嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ あの女49も!

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9526/7:2008/06/05(木) 23:52:15 ID:vrZyV3e6
 ていねいに、櫛を通して、途中で引っかかり、離してもう一度通しても、また引っかかり、私はいまいましくなって、櫛を持った手で洗面台を強かに叩きます。
櫛の片端の歯が幾本か欠けて、最後に残った無傷の櫛でしたが、私は八つ当たりが思い通りに行ったのに機嫌を良くして、鼻歌を歌いながら、真ん中あたりで真っ二つにぱちりと折り、歯が無事なほうを髪に通しました。
しかしまた中途で櫛が止まって、私は乱暴な手つきで撫で付けるように幾度もそのところを梳き、抜け落ちた毛先が指先にはらりと感じられるのもかまわず繰り返しました。
このごろずっと水仕事を控えて、毎日朝昼晩クリームを塗ったおかげで、前はあんなにささくれ立っていた手のひらも、十代の少女のような愛らしいそれに変わりました。
その手のひらに化粧水をつけ、ひたひたと顔に染み入らせます。
坊やの泣く声が聞えましたが、どうせ、うんちでも漏らしたにきまっているのでございますから、私はそのままお化粧を続けました。
 聞き分けなく泣き喚いているくさいくさい坊やを台所のテーブルに寝かせて、良人と二人きりになった私は、寝台に横たわる良人の頬に両手をやって尋ねます。
「ねえあなた。私、綺麗ですよね」
 良人は無理に顔を背けようとしていらっしゃるのか、私の当てた右手と左手に交互に力を加えるのがわかりましたけれど、結果は腕をじゃらじゃら鳴らすばかりで、
いくら良人のためといえども、私は愛する人が苦しむのを見るのは辛くって、ごめんなさい、としずかに謝って良人を抱きしめました。
 小さく泣き声が聞えて、それが次第に大きくなり、いよいようるさく感じた私は、この無粋の元凶を叱りつけるために、シャツを羽織って寝台から降りました。
扉を開けると、伏した坊やが泣き喚いています。台所からどうやってここまでやってきたのか、発育不良のくせしてどうして一丁前にハイハイなんか覚えたのか、
私はいらいらして、赤ん坊を壁に寄りかからせ、ニ三、頬を軽く引っぱたきました。
ほんの少しの間、黙ったかと思えば、すぐにまた、いっそう不愉快な音で泣き喚きます。
まだ足りないかまだ足りないかと思いつつ、今度は少し振りかぶって打とうと思ったとき、出し抜けに、呼び鈴の電子音が廊下に響き渡りました。
9537/7:2008/06/05(木) 23:55:52 ID:vrZyV3e6
私は手で赤ん坊の口を覆い、全身を緊張させて、音を立てぬようじっとしていましたが、呼び鈴がいつまでも止みませんので、痺れを切らし、寝室で服を着て応対に出て行きました。
玄関の覗き穴に目を当てると、制服の警察官が立っています。変に勘ぐられるのも好ましくございませんから、私はあくまで自然な様子で扉を開けました。
「なんでしょうか?」
「少しだけお話をうかがいたいのですが、よろしいでしょうか?」
「はぁ」
「あのですね……」
と警察官が言おうとしたのと同時に、あの女が扉の影から現れて、
「いるんでしょ!」
とすさまじい大声で言い、それからすぐにまた良人の名前を叫びました。
「……すけ……て……」
 奥から、それに答えて微かな声が響きます。
「ちょっと、お宅の中を調べさせていただけますか」
 警察官の柔らかい態度は消えて、玄関の扉はいつの間にやら足で押さえられて閉めることが出来なくなっています。
そうして私が抵抗するべく彼の胸を押そうと身構えると、物陰から数人の別の警察官が飛び出てきて、瞬く間に私を取り押さえたのです。
最初の警察官が素早く家に踏み込み、それからしばらくすると坊やの泣き声が聞えました。
あの子は人見知りしないほうですが、きっと、おまわりさんにおどろいたのでしょう。
荒々しく扉を開け閉めする音に混じって、良人の声も聞えます。
「助けてくれ、刑事さん。監禁だ。これまでずっと監禁されているんだ。あの女がおれを、監禁しているんだ。刑事さん、こっちです。はやく、外してくれ。おれを助けてください」
 かつての恋敵の女は、組み伏せられた私を情なく見下ろしながら、家から聞える坊やの泣き声に被せて、
「このどろぼうねこ」
と呟き、いかにも勝利者然と朗らかな満面の笑みを浮かべたのでございます。
 私は笛の音に似たピィという声をあげて泣き出しました。
954名無しさん@ピンキー:2008/06/05(木) 23:56:35 ID:vrZyV3e6
以上です。
955名無しさん@ピンキー:2008/06/05(木) 23:59:07 ID:KVdcLESn
>>954
GJといっておこう
956名無しさん@ピンキー:2008/06/06(金) 00:50:56 ID:BsCANIva
わかりづらい
957名無しさん@ピンキー:2008/06/06(金) 03:31:25 ID:iyF7jipC
監禁なんかされてねえじゃん
958名無しさん@ピンキー:2008/06/06(金) 18:02:40 ID:ijr6yLJI
>>957
6/7で鎖の鳴る音が描写されてる

>>954
GJ
959名無しさん@ピンキー:2008/06/07(土) 05:55:43 ID:k19iwZYQ
>>956>>957は文盲かゆとり

>>954
大正か昭和風で良いな。最後のラストスパートと締めが良い。GJ!

これでようやく修羅場スレを見限ることができる…
960名無しさん@ピンキー:2008/06/07(土) 09:56:53 ID:wyZohCG3
最初、富野節かと思ったw
961名無しさん@ピンキー:2008/06/08(日) 12:34:39 ID:aNJHUmAM
お前らオススメのラノベ教えてくれ

嫉妬や三角関係が渦巻くやつ
962名無しさん@ピンキー:2008/06/08(日) 13:12:17 ID:MfPbi8VU
>>961
おそらくスレチ。
963名無しさん@ピンキー:2008/06/08(日) 13:21:32 ID:5r8UKaCZ
>>961
本スレで聞け
964名無しさん@ピンキー:2008/06/08(日) 13:40:28 ID:aNJHUmAM
申し訳無い…

誘導してくれないか??
965名無しさん@ピンキー:2008/06/08(日) 13:49:05 ID:aNJHUmAM
自己解決しました

スレ汚し申し訳ありませんでした
966名無しさん@ピンキー:2008/06/12(木) 00:56:42 ID:FeA3QV4q
過疎
967名無しさん@ピンキー:2008/06/12(木) 23:15:37 ID:1scY3fgM
過疎っていうか、本スレあんだから・・・・えっ?どういうこと?
968名無しさん@ピンキー:2008/06/13(金) 04:44:42 ID:pKFaG90O
つまり過疎スレってこった
作家も住人もいなくなったこのスレが埋まるのは何ヶ月先なんだろうな?
969名無しさん@ピンキー:2008/06/13(金) 08:15:49 ID:bVvzbgKT
ここが埋まるのは当分先ですね
970名無しさん@ピンキー:2008/06/14(土) 08:09:05 ID:FHFKhyra
このペースだと埋まらずにdat落ちしそうだけどな
971名無しさん@ピンキー:2008/06/14(土) 17:04:52 ID:8qFTqMs8
う・・・埋め・・・ちゃって・・・いいです・・・か?
972名無しさん@ピンキー:2008/06/14(土) 17:56:27 ID:f3ZcEz3X
うめ
973名無しさん@ピンキー:2008/06/14(土) 18:27:29 ID:UYwIBWuR
やっぱ次スレ立てるのが早すぎたと思うよ 
埋め
974名無しさん@ピンキー:2008/06/14(土) 18:31:53 ID:vWeiPEWQ
975名無しさん@ピンキー:2008/06/14(土) 19:12:03 ID:OTzC88lc
埋め
976名無しさん@ピンキー:2008/06/14(土) 21:20:05 ID:jc80SoKD
今日も泥棒猫を埋めてきちゃった☆
977名無しさん@ピンキー:2008/06/14(土) 21:28:30 ID:3IyTB9NO
>>976
そのネタでスレを埋めるんだ!!!
978名無しさん@ピンキー:2008/06/14(土) 22:26:08 ID:alvpgh1q
宇目
979名無しさん@ピンキー:2008/06/15(日) 04:04:41 ID:ssA/PspZ
>>977
どんなネタだよw
あれか?スイーツ(笑)で愛されガール(笑)な女が泥棒猫大虐殺なネタか?
自分磨き☆とか言いながら凶器の金属バットとかバールのようなものも磨くのか?
友達(泥棒猫)をリンチしたり薬漬けにしたりレイプしたり妊娠させたりエイズにしたりすんの?
ガッシ☆ ボカッ@ グチャッ♪ アタシは殺した……スイーツ(胎児の返り血を浴びて)
……どんな修羅場か知らんが悪くないかもしれねぇ
980名無しさん@ピンキー:2008/06/15(日) 08:57:30 ID:FtXUTeW7
埋め
981名無しさん@ピンキー:2008/06/15(日) 12:40:51 ID:6dpOfvwr
お埋め
982俺と素直クールとツンデレと:2008/06/15(日) 13:45:35 ID:GnVyr5qa
「ほんとにありがとう! 恩に着る!」
 そういうと、奴は俺の両手を握りしめてぶんぶん振った。
 手を痛いほど握りしめてくれて、おまけに顔はゆるみっぱなしだ。
 奴は下級生の女から大人気、サッカー部のフォワード。
 学業も並で、顔は浅黒く精悍。
 普段なら俺に寄りつきもしないくせに、と意地悪なことを思ったが、すぐに気持ちが萎えた。
 美那(みな)が現れると、俺のことを忘れたかのように、奴は美那のところにすっ飛んでいったからだ。
 奴と美那がにこやかに話してるのをみて、寂しいような悲しいような、なにかこみ上げるものがあった。
ゆえに俺は表情に出さないように顔をうつむけて、自分の席に戻る。
「へー、ついに喜多口くん、及川にオッケーもらったんだ?」
「なんでも、藤沢くんに紹介してもらったんだって」
「えー? 藤沢くん、及川のこと好きじゃなかったの?」
「単なる幼なじみなんでしょ? 好きだったら紹介しないじゃない」
 誰かのその言葉に同意の声が密やかにあがった。
 それを聞いて俺は泣きたい気分にになった。
 好きな女を他人に紹介してしまう馬鹿がここにいますってわめきたくなったが、我慢した。
 その荒れ狂ったやるせない感情を、ため息にして長々と吐き出す。
 そこに声がかかった。美那だった。
「浩介、今日、私、少し遅くなるから」
 美那がそういうと、その視線が奴に流される。奴が露骨ににやついた。
「わかった。おばさんに言っておく。理由、部活にしとくけどいいよな?」
「ありがと。じゃあ、喜多口くん、行きましょ」
 胸にわき上がる何かを必死で抑圧し、作った笑顔と作った平静さは、形ばかりの感謝の言葉で返される。
 思わず美那の背中を目で追いそうになるのを渾身の力で押さえ込んで、読みもしない教科書を広げる。
 どちらにせよ、何をしたって、どういう奇跡があっても、俺と美那は交わらない線だ。
 だから、……だから美那と奴がくっつくので、なんの問題も……ない……はず……なんだ。
 熱くなる目の奥をなんとかこらえる。目の前がぼやけた。
 急いで目をこすり、それでもあふれそうになって目を押さえて下を向く。
 泣いてはいけない。好きだったなんて知られてはいけない。愛してるなんて気取らせてはいけない。
 静かにゆっくりと息を吐いて、胸の中の何かを外に出した。
 その動作で、俺の心が収まり、悲しみに満ちた。……でもこれでいい。
 ……できれば、この美那が好きだって気持ちをえぐり取って捨ててしまえればありがたい。
 次の時間のチャイムが鳴り始める。周囲が席につき始める。
 それがこんなにありがたく感じたことはかつて無かった。
983俺と素直クールとツンデレと:2008/06/15(日) 13:46:41 ID:GnVyr5qa
 俺は藤沢浩介。高校二年。黒縁眼鏡をかけて、ひょろっとした体格の、冴えない男子高校生。
 及川美那は、幼なじみだが、こちらは快活で明るいクラスのリーダー的な存在だ。
 顔もかなり綺麗でスタイルも良く、小学校の時から、つきあう男に不自由したことはない。
 俺がいつからこんな気持ちを美那に感じてしまうようになったのかは、はっきりしない。
 ただわかるのは、たとえ幼なじみでも俺達は恋人としては釣り合わないってことだ。
 そもそも俺は美那に男としてすら見られていないだろう。
 時々美那が俺の部屋に来るのも、俺のできあがったノートや課題、ゲーム機や本が目当てなだけだ。
 それなのに、俺一人、馬鹿みたいに美那を気にしている。
 そんなことをしておいて、美那を紹介してくれという男共の橋渡しもしてやってる有様だ。
 自分でも馬鹿だと思うが、告白して何もかもぶち壊れるのは、もっといやだった。
 だから俺はこの思いを、忘れることが出来るそのときまで、自分の中だけに留めていようと思った。
 その誓いに、俺の胸が締め付けられるような痛さで抗議する。
 そんな軟弱さを呪いながら、俺はやっと顔をあげた。
 この痛みで心が失血死すれば、楽になれるような気がしたからだ。
 ふと何気なく横を向く。二つのまっ黒く美しい瞳と出会った。
 瞳の持ち主は宇崎沙羅という女生徒だった。クラスの女子の中からは孤立気味だがこれには、理由がある。
 美那とはちがった種類の、整いすぎて冷たいくらいの美貌がまず一つ。
 胸も大きくスタイルもいいが背が高すぎて、しかも姿勢がいいため、威圧感があることが二つ目。
 そして帰国子女で何事もはっきり言って、空気を読まなければいけない状況をしばしばぶち壊す癖が三つ目。
 好感が持てる女だけど、今の俺の表情について、空気をぶち壊して聞かれるのはごめんだった。
 目をそらし、顔を隠すように俺はうつむいた。

 ありがたいことに、それきり何も起こらず、その日の授業はすべて終わっていった。
 そう、俺は思いこんでいた。
 覆されたのは最後のチャイムが鳴り終わった後だった。
984俺と素直クールとツンデレと:2008/06/15(日) 13:50:33 ID:GnVyr5qa
 授業から解放されたざわめきも小さくなり、部活のかけ声があちこちで始まった頃、俺達は屋上にいた。
 宇崎が俺をここまで連れだしたのだ。
「で、用って?」
「ふむ。なぜ君は、好きな女を他人に紹介して、それで泣いているのだ?」
 何もする気が起きなくて言われるままついてきた俺に、宇崎が仏頂面をいささかも崩さず尋ねた。
 だが能面のような表情とうらはらに、内容は鉈のように俺の心をまっぷたつにした。
 人は単刀直入すぎる言葉を投げかけられると、フリーズするらしい。
 何か言おうと口を動かそうとしたが、出たのは意味のない「あ」の音のみ。
「質問の意味が分からないか? 藤沢、君は及川に強い好意を持っていたはずだ。
なのに、どうして及川と喜多口の間を取り持ってやって、それでなぜ泣くのだ?」
 何も言えない俺に、宇崎は質問が分からなかったと誤解して追い打ちをかけた。
 だがそのストレートな質問が、焼けただれた心に突き刺さったがゆえに、フリーズは解けた
「……好きじゃない」
 俺の言葉に、宇崎は長身の俺よりほんの少しだけ低い位置で、頭をかしげた。
「俺は、美那を好きじゃない。……だから泣いてなんかいない」
「そうか」
 宇崎は、なぜか俺の、精一杯の強がりに満ちた言葉を否定しなかった。
 ただ真剣な顔で頷いただけだった。
「ならば、良かった。君がそう言うなら、私も安心できる」
 心の奥底からこみ上げてくるものが、宇崎の妙な返答で動きを止めた。
「へ?」
「……繰り返して聞くが、藤沢、君は及川のことを好きではないのだな? 愛していないのだな?
ただの、仲がいい幼なじみなのだな?」
 そういいながら宇崎は俺を見据えて、問いつめるように顔を近づけてきた。すごく迫力に満ちていた。
「あ、ああ。……そうだよ」
 そのとき、俺は気圧されていたのだと思う。胸が痛みながらも、肯定の回答はするりと口を滑り出た。
「……良かった。……本当に良かった。……だったら、言える……」
 宇崎が目を閉じて深呼吸をした。その顔がなぜか不安げで……そして奇妙に俺の心を騒がせた。
985俺と素直クールとツンデレと:2008/06/15(日) 13:52:56 ID:GnVyr5qa
「藤沢……私は、君のことが好きだ。……君が及川の事を好きでないのなら、どうか……私とつきあって欲しい」
 その顔は相変わらず無表情だった。そのはずだった。なのに、その黒瞳は美しいきらめきを発して、俺を射抜いた。
 そして俺は二度目のフリーズをした。単刀直入過ぎても予想外過ぎても、俺の心はハングアップするらしい。
 好きだという言葉と、宇崎の目が俺の脳裏で渦を巻く。
「……その、だめだろうか?」
 呆けていた頭が元に戻ったが、結論が出るはずもなく。俺は呆然と突っ立っているしか無かった。
 そんな、俺に宇崎が突然頭を下げた。
「……すまない。君が……悲しさを押し殺すために、……心に決着をつけるために、そう言ったのはわかっていた。
 君が、及川のことを好きなのは、良くわかる。私だって、君のことが好きだから。同じ立場だからよくわかる」
 頭をあげた宇崎の目が思い詰めた光を放っていた。
「でも君自身が及川なんて好きじゃないって言ってくれたから、……すごくうれしくなって……すまない。
 だけど、一つだけ……。同じ思いを持つ友人として、一つだけ」
 宇崎の顔は、やっぱり表情を変えてなかったのに、なのに、その顔がとても優しい感じになった。
「失恋したら、泣いていいと思う。……泣いた方が、早く立ち直れる……」
 そして、俺は三度目のフリーズを起こした。
 気がつくと、目の奥から熱い何かが止めどもなくあふれ出し、頬を伝い、顎からしたたっていた。
「あ……、どうして……、俺……」
 言葉も心も裏切って、涙は流れ落ちる。
 視界がうるみ、体が震えだし、声がかすれて、……次に漏れたのは、声。
 そして息がどうしようもなくしゃくりあげるようになって、俺は……たぶん……とてもひさしぶりに……声をあげて泣いた。

 どのくらい経ったのか、俺にはわからない。
 顔も袖も心もぐしゃぐしゃになって、それでも宇崎はずっと側にいてくれて、俺はようやく涙が収まってきて。
「ありがとう、宇崎」
 かすれた声で俺は礼を言った。宇崎は慰めの言葉を掛けてくれたわけでもなく、抱きしめてくれた訳でもない。
 でもそんなことよりも、ただ何も言わず側にいてくれた、その心が俺には伝わった。
 そして俺を心配そうに見る宇崎の顔が、今はなぜかとても綺麗に見えた。
 だから、言うべき事はわかっていた。同じ思いを分かち合っていたのだから。
「宇崎」
「うん?」
「……俺は……俺の心は……まだ美那にひかれている部分がある。でもそれでもよければ……俺からも……その」
 宇崎の表情がこんなに変わるのを見たのは初めてだった。それは恐怖にも驚きにもにた表情だった。
 彼女は無表情の下に、優しくて熱い心を隠していたんだとわかった。
「……つきあって欲しい」
 それは俺が先ほど味わった気分だと思う。彼女はフリーズしていた。でも目に涙が盛り上がっていた。
 きっとダムは決壊し、心のもやもやしたものが押し流されてしまうだろう。
 一筋の水滴が流れ落ちた。
「……宇崎、これからよろしく」
 俺は頭を下げた。

 そして俺達は二人して、ぐしゃぐしゃになった。
986俺と素直クールとツンデレと:2008/06/15(日) 13:53:52 ID:GnVyr5qa
 その日、俺達は一緒に帰りながら、いろいろとしゃべった。
 夕日に映える宇崎の顔は、とても輝いていた。それを好ましく思う自分に、俺は苦笑した。
 美那の事を思い詰めていたのに、もう俺は宇崎に心を移しかけているらしい。
 だが、心の片隅のそんな声にも関わらず、宇崎は魅力的だった。
 彼女のまっすぐさと優しさが、俺の心にしみた。心からの笑顔が、まぶしかった。俺の視線に照れる仕草が可愛かった。
 どうして彼女を無機質な女だと思っていたのか、過去の自分の感じ方が、まったく腑に落ちなかった。
「じゃあ、また明日!」
「ああ、明日な!」
 夕日の中を去っていく彼女に、どうしようもなく寂しい気分を感じて、俺はそんな自分自身にもう一度苦笑いを噛みしめた。


 次の日から俺達の生活は変わった。
 昼休みになると、俺達は目の合図で、屋上に上がった。
 涼風に吹かれながら、俺は彼女の作ってきた弁当を食べて、そんな俺を見て彼女は笑った。
 放課後は、二人であちこちうろつき、休日はデートで、いろんなところを遊び回った。
 美那のことが気にならなかった、というのは嘘になる。
 だけど、日に日に美那よりも……沙羅のことが大きくなっていった。
 時間と沙羅が、俺を変えていった。
 そしてそんな俺と沙羅の変化を、周囲が気付かない筈もなく、いつしか俺達は新カップルとしてクラスの噂になってきていた。
987俺と素直クールとツンデレと:2008/06/15(日) 13:55:29 ID:GnVyr5qa
 その日、俺は沙羅と次の休日の予定を決めるべくファーストフード店で粘り、海に行くことで合意した。
 そのため少し遅めに帰宅して、夕食を食べ、自室にあがった。
 いつものごとく、マグカップに茶を満たし、扉を足で開けて入ると、そこに女の姿があった。
「美那!」
「こんばんわ、お邪魔してるから」
 俺の驚きの叫びにも動じず、美那は俺の部屋で漫画を読んでいた。
 わりと久しぶりだった。彼女は時々ベランダを乗り越え、俺の部屋に無断進入する。
 俺は彼女の部屋には小学校5年以降は行っていない。彼女に来るなと言われたからだ。
 彼女が俺の部屋に来るときの目当ては、俺のノートとか課題、もしくは漫画かゲームだ。
 しかし最近俺はデートに金をつぎ込んで、漫画は買っていなかった。試験はもう少し先だ。
「どうしたんだ? 新しい漫画は買ってないよ?」
「そんなことはどうでもいいの」
 なにやら機嫌が悪いらしい。切って捨てるような口調に、俺は肩をすくめて椅子に座った。
 こういうときは放っておくのが一番というのは、長年のつきあいから来る知恵だ。
 俺は美那に背中を向けて机に向かうと、勉強をはじめた。沙羅と同じ大学に行くためには少々頑張る必要があるからだ。
 しばらく鉛筆が走る音だけが室内に満ちた。俺は美那が居るにも関わらず勉強に集中していた。
 そのことを自分でおかしいことだと思わなかった。……その変化を指摘したのは美那だった。
「珍しいじゃない。私が居るのに勉強に集中して」
「……あ? そういやそうだ」
 確かにそうだなと思いつつも、俺は勉強を続けた。
「ふーん、宇崎さんに遊んでもらってることがそんなにうれしいの?」
 脈絡無く美那の口から沙羅の名前が出て、俺は思わず美那に振り返った。
「な、なにが?」
「勘違いは早く気付いた方が、後々苦しまなくて済むよ」
「どういう意味だよ?」
 俺の問いに美那が嫌な笑いを口に浮かべた。
「浩介と宇崎さんって全然似合ってないよ。宇崎さんにふさわしい人が来たら、浩介なんてあっという間にバイバイだよ?」
 美那のしゃべった内容よりも、その口調に嫌なものを感じて、俺は顔をしかめた。
「美那は沙羅を知らないからそんなことを言うんだよ。……それに沙羅が他の人を好き成ったとしても、それでも沙羅がくれたものの価値は変わらないから」
 何が、美那の逆鱗に触れたのかわからなかった。ただ、俺の言葉とともに美那が恐ろしい目つきをしたのは確かだ。
「ふーん、浩介って鈍いね。……宇崎さんが浩介の事、うざいって噂してるの知らないの?」
「え? 嘘だろ?」
「本人に向かって聞こえるように言うわけ無いでしょ。浩介は鈍感なんだから、早く気付いて、身を引いてあげないと」
 正直、美那の言葉に現実味が薄かった。
「まあ、振られたら、あたしが遊んであげてもいいよ。でも早く現実を見つめて再出発しないとね。宇崎さんは浩介にはもったいなさ過ぎるから」
 それだけを言うと、美那は窓から出ていった。
988俺と素直クールとツンデレと:2008/06/15(日) 13:57:40 ID:GnVyr5qa
「というような話を聞いてさ、……その俺のうっとおしいと思うところ、……直すようにするから……」
「誰から聞いた?」
「え? あ、いや、小耳に挟んだだけで」
「言って欲しい。 私は冤罪を晴らさなければならなくなった」
 昼休み、中庭で沙羅の弁当をわけてもらって食べながら、俺は意を決して、尋ねた。
 だが、俺の言葉は、沙羅の瞳に劇的な変化をもたらした。
 いつもは、きれいで感情の読みにくいその目が、今日は珍しく高温の青い炎を燃やし始めていた。
「あ、その、間違いだったら気にしなくていいから」
「それは間違いなんかじゃない。浩介を侮辱し、私をおとしめる、卑劣な悪意だ」
 その迫力に、俺は少し焦った。
 なんとか話を打ち切りたくて、俺は沙羅が作った弁当のおかずを口に放り込む。
 絶妙な味が口に広がり、心から、おかずの味を賞賛できた。
「うーん、しかし、これ、ほんとにおいしいよな。どうやって作ったんだ?」
「……ふふっ」
 少しだけ沙羅の迫力が和らいで、俺は心の中でほっと安堵のため息をつく。
「それは母の直伝なんだ。……ところで、その話、及川じゃないのか?」
 雪解けで現れた地面のように、かすかな笑顔が浮かんで、俺が油断したところに、鋭い推理の刃が突き立った。
 盛大にむせこみ、口を押さえて咳をする。眼前に茶が入った水筒の蓋が差し出されて、それを急いで飲んだ。
「なるほど……」
 沙羅がうなずく。
「げほっ……はぁはぁ……。さ、沙羅、あのさ、あくまでもそういう噂を聞いたって話だからね」
「私は、浩介の事を、クラスの人間と話したりはない」
「え?」
 沙羅の目が、俺の顔を見据えた。
「浩介に思いを受け取ってもらったことは、私の大事な宝物だ。……暇つぶしの話で揶揄されたり、からかわれたりしたくない。
だから、つきあっているのかと聞かれれば、肯定の返事はするが、詳しい話は一切しない」
 沙羅の黒くそして限りなく澄んだ瞳が、俺の心の中にしみ通っていった。
「だからこそ、わかる。その話は悪質なデマなんだ。私を、なによりも浩介をおとしめようとする許せないものだ」
「……沙羅、俺は沙羅が俺のことをうっとおしいと思ってないことがわかっただけでいいんだ。
……沙羅が影でそんなことを言うはずがないって思ってたんだけどね。……ごめん、俺が沙羅を信じていなかったのが悪いよ」
「浩介!」
 いつも抑揚に乏しい沙羅の声が、少しだけ高くなった。
「もうこの話は、よそう。せっかくの沙羅の美味しいお弁当がもったいないよ」
「でも!」
「誰かを疑うより、今、俺は沙羅と楽しい時間を過ごしたい。……な?」
 俺はこの時、たぶん吹っ切れた笑顔を作れたと思う。沙羅のまっすぐさが……とても愛おしかったから。
 でも……沙羅の背後、その向こうの校舎の隅にこっちを見ていたような美那らしい影がいたことは、口に出さなかった。
 美那は、奴と……喜多口とうまくやっているはず。美那に、デマを飛ばす理由がない。
 かすかに涌いた疑念を、俺はその事を思い起こして封じた。
989俺と素直クールとツンデレと:2008/06/15(日) 14:00:21 ID:GnVyr5qa
「では、開票します!」
 数日後のロングホームルーム、退屈な時間。文化祭なんて、俺には関係なかった。
 ましてやクラス代表文化祭実行委員選挙、そんなものは別世界の話。
 立候補なんかとんでもないし、男共に他薦される様子もない。
 今回の生け贄は、バレー部の太田というのがもっぱらの観測だ。
 なんてったって、奴は成績優秀、バレー部のアタッカー、そして親分肌で仕切るのが好きでもある。
 予想通り、男子代表委員開票で、さっそく太田の名前が3回呼ばれた。
 これは決まりだなって思ったところ、不意に俺の名前が告げられた。
「藤沢君」
 男子共が低くどよめいて、俺に視線を集めた。しかし当人の俺にも事情はわからない。
 俺も投票したのは太田だ。
「続いて、……藤沢君」
 さらにどよめきが流れる。沙羅が少し驚いた目をして、俺に視線を向けてきた。
 俺は沙羅にさっぱりわからないという意味で、首を横に振った。
「次……藤沢君」
 そのときになって、俺と男子生徒の多くは女子共が俺をうかがっているのに気づき始めていた。
 やがて開票結果で俺の票数が太田を常に上回り始め、男子生徒達が当惑を抑えきれずに私語を始める。
「以上、結果は藤沢君23票、太田君19票……」
 呆然としている俺の目の前で、開票は女子代表委員に移った。
「以上、結果は、及川さん38票……」
 愕然と振り向いた俺と、沙羅の視線の先で、美那は立ち上がって、優雅な振る舞いで全員に一礼した。
990俺と素直クールとツンデレと:2008/06/15(日) 14:02:06 ID:GnVyr5qa
「図ったな」
「まあね。浩介だとなにかと便利だし、気心がしれてるから、頼みやすいしね。……でも投票してくれた女子達には、浩介からもありがとうって言っておくのよ」
 ホームルーム終了後、苦り切った顔で、俺は美那の席の前に立っていた。
 いつものごとく、美那は俺の困惑などどこ吹く風という態度で悠然と席に座ったままだった。
「……俺にだって用事はいろいろあるんだけど?」
「宇崎さんとデートとか? だめ。前に言ったでしょ。浩介と宇崎さんは似合わないって」
「……あのな」
「私は、浩介のためを思って言っているの。宇崎さんのためでもあるのよ?」
「……俺達の問題だろ? そりゃ、釣り合ってないかも知れないけどさ」
 俺のその言葉で美那はその日初めて俺に笑顔を向けた。
 かつてあれほど欲していた彼女の笑顔は、いまはなにか不吉の兆候のように思われた。
 俺は自分がはっきりと変わってしまったのを自覚した。
 美那の何かに小さなうとましさを感じたのだ。それが何かを、表現することは出来なかったが。
「わかってるじゃない。なら、潔く身を引いたら? 宇崎さんもほんと、趣味悪いんだから」
 美那の言葉と共に、綺麗で魅力的なはずの彼女の笑顔が、何か急に生理的不快感を感じるものになる。
 突然、得体の知れない熱さが俺の心を占めた。怒りだと気付いたのは言葉を叩きつけてからだった。
「沙羅を悪く言うなっ! 美那は喜多口と楽しくやってればいいだろう?」
 心を突き上げる熱さのまま、俺は自席に大股で戻った。
 そして荷物を鞄に投げ入れると、そのまま走り出しかねない勢いで教室を出て、校門をくぐった。
 そんな俺を追いかけて走ってくる足音があった。その足音が後ろで止まる。
「謝れっ! 沙羅に謝れ!」
「……? 済まなかった」
「えっ? 沙羅?」
 振り返った先で、沙羅がかすかに笑っていた。それで心を縛っていた怒りが急速に溶けて消えた。
「あ、うわ、……ごめん! 沙羅、ほんとにごめん!」
 恥ずかしさで頬がほてる。それがさらに恥ずかしくて、俺は何度も頭を下げた。
「大丈夫。気にしていないから。というか、嬉しい」
 頭を下げ続ける俺の手を、沙羅がつかんで引いた。
「正直、浩介が及川のことを、まだ好きじゃないかって思っていた。文化祭の準備で、浩介が私のことを忘れてしまうのじゃないかって思ってしまった」
「……ごめん、その、美那のことは、……もう話したくない」
「そうだな。……でも、私も文化祭、手伝うことにする。浩介と一緒なら、きっと準備だって楽しい」
「うん、ありがとう」
 そう言う沙羅のかすかな、目尻が少し下がるだけのかすかな笑顔が、なぜかいつもに増してまぶしく見えて、俺はまた顔が熱くなった。
 我ながら、怒ったり謝ったり照れたり、忙しい男だと思った。
991俺と素直クールとツンデレと:2008/06/15(日) 14:03:30 ID:GnVyr5qa
 その夜、非常に珍しいことに、俺の部屋の窓が、控えめにノックされた。
「美那?」
「浩介、ちょっといい?」
 あんまり良くはなかったが、拒む理由もたいして無かった。
「いいよ。いつものように入ればいいじゃないか」
 言葉と同時に窓が勢いよく開いて、美那が入ってきた。
 これまた珍しく、いつものジャージ姿じゃなくて、可愛いパジャマ姿だった。
「ノックといい、そんな姿といい、今日はなんか珍しいことだらけだ」
「べ、別に、今日は、そういう気分なだけだから」
「ふーん」
 気分屋の美那ならそんなこともあるかも知れない。素直に納得できた俺は、再び携帯電話に意識を集中した。
「何してるの?」
「ん、沙羅にメール」
 でかい観覧車がある遊園地で、かつホラーハウスが充実して、それでいて入場料が安いところをピックアップしたメールを俺は書いていた。

携帯電話でのメールなんて極めて短文しか打たないので、少し長文のメール作成に時間が掛かっていたのだ。
 突如、携帯電話が俺の手の中から消えた。
 振り返ると、美那がアンテナをつかんで、俺の携帯電話を持っていた。
「……返してくれ」
 その言葉に応えず、美那は携帯電話の画面を見た。
「ふーん、遊園地でデートなんだ? ラブラブだね?」
 美那の言葉がやけに粘っこく響いた。
「……何か用?」

 俺は美那を睨んだ。
「別にぃ」
 だが美那は済ました顔であさっての方を向いた。何か構って欲しいようだった。
「……ふぅ。なんか話があるの? 俺で良かったら話して欲しいんだけど?」
992名無しさん@ピンキー:2008/06/15(日) 14:06:18 ID:BX8k1NLK
支援してみよう
993俺と素直クールとツンデレと:2008/06/15(日) 14:07:31 ID:GnVyr5qa
 その夜、非常に珍しいことに、俺の部屋の窓が、控えめにノックされた。
「美那?」
「浩介、ちょっといい?」
 あんまり良くはなかったが、拒む理由もたいして無かった。
「いいよ。いつものように入ればいいじゃないか」
 言葉と同時に窓が勢いよく開いて、美那が入ってきた。
 これまた珍しく、いつものジャージ姿じゃなくて、可愛いパジャマ姿だった。
「ノックといい、そんな姿といい、今日はなんか珍しいことだらけだ」
「べ、別に、今日は、そういう気分なだけだから」
「ふーん」
 気分屋の美那ならそんなこともあるかも知れない。素直に納得できた俺は、再び携帯電話に意識を集中した。
「何してるの?」
「ん、沙羅にメール」
 でかい観覧車がある遊園地で、かつホラーハウスが充実して、それでいて入場料が安いところをピックアップしたメールを俺は書いていた。
携帯電話でのメールなんて極めて短文しか打たないので、少し長文のメール作成に時間が掛かっていたのだ。
 突如、携帯電話が俺の手の中から消えた。
 振り返ると、美那がアンテナをつかんで、俺の携帯電話を持っていた。
「……返してくれ」
 その言葉に応えず、美那は携帯電話の画面を見た。
「ふーん、遊園地でデートなんだ? ラブラブだね?」
 美那の言葉がやけに粘っこく響いた。
「……何か用?」

 俺は美那を睨んだ。
「別にぃ」
 だが美那は済ました顔であさっての方を向いた。何か構って欲しいようだった。
「……ふぅ。なんか話があるの? 俺で良かったら話して欲しいんだけど?」
 美那は、昔、一方的に話がしたいとき、俺の邪魔をして注意を引くことが良くあった。
 ……そういや最近までは、俺は美那の表情を読んで、先回りして聞く態勢をとってたのだった。
 そして愚痴とかどうでもいいような話を、喜んで聞いていた。美那を好きだったから、彼女の笑顔を見たかったからだ。
 でも、今は彼女の表情を読まず、邪魔されるまで自分のことをしていた。たぶん、それが彼女は気にくわなかったのだろう。
 そのことに少し罪悪感を感じて、俺は下手に出てみた。
「浩介がそういうなら、話してあげてもいいかな。……実はね、私、喜多口くんと別れちゃったの」
「ええええ!?」
 その言葉で俺の体の力が抜けた。何のためにつらい思いをしてまで、紹介をしたのか。それが全て音をたてて崩れてしまったからだ。
「ど、どうしてだ?」
 理由を聞かずに入られなかったが、俺の内心を知らずか、美那は簡潔に応えた。
「だって、気が利かなくて、つまんないから」
 がっくりくるとはこのことだった。俺は椅子の背もたれによりかかって、襲い来る疲労感に抗う。
「そ、それだけ?」
「喜多口くんは悪くないんだけど、いろいろと合わなかったのよ」
「……そうですか」
 もう何もする気を無くして、椅子から立ち上がると、俺はベッドにダイブした。
994俺と素直クールとツンデレと:2008/06/15(日) 14:09:45 ID:GnVyr5qa
「ちょっとぉ! いきなり寝るってどういうこと?」 
「俺の苦労が無駄になったから、どっと疲れた。寝る」
 布団の心地よい冷ややかさに埋もれながら、俺は目を閉じる。
「うぉ!」
 背中に温かく重いものが乗った。そんなことをするのは美那しかいない。
「浩介、感謝しなさいよ! 私がフリーに戻ってあげたんだから、もてない浩介と遊んであげられるんだよ?」
「はいはい、感謝感謝」
 無意味に口答えして、美那の機嫌を損ねると後が面倒くさかった。が、そんなに嬉しいわけでもない。
「むー! なんか気持ちがこもってない! ……じゃあ、こんなのはどう?」
 ふと、背中になにか柔らかいものが押し当てられる。そして耳たぶに生暖かい息があたる感触が湧いて、甘い臭いが至近距離から漂ってきた。
「み、美那?」
 背中の感触の正体に気付き、俺は焦った。経験はないが、体勢からして胸……のような気がする。
「昼はごめんね」
「え?」
「私、浩介にもっと似合う人がいると思うから、つい酷いことを言っちゃったんだ」
 美那の声が、珍しく真摯だった。
「……そのことは、もういいから」
「浩介は私のこと、嫌い?」
「いや。幼なじみだしな」
 心が少しだけ痛む。でもそれはほんの少しで、そして俺の心に沙羅が浮かんだら、痛みは消えた。
 なぜか、美那の手が俺の前にまわされた。抱きしめられるような感じになる。
「私達、幼なじみなのにあんまり仲良くできないね」
「ごめん。ただ俺のことならともかく、沙羅のことは悪く言って欲しくないんだ」
 俺の言葉に、美那はなぜか長い沈黙を返した。やがて、すこしオクターブが上がった美那の声が再び流れた。
「じゃあ、私が宇崎さんのことに触れないのなら、今までどおり、付き合ってくれる?」
「あたりまえだろ」
「私達、文化祭実行委員だからさ、息を合わせて仕事しなければいけないんだよ?」
「美那が票をたのんだ女の子達にも悪いから、実行委員はちゃんとするし、美那一人に押しつけて平気なほど俺、冷たくはないから」
「文化祭、一緒にがんばろーね?」
「ああ」
 俺のその返事とともに、背中の温かい重みが消えた。
 ベッドから起き上がって振り向いた俺の前に、美那がいたずらっぽい笑いを浮かべて立っていた。
「で、私のおっぱいの感触、どうだった? 立った?」
「美那っ!」
「じゃあね、浩介! オナニーはほどほどにね」
 俺の抗議の叫びが消えるまでに、美那はさっさと窓を開けて、姿を消していた。
 だから憤慨する俺が、美那に携帯電話を持って行かれたのに気付いたのは、寝る直前になってからだった。 
995俺と素直クールとツンデレと:2008/06/15(日) 14:10:14 ID:GnVyr5qa
埋めネタ、オシマイ
996名無しさん@ピンキー:2008/06/15(日) 14:13:35 ID:BX8k1NLK
激しく続きキボン

では埋め
997名無しさん@ピンキー:2008/06/15(日) 15:51:47 ID:2QVi7B0J
>>995
クオリティ高すぎだろ。
998名無しさん@ピンキー:2008/06/15(日) 15:52:57 ID:CYJl9uAL
>>995

GJぇぇぇっ!
何と言う黄金率
埋めネタとしては余りに勿体ない

続きを激しくキボン!
999名無しさん@ピンキー:2008/06/15(日) 19:46:06 ID:vqIeaTF1
うめぇ
1000名無しさん@ピンキー:2008/06/15(日) 19:53:41 ID:pRkBcHq5
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