ドッペルゲンガーが危惧した『あの女』。
その七つの名を持つ魔族に仕えるフィルボルの暗殺者ヴァルは、気配を遮断して別の森から
一連の様子を伺っていた。
103 :
ガーベラと薔薇の武具 38:2008/05/21(水) 01:54:25 ID:rhkZ3pXh
彼は高位魔族である主に命じられ、神殿を妨害した貴族の周囲に別の魔族が絡んでいること
を同盟者であるネオ・ダイナストカバルに伝えたのである。
この情報がもたらされたのは一足先にガーベラが発った数時間後であり、後発のノイエたち
が驚いたのは言うまでもない。
以前より神聖ヴァンスター帝国の内部に、魔族の手が及んでいる噂はあった。
噂そのもの自体は珍しくも無い。高位魔族同士の間にある遊戯めいた勢力争いの一環として、
各国の王宮ごとに魔の手が伸びている話は限がないくらいである。
だが、中には魔族に街が支配されたクラン=ベル事件のように、噂が本当となった例も過去
に存在している。
看過できない事態に、一同が選んだのは意外にも穏便な解決法だった。
火種が炎上に繋がってはならない。
禍根を残す戦闘を避け、魔族に手を引いて貰う方向で話をまとめたのである。
勿論ジュライの大暴れが予定外だったことは、ノイエたちの為にここで断っておく。
裏切りによる没落と殺戮の道を歩んできたヴァルにとっては、甘い対応と思わざる得ない。
しかし、定命の人間が事実上の不老不死である存在を相手する面倒は理解できた。
傭兵の方は魔族の存在を見せつけた時点で終了である。
顧客の信用を大事にする彼らに、魔族と手を組んでいたという噂が立っては不味いからだ。
落とし所としてはこんなものか。
一つの決着を見届けると、ヴァルは気配を殺したまま移動を開始した。
彼が主に命じられた真の任務は、情報の伝達や見届けでは無い。
ある魔族が遺した一振りの剣の完全破壊こそが、ヴァルに課せられた使命であった。
ヴァルの推測どおり、傭兵たちは戦意を喪失していた。
悪の組織は兎も角、遠目で神殿騎士団が魔族の出現を目撃している。
大首領が共に魔族を捕縛したと口裏を合わせても良いと交渉し、部隊長は申し出に頷くより
他の選択肢は無かった。
既に遺跡の中には、自分たちとは異なる貴族の子飼いの兵士が侵入していると告白する。
下衆な連中だから気をつけろと、忠告まで言い添えた。
組織の戦闘員たちが傭兵たちの武装解除を終え、ノイエが光鎖の封印を解除する。
「どうやら片付いたようだな。オレは先に向こうの馬鹿を止めてくる」
大首領たちの様子を見ていたエイプリルが束の間の別れを口にし、森の木々に姿を消す。
ガーベラもまた森から遺跡の方へと進み出た。
近づく彼女に気づき、母娘が顔を緩ませる。
「行きなさい、ノエル。ガーベラと共に貴女の友人を助けなさい」
「はい、お母さん!」
「レントよ、ノエルを頼んだぞ」
「心得ました。我が生命と存在の全てに懸けて」
母娘の反対では、フレンドベレーを脱いだレントが大首領に肩膝をついて頭を下げる。
それに遅れる形で、四人の前に到着したガーベラが歩みを止めた。
「ノイエ様。無理をさせて申し訳ありません」
「いいえ、私は約束を守っただけよ。ガーベラが気に病むことはないわ。それに貴女の方こそ、
余り無理はしないでね」
ノイエの願いには答えず、ガーベラは笑顔を浮かべるばかりである。
お互いに言葉を失った二人を見て、大首領が割って入った。
「ガーベラよ、これを持っていくが良い」
「これは……?」
大首領が差し出したものを見てノエルが噴き出す。
金色に輝く鳥を模した小さな彫像は、組織の構成員である証、携帯代首領である。
金メッキの外装から察するに、オーダーメイド仕様の豪華版に違いない。
「お父さん、これ遺跡の中ではそれ使えないのでは?」
「余に抜かりは無い。ノエルよ、これは5,100ゴールドもする、超★豪華版の携帯代首領
なのだ。必ずやガーベラの身を守るであろう」
ちなみに携帯大首領(豪華版)の価格は100ゴールド。
5,100ゴールドという金額が、いかに超★豪華版かお分かりだろう。
「それは凄いっ! ねぇ、お父さん、あたしも欲し――」
「お前の身はレントが守る」
間髪いれず、ノエルの発言を返事が遮った。
気のせいか大首領に救いを求められた気がして、急いでレントが会話に割り込む。
「もしかして継承者殿は、わたしが5,000ゴールドの価値もないと仰せですか?」
「とっ、とんでもない!」
慌てる少女の様子に、一同が頬を緩めた。
「そういえば、向こうでエイプリルさんとお会いしましたよ。陽動に回ったお連れの方を止め
たら、こちらに合流するとのことでした」
「そうですか。でしたら、先に進みましょう……って、あっ!」
ノエルが何かに気づいて、腰のポーチを探る。
「忘れていました。これをガーベラさんに渡しておきます」
取り出されたのは、薔薇の文様が刻まれた手の平に乗る小さな六面体。
五つの薔薇の武具に封印をかけ、第六の武具化を防ぐ薔薇の小箱である。
「何かの役に立てば良いんですけど……」
「感謝します、ノエル様。しばしの間、お借りしますね」
礼を述べて受け取り、先ほどの携帯代首領と共にガーベラが懐にしまい込んだ。
「では、我々は残り半隊の武装解除と負傷者の手当てに向かう。無事、皆が戻ってくることを
願っている」
「ガーベラ、貴女の剣に武運と加護がありますように……」
ネオ・ダイナストカバルの戦闘員たちが敬礼の姿勢を取る中、大首領とノイエの見送りを背
に受けて、剣士と魔術師の三人は遺跡の中へ足を踏み入れる。
いつしか太陽は天空高く昇り、ヴァン山脈の最高峰ムーヴァン山に差し掛かろうとしていた。
※
遺跡に入った三人は魔物に遭遇することなく、イビルソードの部屋へ続く隠し扉の手前まで
到着した。
クリスたちがムルムル率いる死霊軍団に追われ、撤退して迎え撃とうとした場所である。
そこで道を塞ぐように、部屋の中心でたむろする二十人ほどの兵士の一団。
傭兵の部隊長が話していた子飼いの兵士に違いない。
貴族の手勢にしては、山賊上がりのように野卑で荒くれた雰囲気である。
緊張を見せるノエルを手で制すると、ガーベラがレントに告げた。
「時間を掛けるつもりはありません。ここはあたしが行きましょう」
二人に通路の影で待つように告げ、無造作に兵士へと近づいていく。
「女だ! 女が来たぞ!」
ガーベラに気づいた兵士の一人が叫び、退路を断つように全員が取り囲んだ。
一団のリーダーらしき髭の男が、円陣の中から一歩進み出る。
「女、そこで止まれ」
言われた通り、円の中心でガーベラが足を止めた。
「命を取るつもりはない。腰の物をこちらに渡してもらおうか?」
「これがそんなに欲しいのですか?」
腰の剣帯から鞘ごと剣を外して、ガーベラが微笑みかける。
宙に放り投げられた剣を受け止め、鞘から中身を検めた髭の男が口笛を吹く。
「こいつは運がいい。俺たちはこの遺跡に貴族の命令で魔剣を探しに来ていてな。旦那は魔剣
であれば、種類は問わないとの仰せだ。これでわざわざ迷宮を潜る手間が省ける」
「うぉっしゃああーーー!」
リーダーの言葉に歓声が上がり、獲物を逃さぬよう他の者が包囲の輪を狭めた。
ガーベラは涼しい態度で笑みを崩さない。
「こいつは凄えべっぴんだな。へっへっ、姉ちゃん、腰が抜けるほど可愛がってやるぜ!」
「応よ! 明日の朝まで放さねえぞ!」
獣欲にぎらついた視線が、露骨にガーベラの肢体を嘗め回す。
周囲に漂う荒く臭い息。
「ご免なさい。夫以外の人間に肌を晒すつもりはありませんの」
「うおおっーー!」
ガーベラの発言に、冷やかしのどよめきが上がる。
「貞淑な若い人妻と来たか!」
「抵抗しても構わないぜ! その方が燃えるからなっ!」
「違えねえ!」
どっと沸いた笑い声を前に、静かな声が意思を貫く。
「では、そうさせて貰います」
「無手の格闘に自信があるようだが、一度にこれだけの人数を相手には出来まい?」
「いいえ、無手ではありませんし、人数も少ないくらいですわ」
依然として微笑みを絶やさないガーベラが、大きく笑みを深めた。
「……おいで、カラドボルグ」
ガーベラの左手の甲にある、翡翠の薔薇の刻印が光を放つ。
「な、何だっ!?」
髭の男が手にしていた魔剣が輝き、光の球体となってガーベラの元へと舞い戻った。
右手を伸ばし、開いた手の平で光を受け止める。
球体に左手を添えた瞬間、それは元の剣の姿を取り戻した。
「おかしな術を! 構わねえ、殺っちまえ!」
二十人の兵士が抜刀し、ガーベラの全方位から一斉に剣を突き立てようとする。
だが、その刃先が届くよりも速く、ガーベラが《二回行動》で先手を取って動いた。
苛烈で鋭い斬撃が、二十人の兵士たち全員へ同時に放たれる。
《スマッシュ》を乗せた、範囲攻撃スキル《ブランディシュ》。
その刃はガーベラの《レジェンド》により、古代竜の祝福を受けて更なる冴えを放つ。
周囲に等しく血煙が舞い、殺到した人垣は一斉に崩れ落ちた。
中心に一人立つガーベラが剣を振って、刃の血糊を吹き払う。
「終わりました。先を急ぎましょう」
何事も無かったかのように、ガーベラは剣を収めて通路の影へと呼びかけた。
隠し扉を抜けて、奥へと続く長い一本道に入る。
帰還した調査隊の話ではこの突き当たりに広間があり、そこにイビルソードが待つ。
自然とガーベラの足は速まり、その度にノエルを気遣うレントがペースを呼びかける。
ようやく一本道の先に空間が見えかけた時、一行にエイプリルが追いついた。
「何とか間に合ったな。これが無駄にならずに済んだ」
レントが皮袋を取り出して、エイプリルに手渡す。
「何だこれは?」
「中身はバーストルビーが五つだ。投げつけると衝撃で宝石に込められた魔力が爆発を起こし、
その周辺に火属性の魔法ダメージを与える」
「ふん、相手は魔法に弱いクチか?」
「そのようだが、むしろ魔法防御に特化していると言っていい。魔術を封じる《魔力消失》と
攻撃と同じ属性を宿す《属性吸収》を持っている。わたしは今回、役に立たないだろう」
「じゃあ、こいつは?」
エイプリルに宝石の真意を促され、レントがガーベラを向く。
「相手の《属性吸収》を逆手にとって、ガーベラの《エンハンスブレス》を最大限に活かす。
先にバーストルビーで攻撃すれば、彼女の水属性の攻撃は対抗属性となる」
「なるほど、考えたな」
エイプリルがニヤリと笑い、皮袋を仕舞い込む。
しかし、レントの表情は緊張に硬い。
「分かっていると思うが、油断するな。恐らくガーベラやクリスを除く我々では、相手の一撃
で終わりだ。しかも通常の攻撃自体が範囲攻撃となっている」
「加えて《魔力消失》とやらで、回復と蘇生の魔法が使えないって訳か」
レントがエイプリルに重々しく頷く。
「ポーションの数にも限りはあるし、今回の我々には神竜の時のような薔薇の武具という勝利
の鍵もない。あの時以上の死闘は想像に難くない」
「ふっ、そいつは何ともありがたい話だな」
「ああ、出来れば謹んで辞退を願いたい」
そしてエイプリルとレントがノエルの方を向き、受けた少女はガーベラに振り返った。
三人の視線がガーベラに集まる。
「じゃあ行くか」
「行くぞ」
「行きましょう!」
同じ意思を持つ三人の言葉が不揃い重なり、照れ臭そうな温かい雰囲気が生まれた。
「……夫は……幸せ者ですね……」
込み上げる感情に胸を詰まらせながら、ガーベラが口元を押さえる。
「バカ、新婚のお前が言うなよ」
珍しくエイプリルが突っ込んで、皆がどっと笑い声を上げた。
笑いが収まれば、いよいよ死闘の幕が上がる。
みんな大好きだとノエルは思った。
戦いの中で必ず突破口を見つけようと、レントは脳裏で調べ集めた情報を改めた。
自分が踏み止まれるのは僅かだと、エイプリルは最初から全力で飛ばすつもりでいた。
そんな三人に応えたいと、夫への愛情と共にガーベラは心から願った。
ここに居る三人の誰よりも強く、燃えるように激しい決意として。
それぞれの想いを胸に、四人はイビルソードの部屋へと足を踏み入れた。
>(・・・っ、そうだ、まだ二人とも起きてるんじゃない・・・ !? )
>(・・・っ ! 柊蓮司が・・・寝室に入った・・・っ ! )
(……? おかしいわね?)
柊が入った先は、彼の寝室ではない。
ではどこかといえば、ベルには覚えがある。柊蓮司の姉、京子の寝室だ。
(こんな時間になにかしら?)
そこには姉のアナルを蹂躙する弟の元気なムスコの姿が!
「ちょちょちょちょちょっ、ナニやってんのよアンタら!?」
アナルファックです。
「おかしいわよ! そう、倫理的に!!」
アナルファックはセックスじゃないので合法です。
「せ、セックスじゃない!」
「姉弟同士でセックスとか、そんなアンモラルなことできるわけないだろ。常識的に考えて」
「ベルちゃん。深夜に勝手に他人の部屋に入るとか、姉弟でセックスとか言うだとか、ちょっとどうかなーと、おねーさんは思うの」
「うわーん!?」
弟(ある意味)童貞。姉(アナルは非処女)処女。
そんなヌクモリティあふれるエピローグ。
以上、ようやく次回ラストバトルです。
さて、前回レントが指摘したガーベラとイビルソードの戦闘能力の差。
実際に勝率を出した訳ではありませんが、どれだけ絶望的なのかを少し。
作品では数値表現をしませんので、ここで指摘させて頂きます。
カラドボルグを装備したガーベラの通常攻撃ダメージの期待値はおよそ51。
イビルソードの物理防御は50あります(!)。
反対にイビルソードの攻撃ダメージ期待値は116。
ノエルが最終戦で神竜に止めを刺した数値(117)とほぼ同じです。
ガーベラの物理防御を引いても2回半で沈む計算で、クリティカルが出ると防御無視の
《バーストスラッシュ》が自動的に発動しますから、HP230のガーベラには苦しい。
最悪の場合、連続攻撃スキル《ストラグルラッシュ》を同時に使われたら一撃死です。
一番のネックはHP差でしょう。
イビルソードのHPは***あり、データを見ると本当に絶望的に思えます。
決着には非難を受けそうだと思いつつ、伏線やヒントはイビルソード登場時より今回を
以って全て出し終えています。
まぁ、リプレイにあったネタの拡大解釈なので、大目に見て頂けたら幸いです。
ガーベラの人、乙であります。
……リロードはしたつもりだったんだけどな。吊ってくる!
いえいえ、お気になさらず。
本当に、私が投下に手間取ったのが悪いので。
そちらこそ、深夜に乙です。
どうでもいいんだがビッグ・ザ・陳老師って巨根っほ、い名前だよな
せっかくベル絵をラクガキしたのでSSを付けてみようと思ったが
ベルがロリコンにご褒美をあげるシチュなんて思いつかねえ
手柄を立てた落とし子にゲーム感覚でご褒美、でいいんじゃね?
まあアレだ、思いつかなかったらとりあえず絵を晒すんだ!
そのあがったエロ絵をもとにしたエロSSコンペ開催ですね
実はラーラ=ムゥなんだけどベルにばっかりハァハァする自分の落とし子に嫉妬してお仕置きの図
フェウス=モールが自分の落とし子にごほうび。
夢語りで元上司の姿に変身してプレイ。
>>115 部下が集めてきたプラーナを受け取るベル様、でいかがか。
プラーナの受け渡しはセクースか。
いいじゃん! そのネタで一筆がんがってみよう!
>プラーナの受け渡しはセクース
「み、みんなのプラーナっ、もっと、もっといっぱい、あたしに・・・ちょうだいっっ!!」
とかやってるおにゃのこ勇者が頭を離れなくなりました
どうしてくれる
だがパーティはみんな女だった。
潮吹きするまでオナニーですね。わかります。
え、TRPG的にはプラーナ譲渡を取得したらふたなりになるんだろう
ハッタリナイズされた思考ですね。わかります。
待て、女同士だからって即ふたなりというのは知性の死滅だ。もっと色々方法があるはずだ。
とりあえず舌を絡めるのはどうだ。
エピローグ 1 〜悩める柊、アンゼロットに諭される顛末〜
あわただしい一夜が明けた午前九時。
結局、真夜中から夜が明けるまで一睡もできず、柊蓮司は眠ることなく、この時間
を迎えた。マンションのベランダに出て、手すりに寄りかかりながら秋葉原の街並み
をなんとなく眺める。柊の背後、ガラス戸の向こうでは、姉の京子が大学へ行くため
の身支度を始めたところだった。
朝、やけに早起きだった京子が、ベルに貸し与えた寝室を訪ね、そしてすぐさま戻っ
てきたときの顔が、やけに印象的なのを覚えている。。
「蓮司。ベルちゃん、帰っちゃった ? 」
いつもと変わらぬさばさばとした口調は、いつもとまったく変わらず。
「ん・・・ああ、姉貴が起きるよりも早く、な。バタバタして悪かったってよ」
「ふーん。そう」
それじゃ、しょうがないから大学行こうかな、と京子がぽつりと呟く。
真夜中、柊が京子を起こさないように、ベルの寝室を片付け、布団をたたみ、貸し与
えたパジャマをたたんで、いかにも「お世話になりました」という感じの偽装工作をして
いたことなど、当然彼女は知る由もない。
「さて、と。じゃあ、私大学行って来るから。昼は勝手になんか食べて。夜も・・・勝手に
なんか食べといて」
「おー」
適当すぎる京子の発言に、いつもなら持ち前のツッコミを入れるところだが、なんと
いうかそんな気にもなれず。
「まだ寝ぼけてんの ? シャキッとしなさいよー」
愛用のスニーカーの踵を踏みつけながら、捨て台詞のように京子が言った。
(・・・姉貴はすげーな)
柊はこんなとき、姉・京子を尊敬する。
二十年近くも一緒に育った姉弟だ。姉の性格も、どんな人間かもわかっている。
寂しくないはずがないのだ。気に入らない相手はとことん無視できる、さばけすぎた
性格だが、一度気に入った相手はとことん好きになれる姉なのだ。
たった一日。たった一晩。
いや、それどころか、ほんの三、四時間しか顔を合わせていない相手なのに ?
(そんなのクソくらえだっての)
京子の気持ちを、想いを、もしも疑うヤツがいたら、走っていって蹴りを食らわしてや
るぜ、と柊は思う。始めから、ベル=フライなんて女の子はウチに来ませんでしたよ、
とでも言いたげな涼しい顔の裏で、京子がどんな想いでいるのかなんて、考えたくも
なかった。
(・・・つえーよな・・・)
溜息をつき、苦笑いをしながら頭をぼりぼりと掻く。
それにひきかえ俺ときたら・・・と自嘲の笑みを浮かべながら、灰色のくすんだ空を
見上げた。
「ひ〜らぎさ〜ん。わたくしという者がありながら別の女と逃避行に走ったひ〜らぎれ
んじさ〜ん。う・ら・ぎ・り・も・の・のひ〜らぎれんじさ〜ん」
異常に近くで(お約束の拡声器もなしで)、いつものあの声が唐突に聞こえる。
マンションの下から・・・?
いぶかしんで、ベランダから下を覗きこんだ柊の目に、三つの黄色い球体のような
ものが飛び込んでくる。
安全第一。
黄色の球体に書かれた文字が、そう読めた。
するするするっ、と清掃業者用のゴンドラが引き上げられてきて、柊のいるベランダ
のところでぴたりと泊まる。
黄色いプラスチックの保護帽をちょこんと頭にかぶせたアンゼロットが立ち、その左
右には、作業用のつなぎを着込んだ保護帽の男たちが控えている。当然のように顔
上半面を隠すマスクを着用しているので、いうまでもなくロンギヌス隊員であろう。
「さあ、柊さん。申し開きがあるのなら言って御覧なさい」
目が笑ってない。昨日、秋葉原の街でベルに侮辱された挙句、柊がベルと一緒に
逃げ出した(少なくともアンゼロットはそう思っているようだ)ことを、まだ根に持ってい
るらしかった。
「・・・いや・・・なにも言うことはねえよ・・・悪かったな・・・・・・」
なんというか、いつもの柊らしくないことに気づいてか、
「柊さん・・・ ? 」
さしものアンゼロットも眉根を寄せ、心配そうにその顔を覗き込む。それほど、柊の面
持ちは沈鬱なものだったのだ。しばらくその顔を見つめていたアンゼロットが、
「・・・・・・世話の焼ける方ですわね、柊さんは」
やれやれ、と言いながら指を一つパチンと鳴らす。
アンゼロットのスナップを合図にゴンドラがゆっくりと上昇していき、その足場がベラ
ンダの手すりの辺りまで届くと、
「そちらに飛び移りますから、しっかりと受け止めてくださいね、柊さんっ !! 」
あろうことか、アンゼロットがベランダの手すりに足をかけた。
「・・・・・・っ !! おい、危ねぇぞアンゼロ・・・・・・」
「とうっ ! 」
柊の制止の言葉も聞かず、ボディプレスを敢行するプロレスラーのように。
アンゼロットの、柊をめがけてのダイビング。
「あぶ・・・どわぁっ !! 」
自分に向かってジャンプをしてきたアンゼロットを受け止めようとするが、いかんせん
あまりにも不意を打つ行動。左右に控えたロンギヌスが止める間もなく、アンゼロット
が柊の胸元に体当たりを食らわした。受け止めきれず、その勢いに体勢を崩す。
仰向けにひっくり返った柊の腹の上に馬乗りになったアンゼロットが、
「きゃんっ !? もう、柊さんっ !? 受け止めなさいって言ったでしょう !? 」
あまりといえばあんまりな文句を垂れた。
「無茶苦茶言うなーーーーっ !? 」
ご近所の迷惑を顧みないほどの大声でツッコミを入れる柊をまじまじと見つめたアン
ゼロットが次の瞬間、にこっ、と満面の微笑を浮かべ。
「・・・いいツッコミですわ。それでこそ柊さん」
してやったり、という顔をして見せた。底意地の悪いその顔をしばし睨みつけていた
柊が、何ごとかに気づいてはっとした表情となり、次いで溜息とともに苦笑を漏らす。
「・・・すまねぇな。らしくなかったぜ、落ち込むなんてよ」
「まったくですわ。このわたくしに余計な気を遣わせるなんて、なんて困ったちゃんな
のかしら、柊さんは」
いつの間にか、アンゼロット同様にベランダを飛び越えてきたロンギヌスたちが、彼
女が立ち上がるのに手を貸すと、すかさずどこからか取り出した羽根ぼうきで服につ
いた埃を払い、安全帽を外して乱れた髪をブラッシング。
「たまには、わたくしがお茶をいただいてもよろしいでしょう ? 」
悪戯っぽく柊に笑いかけるアンゼロットに、どこか吹っ切れた顔になった柊が、「しょ
うがねえな」とそれを承諾する。
アンゼロットをリビングに通して、待たせること数分。
人数分の湯のみが湯気を立てるお盆を手にして、柊がキッチンから戻ってきた。
「ほらよ。紅茶じゃねえけど文句は言うなよ」
「あら、心外ですわ。わたくし、洋の東西でお茶の差別はしませんわよ」
木製のコースターごと湯飲みを受け取り、アンゼロットが口を尖らせた。
やっぱり、それがお茶であれば普段の習慣がそうさせるのだろうか。立ち昇る湯気
に顔を寄せ、その香気を嗅いでいるアンゼロットであった。
ぞ、ずずずぞ。
「・・・・ほぉう・・・・・・」
じんわりと熱いお茶を堪能している様が、なんというかお上品に紅茶を嗜む姿よりも
しっくりくる、と言ったらきっとへそを曲げるだろうな・・・そう思う。
ちろり、と片目を開けたアンゼロットが、
「柊さん・・・いま、なにかとても失礼なことを考えませんでしたか ? 」
ぴしりと釘を刺した。
「いや、別に」
「顔が笑ってますわよ」
本気で睨まれた。もう一口、お茶で唇を湿らせてから、
「・・・それで。昨日はあれからどうなさったんですか」
アンゼロットが本題を切り出した。
「ん・・・あの後は、一緒にエリスんちで飯食って、みんなと別れてから家帰って」
「誰も柊さんの一日の生活など気にしてはいません ! 大魔王ベール=ゼファーと、あ
れからどうなったかを聞いてるんですよ !? 」
「だから、飯食って、家に帰ってきたんだっつーの。ベルと一緒に」
当たり前のことを話すようにけろりと答える柊に、アンゼロットが口をあんぐりと開け
た。目が点になり、次の瞬間、わなわなと震えだす。
「柊さん ・・・? それはいったいどういうことですの ・・・? 」
口の端がひくつき、こめかみに「怒りマーク」を浮き立たせながら、アンゼロット。
まあ、当然か、と柊は思う。
世界の守護者として裏界からの侵略者には毅然とした態度で臨み、世界を救うため
ならいかなる犠牲もいとわないと言われるアンゼロットに、「大魔王ベール=ゼファー
と一緒に晩御飯食べて、マンションにつれて帰りました」などといったら、こんな反応は
まだ大人しいものなのだろう。まして、自分が頻繁に任務を(強制的に)与えている、
歴戦のウィザードの所業であるとすれば、正気を疑われたとしてもしょうがない。
「あの後・・・って、お前と別れた後だけどよ。ベルのヤツ、いまは魔王を休業してるか
ら、ここでの面倒をしばらく見てくれって俺に言ってきたんだよ」
「・・・・・・はあ ? なんですって ? 」
「それからくれはも合流して、まあ、もともと俺たちはエリスに夕食呼ばれてたから、そ
の流れというかなんというか。ベルも一緒に晩飯食いたいって言うから、エリスのマン
ションに連れてった」
人差し指をこめかみに当て、頭痛に耐えるジェスチャーをするアンゼロット。
「・・・続きを聞きたいとも思いませんが、聞きましょうか。それからどうなさったと ? 」
「まあ、一人ぐらい増えてもどうってことないってエリスが言うもんだから、一緒に飯を
食った、と。で、お土産にマドレーヌ貰って、くれはと別れて、さ。泊まるとこ世話しろ、
なんてベルが言うもんだから、しかたなくウチに連れて帰った・・・・ってとこかな」
柊の話が進むにつれて、みるみる顔を高潮させていくアンゼロット。
おそらくそれは、柊の取った行動に対しての憤懣の表明だ。
「見損ないましたわ、柊さん !! よ、よりにもよって、かの大魔王ベール=ゼファーと、そ
んな和気あいあい、イチャイチャと、なにをなさってるんですの !? 」
至極真っ当な怒りをぶつけてくるアンゼロット。
お茶が入ったままの湯飲みを投げつけてこないだけ、まだ冷静だな・・・不思議と落
ち着いて、柊はそんなことを考える。
「それで、一晩泊めてやって、さぞかしベール=ゼファーはバカンスを満喫して帰った
んでしょうねっ ! エリスさんのマドレーヌのほかに、柊さんはどんなお土産を持たせて
あげたのかしらっ !? 」
ここまでアンゼロットがヒステリックになるのも珍しいな、と柊は思う。
普段はこんな感情の表し方をしないはずなのに、と。
「いやいや、待て、落ち着けアンゼロット」
「これが落ち着いていられますかっ !? 」
「だから聞けって。結局ベルはウチには泊まらなかったし、ましてや土産なんて持たせ
てねーよ・・・ゆうべ・・・まあ、いろいろあって、俺は結局ベルと戦う羽目になった」
「・・・戦う・・・・・・ ? 」
頷く柊の目を見つめ、それがその場しのぎのごまかしや嘘でないことを瞬時に理解
したのか、ようやくアンゼロットが愁眉を開く。
「驚きましたわ。ベール=ゼファーと戦って、柊さんが今こうしている、ということは、彼
女を撃破し裏界に追い返した、という風に理解してよろしいんですね ? 」
ころりと機嫌を直すアンゼロット。
それも当然であろう。
おそらく、昨日現れたベール=ゼファーはもちろん本体などではなく、現し身に過ぎ
ないのだろうが、それでも、彼女を撃退したことには違いない。魔王が写し身を滅ぼさ
れれば、たとえそれがどれほどちっぽけな力で創りあげたものであっても、裏界に隠
れている本体に少なからぬ影響を与える。
すなわち昨夜の柊の勝利は、わずかな期間に過ぎないかもしれないが、裏界で最
も危険な魔王がファー・ジ・アースに介入する機会を削いだことになるはずだった。
「んもう、柊さんったら人が悪いですわ。それなら、大金星じゃありませんか。昨日の
無礼な振る舞いは、特別に大目に見て差し上げます」
すっかりご機嫌になったアンゼロットが、そこではた、と気づいた。
浮かぬ顔の柊。さきほどまでの冴えないツッコミ。
人類側の局地的勝利を勝ち得たとは思えない、憂鬱な表情の魔剣使い・・・。
「柊さん・・・なにかあったんじゃありませんか・・・ ? 本当にらしくありませんわよ ? 」
「なんだよ。ホントに心配してるみたいな顔しやがって」
カチン。
アンゼロットの顔が途端に不機嫌なものに逆戻りする。
わたくしだって心配ぐらいします、とほっぺたを膨らませてつーん、と横を向いた。
「はは、そりゃ悪かった。・・・お前も慣れないことすんなよ ? 」
「柊さん、本当に怒りますわよ」
湯飲みをぎゅっと両手で握り締め、上目遣いでアンゼロットが拗ねたように柊を見遣
る。柊が口を開きかけ、なにか言いあぐねるように言葉を飲み込んだ。
「・・・なんです ? 」
「ああ、なんて言ったらいいかと思ってな・・・うーん・・・うまく言えねえけど・・・ベルに
悪いことしたな、っていうのが一番近いんだろうな」
「悪いこと、ですって・・・ ? 」
アンゼロットの瞳が、再び危険な色を帯びる。
「エミュレイターを撃退するたびに、その相手に気を遣うなんて馬鹿な話がありますか。
ご自分の命を危険にさらして、世界の命運までもかけて戦わなければいけない敵に、
どうして悪いことをした、なんて思うんですか」
口調がどこか柊を責めるようなものになるのは止むを得まい。
それでも。それでもなお。柊は、ベルに対して済まないことをしてしまった、と悔いが
残っているのだ。
「俺だって、そういう意味じゃ敵には容赦はしねえよ。お前の言うとおりだ。誰がなん
と言おうと、ベルは裏界の大魔王でエミュレイターだ。それは変わらないし、俺だって
そこんところを間違うほど馬鹿じゃない」
「それではなぜ・・・」
「・・・俺は、さ」
そこで柊が言葉を切って。しばらく、じっくりと言葉を吟味しているようであった。
「・・・たぶんベルの誇り・・・みたいなものを傷つけちまったんだと思う」
「誇り、ですって ? 」
「相手がどんなに相容れない敵で、人間じゃない魔王であっても、踏み越えちゃいけ
ねえ領域ってもんがあるだろ。敵だから、そいつの誇りみたいなもんをないがしろに
していいなんて道理はないはずだ・・・でも俺は、昨夜その最後の一線を、気づかず
に踏み越えちまったらしいんだ」
柊には珍しい長広舌だった。それを黙りこくって、どことなく不満げに聞いているアン
ゼロットである。
「・・・だから、後味が悪くてな。たぶん俺がいつもと違って見えるのは、そのせいかも
しれねえ」
「甘いですわ。柊さんは」
「そうか。やっぱり甘いかな」
自嘲気味なほろ苦い苦笑を浮かべる柊に、ベタ甘ですわ、とアンゼロットが言う。
甘さは優しさだ。時としてそれは弱さだ。
魔王相手に同情にも似た感情を抱くことがどれほど愚かな行為であることか。
世界を守護する者としては、けっして認めてはいけない類いの感情である。
自分たちが支えている世界は、それほど軽いものではない。エミュレイターによって
もたらされる災厄は、文字通り世界の危機を引き起こすものなのだ。
何十億の生命を救うために一つの生命を切り捨てる選択をしなければならない時、
それを選べる厳しさが、わたくしの強さです、とアンゼロットはきつい口調で言い切っ
た。
「俺はたぶん・・・これからもずっと甘いことを言い続けるぞ。お前には悪いけどな」
これだけはきっぱりと、柊は言う。
「・・・そんなことをいちいち聞いていたら、世界の守護者は務まりませんわ」
皮肉げにアンゼロットがすまし顔をする。
柊の甘さと弱さを否定しながらも、否定しきれない自分がいることを、アンゼロットは
絶対おくびにも出さなかった。
たしかに彼女の厳しさと強さは、世界を救うことができる。
だが、逆を返せば、アンゼロットは世界を救うこと「しか」できないのだ。
柊の優しさと弱さは、世界を救うために紆余曲折を経なければならない。時間をかけ
なければならない。常に危険を孕み、苦渋に満ちた戦いを強いられねばならない。
だが、そのかわり、柊が世界を救うことができたとき、あと一つ「犠牲になるはずだっ
た生命」をも、彼は救うことができるのだ。
タイトロープの上を歩くように。薄氷の上を踏むように。
それでも、柊蓮司はその愚直なまでの甘さと優しさで、「世界」と「もうひとつの小さな
生命」を救い続けてきたのだ。
自分にはできないことだ、と認めるのがなんとなく悔しいので、絶対にアンゼロットは
柊を褒めてなどやらない、と思っている。そのかわり、いざ世界が危機に見舞われた
時には、真っ先に柊蓮司を駆り出してやるのだ。
彼女も本当は救ってやりたい一つの生命を、柊が救ってくれることを心のどこかで
願いながら。
と、その時。
ピピピピピピピピッ ! ピピピピピピピピッ !
唐突に、柊家のリビングにけたたましい電子音が響き渡る。
アンゼロットの背後に控えたロンギヌスの一人が、作業用つなぎの胸ポケットから、
0-PHONEを取り出し耳に当てた。アンゼロット宮殿からのエマージェンシー・コールだ
と、それを知る者は知っている。
通話を開始して数秒。ロンギヌス隊員の顔がみるみる青褪めていくのが、仮面の上
からでも見て取れた。柊とアンゼロットに、極度の緊張が走る。
「秋葉原方面に向かってエミュレイター反応が複数接近中とのことです ! 到達予測時
間は二十分後 ! 反応は・・・・・・・・」
顔を上げたロンギヌスの声は、ひどく震えていた。
「反応は・・・すべて、魔王級・・・・・・ !! 」
(エピローグ1・5〜2へ)
エピローグ 1・5 〜大魔王の帰還、そして次なるゲームのこと〜
※※※
「・・・ル・・・ベル・・・大魔王ベル・・・」
どこかで私を呼ぶ声がする。
意識はいまだ混濁し、どこか夢の中の出来事のような感覚が拭い切れない。
・・・ファー・ジ・アースで柊蓮司に現し身が滅ぼされて、意識が本体へと戻ってきた
ばかりの私は、いまだ完全に覚醒し切れずにいるのだ。
「・・・大魔王ベル・・・」
・・・ったく。リオンね。なんの用なのよ。あんたも裏界の魔王なら察してよ・・・。
結構だるいのよ、これ。これ以上私の安眠を妨げるようなら、あんたの長ったらしい
スカートちょん切ってやるんだから・・・zzz・・・zzz・・・
「・・・・・・・大魔王ベル・・・・・・・・・××××が丸見えですよ」
「dt`*}>?_~=!5Z@[/;]〜〜〜〜ッッッ !! 」
ななななんてこというのよアンタはっ !? 大人しそうな顔していまなんてッ !?
死人も目を覚ますわッ !!
「ちょっと、リオン !! 」
がばっ、と跳ね起き、膝をぎゅっと締め、スカートを思わず押さえつけてしまう私。
「・・・・・・うそ」
「当ったり前よッ ! すました顔でなんてこと言うのッ !? 」
「聞こえませんでしたか・・・? ではもう一度・・・」
「いらないわよ ! やめなさいってゆーのッ ! 」
もう、なんなのよ ! せめて自分のホームグラウンドでぐらい、アドバンテージ取らせ
なさいよ、もうっ !! 最近じゃウィザードどもばかりか、リオンにまでなんかからかわれ
てる気がするんだけどっ !?
「それでッ !? いったいなんの用なのッ !? 」
「・・・ひどくうなされていましたのでつい。いえ、うなされていたというよりは・・・」
そこで言葉を切るリオン。眠たげな瞳が私からそらされ、言いにくそうに黙り込む。
「・・・ああ・・・私の口からはとても・・・」
「なによッ ! 気になるじゃないッ !? 言いなさいよッ !? 」
くっ・・・完全にペース握られてる。
秘密めかした喋り方あってのリオンだけど、実際に自分がされるとイライラするわ。
「ファー・ジ・アースでは・・・随分お愉しみのご様子で・・・それはもう送り込んだ現し身
と同じように・・・あられもなく・・・(もごもご)」
「あ、あわわわわわわっ」
放っておいたらどこまでしゃべり続けるかわからないわねっ。手でリオンの口をふさ
いで、私は無理矢理彼女を黙らせる。
「・・・っ、ぷはっ。・・・それで、大魔王ベル・・・ ? 首尾のほうは如何でしたか・・・ ? 」
たいして興味もなさそうに、リオンが尋ねる。今回の一件に関しては、例の書物を見
なかったのだろうか。・・・まあ、リオンは今回に関しては門外漢というか、最初っから
懐疑的だったから。私が「適当に」、「思いつき」の計画を立案してファー・ジ・アースに
遊びに行った・・・くらいにしか思っていないようだったし。
ま、半分はリオンの思ってる通りなんだけど、ね・・・。
「首尾は・・・うん・・・まあ、ゲームは私の完敗かしら・・・。でも、すッごい収穫があった
から差し引きゼロ。・・・ううん、どっちかっていうと、ちょっとプラス、かしらね」
にんまり、笑みが漏れてしまう。柊蓮司との逢瀬(そうよ、なにか文句ある ? )を経験
した私が確信したこと。
それは、この世界で私が一番強く結ばれているのが柊蓮司だったということ。
それは時にはゲームの相手だったり、殺意を抱く対象だったりもするけれど、私がこ
んなにも強い感情を抱くことのできる存在なんて、柊蓮司以外にはありえない。
大魔王である私に恋愛なんて感情が存在するはずもないけれど、この想いの強さは
誓って本物よ。
恋愛なんて甘ったるい感情は、赤羽くれはにまかせるわ。でも、あの娘が柊蓮司を
想うのと同様に、ううん、それ以上に、私の想いは強くて本物なの。
想いのベクトルは、限りなく真逆かもしれないけどね。
「・・・・嬉しそうですね・・・大魔王ベル・・・・」
「・・・・・・そうかしら ? 」
くふん、とほくそ笑む私を、不思議そうにリオンが見つめる。
いまだ、けだるさと熱を残した身体を起こし、私はリオンが腰掛けた椅子へと歩みだ
す。椅子の背もたれのところに立ち、私はリオンの背後から彼女の細い首に腕を回し
た。熱量など持たぬかのように見える青白い肌が、さあっ、と薄い桃色に染まっていく
のがよくわかる。
「・・・大魔王ベル・・・また・・・お戯れを・・・」
リオンの言葉なんて無視して、私はその長い黒髪を指先でかきあげる。
あらわになった耳元に囁くように、
「・・・ねえ・・・リオン・・・ちょっとプラス、ってさっきは私言ったけど、本当はファー・ジ・
アースに心残りがあるのよね・・・」
「・・・心・・・くふん・・・の・・・こり・・・ ? 」
耳に吐息をかけられて甘い声を漏らしつつ、リオンが問い返してくる。
そう。心残り。それは、あの月匣の中での戦いのときのこと。
柊蓮司が私にしてみせたあの表情。
あの、なんだか私を気遣うような、ばつの悪そうな、そんな感じの憂い顔。あんな、
しけた顔した柊蓮司なんてお呼びじゃないわ、って思ったわよ。ゲームの相手に同情
されたような気がして、実はあのとき、私すごく傷ついたのよ ?
だから、ゲームの競争相手に気遣うような真似を柊蓮司にさせないために、ちょっと
小細工をしてきたの・・・。
裏界へ帰還する途中、裏界全土にばら撒いてきた流言飛語が、そろそろ功を奏して
くるはずだわ・・・・。
「ねえ・・・リオン。しばらくの間、ファー・ジ・アースに出かけるのはおあずけだけど、せ
めて私のコンパクトで、あちらの騒動を愉しむことにしましょう・・・ ? 」
「・・・・・大魔王ベル・・・もう・・・次のゲームを始めたのですか・・・ ? 」
リオンの問いにくすりと笑い。
「あら、そんな言われ方は心外だわ。私が舞台に立たないんですもの、こんなものは
せいぜい前座よ。でも、次に私が遊びを思いつくまでのつなぎくらいにはなるかもしれ
ないわね」
魔法のコンパクトを開く。映し出される秋葉原の街並み。私の施した仕掛けが起動
するのを少し心待ちにしながら、
(柊蓮司・・・次に私が遊びに行くまでは、物足りないかもしれないけど、その娘たちの
相手をよろしくね・・・ ? )
私は、遥かファー・ジ・アースの好敵手に心の中で呼びかけた・・・・・・。
エピローグ 2 〜本当のエピローグ・柊蓮司、大魔王への気遣いを後悔する顛末〜
複数体の魔王級エミュレイターが秋葉原目指して接近中である、とのロンギヌスの
報告は、美少女らしからぬ四文字言葉での罵倒の文句を、アンゼロットの口から吐か
せしめるに、十分な脅威をもってもたらせれた。
・・・難しい言葉を使うまでもない。
唐突な魔王の出現に、アンゼロットがお決まりの「ガッデム ! 」を口走ったと、つまり
そういうことである。
「秋葉原駅を中心とした、半径十キロ以内に住む付近住民たちを避難させなさい ! 名
目ですって !? そんなものご自分でお考えなさい !! 近郊のウィザードたちはもちろん、
絶滅社にも応援の要請を出すのを忘れないように ! ロンギヌス部隊 !? 当然出動です
わっ ! 総動員ですからねっ !? 」
なぜか黒電話の形をした0-PHONEに怒鳴り散らすアンゼロット。
相手はおそらく、宮殿常駐の下僕の一人であろう。
「まったくもう ! あんなに浮き足立つなんて思いませんでしたわ ! 最近、入隊審査の
基準がゆるいんじゃなくて !? 」
ガッチャン、と乱暴に受話器を叩きつける。相も変わらず作業着姿のロンギヌスが、
執事のように優雅な一礼をして、お盆の上の黒電話を引っ込めた。
振り返ったときは、さすがに世界の守護者としての威厳と真摯さを秘めた力強い瞳
で、アンゼロットは柊に頷いてみせる。無限の意志を込めて固く引き結ばれた唇が、
「柊さん。もちろん貴方も来てくださいますわね」
そんな台詞をつむぎだす。
当然、柊がそれを断るはずもなく。
「あったりまえだ。魔王が何体も一度に現れるなんて只事じゃねえ。言われなくても、
行くつもりだぜ ! 」
打てば響くような返事で立ち上がると、
「場所は !? 大方の位置は確認できてるんだろうッ !? 」
叫ぶように言った。
「ええ。おそらく魔王群が出現すると予測されるポイントは、秋葉原電気街付近。ここ
から遠くありませんわね」
アンゼロットの言葉に力強く頷いた柊が、勢い良くマンションを飛び出した。
全力疾走しながら、息も切らさず。
ものの数分で、秋葉原のメインストリートに柊は立っていた。
平日も買い物客や観光客で賑やかな秋葉原の街が、アンゼロットの強引な戒厳令
が敷かれたために、ひどく閑散として人影もない。
いや、言い換えよう。
ウィザードとおぼしき者たちしか、いない。
「ひーらぎー ! こっち、こっちだよー ! 」
自分を呼ぶ声に振り返ると、そこにはくれはの姿があった。その横に、すでに月衣
からガンナーズブルームを取り出して、臨戦態勢の緋室灯の姿も見える。
「おう、お前らにも応援の依頼があったのか」
二人に近づきながら、自身の月衣から魔剣を引き抜く。
こちらも不意の戦闘に備えられるように、こくり、と真剣な表情で頷いたくれはが、お
なじみの破魔弓を装着し、慣れた手つきで護符を装填していく。
「なんか、詳しい情報聞いてるか、灯 ? 」
無表情だが、さすがに緊張の面持ちを隠せない灯が、
「・・・絶滅社のエージェントからの情報・・・配備されたロンギヌスたちの通信連絡から
統合して考えると・・・接近中の魔王は四体・・・か、それ以上・・・」
固い声音でそう言った。
「四体だと !? 」
「はわわっ !? それ以上ってどーゆーことッ !? 」
「・・・現在、秋葉原来襲が確実とされている固体が四体・・・ということ。世界各地で、
魔王級のエミュレイターの出現が確認されている・・・最悪、すべての固体の目標地
点が同じである、と言うケースもアンゼロットたちは想定しているらしい・・・」
ごくり・・・・。
さすがの柊蓮司も緊張を禁じ得ない。これだけ多数の魔王が同時に行動を開始す
るなんて、「あの」土星での宝玉を巡る攻防以来と言える。
自宅マンションでロンギヌスが言っていた、到達時間まではあとほんのわずか。
周囲の空気が極度の緊張感でぴりぴりとしている。
ざわり。
道路を封鎖していたロンギヌス部隊の一角がざわめいた。
彼らのどよめきに振り返った柊たちは、遥か彼方の上空、きらりと一瞬なにかが光る
のを目撃した。
ずどんッ !!
あっ、と思う間もなく、空に輝く光点が一直線に、柊たちの立つ道路めがけて降って
くる。
「うおおっ !? 」
「はわーーーーーっ !? 」
「・・・・・・・・ッ !! 」
もうもうと煙を上げるアスファルト。道路を砕き、粉塵を巻き上げ、遥か彼方から飛来
したものが、ウィザードたちの見守る中、ゆっくりと立ち上がり、周囲をぐるりと見回し
た。風に乗って響くのは、涼やかに凛と響く鈴の音色。
「雰囲気わっるう〜〜い ! なあにぃ〜 ? むさくるしい連中ばっかり集まっちゃって !
このあたし、“超公”パールちゃんには相応しくな〜いッ !! 」
ざわっ !!
どよめきがひときわ大きく、周囲を席巻する。
・・・“超公”パールと名乗る魔王となれば、それは“東方王国の王女”パール=クー
ルに他ならない !! おそらくは、大魔王ベール=ゼファーに次ぐ裏界の実力者。かつて
は金色の魔王をライバル視していたというから、その実力も相当なものであるに違い
ない。
気丈そうな少女の外見。金色の髪を左右で留めた飾り紐に鈴がチャームポイント。
ゆっくりと自分を取り巻くウィザードたちを睥睨する姿は、まさに彼女も女王を名乗る
に相応しい威容に満ちている。
その視線が、周囲をぐるりと二、三度往復したところで、ある一点にぴたりと止まる。
視線の先に・・・・・・柊蓮司がいた。
彼我の距離、およそ十メートル。その距離を、スキップ一つで一気に縮める。
柊が魔剣を構え、攻撃に備える。くれはと灯が慌てて距離を置き、魔王めがけて攻
撃を仕掛けようとした瞬間。
「あんたが柊蓮司 ? ・・・ふーん・・・まあまあイイ男じゃない。付き合ってあげてもいい
かもね」
・・・・・・・・。
「な、なにいぃぃぃぃっ !? 」
ちょこん、と柊のすぐ真ん前に立ち、下からじろじろ値踏みするように。
気の強そうな吊り目が満足そうに和らぐ。
「率直に言うわ。この、偉くて強くて可愛いあたしが、アンタと付き合ってあげる ! 」
自信満々、相手が拒絶することなど考えもしないし許さない、といった風情である。
「はわわわわっ !? 」
くれはが情けない悲鳴を上げて、おろおろとあっちを向いたりこっちを向いたり。
ガンナーズブルームを構えた灯は、その姿勢のまま硬直しているようで。
「なんだそりゃ !? い、いったい何が起きて・・・」
「うろたえないでよ。あたしと付き合う男が情けない 」
いつの間にか、「付き合ってあげてもいい」から「付き合う男」にランクアップ。
唖然とウィザードたちが見守る中で、再び上空にきらりと輝くものがあり・・・
どごんッ !!
別の飛来物が、もうひとつのクレーターをアスファルトに穿つ。
ひび割れた道路に悠然と立つのは、美しくも峻厳な、短めの髪を後ろに丁寧に撫で
つけた一人の女性。物々しい甲冑に身を包んだ高潔な美女である。
「得がたき地上の宝よ・・・汝が・・・柊蓮司・・・わらわの名は“女公爵”モーリー=グレ
イ。わが財宝と引き換えにしても・・・汝が欲しい・・・」
がちゃがちゃと甲冑を鳴らしながら、二人目の魔王が近づいてくる。実に物騒な発言
に、隣で事の成り行きに呆然としていたくれはが、わなわなと震えだす。
「ひーらぎぃ・・・いったいこれはどーゆーこと・・・・ ? 」
「知るかッ !! 俺の方が聞きてえよッ !! 」
「・・・柊蓮司・・・とうとう裏界にまでその魔手を・・・ ? 」
「人聞きの悪いこと言うなッ !? とうとう、とか魔手、とか、いままで俺をどんな目で見て
やがっ・・・・」
ばこんッ !!
三度、大地をえぐる落下音。
「今度はなんだーーーーーーっ !? 」
砂煙が、中心に立つ人影を避けるように晴れていく。まるで、彼の者を無粋に汚す
ことを我から恐れるように。
「・・・細かいことは言いっこなしさ。ねえ、柊蓮司・・・ボクに付き合うといいよ」
不敵な笑みを浮かべて立つのは、豪奢な騎兵服に身を包んだ男装の麗人。
「なんだッ !? なにもんだお前ッ !? 」
「おやおや、このボクを知らないなんて言わせないよ。・・・っと、そうか、土星ではニア
ミスだったんだね・・・それじゃあ、改めて。ボクの名前はカミーユ=カイムン。裏界で
は“詐術長官”の名で知られているよ・・・もう、ボクのことは覚えてくれたかい ? それ
じゃあ、呼んでみて。愛しい想いを込めて、カミーユ・・・って」
「知るかッ !! なんだお前らッ !! なにが狙いだ、言ってみろッ !! 」
あまりにも大惨事。あまりにも前代未聞。いまだかつてない悲喜劇の予感に、極限
までテンパった柊蓮司が絶叫する。
「だから、さっきから言ってるじゃない。あたしが付き合ってあげるって言ってるの」
「わ、わらわも負けてはいないぞ。・・・な、汝にならば、わらわの大切な・・・その・・・
財宝だけではなく・・・その・・・・を・・・・あげても・・・よい」
「それはさておき、これから柊クンはボクとデートだよ。ショッピングなんかどうだろう ?
男物の服を選ぶのは得意なんだ。ボクの見立てた服を、キミに着てもらえたらいいな」
三者三様、思い思いのアプローチを仕掛ける魔王たち。
別の意味で大混乱に陥った秋葉原対エミュレイター戦線を、四度目の爆音が襲う。
「またかーーーーーーーーっ !? 」
「おっ、渦中の女たらし、稀代のジゴロ、ウィザードも魔王もお構いなしの手当たりしだ
いっ、ちゅうやつやなぁ。よ、このスケコマシ ! 」
髪をアップにまとめたジージャン姿。眼鏡の奥で好奇心いっぱいの瞳をきらきら輝か
せた女性。耳に鉛筆を挟み、手にはマイクをしっかりと握り締め。
「いきなり出てきてなんだお前ッ !? おい、どうせこいつもお前らの仲間だろうがッ !? 」
「彼女は“告発者”の二つ名で呼ばれる裏界の男爵さ。・・・まさかキミまで来ていたと
はね、ファルファルロウ」
カミーユの呼びかけに答えて、
「はいな。スクープの匂いぷんぷんしますやん ? このネタ、ゲットせな“告発者”の名が
泣きますわ」
胡散臭い関西弁で答えるファルファルロウ。
「ほな、柊蓮司はん ? 意中の女性だけでは飽き足らず、魔王にまで手ェ出しはったん
は、どういう経緯で ? 」
柊の顔にマイクを突きつけ、レポーターまがいのインタビューを開始する。
「待て待て待てッ !! ひでぇゴシップだな、オイ !! ・・・・・・って、なんだ、お前らのその目
つきはッ !? 」
じとーーーーー。
唇を尖らせながら、くれはが柊を横目で見ている。
剣呑な光をたたえた瞳で、灯が睨む。
いつの間にやら、二人の背後に停車したリムジン型の箒からアンゼロットが降りてき
ていて、
「柊さ〜ん ? ツンロリとかボクっ娘とか、いったいどこのギャルゲーですか〜 ? 」
こめかみに青筋を立てながら皮肉を吐いた。
「ギャルゲーとか言うなッ !? おい、お前ら !? 俺になんか恨みでもあるのかッ !? 」
ひどくたじろぐ柊に、
「往生際悪すぎや、柊はん。昨夜かて、あの大魔王ベール=ゼファーと一緒に夜のア
キバを歩いてはったそうやないですか」
と、ファルファルロウがダメ押しの一言。
「違うッつーの ! ・・・・・・あ、いや、歩いてたのは本当だけどよ・・・いや、だから、誤解
招く言い方すんなっ !! 」
場の緊張感が急速に損なわれていき、周囲を固めるウィザードたちの中には、この
寸劇に失笑し始めるものも出る始末である。
「俺たち、帰ってもいいんじゃないか ? 」「下がる男に関わると俺たちまでネタにされる
ぜ」「世界の危機かと思ったらただの痴話喧嘩じゃねーのか」等々。
「う・・・う・・・・うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ !? 」
きびすを返して走り出す様はまさしく脱兎のごとく。
「あ、コラ ! 逃げるな、ひーらぎーーーーーッ !! 」
くれはが怒りと嫉妬のない混ぜになった怒声を上げる。
美少女ウィザードと美少女魔王の混成軍から逃れ得た柊の脚力は、まさしく超人的
と言えるものだった。
「あーーーっ !? このパールちゃんから逃げるなんてどういうことよーーーッ !? 」
「・・・手に入れてみせる・・・汝はわらわのもの・・・・ !! 」
「追いかけっこ、ボクは苦手なんだけどな。でも、逃がしはしないよ ? 」
三人の魔王が同時に地を蹴った。アスファルトが柔土のようにひしゃげ、壮絶な地
鳴りが秋葉原の街を揺れに揺らす。その背中を見送りながら、くれはが「バカひーら
ぎ・・・」と呟き、アンゼロットが集められたウィザードたちに向かって、パンパンと手を
鳴らしながら、「はいはい、撤収撤収。あとのことは柊さんに任せて帰りましょう」と追
い返す。月衣にガンナーズブルームを格納した灯が、「・・・茶番」と呟くと、波が引くよ
うにウィザードたちが帰還を開始し始めた・・・・・・。
※※※
走る。逃げる。角を曲がり、塀を乗り越え、跳び、また走る。
逃げる男の名は柊蓮司。
秋葉原の街を、三人の美少女魔王の愛の告白から逃れるべく失踪する、罪作りな
男であった。
どこへ逃げるべきかも、わかってはいない。すべてが誤解のもとに巻き起こされた悲
喜劇である。
「くっそ〜・・・なんだってんだ・・・ちくしょう〜・・・」
走りながら愚痴をこぼす。なんの因果でこんな目に・・・と我が身の運命を呪うしかな
い。はたから見れば、美少女たちに追いかけられてなんてもったいない、と言われる
かもしれないが、それを僥倖と感じる節操のなさとは無縁の男でもある。
《あははっ、お愉しみかしら柊蓮司 ? 》
耳元で、“あの”声がする。柊にとってもっとも馴染みの深い、あの魔王の声が。
「ベル !? まさかこの騒動の原因はお前か !? ・・・ってゆーか、どこにいやがる !? 」
立ち止まり、周囲を見回す。
すると、ぶーーーん・・・と、蟲の羽音がして、柊の目の前を蠅が一匹。
まるで蠅をモチーフにしたキャラクター商品のように、ファンシーなデザイン。
大きさは手のひらサイズで、羽根には髑髏をかたどった紋章があしらわれている。
大魔王ベール=ゼファーの魂の欠片、“悪魔の蠅“と呼ばれる魔導具である。
この蠅が知覚するものはベルも知覚することができるとされ、絶好の監視道具として
彼女が好んで使うアイテムであった。
「おい、ベル !! どうせお前がなんかやらかしたんだろうッ !? 白状しやがれッ !! 」
《失礼ね。柊蓮司に現し身を滅ぼされたおかげで、裏界の宮殿で静養中の私に、いっ
たいなにができるって言うのよ》
「嘘つけッ ! このタイミングでお前が現れたってことは、お前が後ろで糸引いてるんだ
ろーがッ!? 」
根拠こそないがその確信はある。
この一件、黒幕はベール=ゼファーである、と。
《・・・私、なにもしてないわよ》
「・・・・・・本当か ? 」
《ただ、帰る途中で、“大魔王すら篭絡できなかった柊蓮司を落とすものがいたら、そ
れはベール=ゼファーですら成しえなかった偉業を遂げた実力者と認められる”って
噂を裏界中にばらまいただけよ ? 》
「やっぱりお前じゃねえかーーーーーーーッ !! 」
秋葉原の街中に柊の声が木霊する。
結果として、ベルの流した噂がこの事態を引き起こした。
本気で柊を篭絡しようとするものもいれば、事態をただ愉しむために参戦した魔王も
いるだろう。どっちにしても、柊蓮司にとってはただただ迷惑なだけの話。
「お前、こんなくだらねぇことよくもしてくれやがって、どういうつもりだよッ !? 」
《・・・時間稼ぎよ。私がファー・ジ・アースに再び干渉できるようになるまでの、ね。直
接、世界に危機は迫ることはないでしょうけど、これだけの魔王が出現すれば、少な
からず世界結界にほころびが生じる。・・・常識と言う壁に出現を阻まれていた、力の
弱いエミュレイターたちにも、現世に現れるチャンス・・・ってわけ》
大魔王の声音。自らの遠大な計画の一端を語る、世界の敵の表情が垣間見えた。
けっして、柊蓮司には自分の胸の内を悟られないようにしよう、とベルは思う。
柊蓮司にとっては強大な敵であり、ゲームの好敵手であり続けなければならないか
ら。そのためには・・・柊蓮司にもっと私を見続けさせるには、私は常に大魔王でいな
ければならないのだ、と。
案の定、さっきまでコミカルだった柊の表情が、“歴戦のウィザード”の顔になる。
「ベル・・・お前、またなんか企んでるな・・・ ? 」
《さあ、なにかしらね・・・ ? でも、柊蓮司。ここで私とお喋りしてる余裕なんてあるのか
しら・・・ ? 》
背後から破壊音が迫る。数は三つ。足音と言うには大きすぎる、魔王たちの接近の
印であった。
「く・・・・もう追いついてきやがったッ !? おい、ベル !! 今度会ったら覚えとけよ !? 」
捨て台詞を残して走り去る柊を、悪魔の蠅は追いかけることはしなかった。
続けて風のように、三つのの影が通り過ぎる。魔王たちは、ちっぽけな蠅の姿など
一顧だにしなかった・・・
※※※
裏界では、大魔王ベール=ゼファーが魔法のコンパクトを静かに閉じていた。
あの魔王たちに、柊蓮司を篭絡することは不可能と確信していたからこそ、これ以
上の観劇は無駄だと思ったのであろうか。
自分の椅子に戻るベルの姿を横目で見ながら、リオン=グンタが尋ねる。
「もう・・・よろしいのですか・・・大魔王ベル・・・ ? 」
「いいのよ。どうせあの娘たちには無理だってわかってるもの。アンタの書物にもそう
書いてあるんでしょ ? 」
つまらなそうに欠伸をしたベルが、腰掛けた椅子に座ると静かに目を閉じる。
「少し・・・休むわ・・・・・・」
「お休みなさい・・・大魔王ベル・・・」
声をかけるまでもなく、静かな寝息が聞こえてきた。
リオンは思う。
ベルは、気づいていないのだろうか、と。
世界を手中にするための彼女のゲームに、いつしかもうひとつの動機が加わってい
ることに。
(世界争奪の計画をいくつも思い描きながら、そのアイデアをいつも私に、嬉しそうに
話す時の貴女は・・・)
まるで、デートコースを一生懸命選ぶ少女のようですよ・・・と。
決して口にはできない言葉をリオンは飲み込んだ。
デートの舞台はファー・ジ・アースのすべてであり、その趣向を凝らしたデートに付き
あわされる柊蓮司には同情を禁じ得ない。
「新しいゲームを・・・思いついたのよ・・・」
振り返るリオンが微かな苦笑を漏らした。どうやら寝言のようだ。夢の中でも、ベル
は次の「デート」の準備に余念がないようで。
「よい夢を・・・大魔王ベル・・・」
大魔王の寝顔が、いかにも愉しげな微笑の形を造り上げていた・・・・・・。
(GAME OVER)
・・・・・・長らくのお付き合い有難うございました。
今までより、エピローグは実験的にドタバタを狙ったのですが、狙い通りかどうかは
まあ皆様のご判断しだいということで。
ご指摘あったように、今回の一番の課題は「柊とベルを、肉体交渉なしでどうやって
Hさせるか」というところにありました。さんざん柊×くれはを書いておいて、いまさら柊
に浮気はさせられませんので(笑)。
だから、
>>98さまには申し訳ないんですが、二人にはソフトなキスしか許してあげま
せんでした、ごめんなさい(笑)。
また別の機会がありましたら。
ではでは。
お美事、お美事にござります……!
うん、やっぱ浮気はむりだったかw
柊の環境がさらに混沌にw
うまい具合に終わらすのはすごいね
すごくおもしろかった
次の機会をまってるぜ!
パールがベルの鼻を明かすために参加、カイムンが面白半分に介入として、モーリーが読めんな…w
とにかくグッジョブ!
モーリー=グレイ→地上の宝に興味を示したときに現れる(ロンギヌスに書いてあった)→柊を地上でも価値ある宝(男性)と吹き込まれた→参戦・・・か?
モーリー「珍宝という宝g(ry
カミーユ?なんだ、魔王か
>>148 出自が古代神ではないカミーユが魔王で、なんで悪いんだ! カミーユは魔王だよ!
そして、魔王軍団から逃げ延びたと思ったら、リオンに犯られてしまう柊
最高のニュータイプを馬鹿にするな!
さ、策謀はよくない
カミーユの天敵は竜使いのウォン・リーさんかw
>154
社長自重しろw
そういや社長がGFコンのトークで「NWアニメの関連商品はすべて自費で買ってるが娘の手前さすがに抱き枕は無理だった」と苦笑してたなぁ
社長久しぶりの人間だなw
>156
そして会社の仮眠室に
久しぶりでもなんでもない
うおおおおおおおおお、面白い
ベル様サイコー!
SEXが卑小に思える全身全霊でぶつかり合う、素晴らしい愛の形でございました
次回作も期待させていただきます
保守
保守。たまに魂抜けるよなこのスレw
今はSWが人気。
希望コンも出たし、これで少しは戻ってくると嬉しいな。
性格的にも肉体的にも子供と大人の境界に居る雷火とか、
明らかに生んだ子供(=りゅういっちゃん、虎吾郎)より若いママンとか、
手を出そうと思った瞬間ペド扱い確定のブラウニー兄妹とか、
りゅういっちゃんをおもちゃにする(性的な意味で)無数の神戸屋るんとか…
かなりこのスレ的には美味しい部分が多いリプレイだったなぁ。
女神転生のナイト・テイルも負けてないぜ。
表紙絵からして14歳僕ッ娘のスパッツ、挿絵に入浴シーンとか、CHARMされたお姉さんが裸で迫る絵とか。
今回のリプレイは悪魔キャラのまとまりが良かったりして、かなり好印象。
女神の転生キャラは良いな。
古代はいいキャラだよな。何気にたくましい上に表紙では食い込みスパッツだし、裏表紙でも脱いでるし。
マニラから日本まで来るための生活費を春を売りながら稼いでた、とか妄想してしまったぜ。
ガマのピョン吉さんに認められるための試練として
両生類のぬめぬめとした舌で身体をなぶられる雷火
《倍加の法》を使用していたかどうかは諸兄の想像にお任せしよう
かなたとるんにおもちゃにされるりゅういっちゃん
>>167 詳しく聞こうじゃあないか…ッ!【ズボンをおろしながら】
アーッ!?
何をしてるんだ逢魔刻壱!
理由はともかく全年令本の仕事おめでとうー!
俺今日はじめてこのスレの存在を知った
SWスレは前から知ってたが……
保管庫行ってあまりのマイナー作品の充実ぶりにビビったわ
しかもなにげに良作多いし!
自分のネタが保管されていてふいた
投下後に誤字や文字抜けに気付いたものの
保管されないしいいかと流してましたが
保管されてるならと誤字とかいじってしまいました
先に訊いてからいじるべきだったでしょうか?
wikiってのはそーゆーもんだ。
文句を言う前に手を動かせ、ってな。
倍化の法の反動で、通常の成長では大人の身体になれなくなった雷火を夢想した
>>176 ふむ、そうすると体力や精気がいつもより多く抜けて行くので
外部からの注入が不可欠と申したか。
そして、りゅういっちゃんを巡る骨肉の争いが……?
るんやかなたの魔の手から逃れるために雷火とつき合うりゅういっちゃんとな?
雷火「それがしは色事ははじめて故、手解きを願いたい(真顔)」
「聞けば、世に不良と呼ばれる人々は、色事に慣れているとの事。
不良の中の不良と呼ばれる貴方ならば、間違いはなかろうとの
それがしの判断。一手ご教授願えぬか」
るんとかなたが竜一郎を満足させる(性的な意味で)為に、
雷火をくのいちだと思い込んで、事情をあまり説明せずに手ほどきを受けに行き、
そういった知識は全くない雷火が何とかしようと逆に竜一郎に指南を請い、
最終的には4Pにもつれ込んで竜一郎が干からびるわけですね、わかります。
>>181 私には分からないので120行ぐらいで詳しく説明して下さい。
945 名前:イラストに騙された名無しさん 投稿日:2008/06/01(日) 10:13:39 ID:VbiU0pLg
小学校に戸惑う雷火萌え。
いつも一人でいる雷火を気にかけて、(雷火本人がウザがってるのにも気付かず)
こまめに声をかけて遊びに誘う同級生とか出てこないかな。
946 名前:イラストに騙された名無しさん 投稿日:2008/06/01(日) 10:40:35 ID:EdHwn7aI
>>945 サンプルサマナーですね!
947 名前:イラストに騙された名無しさん 投稿日:2008/06/01(日) 12:24:04 ID:VbiU0pLg
やんちゃなサマナー坊主(まだ覚醒前)は、いつも一人な雷火が苛められてると思い込んで、
「俺が守ってやるよ!」とか言っちゃってなにかと構うけど空振りで、でも全然めげなくて、
ある日サマナーが事件に巻き込まれて覚醒したがピンチになってしまい、しかしその時に
雷火が乱入して助けていろいろと真実を知り、苛められっ子だと思っていた雷火が
一般人にはない力に目覚めた自分よりもずっとずっと強い事も知るんだけど、
でも「男は女を守るもんだ!」とか意地になっちゃって、自分よりもよわっちいくせに
自分を守ろうと頑張るサマナーの姿に呆れつつも心のどこかでまんざらでもない雷火、
こうですか、わかりません!
948 名前:イラストに騙された名無しさん 投稿日:2008/06/01(日) 12:27:12 ID:3/QJ9zSB
>947
大人雷火にどぎまぎして少年の態度がかたくなりそれが原因で窮地に陥る二人
まで読んだ
【奈落に堕ちながら】
職人様、実現プリーズ。
「そうですか、普段のそれがしではサマナー殿のお眼鏡にはかなわぬと」
とかEDでいってサマナー君を困らせてる雷火が浮かんだ。
だがそこしか浮かばない。
ところで話は変わるが、モトネタ的にもトラ兄ちゃんのナニはやっぱりデカいんだろうか?
>183
サマナーの、ナニが硬くなったと?
前屈みにもなるわな
で、その事に雷火は気づかないもんだから、
そりゃぎくしゃくして連携もとれず窮地に陥るわな。
密かに茉莉のうなじや脇やその他諸々を忍の業で眺める雷火まで読んだ。
雷火は冷静に見えてその手のことには大胆と見た。
あと、OVER DRIVEの壁紙灯でおっきしたw
あのあかりんは良かった
>189
全く同意w
…ところで全く関係ないんだけどきっと倍化の術使っても服はいつものサイズのままだよな。
間近で見てる同級生の男子がどんなリアクションしても不思議じゃ無いぜ。
つーか、倍化の術を使った時の挿絵がさ……なんというかこう
ギリギリじゃないですかね、腰周り
成長した肉体の未知なる感覚に翻弄され、あえなく達してしまう雷火と申したか!
「それがし・・・子供だというのに・・・大人の身体で・・・気をヤってしまうっ・・・!(ビクッビクッ)」
と、夜な夜な自慰が癖になってしまった雷火と申したか!
ええい、たまらん!
【馬鹿は身勝手な妄想に悶え狂った】
サンプルサマナー×雷火か…
確かにいい組み合わせだ……
きっといつも一緒にいるから、からかいの対象になるね
そこにサンプルマシンヘッドの小さき戦友を混ぜたら面白いことになりそうな気がするのは俺だけか?
ゆめこん読了
宮沢家には三人の疲れ切った男女………。
茉莉、恵、そして竜一郎は夜を徹して………。
………ゴクリ。
家族麻雀に明け暮れた。
ハコにされるのは勿論りゅういっちゃん
そして家族団欒の席に、何故か聞こえる「るん」という謎のセリフ。
茉莉はいまいちエロネタが浮かばないんだよなー
恵と百合しかないか?
むしろなぜ恵×茉莉がないのかと
腕枕やばいよ百合過ぎる
茉莉で男女カプだと、ディーンかミハエルかな
つーか、どっちも茉莉の前から姿消してるし、何気に男運が悪いのか?
ジャンガリアン・キッドが服の中をはいずり回ってもう大変というのはどうだろう
それはぽぽるちゃ氏のイラストが
健康的な魅力に満ちている所為だ!
と無駄に力説してみるテスト。
実は茉莉に悪い虫をつけないために男は皆親父が追っ払ってる
しかし百合にまでは気づけない親父
恵のぽわーんな性格に隠された邪悪な牙にかかり、茉莉は堕ちていくのだった
まで妄想した
何故か虎吾朗×竜一郎本とゆー言霊が…
パパ×茉莉だろjk……
>>
茉莉とつきあうには、バトルマスターをなんとかしなきゃならんてーのが凄いな。
宮沢家といえば、表裏の街を読んで宮沢母ことあざみさんと祥吾の昔の話が
読みたくなったのは俺だけだろうか……
茉莉といえば星を継がないもので柊と競演してたな
嘉神とファム(+代替ボディフランoeケイ)ってのはすぐに浮かぶんだがなあ。
ジョシコーセーして色々な知識だけ身につけたファムが、積極的に実践へと踏み込むのですよ。
つかファムと嘉神の関係、他人から見たら絶対誤解されるよなあw
柊もシャードが錆びてたなw
そして天がパパw
絵師曰く、雷火の服はのびーる素材で出来ているらしいな。
なんだと…
倍化の術でパンツが破れて実は戦闘中ノーパンで過ごしてたんじゃないかという
俺の妄想は一体何処へ…
なるほど。
上着の丈と胴回りはそれでよかろうが、
スカートの丈は伸びないな。
素晴らしい。
恐ろしい……これがジュライを萌えキャラにした絵師の力か(ゴクリ)
ライカちゃんライカちゃん♪
ルルブ買って以来まったく読んでなかったが、
サンプルサマナーの所だけでも読んでくるか。
>>209 きっと二人は幼馴染だったんじゃないかと思うんだ。
そして覚醒前の祥吾は、他の男子にからかわれたり、
迷子の子猫を拾ってきて困ってるあざみを
助けたりしてたと思うんだ。
そして高校くらいでクエスターに覚醒するときも、
あざみがらみの事件でだったんじゃないかと思うんだ。
こりゃもう結婚するしかねーだろ、っていう流れだったんだと思うんだ。
という希望。
>>216 志村〜違う人違う人〜
逆にエロくね?
>213-214
なるほど。つまり倍化中は今にも弾けそうなぴちぴち状態で、ブラとか当然つけてないだろうから先(神木刀直撃)
その状態でサンプルサマナーと密着しちゃって…
奈落に囲まれた二人。
背中合わせでお互いの死角をカバーできるように、雷火はサマナー君とピッタリ身体を合わせる。
「それがしから離れないように。二人とも、背中に目はないのだから」
厳しい声で注意をうながす。
でも、マナー君はそれどころではない。
(なんだよこいつ・・・大人になったら、背も高くなって・・・
き・・・キレイになっちまって・・・背中合わせっていったって、
背中にあたってるの・・・こいつの・・・お・・・お尻じゃんか・・・
すげぇ・・・柔らかい・・・)
こうですね!(誰かSSぷりーず!)
通常で初々しい小学生カップル、倍加の術で姉ショタ……
自分も大人になれば雷火と釣り合うんじゃないかと思って、雷火の忍者丸をこっそり飲んだら、
股間だけ大人になってしまったサマナー
鋼鉄の勇者の小さき戦友って、実はボクっ娘だったりしないかなぁ?
とりあえず投下です。
雷火×サンプルサマナーです。
導入部ですのでエロまで行きません。
というか、エロまで果てしなく遠いので、
最後までやりきれるかどうか・・・ガンバレ☆俺!
では投下します。
>>227 キタ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(゚∀゚)゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*!!!
「はぁ……」
普段背負っているコントラバスケースと比べ、それが伝えてくる重さは
あまりにも頼りなく、軽い。
「……確かに、おじい様の仰る事もわかるが……」
小学校。
その難敵を前に、頼れる数多の武具の、その一切を家に置き、代わりに
ランドセルを背負った雷火は、いつも以上に周囲の気配に気を配りながら、
学校へ向かう道を歩いていた。
無論、戦いに行くわけではないのだから、武具は必要ない。
コントラバスケースを背負って学校へ行こうとした自分を止め、置いていくように
命じた頭領の言葉も、理解はできた。いくらそりが合わないとは言え、クラスメイトに
太刀を投げつける必要が生じる事態など、ありえないし、小学校の周辺は、未だ奈落や
クリーチャーの気配すら察知されていない、至極平穏な、ごくごく普通の街なのだから。
「はぁ……」
それでも……試練であり、ある種“戦い”でもあるこの道行きに、ほぼ徒手空拳で
臨まねばならないという事実が、雷火の心を重く沈めていた。普段はつかないため息を
度々ついているのはそのためだ。
物心つくより前から、忍びとしての心構えを説かれ、修練を積んできた雷火にとって、
五年間の通学経験を経て尚、小学校という場所は異境であった。その異境に、物心ついてより
常に側にあった武具無しで挑まねばならぬという不安。こればかりは、五年経っても拭いきれなかった。
頭領――祖父とのやり取りが、休み明けごとにいつも繰り返されるのは、そのせいである。
しかし、最近は特に――
「おう、服部おはよー!」
――特に、気が重い。
「……はぁ……」
「なんだよため息なんかついて? なやみごとがあるなら何でもオレに言えよ、服部!」
ため息の原因が、つまりは悩みの原因が呑気にそんな事を言っているのを
横目で見て、雷火はがっくりとうなだれた。
帽子を被った、歳相応の快活な笑みを浮かべた少年の姿が、そこにあった。
「……おはようございます、武田殿」
挨拶をされては返さないわけにもいかず、渋面のまま、雷火は応じた。
「おう、おはよー!」
今年になってクラスメイトになったこの少年――武田正一は、一般人と距離を置きたがる雷火を見て、
苛められて独りぼっちなのだとでも誤解しているらしく、事あるごとに雷火の事を構おうとするのだ。
そんな気遣いは、雷火にとっては鬱陶しい事この上ない。最初の内は、雷火は無視していた。
程なく飽きるか嫌気が差すかして、自分に構わなくなるだろう……そう考えて。
だが、武田少年は一向にその気配すら見せず、登下校時は無論、休み時間や放課後も、足しげく彼女の所に
通ってきては、とりとめもないよもやま話をしてくれる。今では、雷火は純粋な好意から彼がそうしてくれているのだと
いう事を、歳不相応な判断力で理解していた。最近は無下に扱う事はせず、とりとめの無い話に相槌を打つくらいの事は
するようになった。だが、彼の真心は、鬱陶しさを軽減こそすれ、消し去るには至らず、とはいえ邪険に扱うのも
はばかられるという良識も働き、以前よりも対応に苦慮する羽目になっていた。
結果、彼の存在は、ただでさえ小学校という難敵に挑むにあたり重くなっている雷火の気を、さらに重くして
しまっているのだった。
……当然ながら、歳相応の判断力しか持っていない彼は、その事に気付けるわけもないようで、
「それより聞いてくれよ、服部! この前レアカードが三枚も手に入ったんだぜー! しかも一枚は
ゴールドカードだっ!」
嬉しそうに、手に入れたらしい煌びやかなカードを見せてくれる。
彼は、そのカードゲーム――サモニング・モンスターという名で、サジッタ社製だ――がいたく
気にいっているらしく、話題の半分くらいはそれの話だった。
いつもは、そんな話にも適当に相槌を打ったりしている雷火だったが、今日は彼が差し出した
レアカード……黄金に輝くカードが目に止まり、それに視線を吸い寄せられた。
(サモニング・モンスターか……才能のある者が使えば、術に覚醒し、しかるべき後には
それがしの使う符と同じく、召喚の技を助ける道具となると聞くが……黄金の札は初めて見た)
黄金色に輝くカード……彼が力あるサマナーであれば、そのカードは彼の力を大きく引き出す効果を
発揮するのだろうという事を、雷火は知っている。だが……
「他にもこれだけあるんだぜ? サモモンでこんだけレアカード持ってる奴は、この辺りじゃオレくらいさ!」
嬉しそうに話す彼は、どう見ても一般人であった。
その事に、雷火は何故かホッとし、そして決意を新たにする。
――こんな風に、平穏に暮らしている人々を守るのが、自分の役割なのだ。
だが、祖父は『その為にこそ、小学校へは通え』という。
――わからない。小学校で他人と、それも全く力の無い他人と絆を結んでしまえば、それは奈落に
付け込まれる隙に……枷になるだけなのではないか? 彼は、彼のような普通の人間は、茉莉さんや恵さん、
竜一郎殿、虎吾郎殿のような、そして里の仲間達のような、戦う力を持つ人間ではないのに――
その疑問を祖父に問うてみた所、『おじいちゃん、ちょっと早く忍びとして仕込みすぎちゃったかなぁ……たはは』
と困ったような顔をして笑った後、『それを理解する為にも、学校にはちゃんと行くんじゃぞ』とはぐらかされた。
忍びとは、耐え忍ぶが故に忍び。だがしかし、この試練を忍ぶる事に、何か意味はあるのだろうか? 成長しろと
言われればする……その決意に偽りは無いが――雷火は、そんな事を考えながら、視線を宙に彷徨わせた。
蒼い空。この蒼を狙って、奈落やクリーチャーが大挙してこのガイアに押し寄せているとは、とても信じられない
くらいに、蒼く、穏やかな空が、そこには広がっていた。
「はぁ……」
知れず、雷火の口からは溜め息が漏れた。
雷火は、行動する事ですぐに結論が出るのではない類の問題は苦手だった。
それ故についたため息。だが、側にいた人間は、その溜め息の意味を誤解した。
「……なあ、オレの話ってつまんねえ?」
はたと気付けば、いつもの快活な笑みは何処かへと消え去り、真剣な目で雷火を見つめる武田少年の姿があった。
「あ、いや、違うのです、武田殿」
誤解された。そう瞬時に判断した雷火は、その誤解を解こうと言葉を発しようとして、
「えー、その……ですね」
言葉に詰まった。ぶっちゃけた話、彼の話が自分にとって興味を惹かれるものではなかった事は、紛れも無い
事実だったからだ。当然、必要とあらば誤魔化すことくらい――嘘をつくことくらいはできた。だが、その瞬間は、
大人との交渉の時にように、誤魔化しは、嘘は、口を吐いて出てこなかった。
彼を傷つけまいとして? 守るべき対象……日常そのものな存在だから?
それとも――
「んだよぉ! 詰まらないなら詰まらないって言ってくれていいんだぜ!?」
「あ……」
逡巡は一瞬だった。その間に、彼はその顔に笑みを取り戻していた。
「オレってガキだからさ、やっぱり服部みたいな落ち着いた奴にふさわしい話題っつうの? そういうのが
出てこないんだよなー。なんか自分の好きなことばっかり話しちまって……すまねー、服部」
だが……その笑顔はどこか固い。先までのような、ただ快活なだけの笑顔では、それはなかった。
言うなれば……哀しみを、悔しさを隠す為に笑っているような。
「それがしに謝ることは、何もありませんよ、武田殿」
「そっか?」
「それに、先程の話も必ずしも興味が全く無いというわけではありませんから。それがし、少々他所事を考えていた
故に、その事で溜め息をついてしまい、誤解を招いた模様……こちらの方こそ、誤解を招いた事、話を聞いて
いなかった事、伏してお詫びしたい次第」
「……あー、いまいち何言ってるのかわかんねえけど、お前の方こそ謝りたい、って事?」
「そういう事ですね」
「お前の方こそあやまる必要なんか何もねーじゃん。オレが勝手にしゃべってただけなんだし。
詰まんない話してたのはオレなんだからさ。まあ、今度までに、服部の好きそうな話、できるようになっとくから」
ああ、そうか――雷火は気付いた。
彼が哀しみや悔しさは、全て彼自身に向けられているのだという事に。
そして、それを表に出そうとする事なく、自分に心配させまいと、気を遣わせまいと、あえて笑顔でいるのだと。
「……あなたは、強いのですね」
人の印象というのは、場合によってはこれ程までに一瞬で変わるのかと、雷火は内心驚いていた。
彼が本気で自分のことを気にかけてくれているのだと思えるようになるまで、数ヶ月かかったというのに、
先程までのほんの数分のやり取りで、雷火の中で彼の評価は一気に上昇していた。
ただ自責に酔うだけではなく、自責せずに済むよう強くなろうと、そう思える強さを持っている。
「へ? 強いって……? よくわかんねーけど、まあ、サモモンなら誰にも負けねえ自信はあるなー」
「ふふっ……」
雷火は、彼の呑気な物言いに、思わず笑みを漏らしていた。
「……今度、それがしにその『サモモン』を教えていただけませんか?」
何となく……何となくだが、雷火は祖父の言っていた事の意味を掴みかけたような、そんな気がした。
何となく……何となくだが、ずっと抱いていた『日常に身を投じる意味』がわかりかけたような、そんな気がした。
「おお、いいぜっ! サイキョーデッキの組み方、バッチリ教えてやるよ!」
彼の笑顔を見ていると、その全てがつかめるような、そんな気がして……雷火も笑った。
少しだけ変化し始めた少女と少年の関係。
それが急激に変わるのは、それから一ヶ月と少し経った、秋も深まるある日の事だった。
-続く-
ここまで投下です。
やばい、やばいぞこれは……!
武田少年の快活さと健気さが尋常じゃない……!
ほんの少しだけデレてきた雷火も素敵だ!
惜しみないグッジョブを送りまくる!!
wktkしてきた
これは期待
>>232 職人さんが増えてくれるのは嬉しい限り ! 武田少年カワイイよ武田少年。
ぜひ最後まで頑張ってくれることを期待 ! ガンバレ☆君!
こ、これは…
中学生編とかも見てみたくなる出来だ……
GJ!
武田殿との付き合い方をどうしようかと悩んで、茉利たちに相談したら、
恋愛相談だと勘違いされて盛り上がるのについていけず戸惑う雷火キボン
とりあえず俺らはどうすればこの先を読めるんだ? わっふるか!? わっふる打ち込めばいいのか!?
わっふるわっふるわっふるわっふるわっふるわっふるわっふるわっふるわっふるわっふるわっふるわっふるわ(ry
もちつけw
ちょWWW雷火ネタマジで来てるWWWW
続きに期待しちゃいますよ〜
おおおおお職人様GJ!
これは次を全裸待機するしか…っ!
これはいい雷火だ。あと武田少年萌えw
ふと思ったんだが…こっちの話と倍化の法覚えたタイミングはどうなるんだろう。
……わざわざのびーる素材で色んな問題ガードしてるのは最初のうちにナニカ痛い目を見たからじゃないかと邪推してしまうw
武田少年いい子だ!
うむ、元気な少年と健気な少女がいれば世界は滅びたりしないね!
これは武田少年が重傷を負って、雷火の頭の中が真っ白になるフラグだな!
ぬお!? 皆が雷火かわいいよかわいいよ雷火言うからリプレイ買ってきてエロい話でも書こうと思ったら既に良作が投下されている!?
これは全裸で正座するしかないよかーん!
少年と少女の可愛い付き合いがたまらんハァハァw
続きを激しく希望ー!
そして俺は雷火との付き合い方をどうしようかと悩んで、クラスメイトの小さき戦友と
遊び友達のガイアの巫女(狐だと知らない)に相談したら、恋愛相談だと勘違いされて
からかわれまくって赤面しつつ、徐々に意識しちゃう武田少年を妄想しておく。
もちろんガイアの巫女×小さき戦友前提で。
しかし、一瞬で武田少年の名が定着したなw
すみません、連続投下になります。
私は希望コンは書店が売り切れで買えてなかったり(涙)。
るるぶもリプレイも買ってない俺だが、ちょっと欲しくなった
二人とも可愛いよ二人とも
/ / /
広間の奥には祭壇があり、一振りの剣が床を突き刺すように鎮座していた。
人の背丈ほどもある巨大な両手剣。
剣の中心で、意思と魔力を宿した邪眼の宝珠が鈍い光を放っている。
祭壇の端には横たわる人影が一つ。
剣の柄尻から伸びた飾り紐に絡め取られ、昏睡するクリスを一瞥しガーベラが名乗った。
「薔薇の巫女の騎士ガーベラ、ただ今到着した。人質を放して貰おう」
<その人間たちは何だ? ここに来るのは、汝一人という話ではなかったか?>
「この三人は……」
言いよどむガーベラを遮って、レントがイビルソードに告げる。
「我々は人質の仲間であり、薔薇の武具の正統な所有者を擁している。我々を抜きにして勝手
にカラドボルグを扱われては困る」
<……ほう、では汝らもまた薔薇の巫女ゆかりの者だと?>
「いかにも」
詭弁だと自覚しながらレントが答える。
<だとしたら構わぬ。騎士同様、我と切り結ぶ覚悟があれば相手しよう。無ければ早急にこの
場を立ち去れ>
「元よりそのつもりだ」
<承知した。ならば先ずは人質を解放しよう>
飾り紐の拘束を解かれ、クリスの身が床に横たわる。
臆することなくガーベラが進み出て、意識の無い夫の身を抱きかかえて頬を寄せた。
「……あなた、目を覚まして下さい。あなた……」
妻の呼びかけにクリスの目蓋が薄く開く。
「……私は一体……?」
「安心して下さい。みんなで迎えに来ました」
「みんな?」
妻の肩越しに仲間の姿を確認して、クリスの顔に理解の色が広がっていく。
「あの魔物は……倒したのか?」
「イビルソードと戦うのは、これからです」
そうか、と呟いてクリスが起き上がろうとし、それをガーベラが手を添えて助けた。
「分かっているかもしれないが、あいつは恐ろしく強いぞ」
「ええ、その通りです。相手は攻撃力が高く、一撃に耐えられるのは恐らくあたしたちだけで
しょう。加えて範囲攻撃で二撃分になる為、あなたも《カバーリング》は行えない。
幸い至近攻撃の手段しか無いようです。だから、あたしが先頭で足止めになります」
「それは歯痒いな」
「でしたら、少しの間あたしの手を握って下さい」
言われるままに、クリスが手袋を取ってガーベラの右手を包む。緊張の為か妻の手は冷たく、
直ぐに夫の体温が移り始めた。
「この温もりを守ると思えば、あたしは怖れずに戦えます」
微笑むガーベラの額に、そっとクリスが唇を寄せる。
妻に対する神の加護を祈る夫の囁きを耳に、ガーベラは瞳を閉じて温もりを右手に刻んだ。
まるで左手にある薔薇の刻印と対を成すように。
そして二人は離れ、ガーベラは右手で剣を掴んだ。
カラドボルグを鞘から引き抜き、相手を見据えながら静かに告げる。
「……待たせたな。では、始めよう――――イビルソード」
※
戦闘の火蓋が切って落とされる。
ガーベラをその場に残し、ギルドスキル《陣形》を用いて四人がイビルソードと接戦しない
20mの距離に散開を終えた。
ガーベラが《二回行動》で《ファストセット》を使用。《エンハンスブレス:水》と《エイル
フォーム》の準備を終え、イビルソードを遮るようにノエルたちとの中間地点に移動する。
続いてレントが《ウィークポイント》を使用し、全員の攻撃力を上昇させた。
戦術指揮官のレントがクリスに声を掛ける。
「試したいことがある。ガーベラが攻撃されたら、私が《サモン・アラクネ》を唱える。その
後に《プロテクション》をかけて欲しい」
「あの魔物は魔術を阻害するぞ」
「分かっている。だからこそだ」
スキルによる先手を終え、戦いは基本速度の高い順番となる。
イビルソードの行動速度は、魔族ムルムルを討った話から相当なものだと予想済みだ。
ガーベラが神経を研ぎ澄ませた。
達人クラスに達すると、剣は読みとイメージによる無意識の領域を得る。
相手と手を合わせずとも剣戟や勝敗が想像の域で再現され、時には自分の影と対峙すること
で己の弱点を知って克服を果たす。
東方のサムライや僧侶が修行で行う禅観とは、この境地を目指したものである。
言い換えれば達人は予知に匹敵する戦闘イメージの直感を持ち、真に極めた者は自分の戦闘
イメージに沿わせるように戦場の流れを支配する。
しかし大小を問わねば、それは生きているもの全てが持っている能力なのだ。
一瞬の予感で、危険を回避する防衛本能。
獣の直感、個体の優劣の判断、人間の想像力、虫の知らせ、リアルな死への恐怖など。
野生の獣は知る。確実な死を目前にした際、取るべき行動は“逃げる”ことなのだと。
だから“逃げられない”戦闘に於いて、敗死という暗黒の中に人は探し求める。
絶対という言葉なき証明たる、奇跡という星の輝きを。
それを東方の言葉では、死中に活を求めると云う。
死を携えて巨大な剣が飛来する。
文字通り切り裂くような速さで、ガーベラを目がけて剣線が走った。
ガーベラの回避は高くない。コートの左肩を裂かれ、血飛沫が白い頬にかかる。
「《サモン・アラクネ》!」
レントに召喚された“小さき蟲の王”アラクネの糸がガーベラを中心に広がった。
だが、放射線状に展開する加護の糸を、巨剣の飾り紐が魔封じの効力を発揮して切り裂く。
飾り紐に触れた糸は溶けるように消え、残った糸はガーベラの左右で地に落ちて霧散した。
「《プロテクション》っ!!」
続けて、指示通りにクリスが不可視の盾を張った。
神の加護は効果を発揮。イビルソードの刃先は勢いを阻まれ、致命傷には至らない。
「やはりそうか」
「どういうことだ?」
訳の分からないクリスが、一人納得するレントに尋ねる。
「魔術の消失や阻害はそう簡単な行為ではない。魔術の発動と同様、それなりの準備や集中を
要するものであり、矢継ぎ早に連続して行える業ではないのだ。
その間隔は一分間ほどの短い時間と予想するが、その間に二種類以上の魔術を放てば、片方
は打ち消されずに通る」
「成るほど、そういうことか!」
「それにもう一つ、アラクネの糸を見ていて気づいたことがある。奴は魔封じの飾り紐が届か
ない範囲の魔術を打ち消すことは出来ない。イビルソード自身とその周囲にいる者以外になら
ば魔術の影響を及ぼせる。つまり奴の刃の届く範囲から離脱すれば、回復や補助の魔術をかけ
ることも可能だ」
「分かった。ガーベラが回復で引く間に、入れ替わりで私が壁になればいいんだな?」
「その通りだ」
レントがブーストロッドを構え、新たな指示を飛ばす。
「ガーベラとエイプリルは待機を! 私が先に攻撃をし、エイプリル、ガーベラの順で!」
「レントさん、あたしは!?」
ノエルの問いかけにレントが微笑する。
「継承者殿はしばらく静観をお願いします。あなたの出番は……」
レントの周囲に水の精霊力が集い始め、増幅の杖が威力の後押しをする。
「ガーベラが魔剣の能力を使い切るか、倒れた後になります」
言葉と共に放たれた無数の氷の槍。
《ギフト》とフェイトで命中を高め、《マジックフォージ》で効果を高めた魔術は、レント
最大の攻撃であった。
攻撃の手は休まない。
氷煙と霜をまとうイビルソードの背後で、赤い飛礫が乾いた音を立てて床を転がった。
それはエイプリルが投擲したバーストルビー。
瞬間、周囲に巻き起こる爆発。
巻き込まれたガーベラには、クリスから《プロテクション》が飛んだ。
先ほどのレントの攻撃でイビルソードは《属性吸収》が起動して水属性となり、対抗属性で
ある火の魔法ダメージに対しては、魔法防御力が裸同然となっている。
ここでエイプリルもまた全力を込めた。
命中を確認すると射撃攻撃の切り札《ブルズアイ》を発動し、更にフェイトも使用する。
再び《属性吸収》が起動して、今度は火属性を宿すイビルソード。
もちろん、続くガーベラの攻撃もまた対抗属性を狙ったものである。
「《スマッシュ》! そして《グランドバスター》っ!!」
武器に宿していた竜の吐息が開放される。
ダメージを追求した蒼い輝きの一撃は、イビルソードを痛烈に振り払った。
その後、クリスがガーベラに《ヒール》をかけて治療し、ノエルは待機したまま行動放棄。
初手の攻撃は、ガーベラ側がイビルソードを圧倒している様子で終わった。
※
二巡目もほぼ同じ流れであった。
違いといえば、イビルソードが《バーストスラッシュ》と《ストラグルラッシュ》のスキル
を発動したことだろう。
会心の一撃で相手の防御力無効をする前者と、連続攻撃を行い一撃目を命中させれば二撃目
のダメージを上昇させる後者の組み合わせは、文字通り必殺の威力を誇る。
《バーストスラッシュ》に対しては、レントが《ガーディアン》で完全防御を。
《ストラグルラッシュ》には、エイプリルが《インタラプト》で発動を阻害した。
二人が有する防御の切り札が早くも使用された訳である。
三巡目も流れは変わらない。
ただ終了した辺りから、停滞した空気が漂い始めた。
最初に気づいたのは、戦いを静観していたノエルである。
剣の形をした人造生物ということもあり、イビルソードはダメージの様子が掴みにくい。
ノエルもまた激戦を戦い抜いた戦士である。
彼女の素直な直感は、戦いの行く末にあるものを捉えていた。
切り札を使い果たしていく味方たち。
対抗属性を使った攻撃もエイプリルのバーストルビーが尽きればお終いであり、ガーベラと
レントの水属性が重なれば、逆に同属性に阻まれて魔法ダメージは半減する。
剣として生まれた出自から察するに、イビルソードの物理防御は高いだろう。
そうなれば決め手は自然と、全ての防御を無効とするカラドボルグの特殊能力になる。
その回数は、薔薇の刻印を持つガーベラとノエルを合わせて六回。
六回の攻撃を“全て”命中させ、イビルソードの生命力を削り取れるだろうか?
今もなおフェイトやスキルを用いて、命中に必死になっているのに?
ノエルの戦士の勘が胸騒ぎを大きくする。
あの敵はかつて戦った神竜よりも、倍に近い生命力を持つ気がするのは何故なのだろう?
それは優れた資質の芽生えであったが、彼女の直感は確かな形と成す根拠を得ない。
だから、その発芽は種から完全に姿を出すにまだ時間が掛かる。
一見すると善戦しているものの、後が無いことは戦術を指揮するレントも感じていた。
相手が三巡の間に繰り出したスキルを頭に刻み込む。
奇しくも相手が備えるスキルは、カラドボルグを持ったガーベラに近い。
成功すれば、防御力の無効化を発揮する《バーストスラッシュ》。
連続攻撃を可能とし、二撃目のダメージを増やす《ストラグルラッシュ》。
文字通り《ブランディッシュ》と同じ《範囲攻撃》。
移動に関しては《エイルフォーム》に匹敵する《飛行能力》。
筋力を攻撃に乗せる《ハイパーゲイン》に対し、ダメージ増強の《豪腕》。
これだけであれば、まだ対等条件とも言えた。
しかしイビルソードには、命中率を高める《変幻攻撃》と《バトルコンプリート》や、回避
行動を支援する《見切り》がある。
何よりも最悪なのは、《エンハンスブレス:水》の効果を阻害する《属性吸収》である。
基本性能にしても、生命力や攻撃力・防御力では相手に太刀打ちできない。
一騎打ちであったら、間違いなくガーベラは敗北していたに違いない。
やはり決定打になりそうなのは、魔剣カラドボルグの防御無視である。
神竜ゾハール戦では、薔薇の巫女ノイエの魔力や五つの武具の力で相手の能力を封じ込め、
ぎりぎりの瀬戸際で対処できた。
しかし今回は薔薇の武具は一つしかなく、ノイエの支援もない。
相手の生命力が尽きるか、自分たちが力尽きるのが先かの消耗戦。
不明瞭な展開に、パーティの司令塔は微かな苛立ちを覚えていた。
ガーベラの役目は攻撃と壁役を兼ねている。
彼女がイビルソードの進路を封鎖し、範囲攻撃の有効性を潰しているのだ。
だが、その背中は緊張で冷たい汗が流れていた。
相手の攻撃の速さでは、ガーベラでは完全に避けられない。
むしろ自分から当たりに行き、部位を選び、勢いを殺すことで致命傷を避けた対応をする、
文字通り身を削った死闘である。
また担い手の無い大剣というスタイルは、剣士にとって実にやりずらい代物だ。
優れた剣士は対峙した相手の視線や肩の動き、筋肉の張りや手の握りといった僅かな変化を
見抜いて、反射的に敵の攻撃の前後に合わせ行動する。
だが、イビルソードにはそういった予備動作がない。
加えて剣士が制限を受ける腕関節の可動域がない為に、刃の振るう攻撃範囲がほぼ全面的に
広がって避けづらいのだ。
例えば、袈裟斬りに振るわれた攻撃が逆袈裟の引き戻しではなく、瞬時に脳天への唐竹割り
や正面への突き、剣が振り抜かれた逆方向からの横薙ぎなど、自在に変化するのである。
相手が有利なのは攻撃だけではない。
剣士同士の対戦では、お互いに人体という大きな的を抱えている訳だが、相手が剣そのもの
ともなると極端に攻撃範囲が狭まる。
横に平らな構造上、水平になれば相手は線の防御となるのである。
対照的に面を晒すガーベラでは、攻めにくく守り難い状態であった。
予想以上に相手の一挙一動に集中力を強いられる。
そんな状況にある彼女が、相手の意図に気づかなかったのは仕方が無い。
四巡目でイビルソードが待機状態に入った時、ガーベラは相手が守りに入ったと思った。
レントやエイプリルが攻撃を加えても、イビルソードは動こうとしない。
ガーベラの手順になり、彼女は迷いつつ《グランドバスター》の一撃を与えた。
繰り返し《二回行動》の《ファストセット》で付与された吐息の魔力が開放され、周囲に竜
の咆哮にも似た轟音と蒼い閃光が走る。
その目眩まし効果に合わせて、クリスがガーベラに《ヒール》を飛ばした。
隙を突いた狙い通り《魔力消失》の妨害は起こらない。
しかし、目眩まし効果を受けていたのは攻撃手も同じであった。
ガーベラは手応えに反して相手の姿を見失っている。
「ガーベラさん、上っ!」
ノイエの声に反応して、ガーベラが視線を上に向けた。
飛行するイビルソードの後を追おうとして、彼女は相手の意図に気づき唇を噛んだ。
飛行状態の者に接近して封鎖するには、自身も飛行状態でなければならない。
ガーベラの《エイルフォーム》は《エンハンスブレス》効果中のみ発動するスキルである。
《グランドバスター》で竜の吐息を開放し《エンハンスブレス》の効力を失った今の彼女には
飛行の能力は使用できず、イビルソードは易々と白兵攻撃域を離脱できる。
つまり相手はパターン化したガーベラの攻撃を待っていたのである。
「司令塔を先に潰すのは定石だな」
宙を移動して自身に迫るイビルソードを見据えながら、レントが冷たく皮肉げに呟く。
だが、そっと傍らに移動を済ませた人影に気づき、彼は冷静さを奪われた。
「そうはさせませんっ……!」
イビルソードの意図を先読みし、先に待機を解除していたノエルである。
「駄目だ。ここから離れて!」
レントが叫ぶが間に合わない。
ノエルは兎も角、自身の体力では《プロテクション》と《サモン・アラクネ》の援護を得た
としても攻撃に耐えられない。
そして二人とも生命の呪符を持つが、五巡目は《二回行動》のガーベラを除きイビルソード
から攻撃が始まり、自動的に詰んだ状態となってしまう。
行動済みで無ければ、彼は迷わずノイエをかばったに違いない。
一瞬ノエルに《エンカレッジ》を使用させ、それを実行する案も浮かんだが、切り札スキル
を使うには割が合わな過ぎだ。
ここは覚悟を決めよう。
クリスにノエルの方へ《プロテクション》を飛ばすよう指示を出し、着地したイビルソード
が範囲攻撃の刃を振るった瞬間、レントは《サモン・アラクネ》を唱えて倒れた。
直ぐに生命の呪符が効力を発揮し、僅かな体力でレントが起き上がる。
傍らを見れば、ノエルが深いダメージを負いながらも先ほどの攻撃に耐え切っていた。
一つの魔術は打ち消されたものの、もう片方の防護魔術と持ち前の防御力が効果を発揮した
ようだ。
即座にレントがギルドスキル《蘇生》を進言し、傷ついた二人の体力が回復された。
突破され距離の開いたガーベラを除き、五巡目はイビルソードから攻撃が始まる。
既に《ガーディアン》を使い果たし、戦闘では一度きりの生命の呪符を使用したレントでは
半ば自動的に詰んだ状態なのだ。
フェイトを注ぎ込んだ《ヘイスト》を自分や他の者にかけ、イビルソードの行動に先んじる
作戦も考えたが、《魔力消失》で打ち消されては元も子もない。
結局レントが選んだのは、攻撃域からノエルを離す為に今度こそかばう手段であった。
ダメージソースとして有効なカラドボルグの使い手を減らす訳にはいかないのだ。
「後衛である私が、真っ先に戦線を離れるとはな……」
戦闘不能から蘇生をさせる《レイズ》をクリスが持つが、相手は《魔力消失》をそこに活用
するに違いない。加えて《レイズ》の使用には接近の距離を必要とする。
必中を授ける《フェイス:アーケンラーヴ》を使用しなかったのが心残りであるが、もはや
ここは仕方がない。
ガーベラが再び《エンハンスブレス》と《エイルフォーム》をまとい、イビルソードの元へ
近づく行動をレントが目配せで止めた。
余分に範囲攻撃を受ける必要はない。
刃の届かない位置で歩みを止めたガーベラに、後は頼んだと視線で告げる。
間髪いれず、宙に浮いたイビルソードが横薙ぎの構えから二人に襲いかかった。
「継承者殿、私が倒れたら刃の域から離脱して下さい」
「レントさんっ!?」
ノエルの前に立ち[かばう]行為に重なるように、レントの脳裏をやけにリアルな既視感
――おそらくは記憶回路に残る前任者のデータが浮かんで過ぎていく。
過去の幻で吐かれた幼竜のブレスに呼応する、現実で脇腹に走った灼熱感。
魔術師レントは戦闘不能となった。
※
五巡目は変動の節目となった。
レントの戦闘不能に加え、エイプリルの攻撃で五つのバーストルビーが尽きる為に対抗属性
を使った戦略が最後となった為である。
その関連で《属性吸収》により耐性を備えた同属性を避けるべく、ガーベラの《エンハンス
ブレス》の使用がためらわれ、その結果《エイルフォーム》が封じられる。
こうなっては56mの移動力を持ち、《飛行能力》で更に追加移動を得たイビルソードを封鎖
する術はなく、範囲攻撃を恐れ各々が離れて位置していたことが徒となった。
六巡目でエイプリルが襲われ、彼女もまた生命の呪符を使って行動済みとなる。
その後の攻撃も含め、ガーベラがカラドボルグの特殊能力を二度使用したが、相手が倒れる
気配はなく、その攻撃以外でイビルソードへダメージを与えることは出来なかった。
ノエルの攻撃は火花を飛ばし、相手が神竜の鱗に匹敵する装甲の持ち主だと知らしめる。
困難はそれだけではない。
レントを欠いた為、《魔力消失》を相殺する為に囮となる魔術枠が減っているのである。
《プロテクション》は兎も角、《ヒール》や《レイズ》の実行が難しい。
もはやパーティの壊滅は時間の問題であった。
再び襲われたエイプリルが戦闘不能になると、ガーベラは意を決して夫に視線を向ける。
妻の意思を読み取り、クリスは黙って頷きを返す。
心なしか彼女がほっとしたように見えたのは、クリスの見間違えではないだろう。
「……お願いがあります、ノエル様」
ガーベラの呼びかけにノエルが反応する。
「何ですか?」
「このままでは間違いなく全滅です。どうか地上に戻って援軍を呼んできて貰えませんか?
ここはあたしたち夫婦が足止めをします」
「駄目ですよ、そんなのっ!」
「私からもお願いします。元々は、私の招いたトラブルから始まったことだ」
「……クリスさん」
「急いで下さい。あたしたちも、そう長く持つ保証はありません」
逡巡するノエルの肩をガーベラが押す。
「分かりました。あたしが戻るまで、二人とも無事でいると約束ですよっ!」
夫婦が笑顔でノエルに応える。
エイプリルならこう思ったに違いない。
夫婦のそれは共犯者の笑みだと。
クリスが《カバーリング》の準備をしながら部屋の出口までノエルを護衛し、逆にガーベラは
剣を構えて中央まで進み出た。
ノエルが部屋を出ると、クリスは妻の元へ戻り寄り添うように並んだ。
その間、不思議とイビルソードの追撃は無い。
<……気が済んだか? 薔薇の巫女の守護者よ>
「その点は感謝する。あと出来れば自分が敗れた後は、他の者にとどめを刺さないで欲しい」
<確約は出来ぬが、一応は敗者の頼みとして尊重はしよう>
「私の分は数に入れなくていいからな」
二人の会話にクリスが割って入る。
その様子に地上でエイプリルと交わした会話が、ガーベラの記憶に蘇った。
『別にいいじゃねえか。夫婦は一心同体って言うだろう? クリスは甘い奴だからな。独り残
されるくらいなら、一緒に死んでくれるはずだ』
『縁起でもないことを言わないで下さい』
『相打ち狙いなんかしてみろ。間違いなく、あいつは身を挺してお前を庇うぞ』
あの時に感じた感情が、実際に直面して大きくなる。
不意に近づいて、ガーベラがクリスの頬に唇を寄せた。
「えっ……なっ、何っ!?」
「気にしないで下さい。ただの嫉妬心と独占欲です」
にこやかに笑う妻に、本気で夫が目を白黒させる。
普段クリスの知る妻は恥ずかしがって、公の場では余りこういう行為をしない性格だった。
しかし、目前の彼女には自棄になったような悲壮感は微塵も無い。
いみじくもエイプリルがガーベラ自身に対して指摘したように、美しく澄み切っていた。
その意味をクリスは未だ知らない。
こうしてノエルが結末を見ることは無く、求めた約束に対し笑顔を浮かべたばかりで、夫婦
が声に出して確約しなかったと気づいたのは後のことである。
増援を引き連れてノエルが戻った時、戦いは既に終わっていたのだから。
==========================================
今回は以上で。
毎回の免罪符の言葉ですが、Hパートは最後です。
当初の予定より少し伸びていますが、イビルソード戦の決着は次回で。
これでも量は削っており、エイプリルの銃撃戦や予定にあったジュライ(野生の火竜を連れ
ていたのは、属性攻撃の後続の為)、ヴァルの乱入(インタラプト要員)は除いています。
結局、最後に夫婦が残る展開は変わらないのですが。
それではまた次回に。
>>247 > しかし、一瞬で武田少年の名が定着したなw
こーゆーのは早いもの勝だからな
>>256 クリガベの人 GJ!
この戦いの後の行く末がすごく気になります><
そのうち苗字から名前で呼び合うイベントがあるな!
しかも雷火にとっては慣れない呼び捨てで!!
クリガベGJ!
詰み将棋のような緊迫感のあるせめぎあいが素晴らしい。
続編投下いつの間に !?
まったく油断ならないぜー !?
ガーベラ続編、私はアリアン基本ルルブしか持ってないので、
もし持ってたら楽しみ方が随分違ったんだろーなー、って少し
後悔したりして(笑)。
戦闘の緊迫感、只事じゃないっ !?
本当のテーブルトークの戦闘のような面白さがありますねー。
戦いの決着も、最後のHシーンも含めて続き待ってます !
・・・んで、流れを切って失礼。
ちょっと投下いたします。
元ネタ : NW
作品傾向 : ソフト百合(エロ成分微小・・・極小 ? )
キャラ : エリス×あかりん・時々柊・でもやっぱり×あかりん
新作でございます。
たとえば、こんな経験ってありますか ?
自分は全然変わったつもりがないのに、周りの人が自分を見る目が変わったり。
自分はいつも通りでいたいのに、状況がそれを許してくれなくて、環境だけが目まぐ
るしく変わってしまったり。
それは、人間だし成長もするし、時間が経つにつれて変化と無縁じゃいられなくなる
のは、私にだってよく判ってるんです。
でも。
変化するって、とっても怖いことだと思いませんか ?
たとえばそれは、いつもと違う他人。いつもと違う世界。そしていつの間にか変わっ
ていってしまう、なにもかも。
・・・・・・私、強くなんかないんです。
ぬるま湯っていったら言葉は悪いかもしれないけど、いつもと同じ私、いつもと同じ
みんな、いつもと同じ日常が、とても心地よくって。変わっちゃうのがすごくつらくって。
変化するってことは成長するっていうことで、それが大人になることなのは否定でき
ないけど、こんな弱音を吐いちゃうのは、私が甘えているだけなのかな・・・って。
私は、変わる事が怖いんです。
それは、かつて一度、私の世界のなにもかもがなくなっちゃった経験があるからか
もしれません。
私は、心の中の不安を隠しながら生きています。
それは、私の世界が一度なかったことにされたあの日から、実は今まで続いている
んです。みんなが、柊先輩が、私に新しい世界を、こんなにも素晴らしい世界を生きる
機会をくれた今でも、続いているんです。
・・・・・・これは、そんな弱い私の物語です。
※※※
《朝だよ〜起きて〜エリスちゃ〜ん》
もぞもぞとベッドのシーツから手を伸ばし、枕もとの目覚ましの電源をオフにする。
毎朝午前五時にセットされた目覚ましは、ボイス録音機能付きの、柊先輩とくれはさ
んからのプレゼントです。
私が改めて新しい生活をこのマンションからスタートすると決めたその日、お二人が
遊びに来てくれて、これを私にって、プレゼントしてくれました。
ホントは、お二人の声を録音するつもりだった、と言っていたのはくれはさん。
「ひーらぎったら、“恥ずかしいから俺はいい”、だって。ほんと、つまらないよね、ひー
らぎは〜」
あのときの柊先輩、つまらなくて悪かったな、と唇を尖らせてたっけ。
でも、先輩の声が入ってないのは、私もホントはちょっと残念だったんですよ ?
くれはさんの声で目覚めるたび、あのときのお二人の様子がとても楽しく思い出され
て、今朝も私、志宝エリスは健やかな目覚めを迎えました !
かすかに差し込む朝の光。今日一日、すごくいい天気の予感がします。
ベッドの上で、うーん、と身体を伸ばして起き上がり、寝室からキッチンへ。
朝食とお弁当の準備です。
「・・・えっと、卵にウィンナー、アスパラ、ベーコン、プレーンヨーグルトに、プチトマト、
と・・・」
冷蔵庫から思い思いの食材を幾つも並べて。
「・・・・・・・あ」
そこで、私は気づいてしまう。・・・時々、やっちゃうんですよね、いまだに。
「馬鹿だな・・・私・・・何人分のお弁当、作るつもりなんだろ・・・」
テーブルに所狭しと並んでいる食材を、ひとつ、ひとつ冷蔵庫に戻しながら。
あの頃の・・・まだ、輝明学園に柊先輩やくれはさんがいた頃の、学校の屋上でみな
さんとお弁当を食べていた頃の癖が、ちょっと抜けてないんです。
先輩たちがおいしいおいしいって、いつもいっぱい食べてくれて。
だから私もたくさん、たくさんのお弁当を用意していった、あの頃。
ふと、見回すと。
ここは、私みたいな子供が一人で暮らすには不似合いなほど広くて。それはそれは
豪華なマンションで、使っていない部屋もあるくらいなんです。
だから・・・・・・なんていったらいいのか・・・生活の匂いが希薄で。
普段あまり使わない部屋に、何の気なしに入ったときなんて、誰か知らない人の家
に迷い込んだように錯覚さえしてしまいます。
それでも私が寂しい思いをしないでいるのは、みんながいつも遊びに来てくれるから
なんです。週末になるとくれはさんが、お菓子持参でいつも遊びに来てくれて、灯ちゃ
んも、用事がないとき(“調整”と“任務”がないときって言ってました)は、お茶を飲み
に来たり晩御飯を食べに来てくれたり。
さすがに、世界の守護者という大変なお仕事をなさってるアンゼロットさんは、こちら
に来られるのが難しいようですけど、定期的にお紅茶の葉っぱの詰め合わせとか、高
級そうな洋菓子をわざわざ届けてくださって、なんだかこちらが恐縮してしまったり。
今度、たくさんマドレーヌを焼いて、届けに来てくださるロンギヌスの方にお渡ししな
くっちゃ。
柊先輩は・・・残念なんですが、あまり頻繁には来ていただけなくて。
「さすがに、男の俺がホイホイ出入りするわけには行かないだろ」
・・・・・・って。私、柊先輩ならいつでも大歓迎ですよ、っていつも言うんですけど、そ
の度に、
「そういうところはお前の良い所なんだけどな・・・。でも、俺のことだって気をつけるく
らいの気持ちでいるほうがいいぞ。男なんてそんなモンなんだからな」
とっても真剣な顔で。
どういう意味ですか、って尋ねても「判らないなら判らないままでいいけど、俺の言っ
たことだけは判ってくれ」って、なんだかナゾナゾみたいなお答えで。
ただ、私のことをとても心配して、気にかけてくれるお気持ちはすごく伝わります。
いつか、ナゾナゾの答えをちゃんと教えてもらわなきゃ。
一番良く遊びに来てくれるのは実は灯ちゃんです。もう何度もお泊り会をしているん
ですよ ?
初めて灯ちゃんと会ったのは、宝玉探しの始めのころ。
遺跡で足手まといになっていた私のことを、もしかして嫌っていたんじゃないか、って
誤解しちゃったところから、私と灯ちゃんの関係は始まりました。
でも、それは私の一方的な勘違いで。
あまり喋らないから誤解されるかもしれないけど、灯ちゃんがすごく心の優しい女の
子で、責任感の強い、かっこよくって、実は可愛くてお茶目なところもある女の子なん
だって、今の私は全部知っています。
だから、灯ちゃんは今では私の一番のお友達なんです !
冷蔵庫に、余分に引っ張り出しちゃった食材を、お弁当“二人分”残して片付け終え、
今日一日の準備を始めます。
「・・・灯ちゃん・・・今日のお弁当も美味しいって言ってくれるかな・・・ ? 」
つぶやきながら、朝食とお弁当の準備を開始して。
さあ、今日も一日頑張ろうっと !
※※※
輝明学園へと登校中の生徒たちに混じって、一際目立つ姿の少女が歩いている。
脇目も振らずただ真っ直ぐ視線を前方に、規則正しい歩幅と速度で機械のように正
確に歩く姿は、それだけで異彩を放つ。
連れだって歩く友達の姿もなく、ただ目的地を目指すためだけに歩いているような
無駄のない動き。ただ、彼女の歩みに合わせて、鮮やかな赤い色の長い髪だけが、
緩やかに微かに揺れているだけだった。
少女の名を緋室灯。
熟達したウィザードであり、絶滅社の強化人間でもある。
赤い瞳は一見無機質で、ひどくクールな印象。
黙々と、ただ黙々と歩く姿とあいまって、なんだか近寄りがたい雰囲気がある。
ふと、横断歩道の信号待ちで、灯はガードレールの後ろに立ち止まった。
他の歩行者の邪魔にならないように、なるべく端のほうに身体を寄せている。
信号の色が青に変わっても、灯は立ち止まったまま。制服のスカートのポケットから
時間の確認のため携帯を取り出すと、スケート靴の形をしたストラップがゆらゆらと揺
れた。
じっ、と携帯の刻むデジタルの時刻表示を凝視しながら、彫像のように動かず。
きっかり二分立ち尽くしたところで、灯の後ろから軽快な小走りの足音が届く。
灯が携帯をポケットに戻して肩越しに振り返った。
息せき切って、でもとびっきりの笑顔で。
青い髪の少女が走りよってくる姿が、灯の視界に映った。
※※※
「ハァ、ふぅ、お、おはよぅ〜、灯ちゃん」
胸を手で押さえ呼吸を整えながら、それでも元気な朝の挨拶。
「・・・・・・エリス・・・おはよう」
青い髪の少女・・・志宝エリスに挨拶を返しながら、灯は彼女の呼吸の落ち着くのを
待った。
「エリス・・・走らなくても・・・よかった」
「え、う、うん。でも、灯ちゃんが待ってるのが見えたから」
えへへ、と照れくさそうにエリスが笑う。
「・・・・・・そう」
知らず知らず、灯の口元も微かにほころんでいた。
エリスの笑顔は、伝染する。
見る者の気持ちを温かくほぐし、他人の笑顔をも生み出す力があるようだ。
そういえば、彼女が輝明学園に転校してきた当初も、エリスの周りにはいつでも人
の輪があった、と赤羽くれはが言っていたような気がする。
「時々、誰かに騙されたりしねえか心配になっちまうくらい素直」、とは柊蓮司の弁。
それでもエリスの素直さは、それよりも人を味方につけることのほうが圧倒的に多い
ようで、クラスメートたちに溶け込んでしまえばみんなに好かれたし、また誰とでも仲良
くなる才能が、彼女にはあるようだった。
「いこ ? 灯ちゃん」
信号の色は、青。
エリスが横に並んで、自分よりも少し背丈のある灯をわずかに見上げるように、笑い
かけた。こく、と首肯して同意の意を示し、灯はふたたび前方をしっかりと見据える姿勢
に戻る。
かつっ、かつん。かつっ、かつん。
正確なリズムを刻む革靴の音を嬉しそうに聞きながら、エリスが灯に遅れないように
ついてきていた。
約束のない、しかしいつしか当たり前になっていた、エリスとの毎朝の待ち合わせ。
それは、灯の生活に組み込まれた新しいスケジュールだった。
学園に近づくにつれて、行きかう生徒の数が次第に増えてくる頃になると、エリスた
ちに挨拶を投げかける見知った顔も増えてくる。
クラスメートだけではない。下級生の中にも、どういうわけか二人の顔を知っている
生徒が多くいて、あるものは遠慮がちに、あるものは元気に堂々と、朝の挨拶をして
くれる。
少し戸惑いながらエリスがおはようを返し、自分へのものと思われる挨拶に、こくっ、
と無言で灯が頷き返す。
「・・・ねえ灯ちゃん。いまの娘は、知ってる娘・・・ ? 」
隣の灯にだけ聞こえるように、こっそりとエリスが尋ねる。
「・・・・・・(ふるふる)」
灯が無言で左右に首を振る。挨拶をされたから、ただ反射的に頷いていただけのよ
うで、エリスに声をかけていた生徒に関しては、てっきり彼女の知り合いかなにかだと
思っていたようだった。
エリスも灯も、いまでは輝明学園においては最上級生である。だからといって、三年
生にたいしては知り合いでなくとも必ず挨拶をしなければいけない、という体育会系の
ノリとは無縁の学校であることは間違いない。
思うに、柊やくれはが卒業して、エリスたちが進級した直後から、少しずつそういう現
象が増えてきたような気がする。登校中の見知らぬ生徒からの挨拶は、不思議と下
級生からのものが圧倒的に多いようだった。
「・・・・・・前から思ってたんだけど、今日とうとう気になっちゃって」
時は移り、午前の授業をすべて終え、お昼休みの開始を告げるチャイムが鳴ると。
喧騒にざわめく教室内で、気心の知れたクラスメートたちが幾つかのグループに別
れ、それぞれのランチタイムが始まった。
机を簡単に寄せて、エリスと灯も簡易テーブルを作る。その作業をしつつ、エリスが
不思議そうに言ったのが、今の台詞なのだった。
「下級生の娘たちが挨拶してくれるの嬉しいんだけど、知らない娘たちばかりで。あれ
はなんなのかなって。灯ちゃんに声かける娘が多いから、最初は、うわー、友達たくさ
んいるんだなー、って感心してたんだけど、灯ちゃんも知らないんだよね ? 」
こくん、と。机をひょいひょいと移動させながら灯が頷く。
セッティングをほとんど一人で済ませてしまうと、
「・・・・・・エリス」
両手のひらを上に向け、エリスに手を差し出すポーズ。
にこりと笑ってエリスがバッグから赤い布包みを取り出し、
「はい、灯ちゃん。今日のお弁当。メインはバター炒めアスパラのベーコン巻きと、カニ
とグリーンピースたっぷり炒り卵、ピリ辛の鶏肉炒め、それとね・・・」
うきうきと解説しながら、自分用の青い布包みも取り出した。灯が、手を差し出した
ポーズのまま、うずうずと小刻みに身体を前後に揺らしているのがなんとも可笑しい。
「・・・ねえ、どう思う。羽田さん・・・ ? 」
灯にお弁当を手渡しながら、もう一人の、いつものランチ仲間に尋ねてみる。
丸い大きな眼鏡にショートカットの少女は、イントラネット部の羽田あみ嬢。
三年生に進級して、エリスや灯とふたたび同じクラスになったのである。
「う〜ん。知らぬは当人ばかりなり、か・・・」
手に持ったフォークの先端をくるくると回しながら、訳知り顔でそんなことを言う。
んっふっふ、っとわざとらしくほくそ笑みながら、
「まあ、私の情報網に引っかからないソースはないっていうか。羽田あみちゃんはなん
でもお見通しなのですよ〜」
わざとおどけてそんな風に言う。
「え、わかるの、羽田さん ? お、教えてくれる ? 」
ずいっと身を乗り出して、器用にお弁当の包みを解きながらエリス。
すでにおかずを口に運んでいる灯も、聞き耳だけは立てているようである。
まあまあ、あわてないで、と手でエリスを制しておいて、
「うーん、まあ、なんていうか・・・」
勿体をつけるあみが、言葉を選ぶように思案顔をする。頭の中で考えがまとまったの
か、
「まず、緋室さんに声をかける女生徒たちっていうのは、十中八九、彼女のファンね」
そう結論付けた。うんうん、とフォークを口にくわえながら腕組みをして頷く。自論に
完全な自信を持っているのか、一度口を開くと立て板に水、の彼女だが、さすがに当
の本人がいる目の前では多少抑え気味である。
「ファン ? 灯ちゃんの ? 」
「そそそそ。あみちゃん情報によると、緋室さんには下級生女子のファンの娘が多数
ついてるってことになってるわね。ほら、緋室さんってカッコいいじゃない ? 憧れてる
下級生が多い、って私の後輩も言ってるんだよね」
あみの言葉に、エリスはようやく得心がいったようで、
「そっか〜。うん、わかるなあ〜。私も灯ちゃんと初めて会ったとき、カッコいいなって
思ったもん」
友達を褒められたのが嬉しいのか、我が事のようにエリスが喜ぶ。
緋室灯という少女は、一見するとまさしく、あみが言うとおりなのだ。
隙のない立ち居振る舞い。きりっとクールな美少女。スタイルだって、いい。
同性の自分から見ても素敵な女の子なのだ。自分と同じように感じる娘も当然多い
だろうし、その相手が最上級生ともなれば憧れる下級生だって少なくないはずだ。
うふっ、とエリスの最高級の笑みを向けられて、賞賛を浴びた当の灯が、かすかに
頬を染める。表情は変わらずに、しかし、箸を動かす手と咀嚼する口元のスピードが、
ほんの少し上がったようである。きっと、間を持たせるのがつらいのだろう。
「・・・・・・じゃあ、エリスは・・・ ? エリスも、挨拶されてる・・・はず・・・」
向いた矛先をそむけようという意図が丸見えの、灯の発言であった。
はた、とその指摘に気づいたようにエリスがあみの方を向き、小首を傾げながらじっ
と彼女を見つめて答えを待つ。
「志宝さんにはね、純粋に敬意だと思うよ。ナイトの護るプリンセスに敬意を表して、み
たいな感じ」
「ぷ、ぷりんせす ? 」
あみの口から飛び出した意外な単語に、明らかにひらがな表記の発音をするエリス
であった。そうそう、と言いながら、
「ほら、志宝さんっていつも緋室さんと一緒だし。すごく仲良しだし。時々、二人の世界
みたいなもの作ってるでしょ。上手く言えないんだけど、なんていうか、緋室さんには
憧れるけど志宝さんのほうがお似合いだから見守ります、みたいなこと言ってる娘も
いるくらいだし。あ、これは私の後輩から聞いた実際の発言だから、あしからず」
と、あみが締めくくる。
見る間にエリスが顔を赤らめ、わたわたと手を振って、
「お、お似合い・・・って、私たち女の子同士・・・」
ちらっと灯を横目で見る。もくもく。もくもく。話題が直接自分からそれたからか、我関
せずの態度で弁当の咀嚼に邁進する灯の姿が目に入る。無関心、という態の灯に、
(あれ・・・灯ちゃんはなんとも思わないのかな・・・ ? )
少し残念に思い、そしてそのことに、エリスは慌てて内心の気持ちを追い払う。
(や、やだ・・・。どうして残念、なんて思うんだろう・・・私・・・)
顔が熱くなるのがわかってますます混乱。
「まあまあ、そんな生々しい話じゃないから。うーん、どっちかっていうと、ヅカファンの
心理に近いのかな ? カッコいい女の子と可愛い女の子のカップルを見て微笑ましく感
じてるっていうか。ほら、二人が周りから見ても仲良しだってわかる・・・って思えばい
いんじゃないかな」
ぱくん、とミートボールを口に放り込みながら、あっけらかんとあみが言う。
「ま、志宝さんの場合は女の子よりも男の子に人気あるみたいだし。さすがに、男子は
恥ずかしがって朝、声をかけるなんてしないみたいだけどね」
ぷしゅうっ !!
エリスの顔が今度こそ本当に沸騰して真っ赤になった。
「そそそんなこと、わたしっ・・・ ! 」
「・・・エリス」
ぽそり、と灯に名前を呟かれて、
「は、はいっ !? 」
思わず立ち上がって気をつけの姿勢をしてしまう。突然の不意打ちに、完全に混乱
した様子のエリスであった。
「・・・・・・・早く食べないと・・・お昼が・・・終わる・・・」
「・・・あぁぁぁぁぁっ !? 」
言われてみれば、お弁当の蓋も開けていないのにもうこんなお喋りだけで十分以上
も過ぎていた。
「あは、ごめんごめん。とりあえずご飯に専念しようか」
フォークを卵焼きにつき立てながらあみが笑う。
「も、もう〜。からかうのはやめてよ〜」
そそくさとお弁当の蓋を開けながら、エリスがあみを可愛らしくにらんだ。
ぽそぽそと自作のお弁当に箸をつけながら、灯の横顔を盗み見る。
端正な横顔。つい見とれてしまうくらい、綺麗。
(あ・・・まつげ、長いんだな・・・)
そんな感想がするりと自然に滑り出て。
「・・・・エリス」
「 !? な、なに、灯ちゃん !? 」
声が引きつって、上ずってしまうのが自分でもよく判って、エリスはますます顔を赤く
する。
「・・・ごちそうさま。おいしかった」
手際良く、空になった弁当箱を片付け始める灯。
「あ、お、お粗末さまでした」
渡したときと同じように、丁寧に包み直された弁当箱を受け取る。静かに向き直り、
教室の何もない空間の一点をじっと見つめながら、エリスが食べ終わるのをおとなし
く待つ灯の姿が、精緻な彫刻のように美しい、と思われた。
(ま、また私ってば・・・)
なんだか気恥ずかしい。ついついいつもよりも箸を動かすペースが速くなる。
なにか動いてないと落ち着かなくて、でも喋ると出さなくてもいいぼろを出しそうで。
そんな対照的な二人の様子を、あみが生温かい視線でうかがっていることにも気づ
かないほど、エリスは舞い上がっていた。
「ご、ごちそうさまでした」
食べ終わってみれば、十分の出遅れにもかかわらず、時間はいつもと変わらず。
相当のハイペースで食べていたようで、少しお腹が苦しい。
そんなエリスの手元に、すっと麦茶の入ったコップが差し出された。見ると、赤い瞳が
気遣わしげにエリスを見つめていて、水筒を片手にした灯が、
「・・・・・・・ん」
と、エリスに麦茶を飲むように静かにうながしてくる。
見ていないようで、自分の様子をちゃんと見てくれている、気遣ってくれているのが
嬉しくなって、エリスの顔が自然とほころんでしまう。純粋に、灯の気持ちが嬉しい。
「ありがと灯ちゃん」
受け取って、こくんこくんと飲み干しながら。
(あ・・・これ・・・灯ちゃんが使ってた・・・)
あらためてそのことに気づいてしまうと、また気恥ずかしさがよみがえってきて。
「ア、アリガトウ」
カップを返しながら片言の返礼。今日のエリスは、ひらがなになったりカタカナになっ
たりと大変忙しい。
「ふ〜。あらためて、ごちそうさま」
苦笑しながらあみが言うのを、どういう意味かといぶかしむ間もなく、午後の授業の
開始まであと五分、と予鈴のベルが告げ始めた。三人で寄せた机を元に戻しながら、
エリスはその作業に没頭する灯を目で追っている。
灯ちゃん。綺麗で、カッコよくて、それでいてすごく可愛い女の子。私の大切なお友
達。私の・・・・・・・。
無意識のうちに人差し指が唇に触れて。
(間接・・・・・・)
エリスの心臓の鼓動は高鳴って、いつまでもいつまでも鳴り止むことはなかった・・・。
(続)
流れも空気も度外視して再び(再びどころではないけど)失礼します。
突然ですが、アニメの正ヒロインでPC@、正統派ヒロインキャラを
ないがしろにしてきてごめんなさい。反省してます。
なにが言いたいかというと、NWのアニメDVDを見直していて、今さら
ながらエリスの持つ「ヒロイン力(ひろいんちから)」に感服。
はわわもぽんこつもいいけど、要するに、「エリスかわいいよエリス」
と改めて思い直した、と。
妄想爆発脳内俺エリスを大暴れさせたくなった言い訳をしてみたり。
というわけで、投下、でした。
・・・なんだよコレ
・・・・・・なんなんだよコレ
こんなん読まされたらwktkで寝れねぇじゃねぇか!
>>269 マジGJ
こんなに可愛いあかりんに想われ続けている命に俺の嫉妬パワーが爆発するぜ!
良作続いて嬉しい限り。
雷サモもクリガベもエリ灯もぐっじょぶー!
盛り上がるときと過疎るときの差が激しいなあw
>>269 エロくなくても十分満足できそうな新作乙!
前振りだけでwktkが止まらないぜ
エル=ネイシア読了
この世界で桃色ふぁーさいどを発売すればセルヴィの野望は挫ける気がする。
あかりんは命よりも男らしくて主人公体質だからなぁ
でも、これでエリスが命を「ふふふ、貴方さえいなければ……(ピッ……ピッ……ピッ……ピーーーーーー。ご臨終です)」する腹黒な展開が。
エリスは可愛いんだけど、周りでフリーの奴が居ないから、こういう展開しか思い付かないぜ
あかりん、独占欲強かったりするし…
命が死んだら後追いそう……
エリスはあかりんに可愛がられる仔猫ちゃん、な立ち位置になりそーな気も。
なんつーか、命はあかりんに強く、あかりんはエリスに強く(なんだかんだでエリスはあかりんに強く出れないと言う意味で)、
エリスは命に強い三すくみが完成しそうな気もしてなぁ。
ところで、需要ないかもしれないけど、ルー・サイファーの話を投下していい?
でも、SSを書いた経験がロクに無い人間の作品だし、
他の神作品が投下されてまだ間もないみたいだから、もうちょっと待ったほうがいいのかな?
大佐、指示を頼む。
>>279 投下したいと思ったときが、投下時だよ。
ちょっと前に「前の作品の感想つけづらいだろ!空気読めよ!」って人がいたからだろ
……我らはルー様をお待ち申し上げておりました。存分にその艶姿をご投下くださいませ!
今月のRole&Roll Vol.45のまよきんエロいな!
雑誌のネタバレっていつから解禁していいのか分からんが
異種族スキーの自分にはスゲーご褒美
283 :
279:2008/06/07(土) 17:33:54 ID:Y3Hv8HJK
わかった。それじゃあ投下する。
ただ、内容からしてアレなんで、あんまり期待しないで生温かい目で見守ってやってくれ。
また、キャライメージをくしゃっと崩してしまう可能性も考えられる。要注意だ。
それじゃあ行くぞ!
元ネタ:ナイトウィザード
キャラ:ルー・サイファー
内容:オナ禁(?)
〜金色の魔王は夜に一人で眠れない〜
“金色の魔王”ルー・サイファー。
裏界第一位の実力を誇り、その圧倒的な力で裏界帝国を長きに渡って支配していた、最強の侵魔。
だが、そうした彼女も、マジカル・ウォーフェアと呼ばれるウィザードたちとの戦いの最中、不覚を取り、
長き眠りにつかざるを得ない状況へと追いやられていた。
「………………はぁ」
そうして今、彼女は自室のベッドの中にいた。
気だるげな様子で嘆息を吐く。身に纏っているものは、普段着ている豪奢なドレスではなく、
子供向けの可愛らしいピンク色のパジャマ。少しサイズが大きめのようで、袖口が余っている。
神殺しの魔剣で身体を貫かれ、力を失った彼女は、裏界随一の美貌を誇る本来の大人びた姿とは違い、
『美しい』と言い表すよりは、『可愛い』という言葉のほうが相応しい、12歳くらいの小柄な少女の姿となっていた。
「…………うぅ……」
小さな身体をより小さく丸め、布団にしがみ付く。
横を向いた身体の下敷きとなった金髪の巻き毛が、首元をくすぐる。
そうして、目を瞑ったまま眉を寄せ、
「眠れぬ……」
心底辛そうに、ぽつりと呟いた。
今、裏界は混乱している。
人間に傷付けられ、療養のために眠りにつかざるを得なくなった自分に代わり、
裏界第二位の実力を持つ“蝿の女王”ベール・ゼファーが新たに支配者の座に着いたのだが、残念ながら力不足は否めないようだった。
なまじ自分に力があったせいで、ベルを侮るものたちも多い。そもそも、自分が倒されたとき、ベルは影で人間たちと協力しており、
まさか大魔王とあろうものが易々と人間と手を組むなんて許されないことであって、慌ててその事実が漏れないように配慮したはずなのだが、
事情を知っているリオンとアゼルとモーリーにも決して他者に漏らさぬようキツく厳命したはずなのに、どうにも公然の事実となっている節がある。
まさかベル本人が吹聴して回ってるのではなかろうな?と一度問いただしたくて仕方なかった。
それと同時に、活発となってきた冥界側の動き。
多くの魔王たちは冥魔に対して傍観の構えだ。だが、そんな中、ベルはウィザードと協力してでも冥魔を駆逐しようと躍起になっている。
その気持ちはよくわかるし、自分としてもベルを支持するところなのだが、これに関しては反対する魔王も多い。
結果としてベルの指導力は低下し、裏界の混乱に拍車をかける形となっていた。
その上、実は最初に冥魔の侵略の手助けをしたのは、ベル本人だったりするのだ。
本人は隠しているつもりのようだが、とっくの昔に気付いている。本気でバレてないとでも思っているのか。
もちろん事情は知っている。事情は知っているのだが……。自分としては、何してるのよもう!と小一時間説教してやりたい気分だ。
最近ではこの事実まで噂話として広がり始め、本来なら打倒冥魔と手を組めるはずの魔王たちまで、ベルに不審の目を向けつつある始末。
そんな、いつ他の魔王が支配者の座を奪うため、ベルを狙ってもおかしくない現状で、
ベル当人は人間にちょっかいをかけようと、地球にフラフラ遊びに行ってたりするのだから堪らない。
無防備すぎる。これでは、おちおちと眠りにつくこともできない。
大体、人間にちょっかいかける暇があるのなら、お見舞いの一つにでも来てくれたっていいのに。
「……手間をかけさせる娘だ。まったく……」
だが、今ここでそう愚痴を漏らしていても仕方が無い。
何しろ、指示は既に出してあるのだ。信頼のおける部下たちは、自分と裏界、そしてベルのために、既に水面下で行動に移っている。
となると今、自分がすべきことは、しっかりと休眠を取り、少しでも早く元の力を取り戻すことだけだ。
そうだ、そのはず……。
なのだが……。
「うぅぅ〜」
ベッドの中で身体を丸める。そのまま眠りに落ちてくれと祈らんばかりに両手を胸の前で握り、身体の動きを止める。
そのまましばらくした後、寝苦しそうに身体をもぞもぞと動かす。そうして寝返り。また両手を握り締める。
眠れない。
同じ動きを何度か繰り返した後、今度は仰向けになる。やや乱れた布団とパジャマを軽く直し、
ゆっくりと深呼吸し、身体の重みと疲れを全てベッドに任せるかのように力を抜く。
眠れない。
うつ伏せになる。柔らかな枕が頭を包み込んでくれる。
悩みや憂いを全て押し付けるように顔を埋める。
眠れない……!
猫のように身体を縮こまらせ、伸びをし、それらを何度も何度も繰り返し、
ついには苛立たしくごろごろとベッドの上を転がって、
眠れないーーー!!
やがて、観念したかのように、瞑っていた目を不機嫌そうに見開く。
僅かに紅潮した頬。少し熱っぽい嘆息を吐いた後、両脚を擦り合わせるように動かして、
最強の侵魔は、眠りにつけない原因を罵った。
「欲求不満だーーーーーーっ!!!」
“金色の魔王”ルー・サイファー。
ベッドの中にて、性欲をもてあます。
大公様のご趣味はつまみぐい。
その筋では割と有名な話だったりする。“裏界のカリスマ”という名でも呼ばれることのある自分は、何と言うか、
ぶっちゃけ美しいもの可愛いもの綺麗なもの知性のあるもの賢いもの、みんなみんな大好きなのだった。
「……魅力あるものは、みな平等に、愛でたくなるではないか……」
裏界帝国でも名の知れる20体の魔王が全て美女及び美少女なのも、支配者であるルー・サイファーが贔屓しているからだ、
という噂まで立って、もちろんそれは彼女たち自身の実力であることは間違いないのだが、完全に否定し切るには少し後ろめたい心境だった。
……そのような噂が立ったとき、猛反発した魔王が二人ほどいたりもしたが……。
「…………はぁ……ぁ」
身体が疼く。吐息はより熱を帯び、くすぐったくて堪らないように身体をもじつかせる。
「……欲求、不満だ……っ!」
だからといって、どうしろというのか。
力を失い、休眠につく自分の居場所を、そう易々と他者に教えるわけにもいかず。
本来なら傍に呼べるはずの信頼できる部下たち……“秘密侯爵”リオン・グンタと“荒廃の魔王”アゼル・イヴリスはベルの元に付かせているし、
“女公爵”モーリー・グレイは裏界の混乱を少しでも和らげるため、自分の指示を受けてあちこちを巡っている。
どちらも相当苦労しているはずだ。まさか呼び戻すわけにはいかない。
しかもこんな理由で。
「…………ううぅ……」
できないと思うと余計にしたくなる。これまで好き放題してきたツケがまわってきたのか。
身体と心はすっかり欲求に素直になってしまっていた。相手を求めるように、抱きしめた布団に身体を擦り付ける。
「……なぜ我が、このような思いをせねばならぬのだ……!」
いつもなら。
『よいではないかよいではないか』とアゼルの魔殺の帯を引っ張って、くるくる回したり……。
『秘密侯爵さまの秘密はどこかなー?ここかなー?』とリオンの服を本のページのように、ぺらぺらめくったり……。
『最近マルコと仲がいいそうじゃない。何だか妬けるわねぇ』とモーリーの慌てる姿を拗ねたフリして眺めて、そのあと自分たちはもっと仲のいいことしたり……。
したい。
したいしたい。
したいしたいしたいしたいーーー!
「リオンっ……! アゼルぅ……! モーリぃぃ……!」
あの可愛い娘たちに口付けし、柔肌を撫で、指と指を絡め、細い腰に腕をまわし、耳元で甘い声を囁いて、
押し倒して抱きしめて脱がして触れ合って、弄びたいーーーーーー!!!
「うううううう〜〜〜!」
乾いた身体と心が潤いを求める。もう我慢するなど到底不可能だった。
このままでは眠るどころではない。何とかして、この欲求を満たさなければ。
とはいえ、相手はいない。呼ぶこともできない。自分から出向くなど論外。
この状況で、自身の欲求を満たす手段は、ただ一つ。
「……わ、我が、自分で自分を慰める、だと……?」
残された答えに信じられない様子で、まるで何かに絶望したような声を出して、
「……そのような屈辱、耐えられぬっ……!」
先ほどとは違う理由で頬を紅潮させ、目に涙を浮かべたのだった。
相手に不自由したことはなかった。
裏界第一位の力と美貌。強引な手段を取るまでもなく、ほぼ例外なく他者は自分に魅了された。
あのベルでさえ、ちょっとアレな感じになったことがある。自重したが。さすがに子供相手に本気で手を出したりはしない。
「……そういえば、そろそろパールも、よい感じに育ってきたな……」
そんな自分が。
常に他者の欲望を向けられる側だった自分が。
強情な相手の身も心も素直にしてきた自分が。
カミーユのベッドでのマナーを仕込んだ自分が。
裏界第一位の最強の侵魔“金色の魔王”ルー・サイファーが。
相手のいないベッドで一人寂しく、自分で自分を慰めるなど……!
「……で、できぬっ……!」
恥辱と羞恥で涙目となりつつ、それを否定する。だが、言葉とは裏腹に、欲求は妄想を加速させていた。
頭の中に描き出される行為。ベッドの上でただ一人、浅ましく乱れる自分の姿……。
「や、止めよっ……! 許されぬ、そんなことは……!」
妄想を振り払おうと、シーツを手でぎゅっと握り締め、首をぶんぶん横に振る。
そこでようやく、自分の姿勢が変わっていることに気が付いた。
いつの間にか、仰向けになって膝を立てている。
「……え?」
欲求に従順になってしまった身体が、本人の意思を無視して独りでに動く。
擦り合わせている太股は閉じたままで、膝から下をまるで内股になるように広げる。
そして、足先に力を込めて、軽く腰を浮かした。
「……な、何をっ……?」
疑問の声を出すと同時に、両手がパジャマのズボンの脇を掴んだ。
一瞬、呆けた後、自分がしようとしていることに思い当たり、真っ赤になって拒絶の声を上げた。
「だめーーーっ!!!」
ぬぎっ
「ならぬ……! ならぬならぬならぬ! なーらーぬーーーっ!」
何と言うか必死だった。
視線の先には下着。12歳程度の外見に合わせたデザインの、ちょっと薄手な金色のショーツ。
その中央、両脚の付け根付近は既にじっとりと濡れており、目ではっきりと確認できるほどに染みが広がっていた。
それだけではない。両膝はズボンが伸びてしまうのも構わず開かれており、腰はまるで見せ付けるように高く突き出されている。
さらにさらに。手が伸ばされ、熱く疼く秘所に触れ合うまで、あと数センチの距離まで迫っていた。
「ふ、触れてはならぬっ……! 我が、そ、そのような痴態を演じるなどーーーっ」
じわじわと指先が進む。下半身を支える足先がぷるぷると震える。待ちわびていた欲求が果たされる瞬間まであと僅か。
シーツを握り締めていたはずのもう一方の手も、胸に向かってゆっくりと上げられていく。
右手は秘所へ、左手は胸へ。どちらももう、何かの弾みで触れてもおかしくない、ギリギリの距離で静止する。
準備完了。
「あ、ああっ……!?」
あまりにみっともない姿だった。気品も威厳もあったものではない。情けなさに頭がくらくらする。
だが動けない。手の位置が本当にギリギリすぎる。下手に動くと指が触れてしまう。
ここまで昂ぶった身体だ。例え一瞬でも触れたなら、もう止めることはできないだろう。
「する……わけにはいかぬっ……。我を誰だと思っておるのだ……! 我は魔王、金色の魔王……!
裏界第一位の大公だ……! そんな我が、少しご無沙汰なくらいで、肉欲などに屈するわけにはいかぬーーーっ!」
ひび割れていくプライドを必死に繋ぎ止める。どれだけみっともなくとも、最後の一線だけは越えるわけにはいかない。
今自分ができる最善の行動は微動だにしないこと。時間とともに身体が少しでも静まってくれることを祈るしかなかった。
「と、止まって、止まってぇ……!」
手が前後に動いていた。右手は秘所を、左手は胸を撫でるように。
静まるどころか、もうどうしようもなく昂ぶり続けた身体は、ついに一人で始めてしまったのだ。
「ち、違う! これは違う! まだ触れてはいない!
触れてはいないから、これはそういう行為ではないのだ!」
そう、未だに手は、直接身体には触れてはいなかった。ギリギリの隙間が空いているのだ。
手が動くたび、うっかり触れてしまう恐怖に背筋が凍る。そして、同時に秘所の熱が高まることを感じていた。
まだ最後の一線のみは守りきっているものの、これでもう完全に追い詰められた。身体が静まることは無くなったと言っていい。
いや、それ以前に。一人でしているのとどう違うのか。考え方によっては、それ以上にみっともないのでは。
「あ、ありえぬ……! こんなことっ……!」
なぜ自分がこのような目に遭わなくてはならないのか。
そういえば以前、戯れで部下に目の前でするよう命じたことがあった。その報復か。自業自得なのか。
まさか、ここまで恥ずかしいことだとは思いもしなかった。
「す、すまぬモーリー……」
あのときのあの子の様子ときたら、そりゃもう。
『後生ですルー様! も、もうこれ以上はお許し下さい! ……そ、そんなっ……!
あっ……お、お願いです! どうかどうかご慈悲を、ご勘弁を! ルーさま、ルーさまぁっ……ああっ……!?』
涙目になって、耳まで真っ赤になって、羞恥と屈辱と快楽でぐちゃぐちゃになったあの表情。
最初は大人しい手付きだったのが、途中で火が付いて、そうなるともう手も腰も指も表情も声も、淫らとしか表しようがない有様だった。
そして自分は、その浅ましい様子を軽蔑し切った目で見下ろして、罵倒の言葉を口にするのだ。
もちろん本心ではない。ただ、そのときのあの子の反応が、泣き顔が、可愛くて可愛くて……。
「って、妄想やめーーーっ」
遅かった。完全に火が付いた。
妄想が爆発する。これまで自分がしてきた数々の行為がフラッシュバックしていく。
とりあえず言えることは、自分はどうやら、可愛い子をいじめるのが大好きらしい。
特に、本人が高く高く築いてきたプライドや自信が、くしゃっと崩れる瞬間を見るのが堪らないようだ。
今の自分が、まさにそれだった。
「か、考えてはならぬ! そ、そんな、そのようなことはーーー!?」
自分のプライドやら自信やら、気品やら威厳やらを、くしゃっ、とするのは簡単だった。
モーリーが、リオンが、アゼルが、そしてベルが。
今の自分の姿を見下すように周りを取り囲み、くすくす笑っている。
「み、見ては……見てはならぬっ! わ、我のこのような姿……っ!
ああっ、いや、やだっ! 見られるなんて、そんな屈辱……! 我には、我には耐えられぬーーーっ!
やめてっ、やめてやめてやめてぇ! み、見られるの、だけはーーーっ! ……だ、めえぇぇぇーーーーーーっっっ!!!」
何かが砕ける音がした、次の瞬間。
なぞるように、右手の中指が内側に動いた。
あ ん っ
「せっかく裏界の支配者になったんだもの。このくらいの余裕は見せておかないとね」
軽い足取りで、ルー・サイファー城の廊下を進む、“蝿の女王”ベール・ゼファー。
今日はルーのお見舞いだ。マジカル・ウォーフェアやらシャイマール転生事件やら色々あったせいで、すっかりと遅くなってしまった。
お詫びというわけでもないが、ちょっと奮発して大き目の花束を用意してみた。こういった小物に関しては、ファー・ジ・アースは優れたものが多い。
ちなみに、花の代金はルーを魔剣で叩き切った張本人である柊連司に支払わせた。
「ふふ、私に怪我の心配をされるなんて、ルーからしてみれば屈辱でしょうね。どんな顔するか見ものだわ」
その様子を想像して、にやにやと笑みを浮かべながら、ルーの寝室までやってくる。
あっさりと辿り着いたが、並の魔王ではルーの休眠を守るために厳重に結界を張られたこの城の中を、永遠にさ迷う羽目になるだろう。
「ルー、私よ」
ドアの前で声をかける。だが、返事はない。
「…………? ちょっとルー、いないの?」
もう一度声をかけるが、やはり返事はない。いないはずはないのだが。ドアをノックしてみるが変わらず。
せっかくお土産まで用意したのに、このまま帰るわけにもいかない。逡巡したが、ドアノブを回してみた。鍵は掛かっていないようだ。
ドアを開け、部屋の中を覗きこむ。
「ルー、眠ってるの?」
明かりは落とされ、中の様子は窺えない。音を立てないように注意しながら、そっと室内へと入り、
「…………っ!?」
ばっちりと目が合った。布団を引っかぶり、顔だけ出してこちらを窺うように見るルー。
普段と違い、今の見た目は自分より年下だ。12歳くらいだろうか。だが、驚いたのはそれが原因ではなかった。
「ど、どうしたのよ、ルー?」
涙目となり、頬を真っ赤に染めて、怯えるように縮こまっている。軽く震えてさえいた。普段からは想像もつかない弱々しい姿だ。
どう言葉をかけるか困惑していると、ルーがこちらを見ながら、まるで絶望するかのような声で、
「ベル……。我は、もうダメだ……」
「な、なんでっ!?」
開口一番、とんでもないことを口走った。様子からして冗談ではなさそうだった。
そんなに身体の調子が悪いのだろうか。花だけではなく、メロンくらい買わせてやればよかったのか。
「うう……。ふぇ、えぐ、えぐっ……」
「って、な、なに泣いてるのよーーー!?」
困惑を通り過ぎて混乱してしまう。あのルーが人前で泣くなんで信じられなかった。
「と、とにかく落ち着いて! 何かあったの? 言いなさいよほら!
話くらいは聞いてあげるから! 言えば楽になるわよ! 怖い夢でも見たの!? 私がいるからもう大丈夫よ!?」
混乱のあまり妙なことを口走ってしまった気がするが、今はそれどころではない。
泣かれるのはあまり得意ではなかった。特にその相手がルーだったりしたら、どう反応していいかすらわからない。
とにかく落ち着かせなければ。
「ああもう、本当に一体何があったのよっ!?」
そうしてこの後、泣きじゃくる“金色の魔王”ルー・サイファーをなだめるため、
頭を撫でたり手を握ってあげたり、ハンカチで目元を拭いてあげたり優しい言葉をかけてあげたり、
まさにありえないの極みといえる行為を、延々と繰り返すこととなったのだった。
………………………………
…………
……
「……落ち着いたかしら? それで何があったのよ。まさか本気で、怖い夢を見たとか言わないでしょうね?」
「そ、その……」
「別に馬鹿にしたりしないから言ってよ、気になるじゃない。減るもんじゃないでしょう?」
「わ、我は……。仮にも裏界第一位の存在でありながら……。浅ましき欲望を堪えきれず……。
……ひとり、手淫に耽ってしまったのだ……」
「……………………………………………………………………」
「手淫というのは……」
「いや知ってるわよっ!」
「肉欲に屈するなど……。みっともない。恥さらしもいいところだ。
これでは、本能のみに従い、屑のようなプラーナを食すために死体を貪る低級なエミュレイターどもと、何も変わらぬ……」
「……ま、まあ、そうかもね」
「しかも一晩中だ。回数も10回とはきかぬ……」
「……そ、それはちょっと多いわね」
「途中、火がついて、止まらなくなって……。枕を両脚に挟んだり、机の角に擦り付けたり……」
「……えっと、その」
「ひとり快楽に喘いで、部屋中の端から端まで、あらゆるもので自身を慰めた……」
「……あ、あのね、ルー?」
「その上、我を慕ってくれる他の魔王たちも、妄想の中で辱めた……」
「………………」
「すまぬ、ベル……」
「……っ!? っっ!?」
「このような痴態を演じた我が、どの面を下げて裏界帝国に復帰しろというのか……。
もはや、金色の魔王などどこにもおらぬ。いるのはただ、卑しい本能丸出しの愚にも付かない雌☆魔王だけだ……」
「……そ、そこまで言わなくても」
「ぐすっ……」
「……べっ、別にいいじゃない! いいわよ別に! たまにはそういうことだってあるわよ!
気にすることなんてないわよそんなの! 誰も文句言ったりしないわよ! 自由よ自由! 好きにすればいいわ!」
「ベル、優しい……」
「……そ、そう? って、ちょっと。な、何か目付きがおかしいわよルー。え、ちょっと、何でにじり寄ってくるのよ!?
ねえ、ねえってば! どこ触って……待って、待ってってば、待ちなさい! なに考えて……っ!?
ちょっとちょっとちょっと待っ!?」
「ふえーん、ベルー!」
「ちょ……!? きゃーっ!?」
〜金色の魔王は夜に一人で眠れない〜
FIN
いかん、可愛い。エロ可愛い。
和んじまってたたねぇ。
GJだがたたねぇwwww
ええぃ、スクイズリテイクじゃ
こっちのルーを載せろ
そうすれば、実力はあっても人気は無い、なんて陰口は無くなるぞ
294 :
279:2008/06/07(土) 18:18:36 ID:Y3Hv8HJK
以上、お目汚しスレ汚しキャラ汚し失礼しました。
他の方々の作品と比べて、内容からして浮きまくりで申し訳ない。
感想応援疑問罵倒ツッコミ、どんとこいです。皆さんがよろしければ、また書かせていただきますね。
ではでは。
>>291-293 読んでくれてありがとう! おまいらのおかげで今日はよく眠れそうだ!
たたないのはすまん! たつような文章を書く筆力が無いんだ! でも、いつかたたせてやる! 待ってろ!
ルー様が支配者の座に返り咲くことを祈りつつ、今日のところはおやみみだ! またな!
なんて仲がいいんだこの裏界ww
…ふと気づけば、柊が来た場合の俺の脳内光景がハーレムもどきから保父さんにクラスチェンジしてたw
ルーがものっそい可愛い。
柊のハーレムものに嫌悪感を感じないのはなぜだろう?
》296
それは当然、幼児化した「美幼女魔王軍団」に、わらわらと群がられ、なつかれまくる、保父さん柊でしょうな。
体中にプチ魔王達をぶら下げて困った顔の柊、という光景が浮かんだ。
違うんだ。
ここで、
「なんでこんなバカでかい花束を買わされた上に裏界まで持って来なきゃならねーんだ」
「あら、自分でルーを傷付けた事も忘れるなんて、相変わらず頭が悪いわね。柊蓮司」
と、来るんだよ。
で、一頻りベルをいじってから、真っ赤な顔した柊に気が付いてよけい赤くなるルー。
その内立場が下がってハーレムという名の牢獄で干からびる運命だからだろう。
しかしなんだこのルーは。
あ ん っ
に吹いた萌えた殺された
りかいよーちえんのひーらぎセンセー
これで一本書けますよどうですかきくたけさん!?
どうでもいいが、りかいの事をアニメで音に聞くまでずっとうらかいだと思ってた。
どこの結界師だ。
お前等覇権争ってないだろ!w
ちょっとじゃれあって陣取りゲームしてるだけだろ!w
そんな微笑ましいお話グジョーブでした。
>>299 把握した。
どう考えてもベルは面白がってやってるな!
何このアニキャラ板魔王スレの精神が
形になったかのようなGJルーSS
NWもの増えて、大好きな私はとても嬉かったり。
しかもルーさまモノ !
>>294さまに敬意を表して謹んでGJを !
これはもうあれですよ、「ルーさま」ではなく「るーちゃま」と呼ぶべきですよ。
ていうかすごく可愛いんですが !?
そんなわけで(どんなわけだ)ちょっと立て続けですが、続きを。
(前作、前々作よりも短めの作品になりそうですが予定は未定・・・)
私・・・すごく嫌な女の子です。
お昼休みに羽田さんから聞いた話が、こんなにも気になってしまうなんて。
今まで考えたこともないような、悪い考えが頭に浮かんできてしまうんです。
私たちが、見知らぬ下級生に挨拶される理由を羽田さんが教えてくれて、最初はと
ても嬉しく思ったんです。本当ですよ ? だって、私のお友達が、親友の灯ちゃんが、
みんなに好かれているんだって聞かされたら、嬉しいじゃないですか ?
でも・・・嬉しく思う私の心の別のところに、小さな小さな棘も刺さっているようで。
(私の方が、灯ちゃんのこともっと大切に思っているのに・・・)
そんなことを考えてしまって。思った瞬間、すごく落ち込んじゃいました。
独占欲。嫉妬。拗ねてしまいそうになってる自分。こんなこと。こんな女の子だって
知られたら、嫌われる。
嫌われる・・・? 私、灯ちゃんに嫌われちゃう・・・ ?
悪い考えは悪い考えを呼び込むんでしょうか。
気づいたら、私、ぼろぼろと大粒の涙を流していたんです。
「ちょっと、志宝さん、大丈夫 !? 」
私の様子に気づいた隣の席の方が、席を立って近寄ってきてくれて。
「・・・・・・・・え・・・・・・ ? ・・・・・・あ・・・」
私は初めて自分が泣いていることに気づきました。授業中なのに、顔をくしゃくしゃに
して、私、泣きじゃくっていたみたいなんです。クラスがざわめきます。みんなが私のこ
とを本当に心配してくれてるのが痛いくらいわかる、そんな気遣う視線。
胸が痛い。
私が泣いているのは、みんなが心配してくれているようなことのせいじゃない。
私の胸の内を知って、それでもみんなは私のこと心配してくれるでしょうか・・・?
「保健委員、誰だったかな。ああ、志宝さんを保健室に連れて行ってあげてください」
担任の先生までもが優しくそんなことをおっしゃってくださって。
違う。違うんです。私は違うんです。
具合が悪いんじゃありません、大丈夫です・・・って言いたいんだけど、言葉が出て
こなくて、ただ嗚咽だけが食いしばった歯の隙間から漏れていくだけ・・・。
「へ・・・いき・・・です・・・わ・・・た・・・んでも・・・な・・・です・・・」
それだけようやく言うことができて。でも、
「平気じゃないでしょ、泣いちゃうぐらいなんだもの。苦しいの ? 痛むの ? 歩ける ? 」
肩を貸してくれた子が、包み込むように私を抱きかかえてくれます。背中をさすってく
れたり、ハンカチを口元に当ててくれたり。
優しい。みんな優しくて、でも、つらい・・・。
涙でぼやけた視界の隅には、赤く揺れる長い髪。灯ちゃん、ごめんなさい。私、いま
すごくみっともないから、お願いだから見ないで。
「さ、志宝さん。保健室まで、大変かもしれないけど歩いて、ネ」
私、その子の影に隠れるようにして、教室から逃げてしまいました。背中に感じる、
みんなのいたわりの視線が痛い・・・。
灯ちゃん、こんな私を見ないで。心配かけてゴメンなさい。
でも、心の中のもう一人の私が思うんです。
もっと灯ちゃんに気遣って欲しい、見て欲しい、心配して欲しい・・・って。
私は・・・・・・ホントに・・・嫌な女の子です・・・。
※※※
「午後の授業・・・さぼっちゃった・・・」
ベッドのシーツを頭から被ったまま、志宝エリスは小さく呟いた。
みんなが心配してくれるのについ甘えて、昼食後の授業は受けずに保健室で横に
なっていたエリスは、真っ赤に泣きはらした目を重たげに閉じる。
体調が悪いわけでもないのに、みんなが誤解してくれた。
普段のエリスを知るクラスメートは、彼女が体調不良だと偽って授業を抜け出すなど
夢にも思わない。だから、教室で泣き出してしまったエリスの具合が本当に悪いのだ、
と誰もがそう解釈してくれる。
とはいえ・・・あのまま強情に教室に居座ったところで、まともに授業を受けられたと
は思えなかった。いっそ、クラスメートに心配をかけるのならば、みんなと離れて保健
室にいたほうがずっとよかったのかもしれない。
「ヤキモチ焼いて・・・泣き出して・・・授業まで・・・う・・・私・・・どんどん悪い子になって
いっちゃうよぅ・・・」
ぐしぐしっと、手の甲でまた溢れ出した涙をぬぐう。
肌の色が変わって見えるくらいに手が涙で濡れていて、「ああ、たくさん泣いちゃっ
たんだな」、とエリスはぼんやりと思った。
校外の微かなざわめきと、空気を入れ替えるためにわずかに開けられた窓から流れ
こむ初夏の風を感じていると、あんなにすがすがしく目覚めたのが嘘みたいに、鈍い
睡魔に襲われてしまう。
まどろみながら思うのは、親友のこと。
緋室・・・灯のこと。
ヤキモチってなんだろう。私たち、女の子同士なんだよ ? 私の好きも、灯ちゃんの
好き(でいてくれるといいな)も、友達の好き、じゃなかったの ?
でもこれは、私のこの気持ちは、友達同士の好き、じゃないのかもしれない。
灯ちゃんがおいしいって私の料理を食べてくれるときに感じる気持ち、一緒に登校し
ているときの楽しい気持ち。これは、同じことを他の人としているときに感じる気持ちと
は別のもの。
たとえば、くれはさんも、私の料理を喜んで食べてくれる。ショッピングに連れて行っ
てもらって、お喋りしながら歩いたりもする。でも、そのとき感じる楽しさとは別のなに
かが、灯ちゃんのときには混じっている。
灯ちゃんが「ごちそうさま」って私の料理を食べ終わったときの満足そうな顔を見て
いると、なんだか無闇に泣けそうになる。一緒に歩いていると、足音の奏でる調べに
聞き惚れそうになる。お泊り会に来てくれて、一緒にお風呂に入った時、恥ずかしさと
正体不明の高揚感で心臓が砕けそうになる。私のベッドの真横から、かすかに聞こえ
てくる規則正ししい寝息に、すぐ側に灯ちゃんがいるという確かな存在感に、真夜中な
のに、叫びだしそうになる。
特別なことが、灯ちゃんといるときだけ、私の心の中に起こっている。
もしかして。
これは、ついこの間まで、私が柊先輩に抱いていたのと同じ感情・・・なのかな、と。
あれが私の初恋だったとすれば、いま、私はまた恋をしているのだろうか。
女の子に。親友に。灯ちゃん・・・に。
「変だよ、私・・・絶対、変な子だって思われる・・・」
たぶん、この気持ちは口に出してはいけないもの。わずかでも、悟られてはいけない
もの。もし、この気持ちを知られたら、いつもの二人ではなくなってしまう。絶対、二人
の関係は変わってしまう。いや、もしかしたら「終わってしまう」。
エリスは、自分の心に扉を作る。扉を作って、鍵をかける。
そして、ようやく“作り方を思い出した”笑顔を、泣き顔の上から貼り付けた・・・。
※※※
「もう、全然平気。ほんとになんでもなかったの。心配かけてごめんね」
いつもの元気いっぱいの笑顔で教室に戻ってきたエリスを、クラスメートたちが出迎
える。女の子たちがエリスを囲むように輪になって、大丈夫だった ? とか、もう平気な
の ? とか、口々に声をかけていた。気恥ずかしさからか無関心を装っていた男子生徒
たちも、一様に安堵の表情を浮かべる。
つまり、クラスメートたちすべてが、彼女の様子を気にかけていたわけである。
みんなに迷惑をかけた謝罪の言葉を述べると、その何十倍ものいたわりの言葉が、
エリスに帰ってくる。短いホームルームの時間が過ぎ、放課後を告げるチャイムが鳴
ると、彼女は教壇から降りて教室を去ろうとする担任を捕まえて、丁寧に頭を下げた。
「ああ、いいんですよ。でも、大事をとって早めに帰宅なさい。三年生というのはとても
大事な時期ですから、体調管理にも気を配ってくださいね。じゃあ、お大事に」
担任の先生は温厚そうな初老の男性で、生徒相手でも随分と丁寧に話すので評判
の教師であった。その言葉に、素直にハイと返事をしたエリスが、背後にかすかな人
の気配を感じ取り、振り向いた。
「あ、灯ちゃん」
ふわっ、と花のような笑顔が咲く。
灯が右手にエリスの学生鞄を持って、
「・・・・・・はい」
と、差し出す。それを受け取りながら、「ありがとう。ごめんね、灯ちゃん」と、エリスが
首をすくめるようにした。迷惑かけちゃって、と言いかけるのを、
「・・・・・・」
無言で灯は首を振り、気にしないで、というジェスチュアをする。
「あ、うん。それじゃ帰ろう ? 灯ちゃん」
「・・・・・・今日は・・・・・・」
「え・・・」
「・・・連絡が入って・・・これから任務だから・・・」
淡々と、当たり前のことを話すように灯が言う。
彼女が任務というからには、それはおそらく絶滅社ないしアンゼロットからの指令に
違いなく、当然のことながらエミュレイターにかかわる事件への対応を要請されてのこ
とであろう。いまとなっては、エリスにも遠い遠い世界の出来事であった。
「そっかー、残念」
「・・・・・・・・・」
エリスがくるり、と背を向けた。肩越しにすぐさま灯を振り向いて、
「頑張ってね、灯ちゃん。気をつけて」
それだけ言うと、たたっ、と小走りに教室を駆け出した。出入り口のところでもう一度
だけきびすを返し、
「またね、バイバイ」
小さな手を振り、別れの挨拶を告げる。なんでもない、クラスメート同士の放課後の
別れのシーン。当たり前の日常の風景が、なぜだかやけに寒々しい。
「・・・・・・エリス」
呼びかける灯のつぶやきは、駆け出していったエリスに届くはずもなく、なにもない
空間にぶつかって、壊れて消えた・・・・・・。
※※※
私は上手く笑えていたんでしょうか。私はいつもの私でいられたんでしょうか。
灯ちゃんは私のことを変に思わなかったでしょうか。私の心の中に気づかないでい
てくれたんでしょうか。
教室を駆け出して、エントランスホールまでようやく逃げてきた私の頭の中は、そん
な考えで一杯でした。なんでもない、お友達との別れの挨拶。どこにでもある日常の
風景。「バイバイ」は、変わらない明日へと続く約束。それは明日を変えないための、
ささやかな儀式。
・・・私は、上手くやれたはず、だったと思います。
だってそうでなきゃ。
いつもと同じでなきゃ、同じ明日を迎えられないじゃないですか・・・。
「・・・あぅ・・・」
気がつけば、目の周りがまた熱くなって。
慌てて私は自分の下駄箱へと向かい、上履きを履き替えます。
もう少し。あと少し。頑張って、私。涙がこぼれる前に、泣き出してしまう前に、早くこ
こから逃げ出して。
「・・・はっ、はあっ・・・・・・」
急いで履き替えたせいで、ちょっとつまづいて。よろけた拍子に思わず地面に手をつ
いてしまって。でも、ここでへたりこんじゃうわけにはいかないから。脚にしっかり力を
こめて、無理矢理立ち上がって、私、駆け出しました。
走る背中に輝明学園を、明日また出会う日常の場所を、灯ちゃんを置いてけぼりに
して。
私は思い切り駆け出しました。
苦手な体育の授業と同じくらい、一生懸命に走りました。
息が切れるほど、心臓が激しく脈打つほど走れば、きっと涙は汗に変わって、泣き声
を上げるためのエネルギーが失われてくれるんじゃないかって。無意識にそんなことを
考えていたのかもしれません。
いつのまにか秋葉原の街並みが、あわただしい雑踏が、私を包み隠してくれていま
した。無理して走ってきたせいで、呼吸が荒くなって、胸が苦しくて。吸い込む空気ま
でが、痛くって。
次第に走るペースが落ち、足を引きずってとぼとぼと歩きはじめた私は、そっと目元
に指を当ててみました。
指を濡らすのは、汗。
私、泣いてない。涙は、ちゃんと誤魔化せている・・・。
(よかった・・・・・・)
私、そこでようやく笑えました。ただ、それは、みっともない自分を上手く隠すことが
できたという、後ろ向きな、とても後ろ向きな安堵の微笑だったのだけれども。
「・・・シャワー・・・浴びたいな・・・」
汗ばんだ肌がじめじめと気持ちが悪くて、自然にそんな言葉が漏れます。
洗い流したくて。汗も、涙も、私の心の中のもやもやしたものも全部。
ふと気がつけば、自分の家の前。
今日一日に起きたあんなことやこんなことを全部リセットしたくて、私はマンションへ
駆け足で逃げ込んだんです・・・・・・。
※※※
バスルームに反響する水音が止む。
水滴に濡れた身体を菫色のバスタオルでくるんだエリスが脱衣所からリビングへと
戻ってきたとき、時刻は午後六時をちょうど回ったところだった。
夕方の宵闇が街を薄く包み込み始め、秋葉原の一等地にあるこのマンションの最上
階にも、ようやく優しい黄昏が訪れた。
思い切り走って疲れきった身体を、熱いシャワーでリフレッシュすると、爽快感の直
後に急激な疲労感と脱力感が襲ってくる。
(ちょっとお行儀悪いけど・・・)
エリスは、バスタオル一枚の姿でソファに座り込むと、そのまま横倒しになる。
「・・・明日・・・灯ちゃん・・・会えないんだ・・・」
任務があると言っていたから。そう言われた次の日は、灯は学校に来ることはない。
「お弁当、一人分、か・・・・」
つまらないな。明日は一人で学校に行かなきゃ行けないのか・・・。
胸に去来する感情は、紛れもない寂寥。
いつも明るく、誰にも心配をかけないように振舞っていたけれど、任務や調整で灯が
不在のとき、エリスはやっぱり言い知れない孤独感に身を焦がしていた。
そんなとき、学校を卒業してしまった柊やくれはに声をかけようとするのだが、エリス
は結局、それもできなかった。学園から巣立った彼らに、いつまでも頼っていてはいけ
ない。手のかかる、情けない後輩だ、と思われるのも辛い。いや、柊たちはそんなこと
を決して思わないに違いないのだが、それでもやはり、エリスは自分の甘える心にブ
レーキをかけてしまう。
まして、いまの自分はかつての力を失くした普通の人間なのだ。
彼らには彼らの世界があって、おいそれと近づいてはいけない領分であることも、エ
リスは承知している。夜闇の魔法使いたちとは、かけ離れた世界の住人となったこと
を、こんなときエリスは少しだけ残念に思う。
あんなに願っていた普通の暮らしに、もどかしさを感じてしまう。
「なんて・・・勝手なんだろう・・・私・・・」
すると、次に訪れるのは自己嫌悪。
都合のいい時は平穏を求め、自分が寂しいときは変わってしまった自分を嘆く。
柊が、くれはが、灯が、それにアンゼロットや世界中の人たちが、みんなそれぞれが
熾烈で文字通り命を削った戦いの末に、エリスに真っ当な人生をくれたというのに。
くれはなど、本当に一度は命を落としてしまったというのに。
それだけのみんなの苦労や想いや犠牲の上に成り立っている自分の人生に不満を
抱くなんて、なんて罰当たりなんだろう。
「でも・・・やっぱり寂しいんだもん・・・寂しいよ・・・灯ちゃん・・・」
ソファに横たわり、いるはずもない灯に呼びかけるエリスの声は、いつしか涙声に変
わっていた。
「灯ちゃん・・・灯ちゃん・・・あかりちゃ・・・ん・・・」
バスタオル越しに、エリスの左手が自身の慎ましやかな膨らみに触れた。
エリスの小さな手のひらに、すっぽり収まるサイズの胸をゆっくりとさする。ざらついた
バスタオルの布の感触が、肌をやんわりと愛撫した。
灯と会えない。灯がいなくて寂しい。
エリスは寂しさを紛らわせるため、自慰に逃げた。快楽のためではなく、文字通りの
「自分を慰めるため」の行為。
真っ白になって忘れなきゃ。この寂しさを紛らわせなきゃ。そうしなきゃ、私、おかしく
なっちゃう。寂しくて死んじゃうよ・・・
つたなく、幼い自慰は、それでもエリスの敏感な身体には過剰な刺激だった。
身体を胎児のように丸め、やわやわと手を動かす。もう一方の右手が、はだけたバ
スタオルの隙間を縫って、ぴったりと力強く閉じた膝から、股間へと伸び・・・
「・・・・・はあっ、はっ、はあっ、はっ、はあっ・・・・」
せわしなく呼吸を乱しながら、エリスはぎゅっと瞳を閉じていた。
巧みさとは程遠い、おそるおそるの、愛撫というよりはただの接触に近い自慰。
それでもなお、エリスの身体は小刻みに震え、肌はほんのりと赤みを増していく。
「・・・ふくっ、くんんっ・・・」
吐息が喘ぎに変わりそうになると、その声を漏らさないように、エリスはソファに顔を
うずめた。はた目に見れば、それとは気づかれぬほど微細な動き。
しかし、微かでしかない指の動きは、確実にエリスを昂ぶらせていく。
そして、
「・・・あ・・・かり・・・ちゃん・・・あかり・・・ちゃん・・・・・・あかりちゃ、んうんううっ・・・ !! 」
くぐもった声は、確かに親友の名前を・・・緋室灯の名前を呼んでいた。
その名前が音となって耳朶に届くと、それだけでエリスの心身は異様な興奮に包ま
れる。灯の名前を連呼する最後の方は、呼びかけの形をした絶頂の悲鳴であった。
「ふぁ・・・う・・・あ・・・あぅぅっ・・・」
完全に虚脱した身体をソファに横たえ、エリスは達した余韻に浸されていた。
身体は快楽で満たされる。だけど、心は空虚なものを抱えたままで。
帯びていた熱が引いていくと、後に残ったものは自分の行為への羞恥と後悔で。
「・・・うっ・・・私・・・ぐすっ・・・もう、ヤダ・・・こんな・・・いけないこと・・・ばかり・・・だめ
だよ・・・もう、だめになっちゃうよぉ・・・」
いつのまにか、外は夜の闇に包まれていた。
照明もつけないままの広いマンションのリビングに、エリスのすすり泣きだけがいつ
までも木霊している。
このまま。
泣き続けてしまおう。泣いて、疲れて、泣き疲れて眠ってしまうまで・・・・・・。
※※※
あんなに泣いて、あんなに疲れて眠ったのに、毎日の習慣って怖いですね・・・。
午前五時。いつもの目覚ましの、
《朝だよ〜起きて〜エリスちゃ〜ん》
という、くれはさんの声に目を覚ました私は、のろのろと疲れた身体をソファから起こ
しました。
「・・・っ、くちゅんっ」
ぶるるっ、と身体が震えてくしゃみをしてしまい、私は自分がバスタオル一枚を裸の
身体に身に纏っただけで、一晩過ごしてしまったことに気づきました。
まざまざと脳裏によみがえる、昨日の夕方のこと。自分のしてしまった行為。
「あう・・・私・・・あんな・・・恥ずかしいこと・・・」
火照る頬に両手を当てて、ひとしきり後悔して。それでも時間は決して止まってはく
れず、私は学校へ行く準備をしなければいけないことに、すごく倦怠感を感じてしまい
ます。
「今日・・・休んじゃおうかな・・・」
はっ、となって、頭をふるふると打ち振って。
近頃の私はただでさえ悪い子なのに、こんなことを考えてしまうなんて、どうかして
しまってる。このままじゃ、私、学校も気分しだいでサボっちゃう、本当にいけない子に
なっちゃいます・・・。
思い切って立ち上がり、バスルームの脱衣所へ。バスタオルをはずし、新しい下着に
着替え、制服へと手早く着替えます。
濡れたままの髪が乾いてひどい寝癖になっていたのを、大変な思いをして直すと、い
つもの朝食やお弁当の準備をする気になれなくて、私はマンションを出ました。
いつもよりも、ずっと早い時間。登校している生徒なんて、きっと運動部の朝練に向
かう、一部の人たちしかいないはず。朝食と昼食のために、コンビニでサンドイッチを
買い込んで。そういえば、一人でコンビニに入ったの、初めてかもしれません。
まだ早朝の、人の気配の少ない学園に着くと、廊下にも本当に人が少なくて。
上履きに履き替え、教室へ向かう途中も、私、誰とも会いませんでした。
自分の教室の前について、扉に手をかけて。
開けようとした瞬間、教室の中にいた誰かが、私よりも早く扉を開けました。
「え・・・・・・ ? 」
私を見つめているはずのない赤い瞳と、目が合って。
「・・・・エリス・・・おはよう・・・・・・」
「あ、かりちゃん・・・ ? 」
いないと思っていた。来ないと思っていた。
予想外の遭遇に喜ぶべきはずの私は、彼女の名前を呼ぶのが精一杯で、灯ちゃん
の二つの瞳を見つめたまま、ただただ、立ち尽くしてしまっていたんです・・・・・。
(続)
予想以上にエリスが悪い子してますな
これは・・・期待!
>ルー様の人
ルー様なかなか復帰できない理由はそれだったのか!!(違う)
うおおお! 落とし子ができる前からルー様のゲボクだったこの俺g
しかし、アゼル様の帯でお代官プレイとかいろんな意味で危険すぎるwwwww
さすがは最強の魔王様w 非常に萌えました、GJです!
一つだけ気になったのは、俺は2ndルルブ持ってないので確認できないんだけど、FtEに現れる冥魔って闇界の奴らじゃなかったっけ?
ベル様が協力したってのは、幻砦の時のだから冥界のほうで合ってると思うけど
>エリスの人
エリスは厳密にはアニメ作品のキャラだし、見たかったけど、ここで見れると思ってなかっただけに……感激の雨あられですぜ!
続きが気になってしかたねぇ!!
隼人椿で色々こねくりまわしてるが、なかなか形にならない。
椿と伊織&芽衣でしゃべらせて、間接的に隼人の存在を強調するって流れは思いつくが、どうやってもエロにいかねえw
流れで真神×伊織を思いついたんだが、そっちのほうが書きやすそうw
エロを目的にするから上手く組めないんじゃないか?
エロは結果でいいと思う。
>>317が超☆良いこと言った
やはりエリスが黒っぽくなってきたな。
この後の展開は
1、灯「ごめんなさい。私には命が……」→エリスが命をnice boat.
2、エ「男なんて忘れさせてあげます」→命が眠ってからあかりんは性欲を持て余していたので、エリスとの性生活に溺れる
3、灯「どちらか一人なんて選べない」→あかりんハーレム計画
のどれだろう?
nice boat ワロタw
命氏ね
こうですか、わかりません!><
4:
灯「エリスも仲間なのね」
エリス「も?…きゃ!?」
マユリ「エリスさんもでしたか…
あ。大丈夫です。最初は灯さんにあげますからー」
灯のファーストフレンドも追加してみる
>313
おっしゃGJ。エリスが可愛いぞこの野郎。
依存っぷりとか。
>318
2だと、普段はクールだけど実はネコな灯ということに……
良いな、実に。好みだ。
狙っている訳ではありませんが、投下タイミングが重なること多いんです。
一応、一日ずらしたり調整はしているんですよ。
そんな訳で、投下前に感想を。
>>229 丁寧な武田少年と雷火のやりとりに、和ませて頂きました。心からGJ!
先は長いとのことですが、どうかご自身のペースで頑張ってください。
あと強制ではありませんけど、作品の題名を付けて頂けると読み手が追いかけやすく、
保管庫の管理人さんが整理し易いのではないかと思います。
>>262 その豊富なアイディアをさることながら、相変わらずキャラの特徴を掴むのが巧い。
ヅカファンの喩えは、噴き出しつつも凄く分かりやすかったです。
エリスが独白する弱い物語という点が気になりますが、どう展開するか期待します。
>>283 浮きまくりだなんてとんでもない。
ルー様かわいいよルー様! 個人的に魔王スレを連想したくらい、仲良しな様子に
ニヤニヤしました。是非またの参戦をお待ちしています。
>>307 読んでいて再確認したのが、エリスという存在そのものは誕生して間もないということ。
幼児が愛情を求めるのは、自然なことなのだと。
あと的外れな意見なんですが、途中から書き手の視点で読んでしまい、エリスが大事に
書かれているな……と思ってしまいました。
/ / /
薄絹のヴェール越しに飛び交う、祝福の言葉と花弁で作られた吹雪。
皆の前で愛の誓約を交わし、夫から優しい口づけを受け、金色のリングに指を通す。
それは魂に刻んだ、大切な日の記憶。
守護騎士として生を受けた自分が、こんな日を迎えるとは想像すら出来なかった。
腕を預けた隣の男性を見る。
許される限り、彼の時間と共に歩みたいと心から思う。
もし死という永遠の別離が訪れるのならば、臆病な考えではあるが、彼に看取られて自分が
先に逝きたい。
しかし、それは叶わぬ願いだ。
古代竜により生み出され八百年を生きる自分は、夫と未来に持つ時間が大きく異なる。
他種族との混血であるハーフブラッドではあるものの、ヒューリンである夫は百年にも満た
ない寿命しか持たない。
そして何よりも、自分が手にかけた生命とそれに連なる者たちに対する贖罪を忘れるなど、
許されない逃避である。
最愛の人間を失う痛みを味わい、己の罪を本当の意味で知ること。
用意された未来を回避することは、夫が示したひとつの『答え』により得た愛情と、幸せな
時間に対する最大の裏切りとなってしまう。
だから、先にあるのが悲しみだとしても、この甘く幸せな枷(かせ)を受け入れよう。
夫への愛情と感謝の気持ちを心から込めて。
彼女は左手の薬指にはめた指輪の感触に、二人で唱えた誓いの言葉を思い出す。
互いを半身として共に喜びを受け入れ、共に悲しみを享受する。
それは主の危険に盾となり、敵を屠る剣として長い時間を生き続けたガーベラが、新たな道
を歩き始めた象徴でもあった。
※
婚礼に立つように並んだクリスとガーベラ。
司祭のごとく二人に相対するのは、肉を断ち血をすする巨大な魔剣である。
ガーベラが共に剣戟を奏でる相手を見やる。
一振りの剣として生み出され、自身を疑うことなく在り続ける姿。
ただ一つの道を突き進むひた向きさと同時に、他に生きる道を持たぬ哀しさは、過去の自分
と重なるものだ。
ならば、薔薇の武具の因縁も含めて、過去の存在に決別をしよう。
先手を取った《二回行動》の開始。
予備動作を見せずに、ガーベラの剣が滑らかに走り抜けた。
十分なスピードと力が乗った、余分なもののない会心の一閃。
綺麗で完成された一撃に、見ていたクリスの背筋がゾクリとした。
クリスではあれは意識して出せない。良くて三十本のうち一つあるか無いかだ。
ここぞという時に放ったガーベラの集中力と技量に感嘆を覚える。
攻撃力に筋力を上乗せするスキル《スマッシュ》に、《スマッシュ》を極めた者が常備化を
果たした《ハイパーゲイン》が重なり、武器に力を与える《レジェンド》が後押しをする。
さすがに避けられず、イビルソードが派手な金属音を立てた。
<……なにっ!>
ガーベラの攻撃は終わらない。
十字の軌道を描く二連撃スキル《クロススラッシュ》を使用していたのである。
二発目もまた同じスキル構成に加え、戦士の切り札《ボルテクスアタック》が発動。
真空波を伴う強烈な攻撃は、堅固なイビルソードに大きな亀裂を入れ、破片を宙に舞わせる。
「やったか!?」
「いえ、まだです!」
喜ぶクリスをガーベラがたしなめた瞬間、反撃に出たイビルソードの速さに巻かれ、破片が
飛礫のように弾けて二人を浅く切り裂く。
予期せぬ足止めが生んだ好機に、イビルソードもまた全身全霊で応えた。
「まずい!」
相手の攻撃より直感が先んじて、ガーベラの背筋が氷点下の温度を得る。
魔剣が放った一刀もまたこの上なく最高の攻撃であり、自動的に《バーストスラッシュ》の
防御無効を発動させた。
たとえ《プロテクション》を及ぼしても、範囲攻撃の射程に居るクリスを十分に討ち果たす
威力であり、さらに相手は魔術を打ち消すスキル《魔力消失》を待ち構えている。
ただ敗死するよりは夫の愛に応えたい。
ガーベラは迷わずイビルソードに背を向けた。
「よせっ! 止めろ、ガーベラ!」
クリスが妻に《プロテクション》を飛ばすが、敵は魔術を打ち消さなかった。
イビルソードは蘇生魔術《レイズ》に備えたのだ。
つまりそれは、ガーベラを仕留めたと確信あってのこと。
<それが汝の選択か、薔薇の巫女の守護者よ……>
振るわれた斬撃に生じた烈風が周囲の空間を走った。
防御力を無効化した二発分の攻撃が、一瞬で守護者の生命力を全て奪い取る。
クリスを《カバーリング》したガーベラは屑布のように裂かれ、手から離れたカラドボルグ
が甲高い音を立ててイビルソードの後方に転がった。
倒れ伏したガーベラから流れる血が床を濡らし、辺りに濃厚な血臭が広がっていく。
戦闘不能となった瀕死の姿は、温もりを失っていくだけの屍に等しかった。
※
古代竜の加護を持つ騎士ガーベラは、死の淵から蘇る《イモータルブラッド》を復活スキル
として有しており、また彼女の夫クリスは《レイズ》を覚えている。
その為、彼女は生命の呪符に頼ることが無い。
スキル《イモータルブラッド》は発動に際しフェイトを三つ使用する。
だが、ガーベラは背水の境地で攻撃の命中に注ぎ込んでいた為、六つ有する彼女のフェイト
は残り二つとなり、スキルの発動は不可能であった。
<……ふ、ふふふ……ふははは……っ!>
イビルソードが震える声で笑う。
<薔薇の巫女の守護者の名に違わぬ、恐ろしい敵であった。見よ、汝の妻は我をここまで追い
詰めたわ……>
激闘の証に血塗れとなった大剣の刃は亀裂で半ばから折れかけており、残った部分も片刃は
完全に潰れて使い物にならなくなっていた。
<しかし、我は勝利した。次は守護者にとどめを刺してその血肉を喰らい、我は真なる薔薇の
武具の剣としてその座に就く!>
「違う! まだ終わってはいない!」
クリスがイビルソードに吠える。
行動を控えた彼は選択肢の岐路に立たされていた。
妻の元に駆け寄り、打ち消されるのを覚悟して《レイズ》を唱えるか。
イビルソードの残りの生命力を断つべく、自分が攻撃を仕掛けるか。
もしくは行動を放棄して、次にガーベラへとどめを刺そうとするイビルソードの攻撃を防ぎ、
自分の切り札である相打ちスキル《ソウルバスター》の発動に賭けるか。
妻の命を天秤に賭けた選択に、喉が渇き膝が震える。
失敗すれば、クリスは自分の全てに等しい半身を失うのだ。
だが――
<汝を殺すなと守護者は願った。故に“全てが終わる”まで、汝には再び眠ってもらう>
魔封じの飾り紐を伸ばし、イビルソードが宣言をする。
「させるかっ!」
これ以上[死神]の汚名を着るつまりはない。もはや妻と共に死ぬまでだ。
クリスが風霊の剣を構えて攻撃を繰り出す。
自分にはまだ《ボルテクスアタック》と《エナジーフロー》もある。この一撃で決着がつかな
ければ、次は《ソウルバスター》でとどめを刺せばいい。
<云っておくが、汝の所持していた生命の呪符は、念の為に眠っている間に我が預かった。
故に我を倒そうとも、汝一人では残念ながら一手の差で届かぬ>
「何だと!?」
大剣の柄に埋め込まれた『邪眼の宝珠』に、取り込まれた呪符が浮かび上がる。
動揺が伝わったクリスの剣を、イビルソードが易々と回避した。
「……しまった!」
回避の円運動から加速して、妻の血に濡れた刃先が水平にクリスへと迫る。
ここで《プロテクション》を放つ意味はない。
相手が蘇生の品を持っているとしても、クリスは全力を尽くすより他なかった。
胴を薙ぐ攻撃が鎧と肉を断ち、肋骨が折れた痛みが伝わる。
内臓を傷つけられて吐血しながら、クリスが身に埋め込まれた剣に手を添える。
「……お前も墜ちろ。《ソウルバスター》っ!!」
繋げた精神を媒介して、相手にも同じ傷を与えるモンクの切り札スキル。
その瞬間、亀裂の入っていた大剣は、破砕音と共に完全に折れて半分の長さとなった。
戦闘不能に陥ったクリスがその場で膝をつく。
霞のかかる目で敵を確認する。
呪符の焼け焦げる微かな臭いに、イビルソードを一度は倒したと知った。
妻の為に最期まで足掻くつもりであったが、これ以上は何も出来ず意識が落ちかけている。
手足が鉛のように冷えて重たく、指一本でさえ動かすことが叶わない。
<真に一手の差であったな……>
戦闘不能から復活を果たしたイビルソードが宙に浮遊した。
その姿も無残なもので、剣とは呼べぬ鉄の棒切れに等しい。
「……妻にはな、婚約をした時に……私から離さないと約束したんだ……」
口腔にせり上がる血を飲み込み、途切れそうになる意識を叱咤しながらクリスが呟く。
「……だから、とどめを刺すのなら……私から先にやれ。私が生きている目の前で、妻に手を
掛けることは……」
かき集めた僅かな気力で、イビルソードを睨みつける。
「……許さない」
イビルソードがクリスに尋ねる。
<それは先ほどの仲間が、援軍を連れてくる為の時間稼ぎのつもりか?>
「……はっ?」
不意を突かれたようにクリスが呆然とし、すぐに小さな笑い声を上げた。
「……いや、考えもしなかったな。だったら……急げばいいだろう?」
目を閉じてクリスが他意の無いことを示す。
これは諦めの行為ではない。
身体の自由が利かない状況の中、たとえ一秒でも、ガーベラの生命を延ばしたいという愛情
から出た行動だった。
使えるものがあれば、たとえ自分の命ですら惜しまない覚悟。
「………って…………さ…………」
そんな諦めないクリスの想いは、妻へと通じたのかもしれない。
「……待って……ください………」
発せられたのは夫を呼ぶ妻の声。
幻聴かと怪しんだが、クリスは目蓋を開いて確信に到った。
「――っ! ガーベラ……ッ!!」
夫の声を支えに、血塗れの守護騎士がよろめきながら身を起こす。
その手には剣を失っており、なおも立とうとする様は、戦う者にほど遠い姿であった。
※
確実に戦闘不能に追い込んだはずである。
一体どのようなカラクリなのか?
イビルソードが声を失う中、夫に見守られながらガーベラが立つ。
肩を震わせる荒い息に、まだ乾かずに流れる鮮血。
<……信じられぬ! 汝は魔族のごとく不死身か!?>
動揺するイビルソード。
荒い息を肩でするガーベラは不死身には程遠く、瀕死に限りなく近い重傷である。
大量に血を失った為に元々白い顔色は蒼ざめ、額には大きな汗の粒がたくさん浮かんでいた。
「……ふふふ。どうやら、これに助けられたようです……」
ガーベラが懐から小さな彫像を取り出す。
それは金色に輝く鳥が台座に乗った形の携帯代首領。
大首領曰く豪華版(価格100G)を超えた、5,100Gもする超★豪華版である。
ガーベラが台座の底を見せると、そこには使用済みとなった生命の呪符が張り付いていた。
なるほど、確かに価格通りの価値ではある。
クリスが状況を思い返し納得する。
金属で出来た人造生物であるイビルソードとは異なり、ガーベラの場合は血臭で呪符が焼き
切れる臭いに気づかなかったのだ。
<……何とも運の良いことよ。しかし、我にとっては勝利が先に延びたに過ぎぬ>
冷静さを取り戻したイビルソードの指摘を、ガーベラもまた正確に理解していた。
それは戦闘不能になった際、カラドボルグを手放したことに起因している。
武器を失った彼女は、二つの切り札を失った状況にある。
一つは、最後に残した三度目のカラドボルグの防御無効とダメージ増加。
もう一つは、今なら最大限に発揮できるガーベラ最大の切り札である《レイジ》―― 自分の
身体に累積したダメージを、攻撃力として敵に返す剣技スキル。
だが、その双方に必要な魔剣カラドボルグそのものが無い。
敵の後方に転がったカラドボルグを“呼びかけ”で手元に戻すことは出来るが、彼女の行動は
それで終了し、続いてイビルソードの手順となる。
攻撃を受ければ、瀕死手前のガーベラは確実に倒れてしまうだろう。
つまり彼女はこれからの攻撃で、イビルソードを確実に仕留めなければ後が無いのだ。
敵もまた生命の呪符を使用し、生命力は重傷状態の僅かであるが、かといって素手で堅固な
装甲を突破してダメージを与えるとなると不可能である。
ガーベラが握力の落ちた左の掌を見る。
心からこの手に武器が欲しかった。
自分の生命はどうだっていい。
自分の力が及ばない為に傷ついた夫を守る力が欲しかった。
だが、無いものを願っても仕方がない。
ぎゅっと無念を込めて拳を握る。
握力の無い手で作った拳では、素手の攻撃も期待できそうに無い。
その時だった。左手の甲に刻まれた、翡翠色の刻印が目に入ったのは。
「……っ!」
稲妻のように天啓が閃いた。
一つだけ方法がある。
確実性はない。ただ僅かな可能性があるという、一種の賭けに近い手段だ。
むしろ天秤は失敗する方に大きく傾いている。
自分の不安な心を映すように、両手が生む細かい震えが止まらない。
失敗すれば夫の生命を失う重圧に息苦しくなり、喉の締め付けを錯覚する。
喘ぐように空気を求め、ガーベラの視線がクリスの方へと無意識に向いた。
無理やり笑顔を試みたが、誤魔化しは上手くいかない。
心情を悟られたのだろう。
クリスは妻の表情を見て、狼狽と恐怖を浮かべた。
戦闘不能でなければ、駆け寄って問い詰めたに違いない。
「ごめんなさい、あなた……」
夫の返事は、声を失った絶叫の表情。
行動ままならぬ四肢に、座り込んでいたクリスが床を転がった。
這ってでも妻の元に進もうとして、爪の先ほども果たせず無様にもがく。
自分は酷い女だとガーベラは思った。
自分の為になりふり構わない彼の姿を、嬉しいと感じているのだから。
それで覚悟が決まった。
策が失敗した時に備え、不名誉な裏切りを決意する。
たとえ自分が死んだとしても、夫が枷に囚われないように。
「あなたとは離縁です。あたしには……勿体ない旦那さまでした」
泣き笑いを浮かべて、万感の想いで頭を下げる。
夫から見えなくなったガーベラの唇が、音の無い言葉をゆっくりと刻む。
……ずっと愛しています、あなた。
頭を上げると同時に、ガーベラはクリスに背を向けた。
もう振り返ることはない。
戦闘不能の身でありながら、必死にもがく夫の立てる音が段々と小さくなっていく。
「……ガーベラ……」
最後に弱々しく妻の名を呼んで、無意識の中に沈んだクリスが静かになる。
その間ガーベラは無言で応えず、名を呼ばれた際に微かに肩を揺らしたのみであった。
浮遊するイビルソードに、ガーベラが静かな声で告げる。
「次の行動が、あたしの最後になる。あたしが失敗したらお前の勝ちだ。だから言っておく」
瀕死の身体には不釣合いな強いまなざし。
鋭い視線は、まるで抜き身の剣のごとく。
「以前、あたしはお前に言ったはずだ。我が背の君を傷つけることを許さないと」
冷ややかな声音に反して、込められた意思は灼熱であった。
裂帛の気合に打たれたように、イビルソードが言葉を失う。
「剣として生まれ、薔薇の武具の剣の座を欲するのならば、いいだろう……」
言葉を切り、守護者はイビルソードにゆっくりと足を進めた。
彼女の左手の甲にある薔薇の刻印が、冷たく翡翠の光を放つ。
「……剣として、お前を葬ってやる」
その手に剣はなく、代わりに握られていたのは小さな正六面体。
ノエルが持たせてくれた、薔薇の紋様が刻まれた小箱であった。
※
ノエルがガーベラに渡した薔薇の小箱。
それは六つの薔薇の武具の数に相対した、武具の封印を司る六面体の魔法の品である。
薔薇の小箱の能力は三つ。
本来、刻印を持つ者が五つの武具を装着すると、自動的に第六の武具と化してしまう。
これに対し薔薇の小箱は五つの武具に封印をかけ、刻印を持つ者の武具化を防ぐ働きを持つ。
言うなれば、安全装置としての機能。
二つ目は、逆に五つの武具を装備した者を、即座に武具と化す《第六の武具、解放》。
そして最後は、視界内に存在する薔薇の武具を装備する《装着》である。
ガーベラがイビルソードに歩み寄り、空いた右手でその柄を掴んだ。
<……何をするかと思えば、我を汝の武器として扱うつもりか?>
「その通りだ」
ガーベラの返答にイビルソードが嘲笑を漏らす。
自分を武器として使用する者は、『邪眼の宝珠』の作用により生命力を吸われる。
死霊の軍団を滅ぼした際、クリスに命じて血を与えさせたのはその代償行為である。
<ならば代価を払うが良い……!>
柄を通して、生命の呪符で回復していた守護者の心許ない生命力が流れ込む。
戦闘不能になるまで、全てを吸い尽くすのも時間の問題だ。
勝利を確信して、イビルソードが饒舌になる。
<どうやら『邪眼の宝珠』のことは知らなかったようだな?>
生命力を吸われ、大剣にもたれかかる守護者は力なく首を振った。
「最初に倒れた魔術師が調べてくれた。両手剣に『邪眼の宝珠』を寄生させた、擬似生命体が
お前の正体であり、宝珠を除けば身体そのものは魔力で強化された剣と変わりないと……」
ガーベラの生命力が、いよいよ戦闘不能の一歩手前となる。
しかし風前の灯となった守護者の目が、先程から少しも強い輝きを失っていないと気づき、
イビルソードは冷水を浴びたように熱が引くのを感じた。
九割九分の勝利を手中に収めているというのに、この言葉に出来ない不安は何なのだ?
<汝はこの期に及んで、何を狙っている!>
「言ったはずだ。剣として、お前を葬ってやると……」
左手に掴んだ薔薇の小箱が、翡翠色の輝きを放つ。
ガーベラが《装着》を発動させて、視線の先にある武具を呼んだ。
「我が“右手”に来い、カラドボルグ……!!」
その瞬間、イビルソードは身に起こった出来事を理解できなかった。
辛うじて分かったのは、自分が敗北したという事実。
全身に走った衝撃と共に、イビルソードは自身が砕け散る音を聞いて床に崩れ落ちる。
見上げた視界の先では、ガーベラの右手で翡翠色に輝く魔剣の姿があった。
※
かつてガーベラは、各武具と小箱の能力を記した魔導書マビノギオンを読んだことがある。
その際、彼女は何気なく疑問に思ったのだ。
薔薇の刻印を持つ者が備える武具への“呼びかけ”に等しい能力が、何故わざわざ小箱へと
付与されているのだろうかと。
改めて魔導書に目を通し、彼女はささやかな相違点に気づいて苦笑した。
薔薇の小箱の《装着》に関し、マビノギオンにはこう記されている。
《装着》
視界内に存在する薔薇の武具を装備する。『もとから装備していた武具は破壊される』
この破壊される武具とは、薔薇の武具を指すものではないと思われる。
他の記述では必ず「薔薇の〜」や「第■の〜」等、武具という単語の頭に示す言葉がある。
つまりこれは、薔薇の武具を一瞬で装着する為、邪魔となる装備を排除する補助能力なのだ。
その時は、取るに足らないように感じた能力。
それをガーベラは思い出し、レントやエイプリルが指摘した『敵は剣そのもの』という発言に
結びつけて実行したのである。
皮肉にも武具を前身とし、その特性を残すイビルソードだからこそ通じた策であった。
滅びを迎えた敵から敗因を尋ねられ、説明を終えるとガーベラも膝を崩して倒れ込んだ。
一瞬の差であったが彼女もまた最後の生命力を吸われ、戦闘不能となったのである。
実質は引き分けであるが、クリスを守るという目的を果たした結果を彼女は喜んだ。
晴れ晴れとした守護者を見て、もはや剣の形を留めぬまでに破壊されたイビルソードが疑問
の声を上げる。
<……しかし、なにゆえ汝は、背の君の為にそこまで命を賭けられるのだ?>
愛しているからと、言葉で済ませるのは気恥ずかしい。
少し考えた末、彼女は質問に答えを返した。
「作られた生命だったあたしを、初めて剣以外で求めてくれた人だったから」
<それだけの理由でだと?>
「それだけと言うか……」
ガーベラが苦笑する。
「イビルソード、お前は理解できるか? 自分が作った拙い料理を、美味しいと食べてくれる
人がいる喜びを」
寝転がったまま首を動かして、気絶したクリスの方を向く。
彼に投げかけるガーベラの視線は優しい。
「お前は理解できるか? 悪夢でうなされて目覚めた時に、隣に居てくれる安らかな寝顔を」
<……理解し難い話だ>
イビルソードの返答に、ガーベラが小さく噴き出す。
「それだけの理由と思っている以上、お前は薔薇の武具にはなれないよ……」
薔薇の巫女を守ろうと創造主に反旗を翻した、五人の守護騎士の血肉の成れの果て。
彼らの遺志を継いで、世界を守ろうと自らも六番目の武具となった古き時代の巫女。
そしておそらくは、巫女の悲劇の後に誕生した、武具の封印装置である薔薇の小箱。
薔薇の武具の誕生にまつわる想いを噛み締めながら、ガーベラは瞳を閉じた。
疲労と失血による体温の低下が、意識を眠りの世界へと誘う。
後は援軍を連れたノエル様に任せよう。
ガーベラが安らかな寝息を立てる。
彼女を追うようにイビルソードも完全に沈黙し、激闘を終えた舞台は静寂に包まれた。
しばらくして、部屋に新たな人影が訪れる。
援軍を引き連れたノエルではない。
七つの名を持つ魔族に仕える、フィルボルの暗殺者ヴァルである。
彼は目的であったイビルソードの破壊を確認すると、それに付随した任務に手をつけた。
直接手で触れぬように、血と魔力を蓄えた宝珠をベルトポーチに収める。
あらゆる武器と融合し強化するこの品を、ヴァルの主は珍しい玩具のように求めているのだ。
それは何処かで再び、エリンディルには一体しか存在しない、固有名を冠する魔物の復活を
意味するのかもしれない。
もっとも、ヴァルの主は上位魔族の多くがそうであるように、深謀にして気紛れでもある。
案外、部屋を飾る装飾品の一つとして、永遠に鎮座する可能性もあった。
自身が訪れた痕跡が無いことを確認すると、ヴァルは闇の中へと姿を消す。
その後ノエルたちが到着するまで、この部屋に訪れる者は存在しなかった。
※
意識が覚醒を果たす。
深い眠りからガーベラが目覚めた場所は、見慣れない一室の寝台であった。
傍らに付き添っていたノエルが少し涙ぐんだ笑みを浮かべ、ここがヴァンスター神殿の医療
部屋であることを伝える。
自分の全身に巻かれた包帯に、ガーベラが得心してそっと息を吐く。
聞けばガーベラは四日間ずっと意識がなく、クリスが自身の傷を省みることなく三日三晩は
寝ずに側を離れなかったという。
流石に見かねたゴウラが休息を取らせようとしたが、クリスは頑として拒み、一時は大喧嘩
に発展しかねない状況に陥ったらしい。
「……あの人がゴウラ様と?」
「はい。あれは愛ですよ、もう!」
朗らかに笑うノエルとは対極的に、ガーベラの表情が曇った。
大恩ある先輩のゴウラに対し、明らかに普段のクリスらしからぬ態度である。
その原因を考えようとして彼女は思い当たる。
自分は夫を守る為とはいえ、その信頼を裏切り、離縁まで口にしたのだ。
どの顔を下げてクリスと会うことができよう。
その時、不意に部屋のドアが開いた。
「あっ、クリスさん! ガーベラさん、さっき目を覚ましましたよ!」
ノエルの声にガーベラの鼓動が激しく高鳴り始める。
開け放たれた部屋の扉の前に感じるクリスの気配。
顔を伏せたガーベラの耳が、無言で近づく足音を捉える。
少し引きずるようなテンポが、足音の主の体調を表していた。
膝に掛かったシーツを握り締め、ガーベラは息を殺すように唇を引き結んだ。
「みんな心配していたんですよね……って、クリスさん?」
ようやく二人の不穏な雰囲気に気づき、ノエルが言葉を詰まらせる。
立ち尽くしたまま、無言で妻を見下ろすクリス。
シーツに視線を落としたまま、夫と目を合わせようとしないガーベラ。
二人の重い沈黙に耐え切れず、ノエルが慌ててガーベラに話し掛ける。
「……えっと、その、大変でしたけど、終わって良かったですよね?」
「ええ、“クリスさん”が無事で良かったです」
他人行儀な言葉を、ガーベラがぽつりと洩らした。
その瞬間、派手な音が響いた。
乱れたガーベラの髪と、段々と赤く晴れ上がる頬にノイエが息を呑む。
クリスがガーベラに平手を上げたのだ。
「……ふざけるな。人を心配させといて、言う言葉がそれか!」
怒りに肩を震わせ、クリスが踵を返して退出する。
両手でシーツを握り締めながら、ガーベラがポロポロと涙を流す。
初めて聞く彼女の嗚咽に呆然としながら、ノエルは何も言えずに固まっていた。
332 :
324:2008/06/09(月) 01:15:29 ID:0xEGu0H5
==========================================
……今回の投下は以上です。
ラストの引きは次回の冒頭に回すか迷ったのですが、ラストバトル直後の方が説得力ある
と判断し挿入しました。
全て当初から予定していたプロット通りになります。
携帯代首領も、イビルソードの倒し方も、その後に起こる夫婦喧嘩(汗)も。
戦闘に関して少し補足を。
イビルソードと、そのドロップアイテムである邪眼の宝珠に関しては、エネミーガイドに
データが掲載されています。
邪眼の宝珠を宿した武器は装備すると、装備者はHPを5点失う仕組みです。
生命の呪符は戦闘不能からHPを1D6点だけ回復させますから、ガーベラはその点でも
賭けていた状況だったりします。
作中の倒し方は、あくまで薔薇の小箱と共にデータの拡大解釈ということで。
山場であったラストバトルも終わり、ワンクッション置いて、Hパートに突入できるかと。
肩の重荷が降りて、少しほっとしています。
では、次回を今しばらくお待ち下さい。
>>324 まじでGJ
小箱の特殊技能でイビルを破壊したのは素直に関心しました><
平和な後日談も期待しています
334 :
307:2008/06/09(月) 12:25:18 ID:l2hnht0J
最後まで緊迫を持続させる筆力は凄い。
私も過去、戦闘シーン入れたことありますが、冗長になるのが怖くて思い切り書けなかった苦い思い出が(笑)。
二人の夫婦喧嘩、普通なら心配する所ですが、お互いを想う故の不器用さにニヤニヤしながら読んでたのは秘密(笑)。
それと感想有難うございます。エリスは書いている内に益々好きになり、これでもかってくらい書き込んじゃいました。
次回はもっとエリスが酷いことに。きくたけ御大の流儀に倣えば、PCは追い詰めてナンボですから。
うひひ。
本当にエリス好きなのか、自分(笑)。
と、長文失礼しました。
初めまして。
アリアンロッド――前スレから拝見させて頂いてましたが、やはり緻密な設定ですね。
リプレイ風の文章も、ちょっと不思議な感じで面白いです。最強の敵には打ち勝ったものの、2人の関係は、むしろこれからが山場のようですが……。
さて本題……エリスや雷火で盛り上がっているところ申し訳ありません。雰囲気を壊してしまわないかと心配ですが、場をお借りしたいと思います。
・システム 真女神転生X
・キャラ 運命の少年(基本ルール)、影の銃姫(闇のプロファイル)
・傾向 長い! 暗い! ハードレズ有(!?)
マイナー路線ですみなせん。お暇な方、気が向いた方だけ、どうぞご覧ください。
「あなたが本当の救世主なら、生き残って」
頬に涙の筋を引いて、彼女は言った。
片手に構えた銃を、俺に向けて。
その時、俺は何も出来なかった。
逃げる事も、立ち向かう事も、言葉をかけることすら、出来なかった。
響く炸音。雷鳴のような音が鼓膜を通り抜けていくのに、じっと身を任せて。
彼女の放った銃弾が、心臓のある左胸に吸い込まれていくのを、俺はただ見ているだけしか出来なかった。
初めて彼女を見たのは、2年にあがって最初のHRだった。
別に、一目見るなり衝撃を覚えた――とか、そういうわけじゃない。
サラッとした長い黒髪が印象的で、対照的に、肌の色が透けるように白くて。
綺麗な子だな、と密かにときめいたりはしたけど。
でも教室の席で友達と談笑する彼女は、それ以上は特にどうという事も無い、同年代の女の子に過ぎなかった。
その頃は、まだ俺も、そして恐らく彼女も、小さくて退屈で、でも満ち足りた『日常』の中にいたんだと思う。
同年代のヤツラと同じように、朝起きれば学校に行き、夕方は帰りがてらに遊び歩いて、勉強は嫌いでも、テストの結果が良ければいい気になり、悪ければ落ち込んで。
家族には色々と小さな不満を持ちつつも、親父に小遣いをせびったり、夕食に母さんが好物を作ってくれた時には、少し上機嫌になったり。
そんな、ささやかな幸せに浸っていた。
そして、学校という小さな『日常』の世界で、彼女は確かに光っていた。
学年一の秀才だとか、運動神経抜群で大会で優勝したとか、生徒や先生に完璧に信頼されていたとか、
そういうわけじゃあない。
確かに、勉強は良く出来たし、運動神経も悪い方ではなかった。友達だってたくさん居た。
けれど勉強も運動も、学年主席や、運動部のレギュラーに敵うほどじゃない。
友達は多かったけど、仲の悪い相手だって、何人もいた。
美人ではあった。けれど同じくらい可愛い子だって、多くは無くても何人かいた。
『そこ』にいるのが、彼女でなければならなかった理由なんて、ない。
けれど、いつも彼女は、自然とクラスの中心に居た。
明るくて気さくで、芯の部分はしっかりしている女の子。
そんな人間だから、彼女はいつも、周りの人間に頼られていた。
きっと成績や運動と同じように、彼女よりも人望やカリスマのある人間は、他に捜せば、きっといくらでも見つける事が出来ただろう。
けれども、あの学校の、俺と同じクラスでの毎日は、そんな事と関係なく楽しかった。
他愛ない箱庭のような世界でも、俺達は満足していた。たとえ視野が狭かったのだとしても、俺はあの頃の幸福を否定するつもりは無い。
ただ、ここまで偉そうに言っておきながら、かく言う俺は、彼女ほどにも勉強も運動も出来ず、目立つ方でもなかった。
だから、それなりに美人で、勉強が出来て、人気者の彼女とは、口を利く機会なんてなかった。
まともに話したのは、新しい学年がスタートしてからいくらか経った、5月の体育祭での事だ。
くじ引きで決まった演目を確認して、自分の幸運が信じられなかった事を、今でも覚えている。
心密かに憧れていた女の子と、二人三脚で組む事になるなんて、誰だって出来すぎだと思う筈だ。
ぼんやりと呆けていると、彼女は自分から、俺の席の前にやって来た。
「運動、得意なほう?」
「あ、ああ、それなりに」
とっさに無愛想な反応を返してしまった俺に、彼女は変わらず、眩しい笑顔を見せてくれた。
「頑張りましょう」
練習の合間に、彼女と交わした会話。
好きな食べ物、趣味、音楽、テレビ、etc――。
友達同士では、なんでもない会話だ。
けれど些細な情報1つを得るたび、荒いラフ画だった彼女の像に少しずつ色が付いていくような気がして、言葉を交わすたびに、俺はドキドキしていた。
ケーキよりは和菓子が、特にどら焼きが好きだということ。
家では、飼っている猫をいじくるのが趣味だということ。
韓流ドラマが結構好きで、中学生の弟と、よくチャンネルの奪い合いになるということ。
知るたびに彼女との距離が縮まり、そして彼女と一緒に居られる時間に、より大きな幸せを感じるようになっていった。
俺自身の事も話したように思う。それに彼女がどんな反応を示したかは覚えていない。きっと、自分の事を話すだけで手一杯だったんだろう。
恥ずかしかったし、彼女に嫌われるかもしれないと考えると少し怖かったけど、自分を知ってもらう事は、嬉しくもあった。
最初は動きが合わなくて散々だった二人三脚も、練習を重ねるほどに上達した。
だけど体育祭本番で、俺達は惜しくも2位だった。
悔しいなあ、と、言葉とは裏腹に快活に笑った彼女は、足首を結んだ紐を解く間際に、言った。
「来年は、1位を狙いましょう」
一ヶ月後、彼女は行方不明になり、そして遂に帰ってくる事はなかった。
額に乗せられた、冷たい感触で目を覚ました。
目に映ったのは、記憶にある彼女の笑顔じゃなかった。夢の続き――じゃあない。
険しい表情で覗き込んでくる皆の顔を見返し、口を開く。
「ここは……」
「私の診療所よ」
ハスキーな声で『先生』が言う。
言われてみると、確かに見覚えのある部屋に、診察ベッド――先生の診療所に違いなかった。
ポンと、横から投げられた物が目の前に落ちてくる。
ひしゃげてもとの形を留めていなかったが、これは――学章バッジ?
冗談でも、大口径の銃弾を止められるような代物じゃない。
しかし、角度の問題で当たり所を逸らしてくれたのだとか。
「お前の命が助かったのは、本当に僥倖だ。『幸運』以外の何物でもなかった」
厳しい声音で、きっぱりと言うのは『アニキ』。普段は気さくな人だけど、こうなった時、アニキは本当に怖い感じがする。
でもきっと、その怒りは俺に向けられているものじゃない。
重い沈黙が部屋に落ちる。
望まれた筈の再開は、予想だにしない、最悪の形だった。
彼女の姿を目にした時の、心からの安堵と喜び。
それらは一瞬後に、跡形も無く溶け落ちた。
「だから言ったでしょ、あの子、もう死んでるって」
ベッドの縁に腰掛けた小さな妖精が、痛ましげな顔で目を合わせてくる。
確かにあの時、コイツはなにか警告を発していたような気もする。
謝罪と、傷を治してくれた礼を言うと、ピクシーは何も言わず、俺から目を逸らした。
黙り込む間に、アニキは俺が寝ている間に調べてきてくれたという情報を、ぽつぽつと話してくれた。
彼女がガイア教団の、『CAGE』と呼ばれるネクロマンサーのグループに捕まっていた事。
そこで彼女は命を奪われ、アンデッド――幽鬼として蘇らせられ、連中の『使い魔』にされた事。
救世主を殺すため、暗殺者として働かされている事など――。
「もう躊躇っている場合じゃない。放っておけば、彼女はこれからも殺し続けるぞ」
アニキの言葉に、反射的にベッドのシーツを握り込む。
言いたい事は分かる。分からない筈がない。
だけど……。
「確かに、私達が動かなければ、もっと多くの人が殺されるでしょうね」
同調するように、先生が口を開いた。
「そして私達が動かなくても、いずれは〈メシア教会〉か、〈葛の葉〉や〈クレイモア〉といった退魔組織に、彼女は滅ぼされる」
――そこまでは考えていなかった。
……いや、本当に?
すぐに予測できて当たり前の事なのに。
メシア教会の選んだ〈候補者〉とはいえ、『こちら側』と無関係に生きている人間だって、たくさん居る筈だ。
そんな人たちを殺せば、当然、退魔組織から狙われるだろう。
――人間ではなく、悪魔として。
……認めなくちゃいけないのか?
彼女は、もう――
「でも」
先生の声の調子が、少し変わる。
「彼女は、もしかしたらそれを望んでいるのかもしれない」
「え?」
放心した俺に向けて、アニキが言葉をかぶせる。
「いきなり殺された挙句、アンデッドにされて、しかもこれこれの人間を殺してこいと命令される。お前だったら『死んだ方がマシ』とは思わないか?」
答える言葉を、俺は持たなかった。
俺ならば、耐えられる筈が無い。
でも、耐えられなくても、無理にでもやらされる。
今の彼女は、『使い魔』という奴隷だから。
だったら、今、彼女が、本当に望んでいる事は――
「……あんまりだろ、そんなの」
「じゃあどうする? アンデッドにされた人間に向かって、『生きろ』とか言うつもりか?」
――
手首を押さえる何かに気付いて、視線を下げる。
ピクシーが泣きそうな顔で、ベッドについた手を押さえていた。
無意識のうちに、白く握った拳。
――アニキは正論を言っただけだ。目を逸らしているのは、俺のほう。
でも、それでも!
「俺は、嫌だ。ただ殺してやるだけが慈悲だなんて、認めたくない」
「……もう一度相対したら、きっと彼女は、今度は止めを刺すまで攻撃をやめないわよ? それでも?」
先生の問いに敢えて答えず、俺は手を突いて身を起こした。
「いいさ、その覚悟があるってんなら、もう何も言わねえ」
差し伸べられたアニキの手。
一瞬、振り払おうかとも思ったが、おとなしく握る。
たちまち、日に焼けた逞しい腕が俺の体を引き上げる。
先生は何も言わず、無言で背後から俺の体を支えてくれる。
その時になってようやく、2人は俺に反対していたんじゃなく、俺の覚悟を試していたのだと気付いた。
「手、貸してもらえますか?」
俺の問いかけに、アニキはバシッと肩を叩いて応えた。
反対側の手を、先生がそっと握る。
そして肩にとまったピクシーが、まっすぐに俺の目を見つめた。
「あの子の隠れ家なら、見当は付いてるよ。案内する」
仲魔の――仲間たちの顔を見回して、俺は大きく頷いた。
愛用の刀の柄を握りしめ、俺は崩れ落ちそうになる体を、必死で支える。
香木の匂いの立ち込める闇。
燭台の灯火の投げる薄明りの中に、ズルズルと奇怪な影が踊る。
スカイブルーの青地に、白線の入ったブレザー。
ところどころ破れた穴から覗く、赤黒く濁った色。
ぼろきれとなった制服と、飛び散った肉片。それらがピチャピチャと、音を立てて這いずり回る。
まるで、外道と呼ばれる悪魔のように。
だが、ソレの正体は、不定形の魔物なんかじゃない。
粘液の糸を伸ばして、切断された腕が、肩の断面に絡みつく。
霜を吹いて、灰色に壊死した皮膚が剥げ落ち、その下から真白い肌をさらした足が、裂けたスカートの中に飲み込まれていく。
長い髪を振り乱して、彼女は3度目の再生を終え、立ち上がった。
「ぐっ――!」
耐え切れず、口元を押さえた指の間から、少し嘔吐がこぼれた。
――1度目を見たとき、どうしようもなく、俺は吐いた。
想像を絶する、グロテスク極まりない光景。
なまじ、もとが綺麗な女の子だけに、その死骸は無残だった。
――その死骸が肉を蠢かせて再生する様は、悪夢という表現では追いきれない。
「……ハ、……まだ、……こんなもので、動揺してるの?」
陶然と、どこか艶かしい吐息をもらして、彼女は再生した体を確かめるように首を回す。そして、蔑むような目で俺を見た。
「まだ、よ。まだ私は、死んでない」
両手に腐肉のこびり付いた拳銃を構え、彼女は一歩、足を踏み出す。
「もっと、もっとしっかり狙って。もっと強く打ちかかって。もっと力を振り絞って、もっと徹底的にやって!」
焦点のぼやけた瞳。
熱を帯びた声。
彼女――だったものの成れの果て。
狂態に、尽きたと思っていた涙が、自然と湧き上がる。
「今度こそ、私を殺してよ!」
――結局、俺は戦うしかなかった。彼女の願いどおりに。
大久保の小さな雑居ビル。
そこが、ガイア教団から与えられた、彼女の墓所だった。
先生とアニキ、ピクシーは、俺を向かわせるため、ガイアの黒魔術師たちの足止めに踏み止まった。
みんなの決意を無為にしないためにも、俺は退くわけにはいかなかった。
なのに――。
ガアァン! と、魔獣の咆哮にも似た轟音をあげて、大型拳銃が閃光を吐く。
撃ち出された弾丸には、人間の命など容易く潰してしまう威力が込められている。
が、刹那の間に、射線に別の影が割り込む。
石と石をぶつけたような、乾いた音。
飛び散るのは血ではなく、陶片のような白い欠片。
「――またソイツ? うざったい仲魔を連れてるのね」
うんざりした声で、彼女が呟く。
俺は震える息を吐いて、咄嗟に盾となってくれた髑髏の剣士に礼を言った。
「すまない、スパルトイ」
「……礼には及ばん。だが、こうも長引くと、さすがに辛くなってくるな」
「きついホー、ご主人。そろそろ逃げるホー」
背後から声をかける、雪ダルマの姿をした妖精も、辛そうだった。
「ごめんよ。でも、逃げるわけにはいかないんだ」
逃げられるわけが無い。
それは、本当の意味で、彼女を見捨てる事になってしまう。
それだけは、出来ない。
「でも、そろそろオイラの魔力も尽きそうだホ。これ以上復活されたら持たないホーッ」
唇を噛んだ。
実際、状況的に辛い。
――どうして彼女を倒しきれない?
迷いがあるから? 確かにそれもある。だがダメージを与えるたびに、彼女は再生して立ち上がってくる。
支配する魔術師に与えられた力なのだろうか。それにしても、ここまで強力な効果を発揮し続けるものなのか?
「あんな再生能力、無制限に使えるのか?」
「んなわけないホー。あれは魂を削って奈落の闇を内に取り込み、霊気を増大させる技だホー」
「代償があるのか?」
「使うたびに、闇に心を侵されるホ。使いすぎたら自我が擦り切れて、魂が奈落に堕ちるホ」
「奈落?」
「地獄って言ったら分かるホ? 魔界のセフィラからも外れた深遠。悪霊や幽鬼が囚われる、永遠の苦しみの園だホー」
「……どうして」
そんな力を使ってまで戦う覚悟が、俺には信じられなかった。
心から死を望むという彼女の言葉に、俺の安っぽい情熱は一蹴された。
望まない戦いに引きずり込まれて、けれど俺は、武器を手に取らざるを得なかった。
轟音とともに、再び鉛弾が飛来する。
立て続けに落雷が起こったような、音の爆発。
信じられないような高速の連射が、そばの棚にあった怪しげな燭台を、微塵に還す。
床に転がって、物陰に逃れて――
――大丈夫、当たっちゃいない、
いや、本当に?
張り付いたように握り締めている刀と、白く変色した指先。耳障りな音は、自分の喉から漏れる息遣い。
感覚の無くなった自分の体が、全く信用できない。
知らない間に、大怪我をしているのかもしれない。
「逃げるの?」
銃声の残響の向こうから、彼女の声が届く。
逃げやしない――反射的に言い返そうとした言葉は、口の中で消える。
彼女の言葉を否定したかったわけじゃない。自分に言い聞かせる言葉だった。
――本音を言えば、逃げ出したかった。
好きだった女の子の成れの果てと、延々と悪夢めいた戦いを続けて、
いつしか、胃袋の中身も、胸の決意も、全て吐き尽くしてしまった。
きっと、発狂した方が、楽になれるだろう。
銃弾を避けて、床を這いずり回る。
カサッと、手が何かを探り当てた。
引き寄せたそれを見て――逃げたいという欲求は、急速にしぼんでいく。
逃げられるわけなど、ない。
この部屋――彼女の玄室に入った俺が、最初に見つけたもの。
ドア口に散乱した、白い書類。
所々赤線の引かれた名前の羅列が何を意味するのか、すぐに理解できてしまった。
彼女も被害者なのだと、いくら言い聞かせても、俺の意識はソレから離れられなかった。
望まれない行いだった。仕方の無い事だった。
それでも、ソレは無言のうちに語りかけてくる。告発してくる。
チェックの入った〈候補者〉のリスト。
それは、間違いなく、彼女の犯した罪の証だった。
続けざまに放たれる銃弾をかいくぐり、時にスパルトイを盾にして、俺は走る。
動きに応じて、彼女の注意がこちらに向く。その瞬間、横手からフロストが吹雪を放ち、2つの銃口を牽制する。
既に2回は繰り返した攻防だ。
銃の間合いで戦おうとする彼女に肉薄し、切りつける。
最初は躊躇して出来なかった。スパルトイが青銅の剣を繰り、彼女の左手首を飛ばす所を、見ているだけしか出来なかった。
二度目に、刀を打ち込んだ。
脇腹を割って、刃を埋め込む感触に、俺はまた吐いた。
そして、これで3度目――。
「――カァァーッ!」
気合を上げて、スパルトイが剣を一閃させる。
ブレザーの胸部分が、スパンッと、横一文字に断たれ、その間から赤黒い肉が覗く。
だが、血はこぼれない。血の巡らない、死んだ体が、今の彼女の体だから。
斬撃の勢いに呑まれ、彼女がのけ反る。
その隙に、また刀を――。
今度はどこを狙う? 一撃で決めなければ、また再生されるのは目に見えている。
狙うなら、急所になりうる所を。
たとえば――そう、首とか。
――彼女の首を、俺が?
無意識のうちに、糸一本分ほど、ほんのわずかな力が、手から抜けた。
首を狙った一撃が、逸れて肩に食い込む。
「いかん、それでは!」
「――あまい、ね」
のけ反った、天を仰ぐような姿勢のまま――
グリンッと、まるで甲虫が身をよじるように、眼球だけを動かして、彼女は俺を見る。
甲殻にも似た、無機質に黒光りする瞳。
諦観だけが染み付いた、死んだ目。
ギチッと顎を引き攣らせて、彼女は大きく口を開く。
虫歯1つ見当たらない、白い、綺麗な歯並び。
1本だけ、やや不ぞろいに突き出た犬歯。
悪夢のような非現実の中で見るには、妙に現実的で、馬鹿馬鹿しいくらい間抜けで、
しかし、この状況は、何も変わらない。
ガポッと、泡がはじけるような音がした。
開かれた彼女の口の奥から、油じみた靄のようなものが吹き出す。
それは、ピリッと刺激のする匂いで――
「――がはっ!?」
突然、喉の奥に大量の綿を詰め込まれたように、息が出来なくなる。
両目から涙がこぼれ、胸の奥にムカムカとした熱が生まれる。
痺れた体から、熱が失われていくようだ。
痙攣する腕から、刀が落ちた。
横目には、同じようにスパルトイが膝を折っている姿が入った。
白骨の体の半身に、黒い、どこか穢れたような染みが浮き出ている。
硬い骨の体を、腐食させられている。
「カァ……、貴様、毒を」
「――あなたに、銃弾は効かないみたいだし」
言って、彼女は無表情で、うずくまる俺に目をやった。
「残念、だわ」
死刑宣告。
持ち上げられる銃が――
不意に横に向けられ、轟音をあげる。
柱の影で、「ヒホー!?」と、甲高い悲鳴が上がった。
「終わりね。あなたの仲魔にも、もう力は残っていない」
そのとおりだ。
スパルトイもフロストも、もう限界。俺にも、余力なんか残っていない。
「あなたなら――そう思った」
ゴツッと、無骨な鉄の塊が、頭に押し付けられる。
「でも、あなたも違った」
引き金に、指がかかる。
「救世主じゃ、なかった」
「その、救世主を殺すのが、キミの、使命なんだろ?」
「『あいつ』が捜している救世主なら、きっと私に負けたりしない。私を、救ってくれる」
儚い夢を語るような調子で、彼女は囁く。
――そうなの、か?
俺が救世主じゃなかったから、彼女を助ける事が出来なかったのか?
「……身勝手な事を。貴様など、滅ぼされるのが関の山だ」
スパルトイの言葉に、彼女は無言のまま、フッと微笑んだ。
――月が、雲に隠れる間際に放つ光。
そんな連想が浮かぶ笑い方。
「キミが、救世主に、望んでいるのは――」
何度も公言していた筈だ。
真の死。
完全なる、永遠の眠り。
だが、それなら。
「こんな、無茶な再生を繰り返して、魂を削って――そこまでしても、本当の救世主でなくちゃいけないのか?」
「違う」
静かな声で、彼女は答える。
「私の罪を浄化してくれる人が、本物の救世主よ」
「な……んだ、て?」
銃口の存在を忘れて、俺は彼女の顔を直視した。
……彼女は、『本物の救世主』を待っていたわけじゃない。
逆だ。
彼女の待っていた人間――彼女に勝つ人間が、『本物の救世主』でなければならなかった。
手を抜かずに、徹底的に戦うのは、使い魔として命令されたからだろう。
だけど――。
「覚悟の上か? 奈落とかに堕ちるって、分かってて――」
答えなどある筈が無い。
だが、彼女の顔に、雲のように忍び込んだ陰が――。
伏せられた眉の下の、瞳が。
なによりも、雄弁に語る。
俺はそこに、確かにまだ、
彼女の人の心が残っているのを見た。
「……バカな」
いびつに歪んだ自虐と、自分自身、きっと届かないと思っている懺悔の念。
――「自殺をする動物は人間だけ」。前に、なにかでそんな話を聞いた。
たとえ自虐的な性格だろうと、悪魔は自分の生存までを否定しない。
既に死んでいる者達であっても、自覚的に自分の破滅など望みはしない。……俺の知る限りでは。
「バカヤロウだ」
「自覚はしてる」
涙声にちかい笑いで、彼女は自嘲を漏らす。
「さよなら。……せめてあなたは、天国へ」
――やはり、駄目だ。
俺は救世主じゃない。
そんなものには、なれない。
やがて閃光が走りぬけ、俺の視界は、真っ白に干上がっていった。
――凍結。
世界の全てが凍りついたように、俺の周りから、色と音が消えた。
白光の中、彼女の目が驚愕に見開かれる。
それでも瞬時に引き金を引いていたのは、さすがと言うべきか。
恐らく意識しての行動じゃなく、習慣付けられた反射だったのだろう。
細い手の中で跳ね上がる拳銃。
銃口から飛び出す、黒い死の影。
だが、確実に額を貫くタイミングで放たれた銃弾は、俺の目の前でハンマーで潰されたように、ひしゃげて落ちた。
体を包む、大きく、熱い息吹を感じる。
恐ろしいものではない。
慣れ親しんだ気配。
今は、はぐれてしまった俺の親友。家族の時間を母とともに過ごして来た。
黄金の毛をなびかせた魔犬の姿が、網膜に一瞬ちらついた。
光が収まってゆく。見開かれていた彼女の瞳が、すがめられる。
時間が、流れ出す。
「スパルトイ! フロスト!」
倒れ臥していた仲魔に呼びかけた。
普通なら、無駄な行為だ。
だが。
「承知!」
「ヒーホー!」
呼びかけに、2体の仲魔が返事を返す。
『守護天使』の光は、仲魔たちにも力を与えている。
今なら……!
「ハッ!」
スパルトイが雷光のような速度で動く。
振るわれるのは青銅の剣ではなく、円盾。
突き上げるような動きで、金属塊が彼女の腹を抉り、華奢な体を宙に舞わせた。
俺は落ちていた刀を握りなおし、その姿を追いかけた。
もう、迷っている暇は無い。
彼女はもう死んでる――その通り。
彼女はもう悪魔――その通り。
彼女は、人殺し――その通りだ。
俺にはそれら全ての事実を、飲み込めるだけの度量は無い。
彼女を救う事は出来ない。
苦しみを消してやれる言葉も、罪を許せる権威も、心から望む死も、何も、俺には与えてやる事が出来ない。
それどころか、これから常に彼女の味方で在り続けられる意思すら、多分、俺には無い。
でも、でも今、俺の前にあるのは、そういう事でもあるけれど、核心そのものは、もっとシンプルだ。
彼女を諦めるか。
彼女を諦めないか。
――俺は、諦められない。
走り寄る俺に向けて、彼女がふらつきながらも、2つの銃口を向ける。
当たらなくても、足止めには十分な行動。
けど、俺は足を止めずに、走り抜ける。
舌打ちをして、彼女は引き金を引こうとした。
「……え?」
沈黙を保ったままの自分の武器を見下ろして、彼女が呆然と声を漏らす。
かさぶたの様に、白いものに覆われた銃身。
柱の影からフロストが手を振る姿が、容易に想像できた。
灰白色に凍りついた銃。
当然、弾丸など放てるはずも無い。
破れたブレザー姿の彼女が、無防備に立ち尽くす。
それは、ほんの一瞬だったろうが。
「――っりゃああぁあーー!」
幼い覚悟を乗せた俺の一撃は、でも、それなりの気は篭っていたんだろうか。
振り切った刀は、彼女の体を深々と切り裂いた。
「やるっ、ね。でも、まだ……」
倒れた彼女は闘志の消えない目で俺を見る。
濃い闇が、その身を包む。
また再生。
しかし――。
「もう、やめよう」
言って、俺は左腕につけたアームターミナルを開いた。
「なに、を?」
「これ以上、キミを戦わせたくない」
室内の闇を裂いて、液晶パネルが光の窓となって開く。
表示されたショートカットから、プログラムを起動。
システムメッセージが表示されると同時に、彼女の体を覆っていた闇が、霧散する。
「なにっ、――くっ、う」
少し苦しそうに、彼女が身を震わせる。
起動させたのは、『ハント』。
ターミナルに装備された基本機能の1つ、昔の魔法使いが悪魔を閉じ込めるのに使った、『強制服従』の術式をプログラム化したものだという。
これで、彼女は切り離される。
「ぐ、あ、う、あぅ」
彼女は自分の体を抱きしめ、苦悶の声をあげる。
予想していたよりも強い苦しみ方に、俺は少し肝を冷やす。
他人の使い魔を取り上げるんだ。ある程度は苦痛を強いる事になるとおもっていたけど……。
「うぁ……や、め、て」
顔を上げ、俺を見上げる彼女は、髪を頬に張り付かせ、両目から壊れたように涙を流していた。
焦った俺は、跪いて、彼女の手を握った。
――冷たい。
コンクリートの壁を触ったような、体温が吸い込まれるような冷たさが伝わってくる。
一瞬言葉につまりながらも、俺は言葉をかける。
「大丈夫か。そんなに痛むのか?」
他人の使い魔とはいえ、生命力を失った悪魔は、不安定な存在となる。まして、主人から離れて自律行動しているのなら、制御を奪うのも簡単だと思ったけど。
「やめ、て。私を、切り離さないで」
「え?」
「道具じゃ、なくなっちゃう。命令じゃ、う、ああッ!」
涙を溢れさせて、彼女は目を見開き、
天を――暗い室内の天井を凝視した。
「わたし、殺した! 殺しちゃった! おんなじ年の子も! 小さな子も! 弟と同じくらいの男の子も!」
ほつれた髪を振り乱して、彼女は吼えた。
誰に向かって?
俺に向かってじゃ、無い。
いまだ見つからない、本物の救世主に向かってか。
「逃げる子もいたよ! 何も知らない子、ぼうっとしてるだけの子も、武器や魔法で戦ってくる子も、全部! ぜんぶっ!」
ころした、ころした、と、彼女は叫び続けた。
「命令だったから」「いやだった」「やりたくなかった」――
とめどない言葉と嗚咽の洪水。
その最後に、彼女は、弱々しい目で、天井の暗がりに向けて囁いた。
「……ゆる、して」
糸が切れたように、そこで彼女は、ボトッと倒れた。
……かけられる言葉なんか、あるはずが無い。
やがて、彼女はクスッと、小さく笑った。
「バカだな、わたし。許されるはず、ないもんね」
「え?」
「わたし、もう人間じゃない。――アクマ」
口を開いても、否定する言葉は無い。
だから俺は、やっぱり黙っていることしか出来なかった。
さしあたって、ここまでで。
本文は全部出来ているのですが、一人で一気に埋めてしまうのも気が引けるので、一旦様子を見ます。
続けて構わないようでしたら、また後ほどに。
どうでもいい事ですが、影の銃姫はイメージソースがなかったので、元ネタマンガのイメージで想像しています。
メガテンがマイナー!?
あやまれ! 何回もSSを読書しているこのスレの住人に謝れ!!
ごめ、大事なことを書き忘れた
>>347 GJ 続きを楽しみにしてる。
投下は1日1回ぐらいなら誰も文句言わないでしょう。
うほほーい、メガテン好きにはうれしいご褒美ですよ!
NWやアリアンも好きだけどメガテンも大好きだからな!!
メガテニストの私にとってもご褒美じゃよー。お疲れ様です。
…人修羅トリオの人、帰ってきてくれないかなぁ…
>>351 ああ、俺も時々思い出すなぁ。
あれ、すごいいいところで途切れてんだよなぁ。
353 :
324:2008/06/10(火) 01:34:30 ID:SfMpJERk
遅まきながら変換ミスに気づいて、がっくり。携帯代首領って、、、、_| ̄|○
ついレス忘れがちなのですが、毎回の感想ありがとうございます。
>>334 なっ、何か、企んでらっしゃるうう!?
>>337 こちらこそ、初めまして。一読者として、職人さん大歓迎です。今後ともヨロシク・・・
GJ! そして続きの投下を待っております
ええと、懐の広い卓ゲ関連スレですから、全然マイナーじゃないですよ(笑)。
ダーク路線も過去に何作品かありましたし。
こんにちは。
自作への歓迎のお言葉、ありがとうございました。
皆さんの期待に答えられる物かどうかは分かりませんが、後半行きたいと思います。
暗い話ですが、一応最後は希望をもって終るよう書いたつもりです。
どうぞよろしくお付き合いくださいませ。
ポツッと、鼻先に水が弾けた。
強くなってきた風の中に、埃の匂いが混じる。
見上げると、鈍い銀色の太陽を遮って、黒い雨雲が重々しく広がりつつあった。
俺は鞄から折りたたみ傘を出して、再び歩き出す。
駅に向かう人波の中には、同じように傘を開く姿が目立った。
新宿駅から、電車でわずか5分ほど。
たったそれだけの距離でも、街の様相はガラリと変わる。
コリアンタウンと呼ばれるだけあって、大久保は中韓をはじめ、アジア系の外国人の姿が目立つ。
通りに並ぶのは、料理店に民芸品の店。祭の空気に似た、エスニックな匂いが立ち込める。
しかし、街の全てが繁華なわけじゃあない。
新宿の裏側にあたるこの町は、本来は小さなビルや狭い街区が続く、こじんまりとしたベッドタウンだ
。目抜き通りから外れていくほどに、道は細く、網目状に、とめどなく広がり、
道沿いの商店にも、徐々に、どこか鄙びたような印象の店が多くなっていく。
それは恐らく、人通りも影響しているのだろう。
6月の梅雨時。平日の昼間。
もとから人通りは多いとは言い難い。駅から離れていく程に、更に人影はまばらになる。
鉛色の空と、陽の光を失って灰色に褪せた景色の中、いつしか歩いているのは俺1人になっていた。
見捨てられた土地へと向かっているような錯覚を抱きながら、俺は自分の行いについて考えていた。
俺は救世主じゃない。
自分のエゴにだけ執着する、ただの身勝手な人間だ。
救いを求める彼女に、俺はこの世の地獄を与えた。
支配から切り離された刹那、彼女は手に入れた自由の中で――人間としての罪悪感と、正面から対面さ
せられた。
17――それとも18? 俺と同じ程度の歳の、女の子に戻って。気が付けば虐殺者に成り果てていた
自分を、再認識して。
罪が無い――などとは言えない。
彼女を従わせていた魔術師が黒幕なのは、間違いない。
だが、血の記憶は、決して彼女の中で晴れる事はないだろう。
……死なせてやれないなら、俺はどんな形で、彼女に責任を取るのだろうか。
「いるかい?」
「……また、来たの?」
『玄室』の闇の中、廊下から差し込む弱光の中に、しなやかな足が踏み込んでくる。
次いで、擦り切れたスカートに、ボロボロになったブレザー。
……切れ目から覗く白い肌に、視線を逸らした。
伏せた視線を、もう一度あげて、そこで硬い視線とぶつかる。
黒い、静かな瞳。いつかのような、濁りや曇りも無い。
けれど、遠い。いくら手を伸ばしても、言葉を重ねても、届かない。
水底に月を閉じ込めた井戸に似ている――そんなふうに思う。
――もちろん、綺麗なのは目だけじゃない。
脂気の無い、涼しげな黒髪に、白磁のような、透き通った艶をもつ頬。朱に引き立った唇。
もとから綺麗だった、彼女の顔。
今は冷たいだけじゃない。ガラスじみた硬さと脆さを併せ持ったような、儚さを感じる。
「いつまで、続けるの?」
「いつまで……って」
「こんなこと」
言って、彼女は背を向ける。部屋の隅のテーブルに向かっていき、残っていた無事な燭台に火を点す。
マッチを擦る音がして、赤い、眩しい輝きが闇に生まれた。
後ろ手にドアを閉めて、部屋に入り込む。
薄暗がりの中でも、荒れ果てた部屋の様子は、よく見れた。
飛び散った物の破片。踏み散らかされた呪いの道具。壁に穿たれた銃痕。
1週間が過ぎても、部屋の様子は、何も変わっていない。
「ガイア教団が来るような事は?」
「なかったわ。きっと、これからもない。彼らは、もう私が死んだと――完全な滅びを迎えたと思って
いるでしょうね」
――きっと『あいつ』も。
暗い口調で、彼女は呟く。
「とにかく、無事でよかった」
「……なんなの、それ?」
詰問するような――いや、実際に詰問する声に、俺は身を固くした。
針のような光を宿して、彼女の目がすがめられる。
「あなた、私に何を望んでいるの? 私に、何をさせたいの」
床の埃に視線を逃しながら、俺は唇を噛む。
本当に、俺は何をやらせたいのだろう。
どうするのが、彼女にとって一番いい事なんだろう。
「……殺して」
「まだそんな事」
「何度だって言うわ。救世主なんて、もうどうでもいい。私を解き放ってくれた、あなたなら。
『あいつ』の支配から一時的に逃れられた今のうちに、私を殺してよ」
「……だめだ」
言うと、彼女は眉を怒らせ、滲み出るような憤懣を視線に込めて、俺に叩きつけてくる。
今の彼女は、いわば俺に召喚された仲魔に等しい。
俺の言葉には逆らえない。勝手に命を絶つ事も、許されはしない。
――認めたくない。けど、結局――
「……どうして、私を残したの」
険しく俺を睨み付けたまま、いつかのように、彼女の目から一筋、透明な涙が流れ落ちた。
――結局、俺は彼女を殺し、操っていた、『あいつ』とやらと、同じ事をしてしまっている。
これじゃあ、ただ彼女を苦しめているだけだ。
「私を、断罪しているの?」
結果的には、そんなふうに見えてしまうんだろう。
殺してやる方が、よほど慈悲になる。それを承知の上でも、俺は彼女を残したかった。
「俺は、キミを殺したくない。キミに生きて欲しかった」
「――――」
呆然、という表現が、よく似合う顔だった。
見開かれた瞳。満月のような瞳孔が、ピクリと波を打つ。
やがて、彼女は片手で目元を覆い。
「……クッ、クくっ」
喉を引き攣らせて、震えを吐き出すように、笑い出した。
「くくっ、あっははははは!」
予想された反応だった。自分がどれだけ馬鹿げた事を口走っているのか、指摘されなくても分かってい
る。
「はははっ! 生きて、ほしい、ですって! 私の、体の事、知っていて!
あはっ、あはははハ! ハハハハハハッ!」
自然と汗が引いていく。
初夏の生ぬるい大気が、冬の底冷えに等しい温度へと落ち込んでいくようだった。
殺気。
そう呼ぶのが、相応しい。
白く噛み締められた唇が、わななく。
「 」
――フザケルナ。
言葉としては、そんなありふれた罵倒に過ぎない。
だが、そこに込められた感情は――。
目を隠したまま、彼女は明るい、裏返りそうなほど明るい声を絞り出す。
「ねえ、生きろって、どうするの? どうすればお望みにかなうの、ご主人サマ」
「――やめてくれ」
「人間のフリをすること? 物を食べたり、服を着たり、眠ったり?
生きてるヒト達に混じって、まだ死んでないフリをするの? アハハッ、
もしかして家に帰ること? きっともう諦めている家族に、今更、ただいまって?
わた、私は、ぶじだったって、お父さんと、お母さんと、それから、それから、
だいじょうぶ、お姉ちゃんは、まだ――まだ、生きてるよって!?」
「そんな事を言っちゃいない!」
吹き荒れる感情の渦に、彼女も、俺も、巻き込まれる。グチャグチャだ。
「生きろってのは、そんな意味で言ったんじゃない」
「なら、なんなの――なんなのよ!」
「それは――!」
なんなんだ?
存在する事か?
動き回る事? それとも言葉が交わせる事?
そんなんじゃ、ないだろう。
前を向いてほしかった。
何か、望みを持って欲しかった。
それは自分のやりたいように、世界と関わっていく事だ。
――でも、今の彼女には……。
言葉の応酬は、自然と途切れた。
顔を抑えた指の間から、雫を滴らせ、彼女は呻く。
「出来ない。許されるわけなんて、ない」
その言葉に、結局俺は黙らされてしまう。
罪という断崖。俺の心はどうしても、そこで真っ直ぐに進めなくなる。
俺は彼女を助けたかった。彼女の絶望を止めてやりたかった。
でも、彼女のためなら、世界の全てを敵に回してもいいとまでは、思えない。
その決断をしてしまえば、多分、俺は自分を見失う。
結局、我が身の方が可愛いだけ?
――もしかしたら、そうなのかもしれない。
彼女と一緒に地獄に落ちる覚悟が出来ない、ただのヘタレ野郎なのかもしれない。
だけど、俺自身が自分を見失った状態では、彼女を支える事なんて出来ないんじゃないか――
そんなふうに思えて、仕方が無い。
彼女を、間違った道に送り込むかもしれないから、安易に罪を許す事に、どうしても躊躇してしま
う。
ただ彼女の望みを叶えるだけじゃ、彼女は救われない。
かといって、自己満足のために彼女を庇護するだけなら、それこそ俺の生きている価値なんか無い。
考えろ。
本当に、彼女のためにしてあげたい事は、なんだ?
思い返されるのは、体育祭での――たった1月前の事なのに、まるで10年も前の事のように感じられ
る――あの時の彼女の笑顔だった。
多分、二度と見る事はかなわないだろう。
1月という、短く、けれど絶対的な時間の断絶が、全てを変えてしまった。
二度とかえらない過去。けれど、今俺を突き動かしているのは、あの記憶に他ならない。
願わずにいられない。
もう一度、あんなふうに笑い合えたらと。
……けれどあるいは、あの頃の幸せを知っているからこそ、彼女の罪悪感は根深いのかもしれない。
自分が失ったのと同じ痛みを、他人に与えていると。
殺した標的の一人一人が、流血の中に消えていった団欒に繋がっているのだと。
きっと一人一人の名前が鎖となって、今の彼女を縛っている。
がんじがらめの彼女は、動く事が出来ない。
そして、俺はそんな彼女に、手を差し伸べている。
――けど、俺は何もしていない。
そうだ。動けない彼女に、手だけ差し伸べて、歩けと言っているだけだ。
無茶苦茶もいいところだ。
本当にそのつもりがあるのなら、俺はまず、鎖を一緒に引き受けなくちゃいけないのに。
「……キミが殺人の罪を許せないってんなら、俺も同罪だ」
「なに、言ってるの?」
険の残る声を出しながら、彼女が顔を覆う手を開く。
夜露を宿したように光る瞳は、斜に細められて、俺を睨む。
「キミを生かす事を決めたのは、俺だ。罪まみれのキミを俺は庇ったんだ。同罪だよ」
「……くだらない、屁理屈よ」
「もしキミに罰が必要なら、今それを下すべき立場にいながら、それを許さない俺にこそ罪がある。
分かるだろ?」
「……なら」
「キミと俺が死んだところで、何の償いにもならない。ただ死ぬだけなら、それは逃げだ。
――そう、俺は思う」
そして、彼女はそれに目を瞑る事は出来ないだろう。
真の救世主の手で、奈落に送られる事を望んでいた彼女なら。
「償う気があるなら、俺と一緒に戦ってくれ」
「戦う?」
「そうだ。キミが、死ぬ必要のなかった人の命を奪ったのなら、これからは、まだ助けられる人の命を
助けるんだ」
贖罪。
罪の鎖を、一本一本、外していくこと。
結局俺がたどり着いたのは、ありふれた回答の1つだった。
白々しい、と、自分でも思える。
いくら償ったところで、罪は消えない。
彼女の心には、永遠に傷が残る。
メシア教会は、自分達の『候補者』を殺した”悪魔”を、狩り続けようとするだろう。
けどそれでも、俺が彼女に出来ること、本心から協力できることは、これしかない。
「耳ざわりのいい事を言って、結局私を戦わせたいんでしょ」
投げ捨てるように、彼女は勢いよく首を振って、俺から視線を外す。
舞い上がった髪が、横顔を隠して広がる。――その陰から。
「結局、あなたも誰かを殺せというのね」
微かに、そう聞こえた。
ドキリと息が詰まった。
――まさか。
だが、妙に胸に響く言葉だった。
「誰かを殺す事なんて……」
否定の言葉を繋げようとしながらも、俺は自分を振り返る。
これまで、曲がりなりにも1人の異能者として、サマナーとして戦ってきた、俺。
振り返ってみれば、巻き込まれて、流されるままに戦ってきた事が多かった。
自分の命を守るためだったり、人に頼まれたからだったり、その場の正義感からだったり。
けれど、いつも何か、漠然とした違和感を感じていた。
今の言葉で、ようやくその本質が、分かってきたような気がする。
彼女を殺したくなかったのは、俺のエゴだ。
――そしてそもそも、俺は誰かを殺したいと思ったことなんてない。
いや、思うくらいはあっても、実行したりはしない。その筈だった。
だが。
……俺はいつから、殺す事を当たり前のように感じていたのだろう。
「……言われた事がある」
「え?」
「『アクマを殺して平気なの?』って。俺は『そうだ』とも、『違う』とも答えられなかった」
新宿の地下道で、渋谷の路地裏で――
人の血肉を餌とする魔獣や、精気を欲する夜魔、妖精と向き合い、何度か問われた言葉。
答えられないまま、俺は刀を抜いた。そして当然のように、必ず血が流れた。
仕方が無い事だと思っていた。
――そう、それらの殺しの幾つかは、仕方ない事だった。
だけど、俺は考える事まで諦めてはいなかったろうか。
もしそうなら――なんのことはない、俺は彼女と同じ、諦観に浸かっていたことになる。
「……気が付いたよ。俺の中では、答えは最初から決まっていた。けど言葉に出す事はできなかった。
……怖かったんだ」
「なに、を」
「殺したくなんかなかった。でも俺は殺してきたんだよ、悪魔を」
言い訳だったのだろう。
悪魔だから殺してもいいと、無意識のうちに結論付けて。
――それなら、仲魔は?
スパルトイ、フロスト、ピクシー。
いつも俺を助けてくれる、大切な仲魔――『仲間』達。
俺の中では、彼らも、アニキや先生と同等の存在になってきている。
1度自覚してしまえば、種族の違いは、もう俺の中では言い訳にならない。
ジッと小さな音を立てて、蝋が焼ける。
燭台の火影が揺れて、赤光にたたずむ彼女の姿が、微かにぶれた。
「……バカな話。悪魔なんて――」
「たまたま、キミは俺にとって特別だった」
「っ! な――」
「同級生で、お互い普通の人間として暮らしていたから。だから悪魔になっていようが、殺したくなか
った。身勝手な理由だよな。
でもおかげで、俺も自分の罪悪感に向き合うつもりになれてきたよ」
彼女に比べれば、俺はどうしようもなく卑怯な”人間”だ。
罪悪感から目を逸らして、自分の中の矛盾を見ないようにして、殺す事を合理化しようとしていた。
「戦う以上、命の奪い合いになるのは仕方ないと思う。でも俺はその事を割り切るべきじゃなかった」
「……甘すぎるわ。余計な感傷なんて」
「キミと同じだ」
言葉を途切らせた彼女は、唇を噛んで、正面から俺を見つめた。
息を吸い込み、俺は自分の心をまとめる。
「俺はキミの罪を許してやる事は出来ない。キミの苦しみを代わりに引き受ける事も出来ない」
無言のまま、眉一つ動かさずに、彼女は俺を見る。
強張った表情。俺の言葉をどう受け止めているのか。気にはなるが、今は最後まで話すしかない。
「でも、俺はキミのために何かしたい。キミが自分の苦しみと向き合って、乗り越えるための手伝いが
したいんだ」
「……そんなの」
「逃げるのが嫌なんだろ? ただ楽になるのは、自分で許せないんだろ? だったら俺と一緒に、来て
欲しい」
言うべき事は、それで全てだった。
溶けた蝋の匂いが、闇の中に広がる。
灯火はいつしか、暮れの空の残照のような、か細い光に変わっていった。
濃さを増してきた闇の中、表情が見えなくなった彼女の、囁きだけが耳に届く。
「やっぱり、駄目」
……落胆の溜息が漏れそうになる。
やはり、難しいのか。いや、分かっていた事だ。”人”一人を説得するのが、どれだけ大変かなんて。
何か返事をしようとして、しかし続いた彼女の言葉に、俺は不審を覚えた。
「今の私には、出来ない」
「今の?」
「私は、まだ――」
薄闇に浮かぶ彼女の影。
青いブレザーは、喪服に似た灰色に染まっている。
何故だろうか、表情が見えない事が、今になって急に気になりだす。
夢の中で聞くような、妙にフワフワした、意思の掴みづらい声。
今、彼女がどんな顔で――どんな気持ちで俺に話しかけているのかが、見えてこない。
「――っ」
声を出そうとして、息苦しさを覚えた。
空気が変わる。
足元から沼に沈み込んでいくように、ゆっくりと、俺の周りの世界が変貌を始めた。
部屋の四方を包む闇が、無生物の質感を失い、怪しい息遣いを始める。
空気の対流に何者かの呼気が混じり、無音の反響を返す壁は、囁きの気配に満たされる。体温を吸い取
る空間の体積は、洞窟のように膨れ上がる。
窓のない部屋の中で、俺は確かに、黄昏の訪れを聞いた気がした。
空が宵闇に沈み、あしたが夜に変わっていく。
人の時間は終わり、人ならざるものの時間が、訪れる。
鼻先も分からないような、一面の闇。
夜の海に似た、全ての気配を飲み込むような静寂。
白煙の筋が、瞳にこびり付いて尾を引いている。
蝋燭が消えて、真の闇が訪れていた。
空気が重い。数百年の時間を閉じ込めた墓穴のような、朽ちた臭気が漂っている。
古びた雑居ビルの一室は、仄暗い異界の気配に包まれ、古代のカタコンベと化したようだった。
戸惑いが消えない。
異界化?
何故? 誰が? 彼女がやったのか? それとも他に誰かが?
「――夜になったから」
混乱する俺に向けて、ポツリと、闇の向こうから彼女の言葉が響く。
この場所に根ざした、半ば自然発生的なものか――
考える時間は与えられなかった。
不意に、闇の奥が揺らめき、重なりあう黒の戸張を割って、深海の生物のような、おぼろなシルエット
が迫る。
背中から倒れた衝撃で、呼吸が止まった。
胸の上に覆いかぶさる、柔らかい、肉感的な肢体。
擦り切れた生地を通して、丸みを帯びた、張りのある肉の感触が伝わる。
人と違うとすれば、体温が無い事だけだった。
温度の無い接触。現実感が希薄で、それは夜魔の見せる淫夢にも似ていた。
「な…に、を」
「抵抗、できないよね。今なら」
ジクリと、重い液体がゆっくりと染み込むように、彼女は小さく言葉を落とす。
意味が分からず尋ねようとして、だが、開いた俺の口から漏れたのは、
「っうあつ!?」
右肩に走った鋭い痛みへの、悲鳴だった。
涙で滲んだ視界を横に向けると、華奢な手が肩に食い込んでいるのが、うっすらと見える。
人形のような細い指先から伸び、俺の体に食い込んでいるのは、巻貝の化石のようなもの――歪んだ爪
だ。
「武器も無い。仲間もいない」
シルエットとなった彼女は、顔を見せないまま言葉を続ける。薄ら寒い思いが、今更のように胸の中で
育ち始める。
――異界化したエリアからは、外にむけて助けを呼ぶ事は出来ない。
その事を思い出し、動揺する間にも、彼女は俺に覆いかぶさる。流れた髪が蔓のように俺の上を這う。
「今なら、簡単にあなたの命を取れる」
夢見るような調子で、彼女は声を紡ぐ。
「こんなふうに、急に襲われるわよ……私を連れてゆけば」
「どう、して?」
「まだ、『あいつ』の支配が解けていないから。完全にはね」
――まさか。そんな筈は無い。
悪魔召喚プログラムの性能は、何度も使ってきた俺自身が、よく分かっている。
俺と彼女は、確かに契約によって繋がった筈だ。
「『あいつ』はね、幽鬼だったのよ。ネクロマンサーなのに、自分自身がね」
内心の疑問に先回りするように、彼女が話し始める。
「吸血鬼の事は知っている? 血を吸った『親』は、吸われた『子』に対して、支配力を持つって」
「……聞いたことがある」
不吉なたとえに、どうしようもなく嫌な予感が膨らむ。
耳を塞ぎたい。けれど、彼女の声はタールのように、吐息と一緒に左の耳たぶにこびり付く。
「私はね」
反射的に唾を飲んだ。
「殺されてから、アンデッドにされたんじゃないの」
聞きたくなかった。
闇の向こうで、彼女が声を立てずに嗤った気配がした。
「食 い 散 ら か さ れ て、”こう”な っ た の」
※※※
幽鬼の少女は、その事を語らない。
ゆえに少年は、その詳細を知らない。
それは別の場所であったのかもしれないし、同じ部屋――彼女の『玄室』であったのかもしれない。
目を覚ました時、少女は暗がりに一人、捕らわれていた。
窓の無い空間に、わずかな明りが点々と灯るだけ。奥行きも分からない部屋には、麝香のような、甘く
、鼻にむせるような香りが立ち込めていた。
記憶にあるその部屋が、現在の『玄室』と違った点は、方々に灯された明りが、鬼火のような青い炎で
あった事、そして手足を縛られた彼女が、奇怪な魔方陣の中に転がされていたという事だった。
魔方陣といっても、三角形を2つ重ねた、いわゆる六芒星――ではない。
将棋の盤のように、規則的な格子模様が正確な方形に引かれた図。
その4つの隅には、やはり青い蝋燭が立てられている。
格子枠の中には、見慣れない、おどろおどろしい文字が、赤い顔料で書かれていた。
――その文字が密教の梵字で、ただしガイア教団が呪殺に用いるため、極度に歪んだ、悪意的な解釈の
筆法でしたためられたものだと知るのは、後の事だった。
朦朧とした意識で、気を失う前の最後の記憶をたどる。
原宿の占いの店に行った事。
友達に誘われたのに、それを断って一人で行った事。
後ろめたさを覚えながら、貰ったチラシを手に、路肩のテントをくぐった事。
混濁した頭で最初に思ったのは、断ってしまって悪かったな、という事だった。
わりと仲のいい友達だった。無理に隠す必要はなかったと思う。
でも恥ずかしかったし、不安だった。からかわれるんじゃないかと嫌な目で見る事までしてしまった。
本当に、悪い事をしたと思う。
……起き上がろうと身をよじって、縛られている事に気づく。
手足を動かせない。けれど、慌てたり焦ったりという気持ちは湧いてこない。。
麻酔がかかったような、気だるい、眠気とも陶酔ともつかない波が、心を覆っていた。
「思ってもなかった収穫ね」
耳に忍び込んでくる、響きのいい、沈み込むようなアルト。
聞き覚えがあった。あの店の占い師。
ウェーブの掛かった豊かな長髪と、古代中東の女王のような、切れ長の目が印象的だった。
女の自分から見ても、ゾクッと感じてしまうような色香の持ち主。
あの女が、隣にいるのだろうか。
はたして、女はそこに――転がされた少女の傍らに立っていた。
少女の記憶通りの、見る者に寒気すら覚えさせる美貌。
優雅に流れる艶髪。風紋を思わせる滑らかな眉。その下に嵌る瞳は、アメジストのように深い。
高い鼻と、色の濃いルージュを引いた唇。
女の美貌は、どこか威圧的に映える。女王という喩えは、なるほど、いかにも相応しかった。
「ノーマークの〈候補者〉。これだけの逸材を見落とすとは、教会側も手落ちを犯したものだわ」
紫暗の唇を歪め、女は笑う。そっと少女に歩み寄りながら。
「きたるべき黙示録を生き抜くよう、運命に選ばれし〈候補者〉。
類稀な加護を持つ彼らを抹殺するのは、普通の人間や悪魔では難しい。けれど……」
しゃがみながら、女は手を伸ばす。
雪のような肌に、細くしなやかな手つき。
しかし、その先端を彩るのは、唇と同じ紫暗に染まった爪だ。
ほんの一点の色の介在で、女の白魚の手は、まるで牙を隠した毒蛇のようにも見えてくる。
その毒牙のような指で、女はツゥッと、少女の頬を撫でた。
おぼろに霞む少女の瞳が、微かに見開かれる。
「けれど、同じ宿星のもとに生まれついた者の手に掛かれば……フフッ、どうなるかしらね?」
女の長い指は、頬から流れて少女の顎に掛かる。
少女の肌の、スルリと絹を撫でるような感触に、女は満足げな笑みを浮かべる。
「きれい。あなたみたいな子に祝福を与えられる事を、『神』に感謝しなくちゃ」
そうして――女は暗く濡れた唇で、少女の赤い唇に吸い付いた。
小学生の頃、好きだったマンガがあった。
背の低い事を気にしている主人公の女の子が、色々な事に迷いながらも、恋と友情に突き進んでいくと
いうお話だ。
話の詳細は覚えていないが、最後は主人公と男の子のキスで大団円を迎えていたと、彼女は記憶してい
る。
今でも、彼女はその話が好きだった。
周囲から、すっきりと大人びた美人だと評される彼女は、自分の恋愛観が少女じみている事を自覚して
いた。それでも、いつか自分の身の丈にあった恋愛を出来るんじゃないかと、友達にも打ち明けない、
淡い憧れを大切に暖めていた。
そんな彼女の思いは、あっけなく壊れていった。
キスは、ほんのり甘くて、暖かいもの――そんな夢想は瞬く間に覆される。
女の唇は冷たく、粘りつくように執拗で、しかしその柔らかさは、どうしようもなくリアルなものだっ
た。
逃げ場をなくした吐息が2人の口腔の間でせめぎ合い、やがて少女の鼻腔から、悩ましげな呻きとなっ
て抜けていく。
拒絶しようとわななかせる唇を、自分の唇で包み込むようにして、女は少女の唇を吸う。
ついで、吸われて緩んだ口の端から、唇を割って女の舌が入り込んだ。
「ン、ンッ――ン」
ゴプッと、女の唾液が少女の口に流れ込む。糸を引きそうなほどの粘り気で、そして焦がした糖蜜のよ
うに苦く甘い。――実際には唾液の味しかしないが、喉の奥まで溶ろかすような感触が、少女の味覚を
混乱させる。
舌に絡みつく舌――。
唇と同じように冷たかったが、ジワリと染みとおるように柔らかく、少女自身の舌の感覚を犯していく
。しなやかで……快感としか、言いようのない……
「っ、ンッ!」
散りそうになる意識をかき集め、少女は顔を振って、精一杯の抵抗を試みた。
口に息を集め、女の舌を追い出そうと頬を膨らませる。
しかし、力み口腔を尖らせた瞬間、女は少女の口をこじ開けるようにして、自分の唇を口内に侵入させ
た。そのまま唇で包むようにして、女は少女の舌を、口全体で吸う。
「――――っ! 」
その瞬間、女の口と舌が与えてくれる刺激が、少女の感じる全てになった。
まるで、舌が自分の体全てになってしまったようだった。自分の体、自分の体感の全てを、女に掌握さ
れている。女の口以外の何かを感じたり、思ったりする事を、許されないよう――。
気が付けば、女の口は離れていた。虚ろな目で闇を見つめる少女の口元は、2人の唾液に濡れて、真珠
色の艶を帯びている。
霞む頭の隅で、手首に食い込む痛みに、彼女は今更のように気づいた。
縄が食い込むのも構わず、手足に力を込めていたのだろうか。
クスッと、闇そのものが笑ったような声が聞こえる。
「可愛いわね。それにやっぱり、オイシイわ、あなたの」
再び、女の気配が近づく。しかし抵抗しようという気力は、もう少女には残っていなかった。
「もっとじっくりと頂きたいところだけど、きりが無くなりそうだし、今は手短にいきましょうか」
女の動きは、残酷なまでに澱みがなく、滑らかだった。
制服の襟から忍び込んだ女の手は、蛇のように少女の体を這った。
しなやかな物が肌を這い回る感触に、少女の口から意図せぬ声が漏れる。
「フ、ンンッ」
胸元に絡みつく五指は、それぞれが別の生き物のように、時に激しく、時に緩やかに、少女の肉をこね
回す。少女の白い頬は紅潮し、徐々に、吐息に熱が篭る。
「もっと感じて」
そっと耳元に囁き、女は白い歯で、少女の耳たぶを噛んだ。
「ヒゥッ!」
「向かい合うの。あなたの原罪と」
時に唇で触れるだけ。時に犬歯を押し当てて。時に、カプリと奥歯で優しく噛み含む。
口の中で耳たぶを弄びながらも、手の方も動きは止めない。ゆるゆると撫でるように乳房を揉んで、か
と思うと敏感な乳頭部に、いきなり爪を立てる。
絶え間ない刺激に、次第に少女の呼吸が崩れ始める。
「女の肉体は罪の証」
「ん、ンン、あ、ふ、」
「淫欲の情は、神より与えられし罰。かくてエヴァの子孫は、男に支配される」
「ンあ、あ、ハ、――ハゥッぅ!」
一際、少女が乱れた息を吐いたところで、女は一旦責めを止めた。
「神に誤算があったとすれば、さしずめ男が女の虜になる事を見抜けなかった事かしらね。リリスとエ
ヴァ、かたやアダムを嘲弄し、かたや堕落の道に誘い――」
言葉を絶やさないまま、女はブレザーの裾を捲り上げる。
「結局、女は生まれながらの魔物というわけよ」
冷たい笑いを残して、女は卵形の頭を、細い首をブレザーの中に埋めていく。
ちろっと、まさしく蛇のような赤い舌を覗かせ、瑞々しい膨らみに近づいて――。
「ふぁ!? フゥぁあぁぁぁっっーー!!」
目を涙に曇らせ、しかし酔ったような色を浮かばせて、少女は絶叫する。
甘く、しかし焼けるほど強い酒を飲んだように、陶酔と惑乱がない交ぜになった表情で叫ぶ。理性が掻
き消えた口元からは、垂れた涎が銀色の糸を引いている。
くちゅ、ちゅぷ、と服の中から水音を響かせながら、女はなおも続ける。
「多淫の性こそ、全ての女に共通する、魔の素因。悪徳を極めた先には、暗き始原が口を開ける」
「ヒィン!?、あっハ、は、あぁぅぅン!」
そのまま4,5回も少女を鳴かせて、ようやく女は顔を抜いた。
「前戯はこの位でいいわね。では、いよいよ頂くわ」
するっと、女がその手で、少女を縛る縄に触れる。途端に縄はひとりでに切れたように、ほどけて落ち
た。
しかし、少女は動かない。
もう逃げ出すだけの力も残ってはいない。
いや、それとも、逃げ出そうという意思が残っていないのか。
「あなたを私のものにしてあげる。あなたの知らない、めくるめく世界を、見せてあげる」
女は傷をつけないよう、破かないよう、丁寧に少女の服を脱がし始める。
「快楽と欲望に身を任せて。そして、私の忠実な猟犬になって。
そうしたら、もっともっと、いくらでも可愛がってあげるから」
――ほどなく、2人の女が、闇に裸身をさらした。
「あヒッ! あっ、アッ、あっ、アあっ!」
「ん、はぁ、ふふっ」
白い体を絡み合わせて、2人の女が交わる。
――交わるといっても、専ら女が少女を貪り、少女は一心に女の愛欲を乞う側に回っていたが。
初雪の降った後のような、微かに血色を浮かせた肌の少女に対し、女の肌は、大理石に似た完璧な美白
だった。温度の異なる二つの白は、水に油を混ぜたように、溶け合うことなく互いを抱きしめる。
文字通りの乳色をした女の乳房が、垂れるように少女のそれに押し付けられる。脂肪の塊がわななき、
2人の精は内側から炙られたように、房の中で熱く煮える。
「あっ――あぅん、ハ、アッ」
「ん、いい――いいわ」
少女の熱が移ったのか、いつしか女も、自らの肌に熱をともしていた。
乱れた髪を散らし、女は両手で自らの乳房を掴む。白い肉の中で一点、果実の芽のように屹立した、赤
い乳首。それを、同じく固く勃起させた少女のそれに、擦り付ける。
途端、風船が割れるように、少女が弾けた。
「っ! ぃっぁはあっ!」
「は、ん、ふふ、そんなに、いい?」
当然、少女は答えられる状態ではない。振り乱された黒髪は自身を縛るように首元にまとわりつき、口
元からは涎の束が粘り垂れている。虚ろな目は暗かったが、ただの闇ではなく、何らかの感情が――否
、もはや誤魔化しようもない、情欲の火が燃え続けていた。
「可愛い娘。あなたの全てを、私に頂戴」
言って、女は少女の下半身に手を伸ばす。改めて確認するまでもなく、少女のそこは、しとどに濡れて
いた。
腿の付け根を辿り、柔らかな恥毛を撫でると、それだけで少女の口から、ねだるような甘い声が飛び出
す。
「唇での口付けは、もう貰ったから」
言いながら、女は自らの腰を落とす。
「『下の口付け』も、私が貰うわ」
そうして、女は少女と、貝を合わせた。
ほとんど声とも呼べないような、原始の音の塊を、少女の白い喉が吐き出した。
衝撃。痺れ。灼熱。爆発する感覚に、肉体が暴れ回る。
それは文字通りの、「吸い付き」だった。
人間の体とは思えなかった。膣圧の加減か、女の秘唇は、まさにしゃぶりつくように、少女の貝に歯を
立てる。
恥肉を吸われ、誰にもさらした事のない秘奥を支配され、恥辱と喜悦に、少女は鳴き、吼える。
襞を擦り合わせ、まるで唾液を交換するように、互いの愛液が交わされる。自らの内に流れ込んでくる
、女の冷たくトロトロとした蜜を、少女はいやというほど感じた。それは麻薬のように、少女の大切な
芯を溶かし、腐らせ、甘く発酵させていく。麻薬のように、女の蜜無しではいられなくなるように。
クシュッと空気を弾けさせながら、2人の愛液は白く泡を立てる。絡みあう足の間を流れ、魔陣の床に
落ちて、そこで再び一つになる。
流血を連想させる禍々しい赤の陣が、しだいに腐った虹のような、淫欲の池に侵されていく。
――変化はその時に、既に訪れていた。
激しく体熱を放射し、交わりながら、少女は寒気を覚え始めていた。情事の中で、激しく燃えれば燃え
るほど、熱を吸い取られていくような。
しかし、もはや止まりようはなかった。
涎を引きながら、1度女の腰が離れる。
片手は少女の陰部に、もう片方は自らのそれに。
女は手をかけ、指を潜らせる。甘い疼痛に、少女は再び、哀願するような声を吐かされる。
「真珠、ちょうだいね」
クチュリと、指が動き、貝の中が押し開かれる。サーモンピンクに色付いた肉の壺が口を開け、その大
切に隠された奥から、少女の真珠が――小豆色の肉の芽が覗いた。
女は自身の秘唇も開き、肉体の最奥から、同じ物を引き出す。原生生物を思わせる、矮さく弱く、グロ
テスクな女達の宝。女は恍惚に染まりながら、少女は恐怖と、肉への飢えに苛まれ、それを迎えた。
2つの肉芽が、1つになる。
その瞬間、肉体が消えた。内に篭り、あれだけ身を焼いた情欲は、綺麗に吹き飛んだ。
女の中に溶けていきながら、少女は歓喜の奈落へと落ちていった。
心臓は止まり、血はぬくもりを失っても、それでも少女の体は、女と一つだった。
満ち足りた悪夢の中で、少女は死に――生まれ変わった。
※※※
物音1つせず、自分の鼻先さえ見えない闇の中。
床に転がる俺の上には、闇に溶け込み、顔を見せないまま、彼女が覆いかぶさっている。
息を呑み、身構え――
どれほどそうして凍り付いていたのだろうか。
それに気づいたのは、視覚も聴覚も効かないため、体の感覚全体が鋭敏になっていたからだろうか。
身じろきした時、服の胸にじわっと広がった寒気で、俺の緊張は途切れた。
冷たい。重さを増した肌着の繊維が、胸に張り付いている。
冷水のような感触に、俺は最初、それが何であるのか分からなかった。
首筋にまで伸びているのは彼女の髪で、俺の上には彼女がいて――
――胸の上には彼女が顔を乗せていたのだと思い当たる。
声も出さず、震え1つ発さずに、彼女は泣いていた。
「あの、さ……」
「ね……やっぱり、殺すしかないでしょ。だから……はやく、ね?」
声をかける事が出来ず、俺はしばらくの間、押し黙ってしまった。
彼女も、それ以上は何も言わない。
――やっと、ここまで来たのに。
拳を握り、ともすれば放心しそうになる心を、繋ぎとめる。
――諦められるわけがない。彼女は、今ここに、俺に寄り添っている。
どうして諦められる?
「方法は? なにか、方法はないの? 呪いを切る方法、手がかりでも、なんでも」
返事はない。
ポタッと、今度は胸に水滴が弾けるのが、はっきりと感じられた。
「教えてくれ。ただの予想でもなんでもいい。キミの思ってる事でも」
「――く」
蚊の鳴くような声。
そこに宿る怯えも、その時の俺には気にする余裕はなかった。
「何? どうすればいい? 何をして欲しい?」
「抱く、のよ。私、を」
消え入りそうな囁き声。
あまりといえば、あまりな言葉に、俺は再び絶句した。
「夜魔や幽鬼は、性交を通じて人の精気を奪い、時に犠牲者を自分の眷族に変える。私に掛かったのも
、その呪い」
「あ……うん」
「現在の契約者であるあなたが抱けば、霊縁はあなたに結び直される。それで私は、完全に『あいつ』
から自由になる」
固い声で、彼女は説明する。だが俺には、半分も耳に入れる余裕がなかった。
「それだけ。……簡単でしょ」
「ああ――」
「抵抗はしないから、やるならやって」
錯覚の圧迫を感じて、俺は浅い息を吐いた。
抱く?
彼女を、ここで?
現実感が希薄で、「本当にいいのか」と考えるより先に、「何故」という疑問の方を感じてしまう。
彼女には憧れていた。
一方的な片思いだ。実る事はないだろうと本気にはならなかった。
それでも、間違いなく初恋だった。
――今ここで彼女を抱く事は、かつての俺の、恋愛の続きなんかじゃない。
人と悪魔の戦いの中で、必要に迫られて行う行為。主人と、その所有物である使い魔を区別する、冷酷
な行為に他ならない。
俺は。
俺は――
「……最後まで言わなくても、いいよ」
乾いた笑いと共に、彼女の言葉が降る。
「嫌でしょう? 死人なんかとセックスするの、気味悪いでしょう? ひょっとしたらあなたも、精気
を吸われて亡者になるかもしれないし」
「そんなつもりじゃ……」
「同情なんてしないで。――ねえ、やっぱり言いなさい、気味が悪いって。死んだ女になんか触れたくないって
、ちゃんと自分の口で言ってよ。あなたの口で、私に言ってよ!」
「違う!」
「ウソ!」
もう、隠す様子もなかった。
怒り、泣きながら、彼女は爪を肩に食い込ませる。走る激痛に、俺の意識は数瞬の間を飛び越える。
「いいわ! ならはっきり言ってあげる! 『あいつ』は私を犯したの! 私の、色んな初めてを奪っ
て、辱めたのよ! それから殺しをさせるたびに体を餌にして、私を慰め、飼いならそうとした! 私
はそれを、それを――!」
ギッと、一際強く、彼女の爪が俺の肉を抉る。肩の中で稲妻が弾け、激痛のショックが視界の闇を灰色
に染める。喉の奥で悲鳴をかみ殺せたのは、僥倖というしかない。
「だから、言いなさいよ! 汚い女だって! 人殺しの悪魔の、救われる価値の無い、最低の女だって
!」
「っ、言うもんか……口が裂けたって、そんな事言うもんか!」
その返答に、彼女はまた怒る。
爪を食い込ませ、激痛に苛まれながら、俺は拒絶の言葉を繰り返す。
後は同じことの繰り返しだった。
徒労に疲れた彼女が、爪を引き抜くまで、俺は同じ言葉を繰り返した。
散々泣き、わめき散らした後は、彼女はもうすすり泣くだけだった。
喉を引き絞るような嗚咽が耳を流れていく。
彼女の表情を隠す闇に、俺は今更のように感謝していた。
「……俺は、さ」
――言葉を飾る事も、話の筋を組み立てる事も、もう出来なかった。
「きっと、信じられないと、思うけど」
――だから、正直にいくしかない。
「キミのことが、好きだったんだ。いや、多分、今でも」
しゃっくりのような息を呑んで、彼女の嗚咽が途切れる。だが返事を待たず、俺は話し続ける。
「大切にしたかったんだ。キミと、平穏だった頃の思い出を」
「……そんな、もの」
恨むような声で、彼女は俺の言葉に噛み付く。
「そんな、もの! もうっ、とっくに壊れてる!」
「……分かってる、分かってるよ。だから、取り戻したいんだ」
言いながら、俺は初めて、自分から彼女の手を握っていた。
「っ!」
「冷たいな。それになんだか固い」
普通の筋や骨の感触じゃない。たとえるなら、鉱物に絹の布を被せたような、不自然な柔らかさと固さ
が並立している。肌こそ艶やかでも、ぬくもりを失い、人ならぬ肉に変質した手は、やはり異質な手触
りだった。
震えて引こうとする手を、強く握り捕まえる。
「言い訳にしか聞こえないだろうけど――好きなんだ」
「……それなら、それならっ!」
最後まで言わせたくなくて、俺は手探りで彼女の首に触れ、引き寄せる。
唇は冷たかった。冷水のような唾液を口移しにもらい、飲み込む。途端に、体の奥から爛れたような熱
が湧いてきた。
これが幽鬼の魔力――催淫とでも言うべきものだろうか。
彼女を辱め、殺した力。
飲まれてはいけない。けれど、受け入れようと思った。
何もかもが変わり果てた今、変わっていない事といえば、彼女への思いぐらいのものなのだから。
「チュ、ん、ンクっ、んふぅ、チュク――」
「ぐ、ん、……待ってくれ、ンンッ!?」
空気を読まない俺の告白は、何かを崩してしまったのか。
俺から始めたキスは、あっという間に攻め手を逆転させていた。
まるで喰らいつくように、彼女は舌を絡ませ、俺の口に唾液を送り込む。吐き出す事も許されず、俺はそれを諾々と飲み続けるしかない。
まるで媚薬の原液を、延々と飲まされ続けているようだった。
腹には気味の悪い熱がともり、胸には甘ったるいむかつきが満ちる。もどかしさに、押さえつけられた
手足をジタバタとさせてみるが、彼女の四肢はびくともしない。
首元に絡みつく絹糸のような髪が、まるで俺を縛る鎖のようにも思えてくる。
「ぷはっ――どう? こんな浅ましいのが、今の私なのよ?」
「ンくっ、……構わないよ。どんなだろうと、俺は好きだ」
言葉の返事はない。無言のまま、彼女は猛然と俺に覆いかぶさる。首筋にフッと鼻息が掛かり、唇が触
れる。次の瞬間には、硬く、切ない痛みが弾けた。
「んあっ!? まって、まってくぅっ!?」
「ンゥ、ン」
むず痒い感触に、俺はどうしようもなく興奮し、情けない声を出してしまう。首筋への甘噛みだけで、
下半身に痛いほどの力が集まる。
――ヤバイ。
本当に、狂いそうなくらい興奮してしまう。
――幽鬼としての魔力がそうさせているとは思いたくなかった。
これは、彼女だからだと。
不意に、両手を押さえつけていた重圧が消えた。
何かと思う間もなく、俺の服に彼女の手が掛かり――
ブゾンッと、雑草を引きちぎるような音がして、服の前面が裂かれる。
「う、あっ」
「あなたが――――うから」
潤んだ囁き声。それを聞くだけで、俺の頭は熱くなる。
「絶対、絶対に、」
うわ言のような呟きを落としながら、彼女は俺の胸に顔を埋める。
艶やかな髪が素肌をくすぐり、網のように広がって胸板を包み込む。ついで、冷たい舌で乳首をゾロッ
と舐められ、
「うアウッ!」
キモイと思いながらも、俺はとうとう、嬌声をあげさせられてしまっていた。
電流のように走った感覚は、体の内では収まらなかった。完全に無意識のうちに、俺は弾かれたように
手を回し、彼女の華奢な体を抱き締めていた。
抱きすくめられた彼女が小さく震え、その体から力が抜けるが、頓着するだけの余裕はない。
憑かれたように、肩を掴んで引き戻し、もう一度俺から、彼女の唇を奪う。
積極的に舌を絡ませ、彼女の唾と吐息をありったけ貪る。
――あるいは、という思いが頭を掠める。
彼女を犯した『あいつ』とやらは、こんなふうに彼女を犯したのだろうか。
俺の、大切な女性を――。
「ンンッ、ン……」
さっきまでと打って変わって、彼女は一方的に俺のキスを受けるだけだった。
綿毛を摘むように俺の首に手を回し、むしろ催促するように、全身を押し付けてくる。
「ッぷぁっ、……あつい」
トロンとした、どこか愛おしそうな声で、彼女が呟く。
足りない、と思う。
もっと満たしてやりたい。
彼女を抱きしめたまま、体に力を入れる。肩の傷が痛んだが、気にしない。
そのまま彼女を引っくり返すようにして、位置を入れ替える。
異質な硬さと力を持つくせに、彼女の体は羽のように軽かった。
「あっ」
裂けたブレザーの隙間から、手をもぐりこませる。
彼女の膨らみは、ちょうど手の中に収まる位の大きさだった。
冷たく柔らかく、まるで雪と絹を編み合わせて作った鞠のようで、その手触りに、いやでも情欲の火が噴きあがる。
「あ、はっ、あ!――んっ!」
どれだけ愛撫しても、彼女の体は冷たいままだった。
しかし彼女の上げる声は、触れば触るほど、抱き締めれば抱き締めるほど、熱い艶を帯びてくる。
その点では、彼女は全く普通の女の子に違いなかった。――たとえ悪魔でも、俺の好きな、たった一人
の女の子だった。
「ふ、あ――そ、こ」
服の破れ目を探り当て、彼女の体に噛り付く。口一杯に弾むような塊と、肌から揮発した乳臭い香りが
満ちる。
「ふぁっ!――ンぁあ!」
頬の筋肉全体を使って吸い付きながら、舌で乳首――乳道を刺激すると、闇すらも溶かすような嬌声が
上がる。首に回した手に力をこめ、彼女は強く俺にしがみつく。
焼け付くような情交。
理性を吹き飛ばすような興奮を感じて、しかし同時に、俺はどこか、薄ら寒い感覚が体を包むのを感じ
ていた。
――幽鬼の吸精。
点滴で氷水を流し込まれるように、少しずつ、少しずつ、彼女と重ねた肌を通して、冷気が俺の中に入
ってくる。
彼女とのセックス。これ以上耽溺するのは危険だった。
「――きて」
俺の気付きに合わせたようなタイミングで、彼女が囁く。
声に操られるように、俺は躊躇うこともなく、スカートの中に手を入れる。
手に触れる下着は、雨に打たれたように、既に冷たい蜜でグショグショだった。
下着を抜き取ろうとすると、俺の動きに応じて、彼女も俺のズボンに手をかける。が、
「すこし、まって」
言い置いて、彼女は押し除けるように自分の体を起こす。特に抵抗せずにいると、彼女は俺の首を抱い
たまま体を起こし、俺の膝に尻を乗せた。
ちょうど足を投げて座り込んだ俺の上に、彼女が腰をくっつけるようにして座り込んだ形だ。
「……して」
消え入るような声を出しながら、彼女はズボンのチャックを広げる。応じて、俺も下着を引っ掛け、一
息に下げた。
自分の男を、彼女のそこにあてがうと、軽く触れただけで彼女の花弁が動いた。
1日の内の一時しか開かない花が、その時が来れば自ずと咲くように、彼女の陰部は自然と開いて、俺
という雄を受け入れていく。
「ンッ――クゥゥッー!」
「く、あっ」
想像通りの柔らかさ、そして冷たさ。まるで本当に、夜露に濡れた花の中に入っていくような気持ちに
なる。
雄を包み、ねぶるように奥へ奥へと、彼女は招く。溢れ出る蜜が、肉を伝って俺の腰まで流れ込む。
――チッと、何かを千切る感触があった。
「くっ、ん!?」
「いい、から――いいからっ」
雄を完全に飲み込み、それだけで満足できずに、彼女は俺にしがみつく。
しなやかな足は俺の腰をぎゅっと挟み、めくれ出たままの乳房が胸板に押し付けられる。唇は三度目の
キスを求めて吸い付き、唾液と共に舌が結ばれる。
全身で交わり、余すところなく体を使って、俺達は貪り合った。ありとあらゆる箇所を接触させ、擦り
合わせ、結び、溶け合わせるように。
「――ハッ、もう、出るっ」
「ン、出してっ、このままっ!」
耐えるほどの間もなく、彼女の中で、俺は弾け、放出した。
「あぅ、あ――くる、きて、る」
震えを逃がすように、彼女も俺の体にしがみつき、何かに耐えるような声を出す。
やがて緩やかに、波は途切れていった。
急激な虚脱感に包まれるところに、絶頂に達した彼女が体重を預けてくる。
彼女の体は、少し温かいように思えた。俺の精を吸い取ったからだろうか。
「……体、つめたいね」
「キミは、少しあったかい」
そっと肩に手をかけると、制服の内から、冬の陽だまりのような、微かな温もりが伝わる。自分の熱が
宿ったのだと考えると、何かむず痒いような、いても立ってもいられない気持ちだった。
「これで――大丈夫、だから」
そう呟く彼女の声は、少し震えていた。
――言われて、何のために彼女を抱いたのかを思い出す。
夢から醒めたように、フッと寒気を覚えた。
行為を終えた事を自覚し始めるにつれ、どこか後ろめたい気持ちが滲み出てくる。
小さな棘が、これで良かったのだろうかという割り切れなさが、どこかに引っかかっている。
クヨクヨと考たところで、他に方法がなかったのは分かっている。だというのに、きっとその時の俺は
、まるで自分の方が傷ついたような馬鹿面を晒していたのに違いなかった。
「あのね」
小さな囁き。
泣き出しそうな声の調子に、喉の奥が痛いくらいに張り詰める。
「私、も」
「――私も、好きだった」
――何を言われたのか、よく分からなかった。
「全部、ぜんぶ、もう終わっちゃった事だけど」
これは――何の告白なんだろう。
そしてこの気持ちは、何なんだろう。
思いが通じた喜びなのか、恋が終わった悲しみなのか。
「でも、ほんとに好きだった。……きっと、今も」
矛盾するような彼女の言葉に、しかし俺は何の抵抗もなく、共感できた。できてしまった。
何か言い返したい。けれど既に好きだと言ってしまった俺には、これ以上に語れる言葉は、もう無い。
だからいつかと同じように、俺は黙るしかなかった。
いつかと違い、彼女を抱き締めたままで。
――――
月明かりの下、夜の墓地は、影絵のスクリーンを広げたように、のっぺりと広がっていた。
希薄な立体感の源は、夜空に煌々と輝く満月か、それとも、うねり、捻じ曲がるように視界の果てまで
広がっている、際限のない墓石の群れなのだろうか。
彼方には、物言わぬ墓石たちの主のような、巨大な石柱が何本もそびえている。現実の光景とは思えな
い。
故人のために用意された庭は、今、眠りの園ではなく、夜の悪夢が現実化したような場所に成り果てて
いた。
「――情報どおり、か」
アームターミナルを起動させ、各種ソフトウェアを走らせる。『エネミーソナー』が赤の警告色を示す
のを確認して、俺は刀を引き抜いた。
深夜の霊園が異界化するという噂話。〈葛の葉〉に調査を依頼され、乗り込んでみたのだが――。
「……繋がるわけないか」
圏外表示のまま固まっている携帯をしまうと、俺は周囲に目を配りながら歩き出した。
複数の人間が一度に入り込んだ場合、異界の中でバラバラにはぐれてしまうという情報があった。有効
な対策を立てられないまま踏み込んだ俺達は、案の定、はぐれてしまっていた。
アニキ達の安否も気になったが、チームの中で直接戦闘力が低い俺が、単独行動しているという状況も
良くない。
合流は早い方がいい。
―― ィー ――
「っ!?」
錆びたブランコが揺れるような音。
夜の霊園で聞くには、あまり心躍るものじゃない。
聞き覚えがある。これは――。
――ギィー
――グギッ
――ゲゲッ、――モジイ
気が付けば、周囲の墓石の影から、ギラギラと輝く目が覗いている。
1、2、3、4……
15を越した辺りで、殺気の環が縮み始めたため、俺は数えるのをやめた。
――ヒモジい、ヒモジいョぅ ――
灰色の人影の群れ。
皮が張り付くばかりの、髑髏のような頭蓋。野犬のように白く輝く目。枯れ木のような手と爪に、妊婦
のようにぽっかりと膨れた腹。
「餓鬼(ガキ)か」
呟いて、刀を構える。
話して退かせる余地は無い。もとから獰猛で食欲しか頭にない手合いの上に、今日は満月だ。
血沸き肉躍る殺戮の夜。多くの悪魔達には、言葉すら届かない。
戦うしか、ない。
風を切って接敵し、まず一振り、先頭の1体の頭を叩き割る。
黒く粘ついた血を吹いて傾く体を蹴り飛ばし、返す刀で2体目の腹を撫で斬り。鳥のような悲鳴が上が
るが、それを無視して、切っ先で3体目を牽制し、一思いに走り抜ける。
そのまま包囲を突破――
――出来ない。
行く手の路上にも、ぞろぞろと墓石の影から、ガキが姿を現す。20か、それとも40か。
いくら下級悪魔とはいえ、一人でこれだけの数を相手にすることなど、出来るわけがない。
舌打ちしながらアームターミナルを開く。マグネタイトを温存するため、ここで召喚は避けたかったが
、やむをえない。
召喚プログラムを準備して――
ガアァン! と、魔獣の咆哮にも似た轟音が響くと同時に、迫るガキの頭が潰れた。
続いて2発、3発。
石榴のようにガキの頭蓋が弾け、小さな体がばたばたと倒れていく。ガキ達がたじろぎ、群れの動きが
止まる。
風が吹いた。
硝煙の匂いと、花のような芳香を含む夜風が、鼻の先を吹きぬける。
視界の端になびいた、一筋の髪。
「気を抜かないで。弱い相手でも、数はそのまま力になる」
いつからそこにいたのか、いつかのように両手に銃を構えた姿で、彼女は俺の後ろに立っていた。
今は敵ではなく、味方として。
補修し縫い合わせた制服は、やはりどこかくたびれていて、見栄えがいいとは言えない。それでも、月
明りに髪を流す彼女は、綺麗だった。
「――来てくれたんだ。ありがとう」
「契約と霊縁で二重に結ばれているのを忘れたの? あなたがどこにいても、私には分かるわ」
ギィーッという咆哮。
話している間に立ち直ったガキ達が、再び距離を詰め出す。
だが、そこに再び閃光と轟音が割り込む。
今度は火薬の爆発ではない。大気を引き裂く破裂音と共に、虚空から迸った稲光が敵を直撃した。
炭のように焦げて吹き飛ぶガキの背後から飛んでくるのは、小さな妖精だ。
「ここにいたんだっ」
「ピクシーかっ、他のみんなはっ」
「今2人が一緒に戦っているけど、ここと同じで、ちょっと苦しいんだよ! 早く合流しよ!」
「分かった。先に行って援護しててくれ」
そう叫ぶと、ピクシーは俺を見、ついで彼女に少し視線をやってから、きびすを返して飛び去った。
「信用、されてないよね」
背中を付けながら、彼女は自嘲気味に呟く。
「されてるさ。でなきゃ、キミを仲間に入れる事もなければ、俺を預けたりもしない」
アニキも先生も、彼女の加入に際して、もう一度俺に警告した。
人格の問題だけでなく、これから背負うだろうリスクを。
だが、最後には俺の覚悟を認めてくれたのだろうか、2人とも承諾してくれた。
――俺は、彼女と生きる。
失ったものを取り戻すために。あるいは、再び新しく作るために。
錆び付いた声で呼び交わしながら、ガキ達が互いに連携を立て直そうとしている。
みたび、包囲を狭め始めるのは時間の問題だった。
金属音を鳴らし、彼女が弾倉を入れ替える。
「突破するわ。一緒に左へ」
「ああ」
殺気の壁が、揺らぎながら動き出す。押して、引かれていく波の中に、前兆を感じた。
――襲い掛かってくる直前、ガキ達の輪には、必ず大きな綻びが開く筈だ。
そこを、突く。
10秒先か、20秒先か。力を蓄え、その瞬間に備えようとして。
――不意に、刀を握る手が、冷たく柔らかい手に包まれた。
「あのね」
緊張を残しながらも、その時の彼女の声は、何か上擦って聞こえた。
「あの、ね」
「うん?」
「今後とも、ヨロシク」
タッチでも交わすように、ギュッと手が握られ、それから素早く、彼女の手は引かれた。
――そして、俺と彼女は弾かれたように走り出す。
この先に、救いがあるのかは分からない。
だが俺も彼女も、戦い抜いていけると確信している。
全ての罪と、全ての願いが昇華される、その時を目指して。
(おわり)
以上、長々と拙作の書き込み、失礼致しました。
多少なりとも暇つぶしになったのならば、幸いです。
保管庫を見ましたが、人修羅の作品、確かに素晴らしい出来でした。
及ばずながらも、人修羅を使ってみるのも面白そうだと、思ったり。
機会があれば、またいずれ。
もうちょっとこう、思わずティッシュの箱が空いてしまうような投下が欲しい。
エロ以外の部分に力が入っているものが増え始めた当初は嬉しかったが、今となっては飽食な感じ。
運命の少年×影の銃姫のひと、乙でしたー。
これまたメガテンチックな愛だなぁ、と思いながら読ませていただきました。
…にしても大島リリアはこんな感じでハーレムを作ってんのか羨ましいな!とか思ったのは自分だけではあるまいw
>>377 需要は供給の母と言う。
さあ、ペンを取るんだ!キーボードを叩け!君の情熱をぶつけるんだー!
>>376 乙でしたー。
後からじっくり読ませてもらいますが・・・流し読みしただけでも
なんかこう琴線にビリビリ来る感じが・・・じっくり読んだらどうなってしまうんだw
>>376 おつ&グッジョブ。
メガテンの定番ともいえる「今後ともヨロシク」の台詞が、
ここまで心に響くとわ!
>>377 いいたいことは判らんでもないが、作品が投下された第一声がそれか?
>>376さま、GJです !
メガテンに詳しくない私の評価などアレかもしれませんが、逆説的に言えば、
「知らない人間でも引き込まれた」と言えると思います。
文章の独特の昏さ、Hシーンのときに特に漂う背徳感。あと、文章に説得力が
あるな、と気がついたのは(文章を指して言うのも変かもですが)、「画面の暗さ」
がありありと見えたときでした。ビジュアルに迫る感じがしたんですね、私的に。
>>377さま。
書き手の趣向も読み手の趣向も様々ですから、好みの作品の投下もあるのでは
ないか、と・・・。長い目で、スレを愛して欲しいです。
というわけで続き投下。
いつも冷静な、灯ちゃんの赤い瞳。私を見つめる静かな視線。
微かな表情の変化や、視線の配り方、ちょっとした仕草。
その、あるかなしかの変化を見て、灯ちゃんの考えていることや心の動き、気持ちの
浮き沈みが(ほんの少しだけですけど)理解できるようになったのは、いつの頃からだっ
たのでしょう。
クラスのみんなが時々、「緋室さんてちょっと近寄りがたいところがあるよね」というの
を、私は意外な気持ちで聞いていましたけど、たしかに出会ったばかりの頃は私だって
同じでした。
でも、それが変わったのは、長く付き合うに連れて灯ちゃんがどんな女の子なのか、
次第にわかるようになったから。灯ちゃんが、私に心を開いてくれたからだって思うん
です。
それはとても特別なことで。だから、そんな自分が誇らしくて。
早朝の教室で、不意に灯ちゃんと出会ってしまった私が、灯ちゃんの瞳の色を見て
感じたのは、穏やかさと喜び。
「・・・・エリス・・・おはよう・・・・・・」
と言ってくれたときの声に漂う安らいだ空気。瞳にたたえられた硬質の輝きがふわり
と柔らかいものになって、優しく和らいで。
ああ、灯ちゃんも私と会うことは予想してなかったんだ。だから、会えると思っていな
かった私に、不意に出会えたことを純粋に喜んでくれているんだ。
自惚れとか思い込みとか言われるかもしれません。でもわかるんです。
ううん、「伝わる」っていうほうが近いかも・・・。
それなのに。それなのに私。
・・・目を、そらしてしまいました。
きっと、後ろめたかったのだと思います。昨日、学校で午後の授業をエスケープして
しまったこと。灯ちゃんが下級生の女の子たちに人気があるって聞かされてヤキモチ
を焼いちゃったこと。そんな自分が嫌で泣き出しちゃって、逃げるように帰ったマンショ
ンで、灯ちゃんの名前を呼び続けながら・・・その・・・エッチなことをしてしまったこと。
そんな色々な光景が、灯ちゃんに出会った瞬間、全部私の頭の中にフラッシュバッ
クして、もう彼女と目を合わせることができないでいたんです。
顔が熱い。だって、私・・・灯ちゃんのことを想いながら・・・あんなことを・・・。
そんなこと知られたら軽蔑されちゃいますよね。だから、目をそらしてうつむいて、灯
ちゃんに顔色を読まれないようにしてしまいました。
「お、おはよ・・・。びっくりしちゃった。任務・・・じゃなかったの・・・ ? 」
どうか声が上ずっていませんように。どうかいつもの私でいられますように。
神様に祈る気持ちでした。でも、いつもの私でいられるはずもなくて。灯ちゃんが、
一歩私に近づいて。
「・・・エリス。なにか・・・あったの・・・ ? 」
私の変化に気づかれてしまって。
「え、な、なにが・・・ ? なにも・・・ないヨ・・・ ? あ・・・き・・・昨日のことならホント、心配
しないでね ? 具合、悪くなんてないから・・・」
誤魔化しきれそうにない。だって、私、顔が上げられないんだもん。灯ちゃんの目が
見られないんだもん。
「エリス・・・」
「そ、それよりどうしたの、灯ちゃん ? 任務、だよね。学校にいるはず無いと思ってた
のに、どうして・・・ ? 」
灯ちゃんの言葉をさえぎって、早口でまくし立てます。誰か、誰か早く来て。クラスの
誰でもいいから、早く来て。私たちを二人きりにしないで。たぶん、そうじゃないと私、
なにかとんでもない間違いをしてしまいそう・・・。
「・・・忘れ物。少し、任務が長くなるって聞いて・・・教科書・・・全部取りに来た・・・」
手にささげ持った学生鞄はずっしりと重そうで。
そういえば、任務のときでも灯ちゃんは学校の勉強のことは忘れていないんだっけ。
たしか、私たちが宝玉探しで月に行ったときも、シルバースターのキャビンで教科書
を開いて熱心に勉強していたんだよね。
「それより・・・エリス・・・本当に大丈夫・・・ ? 」
灯ちゃん、誤魔化されてくれない。私の様子がおかしいことに気づいてくれたのは、
すごく嬉しい。だけど、話すことなんてできるはずがない。私の中の汚いものを見せた
くはない。
「だ、大丈夫だよ。なにもないんだから。それより灯ちゃん、学校に来たのは寄り道な
んでしょ ? 早く、しないと・・・ダメなんじゃないの・・・ ? 」
灯ちゃんの目が厳しく細められる。
「エリス」
ダメ・・・近づいちゃダメ。
「誤魔化さないで」
灯ちゃんが一歩を踏み出す。近づいて、くる。もう、逃げることのできない至近距離。
私、こんなときなのに。
(あ・・・灯ちゃんの・・・匂い・・・)
鼻をくすぐる甘い香りに、一瞬うっとりしてしまって・・・。
・・・・・・ !!
ダメ・・・ !! 絶対ダメだよ・・・こんなこと・・・ !!
「・・・・・・エリ」
「・・・なんでもないって言ってるじゃないッ・・・・・・ !! 」
・・・・・・あ・・・・・・。
いま・・・凄い声で怒鳴ったの・・・・・・私・・・ ?
ハッ、となって、そこで私は初めて灯ちゃんの顔を見上げたんです。
そこには・・・見たこともないような表情の灯ちゃんがいました。
紅玉の赤にも似た綺麗な瞳が、不意を食らったように見開かれて。
私の名前を呼ぶ途中でさえぎられた口が、開いたままで石化したように固まって。
呆然。そう、呆然とした表情、っていうのが一番近い表現かもしれない。
でも、その表情もほんの一瞬のこと。見開かれた瞳を伏せるように、長い睫毛がその
表情に影を落として。唇が微かに震えて。
そうして灯ちゃんが次に発した言葉は、私には思いもよらないものでした。
「・・・エリス・・・ごめんなさい・・・」
ガツン、と頭を重たいもので殴られたように、私は思いました。
灯ちゃんが私に謝った。私が、灯ちゃんを謝らせてしまった。なにも悪くないのに、な
にも灯ちゃんは悪いことなんかしてないのに。悪いのは私なのに、一方的に私のほう
なのに・・・ !!
灯ちゃんの表情は、とても暗く沈んでいました。
わかるんです。伝わるんです。灯ちゃんの考えてること、気持ち、想い・・・ !
傷つけてしまった。
私が灯ちゃんの気持ちを傷つけてしまった・・・ !
灯ちゃんの表情に漂うのは、彼女が彼女自身を責める、強い悔恨の色。
私、それで完全に理解しました。私が灯ちゃんに怒鳴りつけたことで、彼女が傷つい
たんじゃあない・・・って。灯ちゃんは、自分がなにか不用意なことをして、私を傷つけた
と思ったんです。だからこそ、あんなにも痛ましい顔をして。だからこその、謝罪の言葉
で。
優しい灯ちゃん。私のことを想ってくれている灯ちゃん。
だから、あんなにも彼女は傷ついて・・・ううん・・・私が傷つけてしまって・・・。
すっ、と。私の横を灯ちゃんのしなやかな身体が通り過ぎていきます。
すれ違いざま、もう一度だけ。
「・・・ごめんなさい。もう・・・行くね・・・」
と、いつもの灯ちゃんとは思えないくらい弱々しい声で。
足音が遠ざかっていく。あんなに近くにいた灯ちゃんが、遠ざかっていく。間近に感じ
ていた体温も、もう感じられなくなって。空気が不意に冷たさを増して。
灯ちゃんがいまここにいたという痕跡がすっかり掻き消えてしまうまで、私、身動きひ
とつ取れませんでした。静寂が耳に痛い。その静けさを破るように、なにかがカチカチ
と鳴る音が聞こえてきて。その音が、私自身の歯が鳴る音だって気づいたのは、しば
らく経ってからのことでした・・・。
「・・・違うよ・・・ ? 灯ちゃんは悪くないんだよ・・・ ? 私がちょっとおかしかっただけなん
だから・・・灯ちゃんはなにも気にしないで・・・ ? 怒ってゴメンね・・・ ? 怒鳴っちゃって
ゴメンね・・・ ? ごめん・・・ごめんなさい・・・あかりちゃ・・・」
どうして、さっき。
どうして灯ちゃんがいるときに言えなかったんだろう。
言うべきだった、言わなければいけなかった言葉は、私の周りに誰もいなくなってか
ら、ようやく口からこぼれ出て。
「ごめ・・・なさ・・・灯ちゃ・・・ん・・・う・・・・・・うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ ・・・・・・!! 」
廊下に響き渡る私の泣き声。
喉が破れたって構わない。泣いて、泣き過ぎて血を吐いたって構わない。
それくらい大声で、私は泣きました。
なにかが私の中で大きな音を立ててがらがらと崩れていくのがわかります。
膝から力が抜けて、固く冷たい廊下に膝をつき。その場で私は倒れこんでしまい。
・・・その後のことは・・・よく覚えていません。
気がついたときは・・・学校の保健室だったからです。
昨日の午後と同じ、校外のかすかなざわめきと初夏の風。
既視感。デジャ=ヴュ。
もしかして、さっきまでの辛い経験は夢だったのかな・・・ ? 昨日の午後の授業をさ
ぼって、保健室でまどろんでいた夢の続きを見ているのかな・・・ ?
そんな風にぼんやりと考えていた私は、寝かされたベッドの上で首を横に傾けます。
卓上カレンダーの日付は・・・そうだよね・・・昨日じゃ、ないよね・・・。
昨日の続きじゃないんだ。確かにいまは、間違いなく今日なんだ。
私は。今日。今朝。灯ちゃんを。大事な大事な親友を。私が。傷つけました。
身体中に鉛を流し込まれたようなけだるさ。
私はゆっくりと保健室のベッドから身体を起こします。時間は午前十一時。もう、授業
はとっくに始まっているはずでした。きっと、私はあの後、気を失ってしまったんだと思い
ます。倒れている私を、誰かが運んでくれたんでしょう。ベッドの横には、私の学生鞄が
立てかけられていました。
私は重たい身体を、引きずるようにベッドを抜け出しました。鞄を手にとって、保健室
を後にします。廊下。エントランスホール。下駄箱。靴を履き替えて校門へと歩き出し。
・・・おかしいですよね。こんなに身体は重たくて、気持ちは乱れに乱れて、心はどう
しようもなく痛みを覚えているのに。毎日の反復行動って、間違えないんですね・・・。
校外へ出て、私は昨日と同じように帰路につきました。
こんな時間に制服で街をうろついていたら、不良だって思われちゃうかな・・・。
でも、いいんです。私が悪い子だっていうことは、もう間違いないんですから。
どうやって、私がマンションに帰りついたのか、実はあまり記憶にありません。
学校から私の家まではすごく近いんですよ ? それなのに、お昼前に学校を出たはず
なのに、家に着いたときはもう午後二時を回っていたんですから・・・。
マンションのリビング。
目に映るのは天井です。
制服を着替えることすら億劫で、私、鞄を床に投げ出したまま、帰ってきたときの格好
でなにもせずにフローリングの床の上に大の字になっていました。
「また・・・私・・・学校さぼっちゃったな・・・」
どうでもいいことを、私、言ってる。
そんなことより大事なことがあるはずなのに。言わなきゃいけないことは、別にある
はずなのに。
たった一日で、また私の周りの世界がこんなにも変わってしまうなんて。
たった一日で、私は大切なものを失おうとしている。
(どうしよう・・・私・・・灯ちゃんを失くしたくない・・・)
嘘偽りのない、これが私の本心です。灯ちゃんを失うことに比べたら、私の汚い部分
をさらけ出すことなんてなんでもないことのはずなのに。私たちの関係が元通りになる
んだったら、いますぐにでも灯ちゃんに会って謝りたい。土下座したっていい。叩かれて
もいい。その後で、いつもの私たちに戻れるのなら、私、なんだってできます。
そうだ。
こんなところで呆けてるだけじゃダメなんだ。私は起き上がって、鞄の中から携帯を
取り出しました。灯ちゃんやくれはさんたちとおそろいの、スケート靴のストラップが揺
れて、なんとなく私に行動する勇気をくれているようです。
「灯ちゃん・・・灯ちゃん・・・」
携帯の電話帳には、「緋室灯」じゃなくて「あかりちゃん」って登録してるんです。
だって、「ハ行」よりも「ア行」のほうが、名前が最初に出てくるでしょう ?
電話をしよう。灯ちゃんときちんと話をしよう。出てくれなくてもいい。出てくれるまで
何度だってかけるから。そう思いながら、携帯のメニューを開こうとしたとき。
《Sweet Power〜♪ 七色の宝石〜♪》
「きゃっ !? 」
携帯のボタンを押そうとしたタイミングで、着信の歌が鳴り響きます。
誰からだろう ? もしかして灯ちゃん ?
ディスプレイを覗き込みます。着信は・・・「くれはさん」 ?
さっきまでの憂鬱な気分なんか、いつしか忘れていた私。
あ ! そうだ ! くれはさんとお話したら、灯ちゃんとも普段通りにお話できるんじゃない
かな ? いつも元気なくれはさんとお喋りして、嫌なことは全部忘れて、たくさん勇気を
貰っちゃおう ! ・・・ごめんなさい、くれはさん。なんだか、だしにするみたいで。
でもでも、少し頼らせてください。少し甘えさせてください。私に勇気、ください。
「もしもし、エリスです。くれはさんですか ? 」
お買い物のお誘いかな ? 週末のお茶会の話かな ? それともそれとも、他愛のない
いつものお喋り ? 携帯の向こう側からの返事を待つ私に、くれはさんの声が告げまし
た。
《エリスちゃん !? ゴメン、いま学校じゃないよね !? 電話、大丈夫だよね !? 》
すごく勢い込んで、耳が痛くなるくらいの大声で。どこか切羽詰った、なんだか怖い
くらいの真剣な声。なに・・・・・・ ? くれはさん、いったいどうしたんですか・・・・・・ ?
「は、はい。電話、平気です。あ、あの、どうかしましたか !? 」
晴れ渡っていたはずの胸の中に、黒い雲が垂れ込めてくるような、そんな不安。
《急でゴメン ! でも、時間とって欲しいの ! いまからひーらぎと一緒に迎えにいくから、
だから一緒に来てッ !! 》
「えっ、ここへ来るんですか !? 先輩も一緒って・・・あ、あの、くれはさん、どうしたんで
すかッ !? なにがあったんですか !? 」
《あ・・・あかりん・・・あかりんが・・・うえぇぇっ・・・》
ざわり。
背中を悪寒が駆け抜けます。
灯ちゃん、灯ちゃんがどうしたんですか !? どうして、どうしてくれはさん、涙声になって
るんですかッ・・・・・・ !?
《・・・ひくっ・・・あかりん・・・あかりんが・・・任務中に・・・大怪我したって・・・病院・・・》
「・・・・・・いま行きますッ !! マンションの入り口のところにいますからッ !! すぐ来れるん
ですかッ !? 何分で来れますか !? 」
《・・・うぐ・・・ふえ・・・》《・・・おい、携帯貸せ、くれは ! らちがあかねえからッ !! 》
柊先輩の声・・・・・・!!
《エリス ! 詳しい話は合流してからだ ! マンションの前で待ってろ ! 電気街抜けたから
五分以内で着く !! 》
私が返事をするよりも早く、
《走りにくいからもう切るぞ ! なるべく早く着けるように全力疾走するからなッ !! 》
ぷつんっ。つー、つー、つー。
もう声の途切れた携帯を握り締めたまま、私はとるものもとりあえずマンションを飛び
出しました !
(灯ちゃん・・・灯ちゃん・・・灯ちゃん・・・ !! )
何度も何度も何度も、灯ちゃんの名前を呼びます。私、後から考えてみたら、すごく
馬鹿なことしちゃったんです。マンションの最上階から、階段を使って一階まで駆け出
していっちゃったんですから。・・・おかしいですよね。どう考えても、エレベーターを使
うほうが下に着くのは早いはずなのに。でも、エレベーターがここまでくる時間がもど
かしくて、私の足は自然と階段へと向かっていっちゃいました。
手すりに掴まって、階段を全力で駆け下りて。
一階に着いて、外に出た瞬間、息ができなくなっていて。
心臓が全身に血液を送り込もうと、異常なほどにどくどく脈打っています。
喉が、胸が、脚が痛い。それこそ、本当に意識が途切れそうになるほどでした。
ふっ・・・と、倒れこみそうになった私の身体を、力強い腕が抱きとめてくれます。
「エリス ! 大丈夫か ! 」
柊先輩です。私、柊先輩に抱きとめられた途端、なんだかすごく安心して。
でも、安心すると同時に、さっきのくれはさんの言葉が一気に思い出されてしまって。
「ひ・・・らぎ・・・せん・・・あ・・・かり・・・ちゃん・・・は・・・ごほっ・・・」
「病院だ ! 場所はわかってる ! 連れてくから一緒に来い !! 」
「ひーらぎ・・・ ! 無理だよ・・・ ! エリスちゃん走れないよ・・・ ! 」
くれはさんの泣きそうな声も聞こえます。
「へ・・・き・・・で・・・ごほっ・・・わた・・・し・・・はし・・・れまっ・・・」
柊先輩たちに私の言葉がちゃんと伝わっていたとは思えません。喉からヒューヒュー
とかすれた呼吸音だけがこぼれます。
「エリス、気持ちはわかるが少し休むぞ」
私の肩を、がっしりとした柊先輩の両手が押さえつけます。
「ど・・・して・・・いや・・・あかりちゃ・・・とこ・・・いきます・・・」
「馬鹿。無理だって。お前を置いてくなんてことしねーからさ。だから、せめて普通に歩
けるようになるまで休めよ」
「は・・・はわー・・・そ・・・そうだよー・・・ひーらぎの言うとおり休んでいこー・・・ ? 」
やだ。やだやだ。どうして私動けないの ? 先輩たちだって全力で走ってきたのに、
私だけ。私がまたみんなの足を引っ張ってる。
灯ちゃんに早く会いたいのに。灯ちゃんに会わなきゃいけないのに !!
悔しくて、自分が情けなくて、涙が止まりません。
喉の痛みよりも、胸の痛みよりも、脚の痛みよりも、ずっと辛い・・・。
その時、私の耳に飛び込んできた鞭打つような鋭い叱咤の声を、きっと私は一生忘
れないと思います。
「エリスさん ! なにをへたれているんですの !? せめてここまではご自分の足で歩いて
いらっしゃい !! 」
アンゼロットさん !?
マンションの前に座り込んだ私たちの目の前に、いつの間にか音すら立てず。
地面の上、十数センチのところでホバリングをするリムジンブルームの後部座席を
開け放ち、叱るような表情を向けながら私に手を差し伸べてくれたアンゼロットさんは、
本当に今の私には神様に・・・女神様に見えました。
「・・・は・・・はいっ・・・・」
私は力を振り絞り、立ち上がります。
よろけながら黒塗りのドアの縁に手をかけて、ふかふかのシートに思わず手をついた
瞬間。安心してしまったのと、これで灯ちゃんのところへ行ける、という嬉しさで、全身の
力が抜けてしまいました。
「・・・あ・・・」
倒れちゃう、と思ったときはもう遅くて。私の目の前にリムジンの座席のシートが迫っ
てきて。
「えいっ」
「あ・・・きゃっ !? 」
伸びてきた二つの手が、私の頭を鷲掴みにします。
い、痛い ! アンゼロットさん !? 髪、そんなに引っ張ったら痛いです !
私の頭を鷲掴みにしたアンゼロットさんの両手が、倒れそうになった私を受け止めて
くれた、と思ったら、私が倒れこんだそのままの勢いを利用して、
「ふんっ」
なんだか妙に男らしい気合とともに、私の身体は後部座席のシートの上に転がされ
てしまいました・・・。
ふわっ。ぽすんっ。
頬に感じる柔らかい感触。サテンの黒い布地のスカートが、私の視界を覆います。
リムジンの後部座席に寝かされた私の頭は、アンゼロットさんのほっそりとした脚の
上に乗せられて。こ・・・これって、膝枕・・・なんでしょうか・・・ ?
「あ、あ、あの・・・」
「お静かに。このまま灯さんの病院に直行します」
いつもの優雅な仕草はそのままで。アンゼロットさんは、私を寝かせたまま、起き上
がろうとする動きをぴったりと封じてしまいます。ホ、ホントに動けません・・・。
力なんか全然入れてるように見えないのに、私の身体はアンゼロットさんの膝枕で
横になったまま、動かすことができないでいたんです。
「なにか・・・したん、ですか・・・ ? 」
ちょっと怖くなって、小さな声で尋ねます。
すると、アンゼロットさんは大きく溜息をついて。
「わたくしがそんな馬鹿力に見えますか ? エリスさん。わたくしはただ、ほんのちょっと
だけ、貴女の身体の急所になるツボを軽く押さえつけているだけですわ」
「な・なな、なんでそんなことできるんですか・・・」
急所とかツボとかって一体・・・・・・。
本当に、アンゼロットさんは計り知れない人です・・・。
「なんででもです。わたくしに出来ないことなどありませんわ。・・・エリスさん。病院に
着くまで、ほんの少しかもしれませんけど、お休みなさい」
眉根を寄せて、そう諭すように。
「え・・・・・・ ? 」
「身体の疲れと、たぶん心の疲れ。両方とも限界に来ているじゃありませんか。後で、
鏡でご自分の顔をご覧になったら驚きますよ ? 」
今度は優しく私の髪を撫でながらそう言って 。
私、シュンとなってしまって。まるで母親に甘える子供のように、アンゼロットさんの
膝にかじりついていました。「あらあら」と言って笑うアンゼロットさんの声が、頭の上
で優しく響きます。
私に続いて、柊先輩とくれはさんもリムジンブルームに乗り込んできたみたいで、
「恩に切るぜ、アンゼロット ! 次の一回くらいは拉致も大目に見てやる ! 」
「アンゼロット、早く車出して、早く ! 」
ばたばたとせわしない気配がします。
「はわ ? エリスちゃん、どうしたの ? も、もしかして気分悪いの ? 」
横になった私を心配して、くれはさんが声をかけてくれます。答えようとする私の口を
アンゼロットさんの手がそっと塞ぎ、
「くれはさん、お静かに。エリスさんは少しお疲れなんですから」
そう言って、私の髪を撫で続けてくれました。
「はわ、ご、ごめんエリスちゃん。もうおとなしくしてるね・・・」
「・・・そんな。くれはさんらしくないですよ。くれはさんは明るくて元気でいてくれないと。
わたしが疲れてるから、なんてお気を使わないでください。ううん、私が疲れてるって
いうなら、私、いつものくれはさんにたくさん元気を分けて欲しいです」
申し訳なさそうに小さくなってしまうくれはさんに、なんだか私のほうが申し訳なくなっ
ちゃって。でも、これは私の本気、本心の言葉です。
「はわ・・・そ、そうだね。あはは、なんか私らしくなかったよ」
笑うくれはさんの眼元が少し赤い。そう。さっきくれはさん、電話の向こうで涙声だっ
だったんですものね・・・。
灯ちゃんの任務中の怪我は、だからくれはさんが、取り乱すくらい重症なのだろう。
首を傾けて柊先輩を見ると、なんだか少しおっかない顔つきをしています。
社内の空気が重く、暗くなっていくのに耐えられない。心臓が早鐘を打ち、歯がカチ
カチと音を立てて鳴り始めます。そんな私を落ち着かせるように、
「エリス。灯を信じてやれ。あいつは大丈夫だ、って」
「・・・向かう先は絶滅社の息のかかった特別施設ですが、私としても最大限の助力は
するつもりです」
柊先輩が、アンゼロットさんが、口々にそう言ってくれて。
「わ、わたしは、えっと、えーっと・・・」
くれはさんも何か言ってくれようと、してくれようとして。
「えーっと・・・・・・えいっ」
ぎゅっ。私の手を、ふんわりとくれはさんの両手が包み込みます。
「はわ・・・ごめん・・・エリスちゃん・・・なにしていいかわからなくて・・・こんなことしかで
きなくて、ごめん・・・」
「・・・十分です・・・十分すぎます・・・」
くれはさんの気持ちも、両手も、とても温かいです・・・。
※※※
そんな間に、目的地へと到着するリムジンブルーム。
車外へと出た私たちの前にそびえる建物は、病院というよりもたしかに研究施設と
言ったほうが相応しいたたずまいでした。
いざこうして来てみると、不安と胸の高鳴りを、やっぱり抑えることができません。
足がすくんで、動けないんです。
「エリス」
ぽん、と私の肩を柊先輩が優しく叩きます。右手に、さっきと同じ温かなくれはさんの
手のひらの感触。私に寄り添うようにして、くれはさんが並びます。くれはさんの手も、
少し震えているようでした・・・。
「さあ、みなさん。入場許可はすでに取ってあります。行きますよ」
アンゼロットさんの凛とした声に、ようやく私の足が前に進む力を取り戻します。
灯ちゃん・・・いま、いくからね・・・
(続)
大怪我と聞いて命のベッドの横に寝てるあかりんを想像した
何この嫁
ふ、ふおー、なんというヒロイン力かー!
俺の中でエリりんゲージがものすごい勢いで上昇していく……た、たまらんばい!
なによりも「リムジンブレード」で爆笑したオレって・・・orz
>>390 相変わらずスゲーですよ GJ
この一連の柊蓮司×くれはシリーズでNWtAがもっと好きになる自分がいる
リムジンブルーム、割と値段の割に使いやすいから困る。
395 :
393:2008/06/11(水) 20:13:24 ID:RsubNVeQ
しまった、誤字してもた orz
> 「リムジンブルーム」で爆笑した
でお願い。
立て続けに神々降臨
メガテンはほとんどやったことないが、ダークな雰囲気に魅了された
NWの人は相変わらず素晴らしい
どんなにシリアスになっても笑いを忘れないしw
普通、前回の引きだとそのまま肉欲レッツゴー!になりそうなのに
こういう風に展開させて引っ張るとはなあ
確かにエリスのヒロイン力が半端ないことになってきた〜
エリスのヒロイン力はスゲェよな。さすがPC1。
こんばんは。
皆さんご感想をお寄せ頂き、どうも有難うございます。
シーンの密度は、中々難しい所ではありますね。
状況やシチュエーションに凝りたい場合、どうしてもストーリー部分を厚くせざるを得ないので。
分量の最適化はいつも考えさせられます。
>382様
よく知らないゲームの話にも関わらず、わざわざ読んで頂き有難うございます。
NWシリーズを拝見していつも思うのは、他の方も言っていますが、一人称部分にほとんど違和感が感じられない事。
特徴を掴んだ無理のない範囲での造形は、その作品が本当に好きでなければ、難しい事だと思います。
私は今回ので、改めて一人称の難しさに打ちのめされたので、読むにつけ、ほとほと感心してしまいます。
機会があれば、また女神転生か、他のゲームで投稿させて頂くかもしれません。
もっとも、メガテンはコンシューマとの区別が難しい所がネックなのですが。
それでは、どうも有り難うございました。
雷火とサンプルサマナーの武田君(仮)の続き投下します。
>>229-231がハンドアウト相当で、これから投下するのが
オープニングフェイズ1にあたります。
まだエロはありません。男坂にならないように頑張ります。
では投下します。
「……一週間ぶり、ですか」
家の玄関で靴を履きながら、雷火は呟いた。心なしか弾んだ声で。
つい一ヶ月程前まで、ひたすらに気が重かった学校への道行き。
だが、今、雷火の心は弾んでいた。
裏N市で起こった事件を解決し、事後処理を終えて、一週間振りの小学校。
今までならば、こんな事は無かった。任務と同じくらい、学校へ行くのが
楽しみだなどという事は。学校へ行くという事は試練であり、そこにいる
クラスメイトはただ倒せばそれで済むというわけではない難敵であり、
クエスターとしての任務よりも余程気を遣う必要のある"服部雷火としての任務"だった。
しかし、今、雷火の心は弾んでいた。
「今日は久方ぶりに会う故、一戦交えさせていただこうか」
懐に忍ばせたカードの束――サモニング・モンスターのデッキだ――を服の上から触りながら、
雷火は口元をほころばせた。――先日考案したコンボは、彼のデッキに通用するだろうか。
そんな事を考えながら、雷火は靴の紐を結ぶ。
そう、雷火の心は弾んでいた。
原因は明らかだ。
一人の少年――武田正一の存在。
日常と、そこにいる人と絆を結ぶ事の意味を知る、その切っ掛けを与えてくれた少年。
今の雷火にとって、守るべき日常の、その象徴たる存在。
切っ掛けを得てより一ヶ月、今では雷火は、祖父の言った事の意味を、
自らが小学校へと通う必要がある理由を理解していた。
戦場に身を置くからこそ、日常が必要なのだ。
確かに、それを切り捨てる事で得られる強さもある。だが、そんな強さでは
守れない物も、また、ある。だから、必要なのだ。戦士が、日常に身を置く事が。
その日常が、自分にとっては小学校であるのだと、そう雷火は理解した。
その想いは、裏N市の事件を経て……そこで父と母と言う名の日常と、戦士であるその子供達の
絆を見て、より一層強くなった。
だから、今、雷火の心は弾んでいた。
――いつか自分も、ああいう風に誰かと絆を結び、それを伝えて生きたいものだ。
そう思うと、何故か浮かんで来る彼の顔。
「……いやいやいや、武田殿はそのような存在では……」
少しだけ頬を染めながら、誰にともなく呟く雷火の背後に、音もなく気配が立つ。
「……? お爺様、いかがしましたか?」
振り返りもせずに、雷火は気配の主に声をかけた。
「少しだけ気になる呟きを耳にしたような気がするが、まあそれはよい。
……雷火よ、今日はこれを負うて行け」
真剣な声音とズシンという何かを置いた重い音に、雷火は振り返った。
「……どういう事でしょうか、頭領? 何事か事変でも……?」
コントラバスケースを傍らに置き、厳しい顔で立つ祖父の姿に、雷火の表情も引き締まる。
「先ほど、ニンジャネットで連絡があった――『南町の中心にて奈落の気察せしも、その正体、
規模掴むまでには至らず。注意せよ』とな」
「……南町の中心というと……小学校、ですか」
「そうじゃ」
「なるほど……今まで持つなと仰られたそれを持てと……そういう事でしたか」
「言っておくが、任務ではないのじゃからな、これは」
「……?」
「奈落の正体と発生原因の調査には別に人を遣るつもりじゃ。お主は普段通りに過ごせばよい。
それを持たせるのは、あくまで奈落と遭うた時の備えの為。遭遇せねばそれで良し。遭うた時も、
まずは守る事を考えるのじゃぞ――お主の、大切な物を、な」
「……」
大切な物。
ようやくわかった……ようやく手に入れた、日常。
一人の少年の顔を思い浮かべながら、雷火はその瞳に炎を灯した。
「……承知いたしました、頭領」
負い慣れたコントラバスケースを、未だ負い慣れるには至らないランドセルと共に背負い、
雷火は歩き始めた。その足取りは、戦いの場へと赴かんかの如く、鋭く、力強い。
……いや、これから赴く場で、雷火にとっての日常たる場所で、起こって欲しくない戦いが
起こってしまうであろうという予感が、雷火にはあった。故に、その歩みは戦いの場へと
赴く歩み、そのものの鋭さと力強さであった。
今まで経験してきた、誰かの為に何かを守る戦いではない。
自らが自らの為に何かを守る戦いが、待っていると。
「では……行って参ります」
「うむ……気をつけるのじゃぞ」
――何があろうとクラスメイト(皆)も、先生も……武田殿も……それがしが、守ってみせる。
頼りになる武具を負い、しかしそれに頼れなくなろうとも必ずや為すと心に決め……雷火は走り出した。
ここまで投下です。
ワッフルワッフル
ええ爺様だなぁ
wktkが止まらないぜ……!
にしてもgame14鯖トマトル。orz
そのうち雷火と武田少年の二人で修行イベントとかありそうだな
アニメのほうもとまっててナイトウィザード撃沈中?
鯖の復旧は明日の午後以降になるそうな。>卓ゲ板、アニメ板
どこか気兼ねなく卓ゲ雑談が出来るようなスレがないかなぁ?
残っているのは地下にいる我らだけ、と書くと煮えたシチュエーションっぽいな。
それはともかく、メン簿スレの避難所にいくつか雑談スレがあるとよ。
あそこは一応メン簿の避難所っぽいから雑談にはどうかな〜と思って。
しょうがないからアラウンド・ザ・ワールドの表紙を見ながら
ウィザード娘が世界中で恥ずかしい目にあうことを妄想していよう。
>>399 ぐっじょぶ。浮かれる雷火カワユス。
次はOPの武田少年フェイズかな? だとすると、さっそく事件に巻き込まれる予感w
続きもwktk全開でお待ちしております。
あれ? この板、文章の行数はどんだけいけるんだっけ?
以前と変わった?
今は60行までっぽい
サンクス。
そのうち新作投下するから、全裸で正座して待っててくれ。ごめん調子に乗ったすまん許して
許さん。よって貴様は力を入れて書け。応援する(ズボンを脱ぎつつ)
>>411 ナイトウィザード限定だが、エロゲ板のPC版ナイトウィザードスレが
卓ゲ板出張所みたいになってなかったっけ?
最近行ってないから今どうなってるかわかんないけど
>>417 だからと言って進んで雑談しに行くのもどうかと
まあ1.5日ほどのんびり過ごせばいいだけだ
>>417 いや、あそこはあくまでエロゲの世界観中心だから
アゼルとかリオンとか後発組の魔王でもお断り空気だぞ
なんやかんや言ったってPC版のスレだしな
正面門から続く石畳の舗道を、真っ直ぐに研究所へと歩くうち、こみ上げてくる緊張と
不安に、私は軽い吐き気を覚えていました。
アンゼロットさんが手配してくれたリムジンで、任務中に怪我をした灯ちゃんが治療を
受けているという絶滅社の研究施設にやってきた私たち。アンゼロットさんの先導で、
柊先輩が彼女の後に続き、足取りの重い私に肩を貸すようにくれはさんが横を一緒に
歩いてくれています。
二重、三重のセキュリティーチェックをパスして、重たそうなシャッターを幾つも潜り抜
けると、いやでも私たちの訪れた場所が「普通じゃない」ことを実感させられます。
ますます吐き気がひどくなって、頭痛もするようになって。私は、意識を保つことにか
なりの神経をすり減らしていました。
敷地内へ足を踏み入れてから、五、六分は歩いたと思います。
最後に、スチール製の頑丈そうな扉が私たちの目の前で開くと、そこは淡いブルー
の照明がほのかに照らす、広い部屋でした。病院にも研究室にも見えるのは、たくさ
んの寝台が並んでいるのと同時に、なんのために使うのか私にはさっぱりわからない
ような精密機械が、所狭しと設置されていたからかもしれません。
機械と機械の間を、白衣の男の人たちが歩き回っています。
入ってきた私たちには見向きもせず、自分の仕事をただただ進めている・・・そんな
印象です。私たちが戸惑っていると、その中の一人が気がついて、こちらへと歩いて
きてくれました。髪に白いものが混じり始めたぐらいのお年の、恰幅のいい男性です。
私たちに、挨拶ができなかった非礼のお詫びと、みんな忙しくて手が放せないため、
そのことに他意はないのだ、というようなことを簡潔に言うと、
「社のほうから通達がありましたので、報告資料はすでにそろえてあります」
と細かい文字や記号ががたくさんプリントアウトされた数枚の用紙を、アンゼロットさ
んに手渡します。アンゼロットさんはその資料を受け取ると、後ろにいる私たちにちら
りと視線を送って、
「お時間のないところ恐縮ですが、ここにいる皆にもご説明いただけると、大変助かり
ますわ」
と、殊勝な言葉遣いで軽い会釈。では簡潔に、と研究員の方がひとつ咳払いをして、
私たちに説明をしてくれます。
「軽い打撲や擦過傷は省いて説明します。重大な損傷箇所は三箇所ありまして、すべ
てが敵エミュレイターの攻撃を回避し損ねたことによるものです」
「・・・続けてください」
と、アンゼロットさん。
「・・・・・・左上腕部複雑骨折、腹部への攻撃貫通による臓器破損、両脚靭帯の裂断。
損傷レベルB以上のダメージはその三つです。特に臓器へのダメージは著しく、これ
は、ダブルAクラスの損傷レベルといえるでしょう」
聞いているだけで、こちらまで身体に痛みを覚えるような錯覚を覚えて、私はよろめ
いてしまいました。その痛みがどれほどのものかは私にはまるでわかりません。でも、
そんなひどい怪我を灯ちゃんが負ったのだ・・・と思うと、胸の奥の吐き気がまたぶり
かえしてきて・・・。
「・・・結論を。お願いします」
なにかを固く決意したような、アンゼロットさんの声音・・・。
私、もうここから逃げ出したくてしょうがありませんでした。柊先輩もくれはさんも、呼
吸を止めて、次の言葉を待っています。
「結論から言えば、緋室灯は助かります。適応に最適な生体パーツや人工血液のス
トックが豊富だったこと。くわえて、ロンギヌスから派遣していただいたヒーラーが高レ
ベルであったこと等々、彼女にとって不幸中の幸いといえる要因が多かった」
淡々と語られる言葉の意味するものを理解すると同時に、張り詰めていた緊張の糸
がぷっつりと切れて。
「は、はわ〜・・・」
「よかっ・・・・たぁ・・・・」
私とくれはさんはお互い抱き合いながら、へなへなと床に座り込んでしまいました。
よかった・・・本当に・・・。
「そうですか ! それはよかったですわ ! 」
アンゼロットさんも両手をぱちんと合わせて、弾んだ声を上げます。
座り込んでしまった私の髪を、乱暴なほどの力強さでくしゃくしゃ、と撫でられる感触
に顔を上げると、「だから大丈夫だって言ったろ ? 」と、こちらもすごく嬉しそうに満面
の笑顔をくれる柊先輩。涙ぐみながらも、「はい ! 」って、私は精一杯元気に聞こえる
ように返事をします。
「・・・・・・・ただし、一点だけ気になる、というか不可解な点が」
私たちの緩んだ気持ちに冷水を浴びせかけるような、研究員の方の声。
「・・・なんですの ? 」
「損傷箇所の修繕・補修に関してはまったく問題はないのです。むしろパーフェクトと
言ってもいいでしょう。この場合私が問題視したいのは、結果よりも原因の方でして」
「・・・それは、灯さんが負傷した、という結果ではなく、負傷した原因に問題があると
仰ってるんですか ? 」
いぶかしげに眉を顰めて、アンゼロットさんが問いかけます。
「はい。任務の一週間前の定期検査における緋室灯の状態は、良好な数値を示して
いました。ですが、今回の任務にあたる直前・・・つまり、今朝から急激に、ある数値が
異常なほどの低下を記録していることがわかったのです」
任務のときには、データサンプルの採取のために脳波から筋肉の動きに至るまで、
微細なデータ収集が行われますので、とその方は続けます。
なんだろう。
これ以上、この話を聞いてはいけない気がする・・・。
「データの異常が見られた箇所はただ一箇所、感情制御システムです」
「感情制御・・・システム」
「・・・ご存知の通り、緋室灯はわが絶滅社においてもトップクラスの戦闘能力を誇りま
す。それが、我が社の特別研究室による強化施術によるものであることは言うまでも
ありません」
ただ実験の結果だけを淡々と語るように。背中に冷たいものを感じて、私は石化した
ように硬直していました。
「ただ、潜在能力を極限まで引き出す施術は、被験体に少なからぬストレスを与えま
すので。その、無理をさせている部分の帳尻を合わせるために、感情制御という手段
を講じます」
「無理な強化により、暴走しがちになる恐れのある感情を、抑制するプログラム・・・で
したわね」
いつしか悪寒と吐き気が蘇ってきて、ますますひどくなっていきます。私の中のなに
かが、これ以上この話を聞いてはいけない、これ以上ここにいてはいけない、と警告
しているのを感じます。
「数値上の話をするならば、この制御システムの稼働率が、今朝午前六時の時点で
なんの前触れもなく五十パーセントも低下したのです」
今朝・・・午前六時・・・私が教室で、灯ちゃんと会った時間。ひどく混乱して、灯ちゃ
んに思い切り怒鳴りつけちゃった、あの時間・・・。
「任務時の数値は惨憺たるもので・・・一番低い数値を示したのが、システム稼働率
十八パーセント。このタイミングで、緋室灯は敵エミュレイターの攻撃を受けたと思わ
れます。システム制御が満足に働かないと、集中力の低下、危機感知の不足、認識
力の誤り、といった、任務遂行を激しく阻害する要因となるのは言うまでもありません」
背中を冷や汗が伝う。
この人はなにを言おうとしているの ? この人は、なんでこんなことを言うの・・・ ?
お願いです、これ以上なにも言わないで・・・・・・ !!
「・・・定期検査時の状況から、システムの突然の故障は考えにくい。おそらく、なんら
かの形で、外的要因によるシステムへのアタックを受けた、と考えるべきでしょう。我
が社の技術力の結晶である感情制御システムの動きを阻害するほど、大きなストレ
スを与えることが果たして可能なのか、ということも、正直考えにくいのですが・・・」
・・・頭の中で回る言葉。いくら専門的な会話だからって、ここまで言われればあの
人の言葉の意味は私にだって・・・わかります。
灯ちゃんの心を乱した外的要因・・・それは私の・・・きっと、私のこと・・・。
私の言葉が灯ちゃんにストレスを与えたんだ。いつも冷静に任務をこなす灯ちゃん
が満足に動けなくなるくらい、私は灯ちゃんを傷つけたんだ。
感情制御システム、というものがどんなものかは知りません。でも、それが危険な任
務に従事する、灯ちゃんの身を護るために必要なものであったことだけは理解できま
す。それを、私が台無しにしたんです。
灯ちゃんの心を傷つけただけじゃ飽き足らず、私は彼女の身体も、生命すらも傷つけ
てしまったんです !
「・・・・っ、灯ちゃんはどこにいるんですかッ !? 会わせて、会わせてくださいッ ! 話、さ
せてくださいッ !! 」
研究室を揺るがすくらいの大声で。私に、こんな大きな声が出せるなんて思っても
みませんでした。でも、なりふり構わず、私は叫んでいたんです。
「エリスっ !? 」
「はわっ、どうしたのっ !? 」
突然叫びだした私に、お二人とも驚いた様子でした。でも、誰になにを言われようと
なんと思われようと、私は・・・・・・ !!
「どうして、こんなところに連れてこられたんですか !? 灯ちゃん、いないじゃないです
か !? 灯ちゃんに会わせてください ! 無事なんだったら灯ちゃんのいるところに行かせ
てください ! 会って話をしなきゃいけないんです ! 私、灯ちゃんに謝らなきゃいけない
んです !! 」
「エリスさん !? どうなさったんです !? 」
アンゼロットさんまで、呆気に取られたように私の顔を見つめています。
でも、今の私には自分の言動がひどく取り乱しているという自覚すらなくて。ここに
灯ちゃんがいないなら、探さなきゃ、って思い込んでしまって。
「・・・・・・ッ !! 」
さっきまでの疲労を完全に忘れてしまったように、振り向いて、みんなに背を向けて、
研究所の入り口の扉に向かって、走ってここを出て行こうとしました。
「おい、どうしちまったんだよ、エリスっ」
柊先輩が、駆け出す私の手を掴みます。でも私、
「いやっ !! 」
差し出された先輩の手を振り払ってしまいました。
無我夢中・・・だったんだと思います。研究室の扉まで駆け寄ると、入ってきたときと
同じように、自動でスチールの扉が左右に分かれます。
その時。
「・・・・・えっ・・・・・・ !? 」
私の目の前に、真っ黒い人影が立ちふさがりました。
見上げても、大きな手のひらが私の顔の上を覆い尽くして、それが誰なのかはわか
らず。
あ・・・。
なに・・・・・・ ?
意識が遠のいて。真っ黒に塗りつぶされて。頭の中に見えない手が侵入してくるよ
うな、そんな感じ。薄絹がかかったように視界がぼやけて・・・・・・。
私は、意識を失いました・・・・・・。
※
※
※
意識を失ったエリスの身体を受け止めたものがある。
筋骨たくましい身体を包むロングマントは夜の貴族を彷彿とさせ、顔上面を隠すよう
に伸びた白い髪が、無風のはずの研究室で、風もないのに揺らめいた。
鍛え抜かれた長躯は引き締まって、まさしく強靭という言葉の生きた具現。
黒のレザーをアクセントにしたデザインの服が、その全身にみなぎる膂力を強調する
かのように、鈍い光沢を放っている。
眼光はあくまでも鋭く。戦いの年輪を重ねたものだけが持つ、壮年の渋みを口元に
たたえ。
男は、エリスの頭上の高さに掲げたままの手をようやく降ろし、低い声で呟いた。
「・・・どりぃ〜む」
男の名前はナイトメア。
柊蓮司が歴戦の魔剣使いであるならば、かれこそは歴戦の“夢使い”。
柊同様、“世界の守護者”アンゼロットがもっとも信頼を置くウィザードの一人であり、
かの《宝玉事件》にも深く係わり合いを持った、数少ない存在でもある。
「ナイトメア ! どうしてここに・・・って、もしかして灯の任務ってやつに、あんたも同行し
てたのか !? 」
柊の言葉に重々しく頷くナイトメア。よく見れば、マントは薄汚れて所々が破れており、
彼の愛妻の手によるものと巷で噂の夢使いのユニフォームも、目立つほころびが生じ
ていた。任務終了直後であれば、その姿にも納得がいく。
「ナイトメア。助かりました。少し、エリスさんも混乱していたようでしたし・・・」
安堵の溜息をつくアンゼロットに軽く目配せをしながら、抱えたエリスの身体をゆっく
りと床に寝かせる。硝子細工を扱うような細心さで、ぐったりとなったエリスの身体を床
に横たえると、
「なに。いま、二人を会わせるのは賢明ではない、と勝手に判断したまでだ」
ニヒルな笑いを唇に浮かべ、無駄に渋い声音で呟いた。
「なんだよ。立ち聞きしてたんだな、趣味ワリイ」
そう毒づいた柊に対しては、肩をすくめるのみである。
「ナイトメア・・・二人を会わせちゃいけないって・・・どういうこと・・・ ? 」
始めに、ナイトメアの意味深な台詞に気づいたくれはが、おそるおそる尋ねた。
鋭い眼光でくれはを射抜く。続いて逡巡の表情を浮かべはしたものの、周囲の同じ
疑問に満ちた顔に囲まれてしまって、ナイトメアは諦めの溜息をついた。
重たい口を開いたナイトメアは、「少し長い話になるが・・・」と前置きをしておいて、
訥々と話を始めるのだった。
「・・・どこから話したものかな。そう・・・絶滅社に雇われた今回のミッションは、おおが
かりなエミュレイター掃討作戦だった、と思ってもらおう。すまんが、今回の仕事につい
ての詳細は割愛させてもらう」
ちらり、と研究員たちの方を見ながらそう言ったのは、彼らも絶滅社所属の人間であ
ることを考慮したうえでの配慮であろうか。
「十数名からなるエージェント部隊の指揮を任された我々だったが、今朝、合流ポイン
トで緋室灯に出会った俺は、すぐに彼女の異変に気がついた」
「異変だと・・・ ? 」
「そう。簡潔に言えば、作戦行動を開始した緋室灯の行動は、まるで素人のそれだっ
た。ガンナーズブルームに次弾を装填するのも手元がおぼつかない有様だった、と言
えば、俺の言いたいことはわかってもらえるだろう」
「まさか・・・信じられねえ・・・」
驚愕の言葉は柊蓮司のものだ。自身も、一度灯と戦った経験があるからこそ、灯の
戦闘能力を身に染みて知っているからこそ、ナイトメアの言葉がにわかに信じられな
かったのであろう。
「しかし、それが事実だ・・・・・・戦いの様子を詳しく説明するには及ばんだろう。彼女
の身に起きている異変が本物だと認識した俺が、彼女に撤退指示を出した時には遅
かった。たちまち数体のエミュレイターに包囲されて、次の瞬間、緋室灯は戦闘不能
に陥った」
言葉の中に、時々歯軋りが混じって聞こえる。それは指揮官として、ウィザードの先
達として、腕ききの傭兵として、緋室灯を重症の憂き目に逢わせてしまったことへの悔
恨のあらわれであった。
「結果として作戦は途中で断念せざるを得なかった。緋室灯の戦闘能力の高さは、俺
も含めて作戦に参加したエージェント全員が知っている。その彼女が、作戦開始直後
に戦線から離脱するなどとは想定外だったからな。メンバーの動揺に気づいた俺は、
即時撤退指示を出し、倒れた彼女を救出するにとどめ、帰還を果たした」
長台詞を一気に吐き出すと、ナイトメアは沈黙した。
「ご苦労様でした。ナイトメア」
ほうっ、と長い吐息を漏らし、アンゼロットがその労をねぎらう。たしかに作戦行動は
失敗だったのかもしれないが、部隊の瓦解とそれ以上の被害を抑え、緋室灯を生きた
まま帰還させることができたのは、ひとえにナイトメアの判断のおかげだろう。
「でも・・・どうしてそんなことになっちゃったの・・・? さっき言ってた感情ナントカシステ
ムがどうとか・・・難しくて、私、半分も話聞いてなかったよ・・・」
おずおずと疑問をぶつけるくれはに、渋く笑いかけるナイトメア。
「感じていた疑問は、ついさっき全て解消した。趣味の悪い立ち聞きのおかげでね」
眼帯に隠されていない一方の目が、意地悪く笑いの形をつくる。「根に持つんじゃね
えよ、ったく ! 」と柊蓮司。
「・・・ナイトメア。貴方には、灯さんの不調の原因がわかったのですか ? 」
アンゼロットが水を向け、ナイトメアはそれに「うむ」とだけ答える。
「緋室灯と合流して最初に感じた違和感は、そのあまりにも上の空な様子のせいだっ
た。作戦行動開始時間まで、彼女はずっと携帯のストラップを・・・スケート靴の形をし
たストラップを、手にしたまま眺めていたよ」
「はわ・・・私もお土産に貰った・・・みんなとおそろいのストラップだ・・・」
くれはが、懐から自分の携帯を取り出し、みんなの前にかざしてみせる。
エリスたちが二年生のときのスケート教室。みんなおそろいにしようといって買いこ
んだ、小さな小さな仲間の証。
「それがいったい、どんないわくのある品物なのかは知りはせん。しかし、そんな俺で
も、それがどんな意味を持つものなのか、ということぐらいは想像できる」
ナイトメアが、床で静かな寝息を立てているエリスを見下ろした。それは、鋭い眼光
を持つこの男にしては珍しい、ひどく優しい瞳の色だった。
「・・・そして、研究室の前に来た途端、志宝エリスの取り乱した声が聞こえてきた」
《・・・・っ、灯ちゃんはどこにいるんですかッ !? 会わせて、会わせてくださいッ ! 話、さ
せてくださいッ !! 》
「・・・あんな悲痛な声を、俺はついぞ聞いたことがない」
その言葉につられるように、柊たちも眠るエリスの顔を見やる。
頬には、くっきりと涙の跡。
「・・・そうか・・・俺もなんとなく、わかった気がするぜ・・・」
「はわ・・・ひーらぎ・・・」
「・・・・・・・・・・」
ナイトメアの説明に三者三様の反応を示す柊たち。
《私、灯ちゃんに謝らなきゃいけないんです !! 》
その言葉がすべてを物語っているではないか。エリスと灯の二人の間になにがあっ
たのか、その事情を詮索するつもりは、柊たちにはさらさらない。
それでも、二人の間になにかすれ違いのようなものが起きてしまったのだろう、とい
うことは柊たちにも理解できた。
それは、あの冷静沈着な灯が戦闘もままならなくなるほどの衝撃であり。
普段、穏やかなはずのエリスが、取り乱して声を荒げるほどのつらい出来事で・・・。
それは二人の絆の強さの証明であり、危うさ、脆さの証明でもあった。
「・・・感情制御システムなんて、専門用語を持ち出すまでもない。今朝、起きたことは
もっと簡潔に説明がつく。二人の仲の良い少女たちが、ささいな行き違いで仲違いを
してしまった。それは、お互いにひどく傷つく出来事で・・・お互いがお互いを想う気持
ちの強さ故に、よりお互いを傷つけてしまった・・・それこそ、心身ともに、な」
説明は、そういうことでいいじゃないか、とナイトメアが締めくくる。
重い沈黙が澱のように凝り、深くその場に降り積もっていった。
「・・・だから、二人を合わせることは賢明ではない、と・・・ ? 」
最初に口を開いたのはアンゼロットである。どこか痛ましげな面持ちが、幼ない美貌
をひどく大人じみたものに見せていた。
「いまは、な。少なくとも、志宝エリスが落ち着きを取り戻し、緋室灯の怪我が完全に
治癒するまでは距離を置いたほうが・・・・・・」
そこで、二人の会話は不意に中断させられることになる。
研究室の扉が三度、開いた。
振り向いた一同の、驚きたるやいかばかりであっただろうか。
「・・・エリス・・・ここ・・・ここに・・・いるの・・・ ? 」
白い貫頭衣。袖口や裾から伸びた四肢には痛ましくも包帯が巻かれ。
引きずる足。乱れた呼吸で。
緋室灯が、スチールの扉にもたれて、そこに立っていた・・・・・・・。
(続)
前作・前々作より短くなるかもなんて、やっぱり予定は未定でした(笑)。
書いていくうちに、書きたいことがでてくるでてくる。ドリームマンなんて出す予定
なかったんですけど(笑)。
たぶん、あと二、三回・・・いやいや、また嘘をついてしまうかもなので、明言は
避けましょう・・・。
では、また。
寝る前に更新したら、おいおいw
凄い投下ペースだ
読むと眠気がどこか行きそうなので記念書き込のみ
なんかもうナイトウィザードのヒロインがあかりんでエリスがヒーローな気がしてきた!
二人とも早く結婚すればいいのにね!!
予想した展開に至るまでの幕間というべきか
それにしても本当に丁寧に展開するなあ
お陰で神視点による二人だけの物語から、登場キャラ全員の物語へ発展した
シルバーレインルルブ購入。
なんですか、あのけしからんスカートは。
第一章の扉のおにゃのこ、どうみてもはいてな(ry
現在440KBオーバーですね。
投下される職人さまは、スレ容量にご注意の程を。
>>355 お疲れ様でした。
『アクマを殺して平気なの?』 「今後とも、ヨロシク」等、メガテン
お約束の台詞が上手く使われていて、読んでいてニヤリ。
Hパートも世界観と絡めてあって納得しました。GJ!
>>383 アンゼロットが細かい所で良いアシストしている所がお気に入りです。
いや、脇役大好きなもので、つい目が行ってしまいます。
>>400 ようやく希望コン入手したので、某にも作品の良さが分かるようになりましたw
動き出した事態を楽しみに続きを期待します。
>>421 今月に発売される、NWアニメ小説アンソロジーに載せても大丈夫と思える程、
お見事だと思います。うん、再現率が高くて更に面白い。
世辞でなく、F.E.A.Rさんスカウトしないかと本気で思いますよ。GJです!
>432
PBW版からいる奴には有名な話でな。
秋葉原駅にはあれの超特大のがでかでかと。
>>434 けしからんゲームだなー。
あと、土蜘蛛の巫女サンプルイラストの地味なむちむちっぷりもけしからん。もっとやれ。もっとやれ!
容量はどのくらいで新スレ勃てるんだっけ?
480くらいでよいかと。
というわけで、現在441キロなので投下します。
雷火×サモナーの武田君の続きです。
ハンドアウト
>>229-231 OP1
>>400-401 OP2 これから
エロはまだありません。すいません。
また、某三姉妹(notメーガス)が出てきたりしますが、
アルシャードガイアの設定的にありえなかったりしたら言ってください。
リテイクしますんで。
では投下します。
「ただいまー……っと」
誰もいない家に、挨拶の声が響く。返ってくる声は、無い。
「……ふぅ」
いつもの事なのに、今日は何故か寂しさが心に募る。
いや、今日だけではなかった。この三日程、彼は――武田正一少年は、家に帰ってくる
度に寂しさを感じ、溜め息をついていた。
原因ははっきりしている。彼女だ。
「……服部、明日もまだ来ないのかな?」
新学期以来、ずっとアプローチし続け、ようやく仲良くなった彼女――服部雷火が、
ここ一週間学校に来ていない。それが、彼の心に寂しさを募らせる原因であった。
「……ふぅ」
なだらかな、それでいて奥深い山の裾野に広がる、N県R市。
その山の奥には狐が住んでいて、山裾の町を守ってくれているという御伽噺が残る街。
流石に近年は開発と近隣の村や町の統合により、街と呼ぶに相応しい風体を整えつつ
あるが、つい数十年前までは、見渡す限りの山野が広がり、人はその隙間に田畑を作り、
狐狸の類と共存して生きてきていた。
今も尚、その雰囲気は残り、自然の多さと人々の朴訥さから、あえてこの街に引っ越し
てくる人間も多くいる。
彼も、そうしてこの街にやってきた人間の一人だった。
小学校……街の中心とは反対側の、住宅街がある北町に、彼は独り住んでいた。
彼の父も彼の母も、仕事で家を空ける事が多く、幼い子が一人でも安心できる治安の
良さや、前述の近隣住人の朴訥さ、自然の多さなどから、この街に住居を置く事を
選んだのだと、そう彼は聞かされていた。
事実、小学校に入ると同時に始まった一人暮らしも、両親の手配したお手伝いに時々
助けられながらも、特に不自由なく行う事ができた。
両親不在の寂しさにひっそりと泣いたのも、最初の一年だけだ。
泣いても仕方が無いのだと、両親は大切な仕事で仕方なく自分を独りにしているのだと
わかってからは、彼はよく笑うようになった。
学校ではしっかり友達を作り、物心付く前からやっていたというカードゲームでの
無類の強さも手伝って、クラスでは人気者になった。……学業の方は芳しくなかったが、
小学校においてそれが友人間の評価の物差しにあまりならない事は言うまでもない。
そうして楽しい学校生活を送り、独り家に帰れば翌日の楽しさを思い、彼は寂しさを
感じる暇の無い生活を、五年程続けてきていた。
なのに、今、彼は……寂しいと、そう思っている。
「……三日くらいで帰ってくるって言ってたのになぁ」
彼が最後に会った時、彼女は済まなそうにそう言っていた。
理由は、彼女に聞いても、担任教師に聞いても、家庭の事情としか教えてもらえず、
それが余計に寂しかった。
「……せっかく友達になったんだから、なんで休むのかくらい教えてくれよなー」
当然ながら、彼も、そして担任教師も、彼女が召喚術の修行中に妖精からの要請を受け、
裏N市へと出向いて一つの街の危機を救っていた事など、知る由も無い。事後処理も
含めて三日程で片はつくだろうと試算していた雷火のあてが外れ、結果一週間も時間が
かかってしまったのだという事も、無論。
「せっかく最近いい感じにあいつもデッキ組めるようになって、今度はガチで
対戦しようぜって言ってたのになぁ……」
何故、こんなにも彼女に会えない事が寂しいのか。
この三日程の間に、時々彼はそんなことを考えたりもした。
胸の奥にほんのりと残っていた、父や母と会えないと泣いた、あの日のような気持ちを、
何故今自分は感じているのだろうか、と。
今日も、彼は自問していた。何故なのだろうか、と。
だがしかし、その答えに辿り着くには、彼はまだ幼く、その答えの名前すらも知らない
子供であり……故に彼は今日もその自問に答えを出せず、ただただ寂しさを募らせる。
「ふぅ……」
溜め息は、その寂しさを何とか紛らわせようと、止まる事が無い。
昼の間に用意されていた夕食に手をつけるのも忘れ、彼は自分の部屋のベッドに
倒れこみ――
「明日は……はっとり……来る、かな……」
――ゆっくりと、まぶたを閉じ――――――そして、夢を見る。
『武田殿!』
「へ? え? な、服部?」
『武田殿は早くお逃げください。ここはそれがしが留めおきます』
そこは戦場だった。
ゲームやアニメで見るどんなバトルステージとも違う、ただそこに身を置くだけで
足が震え、瞳に涙が溢れ、頭が真っ白になってしまう、本物の戦場。
目の前にいる黒が、自分を害そうとしているという事は、本能が教えてくれる。
戦っているのは――戦ってくれているのは、一人の少女。
いつも被っている帽子は脱げ、綺麗な黒髪は乱れ、身にまとうフリルの入った服は
所々裂け、覗いた肌には赤い物が滲んでいる。そして、その身長よりも大きな
コントラバスケースから、魔法のように様々な武器を抜き放ち、投げつけている。
彼女は、戦っていた。彼を、守る為に。
「逃げるって……お前は、どうすんだよっ!?」
『気遣いは無用です。それがしは……戦う力を持っています!』
言葉を口にしながら、少女は両の手で複雑な印を結び、激流を呼び出し、それを敵に
――黒い人の形をした影へと叩きつけた。
『……やはりこれでは何度やっても駄目、か』
しかし、黒い影は一瞬怯み、形を崩しただけで、すぐにまた人の形を取り戻す。
「……なんで……なんで、戦ってるんだよ……こんな所で……こんな奴らと……」
震える足で少しずつ後ずさりし、真っ白になりかけた頭で考えながら、それでも、涙で
滲んだ視界に、彼はその戦いの光景を捉え続けた。
か細く、消え入りそうな声の問いかけに、彼女は笑って答えた。
『それがしも、まだ言葉にできる程わかっておりませんよ、武田殿』
「な……なのに……?」
『今はただ……それがしが失いたくないが故っ……!』
いつの間にか手に握られていた身長に倍する長さの大剣を、彼女は裂帛の気合と共に
黒い影に投げつける。それが雷火の必殺の技だと、彼は気付いた。
だがしかし――
『……ちっ』
――その光をもってしても、影は消え去ることはなく――
『……ぐ……はっ!?』
――投射によって体勢を崩したその隙を、影が見逃す事はなかった。
影が腹部を貫き、少女の身体が仰け反る。
「服部ぃっ!?」
その声は、彼女に届く事はなく。
とさり、と音をたて、少女の身体は地に伏した。
じんわりと、赤い染みが大地に広がっていく。
「は……はっとり……服部ぃぃぃぃぃぃいいい!!!!」
叫ぶ彼の目の前を、黒が覆っていく。
それでも、彼は。
震えはもう止まり、動くようになった足で黒をかきわける。
涙はもう止まり、滲まなくなった目で彼女を見つけようとした。
頭の中は、ただ彼女の事だけを想って――――――
『………………』
視界の全てが、全身が、黒に、黒に包まれていく――
その時、彼は思った。
こんなのは、嫌だ、と。
こんなのは、無しだ、と。
こんなのは、願い下げだ、と。
目の前で起こった全てを、彼は、彼の心は否定した。
『『『そう、ですか』』』
「へ?」
黒が、一瞬にして白金へと変ずる。
目の前が、白く、輝いた。
『『『貴方ならば、大丈夫ですね』』』
「な、なんだ……?」
その輝きの中に、女性の姿を見つけ、彼は戸惑った。
薄絹を身にまとう、三人の女性が、彼を見つめ、微笑んでいる。
その姿は、さながら女神のようだと、彼は思った。
『先程の光景は、未来』
『現在は未来への道標であり』
『過去はそれを支える礎です』
『『『その事を、どうか忘れないで頂戴』』』
「……何、言ってんだ?」
『現在と過去と未来』
『どれか一つが欠けても』
『希望は、生まれなくなる』
「何言ってんのかわかんねえよ!? そんなことより、服部を……服部を助けに
行かせろよっ! 行かせてくれっ!」
『あの娘の運命がどう変じるか』
『それは、貴方次第』
『貴方の過去と現在と未来、それ次第』
「……オレが、どうにかできるって事か?」
『『『そう。貴方が、あの娘の鍵』』』
「………………」
『この先に待つのは未来』
『現在は標であり』
『過去はそれを支える礎』
『『『その事を、どうか忘れないで頂戴』』』
その言葉を最後に、女達の姿は消えていく。
白く輝く黄金の光が、全てを満たしていく。
「……オレ、しだい……」
彼もまた、その光に包まれるように……消えて……いく………………
「……っ!?」
飛び起きた彼が見たのは、黒ではなく、闇。
うっすらと月明かりに照らされた部屋の中で、彼は自分が家に帰ってきてすぐに
ベッドに倒れこみ、そのまま眠ってしまっていたのだと気付いた。
「……じゃあ、今のは……夢?」
そう自問しては見たものの、彼は首を捻った。
そもそも、自分は一体何を指して"今の"と言っているのだろう、と。
夢の記憶は急激に薄れ、彼はその内容も、そこで味わった怒りも哀しみも、忘れていく。
残ったのは、決意。
「……オレ、次第、か」
そして、一枚のカード。
彼は拳を握ろうとして自分が知らぬ内に持っていた一枚のカードに気付き、
再び首を捻った。
「……なんだこりゃ?」
運命の三女神。カードにはそう書かれていた。
全体がプラチナで彩られ、カードの種別を示す宝石マークは、まるで本当の宝石の
ように淡く輝く六角形の石が埋め込まれていた。
「うんめーのさんめがみ……これって、父ちゃんが持ってた奴、だよな?」
幼い頃、一度だけ見せてもらった事がある、サモニングモンスターの超レアカード。
それが、この白金に輝くカードだったと、彼は記憶していた。
「……なんでオレが持ってんだ、これ?」
何故なのだろうかと、そう自問してはみるが、答えは出そうになかった。
その内、再び睡魔が襲いかかってきた事もあり、彼はいつもポケットに入れているカードケースの中に、その白金に輝くカードをしまいこみ、再びベッドに横になった。
「……なんか眠いし、今日はもう寝るかなー」
そう呟きながら、彼は目を閉じる。
程なくして、安らかな寝息が部屋の中に響き始める。
夢を見ない眠りに落ちながら、彼は何故か微笑んでいた。
懐でカードに埋め込まれた石が、緑色に輝くのに、気付く事なく――――――
ここまで投下です
一番乗りグッジョブ
覚醒フラグキター
GJ!
…あれ?ひょっとして武田君の親父さん…死んだりしたか?
武田少年はこれでサマナーが1になるんだな…
まだまだ雷火と肩を並べるのは遠い
GJ!
超レアカードがシャードか。
少年らしい純粋な決意を固める武田少年に期待。
>>443 むー、オヤジさんから受け継がれた、なのか、オヤジさんと同じように
カードに見込まれたのかは少し気になりますなー。
GJ!
一人暮らししてるってことは、雷火を家で二人きりになりやすい
ということですなw 性的な意味で楽しみwww
この後の展開をwktkしながら待っている俺。
一人暮らし!?家に呼ぶ!?
どっちだ!?どっちの雷火を呼ぶんだ!?
小学生verのロリ雷火たんか!?
大人verの雷火おねーさんか!?
すごいや!フタリトモオヨメサンダヨ!
羅刹丸と忍者丸の副作用で生えちゃうわけですね。わかります。
とりあえずハッタリ仕事しろ。
>>447 忍者丸の調合をファンブって、一気にお婆さんにまで行ってしまった雷火。
>>450 何だと!書込んで1分と経たないうちに書込んでるあんたこそ仕事しろ!
よく見ろw
>>452 出来れば、
「そして、武田君から精気をもらって若返るんですね! わかります!」
とか、そんな返しが欲しかった……orz
なんかそういう忍者だか仙人だか、どっかにいたなw
ああ、
>>456がスペクターに!
……はい、ガイア持ってる人、挙手ー。
>>454 仕方が無いからベンケイがタツノオトシゴでうひょーするよ
>>454 豪血○一族ですねわかります
…クラス構成どうなるんだろうあいつら…。
ガンナーズブルームの照準を合わせるときの灯の立ち姿は、まるで両脚という楔を
大地に打ちこんでいるかのようだ・・・と思ったことが柊蓮司はある。
それは決して揺るぐことのない、雄々しくも鮮烈な不動の立ち姿だ。
戦いにおいては、まるで彼女自身が砲台の台座のように、足という根を大地に張り
めぐらせながら。正確無比な弾丸の軌道は決して狙いをあやまたず、戦場という空間
を自由自在に乱舞する姿は、「戦い」という技能を追及しつくしたが故の機能美に満ち
ていた。
それほど力強く、それほど凄烈。
それが、緋室灯という少女の印象だった。
「は、はわわわっ ! あ、あかりん、起きてきて平気なの !? 」
普段よりも上ずった、半オクターヴ高い声でくれはが言う。
平気なはずがないだろう。今の緋室灯は、柊が戦場で良く知る彼女の姿ではなかっ
たからだ。
たとえるなら、傷ついて羽根の折られた鳥だった。
たとえるなら、嵐の中で風雨にさらされる花だった。
薄い生地の貫頭衣姿は、彼女が負傷後の治療を受けて間もないことを如実に物語
るものである。袖から伸びた腕には包帯が巻かれ、引きずるように弱々しく歩む両脚
も、それは同様だった。
左腕は複雑骨折。両脚の靭帯は裂断。そして臓器の破損。
絶滅社の研究員の言葉を鵜呑みにするなら、生体パーツの交換で事なきを得たの
だろう。しかし、いくら強化人間とはいえ、機械のように部品を取替えればそれで済む
という問題ではない。それは、あくまでも「処置」の範疇に過ぎないからだ。
ロンギヌスのヒーラーが施術に手を貸したのは、「交換」されたパーツが迅速に母体
に馴染むためのものだ。通常、普通人が外科手術を行えば、縫合の箇所が完全に癒
着するまでに十分な時間を取らなければならない。
しかし、ヒーラーの魔法によって、施術の経過でやむを得ず生じる手術跡などは、瞬
時に縫合・癒着の効果を発揮する。
しかし、それでもなお。
失った血液の補填は不十分なはず。「取り替えた」ばかりの身体は思うように動か
せないはず。強化人間の強靭な肉体をして、このような不自由に甘んじなければなら
ないのは、当然といえた。
「・・・・・・エリス」
灯の赤い瞳が揺れる。研究室の床で眠りに落ちたエリスの姿を見止め、手摺がわり
のスチールの扉の縁から手を離す。
一歩、足を踏み出せば疲労に苛まれるのだろう。二歩、歩みを進めれば身体を苦痛
が走るのだろう。産み落とされたばかりの仔馬のような頼りない足取りで、眠るエリス
に近づくに連れ、灯の額には球のような汗が浮かび上がる。
「くれは」
柊が真横で青褪めた顔をしているくれはに声をかけた。弾かれたように面を上げた
くれはが、柊に頷き返す。以心伝心。ぱたたっ、と灯に駆け寄ると、
「あかりん。はい、こっち」
寄り添うように身体を寄せ、左腕を差し出した。灯の両手が、くれはの二の腕を支え
にするように添えられ、ちょうど腕組みをするような形になる。自分に身体を預ける灯
の肩を、くれはが柔らかく抱きしめた。
横たわるエリスの元へと導かれ、ゆっくりと、スローモーションのように床に膝を突く。
「・・・エリス・・・どうして・・・ここへ・・・」
灯の無機質な呟きに微かな喜びの色が混じっているのを、もしかしたらエリスならば
聞き取ることができたかもしれない。
「どうして、って。当たり前だよ ? 仲間だもん。友達だもん」
「・・・・・・・」
くれはの言葉に灯が見せた狼狽はほんの一瞬。
忘れていたものを思い出した。探していたものを見つけた・・・。
理解とともに深まる、そんな想い。
些細なすれ違い。お互いがお互いに結んだ絆に、生じてしまった小さな傷。
そのほころびは本当はわずかなものだったのかもしれないが、二人の心にもたらさ
れた痛みは、きっと二人が思っていた以上に大きなものだった。
こうして傷ついてみるとそれがよくわかる。痛みとして、思い知らされる。
エリスも、そして灯も。
自分の心の中にある相手という存在の大きさを、いまさらながらに噛み締めている
はずだった。長く付き合ってみなければわかりずらい、灯の心情の動きはいまや明ら
かで、いまはただエリスがここへ来てくれたこと、おそらくは自分のことを案じて来てく
れたことがなによりも嬉しいはずであった。
エリスの傍らに跪き、涙まみれの眠り姫を見つめる灯の姿を、
「やれやれ、ですわ」
と、アンゼロットが手のかかる子供を見つめるような慈愛の瞳で見やり、
「ナイトメア。よろしくお願いします」
歴戦の傭兵に声をかけた。
「・・・どりぃ〜む・・・・・・」
苦笑混じりに、ナイトメアがエリスに向けて手をかざし、ぐるぐる。ぐるぐる、と。
安らかな寝息を立てていたエリスが、目蓋を微かにぴくりと動かした。首を左右にゆ
らゆらと揺すり、どこか悩ましげに身をよじる。
「・・・・・・う・・・んん・・・・・・」
ささやかな呻きとともに、閉じていた瞳がゆっくりと開かれる。二度、三度、目をぱち
ぱちと開けたり、閉じたり。まどろみから醒めた途端、視界に飛び込んできた灯の姿
は、エリスにとって初めは、夢の中の幻想のように映ったのかもしれない。
「ふ・・・あ・・・ ? あ・・・かり・・・ちゃん・・・? 」
初めは、ぽやん、とした寝ぼけ顔で。
しかし、
「・・・・うん・・・エリス・・・」
力強く頷く灯の声に、今度こそ覚醒した瞳を大きく見開いて、エリスが震える手を伸
ばす。傍らに跪く灯の頬に、わななく指がそっと触れた。
「ホントに・・・灯ちゃん・・・ ? 」
指先から伝わる体温は夢ではありえなかった。無言で灯がその手を取って、ぎゅっ
と握り返す。灯も、自分の存在というものの確かさを、はっきりと伝わる身体の熱量で、
エリスに示したかったのに違いなかった。
一度だけ、見開いた瞳を固く、強く閉じる。
そして再び灯の姿を見るために開かれた瞳から、とめどなく大粒の涙が流れ出し。
「灯ちゃん・・・・・・ !! 」
呼んだ名前の響きに万感の想いを込めて。思わず、灯の身体をエリスは引き寄せて
いた。なんの抵抗もなく、ゆっくりと。灯が傷ついた身体をエリスの胸の上に預ける。
二人の身体が重なり、エリスは灯の身体の重みをしっかりと受け止めて。
灯の首にエリスの両腕がふわり、と回された。
「あ・・・かりちゃ・・・う・・・うえぇぇっ・・・」
泣いた。誰はばかることなくエリスは泣いた。
くぐもって不鮮明な言葉の端々に、「ごめんね」という言葉が何度も、いくつも混じっ
ているのが聞こえる。灯には、その取りとめもない涙声の一つ一つがなにを言ってい
るのかがすべて届いているのであろう。「うん・・・」「私のほうこそ・・・」「大丈夫・・・」
と、その一つ一つに真摯な受け答えをしながら、時折エリスの青い髪をさわさわと撫で
てやっていた。
あわただしく研究室の扉が四度開き、白衣の研究者が飛び込んでくる。
灯の姿を見止め、近づいてくるのを手で制したのはナイトメアだった。
「ナイトメア殿、しかし」
「緊急性がないのなら後でも構わん。ここで割って入るのは・・・野暮というものだ」
「緊急性の有無は我々が判断します。すでにお聞き及びでしょうが、検体・緋室灯の
感情制御システムについて・・・」
「まーた、それか ! いったい今度はなんだっつーんだよ ! 」
柊蓮司が、報告のために訪れた研究者に凄んで見せた。ナイトメアにさえぎられ、
柊には睨みつけられて一瞬ひるんだ様子だったが、根は実直で真面目なのであろう
か。彼は、報告の義務を放棄することだけはしなかった。
「定期計測の急激な変化が観測されました。五分前の計測で、稼働率十パーセントを
割っていた感情制御システムが、このたった一、二分の間に活動許容の稼働率九十
パーセントまで回復した件について・・・」
深刻な声で報告をするのをさえぎったのは、なんと、一番最初にアンゼロットに資料
を渡していた初老の研究者であった。
「・・・ああ、結構です。システム不調の原因も、回復の原因も、一連の流れに立ち会っ
ていましたので、おおよその見当はついています」
「しかし・・・」
「これは我々研究者の領域ではなかった、ということですよ」
抱きしめ合う二人の少女をちらりと見て。
「ただし今回のケースに限って言えば、というだけのことですが」
最後には学術の徒としての矜持をのぞかせながら、締めくくった。
「話がわかるな ! カッコいいぜ、おっさん」
親指を突き出しサムズアップする柊蓮司に、そっけなく「どうも」とだけ答えておいて、
そろそろ時間なので、と再び自分の職務に戻る。
「貴重なお時間を割いていただいて恐縮ですわ」
恭しい、とさえ見えるお辞儀をするアンゼロットであった。
「ひとまず一件落着・・・ってことで、そろそろ出たほうがいいかもな。くれは」
「うん、ひーらぎ」
二人に付き添っていたくれはが、柊の呼びかけに顔を上げた。目が真っ赤だ。
「くれは、お前までなあ・・・」
「え、えへへへっ・・・」
貰い泣きしていたのは明白である。エリスが起き上がるのに、背中に手を添えてや
り、よろめく灯に手を貸してやるくれはであった。
「・・・なんだか、二人のお姉さんみたいですわね」
すすすっ、と柊の右斜め後ろに回りこみ、にやにやとしながらアンゼロット。
「・・・いや、あの慈愛にあふれた様子は、むしろ二人の母親のようにも見える」
妻帯者ならではの感想を呟きながら、柊の左斜め後ろにはナイトメア。
「背後を取るんじゃねえっ ! ってなんだお前らその顔はっ !? 」
アンゼロットとナイトメア。海千山千、二人の曲者どもの表情はといえば。
生温かい目つきは柊をにたにたと眺め、唇は片方を吊り上げた笑みの形で。
「まあ ! 母親のよう、ですって ? 柊さん、近々そのようなご予定が ? 」
「・・・あるのかな、どりぃ〜む ? 」
「息ぴったりだな、お前ら !? ねえよっ !! そんな予定はねえっ !! 」
顔が赤くなる、程度の表現では生ぬるい。むしろ、「変色」といったほうが正しいよう
な赤面ぶりで、柊が声を荒げた。「あらあら、くれはさんにいまの台詞を言えるんです
か ? 」「往生際が悪いどりぃ〜む」と、揶揄の矛先を柊に向ける二人。
常道としては、仲睦まじい様子でお互いを抱きしめ合うエリスと灯が対象になるべき
なのだろうが、そこはさすがにアンゼロットもナイトメアも空気を読んだ。
ただ、なんとなく茶化す相手がいないと気恥ずかしく、むず痒かっただけのこと。
たまたま近くにいた柊が、とばっちりを喰らったという塩梅である。
「ね、ひーらぎ、ごめんちょっと。二人運びたいんだけど手、貸してくれるかな〜」
助け舟が、当のくれはから飛んできて、
「お、おうっ !? 運ぶんだなっ !? まかせとけって ! 」
完全に裏返った声で応じると、逃げるようにくれはの元へと駆けていく柊である。
「 ? はわ ? う、うん。よろしくね ? 」
きょとんとした顔のくれはと一緒に、抱き合うエリスと灯に肩を貸してやる柊蓮司。
それを遠めに見やりながら、
「・・・柊さんのあの動き。なんでしたかしら、えーと・・・」
「ブリキのおもちゃのロボット、かな ? 」
ナイトメアの指摘に、小気味良いスナップを鳴らし、
「それですわ、さすがナイトメア」
我が意を得たり、といった趣きのアンゼロットの顔が、しかしすぐさま曇ったものにな
る。まあ、こんな寸劇はここまでにして・・・と言いつつ溜息をつき。
「一難去ったはいいですけど・・・まだまだ問題は山積みですわね」
灯の負傷は命に別状がなく、治療も(絶滅社研究員の言葉を借りれば)パーフェクト。
取り乱したエリスも落ち着きを見せ、短い別離から再度の邂逅を経て、二人の少女
の間に生じた絆の危機は過ぎ去った・・・かのように見える。
しかし、お二人が乗り越えなければならないものは、まだまだあるんじゃないでしょう
か・・・と、アンゼロットは心の中で呟くのだった。
「・・・ ? 問題とはなにかね、アンゼロット ? 」
ナイトメアが心底不思議そうに尋ねる。さすがの彼も、二人が行き違いになったこと
には気づいても、「そうなってしまった原因」、「そうさせてしまった心の機微」にまでは
考えが及ばないのだろう。
「・・・女の子の心は複雑なんですよ、ナイトメア。こればっかりは、同じ女の子にしか
理解できないことです」
つん、と顔をそむけるアンゼロット。
付き合いも長く、そこは大人の処世術を身につけたナイトメアである。
(・・・誰が女の子、だと ? )
という、柊ならば脊髄反射で口に出してしまいかねない台詞は飲み込んだ。
その代わり、アンゼロットの慧眼に見えたものの正体には気づかぬまでも、エリスと
灯の間に、解決しなければならないことがいまだ横たわっていることだけは、ナイトメ
にも伝わったようである。
五度目の開閉を終えた研究室の扉を、二人は期せずして同時に見つめる。
その視線の先に、柊とくれはの肩を借りて歩く、エリスと灯の姿はもう見えない。
「・・・信じてやるしかないだろう、アンゼロット。いや、我々には信じてやるぐらいしか、
できることはないのだから」
「・・・・・・そんなこと、わかってますわ」
ふてくされたように言うアンゼロット。もどかしさのようなものを彼女が感じているのは
仕方あるまい。
(エリスさん。灯さん。信じていますよ)
二人へのアンゼロットの呼びかけ。それは、どことなく祈りにも似たものだった・・・。
(続)
いつもより短めですが出来た分だけ投下を・・・。
>>433さま。
い、いくらなんでも、ほ、褒めすぎでゴザイマスヨ・・・(汗)。
お世辞ではないと書いてくださってますが、たとえお世辞だったとしても嬉しいです !
とりあえず二人をようやく会わせることが出来ましたが、もう少しエリスは悩み続けます。
エッチシーンやクライマックスまでは、まだ少しかかりますか・・・。
では、また。
もう早く結婚しちゃえばいいのにね!
あかりんかわいいよあかりん。でもそれだけじゃなーい!
サブキャラのみんなも活き活きしていて、とにかくGJでしたー!
二人が結婚できるように、ちょっと世界結界壊しに行くぜ!
世界結界壊しに行ったら可愛い二人に迷惑がかかるじゃないか
ここは一つ裁定者を見つけてだな
その裁定者、どちらかに生やせば良いとかいうハッタリになっちゃったりしないか?
では、ガイアがそうせいと囁くので、創生するでゴザルよ……
>>469 ┌──────────────────────────────────┐
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|LIVE 【審議中】||LIVE 【審議中】||LIVE 【審議中】|
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| (・ω・`) ∧,,∧ ∧|| ( ´・ω)∧,,∧ ∧,,∧ (・ω・` )|| : : : : : : : : : : : : : : : :|
| ∧∧ (´・ω・) ∧,, || (∧,,∧ ´・ω・)(・ω・`∧,,∧ )|| ;_;_;_;_;_;_;_;_; ヘ⌒ヘ _;_;|
| ( ´・ω) ∧,,∧ ( ´|| ( ´・ω) つと) l U (・ω・`) || ヘ⌒ヘ (´・ω・) |
| U ) (´・ω・`) ( || ( ´・) / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ヽ(・` ) || (´・ω・`)ノノ川川 |
| ( ) ||( ´・) 旦 旦 ヽ(・` || ノノ川川レ |
| 埼玉支部 ||( つ/ 旦 旦 NY支部|| 火星支部 |
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| ( U) ( つと) ( ) E=======ヨ ( U) ( つと ) ( ) |
|,∧/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| | 議 長 |「 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ヽ |
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| ( ´・ω) (ω・` ) ∧,,∧ ∧,,∧ ∧,,∧ || ( ´・ω・) (ω・` ) ( ´・ω・) |
| | U | lと | ( ´・ω・)(´・ω・`)(・ω・`) ―┘ ̄ ( ´・)∧,,∧ (・` ) ( ´・ω)|
| ( ´・) (・` ) | U| ( つと ∧,,∧ と) | U ( ) |と | ( ) |
└──────────────────────────────────┘
UGNは既に、火星にまで進出してるのか!?
衛星支部長がいるくらいだしなぁ…
なぁに、火星じゃ日常茶飯事さ。
カーロスか……そう言えば、奴の彼女は……°・(ノД`)・°・
SSSとか何も追いかけてなかった身としては、Dの扉小説で
いつの間に廃人になったのかと驚いたものだ
カーロスか・・・・懐かしいな・・・・。
そういえばあの頃は「悠羽とイシュタルか・・・・ガチだな(地下スレ的に)」と、百合妄想にひたっていたっけな・・・・。
時代が変わってからも、「レイとメモリか・・・・(以下略)」と進歩がないんだよな、俺。
クロイツェル×アルドラと俊之×忍が俺のジャスティス
黒光りするクロイツェルが幼いアルドラさまの身体を貫くんですね!
わかります!
確かにここの所エロ分が少ないかもなぁ。
エイプリルもノエルもジュライもオーガストも
食っちまうけど、妹にだけはプラトニックな好色一代皇帝ゼダンとか
ないものかしら?
アリアンロッドといえば、「白馬の王子」のゴンザレス×ノエルの続き、実は待ち焦がれている俺がいる。
あの、おバカで(失礼!)エロい話、すごい好きだったんだけどな・・・・。
>>480 いや待て妹食ったらまずいだろう倫理的な意味でw
そしてガーベラはクリスの嫁
>>480 妹ってどこで出てきたんだ?
どっかのシナリオ?
>483
んで、別冊の鈴吹太郎の未来掲載の久保リプ、ルネス殺人事件で出てきたんだっけか<妹
まあ俺は竜×ジュライを応援できればそれで幸せさ……。
>>484>>485 あー文庫未収録のリプレイで出てきたのか。
トラベルガイドのパーソナリティは見たんだが、あの短い文章で
そこまで話題になるもんか…? とずっと疑問だったんだ。
ブラコンとも書いてなかった気がしたし。
トンクス
>>481 まさかアレを待っていてくれる人がいるとは思わなかったw
他の良作がバンバンでてきたし、なんか話も迷走しちゃって反応も薄いからやめちゃったんだけど、
待ってる人がいるならとりあえず終わりまで書いてみることにします。
>>487 リプレイにでたって言っても目立ってないというか、正直でたこと忘れてたぐらい印象にないw
トラベルガイドだけでも十分だと思うよ。
というわけで(どういうわけだ)投下します。
ハンドアウト
>>229-231 OP1
>>400-401 OP2
>>438-440 マスターシーン これから
エロ有り(薄め)です。ちょっと短い(1レス)ですが、ご容赦を。
例によって設定的におかしかったりしたら言ってください。
>>443 「加護なんて飾りなんですよ! 若い奴らにはそれが(ry」とか
「ブレイクさせられなければどうという事は無い」とか
言いながら戦ってるってばっちゃが言ってた。
ずっと、彼女は孤独だった。
最早彼女とは言えない、人ですらない存在となった今でも尚、彼女は孤独だった。
「……ん……」
孤独である事は、彼女――と、そう呼ぼう――にとっては苦痛だった。彼女はずっと、
ずっと、苦痛に苛まされてきた。苦痛から解き放たれたいが故に、あの時黒に魂を売り
払ったというのに……それが故に、彼女はより長く、永遠とも思える程長く、苦痛に
苛まされ続けてきた。この、黒い闇に満たされた虚空で。
その事実が皮肉であると、そう思うのは彼女以外の人間であり、彼女がそう思う事は
現在も過去も、そして未来に至っても、恐らくは無い。
それが黒に魂を売り渡した者の考え方であり、彼女もまた例外ではなかった。
孤独を募らせ、憎しみを募らせ、彼女は呪い続けた。自分を封じたあの物の怪達を。
自分を孤独に追いやった、あの人に化ける狐達を。
「……ん……あ……」
だが、いくら憎もうと、いくら呪おうと、それで痛みが……孤独が癒されるわけでは
なかった。だから、彼女は望んだ。いつも、望んでいた。
誰かに慰めて欲しかった。
苦痛から解放して欲しかった。
もう、孤独は嫌だった。
だが……彼女がいくら望もうとも、彼女は孤独だった。孤独な、ままだった。
より憎しみは深くなり、呪いは強くなるが……それだけだった。
「……あっ……ぅん……」
だから、彼女は慰める。自分で、自分を。
そうする事で、高みに昇る事で、一瞬だけ忘れる事ができるから。
真っ黒な裸身を虚空に晒し、彼女は自らのたわわに実る双丘を捏ね回した。柔らかな
弾力が両手に返って来る度に、確かな快感が全身を走る。
人ではなくなってからも、彼女は人としての慰め方を続けた。
人であった頃、一人彼を待つ寂しさに耐えるために覚えた行為。それが彼女にとって、
孤独を紛らわせる最善の方法であり、彼を思い出せる唯一の方法だったから、だから、
彼女は自分の最も大事な部分を慰める。
「はぁっ……いいっ……もっと、してぇっ……」
片腕はそのまま豊乳を弄び、片腕は徐々に下へとその位置を動かしていく。
「はぁぁんっ!」
下の、その中心へと腕が……指が辿り着いた瞬間、彼女は背筋を仰け反らせた。
双丘への愛撫で、既にそこはしどとに濡れそぼり、
「あ……んんんぅんっ!?」
指をあっさりと飲み込む。
「そんな……いきなりそんなとこ入れちゃ……んぁぁあっ!」
愛しい彼の指が、自分の最も大事な部分をえぐるようにまさぐる。そんな妄想が、
彼女をあっという間に高みへと押し上げていく。
「あっ、んっ……んぁ……はふぅ……んぅうんっ!」
太腿がぴくぴくと震える。秘唇からは洪水のように愛液が溢れる。
「あぁ、あぁっ、あっ、いっ……いくぅ……いくぅっ!」
最後のとどめとばかりに、胸を弄んでいた手が、彼女の意思とは無関係に、秘唇の上にある豆をすりつぶすように上下する。
「あぁぁああああぁぁぁぁああああああああっっっっっ!!」
叫び声と共に、彼女は全身を限界まで仰け反らせ、秘唇から飛沫を撒き散らしながら、
頂点へと至った。黒に染まった彼女の目の前が、この一瞬だけは白く染まる。
何もかもを忘れて、真っ白な世界に浸り、彼との、短かったが充実していた日々を
思い出し、彼女は笑顔を、もう随分前に忘れてしまったはずの笑顔を浮かべる。
だが、それも一瞬だけ。
すぐに、舞い戻ってくる。
絶望という名の過去、彼を失ったあの瞬間が――
孤独という名の未来、孤独に苛まされるこれからの瞬間が――
停滞という名の現在、何も変わらない今この瞬間が――
すぐに、舞い戻ってくる……それが、今までの常。これまでの、常。
だが、その日は違った。絶望を思い出し、苦痛を思い出しても、白は、消える事無く。
「あ……あは……あははははっ! あーはははははははははははははははっ!!」
彼女は声を挙げて笑った。目の前に広がる、白い雲を見ながら。
封印が解かれた事を、その光景は物語っていた――――――
ここまで投下です。
>>490 おつ。ボスっぽいけど、さて誰だ?
> 「加護なんて飾りなんですよ! 若い奴らにはそれが(ry」とか
> 「ブレイクさせられなければどうという事は無い」とか
……継承したのかw
それとも、武田少年のシャードはあくまで彼のもので、父親の錆びたシャードは
別の娘に継承されてて、武田少年の姓は母方のもので、どっかの竜とかトラとか
と異母兄弟だったりするのか!(待て
ガーベラSSの者です。
現スレのエロ分の少なさは、私が主犯なんで本当に申し訳ありません。
改善できる点は注意しますが、Hに繋げる為の伏線や山場は許容して
頂けないかと、頭を下げる次第です。
一応、Hパートを含む続きが完成しました。
これで少しでも、溜飲を下げてくれれば幸いです。
テキストが20KBオーバーですので、次スレで投下します。
>>460 悩むのも、正統派ヒロインのお勤めかと。
個人的には、表面上は内面の見えにくい、灯の葛藤も見たかったり。
柊に対するツッコミに息を合わせる、アンゼとナイトメアに大笑いしました。
アニメの効果も相まって、声が再現されます。
>>490 投稿、乙です。
マスターシーンだけに、どう絡んでくるのか分かりませんが、楽しみに
続きを待ちます。
>490
GJだ。エローイ。
しかし小出しは却って飢えを煽るナ。続きを、一心不乱の続きを!
そして願わくば雷火のエロパートを(ぉ
>494
もうそんな時期か。そろそろ次スレ立てる?
/ 《´^ ̄ヽ
.《〈从从))〉
((((リ゚ ヮ゚リ)) まさか……またgame14とanime3が落ちたっていうの!?
「,,,,∞,,i
く/llLヽゝ
ヒヒ!
「またか……」で始まるハンドアウトを書けとでも?
〉〉488
居てくれたんだな、ゴンザ×ノエルのお人!ラブコールはしてみるもんだ!
他の職人さんと作風も違うし、いろんなタイプの作品があるほうが一読み手としても嬉しいし、完結待てーる。
投下後のリアクションはタイミングの関係もあるから気にせぬが吉、かと。
>>494 最終的にはエロ分入ると明言してたんだし、そこまで気にしなくていいと思うよ。
最後までエロなしだったら流石にどうかと思うけど。
エロ分少なめの人もいればエロ分MAXの人もいる、それがエロパロクオリティ。
ココって非エロに寛容だったハズなんだけど、
いつの間にか卓上ゲーム板内の板違いスレに追い出されたカンジ。
今だってそう排斥してるわけじゃないと思うけどなー。
単に飢えが来ただけじゃないだろうか。
>>498 SW2.0のルルブ2を読むのが忙しくて書く暇がないでござる、の巻。
>>494 もう、シリアス全開でいいと思いますよ。私の方なんか妄想垂れ流してるだけですし。
次スレ立てたほうがいいと思うんで、ちょいと立ててきます。
>494
気にしなくていいかと。
私もかつて、ベルとかジュライの書いた時に、エロにいくまで500行シリアス戦闘シーンとかやってますし(笑)
アニキャラのNWスレ見てたら、
アゼルのエロが見てみたくなったな……。
506 :
494:2008/06/21(土) 00:55:53 ID:jZKIAK0n
レス下さった方々ありがとうございます。
自分も
>>501さんの言う通りなんではないかと思います。
ハイ、とりあえずエロに関しては、作品で語らせて頂きますから(笑)。
溜めに溜めた反動を、どうかご覧下さい。
>>502 スレ立て乙です。
これから投下させて頂きます。
>502回乙します
>>505 幻想殺しで触ればアゼルの能力も殺せるんじゃね?
>>508 幻想殺しがわかるやつがスレにいないんじゃね?
幻想殺しなぁ
無効化範囲がわけわからんよな、アレ
腕でしか無効化できない筈なのに範囲攻撃防ぐし、
間接的攻撃は無効化できたり出来なかったりするし
能力とかはせいぜい同格で方向を絞れるぐらいだろう。
上条マンセーもはっきりウゼェ。
あとな、禁書はスレ違いだ。
レールガンの2巻の限定版のポーカー内で分かる範囲なら
かろうじて範疇になりえるか。
とりあえずアゼルが吉良良影みたいになる想像しか出来んから幻想殺しはやめれw
つか、あの世界で使ったらファージアース砕けそうだからやめれw
しかしアゼル、H難易度では最難関だよな……プラーナ吸収能力があるから命を賭してせねばならん
そこは友人の勇者sにプラーナ譲渡をしてもらいつつ、だな。
極薄にした魔石でできたコン○ームでも
装着すればいいんじゃね?
って、なんか書いてて潤滑油を求めて旅をしてた
エルフの若奥様の最初の方を思い出したw
>>515 触れられないなら人質を取ってストリップショーをさせるとかの虹ドリノベル展開を
脱げば脱ぐほど(プラーナ吸収能力が)強くなる裸魔王活殺拳の使い手だからなぁ
プラーナ吸収が無効な触手冥魔でもいれば陵辱イベントは起こせるんだがなぁ
「プラーナは存在の力……つまり、存在せずに存在する事ができればっ!」
「何故……私の傍にいるのに、どうして貴方は消えないの?」
「これぞ我が奥義! 意志虚露亡死!」
「……素敵なお方」(ポッ
こうで(ry
隙間から入れればいいじゃん!
ちょっと緩めただけであたり一面のプラーナが吸収される=間接的な状態ですら致死量のプラーナ吸収能力を誇る
=直接触れたら一瞬で吸い尽くされる=まず触れられない
と、思ったわけなのだが…
あ、あの包帯は「特殊能力を封じる布」なわけじゃん。
なら「オクタヘドロン謹製、特殊能力を封じる大人のオモチャ」を使えばいんじゃね?
こんなときこそ夢の世界でだな
いや、ルールとか設定知らんけど、これもダメなの?
プラーナ吸収されても安々と消滅しないような膨大なプラーナを保有してればいいんじゃないの?
神クラスくらいの。
そうじゃなければ
宝玉戦争ラストでゲイザーと戦った時
アゼルを呼べばさらりと勝てたんじゃないかしら。
大真面目に論議して、きさまらそこまでしてアゼルのエロがみたいか!
よしちょっと待ってろ。
>>526 ゲイザーが幻夢神の一部だから、その夢の中では魔王と言えども写し身では干渉しきれない。だっけ。
プラーナ吸収にこれが適用されるかどうかが問題かな
包帯と同じ材質の全身スケスケ薄スーツでも着せればいい。
そしてその上から水やらローションやらをかけてあちこちまさぐって虐める。
>527
期待してます。
魔殺の帯ならぬ、「魔殺の縄」で縛り上げたアゼルを、「魔殺の鞭」でしばき上げるSM調教なんてどうだろう!?
裏界随一のイジメテちゃん魔王のアゼルは、絶対マゾだと思うんだが!?
新開発アイテム、この効果は、勇者のプラーナを他者から譲り受ける能力を研究して作られた、人から人へプラーナを譲渡するアイテム。
その形から、ハッタリ棒となずけられt(ピチューン
まあ、あれだ、アンゼロットの趣味から、肉体とリンクするペニバンみたいなのをつけて相手に出せばプラーナを渡すっていうネタは思いつくよw
アゼルがプラーナを吸収しても、相手に注ぎ返すとか。
あとは、エリスのシャイマールとしての膨大なプラーナを、任務で消耗している灯に注ぎ込むとか。
そしてアンゼロットは柊に(アーッ
>>532 ハッタリ棒はお笑いなんだが、
「誰かを犯している時だけ他人の温もりを感じられる」ってのは
考えてみるととても悲しい事なんじゃないだろうか。
まあ和姦なら別にいいか。
>>533 まあ抱かれるのはベルさま(予定)だし、アゼルは多くは望まない子だろうし、お似合いだからいいんじゃないかな、かな。
ふれあいに夢中になってがっついてベルさまがらめえっびくびくっ、とかいうネタでもOKですだよw
ベル様がアゼルの背中に爪を立てるほど夢中でしがみついているのを
どこかでリオンが観察し、そっとももを擦り合わせているんですね、わかります
そこへリオンが劣勢と勘違いしたエリー様が、
ハッタリ棒装備の魔王達をつれて加勢に来てのドリフ落ちですね!わかります!
我が主がぽんこつに種付けすると聞いて飛んできました
アゼルのエロを行うにある意味一番簡単な方法
・合わせ鏡の神子の真っ最中OR ルーの計画の成功したif世界。
あの世界なら、大魔王だって走って逃げる状態だから輪姦シチュも、
相手が目覚める前のウィザードだった、とかでラブラブシチュだってできるぜ!
じゃあそれでよろしく。
よしまかせろ、次作はアゼルでいくぜ!
期待せずに待ってろ! またアレな内容になっちまうかもしれないけどな!
そういえばフォーチューンの海砦には「精霊獣にはプラーナが無い」って設定が出て来たはず。
最初から無い物は当然奪う事も出来ないから、アゼルの能力が全く通用しないんじゃないか?
つまり精霊獣触手プレイですね、分かります
>>541 フレイスの柊みたいに、アゼルが取り込まれたまま世界へ侵攻したらその世界あっさりと滅びかねないな。
世界は徐々に枯れ果て、精霊獣を倒そうと近づくとアゼルの力にやられる。
魔王クラスでパーティー組まないとムリくさいから、PC1はベルで決まりだなw
PC1
推奨キャラクター:ベール・ゼファー/ベル・フライ
目的:親友を助ける
コネ:アゼル
こうですね
PC1
推奨キャラクター:ベール・ゼファー/ベル・フライ
目的:親友を他人に奪われる前に自分で奪う
コネ:アゼル
むしろこうで
PC1
推奨キャラクター:ベール・ゼファー/ベル・フライ
目的:親友に自分を奪わせる
コネ:アゼル
これじゃダメですか先輩
PC1
推奨キャラクター:アスモデート
目的:親友とした賭けに勝つため、後輩のはじめて(初恋)を奪う
コネ:“荒廃の魔王”アゼル=イブリス
ちがうよ命、こうだ
PC2
お水っぽい格好の魔王が、大好きなお姉ちゃんを奪おうとしている。
推奨キャラクター:頭がパール・クール
目的:お姉ちゃんと、その友人の中を引き裂く
コネ:姉(ベール・ゼファー)
頭がパール・クールやめいw
PC3
推奨キャラクター:ルー・サイファー
目的:可愛い妹たちは全て我のモノ。精霊獣ぬっころす
コネ:いない
精霊獣本人にコネ取ってやれよwww
>コネ:いない
ルー様カワイソス
精霊獣って、裏界のアゼル周辺の荒野と似た性質って事なんかね?
もっとも、世界珠内の万物はプラーナで形成されてるという理屈から考えたら、
本当はアゼルの周囲には荒野すら無くて、アゼルの能力が届く範囲の
虚空にアゼルが浮いてるだけって感じになると思うけど
そこまできくたけが考えてない(ry
まあ、魔殺の帯のおかげで周囲が荒野になるだけで済んでる、でいいんじゃね
すっぽんぽんになると足場も消滅
つまり、アゼルは精霊獣か。
アゼルから精霊獣みたいなハッタリ棒が生えるとな?
>>554 精霊獣のなり立ちや、アゼルの能力(もしかしたらだが、さらに人造人間というクラスも)を考えると、
案外似たような出自かもしれんな。
そして、その能力からして下手に冥界に放り込むよりも、閉じられた世界である裏界に魔殺の帯付きで
封じといた方が安全と判断されて裏界行きだったりしたら……
PC4
夏だ! 海だ!
服を脱ぎ捨て、水着に着替えよう!
推奨キャラクター:アゼル・イブリス
コネ:一皮向けた自分
はいはいアゼル最強説アゼル最強説
……なんだか、その後付け設定を使って、
きくたけが精霊獣とアゼルでいかにもな萌え演出を行いそうな気がしてきた
反プラーナで形成された物質とかいう電波が・・・
そうして出来上がった世界が、
地表の裏側に広がる地下世界ラ・ギアス……
精霊獣と合体して真ドラゴンなアゼル様を幻視した。
プラーナを失った地球はラギアスへ
プラーナを得たアゼルはアゼルスへ
>>561 真ドラゴンとか言うからモルガンかと思ったじゃないか
故石川大先生の絵が浮かんでくるんだが。
トイレで用を足そうと帯を緩めたら大惨事になったアゼルを幻視した
>>552 あの荒野は、アゼルが自分のプラーナで月匣を張り続けてるようなもんだと思うけどな。
アニメとか挿絵に出てきたベルの部屋も、あれはベルがプラーナ使って作り上げたものだろうし。
つまり余裕の笑みを浮かべつつ、必死でプラーナを維持し続けていたのかw
あれくらいなら、魔王にとっちゃ[F]出して基本値-10されても余裕で成功するような難易度じゃないの?
>>568 おいおい、相手はアゼルだぜ。難易度的にはコレくらいじゃないか?
 ̄△ ̄|「おしい!無限大にはちょっと足りなかった!」
〓GM〓フ)
裏界にはプラーナが無いんだよな。この「無い」という状態がアゼルたんのいるような荒野をさすのか、そもそも本当に何も存在していないのかはわからんが
少なくともベル様の居城のような建造物は、プラーナを注ぎ込んで造ってるんだろうな。そもそもベル様達の本来の職業的に見ても物づくりは得意なのかもしれん。
あるいはそれぞれの領土をそっくりそのまま月匣で包んでいるのかもしれんけど
月匣と見るのが自然じゃないかな。
プラーナで何か作って放置したら横から奪われたりすぐ拡散して消えたりしそうだし。
自分の本体をコアにした月匣って感じかな。
だからアゼルは自分自身の月匣は吸収できないから、あの荒野だけがアゼルの居場所と。
そこで星がやってた一人遊びを思い返しつつ、一人で慰めてるわけですね?
>>571 正確には、ある事はあるけど大半は魔王連中が溜め込んで、魔王になれない連中は
現世 or 異世界に出稼ぎか、魔王に分けてもらう状態じゃないかなあ
ベルは裏界のどこかに秘密のプラーナ倉庫を隠してる疑惑が持たれてるな
くそっなんでか知らんけど
>574見た瞬間に
システムメッセージ「ベルの隠しプラーナ倉庫が襲撃されました」と○国ドミ○オン的ナレーションが浮かんぢまったよどうしてくれるw
柊蓮司の群れですね
解ります
ベルが自身の復活のためにプラーナを蓄えているという噂の、秘密のプラーナ倉庫。
だが実はそこは、神殺しの魔剣に貫かれて重症を負った、ルー様の療養場所だったのだ!
↓
続きは次スレで!!
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ベルでーす
リオンでーす
時代は百合でーす!