「つかさ、何やってんの?」
私がタンスを漁っていると、お姉ちゃんが後ろから声をかけてきた。
時刻は午後十一時。タンスの前に座り込んだ私の周りには、たくさんの洋服が散らばっている。
正確には散らばらせたわけじゃなくて、中身を出しているうちに散らばっちゃったんだけど……。
「あのね、明日ゆきちゃんとおでかけなの」
「みゆきと? ……あー、ハイハイ。デートね」
「デ……う、うん」
お姉ちゃんは少し意地悪な笑みを浮かべて私を見ていた。
「やっぱりいつになっても、デートの前は浮かれちゃうものなのね」
「えへへ……お姉ちゃんだってそうでしょ?」
「そ、そんなことないわよ。中学生じゃあるまいし……」
「でもお姉ちゃん、最近金曜日の夜はニヤけてること多いよ? 土曜日は朝から見かけなくなるし」
「う、うるさいわね……私そんなにニヤけてた?」
「うん。こなちゃんとデートしてるんでしょ? ここのところ毎週だよね」
「そ、それはこなたがどうしてもっていうから……」
お姉ちゃんは露骨に照れていた。顔を真っ赤にして、ばつの悪そうな表情を私に見せる。
やっぱり恋人とのデートになると楽しみで仕方ないのは二人とも一緒で、それは双子だから似ているとかじゃない。
私とゆきちゃんが恋人同士になってもう三ヶ月になる。私にとってゆきちゃんは、初めての恋人だった。
ゆきちゃんが私の家に泊まりにきたときに、相手の気持ちに気付かないまま両思いだった私とゆきちゃんは、
たくさんのすれ違いもあって色々と起こったけれど、お互いから告白して、晴れて恋人同士になることが出来た。
『好きです、つかささん。世界中の誰よりも好きなんです』
『私も好きだよ、ゆきちゃん。ずっと言えなくてごめんね』
女の子同士だっていうことは、私達の間には些細な問題でしかなかった。私達はただ、幸せで……。
もうわかると思うけど、お姉ちゃんとこなちゃんも恋人同士になっていた。仲良し四人組はもっと仲良しになった。
「でも、あんたとみゆきももう何回かデートしてるんでしょ?」
「うん。このあいだはね、一緒に水族館に行ったんだよー」
「水族館か……私とこなたじゃ絶対行かないところね」
「その前はね、図書館に行ったんだケド……私、途中で寝ちゃって」
「つかさは本が読めないものね」
「お姉ちゃん達はよくどこに行くの?」
「基本はショッピングだけど……まああとは……ゲーセンとか、ゲーセンとか、ゲマズとか……」
お姉ちゃんはがっくりと肩を落とした。こなちゃんっぽいと言えばこなちゃんっぽいけど、お姉ちゃんは不満なのかな?
でも、お姉ちゃんとこういう恋バナができる日がくるなんて思わなかった。しかもお互い恋人持ちの状態で。
二人とも女の子と付き合っているなんて、ちょっとおかしな気もするんだけど……これも双子だからなのかな……。
「でも好きな人と行くと、どんなところも楽しいよね」
「そ、そりゃそうだけど……そんなこと、よくも恥ずかしげも無く言えるわね」
「?」
「で、明日は何時にどこで待ち合わせなの?」
「糟日部駅前に十時だよ」
「どこに行く予定なのよ?」
「あのね、まず糟日部ショッピングモールにお買い物に行って、それからお昼ご飯食べて、遊園地に行くんだ」
「泊まりなの?」
「う、ううん! 門限までには帰るよ」
「そっか……まああんた達に泊まりはまだ早いわよね」
「え?」
「なんでもないわよ。だったら、早く寝た方がいいんじゃないの?」
「そうだ……明日、朝からお弁当作るんだった!」
「ますます寝なさいよ。あんたただでさえ起きないんだから」
「で、でもお洋服が……」
お姉ちゃんの協力もあって、なんとか着ていく服が決まった。みんなで遊びに行くときはここまで悩んだりしないのに、
ゆきちゃんとのデートのときだけは、いつも遅くまで悩んじゃうんだよね……でも、悩んでる時間も楽しいっていうか。
ゆきちゃんはどうなのかな? 私みたいに無闇に張り切っちゃったり、お洋服に悩んだりしているのかな?
そうだったら嬉しいな……そんなことを思って、ベッドに潜り込んではみたけれど、なかなか寝つけなくて。
それに、私にとって明日のデートはそれまでのものと少し違っていた。どうしてもやりたいことがあったから……。
******
AM 10:10
「ゆ、ゆきちゃーん! お、遅れてっ、ご、めーん……!」
トートバックを揺らしながら、私は駅のホームへと向かって走っていた。息を切らしていたから、うまく喋れない。
そこには私の好きな人がひとり佇んで……私に向かって笑顔をみせながら手を振っていた。
「おはようございます、つかささん。……大丈夫ですか?」
「ご、ごめんね……ちょっと遅れちゃった」
「私も今来たところですので、気になさらないでください。ゆっくり来られてもよかったのですが……」
そういうとゆきちゃんはポケットからハンカチを取り出して、私に差し出してくれた。心配そうな顔で私を見つめている。
「あ、ありがとう……」
「何かお飲み物を買ってきましょうか?」
「ううん、大丈夫だよ。それより、お買い物いこ?」
「そうですね。では、モールのほうに向かいましょうか」
「ゆきちゃんは何買うの?」
「ブックストアに寄りたい……と思いましたが、本はかさばるのでまた今度ですね」
「私、お洋服や小物が見たいかな」
「私も……時期的に春物が少し気になるんです」
「じゃあまずはお洋服だね〜……ねえ、ゆきちゃん」
「はい、なんですか?」
「この服なんだけど……わ、私に似合うかな?」
私がこの日選んできたのは、アイボリーカラーのダッフルコートの下に、オフホワイトのガーリー風ブラウス。
リボンのついたホワイトのショートパンツで、足元はお小遣いをはたいて買ったアンクル丈のトランパーブーツ。
精一杯のおしゃれを、ゆきちゃんはしっとりとした目で見つめていた。緊張がピークに達していた。
「大丈夫です。とても可愛らしいですよ」
ゆきちゃんはにこやかに答えてくれた。私はほっと胸を撫で下ろす。悩んだ甲斐があった。ありがとう、お姉ちゃん。
「それにつかささん……いつもとは違うリボンですよね」
「えっ!」
私の胸が一瞬、大きく高鳴る。たしかに、リボンもいつもより少しいいものをつけてきていた。
でもそれを指摘されるなんて、少しだって思ってなかった。単純に、気合を入れるためのようなものだったから。
「えへへ……気付いてくれたんだ……」
「はい。そのリボンも、すごく似合ってますよ」
顔が真っ赤になる。家族ですら気付かなかったそんな微妙な変化まで、気付いてくれていたなんて……。
するとゆきちゃんは、少し迷ったような表情を見せると、頬をそめてうつむきながら私に訊ねてきた。
「あの……私のほうはどうでしょうか」
「ゆきちゃんのお洋服?」
「はい……お恥ずかしながらつかささんとのお出かけのときは、いつもより洋服選びに迷ってしまうんです」
胸の中に喜びが溢れる。やっぱりゆきちゃんも、私と同じだったんだ。でも、二人とも女の子なんだから当然、かな?
ゆきちゃんはといえば、グレーベージュのシンプルなボーダータートルに、バルーンラインでライトグレーのミニスカート。
ベルト付きのスエードブーツ、ブラウンのトレンチロングコートを羽織って、スタイルのおかげですごく大人っぽかった。
胸元にはシンプルなデザインのシルバーネックレス。なんだかドキドキしてしまうくらい……綺麗だった。
「うん、すごく似合ってる……でも」
「で、でも?」
「なんか……並んだら年の離れた姉妹みたいに見えちゃうかも〜。こ、子供っぽくてごめんね……」
ゆきちゃんはちょっと困ったような顔で微笑んでいたケド、すぐにいつもの穏やかな顔に戻った。
「それじゃ、いきましょうか」
「うん!」
私達はおしゃべりをしながらモールへと歩いた。ゆきちゃんのお話を聞きながらも、私はずっとゆきちゃんに見とれていた。
私とは比べ物にならないくらい綺麗だし、服装もシンプルなのにすごくお洒落だし、何より雰囲気がすごく優しくて……。
******
AM 10:35
「ゆきちゃんは春物探してるんだよね? どんな物が欲しいの?」
アパレル関係のショップが並んだ階で、私とゆきちゃんはお店を冷やかしつつ歩いていた。
「そうですね、ブラウスが欲しいと思っているんです。この間衣類の整理をして、暖色系が少なくなってきたので」
「じゃああっちのお店に寄ってみない? お姉ちゃんがね、好きなお店なんだ」
「かがみさんがですか? では、泉さんと二人で来られてることもあるかもしれませんね」
「来てるのかなあ……? う〜ん、なんか想像しにくいような……」
「失礼だとは思いつつ、私もあまり想像できませんね……」
休日だからかもしれないけれど、まだ朝なのにお客さんは結構たくさんいた。
やっぱり私達は周りの人から、お友達か姉妹に見えてるんだろうな……本当は恋人ですなんて、誰も思っていないはず。
そういうことは本当はもっと気を引き締めないといけないはずなのに、なぜか私の気持ちは浮かれていた。
私とゆきちゃんとで秘密を共有してることも原因のひとつなのかもしれないけど、それよりも私は自慢したい気持ちだった。
ゆきちゃんみたいに素敵な人が、私の恋人なんだから。もちろん誰にも言わないけど、みんなに宣言したいくらい。
「あ、このパンプスかわいいー。でも私全然似合わないんだ」
「私もあまりはきませんね。いざはいても、私ではすぐに転んでしまいそうなので……」
「ゆきちゃん、ドレスとかと合わせたら似合いそうなのにね」
「つかささんも、ワンピースなどと合わせてみては……」
「ゆきちゃんきっとすごく綺麗だよ」
「つかささんも絶対すごく可愛らしいですよ」
私達はすぐに褒めあいに進展する。私がゆきちゃんを褒めるのはわかるけど、私は褒められるところあまりないんだけどな……?
ブラウスを手にとって私が品定めをしていると、ゆきちゃんはちらちらと下着コーナーのほうを見ていた。
「下着買うの?」
「あっ、いえ……今日はさすがにやめておきます」
「また……サイズあわなくなったとか〜?」
するとゆきちゃんは顔を真っ赤にして、それから小さく頷いた。大きくなっちゃったんだね……。
ゆきちゃんはピンクのブラウスと赤いニット帽、私はソックスとハンカチを買ってお店を出た。
「あの、つかささん……」
「なあに?」
「実は私……他に欲しいものがありまして」
「何が欲しいの?」
「その……つかささんのご迷惑になるとは思うんですけれど」
私の迷惑になる、ゆきちゃんの欲しいもの? 私には全然予想がつかなかった。
「ゆきちゃん、何が欲しいの?」
「実はですね、つかささんとペアになるものが欲しいんです」
「二人で一緒のものが欲しいの?」
「はい……あの、やっぱり恥ずかしいですよね?」
ゆきちゃんは申し訳なさそうに、どこか気恥ずかしそうに、私の顔を覗き込んできた。
そんなお願いに恥ずかしいとか迷惑だとか、私が思うわけがないよ、ゆきちゃん。ただ、少し驚いていた。
そういうことはいつも、私から口にするものだと思っていたから。私からしても、そのお願いは嬉しい限りで……。
「私も欲しいな……? ゆきちゃんとお揃いのもの」
「つかささん、よろしいんですか?」
「うん! じゃあ二人で一緒に探そっ」
なんだか駆け出したくなった。喜びが溢れてきて、身体が衝動的に動き出しそうになっていたから。
安心したような顔を見せたゆきちゃんは、少し前に進む私に引きずられるように歩いている。私のほうが嬉しいみたい。
「どんなのにしよっか」
「小物がいいのではないでしょうか。アクセサリーとかいかがでしょう?」
「あ、いいね。身に着けられるものだったら、いつでも思い出せるね」
「そうですね。いつでも……つかささんをそばに感じられます」
色々検討した挙句、ペアリングにしようということになった。小物やアクセ関係のショップを二人で見て回る。
ガラスケースの中にきらりと光るシルバーリングを見付けた。いくつものハートが象られていて、ゆきちゃんに似合いそうな。
「ゆきちゃん、これなんか可愛いよ」
「本当ですね。つかささんにすごく似合いそうで……」
「うん。あっ、でもこれ……」
「お値段が……少々張りますね」
「……別のにしよっか」
「そうですね……」
シルバーで作られたリングはみんな、高校生が親からもらったお小遣いで買うにはちょっときついようなものばかりだった。
安いものでもひとつ六千円はする。せっかくのペアリングなんだからとも思ったんだけど、このあとのデートができなく……。
「つかささん、これなんかいいのではないですか?」
別のお店でゆきちゃんが手に取ったのは、木製の小さなリングだった。柄のないものからけばけばしい柄まである。
ひとつ千円から二千円。これなら手が届く。それに、私は木製の暖かな感じに惹かれちゃっていた。ゆきちゃんも同じみたい。
「あ、かわいいね。どの柄にしよっか」
「シンプルなのもいいですね」
「サイズもぴったりみたいだし……あっ、これ!」
「お気に入りの柄が見つかりましたか?」
私が手に取ったのは、シンプルに真っ赤に塗られたリングだった。それを指で弄んでみる。
「それが気に入りましたか? つかささんには少し、派手なようですけれど……」
「うん……そうだね。派手……だよね。別のにしようね」
「……」
ゆきちゃんは私がじっと見つめていたリングを手に取ると、にっこりと微笑んで……レジへと向かった。
「すみません、これを二ついただけますか?」
「ゆ、ゆきちゃん?」
二つの真っ赤なリングは、代金を支払われるとそのまま私達の小指に納まった。私は左手に、ゆきちゃんは右手に。
「少し疲れましたね。そこのベンチで休みましょうか?」
「うん……」
モールの所々に設置されている休憩用のベンチを指差しえ、自動販売機でジュースを買うと二人で腰掛けた。
「ねえ、ゆきちゃん……」
「はい、なんでしょう?」
「ペアリングなんだけど……ゆきちゃんはこの色でよかったの?」
「もちろんですよ。つかささんが選んだリングなのですから」
「うん……ありがとう」
「それにしても少し意外でした。つかささんは赤色がお好きなんですか?」
「ううん。そういうわけでもないんだけどね? ただ、これ……」
「何か特別な理由がある、とかでしょうか?」
私は迷った。このリングを選んだ本当の理由を言うべきかどうか。でも、ゆきちゃんがそれを知らないのは可哀想だし。
頬を染めて、私はこくりと頷いた。
「あのね、ゆきちゃん……笑わないで聞いてね?」
「はい」
「こうやって二人で小指に赤いリングつけてるとね……運命の赤い糸、みたいじゃない?」
「赤い糸、ですか?」
「うん……こういうの、お姉ちゃんからは『つかさって乙女だねー』とかってからかわれちゃうんだけど……。
昔から憧れだったんだ。私の運命の赤い糸が繋がってる人にいつか会えたらなって。恥ずかしい話なんだけどね。
これは糸じゃなくてリングだけど、その相手がゆきちゃんだったら、嬉しいなって思って……ダメ、かな?」
胸のうちを口にしながら、私は赤いリングを指で撫でていた。特別に綺麗でも可愛くもない、ただ赤いだけのリング。
ゆきちゃんにはどう思われたかな。変な子だと思われたらどうしよう。重いとか思われたら、ちょっとイヤだな。
「つかささん……」
「うん……」
「ペアリング……お互いにずっと、大事にしましょうね」
「……うん!」
私達はお互いのリングを優しくぶつけて、カチカチと音を鳴らした。まるで、リング同士が何度もキスするみたいに。
周りの人が不思議そうな目で見ていたけれど、全然気にはならなかった。私達の耳には、カチカチだけが聞こえる。
******
PM 12:13
「そろそろお昼にしましょうか」
モールから出た私達は、湾岸近くの公園を歩いていた。売り子のワゴンがいろんなところに止まっている。
「あ、今日はお弁当作ってきたんだよー」
「そうなんですか? ありがとうございます。つかささんは、お料理がお上手ですからね」
「あのね、サンドイッチとね、ミートボールとね、それからそれから……」
港が見える欄干近くのベンチに座って、私はトートバックから取り出したバスケットを開けた。
色とりどりに盛られたお弁当。いつもよりちょっと気合を入れてみたり……。
「このサンドイッチ、とても美味しいですね。レタスにかかったソースのほのかな酸味が……」
「それね、バルサミコ酢使ってるんだよー」
「このミートボール、とても美味しいですね。お肉がやわらかくて」
「それね、バルサミコ酢使ってるんだよー」
「このリンゴはうさぎの形をしていますね。お上手です」
「それね、バルサミコ酢使ってるんだよー」
「私ももっと、お勉強しないといけませんね」
「ねえ、ゆきちゃん」
「はい、なんでしょう?」
「……はい、あーん」
フォークに刺したミートボールをゆきちゃんに向ける。ゆきちゃんは頬をぽっと染めると、そっとそれを口にした。
「……つかささん、お返しです。はい、あーん……」
******
PM 13:20
遊園地へとやってきた私達。お化け屋敷には入らないよね? できれば絶叫ものも……。
「つかささん、メリーゴーラウンドに乗りませんか?」
「メリーゴーラウンド? これなら怖くないかもー」
「はい……あっ、でもすごい行列が」
「メ、メリーゴーラウンドなのに行列?」
「『世界一メルヘンチックなメリーゴーラウンド』と書いてありますね」
「どんだけ〜……」
「どうします? 待ちますか?」
行列は思っていたよりも長くなかった。ゆきちゃん曰く、これなら三十分もすれば乗れるみたい。
私達は待つことにした。時間なら、まだまだたくさんあったから。それに、ゆきちゃんとなら長くないしね。
小指のリングをじっと眺めてみた。それから横目でゆきちゃんのリングを見ると、思わず顔がニヤけちゃう。
(おそろい……ゆきちゃんとおそろい……私、おっちょこちょいだから、これは大事に扱わなきゃ)
ゆきちゃんと目が合って、私達はまた小指のリングを優しくぶつけあう。よくわからないけど、クセになりそう。
「ゆきちゃん」
「はい、なんですか?」
「……えへへ、なんでもない」
「ふふ、変なつかささんですね」
「楽しいね」
「楽しいですね」
穏やかな時間が流れた。私達は微笑みあって、辺り障りのない話に盛りあがる。
ふと、お姉ちゃんやこなちゃんも私達のように、ありふれたような時間を幸せに感じているのかな、と考えてみた。
私が言うのもなんだケド、あの二人はぴったりだと思う。だから二人が付き合っているのを知ったときは嬉しかった。
私とゆきちゃんもああいう風になれるのかな。パズルがぴったりはまるように、完成した二人になれるのかな。
「そろそろ三十分経ったかなあ? でも行列全然動かないね」
「えと……今は15時30分ですね。……えっ!」
「あれ!? ゆきちゃん、私達、行列から弾かれてるよ!?」
「もしかして……私達は2時間近くもその場で立ちっぱなしだったみたいです」
「そんなぁ……全然気がつかなかったよー……」
「ごめんなさい、つかささん。私がぼーっとした性格なばかりに……」
「ううん、私もだよ……」
私の心配は無駄だったのかも。あんまり良い方向だとは思わないけど、すごく気が合ってるみたいで……。
******
PM 16:35
遊園地を出て、もう一度湾岸近くの公園まできた私達。
結局、遊園地ではほとんど遊べなかったけど、それなりに満足していた。ゆきちゃんといれば、アクシデントも面白い。
ゆきちゃんもそれは一緒だったみたいで、私達はずっと笑顔のままだった。そばにいるだけで十分すぎた。
「冷え込んできましたね」
「もうすぐ夕方だからねー」
「この季節は外が暗くなるのが早いですからね。できるだけ早く帰るようにしないといけませんね」
「うん……そっかあ。もうそんな時間になろうとしてるんだね」
二度と会えなくなるわけでもないのに、ゆきちゃんとの別れはいつも気持ちを暗くさせる。
本当はもっと明るい気持ちで別れたいのに、寂しがり屋の私はこういうときにダメな方向に傾いちゃう。
でも今日は、明るく別れるために……やらないといけないことがあった。昨日からずっと、決心していたこと。
(今日はきちんとお願いしないと)
売り子のワゴンが消えた公園を、二人で並んで歩く。寒さがますます増して、頬を突き刺してくる。
私とゆきちゃんの間なら、もうそれほど心配はいらないはず。私は息を大きく吐いた。
「ね、ゆきちゃん」
「はい、なんですか?」
「あのね……」
「あれーw お姉ちゃん達ふたりっきりでなにしてんのーwww」
私の声を邪魔したのは、男の人の野太いダミ声。私達は驚いて振りかえった。
「お、このねーちゃんいいスタイルしてんじゃんwwww」
「俺はこっちの子がタイプだなーw 俺貧乳好きだしwwww」
「うはwwww おめー変態だべwwww 超ヤバイじゃんwwww」
ニヤニヤして私達に近付いてきたのは、ガラの悪そうな男の人三人組。ダボダボの服に真っ金々の髪型、ピアス。
人を見た目で判断しちゃいけないってわかっているケド、これはいわゆる『不良』の人達……。
「こんなところで女の子二人で危ないよーwwww それともナンパ待ち?wwww」
「こんな真面目そうな子がかよwwww うはwwww」
「ゆきちゃん……この人達、怖いよ」
「は、はい……ここはひとまず、逃げましょう」
私達に緊張が走る。ゆきちゃんも不安になっていることが、私にもわかった。足がすくんでしまいそうになる。
それでも、私はゆきちゃんに肩を押されて、男の人達に関わらないようにその場から離れようとした。けど……。
「ちょっと待ってってばwwww 一緒に遊ぼうよwwww」
「無視すんなよwwww お高くとまってんじゃねーぞwwwww」
「すみません……やめていただけますか」
「やめていただけますか、だってよwwww お嬢さまだぜこの子wwww」
「マジかよラッキーwwww ほら、遊ぼうよってwwww」
「つかささん、走りましょう」
「えっ、うん」
私達はばっと駆け出した。後ろの三人組は、しつこく私達を追ってくる。こんなときに限って、公園は人影がなかった。
ゆきちゃんの足の早さなら、私達は逃げられたかもしれなかった。問題は私の足だった。すぐに息が上がって、足元がふらつく。
「つかささん、大丈夫ですか!」
ゆきちゃんは私に合わせようとしてくれていた。その間にも三人組との距離はどんどん縮まっていった。
「はい、おいついたwwwww」
「ひゃーはーwwww」
気が付けば三人組は私達の前に再び立ちはだかっていた。一人の手がゆきちゃんの右手を掴む。
「痛っ……や、やめてください! 人を呼びますよ!」
「今誰もいないしwwww」
「ゆきちゃん! お、お願いだからゆきちゃんを離して!」
「お嬢ちゃんは俺と遊ぼうやwwwww」
「や、やだっ、やだよぉっ!」
もう一人の手が私の手に伸びてきた。掴まれそうになったけれど、私はそれを必死に振り払った。
「痛ぇwwww 何すんだこのガキwwww」
肩に衝撃が走って、私の身体が後ろに飛んだ。突き飛ばされていた。
「つかささん!!」
私の身体が転がった。地面に手を引きずって、視界がぐるぐると回る。ゆきちゃんの叫び声が聞こえる。
「つかささん、つかささん! 大丈夫ですか!」
掴まれえいた手を振りほどいたゆきちゃんが、私に近付いてくる。私は気絶だけはしないですんだみたいだった。
「う……痛いよぉ……うっ」
「……!」
地面を激しく引きずった私の左手は大きく擦りむいて、血が流れていた。ゆきちゃんの目がかっと見開く。
「あ……」
怪我はとても痛くて、たしかにショックだった。でもそれ以上に、私にショックを与えるものがあった。
真っ赤なペアリングが地面にぶつかって擦れたせいで、真っ二つに割れてしまっていた。
「リ、リング……」
「つかささん! 大変です、つかささんが怪我を……!」
「ゆきちゃんとお揃いのリング……」
「つかささんが怪我を……つかささんが怪我を……つかささんが怪我を……つかささんが怪我を……!」
ゆきちゃんの身体からゴゴゴゴという音がする。瞳がギラギラと光っていて、髪の毛が少し逆立っていた。
それよりも私の心を支配していたのは、傷の痛みよりもリングをなくした悲しみだった。
どん底に突き落とされたような気持ちだった。ゆきちゃんの周りの景色が、陽炎のように揺れている。
「つかささんが怪我をつかささんが怪我をつかささんが怪我をつかささんが怪我をつかささんが怪我を」
「どうしよう、リングが……ゆきちゃんとお揃いのリングが……」
「暴れるから怪我するんじゃんwwww おとなしくしてれば痛い目みないってwwww」
「……つかささん」
私の前に現われたのは、さっきとは違って優しい笑みを浮かべたゆきちゃん。その手がそっと、私の頬に伸びる。
「申し訳ありませんが……三分、いえ、一分だけでも構いません。目を閉じて、耳を塞いでもらえますか?」
「えっ……う、うん」
ゆきちゃんがいつもの穏やかな笑顔でそう言ったから、私はその瞬間に自然と恐怖とショックを忘れられていた。
言われるがままに目をしっかりと閉じて、両手で耳を塞ぐ。もちろん何も見えないし、何も聞こえなかった。
でもゆきちゃん、どうする気なんだろう。一人じゃ危ないよ? あとで警察の人、呼んでこなきゃ……!
「お、ねーちゃんw 俺らと遊ぶ気になったか?www だったらちょっと付きあわびゅ」
******
PM 17:15
薬局から戻ってきたゆきちゃんは、包帯とバンソーコと消毒液が入った紙袋を抱えていた。
私が目を閉じている間に、問題がおさまっていたみたいで……ていうより目を開けたら別の場所にいて……。
最初は少し混乱していたケド、ゆきちゃんが優しい言葉をかけてくれたから、今はこうして落ち着ける。
「少し染みますよ」
「うん……んー!」
ゆきちゃんは私の怪我した左手に消毒液を塗ってくれたあとに、バンソーコと包帯で応急処置を施してくれた。
まだズキズキと痛みはあった。それは左手だけじゃない。しっかりと私の心は、苦しみを訴えていた。
「とんだアクシデントに見舞われてしまいましたね」
「うん……怖かったね」
「今日のことは早く忘れるようにしましょう……手の怪我だけで済んで、幸いと思えるぐらいには」
「忘れられないよ……今日は、ゆきちゃんとの楽しい思い出もあったんだもん」
ゆきちゃんだって怖いに違いなくて、私はそれを感じるたびにやるせなくなった。
忘れられないと言っても、今日のことは思い出すだけで夜も眠れなくなりそうだった。
お姉ちゃん達やお父さん、お母さんには話さないようにしよう。余計な心配は、かけたくなかったから……。
「今日はもう帰りましょうか。その怪我も、きちんと治療しなければいけませんし……」
そう言うと、ゆきちゃんの右手が私の左手をそっと包むように触れた。私の視界に映ったのは、小指の真っ赤なリング。
(あっ、だめ……!)
私の頭の中に、あの真っ二つに割れたリングの姿が蘇って……我慢していたものが、ついに溢れてしまった。
「……ううー、ひっ、うわああん」
「つかささん!?」
突然の私の涙に、ゆきちゃんは驚いていた。これ以上ゆきちゃんを困らせたくなかったのに……それでも止まらない。
「ごめんね、ゆきちゃん……泣きたくないのに、ごめ、ひっ、ごめんね」
「き、傷が痛むんですか?」
「リング……壊れちゃった……」
「……リングですか?」
「ゆきちゃんとのお揃いのリング、ずっと大事にしようって思ってたのに……二人が繋がってる証だったのに……。
運命の赤い糸なのに、私、ぐすっ……すぐに壊しちゃった……ごめんね、ゆきちゃん……ごめんね……。
私達の赤い糸、なくなっちゃった……ひっ、ゆきちゃん、本当にごめんね……あくっ、赤い糸……うわああああん」
本当にごめんね、ゆきちゃん。リングを壊しちゃったどころか、最後まで困らせちゃって。
だから私はゆきちゃんの顔をまともに見れなくて、手の痛みも心のズキズキもおさまらなくて、ただただ泣き続けた。
するとゆきちゃんは私の頭を包み込むようにそっと抱えて……自分の胸に優しく押し付けてくれた。
「つかささんのせいじゃありませんよ。だから、泣かないでください」
「でも、ペアリングはゆきちゃんのお願いだったし……」
「リングならいつでも買えます。でも私は、リングが無くなることよりつかささんが泣いてるほうが悲しいです。
つかささんが自分を責めて泣いていると、私まで泣きたくなってしまいます。つかささんは何も悪くないんですよ」
「でも私、不安だよ。怖いよ。私達の赤い糸、簡単に壊れちゃうんだもん」
「……そうですね。ちょっと待ってください」
私を引き離すと、ゆきちゃんはバックからショップの袋を取り出して、中から『それ』を取り出した。
モールでゆきちゃんが買った、赤いニット帽だった。ゆきちゃんは手早く毛糸を一本引き抜くと、
片方を自分の左手の小指に巻きつけて、もう片方を私の右手の小指に巻きつけた。
「ゆきちゃん?」
「よろしいですか、つかささん」
「……うん」
「目に見えるだけの赤い糸は、いつだって消えたり無くなったりします。これもハサミで切ってしまえばおしまいです。
でも私はこの糸が切れても、つかささんとの繋がりあった心が切れているとは思いません。……これではダメですか?」
涙でぐしゃぐしゃになった私の顔をまっすぐに見詰めるゆきちゃんの目はすごく優しくて、でもとても力強くて。
……私、この優しさを好きになったんだ。それを思いだして、気が付けば涙が嘘のように引っ込んでしまって。
「……ダメじゃないよ。私、まだゆきちゃんと繋がってる」
私達は小指に巻き付けた糸だけで触れ合ったままで、夕暮れの風に吹かれていた。涙はもう渇ききっていて……。
「ゆきちゃん、あのね」
「はい、なんですか?」
「今日ね、ゆきちゃんにお願いがあったんだ」
「お願い?」
「手、繋ぎたかったの」
「……手、ですか?」
「ふたりっきりのときはよく繋いでるけど、お外とか人がいっぱいいるところだと、つないだことなかったでしょ?
ふたりとも周りの目を気にしていたから……でも今日こそは、外でゆきちゃんと手を繋ぎたいなって思って。
私はどんな風に見られてもいいけど、ゆきちゃんまではそうはいかないから……で、でもゆきちゃんがよかったら」
私がそれを言い終えない内に、寂しんぼの手のひらに温もりが伝わってきた。離れなくなりそうなくらいにぎゅっと。
「ゆきちゃんの手、暖かいね」
「つかささんの手も、とても暖かいですよ」
目に見える赤い糸の欠点を、私はもうひとつ見つけた。すぐに消えたり壊れたりするだけじゃない。
そこでしか、それでしか触れ合えないっていうこと。その糸の長さだけ、私とゆきちゃんに距離が生まれる。
でも今の私とゆきちゃんはたしかに触れ合って、手が固く結ばれるたびに目に見えない赤い糸もきっと強く結ばれている。
私達の距離はゼロになった。きっとこれから先もずっと、たとえ遠い場所にいても、ゼロのままでいる。
「そろそろ帰りましょうか」
「うん……このままでもいい?」
「はい、もちろんですよ」
「離さないでね?」
「離れないでくださいね」
「うん!」
******
「ぶっそうな事件もあったものねー」
「なにがあったの、お姉ちゃん?」
「たまには新聞も読みなさいよ、つかさ。『湾岸近くの公園で暴行事件発生。被害者は男性三人組で全治半年の重体。
うわごとのように鬼が来る、鬼が来ると呟いており、現場はおびただしい血痕と台風が去った後のような荒れ様』
ですって。この現場って、昨日あんたがみゆきとデートした場所の近くでしょ? 巻き込まれなくてよかったわね」
「わあ、怖いねー。そういえばお姉ちゃん、今週はこなちゃんとデートしないんだね?」
「ああ。なんかバイトが変なイベントがどうとかで忙しいみたいなのよ。まあ仕方ないわよね」
「お姉ちゃん、寂しくないの?」
「だ、誰が! 全然、寂しくなんか……ないわよ……」
「大丈夫だよ。お姉ちゃんとこなちゃんの赤い糸、切れてないよ!」
「……は?」
投下は以上です。読んでいただいた方ありがとうございます。
誤字脱字等ありましたら申し訳ありません。
原作やエロパロでは割と忘れられがちなつかさの乙女な部分と
みゆきさんの天然設定を生かしてみました。
本当は5〜6レスですませる話のつもりが……。
やはり甘々を書いているほうが幸せみたいです。
では、他職人さんのSSをペロペロあふーんする作業に戻ります。
>>525 ド○ン・カッシュ曰く。
「人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて地獄へ落ちろ!」
いやもう。
覚醒みゆきさんが男前だったり、つかさの一挙手一投足が福原ボイスで脳内再生されたりして大変でした。
さすがコテに入れることだけはある、貴方のみゆつかは核兵器だ。ごちそうさまでした。
>>525 甘々GJなのです
DQNの描写が秀逸でした…ってのは褒め言葉にはなりませんかね
GJ過ぎる!もうみゆつか愛してる氏のみゆつかを愛してる!!
「・・・
>>525GJ・・・っていってあげても・・・いいわよ・・・」
「ん〜なになにかがみどったの?
そんなにうらやましーの?あの二人(=ω=.)」
「ば、ばかっ!そんなわけないじゃない!」
「そんなにアニメイトとかゲマズとかばっかりじゃあ
だめだったかあ・・・かがみんもヲタだから十分だと思ってたのにw」
「誰がヲタだっ!」
「そおねえ・・・確かにそんなショップだけだとアレだし、
たまにはアトラクションいっぱいの場所でデートってのもいいねぇ」
「こなた・・・」
「緒大場のジョイポリとか、二個球のワンダーエッグとか=ω=」
「あーもう・・・アンタのアトラクションの行き着く先はそこかい・・・」
「それに、今日だって・・・」
「ん?」
「ぐあ・・・・このチビなにもんだ・・・」
「ひ"ゃあ"あ"あ痛い"ぃい"いい;;」
「そこのヲタ狩りのおにーさんたちー、早いとこ病院行ったほうがいいよ。
手首関節複雑骨折してるかもだから(=ω=.)b」
「こなた・・・いくら助けるためとはいえ、合気道フルブーストすること
なかったんじゃない?」
「何を言うデスカ、ヒーローに助けられる姫!これこそ萌え要素!
それに・・・私の嫁に手を出す奴は、許せない・・・
みゆきさんが鬼になった気持ち、すっごくよくわかるもん」
「こなた・・・」
「とにかくっ!そんな2人を甘く頼もしく書いた
>>525、ぐじょお!」
>>525 やばいです、面白かったです、いろんな意味で!!
もう、あなたの虜になりそうっ><
>>525 PC画面が真っ赤になりました(鼻血的意味でw)
甘々みゆつか最高ですな。
うさぎ形リンゴにバルサミコ酢で吹いたのは俺とみゆきさんだけの秘密w
こう×ひよりの非エロ投下します。
春は出会いの季節である。
とはいえ、誰にでも平等に出会いが用意されているわけではなく。
「はぁ〜……」
桜も散り始めた春半ば。昼休みの校庭で、八坂こうは一人ため息をついた。
この時期、校内ではそこそこで各部活や同好会の勧誘が行われている。今、こうが歩いている校舎脇の通り道は、ちょうどその手の勧誘集団の巣になっていた。
「バスケ部新入部員募集中で〜す!」
「美術室で美術部の作品展示やってます! よかったら見てってください!」
「そこの君! 野球やりたそうだな!」
どこの部員も、フレッシュ感あふれる新入生達の青春汁を搾り取ろうと虎視眈々だ。
今年度からアニメ研究会部長となったこうにとっても、他人事ではないのだが。
「どうしたもんかねぇ……」
憂鬱な表情でひとりごちる。アニ研は部員数が少ない。別にそれは構わない。体育会系の団体競技ではないのだから。
大体にして、絵を描きたい人は美術部に行き、話を書きたい人は文芸部に行く。アニ研はというと、創作目的というより単なるアニメ・漫画好き――それ系の半数もパソコン研究会に流れたりするのだが――が集まる。それはそれで間違っていない。しかし、
(得がたきはトキ、逢いがたきは強敵と書いて『とも』か……)
あくまで創作を志す側としてアニ研を選んだこうとしては、色々と物足りない。去年はまだ良かった。先輩のアニ研部員には同人活動に精を出す人もいたし、意見を交わすことで良い刺激を得られたと思う。
今は残念ながら、アニ研で積極的に創作を行おうという人間はいない。こう以外には。
最大限の希望を言えば、互いに切磋琢磨できるような熱意溢れる部員が欲しい。そうでなくても、少しは創作に興味を持つ人が来て欲しい。誰も来ない部室で一人ちまちま創作ノートに向かっているのは、快適ではあるが、時折ひどく寂しいのだ。
「考えるより行動か」
部員募集のポスターは指定の掲示板に貼ってあるし、あとは直接勧誘あるのみだ。
ちなみに今ここでアニ研から勧誘活動に来ているのはこう一人である。別にこれぐらいで物怖じするような性格ではないのだが、心細くないといえば嘘になる。
文化系の勧誘が集まる場所に移動すると、目の前をうようよしている新入生達を前に、こうは大きく息を吸った。こういうのはインパクトが大事だ。
「えー、アニメけ――」
「おーい、八坂ー。どうだ調子はー?」
こうが大きな声でアピールを始めようとした時、横合いから白衣を着たちんまい女教師が声をかけてきた。
「……今まさに気合い入れ直して呼び込みしようと思ってたんですけどね。ひかる先生」
故意ではないだろうが、出鼻をくじかれたこうは口を尖らせる。アニ研顧問の桜庭ひかるは反省した様子もなく「そうか」と頷いた。
「まあほどほどにな。部員数が危機的に不足してるわけでもないんだし」
「そりゃあ、そうですが……」
「それに、こういう場所に集まってくる連中は、どの部に入りたいというより、せっかくだから何かの部に入ってみたい、あるいは冷やかし半分ってのが大多数だからな。お前の欲しいような人材は望み薄だと思うぞ」
「……」
部員勧誘にかけてこうが抱いている気持ちを漏らしたことはないのだが、全部お見通しだったらしい。
確かに、熱意を持ってアニ研に入るようなら、入学間もないうちに、勧誘など待たず部室に飛び込んでくるのが普通だろう。それはこうにも分かっているのだが。
「ま、一パーセントでも可能性があるならやってみますよ。どうせ暇ですし」
「そうか。頑張れ」
素っ気ない励ましの言葉を贈ると、ひかるは踵を返して歩き出した。その足の向く先は、職員室ではない。
「先生。この前ふゆきちゃんが言ってましたよ。保健室を休憩室代わりに使う人がいて困ってるって」
「そんな生徒がいるのか。けしからんな」
(あんただよ、あんた)
昼休みも残り僅かとなった。大勢いた新入生も、だんだん少なくなっている。
「こんなもんか……」
こんなもん、という内訳は収穫ゼロなのだが。たまに話を聞いてくれる人はいても、入部は誰もしてくれない。
そろそろ教室へ戻ろうと思い、こうはため息をつきながら校舎の方へ足を向けた。
「ぁたっ」
「え?」
振り向いた矢先、何か軽い物が体に当たった。こうよりも頭一つ分以上小さい女の子と、うっかりぶつかったのだ。
「ちっさ……」
140センチも無いと思われるそのサイズに、こうは謝るよりも先に小声で呟いてしまった。桜庭先生も相当なものだが、こちらは背丈に加えて雰囲気とかも色々とミニマムだ。
「っとと、そうじゃなくて……ごめんね。大丈夫?」
「あ、はい。こちらこそボーッとしててすみません」
幸い転びもせず、ちょっとよろめいた程度で済んでいた。こうはホッと胸をなで下ろす。何となくだが、この子には小動物のような可愛いけれど脆い印象があった。
「君、一年生だよね? 何か部活入ろうと思ってるの?」
一応尋ねてみると、その子は困ったように曖昧な苦笑みを浮かべた。上級生を前にして、少々緊張している様子だ。
「いえ、すみません。そうじゃなくて……」
単に通り道として歩いていただけらしい。こうは強いてアニ研に誘おうとはせず、ぶつかったことを改めて謝ってから、その場を去った。
(いるとこにはいるんだなぁ、ああいうリアルで萌えキャラみたいな子って)
廊下を歩きながら、そんなことを考える。小学生並の低身長に幼い顔立ち、加えて全身からどことなく漂う病弱そうなオーラ。ロリキャラのコスプレなどしたら映えまくりそうだ。
(私としては萌えキャラよりも萌えキャラを作る人が欲しいわけだけど)
あの子がもしあの外見でバリバリのオタクだったりしたら、いわゆるギャップ萌えというやつか。そんな想像をしながら教室に入ったところで、予鈴が鳴った。
放課後。アニ研部室の戸を開けたこうの目の前に、見覚えの無い女生徒の姿があった。誰もいない部室で、所在なさげにしている。
「あ、すみません。アニ研の部室ってここでいいんスよね?」
丸眼鏡と長い髪、それからオデコが印象的なその子は、こうがアニ研の部長であることを知ると、田村ひよりと名乗り、アニ研への入部届けを差し出した。
「よろしくお願いします」
「うん、よろしく……」
妙にあっさり新入部員がやってきたことに、こうは拍子抜けというか、少々戸惑っていた。
「差し支えなければ聞きたいんだけど、田村さんはどうしてアニ研に?」
「アニメが好きだからですけど」
「そう……最初から――ああ、ごめん。別に深い意味があるわけじゃなくて、世間話として聞いてるだけだから」
初対面から詮索屋みたいなのはよろしくない。軽く詫びてから、改めて尋ねる。
「最初からアニ研に入ろうと思ってたの?」
「いえ、美術部とか考えてたんスけど。やっぱりこっちの方が面白そうだと思って」
そう言って、ひよりは鞄からホチキス綴じの冊子を取り出した。去年出したアニ研の部誌だ。こうが書いた短編小説も載っている。
「これ、こちらで作った本スよね?」
「そうだけど」
「面白かったっス」
素直な言葉で簡潔に感想を述べながら、ひよりの目の奥には野心的な光がある。こうはそれを見逃さなかった。
「あの、これ、良かったらどうぞ」
ひよりはもう一冊、こちらは二十ページほどのオフセット本を取り出した。一般向けアニパロ同人誌だ。
「田村さんが描いたの?」
「はい。一番最近のやつです」
受け取ったその本を、一ページずつ眺めていく。未熟な部分も多いが、十分に「上手い」と言える内容だ。もう一言加えるなら「面白い」。
「…………ふぅむ」
読み終えた本を閉じたこうは、そのまま目をつぶり、瞑想しているように黙り込んでいる。
「先輩? どうしました?」
「……捜し物する時にさ、散々色んなとこ探し回って、それでもどこにも見つからなくて、もう諦めようって思った瞬間、見つかることがあるじゃない。今そんな気持ち」
「?」
「いや、むしろ棚ぼたかな? なかなか面白かったよ。田村さん、早速だけど次の部誌に何か描いてみて」
「押忍。喜んで」
「了解したね? 〆切はびた一文まけないからそのつもりで」
「うっ……そ、それに関しては限りなく柔軟な対応をしていただけるとありがたいのですが……」
「だが断る」
「そんなぁ……」
情けない声を上げるひよりに、こうは意地の悪い笑みを浮かべながら、ページ数と〆切日を告げた。
最後の期末テストも終わって、春休みまで間もないある日。冬枯れの木々をアニ研部室の窓から眺めながら、こうは小さく息をついた。
「どうしたんスか先輩? 何かちょっとセンチな雰囲気で」
椅子に腰掛けて本を読んでいたひよりが声をかける。日によって来たり来なかったりが多いアニ研部員の中で、この二人が部室にいる確率はかなり安定している。
「月日が経つのは早いもんだと思ってね」
「そうっスねぇ」
「ひよりんがアニ研入ってから、もうじき一年か……」
「あれ? 私のことっスか?」
「まあね」
窓の外へ向けていた視線をひよりに送ると、こうはどことなく楽しげな表情をしながら言葉を続ける。
「特にドラマチックなエピソードもなく、普通に入部してきたわけだけど」
「えーと、そこは『普通って言うなぁ!』と返すところでしょうか?」
「いやいや。中身が結構きわどいんだから、あれぐらいでちょうど良かったよ」
「そうスか……」
褒められてはいないが、かといって貶されているわけでもなさそうだ。ひよりは曖昧に頷いた。
こうは立ち上がると、棚にまとめてある部誌のバックナンバーをざっと眺める。どれも懐かしいというほど昔ではないが、それなりの感慨がある。
「ふむ……」
一通り眺め終えると、今度はひよりの傍へ寄り、不意にその頭へ手を乗せた。髪を乱さない程度にグリグリと撫でる。
「な、何スか先輩?」
「別にー。うりゃ」
右手で頭を撫でながら、左腕でひよりの体を強引に抱き寄せる。
「うわ、ちょっ、何を……!?」
唐突に抱きしめられたひよりは、当たり前だが驚いて目を白黒させていた。
「たまには可愛い後輩を愛でてもバチは当たんないでしょ」
「め、愛でるって、私はそういうキャラじゃないし、先輩だってそんな――」
「まあまあ、遠慮しなさんな」
「遠慮とかじゃなくて! 恥ずかしいっスよ!」
ひよりの叫びにも聞く耳持たず、こうはスキンシップを続ける。
「来年はひよりんがここの部長だからね。頑張れよー♪」
「わ、分かったら放し……アッー!」
アニ研は今日も平和だ。
おわり
読んで下さった方、ありがとうございました。
>>536 Oh!ひよりんを愛でるのはワタシデス!
でもGJです。ひよりんの初々しくもいきなりインパクトの有る登場は
さすがワタシの嫁と思いマーシタ!
「コソコソ・・・ダンボールの中でダンボールをテーブルにして
原稿を描くことが増えてきたッスよ・・・」
>>536 GJ!
「そういえば、こーちゃん先輩、今日(2/3)誕生日ッスよね。おめでとうございます」
「おお、さすがひよりん。覚えててくれたのか!そうだなー、プレゼントは―――」
「あ、あれ?受け取る側が指定するんスか?……っていうか先輩、目が怖いッス」
「……よし!今年の誕生日プレゼントは、ひよりんに決定ー!」
「け、結局そうなるんすか、アッー!!」
ガラッ
「さ……桜庭先生!?」
「ん?八坂に田村。こんなところで何やってるんだ?」
「あ、いやー、田村さんが私に誕生日プレゼントをくれるって言うから……」
「ちょ、私は何も言ってないッスよ!」
「そうか。なら私も交ぜてもらうとするかな。少し遅いが、私への誕生日(1/25)
プレゼントがあまりなかったからな」
「そ、そんな!二人がかりとか、アッー!!」
黒井先生×兄沢店長を見たい
540 :
名無しさん@ピンキー:2008/02/03(日) 06:50:49 ID:kNH8sicX
このまえ関東平野(かんとうへいや)を「かんとうひらの」とよんでしまった。
生徒におもいっきし突っ込まれた。俺はもうダメだ。
>>540 大丈夫だ、俺はこの前『白石(しろいし)』行きの電光掲示案内を(しらいし)って読んだからwww
>>539 男オリキャラならまだしも店長はきついだろう
>>541 なんか住んでるところ同じな気がするwwあれは見る度にそう思う
泉とかもあって幸せな気分になります
>>536 題材といいキャラのちりばめ方といい、さすがに上手いなあ。ぐっじょぶ。
>>540 というとつまり……。
今日の授業中のこと。
「……ここ、試験に出るからな。次に、かんとうひらのでは……」
教科書を読み違えたまま、すらすらと説明していく先生。教えてあげたほうがいいのかな、と思って無意識にみなみちゃんの
方をちらりと見ると、みなみちゃんが小さく手を上げるのが見えた。
「あの、先生」
そんなに大きくないのに、なぜだか良く通る声。綺麗だな、っていつも思ってるのは私だけの内緒。
「ん、どうした岩崎?」
「かんとうへいや、です」
「あ、ああ、関東平野、な。関東平野では……」
ばつが悪そうに説明する先生。その様子があんまりにもおかしかったから、私は教科書で口元を隠してちょっとだけ笑った。
(ふおおおおおっ!? 隠れヲタっスか? 隠れヲタっスね先生? 来た来た、ネタの神が光臨したー!)
田村さんは何かひらめいたみたいで、アイディア帳を取り出してしきりに何か書いている。授業中なのに大丈夫かなあ。
でもどうして「ひらの」がアニメとかに結びつくのかな、と思っていたら。
「ハイ、先生っ!」
「お、どうしたマーティン?」
「先生ももえがく5トカ欠かさず見てる口デスカ? ソレとも解体新ショー?」
「な、何を言うだぁー!?」
パティちゃんが元気良く席を立って先生をびしっと指差した。
先生に指差すのは失礼じゃないかなぁ、と心配しついでにふと思い出す。「ひらの」、ってお姉ちゃんが好きな声優さんの
苗字だったっけ。
「図星デスネ? 図星デスネ? 先生もあーや好きデスネ? Gyaoの新番組とかcheckしてマスネ?」
男の子たちを中心に笑いが漏れる。私もつられてふき出しちゃったのは、お姉ちゃんに感化されたのもあるのかな。
「素直にcoming outしまショウ、そうすれば新しい世界が開けるですヨ? サア! サア! サアサアサアサア!」
「ドッゲェーッ! マーティン!!」
……こうですか? わかりません!
関東ひらの行ってみたいなぁw
投下予定の方がいらっしゃらなければ数分後投下します
>>536 こういう話もいいですね。
特にドラマチックじゃないあたりがそれらしいです。
最後の叫び声を「アッー」にするところとか
ネタを忘れないのも流石w
547 :
26-485:2008/02/03(日) 10:41:58 ID:JMAD3Zd7
・節分ネタ
・かがみ×こなた
・6スレ拝借
・エロ有り
・キャラ崩壊有り
半分ギャグ、半分エロって感じ
では行きます
季節の移り変わり。
それは普段意識する事はないけど特に立春の前日の事。
私達は豆を撒いたり食べたりする習慣がある。
季節を分かつ慣わし
穏やかな日差しが春の近づきを感じさせる、そんなある日曜日の午後。
「遊びに来たよー」
我家の玄関に聞き慣れた友人の声と客人の訪問を告げるチャイムの音が響いた。
「ほーい」
居間でくつろいでいた私はこなたがやってきた事を知って、読んでいた本を閉じて返事をした。すぐに立ち上がり出迎えに行くと、私の背中を追いかけるようにつかさも神棚が設置された部屋を抜ける。
「いらっしゃい」
ドアを開け目の前に現れた、ファーが付いた狐色のコートに身を包んだこなたに歓迎の言葉を掛ける。
「お邪魔しまーす」
そう言うこなたは既に家の中。もうお邪魔してるんじゃないかとかくだらない事を一瞬考えて、即行で消し去る。
「いやー、外は寒いねぇ」
白い息を吐きながらしみじみと語るこなた。吐息の色や手をすり合わせる仕草から、実際にはその寒さを体験してはいないのだが、屋外は相当寒いと言う事を私は感じ取った。
「そうでしょうね。暖房効いてるわよ」
早く温まりたいとはこなただけでなく私の願望でもあったので、先程まで姉妹揃って温もっていたこの家で一番間取りの広い部屋にこなたを通す。
通路から居間に舞い戻ると、再び訪れた温もりに私達は至福の表情を浮かべた。扉を一枚隔てただけでこんなに気温が違うとは、人間の発明品とは実に素晴らしいと実感する。
特にこなたは玄関付近の室内より更に冷える外で寒風に吹き曝されていたから、室内を天国のように思っているのではないだろうか。
鼻の頭を赤く染めている小さな来訪者に向き直ると、目を極限まで細めてとても幸せそうな笑みを浮かべていた。私の思っている通りで間違いなさそうだ。
「何か温かい飲み物持ってくるね」
つかさが此処と隣接している台所の方を指差して言った。
「おー、ありがとー」
「悪いわね」
私達の返事を確認して優しく微笑み、つかさは歩みを進め始めた。
隣の部屋に入っていく妹の後姿が見えなくなった頃、再度呼び鈴が鳴らされた。
恐らく本日召集を掛けたもう一人の人物が到着したのだろう。
「みゆきさんかな?」
こなたも同意見らしく、私が脳内に思い浮かべた人物の名前を口にした。
「多分そうね。つかさー、みゆきの分もお願い」
前半はこなたに、後半は呼んだ名と同様に少し離れて位置しているつかさに向けて言う。
少々のタイムラグを生じて返ってきた、了解の意を示した少し大きめのつかさの声。それを聞きとった後、私はこの場所から身を移す事を憂鬱に思いながらも、二人目の訪問者を家に上がらせるべくゆっくりと歩き出した。
「そう言えばこなた、あんた何か用があるって言ってたでしょ」
四人揃ったところでこなたに話題を振る。
「おお、そうだったそうだった」
こなたは私の言葉でようやく当初の目的を思い出したようで、持参してきた荷物の中を探り始めた。
「皆、今日が何の日か勿論知ってるよね?」
「カリスマアパレル系ショップの店員というネタをされている芸人さんの誕生日ですね」
そうだったのか。『かしこまり〜』とか言っているちょっと太った女の人が私の頭に浮かぶ。
あの人幼児期から赤ちゃんモデルやってたらしいわね。生まれた時の体重は四千四百近くあったそうな。
「違うよゆきちゃん。今日はバルトロメウ・ディアスが喜望峰に到達した日だよ」
マジか。っていうかつかさ何でそんな事知ってるんだ。
私もこの流れに乗って、今日はのり巻きの日よと発言しようとしたが、こなたがしょんぼり顔になっているのを見て慌てて口を閉じる。
「今日は節分でしょ」
私のもっともな回答に、こなたの顔が見る見る内に明るくなっていく。それに比例して私の理性が削られていく。何という理性デストロイヤー。
ちなみにのり巻きの日とは、節分の夜に恵方に向かって太巻きを食べると幸福になると言い伝えから、約二十年前に全国海苔貝類漁業協同組合連合会によって制定されたらしい。
「そうだよかがみん。それで私はこんなものを用意したのだよ」
目を爛々と輝かせたこなたがちらりと見せた、黄色の地に黒の横縞をあしらった布地。
「鬼の衣装ね」
私はその模様でこなたの準備したものとその後の展開を理解した。
「皆で豆撒きパーチーだ!みゆきさん、例のもの持ってきてくれた?」
「ええ、ここに」
そう答えてハンドバッグから大量の炒られた豆を取り出すみゆき。ご丁寧な事に複数の升の中に均等に分けられていた。
明らかに許容量を超えるその多さに、何処か異空間にでも繋がっているのではないだろうかと本気で考えた。しかし答えを聞くのが怖くて私は押し黙る。
「食用の分も残してあるので遠慮なく使ってください」
「んで、問題は誰が鬼をやるかなんだけど……」
こなたが私の方を見た。瞳を潤ませて哀願するような目線で私を射抜く。
こっち見……てください。
「嫌よ。こなたがやりなさいよ」
こなたに鬼の役割を譲渡した理由は主に二つ。私がやりたくなかったのと、こなたの鬼の姿を見てみたかったから。
配分がどちらかに偏ってるけど気にしない。
「では公平にじゃんけんで勝った人がかがみさんに鬼をやって貰うよう頼みましょう」
待てこら。それではこなたが着るケースがないじゃないか。
結局一人五指を収束させたみゆきは、手の平を開いた私達に負けて鬼の役をやる事になった。じゃんけんって大概言い出しっぺが負けるのよね。
「かがみさん、常識的に考えて紙が石を上回るなんてあり得ませんよね?」
言い訳がましく抗議するみゆきは放っておく。
「結論から申し上げると、サイズが合いませんでした」
こなたから渡された衣装を手に一人脱衣所に入っていったみゆきだったが、数十秒後元の服装のまま出てきた。
「非常に残念です」
残念じゃなさそうにみゆきが呟く。
「こなた、あんたサイズ調べてきたの?」
振り返ってたった今問題となった衣服を調達した本人に確認を取る。
「そう言えば私に合わせたかも」
ちょろっと舌を出すこなた。他に人がいなければ床をのたうち回っているところだ。
「結局自分が着る気だったんじゃないの」
にやけが止まらない私は、少し前に悔いた事がこんなにも早く現実になるこの流れに、多大なる感謝の気持ちを寄せた。
「うーん、私しか着れないだろうし……よし!私が着てしんぜよう!」
「では泉さん、どうぞ」
みゆきから縞模様の布地を受け取って、こなたは扉を開けた。閉められるのを目の当たりにすると、自然と舌打ちが漏れた。
「みゆきの眼鏡って透視出来るみたいな特殊能力ついてないの?」
無茶振りも良いところだと自分でも思う。
「ついてますよ」
今すぐその眼鏡をこっちに寄越せ。
「本当に?」
「浮かび上がった光の色で宝箱の中身がアイテムかゴールドかエネミーか判断出来ます」
使う機会あるのかそれ。
ドアを前に佇む三人。沈黙が流れる。
「かがみさん、つかささん、これをご覧になってください」
みゆきが私達に提示するように突き出したのは、何の変哲もないみゆきの腕だった。
何か見せてくれるのではなかったのかとしげしげと眺めていると、みゆきの指が変に折り畳まれているのに気づいた。人差し指と中指は前側に、その他の指は手の平に向かっている。
「じゃんけんの第四勢力のピョーです」
何言ってるんだこいつは。
「パーには勝てますがグーとチョキには勝てません」
どうやら先程パーに負けたのが余程悔しかったらしい。心中でそう読み取ると、丁度扉が開かれる音がした。着替え終わったようだ。
「じゃじゃーん!どう?」
それを合図に視線を向ければ、目に飛び込んでくるのは鬼の衣装に身を包んだこなた。
その服装は所謂ツーピース。みゆきの特殊能力になんか頼らなくても、今だけはこなたの腰の括れや小さなおへそも丸見えだ。
上半身は肩紐のない黄色と黒色を基調とした布だけに巻かれるように覆われていて、こなたがもっと見てと言うように動けば連動するように同色系統のフレアスカートも揺れる。
「ねぇかがみ、どう?似合ってる?」
こなたが私の前に歩み出れば、鬼をモチーフとした衣装はひらりと翻る。ミニスカートが、着用している人物の動作に遅れて元に戻る。
これは核兵器並の破壊力だ。威力が鬼ヤバい。皆に危害が及ぶ前に実態を調査せよ柊かがみ。
「お……」
「お?」
「鬼は内いいいいいいいいいぃぃぃぃぃ!!!」
「にゃあああああ!!」
私はこなたを担いで自室へと駆け出した。核実験の為だ。
もう一度敢えて言う。核実験の為だ。
「ちょ!かがみっ!普通鬼は外だよ!?つかさ、みゆきさん、そうだよねっ!?」
「こなちゃん、鬼を祭神や神の使いと扱う神社は鬼も内で良いんだよ」
「他にも姓に鬼のつく家庭でも鬼は内で良いんですよ。鬼塚とか鬼丸とかオニオンとか」
「ええっ!?そうなのっ!?」
「そうなのっ!」
「いやかがみ!?絶対知らなかったよね!?今確実に話合わせたよね!?ほら!早く皆で健全に豆撒きしようよ!二人だけでかがみの部屋直行なんて―――誰かー!」
こなたは仰向けで私の部屋にあるベッドの上。そして私はこなたの上。
「もぅ……強引なんだから」
私を見上げて頬を染めながら囁くこなたに私は自我と記憶と魂を失いかけたが、何とか現世に踏み止まる。
「こなたぁ……良いよね?」
私が顔を近づけながら猫なで声で聞くと、こなたはより一層顔面に浮き出た朱色の部分の面積を広くした。
「どうせダメって言ってもやるんでしょ?」
こなたの声には諦めと期待が入り混じっていた。自然と顔が綻ぶ。
「良く分かってるじゃない……」
私はそう呟いて、こなたの唇を奪った。反射的にこなたが目を瞑る。
両手を繊細なものを扱うかのように優しくこなたの頬に添え、自分の唇をこなたの柔らかい部分に押し当てていく。
「ん……」
存分に堪能した後、私は更なる繋がりを求めて舌端を伸ばした。こなたの熱い口内をうねりながら進む私の舌は、すぐに同じ形状の物体に出会う。
粘膜に覆われたそれらはお互いを必要とするかのように絡み合い、存在を確かめ合う。
私達だけの世界に響く淫猥な水音。刺激に反応して時たま漏れる嬌声。一種の心地良さを感じさせるこなたの香り。
どれも私しか知らないこなたの淫らな様子。気分を高揚させるには十分すぎるほどだった。
更なる興奮を手に入れようと、私は激しく舌を動かす。
「んむぅ……んふっ……」
唇から歯茎まで余す事なく隅々まで舐め回す。縦横無尽に快感を弄る私の舌は暴れるような動きで、もしかしたら私の心理状態を表していたのかもしれない。現に私の脳は、唾液にまみれた部分同士の接触によって起こる淫靡な感触にショート寸前だった。
それでもこなたはまだ満足していないのか本能のままの行動なのか、積極的に巻きついてきた。こなたを私が欲情させているという事実に私は嬉しくなって、もっと強くこなたの唇を吸った。
濃厚な口づけをたっぷりと味わって、私は名残惜しさを感じながらも接合部を離した。大分密着していたはずなのに、まだ足りないと不満を示す私の心は貪欲なのだろうか。
混ざり合った私達の唾液は細く長い糸を引いていて、もっと深い連繋を欲する私の心情を表しているようだった。
それが千切れてシーツに染みが出来た時、私の中の何かも切れた気がした。
「かが……ふあっ!」
突然訪れた快感にこなたの発言は中断を余儀なくされたのだろう。原因を生み出した張本人なのに、私は随分と冷静な視点から観察していた。
こなたの水色の縞々パンツは既に下着の役割を果たせない状態になっていた。布を隔てていても伝わるこなたの秘所の湿り具合に、私は今一度こなたを高ぶらせた事を実感する。
この模様も今日の衣装と合わせて選んだのだろうか。もしかしたらこういう状況を予想して私の為にはいてきてくれたのだろうか。
「か、かがみ?こういう事はさ、また今度にしない?」
こなたの上目遣い攻撃が開始された。私のハートに天使が放った矢が突き刺さる光景が浮かぶ。急所に当たり効果は抜群、こなたの属性とも一致していてその威力は実に通常の六倍である。
「ほら、つかさやみゆきさんもいるわけだし……」
気合の何とやらで何とか瀕死だけは防いだ私に追加攻撃が襲い掛かる。第二防衛ラインも突破されそうな勢いだ。
「今日は節分なんだから、節分っぽい事しようよっ」
一気に勝負を決めるつもりなのかこなたは力強く提案した。しかしここで諦める私ではない。
何とか節分からに関する事で私の望む結果にありつける言葉はないだろうか。凄まじい速さで脳内に様々な知識を巡らせる。
節分……鬼……鰯……太巻き……豆……
―――豆?
閃いた。
「ねぇこなた。節分って歳の数だけ豆を食べるわよね?」
答えは分かってはいるのだが、そう聞きつつ私はこなたのスカートを脱がせる。
「そうだけど……」
堂々とショーツを覗く私に歯切れ悪く答えるこなた。
咎められないという事は、こなたもこの後の展開を受け入れる準備をしているのだと良いように解釈して、私は下着に手を掛ける。
「じゃあ節分らしく豆でも頂こうかしら」
私は上機嫌にこなたの秘所を露出させた。何度見ても飽く事のない、魅力的な光景が繰り広げられる。
透明な液体が僅かに光り輝くこなたの陰唇は、ひくひくと微かな反応を見せる割れ目を襞が囲っていた。
「な、何をするつもりなのかな?」
じっくりとそれを視認する私に上擦った声でこなたが尋ねる。
「だから節分に因んで豆を食べるのよ」
私は強引にこじつけた行為続行の理由を伝えた。
「こなたの豆を……歳の数だけね」
言い足して、私は頭部の全面を露わとなったこなたの大切な場所に寄せる。
「ひゃっ!」
甘酸っぱい匂いが鼻腔をくすぐる。軽い目眩が起こりそうな感覚に人格のコントロール権を奪われそうになったが、私は何とか見えない力の強奪のもくろみを失敗に終わらせる。
愛液滴る秘裂に、私はそっと舌を差し入れた。
「ひゃうっ!」
自分の意志ではないだろうが、恥部に無断で入り込んできた異物を拒絶するかのように膣口をすぼませるこなた。
私はこなたの両脚を半ば無理矢理開かせ、侵入者扱いされた自分の口中の突出した器官を押し付けるように顔をなお一層接近させる。
「んっ……」
陰部を妖艶に煌かせる愛液はまるで媚薬、私の性的欲求を急速に催させた。
酸味のあるこなたの味を知覚しながら、包皮に包まれた肉芽を舐め上げる。
「んあっ」
途端にこなたの足先が伸びて、筋肉の収縮を行動で表した。
真珠のように小さく優美な突起を、唾液を乗せた舌先でつついたり転がしたりするだけで、秘裂の奥から粘り気のある液体が滲み出る。
全てを舐り取るようにこなたの中を掻き回す。
「ひあっ……」
こなたの下半身の猥りがわしい有様を当人に示すように音を立てる。
私は内部をなぶるような動かし方を止め、引き抜いては両度差し込むといった愛撫の方法に変更した。直後、身体を反らしてスプリングを軋ませるこなた。
突き入れる時は強烈な圧迫感、抜き出す時はざらつく吸引力がまるで誘っているかのように私の火照りを増させる。
「大分濡れてきたわね。そろそろ限界なんじゃないの?」
いやらしい効果音を立てるのを止めて、こなたに問い掛ける。
「そ、そんな事ないもん」
本人は強がっているようだったが、私には恥らっているように見えた。
羞恥の色に染められた顔、無意識によじられる身体。大部分は欲求に正直で、与えられる感覚に抗う術を持ち合わせていなかった。
こなたの大事な箇所を包む皮に再び舌を這わせる。
密接させてから少しの間は擦るように動かした。甘さを含んだ声が自然と出てしまう度に、新たに愛液が溢れ出してくる。
「んんっ……」
次いで掻き分けるように進める。一際敏感な局部に突き当たり、私はそこを拠点とし辺りをなぶり始める。
「はぁん!」
甲高い声が上がる。それはこなたがもうすぐ達するという事を私に伝えてくれるようだった。
こなたに気持ち良くなって貰いたい一心が私を加速させる。
「んっ……くぅん……!」
慎ましやかに鎮座する突起に口唇を丸めて吸いついた。
焼痕が残りそうなほどの高熱に覆われる感覚に、何も考えられなくなる。
私の頭が真っ白になった瞬間―――
「ああっ!ああぅ……!あっ!うああぁっ!!」
こなたの全身が硬直し、痙攣する。止め処なく湧き出す絶頂に達した証は、私の鼻の頭を、紅潮したこなたの身に降り掛かっていった。
「数分後に第二ラウンド開始ね」
「ど、どんだけぇ……」
私の宣言に眉をひそめるこなたはしかし、嫌がっているようには見えなかった。
「いやー、すっかり遅くなっちゃったわね」
一階へと続く階段を下りながら、私は満悦の笑顔を浮かべる。
「全く、本当に十八回やるとは思わなかったよ……」
こなたはそのまま自分の心情を表現するかのように複雑な表情で返す。
結局私達はつかさとみゆきを完全にほったらかしてしまっていた。気がついたらもう太陽は沈み掛けて、世界が紅一色に染まる美しき夕方の風景が見えていた。
「時間って忘れるもんねー。今日は泊まっていきなよ」
これから帰宅するのも大変だろうと思い、こなたに言う。
「んー、じゃあそうしようかな……」
こなたは思案顔で答えを出すと、扉を開けた。
つかさとみゆきがほぼ同時に振り返る。二人は向かい合うように座って、何かを話し合っていた。
「何してたの?」
「じゃんけんの第三十七勢力について討論していたんですよ」
お前ら私達がニュークリアーテストしてる間中ずっと議論を交し合っていたのか。どこまで根に持ってるんだ。
「みゆきさん、それ本気で使うつもりなの?」
「当然です」
「誰も分からないしみゆきしか使えないじゃない」
「私ルールです」
もはや螺子が数本外れているどころの騒ぎではない。狂っている。私が凶ちゃんならみゆきは狂ちゃんだ。
「では第五勢力から紹介しましょう。これがペーで……」
様々な形に手を変形させながら熱く語るみゆきの話を、私達はそれぞれ思い思いの事をしながら流していた。
「つかさ、私泊まる事になったから」
「あ、そうなんだ。じゃあご飯は二人分追加だね」
こなたとつかさのやり取りを聞いて、私は疑問に思った事を口に出す。
「みゆきも泊まるの?」
「これがポーで第十八勢力に当たります」
聞いちゃいねぇ。私達も聞いてないけど。
「私と一緒に今日中に五十は作るって張り切ってたよ」
つかさが代わりに回答してくれたところで、私のお腹が空腹を訴えてきた。
「今お母さんが夕ご飯作ってるよ。もうちょっと掛かりそうだけど」
「私もお腹空いたなぁ」
両手で腹部を押さえてしょげるこなた。気持ちアホ毛も項垂れている。これだけでご飯十杯はいける。太ったらその分こなたとの室内運動で消化すれば良い。こなたが原因なんだから手伝わせる権利が私にはある。
「ではその間大豆を食べませんか?」
全て説明し終えたのか途中で誰も聞いていない事に気づいたのか。いつの間にかみゆきのオンステージは終焉を告げていた。
「そ、そうだね。折角持ってきてくれたんだし」
賛同するこなたの声は少し裏返っていた。理由を知っているのは私だけ。
私達はみゆきが取り出した大豆を自分の年齢と同じ数だけ手に取った。私はさっき食したけどまぁ良いや。一つずつ口へと運んでいく。
全部食べ終えてから、こなたの方を見た。小さなその手にはまだ豆が握られている。
豆になりたいなぁ。でも禁忌を犯して腕と足を失うのはごめんだわ。
「何で豆って歳の数だけしか食べちゃいけないんだろうねぇ」
今のこなたの台詞が『もっとかがみに私のを食べて欲しかったのに!』と幻聴で補足された私は病気だろうか。
「イエス高須クリニック!」
叫ぶみゆき。通じる人が多いか少ないか微妙なラインだ。というか私の心の中と普通に会話しないでくれ。
「でも歳の数より一つ多く食べると身体が丈夫になるって言い伝えもあるみたいだよ」
「っ!」
みゆきの発言ををまるでなかったかのようにして、こなたの疑問に答えるつかさの何故か豊富な知識に反応した人間がこの場に二人。言うまでもなく私とこなた。
「いやっ!かがみっ!私もう限界……」
ここから先の私の記憶は自室で全裸のこなたに寄り添っている場面から始まっている。
554 :
26-485:2008/02/03(日) 10:46:55 ID:JMAD3Zd7
他の方とネタがかぶらんようにキャラ壊したいなぁとか
思っていたらこんな結果に
最初はオールギャグで行こうと思ってたんですが
執筆途中に豆のネタが浮かんできて急遽エロを組み込む事に
無茶して混ぜてどちらかが出来損ないの中途半端に
なってなければ良いんだが……
読んでくださった方有難う御座いました
>>554 リアルタイムで読了。
ていうか鬼プレイかかがみ、ぺーとかぽーとか何やってるんだみゆきさん。
笑えておっきして、貴方が福ですかほんとにもう。ぐっじょぶでした。
あ、あと。容量がアレなので、他に立候補される方がおられなければ11時をめどに次スレ立てを試みます。
もう36かぁ・・・なんか本当にゴッドかなたさんの御利益がある気がしてきた。
558 :
双子の兄:2008/02/03(日) 11:44:27 ID:R2y59tbd
埋めネタ投下しますー。
シリアスでほのぼのな感じ。
ギャグも書いてみたいけど、自分のギャグセンスの無さに絶望しそうだ。
559 :
節分の日:2008/02/03(日) 11:45:21 ID:R2y59tbd
一緒に時を刻んだ人は少ない。かがみやつかさ、みゆきさんと出会ったのは高校に入ってから。だから、付き合いが浅いと言えば浅いのかもしれない。それでも、感じる友情はそれこそ幼馴染のように大きかったけれど。
「お姉ちゃん、これでいいんだよね」
だけど、実際の所で言えば、私には本当に一緒に時を刻んだ人が少ない。中学ではかかがみ達みたいな気の良い友達は居なかったし、それより前だって同じ。私と一緒に時を刻んでいたのはお父さんくらいの人だった。
「おー、全然オッケーだよ」
それでも、お父さんは私の事を本当に大事にしてくれた。行き過ぎな所はあったけど、本当に私を大事に、そしてここまで育ててくれた。感謝したって感謝しきれない、それぐらい私はお父さんに感謝している。
「お父さんの方はー?」
だからなのかもしれない。色んな行事を、私はお父さんと二人でやってきた。だから、こういう事が。全く当たり前のように感じられなくて、特別で楽しい事のように感じる。今まではあった、遠くにいる人を想う寂寥感が、薄れてくれている。
「こっちは準備完了してるぞー!」
だから、私は今一度誓おう。
遠くにいる人を悲しませないで、安心させる事が出来るように。
私は、誓おう。
「じゃあ、お父さん、どうぞー!」
私は幸せになる、って。
今でも充分過ぎる幸せを噛み締めているけれど、もっともっと幸せに。それこそ、遠くにいるあの人が羨むくらい、幸せに。私は生きて行こう。
「おっしゃー! どうだ? 似合ってる……って、いてっ、いたっ! ちょ、そんな不意打ち無だって……痛い!」
「あははは! 鬼はー外ー!」
だってこんなに良い人たちが此処に居る。これで自分が不幸せだなんて思ったら、罰が当たる。私は幸せなんだ。こんなに、心から笑えるほどに、幸せなんだ。
私は全力の力を込めて、鬼の格好をして仮面を付けたお父さんに小さな豆を投げ付ける。お父さんは面白い恰好で、私の豆の散弾銃を避けようと頑張っていた。
「あはは……」
ゆーちゃんはそんな私達を見て、苦笑い。けれど、控え目ながらちょっとだけ豆を投げていた。その仕草が可愛くて、本当に妹みたいだな、って今一度思う。
「分かった! 鬼は外に行くから投げるのをやめてくれー!」
「あ、ちょ、その恰好で外に出ないでよ、お父さん!」
駆けだしたお父さんを捕まえる為に、私もその後を追いかける。きっと、私は凄く幸せそうなな顔をしてる。こんなに楽しいんだから、私は幸せだ。
これからは、出来が良いのか、良くないのか、微妙だけれど、世界で一番私を大事にしてくれるお父さんと、可愛くて、ちょっとドジで、病弱な最高級の妹のゆーちゃんと一緒に、“家族”という枠組みの中で生きて行ける。
一緒に、時を刻める家族が、私には居る――。
――end.
>>554 >>554 なんなんですかこのエロスとワロスが共存する神世界は。
受けこなたも良かったですが、意地になるみゆきさんも可愛かったです><GGJ!
もう36とは…2スレ目からずーっと見てきましたけど、
それでもまだ一年も経っていないんですね。なんだか3年くらい経ってる気がします。
これだけです。
短すぎたかな……。
>>554 ジャンケン第51勢力、グッジョブ!!!
いやー、昼間からおっきしましたwナイス、かがこな。
>>555 スレ立て乙。
36かー、ここまで伸びるのは素敵な職人さん方と、らき☆すたを愛するスレ住人の力だな。
勿論ゴットかなたさんに見守られながらw
今日は節分。
確かに節分だが、家に帰ってそんなことをする余裕がない。
なぜならば、今目の前の人が、鬼の役目だからね。
節分に備えて、あたしはたくさんの豆を用意している。
大豆、小豆、落花生、黒豆の煮たの。
「あきら様、あの、後半はおかしいんじゃないですか?」
うるさい!あんたが口出ししないの!!
あたしが睨んでやると、そいつは体育座りで震え始めた。
さーて、いくわよ。
まずは大豆から!
「おにはーそとぉぉぉ!」
「ぎゃぁぁぁぁ!枡ごとなげないでぇぇぇ!」
ばらばらとそこらへんに散らばる豆たち。
鬼の面をつけてないけど今日は鬼の人の学ランに、
豆の残骸がたくさんついている。
次、小豆。
「あのあきら様、小豆はなげないとおもうわああああああいたいいたいいたい」
あたしが大豆って言ったら大豆!小豆っていったら小豆なの!
これって煮たらおいしくなるのよね。
どっちかっていったらつぶあんよりこしあんよね。
これ常識。
「ぼ、僕はつぶあんのほうが好きです…だってうわいてててて」
あんたの意見なんて聞いてない!
次、落花生。
殻ごとでいいのかな?
「落花生だーってまってください、それ泥ついてる!ぎゃああああ」
え?これ落花生でしょ?泥ついてたけど買ってきちゃったからなげただけなんだけど。
ダメだった?
「せめて、市販されてる一般的な落花生にしてください…」
最後よ白石、覚悟しなさい!
黒豆!
「あきら様!あの、投げるのはいいとしましょう!」
じゃいいじゃない、投げるわよ!
「だからって缶詰のままわあああああああああああああああああああああ」
ぱたりこ。
あれ?白石大丈夫?
とりあえず起きたら一緒に缶詰あけようね。
でも豆使ってケーキ作るのはなしよ?
「ぼ・・・僕はあきら様の豆が食べたかっ…がくっ」
「変態。」