■お約束
・sage進行でお願いします。
・荒らしはスルーしましょう。
削除対象ですが、もし反応した場合削除人に「荒らしにかまっている」と判断され、
削除されない場合があります。必ずスルーでお願いします。
・趣味嗜好に合わない作品は読み飛ばすようにしてください。
・作者さんへの意見は実になるものを。罵倒、バッシングはお門違いです。議論にならないよう、控えめに。
■投稿のお約束
・名前欄にはなるべく作品タイトルを。
・長編になる場合は見分けやすくするためトリップ使用推奨。
・投稿の前後には、「投稿します」「投稿終わりです」の一言をお願いします。(投稿への割り込み防止のため)
・苦手な人がいるかな、と思うような表現がある場合は、投稿のはじめに宣言してください。お願いします。
・作品はできるだけ完結させるようにしてください。
SSスレのお約束
・指摘するなら誤字脱字
・展開に口出しするな
・嫌いな作品なら見るな。飛ばせ
・荒らしはスルー!荒らしに構う人も荒らしです!!
・職人さんが投下しづらい空気はやめよう
・指摘してほしい職人さんは事前に書いてね
・過剰なクレクレは考え物
・スレは作品を評価する場ではありません
テレビの音しかしないリビングに二人の男女が居た。
一人はこの家の長男、ぼんやりとテレビを見ている。
もう一人はその長男の妹、やはりぼんやりとテレビを見ている。
ふぁ〜眠い。もう寝ようかな…。てかまだ9時だけど…相変わらず俺は眠たくなるの早いな。
病気かな…、いや、ただ単にお子様なだけかも。
沙妃(よしよし、おにいちゃんが眠たそうになってきたぞ。
寝たらいっぱい悪戯してあげるから早くお寝んねしまちょーね)
「ふぁぁ…眠い」
沙妃「もう?相変わらず眠たくなるの早いね」
「そうだな…寝ようかな………あっ、この後みたい番組があったんだ。よし、頑張って起きてよ」
沙妃「起きてられるの?」
「大丈夫、どうしても見たいからな。悪いけどコーヒーを一杯」
沙妃「濃いめのにしようか?」
「おう」
沙妃「ちょっと待っててね」
相変わらずいい妹だな。妹じゃなかったら結婚したいくらいだぜ。
沙妃(もぉう、焦らすんだから。
コーヒーにたっぷりとあの薬を入れてトドメにしてやろうかな…。
まぁいいや、眠いのに頑張って起きてるおにいちゃんの姿がかわいいから入れるのは私のアレだけにしとこう)
しかし、妹と結婚したいくらいって…俺も落ちぶれてるな。
まぁ妹に結婚を申し込んでも無理だろうけどな…。
俺のこと恋愛対象として見てる訳がないもんな。
………いや、でも去年のクリスマスのとき一緒に出かけられて嬉しそうにしてたな…。
案外お兄ちゃん大好きなキモウ…いやいやまさかな!
沙妃に対してなに失礼なこと考えてんだ俺。俺こそキモ兄だぜ。ホント気持ち悪いり。
沙妃「はい、コーヒー」
「おう、さんきゅ」
こんなにいい妹がブラコンを通り越したアレな訳ないよな。
そもそも普段から俺に興味を持ってる素振りなんか全然ないし、普通の何処にでも有りそうな特別仲がいいわけでも悪いわけでもない平凡な兄弟だし。
俺相手に変なこと考えてる顔をしてないもんな。
沙妃(うへへ、おにいちゃんがさっきから私の方をチラチラ見てるぅ。
なになに?犯したくなっちゃったの?
犯してぇぇぇ!!私の穴という穴を朝までズッコンバッコン!
そして朝日に照らされながら『お前はもう未来永劫俺の肉便器だ!』って言ってぇぇ!!
もしくは『へへ、なに感じて腰振ってんだよ!?このメス豚!おらっ!気持ちよかったらブヒーって言え!!』ってな感じで責め立ててくださいお願いしますぶひ)
でも妹が恋人だったらいいのにな〜、清楚で純情そうだし。
なんで恋人作らねえんだろうな?奥手なのかな?あり得るな…エロイ事とかほとんど知らなそうだもんな。
沙妃(まぁ犯されるのもいいけど犯すのもいいよね。寝ている隙にベットに縛り上げて朝までズッコンバッコン!
それで体だけじゃなく言葉でも『なにコレ?あんなにやめろって言っときながらなぁにこれは?どうしてコレがこんなに大きくなってるのか私には全然解んないよぉ』とか
『こんな汚い精子を実の妹の膣内に出すなんてホントに変態だねおにいちゃんは…この鬼畜兄貴が!!』とか
『おに〜いちゃん!沙妃のアソコの中は気持ちいいですか〜?さっきからビクビク動いてますよぉ〜?…えっ?やめてくれって?あははははっ!!やぁぁぁだ!やめてあげなぁい』とか
『ホラ!気持ちいいんでしょ!?どこが気持ちいいの言ってごらん!!なにが誰のどこに入って誰のどこが気持ちいいのか言ってみなよ!!ホラ早く言わないとまた中に出しちゃうよ!?実の妹を孕ませる気!?言っちゃいなよ!
あっはははは!!よくもそんなこと言えたね?言っちゃったね?じゃぁ今度は妹の膣内でイッちゃおう!!』って感じに責めまくりたいよぉ。
それで朝日に照らせながら『おにいちゃんは誰もの?おにいちゃんの側に一生いるのは誰?』って質問して永遠の愛を誓わせたい!!
ってこんなに妄想してたらパンツがプールから上がった直後の海パンみたいになっちゃった)
以上です。
>>1乙
キモ姉を書こうとしたけど無理だったorz
>>1 乙!
>>7 鈍感兄とシャイなキモウトの微妙なすれ違いがw
GJ!
この調子で続けてください!
でも一つツッコミ。女の子なら「海パン」でなく単に「水着」と呼ぶのでわ?(汗
>>7 このシリーズはあれだなw兄の一人称で「妹のかんがえ」がわかるのが面白すぎるw
靴が、揃えられていた。
味気のない、極ありふれた、女性もののローファーズ。
隙間なく並べ置かれたそれは、どこか慎ましやかな印象を与えるが、
その存在感たるや、少年が──姫川ゆみなが、何も言わず、枢へと踵を返すほど。
一筋、二筋と、頬を、伝う冷や汗がくすぐる。
──何故、こうも粗忽なまねをしてしまったのか。
固唾を飲んだゆみなを、自責の念が責め苛む。
しかし、今、ゆみなの取るべき行動は一つ。
逃げ出すこと。逃げ果せること。
「…ごめんね、とおみ」
一言、呟き。
逡巡に閉じられた双眸を開き、決意の色を滲ませる。
そして。
「そっち、違う」
ゆみなにとって、考え得る最悪の展開が、少女──姫川とおみの言葉によって訪なわれた。
──。
高校への通学の問題で、ゆみなは実家から離れた街の、貸家に居を置いている。
離れているとは言えども、自動車で二時間余りの距離なのだが、
それを許容することのできない人間がいたのである。
「とおみ…そろそろ、離れてくれないかな…?
僕、夕飯の支度をしなきゃいけないから、ね?」
それが、彼の妹。とおみ。
口数や表情の変化に乏しく、言葉にして表すことはしないが、弩が付くほどのお兄ちゃん子で、
先ほどから、ひと月ぶりの兄の感触、体温、温かさを玩味するように抱きついて、離れない。
振り払おうにも、何分、身長165センチメートル余りのゆみなと、
身長180センチメートル弱のとおみでは、その身に許され、揮える力の、桁が違う。
「だめ。兄さん」
この、オーストラリアの有袋類ライクなスキンシップによって、
“前のとき”は、3キログラムほど、ゆみなの体重が落ちた。
一泊二日で、である。
と言うのも、大リーグボール養成ギプスよろしく、スポ根タイヤよろしく、
とおみがゆみなにいつまでもしがみついて、どこまでもへばり付いていくため、
家事や掃除、炊事など、全てを体中の筋肉を酷使しながら行っていたのだから、当然といえば、当然。
「……むぎゅ」
重くのしかかる、体。
体から力を奪う、温もり。
ゆみなが、荒唐無稽な変化球を投げることができるようになる日も、そう遠くはないかもしれない。
つづく。
ちまちま今後も投下するかもしれないので、
その時は、どうか読んでやってください。
GJ
>>16 GJっす
これは今後の展開を全裸で待たざる負えない!
水を差すつもりはないのですが
兄の一人称で「妹のかんがえ」がわかるんですか?
妹が兄を呼ぶ言葉なら二人称または三人称では?
一人称は自分を呼ぶ言葉なので、兄が自分をどう呼ぶかで
妹の考えがわかるというのはよくわかりません。
枢はYahooの大辞泉だと
1 開き戸を開閉するため、扉の回転軸の上下に設けた心棒の突起。
また、その突起を上下の枠のくぼみに入れて戸が回転するようにした仕掛け。
2 戸締まりのため、戸の桟から敷居に差し込む止め木。また、その仕掛け。おとし。
枢戸だと「くるるを使って開閉する戸」ですね。
>>19 兄の一人称でお話が進んでいるにも関わらず、
妹の考えがわかるという体が面白いと言ったつもりなのでしたが、
語弊を生んでしまったのならば、ここに訂正します。
枢の用法に於いては、こちらに誤解があったようで、返す言葉が見当たりません。
ウィキ掲載分で修正させていただきます。
あ、連レス申し訳ありませんが、ご指摘ありがとうございます。
失念していました。
推敲の時点でミスに気付かなかったのは恐らく読みを「とぼそ」と考えていた為でしょう。
yahoo辞書、エキサイト辞書など、手ごろな辞書でお調べください。
25 :
名無しさん@ピンキー:2008/01/12(土) 22:42:04 ID:Wja8wHRU
俺…泣いてもいいかな…w
>>23 読んだ時にこのスレで話題が出るとは思ったけどさ…
事実、血の繋がりはあってもなぁ…
この二人が幸せになって欲しい(;_;)
29 :
名無しさん@ピンキー:2008/01/13(日) 00:30:23 ID:RYeyQeCQ
本当は特にミスを犯してないのに励まされる26って一体wwwwwwwwwwwwwwww
>>29 お前は俺を弁護しているのか貶めてるのかどっちなんだよw
とにかく第二話はもそっとぼそぼそっと明日にでも投下させていただこう
期待してるよ〜!
>>26 お姉ちゃんはあんたの味方だよ。
泣きたかったら、この胸で好きなだけ泣いていいよ!
幾度となく流転生死を経て尚、未だ彼岸へ辿り往けぬ、業深き日輪が、今日も、死ぬ。
沈み逝く金烏の慟哭が、赫々たる夕照へと姿を変えて、せかいを包む、そんな、繰り返される営みの中。
虹彩を焼き焦がすかのような、赫焉とした、空火照りの“あか”とは対照的に、
少年──ゆみなの顔には、海神のごとき“あお”が貼り付いていた。
──今月も、来たんだ。この日が。
少々品を欠く話になるが、ゆみなは男の子であり、旗日特有の体調不良に苛まれているわけではない。
言葉通り、来るのである。
「……わっ」
彼の。
「迎えに、来た」
妹が。
──。
年若い男女が、腕を組んで、道の往来を。
それも、片割の通っている学び舎の学区内を歩けば、
好奇の視線に晒されることは、道理だった。
痛い。痒い。苦しい。そして何より、恥ずかしい。
そんな、ゆみなの──兄の内心を知ってか知らずか、
妹は──とおみは、彼女にしては珍しく、
控えめに、されど、一見してご機嫌とわかる、木漏れ日のような笑顔を咲かせていた。
「兄さん、どうして、顔を伏せているの?」
それは、衆目がこそばゆいからだよ。
何処かの童話の狼よろしく、ゆみなは、そう心中で呟き、心持ち速めに、歩を進めた。
「……見て。影、伸びてる」
──ようやく、人通りの疎らな土手へとさしかかったとき、
とおみが、ゆみなの瞳を見据え。──見下ろし。
夕陽に煌く川面へ伸びた、二条の影をゆび指して、そう言った。
──そういえば、昔もよく、この子と一緒に、ヘトヘトの帰り道を、手を繋いで歩いたっけ。
もう、戻ることのできない日々たちへと、兄は思いを馳せていた。
暖かくて。幸せで。懐かしい、記憶。
それでも、不思議と寂寥の想いに駆られないのは。
「伸びて。繋がって。きらきら」
とおみが、ここにいて、心が何処か、温いから。
そうに違いないと、ゆみなは、そっと朗笑した。
「帰ろう」
少し、さっきよりも、強く腕を組んでみたりして。
つづく。
33にタイトル入れ忘れましたが2/1です。ごめんなさい。
>>35 1/2ですねごめんなさいorz
なんかここ最近細かいドジが多い気がする…
>>36 ドンマイ&GJ!
次回をWktkして待ってます
グッジョブ
早くキモウトぶりが見たいぜ
投下します。
非エロ。10レス予定。
朝。いつもどおりの時間に起き、決まりきったルーチンワークのように淡々と朝の支度を行い。
そして、先に登校する椿を見送ってから、居間に戻りテレビを見やる秋巳。
画面に映るニュースでは通り魔事件のことを扱っていた。
犯人がまだ見つかっていない。付近の住民は十分注意してください。目撃された犯人の情報は――。
ブラウン管の向こうからはそんな情報が流れてくるが、秋巳はぼんやりと右上に表示されている時刻を眺めていた。
椿が兄妹ふたりの通う高校に向かってから十分後。
それがいつも秋巳が家を出る時間であった。
ふたりが一緒に登校することはない。妹は中学、兄は高校と通う場所が異なっていた昨年は勿論だが、
それ以前の同じ中学、そしていま同じ高校に通学するようになっても変わるものではなかった。
それは、秋巳の配慮であり、椿の無言の承諾であったのだろう。
通学時間は歩いて約二十分。十分程度時間差をつけて登校すればまず通学路で出会うことはない。
秋巳が玄関を出て鍵をかけて戸締りをチェックしていると、背後から声がかかる。
「はよーす。秋巳。相変わらず、時間きっちりに登校するんだな。
いや、時間きっちりなのは椿ちゃんか」
門の向こう。半分開いた門扉をさらに押し開ける水無都冬真。
「おはよう。冬真。ひょっとして待ってたの?」
「んーにゃ。ま、三十秒くらいは待ったかもしれないけどな」
欠伸を噛み殺しながら水無都冬真が応える。
「今日は、早起きしたんだ」
水無都冬真が学校に来る時間は、大体いつももっと遅い。時折早く登校することがあり、そのときは大抵一緒に通っていた。
それも、通学途中に秋巳の家があるという事情だけで、特段ふたりで一緒に登校しようといった約束は結んでいなかった。
だから、秋巳が家を出るとき水無都冬真の姿があれば一緒に行くし、そうでなければ一人で高校へ向かうだけであった。
「まあな。秋巳に話もあったし」
制服のジャケットを羽織ってちょうど良いくらいの朝の涼しい空気の中を歩き出すふたり。
「話って、昨日のこと?」
「ああ。俺の人的ネットワークを駆使して、柊ちゃんの好みの異性のタイプ、
好きな食べ物、身長、体重、スリーサイズ、
それこそ一日の平均脈数まで調べ上げてやったぞ」
「そう。それでいくつなの?」
「なにが?」
「平均脈数」
「……ひゃ、百?」
「病院行ったほうがいいかもね」
「そ、そうだな。つーかさ、おまえ気にならないの? もしかしたら罰ゲームじゃないかもしれないんだぞ?
クラスのアイドルがおまえに恋してるかもしれないんだぞ? うはうはなんだぞ?
男どもの嫉妬と妬みの視線をその一身に浴びながら『女友達がいなければ、恋人をつくればいいじゃない?』
という暴言が吐けるんだぞ?」
「いや、気になるよ」
そういう状況になってしまうかもしれないことを。それだけは避けたいのだから。
「でもそういう言い方をするってことは、罰ゲームだったってことかな?」
そう言葉を続ける秋巳。それこそ予想通りといった何気ない口調で。
「んー。おまえはどっちだと思う」
ニヤニヤと口の端をつり上げて、なにかを企んでいる悪戯っ子のような表情をみせる水無都冬真。
「いや……」
(正直、どっちでも問題はそこじゃないと思うんだけど……)
秋巳は困ったように言葉に詰まる。
そんな秋巳の反応を見て、水無都冬真は笑みを崩さず秋巳の肩を軽くバンバンと叩く。
「まぁまぁ。皆まで言うな。判ってるって。おまえも寂しい坊やだからな。
口ではなんだかんだ言ってても、ほんとは惚れてて欲しいんだろ? な?
でも残念だったな。柊ちゃんは俺に惚れる予定だから。
まぁ、ばぁちゃんとか幼児も含めりゃこの世の半分なんて女なんだから、そう気を落とすなって」
普段と若干調子の異なる水無都冬真に対して、秋巳は思う。
ひょっとして、慰めているのだろうか。
実際に調べた結果が罰ゲームで。そして、その現実を突きつけられれば改めて自分がショックを受けるだろうと思って、
こういう物言いをしているのだろうか。
そうだとしたら。
もし、そうだとしたのなら。
秋巳は純粋に嬉しかった。
本心は勘違いされてはいるものの、水無都冬真が自分が傷つかないように気を遣ってくれていることは、
秋巳の心に純粋な喜びの感情をもたらした。
秋巳自身は、なんとなく気分が高揚するくらいの実感で、
その源が『喜び』であることまでははっきり自覚までしていなかったが。
「うん。まぁ、しょうがないよね」
秋巳は、自分の声のトーンがいつもより僅かにあがっているのに気づかないまま水無都冬真に合わせる。
「…………」
水無都冬真は、そんな秋巳の様子に、真顔に戻る。
(秋巳。おまえ、本気で――)
喉まででかかった台詞を飲みこみ、別の言葉を紡ぐため口を開く。
「いや。なんだ。まぁ。からかって悪かった。結論から言うとな、十中八九罰ゲームじゃない。
マジだよマジ。おそらく柊神奈は誰かに惚れてて、それを友達に相談はしたことがあるらしい。
つっても、柊ちゃんは自分が誰が好きとか周りに言いふらしてたわけじゃないみたいだから、
その相手の情報はおまえから聞いたもの以外ないけどな」
「え?」
態度を一変させて、急にまじめになった水無都冬真に困惑する秋巳。
しかも、その内容は、秋巳の中では悪いほう想定に入る。
水無都冬真の台詞が本当として、自分が柊神奈に告白されたと言う事実を付き合わせれば、
いくら秋巳でも罰ゲームという結論には至らない。
秋巳はどちらかというと悲観的な考えを持つ人間であったが、悲観的な想像の中でも、
できるだけましな結果が待っていることを期待していたのである。
『依り代』だけは嫌だった。
なんで自分が――。
彼女が悪いわけではないと判っていたが、それでも柊神奈の存在を恨めしく思った。
たまたま自分が通りかかったところに、通り魔が現れて刃物で刺されてしまったかのような己の不運さを呪いたくなった。
「……なんでそんな顔するのさ。結果がどっちであれ、やることは変わらないだろ?」
秋巳の失望が伝染したかのように、眉根を微妙に寄せて水無都冬真が言う。
「え。ああ。そうだね。うん。だけど、前にも聞いたけど、冬真は本当にそれでいいの?」
「俺も前にも言ったろ。あの柊神奈と付き合えるなら万々歳だって」
「うん……。そだね」
秋巳は困惑していた。どうしたらいいのか。どうするべきなのか。これでいいのか。
水無都冬真と、柊神奈が付き合う――。
自分は椿の幸せの可能性を摘み取っているのではないか。水無都冬真の可能性を絞っているのではないか。
はじめから水無都冬真が柊神奈に惚れていて、付き合いたいといったのなら、秋巳は迷わず賛成したであろう。
しかし、いま水無都冬真が柊神奈を振り向かせようとしているのは、柊神奈が自分に告白したことが切欠になっている。
そして、その自分を助けるためという事情も、多寡は推し量れないが含まれている。
元々水無都冬真にそういう想いがあり、自分と利害が一致しているなら是非はない。しかしいまとなっては判らない。
「ね、ねぇ。それってさ、他の人に頼むとか出来ないかな?」
「は? 他の人って? 俺じゃなくて、別の誰かが柊ちゃんにアピールするってことか?」
「うん」
「なんだ。俺じゃ不満ってか?」
「いや、冬真に気持ちを押し付けたくない。彼女だったら、他にも付き合いたいって人は一杯いるだろう?」
「だーかーら! 俺が付き合いたいって言ってるじゃん」
「だって、いままで一度もそんなこと――」
「おまえだって、いままで誰かと付き合いたいとか、誰かに惚れてるとか、
誰かとSEXしてぇーとかいったことないじゃん」
「それは……」
そもそもそんな人がいないから。
自分にとって『好きな人』なんて、椿と冬真ぐらいだから。
言うべきことが見つからず、秋巳は口を紡ぐ。
「俺がいままで言わなかったのが不満か? ただ、これだけは言っておくぞ。
俺は自分の気持ちを偽ったり押し殺して行動したりしない。
俺の行動は、誰に強制されているわけでもなく、自分の本心に従って、
己の意志のまま動いているからな。椿ちゃんみたいに」
「椿……?」
なんでそこで椿がでるのか。
秋巳は判らなかった。
ただ、たしかに椿は己の意志に従って行動しているのであろう、そこは納得できる。
その結果がいまの彼女の言動なのだろうから。
「だから、おまえがなにをそんなに気に病んでるのかっていうのは、
推測でしかないけど、おれに気を遣ってるんだったらお門違いだぞ?」
念を押すように水無都冬真。
「……判った」
秋巳は頷きながら思った。
勝手に椿や冬真の『幸せ』を想定して押し付けようとしているのは、いまのぐずぐず考えている自分ではないかと。
秋巳はもう一度深く頷く。
「判った。冬真がそこまでいうなら、僕に異存はないよ」
信頼してるからね。その言葉は口には出さない秋巳。
「おお。任せろ。俺は信頼に値する男だからな。必ず、ハートをGETしてみせるから!」
そう言って秋巳の背中を左手で大きくバンと叩き、水無都冬真は満足したように破顔した。
そして言葉を続ける。
「というわけで、早速あそこを歩く柊ちゃんを誘って、あと十分くらいだけど一緒に学校行くか」
顎で前方を指すようにしゃくると、秋巳の背を叩いた手そのままに背中を押して、軽く駆け出す水無都冬真。
「え? ちょっと?」
水無都冬真に押されるまま前を見ると、三十メートルほど前方に、同じ高校の女子制服を身につけ、
肩まで届く艶やかな黒髪をわずかに揺らしながら軽快に歩く後姿が見えた。
秋巳はそれが誰だか区別はつかなかったが。それが水無都冬真の言っている柊神奈なのだろう。
やはり好ましい相手だと、そういうのはすぐ判るのかな。秋巳は考える。
「おーい! ひ・い・ら・ぎ、かんなちゃーん!」
柊神奈に近づく水無都冬真が、彼女に向かって大声をあげて呼び止める。
その声に柊神奈が一瞬ビクッとしたように反応し、立ち止まり振り向いた。
「え? あ、水無都くん、と、き、如月くん……」
後ろから来る水無都冬真に視線をやり、それから、秋巳のほうに目をやりその存在に気づくと、
照れたように慌てて水無都冬真の方に再び顔を向ける。
「あ……。び、びっくりしたよ。急に後ろから大声でフルネーム呼ばれるんだもん。
おはよう。水無都くん、如月くん」
挨拶する瞬間に、ちらと目線だけ一瞬秋巳のほうに向ける柊神奈。
「はよー。いやー。前を歩く柊ちゃんが見えたからね。思わず嬉しくて、大声出しちゃったよ」
「ま、また。そんなこといって、沢山の女の娘に気をもたせるようなことしてるんでしょ?」
「おやおやぁ。といいつつ、そんな照れた顔しちゃって。赤くなってるよ?
実は嬉しかったりするでしょ?」
「ち、違うよ! それは……」
わずかに俯いて言い淀む柊神奈。そして、秋巳のほうを気にするように上目遣いでその表情を伺う。
「まあまあ。いいや。それよりさ。あんまりここでゆっくり立ち話してる時間も、
あるわけじゃなし。学校行こうか」
「う、うん……」
水無都冬真の言葉に、柊神奈はこくりと頭を揺らし付き従う。
水無都冬真を真中に挟む形で三人で歩く最中、水無都冬真はしきりに右隣を歩く柊神奈に話し掛けていた。
柊神奈がそれを気にしたように、時折秋巳に話を振るが、秋巳はひと言ふた言話すだけで、
すぐに水無都冬真と柊神奈、ふたりの話になってしまう。
秋巳は意図的に口数を少なくしていたし、水無都冬真もわざと秋巳には水を向けなかった。
それがふたりの合意事項だというように。
ひとり事情を知らない柊神奈が、微妙に困ったようにしていただけだった。
「あ。そうだ」
三人が校門を潜ったタイミングで、水無都冬真が思いついたように提案する。
「あのさ。柊ちゃん。さっきさ、秋巳と今日放課後遊びに行かないかって話してたんだけど、
よかったら柊ちゃんもどう?」
そんな話はひと言も聞いていないが、おそらく柊神奈を誘うための口実だろうと思い、秋巳は口を挟まない。
「え? 如月くんと水無都くん、と?」
「うん。そう。で、さ。男ふたりで遊びに行ってもむなしいなぁって愁いていたとこ。
なんだったらさ、柊ちゃんと仲のいい春日も誘ってさ」
水無都冬真の言う春日 弥生(かすが やよい)は、彼の言うとおり柊神奈にとって
親友といって差し支えない相手であり、仲が良かった。そして、柊神奈が恋愛相談をした相手でもあった。
ただ、水無都冬真が『柊神奈が恋愛相談をした友達がいる』と言う話は、また別のルートから聞いてはいたのだが。
「え? うーん。でも、弥生の予定も聞いてみないと……」
いきなりの誘いに、顎に手を当てながら少し戸惑ったように応じる柊神奈。
「ってことは、柊ちゃんはオッケーなんだよね。なら、大丈夫。
あの彼氏もできずに万年暇そうな女なら、クリスマスだろうがお正月だろうが
バレンタインだろうがホワイトデーだろうが一年365日オールオッケーのはずだから!」
水無都冬真が、まったくなんの問題もなし、ノープロブレムとばかりに親指をたててにこやかに柊神奈に返したそのとき。
「だーれが、万年暇女なのかしら?」
昇降口で下履きを履き替えながら話す三人――実質ふたりだが――に玄関のほうから声がかかる。
そこには、話題の主である春日弥生が腕組をしながら不敵な笑みを湛え、仁王立ちという表現が相応しいような格好で佇んでいた。
「あ、弥生! おはよう」
「ええ。おはよう。神奈」
「お疲れサンですッ! 弥生姐さん!」
足をハの字に開き、両手を両膝の上において腰を若干かがめて頭を垂れるように挨拶する水無都冬真。
「おはよう。春日さん」
と、こちらは普通に挨拶する秋巳。
「おはよう。如月くん。できればお友達は選んだほうがいいわよ」
水無都冬真の挨拶を華麗にスルーして、秋巳に話しかける春日弥生。
「姐さん。網走の夜は寒かったでしょうから、このとおり履物を温めております!」
水無都冬真は、春日弥生の無視にも堪えずに、自分がいまさっき吐いた上履きを脱いで差し出す。
「水虫がうつるから結構よ」
そうばっさり言い捨てて、春日弥生は、自分の下駄箱の扉をあけると上履きを取り出し履き替える。
「で、話をもどすと、男ふたりで寂しく遊びに行ってきます、だっけ?」
おそらく校門あたりから後ろをついて来ていたのだろう。話の事情を把握しているようなことを聞く春日弥生。
「姐さん、話戻しすぎです。姐さんに彼氏がいないってところです」
「いや、それ完全に進みきってないし」
冷静につっこみを入れる秋巳。
「神奈にたかる悪い虫を追っ払うのも楽じゃないわね。
まさか、こんな性質の悪いハエがたかるなんて」
やれやれといった表情で、頭を振る春日弥生。それに合わせて、シャギーの入ったショートの髪がふわと軽く浮く。
「おい! 秋巳。おまえ、このアマにこんな調子に乗らせといていいのか!
おまえを侮辱してるぞ!」
「冬真、呼び方が姐さんからこのアマになってるよ?」
「如月くん。この変態の相手することないわよ。神奈も早く教室行きましょう」
そう言って春日弥生は、柊神奈の腕を引っ張りを連れて行こうとする。
「え? でも、ちょっと……」
引きずられる柊神奈が、困ったような顔を見せながら、春日弥生と秋巳のほうを交互に振り返る仕種をみせると、彼女は立ち止まった。
「なあに? 放課後遊びに行くんだったら、明日提出の数学の課題、昼間のうちに片付けなきゃいけないでしょう?」
「え?」
その春日弥生の台詞の意味するところを理解した柊神奈は嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。
「あ。う、うん。じゃ、じゃあ、如月くん、水無都くん、放課後また」
そう言って春日弥生とともに先に去っていく。
「よっしゃー! 中ボスクリアだぜ! 秋巳、今日の晩はお互いしっぽり決め込むぞ!」
と雄たけびをあげる水無都冬真と、いつのまにか自分も放課後遊びに行くことになってしまっていることに
いまさら気づいた秋巳を残して。
* * * * * * *
如月椿がいつもと変わらぬ時刻に学校に着いて教室のドアを開けると、椿の登校を待ってましたとばかりに、声がかかる。
「おー、おはよっ! 椿。今日も相変わらず、きっちり時間どおりのお勤めだね!」
挨拶の主は、萩原 睦月(はぎわら むつき)。椿の中学時代から親交の深い友人であった。
「ええ。おはよう。睦月」
先に登校してきている数名の他の生徒にも挨拶を交わしながら、自身の席に向かう椿。
その元へ萩原睦月は寄っていき、空いている隣の席に腰をかけた。
「ねぇねぇ。昨日さ、椿、『ディストピア』に水無都先輩と一緒にいたでしょ?」
萩原睦月の言う『ディストピア』とは、駅前にある喫茶店『ユートピア』のことである。
料金基準がファーストフード店より多少高めな程度なので、懐事情の寂しい学生たちにも結構利用されていたが、
店構えや店内の装飾がその名とかけ離れているため、一部の学生たちは皮肉をこめて『ディストピア』と呼んでいた。
「あ。見てたの?」
「うん。たまたま店の前を通りかかってさ。なーんかさ、美男美女のふたりが、こう、
窓際の席でさ和やかに談笑してるって感じだったよ。
前から疑問に思ってるけどさ、ほんとに椿と水無都先輩って付き合ってないの?」
「ええ。前から言っているとおりよ。睦月だって良く知ってるじゃない」
「だーって! なんか、あたしに気ぃつかって内緒にしてるんじゃないかなーって。
水無都先輩と椿って小学校の頃からの幼馴染で、片や多くの女生徒から人気のある男子生徒で、
椿は椿で美人でなんでもできるしさ。これがドラマとか漫画の話だったら、
まさに結ばれなきゃおかしいふたりだよ」
「ふふ。私自身の評価には同意しかねるけど、もし、そんなふたりがいたとして、
そのふたりが当たり前のように結ばれるなんて陳腐な話、
ドラマでも漫画でもだれも見向きもしないんじゃない?」
「いやいや。そのふたりが障害を乗り越えて最終的に結ばれるっていうのがいいんじゃん!」
「そうね。障害は乗り越えないとね。まぁ、その話はともかく。
昨日は買い物に出たところでたまたま会っただけよ。
まあ、一応先輩だし、呼び止められて無視するわけにも行かなかったから、
ちょっと付き合っただけよ」
「まったくこの娘は、そんな贅沢なことを。
まぁ、あたしも椿が先に帰ってくとこまで見てたんだけど。
普通、そのまま遊びに行ってもおかしくないんじゃない?」
「そういう仲じゃないもの。それに――」
そこで一旦言葉を止め、萩原睦月を真剣に見つめる。
「それに、睦月と出会った当初ならともかく。いまだったら睦月と水無都さん、
どちらかしか助けられないとしたら、私は迷わず貴方に手を差しのべるわよ。
水無都さんには悪いし、貴方には恨まれるかもしれないけど」
「ちょ、ちょっと……。急にそんな真顔で恥ずかしい言われても。
ど、同性なのにちょっとドキッときちゃったじゃない。
いまのその瞳で同じ台詞を男の子にいったら、誰でもイチコロね」
椿に見つめられた萩原睦月は、照れたように若干顔を赤らめて人差し指で頬を掻く。
その仕種を見ながら、微笑ましいものでも見たように、椿は「ふふ」と笑い表情を緩める。
「そうかしら」
「そうだって。まぁ、あたしもさ――」
萩原睦月は周りを見渡し傍に誰もいないことを確認しつつ、椿の耳元に顔を近づけて声を潜める。
「あたしもさ、中学の頃から水無都先輩のことは好きだし、
いまでも誰にも負けないくらい好きだって自信がある。
でもね、相手が、唯一椿だったら、あたしは諦められちゃうのかなぁとも思ってるんだ」
「そう。それは絶対要らない心配ね」
萩原睦月を安心させるかのように椿は微笑んだ。
* * * * * * *
如月椿と萩原睦月が知り合うようになったきっかけも、もともとは水無都冬真のことが縁だった。
いまから約二年前、椿が中学二年の春のとき。当時も部活動に参加していなかった椿は、
授業が終わると早々に帰宅しようと周りの生徒に挨拶をしながら教室を出るところであった。
そこに廊下で待ち構えていたらしい見知らぬ女生徒――萩原睦月――が、話し掛けてきたのである。
「ねえ。あんたさ。如月椿だよね?」
「ええ」
突然の呼びかけにも動じる様子を微塵も見せずに椿が応える。
「ちょっとさ。付き合ってもらいたいんだけど。いいかな?」
「付き合うところと、付き合う時間にもよりますけど?」
「ん。そんなに時間は取らせないさ。それにちょっと人のいるところでは話しにくいんだよね。
ああ、別に、人気のないところでシめてやろうとか、そういうんじゃないからね」
当時の萩原睦月は、格好や容姿だけなら派手でない印象を受けるが、
言動など含めると少し荒っぽい雰囲気であり――実のところ単に不器用なだけだとあとで椿は知るのだが――その台詞のような
いわゆる『気に入らない生徒の呼び出し』を行っていても不思議ではないイメージを椿は持った。
「ええ。判りました」
どちらにしろ拒否したほうが厄介ごとになる可能性が高いと踏んだ椿は、頷いて萩原睦月の後について行った。
連れて行かれたところは、文化部の部室が立ち並んでいる一角。倉庫代わりに使われているような誰もいない教室のひとつだった。
「悪かったね。急に呼び出して」
「いいえ。それで用事はなんでしょうか」
「なんで同い年なのに、敬語なのさ?」
「いえ。良く知らない方なので」
「ああ。悪かったね。自分の名前も名乗らないで。
えっとね。あたしは、萩原。萩原睦月っていうんだ」
「そう。それで、萩原さん。どのようなご用件で?」
訊ねる椿。
「あ、あのさ……」
急に態度を変え、好きな相手にでも告白するかのように、言い出しにくそうに視線を伏せながら躊躇いを見せる萩原睦月。
その仕種は彼女のもつ雰囲気に似つかわしくなく、非常に女らしい、椿はそう思った。
「み、みな、水無都、冬真先輩、知ってるでしょ?」
「ええ」
即答する椿。その当時でも、水無都冬真はある意味学校で有名であり、憧れている女生徒も少なくなく、
椿も一、二回程度ではあるが知り合いに紹介して欲しいと頼まれたこともあった。
「そ、その。如月と、み、水無都先輩って、つ、つ、付き合ってるの、か……な?」
「いいえ。私の兄さんの友達ということで、知っているだけです」
椿は、特に思うところもなく、単なる事実のみを伝える。なにを彼女が言いたいのかおおよその検討をつけながら。
「兄さん? 如月に兄さんがいるの?」
「ええ。それで話というのは、私の兄さんのことですか?」
「あ、い、いや。違うんだ。その、水無都先輩……に……」
このまま目の前でもじもじしている女生徒に話を任せていたら、一向に進まないと思った椿は、彼女の発言を続ける。
「つまり、私に、水無都さんに貴方のことを紹介して欲しい、と?」
「え、あ……。うん。いや……」
「萩原さんは、水無都さんのことが好きだ、と?」
「えっ? あ、ああっ! いや、その、……そうなんだ」
否定しても意味がないと悟ったのだろう、萩原睦月が項垂れるように、かくんと首肯する。
なるほど。
椿は思った。
この女生徒も、以前、自分に紹介を依頼してきた人と同じようなことを頼みたいってわけね。
椿としては、それはむしろ望むところであった。
ただ。
ただその前に。
自分のまえに立つ萩原睦月が、『どのような人』であるのか。それは判断しなければ。
「そう。萩原さんの言いたいことは大体判りました。
要するに水無都さんへの顔つなぎをして欲しい、と」
「う、うん……で、できれば――」
まだ言葉の続いている萩原睦月を遮って、椿が発言する。意図的に多少語気を強めて。
「私に、まったく知らない人間を、知合いに紹介しろと」
「えっ? なっ……!」
まったく想定していなかった答えを聞いたように、驚愕の表情を浮かべる萩原睦月。
断られるにしても、こんな断られ方をするとは、思っていなかったのであろう。
「じゃっ、じゃあ! あんたがあたしのことを知らないから、紹介できない、ってことか?」
「ええ。貴方だったら、するの?」
「う……。ぐ……」
萩原睦月は、絶句する。。
確かに彼女の言うことは正論である。それは判っている。自分でも非常識なことをしているんだとは。
でも、自分の想いの強さに、どうしようもなくなって。それでも、直接水無都冬真にいきなり声をかけるなんて出来なくて。
かつ交友関係の狭い自分には、他に頼めそうな人がいなくて。
周りから評判のいい如月椿なら、もしかしたら、協力してくれるんじゃないかって。
あまりの自分の情けなさに、涙が出そうになる萩原睦月。
「だから――」
そんな萩原睦月の心情を理解しているのかしていないのか、言葉を続ける椿。
「――お友達になりましょう」
そう言って、これ以上親しみを感じさせるそれはないんじゃないかというくらいの微笑をその端正な顔に湛えて、椿は右手を差し出した。
その後、如月椿と萩原睦月はクラスが違ったものの、急速に仲良くなった。
椿はいろいろと自分の知る限りの水無都冬真に関する情報を萩原睦月に教えてあげ、
そして、萩原睦月は『水無都冬真に相応しい女の娘』になるため、勉強、運動、それにお洒落も頑張った。如月椿の協力を得ながら。
それから地味な女の娘であった萩原睦月の周囲からの評価は確実に変わっていった。クラス内での男子の色恋話に上がるくらいに。
だが、そもそも知合った切欠である水無都冬真への紹介であるが、それは果たされていなかった。
握手を交わした後に、椿は言った。
「ねえ。萩原さん。紹介するだけなら、私としても全然構わないけれども、
貴方の想いが単なるミーハー気分で話題の先輩と付き合えるものなら
付き合っちゃおうぐらいの軽いものなのか、真剣に水無都さんのことを
想っているのかは判らないわ。貴方の気持ちを否定するわけじゃないけど、
もしかしたら貴方自身勘違いしているかもしれないし。
貴方の想いが数ヶ月、一年、二年で冷める一時的なものじゃないって言える?」
「あ、あたしの想いは本気なんだって思ってる。
でも、さっき如月に言われたとおり、あなたはあたしのこと知らないもんね。
だからいいよ。友達になってくれるんだもんね。
それで、あたしの想いの強さを知ってもらって、その上で、
紹介に値するって如月が思ってくれたんなら、それからで。
あたしだって、いまのままで自分が水無都先輩に相応しい女の娘だなんて思ってないし。
そのためには努力しなきゃね」
「ええ。貴方の想いの強さは、いまの台詞からも大分想像はつくけどね。
貴方が真剣なら、私も協力は惜しまないつもりよ」
「えへへ……。うん。ありがとう。やっぱり、学年で噂になるほどの人は、違うんだね。
あたしちょっと色眼鏡で見てたかも」
「そう? 存外、萩原さんの人を見る目の方が、正しいかもよ?」
そう言ってふたりで笑いあった。
そうして、お互いがお互いに周囲からあの人と仲良いよねと言われるようになって。
それでも、まだ水無都冬真と萩原睦月は知合いになっていなかったが。
萩原睦月には、特段不満はなかった。むしろあの出来事は、如月椿と知合い、友達となり、
無二の親友と思えるようになったことを考えただけでも、非常にありがいことだった。
萩原睦月は考える。
如月椿と知合いにならなかったら、自分はいまだに地味で目立たない存在のまま、
うじうじと水無都冬真のことを密かに想っていただけであろう。
椿と友達になって、自分は変わった。成長した。いい方向に。
そして、自分の想いの強さも確認できた。
あれから二年。自分の中の水無都冬真への気持ちは変わっていなかった。むしろ強くなっているくらいであった。
自分が良い方向に変じてから増えた友達たちの話を聞くと、好きな人がころころ変わる話を聞くなんてざらであった。
別にその人たちの感情が、ニセモノとか気の迷いだなんて言うつもりはない。
ただ、そういうのが当然の中にあって、自分の想いを持ちつづけられたことが純粋に嬉しかった。
そして、自分の本当の気持ちをさらけ出せる唯一の相手である如月椿という好ましい人の傍にいられて、
そして、自分も如月椿から友達としての好意を向けられているということが喜びだった。
如月椿という人間のことをいろいろ知り、仲を深めていけることが、萩原睦月にとって、この上ない満足であった。
それはまた、ある意味椿も一緒であった。
この二年間で、萩原睦月という人となりをいろいろ知ることが出来た。
すこし不器用だが、でも、純粋な想いの持ち主であること。情に厚いこと。
ただ、情愛が深い所為か、ストレスが溜まったりあまりにも自分の想像どおりにいかないと、まれに癇癪を起こしてしまうことを。
良いところ悪いところ含めて、互いが互いを判り合っていた。
自分のことをいろいろと判ってもらえているし、自分も相手のことをいろいろ判っている。
少なくとも萩原睦月はそう思っていた。椿も同じ思いであることと信じて。
* * * * * * *
椿と萩原睦月が教室で話しているうちに多くの生徒が登校する時間になり、教室のほうも少しずつではあるが、
生徒同士のおしゃべりなどざわめきが大きくなってきたところで、椿は萩原睦月だけに聞こえるように呟く。
「そうね。そろそろあの約束を果たす時期かもね」
「え?」
「睦月と私が知合った、あのときの」
「え? あ、ああ! なーんだ。椿覚えてたのね。
あたしてっきりもう忘れられてるのかと思っちゃったよ」
「あら。そんな友達甲斐のない人間だなんて思われてたなんて、ちょっとショックね」
「なーんてね! 嘘うそ。あんた程友達甲斐のある人間はいませんって」
「ふふ。いまさらおべっか使っても遅いけど」
「あちゃー残念!」
そうしてふたりでくすくすと声をあげる。
そして話の打ち切りのタイミングを計ったように、萩原睦月に対して別の女生徒から声がかかった。
そちらに向かって「はいよー」と返事をし、立ち上がった萩原睦月に対して、最後に一言椿が質問を投げかける。
「あ。睦月。今日の放課後なんだけど、時間あるかしら。
良かったらちょっと気晴らしにでも行かない?」
「ん? なに? なんか嫌なことでもあったの?
ま、あたしはもちオッケーだよ! なんだったら夕ご飯も食べてこっか?」
「ええ。付き合ってくれてありがとう」
椿は、穏やかに微笑した。
以上。投下終了です。
超GJっす!
椿の普段のクールな分、兄に対して異性としての愛情深さは正に業炎の如く熱く激しいんだろうなぁ…
それが表に現れた時を考えると…ゾクゾクするぜ!
グッジョブ
キモウトぶりに期待
役者がそろったとこかな?
それぞれの群像劇の中でキモウト旋風が吹き荒れる感じかな
GJ!
続きに期待してます。
あーヤベェー
妹の「障害」っていうキーワードにニヤニヤが止まらんぜよ
お兄ちゃん………………
障害は…取り除く…!!
チュドーン
任務…完了……!
お兄ちゃん奪還に成功…
これより帰還する…
なんか表立っては見えないけれど、裏ではすごい強い情が渦巻いてるって感じだなー
とりあえず続きを楽しみに待っておこうかな
GJ
裸で待機
俺も裸で待機っと
ヤンデレ娘がキモ姉妹に惚れたら…。
>>61 姉妹に惚れるということは、ヤンデレ娘は百合?
>>62 溺愛する弟に近づく泥棒猫を抹殺せんと、今まさに呼び出した彼女へ襲いかからんとするキモ姉。
しかしそれは泥棒猫の巧妙な罠だった。
弟の心を奪った泥棒猫の真の狙いは、キモ姉自身だったのだ!
だがそうしてカミングアウトして逆襲するも、キモ姉の弟への愛ゆえに自分を受け入れられず、次第に病んでいく泥棒猫。
彼女を忘れられないままの弟君。
そんな弟に心を痛めながら、執拗なヤンデレ百合ん娘の猛襲を受けるキモ姉の明日はどっちだ!?
という話だな? 答えは聞いてない!
しかしその展開は、誰かが姉の耳元に「両手に花」という毒を流し込めば
ハッピーエンド一直線ではないか。
弟がハッピーじゃない? 弟など問題ではない。
というかこのスレ的には百合はアリなのか……
投下町wktk
百合はイラネ・・・
うーん…俺もパスで
百合がどうこう以前に、姉が「両手に花」で喜ぶこと自体ありえない。
弟が好き、弟が全て、弟以外なにもいらないし、どうでもいい。
人はそんな女性を指差して、「キモ姉」と畏れ敬うのではないかな?
弟の心を奪った女なんぞ、属性が百合であれヤンデレであれ、姉にとってはただ邪魔なだけ。
弟クンを支えるふりして依存してるからいいんだよな
百合は苦手だ。
女からセックスによる性的興奮を得るのに最低限の男とチンポは必要不可欠だ
そう考えると百合とは実に不毛なものだ
ユリモウトはダメですか?
実の姉を百合地獄に堕とす魔性の妹
姉に近づく男は痴漢やレイプ魔の濡れ衣をかけて排除
つか百合スレあるだろ?
間をとって姉弟で女装シチュあたりでどうか
百合ものは百合スレへどうぞ
>>75 男みたいな姉と女みたいな弟という電波を受信した。
投下します。
ジャンル キモウトの、ラブラブ逆レイプ
キモウト度、 低〜中
修羅場 無し
糖度 虫歯に注意
変態度 低 普通のSEX 軽い緊縛プレイのみ
グロ、流血 無し
「……兄さん……」
金曜日の夜だった。妹の部屋の前を通りかかったとき、俺を呼ぶような声が聞こえた。
だから、扉を開けた。
ノックを忘れたのが、全てを変えるキッカケとなった。
『キモウトより愛を込めて』
妹は、右手を股間に、左手を胸にあてていた。
下半身は、”肌色”だった。下着も何にも、無かったのだ。
上は、上着がずらされ、けしからんほどふくらんだ胸が頂きまで丸見えになっていた。
その上着は……俺の洗っていないパジャマだった。
妹は、かつて見たことの無いようなうるんだ瞳と惚けた顔で俺を眺め、……俺は見てはいけないものをみた直感で、そっと扉を閉めた。
俺なりに配慮したつもりだった。
俺の妹は、美緒という。
ストレートの黒髪、知性と優しさに満ちた瞳、美しく通った鼻筋、桜色の控えめな唇、それらのパーツを絶妙に配置した小ぶりの顔で、ご近所と高校随一の美少女である。
妹を見慣れたせいで、俺はもてないくせに女への顔の評価がむやみと厳しくなってしまった。
そして天は妹にだけは惜しみなくなんでも与えたようでスタイルも抜群だった。
160cmほどのちょうど良い身長に、良く育っているが体型を壊していない胸、引き絞られたウエストにこぶりな尻と、モデル並みに伸びた白い足が続く。
頭の方もこれまたそこそこ良く、運動もばっちりである。
美人コンテストには幼児のうちから他薦で何度も入賞し、小学校では、学校の特集をした地方局のTV番組で長々と出演していた。
中学生にもなると、男女の取り巻きができて、クラスの中心となり、男女双方からのラブレターに事欠かなかった。
それでいて性格は優しく奢らず慎ましい。
まさに、たおやかな美少女という形容がぴったりで、親も自慢の娘だった。
俺? 俺のことはどうでもいいと思うのだが……。
わかった、手短に説明する。俺は大学生。
自分を評するなら偏って根暗な凡人というのが正しい。
男だらけの理数系の学部に入り、実験とレポート三昧で、青春を浪費している。
友人は、オタクな奴が少数なだけ。根暗で孤独癖があり、協調性は無い。
両親の俺への評価はそれなり。異性からの評価は問題外。以上。
寄り道をした。
そういうぱーふぇくとがーるな妹の思わぬ姿をみて、俺はちょっと驚いただけだった。
もっともこのときは、妹が俺の名を呼んでいたことと、”俺の洗っていないパジャマを着ていた”意味を見落としていたのだが。
(ま、年頃だから、オナニーのひとつもするよな)
そんな陳腐な結論で妹の痴態を振り払い、俺は部屋に戻ってゲームを再開した。
興奮しなかったのか? と馬鹿な事を聞く奴もいるだろうからあらかじめ言っておく。
妹がいかに美少女だからって、家族なら興奮したりはしないもんだ。
それに、妹とは割と大きくなるまで一緒に風呂に入ったり、一つのベッドで寝たりしていた。
もちろん、大きくなってそういうのは良くないってわかり、妹が中学生の時に止めたのだが。
そういう訳で、俺が童貞だからってみさかいをなくすようなことはない。
周りが思うほど、俺はけだものではない。単に底抜けの馬鹿だっただけだ。
ともかく、俺はゲームをとりあえず区切りのいいところまで進めて、速攻で爆睡に入った。
目が覚めると、枕元にパジャマを来た妹が立っていた。土曜の朝になっていた。
「おはようございます、兄さん」
こいつは、家の中でも敬語を使う真面目な女だった。
俺は大きくあくびをしながらのびをしようとしたところで、手が上がらないのに気づいた。
「……あれ?」
「手と足は縛っています」
その言葉でベッドに磔になった事実を認識して、俺の頭脳は今度こそ本当に覚醒した。
手足は荷造り用のビニール紐でくくられ、俺自身はトランクス一枚の姿だった。
声を頼りに妹の顔を探すと、そこには怖いくらいに思い詰めた顔があった。
「兄さんに話があります」
「……話はともかく、なんでこんな事を」
抗議を込めて妹をにらむが、異様な迫力をたたえた妹の目が俺をにらみ返し、思わず俺は視線をそらした。
……見つめるとやばいものってのは、世の中にはいろいろあるわけで。
「兄さんには、逃げてもらいたくないのと、ちゃんと話をして欲しかったのでこうしました」
情けないことに俺はうなずくしかできなかった。
そんな俺をみながら妹がかすかに頬を染め口ごもった。
「……兄さん、昨日……その……」
さすがに鈍い俺も気がつく。
「あ、ああ。……気にするな。俺は忘れるから、おまえも気にするな、な?」
普通の妹ならこれでよかったと思う。
だが、なぜか俺の返答は妹の逆鱗を引っ掻いたようだった。
「……忘れる?」
妹の美しく細い眉毛が、剣呑な気配をはらんで逆立った。
「お、オナニーは誰でもするしさ……、どうしたんだよ?」
「忘れておしまいにする気なのですか? なかったつもりにする気なのですか?」
「へ? 何が?」
このとき俺はまったく妹の言葉がわからなかった。
ふと妹が、俺に向かってきて、ベッドの上に乗った。
そして俺の下腹部に腰を下ろした。柔らかい感触が意外さを俺にもたらす。
くだらないことに囚われてると、妹は着ていたパジャマを脱いでいた。
とはいえ、驚くことでもない。下にもう一枚男物のパジャマを着ていたからだ。
男物?
「……それ、俺のパジャマ?」
何気なく指摘した俺自身が、違和感を感じていた。なぜ、俺のパジャマ?
だが、妹はそれを無視して話を続けた。
「兄さん、妹が自分で慰める姿を見たなら即座にけだものになって襲うのが兄の礼儀でしょう」
「……はぁ?」
「ましてや、部屋に鍵も掛けず、その上、タイミングを見計らって兄さんを呼んだのですよ。
なのに兄さんときたら、まるで間の悪いところに出くわしたって顔して行ってしまうんだから」
「……」
「全く、スルーされた私の身にもなってください」
そういうと腕組みをし、頬をふくらませて俺を睨んだ。
だが、このとき俺は自分の聴覚を100%で疑っていた。
普段の慎ましやかで冷静な妹が発するとは思えない言葉だったからだ。
「襲うって、誰が、誰を? スルーって?」
「……兄さんが、私をです」
「……なぜ俺がおまえを襲わなければならない?」
「私のあられもない姿で獣欲が起きませんでしたか?」
妹は少し不安そうな顔で俺に尋ねたが、俺の脳は言葉の意味を理解せず無駄に空転していた。
そんな俺の表情を読んだらしい。妹は、やがてため息を一つついてつぶやいた。
「……そうですか。兄さんを縛ったのはやり過ぎかとも思ったのですが、これで良かったのですね」
「あのー、美緒?」
しばらく何かをぶつぶつとつぶやいた後、美緒はいきなり顔をあげた。
「……兄さん、よく聞いてください」
そして俺の目を見据えて妹は、はっきり宣言した。
「兄さん、私は、兄さんを、女として、愛しています。兄さんに抱いてもらいたいのです」
気がつくと妹の顔が、真っ赤になって俺に近づいていた。
腕が伸び、俺の顔が細く柔らかい手に固定される。
えっと思った時は、すでに唇が重ねられていた。
小さく柔らかいくせに、俺の口を蹂躙しつくす意志をもって、舌が口の中を這い回る。
俺の舌が絡め取られ、妹の舌にしごかれて、それだけで下半身が堅くなった。
下品な音を立てて、唾液がすすられて、ようやく俺の飛んでた意識が舞い戻ってきた。
妹が一心不乱に俺の口をむさぼっていた。
しかも目をあけて、獲物を絶対に逃さないというような光を目に映していた。
長い時間が過ぎたと思うが、実際は数分だろう。
ようやく妹が顔を離すと、感触を楽しむかのように舌で自らの唇をなめ回して、口を開いた。
「ずっと好きでした。幼い頃からずっと。
小学校卒業するころには、既に兄さんとSEXすることを考えてました」
その言葉で俺は盛大に咳き込むこととなった。
「だから、これ……」
そういって、妹は俺のパジャマの襟をつかんだ。
「兄さんのパジャマを着て慰めると兄さんに愛されてる感じがして、それで我慢してきました」
「が、我慢ですか……」
「兄さんが悪いんです。添い寝も一緒のお風呂も禁止するから。……だからどんどん我慢できなくなって」
「……美緒、俺たちは兄妹だよ? 近親相姦はいけないんだよ?」
「近親相姦? 確かに一般的にはタブーですね」
頬を染めていた妹が、この単語で顔色を元に戻した。
そして俺はやっと、まともな返答が聞けて現実感覚を取り戻したと思った。
「そうだ。許されないことなんだ。法律で禁止されているしな」
だが俺の言葉で、美緒がにやりと笑う。獲物が罠にかかった時の笑いだった。
「で、なんの法律で禁止されてるんですか、兄さん?」
「え?」
「近親相姦を禁ずる法律を教えてください。それと罰せられた人も」
「……ほら、三等親以内は結婚できないとか」
「別に結婚しなくても近親相姦は可能ですよ」
「……えーと、遺伝子的に悪い子供が生まれるとか」
「それ、法律ではありませんよ」
押し黙った俺の胸に、美緒は唇を寄せて、俺の乳首をなめた。
「そうです。私たちが愛し合うことを禁ずる法律なんて無いんですよ。
ただ世間一般でいけないということになっているだけ」
「……しかし美緒!」
「だから兄さんが誰にも言わなければ、問題はなにもありません。それに……」
そういうと美緒は、俺の下半身のテントを優しい手つきでなでた。
「兄さんは童貞でしょう?」
瞬時に俺の顔が熱くなる。そんな俺を美緒は上げた顔に微笑みえを浮かべて眺めていた。
「初めては大事です。なら、やはり兄さんを一番愛している私が最適なんです」
「でも……」
「兄さんの素晴らしさを知るのは私だけだから、私が兄さんの初めてになるのです。
薄汚い売春婦や、だれにでもさせるだらしない女なんかにあげては駄目です。
私も初めてだから、兄さんに……」
「よせっ、美緒! 処女ってのは本当に好きな人のためにとっとく……」
「……そうです。だから本当に大好きな兄さんにあげるのです」
「美緒っ!」
「今日は新婚初夜。これまでは単なる兄妹でしたが、これからは夫婦で兄妹なのです」
目に異様な光をたたえ恍惚とした表情で美緒はしゃべった。
まだ朝だというつっこみをしたら、殺されそうに感じたので俺は黙っていた。
「さあ、兄さん、夫婦になりましょう。紙切れ一枚でつながった凡百の夫婦ではない、血と愛でつながった本当のつがいに……」
そういうと美緒は顔を俺の脇の下に潜り込ませ、そして歓喜の声をあげた。
「ああっ、兄さんの……臭いが……」
毛ごと脇の下が舐められて、俺は背筋を駆け上がる快感に身をよじった。
脇の下から胸に舌をはわせていた美緒が、つぶやいた。
「……ほんと馬鹿な私。世間体に囚われて、こんな素晴らしい兄さんを我慢するなんて」
妹は胸板に舌をはわせ、乳首をまた舐めた。時折耐えかねたようにため息を漏らし、腰を揺する。
「美緒! 今ならまだ引き返せるから……ぐぅっ」
がりと音を立てて乳首をかまれ、俺は痛みにうめいた。
「引き返す? 遅すぎたくらいです。もっと早く、勇気を出して兄さんが自分で慰めているところに乗り込むべきでした」
「み、美緒?」
胸に這っていた舌がそのまま腹へ降りていく。その下で勢いよくテントを張ったものの事は考えたくもなかった。
「そういえば兄さん、あんなブスで慰めるの、これからは許しませんから。本とDVDは捨てますね」
立てられた妹の爪が俺の脇腹に軽く食い込む。罰ではなく警告の痛み。
「……」
「でも兄さん、安心してください。我慢できない時は私で処理すればいいんです」
俺はさぞ情けない顔をしてたのだろう。美緒は俺の顔をみて優しい笑顔を浮かべた。
そして美緒の舌は、腹部を這い回って、とうとうトランクスのところにたどり着く。
「な、美緒。考え直せ」
だが、美緒は首を振った。
「もう充分考えました。タブーだと思って我慢もしました。……でも私はやっぱり兄さんが欲しいんです」
いきなり美緒は有無を言わせず俺のトランクスをずり下げた。
俺の男の印が虚空にそそり立つ。そのとき俺はトランクスの前が、やたらに濡れていたことに気付いた。
だがその疑問も美緒の行動ですぐに吹き飛ぶ。
勃起した俺の肉棒を美緒は躊躇無く手でつかみ、ほおずりしたのだ。
「兄さん、兄さん。これを……私に……ください」
普段、清楚な顔立ちで明るくほほえむ妹が、上気した顔で局部に頬ずりし、あげくに舌で舐め始める姿は強烈な倒錯感だった。
俺がもはや声すら出ず、呆然と眺めるだけなのを美緒は了承ととったようだった。
みれば、美緒の左手は自身の局所でみだらな水音を立ててうごめいている。
その左手がパジャマの下を降ろし、右手が上を取り去って、美緒は瞬く間に全裸となった。
肌は上気して桜色に染まり、目は潤んでいて、そして内股もべったりと濡れ光っていた。
美緒は恥ずかしがるそぶりを見せず、膝立ちで俺の腰まで歩み、秘所に俺の肉棒を押し当てた。
美緒の溶けそうに柔らかい膣口が、俺の先端を引き込もうとして吸い付いていた。
「兄さん……、やっと……一つに」
このとき美緒の顔には、神々しさすら感じる喜びの表情が浮かんでいた。
その表情のままゆっくりと美緒が腰を下ろしていくと、それだけで目がくらむ快感が押し寄せた。
あっけなく俺は一回放ってしまい、それを受けた美緒が声をあげてのけぞり、腹をおさえた。
俺の肉棒は出して僅かに萎えたものの、美緒の壁が巻き付くと、すぐに堅さを取り戻した。
精液が潤滑油になったのかスムーズに腰が最後まで落ちた。
その勢いのまま、美緒の上半身が俺の胸に倒れ込む。
乱れた長い黒髪が自身と俺にからみつくように広がり、その中で美緒は荒い息をついていた。
「美緒、痛いんじゃないのか?……もういい、もうよ……んむむっ」
俺の口を、ひきつった笑みを浮かべた美緒の唇がふさぐ。
美緒の中もまた、どん欲に俺を締め付け、からみついて絞っていた。
「……兄さんが、こんなに熱い……私の中で……あぁん……出したがっている」
美緒は、俺を納めたまま動こうとせず、そのまま俺たちは荒い息の下、無言でつながっていた。
そして当然ながら、先に俺が耐えきれなくなった。
思わず腰を動かすと、美緒が悲鳴をあげて俺にしがみついた。
「ああっ、兄さん! 私に、私にぃぃぃ」
すでに理性はとんでいて、欲望のままに腰を振って、美緒を下からむちゃくちゃについた。
そんな事をして保つはずもなく、また強烈に蜜壺もからみついたせいもあって、俺はまもなく盛大に妹の中に噴射した。
目の奥で花火が散るような感じに襲われ、そのまま俺は意識を闇に落としていった。
気がつくと、昼過ぎだった。
手足の拘束は解かれていたが、縛られた証としてしびれが残っている。
そしてもう一つの証もあった。全裸の美緒だった。
ベッドの中で俺に抱きついていたのだ。
その妹の顔をみて、俺は何をしてしまったのかをはっきりと認識した。
「……妹に中出し……俺、終わった」
鬱に浸る俺に美緒は笑った。
「確かに兄さんの赤ちゃんは欲しいですけど、さすがに今は産もうとは思わないです」
「……中絶するのか?」
さすがに俺の顔が引きつるが、美緒は首を横に振った。
「まさか。ピルを飲んでますから」
「ピル?」
「ええ。でもこれから兄さんが私を避けたりしたら、……ピル飲むのを止めます。
そして兄さんの子供を産んで一人で育てますから」
そういうと美緒は自らの腹部を撫でた。
「……兄さん、これから私の事……」
そして美緒は、その顔を不安にそめ、訴えるのを我慢するかのように俺を上目遣いで眺めた。
その瞳にかすかに涙が浮かんでいるのをみて、俺は何かに負けたと感じた。
「……こんな変態妹、危なくて人にやれないよ」
ため息を盛大について、俺は肩を落とした。
「しょうがない。俺が面倒見るしかないんだよな」
どんと押し倒されかねない勢いで美緒は俺の首に抱きついてきた。
涙と鼻水でぐじゅぐじゅに崩れた声で美緒は兄さんと何度も俺を呼んだ。
いつも済まして優等生だった妹が、本当に久々に見せた泣き顔だった。
その後、俺は部屋にあったお気に入りのエログッズが全て無くなっているのに気がついた。
その代わりにあったのは……
「美緒、これ、おまえの水着写真……」
「はい、兄さんの定期入れにも私の写真入れましたし、コンピューターの壁紙も私にしておきました。携帯の待ち受けも私のお気に入り写真です」
「……」
「兄さん、むらむらしたときは、私がちゃんとしてあげますから、あんなものは必要ありません」
がっくりとうなだれる俺に美緒は可愛く舌を出して笑った。
「私だけ変態ってのは悔しいです。兄さんもシスコンにしてあげます」
「……、なにかいろいろと、俺、終わった」
そんな俺を美緒はほんとうに幸せそうな顔でみつめるのだった。
end
投下終了
リアルタイムGJ
なんかほのぼのした感じが出てて良かったです
思い付いたので投下しますー。
GJ!&ばちこい!
「三月のライオン」という映画があるそうです。
寡聞にして内容までは存じません。近所にお済みの方々は、映画を見る習慣がなく、話を聞くことができなかったのです。
ただ、お屋敷で働く女中の方から、大まかな内容は伺うことができました。なんでも、事故で記憶喪失となった兄を騙して
恋人に扮する、糞にも劣る愚悪な妹の物語であるとのこと。糞ってなんでしょうね?
兎角、それを聞いたとき、わたしは大変驚きました。
どんな精神構造をしていれば、それを是として実行させるのでしょうか。とても理解できません。そんなことをする人がい
るだなんて、想像すらいたしませんでした。
――なんて素晴らしい。
啓蒙されたわたしは、愛しの兄様で試してみることにいたします。
必要なモノはなんでしょうか。
機械音痴のわたしには、インターネットなんてものは縁遠い。加えて郊外にある図書館に足を向けることも稀にあるかどう
かと云う出不精っぷりを発揮しております。人を記憶喪失にするにはどうしたらいいかなんて、想像することすらできません。
仕方なしに、一番親しい友人のこころさんに電話で相談してみることになりました。
† † †
なんか投下味吸ってるっぽいのででなおしますー
もう一度チャレンジしますー
「三月のライオン」という映画があるそうです。
寡聞にして内容までは存じません。近所にお済みの方々は、映画を見る習慣がなく、話を聞くことができなかったのです。
ただ、お屋敷で働く女中の方から、大まかな内容は伺うことができました。なんでも、事故で記憶喪失となった兄を騙して
恋人に扮する、糞にも劣る愚悪な妹の物語であるとのこと。糞ってなんでしょうね?
兎角、それを聞いたとき、わたしは大変驚きました。
どんな精神構造をしていれば、それを是として実行させるのでしょうか。とても理解できません。そんなことをする人がい
るだなんて、想像すらいたしませんでした。
――なんて素晴らしい。
啓蒙されたわたしは、愛しの兄様で試してみることにいたします。
必要なモノはなんでしょうか。
機械音痴のわたしには、インターネットなんてものは縁遠い。加えて郊外にある図書館に足を向けることも稀にあるかどう
かと云う出不精っぷりを発揮しております。人を記憶喪失にするにはどうしたらいいかなんて、想像することすらできません。
仕方なしに、一番親しい友人のこころさんに電話で相談してみることになりました。
† † †
こころさん、こころさん。人が記憶喪失になるときってどんなときですか?
「……質問の意図が分かんないんだけど」
なにかおかしなことを訊ねたでしょうか?
「否、いい。聞かない。面倒事っぽいからね。それでなんだっけ」
もぅ、こころさんったら。悪いのは頭と顔だけにして下さいな。
人を記憶喪失にするにはどうしたらいいでしょうか、と質問したのです。
「……質問の内容、変わってない?」
変わってません。呆けてないで、しっかり聞いていて下さいな。
「……相変わらず丁寧口調の癖に口癖が悪い……まぁいいけど。
人を記憶喪失にする手段……ねぇ? そりゃ薬品を使うとか、精神的なショックを与えるとか……」
ふむふむ。
「まぁでも一番古典的なのは、やっぱ頭を殴ることなんじゃない? オーソドックス且つシンプル。無駄がないっしょ」
頭をなぐ……もとい叩く、ですか。それはどんな風に?
「えっと、昔のアニメとかで見たことない? 都市猟師なんかだと5tって書かれたハンマーで頭ぶん殴ってたけど」
5トン……やだなぁこころさん、それじゃあ頭なんて簡単に潰れますよ?
「……電話越しに可哀想なモノを見る目であたしを見るな。あーもう! さっきのはアニメの話だって! デフォルメされてん
の! まったくもう、そんくらい分かるでしょうに」
生憎と日本のアニメからは縁遠い生活を送っておりますので。
「くそう、このジョンブル小娘め。丁寧なのは言葉遣いだけか」
なんのことでしょうか。ちなみにブラックジョークの本場はブリテンですが。
「……もういい。あんたと話すと疲れる。で、もう良い」
最後に質問を一つだけ。
「はいはい、なんざんしょ」
どのくらいの重さのモノで叩けば、記憶って飛ぶものなんでしょうか。
「そんなの決まってるでしょう。――くらい重ければいいのです」
なるほど。
† † †
受話器を置きながら、わたしは親友に感謝します。やはり持つべきものは博識な親友ですね。まぁ、面と向かって親友などと
呼ぶつもりは欠片もありませんが。
時計を確認すると、兄様がお帰りになるまでもうしばしの時間があるようでした。これは幸運。今の内に準備を進めるといた
しましょう。
投下終了ー。
続くか続かないかは気分と云うことで。
とりあえず半年ROMれ
>>85 グッジョブ!面白かったです
ほのぼのキモウトは久しぶりだ
>>85 このくらいの甘さは心地いいわw
GJです
いいね、ほのぼの系が続くね
もっとやれ
>>85 GJです
こーゆーキモウトは素晴らしいと思えた
>>85 GJ!
良いキモウトなのはもちろんだけど、
兄も良い味だしてるよね。
描写は少ないのに、良いお兄ちゃんなんだなと自然に思えた。
キモウトに「このまな板!」って言ってみたい
>>105 つまり、こうですか?
「お兄ちゃん。なぜ? なぜあたしじゃダメなの? こんなに愛してるのに、何が足りないの?!」
「……色気」
その後
>>105の姿を見た者はいなかった…
きっとキモウトに監禁されて幸せな一生を送ったのでしょう…
めでたしめでたし。
>>106 つまり、こうですか?
「お兄ちゃん。なぜ? なぜあたしじゃダメなの? こんなに愛してるのに、何が足りないの?!」
「……マンコ」
109 :
名無しさん@ピンキー:2008/01/17(木) 11:38:41 ID:NFLvRSbK
キモ(オト)ウトか、あるいはボディが不完全なメカキモウトか…なんだろう?
フタナリキモウト
ショタの弟がヤンデレだったのか。
想像すると背筋が凍った。
私は一向に構わんッ!!
ならどうぞ!
「当たってるぞ…」
「当 て て る ん で す お 兄 様」
勘弁してくれw
はい、そろそろスレ違い注意報発令です。
>>116 イヤァァァァァァァァァァァァァ!!イメージが崩れるぜえええ
いいぞもっとやれwww
>>119 いや、豊満なバストを持つ妹だと夢想すれば良い
と流れを引き戻そうとしてみる
>>121 ええと、つまり…
今日の鍛錬を終え、Tシャツを脱ぎ捨てた俺の背に、柔らかいものがすがりつく
「お、おい。当たっているぞ…」
「当てているんです。お兄様」
ああ、背に触れる感触は布地ではなく素肌だ。服越しになら毎日見ている妹の豊かな胸が
今は何の遮蔽物も無しに俺の背に密着している。限りなく柔らかい中で固さを主張する
2つの頂点まで感じられる。なんというか、こう……想いが伝わって来るような錯覚さえ覚える。
そして俺は、この胸が何を求めているのか悟った。
そして俺は妹と共に…なすべきことを始めた。
「さあ、トレーニングだ! 豊かな胸の土台は大胸筋、このまま鈍ると垂れちまうぞ!」
「ハイ、お兄様!」
ちょwお兄様www
>>105に捧げる
深夜、俺は誰かに肩を揺さぶられて目を覚ました。
「だれだ・・?」
「私です、お兄様・・」
ベッドの脇には、俺の妹が一糸纏わぬ姿で立っていた。
「な、何やってんだ!?」
「その、お、お兄様私を抱いてください!!
倫理に反しているのは解ってます!!
でも我慢できないの!!」
そう言って俺を見つめる妹の眼差しはとても綺麗だった。
だから俺はこう言ってやったんだ。
「このまな板!」
「えっ?」
「俺はナイチチより微乳が好きなんだ、
お前が中学校出たら抱いてやるよ」
「は、はい・・が、がんばって微乳になります!」
そんなある日の夜の出来事でした。
126 :
ある母の日記:2008/01/18(金) 15:30:47 ID:fqC3moSK
4月X日
娘の様子がおかしい。
具体的に説明することは難しいけど、娘が息子に向ける眼、見覚えのある光りが宿った眼、あれは妹が兄にするモノじゃない。
5月X日
この一ヶ月、私は慎重に娘の様子を観察した。
無邪気を装って息子に抱き着いて主張し始めた胸を押し当てる、幼さを武器に息子の布団に潜り込む‥、
それ以上に、私が息子と話している時に、私に向けられる嫉妬に狂う女の眼、昔の自分が思い起こされる。
娘はまだ小学生だ、早めに手を打たないと、
7月X日
息子の進学に全寮制の高校を奨めた。全部屋個室ということもあり、息子も乗り気なようだ。息子の独り立ちに淋しさも覚えるけど、これがいいんだ。
娘の眼の光りが本物になる前に二人を離さなければいけないのだから。
7月X日
息子の進学先を娘が知ったようだ。
様子以上に取り乱し泣き喚いたが、これも娘の為、今は心を鬼にしよう。
8月X日
息子の懸命な説得があり、娘は表では落ち着いた様子を見せている。
私に送る憤怒と憎悪の視線を除けば。
こんな時、昔の私ならどうしただろう。
8月X日
邪魔者、娘から見れば私はそう写るのだろう。
前以上にお手伝いに励む娘、殺気が隠せてない。私に向けられる笑顔、憎悪が溢れている。
おそらく娘は、かつての私と同じことをする、今はその準備段階。
何故か恐怖より歓喜を感じる。
8月X日
明日、娘に殺される。
理由は分からないが、確信していいだろう。
私が始末してきた泥棒猫達がそれを知ったら、何を言うか、因果応報、子供の教育もできない馬鹿親とでも言うか、何を言われても嘲笑いしそう。
この結果は私とあの人が遺伝子で結ばれていた証拠、永遠に一つになる為の儀式なのだから。
最後に、娘に一つだけ忠告しておかなくては。
遺体の始末には注意しなさい、と。
こえええええ!
蛙の子は蛙と言うか、この親にしてこの子ありと言うか。
GJ!
殺戮姫のコミックス買ってきた
つづかないのかなぁ…
129 :
妹はいらん!:2008/01/19(土) 00:49:42 ID:r4xrmbCy
兄「……zzZ」
兄は眠っている。
妹「…やっぱり。ンフフ…可愛い」
妹は兄を見つめている。
兄「……zzZ」
兄はまだ眠っている。
妹「あぁ……お兄ちゃん…」
妹は兄のアソコを触ってみた。
兄「…ん?……な!テメェ!」
兄は目を覚ました。
妹「え!」
妹は驚いた。
兄「出てけ!ボケェ!」
兄は妹を突き飛ばした。
妹「キャッ!」
妹は倒れた。
兄「キモいんだよ!」ペッ
兄は唾をはいた。
妹「ああ…お兄ちゃんの唾液」ペロペロ…
妹はアホっている。
ガチャッ
姉「ただいまー!」
姉が現れた。
兄「!!♪(←?)」ドタドタッ
兄の様子がおかしい…
兄「お姉ちゃーん♪」
兄は姉に抱き付いた。
姉「あん!もう!…よしよし」
姉は弟を撫でた。
兄「くぅ〜ん♪」
兄は甘えている。
妹「あー!ずる〜い!離れてよ〜お姉ちゃん!」
妹はイラッとしている。
兄(邪魔してんじゃねぇよ!殺すぞボケェ!)end
つまんね
131 :
名無しさん@ピンキー:2008/01/19(土) 00:59:11 ID:ySUR/68w
大きい方に対してはシスコンで、小さい方に対してはシスコンじゃないんだな。
意味は各々で考えてくれ。
いやいや
ツルペタロリ姉とワールドカップ妹かもしれない
意味は自習で考える事
854 名無しさん@ピンキー sage 2008/01/19(土) 00:58:52 ID:1DDBVoAa
厨臭いな
兄に拒絶されたキモウト(弟)が、性転換してキモウト(妹)になるのってこのスレ的にどうよ?
最初に注意書きすればいいんじゃないか?
そうしてくれるとありがたいね
>>134 性転換なんておっぱいと形だけの性器つけるだけじゃん
ちゃんと子宮もつけて受精できる様にしなきゃヤダヤダ!
138 :
名無しさん@ピンキー:2008/01/19(土) 15:58:25 ID:CGbX7w37
>>134 ピノキオよろしく、女神様にお願いして魔法とかなんとかで完全な女体化だと兄ちゃんうれしいな
兄に好意を表したら魔法が解けるみたいな設定にすんの。
キモウト悶々してる間に泥棒猫現れたりしてさ、最終的に兄を監禁してアッー!
大事なシーンが801になっちまう…orz
139 :
1/2:2008/01/19(土) 17:54:18 ID:IOcXi95F
「兄さん、いけないことだってわかってる。でも、それでも僕は兄さんのことが・・・」
あのときの夢・・・容姿端麗で成績優秀でスポーツも万能な俺の自慢の弟の夢だ。
ある日弟から告白されたときの夢だ。
「僕は男だけど、世の中の女より誰よりも兄さんのことを愛しているんだ」
そう言って想いを伝えてきた弟だが、その弟を俺は拒絶した。
「そう・・・なんだ。やっぱり、兄さんも、女の子の方が・・・」
このことは俺の胸の内にしまっておくと言って立ち去る俺。
今思えば気不味くても落ち込んだ弟の傍に居てやればよかった。
・・・と、ここで目が覚める。
俺は目覚ましを止め学校へ行く仕度をする。
「おはよう母さん」
「おはよう・・・顔色悪いけど平気かい?まだ辛いなら学校休んだほうが・・・」
「いいよ、大丈夫。天国のあいつの分も生きるって決めたし」
弟は自殺した。
遺書はなかったけど事故でも他殺でもないと警察は断定した。
警官に話しを聞かれたけど告白されたことは黙っていた。
あいつ、俺に拒絶されたからってなにも死ぬことはないのに・・・
通学途中での信号待ち。
周りには同じ学校の生徒が何人か居るが、女生徒の何人かが俺を見てひそひそと噂している。
"最後に会ったのがあのお兄さんなんだって" "なんで悩みに気付いてあげれなかったの"
"なんであの人が居ないのにあんなのが・・・" "あの人じゃなくてお兄さんの方が死ねば良かったのに"
なんでも女生徒の弟のファンの間では弟の自殺の原因は俺にあるらしい。
あいつが俺との関係に苦しんで自殺したのならあながち間違いではないけど・・・
そう思って苦笑したとき 突然、体が 浮いた。
目の前には向かってくる10トントラック 後ろを振り向くと見知らぬ女生徒が 手を突き出していて
・・・ツキトバサレタ?
周りの叫び声と女生徒の怨嗟の声の中、俺の意識は・・・沈んで・・・
140 :
2/2:2008/01/19(土) 17:55:04 ID:IOcXi95F
「兄さん、いけないことだってわかってる。でも、それでも僕は兄さんのことが・・・」
あのときの夢・・・容姿端麗で成績優秀でスポーツも万能な俺の自慢の弟の夢だ。
ある日弟から告白されたときの夢だ。
「ボクは男だったけど、世の中の女より誰よりも兄さんのことを愛しているの」
そう言って想いを伝えてきた弟だが、その弟を俺は拒絶した。
「そう・・・でもね、こうすれば私たちふたりの障害も消えるのよ・・・」
このことは俺の胸の内にしまっておくと言って立ち去る俺。
今思えば気不味くても落ち込んだ弟の傍に居てやればよかった。
・・・と、ここで目が覚める。
俺は目覚ましを止め学校へ行く仕度を 布団がなんか不自然に膨らんでる?
「おはようお兄さん」
布団をめくるとそこにいたのは見知らぬ・・・いや、見知った美少女。
そうだ。俺の自慢のおと・・・妹だ。
「お、おはよう。って、お前またひとの布団に潜り込んで!」
「だって私はお兄さんのこと愛してるんだもーん」
反省の色もなく抱きついてくる妹・・・でも、なにか違和感が・・・
「なぁ・・・」
「なぁに?」
「いや、変なこと聞くだけど、俺たち2人兄妹だよな?」
「お兄さんったらまだ寝ぼけてるの?なに、夢の中で姉か弟でも居た?」
そうだ、俺の兄弟はおと・・・いや、妹?
確か 弟は 俺に 拒絶されて 自さ・・・ でも 目の前には 妹が 妹?
「お兄さん、そんなに深く考えちゃダメだよ。
ね?妹になれば兄さんは僕のこと愛せるんだから。
僕はもう兄さんのこと絶対に離さないからね・・・」
キモ弟→キモ妹への変換と聞いて電波が沸いた。
小ネタとして書こうとしたら行数多くなって二分割になってしまった。
無駄に2レスも使ってるけどSSじゃないので俺にはここまでだ。
あとは誰か頼む。
>>141 GJ!
一瞬陰口を言っていた女子たちに天誅が下ったのかと思った
このスレのキモウトは兄と同じ学校に行くためにレベル落としている娘はよくいるけど、
兄と同じ学校に行くために必死で学力上げるキモウトはいないよな
>>143 必死で勉強してるとお兄ちゃんにからみつく時間が減るからなぁ
目の前いるお兄ちゃんの誘惑に耐えられなくて勉強に手がつかないのかも
兄の方のレベルを下げにかかるということも考えられる
キモウトの正体はサキュバスとか
>>145 サキュバスなキモウト……
「俺たちは兄弟なんだぞ。判ってるのか?」
「淫魔にそんな道徳関係ないよ。お兄ちゃんはあたしに餓えて死ねというの。
それとも毎日そこらの人間を吸い殺して回れって? お兄ちゃんなら吸ってもそう簡単には死なないよ…多分。
あたしは死にたくないの。それに誰も殺したくない。だからお兄ちゃん、精をちょうだい…」
>>144 お兄ちゃんと同じ学校に行けないならいっそ殺してしまおう・・・なんて鬼印が出てくるwww
「うわあ、ジュース工場なんて始めて見た。凄いねお兄ちゃん」
「だろ?…あ、ほら、下を見てみろよ」
「わあ、大きなジューサーみたい」
「大量の果物がコンベアで運ばれて…げ!一瞬でジュースになっちまった」
「落ちたらヤバそうだよね」
「そりゃ見ろよ、あのゴツいカッター…肉も骨も即ミンチだって」
「あは、人間ジュース」
「それシュール過ぎw」
「体がバラバラになって…全部混ざっちゃうんだね…」
「おおい、あんま近寄ると落ちるぞ」
「血も内臓も脳も…ブツブツ」
「聞いてるか?危ないぞお」
「ああ…おっぱいも…オチンチンも…アソコも…」
「…引っ張るのは何故だい?」
「クスクス…子宮も…精巣も…お腹の中のウンチもオシッコも…」
「ええと…手摺りを乗り越えるのはどうかと…」
「……お兄ちゃんと混ざり合って溶け合って1つに…」
「だから何故引っ張る?…って、下でカッター回転してるんですけど」
「…………ひとつになって………お兄ちゃんと一緒にドロドロに…」
「お兄ちゃんさ、もう少しやりたいことあるんですけど」
「ああ…素敵……イキそう…」
「……できれば手だけ放してもらえると嬉しいかな?お兄ちゃんも生きたいなっ」
「あら、お兄ちゃん字が違うったらえい」
「『えい』てちょwおまw落ちうわあばべびっ」
めでたしめでたし
(注)ホントにこんな機械があるのか知りません。てか多分ないです。
投下します。
非エロ。17レス予定。
秋巳が柊神奈に告白を受けてから二週間。
木々のざわめきを伴った風が新緑の薫りを伝えてくる、穏やかな空気の五月晴れの日。そんな和やかな陽気とは裏腹に、
秋巳のクラス内の雰囲気はおおよそ憂鬱なものに包まれていた。一週間後の中間考査を控えて。
クラス内の生徒たちの会話は、試験の対策やお互いの勉強時間の確認などの話題が大半を占めていた。
中にはいつもどおり変わらない者、開き直ってる者も見受けられたが。
その普段どおり変わらない集団の中に含まれるのが、水無都冬真であった。
「ねーねー。柊ちゃん。来週の試験に向けてさ、勉強会しない? 勉強会」
その日のすべての授業を終え、あとは担任を迎えてのホームルームを残した空き時間。
水無都冬真は柊神奈の席に近づき、お誘いをかけていた。
水無都冬真は、秋巳の相談を受けてから宣言したとおり、ことあるごとに柊神奈にアプローチをかけていた。
それは、昼食の誘いだったり、放課後の遊びだったり、休日の行楽の約束だったりする。
そして、そこには大抵、秋巳と春日弥生も含まれていた。
秋巳としては、水無都冬真に助けてもらっている以上、彼の柊神奈に対するアプローチに協力するのは当然だと思っていた。
事実、秋巳が当初心配していたような、クラスの話題に上るといった事態は避けられている。
水無都冬真と柊神奈の話題が防波堤となって。
試験間近であっても、異性に多大な興味をもつ高校生という時期を考えれば、男女間の色恋沙汰の話題は事欠かない。
そんななか一番の興味の対象としてあがっていたのが、そのふたりの付き合い、であった。
曰く、彼氏彼女の仲なのか。
柊神奈が告白した噂があるが、その相手が水無都冬真だったのか。
あれだけの人気者の美男美女同士がくっつくと羨む気も失せる。いや妬ましい。
中身はそれぞれさまざまだったが、ふたりの仲を推測、あるいは邪推するものであった。
この二週間、秋巳は春日弥生も含めてそのふたりとよく一緒にいたが、周りからの目は精々『金魚のフン』くらいの認識であり、
従来どおり秋巳自身は、かれの望む平穏な日々をおおよそ過ごせていた。
一部にはたとえ『金魚のフン』であっても、あの柊神奈と遊びに行ったり出来るのは羨ましいと僻むものもいたが、
それでもやはり憐れみを含んだ同情の気持ちも混じり、直接秋巳を目の敵にする人間はいなかった。
「え? 勉強会?」
水無都冬真から提案を持ちかけられた柊神奈は、少し困ったような表情を浮かべて返す。
彼が誘いをかけるときは、大体同じような反応だった。そして、例のごとく水無都冬真が、春日も含めて四人でさ、と言うと承諾をするのである。
「うん。ほら、テスト期間中って、放課後、図書室が学習室として開放されるじゃん。
だからさ、秋巳と春日も含めて、お互いに苦手な分野をフォローしあわない?
俺なら、保健体育はばっちしだしさ!」
中間考査一週間前から各部活動は基本的に活動停止になり、図書室も普段は文芸部と本を読む人たちが優先であるが、
この期間ばかりは勉強する人たちが優先的に使えることになっている。
「う、うん。弥生がいいって言うなら、私も賛成だけど。
でも、私は、あんまり役に立たないかもよ?」
こちらもお決まりどおりの回答をする柊神奈。役に立たないという彼女の言葉は、あくまで謙遜であり、
実際彼女はクラスで一桁の順位をキープしているほど優秀であった。
「だいじょぶ。だいじょぶ。柊ちゃんは、そこにいて華を添えててくれるだけで良いし。
ってか、謙遜も行き過ぎると嫌味でない?」
ニヤリと意地悪な笑みを浮かべる水無都冬真。
「ええっ!? そ、そんな……。私、べつに、そんなつもりじゃ。
それに、教えるの下手だし。水無都くんこそ、
周りの助けなんか要らないんじゃないの?」
柊神奈の台詞はあながち間違いではなかった。といっても、彼は成績優秀者の常連というわけではなく、非常に大きな波があり、
学年で一桁の順位をとることもあれば、軒並み赤点というときもあった。
ある意味、それは本気になればとんでもないヤツという評価を受け、学年トップよりも派手な目立ち方ともいえた。
教師も含めて一部では不正をしてるんじゃないかという噂も立っていたが、どちらにせよ注目は受けていた。
「いやいや。この前も六教科赤点だったしね」
「ふーん。カンニングペーパーの作成にでも失敗したのかしら?」
ふたりの会話に割って入ってくる春日弥生。
「姐さん。それは誤解っすよ。俺はやればできる子なんですよ?
ヤればデキる! なんて真理をついた素晴らしい言葉か」
「セクハラで訴えるわよ? それとあんまり神奈に近づかないでもらえない?
神奈があんたに汚染されたら損害賠償と慰謝料請求するからね」
「おやおやぁ? 嫉妬ですか、姐さん? 男の嫉妬は醜いっすよ?」
「……喧嘩売ってるわけ? 大体、最近あんたにことあるごとに付きまとわれて、
神奈が迷惑してるの判らないの?」
「えっ? うそっ? ひょっとして、俺、迷惑かけてた?」
「う、ううん。そ、そんなことないよ!」
柊神奈が、慌てて首を振る
「ほら。見ろ! 姐さん。柊ちゃんは、俺の子を産んでもいいって言ってるじゃんか!」
「社交辞令をそこまで極大解釈する人間はじめて見たわ。
いっぺんあんたの頭の中の構造覗いてみたいわ。それとセクハラ禁止!」
水無都冬真を押しのけるようにして、柊神奈の前に春日弥生が立ちはだかる。
「姐さん。すんません。姐さんの情婦(イロ)に手を出した詫びは、
この小指で許してもらえますか?」
「なんで、私の小指を掴むのかしら?」
「自分のだと痛いし」
「そう。じゃあ、一瞬で痛くもなく楽になれる『らしい』といわれる方法でケジメ付けてもらえる?
本当に痛くなかったのか感想が聞けないのが残念だけど」
「うわ。やっぱ、本場のスゴミは半端ないっすね」
そんないつものふたりのやり取りを脇目に、柊神奈は立ち上がると秋巳の席のもとに向かい話しかける。
「ね、ねえ。いま水無都くんに放課後の勉強会のこと聞いたんだけど、如月くんは大丈夫なの?」
「ああ。うん。ダメと言えばダメかな?」
座席が近いので話だけ聞いていた秋巳が、席についたまま顔だけ向けて応える。
「え……? そ、そうなの?」
かくんと肩を落とし、気落ちしたような態度をみせる柊神奈。
「うん。世界史とか政治経済とか社会系は、いつも赤点すれすれかドボンだしね」
「え? ……あ、ああ。そ、そうなんだ。でも、理数系は得意なんだよね。
私、どっちかっていうと、理数系のが苦手なんだよね」
そう言って照れたように、あはは、と声を出して笑う。
「そう。でも、春日さんって、理数系得意じゃなかった?
ふたりでフォローしあえば、理想的だよね」
秋巳は淡々と柊神奈の言葉に応えるだけ。少し意味をこめて。
「……うん。そうだよ、ね」
そう瞳を半分伏せながら呟く柊神奈を見ながら、秋巳は思う。
(できればあまり教室とかで、話しかけないでもらいたいんだけどな……)
水無都冬真が、柊神奈に接近するようになってから、春日弥生も含めて四人一緒になることが多かったが、
そういうとき大抵、水無都冬真が柊神奈にいろいろ話し掛けはするものの、結局水無都冬真と春日弥生の言い合いになってしまい、
あぶれた柊神奈と秋巳で会話するという形になっていた。
秋巳は勿論、柊神奈に話しかけられれば、普通に受け答えをしていたが、
それでも若干――本人すら気づかないくらい――突き放した物言いを時折した。
普段、秋巳は、水無都冬真と妹の椿を除いて、その他の人間に対する態度は一貫していた。とくに敵意も持たず、好意も抱かず。
そして、相手にも敵意や嫌悪感を抱かせるような言動はしなかった。好意を抱かせるような振る舞いも。
『他人』に対する親切はしても、必要以上に踏み込まないし、踏み込ますこともしなかった。
だが、柊神奈が自分に好意を持っているらしいということを意識するあまり、必要以上に距離をとろうとする感情が無意識に働いていた。
そして、特に、教室のような場所で、柊神奈とふたりで話すという行為は、目立つことを嫌う秋巳にとって、忌避すべきことであった。
(早く冬真の方を振り向いてくれるようになればいいのに――)
秋巳は本気で不思議だった。
この目の前の少女が、なぜ水無都冬真でなく、自分に惚れているのか。
おそらくなにかを『勘違い』しているのだろうが、その心当たりは自分にはない。
恋に恋するような年頃であれば、とんでもない勘違いをしててもおかしくはないので、そこは詮索しても仕様がないのであろう。
秋巳はそう結論づける。そして願う。
早く『誤解』がとけて、如月秋巳という人間を知り、そして、水無都冬真の方へ、振り向くことを。
秋巳は、一種異常であった。
なんの罪悪感も感じることなく自分に好意を向けてくれる人を突き放すことではなく、
親友に対して厄介ごとを押し付けるような考えを抱いている自身に嫌悪感を覚えていたのだから。
「あ、そ、それでさ。如月くんは、放課後の勉強会には行くの?」
「あー。勿論行くってさ。な、秋巳」
気を取り直したように顔をあげて訊ねる柊神奈に、いつのまにか傍に来ていた水無都冬真が返す。
「うん。そうだね。冬真じゃちょっと心細いけど、
ひとりで勉強するよりははかどるだろうしね」
「あ、じゃ、じゃあ! 私が、社会系だったら一応得意な分野だし、教えてあげるよ!」
先の見えない真っ暗闇の中に一筋の光明をみたかのように、提案してくる柊神奈。
「柊ちゃん、なにげにひどいね。俺が頼りないってとこは、
否定してくんないどころか肯定しちゃうのね」
「えっ!? あ、ああっ! ち、ちがうよ! そんな意味じゃないって!」
不満げな声をあげた水無都冬真に、柊神奈が慌てたように両手を振って否定する。
「ってかさ、それじゃ誰が俺に教えてくれるの? あと、春日しかないじゃん?
俺、暴対法とか、法律をぎりぎりですりぬける知識とか間に合ってるんだけどな」
「そう。じゃあ、あなたが教えてくれる? 人ひとりを社会的に完全に抹殺する方法とか」
水無都冬真の後を追うように来た春日弥生が言う。
「姐さんだったら、いつものようにやったらいいじゃないっすか。
キーワードは、『コンクリ』、『ドラム缶』、『東京湾』のやつっすよ」
「ええ。本当にできないところが残念ね」
「また始まったよ……」
言い合いをはじめるふたりに苦笑する柊神奈。
秋巳はそんなふたりをみながら、どう言ったら自然に春日弥生に教えてもらえることになるのかな、と考えていた。
投下支援 てこれでいいのか
そして放課後。図書室には、秋巳と柊神奈のふたりしかいなかった。
水無都冬真は先生に呼び出しを受けたために、後から行くと秋巳に伝え。
柊神奈から伝え聞くに、春日弥生も所属する部室の整理をしてから行くので遅れるとのことであった。
(なんでこんな……)
秋巳は正直帰りたかった。
秋巳にとって救いだったのは、図書室を利用している生徒の少なさであった。
近くに大きな図書館もある関係で普段放課後利用しているのは文芸部ぐらいのもので、それ以外には、たまに気まぐれで利用者が訪れる程度であった。
試験期間中に勉強する生徒に開放するといってもあくまで名目上であり、普段と同じように利用する生徒は少なかった。
それを見越して、多少喋っても構わないだろうということで、水無都冬真は勉強会を提案したのである。
実際いま利用している生徒も、秋巳と柊神奈の他に、ニ、三人生真面目そうな生徒が座って静かに勉強したり、本を読んでいるのみであった。
要するに、図書室の広さを考えると、大声で騒がない限りふたりの会話を聞こえるような位置には誰もいないという状態。
「あ、あのさ。とりあえず、ふたりではじめてようか?」
席につくと早速教科書やノートを広げる柊神奈。そんな彼女を見ながら、乗り気しないように秋巳が頷く。
ふたりが勉強をはじめてから三十分。いまだに水無都冬真も春日弥生も来ていなかった。
それまで黙々とノートと教科書をめくり、ペンを走らせているふたりであったが、
フロアにいた唯一の男子生徒が席を立って退室したタイミングを見計らったように、
柊神奈が面を上げて頬にかかった髪をいじりながら秋巳に問いかける。
「ね、ねえ……。如月くん」
「ん?」
その呼びかけに、彼女と同じように顔を上げ、見やる秋巳。
「や、やっぱりさ。その、め、迷惑だったかな?」
柊神奈は目的語を言わない。おそらく言わなくても通じるだろうという期待を込めて。
「迷惑って?」
「あ、そ、その、このまえの、さ」
ああ。告白のことか。
秋巳は得心する。
(とってもね……)
正直なところそう応えたかった。しかし、彼女のプライドを傷つけるような言い方をすれば、憎さ百倍となり、目の敵にでもされかねない。
そう考えた秋巳は、はっきりとは返事せずに、逆に質問で返した。
「なんで、そう思うのかな?」
その秋巳の質問に、指先で髪をくるくると巻きながら柊神奈はとても言いにくそうに躊躇う。
「えっとね。うん。なんていうのかな、最近、よく、如月くんと一緒にいたり、話したりするよね」
「うん。冬真とか、春日さんも一緒にね」
「そのときにさ、如月くん、いつもなんか、その、ちょっと……嫌そうかなって」
「え?」
秋巳にとって、そう言われるは心外であった。告白の返事をしたわけでもなく。
秋巳の意識のなかでは、柊神奈に対する態度について、好悪の感情を出しているつもりはなかった。
あえて、意図的に浮かれているような言動もしていなかったが、本心を見せているつもりもなく、
いままでと、それこそ他の人たちと同じような対応をしていると思っていた。
それは、秋巳のなかで、他の人と柊神奈の位置付けが変わっていることを示していたのだが、本人に自覚はなかった。
だから、秋巳は、柊神奈が彼女自身の満足するような態度を自分がとっていないから、そう思っているのだろうと結論付けた。
彼女が己の内心に気づいているのかも、とは考えずに。
「ごめん。なんで、そう思われてるのかわからないけど、嫌とかそういうのはないから。
誤解を与えるような態度とってたら、ごめんね」
「う、ううんっ! 如月くんが謝ることじゃないし!」
まだ図書室に人が残っていることへの配慮か、声を小さくして続ける。
「私が、勝手に好きになって、勝手に告白して。
でも、それで好きな人に迷惑をかけてたらやだなって思ったから。
私、如月くんと付き合えたらって望みは持ってるけど、
でも如月くんの気持ちを無視してまで付き合って欲しいなんて思ってないから」
秋巳は押し黙ったまま、柊神奈の言葉を聞く。まるで想定もしていなかったことでも聞くかのように。
「私もね。あの、け、決して自慢とかじゃないんだけど、男の子から告白されたことがあってね、
それで断ったことがあるから。だから――。だから、自分の好きな人が、
なにをしても自分を受け入れてくれないのは仕方がないとも思ってるんだ。
私自身は、自分のことを好きになってくれた人のことを拒絶したくせに、
自分だけ好きな人と幸せになれるとか不公平だもんね。
でもね、私のことを好きになってもらえるよう努力するのは、いいのかな……?」
おずおずとそう訊ねて。
いままで私に告白してくれた男の子は、私が「ごめんなさい」っていったら、それっきりだったけどね、と付け加える柊神奈。
「…………」
(彼女はこれを本心から言っているのか?)
秋巳には理解できなかった。
秋巳の彼女に対する認識は、いま自分の前に座り、自分に語る彼女と全然異なるものだった。
男の子たちにちやほやされ、プライドが高く内心は優越感を感じているが、それを表に出さない賢しい女の娘。
自分が男の子を振るのは当たり前だが、自分が拒絶されることはありえないと思っていて。
万一、自分が拒絶されるようなことがあれば、それは相手に非があるのだと思い込んで。
自分のプライドを傷つけるような人間は、攻撃し、排除するような人間ではないのか。
それともこれも演技なのだろうか。
そういう『いじらしい』自分を演じれば、たやすく相手など手玉に取れるであろう、そう考えているのだろうか。
だが、秋巳は腑に落ちなかった。
彼女は、勘違いか知らないが自分の本心を大きく間違って捉えてているわけではない。秋巳自身が意図していないにしても。
それなら、こんな人間に受け入れられないという『事実』に、彼女の矜持はいたく損なわれたはずだ。
それにも関わらず、自分からさらに寄るというのだろうか。しかも、受け入れられないこともある程度見越して。
「あ、あのさ。前から聞きたかったんだけどさ。自分なんかのどこがいいのかな?
自分で言うのもなんだけどさ。そこにいてもいなくてもいい空気みたいな人間だよ?
柊さんに好きになってもらえるような要素が見当たらないんだけど」
「うーん。なんていうのかな。はっきりこれって言えないかもしれないけど」
そう言って彼女は語る。自分が秋巳を気にするようになった転機から、好きになるまでを。
* * * * * * *
柊神奈が秋巳のことを気にするようになったのは、秋巳の柊神奈に対する態度が契機であった。
それまでの柊神奈に対する周囲の男子の態度は、だいたい二通りに分かれていた。
普段敬遠して遠巻きに見ているだけで、たまに話す機会があるとやたらおどおどと挙動不審になる者。
そして、自分になびくのが当然とばかりに、馴れ馴れしく不躾な態度をとってくる者。
前者に柊神奈は気づかなかったので、彼女の男の子に対する認識は、後者に対する印象が専らであった。
そして、自分のことをステータスのための付属品ぐらいにしか見ていないそういう人間たちに対して、あまり良い印象は持たなかった。
そんななか、たまたま委員の仕事で一緒になったのが、如月秋巳であった。
委員決めの日に、柊神奈はなんとなく男子が先に決まっている役に立候補した。誰もやりたがらないような役。
だからこそ、男子のほうは、その日休んでいた秋巳に欠席裁判で押し付けられた委員に。
そして、仕事をしていくなかで、秋巳の自分に対する態度が他の人間のそれとは異なっていることが、秋巳を気にするようになった契機であった。
そのときはまだ恋愛感情ではなかったが。
普段からなにげなく秋巳のことを目で追うようになって、気づいた。彼は誰にでも態度が変わらない。自分も含めて。
目立つわけでもなく、相手を不快にさせるわけでもなく、誰にでも一緒であった。
一緒に仕事をしているなかで、秋巳は時折自分を卑下するような言葉を吐くことがあった。
しかし、それで卑屈になったり憂いたり、相手を妬んだりといった雰囲気がない。
ただ、淡々と客観的事実を述べるようにさらっと言い、大して気にも留めない態度なのである。
その秋巳自身の認識は、柊神奈が抱いた認識とは異なる部分が多かったが。
そして、柊神奈の周囲が抱く彼への認識は、目立たなく、そして、空気のような存在というものであった。
たしかに容姿は、多少目立つところがあるかもしれない。髪は茶色で色は白く、顔も良く見れば整っているし、背も平均より高い。
でも、自己主張はしないし、言動は目立たないし、とくに面白い人でもない。
「付き合う人としてはねぇ」
その他男子の中に埋もれる存在。それが彼女の周りの女子たちの評価であった。
でも彼はそれを自覚して、そしてそのような生き方を望んでいる。柊神奈はそう思った。
わざわざ秋巳が意図的に目立たないようにしているということまでは判らなかったが、
その彼の生き方は柊神奈にとって、とても自然体に見受けられた。
無理をせず。肩肘をはらず。見栄をはらず。ある種達観したような生き方。
そして、自分に対しても他の人と同じようになんら変わることなく接してくれる。
柊神奈は、男子からは勿論のこと、女子からも色々な意味で特別扱いされることがあった。それは、嫉妬や嫉みを多分に含んだ。
だから、自分にそのように接してくれる秋巳が気になった。
そして、彼のことを気にかけ、見つめるようになり、気がついたら好きになっていた。
しかし、柊神奈は秋巳への恋慕に気づいて困った。
どうしたらいいのであろう。
彼女は誰かを好きになって、その人にアプローチするといったことの経験がなかった。
その上、相手は如月秋巳である。
彼女の秋巳に対する認識からすれば、秋巳はあまりそういうことを望んでいないようにみえた。
ただ、自身の想いはつのる。彼女も世間一般の女子となんら変わらない女の娘であったから。
むしろいままでそういうことがなかった分、一度自分の感情に目覚めたら、人一倍情が強かった。
だから、袋小路しかない迷路にまよいこんだように困り果てた。
そして相談した。親友である春日弥生に。
「はー。あんたもついに恋愛ごとに目覚めるようになったわけねぇ」
それが、相談をうけた春日弥生の第一声であった。
「でも、そんなヤツこの学校にいたっけ? あ。ひょっとして、この学校じゃないヤツ?」
柊神奈は、どんな人を好きになったかは話したが、誰を好きになったかまでは触れなかった。
それは、春日弥生を信用していないからではなく、『柊神奈が如月秋巳のことを好きである』ということを
一番最初に如月秋巳に伝えたいと思ったから。
春日弥生のアドバイスはひと言で終わった。
「告白ね」
「え?」
「こーくーはーく! それで相手が受け入れて終わりでしょ?」
「あの? 弥生? 私の話聞いてた? だから、その、すっ、好きな人は、
そういうの多分好ましく思わないんじゃいかって……」
「なーに、そいつは、あんたの前で気取ってるのよ。オレは自然体でいますって。
なんていうのかな、矛盾するかもしれないけど、気取らないことが、
んで、カッコつけないことが格好良いみたいな」
確かに一から十まで話したわけではないから、彼女がそういう印象を持ったとしても、柊神奈は否定できなかった。
ただ、そうではないことを彼女自身は判っていた。それは惚れた弱みではない。そこに惚れたのだから。
「ま、あんたのまえでそんな態度とるくらいだから、あんたのことは意識してるって。
なんなら、相手に気を持たせるような態度をとって、あっちから告白させちゃえば?」
それはない。
柊神奈は確信していた。
私のまえだから、そんな態度をとるのではない。私のまえであっても変わらずそんな態度、なのである。
「ま、どっちにしろ。そのもやもやした気持ちを抱えたまま、このまま毎日過ごすわけ?
結果がどうなろうと、なにかしら動かないとなにも変わらないよ?
あたしに相談してきたってことは、神奈もこのままで良いとは思ってないんでしょ?」
「うん……」
春日弥生のその指摘は正しかった。さすがに親友である柊神奈のことならば良く理解しているのだろう。その好きな人までは判らなかったが。
* * * * * * *
「――それでね。あの。如月くんに、その、こ、告白したんだ」
恥ずかしい過去を自分で暴露するかのように頬を赤らめた柊神奈の話が終わる。
しかし、その顔には、どこか言いたいことが言えたようなすっきりした感情が見て取れた。
「…………」
一方の秋巳はその柊神奈の告白に衝撃を受けていた。彼女が自分に本気で好意を抱いていることではない。
柊神奈の話す『如月秋巳』と、自分とにそれほど差異がないことに。
なぜ、彼女に気づかれているのか。
自分の態度はそんなにあからさまだったのだろうか。
ひょっとして、己が考えている周囲の自分に対する評価と実際のそれは大きく違うのか。
(……いや。違う)
柊神奈の話の中で、秋巳自身に対する周囲の評価を言っていたではないか。それは自分の認識とあっている。
ならば、彼女が特別洞察力にでも優れているのか。
『背景』に溶け込んでると自分も周囲も思っていたのに、彼女だけが『背景』ではなく、『登場人物』として捉えていたのか。
秋巳はおおきく動揺した。
自分の望む生き方を知っているのは、水無都冬真と椿ぐらいだと思っていた。
前者は特に反対することなく好意的に、そして、後者は蔑みながらも黙殺し。
そう考えていた。
だから、柊神奈は自分のなかに秋巳とは違う虚像の『如月秋巳』を作り上げ、それに恋愛感情を抱いているものだと。
自分を『依り代』に。
だが、秋巳の推測は外れた。
柊神奈は、ほぼ等身大の如月秋巳を捉え、それに恋慕の情を抱いているのだという。
「あ、あのさ――」
秋巳が口を開こうとした瞬間。図書室のドアが開く音。
「おーす。ふたりっきりで仲良くいちゃいちゃやってるかー」
「ったく、なんでこんなとこまであんたと一緒のタイミングになるのよ」
「それは、俺と柊ちゃんが赤い糸で結ばれてるからだな」
「なんでそうなるのよ」
一時間弱遅れて、水無都冬真と春日弥生が同時にやってきた。
それに秋巳は言葉を紡ぐタイミングを失う。
「あ。弥生ちゃん。遅いよー」
それまでの真剣な表情とはうってかわって、朗らかな微笑を浮かべるとふたりを迎え入れる柊神奈。
「お? 柊ちゃん。俺は? 俺は待ってなかったの?」
「ううん。そんなことないよ」
「やっぱり! 俺のプロポーズの言葉を待ってたんだね!」
「だから、あんたのその地球を七週半するような曲解はどこからくるのよ」
呆れたように溜息を吐く春日弥生。にわかに喧騒に包まれる図書室。
秋巳は、自分でもなにを言おうとしたかよく判らずに、言葉を口にすることは出来なかったが、秋巳の意識なかで柊神奈の位置は確実に変わった。
告白されてから、『他の人たち』とは違う場所にあったが、それとは、また別のところに。
* * * * * * * *
中間考査を前日に控えたその日。朝は晴れていたにも関わらず昼過ぎから俄かに雲が出てきて、
秋巳が帰宅する頃には空一面厚い雲で覆われて、五月の陽光が完全に姿を隠した。
普段より早めに洗濯物を取り込み、明日に向けてのテスト勉強をはじめる前に一息つこうとお茶を淹れて、
居間からぼんやりと雨が降り出しそうな庭を窓越しに眺めていたとき。
玄関の扉の開く音が、椿の帰宅を知らせた。
「おかえり。椿」
玄関まで迎えに出た秋巳に、靴を脱ぎながら挨拶を返す椿。
「ええ。ただいま。兄さん」
「お茶、さっき入れたところだけど、椿も飲む?」
いつものように肯定の返事をまったく期待せずに椿に問い掛ける秋巳。
だからその返答が来たとき、秋巳は一瞬固まった。
「ええ。いただきます。兄さん。それと、ちょっとお話があるのですが、宜しいですか?」
「…………」
「兄さん?」
「あ、ああ。うん。いま、淹れるから。ちょっと待ってて」
秋巳にしては珍しく慌しく台所に戻り、お茶を淹れる準備をする。
その準備をしている間に、椿は二階の自室で着替えたのであろう、普段着で再びリビングに姿を現す。
「ありがとうございます。兄さん」
ソファに腰を下ろし、秋巳からマグカップに淹れたお茶を受け取る。
「それで、兄さん。先ほども言いましたが、少しお話があるのですがいいですか?」
お茶にひとすすり口をつけ、話を切り出す椿。
「え? 話?」
さっき言われたことをさっぱり忘れてでもしまった、あるいは聞いていなかったかのように、口を半開きに間抜けな顔をして問い返す秋巳。
「ええ。話というより、お願いなのですが」
秋巳は自分の耳を疑った。
椿はいまなんと言ったのだろう。
話? 自分に? しかも単なる話ではなく、お願い?
信じられなかった。椿がこんな改まった形で自分を頼ってくるなんて。
普段の生活の中で、椿が秋巳を頼ってくることなどまずなかった。なにげない日常生活の中でさえ。
家事はそれぞれ役割が決まっていて、それを一時的に代わってもらうよう頼むときでさえあくまで『交渉』であった。
それが受け入れられなければ、無理は言わない。
秋巳がその交渉を飲まなかったことはなかったけれども。
「め、珍しいね。椿が僕に頼みごとなんて」
だから秋巳は素直な気持ちを口にしてしまう。聞きようによっては嫌味と取れてしまう言葉を。
「すみません。普段はかわいげのない妹で。兄さんがお嫌でしたら無理にとは言いません」
「い、いや! そんなことないよ。僕で出来ることなら!
とりあえず、話してもらっても良いかな?」
「ええ。明々後日のことなのですが。中間試験の最終日の午後、
兄さん時間空いてますでしょうか」
そう言って話を切り出す椿。
「うん。空いてるけど……」
話の中身が全く見えないが、秋巳は、妹のため出来る限りのことはしてやろうという思いを込めて返事をする。
椿の頼みごとの中身は、要約するとこうだった。
自分の友達に、水無都冬真のことを好きな娘がいる。
そして自分は水無都冬真にその娘を紹介してあげたいと望んでいる。
ただ、いきなり紹介して、はいさよなら、というわけにもいかない。
だから、自分と兄である秋巳、それとその友人と、秋巳の友人である水無都冬真で遊びに行く形をとり、
その娘と水無都冬真が仲良くなる切っ掛けを作ってあげたい。
兄さんにはそれに付き合って欲しい。加えて水無都冬真を誘って欲しい。
そんな椿の頼みごとに、秋巳は二もなく頷きたかった。了承したかった。
ただ、ひとつ気がかりなことがあった。
水無都冬真は、いま柊神奈と付き合おうと積極的にモーションをかけている。そんなところにこんな話を持っていっても良いものか。
「兄さん。水無都冬真さんには、いま付き合っている人がいますか?」
話の内容を理解するにつれ返事の鈍い秋巳に、椿が質問する。
「いや、いないけど」
付き合おうとしている人はいる。
「では、好きな人は?」
「いる、かもしれない」
それは、柊神奈かもしれないし、もしかしたら、椿かもしれない。水無都冬真は、柊神奈と付き合いたいと言っているし、
冗談っぽくはあるが、椿のことも満更ではないような気がする。椿から色よい返事がもらえないから、
そちらを諦めて柊神奈とのことを真剣に考えているのかもしれないし、元々椿のことは普段の調子でなにげなく軽口を叩いているだけで、
もとより本気で柊神奈のことを想っているのかもしれない。
秋巳は水無都冬真と付き合いが長く、色々と彼のことを知っているつもりではあったが、
秋巳本人がそういったことに疎かったこともあり、その面に関しては水無都冬真の本心は判らなかった。
「そうですか。兄さんがどう考えていらっしゃるかまでは判りませんが、
この話をあまり深く捉えないで下さるとありがたいです。
確かに、私はその娘のことを大事に思っていますし、
幸せにもなって欲しいと考えていますが、
あくまで機会を与えてあげたいと思っているだけです。
それ以上に手取り足取り導いてあげるつもりはありませんし、
彼女もそれは望まないはずです」
椿は言う。
単に自分は、その友人と水無都冬真の知り合う機会を提供してあげたいだけだと。
別にいまの水無都冬真の恋路をどうこうするつもりはなく、その後は、その友人と水無都冬真の問題である、と。
もし、水無都冬真がその娘を気に入ってくれるのなら、付き合えばよいし、
水無都冬真が現在の想い人を追いかけるのであれば、それはそれで構わない。
そう言葉を付け加える椿。
そして、秋巳には言わなかったが、そのくらいで諦める人間ではないでしょうけど、と椿は内心付け足す。
「判った。とりあえず、冬真に話を聞いてみるよ」
秋巳は嬉しかった。四人で遊びに行きたいと椿が言ってくれることが。その目的は、親友のため、なんだろうけれど、
それでもその為になら自分を親友に会わせても良い、くらいに思っていてくれることが。
だからこそ、できれば叶えてあげたかった。
「ええ。ありがとうございます」
「でも、こういう話なら、直接椿から冬真にお願いしても良かったんじゃない?」
「先ほども言いましたが、兄さんにも付き合って欲しいという事情がありましたから。
それに――」
椿は、自分の瞳を見つめる秋巳に、同じようにその赤みがかった眼を見つめ視線を交わす。
「兄さんから頼んだほうが、水無都さんも快く引き受けてくれそうだと思いましたし」
そう言ってゆっくりと瞳を閉じた。
その翌日。椿の頼みごとの話を告げた秋巳に対して、水無都冬真はこう応じた。
「は? なに? 俺と結婚して欲しいって娘がいるって?
いやー。もう参るね。モテル男は! んで、おまえはどうして欲しいわけよ?」
「うん。できれば椿の頼みを聞いてあげたいって思ってる。それにね。
椿が言うには、別にその娘と付き合えとかそういうことじゃなく、
単に切っ掛けをつくってあげたいだけだって」
「俺が断るって言ったら?」
「うーん。仕方がないかなって思うよ。冬真にはただでさえ、厄介ごと頼んでるしね」
「厄介ごとってなあ……。おまえ、俺がもし、その娘と付き合ったらどうするんよ?
柊ちゃんとのことは?」
「え? ああ。うん。柊さんなら、内々に断ったら、
別に腹いせになんかするってことはないんじゃないかなとも思うけど。
でも、冬真が柊さんと付き合いたいって気持ちを邪魔するつもりはないから」
「へえ……」
まるで秋巳に似つかわしくない意外な反応を得たかのように、眼を見開く水無都冬真。
「やっぱり、俺に渡すのが惜しくなったか?」
水無都冬真が声のトーンをあげて訊ねる。満足そうな顔を見せながら。
「うん? いや、そうじゃないけど。それは、冬真の気持ち次第だよ。
あくまで僕のお願いってだけだし」
「かー! ったく、こんのシスコンだきゃあ、椿ちゃんだけには甘いんだから」
「そうかな?」
「ああ。そうだよ! おまえ、あんなに椿ちゃんに冷たくされてるってのに、
なんでそう尽くすかねえ」
「冷たくなんてされてないよ」
「もう病気だ! 病気! おまえやばいぞ。かなり毒されてる」
なにに、とはいわない水無都冬真。それから首を振ると秋巳の肩に手を置く。
「判った。判ったよ。ここはおまえに花を持たせてやるさ。
椿ちゃんの好感度を上げる手伝いをしてやるよ。
せーぜー運動と容姿のパラメタあげて、振り向かせることだな。
ただ、いいか。柊ちゃんとのことは、俺が望んでやってることだから、
おまえにどうこう言うつもりはないけどな。これについては、貸し一だからな。
いつか十倍付けで返してもらうからな。たとえ、おまえが嫌がっても」
「うん。判った。ただ、椿は僕の一存では、冬真に渡せないよ。椿が了承しないと」
「いいから。もう黙れシスコン」
珍しく水無都冬真が、呆れ声を出した。
>>128あれはもともと一冊分で終わる予定だったんだと
週チャンは一冊出ない内に連載終了する事も多いから、扱いとしては良い方。
作者のの名前がそこそこ知られてるからできたんたけどね
そして迎えた中間考査最終日。秋巳の学年も椿の学年もその日の試験は午前中で終了のため、
校門前で四人で待ち合わせて、遊びに出るまえに一緒に昼食を摂りに行くこととなった。
校門のところで秋巳と水無都冬真がふたり、試験終了の開放感に包まれ浮かれながら
早々に帰宅の途につく生徒たちを見送りながら待っていると、椿と萩原睦月のふたりが小走りでやってきた。
「すみません。兄さん。水無都さん。お待たせしてしまいましたか」
「いやいや。全然待ってないよ。いまにもスキップでもしそうな浮かれ気分で帰る
女の娘たちのスカートの揺れを気にしてたら、
時間なんてあっという間だって。……って秋巳が」
「そうだね。冬真の鼻の下がどのくらい伸びるのか観察してたらあっという間だったよ」
「それは良かったです」
「あ、あの……あっ、あたし――」
椿の横に立ち、緊張のためだろうか体を硬くして、いつもより声のオクターブを上げて口を開こうとする萩原睦月。
だが上がっている所為だろうか言葉がうまく続かない。
「こちらは、私の親友の睦月。萩原睦月です」
その友人に助け舟を出すように、紹介をする椿。
「はっ、はじめまして。は、萩原、睦月、です。
きょ、今日は、……そ、その、どうも、お忙しいところ……」
「なあに。睦月。それじゃ、営業マンの挨拶みたいよ」
椿がからかうようにそう言い、ふふ、と笑う。
さらに水無都冬真が感動したように声を続ける。
「いやいや。やっぱ一年生は初々しくていいねえ。
どうもさ、俺の周りって擦れた女の娘が多いから、
めちゃくちゃ新鮮だよ!」
「すみませんね。水無都さん。一年生の癖に擦り切れちゃっているような女の娘で」
「えっ! いやいや違うって! 椿ちゃんのことじゃないって!」
慌てたように両手を振りつつ、誤解を解こうとする水無都冬真。
「まあ、確かに、椿は新入生って感じしないよね」
「兄さん! そこは、兄として妹をフォローしてあげるところだと思うんですけど?」
そう言って、笑い声を上げた三人に、その雰囲気に飲まれたように萩原睦月もつられて笑い、
気を持ち直したように体からふっと力が抜ける。
「あはは。すみません。あたし、変に緊張しちゃって。
改めて、挨拶しますけど、あたし、萩原睦月で、椿の親友やらせてもらってます!
水無都先輩、お兄さん、よろしくお願いしますね!」
「ああ。こちらこそ宜しくね。萩原ちゃん。
ついでに俺のこともお兄ちゃんって呼んで良いよ?」
「あはは。遠慮しておきます」
「えっと、椿から聞いてるか判らないけど、僕は、椿の兄で秋巳。
萩原さん、椿と仲良くしてくれてありがとう」
「いえいえ! とんでもないです! あたしの方こそ、
椿にこれ以上ないくらいお世話になってますから!
でも、お兄さんがいることは聞いていたんですけど、
椿って、あんまりお兄さんのお話してくれないんですよね。
だから、今日どんな人なのか会えるの楽しみにしてました!」
「そうなんか? こいつは、ことあるごとに二言目には
『椿が〜、椿が〜』って言ってるけどな。な! シスコン!」
「ちょ、ちょっと冬真! 椿の親友に変なこと吹き込まないでよ。
誤解されるじゃないか」
「へぇー。なんだか意外です。でも、椿も椿で、実は、お兄さんのこと話さないのは、
あたしにお兄さんのこと話すと、あたしが惚れて、
『取られちゃう!』って思ってるからだったりして?」
意地悪そうにチェシャ猫のような笑みを浮かべて、椿の頬をつつく萩原睦月。
「あら。ばれちゃいました?」
そんな意地悪にも、微塵も動揺するような素振りを見せず平然と受け流す椿。
「もう。いじめ甲斐がないんだから! この娘は」
そう言ってくすくすと声を上げる二人を見て、秋巳はものすごく幸せな気分であった。
あの椿が楽しそうにしている。自分にはまず見せない表情をしている。親友の前だからという事情があるからだが、自分にも穏やかに接してくれる。
秋巳の望んでいるものが、目の前にある。
それは秋巳にとってなりより、それこそ試験終了の開放感などどうでもいいようなことであるかのごとく、幸甚の感情をもたらした。
それから四人が向かった先は、よくある普通のファーストフード店。
高校生の懐事情を鑑み、それにあまり気負ったところにいくのも今日この場の集まりの趣旨にそぐわないと考え、椿と萩原睦月が提案した。
ちょうどお昼時ということもあり、学生らしい人たちも含めて、店内は大変賑わっていた。
そんななか運良く取れた四人席に、秋巳と水無都冬真が、椿、萩原睦月の分の注文商品も携えて、やってくる。
席取りをしてくれていたふたりのもとに。
「いや。お待たせ。めちゃくちゃ混んでてさ」
そう言って萩原睦月に右手に持っていたトレーを渡す水無都冬真。そして同じように椿の分を渡す秋巳。
それぞれが相手にお礼を言い、ふたりが席につくと、それが合図であるかのように銘銘食事を始める。
食事中の話題は、試験終了直後ということもあり必然的に、テストの出来具合の話になる。
「でも、水無都先輩ってすごいんですよね?
前に、学年で三位を取ったことがあるって聞きましたけど」
秋巳の通う高校はそれなりの進学校ということもあり、中間や期末考査、実力試験の結果の上位は掲示板に張り出されるため、
常連は学年を通して名前を覚えられることになる。水無都冬真は常連とはいえなかったが、話題の人ではあった。
「そのおかげで、次から教師に眼をつけられることになったんだよね?
その前の試験で赤点五科目だったのに」
「はん。俺は本気になれば出来る男なのよ。
教師の節穴の目をかいくぐるなんて、朝飯前だね」
「うわ。そっちの出来るですか?」
「単にそう言って、先生たちを煽って楽しんでいるだけですよね。
血眼になった先生たちを尻目に、再び学年トップテン入りしたのは」
「さっすが。椿ちゃん。よく俺のこと判ってるよね。
そういう萩原ちゃんはどうなの?」
「え? あ、あたしですか? うーん。あたしも頑張ってはいるんですけどね。
それでも椿に比べると、見劣りしちゃうなぁ」
そう言って、肩にかかる少しはねた髪を払い、はぁーと息を吐く萩原睦月。
「いやいや。その頑張れるっていうのが、凄いよ。
俺は、努力できるってひとつの才能だと思う。
ひとつの目的に向かって努力しつづける、ってなかなか出来ることじゃないしね。
椿ちゃんもそう思うよね?」
「ええ。そうですね。でも、一般的に言って、
好きだからこそ、望むからこそ頑張れるっていうのもあるのでは。
だから、好きでもないことは、無理して頑張らなくても、とは思いますけど」
「うーわ。なんでもできる椿に言われると、説得力ないなぁ。へこむよー」
「あら。睦月。勘違いして欲しくないのだけど。
私が言ったのは、勉強が好きだから勉強を頑張れるとか、
そういう直接的なものではないのよ?
たとえば、医者になりたいって強く願っていて、
そのためには医学部にいかなければいけない。
だから、医学部へ入るために勉強を頑張れる、とか、そういう意味よ?
睦月も十分理解していると思ったけど?」
「う……。確かに」
若干頬を染めて、ちらと一瞬だけ水無都冬真の方に視線をやる萩原睦月。
「水無都さん、睦月の親友として言わせてもらうならば、
彼女はものすごい努力家ですよ。それこそ私が驚嘆するくらい」
「ちょ、ちょっと。やめてよ! 椿。照れるじゃない!」
そう言って、萩原睦月は椿の背中をぱんぱんと軽く叩く。
「ほぉー。そいつは凄いね。俺にはない才能だから、正直羨ましいよ。
な、秋巳」
「そうだね。でも、年下のふたりに圧倒されてる僕たちってちょっと情けないよね」
「おいおい! 勝手に人を加えるなよ! 俺は才覚溢れるっつーの!」
「あはは。そうだっけ。じゃあ、僕だけかな」
そう冗談ぽっく明るく笑い飛ばす秋巳に、椿が声を被せる。
「いいえ。そんなことないですよ。兄さんは、自分であまり気づかないだけです。
水無都さんもそのあたりは理解しているのでしょう」
「え?」
「ああ。そうだな」
椿の言葉に軽く頷く水無都冬真。
「兄さん」
椿のフォローがあまりに意外だったのか、ぽかんと口をあけた秋巳のその口元に、正面に座る椿が手を伸ばす。いつのまにか出していたハンカチを携えて。
「汚れがついていますよ」
そう言って、秋巳の口元を優しく自分のハンカチで拭う。洗濯したての洗剤の香りだろうか、秋巳を安心させるような柔らかな香りが、その鼻腔をくすぐった。
「…………」
「…………」
刹那なにが起こったのか判らず、時を刻むのを忘れてしまったかのように固まる秋巳。と水無都冬真。
萩原睦月は、息を呑んだように、うわ、と小さく声が洩れただけであった。
「はい。きれいになりましたよ」
椿だけがその空気の中平然と、秋巳の口を拭い去り、終えると拭いた面をなかに折りたたむようにして、再びハンカチを仕舞う。
そして、なにごともなかったかのようにストローに口をつけウーロン茶を啜った。
そんななかいち早く回復したのは水無都冬真であった。
はっとしたように我に返った水無都冬真は、自分を指差し叫ぶ。
「つっ、椿ちゃん! 俺っ! 俺も! 汚れついてるよっ!」
「心は拭けませんけど?」
「うわっ! ひどっ!」
「ふふ。冗談です。睦月、水無都さんが口を拭いてくださいって」
「え? あ、あ、あたしが?」
「カモーン! 萩原ちゃん!」
両手の甲を彼女に向け、くいくいと傾ける水無都冬真。
「あ、じゃ、じゃあ、失礼して」
そう言って、自分のトレーの上にある紙ナフキンをニ、三枚取り上げると、おずおずと水無都冬真の口元に寄せる。
その間も、秋巳は固まったままであった。あとで椿のこの行為は、萩原睦月に水を向けるためのものだったのだろう、
と思い立ったのだが、この瞬間にはそんな余裕がなかった。
兄妹間のスキンシップなど、この四年間まずなかったのだから。
その後、四人でウィンドウショッピングや、ゲームセンタ、休憩に入った喫茶店においても、
椿は秋巳に対して、手をつないだり、肩に触れたり、一緒にプリクラ写真をとったりと、なにくれとスキンシップを図っては、
おなじようにするよう萩原睦月と水無都冬真に水を向けていた。
その日は秋巳にとって驚愕の連続であった。さすがに後半になってきて秋巳も大分落ち着きを取り戻し、
椿の行動の意図が読めたが、それでも心はざわついた。
つかの間の夢、しかも椿は単に演技でやっているのだと判っていても。
どうしても秋巳の手に取り戻したくて、でもどうしても取り戻せないと諦めていたことなのだから。
日も大分暮れて。夕焼けに染まる街並みを歩く四人。
そろそろお開きという段階になって、椿と萩原睦月が別に寄りたいところがあると、ふたりと別れることになった。
水無都冬真はそれにも付き合おうかと提案したが、萩原睦月が丁重に辞退し、水無都冬真と萩原睦月が携帯のアドレスを交換したところで、二組に分かれた。
そして、そのまま家路へと向かう秋巳と水無都冬真。
「おまえ、今日一日魂が抜けてたみたいだったぞ」
水無都冬真が秋巳をからかう。
「ごめん。今日、僕、なんか変なこと言ったりやったりしてた?」
「いーや。逆だな。なんもしてなかった。椿ちゃんに引っ張りまわされるままだったな」
「そう」
「ま、いいんじゃないの。椿ちゃんの目的も色々達成できたみたいだし。
俺がそれに応えるとは限らないけどね」
「萩原さんのこと、気に入らなかった?」
「いや。とってもいい娘じゃない? とても純粋だと思うよ。
さすが椿ちゃんの友達だけあるね」
「それじゃ、付き合ってみる気になったの?」
「おいおい。昨日今日でいきなりそんな答えが出るわけないだろ。
友達づきあいするのは吝かじゃないけどな」
「へえ」
じゃあ、望みはあるんだ。秋巳は思った。
水無都冬真が、柊神奈と付き合うことになるのか、それとも、萩原睦月なのか、はたまた椿であるのか。
秋巳は判らなかったが、水無都冬真には純粋に幸せになって欲しいと願った。
学校からとは逆方向から帰っているため、先に水無都冬真の家につき、そこで彼と別れると秋巳はひとり歩き思う。
夢の終わり――。か。
今日の秋巳は、まさに水無都冬真が指摘したとおり、夢見心地であった。
椿が自分にまるで仲の良い家族のように穏やかに接してくれる。微笑みかけてくれる。そう兄思いの妹のように。
なんど夢見ただろう。そんな光景が訪れることを。そして、なんど絶望しただろう。
椿は演技であった。
それは、秋巳は理解しているつもりだった。
家に戻れば、また、あのいつもの椿が帰ってくるのであろう。
それは判っていた。
だがいつかは戻ってくるんではないか。今日のような日が。椿が本心からさきほどのように接してくれる日が。
そんな希望を秋巳に抱かせるほどに、甘い夢であった。
* * * * * * *
秋巳と水無都冬真、そのふたりと別れた椿と萩原睦月は、喫茶店『ユートピア』に来ていた。
かつて、椿と水無都冬真が話をしていて、そこをたまたま萩原睦月が見かけた、そのときと同じ席で。
「椿。ほんとーに、きょうはありがとうね!」
まるで拝むかのように両手を合わせて、椿に頭を下げる萩原睦月。今日の余韻だろうか、彼女のテンションは先ほどから高いままであった。
「大げさよ。それにそんなことされたら、私がなにか、
睦月を脅してるみたいじゃない」
「いや! もうほんと! 感謝してます」
「もういいってば。そんなにされたらこっちが恐縮するわよ。
それに、そんなかしこまられるほど浅い仲じゃないと思っているのだけど?」
「ううん。椿のことが好きだから! だからこそだよ!」
顔を上げて椿を見つめる。
「それに、紹介してくれるだけじゃなくて、
今日も色々……その、チャンス作ってくれて」
萩原睦月が言っているのは、今日の椿の秋巳に対する態度のことであろう。彼女が色々水無都冬真に接触する機会を作ってあげるための。
「いいのよ。私が望んでることだし――」
「え?」
「睦月と水無都さんが仲良くなるのは」
「あ、ああ! ほんと、椿さまさまです。もう、椿に足を向けて寝られないね。
こんなことわざわざ敢えて言う仲じゃないって判ってるけど、
椿になにかあったら協力は惜しまないからね!」
「だから、いいの。睦月はいてくれるだけで。私のためになってるんだから」
「あはは。ありがとう。でも、今日、お兄さんずーっと固まってたよね。
椿の態度に。私も最初、びっくりしちゃったもん。
あの普段は凛とした椿が、こんなにお兄ちゃんっ子だったのかーって」
「そうね。あとでフォローしておかないと。
それと、今日のこと感謝してくるなら結果で返してね。
貴方と水無都さんの交際報告待ってるわよ」
「うーん。まだまだ道のりは遠そうだけどね。でも、頑張るよ!
いままで、三年以上想ってきたんだから、焦ることないよね」
「そうよね。頑張ってね」
椿は強く願った。うまくいくことを。
そしてそんな自分に気づいて、存外自身に余裕がないことを悟った。
以上。投下終了です。
読んでくれた方は、お疲れさまです。
GJ!
GJ!
だがしかし、妹の腹の内が全く読めねぇ……
色々策略練ってそうなのだが俺の非凡な頭じゃあ想像つかねぇ
しかしこう色々とあれこれ予想させられるのは良質な小説の証拠
続きを一日千秋の思いで待ちます。全裸で
GJ!!!
未だ本性を見せない椿。
病む要素満載の神奈。
手駒にされそうな睦月。
一癖も二癖も隠してそうな弥生。
全取り出来そうな冬真。
展開予想が出来ません。
誰かタイムマシーンを下さい。
秋巳視点の寝取り描写があるなら、注意書きをお願いします。
>>176 ここは寝取り寝取られスレじゃないぞ?
しかしほんとに妹の目的は何なんだろね?
GJです!
ハンカチと紙ナプキン……この差は大きい。
表現とかがそこらの小説より上手いかも…
超グッジョブ!
すごく続きが気になる!
今のところキモウト小説らしくないのが不安。
椿は睦月を冬馬に嗾けるのを理由すれば兄との過度なスキンシップも許容されるって考えてるじゃね?
短いのを書いたので投下します。
186 :
ある朝の風景:2008/01/21(月) 01:01:59 ID:SU+72IKd
「和也。朝よ、起きなさい」
優しい囁き声が吐息と共に耳をくすぐる。体が緩やかに揺すられるのを感じながら、和也は薄らと
目を開けた。
視界に映っているものは見慣れたものばかりだ。いつも通り綺麗に清掃された自分の部屋と、その
整然とした部屋を背景に柔らかい笑顔を浮かべて自分を見下ろす姉、円の姿。いつも通り、エプロン
を身につけている。和也がぼんやりと目を開けているのが分かっているはずだが、弟の体を軽く揺す
るのを止めなかった。和也が緩やかな揺れを感じるたび、円の長い黒髪がかすかに揺れてひそやかな
音を立てた。
「ほら、起きなさい、和也」
急かすでもない、のんびりとした口調だった。表情もさして慌ててはおらず、長い睫毛に縁取られ
た両目は微笑ましげに細められているし、形のいい唇も同じような笑みを作っている。
「もう起きてるよ」
何とか口から出た声はひどく掠れていた。起き抜けはいつもこうだ。円はさらに目を細める。和也
の体を揺するのは止めなかった。
「ダメよ。ちゃんと体を起こして部屋から出て、朝ごはんを食べて学校に行く支度を整えて……そこ
までやって、初めて『起きた』って言えるの。いつも言ってるから分かるでしょう、和也」
ほんの小さな子供に言い聞かせるような、ゆったりとした口調である。和也は唇を尖らせた。
(いつまで経っても子ども扱いだもんな)
「分かったよ」と答え、布団を除けながら体を起こす。すると、円が口元に手をやって、おかしそ
うにこちらを見た。
「なにさ?」
「ううん。元気だなーと思って」
嫌な予感を覚えて円の視線を辿ってみると、股のところで寝巻きがテントを立てていた。和也は悲
鳴を上げてベッドから飛び降りた――布団で隠そうとしても引っぺがされることが分かりきっていた
からだ。そんな和也の慌てぶりを見て、円は堪えきれずに吹きだした。
「そんなに慌てなくてもいいのに。可愛い象さんじゃない」
「そういう表現は止めてくれ!」
文句を言いながらドアノブに手をかける。焦っていたせいか、一回ノブを捻る方向を間違えた。ド
アを開いて部屋から出て行こうとしたところで、背後から呼び止められた。
「朝ごはん、テーブルの上に用意してあるから。ちゃんと食べるのよ」
「ありがと」
「どういたしまして。お姉ちゃんは、この部屋を軽く掃除してから行くから」
「分かった」
円が和也を起こしたあとで部屋の掃除をするのは、長く続けられている慣習のようなものだった。
と言っても、部屋の掃除は毎日他の機会にも行われるので、毎朝繰り返す必要がないぐらいには綺麗
なはずだ。
(それでも絶対毎朝掃除するんだよな、円姉ちゃんは。おかげで俺の部屋は埃一つ落ちてない。あ
りゃ綺麗好きってよりは清潔好きってレベルだよなあ)
そんなことを考えながら階段を下る。
和也としては、円の掃除を止めるつもりはさらさらなかった。部屋が片付いているのはいいことだ
し、円は弟のプライバシーを尊重して、机の中を覗いたりはしない。要するに健全な男子諸氏なら必
要不可欠なある種の雑誌等を隠しておくのは容易ということである。彼らの家は片親で、唯一の保護
者である父は海外出張中。家に残っているのは円と和也と、妹の茜だけだ。茜は今年で中学二年。意
図的に兄を避けるような年頃なので、勝手に部屋に入ってくることもない。
要するに、女衆に見られるのは少々恥ずかしいカラー書籍類を見られる心配はしなくてもいいということだ。
(姉さんは真面目で、その辺きっちりしてるもんな。あれだけ信頼できる人も珍しいよ、ホント)
ダイニングのテーブルには既に茜が座っていた。ショートヘアーに伏目がちの瞳。いつも通りもう
通学する準備を済ませているようで、皺一つないセーラー服に身を包んでいる。左手に茶碗を持ち、
右手の箸を無駄なく動かして黙々と食事をしている。兄を待つ気はさらさらないらしい。「おはよ
う」と挨拶しても「ん」という返事が返ってくるだけで、実に淡白だ。
(ま、この年頃の女の子ってのはこういうもんだって言うし、別に気にすることでもないか)
和也は特に文句も言わず椅子に座り、円が腕を振るった朝食を、妹同様黙々と食べ始めた。
187 :
ある朝の風景:2008/01/21(月) 01:03:03 ID:SU+72IKd
自分の背後でパタンとドアが閉まり、弟の足音が遠ざかっていく。それを確認して初めて、円は気
を緩めて深く息を吐き出した。全身から力が抜けて、思わず床に膝を突いてしまう。激しく高鳴る心
臓を落ち着かせるため、その場で数十秒ほども深呼吸をして待った。
手を見ると、親指と人差し指の間の肉に、赤い歯型がついていた。先程和也の朝立ちを目撃したと
き、口元に手を当てて笑う振りをしてずっと噛んでいた跡である。そうでもしなければ、ある衝動を
抑えていることが出来なかったのだ。
(ああ、和也……あんなにたくましくなって……)
先程の光景を思い浮かべて、円はうっとりとする。危ないところだった。咄嗟に手を噛まなければ、
我を忘れて弟を押し倒していたかもしれない。
(そんなことをしてはダメよ、円。和也はわたしのことを綺麗好きで真面目なお姉ちゃんだと思って
いるんだもの。こんなことを考えているのがばれたら、絶対に嫌われてしまうわ)
それは円にとって、最も恐れるべき事態だった。もしも不気味がった和也が家を出てしまったりし
たら、自分は発狂して死んでしまうかもしれない。そこまで深刻に考えているし、実際それに遠くな
いことにはなるだろうと確信してもいた。
(そうよ。和也の前では自嘲するの、円。たとえあの子が我慢しきれないぐらいに愛しいとしても)
そう念じて表情を真面目なものに変えた円だったが、和也の寝顔と先程の朝立ちが脳裏に蘇った途
端、毅然とした表情は一気に崩れ去った。自分でもそれが分かるほどだった。
「しっかりしなさい!」
短く叫びながら、思い切り頬を叩く。乾いた音がして、なんとか理性が戻ってきた。こんなことが
必要になったのもごく最近のことである。気付けば、弟に向けられる劣情が抑えきれないほど高まっ
てしまっていた。もしかしたら、近い内に本当に抑えきれなくなるかもしれない。そう考えると、円
は胸は重くなった。
(可哀想な和也。こんな薄汚いお姉ちゃんと一緒に暮らさなくちゃいけないなんて)
だが弟への同情と憐憫に浸っている暇はない。
円は和也が先程まで寝ていたベッドのそばに近づいた。ベッドメイキングをするためでもあるが、
真の目的はそんなことではない。
ベッドは和也が布団を跳ね除けたままになっており、空になった敷布団に、弟が寝ていた跡が見て
取れる。その凹みに、円は唾を飲み込みながら腕を伸ばした。腕は自覚できる程度には震えていた。
そっと敷布団に触れた手の平に弟の温もりを感じたとき、円の胸に狂おしいほどの熱が湧き上がって
きた。その熱狂的な情動の命ずるまま、床に膝をつけて敷布団の上に突っ伏す。頬擦りしながら鼻息
を一杯に吸い込むと、かすかに汗の臭いを感じ取ることができた。
(和也の臭いがする)
目を閉じて浮き上がるような幸福感を感じたあと、円はすぐに体を起こした。掃除と偽って和也の
部屋に居残るのは、何もこれだけが目的ではなかった。むしろ、これはほとんど前準備のようなもの
である。
円はエプロンのポケットからあるものを取り出した。ジッパーのついた小さなビニール袋と、すっ
かり使い慣れた感のあるピンセットである。それぞれを手に持ち、ベッドの隅々まで視線を走らせる。
「あった!」
小さく歓声を上げて、円はピンセットを持った右手を敷布団の一角に伸ばした。そこに、黒い毛が
一本落ちている。髪の毛ではない。和也の髪の毛はストレートだったが、その毛はひどく縮れていた
のだ。言うまでもなく、陰毛だった。ピンセットでそれをつまみ上げ、ビニール袋の中に入れる。他
にないかと探してみたが、それ一本だけだった。残念に思うと同時に、どうしようもない自己嫌悪の
念で頭がクラクラした。
だが、自分は一体何をやっているんだろう、と思いつつも、手は大事にそうにビニール袋のジッ
パーを閉め、エプロンのポケットの中にそれをしまいこんでいる。
この行為を円が始めたのは、一ヶ月ほど前からだった。
188 :
ある朝の風景:2008/01/21(月) 01:04:38 ID:SU+72IKd
その晩、円はどうしても寝付けずにいた。布団の中に入っていても、自然と頭の中にあることが浮
かんでくるのだ。それは一本の竿と二つの玉を含んだ袋で、多くの縮れ毛に覆われている物体である。
要するに、和也の股間を直に見てみたいという願望が急激に高まりつつあったのだ。
その夜は本当に危険だった。もう少しで寝ている和也の部屋に忍び込んで彼のズボンを引っ張り下
げていただろう。弟の部屋のドアノブを握ったところで何とか踏みとどまり、何度も何度も冷水で顔
を洗ってようやく欲望を押さえ込んだのである。
その日以来、円はこうして和也の陰毛を収集するようになった。部屋の机の引き出しの一番奥に仕
舞いこんで、たまに取り出しては眺めてうっとりして妄想に浸るのだ。たまには……というか、大体
自慰もする。
姉がこんなことをしていると知ったら和也はどう思うだろう、と考えると、情けなさと恥ずかしさ
で死にたくなる。
しかし円には愛する弟から離れることなど考えられないことであり、同時に弟に嫌われることも弟
を傷つけることも、絶対に避けるべき事態だった。
つまり、彼女は自分自身の欲望から、愛しい弟を守らなければならなくなったのである。それは日
に日に高まる弟への劣情と、大切な家族と一緒にいたい、守りたいという姉としての理性との戦いだった。
欲望と戦うために、彼女は日々こうした代替手段に励んでいるのである。洗う前のパンツの臭いを
嗅ぐこともあるし、和也が使ったあとの食器をこっそり舐めることもある。
円は、自分がこういう状態になって、初めて男性が卑猥な本などを必要とする理由を知った。こう
いった欲望は何らかの形で発散させなければならないのだと痛感したのである。さもなければ劣情の
対象に直接叩きつけるしかないのだから。
(ごめんね、ごめんね和也。お姉ちゃん、頑張ってこの気持ちを抑えるから。だから、まだ和也のそ
ばにいさせてね)
心の中で弟に侘びながら、円は少し泣いた。
そうして気がついてみると、かなり時間が経っていた。そろそろ、弟が食事を終える時刻である。
円は涙を拭いて、クローゼットの中から和也の制服を取り出して部屋を出た。
階下へ降りると、ダイニングのテーブルには妹の茜だけが座っていた。和也の席には、ほぼ全てが
空になった茶碗と食器が残されている。
「和也は?」
「トイレ」
茜は素っ気なく答える。
和也がトイレに入っている、と聞いて、また変な妄想が膨らみそうになるのを、円は寸でのところ
でこらえた。先程欲望を発散したせいで、いくらか理性が優勢になっている感覚がある。和也の制服
をハンガーごと壁のフックに引っ掛けながら、円は肩越しに茜を見やった。
彼女自身も既に食事を終えていた。食器はもう片付けられていて、茜の前には何もない。その何も
ないテーブルの上に肘をつき、茜は静かにテレビのニュースを眺めていた。
この、年の割には少々静か過ぎるぐらいに無感情な感じのする妹が、円にとっては最後の希望で
あった。いよいよ欲望を抑えきれなくなったときは、茜に全てを打ち明けて、自分を止めてもらうつ
もりである。
(自分から和也から離れるなんて、わたしには耐えられそうにないもの。万が一のときは、無理矢理
茜に追い出してもらわなくちゃ)
自分よりもずっと冷静でまともな妹を見つめながら、円は己の情けなさにそっとため息を吐いた。
異常な姉の目から見て、この妹は実に冷静だった。何故自分はこんな風になれないのだろう、とた
まに激しい自己嫌悪に襲われるほどである。
(でも、それがわたしの助けになってくれる。茜はきっと、こんな姉を軽蔑して、和也から引き離そ
うとしてくれるわ)
テレビを見つめる茜の横顔に、円は言いようもない安心感を感じていた。
それからしばらく経って、和也がトイレから出てきた。その間の弟の姿を想像しないように努力し
ながら、円は笑顔を作って和也に制服を差し出す。視界の隅で、茜がトイレに向かうのが見えた。
189 :
ある朝の風景:2008/01/21(月) 01:05:31 ID:SU+72IKd
トイレに入った茜は、挙げられたままの便座を見つめながら、じっと耳を澄ました。遠くの方から
姉と兄の会話が聞こえてくる。近くに人はいない。
そう認識した途端に、心臓が急に早鐘を打ち始めた。はやる気持ちの命ずるまま、トイレの床にペ
タンと座り込み、両手で便器にしがみつく。顔を近づけると、姉の手で綺麗に磨き上げられた白い便
器に、薄黄色の液体が付着しているのが見て取れた。かすかな臭いが鼻腔を刺激する。頭が沸騰した
ように熱くなった。茜は舌を伸ばして、その液体を丹念舐め取った。便器の冷たさと同時に、兄の味
が舌に伝わってくる。
(お兄ちゃん、お兄ちゃん)
心の中で狂おしく兄を求めながら、茜は便器についた黄色い液体を残らず舐め取った。問題は味で
はなく、こういった行為をすること、そのものだった。しかも、茜が便器に舌を這わせている間、そ
の耳には姉と兄の会話が遠くから聞こえていたのだ。二人は自分がこんなことをしているなど微塵も
想像しないだろう。体が芯から熱くなってきた。
茜はもう一年ほども前から、姉や兄に隠れてこんなことを続けていた。最初は確か、兄が昔使って
いたリコーダーを思う存分しゃぶりつくすことから始めたのだと記憶している。それから靴下を盗ん
だり靴の臭いを嗅いだりして、今はとうとう便器である。こうした行為が茜にもたらす快感は例えよ
うもないほどで、止めようと思っても止められない魅力があった。無論、その異様さも自覚してはい
たので、茜はかなり慎重に、こういった行為を重ねていた。
最近では、兄にばれるのが恐ろしくて、まともに彼の顔を見ることすら出来なくなっていた。それ
もあってわざと素っ気ない態度を取っており、おそらく兄には嫌われているだろうと思う。だが、こ
んなことをしていると気付かれるよりは数十倍マシというものだ。
茜は自分の気持ちが落ち着くのを待ってから、そっとトイレを出た。ダイニングに戻ると姉が食後
の紅茶を楽しんでいるところだった。茜に気付き、穏やかに微笑む。
「あら茜。お兄ちゃんはもう出ちゃったわよ。あなたも急ぎなさいな」
「分かってる」
努めて素っ気なく返しながら、茜はちらりと姉の顔を見る。その顔は実に淑やかで、余裕があった。
長い黒髪に優雅な立ち姿の姉は、何をやっても絵になる。それに比べて妹の自分はどうだろう、と考
えると、茜は恥ずかしさのあまり自殺したくなるのだった。だが同時に、それが希望でもある。
(もしもわたしがお兄ちゃんに直接何かしたくなったりしたら、お姉ちゃんに全部話して止めてもらおう)
優しくも潔癖な姉は、きっと妹の異常な行為を激しく非難し、大切な弟と一緒にいさせないように
何らかの対策を講じてくれるはずである。
そう考えると幾分か気が楽になり、茜は姉に「行ってきます」と一声かけて、鞄片手に家を出た。
「美人姉妹と二人暮しとは、実に羨ましいねー、和也よ」
学校に着くと、いつも通り悪友にからかわられた。和也としては苦笑するしかない。
「何言ってんだ、別にいいことなんか何もないよ」
「嘘つけよこの幸せ者め」
「本当だって。姉さんは未だに俺を子ども扱いするし、妹は最近ろくに口も利いてくれないしさ。何
も起こりっこないって」
「んなこと言って、家ではエロエロなんじゃねーの?」
「あのな」
ひどい誤解だ、と和也はため息を吐いた。
「俺の方も二人の方も、そういう変な気は全然ないよ。あんなのは漫画かなんかだけの話だって」
真面目な姉と無表情な妹の顔を思い出し、和也は肩を竦めるのだった。
おしまい。
女の変態を書くのはどうしてこんなに楽しいんだろう。
>>190 GJ!!!!
変態姉妹万歳\(^o^)/
(σ゚∀゚)σGJ
続けてくださいお願いします
GJ
妹が我慢できなくなって姉に相談したら姉もリミットギリギリで妹に相談しようとしてて、
ついには二人で押し倒してしまうシーンが普通に想像できた
頼む…続けてくれGJ
gj過ぎる…
ところで皆さんは姉と妹どっちが好み?
ちなみに俺は両方。
思わず「キモッ!」って言ってしまった。超GJ!!
やはりキモ姉妹は異常なくらいキモイほうが良いな。
……オレダケジャナイヨナ?
>>196 当然妹に……あれ?こんな朝早くから誰だろう?
>>190 GJ!
姉も妹も、ちゃんと弟(兄)のことを考えて
自分は身をひく覚悟があるんだね。
そこがすごく素敵だと思った。
アネ7:イモ3くらいかな
>>198 開けるんじゃない!!
姉「・・・」
198「w・ぁfgwg;あlwk!!」
遅かったか・・・(ノД`)
グッジョブ!
なんという自分をわきまえたキモ姉妹
最高だわ
続きをかいてください!
お願いします!!!
そうか、私に足りないのはこの変態性なんだ…修業しよう…
205 :
名無しさん@ピンキー:2008/01/21(月) 21:02:34 ID:ozTDIw0+
ここまでのキモ姉妹は久しぶりだ…GJ!
頼むから続けてくれ〜〜
GJ!!
最高以外に言葉が見つからないわw
この姉妹最高すぎるw
しまった。
便器に飛び散った小便舐め取りは、こないだトイレで自分の小便が便器に飛び散るの見て俺も思いついた。
で、ちょっとしたら自分の作品で使う予定だったのだが遅かったようだな。
やっぱり同じこと考えるのか、この変態めww
「兄さん、この本について説明して頂けませんか?」
妹が指差すそこには、俺が集めた秘宝、個人的趣味で集められた女神達が並べられていた。
その日、帰宅した俺を出迎えたのは、怒りで顔を朱く染めた妹様だった。
言葉を発する機会もないまま、リビングに連行され、今に至る。
妹は、躾に厳しい両親の影響で、普段から礼儀正しく丁寧な言葉遣いをするのだが、それが怒った時に迫力をもたらす。今がその状態だ。
「これはその‥、俺も思春期、ということデシテ‥」
「そんな事を聞きたい訳ではありません!」
妹の罵声がリビングに響き渡る。
視線を俺に固定したまま、一歩一歩と迫ってくる妹‥、
それなりに長身な上、二つのデカい膨らみもあるものだから、有無を言わせない威圧があり、‥正直、怖い。
「私がお伺いしたいのは本の中身についてです!」
何か抑え切れないモノを感じさせる声…。
何だろう、そこまでの事を俺はしたのだろうか。
本の中身、言うまでもなく、エロ本だ。だが、近親相姦やSM、ロリコン等の特殊性癖がない俺が持つエロ本は、出てくる女神の特徴を除けば、普通の品々なハズ‥。
妹が本のタイトルを読み上げ出す。
「貧乳女教師‥無乳に近い彼女‥ツルペタコレクション‥」
読み上げる度に目が血走っていくような、握りこぶしが硬くなってるような‥。
「揚げ句の果てに‥、微乳‥なお姉さん…!」
最後の一冊を読み上げる時には、口から血を流してた。
「兄さんは一体、何がしたいのですか!」
口から血をながした般若の表情で、二つの大きな膨らみを揺らしながら妹が叫ぶ。
「兄さんが私に何を求めているのか教えて下さい!」
「この胸は兄さんの為に努力して大きくしたのですよ!」
「兄さんに触れて貰えばそれだけで絶頂出来るほど、感度もいいんです!」
「それなのに‥ソレナノニ‥」
妹の取り乱しぶりに、俺が何も言えず、何も出来ずにいると、妹が急に冷静になった。
「分かりました。」
「包丁を取って来ますので、それで兄さん好みの大きさに切り揃えて下さい。」
その言葉に思考停止する俺‥。
「まて、マテ!馬鹿な事を考えるな!」
本当に包丁を取りに行こうとした妹を押さえて叫ぶ。
「包丁が駄目なら鉋で削って下さい!」
「いや、そういう問題じゃなくて‥」
「兄さんが小さい方がお好きなら‥私は出来ます!」
「ダ、ダメだって‥」
「大きくなった胸を‥それ以外でどうやって小さくしろと言うのですかー!」
リビングに妹の絶叫が響き渡った。
あの後、俺は妹に対し、二度とあんな本を買わない、一日一回はスキンシップをとる、休日に遊びに連れて行く、との約束する事で、何とか妹を宥める事はできた。
だが妹よ、一つだけ分かって欲しい事がある。
俺は貧乳マニアではない。巨乳が怖いのだ。
その理由を察して欲しい。
支援しとく?
そこの妹さん。アメリカの美容整形には、でか過ぎる胸を小さくする施術があるよ。
いや、マジで。
脂肪吸引ってやつだね!きゅういんきゅういん!
それとは別。「乳房縮小術」でぐぐってみて。というか、最近は日本でも結構やってるね
…スレ違いだな。以下何事もなかったようにキモな世界をどうぞ。
ケータイからですいません。初投下させていただきます。とりあえずプロローグです。
215 :
名無しさん@ピンキー:2008/01/22(火) 20:13:35 ID:+mnsNoUH
何か文が長すぎるってerrorが出た…orz出直してきますノシ
分割しればよろし
ガンガレ!
深夜。
喉の乾きを覚えて目を覚ました。腹部を掻きながら冷蔵庫を開ける。
「あ…」
そういえば飲み物は全部切らしていたんだっけ…。田舎育ちの僕には都内の水道水はマズ過ぎた。カルキ臭い、というのを身を以て知った。
「仕方ない、何か買いに行くか…」
ジャージの上からダウンを羽織ると、外へと出た。ドアがぎしり、と音を立てる。安いだけあってあちらこちらが痛んでいるのだ。隣人を起こさぬよう静かにドアを閉めた。
季節は三月。
まだまだ外は寒く、服の隙間から寒風が忍び込む。コンビニまでは歩いて五分。温もりを求めて足は早まる。深夜だけあって普段は賑わう道も静かだ。耳元で唸る風の音がはっきりと聞こえる。それが余計に寒気を増長させる。
街灯すら無い真っ暗な裏道へ。ここがコンビニへの近道。この道路を渡ればゴールは目の前だ。コンビニの無機質な光がぼんやりと見える。
そこで突然、
僕の視界は
揺れた。
一瞬視界が青い光に包まれた。その後世界は急速に色褪せていった。
「掴まえた…」
意識を手放す寸前、懐かしい声が聞こえた。
―――チュン、チュン…
雀の鳴き声が僕の意識を引っ張り出す。もう少ししたら目覚ましが鳴るだろう。いつもの一日が始まる。朝の寒さは強烈だ。布団を引き寄せようとして、
「あれ…?」
手は空しく宙をかく。使い古して少し薄くなった毛布のいつもの感触が無い。うっすらと目を、開けた。
「おはよう、たっくん」
おかしい。
僕の部屋には同居人なんかいない。
こんな生々しい肉声の目覚まし時計も無い。
ようやく頭が動きだす。急速に目の前の風景が情報化されていく。
一面クリーム色のタイルの壁。
ミントグリーンのタイルの床。
そこからインディゴのデニムに包まれた足が生えている。
見上げた先にはデニムジャケットを羽織り、赤いキャップを無造作に被った女性の顔。
「も、萌姉ちゃん…なのか?」
キャップを脱ぐと、豊かな黒髪がさらりと流れ出す。小振りな唇を少し歪ませて。
大きな瞳には少し潤いを伴って。
彼女は笑った。
「久しぶりだね、たっくん」
どくん。どくん。心臓が飛び上がるように拍動する。あまりの勢いに体が内側から破裂しそうだ。
―――何でここにいる!?親父は!?花苗(かなえ)さんはなにやってんだ!?
僕の狼狽は情けない程顔に出ていたのだろう。姉ちゃんは心配顔でこちらに一歩踏み出した。
キュッ
スニーカーのソールとタイルが擦れる音。体が自分の意思と関係なく、びくりと動いた。
ジャラッ…
…ジャラッ…?
音は自分の右手から聞こえた。目を向ければ右手と銀色の手すりが、素敵な銀色のアクセサリーで繋がれていた。
勿論、皮肉だ。
「なんだよこれ…」
周囲を改めて見回す。
白い壁。
緑の床。
頭一つ分くらいの大きさの丸窓。
立ち込める既知の異臭。
ピカピカに磨きあげられた便座。
今僕がいる空間は、いわゆる公共の障害者用トイレの中で。
そこには今、僕と萌姉ちゃんと、そして床に座り込んで昏々と眠る義妹がいて。
入口のドアにはつっかえ棒、右手には手錠。
僕は、監禁されていた。
プロローグ投下終了です。
>>216さん、ありがとうー。
いいぞ、もっとやれ!
これは期待
>>208 >俺は貧乳マニアではない。巨乳が怖いのだ。
落語に「まんじゅう怖い」と言うのがあってだなぁ
ここらでひとつ、手からはみ出さんばかりのやわらかおっぱいが怖い
「…あなたが捨てたのは、キモ姉の貧乳パイズリですか?それともキモウトの唾液たっぷりフェラですか?」
「いいえ、キモママの裸エプロンご奉仕です」
「正直者の貴方にはご褒美としてキモ従姉妹とキモ再従姉妹(はとこ)の一族どんぶりを差し上げましょう」
民法第734条
直系血族又は3親等内の傍系血族の間では、婚姻をすることができない。
ただし、養子と養方の傍系血族との間では、この限りでない。
兄妹(姉弟)は2親等の傍系血族ですから、基本的には結婚できません。
2行目は片方が養子とか連れ子同士とかの場合は、結婚しても良いよという意味です。
……さあ、義理姉、義理妹の皆さん。婚姻届を持って最寄りの市役所にGo!
実姉、実妹の待ち伏せには十分注意してね。
まあ、実際のところ、従姉妹以上の場合は家族ぐるみのつきあいがない限りは
一生他人で終わるケースも少なくはない。
そういえばおじさん家族と十年近く会ってないなぁ
従姉妹のお姉ちゃんがいたけどまだ結婚してないはず
おまいらに質問
オリジナル設定入れるのあり?
>>232 お前は何を言っているんだ。ここにオリジナルじゃない作品があるか?
むしろパロ系の方がスレ違いみたいな感じなんだぞ。
キモ姉、キモウトがいればなんでもありだ
キモ分薄し短しですが、投下
ワクテカ
237 :
女王の不在:2008/01/23(水) 15:42:46 ID:VIX6NqTO
「これで終わりですね」
木彫りの駒が盤上に置かれ、カツン、と部屋の壁に乾いた音が反射された。
「む・・・」
平面を走る縦横の線で構成された升目。
その一つに配置された騎士の役割を頭の中で計算し、
相手の布陣を加味して突破できるかシミュレートしてみる。
結果は、不可能。
「相変わらず容赦ねえな」
駒の一つを移動。
一番手放したくない駒を生贄にして昇格した兵隊を下げる。
「ふふ。悔しがる兄さんの顔も素敵ですから」
上品に笑いながらも対岸の軍師が軍配を降り、配された駒が差し出した犠牲者と重なった。
唯一の女王が僧侶に討ち取られる。
思わず溜息が出たのに遅れて気付き、せめてもの抵抗と相手を軽く睨み付ける。
「そんなに怖い顔をしないで下さい」
そう言うくせに顔は笑ったままだ。
ひょいっ、と上げられた首級を摘んでぷらぷらの俺の前で降ってみせる。
「見せ付けてるのか」
「はい」
にこりと笑ってから勝ち取った女王をあっさりと背後に放り投げる。
からからと、升目のない床を黒色の女王が滑って行った。
「おい、やめろよ。壊れたらどうするつもりだ。
大体、何だっていつもいつもお前はそう俺のクイーンばっかり狙うんだよ」
「別にいいじゃないですか。あんなもの」
遊戯の道具にする仕打ちではない。
チェス盤から投げ出された自軍の駒に、盤面を挟んで向かい合う妹を咎める。
が、相手は悪びれた様子もない。
「そもそも、チェスに女王の駒があることがおかしいんですよ。
唯一の女性でありながら他のどの配役よりも強力で万能な割り当てだなんて不公平じゃないですか。
おまけに王が同じ盤面に存在する以上、この場合の女王は君主じゃなくてただの王の妃という意味ですよ?」
言いながら、視線は開始早々に俺へとプレゼントした自軍の白色の女王へと向いていた。
「孤閨を守っているのか妊婦なのか一児の母なのかまでは知りませんが、そんな駒が最強というのは間違っています。
まだ王子か宰相、軍師や将軍の駒でも入れておけばいいのに」
腰を回し、後ろに伸ばした腕で転がった女王を拾う。
238 :
女王の不在:2008/01/23(水) 15:44:39 ID:VIX6NqTO
「こんな女、兄さんには不要なんですよ」
憎憎しげに呟いて、
既に討ち取られて相手側で屍を重ねている俺の駒達の中へと顔の高さからそれを突き入れた。
女王に踏み付けられた兵士達が散らばり、からからと四方へ転がって行く。
「チェス盤の上にまで女は要らないんです。
いえ、そもそも盤上にはたった一人、王様だけが立っていればいい・・・・・・そうは思いませんか? 兄さん」
「それじゃチェスにならねえだろ」
覗き込むようにじぃっと視線を向けてくる妹に、呆れが吐息になって口を出た。
妹の女王嫌いは今に始まったことでもないが、何故こうも上手いくせにズレたことばかり言うのか。
最初に女王を吶喊させて差し出すように討ち取らせ、
その癖に最強の駒を失ったハンデ付きのままにこっちの同じ駒を取り、最後には圧勝。
自分で言うのも何だが俺だって結構やり込んでいるのにまるで勝てない。
女王を使わずに女王を狙うという変なこだわりを持たずに指せば果たしてどれだけ上手いのやら。
想像するだに溜息が出る。
「まあいいでしょう・・・・・・ふふ。まだ肩を落とすには早いですよ、兄さん。
チェックはかかってないんですから、ちゃんと対戦相手の私に集中して下さい。
この間はそれなりにいいところまで行きましたから、頑張れば勝てるかもしれませんよ?」
「わかってるよ」
何度か似たようなことを言われているが、ここ暫く勝ったためしはない。
いっそ諦めれば楽かもしれないが、こっちにも兄としてのプライドがある。
妹が止めるか、俺が妹に勝つまでチェスは止めない。
密かに決めていることである。
駒を一つ、手にとって敵陣へと進めた。兵の足が戦場に触れ、かつんと再開の合図が響く。
そして俺が手を離すとすぐに妹の手が伸びた。見ると、何が嬉しいのかくすくすと笑っている。
「それでこそ兄さんです」
言いながらの一手に早速、呻きそうになった。
こっちとしてはなかなか厳しい手だ。
「それでは、勝負が付くまでは私に付き合ってくださいね? 兄さん。私は幾らでも待ちますから」
腕を組んで長考の体勢に入った俺に、にこにこと笑顔を向けてくる。
妹は俺がどれだけ長考しようと文句を言わない。
うんうん唸っている俺を見るのが楽しいとかで、
長ければ一局を指し終えるまでに合計で数時間もこちらを観察していることもある。
勝てないことに加えてスパっと切り返せない自分の実力が恨めしい。
適当に返すとちょっと凹むくらいに負かされるので、安易な手は打てないのだ。
「むう・・・」
「ふふふ」
渋面の俺を楽しげに見詰める妹。
非常に悔しいが、この対面の図はすぐには終わりそうもなかった。
投下終了
忙しい中でたまにこのスレを見る一時が至福です
きっと女が居るパーティーの冒険の書を消して、代わりに全員男のセーブを用意してるんだろうなぁ、妹。
>>239 GJっす
きっと兄は誓いがある限り、一生妹に勝てないだろうなぁ…
>>241 むしろ、自分の名前を付けた女キャラとの強制二人旅データを作成だろう。
プロローグ書いてた者です。1話目投下しまーす。あとタイトルつけ忘れてたので次からつけます。
246 :
監禁トイレ@:2008/01/23(水) 19:06:00 ID:mpPDFfcM
桐生 萌(きりゅう もえ)と桐生 蕾(きりゅう つぼみ)は双子の姉妹だ。一卵性双生児の二人は容姿が似ていた。いや、似ていたどころか同じだった。同級生、親友、果ては母親にさえ見分けがつかないほどに。二人は個性を求めない。
髪型の分け目を変えたりしない。
服の趣味を変えたりしない。
口調を変えたりしない。
微々たるものであれ、差別化を図ろうとはせず、むしろすすんで足並みを揃えていた。姉は妹を自身の一部と見なし、妹も姉を半身と考えていた。
このまま仲睦まじい姉妹として生きていくのだろう。誰もがそう思っていた、本人達でさえも。
「あぁ…ようやく会えた…」
姉ちゃんは蕩けた笑顔で僕の頬に右手を添える。彼女の綺麗な指が頬を伝って顎へと下り、今度は顎から頬、そして頭までを撫であげる。
「痛ッ!」
指が側頭部に触れた時、チリッと痛みが走る。思わず声を上げてしまった。
「ごめんね、深くないからすぐ治るよ」
萌姉ちゃんが言う。
あんたか、昨日僕を殴ったのは。
知らず知らずのうちに目線が険しくなっていたのだろう(というか当然だ。僕はそこまでマゾじゃない)、姉ちゃんの顔が曇る。
「そんなに怖い顔をしないで…」
「平然としてられる方がどうかしてるんだよ!!何なんだ!何でこんな事するんだよ!!早くこの手錠を外してくれ!!」
「だからそんなに怒らな…」
「なら怒らせないでくれよ!蕾ッ!!お前もいつまで寝てんだよ!!さっさと起き…ろ゛ッ!?」
萌姉ちゃんの手が、いきなり頭に爪をたてる。昨夜殴られた場所を適格に抉り、潰し、捩り、掻き毟る。
「あ゛あ゛あ゛ッ!!やめて!やめてよ姉ちゃんッ!!」
「たっくんがいけないのよ。何で蕾に話しかけるの?何で私じゃないの?他の女なんか見ないでよ。私以外を見ないでよ。今は、私だけを、見て」
がり、がり、がり。
爪が頭に食い込む。左手は姉ちゃんの左手に物凄い力で掴まれ、足をじたばたさせるくらいしか抵抗ができない。
「わ、わ、分かったから!!やめて!!頭が・・血が・・・ッ!!」
何を言おうとしたいのか自分でも分からない。
萌姉ちゃんはどこまでも無表情。機械的に頭をいじくり回す。
「やめ・・・」
僕はほとんど泣きそうになっていた。というか泣いていた。
「ごめんなさい、は?」
彼女が低い声で呟く。
「ごめんなさい!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
激痛はぴた、と治まり、一瞬だけ頭から何かが抜けるような感触。爪はかなり深く食い込んでいたようだ。
「ハァッ、ハァッ…っく…」
酸素を求めて激しく呼吸する。涙を流したせいか、鼻が詰まって息をするのももどかしい。
「ん、ちゃんと謝れたね。偉い偉い」
萌姉ちゃんはそう言いながら僕の膝の上に座ってきた。
「血、出てるね」
ええ、そうですね。あなたが殴った後、さっき掻き毟ってくれましたからね。
忘れていた。そういえばこの人は昔からこうだった。
僕がクラスの女の子とメールアドレスを教えあった時は両頬をひっぱたかれた。
別の子から告白された時は断れ、と詰め寄り首筋を思い切り噛まれた。
蕾と二人で買い物に行った時などは肉切り包丁で襲いかかってきた。
そして多分、彼女の暴力は僕だけに振るわれたものではない。アドレスの時も、告白の時も、僕が後日会いに行くと女の子達は悲鳴を上げて逃げて行ったから。
蕾を除いて。
そのくせ姉ちゃんは指示に従えば、今のように満面の笑みを浮かべて僕にすり寄ってくるのだ。激痛が引くと次はじわじわと鈍痛がやってきた。
ちゅぱ…
「も、ももももも萌姉ちゃんっ!?」
「んふぅ・・ちゅぅ、ちゅぅ、ちゅぷっ・・」
姉ちゃんが出血したところを舐めてくる。いや、舐めるというよりこれは・・・吸っている。
「ちょ・・・!!何をしてるの!やめろって!!」
このまま身を任せたら色々まずい。主に下半身が。
「んー…ちぅ…じゅぱっ」
僕が手で彼女の頭を無理矢理引きはがした。激しく吸い込んでいたようで、唇が離れる瞬間、もの凄い音がした。
「一体何がしたいんだよ…」
血を吸われたせいではないのだろう。けれどそう思わせるくらいに体から力が抜ける。きつい語調を保つのも億劫だ。
「んふふ…たっくんの血って、甘いんだねぇ…癖になりそうだよ…」
恐い事を言わないでほしい。
「説明しろよ、コレは何なんだよ。まず手錠を外してくれ。その後にきちんと説明してくれ!」
「手錠は外せないよ、だって外したらたっくんまた逃げちゃうもの」
手が僕の背に回される。トイレの壁で冷やされた背中に温もりが灯る。顔が互いの睫毛が触れるくらいまで近付いてくる。
「コレはね、私と蕾とで決着をつける為なの。たっくんにどっちが好きか選んでもらう為に」
・・・・は?
「私か。蕾か。選んで、たっくん」
間近で見る萌姉ちゃんの目は、どこまでも澄んでいた。
投下終了です。
GJ!
続きをwktkしながら待ってます
なかなかに過激な手段に出る姉だな
でもなんでトイレなんだろw
何かあっても水に流すつもりだとか
双子の片方を姉、もう片方を妹と呼ぶ主人公は何者? なんて謎にも期待しつつ
次を待ってます
お姉さんとお嫁さんってニアピンだから、同じようなものだよ
ってキモ姉に迫られたい
願いが叶うように努力汁
>>257 ならお姫様だっことお姉様だっこもニアピンだな
「まず、弟を一途に愛し、その姿を見続けます。」
「弟の衣類、その他の所持品で自慰に耽るのは基本中の基本です。」
「弟が口にする物に愛液や唾液等の体液、髪の毛や皮膚等の身体の一部を混入すると、より高い次元での快楽を入手する事が出来ます。」
「次に、携帯等の通信手段をチェックする事で、弟の交遊関係をしっかりと把握しておく事が大切です。」
「発情した泥棒猫が確認出来たとしても、慌てずに、合法、非合法の手段を織り交ぜ、確実に相手を追い詰め、終わらせる事を心掛けて下さい。」
「最後に、拉致監禁は最終手段です。多用する事は辞めましょう。」
「以上を実行して、楽しい姉弟生活をお送り下さい。」
「姉ちゃん、さっきから何を読んでんの?」
「ん、とっても役に立つ恋愛マニュアル本!」
「ふ〜ん、まっ、頑張って。」
「うん、お姉ちゃん、すっごく頑張るから!」
こうして、この世に新たなキモ姉が誕生した。
ちょっと今からそのマニュアル買ってくるわ!
>>261を受けて…
最近姉さんの様子がおかしい。前から変わった人ではあったが、ここ最近の行動は目に余るものがある。
「うふふ〜、お菓子つくったんだぁ。食べてね」
ここまではブラコン姉にありがち?な会話であるが………
「はい、あーーん」
フォークを手に取り弟(つまり俺)の口に運ぶ。しかも姉の目が妙に濁っているのが気に食わない。
「後で食べるよ」
前までの姉さんなら
「うん。分かった」
と寂しげな笑顔で言ってくれたのだが、
「…駄目、今すぐ食べてほしい」
何故体を密着させておねだりするのですか姉さん?
「ほら、口を開けて」
怖いよ、姉さん…
「二人とも何やってるのよ」
妹の登場に慌てて放れる姉さん。どうしたもんか、姉さんは妹に苦手意識があるようだ。
「べ、別に大した事じゃないの」
「ふぅん。そうそう、兄さん。宿題で分からない所があるから教えてよ」
頭のいい妹にしては珍しい。それにこのまま姉さんの側にいると、何と無く身の危険を感じるのは気のせいか?
「おう、分かった。あんまり難しいのは勘弁な」
すると姉さんが口を挟む。
「ちょっと○○ちゃんに話したい事があるから」
「兄さん、悪いけど先に部屋で待っててね」
俺は先に妹の部屋で待つ事にした。
妹の部屋で待つこと十分
遅いな…
「兄さんお待たせ」
遅かったな
「ええ、思わず話し込んじゃった」
妹の質問自体は大した物ではなかった。
が…
「兄さんに聞くと凄く分かりやすい」
体をすりよせ
「あー、こうなるんだ」
耳元で囁かれ
「兄さんの指って綺麗」
手を絡めるのは何かの間違いだよな?
おかしくなったのは姉さんだけでなく妹もだった。
願わくば、昔の二人に戻って欲しいのは叶わぬ願いなんだろうか…
俺は知らなかった。
姉さんが奇妙な本を購入し、それを何度となく読んでいたこと。
また、妹がその本を偶然手に取り、手垢が着く程愛読したことを。
そして、二人が互いに相手を刺激してエスカレートしている事も。
連レス失礼
これにて消えます
>>267 消えるな!
いいから書け!
貴様のッ!熱いッ!パトスをォッ!
誰かそのマニュアル出版しろよw
「マニュアルなんかに頼ってるのは本物じゃないわ。さっさと良識の世界に帰るべきよ。
良いこと、本物ってのはね。お手本なんかに目もくれず、溢れ出す情熱のままに動くものなのよ」
「……で、姉さん。その手に握りしめている本は?」
「……あたしは良いのよ! だって著者だもの!!……ちょっと、何故逃げるの?」
まじめにそれは重要な課題だ。と言うことは監禁は長時間に及ぶことも
想定されているのか
キモ姉妹の監禁なんて長時間が前提だろ
今日は俺にとって、人生の分岐点と言える程、大事な一日だ。
そう、憧れの彼女とのデート、そして告白を決行するのだ。
今まで慎重に深めてきた絆、今日の為の準備も万端だ。
「行くぞー!」
大きく深呼吸をしてから自分に気合いを入れる。
「どこに?」
醒めた冷たい声が返ってきた。
声の主は妹、生意気どころか、兄を兄とも考えない冷血女だ。
「お前には関係ねー」
目的が悟られぬよう、突き放した物言いをする。告白に行く事を知られたら、どんだけ馬鹿にされるか…。
「フーン…」
まるで品定めでもするかのように、ジロジロと人を見てくる。
「何だよ?」
「分かった。フられに行くんでしょう!」
俺の中で空気が固まった。
コイツは人の門出の日に、何を不吉な事を言いやがる。
「ふ‥ふざけんな!フられに行くんじゃねぇ、告白に行くんだ!」
精一杯の怒りを篭めた俺の大声、が、妹は嘲笑でそれを受けてやがる。
「前の2回のこと、もう忘れたんだ?」
嘲笑いをしたまま、忘れたい過去をついてきた。
「最初の人には走って逃げられたんだよね♪」
あのダッシュは速かったです…。
「次の人には泣き叫ばれたんだっけ!」
警察を呼ばれるかと思いました…。
「懲りないねー?」
過去の傷口を容赦なく刔り出してくる冷血女、だが、ここでくじける訳にはいかない。
「世の中には三度目の正直って言葉が…」
「二度あることは三度あるって言うよ?」
「石の上にも三年、いつかは俺にだってチャンスが来る!」
「仏の顔も三度まで、次はどうなるかな?」
これ以上、コイツと話していてもしょうがない。とにかく、彼女との待ち合わせ場所に向かおう。
フられたって…泣くものか。
「もう仏じゃいられないんだよ?」
飛び出していった兄の後ろ姿に、そんな呟きが漏れた。
どんなに手を尽くしても他の女に靡く兄…。
自分が誰の物か、しっかりと分からせないといけないらしい。
「待っててね、お兄ちゃん。ちゃんと教えに行くから…」
今日は私にとって、人生の分岐点と言える程、素晴らしい一日になりそうだ。
逸る気持ちを抑えつつ、私はそっと、兄の後を追った。
ヤンツンデレ
投下します。
pipipi、pipipi、pi
目覚まし時計を止めて時間を確認する。
6時35分。
もう少し寝ていても学校には間に合うが、おそらく起きられないだろう。
二度寝は人類の大敵である。
のろのろとベッドから出て洗面所へ行き、顔を洗ってリビングに向かう。
「おはようございます、兄さん。」
エプロン姿の美鈴がこちらを向いて微笑む。
「おはよう美鈴。」
お決まりの朝の挨拶。
テーブルの上には弁当が二つ。
僕が起きる頃には既に出来上がっている。
「今日も早いね。朝キツかったら弁当僕が作ろうか?」
「私より兄さんの方が朝弱いじゃないですか。
それにお弁当作りは好きでやってますから心配しなくても大丈夫ですよ。」
やんわりと否定される。
小さい頃、僕の家はかなり貧しかった。
少しでも生活を楽にするため、母さんもパートに出ていた。
家事と育児と仕事に追われる毎日は相当大変なものだったのだろう。
僕が小学校二年の冬に母さんは倒れた。
そして二度と目覚めることはなかった。
原因が過労だと聞いた時、父さんが見せた悔恨の表情を僕は今でも覚えている。
あの日父さんは言った。
「父さんがもっと働いていればこんなことにはならなかった。
父さんがお前達から母さんを奪ったんだ。」
そして最後に付け加えた。
「祐、美鈴を頼んだぞ。どんなことがあっても、お前が美鈴を守るんだ。」
その日から父さんは気が狂ったかのように仕事に集中した。
僕達に貧しい生活をさせないために、父さんは夜遅くまで働き続けた。
そして家を空けることが多くなった父さんの代わりに、僕が美鈴の面倒を見た。
母親がいないと美鈴がいじめられたこともあったけど、僕は全力で美鈴を守った。
いつしか僕の心には、「何があっても美鈴を守り抜く」という固い決意が芽生えていた。
そんな決意はどこへやら、美鈴に頼りっぱなしの現状を思い返す。
家事は全て美鈴がしている。
母さんのこともあったから、分担して交代制にしようと提案したこともあったけど、
「私が好きでしているんです。それに兄さんには任せられません。」
と断られてしまった。
確かにそうだろう。
自慢にならないが、僕は驚く程なくし物が多い。
特にパンツや靴下、Tシャツのような衣類の紛失は後を絶たない。
使い古したものばかりなのがせめてもの救いではあるが、やはりいい気はしない。
とにかく、こんな兄に家事はさせられないという美鈴の思いもあるのだろう。
そこまで考えて、情けない自分に溜息が漏れる。
そんなことを考えながら、食事を済ませて支度を整える。
「じゃあ美鈴、先に行くね。」
一声かけて玄関へと向かう。
普段は一緒に登校するのだけど、今週は週番なのでいつもより早く学校に行かなければいけない。
靴を履いていると、美鈴が玄関へとやって来た。
「いってらっしゃい兄さん。お弁当は昼休みに持っていきますね。」
「わざわざそんなことしなくても自分で持っていくのに。大変じゃない?」
「大丈夫ですよ。兄さんに虫がついてないかチェックしないといけませんし。
なにより出したてを食べて欲しいですから。」
「いつも虫虫って言ってるけど、僕ってそんなに不潔かな?」
「いえ、兄さんはいつも素敵です。それより時間大丈夫なんですか?」
「わ、ほんとだ。じゃあ行って来ます。」
僕は慌てて家を出た。
外に出た瞬間、あまりの寒さに身震いしてしまう。
凍て付いた冬空の下を一人歩きながら考える。
美鈴はかなり優秀だ。
勉強も運動も完璧だし、兄の僕から見ても綺麗な顔をしていると思う。
「透き通るような白い肌、肩で揃えた艶やかな黒髪、気の強そうな印象を与えるつり目、
そして少しつきだした唇。美鈴ちゃんは男を惹きつける全てを兼ね備えている!!
たまらん!!非常に!!」
とは僕の親友の話。
なんだか美鈴をいやらしい目で見てるような気もするけど、いつでもこのテンションなのでさして気にならない。
とにかく、美鈴は非の打ち所がないのだ。
何もかも平凡な僕とは大違いだ。
情けなくもあるけど、兄として優秀な妹を持つのはやっぱり嬉しい。
そんな美鈴を家に縛り付けておいていいのだろうか。
美鈴は部活には入ってない。
買い物や家事があるから学校が終わったらすぐ家に帰ってしまう。
(美鈴なら勧誘してくる部活もたくさんあるんだろうな。)
そんなことを思いながら、僕は学校へと向かった。
兄さんを見送った後、私はリビングで兄さんを想いながらコーヒーを飲んでいました。
兄さんは今日も素敵でした。
見つめているだけで体が熱くなってしまう程です。
このまま自分を慰めてしまおうかとも思いましたが、お昼まで我慢することにしました。
兄さんには三食全てで私を味わってもらうんです。
兄さんに食べられる。
なんて甘美な響きでしょう。
「……ぁ」
まずいです。想像しただけで少し達してしまいました。
ごめんなさい兄さん。
美鈴は自制心のない、いけない子です。
このままだと自分を抑えられそうにないので、少し早いですが家を出ることにしました。
鞄に二人分のお弁当を入れた後、自分の部屋に向かいます。
机の一番下、鍵のついた引き出しを開けると、中には私の宝物が入っています。
「今日はこれにしよう。」
黒のトランクスを取り出して鞄に入れた後、私は家を出ました。
終了です。
小説を書くこと自体が初めてなため、稚拙な文章ではありますがご容赦下さい。
途中で投げたりしたくないので、簡単な起承転結で終わらせようと思っています。
よろしければ最後までお付き合い下さい。
無理だけはしないで。
楽しみにしています。
GJ!
次に投下を楽しみに待ってます。
>>285 GJです
今日は色んなキモウトが見れて幸せだよ
監禁トイレ2話投下行きます
「オカアサンネ、スキナヒトガデキタノ」
母親は夕食の席で、唐突にそう告げた。双子は顔を見合わせ、首を傾げる。
「「好きな人ってだれ??」」
母親は年甲斐もなくどこか恥ずかしそうな笑顔を浮かべて
「今度会ってみようか?」
と問い掛ける。双子は訳も分からないままとりあえず、頷いた。
そして、二人は出会う事になる。角倉達哉(かどくらたつや)という少年と。
「選ぶって何さ!?訳分かんないよ!!」
あらんかぎりの声で叫ぶ。姉ちゃんの理解不可能の言葉は、恐怖へと形を変え、僕を苛む。考えてみてほしい。
頭を殴られて誘拐。
起きればトイレ内に監禁だ。
そのうえで「選べ」と言われてハイ、と言う人間がいる訳がない。
そもそも相手は僕の義兄弟なのだ。倫理的にまず有り得ない。
それに僕はこれでもNoと言える人間を目指しているので、当然却下だ。
ただし。
「だから私と蕾、どっちを愛してくれるか、よ。絶対に選んでもらうからね?私を。その為にずっと準備してきたんだから」
相手がこの人なら話は別だ。
もし断れば次は何をされるか分かったものじゃない。素直に従うしかない。僕は長いものには巻かれる人間でもあるのだ。ここが公衆トイレならば誰かしら通りかかる事もある。いざとなったら、その時に声を上げれば良い。
「ここは誰も通らない静かな所だから。邪魔は入らないから、ね?わざわざ人が通らない場所選んだんだから…」
「…」
いきなり案が潰された。というかこの人、蕾の存在を軽く忘れてないか?
萌姉ちゃんはやけに熱っぽい瞳で僕を見つめてくる。背中に回された手からの圧力が増した。
なら携帯電話だ。多少危険かもしれないが外部に助けを呼ぶならそれしかない。
「あ、あとしばらくコレは預かっておくからね?」
「え?あ、あぁ…!!」
姉ちゃんの手が尻ポケットから携帯を抜き去った。高く掲げた右手には僕の携帯が。慌てて手を伸ばす。しかし、姉ちゃんはさっと立上がり自分のジャケットのポケットにしまいこんだ。
…なるほど。つまり姉ちゃん、それに蕾も、説得しなければならないのか…。
ちなみに全然冷静ではない。状況が絶望的過ぎて体が震えている。
キシキシキシ。
震動は鎖を経由し、手錠と手すりの間でかすれた摩擦音を発生させる。
萌姉ちゃんは電源を切った後、僕の携帯を眺めて「私も次はこれにしようかなぁ…」と呟いている。同じ空間にいて、このテンションのギャップは何なのだろうか。何にせよ、まずは情報だ。聞きたい事が山程ある。
「姉ちゃん…」
「なぁに?もしかしてもう私を選んでくれるの?」
「いや、そうじゃなくて…」
「まさか蕾を選ぶ訳じゃないよ、ね…?」
予備動作無しで姉ちゃんの顔が表情を無くす。笑顔から、無表情。紙芝居を見ているような気分だ。
「違うよ、違う。そうじゃなくて…この事、親父と花苗さんは…知らないんだよね?」
今度は紙芝居の逆再生。姉ちゃんの顔に表情が戻る。
「知らないわよ、知ってたら止めたでしょうからね」
「…だろうね」
予想通りなので驚きはしない。もし知っていたら、何がなんでも止めただろう。特に親父は。何せ僕と二人を離したのはあの人だ。
僕は都内の高校に進学。寮住まい。
二人は女子高に進学。実家から電車通学。
僕はそのまま附属の大学に進学し。高校進学以後、帰省すら出来なかった。親父からの許可が下りるまで、実家に帰ることは禁止されていた。
仕方のないことだと思う。僕が異性と関わりを持つ度に、双子は暴れ出す。向かう矛先は僕と相手。それが誰であろうとお構いなしだった。
それが例え、彼女達の実の母親だったとしても。
僕の部屋に夜食を届けようとしたばかりに。
僕の義母、花苗さんは殴られ、蹴られ、それでも決して二人を見捨てようとはしなかった。
親父は花苗さんから娘を引き離す事を良しとせず、僕が都内の高校へと進学する事になった。
あれから五年。
まさかこんな形で再会するとは思わなかったけれど。
投下終了です。短くて申し訳ないです。
>>285と
>>293 共にGJです
>>285 お兄さん、服はなくしたんじゃなくて、キモウトの栄養になってるんだよ…
美鈴がキモウトを超えたキモウトに覚醒するのを期待してます
>>293 三人の微妙な関係が分かって納得しました
でもお義母さん…
涙で前が見えなくてかけ(ry)
>
>>293 なんという監禁
そしてキモウトに足指舐めさせられたい
キモ姉妹と一つ屋根の下で暮らすのは、もはや監禁と同義な気がせんでもない
主人公:妹二人の兄。殆ど家にいない両親に代わり、保護者を自認しているが、やや頼りない。基本的には妹想いの良い兄。
妹A:活発で行動力があり、3人の中で一番発言力がある。多少、男嫌いで現在は女子校に通う。
妹B:家庭的で家事全般を取り仕切る。最年少故の甘えもあるが、基本的にはしっかりしている。
*AB共にキモウト。二人で協力して、兄に近付く女を畧ってきた。その関係は秘密を共有する共犯者。
同級生:Aと同じ高校に通う同級生。AとBの二人の仲の妖しさから、恋愛関係にあると思い込み、二人の恋路を邪魔している(と妄想している)主人公を憎み始めている。彼女なりの正義感と友情から行動しているだけに性質が悪い。
泥棒猫:主人公の高校時代からの後輩。一途に主人公を想い続けているもの、ドジ属性がある為に上手くいかず、悶々とした日々を送っている。もっともそのおかげで、ABの標的にならずに生き延びている。
友人:泥棒猫の友人で、同級生の姉。泥棒猫から相談を受け、二人を結ぼうと暗躍する。他人の恋愛に首を突っ込んでくるのは血筋。AとBの事はまだ知らない。
長編が出来そうだと思うのですが、どうでしょうか??
>>300 いいと思うよ
複雑だと思うのは俺の読解力がないだけだろうがな
あと妹は二人もいらないというのは俺の持論だ
どうでもいいがな
>>300 だが主人公が泥棒猫友人に惚れてしまいそうだ。
頑張ってくれ
>>301 妹二人だと立位置が難しいからね。SSでキモ姉妹が出るのも複数だと「主人公の姉と妹」パターンがほとんどだし。
だがそれが良い!
>>300 ドジっ子泥棒猫(ABにも認識されないほどのドジっぷり)が面白い
ドジっ子の行動と友人の行動が取り違われて、友人の方が襲撃されるというパターンでいけるかも
ただ、コミカル路線でここまで複雑だと、相当に力量が必要になると思われ
何が言いたいかというと、
>>300頑張れ
>>300には全部書き上げてから投下することをオススメしたい。
長編ってのはそうでもしないと最後まで書き上げるのは困難だからな。
>>276 告白して断られたって原因はひょっとして妹に・・・ピンポーン Σ( ゚Д゚ )ん?宅急便かな、ちょっと出てくる。
>>276 どうした!?何があったんだ
>>276!?
答えてくれ!!
あ、姉さん。何?
…なんか物騒な物を持っているけどどうし
全12レス、投下します
親に溺愛される妹(二年生)×虐待されている腹違いの兄(五年生)の話
現時点で非エロ、非ギャグです
最終的には妹16歳×兄19歳の絡みになる予定ですが、どうなることか
将来キモウト化する妹の自分勝手&空気読めないぶりが描けていればいいなぁと
それでは↓
幸弘(ゆきひろ)はスタンドの明かりだけを点けて机に向かっている。
漢字の書き取りだ。でも、きょうの宿題の分は何日も前に終わった。
いまやっているのは、あさってか、しあさってか、その先の分。
閉ざした襖の下から明かりが漏れている。
その向こうのリビングから「あの女」の声が聞こえる。
「――里穂(りほ)に買ってあげたんだけどぉ、アタシまでハマっちゃってぇ……」
携帯ゲーム機の話だろう。里穂は頼んでないのに買ってもらったと言っていた。
幸弘は前の機種が出たとき頼んだら、ひどく怒られた。
「――それがぁ、すっごい面白いの。なんてソフトだっけなぁ、ちょっと待ってぇ。……里穂ぉ!」
里穂はゲームはあまり好きじゃないと言っていた。
そんなことを言える里穂が、幸弘は嫌いだった。
「――あのゲーム、なんて名前ぇ? ……電源入れればタイトル出るでしょ? ゲーム機どこやったの?」
里穂は、よく物を失くす。そしてすぐに新しいのを買ってもらう。
幸弘が失くしたときは、めちゃくちゃ怒られて二、三日は代わりのものを買ってもらえない。
「――ううん、ごめぇん。里穂がゲーム機どこかやっちゃってぇ、いま名前わかんないけどぉ……」
長電話は「あの女」の常だ。
幸弘が風呂に入れば「シャワーの使いすぎ」、トイレに入れば「紙の無駄遣い」と言うくせに。
五年生の自分が憎悪という感情を学んだのは「あの女」のおかげだった。
仲の悪いクラスメートを嫌うのとは全く異質な気持ち。
子供が親を刺したというニュースを聞くたびに幸弘は想像する。
自分が「あの女」を刺したとすれば、どんなニュースになるだろうか?
「――なぁに、そろそろ食事の支度ぅ? 相変わらずマメだねぇ、ウチなんか里穂と……アレと三人だからぁ」
アレという言葉が自分を指すことを幸弘は知っている。
「――そう、今度おたくの旦那に相談したいと思ってぇ、弁護士でしょぉ? アレの養育のことぉ……」
自分を追い出そうと「あの女」が目論んでいることも幸弘は知っている。
それこそ、こっちが望むところだ。
だが世間体とやらを気にする「あの女」は結局、自分をここで飼い殺すだろう。
過去に何度も話題に上らせては断念してきた話なのだ。
「――わかったってばぁ、いま忙しいのねぇ、うん……また電話するぅ、じゃあねぇ……」
電話の会話が終わった。
そして、がらりと襖が開いて「あの女」が入って来た。
リビングに隣り合う六畳間を幸弘の父親は書斎にしていた。
幸弘は里穂と同じ部屋にベッドと勉強机を与えられていたが、勉強は父親の机でする習慣だった。
「おまえ、里穂のゲーム機知らない?」
「え……?」
幸弘は振り向いたが、返事をする暇(いとま)もないまま。
つかつかと近づいて来た女が、机の横に立てかけていた幸弘のランドセルをつかんで逆さに振った。
教科書、ノート、定規や縦笛が、どさどさと床に落ちる。
「何すんだよ!」
叫び、幸弘は立ち上がった。
「うるさいッ!」
突き飛ばされて、畳の上に倒れ込んだ。眼鏡が吹っ飛び、肘と膝を擦った。
女はランドセルを投げ捨て、机の引き出しを上から順に開け始めた。
「隠してるなら早く出しなさいよ。殴られたいの?」
「知らないよ!」
幸弘は叫んだ。全く心当たりがない。そもそもゲームを禁じたのは女自身だ。
余計に眼が悪くなるからという口実なので、幸弘は里穂からゲームを借りることも許されない。
「……ちっ!」
女は舌打ちすると、引き出しをそのままにして部屋を出て行きかける。
だが、その足が先ほど捨てたランドセルに触れて、思い出したように、
「これ、中にチャックが閉まるポケットついてたでしょ?」
「…………」
幸弘は答えない。横暴な女に返事をする義務などない。
「モノを隠すにはぴったりよね。学校で先生にゲームなんか見つかったら取り上げでしょ?」
女はランドセルを拾い上げて中を漁る。
そして、ふんっと鼻で笑った。
「……あるじゃないの」
「えっ……!?」
幸弘は眼を丸くした。
本当に心当たりがなかったのだ、里穂のゲーム機など。
だが、女の手には確かに携帯ゲーム機が握られていた。ランドセルは再び放り捨てられた。
「どうしたのよ、これ?」
女が薄笑いを浮かべて幸弘に近づいて来る。
幸弘は蒼ざめながら女の顔を見上げ、
「し……、知らない……」
女の手が一閃した。ゲーム機を握っているのとは逆の手だ。
頬を打たれ、幸弘はその場に倒れ込んだ。
「……ママ?」
里穂が書斎を覗き込んできた。そして「……ひっ」と息を呑み、幸弘に駆け寄る。
「お兄ちゃん!」
「どきなさい里穂! あなたのゲーム機を、そいつが盗んだのよ!」
わめく母親から兄をかばうつもりか、里穂は両手を広げて立ち、
「違うの! 里穂が貸してあげたの!」
「貸せと言って無理やり取り上げたのね! ゲーム禁止してるのに!」
「くぅっ……!」
幸弘はうずくまったまま、自分の前に立つ里穂の背を見上げた。
疫病神そのものの三歳下の妹。
ランドセルにゲーム機を入れたのも彼女だろう。当人は兄に貸してやろうという好意だったろうが。
迷惑でしかなかった。里穂が示す好意の全てが。
里穂の母親である――幸弘にとっては血の繋がらない女に、義理の息子を嬲る口実を与えるだけだから。
「どきなさい里穂、悪いお兄ちゃんは叱ってあげないと、お兄ちゃん自身のためにならないでしょう?」
急に猫撫で声になり、女が里穂に言った。
「……お兄ちゃんを、ぶたないで……」
涙を含んだ声で里穂が言い、女は「ええ」と笑みを見せる。
「もう、ぶったりしないわ。叱るだけ」
「…………」
こくんと里穂は頷き、横に退いた。
馬鹿な妹が幸弘は憎らしかった。女を信用して言いなりになって。
女が口の端を吊り上げ、いやらしい笑みで幸弘を見下ろした。
腰をかがめ、両肩に手をかけてきて、
「おまえ……どうして里穂のゲーム機を取り上げたの?」
「違うよ、里穂がお兄ちゃんに……!」
口を挟もうとした里穂を、女は振り返り、
「いまはママがお兄ちゃんに話してるのよ。里穂は向こうに行ってなさい」
「…………」
それきり里穂は言葉を呑み込んでしまう。兄に謝罪の視線だけを送り――
幸弘は眼を逸らした。妹の謝罪など受け入れるつもりはない。
そのまま女とも眼を合わせないでいると、肩をつかんだ手の爪が肌に喰い込んできた。
「ぐぅっ……!」
呻いた幸弘の眼を覗き込むように、女が顔を近づけてきて、
「ゲーム禁止はおまえのためでしょう? もっと眼を悪くして、ぶ厚いカッコ悪い眼鏡をかけたいの?」
里穂が勝手にランドセルにゲーム機を入れたんだ。
そう真実を告げたところで無駄だとわかっていた。
妹に罪を着せるつもりかと言われて余計に嬲られるだけだ。
だから黙っていると、爪が肩にさらに喰い込み、激しく身体を揺さぶられた。
「黙っていちゃ、わからないでしょう! 謝りなさい里穂に! さあっ!!」
「ぐぅっ……!」
涙がこみ上げた。だが、幸弘は声を上げては泣かなかったし、謝りもしなかった。
理不尽な暴力に黙って耐えた。ひとしきり義理の息子を苛めれば、女も満足するのだ。
そういうことが繰り返される毎日だった。
終止符が打たれたのは、その週末の土曜――
昼食のあと、女が医者へ行くと言って一人で出かけた。
里穂には「お友達と遊びに行きなさい。家に閉じ籠もってちゃダメよ」と言い置いていた。
幸弘は何も言われなかった。自分の眼にさえつかなければ義理の息子がどこで何をしようと関心がないのだ。
女が通っている医者は神経科だった。テーブルに置きっぱなしの診察券を幸弘は何度か眼にしていた。
自分が異常だという自覚は女自身にもあるのだろう。快方に向かう気配は全くないが。
幸弘も友達の家へ遊びに行こうとするのを、里穂が引き止めた。
「お兄ちゃん、おうちで一緒にゲームしようよ。ママには内緒にするから」
「おまえのゲームなんか借りない」
玄関で靴紐を結びながら幸弘は、きっぱりと言った。
ランドセルに勝手にゲーム機を入れられた一件を幸弘は許していなかった。
許せるわけもなかった。里穂に迷惑をかけられたのは、それが初めてではない。
里穂は泣きそうな顔になったが、すぐに媚びるように笑ってみせ、
「お兄ちゃんは里穂が持ってないゲームをお友達の家にやりにいくの? 里穂も一緒にやりたい。連れてって」
「嫌だよ」
幸弘は答えて、玄関のドアを開ける。
ゲーム嫌いのくせに一緒にやりたいなんて、ふざけたこと言うな。
「おまえもどこか出かけるなら、鍵かけて行けよ。俺は自分の鍵、持って行くから」
「里穂もついて行く」
「ダメだっての」
幸弘は玄関を出た。里穂が靴をつっかけてついて来た。
「外に出るなら鍵かけろよ」
そう叱りつけて、里穂が慌てて鍵を締めている間に、幸弘はエレベーターに飛び乗った。
一階に下りてマンションのエントランスを出て、自転車置き場へ回る。
ところが間の悪いことに、誰かが並んでいた自転車を倒していったらしい。
下敷きになっていた自分の自転車を引っぱり出している間に、里穂に追いつかれた。
幸弘は自転車をとばした。ときどき後ろを振り返ると、里穂がついて来ていた。
目指す友達の家まで直行すれば五分ほどだが、幸弘はわざと遠回りすることにした。
大きな公園を(近道で通り抜けもできるのに)ぐるりと半周し、踏み切りを越え、商店街を抜けた。
いつの間にか里穂の姿は見えなくなった。
幸弘は安心して友達の家を訪ね、ほかに集まっていた数人の仲間と夕方までゲームを楽しんだ。
家に帰り、玄関で靴を脱いでいると、先に帰っていた女が奥から出て来た。
「……里穂は?」
「え……?」
幸弘は眼を丸くして、
「知らないよ……、どこに遊びに行ったかなんて……」
女が幸弘に里穂の世話を任せたことはない。
里穂が半分だけ血の繋がった兄に懐いていること自体、快く思っていないのだ。
逆にいえば、幸弘が里穂の行動に責任を持つ義務はない。
自転車で里穂を振り切ったことは忘れていた。
すると、女がメモ紙を突きつけてきた。たどたどしい子供の字で何か書いてある。
「お兄ちゃんの友達の家に行くって、里穂の書き置き! おまえ一緒じゃないの?」
「えっ……」
幸弘は言葉を失った。
置いてきぼりをくらった里穂は、一度は家に帰って来たのだろう。
しかし諦めきれず、再び兄を捜しに出かけたのだ。
「……このッ、クソガキッ!!」
拳で頬を殴られた。身体が宙に浮いたように感じ、床に倒れたところを蹴りつけられた。
脇腹に入った。一瞬、息が止まり、呼吸が戻ったところで咳き込んだ。
「……げほっ! げほっ!」
「里穂に何かあったら、テメェ殺すぞッ!!」
女は言い捨て、幸弘の身体をまたいで玄関を出て行った。
幸弘はその場に倒れ伏したまま、声を殺して泣いた。
殺意だけで人間を殺せればいいのにと思った。
日が暮れてしばらくたってから、里穂が女と一緒に帰って来た。
何があったかわからないが愉しそうに笑い合っていた。
幸弘は襖を締めきった書斎の隅で膝を抱えてそれを聞いた。
膝に顔を埋めてもう一度、泣いた。
それからだいぶたって、襖が開いて里穂が入って来た。
「お兄ちゃん、ごはんだよ……」
幸弘は黙って里穂を睨み上げた。
里穂は、びくっと震えて、
「……ごめんなさい……」
つぶやくように言って書斎から逃げ出した。
やがて食卓の談笑が襖越しに聞こえて、幸弘は涙を拭った。
空腹も孤独も辛くはない。あの女への報復という当然の権利を果たせない無力さがみじめだった。
食事のあと、女が里穂に「ママは大事な電話があるからお部屋に行ってなさい」と言いつけるのが聞こえた。
それからどこかへ電話をかけて、しばらく話していたが、声を抑えているので内容はわからない。
だが「いえ……」とか「違います……」と否定語を繰り返す様子で何か交渉しているのだとは推測できた。
途中で「おかあさん」という言葉が聞こえて相手が幸弘の父方の祖母ということもわかった。
つまり「お義母(かあ)さん」だ。
最後は感謝の言葉を繰り返しながら女が電話を終え、襖を開けて幸弘の前に立った。
「おまえはババアの家へ行ってもらうことにしたから。ここから出て行ってもらうから」
幸弘は答えず、女を睨み上げる。
「……何だその眼はッ、ガキッ!!」
髪の毛をつかまれて頭を揺さぶられたが、幸弘は歯を喰いしばって耐えた。
やがて突き放すように女が手を離し、
「おまえがホントに彰弘さんの子か疑わしかったけど、あのババアの血を引いてることだけは確かだなッ!」
そう言い捨てて、出て行った。
日曜日の昼前に祖母が訪ねて来た。会うのは去年の父親の納骨以来だった。
言葉遣いが悪くてヘビースモーカーの祖母を幸弘は好きではなかった。
ダイニングのテーブルを挟んで女と向き合った祖母は初め、女の話を黙って聞いていた。
とんとんと指でテーブルを叩いているのは、家の中は禁煙と言われて苛立っているのだろう。
幸弘は女の指示で祖母の隣に座らされた。祖母に引き取らせることは女にとって決定事項なのだ。
「──それで幸弘もあたしに懐いてくれないし、離れて暮らすほうがお互いのためと思って……」
そう言って涙ぐんでみせたところで女の熱弁に区切りがついた。
祖母は、ふんっと鼻を鳴らした。
「で、養育費はいぐら出すんだ?」
「……え?」
顔をこわばらせた女に、とんとんとテーブルを指で叩きながら祖母は、
「血の繋がらねぇ子供を厄介払いできて万々歳だべ。食費や学費ぐらい面倒見て当然だべや」
「そんなお義母さん、あたしだって女手一つで里穂を抱えて大変で……」
「そりゃオラちも一緒だ、幸弘を引ぎどっだら」
「お義母さんは働いてらっしゃるじゃないですか」
「オメェは何で働がねぇ?」
ぎろりと、祖母は女を見据えた。
「保険金やら見舞金で貯えあっがらそんな生活してられっけど、オメェ家族に甘えんの大概にしねぇか」
「あたしが誰に甘えているとおっしゃるんですか」
「死んだ亭主に甘えでる。幸弘に甘えでる。里穂を猫可愛がりすんのも結局は娘に甘えでるっでこどだべ」
「冗談じゃないわッ!」
女は眉を吊り上げた。
「まるで懐こうとしない幸弘に、あたしが何で甘えるのッ!?」
「なら幸弘の頬の痣は何だべや?」
祖母の指摘に、女は顔を引きつらせ、
「知りません。喧嘩でもしたんでしょう」
「それで医者にも連れて行かず手当てもせずか。てぇしたごじゃっぺな母親ぶりだぁ」
祖母に鼻で笑われて、女は逆上して拳でテーブルを叩いた。
「……ざけんなッ、クソババアッ!!」
「それが本性か。亭主の親に向かって上等なクチ叩くでねぇか」
祖母は冷ややかに笑い、
「それども親ども思っでねぇが? ならこっちも考えあっぞ」
立ち上がって身を乗り出し、ばしんと自分も平手でテーブルを叩いて、
「お嬢育ちがレディース上がりのオレに喧嘩売っが? 《初代闇乙闘女(やみおとめ)》ナメんでねぇッ!!」
びくっと女は身震いした。
眼を剥き、唇を震わせて恐怖に歪んだ顔で、
「きょっ……脅迫……? こんな人が彰弘さんの母親だなんて信じられない……」
「オメェが売っだ喧嘩だべ。弱ぇ者にだけ強気の根性曲がりが」
「出て行ってッ!!」
女は戸口を指差し、わめいた。
「彰弘さんとあたしの家から出て行って!」
「出で行っでやるどもさ。だどもここはオメェが追い出そうとしでる幸弘の家でもあんだ。よぉぐ覚えどけ」
祖母が幸弘の肩を叩く。
「着替え用意して玄関で待っとけ。オレもすぐ行ぐがら」
「え? あ、うん……」
女のもとに留まるという選択肢はなかった。祖母にやり込められた腹いせをされるに決まってる。
ダイニングを出て子供部屋へ行くと、里穂が二段ベッドの下の段で膝を抱えていた。
本来そこは幸弘の寝場所だったが、この家を出て行くのだ。もう関係ない。
幸弘がクロゼットからリュックを出して着替えを詰め始めると、里穂が恐る恐る声をかけてきた。
「……どこにも行かないでしょ、お兄ちゃん?」
「行くよ。ここを出て行く」
「なら里穂も一緒に行く」
「おまえは残るんだよ」
突き放すように幸弘が言うと、里穂はベッドから身を乗り出して叫ぶ。
「里穂がママに言うよ! お兄ちゃんにもっと優しくしてって!」
「言うだけ無駄だろ」
「そんなことない! ママ本当は優しいんだよ! お兄ちゃんも本当はいい子だってわかれば……!」
「あの女が優しいのは、おまえにだけだ。自分が産んだ子供だから」
幸弘は里穂を睨んだ。
「あんな女、この家に来なけりゃよかった。父さんがあんな女と再婚しなけりゃよかった」
「……お兄ちゃん……」
「ここは父さんと俺と俺を生んだ母さんの家だ。本当は『おまえたち』が出て行けばいいんだ」
蓋を閉めたリュックを肩に担いで、幸弘は部屋を出た。
里穂が泣き出したようだが振り返らなかった。
廊下で祖母と行き会った。
「準備でぎだが? 里穂にお別れ言っだが?」
「うん……」
幸弘が曖昧に頷くと、祖母は眉をしかめ、
「ちゃんと言えでねぇがら里穂が泣いでんだべ。そごで待っどげ」
子供部屋へ向かった祖母と入れ替わるように、女が廊下に出て来た。
蒼ざめた顔で、眼ばかりぎらぎらさせて幸弘を見据え、
「泥棒。泥棒猫のガキ。彰弘さんが最初からあたしと結婚していれば、おまえなんか生まれて来なかったのに」
幸弘は黙って女を睨み返した。
祖母のように効果的に反撃できないのは口惜しかったが、もう女を恐れることはない。
弱い者苛めしかできない卑怯者とわかったから。
「なんだその眼は。これまで育ててやった恩も忘れて。さすが泥棒猫の産んだガキだ。ケダモノめ」
女は口で罵るばかりで、いつものように手は出してこない。祖母を恐れているのだろう。
幸弘は無言で卑怯者を睨み続ける。
やがて祖母が戻って来て、女は顔をこわばらせてリビングへ引っ込んだ。
「アイツに何が言われだが?」
祖母に訊かれて幸弘は首を振る。
「大したことじゃない」
「そうが。オメェきょうがら毎晩、里穂に電話しでやれ。それがお兄ちゃんを赦す条件だちけ」
どうして里穂の赦しを得なければならないか疑問だが、祖母には反論できず頷いた。
「わかった……」
「それど、オメェの荷物はアイツがあどがら送るっでよ。転校の手続きもしでおぐそうだ」
「転校……になるの?」
訊き返した幸弘に祖母は大笑いした。
「あっだりめぇだ。オラちからこっちの学校までどうやっで通う気だ?」
息が煙草臭かった。毎日吸い続けて染みついた匂いだろう。
玄関を出たところで祖母が言った。
「昼メシまだだべ。駅前に回転寿司あっだろ、寄っでぐが?」
「……うん……」
本当は回転寿司は嫌いだった。いつも食べさせてもらえるのは少食の妹と同じ皿の数までだったから。
祖母は何皿まで許してくれるだろうかと考えていると、ばしんと背中を叩かれた。
「寿司は嫌いが? なら焼き肉にすんべ。金なら心配いらねぇ幸弘の奢りだ」
「えっ……?」
びっくりする幸弘の背中をもう一度叩いて、祖母は笑う。
「養育費振り込まれるまで立て替えどぐけど、アイツに払わせだ金でご馳走食えるど思うど愉快だべ?」
「……うん」
幸弘も笑った。祖母を好きになれそうだと思った。
祖母の家まで電車を乗り継いで三時間かかった。
長屋造りの公営住宅で間取りは2K。いままで住んでいたマンションより遥かに狭い。
だが家電品は(その当時で)新しいものが揃っており意外に経済事情は豊からしい。
十四インチの液晶テレビを珍しげに眺める幸弘に、祖母は笑った。
「パチンコの景品だ。家にあるモンは大概パチンコで稼いで手に入れだ。タクシー転がすより割がイイんだ」
火をつけた煙草を口にくわえ、空いた手で孫の頭を撫でる。
「六十なっだら仕事辞めでパチプロで生ぎよう思うだけっどが、幸弘いちゃそうもいがねぇな」
「俺が来たら……迷惑だった?」
「そぉだ意味でねぇ。生ぎる張り合いでぎだっつぅこどだ。彰弘はオレが一人で育でで大学まで入れたんだ」
祖母は煙草を手に持ち替え、幸弘の肩に手をかけて眼を覗き込んできた。
「幸弘もオメェ、ガキのうちはいぐら悪さしでもいいけど、最後は胸張っで生ぎられる大人になれ」
「うん……」
きっと煙草は早いうちに覚えるだろうと思いながら幸弘は頷く。
祖母は満足げに笑って、
「ほだらさっそぐ里穂に電話しでやれ。電話機はほれ、そっちの台の上だ」
言われた通りに幸弘が電話をかけると、女が出た。
「あの……、里穂と話したいんだけど……」
「泥棒と話なんかさせられませんッ!」
電話を切られてしまったことを説明すると、祖母は肩をすくめた。
「そぉだこっだど思うたけっどが。仕方ねぇ手紙だけ書いでやれ。それも届ぐがわがんねぇけどな」
幸弘は新しい生活にすぐ馴染んだ。
祖母の仕事は拘束時間が長く夜勤もあったが家に帰ったときはちゃんと孫の話を聞いてくれた。
食事は外食かコンビニ弁当中心だったが遠慮なく腹いっぱい食べられるのが嬉しかった。
転校して友達もたくさんできた。
もともと幸弘は勉強はできたしスポーツも得意で、たちまちクラスの中心的存在になった。
ただし遊ぶのに忙しくて家で勉強しなくなったので成績は次第に落ちていった。
里穂には祖母の指示で何度か手紙を出したが返事はなかった。
祖母が一度、兄と妹を会わせてやれないかと女に電話で相談したが、逆上されて終わったという。
「お兄ちゃんのいない生活にようやぐ慣れだのに余計なコトすんなとよ。はんッ!」
煙草の煙を吹き出しつつ鼻で笑い、
「里穂だってオレの孫だ。母親があんなじゃ可哀想でならねぇ」
幸弘は妹に同情しなかった。
実の母親には気に入られているのだ。それで充分じゃないか。
祖母に何も言われなくなり、幸弘は里穂に手紙を出すのをやめた。
ところが正月になって里穂から年賀状が届いた。新年の挨拶に添えて、こう書かれていた。
『おともだちのいえで はがきをかきました おにいちゃんにあいたいです』
祖母がそれを見て唸った。
「幸弘に手紙出すのアイツが禁じてんだな。仕方ねぇがら友達の家でこっそり書いたんだべ」
あの女の言いなりだと思っていた里穂が親の眼を盗む行動に出たことに幸弘も驚いた。
だからといって、どうすることもできなかったが。
返事を出したところで里穂が読む前に女が捨ててしまうだろう。
結局、幸弘は里穂に年賀状を送らなかった。
その年の夏休み、里穂が一人で祖母の家を訪ねて来た。
幸弘も、遅番の出勤前で家にいた祖母も驚いた。
「どしたがぁ? アイツ……お母さんがいいっで言ったが?」
「うん。もう里穂、三年生だもん。一人で電車くらい乗れるもん」
「……里穂」
祖母は里穂の肩に手を置き、腰をかがめてその顔を覗き込んだ。
「オメェがお兄ちゃんに会いたいっで気持ちはよぉぐわがるけっどが嘘はよぐねぇ」
「嘘じゃないよ」
「ならお母さんに電話すんぞ。里穂が無事バアちゃんちに着いだっでな」
「……ママはおうちにいないから電話できないよ」
「携帯の番号も知ってっぞ」
里穂は両手で顔を覆い泣き出した。やはり嘘だった。母親に内緒でここへ来たのだ。
祖母は孫娘の頭を撫でて宥めた。
「仕方ねぇ。一日だけでもこっち泊まれるようバアちゃんが頼んでやっがら」
そして幸弘に指示をする。
「里穂を連れて稲荷さんお参りして来い。厄介な電話になりそうだがら三十分は戻るなや」
祖母の家の近くに稲荷神社があった。
地元の人の崇敬が篤く、お社は小さいながら立派な造りだ。
泣き通しで自分から歩こうとしない里穂の手を引いて幸弘は鳥居をくぐった。
「……ごめんなさい……お兄ちゃん……おばあちゃん……」
里穂は謝り続けるが、幸弘は仏頂面で黙り込んでいる。妹の自分勝手な行動が心底迷惑だった。
手水舎の前で幸弘は妹の手を放した。
「どうすんだ? お参りする気があるなら、ちゃんと手を洗え」
こくりと里穂は頷くと、水盤の前に進み出て、作法通りに左手、右手、最後は口の順に清めた。
三年生になって里穂はだいぶ背が伸びていた。
おかっぱの黒髪は艶やかで、肌の白さと相まって日本人形のようだ。
手水を使う姿が様になっていた。泣き顔で鼻を啜りながらだが。
続いて幸弘も手と口を清めた。
それから二人で並んでお参りした。
とはいえ幸弘には神様にお願いしたいことはなかった。
強いて挙げるなら「もう妹の自分勝手に振り回されたくありません」だ。
お参りが済んで、ぶらぶらと鳥居のほうへ引き返す。
神社まで歩いて来た時間も含めて七、八分しかたっていないだろう。
このあと何処で時間を潰そうか考えていると、里穂が口を開いた。
「……この神社のことパパから聞いたよ。子供の頃に何度もお参りしたって」
「ああ……」
幸弘は頷く。
実際には父親の生前に里帰りしたときもお参りしている筈だ。里穂は幼稚園に通っていた頃だが。
「パパ、おうちでもよく神社にお参りしてたよね。お兄ちゃんと里穂も連れてってくれた」
「うん……」
「でも、ママは……」
里穂は足を止めた。
「パパが死んでお参りしなくなった。パパのお仏壇には手を合わせるけど神様は拝まない」
「……罰当たりだな」
幸弘はぶっきらぼうに言った。
里穂の前であろうが、あの女を批判することにためらいはない。
すると予想通りに里穂は自分の母親をかばった。
「仕方ないよ。だって神様はパパを守ってくれなかったから」
「そう思うなら、おまえもお参りするな!」
幸弘は声を荒らげた。罰当たりな女の血を里穂も引いているということだ。
里穂は、びくっと身を震わせて、
「違うよ里穂はそんなふうに思ってないよ、でもママは……」
「おまえの母親のことなんか知らない、聞きたくもない」
「里穂はお参りしたいんだよ、お兄ちゃんと一緒に。もうじき近所の神社で夏祭りだよ……」
じっと里穂は兄の顔を見つめた。
「お兄ちゃん……、おうちに帰って来てよ……」
バアちゃんカッコいいぜ支援。
幸弘は舌打ちした。
どこまで妹は自分勝手で馬鹿なのだろうかと思った。
「……俺が帰るのを、あの女が歓迎するか?」
「あの女ってママのこと? ママには里穂がちゃんと話すよ……」
「何をどうやって? いつも母親の言いなりな癖に。おまえが話してあの女が聞くもんか」
「聞いてくれるよ。ママは里穂には優しいから……里穂にはお兄ちゃんが必要だってわかれば……」
「あの女が優しいのはおまえにだけな。だからおまえは何もわかってない」
幸弘は里穂を睨みつけた。
「だいたい俺が帰りたくない。あの女のいるところに」
「どうして? ママはお兄ちゃんにとってもママなんだよ……」
「殴られて蹴られて殺すぞって言われた。それが母親のすることか? 血が繋がらないからできるんだ」
「……そんなこと……」
「ママが言う筈ないって? そう思ってるのはおまえだけだ」
「どうして……!」
里穂は両手で顔を覆い、その場にしゃがみ込んだ。
「お兄ちゃんと一緒にいたいだけなのに……里穂は……!」
「俺はおまえとは一緒にいられない」
「ママがいるから嫌なら……里穂がこっちのおうちに来るよ……」
「あの女が許すわけないだろ。それとも優しいママにお願いしてみるか?」
幸弘の突き放した言葉に、里穂は答えない。
足元の石ころを蹴り、幸弘はもう一度、舌打ちした。お稲荷様の境内で罰当たりとは思ったけど。
いつまでも里穂がうずくまったままなので、幸弘は三度目の舌打ちをして声をかけた。
「立てよ。もう行くぞ」
こくんと頷き、里穂は立ち上がったが、涙を拭っているばかりでその場から動こうとしない。
幸弘はその手をつかんで引っぱった。それでようやく里穂は歩き出した。
遠回りして時間をかけて祖母の家に戻った。
祖母はテーブルに頬杖をつき、苛立たしげに煙草をふかしていた。
「話んならねぇ。いますぐ里穂を連れて帰らねぇと警察に通報するってよ。誘拐犯呼ばわりだ」
幸弘は手を引いたままの妹を見る。里穂は涙を拭っている。
祖母が言った。
「里穂、オラちに来だがっだなら先に相談してくれりゃえがったんだ。バアちゃんおまえの味方だぞ?」
うつむいたまま答えない里穂に、祖母はため息をつき、
「だどもこぉだこどになっだら、しゃあんめぇ。お母さんのところに帰ってもらうしかねぇ。幸弘、支度しろ」
「えっ……俺?」
訊き返す幸弘に、祖母は煙草の煙を吐きながら頷き、
「オメェも一緒なら大人しく帰る気なんべ。オレも会社に休みの連絡入れたからよ」
電車の中で、里穂は幸弘にずっと身体を寄せていた。
幸弘には迷惑だったが祖母の手前、邪険にも扱えない。
里穂は言葉も発しないでいたが、家の最寄駅に着いて改札を出たところで、ようやく口を開いた。
「……お兄ちゃん、お兄ちゃんが里穂のおうちにお泊まりしていって……」
「そんなの……!」
ダメだと幸弘が答えるより先に、祖母が言った。
「そぉだこどオメェのお母さんが許すわげねぇ。お兄ちゃんと会えるのも次は当分ねぇど思え」
「どうしてっ!?」
里穂は声を張り上げた。周囲の通行人が振り返る。
祖母は里穂の顔を見下ろした。眼に怒りが込められていた。
「オメェのしだこどは、そぉゆうこどだ。一番悪ぃのはお母さんだが里穂も悪ぃ」
「お兄ちゃんと一緒にいたいのがどうしていけないのっ!?」
「いげなぐねぇ。だどもそのために嘘ついだのはよぐねぇ」
「そうしなきゃお兄ちゃんに会えなかったもんっ!」
「そのおかげで来月のオメェたちのお父さんの三回忌、バアちゃんは出られなぐなったんだぞ、幸弘もな」
「え……?」
幸弘は驚いて祖母の顔を見る。
祖母は、ふんっと鼻を鳴らした。
「当分オレたちを里穂に会わせるわげいがねぇがら三回忌に出るのは遠慮しろとよ。そればかりでねぇ」
バッグを探って煙草を出したが、駅構内が禁煙であることを思い出したのか、舌打ちして煙草を戻し、
「アイツは分骨の約束も守らねぇ気だ。彰弘の身体をバラバラにできねぇと、たどこ抜かせ!」
「ぶんこつって……オレの母さんの墓に父さんの骨を移すってことだろ? それをしないって言ってるの?」
幸弘が訊ねて、祖母は頷き、
「全部じゃなく一部を移すんだどもな。アイツは彰弘を幸子(さちこ)さんと同じ墓に入れたぐねぇんだ」
「……そんなの里穂、知らないよ……」
里穂は両手で顔を覆い、再び泣き出した。
身勝手な言いぐさに幸弘は腹が立った。里穂自身がしたことの結果じゃないか。
だが祖母は優しい顔になり、里穂の前にしゃがんで頭を撫でた。
「んだな。大人の事情は里穂に関係ねぇな」
「里穂はお兄ちゃんと一緒にいたいだけだよ……里穂からお兄ちゃんを取り上げないで……」
「よしよし、バアちゃんに任せろ。時間はかかるけっどが、いつか里穂が泣がなぐで済むようにしでやっがら」
「……いつ?」
泣き濡れた眼を上げて里穂が訊ね、祖母は首を振り、
「いつどは言えねぇ。だども信用しろ。里穂のお母さんは里穂だけのお母さんだけど、バアちゃんはな」
立ち上がって里穂と幸弘、二人の頭を撫でて、
「オメェたち両方のバアちゃんなんだ。オレはずっと二人の味方だぞ。わがっだな?」
里穂は涙を拭っている。
幸弘は口をつぐんでいる。
祖母は優しい眼差しで、兄妹の頭を撫で続けた。
【終わり】
GJ。
バアちゃん男前過ぎる。
第一部完、てところでしょうか
支援どうもでした
第二部はちゃんと妹が兄を犯す予定w
GJ。ばあちゃんのイケメンっぷりにふらんだーすの犬を思い出したわ。
これはすごい。こんなにわくわくする前書きを読んだのは生まれて初めてだわ。
12レスの文なのに登場人物全員の思いがビシビシ伝わってくる。妹の芽生えにも説得力もあるし。
期待してます。
GJ!
妹の性格が成長してどうなってるか凄く楽しみ。
ばあちゃんカッコイイよばあちゃん。しかし「第二部はちゃんと妹が兄を犯す予定」って……。
この兄にしてみれば確実にトラウマになる出来事だな。続きを激しく期待。
327 :
名無しさん@ピンキー:2008/01/26(土) 17:56:53 ID:JJhxJeif
ばーちゃん最高にカッコイイな
ばーちゃん頑張れ!
ばーちゃん頑張れ!
ばーちゃんの方言に燃えた!
ばーちゃんの漢に惚れた!
続きを楽しみにしてます。
ばあちゃんカッコイイな。
思わず泣けてきたよ。
ばーちゃん良い人だ。二部では母親にどんな鉄槌が下ってるのか楽しみだ。
ばあちゃんの人気に嫉妬w
二部も楽しみだ
久々の名作誕生のヨカン
嫌われ役の母に若干傾きかけたのは秘密だ
ばーちゃん最高だ
SS読んでゾクゾクしたことは何回かあるけど、泣きそうになったのは初めてだ
続きが今から気になって仕方ない
元ヤンばーちゃん小説を書こう!支援
漢と書いてばあちゃんと読む感じ?
というか元レディースって、スレ違いとは分かってるけど
ばあちゃんの過去が気になる
GJレスが続いているけれど、俺もGJを捧ぐ
いつもは長い投下は読み飽きてスルーなんだけれども
とても面白かった
これは先々が楽しみだ
うおおおおおお
超グッジョブ!
設定が神すぎる…続きが気になるぜ!
妹は多分、根はいい子なんだろうな
イヤ、マジにバアちゃん格好よすぎんだろ!
これは続きが気になる。GJだ
妹はいい子だけどことごとく空回りしちゃう子なんだろうなぁ
境遇を考えれば仕方がないとは思うが、妹→キモウトはなるべくしてなった感じだな。
神の香りがする……
バアちゃんのかっこよさは異常
続きに超wktk
GJ以外の言葉が思いつかん・・・
さて、二部ではどんな波紋使いが登場するんだ?
GJ!
あなたが神かばーちゃんが神か
継母の妹とか…
古代からの生き残りのヤンデレ三姉妹+1か…
死んだはずの実母とか…
って波紋使いでてないよw
347 :
名無しさん@ピンキー:2008/01/27(日) 02:58:53 ID:9Pqbh7Kz
久々の良作品だわ
ババアのかっこよさと
妹のキモウト臭が凄い。
いや、妹はまだ普通にお兄ちゃん子だから
まあ時間の問題だけど
>>349 >まあ時間の問題だけど
えっ・・・・・
キモばあ になるの?
たばこ臭いばあちゃんに襲わ
なんか騒がしいなと思ったら、なんだ・・・神様が来てたのか。
>>322なんというか・・・他のあらゆる作品より魅力的だ。
境遇の作りが深いし、人物がとても素晴らしい個性があるし、辛さや優しさや怒りの感情が伝わって来た。
方言とか、虐待の原因が多少妹にあり、それで妹を嫌う事とかで、よりリアルになってる。まるで現実を体験してるみたいだった。
神GJ!続きを楽しみにしてる。
んまぁ、言いたいことは分かるが
>・・・他のあらゆる作品より魅力的だ。
こういう言い様は止めた方がいい
他の作者様はもちろん、当の
>>322様も続きを書きにくくなる
いい作品を待つ身たるもの、できるだけいいGJを心がけたいものだ
「他の人と比べるなんてだーめ」
「そんな事されたら私なにするか分かんないよ?」
こういうことですか?よく分かりません><
何でいつもお姉ちゃんと他の女を比べるの?
お姉ちゃんだけを見つめて欲しいのに…。
お姉ちゃんだけを愛して欲しいのに…。
お姉ちゃんはこんなに貴方を見つめているし、貴方を愛しているのに…。
お姉ちゃんと二人だけの世界を創らないと、貴方は他の娘とお姉ちゃんを比べ続ける…。
待っててね、すぐにお姉ちゃんが二人だけの世界に連れてってあげるから…。
こんな感じになるんですかね?
投下します。
非エロ。12レス予定。
中間考査明けの五月の最後の土曜日。梅雨入りの気配を感じさせる前日の曇天からうってかわって、
抜けるような青空と、やわらかな陽光の差す澄み切った空気の中。
秋巳と葉槻透夏は、電車に揺られていた。電車の中はこれから行楽地に向かうのだろうか、
家族連れや学生らしき人たちのグループが陽気にはしゃぐ姿、恋人同士が寄り添っている姿がちらほらと散見された。
そして、秋巳と葉槻透夏もご多分に漏れず、その集団のなかの一員であった。
どのカテゴリに属するかについては、両者の間で意識のずれがあったかもしれないが。
ふたりで電車のドアに寄りかかるように並んで立っていると、葉月透夏が車両の前方を指さす。
「ねーねー。秋くん。ほら、あそこ見てあそこ。あのふたり、
電車の中にもかかわらず、ちゅーしてるよ、ちゅー」
「ちょ、ちょっと。透夏さん。指ささないで下さいよ。
それと、いくら離れてるからって、聞こえたらまずいでしょう」
万が一、向こうに聞こえていちゃもんでもつけられたら堪らないとばかりに、彼女の腕を慌てて下げる秋巳。
「うんそうだね。こっちも負けてられないよね。はい、秋くん」
と瞳を閉じると秋巳のほうを向き、んー、と口をつきだす葉月透夏。
「人が見てますよ」
「だいじょぶ。だいじょぶ。周りの人は、
ジャガイモか南瓜かなんかだと思っておけばいいから」
そう言って姿勢を崩さず、葉槻透夏がさらに秋巳のほうへ身体を傾けようとしたそのとき。
まもなく駅へ到着することを知らせるかのようにブレーキがかかり、慣性の法則に従って、葉月透夏は秋巳のほうへつんのめってしまう。
結果、慌てて前方に差し出した両手は秋巳の肩へ、そして頭は身長差のため秋巳の首元に収まり抱きつく形になる。
「ほら。人をからかっている暇があったら、
ちゃんとしっかり捕まってくださいよ」
後ろへ一歩たたらを踏んで、葉月透夏を支えた秋巳が、彼女を元の位置に戻すように軽く押し返す。
それと同時に電車が駅に到着し、秋巳たちの寄りかかる場所とは反対側のドアからさらなる乗客たちが乗り込んでくる。
「ふー。危なかった。あやうく私のファーストキスが、
電車の運転手さんに奪われちゃうとこだった」
「運転手さんって、訳判んないですよ。それにそんなに気にするなら、
そういう冗談はやめたほうが良いですよ」
「ちょ、ちょっと! 秋くん。おねえちゃん、いま、かーなーり!
重要なキーワード言ったよ! ねぇ! つっこむところ違うよね!
あ! でもやっぱり初めてだから、入れる場所間違えちゃうのはしょうがないのかな?」
「とりあえず、落ち着いて。日本語はなしてください」
「もう! 秋くんの意地悪!」
意地悪なのは透夏さんでしょう。秋巳はそうつっこみたかったが、黙って溜息を吐いた。
そもそもふたりで出かけることになったきっかけは、葉槻透夏からのお誘いであった。
中間試験最終日の翌日。例のごとく様子を見に来た葉月透夏は、三人での夕食時、
秋巳と椿が食べ終えるのを見計らったように、話を切り出した。
曰く、今週の土曜日に水族館に遊びに行かないか。
たまたま無料招待券をもらったのだが、その期日が五月一杯なので、
今週中にいかないと券が無駄になっちゃうし、勿体ない。
だから一緒にどう?
そう彼女はふたりに誘いをかけた。
椿が用事で行けないと告げると、秋巳は「大学の友達でも誘ったらどうですか?」と提案した。が。
「ぜーんぶ断られましたー!」
とふてくされたように言う葉月透夏をまえに、秋巳が付き合うことになったのであった。
と、そこまでが秋巳の認識である。
しかし、実際のところ葉槻透夏に水族館のチケットを渡し、秋巳を誘うように提案したのは、椿であった。
その日、椿と葉槻透夏がふたりで夕食の準備をしている最中のことである。
「ねえ。透夏さん。水族館の無料招待券が二枚あるのですが、
よかったら兄さんと一緒に行ってきませんか?」
「え? 水族館って、先月ぐらいにオープンした?」
「ええ。そのオープン記念のチケットが、今月一杯で期限が切れてしまうんですよ」
「ふーん。でも、椿ちゃんは行かなくて良いの?」
「あら、私『も』行っていいんですか?」
「う……」
言葉に詰まる葉槻透夏。
椿は知っているのだ。彼女が秋巳と『ふたりだけ』で行きたいと思うことを。それこそ何年も前から。
だからこそ、こうやって協力してくれる。
「ふふ。ごめんなさい。ついつい意地悪言ってしまいました。
それに、チケットはふたり分しかないので」
「そっか……」
「それに、いまさら遠慮することではないでしょう?」
これまでも何度か同様のことをしてきているのだから。葉槻透夏の気持ちを知って。
「うん。いつもありがと! 椿ちゃん」
「いいえ。礼には及びませんよ。私がしたくてしてることですし」
「うーん。誤解しないで欲しいけど、私は別に椿ちゃんのことを嫌っているわけじゃないからね。
っていうか大好きだし!」
もう何度目になるか判らない台詞を、いつものごとく口にする。
それは葉槻透夏にとって、まぎれもない本心であった。
葉槻透夏は、秋巳に対して身内としての愛情、男女間の愛情、彼女の持ちうる愛情の全てを向けていたが、
椿に対しても男女間のそれがないだけで、『姉妹』としての情を持っている。
彼女自身はそう思っていたし、それは決して間違いではなかった。
ただ、葉月透夏は自覚していなかったが、秋巳に向ける情念と、椿に向けるそれは、
明らかに強さの度合いも質も異なっていた。
いま葉槻透夏が椿に対して、愛情を向けられるのは、彼女が自分の想いを脅かすような立場にないから。
彼女が秋巳に向ける強い情念――それこそ、恋慕という表現では弱すぎるような――を知った上で、自分に協力をしてくれるから。
秋巳を奪われないと思っているから。『妹』だったから。
これが、もし自分と血のつながった妹だったら。
葉槻透夏は、おそらく、こんな穏やかな気持ちで椿に接することは出来なかったであろう。
自分と同じ、秋巳と恋愛関係に発展して、結婚まで出来る可能性があるのだから。
が、彼女は、椿に自分の想いを告白してからというもの、そんなことをそもそも想像しなかった。
秋巳と椿をちょっと訳ありだがあくまで普通の『兄妹』として捉えており、
彼女の中で秋巳と椿は同じ天秤に乗ることはなかったのだから、気づく術はないのも当然であろう。
秋巳のためなら、椿を切り捨てられることを――。
だから、彼女の言葉は、彼女自身も気づかないその隠れた不安を打ち消すためのものだったのかもしれない。
そうなる可能性はない、と。
すまなそうな顔を見せる葉槻透夏に対して、椿は野菜を刻むその手を止め、口を開く。
彼女の抱える漫然とした不安を取り除いて安心させるように穏やかに瞳を細めながら。
「ええ。それも理解してます。透夏さんには、充分愛されていることを。ただ、それ以上に――」
手にしていた包丁をまな板の上に置く。
「――兄さんのことを、愛しているだけですよね」
だから、大丈夫ですよ。そう言わんばかりに椿は相好を崩した。
その後、秋巳をどう誘うべきか悩む葉槻透夏に対して、椿は提案をした。
自分と秋巳のふたりを誘う形をとり、自分の都合が合わないという事情で、ふたりで行くことにすれば良いのでは、と。
葉槻透夏はその案に頷いた。
確かにはじめから秋巳ひとりを誘えば、彼は妹の椿が仲間外れにされているように感じ、気にするであろう。
結果として仕方なくふたりで行くということになれば、秋巳も誘いに乗りやすいのではないか。
そういう形式でしか誘えないのは、葉槻透夏にとっては若干不満ではあったが、椿との約束もある。
かつて、彼女が自分の気持ちを椿に伝えたときに言われたことを思い出す。
妹の立場としては、透夏さんのような人に兄と付き合ってもらえるのなら、喜ばしいことである。
応援したいと思っている。
ただ、兄はいまそういう気分が起こるような精神状態ではない。
だから、無理をせずに気長に秋巳のことを振り向かせて欲しい。もし、透夏さんの気持ちが変わらないのであれば。
あの兄が心から透夏さんのことを好きになり、そしてふたりが想い合う形で結ばれて欲しい。
きっとそうなるであろうから。
自分としては、あの兄に素直に好意を抱けないけれど、それでも憎んだり、嫌っているわけではないから。
自分の『肉親』だから。
それに、それが自分の大好きな透夏さんにとっても幸せであるんじゃないかと、思っているから。
椿はそう告げた。
その椿の言葉を聞いたとき、葉槻透夏は嬉しさと安堵の気持ちで一杯だった。
椿が自分の幸せを願ってくれている。
自分を応援してくれる、と。
そして、それまで葉槻透夏の脳裏にかすめていた『ひょっとしたら』を打ち消してくれた。
だから、葉槻透夏は椿とのその約束を守っている。
自分としても、秋巳を無理やりどうこうしたいとまでは考えていない。理性の上では。
自身の強すぎる情動に、時折、『暴走』をしてしまいそうになるが。
それでも彼の不幸を望むわけではない。秋巳には、幸せになってもらいたいと思っている。
それゆえ、秋巳の嫌がるようなことは、極力しなかった。
自分の想いは、普段の軽い言動の中に紛れ込ませて。秋巳が冗談だと思えるように。
でもいつかは振り向いてもらえるよう、願いを込めて。
「ほらほら。秋くん。早く入ろう!」
秋巳と葉槻透夏が家を出てから電車を乗り継いで一時間弱。
正確には、彼女の家まで秋巳が迎えに行ってから、ほぼ一時間後。ふたりは目的地である水族館のまえについた。
葉槻透夏が上機嫌ではしゃぐようにに秋巳の手を引き、『開館オープン記念:五月末まで入場料半額』と
書かれた垂れ幕のかかる建物入り口を潜ると、受付へ向かう。
事実、葉槻透夏は浮かれていた。
それまで、秋巳とふたりで出かけること自体あまりなかった。
行ったとしても、それは精々買い物とか日常生活の延長でしかなかった。
それは、秋巳が女の娘とふたりで出かける、いわゆるデートのようなものを好まなかったこともあるし、
葉槻透夏もそれを知っていたから無理に秋巳を誘うといったことはしなかった。
秋巳が葉槻透夏の家を出てしまってからは、秋巳に会いたいときには彼の家に行くか、自分の家に呼ぶか。
幸い両親が、秋巳たちに対して、定期的な訪問の約束をしていたから、口実には事欠かなかった。
彼女は、自分がその役割をやりたいと両親に懇願した。そして、受験が終了してからというもの、
それを建前にことあるごとに葉槻透夏は秋巳の家へ訪れていた。
しかし、彼女とて、普通の男女がするようなデートをしたいという願望がなかったわけではない。
彼女は、秋巳といられるだけで満足ではあったが、日々想いは解消されるどころか募っていった。
彼と一緒に楽しいことをしたい、彼と恋人同士のように触れ合いたい、彼に抱かれたい――。
だから、その日、葉槻透夏は自分を完全には抑えきれなかった。人前で目立つことを秋巳が嫌うと判っていても。
彼女は幸福の絶頂にいた。
触れ合う手から彼の熱を感じる。
腕を組んだらもっと幸せな気分になれるのではないか。
ああ。この手で自分の身体に触れて欲しい。頬に、髪に、首に、肩に、腕に、胸に、腰に、足に、そして、大事なところに。
彼の手と口が自分の体中隅々まで、至る所を這う。
それはどんなに素晴らしいことであろうか。どれほどの快楽を得られることだろうか。
秋巳の口に触れた指で自らのモノを慰めたときの悦楽を思い出す。きっとあんなもの比べ物にもならないのだろう。
透夏は夢想する。
先ほど、彼に勢い余って抱きついてしまったとき。鼻をくすぐった秋巳の香り――いや、匂いといったほうが相応しい――それを思い出し、
彼に抱かれたら、どれほど愉楽に浸れるのであろう。彼の全てを感じたい。自分の全てを感じて欲しい。
『あやうく私のファーストキスが、電車の運転手さんに奪われちゃうとこだった』
この言葉は、葉槻透夏にとって嘘でも冗談でもなかった。秋巳とキスはしたい。でも、秋巳からしてもらわなければ意味がない。
突発的な事象で、それこそ自分の意志も秋巳の意志も介在しないところで、接吻という結果だけ得ても仕方がない。
それでもやはり幸福感には飲み込まれるだろうが、自分は秋巳の心までも欲しいのである。
だからこそ秋巳との『初めて』はすべて彼に与えられなければ意味がない。
「透夏さん? 透夏さん!」
秋巳は受付で処理を終えると、ぼーっとしている葉槻透夏を呼び覚ますように、声をかける。
「……えっ? あ、な、なにかな。秋くん」
「なにかなって、早くって催促したのは、透夏さんじゃないですか。
ほら、入れますから行きましょう」
そう言って、葉槻透夏にチケットの半券を手渡す秋巳。
「う、うん。そうだったね。あ、ね、ねえ! 秋くん。
いまからここの中だけで『恋人ごっこ』しようか!」
そう提案し、秋巳の腕に絡みつく葉槻透夏。
ああ。また彼の匂いに包まれる。
「ちょ、ちょっと透夏さん?」
「まーまー。いいじゃない。こんなところに知り合いがいるわけでもなし。
いつか秋くんが、本当のデートをするときに備えて、そのときにあたふたしないようにね」
当然そのときの相手は自分だけれど。
なんの疑いも持たず、そう信じる葉槻透夏。
「もう。透夏さん。意地が悪いですよ。そうやって、
女の娘に免疫がない男を、からかって楽しむんだから」
秋巳は、そもそも他人の感情の機微に疎いほうではない。
だが、彼女がそう思うように仕向け、それが、秋巳自身の考えのベクトルにあっている限り、秋巳にそれを疑う余地はない。
「ふーんだ。そう思ってるなら、もっとあたふたしておねえさんを楽しませてよ」
(――そして、自分を意識してよ)
葉槻透夏は自分の気持ちに嘘をつくようなことは言わない。大事なところは言わないだけ。
「趣味悪いですよ」
そう苦笑する秋巳。
葉槻透夏は思う。
そんなこといわれなくても判ってる。いまだに自分に関心をそれほど向けてくれない年下の男の子に、これほど惚れぬいて。
それこそ自分のすべてを引き換えにしてでも欲しいと望んでいることに。
「よーし! じゃあ、今日は秋くんを三回動揺させたら、ミッションクリアだー!」
「なんのミッションですか……」
「人生の、よ」
そう満面の笑みを湛えながら、呟く透夏。
「ほらほら、秋くん。あーん」
水族館内の、巨大な水槽に面した喫茶ルームにて。葉槻透夏は注文したパフェを、秋巳はコーヒーを口につけていると。
ふと思いついたように、葉槻透夏が、パフェを一さじすくって、秋巳のほうへ突き出した。
「これも『恋人ごっこ』の一環ですか……?」
もうすでに諦め、吐く溜息も尽きてしまったかのごとく言葉を返す秋巳。
「そうそう。恋人だったら、これくらいの羞恥プレイには耐えられないとね」
「あの、パスはなん回まで?」
「拒否権はありませーん!」
楽しそうにころころと声をあげる葉槻透夏。
椿も、恋人が出来たらこういうことをするんだろうか。複雑な気持ちで考える秋巳。
「あ。ほら。ジンベイザメですよ。透夏さん」
そしてその考えを打ち消すように、水槽のほうへ眼を向けると話を逸らすためにそちらを差す。
「うん。ほんとだね。あれ、二頭いるうち、追っかけてるほうがメスかな?」
「いや、普通はオスじゃないですか?」
「うんうん。そうだよね。はい、あーん」
「まったく逸らされませんね」
「うん。秋くんには、逃げの一手もないから」
そのまま、にこにこと態勢崩さない葉槻透夏。
もう、これは自分がこれを食べるまで続くんだろうなと思った秋巳は、観念したように口を開く。
「はい」
よくできましたとばかりに、葉槻透夏は秋巳の口へスプーンを差し入れる。
秋巳が口を閉じたタイミングで、引き抜かれると思ったそれは、
葉槻透夏が愉快そうにさじをくるくると秋巳の口内で回すという結果に裏切られる。
「ちょ……」
慌てて頭を後ろに逸らし、無理やりスプーンを引き抜いた秋巳は、彼女に抗議の声を上げる。
「どんな嫌がらせですか、それは」
「んー? それは心外なこと言うね。おねえちゃんが、
秋くんに嫌がらせするわけないじゃん」
「もう一杯されてますけど……」
「ひどいっ! 秋くん、そうやって乙女心を傷つけるんだから!」
「どうしろと……」
困り果てる秋巳であった。
透夏は、そんな秋巳を見て楽しそうに微笑むだけ。
(まあ、いいのかな……)
秋巳は思う。
葉槻透夏が自分をからかって、それで楽しんで満足するのなら。
彼女は『恩人』なのだから。
絶望の闇の中から、自分に手を差し伸べ拾い上げてくれたのだから。
なにより椿を救ってくれたのだから。
このくらいで、彼女が満足するなら、自分はきっと我慢すべきである。
自分にとって、このくらい生易しい『義務』ではないか。
秋巳はそう考えた。
「もう秋くんはね、乙女心をもうちょっと勉強すべきだよ!
そんなんじゃ好きな女の娘ができたときに、その娘を悲しませちゃうよ」
(――だから、あたしを悲しませないで)
「透夏さんが、僕に女心を判らなくさせてる筆頭なんですが」
きっとそんなときが来ることはないのだろう、そう思いながら秋巳が応える。
「乙女心はミステリアスなの! ブラックボックスなの!
シュレディンガ―の猫なの! 観測したら死んじゃうんだから!」
「じゃあ、箱をあけないでそっとしておきますよ」
「ダメ! 観測しなきゃ、生ける屍なんだから」
「僕に殺しをしろと?」
「うん。秋くんは、女殺しだから」
そう言って、葉槻透夏はスプーンを見ながら満悦そうな表情を浮かべた。秋巳の唾液がたっぷりと付着したそれを見て。
葉槻透夏は疑問を持たない。秋巳が自分を振り向くようになることについて。
だって、自分がいたからこそ、いまの妹思いの秋巳があるのだから。
それが彼女の自負だった。
* * * * * * * *
秋巳が小学生の頃。彼は、どこにでもいるごくありふれた普通の少年だった。
中流よりは裕福といえる家庭に生まれ。両親と妹、四人家族でごく平凡と呼ばれる生活を送ってきた。
毎日、遊びの時間と給食を楽しみに学校へ通い。
家では、妹の椿をからかってむくれさせたり。
そのくせ、椿がその僅かに他の人と異なる容姿のため他所の子にいじめられているのを見ると、
自分より年上だろうが、体躯が立派だろうが食って掛かった。
自分も椿と同様にその見かけが周囲と多少異なることを理由に、からかわれたり、
小学生特有の無邪気な悪意の言葉に傷つけられることはあったが、
それでも、それについて現在のような劣等感を持つまでには至らなかった。
傷だらけの姿で椿をあやす光景を父親である如月凍也(きさらぎ とうや)に頭を撫でながら誉められたときは、
なんとも言えない照れくささを覚え、なぜか悪いことをしたわけでもなかったのに、
今度は見つからないようにしようと考えた。秋巳が小学五年のころである。
また、秋巳が水無都冬真と知り合ったのは、小学三年のとき。
水無都冬真はいまとは違う性格をしていた。明るいヤツ、楽しいヤツ、暗いヤツ、むかつくヤツといった
小学生ならではの単純な分類で言うなら、彼は『暗いヤツ』に分類された。
その頃は、まだ他人の悪意を疑うといった思考をもたなかった秋巳は、
校庭の片隅でつまらなそうにぼーっと突っ立っている水無都冬真に対して声をかけたのであった。
「ねぇ、そんなとこでなにしてるの?」
秋巳は純粋な疑問から問う。
「…………」
水無都冬真は秋巳の質問に答えない。無視をした。
ここで大抵の小学生ならば『変なヤツ』、『根暗なヤツ』と決め付け、それ以降話し掛けることもしなかったであろう。
現に、いつもひとりでいた水無都冬真に対し、好奇心から彼にからかい半分で声をかける人間はいた。
そして、彼が秋巳にしたときと同じような態度をとると、すぐに興味を無くしたように去っていき、
精々陰で彼のことを貶めるぐらいのものだった。
しかし、秋巳はそれでも、気にした様子も無くさらに彼に話し掛ける。
「ねえ。面白い遊び教えてもらったんだけど、一緒にやらない?」
「…………」
水無都冬真はそれでも返事をしない。ただ、黙って秋巳を見つめているだけだった。
(なんで、こいつは他の奴等とおなじような反応をしないのだろう……?)
彼は不思議だった。
「ねぇ。ほら、行こうよ」
水無都冬真の手を掴んで、ブランコの方へ歩き出す秋巳。それこそ、水無都冬真に断られるなんてことを想定していないように。
「ほら、こうして枠を書いて、陣地を作るんだ。あと一個石ころを用意してね……」
ブランコのところまで来ると、教えてもらったという遊びの説明をする秋巳。
「でさ、ブランコを漕ぎながら、相手が自分の陣地に置いた石を取れなくなったら、負けなんだ。ね、ほら、やろうよ」
(なんなんだ……? こいつは?)
水無都冬真は戸惑いながらも、秋巳に押されるままブランコに腰掛ける。
「じゃあ、俺から置くからね」
秋巳がそう言い、勝手に遊びを始めてしまう。水無都冬真は、秋巳に流されるまま、その言葉に付き従うだけであった。
それが、秋巳と水無都冬真が仲良くなる切っ掛けであった。
水無都冬真は、それからも休み時間、放課後と秋巳に引きずられるだけだったが、家に帰っても両親の喧嘩や、
互いの愚痴を聞くだけであったので、家に帰るよりは秋巳といたほうがましだった。
その『まし』だったことが、いつしか『楽しみ』になり、『望み』になったころ、彼の性格も変わっていた。
どちらかといえば、明るくお調子者で、クラスの笑いを取るような『人気者』としてのキャラクター。
そうなるまでには、二年の歳月が経っていた。
だが、秋巳にとってのそんな当たり前の光景が続いたのは、秋巳が小学六年の夏までであった。
そろそろ夏休みを迎えるにあたって、クラスの生徒たちの話題も夏にどこへ行くなんてことが上り始めた頃。
秋巳が六年になってからクラス替えでできた新しい友達と、小学生らしい下らない話で盛り上がっていたところ、
急に担任に呼び出されて、いますぐ帰宅するように命じられた。
碌に事情も説明されないまま家に帰ると、出迎えてくれたのは、葉槻透夏の父であり、秋巳にとっては父方の姉の夫、
いわゆる伯父である葉槻栖一(はづき せいいち)であった。
出迎えてくれた葉槻栖一に、いきなり抱擁され、しっかりするんだよと囁かれ。
訳も判らないまま連れて行かれたのは病院だった。
そこで伯母に連れられた妹の椿とともに知らされたのは、父である如月凍也の死。
秋巳は一瞬なにを言われたのかさっぱり判らなかった。理解できなかった。
あの優しく自分の頭を撫でてくれた父がいない?
いや、いないのではなく、亡くなった――死んだ、と言われた。
なにを言っているのだ、伯父さんは。
父さんなら、朝、普通に会社に行ったではないか。いつものように、行って来ます、と。
だから、夜にならなければ、帰ってこないはずではないか。こんなところにいるわけがない。
なぜ伯母さんは泣いているのか。手を繋いでいる椿が不安げな顔をしているじゃないか。
父さんと約束したじゃないか。妹を守るって。おにいちゃんなら妹を守ってやれって。
それでも、秋巳からは「あ……」という呻き声のようなもの以外、一切の言葉は発されなかった。
いや、そもそも口を開こうという意志すらなかった。
薄暗く夏だというのに冷たい霊安室で、動かなくなった父と対面したときも、ひと言も喋らず、
その静かな部屋に響き渡っていたのは、伯母のすすり泣くような声だけだった。
「おにい……ちゃん……」
擦れるような声とともに、腕を引っ張られる感触に反射的に振り向くと、
自分と同じくなにが起こっているのかも判らないような無表情の椿の顔があった。
「悲しいの……? お父さん、死んじゃって、泣きたいの……?」
「あ……だ、大丈夫。おまえは大丈夫だから!」
秋巳は自分でもなにを言っているか判らずに、叫んだ。それは、最早口癖に近かった。
椿がまだ小さく、転んで泣きそうになったとき。
椿がいじめられて、学校へ行くのを泣いて嫌がったとき。
椿が親に叱られて、部屋に閉じこもったとき。
「大丈夫。大丈夫だから。兄ちゃんがなんとかしてやるから」
そう妹の頭を撫でながら元気付けてきた。励ましてきた。
だから、椿がその言葉に事情が飲み込めないまま、表情を歪めたその刹那。
自分ですら状況が理解できていないのに、反射的に叫んでしまった。
「おまえには、兄ちゃんがいるからな……!」
伯母である葉槻東(はつき あずま)のすすり泣く声がより一層大きくなる中、そう言って椿の肩を抱いた。
そのとき秋巳は気が動転していたため、疑問を抱かなかった。葉槻栖一や葉槻東に尋ねなかった。
なぜ父凍也が死んだのか。なぜ母の如月茜(きさらぎ あかね)がここにいないのか。
葉槻栖一と東も伝えなかった。幼いふたりの兄妹のことを慮って。
如月凍也が殺されたこと。そして、殺したと思われる母の妹である永津みなみ(ながつ みなみ)が自殺していること。
茜が警察に事情を訊かれていることを。
だが、伯父夫妻の配慮は結果的に裏目に出た。醜聞好きな周囲からの歪められた情報を以って。
曰く、如月凍也は永津みなみと不倫の関係にあった。
曰く、愛憎の末、心中に近い形で永津みなみ――つまりは、秋巳の叔母――に殺された。
そして、哀れな母親と、幼いふたりの兄妹が取り残された、と。
一ヶ月程病院に入院していた母親は、家に戻ってきたとき、人が変わったようになっていた。
それまでは、基本的にあまり子供に干渉せず、どちらかといえば放任主義であった。
如月凍也が休みの日などは、四六時中彼にべったりで、子供が危ないことをしたり、
他人に迷惑をかけたりしない限り、好きにさせていた。
それ以前に葉槻栖一・東夫妻が遊びに来たときなど、あまりのその如月夫婦仲の良さに、
からかい半分やっかみ半分で「妬けるわねぇ」などと言って、葉槻東は、夫の腕を抓っていた。
だが、如月凍也の死から一ヶ月、退院してきた如月茜は必要以上に子供に構うようになっていた。
いや、正確には、子供に、ではなく、秋巳に、であった。
秋巳が出かけるたびに、どこへ、だれと、なにをしに行くのか、なん時に帰ってくるのか、しつこく訊ねる。
秋巳が家にいれば、必要以上に触れ合い、子は親に甘えるものよといって放さない。
そして、椿はそれに反比例するように前以上にほったらかしにされるようになった。
単に放置するだけではなく、半ば敵意をもったような態度をとるようになった。
椿が母である如月茜に呼びかけても返事をしない。なにかしてくれと頼んでも聞いてくれない。
椿が秋巳にひっついていると、なにかと用事を言いつけて、それを聞かないと怒り出す始末。
秋巳はそんな妹に対して、頼みは自分の出来る範囲で叶えてやり、用事を言いつけられれば一緒に手伝ってやるなど、
なにくれとなく助けてあげていた。そんな秋巳の態度が、如月茜を余計に苛立たせる結果になろうとも。
それが、如月茜による椿への虐待へ至るまで、そう時間は必要なかった。
秋巳は、母親の気持ちも判るだけに、その理不尽な態度に対しても、面と向かって対立は出来ずに、
自分が見つけられる範囲で椿を庇うのみであった。
周囲の醜聞を鵜呑みにするしか出来なかった秋巳は、父親を憎み、恨んだ。いままで父凍也を尊敬できる人として慕っていただけに、
不倫などという自己中心的な欲望で、母に、妹に、自分にこんな仕打ちを与えた父親を許せなかった。
だが、そんな異常な生活は長くは続かない。発端は、椿に対する虐待の跡を伯母である葉槻東が発見したことであった。
父親が亡くなり、母親が入院してからというもの、兄妹の面倒を見てやり、
母親が戻ってきてからもなにかと様子を見にきてくれていた伯父夫妻が、この家庭の奇異を見つけることになったのは、
必然の出来事といえた。
椿の身体にあるいくつかの痣について、葉槻東が椿本人に問いただし。
それが母の仕業であることを否定しないと言う形で、椿が肯定したとき。
葉槻夫妻は、如月茜に対して、なんとかして対処をする必要があることを、まざまざと実感させられた。
憐れな如月茜に対して、事を荒げたくないと考えた葉槻夫妻は、母親が落ち着くことを願って、まず彼女に対して再婚を奨めた。
如月茜は器量も良く、若くしてふたりを生んだこともあり、例えふたりの子持ちであることを差し引いても、
本人さえ望めばいくらでも相手はいると思われた。
葉槻夫妻の提案に対し、にべなくつっぱねる如月茜に対して、ふたりは会うだけ会ってみればと度々半ば強引に何人かの男性を紹介した。
しかし、彼女が誰と会おうとも、如月家の生活はなんら変わらない。
秋巳とすれば、母親に必要以上に干渉されるのは窮屈であったが、それでもそれは母の愛情だと感じられたし、
妹の椿にも同じように愛情を注いでくれるのならば、なにも文句はないと考えていた。
父親に捨てられたと感じている秋巳にとっては、歪んだ形であっても家族の愛情を感じられる『いま』を手放したくなかったのかもしれない。
父が自分たちを捨てたのなら。
父が母を捨てたのなら。
自分たちに父は要らない。
家族は三人だけなのだ。
そう思いたかったのかもしれない。
だから、母には椿を疎んじてもらいたくなかった。妹を無視しないで欲しかった。彼女を虐めないで欲しかった。
だが、そう願う秋巳に対して、衝撃を与える出来事が起こる。
秋巳が学校から帰宅すると、いつものように抱きしめて迎える如月茜。その彼女の口がこう紡いだのだ。
「おかえりなさい。凍也さん」
秋巳は言われたことを理解できなかった。いま母はなんと言ったのだ。自分に向かって。
あの男の名前を呼んだのか。
「か、母さん……?」
「どうしたの? 凍也さん。今日は、あなたの好きなシチューを作ってますから。
さ、あの女が来ないうちに食べましょう」
「な、なにを言ってるの? 俺は、秋巳だよ! ねえ、あの女って誰?」
「あの女って……、この家に居座っているあの女でしょう?
私から、凍也さんをとろうとする、あの泥棒猫! みなみ!
あの女、どれほど遠ざけようとしても、しつこくあなたに絡んでくるのよ。
あなたからも、言ってやってくれない? いいかげんにこの家から出て行きなさいって」
そう冷たい表情で、冷徹な言葉を吐く如月茜。
秋巳は理解不能であった。
母はなにを言っているのか。
あの女? この家にいるのは、あとは椿だろう? 叔母さんじゃない!
それに自分は、如月秋巳なんだ! 父さんじゃない。
秋巳は幼いながらも悟った。
母がなぜ必要以上に自分にべたべたしてくるのか。母は自分を見ているんじゃない。
『如月秋巳』を見ているんじゃない。母が自分に見出しているのは、『如月凍也』なのである。
そして椿のことは『永津みなみ』、自分の妹のことと思い込んでいる。
秋巳は、絶望した。
自分のなかで唯一の親であると思っていた、如月茜は、もう自分を見ていない。母の中に自分はいない。椿はいない。
あの憎い如月凍也と永津みなみだけなのだ。
唯一縋った縄を、その結んである根元から切られてしまったかのごとく、秋巳は真っ暗闇の地獄に再び叩き落された。
それと前後して、このまま放置をすれば、椿の命にも関わると危機感を抱き、
もはや自分たちの力だけでどうにかなるものではないと悟った伯父たちによって、如月茜は再び病院へ舞い戻ることとなった。
「ねえ、お母さんは……?」
母が再び入院したその日、学校から帰ってきた椿の第一声がそれだった。先に帰っていた秋巳に向かって。
「お母さんはね。ちょっと身体の調子を崩しちゃって、
いま、お医者さんのところで、それを治しに行ってるのよ。
だからね、ちょっとの間この家を離れるけど、またすぐ戻ってくるから、
おばさんたちのおうちでお兄ちゃんと一緒に待ちましょうね」
秋巳と一緒にいた葉槻東がそう優しく椿を諭す。
秋巳は信じられなかった。なぜ母のことを案じる。おまえは、母親に『永津みなみ』を投影され、疎んじられ、虐げられ、迫害されたんだぞ。
それなのに、なぜ気にする。母がいなくなったのに、なんでほっとした表情を見せないんだ。
秋巳の心はそのとき、ぎりぎりの限界のところまで擦り切れていた。
さらに、その二ヵ月後、如月茜が病院内で自殺をしたと聞いたとき、その心情は振り切れた。
母まで自分を裏切るのか。自分を捨てるのか。
だったら、もう、家族など要らない。自分の家族など、自分を不幸の底へ突き落とすだけではないか。
自分には家族などいない。だから、いなくなっても自分は傷つかないんだ。
秋巳が幼い精神を守るためには、そう思い込むしかなかった。
だから、椿を『いないもの』とした。椿がなにを話し掛けてきても無視をした。
かつて、彼の母親がそうしたように。
それでも、椿は諦めることを知らないかのように、健気に秋巳に付き従った。無視されようとも。存在を否定されようとも。
ただ、やはり、幼い心にそれは耐えがたいことだったのかもしれない。
父に捨てられ、母に捨てられ、それは、椿も秋巳と同様なのである。
その上、兄にまで見捨てられた形になったのだから。
秋巳が椿の存在を否定してから、約一年。彼女は、それでも兄を『兄』として接していたが。
秋巳の心が落ち着き、かつてとは異なるけれども、それでもやっと『妹』の存在を再び認められるようになったとき。
椿の秋巳への呼び方は、かつての『おにいちゃん』から『兄さん』になっており、
そして、実の兄に敬語で余所余所しく接するようになっていた。
秋巳はいまでも後悔をしている。かつての自分を呪い殺したいほどに。椿の存在を殺した自分に。
それでも『秋巳』を殺さなかった椿に対して、彼はなにをしても償いきれないのだろうと考えている。
そして、彼には『恩人』ができた。葉槻夫妻とその娘である、葉槻透夏。
秋巳が不幸に見舞われる前から、葉槻透夏は秋巳に対して恋心を抱いていた。彼女にとって初恋だった。
不幸の当事者からは僅かに外れ、秋巳より二歳年上の葉槻透夏は、
その精神においても秋巳より多少成熟していた。
それ故、彼を癒すことができたのだと葉槻透夏は思っている。
幸いにして、秋巳は葉槻透夏に対しては、ある程度まともに接していた。
世の中全ての人間を忌避するようになった秋巳であったが、彼にとって、葉槻透夏は『家族』ではなかったため、
無視する存在ではなかった。それと同様に葉槻夫妻に対しても。
秋巳の心の中でガチガチに固まった氷塊を、葉槻透夏は根気良く溶かしていった。
彼に疎まれるような態度をとられようとも。嫌われているような言動をされようとも。
秋巳が、かつての自分を取り戻すことを信じて。
それは彼女の執念だった。普通の人間であれば諦めていただろう。
なにをしてもこの子の心は取り戻せない。このままだと、椿の心も壊されるのではないか。
葉槻夫妻ですらそう心配した。
それでも葉槻透夏は諦めなかった。親子の愛や、男女の愛を説くつもりなど毛頭無かった。
ただ、このままでは秋巳が幸せになれない。
秋巳の幸せを。それだけが葉槻透夏の願いであった。
他のことは二の次に、秋巳のことだけを第一に行動した。
それが実を結んだのだと、葉槻透夏は信じている。いまの秋巳があるのは。
彼女にとって、いまや、秋巳は自分の全てであった。葉槻透夏の存在意義。それは、秋巳とともにあった。
秋巳がいなければ、自分のいる意味など無い。いまの秋巳が自分の存在を認めてくれるのだと。そう思うようになっていた。
秋巳が他の女の娘とくっつくなんて考えられないし、秋巳の幸せは自分とともにあることなのだ、と。
だから、秋巳が椿とともに葉槻夫婦の家を出ると言ったときも、葉槻透夏はなんとか耐えることが出来た。
そこまでの信念が無ければ、おそらく、取り乱し、秋巳に縋っていたであろう。
なぜ、自分を置いて出るのかと。
秋巳から、その訳を聴いたときもなんとかこう返すことが出来た。
「そっかー。秋くんも、そこまで考えてるなら、おねえちゃんに是非はないよ。
秋くんが思うとおりにやってみるといいよ。
おねえちゃんは秋くんの幸せをいつでも願ってるから」
秋巳が葉槻夫妻の家を出たいと言った理由。悪夢で上書きされ、良い思い出が残っているとは言い辛いはずの、
かつての如月家に戻りたいと言った故は、再び入院した如月茜へ椿から送っていた手紙であった。
そこに綴られた内容を見たとき、秋巳は頭をガツンと殴られたような衝撃を受けた。
早く、秋巳と母の三人で暮らした生活に戻りたい。
きっとお父さんも帰ってくる。
だからお母さんも早く帰ってきて。お父さんに会いたいでしょう。
自分は会いたい。お父さんに。お母さんに。お兄ちゃんと一緒に、あの家で。
お母さんは、お父さんに会いたくないの? 早く帰ってきて。
そんな内容の手紙を椿が書いていたことに、秋巳は動揺を禁じえなかった。
あれほど虐待されたのに。あれほど疎まれたのに。兄にすら、その存在を消し去られたのに。
それでも『家族』四人の生活を望んでいる椿の想いを知って。
椿の家族に対する『愛』は、弱い自分の心など計り知れないほど巨大なものなのだと実感させられた。
そして、決意した。
いまでも椿が、あの家に帰ることを望むのなら、戻ろう――。
帰るはずの無い、父と母を待ちつづけよう。
それが少しでも椿への償いとなるのなら。
ある日の深夜。
秋巳は椿に割り当てられている部屋のドアをノックした。
「はい」
部屋の中から返る声。
「椿。僕だけど。ちょっといいかな」
秋巳の自身の呼び方は、他人への興味が薄れていくとともに、いつのまにか『僕』と呼ぶようになっていた。
「兄さん? こんな遅くにどうしました?」
ドアを開け、兄である秋巳を迎え入れながら、訊ねる椿。
勧められるまま椅子に腰掛け、椿に話を切り出す秋巳。
「なあ。椿。おまえは、いまでもあの父さんと母さんが好きか? あの家が好きか?」
恐怖ゆえ、秋巳はその質問の中に自分を含めない。
「どうしたんですか。急に」
「椿の思っているところを教えて欲しい」
「そんなこと――」
椿はいまさらなにを、とでもいいたげな表情で返す。
「決まっているでしょう。好きですよ。父さんも母さんも。
そして、『家族四人』で暮らしたあの家も」
「そうか……」
秋巳にとっては、その回答は想定の内であった。
「じゃあ、いまでもあの家に戻りたいか……?」
椿は、迷うところなど一切みせずに即答する。
「家族ならば、自分の家で過ごすのはあたりまえでしょう?
ただ、私たちは伯母さんたちの好意に甘えて居候させてもらっているだけで」
その答えだけで秋巳にとって充分であった。
だから、戻ろう。我が家に。自分の代わりに冷えてしまった椿の心を取り戻すために。
たとえ、椿が自分を嫌っていたとしても。椿がそれを望むのなら。
そうして、秋巳が高校一年の夏、椿が中学三年の夏、あの悪夢のような出来事から四年経って。
如月家での兄妹ふたりの生活が始まった。
* * * * * * * *
秋巳との水族館デートを終え。その後、映画館、食事などに行ったが、葉槻透夏は、
当初の約束どおり水族館を出てからは恋人のように接することは無く、終始いつもの秋巳に対する態度であった。
駅で秋巳と別れてから、ひとり街頭に照らされる街並みを歩く葉槻透夏。
ひたすらに今日の余韻に酔いしれていた。
なんて甘い蜜であったのだろう。あの味を知ってしまったら、もう戻れない。まさに麻薬のごとき中毒性ではないか。
彼女は、自分の、いや、人としての欲深さを思い知らされる。
一度味を占めてしまうと、同じモノでは満足できなくなる。もっと質の高いものを、より多く、求めたくなる。
葉槻透夏の理性は、自身に注意を喚起をする。
――焦ってはいけない。
――急いてはいけない。
自分が優先するのは秋巳の幸せではないか。自分ひとりの幸せではない。
――慌ててはいけない。
自分の幸せは秋巳とともにあるのだから。
だが、それと相反する気持ちが自分のなかで抑えきれなくなってきていることも自覚している。
だって、あんな幸せを与えられてしまったのだから。感じてしまったのだから。
ほら。あそこを歩く恋人同士なんて、あんなに仲睦まじげに腕を組みながら、
お互いこれ以上の幸福はないといえる笑顔を向け合っているではないか。
あれは、近い未来の自分と秋巳の姿だ。そう信じている。
そんな葉槻透夏の思索を邪魔するように、背後から声がかかる。
「あれ? 葉槻さん? 葉槻さんじゃない?」
後ろを振り向くと、ひとりの男が立っていた。男の出で立ちは一般的にいって『お洒落』と分類されるものであり、
髪型や眉などにも気を遣っている様が一目で見て取れ、その顔立ちも男前といって申し分ないものであった。
「あ。やっぱり。葉槻さんでしょ? いや、吃驚した。
大学で見かける様相と全然違うんだもん。
どうしたのそんなにお洒落しちゃって?」
「え……いや」
葉槻透夏の返事など待たないように、男が続ける。
「いつもさ、キャンパスで見かけるとき、もっと地味な格好してるでしょ?
俺もさ、周りの男どもと言ってたんだよ。葉槻さんって、
派手に着飾ったりしないからなかなか気づきにくいけど、
お洒落したらめちゃくちゃ美人だよなって。
いまのこの格好で大学行ったら、男どもがほっとかないよ?」
(なにを言っているのだろう、この男は――)
葉槻透夏は思う。
秋巳のいないところで、お洒落して、どうでもいいような男たちの目を引いて、自分になんの得があるのか。
「ってか、ひょっとしてデートだった?」
「……いえ」
この目の前の男に、先ほどまでの幸福の一時を『デート』などと括られると、秋巳との思い出を汚されたように感じる。
「葉槻さんって、大人しくてあんまり目立たないから、勿体無いよ」
なんで、あなたたちになんかに愛想を振り撒かなければならない?
「あ、これから時間ある? なんなら、俺と遊びに行かない?」
「いえ。ごめんなさい。ちょっと、急ぐもので……」
「あー。そうなんだ。そりゃ残念。あのさ、じゃ、今度遊びに行こうよ!
いきなりふたりってのは抵抗があるなら、他の仲間たちも誘ってさ!」
「……ええ。機会があれば」
一生無いだろうけど。
「あ! そんときは、いつもの格好でもいいよ。
他のヤロウどもに、葉槻さんのこと意識してもらいたくないしさ」
あなたにもね。葉槻透夏は、心の中で付け加える。
「ごめん。急ぐんだったよね。じゃあ、また、キャンパスで」
そう言って、その男は、葉槻透夏とは逆の、駅の方角へ手を振りながら歩き出す。
「ええ」
葉槻透夏は、それだけ返事して踵を返すと、わずらわしいものから開放されたように、再び家路へと足を向ける。
それから、ふと思い出したように呟いた。
「いまの人、誰……?」
以上。投下終了です。
リアルタイムGJ!
>>368 GJ!!透夏は本当に秋巳の事にしか興味がないようですね。
やべぇ
良作が続いてくれて
嬉しいよ
GJ
なんだけど、キモウト小説でよいんだよね?
キモウトぶりが見れるのはまだ大分先か?
誰か俺のためにこれの人物相関図作って・・・
名作続きの中お目汚しスマソ。監禁トイレ三話、投下します。
母親は何も説明してはくれなかった。よそ行きの服を着せられ、着いた先はホテル。
―――とにかく、大きい。
二人は思った。落ち着きなく周りを見渡す。どこもかしこもピカピカだ。客も従業員も、肩肘張った姿勢で歩いていく。うっすらと浮かぶ笑顔もどこかこわ張っている。
幼さ故か。双子は一種過剰な愛想の満ちた空間に、戸惑っていた。母親も緊張した表情で誰かを待っている。
きっと「スキナヒト」が来るんだ。
双子は互いに頷き合うと、母に倣って椅子に座った。しばらくして母親が立上がり、入口に向かって手を振る。視線を追った先には母より歳のいった男性が。そして、男の影に隠れるように少年と少女が立っていた。
壁にもたれ、足を伸ばす。
トイレの床なんて座る気にもならない。だが手錠のせいで、立てるのは良くて中腰まで。長丁場になるなら体力は温存しておくべきだ。左の腿辺りに陽射しが当たる。窓に目を向け、外界を夢想して溜め息をつく。大分日が高くなってきた。
これが、まずかった。
時間経過を意識した途端、人間としての欲求が首をもたげる。
食欲はまだ良い。
いずれ直面する深刻な問題だ。しかし、現状それよりも問題なのは尿意。まあ場所は問題ない。
ここトイレだし。ただここには、僕以外の人間が二人もいる。しかも女の子。あまり悠長な事はしていられない。一度気付けば、尿意は恐るべき速度で膨張していく。心の蛇口を緩めれば、すぐにでも…
…漏れそうだ。
「あ、あのさ、姉ちゃん…」
僕の携帯の電池を外している姉ちゃん。蓋の裏を見て、「よし」とか言っている。
「なあに?」
それが何を意味するか分からない。が、放っておく。
「その、尿意を催した訳ですが…」
「どうぞ♪」
どうぞ♪じゃねえ。
「いや、だからですね……?」
「ああ!!そういう事ね!!」
合点した、といった顔になり、僕の電話をポケットにしまう。
理解してくれて良かった。しかし寝たままの蕾は大丈夫なのか?全く起きる気配が無いのだが…
ガチャガチャ。
おい。
おいおいおい!!
「ちょっと待て」
姉ちゃんの手を押しとどめる。
「?」
何で不思議そうな顔をする。止めて当然だろう。あんた今何してるのか分かってんのか。
そう、姉ちゃんは蕾を起こす事も外に出ていく事もしていなかった。何故か僕のベルトを外し、ズボンを脱がそうとしていたのだ。
「何しやがりますか、あなたは!」
「い、言わなきゃいけないの……?たっくん鬼畜…」
何故頬を赤らめる。
何故瞳を潤ませる。
「お、おしっこ…飲んで欲しいんでしょ……?」
ああ…姉ちゃんの脳内は宇宙だ。あなたの思考は僕の手の届かないところにあるのですね。
「そんな訳ないでしょ!!席を外してくれって言いたかったんだ!!」
「やだ」
「…」
二文字で却下された。その後、膀胱の許す限り説得しようとするも、姉ちゃんは決して引き下がらなかった。「手伝ってあげる」と目をきらっきらに輝かせながら寄ってくる彼女を押さえ付け、ズボンを下ろす。
便座に座り、鉄壁のガードで愚息を隠した。
「ふぅー…」
水音を聞きながらようやく解放感に浸る。が、それほど素晴らしくも感じられないのだ。右手を手すりに繋がれているので、便座に座るとどうしても不自然な体勢になる。左側に腰を捻る為、運動不足の体が悲鳴を上げた。
排尿を済まし、ズボンを上げようとして……姉ちゃんに捕まった。
「ちゃんと綺麗にしたかな?」
やられた…!!
僕の左手を簡単に払いのけ、向きだしになった愚息に近付いていく。スン、スン…と鼻を動かしているのを見るに、匂いを嗅いでいるようだ。次に何をしてくるかは大体予想がつく。だからこそ何としても阻止しなければならない。もしも阻止出来なかったら。僕は墜ちる。
「や、やめろって…頼むからやめてくれ…やめてください」
「ふふっ…可愛い…。寒くて縮こまっちゃってるのかなぁ?それとも恥ずかしがり屋さんなのかなぁ?」
どちらかと言うと未知の恐怖で、です。
「頼むから!!頼むからやめてくれ!!お願いだから…」
「可愛い過ぎて食べたくなってきちゃったよ…はぁ……いただきまぁ…」
―――ブーン、ブーン、ブーン。
姉ちゃんのポケットから振動音が漏れる。
忙しなく瞬く光も見えた。
「あ、もう時間なんだ…」
液晶画面を見ながら残念そうに呟く。
今の内に履いてしまおう。急いでズボンを履き、ベルトを締めた。
…手を洗うのは…この際我慢するしかないのだろうか…?トイレの水を流し、また最初と同じ位置に座りこ
もう
と、し
て
萌姉ちゃんの右手が目の前に迫っていた。口には柔らかい布地の感触。ふわりと洗剤の匂いがしたがそれも一瞬。猛烈な息苦しさが迫る。
窒息する…!!
柔らかな凶器から逃れようともがく。もがく。もがく。苦しくて堪らないのに、押し寄せてくる眠気は心地良かった。真っ暗な穴が僕を飲み込んでいく。
全てが、黒く塗りつぶされた。
投下終了です。
謎が謎を呼ぶ展開。
双子以外にも姉妹がいるとは。続きが楽しみです。
ところで人は気絶しても漏らさないのかしら。
>>368 グッジョブ!
キモウトに化ける日が楽しみだ
>>380 グッジョブ!
主人公をなぶり倒してくれ
>>368 椿の狙いがなんとなく見えてきたかな?続きを楽しみに待ちます。
>>380 更にキモウト候補が一人…WKTK
何とも業の深い姉妹が続きますなぁ。単なるブラコンとキモウトの一線を飛び越えさせることが
出来なくて、書いては消ししてる身としては羨ましい限り。
386 :
名無しさん@ピンキー:2008/01/28(月) 21:05:50 ID:tjDzV5Ti
神々にGJの嵐をおくる
ほんっと良い流れだわ・・・
この神スレに感謝
GJ!
神の連続…なんと素晴らしい……
GJ!!
朝はキモ姉に顔面騎乗で起こされたい
そんな電波を受信した昼休み
投下します。
人生いろいろ、幸せなんて本人にしか決められない。
今年で二十歳になる佐々木康彦はつくづくそう考える。
弟を溺愛し本気で二人だけの世界を望む先輩。
自分で作ったフィギュアに惚れて彼女だと紹介してきた友人。
常に研究に没頭して解剖した蛙まで愛おしむような講師。
サークルのマドンナではなくその父親に惚れて三角関係を作り出した後輩。
康彦の周りにいる人々。
普通に見れば何かに外れている人々なのかも知れない。
それでも全員、幸せな顔をしている。
康彦は思う。
幸せを決めるのは自分次第だと。
どんな形であれ、笑顔でいれる人間が一番の勝ち組なのだと。
そんな性格だからだろう。
ある女子高生から言われた唐突な、普通なら相手の神経を疑うような話しを受け入れたのは。
「遥さんと智佳ちゃんは本気で愛し合っているんです!」
女子高生が康彦相手に熱弁を奮っている。
その日、康彦はバイトが休みで、家に携帯を忘れた事もあり、大学が終わるとまっすぐに自宅へと向かっていたのだが、その途中でこの女子高生に呼び止められ、この状態になった。
この子は、上の妹である遥の同級生なのだろう。着ている制服からそれが分かった。
「ちゃんと聞いてくれてますか!」
女子高生が興奮した声で康彦に言う。
「聞いてるよ」
「最後まできちんと聞いていて下さいね!」
妹達の話なだけに一応は聞いている康彦、そんな康彦の受け答えに満足出来なかったのか、女子高生が声のトーンを上げて言う。
「遥さんが本気で愛した相手が実の妹…、智佳ちゃんだって遥さんを愛しているというのに…」
酒でも飲んでいるのか、そう思える程のオーバーアクションをしながら、女子高生が言葉を続ける。
「愛した相手が同性で更に実の姉妹…。世間という大きな壁が二人の前に立ち塞がっている…」
「周りの人間が助けてあげなきゃイケないんです!」
「悲劇は…悲劇だけは避けなくちゃイケない!一途で純粋な二人の想いを悲恋にしてはダメ!」
「それなのに、どうして貴方は二人の仲を邪魔するんですか!二人を引き裂こうとするんですか!」
自分のリアクションに疲れたのか、大きく呼吸しながらも、最後には康彦を睨みつけていた。
康彦は言葉がなかった。
相手が真実をついているから、ではない。
この類の人間を見たのが初めてだったからだ。
「どうなんですか!答えて下さい!」
興奮冷めやらぬ状態で女子高生が叫ぶ。
「どう、と言われても…」
相手が真剣である以上、自分も真剣に答えなければイケない。
そんな信念を持つだけに、頭の中で今の言葉を整理してから、自分の考えを相手に告げる。
「二人が結ばれる事で幸せになるなら、俺はそれを邪魔する気はないよ?」
「それなら二人の関係を認めてくれるんですね!」
「二人が自分の口から俺に打ち明けたらね」
女子高生が歓喜の声を上げるのに、冷静に対処して答えた。
「そんな簡単に打ち明けられるもんじゃ…」
「だからだよ」
女子高生の言葉を遮るように康彦が言う。
「君の言う通り、世間ってのはその恋愛を認めないだろうからね。その世間を相手にしなきゃイケないのに、俺にも何も言えないんじゃ、認める訳にはいかないよ」
ゆっくりと、だが、信念を持った言葉を告げた。
「それでも…、お兄さんが邪魔しないとは限らないですし…」
康彦の言葉に飲まれたのか、まるで勢いのない言葉が口から出る。
「邪魔するもなにも…俺は何もしないよ」
苦笑いを噛み殺しながら康彦が答える。
事実、彼女に言われるまで、妹二人の関係を姉妹以外で見た事はないし、無論、どうこうした事もない。
「そんなの信用出来ません!」
俄然、元気を取り戻したように女子高生が叫ぶ。
「そんな事言われてもなー…」
「信用の証拠として、携帯の番号を教えて下さい!」
「ハッ?」
あまりの突拍子もない提案に、思わず間抜けな声が出た。
「どうしたんですか?駄目なんですか?」
「ダメって訳じゃないけど…」
「今、携帯を持ってないからね」
完全に相手のペースに飲まれる康彦、既に圧倒されている。
「それなら、明日にまた逢いましょう。明日はどれ位に帰ってきますか?」
「え、明日?9時過ぎだと思うけど…」
「その時間にここで待ってます!」
「ちょ、ちょっと…」
「約束ですよ!」
それだけ言うと、彼女は立ち去っていった。
康彦は呆気にとられたまま、彼女を見送っていた。
「何だったんだろう…?」
頭の中で疑問が浮かぶ。
遥の通う相当な進学校で、それなりのお嬢様が多い、との評判なはずなのだが…。
変わり者に場所は関係ないのだろう、そう自分を納得させると、康彦も帰路に着く事にした。
その帰り道、康彦は女子高生に言われた事を考えながら歩く。
妹二人が愛し合っている、普通なら考えられる話ではないのかも知れない。
だが、康彦から見れば、それほど奇異な話ではない。
人間が人間を好きになっただけ。その相手がたまたま姉であり、妹であっただけの話。
解剖した蛙に惚れ込んだり物言わぬフィギュアを紹介されるよりは、どれほど分かり易い話か。
あの女子高生にしても、何の根気もなく、初対面の自分に怒鳴り込んでは来ないだろう。
それを考えれば、その事が事実であるように思える。
だが、そうなると困った事がある。
妹が会わせたい人がいると紹介してくる相手が妹になるなら、何処の馬の骨とも分からん奴に妹はやれん、と言わなければイケない相手も妹になる。
思い出話の一つや二つをしてから妹をよろしく頼む、と妹に頼み、妹をバージンロードで先導した先に待ってるのも妹になる。
そこまで考える頃には、康彦の頭は完全に混乱していた。
混乱した思考をまとめきれないままに家に着く。
鍵を差し込んだ瞬間にある考えが康彦の脳裏に浮かんだ。
中に入っても大丈夫なのだろうか?
時間的に、下の妹である智佳は帰ってきているだろう。遥も家にいる可能性は高い。
二人とも家にいる。
恋人同士の二人が良い雰囲気になった時に都合悪く帰ってくる家人、漫画等でありがちの、お約束な展開が頭を過ぎる。
遅くなると連絡するか、そう思ったが、携帯は家の中だ。5 第一、自分がバイトを休みな事は二人とも知っているし、そんな日に帰りが遅くなったりすると、目に見えて不機嫌になる。
それは両親が殆ど家におらず、不安からなのだろうが、だからこそ、康彦はバイトのない日はなるだけ早くに家に帰るようにしていた。
差し込んだ鍵を抜き取り、その場で躊躇する。
近所を散歩してくるか、家に入る時間が変わるだけで、タイミングが悪ければ、意味はなさそうだ。
「何やってんの?」
自宅の前で考え込んでいた康彦に、後ろから呆れたような声がした。
上の妹の遥だ。
ショートカットに勝ち気な瞳、部活で多少の日焼けをしている事もあり、全体に活発な雰囲気を身に纏う。
「ハ、ハル!」
考え事で頭がいっぱいだっただけに、康彦が思わず飛び上がるような声を上げる。
ハルとは、康彦が呼ぶ遥の呼び名。もう一人の妹、智佳の事はちぃと呼んでいるが、どちらも兄妹間でしか使われていないような呼び名だ。
「ハ、ハル!じゃないでしょう…」
兄の口調を真似しながらも、微妙に溜め息混じりの遥の声。
「兄貴はさっきから何を挙動不審なコトをやってるワケ?」
思いっきりに痛い所を付いてくる。
「何って、その、な?」
微妙にしどろもどろになりながら答える康彦。
まさか、ラブシーンの邪魔をしたくなかった、と言える訳でなしに、その前に二人の関係について、二人が言い出すまでは気付かないフリをしようと考えただけに答えにつまる。
「まさか、また変なトラブルを抱え込んだんじゃないでしょうね?」
この兄が時に面倒を抱えている事があるのを考え、遥が言う。
「いや、ないから、そんな事ないから!」
「?…じゃぁ、とっとと家の中に入って!」
奇妙に慌てる兄を押し込むように、遥も家の中に入った。
そこは見慣れた我が家だった。
康彦はここで育ったのだから当たり前だ。
だが、あの話を聞いたせいか雰囲気が違うように思える。
「ただいまー」
「お帰りー」
遥の挨拶に、奥から中学生の少女が出てくる。
下の妹の智佳だ。
長めに伸ばした髪におっとりとした瞳、小さい頃に体を悪くしたせいで家の中にいる事が多く、今では家事全般を担う。
ちなみに遥は、家事はまるで出来ない。
「あ、二人一緒だったんだ」
「一緒だった訳じゃないんだけどねー」
智佳の言葉に遥が答える。
「この兄貴が家の前でコソコソしてたからね」
「ふーん。…兄ぃ、また何か悪さしたの?
「悪さって…、何もしてないって!」
意味ありげに言葉を紡ぐ遥、それを聞いて悪戯っぽく兄を見る智佳。
姉妹ならではのコンビネーションがあり、康彦がタジタシになるのも何時もの事だ。
「どうだかね〜?」
信用していない、と言わんばかりの遥の声。
この兄が、厄介な問題を抱えているのはよくある事だし、更にその事を自分達に相談しないので、不満に似た感情を抱いていた。
「そうだ!レポートを書かなきゃ!」
遥の追求を逃れる為、一人でもう一度整理して考える為にも、康彦はそう言って部屋に逃げ出す。
「ちょっと、まだ話は終わって…」
納得のいかない遥が康彦を捕まえようとした所を、智佳が留めた。
「ハル姉、お話があるの」
「兄ぃには聞かれたくないから」
部屋に戻った康彦は、まず携帯を見て、着信アリの表示がない事を確認すると、机の上に投げ出し、思案に耽った。
妹二人が本気で愛し合っているのなら、認めてあげたいし、出来る限りの応援をしたい。
あの女子高生ではないが、悲恋など創作の世界だけで充分だ。
そこまで考えると、財布の中から一枚の写真を取り出し、愛おしげにそれを眺めた。
こんな思い、自分だけで充分だ。
高校時代の自分と、女の子が写った写真を見て、そう強く思う。
写真の相手は、一度だけ本気で好きになった女性。
今はこの世にいない相手。
康彦は強く願う。
妹二人の幸せを。
自分が叶えられなかった分まで。
その頃、階下では、遥と智佳が話し合いをしていた。
「うーん、またあの人か…」
智佳の話を聞いた遥が呻くような声を上げる。
「うん、何回も掛けてきてた…」
やや力のない智佳の言葉。
「あの人も分からないからなぁ、気が多いだけなら何も問題はないんだけど…」
「うん…」
「最悪の場合は…」
「やらなきゃ、ダメ、だよね?」
ここまで話すと、智佳は目に見えて暗い顔になった。
「前の事、後悔してる?」
智佳の変化に気付いた遥が鋭く問い掛ける。
それに対して、智佳は大きく首を振った。
「してない!アレしかなかったし、盗られるなんて…絶対にヤだもん!」
力強く言う智佳。
そんな智佳に、遥は満足そうに頷く。
「私もしてない。三人で幸せになる為には必要な事だったから」
遥の言葉に、智佳が元気を取り戻したような笑顔を浮かべる。
「あの人の事はもう少し分かってから考えよう?」
「うん、そうだね」
「分かったら今日は普通に、普通にね!」
遥は、そう智佳を窘めるように言うと、着替える為に自分の部屋に戻っていった。
その晩、三人とも普通に振る舞う普通の晩が、佐々木家を演出した。
投下終了です。
なんて時間帯に投下しやがりますかw
前に出してたプロットだよな
先が楽しみだ
昼飯後にスレ開いてみれば何と素晴らしいデザートが…GJ!!
>>398 さりげなくトチ狂っていて、面白い! 導入部としての引きは十分。wktk!
>>389 スポンジで顔を擦られている。
苦しい。
息をさせてくれ。
鼻に水が入るじゃないか。
頼むからやめてく…
「はぁッ…ん、ん、んッ!!」
目を開けるとそこには得体のしれない物体があった。ビショビショに濡れて…真っ赤で…妙な匂いが…
「うわあああぁぁぁぁ!!何やってんだぁッ!?」
「あ、んッ…お、起きたのぉ…?」
姉貴が僕の上に乗っかっていた。正確には僕の顔の上に、姉貴の…その…股間が。
「ん、んとね、こうやって…擦りつけると、アレに…弟君の鼻が当たって…ぁうん゛ッ…!!いやぁ…どこかなんて言わせないでぇ…」
「何も言ってねえよ!!」
勢いをつけて上半身を起こす。同時に姉貴をはねのけた。
「ぎゃっ!!」
色気のねえ悲鳴だな、オイ。
「朝から何て事しやがる!!」
「あはっ…弟君の…すごぉい…」
…聞いちゃいねえ
姉貴がオレの胸からつつ、と指を下ろして。
臍を通過し。
さらに下へ。
姉貴の潤んだ瞳がオレを見上げて、
「お鼻より長いのが、欲しいな…」
オレの理性はあと一秒も保ちそうに無かった。
こうですかわかりません><
>>398 GJ!
神しかいない、荒らしもいない。
神スレすぎる…
気になって
>>300のプロットを読み返してみた。
妹の言う「あの人」が泥棒猫(主人公後輩)か友人か?
ああ、キモ姉妹日本の未来は明るい
投稿します。
授業中
あー、かわいいよなぁ。ほんと俺のタイプだ。あの清楚な感じがいいんだよな。
絶対見た目だけじゃなく中身も優しくていい娘なんだろうな…告白しようかな。
いや、俺なんかじゃ無理か…。
この前、あの格好いい先輩が告白してもダメだったんだし。他に好きな人とかいるのかな?
だとしたら告白してしまえばいいのに。どんな男でも一発で虜だろうな。
きっとあの大人しい性格からして好きな人とかいても告白が出来ずに思い詰めてるんだろう…。
ほんとかわいいな、沙妃さんは。
窓の外を眺めながら何考えてんだろ。
沙妃(あぁ、おにいちゃんに会いたい。もう3時間もおにいちゃんの顔を見てないよ…。
早く学校が終わらないかな。
あぁぁぁぁおにいちゃんおにいちゃんおにいちゃんおにいちゃんおにいちゃぁぁぁん!!
もう限界!こうなったらおにいちゃんのパンツから作ったこのハンカチを匂って落ちつこう。)
かわいいなー、ハンカチで口元拭いてるよ。上品だよなぁ、ほんと。
きっと下品なこととか一切考えたりしないんだろうな。
沙妃(あぁぁすごくいい匂いがする…幸せ。おにいちゃんの精子が付いたパンツはやっぱ格別だなぁ。
本当にいい匂いだけど…匂いだけじゃ我慢できないよ〜。舐めて味も堪能しよっと……、
ん…あぁん!!おいしぃぃ!一舐めで昇天しちゃいそう!)
ファンクラブとかあってもおかしくないくらい可愛いな…あったら俺も入ってるかも。
沙妃(ん…うんん……っておいおい、どんどんパンツが塗れてきてる。そろそろ止めないと大洪水になっちゃう。
あ〜あ、どうやったらおにいちゃんは私に振り向いてくれるんだろう?
最近ではおにいちゃんが着てる服やパンツにも嫉妬しちゃうくらいになっちゃったんだよね。
だってあんなに一日中おにいちゃんに密着してるんだよ!ずるいよ!!
おにいちゃんに触れてもらうドアノブや口付けてもらうコップに全身を包む布団もだし便器だって羨ましいよ。
それなのにおにいちゃんは私を全然見てくれない…。)
沙妃さん脱いだら綺麗そうだなぁ。一度で良いから見てみたい。いや、やりたい。
って俺はなに考えてんだよ。沙妃さんと違ってなんて下品なんだ俺は。
沙妃(おにいちゃん犯したいな〜レイプしたいよぉ。
そろそろ本当に襲っちゃおうかな…縛り上げてあんなことやこんなことを…。
いや、あのとっておきのクスリを使っておにいちゃんを獣にさせて…逆に襲われるのもいいよね、どっちにしようかな〜?この前も迷ったけどやっぱ迷うなぁ。
監禁されたいし監禁したいし…)
相変わらずカオスwwww
昼休み
やっと昼休みだ。お腹減った…早く沙妃と昼ご飯食べよ。
教室の窓側の席にいる沙妃を見てみると沙妃は窓の外を眺めていた。なんかぽけーっとしてるけどすごく絵になってる…。
女の私でも思わず見とれそうになっちゃう………ってそれより食事食事。
「沙妃〜!食ーべよー」
沙妃「うん」
「見て見て!今日は新発売のパンを買ってきたんだ」
私は沙妃の机の上に今朝買ってきたパンを袋から取り出して置いた。
沙妃は『んー?』って顔で眺めてる。
沙妃「ジャムプリンチョコレートケチャップマスタードチーズバナナ入りメロンパン?」
「そう!どんな味するのかワクワクしてこない?」
沙妃「ぇ…ぅ、うん」
「そう言うだろうと思って沙妃の分も買ってきたよ、はい」
私はもう一つパン袋からを取り出すと沙妃に渡してあげた。
沙妃「ぁ、ありがとう」
「さ、さっそく食べてみよう」沙妃「そう、だね…」
私と沙妃は同時にパンに食いついた。すると口の中に素敵な…。
「………」
沙妃「………」
「その…ごめん」
沙妃「…うん」
俯きながら沙妃の顔を覗いてみると沙妃は『どうしよう…』って顔をしていた。
「ほんと…ごめんなさい」
沙妃「き、気にしないでよ!ほら、お弁当食べようよ。他のパンも買ってきたんでしょ?」
「うん、他のパンは普通のだから…」
ふぅ…ショックだなー、まさかあんな味だとは…。沙妃に悪いことしちゃったなぁ。もう一度沙妃の顔を見てみると私は気にしてないよオーラ全開で軽く笑顔だった。
やさしいなぁ沙妃は…本当にいい娘だし、かわいいし、今開けようとしてる弁当も自分の手作りだし…。
私と違って素敵なお嫁さんになるんだろうな。
沙妃「食べないの?」
私が少し落ち込んでいると心配そんな顔をして沙妃が覗いてきた。
これ以上落ち込んでいても沙妃を不安にさせるだけだし明るく食べることにしよう。
「うん、食べるよ。てか、沙妃の手作り弁当は相変わらず美味しそうだね」
沙妃「そうかな?」
沙妃(へへ、でしょ〜!なんたっておにいちゃんのあれやこれが使われて作ったお弁当だからね。
見てるだけで涎が出ちゃうよ、アソコの口からも)
放課後
あぁ疲れた。早く家に帰って風呂に入りてーよ。
沙妃「おにいちゃん」
「おっ、学校からの帰り?奇遇だな」
沙妃「ふふ、奇遇だね」
沙妃(本当は早くおにいちゃんに会いたくて学校が終わってからずっと見てました)
「こんな時間まで学校に残ってたのか?」
沙妃「図書館で勉強してたの」
「夜道は危ないぞ…最近この辺で変質者が出たっていうし」
沙妃「そうなの?これからは控えるよ」
沙妃(変質者ごときどうってことないけどそれを理由におにいちゃんに送り迎えしてもらおうかな)
「まぁどうしても用事があるときは俺が送り迎えしてやるよ」
沙妃「でも…悪いよ」
沙妃(ひゃっほう!!願ったり叶ったり!)
「沙妃が危険な目に会うわけにはいかないだろ」
沙妃「……ありがとう」
沙妃(惚れた!いや惚れ直した!!
もう最高!素敵!!今すぐ私と結婚して!穴に入れて!!)
「だから夜外に用事があるときは遠慮なく言えよ?」
沙妃「うん」
沙妃(ちょっとラブホで用事があるから送って〜。当然部屋までね)
風呂はいいねぇ…日本に生まれてよかった。思わず歌いたくなっちゃうよ。
コンコン。
沙妃「おにいちゃん?ちょっと入るよ」
「おう」
なんだ?脱衣所になんか用事でもあるのか。……洗濯機に服を入れてる音がするな…。
まぁ間違っても『背中を流しに来たよ』なんてないわな。
沙妃(よし、おにいちゃんの脱ぎたてパンツゲットぉ〜。さっそく部屋に戻ってオナニーしよ。
でも…このガラスの向こうに裸のおにいちゃんが……ダメダメ!!今はまだ我慢!!
でも裸のおにい…ダメだってば!早く部屋に戻ってこの火照った体を慰めなさい!
それで汗を流した後はおにいちゃんが浸かったお湯に包まれておにいちゃんの出汁がたっぶりのお湯を飲みながらもう一度慰めるのよ!)
「ごちそうさま」
あぁ美味かった。毎日こんなに美味しい料理が食べれるなんて幸せだな。
親父達も沙妃がこんなに立派で美味しい料理を作れるようになれたなんて知ったら驚くだろうな。
だけどあの二人全く帰ってこないな。もう何年も会ってないんだが…、たまに電話したりするから生きてはいるんだろうけど。電話のたびに『まだ帰ってこれないのか?』って聞くけど『仕事が忙しくて…』としか言わないし。
まぁお金を振り込んでくれるし電話もしてくれたり誕生日プレゼントとか送ってくれるから見捨てられてはないんだろうけど。
俺はいいけど沙妃は寂しくないのかな?確か沙妃が中学に入るときに転勤が決まったんだっけな。
まだ親に甘えたい事もあったろうに…。
「なぁ…沙妃は親に会いたいって思ってる?」
沙妃「うん、会いたいな」
「だよな、何回か会える機会がないかと親父に相談してるんだけどなかなか仕事が忙しいらしくてな」
沙妃「うん…仕方ないよね」
「沙妃は最近電話もしてないんじゃないか?」
沙妃「確かに…なかなかお互いの時間が合わないんだ…」
「そっか…今電話してみるか?もしかしたら話せるかもよ」
沙妃「……そうだね、久しぶりにしてみようかな」
やっぱり沙妃も寂しいんだろうな…。少しでも寂しい思いさせないためにも俺が出来る限り側に居てあげないとな…。
沙妃は受話器を取りダイヤルを押している。その表情はどこか嬉しそうだった。
沙妃「…………もしもし?お母さん?沙妃だよ……久しぶり」
どうやら母さんに電話したみたいだ。久しぶりの親子の会話だし沙妃も二人でゆっくりと話したいだろう、俺は沙妃に部屋に居るよと告げて二階に上がった。
沙妃「………おにいちゃんは部屋に上がったよ…これでお互い心置きなく話せるね………
当然まだ帰ってこないよね……うん…帰ってくるな……もし帰ってきたら……わかるよね?
あははは、そんなに怯えなくてもちゃんとやるべき事をしてたら何もしないよ……
だからお父さんにもそう伝えておいて………うん、よろしくね……あと沙妃は幸せだって…
うん、そう……さっきもね、おにいちゃん私が寂しそうにしてたら『側に居てあげないと』って顔してた……
いいおにいちゃんだよね……犯したくなっちゃうよね……うふふ…嬉しくて思わず顔に出ちゃった…まぁそういうわけだから私達の愛の巣を邪魔しないでね……うん、ちゃんとわかってるね、よしよし…じゃぁ用事ないから切るね…バイバイ」
沙妃(ごめんねおにいちゃん…私があの二人を追い出したんだ。小学生のときからおにいちゃんと二人っきりで過ごせたらどんなに幸せだろうって…、
だから中学生になった時に実行したの…あの二人凄く怯えてた…だから素直に私の言う事なんでも聞いてくれるんだ、いい両親を持ったよ。
それからは本当に幸せ、まるで夫婦みたいな生活…思い描いてた以上だったよ。
…だからこれからもずっと二人っきりだよ、この愛の巣で…ね?おにいちゃん)
以上です。
いまさらだけど
>>190にすごく同意する。
>>412GJ!!ワクテカムクムクして寝れないわ。
申し訳ない。
>>409と
>>410間にこれが入ります。
まとめる方ごめんなさい。今は反省している。
沙妃の弁当は本当に美味しそうだった。からあげやスパゲティに卵焼きなどかわいく盛りつけてある。
「私ならこんなに上手に作れないよ、だってこれ冷凍品じゃないんでしょ?」
沙妃「冷凍品じゃないけど…これくらいならすぐに作れる様になるよ」
沙妃(おにいちゃんのあれこれ使った料理だから特注品だけどね)
「この卵焼きとかすごく美味しそうだし、ちょっとちょうだい」
沙妃「あっ、ダメ!」
「え〜なんで?ケチケチしないでよ」
沙妃「だって私の好物だから…」
沙妃(ケチじゃない!!この卵焼きには朝方に採取したおにいちゃんのあれが入ってるんだもん!ひとかけらだってやるもんか!!
あなたはジャムプリンチョコレートケチャップマスタードチーズバナナ入りメロンパンでも食べてなさい!)
「もう、かわいいんだからぁ。ちょうだいよー」
沙妃「じゃあ明日たくさん作ってきてあげるから」
沙妃(もちろん何も入ってない普通のだけど。おにいちゃんの一部を使った料理を食べれるのは世界で私だけ、誰にも譲らない)
「ほんと!?ラッキー」
やったね、これで明日が楽しみになった。でも本当に美味しそうだな、沙妃の手料理。
だってあんなに沙妃が美味しそうに食べてるんだもん。
沙妃(あぁ、美味い!!美味しいよぉおにいちゃぁん!
おにいちゃんの体の一部が私の中に入って私の体の一部になる…考えただけでゾクゾクしちゃう。
おにいちゃんも今頃沙妃のあれこれが入ったお弁当食べてくれてるかな…)
「そういえばさー、沙妃ってお兄ちゃんがいたよね?」
沙妃「うん、いるよ」
沙妃(もしかして泥棒猫フラグかな?殺すよ)
「私もいるんだけどさー、これがまた目障りなんだよね。沙妃のとこは仲がいいの?」
沙妃「う〜ん、悪くはないけど…特別に良くもないかな」
沙妃(普通の兄妹話かな?油断はしないけど)
「じゃあさ、ある程度は仲がいいんだ?」
沙妃「うん、喧嘩とかしないし。
今の所は普通の兄妹だよ」
沙妃(今の所はね…いつかは愛し合う兄妹、愛し合う夫婦になるけど)
「ふ〜ん、私なんか下着とか一緒に洗濯されるのも嫌だけどな」
沙妃「あはは、そうなの」
沙妃(バカっ!!最高じゃない。パンツは、いろいろな使い方あるんだよ)
「たまにいやらしい目で見てくるしさ」
沙妃「それはちょっと困るね」沙妃(クソォ!!そんな目で見られたこと一度も無いよ!!
いいないいな〜羨ましい)
「いつ襲われるかヒヤヒヤしてるよ」
沙妃「流石に襲われたりはしないよ」
沙妃(私は襲われたくてヤキモキしてるけど…むしろ襲いたくてウズウズしてるけどね)
「あっ、純情な沙妃の前でこんな話してごめんね〜」
沙妃「もう、みんなして純情純情ってからかって」
沙妃(そんなことよりどうやったらおにいちゃんから襲われそうになれるか教えてください)
以上です。
超GJ!!
弁当に何を入れたのかが一瞬わからなかったんだけど、爪とか毛とかだよな常識的に考えて
作中のスパゲティに風呂の残り湯を使ってるかもしれんぞ?
同じく作中のパンツの精液も卵焼きや空揚げの下味にされてるかも。
シチュエーションとしておもしろいんだけど、
風呂の残り湯とか言われるとそれは衛生的にどうなんだろうとか思ってしまうなw
一応毛とか浮いてたらアレだからろ過とかしてるんジャマイカ?
GJ!
しかし、この子はいったい何を「実行」したんだろうなw
投下します。
今回、妹二人は出てきません。
「何で電話してくれなかったんですか!」
繁華街の外れにある古臭い喫茶店、康彦のバイト先だ。
その日、バイトに出た康彦は、事務所に顔を出すなり、後輩の岡野鈴にそう怒鳴られた。
「何回も電話したんですよ!それなのに、一度も電話に出てくれないし、かけ直してもくれないなんて…」
「ヒドいじゃないですか!」
一歩一歩と歩を詰めながら、唾でも飛ばしそうな勢いで鈴が康彦に食ってかかる。
「ゴメン、ゴメン!昨日は何かと忙しかったから」
電話はなかったような、そう思いながらも康彦は素直に頭を下げた。
鈴は納得がいかないらしく、何やらぶつぶつと文句を言い続けている。
だから、聞いた。
「で、何の用だったの?」
昨日は自分も鈴もバイトが休みで、特に用事が思い当たらない。
「えーと、それは…あのですねぇ」
不思議と言い淀む鈴、この後輩がこんな態度をとる時の用件は一つだ。
「ひょっとしてシフトの事」
「…そ、そうです、そうです!」
康彦の言葉に、鈴が強く頷く。
それを見た康彦はシフト表を確認すると、次週の土曜に、自分が休みで鈴が出勤になっている日があるのを見つけた。
「来週の土曜?」
「そうそう、来週の土曜ですよ!」
「お祭りの日だね」
「お祭りですよ、お祭り!」
「良いよ、彼氏さんと楽しんでおいでよ」
「そうそう、彼氏さんと彼氏さんと…、…へっ?彼氏?」
最後に鈴が間抜けな声を出した。
その土曜にあるお祭りは、縁結びの神様を奉ったお祭り。いい年して独りで参加する人間は先ずいない。
「彼氏って…私、彼氏なんて…」
鈴が慌てたように否定するのを聞いて、康彦も考えを改めた。
「んじゃ、彼女か」
遥に告白した過去(断られた)を持つ相手なだけに、それも不自然ではない。
「私は女ですよ!」
「まぁ、彼氏さんでも彼女さんでも真ん中さんでもいいや」
康彦の言葉に鈴が激昂するが、特に気にする事なく言う。
「マスターには俺から言っておくから、恋人さんと楽しんでおいでよ」
康彦はそれだけ言うと、時間に間に合わなくならないよう、更衣室に着替えに向かった。
「私…恋人なんて…いないのに…」
そう涙目になっている鈴に気付かずに。
その日のバイトが終わり、康彦は早足で帰宅をしていた。
正直に空腹である。
バイト先である喫茶店でも食事を取れない事もないのだが、そこで空腹を満たして家の食事が食べれなくなる訳にはいかなかった。
以前にそうした事がある。
その時の智佳の哀しそうな眼、遥の非難めいた態度、その日は正しく、針の筵だった事は忘れようとしても忘れられない。
一刻も早く家に帰り、空腹を満たしたかった。
が、そうはいかなかった。
「待ってましたよ、お兄さん」
昨日と同じ場所であの女子高生に又、捕まった。
康彦はその姿を見た時、唖然とする他なかった。
確かに今日も待っているとは言っていたが、バイトが長引いたせいか、今は既に10時近くになっている。
”この子は一体何がしたいんだろう?”
「私はあの二人の恋愛成就の為なら、何でも出来ますから」
こちらの考えを読んだかの如く、女子高生が静かに口を開く。
「さぁ、携帯の番号を教えて下さい」
「お、俺の携帯の番号なんて知ってもしょうがないと思うよ?」
手を差し出してくる女子高生、何故だか一歩引いてしまう康彦。
「しょうがない事はないですよ、有効活用させて貰いますから…」
「それとも、やはり二人の邪魔をするおつもりですか?」
「そんな訳が…」
「じゃあ、早く教えて下さい!」
不思議な迫力、表し難い雰囲気を纏いながら言う相手に抵抗出来る訳もなく、康彦は携帯の番号を教えてしまった。
「これでお兄さんが何かしたら、すぐに行動を起こせます!」
康彦の携帯番号を聞くと、女子高生は不気味な笑みを浮かべながら去っていった。
その後ろ姿を見ながら、康彦は思う。
”ハルも少しは付き合いを考えた方が良い”
と。
「また勘違いされちゃったよぉ」
岡野鈴が涙目で電話を掛けている。
「声が聞きたかっただけなのに…何で、なんで恋人いるなんて思われちゃうのぉ!」
切実に懸命に電話相手に訴える。
「ハァ、あんたはおんなじような間違えを何度繰り返せば気が済むのよ?」
電話相手が呆れたような声で返す。
「そんな事、言われても…私だって好きでやってる訳じゃないし…」
電話相手の言葉に鈴が呻くような声で答える。
「ハァ…」
鈴のそんな言い方に相手の人物はまた、深い溜め息をつく。
今、鈴が相談している相手は、中学時代からの親友である遠藤早紀だ。
互いに気があった為か、別々の高校に進学してしまった今も変わらぬ付き合いを続けている。
「その前に、あんたはホントにその先輩のコトを好きなの?」
度重なる失敗談を聞かされ続けているせいか、そんな疑念を鈴にぶつけて見た。
「想ってるに決まってるよ!三年前から、…楓先輩が生きてた時から変わらないんだから!」
勢いよく鈴が反論してくる。
が、早紀は落ち着いて一つ一つを問い詰めるコトにした。
「勇気を出した告白を相手の妹にして?」
「妹さんいるなんて知らなくて…家から出て来たのが偶然、そうで…」
「ラブレターを出せば水に濡らして脅迫文に?」
「大事に大事にしまっておいたハズなのに…」
「一緒に遊びに行く約束はドタキャンして?」
「ホントにその日にお婆ちゃんが死んじゃったり、風邪で肺炎になったりしたんだよぉ!」
「それで今度は、声を聞こうしたら彼氏がいるなんて言っちゃうワケ?」
「いるなんて言ってないよぉ!ただ勘違いされただけで…」
鈴が泣き出していたのは、早紀にも分かった。
「もう諦めたら?」
「いや!」
親友を気遣かって言った早紀の一言に、鈴は即答して怒鳴る。
「でもねぇ…、そこまで失敗した上に、その先輩とやらは死んだ恋人の事を今でも想ってるんでしょ?」
「う…うん」
力のない鈴の返事。
死んだ人間を何時までも想うなど、早紀には情けない男にしか思えないのだが、鈴にとってはそこが良いらしい。
「今度会った時に話しよ?その方が良い対策も浮かぶだろうし」
そう言って、後日に遊ぶ約束を取り付けると、電話を切った。
一度、その先輩とやらに会っておかなくてはイケない、
そう決意していた。
ちょうど鈴との電話が終わった時に、早紀の妹である久美が帰ってきた。
自分と違い、優等生である妹がこんなに遅い帰ってくるのが珍しく、それだけに気になって、妹の元に向かった。
玄関には、二日続けて康彦に絡んできた女子高生が立っていた。
「あっ、お姉さん。ただ今帰りました」
早紀の姿をみるなり、女子高生、久美が礼儀正しく挨拶をする。
固っ苦しい、久美の姿を見て早紀が思う。
自分で失敗したせいか、両親に厳しく育てられた為、久美の言動全てが早紀には堅すぎるように思う。
「どうしたの、今日は?珍しいじゃん、こんなに遅くなるなんて」
思ったままの疑問を久美にぶつけると、久美は口許に嬉しそうな微笑みを浮かべて言う。
「何時かにお話しした姉妹の事で大切な事がありましたもので…」
「前に話した姉妹…?あー、あんたの友達で姉妹恋愛してるっていう?」
「はい。彼女達の事です」
妙にイキイキと答える久美に、早紀は呆れるしかなかった。
身内、更に同性での恋愛などおかしい、早紀にはそう思えるが、久美は違うらしい。
相談をされたワケでもなく、その現場を目撃したワケでもないのに、雰囲気、それだけの理由でそんな事を考える久美の心理が早紀には分からない。
そんな願望を持っているのか、とも疑ったが、あの二人だけが特別なんです、と答える辺り、そうでもないようだ。
厳しい教育を受けたせいでどこかが狂った、そう考えるより他になかった。
「ま、適当に頑張って」
投げやりに言う早紀にも、まるで動じた様子もなく、久美が呟く。
「えぇ、頑張りますよ」
「今日、とても素晴らしい物が手に入ったのですから」
久美の顔には満面の笑顔が浮かんでいた。
投下終了です。
これで登場人物が出揃いましたので、次から話が進むと思います。
429 :
名無しさん@ピンキー:2008/01/30(水) 14:54:35 ID:Ni2tCrET
GJ!
先がものすごく楽しみです。
GJ!!積極的に動きそうなキャラがわんさかだからどう展開するか楽しむです
これプロット考えた人と書いてる人って別人?
だとしたらすごいよな
監禁トイレ四話投下します。
「私は摩季。角倉 摩季(かどくら まき)。こっちは私の弟。達哉って言うの」
摩季と名乗った少女はほら、と後ろに隠れた少年を双子の前に押し出す。
「角倉 達哉(かどくら たつや)…」
少年はそれだけ呟くとまた摩季の後ろに引っ込んでいった。
「私は萌。こっちが蕾」
双子の片割れが話す。
「ホントにそっくりねぇ…」
摩季は感嘆の意を込め呟いた。
互いの親はその光景を眺め、時折目が合うとどちらともなく微笑む。それは彼らが「家族」となる五か月前の話。
夢というのは不思議なものだ。
夢を見ている間はどんな事も納得してしまう。それがどんなに理不尽でも。
だからこれは夢だ。こんなものは夢に決まっている。萌姉ちゃんが僕の頭をべろりとめくる。中身を舐めながら僕の脇をくすぐる。
頭の中身がお目見えしているのだ、痛いはずだ。なのに僕には脇のくすぐったさしか感じられず大声で笑いだす。上を向いてげらげら笑っていると、空中に蕾がいた。天井からロープで首を吊り、体育座りの姿勢で。
そう、これは夢だ。
夢に決まってる。
蕾がこちらを向く。
「夢じゃないよ!」
物凄い声量だった。萌姉ちゃんが頭に向かって叫ぶ。
「夢じゃないよ!!」
頭が、割、れ、る、
――――最悪の目覚めだ。夢というのは往々にして意味不明なものだが、今回のはぶっちぎりの自己ベストだ。
「あらら、汗びっしょりじゃないですか」
ハンカチで汗を拭う萌姉ちゃん。
萌姉ちゃん…?
顔をまじまじと見つめて…
意味が無かった。
改めて目の前に立つ女の全身に視線を巡らす。
スニーカー、インディゴのデニム。
だが上に羽織っているのは厚手のパーカーだ。頭はキャップを被らず、後ろで長い髪を括っている。ルというやつだ。
右の壁に目をやれば、もはや見慣れた格好の萌姉ちゃんがキャップを深く被り座っていた。
「お前…蕾か」
「ええ、お久し振りです。義兄さん」
蕾。
萌姉ちゃんの双子の妹。
そして僕の義妹でもある。
「大丈夫ですか?かなりうなされてたみたいですけど」
「大丈夫に見えるか?」
「それだけ言えれば充分でしょう。ただ…一応薬品は薬品ですからね。体に異常を感じたらすぐに言ってくださいね」
や、薬品…!?
「あ」
ハンカチに染み込んでいたアレか。
「何使ったんだ…クロロホルムか…?」
「クロロホルムは危険ですよ?ドラマでは良く使われてますけどね。まぁ…使って欲しいと言うのなら使いますが…」
「使うな。何も使うな。大体眠らせる必要なんかないだろ!」
そもそも何処で手に入れたのだろうか。
「…義兄さんは女性の排泄行為を見て興奮する特殊性癖の持ち主ですか?五年ばかりで随分変わりましたね。この変態。鬼畜。」
…また鬼畜と言われた。
「ふざけるな!理不尽だろうが!僕が目をつぶれば良いだけの話じゃないか!!」
「潰してほしいんですか?」
「…」
問答では敵わない。昔から可愛げのない義妹だ。
本当に。
本ッ当に。
「なぁ、何でこんな事する必要があるんだ?わざわざ監禁する必要もないだろ?」
家に押しかけてきて「どっちか選んで!!」考えるだけでげんなりする状況だが、それでも現状よりはマシだろう。
「人目の無い所でやりたかったんです。只でさえ、義兄さんの周りにはお節介な人間が多いですから」
親父と花苗さんか。場合によっては姉さんも。
「場所も教えてくれない。連絡すら取らせてもらえない。義兄さんに好意を抱く人間としての、普通のラインにすら立たせてもらえない。悲しかったですよ」
「…昔は普通のラインに立っていただろう。そこから外れたのはお前自身、姉ちゃん自身じゃないか」
「どれの事を言ってるんです?アドレスを交換した早紀さんですか?それとも告白してきた結衣さん?ああ、お母さんもいましたね。義兄さん、あの女達はね、努力が足りなかったんですよ。それに実力も。
恋の駆け引きはレースみたいなものです。ゴールは義兄さん。ゴールまでの道は本人次第です。戦うもよし、己を磨くもよし。自分の正しいと思った事を実行するだけ、です。恋は貫くもの、愛は手に入れるもの、ですよ」
僕は、他人を傷つける事を努力とは思わない。
「花苗さんは違うだろ。お前らの勘違いじゃないか…!!腫れ上がるまで殴って…。実の母親にあそこまでする必要なんか…絶対にない」
「義兄さんは悲しかったですか?」
「僕じゃない!今は花苗さんの…」
「義 兄 さ ん は 悲しかったですか?」
蕾の口調はあくまで冷静だ。姉ちゃんとは異種の威圧感。姉ちゃんが炎なら蕾は氷。程度が過ぎればどちらも人を死に至らしめる。その程度を、とっくに振り切っているのがこの姉妹。
「…か、悲しかったよ。だからちゃんと謝ってやってくれ。今すぐでも良い。この手錠をほどい」
「嫌です」
「…」
字数は増えても拒否は拒否。
「義兄さんは分かってないんですよ。あの女がどれだけ劣悪で薄汚くて狂った感情を義兄さんに抱いていたか。
あと当然ですが手錠は外せません。こうやって捕まえておかないとふらふらと何処かに行ってしまうんですから。幾つになっても心配で心配で放っておけません」
蕾にはそんな風に見えるのか。二十歳になってまでそんな事を言われると、何だか無性に切なくなる。
「…まぁ、そこが可愛い所でもあるんですけど」
「え?今何て言ったんだ?」
「何でもありませんよ、どうぞ気にせず自己嫌悪に浸っててください」
「…」
「…」
しばしの沈黙。何故か蕾も居心地悪そうだ。
「な、なぁ、結局コレはいつまで続くんだ?」
僕は手錠を指し、問う。
「義兄さんが私を選んでくれるまでです」
…君達、相手が選ばれる場合の事は考えてないのね…。僕にはどちらも選ぶ気も無いのに。
「何日もこんな事してられないだろう?親父や花苗さんだってすぐに気付くぞ?」
「気付いた所で何も出来ませんよ、あの人達は」
ニヤリ。
こんな擬音が似合う笑い方だ。さっきまでの思考が舞い戻ってくる。そう、二人とも『普通』の程度をとっくに振り切っている。
嫌な予感がした。
「お義父さんもお母さんも死んでますからね」
投下終了です。
やはり両親は…次が楽しみだ。
なんにしろGJ!
正直このスレでこんな事をいうのはスレ違いかもしれんが
つくしてMyシスターズというエロゲが素晴らしいぞ
極上のキモ姉、キモウトがでてくるマジお勧め
変態でサーセン
宣伝乙
と言う
やっぱそうなるよなw
うんごめん、専用スレだとキモ姉、キモウトについては語れないからさ・・・
どこかにこの気持ちをぶつけたかったんだ申し訳ない
投下ラッシュはとても嬉しいのだがー
それぞれの作品が頭の中で混ざって混乱中w
どれも好きな作風なのでしっかり読んでます
445 :
名無しさん@ピンキー:2008/01/30(水) 23:06:21 ID:FAgCKwm1
あげちまったスマン
447 :
名無しさん@ピンキー:2008/01/30(水) 23:11:44 ID:+k4idsab
おれはある程度たまってからまとめで読むようにしてる
♪どうせ私はキモい姉貴 わかっちゃいるんだ弟よ
いつかお前の喜ぶような 偉い姉貴になりたくて
奮闘努力の甲斐もなく 今日も弟の
今日も弟のパンツ嗅ぐ パンツ嗅ぐ
>>441 月刊キモウト通信
「兄以外の男に犯されたら自害せよ」
>>449 「週刊LMB」「月刊キモ姉」とかはある?
もっともキモウトなら
「(兄以外に)犯される前に殺れ」だよな
実際にブラコンがこのスレ見たらどう思うんだろ?
ブラコンのレベルにもよるだろう
覚醒するんジャマイカ?
>>284の続きを投下します。
素晴らしい作品が続く中、投下するのがお恥ずかしい限りです。
次の方の投下までのつなぎ程度に読んで頂けると幸いです。
455 :
いもうと:2008/01/31(木) 09:39:58 ID:wMmw6/9q
私は二限目が終わると同時に、鞄を持ってトイレに駆け込みました。
個室に入り鍵を閉めます。
逸る気持ちを抑えて鞄を開け、黒のトランクスを取り出しました。
既に頬は紅潮して鼓動が高まっており、体が火照っているのが自分でもわかります。
朝から我慢してたんです、仕方ないですよね。
授業中も兄さんのことしか頭にありませんでした。
手を秘所に伸ばすと、そこはどろどろに蕩けていました。
トランクスを顔に当て息を吸い込み、兄さんの匂いを体中に沁み込ませます。
それだけで、とぷとぷと新たな汁が生まれて来ました。
(兄さん、兄さん)
秘所にあてた指をクチュクチュと動かすと、あっという間に絶頂を迎えてしまいました。
快楽の余韻に浸っていたい所ですが、愛しい兄さんが待っているためすぐに動かなければなりません。
鞄から瓶を取り出し秘所にあて、残った愛液を全て集めました。
兄さんのお弁当からほうれんそうを取り出して液に浸します。
ほうれんそうの「おひたし」の完成です。
同じようにおかず全てを液に浸し、最後に調味料で味を調えて今日のお弁当が出来上がりました。
衣服を整えて鏡を覗きます。
まだ頬には赤みが残り、瞳も潤んでいますが、一秒でも早く兄さんに会いたいので、
急いで兄さんの教室に向かいました。
456 :
いもうと:2008/01/31(木) 09:42:10 ID:wMmw6/9q
授業の終了を告げるチャイムが鳴る。
担当教師が出て行くと教室の空気が緩んだ。
我先にと購買へ疾走する者、弁当を持って友達の席へ移動する者、何故か問題集を広げる者……
昼休みの過ごし方は人それぞれである。
僕もお腹が空いているが、美鈴が弁当を持ってくるまで待ってないといけない。
美鈴はいつも、授業が終わって10分程でやって来る。
空腹で何もする気になれないので机に突っ伏していると、頭の上から声をかけられた。
「何寝てんだよ。折角の休み時間を無駄にするでない。」
「休み時間のために授業中寝てる人には言われたくないね。」
「これから美鈴ちゃんに会おうってのに体力つけておかなくてどうすんだよ。」
「体力って運動するわけでもないのに?」
「運動だよ。熱く激しい愛の営みを「はいはい。」
親友の高槻瑞希がやって来る。
既に妄想全開の瑞希は、ぶつぶつ言いながら僕の隣に座った。
ちなみに、美鈴のことを「透き通るような白い肌、肩で揃えた艶やかな(ry」
と言っていたのは瑞希である。
「それより遅いな美鈴ちゃん。まだ来ないのか?」
「美鈴には美鈴の生活があるんだよ。もう来るだろうからおとなしく待ってなって。」
「うぅ、待ちきれないぜ。」
チラチラと教室の外に目をやる瑞希を尻目に、トイレに行こうと立ち上がる。
「どこ行くんだよ。まさか俺に隠れて美鈴ちゃんと二人で「トイレだよ。」
教室を出ようとした瞬間、背後から声をかけられる。
「瑞垣くん、ちょっといいかな?」
振り向くと、クラスメイトの清水さんが立っていた。
「ん、どうしたの?」
「うん、ちょっと話があって。屋上まで来てくれるかな?」
もう少ししたら美鈴がやって来るだろうけど、少しだけなら問題ないだろう。
そう考えた僕は、清水さんの後について教室を出た。
457 :
いもうと:2008/01/31(木) 09:52:03 ID:wMmw6/9q
兄さんの教室を覗きましたが、そこに兄さんはいませんでした。
高槻先輩が私に気づいて、こちらにやって来ます。
「やっほー美鈴ちゃん。今日はいつにも増して色っぽいねぇ。」
「褒められてる気がしません。ところで兄さんどこ行ったか知りませんか?」
「あぁ、トイレ行くって言ってたけど。まぁすぐ帰って来るでしょ。」
「そうですね。」
私は兄さんの席に腰掛けます。
椅子はまだ温かく、兄さんの温もりを感じることができました。
自然と表情が緩むのが自分でもわかります。
(兄さん、早く帰って来て美鈴を味わってください。)
心の中で呼び掛けながら、私は兄さんが戻ってくるのを待っていました。
458 :
いもうと:2008/01/31(木) 09:55:53 ID:wMmw6/9q
屋上には誰もいなかった。
普段はパラパラと人がいるんだけど。
今日は寒いし風も強い、こんな日にわざわざ屋上に出る物好きはいないのだろう。
目の前にいる清水さんに視線を戻す。
清水さんとは、ほとんど話をしたことがない。
一体僕に何の用だろう。
「話って何かな?頼みごとか何か?」
「え、えっとね……その……いきなりあれなんだけど……」
どうしたんだろう。
清水さんは真っ赤になっておどおどしている。
何か言ってるみたいなんだけど、俯いていてよく聞こえない。
「ごめん、ちょっとよく聞こえないんだけど。」
「ひゃっ……えっと、その……ずっと好きでした!!付き合って下さい!!」
「へ……?」
好き?僕が……?
「え、えっとその……ホントに僕?」
清水さんは黙って僕を見つめている。
何か返事をしなきゃまずい。
悲しいことに僕は女の子に告白されたことがない。
だから、こんな時になんて言えばいいのかも全くわからない。
「その……僕達あまり話したことないよね?だからなんとゆうか……
清水さんのことよく知らないし……」
「そ、そうだよね、迷惑だったよね。ごめんね!!全部忘れて!!」
僕の返答を拒絶だと思ったのだろう。
清水さんは涙目になって、僕に謝ってくる。
「あ、いや。そういう訳じゃなくて。お互いのことわからないまま付き合っても、
上手くいかないだろうしさ。だから友達として付き合うのはどうかなって思ったんだけど。」
僕の言いたいことが伝わるといいけど。
清水さんが不安気に尋ねてきた。
「い、いいの?迷惑じゃないかな?」
「全然構わないよ。僕、女の子の友達ってほとんどいなくてさ。
清水さんが友達になってくれると僕も嬉しいよ。」
その瞬間、清水さんの表情がぱぁっと明るくなった。
「ありがとう!!よろしくお願いします!!」
そういって清水さんはぺこっと頭を下げる。
「こちらこそよろしくね。じゃあ教室戻ろっか。……あ。」
時計を見る。
屋上に来てから10分以上経っていた。
「ごめん、僕先戻るね!」
そう言い残して、僕は全速力で教室へと戻った。
投下終了です。
覚醒koeeee-
だがそれがいい!
GJ!!キモウトの「おひたし」はどんな味がするんだぜ?
>>459 繋ぎと言わず続けてください
でも続けて投下スマソ
前回が予想以上に好評だったので妹の側も少し掘り下げることにしました
なので妹×兄の逆れいーぷはオアズケ
しかもまだ途中までしか書けてないのにけど……
いちおう続きを書く意思はあることの証明として……
(全4レス、以下続刊)
お兄ちゃんがおばあちゃんに連れて行かれた日、里穂はずっと泣き通しだった。
いつもなら里穂が泣けばすぐ慰めに来る筈のママは来なかった。
そのほうが里穂にはありがたかったけど。
お兄ちゃんを里穂から取り上げたママの顔は見たくない。
ママは嫌い。おばあちゃんも嫌い。
里穂を置いてきぼりにしたお兄ちゃんも嫌い。
里穂は優しいお兄ちゃんが好きなのに。
……ママが悪いんだ……
いつからだろう。ママはお兄ちゃんに優しくなくなった。
だからお兄ちゃんも里穂に優しくなくなった。いつも怖い顔をするようになった。
パパが生きていた頃は家族四人が仲良しだった。
パパが亡くなっても最初の頃はママは子供たちみんなに優しかった。
パパの分までママが幸弘(お兄ちゃんの名前)と里穂を守るねと言ってくれた。
それなのに……
どうしてみんな優しくなくなったんだろう?
夕方、里穂が泣き疲れた頃、リビングで電話が鳴るのが聞こえた。
お兄ちゃんから電話が来る約束だったのを思い出した。
涙を拭い、急いでリビングへ行くと、ちょうどママが電話を切ったところだった。
「間違い電話よ。失礼しちゃうわね」
そう言ってママは笑う。
里穂は、じっとママの顔を見つめた。
嘘はダメといつも言っているママだけど、ママ自身も嘘をつくことがあると里穂は知っている。
朝、おトイレの前で顔を合わせたお兄ちゃんは、ほっぺたを腫らしていた。
前の日の夜はパパの書斎に電気を消して閉じ籠もっていたので気づかなかった。
「どうしたの!?」
びっくりして訊ねた里穂に、お兄ちゃんは最初「何でもない」としか答えなかった。
それで里穂がママにお兄ちゃんのことを話すと、ママは言った。
「お友達と喧嘩したんでしょう。放っておきなさい」
でも里穂は心配だった。お兄ちゃんが痛そうだったから。
それでもう一度、お兄ちゃんに言った。
「ほっぺたのこと、ちゃんとママに言った? お医者さんに連れて行ってもらおうよ」
「あの女が自分で殴ったのに、医者に連れて行くわけないだろッ!」
その答えは里穂にはショックだった。
お兄ちゃんがこんなことで嘘をつくとは思えない。
でも、ママがお兄ちゃんをぶったとも思いたくなかった。
何か理由があったんだ。ぶたれちゃうほどママを怒らせることをお兄ちゃんがしたのかも。
だけど、どんなに悪いことをしても、ほっぺたが腫れるほどお兄ちゃんをぶつなんて……
里穂のせい?
里穂が勝手にお兄ちゃんを捜しに行って、遅くまでおうちに帰らなかったから?
でも原因は何であれ――ママは自分でお兄ちゃんをぶったのに嘘をついたのだ。
いまもまた嘘をついたのかも。本当はお兄ちゃんからの電話だったのに。
……ママは嫌い……
里穂は涙がこみ上げてきたが、それに気づかなかったようにママは微笑んだ。
「ちょうどよかったわ里穂、お話があるの。こっちにいらっしゃい」
ママは里穂をソファに座らせて自分も隣に腰掛けた。
里穂の手をとり、言った。
「ママはね、病気なの」
「病気?」
里穂はびっくりした。ママが嫌いだなんて気持ちは吹き飛んだ。
ママは里穂の眼を見つめて、
「胸が痛くなる病気よ。里穂のことが心配で」
「里穂が心配で……?」
「里穂はパパに甘えられない代わりに、お兄ちゃんにべったり甘えてるでしょう?」
「……違うよ……」
お兄ちゃんとパパが違うことくらい里穂はわかっている。
パパが生きていた頃から里穂はお兄ちゃんが大好きだった。お兄ちゃんはパパの代わりではない。
でもママは首を振り、
「違わないわ。里穂は甘える相手が欲しいの。まだ二年生だし仕方ない部分もあるけど」
里穂の両肩に手を置いて、
「いつまでも甘えん坊さんじゃパパも安心して天国に行けないでしょう?」
「パパ、まだ天国に行ってないの?」
「そうよ。甘えん坊の里穂が心配だから」
「里穂、甘えん坊じゃないよ……」
「だったらもうお兄ちゃんのことで泣かないで。パパだけじゃなくてママも里穂が心配なのよ」
里穂は何も言えなくなった。
パパが天国に行けないと言われて何の反論ができるだろうか。
「言うことを聞かないお兄ちゃんが、おばあちゃんのおうちに行って、ママの胸が痛いのも少し楽になるわ」
ママは里穂の頭を撫でた。
「だからママ、働きに出るの。里穂と一緒に美味しいものを食べたり、里穂が欲しいものを買ってあげるため」
「里穂、欲しいものなんてないよ……」
お兄ちゃんと一緒にさえいられるなら物なんて欲しくない。
でも先回りするようにママは微笑んで、
「里穂はいい子ね。お兄ちゃんのこと以外では我がまま言わないものね」
お兄ちゃんのことだって里穂は我がままのつもりはない。
大好きなお兄ちゃんと一緒にいたいと思うのが、どうしていけないの……?
なのにママはお兄ちゃんを里穂から取り上げようとする。
せっかくお兄ちゃんから毎日電話をもらえる約束なのに、ママは里穂を電話に出させてくれないだろう。
電話に出ない里穂をお兄ちゃんは嫌いになっちゃうかも……
それでも里穂は何も言えなかった。
まだ幼い里穂にとってママに逆らうなど考えの及ばないことなのだ。
紫煙
ママが働き始めたので、里穂は学童保育へ通うことになった。
学校が終わったら児童館へ行き、夜七時過ぎにママが迎えに来るまで過ごす。
学童保育には一年生から五年生まで十五、六人の子供がいた。
男女は半々だが互いに仲が悪く、さらに女子の間では四年生の一人が仲間外れにされていた。
五年生のリーダー格の子に気に入られなかったという理由で。
幸いにも里穂はリーダーの子から可愛がられたが、仲間外れに同調させられるのは嫌だった。
ママが働きに出てもお兄ちゃんがおうちにいれば学童保育に通わなくて済むのに……
口には出さなかったが、里穂のお兄ちゃんに逢いたい気持ちは募るばかりだった。
声だけでも聞きたかったけどママが電話を取り次いでくれない。
自分からかけるには、おばあちゃんの家の番号がわからない。
お兄ちゃんが家からいなくなって、ママは里穂の前で笑顔を絶やさなくなった。
仕事は忙しいけど、やり甲斐があって楽しいと言っていた。
結婚前の会社勤めの経験を活かした「ケイリ」の仕事だそうだ。何をするのか里穂にはわからなかったけど。
ママのためには、お兄ちゃんが家を出てよかったのだろう。
でも里穂が喪ったもの――お兄ちゃんそのもの――は大きすぎた。
年の瀬が近づいて「お友達に出してあげなさい」とママから年賀状を二十枚渡された。
だが里穂が一番、年賀状を送りたい相手はお兄ちゃんだった。
それで思い出した。
今年、おばあちゃんから年賀状をもらっていたことを。
里穂は机の引き出しにしまっていたそれをランドセルのジッパー付きの内ポケットに移した。
以前、お兄ちゃんのランドセルの同じ場所に入れた携帯ゲーム機はママに見つかってしまった。
でもママは里穂のことは何も疑っていない筈だった。
翌日の学校帰りに友達の家に寄らせてもらい、おばあちゃんの家の住所宛てでお兄ちゃんに年賀状を書いた。
漫画が好きで絵が上手な友達で、彼女に教えてもらいながらイラストを描いた。
雪だるまの兄妹が仲良く寄り添っている絵で、可愛らしく描けたと友達は褒めてくれた。
お兄ちゃんが喜んでくれたら嬉しいと思ったけど返事は期待しなかった。
せっかくお兄ちゃんから郵便が届いてもママが隠してしまうだろうから。
おばあちゃんからの年賀状はそのままランドセルにしまっておいた。
それがお兄ちゃんと里穂を結ぶ絆のように思えたから。
春になり、里穂は三年生になった。
新しいクラスで戻川千代美(もどりかわ・ちよみ)という子とクラスメートになった。
千代美はすらりと背が高く、服装はいつもお洒落で、五年生か六年生みたいに大人びて見えた。
一緒にクラスの図書係になったので里穂は千代美と仲良くなった。
「里穂ちゃんって綺麗な髪してるね。千代美が美容師になったらお店のモデルになってね」
そう言って千代美は毎日、昼休みに里穂の髪をブラシで梳かしてくれた。
そして日替わりで色の違うリボンを結んでくれるのが習慣になった。
一方、学童保育ではトラブルが起きていた。
いままでのリーダー格の子が学童保育をやめ、仲間外れだった子が最上級生として新しいリーダーになった。
彼女はこれまでの仕返しのようにイジメの煽動を始めた。
日替わりか週替わりで一人を標的に選び、ほかの子をそそのかして仲間外れにしたり悪口を言うのだ。
里穂は幸い標的にされなかったが、リーダーの気まぐれ次第でこの先どうなるかわからない。
やがてイジメの横行は先生たちの知るところとなった。
リーダーは学童保育をやめさせられた。
ほかの子の保護者には先生たちから謝罪があったが、里穂はママの意向で学童保育をやめることになった。
「もう三年生だもの、一人でお留守番できるわよね?」
里穂にはクラスの友達と放課後に遊べるようになったのが嬉しかった。
一番の遊び相手は千代美だった。
千代美の両親は駅前で美容室を経営していて帰宅が遅い。
里穂が千代美と一緒に留守番をしてくれれば安心であるらしい。
千代美には四つ違いの兄がいるが、黙ってふらりと出かけることが多く留守番役としては期待できない。
その兄は千代美とよく似て背が高く、綺麗な顔立ちの少年だった。
しかし眼鏡の奥から里穂に向ける眼差しは、ぞっとするほど冷たかった。
ママに怒られてばかりいた頃のお兄ちゃんよりも暗い、深い落とし穴みたいな眼。
彼が留守がちであることが里穂には救いだった。
家にいても自分の部屋に閉じ籠もっていることが多いが、ときどき用もなく妹の部屋を覗いてくるのが怖い。
「千代美ちゃんのお兄さんって、ちょっとおっかないよね……」
里穂が言うと、千代美は笑うばかりだったけど。
「そうかな? ただのオタクだよ。いまは喧嘩したら千代美が勝っちゃうくらい大人しいし」
ある日の留守番のとき、里穂は自分たち兄妹の事情を千代美に話した。
ずっとお兄ちゃんに会えずにいて寂しいと言うと同情してくれた。
「ママに内緒で会いに行っちゃえば?」
「えっ……、でも里穂ひとりじゃ……」
「大丈夫だよ、もう三年じゃん。千代美がついて行ってもいいけど、水入らずの再会を邪魔したくないし」
「おばあちゃんの家の行き方もわからないよ」
「住所も知らないの? それさえわかれば、お兄(にい)に行き方を調べさせるけど」
里穂はおばあちゃんの年賀状をランドセルから出して千代美に渡した。
千代美は里穂を連れて兄の部屋へ行き、パソコンに向かっていた彼に年賀状を見せた。
「この住所への行き方、教えてあげて」
千代美の兄はパソコンを巧みに操り、すぐに電車の乗り換えと駅を降りてからの道順を調べてくれた。
「里穂のママが仕事から帰るのが七時でしょ、それまでに行って戻って来られるように時刻表も調べて」
追加の要求にもすぐに応え、それぞれプリンターで印刷したものを年賀状と一緒に里穂に渡してくれた。
その眼差しは相変わらず冷たかったけど。
ママの仕事は平日だけなので、里穂がお兄ちゃんに会いに行けるチャンスは夏休みだ。
それまでにお小遣いを貯めて電車賃を準備する計画を立てた。
投下終了です
続きはいずれまた
リアルタイムGJ!
こんな事があったのか……無邪気って怖い。
里穂かわいいじゃないか
471 :
名無しさん@ピンキー:2008/02/01(金) 00:56:10 ID:mvoaJVZx
GJ!!!続きwktk
sage忘れスマソorz
GJ!これを第2部(?)の前に書いてくれてよかった
前回は兄の一方的な気持ちしかわからなかったから
あれ、新しいスレたってたのか
投下します。
主人公にヤンデレ気味の表現あり。
男のヤンデレは駄目と言う片はNGにしてください。
佐々木家の家事全般を担う智佳の朝は早い。
6時前後には起床して、三人分の朝食とお弁当を作り、洗濯も済ませる。
無理しなくていいよ、何度となく康彦がそう言っているのだが、自分が好きでやっているのだから、とやんわりと拒否をして、家事を続けている。
智佳からしてみれば、兄から教わった家事を兄の為に行う事によって、絆を深めているつもりなのだから、家事を止める訳がなかった。
三人分の食事の支度が終わると、棚の中から二つの小さな瓶を取り出す。
「愛情たっぷり魔法の調味料〜♪」
メロディが分からない歌を口ずさみながら、そのうちの一本の蓋を開け、
「いっかいめぇは兄ぃのためにー、にかいめぇは私のためにー、さんかいめぇは二人のために♪」
そう歌いながら、瓶の中身を満遍なく康彦の食事に降り掛けていく。
それが終わると、智佳はもう一本の方の瓶を見る。
「やっといてあげないと、ハル姉、拗ねちゃうからな〜」
そう呟くと、先程と同じように瓶の中身を康彦の食事に降りかけた。
ただ、お弁当ならパセリ、朝食ならキャベツ、と兄があまり好んで食べない物を中心にしていたが。
智佳の作業、もはや日課が終わって少ししてから、”おはよ”と、寝ぼけた声がした。
「おはよう、…アレ、ハル姉?」
声の主が遥である事に気付くと、智佳は戸惑いの色を見せた。
普段なら、次に起きてくるのは決まって兄、康彦であり、それから遥が起きてくるまで、二人だけの時間のハズなのだ。
「あれ、兄貴は?」
康彦がいない事に気付いた遥が、寝ぼけ眼を擦りながら尋ねる。
「まだ、おきてない…」
「珍しい事もあるもんだねー」
そこまで言ってから、遥の目に三人分の食事が目に留まった。
「入れておいてくれた?」
「大丈夫!ちゃんとハル姉のも入れたよ」
「何時も悪いねぇ、自分でやらなきゃイケないのは分かってるんだけど…」
「気にしないで、二人で力を合わせないとイケないんだから…」
「おはよう…」
二人がある程度話し終わった時に、康彦が寝不足の顔をして起きてきた。
「どうしたの?私より遅いなんて珍しい」
「うん、それに凄く眠そうだよ?」
ぼーっとしている康彦の姿に、二人が質問を浴びせる。
「いや、まぁたいしたことないないから…」
そうは言ったものの、事実、康彦は寝不足で相当に辛かった。
理由は簡単だ。
あの女子高生からの電話が30分おきにかかってきた為、眠る事が出来なかったのだ。
用件は一つ、二人の邪魔をしていないか、それだけだ。
その一つ一つに、康彦は丁寧にきちんと対応してしまっていた。
二人の邪魔をしていない事は勿論、時には自分の意見を言い、時には相手の愚痴を聞き、時には説教じみた事を言い…、気付けば眠る事が出来ない時間になっていた。
無視すれば良かった、そう思えないのは、康彦本人の性格によるものだろう。
「とにかく食事にしようよ、ちぃが作ってくれたんだ」
乾いた笑いと空元気を出して二人に言うと、食卓に付いた。
中途半端に寝てしまったのがイケなかったのか、目が覚めきらないし、二人の会話も頭の中に入らず、当然、箸の進みも遅くなり、気付けば二人とも食事を終えていた。
「兄ぃ、調子悪いなら無理して全部食べなくても大丈夫だよ?」
智佳が心配そうに声をかける。
「大丈夫大丈夫、ちぃの食事は美味しいから、全部食べれるって!」
食事を作ってくれている事への感謝も含め、康彦は明るい声でそう答えると、最後に残っていたキャベツを口に頬張り、完食した。
「アレは食べれなくても良かったのに…」
完食した兄を見た智佳は、自分でも気付かない内にそう呟いていた。
2
『純白の天使』
遥の通う女子高では、代々そんな異名を付けられる生徒が出てくる。
彼氏彼女がいる気配がないのに、恋をしているかのような美しさと強さを持った人、そんな意味合いをもつこの異名を、当代では遥が襲名しつつあった。
事実、遥は他校の男子生徒ととの集まりを全て拒否しているし、ソッチの気があるのかと勘違いした同校の生徒は全て玉砕している。
誰かに恋をしているのは分かる、その相手が分からない。
そう言った理由から、遥の相手は生徒達の噂の的である。
遠藤久美も、その話に興味を持った内の一人に過ぎないハズだった。
「遥さん、お早うございます。今日は調子はいかがですか?」
登校してきた遥に、久美が挨拶をする。
同学年の友人に対してこんな喋り方をする久美に遥は、もっと気楽に話して欲しい、と何度か頼んだのだが、この喋り方は変わらず、誰に対しても同じ喋り方で通していた為、今では遥も諦めている。
「オハヨー、私は何時通り元気だよ」
「そうですか、それはよろしゅうございます」
「まぁね、で、久美は…何か嬉しそうだね?」
会話の中で遥は、久美の様子が普段と違う事に気付いた。
やや寝不足気味ではあるものの、普段よりずっと明るい顔をしているのだ。
「そう見えますか?」
「そう見える。何かいい事でもあったの?」
「えぇ、多少…ではありますが」
久美のその応えに遥は、フーン、とだけ返し、自分の席に向かった。
久美との直接の関係を考えた訳ではないが、何故か、同じ様に寝不足だった今朝の兄の事が頭を過ぎったからだ。
学校にいる間、遥には心配な事がある。
兄、康彦の事だ。
自分が中学に入学した時には兄は高校に、自分が高校に入学したら兄は大学へ、となる為、兄の交遊関係をしっかりと把握出来ず、敵対者を特定するのが困難になっている。
そこに隙が出来た為、2年前には兄を奪われてしまい、その始末に苦労したのだ。
現在も一人ではとても監視しきれずにいる。
「しばらくはちぃちゃんと協力しなきゃダメか…」
そんな溜め息が遥の口から漏れた。
「来週のお祭り、どうするの?」
昼休み、友人達が遥にそんな質問をしてきた。
「えっ、来週のお祭り?」
「土曜にある縁結びのお祭り!」
「あっ、そうか!もう来週だっけ?」
市を上げた大きなイベントがあるお祭りを、遥は友人の言葉でようやく思い出す事が出来た。
完全に頭の中になかったのは、兄がこのお祭りに誘ってくれた事が一度もないからだ。
もっとも、恋愛成就を願う女性や恋人同士、夫婦が主な参加者であり、普通は兄妹で行くモノではないが。
「縁結びか〜」
「そうそう!遥は誰かと参加しないの?」
野次馬的に聞いてくる友人達に、遥は少しだけムッとした。
自分も出来る事なら、兄と二人で参加したいが、兄が了承する訳がない。
「はぁー」
口から小さな溜め息が漏れた。
「なに、どうしたの?」
「何でもない…」
せっかくのお祭りに参加出来ない辛さが遥を襲う。
兄貴もバイト休みなハズなのに、そう思った時、一つの考えが頭に思い浮かんだ。
ちぃちゃんも誘えばいいんだ、二人っきりなら断るだろうが、妹二人を連れて行く、という理由になれば、嫌とは言わないハズだ。
兄がそんな義務感の強さを持っている事を、遥には良く分かっていた。
「誘ってみるかな」
遥がそう呟くと、一気に周囲が騒がしくなった。
遥は周囲の喧騒をよそに、縁結びの神様は私とちぃちゃんのどちらを選ぶかな、と考え、兄貴と私が結ばれるのは決まってるけど、と信じていた。
”縁結びのお祭りですか。お兄さんは私に任せて、遥さんは智佳ちゃんと幸せになって下さい”
遥達の様子を見ていた久美はそんな事を考えていた。
3
康彦は今、喫茶店にいる。
バイト先ではない。
遠藤早紀、そう名乗った女子高生に引っ張られるようにして連れて来られた店だ。
何か女子高生に祟られているんだろうか、康彦はそう思わずにはいられなかった。
妹二人の事で絡んできたのも女子高生、今、目の前にいる相手も女子高生であり、さっきから疑わしげに自分を見ている。
「で、あの、何の用?」
相手の視線に耐え切れなくなった康彦がそう切り出した。
「あっ、気にしないで。大事な友人の為に品定めしにきただけだから!」
そうは言いながらも、初対面の時からこちらを見ては、うぅんとか、こんなんがねぇとか、微妙だなぁとか、色々と失礼な呟きを漏らし続けている。
「まぁ、あの子が選んだんだから私がとやかく言う筋合いはないんたけどさ」
康彦はその台詞に大きな溜め息を付きながらも当然の疑問を投げかける。
「その、あの子ってのは誰なの?」
「それはまだ言えないんだよねぇ」
「あの子に頼まれたワケじゃなくて、私が勝手にやってんだけだからねえ」
「てか、あんたにだって心辺りあんでしょ」
「一切ない」
康彦はそういいきった。
恋人であった楓の死後、新しい人間関係を作るのに臆病になっていた事もあり、異性の友人は二人しかいない。
そのうちの一人は弟を溺愛している先輩であり、もう一人は高校時代からの後輩で今も同じバイト先に勤める岡野鈴だ。
前者が自分に好意を抱く可能性はありえないし、後者にしても、何度も約束をすっぽかされた事を考えれば、考えられない話だ。
考えた様子もなく、簡単に否定してきた相手に、早紀は面食らった。
鈴もそれなりには自分をアピールしてきただろうと、当たり前に想像していたからだ。
「ま…、思いつかないなら、それはそれでイイんだけど…ネ」
鈴の今までの話を考えればありえなくはない、そう考え直した。
「私はその大事な親友のタメに、あんたに一つだけ言いたい事があるんだよ」
今回の1番の目的を果たす為、早紀はそこで一呼吸おいた。
5 「あんたさ、いつまで死んだ人間の事、想ってんの?」
大事な親友である鈴の為に、気持ち悪い考えを訂正する為に、真っ正面から切り込んだ。
空気が変わった、そう感じたのは、あながち早紀の気のせいではない。
「何が言いたいの?」
そう応える康彦の口調はさっきまでの穏やかさは消え失せていた。
素直に怖いと感じる。
だが、早紀は言葉を続ける。
親友の為に、自分が正しいと思う事を口にするのだから、躊躇いはない。
「その娘から聞いてるんだよね、あんたの事」
「気持ち悪いんだよ、うじうじと死んだ恋人の事ばかり考えてさ」
「少しは今、あんたの事を想ってるのが居るのを考えてみたら?」
息継ぎせずに最後まで言い切ると、相手の反応を待った。
怒鳴り出すか、そう思えたが、相手の反応は真逆のモノだった。
「言いたい事はそれだけか?」
冷静な、一切の感情が感じられない言葉。
それが早紀には、相手の怒りの深さを現している気がして、恐ろしくなった。
「う、そうだよ…」
辛うじて早紀が返事をした後、相手が言葉を続ける。
「なら、そのお友達とやらに伝えておいてくれないか?」
「何を言われようと、俺はあいつの事を忘れないし、それ以外の女の事を考えるつもりはない」
早紀は既に涙目になって言葉がだせない。
そんな早紀を気にする事なく、康彦はゆっくりと立ち上がり、
「君もその事は二度と言わない方がいい」
とだけ告げ、後は二度と早紀の顔を見ずに、店を後にした。
「ハー!」
康彦の姿が見えなくなったのが確認できると、早紀はようやく呼吸できたかのように、大きく息を吐いた。
「あれは相当に前の彼女に惚れ込んでたね」
目の前に残されていたコーヒーを啜ってから呟く。
「あそこまで重い男は私はゴメンなんだけどなー」
「でも、鈴には似合いそうだ」
鈴自体が、多少抜けてるところはあるが、基本的に一途で純心だ。
それを考えれば、あんな男が1番なのだろうと思える。
「バカな純心女と過去に囚われてる男か…」
そこで溜め息が一つ出る。
「これは、私が一肌も二肌も脱がないと、HAPPYEndにはなりそうもないねえ」
自分で自分の言葉に酔って、それを信じた。
「待ってな、二人とも!この私が二人の恋を全力で手助けしてやるから!」
高らかに宣言する。
周りの客の目を気にせずに。
4
その日、康彦はバイトを休んだ。
先程の怒り、そして久し振りに思い描いてしまった楓との思い出、それらが交わり、既に仕事ができる精神状態ではなくなってしまったのだ。
重い足取りのまま家に帰り、そのままドアを開ける。
「ただいま…」
力のない声が出た。
「お帰り…って、兄ぃどうしたの?今日はバイトがあったんじゃ…」
奥から出て来た智佳が心配そうに言うのに対して、ちょっと疲れてただけだから、とだけ答え、後は、部屋で休むから、と言って、早足で自室へと向かった。
自室に戻った康彦は考える。
未だに楓の事が整理出来ていない自分を。
年下の女が少々の生意気な口を利いただけなのに、それに対して激怒して危うく手を出しそうになった自分の情けなさを。
「あの事故から何年経ってると思ってるんだ」
自分で自分を責めてみるが、芳しい効果は得られない。
激しい自己嫌悪、それに比例して思い出される楓の事、その二つが康彦を厳しく責め立てていた。
「兄ぃ、はいるよ」
小さなノックと共に、智佳が康彦の部屋に入ってきた。
「兄ぃ…」
智佳が小さく呟いて康彦の隣に来る。
康彦は慌てて智佳から顔をそらした。
今の顔を見られる事で、妹二人に余計な心配や迷惑をかけたくないからだ。
「ど、どうした、ちぃ?」
なるべく明るい声を康彦は出したが、智佳はゆっくりと首を振ると、兄に背中から抱き着く。
「ち…ちぃ?」
「無理しないで、兄ぃには私がいるんだから…」
「ちぃ…」
優しい語りかけるような智佳の声に、康彦は言葉を失った。
考えてみれば、楓の死後、妹二人がいなければ、自分はもっと壊れていたかもしれない。
そして、今もこうして自分を支えてくれている。
「ありがとうな」
自然とそんな言葉が口から出た。
「俺は大丈夫だから」
今度は無理に出した明るい声ではなく、落ち着いた普段の声を出して、智佳の方を向く。
「兄ぃ」
「ん?」
「忘れないでね、私はずっと兄ぃの傍にいるから」
比喩を含んだ智佳の言葉が、今の康彦には有り難かった。
智佳の言葉に康彦が笑顔で応えると、晩ご飯の支度があるから、と部屋から出ていった。
「絶対に傍から離れないから」
という呟きを残して。
「あれ、兄貴、帰ってきてるんだ?」
最後に帰ってきた遥が、玄関の靴を見て、智佳に聞いた。
「うん、今、自分の部屋で休んでる」
「へえ、どうしたんだって?」
「あの時の…発作みたい」
「…アレ、か」
智佳の言葉に、遥が顔を曇らせる。
康彦の発作、楓の死で発症し、楓の事や死に関するキーワードで起こるトラウマ。
その頻度や症状の重さは、そのまま、康彦の心にいる楓の大きさになる。
「死んだ人には勝てないのかな…?」
智佳が暗い顔をして言う。
「勝てるよ!」
遥が智佳の言葉を否定するように、声を大にした。
「確かに死んだ人は美化されていくかも知れないけど、ただそれだけ」
「生きてる私達にしか出来ない事の方が多いんだから!」
「そう、そうだよね」
「そう!だから二人で頑張ろう」
「あの女からお兄ちゃんを取り戻す為に」
「うん、頑張ろう!」
遥の言葉に智佳が力強く頷いた。
二人はそれ以上語らない。
楓、横山楓の事故の真実を。
誰にも、特に兄にだけは知られるワケにはいかない、二人だけの秘密。
この秘密を知っている人間は少ない方がいい。
自分一人だけでいい。
それが二人の共通の考えなのだから。
投下終了です。
うわ・・・主人公きめぇ・・・
GJ
男のヤンデレ注意なんていうからハラハラしたけど
主人公ただのトラウマじゃね?
こりゃまた攻略の難しい兄貴だなあ
今後の展開が期待できるぜ
何はともあれGJ
ヤンデレっていうか、病んでるなぁ
↑宣伝乙
直リンはやめといたほうがいいお
投下ラッシュでチンチンが擦り切れそうです
だれか止めを刺してください
グサっ!
とどめの一撃を受けて倒れる
>>491を見下ろして彼女はひとりごちた。
「ふう、まさかオスの泥棒猫がでるなんて。お兄ちゃん、もて過ぎるにも程があるわよ」
>>484 こういう主人公好きだ
次回も期待してます
しばらく来てなかったが……何ですかこの素晴らしい投下ラッシュはw
なんという怪物
三次元怖い
500 :
名無しさん@ピンキー:2008/02/01(金) 19:17:11 ID:Qi+4bwe9
>>496 これが二次元なら立派なキモ母なんだがなぁ……('A`)
三次元ぐらいで動揺しすぎだバカモンどもが
三次元が駄目なんじゃない
容姿が大惨事だから嫌なんだ
つか、これ下にいるの小学生くらいの子供じゃね?
腹の肉がなあ……
この実写をよくあんな萌え絵にできたものだ
おんなじ母親?でも上に乗ってるのが豚じゃなくて
竹内結子(28)
杉本彩(40)
永作博美(38)
松嶋菜々子(35)
山口智子(44)
クラスだったら歳いってても充分萌えられるんだが…
先ず三次には居ないorz
杉本彩でちょっとおっきした変態が投下します。監禁トイレ五話です。
「「達哉くんは何歳なの?」」
高音のユニゾンが少年に問い掛ける。
「二人とおんなじ。八歳」
一つ屋根の下で暮らし始めて早一か月、達哉少年もようやく二人に懐き始めていた。
「「お誕生日は?」」
「八月十九日。二人より三か月遅いねぇ。僕、おとうとになるのかぁ…」
「私、ずっと弟が欲しかったの」
「私、ずっとお兄ちゃんが欲しかったのに」
「じゃあ僕、二人の間に入ろうかな」
少年は無邪気に笑い、そう言った。
双子は驚いて顔を見合わせた。達哉の時系列を無視した答えにではない。初めての意見の分裂に。
亀裂は、一度入ってしまった以上後は砕けるまで深く進行するのみだった。
―――今何て言った!?
『お義父さんもお母さんも死んでますからね』
「嘘だろ…?」
「本当です」
いくら頭の中で反芻しても、実感の伴わない言葉。形を変える事なく、脳内を乱反射する言葉。
死んだ。
親父と花苗さんが。
死んだ。
何故?
決まっているだろう。
こいつだ。目の前でニタニタと笑っている、こいつだ。
「つぼみッ!!」
目の前の女に飛び掛かる。右手に強烈な反動が来る。手首の皮が少し削げたようだ。左手を伸ばしても、届かない。あの底意地の悪い笑い顔に拳を叩き込んでやりたいのに。
蕾が近付く。僕の伸ばした左手に悲しげに頬を擦り寄せる。
「義兄さん…。仕方なかったんですよ。だって二人とも邪魔するんですもの。絶対に駄目だ、って。
何度も何度も話し合いました。でも何一つ許してはくれなかった。それどころか私達は家族なんだからそんな感情を抱く事すら間違いだ、なんて言うんですよ?恋する事すら許されないなんて…それこそ間違ってるでしょう?
家族?そんなのあの人達が勝手に決めた事じゃないですか。勝手に結婚したのはあの人達じゃないですか。それなのに…。だからね、死んでもらいました」
「だから…?だからって何だよ!!それが殺して良い理由になる訳ないだろうッ!!」
「なります。少なくとも、私には」
力が抜けていく。いつかやりかねない、そんな事は分かっていた。花苗さんに容赦無しに暴力を振るう、二人の姿を見た時から。
どうしてこんな事になる…?
確かに問題はあった。長い時間をかけなければ氷解する事のない、たくさんの問題が。
でも時間をかければ解決出来た筈じゃなかったのか?
親父が僕を追いやったのは二人の娘を想って。
花苗さんが何をされても側にいようとしたのは二人を愛していたから。
けれどそれは全部、二人にとって障害以外の何者でもなかったのだ。
充満していた力が体から空中へ霧散していく。支える事すら出来なくなった足はくの字に曲がり、僕は膝をつく。涙は出ない。まだ真実と決まった訳じゃない。自分の目で見るまで絶対に信じるものか。
「義兄さん…悲しいですか?」
蕾が僕の頭を抱き締め、耳元で囁く。
「なら義兄さんと私で、家族を作りましょう。あの二人の愚行を理解している私達なら、こんな悲しい事は二度と起きません…。私が、起こさせません」
愚行。
愚行だって?心の底からお前達を心配してくれた人だぞ?それを…
不快感がミミズのように体内を這いまわり、全身を埋めていく。
「早く、帰してくれ」
「駄目です」
「放せ」
「嫌です」
「いい加減にしてくれ…!姉ちゃんにも聞こえてるんだろ!?もうこんな茶番は終わりだ!!僕は、どっちも選ばない!好きになんかならない!!」
「義兄さん…」
「今すぐこれを外せ!!扉を開けろ!!もう二度と…お前らには会わない!!」
「義兄さん…」
駄々をこねる子供をあやすように背中をさすられる。
「萌姉さんはね、今何を話しかけても答えません。何をしても起きません」
おい…まさか…死…
「これは二人で決めた事なんです。私と義兄さん、姉さんと義兄さん。互いに二人だけの時間を作って義兄さんにどちらかを選んでもらう。そういうルールなんです。
だから私と義兄さんの時間の間、姉さんはひたすら寝たフリをしなくちゃならない。逆に姉さんと義兄さんの時間の間は、私が寝たフリをするんです。」
ホッとした。また、殺した死んだの話になるのかと思ったから。
「じゃあアレは…今寝たフリしているのか?」
「さぁ…本当に寝ているかもしれませんね。何せ昨日から全く寝てませんでしたから、あの人」
本当に無駄な努力だ。不眠不休で計画したのが義弟の監禁か。
呆れると同時に冷静さを取り戻す。とにかく、なんとしてもここから逃げなければ。
蕾の手で後頭部を撫でられながら、考える。
そして、気付いた。
「うわっ!馬鹿…おま…!!」
腕で頭を抱き締められているという事は、僕の頭は彼女の胸の位置にあるわけで。
その…ふ、二つの膨らみが…。
慌てて後ろに下がる。
「何故逃げるんですか、義兄さん」
「そこに胸があるからだ」
「胸がお嫌いなんですか?何なら削ぎ落としますか…。義兄さんが貧乳好きとは思いませんでした」
恐ろしいことを言うな。
「そういう意味じゃない!喜んで義妹の胸に顔を埋める人間が何処にいる!!」
ちなみに大きいのは全く、全然、断じて、嫌いじゃない。
「今、私の目の前に」
「いや…だから…気付いたのが遅かったから…その…ごめん」
「謝っても許しません」
「…」
心の狭い義妹だ。監禁されて尚、こうやってお前と親しげに話す義兄を見習うべきだ。
「許してほしいなら…一つだけ言う事を聞いてください」
この際だから許してくれなくても良いのだが。だが蕾は萌姉ちゃんと違ってまだ話が分かる方だ。(というより姉ちゃんが極端に人の話を聞かないだけなのだが)ここで悪感情を持たせるのは得策ではあるまい。
「なんだよ…?」
蕾が俯く。
ポニーテールが微かに揺れる。
震えている?
俯く彼女の顔は見えない。
「その…ご飯を食べさせてください」
一気に脱力した。
投下終了です。投下ペース早すぎな気がしてきた・・・
リアルタイムGJ!
トイレでの監禁のしやすさは異常ですね
518 :
名無しさん@ピンキー:2008/02/02(土) 03:26:09 ID:J7ydIpMu
ここまで監禁に固執したSSも珍しい!
GJ!あ…でも無理はせずにね
>>516 もう一人の姉も期待しているんだぜ
…しかし、寒い朝はキモウトの布団に潜り込みたいものです
>>519 おや、キモウトのほうが潜り込んでくるんじゃ?
いつの間にかキモアネ&キモウトにサンドイッチされるように手錠でつながってるんだな
よく考えたら、兄の方から潜り込んでくるようなら、妹的にはキモくなるまでもなく大願成就で
お話が始まらないじゃないか
いやいや、キモウトが精神的に追い込んだからこそ正常な思考が持てずに潜り込んでしまったんじゃないか?
現実逃避のメタパニみたいに
なるほど。おhなしは始まらないのではなく、既に終わった後だったのか。
ただ
>>519の場合は
「お姉ちゃんがいるのに……!!!」
とキモ姉にお仕置きされそう。
ところで今歴ゲー中なんだが、「姉川」って地名が気になって…
姉の川ってどんな川?
妹川はあるのか?
由来は?……(以下下品なので自粛)
妄想がノンストップエクスプレス…
なんか普通にいい話でこのスレにはふさわしくないぞ!!w
竜になって兄や弟を連れ去っていけばこのスレっぽいのにw
神スレだなw
感謝感謝
最近俺の姉ちゃんはちょっと変だ。
姉ちゃんは普段から大人しいというかクールだし、あまり笑ったり怒ったりしないうえに口数も少ない。
なのに飯を食べるときにもの凄い笑顔で見つめてくる。特に俺の好物であるラーメンを食べてるときなんか異質な笑顔だ…。
普段は無表情なのに食事の時だけ笑顔になるのだからこっちは落ち着かない気分になる。
姉ちゃんのラーメンはうまい、そこら辺の店で食べられるラーメンなんかとは比べものにならないくらいにうまい。
なぜこんなにうまく作れるのかと聞いてみるとスープ作りにコツがあるそうだ。
姉ちゃんは料理に拘っていて何を作るにも時間と労力を使って作る。
だからラーメンを作るときとか麺は市販のを使っているが、スープは自分のオリジナルで何時間もかけて仕込みをしている。
それにスープを作ってるとき姉ちゃんはブツブツ何かを言っているみたいだ…蜜とか液とか。
そして今もまさに食事中だかやっぱり姉ちゃんは笑顔だ…っていうか軽く顔が赤くなって涎を垂らしている。変だよな?
誰かなんで姉ちゃんがこんな笑顔なのか解る人がいたら教えてくれないか。
自分が手間をかけた料理を美味しそうに食べてもらえるから嬉しいんだよ、きっと
顔が赤いのも照れで、涎もきっとあまりにも美味しそうに食べるからじゃないか
別に全然変じゃない、全国のお姉ちゃんは大体そんな感じだよ
GJ!
>>530 こう言えば、幸せになれる。
「あれ?○○(女子の名前)が食べさせてくれた玉子焼きと、後味が似てる」
上の空白のスレは、そういう意味でいいんだよな
いやむしろ…
愛する兄にそんな物を食べさせた姉に、
対するキモウトの殺意かな
翌日○○さんの座席は空白という暗示ですか
>>532 おかしな話だ。姉の好感度を下げるセリフなのに、いつの間にか姉エンド直行とは…
投下します。
非エロ。短編。7レス予定。
540 :
(1/7):2008/02/03(日) 16:27:22 ID:uShrGvCb
(九時半か……)
俺は腕時計に目をやり、時間を確認する。
場所は、実家近くの公園。小学生のころ、友達や妹と散々遊びまわった懐かしい場所だ。
露出している顔や首の肌を刺す冬の朝の冷たい空気のなか。
俺は妹と待ち合わせをしていた。
発端は昨日の夜にさかのぼる。三日前から実家に帰省していた俺は、その夜、あろうことか妹に人生最大級の失態を演じてしまった。
エッチなゲーム――いわゆる、エロゲ――をプレイしながらにやつくという、自分でも客観的に見たら死にたくなるような醜態を。
社会に出てひとり暮らしを初めてから、二年。誰の目も気にせずひとりで好き放題やれる生活に慣れ、
また、久しぶりの実家ということで、大分気が緩んでいたのだろう。
そうでも思わないと、あんな失敗をやらかすなんて、ありえない。自分があそこまで間が抜けてるなんて。迂闊だなんて。
いや、そう思ったところでなにが解決するわけじゃないが。
股間を露出していなかったことが不幸中の幸いだなんて、なんの慰めにもならない。
ノートパソコンのディスプレイいっぱいに映る裸の女の娘のアニメ絵と、それを見ながら気持ち悪い笑みを浮かべている己の姿を
ばっちり目撃されてしまったのだから。言い訳なんてしようもない。
その光景を目の当たりにした妹は、一瞬固まり、それから憎い親の敵にでも向けるような視線で睨みつけ。
無言で踵を返し、自分の部屋へと閉じこもったみたいであった。
その後、母に「夕食よ」と呼びかけられ、おそるおそる食卓に顔を出したときには、妹はいなかった。
あの娘は気分が悪いみたいで、きょうは夕飯いらないって。その母の言葉に、おれは、「そう」としか返事できなかった。
そりゃ、気分が悪くなるだろう。あんなモノを目撃したのだから。妹にとっては、耐えがたい現実を突きつけられたのだから。
俺と顔をあわせるのも嫌なはずだ。
だが、その母の台詞を聞いたとき、わずかにほっとした自分を呪いたくなった。
――まだ、両親に知られていない。
妹に不快なんて言葉じゃ足りないくらいの嫌な気持ちを与えておきながら、
己の身がまだ首の皮一枚で繋がっていることに安堵している自分を。
それから、いままで妹とは、ひと言も交わしていないどころか、会ってもいない。夜中にメールが一通きただけだ。
『明日、十時にあの公園で』
「はぁ……」
鬱屈した気分がすこしでも一緒に逃げていけばいいという思いを込めて溜息を吐く。気が重い。
公園に設置されたベンチに腰をかけていると、休日だからだろうか、呑気にタバコを吹かしながら犬の散歩をしているおっさんが
前を通る。
その平和そうな顔を見ると、筋違いとは判っていても恨めしくなる。
幸せそうな顔をしやがって。
俺は、妹から、親から、社会から、変態の謗りを受けるかもしれないというのに。
今朝の親の態度から、妹はまだ誰にも、少なくとも家族には昨日のことを話していないみたいだった。
しかしそれも時間の問題であろう。
俺の親は、そういうことには厳格なほうだ。だからこそ、その娘である妹がいまどきの女の娘にしてはありえないほど純情に
育ってしまったのだろう。
言うなれば、俺の昨日の行為は、コウノトリを信じている女の娘に下卑た肉の接合であるポルノ写真を突きつけたようなものだ。
と、まあ、そこまでいうのはオーバかもしれないが、俺がいままで見てきた限り、そして話に聞く限り、
妹はえらく古風な人間のようだった。
いままで、付き合った男は何人かいるようであったが、どうもそういう性的な面に関しては。
以前――まだ俺が実家にいた頃――妹の彼氏に相談されたことがある。
曰く、付き合っているのにキスすら許してくれない。手を繋ぐぐらいがやっとだ、と。
その彼氏は、軽く冗談めかして言っていたが、内心気にしていただろう。
そいつは非常にイイヤツで、俺としても是非妹とうまくいって欲しかったから、
我が家の家風を必死で理解してもらおうと説得した。
でも、長続きしなかったようだ。いつもそうみたいだった。誰と付き合おうとも。
それもそうであろう。時代の風潮からして妹みたいな女の娘の方が珍しいのだ。
キスすら許さないとなれば、付き合っている方としては本当に自分のことを好きなのか疑わしくなるだろう。
541 :
(2/7):2008/02/03(日) 16:29:53 ID:uShrGvCb
だが、あの家では異質なのは俺のほうだった。
いや、この歳まで誰とも付き合ったことすらなく、キスの経験すらない俺は、一般社会的にも異端だろう。
妹のそれとは違う。妹は自ら機会を捨てているが、俺にはそのチャンスすらなかった。
そんな俺がひとり暮らしを始めてから二次元の非現実へと走るのは、ある種予定調和だったのかもしれない。
昨日の妹の、相手を射抜くような眼差しが浮かぶ。
「はは……」
無意識に自嘲の声が洩れる。
「勘当、かな」
客観的に見たら、それぐらいで大げさな、と思うかもしれない。でも、家の事情だったらあり得ることなのである。
あの親に知れたら。
特に親父だ。
男女交際はしても構わないが、結婚するまで性的な交渉は一切罷りならん、というようなことを平気で口に出すような人間だ。
その息子が、二次元のアニメ絵で興奮して、自分を慰めてると知ったら、それこそ卒倒もんだろう。
九時四十五分。
ふと予感がして、面を上げる。
来た。妹だ。
その表情はまだ窺い知れる距離ではなかったが、笑っていないことだけは阿呆な俺でも判る。
妹はとっくにこちらに気づいていたのであろう。被告に裁きを言い渡す裁判官のような足取りでゆっくりとその歩みを進めながら、
こちらへ向かってくる。
なんて言うだろうか。
もう二度と帰ってこないで。あなたみたいな変態と同じ空気を吸っているだけで我慢できない。
そう罵るだろうか。
それとも。
あなたみたいな人間の妹でいることが堪えられない。いますぐ死んで。
妹の性格上そんなことは言わないと判っていても、最悪の状況ばかりを想像する。
妹とのいままでの思い出が浮かぶ。
俺が家を出るまでは、近所でも比較的仲の良い兄妹として通っていた。俺はそう思っている。
就職し家を出てからも、俺がたまに帰郷すると、決して嫌な顔はされなかった。
はっきりとそれを口にするのを聞いたわけではないが。
料理するようになったんですよって、手料理を振舞ってくれることもあった。
それは、多分彼氏のために勉強し身に付けたんだろうとは思ったが、それでも嬉しかった。
そんな過去も、妹にとって、いまはもう忌まわしい消したい記憶でしかないのだろう。
たとえ、変態の烙印を押されても、いままでの思い出すら否定されるのは辛い。
でも、自業自得なんだ。
妹が、静かに俺の前に立ちどまる。
どちらもなにも言葉を発さず、刹那の沈黙が流れる。
「あ、あの、だな……」
なにを喋るべきかすら思いつかないまま、口を開きかけた俺を制するかのように、妹が無言のまま、
公園脇に広がる林のほうを指さす。
そちらに行けということか。
そうだな。いくら変態とはいっても、まだ自分の兄だからな。遊び目的の子供たちや、
散歩などで通りがかる人のいるこの場所では、身内の恥をその人たちに晒すようなもんだろう。
最悪の想定が実現しつつあることを感じながら、ベンチから腰を上げ、黙って指をさした方向に歩き出す妹の後を追う。
しばらく林の中を歩み進めて、僅かに開けた場所で妹の足が止まる。
空は快晴だったが、ここは木々の間から木漏れ日が差し込む程度で、若干薄暗い。
断罪の場としては相応しいと思った。
こちらに振り返る妹。それに合わせて彼女の綺麗に切り揃えられた髪が流れる。
542 :
(3/7):2008/02/03(日) 16:33:15 ID:uShrGvCb
裁きの始まり、か。
「…………」
妹は口を開くことなく、こちらをじっと見つめていた。なにか申し開きがあれば一応聞いてやるということだろうか。
「あの……だな」
俺は、未だ言うべきことが見つけられず、先ほどと同じ台詞を吐いた。
「その、だ。おまえの言いたいことは、おおよそ……判ってる、つもりだ」
頭の中で纏まらないまま、たどたどしく言葉を紡ぐ。
「俺としては、言い訳することも見つからないし……、
いや、言い訳なんてすべきじゃないし。おまえがあのとき思ったままの人間なんだ。
……あ、いや、別に開き直ってるわけじゃなくて、おまえにはほんとに申し訳ないと
思っているし、その、なんだ、なんていうか、ただ、ここで謝ったり言い訳したりしても、
その事実が消えるわけじゃないし……」
自分でもなにを言っているんだろうって思う。
開き直ってないと言いつつ、これは、開き直りそのものじゃないのか。
「えーっと、だな。その、俺が言いたいのは、おまえの判断がどんなものであれ、
それに従うつもりだということだから」
そうだ。いまの俺にできる唯一の償いはそれしかないだろう。それは償いとはいえないかもしれないが、
それしか思い浮かばなかった。
「はぁーっ」
そんな俺の言葉を聞いていた妹が、大きく溜息を吐いた。
呆れたのだろう。それとも、こんなのが自分の兄であることを恥じているのだろうか。
「ねぇ、兄さん。私の言いたいことが判ってるっておっしゃってましたが、
それがなんだと思っているのですか?」
妹の口調は、極めて平静を保っていた。そして、それが妹が怒ったときのものであることを俺は知っていた。
しかし、妹よ、それを俺の口から言わせるか。
いや、答えねばなるまい。自らが招いた罰なのだから。
「その、だから……、あの時おまえがどう思ったか、ってことだ。
夕食のときも来なかっただろう。つまり、俺の顔も見たくないってことじゃないのか?
……あ、勘違いしないで欲しいが、それは……、おまえが俺のことを変態だと思うのは、
当然のことだと思ってる。だから、おまえが家に二度と帰ってくるなって言うなら、
二度と実家に顔をだすつもりはないし、兄妹の縁を切れっていうなら、
その、法律的にはなかなか難しいと思うが、できるだけその希望に添うつもりだ」
「お父さんには、なんておっしゃるつもりですか?
いきなり息子が帰ってこなくなったら不審に思われるでしょう」
「それも……覚悟してる、つもりだ。おまえが、……いや、それは卑怯だな。
そうなった場合には、俺から、ちゃんと両親に話す……ことにするよ」
親父は言うまでもなく、お袋も親父よりは理解があるが、こんなことを知れば相当衝撃を受けるだろう。
お袋は泣くだろうか。息子がこんな変態に育ったなんて知ったら。親父は怒り狂うだろうな。それはもう烈火のごとく。
そして二度とあの家の敷居は跨がせないであろう。
俺がそんな考えを巡らせていると、妹が俯いて肩を震わせる。
泣いているのか、と思って一歩踏み出したとき。面を上げた妹の表情は――。
――笑っていた。
「ふふふ、あはははは!」
遂には声をあげて笑い出す。あまりのショックに気でも触れてしまったんだろうか。
そうでも思わずにはいられないほど、眼前の妹は異常だった。
「ふふ、……あ、失礼しました、兄さん。
ただ、両親があまりに不憫に思えてしまって」
言っていることはこの上なく正常だ。それは俺を責めるには充分に効果的な言葉。
ただあまりの出来事に少し情緒が不安定になっているのだろうか。それがいっそう俺を苛ませる。
543 :
(4/7):2008/02/03(日) 16:37:05 ID:uShrGvCb
「……判ってる。それはすべて俺の所為だ。
そして、おまえを不憫な目にあわせているのも」
俺としては頭を下げるしかない。それが誰にもなんの救いにならないことが判っていても。
そんな俺を無視するように妹は続ける。
「そう、あまりに不憫じゃないですか。だって――」
そこで一度を言葉を切る妹。俺の目を見つめながら。
「――手塩にかけて大事に育てた自分の子供が二人とも変態だったなんて。ねぇ」
「わかっ……えっ?」
なに? いま妹はなんて言った? 『二人』、とも?
「なにを……」
言っているんだ、という台詞は続かなかった。混乱している。いまの妹の言葉の意味が理解できない。
聞き間違いか? そうだ、そうに違いない。
妹は精神的に動揺してるんだ。あ、いや、動揺してるのは俺か?
「え、あれ……」
なにも言葉を発せられない。喉の奥がひりひりする。
聞き間違いだ、必死で自分にそう言い聞かせる。
そんな俺の内心などまったくどうでもいいかのように、妹がさらに口を開く。
「そういえば、兄さんはさっき、私の言いたいことが判るとおっしゃってましたね。
でも、おそらく、いえ、絶対。兄さんはいまの私の気分を判っていませんよ」
先ほどの吹っ切れたような笑いを端緒とするかのごとく、妹の顔にはいまも薄く笑みが浮かんでいる。
まるで愉快なことでも話すかのように。
「そうですね。私のいまの気持ちを例えるなら。
いままでどうしても欲しくて欲しくて仕様がなかった、
でも絶対に自分の手には届かないものを、自分の一番嫌いな人間に奪われたけれど、
その人が、私の手の届くところに届けてくれたような複雑な気分です」
なにを……?
妹の言っていることは繋がってない。会話の前後がおかしい。意味をなしてないじゃないか。
俺は無意識だったのだろう、気づかないうちに後ずさっていた。
そんな俺を逃がすまいとするかのように、妹がゆっくりと近づいてくる。
「だいぶ困惑しているようですね。兄さん。無理もないです。
私がいままでひた隠しに隠してきたんですから。私から見れば兄さんなんて、
余程迂闊か、隠す意志がないとしか思えませんよ」
いつのまにか背中に林立する冷たい雑木のひとつを背負い、それ以上後退できない俺を追い詰めるかのごとく、
妹は俺の前に立ちふさがると、首にその細い腕をしなやかに回し。
そして、接吻をした。
「!」
思わず目を見開いた。瞳を閉じた妹の顔が視界を覆う。焦点を結ばないほど間近にある。
それに遅れて妹の匂いが、俺の鼻をくすぐる。
この場だけ時が止まってしまったかのように俺は動けなかった。息をすることも忘れていたかもしれない。
どれほどの時間が流れたのか。それは一瞬だったのかもしれないし、十分も経っていたのかもしれない。
時間の感覚が失われている。
妹はゆっくりと顔を離すと、身長差から俺を見上げる。上目遣いで。
背伸びをしてたのか。そんなどうでもいいことが気についた。
「う……あ……」
俺はなにかを喋ろうとしたが、未だに言葉が出てこない。動揺はさっきよりひどい。思考が纏まらない。
夢。これは夢なのか。そう思うとともに、現実感が急速に失われていく。
俺は夢を見てるのか。
二次元の妄想ばかりに逃げ込んでいたから、こんな夢をみるのか。
そんな俺の考えを否定し、現実に引き戻すかのように、妹の手が俺の頬を撫でる。
冷たい。
544 :
(5/7):2008/02/03(日) 16:40:08 ID:uShrGvCb
「まだ、判りませんか? 兄さん。
なぜ私が付き合ってる人と口付けすら交わさなかったのか。
兄さんは、私が古風な考えを持っていると思っていらしたようですけど、
もっと単純なんですよ。好きでもない人とは、
手が触れるくらいは我慢できても、キスなんてできないだけです」
ここは、なんだ?
いまなんで俺はここにいる?
どうしで、妹はこんなことを俺に話しているんだ?
頬に添えられた妹の手、その親指が俺の唇に触れる。
「私が、いままでどれほどの葛藤を抱えていたか想像つきますか?
兄さん。あなたの何気ない仕種に私がどんな想いを抱いていたか。
好きでもない人間と付き合うことで、必死で誤魔化してきたんですよ。
でも、それも影から応援するような兄さんの態度が、私に苦痛を与えるだけでした。
結局、誤魔化せたのは兄さんも含めて周りの人間だけです。
私の感情は自分を騙すどころか、肥大していくばかりでした。
それでも、その感情を周囲に悟られないためだけに続けていたんです」
妹はなにか箍が外れたかのように。
「兄さんが、私なんか比べものにならないような方と付き合えば、
諦められるかとも思いました。でも、実際に私がとった行動は、
それに反するようなものです。常に何事も完璧にこなせるように努力して、
兄さんに近づいてくる方にプレッシャーをかけるようなこともありました。
あ、もちろん兄さんはそんなこと気づいてなかったでしょうけど。
私の中では常に禁忌と倫理の葛藤でしたよ」
そこまで一気に喋り、俺の頬から手を離し、そのままその手で自分の髪を梳いた。
ここまできてやっと、俺の思考が追いついてきた。
いや、まだ困惑はしているが。
妹の紡ぐ告白が、言語として、日本語として、漸く意味のあるものとして俺の耳朶に入ってきた。
「おまえは……、自分でなにを言っているのかが判っているのか?」
「ええ、理解しています」
「なんで、いまになって、こんなこと……」
俺には妹の吐く言葉の意味は認識できても、その感情も行動も理解不能だった。
「昨日の出来事以外に、なにか原因があると思っていらっしゃるんですか?」
妹はさもそれが当然のこととばかりに応える。
「だったら、なんでっ!? もし、おまえがいま言ったような感情を抱いていたとしても、
幻滅しただろうっ!? あんなことしてる奴が世間一般でどんな目で見られているか、
いくらおまえでも判るだろうっ! 後ろ指をさされるような、
軽蔑されるような人間なんだよっ、俺はっ! なんでそんなことをわざわざ言うんだ?
おまえの中で勘違いで済ませればいいじゃないかっ!
おまえは俺じゃない、ありもしない偶像に憧れていただけなんだってっ!」
「ありもしない偶像じゃありません。
いま、こうして現実に私の目の前に立っていらっしゃるんですから」
「だからっ……」
さらに反論しようとした俺に対し、妹がその人差し指を俺の口に当てて止めた。
まるで母親が、子供に静かにしましょうね、とでも合図するかのように。
「兄さんは本当の意味であの両親の息子ですね。その愚鈍なまでの純粋さ。
私はそれが欲しくて欲しくて、手に入れたくて堪りませんでしたよ」
俺は、妹の指を振り払う。
「あんなっ、あんな行為をする人間のどこが純粋だっ!」
口調だけからみると、妹と俺の立場は最初と逆転したように、責める立場と責められるそれが入れ替わったかのように見えたが、
実際は最初の状況となにも変わっちゃいない。
545 :
(6/7):2008/02/03(日) 16:41:58 ID:uShrGvCb
「あら。自分を慰める行為ぐらい、
する人間はいくらでもいるじゃありませんか?」
「それでも……、それでも、あんなものを使ってしたりはしない」
「性的嗜好なんて人それぞれだと思いますが。
世の中には苦痛や不快感を快感とする人間もいるでしょう」
「そっ、それは詭弁だろう。そんなことで自分を正当化はできないはずだ」
「どうして正当化する必要があるんです?
殺人淫楽症や強姦魔の人間ならば社会の害悪であるということもありますが、
兄さん程度の趣味で社会に害悪を成すならば、
性欲そのものを否定しなければなりませんよ」
「なっ……」
妹の言っていることはどこかおかしい。しかし、反論できなかった。
いや、そもそもなんで俺は反駁しているんだ?
さっきから俺は自分が変態であることを必死で主張してるのか?
大体、この茶番はなんなんだ。
俺の前にいるのは、本当に俺と一緒に育ってきたあの妹か?
「その程度のことをそれほど真剣に気にしているから、
兄さんは純粋だと言っているのです。
まあ、兄さんが世間的にどう思われようとも私は一向に構わないのですが。
そもそも、漫画のような絵に性的興奮を覚える程度で後ろ指をさされるのでしたら、
その対象が兄であるような人間は、社会的にはこの上ない変態ですね」
妹は愉悦にでも浸るかのように声のトーンを上げる。
「おまえは……、本当に俺の妹なのか? おまえは、一体なにがしたいんだ?」
「ふふ、そのひとつ目の質問。それが私と兄さんとの違いです。
兄さんはそのままで私の望む姿でしたが、
兄さんが接していたのは『兄さんが望むであろう妹』を演じていた私です。
だから、いまの私と、兄さんが知っている私とに齟齬が出るのです。
それと、ふたつ目のことですが、先ほど言ったとおりです。私は兄さんが欲しいのです」
「なんで……? 俺はおまえが判らないっ!」
「ええ、これは私自身ですら制御できるような感情ではありませんから。
おそらく私が兄さんの趣味を許容しようとするよりも、
私の感情を理解していただくことのほうが余程困難でしょう」
546 :
(7/7):2008/02/03(日) 16:43:36 ID:uShrGvCb
ああ、それと、と妹が付け加える。
「先ほどは兄さんの趣味を擁護するような発言をしましたが、
決して快くは思っていませんから。
兄さんの心を奪うものはなんであれ……、そうですね、
単純な言葉で述べるなら嫉妬というものでしょうか。
特にあんなモノに兄さんが心を奪われていると知ったとき、
私の中で限界まで張り詰めていたなにかが切れたような気がします。
それで、決心したんです。なにがなんでも、どんな手段を用いてでも、
兄さんを私のものにしてみせる、と」
「こんな――、こんなことを両親が知ったらどう思うのか、
おまえは考えたことがあるのか?」
思わず口をついて出た後に、こんな台詞は俺が言えた義理ではないことに気づいた。
あんな趣向を持てば、両親がどれほどショックを受けるか理解しつつもやめなかった俺。
もう、とっくに歯車は狂い始めていたのだ。俺も妹も。
「ええ、これ以上ないというくらい考えましたよ。
兄妹揃って、異常な人間であることをあの両親が知ったときの苦痛や悲嘆を。
さらに親思いの兄さんが、それをなにがなんでも避けようとするであろうことも。
いま兄さんが言った台詞は、そのまま私が兄さんに言いたい台詞です。
私の想いを達成するために」
それは、つまり。
その台詞は俺を責めるためじゃない。強迫のための台詞だということだ。
その材料は、俺のこと、だけじゃなく、妹自身も含めて『兄妹ふたり』のこと。
その妹の言葉を聞いてはじめて、俺は妹の決意がどれほどのものかを実感した。
『なにがなんでも、どんな手段を用いても、兄さんを私のものにしてみせる』
その日、歯車は完全に狂った。
投下終了。気分転換に昔つらつら綴った妄想を焼きなおし。
一点謝罪を。前回の投下(>356-357)にて、大失態。
葉月透夏 ⇒ 葉槻透夏
です。あまりにも数が多く申し訳ない。
あと、読みは『はづき』です(葉槻東のふりがなミス)
命名の経緯も相まって、チェックで見落としてました。
以後、注意します。
548 :
名無しさん@ピンキー:2008/02/03(日) 16:51:02 ID:PbGzRab2
GJ
グッジョブ
非常に良い
GJ!賢いキモウトに問い詰められたい
GJ!
短編と言わず、長編が読みたいです。
投下します。
遥視点の過去編。
少女の性的な描写が駄目な片はスルーを。
その日、珍しく遥は早くに目を覚ました。
悪夢、を見たからだ。
「嫌な夢…見ちゃったなー」
あまり良くない目覚めの中、遥が呟く。
その夢は、2年前の記憶、兄が自分の物ではなくなっていく悪夢。
「もう…あんな思い…したくない!」
怒りや悔しさ、恐れを吐き出すように、呟いた。
小さい頃の遥にとって、他人は自分を追い詰めるだけの存在だった。
妹の智佳にばかり構い、自分を見ようとしない両親。
自分を攻撃し、虐めてくるだけの男の子達。
そんな自分を疎外するだけで、助けようともしない他の子達。
幼少の頃の遥は、今とは違い、陰気で表情に乏しく可愛いげのない暗い子供だった。
そんな遥を、ただ一人だけ”愛して”くれたのが、兄である康彦だった。
いじめっ子がいれば追い返し、遥が泣けば側にいて慰め、遥が喜べば一緒に喜んでくれた。
そんな兄のおかげか、遥は少しづつ笑顔が増え、明るく活発な少女へと成長していった。
「お兄ちゃん…」
懐かしい呼び名で兄の事を呼んでみる。
兄は自分を愛してくれている。
それは家族愛としての愛情ではあるが、遥はそれで十分に満足していた…つもりだった。
遥は気付いてしまった。
兄がその愛情を向ける相手が自分だけではない事を。
両親に対しても向けられていた。
そして、妹の智佳にも、それは注がれていたのだ。
遥がそれに気付いた時、胸が締め付けられるような苦しさを感じざるおえなかった。
ある晩に遥は、自分の兄に対する想いが何なのかを、思い知らされる事になる。
その日も両親の帰りは遅く、深夜になっても帰宅する気配はなかった。
最近では珍しい事ではなく、家事全般は兄が担当していたし、兄さえいれば良いと考える遥にとって、何の問題もない。
だが、その日に限って遥は不思議と寝付けなかった。
その為か、遥の足は自然と兄の部屋へと向かっていた。
何をしに行ったのか、遥自身も良く覚えていないし、当時の遥に聞いたところで答えは出ないだろう。
漠然とした不安を取り除く為に、お喋りがしたかったし、兄のベットで添い寝して貰いたかったかもしれない。
「お兄ちゃん、起きてる?」
小声でそう言ってから兄の部屋のドアを開けると、遥にとって辛い光景がそこにはあった。
兄の手を握り締めながら兄のベットで眠る智佳、そんな智佳を優しい瞳で見守りながら、智佳の頭を撫でる兄。
それは、両親の不在に恐怖と不安を覚えた幼い妹と、その妹を慰めて寝かし付ける兄。
ただそれだけの光景。
それが遥には今までにない恐怖と不安を感じさせた。
「どうした、ハル?」
自分の存在に気付いた兄が、小声で聞いてくる。
「ハルも眠れないのか?」
あくまで小声で、少し茶化すように兄が言う。
「なに…それ?」
兄の質問には答えす、遥は智佳の方を指差す。
「ちぃちゃんか?」
明るい顔で、智佳を起こさないように抑えた声で兄が言う。
「眠れなかったみたいでな、やっぱりまだ、ちっちゃいちぃちゃんが一人で寝るのは無理かな?」
智佳の頭を優しく撫でながら、ゆっくりと言った。
それは遥にとって更に辛い光景だった。
何故か、そこにいたくなかった。
「おにいちゃん…」
兄の行動に応えるような智佳の寝言を聞いた時、それが遥の我慢の限界だった。
「どうした、ハル?」
心配そうに問い掛ける兄に答える事も出来ずに、遥は自分の部屋に駆け戻ってしまった。
部屋に戻った遥は、自分の感情を持て余していた。
兄は智佳を、妹として可愛いがっていただけ。
自分と同じように、妹として愛しているだけ。
兄からしてみれば、自分も智佳も同じ妹。
その当たり前の事実が、遥に重苦しい何かを与えてきた。
「お兄ちゃんお兄ちゃん」
今、ここにはいない兄を呼んでみる。
撫でられているのが自分だったら、自分が一緒に寝れたなら、優しく手を握ってくれたら…。
そんな想像をしているうちに、遥は自分の下半身、特に股間の部分が熱くなっているの感じた。
遥がそれほどに性に関する知識を持っていた訳ではない。
10歳の少女が当たり前に持っている程度のものだ。
それでも遥は、自分の股間、膣やクリトリスを触り始めていた。
熱さを収める為の行為だった。
だが、それは想像していなかった快感を遥に与えた。
この手がお兄ちゃんのだったら、
そう考えながら、まだ発毛もしていない、その部分を激しく刺激する。
「お…にいちゃ…ん…」
苦しげに言ったその一言は、更に遥の快感を増大させた。
「おにい…ちゃん…おに…いちゃん…」
そう口にする度、自分を触ってくれる手が、兄の手のように思えてくる。
気付けば、片方の手が、膨らみ始めたばかりの小さな胸を刺激していた。
「おにいちゃん…そこも…もっとぉ」
自分の言葉に従うかのように、遥の手の動きは更に激しさを増す。
「おにいちゃん…遥も遥も…だいすきだよ!」
その言葉を最後に、遥は少しだけ、意識を失わせた。
始めての自慰、それで遥は絶頂したのだ。
意識を取り戻した後、遥は自分の本音に気付いた。
自分が兄の事を”男”として愛しているのだと。
智佳に対するような”妹”としてではなく、兄にも自分の事を”女”として愛して欲しいのだ、という事に。
兄妹での恋愛、それがタブーである事は、幼い遥にも薄々と分かっている。
だから、その想いを胸の奥に秘めた。
その秘めた想いが、ゆっくりと確実に大きく、歪んだ形へと成長していく事を知らずに。
「兄貴…」
今の呼び名で、遥が兄を呼ぶ。
お兄ちゃんから兄貴へ、遥が呼び名を変えたのは、ある一人の女がきっかけだった。
今日の悪夢を見せた原因にもなった女、横山楓の存在がきっかけとなったのだ。
遥が中学2年、兄が高校3年の時に、遥はその女と出会った。
その頃の兄は、何事も完璧にこなそうと無理し過ぎていた、少なくても遥の目にはそう写った。
両親がほとんど家にいないせいか、兄は責任を背負い過ぎている、
遥も、そんな兄の負担を減らそうと、せめて家事だけでも手伝おうとしたが、どうしても上手くいかず、その都度、兄に”ハルにはハルにしかない長所があるから”と、慰められていた。
そんな兄だったが、ある日を境に、無理している雰囲気が無くなり始めていた。
手を抜き始めた訳ではない
良い意味で自然体になってきたのだ。
当初は遥も、兄の変化を喜ばしく思っていたが、その変化の理由を知った時、遥はどん底に突き落とされるような感覚を味わった。
「これがヤスの妹?可愛いじゃねぇか!」
遥が始めて、その女、楓に会った時の、相手が言った言葉。
「アタシの事をお姉ちゃんって呼んでいいぞ!」
嬉しそうに言葉を続ける楓。
その言葉に遥は顔をしかめた。
自分にはお兄ちゃんが居てくれれば良い、
そう思いながら、相手から距離をとる。
「かぁー!恥ずかしがっちゃって、可愛いねえ」
そう言いながら、楓が距離を詰める。
その時、兄の強烈な一撃が、楓の後頭部に炸裂した。
「何やってんだ、お前は!」
行き過ぎた楓の行動を咎めるよう、兄が言う。
「何すんだよ!アタシは妹ちゃんと仲良くなろうと思って…」
「ハルがびびってんだろうが!」
自分を助けるような兄の一言。
遥はそれだけで嬉しくなる。
が、それはすぐに覆される。
「ヤスの妹なら、アタシにとっても妹になるよなあ?」
楓が、兄に歩を詰めながら、そう言う。
「ど…どういう…」
「あの日、アタシを激しく抱いといて、ナンか言う?」
楓の言葉に、兄は顔を赤くさせていく。
二人の言葉の意味が分からない程、遥は子供ではない。
「わ…私、やんなきゃイケない事、あるから!」
無理な大声でそう言うと、遥は家に向かって走り出した。
家に戻った遥は、自分でも分からない程に動揺していた。
兄が自分ではない、別の女と結ばれる、
それは当たり前の話だし、覚悟もしていたつもりだった。
しかし、今、現実にその相手が現れると、遥の胸は大きく掻き乱された。
何故、自分じゃ駄目なのか、血の繋がりだけで何で諦めなきゃイケないのか…!
何にも当たれない怒りが遥を苦しめる。
そんな自分の事を気にして、自分の部屋に入ってきた人間がいる。
「ハル姉?」
自分を心配して入ってきた妹がいた。
この妹が自分と同じ目で兄を見ている事は、既に気付いていた。
それを苦々しく思った事もあるが、今はそれを使うのが最上であるように思えた。
だから言った。
「ちぃちゃんはお兄ちゃんの事、愛してるかな?」
と。
その答えを知っていながら、
この妹を利用する為に。
楓が死んだのは、それから少し経ってからの事だった。
横山楓、
その存在は、康彦だけでなく、遥にも深い影響を与えている。
その死が康彦に重い傷をもたらし、その存在が遥に兄への呼び片を変えさせた。
あのようになれば、自分も、唯一無二になれるかもしれない、
そう考えた遥は、兄の呼び名を、”お兄ちゃん”から、”兄貴”へと変えた。
それから2年の月日が経つ。
自分と兄の関係に大きな変化はない。
楓の死が、思った以上に兄に傷を与えた為、遥も思いきった行動がとれずにいたからだ。
それでも遥は思う。
もう一度、兄の呼び名が変わる時が来る、と。
それは、恋人に相応しい呼び名になる、と。
まだ、兄は自分を妹以上に見ていないし、それ以外にも沢山の壁がある。
だが、最後に兄の傍にいるのは、自分だけだ。
遥には自信があった。
自分が1番に兄を愛しているんだ、という自信が。
決勝の相手は智佳になるだろう。
その事にも遥は余裕を持っている。
時計を見れば、まだ6時30分にもなっていない。
「昨日の今日だしね」
誰に言う訳でもなく、言い訳のように呟くと、遥の足は自然と兄の部屋に向かっていた。
起こす時に唇が当たるのは良くあるし、舌が入っても事故だよね、
そう考えながら。
投下終了です。
グッジョブ
殺された恋人像を良い意味で裏切ってくれるとは
なんでか知らんけど亡くなった恋人はおとなしいお嬢様みたいなイメージを勝手に持ってたww
ともあれ
>>558はGJ!
562 :
名無しさん@ピンキー:2008/02/03(日) 23:44:22 ID:Yts0fBWp
か、神がいっぱい来てるぅぅぅぅううう!!!!
GJ!!
>555
>544
エ、エロゲープレイするのって、そんなに悪いことだったんだ…
そりゃ自慢できるような趣味じゃないことは分かっているけど…犯罪レベルにまで貶されようとはちょっとショック
>>565 お、おい……お前の後ろにいるのって確かお前のいm
生まれてこの方エロゲなんてやったことない俺勝ち組www
で、でもキモウトに嫉妬されるってんなら俺・・・
>>569 妹がいないなんて人生の意味がないのも同然だぞ
>>567だったorz
俺が俺に言ってどーするよ!いや間違ってないけどさ…確かに人生損してるけどさ……
はっはっは。俺なんて給料の1/3は毎月エロゲ購入に注ぎ込んでるゼ!
orz
はっはっは。俺なんて給料の3分の2は貯金してるぜ!
・・・いつニートになってもいいと思ってる俺。
ニートになったら、おうちから一歩も出る必要ないね弟くん
ふふっ……
ニートになったら、おうちから一歩も出る必要ないねお兄ちゃん
くすくすくす……
>>569 あのぉ、大変申し上げにくいのですが…
そこの物影で血涙流している鬼女は、もしや貴殿の姉上では…
監禁トイレ六話投下しまーす
「やめてよ!!痛いよぉ!!」
「ほら、たっくんが痛がってるでしょう!!」
「お姉ちゃんこそ放してください。最初にお兄ちゃんと遊ぶ約束したのは私です」
ぎりぎりと腕が引っ張られる。
「何してるのッ!!」
母は双子を怒鳴りつけ、少年から引き離す。少年の両腕はぶらぶらと垂れ下がる。さながら操られる事を忘れた人形のように。
少年は泣き喚く。その両手は暖簾の如く、無抵抗にただ揺れるのみ。
母親は青ざめ、すぐさま病院へ連れて行く支度をした。
結論から言って少年は両肩を脱臼していた。
少年が病院から戻ってくるまでの間、リビングでは双子が睨み合っていた。
一言も発する事なく。
けれど視線で全ての感情をぶつけあって。
亀裂は、もう修復不可能なところまで深く皹入っていた。
後悔している。
そりゃあもう、物凄く後悔している。
不用意に「良いよ」と言ってしまったのが、まずかった。
「はむっ…んっ、ぐっ、はぁ…んっ」
口からはくちゃくちゃと咀嚼音が漏れ出ている。
問題なのは「二人で一つ」の咀嚼音。
ああ本当に、心底後悔している。
それはつい30分前の事。
「…」
「……」
「…何故黙るんですか、義兄さん」
「いや、別に…」
今日で何回目の脱力だろうか。恐怖であったり悲しみであったり呆れであったり。いずれにせよネガティブな意味での脱力しかしていない。そろそろゆったりとした平和な脱力感が欲しいものだ。
「で、してくれるんですか?してくれないんですか?」
「あ…えっと…良いよ」
僕の返事を聞くと、蕾は自分の足下に置いたリュックを開く。そこから市販のおにぎりや惣菜パン、飲み物を取り出した。
それらを抱え、僕の隣に座り込むと、食糧を床に並べ始めた。
「あ、おにぎりの包装は片手じゃ無理ですよね」
そう言って蕾は梅おにぎりを手に取る。それよりせめて下に何か敷いてもらえないだろうか?床に無造作に転がる食糧。あまり食欲を掻き立てられないのだが…。
「出来ましたよ、義兄さん」
左手におにぎりを渡される。
「それじゃお願いします」
面倒臭い上に回りくどい。何故こんなやり方で食事をするのだろうか。おにぎりは思いのほか美味しそうに見えた。多分、それだけ腹が減っていたのだろう。
そういえば昨日から何も食べていなかったっけ…。
そんな事を考えながら義妹の口におにぎりを差し出す。
ぴしゃり
…痛え。
「何故手を叩く?」
「あなたは馬鹿ですか?誰がそんな食べさせ方を要求したんですか」
「お前だろう」
盛大に溜め息をつかれた。
「はぁ…。ここまで鈍いとは思いませんでした。分かりました、じゃあそのおにぎりは義兄さんが食べてください」
…。
…何なんだよ。
…本当に何なんだよ?
腹立ちを顎に込めておにぎりに食らいつく。ぱりっ、と爽快な音の後を海苔の香りが追従する。ひやりとしたご飯も、空腹を自覚した途端熱を帯びだした胃にはちょうど良く感じられた。梅の酸味が唾液を促す。
美味しい。
素直にそう思った。
「むぐっ!?」
唇を何かが塞ぐ。
まさか…またハンカチか!?
至福のあまり目を閉じていたのがいけなかった。だが、目の前には予想だにしない光景が待ち受けていた。
僕の唇を塞ぐのは、やはり唇で。当然その持ち主は、蕾だった。
「んん゛ッ…!!」
口内に生暖かい息が、涎が、舌がなだれ込んでくる。口に入れたおにぎりは舌に絡めとられ、蕾の口内に吸い込まれていく。
間近で見る蕾の顔は今まで見た事のない顔だった。目尻に涙を溜め、それは今にも零れ落ちそうだ。鼻息が頬をなぶる。くすぐる、の範疇に収まりきらない程に荒々しく。
白い肌はピンクに染まり、今にも湯気を立ち上ぼらせる様。
つまり彼女の「食べさせて」はこういう事だったのだ。一般的に口移しと呼ばれる行為。コレはそれの進化版といったところか。
…むしろ劣化か。
こんな「食べさせて」を誰が理解出来るのだろう。
鈍い?
この場合は僕が鈍いじゃないだろう。蕾、お前が凄いだけだ、色んな意味で超越してるよ。ブラボー。
口に含んだ分のおにぎりをほとんど奪い去ると、唇が離れた。二人の涎が名残惜しそうに橋をかける。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
「はぁ…っんく、はぁ…ふぅ…」
互いの口から白い息がぽつ、ぽつ、とわき出る。トイレの中が冷えきっていたから、だけではないと思う。
「ふふっ…安いおにぎりも義兄さんの口で食べるとこんなにも美味しくなるんですね…」
僕はどうしたものか分からない。まず処理するべきは口に溜まった唾だ。これをさっさと吐き出してしまいたい。ただそれを見た蕾がどんなリアクションをするか…。
一瞬脳内に浮かんだのは舌を食いちぎられる図だ。監禁されている間に、僕の想像力も大分愉快な方向へ鍛えられたようだ。
手近にあった飲料水を口に含み、不純物を一気に流し込む。腹を壊さなければ良いのだが。
「義兄さん。続きを」
今度はサンドイッチを差し出してきた。
前言撤回。
これが中止になるのなら何でも良い。
早く壊れろ、僕の腹。
ツナサンドが、迫ってくる。
投下終了です
>>581 乙+GJ
飯食いながらおっきしたのは俺だけでいい
>>581 口移しの生々しい表現にGJ!
溜まった唾の処理に悩む主人公の葛藤が……w
それでは第2章の続き投下します
全9レス
後半に三年生の妹のオナヌゥ描写がありますロリ苦手な人はスマソ
でもって大人気のばあちゃんは登場しません(汗
↓
やがて訪れた夏休み――
里穂は計画通り、ママに内緒でお兄ちゃんに会いに出かけた。
でも結果としては悲しい思いをしただけだった。
お兄ちゃんの顔は見られたけど里穂との再会を喜んでくれなかった。
ママに怒られてばかりいた頃と変わらない、優しさのない態度だった。
「よく来てくれたね」「一人で頑張ったね」
行きの電車の中では褒め言葉を期待して、わくわくしていたのに……
おばあちゃんには里穂が一人で来たことをママに言いつけられてしまった。
ひどい意地悪だった。
お兄ちゃんが優しくないのは、こんなおばあちゃんと一緒に暮らしているからだと思った。
二人に連れられて家に戻ると、ママはお仕事を早退して帰って来ていた。
いままで見たことのない怖い顔で、里穂を家に引き入れるとすぐドアを閉めて鍵をかけた。
お兄ちゃんとおばあちゃんには挨拶さえしなかった。
きっと里穂もひどく怒られるだろうと思った。いつもお兄ちゃんが怒られてたときのように。
ところが、里穂に向き直ったママは笑顔だった。
「ダメじゃないの里穂、知らない人について行ったらいけないといつも言ってるでしょう?」
「知らない人……?」
何のことか里穂にはわからず首をかしげる。
ママは里穂の頭を撫でて、
「里穂がママに黙っていなくなるわけないものね。知らない悪い人に騙されて連れて行かれたんでしょう?」
「……里穂は……」
怒られても本当のことを言わなきゃいけないと思った。
一人で出かけたことについては、お兄ちゃんやおばあちゃんが悪いのではない。
「……自分から出かけたんだよ……」
「そんな筈ないわ。騙されて連れて行かれたに決まってる。里穂はパパとママと一緒のおうちが一番なのに」
ママは笑顔で里穂の頭を撫で続ける。
「そうよ、あんな泥棒のガキとか泥棒に味方する強欲ババアなんて知らない人。里穂の家族はパパとママだけ」
「……ママ……?」
いったい何を言っているのだろう? 泥棒のガキってお兄ちゃんのこと?
「パパとママが結婚する前、嘘つき女がパパを泥棒したの。嘘をついてママを裏切ったの」
ママは言った。
「そして生まれたのがあのガキよ。だからアレは泥棒のガキ。嘘をついてママを裏切るんだわ」
「……お兄ちゃんは嘘なんて……」
里穂の言葉を遮り、ママは叫んだ。
「泥棒が産んだとしてもパパの子だもの! ママは本当の子供みたいに愛してたのに裏切られたのッ!」
里穂は怖かった。お兄ちゃんに怒ってばかりいた頃のママに戻ったみたいだった。
いや、その当時でも里穂の眼の前で、ここまで取り乱したようにわめき散らすことはなかった。
人間は「おかしくなる」ことがあると、里穂はテレビのニュースで観て知っていた。
通りすがりに理由もなく他人を殴ったりナイフで刺す「おかしい人」が世の中にいる。
むやみに大声を出すのは「おかしい人」だから近づくなとニュースを観ながら教えてくれたのはママ自身だ。
なのに、ママも「おかしく」なっちゃったの?
里穂が一人で出かけたから怒って? それとも心配しすぎて?
「……ごめんなさい……」
里穂はママにすがりついた。涙があふれ出した。
「もう一人でどこにもいかないから……ママの言うこときくから……」
だから、おかしくならないで……
「あらあら泣かないで里穂、里穂は悪くないのよ」
ママは里穂の前でしゃがんで頭を撫でてくれた。
笑顔に戻っていたが、その眼は泣いているみたいに赤かった。
里穂がもう少し上級生で語彙が豊富なら「血走っている」と形容しただろう。
「悪いのはあのガキとババア。里穂は騙されただけ。怖かったわよね知らない人に連れて行かれて」
「ママ……」
お願いだから、おかしくならないで。優しいママに戻って。
お兄ちゃんにも優しかったママはどこに行っちゃったの……?
「さあ、そろそろ晩ごはんの支度しなきゃ。里穂の大好きなカレーにするわ。パパもママのカレーは大好物よ」
ママが里穂の手首をつかみ、ダイニングへ引っぱっていく。
ぐっと力を入れられて痛かったけど、怖くて振りほどけなかった。
食事の支度をしている間にママは次第に落ち着き、食べ始める頃には普段と変わらない様子に戻っていた。
でも里穂の心には恐怖が残った。
いつ再びママがおかしくなってしまうかわからない。
里穂はお兄ちゃんに会いたかっただけなのに、どうしてこんなことになるのだろう……?
翌日、ママはいつも通り仕事に出かけて行った。
里穂はどこにも出かける気にならず家に閉じ籠もっていた。
ママが作り置いてくれたお昼ごはんを食べ終えた頃、千代美から電話があった。
きのうの首尾を聞かれて言葉を濁すと、勘のいい千代美は「そっかあ……」と嘆息し、
「何かあったみたいね。きょうは千代美が里穂の家に行くよ」
「え……、でも……」
「来ちゃダメなんて言わないでね。話したくないことは話さなくていいから、千代美をそばにいさせて」
やがて訪ねて来た千代美を、里穂は自分の部屋に通した。
里穂の部屋はお兄ちゃんと一緒に暮らしていたときのままだった。
二つになった机は勉強用とお絵描きやゲームなどの遊び用に使い分けるから捨てないで。
二段ベッドは空いている上の段を、ぬいぐるみを並べる棚にするから買い換えなくていい。
その口実でママを説得し、里穂はお兄ちゃんの机とベッドを守ることに成功していた。
お兄ちゃんがいつでも帰って来られるように。
でもママがおかしくなったら、その機会は限りなく遠のいてしまう……
里穂は自分のものだった机の椅子を引き出して千代美に勧めた。里穂自身はもう一つの机の椅子に腰掛けた。
さりげない動作のつもりだったのに千代美は微笑み、
「里穂ってホントにお兄さんが好きなんだね。そっちがお兄さんの机でしょ?」
「え……」
里穂は眼を丸くして、誤魔化すように笑い、
「どっちも里穂の机だよ。そっちが勉強用で、こっちが遊び用」
「でも勉強用は本がたくさん並んでるから最初から里穂ので、物が少ないそっちはお兄さんのだったでしょ?」
里穂は、まじまじと千代美の顔を見た。
「……千代美ちゃんってすごいね、刑事とか探偵になれるよ……」
「千代美の将来は美容師だってば。それより、お兄さんに会いに行ってどうだったの?」
「……うん……」
話すべきかどうか里穂は迷った。
話したくないことは話さなくていいと千代美は言ってくれた。
でも本当に話したくないのなら、里穂は千代美を家に来させなかったろう。
押しかけて来たとしても家に入れなかったろう。
ならば選択肢は一つだった。
せっかく会えたのにお兄ちゃんの態度は冷たかったこと。
そして、おばあちゃんに家に連れ帰られてしまったことを話して聞かせた。
家に帰ってママに怒られなかったか訊かれたので「ちょっとだけ」と答えた。
ママがおかしくなったことは、さすがに言えなかった。
「ひどいね、里穂のおばあさん。黙っててくれればいいのにね」
千代美は自分のことのように怒ってくれた。
「それ里穂が思った通りだよ、意地悪なおばあさんと一緒にいるから、お兄さんも里穂に冷たくなったんだよ」
「うん……でも、お兄ちゃんはママと住んでた頃もあまり優しくなかったから……」
「優しくないお兄さんなら、どうして里穂はそんなに好きなの?」
千代美が小首をかしげて訊ね、里穂は「え?」と戸惑い、
「それは……、昔は優しかったから……」
「でも優しくなくなっちゃったんだ?」
「うん……パパが亡くなってしばらくして、ママに怒られてばかりになってから……」
「里穂だけママに可愛がられてるからヤキモチかな?」
「そういうのとは違うと思う……」
お兄ちゃんのほうもママを嫌っている。ママに向ける眼を見れば、それはわかる。
前はそんなことなかったのに。ママはお兄ちゃんに優しくて、お兄ちゃんもママが好きだったのに……
千代美が腕組みして「うーん」と唸った。
「お兄さんは里穂のこと、どう思ってるんだろうね?」
「え……?」
眼をぱちくりする里穂に、にやりと千代美は笑って、
「里穂はお兄さんが好き。でも、お兄さんは?」
「……そんなこと……」
考えもしなかった。
里穂はお兄ちゃんが好き。ママが好き。パパが好き。優しいから。家族だから。
それが当然と思ってた。
でも、お兄ちゃんはママを嫌っている。優しくないから。ひどく怒るから。
それでは――里穂のことは?
お兄ちゃんはどう思ってるんだろう?
答えを考えるのが怖くて、里穂は千代美に訊ねた。
「千代美ちゃんはお兄さんのこと、どうなの? 好きなの?」
冷たく暗い眼をした兄を、千代美はどう思っているのだろうか?
「お兄(にい)のことはねぇ……うーん……」
千代美は何故だか苦笑いして、
「向こう次第かな千代美的には」
「向こう次第って?」
「お兄が千代美をどう思ってるか知りたいってのはあるよ。ホントに好きかどうかって」
「千代美に優しいんだとしたら好きってことじゃないの?」
あの兄の優しいところなど想像つかないけど。
千代美は苦笑いで首を振り、
「優しいと好きは違うよ。千代美の言ってる『好き』は、里穂と違う『好き』だけど」
「……どういうこと?」
「そのうち教えてあげるよ。それより里穂のお兄さんの話。兄妹で喧嘩したことないって言ってたよね?」
「うん……」
里穂は幼稚園生の頃――パパがまだ生きていた頃は、よく我がままを言って家族を困らせた。
みんながお寿司を食べに行く相談をしているときにハンバーグが食べたいと言ってみたり。
お兄ちゃんが動物園に行きたいと言ったときに遊園地へ連れて行ってほしいとダダをこねたり。
そうしたとき、お兄ちゃんは必ず「里穂が行きたいほうに行こうよ」とパパとママに提案してくれた。
そう。お兄ちゃんは本当に優しかった。
「……いつも喧嘩になる前にお兄ちゃんが譲ってくれたから……」
「でもエリナとかマユとか妹や弟がいる子は、兄弟喧嘩ばかりで嫌いだって言ってるでしょ?」
「マキちゃんは弟と仲がいいみたいだけど……」
「そう、それ。つまり年上の立場で考えて、可愛くて好きだと思える妹と嫌いになっちゃう妹がいるってこと」
「嫌いになっちゃう妹……」
「好きと思ってもらえる妹に、里穂もなればいいんだよ。そしたらお兄さんも、また優しくしてくれるかも」
でもお兄ちゃんに好きになってもらうための具体的な計画は里穂にも千代美にも思い浮かばなかった。
遠く離れて暮らしていて、次回いつ会えるかもわからないのだ。
やがて八月の終わりにパパの三回忌の法事があった。
参加したのはママと里穂のほか、ママのお姉さんの世田谷のおばさん夫婦。
それにママのお友達の水谷(みずたに)のおばさんとおじさんだった。
お兄ちゃんとおばあちゃんはママが呼ばなかった。
市民霊園にあるパパのお墓にみんなでお花とお線香を供えた。
それから里穂の家に移動して、ママが前の日から用意していたごちそうを食べた。
メインディッシュはお兄ちゃんが大好きだった唐揚げだ。
おばあちゃんはお兄ちゃんに唐揚げを作ってくれるのだろうかと、ふと考えた。
二学期に入ったある日の授業中、女子生徒の一人が泣きそうな顔で手を上げた。
「先生……」
担任の女性の先生はすぐ異変に気づき、その生徒のそばへ行って何ごとか囁きかけた。
「何だよ便所かよ」
お調子者の男子が冷やかし、ほかの男子が笑ったのを先生が叱責する。
「静かにしなさい。みんなしばらく自習してなさい」
先生はすすり泣く女子生徒を立ち上がらせ、肩を抱いて教室から連れ出した。
千代美が里穂の背中を突っついてきた。二学期の席替えで後ろの席になっていたのだ。
「あの子きっと生理だよ。ジーンズのお尻ちょっとシミになってた」
「ええっ?」
里穂は眼を丸くする。
その翌週、授業が一時間分中止になって、三年生の女子全員が視聴覚室に集められた。
男子は校庭で自由時間になったことを羨む女子生徒たちに、千代美が言った。
「きっとセーキョーイクだよ。こっちのほうが面白いって」
千代美の推測通り、それは性教育の臨時授業だった。
お母さんのおなかに赤ちゃんができる仕組み。
生理のこと。身体の成長――オッパイが大きくなったり下の毛が生えたり――のこと。
里穂を含めた大半の女子生徒は感心しながら話を聞いた。
千代美だけは「三年生にできる話はこの程度か。なるほどね」と意味ありげに笑っていたけど。
そして放課後。
いつも通り、里穂は千代美と一緒に帰った。向かう先は千代美の家だ。
千代美の部屋に通されて、渡されたクッションをフローリングの床に敷いて座る。
いったん千代美は部屋を出て行き、紅茶とお菓子を用意して戻って来た。
紅茶をひと口、飲んでから、にっこり笑って千代美は言った。
「……里穂って、オトナのエッチに興味ある?」
ぽかんと口を開けて里穂は千代美の顔を見た。
「エッチって……きょう学校で教わったみたいな?」
「ああいう健全すぎてつまんない話じゃなくて、もっと気持ちよくなれるヤツ」
「そんなの、まだ早いよ」
里穂は眉をしかめてみせた。
性教育の授業を受ける前から、里穂は大人や中高生のお姉さんたちがするエッチについて漠然と知っていた。
情報源はテレビであったり漫画であったりクラスメートとの会話だったり様々だった。
彼氏とキスして、裸を見せ合って、オッパイに触られて……
それが気持ちのいいものだという理解もあったけど、自分で体験したいとは思わなかった。
だいたい彼氏なんていないし。欲しいと思ったこともないし。
誰かを好きになるという気持ちが、まだよくわからないし。
家族や友達や憧れの歌手を好きになるのと、どう違うのだろう?
お兄ちゃんを好きなのと何が違うのだろう?
支援
千代美は笑った。
「早くないよ。一人でエッチする分にはね」
「一人で……って何それ?」
「簡単だよ、あのね……」
二人きりしか部屋にいないのに、千代美はわざと里穂の耳元に口を寄せてきた。
吐息がこそばゆいのを我慢して里穂は耳を傾ける。
「……自分でオマンピーに触るの」
「何それ……?」
里穂は顔を離し、呆れ気味に千代美を見た。
にんまりと千代美は笑い、
「里穂、お風呂でオマンピー洗ったりシャワーかけたりして気持ちいいと思ったことないの?」
「ないよそんなの」
「うそぉ、恥ずかしいから感じないように自分に言い聞かせてるだけだよそれ、普通は気持ちいい筈だもん」
「もし気持ちよかったとしても、お風呂とかシャワーの何がエッチなの?」
「やっぱ気持ちいいんじゃん。認めちゃいなよ」
「気持ちよくないってば。ねえ、こんな話やめようよ」
「気持ちいいのわかってるから話したくないんでしょ、恥ずかしいから」
「もうっ、怒るよ、千代美ちゃん!」
「千代美は毎日お布団の中でしてるよ、ホントに気持ちいいんだから」
「千代美ちゃんってば……」
「お布団に潜って好きな人のこと思い浮かべてするの。そしたら抱き締められてるみたいに暖かくなるの」
「お布団に潜ってそれじゃ暑いじゃないの。まだ夏が終わったばかりだし」
「暖かいってのは心がだよ。ほかほかして、ほわわぁんって幸せになるの。里穂もやりなよ」
「べつに好きな人なんていないし……」
「誰でもいいんだよ男の人なら。ただしパパとかおじいさんはダメ。カッコイイと思う芸能人とかがいいよ」
「男の人じゃないとダメなの?」
「当たり前だよエッチだもん。それとも里穂って、そっち系の趣味?」
「そっち系って何よ。もうっ、まだ里穂は男の人にもエッチにも興味ないってばっ……!」
その場はそれで話を終わらせたが、里穂は家に帰ってから夜のお風呂場で千代美との会話を思い出した。
両脚の間の「大事なところ」を洗ったりシャワーをかけたりするのが怖くなってしまった。
エッチな気分になったらどうしよう?
……もうっ、千代美ちゃんがヘンなこと言うからだよ!
お風呂を出てパジャマを着込み、ベッドに潜り込む。
余計なことを考えないように、ぎゅっと眼をつむって頭まで布団をかぶる。
べつに……エッチとかそんなのしなくても、里穂はいつもお兄ちゃんに抱き締められてる気分だもん。
元はお兄ちゃんが使っていた二段ベッドの下の段で寝てるんだから。
寝よ寝よ。優しかった頃のお兄ちゃんの夢を見られることを祈りながら。
……でも好きな人を思い浮かべるって、お兄ちゃんでもいいのかな?
……って、ダメダメ。
お兄ちゃんとエッチしていいわけがない!
法律でダメってことになってるし。
(本当は法律が禁じているのは結婚であり性行為そのものではないが、里穂はそこまで理解していない。)
赤ちゃんが生まれても病気になることがあるって聞いたし……
でも……抱き締められてる気分になりたいだけだから……
ホントのエッチするわけじゃないし……ひとりでするんだし……
里穂は本当はお兄ちゃんがそばにいてくれたら、それでいいいんだけど。
抱き締めたり優しく頭を撫でてくれたら充分だけど。エッチそのものには興味ないから。
でも、お兄ちゃんは遠くにいて頭を撫でてくれないから、代わりに自分でエッチなとこ撫でちゃうんだよ……
パジャマのズボンに、恐る恐る右手を差し入れた。
コットンのやわらかなショーツをなぞるように、おなかから下へ、ゆっくり手を滑らせ――
ぴくんっと、里穂は震えた。
「……あっ……」
女の子の大事なところに指が触れていた。
まだ幼稚園に通っていた頃――
里穂はお兄ちゃんとママと一緒にお風呂に入って、ママに訊ねたことがあった。
「どうしてお兄ちゃんはオチンチンがあって里穂にはないの? 座らなきゃオシッコできなくて不便なのに」
「オチンチンはパパにもあるけど、ママはないでしょう? 女の人にはないのよ」
「ママもないの? モジャモジャで隠れてるんじゃないの?」
「ないってば」
くすくすママは笑って、
「あのね、里穂。女の人にはオチンチンはないけど、代わりのものがあるの」
「代わりのもの……?」
「大人になったとき、好きな男の人を受け入れてあげるためのもの。大人になると、それができるの」
「じゃあ、まだ里穂にはないの? ママはモジャモジャに隠れてるの?」
「そんなようなものね。里穂が大人になって好きな人ができたら、里穂にもそれができるわ」
「ボクのオチンチンを貸してあげられたらいいのにね」
お兄ちゃんが、にこにこしながら言った。
「お外で里穂がオシッコしたくなったら、ボクのオチンチンを貸してあげれば立ちションベンできるよ」
「ダメよ立ち小便なんて。幸弘は学校のお友達とそんなことしてるの?」
ママは笑いながらお兄ちゃんの頭を撫でた。
「でも幸弘は本当にいいお兄ちゃんね。いつも里穂に優しくて」
お兄ちゃんは褒められて嬉しそうに笑っていた。
優しいお兄ちゃんを里穂も大好きで、大人になったら――そう。
「受け入れる」というのがどんなことかわからないけど、でも好きな人にしてあげられることならば。
真っ先にお兄ちゃんにしてあげようと、そのとき思ったのだ。
いまの里穂ならわかる。
受け入れるというのは、つまり。
オチンチンがない代わりの大事なここに、好きな人の「それ」を入れてあげること……
やだ。違うよ。
里穂は本当にお兄ちゃんとエッチしたいわけじゃないんだよ。
でもね。どうしても切なくて。
離れて暮らしているのが。抱き締めてもらえないのが。昔みたいな笑顔を見せてくれないのが。
だから……こんなふうにね。
優しかったときのお兄ちゃんのことを想って……
ショーツの上から、その部分を指でなぞった。
じんわりと気持ちよかった。何度も指を往復させてみた。
どんどん気持ちよくて暖かいのが広がっていく。
おなかの下からお尻へ、背中へ、頭まで広がって、ぽおっとしてしまう。
「……んあっ……」
声を漏らしてしまった。本当に気持ちいい。
エッチってすごいと思った。大人や中高生のお姉さんたちが好きな人としたくなるのがよくわかる。
こんなに素敵な気持ちになれるなら。好きな人とそれを分け合えるなら。
「……おにぃ、ちゃん……」
呼びかけてみた。
お兄ちゃんとエッチなんていけないこと。そんな気持ちが吹き飛びそうだった。
里穂がお兄ちゃんに好きだと思ってもらえる妹になれたら。
優しいお兄ちゃんを取り戻すことができたら。
よそのどんな女の子よりも可愛らしく里穂がなれたら。
お兄ちゃんは里穂を恋人みたいに想ってくれるかな?
ママやおばあちゃんに内緒でデートしたりキスしたり……エッチしたいと思ってくれるかな?
指先に触れるショーツがいつのまにか湿り気を帯びていた。
汗かいちゃったかな。でも気持ちいいのやめられない。
思いきって……脱いじゃえ。
布団の中で身体を丸め、もぞもぞとパジャマごとショーツを脱いだ。
これで下半身は丸裸だ。
でもエッチって裸でするんだもんね。上も脱いじゃおうかな?
まだふくらんでない里穂のオッパイだけど、触ったらオトナみたいに気持ちよくなれるかな?
ボタンを外してパジャマの上も脱いだ。
もう止まらなかった。止めようという考えも浮かばなかった。
あらためて右手を両脚の間に伸ばした。
まだモジャモジャじゃない、すべすべの里穂のそこ。
ワレメみたいになって変だけど大事なところに右手で触れると、指先が濡れた。
やだ、オシッコ?
違う……これがたぶん「濡れる」ってやつ。
エッチのときそういう現象が起こると何で知ったんだっけ?
千代美の部屋で読んだ中高生のお姉さん向けのファッション雑誌?
よくわからない。
でも自分もエッチに興味がないと言いながら、知識だけは一丁前にあるのだと呆れてしまう。
ワレメを指でなぞる。
「……ひぁっ……!」
思わず声を上げてしまい、慌てて左手で口を押さえた。
ショーツ越しよりも断然刺激的だった。
でも、やだ。気持ちいい……
ゆっくりと刺激しすぎないよう指を動かした。
優しく。お兄ちゃんが里穂の頭を撫でてくれたときみたいに。
「……おにぃちゃん……」
左手は胸に触れてみた。
撫でてみた。単に撫でられているという感覚だった。それほど気持ちよくない。
恐る恐るオッパイ――この場合は乳首――を指でつまんだ。
くすぐったかった。
でも我慢して、指で優しく転がすようにした。
「おにぃちゃん……おにぃちゃん……」
オッパイと大事なところとを指で愛撫する。
いま、お兄ちゃんに抱き締められているのだと想像してみると、オッパイも気持ちよくなりそうだった。
オッパイはくすぐったいと気持ちいいの中間くらい……大事なところは……
「……ひっ……ひぁぁっ……!」
ぴくぴくっと身体が震えてしまった。
お布団を頭までかぶって真っ暗なのに、眼の前で何かが白く光ったように思えた。
これがイッちゃったってこと……?
でもまだ気持ちいい。まだ指を止められない。
あっ……暖かいのが、また身体の芯を走って……波みたいに何度も突き上げてきて……
「……ひゃぁっ……あぁぁっ……おにぃ、ちゃんっ……!」
その晩、里穂は疲れきって眠りに落ちるまで、何度も何度も自らの指で絶頂を味わった――
翌朝、学校で顔を合わせた千代美に、里穂は自分から打ち明けた。
「……アレ、きのうの夜やってみちゃった……」
「ホントに? それでどうだった、気持ちよかったでしょ?」
「うん、すごいよかった……きっとクセになっちゃう……」
「いいじゃん、里穂もオトナの仲間入りってことだよ」
千代美はにっこりとして里穂の頭を撫でてくれる。
「で……好きな人は誰のこと考えたの? 歌手? 役者さん?」
「えっ? えっと……サッカーのアントラーズの……」
パパが好きだったサッカー選手の名前を挙げて誤魔化すと、千代美はきょとんと眼を丸くして、
「それって誰だっけ? コマーシャルとか出てる?」
里穂にもよくわからない。パパが亡くなってサッカーは観なくなったから。
でも本当に好きなのはお兄ちゃんとは言えず、里穂はそのサッカー選手のファンで押し通すことにした。
【終わり】
支援どうもでした
次回は、ばあちゃん活躍予定
そして妹が兄をヲカスのは、もうしばらく先になりそう……
エロゲやったぐらいでそこまでいわれるとか怖いわww
>>594GJ!!そしてばあちゃんに期待してます!
>>594 兄貴と妹がどんな風に成長するのかが楽しみだ
GJ
GJ!
元ヤンばあちゃんに期待
早熟っつーかなんつーかw
姉ちゃんのいない俺が寂しく焼いた冷凍ギョーザうめぇwwwwww
なんつーか、描写とかが生々しいよな・・・
酷い目に遭っていたことが間接的な原因で兄を好きになったり
既に兄を好きになっているところから始まってるのは結構見たけど
逆に兄が酷い目に遭っていたり
好きになる過程が細かく描写されたタイプは珍しいと思う
何にせよここを覗く楽しみが増えたな
と言うかこれだけ素晴らしい話をたくさん見ても
未だに電波を受信することさえできない自分に絶望した
今週のスピリッツの読み切りが良質の姉萌えだった
キモさ薄めで義理だけど・・・
>>604 いやいや、その内素敵な電波が降りてくるよ。
しかし困った事に電波は場所時間を選ばない……
テスト中、入浴中、妹との会話中など微妙に困るときばかりなんだ。
常にメモの準備をおすすめs
そのメモを妹に見られたらどうするんだ、お前!?
フラグが立つわけだな。
監禁フラグですか
キモウトモーターズ
そんな電波。
短いですが、投下します。
その日の朝、遥が康彦の部屋に侵入しようとしていた。
昨日にトラウマを発症させた兄の身体を心配して、というのが建前としている。
「兄貴、まだ寝てるよね?」
小声で言いながら、兄を起こさないよう、慎重にドアを開ける。
部屋の中では、康彦が規則正しい寝息を立てて熟睡していた。
それを見た遥は安心して、胸を撫で下ろす。
”これなら早起きも悪くないな”
そう思うと、普段の自分の低血圧が妬ましく感じられる。
遥は足音を立てないよう、慎重に兄のベットに近付く。
そして兄の顔を覗き見ると、自然と顔が綻んできた。
”この寝顔…私だけが、私だけの…”
普段に、生意気で兄の事を意識していない妹のフリをしている為か、こういう時に暴走が止まらなくなる。
”キスしようかな?…男の人は朝に元気だって聞いたから…”
遥にとって幸せな妄想が頭の中を占めると、真っ赤に染まったその顔は 締まりが無くなっていた。
そんな中、康彦の携帯が遥の目に止まった。
そうなると、その携帯が遥にはどうしても気になり出してしまう。
”今は別の事をしたいんだけどな”
そう思いながらも、遥は康彦の携帯を手にとった。
着信アリ、256件
「はあ?」
画面に表示されたその文字を見た時、遥の口から間抜けな声が漏れた。
マナーモードにしてあった為、疲れ切っていた康彦が気付かなかったのだろうが、それでも異常な着信数である。
どんな奴がかけてきたのか、そう思った遥は、着信履歴を調べてみた。
「はあ?」
前の焼き回しのような溜め息が、また遥の口から漏れた。
発信相手の名前が”?”になっていたのだ。
そして、256件全てがその”?”からのモノだったのだ。
女か、そうと思ったが断定は出来ない。
この兄は時に厄介な相談相手を持つ事がある。
以前にも、友人だという相手からの相談を一晩中受けていた事もある。
かけ直して確認したかったが、相手の性別も分からない中で、痕跡が残るような真似は裂けたかった。
兄のプライベートである携帯を確認した、という事実をまだ、知られる訳にはいかないからだ。
「全く兄貴は…」
携帯を閉じ、眠る康彦の顔を見ながら、遥が苦笑とともに呟く。
困っている相手は放っておけない、頼られれば全力を尽くす、そう言った部分は遥が兄を好きになった理由の一つだ。
大概にして欲しい、と思う事もある。
昨日の寝不足も、この電話相手が理由だろうし、自分の身体を考えればほどほどにしてもらいたい。
そんな相談相手が泥棒猫に化けないとも限らないからだ。
そんな遥の心配をよそに、康彦は安らかな寝息を立てている。
「やっぱり兄貴には私が必要だよね?」
兄の寝顔に顔を近付けながら、遥が呟く。
遥がなりたいのは、かつての楓のような、唯一無二のパートナー。
「こういった問題も、二人で力を合わせて解決していこう」
兄の唇に自分の唇を近付けながら遥が続ける。
「これはそんな誓いの…キス…だから…」
自分に言うように呟き続ける。
「兄ぃ大丈夫!」
後一歩の距離を詰める前に、智佳の元気な声が康彦の部屋に響いた。
その声で康彦が起きてしまった為、康彦の頭が遥の鼻に激突すると言う事故が起きてしまい、遥は悶絶する他なかった。
「何やってんだ、お前は?」
呆れたよう康彦の言葉に、遥は、何でもない、と涙目で答えた。
そんな遥を、暗い瞳で見つめる智佳の姿があった事には、康彦も遥も気付かずにいた。
投下終了です。
遭遇支援?
>>615 GJ!
誤解(?)が修羅場を生みそうな気配…。楽しみにしてます。
それから支援失敗サーセン
リアルタイムktkr!
兄貴……なんて素晴らしい言葉。
本当に、こんなキモ妹が欲しい。
>>615GJ!!各キャラクターそれぞれ個性あって読んでて楽しいです。精進せねば…
監禁トイレ7話投下しまっす
コンコン。
母親がドアを叩く。その控え目な音を聞くだけで彼女の人当たりの良さ、物腰の柔らかさが窺える。
「達哉君、お夜食作ってきたんだけど…」
ドアが開き、花苗の頭一つ上の空間に顔が現れた。
「ありがとう、花苗さん。お、味噌汁付き!!」
成長期を迎え、溜め込んでいた分を放出するかのように伸長した達哉だ。両腕を双子に引っ張られていた頃の面影は微塵もない。味噌汁の匂いを嗅いで笑顔を浮かべる達哉。花苗はそれを嬉しそうに眺め、
「勉強頑張ってね」
と声をかける。
はぁい、と間延びした返事を外へ送り出すとドアは閉まった。
「こんな夜中に何してるの?」
微笑んだ花苗に右側から投げ掛けられる、絶対零度の言葉。
「母親のくせに…汚らしいですよ、息子に愛想振りまいて…」
左から投げ掛けられる、冷酷無比の罵倒。
廊下の奥、暗がりにひっそりと立つ双子の姉。
階段を背にして、嫌悪を顔に滲ます双子の妹。
少しずつ距離を詰め互いの手が届く範囲に至った時、母親の顔面に二つの拳が突き刺さった。
倒れ込む母。
フローリングの床には点々と血が垂れる。
髪の毛を掴み、顔面に唾とありとあらゆる罵詈雑言を浴びせかける姉。
手を踏みにじり、脇腹を蹴りあげる妹。
それでも母親は、屈しなかった。騒ぎに気付いた達哉と父親が双子を押さえ付けた後も、涙を流す事は無く。彼女は最後まで、娘達と対等に睨み合っていた。
達哉が父親から都内の進学校を受験するよう言い渡されるのは、この一週間後の事である。
満腹だ。
自分で食べる分だけは意地でも蕾の介入を許さなかった為、なんとか人並みの食事をする事が出来た。
ただ、しばらくツナサンドは食べられないだろう。
窓は靄のかかった群青色に染まっている。いつの間にか陽は沈んでいたらしい。結局一度たりとも、外から人の気配を感じ取れる事は無かった。一体僕のいるトイレは何処に位置しているのだろうか。
「義兄さん」
蕾が耳元で囁く。
「っていうかお前は何で僕と腕組みしてるんだ!!囁くな!寄り掛かるな!!知らない人が見たら事後だと思われてもおかしくないぞ!!」
「落ち着いてください、義兄さん。ここには私達しかいません」
…いや、例えだよ例え。
「それに事後というのもあながち間違いではないでしょう。実際、私は軽く腰が抜けかけました」
「…キスでか」
「ええ、素晴らしい舌使いでした」
僕は使ってない。絡めてきたのも舐めあげてきたのも吸ってきたのも、全部お前だ。こっちは下半身の制御に手一杯だった。
会話しているそばからトイレ内は暗くなっていく。冷え込みも厳しくなってきて僕はダウンの前をかき寄せた。
「そろそろどちらを選ぶか決まりましたか…?」
蕾が質問してくる。薄暗い空間の中なので表情を窺い知る事は出来ない。ただ目だけは僅かな光すらも逃さず封じ込めたように、輝いている。瞳が反射する光はナイフの切っ先のように鋭い。
「全然…。というより選ぶ事自体したくない」
「なら、ずっとこのままでいますか?私と義兄さんと姉さんの三人で」
「絶対に嫌だ」
「同感です。私も義兄さんが他の女性と一緒にいるところなんて見たくありません」
僕はどちらとだって一緒にはいたくない。
「…仮に」
トイレの中が急に白く瞬いた。蛍光灯がついたのだ。どうやら水道と同様、電気も生きているらしい。
「仮に、僕がお前を選んだ場合姉ちゃんはどうなるんだ?」
白い光、白い壁の中で体育座りをしている萌姉ちゃんを見る。今彼女は起きているのだろうか、それとも眠りこけているのだろうか。
「口で言って理解してくれるならそれで良いです。でも…そうはならないでしょうね」
「ならどうするんだよ?」
「殺しますよ、勿論。二人とも覚悟のうえでここにいますから」
平気で「殺す」だの何だの言わないでくれ。誰しもその言葉を口に出すだけなら経験はある。例外なく僕も。だが実行する決意を秘めて発した事など、一度もない。
「何でそこまでする必要があるんだ。殺さなくたって良いだろう?取り合うのが僕じゃなくたって良いだろう……?」
「義兄さんでなければ駄目なんです。私も、姉さんも」
「僕は命を賭けてまで好かれる程、魅力的な人間じゃない」
「義兄さんを愛するのも命を賭けるのも、私達の自発的な行動です。お気になさらず」
結局、考え方の根幹が違うのだ。二人にとっては恋も愛も一方向にしか伸びる事のないベクトル。どうやら説得すらも困難なようだ。
「義兄さんに初めて会った時」
蛍光灯を見つめながら蕾は呟いた。
「あの時は思いませんでした。まさかこんな風になるなんて」
「僕もだ」
今でも信じられないくらいだから。いっそ夢ならどんなに良いか。
「気付いた時には自分でも驚くくらい、義兄さんの事を愛していたんです。きっと一番最初に会った時から私は惹かれていたんです、義兄さんに」
あまり小さい頃の記憶は残っていないが、いつも姉さんの後ろにくっついていた貧弱な子供だったと思う。よくぞあんな情けない少年に恋心を抱けたものだ。
「最初は…庇護欲だったのかもしれませんけどね。でも、成長していくにつれて男らしくなっていく義兄さんを見て。
あの腕で折れるくらいにきつく抱き締めて欲しい、低い声で愛していると囁いて欲しい、胸板に頭を乗せて、心臓の鼓動を共有したい。そう思ってしまったんです」
途中、若干声がうわずっていたものの、ほぼ全文をきわめて冷静に語ってくれた。話だけならまさに「恋する少女」だ。最近の「恋する少女」は過激なようだ。
何せ好きな人間を監禁してしまうんだから。『本当は恐ろしい「恋する少女」』とでも改名しておくべきだ。
―――ブーン、ブーン、ブーン。
ああ、またこの音か。僕の眠りの時間だ。
「時間か」
蕾は携帯を開き、ディスプレイを見ながら、
「時間です」
と答える。
蕾はリュックの方へ歩いていき、中から液体の入った瓶を取り出した。ハンカチに液体を染み込ませていく。再度僕に近付くと口にハンカチを当てた。
「義兄さん、最後にアドバイスをしておきます。義兄さんの性格は良く知っています。選べと言われても選べないのでしょう?自分の選択に人の生死がかかっているんですから、当然です。だから、こう考えてください。
『ほんの少しでもどちらがどちらより好みか』。
それだけで良いんです。それだけ答えてください。後は、私達がやりますから…。さぁ、答えて…」
肉体疲労が薬の効果とあいまって眠気を呼び込む。返事をする気力も起きない。なんとか首を振って拒絶の意を示した。
「愛しています、義兄さん」
蕾の唇が、僕の額に触れる。
不思議な事に、嫌な気はしなかった。
投下終了です。もう一人のキモ姉は次回登場予定なのでもうしばらくお待ちくださいノシ
ぐわー駄目だ!
俺はこのキモウトを愛せねー!
むしろ殺された義母さんの方に情が!
GJ!
妹の手作りギョーザうめえwwwwwww
>>628おい、後ろで歯ぎしりしながら餃子持ってるのってお前の姉ちゃんじゃないか?
>>628 あいやー、おにさん私の手作り餃子おいしかたアルか?
吐いたり下したりするくらい食べてもらえて妹冥利に尽きるアル。
我愛称、おにさんにはこれから毎日点心を作ってあげるアル。
新鮮なダンボールが手に入ったので明日は肉まんアルよ。
姉妹の何かが混入しているのは、キモ姉妹持ちの食事なら基本でしょ。
投下します。
智佳の過去話になります。
康彦の部屋から、智佳は早足で台所に戻っていた。
姉、遥の行動に、自分でも制御しきれないような感情を抱いてしまったからだ。
「兄ぃは…兄ぃの側だけからは…」
「その為にも、ハル姉は大事…必要な人…」
智佳は、まるで呪文の様にそんな言葉を口ずさんだ。
幼少の頃、病弱だった智佳の側には、常に両親がいた。
その為か、智佳は両親に依存し過ぎる様になっていた。
だが、智佳が小学校に上がる頃、智佳の体が健康に成り始めた時から、両親の不在が増え始めた。
それは、智佳の治療費に貯えを使い果たしてしまった為、両親共に仕事を増やしたからであるが、
智佳は、両親に捨てられたと感じてしまったのだ。
毎日の様に泣き続ける智佳を慰め、癒してくれたのが、兄だった。
智佳の依存する対象が、両親から兄に変わっていくのに、それほどの時間は要らなかった。
それだけなら、兄の存在は両親の代わり、というだけだったかもしれない。
だが、一つだけ兄と両親が智佳に接する態度で違った事がある。
兄は智佳を一人の人間として見た。
一緒に笑い楽しみ、悪さをすれば叱られ、時にこちらが叱り、嬉しい事があれば褒めてくれる。
それが智佳に、自分の存在の確かさを感じさせた。
小学生以前の病弱で病院で過ごす事も多かった智佳と、小学生以降の健康で外で遊べる智佳との違い、であったのだが、
それらは両親が智佳には与えられなかったモノだ。
兄の側、そこが智佳にとって、自分の存在をしっかりと確認出来る唯一の場所になっていた。
眠れない、そう言っては兄のベットに潜り込んだ。
兄に手を握って貰えるだけで、頭を撫でて貰うだけで幸せな気持ちになれた。
ある日、その時に見ていたアニメの真似をして、寝ている兄にキスをしてみた。
それが今までにない幸福感と気持ち良さを、幼い智佳に与えた。
”起きている時にやってもらいたい”
そうとも思ったが、その行為がイケない事、との気持ちを智佳に与えていた為、
それは兄が寝ている時だけの、智佳の秘密になっていった。
「ハル姉は必要…」
智佳がもう一度、自分に言い聞かせる様に、小さい声で、だが、しっかりと呟く。
「ちぃちゃんはお兄ちゃんの事、愛しているかな?」
それは智佳が小学校6年の時の話だ。
表情を暗くして血の気の失せた顔をした遥を心配した智佳が、遥の部屋に行った時に言われた一言。
「うん。とっても大事な人」
既に智佳の中で大きくなりすぎていた兄の存在を、智佳にはどう言葉にして良いか、分からなかった。
だから、そう答えた。
「お兄ちゃんはいま、悪い女に騙されそうになっているんだ」
「だから、二人でお兄ちゃんを救ってあげよ!」
遥が智佳の両目を見ながら言う。
遥の言葉の意味は、その時の智佳には良く分からなかった。
ただ、その時の遥が恐ろしいモノに見え、曖昧に”うん”とだけ返事すると、逃げるように、その場を後にした。
智佳が遥の言葉の意味を理解したのは、それから数日後の事だった。
土曜の午後にその女は家に来た。
「あ、気にすんな、アタシはヤスに届けもんがあっただけだから」
一応は兄の部屋に通し、お茶でも出そうとした智佳を、その女はそう言って留めた。
この女が、姉の言っていた”悪い女”なのだろう。
「智佳ちゃんだっけ?」
相手を観察するように眺めていた智佳に、相手の女が声をかけてきた。
「はっはい?」
その声に、完全に不意を付かれた智佳が、裏返った声をあげる。
「ハッハハ、そんなに緊張しなくても大丈夫だぜ?」
智佳の返事に相手が愉快そうに笑う。
「これなら、ヤスがシスコンになるのも分かるけどな!」
智佳の事を一通り見た相手が、そう言って一人納得していた。
「ヤスの奴は良くあんたらの事を褒めてるからなー、良く出来た妹だってな」
「ほんとですか!」
智佳の顔を見ながら言葉を続ける相手に、智佳は思わず、引き込まれるように答えた。
「ほんともほんと!アイツにアンタらのコトを聞いたら、いっつも鼻の下伸ばしてるぐらいだからな」
その話を聞いた智佳は嬉しくなった。
兄が自分を褒めていてくれている、その喜びは、アンタらという言葉に覚えた違和感を忘れさせるモノだった。
それと同時に智佳は相手の女性に好意を持った。
言い方は乱暴だが、相手を見て、相手の事を考えながら喋る姿は、智佳にとって好ましい性格だからだ。
だから、智佳も自分では知り得ない兄の学校での様子を質問し、相手もその質問に答える形で、会話が盛り上がった。
「ただいまー」
相手との会話が途切れた位に、兄が買い物から帰ってきた。
「あ、兄ぃお帰り!」
「ちぃ、ただいま」
「誰か来てるのか?」
玄関まで出迎えた智佳に、普段と見慣れない靴を見た兄が聞く。
「よぉ、邪魔してるぜ」
智佳が答える前に、楓と名乗ったその女性が、下に降りて来て、兄に声をかける。
「あれ、楓?どうしたんだ?」
楓の姿を確認した兄が不思議そうな顔をして言う。
「わざわざ、英語のノートを返しに来てやったんじゃねぇか」
「あ、そうか。悪い悪い!」
「ったく、感謝しろよ、こうやって届けてやったんだから…」
「待て!お前が英語の時間に寝ちまって、ノートをとってないって言うから貸してやったんだろう」
「ハッハハ、まぁ、細かいコトは気にすんな!こうやって返しに来てんだから」
兄と楓とのやり取り、
智佳は一つだけ、疑問を抱いた。
楓を確認してからの、兄の表情だ。
楽しそうな、嬉しそうな、喜んでいるような表情。
それは、智佳が今までに一度も見た事がない表情だった。
「まぁ、ヤスが帰ってくる前に、智佳ちゃんにヤスの悪行全部を話せたからイイんだけどな!」
「悪行って…、お前は何を話した?」
「さぁねぇ?ネッ、智佳ちゃん!」
「え…あ、うん」
兄をからかう様に茶化しながら言う楓、そんな楓の言葉を笑いながら受け止めた兄、
そして、そんな兄の様子に何とも言えない感情を抱き、戸惑う智佳。
兄と楓の二人は、その後も、智佳には内容の分からない話を続け、
ある程度の時間になった頃に、兄が楓を送っていった。
楓がいる間、智佳は複雑な気持ちに襲われていた。
兄の側にいたハズなのに、兄が側にいない感覚、その感覚からきた恐怖。
その恐怖がそれまで好意を抱いていたハズの相手に、嫌悪感をもたらしてきていた。
その日の晩、智佳は兄の部屋に忍び込んだ。
昼に感じた不安を拭い去る為、昔に覚えた秘密を実行する為だ。
手慣れた感じで、一切の音を立てずに部屋のドアの開け閉めを済ますと、まるで足音を立てないままに兄の元に近寄る。
何度も繰り返してきた行為なだけに、そこまでは智佳に緊張はない。
だが、兄の寝顔を見ると、さすがに胸の高鳴りを押さえる事が出来なくなっていく。
「兄ぃ…」
兄の寝顔を見たまま、智佳が呟く。
今、こうして兄は自分の側にいる。
智佳はその事実にまず、喜んだ。
優しく唇を合わせる。
昔の智佳なら、それで満足していたのだが、得てきた知識と快感を知る身体が、それを許さない。
兄の口の周りを丁寧に嘗め、少し開いた口から自分の舌を侵入させる。
その行為が、自分と兄との一体感を味合わせてくれる。
クチュクチュと静かに響くその音が、智佳の快感を刺激する。
「ハァハァ…兄ぃ」
唇を離し、恍惚とした表情で智佳が呟く。
もっと兄と一体感を手にしたかった。
その為の、本能か知識か、智佳の右手は自分の股間に、左手は兄の股間に触れようとした。
しかし、その行為を行う事はなかった。
「か…え…で」
寝返りと共に苦しい息の中で発せられた一言。
その一言で、智佳は我に返った。
そして気付いた。
兄の心は今、ここにない。
その心は昼間の女、楓の元にある事を。
昼間に感じた恐怖の正体。
兄の側に自分がいられなくなる、兄の心が自分から離れる。
「兄ぃの側にいるのは私だけ…私一人だけ…」
兄から身を離し、何度となくそう呟く。
智佳はその時に決意した。
自分から兄を奪う者は全て始末しよう、と。
その始末が終わったら、今の続きを、兄が起きてる時に。
「私は絶対に兄ぃの側から離れないから」
その言葉と共に、兄の頬に誓いのキスをすると、智佳は兄の部屋を後にした。
その翌日から、智佳は遥と積極的に協力しあうようになる。
「ハル姉も今は大事、今は大事な人…」
自分に言い聞かせる為に、智佳が何度も呟く。
自分ではない、もう一人の兄の妹。
自分にはない直感と、高い行動力を持った人。
そして、兄の事を想う相手の一人。
今の智佳にとって、遥の存在は必要不可欠だ。
2年前の”事故”にしろ、遥の存在がなければ、あそこまで上手くイカなかっただろう。
今、傷を負った兄の元には、今まで通り、二人の妹が必要なのだ。
多少以上に厄介な相手とはいえ、今は唯一の協力者であり、秘密の共有者なのだ。
台所に戻った智佳は、冷たい水で顔を洗った。
今だけは、兄の部屋で遥に向けられた感情を抑えながらイケない。
今だけは、遥のある程度の行為を黙認しなければイケない。
最後に、兄の側に自分だけがいる為に。
顔を洗い終わり、気持ちを落ち着けた智佳は、何時も通りの柔和な笑顔で、二人が降りて来るのを待った。
投下終了です。
>>638GJ!!最後はやはり姉妹対決になるのか!?続きをwktkして待ちます
>>638 今は大事な人、ってこええw緊張感がw
超GJ!
641 :
名無しさん@ピンキー:2008/02/07(木) 06:09:19 ID:UtoraM4S
((='♀'=))バブー
『姉が欲しい』→妹にレイプされる
『妹が欲しい』→姉に調教される
『義理の姉妹が欲しい』→近親結婚フラグ
『俺はひとりっ子』→いとこ・はとこ強襲フラグ
『お腹が空いた』→監禁フラグ
『喉が渇いた』→媚薬フラグ
ここの雑談は難儀だな(´・ω・`)
やべえ!! 妹にエロゲー見られた!
しかも題名は「お姉さんに命令しよ!」
これを見た瞬間の妹の目はやばかった。初めて人殺しの目を見たと思った
妹に責められること数分。まったく落ち着く様子もなくただ怒ってる
特に姉という部分が妹を怒らせているようだ。なら妹ならいいのかよ!?
お前みたいな妹が入るから姉が好きなんだよ!
って言ったら無言で部屋を出てった
自分の部屋に籠もっちゃって何度も謝ってんだけどなんにも返ってこない
これなら怒られてた方がまだいいよ・・・
あ、部屋から出てきた。話してくる!
>>642 『俺はひとりっ子』は義理姉妹or生き別れ登場フラグでもあるから一番危険
書いたで投下します
ここはどこだろうぼんやりしていてなにもわからない
「に―さん」
「兄さん」
誰かに呼ばれているようだ、だがあいにくこっちは調子が悪いんだあとにしてくれよ
「もう起きないなんてこれでどうです? えいっ」
「ぐわっ」
その一撃で俺は完璧に目が覚めた、かなりのチョップだこんなことできるのは妹しかいない
「起きましたね兄さん」
「なにするんだよ」
かなりきいたぞそこら辺の男のチョップよりきくんじゃないか?
「そ、そんなことよりお前今授業中だろ?」
そう授業中でありここは保健室だ、妹はここの学生だし授業もきちんと受ける模範的な生徒だ、不良じゃないし保健室にお世話になるような事もない
―ならなぜここにいる?
「それは兄さんが心配で来たんですよ簡単でしょ?」
まったくコイツは素でこんなことを言うのだから困る
「なら大丈夫だただの貧血だ」
事実を言い教室に帰らせようとする
「だめですよ兄さんが貧血だなんて、いいですか絶対安静にしてくださいあと私も心配なので帰りませんからね!」
こうなると妹は頑固だ、しかたないか…
まったりとした時間が過ぎていった…
だがそんな平穏を神様が許すはずがなかった
648 :
君子:2008/02/07(木) 23:51:12 ID:IGq4u8+R
投下します。
投下終了
続き書こうか悩み中
650 :
君子:2008/02/07(木) 23:52:48 ID:IGq4u8+R
ブラコンがこのスレを見たらどう思うだろう?シスコンがこのスレを見たらどう思うだろう?そして、俺の妹がこのスレを見たら……いや、考えないでおこう…(コワー
以前短編で投稿させて戴いた。
不細工な兄と超絶ブラコン妹を長編に直した物です。
暇つぶし程度にお読み下されば幸いです。
655 :
正反対な兄妹:2008/02/08(金) 08:05:57 ID:uncU10no
我が家には問題児がいる。
いや、問題児という生易しいものではない。
障害があろうものなら乗り越えるのはではなく、徹底的にぶち壊してから行く。
それを易々とこなして来たのは正真正銘、俺と血の繋がった妹。
霧咲 玲奈である。
外見は古今東西あらゆる人形師の知恵と技量をもってしても再現出来ないであろう、完全無欠の美少女。
しかし、彼女には唯一欠点がある……。
それは、超絶ブラコンであること。
これが全てを台無しにしていた。
例えば……そう、兄が超美形なら妹が懐くのは仕方がない事かも知れないが、妹と違い俺は余り見た目がよろしくない。
どうして血の繋がった兄妹なのに、こんなに違うのか?
以前両親にそうやって尋ねたことがある。
それを聞いた母親は食べていた煎餅をバリバリと噛み砕くとお茶を飲んで一息ついてから、俺を可哀想な瞳で見つつ呟いた。
「……玲奈がお兄ちゃんの分持って行ったんじゃないかな」
言ってる意味が分からないが、一つだけ確かな事がある。
それは……記念すべき人生初の殺意。
少し話が脱線してしまったが元に戻すとしよう。
前述の通り。
実の妹は超絶ブラコンに育ってしまったのだ。
初めはなんとか世間一般の「妹」に戻そうと両親はあらゆる手を尽くし頑張っていたのだが。
二時間近く要した第一回三者会談が終わった後、父親は俺の肩を叩き爽やかな笑顔でこう残した。
「幸せにな」
これ以降、両親は妹の素行を見ても平然としている。
一体あの三者会談で何があったのだろうか?
その答えは今でも恐ろしくて聞こうとは思わない。
妹の超絶ブラコンが両親に認められて以来、新しい年がくる度にそれは過激さを増している。
困りに困った俺は親友に相談を持ちかけてみた。
つまりは……どうしたら良いのかと。
「はぁ?お前馬鹿だろ?玲奈ちゃんみたいな美少女に懐かれて困ってるだと?」
彼はうどんを食べるのに使っていた箸をビシッと俺に突き付ける。
うどんのダシが数滴俺の顔に跳ねたが、彼は構うような仕草を見せずに続けた。
「神様に感謝しろ!!いや……いっそのこと神様に召されちまえ!!」
これが今思えば人生二度目の殺意だったのだろう。
彼にはうどんのダシのお礼も兼ねて顔を殴らせて頂いた。
656 :
正反対な兄妹:2008/02/08(金) 08:07:12 ID:uncU10no
本日は休日。
日々酷使している体を休ませる事が出来る貴重な一時。
だが……俺には休日なんて存在しない。
なぜなら……。
「お兄ちゃ〜ん!」
朝食の前にソファーに座りお茶を飲んでいた僕を見つけた妹は、パジャマのまま僕に寄り添いそのまま抱きついて今に至っている。
妹から仄かに香る柑橘系の香りと暖かい体温、それから柔らかな胸の感触。
「お兄ちゃんおはようございます」
未だに抱きついたまま、ぺこりとお辞儀。
「あぁおはようさん」
一通り挨拶が終わると、妹は幸せな顔でよりいっそう強く抱き締めてきた。
「なぁ……お茶飲みたいのだが?」
妹が腕に頬をなすりつけている為に体勢が不安定で飲めない。
「お茶が飲みたいの?」
「あぁ、だからどいてくれないか?」
何を思ったのか、妹は俺の飲みかけていたお茶を口に含むと俺に顔を寄せてくる。
「んっ〜〜」
嗚呼、分かっている。
分かっているんだ、つまりは口移しで飲めと……そう言いたいのだろ?
何よりその瞳がそう言ってるんだ幾ら鈍感な俺でも気付くさ。
だが……断る!!
「さて、新しいお茶入れてくるかな」
顔を寄せてくる妹の頭を押し下げ新しいお茶を煎れてこようと、ソファーから立ち上がろうとしたら腕を引っ張られ引き止められる形になった。
「なんだよ?お茶いれに行くんだ放してくれ」
それでも無理やり腕を引き離そうと力を込めたら、それ以上の力で逆に引っ張られ結局は妹が再び腕に抱きつく格好になる。
じっと抱きつきながら俺を見上げていた妹だったが、やがて喉を鳴らしながらお茶を飲み干していく。
「どうして飲んでくれないの?」
「恋人ならまだしも、実の妹から口移しでお茶は飲みたくない。」
「そっか……そうだよね。分かったよ」
これが怪我の功名と言うのだろうか?
やっと理解してくれたらしい。
兄は嬉しいぞマイシスター。
「それじゃ私が恋人になるねっ。妹兼恋人、つまりは口移しok?」
俺は無言のままテーブルに置いていた朝刊を丸め妹を殴っておいた。
少しでもまともな人間になってくれるように願いを込めて。
657 :
正反対な兄妹:2008/02/08(金) 08:08:25 ID:uncU10no
朝独特の喧騒と澄んだ空気と忙しそうに街を行き交う人々。
「ふーん、ふふふーん」
俺と腕を組み(玄関を出ると同時に強制的に組まれた)楽しそうに鼻歌を披露する妹とは正反対に俺の気分は沈んでいた。
通行人が時折、俺達とりわけ俺を見てくる。
そこにいる女子高生二人組なんか、俺を見ながらヒソヒソ話し合ってる。
露骨過ぎだろ、それは……。
人々が俺達をまるで奇異な物でも眺めるように注視する理由。
それは余りにも可愛すぎる妹と、余りにも見た目が良くない俺(不細工だとは口が裂けても言いたくない)のせい。
俺が妹につきまとうなら普通なのかも知れないが、反対なものだから余計に拍車をかけている。
「はぁ……」
「お兄ちゃんどうしたの?」
鼻歌を披露していた上機嫌な妹が鼻歌を止め、俺を見る。
少し垂れ目がちな大きな瞳が不安げに揺れ、組んでいた腕によりいっそう力が込められる。
「大丈夫だよ、私がお兄ちゃんをあらゆる敵から守るから」
何がどう大丈夫なのか問い詰めたい。
というか敵ってなんだよ!!!
「おはよう名物兄妹!!」
思考していた俺の背中を誰かが叩く。
この声からして間違いなく伊藤 春樹だろう。
ゆっくりと振り返るとそこには茶色の髪に、人懐っこい顔の友人が立っていた。
見た目で分かるようにコイツは学校中の女子全般からモテるモテまくる、お前はギャルゲーの主人公かと疑いたくなるのような彼だが。彼女はいないらしい。
冗談混じりにどうして恋人を作らないのか?と聞いてみた事があり。絶対に口外しない事を条件に教えてくれたのだけど。
返答は予想を遥かに超えたものだった……彼は血の繋がった実の姉が好きだと言い切ったのである。
しかし実の姉は彼の気持ちを知ってか知らずか相変わらず仲が良い姉弟として接してくるらしく、もどかしい毎日を送っているそうだ。
……どうして俺の周りには近親愛者が集まるのだろうか?
同じ様な境遇にあるせいか、春樹と妹は凄く仲が良い。
数ヶ月に一度作戦会議だとかで我が家に集い、その度に俺は家から追い出される羽目になる。
しかし、本当に恐ろしいのは家を追い出されることよりも作戦会議の内容で、その内容は常軌を逸脱していると言っても過言ではない。
作戦会議が行われた翌日は妹が何かしらのアクションを起こすので注意が必要なのだ。
658 :
正反対な兄妹:2008/02/08(金) 08:09:50 ID:uncU10no
前回の作戦会議の内容は「ドキッ!?ちょっとエッチな添い寝」だったらしく、その日もいつもと変わらない朝であったのだが目覚めると目の前に妹の笑顔があった。
ご丁寧にも俺の足は妹の太ももに挟まれていて俺の両腕は妹の細い腰へ、さらに妹の方は僕の腰に手を回し抱きつき状態。
少々おいたが過ぎる内容だったのでこの時ばかりは、少々強めにお仕置きをしておいた。
「んで今日も愛しのお兄ちゃんと登校かい?」
「はい!もちろんですよ伊藤先輩。悪い虫が寄ってこないように常に気をつけなきゃ」
悪い虫はマイシスター君なんだ……。
「だからマーキングしているんだね」
マーキングって……お前等は犬かっ!!
「ところでそろそろ作戦会議どうだい?」
背中に何かおぞましいものが通る。
妹と春樹は会話に夢中になってるらしく、組まされていた腕の力が弱い。
間違いなく逃げるなら今だろう俺は腕を振り払うと一気に学校へと猛ダッシュを開始。
後ろから春樹と妹が何か言っていたような気がするが耳を塞ぎなら走り抜けた。
僕が教室へと入ると、うるさかった教室が一旦静まり返り数秒置いてから何事もなかったかのように元に戻る。
毎回思うのだけど、これはイジメなのではないのだろうか?
だからと言って靴を隠されたりノートに落書きをされたりする訳ではないのでやはりイジメだとは言えない。
一度じっくり聞いてみたいとは常日頃から思っている。
ゆっくりと自分の席に向かい席につくと同時に一気に脱力して安心する、畳半畳分ぐらいしかないこの机が学校においての俺の城なのだ。
流石に妹でも授業中は来れないので束の間の安息を堪能できる。
背中を嫌な汗が伝い。
全神経をたった一つの事の為だけに集中させ、全身の筋肉をすぐにでも最高の力が出せるように漲らせる。
昼休みが始まるまで残り8秒。既に脳内カウントダウンは開始されており何度もこれから通る道をシュミレートしておく。
どう考えても最短ルートならば多少時間を多めに取ったとしても4分以内には屋上まで到達できるであろう。
問題はいかに迅速かつ静かに教室から出るかにかかっている。
残り3秒、2、1!!
キンコンカンコーンとチャイムが鳴り響き教師が教室から出て行く中。
僕は素早く鞄から弁当を取り出すとそれを握りしめ猛ダッシュで教室のドアへと向かう。
どうやら今回は勝ったらしい、思わず笑みが浮かびそうになる。
659 :
正反対な兄妹:2008/02/08(金) 08:11:19 ID:uncU10no
ドアを開き教室から出ようとした俺は、ピンクのハンカチで包装されている小さな弁当箱を抱えているにこにこと微笑む栗色の髪の女子生徒を見つけた瞬間氷ついた。
「お兄ちゃん、今日も弁当一緒に食べようねっ」
なんで毎回コイツはここに居るんだ?
1年生の教室は別棟にあり、最低でも5分はかかるはず……。
おかしい……普通じゃありえないだろ。
俺は無言で教室のドアを閉め鍵をかけた。
「お弁当〜お弁当〜お兄ちゃんとお弁当〜」
クラスメートの羨望、妬みその他諸々の感情が込められた視線が向けられている中、一人上機嫌な妹は訳のわからない歌を歌っていた。
「お兄ちゃんの今日の弁当は特製なんだよっ」
ああそうだな確かに特製だ、ソボロでおにいちゃんLOVEって書いているもんな。
何を想像しているか分からないが顔を真っ赤に染め上げ、腰をクネクネさせて悶える妹を横目で見ながら素早くご飯をかき混ぜる。
「あぁ!苦労したのに!!」
「何だか無性にかき混ぜたくなったんだ、あるだろそういうの」
「う〜んあるのかなぁ……」
困った顔をしながら少しだけ頭を傾けると、柔らかな栗色の髪がその動作に併せて流れる。
「ねぇお兄ちゃん」
「んぁ?」
短い昼休みを一秒でも長く使いたい俺は必死に弁当を食べていたのだが、不意に妹が箸を止め顔を赤く染めながら話かけてきた。
「ソボロも確かに特別だけど、もっと特別なのが入ってるんだよ?」
「どれだ?」
そう言いつつ弁当を見回す。
「あははっ、お弁当の材料じゃないよもっと特別なやつだよ」
「さっぱり分からん」
妹は僕を真っ正面から見上げると目を逸らしたくなる程優しく微笑み、小さく。
「愛情だよ」
と呟いた。
昼休みそれは前半の戦いを終えた生徒が、午後の授業を行う前に鋭気を養う為の素晴らしい時間。
俺の席は窓側にあり腕枕を作り机に伏せると、窓から差し込む光がぽかぽかと暖かくて気持ち良い。
…………。
そう気持ち良かった筈なんだ……。
俺から少し遅れて弁当を食べ終えた妹は自分の教室に戻ることなく、背中に陽を浴びて楽しんでいた俺を見つけると。
陽の光を遮るかのように背中に抱きつき、挙げ句の果てには頬ずりまでしている。
「何しているんだ?玲奈」
「午後の授業があるからそれを乗り切る為にお兄ちゃんに甘えてるんだよ〜」
「邪魔だ」
「お兄ちゃん反抗期?」
「玲奈こそ、そろそろ反抗期になったらどうなんだ?」
660 :
正反対な兄妹:2008/02/08(金) 08:12:39 ID:uncU10no
「絶対にやだ、それにもし反抗期になったらお兄ちゃんの事嫌いになっちゃうのかな?」
背中から聞こえてくる呟きは悲しげで、それを紛らわすかのように答える。
「どうだろうな」
背中に寄り添う妹が少しだけ力をこめた気がした。
後半の長かった授業が終わり放課後に突入。
掃除係だった為教室の掃除を終えた頃には、日が沈み暗くなりかけていた。
学校に残っていた殆どの生徒は帰ってしまい、部活をしている学生達の声がやけに大きく聞こえてくる。
普段ならば掃除が終わった時を見計らい妹が来るのだが、今日は珍しく姿を見せない。
きっと妹には妹なりの用事があるのだろう。
明日使う教科書を机の中にいれ、薄い鞄を持って教室を後にする。
窓から差し込む夕日が焼けているように赤く、哀愁を漂わせるてくる気がした。
「…………から……玲奈ちゃん……って」
学校の玄関に設置されている靴箱に向かおうとした俺は、音楽室の前で足が止まる。
音楽室に何か用事があった訳ではない。
通りかかった時にたまたま妹の名前が出てきたからだ。
立聞きはいけないと知りつつも、俺の足はそれとは反対に足音を立てないように音楽室へと向かっていった。
以上で終了です。
書くと宣言しながら遅くなってしまいすいませんでした。
何度も加筆修正行っているといつの間にか、時間だけがorz
このスレの繁栄を密かに祈っております。
乙。
さぁ早く続きを書く作業に(ry
>>661 GJ!
お待ちしておりました
甘々なキモウトに萌え尽きそうっす!
続きを楽しみに待ちます。
投下します。
巨乳と貧乳 越えられない壁の続編です。
日本女性には着物が似合う。
着物には貧乳娘が似合う。
着物を着た貧乳の女性こそ、日本人の理想であり、大和撫子として、世界に広めるべきだ。
俺はこの事を強く世界に広めたい。
俺は今、妹のお迎えで茶道教室に来ている。
茶道教室なんて、年寄りばかりで、若い娘など一人もいない、
そう考えていた過去の俺を罵ってやりたい。
若い娘が沢山いるのだ。
それも、俺好みの貧乳娘が、
日本人らしい着物を着て。
天国だ…。
この空間を天国と言わずして、何を天国と言おうか。
あの娘の真っ直ぐさは素晴らしい、こちらの娘の控え目具合は実に日本的だ…。
年増除外機能を兼ね備えた俺の目が捉えた素晴らしき光景に、俺は至福の妄想で脳内を埋めていた。
だが、そんな幸福は長くは続かない。
「兄さーん」
そう呼びながら駆け寄って来る妹によって、俺は強制的に現実に戻される。
走る妹に、周囲が注目する。
妹が走る度に、着物で抑え切れていない二つのデカい膨らみが揺れているのだから、当然だ。
妹のぐらいの大きさになると、ポヨヨンポヨヨンとか、プルルンプルルンとかの生易しい擬音じゃないのだ。
ドッシンドッシン、若しくは、バコンバコンとか、そんな感じになってくるのだから、周囲の注目を集めない訳がない。
一応、言っておくが、妹はデブではない。
女にしては高めの身長に、スラリと伸びた手足はモデルとして、充分に通用する。
ただ、乳がデカいだけだ。
「兄さん、お待たせして申し訳ありません」
そう言いながら、妹は深々と頭を下げる。
「気にするな」
兄らしくそう答えたモノの、妹の乳の圧迫に、俺の足は自然と一歩だけ後ろに下がる。
「どうしました、兄さん?」
俺が一歩下がった事に気付いた妹が、そう言いながら、一歩、俺との距離を詰める。
「何でもない何でもない」
そう答えながら一歩下がる俺。
「そうですか、お顔の色がよろしくないようですので…」
一歩だけ、距離を詰めながら言う妹…。
そんなやり取りを繰り返す内に、俺は口を滑らせてしまったのだ。
「お前もアレ位小さければなあ…」
この言葉は妹の前では、思う事すらタブーだと言うのに。
「兄さん…、今、何とおっしゃいました?」
黒いオーラを発生させながら言う妹。
ヤバイ。妹の冷静さが無くなる前兆だ。
ここは何とか宥めなければ…。
「気のせいでは…」
「気のせい?…私の気のせいとおっしゃるのですか?」
目の色が変わった。
「そうそう!気の…」
「黙らっしゃい!」
完全に怒らせてしまった。
「兄さんは未だに母性の乏しい女子を愛してらっしゃるのですか!」
「前にそのような本をお捨て頂いた時に、そういった趣向もお捨て頂いたかと…」
「兄さんは何故、私を見ないのですか?何故、私以外の女子を見るのですか?」
「ナゼナゼ…ワタシヲアイサナイ…」
暗い眼で俺を見ながら、言ってきた妹…。
完全に壊れた。
「いや…、別にお前が嫌いとか、そう言うコトは…」
妹を落ち着かせる為に俺が言った言葉。
そして、その言葉が更に妹を暴走させる。
「本当ですか?」
「ほんとほんと!だから…」
「ならば、この場で証明して下さい!」
落ち着け、という俺の言葉は、妹の言葉によって遮られた。
「証明…?」
この妹は何が言いたいんだ。
「そうです、証明ですよ」
そう言いながら、着物を脱ごうとする妹…、
「って!お前は何をしようとしてる?!」
慌てて制止しようとする俺に関係なく、妹は普通に帯を解く。
そして、大声で言った。
「何時ものように、触って下さい揉んで下さい嘗めて下さい啜って下さい嬲って下さい!」
待て、誰が何時、何処でそんな事をした。
周囲の人間からの視線か痛い。
俺は無実だ。
妹も、”さあ早く”なんて言いながら近寄って来るな。
振りほどけない馬鹿力で、人の顔を胸に埋めるな。
息が…、呼吸が出来ん…、さんそを…
「私だけを…私だけを愛して!」
そんな妹の絶叫を最後に、俺はオチた。
茶道教室内で俺は目を醒ました。
その横には、泣き顔になった妹がいる。
「生きてて…生きててよかった!」
目を醒ました俺に、そう言いながら、抱きついてきた。
「申し訳ありません、此処までは、此処まではするつもりはなかったのです!」
そう何度も謝罪してきた。
”いいよ、気にしてないから”と答えながら、引き離そうとする俺から、離れようとせずに。
妹よ、俺はお前に一つだけ言っておきたい事がある。
俺は今日、また一つ、巨乳が怖くなったのだ。
今も震えが止まらん。
投下終了です。
狂気のキモウトは乳まで凶器…あな恐ろしや
671 :
225:2008/02/08(金) 14:05:35 ID:S0wcLjCM
いや、だから、前にも書いたと思うが、
落語に「まんじゅう怖い」と言うのがあってだなぁ
672 :
225:2008/02/08(金) 14:44:36 ID:hrPp1kqy
それでは『巨乳の妹が怖いという兄に天罰が下っても
当然である』に賛成の方、挙手を願います。
次に反対の方、挙手を願います。
いらっしゃいますか?
いらっしゃいませんね?
では、全会一致で・・・
「議長,『巨乳の妹が怖いという兄に天罰を下す
べきである』と修正することを提案します!」
ただいま修正動議が出されました。
ご意見があるかたはいらっしゃいますか?
では採決に移ります。
賛成の方は挙手を願います。
次に反対の方、挙手を願います。
お一人ですね。
「私はむしろ『巨乳の妹が怖いという兄に
天罰を下さねばならない』と・・・」
それは修正動議でしょうか?
(ざわざわ「先走りで」ざわ「当然の」ざわ「選挙に向け」
ざわ「国民の理解が」ざわざわ「ここはひとつ」ざわ)
「いえ・・・個人的見解です」
静粛に願います。
では、圧倒的多数により『巨乳の妹が怖いと
いう兄に天罰を下すべきである』は可決され
ました。
つぎの議題に移ります。
姉による
もっと、おっぱいを…
投下します。
675 :
君子:2008/02/08(金) 18:54:06 ID:lAtZlxth
「君子のお兄ちゃんってどんな人?」
中学校のお弁当の時間、一緒に食べていたともみが聞く。
「んー、たいしたことないよ。ちょっとひょろくて、メガネのダサ男だけど…」
「ともみのお兄ちゃんって、イケメンなんでしょ?いいなあ」
一人っ子のみゆきがうらやましがる。
「お兄ちゃんなんてメンドクサイだけだよー、みゆきもお兄ちゃんがいたら分かるって」
わたしは、二人のやり取りを聞き流していた。
わたしの兄は、どちらかというとごく普通の顔立ちで決して美男子ではない。
わたしははっきりって兄が好きだ。
彼に魅力を感じるのは、わたし独特な感性のせいなんだろう。
母親が夕飯の支度をしている。わたしはおこたでお茶を飲んでいる。
兄は母親の命令で仕方なく風呂掃除をしていた。
「ふう、めんどくさいなあ」
投げやりながらも、几帳面な性格の兄は丁寧に風呂桶を磨いてゆく。
きれいに磨き終えた兄は、泡を水ですすぎ落とし風呂桶に水をためてゆく。
水位センサーのスイッチを入れセット完了。
「おわったよー」
兄はぶっきらぼうな声を出し、自分の部屋へ帰る。
わたしは、その後こっそりと風呂場へ忍び込み水位センサーのスイッチを切る。
45分後、センサーが鳴らないのを不審に思った兄が風呂場へ様子を見る。
「うあぁ!!」
風呂桶から水がじゃぶじゃぶと溢れ出し、床には洗面器がゆらゆら浮かんでいた。
「水道代が勿体無いでしょ!!」
「いてててってて、ちゃんとセンサー点けたって…」
耳を母親から引っ張られる兄。
わたしは、おこたでポリポリとえびせんをかじりながらその光景を見ていた。
(うん。いいぞ…)
わたしの中で、いたずらっ子の心がうずく。
676 :
君子:2008/02/08(金) 18:54:40 ID:lAtZlxth
わたしは兄の困っている姿を見ると、非常に愛しくなる。
さらに、その後わたしに罵声を浴びせさせられるもんなら、この上ない喜びだ。
そのことにより、わたしは兄とのつながりを深くかみ締める。
「まったく、兄貴はダメねえ」
「うるさいっ。あっちいけ!」
最上級の誉め言葉を頂いた。
ある時、兄の部屋の掃除をしてあげたことがある。
「掃除するから、ちょっと部屋を出てってよ」
「あー、そんじゃ買い物にいってくるから頼んだ」
しめしめ。わたしは掃除機を思いっきり兄の部屋中かけまわす。
机の上は男の物としてはこざっぱりしていて、無駄なものを置いていない。本棚もきちんと整理されている。
三十分後。掃除を終え、わたしは自分の部屋に帰り、ベッドでだらだらしていると、
買い物から帰った兄の悲鳴が、兄の部屋からこだました。
掃除中、部屋を引っ掻き回してエロDVDを探し当て、きれいに机の上に並べてあげたのだ。
「どう?きれいになったでしょ?」
わたしはわくわくしながら兄に声をかける。
砕け落ちた兄は、何も言わなかった。ちぇっ、物足りないな。
この性癖に気付いたきっかけは、はっきりと覚えている。
あれは、小学四年生のとき。兄はそのとき中学二年生。
寒さの残る初春の夜のことだった。
当時、わたしと兄は同じ部屋で寝ていた。
部屋には兄が上の段、わたしが下の段という二段式のベッドがあった。
わたしは先に布団に入って寝たふりをしていた。まだまだ眠くないのに。しかし、兄がうるさいのだ。
薄目で兄を見ると、こそこそとなにかを隠していた。いい物を見た。
兄が寝静まった頃、わたしはこっそり起き出し兄が隠したものを見つける。
「ふーん。これだなぁ」
女の子へのラブレターって事は、小学生のわたしにもすぐ分かった。
声に出すのもこっぱずかしい、中学生の恋文。
わたしはラブレターを封筒から出し、便箋に茶色の蛍光ペンで大きくうんこの絵を描いてこっそりしまった。
翌日、興奮しながら兄はうんこのラブレターを持って登校していった。
数日後、兄はひどくショックを受けているように見えた。
兄に近づきこっそり耳元でつぶやいた。
「あの絵、わたしが描いたんだよ」
泣きながらげんこつをくらわす。あのげんこつが忘れられない。
677 :
君子:2008/02/08(金) 18:55:01 ID:lAtZlxth
今考えるとガキくさいことをしている。
しかし、中学生になった今でも同じようなことをしてると言うことは、わたし全然成長していないな。
もしかして、誰にも兄を渡したくない、わたしだけに目を向けて欲しいという気持ちが
ひねくれてあらぬ方向で現れているのかもしれない。わたしって、不器用だ。
わたしとともみ、みゆきは学校から帰る途中、兄に会った。
バイトの帰りか、焼き芋を抱えている。
「おーい君子」
「うるさいよー」
「おい、ちゃんと返事しろ」
飾り気のない兄妹の会話。兄は、ともみとみゆきの方に目を向ける。
「…ん?君子の友達の?」
「はじめまして」
「ふーん。君子となかよくしてくれてありがとね。そうだ、これ食べなよ」
兄は焼き芋を三つわたし達にくれた。
「わーい。ありがとうございまーす!」
「ともみもみゆきも現金だなあ」
ともみとみゆきは焼き芋をもごもごと食べながら笑っていた。
「いいなあ。君子のお兄ちゃん、優しくて」
一人っ子のみゆきがうらやましがる。
「うちのお兄ちゃんなんか、全然そんなことしないよー。わたしのお兄ちゃんになってくれないかなぁ」
ともみも焼き芋をほおばりながらつぶやく。
わたしは、思わずともみのわき腹をつねる。
ともみは焼き芋を吐き出した。
おしまい。
678 :
君子:2008/02/08(金) 18:57:09 ID:lAtZlxth
書いていて、結構シュールなSSだなあって自分で思ってしまった。
とりあえず「これは、まだ出てない手だろう」ってことで。
679 :
君子:2008/02/08(金) 18:57:38 ID:lAtZlxth
あ、投下終了です。
GJ!ほのぼのしてていいなー
ところでキモ姉やキモウトから逃げたらやっぱ
捕まるのがデフォだろうか・・・たまにはたくましい兄を
見てみたい希ガス
(仮)の続きまだー?
キモウト側視点のお話は珍しいですね。楽しませていただきました
しかし、この絨毯爆撃じみた投下密度は一体なんなんだ?
全然キモくないよ?、むしろ良い妹じゃないか
と、思った自分はこのスレに毒されすぎてるのか
君子かわいいよ君子
新たな分野を開拓乙!
こんなのキモウトじゃない!
てのはおいといてGJ
愛情表現歪んでるねww
これで友人と兄が付き合い始めるなんてことになったらじわじわ病んでいきそう
ドMのキモウトがいたらどんなストーリーになるんだろ?(ドSしか見た事ない…)
>>687 結構難しそうだ。ひたすらにお兄ちゃんの嗜好に合うように自分を変えようとする…ちょっと違うような。
どうしたら良いんだろう
兄が乱暴者で妹に八つ当たりを繰り返すんだけど、妹は「殴られてる間はお兄ちゃんが私だけを見てくれてる…!!」みたいになるとか
お兄ちゃんが帰宅すると、全裸に貞操帯一つだけを身につけた妹が玄関に跪いていて
無言で貞操帯の鍵を差し出す…
>>691 それをスルーする兄
でも、放置プレイにも感じるキモウト
693 :
つい先日:2008/02/09(土) 02:42:38 ID:ORHPtU+I
妹と言えば、ついこの間。
私が深夜のバイトに疲れ、眠い眠いと訴え続ける眼を擦りながら床に就き、
深い眠りに漸く至った――その後の事で御座います。
ふと目を覚ましますと、当然ながら日は昇っており
ともすれば、既に西に向かって下っている時間でありました。
私はゆっくりと身体を覆う布団を捲り上げ、冬の室温に眉を顰めながらも床より立ちあがった時のことでした。
ハラリと……何やら舞い落ちる物が視界の端に映ったのです。
一体何が落ちたのやらと、ついと腰を下げ手を伸ばし、
摘み上げたその代物は、あろう事か妹の下着だったのです。
嗚呼、如何様にして自分の部屋に妹の下着があるのかと、当然の疑問が脳裏に沸き上がりました。
我々とていい歳をしており、どの家でも大抵はそうするであろう様に、妹と部屋はキチンと別々に用意されており、
普通に考えれば下着が迷い込むなどと言うことは、あり得ない話ではないでしょうか?
然し乍ら、現にこうして手には妹の下着が握られているのです。
否定したところで何も変わりはしますまい。
――と、よくよく下着を持つ私の掌を見ますと、何やら湿り気を帯びており濡れているではありませんか。
試しにソレを拭ってみますと、それは水と言うには粘りけがあり、半ば乾いたその手触りはやや不快なものでした。
匂いを嗅いでみますと、何処か生臭みが感ぜられ、早々に私はそれを奇麗にぬぐい去ってしまいました。
そして、その時の私はあまり深くは考えず、取り敢えず妹の下着を洗濯機に放り込み、
つつがなく今日まで過ごして参りました。
ですが、今思い返してみますと、それはもしかしたら……、
おや? 妹が私を呼んでおります。
この様な時間まで起きてるとは、一体何の用なのでしょう?
それでは、私はこれにてオチます――では。
>>693 言うまでもない。行くな。
はい遅かった。
>>681
同意。最近こないな
ちび姉に踏まれたい
うん。俺も踏まれたい。
みんなは何才くらいのキモウトがいいんだろう?何才くらいのキモ姉がいいんだろう?おちんちんは小さいであろう…
4つくらい違うといい感じスね
>>699 年齢なんてどうでもいい
血が繋がっているにも拘わらず欲情しちゃうようなキモさが大事なのさ
367号は俺の嫁
誤爆した
よりにもよってキモウトスレに誤爆するなんてwwww
みんなはドSのキモウトとドMのキモウトとドSのキモ姉とドMのキモ姉どれが一番好き?
ドSのキモウトに一票。
ただ、一瞬弱さを見せる儚さは欲しいな。
俺はドMのキモ姉だな。
おはようからお休みまで必要以上に尽くしまくることで悦に入り
「べたべたくっつくな。ウザい」などといわれては頬と下着を濡らし
東に病気の弟あれば、風邪をうつさせるという口実で全裸で密着してわざと怒られ
西に疲れた弟あれば、膝枕しては弟の頭に多少の湿り気を感じさせ
南にストレスの溜まった弟あれば、自分の体をもって白濁液とともに吐き出させ
北に弟に告白する雌猫あれば、弟の恋人は自分だとなきながら叫び告白を阻止する
そんなキモ姉が欲しい。微妙にドM関係なくなったけど
それならば、某は四人全員を所望いたす
キモウト四姉妹と申したか
キモ四姉妹ね…
リアル長男な俺は
姉1(3才上)、妹3(1才、4才、6才下が希望。
妄想だが、4才下のキモウトを猫可愛がりしそうな気がする。
一瞬、1歳児、4歳児、6歳児のキモウト希望なのかと思ってびびったw
>>705 ドMのキモウト
兄に滅茶苦茶に壊されたいという願望を持ったキモウトが欲しい
てす
>>712 でもそれをお話に落とし込もうとすると難しい。兄がサドならあっさり
ハッピー?エンドになってキモくないし、常識人なら華麗に放置されまくる。
なんとか兄をSの道に引きずり込もうと画策するお話にするしかないのか?
>>714 むしろキモウトが自分で勝手に壊れていくようなストーリーになるキガス
定番な気がするが媚薬とか
ええと…「ドMな欲望を満たすため兄をSに調教する、SだかMだがよく分からないキモウト」?
難攻不落の兄を落とすためにあの手この手のキモウトだと、ラスト近くまでエロが書けない。
企画から出直しだ…orz
>>718 微エロをいやらしく書けよ たぶん、その方が面白いが
最後まで書かないと、おまえのキモウトをもらうから。
キモウトは兄に一途ゆえにキモウト
他人のキモウトをもらうなどありえません
やっぱみんなはキモウトは貧乳キモ姉は巨乳がいいんだろうなぁ…
(ムッチムチのキモウトとか想像出来ねぇよ。)
>>722 それにはすこぶる同意する
だけど、並(美)乳のキモウトと貧乳代表のキモ姉がいてもいいと思う
725 :
名無しさん@ピンキー:2008/02/12(火) 17:32:57 ID:NPYLFLsY
>>722 括らないでください><俺は姉も妹も巨乳がいいですぅ。
しかしうちの家族は全員貧乳でノーマルだから困る。超ムカつく。
そして貧乳好きに調教される訳か
>724このスレの人はなんでそんな投稿レス番を把握をしてんだww
>722俺は普通サイズの妹がいるからどっちでもいいので姉が欲しい…
やっぱりドMキモウトかなぁ
兄は一応Sだけど流石に妹は・・・と思いつつ溺れていくと良いかも
スイッチ入ってやらかした後で妹相手に何をしてるんだと後悔したりとか
今ここに人っている?もう次スレに行ったかな?
いたら、ちょっとss書いたから選択肢なんか選んでみないか?
おk
|д・)コソーリ
なら投下するよ。
一応、一番最初にコメした人の選択肢に行くから注意してくれ。
用意はいいか?
|д・)ok
+ ∧_∧ + +
(0゚・∀・) ワクワク 。
oノ∧つ⊂) +
( (0゚・∀・) テカテカ 。
∪( ∪ ∪ 。
と__)__) +
あれ、ちょっと待ってくれ
妹は、僕が大嫌いだ。
だから家にいても話す言葉はない。
いつも我が家は静まり返っている。廊下やリビングには物音一つない。
好きの反対は無関心だとは、よく言ったものだ。
また、僕の家は両親がいない。妹と姉さんの三人暮らしだ。だから僕と姉さんの話し声以外には他に何も響くことはない。
姉さんとの仲は、悪くない。けれど、良くもなかったように思う。
もともと、温和で物静かな人だった。あまり口数が多いわけではなく、あらゆることに対して受身の人だった。
実際、僕は彼女が何かを断るというところを見たことがない。だから、僕と妹のことについて何か言ってくることはただの一度もなかった。
僕はわかっている。
姉さんは、すべてがどうでもいいのだ。
それは、鈍感さや荒事に首を突っ込みたくないという偽悪ではなくて、本当に関心がない、虚無感に似たものだった。
好きの反対は無関心。だとすれば姉さんが好きなものなど、何もなかったに違いない。
しかし彼女は、今年の春に三歳年上の男の人と結婚して、家を出た。
驚いた。
それは結婚相手の男の顔や性格のことではなくて、姉さんが結婚という面倒なことをしたという事実に対してだ。
相手が魅力的だったのだろうか。でもそれぐらいのことで、あの姉さんが面倒ごとを背負い込むとは思えないが。――まあ、どうでもいい。
そして、この家の一番の年長者である姉さんが家を出るということに対しての話題は上らず、あっさりと彼女は家を離れていった。
僕と妹が世にも珍しい光景として玄関に並び、姉さんを見送った時、彼女は一度も振り向かなかった。
そういえば僕はまだ、彼女の歳を知らない。
でも幸い、姉さんの旦那さんは結構な出来た人のようで、男前で仕事の出来る営業マンのようだ。
結婚式の日に一度会っただけだが、すごくよく出来た作り笑いで僕に話しかけてきたのは覚えている。
あれならば、決して間違いを起こさないだろう。姉さんに何か露見するような間違いは。
何かあったとしても、姉さんが夫を責めるようなことはないだろうけれど。
そして、僕と妹は二人きりになった。
二人。
姉さんが出て行った時、妹が七年ぶりに話しかけてきた。
それはあまりに突然のことで、妹の声はこんなにも高音なのかと思ったほどだった。
「ねえ」
「……何」
「あの人、何がしたかったんだと思う?」
「……さあ。家族を、演じたかったんじゃないか?」
「あんなに下手なのにね」
「……この家を離れることと、結婚することどっちが面倒だと思う?」
「さあ」
それから今日までの五ヶ月、まだ一度も会話はしていない。
相変わらず、同じ場所にいたら、ねめつけるような視線で僕を刺してくるし、境界線がしかれているかのように干渉してくることはない。
食事の時間、起床やその他はすべて別々だ。トイレも僕の家には二つあるので、僕専用のものと妹のものとに別れている。
つまり、僕と妹は別々に領している空間が存在するのだ。領域を侵したことはないが、それは禁忌だという暗黙のルールはある。
破ることは決してない。頭に妹が所有している空間は、そこに“ない”ものとして扱うからだ。
ないものに対して破るとかどうとかいう思考は働くはずもない。
不都合がないのだ。
ただ、他人が家にいると思えばいいのだから。敵意はあるが、実害はない。
妹の目を見て僕はいつも思う。
ああ、これが嫌悪という感情なのか。だから姉さんは、家を出たのだろうか、と。
*
まひるという名前が嫌だった。
真昼、なんて明るい名前の癖に、私には社交性が微塵もなく、友達もいないからだ。
太陽のような優しさもないし、笑顔を浮かべたことも記憶にあるかないかという程度だ。
別段気にしたこともないけれど、困ったことは何度かある。
大衆に群れて、他人の印象をよくしておかないと色々と面倒なことがあるのだ。
小さなことで言えば、学校でグループを作るときなどにはぶれてしまうし、大きなことで言えば虐めだろうか。
陰湿といわれるほどにされたことはないけれど、靴に画鋲程度なら、何回か。気にはならなかったけれど。面倒だな、とは思った。
教師に相談しようとは思わなかった。もちろんそんなことをすればエスカレートすると考えたのもあるが、何となく煩わしかったからだ。
幸い、一週間もすると標的は別の子に移ったようで、いじめっ子から私の存在はすぐに消えていったようだった。
相談、と頭に浮かんだ時、一人だけ浮かんだ顔がある。
私のもっとも嫌いな人だ。
あの人に相談なんて考えたくもないけれど、迷惑をかけてみたいという意味ではしてもいい。
なぜだろうか。何にでも怠惰な感情が先行してしまう私だけれど、あの人を貶めることについてのことなら、多少の無理は平気でこなせそうな気がする。
そう考えると、なぜかやる気もでる。
いつから私はこんなにも兄が嫌いなのだろうか。
もう、覚えてすらいない。
「望月さん」
クラスの喧騒の中、私に声をかける男の子。
「何ですか?」
私は抑揚のない声で答える。この人は誰なのだろうか、頭の中を探ってみるが記憶にない。
男の子の精悍な顔が眉の下辺りまで伸びた髪の奥で強く誇っている。よく見れば、背丈も私よりもゆうに高いことがわかった。
「今日、明後日の文化祭のことで話し合いがあるんだ。だから、放課後一緒に四組まで行こうよ」
「何で?」
「え、だって、望月さんかわいいしこれを機会に仲良く慣れたらいいかなって思ってさ」
照れながら頬をかく、高校一年生。
けれど私が何でと聞いたのは、何で私と一緒に行きたいかということではなく、何で私にそんなことを言ってくるのだというものだ。
そう彼に言ってみると、あからさまに呆れて返された。
「何言ってるんだよ。一昨日のホームルームで文化祭の実行委員は僕と望月さんに決まったじゃないか」
右手を腰において肩を下げる。
ため息を疲れても、私には記憶にない。
でも、実行委員を決める会議が昨日行われていたのは何となく、見たような気がした。
ああ、ボーっとしていたので厄介事を押し付けられたのだろう。
全く、この男の子のような人を選んでおいて私が相方になるなんて、クラスや先生たちはやる気があるのやらないのやら。
それともこの人は嫌われているのだろうか。
「ま、いいや。とにかく、放課後残っておいてね」
「わかった」
不満はあったが家に帰ってもやることもない。私は、何となしに引き受けた。男の子が去っていく。
一人になってあたりを見回した。時計が黒板の上にかけられている。もうすぐ昼休みも終わるようだ。
肩にかかった髪を億劫に背中に流すと、今度は窓の外に視線を投げた。
広い校庭に、ジャージ姿の人間が何人か袖の中に手を隠しながら喋りあっている。次の時間は体育なのだろう。サッカーボールを持ってきている人たちもいる。
その中に、兄の姿が見えた。
友人たちと楽しそうに話している。
思えば、笑っている兄の姿を見たのはもうずっと前のことだ。大きな口をあけて、精一杯に不細工に笑う兄。なんだか、滑稽だ。
兄はいつも友達の話にあわせて意味もなく笑うから、こうして眺めているとまるで道化のようで、私には理解できない。
授業開始のベルの機械音が鳴った。もうすぐ授業が始まる。
私は、窓の外を見るのをやめた。
*
学校から帰るのは、いつも僕の方が早い。
僕は受験生ということもあり、授業が早めに切り上げられるからだ。
受験生だからこそ遅くまで授業をするべきでは、と思う人間は塾や家庭教師があるので、彼らにとっても家の校風は気に入られているのではないだろうか。
妹は部活などには入っていないようだ。
大人しそうに見えて、中々運動神経はあるようだから、もし部活に入ってもそれなりに活躍できそうだが、彼女がそういったものに興味を持つことはまずないだろう。
なぜといわれても困るが……何となくそんな気がする。
玄関。
スライド式のドアを空けて家に入る。むわっとした、家の匂いが鼻につく。
別段臭いとかいうものではないが、木の特有の匂いは、まだ新しく僕の神経を撫でる。
一階にある僕の部屋へ行き、まず鞄を机の横において椅子に座った。今日は授業で課題がたくさん出たので早めに済ませておこうと思ったからだ。そうすれば後の時間は自由に使えるはずだ。
これは夜中に勉強をしていると、妹はどうやって気づくのかは知らないが思い切り不機嫌になることがしばしばあるので、身についたことだ。
でも、これはこれでいい習慣だ。おかげで宿題を忘れていくということはまだ一度もしたことがない。
筆箱を出して数学の教科書とノートを出した。何とか理解し始めた数式が目の前に並ぶ。
僕は一度息を吐いて、勉強に取り掛かった。
二時間もすると、大方が終わった。
六時三十分。そろそろ、食事を作り始めなければ。
リビングに移動する。冷蔵庫を開けると、あまりろくなものが入っていなかった。めぼしいものは、キャベツとたまねぎと牛肉ぐらいか。
少し悩んで、ロールキャベツと味噌汁を調理することにした。これならばある程度はおなかも膨れるだろう。妹の分は……まあ、自分で何とかするだろう。
そこでふと思い当たる。まだ妹が帰ってきていない。これは中々珍しいことだ。いつもはどんなに遅くても六時には帰ってきているはずなのに。
僕は――
@ 心配になった
A 遅くなることぐらい、別にたいしたことじゃない。
1
つーか埋まるぞ容量考えろ
【@】
気が向いただけといえばそれまでだ。
僕は妹の帰りがいつもよりはるかに遅く、もうすぐ十一時を迎えようとしていたので何か事故にあったのではないかと考え始めたのが発端だった。
心配にはなったが探しに行っても心当たりはなく、妹の友達なんて全くといっていいほど知らないし、すれ違ってもしょうがないので、大人しく待つことにした。
そもそも、探しにいって万が一見つけられても、何て声をかけていいのかわからないと思ったのが待つことにした理由でもある。
家族としてしかってやればいいのか、兄として優しくしてあげるのがいいのか、それすらわからないのだ。
リビングにテレビの声だけが響く。
まあ、直接優しくなんてできないけれど、料理を作っておいて、書置きでもしておこうか。そうすれば妹が帰ってきたら、食べることも出来るはずだ。
僕の作ったものなんて、食べないかもしれないけれど、そうなったら明日の朝に僕が食べればいい。
今日二回目の夕食の準備に取り掛かった。
そして、一時間後。時計の円盤の針が両方、上に向く。十二時だ。
もしかしたら、今日はどこかに泊まってくるのだろうか。この時間だ。可能性は高い。
となれば、わざわざ僕にいうわけがないので、心配は取り越し苦労だったと自己解決する。料理はラッピングしておくことにする。
すると、どんっ! という音とともに玄関の扉が開かれる音が聞こえた。
妹が帰ってきたのだろうか。玄関に姿だけは確認しておこうと足を運ぶ。また憎憎しげに見られるのがオチだろうけれど。
しかし玄関には、すでに妹の姿はなく、靴だけが残されてあった。何か、あったのだろうか。
階段が重く目に移る。見れば、先には暗い空間。そしてその奥は妹の部屋だ。行くべきだろうか。
そこでふっ、と料理をラッピングしておいたままなのを思い出した。そうだ、これを使おう。
リビングに戻り、簡単にお盆に料理をのせる。ついでに点けっぱなしだったテレビを消し、部屋を出て階段を上る。
一歩踏みしめるごとに木の音がギシギシ鳴って、少しうるさい。そして廊下を登り終える前で止まった。
僕はこれ以上進めない。境界線を侵すことになるからだ。
だから、段の先の廊下にお盆を置いて、横の壁をノックするように二度叩いた。そして階段を下りる。
自室に戻ると、風呂に入ることにした。いつもは、鉢合わせする危険を考慮して、妹が入ってからではないと風呂には行かないのだが、あの様子だと僕が先に入っても問題ないだろう。
僕はバスタオルを取って、再び部屋を出た。
風呂から出て、脱衣所で体を拭いていると、がしゃんという盛大な音が聞こえたので、僕は別段急ぎもせずに音がした原因の場所まで行った。
すると、僕が階段の上においたお盆が転げ落ちており、料理がひっくり返っていた。どうやら蹴り飛ばしたようだ。ご飯は廊下に撒き散らされ、味噌汁はうまい具合にひっくり返っている。周りには味噌特有のにおい。
ある程度予想の範囲内だったので、雑巾を持ってくる。ゴミ掃除をするのは面倒だが、自業自得でもある。盛り付けた野菜のボウルが割れているのを横に避けて、廊下を拭いた。
雑巾の裏に、ご飯粒がびっしりと張り付く。なんだか、虫みたいで気持ち悪い。
次に掃除機を持ってきて小さな破片を吸い込む。ゴリゴリと変な音がする。よく見ると、タイルとタイルの間に挟まってしまった残飯がまだあるようでそれは掃除機では吸えないみたいだ。もう一度雑巾掛けしなければ。
なんとか終わらせてから、手のひらが痛かったので見る。
指の先から血が出ていた。赤い赤い滴。球体になるべく傷口からこんもりと飛び出す、それ。
――ああ、まるで今の僕みたいだな。
その時、笑いながら思った。