◆ファンタジー世界の戦う女(女兵士)総合スレ 6◆

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1名無しさん@ピンキー
・剣と魔法のファンタジーの世界限定で
・エロは軽いものから陵辱系のものまで何でもあり
(ですが、ひとによって嫌悪感を招くようなシチュの場合はタイトルなどに
注意書きをつけることを推奨します)
・ファンタジー世界ならば女兵士に限らず、女剣士・騎士、冒険者、お姫さま
海賊、魔女、妖怪、魔族、闘う女性なら何でもあり。
・番外編、関連編なら闘う女性が出てなくてもノープロブレム。
・種族は問いません。
・オリジナル・版権も問いません。

過去スレ
◆◆ファンタジー世界総合:女兵士スレpart5◆◆
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1192717229/
◆◆ファンタジー世界の女兵士総合スレpart4◆◆
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1173497991/
◆◆ファンタジー世界の女兵士総合スレpart3◆◆
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1163919665/
◆◆ファンタジー世界の女兵士総合スレpart2◆◆
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1149954951/
◆◆◆ ファンタジー世界の女兵士総合スレ ◆◆◆
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1128119104/

保管庫
http://vs8.f-t-s.com/~pinkprincess/female_soldier/
2名無しさん@ピンキー:2008/04/24(木) 22:16:25 ID:hN/5mPaf
関連スレ

古代・中世ファンタジー・オリジナルエロパロスレ2
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1205504913/

お姫様でエロなスレ7
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1196012780/

男装少女萌え【9】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1191752856/

【従者】主従でエロ小説【お嬢様】 第五章
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1200307216/
3名無しさん@ピンキー:2008/04/24(木) 23:27:10 ID:gVtRnqAG
乙です!!
4名無しさん@ピンキー:2008/04/25(金) 05:04:50 ID:53S7SADZ
>>1乙!
5投下準備:2008/04/25(金) 06:09:30 ID:I2SYk7dj
実生活における年度替りの混乱と長い規制に巻き込まれてしまい、
またスレの残容量に納まるか不安だったので投下が大分遅くなってしまいました。
>>1乙であります。

本作は独占派・和姦至上主義の方にはお奨めしません。
(自分も本当は独占派なのですが)
和姦が無いとは言いません。
でも和姦だけの話かと言われれば、それは・・・

そんなことよりファルハードの人気がまた凋落しそうで不安。
彼は実際のところ英雄だし、名君なんですよ?
では外伝後編をどうぞ。
6Prince of Dark Snake:2008/04/25(金) 06:10:49 ID:I2SYk7dj
 
燃える蝋燭の薄明かりの中で、王の手がリラーの腰を撫でる。
鍛え抜かれた筋肉の存在が、指を介して伝わった。
労働もせず後宮に侍り、ただ主の訪ないを待つだけの美姫たちとは違う肉体だった。
娘子兵は身体が資本である。
三度の食事に事欠かぬどころか、食べて身体を作る事も任務のうちだ。
彼女達は、意図して戦闘用の身体を造る。
それは、剣闘興行が盛んに行われていたルームならではの発想であり、伝統だった。
パルティアでは未だに経験則でしかない事だが、西方の帝国では一歩も二歩も先を進んでいた。
強い筋肉と骨格を身に付けるための食餌法という概念を、ルーム人は技術として発達せしめた。
その技術は宮廷を護る近衛たちに受け継がれ、現在パルティアの王宮にも伝えれたのだ。

「はぅっ……」

しかし、彼女達とて肌まで作り変えられてしまった訳ではない。
男の愛撫を受ければ、普通の女と同じように反応する。

「ここが感じるのか? リラーは」
「あんッ、」

背中に這う指の感触に、思わず唇から喘ぎが漏れる。
リラーにとって王は初めての男だが、ファルハード王はすでに何十人もの女を知っている。
柔らかく、しかし時には強く。
どこをどう責めれば女がたまらなくなるか、十二分に知った指使いであった。

「へっ、陛下…… あぅぅ、そんな…… 」

優しくそっと触れられたなら、堪えられない。
錬兵場で杖に打たれた痛みにも耐えた背中が、男の愛撫でわななく。
鍛え上げられた身体が、小娘の様に震えた。
7Prince of Dark Snake:2008/04/25(金) 06:12:18 ID:I2SYk7dj
 
その様子を、窓の外から眺める四つの眼があった。
暗殺者や隠密が潜入する危険がある王宮では、不審人物の取り締まりは厳重である。
王の私室を覗くような不届き者は、両眼を抉り出されても文句は言えない。
今夜の後宮も、数個小隊の宦官兵が巡邏している。
だが、闇の中物音一つ立てずに樹上へよじ登り、茂る枝葉の影に身を隠した少年と小鬼の姿を、
彼らは全く捉えることが出来なかった。

『おい、……なっ、何をしてるんだよ、父上は?』
『ひょ? 男女の交わりをご存じ無いのかえ』
『し、知ってるけどさ……』

イスファンディアールも、男女の秘め事に無知という事はない。
物陰でふしだらな睦み合いをする男女を見かけた事もある。
誰も見ていないだろうと彼らは高を括っていたのだろうが、
まさか王子殿下が宮殿の屋根の上から覗いていたとは思うまい。
しかし、そういう行為をまじまじと見るのは初めてだ。

『でも、父上には母上がいるのに……』
『存外間抜けな若君様じゃな。
 御身の妾腹の妹たちは、王妃と交わってこさえた餓鬼ではなかろうて』
『ぐ……』

言われてみればその通りだ。
ファルハード王の正嫡の子は自分と妹だけであるが、下にはもう二人妹がいる。
彼女達は父王が側室に産ませた王女たちだ。
本当は嫡出の弟が一人いるはずなのだが、難産の所為で生れ落ちた時には息をしていなかった。
男の遊び相手が欲しかったイスファンディアールは、死産の知らせを聞いてひどく哀しがったものだ。

『それにしたって、なんでリラーなんだ?』
『さて、儂にそんな事を言われても喃……』
『もっと見た目の綺麗な女官は幾らだっているだろ?』
『あいつも醜い部類の女ではなかろうて。あるいは美人なだけの女は抱き飽きたかの』
『……』
『なんにせよ、他人の趣味に口を挟もうとしても無駄じゃ。
 儂はそれを十五年ほど前に思い知らされておる』

老小鬼は肩をすくめ、それ以上何も言わなかった。
イスファンディアールは再び父の部屋へと視線を戻す。
丁度リラーの帯が解かれ、鎧下も脱がされようとしていた。
 
8Prince of Dark Snake:2008/04/25(金) 06:13:10 ID:I2SYk7dj
「フフッ…… 愛い奴」
「むぅっ」

唇を塞がれ、言葉を漏らすことも封じられた。
そのまま口を貪られる。
淫らな水音を立てて、唇と唇が絡み合う。
そして背中を撫でていた指が、今度は女を前方から攻める。
露になった乳房を、王の掌が強く掴んだ。
五指が食い込み、揉みしだく。
たわわに膨らんだ乳房は、リラーにとって数少ない女を意識させる部分だ。
そこを男に触られると、身体が奥から熱くなる。
やわやわと胸乳を揉みつつ、ファルハード王は彼女の身体を床に押し倒した。

「ぁ……んっ」

仰向けに寝そべる彼女の身体を、蝋燭の明かりが照らす。
小さな呻き声を上げて、リラーは恥ずかしそうに顔を赤らめた。
日頃の毅然とした態度は微塵も感じさせず、
ここに居るのは未だ男女の交わりに戸惑いを隠せない一人の娘だ。
その初々しさが、男心をくすぐった。
ファルハードはリラーの乳房から手を離すと、そっと彼女の下半身へと伸ばした。
娘子兵の鍛え抜かれた脚を掴み、持ち上げる。
彼はその足首に優しく唇を付けた。

「な…… 何を! ……お止め下さいっ」
「いかんか?」
「私めの如き女の足に口を付けるなど、御身の汚れになりましょう……」
「ほう? そういうものかな…… ちゅっぅ」
「ああぅっ」
「ちゅ、ちゅ、ちゅ、ちゅっ……」

制止に耳を貸さぬまま、ファルハードは女の脚に接吻をしていく。
足首。脛。ふくらはぎ。
肌に吸い付く音が、リラーは無性に恥ずかしかった。
他の男にこんな事をされたら、容赦なくその頭を蹴り飛ばしているだろう。
だが、そんな真似は出来ない。
ただ彼女は、男の口付けを困惑しながらも受け続けるだけだ。
それは相手が主君だからなのか、それとも自分にとって特別な男だからなのか、
リラーにはまだ判別がつかない。
仮についたとしても、後者だとは絶対に認められまい。
主君に懸想するなどは、娘子兵には許されぬ事なのだから。
片手でリラーの脚を持ちつつ、ファルハード王はもう片方の手を両脚の付け根へと伸ばす。
遮る布地とてなく、王の指は容易くリラーの股間に至った。

「きゃっ!?……あっ、ぁっ」

そのまま押し当てるように縦になぞる。
縮れた毛が擦れてしゃりしゃりと鳴った。
裂け目を愛撫され、リラーは震えた。
しかし先ほどまでのように恐れからではない。

「や…… やあ……っ、ああんっ!」

指に水気が絡みつき始めたのを悟ると、ファルハード王は攻め手を中にまで及ぼしていった。
男を知ってまだ間もない鮮やかな色の花弁の間に、王の指が滑り込む。
指の腹で膣内の柔襞を掻き毟ってやると、リラーの唇から喘ぎ声が発せられる。
普通の女の様な、娘子兵としての彼女からは決して吐かれる事のない嬌声が部屋に響いた。
それを聞いて徒心を誘われぬ男はおそらく居まい。
まして平素のリラーの様子を知っている身であればなおの事だ。
9Prince of Dark Snake:2008/04/25(金) 06:14:50 ID:I2SYk7dj
身悶えする女の脚を、ファルハード王はようやく解放する。
その代わりに、寝転ぶリラーの身体を横に転がし、うつ伏せに這わせた。

「はぅ……」

背中に熱い肉体が覆い被さってくるのを感じると、リラーは心臓の高鳴りを抑えることが出来なかった。
半分は畏れから、残りは期待からだろう。
早鐘を鳴らすようにという形容がまさしく当てはまる。
リラーは羞恥に身を焼かれ、顔は朱に染まっていた。
その耳元に唇をよせ、王はそっと囁く。

「耳まで赤くなっておるぞ。リラー」
「は、はい…… 申し訳ございませぬ」
「何を謝る事があるのだ。耳が赤くなって何の不都合がある」
「おっ、お許しを…… しょ、少々血迷っている様で御座います」
「フフッ…… 謝ってばかりだな、リラーは」

ファルハード王は微笑ましげに揶揄した。
既に幾度も身体を交えているというのに、リラーは相変わらず小鳥の様に怯えている。
これがもっと幼い娘であるならば得心もしようが、
女だてらに剣を取って戦う娘子兵がかように悶えるのは意外だ。
初心な様子を失わない彼女の有様に食指をそそられて、王はリラーの臀部に手を添える。
膝を立てて腰を持ち上げさせると、瑞瑞しい筋肉に包まれた下半身の張りの間に女の秘所が垣間見える。

「では、入れるぞ」
「ふぁぅ!」

拒もうとする暇も無く、いや、もとより拒絶する自由などはないのだが、
指で押し開かれたかと思った瞬間には股間に異物が突き立てられていた。
愛撫によって解されていた女陰に受け入れられ、
硬く張り詰めた男性器はぴっちりと隙間無く包み込まれた
不思議な事でも無い。
彼女の身体は、そこを穿つ物によって拓かれたのだから。

「あ、あああぁぅ……」

一息に奥まで突き抜かれ、リラーは呻いた。
顔を絨毯に押し付けつつ下半身だけ持ち上げた今の格好は、まるで獣の交尾のようだ。
けれども、彼女はこの形が嫌いではない。
なぜなら、後ろから貫かれるのなら主君の顔を見詰めずに済むからだ。
ファルハード王もそれを察してか、無理強いして正対させようとはしない。
ただし、時には彼女を情事に慣れさせるために、あるいは恥かしがる初心な様子を彼が愉しむために、
あえて吐息が頬をくすぐる程に顔を近づけて交わる夜もあるが。

「ゃ……、ぅんっ!」

膣中を掻き出される感触の直後に、再び深く突き込まれる。
肌が肌を叩く乾いた音に、リラーの喘ぎが重なった。
ファルハード王は繰り返し彼女の女陰を抉る。
臀部を掴む手に、瑞瑞しい弾力が感じられた。
10Prince of Dark Snake:2008/04/25(金) 06:16:21 ID:I2SYk7dj
 
「やっ、あぁっ……、くぅ……ん……、ああぅ……!」

膣壁に擦り付ける動きは強弱を交え、巧みに女の官能を掘り起こしてゆく。
堪えきれず、そのたびにリラーは床の敷物に熱い吐息を吐き掛けた。

「あんっ!」

男の手が腰部から上半身へと伸びた。
すくい取るように五指が胸乳を掴む。
余計な脂肪を付けないように心がけているリラーだが、付いてしまうのは仕方が無い。
女性らしい膨らみを握りつぶすように搾られる。
だが、痛みよりも甘い痺れに似た感覚が勝ってしまうのは何故だろうか。
頭の中では女を捨てる覚悟が出来ていたはずなのに、
肉体の方はこんなにも容易く性交に馴染んでしまっている。
それは喜ぶべきことなのだろうか?
それとも不甲斐ないと考えるべきなのだろうか?

「可愛らしい声も出せるではないか。リラー」
「えっ?」
「閨でまで、厳しい態度を続けなくても良いのだぞ」
「……くぅっ、うぅぅ」

優しい声で、ファルハードは女の耳元で囁く。
しかし、返ってリラーは上等の敷物に爪を立て、快楽に押し流されようとするのに耐えた。
娘子兵として、王の前で乱れる姿を見せたくは無い。
訓練によって叩き込まれたその信念は、既に習性と言っても良かった。

「フフフ……」
「ひゃっ!?」

その様に興を覚えてか、王の指が硬くなった突起を挟み取った。
彼女は再び喘ぎ声を漏らす。
乳首が転がされ、伸ばす様に引っ張られる。
その最中も、腰の動きは休んでいる訳ではない。
幾度も幾度もリラーの子宮を突き上げ、膣壁に己の存在を摩り付け、彼女を休ませる事はしない。

「やっ、だ……駄目です…… これ以上は、お許しを……」
「ふむ? 何ゆえ今更止めよと申すのか?」
「かように、寵をお受けし続けたなら……
 もしかして王の御子を授かってしまうかもしれませぬ」
「それがどうしたのか?」
「わ、私め如きがカイクバード家の御子を産むなど、そんな大それたこと…… きゃう!?」
11Prince of Dark Snake:2008/04/25(金) 06:16:58 ID:I2SYk7dj
 
一際強く膣奥に男根を打ち込まれ、リラーの言葉は呻き声で中断された。
そのまま激しく抽送を繰り返す。

「ひゃっ、あっ、」

掻き回される度に次第に膨らんでゆく官能に、リラーは蕩かされてしまいそうになった。

「構わぬ。その時は余の子を産め」
「そ、そんな…… はぅ!」
「男児であれば余が手ずから教育し、きっとカイクバードの裔に恥じぬ王子に教育するであろう。
 英雄王の血を引くに相応しい、お前に似た強く逞しい子を産むがいい」

そう言うと、ファルハード王はさらに腰の動きを早めた。
肌が打ち合わさる小気味良い音を立てて、盛んに進退を繰り返す。
苦痛とも悦びともとれぬ喘ぎが、室内に響いた。

「や……、あん、……くあっ、……はっ、……ああっ、あああんっ!」
「リラー! 余の子を孕めっ!」
「っあ、あああぁーーーーっ!!」

意識が遠く吹き飛ばされそうになる感覚を味わいながら、
リラーは主君の精液を膣内に余さず受け止めていた……


・・・・・・・・・

12Prince of Dark Snake:2008/04/25(金) 06:18:13 ID:I2SYk7dj
 
 コン 、コン 、コン

扉を叩く音が鳴る。
情けを与えた女を抱き締めたまま、ファルハード王は扉の向こうに居る侍従に声を放った。

「何用だ?」
「御くつろぎの所申し訳ございませぬ。
 王妃様が陛下にご面会を求めておいででございます」
「コリーナが?」
「左様でございます。
 どうしてもお話したい事があるとの由で……」

なんとなく用向き予想できる。
しかし、会わぬわけにも行かない。
衣装を正し、ファルハード王はリラーに告げる。

「余は王妃に会わねばならぬ。
 お前はしばしここに居れ」
「はい、陛下……」

直ぐに部屋を去ろうとすれば、王妃と鉢合わせする可能性が有る。
そんなことになったら、まだ公になっていない二人の関係が悪い形で露になりかねない。
リラーは、自分を残して隣室に向かう主君の背を黙って見送った。
厚い杉材で作られた扉が閉められる。
彼女が気だるい感覚に身を委ねたまま横になりたいと感じた時だった。
音も立てず、それは絡み付いてきた。

「!?」

気が付いた時には、頚に腕が巻きついていた。
凄まじい力で気道が締め上げられ、叫ぶことさえ封じられる。
いつの間に入り込んだのか全く判らなかったどころか、
燭台の炎を毛筋も揺らめかせず、一切の気配を感じさせぬまま、侵入者はリラーの背後を取っていた。

(ゔうぅっ!)

反射的に、両手で相手の腕を外そうと試みる。
だが、まるで蛇に締め付けられているかの如く、顎の下に入り込んだ腕はびくともしない。
ひょっとしたら自分のよりも細いかもしれない腕なのに、渾身の力を込めてさえ微動だにしなかった。
首と腕の隙間に指を捻じ込み、頚動脈を極められるのを防ぐのが精一杯だ。
13Prince of Dark Snake:2008/04/25(金) 06:24:00 ID:I2SYk7dj
 
突然呼吸を遮断され混乱する思考の中で、リラーは己の失態に歯噛みした。
王宮に入り込んだ曲者の存在に気がつけなかったばかりか、急を告げる声さえ上げられぬとは。
一体何のための娘子兵か!

(くそっ…… 誰か…… 曲者が……)
『大人しくしろ、リラー』
(!?)

侵入者が耳元で囁いた声に、彼女は聞き覚えがあった。
だが、同時に驚愕も覚えた。
そんな彼女の耳に、侵入者の囁きが続く。

『大声を上げれば、隣にまで聞こえるぞ。
 母上にこの場を押さえられていいのか?』
『イスファンディアール殿下!?』
『後宮に忍び込んだ事を父に責められても、僕は母上に庇ってもらえる。
 だが、お前が主君と通じたことを母上に知られた時、果たして父上はお前を庇ってくれるかな?』
『……』

想定もしなかった事態というのは、まさにこういう事を指すのだろう。
侵入者が、まさか国王の嫡子であったとは。
いや、リラーはそれよりも王子の囁いた言葉の意味を反芻する。
ファルハード王は、理由は知らねども第一王子に厳しい。
その反動からか、母親であるコリーナ王妃は息子を溺愛している。
禁を犯して後宮に入った事を国王が罰しようとしたら、王妃が息子を護ろうとする事は火を見るより明らかだ。

(……)
 
14Prince of Dark Snake:2008/04/25(金) 06:24:50 ID:I2SYk7dj
 
抵抗する無意味さを承知し、リラーは王子の腕を叩いて降伏の意を伝えた。
慈悲も侠気も持ち合わせたファルハード大王の事だ。
自分を護ろうしてくれる可能性も、もしかしたら零ではないかもしれない。
娘子兵が主君に身を委ねた事を妻に詰られても、
パルティアとルームの国情の違いを盾に取って庇ってくれるかもしれない。
しかし、王妃の怒りを一時は避けられたとしても、その後はどうだろう。
どこの世界に、夫が抱いた女に好意を持つ妻がいるというのか。
後宮を束ねる権力者であり、世継ぎの御子の母親である王妃に憎まれたらどうなるか、
リラーにそれを試す気はなかった。

頚を締め上げていた腕の力が緩む。
しばらくぶりに新鮮な空気を肺に吸い込むと、リラーは生き返った心地になった。
けれども、一息つくことが出来たのも言葉どおりの僅かな時間に過ぎなかった。

『きゃっ!』

イスファンディアールの手に肩を掴まれ、そのまま床に押し倒される。

「で、殿下!? 何を…… むっ、うぅ……」

仰向けに倒れた女の唇を、王子の唇が塞ぐ。
歯の列を割って、舌が口中に入り込んだ。
九つも年下の少年に口を貪られる。
それは、さっきまで寵を受けていた男の息子の舌なのだ。

「む、むむぅ…… や、止め……」
『声を出すなと言っている』
『あうっ!』

王子の手が、リラーの乳房を掴んだ。
だが加減を知らぬイスファンディアールの指は、父親のよう女の身体を悦ばす握り方にはならない。
跡が残りそうなほどに強く、容赦なく搾り上げたまま、もう一度リラーの唇を味わった。


・・・・・・・・・

15Prince of Dark Snake:2008/04/25(金) 06:26:20 ID:I2SYk7dj

「何度も言わせるな。
 余はあれの軽率さを嗜めようとしただけではないか……」
「いいえ、何度であろうと言わせて頂きます。
 貴方はあの子に厳しすぎますっ」

眉間に皺を寄せて詰ってくる妃を前に、ファルハード王は歯切れの悪い言い訳を繰り返していた。
娶ってから十五年。
可愛らしい少女であったコリーナ皇女もすっかり女として成熟し、
パルティア王妃として宮廷の内外に重きをなしている。
二度の出産を経験した彼女であるが、それで美しさを損ねるどころか
年毎に艶めいた色香を増して、美貌の上でも後宮に君臨している。

「そうは言ってもだな……
 あの歳で獅子に挑もうとするなど早すぎる。
 大事が出立してからでは遅いのだ。
 第一王子とは他に代りの無い身だという事は、あれにもしっかり理解させねば……」
「では、何ゆえ衆目のある所であの子をお叩きになられたのですか?」
「むうっ……」

予想通り、コリーナの話は先日の狩猟祭の事であった。
王都に戻ってから、イスファンディアールは腹を立てて姿を見せないという。
明日は王子王女の誕生日だというにも関わらずだ。

「お気に入らなかったのならば、取り合えずあの場ではお褒めになり、
 後で密かに諭されればよろしいでしょう?
 それを、貴顕の者たちの目の有る場所でお叱りになるなど、
 あの子が恥をかかされたと憤っても仕方ありませんわ!」
「……言うな。もう済んでしまった事だ」

妃の視線から逃れようと、ファルハード王は顔を横に背けた。
それでもまだ言い足りないのか、コリーナは夫である自分を詰り続ける。
在位十五年、西方に向かっては舅であるルーム皇帝と堅い盟約を結び、またコプトの王に膝を屈せしめ、
東はシンド王の玉座を脅かし、さらに永年の宿痾であったエフタウルを討った。
王国開闢以来、稀に見る壮挙といってよい。
そんな彼であっても、妻の口を塞ぐ事だけは出来ない。
近親に英雄無しとはよく言ったものだ。

(いっその事、全てを打ち明けてしまえば楽になれるかもしれないが……)

そんな危険な考えが脳裏をよぎる。
彼の苦しみの根源は、彼自身しか知らない。
王国を、王家を揺るがしかねない大事を分かち合う者は、パルティア王国に誰一人として居ないのだ。
もし、妃に打ち明けたらどうなるだろう。
彼女が愛しんでいる息子が、密かに押し付けられた別の女が産んだ子だと知ったら?
しかし、それは絶対に公表してはいけない秘密だった。
息子の出自は、カヤーニ王朝を揺るがした大事と不可分に結びついている。
蛇王ザッハーグの血を引く女と交わったという己の過失だけでなく、
カイクバードの子孫があろうことか蛇王となりかけたという、おぞましい事実と繋がっているのだ。
開祖カイクバードの名に賭けて、それは絶対に公表してはならない秘密であった。

「貴方は、あの子を愛しておられないのですか?」
16Prince of Dark Snake:2008/04/25(金) 06:27:13 ID:I2SYk7dj
「愛しているとも……
 あれは余のたった一人の息子だ」

愛さぬはずがない。
どれほどコリーナが美しくなろうと、後宮に佳人が献じられようとも、
あの面立ちに残る若き日の思い出は忘れようとしても忘れられぬ。
数奇な宿命を背負い、激しい情熱の末に生まれた息子を、どうして愛さぬはずがあるだろう。
しかし、それは一人の父親としての心情であり、王としてはまた違った立場で語らねばならない。
イスファンティアールの身体には、パルティアの王座を継ぐべき正当な血と、
決して継がせてはならない血が同居している。

実際のところ、彼は恐れていた。
蛇王ザッハーグの血を引くあの子が、パルティアの王となることが。
それは幼年期から刷り込まれてきた蛇王家への敵意だけではない。
彼だけが、蛇王が誕生した時にどんな惨事が起こるかを現実として知っている。
もし王位に即いた後に、蛇王の血が目覚める事があったら……
英雄王の末裔として、それだけ決して許してはならない事なのだ。

「私は、貴方が他の女に気を惹かれようと、私への気持ちが薄らごうと、
 それも女の宿命と耐えるつもりでおります。
 けれども、この胎を痛めた我が子がないがしろにされるとなれば、黙ってはおられませぬ」

妃の言葉で、再びファルハード王は罪悪感に苛まれる。
コリーナへの気持ちが薄らいでいる訳ではない。
だが、彼は妻に真実を隠している。
王妃は、あの子の本当の母親では無い。
それを知っていながら、彼と王家の名誉の為に真実を告げる訳には行かないのだ。
その後ろめたさが、いつの間にか王妃への振る舞いに現れてしまっているのかもしれない。

こんな自分の立場を知ったら、あの女はどう思うだろうか。
ふと、十四年前に別れた妖の姫の姿が脳裏に浮かんだ。
きっと、あの女は自分をあざ笑うだろう。
何時になっても忘れられぬ、あの高笑いを放ちながら。

『うふふ、王としての義務と父親としての情愛の間で板挟みになられて、おいたわしいファルハードさま……
 でも、そんな悩み悶えるお顔を見ていると…… そそられてしまいますわ! おおっほほほほほほほーーーっ』

思い出の中で哄笑する美姫の姿を想いながら、ファルハードは王妃の繰言を聞き流していた。


・・・・・・・・・

17Prince of Dark Snake:2008/04/25(金) 06:28:18 ID:I2SYk7dj
『駄目っ! お止め下さいっ!』

相手を跳ね除けようと伸ばした手を、イスファンディアールは巧みに捌いた。
逆にその腕を掴み取ると、床に磔るように押し付ける。
リラーの体は女性としては恵まれている分、体格負けはしていないはずである。
けれども、父親に比すれば未だか細い第一王子が、娘子兵の体を容易く組み伏せた。
その腕力たるや凄まじいものがあった。
押さえ込まれ、拒む事も出来ぬまま、リラーの女陰にイスファンディアールの男根が触れる。
骨が軋むほど強く女の手首を握り締めたまま、イスファンディアールはリラーの女陰に自分の物を捻じ込んだ。
満足に愛撫も与えられぬままであった、先程の情事の残滓が滑りを助けた。
水気を保ったままの膣内に容易く侵入を果たすと、深くその奥を貫く。

『あぅっ!』
『嫌なら、大声を出して助けを呼べ。
 さもなくば、扉を開けて父上の元にでも逃げ込むがいい。
 僕はそれでも構わないぞ?』
『く……、ううっ……』

鍛えぬいた肉体が自慢の娘子兵だが、その分頭の動き鈍いというわけではない。
下手に騒ぎ立てる事が、自分の為にならない事くらいは判る。
もし後宮から追放されたら、家族に仕送りをする事も出来ない。
そして腕っ節だけしかない自分は、どこに身を落ち着ければよいというのか。
恥辱と打算が心の秤に掛けられる。
どちらに傾くか決まるまで、そう長い時間はかからなかった。
かって国王の求めを拒めなかったように、一娘子兵に過ぎぬ身で世継ぎの王子に逆らう勇気は無く、
ファルハード王に今の自分を、姦されかかっているこの場を見られた上で、
今後も同じように自分を扱ってくれるかどうか、リラーには自信が無かった。
こと男女の事について、彼女は不甲斐ないほどに未経験であり、哀れなほどに臆病だった。
リラーの腕から、力が抜けた。

女の抵抗が止むと、イスファンディアールは先端が秘裂から抜けそうになるほどに腰を引き、
そして再び突き入れた。

(はうっ!)

堅く唇を閉じて、喉の奥からこみ上げてくる吐息を封じ込めた。
そうやって堪えていなければ、リラーは呻き声を上げてしまっていただろう。
だが、そんな彼女の忍耐を一切斟酌せず、
イスファンディアールは深々と抉った膣内から柔襞を掻き出さんとばかりに男根を引き、また突き込む。
一度往復させただけでコツを掴んだのか、回数を重ねるごとに動作は素早くなる。
その為に、耐えるリラーにとっては、声を殺そうとするのがますます困難になっていくのだ。
二人の肌が打ち合わされる音は、ひょっとして隣室に聞こえはしないかとリラーが心配になるほど激しい。
父親がしたような女の躯を知り尽くした技ではなく、若さゆえの荒々しい交わり方であった。

(やっ、何故……? 少しも心の通じ合わない交情だっていうのに、何で身体は……)

だが、そんな荒々しい行為であっても、リラーの唇から零れそうになるのは甘い喜悦の喘ぎだ。
それを噛み殺しながら、彼女は懊悩する。
操を捧げた国王に対して、これは裏切りになるのだろうか?
保身の為に、自分は主君の息子に体を許してしまった。
自ら体を開いた訳ではないが、それで自分を誤魔化せるような、器用な忠誠心の使い分けは出来ない。
ではなぜ、脅された上で無理矢理関係を結ばされているというのに、苦痛どころか官能を覚えるのか?
この歳になるまで一人しか男を知らなかった彼女にとって、
それも女の生理であると理解するのには経験が少なすぎた。
 
18Prince of Dark Snake:2008/04/25(金) 06:29:22 ID:I2SYk7dj

(大王っ、どうかお許し下さい……)

主君以外の男に奪われて初めて、リラーは自分がファルハード王を愛していた事を実感した。
臣下の身ゆえの拒めない関係であるのなら、主筋に当たる王子に抱かれるのも同じ筈だ。
だが、今自分の心中には、王以外の手によって快楽を覚えている事への申し訳無さで満たされている。
王を前にした時に、身分の違いや娘子兵という立場を必要以上に意識してしまったのも、
己の本心に気が付く事を怖れていたためなのだ。
ただし、本当の気持ちに気が付いたからといって、陰部を突き上げられる快楽は消え失せはしない。

『ひぁっ! あぅっ!、あんっ……、んん、んんんっ!? ……んっ、んんっ!!』

顔を顰め、屈辱と快楽の両方に堪えるが、もはや唇だけでは声を抑え切れなくなり始めた。
イスファンディアールは掌でリラーの口を塞ぐと、さらに激しく腰を打ち付け出す。
少年が精を搾られる取るまで、それから長くはかからなかった。
膣の最奥にある子宮の入り口を押し上げたまま、精液が脈打ち迸る。
犯された上に膣内に放出された衝撃で、リラーは身を強張らせた。
結果として、彼女の下肢が挿入されたままの男根をきつく締め上げ、
イスファンディアールの放った精液を溢さず受け止めることになったが、
それはリラーの意図するところではなかった。

『……』

一滴余さず出し終えると、イスファンディアールは女から身を離した。
床に脱ぎ散らかしてあった己の衣服を手に取り、素早く身に纏う。

『僕は去ぬる…… 父上たちに覚られぬようにしておけよ』

一方リラーは放心状態にあった。
王子がなぜここに現れたのか?
なぜ自分をいきなり犯したのか?
余りに唐突な出来事ゆえ、湧き起こる疑問を問いただすことも忘れていた。

『リラー……、これで今晩お前が孕んだとしても、父上の子か僕の子か判らなくなったな』

その一言だけを残して、イスファンディアールは部屋の窓から外へ飛び出していった。
忍び入った時と同様、微かな足音さえ立てずに彼は消えた。
王の部屋には、呆然とするリラーがたった一人残された。


・・・・・・・・・

 
19Prince of Dark Snake:2008/04/25(金) 06:31:10 ID:I2SYk7dj
いつの間にか、日暮れ前に居た屋根の上にイスファンディアールは戻って来ていた。
どうやって後宮から抜け出して来たか、記憶は曖昧だった。
ただ無我夢中に夜の王宮を駆け巡り、気が付いたら元居た場所に帰って来ていた。

「なんともまあ、ご早熟なる若君であることよ。
 今夜のところはほんの少し、眼学びして頂こうとだけ思っておりましたのに」
「……」

喉が灼けるように乾いていた。
先ほどの事は、まるで性質の悪い夢だったような気もする。
だが、夢ならば自分に話しかけてくるこの老小鬼も存在しないはずだ。

「ヒョヒョッ、血は争えんということか…… 恐ろしいが、また嬉しい事でもあるわい。
 まさかその歳で、父親が抱いたばかりの女子に襲い掛かりなさるとは……」
「うるさい!!」
「ひょっ!?」

老小鬼の顔に、空の革水筒が叩きつけられた。
それは先刻イスファンディアールが飲み干した後、屋根の上に投げ捨てられていた物だ。

「くっちゃべってる暇があったら、とっとと酒を持ってこい!
 さっきのよりも上等で、強いやつを探してくるんだっ!!」
「ひえっ、鬼使いの荒い若君様じゃ……」

そう呟くと、老小鬼は屋根から飛び立って夜の闇に紛れていった。
もしかしたら、彼なりに主に気を使ったのかもしれない。
一人きりに戻った屋根の上で、イスファンディアールの顔が歪む。

(う、うぅっ……)

怒りでも、憤りでもなく、ただ押さえ切れないのは哀しみだった。
まるで八つ当たりの様に、女子の肌身に荒れ狂う想いをぶつけたが、衝撃は少しも治まりはしない。
妹のリーチェには甘い父が、なぜ自分には厳しくあたるのか?
不自然とも理不尽とも思いながら、父なりに自分を鍛えようと思ってくれているのだと考えていた。
だが、今晩見聞きした出来事から推察される理由の方が、すんなりと疑問を氷解させてくれる。
ただし、それは苦痛を伴う解答であった。
 
20Prince of Dark Snake:2008/04/25(金) 06:31:50 ID:I2SYk7dj

(父上は、僕を王位に即けたくないのだ)

そればかりか聡明な彼は、おそらく父親でさえはっきりと意識はしていないだろう事まで見通していた。
なぜ父王がリラーを寵するようになったのか。
あの小鬼の言うとおり、たおやかな美姫に食傷を起こしたのだろうか?
否、今年で自分は十四歳になる。
もし弟が産まれたとして、その子が同じ歳になる頃に自分は三十前後だ。
壮年の第一王子を差し置いて弟を立太子しようとすれば、波乱を引き起こさずにはいられない。
無意識にだろうが、父は求めているのだろう。
その時自分と王位を争い、勝つことの出来る子を。
たとえば、リラーのような強く逞しい娘子兵から生まれた、母親に似た壮健な身体を持つ息子を。

気が付きたくはなかった。
父がこれほど自分に隔意を抱いていたとは。
目頭が熱くなり、視界が潤む。
彼は必死にそれを堪えた。

『泣かないぞっ、泣くものか! 我はイスファンディアール! パルティアの王子だぞっ!』

心の中で叫び、奥歯を強く噛み締めた。
彼の十四回目の誕生日の朝が、もう数刻後に迫って来ている。


(完)
21名無しさん@ピンキー:2008/04/26(土) 01:14:35 ID:L5P3qsKs
GJです!

part6でも、よろしくお願いします。

22名無しさん@ピンキー:2008/04/26(土) 05:04:46 ID:/EV/zBzH
息子を愛してあげてください(´;ω;`)
切なすぎる・・・
23名無しさん@ピンキー:2008/04/26(土) 07:50:04 ID:ntrJ5JCr
 これはもしや、国を滅ぼす親子喧嘩か?
エロ抜きで面白です。エロがあるのでモオォーーと面白いです。
24名無しさん@ピンキー:2008/04/26(土) 09:57:19 ID:LzX+IocL
これはつまり親の愛人を寝取る展開?wktk
25名無しさん@ピンキー:2008/04/26(土) 15:07:13 ID:O+6kQ+Cb
父ちゃんひでぇ…
26名無しさん@ピンキー:2008/04/26(土) 16:01:34 ID:rrIOK7Su
盗んだ軍馬で走り出す14の夜
27名無しさん@ピンキー:2008/04/26(土) 22:04:27 ID:UHgLNxly
GGGJJJJ!!!!
28名無しさん@ピンキー:2008/04/27(日) 00:18:19 ID:2gCruVJ0
蛇皇子の話、続き読みたい。
まあでも王に蛇姫様への思いがあってよかったよ・・・
蛇姫さまはもうでてこないだろうか
29名無しさん@ピンキー:2008/04/27(日) 00:55:35 ID:cu4SxjLQ
父ちゃん愛人を寝取るほうがもっとひでぇ
30名無しさん@ピンキー:2008/04/27(日) 13:41:49 ID:8y2PxsAm
父の真意は別の所にあると信じたい。
31名無しさん@ピンキー:2008/04/27(日) 18:11:06 ID:rRrqAjPe
はーんー乱!はーんー乱!

なんか戦国時代の斎藤道三と義龍の確執みたいだ
でもこんな俗世間的な価値観のファルバードもこれはこれでいいね
32名無しさん@ピンキー:2008/04/27(日) 21:01:26 ID:08vrtOwa
結局どちらからも逃避の対象にしかされてないらしいリリー(´・ω・)カワイソス
33名無しさん@ピンキー:2008/04/27(日) 22:53:22 ID:rQkNEtG/
英雄だろうが名君だろうが、女にとっていい男かどうかはまた別の話。
(逆もまた然り)

前スレでファルハードをなじった奴です、さーせんw
でも決してファルハード嫌いじゃないっすよ〜。ズルい奴だとは思うけどw
全ては自分がまいた種なので、どうこの問題にケリをつけるかで
ファルハードはんの器量というものを推し量らせてもらいまひょ。

どっちかというと箱入りお嬢だったコリーナ姫の王妃姿に感無量でした。
34名無しさん@ピンキー:2008/04/29(火) 02:59:17 ID:kcWSZN0N
↑そういう言い方されるとなんか腹立つの。ごめんね。
35名無しさん@ピンキー:2008/04/29(火) 10:58:14 ID:cugzRWlK
皆さんご感想ありがとうございます。
レスを貰うと書き手の身にはとても励みになり、嬉しいです。

蛇姫様の話は皆さんに好評なようで、書いて良かったと思います。
イスファンディアールの今後が気になる方もおられると思いますが、
一応本編の外伝なのでこれで終わりです。



終わった後だから言いますが、実は蛇姫第一話は数年前初めて王書に目を通した頃、
脳裏に浮かんだ話がベースになっており、その時は王子と蛇姫の性別が逆だったんですよね。
魔王の話を書いていたため、力関係が男>女だと代わり映えがしないと思ってプロットを変えたら、
逆に展開がしっくり来てしまいました。



しばらくしたら、半年振りに魔王の話を再開します。
今後ともよろしくお願いします。
36名無しさん@ピンキー:2008/04/29(火) 13:09:23 ID:YaocGqPx
ちょっと残念ですけど、それこそガイエが「銀河英雄後伝」とか「その後のユリアン・ミンツ」なんてのは書かない、と言っているように、
物語の外伝は読み手に想像させるだけでいいのかもしれません。

・・・読んでみたくはあるのですが。
では、魔王の続きに期待して全裸待機してます。
37名無しさん@ピンキー:2008/04/29(火) 19:18:02 ID:EQUt8Rm/
エロがなくても面白い
なのにエロがあるともっと面白いとな

困ったやつよのw
38名無しさん@ピンキー:2008/04/30(水) 13:06:51 ID:Ldsao1X9
蛇姫続きないのか・・・orz
39名無しさん@ピンキー:2008/05/01(木) 00:26:21 ID:d9xcbJ/0
蛇王子の続きがないのは多少残念ですが、
魔王様が御来訪とあっては、楽しみにせざるをえません。

具体的にいうと、全裸待機その2。
40名無しさん@ピンキー:2008/05/01(木) 02:08:11 ID:upzQzBfZ
蛇王子はべつに続かなくていいや
41名無しさん@ピンキー:2008/05/02(金) 01:55:36 ID:T72FsFCR
保守
42名無しさん@ピンキー:2008/05/05(月) 01:20:15 ID:XmE3pHPh
保守
43名無しさん@ピンキー:2008/05/07(水) 22:57:53 ID:EHD7swba
保守
44アビゲイル:2008/05/07(水) 23:23:20 ID:XcLNsbuH
こんばんわ
保守続きなのでアビゲイル番外編をささげます。
45薬(前)1/9:2008/05/07(水) 23:24:45 ID:XcLNsbuH
1/9
暑い。

さすがの北城も、夏の間は暑く過ごしにくい。
森に囲まれているからか、湿度も高い。
日中は熱を避けて人々は屋内で過ごし、活気があるのは明け方から昼までと、夕方から深夜、ということになる。

厩舎で馬たちに水を与えている手を止めて、アビゲイルは照りつける太陽を仰ぎ見た。
アビゲイルはこの夏のはじめに、特に命じられて新兵の訓練を担当した。
もともと兵を錬ることについては定評があった。
今度の城主は合理的な考えの持ち主らしく、適材適所であれば身分関係なく配置転換行うようである。
敬愛するロクは隙のない警備を買われ、北東の要、岩場の出城主として配置転換され、アビゲイルは中隊長に昇格し、北城を拠点として短期の野営野戦の実践訓練を行う日々を送っている。

涼しい山の砦が恋しい。
この次の野営訓練は山岳地帯を選ぶことにしよう。

2日後には国境偵察をかねて森林地帯に経験のない歩兵を50人ほど連れて行かねばならない。
すでに50人すべてを面接し、小隊にわけ、さらに5人単位の組を作り、中堅兵を指導者として用意した。
アビゲイルは新兵の経験値を上げるだけでなく、指導者となる中堅どころの更なるレベルアップを狙っている。
物資は受けとった。あとは、北東方面の実務に携わる責任者数名と哨戒ラインの打ち合わせを済ませるだけだ。
擦り寄ってくる愛馬の額をかるく撫で、アビゲイルは厩舎を後にした。
46薬(前)2/9:2008/05/07(水) 23:25:34 ID:XcLNsbuH
アビゲイルは今度の野営訓練の場を北東方面の森林地帯に設定した。
ここは針葉樹が多く冬場も緑が絶えないうえ、岩場も多く、身を隠しやすい地勢である。
秋から冬にかけて、山岳民族が侵入するルートと考えられている。
責任者会議の意見が割れた。
一方の意見は・・・新兵には重い。相手は容赦してくれない。主に後方支援を担当するサガエラ大隊長と部下マサトグ中隊長などの主張である。
もう片方は前線の哨戒長ナナ―クハと近隣の砦主ボロドが中心であった。いわく、この時期50人からの兵がうろうろしていれば、うかつに進入することはないだろう・・・
前線をあずかるナナ―クハと後方支援のサガエラはもともと仲が悪い。
会議は白熱し、予定時間を大幅に過ぎてしまったが、結局、山岳方面に深入りしないことを条件に、ほぼアビゲイルの設定どおりの訓練を行うこととなった。

責任者会議のあとは、酒席となった。・・・どの世界でもよくあることだ。

この国の軍人が好んで飲む蒸留酒は、度数が高い割に無味無臭で、飲み手の好みによって果汁や他の飲み物と混ぜて飲むものだ。
訓練の指揮を2日後に控え、アビゲイルは自重していたが、周りの者は徐々に酔いがまわり始める。

帰砦を明日に控えたボロドが部下とともに退出したのを機会に、アビゲイルも退出しようとした。
が、マサトグに引き留められた。
仲の悪いナナ―クハ哨戒長との舌戦の後でもあり、上司のサガエラ大隊長のご機嫌が悪い。
軍議の後の酒席に女を呼んでごまかすわけにもいかず、聞き分けのないサガエラを持て余して、マサトグは心底困り顔であった。
アビゲイルとマサトグはお互いに中隊長に立てられる前、ロクの部下として共に働いていた旧知の仲だ。
訓練所でも数ヶ月一緒に訓練をうけた先輩だ。
宥め役として酌をたのまれると、無下にことわるわけにもいかず、ずるずると酒を飲むことになってしまう。
サガエラ大隊長に勧められた酒を飲み干せば、次はナナ―クハ哨戒長の酒・・・強い酒をしこたま飲まされ、次第にアビゲイルにも酔いが回ってきた。

暑い。

サガエラ大隊長から珍しい南方の酒をすすめられて飲んだあたりから、本格的に酔いが回ったのだろう。
暑く感じられてしょうがない。
アビゲイルは夏だというのにきっちりと着こんだ制服の胸元を少し緩める。

ほっそりとした首元から垣間見える鎖骨のくぼみに、釘付けになったのは一人や二人ではなかった。
ゴクリ、と生唾を飲む音が聞こえたのは気のせいではない。
47薬(前)3/9:2008/05/07(水) 23:26:24 ID:XcLNsbuH
上気した頬を、手であおぐアビゲイルを心配したのか、マサトグが声をかけた。
「そんなに飲んでも大丈夫か?」
上目づかいにマサトグを見上げるアビゲイルは、首筋まで赤く染まり、目はうるみ・・・その部屋にいる誰もに煽情的に映る。
「・・・弱いほうじゃないんだけどなぁ。」
小首を傾げるしぐさも気だるげで、普段は見せない色香を感じさせた。
「この訓練が終わったら、気楽にのめるかな」
にっこり笑いかけて、マサトグに返杯をついでやると、マサトグの顔がアビゲイル以上に赤くなる。
アビゲイルの笑顔と酌を求めて、皆が酒を注ぎに群がり始めた。

気が付くと、いつもより饒舌な自分がいた。
問われるままに、城砦での生活のこと・・・父のこと、弟のことを話してしまった。
南方の酒のせいか。自制がきかなくなるまで酒をのんだことはないが、そろそろ退席しよう・・・
ぼんやりと考えているさなかに、ある問いが投げられた。

「今は特定の男がいるのか?」

誰から発せられたのかはわからない。普段のアビゲイルなら、聞こえないふりをしてその場をやり過ごす。
ところが。
「いませんよ」と、口が勝手に答えを出してしまう。
おお、と男たちがどよめく。
「親が決めた婚約者とか?」
軽く流そう、と思っても、真実が口を付く。「そんな家柄ではありません」

なにか、おかしい。
深酒とはいえ、心拍が上がりすぎだし、体温も異常に上がっている。

「好きな男はいないのか」
ちらり、とある男の顔が浮かんだ。春の終わりに別れたきりの、口にすることができない秘密の男。
「・・・別に」かろうじて、耐える。心臓が爆発しそうなほど苦しい。
「男がいないなら、俺、立候補しようか?」「結構です」
素直に答えれば苦しくはないが、自制すると心拍が跳ね上がる。

・・・薬物か。
これ以上、おかしな質問に答えてしまうまでに退席するべきだ。

「赤鬼と関係があったのはほんとか?」ナナークハが興味津津に聞いてきた。
48薬(前)4/9:2008/05/07(水) 23:27:11 ID:XcLNsbuH
「仕方がありませんでした」
事実なのだからしょうがない。正直に口に出した。
「赤鬼はどうだった?」周りの男達の目の色が変わった、と感じる。オスの本能が透けて見える。

「おっしゃることの意味がわかりません」心拍が戦闘中のように跳ね上がる。
マサトグでさえ、興奮を抑えきれていないことが見て取れる。
「抱かれごこちはどうだった、と聞いてる。」下卑た笑いとともに聞いてきたのはサガエラだった。
「別段どっうてことありません。」
熱気を帯びた男たちの視線に、鳥肌がたつ。
「城主は女を殴ったり縛ったりすると聞いたが、本当のところどうなんだ」
欲望の渦巻く視線にさらされることで、逆にすこし覚めることができた。

・・・城主のことをこれ以上聞かれるとこまる。

ふらり、と立ち上がると、めまいがした。
「どうした、アビゲイル」
「・・・酔いました。手水に」

酒のせいか薬のせいか判断できないが、相当、足にきている。
支えたのは、見知ったマサトグだったので、アビゲイルは安心して肩をかりた。
困り顔で不安げなマサトグにあごで早く行け、と促すサガエラや取り巻きの好色な笑顔を、アビゲイルが見ることはなかった。
49薬(前)5/9:2008/05/07(水) 23:28:00 ID:XcLNsbuH
手近な水場で、胃の中のモノを無理やり吐いて、大量に水を飲む。
こんなことで吸収された薬物が抜けことはないのだが、アビゲイル水を飲んでは吐き続けた。
アビゲイルの背中をさするマサトグが、不意にアビゲイルに問いかけた。
「・・・ハザウエイと関係があったってのは、本当なのか?」

真剣なマサトグのまなざしにたじろぎ、思考が一瞬停止した。

茶髪の丈夫。かすんだ頭の中で名前と顔が一致するのに時間がかかる。とても遠い出来事なのだ。
「なりゆきで・・・一度きりだ」
あんな冷めた情事はもうまっぴらだ。
めまいの中で吐き気がこみ上げ、生暖かい水を少量もどし、咽た。

背中をさする手を止めずにマサトグがつぶやいた。
「その・・・なりゆきが、俺の上に訪れる可能性はある?アビゲイル」
真意を測りかねて、咳き込むアビゲイルが目を細めマサトグを訝しげに見上げる。

「このままだと、俺は・・・大隊長の部屋にあんたを連れて行かないといけない」
マサトグは手を止めない。
傍目には酔った同僚を解放するいい奴にみえるだろう。
「アビゲイルの答え次第で」
再度の吐き気で、先ほど飲んだ大量の水を全部吐き戻してしまった。
苦々しさは胃液のせいだけじゃない。
・・・もう、好きにしろ。
肉体的なくるしさと覚束ない思考に何もかもが面倒になったとき、頭上から声がふってきた。

「はい、そこまで」
50薬(前)6/9:2008/05/07(水) 23:28:42 ID:XcLNsbuH
底抜けに明るい声は、介抱するほうにもしない方にも聞き覚えのあるものだ。
「だめだなぁ、アビゲイル。こんなになるまで飲まされちゃってさぁ」
ごく自然に二人の間に語り笑いかけた。
通りすがりの人間には同じ宴席から抜け出てきた仲間に見えただろう。

夢かもしれない。
ひどくなる一方のめまいの中、夢でもいいか、とアビゲイルは男にしなだれかかり、首に手をまわした。
思いのほか肌がひんやりとしていて、気持ちがいい。
額を男の首筋に当て、ため息をつく。

夢のようだ。
いとおしい女が、自から手を差し伸べてくれるなんて。
一瞬、課せられた役目を忘れてこのままこの女をどこかの部屋につれこんでしまおうか、などと考えている自分に苦笑する。
女が背中に回した手指の感触と、首筋に当てられる吐息をたっぷりと楽しむ。

それは誰が見ても恋人同士の抱擁に見えた。

まるで悪夢だ。
アビゲイルはさっきまで手の内にあった。
宴席で決まった男も好いた男はいないとアビゲイルは確かに言った。薬はきいてなかったのか?
この男も見たことがある・・・たしか訓練所でわりと優秀だった奴だ。アビゲイルと面識が?

混乱する男を尻目に、二人は抱擁を楽しんでいる。
男がよしよしと女をおとなしくさせた後、人懐っこい笑顔をマサトグにむけた。
「だめだなあ、マサトグ。女に薬なんか飲ませちゃってさあ」
これ以上はない笑顔なのに、目が、笑っていなかった。
あまりの眩しさにマサトグは気が遠くなり、現実感を失った。
51薬(前)7/9:2008/05/07(水) 23:29:35 ID:XcLNsbuH

暑い。

生暖かい夜具の感触が気に入らず、寝返りを打つ。
上着を取ってしまおうと無意識に服を緩めた。

ふいに、冷たい水が口に流しこまれてくる。
強烈なのどの渇きを感じて貪るように飲み下す。

たりない。
気持ちがそのまま言葉になったようで、今一度、水が与えられた。

まだ、たりない。

霞がかかったような思考を奮い立たすように、2・3度頭を振って上半身を起こした。
暗い部屋の中には細い灯火が揺らめいている。
「・・・ここは」
ゆっくりと、灯火が近づき、アビゲイルは眩しさに目を伏せる。
「俺の宿舎」ひかりの持ち主が、おずおずとアビゲイルを抱き寄せる。
「会いたかった、アビゲイル」
つつみこまれる暖かさは不快な暑さとは違って肌に馴染んで心地よく、アビゲイルはうっとりと目を閉じた。
「・・・私もだ、タイロン」

「もう一仕事残ってる、おとなしく寝ておいで」
言われるままに横になり、離れていく男の背中を目で追った。
いつになく素直なのは、盛られた薬か酒のせいにしておこう。
52薬(前)8/9:2008/05/07(水) 23:30:40 ID:XcLNsbuH
かちゃり、と音がしてドアが開き、熱に浮かされたようなマサトグに先導されて、サガエラが入室してきた。
寝台に横たわるアビゲイルの姿に、涎を落とさんばかりだ。灯火の反対側に佇むタイロンには気づきもしない。

「気分はどうだ、アビゲイル中隊長」寝台の上ににじりよりながら、早くも自分の下帯を解きにかかっている。
「悪くない・・・な」
夢を見ているような口調のアビゲイルは、サガエラのことなど眼中になく、ぼんやりと横たわっている。
いまからもっと気持ちのよい目にあわせてやる、などと益体もないことを口にしながら無遠慮に手を伸ばしてきた。

「マサトグ、サガエラ大隊長どのを拘束しろ」低く抑えられた声に、聞き覚えはなかった。
アルコールと性欲に支配された大隊長は抵抗することもできず、部下の手によって羽交い絞めにされ、身動きが取れなくなった。

「マサトグ、お前はこの男に命令されて、女に薬を盛ったな」
「はい」

「うそだ!マサトグ、だまれ!」喚き声を、部屋にいる誰もが取り合わない。

「どんな薬だと聞いている?」
「媚薬だ、と聞きました。正直になり、房事が病みつきになる薬で、人体に害はないと。」

サガエラは、姿の見えない声の主を求めて暗闇を透かし見る。

「今まで何人ぐらいに飲ませた」
「10人はくだらないと思います。」

命令に忠実な部下の口から悪事が零れていく・・・
「こいつが勝手に言ってるだけだ。証拠は何もない!」

ふ、ともう一本灯火が灯る。「証拠などいらんよ」
細い灯火が見る見る大きくなり、満月のような真円の輝きがサガエラに近づいてくる。
「アビゲイル、俺の名前を」

「・・・タイロン・ツバイ・イエ」

サガエラが白目をむいて昏倒した。
53薬(前)9/9:2008/05/07(水) 23:31:29 ID:XcLNsbuH
「・・・人が悪い」

腕の中に抱き込んだ愛しい女が、上目遣いに睨みつけている。
「なんのことだ」しらばっくれてみる。
「天眼を持ってすれば、何事も苦もなく詳らかになるだろう?」
タイロンも最初はそのつもりだった。
今回の標的がアビゲイルと分かって、しかもマサトグの欲望もアビゲイルに向けられていると知って完全に逆上したとは、本人にはとてもじゃないが言えない。
「俺、未熟者なんだよ」耳を甘く噛み締めてささやき声を流し込む。
アビゲイルの喉元が脈打つ。

「耳をこうされるが好き?」「・・・くすぐったい」
そっと衣の中に手を差し伸べて、ゆっくりと脇腹をなでる。
ぴくり、と引き締まった腹筋が痙攣した。
「・・・ふ・・ぅ」与えた快楽で押し出された声に満足し、だめ押す。「これは?」「・・ぁ・うん」
ゆっくりと、アビゲイルの首筋に血が上り、頬が上気してきた。
胸元に手を伸ばし、巻き絞めている布を取り去る。
快楽への期待ですでに頂が尖っている乳房がまろびでた。

「・・・お前を今抱きたい」
お互いに、潤んだ瞳で見詰め合う。
「私もタイロンに抱かれたい」
愛撫の必要がないほど準備が整ってしまったお互いに、苦笑を交わしながら貫き、受け入れた。
54薬(前)おしまい:2008/05/07(水) 23:32:38 ID:XcLNsbuH
また来週/~~
55名無しさん@ピンキー:2008/05/08(木) 00:28:28 ID:qUFxiufH
久しぶりに読めて嬉しいです。
アビゲイルが他の男に抱かれなくてよかった!
続きも待っています
56名無しさん@ピンキー:2008/05/08(木) 06:38:10 ID:dtcejUMr
おぉぉぉぉ!
また会えて嬉しいよ!
激しくGJです
57名無しさん@ピンキー:2008/05/08(木) 14:08:53 ID:pqxn42AV
待ちかねてました!
相変わらずGJです!
58名無しさん@ピンキー:2008/05/08(木) 17:31:52 ID:EC1q2ckl
アビゲイルの人きたああああああああ!
赤くなって火照るアビィも可愛いよアビィ可愛いよ


ってかタイロン相変わらず神出鬼没ですな
59名無しさん@ピンキー:2008/05/09(金) 01:09:00 ID:7iCVWN1X
↑最初と後のテンション違いすぎだろ(笑)
60名無しさん@ピンキー:2008/05/09(金) 01:46:50 ID:FclVmD6m
おおおおおおおいつもながら素敵です
61名無しさん@ピンキー:2008/05/14(水) 00:10:42 ID:vo9RX3PO
>54の言葉を信じて、今週中の投下、腹筋しながら待ってるよ
62薬(後)おまたせ:2008/05/17(土) 01:08:51 ID:gpJk5gS4
おこんばんわ。
後編投下に来ました〜
お付き合いかた、よろしくでござる。
63薬(後)1/8:2008/05/17(土) 01:09:58 ID:gpJk5gS4
部屋には静寂がおとずれている。
けだるい空気には情事の残した匂いがのこる。
アビゲイルはタイロンの肩を枕に、タイロンはアビゲイルの髪に口元をよせて、まどろんでいる。
これ以上は体力の限界、というところまでお互いに愛し合ってしまった。
この至福の時間をもう少し楽しんでいたいのだが、仕事の後始末が出来ていない。
ため息をひとつ残して、タイロンは愛おしい女を手放して寝台から起き上がった。・・・ろうとした。

肘に巻きついた白い指がするすると腕にまとわりつき、思ってもみない力強さで寝台に引き倒おされた。
「もう、ちょっとだけ」
アビゲイルの声はかすれているが、タイロンには甘くしみいった。
鍛え上げられた胸筋の上に耳を寄せて、アビゲイルは心臓の音に耳を傾けている。

「私に盛られた薬は何?」
タイロンがやり残した仕事お思い出し起き上がろうとは思うのだが、寝台から、アビゲイルから離れられない。
「芥子じゃないし・・・」
さらさらと流れるアビゲイルの栗色の髪が、タイロンの胸筋を刺激する。

「芥子を知ってるのか?」アビゲイルが手にしているとは信じがたい。
森の国からひそかに流入する芥子は、この国の課題のひとつである。
煙草のように吸うと、美しい夢を見せ楽しい気分になる。
が、常習者は活力を失い体を壊して死にいたるのだ。
「一度、北からの密輸品を砦で焼きすてた。みんな、一日中浮ついてて大変だったよ。」
アビゲイルの指が、タイロンの鎖骨の上をさまよい始めた。
「私はだめだ。煙は目にしみるし、ひどい頭痛で、あんなものがいいとは思えなかった」
タイロンの乳首を捕らえて弄びはじめた。
「芥子の効き目は人によるからなぁ」答える声が乱れて上ずってしまった。
「で、あれは何?」
好奇心か、欲情か、きらりと光る目が美しい。
64薬(後)2/8:2008/05/17(土) 01:10:52 ID:gpJk5gS4
タイロンは少々ためらったが、アビゲイルに真実を告げることにした。
「自白剤」そっとアビゲイルの耳に口を寄せてささやく。
アビゲイルは動きを止めて、じっとタイロンを見る。

額に天眼を抱く魔法使い一族が治めているこの国には自白剤など必要のない代物である。
天眼者が第3の目を開いて命じれば、真実など容易く手にはいるのだから。
そのことを、彼女は知っている。

「・・・簡単に言うと、嘘がつけなくなる薬。」
昨晩の酒席を思い返せば、なるほど納得がいく。
彼女の眉間に刻まれたしわに、タイロンは口付けた。

「どこから・・・」
指を、彼女の細い首に回し、栗色の髪に絡める。
ここちよさにアビゲイルの苦い表情も緩む。
「海から入り込んでるけど、出所は西の砂漠の向こう」
にっこり笑い、うなじを撫で上げながら、続ける。
「国内では、媚薬として裏取引されてる。」

「昨晩を思い出してごらん」
まろやかな線を描く背中からやわらかい尻までをゆっくりと撫で下ろすと、アビゲイルの肌が泡立つ。
「お前はこうされるのが好きだといったぞ」
つま先まで走る快感に、アビゲイルは目を細めた。
「ぁ・・・そうだ、な」
乳房の頂が硬くなるのが判る。同時に、タイロンの男根が自己主張を始めるのも。
65薬(後)3/8:2008/05/17(土) 01:11:40 ID:gpJk5gS4
タイロンは両手でアビゲイルの尻をゆっくり捏ねる。
「この奥に触れてくれ、と懇願した、な?」
見る間にアビゲイルの頬に朱が注し、恥らって目をふせる。
「ぁ・・・うん」
「気が狂いそうなほどいい、と言ったろ?」
そのとおり。昨日の熱狂が次々に脳裏に浮かんで、いたたまれない気分になった。

「・・・薬の効き目はいつまで」話を逸らそうと答えと違うことを口にすると、息がつまるほど心臓がはねた。
「効き目はまだ、続いてるみたいだなぁ」
意外そうな顔をしながらも、後ろから片手を差し入れた。そこは滴り落ちそうな蜜を湛え、タイロンを待ち構えていた。

タイロンは坩堝に直接触れず、周りの薄い茂みを撫でたりひっぱたりして弄ぶ。
じらされることに耐え切れずにアビゲイルの腰がうねる。

「どうしてほしいか、言って」

いえない。一度口にしたら止め処なく、はしたない言葉が湧き出るとわかっていた。
タイロンはどうしようもなく魅力的な悪童の笑みを湛え、まっすぐアビゲイルを見ている。
小憎らしいのだが、惹かれてやまない。
恥ずかしいのだが、目をそらすことができない。

「ほら、どうされたいか言えよ」

観念して、アビゲイルは口を開く。「・・・もう、タイロンの好きにしろ」
全身をほんのりと朱にそめ、ちょっと拗ねたような口調も愛らしい。
タイロンは思わず彼女を強く抱きしめた。
66薬(後)4/8:2008/05/17(土) 01:12:28 ID:gpJk5gS4
後ろから、男の太やかで長い指が自分の中に入り込む。
「あぅ・・・ん」やっと与えられた刺激に思わず声が漏れた。
タイロンは確かめるようにアビゲイルの内壁を一周する。
敏感な場所はすでにタイロンの知るところである。丁寧に愛撫されると、アビゲイルの尻は切なげに震えた。
指を抜こうとすると、アビゲイルの粘膜は指を離すまいとするように蠕動し、内部へといざなう。
「指を食いちぎる気か」
ささやき声はくつくつという笑い声とともにアビゲイルの耳に注ぎ込まれ続ける。
彼女は恨めしげにタイロンをにらみつけるのだが、その目は欲情で潤んでしまっていて、かえってタイロンの加虐に火をつけた。

排泄に使用する孔へも温む坩堝から蜜をたっぷり擦り付け揉みほぐす。
「ううっ!」それは、彼女にとっても未知の刺激であった。
違和感が確実に自分を快楽へ追い詰めることに恐れをなして、アビゲイルは逃れようと身をよじる。孔も異物の進入を許すまいと窄まる。
連動して泉もこれまで以上に収縮し、アビゲイルに爆発的な快楽をもたらした。
「あ・・ぁぁあ」
「おまえ。ここも感じるのか」アビゲイルは考えるまもなく首を縦に振った。

タイロンは容赦しない。淫核へと指を伸ばして爪弾いた。「ん、ぅ」
ここにも溢れ出している愛液を潤滑に、露出した敏感な器官を撫でさする。
「昨晩はここが一番気持ちがいい、言った。」
10本の指を巧みに動かし、今度は後ろの孔への刺激を強めた。
「今はどっちが感じる?」
交互に与えられる快楽と、意地悪な質問。
羞恥と快楽とに挟まれたアビゲイルには、動悸が薬のせいなのか絶頂のせいなのか判らない。
「ぁど・・っ・・・ちもぉ・・っぅ・いぃ・ぁあ」応える声はすでに言葉をなしていないが、タイロンは満足げに目を細めた。
前後への刺激をやめないままに差し込む指を増やし、アビゲイルを高みへと追い立てる。
彼女は導かれるまま抱かれた胸に爪をたて、腰をくねらせながら訪れた絶頂を味わった。
67薬(後)5/8:2008/05/17(土) 01:13:22 ID:gpJk5gS4
絶頂の余韻にまどろむ女を残して寝台を降りる。
汗の引かないアビゲイルの為に窓を開けて風を呼び込んでやる。
日が昇りきる前にすでに日中の暑さが思いやられるような快晴であった。

不届き者を一人ひとり起しては、天眼で聞きたいことを聞き出し、今後のことを指示する。
アビゲイルが、寝台で半身をおこし、頬杖をついてこちらを見つめていた。
「泳がして、薬の流れを探るのか」
そっと出口からサガエラとマサトグを送り出し、後ろ出にドアを閉めた。
「うまいこと渡りをつけて、組織に入りこんでやろうと思ってさ」
にっこりと笑った顔に天眼はない。

アビゲイルのそばに腰を下ろして、手を伸ばし頬を撫でる。
「お前にしたように薬を使うとな・・・女はみんな自分が淫蕩だと思い込む」
深いため息をついた。
「攫われて、薬で娼婦に仕立て上げられて、外国へ売られていくんだ。・・・しょうがない、私は淫蕩なんだから、と思い込んで。」
アビゲイルが、タイロンの手に自分の手を重ねて、労わるように撫でた。手の甲に唇を当てる。
「おまけに見つけて連れ戻しても、色狂いは治せない。」
怪訝な顔で、アビゲイルは男を見上げた。
「心は忘れても、体が覚えてる。男出入りが絶えなくなって、結局娼館へ逆戻り」
もうひとつため息をつくと、寝台にひっくり返った。
如何ともしがたい問題に立ち向かうタイロンになんと声をかけたらいいのかわからない。
動物のように、寄り添ってじっとしていた。
68薬(後)6/8:2008/05/17(土) 01:14:08 ID:gpJk5gS4
ふいに、タイロンがくしゃくしゃ、とアビゲイルの髪をかき回す。
「まぁ、蓋を開けたらお前が引っかかってたのには驚かされたなぁ」
金色の目が、思い出し笑いで緩んでいる。
「仕事を一生懸命すれば、ご褒美が用意されてるってわけだ」
体を変えて、彼女を押しつぶしてしまわぬ様にアビゲイルの上に覆いかぶさる。
アビゲイルの方から、タイロンの首に手をまわし口付けを交わす。
長い長い、深いキス。

「・・・もう一度、私を抱く?」
率直な問いに、タイロンは笑い出した。「やめとく。」
アビゲイルが不服そうに唇を突き出す。その唇にをついばむようにキスを落とす。
「今お前を抱いたら、明日使い物にならなくなるぞ。演習の責任者だろ?」
いつのまにやら背中に回った両手は、中心線をゆったりと行き来しはじめた。
「・・・20日は帰ってこない・・・」
アビゲイルは、タイロンの耳を甘く噛み、舌で捏ねて誘惑の声を注ぐ。

刺激を受けて正直に反応してもたげ始めた男根を、アビゲイルの体から遠ざけようと試みる。
体を浮かせたその隙間に、回り込んだ細い指が、中心へまとわりつく。
「・・・こら、ききわけろ」
「その間に、またお前はいなくなるんだ。」
怒ったように言い捨てると、アビゲイルのしなやかな足がタイロンの腰に巻きつく。
「あ、アビゲイル?」タイロンはすっかり狼狽してアビゲイルの顔を覗き込んだ。

その瞳には、なみなみと泪。

「・・・アビゲイル」
慈しむ視線をうけ、ついに瞳は決壊して行く筋もの涙の筋が、落ちていった。
69薬(後)7/8:2008/05/17(土) 01:14:51 ID:gpJk5gS4
アビゲイルは、盛大に泣いた。
寂寥、慕情、喪失感、安堵と裏返しの不安・・・さまざまな思いがいっせいに押し寄せて、うまく言葉に出来ない。
わんわんと、むずがる幼子のように声を上げ、涙が止まらない。
こんなふうに泣いた記憶は過去、ない。

「・・・ぅっいつも 突然現れて消える」
きれぎれに、嵐のように渦巻く言葉を全部言葉にしてタイロンに投げつける。
「こ、ころを乱すだけ乱して、放り出す・・・」
タイロンは、いちいち頷きつつ、アビゲイルの頭をなででやっていた。
「どこにいるのか、生きているのかも分からない」
アビゲイルの額に唇をあてて、包むように抱きしめてやる。
しばらく、室内にはしゃくりあげるアビゲイルの声だけが響いていた。

アビゲイルがようやく落ち着いておとなしくなった時、すでに太陽は高みへと押し上げられている。

目じりから、下へ流れた涙の後に唇をあて、なめ取ってやる。
「・・・悪かった」バツが悪そうな顔で、アビゲイルが視線をそらす。「取り乱したりして」
タイロンはアビゲイルの頬を挟んで、自分のほうを向かせ、視線を合わせる。
「いや・・・俺も至らなかった」乱れた額の髪をつまんでよける。

「お前に何一つ約束はしてやれないけど」
そっと口付けを落とす。「何より、アビゲイルのことを大切に思ってる。どこにいても。」
吐息が、お互いの唇から溶け出した。
「・・・・・そんなこと、知ってる」目を細めて満足した表情で、目を閉じる。
一人の男からもたらされる満ち足りた幸福。

泣き疲れたのか、そのまますうすうと寝息をたて始めたアビゲイルの横でタイロンも目を閉じた。
いろんなことが、一度にありすぎる。
心地よい疲労感と手の内のぬくもりに誘われて、タイロンも眠りに引き込まれた。
70薬(後)8/8:2008/05/17(土) 01:15:51 ID:gpJk5gS4
暑い。

どれくらい眠っていたのか。
傍らに感じていた温みがうせたような気がして、わずかに覚醒した。
女を抱き寄せようと、手伸ばして探るが、見つからない。

あわてて起き上がる。
午後の日差しが直接入り込み、暑さがこもる部屋にたった一人取り残されていた。

なんという喪失感
泣きながら彼女が訴えたことが、改めて現実感を持って胸にせまる。

自分は、はっきりとアビゲイルに対する思いを口にした。
今度は、アビゲイルの口からはっきり、自分に対する想いを聞こう。
無論薬抜きだ。

起き上がり、すっかり温くなった水差しの水を口に含む。
ふ、と水差しの下に紙きれがおかれているのが目に入る。
走り書きで”またお会いできますように”と書いてあった。
じわり、と暖かいものが胸に湧き上がって、思わず笑みがこぼれる。
「手早く仕事を片付けて、会いにいくしかないよなぁ」

短い偶然の逢瀬が、彼らの間に確かな糸を張った。
71薬(後)おしまい:2008/05/17(土) 01:17:09 ID:gpJk5gS4
ありやとございました。
72名無しさん@ピンキー:2008/05/17(土) 04:04:21 ID:ASN4Jnn4
一番槍GJ!

アビゲイルの泣いた顔も可愛いよ。
73名無しさん@ピンキー:2008/05/17(土) 12:54:10 ID:8XtR5pGO
超GJ!

二人の絆があったかくってよかった。
74名無しさん@ピンキー:2008/05/17(土) 16:54:29 ID:+N1Nw285
続編キタ━━(゜∀゜)━━!!
アビィは可愛いしタイロンはかっこいいな!…神出鬼没だけど

アビィが幸せそうで良かった!
75名無しさん@ピンキー:2008/05/17(土) 17:05:22 ID:BJM/yR65
続編待ちかねておりました!!
二人ともいいキャラだなあ…幸せになってほしいです。
76名無しさん@ピンキー:2008/05/20(火) 21:51:53 ID:/Qh3l2UM
ほしゅ
77名無しさん@ピンキー:2008/05/25(日) 17:04:02 ID:eA15ocdt
保管庫はいつ復活するのだろう保守
78名無しさん@ピンキー:2008/05/25(日) 20:11:34 ID:wtb/xl1S
>>77
管理人さんが音信不通になって半年以上か。
前スレの作品も保管されていないし、Wikiで新しい保管庫を設立すべき時期に来ているのかもしれんね。
みんなで管理できる保管庫の方が、こうした状態は回避しやすい。
79保管庫のエロい人:2008/05/26(月) 00:05:50 ID:dDWhRq4V
すいません、今月いっぱい急がしいんで、来月になったら早急に手を打ちます。
姫スレの最終更新は3月だし、掲示板は10日に1度くらいは見ているので、
特に音信不通にはなってないです。
80名無しさん@ピンキー:2008/05/26(月) 00:47:24 ID:Cs+UQ4qQ
>>79
おつかれです。
81名無しさん@ピンキー:2008/05/26(月) 12:38:47 ID:rZD2Zcco
先走ってwikiを借りてしまったけど、音信が取れてよかったです。
あまり無理をなさらずにー。
82魔王の書き手:2008/05/29(木) 22:16:54 ID:fo+ansuz
いつもお読み頂いている皆様には申し訳ありませんが、
再開予定であった魔王の物語、ヘタレ、および新作の投下は、
規制に巻き込まれてしまって解除の見通しも立たないようなので、
いったん休載とさせて頂きます。


ネタ的には既に準備出来ているのですが、
こればかりはどうしようもありませんので、ご理解頂きたく思います。
83名無しさん@ピンキー:2008/05/29(木) 22:20:54 ID:iCKG54QT
/^o^\
84名無しさん@ピンキー:2008/05/29(木) 22:43:37 ID:GQLYe0Tk
>>82
了解しました。楽しみに、しかし気長に待っております。
85名無しさん@ピンキー:2008/05/29(木) 23:04:25 ID:e7Ibf5sE
じらしもまたプレイのうち・・・(*´Д`)ハァハァ
86名無しさん@ピンキー:2008/05/31(土) 03:11:00 ID:h5Jw+Oj0
保守
87名無しさん@ピンキー:2008/06/03(火) 12:55:20 ID:MIOjPmv/
もう、アリューシア様は降臨しないのかしらね〜?
88名無しさん@ピンキー:2008/06/03(火) 14:14:03 ID:Ekj6hEjS
アリューシアなら、今、俺の隣で寝てるよ
89グルドフ:2008/06/03(火) 14:46:10 ID:MIOjPmv/
・・・・どちらさまで?
90名無しさん@ピンキー:2008/06/03(火) 19:13:06 ID:J79ZyiCe
>>88死亡フラグたったw
91名無しさん@ピンキー:2008/06/10(火) 02:03:35 ID:otmBkpA8
>>88
帰ってこないな…やられたか…
92名無しさん@ピンキー:2008/06/10(火) 23:24:30 ID:aJflt6a5

・・・──気がつくと彼の腕がからみついている─

まだ明け方の鳥も夢の中にいる頃
少しの息苦しさを感じ彼女は目を覚ます。

そして自分の状況を理解する。
「・・・まただ・・・」
彼女の婚約者─いや、恋人の腕が彼女をしっかりと抱え込んでいた。

首を動かして彼の様子を伺う。
彼は安らかな寝息をたててその深い眠りから覚める気配はなさそうだ。
「器用な奴・・・」
ひとつのため息とともに、見事に自分を放さないその腕に目を移す。

普段室内で働いている彼だが毎日の鍛錬を欠かさない自分の腕よりも色は白いが太くて逞しい。
──こいつも男なんだよな・・・
ほんの数時間前には彼は男で、自分は女なのだと感じるのがこれ以上無いくらいの行為をしておいて
不思議と彼女はそう思った。

騙されたような形で婚約者扱いされていたのはお互いがだいぶ幼いころだったが
その頃と比べるとやはり周りも二人も変わったと思う。
もちろんそれが嫌だとかずっと子供でいたいだとかそういう訳ではないのだが少しの寂しさも感じる。

──まぁ昔から性格は良いほうとはいえなかった気がするが・・・
恋人に対してにしてはひどいことを考えながら
彼女は自分を抱く恋人を起こさないように細心の注意を払い、そっと彼の柔らかくて少し癖のある髪を触る。

髪を触りながら普段の彼とは全く違うあどけない少年のような寝顔を眺めていると
彼女は温かくて優しくて、でも胸の奥が柔らかく締め付けられるような感覚で胸が満たされる。
──こういうのが愛というのだろうか?

こんな気持ちのときなら愛の言葉の一つや二つ言えるかとも思ったのだが
やはり照れくさいし自分には似合わないと思い、もう大人しく眠ることにする。

ゆっくりと瞳を閉じて自分を包む彼の体温を感じるとすぐに意識がぼやけてくる。
彼女はそのぼやけた意識のなか友人から聞いた異国の愛の言葉を思い出していた。
もう彼女は半分夢の世界に入り込んでいたし、
彼が少し眠りから覚めかけていたのにも、思わずその愛の言葉が口からでてしまっていたのにも気づけずにいた・・・


     
        「    ・・・・・・・・・──ほ・・・しゅ・・・・・・       」


                            
                          おわり

                          
93名無しさん@ピンキー:2008/06/10(火) 23:27:29 ID:aJflt6a5
このスレ好きなので初めて書いてみたのですが
お礼代わりとはおこがましいですが何かの足しになればと思い・・・
乱文失礼いたしました。(´・ω・`)
94名無しさん@ピンキー:2008/06/12(木) 06:46:09 ID:spWBYmoW
GJ!!
95名無しさん@ピンキー:2008/06/16(月) 08:09:28 ID:/EPKjlAa
ほしゅGJ
そして、あげ
96名無しさん@ピンキー:2008/06/18(水) 18:12:23 ID:o2/vSPXd
保管庫が徐々に更新されている……もうひといき!
管理人さんがんがれ
97名無しさん@ピンキー:2008/06/22(日) 02:36:26 ID:dU5GXFWb
保守
98名無しさん@ピンキー:2008/06/25(水) 23:43:50 ID:9KkDHYEo
ほつ
99名無しさん@ピンキー:2008/06/26(木) 19:32:28 ID:PUT04J9h
今日も保守だよ
100名無しさん@ピンキー:2008/06/27(金) 21:39:41 ID:+CPbk2FZ
少年誌みたいに寸止めとかパンツまでとかってスレ的にはどう?
101名無しさん@ピンキー:2008/06/27(金) 22:38:36 ID:htTBx5tf
>>100
そういうの今までも結構あったな。
昔の副長シリーズとか……
102名無しさん@ピンキー:2008/06/29(日) 11:27:33 ID:fIyEJF0x
別にいいんでないの
103名無しさん@ピンキー:2008/06/29(日) 12:42:06 ID:o+LJ4JS5
もうちょいまとまったら投下するべさ
104名無しさん@ピンキー:2008/06/29(日) 19:38:50 ID:0aICIQjH
文章面白かったら全然アリだよね。
105名無しさん@ピンキー:2008/07/01(火) 16:29:42 ID:0npIGy7e
文章が悪くても、シチュエーションが良ければいいよ
勿論、文章が良いに越したことはないが
106名無しさん@ピンキー:2008/07/02(水) 22:35:30 ID:UkluqFhU
愛があればいいよ!!
107名無しさん@ピンキー:2008/07/04(金) 03:36:13 ID:KpcGqwXx
魔王の人が投下するまで全裸ですごすぜ!
108名無しさん@ピンキー:2008/07/04(金) 09:28:24 ID:zJhlOaIo
全裸で過ごすには良い季節になったしな。
109名無しさん@ピンキー:2008/07/06(日) 08:00:38 ID:TrXlh71O
また今日も全力で全裸だ
110魔王の人:2008/07/06(日) 09:03:37 ID:oCh9KOi4
相変わらず規制中で投下不可能です。
A級規制かもしれません。
とりあえず服をお召しになってお待ちください。
111名無しさん@ピンキー:2008/07/06(日) 10:31:42 ID:cm1ynn2A
じゃあパンツだけは穿いているよ!
112名無しさん@ピンキー:2008/07/06(日) 13:38:33 ID:9c9KfA+4
では蝶ネクタイだけ
113名無しさん@ピンキー:2008/07/06(日) 13:47:24 ID:H57KVtQy
紙袋を頭に
114名無しさん@ピンキー:2008/07/06(日) 19:29:47 ID:d2tWJerG
じゃ、りぼんだけ
115名無しさん@ピンキー:2008/07/06(日) 21:46:58 ID:jMYZFsZW
よし、俺は靴下と手袋だ!
116名無しさん@ピンキー:2008/07/06(日) 21:57:25 ID:mDAeW8OG
エプロンだけで
117名無しさん@ピンキー:2008/07/06(日) 22:38:37 ID:3OWWvTdy
何言ってんだよ、ここは女兵士スレだぜ。

俺は勿論、全裸に兜と剣だ。
118名無しさん@ピンキー:2008/07/06(日) 22:40:50 ID:cXoLscsF
盾を穿く
119名無しさん@ピンキー:2008/07/07(月) 10:06:50 ID:JaeT5tHN
ブーツと小手のみとか
あとネカフェで投下っていうのもアリだと思いますよ魔王の人
120名無しさん@ピンキー:2008/07/12(土) 02:07:25 ID:04VdUHQa
保守
121名無しさん@ピンキー:2008/07/14(月) 01:14:43 ID:3aVR4waG
保守
122名無しさん@ピンキー:2008/07/17(木) 14:44:02 ID:jhux2B47
魔王の人が投下する前に闇の陣営に忍び込んでティラナの父ちゃんの毛皮をGETするぜ
123名無しさん@ピンキー:2008/07/18(金) 19:22:37 ID:EUoANW9R
そろそろ餓死してしまう……
124名無しさん@ピンキー:2008/07/21(月) 20:22:32 ID:qW7raQoh
ほしゅ
125名無しさん@ピンキー:2008/07/25(金) 02:15:58 ID:Pwqpn9KJ
保守
126名無しさん@ピンキー:2008/07/28(月) 22:30:20 ID:i/iGpb3P
127名無しさん@ピンキー:2008/07/30(水) 20:16:37 ID:UYLJRKuE
128名無しさん@ピンキー:2008/07/30(水) 20:22:01 ID:XyuLV7yQ
ほー
129名無しさん@ピンキー:2008/07/30(水) 23:14:59 ID:Zm19zWS0
ほーーーー
130名無しさん@ピンキー:2008/07/31(木) 00:31:10 ID:edO7WBcX
ほーーーーー
131名無しさん@ピンキー:2008/07/31(木) 11:22:04 ID:CVj/qaKD
生き残ったものの、前回投下からはすでに二ヶ月。
再び良スレとして活気を取り戻すことが出来ますように。
132名無しさん@ピンキー:2008/08/02(土) 07:39:33 ID:Uw3Oo1qL
魔王の人の規制が解除されるよう、全裸で祈願するぜ!
133名無しさん@ピンキー:2008/08/05(火) 01:04:14 ID:EW9pPpN+
保守
134名無しさん@ピンキー:2008/08/05(火) 01:28:07 ID:pyNYDa55
ふぁんたじ〜?あぁ?そんなもん女にビキニ着させて、剣振り回させればいいんだよ!
って感じだった80年代は!で、俺は何が言いたいかと言うと・・・・・・・保守
135名無しさん@ピンキー:2008/08/05(火) 13:50:42 ID:yonpXYBo
ビキニ鎧より普通の鎧の方が数倍えろいよなあ……と思う俺は間違いなく異端
ほしゅ
136名無しさん@ピンキー:2008/08/05(火) 15:47:46 ID:0dzOd7Id
がっちがちに鎧を着込んでいて、
兜を脱いではじめて女だとわかるのがいい。
口調も生真面目カタブツ。
137名無しさん@ピンキー:2008/08/05(火) 23:09:32 ID:pyNYDa55
鎧を普段着感覚で着て日常生活をしてることがすごい!
ものすごい体力・筋力があるか、ものすごい軽い鎧かどっちかだな
138名無しさん@ピンキー:2008/08/06(水) 22:49:59 ID:WCqawoYL
ビキニ鎧の良さが俺にはわからんかったorz
メチャクチャゴツイ鎧の中に華奢なおにゃのこが入ってるのが良いと思ってるようでは修業が足りんか
139名無しさん@ピンキー:2008/08/07(木) 00:16:32 ID:C/+9CC31
ビキニ鎧とな・・・・・・よく考えると対極の組み合わせだな!
140名無しさん@ピンキー:2008/08/07(木) 01:31:38 ID:adr+Fvgc
今は本当にビキニ鎧って見ないね。
好きかどうかには年齢的な違いも出てくるのかな
80年代は国内もそうだったけど
アメリカでも、何でもかんでもビキニ鎧って時代だったよね
あの頃が輝かしく思えてくるorz
ドラクエとかに「ビキニの鎧」って単語が出て来ただけで興奮できていたあの頃が懐かしいw
ガチガチの女性騎士とかももちろん好きだけど
見かけなくなったからこそ、尚更恋しいってのはあるなぁ
141名無しさん@ピンキー:2008/08/07(木) 01:38:21 ID:CNTswnzC
俺の脳内ファンタジーではいまだに男はふんどしで女はビキニ鎧
142名無しさん@ピンキー:2008/08/07(木) 02:00:08 ID:mb5EPIMI
ビキニアーマー着る女戦士と、フルスーツ着る女戦士とじゃ人物像のイメージが変わるな。
143名無しさん@ピンキー:2008/08/07(木) 06:49:41 ID:CYwlydAu
ビキニ鎧・・・絵にはなるが実用性はゼロだよな、漢のロマンだけどw
144名無しさん@ピンキー:2008/08/07(木) 09:44:56 ID:sBGbNWRV
鎧を着て戦う女戦士は腹筋割れてるような体型がいいな
細身の体は魔術師とかに任せればいい
適材適所ってやつだ
145名無しさん@ピンキー:2008/08/07(木) 10:14:02 ID:+/2QMp0g
ビキニ鎧着るのは身体が筋肉質で、全身鎧着るのは身体が華奢。
鎧の重量を考えるとありえないけど、なんかそんなイメージがある。
146名無しさん@ピンキー:2008/08/07(木) 19:08:24 ID:uRsfZzig
うーむ……保管庫BBSは完全な無法地帯だな
前スレの各SSごとの個別保管もいっこうに進まないし……
夏だし新作もないし、管理人さんもモチベ落ちてるのかしらん
147名無しさん@ピンキー:2008/08/10(日) 01:35:04 ID:fqKm9bEW
保守
148名無しさん@ピンキー:2008/08/10(日) 06:54:09 ID:9+H3cmXu
こういうのはスレ違い?
異界自衛隊。
富士演習場の磁場が火山活動により変化し、凱旋門のような巨大建築物が現れた。
中から特殊生物(後に幻獣種と命名)が現れ交戦した陸自戦力が門に接近した時消失した。

女…自衛官 男…異世界住人なんてどうだろう?
     
149名無しさん@ピンキー:2008/08/10(日) 08:41:40 ID:G65F08tl
>>148
注意書きがあればいいんじゃね?
150名無しさん@ピンキー:2008/08/10(日) 14:44:37 ID:AwNSmuRc
>>148

>>1読んだ?
>・剣と魔法のファンタジーの世界限定で
>・エロは軽いものから陵辱系のものまで何でもあり

こっちの方が良いんじゃない? ファンタジーもOKのようだし。
【軍服】軍人や傭兵でエロ【階級】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1205085927/
151名無しさん@ピンキー:2008/08/11(月) 18:32:19 ID:FnFMmGE6
封印解けてたら投下
152投下準備:2008/08/11(月) 18:33:22 ID:FnFMmGE6
ほぼ一スレぶりでありますが、魔王の話を再開します。
つきましては、半年以上空白があり、以前の話を憶えていて頂けてるか不安なので、
軽くおさらいを兼ねて出演女性陣のオムニバス形式で話を作りました。
エロは有りませんが、これで各キャラの特徴を思い出して頂ければ幸いです。


それでは『女たち』をどうぞ。
153女たち:2008/08/11(月) 18:34:28 ID:FnFMmGE6

「もとはと言えばな、そなたら毒姫は人に害を成すドラゴンを屠る為に考え出されたのよ」

朱天幕の床に胡坐をかき、ネリィに髪を梳らせながらティラナは語る。
人目の無いこの場所では、腰巻さえ履かない気楽な姿だ。
その後ろに坐って、ネリィは丁寧に櫛を入れる。
衣服を着るのは大嫌いなティラナも、毛繕いだけは欠かさない。
こうして身軽な格好で髪を梳かせるのは、ティラナにとって大のお気に入りの時間だった。

「太古の頃は、今よりもずっと竜種は世にのさばっておった。
 ようやく殖え始めた人間族にとっては、奴らは逆立ちしても敵わぬ敵じゃった。
 ゆえに人間どもは、奴らにしばしば生贄を差し出し、暴れる竜を宥めておったのよ。
 生贄に供されるのは決まって、選び抜かれたうら若い生娘じゃった……
 まあ、そちらは人間の美意識の話で、実際はドラゴンどもに生娘と経産婦の味さえ区別が付くと思えんがね」
「そんなに味が違うものなの?」
「当たり前じゃっ。妾の如く高尚な種族なれば、一噛みしただけで判るわえ!」

ティラナは誇らしげに言った。
まるで地上で最も古く誕生したと言われる竜族でさえ、粗野で悪食な下級種族であるかのような口ぶりだ。

「処女の肉は、舌触りがまろやかで臭みが無い。
 しかし身体が男を知ると、子を産むためのものに変わるゆえ味が落ちてしまうのじゃ……と、話が逸れたな。
 どこまで話したかの?」
「竜を屠るために、毒姫が考えだされたという事までよ」
「そうじゃった…… そうして人間は長い事ドラゴンに生贄を捧げて続けていたが、
 地上で最も悪知恵の働く種族である人間たちは、いつまでも竜に娘を喰われるのが気に入らなかった。
 ある時、どこかの誰かが考えた。『ドラゴンに一服盛ってやろう』と。
 無論、まっとうな方法では毒を喰らってくれるはずが無い。
 そこで生贄に捧げる娘に毒を帯びさせたのじゃよ。
 数え切れぬほどの娘達が、技法が確立されるまでに死んだ……
 ドラゴンを悶絶させるだけの毒を蓄えつつ、女子を生かす方法が見つかるまでにな。
 しかし、たった娘一匹の生贄で竜を殺せるようになるのなら、それは安い犠牲じゃったろう」
「……」
154名無しさん@ピンキー:2008/08/11(月) 18:36:01 ID:FnFMmGE6

そもそも、古代の物語に詳しいこの少女に毒姫の話をねだったのはネリィからだった。
彼女が長い間抱いてきた疑問、『自分を抱いても、魔王は何故死なないのか』という事を、
同じように死なないティラナに聞いたのだ。

『魔王は毒にやられない、と思っておるのか?
 逆じゃ。毒で殺されるような軟弱者は、ハナから魔王は名乗れんのよっ』

自慢げに話す口ぶりは、その毒にやられない己も同格とでも言いたそうなものだ。
髪を梳き続けるうちに話は自分自身の話へ、毒姫という存在について続いていった。
しかし、あらゆる形であれ死を厭うネリィにとって、それは愉しい話ではなかった。
まして、自分と同じ宿命を背負わされ、死んでいった少女達のことを思うと、
ネリィは心穏やかではいられなかった。

「こりゃ、手が止まっておるぞよ」
「……あっ、ごめんなさい」

再び、ネリィは輝く金色の髪に櫛を入れる。
ネリィも、ティラナの髪を整えるのは好きだ。
物心ついてから、彼女の人生には友と呼べる者が一人も居なかった。
自分を養育した薬師と、一定の範囲以上には決して近付く事の無い冷たい乳母達に囲まれて、
奥深い王宮の片隅で密かに育てられてきた。
誰かの髪を梳かすなどという境遇は、幾ら憧れても手に届かなかった。

魔王の寵姫になった今ならば、権力を嵩に命じることは出来よう。
ただし、毒に染まった自分を知っている女達の、怯え震える首筋を見ながら髪を梳くのでは、
己の存在が一層惨めに思えて、とても愉しむどころではない。
だから、ネリィはティラナのことが好きだ。
ティラナは、自分の身体の毒をこれっぽっちも恐れない。
髪も梳かさせてくれる。
彼女にとって、ティラナはたった一人の対等の友達だった。

「毒姫が生まれてから、ドラゴンはより容易に人の手にかかるようになった。
 絶命までには至らずとも、臓を灼かれて苦しむ彼奴らを屠るのは簡単じゃものな。
 そうして毒姫が育てられ、使われて行く中で……クククッ、ある時とんでもない不届き輩が現れたのじゃよ」
「不届き者?」
「そうじゃ。乙女であるはずの毒姫を、竜に捧げる前につまみ食いしようとした馬鹿がおったのよ。
 そんな真似をすればどうなるか、そなたには言うまでも無かろ?」
「……」
155名無しさん@ピンキー:2008/08/11(月) 18:37:03 ID:FnFMmGE6
「骸となった愚か者を見つけて、人間達は閃いた。
 『ドラゴン以外にも、この毒は使える……』
 その頃には毒の効く下級竜種も頭数を減らし、人間族にとって危急の存在では無くなっておった。
 それよりも、頻発する人間同士の争いの方にそれを使い出した。
 毒姫育成の技法と存在を秘伝とし、同族同士の暗殺に用い始めたのじゃよ。
 いかなる英雄豪傑も、美しい女にはほんに弱い…… ひゃひゃひゃっ、げにも女子に勝る毒は無しじゃ」
「そう…… そんな歴史があったのね」

ヒトの営みの愚かさを嘲笑うかのようなティラナの言いっぷりに、ネリィは哀しげに応じた。
反逆を企てた父、まだ母体に居た自分に毒を含ませた薬師、魔王を殺そうと自分を差し出した王族たち。
自分の出自もまた、その愚かさの一端に連なるのか。

「む…… 辛気臭い声は出すでない。
 少なくとも、魔王や妾はそなたを喰らっても死なんのじゃ。それで我慢せい」
「ええ…… 私には陛下と貴女が居る。
 これまで育てられてきた中で、私は一番幸せな毒姫だわ」

金髪の少女の身体を、ネリィは背後から抱き締めた。
彼女にとってかけがえの無い、小さな友達の身体を優しく包む。

「ひゃう! こそばゆい真似をするでないっ」
「うふふふふ…… 良いじゃない、これ位」
「妾にこんな風に気安くしていいのは魔王だけじゃっ」
「あら、陛下にこんな感じに抱き締めて頂いたことが有るの?」
「それは無いが……」
「私は有るわよ」
「が、がるるるるっ。自慢しよってからに!」

腕の中で口惜しそうに咆えるティラナを抱き締めながら、
ネリィは幸せな時間を堪能するのであった。


・・・・・・・・・

156名無しさん@ピンキー:2008/08/11(月) 18:38:49 ID:FnFMmGE6
 
用意された甲冑を試着し、アデラはその軽さに驚いていた。
信じがたいことに、装甲板の隙間を守る鎖帷子までもが高純度のミスリル合金だ。
剣と盾はラルゴン王の遺物を借り受けられるが、甲冑はそうは行かない。
正式に軍務に就いて以来初めて、彼女は自分用の鎧を仕立てることになったのだ。

「動かし辛い所はないかね?」
「いや…… 大丈夫」

これまでは、聖騎士団所有の鎧の中から体型に近い物を貸与してもらっていた為、
多少の不自然さは『鎧に身体を合わせろ』と言われてきた。
だが、さすがは鍛冶の匠と音に聞こえたドワーフ族の誂えた甲冑だ。
体格の寸法を測って作製されたこの板金鎧は、部屋着を着ているかの如く全く行動に不自由がない。

「とてもお似合いです。アデラ隊長」
「ありがとう」

装着を手伝ってくれた従兵の賞賛を受け止め、その場でアデラはくるりと廻った。
脚に履くのは一角獣の革をなめしたという稀少なブーツ。
片足分の価値だけでも、聖騎士としての彼女の生涯俸給を軽く上回る。
その代わり、履き心地は極上。
まるで足に羽根が生えたかのような気持ちにさえなる。
脛当て、膝当ても同様の特注品だ。
たった一人の為に、こうまで王国の重宝が集められ、用いられるなど例があるまい。
光の陣営が勇者に掛ける期待が、ここに伺えた。

「ふふふ、本当にお似合いよアデラ。非の打ち所のない、立派な軍装ね」
「魔道士の眼から見ても問題は無いかしら? マリガン」
「ええ…… 重すぎず、軽すぎず。
 各所に施された防御のルーンもしっかりしてるわ」

先のドレイクの来襲時に、勇者アデラを助けて活躍したという触れ込みで、
いつの間にかマリガンは聖騎士庁にまで出入りを許されるようになっていた。
ただし、付き合いの長いアデラは、それを十全に信じている訳では無い。
おそらく聖庁の有力者の誰かが、彼女に致命的な急所を強請られた所為ではないかと推測している。
アデラも、マリガンの魔術師としての実力は少しも疑ってはいない。
協力が得られるうちは頼もしい味方である…… 忠誠心には疑問符が付くが。
 
157名無しさん@ピンキー:2008/08/11(月) 18:39:39 ID:FnFMmGE6
 
「ちょっと外で剣を振るってみていいかな?」
「どうぞ、存分に」

剣を手にして錬兵場へ向かおうとすると、身体の動きに合わせて甲冑がカシャカシャと擦れ合う。
しかし、鋼板の無粋な音と比べれば、ミスリル銀は鎧の鳴る音さえ心地良い。
アデラも一人の騎士として、素晴らしい軍装を纏えば気持ちが昂る。
篭手で固めた手で鞘から刀身を抜き、構える。

「ふんッ……、ハッ、やぁっ! たぁーッ!!」

一振り、二振りと動作を確かめるように基本の型をなぞると、信じられないほどに甲冑が軽い。
切っ先は風を切り裂き、日の光を浴びて白銀の鎧が輝いた。

「隊長、すっごく素敵……」

その様を眼にした従卒が、思わず呟いた時だった。

「ふーん、君はアデラのことが好きなのね」
「……えっ!! そ、そういう訳じゃっ」
「あら? じゃあ嫌いなの?」
「違いますっ。アデラ隊長は…… あっ、憧れなんですっ!」

顔を真っ赤にして抗弁する従卒の肩に、マリガンはそっと手を置いた。
そして、耳元でそっと囁く。

「じゃあ、『アデラが欲しい』とか、『一つになりたい』とか思ったことは?」
「あっ、ある訳無いでしょう! まだ見習いですが、これでも聖騎士団の一員ですよっ」
「うふふ…… 聖庁の人間全員が聖人君子じゃないでしょ。
 君のアデラもひょっとしたら、こっそりそういう妄想を抱えているかもよ?」
「隊長に限って、そんな事は絶対ありませんっ」
「『アデラに限って』? じゃあアデラ以外は、そういう事をするかもしれないって意味よね。
 何か身に覚えでもあるのかしら?」
「うぅ……」

侮辱されて腹は立つのだが、何か口に出せば巧みに言葉尻を取られそうだ。
それが怖くて、うかつに言い返せないのが忌々しい。

「次の戦には、君も参加するの?」
「志願はするつもりです」
158名無しさん@ピンキー:2008/08/11(月) 18:40:25 ID:FnFMmGE6
 
(なんでこんな人が隊長殿の友人なんだろうか?)
そんな疑問が、従卒の脳裏から離れなかった。
不躾なほどに近付いたり、気安く触ったり、吐息が当たるほど耳元近くで囁くのは止めて欲しい。
はっきり言って落ち着かない。
ついでに魔道士なんだから、谷間が見えるほど胸元が開いたローブはいかがなものか。

「じゃあ、思い残しの無いようにしといた方がいいんじゃない?」
「お、思い残しってなんですか……」
「好きな人に告白するとか。それ用の店に行って、大人になっておくとか」
「そんなこと、出来ませんよ……」
「なぜ?」
「言いたくありませんっ」

そう言ったきり、従卒はマリガンから顔を背けてしまった。
従卒としての仕事さえなければ、この女術師からとっとと離れてしまいたい。
でもアデラが甲冑を脱ぐ時に、自分は手伝わなければならない。
その役目を誰かに譲る気はないので我慢しているのだ。

「可愛いわねぇ。手取り足取り私が教えてあげようかしら?」
「……何をですか」
「この世の中の半分の事よ」
「世界の半分?」
「うふふ…… 女を知れば世界の半分が判るし、男を知れば、残りの半分が判るわよ」
「ぐっ、からかわないで下さいっ。いくら何でも怒りますよ!」

肩に乗せられた手を振り払い、従卒はマリガンを睨みつけた。

「マリガン、私の従卒を堕落させようとするのは止めて頂戴」

外野の騒ぎを聞きとがめ、アデラは二人に向き直った。

「あっ、お邪魔して申し訳ありません。隊長……」
「御免なさいね。この子があんまり可愛いものだから」

従卒の謝り方は真剣そのものだったが、マリガンのそれはいつも通り遊んでいるかのような雰囲気が抜けない。
アデラにとって友人の行動はまさにいつも通りのことなので、今更それを咎めることも無かった。
159名無しさん@ピンキー:2008/08/11(月) 18:41:11 ID:FnFMmGE6
 
「これなら、魔王に勝てるかしら?」

アデラはそう呟く。
以前挑んだ時は無手であったが、実力差は圧倒的だった。
神器を手に、優れた甲冑を纏った位で、その差は埋められるだろうか?
それに答える女魔術師の声は、冷たいほど突き放した声だった。

「さあ、それはどうかしらね?
 どれだけ高価な武装したところで、勝てるかは別次元の話よ。
 なんせ相手はあの『魔王』だもの」
「失礼ですよっ! いくらアデラ隊長のご旧友とはいえっ! 隊長は絶対に勝ちます。
 そして王国を救って下さいます!」
「……だそうよ、アデラ。貴女の勝利は、この子が保証してくれるって」

マリガンは肩を竦めた。
知らないということは幸せな事だ。
魔王の持つ絶大な魔力を、この未熟な従卒は毛ほども判っていない。

(まあ私もあの夜まで魔王陛下の本当の力を理解できていなかったのだから、似たようなものだったけど)

そう思うと苦笑が洩れる。
アデラを追って夢の世界で魔王に出会い、底知れない力の存在を体験した。
だからこそ今なら判る。
王国最強を自負する己の、少なくとも十数倍の魔力を魔王が蓄えており、
それを自在に使いこなす事が出来るという事を。

(うふふ、山は高くなければ登り甲斐が無く、人妻は貞淑でなければ誘惑し甲斐が無いってね……)

自分の卑小さを思い知って、かえってマリガンの胸は高鳴った。
己の求める魔道の深淵とは、全てを賭けるに値する物だという確信が、彼女の情熱に火を付けたのだ。
あの夜を境に、マリガンは一つの壁を破った。
昨年までの自分なら、魔王との差は数十倍はあった。
今は十数倍である。
いずれ、この差を数倍にまで縮めてみせる。
さらにいつの日にか、あの漆黒の背中にこの手を届かせて見せる。
それは、確固たる誓いであった。
160名無しさん@ピンキー:2008/08/11(月) 18:41:57 ID:FnFMmGE6
 
「私も、魔王を倒すのに何かが足りないとは思ってるわ」
「隊長……」
「やっぱりアレじゃない?」
「『アレ』って?」
「ほら、私達がナニをした、あの夜に見せたアレよ。私が貴女に一服盛って、手ご……」
「わわわわわあっーーーーーー!!」
「?」

アデラが突然大声を出してマリガンの話を遮ったので、従卒は何の意味か判らなかった。
大人の雰囲気が魅力の隊長にしては、見た事のない慌てぶりだ。

「だっ、駄目よマリガン! そんなこと白昼堂々言っちゃ駄目っ!!」
「じゃあ夜中にこっそりとなら良いのかしら?」
「……アレとかナニとか、手ごって何のことですか?」
「フフッ、知りたい?」
「そんな事聞いちゃ駄目っ! 絶対にダメよっ!」

取り乱すアデラと、面白そうに笑う女術師。
従卒は双方を交互に見る。
一体この二人の間に、どんな秘密が有るのだろうか?
従卒にとって、解けない謎が一つ加わったのだった。


・・・・・・・・・

161名無しさん@ピンキー:2008/08/11(月) 18:43:20 ID:FnFMmGE6
 
『古く深き森』の辺に、闇の軍勢の野営地は設けられている。
もう一息で光側のエルフ族に止めをさせる所まで追い込んだ闇の軍勢であるが、
現在大規模な攻撃は中断されていた。
侵攻の要である『煉獄を運ぶ者』が先日の王都奇襲で炎を吐き尽くし、休息が必要になった為だ。

そんな状況の中、イリアは陣地の柵に腰をかけながら林檎を齧っていた。
一人ではなく、側にはフィリオがいる。
ただし、端女である彼女がイリアと同列に坐ることは許されないので、
フィリオは地べたに腰を下ろしていた。

「王都とやらはどんな感じだった?」
「すっごく珍しいものが一杯で、吃驚しました!
 亜人や獣人が居ないし、建物や着てる服も違うし、食べ物の味付けもこちらとは違ってましたっ。
 西の国ってああいう感じなんですね。
 あと白いエルフも大勢居ましたよ!」
「ふん、居留地を追い出された連中が、王都の軍勢に合流してるらしいな」
「他にも、背は小さいのに酒樽みたいに太った髭もじゃの御爺さんたちとか……」

楽しそうにフィリオは喋り続ける。
闇の軍勢が蹂躙した都市は幾つも見ているが、光の勢力下にある大都市を生で見たのは初めてだった。
ほんの僅かな時間だったが、目新しいものだらけの滞在だった。

「それから、ティラナさまの背中に乗せて頂いて、宮殿の屋根を飛び跳ね廻って……」

気が利くのなら、雌剣牙虎の活躍は少々省いて話すべきだろう。
しかし、そこは根が素直なフィリオである。
平静を装うイリアの態度をそのまま受け取り、王都での出来事を包み隠さず話す。

「で、楽しかったか?」
「はいっ、とっても!」
「……」
162名無しさん@ピンキー:2008/08/11(月) 18:44:10 ID:FnFMmGE6
 
忠実と正直がこの端女の美徳だが、時々それが過ぎる。
内心イリアは不満を抱えているのだ。
魔王があの雌虎を伴ったというのに、自分には声すら掛からなかったことに。
ただ、そんな詰まらない事で僻んでいると端女如きに知られるのは嫌なので、
そんな素ぶりは見せないが。

(チッ……)

話を聞いている内に、イリアは益々気が塞いできた。
終いまで食べるのが億劫になり、齧りかけの林檎をそのままフィリオに投げ与える。

「わぁ! ありがとうございますっ」

抛られた林檎をすかさず掴むと、フィリオは満面の笑みを浮かべ、齧り残しの果実にむしゃぶりついた。
このように、イリアは食べ残しの果物や、まだ肉が付いている骨などを時折フィリオに与えていた。
イリアにすれば、この風呂係の端女は愛しい主君のことを聞ける貴重な相手である。
取るに足らない下女だが、手懐けておいて損は無い。
そこで、犬に餌付けをするような気持ちで、色々呉れてやっているのだった。
まあフィリオにすれば、イリアがどんな思惑であろうと余り関係が無い。
食べ物をもらえるのならそれで十分だ。
だから、フィリオは彼女のことが好きだった。
果肉がまだ結構残っている林檎を呉れるのなら、何と思われようと平気である。
むしろ、イリアたちが自分を家畜同然に扱う事に、何の疑問も抱かきはしない。
フィリオにとっては、それが自然なのだ。

自分が齧り残した林檎を美味しそうに頬張るフィリオを見て、イリアは無性に腹が立った。
卑しい人間族の端女は、何の不安も無さそうに残飯を貪っている。
それに引き換え、永き時を自侭に愉しみつつ生きる高貴なる闇エルフの自分は、
こんな些細なことで思い悩んでいる。

「……なあ、フィリオ」
「ふぁい?」
「何で、陛下はお前まで王都に連れて行ったんだろうな?」
「ふぇ?」
「あの雌虎なら判る。忌々しいが、あ奴に虎の皮を被せればそれなりに役に立つからな。
 だが、何でお前をわざわざ連れてく必要があったんだ?」

163名無しさん@ピンキー:2008/08/11(月) 18:44:51 ID:FnFMmGE6
 
アデラの事を、イリアは詳しく知ろうとはしなかった。
戦の最中に捕らえられた、慰み者のうちの一匹ぐらいの認識しかなかった。
故に、解放されたアデラが、光の勇者として選定されたという事も知らない。
そもそも、魔王は陣営の誰にも王都へ向かう理由を告げなかった。
だから、勇者となったアデラの様子を探るために、フィリオを伴ったという答えには、
イリアは残念ながら至らなかった。

「そんな事は私には判りませんよ」
「……」
「でも、そもそも理由なんて考えなくってもいいんじゃないでしょうか?」
「何だと?」
「私は、陛下が連れて行くと仰るのならその通りにするし、
 連れて行かないというなら残るだけです。
 理由なんて物は、陛下が判っておられればそれで良いと思いますけど」

どうしてそんな事を聞くのかと言いたげな顔で、フィリオは答えた。
彼女は自由な意思で生きてきた人種ではない。
生まれる前から奴僕になることは決まっており、従う事がほとんど本能になっている。
望むことといえば、せいぜい持ち主から不当な罰を受けたくないという事と、
時々配給以外の食べ物にもありつきたいという事ぐらいだ。

「……」

己を完全に魔王に委ねきった端女の瞳が、彼女を見詰め返す。
イリアは言葉を失った。
その瞳には一点の濁りも曇りも無い。
もしも魔王が毒薬を飲めと言ったとしても、フィリオは直ぐに飲むに違いない。
そして飲んでから、飲まずに済ます方法はなかったかと考えるだろう。

(くそっ……)

何も求めない代わりに、何にも惑わされない。
貪欲と放埓が美徳である闇エルフとは、なんと違った生き方であることか。
畜生に相応しい、哀れな生き方だとも思う。
しかし現実にはイリアは迷い、フィリオは迷わない。
そんな事を考えているうちに、ここで悩む事すら嫌になってきた。
何も言わずに柵から降り、フィリオに背を向ける。

「イリアさま、美味しい林檎をありがとうございました」
「……クッ!」

背にかけられた感謝の言葉さえ、今は忌々しい。
イリアは、この端女を鞭打ちにしてやりたいという衝動に駆られた。
もしもフィリオが魔王の所有物ではなかったら、彼女はきっと実行していたに違いない。
去っていく闇エルフの少女の背中を見送りながら、フィリオは林檎の芯を種まで齧り続けていた。


・・・・・・・・・
164名無しさん@ピンキー:2008/08/11(月) 18:45:27 ID:FnFMmGE6

ベッドに横になった妃の手を、枕元に立ったクルガン王は励ますように握った。

「ご心配をおかけして申し訳ありません。もう何ともありませんから」
「身体を労わらねばならんぞ、ヘルミオーネ。
 もう少しだ。もう少しの辛抱で、全てが上手くいくのだからな」

暗黒竜の来襲があった晩以来、体調を崩して床に伏せったままの妻に、クルガンはそう断言した。
まるで、その未来が既に確定したものであるかの如く、無邪気といっていい声色で王は妃に笑いかける。
夫とは昨日今日の付き合いでは無い。
つられた様に、ヘルミオーネは笑った。
王の言葉に、自然と愛想笑いを浮かばせることが出来るようになったのは一体いつ頃のことだっただろうか。

「ああ、お前も待ち遠しいだろう。
 光の陣営が勝利し、正義が取り戻され…… そして余は、正統な権能と栄光を手にするのだ。
 その日は遠い日の事ではないぞ」
「本当に、待ち遠しいことです」
「うんうん、お前にも苦労をかけた。
 だが、それらが報われる日が来るのだぞ!」

自分がその勝利とやらにどれほどの貢献をしてきたかという事には、
どうやらラルゴンは気を払わないらしかった。
降って湧いた勇者の登場も、彼にとってはある意味当然だった。
英雄王の末裔たる自分が苦難に陥っているのだから、光と善の神々から助力が下されてしかるべきなのだ。
いや、彼にとっては助力が下されるのが遅すぎた感さえある。

「邪竜を退けたアデラの活躍は聞いたであろう?
 あの娘なら、きっと魔王を倒してくれる」
「……ぅ」

何気ないクルガン王の一言だったが、その名前を聞いた瞬間にヘルミオーネの表情は翳る。
しかし、上機嫌で独り善がりの想像を語るクルガンは、妻の変調に気が付かなかった。

「いかに魔王とは云え、勇者が誕生した以上恐るるに足りん。
 だからな、早く本復せねばならんぞ。
 邪悪な勢力が滅ぼされ、平和と繁栄が復活するのを共に祝おうぞ」
「はい…… では、一日でも早く床上げ出来る様に、もうお休みさせて頂くことと致しましょう」
「そうか? うむ、それが良いな。ではゆっくり休めよ」
165名無しさん@ピンキー:2008/08/11(月) 18:48:12 ID:FnFMmGE6
 
念を押すように何度も頷くと、クルガンはようやく王妃の寝室を去った。
夫から解放されたヘルミオーネは、安堵したように息を吐く。
慣れているはずの夫の相手が、なぜか今日は疲労に感じた。

(単に、体調が優れない所為なのかしら? それとも、もう私もそんな歳?)

まだ三十にもならないというのに、自分の身体はどうなってしまったのか。
あの日までは、いつも変わらない日々の積み重ねだった筈なのに。
絹の綿入れを被り直すと、ヘルミオーネは安息を求めて瞼を閉じた。
しかし、先程夫の口から洩れた名が、彼女に安らかなる眠りを与えなかった。

(……う、)

暗黒竜が王都を襲撃した夜、同時に魔王も出現していたという事は、光側では三人の女しか知らない。
一人は勇者アデラ、二人目は女術師マリガン、最後は王妃ヘルミオーネだ。
魔王は妖術を用いて王宮の人士から正気を奪い、その出現を悟らせなかった。
唐突に現れて数名の兵士を殺傷し、宮殿の屋根を跳ね回って逃げた魔獣の存在も併せ、
それらは暗黒竜の攻撃を支援するための撹乱工作だと、廷臣およびクルガン王は判断した。
真実は、王妃によって伏せられた。
彼女がアデラに口止めをしたのだ。
自分が夫の前で陵辱されたという事実を、誰にも漏らして呉れるなと。

石化術を解かれたクルガン王は泥酔していた所為もあって、
禄にあの時のことを憶えていなかった。
それは彼ら夫婦にとって幸いな事だったに違いない。
情緒不安定なクルガンが、自分の前で妻が辱められたと知ればどんな反応をしたことか。

目を閉じると、魔王にされた行為が脳裏に蘇った。
細いが強靭な力が篭った腕で組み敷かれ、
冷たい掌で身体中を触られ、
唇を奪われ、乳首を摘まれ、臀部を撫でられ、太腿を割って秘所を弄られ……
彼女には、魔王を憎む資格がある。
そして憎むべきなのだ。
光の陣営に生まれた身として、王妃という地位にあって、魔王を許すということはありえない。
さらに女としても、自分を蹂躙した男に憎悪を抱いてしかるべきなのだ。

だが、身体は憶えてしまった。
魔王との出会いで知った、男女の交わりの味を。
あれこそが、身も焦がれるような官能の歓びなのだ。
夫からは与えられなかった法悦を、あの晩初めて感じてしまったのだ。

豪華な寝台の上で一人、ヘルミオーネは煩悶した。
二度と、あの男と会う事は無いだろう。
そして会うべきでもない。
だが、知らなければ己の不幸を自覚することも無かったろう。
記憶だけが、冷たい人生に焼き鏝を当てられたが如く残る。
火傷の如く熱い一夜の思い出だけを残したまま、自分は再び賢く貞淑な王妃に戻らなければならない。
そんな人生を受け入れ、続けて行く覚悟は出来ていたはずなのに、今は何故か一抹の哀しさを憶える。
燻る想いを押し殺しながら、彼女は瞳を閉じた。


・・・・・・・・・
166名無しさん@ピンキー:2008/08/11(月) 18:48:52 ID:FnFMmGE6
 
そこは広い浴室だった。
古代帝国期に各地に造られた、公衆浴場並みの広さがあった。
絶え間なく湧き出す熱水が地下から汲みだされ、大理石の浴槽に注ぎ込まれている。
ただし、この浴室に居たのはたったの二人だ。
大理石の縁に背をもたれかからせた、恐ろしいほどに青白い肌をした白髪の女が一人。
その女に背後から抱き締められ、女の両脚の間に納まるように坐った少年が一人。
二人は重なるように湯に浸かっていた。

「師よ、何人も運命を変えることは出来ないのですか?」

少年は、抱き締められたまま背後の女に問うた。
二人は師弟である。
そして同時に男女の関係でもある。
湯に煙る浴室も、二人にとっては教育の場であった。
背中に当たる女の柔らかい肉の感触よりも、少年の関心は世界の真理に向かっていた。
そんな真摯な態度を愛でるように白髪の女は微笑み、授業を続けた。

「ご覧…… 我が弟子よ」

女は湯面の上に腕を伸ばした。
細く、白い指先から水滴がぽつりぽつりと落ち、湯面に波紋を形作る。
そしていくつもの波紋が重なりあって、複雑な紋様を織り成していく。

「落ちる水滴と波紋の間には因果が存在する。
 それは、神々でさえ抗えぬ黄金律だ。
 そして何者であろうとも、波紋を作らずに水面を歩むことは出来ない。
 現世の事象とは、生ける者と死せる物たちの波紋同士で揺蕩う大海原のようなもの。
 運命の内側にあるものが、その水紋を変えようと動くのなら、新たな水紋を造らずには居られない。
 複雑に絡み合う宿命を読み解き干渉するのは、
 混沌の中から秩序が発生するのを観測するより難しいだろうな」
「御身にでさえもですか?」
「私にも、お前にもだよ」
167名無しさん@ピンキー:2008/08/11(月) 18:49:27 ID:FnFMmGE6
 
少年は、雫が象る水紋に視線を注いだ。
この湯面が世界としたら、師と己がこうして湯を浴びることも水紋の波の一つ、運命の一欠片に過ぎぬのか。
だとしたら、なんと師も自分も矮小な存在であることか。

「末頼もしい子だな。
 無窮なる運命の深淵さえも、お前の渇望を止めることはできぬのか」

揺らぐ波紋をじっと見詰める教え子を、師は愛しげに抱き締めた。
世に稀なる資質を持ちながら、なお全ての叡智を掻き集めるには足らぬと己の非才を嘆く―― 
若き弟子に、女はかっての自分の姿を重ね合わせていた。

「良く聞く事だ。我が賢き弟子よ」
「……はい、師よ」
「宿命を変える事は、水面を歩む者たちには無理だ。
 もしお前がそれ変えようと欲するのなら、宿命の外に飛翔し、世界に相対さねばならぬ」  

女は、少年の身体を強く抱き締めた。
魔道を極めた自分にすら不可能な事だが、この弟子ならばやり遂げるかもしれない。
彼女には、そんな期待があった。

「……出来ましょうか、そんな事が」
「可能かもしれないし、不可能かもしれない。
 しかし、お前が運命を変える運命には無いと、誰に判るのだ?」
「あっ……」

白い手が、いつの間にか弟子の膝の間に忍び込んでいた。
そこにある男子の証左を掴まれて、少年は思わず声を上げた。
根元から先端まで、指が巧みに撫で上げてゆく。

「授業は終わりだ、我が弟子よ。
 続きは、またいずれ話してやろう。
 それより今は―――― 」


女の声は、そこで終わった。
168名無しさん@ピンキー:2008/08/11(月) 18:49:58 ID:FnFMmGE6
 
「……ん」

湯屋で、魔王は瞼を開けた。
浴槽の脇には、寵姫であるネリィが立っている。
ティラナが魔王の湯船を損傷させてしまったため、新注されるまで彼はネリィのそれを使わざるを得なくなったのだ。
生憎と虎も浸かれる巨大な湯船と比べれば、彼女の物は大分小さいが。

「……ネリィ」
「はい、陛下」
「余はどれほど眠っていたか?」
「あっ、……お休みになられていたのですか?
 申し訳ありませぬ。数えてはおりませんでした」

ネリィは面目なさげに頭を垂れた。
だが、常日頃から瞑目することの多い魔王である。
目を閉じているだけなのか、瞑想に耽っているのかの区別はつき辛い。
そんな時はいつも、邪魔をしないように控えているのが常だった。
よって、この場合も眠っていた事に気付けという方が難しかったろう。
魔王もネリィを責めることも無く、ただ呟くのみであった。

「夢を見た…… かって黒檀の玉座を所有せし、偉大なる魔道士とその弟子の夢だ」
「……?」
「まだ与える者と欲する者の心が一つであった、幸福な時代の二人。
 あれは―― 」

話し続けようとした瞬間、仮湯屋の外で盛大な水音が鳴った。
それに阻れて、ネリィは続く言葉を聞く事が出来ずに終わる。
魔王が何を言おうとしたのか、もはや彼女には知る機会が与えられなかった。

「ちょっとクォン! しっかりと腰を入れて運ばないからよ」
「……ごめんなさい」
「もうっ、私だって自分が食べていくだけで精一杯なんだから。
 働けないなら、身体か命で稼ぐしかないんだからね!」

水を入れた桶でも落としたか、新入りの端女を先達が叱っているようだ。

「そこの者たち、静かになさい。陛下がご入浴中なのですよ?」
「あっ、ご無礼いたしましたっ。水は直ぐに運んでおきますので」
「急いで頂戴ね」
169名無しさん@ピンキー:2008/08/11(月) 18:50:33 ID:FnFMmGE6

そう、いつも魔王の入浴の世話をする端女たちも、仮湯屋の中にまでは入ってこない。
毒姫の湯屋になど、誰が入りたいと思うだろう。
ここは、ネリィが魔王を独り占めできる場所だ。
主には悪いと思うが、ネリィにとっては新しい湯船が完成するのは遅いほど嬉しい。
二人きりになれる機会が、湯船が壊されて以来ずっと増えた。
だから、拙いながらも彼女は自分一人で魔王の入浴の世話をする。
魔王はいつも通り眉も動かさずに、黙って寵姫の奉仕を受け入れていた。

だが、湯を浴びながら眠るなど未だかって無かった。
まして、微睡みの最中で夢を見るなどということは。

(意図せずに夢に落ちるなど、幾年ぶりの事か……)

図らずも、術を使わずに夢を見たのは久方ぶりであった。
魔力を消耗している所為ではない。
この程度の状況は、過去に何度もある。
何故、この時期にあの夢を見たのか。
それは兆しであるのか。
答えを探すために、魔王は瞼を閉じた。
しかし、いくら瞑目を続けても、あの夢の中に再び落ちることは出来なかった。


(終わり)
170名無しさん@ピンキー:2008/08/11(月) 19:49:24 ID:hydVFpve
>>169
規制解除おめ&久々の投下乙です。

虎毒コンビかわいいよ虎毒コンビ!
魔王さまくぁいいよ魔王さま

あれ、黒エルフが本格的にハブらr…
171名無しさん@ピンキー:2008/08/11(月) 20:16:49 ID:uaSFGJUM
実は、とあるメーカーさんのゲームの♀キャラで、一応戦士っぽいので、投下。

172名無しさん@ピンキー:2008/08/11(月) 21:08:24 ID:uaSFGJUM
 大海の上に、数々の島が点在し、そこに様々な階級、種族の人々が暮らす世界があった一

 今現在、その世界は一応の平和を保っていたが、だからこそ、
 その端々では、より暗い話が平気でまかり通ってもいた。
 
 「さぁ…お嬢ちゃん、こっちにおいで〜」
 「い、いや…」
 とある市街地の路地裏、薄暗く人目も無い場所で、
まだ年端もいかぬ幼女、と形容できる幼子が、今まさに乱暴されんとする瞬間一
 「一ぐあッ?!」
 「その子から離れろ、この外道が!」
 疾風一
 見た者がそれを連想するほど、無駄の無い鮮やかな剣技が、幼子を毒牙にかけようとした男に炸裂した。
 「お、おのれッ!…」
 「去れ。今の剣をかわせない腕前じゃ、勝負にならないわ」
 斬られ傷ついた腕を抱き込む様に、崩れ落ちる男の前に、
 戦士然とした女が一人。
 その姿は、この世界で一般には『レディナイト』と呼ばれているそれだった。
173名無しさん@ピンキー:2008/08/11(月) 21:15:58 ID:/axH5otv
>>169
魔王の人、規制解除おめ&投下乙です!
ティラナとネリィはほんとにいい友達ですね。ほのぼのです。
嫉妬するイリアは恋する乙女? 
フィリオは純粋無垢というか怖いもの知らずというかそんなとこがいい。
ヘルミオーネ、魔王の魅力を知ってしまった哀れな雌。どうなるんでしょうね。
アデラ&マリガンは魔王に勝てるんでしょう? そもそもマリガンは魔王と本気で戦う気があるのか?
魔王は相変わらずミステリアスな男ですね。彼にはぜひともアデラ&マリガンに勝ってハーレムを築いてほしいw
次の投下も全裸で待ちます。
174名無しさん@ピンキー:2008/08/11(月) 21:53:40 ID:eMX6iVmf
ちょ、投下中ですまんがちょっと待ってくれ

>>172〜っ!それ文学線やない!漢字の一やっ!
175名無しさん@ピンキー:2008/08/12(火) 08:51:58 ID:HmmD4o2E
>>174 悪い…こちら使用の携帯だと見分けつかんかった。これからは記号、の横線つかいます。


見てた人いるんだ(;_;)感動
176名無しさん@ピンキー:2008/08/12(火) 13:27:28 ID:Q+iB+Mjs
あ、あと投下はある程度まとめてやった方がいいわよん。
177名無しさん@ピンキー:2008/08/12(火) 18:39:59 ID:HmmD4o2E
>176さん、ご意見dです!

て事で、今回は出直します。申し訳ありません。次回同じ話か
別な話になるかはわかりませんが、できる限り流れにそって無難な
タイミングで投下しに来ます。
178名無しさん@ピンキー:2008/08/13(水) 05:50:07 ID:v8Bq/TPQ
魔王の人に質問があるのですが、前にティラナが捕獲した光エルフの少女はどうなったんでしょうか?
やはりティラナのお腹の中に?
179名無しさん@ピンキー:2008/08/15(金) 01:41:03 ID:ZjkPLO3x
保守
180名無しさん@ピンキー:2008/08/19(火) 07:44:52 ID:ywqc7fJf
保守
181名無しさん@ピンキー:2008/08/19(火) 22:58:18 ID:9QHJCu9s
最近投下が少ないので、ファイル整理中に発見したブツを投下します。
数スレ前に投下したヤツの続き的なものです。
暇つぶしに読んでください。
182牢獄の二人:2008/08/19(火) 23:00:26 ID:9QHJCu9s
「ぎぃゃあぁぁぁぁぁ―――っ!!!」

地下牢中に女の絶叫が響き渡っても、拷問吏は手を止めなかった。
本来これだけの大音声を間近で聞いたのならば、普通の人間は耳を塞がざるを得なかったろう。
だが、彼らは微塵も動揺しなかった。
拷問吏たちは鼓膜を潰された『聾宦官』なのだから。
王族に近侍する宦官の中で、宮中で行われる密談を盗み聞きすることを不可能にするために、
その聴覚を破壊する風習がこの大陸の一部に存在していた。
耳が聞こえない彼らには、拷問を受ける囚人の苦痛の声も哀願も聞こえない。
囚人を責め苛むことにかけて彼らほどの適任者もいなかった。

「公女様っ! お話します! 全てお話しますから、なにとぞお許し下さいっ!!」

女囚の哀訴を聞き流し、公女はさらに続けるように身振りで伝えた。
それを見て、さらなる地獄を味合わせるために、拷問吏は鋸を女囚の指にあてがった。

「…いやぁあぁああ――!」

囚人が恐怖に怯える有様を、公女は微笑みさえ浮かべながら眺めている。
その公女を呆れたように一人の男が見ていた。
誰もが近寄ることすらはばかるこの地下牢獄に、彼はわざわざ降りてきたのだ。

「いや、済まない… で、何の話だったかな?」
「貴方の配下の者達が、王都の住人に働く狼藉は目に余るものでね…
 こうして苦情を申し上げに参上したのですよ。姉上」
「ほう? そんな惨い真似をさせているつもりはないけれど」
「こうして地下牢に篭っておられれば、地上のでの出来事はお分かりになりますまい」
「ふふふっ、地下は良い… 長く地上に居ると身体が乾いてしまう」
「ではお一人で地下墳墓にでも入られたらいかがです?」
「血を分けた姉に酷いことを言う奴だね。それに地下墳墓なんぞになんの楽しみがある?
 私は死体には興味がないぞ」

  アギャァァァァ―――!!!

再び女の絶叫が二人の会話を中断させた。

「あまり喚かれると話も出来ないね… 静かにさせよう」

公女が『囚人を黙らせよ』というサインを送ると、主に忠実な拷問吏は女囚の口に布切れをねじ込み、
叫び声が洩れないようにする。
声で命令を受ける事が出来ない代わりに、彼らは独特の動作による符丁によって
意思の疎通が出来るよう調教されていた。
183名無しさん@ピンキー:2008/08/19(火) 23:01:14 ID:9QHJCu9s
「あの娘は一体何をしたというのです?」
「んー、あの女はね、先王派の残党の一人が召し使っていた者でね。
 そいつの逃亡先と邸宅に残してあったはずの財宝の隠匿先を知ってる筈なのだよ」
「……ほう?」
「始めは私も優しく聞いたんだけどねえ。
 『王の温情に背いた反逆者っ、貴様に私の忠義など分かるまい!呪われた弑逆者には死んでも教えないわ!』
 …なんて言うものだからね。その覚悟がどれほどのものか試してやったんだよ」
「あの娘は先程口を割りそうな様子でしたが?」
「クククッ、お前は甘いよ。私はあやつに二十種類の拷問を用意してやったんだが、
 たった二種も終わらぬうちに弱音を吐いたよ」

公家特有の冷たい美貌に笑みを浮かべながら、公女は話を続けた。

「敵とその財産を隠匿した罪、我らを罵った罪に加えて、自分の主を裏切る罪もあるのだから、
 とても許すことはできないよ。『話しますから許してください』ではなく、
 『話しますから殺してください』と言い出すまで、責め抜いてやらねば気が済まないのさ」
「姉上… 酷刑を乱用して住民を怯えさせる振る舞いは控えるべきですよ」
「ふっ、王都内での刑罰の執行と残党の追及については父上の許しを得ている。差し出た口を利くな」

そう言うと公女はもはや弟との会談に興味を失ったかのように、拷問吏に囚人の口から布を外すよう命じた。

「この件についてもう話すことは無い。文句があるなら父上を通してくることだ」
「………では姉上、我も地上に帰るといたしましょう」

男もこれ以上姉と話し合うことの無駄を悟った。
そして哀れな囚人達の叫び声が響く忌まわしい地下牢を後にした。


・・・・・・・・・・・・・・・
184名無しさん@ピンキー:2008/08/19(火) 23:01:54 ID:9QHJCu9s
「まあ、このようなことがあったのだがな」

姉と会見した地下牢獄とはさらに別の場所、彼の手勢が駐屯している離宮の地下牢で、
公子バシレイウスはエレインに語った。
二人とも衣服を身に着けず、生まれたままの姿であった。
ただし、女騎士の腕には手錠が嵌められていた。
粗末な寝台の上で、今や敵同士になった幼馴染二人は寄り添っていた。

己を閉じ込めた男の腕の中で、エレインは震えていた。
だが、それは恐怖よりも敵方の所業のおぞましさからであった。
この牢獄も住み良い場所であるとは決して言えないが、
公女パトリキアのそれと比べれば、天国と地獄ほどの開きがある。

「いくら強情な近衛騎士といえど、姉上の手にかかっては秘密を守りきることはできまいな」
「………でしたら、私をパトリキア殿にお引渡しになったらいかがですか」
「馬鹿を言え、なぜ姉上に霊剣の手がかりを呉れてやる必要がある?」

先日彼女がこの地下牢に閉じ込められて以来、エレインに霊剣のありかを問いただすために
バシレイオスは時折ここを訪れている。
しかし、彼女の口から秘密が明かされることはなかった。
バシレイオスは彼の姉のように、エレインを拷問にかけて聞き出そうとはしなかった。
その代わり、訪れるたびに彼女を抱いた。
虜囚の身であるエレインには、それを拒むことはできなかった。
初めのうちに見せていた無意味な抵抗も、いまではほとんど行われていない。
聞く方も答える方も、結果は分かりきった形だけの尋問の後に、男の方から女の身体を求める。
そうした関係がここ二月ほど続いていた。

「それに姉上の手にかかれば、お前の身体に鞭を打ち、焼き鏝を当ることになるだろう。
 女の尊厳の全てを蹂躙し、理性も希望も残らず磨り潰すのが姉上の性分だ………
 我はお前にそのような真似をさせたくないぞ」
「あっ……」

女騎士の肌身を撫でながら、バシレイオスはそう囁いた。
エレインの身体には、年頃の娘の持つしなやかな肢体の底に、戦士に相応しい筋肉が秘められている。
だが男女の交わりを知ってからは、蕾がほころぶように硬さが取れ、ふくよかな柔肉が備わり始めていた。
当人にすれば、獄中生活の鍛錬不足のせいだと思いたかった。
しかし心とは裏腹に、交合に痛みではなく快楽を感じ始めていることは隠せない。
つい先程まで、敵であるはずの男の手管によって恍惚の極みに達して、
言葉にならぬ叫び声を地下牢に響き渡らせていたのだ。
185名無しさん@ピンキー:2008/08/19(火) 23:02:35 ID:9QHJCu9s
(女の身体は何て不都合に出来ているんだっ… こんな仕打ちを受けても、私は………)

下腹に、行為の残滓がまだ感じ取れる。
火照った肉体は、まだ冷え切ってはいない。
女騎士の懊悩を知ってか、男の手は彼女の下腹を優しく撫でさすった。
男の手でそこを撫でられても、嫌悪どころか喜悦を感じてしまう。
そんな自分の変化は、エレインにとって不本意極まりないことだった。

「ところでエレイン、こうして情を交わし続ければ、そのうち我の子を孕む事もあり得るよな」
「っ!」

その言葉は、矢のようにエレインの心に突き刺さった。
指摘されるまでも無く、彼女もそれ位は承知している。
だが考えないようにして来たのだ。
男と女が関係を持てば、自然にそうなるものだとは分かっていたが、
正式に嫁ぐこと無く懐妊するという事は、由緒有る家の子女として最大の不名誉である。
しかし、現在自分の胎に子を宿すという可能性は十分にあり得る。

だが、それは想像するだけで震えそうになる事態であった。

「そこでこういう案はどうだ? 神器のありかを教えてくれるのなら、我はお前を正式に娶る」
「えっ?」
「そしていずれはお前をアヴァロン王妃に冊立し、二人の長子に王国を継がせるとしよう。
 これは我が出来る精一杯だ…  これ以上の譲歩は在り得ないぞ」

エレインは、己を真摯に見つめるバシレイオスの目が偽りを言っていない事を感じた。
だがそれは余りに突然、かつ信じられない申し出であり、問い直さずには居られなかった。

「しっ正気で申されているのですか?」
「我が無用な戯言を吐く男では無いと、お前は知っている筈だろう」
「ク…クラトリウス公子やパトリキア公女はどうなさるつもりです。
 貴方の父が王位に就いたとしても、彼らの方が継承権は上位で………」
「お前の方こそ正気か? 奴らに国を治めることなど出来るものか」

己の肉親の事を語っているというのに、バシレイウスの声には憎しみすら混じっていた。
186名無しさん@ピンキー:2008/08/19(火) 23:03:09 ID:9QHJCu9s
「兄は虐殺中毒、姉は拷問狂い、弟は白痴、妹は色魔………そして父はあの通りの権力欲の亡者だ。
 こうまでろくでなしが揃ってしまうとは、アルトリウスの血脈は呪われているのかもしれないな」
「公子………」
「あいつらの誰が王となっても、この国に未来は無い。その点先王も同罪だ。
 仮に父が反乱を起こさなかったとしても、いずれ今日のような結果になっていただろうよ」
「…」
「結局、王家の生き残りでまともなのは我とセシリアだけなのだ。
 ………どちらかが王とならねば、この国に未来は無い」

バシレイオスの嘆きに、エレインは返す言葉も無かった。
実際その通りなのだった。
バシレイオスの父が助命されたのは、先王の無能さと無気力に不安を抱く廷臣が多かった為でもあるのだ。

「父親と兄君、姉君を退けて、貴方が王になると?」
「そして王妃はお前だ」
「本気で……仰っているのですか」
「エレイン、我がお前に嘘を吐いたことはあるか?」

この公子が幼馴染の少女を騙したことは無い。
それは重々分かっている事だった。
(私が、公子の妻に…)
大神官家は権門と云えないとしても、家格が低いという訳でもない。
いずれ二人を娶わせては…という話も、以前宮中でもあったのだ。
(この求婚を受け入れれば、もし身篭っても…)
そのような考えが脳裏をよぎった。
だがそれは、主君に捧げた忠誠を裏切ることになるの行為だった。

「……お受けできません」
「我のことが嫌いか? それとも父上を殺した輩の一味と憎んでいるからか?」
「いえ………もし公子が其処に居られたのなら、父を助けるよう計らって頂けたはず。
 そうならなかったのは、運命と諦めております」
「では…」
「バシレイオス公子…私も一人の娘として、貴方をお慕いしていた時期が有りました。
 しかし、王家の神器を預かることになったのも私の宿命です。
 己の身の安寧の為に秘密を明かしてしまえば、私は一生自分を許すことが出来ないでしょう」
187名無しさん@ピンキー:2008/08/19(火) 23:04:29 ID:9QHJCu9s
「エレイン……」
「もし、私の胎に子が宿ってしまった時は……、公子のお慈悲におすがりするしかありません。
 私の知るバシレイオス公子なら、罪無き赤子に惨い真似はなさらないでしょうから」

求婚を拒まれながらも、バシレイオスはそれ程失望を感じることはなかった。
心のどこかで、その回答を予感していたような気がした。

「そうか、だがそのように早急に答えを出さなくてもいい。
 気が変わったら教えてくれ」
「はい……変わりましたならば」

しかし、バシレイオスは幼馴染の声に冒し難い決意が込められているのを感じていた。
身内の誰よりも気心の通じていた二人なのだ。
もはや翻意する事はあるまいと、彼は半ば確信していた。

「エレイン……… 霊剣の在り処以外に一つだけ聞きたいことがある」
「何でしょう?」
「先程、我を慕った時期が有ると言っていたが、今は違うのか?」

その問いには、女騎士は答えなかった。
そしてバシレイオスも無理に聞き出そうとする事はなかった。

(終わり)
188名無しさん@ピンキー:2008/08/19(火) 23:21:31 ID:YAXgCpVS
GJ!
189名無しさん@ピンキー:2008/08/20(水) 01:29:47 ID:2xB0WIj6
この続き的なものも頼む。先が気になるじゃないかw
190名無しさん@ピンキー:2008/08/20(水) 20:24:07 ID:PnloE9fL
何だよ。スゲー続き気になるじゃないか。エロ抜きでも読みたいぞ
191名無しさん@ピンキー:2008/08/20(水) 20:41:12 ID:GjDIuzxz
何の続きなのかがきになる。
192名無しさん@ピンキー:2008/08/21(木) 00:41:56 ID:wDFl/TKQ
前にここにうpされてた、捕らわれた女兵士ものだよな?
続き気になってたからうpされて嬉しい
193桃肉 ◆CrEK/Iu5PU :2008/08/21(木) 00:49:48 ID:eFQvDto0
ちょいと表現の練習がてら書いてみたものを投下しますね。
そのうちエロくなると思うけど、今回はまだ非エロ。パンツくらいまで。
多分12レス。
194魔法学園☆グランシール (1/12):2008/08/21(木) 00:51:46 ID:eFQvDto0
ホームルーム

 ヤバイ。息が乱れてる。脚の動きと呼吸のリズムが一致しなくなって、それが急激に体力を
奪っていくのが判る。
 だからと言って止まる訳には行かないぜ。
 離れていても判る。そいつの纏っているオーラの色は真っ黒だ。
 ドス黒い殺気が球状の塊を描くように迫り、俺は背筋をジリジリと焦がされるような錯覚さえ
覚える。

 ――捕まったら殺されるぞ――

 俺のアラームがビンビンに反応して危機を告げていた。
 息が切れ始めると共に、背後の足音に呼吸音が重なって聞こえてくる。いかん!若干だが、
奴の方が足が速いらしい。
 あと少し。あと少しでゴールに辿り着く。そのサンクチュアリに到達さえしてしまえば後は
どうにでもなるだろう。

 「そろそろ限界!」悲鳴を上げそうになる両脚に喝を入れて、ラストスパート。目指す場所は、
ようやく視界に入ってきたあの扉!
 見えてしまえば後はあっと言う間だ。アイツとの差はもはや10……いや数mか。しかし俺の
手はもうすぐ扉に手が届こうとして……届いた!
 急ブレーキ!ガラリと音を立てて扉を開く。その瞬間、俺の頭の中には勝利のファンファーレ
が高らかに鳴り響いていた。
 そのファンファーレを背景に俺は高らかに勝利の言葉を告げる。

 「先生!遅れました!速やかに授業に参加したいと思います!」

 遅れる事1秒、開けっ放しの扉の向こうでズザザッと横滑りに急ブレーキをかけ、そのまま
ドリフトを決めるように教室に駆け込んで来る追撃者の姿。
 朱のリボンでポニーテールにまとめた深紫色の髪が全力疾走の余韻でフワリと跳ねた。
 リボンと同じくらい真っ赤になった顔には憤怒の色が浮かび、教室内に辿り着いた俺の顔を
睨みつける。

 「ハア、ハア、バイス……ハア、ハア、今日という今日は……げほ!けほ!」
 「まあ落ち着けアルカ。ほら、この牛乳は俺のおごりだぜ」

 朝ご飯代わりにカバンに入れてあった牛乳パックを差し出す。
 本当だったらアルカを迎えに行ったついでに、いつもの様にアルカのお袋さんにサンドイッチ
を貰って、通学兼朝食タイムと洒落込むはずだったんだがな。

 「あ、ありがと。んぐ、んぐ、んぐ、ぷは。……ふう」
 「落ち着いたか?」
 「うん」
 「おっけ。んじゃあ席に着こうぜ?」
 「うん。でも、その前に……死ね――――っっ!!」

 ――ドゴッ!
 俺の立っていたすぐ後ろの壁にヒビが走った。
 すんでのところでアルカの一撃をかわした俺は、一方的な暴力に抗議の声を上げた。
195魔法学園☆グランシール (2/12):2008/08/21(木) 00:53:58 ID:eFQvDto0
 「てててめえアルカっ!牛乳の礼がそれかよ!」
 「バイスぶっ殺し用の栄養補給でしょ?殊勝な心がけに免じて今のカロリーは全部アンタを
ボコボコにするために使ってあげるから感謝しなさい!」
 「恩知らず!全然免じてないし!飲んだ牛乳返せ!」
 「おかげさまで絶賛消化中よ!そ・れ・よ・り・も!あれだけの事やらかしといて、牛乳一本で
誤魔化せるとでも思ってるんじゃないでしょうね!?」

 ゴゴゴと暗黒オーラを立ち上らせながら、アルカが迫る。
 あれだけの事?何だ?一体どれの事だ?
 俺の顔を見た途端に壮絶チェイスが始まった事で、「ああ、イタズラがバレたんだな」と察する
事はできた。
 しかし……はて、どのイタズラがバレたのだろうか?
 昔の俺はもう少し慎重にやらかしていたもんだが……今時の俺には心当たりがありすぎる
から困る。

 最近やった派手なイタズラと言えば、寝顔を魔法「スクリーンショット」で撮影して、その写真を
クラスの男子にばら撒いた事か。うん。あれは大好評だった。
 あとは戦技実習中にスカートが落ちるように、紐に切れ込みを入れた事くらいか?
 あの時は戦技実習中どころか登校中にスカートが落ちちまったんだっけ。
 そして……あろう事かアルカは風通しが良くなった事に気付かず、パンツ丸出しのまま
元気一杯に登校しちまったんだ。
 いや、俺も言おう言おうとは思いつつも、タイミングを逃したと言うか、パンツに見とれてた
というか。あ、ちなみに紐パンツな。
 折りしもその時には格闘戦技講師のグレオール先生(42歳男、独身、恋人なし)が校門で
抜き打ち検査をしていたんだが、アルカの姿に鼻血を噴いてぶっ倒れた為に所持品検査が
有耶無耶になり、勇者の称号を得るに至った訳だ。

 「ななななっ!あのスカートもやっぱりアンタの仕業かあっ!!」

 しまったぁ―――っ!そっちじゃなかったか!
 アルカが2週間前の事件を思い出して、唯でさえ赤い顔を更に真っ赤にさせる。
 いかん!完全にやぶ蛇だ。放っておけば犯人はバレなかったのに何てこった!写真の件
だけでなく、スカートの件の燃料を投下しちまった!
 何とかアルカをなだめないと俺の命がない!
 そうだ!ここは神聖なる教室。ここに入ってさえしまえば何とかなるんだった。

 「そ、それはともかく、今はホームルーム中だぜ?迷惑かけちゃ駄目だよな。うん!」

 「ねえ先生」同意を得ようと教卓の方を見たが、先生は姿を消していた。
 あれ?インビジブル(透明化)の魔法実習か?いや、今の時間はホームルームだよな。
だったら先生は居るに決まってる。頼むよ。居てくれよ。俺、死んじゃうよ。
 助けを求めるようにクラス内を見渡すと、ジト目で俺を見つめる眼鏡クンと目が合った。
 ヒョロリとした痩せ型でいかにも真面目そうな眼鏡クンは、受け止めた俺の視線を黒板の
方へと投げ返す。視線を追って黒板を見ると、

 ――HRは自習なのです。一時間目が始まるまで静かにしてるようにね☆――
196魔法学園☆グランシール (3/12):2008/08/21(木) 00:56:04 ID:eFQvDto0
 「バイスのせいで……バイスのせいで……あたしは“勇者パンツマンレディ・しましまピンク”
とか“身体を張ったエロ面白い前衛的ファッションの先駆者”とか呼ばれる事に……」

 ヤバイ。エロ面白かったのは紛れもない事実だが、これはヤバイ状況だぞ。
 ぶつぶつと恨み言を言うように黒いオーラをどよんどよんと漂わせるしましまピンク。全速力で
怒りゲージをチャージ中のご様子だ。
 俺はダラダラと溢れ出す汗を誤魔化すように、爽やかな笑顔で教卓に立ち、様子を見守って
いる皆に向かう。前置き代わりにコホンと咳払いを一つ。

 「あー。皆おはよう。こないだの写真は見てくれたよな?こんなに可愛らしい女の子がうちの
クラスに居てくれるなんて、とても喜ばしい事だ。この無上の喜びを皆で分かち合う事は、
俺達の学園生活の充実のために重要な事だとは思わないか?」

 お世辞にも成績は良いとは言えないこのクラスの男子の殆どは、力強くウンウンと頷いている。
 あ、女たらしのロステアも珍しくこの時間に登校してるな。楽しそうにニヤニヤして見物してやがる。

 殺意のナントカに目覚めちゃった誰かさんのような今の形相からはとても想像もできないが、
アルカはクラスの男子の中ではナンバー1か2と言った高い人気を集めている。
 確かに、ややツリ目ながらも子供っぽい丸顔に、喜怒哀楽の激しい性格。判りやすく、他人に
警戒心を抱かせないタイプだ。人気があるのも頷けるぜ。
 その寝顔をスクリーンショットの魔法で撮影してクラスの男子達と分かち合うのは、幼馴染である
俺の趣味……もとい義務みたいなもんだ。
 それにあの日の朝、いつものように迎えに行ったらアルカのお袋さんが言ったんだ。「まだ寝てるから、
写真でも撮ってバラ撒いてやって」と。
 それが本気であったか冗談であったかは知らんけどな。

 ともあれ俺は演説の反応を確かめる。
 真面目なコルデ――さっきの眼鏡クンだ――は何も聞かなかったように一時間目の予習をしている。
まあ、コルデの反応はそんなもんだろう。最初から期待しちゃいないさ。
 しかし、それ以外のクラスメイトのこの反応を見よ!

 「サイッテー」
 「セクハラよ、セクハラ」
 「バイス、本人の承諾なしでの変態行為は慎んだ方が良いぞ?」

 あれ?約半分の反応はあまり良くないぞ?しかも俺には割と甘いはずの委員長シェルティアまでもが
淡々と非難の言葉を俺に投げかけてくる。
 ……しまった。あの写真が女子の間にまで広まるとは計算外だった。
 しかしそんな反応にもめげず、俺は爽やかな笑顔を保ったまま、背後の殺る気満々の仁王像に向き直り、

 「な?良い評判だろ?これも全部アルカが可愛いから、」
 「喰らえ――っっ!!」
 「ひいっ!」
197魔法学園☆グランシール (4/12):2008/08/21(木) 00:57:36 ID:eFQvDto0
 俺の頭のあった位置を、殆ど目に見えない速度で拳が通過していた。
 辛うじて身をのけぞらせてイナバウ――じゃない、背中が攣った海老のような姿勢になった俺は、
通過したまま突き出されたアルカの拳を見て肝を冷やした。
 アルカの拳――と言うより、拳から肘にかけて――には、着用している女生徒用の制服とは明らか
にミスマッチなゴツゴツしたガントレットが装着されている。
 拳の先端部分にいかついトゲトゲがくっ付いているその過激な形状は、このガントレットが防御より
も、むしろ攻撃の為の物である事を物語っていた。
 そんな物騒なものを何処からとも無く取り出したアルカだが、別に手品が趣味ってわけじゃないぞ。
 いや、ある意味手品かも知れんが、俺達にとっては驚くべきことじゃないって事な。

 「あ……アルカさん?もしかして、マテリアライズ(物質化)しやがっていらっしゃいますね?それって、
そのー、校則違反……」
 「あ〜ら?何を仰っているのかしら?残念だけど目撃者の一人も居ないんじゃ関係ございません事よ?」

 ほ〜っほっほっ!とか後に続きそうな、似合いもしないお嬢様言葉が凶悪な意味を帯びて教室に
響き渡る。
 女子がアルカの味方なのは仕方ないとして、男子勢は――くそ、だめだ。
 皆、気まずそうに下を向いて、何事も起きていないようにいそいそと一時間目の準備をし始めていた。
さすがはアルカ、脅迫の効果は覿面だ。
 あ、ロステアの馬鹿野郎は横向いて口笛ピューピュー吹いてやがる。くそ、白々しいのが尚更ムカつくぜ。

 「みんな!脅迫に屈するのか!?暴力に撒けたら同じ悲劇が何度も起きちゃうじゃないか!このまま
被害者が増えて良いのか!?」
 「質問。同じ悲劇って、例えばどんな事よ」

 ロステアがニヤニヤしながら聞いてくる。
 そんなの決まってるだろうが!考えるだに恐ろしい。

 「俺がアルカにボコられる」
 「被害者って誰と誰よ」
 「俺と……俺と……俺……かな」
 「問題ないな」
 「問題ないね」

 くそ!なんて薄情な奴らだ!
 しかし、これはマジにヤバイぞ。
 俺が生きて一時間目を受けるためには、ここは何としてもアルカのご機嫌を取る必要があるってわけだ。

 「待て待てアルカ。お前には不本意だったかもしれないが、これもお前の事を思っての事なんだぜ?」
 「へぇ〜え?」

 冷やかな返事とは裏腹の笑顔が怖すぎる。
 ええい!負けるか!ここは形振り構わず褒め殺しだ!

 「いいか。お前の事は幼馴染の俺が良く知ってる。お前が本当はすげえ可愛いって事も、昔っから知ってる。
お前の寝顔があんまり可愛いから、思わず見とれちまったくらいだ!」
198魔法学園☆グランシール (5/12):2008/08/21(木) 00:59:51 ID:eFQvDto0
 ……判ってる。判ってる。何も言うな。頼む。
 こんな見え見えの言い訳でこいつの怒りが解ければ苦労は――と、何だ?アルカの奴、意表を
付かれたようなビックリ顔で、しかも頬を赤らめてやがる。
 なんて馬鹿――じゃない、単純な女だ。だが、これはもう一押しでイケるか?

 「だから、魅力的なアルカをもっと皆に知ってもらいたくてだな……。そう、お前の寝乱れた姿とか、
枕を抱っこして寝てる様子とかを」
 「……アンタの気持ちは良っく判ったわ」

 いや判ってねえ!その引き攣ったように吊り上がった口元は、絶対に笑ってねえよな?
 俺、何か間違えたか?アルカの顔の上半分が暗黒に包まれたように表情が読めなくなっているぞ。
 どこだ?どこで地雷を踏んだんだ?

 「そうねぇ……。アンタもあたしの為を思ってやってくれたんならしょうがない。一発で許してあげる」
 「待て待て!そうやってすぐに暴力を振るうのを改めないとだな!お前もアルカザンって呼ばれる
のは嫌だろう!?」
 「――――ッ!!」

 ビキッと空気が凍る音がして、俺は思わず禁句であるアルカの本名を言ってしまった事に気付いた。
 ああ、今のは判る。判るとも。完璧に地雷だ。
 えーと、まったくもってそんな余裕は無いんだが一応説明しておくとだ、「アルカザン」ってのは
アルカの本名であると同時に、100年前の魔竜戦線の時代に大活躍した拳士の名前だ。
 今は亡きアルカの親父さんが、その無敵伝説の大ファンだったそうで、アルカが生まれた時に
一も二もなくその名前が付けられてしまったらしい。
 まあ、そこまではそう悪い話じゃないと思うよ。アルカもその名前を気に入っていて、親父さんの
希望通りに拳士としての修練も積んでいた。
 まだ「戦技科」なんてものが無かった頃の話だって事を考えると、結構凄い入れ込みようだったと
思うぜ。

 それに付き合わされるのは隣の家に住む俺。
 と言っても、子供のときから両親は居なかったし、殆どアルカの両親に面倒見て貰ってたから兄妹
みたいなもんだったけどな。
 そんな俺はガキ共のイジメに対抗するためにケンカの腕を磨いていたから、お互いに相手にとって
不足は無かったわけで……まあそんなに悪い関係じゃなかったんだろう。
 オヤジさんが他界した後もその関係は続いたんだが……それは、アルカザンってのが“ドワーフの
爺さん”の名前、つまりドワーフ族におけるガチムチマッチョな男性名だって事が判るまでの話だった。
 それ以来、アルカはアルカザンと呼ばれる事を極端に嫌い、もしもうっかり口を滑らせたりしたら……。

 「前言撤回。一撃で楽にしてあげるね☆」

 語尾のアクセントを可愛らしく上げて告げる言葉が、ニッコリと微笑んだ笑顔と相まって眩しいぜ。
いや、これはアルカのマジギレモードなんだよ!
 メイデー!メイデー!ああ、もうだめかも。色んな意味で!
199魔法学園☆グランシール (6/12):2008/08/21(木) 01:01:14 ID:eFQvDto0
 「死ねえっっ!!」
 「ひいっ!」

 ズバンッ!乾いた音を立てて空気が裂帛した。
 まるでサンドバックを殴ったような音だが、アルカの拳が命中したわけじゃないぞ?
 あれはアルカの拳が風を切る音、もとい突き出した拳に空気が圧縮され、更にそれを叩き潰した
衝撃波の音だ。
 もちろん人間にはそんな力を発揮する事は不可能。それを可能にしているのが、アルカが装備
している「想具」と言う魔法の武器……って説明してる場合じゃねえ!死ぬ!死んじゃううっ!!
 再び轟音を立てる拳を回避しつつ、猛然とダッシュ。もはやこの教室には救いの道はないようだ。

 俺は一時間目の単位を諦め、廊下へと遁走すべく扉の方に駆け寄り――、一瞬の躊躇の末、
扉を開けずに右へと回避した。
 廊下に走り出るものと思い込んでいたアルカは俺の唐突な動きについて来れず、思いっきり
空振りして――、

 ガラリ――グシャ。

 うむ。アルカの一撃はいつも冴えてるな。
 想具で強化された拳は、扉を開けた一時間目の光学魔法の教師アラドの顔面に見事にめり込み、
「あ」と言ったまま固まっているアルカを他所に、廊下の対面の壁へとぶっ飛ばしていた。


 「――ふむ。事情は概ね理解しました」

 二つの鼻の穴にチリ紙を詰めたまま、苦虫をかみ殺したような表情でアラドは俺のフルネームと
共に処分を告げた。しかし頑丈な教師だな。

 「バインアース・グリード、光学魔法の単位は――この分なら大丈夫ですね?それでは一時間目が
終わるまで生徒指導室で反省する事」
 「待てよ!それ絶対判ってねえぞ!教師がそんな不公平していいのかよ!」
 「私が女生徒を贔屓するのは今に始まった事じゃないでしょう」

 光学魔法学科の教師、アラドは眉一つ動かさずにぬけぬけと言いやがった。
 浅黒い肌のヤサ男――と言った印象のこの教師はいつもこの調子で女子ばかり贔屓しやがる。
 その女子が大勢見てる前で美形な顔面から鼻血を垂れ流したのが屈辱だったのだろう。
 しかし、問題はその矛先が俺にのみ向いていると言う事だ。
 校則違反で想具を使ったのもアルカならば、アラドをぶっ飛ばしたのもアルカだ。なのに罰を受ける
のは俺一人。そんな理不尽があるかよ!

 「堂々と問題発言するんじゃねえ!それでも教師かよ!」
 「――にしても、よく撮れてますね。ごく普通のレンズを媒体にしているにも関わらず、イメージ固定
時の歪曲もきっちりと補正されています。何よりも被写体に対する集中力が素晴らしい」
200魔法学園☆グランシール (7/12):2008/08/21(木) 01:03:16 ID:eFQvDto0
 俺の抗議を事も無げに受け流しながらアラドがまじまじと見ているのは、問題のアルカの
寝姿の写真だ。
 うむ。アラドが褒めるのも当然、俺としても会心のショットが撮れたと思う。
 学園ではまずお目にかかれないポニーテールを下ろした姿は誰の目にも新鮮だし、
すやすやと心地良さげな寝顔で枕を抱いて丸くなっている無防備なアルカの姿は、見慣れた
俺でも可愛いと思うぜ。
 しかも、今回取った写真は寝崩れたパジャマの隙間からチラリと薄いピンク色の布が覗いて
おり、あー、なんだ、つまり、これを見た野郎共は須らくこの日のアルカの下着の色を知るに
至ったと言うわけだ。

 ともあれ、アルカの写真をクラスの皆に見せたのは、実は今回が初めてではない。と言うか、
しょっちゅうやってる。
 しかし今回の写真は、今までの最好評を記録した1ショットを超えるかも知れん。
 無防備な寝顔も高ポイントながら、ほんの僅か、チラリとではあるがアルカのパンツが映り
こんでいるのだ。
 もっとも、2週間前にはチラリどころかパンツ全開で登校したわけで、それに比べれば全然
大した事ないはずなのだが。
 しかし、この“チラリ”と言うのが、その破壊力を増幅しているらしい。
 パンツの世界とは誠に深遠なるものである。

 「うわわっ!先生!見ないでーっ!」

 真っ赤な顔をしたアルカが慌てて先生の手から写真をひったくった。こいつはこの調子で全て
の写真を回収するつもりなのだろうか?
 そう言えば以前の写真も、こうやって殆どの写真を回収してのけたんだっけな。
 どちらの写真もあまりにも好評な為、このクラスどころか他校にまで広まっているかも知れない
と言う事実は秘密にしておいた方が良さそうだ。
 アラドはアルカの暴挙は意にも介せぬようにニコリと微笑んで俺に向かって言った。

 「私の光学魔法の授業の成果が表れているようで大変結構。ご褒美として今回は特別に貴方の
意見を聞き入れましょう」

 お、思わぬ高評価。よっしゃ!これでアルカも罰に巻き込む事ができるぞ。つーか、そもそも
アラドをぶん殴ったのはアルカなんだけどな。

 「バインアース・グリード、並びにアルカザン・エイキューム。私の授業の間、生徒指導室で反省
している事。――2人きりでな」
 「ちょ」
 「はーい。わっかりましたー」

 校則ぶっちぎりでマテリアライズしたガントレットが俺の首根っこをむんずと掴み、そのままずるずる
と教室の外へと引きずり出した。
 女生徒と2人きりで生徒指導室!いけない課外授業の予感!?断じて違うぞ!これは死の予感だ!

 どうやら俺はここまでらしい。じゃあな皆。命があったらまた会おう!
201魔法学園☆グランシール (8/12):2008/08/21(木) 01:05:08 ID:eFQvDto0
一時間目:光学魔法

 ――やれやれ、今日も相変わらず賑やかな事だ。
 先生のお墨付きを得たアルカに連れ去られるまでの間、バイスは何度か僕に助けを求めるような
視線を送ってきた。
 でも僕だって無意味にアルカを敵に回したいとは思わないさ。
 何やら指導室の方から「きゃー」「いやー」「らめぇー」などと不穏な声が聞こえるけど、まあ問題は
ないだろう。
 男女が2人きりでいる部屋からこんな悲鳴が聞こえてきたら、本来は教師がすっ飛んで行くところ
なんだろうけど、聞こえる悲鳴が男子のものである限りは放置するのがこの学園の方針らしい。

 「やれやれ、今日も相変わらず賑やかな事だね。そうは思わないか?コルデ」

 僕が今思っていた事をそのまま言葉にして話しかけて来る声があった。
 視線を横に移すと、銀色の細工物のような髪が呼吸に合わせて控えめに揺れている。
 シェルティア・ライザ・グランディス。このクラスの委員長だ。
 腰まで伸ばした髪をサラサラと揺らめかすその姿は、まるで壁画から抜け出した女神様のよう。
 髪と同じ銀色のフレームの眼鏡が良く似合う顔立ち。歳相応なあどけなさを残してはいるものの、
しかし、それでいて強い意志を秘めたように凛としている。
 性格もその印象どおりハキハキとした態度ではっきりと物を言い、そうだね、一言で言えばクール
な才女と言ったところか。
 ちょっと近寄りがたい冷たいイメージが付きまとっていて、クラスでも凄く人気はありながら、でも
声を掛けようとする男子は殆ど居ない。
 そんな彼女が僕に話しているのは、特別僕が彼女と仲が良いから……だったら良かったんだけど、
僕が彼女と同じ班(パーティ)に所属しているからと言うだけの話だ。

 「う、うん。僕もそう思ってたとこ。バイスも懲りないよねえ」

 ああ、せっかくシェルティアの方から話しかけてくれたんだから、話を繋がないと。話題、話題、
何か無いかな。

 「では、コルデ。続きを読みたまえ」
 「えっ?はいはい。……あっ、その、ええと」

 アラド先生、タイミング最悪だよ。しかもシェルティアと話すことばかり考えていて、授業なんて聞いちゃ
いなかった。大失敗だ。
 こりゃ謝って勘弁してもらうしかないかな……。と、そんな僕の様子に、シェルティアがクスッと笑って
一言二言何か呟いて僕の教科書を指差した。
 直後、開かれたままの僕の教科書の上で変化が起きる。長ったらしい魔術理論が展開されている
文章の一部分がポゥと光を放っていた。銀色の光は術者の魔法属性を示してる。
 もちろん確認するまでも無くシェルティアの助け舟だ。ここを読めば良いのかな。助かったよ。
 でも、シェルティアの好意は凄く嬉しいけど……。僕、カッコ悪いなあ。そんなことを考えながら教科書を
読み始めた。
202魔法学園☆グランシール (9/12):2008/08/21(木) 01:07:01 ID:eFQvDto0
 ――問題児が二人程少ない事もあり、アラド先生の講義は予定よりも若干早く終わったようだ。
 あの二人が痴話喧嘩を始めて授業がストップするのはいつもの事だけど、それを見越して授業の
予定を立てる先生もどうかと思うよ。

 「……では残りの時間は、そうだな。スクリーンショットの実技でもやっておいてもらおうか。バイス
に負けないようにな」

 半ば自習となった教室が途端にざわついてくる。
 僕はさっき指名されてからずっと続いていた緊張がようやく解け、机に突っ伏すように脱力していた。
 そんな僕の背中に話しかけてくるクールボイス。

 「コルデ、先ほどは済まなかったね」
 「いや、こっちこそありがとね。危いとこだったよ」
 「ん。まあ半分は私の責任みたいなものだからね。ところで、私の被写体になってもらえるかな?」
 「え?」

 突然の申し出に、一瞬何の事か判らなくなる。
 ああ、スクリーンショットの実技か。……って、これはチャンスだ!

 「あ!ああ、いいよ。そ、その代わりと行っては難だけど……し、シェルティアも、ぼ、ぼぼ僕の実技の
被写体に……」
 「いいとも」

 舌が回らない僕が皆まで言う前に快諾してくれた。
 うう……嬉しいけど……カッコ悪い僕。

 ……ここまでの様子で丸判りだよね。うん、僕は彼女に特別な思いを抱いている。
 彼女が傍に居るだけで暖かい気持ちになるし、彼女と話をしているだけで地に足が着いていないような
フワフワとした気分になってくる。
 きっかけは良くある話さ。
 何だったかな、僕らしからぬ凄く恥ずかしいミスをして、穴があったら入りたい、まさにそんな気分を
味わっていた時、カツカツと歩いて僕の目の前に立ったのが彼女だった。
 彼女の眼鏡が反射する光が冷たく感じて、僕はすっかり萎縮してしまっていた。
 でも彼女が僕の手を取ってフォローしてくれた時、初めて僕は彼女の顔をちゃんと見たんだ。
 眼鏡の中の意思の強そうな表情がホワリと崩れて、僕に向かって微笑んでいた。

 その笑顔は今でも僕の脳裏にはっきりと焼きついている。
 眼鏡やクールな喋り方で冷たいイメージが付きまとって敬遠されてはいるけど、彼女はとても、とても
優しく微笑むんだ。
 それを見てしまって以来、僕の心は彼女のものになってしまった。
 あの笑顔だけが僕を生かしていると言っても過言では無い。こんな気持ち、判らないかな。
203魔法学園☆グランシール (10/12):2008/08/21(木) 01:08:17 ID:eFQvDto0
 ――流石にシェルティアは一発で完璧な写真を撮っていた。
 眼鏡を外して僕に照準を合わせるようにレンズを向ける。片目を閉じて僕に集中するシェルティアに
ドギマギして、妙に緊張したような顔が赤いままの写真を撮られてしまった。
 次は僕の番だ。こっちを向いて座ってもらう。
 外した眼鏡を伸ばした手の先でしっかりと持って、シェルティアがそのレンズにぴったりと収まるよう
に位置づける。
 もう片方の手には黒い石。消しゴムのような長方形を二周りほど小さくしたものを想像してもらえば
正確だろうか?
 カタール・モノリス。略して“カタリス”と呼ばれるこのエーテル塊は汎用の魔法触媒として広く使われ
ている。

 アラド先生が授業で説明していたスクリーンショットの呪文を詠唱。
 手に持ったレンズの周りにポゥと水色の光が宿り、小さな魔法陣を形成する。
 詠唱しながらも、その間は被写体に対する集中力を切らさない。これがなかなか難いんだよね。
 スクリーンショットの魔法は術者が見たイメージをカタリスに情報固定する魔法なんだ。
 詠唱を間違えまいとして被写体に対する集中力を絶やしてしまうと、途端にピンボケになってしまう。
 レンズを使うのは、イメージの範囲を限定して成功率を高めるため。
 普通は光学魔法の教材に含まれているレンズを使うんだけど、僕やシェルティアの眼鏡みたいに
愛用しているレンズがあるなら、そっちの方がやりやすいんだ。

 普通スクリーンショットと言えば、魔法を代行してくれる「魔動機」を使うものなんだけど、この学園では
そう言った魔動機に頼らずに魔法を行使する技術を教えている。
 いや、そもそもそう言った魔動機の基本となる魔法を教えるのが魔法学園(コーデック)の存在する
理由と言っても良いかな。
 と言うのも、平和な今の時代、魔法ってのは戦闘技術ではなく生活を便利にする為に磨き上げられ、
生活の色々な場所に「魔動機」と言う形で浸透していて……

 「ところでコルデ?」
 「うん?」

 モノローグの最中にも僕はシェルティアの写真を撮っていた訳で。

 「その……もう良いか?既に10枚近く撮ってる気がするのだが」
 「あわわっ!ご、ごめん!」
 「いや、構わないが……じっくり見られるのにはあまり慣れて無くてね」

 そんな事を言うシェルティアの顔は、珍しく微妙に赤くなっている。か、可愛い……。
 思わずもう一枚写真を撮りたくなってしまう僕。そんな考えが後ろからの声で遮られた。

 「よっ!お二人さん。オレも混ぜてもらって良いかい?」

 自他共に認める「女ったらしのヤサ男」ことロステアだ。
 シェルティアと一緒に居る時に声をかけてくるって事は……。

 「昨日オンナに三又がバレちまってな。一挙玉砕、パートナーが全員いなくなっちまったんだよ」
 「えー」
204魔法学園☆グランシール (11/12):2008/08/21(木) 01:09:35 ID:eFQvDto0
 シェルティアの写真を堂々と撮れると喜んでいたのに、ちゃっかり便乗する気か。別に損する訳じゃ
ないけど、面白くないね。女の子にまとめてフラれたって言うのに、悲壮感の欠片もないし。
 ロステアの事だから、どうせ頼めば大抵の女子はオッケーしてくれるだろうし、何も僕のささやかな
喜びに割り込んでくる事はないじゃないか。
 と、僕の腕を肘で小突いてくる。そのまま僕にだけ聞こえる声で耳打ち。

 「シェルティ嬢の写真、後でコピッてくれ。その代わり……」

 乗った!方針変更だ!

 「そ、それじゃあ仕方ないね。こっちは終わってるから、好きなだけ撮って良いよ」

 さっきまでの悪態は何処へやら、椅子をシェルティアの横に置き、並ぶようにロステアの方を向く
現金な僕。シェルティアも仕方ないねと言いながら、動かずに座っている。
 ロステアは教材のレンズを構えながら、フームとか言いながら難しい顔をした。

 「ちょっと収まらないな。二人共もっと寄ってくれ……そうそう。もうちょい」
 「こ、こうかな?」

 ロステアに言われて仕方なくと言ったふうを装って、僕は座っている椅子をガタンとずらして
シェルティアに近づく。
 うん。この距離なら良いツーショットになりそうだ。この写真は生徒手帳にしまっておこうっと。

 「うーん、すまん。オレの集中力じゃ、ちょっと入りきれないんだ。もう少し、頼む」

 ロステアの言葉はごく自然な事だ。
 スクリーンショットの魔法は集中力が高いほど広範囲を撮影できるけど、逆に集中力が散漫だと
撮影範囲はグンと狭くなってしまう。
 でも、これもロステアの気の利いたサービスと言ったところだろうね。
 ついに、僕はシェルティアと腕が触れるくらいの距離までピッタリとくっ付いてしまう。
 うわ……彼女の腕が触れてるよ。こら、僕の心臓、落ち着けってば。
 チラリと横目で見ると、シェルティアもやはり少し赤面していた。そりゃそうだよね。この距離で
意識しないわけないよね。
 ロステアには感謝だけど、でもさすがに息が詰まっちゃう。気まずくなる前に早く撮って欲しいけど。

 「いいねいいね。よーし、撮るぜー」

 ロステアの手の中でカタリスがブン、と振動する。
 右手に持ったレンズと、左手に持ったカタリスが魔法力の糸でつながり、レンズに映ったイメージが
カタリスに流れ込んでいく。
 この右手から左手への魔力移動が肝心なんだけど、正直こんなのは光学魔法だけでなく、あらゆる
魔法の基礎だ。
 ロステアの成績が上の方じゃないからと言って、失敗するはずは――。
205魔法学園☆グランシール (12/12):2008/08/21(木) 01:11:02 ID:eFQvDto0
 ――パァンッ!

 「うわあっ!」

 突然、僕の目の前でロステアの左手のカタリスが音を立てた。
 魔力を急激に流しすぎて一時的にオーバーフローすると、こう言う破裂音が響く事があるんだ。
そんな事を考えながら――僕の身体は椅子ごと後ろへと倒れていった。

 「うわああっ!!」

 今度はビックリの声じゃなくて、本気で慌てて声を上げてしまう。
 崩れたバランスは立て直すのは難しそうで、僕はせめて後頭部を床にぶつけるまいと、身体を
捻った。途中でガキンと音がしたような……?

 「うー、いてて……何だってそんなポカミスをするのさ」
 「いやー、すまんすまん。集中は苦手でなー」

 抗議の声を上げながら、僕は何とか立ち上がろうとする。
 が、身体が妙に頼りない。床に手を付いて身体を起こそうとしてるけど、その床が……床が……
何だかふにふにして、柔らかくて、ぷよぷよして、まるで天国のような揉み心地と言うか、その、
ええと、いや、言わないで。頼むから、お約束だとか言うツッコミは勘弁して。
 もしかしてさっきのガキンって音は、僕の椅子が倒れるときにシェルティアの椅子も引っ掛けて
一緒に倒れこんじゃったって事……?
 そして、僕は後頭部を打つのを避けようと、横に身体を捻ったんだ。
 その時、もしも僕の下にシェルティアが倒れていたら、さて一体どうなるでしょう?

 恐る恐る視線を上にずらすと、そこには、普段のクールさが消し飛んだようにビックリ顔を真っ赤に
染めた天使がいたんだ。
 ああ、やっぱりシェルティアは可愛いなあ。
 そんな事を考えながら、僕の身体は平手打ちを喰らった勢いで数m後ろにすっ飛んでいた。

 うう……やっぱりロステアの誘いになんて乗るんじゃなかった。
 いや、やっぱり誘いに乗ってラッキーだったのかな。
 良く判らないので、僕は考えるのを止めた。
 もう、どうにでもな〜れ。
206桃肉 ◆CrEK/Iu5PU :2008/08/21(木) 01:12:41 ID:eFQvDto0
以上でございます。
続きはもうちょいまとまったら投下しますね。
207名無しさん@ピンキー:2008/08/21(木) 19:11:40 ID:cMseF6+H
>>192
保管庫のどれなのか教えてくれないか?
208名無しさん@ピンキー:2008/08/21(木) 19:42:18 ID:2gEhrjTI
桃肉活動再開してたのか
続き待ってるよー
209名無しさん@ピンキー:2008/08/21(木) 20:53:13 ID:eFQvDto0
>>208
ありがとー(TДT)ノ
210名無しさん@ピンキー:2008/08/21(木) 23:30:48 ID:SfS/GRGX
192じゃないけど
>>207
アヴァロン内戦

自分も続き読みたいと思ってたやつだから嬉しい
211名無しさん@ピンキー:2008/08/22(金) 17:48:53 ID:54CSteBZ
>>210
さんくす
212名無しさん@ピンキー:2008/08/23(土) 20:10:52 ID:mw9hrLQ7
書き込めるのかしらん??
213名無しさん@ピンキー:2008/08/28(木) 22:08:18 ID:Rnbox2u9
保守しておくか
214名無しさん@ピンキー:2008/08/28(木) 23:53:53 ID:oypcTfU9
魔王様の降臨を待ち続けて幾星霜……
私はこんなに痩せ細ろえてしまいました
215名無しさん@ピンキー:2008/08/30(土) 23:24:30 ID:0escCqdc
ファンタジー世界に行ってみたいけど、俺なんかじゃすぐ死ぬよな、常識的に考えて
216名無しさん@ピンキー:2008/08/30(土) 23:41:11 ID:XC7Uvqt0
そもそも現代日本人の何割か(俺を含む)は衛生上の問題ですぐ死ぬと思うw
217名無しさん@ピンキー:2008/08/30(土) 23:46:14 ID:E8AnTSNi
俺らが持ち込んだウイルスとかで現地人がばったばった倒れる方に一票
218名無しさん@ピンキー:2008/08/31(日) 04:25:56 ID:eN1Ixm/N
>>217
で、いつの間にか魔王として怖れられ、本人はその気はないのに世界を支配しようとする闇の勢力のリーダーにされ、セクシーなダークエルフのお姉さんとか引っ込み思案の黒魔導士などで構成されるハーレム軍団が誕生するんですね。わかります
219名無しさん@ピンキー:2008/09/01(月) 21:08:06 ID:wTozpJ/V
>215

そんな訳でオレは今、貧民窟にいる。
どんな訳かなんて頼むから聞かないで欲しい。オレにもさっぱり分らない。

あの日、オレはいつも通りエリート自宅警備員として辛い夜勤明けの一時の休息を味わっていた。
具体的に言えば、TSUTAYAの宅配サービスで取り寄せたDVDのリッピングという過酷な労働を
やり遂げた「自分へのご褒美(笑)」として、6.66ギガバイトにも及ぶ膨大なファンタジー系
画像ファイル群の分類、整理と鑑賞という至福の時を過ごしていたのだ。
ああ、そういえば一年365.2422日を通して雨戸が閉めっ放しのオレの部屋でも分かるほどの
雷雨が降っていた。
スーパーエリート自宅警備員として自宅にいながら世界情勢にも通じているオレがYahoo天気予報で
調べたところによると、関西から東海地方の広い範囲で記録的な豪雨が降っているらしかった。
まぁ、家康の故郷岡崎市が水没しようがオレには関係ないことだ。
オレが666個目のフォルダの点検に入ろうとティッシュ箱に手を伸ばした正にその瞬間、

 世界が、光った。

そんな訳でオレは今、貧民窟にいる。
あれからもう二週間は経った。
パンツを下ろしたままムスコ丸出しの恰好で世界を転移したのは、オレが初めてだろう。
というか、ファンタジー世界に行ったことのあるウルトラスーパーエリート自宅警備員なんて、オレ
以外にいるとは思えない。
……行ったことがある、というのは間違いだ。
このままではほぼ間違いなく、この世界で骨を埋めることになる。
オレは辺りを見回した。
「西の秋葉原」と名高い大阪日本橋でんでんタウン界隈でも滅多に御目にかかれないような、悲惨な
状況だ。敢えて世間から距離を置くことで自らの信じる道に打ち込もうとするオタク道の猛者たちの
中でも、細っちょろい連中よりも、さらに細いオッサンたちが、小さくなって体育座りをしている。
定食屋くらいのスペースに、六〇人くらいは、居る。
人間に混じって、ドワーフとかもいる。実におファンタジー。ちなみに、女の子はいない。残念。
そして例外なく、臭い。異常に、臭い。垢臭い。ウンコ臭い。エビオス飲んだ後の屁よりも臭い。
この劣悪な環境の中で、生きていられるのが不思議なくらいだ。
というか、もうかなりの回数死にかけた。
ここに来てから一週間は、常に下痢だった。
配給で出される冷めた豆のスープとパサパサして酸っぱいパンに中ったらしい。全弾命中。イエー!
ハイパーウルトラスーパーエリート自宅警備員の服務規程に従って着ていた制服であるUNIQLOの
安っぽ…… リーズナブルなジーパンとTシャツを換金してもらい、何とかそれっぽい薬を入手して
飲んだお陰で何とか下痢は治まったが、ここが不潔なことに変わりはない。
このままでは、いつか死ぬ。
元の世界に帰れるかどうかは別問題として、童貞のまま死ぬことには抵抗がある。
何と言っても、このままでは「童貞をこじらせて死んだ」という冗談も言えないではないか。
幸い、言葉は分かる。
というか、さらに不思議なことに字まで読める。そのお陰で服を換金する時に騙されずに済んだ。
実に素晴しい。薬を買った残りの金は、何か銅貨が十二枚ほどある。
そろそろ、こんなトイレもないような所からは離れるべきかもしれない。
おファンタジーっぽい中世の世界で光ファイバー接続環境を求めるのは不可能だろうが、ここより
まともなところに行くことは出来るだろう。ああ、マンどくせ。
……どうせなら、魔王でも目指してみるか。勇者とかいう柄でもなし。

(続かない)
220名無しさん@ピンキー:2008/09/02(火) 00:59:56 ID:MgGcLDYf
>>219
ワロタwww

>童貞をこじらせて死んだ
なんか胸に響く言葉だ・・・
221名無しさん@ピンキー:2008/09/02(火) 10:43:26 ID:tbJMWOp+
森見登美彦を彷彿とさせるなw

(続かない)←この律儀さが好きだ。
222名無しさん@ピンキー:2008/09/08(月) 17:40:55 ID:GufVqigm
いいねぇ
223名無しさん@ピンキー:2008/09/08(月) 20:26:15 ID:m1US/6pe
男は三十過ぎても童貞だと魔法使いになれるえらいひとがいっておりますた
224名無しさん@ピンキー:2008/09/08(月) 20:28:30 ID:bk5q8/az
三百過ぎても童貞だと魔王さまになれるんですね
225名無しさん@ピンキー:2008/09/08(月) 20:37:09 ID:wCLsQLpM
永世勇者に会いたい…
226名無しさん@ピンキー:2008/09/08(月) 21:18:47 ID:2YneZAKU
>>225
それって連載されたのこのスレじゃないよ。
227投下準備:2008/09/12(金) 19:32:30 ID:ufv2pzed
お待たせしました。
ピンク規制が解けたと思ったら全板規制。
まったく規制って嫌ですね。

さて今作はエルフ娘との話。
前回ちょっとだけ出てきた子です。

読む前に注意。

・らぶらぶノーマルなエチが好きな方、
・陵辱がダメな方、
・苦痛描写が苦手な方には、お奨めいたしかねます。
 つーか愛撫より甚振る描写の方が多いってのはどうかなのかと。

本当に相変わらですが、前振り、設定、伏線回収が多いので
読むのが面倒な方は適宜ワープをお願いします。
228魔王とクォン:2008/09/12(金) 19:33:18 ID:ufv2pzed
森の辺に立ち並ぶ数え切れないほどの天幕。
夥しい数の幟がはためき、風を得た隼が大空を飛ぶ。
これほどの数の亜人、獣人、蛮人たちが大きな諍いも無く一箇所に長期集結するとは、古今にも例が無い。
二十万以上に上る闇の軍勢を収容する集結地は、いまや混沌とした都市の様を呈していた。
行軍中であれば、ここまでの陣地を設けることも無いし、
そもそも吹きさらしの風雨にも耐える亜人族は、陣屋など必要としない。
だが、攻撃目標はエルフ族の篭る「古く深き森」である。
長期戦になることを知った戦士たちは、少しでも己が寝起きの環境をマシにするべく
自発的にねぐらを作り始めた。
都合の良いことに、資材はすぐ傍に無尽蔵にある。
雑然とした街並が、駐屯を始めてから十日もかからぬうちに形作られた。
それは地上に収まり切らず、地底生活を好む種族が掘り始めた隧道によって地下にさえ広がっている。
攻撃開始から二ヶ月以上たった今、既にここは雑多な闇の種族たちの混成集落と言ってよかった。

初めの頃こそ大規模な戦闘が発生したが、エルフ族の反撃も下火になりつつある。
ただし、闇の軍勢もドレイクが休息中であり、
また魔王が何故か進撃を留めているために、戦況は膠着しかかっている。
イリアたち闇エルフは、もどかしさの余り歯軋りする状況であった。
闇の軍勢が押しているとはいえ、地の利は敵方にある。
魔王が動かない以上、闇エルフ族単独では如何ともしがたい。
『黒い森』の長老たちはしばしば魔王に戦闘の再開を促し、攻撃命令を乞うた。
しかし、魔王はけして首肯しなかった。
事件が起きたのは、闇エルフ族の代わり映えせぬ陳情を魔王が撥ね付けた直後のことであった。
229魔王とクォン:2008/09/12(金) 19:34:04 ID:ufv2pzed
  
灰色の天幕から魔王の姿が現れると、いつも通り前後を護衛兵が固める。
上背は主君の倍近く、重さは五倍以上ある屈強な戦鬼が、歩調を併せて進む。
隆々たる筋肉で四肢を覆った鉄壁の護衛団が、魔王と共に移動する。
彼らが足並みを揃えて歩くだけで、地面が震える。
その地響きを聞くだけで、陣営に居る者たちは粛となった。
オークやゴブリンの類でさえ、魔王の接近を知れば騒ぎを止めるのだ。

軍議に用いる灰天幕から黒天幕まで、人の足なら三百歩。
その途中で突然、魔王は歩みを止めた。
自然、戦鬼たちも足を止める。
魔王の斜め後ろを護っていた戦鬼は、黒衣の主君がこちらを振り向くのを見た。
それが戦鬼の目に映った最後の光景になった。
次の瞬間、魔王の掌から放たれた閃光と共に、戦鬼の体は塵と砕けた。

「グオッ!?」

残りの戦鬼たちが驚愕の唸り声を上げる。
だが、魔王は焦げ散った護衛兵になど目も呉れなかった。
彼の視線は戦鬼の影、本体は既に焦げ散ったはずなのに、地面に残されている影に向いた。

刹那、影が跳ねた。
白刃が煌き、魔王に切りかかる。
しかし、相手の掌が狙いを定める方が速かった。
二度目の閃光が放たれると、黒装束を纏った間者の下半身は消失していた。

影の刃は標的に届かず、残った上半身が音を立てて大地へ落ちる。
同時に、魔王は振り返った。
そこにはもう一体、別の護衛兵の影に潜んでいた刺客が迫っていた。
手にした短刀を、影は振り抜いた。
魔王が即座に身を翻したため、その体には傷一つすら与えなかった。
だが、鋭い刃がローブの袖を薙いだ。
斬り裂かれた袖の切れ端が地面に落ちるよりも速く、
すかさず影は布地を掴むと、そのまま後方へと跳んだ。
230魔王とクォン:2008/09/12(金) 19:34:50 ID:ufv2pzed
 
「曲者メガッ!」
「逃スナ!」

戦鬼たちの丸太の如き腕が、影を取り押さえようと掴みかかる。
だが、影は彼らの僅かな身体の隙間を、滑るようにすり抜けた。

「グォッ!?」

一度躱してしまえば、巨体は迅速な行動を阻む障害物になる。
振り向いて敵に掴みかかろうとしても、同輩の体が邪魔をして影に手をかけられない。
敵の死角を巧みに利用しつつ、鉄壁の護衛陣から脱出してのけると、
影は矢の如く速い身ごなしで一目散に駆け去った。
黒天幕の脇を疾走り抜け、陣営の外を目指す。
そのまま逃走は成功するかのように見えた瞬間だった。

影の頭部が、塵と砕けた。
己が死んだ事も理解できぬまま、脚だけがなおも数歩進んだ所で地に倒れる。
ほぼ同時に、魔王の眼前に居た戦鬼が地響きを立てて倒れた。
その横腹には大きな風穴が空いている。
運のない事に、逃げる曲者と魔王の掌を繋ぐ射線上に、偶然その戦鬼は立っていた。
配下を二匹、間者ごと己の手に掛けた魔王だったが、フードの奥の眉は微かにも動きはしなかった。

「……」

護衛兵たちは声も無い。
蝿を潰すように同輩が殺されたとしても、それが闇の軍勢を統率する男では抗議のしようもない。
二人の侵入者が仕留められ、合計四体を焼き焦がした掌が黒いローブの中に納まろうとしていた時だった。
崩れ落ちた間者の骸に、駆け寄る者がもう一人。
だが、最後の一人が纏っていたのは黒い忍び装束ではなかった。
短く切り揃えられているのが惜しいほどの白金色の髪が、陽光を浴びて光る。
粗末な薄衣と短髪は、彼女が奴婢である証しだった。

「ちょ、ちょっとクォン!? 何処行くのっ?」

先達の端女が嗜める声も聞かず、少女は骸の手から黒いローブの切れ端をもぎ取ると、
影がそうしたように陣営の外を目指して逃げ出そうとする。
だが、それは全く無謀な行為であった。
231魔王とクォン:2008/09/12(金) 19:35:39 ID:ufv2pzed
 
「ア奴モ召シ取レッ!」

ここは文字通り闇の軍勢の中枢である。
よほどの猛者であっても単騎で陣を破る事は敵うまい。
護衛兵以外の戦士達も、騒ぎを聞きつけて集まり出していた。
素早くその行く手を阻み、華奢な少女の体に闇エルフの弓が、戦鬼の棍棒が、ゴブリンの小槍が、
闇神官の呪眼が狙いをつける。

突如現れた短髪の少女は、その身ごなしこそ常人と比較すれば素早いにしろ、
修練を積み重ねて絶人の速度を身に着けたと言える程ではなかった。
それに近い体術を持っていた先ほどの影たちでさえ、この状況は逃れ得まい。
だが、それでも尚、少女は手に持った布地を離そうとしなかった。

「ううっ……」

じりじりと近付いてくる敵に囲まれ、少女は後ずさりする。
手取りにされるのは時間の問題でしかなかった。
その時であった。

「えっ?」

彼女の足元で、天幕の布地を止める杭が飛んだ。
だが、誰もそれには触れてさえいない。

「や、きゃあっ!」

まるで意志を持つ生物の如く、黒い生地が凄まじい速さで翻った。
蜘蛛が糸で蝶を捕らえるように、黒布は少女の身を絡め取る。
ただし蜘蛛が吐くの白色の粘糸と異なるのは、この糸は闇夜の如く黒く、それ自身が蠢くのだ。

「あ、ああぅぅー……」

黒布は、そのまま獲物を己の内へと引きずり込もうとする。
兵たちは手をつかねてその様を見守った。
いらぬ横槍を入れてこの黒天幕に傷でもつけようものならどうなるか、彼らは承知してるのだ。
白金色の髪をした少女は、絶望の声を漏らしながらずるずると天幕の内側へと取り込まれていく。
爪が剥がれるほど地面に指を立てても、黒布の強靭な力には遥かに及ばない。
ただ無駄な足掻きの跡を、土の上に残すだけだった。
232魔王とクォン:2008/09/12(金) 19:37:13 ID:ufv2pzed
 
そのまま何事もなければ、闇の軍勢の本陣に巻き起こされたこの騒動も決着していたことだろう。

 ピ ュ ー ー ー ィ……

甲高い口笛の音が響いた。
それは魔王の後ろ、地表近くから吹き鳴らされた。
一瞬だけ、軍兵の意識がそちらに向かった。
その隙間を縫って、最後の影は飛来した。
すでに頭まで漆黒の天幕に飲み込まれつつあった少女へと、影は飛び掛かる。
そして黒衣の袖を鋭い爪で掴むと、指からもぎ取るように奪い、そのまま天へ舞い上がっていく。
全てが一瞬の出来事であり、兵達は妨げる暇も無かった。
風よりも速く飛び立ったのは、一匹の隼であった。
隼は地上から射られる矢も意に介さず、瞬く間に西の空へと飛び去っていく。

「……」

それを見届け、一体目の影の命は尽きた。
下半身を砕かれて地に崩れ落ちた彼は、残された最後の力を使って隼に合図を送ったのだ。
影の息の根が止まると、間者の乱入にざわめく兵士たちを尻目に、
魔王は何事も無かったかのように再び歩み出す。
その黒衣は、同じ闇の色をした漆黒の天幕の中に無言のままに消えていった。
粗衣の少女の姿は天幕の内に取り込まれ、もはや影さえ無かった。


・・・・・・・・・

233魔王とクォン:2008/09/12(金) 19:38:12 ID:ufv2pzed
 
若干、時間は前後する。

「元帥閣下のご深慮、誠にごもっとも。
 なれども『勇者アデラをもって魔王に当たらしめよ』とは、神君ラルゴン陛下のご聖慮。
 それに背くは、恐れ多くも神聖冒涜の恐れありかと」

クルガン王臨御の元に催された作戦会議において、
国王の意を酌んだ一派と王国元帥の意見はまたもや対立していた。

紛糾の原因は、来るべき魔王との決戦において、勇者アデラをどの陣に配置するかにある。
国王派は、アデラを全軍の先頭に立たせるべきだ主張した。
それに対して元帥は、勇者の存在はあくまで対魔王戦での切り札として最後まで温存するといって譲らなかった。

元帥にしてみれば、勇者を陣頭になど立たせるのは余りに危険すぎる。
魔王は彼女を殺すためにありとあらゆる兵力をつぎ込むに相違ないのだ。
オーガ、トロル、ヒュドラ、ワイバーン、いや巨人や竜を使ってさえ、勇者の力を削ぎにかかるだろう。
数において圧倒的に勝る闇の軍勢は、敵の切り札を奪った後でゆっくりと王国に止めを刺せばいいのだから。

対して国王派にとっては、勇者の活躍は主導権を奪還する好機である。
戦場における国王代理である王旗をアデラに与え、この戦がラルゴン王家の崇高な使命であることを強調したい。
昨年の敗戦前に軍権を奪われたことでも判るように、根が剛直な元帥は廷臣や諸侯たちから煙たがられている。
闇の勢力に勝利するのは英雄王に選ばれた光の勇者たるべきで、下手に元帥の指揮下に入れて、
功績を横取りされてはたまらない。
冬の前までは、火の消えたように大人しくなっていた国王派だが、
勇者の登場で約束された勝利に抜け目無くありつこうと、彼らはにわかに活気付いていた。

そんな激論の中、当然ながらアデラも当事者として会議の一席を占めていた。
彼女にも、元帥の戦略の正しさは判った。
しかし自分は国王に抜擢してもらった身であるし、ラルゴン家に対する忠誠誓約もある。
それ以前に、帰営以来のほんの短期間で勇者に祭り上げられた身にとって、
貴顕高官の居並ぶこの場所は、少しならず気後れしてしまう。
幾ら神剣を抜いたとはいえ、もともと彼女は一介の聖騎士であり、上官の号令に従う側だったのだ。
それをいきなり王国の枢機に参画しろと言われても、無理な相談というのものだ。
そんな懊悩もあって、彼女はどちらの味方をするという事はし辛かった。


互いに妥協が見出せぬまま、何時終わるとも知らぬ応酬が続いていた。
そして、膠着状態のままの状態に誰しもが疲れ始めたその時、末席から冒頭の言葉が掛けられたのだ。

「む…… 言われてみれば確かに」
「そっ、その娘の言う通り! 事は神君の御意志ですぞ!」

まるで計ったかのようなタイミングで放たれ、拒みようもない視点から明確に切り込んだ見解に、
忽ち同意の声が上がる。
老元帥は、厳しい瞳でその意見の主を睨み据えた。

「見かけぬ顔だが、名はなんと申すか?」
「我が名はマリガン。故あって今は野に下り、占術にて口を糊しておりますが、
 かって光の学府に籍を置いた事もございまして、アデラとはその時分より無二の友でございます」
234魔王とクォン:2008/09/12(金) 19:39:08 ID:ufv2pzed
 
老元帥の目線が疑わしそうにアデラに向かったが、
特に否定すべき嘘を付いている訳ではないので彼女も何も言わない。
ただし、一占術師が聖庁どころかこの御前会議に姿を表したということに、アデラはかなり不信感を抱いていた。
おそらくこの会議の出席者のうち、旧友に色欲で惑わされたか、または致命的な弱みを握られているか、
あるいはその両方で篭絡された者が居るのだろう。
もしかしたら、それは一人二人では無いかもしれない。
そうでなければ、いくら先の邪竜撃退に協力したからといって、
王国の枢機にまで出入り出来るようになる訳が無い。

「ならば、魔王との決戦を前に勇者を無駄な危険に曝せというのか?」
「そうは申しておりません。
 閣下が危惧しておられるとおり、不確定要素の多い合戦にアデラを投入するなど愚の骨頂。
 軍事に疎い私めでさえ、その理は弁えているつもりでございます」

先ほどのマリガンの言葉に沸き立ちかけた国王派が、冷水を浴びせかけられたかのように言葉を失う。
一体この娘はどちらの味方なのか?
国王派も元帥派も、それを掴めずに彼女の次の言葉を待つ。

「魔王現れるときに勇者現る。
 勇者は、魔王を倒す事こそが使命。
 戦場でどれほどの武勲を建てようと、魔王討伐が成されねば全てが無意味。
 我らが議論すべきは、いかに確実に魔王の元に勇者を送り込むかでございましょう」
「む……」
「ここで私が主張させて頂きたいのは、魔王討伐については聖王ラルゴン陛下の御故事に
 倣うべきではないかということです」

明朗とした声が響き渡った。
一介の女術師の発言にも関わらず、それはまるで既に動かしようのないものの如く、託宣のように告げられる。

「かってラルゴン王陛下は悪逆極まる大魔王の城に単身乗り込まれ、その神剣にて世界を闇より救われました。
 その偉大なる業績を継ぐべき我らが、かような議論に血道を上げてなんとしましょう?
 魔王に敵うのは勇者のみ、その原則を見失ってはなりませぬ」
「ではそなたには、魔王の元にアデラを送り届ける術があるというのか?
 宮廷魔道士たちでさえ、その方法は見出せぬのだぞ?」
「ございます。私になら」

後半部分をやや強調して言ったマリガンの返答を聞いて、宮廷首席魔道士の顔が青く変わる。
それを見て、アデラは旧友に急所を握られているのが彼では無い事と判った。
これは既に戯言では済まされない。
あろうことか、魔道士として最高の待遇を受けている首席宮廷魔道士に出来ぬことを、
当人の面前で可能だと言ってのけたのだ。
心配そうな目で末席に座する旧友を眺めたアデラだったが、
マリガンはその目線に、思わせぶりに片目を瞑って応じた。
235魔王とクォン:2008/09/12(金) 19:40:07 ID:ufv2pzed
 
「まことか!? まことに勇者アデラを魔王の元に送り込むことが出来るのか?」

玉座より、上ずった声があがる。
これまで議論の成り行きをうかがっていた国王だが、すっかり彼女の言葉に引き込まれている。
国王派、元帥派を問わず、参列者はざわついている。

「私は学生の時分より魔王の存在を予見し、密かに研究してまいりました。
 禁制に触れることを承知で秘術を学び、学院を追われたのも全て今日のため。
 この期に及んで、どうして偽りを申しましょう?」

マリガンは列座する者達に宣告した。
真偽はともかく、自信に満ちた言葉には人の心を掴む不思議な力がある。
もはや誰も疑いの声を上げようとしなかった。
出席者全ての視線はたった一人に集まり、よそ見をする者は皆無であった。
赤い礼服を纏った女術師は、御前会議の流れを完全に掌握していた。

「ただし、それには一つだけ手に入れねばならぬ物がございます」


・・・・・・・・・

236魔王とクォン:2008/09/12(金) 19:41:24 ID:ufv2pzed
 
「余の袖を盗んだことの意味を知らぬのか」

いずことも知れぬ部屋の中に居るのは、たった二人だった。
宙を漂う小さな光球によってもたらされる微かな光源は、
この空間の四方を覆う黒い布地が、風も無いのに揺らめくのを僅かに教えるのみだ。
故に、闇色のローブを纏った魔王が今いかなる表情をしているかは勿論、
その目の前に吊るされた少女のか細い四肢を縛る黒縄が、上方のどの梁に繋がっているのかさえ定かでない。
まるで部屋全体が光を吸い込んでいるかのような、暗い空間であった。

「……」

少女は何も語らない。
言葉を返すことさえ厭わしいとばかりに、ただうな垂れて魔王の声を聞き流す。
押し黙ったままの少女に向けて、魔王は軽く指を振った。
黒縄が縮み、白い肌身に食い込む。

「ひぎぃいっ!!」

悲鳴を上げ、少女は短い髪を振り乱して首を仰け反らせた。
彼女に出来たのはそれだけだった。
なぜならその両腕は、背中で高手小手に縛られ、
さらに両足首に絡みついた縄で、身体は逆海老の形に反り上げられていたからだ。
厳重に拘束された彼女が動かせるのは首から上のみであり、
それさえも、首を縛れば死ぬからという理由で縛られぬだけであった。
つま先はその肩に着くかと思うほどに身体を曲げられ、背骨は弓の様に反り軋む。
関節が歪み、筋が伸ばされ、押し縮まされる痛みに耐えかねて、少女の唇から弱々しい声が洩れた。

「知ら……ない。何度も、言うように…… それが何なのかさえ…… 判らない」

答えると同時に、縄が僅かに緩む。
苦痛あまり滲んだ汗が、白い頬を伝って零れ落ちた。
既に同じような遣り取りが繰り返されたお陰で、既に床には汗の染みが作られていた。

「ならば何ゆえ、あの切れ端を奪おうとした?」
「それが、お前の痛手になると、思ったから」

声に力は無かったが、意外な程に確固とした答えであった。

「あれほどの手練れが…… 命を捨ててでも盗もうとしたのよ。
 何の意味も無い、ただの衣じゃないと思ったわ」
「奴らの素性も知らず、黒衣を盗む意味も知らぬというのに、何のためにそなたも命を賭ける?」
「お前は、自分がやっている事が判らないのか!?」

疲労と苦痛に逆らって顔をもたげ、少女は魔王を睨む。
短く刈られた白金の髪から、彼女の種族の特徴がのぞいていた。
237魔王とクォン:2008/09/12(金) 19:42:27 ID:ufv2pzed
 
「お前たちは森を焼き、木々を切り倒し、私の同胞たちを殺している……
 汚らわしい邪悪な軍勢を率いて、聖域を穢しているっ!
 悶え苦しむ精霊の嘆きが聞こえるわ…… 私たちを慈しんでくれた、森の精霊たちの嘆きが!
 私たちはお前の仇となる事なら、たとえどんな目に会ってでもやってやるわよ!」
「なるほど…… こういう事が起こりうるのか」

憎悪に燃える視線を浴びながら、魔王は呟く。

「余が運命を紡いでいるのか、それとも紡がされているのか。
 どうして、中々に根は深いものよ」

彼の言葉は、森エルフの少女に聞かせるためのものではなかった。
現に彼女は魔王の言葉の半ばも理解できていない。
泰然とした怨敵の様子を見て、縛り上げられた少女の眉が歪んだ。

光エルフの各集落が、闇の軍勢の来寇に慌しく備えようとしていたあの夜、
突如長い牙を生やした魔獣に村は襲われた。
あの惨劇は夜毎に夢に見る。
父と母が目の前で肉塊にされ、恐ろしい金色の瞳に見据えられたまま気絶したあの夜のことを。
本来なら、彼女の命は既に失われているはずだった。
どんな運命の悪戯か、魔王の端女をしている人間族の少女に拾われなかったならば。
一度無くした命など惜しくはない。
でも、死を覚悟でやった自分の行為は、敵に何の痛痒も覚えさせなかったのか。
常と変わらぬ声色のまま静かに座する魔王を見て、悔しさの涙が眦に溢れた。

「名は、何と申したか?」
「……クォン」
「クォンとやら、そなたの行いは無意味ではない」

少女の心中を察したかの様に、魔王は言った。
そしてローブの袖の中で指を鳴らすと、彼女の下半身を縛る結び目が解けた。
238魔王とクォン:2008/09/12(金) 19:43:42 ID:ufv2pzed
 
「きゃあっ!?」

折り曲げられた状態から急に解放され、両脚が重力に従って下方へ振られる。
続けて二度目の指音が鳴ると、上半身を拘束していた縄も解けた。
自然、縄目より解放されたクォンの体は、足から床に落ちる格好となった。
だが、締め上げられ続けていた肉体はすぐには思うように動かせず、
彼女は崩れるように床に倒れ込んでしまった。
全て一度に拘束を解かれていたなら、彼女は受身も取れずに落下していたはずだった。
そうならなかったのは、ある種の慈悲であったのだろうか。
クォンを縛り上げていた黒縄は、役目を終えてするすると天井の方へと消えてゆく。
誰もそれを引く者はいないはずなのに、まるで意志があるかのように黒縄は消えた。
魔王はやおら立ち上がると、床に倒れ伏した少女の側に歩み進んだ。
そしてその手は、深き森のエルフ族特有の白金色の髪を掴む。

「くあぁっ……」

頭皮を引っ張り上げられる痛みで呻き声が洩れた。
魔王は片手で白金の髪を鷲掴みにすると、そのまま彼女の身体を持ち上げたのだ。
宙に浮いたクォンの視線が、ちょうど魔王と同じ高さにあった。
黒衣のケープがずらされ、奥に隠されていた白面の青年の顔が現れる。
しかし、その白さは眼前のエルフ族の少女が持つ自然な体色とは異質なものだ。
まるで色素を失ったかのような不自然な白さ。
それは暗黒の魔術を極める過程にあるという苦行の仕業だろうか。
だがそうだとしたら、頭髪や瞳に残る体色は説明が付かない。
まさか魔王ともあろう者が、苦痛に耐えかねて修行を放擲したのでもなければ。
言うまでも無く、クォンは至純の闇を求める苦行の事など知るよしもない。
ただ魔法の光に照らされた、邪悪の軍勢の頂点に立つ男の面立ちを、息を呑んで見詰めるだけであった。

「そなたが投じた一石で、水面に新たな波紋が生じた。
 それは拡がり、別の波紋とぶつかり合い、次なる宿命の綾を準備する」
「……」
「これが予め定められていたことなのか、はたまた何者かが偶然そこに居た駒を用いただけなのか。
 何れそれらは明らかになろう。
 余の次の興味は、そなたにもまだ盤上に残るだけの宿縁があるかということだ」
「……ひっ!」
239魔王とクォン:2008/09/12(金) 19:44:22 ID:ufv2pzed
 
値踏みするような冷たい瞳に見据えられ、クォンは痛みを忘れて震え上がった。
一度は死を覚悟したはずの少女さえ竦ませうる、剣牙虎の呪眼とは別種の力。
目を背ける事も、瞼を閉ざす事も出来ぬまま、彼女は魔王の眼光に晒され続けた。
じとりと冷や汗が噴き出す。
そのままどれ位の時間が経っただろうか、魔王の眼差しが不意に緩んだ。

「……そなたは違うのか」
「え?」
「運命の差し手は、そなたを使い終えたと云う事かな。もっとも── 」

短髪を掴み上げていた手が、少女の頭を引き寄せる。

「『観た』だけでは判らぬという事もある」
「むぅっ── 」

唇と唇が重なった。
クォンは目を見開き、思わず腕で相手を押しのけようとする。
しかし、縛られ続けて力の萎えた細腕では、眼前の男を突き飛ばすことなど敵わぬ事であった。

「ん、んんーっ!」

口を塞がれて、呼吸が止まる。
無理矢理唇を奪われた彼女は、鼻から空気を吸うことも忘れてただ貪られるしかなかった。
魔王がクォンから顔を離したのは、柔らかい唇を散々にねぶり抜いた後であった。
呼吸の自由を取り戻し、クォンは時おり咳き込みながらも、久しぶりの新鮮な空気を吸い込む。
その様子を、魔王はじっと眺めていた。
まるで相手の息が整うのを待っているかのように。
ただし、魔王は相手を解放するつもりは毛頭なかった。
クォンの身体を持ち上げる指から、不意に力が抜けた。

「きゃっ!?」

急なことで、また両脚がきつく縛り上げられていたために、
先程と同様にクォンは重心を崩して床に倒れみそうになる。
それを受け止めたのは、魔王の腕だった。
妖精娘の細腰に手を回し、すかさず支える。
240魔王とクォン:2008/09/12(金) 19:45:25 ID:ufv2pzed
 
「嫌ッ!」

咄嗟に、相手の顔を張ろうとした。
だがその腕を魔王の手は容易く止め、逆にクォンの手首を捕まえる。
少女を床に横たえると、魔王は彼女の体に覆い被さるように組み敷いた。
白い指が、クォンの襟に掛かる。
汗を吸った端女の粗衣は、薄く肌が透けて見えるほどに少女の肌に貼り付いていた。
それを一息に、魔王の指は縦に引き裂いた。

「キャアッ!」

鋭い叫び声を上げて、クォンは抗い逃れようとした。
しかし、魔王の手は彼女を床に押し付けたまま逃亡を許さない。
腰帯まで裂かれて、森エルフ族の真白い肌が曝け出された。
臍と人間と比すれば小振りな乳房までもが露になる。
そこには先程の責め苦で付けられた縄の跡が、赤く線を引くように残されていた。

「や、止めて……」

震える声で哀願しながら、クォンはなおも抵抗しようとした。
粗衣を破いた魔王は、彼女のもう一方の手首を掴み、抑えこむ。
両手を封じられて、抗う術さえ失ったクォンは、己を見下ろす魔王を見た。
冷たい瞳が、静かに自分を見詰めている。
まるで、自分がどう動くかを見定めているかのように。
クォンは、眼光に耐え切れずに顔を背けた。
一度は捨てた生命だが、彼女は魔王の眼が恐ろしかった。
まるでその眼は、無慈悲な冥府の審判者に魂魄の奥底を覗かれているかの様だ。
相手の目を見るのが怖くて、固く瞳を閉じる。

「……ぁ」

首筋に、今までに覚えの無い感触が加わる。
肌の上を這い回る感触は、長い時間を生きてきた彼女にも感じた事の無いものだ。
啄むように、柔らかい肌地を弄られるたびに、クォンは屈辱と悪寒に見舞われる。
瞼の間から、涙が零れ落ちた。

「……やぁっ!」

肌を弄る魔王の唇が、項から胸乳へと下がっていった。
まだ誰にも許したことの無い乙女の乳房に、魔王は跡を残して行く。
その突端にある小さな乳首を、魔王は口に含む。
歯を立てられた訳でも無いのに、クォンの身体は跳ねた。
241魔王とクォン:2008/09/12(金) 19:46:23 ID:ufv2pzed
 
(はっ、はああぁ……)

それが敵の唇であることは承知しつつも、未知の感触に身体はわなないてしまう。
熱い舌が乳首を転がし、唇が挟み取り、吸う。
少女の肉体を存分に味わった後に、ようやく魔王は乳房から口を離した。
赤く伸びた縄の跡に加えて、魔王に吸われた跡が点となって残った。
少女の薄い胸が、ふいごの様に激しく上下していた。

不意に、クォンは腕が片方だけ自由になったのを知る。
魔王がその手を離したのだ。
だが、もう一方の手はまだしっかりと少女の手首を押さえ込んでいた。

空いた手が、首筋から鎖骨、そして胸乳へと、唇が通った経路を同じく進む。
けれども指は乳首で留まらず、そのまま鳩尾から臍へと降りてゆく。
こそばゆい想いを抱きつつ、途中まではクォンにも耐える事ができた。
しかし、それが下腹部へと下がってゆくと、彼女は慌てて脚を閉じてそれ以上の進入を防ごうとする。

「無駄な力を込めぬ方がよいぞ? 余にも、そなたにとっても」
「……ッ」

魔王は諭すように言った。
暫くの間、魔王は彼女が無益な抵抗をやめるのを待った。
が、クォンは大人しくなるどころかいっそう内股を固く閉ざし、どこまでも相手の指を拒む。
雌鹿のように細くしなやかな脚で、彼女はそこを守ろうとけなげにも力を振り絞った。

魔王の手が、クォンの手首を離す。
手首には魔王の五指の跡がくっきりと残っていた。
そして次の瞬間、その指は少女の細首に食い込んだ。

「ごぅ……」

クォンの喉が奇怪な音を漏らす。
望んで出した声ではない。
凄まじい握力で締め上げられた気道が空気を押し上げ、出すつもりの無い声を出したのだ。
首筋に食い込む白い指は、彼女の頚動脈を締めるでもなく、ただ力ずくでそれを握り締める。
クォンは自由になった両手で魔王の腕を振り解こうと試みるが、どれだけ力を込めようと微動だにしない。
爪を立てても無駄だった。
黒縄よりも無慈悲に、魔王の指はクォンの喉を締めつける。
呼吸できない苦しさに悶えようとも、満足に苦痛の喘ぎさえ上げることができない。
242魔王とクォン:2008/09/12(金) 19:47:27 ID:ufv2pzed
 
「く…… あ……」

いつの間にか、クォンは両脚を閉じる事をやめていた。
正確にはそんな余裕は失っていた。
床を蹴り、体を捻り、全身の力でなりふりふり構わず魔王の指から逃れようとする。
その間隙を突いて、魔王は下帯の中へ手を滑り込ませていた。
産毛の様に柔らかい茂みを掻き分け、陰裂に辿り着く。
無論のこと濡れてなどいない。
にも係わらず、魔王は指を突き入れた。

「きゃ……」

下半身に感じた触覚の所為で、クォンはただでさえ貴重な空気を吐き出した。
必死になって腰を捩り、指を抜こうと暴れだすクォンだが、それは自分の息切れを早めるであった。

(いやぁっ! 神さま、父祖さま、森を守護する万霊たち! お願い、誰か助けてっ!)

心の中で、クォンは叫び、助けを求めた。
しかし、魔王の手に落ちたものを誰が助けうるだろうか。
神々にでさえ、それは成し難いことだというのに。

「が……、ぐぅ……」

舌は口から飛び出し、白目をむいて悶絶する少女を見下ろす魔王は、
その腕を振り解こうとする両手に、次第に力が篭らなくなってくるのを感じると、指の力を少しだけ抜いた。
久しぶりの空気が、クォンの喉を通り抜けてゆく。
最初から、魔王には彼女を窒息死させる心算はなかった。
彼には骸を抱く趣味は無い。
股間から手を抜くと、魔王はクォンの膝を開かせる。
染み出した体液に濡れたその指には、微かに血が付着していた。
魔王が腰を両脚の間に割り込ませると、クォンの股間に熱いものが触れた。
それが何なのかは、男を知らぬ彼女にさえ判った。
けれども、さっきはあれほど抗ったクォンだったが、もはや彼女には足掻く力がなかった。

引き裂かれる痛みが走った。
驚愕と悲痛が彼女の顔を歪める。
身じろぎするクォンを、魔王は床に強く押さえ込む。
まだその指は、少女の細い首筋を握ったままだ。

熱い涙が、目尻からから零れ落ちた。
先程までも、あれほど涙を流していたというのに。
一体何処に残っていたのかと思えるほど、とめどなく涙が零れた。
ぐいぐいと、痛みの元凶は奥へ奥へと容赦なく突き込まれてくる。
243魔王とクォン:2008/09/12(金) 19:49:22 ID:ufv2pzed
 
「……ひゃっ!」

クォンは小さな悲鳴を上げた。
下腹部の一番深い場所が、異物に押し上げられていた。
その先端が、これ以上進めないことを確かめるかのように、膣と子宮を隔てる壁を突いてくる。
しばし突き当たりの感触を確かめた後、異物は膣壁を引きずり出そうとでもいうのか、
粘膜を引っ掻きながらとば口へと戻る。
そして再び、一番奥と突き刺さる。
堪らずに、少女は泣き声を上げた。
幾度も幾度もそれは繰り返される。
クォンの涙が本当に枯れ果て、もはや嗚咽すら上げられなくなっても。
磯辺に打ち上げられた死にかけの魚の様に、弱々しく体をひく付かせる事しかできなくなった少女の体を、
魔王は無言のまま犯し続けた。
部屋の中で聞こえるのは、肌と肌が打ち合わされる音だけになっていた。
いつしか、その音の拍子がだんだんと速くなり始める。
そして強く鳴り響く。
一際高く、小気味よい音が激しく鳴る。

「……ぁっ」

最後の瞬間に、ほんの小さな声でクォンは呻いた。
彼女にも判った。
異物が脈動と共に、熱い体液を放出している。
胎内の奥の奥でそれを感じる。
クォンの瞳から、瞼の裏に残った最後の一滴が零れ落ちた。
全てを放ち切るまで、魔王は彼女の体を離さなかった──

「……ぅ、ぅ」

魔王は衣装を調え立ち上がり、疲れ果てて床に体を横たえたままのクォンを見下ろした。
いつもと同じ、冷酷な視線を少女に向けつつ、魔王は一人呟く。

「ふむ、そういう使い道もあるか……」

ローブの袖の中で魔王が指を鳴らすと、宙を漂っていた光球が弾けて消えた。
光源を無くした黒い部屋の中は、完全な闇に包まれる。

「運命に石を投げ込む者は、その身に因果を背負わなければならぬ。
 その重荷に耐えられなければ、ただ滅するのみ。
 余も、アデラも、そなたも── 」

いつの間にか、黒いローブを纏った姿は闇に同化してゆく。
漆黒の闇の中に、打ちひしがれた妖精の少女だけを残し、魔王の気配は何処とも無く消えていった。


・・・・・・・・・

244魔王とクォン:2008/09/12(金) 19:50:23 ID:ufv2pzed
 
この場所では、全ての意味が揺らいでいる。
暗視能力に優れた森エルフであってさえ、一条の光すら差さないここでは何も見えない。
見えないために、全ての形が意味を持たない。
自分の吐息と鼓動以外に、物音一つしない。
語る相手がいないから、言葉が意味を失う。
ここに有るのは、暗黒と沈黙だけだ。

力尽きたクォンは、この漆黒の世界に倒れ伏していた。
破かれた衣服の裂け目からは、少女の白い肌が覗く。
だが、この闇の中でどうして隠す必要があるだろう。
誰も見ることは無いし、見るものは誰も居ないのだ。

時間が過ぎてゆくに任せ、クォンは眠っていた。
いや、彼女自身は知らないことだが、この世界では時間すら揺らいでいた。
世の理に背いた時の流れ方さえ、ここでは起こりうる。
ひょっとしたら逆回しにすら流れそうな、異質の世界なのであった。
しかし、中に居る人間がそれを感知する方法は無い。
彼女は今、何もかも忘れてただ眠りを貪っていた。
夢を見ることすらない虚無の眠りこそが、唯一の安らぎであった。

「……?」

長い耳が、ピクリと動いた。
人間族よりもはるかに優れた聴覚を持つエルフの耳が、自分以外が立てる音を捉えた。
彼女の眠りを妨げたのは、聞きなれぬ足音だった。
歩き方の無粋さから、エルフ族のものではないと分かった。
だが、今更どうだというのだろう。
足音は次第にこちらへ近付いてくるが、今は只眠り続けたかった。
瞼を開けることさえなく、クォンは再び眠りに落ちた。
245魔王とクォン:2008/09/12(金) 19:55:01 ID:ufv2pzed
 
「誰か倒れているわ!」

輝く抜き身の剣を持ち、重甲冑に身を包んだ騎士が少女の側に駆け寄った。

「気をつけて、罠かも知れないわよ?」

紅いローブを纏った魔道士が注意するのも聞かず、騎士はクォンを抱き起こした。
その白い肌に加えられた苛烈な暴行の跡に一瞬不安を覚えたが、
少女が呼吸をしている事を確認し、一先ず安堵のため息を漏らした。

「大丈夫、命に別状は無いみたい」
「なら先を急ぎましょう」
「……マリー、貴女はこの子を外に連れて行ってあげて」
「何を言っているの? 今は些事にかかずらっている場合じゃないのよ!?」

激しい声で、魔道士は言った。
だが、騎士も譲らなかった。

「私は、ここがどんな所か知ってるわ。
 この機会を失えば、この子が外界に戻るチャンスは零に近いはずよ」
「もうっ…… 事の軽重を弁えなさいな。
 魔王を倒す事こそ貴女の使命であり、至上の義務なのよ」
「それは必ず果たすけど、この子も見捨てては置けないの。
 だから貴女が外に連れて行ってあげて」
「私が居なくてどうするつもり? ここから先どうやって進むの?」

呆れたように、魔道士は肩を竦める。
騎士は、白く光を放つ剣を掲げてそれに答えた。

「ここまで来れば、あとはこの神剣が教えてくれるわ」

その切っ先が向く先は、魔道士が騎士を導こうとしていた方向と一致していた。
持ち主を敵の元へと導こうとでもいうのか。
魔王を滅ぼすために造られた刀身が、神々しい光を放つ。

「何を言っても無駄みたいね。
 ま、魔王陛下と二人っきりになりたいと言うのなら、そうさせて上げるわよ」

魔道士は悪戯っぽく笑い、騎士から少女の身を受け取った。

「頑張ってね、勇者様。武運を祈ってるわ」
「任せておいて」
246魔王とクォン:2008/09/12(金) 19:56:05 ID:ufv2pzed
 
友人の後姿を、騎士は見送る。
その背中が闇に消えるころ、おもむろに騎士は剣を握り直し、振り向く。

「隠れていても居るのは分かっているぞ。獣め!」
「……ぐ あ る る る る る」

唸り声が闇の中から聞こえる。
その気配と声には覚えが有る。
魔王と共に、借りを返さねばならなかった相手だ。

「貴様如きが勇者を名乗るなどおこがましい。
 ふんっ、魔王が禁じようと知った事かっ。
 今度こそ、その臓物を生きながらに喰ろうてやるわ!」
「此方も肩慣らしに丁度良い。
 奴を討つ前に、ついでに退治してやる!」

 ぐ ぉ お お お お お お お ぉ る る う っ !

咆哮と共に、暗中に青白い鬼火が幾つも生じた。
その不気味な光に照らされて、巨大な剣牙虎が姿を現す。
騎士は剣を上段に構え、強敵に相対した……


・・・・・・・・・


魔王が寝起きする漆黒の大天幕が、いつ誰の手で作られたものであるのか、
知る者は誰一人としていない。
そして、それにどんな魔力を秘めているかを知る者もいない。
ただ判ることは、それは魔王只一人のために建てられ、そして運ばれてゆくという事実だ。

古く深き森の辺で、魔王が袖の端を盗まれて後も、
運命は留まることなく動き続けていた。
人と、人に近きもの、人ならざるものたちを巻き込んで、光と闇の戦いは彩られてゆく。
魔王と勇者の闘いを導く糸が、いかに紡がれてゆく事となったのか、自分がいかにそこに関わったのか。
切り離された時間の中で眠り続けていたクォンがそれを知るのは、これから先のことである。


(終わり)
247投下完了:2008/09/12(金) 19:58:40 ID:ufv2pzed
今回は魔王と勇者の対決に繋げるためのバイパス的な話でした。
これまではほぼ時間軸どおりに話が展開していましたが、
序盤以外は別の時間で流れていると思ってください。
だから次回魔王とアデラが対決するわけじゃありません。一応もう直ぐですけど。
248名無しさん@ピンキー:2008/09/13(土) 09:13:04 ID:HAT07zFb
まってました!
魔王様GJ!

クライマックス間近かぁ。ますますドキドキしてきた。
249名無しさん@ピンキー:2008/09/13(土) 21:26:24 ID:ymENKwcg
最高っす! 魔王様最高っす! 作者様も最高っす!
250名無しさん@ピンキー:2008/09/16(火) 14:23:56 ID:sgeNx+W9
GJだけどティラナ死なないでティラナ
ああでも倒されないと魔王様との対面も出来ないわけだし
ジレンマだぁぁぁぁぁぁぁぁ
251名無しさん@ピンキー:2008/09/20(土) 00:17:16 ID:O3IIzD5E
ほしゅ
252名無しさん@ピンキー:2008/09/27(土) 16:19:43 ID:jUPL959L
保種
253名無しさん@ピンキー:2008/10/04(土) 09:19:32 ID:8IxUXSa4
ホス
254名無しさん@ピンキー:2008/10/06(月) 20:32:50 ID:j6fFmg2y
アリューシア待望。
魔王待ち保守
255名無しさん@ピンキー:2008/10/17(金) 19:51:07 ID:SV2ePHgL
ほしゅ
256ルナ:2008/10/19(日) 02:28:38 ID:wUikEfMz
こんばんは。
覚えてらっしゃいますでしょうか(汗)

保守ついでに少しだけですが投下します。
読んでいただけたら幸いです。
257ルナ:2008/10/19(日) 02:59:59 ID:wUikEfMz


隊列はつつがなく進み、当初の予定よりも早く、既に旅程の中ほどまで来ていた。
ルナは馬上から、前を行く歩兵の背をぼんやりと見つめていた。
サクラの一隊は緋色をところどころにあしらった兵士服を揃って身にまとっていたが、ルナの前にいる歩兵3人は他の歩兵よりは少し位上なのか、背に鮮やかな緋色の短いマントをつけていた。
もともと分隊長さえ信用しないルナは、ほとんどの場合、自分の目前に護衛を置きはしなかった。
いまも彼女の両脇と後方をを固めるだけに留め、よって彼女はサクラ一隊後陣のすぐ後ろを進んでいた。歩兵たちは鍛えられた脚で一時間に16キロほど進み、その後ろでルナたちを乗せた馬が続く。
揺れる彼らのマントのひだを見つめながらルナは、隊の中央にいるであろうサクラを思った。
彼も馬上の人である、その周りにはいまのルナとは数倍近くの人数の護衛がいるはずだ。
当初の計画通りに前衛隊を率いるリンツの後方、本隊であるサクラ一隊の前あたりにクウリはいるはずだ。サクラ一隊のすぐ前、ルナの前衛隊最後方にいるはずである。
彼に与えた任務は、前方に襲撃があった場合にルナの元へと報告するというもので、役柄して当然、彼も騎乗している。
彼らに前方は任せるとして、あとは奇襲のみだ。
視界一杯の草原の中には、所々に大きな岩があり、そこに刺客が隠れられなくもない、と思うと右や左、どこかしこも怪しくも思えてならなかった。
ルナは点在する岩や木立、雲にまで休むまもなく目を走らせ、蹄の音以外のものに耳をそばだてる。


258ルナ:2008/10/19(日) 03:02:31 ID:wUikEfMz

「中佐が入城されたご様子」
わかった、とルナは二人連れの連絡兵、その片割れ、クウリをちらりと見やった。
クウリは黙って下を向くままで馬をなだめていた。
ルナは疲労を飲み込んであごを上げて見せ、報告の続行を促す。
聞きながら、薄く煙るメリカを遠く見やった。
王宮は、大部分がメリカの古典様式と思われる白亜のものだった。そこに増築されたと見える独特の様式、それは異彩を放ってルナの目にも、ましてクウリの目には映る。
今前にして記憶にない姿を呪うような眼差しで、彼は視線を外さない。その横でルナは、サクラの隊が入場していく様子を厳しい目で見ていた。
「ご苦労だった。クウリ、後ろの人数を調べろ」
ルナは鋭く言い放ち、自分の馬を落ち着かせながら、
「エリゼ、入城まで頼む」
言うと、エリゼと呼ばれた男は勢いよく敬礼をした。かと思うと、与えられた前衛から後衛までを自分が指揮するという晴れやかな任務に向けて、城門へと軽やかに戻る。
クウリは軽く馬を操ってすぐに戻って、人数に異常のないことを告げた。
ルナは遠く門扉から目を離した。
再びクウリを見やったが、憎憎しげに王宮を見る彼を認めると、すぐに前を向いた。
「ずいぶんと粋な歓迎振り」皮肉らしく彼の顔は歪んで、低い笑い声はまるで呻き声のようだった。
ルナは手綱を引いて、緩やかに進んでいた愛馬を止める。並んだ者が止まり、後の者も倣う。
王宮へと続く下って上る緩やかな坂を、自分たちの視界下方を遮っていた前の兵が進んだ。
続くルナたちの目に、次第に王宮の全貌が見えてくる。
ルナは眉をゆがめながら、もっともらしく言う。
「融合するものだ。国と国との文化は、いつでも」
独り言のように言いながら、ふん、と笑う「だが、第一王子は、歪んだ審美眼をお持ちだ」
さらりと言って見せたルナにクウリは少し驚き、「王子がお嫌いなんですか?」とまた浅薄な質問をし、
ルナを「事実を言っているだけだ」と不機嫌にさせる。
259ルナ:2008/10/19(日) 03:03:22 ID:wUikEfMz
頃合を見計らって「よし、いくぞ」と馬に軽く拍車をかけようとして、一度城門に入ったサクラの兵が駆けてくるのが見えた。
「もとい、少し待て」と彼女が片手で指示するのと、兵が声を上げるのはほぼ同時だった。
彼はルナの前で止まるなり、上がった息をものともせず、声高に言った。
「シレネ少佐、申し上げます」
勢いに警戒しながらも、なんだ、と馬上から眉を上げて見せると、
「中佐からのご伝言であります、至急、入城を」
「何?」
「至急、入城を」
ルナは不可解ではあったが、上官からの指令に逆らうこともできず、すぐさま後ろを振り返った。
「先に行く、後は」とクウリを見たとき、サクラからの使者はすばやく「クウリ様もご一緒に、と」
ささやいた。ルナはますます訝しげに使者を凝視したが、彼は目を伏せている。
クウリと自分を近づける者。
「リンツ分隊長!」
少し後ろにいただけのリンツはすぐさま、馬上からも敬礼をしてから、全て了解したかのように、
「は」
とうなずいて見せた。
リンツを目で確認しながら、ルナは出発を促す。
どういうつもりか、サクラ、と思いつつ手綱を引き寄せ「急ぐぞ」と言ってルナは馬に拍車をかける、
困惑していたクウリは、その後にかろうじて続く。
待ち淀んでいた数十人の横を抜けて、二人は速度を緩めずにまっすぐに走った。
城の入り口、豪奢な門構えを抜けるとき、エリゼが唖然とした顔をしたのが目に入ったが、火急とあらば仕方ない、ルナは速度を落とさず同じように何人もを追い越し、よく手入れされているであろう花園を抜けた。
張り切っていたエリゼは、自分よりも大きな任務を与えられたらしいクウリを口をあけて見送ったが、ふと我に返ると毅然と厳重な身分確認を行い始めた。これは彼の悔しさそのまま、まるで嫌がらせのようなものだったのは言うまでもない。
ようやく、大理石に敷き詰められた城の入り口に着く、そこには、苦く笑ったサクラがいた。
「着たか」
サクラは言い、「馬はここまで。で、俺らは徒歩で入場するんだそうだ」
先に行く、とサクラは背を向けた。翻したマントが鮮やかだった。
私とクウリを近づける者。
ルナは、小さくため息をついた。


260ルナ:2008/10/19(日) 03:03:56 ID:wUikEfMz

サクラと共に案内された部屋は、高い天井と大きな窓がやたら目立つ他は、メリカ独特ともいえないありふれた内装だった。
そうそう長旅立ったわけではないが、城内に入るには着替えなど最低限の身づくろいは済ませたルナが見上げながら息をついたのを見計らってか、サクラは
「ここへ通された意味、わからないでもないが・・・」と苦笑した。
見慣れた鎧姿ではなく、澄んだ藍のマント、銀のジレと一般に夜霞と言われる重ね着を纏ったルナは、その灰紫の目とあいまって一種悪魔的な美しさだった。
眩しそうに見たクウリは、唇を引き結んだまま黙っている。
サクラはそんなクウリと差別を図るように、「お前は、いつもその格好だ」と笑った。
ルナは目を見開いて見せただけで笑いもせず、
「クウリと私を近づける者があれば、と思っていた」
一句一句はっきりと口にした。
「サクラ」ルナは目を合わせず名を呼んだ。
なんだ、サクラは目を伏せ、笑ったように問い返す。
「殺されないぞ、お前なんかに」合わせてか、急に笑みを含んだ口調でルナは軽く言い放った。
横で、息を呑む音が聞こえた。クウリの目が光っている。
「なんか、とはまたお言葉だな」
サクラは眉間にしわを寄せるようにして無理に笑い、ルナから目をそらす。
クウリ、とルナが呼んだとき、扉前で衛兵のかかとを合わせる音が響いた。
261ルナ:2008/10/19(日) 03:04:51 ID:wUikEfMz
サクラに問うような目線をやったが、彼も何も知らないと言ったように小刻みに首を揺らした。
貴賓のための短いファンファーレが鳴る。
咄嗟にわけも分からないまま三人は腰を落として膝を付き迎える姿勢になった。
ひときわ大きな踵の音がして、張り上げる声を聞いたルナは心底戦く。
「王妃様のお成りです」
王妃。
一瞬にして緊迫し、ルナは反射的にクウリを一瞬見た。
蒼白な顔で目元が赤らんでいる、彼も緊張しているのだろう。
王妃。
クウリの母、メリカにおいてただ一人侵略軍と融合した女性。

彼は、こうなることを知っていたのだろうか?ふと疑問になり逆のサクラを見やる。
まったく予期してなかったようで、張り詰めた様子で状況を飲み込もうとしていたのが見て取れる。
なぜだ、めまぐるしく動く頭の中で、稲妻のような残像が何度も脳裏に浮かんでは消えていった。
王妃が私たちにお会いになる。
ルナの推測ではありえない展開だった。
影ながらクウリを想い、ひっそりと暮らしているような印象があった。
彼女は表立って何かするような女性ではないと思い込んでいた。
「サクラ=リタ中佐、でしたね」
ビロードのような滑らかな声が響き、サクラの返答する声がする。
どういうことだ?
母として、クウリへの慕情が抑え切れなかったのかも知れぬ、それにしては突飛過ぎはしないだろうか、サクラを呼ぶ理由は、私がここに呼ばれた理由は。
目まぐるしく考えながら、ルナは自分が呼ばれたのに顔を上げ、王妃の顔を初めて見た。
するりとしたうりざね顔で、切れ長の目、薄い頬、柔らかそうな唇、絹のようなさらりと柔らかな印象を気の強そうな眉がきりりと引き締めている、確かに美しい人だった。
「あなたが、シレネ・・・?」
優美に微笑んだ王妃の表情に吸い込まれるようだった、ルナはかろうじて口上を述べた。
王妃は悠然と応え、サクラ、ルナ両隊の労をねぎらった。
同性でありながら、王妃のしぐさや身のこなしは素晴らしかった。
クウリが横で目を潤ませて震えている。目のふちにどうしようもない歓喜が浮かび、名を呼ばれるのを、王妃の顔を拝するのを、言葉を交わすのを、思ってもみない僥倖を待ちかねていた。


262名無しさん@ピンキー:2008/10/19(日) 03:09:55 ID:wUikEfMz
本日はここまででございます。
また近いうちに投下しに参ります。
263名無しさん@ピンキー:2008/10/25(土) 21:26:00 ID:eRk0y+aE
おお、ずっと気になってたのが来てる!
あいかわらず謎が謎を呼ぶ展開に続きを期待
激しくGJ!!
264名無しさん@ピンキー:2008/11/04(火) 20:34:13 ID:c6sQjiku
過疎りすぎ
265名無しさん@ピンキー:2008/11/07(金) 01:37:26 ID:JfVKMk0g
ものすごく個人的で申し訳ないのですが、

こんなことになるとは私自身びっくりなんですが、恥ずかしながら、

ただいま授乳プレイ中でして、
うまいこと続けて時間を捻出できませんで。

一気に投下の予定でしたが、
ちょっと無理な様子で。

ほんとにすみません。

ルナの話は、あと2回ほどで終わる予定です。
そこへのつなぎ。
保守ついでに投下しますね。
266名無しさん@ピンキー:2008/11/07(金) 01:43:14 ID:JfVKMk0g

「ルナと呼んでいいかしら」
すぐにでもクウリへと進むかと思われた王妃は、まったく穏やかな様子で軽やかに言った。
ルナは驚いて、上ずった声で応えた。「もったいなきお言葉でございます」
うっすらと微笑んで王妃は、親愛を示してルナの前に手の甲を差し出しながら、
「仲良くしていただける?」
意外な言葉が続くのにルナは戸惑い、一瞬その手を見つめた。
「光栄でございます」見惚れながらルナは自分の胸が高鳴っていると意識する。
白く華奢な指が美しかった、磨かれた桜貝のような爪、彫刻の一部かと見紛うほどだ。
なんだ、この感じは。
眩しくて、どきどきとする。
綺麗だ、どこもかしこも。
ルナは目を伏せたが、震えのため瞬いてしまうのに焦りを感じる。
震えを押さえる為に力強く、すっと自分の指を添える。
王妃の指に比べれば、女性らしく美しいといわれたこの指も無骨に思えて仕方ない。王妃の手はひんやりと冷たくさらりとしていた。
礼儀どおり、口付ける真似で舌を鳴らしたとき、王妃の指は動き意思を持ってルナの唇に押し当てられた。
「・・・し、失礼を!!」
慌てて身を下げルナは非礼を詫びた。
高貴な方に、ドレスの裾でもあるまいに直接唇をつけるとは考えられない失態だ。
罠のように意識的な王妃の行為だったのは言うまでもないが、まんまと引っかかる以外に手立てがあるわけでもない。
致し方ない。王妃のなすように任せるしかなく、選択の余地はない。
どんな叱責、どんな措置になりうるか考えて、ルナは身を強張らせた。
267名無しさん@ピンキー:2008/11/07(金) 01:44:30 ID:JfVKMk0g
沈黙があり、緊張は高まっていく。耳だけが敏感になる、隣のサクラの喉を鳴らす音さえ聞こえてくる気がした。
ルナは強く目を閉じていた。
失態は明らかであるが、それだけではない動悸にめまいがする。
その動悸の正体に思い巡らせているうち、声を上げそうになった。
これは、これではまるで。
触れた唇には柔らかな皮膚の感触が残り、あまい香りが鼻腔に残っている。
それらは柔らかに喉から胸へと続く、心地よくも切羽詰まった刺激に繋がっていた。
まるでこれは、恋情ではないか。
ルナは愕然とする。
美しい、確かに王妃は美しく華やかだ。
だからと言って、これは、…どうしたことだ。
そして二度目にサクラの喉がなったとき、王妃の声が優しく響いた。
「結構よ」
糸が切れるように、3人の間に安堵がもたらされる。
熱に浮かされるような歓喜を覚えルナは少しだけ顔を上げ、王妃の裾に今度こそ唇を当ててから、
「申し訳のないことでございました」
最大限に詫びると、その動きにひらりと花びらが落ちる。
裾には瑞々しい花がいくつも飾られていて、そのうちの一つだった。
飾られるのは一時であるのだろう、水分もない場所でこれだけ瑞々しい花。
花の香り、王妃の優美さ、王妃の身を飾るためだけのために摘まれた花…
ふとルナは我に返った。
感情を巻き戻して違和感を確認する。
王妃の権勢を思わせると同時に、まるで対極の、ひどく無邪気なものも感じたのだ。
布に飾られる生花と同じような違和感、なぜだろう。
268名無しさん@ピンキー:2008/11/07(金) 01:45:18 ID:JfVKMk0g
どういう方なのだろう・・・ルナは改めてひどく心を騒がされ、にわかに困惑する。
どこが、と言うわけではない、王妃は美しく、自然に微笑み優美である。強いて言えば……。
ルナはゆっくりと息を吸い込んだ。
そして、奥に奥にと踏み込んでいく危うさを実感しながら思い至る。
強いて言えば、この美しさ自然さが危ういほどしっくりとしているところか。
裾に飾られた生花から目を離せなくなっていく。
クウリの母、破壊された生活、運命に抗えなかった王妃、再会の息子。
この状況の王妃が、こんなにも満ち足りて、自然な顔をしていられるものだろうか。
離れて久しい最愛の息子、息子の命綱ながら諸刃の私、暗殺者に等しいサクラ。
いくら洗練され、感情を管理できるよう教育を受けていたとしても、これほどまったく意に介さない態度になるものだろうか。
隠し隠し言葉を飾りながらでも、一刻も早く息子へと向かわないものだろうか?
だが無邪気に見えるその声音、仕草。どこにも不自然を隠した自然を装った風がない…
なぜここへ私たちを呼んだ?
ルナの心にしんとしたものが降りた。
むせ返るほどの甘い香りがする。


269名無しさん@ピンキー:2008/11/07(金) 01:46:28 ID:JfVKMk0g

ルナは本能的に身を奮い立たせる。
感情は後からついてくる感じだった。
毒々しい毒はまだ良心的だ。真っ白な毒薬ほど厄介なものはない。
ぼうっとした頭を無理やり整理だてはじめたところへ、
「もう一度、やり直してくださる?」
王妃は慰めるように言って、再び手を差し出した。
は、と言ってルナは冷えたその手をとった。
唇を近づけたとき、王妃の指は動く。ルナは薄目でその指を見守っていた。
案の定、完全に意思を持って指はルナの唇の間へと差し込まれた。
舌に爪と指先の感触が伝わり、それが舐めあうように動くのに応えた。
待っていたと否が応でも認めざるを得ない。陶酔に引き込まれ、抗いようもなく吸い込まれていく。
「ありがとう」
何か反応する前に王妃の声は響き、ルナは黙ってその指を受け入れる。
そのとき、厳しい叱責が聞こえた。「伏せていなさい」
クウリが顔を上げたらしい、伏せたルナに慌てて頭を下げる気配が感じ取れた。ルナは瞬間意識を取り戻して舌の感触から気を引き剥がして懸命に考える。
そこへもあくまで王妃の声色は優しく、ルナに問いかけた。
「もっとお話したいわ」
ありがたきお言葉、と口にしたが、王妃の指で言葉にならない。
しっとりと濡らされていく感覚、王妃の指は官能的にルナの舌を撫でては爪を立てた。
「後で私の部屋に来て頂戴」
270名無しさん@ピンキー:2008/11/07(金) 01:47:02 ID:JfVKMk0g
ささやくような王妃の声に、クウリが大きく反応するのを気配で感じた。
ルナは疑問をぶつけることも出来ない、ただ際どくも無礼にならない返答をする。
柔らかに王妃は微笑んだ。
す、と指を抜かれルナは唇を閉じた。指の感触が残り、物欲しげな舌の周りを唾液が囲む。
美しい、王妃。蕩けるような指。
ルナは王妃を見上げた。合わされた目に吸い込まれて熱に浮かされたように口から滑り出た
「はい、後ほど」
満足そうに王妃はまた微笑み、サクラとルナ、2人の労を改めて述べた。
「リタ中佐、あなたをお呼び出来ないのが残念だわ」
王妃は当然のようにサクラに問いかけた。差し出された指を同じように受け取るサクラから、ルナは自分と同じように引き込まれていく様を見る。
「私の気持ち、お分かりになる」
王妃は聞いた。
サクラのついた吐息はルナのものと酷似していて、サクラはまた引き込まれるように頷いた。
「は」
それはまるで、恋情ではないか…。
「ごきげんよう。それから、ルナ、後ほど」
クウリの名がないが、3人は作法どおりに頭を垂れる。
では、と暇を告げる声と優雅に会釈し身を翻す気配。
思いがけず王妃の寵を得たルナは、気まずいながらに、この後で思いっきりクウリを労ってやろう、一目でも王妃に会えたことを喜ぶべきだとクウリを諭し、変な気を起こすなと能書きを垂れるつもりでいた
そのときだった。
271名無しさん@ピンキー:2008/11/07(金) 01:47:34 ID:JfVKMk0g
一瞬のことで止める間もない、クウリは叫んだ
「はっ…」
瞬時にサクラもルナも緊張を持って彼を諌めたが、もう遅い。彼の口はせわしなく動く。
「…いえ、王妃様」
母上、と呼びそうになったのは明らかだった。もしくは彼はわざと母上と連想させるようにどもったのかもしれない。
王妃は肩越しにゆっくりとあごを見せた。
クウリは食いつくように首をもたげ、強い口調で王妃を引き付ける。
「ご挨拶を申し上げたく」
それは必死に礼を尽くそうとしているように見えたが、王妃への期待は隠しきれない。
声が喜びに満ち溢れていた、自分の行為を王妃は喜ぶと信じて疑わない様子だった。
ルナは舌打ちをこらえた。
王妃がこの態度なのである。
クウリの顔を一目見ただけでよいと観念していたのかもしれない。
どう考えても、彼の存在は今のところ隠しておいたほうがよさそうだった。
理由は定かでないにしろ、クウリを目視し取り立てて声がけする状況には、少なくとも王妃はいなかったのだろう。
だが、クウリの体は今にも立ち上がり駆け寄ってしまいそうだ。
ルナはせめてもとクウリを睨み付けていたが、クウリはそわそわとした様子で王妃の次の言葉を待ちかねている。

「挨拶をと?」
王妃は振り返り、いぶかしげに問うた。

272名無しさん@ピンキー:2008/11/07(金) 01:48:12 ID:JfVKMk0g

「ええ、久闊を叙するために」
王妃の声を意に介さず、冗談を、と言った調子でクウリは声を張り上げる。笑い声さえにじませながら。
「なぜそなたが」
深くため息をついた王妃に対し、
「わたくしだからご挨拶をするのです」
抑えきれないまま広間に響く声で一気に自分の正式名を口にして、クウリは大きく息を継いだ。
王妃は、名を聞いてもピクリとも動かず、ただ沈黙した。
その沈黙に、これで許されたとでも言わんばかりに高潮した頬を見せてクウリは、王妃の許しもないまま顔を上げる。
王妃の小さい息遣いが聞こえた。
ルナは身を伏せたまま非礼を詫びるか流れを見守るか考えているところだった。
王妃の顔を仰げればまだ判断しやすいがそうもいかない。
サクラとて同じと見える、彼も声を上げない。

「無礼な」
刃のような口調だった。

耳を疑う。

「なんと無礼な」

273名無しさん@ピンキー:2008/11/07(金) 01:48:48 ID:JfVKMk0g

王妃の声だった。
先ほどとは全く打って変わった厭わしげな口調だった。
「身分をわきまえず、王妃たる私へ、言葉をかけるとは」
おおいやだ、と王妃は袖で口元を隠して眉をひそめ、嫌悪をあらわにした。
「母…、」
呆然としたクウリは言いかけて、圧倒する威勢にはじかれたように身を伏せる。
「行き過ぎでございました」
地に額を着け、最大限謝罪を表したが、王妃は声をだすのも惜しむようにつぶやいた。
「結構よ」
先ほどと同じ言葉とは思えぬ、冷たく軽蔑のこもった声音だった。
見ていられずにルナは、自分の責任であると淀みなく口上を述べ、
「無礼をお許しくださいませ、この者、王妃様の美しさの前で心を焦がされたかと」
「まあ、ルナ」
そう言って王妃は少し考えるように見せてから、追従は要らぬと微笑んだが、釘を刺すように、
「ですが、この者の同席は許しません」
かちりと固まった空気の中、王妃は繰り返した。
「二度と許しません」
淡々と述べる様子はまことに屈託もなく、それどころかルナに免じて許してやった風情だ。
それぐらい王妃の態度には、情と言うものがなかった。
非礼を譴責しただけとは言い切れない、長年会わなかった息子の非礼に失望したわけでもない、
むしろ、心底嫌悪し、排除を望んだとしか思えない…。
どういうことだ?
274名無しさん@ピンキー:2008/11/07(金) 01:52:36 ID:JfVKMk0g

ルナは状況を何度も解釈しなおしている中で、横でサクラは「恐れながら」恐々と口を開いた。
乾いているのか幾度かあえぐような仕草を見せたが、潤った力強い声で、
「この者は、わが国に来て間もないとはいえ、私の指導不足でございます」
暗にクウリの出生を暗に主張しながら、詫びた。
「まあ」
王妃は眉を寄せ、
「あなたのように有能な軍人でも、不可能はあるものなのですね」と同情的に微笑んだかと思うと、
「では、もう捨て置きなさいな」
表情は変えずに言い放った。
息を呑みサクラは、ご冗談を、とかすれて言って、
「恐れながら王妃様、不可能とはご冗談が過ぎます」
眉をひそめた王妃に、一呼吸おいて「この者はメリカの出身で」サクラは言った。
「現状、メリカをでているのでしょう。名を聞いたこともない」
相変わらず微笑んだまま王妃は決め付けた。
扇でクウリを指し、ひらりと先を上げ、
「それなら、もとからこの国に必要な人間ではなかったのでしょうね」
鮮やかな手さばきで扇を広げ、首をのけぞらせて笑った「無礼者にふさわしく、まことに結構だこと」
気が付いているのだ、この者がクウリだと、自分の息子だと。
その上での排除を匂わせているのだ。
唖然とした3人の前に、王妃の高笑いが響く。
冷酷とはまた違う、踏みにじるような宣言。
従者が王妃を促した。
状況を飲み込めぬまま、ルナは耳を澄ませ、気配をうかがう。耳打ちを受けて王妃は一気に華やいだ。従者に応える、もはや追い討ち以外の何者でもない、よく響く声で従者に返す。
「王太子が?ええ、ええ、すぐに参りましてよ。
母はすぐに行くとお伝えくださいな。ええ、誰よりも大事な王太子ですものね」
クウリの耳をふさいでやりたいと、ルナは思わずにいられなかった。


275名無しさん@ピンキー:2008/11/07(金) 01:56:51 ID:JfVKMk0g


甘い香りを残して、王妃たちは広間を去った。
なんと声をかけていいものかとルナがしばし思い巡らせているところに、
「王妃のお気は変わられているらしい。どうしますか」
クウリ様、とサクラの声がした。
ルナは瞬きを繰り返す「ちょっと待て」
サクラは困ったように口をまげて笑って流し、クウリに視線を向ける。
「サクラ、…」
冗談を、と言おうとしていきなり合点がいった。

「そうか、お前が」

応えずにサクラはいる。クウリは目をそらし王妃の余韻を噛み締めるように辛そうな表情を浮かべていた。その二人の間でルナは震えた唇をなだめながら、
「お前は、クウリの…」
サクラが、まさか、と何度も反芻しながら、反論のない二人を前にルナは自嘲する。
「なぜ、いつから」ルナは言ってうなだれながら、「サクラ…、なんで私なのか」
「そうか、そうだったのか」

これで納得がいった。
王妃が私だけを部屋に呼んだ理由も、この二人の前で王太子を宣言したことも。


276以上です:2008/11/07(金) 02:01:22 ID:JfVKMk0g

また中途半端なところですみません;
必ず完結しますんで。

注:授乳妊娠出産など、今なら大サービスでプロデュースします。
ぜひご連絡ください。

当時の蛇姫様のご懐妊と同時期で、かなり嬉しかったです。

また参ります。
277名無しさん@ピンキー:2008/11/09(日) 20:55:07 ID:SFDG2f14
あ、さらに続きが
気になるところで終わってるな
王妃は百合の花のひと?
誰でもかまわず授乳妊娠出産は大歓迎です
完結を全裸でお待ちしてます
278名無しさん@ピンキー:2008/11/10(月) 01:04:47 ID:tMt4MPcf
ん?ご出産?

大変なのかもしれないが、全体的に急ぎすぎる感があるな
せっかくの長編なんだし、
ゆっくりでいいから丁寧に書いたほうがいいと思うのだが
279名無しさん@ピンキー:2008/11/24(月) 01:38:29 ID:d3deKZXc
ほし
280名無しさん@ピンキー:2008/11/30(日) 12:21:38 ID:p9omtrVy
ええぃ、いつになったら忌々しい規制は解除されるんだ!
このままではスレが死に絶えてしまうではないか。
281名無しさん@ピンキー:2008/11/30(日) 20:22:38 ID:O+W4+lHY
お困りの様で。

通りすがりが保守します。
282名無しさん@ピンキー:2008/12/01(月) 17:44:33 ID:mn+S6szn
>>280
どんな規制?
283名無しさん@ピンキー:2008/12/01(月) 18:37:55 ID:mWLHK/wn
ピンク規制でPCから書き込めない。
携帯からじゃ保守もめんどいや。
284名無しさん@ピンキー:2008/12/04(木) 23:51:26 ID:G8vdl/St
凌辱系、女騎士の話、出産描写やレイプ描写あり
相手モンスター・オーク

「女騎士マリエール・エルベスト潰えても」

 川沿いに作られし魔法国エルベスト、二千年近い歴史を持つ。たぐいまれなる建築技術により作られた、美しく荘厳な古城を抱えた国家として名をはせる国だ。
 しかし他国へ侵略を続けるオーク種族を中心としたゲルト王国の侵攻をひと月前に受けてしまった。オークは見た目醜悪で、心の奥底に邪悪を抱える民族だ。
 豚のような鼻、脂ぎった肌、飛び出た牙、性格は粗野で文化的とは言い難く、また男しか生まれぬ種族ゆえに他種族の女を好んで襲う。
 特に一番に目をつけられるのは人間の女だ。見た目はまるで違っても、体の相性が良く子供が二月もせずに産まれるということから度々狙われてきた。
 ゲルト王国に目と鼻の先にあり、また人間だけで構成されたエルベストは狙われて当然だった。戦力としては圧倒していたエルベストも、ゲルト王自らが出陣し数倍の兵力で襲われてはどうしようもない。
 エルベスト王国は一部の脱出した人間を除き、十万の住民と王族が囚われのままとなっている牢と化していた。
 襲われた後のエルベスト内部の様子は確認できず、通れるのは城門のみ。その城門に馬車がゆっくりと近づいてくる。門番のオークは馬車を操るオークに機嫌よく話しかけた。
「おう、ゲフゲフ!物資の補給後苦労、後苦労。中身は……おお、人間の女じゃねえか。どこで捕まえてきたんだい」
「いや、森の中だ。おびえて逃げてやがったのさ。簡単なもんだぜ。とりあえず、ゲルト王に報告しねえとな」
 荷台を確認すると両手を縛られたうら若き乙女たちが十人余り控えている。皆、口にさるぐつわをかけられ、両手を縛られていた。どの女も顔をそむけ、おびえている。
「よっしゃ、とおんな。楽しむといいぜ。色々とよ」
 門の扉が開き、馬車はまた動き始めた。門と町の間で後ろの女が話しかけてくる。
「うまく行きましたね。マリエール騎士団長」
「シッ、静かに。不用意に話しかけるな。少しでも気づかれたら終わりなんだぞ」
285名無しさん@ピンキー:2008/12/05(金) 00:00:18 ID:G8vdl/St
 従者のオークの中からは先ほどの野太い声と違い、実に女らしいすきとおった声がした。オークの中身にいたのは、女騎士団の団長を務めるマリエール・アルファだったのだ。
 きらめく銀の髪、二十五の若さでエルベスト一の剣の腕前を持ったマリエールはエルベストで長年騎士として働いていたが、襲撃の際に負傷を帯び十数名の団員とともに脱出、再起を図っていたのだ。
 今日のこの日に魔法で声を変え、自分の美しい肌の上にオークの生皮をかぶり危険を冒してまでもエルベストに赴いたのは女王アルフィンを救い出すためである。
 また運が良ければオーク王ゲルトを殺害し、死んでいった仲間や民たちの復讐を行うためでもあった。荷台の下には魔法を施された剣や弓が置かれ、団員たちも決死の覚悟でここに赴いてきた。
「よし、入るぞ。……な、こ、これは!」
 町に入ってすぐにその異変に気づかされることになる。目の前では槍が幾重も上に向けて付きたてられているが、人間の男たちが串刺しにされているのだ。串刺し死体は道に並べられて醜い彩りを作り上げている。
 数百にも及ぶ死体は串刺しにされてから十数日も立っており異臭が漂い腐敗が進んでいた。どの顔も苦痛にゆがんでおり、非道が行われた時の恐ろしさを物語る。
「ひどすぎる……。オークどもめ。ここまでやるのか、これならば奥にはもっと酷いものがあるに違いない」
 荷台にいる団員たちもあまりの惨状に言葉も出ない。しかしマリエールの心配が的中するのはすぐのことだった。
「どうだい!どうだい!新種のアクセサリーはいらんかね。今日新しく作ったアクセサリーはなんと女魔法使い、出しちまって疲れてもすぐに回復してくれるぜ」
(なんだ……、こいつらは人間をなんだと思っているのだ)
 町の中では恐ろしい商売が誕生していた。人間を加工してアクセサリーとする仕事、簡単な木の竿に人間をつりさげて売っているのだ。
 アクセサリーとなるために人間の女はまず両手、両足を切られる。女に抵抗されたり、逃げられるのを防止するとともに、刃向かおうとする気さえなくさせるのだ。
 その上で止血と縫合を行い、だるま人間とする。そうして女たちは特別に両手足に鎖をつけられオークの筋骨隆々とした体に結び付けられる。女たちの体を支えるのは、他に逞しくも汚らしい肉竿だ。
 これで女たちの腹にふたをするとともにいつでも性欲処理可能なアクセサリーとなるのだ。オークは女で作られたアクセサリーを気に入っているのか、行きかうオークたちの都度に女たちが結び付けられている。
 もちろんオークの目的の半分が人間の女である以上、慰みものになったり性奴となるのは重々承知していた。しかし目の前にはまるで人間を牛や豚のように肉の一部として扱うオークの姿しかないのだ。
(こいつら、殺してやるからな!)
 後ろの団員も同じ気持ちだった。両手足を切られ絶望の淵にいる女たちは、アクセサリーとなった今、自由に死ぬこともできない。
 苦悩を顔に浮かべたまま、大半の女たちの腹は膨れ明らかにオークの子を孕んでいた。人間の女にとってオークの子をはらむことは一番の恥辱である。
 子を産んだあとは産道が奇妙に変形し、オークを産んだとわかってしまうのだ。それゆえに人間の男はよりつかず、命が助かっても一人で社会から途絶された生活を送るほかない。人間の社会にはオークの子を産んだ女たちで作られた村さえある。
 国の女たちもほとんどが出産間近の今となっては、助けだしても子を堕胎することはできない。同じ国の人間、また女であるマリエールには、悲しみとつらさが痛いほどに分かる。
 若き頃、オークの手から救助した女たちは例外なく腹に子を宿し、自分を殺してくれと叫んだものだ。しかしそれはできず、助けられた女たちは死を選んだか、また死ぬことを避けてもすぐに国から姿を消した。
 もしも誇り高い女騎士たちがこんな目に会おうものならば、大抵は自殺を選ぼうとするに違いない。もちろん醜悪かつ狡猾なオークは自害さえ許さず性奴隷として使い続けていくのがわかっていてもだ。
286名無しさん@ピンキー:2008/12/05(金) 00:01:36 ID:G8vdl/St
「どうも!五千ギルギル、お客さんお買い上げ!」
 視線を向けると先ほど大きな声で宣伝をしていたアクセサリー屋の女魔法使いが売れていた。買ったのはオークの中でも貴族階級で、悪趣味な指輪や人間の貴族から収奪した宝石を身につけている。
「うむうむ。よし、おまえはこれからわしの装飾品として生きる。喜ぶがよいぞ」
 オーク貴族は下卑た顔をして魔法使い女を抱えあげた。そして鎖で体を支えると膣肉を狙い、一気に根元まで肉竿を貫いた。
 オークの肉竿は人間と比べ物にならない。子供の腕ほどある巨大さは言うにつけ、カリ首は肉壁をこすりあげ、また竿の部分も膨れ上がったイボががついている。
 そのようなものをいきなり濡れもせず差し込まれるに至り、女魔法使いは悲鳴を上げるしかない。
「グウアッ!アアアアアァァッ!」
 不思議なことに貫かれた際の悲鳴でオーク貴族の体が光る。そして先ほどよりも元気になっていた。血色がよくなり、緑の肌に潤いが増す。
 女魔法使いは他の呪文が唱えられないように舌を切られてはいるが悲鳴はそのまま出てくる。その悲鳴を特別に他の魔法へと変換する首輪をつけられているのだ。
 アクセサリーの店主が魔法使いが回復してくれるとの言葉はこれによるものだったのだ。しかし悲鳴を上げ続けさせ、自分は体がどんどんと癒えてくるというのはオーク特有の考えから来るものでマリエールは吐き気を催すばかりだった。
 地獄のような街並みを抜けて城内へとはいる。馬車が止められたために武器を最小限だけ体にしまい、マリエールと団員たちは城の中を上がり、王の眼前へと足を向かわせる。
「貴様が女たちを献上しようという奴か。しかし見ての通り、女たちは腐るほどいるのだがな」
 王宮のもっとも奥の玉座に構えるのは憎きゲルト王、他のオークと同じで容姿は醜いがそれでも戦いの中で勝ち上がってきた誇りと雄大さを兼ね備えている。
 椅子に座ったまま、身動きせずに絨毯の上で膝をつくマリエールたちを眺めている。まったく怪しむ様子がない。
「いえ、後ろにいる女たちはエルベストが誇る女騎士団の団員たちの生き残りでございます。ほら、ごらんくださいませ。他の女とは違う体のたくましさがございます」
 マリエールは後ろの団員たちの一人を前に出すと服を引きちぎった。胸と肩があらわになり、美しい白肌が光り輝く。本当ならこのようなまねはしたくないが、相手を騙すためならばと団員は耐える。
「確かに普通の女とは違うな。俺が攻める時も奴らには手こずったものだ。女だてらに王族や貴族など守りおって。最後には尻尾を巻いて逃げたやつらもいたようだが」
 歯を食いしばり嘲笑に耐えながら、巧みに王女の居場所を聞き出そうとする。
「このたびは麗しき姫君のアルフィンをゲルト王自ら捕えられたそうで。アルフィン様はいずこに」
「そんなことを聞いてどうする気だ?」
「いえ、ほんの戯れでございます。エルベスト王族の血を持つアルフィン様を手に入れられたゲルト国王様の処置にどのような高貴な扱いをしているのか、知りたく思いますれば」
 ゲルトはいぶかしげに思ったが、自分が褒められていることに対して素直に喜んでいたようで快く相手の申し出を受ける。
「よし、持ってこい。あいつは俺の芸術品でな。今度、兵士や民に見せる前に特別に見せてやろう」
(連れてこいではなく、持ってこいとは?)

287名無しさん@ピンキー:2008/12/05(金) 00:07:08 ID:z/ZY7jsg
 ゲルトの言葉の意味はすぐに理解できた。扉の向こうから滑車の音が聞こえ、勢いよく扉が開かれる。オーク三人がかりで運んできた滑車の上には巨大な肉塊が置かれていた。
 まるで動物の腸のような外見をしたソレの先には赤い布が巻かれている。オークが布をとると下からは王女アルフィンの姿があらわになった。その姿は異様というほかない。上半身から腰にかけては普通の姿だが、腿から先が幼虫のようになっている。
「……ばかな。こんなことって」
 あいた口がふさがらない。団員のだれもがまるで芋虫と体をつなげられたようなアルフィンの姿に困惑を感じていた。
「ファ……フフファァァ?」
 しかし当のアルフィンに理性はほとんどなく、目の前にいる団員たちの顔もわからない様子だ。大きく口を開いてよだれをこぼし、阿呆のように笑っている。
「どうだ。俺の丹精こめて作った芸術品は。きれいだろう」
「どういうことなのです。この姿は一体何ですか」
 震える声と体を強い理性で何とかしまいこむ。しかし団員の殆どは目に涙を浮かべている。いつも優しく笑い民たちに愛を分け与えた王女アルフィンがこのような化け物になり果てていたのだ。
「簡単なことよ。他の生物と合体させてみた。エルベスト王家の人間は魔法や体の変化に対する耐久力が高い。それに目をつけてな。まるで女王蟻のようだろう。
 こやつに精を吹き込めば、この長い虫のような胴体の中で何十も子を孕めるのよ。人間の雌では一度に一人しか産めん。しかしこれで大量の仲間が増える」
 ゲルトの目的はアルフィンを自分たちの民を増やす生産所とすることだったのだ。そうして改造を施し、ゆくゆくは他の女にもこうした奇妙な生物への返還を図る。
 勢力拡大には兵は必須であり、ある種、当たり前とも思えた行動だが、信愛する王女がこのような目にあえば怒りしか沸かない。
(もうこれでは救っても無駄ではないか。……哀れな、何とひどい。……ゲルトめ)
 目的の一つが封じられた今となっては、もはややることは一つしかない。団員たちはスカートの下から剣を取り出す。短刀だが十二分に切れ味と魔法力を高めた逸品だ。
 マリエールも体を覆っていたオークの生皮を振り払い、下から美しい裸体をさらけ出した。生皮からしみ出た体液が独特の臭気を出した。
 ふっくらとした小さくも可愛らしい胸と柔らかだが引き締まった尻のラインにゲルトの目が注がれる。
 ゲルトの目には驚きはなく、ただ鎮座して突然の出来事に静観するばかりであった
288名無しさん@ピンキー:2008/12/05(金) 00:13:15 ID:z/ZY7jsg
「わたしはエルベスト王国騎士団長マリエール!オークの長ゲルトッ!貴様は国を奪い、民を奪い、王女のすべてを奪った。その命で償ってもらう!」
 裸のマリエールは絨毯を蹴り駈け出す。他の団員たちも皆いっしょについていき、先ほどのおびえた様子が嘘のような獰猛さを見せた。
「覚悟!!」
 マリエールは高く飛んだかと思うと、一気呵成にゲルトの頭めがけて切りかかる。魔法の力をを施した長剣だ。触れでもすれば体が一瞬にして切り裂かれる。
 ゲルトは動かない。相手が迫ってきて自分に剣で切り裂こうと思っているとしても、立ち上がりもしなかった。ただ相手の剣が触れる刹那、あるものを胸から取り出して剣を受け止める。
 瞬時にマリエールの体は弾き飛ばされ円を描き固い石の地面にたたき落ちた。
「く、なぜ……。それはアルフィンさまの足?」
 ゲルトが胸から取り出したのは対になっているアルフィンの美しい足だった。用済みとなった下半身、特に不必要な腿から切り取られた足を剣のように使い、マリエールの刃を受け止めたのだ。
「そうよ。エルベスト王族には魔法の耐性がある。アルフィンの子にも魔法に守られていたという。魔法の国の騎士なら、普通に魔法で攻撃してくると思ってな。用心しておいたのよ」
 王族による魔法耐性があるからこそ、逆に怪物のような移植手術や変化にも耐えることができる。ゲルトはすべてを熟知していたのだ。
 特別な薬草で腐敗を防いでいるため、薬の臭いを漂わせている足にゲルトは舌を這わせた。まるで愛おしい恋人でも愛でるかのような仕草だ。
 マリエールが倒れても次々と女の団員たちは向かってくる。ゲルトはようやく立ち上がると、一斉に群れて襲い掛かってくる団員たちを蟻の子でも蹴散らすように叩き返したのだ。
 一振りした巨大な腕部は見事に女たちを叩き落とし、大きなダメージを与える。
 皆、地面に反吐を吐くほど強くたたきつけられ腹を押さえて身動きできない。ゲルトは呆れていた。
「まったく、所詮人間の力というのはこの程度よ。われわれが劣るのは、子を自由に作れないこと、魔法を作り出し使えぬことぐらい。それ以外に貴様らに劣るものなどないというのに」
「くそっ、まだまだ」
「人間ごときがいつもエルフのように見下し、我らをなめ腐ってくれたな。ゴミどもが。ほら、そこだ!」
 王国一の剣がまるでゲルトには通用しない。空を切りかすかにそよかぜを起こす程度でしかなく、二度三度と切りつけた後、あっさりとゲルトの盛り上がった筋肉による鉄拳を腹にねじ込まれる。
 魔法の力による補正がほとんど意味を持たない以上、ただ剣に頼るほかない。しかし剣の攻撃さえ意味をもたぬほどの力があった。ゲルトはただの汚らしい王ではなく、力でのし上がってきた本物の豪傑であった。
「ゴホッ、ウゥ。オエエッ」
 あまりにも自分のふがいなさに泣けてくる。他の団員と同じくゲロを吐いてのたうちまわるばかりだ。腹の奥には焼きつけるような痛みが残り、体全体をしびれさせる。
 団員たちは次々とオーガ兵士につかまっていた。もうゲルトの命を奪うことさえできない。視線の先には滑車の上であいもかわらず、笑い顔を絶やさないアルフィンの姿があった。
「そいつらを捕えておけ。これでようやくエルベストは俺ゲルトのものになったということを知らせてやるための道具に使える」
 マリエールは両腕をしっかりと掴まれたまま玉座を退室させられていく。虚しさ苦しさが胸を支配する中で哀れな女の背中を見つめるゲルトの姿があった。
289名無しさん@ピンキー:2008/12/05(金) 00:17:35 ID:z/ZY7jsg
「さあ!永き歴史をもつエルベストも我らがゲルト王の前にはむなしく滅び去る。しかし最後の希望、女騎士団が立ち上がったぁ!」
 エルベスト領内に作られたコロシアム、本来なら訓練や決闘に使う神聖な場所だが今は数万のオークたちを前にして哀れな催しを行うだけとなり果てた。
 ゲルトが催したイベントにはオーク兵士のほとんどが集結する。自然と囚われペットや家畜のように扱われた女たちや、兵士たちのアクセサリーとなった者たちも集められた。
 中央では進行役のオークが高い声を張り上げて客を盛り上げる。オークたちも腰を震わせて、雄たけびをあげまるで地震が起きたかのような振動がコロシアム全体に巻き起こる。
「ゲルト様の慈悲か、もしもゲルト様と兵士に女騎士団が勝利すれば、このエルベルトはすぐに自由になる。女騎士団は、我らがゲルト様を倒すことができるのかーッ!」
 司会のオークが手を上げると、片側からマリエール率いる女騎士団が、もう片側からはゲルトがマリエールが連れる団員と同じ数の兵を引き継れてあらわれた。
 聴衆の目がたちまちに二つの集団に注がれる。しかし視線を強く感じたのは女騎士団側で、皆両手で胸や秘所を隠して前かがみになって歩いている。マリエールだけは全裸のまま視線をゲルトに向けて胸を張っていたが、体には汗がにじんでいた。
 不思議なことにとらわれてよりの数日、危害は加えられることがなかった。それも全てこの日のためだったと思えば当然である。
 牢の中にいたときに自害を考えた時もあったが、武器もなく監視の目があり、さらに勝手に死ねば市民たちを虐殺すると聞いては死に逃げることもできなかった。
 手荒く太鼓と鐘の音が叩かれた。裸同士で模擬戦争をやろうというのがゲルトの趣旨らしいが、象と蟻の対決と同じだ。もちろん民衆たちもそれを期待し、エルベルト国民も騎士団の登場に喜びと同じぐらいの重さを持つ苦しみを感じていた。
「さぁ!開始だ!我らがゲルト様にエルベルトの誇る女騎士はどう立ち向かうのか」
 戦いが始まる。しかしゲルト側は悠然と立っているだけで仕掛けようとはしない。十人ものオークたちは勇壮に立ち尽くすだけで相手の攻撃を待っている様子だった。
 しょうがない話だ。わざわざ全力で相手をいたぶる気などないのだ。良くも悪くも楽しめればいいということなのだ。
「みんな、命をかけるんだ。どうせ勝ちはないかもしれないが、我々はせめて少しでも戦うんだ。それでせめてもの意地を見せよう」
 マリエールの言葉に団員たちは頷いた。そして各々がみな胸や秘所を隠すことをやめる。オークの間からは下世話な野次が飛ぶが耳に入ることはない。
 ゆっくり歩き出したマリエールたちは一心に狙うゲルトの首先や体に向けて群がっていく。十人もの女たちは次々にゲルトに飛びかかる。唯一残された歯という武器を使い、彼女たちは牙を付きたてて戦った。
「か、固い!?こんなに固いのか」
 しかし少しでも相手に致命傷を負わせようとする願いは打ち消された。エルベスト国民たちも憎きゲルトに血の一滴でも流れ出てくれれば溜飲が下がったはずだ。
 ただ願いを裏切り人間の、しかも女の歯程度ではオークの頑丈で皮鎧にまで使われる皮膚を裂くことはできない現実が立ちふさがる。
「おーっと、女騎士団はゲルト様を殺そうとしているのか?それとも寵愛を受けようと口づけをしているのか」
 歯が折れるほどの噛みつきも何の効果もなく、ただ時間だけが過ぎていく。何度も何度も噛みつきを繰り返して、必死にどこか柔らかい個所はないかと探し続ける。
 だが無駄なことだった。すべてにおいて体は強靭に作られており、細胞一つ一つが密接に絡みついて体を構成していた。ゲルトは喉元に噛みついているマリエールを見つめて一言つぶやく。
「呆れたぞ」
290名無しさん@ピンキー:2008/12/05(金) 00:26:31 ID:z/ZY7jsg
 それが儚い見世物戦争の終結だった。体を一振りすると、以前襲った時のように女たちはそれぞれ砂と砂利の大地に飛ばされていく。
 女たちがあっけなく倒れるのを見て両側で構えて何もしなかった兵士たちが次々と団員たちに覆いかぶさっていく。
「さすがはゲルト様、我らの指導者よ。さて女ども、覚悟しろ。俺たちがお前たちの腹に贈り物をくれてやるぞ」
「いっ、いやあああああっ。やめて、やめてーっ」
「……た、助けてくださ、やだぁー」
「おおーっと、女騎士団も一皮むけばただの女だ。エルベルトの誇る騎士団は哀れゲルト様一人の手で消えてしまった。ただの女となったものたちにゲルト王国の子種を授け、その行いを罰せよ!」
 進行オークに促されるように団員たちは次々と犯されていった。貴族で構成された団員たちの全員が処女である。その処女たちがよりによってオークの巨大な肉竿を叩き込まれているのだ。
「は、放しなさい!放して、そんなもの入らないわ、やめっ……きゃあー!」
 下半身を血まみれにして激痛と苦痛にさいなまれてのたうちまわり、逃げようとしても狭いコロシウムの中でたちまち追いつかれてしまい餌食となった。オークによってとらえられた女たちは手足を動かすが、蜘蛛の糸にとらわれた虫と同じで何もできない。
 いつか最愛の婚約者のために守ってきたそこをただ差し出して蹂躙されるがままだ。抱えられ、突き抜かれ、また後ろから覆いかぶさられとそれぞれが自由に犯される。
 オーク兵の中には興奮のあまりに腕を強く締め相手に噛みつき失神を負わせるものまで出る始末だった。口から血が混じったあぶくを吹き、また下半身からは小水をまき散らす。騎士団の誇りは無残に散っていく。
「ああ、私たちの希望が……。神はいないのでしょうか」
 聴衆の女たちは自分たちが犯され凌辱された時を思い出しすすり泣くばかりだ。また犯される団員たちに興奮し、オークたちも次々と自分の愛用の女奴隷たちをかわいがり始めた。
「や、やめて!つかないで、おなかが壊れちゃう!!あひぃ〜」
「やだあ、マリエール様!頑張ってよ、負けないでよ!そうじゃないと私たちが……ぎゃあああああっ」
 コロシウムは一転して戦いの場から淫欲が渦巻く場へと変貌を遂げていた。オークたちは自分の子を妊娠している女たちに対しても容赦のない突き上げを行う。
 母体への衝撃や、またあまりの状況に産気づくものも出始めた。出産を迎えた女たちは必死に産道を締めつけているが、オークの赤子たちはそれを許さない。
「産みたくない!産みたく……出ないでぇ、出ないでよお」
「オギャ、オギャアアッ!」
 噴き出す羊水と共に女たちの泣き叫ぶ声と赤ん坊のか細くも確かな声が入り混じる。赤子たちは血まみれになりつつも、生まればかりだというのに足取り手取りしっかりと女たちの乳を探してはいずりまわる。
 緑色の赤子を産んだ女たちは、愛すこともできぬ醜い我が子たちに乳を吸われただ泣くばかりであった。目の前の化け物を産んだという恐怖や絶望と、子に乳をやり母となることへの困惑に迷っており、それが涙を呼んでいた。
291名無しさん@ピンキー:2008/12/05(金) 00:27:54 ID:z/ZY7jsg
「貴様は逃げないのか……」
「……もうかなわないということがわかったからな。犯せ」
 騎士団長に近寄るゲルトにマリエールは愛想なく答えた。ゲルトは己の肉竿をいきりたたせたまま、マリエールを抱えあげた。
「ふん、お前は以外と見る目があるな。よし、これから一言も悲鳴を上げなかったら俺の妻にしてやろう」
 マリエールはゲルトに濡れないままの秘所をゆっくりとこじ開けられていく。しかしその間、声を立てず激痛と苦痛にまみれつつも必死に耐えた。
 いつの日か、自分が恋い焦がれるような男性に向けて残した処女、それがいとも簡単に最も憎い怪物によって突き破られる。誇りが許すなら舌を噛み切り自害したかった。
 マリエールには願いがあったのだ。ゲルト王国を内側から壊す、自分の子供たちにせめてゲルトを討たせるとの使命を負わせたかったのだ。
 それゆえに憎きオークの子を孕み産む決心を決めた。長いストロークの間も血が濁流のように流れて肉竿を汚す。また砂の地面に血が飛び散っていく。
 この痛みは男でも耐えることができないほどのものだ。だがマリエールは確固たる意志をみせることで、せめて阿鼻叫喚の地獄の中でもエルベストの誇りを見せてやろうとしたのだ。
 最初拒んで固かった肉壁も血により滑りが良くなる。しかしそれは苦痛をさらに激しくさせる。人形のように上半身をスイングさせて腰を震わせる間に、全身を突き刺される苦しみは続く。
「ふ、ふう。お前はアルフィンよりも根性があるな。アルフィンも最初犯してやった時は我慢したものだが、最後には泣き叫んでいた。お前の名も呼んでいたぞ」
 ゲルトはわざとおこらせようといったが、その言葉は届いていなかった。心は復讐の念で満たされており、もう揺らぐことはないのだ。怒りが増えることも減ることもない。それが今のマリエールだった。
 やがて太い肉竿が一段と収縮と膨張を交互に繰り返していく。きつい締め上げのせいでいよいよ耐えることができなくなってきた。
「ぐっ、い、いくぞぉっ!はらめ、はらめ!」
 腐った魚のような臭いを発した息をマリエールに浴びせかけると、肉竿の先端からは大量の精液が子宮に浴びせかけられる。オークの精液は酒飲みの器を並々満たすほどの量にもなるが、そのすべてが処女子宮の卵子に向けて襲い掛かった。
 ゼリーのような精液は内部を通り子宮の奥深くまで侵入する。途中で止められることはほとんどない。たちまちに卵子は支配され受胎した。
 ただしだからといって逃げられるわけではない。獣のように長く、また大量の精液を体に受け止め続けるほかない。ゲルトも仁王立ちのまま、マリエールを離さずに抱きしめ続けている。
 他の団員たちも皆一人残らず中に出され妊娠は確実だ。どの女たちも気高い表情は消え、目を虚ろにしていた。中にはまだ叫び声をあげるものもいたが、オークにより殴られ白き肌を真っ赤にして痣を作った後は何もできずされるがままである。
 観客も女騎士団のすべても今後は苦悩の谷間をさまようばかり。この長い享楽はまだまだ終わらない。しかし終わったものはある。
 この日、完全にエルベストは滅んだ。そしてゲルト王国の領土がエルベスト支配を行ったと歴史書に刻まれたのだ。

       END


これで書きたい分だけやってみた。エロと格闘要素が少なくてすまん。
やっぱりファンタジーの女兵士って言ったら女騎士だよね。また続きか、他の話を作ってみるわ。
292名無しさん@ピンキー:2008/12/05(金) 09:24:13 ID:CgCJi+uf
GJ! 容赦なくてすげー良かったです。アクセサリー化とか蟲化とか。
種族差は拮抗してるより露骨な方が絶望感が増していいですね。
快楽なしとか、孕まされた女の社会的な扱いとかも。とにかくGJでした!
293名無しさん@ピンキー:2008/12/07(日) 04:31:58 ID:yzmWvPG9
>>291
続きwktk
294名無しさん@ピンキー:2008/12/07(日) 17:56:03 ID:obcXsaPW
最後まで折れないマリエールが新鮮だった、続編作るとしてもこのまま心は折れずにいって欲しい
295名無しさん@ピンキー:2008/12/08(月) 00:40:06 ID:F0btaRci
4
296名無しさん@ピンキー:2008/12/12(金) 00:33:12 ID:DvYXkwby

297名無しさん@ピンキー:2008/12/15(月) 13:38:32 ID:FhuuyJls
思ったんだけど、ここに出て来る女兵士の武器って
剣主流?
298名無しさん@ピンキー:2008/12/15(月) 13:54:46 ID:g+g48OC2
副長の日々では
従姉妹殿が騎槍+剣
ライナ軍曹が斧槍+剣
ハンナが弓矢+剣
って感じで、サイドアーム扱いだったな>剣
299名無しさん@ピンキー:2008/12/15(月) 19:30:34 ID:X+B6peKd
ほかはほとんど剣だけだっけ?
300名無しさん@ピンキー:2008/12/16(火) 16:23:44 ID:P4tXfWQP
保管庫死亡確認
301名無しさん@ピンキー:2008/12/17(水) 16:28:37 ID:ZnSBO4vp
姫スレ9の方で
保管庫で更新されてない部分を
保管するwikiをつくらないかって
話が出てるんだけど
こっちはどうしよう
302名無しさん@ピンキー:2008/12/17(水) 22:17:08 ID:Oh2urPmu
>>301
一緒のところにするとかしたらいいんじゃないか。
303名無しさん@ピンキー:2008/12/17(水) 23:46:46 ID:ZnSBO4vp
うんうん
姫スレとはページを変えるなりしてね

>>300
え?管理人さんからどっかで最近連絡あった?
304名無しさん@ピンキー:2008/12/19(金) 01:20:52 ID:OTFaKo//
>>303
死亡確認用コメ、てことでしょ。居たらお返事くださいみたいな。
その昔、今回と同じような話が出たとき、管理人さん
姫・女兵士スレの保管に関してはちょっぴりこだわりあるような意思を
示された方だったから、新倉庫設立にはちょっと戸惑う。
いや、落ちたスレ分の作品読めるのが一番だけど。
305名無しさん@ピンキー:2008/12/19(金) 20:31:28 ID:cHxkoFvF
そのレスを見てないからわからないけれど、出来るだけ同じような形式にすれば良いのでは。
で、補助保管庫にして本家はあくまで従来の保管庫。
更新できるようになったときに少しでも手助けできるようにしつつ、最近これらのスレを知った人にも楽しんで貰う。

レス番を明示してシリーズごとに纏めて、単発は投下順に合間合間にまとめるって感じだよね?
kbとかコメントとかきめ細かい対応が持ち味だと思うんだけど、そこまでは手が回らないかなぁ…wiki形式なら尚更。
でも同じくしたら、管理人さんが更新するとき一々探さなくてすむと思うし手助けできるんじゃ。
まぁ、まとめたことがないからよくわからないんだけど。

長文すまん。
いち意見なのでスルーばっちこいです。
306名無しさん@ピンキー:2008/12/20(土) 19:03:12 ID:0mGR2u6a
保管庫といえば、プロバイダ規制のせいで
書き込めない状態が続いているので、
管理用BBSに書き込んだ物を、
誰かに本スレへと投下してもらう方法は取れないかな、
と思った事があります。
最近スレに投下が少ないのは、
乱規制のせいではないかとも思っているので、
新保管庫になるなら、そういう機能があると嬉しいですね。


作者逃げたとお思いの方もいたかもしれませんが、
少しづつ魔王の物語も書き進めています。
307名無しさん@ピンキー:2008/12/21(日) 01:16:38 ID:eItqRKyj
勢いで書いて勢いで投下。ある女騎士のチョイエロの短編です。
勇気を出して投下してみます。
308聖剣士の最期:2008/12/21(日) 01:20:28 ID:eItqRKyj
王国の北の最果て、そこは灰色の険しい岩山と、草木ひとつ見えない荒れ地だけの荒涼とした大地。
その非情きわまりない環境は、容易には人の侵入を許さない。これまでも、北方を目指した
幾多の冒険者を厳然と退け、さらに数多くの人間の命を、乾ききった荒野と
吹きすさぶ冷たい風の中に呑み込んできた……。

つらなる岩山の谷間、峻険な嶺々に護られるようにして、小さな洞窟が口をあけている。
洞窟の入口は岩肌のくぼみにひっそりと、人目を忍んでいるかのようだ。
傍目からとてもそうは見えないが、その洞窟こそ『封印の洞窟』、聖剣の祀られた神聖なる場所――。

洞窟へとつづく細い谷には、道と呼べるほどのものはない。取り巻く風物すべてが
灰白色で、生命の息吹もほとんど感じられない。そんな中を、濃紺のマントに全身を
包んだ小柄な人影が、険しい山肌にすがるように1人登っていく…。

谷は急勾配なだけでなく、こぶし大からはては人の背丈を超えるものまで数多くの
岩塊が転がり、なにより地面の凹凸が激しすぎて、足腰の強い北方の馬も使うことができない。
踏み込むには、徒歩でしか手段がないのだ。

道もない険しい谷をさらに慎重によじ登っていき、マントの人物はようやく
洞窟の入口にたどり着いた。すべてが死に絶えたような、寒々しいほど
殺風景な周囲に慎重に目を配ってから、マントの人物は胸もとの留め金に
片手を持っていき、濃紺のマントをばさりと一気に脱ぎ捨てた!

あとにあらわれたのは、白銀の防具に身を固めた清楚可憐な少女だった。肩当てと
一体になった白銀の軽装鎧に、腰のベルトには白塗りの鞘の長剣を吊している。
深いブルーのひとみと、背中あたりまで長さのあるわずかに青を帯びたストレートの銀髪。
線の細い凛とした顔立ちは、北方系特有の端正な美貌だ。

いでたちから女剣士のようだが、体つきはいたって小柄で華奢。身につける武具が
なければ、良家の令嬢と称しても遜色はないだろう。防具の保護のない腰から下は短めのスカートを着けていて
あらわになった太ももは適度に締まっているものの、目を奪われるほどの色の白さを持っている。

あと少女が身に着けているのは、左腕のやはり白銀のガントレットと、ひざまでの
丈の革ブーツくらい。総じて見れば、持ち味のスピードを最大限に生かすための軽装
といったところだろうか。
309聖剣士の最期:2008/12/21(日) 01:30:15 ID:eItqRKyj
少女の名は、サイラ=ファネス。まだ18になったばかりだが、最年少で
王国剣士の称号を受けた剣の使い手だ。それだけではない。サイラ自身は身上を
あきらかにしてはいないが、彼女は伝承にある聖剣士の末裔。かつて3百年の昔
いったん王国を覆い尽くした闇を1人で打ち払ったと伝えられる、聖剣士の血を受け継ぐ少女なのだ。

王国全土は今また、圧倒的な魔と闇に覆い尽くされようとしている……。
3百年の時を置いて突如、東、西、南の三方から、魔物の大軍が津波のように侵攻してきたのだ。
数え切れないほどの悪鬼、魔獣、妖魔から、果ては巨竜までも擁する魔物軍に
長い平穏に慣れた王国軍が満足に対抗できるはずもなかった。

各地の防衛線をまったく支えられずに壊滅、半月のうちにあえなく
王都まで陥とされ、さらに北方へ追いやられていくことになった…。魔軍の執拗な追撃に
北辺の地で王国軍の残党が惨めな敗走を重ねる中サイラは1人
闇を切り裂くと伝説にある聖剣を求めて、過酷な旅をつづけてきた。
『聖剣は、聖剣士の血を引く私にしか使いこなせない――』
サイラは固い決意を胸に秘めていた。必ずや、洞窟に眠る聖剣を手にしなければ。
この世界には死と絶望しかない、滅亡寸前の王国を救えるのはもはや自分だけなのだ――。

事実、魔物達によって聖剣士の末裔は根絶やしにされ、あとは彼女を残すのみ…。
王国軍も崩壊しつつある今となっては、サイラこそが圧倒的な魔と闇に対抗しうる、
人々に残された最後の希望に他ならなかった――。
「はあ、はあ……」
洞窟の入口を前にサイラは片ひざをつき、目をとじて、しばし乱れた息を整える。
華奢な彼女にとって、最果ての険しい山道はやはり、かなりの負担だったのだ…。
まもなく落ち着きを取りもどしたサイラは立ち上がり、腰に手をやると、ベルトに
吊した剣をさっと抜き放った! 彼女がこれまで己の命を預けてきた、白く煌く長剣。
その澄みきった輝きから、かなりの業物と見てとれる。

洞窟の口をしばし見つめてから、サイラは小さくうなずいた。
剣を差しあげて柄にかるく口づけすると、可憐な美貌を緊張させ、封印の洞窟へと踏み込んでいく…。

洞窟の内部は、すべてがほのかな青い光に包まれている。湿りを帯びた岩壁には、
一面にヒカリゴケと呼ばれる苔が密生していて、それらの胞子体がかすかに
青い光を放ち洞窟を淡く照らしているのだ。
310聖剣士の最期:2008/12/21(日) 01:33:03 ID:eItqRKyj
封印の洞窟は、最深部に安置された聖剣の魔力によって護られた神聖な場所。聖剣の生み出す強靱な結界により、
わずかにでも魔と闇の息吹を受けたものは、一切入り込めないはずだった。しかし……
洞窟に踏み込んでまもなく、サイラは聖域の異変を身をもって知ることになった。
遭遇した巨大な影が突如、彼女に牙を剥き、爪を振るって襲いかかってきたのだ!

さすがに剣の使い手。魔物の不意打ちを、サイラは反射的に身をふせてかわした。
いったん飛び退いて充分に距離を取り、ひとまず態勢を整える。
「着いて早々、こんなのに歓迎されるなんてね…」
サイラの眼前に立つのは、洞窟の天井に頭がとどきそうなほどの巨躯の怪物。
薄暗い洞窟で細部は判然としないが、ほぼ逆三角形の逞しい肉体に、かなり小振り
の頭部がのっているのがわかる。紡錘形に先細りして、両目が大きく隔たった頭部。

外見的に近いのはトカゲだろうか、魚だろうか。両手の先には鋭利な爪がきらめき、
ウロコが黒光りする背中からは、何条もの突起が突き出している…。
数多の魔物と剣を交えてきた手練のサイラでも、これまで目にしたことのない異形の魔物だった…。

サイラは剣の柄を強く握ると、ダッシュして大胆に距離を詰め、とりあえず急所と
思われる首筋めがけて一直線に刃を突き出した!
キ――ン!
サイラの剣の一撃は、素早く振り上げられた爪に受けとめられた…!
『そんな、反応した…?』
サイラはあわてて飛び退いた。
「こんな巨体に、私の剣がかわされるなんて…!」
決して侮ったわけではない。とはいえ、いかにも鈍重そうな巨体が、あれだけ的確に反応してくるとは予想外だった。
動揺をかくせないまま、サイラはふたたび魔物のふところに飛び込んで一撃を放つ!
だが、彼女の剣はまたも長い爪で受けとめられ、振るわれた腕のあおりを受けて、跳ね飛ばされた…!
311聖剣士の最期:2008/12/21(日) 01:36:43 ID:eItqRKyj
「くッ…!」
軽々と吹っ飛ばされたサイラだが、空中で2回ほど身をひるがえして着地した。
「こいつ…、ただの魔物じゃない…!」
目の前の敵は、地上を徘徊しているようなただの魔獣ではない。闇の波動を受けた
はるかに手強い、はるかに邪悪な魔物なのだろう…。

そこから、今度は魔物の猛烈な攻勢が始まった! 距離を詰めながら、長剣ほども
長さのある左右の爪を、それこそ息つく間もないほどの早さで振るってくる!
鋭い爪が空気を切り裂くたび、甲高い音が洞窟内に反響する…! 
防戦するサイラも、負けてはいない。振るわれる魔物の爪を身軽なフットワークでかわしつつ、彼女は密かに呪文を唱えていた…。

「剣は通じなくても、これなら…!」
呪文の詠唱を終えたサイラの左手に、白くまぶしい光の弾が発生する!
彼女は剣術以外に、聖なる光の魔法も身につけている。その魔法は、彼女にとってのいわば切り札。
女ゆえの非力を補うため、苦心して習得したものだ。

「いけえッ!」
眼前に差し上げた左手、その先の光弾を立ち塞がる魔物に向けて、サイラはためた気合とともに撃ち出す!
3つの光弾が螺旋状に回転しながら光の尾を引き、一体となって標的めがけて飛んでいく!
まっすぐ飛んだ光弾は魔物の巨体に完璧にとらえ、あたりは真っ白なまばゆい閃光に包まれた!
光弾をまともに受けた魔物は閃光の中、胸のあたりを押さえて苦しげに身をよじる…!

「やああ――ッ!」
サイラはその隙を逸さず、剣を向けると、ひるんだ感のある魔物に向かっていく!

「うぐッ…! はあ、はあ、はあ……」
サイラは洞窟の深部を逃げ惑っていた…。鋭い牙と爪を持つ魔物を向こうに回し、
果敢に応戦したサイラだったが、やはりたった1人、それも小柄、非力な女の身ではどうしても限界があった…。
それ以前に、力の差は歴然だった。魔界の強力な魔物にたいして、彼女の剣と魔法ではまったくといっていいほど歯が立たなかった…。

封印の洞窟、そこはもう聖剣の封じられた、神聖な場所ではなくなっていたのだ。
深く入り組んだ洞窟内は、あまねく魔界から直接噴き込んできたどす黒い闇の波動に
満たされ、血に飢えた凶暴な魔物であふれている…。

逃げ惑うサイラに、聖剣士の凛々しさはほとんど残っていない…。身に着けているのは、防具の下に着ていた麻の衣服のみ。
その着衣も魔物にズタズタに切り裂かれ、さらにあちこちが血に染まってボロ布と化している。聖水で清めたはずの白銀の防具は
強烈な魔物の攻撃にすべて、いとも簡単に打ち砕かれてしまっていた…。

サイラが失ったのは、身を守る防具だけではない。頼みとしてきた愛剣も、魔物の
爪と数回刃を交えただけで脆くも刃こぼれして切れ味を失い、傷を癒す薬草もすでに使い果たしていた…。

「くッ、うう…」
サイラはうつむいて苦しげにうめくと、胸のあたりに手を添える…。着衣の裂け目からのぞく豊かな乳房には
魔物の爪によって与えられた2条の傷跡が斜めに走り、鮮血をあふれさせている…。
すべての防具を砕かれ、着衣を切り裂かれたサイラだが、肉体にもやはり数多くの傷を負っている。
ひどい出血と痛みに著しく体力を消耗し、なんとか剣を振るうことはできるが、切り札である光の魔法はもう使えなくなっていた…。

『…こ、こんなところで、死ぬわけにはいかない…!』
もはや絶望的と言える状況にも決してあきらめることなく、聖剣士サイラは魔窟と
化した洞窟を1人彷徨う――。だが、サイラが地上のまばゆい陽光を見ることはもうあるまい。彼女はほどなく、
この魔窟で魔物たちの毒牙にかかり、はかなく散ってしまうだろう…。

サイラを襲う禍々しい魔物とは? そして、彼女の迎える無残な最期とは……?
312聖剣士の最期:2008/12/21(日) 01:42:41 ID:eItqRKyj
魔物からの逃避行の途中、サイラは4,5体のオークどもに取り囲まれ、なんとか振り切ったものの
肩に太ももに、さらに傷を負っていた…。傷からのひどい出血に
時折意識が遠のきにかかるのを、彼女はなんとか気力で耐えている状態だ…。
オークの振るった棍棒に、上半身の着衣はほとんど引き裂かれ、痛々しく傷ついた双乳がいかにも無防備にさらされている…。

追いつめられた彼女は、残りわずかな体力を無理に削って光の呪文を放ち、強烈な閃光で包囲するオークの目をくらませ
その隙に乗じて逃げ延びたのだ。オークたちは振り切ったものの、そこからの逃避行は地形があらたな障害となった。
たどる道筋はしだいにアップダウンがきつくなり、加えて落盤でも起きたのか、岩塊でいたるところがふさがれるようになってきた。

サイラは折り重なる岩をひとつずつよじ登り、滑り降り、岩の間隙に身を押し込むように、懸命に先へ先へとすすんでいく。
オークが追ってきているかもしれない以上、引き返すことはできない。五体満足でも決して楽ではない障害に、サイラは傷ついた身をおして立ち向かう…。
残り少ない体力がさらに削り取られていくのを、サイラ自身感じていた。
しかも、岩肌にむきだしの傷が触れ、耐えがたい痛みが何度となく全身に走る…。
それでも、彼女には眼前につらなる障害を乗り越えるしか活路を拓くすべはないのだ…。

そして、ようやく最後の裂け目を通り抜けたとき――、サイラはひじ当てやブーツなどの最低限の装具を除いては、ほぼ素裸となっていた。
岩のあいだをいくつも通り抜けていくうちに、着衣は岩壁の突起に引っかかって少しずつ裂けていき、ほどなく無残に剥がれてしまった…。
無数の傷を負ってはいるが透けるように白い裸体の、華奢な体つきにしては豊かな美乳も、股間のうっすらとした銀の茂みも、すべてあらわとなっている…。

「あくッ…!」
襲ってきた強い眩暈に、サイラはその場に片ひざをついた…。無理に無理を重ねてきたのが、ここにきて一気に噴出したようだ。
異常に激しい動悸を抑え込むように、むきだしの乳房のあいだにぐっと左手を当てる…。
体力の消耗も深刻だが、着衣を失ったのもかなりの痛手だ。ほとんどボロになっていたとはいえ、体を覆ってくれていた最後の防具だった。
無防備に素肌をさらす今、魔物の毒牙にかかって倒されれば、乳房や秘部を狙って責められかねない…。

「た、立ち上がらなきゃ…!」
サイラはみずからを奮い立たせるようにつぶやき、岩壁に手をかけて立ち上がる。
周囲に魔物の気配は感じないが、こんなところにとどまっているわけにはいかない。
息づかいと胸の動悸がいくらか落ち着きを取りもどすと、サイラは岩壁にすがったまま歩き出した……。
313聖剣士の最期:2008/12/21(日) 01:46:16 ID:eItqRKyj
しばらく歩くと洞窟の道幅はしだいに広くなり、まもなくちょっとしたホールほどの空間に出た。
構うことなくそのまま行き過ぎようとしたサイラだったが、ふと岩のくぼみに転がる白いかたまりに気がついた。

「……あッ!」
白いかたまりは人骨だった。人間の1体分がほとんど乱れることなく、ヒカリゴケ
の光だけのほの暗い中に、白々と浮かび上がっている。サイラは剣を構え、少しずつ白骨との距離を詰めていく。
ただの死体と見せかけて、かりそめの命を吹き込まれたスケルトンかも知れない。戦闘能力の低い人間を手早く狩るため
知能に長けた狡猾な魔物がよくそんな罠を仕掛けるという。だが、サイラはすぐに警戒を解いた。
すぐそばまで近づいても、魔物特有の邪気は感じない。傍らにひざまずくと、彼女は横たわる白骨を探り始める…。

「これは…」
慎重に白骨を探る手に触れたのは、頭蓋骨の下にまとまって残る髪だった。暗い中で色合いまではわからないが、長さは肩より少し長いくらいだろうか。
死体には銀色のブラとパンツも、生前身に着けていたまま、白骨に貼りつくように残っている。軽装鎧の下に着ける金属製の、防具と下着を兼ねたものだ。
死体の傍には、やはり所持品のひとつだったであろう、折れた細身の剣…。

「この人も、女剣士だったのね…」

白骨となって横たわる女剣士。この魔窟に踏み込んだ目的は定かではないが、現在のサイラと同じく魔窟を彷徨い歩いたすえに、ここで最期を迎えたのだろう…。
しばし無言で見つめていたサイラは、白骨の着けているブラにためらいつつも手を伸ばした…。
防御力は微々たるもので、胸と股間だけしか保護できないが、この苦境にあっては、のどから手が出るほど欲しい防具だ。

「ごめんなさい。これ、使わせてもらいますね」
骨を破損しないよう慎重にブラとパンツを外しながら、彼女は静かに語りかける。
死者への冒涜という誹りは免れないだろうが、死体が力尽きた女剣士だとすれば、
同じく苦境に陥っているサイラが着衣を使ったとしても恨みはするまい。
ブラとパンツを外したサイラは立ち上がり、まずパンツに脚を通し、つづけて傷を
受けた美乳にもブラを着ける。死体に触れていたものをそのまま素肌に着けることに
当然抵抗はあったが、この際そんなことも言っていられない。

いざ身に着けてみると、意外にも快適な着け心地だった。ブラの肩やわき、パンツの左右は
ゴムに似た伸縮性のあるベルトになっていて、とくに調整しなくても身体にぴったりフィットしてくる。
それに、じかに素肌に触れるブラとパンツの裏地には、手触りのよいなめし革のような素材が張ってあり
金属の硬さや冷たさといった類はほとんど感じない。ビキニ姿となったサイラは、岩壁に立て掛けていた剣をふたたび握り
洞窟の出口を求めて歩み出す――。
314聖剣士の最期:2008/12/21(日) 01:50:35 ID:eItqRKyj
岩塊の折り重なる難所を越えてからはいたってゆるやかな道を、サイラは気を張りつつ歩いていく。
あらたな防具を得たことで気持ちが引き締まり、足取りはそれまでよりかるく
全身の傷の痛みも心なしかやわらいだように感じていた。だが……

「くッ…?」
素肌に着けたビキニに違和感を覚え、サイラは不意に足をとめた。
突然感じたのではない、違和感は着けてまもなくからあった。ブラとパンツの内張が肌に吸いついてくるような
不快感に近い、かすかな違和感…。当初は素肌に密着したなめし革が、湿気を帯びただけと思っていた。
だが、違和感は次第にその度合いを増してくる…。

「ひゃああんッ!!」
あらためて数歩踏み出したところで、サイラはあえぎとともに身をのけ反らせた!
今回は気のせいなどではなかった。パンツの内張のなめし革が大きくうねり、彼女の秘部を強烈にこすりつけてきたのだ…!
それはちょうど、牛の舌のような生温く湿った肉塊に、ベロリと舐められたような感触…。
「ひあッ! あ、はああッ!」
つづけてよがった叫びを上げると、サイラは剣を手放し、両手で乳房を包むブラを
わしづかみにする! パンツの内側の動きと連動するように、ブラの内張も柔らかな
乳房にまとわりつき、もてあそぶように揉みほぐしてきた…!
サイラは動転しつつも、つかんだブラとパンツを体から引き剥がそうとする!

「くッ、そんな! 脱げない…ッ!」
何度強く引っぱっても、ブラもパンツも剥がせなかった。どちらも素肌にぴったり
と貼りつき、しかもゴム状のベルトは植物の根のごとく醜く変形し、素肌を浸食でもするように食い込んできている…。

「ぐくッ! うくうッ! くうああッ!」
敏感な部位への責めを歯を食いしばって耐えつつ、なおも剥がそうとあがくサイラだが
ブラとパンツの内張の動きはみるみる激しくなっていく! まるで彼女の必死の抵抗を、封じ込めるかのように…。
「きゃああッ! くッ、うああ――ッ! ふあッ、あああ――んッ!!」
なんとかその場に踏ん張っていたサイラも、格段に激しくなる責めにくずれるように両ひざをつき
それでも収まらずうつぶせに倒れた…。胸と股間を手で押さえ、全身をビクビク痙攣させるサイラ…。
これまで感じたことのない、脳天を刺しつらぬかれるような鮮烈な感覚が、彼女の体を何度も何度も走り
抜けていた…。責められる部位はかっと熱く火照り、その灼けた熱さがたちまち全身まで回っていく…!

「くああッ! だッ、だめえ――ッ!! いッ、いやああ――ッ!!」
激流のように襲いくる未知の性感に、ともすれば屈してしまいそうになる。
だが、いったん屈してしまえば後もどりのきかない暗黒の底まで引きずり込まれてしまうだろう…。
それを本能で感じ取るサイラは、嬌声を張り上げ、泣き叫びながらも責めに必死に抵抗する…!
だが、その闘いにほとんど勝ち目はないだろう。ブラとパンツ、淫具と化したその
どちらも剥がすことができず、苦痛から逃れようとブラとパンツの表面をいくら爪で掻きむしっても、内奥での責めはわずかも衰えない…。

「はッ、はああああ――んッ!!」

悲痛な叫びとともに、まもなくサイラはイッてしまった……。
315名無しさん@ピンキー:2008/12/21(日) 01:54:50 ID:G2b2B2JY
しえん?
316聖剣士の最期:2008/12/21(日) 01:56:40 ID:eItqRKyj
それから、しばらくの後――。サイラは洞窟の天井を虚ろな目で仰ぎつつ、力なくその場に横たわっていた。
獲物が絶頂に達したあと、ブラとパンツはその責めの手をゆるめているが、立ち上がるだけの気力も体力も、今の彼女にはなかった…。

「うッ…?」
横たわるサイラが身をふるわせ、小さく声をあげた。下腹部での、あやしげな動きを感じていた。
パンツの内張が彼女の股間のあたりに、みるみる凝縮していく…。

「きゃあああああ――ッ!!!」
次の瞬間、サイラは絶叫して、むきだしの両脚をばたつかせた! 凝縮した内張が
極太の突起を形成し、サイラの肉体を奥深くまで一気につらぬいたのだ!
幼少から聖剣士として育てられたサイラは、18にしてまだ処女だった。
性の知識など皆無な彼女は、未経験の秘部の激痛に混乱し、地面をのたうち回る…!

「あッ、いあああ――ッ!! だめえええ――ッ!!」
体内に侵入した突起は、そこから激しいピストン運動を開始する!
力強い肉塊が、少女の肉体の奥底、最も繊細な部位を猛然と責め立てる!

「いッ、いたい――ッ! きゃあああ――ッ!! た、たすけてええ――ッ!!」
抗おうにも、肉塊に突き上げられるたびにサイラの意識は真っ白に飛んで、なにも考えられなくなってしまう…。
激痛に混じった性感に、いちいち反応してしまう肉体も、抑えることができない。
はじめての挿入にわれを失ったサイラにも2つの淫具は容赦なく、性の責めはその激しさを増すばかりだ…。

「くうあああ――ッ!! はッ、はうああッ! とッ、とめてええ――ッ!!」
白銀の髪を振り乱しながら、地獄の責め苦によがり狂うサイラ…。
挿入された肉塊が暴れ回るたび、肉体の芯を突き抉られる様な凄まじい肉感が襲うのだ…。
苦痛をわずかでもやわらげようと、彼女も必死だ。
左手はブラを、右手はパンツの股間をつかみ、食い込むほどに爪を立てる…!

『ま、まさか…、罠……?』
地面を転がり回り、肉感の奔流に苦しみもだえながら、サイラはみずからの不運を直感していた。
それを証明するように、ブラとパンツは醜く凹凸の刻まれた、人面疽にも見える禍々しい形状へと変形している…。
だが、彼女がそんな直感を抱けたのも、ほんの一瞬にすぎなかった…。

「いやああああ――ッ!!」
サイラは裏返った叫びとともに、うつぶせだった上半身を跳ね上げ、両手をパンツの尻にあてがった!
アナルにまで、肉塊を突き入れられてしまった…! ヴァギナを犯されたのとはまた違う衝撃が
彼女の全身を電撃のごとくつらぬく!ブラの内側での搾乳責めに加え、前後の急所に打ち込まれた
2本の凶器はドリルのように回転し、互いが連動して獲物の肉体の奥底をメチャクチャにかき回す!

「あくあああ――ッ!! くッ、くうううッ!! ああッ、きああああ――ッ!!」
1本でも限界を超えていたのに、それが2本となってはもはや絶望的だった。痛みとも
性感とも圧迫感ともつかない感覚の激流にさらされ、サイラは牝鹿のような叫びを張り上げるのがやっとだった…。
そして、ものの1分も耐えられず、彼女は精魂尽きたように意識を失った…。

胎児のように背中を丸めた姿勢のまま、サイラはうずくまっている。すっかり紅く火照り
汗の浮いた素肌。失神してもなお抑えられない全身の痙攣は、彼女を苛んでいた
凌辱の激しさを、なにより如実に物語っている…。秘部からあふれた淫液も
たまらず失禁した小水も、パンツの隙間からはまったく漏れ出てこない。すべては、パンツの内張に吸収されたようだ。

「あ、あ……ああ」
完全に意識を失ったサイラが、わずかに身をふるわせ、小さく声をもらし始める。
前後の責め具がそろって引き抜かれたあと、今度はブラとパンツの内張に
性感帯を舐めるように、なでさするようにソフトに弄ばれていた…。
317名無しさん@ピンキー:2008/12/21(日) 01:59:00 ID:G2b2B2JY
sien?
318聖剣士の最期:2008/12/21(日) 01:59:37 ID:eItqRKyj
「あう…、あんッ…!」
しだいに高まる心地よい刺激に、サイラがまもなく目を覚ますと……
「ひぃあああああ――ッ!!!」
その途端、またも2本の肉塊が柔らかな部位を引き裂いて乱入する!
当然のように、そこからまた苛烈な凌辱が開始される!ブラもパンツも、あきらかに意志を持っているようだ。
下級淫魔が姿を変えたものなのか、もっと知能に長けた悪魔が戯れに作り出したものなのか。
詳細はわからない。だが、それらの淫具が女体の隅々までを知り尽くし、獲物である女が最もよがり狂い、
最ももだえ苦しむ責めを展開していることだけはたしかだ…。

「はあああ――んッ!! いやあああ――ッ!! おうッ、おうあああ――ッ!!」
数分たっても、サイラは性の責めにのたうち、苦しみつづける…! ブラとパンツは
今度は彼女をすぐには失神させないよう、責めを加減しているらしい…。
いつ果てるても知れない生き地獄…。激烈な凌辱とともに、サイラの肉体からみるみる精気が吸い取られていく…。
彼女に取りついた魔の装具は、若い女が性交の際に発する、最も濃厚な精気を好むようだ…。
それがわかっていても、サイラにはもうなすすべがない。装具のベルトは彼女の肉に食い込み
ほとんど同化し、引き剥がすことはもうできないだろう…。

「きゃあああ――ッ!! あッ、ひああ――ッ!! だッ、だれかあああ――ッ!!」

魔窟の奥深くまで、聖剣士の甲高い、哀れな悲鳴が響いていく…。



頻繁に途切れながらも、凌辱に泣き叫ぶサイラの嬌声はほぼ1昼夜はつづいた。
そして数日後、彼女はその場に冷たくなっていた…。仰向けに横たわる彼女の顔は
青白くやつれ、苦しみの表情が深く刻み込まれている。呪われた装具のエンドレスの
責めに、気高き聖剣士もすべての精気を奪われて力尽きたのだ…。

彼女の素肌に貼りついたままのブラとパンツは、生贄の良質の精気を吸い尽くして満足したのか
飾り気のないもとの形状にもどっている。忌まわしき装具はしばしの休眠に入るようだ。
あらたな生贄となる女戦士がここを訪れ、己を素肌に着けるそのときまで……。

     終わり
319聖剣士の最期:2008/12/21(日) 02:01:45 ID:eItqRKyj
以上で投下終わり。また機会があったら書いてみたいです。
320名無しさん@ピンキー:2008/12/21(日) 09:57:47 ID:YD0Jzcjh
>>319
memezoさん乙です。サイトの復活もお待ちしています。
ttp://web.archive.org/web/20070206220141/amazon-prison.workarea.jp/saila01.html
321名無しさん@ピンキー:2008/12/27(土) 22:39:09 ID:W854onPi
保守
322名無しさん@ピンキー:2008/12/28(日) 10:42:27 ID:BAPTNMC3
姫スレの臨時保管庫に同居させてもらう形でSSまとめた
あくまで補助目的らしいので旧来の保管庫に収録されてない5スレ目以降のSSだけだが
http://www14.atwiki.jp/princess-ss/
あと今気がついたんだけど>>319ってひょっとしなくても騙り野郎?
323名無しさん@ピンキー:2008/12/28(日) 11:22:08 ID:kOd/78UH
>>322
乙!

カターリ国民の朝は早い
らしい
324名無しさん@ピンキー:2008/12/28(日) 11:23:57 ID:kOd/78UH
というか
>>320、GJ
325名無しさん@ピンキー:2008/12/29(月) 23:35:46 ID:yV2xyqar
>>319
GJ! 面白かったです。冒険してる気分になった。
326名無しさん@ピンキー:2008/12/31(水) 07:33:47 ID:UZRxmxEf
白骨になっちゃうんだな
327名無しさん@ピンキー:2008/12/31(水) 14:41:05 ID:aRVge0so
>>322
乙ー
落ちてるスレの作品読めなかったからありがたい
328元帥とマートレット:2009/01/04(日) 20:01:35 ID:2isEjvc3
国にも人にも勢いというものが有る。
一度付いてしまった勢いを変える事は難しい。
いや、もう五年若かったならば、無理矢理にでも流れを変えようと試みただろう。
しかし、七十を過ぎた今の自分にその力は無い。
先達から後事を託され、光の陣営のために奔走して幾十年。
剣と成り盾と成り、王国を護ってきた自負が有る。
今となっては、それも空しい。

(長く生き過ぎたか……)

執務室に一人佇みながら、元帥はため息をついた。
寂寞の想いが胸中を去らなかった。
王国は残された兵力全てを注ぎ込んで、文字通り最後の決戦に臨もうとしている。
その兵力は民兵を含めて五万以下。
いくら魔王軍が古く深き森で消耗しているとはいえ、余りに頼りない。

(あの七万がここにあれば……)

愚にも付かない考えが、頭から離れないことが、すでに老いた証拠だった。
昨年失った精鋭を温存していたなら、勝つとまでは言わねども引き分けに持ち込む策はあった。
王国領深くに誘導し、牽制と挑発を繰り返しつつ敵の弱体化を謀る。
必要ならば王都の放棄も選択肢に入れ、最後まで決戦を避ける。
魔王に率いられた闇の軍勢は強い。
しかし、魔王の力の及ばない状況を作り出すことが出来れば話は変わる。
いくら強大な魔力を誇る魔王でも、まさかマナを降らせて兵の腹を満たす事は出来まい。
そこに付け入る隙は有るはずだった。

元帥は常に現実的な戦法を好み、戦場に賭博的要素が入るのを嫌った。
だが、伸るか反るかの戦いが苦手な訳ではない。
寧ろ武名を高めた功績の多くが奇略によるものなのだが、
それらは二度と味わいたくも無い、針の穴を通すが如き薄氷の勝利であった。
そしてこれより、おそらく最後の戦術的賭博に挑まなければならない。
兵力が少ないことの最大の弱点は、戦略上の選択肢が狭まることだ。
元帥にとって残念な事実だが、一か八かの戦いを回避するだけの余裕が、今の王国には無いのだ。

なにせ、只でさえ少ない食料備蓄は底を尽き始めた。
冬の間に、暴動が起きかけようとも配給を搾り続けたお陰で何とか確保した糧秣も、
勇者アデラの叙任式典大盤振る舞いをし、またドレイクの来襲によって備蓄が一部消失したため、
全軍を動員できるのはごく短い期間に限られていた。
クルガン王の如く、
『ならば尚の事、勇者を一日でも早く魔王に挑戦させろ』と主張する楽観的な見方もあるが、
元帥はそちらに組する事ができなかった。
永年培った経験が、そのような甘い期待を抱く事を拒絶する。
一騎打ちの勝ち負けに国の運命を委ねるなど、拳闘試合に身代の全てを賭けるに等しいではないか。
329元帥とマートレット:2009/01/04(日) 20:02:41 ID:2isEjvc3
 
一つだけ、元帥の胸中には策が有る。
成功するかどうかは判らない。
自分の采配が鈍れば、また勇者が期待よりも弱ければ、開祖ラルゴン以来続いてきたこの国は滅びる。
光の王国という盾を失った西方へ、魔王軍は地の果てまで進むだろう。
五百年前の、闇の勢力による世界支配が再現されるのだ。

元帥は腹を括らねばならなかった。
勇者と魔王の対決が避けられぬとするならば、それを活かす以外に破局を避ける方法が無い。
楽観はしないが、予言どおり勇者アデラが魔王を倒せばそれでよし。
だが、彼女に全てを背負わせる事はしない。
自分自身がやれるだけの事を、全て行うだけだった。

覚悟を決めたその時、樫の扉を叩く音が元帥の黙想を破った。
聞きなれた叩き方から、すぐに誰のものか判った。

「入れ、マートレット」
「失礼致します。閣下」

軽軍装を纏った女が、扉を開けて入ってくる。
歳は二十代後半の、情の強そうな目尻をした女だ。
兜を被るときに邪魔にならぬよう、きっちり髪は纏めて結い上げられている。
微塵の緩みもない軍装と合わせ、この女のきつい性格を如実に現しているかのようだった。
右拳を軽く胸に当てて、女は元帥へ頭を下げる。

「一通り各部隊の編成が完了いたしました。
 聖騎士団も今回に限り、閣下に全ての指揮を委ねると申しております。
 あの女魔術師の作戦通り進めるなら、我等はアデラの行動を隠匿するための囮ですが」
「囮部隊が敵軍の目を逸らしているうちに、勇者が魔王を倒す…… 古典的手法だな」

五百年前にも使われた古い策だが、
大軍に護られている魔王を、戦場で討ち取ろうとするよりは成功の見込みがある。
しかし、現在の状況では危険も大きい。
勇者が敗れた場合は共倒れになり、この国は滅びる。
御前会議で決まった以上、元帥は己好みで無い策でも大枠には従う。
ただし、それ以外の部分については彼の裁量で戦うつもりだった。

「これを、渡しておく」

文机の上の一通の封筒を、副官に手渡した。
偽造防止の特別な透かしが入った封筒は、元帥府の公式文書にしか使われない。
330元帥とマートレット:2009/01/04(日) 20:03:16 ID:2isEjvc3
 
「これは?」
「西方諸国への援軍要請だ。
 王の名で出すよりも効果が有る。儂は、あちら側にも些か貸しがあるからな」

元帥には、東西を問わず個人的な交際が有る。
昨年の敗戦時も、元帥の失脚がエルフ族、ドワーフ族ら他種族との連携を乱す原因となった。
一臣下の声望が王を凌げば、国は危うくなる。
かといって、王の声望に合わせていられるほど悠長な性格もしていなかった。
あるいは、それが元帥の唯一の欠陥であったかもしれない。
戦場では敵すら呆れるほどの持久戦にも耐える元帥が、王宮では僭越で独善的な老人になってしまうのだ。
政敵にとっては腹立たしい事に、元帥がそんな行動を取る時は、大抵の場合成功するのだが。

「それを西方へ送り届けよ。
 儂の頼みなら嫌とは言えぬ筈だ。
 お義理程度であっても、必ず支援を寄越す」
「その使者を、私に?」

元帥は黙って頷いた。
一抹の不安を抱きながら、己の副官を見詰める。
きっぱりと、彼女は言った。

「――拒否いたします」

マートレットは軍人として優秀であり、忠実であった。
副官に任命して以来、マートレットが期待に背いたことはない。
彼女は元帥の秘蔵っ子であり、佩剣式の際には自ら父親代わりを務めていた。
だが、彼女は上官の命令をただ遂行するだけの軍人ではない。
自分の上司がそうであるように、優秀さが忠実さに勝る。
彼女を教育してきたのは元帥自身だったが、今日になってそれは裏目に出た。

「これは王国元帥としての命令だ」
「では、元帥付き副官として具申させて頂きますが、この任命は明らかに誤りです。
 今更西方への援軍を求めたところで、決戦には間に合いますまい。
 にも関わらず、重要な会戦を前に長く幕下にお仕えする副官を入れ替えても混乱を招くだけです。
 お考え直しになるよう進言いたします」
331元帥とマートレット:2009/01/04(日) 20:04:01 ID:2isEjvc3
 
その程度のことに、元帥も考えが至らぬ訳が無い。
彼があえて彼女に命じたのは、戦略以外の理由ゆえであった。
だが、なるべくならそれを口にしたくなかった。
立場と名誉を守るためには、言わない方が良いものがある。

「マートレット、儂はお前が生まれる前から戦場を往来してきたのだぞ。
 副官が変わった位で指揮を乱したりはせぬ」
「しかし、私以上に勤められる者は存在しません」

真っ直ぐな瞳で、マートレットは元帥を見返した。

「満足のゆく説明を頂かない限り、この沙汰には納得いたしかねます」
「兵士は、たとえ納得がゆかなくても上官の命に従わなければならん」
「それは重々承知しております。
 ですが、閣下は理由も無く部下に命令を押し付けたりなさらぬ方です」

副官の毅然とした態度に押されてか、元帥はため息をついた。
歳は取りたくないものだ。
本当に、嘆息する事が多くなった。

「本当に、お前は頑固だな。そういう所は、祖父や父親に似ている」
「お褒めに預かり光栄です」
「お前の祖父とは、初陣を共にした仲だった。
 最期の戦いで彼が背中を守ってくれていなければ、儂はとうてい生き伸びることは出来なかった」

老元帥は寂しそうに瞳を閉じた。
彼は確かに一時代に屹立する名将だが、その輝かしい軍歴は何の犠牲も払わずに手に入れたものではない。

「……親友に託された一人息子を、儂は死なせた。
 主力部隊を守るために、彼は自ら危険な任務を引き受け―― 捨て石になってくれた」

共に笑い、共に泣いた、かけがえの無い友の骸の冷たさ。
本当の息子のように思い、成長を楽しみにしていた青年を、死地に赴かせた事。
思い出すだけで、後悔が胸を苛んだ。
彼らの代わりに、自分が死んでも良かったのだ。
二人とも、元帥章を帯びるに恥じぬ将器の持ち主だった。
しかし彼らは死に、自分はむざむざ生を貪っている。

「なあマート…… ここでお前まで死なせてしまったら、儂は彼らにどう詫びればよい?」
「将は兵に死に場所を与えてこそ…… 私の一族は、殉じるべき方を選びます。
 そして私も、祖父と父の選択が間違っていたとは思いません」

誇らしげに、マートレットは胸を張った。
一点の曇りも無い目で、彼女は元帥を見詰める。
332名無しさん@ピンキー:2009/01/04(日) 20:05:41 ID:2isEjvc3
 
「そもそも、閣下は私以外にも数多くの将兵を殺しておいでです。
 この期に及んで私だけ助けようというのは、不公平ではありませぬか」

彼女には覚悟が有る。
軍人が死ぬのは避けられない運命だ。
それを支えるのは、自分の死が無意味ではないという確信だった。
不運なものは、命を捨てる意味も与えられぬまま死ぬ。
何の意味も無く、ただ上官の我欲のために殺される。
指揮を執る男が、自分の命を生かしてくれると確信すればこそ、兵は生命を賭すことができるのだ。
兵に背かれる将は失格、兵を従わせられれば将は及第、そして兵に愛されれば将は無敵である。
祖父と父が愛したように―― いやそれ以上に、彼女もまた元帥を愛した。
なのに何故、今更このような命令を下すのか。
マートレットの真剣な眼差しが、元帥の口を開かせた。

「マート、儂は伊達に歳を食ってる訳では無いぞ。
 女子の身体の事は、そこいらの産婆よりも良く知っておる。
 体の変調を悟られないと思っていたなら大間違いだ」
「……」
「儂はお前と、お前の胎の中に居る子には生き残って欲しいのだよ」
「身勝手な仰りようですね」
「儂も老いたのさ」

恥ずかしそうに、元帥は力なく笑う。
二人は只の上官と部下ではない。
男と女の、情を交わす間柄になっている。
この歳で孫娘も同然の娘に手を付けたなどとても公にはできないが、なってしまった物はしょうがない。
この期に及んで見苦しい事である。
晩節を汚すことになるかもしれない。
それでも、自分が尽くしてきた五十年と引き換えに、最後の女と実子にぐらい依怙の沙汰を行ったとて、
誰に文句を言わせようか。
もし足りないと言うのであれば、次の戦で己の命を呉れても構わぬ。
娘同然に、そして一人の男として最後に愛した女を戦場から離しておくためならば、
名声も追い先短い命も惜しむ所では無かった。
333元帥とマートレット:2009/01/04(日) 20:06:38 ID:2isEjvc3
 
その心算で元帥は副官に告げたのだが、マートレットが下腹を押さえながら言った言葉は、
彼にとってもかなり意表を突いたものだった。

「生憎ですが、この子は閣下の種ではございません」
「何と?」

今度は元帥が目を丸くする番だった。
悲愴な決意など吹き飛ぶ、突然の告白であった。
だが、虚を突かれたのは一瞬だけで、次の瞬間にはその顔に笑みが浮かんでいた。

「ほっ、ほほーう! これは驚いたわっ! まさかこの歳になって女を寝取られるとはのぅ!」
「隠しだてをして申し訳ありません」
「いやいや、構わんよ。ではマート、ならばその子の父親は誰だ?」
「グランド卿です」

元帥も見知った士官の名を、マートレットは上げた。
それなりに有能で、評判の良い武人である。
よく兵士達とも冗談を交し合う、快活な性格の持ち主だった。
勿論、女たちにももてる。

「なるほど。グランドか…… 顔立ちも悪くないし、腕っ節もあるし、頭も切れるものなあ」

自分の種だと思っていた子が、実は他人の子だと告げられたというのに、
かえって元帥は可笑しそうに微笑んでいた。

「ところでマートや? グランドは若い頃、戦地で従軍娼婦に手ひどく尻を齧られたことがあってな。
 奴と寝たというのなら、右と左のどっちにその古傷があったか当然知ってるよな?」

目を細めつつだが、元帥は相手の挙動に不審が無いかを探るように、マートレットを見た。
だが言いよどむことなく、マートレットは答える。

「右です」
「ほほう……」

じろりと見詰めるその瞳にも、マートレットは表情を崩さない。
二人はしばらくそのまま沈黙していたが、いきなり元帥は笑い声を上げた。
334元帥とマートレット:2009/01/04(日) 20:07:14 ID:2isEjvc3
 
「くっ、ふはははは…… 流石は儂のマートだ! 嘘の付き方も堂に入っておるわ!」
「閣下? 私は……」
「言うな、マート。お前の腹ぐらいお見通しだ」

副官の眼前に掌を広げ、元帥は彼女の言葉を遮った。

「もし『右だ』と答えて当たっていれば良し。
 儂が『答えは左だ』と言ったなら、『私から見て右側にありました』と言う心算だったのだろう?」
「……」
「本当の所はな、昔あいつは二人で金貨二枚という約束で娼婦を閨に引き入れたのだが、
 事が終わってから二人で一枚に値切ろうとして、左右両側の尻に噛み付かれたのだよ」

僅かにだが、マートレットの表情が翳る。
それが答えだった。
どんなに巧みな嘘を付こうとも、この老人を欺くことは出来ない。
人並みはずれた洞察力は、歳を経て衰えるどころかますます磨きがかかっている。
この程度の駆け引きなど、彼にとって児戯に等しかった。
もっときわどい姦計に幾度も巻き込まれながら、彼は王国を守って来たのだ。

マートレットは肩を落とした。
無駄な虚言を吐いてしまった事への悔恨が、彼女にそうさせた。
その肩に、優しく元帥は手を乗せる。

「判っているだろうが、西方に行けというのはお前が要らぬからではない」
「承知してますっ! 承知しておりますが…… でも……」

マートレットの眦から、涙が浮かんだ。
この時ばかりは、自分が女であることが恨めしかった。
女であるが故に、愛する男に最後まで殉じる事が許されない。
幼い頃から、元帥以外の男など眼中になかった。
元帥と比べれば、他の男は二枚も三枚も落ちる。
これまで異性に誘われた事が無いわけでも無い。
だが、時代を動かしうる男だけが持つ『匂い』というものを感じさせるのは、たった一人だった。
雄雄しく、強靭で、賢明で、勇敢で、そして優しい。
そんな男が身近に居たことが、女として幸運であったか不幸であったのか、答えを出す事はできまい。
ただし、積年の想いが伝わり、成就した歓びは何物にも変えがたい。
あの歓びのためになら、マートレットは全てを投げ出すだろう。
彼女もまた、愛の業深さを知る女であった。
335名無しさん@ピンキー:2009/01/04(日) 20:08:25 ID:2isEjvc3
 
「マート……」

元帥の手が、優しくマートレットを抱き締めた。
かっての様な逞しさは無いが、引き締まった老躯にはまだ力が満ちている

「うっ……」

目尻が熱く滲んだ。
涙を流すなど、父が戦死したと知らされた日以来の事だった。
あの日も同じように、元帥は幼い自分を抱き締めた。
父の死に様を告げた元帥からは、それ以上詫びる言葉も慰めの言葉もなかった。
死は、どんなに言葉で言いつくろっても取り返しがつかないからだ。
だが、元帥の鋼の様な身体から、温もりと共に伝わるものが有った。
彼女は知った。
元帥も父を愛していたことを、そして父の死に深く傷ついていることを。
まだ幼かった自分は、父の死を言葉で告げられても理解することが出来ていなかった。
ただ元帥の身体から伝わる悲しみが、死の意味を教えてくれた。
だから、声を上げて泣いた。
泣き疲れ、喉が枯れるまで、元帥にしがみ付いたまま泣いた。
そして今、あの時と同じように元帥の腕の中で涙が零れた。
もう声を出して泣く様な真似をする歳ではないが、涙だけは止められなかった。



・・・・・・・・・


336元帥とマートレット:2009/01/04(日) 20:09:18 ID:2isEjvc3
波止場で手を振る人々に見送られ、船は出発した。
見送りの中に、元帥は居なかった。
彼は魔王軍との決戦のための準備に取り掛かっている。
だが、マートレットはじっと陸を、元帥府がある方角を見詰めていた。

「ケッ…… めそめそ泣いてンじゃないよ。
 どうせ男のこったろうが、海が時化るって」

背後から声をかけられ振り向くと、そこには女が立っていた。
腰に曲刀を下げ、柄の悪い声をした女の右目は、黒い眼帯で覆われている。
彼女が、この船の船長だった。

「見送りにも来ない奴を、何時までも未練がましく思ってても無駄さね。
 西へ行ったら、もっといい男でも見つけるこった!」
「船長…… 貴女は人を愛した事がないのか?」
「へっ、男なんざ股座が寂しくなった時に使えりゃ十分だ。
 私が身も心も捧げてるのは、愛しいこの船だけだよ」

隻眼の女船長を初め、船員達はどう見ても堅気の船乗りには思えない風体をしている。
東方人だが、魔王に対する敵愾心は信用できると元帥は言った。
どういうツテが有るのか、東方人にまで元帥は人脈を通じていた。

「それにしても大丈夫なのか? 西方への航路にも魔王の艦隊は現れると聞いたが」
「ああン? 嘗めてんのか! あんなドン亀に捕まる様なヘマはおかさねえよ。
 無事にアンタらを西まで運んでやるさ!」

女船長はひらひらと手を振りながら、舵の方へと去っていった。
マートレットはもう一度、港の方を眺める。
二人は、既に別れを済ませていた。
最後に交わした言葉が、まだ耳に残っている。

「産まれたのが男子でしたら、その子に閣下のお名前を頂いても宜しいでしょうか?」
「それはまあ…… 構わんが」

己の名を気に入ってる訳ではないので、元帥はこれまで息子たちに付けなかった。
だが、最後の子には、名前ぐらい遺してやっても良いだろうと思えた。
その子の父親が自分であるという証と共に。
337元帥とマートレット:2009/01/04(日) 20:10:17 ID:2isEjvc3
 
「マート、これを」
「あっ……」

己の指に嵌められた指輪を外すと、元帥はマートレットの左手を取り、その薬指にそっと嵌めた。
元帥の指に丁度良く納まっていた指輪だが、マートレットの指には少し隙間ができてしまった。

「ちと大きすぎるか。折を見て直すと良い」

家門を表す印章の付いた使い古した指輪が、彼女の指に嵌る。
父親からそれを譲られると言う事は、嫡出として相続権を持つ証拠である。
こみあげる想いが、もう一度マートレットの眦を熱くした。

「もし女の子だったら……」
「その時はミュレットと名付けるといい」
「私の祖母の名前を?」
「うむ、そして儂の初恋の人の名前でもある。
 まあ結局、無二の親友だった男に彼女を取られてしまったのだが」

悔しそうに笑う元帥の首に、マートレットは腕を回した。
頬と頬を寄せ合うように抱き合いながら、彼女は元帥の耳に囁いた。

「閣下、私を西方に送られるのをいい事に、別の女に手をお付けになったら怨みますよ?」
「はははっ、儂ももう歳だ。他に女を作るほどの気力は無いよ」
「嘘つき……」

無理矢理にでも、マートレットは笑い顔を作ろうとする。
もはやここに至って、元帥の心を乱してはならなかった。
寧ろ心置きなく戦いに向かわせる事が、彼女が副官として出来る最後の貢献だった。

元帥はしばしば、祖父と父が元帥章を帯びるに足る男であったと語っていた。
だが、元帥職を務める事と勝利する事は別の問題だ。
彼女は確信していた。
マートレットは、例え祖父と父の将器が元帥の言ったとおりだとしても、
彼らの指揮では闇の軍勢を退けることは出来まい。
光の命運を護ることが出来るとすれば、それはこの世に一人しか居ないだろう。

マートレットは、もう何も言わなかった。
ただそっと、元帥の唇に己のそれを重ねる。
それが、彼女の上官であり、父親であり、恋人であった男との別れであった。


(終わり)
338名無しさん@ピンキー:2009/01/04(日) 20:22:47 ID:2isEjvc3
あけおめです。
今回は元帥とその副官のお話でした。

やっと規制が解けたようなのですが、
また何時規制に巻き込まれるか判らないので、
もう一つ投下しておきます。
339ティラナとネリィ:2009/01/04(日) 20:24:10 ID:2isEjvc3
朱天幕の中、にやついた笑みを浮かべながら、火の様に輝く黄金の髪をティラナは直していた。
鏡を覗き込みつつ、手櫛でしきりに髪を梳く。
そうしていたかと思えば、今度は眉の形を気にしてか、手の甲に唾を付けて顔を撫でる。

「うひひ、本当に久方ぶりじゃの。あ奴の訪いは」

どうやらこの野獣娘にも、雄の前では外面を気にかけるという本能が根付いているらしい。
ただ、これが身だしなみと呼べる範疇に入るかどうかは別としてだが。

「今宵はしっぽり楽しむぞよっ。なにせ、久方ぶり過ぎて股が干上がるかと思ったからの」
「……はしたないわよ、そんな言い方は」
「へへっ、おしとやかに寂しいよりも、はしたなくて気持ちいい方が良いのじゃ!」
「全くもう、付ける薬が無いわね」

居候の放埓さに苦笑しつつも、ネリィは酒肴の用意を続ける。
侍従を通じ、魔王が訪れると伝えられてティラナは喜びを露にしたが、嬉しいのは彼女も同じである。
主の訪いを待つその表情は、いつもより明るかった。

「おっ、来たぞよ!」

まだネリィには聞こえないが、足音を察知してティラナは立ち上がった。
化粧道具を放り出したまま、一目散に部屋を飛び出す。
おそらくその勢いのまま、魔王の胸に飛び込むのであろう。
まるで子供のようだが、あそこまで愛憎をあからさまに表現できるというのが、
ネリィには羨ましくもあった。
部屋の外から、そのティラナの声が聞こえてくる。

「魔王め! 妾をこんなに長いこと抛って置くとは、まっこと憎い奴じゃ。
 許さんぞぅ、このこのっ!
 今宵は埋め合わせをしてらうからの!
 空が白むまで寝かさんから、覚悟してお── 」

   ゴ ヂ ン ッ

「ぐぇっ!」
340ティラナとネリィ:2009/01/04(日) 20:25:19 ID:2isEjvc3


オークの石頭を棍棒でぶん殴ったような音とともに、居候の悲鳴が聞こえた気がした。
だが、何事が起きたのか確かめる間もなく、いつも通りの黒衣を纏った魔王が入ってくる。
ネリィは軽く頭を下げて主君への礼を表した。
魔王はそのままするすると進み、用意された座へと腰を下ろす。

「雑事に追われ、顔を見にも来れなんだ。息災か? ネリィ」

隣に侍る寵姫に、魔王はそう声をかけた。
主君の声を聞いただけで、ネリィはティラナのことをすっかり忘れた。
ティラナは大切な友達であるが、魔王は彼女にとって全てに優先する存在であった。

「陛下の御陰をもちまして」
「それは何より」

それだけ言うと、用意された杯へと白い手が伸びる。
応じるように、ネリィは酒壷を取った。
寵姫の注いだ酒を、何も言わずに魔王が呷る。
魔王は常に言葉少ない。
しかし、ネリィにはそれで十分だった。


・・・・・・・・

341ティラナとネリィ:2009/01/04(日) 20:26:03 ID:2isEjvc3
 
「いててっ……」
「うーん、ちょっとコブになってますねぇ」
「ぐるるっ。あ奴め、淑女の頭を思い切り殴りおって……」

錫杖で殴られた頭を端女の少女に検めさせながら、ティラナは愚痴を溢した。
ネリィの元へと赴いている間は、魔王が湯屋に現れることは無い。
白い天幕で夜番をしているフィリオも、少しだけ力を抜けるというものだ。
ほうほうの態で湯屋にやってきたティラナの話し相手になるのは、
フィリオにとって丁度いい退屈しのぎであった。

「久しぶりに来ると思えばこそ、妾もめかし込んでおったのじゃぞっ。
 それを無碍にするとは、なんと酷い奴じゃ」
「?、何かいつもと違う所があるんですか?」
「見て判らんのか! 髪も眉も、常とは違っておるじゃろうが!」
「……」

フィリオの目には、どこがどう変わったのか判別できなかった。
揺らめく炎の様に波打つ、跳ねの強い金色の髪は、どこからどう見てもいつも通りに見える。
魔王に殴られた際に髪形が戻ってしまったからなのか、
それとも自分の眼力が劣っているからなのか、
彼女にはどうにも判断が出来ない。

「まったく、ネリィばっかり贔屓しおって。妾に何が足りないというのじゃっ」
「そりゃあ…… やっぱり『気品』と『慎ましさ』と『おっぱい』じゃないですかね?」
「ぐ、ぐがるるるるっ、無礼者めがっ!」

眉を吊り上げて、ティラナは怒りを露にする。
端女如きに、そこまではっきりと言われる筋合いは無い。

「だいたい最後の一つは何じゃ!? おのれやあの忌々しい黒兎にも、王は手を付けておるんじゃろうが!」
「あっ、そういえばそうですよねー」
342ティラナとネリィ:2009/01/04(日) 20:26:46 ID:2isEjvc3
 
フィリオは小首を傾げた。
だが、主君の審美基準など、彼女の想像の埒外であった。
本国にある宮殿には、各勢力から貢がれた美女たちが群れをなしている。
そのなかには華奢な娘も居れば、豊満な肉体を持つ女も居る。
魔王ほどの権力者であれば、それだけ多くの妻妾を集めるのは当然である。
また、魔王の歓心を得ようと目論む者たちからすれば、
美女ぐらいしか魔王が喜ぶものを思いつけない所為でもあった。
食事にも無頓着に近く、軍旅の最中では冷めた麦粥でも平気で口にし、纏う装束は常に黒衣一着。
宝飾品にも特に関心が無く、目の前に掠奪された宝物が山と積まれても眉一つ動かさない。
道楽と言えるのは、遠征中でも毎日欠かさぬ入浴であるが、
まさか浴槽を幾つも献上する訳にもいかない。
珍奇な宝石を貢いで、見向きも去れぬまま宝物庫に仕舞い込まれるよりは、
美姫を送る方が無難な選択肢だ。
そのため魔王宮が女で溢れかえり、危機感を抱いた太監たちが
『手をお付けるまでも無い女子は、どうか国元へ送り返されますように』と懇願したほどだった。

彼らの懇願が容れられ、現在は後宮の宮女の数もかなり削ぎ落とされているが、
その分選りすぐられた美姫たちが集っている。
一応はフィリオも、それら魔王が手を付けた女たちの末端に引っ掛かるのだろうが、
他の妻妾たちと妍を競おうなどは考えたこともない。
魔王がその気になった時に、手近な女を抱いただけ。
彼女には、それ以上の理由は思いつかなかった。

 む に、

考え込むフィリオの胸を、ティラナの掌が押した。
こそばゆさに、フィリオが声を上げる。
343ティラナとネリィ:2009/01/04(日) 20:27:25 ID:2isEjvc3
 
「ひゃん、何をなさるんですかっ」
「貴様…… 前より胸が膨らんできておらんか?」

むにむにと、遠慮もなくフィリオは端女の胸を触る。

「へ? そうですかね…… 気のせいじゃないでしょうか?」
「いーや、確かに大きくなっておるっ。
 許せん! 妾に断りも無く胸を腫らしよって!」
「きゃんっ! そんな事言っても、勝手に大きくなっちゃったんですよぅ」
「ぐるる、貴様などには勿体無いっ! 寄越せっ!」

無茶な要求を咆えるティラナから、身を捩ってフィリオは逃れる。
だが、元はといえば、ティラナの所為なのである。
雌剣牙虎が本陣を闊歩するようになってから、
彼女が食い散らかした獲物の喰い残しは、抜け目無い端女たちが頂戴し始めた。
全員で分配するため、それほど多くはないにしろ、
麦粥に一切れふた切れの肉片が混じるようにはなった。
もともと成長期の彼女の事、食べるものさえ食べれば、膨らむべきところは膨らむのである。
そういう訳で、フィリオの成長の原因は栄養状態が向上した為であり、
原因はティラナ自信なのだが──

「いやぁん!」
「よーこーせー!」

その様な事情を、ティラナが理解するはずも無かった。


(終わり)
344名無しさん@ピンキー:2009/01/04(日) 21:36:39 ID:l8bVP+uj
魔王様あけましてGJです。本年もこの調子でよろしくお願いします。
ティラナ可愛いのう。
345名無しさん@ピンキー:2009/01/05(月) 03:22:46 ID:E7Ly1JUC
GJ

ティラナ可愛いよティラナ
346名無しさん@ピンキー:2009/01/05(月) 11:41:49 ID:Rh78vsDd
GJ
347名無しさん@ピンキー:2009/01/05(月) 17:43:00 ID:/5XVHdA7
GJ
獣っ娘っていいなぁ
348名無しさん@ピンキー:2009/01/05(月) 20:38:35 ID:ZTni5f9D
魔王の人、あけおめ&GJ!
349名無しさん@ピンキー:2009/01/05(月) 22:25:46 ID:39r0KHyv
魔王の人、あけおめ&投下乙です。
元帥、この人は堅物の軍人と思っていましたがアッチの方も十分現役でしたねw
孫のような愛人、テラウラヤマシス(´・ω・`)
ティラナは相変わらず欲望に忠実ですね。この分ならアデラとの戦いでも生き残ってくれると信じています。
わがままで申し訳ありませんが美女がひしめく魔王宮での魔王の性活wを読んでみたいです。
350名無しさん@ピンキー:2009/01/06(火) 03:32:49 ID:4KBPfUr/
元帥話良かったです。GJ!
351名無しさん@ピンキー:2009/01/07(水) 18:05:28 ID:eTT5NvRL
ちと時系列になやんでしまった
352名無しさん@ピンキー:2009/01/08(木) 02:49:56 ID:1DuEUkmf
魔王さまって、いろんな意味で一人勝ち状態で物欲ほとんど興味ない無機質的なキャラだけど
異性を征服することが唯一の趣味みたいなもんなのかな。
353名無しさん@ピンキー:2009/01/17(土) 04:58:30 ID:rMpg4MeU
そういや魔王さんとこの東方には宦官いそうだけど
西方にはいるのかな?
354魔王の書き手:2009/01/17(土) 22:06:30 ID:mMv2rUX7
一夫一妻制の国では宦官は発達しないので、光の王国には宦官制度はありませんね。
ただし、去勢技術が無いわけではなく、カストラートくらいはいるかも。
355名無しさん@ピンキー:2009/01/19(月) 21:49:35 ID:dd6a0FiE
まあ古代ローマには宦官いたみたいですけどね
356名無しさん@ピンキー:2009/01/19(月) 21:57:42 ID:QhOWXAop
そもそもエロパロで宦官をどう活用せよというのか
357名無しさん@ピンキー:2009/01/19(月) 22:59:44 ID:vLgGFevy
宦官と女の権力者がデキてて…なんてのは実際あるので
自前でつっこめるブツが無い分、逆にねちっこい責め方出来て
テクニック的には極められるんじゃないでっしゃろか?
書く方のテクニックも要求されるネタだろうけど。
358名無しさん@ピンキー:2009/01/19(月) 23:21:36 ID:q5hkaPKi
>>357

>>自前でつっこめるブツが無い分、逆にねちっこい責め方出来て

つまり宦官は百合に近いということか
359名無しさん@ピンキー:2009/01/20(火) 02:33:04 ID:6GIrRj+O
ここって和風な感じはスレ違いですか?
360名無しさん@ピンキー:2009/01/20(火) 02:50:21 ID:0QWRIU0W
剣と魔法な和風ファンタジーなら有りなんじゃないの?

宦官は、玉無し竿有り(竿使用可能)と、玉無し竿無しがあったような。
前者は生殖機能がないだけで、行為自体はできたってどこかで読んだ。
ソースはおぼえてない。
361名無しさん@ピンキー:2009/01/20(火) 22:54:37 ID:Z8xdx1Sl
和風ファンタジーと聞いて巫女さんを
真っ先に連想する俺
orz
362名無しさん@ピンキー:2009/01/20(火) 23:32:44 ID:EZGvXO4b
ダメだなあ
このスレ的には女侍か女忍者だろjk
363名無しさん@ピンキー:2009/01/21(水) 04:53:56 ID:FoXdiM0P
卑弥呼みたいな巫女姫はアリだろうか?
祭りの時だけ日の光を浴びれるような深窓の姫君の
占いの方法が性行為の快楽の中で幻視するとかで毎晩いやいやながら凌辱されるとか燃える
364名無しさん@ピンキー:2009/01/21(水) 05:24:37 ID:l5xuaLmH
深窓の姫君設定なら姫スレの方がよさ気だが
占いで戦の指揮を執るとかならこのスレの範疇なのかもしれん

どっちにしろわっふるわっふる
365名無しさん@ピンキー:2009/01/21(水) 21:07:14 ID:1CmQWg+Y
バッカ野郎!
日本ファンタジーでエロと言ったら天宇受賣命(アメノウズメ)だろうが!
日本ストリップの元祖だぞ!
古代シャーマンマジパねぇよ、エロさが
なんたって遊女は巫女が起源説まであるしな
366名無しさん@ピンキー:2009/01/22(木) 04:24:23 ID:pRwzEyxY
しかしそのままじゃ
兵士スレにはあわんだろうが
しかし巴御前っぽいの連想するなあ

ところで女兵士って
男装して出兵する
とかはNG?
367名無しさん@ピンキー:2009/01/22(木) 04:40:18 ID:04/zaOpL
>>366
NGどころか
「男装して出兵、捕虜になってから女とばれて(ry」は
誰もが期待するネタじゃないかと。
つか、ぜひ読みたい。
368名無しさん@ピンキー:2009/01/22(木) 19:12:03 ID:1FeyAfb0
369名無しさん@ピンキー:2009/01/29(木) 22:52:13 ID:NMFKJ8hN
戦う女の腹筋を想像するとおぎおぎしてしまう
370名無しさん@ピンキー:2009/02/01(日) 18:17:00 ID:exH5OYp2
つーかファンタジー系の、戦う女性はミニスカとか
ロングヘアが多いけど戦いを甘く見ているとしか思えないな。

敵に長い髪を掴まれて取り押さえられるとか
スカートが切り刻まれて、ちぎれたらどうするんだろう?
371名無しさん@ピンキー:2009/02/01(日) 18:24:22 ID:rtKIiPoR
髪をつかまれたら自らざっくり切って起死回生。

スカートの下には普通にアンダーを履いている、もしくはそのまま凌jo
372名無しさん@ピンキー:2009/02/01(日) 19:15:39 ID:Oz3W820K
>>370
>>ロングヘア
ハイランダーにあやま(ry
373名無しさん@ピンキー:2009/02/01(日) 19:58:06 ID:jTtf5GK3
>>370
自分は強調された胸の方が気になる…
あれ実際邪魔じゃね?揺れたら激しく痛くね?

さぁ誰かサラシを巻いた女兵士のエ(ry
374名無しさん@ピンキー:2009/02/01(日) 20:22:53 ID:n7qIyuDy
自分はビキニタイプの鎧が気になる
あれ、隠れてない部分の方が広いだろ
375名無しさん@ピンキー:2009/02/01(日) 20:28:48 ID:xbu0I+wL
脱げば脱ぐほどACも下がるし、
クリティカルの確率も上がる。
376名無しさん@ピンキー:2009/02/01(日) 20:44:07 ID:HP+GAxxw
常に裸でいることで女戦士は特別な加護を受けられるのです。

・・・昔そういうシステムの洋ゲーがあった。
ちなみにその女戦士は、
レイピストに遭遇するとそいつのチンコを切り取って首飾りにしなければならなかった。
377名無しさん@ピンキー:2009/02/01(日) 21:30:01 ID:BjRR0zaR
夢の世界に現実感を持ち込むんじゃないよw
378名無しさん@ピンキー:2009/02/01(日) 22:51:02 ID:0lA8WHWt
意外ッ! それは髪の毛ッ!!
379名無しさん@ピンキー:2009/02/02(月) 04:47:18 ID:Fuq77G6p
力に劣る場合には装備を軽くしなきゃ行けないでしょ

肌が露出しているように見えて魔法で守られているんです
(by ヴィラネス・ハーレム)
乳が揺れれば、いきおいがつく、または、魔法力が発電されるんです!!
380名無しさん@ピンキー:2009/02/02(月) 22:28:20 ID:Rcy6qM2B
>>376
詳しく
381名無しさん@ピンキー:2009/02/03(火) 02:17:54 ID:2ZKqg6UM
>370

ぶっちゃけ、記号だから。
女戦士もリアル戦闘意識で皆が皆、
ボーイッシュじゃ見映えしないからねぇ。。。

ただ、リアル志向で究極のリアルを目指した女戦士像とは?
を追求した極限を、一度は見てみたいモンだ。



一度だけ、な。
382名無しさん@ピンキー:2009/02/03(火) 02:23:04 ID:lGl1cVxO
>>381
いや。大多数の戦士はオスだから色気で敵の集中力を削ぐのはありじゃね。
つか、リアル志向なら女は魔法使いにでもしとかないとどーにもならんわ。
383名無しさん@ピンキー:2009/02/03(火) 03:11:17 ID:2ZKqg6UM
>>382 あ、それもそうか。
ただやはり、
結論は女は戦士に向かない、だよなぁ。。


でも、萌え無縁な性別不明のフルアーマー甲冑が活躍しても面白くないしな。


ファンタジーには華がいるよな。少なくともこのスレ的には。
384名無しさん@ピンキー:2009/02/03(火) 03:41:31 ID:Fg04RarV
いや、「萌え無縁な性別不明のフルアーマー甲冑」の中身が
「脱いだらすごいです」だったときの落差が

ツルペタ美少女でも可
385名無しさん@ピンキー:2009/02/03(火) 22:55:08 ID:m/XQhWzK
古いゲームだけど、D'arkにそんなキャラがいたな。
386名無しさん@ピンキー:2009/02/03(火) 23:06:32 ID:M1zQXJiT
>>380
紛らわしい書き方したけどパソゲーじゃなくテーブルトークの「ルーンクエスト」
設定とか気になったら「バービスターゴア」でググるといいことあるよ!
387名無しさん@ピンキー:2009/02/04(水) 00:46:51 ID:oFUHcuuz
>>384
「脱いだらすごい」でツルペタ?
まあ人によるけど
388名無しさん@ピンキー:2009/02/04(水) 21:58:56 ID:NIGfxl7n
魔法がかかってるか知性を持ってる鎧とかで
普段フルアーマーだけど
「キャストオフ」の呪文で鎧弾けて
眼にも止まらぬスピードで動けるビキニアーマー形態に

・・・忘れてくれ
389名無しさん@ピンキー:2009/02/05(木) 23:50:33 ID:RjHY0iab
>>386
あれは、オフィシャルじゃなくて海外同人の翻訳じゃないの?
390名無しさん@ピンキー:2009/02/06(金) 00:10:00 ID:LIzQEYJk
この流れでガンダムナドレが思い浮かんでしまった。
391名無しさん@ピンキー:2009/02/07(土) 21:26:50 ID:SdnjD7lv
鎧着てる時の得意技は
砲撃(っぽい)魔法か
392名無しさん@ピンキー:2009/02/08(日) 17:52:07 ID:D3kc9k0p
悪女スレ向けかもしれないけど、田村麻呂と立烏帽子みたいに敵サイドの姫君が
英雄と剣を交えてるうちに惚れ込んで、押しかけ女房になるシチュが大好きだったりします。
どっかの世界の神話伝説の入門書で魔人にさらわれた嫁を取り返す旅に出て
嫁を取り返すついでに魔人の妹までゲットする英雄の話があったなあ……。
393名無しさん@ピンキー:2009/02/10(火) 22:44:43 ID:+RJOriIi
良いんじゃない?そういうのも
394投下準備:2009/02/11(水) 00:27:51 ID:BitpPyP7
ひさしぶりに短編を投下します。


これまでの魔王の話の伏線に絡む話なので、
未読の方で興味のある方、既読だけど忘れたという方は、
保管庫で読んでみて頂くと、繋がりが判っていただけるかと。
(第二部、魔女と愛弟子・イリアと魔王・魔王とヘルミオーネ)
395雪の女王:2009/02/11(水) 00:28:51 ID:BitpPyP7
雪洞の奥に、二人の女が相対していた。
一人は白金の装身具で身を飾り、新雪の様な白いドレスを纏った女。
その前に跪くのは、赤い魔術師のローブを纏った若い女だった。

「偉大なる氷雪の女王よ。古き誓約に従いて、世界の調和のために目覚めたまわんことを」

赤いローブの女の言上を、白いドレスの女は物憂げな気配で聞いていた。
ここは、大陸有数の高山地帯の最奥地である。
周囲は雪狼を初めとした冬の獣たちに護られ、吹雪と氷によって隠されている。
常人が入ってくる場所でも、入ってこられる場所でもない。
そもそも、あえてここを見出そうとする者が、この大陸でどれほど残っているだろうか?
学府の導師たちでさえ、大半の者は彼女のことを忘れている。
既に、彼女は古文書の挿絵の中にしか残らない存在であるのだ。

「叔父が闇の力に加担しているというのならば、わたくしも目覚めねばなりますまい。
 同胞が世界の天秤を傾けんとするなら、もう片方の側に付いて均衡と成る――
 それが、わたくしの古代よりの誓いである以上」

高貴な声ではあった。
だが、威厳を含む声は、同時に冷たさも感じさせるものであった。
相手を見下すような尊大さを孕む、透き通るような声。
ただし、女王にはそんな話し方こそ相応しい――
そう思わせるだけの高貴さを、白いドレスの女は持っていた。

「しかし、誓いは同胞を封じる事だけ。それ以外のことは誓約の埒外です」
「十分でございます。女王よ」

赤いローブの女は、うやうやしく頭を垂れる。
その姿、言葉使いには相手に対する十二分の畏敬が込められている。
けれども女王の目には、自分を前にしてヒトが感じるはずの『恐れ』が見えなかった。

「人の分際ながら、わたくしを目覚めさせたのは、お前で二人目です。人の娘よ」

女王は、そう口を開いた。
赤いローブの女から感じる雰囲気が、女王にそれを口にさせる気になったのだ。
生涯の大半を、永き微睡みのうちに過ごしてきた女王の記憶は、凡そが曖昧で定かでない。
だが、それがどうしたというのだろう。
語り合う友も無く、伴侶も無い。
永く憶えておく価値のある事柄など、ほんの僅かしかない。
記憶するという事が愚かしくなるほどに永く、永く彼女は生きてきた。
396雪の女王:2009/02/11(水) 00:29:36 ID:BitpPyP7
 
「あれはニ千年も昔になるか、それともほんの十年前の事なのか―― それは思い出せませんが、
 お前と同じ人の身でありながら、ここを見つけ出し、たどり着いた者が居ました」

赤いローブの女はそっと頭をもたげ、女王を見上げた。
雪が反射する光の加減で、その身体自身が発光するかの如く見える。
むしろ煌々とした白光のせいで、女王の姿が霞んでさえいた。

「彼は、追われる者でした。
 己を追う者から身を隠すために、彼は己より大きな存在の陰に隠れる必要があったのです。
 私という存在が発する質量が、追者の眼から逃れさせてくれる―― それを期待しての事でした。
 彼のここに来た理由は、そんな程度のものでしたが」

女王の言葉に、赤いローブの女の目が輝いた。
古の先達が残した、失われし事跡。
それを聞くことが今回の目的ではない。
だが、女王という存在を知りつつなお、彼女を唯の隠れ蓑に使おうとした男。
さらに、その男を逃げ回らせ、女王の下へと奔らせた敵さえ居たのかと、
新鮮な衝撃に胸を撃たれた。

「その者は…… どうなりましたでしょう?」
「ここからも追われ、何処かへと逃れてゆきました。
 わたくしの眠りを妨げぬよう、どれほどの間ここに潜んでいたのかは知りませんが」

それ以上のことは、女王は語らない。
彼を追い出す前に起きた出来事は、誰に語るようなものでもない。
あれは幾星霜と続く生涯の中で、たった一度だけの邂逅であった。
397名無しさん@ピンキー:2009/02/11(水) 00:30:23 ID:BitpPyP7
 
思い出すのは、若さに似合わぬ冷さを秘めた、紅い瞳。
凍っていたはずの自分の心を、あの瞳が融かした。
その瞳を見るうちに、何故か自分でも知らぬまま、女王は指を彼の頬へと伸ばしていた。
純粋な闇の力を求める者に顕著な、紅い瞳と月の様に白い肌。
だが、瞳と同じ色をした唇はまだ柔らかく、かすかに少年と呼ばれる世代の徴を残している。
女王から見れば、彼はとても幼かった。
それは女王が老いているという訳ではなく、太古の昔に歳を取らぬ存在へと成長した故なのだが、
彼女の視点からは、ヒトという種族自体が幼く見えるのだ。
気が付いた時には、彼の頤に手を添えて唇を重ねていた。

彼もあえて拒みはしなかった。
そこから先のことは、まるで予めそうするのが決められていたかの如く、
自然に、流れのままに行われた。
女王にとって、この体で交わるのが初めてであったとしても、なんの支障もなかった。
彼は手馴れた仕草で女王の体をまさぐり、官能を揺り動かし、彼女を震わせた。
女王も本能の赴くままに、熱く相手を求めた。
冷たい雪洞の奥で、彼と女王は一晩限りの契りを交わした。
夜が明けきらぬ頃、交合の後の倦怠にまどろむ女王を置いて、彼は雪洞を去った。
契った女に何も残さず、ただ沈黙のままに姿を消した。
今思えば、それは正しかったのだろう。
事が済んでから、男女の契りを結んだという馴れ馴れしさを、ほんの少しでも見せようものなら、
おそらく自分は彼を許さなかっただろうから。

結局、知らぬ間に巣穴に忍び込んだ無礼者を、女王は生かして還した。
自分の寝所とも言えるこの場所に、無断で忍び入ってきた不埒者を、容易に殺すことは出来たのに。
そう、今目の前にいる人の娘を殺すのと同じくらいに容易く。
398雪の女王:2009/02/11(水) 00:31:18 ID:BitpPyP7
 
「光に生を受けたはずなのに、お前は光の匂いを感じさせない。そこも彼に似ていますね」

女王は、なぜ自分が問われもしないことを喋ったかに気が付いた。
そう、このヒトの娘は彼に似ているのだ。
己以上の力を持つものを前にして、微塵の怯えも見せぬ心胆といい――
属するはずの陣営の気配を感じさせない、不可思議な匂いといい――
これで性別さえ同じならば、ひょっとするとあの時と同じ気持ちになったのかもしれない。
そう思い至り、彼女の頬は自然に緩んだ。
赤いローブの女は、女王が微笑むのを見た始めての人間になった。

「 ――― 」

女王の体が、次第に透けてゆく。
霊力を失った幻体が、形を維持出来なくなったのだ。
氷河が割れ、砕ける音とともに雪洞全体が揺れた。
同時に、上からは槍の様な氷柱が降り注ぎ、壁や足元の氷に亀裂が走る。
危険を悟り、赤いローブの女は即座に魔力を集めた。
詠唱と共に呪印を完成させると、この場所からの転移を敢行する。
彼女の姿が消えた数秒後、氷柱どころか巨大な氷塊が落下し、雪洞は崩壊した。


 ド ド ド ド ド ド ド ド・・・


大音響を伴って氷河が崩落してゆくのを、赤いローブの女は空中に浮かびながら眺めていた。
魔力で作られた足場に立つ今、精神集中を乱せば数千尺下の地面へ墜落するとは知りつつも、
凄まじい破壊力を秘めた大自然の一絵巻に、彼女は見入っていた。
399雪の女王:2009/02/11(水) 00:32:05 ID:BitpPyP7
 
しだいに、氷と雪が砕ける音が鎮まる。
舞い上がった細氷が太陽の光を浴びて煌くなか、『彼女』を見つけようと目を凝らす。
すぐに、それは見つかった。
その全身を覆う、雪と同じ白銀の鱗が保護色になったとしても、
大きすぎる体躯は見逃しようが無い。


 グ オ オ ァ ア ア ア ウ ゥ ゥーーーーッ!!


咆哮と共に、それは長い首を擡げた。
再び雪崩を起こしそうな咆哮に、山脈が震える。
純白の飛翼を広げて風を孕むと、彼女は大空へと舞い上がる。
白い古代龍が南方目指して飛んで行くのを見て、女魔術師は笑みを浮かべる。

「さて、これで黒いドレイクを封じる手立ては付いたわ。
 伝承通りなら、世代こそ向こうが一代上でも、誕生したのはこちらの方が数世紀早いはず。
 魔王陛下、お怒りにならないで下さいましね。
 持ち駒に差がありすぎるのは、勝負の興を削ぎましょうから。ふふっ」

白龍の咆哮が呼んだ風雪に赤い髪をたなびかせながら、女魔術師はそう呟いたのであった。


(終わり)
400名無しさん@ピンキー:2009/02/11(水) 12:24:29 ID:z0U0ETVE
ふおおお、新作来た!
あの黒竜生きてたのか!?
401名無しさん@ピンキー:2009/02/14(土) 11:45:12 ID:MUla6hNq
新作GJ!

ところでこの意味って誰か解説してくれないだろうか?
>伝承通りなら、世代こそ向こうが一代上でも、誕生したのはこちらの方が数世紀早いはず。
402名無しさん@ピンキー:2009/02/14(土) 13:06:46 ID:8stwXlHk
黒いドレイクと白いドレイクは、叔父・姪の関係にあたり、
魔王側のドレイクの方が一世代目上になる。

でも叔父だからといって必ずしも年上とは限らないので、
姪御の方が生まれが早いってこともありうる。
つまり、早く結婚・出産した夫婦の子供は、自分の祖父母の末子(叔父)よりも
年長ってこともあるんでしょ。
403名無しさん@ピンキー:2009/02/14(土) 13:13:35 ID:phM15ojK
つまり次回は叔父と姪での禁断の近親姦か
404名無しさん@ピンキー:2009/02/14(土) 21:48:58 ID:MUla6hNq
>>402
解説感謝!
405名無しさん@ピンキー:2009/02/16(月) 00:18:17 ID:MofySGBK
>>403
え?今後の展開でそんな詳しい描写あるの?(笑)
個人的にはこの物語の背景の一部とかにならんか心配してたとこではあるが
406 ◆8czeHikF2E :2009/02/19(木) 21:42:43 ID:/aYFCayo
投下します。異種族物注意。
407Don't cast pearls before ... (1/14) ◆8czeHikF2E :2009/02/19(木) 21:43:54 ID:/aYFCayo
 長い洞窟の終点には、岩肌いっぱいに嵌め込まれた門が待ち構えている。
 門衛が一人、退屈そうに扉にもたれかかっていた。
 俺の姿を認めると、鼻を鳴らしながら、やはり退屈そうに口を開く。

「よう兄弟。仕事探しかい」
「いや、一仕事終えて、帰ってきたところさ」
 それだけで十分だった。
 薄汚れたマントに、背負い袋。革のベルトと金属片をつぎはぎした粗末な鎧を身につけ、
腰には段平。俺の装いはどこからどう見ても流れ者の売剣のそれだった。そして、そうした
連中に対しては、この街の門は常に開かれているのだ。

 門衛は「入りな」とばかりに無言で顎をしゃくって見せる。
 俺も無言で扉に手をかけ、耳障りな軋みに顔をしかめながら門を開く。
 一歩を踏み出せば、そこはもう、無法の街「ホッグスティ」だった。

 天を振り仰げば、アーチ状の岩盤がどこまでも続いてゆくのが見える。
 左右には、広大な地下道を埋め尽くすようにみっしりと住居が立ち並んでいた。堅牢な
石造りのものも僅かに見られるが、大半は泥壁の粗末な小屋だ。
 通りの脇にはまばらにかがり火が焚かれ、昼夜を問わず街を照らし続ける。赤く、
薄ぼんやりとした灯りが目に優しい。ここと比べると、外の街は眩し過ぎる。

 ホッグスティは、廃棄されたドワーフの集落を利用して作られた地下都市だ。
 幾本かの主要な地下道と接続していることもあり、交通の要衝でもある。自然と、各地から
戦士や手配師が集まり、宿場町となった。
 腕に覚えのある者はホッグスティに集う。そして、ここで斡旋を受け、各地に散り、仕事を
終えるとまた戻ってくる。俺もそうした戦士たちの一人というわけだ。

 かがり火の熱気と、生活の臭気がむっと鼻腔を突く。
 それが不快でないどころか、懐かしくさえ感じる。この街を発ってからまだ一年も経ていない
というのに、すっかり里心がついてしまっていたようだ。
 久方ぶりに目にするみすぼらしい町並みを楽しみながら、俺の足は自然と「怒れる棘々獣亭」
へと向かった。

 表通りの脇に突然現れた巨大な厩舎。
 信じ難いことだが、「怒れる棘々獣亭」の入り口はこの中にある。騎兵の利用客も多い
ことからこうした構造にしたそうだが、いやしくも飲食を供する店の入り口が狼の糞尿に
塗れているというのはひどくいただけない。
 せめて入り口を分けてはどうかと、何度もアラガンに忠告したのだが、締まり屋の店主は
そんな改築工事に金をかけるつもりは更々ないらしい。

「いらっしゃい!」
 悪臭を我慢して店の扉をくぐると、甲高い金切り声に迎えられた。
「あれ、バルドさんじゃあないですか。お久しぶりです」
 テーブルを布巾がけしていたウェイターが、そう言って満面の笑みを浮かべながら近づいて
きた。早くも懐かしい顔に再会でき、思わず頬が緩む。
「よう、キール。なに、まだ一年経っちゃいないがね」

 キールはもう何年もこの店でウェイターを続けている、働き者のゴブリンだった。
 チビで貧弱で、骨と皮だけに痩せこけている。ゴブリンというのはつくづく醜悪な種族だが、
俺はキールのことは気に入っていた。
 この街には異種族の住民はほとんどいない。人の往来が激しい宿場町だけに、ある種
おおらかな気風はあったが、それでもやはり異種族への偏見は根強い。そんな中で立派に
客商売を勤めているのだから、見上げたものだった。
408Don't cast pearls before ... (2/14) ◆8czeHikF2E :2009/02/19(木) 21:44:27 ID:/aYFCayo
 カウンターに腰を下ろすと、キールは何も言わずにパンと大盛りのシチューを運んできて
くれた。俺の装いから、旅帰りでここに直行したことを見抜いたのだろう。賢いウェイター
だった。
 食欲をそそるシチューの香りが、空っぽの胃を刺激する。俺は皿が置かれると同時に手を
伸ばしていた。
 パンの切れ端でたっぷりシチューをすくい上げ、口に運ぶ。
 実に美味かった。この店には様々な欠点があるが、シチューに入れる茸の量をケチらない
ことだけは評価できる。

「たしか、西ツァンクの方へ行ってらしたんですよね?」
 俺がガツガツと一皿平らげたのを見計らうと、キールはシチューのおかわりを注ぎながら
問いかけてきた。
「そうさ。地下迷宮の衛士の仕事でね」
「それは長旅でしたね。でも無事で良かったですよ……と、そうだった」
 給仕を終えたキールは、突然何かを思い出した様子で前掛けを外す。
「こうしちゃいられない。バルドさんが戻ったって知らせてこなけりゃ」
 そう呟いたかと思うと、止める間もなく店の外に走り出して行ってしまった。

「おいおい、客を放り出してどこへ行くってんだ」
 独り愚痴ってみても始まらない。もう少しキールと他愛のない話を続けたかった俺は
腹を立てたが、新たに注がれたシチューの香気にすぐに気を取り直す。とりあえずは
腹ごしらえに集中してもいいだろう。

 ところが、二皿目にとりかかったところで、キールと入れ違いになるように、店の奥から
新たな人物が現れた。
「生きてやがったか。バルド。しぶとい野郎だぜ」
 禿げ上がった頭。たるんだ頬。口元にはヤニ焼けした黄色い歯がのぞく。
 アラガンだった。この「怒れる棘々獣亭」の主人であり、同時にそれなりに名の通った
手配師でもある。
 手配師とは、この街に集まった戦士たちを、傭兵やら護衛やら用心棒やらとして雇主に
斡旋する連中のことだ。アラガンは相当な額をピンハネすることで悪名高いが、その分、
雇う側に対しても雇われる側に対しても誠実な仲介をすることでも知られていた。
 かく言う俺も何度となく世話を受けている。今回の西ツァンクの地下迷宮の仕事も、
アラガンの手配だった。もっとも、だからといって、帰ってきて真っ先に拝みたい顔かと
いうと、そうではないが。

 アラガンはカウンターを挟んで俺の顔を覗き込むと、腑に落ちない様子で問うてきた。
「ずいぶん早いじゃねえか。グリムズレイドとの契約の期間は、たしか二年だったはずだぜ?」
 自分が斡旋した戦士がクビになったとか、契約途中で投げ出してきたとなると手配師の
信用に関わる。アラガンが気を揉むのももっともであった。
「仕事はきっちり済ませてきた」
 シチューの残りを最後のパン切れでこそげとると、それを口に放り込みながら答える。
「というか、雇主が死んじまったんだから、契約はつつがなく終了さ」
「なんだって?」
「あの黒エルフ野郎、とうとう討伐されちまったのさ。俺も危うく殺されかけたぜ」
 地下迷宮の主が死んでしまったのだから、衛士の仕事も糞もない。俺は巻き添えに
殺されないようなんとか逃げ延びて、ほうほうの体でこの街に帰ってきたのだ。
409Don't cast pearls before ... (3/14) ◆8czeHikF2E :2009/02/19(木) 21:44:58 ID:/aYFCayo
「またあっさりと死んだもんだな」
「死ぬときは誰だってあっさり死ぬもんさ」
「だがあれほど力を持った妖術師だぞ」
 アラガンは信じられない、という様子だった。
「たしかに力はあったぜ。半年ほど前だったかな。長年の研究が完成したとかで、
グリムズレイドの奴、とうとうリッチになっちまいやがった」
「リッチだと!? そいつは……たいしたもんだな」
「だが、奴さん、それで自分を見失っちまったのさ。やる事なす事どんどん派手になって
いってね。しまいにゃ名のある冒険者どもに目をつけられちまった。そうなったら、もう
終わりさ。昼も夜もなく、次々と新手が押し寄せてきやがる。とうとう便所で用を足してる
隙に……」
「おい、ちょっと待てよ」
 アラガンは訝しげに言葉を挟んできた。
「リッチも用を足すのか?」
「……足すんだから、しようがない。出すモノはないが、生身を捨ててしばらくは生前の
癖が抜けきらないらしい。とにかく、ローブをたくし上げてる隙に滅ぼされちまった」
「へええ」
 俺が話を終えると、アラガンは毒気を抜かれたように間抜けな相槌を打った。
 少なからずショックを受けたようだった。まあ、上得意を一人失ってしまったのだから
無理もない。

 やがて虚脱から醒めたアラガンが、目元をぎらつかせて口を開いた。
「……財宝は、どうした?」
「財宝? なんのことだ?」
「おい、隠すなって。あの黒エルフ、ごっそり溜め込んでたって噂じゃねえか」
 とぼけようとしたが、アラガンは執拗だった。
 たしかにグリムズレイドは財宝の収集家としても著名だった。世にも珍しい魔法の品々を、
あの西ツァンクの地下迷宮に蓄えていたのである。それが冒険者に目をつけられた一因でも
あったのだが。

 主が死んで宝の行く末がどうなったか、関心が向かうのは当然だ。とはいえ、妙な噂を
立てられても困る。俺ははっきりと否定しておくことにした。
「おいおい、アラガン。そんなもの、冒険者どもが残らず持って行っちまったよ。あの
『肥食らい』みたいに卑しい連中が見逃すはずがないだろう? 生き延びただけでも
儲けものさ」
 アラガンはしばらく押し黙り、値踏みするように俺を見つめていた。
 だがこちらが涼しい顔で通してやると、やがて諦めたように首を引っ込めて、「まあ、
いいがね」とだけ呟いた。

「それはさておき、だ」
 仕切り直すようにそう言うと、アラガンは俺の前に白鑞の杯をことりと置いた。
「とにかくお前さんが生きて帰ってこれたのはめでたい。一つ、祝杯をおごらせてくれ」
 カウンターの奥から見慣れぬボトルを取り出し、杯の半ばくらいまで注ぐ。
 俺は締まり屋のアラガンらしからぬ物言いに不審を感じ、おそるおそる杯を手に取った。

 すると、どうだ。
 杯から立ち上る鮮烈な樫の香気が、俺の嗅覚を包み込んだ。
「火酒か」
 反射的に杯を持ち上げ、中身を一口含み込む。
 舌先にじんわりとした痺れが生まれた。それが徐々に口全体に広がり、同時に強い渇きと
なって俺を襲う。堪えきれず呑み込むと、焼け付くような喉越しとともに、胃の腑に向けて
炎の道が走った。
 咄嗟にと胸を押さえそうになるのを耐え、ゆっくりと鼻から呼気を洩らす。
 すると、芳醇な麦と泥炭の香りが抜けていった。
 後には気だるい余韻が残る。気がつくと俺は勃起していた。
410Don't cast pearls before ... (4/14) ◆8czeHikF2E :2009/02/19(木) 21:45:34 ID:/aYFCayo
「いい酒だ」
 熱い吐息とともに、俺は呻くように呟いた。
 極上の麦火酒だった。
 だいたい火酒自体が珍しい。滅多に口に入るものではないのだ。この店の名物である、
狼の小便で薄められているともっぱらの噂の、酸いエールなどではない。本物のスピリッツだ。
おそらく銅貨では買えない代物だろう。
 こういうやり方は卑怯だ。売剣は皆、酒に目がない。俺だってそうだ。旨い酒を飲むと、
それだけで機嫌が良くなって、なんでも安請け合いしてしまいそうになる。

「畜生、どういうつもりだ」
 俺はなんとかしてその言葉だけを搾り出した。
 アラガンの野郎はそんな俺を、にやけ顔で見つめる。
「ドワーフどもが戦支度を始めたらしくてな」
 クソッタレ。なんでも遠回しに言いたがるのがこいつの悪い癖だ。手を振って先を促す。
「近いうちに、北の坑道あたりで小競り合いがありそうなんだ。守備隊からの依頼で、
ウチの店からも十人ほど腕利きを出すよう言われててな。あと二人ほど足りなかったんだが」
 聞いていく内に俺はみるみる不機嫌になった。
 いや、嘘だ。本当はだらしなく頬を緩ませていた。アラガンが空になった杯に再び麦火酒を
注いだからだ。だが、俺の理性は「ここは不機嫌になるべきところだ」と命令している。

 当然だ。ドワーフとの戦なんて、冗談じゃない。
 冒険者は、宝が目当てだ。こっちが逃げれば追ってはこない。それに、命を惜しむ。ちょいと
二、三人も斬り殺せば、裸足で逃げ出していく。だからお互い無駄に命を落とさずに済む。
 ところが、ドワーフどもは違う。一度あいつらとやりあったら、どちらかが全滅するまで
戦いを続けなければならなくなる。ドワーフは俺たちを憎んでいるし、俺たちはドワーフを
憎んでいる。
 俺は臆病者ではないが、無駄死にはごめんだった。

「こっちは長旅から帰ったばかりだぜ。少しくらいは休ませろよ」
 俺はのぼせた頭でなんとか断る算段をつけようとした。
 といっても、言っていることは泣き言に近い。それはそうだ。手配師に面と向かって
ノーと言える戦士などいはしない。対等なようでまるで対等でないのが、戦士と手配師の
関係なのだ。
 俺は自分がいかに疲れていて、すぐには使い物にならなそうであるか訴えようとした。
しかし、海千山千のアラガンには通じなかった。
「頼むよ、バルド。お前さんなら安心だ。いや、いいところに帰ってきてくれた」

「俺が受けるとして、あと一人、アテはあるのか?」
 かわし方を変えることにした。どうせ十人のノルマを達成できないなら、八人でも
九人でも一緒だろう? そんなニュアンスを込めてアラガンを見つめる。
 ところが、これは自分で自分の首を絞めるような、馬鹿な真似だった。
「なに、お前さんが首を縦に振ってくれるなら、もう一人も断りはしないだろうさ」
 アラガンは自信たっぷりに答える。
「どういう……」
 どういうことだ、と、問い返そうとしたときである。
411Don't cast pearls before ... (5/14) ◆8czeHikF2E :2009/02/19(木) 21:46:04 ID:/aYFCayo
「バルド!」
 キンキンと、神経質に俺を呼ばわる女の声が聞こえた。
 聞き覚えのある声だった。
 こいつはきっと、博打打ちの女神が俺に向けて発信した投了の合図に違いない。
 俺はげんなりとして酒場の入り口振り返った。

 肌も露な格好をした極上の美女が、腰に手を当てて立っていた。
 燃えるような赤毛の、いい女だ。目鼻立ちは整い過ぎるほどに整っていて、かえって妙な
ちょっかいをかけるのを躊躇わせるほど。ビールを切らした岩悪魔みたいな表情を浮かべて
いなければ、もっと美人に見えただろう。

 服装は半裸、いやさ全裸に近い。
 胸と腰にまとわりついている黒革の切れ端を、服と呼ぶべきか紐と呼ぶべきかは悩ましい
ところだった。
 おかげで女らしい丸みを帯びたラインがはっきりと見て取れる。
 今は正面から見ているからわからないが、背後では、食い込んだ腰紐から、たわわな尻肉が
はみ出し、ほとんど露出しきっていることを俺は知っている。
 肩と胸に申し訳程度の小さな金属片が張り付いているが、あんなものは鎧と呼べない。
鋲打った黒革のベルト部分とあいまって、どちらかというと露出過多の拘束具にも見える。
全体として、特殊な店の踊り子のような卑猥な格好だった。
 しかし、その道の女でないことは腰の物を見ればはっきりする。
 腰の後ろに交差するように吊り下げられているのは、ぞっとするほど剣呑な二丁の手斧だ。
いずれかが予備の武器だというのならまだ納得できる。そうであったらどんなにいいことか。
だが、残念ながら、この女はこいつを両手にそれぞれ一丁ずつ握って振り回すのだ。

 その絶世の美女が口を開いた。
「バルド。この馬糞野郎。こんなところで何、油を売ってるのさ。帰ってきたならまず
真っ先に顔を見せるべき相手がいるだろ? 忘れたってんなら、ケツの穴に斧を突っ込んで
思い出させてやろうか?」
 俺は頭を抱えた。
 なまじ見てくれが良いだけに、その口からぽんぽんと罵詈雑言が飛び出すのを聞くと
本当にうんざりさせられる。

「やあ、ガラタ」
 なるべく刺激しないよう、慎重に言葉を選ばねばならない。
「久しぶりだな」
 だが、ガラタは不機嫌そうに鼻を鳴らして応えた。
「ハッ、『やあ、ガラタ。久しぶりだな』? あたしはそんな間抜けな言葉が聞きたくて
ここに来たんじゃないよ。婚約者を一年近くほっぽり出した挙句、帰ってきても顔も見せや
しない。いったいどういう了見かって聞いてるんだよ。この玉無し野郎」
 自分自身の言葉に興奮して、更に怒りを増しているのがわかる。声が震えていた。ひどく
呼吸が荒い。良くない兆候だった。
 一方の俺は、麦火酒の恍惚もすっかり消え失せ、実に暗澹たる気分に陥っていた。

 ガラタは売剣仲間だ。
 だがもちろんそれだけではない。こいつの言葉を借りれば、「婚約者」、ということに
なる。したたかに酔った上での約束が有効ならの話だが。

 ガラタはすこぶる付きの美人だが、同時に厄介極まりない女でもある。とにかく粗暴で
嫉妬深く、情緒不安定なのだ。
 こいつの戦士としての腕は買っていたし、相棒としては頼りにしていた。ただ、女としては
話は別だった。だからこいつの露骨過ぎるアピールに対しては、のらりくらりとかわし続けて
いたのだ。
 ところが一年ほど前、上等な酒が手に入り、いつになく泥酔していた俺は、ガラタの
熱烈な求婚に対してつい安請け合いをしてしまった。
 翌朝、目を醒まして自分の失態を悟ると、俺は交渉中だった西ツァンクの仕事の話を
無理矢理まとめ、逃げるようにこのホッグスティを後にしたというわけだ。
412Don't cast pearls before ... (6/14) ◆8czeHikF2E :2009/02/19(木) 21:46:40 ID:/aYFCayo
 冷静に考えれば、ガラタの怒りは、こいつにしては珍しく正当なものだといえる。
とはいえ、俺としてはまだ結婚するつもりなど更々ないし、酒の上での言葉にまで責任は
負えない、というのが正直なところだ。
 だったら逃げたりせず話し合うべきだった、などというのは、ガラタという女をよく
知らない人間の戯言だ。そんなことをしていたら、間違いなく俺の首は二丁斧の餌食に
なっていただろう。

「……聞いてんのかい? バルド。キールが教えてくれなきゃ、あんたが帰ってきてること
さえ、気付けなかったところさ」
 あの野郎。
 視線を走らせると、それまでガラタの後ろに隠れていたキールが、こっそり店の奥へと
消えていくのが見えた。
 すっかり忘れていた。このゴブリンは、頭が回るし好ましい男ではあるが、同時に
ひどいお節介焼きでもあるのだ。おかげで心の準備というやつをする間もなく、ガラタと
対面するという目に遭っている。

 それでも、俺は、なんとかこの場を切り抜けるという考えを捨てられなかった。
「なあ、その、ガラタ。ちょっと、ちょっと待ってくれ。今、アラガンと仕事の話をして
いるんだ」
 そう切り出した俺を遮ったのは、当のアラガンだった。
「仕事の話ならもう終わるぜ」
 カウンターに両手をついて背筋を伸ばすと、ガラタに向けてこう言った。
「この前言った、ドワーフ相手の傭兵の話さ。お前さん、どうするね?」
「バルドが受けるなら、あたしも受ける。当たり前だろ」
 いささか憤然とした様子でガラタが答える。
 それを聞いたアラガンは、視線を俺の上に戻し、おぞましいことに片目を瞑ってみせると、
にやりと笑って言った。
「だとさ」
「バランの炎に焼かれちまえ」
 呻くように悪態を吐く。今の俺にできることはそれくらいしかなかった。

 つかつかと歩み寄って来たガラタの手が、俺の首根っこを掴む。こうなってはもう駄目だ。
なにしろガラタは俺より腕が立つのだ。力づくで来られたら諦めるしかない。
「上の部屋、空いてるんだろ?」
「もちろんさ。休憩なら銅貨五枚だ」
 ガラタがカウンターに叩きつけるようにして銅貨を置く。
 アラガンは素早くそれを数えると、「毎度」と言って満面の笑みを浮かべた。

 *  *  *

 「怒れる棘々獣亭」の二階には寝床付きの小部屋が並んでいる。
 ホッグスティに滞在している間のねぐらにしても良いし、下の酒場で交わすのが憚られる
類の、少しこみいった話をするのにも向いていた。

 そのうちの一つに力づくで放り込まれた俺は、まず、数え切れないほどの平手打ちを
食らった。
 そして奥歯がガタガタし始めたところで、突然ガラタが泣き崩れたので、これを必死で
なだめすかす羽目になった。
 ところが、なだめる俺の言葉の何かが逆鱗に触れたらしく、突如ガラタが雄叫びと共に
二丁斧を振り回し始めたので、今度は服や鎧をずたずたにされながらも、狭い部屋の中を
逃げ回らねばならなかった。

 そうして最終的にどうなったかというと、俺は今、何故かベッドの上で丸裸で組み伏されて
いる。四つん這いでのしかかるガラタも、裸同然の卑猥な服装を脱ぎ捨てて、正真正銘の裸に
なっていた。
413Don't cast pearls before ... (7/14) ◆8czeHikF2E :2009/02/19(木) 21:47:10 ID:/aYFCayo
「……畜生……犯してやる……畜生……畜生ッ……」
 うわ言のようにブツブツと呟くガラタの目は完全に血走っていた。
 肩を大きく上下させ、唇からは荒い呼気を洩らす。斧を振り回していたときの激情が続いて
いるようだったが、同時に別のスイッチも入ってしまっているようだった。
 俺はというと、両手を降伏の姿勢で押さえつけられていて、文字通りお手上げである。

 ガラタは座った目で俺を凝視しながら、ゆっくりと顔を近づけてきた。
 熱い吐息が鼻にかかる。
 バイパーに睨まれたジャイアント・トードの心境を味わっていると、突然、唇が重ねられた。
歯と歯が打ち合うカチリという不快な衝撃が走るが、ガラタはそんなことにはお構いなしに、
俺の唇に吸い付いてきた。
 唾液に濡れた唇の粘膜が押しつけられ、蠢くように俺の口元を這う。
 舌が割り入って来たかと思うと、口腔がねぶりまわされた。
 じゅるじゅると水気のある音を立てながら、猛烈な勢いで唾液がすすり上げられる。

「ンンッ……じゅぱ……ン、ン……じゅっ……じゅるっ、ン、……」
 ガラタは発情しきっていた。唇を激しく吸いながらも、俺の下腹の上では悩ましげに腰を
くねらせていた。
 半勃ちの状態で反り返っていた俺のペニスに、ぐいぐいとガラタの股間が押し当てられる。
濡れそぼったそこを擦りつけるような動きだった。裏筋にねっとりとした粘液の感触が伝う。
「ん、ん……フーッ、フーッ……んんあっ……ンフーッ、フーッ」
 洩れる息に艶が混じり始めた。無抵抗のままベッドに磔にされている俺を他所に、ガラタが
急速に「できあがって」いくのがわかる。腰の動きもねっとりとまとわりつくようで、まるで
俺のペニスを使ってマスターベーションをしているようだった。

 ぷはっ。
 唇が離れた。ガラタは悠然と上半身を起こすと、肉食獣の目で俺を見下ろす。
 だが、自分の股座に手を伸ばし、俺のペニスを掴んだところで、アテが外れたように狼狽
し始めた。
「ち、畜生っ、なんで勃たないんだよっ……」
 無茶を言う。
 ついさっきまで命の危険を感じていたのに、そんなに直ぐに気分を切り替えられるわけが
ない。この状況で半勃ちになっただけでも、自分を褒めてやりたいくらいだ。

 ガラタは恨みがましい目つきをしたかと思うと、俺の上でくるりと向きを変えた。
 そしてそのまま、今度は俺と逆向きに重なり合うようにして上半身を倒す。
 目の前に、ボリュームのある尻肉が突き出された。かと思うと、ペニスが熱と水気を
持った何かにすっぽり包み込まれる。

 じゅぽっ、じゅぽっ、じゅぽっ。
 ガラタは俺のペニスを咥えこんだまま、激しく上下に頭を振り始めた。
 力任せに吸い上げて無理矢理エレクトさせようとするような、稚拙な動きだった。だが
まるで気持ち良くない、というわけでもない。
 ガラタが出鱈目に頭を振る度に、俺の目の前で、たわわな尻がくねくねと揺れる。
 おそろしく扇情的な光景だった。ついつい頭に血が上りそうになる。ペニスに感じる
直接的な刺激よりも、この視覚的な刺激の方が問題だった。

 地下迷宮の衛士をしている間も、別に禁欲していたわけではない。
 グリムズレイドの払いは悪くなかったから、女を抱く金には困らなかった。
 ただ、鶏がらのように痩せこけた商売女しか抱くことができなかったせいで、はちきれる
ような女の肉に飢えていたのは事実だ。
 目の前の尻は、豪腕の戦士の持ち物らしく、むっちりと肉付きが良い。正直に言えば、
ひどくそそる。もともと、ガラタは顔も体もまさに俺好みなのだ。
414Don't cast pearls before ... (8/14) ◆8czeHikF2E :2009/02/19(木) 21:47:41 ID:/aYFCayo
 股間に血が集まっていくのを感じる。
 それを察知したガラタが、ここぞとばかりに口の動きを早めた。俺の反応を引き出せた
ことが嬉しいのか、従順な雌犬のように尻を振って喜びを表す。

 俺は女に押し倒されて喜ぶような趣味はないが、美女にのしかかられて何も感じないほど
禁欲的な人間でもない。腹の上に跨る女が、さっきまで本気で俺を殺そうとしていたことを
忘れたわけではないが、こうなっては俺も収まらない。

 俺は突き出された双臀に手を伸ばした。
「ひゃふっ」
 ガラタの体が小さく跳ねた。その動きを押さえ込むように、がっちりと尻たぶを鷲掴み
する。
 じっとりと汗をまとわせた肌は掌に張り付くようだった。爪が食い込むほどきつく力を
こめると、指と指の隙間にむにりと尻肉があふれる。俺の手の動きにあわせて自在に形を
変えるほど柔らかなのに、しっかりと押し返してくる弾力があった。

 その上等な触り心地を堪能しながら、両手でぐいと押し開く。
 すると、たわわな果実の狭間に大輪の肉の花が咲いた。
 尻肉を揉み込むと、それにつられて、まるで食虫花のように蠢く。その妖しい動きは、
まるでこちらを挑発しているかのようだった。
 卑猥な形状の肉びらは、時折自らの意思でひくひくと震えて見せた。芯はてらてらと濡れ
輝き、だらしなく蜜を吐き出す。

 湧き上がる欲求に従って、俺はその肉弁にむしゃぶりついた。
 肉襞に鼻先を埋め、淫核に舌を這わせ、溢れ出る愛液をすする。
「んっ! ……んんん、ンフッ……じゅる、じゅる……んんっ! ふううん……じゅぽっ」
 ガラタの体が打ち震えた。
 ペニスをしゃぶり上げる淫らな音の合間に、切ないような荒い喘ぎが混じる。
 鼻を鳴らして甘い呻きを洩らしながら、それでもガラタの口はペニスを離さない。むしろ
俺の愛撫に応えるかのように、舌と唇でもっていっそう激しく俺の物をしごき上げた。

 ぴちゃ、じゅぽっ、ぴちゃ、じゅぽっ。
 もはやお互いがお互いの性器に没頭していた。他のことは頭に入らない。相手の股間に
顔を埋めることしか考えられなかった。
 時折、ガラタの腰に疼いたような震えが走る。責めれば責めるほど、その間隔は短くなって
いくようだった。

 俺は間隔が十分に詰まってきた頃合を見計らって、一息に淫核を吸い上げた。
 にゅぽっ。
 ガラタの口がペニスから離れた。
「あ、あ、あっ、バルド、バルド、バルド! うあ、うああっ、ああああ―――っ!!」
 ガラタの上体が弓のように反り返ったかと思うと、その口から絶叫が迸った。
 尻たぶが、ぶるんと震えたかと思うと、愛液が飛沫になって俺の顔に降りかかる。
 どうやら達したようだった。

 二度、三度そうしたかと思うと、突然ガラタの脚から力が抜けて、俺にくたっと体重を
預けてきた。ガラタの体が緩く上下を繰り返す。深呼吸で火照った体を落ち着けているよう
だった。
 俺はささやかな達成感とともにしばらくその心地よい重みを愉しんでいたが、やがて身を
ずらしてガラタの下から抜け出す。
 上体を起こして脇のガラタを見やると、依然として横倒れにベッドに突っ伏したまま肩を
波打たせていた。ふと、これで満足しきってしまったのかという不安がよぎる。ほんの
前戯のつもりだったが、それにしては偉く派手な気のやり方だった。
415Don't cast pearls before ... (9/14) ◆8czeHikF2E :2009/02/19(木) 21:48:12 ID:/aYFCayo
 だがそれは杞憂だったようだ。
 ガラタはゆるゆると身を起こすと、四つん這いになって再び俺に向けて尻を突き出し、
こう言った。
「ああ……あ、バルドぉ。まだ、収まらないんだ。イッたのに、まだ切ないんだよぉ。
バルドの……デカいのが、欲しいんだ。早く、あたしの中に挿れてくれよう……」
 鼻にかかった甘ったるい声だった。
 一度達したせいで、ずいぶん素直になったようだ。普段の粗野な女戦士からは想像もできない。
いや、ついさっきまでの様子と比べても、別人のようだった。だが、「馬糞」だの「玉無し」
だの言われるよりはずっと良い。

 高く突き出された尻たぶに手を添え、ぐいと引き寄せる。
「あんっ」
 ガラタは背中越しに俺を振り返り、ねだるような視線を送ってくる。可愛いやつだ。ずっと
こうでいてくれたら、何も問題はないのだが。まあ、今は余計なことは考えまい。

 見下ろすと、女にしては広いガラタの背中にうっすらと背筋が浮かび上がっていた。手練れの
戦士らしい、鍛え抜かれたいい体だった。抱き心地だって申し分ない。背骨に沿ったくぼみに
わずかに汗が溜まり、室内の薄灯かりをてらてらと照り返していた。
 身をかがめて、その光の道にゆっくりと舌を這わせる。
 それだけで、ガラタの体はあわれなほどガクガクと震えた。

「はっ……はやく、じらさ……ないで……くれ、よ」
 耳に心地よいおねだりを聞きながら、そのまま腰をずらして照準を定める。
 ペニスの突端が、複雑な形の肉びらのすぼまりにぴたりとはまる。ぬっとり、としか形容の
しようがない粘度の高い感触がまとわりついた。
「入れるぜ」
「ん、うん……ん、んんん、……ふぅー……ん、……んふぅー」
 ゆっくりと捻じ込むように腰を進ませると、ガラタは息を吐きながら少しずつそれを受け
容れる。ガラタの中はけっしてきついわけではないのだが、挿れた側からきゅうきゅうと
食らいついてきた。
「ふあ、あ、……お、奥まで……きて、るっ」
 苦しげな、しかし幾分の媚びを含んだ声が、ガラタの唇から洩れた。
 根元まで飲み込まれた俺のペニスが、たまらず一、二度脈打つ。膣肉がみっしりと絡んできた。

「バルドぉ」
 ガラタは体をよじらせて俺を見上げる。
 薄く開いた唇が物欲しげだ。
 顔を寄せてその唇をついばむ。ペニスを埋め、体を密着させて、口付けを貪った。
 無理な姿勢のため唾液が零れ、ガラタの顎を伝ってゆく。だがガラタはそんなことは気にも
留めず、必死で舌を絡ませてきた。

 上と下の口でつながってもなお飽き足らず、俺はもっとガラタを貪りたくなった。
 空いた手をガラタの両脇から挿し入れ、熟れた二つの果実をまさぐる。
 乳房はずっしりと重みがあった。すくい上げようとすると、豊か過ぎるふくらみが掌から
溢れて零れ落ちそうになる。引き締まって弾力のあるガラタの体の中で、そこだけは頼りない
ほどにひどく柔らかだった。

 指先が乳首のしこりにさしかかると、「ん、ん」という呻きとともに、腕の中のガラタが
小さく震える。デカいだけでなく感度も良好のようだ。
 例の猥褻極まる服装によって常に強調されているガラタの胸だが、実際の感触は見た目を
さらに上回るものだといえる。巨大で、だらしなく、そしていやらしい。
416Don't cast pearls before ... (10/14) ◆8czeHikF2E :2009/02/19(木) 21:48:43 ID:/aYFCayo
 俺は最高級の乳房をほしいままに揉みしだきながら、ゆっくりと腰を使い始めた。
 覆いかぶさるような姿勢なので、大きくは動けない。股間を小刻みにずらして擦り合わせる
ような動きだ。
 抜き差しではないから、俺の快感はさほどではない。だが、ガラタはずいぶん感じている
ようだった。全身を密着させているから、それがわかる。
 深く嵌まった状態で腰を使うと、挿入の角度が微妙に変化する。体の奥をじっくり愛撫して
やると、ガラタは面白いように反応した。
 内臓をこねくり回される度にびくびくと震える。俺の腕の中で、ガラタはゆっくりと蕩けて
いった。

 腰を動かしながらも、他の部分も手は抜かない。舌を絡め、乳房をこね回し、乳首をしごく。
 やがて膣内の締め付けがだんだんときつくなってきた。
 波を迎えようとしているのだ。俺はガラタの体をきつく抱き締めた。
「んんんっ! ふうんっ! ん、んん、んんっ!!」
 ガラタは再び達した。
 雁字搦めに体を押さえつけられているから、絶頂を外に逃すことができない。口も塞がれて
いるから、喘ぐことさえできないのだ。小刻みに震えることしかできずに、体の中で快感を
荒れ狂わせ、悶える。
 腕をばたつかせるが、俺は逃さない。しばらくそうしていると、背すじがびくっ、びくっと
二度ほど痙攣した。
 そこでようやく解放してやると、ガラタはぐったりと崩れ落ちた。

「は、はあ――っ、はああ――っ、あふ、あふあぁぁっ」
 ガラタは尻を突き出したままベッドに突っ伏し、荒く肩を上下させる。
 焦点の合わない瞳をさ迷わせて懸命に呼吸するその様子を見ているうちに、俺の中で
むくむくと嗜虐心が沸き起こってきた。
 こっちは斧を持って追い回されたのだ。もう少しくらい、苛めてやってもいいのではない
だろうか。何より俺はまだイッていない。

 俺はガラタの腰をしっかりと掴む。俺たちはまだ、つながったままだった。
「ふあ? ……や、ま、まだっ……!」
 二度の絶頂を経たガラタの道具は、きついほどに俺に絡み付いている。
 ゆっくりと腰を引くと、それにつれて引きずり出された陰唇が、名残惜しそうにまとわり
つくのが見えた。実に淫らでそそる光景だった。 
 間髪入れずに腰を打ち付ける。
「あ……あ、う、あ」
 体の芯に杭を打ち込まれたガラタは、うまく息を吸い込むことができずに、徒に口の
開け閉めを繰り返す。

 そこに追い討ちをかけるようにして、素早く腰を引いた。
 充血した膣襞がカリに絡み付いて、引き抜かせまいと締めつける。その力が余りに強く、
十分すぎるほど濡れていてもなお強い摩擦が起こった。
「うあ、うあああ――っ、んはあっ、あっ、ああっ、ああ――っ!!」
 ガラタが喉を限界まで反らして咆える。
 俺は構わずに激しい抜き差しを始めた。
417Don't cast pearls before ... (11/14) ◆8czeHikF2E :2009/02/19(木) 21:49:13 ID:/aYFCayo
「や、い、いいっ、いいのっ! うあ、ふっ、んはあっ、いいい、いいよぉっ!!」
 ガラタは泣き叫んでいた。
 あたり憚らずひたすら喉を震わせる。もはや絶叫といってよい。
 全身から汗を迸らせ、狂ったように頭を振る。
 ベッドに爪を立ててしがみつき、四つん這いの格好のまま、全身の筋肉を強張らせる。
 その姿はまさに獣だった。それも、とびきり美しく力強い猛獣の雌だ。

「ひい、やっ、いく、いっちゃう、またいっちゃうっ! バルド、バルド、バルドぉ!!」
 ガラタの肉壷はいつまで経っても愛液を垂れ流し続け、ぬちゃぬちゃと淫らな音を鳴らした。
 腰を引くたびに零れ落ちた蜜で、シーツには水溜りができている。
 赤毛を振り乱して絶頂の到来を告げるガラタ。一方の俺もまた限界に達しようとしていた。
「くっ……いくぞ」
 それだけ口にして抜き差しの速度を上げる。
 ガラタは声を張り上げて答えた。
「ああ、きて! きてっ! あたしの中にぃっ!! 愛してるッ! 愛してるのッ!!
 うああっ、んああああっ、バルドっ! バルドっ! バルドぉ―――っ!!」
 かつてない締めつけが俺を襲った。
 分け入るようにガラタを貫く。最奥に達したところで、ペニスが弾けた。
 俺たちは同時に達した。

 *  *  *

「最高だったよ」
 そう言ってガラタは上機嫌で俺にキスをしてきた。
 俺はというと、脱力しきってベッドに仰向けに倒れていた。もう指一本動かせそうにない。

 複雑な気分だった。
 事後の倦怠で、もうどうにでもなれ、という思いが大半を占めてはいた。だが、流される
ままに事に及んだ後ろめたさや後悔の念が、まったくないと言ったら嘘になる。

 ガラタは俺の腕を枕にして、ごろんと横に寝そべる。
 そして、添い寝したまま俺の胸に指を這わせて、かすれるように呟いた。
「……もう、黙って消えたりしないでくれよぉ」
 普段のタフさを忘れそうになるほど、か弱くしおらしい声だった。ガラタにこういう一面が
あることも、俺は知っていた。感情の豊かな女なのだ。問題は豊か過ぎることだが。

 俺はガラタに気付かれないよう、心の中で溜息を吐いた。
 そして最後にもう一度だけ自問してみる。
 そうとも。こいつはいつだって最高の戦友だった。女としての魅力も、申し分ない。それは
十分過ぎるほどわかっていた。たが、これだけ情の激しい女を愛し続けることが、俺にできる
だろうか。わからない。それ以前に、首と胴が離れ離れになる公算の方が高かった。
 クソッタレ。
 なんにせよ、俺は逃げ出したが、こいつは一年近く待ったのだ。

 顔を横に向けると、ガラタが投げ捨てた俺の持ち物が部屋中に散乱していた。
 だが背負い袋だけは思いのほか近くに転がっていた。
 手を伸ばし、紐をつっかけて手繰り寄せる。口を開いて腕を突っ込むと、底の方に目当ての
物が見つかった。布きれにくるんであったそれを取り出す。
 西ツァンクでの仕事の、唯一の報酬だった。
418Don't cast pearls before ... (12/14) ◆8czeHikF2E :2009/02/19(木) 21:49:44 ID:/aYFCayo
 グリムズレイドの断末魔を聞いたとき、まず最初に奴のコレクションのことが頭に浮かんだ。
 主を失った財宝の山。退職金代わりに一つくらいくすねて行ってもいいはず。
 とはいえ、ぐずぐずと物色してる暇はなかった。あのグリムズレイドを倒した程の腕利きの
冒険者が、やはり財宝を探してうろつき回っているはずだからだ。

 結局、持ち出せたのは指輪一つきりだった。
 銀の台座に黒真珠を嵌めた高価そうな指輪。それが魔法の品であることを、俺は知っていた。
生前の(といっても既に不死者の仲間入りはしていたが)グリムズレイドがよく自慢していた
からだ。
 嵌めた者をより美しく、絶世の美女に変える魔法の指輪。たしかそう言っていたか。

 眉唾ものだった。そんな魔法など聞いたことがない。
 グリムズレイドは名の通った収集家だが、実際には相当ガラクタも掴まされていた。
 間近でそれを見てきた俺に言わせれば、この指輪は中でもとびきり胡散臭い。おそらく、
たいしたことのない祝福の魔法がかかっただけの指輪だろう。
 ただ、効果の程はどうあれ、あのグリムズレイドのコレクションといういわく付きなら、
高く売れるに違いなかった。実際、宝飾品としての価値もそれなりにありそうだった。
 惜しいといえば、惜しい。

 俺は指輪を握り締めた。心の中で再び溜息を洩らす。
 こんなもので罪滅ぼし、というわけではないが、何もしないよりはマシだろう。
 こいつのファッションセンスはいまいち掴みかねるところがあるが、なに、光物を送られて
不機嫌になる女はいないはずだ。
 
「ガラタ」
「……ん?」
「こいつをやるよ」
 ガラタは突き出した俺の手から布切れを受け取り、中から指輪を取り出す。
 しばらく呆けたように見つめていたかと思うと、突然、何か奇妙な声を発して俺の首に
しがみついてきた。俺の顔にキスの雨を降らせながら、泣いているのか笑っているのかよく
わからない嗚咽を洩らす。
 そうして首を絞める怪力に窒息しそうになったところで、ようやく解放された。
 とりあえず喜んではくれたようだった。

 ガラタは震える手つきでそれを嵌めようとしていたが、何か思い至った風にその手を
止めると、俺をじっと見返してきた。
「ね、ねえ、バルド。これ、バルドが嵌めてくれないか?」
「……んあ? なんでわざわざ」
「お願い、お願いだよ。いいじゃないか。頼むよう」
 余りにしつこく頼むので、俺も折れてやることにした。
 指輪を嵌めてやるくらいどうということはないし、何よりせっかくの上機嫌を損ねるのは
得策ではない。

 おそらくエルフの指に合わせて作られたであろうその指輪は、ガラタには少し小さ過ぎる
ように感じられた。
 しかし、いざ嵌めようとしてみると、なんの抵抗もなくするりと嵌まった。
 まるであつらえたかのようだった。

「綺麗……」
 ガラタはうっとりと、自分の指を飾る黒真珠に見入っていた。
 そうしていると、ことあるごとに二丁斧を振り回すような女には見えなかった。
 そして、らしくなく頬を染めてみせると、小さく「ありがとう」と呟いた。
 俺も悪い気はしなかった。

 *  *  *
419Don't cast pearls before ... (13/14) ◆8czeHikF2E :2009/02/19(木) 21:50:15 ID:/aYFCayo
 俺はガラタと二人でその部屋に一泊した。
 翌朝、毛布を被ったままなかなか起き出そうとしないガラタを置いて、俺は階下の酒場へと
降りてゆく。朝食にありつくためだ。それに、うやむやになった仕事の話について、こちらの
意見をきっちりアラガンに伝えておきたかった。

 カウンターに腰を下ろすと、なぜか上機嫌のキールが野菜くずのスープを運んでくる。
 昨日のことを思い出した俺は無言で睨みつけてやったが、お節介焼きのゴブリンは少しも
こたえず、むしろにやけ顔で生暖かい視線を返された。

 塩味の効いた、別の言い方をすれば、塩味しかしない野菜スープをすすっていると、奥から
アラガンが顔を出してきた。
 やはり勝ち誇ったように見つめてくるアラガンに対し、俺は不貞腐れた表情で口を開く。
「……昨日の仕事の話だが、まだ受けるとは言っていないからな」
「何をいまさら」
 アラガンは片眉を跳ね上げて答える。負けを認めようとしない俺に対して腹を立てた様子
だった。だが、俺としても一言言ってやらないと気が済まない。ガラタとのことは、それは
それとして、仕事の話は別の問題だ。
「金に困っているわけでもないしな。もうしばらく、ゆっくりさせてもらうぜ」
 実際、傭兵の仕事なんてゴメンだった。ドワーフの洞窟戦士たちと殺し合いをするなんて、
考えただけでゾッとする。

 それに対して、アラガンが何か口を開きかけたときのことである。
 二階から奇声が響いてきた。
 腸捻転を患ったハーピーがのた打ち回りながら発するような奇怪な音声だった。何か驚くべき
不幸に遭遇したガラタが、その怒りを周囲にぶつけ出す前に上げる雄叫びにも似ている。
 嫌な予感がした。

 次いで階段を駆け下りてくる音とともに、一番聞きたくない類の声が聞こえた。
「バルド!」
 憤怒をこめて俺の名を呼ばわるガラタの声だ。
 だが、おかしい。いくらガラタが情緒不安定だからといって、怒り狂う要因がまったく思い
当たらなかった。昨夜はあれだけ幸せそうだったのだ。聞き違いということもあり得る。
 俺は恐る恐る声の主を振り返った。

 そこにいたのは一人の女だった。
 燃えるような赤毛と顔の作りにどことなくガラタの面影がある。いや、あの黒革の拘束具を
思わせる破廉恥な格好は、ガラタ以外には考えられぬように思える。

 しかし、それ以外はまったく変わり果てていた。
 つんと上を向いていた可愛らしい豚鼻は、奇妙に間延びしていた。頬はこけ、肌の色は抜ける
ように白い。ぽってりとしていた唇も薄く、耳は尖っている。
 肉感的だった乳房や尻は哀れなほど貧弱な代物にボリュームダウンしていた。それ以外の
部分も痩せぎすで、女らしい丸みはどこにもない。いっそ病的ですらあった。
 これではまるで……。

 女は色白の顔を更に蒼白にして、震える手元で自分の顔を撫でていた。
 そして信じられぬ、という風に口を開く。
「……バ、バルド……あ、あたし、こんなに醜く……エルフみたいに……」
 紛れもなくガラタの声だった。
 そう、声はガラタだが姿かたちはまるでエルフのような、いや、エルフそのものだったのだ。
 なんということだろう。極上のオークの美女が、たった一晩で醜いエルフに変わり果てて
しまったのである。
420Don't cast pearls before ... (14/14) ◆8czeHikF2E :2009/02/19(木) 21:50:45 ID:/aYFCayo
 と、そこでようやく俺はこの怪事の原因に思い至った。
 あの、黒真珠の指輪! あれは本物だったのだ。
 グリムズレイドはなんと言っていたか。「嵌めた者をより美しく、絶世の美女に変える」。
 なるほど、絶世の美女に変える。美貌を増すとかそういうチンケなものではなくて、完全に
別物に変身させてしまう。
 しかも、グリムズレイドは黒エルフだった。指輪が生み出す「絶世の美女」というのが、
奴好みのものだとするなら、それはエルフの、エルフ基準の美女を指すに決まっている。
 つまり、あの指輪は、嵌めた者を「絶世のエルフの美女」に変えてしまう指輪だったのだ。

 指輪の由来は知らぬなりに、ガラタも原因がそれであることに思い至ったのであろう。
 唇がわなわなと震え出した。流麗な眉が吊り上がり、憤怒の余り顔が正視に堪えぬほど
歪む。
「バ、バルド……この、この、この、玉無しの蛆虫の馬糞野郎! ……あんたなんかを信じた
あたしが馬鹿だった。ゆ、指輪、あんなに嬉しかったのに……畜生、畜生、畜生! あたしの
美貌をどうしてくれるんだっ!」
 怒りに任せて黒真珠の指輪を引き抜こうとする。
 しかし、指輪はまるで魔法的な力が働いているかのように、ガラタの指に食い込んでしまって
いた。

 傍から見たら愉快な見世物だったろう。
 エルフの、おそらくエルフ基準ではたいそう美しいであろう女が、悲嘆に暮れたり激怒したり
している様は、俺たちオークの目には滑稽に映る。
 アラガンは失笑を堪えきれぬようだった。キールでさえ、同情と苦笑の間で揺れ動く複雑な
表情を浮かべていた。

 アラガンは笑いを噛み殺しながら口を開いた。
「そいつが正真正銘グリムズレイドの指輪なら、並みの呪い師の手にゃあ負えまいよ」
 この手配師は、俺がグリムズレイドの宝をくすねてきたこと、そして、それを呪いの指輪と
知らずにガラタに贈ってしまったことを見抜いていた。
「腕の立つ呪い師を紹介してやってもいいが、そうだな、銀貨百枚くらいは取られるだろう」
 その言葉に、ただでさえ蒼白だった俺とガラタの顔から、さらに色が抜け落ちる。

 銀貨百枚だって?
 それはまったく手の届かない金額ではなかったが、即座に用立てられるような金額でもなかった。
もとより、その日暮らしの売剣に銀貨の蓄えなどあるはずもない。
 かといって、じゃあ銀貨百枚が貯まるまで、一年やそこらガラタにこの姿でいてくれなどとは、
口が裂けても言えなかった。そんなことを口にしたら、俺は今度こそ、あの二丁斧の餌食にされる
だろう。

 猶予はなかった。ガラタの手が腰に伸びつつあったからだ。
 救いを求めて視線をさ迷わせる俺に、アラガンがとぼけた調子で言った。
「まあ、それくらいならわしが立て替えてやってもいいがね」
 もちろん、この締まり屋が無償で手を差し伸べてくれることなどあり得ない。このパターンには
もう飽き飽きだ。だが、いつもそうであるように、俺には他に選択肢などないのだ。
 アラガンは続けて言う。
「で、例の仕事はどうするね? 守備隊長は『給金ははずむ』と言っていたが」
 クソッタレ。
 俺は内心で毒づきながらも、とうとう首を縦に振った。
「受ける。受けるとも。受けるさ。だからガラタをなだめるのを手伝ってくれ!」

 そんな俺を悠然と眺めると、アラガンは勝ち誇ったように言った。
「だから、最初からわしに指輪を見せておけばよかったのさ。どうせお前さんには魔法の品物の
価値などわからんのだからな。ほら、諺にも言うだろう? 『ナントカに真珠を与えるな』とね」



(おわり)
421名無しさん@ピンキー:2009/02/20(金) 23:27:51 ID:IbteLlcy
なんたるビフォーアフターw
422名無しさん@ピンキー:2009/02/21(土) 00:17:26 ID:0qGplvIY
「ホッグスティ」って「ホッグシティ」の間違いじゃないよね?
423名無しさん@ピンキー:2009/02/21(土) 01:22:54 ID:VL+YLHjw
>>420
面白かったw GJ! 上手いな。
設定も軽くないけどくどくもなくて楽しみながらサクサク読めた。
つかオークだったんかいw あー面白かったw GJ!
424名無しさん@ピンキー:2009/02/21(土) 02:18:45 ID:gwrLh821
>>420
オチに笑ったw
世界観に引き込まれてしまったよ。GJ!
425名無しさん@ピンキー:2009/02/21(土) 05:40:14 ID:QAbaRc6T
>>422
むしろ「ホッグスタイ」の間違いでは
あるいはstyとcityをかけたとか
426名無しさん@ピンキー:2009/02/22(日) 00:22:12 ID:+RKFTByL
美人エルフも見方を変えたらブスになるのなw
面白かった!
427名無しさん@ピンキー:2009/02/22(日) 01:28:07 ID:a/qczvsH
沈魚落雁
ってことか
428名無しさん@ピンキー:2009/02/26(木) 02:07:05 ID:4pTIgV37
突然だが、俺はお願いする。

読みたいレス。

シーア
水の神殿の続き
ルナ
アズリン
429名無しさん@ピンキー:2009/02/26(木) 08:58:07 ID:H7y3H7KC
>>420
逆シュレックみたい。
430名無しさん@ピンキー:2009/02/26(木) 17:39:48 ID:ht1zzHAc
ならば俺はアビゲイルの続きを望むぜ
431名無しさん@ピンキー:2009/02/26(木) 22:05:29 ID:cG32Qgj6
一瞬バスタードスレ開いたのかと思ったのは内緒。
432名無しさん@ピンキー:2009/02/26(木) 22:12:45 ID:LRKJDMMx
そっちのアビちゃんの事は忘れていたのに…!
どうしてくれんだよ、もう
433名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 06:47:57 ID:l7YIsq7a
>>432
つマジックモーニングスター 「お早うマイマザー一番星君グレート」
434名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 22:39:03 ID:YpwpAAST
>>433
お前は今、クリティカルに俺のツボを突きすぎたwww
435名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 22:39:19 ID:8vVOjoWn
狸寝入りだとあの世逝き、だっけ?
436名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 04:26:53 ID:d1SQO85L
あの後、もうちょいアビゲイルが主人公の変化に対し
興味深げにしてくれないかとか期待してたんだがなあ
437投下準備:2009/03/03(火) 22:00:04 ID:/llfFcog
久しぶりに、ヘタレな魔王の物語を投下します。

今回は姫将軍クローディア再登場ということで、女兵士スレに投下です。
・・・今になって思えば、姫スレへの投下計画は失敗だっただろうかと思ったり。


とくに属性注意はありませんが、
ヘタレがそのへたれっぷりを存分に発揮し、
クローディアに尻に敷かれます。へたれ全開です。

ではどうぞ。
438ヘタレな魔王の物語4:2009/03/03(火) 22:01:21 ID:/llfFcog
王様ともなれば、臣民からの陳情を聞いたり、仕官を求めてやってくる騎士や学者が来たり、
はたまた時節のご機嫌伺いに顔を出す貴族が居たり、非常に人に会わねばならない機会が多い。
それも堅苦しい宮廷言葉でナンタラカンタラ喋る上に、ずっーと坐っていなければならないので、
僕みたいな王宮暮らしに慣れていない羊飼い上がりにとっては、もはや一種の苦行ですらある。

そのくせやる事といえば、もっともらしく頷いて適当に
『考慮してみよう』とか『後ほど返答しよう』やら『気持ちは受け取って置く』でお茶を濁す位なのだ。
(なぜかと言えば、難しい話をされても僕には判らないからなんだけど)

で、そんな日常を何とかこなして居る内に、僕はふと思った。
考えてみれば、お決まりの台詞を喋るだけなら、
別に僕本人が玉座に坐って無くても良いんじゃないかと。
思い立ったが吉日。
さっそく試してみる事にした。

普通の王様たちなら、自分に似てる人間を影武者に用意するのだろう。
けど、僕は指輪に秘められた叡智と魔力がある。
それを使って自分そっくりの人形を作り、こっそり玉座に置いてきた。
誰かに話しかけられたならウンウンと頷き、『その事は、暫く考えてから返事をするとしよう』と
勝手に人形が答えてくれるのだ。
まるで鏡を見ているかのようなその出来栄えに、我ながら感心したものだ。
で、『これが有るなら僕は王宮に居なくても良いよね』と思い、
僕は誰にも告げぬまま、離れた戦場に居るクローディア姫に会いに来たのであった。


・・・・・・
439ヘタレな魔王の物語4:2009/03/03(火) 22:02:02 ID:/llfFcog
 
「なるほど、君は私が口を酸っぱーくして言ってきた事を、何ら理解していなかったということかね?」
「……」

指揮官用の幕舎の中で、僕とクローディアは久しぶりに二人っきりになれた。
ただし、折角会えたというのに、彼女の態度はいつもと違って厳しい。

「確か、何度も言ったよね?
 『王になったら、嫌でも宮廷行事に参加したり、謁見なり何なりを行わなければならない。
 だけれども、それは一種の儀式みたいに必要な物だから、退屈でも我慢してくれ』って。
 それとも言い忘れてたかい?」
「イイエ、何回も聞きました」

僕は椅子に坐って、固く身をこわばらせたまま彼女の言葉に答えた。
うーん、すっごく怒ってる。
爆発する直前には、かえって冷静な口調になるのがクローディアの癖だ。
いつ噴火するか、はっきり言って怖い。

「じゃあ何で、そんな子供だましを用意してまで宮廷を抜け出してきたのかな!?」
「だって、ずっと玉座に坐ってるとお尻が痛くなるし……」
「私もね! 長ーい行軍の間中、ずっーと鞍の上に乗っていれば下半身が痛くなるんだよ?
 それはもう、肌が擦れてお尻さえ硬くなる程さ!」

前にも言ったとおり、僕は元羊飼い。
いくらクッションが効いているとはいえ、長く椅子に坐ってるのは苦手だ。
それに謁見の間は見通しが悪い。
故郷の山野を見慣れた僕には窮屈この上ないのだ。
でも、あまり馬に乗らない僕には判らないけど、ずっと乗ってるとお尻が硬くなっちゃうのか。
今度肌荒れ用の薬を調合して塗ってあげよう。

「でもね、子供だましというけれど、誰も見破れないくらいにそっくり出来てるんだよ?」

一応抗議してみた。
形だけとはいえ僕は王様、彼女は臣下。
主導権をとられっぱなしなのは、ベッドの上でだけでいい。

「そのよく出来た人形へ廷臣が『陛下、ご決裁をお願いしたいのですか?』と尋ねたとしよう。
 君の身代わり人形は、それにどう答えるんだい?」
「うん、僕そっくりの声で『その事は、暫く考えてから返事をするとしよう』って言ってくれるんだよ」
「侍従が『そろそろ夕食のお時刻です』と言ったなら、それはどう答える?」
「え?、『その事は、暫く考えてから返事をするとしよう』だけど」
「『陛下、そろそろお休みの時間です』と聞かれたら?」
「……『その事は、暫く考えてから返事をするとしよう』」
「みんなから、『貴方は陛下の贋物ですか?』と詰め寄られたなら?」
「やっぱ、……よくよく考えると良くなかったかな」
「考えるまでも無く、悪い!!」

うう、いい考えだと思ったのにこんな落とし穴があったとは。
440ヘタレな魔王の物語4:2009/03/03(火) 22:03:29 ID:/llfFcog
 
「一体全体、何でそんな真似をするんだい!?」
「だって……」
「だって?」
「ここ暫く遠征続きで、ずっと会えなかったし……」
「え?」
「手紙の遣り取りだけで声も聞けなかったから、久しぶりに会いたいなーって思って。
 退屈な政務は怠けて、クローディアの所に来たくなっちゃったんだよ」
「うぅ……」

さっきまでの怖い顔が、僕の言葉を聞いてとたんに蕩けた。
にやけた表情を隠そうとしてか、薄く朱に染まった顔を僕から背ける仕草が可愛らしい。
クローディアは怒った時も美人だけど、やっぱり僕は怒ってない顔の方が好きだ。

彼女は僕の臣下であり、教師であり、同時に恋人でもある。
僕がなんとか王様稼業を続けていられるのも、みーんな彼女のお陰である。
宮廷に居る時は、僕が遣り残した仕事…… というか、僕にはまるで判らないので
彼女に丸投げせざるを得ない統治業を一手にこなしてもらい、
外に出たら僕の世界征服を成し遂げるため、彊域をどんどん広げるために軍を進めてくれているのだ。
いや、本当にありがたいと思っている。

でも、領土が広がるにつれ、戦場はどんどん遠くなる。
心の支えとも言うべき人に会えないのは心細い。
会えない時間が増えるにつれ、決裁待ちの案件がどんどん積み重なってくる。
未整理の書簡が溜まっていくのを見ると、僕は何だか落ち着かない気持ちになってしまう。

一応は廷臣たちも心得ており、それらの処理は保留にしておいてくれるのだが、
王様である僕がしっかりしない所為で、皆が困ってるのではないかと思ったりもする。
まるで、ムクムクと毛を伸ばした羊たちを、刈りもしないで放置しているような感じだ。
そういう訳で、身代わり人形を作ったときにまず会いたいと思ったのは、
グロリア殿でもグレダでもなく、僕が一番頼りにしている人、クローディア姫だったのだ。

「ごめん、僕を王様にしてもらったのに、いつも迷惑掛けてばっかりだよね。
 クローディアの顔が見たいなあ、声を聞きたいなあ…… なんて思ったばっかりに、
 また厄介なことになっちゃうよね」
「う、ううぅ…… ずるいなぁ! そんな言い方されたら、これ以上怒れないじゃないか!?」

こう言わなければ、まだ説教を続ける心算だったのか? ――恐ろしいことだ。
441ヘタレな魔王の物語4:2009/03/03(火) 22:04:19 ID:/llfFcog
 
「まあ、はるばる私に会いに来てくれたことに免じて、今回は許すよ」
「本当に?」
「ああ…… 実際、私も君に会いたかったしね」

クローディアは本当に嬉しそうに、僕の顔を見詰めてくれた。
その瞳には、普段の凛々しい姫将軍さまの威厳はない。
なんというか、普通の女の子っぽい感じだ。

「わざわざ、私の顔を見るためにここまで来てくれたんだね…… 嬉しいよ」

潤んだ瞳を細めながら、微笑むクローディアの顔が僕の方に近付き、そのまま二人の唇は重なり合った。
しなやかな腕が、僕の首を抱え込むように巻きついてきた。
唇の柔肉同士が触れ合い、互いの存在を確かめるように絡む。

 ちゅっ、
 ちゅっ……、
 ちゅっ…………、
 ちゅぅぅぅぅーーーーーー……………っ!?

(む、むごごごごーーーー!?)

思う存分キスされたまま、呼吸もままならず僕はジタバタ暴れた。
逃げようにも、両手でがっちり顔を固定されて逃げようがない。
彼女が満足するまでじっくりと口を吸われ尽くした後で、ようやく僕は解放される。

「ぷはーーっ…… うふふ、久しぶりのキスは嬉しいね」

久しぶりどころか、危うく最後のキスになるところでした。
長い禁欲明けのキスにご満悦といった感じのクローディアだけれど、
僕はそんな彼女に、何と言うか…… そこはかとない身の危険を感じた。

「じゃ、じゃあ王様のお仕事に戻らなきゃいけないから、今日の所はこれで……」
「待った!」

クローディアの手が、僕の衣装を掴んだ。

「今更戻ろうが、ちょっと遅れて戻ろうが、大きくは変わらないと思わないかい?」
「えっ?」
「ならば、折角会いに来てくれたのだもの。もう一寸ゆっくりしていっても良いだろう?」
「で、でも、皆待ってるし……」
「私も、ずっと君と会える日を待ってた!」
「うわわっ!」
442ヘタレな魔王の物語4:2009/03/03(火) 22:05:16 ID:/llfFcog
 
椅子ごと押し倒された僕の上に、クローディアが圧し掛かる。
はじめての時からずっと、こんな感じで主導権は彼女側にある。
牧羊犬の躾と同じで、初めにガツンとやっておかなかったのがいけないんだろうか?

「フフフ、逃がさないよ?」
「えーと、その、逃げたりしないから、どいて欲しいな」
「ヤダ」
「やだって…… むぐっ」

クローディアの唇に、僕の言葉は遮られた。
さっきと同じくらいに激しい口付けだった。
唇を重ねつつ、彼女の手は僕の装束を解きに掛かる。
はだけられた襟元から、細いけれど鍛えられた指が忍び込み、僕の胸板を撫でていく。
(うう、ここまできたら覚悟を決めなきゃ)
僕は手を伸ばし、クローディアの背中から腰、脇の辺りに愛撫を返す。

「あんっ ……うふふ、その気になってくれたんだね?」

嬉しそうに笑ったクローディアは、襟元から引き抜いた手を今度は僕の下肢へと移した。
腰帯を解いて差し込まれてきた手が、僕のモノを掴み、握る。

「はぅっ?」
「うむ、こっちもその気になって来たみたいだね」
「ううう、ちょっと握るの強すぎ……」
「まったく、憎らしいことだ。私は進軍中ずーっと禁欲しているというのに、
 君は王宮でヤりたい放題なんだからな」

ちょっとスねた顔で、僕を睨むクローディア。
でも、美人はそんな顔も綺麗なんだよなあ。

「ヤりたい放題なんて、してないよ」
「ほう? ミリアンやモーディの件はどう説明する気かな?」
「それはその……」

ミリアンもモーディもクローディアの侍女で、主人が出陣中に僕と懇ろになった女の子たちだ。
でも最近になって、二人とも急に縁談が纏まったとかで、王宮から居なくなってしまったのだ。
なかなか可愛い子達だったので、ちょっと僕はがっかりしてたんだけど……
まさか、クローディアが裏から手を回して追い出したのだろうか?
443ヘタレな魔王の物語4:2009/03/03(火) 22:06:38 ID:/llfFcog
 
「それは?」
「えーっと、それはその…… ごめんなさい」
「ほらね」
「……うぎぎぎぎっ」

力いっぱいナニを握り締められて、呻き声を漏らす僕。

「怒ってる訳じゃないんだよ。ちょっと悔しいなと思ってるだけだ」
「なら、少し力を抜いて欲しいんですけど」
「私は君一筋で、こんなに愛しく恋しく思っているのに―― 君にとっての私は、
 その他大勢な女の一人でしかないんだよなあ」

眉を顰めた顔に、憂いが浮かぶ。
心なしか、どこか眼が潤んでいるようにも見えた。
思わず、僕は叫んでいた。

「そ、そんな事無いよっ。クローディアは僕の一番の人だよ!」
「……本当かい?」
「ホントにホント! たとえ他の子に手を出しても、一番はクローディアだよ!?」

そうじゃなきゃ、抜け出してまで会いに来ない。
これからも王様としてやりたい放題するかもしれない…… いや、きっとするけど、
クローディアが好きな人筆頭だという事実は変わらない。
僕は彼女の瞳を見つめて、はっきりと断言した。

「フフフ、信じて上げる」

そう僕の耳元で囁くと、クローディアはナニを握り締める力を緩めてくれた。
そしてゆっくりと、付け根から筒先までゆっくりとしごいてくる。

「あぅ……」
「相変わらず、可愛い声で啼くね」
「あんまり可愛いとか言って欲しく無いんだけど…… 一応男だし」
「実際可愛いんだから仕方がない。私は可愛い君も好きで好きで好きで好きでどうしょうもないんだ」
「はうっ!」

先っぽの部分を指の腹で撫で回され、また情け無い声を上げてしまった。
強弱を付けた指裁きは、ほんの少し前まで処女だったなんて信じられない位に上達している。
ほぼ同じ時期に童貞を捨てたはずの僕が、なんでこんなに遅れを取っているのだろうか?
やっぱり生まれ持った才能というヤツには敵わないのかなあ?
444ヘタレな魔王の物語4:2009/03/03(火) 22:07:53 ID:/llfFcog
 
すでに堅く屹立した僕の物を、クローデイアは楽しそうに弄ぶ。
僕も負けては居られない。
クローディアの纏う絹服の隙間から、脚衣の中へと手を差し入れて――

 にちゃっ

「あんっ!」
(わわっ、もう濡れてるのか)

湿った感触が、指先に伝わる。
まだそこには禄に触ってもいないうちから、彼女の股間は濡れていた。

「驚いたかな? こんな早く濡らしてたなんて」
「い、いやっ、そんな事はないよ。(やば、顔に出てたかな)」
「はしたない女だと思う?」
「そんな事、思わない」
「でもね―― 」


熱い吐息を感じるくらいに顔を耳元に寄せて、クローディアは呟いた。


「 ――私が熱く濡れるのは、君を感じる時だけなんだよ」
「クローディア……」

彼女の名前を呼ぶ以外、口から何の言葉も出なかった。
ああ、もうっ。
そんなに熱い告白されたら、男冥利に尽き果てるってもんじゃないか!
きっと今の僕は、顔を真っ赤にしているだろう。
なぜならまた、僕の顔を見てクローディアが面白そうに微笑んでいるから。

「じゃあそろそろ、ずっーと君を待ち望んでいた健気な女に、ご褒美を貰えるかな?」
「うん」

一もニもなく僕は応じた。
っていうか、この状況で拒否できる奴が居るなら会ってみたい。
するすると服を脱ぎ捨てたクローディアが、僕の上に跨る。
僕は上手く納まるよう、片手をナニに添えて待ち受ける。
この体位でされるのは慣れているので、二人の呼吸は自然に合う。
(というか、彼女が騎乗位好きなのだ)
445ヘタレな魔王の物語4:2009/03/03(火) 22:09:16 ID:/llfFcog
 
「ん、んんっ……」

筒先が、温かく湿った柔肉に包み込まれる。
ゆっくりと、彼女が僕のを飲み込む。
うねる肉襞の存在を陽根で感じながら、奥へと刺さってゆく。
途中で、クローディアは腰を止めた。
いきなり最奥までは行かないのが、彼女の流儀だ。
奥に突き立てる前にたっぷり時間をかけて、情感を高めておくのが好きなのである。
初めは急がず、ゆっくりと引き戻して、また腰を落とす。
それを繰り返されると、僕の方も堪らなくなってきちゃうのだ。

「ウフフ、気持ち良いかい?」

クローディアは、そんな僕を余裕ありげな風に見下ろしている。
うー、また主導権を握られてしまった。
相変わらずといえば相変わらずだし、
そもそも彼女がこの体位を好む理由が、自分の好きな通りに動けるからなのだが、
このままではちょっと情け無いぞ。

「えいっ」
「きゃっ、」

僕はクローディアが腰を落としてくる瞬間を見計らって、下から突き上げてやった。
当然相手が予想していたよりも強く深く入る訳で、
彼女の唇から、それこそ珍しく可愛らしい叫び声が上がった。

「へへー」
「もう、やってくれるじゃないか!」

たまにはこうして逆襲もしておかないと、尻に敷かれっぱなしになっちゃうものね。
446ヘタレな魔王の物語4:2009/03/03(火) 22:11:26 ID:/llfFcog
 
「そっちがその気なら、私も本気を出してしまおうかな?」
「え?……ふぁぅ!」

ぎゅっと、締めつける力が強まる。
なにがナニを締める力が強まったのか、一々ここでは説明すまい。
そのまま雁首ごと持ち上げられるかの如く、引き抜かれて行ったかと思うと、
一転、今度は粘膜が吸い付いくかのように絡みついてくる。

「ク、クローディア…… こんなの何処で……」
「鍛えた」
「ちょっ、鍛えたって…… あっ、ぅ……」
「うかうかしてると、他の女に君を取られてしまうかと不安だったのでね」

あっさり言ってくれますが、宮廷では政務、外地では遠征と忙しい中、
何時そんなの鍛錬する暇があったのやら?
心に浮かぶ疑問を問いただす間もなく、締め上げる力に強弱も込めて、
クローディアは僕のをしごき上げる。
髪を振り乱し、亀頭が子宮を突くたびに嬌声が洩れる。
激しい動きに、目の前で彼女の胸がたゆたっていたが、僕にはおっぱいに手を延ばす余裕も無かった。
何度も何度も往復し、擦り上げられるうちに、会陰の辺りをぞわぞわと催してくる感覚がある。
我慢しようにも、抑え切れるもんじゃない。
僕のそんな気配を察して、クローデイアは腰を上下する動きを強めていく。

「あっ、うぅっ、も、もう…… んっ、んんっ!」

陽根を走り抜ける名状しがたい快楽とともに、僕はクローディアの膣中に精を放っていた。

「ん、一杯出したね」
(……うー、また良い様に弄ばれちゃった。我ながら情け無いなあ)

でもなんだか、こういう関係もまんざら悪くないと思う自分も居たりして。
今でこそ彼女を呼び捨てにしてる訳だけど、初めは『クローディアさま』と呼んでいたんだし、
指輪の力がなければ、僕は彼女の足元にも―― いや、
彼女が乗った馬の蹄の跡にも近寄れない身分だったんだし。
なんとなーく、彼女の尻に敷かれるのも、僕の運命のような気もしてるんだな。
事が終わった後の、気だるくも心地よい感慨の中、僕はそんな事を考えていたのだ……が、

 き ゅ っ

「あうっ?」
「何時まで休んでるのかな。私はまだ満足させてもらってないよ?」

胎の内に納まったままの僕のモノを締め上げつつ、クローディアは笑いかけてくる。

「えーっと、えーっと」
「さあ、お楽しみはこれからさ……」


・・・・・・・・・
447ヘタレな魔王の物語4:2009/03/03(火) 22:12:47 ID:/llfFcog
 
理屈と膏薬はどこへでもくっつくとやら、
僕が戦地に突然現れたことも、それなりに理由がつくものだ。

『恐れ多くも、戦地観閲にお越しになられた陛下に、敬礼!』

いつの間にか、僕は抜き打ちで戦況視察にやって来たことになったらしい。
(もちろん、考えたのは僕ではない)
大勢の兵隊さんが直立して敬礼する中を、僕とクローディアは並んで進む。

「うーん……」
「どうしたの?」

僕が唸ったのを聞いて、クローディアが小声で尋ねてくる。

「この式典、急に決まったんだよね」
「そうだけど、それが何か?」
「いや、誰もが皆、真剣な顔をして僕の観閲を受けてる姿を見ると、
 急にこんな式典をやらされて大変なのに、みんな真面目にやっているんだなあって」
「ふふ、そう思うのなら、君もこれからはキチンと宮廷儀式に努める事だ」
「……なるべく、頑張る」

お尻が痛くなったら、また嫌気がさすかもしれないから、あんまり確約はしない。
しかし、こう皆真面目に整列する姿を見ると、退屈だからといって王宮を抜け出してきた自分が、
なんとなく恥ずかしくなる。
僕も一兵卒として従軍中は、重い軍装を背負わされて長い間歩き通しで、心底辟易したものだ。
きっとここにいる兵隊さんたちも、同じ苦労をしているのだろう。
それでも尚、こうして全員緊張の面持ちで僕を迎えるのは、
王様の観閲という出来事をとっても重大に捉えているからに違いない。
うーん、やっぱり僕も王様になったんだから、一生懸命頑張らなきゃいけないなあ。
ちょっと退屈な儀式も我慢するか。居眠りは二日に一回に抑えよう。


そう決意を新たに新たにした僕だが、ここでもう一つ考えたことがある。
将兵の視線が集まる観閲式で、僕はクローディアと並んで歩いてる訳だが、
姫将軍の頬がツヤツヤで、王様がゲンナリした青い顔してるってのはどうなんだろう? 威厳的な意味で。


(終わり)
448名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 22:32:54 ID:2k0xEmxA
リアルタイム遭遇!! GJ
449名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 23:23:16 ID:bZr1wHMp
魔王ってことは二人とも魔物なの?
450名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 19:11:26 ID:9sKrHSkn
おお久し振りに読めた、GJ
しかし思ったんだが、「政治について理解できる知性が欲しい」
とか願えば良いんじゃないか?
451名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 19:42:17 ID:DZ4BMGlb
>>450
バカに付ける薬は、流石に魔法の指輪でも無理があるような・・・
452名無しさん@ピンキー:2009/03/06(金) 23:14:05 ID:l2cV55OA
>>449
いや魔王は主人公だけ
ちなみに魔王といってもドラゴ○ボー○じみた指輪をもってるだけ
だよね?
453名無しさん@ピンキー:2009/03/06(金) 23:41:27 ID:eTc85YZY
指輪を使って直截的な願いを叶えていないから、
ドラゴン玉のような便利な代物じゃなくって、
壊れない祈りの指輪+全魔法使用可のチートアイテムってところかね。


保管庫を読むと、第三話でグレダが人間相手に云々言ってるから、
主人公は元羊飼いの人間でいいはず。
454名無しさん@ピンキー:2009/03/14(土) 01:36:46 ID:I/PDnMN3
「うぐっ……ごぉ……ぐっ……」
喉の奥から、声とは言えない苦悶の音が発せられる。
もちろん、こんな声を出しているのは自分の意思ではない。
牢獄の壁に据えつけられた手錠、それを両手首にかけられたまま、床に両脚を投げ出している。
着衣は無く、全身を様々な体液によって濡らしたまま、今は咽頭部を犯されていた。
「……へえ……触手獣の陵辱にも耐えてるんだ。人間にしては出来がいいね」
牢の外側で誰かが話している。
今まで気がつかなかったけれど、ずっとその場にいたのかもしれない。
「確かこの前は獣人に抱かれてたよね。たしか――王国の騎士団長とか言ってたっけ。名前は?
……ああ、そうだったね。始めは――負けた相手に犯されるのを嫌がっていたみたいだったけど?」
「はい。6日目まではそれなりに抵抗しましたが、今は――」
「へえ、素質があったのかもしれないね。まあ人間の女にしてはよく頑張ってるほうだよね。
このぶんなら、他のよりももう少し役に立つかなあ」

「うぐっ、く……、んっ、うっ、んっ……」
触手の動きが速くなってきた。
唇から入り込んだ太い幹が、喉を擦り、食道までも入り込んでいるのだ。
しかしそれが心地いい。
(あっ……もっと……!もっと来て……!)
顎が悲鳴を上げるが、もはやそれすらも快感だった。
「ぐっ……!うぐっ!むぐぅ!」
涙に濡れた蒼の瞳が虚ろになっていく。
(もう……イ……くっ……!)
異までも届かんとするほどに触手が押し込まれ、喉を擦りあげた。
その瞬間、手枷の鎖が張り詰めて、盛大に金属音を立てた。
彼女がその身体を引き攣らせたのだ。
「むぐううぅぅぅ!!」
びゅぶっ、びゅく、びゅくっ、びゅるううぅ!
奥まで挿入したまま、触手もまた彼女と同様に痙攣を始めた。
通常の女性ならば、最低でも咳き込み、拒絶するはずの行為だが、彼女は余韻にすら浸っている。
(ああ……お腹が……熱い……)
身体の中にぶちまけられたものも、全て腹の中へ落ちていった。

「喉でイくようになったんだ。王国随一の戦士とかいってたけど、調教してみれば可愛らしいもんだね」
「ご興味をもたれましたか。では、これのお相手をなさりますか?」
「いや、ボクはまだ遠慮しておくよ。これだとまだ壊れちゃうかもしれないからね。
それに先客もいることだし……またヒマなときに見に来るよ。
……あ、でもボクに手傷を負わせた分の刑は緩めないでね。アレはちょっと痛かったんだから」
「承知しました」

カシャン、という音とともに、囚人の手枷が外れ、新鮮な精にまみれた身体が崩れ落ちた。
その上に、筋肉の鎧に包まれた雄の肉体が覆いかぶさる。
褐色の肌を白い女にすりよせ、待ちきれぬように下半身をせわしなく擦り付けた。
(オー……ク……)
彼女はいまだ陶然としたまま、次の相手を迎えることになる。
触手の次は、自分を捕らえたオークとの性交。
これが、今の世界の支配者に逆らった、かつての騎士の日課であった。
「……よし、ヤれ……夜明けまで存分に注ぎ込むんだ……」

(省略されました・・全てを読むには妄想で補完してください)
455名無しさん@ピンキー:2009/03/16(月) 05:25:22 ID:7MTgeAsq
陵辱注意くらい掲げた方がいいんでないかなーと思う
456名無しさん@ピンキー:2009/03/17(火) 00:00:31 ID:PgM3B4u/
まあ一言くらいは…ね。

しかしオーソドックスで、実にエロパロ板らしい作品ではないだろうか?


私からはGJを送っておく。
457名無しさん@ピンキー:2009/04/01(水) 03:24:55 ID:jVhQPhwB
思ったんだが
このスレって、女兵士が人間男が人外ばっかで
女兵士が人外なのあるっけ?
458名無しさん@ピンキー:2009/04/04(土) 22:04:33 ID:xhdpeNhe
>>407とかがあるよ。種族名はネタばれになりそうだが……。
459名無しさん@ピンキー:2009/04/05(日) 04:27:07 ID:udo6Iemv
ああ、確かにそうだけど
やはり比率が・・・
460名無しさん@ピンキー :2009/04/06(月) 00:54:56 ID:53b84fUb
人外の女性が〜スレがあるからそっちに流れてる人もおおいんじゃないのかね
461名無しさん@ピンキー:2009/04/06(月) 20:33:56 ID:iNskKXbT
魔王の人、マダー?
462名無しさん@ピンキー:2009/04/09(木) 23:43:40 ID:Ed32vACY
あげ
463名無しさん@ピンキー:2009/04/12(日) 21:32:26 ID:cNWwKwpw
圧縮回避
464名無しさん@ピンキー:2009/04/13(月) 12:17:10 ID:aWCXJoea
保守
465名無しさん@ピンキー:2009/04/15(水) 15:54:56 ID:U9Wa825l
保守
466名無しさん@ピンキー:2009/04/15(水) 22:43:45 ID:T9Z4v1fB
保守……いつかこのスレに戻ってくるときのために。
467名無しさん@ピンキー:2009/04/17(金) 08:19:44 ID:i+J5IbJd
hosyu
468名無しさん@ピンキー:2009/04/26(日) 22:33:12 ID:JvOlp04C
保守
469名無しさん@ピンキー:2009/04/29(水) 21:05:57 ID:hp1zIWlP
圧縮回避
470名無しさん@ピンキー:2009/05/03(日) 22:19:52 ID:Ihh1oOTW
ほしゅ
471名無しさん@ピンキー:2009/05/06(水) 15:18:26 ID:WFrrcKzf
保守
472名無しさん@ピンキー:2009/05/07(木) 16:34:33 ID:oxv6bhXj
まだか?
473名無しさん@ピンキー:2009/05/12(火) 17:02:01 ID:Ue8fy+Pf
ここのスレ来る人って
女兵士は、人類中だとしても最強クラスとかのと
平均位の武勇か
どっちで期待してるのかな
474名無しさん@ピンキー:2009/05/12(火) 20:06:48 ID:P62qTqYW
どちらでも一向に構わんッッ!
475名無しさん@ピンキー:2009/05/13(水) 09:01:55 ID:tap+78A8
同じく! だが
お尻は、大きくて肉付きがたっぷり・・よりも
締まって、がっちり抱えたら逃げ出せない位の小ぶりなのがいい・・かな
男装○○に通じる好みかもしれん

えー、皆さんはどうですか?
476名無しさん@ピンキー:2009/05/13(水) 13:23:13 ID:6FHOg802
この頃流行りの女の子ですね
477名無しさん@ピンキー:2009/05/13(水) 22:07:37 ID:NruFujzF
強さの話題で思い付き
人類だけでなく、女勇者つまり神魔とか含め
最強レベルの女英雄が魔王とか敵国の王を逆レイプ
とかに興奮する人はいるだろうか?

ちなみにスタイルは
美脚
は譲れんw
478名無しさん@ピンキー:2009/05/13(水) 22:38:32 ID:CThWDQFy
あー、そういうの昔プロットだけちょっと作ったなあ。
国盗りを狙う女悪将軍の正統王子陵辱もの。
少年王子をその幼馴染みの少女騎士の目の前で組み敷き、ダブルで犯すってやつ。少女騎士のほうは部下が担当ね。
いわゆる寝取られもの? だが、残念ながら美脚はフェチがないので該当しない……
479名無しさん@ピンキー:2009/05/13(水) 23:52:58 ID:1eKk3JaQ
>>476
だってだって、なんだもん?
480名無しさん@ピンキー:2009/05/14(木) 19:57:52 ID:4sCLNtx6
美脚にしてもどう強調するか
やはり長ズボンに脛当てで脱がせてギャップを楽しむか
あるいはビキニアーマー的に日常から晒すか
481名無しさん@ピンキー:2009/05/18(月) 14:17:55 ID:ohgMyIv7
保守
482名無しさん@ピンキー:2009/05/22(金) 00:02:27 ID:MQZpoFSW
ほっしゅほっしゅ
483保守小話:2009/05/22(金) 12:17:03 ID:axpmE2Pn
えろをまともに書いたのが初めてなので見苦しいと思いますが。


ある暑い日の午後。
草いきれの中、モニカは鎌を持つその手を休め、ぐっと背伸びをした。
屈みっぱなしの姿勢は、腰にくる。ついでに体もひねると、彼女は眉間にしわをよせた。
「おい、マイク! おまえ、サボるなとあれほど言っただろう!」
背の高い茂みであるのをいいことに、同僚の男は地面に寝転がっていた。
「マイク!」
「……うっるせーなぁ。こんな仕事、俺たちがするようなことじゃないだろ」
「しかし、これも立派な任務――」
「だからって、2人はねぇだろ?」
「それは……」

海外派兵により本国から海を超え、はるばるこの地にやってきたのはもう3ヶ月ほど前のことである。
だが、斯く斯く然々、正義感満載で上官から疎まれたモニカと、
ちゃらんぽらんちゃらんぽらんして同じく上官から疎まれたマイクは、
現地復興支援という名の下、体よく僻地に追いやられ、毎日毎日草刈りに精を出していた。

金髪に豊満な肉体と軽薄に思われがちな見た目に反して、モニカは真面目一辺倒の性格である。
しかし、1人ではただの空回り。マイクは気分にむらがありすぎ、2人は小さな諍いを繰り返していた。
「――た、確かに私たちだけなのは大変だ。けれど、与えられた任務は全うすることが……」
「……あーっ、もう、うるせーなぁ!」
勢いよく起き上がると、マイクは立ちはだかる草をものともせず、モニカに詰め寄った。
「取り敢えず、ヤらせろ」
「なっ、おまえ、場所を考えろ!」
「てめぇが元気過ぎるからだろ。すっきりさっぱり心地よい疲労、いや、ヤりまくってクタクタのボロボロにして明日動けなくしてやる」
「それは単なるおまえの欲求だろうっ!」
ニヤリと笑うとマイクはモニカの頭を掻きつかみ、激しくその唇を貪りはじめた。
抵抗しようにも、やはり己より体躯のいい男の力にはかなわない。
しかも、モニカには弱点があった。
「……ふーん。やっぱ、おまえ弱すぎだな」
片手でモニカの尻肉を掴み、絞るように揉み込む。ついでに自分の高ぶりも下腹にこすりつけると、モニカはあっという間に腰砕け状態になってしまった。
「ぅ、うるさい」
「真面目だからか、想像力は抜群だよな……。もう突っ込まれること考えてんのか?」
「ばっ、んなわけ、ぁ、ひゃああ!」
厚い軍服の上から今度は胸を鷲掴みにされ、モニカはへなへなとへたり込んでしまう。
「この前から思ってたけど……、おまえ、今までよく軍隊で無事に生きてこれたな」
「それは、こ、こんなはしたないことは、したこと、なかったからだっ」
モニカの快感で潤んだ瞳と乱れた呼吸は、容赦なくマイクの理性を削っていった。
「――感度良すぎってのも、考えもんだな」
「んっ、やっ、ダメだってばぁ!」
勝手知ったる軍服を手早くはだけさせていく。
屋外のため全てを脱がせることは出来ないが、その中途半端さが、普段真面目な彼女と今の快感に喘ぐ彼女の両方を思い起こさせて、
マイクはそのギャップに目眩がしそうな興奮を覚える。

先日、酔った勢いと好奇心でモニカと関係を持った。
頭が硬そうでいかにも処女然とした彼女に、正直全く期待していなかったのだが、今ではこの体たらく。
まだまだ硬さの残るモニカの体を気遣うつもりでも、ついついがっついてしまうのだ。

今だって、随分手荒な愛撫にもモニカの体はしっかりと反応して、その中心はとろとろのぐちゃぐちゃである。
けれど、まだ中を解さないとモニカは若干の痛みを感じるらしい。
彼女を四つん這いにさせると、マイクは背後から覆い被さり耳元に口を寄せた。
そのまま息を吹きかけ食むように耳を舐る。
それだけでモニカの体は慄くように震えた。

「ふ、っう、…はぁ、ああっ」

指の間に突起を挟み込み、垂れ下がる双丘をたゆたゆともみしだく。
時々突起をしごき上げたり引っ張ったりするたびに、悩ましげな吐息が漏れていく。
484保守小話2:2009/05/22(金) 12:17:27 ID:axpmE2Pn
「――あーあ、この調子じゃ、一回じゃ足りないかもなぁ」
「ばっ、か……1人でヤってろ……」
「あ? ……ちげぇよ、おまえの体が満足しないんじゃ、って」
こんなにびちゃびちゃなのに、とマイクは下腹部に手を滑らせた。
繁みを掻き分けると、ぬるつくそこは触れただけで小さく水音が聴こえる。
ぷっくりと膨らんだ肉芽は手のひら全体で振動させ、中指はまだきつい中を少々乱暴にかき回す。
自分の腕を噛み締め声を殺すモニカに、マイクは胸に小さな痛みを覚えた。
いじらしい、と思ったのか。征服欲が満たされた歓喜からか。
どちらにしろ、或いはどちらでもないにしろ、モニカの媚態はマイクの興奮を助長するには充分であった。
ベルトを緩めていただけだった自分のズボンから、屹立したそれを取り出す。
「……いくぞ。力を抜け」
その言葉を言い終わらないうちに、マイクはゆっくりと腰を落としていった。
「ふっ、は――はあぁぁぁ……」
「く……っ」
処女だったからと思っていたが、モニカのきつい締め付けはどうやら生来のもののようだ。
モニカのためというよりは自らのプライドを保つために、マイクはゆっくりと動き始めた。
「すっげ……。締めすぎ……」
「はぁっ、す…まない……」
「…………なに謝ってんだか」
一生懸命深呼吸して力を抜こうとするモニカを無視するように、マイクはさらに深く押し込めていく。
蜜にまみれた怒張に押しつけるように、肉芽をぐりぐりと押しつぶす。
嬌声を漏らしながら喘ぐモニカをしっかりと抱き留めると、マイクは激しく揺すり上げた。
「はっ、ぁぁ……、…はぁあっ……、あ、あ、……ああぁぁぁ!」
マイクはぎりぎりまで肉壁を味わうと、彼女の臀部に白を散らした。


持っていたタオルでモニカの体を拭うと、マイクは自らの身支度ををすませる。
呼吸を荒げて弛緩していたモニカも、のろのろと起き上がると自身の服を整え始めた。
「…………良かったのか?」
「あぁん? 何が」
その応えにモニカは瞬時に顔を赤らめると、きっとマイクを睨みつける。
「おまえが、何回もしたいっていうからこっちはそれなりに覚悟を、して……っ!」
唖然としたマイクの表情を見て、数瞬のちにモニカは己の失言に気づいた。
猛烈にいたたまれなくなり、多少ふらつきながら立ち上がろうとしたところをマイクに腕を取られ、胡座をかいた彼の膝の上に乗せられてしまった。
「――おまえさぁ……、なんかすげぇ勘違いしてるよな」
バタバタと暴れるモニカを上手く抱き込む。
「確かに、何回でもしたい。が、ここじゃ気持ち良くなりきれないだろ、お互い」
「はっ!? おまえ、結局――っ」
「そーれーにーだーな」
再びもがき始めたモニカをぐいぐいと抱きしめる。今度は手加減なしだ。
「――余り者同士とはいえ、俺たち仲間だろ。肝心なところで、俺の顔色伺うのはやめろ」
襲ったも同然だったのにモニカがマイクとの関係を続けた理由。
知ってしまった快楽故、というのもあるが、男の生理的欲求に対するちょっとした誤解と責任感によるのではないかとマイクは感じていた。
マイクは男だし、しかも女の体が好きだ。あればできるだけ味わいたいが、なきゃないで我慢することはできる。
しかしモニカは、男と女2人っきりのこの状況においてマイクがモニカを求めたくなるのはしようがなくて、そしてそれに応えるなら精一杯頑張ろうとするのだ。
健気というか真面目というか。
与えられた状況に対して必要以上に一生懸命になってしまう、何事にしても。
「俺は…………」
我に帰る前に。
「好きでもない女を抱くほど、お人好しじゃねぇんだよ」
「…………調子のいいことを。……言うな」
強張っていた体の力が抜け、モニカはこつんとマイクの胸に頭を預けた。


この日初めて、2人の唇が重なった。
485名無しさん@ピンキー:2009/05/23(土) 09:55:42 ID:4TPwEZOF
OH! GJ!
なんか、1スレ目のアズリン&エゼルを思い出した
エロもいいけど、連帯感というか仲間意識みたいのがあるのが心地いい
アズリンさんと違って巨乳なのなw
仲間に対して遠慮しないのも凄くGJ!
486名無しさん@ピンキー:2009/05/28(木) 09:51:08 ID:UttDk6xS
GJ〜!
487名無しさん@ピンキー:2009/05/28(木) 14:17:34 ID:lS13kTfN
GJ!!
488名無しさん@ピンキー:2009/06/07(日) 12:21:27 ID:qUQ5hxA2
現在、長期にわたって全規制の影響を受けている職人の皆様。
ただいま、こちらのスレ(したらば・エロパロ避難所)に置いて代理投下の以来が行えます。

書き込み代行スレ
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/movie/2964/1060777955/

投下して欲しいスレの名前とアドレスを張り、その後、作品を書き込めば有志のかたがそのスレに作者の代理として投下いたします。
(数日ほど、時間が空くことがあります。できれば、こちらに書き込める方、積極的に代理投下のチェックをお願いします)


489名無しさん@ピンキー:2009/06/15(月) 22:46:45 ID:go6JQBU/
ほしゅ
490名無しさん@ピンキー:2009/06/18(木) 02:27:24 ID:YLt0TTQP
魔王様の復活を祈りつつ保守!
491名無しさん@ピンキー:2009/06/21(日) 00:25:11 ID:SzWVdRf/
492名無しさん@ピンキー:2009/06/22(月) 01:23:04 ID:lQthN2Gv
493名無しさん@ピンキー:2009/06/22(月) 02:13:30 ID:lQthN2Gv
霊験あらたかだか、どうだか。
山は高く私の荷物は重い。だがそれくらいは鍛えたこの体に苦ではない。
荷物であるなら運ぶことに否やはない、むしろ喜んでこの山を越えるくらいだ。
だが、問題なのは、この男だ。
「つーか、この山、ありえなくないすか?」
うるさい、と私はやつに背を向けたまま答える。
「これはな、保守山と言って、だれかがおさい銭のように投下し、本来の書き手が来るまで、
立ちはだかる堅い山…」
その時点でもうやつは下半身を脱いで、俺の堅い山とか言っているのだから救いようがない。
「私一人で登るぞ」
しばらくM字開脚のままふてくされていたやつはやっと起きあがって、
「僕、エクスタシー感じると鳥になるんだけどな」
あなたも乗せられる、と首をかしげてほほ笑む。

「馬鹿言うな」
言って私は、次の手掛かりに手を伸ばしつかんだそこで、石でできたそれはもろくも崩れ、
半身が空に遊び―――

「落ちる―!!」
騒いだ口を、力強い彼の腕が引き寄せてふさぐ。
その後すぐ生ぬるい感触が襲って来、舌をすくい上げられる。
彼は、鳥のようだった。
「どうする?」
陸に戻りくぐもった声で聞かれ、
どうするって?と一応聞いてみた。

彼はにこっと笑い「お好きなように」と言った。
もう…
私はゆっくりと彼のツンと立ったものを口にくわえながら少し彼をにらんだ、
あったかいそれはどこにも角がないのに貫く意志に満ち溢れてる。
ぞくっとする、これが私の中を貫くとしたら。



向こうになんか着きたくなくなっちゃうでしょ、
こういうの、嫌いなのよ、とふてくされて言った。


おしまい。
「保守岳」でした。
494名無しさん@ピンキー:2009/07/10(金) 22:25:03 ID:j2gOzr9I
GJ
495名無しさん@ピンキー:2009/07/17(金) 03:28:02 ID:Td7k0P3Y
496名無しさん@ピンキー:2009/07/24(金) 23:57:57 ID:KUzMp6cY
期待age(・ω・)
497名無しさん@ピンキー:2009/07/26(日) 12:58:59 ID:NhyK9eUR
また賑わうといいな
498名無しさん@ピンキー:2009/08/02(日) 02:59:34 ID:DtI5B0Ox
499名無しさん@ピンキー:2009/08/05(水) 00:06:13 ID:1QQ1jqPT
小ネタでもいいから…
500名無しさん@ピンキー:2009/08/05(水) 19:35:09 ID:Lbpm/m3S
諦めれ。スレの寿命を迎えつつあるのさ
501名無しさん@ピンキー:2009/08/05(水) 20:20:12 ID:mowt5Akf
手が空けばまた書きに来たいんだけどねえ……
502名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 02:10:40 ID:2YG4yLQW
503名無しさん@ピンキー:2009/08/18(火) 19:04:25 ID:aFW3L2nV
世界陸上の女子選手の逞しい腹筋を見ながら、
「ああ、リアルな女兵士はあんな感じなのかなあ」と思ってる今日この頃。
504名無しさん@ピンキー:2009/08/19(水) 21:19:09 ID:YNNGnEXa
腹筋の逞しい女兵士…すばらしいじゃないか
505名無しさん@ピンキー:2009/08/20(木) 09:20:15 ID:rGEsoH8F
乳と言う名の筋肉だよな…。
世界陸上に出場してる選手の体の美しさに見とれはするが
乳のサイズには泣けるな。
全部筋肉だ、あれは。
506名無しさん@ピンキー:2009/08/26(水) 03:19:50 ID:DW6ER5AB
アリューシア好きだ!
507名無しさん@ピンキー:2009/08/27(木) 07:12:19 ID:JOIvA9JB
ほう…
>>506はなかなかの度胸をお持ちのようで
508名無しさん@ピンキー:2009/08/27(木) 23:31:43 ID:33k0hvXu
みんなこのスレ見ているんだなあ。
投下はないものか…
509名無しさん@ピンキー:2009/08/27(木) 23:42:02 ID:IrewL++q
毎晩全裸で魔王様の降臨をお待ちしているんだが、やはり生贄が必要か?
510名無しさん@ピンキー:2009/08/30(日) 23:51:00 ID:YGDL2FmC
君がイケニエだ
511名無しさん@ピンキー:2009/08/31(月) 15:03:21 ID:foqGDr0h
そうそう
512名無しさん@ピンキー:2009/09/01(火) 01:59:42 ID:lJFSDVyc
キモオタの俺が生贄になってもヘタレな魔王すら召喚出来ない予感orz
513名無しさん@ピンキー:2009/09/07(月) 02:41:26 ID:89yz4s92
ご立派様なら・・・w
514名無しさん@ピンキー:2009/09/13(日) 01:24:15 ID:GlCQX0xp
圧縮回避保守
515名無しさん@ピンキー:2009/09/13(日) 02:08:57 ID:DNdE4wTm
そろそろだな
516名無しさん@ピンキー:2009/09/13(日) 02:18:00 ID:ZYOJZFTL
グルドフとアリューシアに会いたいなぁ。
小ネタでいいから。
517名無しさん@ピンキー:2009/09/13(日) 16:20:50 ID:vaBryTJ1
「Theガッツ!」シリーズのタカさんみたいな
女兵士がいたらいいのになぁ
518名無しさん@ピンキー:2009/09/13(日) 20:21:36 ID:OCWf//HJ
DQの女戦士みたいなのがデカい斧とか振り回して強いからこそファンタジー、といってみる
519名無しさん@ピンキー:2009/09/13(日) 23:42:14 ID:NVk+btPR
タカさんがファンタジーでないと申すか
戦士らしいのも戦士らしくないのもどっちもいいものだよ
520名無しさん@ピンキー:2009/09/14(月) 05:36:02 ID:6TdVS/WT
ごつい体に初な乙女な心の女兵士が、優男の文官にたらしこまれたり。
521名無しさん@ピンキー:2009/09/15(火) 01:29:37 ID:IGq5HLyQ
その優男の文官の出世に散々利用された挙句ポイ捨てされる、昼ドラ的展開。
522名無しさん@ピンキー:2009/09/15(火) 02:18:11 ID:xSM5JuWJ
>>520-521

伝説の魔神、ナヴァルの再来と人々から恐れられるアニーは、今小鳥のように震えていた。
目の前にはむくつけき大男―――とは全く無縁の、華奢な体躯の優しげな微笑を浮かべた男が一人。
吹けば飛ぶような細身の身体は、アニーが本気になればあっという間に腕をへし折り、窓から叩き出しているはずだ。
なのに、今や指一本自由に動かすことが出来ない。
男は柔らかい笑みを浮かべながら、またひとつ、口づけを落とした。
男の腕に挟まれたアニーはまた小さく震え、吐息を洩らす。

「……可愛い」

普段のアニーなら、烈火の如く怒り狂ったであろう。
強靭な肉体と精神を誇る女戦士にとって「可愛い」という言葉は屈辱以外何物でもない。
なのに―――
アニーは、胸の奥底から沸き上がる歓喜にうち震える。吐息にはいつしか甘やかなものが混じる。
こんな―――こんな自分がいたなんて。
驚異を持って、男を見上げる。
涙がつうと睚を伝い落ちるのを、男はその白い指先で絡め取る。

「怖がらないで……」

また、羽毛のようなキスをひとつ。
たったそれだけなのに、男の触れたその部分が炎のように燃え上がる。

「僕のアーニャ」

耳元に涼やかな声で囁かれ、アニーはついに小さな声を洩らした。
523名無しさん@ピンキー:2009/09/15(火) 02:19:40 ID:xSM5JuWJ
軽いネタのつもりで携帯で書き始めてしまいました。
とりあえず、続きそうなんで、メモで書き貯めて落とせそうならまた書きます。
524名無しさん@ピンキー:2009/09/15(火) 02:47:05 ID:eoYDE0zF
>>523
全裸で待ってます。
525名無しさん@ピンキー:2009/09/16(水) 03:17:48 ID:kycnwXPJ
>>523
同じく全裸で待ってます。
でも風邪気味なんで靴下だけ履いときます。
526523 ◆q5zSSkwO.2 :2009/09/16(水) 17:04:37 ID:0P/6Pgz+
続き、行きます。
NGワードにしやすいようにトリップを入れました。
前編でエロなし。
初の携帯投下で細切れになってしまうのと、不都合もあろうかと思いますが、ご容赦を。
527523 ◆q5zSSkwO.2 :2009/09/16(水) 17:09:46 ID:0P/6Pgz+
***
 アナスタシア・ウィリントン少尉――だが、その本名があまりにも本人に合わないと、誰もが愛称を用いてアニー少尉と呼ぶのだが――は、その力のみで兵卒からのし上がってきた女士官だ。
 身の丈は2M近い。筋骨隆々。しなやかな身のこなしは猫科の大型獣を思わせる。
 日焼けした肌を彩る黒の巻き毛を短く刈り、琥珀色の大きな瞳は戦場に於いては剣呑に光る。
 整った美しい顔立ちと苛烈な戦いぶりもあってか、伝説の魔神に準えて人は呼ぶ。
 対して男――クリフ・ハウンドは城の文官だ。素早く的確な仕事ぶりで周りからの評価は高いが、口数が少なく無愛想な所から何を考えているのか分からないと揶揄する者もいる。
 だが、甘い顔立ちと優雅な立ち振舞い、時折見せる静かな微笑で、女たちからの評価はすこぶる高い。
 尤も、彼と一晩過ごしたことのある女たちの評価は最悪で――つまり、「酷い男」なのである。
 アニーは崇拝者を数多く抱えていたが、実際に口説こうとする男は未だかつて現れたことがなく、自ら恋をしたこともなかった。
 何しろ、″魔神ナヴァルの再来″なのである。下手に怒らせてしまったら命がいくつあっても足りない。
 ところが異変が起こる。
 城で行われた宴会でいつの間にか隣り合わせたクリフが、その微笑みでアニーの心を奪ってしまったのだ。
 寝ても覚めてもその柔らかな笑みが頭から離れない。
 世上の噂に疎いアニーとて、文官クリフの噂は知っている。
 曰く、稀代の女誑し、同じ女は二度と抱かない、だが仕事は正確無比で、頭の回転が早く知識も豊富、歩く辞典と重宝されている、等々。
 悪い男だと分かっているのに。
 だがワイングラスを弄びながら微笑んだ目元とその目尻に寄った皺、涼やかな声音、普段荒くれに囲まれたアニーには珍しく感じる白く細い体躯と意外に大きな掌を思い出すだけで、頬が染まるのが分かる。
 胸の奥が甘く切なく疼く。
 これが皆の言う恋と言うものなのか?
 だが――
 アニーは大きくかぶりを振り、剣を振り上げる。
 鍛練の最中に何を考えているのだ? こんなことで国を護ることができるのか?
 否――!
 剣を振り、いつものように型を確認する。常ならば10分もしないうちに頭は空っぽになり、爽快な汗が吹き出すと言うのに、今日に限ってそれはない。
 重い汗がじっとりと背を伝う。
528523 ◆q5zSSkwO.2 :2009/09/16(水) 17:11:39 ID:0P/6Pgz+
 頭の中からこの不埒な想いを消し去りたい。泣きたくなるようなこんな気持ちなど捨ててしまいたい。
 一通り型を終え、息を付いたアニーは、中庭に通じる廊下の柱にもたれ掛かって彼女を見つめる視線に気付いた。
 その瞬間、耳まで赤く染めて俯く。
 クリフである。
「見事ですね」
 クリフを知る人には驚くような賛辞を口にした。
 そもそも、この男は口数が少ない。そして自分にも厳しいが他人にも厳しく、人を誉めることなど本当に稀なのだ。
「まだまだです……」
 アニーは唇を噛み締めて俯いた。
 特に今日は気も乗らず、最悪だ。なのにこんな時に限って、クリフに見られてしまうとは。
「そうでしょうか? たしかに私は武芸には疎い人間ですが、貴女の流れるような動きには目を見張りました。美しいと思いましたよ」
 美しい……!
 容姿を誉められた訳でもないのに、彼の言葉に心臓が跳ね上がった。
「とても優美で、それでいて力強い。流石″魔神ナヴァルの再来″と、美神に喩えられるだけのことはある」
「ありがとうございます」
 短く礼を述べ、会釈をする。
 顔を上げると、再びクリフの瞳をまともに見てしまった。
 碧色の瞳を細め、アニーを魅了してやまない笑みを浮かべている。
 その瞳が恥ずかしくて、ついと反らすと今度は唇に目が行ってしまった。やや下唇の厚い、ぽってりとした形。触れれば柔らかそうだ――
 私は何を考えている? アニーは我に返って身体を硬くした。
 今日は調子が悪い。どうかしている。あとは立て込んでいる書類を片付け、さっさと部屋に戻ろう。
 アニーは苦労して吐息を洩らした。
「少尉、この後何か予定はありますか?」
「え――?」
 耳を疑う。
 文官クリフは稀代の女誑しだが、自分から女を誘うことはない。
 来る者拒まず。来た者は漏れ無く美味しく戴く。それが彼を知る女たちの評判だったはず。
「あ、あの……」
 弱々しい自分の声に舌打ちしたくなる。
 こんな弱さなどいらぬ。必要なのは強さ。国を護りぬく強さのみ。
 私は戦士だ。なのに何でこの男の前では、こんなに弱い――
 ぎりっと血が滲むほどに唇を噛み締め、きっとクリフを見据えた。
 丈高いアニーに比べると、頭一回りほど低い華奢な男。細い頸を捻ればひとたまりもないだろう。
 何を恐れることがある?
529523 ◆q5zSSkwO.2 :2009/09/16(水) 17:13:52 ID:0P/6Pgz+
「特に予定はありませんが、何か?」
「申し訳ありません。昨日提出していただいた書類ですが、もう一度書き直しては頂けませんでしょうか。あのままでは決裁が下りません」
「は――?」
「詳しくご説明致します。後で伺ってもよろしいですか?」
「は、はい……」
「では、後程」
 軽い会釈の後、身を翻して颯爽と去って行く後ろ姿を見送る。
 何を思っていたのだ、私は?
 自分の思考に、身が崩れ落ちそうだった。

 夕方、ぞろぞろと兵舎に引き上げていく仲間を尻目に、アニーはクリフにしごかれていた。
 これが鍛練ならばいくらでも受けるところだが、書類作成は辛い。はっきり言って書式などどうでもいいではないかとクリフに訴えると、じろりと睨まれた。
 アニーが云々と唸りながら書類を作成する隣で、クリフは山のような仕事をこなしていく。しかもアニーへの指示も的確で非常に分かりやすい。
 なる程、仕事に関する噂に偽りはないなと思いながら書いていたら、またスペルミス。すかさずクリフが見咎め、もう一度書き直しだ。
 窓の外が暗い。いい加減腹も減ってきた。
「残りは明日じゃ駄目ですか?」
 恐る恐る隣に座るクリフを覗き込む。
 だがクリフの無言の一瞥に、すごすごと書類に戻る。
 夕食に間に合うのか? もうそればかり考えながらも必死に書き続け――それから2時間後、ようやく完成した。
「お疲れ様でした」
 クリフが淡々と終了を告げた時、アニーは机にへたりこみ、もう指が動かなくなっていた。
 どんなに剣を振るっても平気な彼女にとって、非常に珍しい。
「食堂の夕食は終了してしまいましたね。よろしければ、外に出掛けませんか? 奢りますよ」
 クリフは碧の瞳を細め、柔らかく笑みを形作った。
 ああ――なんて優しく微笑む人なんだろう……!
 アニーは胸をときめかせながら僅かに頬を染め、こくんと頷いた。
530523 ◆q5zSSkwO.2 :2009/09/16(水) 17:15:27 ID:0P/6Pgz+
 待ち合わせの酒場に行くと、クリフはもう席に着いていた。
「お待たせしました」と固くなりながら会釈をすると、またあの微笑みを浮かべる。
 好き嫌いを訊かれ、ないと応えると、慣れた様子でクリフが料理を注文した。
 あっという間にテーブルにはところ狭しと湯気を立てた料理が並ぶ。
 乾杯のあとは無言で食べる。
 香草を用いたスパイシーな料理は、兵舎と戦の糧食ばかりのアニーにとって天国のように思われた。
 あまりの勢いに噎せていると、クリフが席を立ち背を擦ってくれた。
「す…すみません」
 たったそれだけなのに、胸の奥が痛む。心臓を直接わし掴みし、掻きむしって棄ててしまいたい。
 クリフに則され、水を飲み、また噎せた。慌てて今度は酒を飲み、ようやく人心地つく。
 いつもより酔いが早く回る。気恥ずかしさと酔いのため口数が減ると、元々無口なクリフとの間に沈黙が流れる。
 酒場の喧騒の中での静かな時間は思いの外心地好くて、ようやくアニーは落ち着いて食事に取り掛かれた。
「休みの日は何をなさっているんですか?」
 尋ねてから微妙な質問だったなと気付いた。噂と違い特定の女がいれば二人で過ごすのだろうし、そうでないならこれまた微妙だ。
 アニーが彼に関心を持っていると白状するようなものだから。
「掃除をしています」
「掃除、ですか?」
 意外だった。この男のことだ。女と遊んでいるか本を読んでいるかだと思っていた。
「我ながら神経質だと思うんですが、我慢ならないんですよ。普段はなかなか片付ける時間もないので、休みは徹底的に雑巾掛けです」
 ずぼらなアニーは掃除が苦手で、相部屋時代は同僚に散々文句を言われていた口だった。自分とは異質なのだと、少し悲しい。
「貴女は何をなさっているんですか?」
「わ…私は……」
 女らしいたしなみは何一つ知らない。教養もない。
 休みもやはり剣を振り、そしていつもよりも長く走る。
 仕事しか知らない。仕事しかない。
 何とも応えられず、アニーは曖昧に笑う。
「つまらない人間なので……」
 とだけ応えた。
 再び沈黙が降りる。
 クリフは静かに杯を傾け、笑みを浮かべた。
「――戦いの鬼神と噂される方がどんな方なのかとずっと思っていた」
 長い沈黙の後、クリフは呟くように言った。
「どんな豪傑かと思っていたら、可憐な方で驚いた」
 大きく鼓動が鳴る。
531523 ◆q5zSSkwO.2 :2009/09/16(水) 17:18:12 ID:0P/6Pgz+
「貴女は、この国の未来についてどうお考えか?」
 唐突な質問でアニーは目を見開く。瞬間、酔いが醒めた。琥珀色の瞳に光が宿り、金色に燃え上がる。
「私は、国王陛下のご命令のままに戦うまでだ」
 昨今の不穏な空気と周辺諸国との小競り合いで、宮廷内にもきな臭い噂が立ち込めている。
 誰かが裏で手を引き謀反を企てているとの噂もあるが、未だ真相は判明していない。
 たとえクリフがその一味の人間だったとしても――アニーは躊躇いもなく斬るだろう。
 そんなアニーの気迫が伝わったのか、クリフはふっと息を吐き、また柔らかく微笑んだ。
「私は謀反を企む者たちを捕らえるため貴女に力をお借りしたい」
「はい……!」
「我が国は国土が狭く資源も乏しい。僅かな産物を取引して成り立っている。
それを周辺諸国に侵略することで領地を広げ、国を富ませるべきだと考える者たちがいる」
「存じています」
「陛下は和平を尊び、侵略には反対の立場をお取りなのだが、それを腰抜け呼ばわりする輩がいる」
 大臣のハリスを筆頭にする急先鋒グループ。アニーは無言で頷いた。
「ご協力願えませんか?」
 クリフの真意が分からない。
アニーごときに何ができると言うのだろう?
「――少し、考えさせていただけませんか?」
 長考の末にこう応えるとクリフは頷いた。
「分かりました」
 互いに酒を飲み干す。
「今度よろしければ貴女の休みの日に、二人で出掛けてみませんか?」
「――え?」
 どういう意味?
「私は貴女に興味を持っている」
 文官クリフは女誑しの悪い男だが、自分からは決して女を誘ったりはしないはず――
 ああ、勘違いをしてしまいそうになる。
 それとも夢なのだろうか?
「……それはどういう意味ですか?」
「こう言う意味ですが――」
 アニーを魅了してやまない微笑みが近づいた――と思ったら、唇に一瞬温もりが乗った。
 胸の奥の痛みが熱く沸き立ち、そしてゆっくりと溶けた――。

《続く》
532名無しさん@ピンキー:2009/09/16(水) 17:40:21 ID:uxlXFSDd
>>531
待っておりました!
あああアニー可愛いよおおお!!!
初な女戦士がこんなに萌えるとは思わなかった!

引き続き全裸で待機してます。
533名無しさん@ピンキー:2009/09/17(木) 00:32:14 ID:ICU3JUtW
gj!!
534名無しさん@ピンキー:2009/09/17(木) 03:35:44 ID:sVc0+rg7
待ってましたぁあああ!!
GJ!
535523 ◆q5zSSkwO.2 :2009/09/17(木) 18:09:32 ID:Y4heIFc/
>>531続き

 部屋の中を右往左往するアニーを見ながら、まるで冬眠前の熊だなとシャルは笑う。
 夜だと言うのに友人のところへ突然押し掛けてきて、何やらパニックを起こした挙げ句、服を貸してくれと言う。
 アニーに似た体格のシャルだが、衣装持ちで有名なのだ。
 こりゃあ男だね、と密かに笑う。
 だが、そのものずばり尋ねても、絶対口を割らないだろうし。いっそ、酒で酔い潰して訊いてみようか?
 だがアニーも、どこぞで飲んできたようだし。
「で、どこに行くのよ?」
「分からん……ただ、馬で出掛けようと言われ――!!」
 ここでようやく、自分が逢い引きを白状したも同然だと気付いたようだ。
 鈍い、鈍すぎる。
「で、誰? アーサー准将? それとも、リチャード男爵の次男? まさかロンデル大尉じゃないよね?」
「違うよ」
 赤くなってそっぽを向く。
 可愛い。こんなアニーを見ることができるとは。
 鬼神だ、魔神だと散々な言われようの兵士が、まるで10代の娘だ。
 あ? そういえば、アニーって何歳だっけ? たしか私の3つ下だから、今年23、か。
 まさか処女じゃないよね?
「ねえ――年上?」
「何がだ」
「相手」
「分からん」
「告白受けたの?」
「――分からんっ」
「ハンサム? 背、高い? どんな人?」
「笑うと優しい」
 何だよ、それ。
「あと、仕事には厳しい」
 てことは同僚だ。男爵の次男の線は消えた。
 しかし、准将も大尉も、いや士官に限らず、下士官に至るまで、相手の年ぐらい知っているはず。
 何となく嫌な予感がする。
「もう寝たの?」
 耳の先まで真っ赤になって首を振る。
 ああよかった。クリフじゃない。と言うか、クリフは女と休みの日に出掛けるような奴じゃない。
 シャルも実は寝たことがあるのだが、女側から口説き落し、やっと一晩共に過ごしたと思ったら、後は全くの他人なのだ。
 甘い言葉など一切なし。肉欲だけ解消できたら女などお払い箱。今思い出しても腹が立つ。
 クリフじゃなかったら誰だよ?
 アニーは、はっきり言ってモテる。本人にその気がないのと悪評のせいでなかなか口説く勇者が現れないだけで、見つめている男は多い。
 その中でも口説く勇気を持ちそうな男で、アニーが相手の年も知らず、でも仕事ぶりを知る人物――っているのか?
「誰なんだよ」
「――文官のクリフ」
 最悪。
536523 ◆q5zSSkwO.2 :2009/09/17(木) 18:10:18 ID:Y4heIFc/
 アニーの話を聞いて、まず思ったこと。
「騙されてんじゃないの?」
「――!!!」
 無言で瞳を潤ませながらふるふると首を振る。
 ってどんな動物なんだよ?
「あのクリフが。しかも、前後の会話が既にアヤシイ」
「そんなことない!」
「だまらっしゃい。アンタいいように使われてポイだよ」
「――酷い!」
「前に話したでしょ? あいつにとって女は道具。あたしなんて厠みたいなもんだったんだよ?
あたしだけじゃない。他の女兵士だって、侍女たちまで軒並みやられてるんだから。下手すると貴族の令嬢だって」
「――知ってる」
「だったら何故?」
「笑うと優しいから」
 アニーの返答に心底脱力した。ヤバい。アニー、こりゃ処女だよな。乙女だよ。理屈が通じないよ。
 アニーは真面目な優しい子だ。幸せになって欲しい。でも相手はクリフだけは駄目。論外。
 だがシャルにとっても相手がクリフでは難しい。
 直談判したってはぐらかされるのが落ち。
 しかも宮廷内での陰謀も絡んでるらしい。
 もし、本人の言う通りクリフが守旧派ならアニーを巻き込むメリットは?
 逆に改革派側なら陛下を暗殺――
 ううん、それはないな。クリフは計算高い男。改革派に芽はないことは見抜いているだろう。
 全く、何を考えているのか分からない男だ。
 シャルはクリフから目を離さないようにしようと心に決め、大事な友を見つめた。

 さて。約束の当日。
 馬に乗るため、結局いつもの私服――勿論スカートではない――で出掛けたアニーは、先日と同じく先に待ち合わせ場所に来ているクリフを見つけた。
 軽く挨拶を交わし、言葉少なに出立した。
 穏やかな気候で風が心地好い。
 意外とクリフの乗馬は上手い。アニーは心置きなく、思う存分馬との一体感を楽しんだ。
 途中飯屋で食事しつつ休憩して、昼過ぎ再度出て小一時間たっただろうか? クリフの言葉に馬を止める。
 眼下には雄大な湖が広がっていた。
「うわあっ!」
 思わず、歓声を挙げてしまう。
「こんなところがあったなんて――!」
 アニーの様子に、クリフは微笑んだ。
「穴場なんですよ」
 そう言いながら側道を下りるよう促す。
 湖畔は光輝き、遠くに鳥の鳴き声。手付かずの雄大な自然に胸が踊る。
 二人は馬を下り、水辺に馬を誘導した。
 どちらからともなく草地に腰を下ろす。
537523 ◆q5zSSkwO.2 :2009/09/17(木) 18:11:15 ID:Y4heIFc/
「乗馬がお上手ですね」
 アニーが誉めると、クリフは照れ臭そうに笑った。
「昔取った杵柄ですよ」
「?」
「私は、下級貴族の家の出だったんですが――実務を担当したくて家を出たんです」
 初耳だ。
「だからこそ、何もかも失う苦しさを知っている。一部の貴族の思い付きで人民の生活を左右するのが許せない。陛下を守り、人々の暮らしを守る力が欲しい」
 ここで言葉を切り、アニーを見つめた。
「私の力になってはもらえないか」
「貴方は勘違いをしている」
「何故?」
「私の階級は少尉だ。力も小さい。しかも私の居場所は戦場だ。宮廷の陰謀には無力だ。しかも暗殺のような仕事にも向かない」
「違いますよ」
 破顔一笑。
「私は貴女に、まじないを掛けて欲しいのだ」
 まじない? 私は呪い師ではない。
「貴女が欲しい」
 アニーを情熱的に抱き締める。
 何が起こったのか分からないまま、唇を塞がれた。
 驚きのあまり目を見開いたままクリフの唇の感触を実感し――歯の隙間から侵入した舌が這い回るのを感じた。
 とうとう、アニーは瞳を閉じた――。

 湖畔のすぐ側に建つ小さな無人の山小屋に勝手に入っていくクリフを追う。
 綺麗に整えられた室内に小さな違和感を覚えた。だが、そんな思考も、クリフの熱の隠った視線に形を為す前に消え去ってしまう。
 クリフは握っていたアニーの手をほどき、再びアニーの身体を抱き締める。その思わぬ力強さに頬が赤らむのが分かる。
 熱い頬をクリフの肩に伸せていたら、強引に後頭部に指を回して引き寄せられる。
 もう、何度目か分からない口付けを交わす。
 侵入してきた舌先がアニーの舌を掬い取る。あまりの官能的な感触に陶然となる。
 舌先で頬の内側をねぶられ、歯列の裏側を舐められ。
 たどたどしい動きで精一杯応えようとするが、身体の奥から溢れ出る激情に流されて、結局はクリフの為すがままだ。
 また舌先が触れ合う。その瞬間、まるでバターに熱いナイフを突き入れたかのように下腹部にとろりと溢れ出るものを感じた。
「はぁ……っ」
 漏れ出た吐息のあまりの甘さに、より一層赤くなる。
「可愛いですよ……」
クリフが耳に舌を触れさせながら囁く。
「――あ…」
 足先からぞくぞくするような甘やかな震えが走り、腰が砕けそうになる。
538523 ◆q5zSSkwO.2 :2009/09/17(木) 18:11:48 ID:Y4heIFc/
 そんなアニーの様子にクリフはゆっくりと微笑んだ。
 腰を抱き締めていた右手がそっと背を伝う。
 その優しい感触に今度は大きな痺れが全身を駆け抜ける。足の間に伝う蜜をはっきりと自覚する。
 胸が苦しい。クリフの腕の中はこんなに優しいのに、見えない手で押し潰されそうだ。
「アニー……」
 初めて名を呼んでくれた。
「アニー……私に力を」
 クリフの言葉にその碧色の瞳を覗き込む。
「え――? あ、あっ…」
 後頭部を押さえるクリフの手に力が入って首筋に口付けられたことにより、問い掛けは遮られた。
 全身が戦慄くのを止めることができない。
 舌が首の横を伝う。 心臓が乱れ打ち、息が苦しい。
「や…んっ……あ……」
 鼻に掛かったような小さな声音が自分のものではないようだ。
 衣擦れの音に我に返ると、クリフが彼女の胸元を解いていた。大きくはだけた鎖骨に唇を這わせ吸い上げる。
「やぁ……っ――!」
 巻き毛を弄ぶように髪の間に潜り込んでいた左手は彼女の前に回され、そっと胸元を彩るささやかな丘陵に触れた。
 電流が走ったかのように身を仰け反らすアニーを反対側の手で抱き留める。
「敏感なんだね……」
 笑みと共に、深い声音で囁いたクリフの瞳を見つめる。
 クリフには今、自分はどう映っているのだろう?
 女を見慣れているだろう恋多き男に、少しでも魅力的に映ってくれていればいい。
 腕を上げ、肩まではだけた自分の身体の胸元を、恥ずかしそうに隠した。
「恥ずかしい……」
 俯くアニーの頬を引き寄せ口付ける。
 そしてそっと彼女の肩を引き寄せ、近くに据えられたベッドに倒れ込んだ。

 ベッドに横たわるアニーを挟み込むように両手を付いたクリフがキスを落とす。
 一度、二度。
 三度目は柔らかく微笑んで深く。
 まるで生まれたての雛のように震えるアニーの耳許に再び囁く。
「色っぽい……」
 羞恥に頬を染める彼女の姿に狂おしい衝動が突き上げ、大きくはだけた胸元から覗く下着の下――小さな膨らみに指を滑り込ませた。
 鍛えぬかれた全身の中に息づくその小さな膨らみは驚くほど柔らかく、吸い付くような極上の手触りにクリフは陶然とした。
「あ――…」
 吐息はいつの間にか喘ぎに変わり、その甘い声は耳に心地好く、下半身が張り詰めるのを感じる。
 金色に燃え上がる瞳を見たくて額に口付ける。
539523 ◆q5zSSkwO.2 :2009/09/17(木) 18:12:21 ID:Y4heIFc/
 アニーは瞳を開き、頬を染め微笑んだ。
「…可愛い……」
 彼女は誉められると身の置き所がないとばかりに羞恥する。
 戦神に喩えられる女なのに、その様子は十代の乙女であり、彼女がまだ生娘であることを物語っていた。

「怖がらないで……」
 小さく震える彼女の頬に口付けたが、左手は残されている僅かなボタンに手を掛け、そして肌着の裾から大胆に腕を差し込んだ。
 彼の手に素直に従いブラウスを脱ぎ去り、肌着を引き抜くことに応じていたアニーは彼の視線を遮るように腕で胸元を隠した。
 それでもその一瞬で、日に晒されていない部分の抜けるように白い素肌と薔薇色の乳輪の先で小さく尖った先端は見て取れた。
 猫科の大型獣の優美さと淫靡な女の色香に脳の奥がくらりとする。
 まさに″魔神ナヴァルの再来″。
 双頭の魔神ナヴァルには二つの顔がある。
 一つは戦神。美しく獰猛な血に飢えた女神の様相。もう一つはセックスを司る愛の女神だ。
 生娘だった彼女と契った勇者メテオは、神の力を注ぎ込まれてついに都を苦しめてきた大蛇を討ち取る。
 これはあくまでも伝説――のはずだった。偶然、城の奥に魔道書を見つけるまでは。

 クリフは城の書庫を片付けていた際に隠し扉を発見した。
 巧妙に隠されていたし、その一角に積まれた本は古代語の呪術書ばかりで、現在彼以外で読みそうな者はいない。
 もう何年も開けられたことのなかったろう扉を開いた時、クリフは息を飲んだ。
 そこには魔神ナヴァルと彼女と交わる勇者メテオの彫像と、ぎっしりと詰め込まれた古代語の魔道書、
そしてメテオに嵌められた伝説の指輪が見て取れた。
 クリフは瞬時に悟る。これは彼が秘かに温めてきた野望を叶えるためのものである――と。

 もう一度クリフは「怖がらないで」とアニーに囁いた。
 そしてそっと彼女に近づき、胸を隠すように掲げた腕を引いた。
 力を失ったかのように容易にほどけた腕に、驚いたように瞳を見開いたが――すぐ、その先端に口付けたクリフに甘い嬌声を上げた。
 舌先で愛撫するとみるみる固くなるそれを軽く吸い上げる。
「あっ――……!」
 反対側の乳首は指先で捻り摘まみ上げると細かく痙攣するかのように震える。
 可憐な仕草に嗜虐心を煽られるが、必死に抑え込む。
 おずおずとクリフの頬にその長い指先を伸ばしたアニーに気付き、それを捉え、口付けた。
540523 ◆q5zSSkwO.2 :2009/09/17(木) 18:15:45 ID:Y4heIFc/
「私のアーニャ……気持ちいい?」
 少し意地悪く尋ねるとぴくんと跳ねる。艶かしくしなやかな動きだ。
 寝転がってしまったせいで胸の頂はほとんど平らなのだが、却って淡い彩りが強調されているように思う。
 やんわりまさぐると息が荒くなる。
 その官能的な仕草に狂おしい想いが喉の奥から突き上げ、また舌を絡める。
 女にこんな想いをするのは――初めてだった。
 これから女神と交わるのだという興奮がそうさせているのだろうか? それとも、部屋中に張り巡らした呪印が思わぬ効果を発揮しているのであろうか?
 ――愛おしい。
 張り詰めた下腹部の痛みに似た切なさが辛い。
「や…――」
 彼女は戸惑った表情を浮かべながらも快感を貪っている。
 初めて感じるのだろう快感に支配されながらも、そんな自分を恥じている。
 もっと気持ち良くなって――!
 しきりに足を擦り合わせる仕草を見せる。
 クリフは微笑み、そして彼女の下半身に残された衣服に手を掛けた。

 尻を覆う小さな下着一枚になったアニーはもうどうしていいのか分からないと両手で顔を覆った。
「見ないで……!」
 恥ずかしい。
 初めて感じる蕩けるような感覚にも、足の間から溢れだし太股まで濡らした蜜も、上気した甘い声も――
 自分が自分ではないようだ。
 クリフが膝に口付けると、再び大きな電流が走る。
「ああぁ……っ!!」
 足の間が脈打つのが分かる。はち切れそうな官能が辛いほどだ。
 クリフに触れて欲しい――だが、遡っていた唇は意地悪く足の付け根で離れてしまう。
 今度は反対側。同じくあと少しと言うところで離れてしまう。
 アニーの漏らした喘ぎが唇が離れた瞬間、不満げに小さくなるのをクリフは聞き逃さなかった。
「触って欲しい?」
 アニーの瞳に涙が溢れ出す。
 誇り高き戦士の矜持もずたずただ。
 だがクリフになら己を明かすことは寧ろ快楽だった。
 可愛いと呼ばれて歓喜するのも、焦らされて屈服するのも、命令されて従うのも。
 今この瞬間クリフがアニーの全てを支配していた。
「触って……お願い――」
 アニーの求めに満足そうに瞳を細めながら、クリフは局部を覆う小さな下着の紐に手を掛ける。

《続く》
541523 ◆q5zSSkwO.2 :2009/09/17(木) 21:50:46 ID:Y4heIFc/
 小さなショーツを取り去ると内からとろとろと愛液が溢れだした。
 褐色の引き締まった肌に挟まれた透き通る白い肌。黒い翳りの奥に綻ぶ薔薇色の花弁。
 色彩の鮮やかさに息を飲む。唾をごくりと咽下する音が嫌でも意識される。
 思わず柔らかな襞の奥に指先を差し込めば、まるで吸い付くように蠢く。
 ――きつい。
 処女の狭隘な入口を指先で解すようにかき混ぜれば、くちゅくちゅと粘着性の水音を立てる。
 クリフは口の端を持ち上げて笑みを形作ると、口の中で呪を唱えた。
 その呪文に感応したかのように一際嬌声が高くなる。
「あ、あ、あ……あっ……」
 アニーの褐色の肌の上に、紅い紋様がうっすらと浮かび上がる。
 思った通りだ。
 この女は″魔神ナヴァルの再来″なのだ。
 これは単なる譬えではなく、真実だった。 ナヴァルの書を読み解くうち、クリフはある事実に気が付いた。
 魔神ナヴァルの力を宿すためには媒体が必要だ。
 健康な肉体を持ち、夏至の日の入りの時刻に産まれた、処女。
 強き美しき乙女。
 それがアニーだった。
 ナヴァルの指輪を嵌めた左手で花弁の上から顔を出しつつある突起を撫で上げる。
「いや……あ…あ……」
「嫌なの? 止める?」
 アニーは真っ赤になって首を振った。
 赤い唇から覗くピンクの舌先が淫猥だ。
 突起を細かく震わせながら、また襞の中に指を入れる。
 眉根に皺を寄せ快感に耐えているようだ。
 彼女の耐久力を見てみたいと、今度はぷっくりと膨らんだ先端に舌先を這わせ、ねぶる。
 腰が妖しくくねる。持ち上がる。
 舌を襞に捩じ込み、唇で花弁を吸い上げ――甘露を啜る。
「いやぁぁ……あ、あ、あ、あ――っ」
 大きく痙攣し、苦しそうに息をつく。
 うっすら浮かび上がっていた紋様は今やくっきりと浮かび、全身を紅く彩っていた。
 アニーが懸命に息を整えている間に、クリフは衣服を慌てて脱ぎ捨てる。
 金色に燃え上がる瞳が笑みに歪む。
 クリフは女神に口付け、脛を持ち上げて強引にその身を引き裂いた。

「あああああ――!!」
 一気に突き入れ、その顔を覗き込む。
 黒い巻き毛の短髪に重なって、長い髪の女神の姿が二重写しになる。
 魔神ナヴァルはにんまりと笑い、舌なめずりする。だがその奥には小さく震える愛しい女――
「大丈夫?」
 強引に突き入れておいて何が大丈夫だと自嘲するが、腰元から込み上げる快感に「はあっ」と息を上げた。
542523 ◆q5zSSkwO.2 :2009/09/17(木) 21:52:22 ID:Y4heIFc/
 彼の後頭部に回された指に引き寄せられ唇を重ねる。
「痛みには慣れている」
 ニッと笑う顔が愛らしく、今度はクリフが口付けを返す。
「動くよ?」
 頷く彼女の向こうで、処女の血を欲する魔神が笑う。
 狭く熱い襞が男根を呑み込もうと蠢く。
 溶け落ちる蜜――
 強引に突き上げたい衝動を抑え、慎重に腰を振る。
 引くと逃すまいとまとわりつき、突くと呑み込もうとする。
 耳と脊髄に甘く響く声。
 愛しさに舌を絡めれば、快感が走り抜ける。
 腕を引き寄せ、膝の上に跨がらせて抱え込むようにして契る。
 胸の膨らみを舐め上げ、また嬌声を高める。
 城の奥に眠るナヴァルとメテオの姿を模した形だ。
 アニーの金色の瞳を見つめる。痛みだけではない、快楽を感じていることを伝えてきた。
「痛い――だけじゃないな…ああ、いい……」
「アニー……アニー……」
 アニーの腰を掴み下から突く。
「アニー、いく……いくよ……」
「クリフ……!」

 二人は固く抱き合い、アニーはクリフの放った精を受け止めると、がっくりと後ろに倒れ込んだ。
 その瞬間――指輪が光った!

 処女の血を供物に甦った魔神は眼前の男に鼻を鳴らした。
 愛するメテオに比べ、なんて貧相な男だろう。
 だが、男は指輪を持っている。なる程、やはり呼び出したのは確かにこいつだ。
 さて、どうしてくれよう?
 にんまりと笑って舌なめずりする。
 だが不快なことに、女神の奥にあるもう一人の人格――この身体の持ち主、人間だ――は、男を害なそうとする衝動を懸命に否定する。
 面倒だなと、魔神は牙を剥く。
「その方、望みは?」
「現在宮廷に渦巻く陰謀の壊滅及び周辺諸国の平定、あとは現在の王の補佐に俺を就かせろ」
「ふん……珍しい。お前が王座に就かなくてもいいのか?」
「王は父に任せ、次代も兄に任せれば良い。俺はあくまでも影の存在として人生を全うしたいのだ」
「欲がないな」
「いや……あとひとつ欲しいものがある」
「何だ?」
「アナスタシア・ウイリントン」
「その願い、叶えよう」
 血に飢えた魔神は愛の女神の様相を称え、優しく微笑んだ。

 昔々、とある小さな国に優秀な宰相を持つ国があった。
 王は温かく慈愛に富み和平と友好を尊んだ。その精神を必ず宰相は実現した。
 宰相の美しい妻の友人は彼の生い立ちを調べ上げて全て知っていたが、将来に渡って口をつぐんだ――という。
 どっとはらい。
543名無しさん@ピンキー:2009/09/18(金) 00:35:27 ID:q4//wHTW
これはすばらしい。
544名無しさん@ピンキー:2009/09/18(金) 10:54:51 ID:mdr7Eunt
乙です。
いつポイ捨てされるかとびくびくしながら読んでたw
アニーが幸せになれてよかった。
545名無しさん@ピンキー:2009/09/18(金) 11:20:08 ID:mGQ9ofVu
GJ!
546名無しさん@ピンキー:2009/09/19(土) 02:53:29 ID:/Smfm5WT
GJでした!
アニーよかったね(;ω;`
547名無しさん@ピンキー:2009/09/19(土) 02:58:14 ID:7D6h+hgO
でもさアニーはともかく
宰相はきっとその愛情にずっと疑問持ちながらいきてくんだろーな
と思えた
548 ◆q5zSSkwO.2 :2009/09/19(土) 03:18:33 ID:jhZQxz+V
色々ご感想いただき、ありがとうございました。
が。正直、自分の中で納得出来ない部分が多々ある話になってしまったので、
(言い訳は見苦しいので何がどうとは言いません)リベンジとして事の翌日番外編、
バカップルもの一編投下させてください。
これにて、また一読者に戻りたいと思います。
NGワードは、同じくこのトリップで。
549番外編(1/3) ◆q5zSSkwO.2 :2009/09/19(土) 03:19:32 ID:jhZQxz+V
 あの時何が起こったのか――。

 気付いた時は朝で、二人で裸のまま抱き合っていた。クリフは軽く寝息を立ててぐっすりと眠っている。
「ええっと……」
 起こさないようにと口の中で呟いたつもりだったのに、クリフは目を覚ましてニッと笑った。
 こんないたずらっぽい笑顔は初めて見る。
「おはよう」
「――おはよう、ございます」
「まだ早いよ? 俺、体力使ったんだよね。もう少し寝ない?」
 クリフの言葉にボッと全身を赤くする。
 昨日は昼間から二人で抱き合って――セ、セックスして……
 クリフの細い身体のどこにあんな力があるのかと思うほど、何だか色々なことをされたような気がする。
 結ばれたところまでは覚えている。内臓を抉るような破瓜の痛みに耐えているうちに、名状し難い甘い感覚が沸いてきて。
 そうだ。たしか別人になったような気がしたのだ。
 あれは一体、何だったのだろう?
「ねえ、クリフ。あれ、一体何?」
 慌てて尋ねると――
「寝てる……」
 がっくりと肩を落とす。
 アニーは知らなかったのだが、アニーの助けを借りたとは言え、自己流独学魔道師が魔神の召喚を行うと言うのは命懸けで、本人の言う通りとても体力を使ったのだ。
 だが、アニーは知らない。
 少し膨れる。でもいたずら心が湧き、気持ち良さそうに眠るクリフの頬を引っ張った。
 だが――
「やっぱり寝てるし」
 そっと唇を重ねてみる。
 昨日は何度こうやって唇を重ねただろう。
 ぺろっとその唇を舐めてみる。
 少し、甘い。
 そういえば、昼からずっと何も食べていない。
 湖に行って魚でも捕ってくるか? 釣竿とかある? 網は?
 ここ、調理場はあるのか? パンとかあるのだろうか。
 いやいや、そもそもここって誰の小屋なのだ? クリフのことだ。不法侵入はないだろうが。
「クリフ! 頼む、起きてくれ!!」
 いらえはない。
 アニーは途方にくれた。
 溜め息と共にクリフを見つめる。
 白い裸身が目に入った。さっきまで一緒にくるまっていた掛け布団をアニーが持ってきてしまっていて、半分しか掛かっていないことに気が付いた。
 掛け直そうとして――
「――!!」
 身体の中心に聳え立つもの。
 こ、これって……
 掛け直す風を装って、そっと覗き見る。
 これが私の中に――?
 おずおず、と手を伸ばす。
550番外編(1/3) ◆q5zSSkwO.2 :2009/09/19(土) 03:19:52 ID:jhZQxz+V
 華奢な体躯のクリフに似合わない凶暴な大きさと形をしている。
 つつ――と先端の亀裂に指を滑らせると、透明の滴がまるで一つ目小僧のように浮かんだ。
 張り出した先端を摘まんでみると――意外と柔らかい。
 段差があって、その下には皮が弛んでいる。
 見れば見るほど不思議な形状だ。
 皮の弛む部分を握ってみたら、ギュッと上からクリフに掴まれた。
「きゃっ……!!」
「そのまま動かして…」
 少し、甘えるような響きに頬が赤らむ。
「起きていたのか?」
「誰かさんがいたずらするから」
 のんびり笑って、クリフはアニーの耳朶に口付けるようにして囁く。「もっと……して?」
 そのままアニーの手を使って己を扱く。
「ああ……気持ちいい……」
 クリフの嬉しそうな表情が嬉しくて、アニーは恥ずかしそうに微笑んだ。
 反対側の手で頭を引き寄せられ、口付けを交わした。
 舌を絡め合っていると、また身体の奥が熱くなり、とろりと濡れてくる。
「ああもう!」
 何か悪いことをしたのかと驚くアニーに抱き付き、そしてベッドに押し倒した。
「俺、本当に眠いんだけど!!」
 と、怒るようにしてアニーの胸にむしゃぶりついてくる。
「ご、ごめ――うわっ!!」
551番外編(1/3) ◆q5zSSkwO.2 :2009/09/19(土) 03:20:16 ID:jhZQxz+V
 昨日のような優しい指使いではなく、乱暴に揉みしだく。
 ささやかな膨らみのためなかなか手の中に収まらないが、乳首に指が触れる度に電流が走る。
 息が荒くなる。うねるような愉楽に声が上がる。
 性急に足の間をまさぐり、肉芽を揺らす。
「もう凄く濡れてる。びちゃびちゃだよ? もしかして、淫乱?」 もしやと内心思っていたことを指摘され、アニーは足の先まで赤くなる。
「昨日まで処女だったのに」
「誰がそうした――?あっ!」
「俺」
 再びいたずらっぽく笑う。
「アニー、俺にしない?」
「あ、あ、あ、あ、何がぁっ?」
「俺のモノになってよ」
「え?……きゃあっ!」
「俺と結婚して」
「あん…あん…あっ…や…だめっ………」
「だめなの?」
「だめっ……何か来る……来ちゃう! あ、あ、あああああ!! 」
 アニーは激しく身体を強張らせて弓なりにしなった。

 クリフは嬉しそうに笑いながら、アニーのぐったりとした右足を掴み上げ、肩に伸せて腰を突き入れた。
「やああ……あんっ……!」
「まだ、痛い?」
 挿入の余韻を楽しむように腰を止めながら言う。
 不思議だ。昨日はあれ程痛かった交接が今日はほとんど痛みはない。
 むしろ、甘い疼きがどんどん沸き上がってくる。
「大丈夫……気持ち、い……」
 クリフは嬉しそうに笑った。
 アニーはそっとクリフに訊く。
「嬉しい?」
「ああ。嬉しいよ、アニー。もっと気持ちよくなってよ」
 そう言いながら、アニーごと身体を揺らした。
 繋がっている部分がかき混ぜられて、粘った音を立てる。
「インラン――でもいいの?」
「いいよ――俺にだけなら」
 また嬉しそうに笑うとアニーに口付ける。
「駄目だ……もう限界。行くよ……!」
 クリフの高ぶりがアニーの身体の奥を突き、圧倒的な悦楽の世界へ連れていく。
「アニー!!」
「クリフ!――ああっ!!」
 熱いものが胎内に放たれ、がっくりとアニーの胸元に崩れ落ちるクリフを抱き留める。
 胸に満ちる穏やかな幸福に、アニーはゆっくり目を閉じた。

552番外編(3/3) ◆q5zSSkwO.2 :2009/09/19(土) 03:21:02 ID:jhZQxz+V
 結局、空腹のあまりにそっと起き出したアニーは再びクリフにベッドに引きずり込まれ、散々声を上げさせられた挙げ句、昼過ぎにはとうとう怒り出したため、
渋々クリフも服を着て、共に釣りをし、持ってきていたと言うパンを――持っているならさっさと出してとまたアニーが怒り――仲良く平らげた後、
デザートを寄越せとアニーを引き寄せ、またまた甘い時を過ごした二人は、ようやく夕方になってから帰路に着いた。
 結局、クリフのプロポーズはうやむやになってしまったが、律儀な魔神の約束を信じているのでそれはそれでよしとした。
 尤も、もう手離す気は更々無いわけで、なにがなんでも彼女を自分だけの女にすると決めている。
 クリフは計算高い男なのだ。決めたことは必ず実現させる。
 人生ただ一つの誤算はこの俺が女に惚れるなどと言うことだ――と自嘲して、
しかしそれもまた良いかもなと熱に浮かされた事を考えていたりする。
 城に戻れば、彼は王の宰相としての道が待っているはずだ。
 周りはきっと魔法のようなことだと思うだろうが、事実魔法なのだとは誰にも教える気はない。
 例えそれが愛するアニーであっても。

<FIN>
553名無しさん@ピンキー:2009/09/19(土) 03:23:41 ID:jhZQxz+V
すみません、張り付け失敗してますね。
申し訳ありません。
計算間違えて4レスだし。
色々。本当にもう。すみません。
554名無しさん@ピンキー:2009/09/19(土) 06:18:21 ID:7GAGntvl
わーいわーい!甘々超GJ!
内容もキャラも量もあって凄く良かった。
気が向いたら書き手としてまた降臨願います!
555名無しさん@ピンキー:2009/09/21(月) 12:20:14 ID:FFyivY7R
おお!!GJです!!!
アニー可愛いよ
556名無しさん@ピンキー:2009/09/21(月) 19:45:12 ID:+Ktcz+HI
また賑わうといいな。
557名無しさん@ピンキー:2009/09/24(木) 08:21:42 ID:XfBLUgsr
ルナの続きはどうなっているんだろう。
魔王も待っているし、蛇王子のその後も気になる。
558名無しさん@ピンキー:2009/09/25(金) 16:09:33 ID:ixBqLqE8
遅れたがGJ!!

番外編で開き直った(?)のか、クリフが飄々としていていいね!

続…かないのか??
559名無しさん@ピンキー:2009/09/26(土) 21:40:29 ID:ZBa9abat
アニーで宇宙の女刑事思い出してしまったorz
560名無しさん@ピンキー:2009/09/26(土) 23:52:08 ID:IW7SX8ZM
>>559
宇宙の女刑事?
元ネタkwsk
561名無しさん@ピンキー:2009/09/27(日) 11:34:35 ID:BX9zb+/v
宇宙と刑事とアニーでググれ
562名無しさん@ピンキー:2009/09/27(日) 23:07:40 ID:iqket7FJ
最近三国志とかで敗走中に部下に殺された云々って記述を見るたびに、
脳内で女騎士とかに変換してしまう……。
563名無しさん@ピンキー:2009/09/28(月) 16:57:03 ID:iHDT23cH
同僚や部下との愛憎入り混じった関係も良いけど、敵兵や山賊や
落ち武者狩りの農民に捕まって寄って集ってってのも良さげ。
……とか考えてたらゴッドサイダーのフクロウ女が浮かんだ
俺間違いなくオッサンorz
564名無しさん@ピンキー:2009/09/28(月) 22:15:39 ID:E3Z9ajNs
膠着状態の戦場の傍の不干渉地帯の酒場で出会った男女。
意気投合して愛し合うも、戦線が再開されたら敵の大将と将軍だったとか妄想。
565名無しさん@ピンキー:2009/09/28(月) 23:46:09 ID:1Elwem32
お互い相手の身分を百も承知で、そ知らぬ顔で酒を酌み交わすってのも良い。
ただ、濡れ場にまで至らず「では、また!」「また、戦場で」って風に終わりそうなのが難点。
566名無しさん@ピンキー:2009/09/30(水) 21:44:46 ID:K6O9jFtp
ああ
567名無しさん@ピンキー:2009/10/02(金) 21:30:18 ID:/cDLV1wO
なんとなく
ランバラルとアムロ連想するなあ
568名無しさん@ピンキー:2009/10/07(水) 07:18:59 ID:0/aLtHCc
>>565
女側が情報を引き出そうと男に言い寄るも男に返り討ちとか、
男が女の美貌にやられてしまうとか。
男女の駆け引きがいいと思う。
恋仲になった後の情事がいいなあ。
どんなに惚れても、明日には敵同士。刃を交えなければならないかもしれない。
いっそこの場で相手の喉をかき斬ればいいのかもしれないがと葛藤する、と。
569名無しさん@ピンキー:2009/10/07(水) 21:05:54 ID:a9RgUJ7g
白虎と龍雷……なんて言っても通じないだろうな
570名無しさん@ピンキー:2009/10/08(木) 02:12:32 ID:+Arrz/S1
あげ
571名無しさん@ピンキー:2009/10/08(木) 07:23:54 ID:MOa/mnJQ
ここはエロ成分少なめでも大丈夫ですか?
572名無しさん@ピンキー:2009/10/08(木) 08:05:49 ID:lwPPY6bp
どうせ過疎ってんだからやってみればいい
つかお願いします
573名無しさん@ピンキー:2009/10/09(金) 23:22:22 ID:L8SmC7lE
>>569
懐かしいものが出てきたなぁ・・・・。
とりあえず、復刊ぽちってきた(´・ω・`)
574名無しさん@ピンキー:2009/10/10(土) 11:26:35 ID:J23w0gfz
>>569
幽遊白書の白虎と青竜なら知っているが・・・
575名無しさん@ピンキー:2009/10/12(月) 17:40:48 ID:7iciQod9
>>568
そしてより燃えるとw
576名無しさん@ピンキー:2009/10/19(月) 02:40:01 ID:BRCAokwd
ほす
577名無しさん@ピンキー:2009/10/21(水) 12:19:25 ID:YUjzMriw
戦いの狂気に浮かされた熱のまま、男を貪る女兵士とかもいいなあ
578名無しさん@ピンキー:2009/10/26(月) 19:59:02 ID:xG4xvD4j
貪られる男が美少年とか思ってしまった俺ってw
579名無しさん@ピンキー:2009/10/27(火) 20:38:23 ID:ktAoPDA4
つまり、准卒とか侍従の美少年を、戦闘の熱に浮かされた状態で貪る
女騎士だと・・・

良いシチュエーションだな!!
580名無しさん@ピンキー:2009/10/27(火) 20:49:31 ID:Yq8yAd2t
ありじゃないか。
581名無しさん@ピンキー:2009/10/28(水) 00:09:28 ID:SC9/oBRI
美少年じゃなくとも、ちょっと頼りない部下とかもありじゃね?
582名無しさん@ピンキー:2009/10/29(木) 01:54:37 ID:LzgxB0nR
美少年貪ろうとしたら逆に貪られちゃう女兵士でもいいな
583名無しさん@ピンキー:2009/11/05(木) 02:01:19 ID:sx+lrztU
保守
584名無しさん@ピンキー:2009/11/06(金) 00:33:38 ID:gqruwoDg
女性の割れた腹筋はエロい
585名無しさん@ピンキー:2009/11/07(土) 23:05:31 ID:8AbT3yLl
書ーきー込ーめーなーいー
586名無しさん@ピンキー:2009/11/12(木) 06:04:06 ID:usnpUmvz
規制最悪
587名無しさん@ピンキー:2009/11/13(金) 16:35:43 ID:tbfCzQaG
age
588名無しさん@ピンキー:2009/11/16(月) 22:09:42 ID:agm0D5O2
>>584
同意
589名無しさん@ピンキー:2009/11/19(木) 21:47:12 ID:xet1cYog
おタカさん
590名無しさん@ピンキー:2009/11/22(日) 03:06:03 ID:HwSAWj5C
The ガッツ!w
591名無しさん@ピンキー:2009/11/29(日) 03:59:06 ID:4cKYua24
俺の永遠のヒロイン……
592名無しさん@ピンキー:2009/12/07(月) 20:30:33 ID:wb8Nt4Pe
ほしゅ
593名無しさん@ピンキー:2009/12/15(火) 22:03:02 ID:lOxW71G2
保守
594名無しさん@ピンキー:2009/12/27(日) 18:47:35 ID:8tPhhP3J
保守
595名無しさん@ピンキー:2009/12/28(月) 01:47:34 ID:PywFqqKK
俺の理想のファンタジー世界
・女の子はうんこしない。あるいは全く言及されない。おしっこは可
・アナルは性交専用ということになるので、普段は使われず締りがいい。
 ただ本来は排泄に使うような穴で、見られたり性交に使うのはとても恥ずかしいという意識はある。
・人口比が若者に偏っている。むやみに母子家庭が多い。
・女型の魔物と人間は当然繁殖できる。
・食べ物とかが腐らない。棺桶の中の死体とかも処理(蘇生)するまでそのまま。ゾンビ娘とかも本格的には腐らない。
・よって人間の皮脂や汗で雑菌が繁殖して不快臭がするとかもない。行軍3週間目の女兵士とかは、ひたすら濃い雌の匂いがする。
・愛液や母乳などの量が質量保存とか無視している。
・頑張れば子宮姦できる。もっと頑張れば乳首に入れられる。
・気の強い女ほどアナルが弱い。

なんかファンタジーというよりRPGゲームの世界かな
596名無しさん@ピンキー:2009/12/28(月) 06:16:16 ID:xhsfMMmN
えっ
597名無しさん@ピンキー:2009/12/29(火) 18:45:58 ID:6O1bia08
えっ
598名無しさん@ピンキー:2009/12/31(木) 00:00:26 ID:EGt/ywX0
ふぅ
599名無しさん@ピンキー:2009/12/31(木) 01:57:59 ID:U0rlwkAk
ひぎぃ
600名無しさん@ピンキー:2009/12/31(木) 22:16:13 ID:eEKfzWva
書きかけのやつが今年も完成できなかったあああ
来年こそは投下できますように……保守
601名無しさん@ピンキー:2010/01/02(土) 13:27:44 ID:P0VsE6rP
>>595
>女の子はうんこしない

昔のアイドルみたいだなw
602名無しさん@ピンキー:2010/01/05(火) 00:09:02 ID:p6q1S9WU
そういえば吸血鬼のアナルって排泄に使われてないぽいから
綺麗なんじゃなかろーか。
603名無しさん@ピンキー:2010/01/05(火) 05:05:53 ID:e+Iy3cAZ
吸血鬼は流れる水に入れないので不潔です
604名無しさん@ピンキー:2010/01/06(水) 10:06:20 ID:HO+mal2M
女将軍「ん〜なんだい?ずいぶんと可愛らしい捕虜じゃないか」
少年騎士「ひっ……」
女将軍「あっはっは、怖がっちゃってかわいい……こんな甲冑なんて似合わないよ」
少年騎士「や、やめてよ……」
女将軍「うふふ……ぺたぺた」
少年騎士「ひゃああっ。やめ、やめてっんああああっ」
女将軍「あらあら、誰にも触れたことなかったの? いいわ、お姉さんが教えてあげる」
少年騎士「な、なにこれぇ……へんな気分、お願い、やめっふああああっ」
605名無しさん@ピンキー:2010/01/09(土) 21:02:35 ID:pmfKiEo5
>>595に追加
・エロ小説に限らないかもしれないが、将軍とか艦長とか階級が高くても若い。
606名無しさん@ピンキー:2010/01/09(土) 22:39:52 ID:gXxlB4pZ
>>595に追加
ペニスはドット絵
607名無しさん@ピンキー:2010/01/10(日) 18:45:12 ID:N/dqslSo
>>603

よし、ガソリンにつけてあげよう
608名無しさん@ピンキー:2010/01/26(火) 18:38:55 ID:aDtTOa5X
保守
609名無しさん@ピンキー:2010/02/02(火) 02:05:42 ID:KgjX1xZz
610名無しさん@ピンキー:2010/02/04(木) 07:56:33 ID:QDsv0FBj
女は筋肉!
611かたわの槍姫様 ◆AHN19iJ8Is :2010/02/05(金) 01:48:02 ID:SNCf4fmO
投下します。
とりあえず今回はプロローグだけです。
6121/3 ◆AHN19iJ8Is :2010/02/05(金) 01:52:01 ID:SNCf4fmO
***

 怒号、怒号、怒号。
 大気そのものが震えているような錯覚すら覚える戦場で、返り血で化粧をした天使が走
っていた。いや彼女は天使ではない。その証拠に彼女が発する音は、天使の羽根の羽ばた
きの音などではなく、武骨な槍で風を切り裂いている音なのだから。
 なるほどあれがイエスド王国の自慢のお姫様か……。目の前にいる兵たちを軽く薙ぎ払
っているその姿を見るに、どうやら数々の噂は本当のことらしい。
 俺が可憐な姫の槍さばきに見とれていると、豚のような顔の指揮官が大声で喚きだした。
どうやら俺たちに殿(しんがり)をさせて逃げる気らしい。最早大勢は決まった。あと十分
もせずにこの本陣へと敵が押し寄せてくるだろう。俺たちクルーの民を前線にでも置け
ば違っていただろうが、この無能な指揮官は俺たちを手元に置いておかなければ何をする
かわからないとでも思っているのだろう。
「若、お逃げください」
 そっと耳元でそう囁いた女がいた。女はクエルと言う。かつてわが国では剣において無
双を誇った女傑である。
「いや、俺は兵三十を率いて殿を務める」
 俺が言葉を発すると釣り目がちな彼女の目が一層釣り上がった気がした。
「若、あのような下種のために!」
「そしてクエル、お前は残ったわが民を率いて、どさくさに紛れてこの戦場を脱出しろ」
「いけません!その役目は私がいたします。ですから若は……」
「いや、俺が消えては後になってレーネン国は血眼になって捜すだろう」
「しかし……」
「クエル、これは命令だ」
 俺がそう言うと彼女は顔を伏せ、押し殺すような声で一言呟くように言った。
「……ご武運を」
 彼女が去っていく。黒い兜と鎧に包まれた後ろ姿は凛とした美しさを持っていた。幼少
のころからずっと一緒だった御転婆が、いつの間にかあんなに大きくなっていたのだなと、
ふと思わずにいられなかった。
「というわけだ、ヴォル。酔狂な連中を三十人ばかし集めてくれ」
「御意」
 深々と頭を下げたのはクエルの父であるヴォルだった。髭の似合う眼帯の男だった。
かつてはもっと歳のわりに若い印象を受けたこの男も、ここ数年の出来事で髪も自慢の
髭も真っ白に染まっていた。
「最後まで世話をかける」
 赤黒く染まる戦場を見据えて言った。
「地獄の底までもお供いたします」

6132/3 ◆AHN19iJ8Is :2010/02/05(金) 01:54:09 ID:SNCf4fmO
***


 弓が降り注ぎ、槍が迫りくる戦場の中、兵士が作る肉の壁を切り裂いて進む。
 勇猛に戦う戦士たち。
 しかし数というものは何物にも勝る力である。仲間が一人一人と殺され、ついにヴォル
までも俺の盾となって死んだ。
 そこで出会ったのが例のお姫様だった。周りには360度敵だらけ、そして正面には俺
 では到底敵いそうもない一人の騎士。こんな状況でなぜか無性にうれしくなったのを感
 じた。多分俺はその時になって初めて自らの死を認めたのだろう。
 俺は駆けた。
 目標はただ一人、そうあのお姫様だ。
 俺の動きに呼応するように横から矢が放たれる。
 鎧の隙間から刺さる矢、そんなものを無視して足を動かす。
 姫は馬上、普通にやったらただ殺されるだけ。
 姫が槍を構える。
 目が合った。
 姫の瞳は夏の葉のように美しい緑色だった。
 あと三歩、二歩、一歩!
 姫の槍が迫る。
 風すら悲鳴を上げているのだろう。
 ヴォンという音とともに繰り出される姫の薙ぎ払い。
 ここだ!
 さきほどまで戦場を眺めていて気付いたこと。
 それはこの姫は正面の敵に対して槍を突き刺すのではなく、薙ぎ払うのだ。
 自ら先頭に立ち、一対多の戦闘に馴れたせいだろうか、それとも自らの槍を振るう速さ
によほど自信があるのか、いわんやその両方か。
 しかし、それがこの瞬間、決定的な隙となった。
 俺はその槍を左手に持った剣で受け止める。
 いや胴体を輪切りにされないように剣を盾にすると言うのが正しい。
 そもそもこの槍を左手一本で受け止めるというのが無理なのだ。
 この手は十中八九死ぬ。
 だが、それでいい。
 俺が欲しかったのはこの距離で自由に動く右手。
 通常戦闘において一番必要なものはリーチである。
 元々俺の剣では馬上の姫の槍には絶対に届かない。
 ではどうするか?
 答えは簡単だ。
「……っ!」
 俺は姫の槍に薙ぎ払われながら球状の物体を投げつけた。
 槍よりもリーチの長い武器を使えばいいのだ。
 その瞬間、不思議とまた姫と目が合った。
 姫の目は戦場のそれとは似つかない、まるで知らない玩具を見る子どものような目をしていた。
「綺麗だな」
 気付いたらそう呟いていた。
 しかしその呟きは余韻を味わうことなく鼓膜を破らんとするがごとき轟音に掻き消された。
 そう、俺が投げたのは火薬玉だった。
 元々俺の国では戦場で狼煙を使い合図を送る。それを少し応用しただけのちんけなものだ。
多分これでは鎧を纏った彼女を殺せはしないだろう。それでよかったのかもしれない。
あんなにも美しい瞳を持つ女はそうはいない。
 そんな相手と最期に死合うことができてよかった。
 そんなことを考えながら俺は意識を手放した。

614 ◆AHN19iJ8Is :2010/02/05(金) 01:55:17 ID:SNCf4fmO
***



 俺は生きていた。
 気がつくと見たことのない場所で眠らされていた。
 起きようとするとわき腹が尋常じゃないくらい痛かった。
 それと左腕がなかった。
 全身包帯まみれでアルコールの消毒液の臭いが堪らなく臭かった。
「起きましたね」
 そして何故か金髪の美人さんがベットの横で林檎を剥いていた。
「ここはどこですか?」
 笑顔を作り、なるべく紳士的に尋ねてみた。
「はい、ここはイエスド王国軍のテントの中ですよ」
 にっこりと微笑んで答える美女。彼女は衛生兵かなにかだろうか?
「では、なんで俺は生きているんだ?」
 俺は敵陣のど真ん中で倒れたはずだ。死ぬどころか、この手厚い処置はなんなのだろうか?
「はい、私が助けるように部下に言いました」
「はあ?」
 彼女の言葉に思わず素っ頓狂な声を出してしまった。
 そして彼女は剥き終えた林檎を右手首ごと俺に渡してきた。
「おわ!」
 びっくりした。いきなり手を渡されてビビらない人間はいないと思う。
「これは義手?」
「はい、あなたが奪った右手です」
 そう言う彼女は右手は手首から先が無かった。
「初めまして、というのも変ですね。私はエリス、皆からは槍姫と呼ばれています。以後お見知りおきを」
 目と目が合う。
 緑色の瞳がキラキラと輝いている。
 そのとき俺はすべてを理解した。
(これは死んだな)
 身体中が傷んでもう溜息すら出なかった。

615 ◆AHN19iJ8Is :2010/02/05(金) 01:56:56 ID:SNCf4fmO
 以上です。
 勢いだけで書いた。反省はしていない。
616名無しさん@ピンキー:2010/02/05(金) 18:21:58 ID:DjE2ICD3
>>615
反省してないってことは、もちろん続きを書いてもらえるんだよな?

期待して待ってます。
617名無しさん@ピンキー:2010/02/05(金) 23:41:12 ID:SAxMLlqj
>>615

すごく好みなシチュだ
続き楽しみにしてます
618かたわの槍姫様_第二話 ◆AHN19iJ8Is :2010/02/10(水) 20:38:50 ID:736Tyxc7
投下します。
619 ◆AHN19iJ8Is :2010/02/10(水) 20:41:13 ID:736Tyxc7
 ***

 あれから半月が経った。俺は生きていた、それも尋問もされずに。
 てっきり俺を生かしたのは情報を吐かせるとか、そういった理由からだと思ったのだが、
どうやら違うようだ。
 あのお姫様は俺を自軍に引き入れたいそうだ。
 なんでも「これからは私の失った右手の変わりとなって働いてもらいます」だとか。
 正直俺はこの酔狂なお姫様に興味を持った。普通ならば自分を傷つけた人間を引き込ん
だりしないだろう。高名な人物や確かな腕を持った者ならともかく、今の俺は左腕を無く
し、両手のころだってそれほど腕が立つわけではない。なによりも祖国の滅亡とともに
俺の本当の名前を知る人間は数えるほどしかいないのだ。そういったもろもろの理由から
彼女にとって俺は必要な人材とは言いがたいだろう。
 しかし今はイエスド王国軍の中のごく一部だけではあるが、自由に歩かせてもらえている。
もっともあまり居心地のいい場所ではないが。
 当たり前だ。俺はイエスド王国の英雄たる槍姫様の傷つけた人間なのだ。俺が通りかか
るだけで、すれ違う兵士たちが殺気を帯びた視線を向けてくるのが常だった。それでも誰も
手を出してこないのは、お姫様が俺に手を出さないように厳命を出したからに他ならない。
まったく、あのお姫様は何を考えているかわからない。
 俺がそんなことを考えているとテントの中に食事が運ばれてきた。二人の給仕から運ば
れてきたそれは、とても捕虜の食事などではなく、貴族士官が食べるような豪華なものだ
った。最初にこの食事が運ばれてきたときは毒殺されるものだと思い、手をつけなかったが、
その知らせを聞いたお姫様が、「どうして信じてくれないんですか?」と言って、俺の目の
前でその食事を涙目ですべて平らげた、なんてことがあってから残さず食べるようにしている。

620 ◆AHN19iJ8Is :2010/02/10(水) 20:42:38 ID:736Tyxc7
 そして、毎日食事が終わったころ彼女がやってくる。
「カロさん、元気にしてましたか?」
 そう、お姫様だ。それも丸腰で笑顔をこちらに向けて毎日やってくるのだ。ちなみにカロ
というのは俺の偽名である。
「ええ、おかげさまで」
 それに笑顔で答える。俺がここまで生きてこれたのは彼女の気まぐれのおかげなのだ。
変に刺激して自らの首を絞めるわけにはいかないのだ。
「そうですか、それはよかったです」
 ベッドの横にある椅子に腰かけるお姫様。俺は彼女をじっと見つめた。戦場では兜の中
に隠れていた金髪は、今はランプの灯を受け、琥珀のような透明な美しさを見せている。
口元は笑顔を浮かべ、紅一つ塗っていないはずの唇は瑞々しい果実のごとく煌めいている。
そして何よりもエメラルドをそのまま埋め込んでしまったような、光を集め反射させ光る
緑色の瞳には絶対の“美”が存在していた。
「それで仕官の話は考えていただけたでしょうか」
 彼女はここに来るたびに俺に部下にならないかと誘ってくる。俺はこれまでその答えを
はぐらかしてきた。何故ならここで簡単にイエスとでも答えたなら簡単に寝返るやつだと
いう印象を与えかねないだろうし、何よりもイエスド王国に味方してしまえばクルーの民
に刃を向けることになってしまう。クルーの国はもうない、しかしレーネン国に支配され
た後も民は生き続けるのだ。そんな彼らと戦うことはできなかったからだ。
 しかし――
「はい、少し条件さえ飲んで頂ければこの身お預け致しましょう」
 今日の俺はお姫様にそう言った。
「何ですか?」
 初めて色よい返事を貰った姫様はものすごく上機嫌に聞いてきた。
「はい、先日の戦闘に生き残ったクルーの民のことです。彼らは今レーネン国に敵前逃亡
の罪で追われております。彼らを救い出すことができればこの小さな身など幾らでも差し
出しましょう」
 そう、俺が逃がしたクルーの民は撤退した後、敗北の理由を押しつけられ追われている
のだ。クエルが上手くやったようで今はどこかに逃げ延びたようだが、捕まるのは時間の
問題だろう。今はイエスド王国との戦争に集中すべき時期であるはずなのに……。この時
ほどレーネン国の無能さを呪ったことはなかった。この話はイエスド王国の兵士たちが話
しているのを聞いて知った。俺が嫌な視線に耐えてイエスド王国軍の中を歩き回っていた
のは、クルーの民の情報を少しでも集めるためだったのだ。
「クルーの民……あの亡国の民ですね。あなたはクルーの民の出なのですか?」
 凛とした声が通る。彼女の真剣な目がこちらを見据えている。
「……はい」
 彼女と目が合う。言葉を噛みしめるように肯定した。
「わかりました。この私の槍に誓ってその約束を守りましょう」
 椅子から立ち上がり、堂々と胸を張って言うその様は、槍も持たず、鎧も身につけてい
ないはずであったが、俺の目には何者よりも勇ましく見えたのだった。

621 ◆AHN19iJ8Is :2010/02/10(水) 20:43:53 ID:736Tyxc7


***

 イエスド王国軍上層部が一堂に会したテントの中、これからの行われる戦についての軍
議が行われていた。そこで俺は何故かエリス将軍の側近として彼女の後ろに控えさせられ
ていた。ちなみにエリス将軍という呼び方は、お姫様に名前で呼ぶように命令されたからだ。
「申し上げます。対レーネン国軍最終拠点、首都ワルーシャについて間諜から詳細が届き
ました」
 あの約束からもう半月の時間が経過していた。クルーの民はなんとかまだ捕まらずにい
るようだ。まあ、これについてはイエスド王国の弩濤の攻勢のおかげだろう。この戦での
イエスド王国の勝利はほぼ揺るぎないだろう。そして、今士官の一人が情報を読み上げて
いるところだった。
 主な情報はイエスド王国軍の兵力が3万なのに対し、敵方はせいぜい1万5千程度であ
ること。戦場となるであろう場所は城下町の前である見晴らしのいい平地であり、特にこ
れといった障害物がないことなどである。
 軍議が進み、作戦の話になった。ここではどうやらいいとこの貴族様の子息であろう見
目麗しい美青年が立案した四つの部隊における包囲殲滅作戦にほぼ決まりかけていたとき
だった。それまで特に声さえ出さなかったエリス将軍は俺に聞いてきた。
「カロ、あなたはどう思います?この作戦」
 テントの中の空気が止まった気がした。遅れてここにいるすべての人間の視線がこちら
に向いた。その目には好意など映っておらず、まるでゴミでも見るかのような視線だった。
「そうですね、元々数で勝っていますし、わざわざこのような作戦をとるメリットはあり
ません。こちら側は3万の兵力ですが4分割した場合ひとつおよそ7500となります。
ここで敵がほぼ全兵力をもってして確固撃破しに来た場合、最悪敗北もありえるでしょう」
 だが俺は彼らの視線などどこ吹く風といったように、堂々と自分の意見を述べた。俺に
とったらこのような敵意や侮蔑など、何度経験したか数えるのも億劫になるくらいなのだ。
「戯言をぬかすな!この臆病者の裏切り者め!」
 そうテントの外に漏れるぐらいの大声で俺を罵った女がいた。マリアンヌ将軍である。
マリアンヌ将軍は弓兵隊を率いる若き将軍で、エリス将軍とはお互いに「エリー」、「マリ
ー」という風に呼び合うほど仲が良かったらしい。しかし彼女の右手を奪った俺を引き入
れると聞くとエリスに猛反対して、それ以来少し疎遠になっているそうだ。

622 ◆AHN19iJ8Is :2010/02/10(水) 20:44:41 ID:736Tyxc7


「確かに少し臆病かもしれませんね。しかし私がこのようなことをいうのには三つほど理
由がございます」
 俺は彼女の恫喝にも似た大声にひるむことなく言ってのけた。
「一つ、敵は主力である騎兵隊をいまだに多く有してあり、対してこちらは多くの戦力は
歩兵であります。二つ、戦場がその騎兵隊を十二分に活用できる地形であること。三つ、
おそらくこの戦でレーネン国はスレイド将軍を出してくる恐れがあるからです」
 スレイド将軍とはレーネン国が誇る名将である。四十をこえたばかりの男ざかりだが、
レーネン国の王位継承権をめぐっての政治闘争に敗れ、今では城の中で幽閉されていると
いう。
「馬鹿な!確証もなしに、それも高々一将軍に怯えるなど!貴様のやっていることは我々
の指揮を下げることにほかならない!!よもやここで我らの腰を引かせることが目的では
あるまいな!」
 マリアンヌ将軍が鼻息荒く、血走った眼でこちらを睨んでくる。これではいくら言って
も駄目だな。彼女は理論ではなく感情でものを言っている。こういった者を従わせるのは
ほぼ不可能なのだ。
「……」
「なにか言うことはあるのか!」
 俺が呆れて黙っている時も、彼女は相変わらずこちらを親の敵のように睨んでいる。
「マリアンヌ将軍、少し黙っていてください。彼の話が聞けません」
 そんな今にも殴りかかってきそうなマリアンヌ将軍を尻目に、エリス将軍が冷たく言い
放った。
「続けなさい、カロ」
「……」
「続けなさい」
 もう一度俺に言うエリス将軍、俺は彼女の考えが時々わからなくなる。多分これはこの
テントの中のすべての人がそうだろう。
「いや、結構だエリス将軍。ここは勇猛なイエスド王国軍人が集う場所だ。決して彼の演
説を聞く場所ではない」
 俺がそんなことを考えていると、一人の初老の男性が声をあげた。彼はこのイエスド王
国軍の最高権威を持つ白龍騎士団の団長である。小太りの白髪混じりの金髪男は不快そう
に俺を見て、退出するように命じた。俺は黙ってその命令に従った。退出する際、エリス
将軍とマリアンヌ将軍と目が合った。マリアンヌ将軍が勝ち誇ったような目で、エリス将
軍はすまなそうな視線をこちらに向けていた。

 結局、例の4隊に分かれての包囲殲滅作戦が採用された。
(まいったな。敵は追い詰められて必死に戦う。一方こっちは揺るぎない勝利に安心しき
っている。ここで本当にスレイド将軍率いる騎馬隊が押し寄せたら……)
 スレイド将軍、彼は数少ないクルーの民を平等に扱う将軍だった。人望にも機知にも富
んだ彼の存在は、追い詰められたレーネン国軍を奮い立たせるに十分な人物だ。
(なにもなければいいが……)
 そう思う俺の頬を撫でたのはこの季節とは思えない冷たい風だった。

623 ◆AHN19iJ8Is :2010/02/10(水) 20:50:03 ID:736Tyxc7
以上です。
て言うか人いないね。

あと前回の投稿でちょっとミスった。
>>612
最後の最後に

「地獄の底までもお供いたします」

という台詞のあとに

 ヴォルの低音の声が俺の耳を撫でる。ここはあまりにも血の臭いがきつすぎる。

という地の文が一行入ります。
まあ脳内補完よろ
624名無しさん@ピンキー:2010/02/10(水) 21:04:08 ID:5daMFSpn
乙かれさん


なんか、規制また厳しくなったらしいよ。過疎ってるのもそのせいかも
625名無しさん@ピンキー:2010/02/11(木) 02:13:34 ID:201JnnbX
乙。

ところでこれは壮大な前戯だと期待していいんだよな?
626名無しさん@ピンキー:2010/02/11(木) 08:00:13 ID:7u6NA3x3
乙彼。
指揮→士気のtypo?
627名無しさん@ピンキー:2010/02/15(月) 16:04:51 ID:8TlpvzTj
>>623
亀ですが、続き楽しみにしてます!!
628名無しさん@ピンキー:2010/02/15(月) 22:46:17 ID:98MduOdP
主人公のセリフの
「こちら側は3万の兵力ですが4分割した場合ひとつおよそ7500となります」
で銀英伝連想したのは俺だけか?(笑
続き楽しみにしています
629かたわの槍姫様_第三話 ◆AHN19iJ8Is :2010/02/17(水) 23:32:57 ID:SvhB9rLG
投下します。
630名無しさん@ピンキー:2010/02/17(水) 23:34:00 ID:SvhB9rLG

 ***

 スレイド将軍は祖国が滅亡寸前の状態にも関わらず、ゆったりと風呂に入り、髭をそり、
髪を整えていた。それを部屋の隅で見守る女中は今にも泣き出しそうな顔をしていた。
何故ならばスレイド将軍は先ほど国王に呼び出されていたからだ。通常国王に会うに身嗜
みを整えるのは普通のことである。しかし彼が呼び出されてもう彼是三時間以上の時が過
ぎ去っていたのだ。あの気まぐれで傲慢な国王の性格を見れば、なんと叱責されるかわか
ったものではない。
「あの……そろそろ……」
 これでこの女中がスレイドをせかす言葉をかけるのは七度目となった。過去六度はいず
れの言葉も受け流されてしまっていた。
「ああ……そうだね」
 そう言ってスレイド将軍はアイロンがかけられたばかりの軍服に袖を通した。
「行きますか」
 そう言って悪戯小僧のようなニッと白い歯を彼女に見せて、彼は部屋から出て行った。
その時女中は、彼が自分の顔色を見て面白がっていたのだということを知った。

 スレイドが王の間にたどり着くと、彼を迎えたのはヒキガエルのよりも醜い声だった。
「遅い遅いぞ!今の今まで何をしておった!」
 王を震える手でワイングラスを持ちながらスレイドを睨んでいる。周りは人の影は三人
の護衛の兵士と二人の文官だけだった。おそらくその国の滅亡を悟り、ほとんどの高官た
ちは逃げだしたのだろう。
「いえね、ずっと臭い場所に押し込められていたので臭いが移ってしまいまして、そのま
までは陛下に失礼だと思いまして風呂に入っていました」
 スレイドはたっぷりと皮肉の音を込めて言った。それを聞いた王はスレイドにワイング
ラスをその中身ごと投げつけた。スレイドはそれを避けもせずただ黙って右手で受け止めた。
しかしグラスの中の液体まではそうはいかず、白シャツはワインで赤く染まってしまった。
「もうよい!貴様はこれからわが軍を率いて敵と戦え!」
 王が吐き捨てるように言った。
(なんと傲慢な王だろう。これではレーネン国は滅びるはずだ。ここでこの王の首を取り
敵の差し出してみてはどうだろうか、……なんてな)
 スレイドは自笑気味に笑った。
(そのようなことは私の性に合わないな。まあこんな場所にいるよりも、戦場を駆けまわ
った方が気分が良いに決まっている)
「わかりました」
 そう言って礼もせずままスレイドは王の元を去って行った。王はそれを見て顔を歪め、
新しい酒を持ってくるように命令した。

631名無しさん@ピンキー:2010/02/17(水) 23:34:34 ID:SvhB9rLG

 ***

 イエスド王国軍右翼、7,500の内1,500の騎兵隊を率いるのが槍姫ことエリス将軍だった。
俺は今彼女の後方についている。
 やがて戦いは始まった。敵は中央に向かってきた。俺たちは彼らを包囲すべく陣形を変
えていく。
 しかしどうも敵兵の様子がおかしい。敵があまりにも速すぎるのだ。敵は一切止まるこ
となく中央右側に押し寄せた。この速さでは右翼と左翼とで挟み撃ちに浴びせるはずだっ
た弓が届かない。今撃つと味方にも当たってしまう。
 敵軍の真ん中へと突っ込むほど今のレーネン国には士気はなかったはずだ。やはりこれ
は彼がこの戦場にいるということなのだろう。そうなればもう中央右の軍は救援に向かっ
たところで無駄足になるだけだろう。
「カロ、どうやら敵が中央を破るのは時間の問題のようです。あなただったらどうします?」
 あえて中央右でなく中央と言ったのは、おそらく私と同じ考えだからだからだろう。
(中央右の次は中央左の軍が食い破られる。ここで中央左の軍が左翼と合流してくれれば
問題ないのだが……)
 中央左の司令官は軍議で俺を不快そうに退出させた例の白龍騎士団の団長なのである。
ああいった手合いは目の前の味方を良いようにされて黙っている性分ではない。
「手は二つあります。ひとつは一刻も早く左翼の軍隊と合流し、数の上で五分の勝負に持
ち込むこと、そしてもうひとつは……」


 ***

 馬に乗って戦場を駆ける。私たちはついに敵中央の両陣を破ることに成功した。次は左
翼と右翼だ。この二つの距離はかなりある。そうそう合流などできまい。つまりこの戦は
ほぼレーネン国の勝利だ。スレイド将軍についてきて本当に良かった。そう一兵卒の俺が
思っていると、仲間たちが突然騒ぎだした。
「城が……!城が……!」
 見るとワルーシャの城には我らのレーネン国のではなく、敵側のイエスド王国の旗が靡
いていたからである。

632名無しさん@ピンキー:2010/02/17(水) 23:35:28 ID:SvhB9rLG

 ***

 戦いは終わった。タネを明かしてみれば簡単なことだ。敵がこちらの中央に気を取られ
ているうちに、エリス将軍率いる騎兵隊が敵の城を落としたのだ。
 右翼と左翼が合流するには時間がかかり過ぎる、かと言って味方の救援に向かっては確
固撃破されるだけ、ならば敵の戦う理由を奪ってやればよい。つまり守るべき城さえどう
にか出来ればもうこの戦いは終わったも同然なのだ。この状況で居残りをさせられている
守兵ではエリス将軍率いる騎馬隊は止められるはずもなく、城はあっけなく落ちた。
 そして、城が落ちたのをみとめた後、スレイド将軍は少し寂しそうな表情を浮かべ、イ
エスド軍に投降した。
 このようにしてイエスド王国はレーネン国との戦争に勝利した。

 ***

 ワルーシャの城では連日戦勝パーティが開催されていた。
 俺もエリス将軍に引っ張られるような形で無理矢理参加させられていた。もっとも俺を
連れてきた本人は様々な人物から社交辞令のあいさつを交わされ、ダンスを申し込まれと
目も回るほど忙しいようだ。俺はひとりバルコニーでパーティの様子を、ワインを傾けな
がら見ていた。
「おい、貴様」
 そうしているとおもむろに声をかけてくる女がいた。知らない女だった。
「カロと言うらしいな……その、なんだ……」
 女は桃色のドレスを纏い、頬を染めて言い淀んでいた。化粧はあまりしていない褐色の
肌に、白く美しい髪が映える。
「その……この間はすまなかった。もし貴様がいなかったら我々は負けていた」
 この間、この間……? ああ、なるほど。ようやく目の前の女性が誰であるかわかった。
「いえ、気にしてませんよマリアンヌ将軍」
 目の前にいたのは軍議で俺のことをずっと睨んでいたマリアンヌ将軍だった。
「そうか……」
 そう言うと彼女はずっと黙ったまま俺の隣に立ち続けた。やがてパーティも終わりに近
づき最後のダンスとなった。その時マリアンヌ将軍が絞り出すような声を出した。
「私と踊ってくれないか?」
 彼女は俺の前に手を差し出す。彼女は耳まで真っ赤にしていた。
「その、この間の謝罪も兼ねてだ」
 そして取り繕うように言う。
「ええ、喜んで」
 俺は少し考えた後彼女の手を取った。ここで断ったら彼女に失礼だと思ったからだ。

 ゆったりとした音楽と共に男女が回っている。
 マリアンヌはこういったことにあまり馴れていないようだ。動きがいちいちぎこちない。
「マリアンヌ将軍、もう少し肩の力を抜いてください。ダンスなんて所詮遊びですよ」
 俺は彼女の耳元でそう言う。
「ああ、わかった」
 そう言うが彼女の動きは一向に良くならない。
「ほらほら、もっと笑ってください。せっかくの綺麗な顔が台無しですよ」
「―――ッ!」
 俺がそう言うと彼女は更に身体を固くして、俺の足を思いっきり踏んでしまった。
 結局俺はこのダンスが終わるまで彼女に三度も足を踏まれるのだった。

 皆が楽しそうにダンスに興じている中、その様子を憎々しげに見つめている一人の女がいた。女の左手は強く握り過ぎたために血が滴っている。
「それは私のだ」
 女の口から呪詛のような響きが漏れた。その言葉を知る者は誰もいない。
「私のだ!」
 彼女の眼は魔物のように緑色に光っていた。
633名無しさん@ピンキー:2010/02/17(水) 23:38:28 ID:SvhB9rLG
以上です。
てか最後にまた改行ミスりましたね。

>>626さんの言うとおり前回のも変換ミスです。

まあ脳内補完なりしてください。
634名無しさん@ピンキー:2010/02/18(木) 23:47:48 ID:nopzZ1z9
>>633
GJ!
635名無しさん@ピンキー:2010/02/24(水) 01:15:12 ID:9buJXRAL
good job!
面白かったよ
636名無しさん@ピンキー:2010/02/24(水) 07:06:43 ID:ltTqROJJ
エロパロじゃないならそういうスレに投下すれば?と思う俺ガイル
637名無しさん@ピンキー:2010/02/25(木) 00:50:00 ID:VnSQj47P
>>633
投下乙&GJ
638名無しさん@ピンキー:2010/03/01(月) 12:05:09 ID:PC30MYRl
保守
639名無しさん@ピンキー:2010/03/04(木) 04:16:04 ID:G5FBOkRf
続きまってるぜ
640投下準備 ◆REMNL/JIG6 :2010/03/21(日) 11:37:04 ID:Gk9bmizr
 トリップ変わってますが、以前副長シリーズを書いていた者です。保守がてらに小品を書いてみました。
 女同士メイン、しかしレズとも百合とも言い難い何か。今回のエロに直接副長や男は絡みません。
 今回の投下分と直接的に時系列で繋がっている二年前の前回投下分は、保管庫に個別の形では収録されておりません。
http://vs8.f-t-s.com/~pinkprincess/female_soldier/05-2.html
の314から入っておりますので、よろしければこちらを参照してご確認ください。
641副長の日々3.5前編 ◆REMNL/JIG6 :2010/03/21(日) 11:39:21 ID:Gk9bmizr
○1
「旗印が見えたぞ!」
 物見櫓に立つ歩哨の叫びが、砦の空気をわっと沸かせた。たちまち手すきの兵士たちが戦友の無事をこの目で確かめんと、一斉に城壁へ駆け上がる。
 出撃した守備隊主力不在時の留守を預かる副長、ユアン・ランパートもその人の流れの中にいた。さっとに手をかざすと、木々の合間の地平線から現れてくる友軍の姿を確認する。
 威風堂々と凱旋してくるその兵士らの隊列に欠けがないこと、そして何よりも一隊の長たる女騎士の姿に異常がないことを確認して、ほっと副長は息を吐く。
 しかしすかさず身を翻し、彼は命令を飛ばしはじめた。
「主力が戻ったぞ! 築城作業も訓練もいったん中止、すぐに食事と手当の用意だ。酒に包帯と薬草に軟膏、ああ、それから湯桶は足りているな? すぐに沸かせ!」
 後方を預かる守備隊の古兵たち、そして周辺から徴用された男女が慌ただしく動き始める。帰還する主力部隊の受け入れ準備を指折り数えながら階段を下りるユアンは、駆け上がってきた小柄な兵士と肩をぶつけた。
「おわっとぉぉ!?」
「あ、すいません副長」
 狭い石段の上でたたらを踏んでようやくこらえるユアンを後目に、細身の軽装兵は風のように彼の脇を駆け抜けていく。
 砦に残された守備隊最年少の少女弓兵、ハンナ・グレアムだった。少年のように短く切った黒髪を揺らし、城壁から身を乗り出して、帰着してくる出撃部隊を目を皿のようにして観察する。
「ハ、ハンナ! 君は本当になぁっ!」
「だから、すいませんって言ってるじゃないですか――隊長、ご無事で!」
 小さく、しかし精一杯に鋭い調子で抗議するユアンの相手もそこそこに、14歳の少女兵は悪びれた様子も見せずに黒い両瞳を輝かせ、何度もいっぱいに両腕を振ってみせる。
 城壁から細くしなやかな、それでも革鎧の束縛の下に確かな甘みの存在を感じさせる少女の影が、逆光の中に浮かび上がる。その健やかな美しさが青年の記憶を刺激して、ユアンをその場で口ごもらせた。
 ついほんの先日、ユアンが王国軍の軍需倉庫から物資を受領する輜重隊を指揮した際、ハンナはその指揮下で魔物による待ち伏せの兆候を発見した。
 しかし輜重隊指揮官たるユアンの能力を信用せず、手柄を欲して逸るハンナは独断専行した。そして単身で魔物の群れへ潜入して指揮官格の暗殺を狙うが、失敗。逆に捕虜にされてしまう。
 虜とした美少女の肉体に欲情した魔物たちは、どこからか手に入れた媚薬まで用いてハンナを手込めにしようとしたが、輜重隊を部下に任せて密かに単身追及してきていたユアンの奇襲で大損害を受け、ハンナはその混乱の中で救出される。
 そして二人だけでの逃避行のさなか、魔物たちに使われた媚薬の効果でハンナは欲情し、ユアンを組み敷いて襲った。そしてユアンはハンナの処女を貫き散らし、その最奥でたっぷりと自らの精を撃ち放った――。
 あの雨の夜、洞窟で味わった少女の肢体は、今もユアンの意識から消えてはいなかった。
 しかし正直、今もあれが現実の出来事だったとは考えられない。
 あれほど熱く切なげにユアンの雄を懇願し、激しく腰を打ち付けてその精までも自らの内へ搾り取った少女はあれ以来、一言もその件に触れようとすることはなかった。
 そのあっけらかんとした、時に反抗的な態度は、あの二人にとって不本意だった情事の前後で変わりない。
「まったく、女は分からない……」
 首を振りながら地面へ降り立ち、ユアンは再び指示と命令を飛ばしはじめた。
642副長の日々3.5前編 ◆REMNL/JIG6 :2010/03/21(日) 11:41:06 ID:Gk9bmizr
○2
「小鬼26に蜥蜴人15を討伐して戦死者無し。我が方の被害は重傷者2、軽傷者5。大戦果でしたな、従姉妹殿」
 傷つきながらもどうにか本拠地まで帰り着いた、その7人の負傷者への本格的な手当が始まるのを見届けながら、ユアンは馬上の騎士へ語りかけた。
「――7人もやられた。不覚だった」
「死なせたわけではありますまい」
 面頬を下ろしたままの兜の奥から漏れ聞こえるのは、若い女のそれだった。女騎士は面頬を跳ね上げて兜を脱ぐやそのまま、背まで届く燃え立つような赤い長髪をばっと散らして一気に下馬した。
 長身の端麗なる戦女神のごとき守備隊長、フレア・ランパートは今日もひどく不機嫌だった。
 その全身は特に胸と腰とで女を強く感じさせる、優美で鮮やかな曲線を描く鋼鉄の甲冑によって包まれている。しかし今はそのところどころに傷と返り血が散り、激戦の様を物語っていた。
「私とライナ軍曹の二人が直接率いてこのざまではな。王都が援軍を寄越す前に、擦り切れてしまわねばよいが……」
「援軍の督促は繰り返し送ってあります。それに今回は、よい知らせも――」
 最寄りの城塞まで、王国軍増援部隊の先鋒が到着したらしいことをユアンは告げた。先ほど伝令を受けて知ったことだった。
「従姉妹殿が今なされるべきことは、とにかく疲れを癒し、次の戦いに備えられることですよ。後のことは、万事お任せを」
「うむ、しかし従兄弟殿――」
「隊長殿!」
 そのとき明るく弾んだ声が、二人の間へ割り入ってきた。視線を向ければ、健康的に焼けた頬を紅潮させたハンナが飛び込んできて、ひざまずきながらフレアへ熱い視線を向けるところだった。
「隊長殿っ。ご無事の凱旋、まことにおめでとうございます!」
「……ああ。ありがとう、ハンナ」
「次は――次の出撃はこのハンナめを、ぜひ隊長殿の戦列へ! 隊長殿の指揮下ならばこのハンナ、十人力の働きをご覧に入れます!」
「…………」
「おい、ハンナ……」
 黙りこくったフレアの脇から口を挟もうとするユアンなど見えてもいないかのように、ハンナは熱のこもった真摯な瞳で、憧れの女騎士をじっと見つめ続けている。
643副長の日々3.5前編 ◆REMNL/JIG6 :2010/03/21(日) 11:41:37 ID:Gk9bmizr
 しかし長引く沈黙にユアンも口ごもり、さすがに気まずさを感じ始めたころ、誰かが不意にハンナの襟首を掴み上げた。
「うにゃっ!?」
「ああ、はいはい。どうもその辺に見えないと思ったら、こんなところにいたかバカ娘」
 頭頂部近くで一筋に結んだ黒髪を流し、フレアのそれにも勝るほどの豊かな曲線で打たれた胴鎧を身につけた女兵士が、猫でもつまみ上げるようにハンナを一気に宙吊りにしていた。
 そして彼女はハンナに対してのぞんざいな口調が嘘のような、丁寧な口調でフレアに話しかける。
「副長殿のおっしゃるとおりですよ、隊長殿。ここは私らに任せて、どうかすぐにでもお休みください」
「いや、しかしライナ軍曹。指揮官たる者が真っ先に休むわけには――」
「しかしもかかしもありませんよ、隊長殿。お偉い方がいつまでもそこでそうしておられると、せっかくここまで着いたってのに、下の者だっておちおち休んでいられないんです」
「む……」
「私も副長殿に引き継ぎを済ませたら、すぐに参りますから。隊長殿、どうかお早くお休みください」
 少女のような魅惑的な微笑みとともに片目を瞑り、まるで姉のようにフレアを扱うこの女軍曹こそが、この守備隊の屋台骨、ライナ・グレアム軍曹だった。
 斧槍の名手であり、少女時代には傭兵として各地の戦場を転戦、その豊富な実戦経験に裏打ちされた戦闘能力と指揮能力は、誰もが評価するところだった。
 同時にこの守備隊では数少ない女同士の気安さか、フレアとの間には身分を超えた戦友関係のようなものを共有してもいるようだった。
「お、お母さん……おかあさ……くる、しっ……」
 そして、紅潮していた頬も順調に青ざめさせつつある少女を素知らぬ顔で吊し続ける彼女は、そのハンナの母親でもある。
 一人娘をそのたわわな乳房で育て、その後も長年戦場にあり続けてなお衰えぬその豊潤な美貌のほどはユアンも先日、この砦の薄暗い倉の一つで存分に味わっていた。
 そんな彼女が、ユアンへ片目で軽く目配せくれて、思わず彼は苦笑した。娘同様にその思考はまったく読みがたいが、それでもユアンはライナが寄越してくれたこの好機を無駄にする気はなかった。すかさず口を挟む。
「従姉妹殿、湯浴みの準備が出来ております。いつものように、村の女衆に手伝わせますか?」
「…………」
 そんな三人の姿をしばらくの間、フレアはいつも通りの他人に感情を悟らせない、冷たさすら感じさせる表情で見据えていた。今度こそ、重たい沈黙が彼女たちの間を通り抜けるかにも思えた。
 だが、フレアは不意に口を開く。
「従兄弟殿。ハンナは今、手は空いているのだな?」
「は? 何かの作業に使おうかとは思っておりましたが、今のところは、まあ――」
「ふむ。ではハンナ、私の沐浴を手伝え。来い」
「けほっ!?」
 途端にライナの握力から解放され、ハンナの身体が地面へ落ちる。
 涙を浮かべながら必死に呼吸を貪るハンナはしばらく、言われたことを理解できていない様子だった。しかしフレアの瞳を見つめ返してその色合いを読みとり、やがて言葉の意味が腑に落ちると、ハンナはその場で直立不動の姿勢を取って叫んだ。
「は、は、はっ――はい! ハンナ・グレアム、隊長殿の沐浴、お手伝いさせていただきますっ!」
「そんな大声で復唱しなくていい」
644副長の日々3.5前編 ◆REMNL/JIG6 :2010/03/21(日) 11:42:14 ID:Gk9bmizr
○3
「た、隊長殿っ……、ど、どうぞ、こちらへ!」
「うむ」
 砦の奥へ続く石組みの通路へと、ぎこちない調子で左右の手足を繰り出しながら、ハンナはフレアを砦の浴室へ導いた。
 決して大きな浴室ではない。それでも戦時には手術室としても用いられるここは、二人の娘がその身を包む甲冑を脱ぎ、その裸身を清めていくには十分すぎる広さがあった。
 すでに外の竈で十分に湯が沸きたっていることを確認すると、ハンナはフレアの後ろへ立った。フレアの身の丈は、ハンナのそれより頭半分以上ほども高い。
 憧れの凛々しき美少女騎士の甲冑と衣服を、直接この手で解ける。倒錯した熱が少女の内側で不意に高まり、小さな胸の内側を激しく打ち鳴らした。
 喉が鳴る。上擦る声で申し出た。
「……し、し、失礼しますっ……」
「うむ」
 震える指をそっと長い赤髪の中へと伸ばし、ハンナはフレアとともに、少女騎士を包む甲冑を留める革紐を一つ、また一つと解いていく。
 籠手と腕甲、脚甲を外すだけで、鎧下から装甲の内部に封じられていた汗の香りが漂い、ハンナは逃すまいと深く息を吸い込んだ。
 続けて、胴回りの足掻きを良くするように一枚板でなく、何枚もの板金を綴って形作られた胴鎧に掛かる。ハンナが背当を下ろしフレアが胸当を下ろすと、ハンナはたまらず息をついた。
 凛々しい少女騎士の鍛えられたしなやかな肢体にありながら、その二点ばかりにはしたたかに脂肪を蓄えて左右とも、すこぶる豊かに実ったフレアの乳房。
 その双乳の有り余る質量が、鎧下をなす厚い布地すらも形良く天突くように押し上げて、傲慢に自らの存在を主張していた。
 傍らへ裏返しで置かれた胸当へ目をやれば、全体にやや下方へ撓みながら前へ突き出す二つの半球を象った空間がしっとりと塗れて、いくつも汗の玉を滴らせている。
 フレアの胸周りを守るその部位だけが、そのすぐ下に綴られた胴回りの板金よりも新しく見えるのは、今年十七を迎えたその若くみずみずしい乳房の著しい成長に応じて、その部分だけが幾度も打ち直されてきたからだろうか。
 その深く円い左右の空洞を窮屈そうにたっぷりと満たし、戦いの中ではその鋼の器へ自らをぴったりと収めることで、その身が繰り出される度に主の意志へ逆らおうとする、無駄な弾みを戒められていた二つの乳房。
「んっ……」
 フレアはそれら左右の隆起へと、汗に濡れそぼってまとわりついたままの布地の感触に、疎ましげな吐息を漏らす。
 その胸当の裏側に象られるように、見事な巨乳の輪郭をくっきり残した鎧下を、乳房が突き上げているその下側を摘んでいささか乱暴に引きおろし、鎧下の形を崩してのける。抗議するように、柔らかそうに双乳が弾んだ。
 その鎧下も継ぎ目を解き、肌着のシャツも脱がせると、いよいよ鍛え抜かれた白い腹筋が露わになる。
 そしてそのすぐ上では、乳房の重さと輪郭を直に包んで支えながら、両肩にその重みを分散させて支える革の胸当が露わになった。
「い、……いっ、行きますよ!」
 奇妙なほどに張り切った宣言とともに、白い素肌へ汗で張り付く布地との間へ、ハンナは肩紐を外しながら指を滑らせる。茹でた卵の滑らかな白身から殻を剥くようにして、ハンナはついにフレアの乳房を剥き出した。
「うわあ……っ」
 その内側から溢れ出さんばかりのみなぎる精気に押し出されるようにして、剥き下ろされていく肌着の締め付けから逃れるかのごとく、フレアの乳房は弾けるように飛び出す。
 若干十四歳にして自在に長弓を操るハンナの掌をもってしても、その掌全体で包もうとしても包みきれないだけの白いまろやかな乳肉を蓄えた巨塊がふたつ、ぼるんっ、とすこぶる重たげに、すべての守りを解かれてまろび落ちた。
 戦いの中でその乳房を守り抜くとともに、捉えて支える甲冑も、革で補強された胸当の肌着も失ってなお、少女騎士の胸で豊かに実った二つの果実。
 ハンナの掌、巨乳を包む肌着からこぼれ落ちてその真っ白な柔肉を弾ませると、薄桃色の上品というほかない清純な乳首に大きく頭を振らせ、そして数度の振動ののちにツンと天突くように静止した。
645副長の日々3.5前編 ◆REMNL/JIG6 :2010/03/21(日) 11:42:55 ID:Gk9bmizr
(あ、ああ……すごい……母さんのオッパイにも負けないくらい大きくて……それなのに白くて、柔らかくて、みずみずしくて、きれいで、張りがあって……フレア隊長のオッパイ、やっぱり、すごいよ……)
 ついに眼前へ現れたその白い芳醇な美の結晶に、ハンナは声をなくして息をついた。その右手は無意識に、自らの右乳房へと向かう。
 十四歳にしては早熟かつ、すでに子を産み育てるにも十分なだけの大きさを備えた、しかしフレアの美しい巨乳の前では二周りも小さく感じられる、弓弦からそこを守る革の胸当の下の乳房を掴み、乳肉を集めるように揉みしごいていく。
 そして左手は、はしたなくもすでに下着の内側で濡れそぼった、ハンナの花芯をそっと撫で回さずにはいられなくなっていたのだった。
「……ハンナ。まず髪から流してもらう」
「あっ……は、はいっ!」
 そんな少女の痴態に気づいてか否か、気づけばじっと彼女を見つめていたフレアの声でハンナはようやく我に返った。浴槽から手桶で湯を掬い取ると、それをフレアの頭上から流していく。
 腰まで届いている長い赤髪から、戦場の埃や汗の残滓が洗い落とされていく。何度も湯桶の往復を繰り返しながら、ハンナは半ば陶然と、フレアの赤髪に指を通した。
「ああ……」
 湯に洗われる度、指からこぼれ落ちるようなみずみずしさと、燃えるように鮮やかな色彩を取り戻していく赤髪。その後ろに覗く、しなやかに筋肉をまとい、引き締まった背中を見つめるだけで、ハンナは忘我の境地に達してしまいそうになっていた。
「ん……髪はもういい。次は背中だ、ハンナ」
「……は、はいっ」
 赤髪を頭頂にまとめ上げて布で巻くと、垢を擦り落とす目の粗い布地で編まれた手ぬぐいを片手に、ハンナは少女騎士の無防備な背中へ直接に触れた。
「隊長……隊長……」
 白く磨かれた乙女の肌の下で息づく、強靱でありながら柔軟な筋肉が返してくる布地越しの手触りは、熱い湯気の揺らめきの中で次第に少女の理性を薄れさせていく。
 そして背中の中心を流し終え、脇に手ぬぐいを回そうとしたとき、ハンナは思わずそれを取り落とし――自由になった両掌に、フレアの左右の乳房を握りこんでいた。
「?」
「はあ、はあ、はああぁ……っ! 隊長、隊長……っ! わたし、わたし、もうこれ以上は……こんなのこれ以上、我慢できません……っ!」
 鍛えられた少女騎士の胸に実った白い果実は、揉めば指に吸いつく柔らかさと、掌を跳ね返してくる弾力を同時に併せ持っていた。
 すこぶるつきの大きさを誇るフレアの巨乳は、やはりハンナの掌だけでは底包みきれない圧倒的な質量があった。
 重力との戦いでわずかに下垂した乳房が作る胸との重なり、その下側から指先を差し入れつつ一気に両乳房全体すくい上げたハンナは、薄桃色の甘い輝きを放つ宝珠のような乳首を探して、食い込んでくる手指を退けようと抗う巨乳を、さらに激しく揉み込んでいく。
「あああ……っ!」
 夢にまで見た、憧れの少女騎士の乳房が今、この手の中にある。握力を加える度に隊長のみずみずしい乳房が変形し、この掌へ温もりと感触を伝えてくる。
 ハンナはそのままフレアの背中へ抱きつき、少女騎士のそれと比べればまだ小さくとも、それでも自分自身の掌を満足させる程度の大きさは備える早熟な乳房を押しつけた。
 尖り勃った乳首がフレアの背筋を穿とうとして果たせず、跳ね返されて、潰れていく自らの若い乳房の中へと埋もれていく。
「隊長――隊長の裸、すごく、すごくきれいですっ……。だからわたし、私、もう……っ、ああ、あああああっ……!」
「……!」
 掌に収まりきらないフレアの巨乳を荒々しく蹂躙するハンナの手指が、躍動の中でその頂に息づく乳首を弾くと、少女騎士は初めてわずかな身じろぎを見せた。
 このまま斬られてもいい、もう死んでもいい――淫らな熱に駆りたてられるようにしてフレアを襲うハンナは、理性のくびきをかなぐり捨てて思うがままに少女騎士の肉体をまさぐっている。
 しかし、そんな熱に冒されて淫蕩に荒れ狂う少女の頭上に、平板な声が掛けられた。
「……ハンナ。私は以前から、君に聞いておかなければならないことがあったのだが……」
「あああああ……はっ……はい……?」
「この機会に聞いておこう。以前に輜重隊を護衛した際――あの脱出行の夜、君は副長と――私の従兄弟殿と、何かあったのかね?」
 自らの乳房を激しく両手で揉みしごかれながらなお、その唐突な愛撫の嵐にもまるで揺るぎを見せない少女騎士の怜悧な瞳が、ハンナの熱に蕩けきった瞳と交わった。
646投下終了 ◆REMNL/JIG6 :2010/03/21(日) 11:43:24 ID:Gk9bmizr
今回は以上です。
647名無しさん@ピンキー:2010/03/23(火) 18:49:26 ID:/PEeiQ3T
GJ!果てしなくGJ!

待っていました。ハンナはレズじゃないか疑惑を書き込んだ当人として
続きこないので心配してました。

続き期待しております
648名無しさん@ピンキー:2010/03/23(火) 21:07:01 ID:WOKPpUk0
GJ
しかし何年振りだろうw
個人的に好きなSSだったから復活はすごくうれしい
しかしこのハンナバレたら殺されるんじゃね?
649名無しさん@ピンキー:2010/03/25(木) 03:04:39 ID:nnJDpjf0
GJ!!!!
隊長はある意味苦労してんね
650名無しさん@ピンキー:2010/03/26(金) 03:25:35 ID:Fe22kCpU
GJ

続き読めるなんて幸せ
651保守小話2前書き:2010/03/29(月) 13:21:49 ID:NUy8akRe
てす
652保守小話2@:2010/03/29(月) 13:25:12 ID:NUy8akRe
「……マイク、この酒を飲み干したらどうなると思う」
「……今度は樽ごと持ってこられるんじゃないか?」
「ああ……、私もそう思う」
「…………飲まなきゃいいじゃないか」
「……お前が杯を置いたらな」
「ばっ。……できると思うか?」
2人は揃って深々とため息を吐くと、お互いをちらりと見やり一気に自らの杯を仰ぎ飲んだ。


軍の問題児として、戦後復興の名の下に僻地へと追いやられたモニカとマイクの2人は、
その働きから徐々に地元住民に受け入れられていた。
一目で余所者とわかる肌や髪、服装も、日に焼け、現地の装束を身につけることで緩和した。
一番大きかったのは、モニカが積極的に行った『御用聞き』であろう。
現地の若い男性を簡単な通訳とし、村長(むらおさ)から子どもまで、
あらゆる年代の男女に不便なところや欲しいものを聞いていった。
もちろん全てができた訳ではない。何しろたった2人で遠征してきて、定期的な補給も間遠になりがち。
しかし、その姿勢は確実に実を結んだ。
尻を叩かれながら――むしろ蹴られながら――手伝っていたマイクも、
地元の女性たちの人気が得、かつ酒の強さで男たちからも認められるようになると、
積極的に働きはじめるようになった。

というわけで。
月を信仰するこの村の祭りに招かれた2人は、今宵新月に主賓として上座に座っていた。
普段はタブーの酒も、新月で神が眠っている間は無礼講。飲み放題である。
酒に滅法強いため、誰一人つぶれない。しかも、飲み干すとすぐさま酒を注がれる。
そして、注がれた酒を一向に飲まないのは相手に失礼だときている。
東洋のそば文化もびっくりのハイペースである。

酒に強いモニカとマイクも、さすがに酔いが回り始めている。
新しい酒樽が運ばれ、つやつやの頬に素晴らしい笑顔の女性が豪快に蓋を叩き割った。
「……後でまた飲む気はないみたいだな」
「ああ。これからあれを飲み干すようだ」
武者震いするモニカとマイクはそれでも、意外にもそのすぐ後に酒宴から解放された。
しかも1日の休み付きである。
全て理解することはできなかったが、どうやら今回は彼らの歓迎の意もあったらしい。
伝えてくれた青年に感謝と精一杯の笑顔で応えると、2人はふらふらと仮住まいに戻った。
653保守小話2A:2010/03/29(月) 13:26:08 ID:NUy8akRe
「……体だけでも拭く」
万年床に倒れ込んだ後、だらだらと起き上がったのはモニカであった。
簡易洗面所で汲み置きの水にタオルを数枚浸し、上半身裸になる。
脇や首筋など中心に簡単に拭っていく。
ふらつきながら新しい下着を手に取ったところで後ろから衝撃がきた。
「うわぁああ」
「おっとっと、とぉ」
バランスを崩してへたり込むと、ますます背中のマイクはモニカに体重をかけていった。
「あ、危ないだろぅ!」
「いーや、モニカ。お前こそ今襲撃があったら一発で死んでたぞー」
呂律が回らないなりにしっかりしているモニカとは対照的に、マイクの口調はいつもより少し幼い。
いや、幼さを装っているだけの気がするが。
最初もこれにやられたのだ、と苦々しく思うも、相手は自重の全てを預けてきている。動けない。
「っつ、うわ、お前どこ触って……、んぁ、やめろっ」
「馬鹿ヤロー。目の前に至福の乳があったら揉む、これが常識」
やけにきっぱり宣言すると、マイクは両脇から強引にモニカの乳房を攻め始めた。
屈んで下を向いても失わない張りと、手に余る量感を楽しむように。
音にすればほよほよと震えそうなそれには、中心で小さくも固く主張するものがある。
手のひらの中心でころころと転がしながら全体をも揉み込む様にすると、
モニカは背筋を震わすような甘い呻きをあげた。
「……ぁ、ああっ、……ふ、ぅんんんっ」
逃れようと動いていた手はいつの間にか崩れ落ちそうな自分を支える為になっていて、
今ではそれすらも出来ずに辛うじて頭を地面に着けないようにしているだけだ。
比例して持ち上げられた尻に高ぶりを食い込ませると、更に潰れ落ちた。
「あー……。ははっ、かなり酒が回ってんなぁ」
その様子に無性に愛しさを感じてしまい、マイクは小さく苦笑を漏らした。
首筋を甘噛みしべろりと舐め上げると、くぅんと鼻にかかった声が聞こえた。
くたくたのモニカを抱え込んで胡座をかいた己の上に載せる。
しなだれかかってくる体重に緩む口元をそのままにして、ゆっくりと背中を撫でてやった。
すべすべとした肌触りを楽しんでいると、モニカも腕を回してインナー一枚のマイクの背を撫で回し始めた。
腰の辺りを何回か探るとごそごそと裾から手を差し込み、素肌に触れたところでモニカはほっとため息を吐いた。
「――ふーん。そんなに脱いでほしいのか?」
さすがに睨みの一つは投げられるだろうと思ったのに、素直に頷かれてマイクは目を白黒させた。
「寂しい」
「は、はぁっ?」
「せっかくならちゃんとくっつきたい。……わ、私だけか?」
654保守小話2B:2010/03/29(月) 13:27:51 ID:NUy8akRe
「…………………………」
「…………なんか言え、このバカ」
混乱の極地にいるマイクをじっと見つめるモニカの頬が僅かに赤い。
酒の力がいつもより彼女を素直にさせているものの、それでも恥ずかしいようだ。
その顔をじっと見つめたあと、マイクは大きく長く息を吐いた。
反射的にその身を離そうとしたモニカを、背を撫でていた手に力を込めてなだめ、もう片方で頭を支えて深く唇を合わせた。
しかしすぐに余裕はなくなり、技巧も何もない勢いだけのキスになる。
モニカも懸命にそれに応えようと積極的に舌と唇を動かす。
お互いの顔がべとべとになり、向きを変える度につながる銀糸は粘度を増していった。
いつの間にかインナーは胸まで捲れ上がっていて、気づいてそのまま脱ぎ捨てた。
ずれた顔を追いかけて腰が上がったのをいいことに、モニカのズボンを脱がしてしまう。
悲鳴を無視して最後の一枚に手をかけようとしたところで、本気の抵抗が来たので身を離した。
性差があるとはいえ、一定量の訓練とテストをくぐり抜けてきた軍人だ。一歩間違えれば大怪我になる。
「なんだよ。場所が不満か? それとももうびしょびしょで恥ずかしいっつうなら、気に――」
「違うっ! 黙れ変態!」
「…………」
その変態に気持ち良くされているのはどこの誰だと問い詰めたいが、
とりあえず目の前で揺れる双丘をすくうように揉みあげ、その先端を口に含んでモニカの反応を伺ってみる。
655保守小話2C:2010/03/29(月) 13:28:50 ID:NUy8akRe
「んっ……、あ、あのな。まだ上しか綺麗にしてないから、だからもうちょっと後で……っつひゃああっ!」
ごちゃごちゃとうるさいままでは進むものも進まなくなる。
なにやら抗議する口を塞ぐ意味で、マイクは手を伸ばして水に沈むタオルを掴む。
色気もへったくれもない灰色の綿のショーツを勢いよく引きずり下ろすと、
片手でいい加減に絞ったタオルで強引にモニカの股間を拭った。
本格的にあがった悲鳴をそのままに身を屈めて繁みに顔を埋めると、
自分で言っておきながらその濡れ具合に一瞬舌が止まった。
また揶揄したくなるのをぐっと堪え舌をねじ込む。
柔らかくきつい締め付けに腰の強ばりがうずいた。

「や…っ、もうやめ、あっ、あ、やぁああっ!」
もはや酒に酔っているのかこの空気に酔っているのかわからない。
そのまま全体を吸い込むように愛撫し、肉芽を舌先でちろちろと嬲る。
触覚だけにも関わらず、ぷっくりと腫れ上がった様子がわかる。
「んんっ……、そこは、っ、だめ、て……」
「……ああ。ここは噛むのがいいんだっけな」
「ぇ、あっ、あぁっ――――――」
声にならない悲鳴が、モニカが絶頂に達したことを示した。
最後にひと啜りすると、マイクはひとつ息を吐いて上体を起こした。
「んぅっ……、はぁ、ああ……っ」
弛緩し体を震わせるモニカのそばににじりよりその頬をべろんと舐める。
「っ、ひゃうぅ……」
「――赤くなりすぎ」
片膝の裏を掴んで脚の間に腰をねじ込む。取り出しておいた屹立は十分すぎる硬さと角度で、
手で調整しながらマイクはゆっくりと中に押し込んだ。
「は――っ、ふっ、んんん――――…」
「ほれ、こっちに腕回しな」
「…ん。――んんっ」
ふにゃふにゃとマイクの首に手を回したモニカをしっかり抱き、そのまま座位の形に持っていく。
もう一度深く中を穿つと、耐えられないようにマイクに抱きついたモニカは、
膣内の存在に声を漏らしながらもそれでもさらに密着をはかる。
「……背中痛くないか?」
「ああ…、だいじょうぶ」
念のため背中に軽く触れる。傷はついてないようだった。
「ふぁ……っ」
しばらく互いに相手の体温に身を委ねていたのだが、
ふと身じろいだ拍子に互いの胸の突起が触れ合った。
マイクがそのままゆらゆらと軽く揺すって刺激を与え、頃合いをみて動きを止めると、
モニカは不満そうに顔をしかめ、すぐにそんな自分に気づいて顔を赤らめた。
マイクがにやにやと見つめながら催促するようにもう一度体を揺らす。
「うぅ……っ、このっ、変態っ……ん!」
一度得た快感を恐る恐る再現すれば、あっという間に籠絡されてしまう。
一生懸命体を揺らすモニカのことなどお構いなしに
マイクが下から持ち上げたりはみ出た部分を撫でさすったりと好き勝手に楽しむ。
このはみ出た乳房のつるつるとしてハリのある感じがマイクは一番好きなのだが、
しかし、下半身から伝わる直接的な刺激にはやはり勝てない。
モニカの太腿から腰をなで上げ膝を立てさせる。肩に手をついたモニカが顔を赤くした。
「マ、マイク……?」
「そのまま、気持ちいいように動いて」
「動くって、そんな……」
戸惑うモニカは可愛い。
いつもは怒鳴ったり呆れたり、肩に力を入れて任務遂行を至上にしているのに、
この時だけは、頬を淡く染めてマイクの腕の中に収まってしまうのだ。
「ほら、腰を動かして」
「ううぅ……」
656保守小話2D:2010/03/29(月) 13:32:13 ID:NUy8akRe
一度二度、前後に軽く腰を揺すった後、モニカはゆっくりと上下に動き始めた。
もう一段階踏んでから、と思っていた動きをされてマイクも下から突き上げたくなるが、
このまま乱れていくモニカも見てみたい。
苦渋の決断だった。
「はんっ、ふ、う……、んあ、はぁ…、あ、ああっ」
すぐに腰砕けになるかと思いきや、モニカは徐々にコツを掴みリズミカルに動き始めた。
目線を下にやると、てらてらと光りながら出入りする自分自身が見える。
気づいたモニカがその視線を辿りその光景を見た瞬間、悲鳴を上げてマイクに抱きついた。
「ば、かぁ……」
気持ちいいくせに。
抱きついてきたモニカの胸に埋もれそうになりながら心の中で呟くに留める。
きゅん、と膣内が締まったのはモニカにもわかっているはずだ。
ただ、マイク自身もまた、一層力がこもったのもモニカにはわかっているだろうが。
「あ、あ、ああっ……、ひゃあんっ、や、だ、めぇ……、もぉ、んんっ」
そろそろ主導権を取り戻そうと、マイクもモニカの動きに合わせて腰を動かし始める。
タイミングを合わせたりわざとずらしたり。
そのたびに悩ましげに漏れる吐息は熱さを増し、絶頂が近いのか狭く柔らかい肉壁が、
我慢できないとざわざわうごめく。
「もっと」
「ぇ、え……?」
「ほら。言えよ」
酒のせいだろう。今日はマイク自身いつもより感覚が鈍く、まだ達することはできそうになかった。
「言わないならこのまま……」
「ひっ!」
がっちりと両手でモニカの腰を掴み強引に動きを止める。
自身は思わせぶりに軽く揺するのみ。
「だめっ……」
「んー?」
何回も息を吸い込み、戸惑いながら耳元で小さく小さく囁かれた言葉にニヤリと笑みが零れた。
657保守小話2E:2010/03/29(月) 13:33:34 ID:NUy8akRe
「やっ、すごっ、……っき、い……」
もう一度モニカを仰向けに寝かせ、相手を気持ち良くさせるために動く。
マイクに全てを委ね、ひたすら己の快楽を貪る姿は見ていてなんとも言えずいい気分である。
処女を抱くのはもちろん、ひとりの女を抱き続けるのも自分には無理だと思っていたのに
なぜか続いているのは、この姿があるからかもしれないと頭のどこか冷静な部分で考える。
どこか達観したように淡々と受け入れたり、自分の魅力を最大限に生かして誘惑したりすることなく、
いつでも精一杯マイクを受け止めようとする。
自分好みに教え込むのはもちろんだが、このごろは最中になると甘えてくるようになってきた。
事後に少し照れて乱暴な口調になるのもまたいい。
「……イっていいぞ」
「んっ、ふぅ……っん、イっちゃうぅ……っ!」
「……っ、くぅ――――」
全身が大きく震えてモニカの中が搾り取るように絡みついた。
流されないように堪え、モニカの全身が弛緩してからもマイクはしっかり抱え直し、
その場でしばし余韻を味わっていた。

そのあと場所を簡易ベッドに移し、マイクもようやく欲望を解放した。
モニカは2度達していた。
一人で寝るのに精一杯なスペースに二人並ぶことは叶わず、事が終わったあとは
ベッドを背に、巻きつけた毛布に二人くるまる。
「――そんな心配しなくても、訓練でもうとっくにボロボロだって」
マイクに俯せるようにもたれかかったモニカは声に笑みを滲ませた。
「いやー……、そういう訳じゃないけど」
口ではそう言いつつ労るように背中を撫でる手は止まらない。
でも、とモニカは呟いて小さくふふふとはにかんだ。
「……なに考えてんだか」
と、間髪入れずに鼻で笑いつつマイクも腕に込める力を増やす。


しこたま酒を煽ったあとではあるが、お互いかなり正気が残った上での出来事だった。
明日からもまた任務の日々。
酒は明日に残さなくても、この日の感情はたぶんこの先また顔を覗かせ、
思わぬ甘いひと時をもたらしてくれるに違いない。



658保守小話2:2010/03/29(月) 13:39:02 ID:NUy8akRe
保守というより埋めネタになってしまった。
エロの練習に書いているので読みづらいかも。申し訳ない。

前回感想くれた人ありがとう。
感謝。
では。
659名無しさん@ピンキー

まあ488kbだからもう少しだね