{懐かしの}●●天空のエスカフローネ●●02

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1名無しさん@ピンキー
前スレが落ちて1年余。
リマスターDVD箱も発売されて1ヶ月、立てるなら今だと思いました。
スレタイをTV版に合わせて変更させていただきました。
本スレでは恥ずかしくて語れないようなすけべな話、すけべな話やすけべな話等
存分に披露し合いましょう。

前スレ
{懐かしの}●●エスカフローネ●●
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1031318728/l50

もし13レスの壁を破れたら……
私のファーストキス、お願いします!
2名無しさん@ピンキー:2007/12/23(日) 13:09:09 ID:lE6cv6LS
天野とひとみかアレンとひとみの話を書いてほしい
3名無しさん@ピンキー:2007/12/23(日) 14:09:40 ID:ehISPKSD
アレンさんはエロいですね。
久々に見たら黄金律大作戦の回に「アレン兄貴の超舌テクで
腰が抜けてへたり込むひとみ」のカットが無かったので驚きました。
どうやら脳内だったみたいです。脚がガクガクする描写までしっかり覚えているのにねえ。

でも本編でそういうのやらないから却ってエロいような気がします。
天野先輩のエロも見てみたいですね。本編じゃあほとんど出てこないんで。
やっぱりダメ人間なんだろうか。
4名無しさん@ピンキー:2007/12/23(日) 17:16:28 ID:lWB8YQgI
リマスター遅ればせながら今日届いた。
これでVHSを見返す手間が省ける。
年末年始あたりにアレンとひとみで書いてみる。
5名無しさん@ピンキー:2007/12/23(日) 17:35:16 ID:ehISPKSD
>>4
全裸でお待ち申し上げております!
6名無しさん@ピンキー:2007/12/23(日) 20:01:32 ID:yHpQkEFZ
全裸にならんでも…w
7名無しさん@ピンキー:2007/12/24(月) 08:37:55 ID:8IRPz5Sm
>4
楽しみにしているので頑張って!
8名無しさん@ピンキー:2007/12/24(月) 21:25:41 ID:ejIrTz30
>>4
VHSも持ってるのか。すげえ。

DVD1話につきOP、前半、アイキャッチから、ED、予告と
5つに切ってあってあまりの親切さにびっくりしたよ。
いつの間にそんな便利な世の中になったんだ。ついでに運命改変装置も作って欲しい。
9名無しさん@ピンキー:2007/12/26(水) 20:19:53 ID:KnHoZK3j
ミラーナ姫も結構エロくて好きだった。
ドライデンとは結婚後エッチしたのだろうか?
10名無しさん@ピンキー:2007/12/26(水) 21:36:47 ID:f77VOpoz
ヤッてそうでもあり、ヤッてなさそうでもあり。
どっちも有り得そうだけど何となくヤッてないような?
それはそれでミラーナが変に思うかな。
11名無しさん@ピンキー:2007/12/26(水) 21:38:06 ID:M+useQKk BE:247321229-2BP(1000)
hssh
12名無しさん@ピンキー:2007/12/28(金) 14:39:05 ID:tAVv9esl
バァンとひとみのカップルは大好きだけど
エロはアレンとひとみが良い。
なので>4さん楽しみにしてます。
13名無しさん@ピンキー:2007/12/31(月) 21:39:53 ID:FFp1lzme
ミラーナとドライデンは、婚儀が中断してるからなー
初床入りはしてないと思う。
14名無しさん@ピンキー:2008/01/03(木) 02:35:00 ID:ytu69IXT
4様まだかな〜
ひとみはエロい衣装がないよね。
せいぜいノースリーブのドレスぐらい?
水着着て欲しかった。
15名無しさん@ピンキー:2008/01/03(木) 22:42:52 ID:pQUqtqK/
明けましておめでとうございます。投下を宣言したものです。
遅れてしまい申し訳ないです。
スレを探したら下がりまくっていたので、あげます。
次からアレン×ひとみ、投下します。
天野先輩が酷い人なので、好きな人は読まれないことをオススメします。
16名無しさん@ピンキー:2008/01/03(木) 22:45:14 ID:pQUqtqK/
 今思えば、あれは恋と呼べるような、綺麗なものだっただろうか。
 ひとみはアレンの腕の中で、ぼんやりと考えていた。

 ガイアに来てから随分経つ。
 天空の騎士アレンと出会ってから感じる胸の高鳴りは、天野先輩へ抱いていたものとは違うような気がしていた。

「ひとみ?」
 黙りこくるひとみを心配して、アレンが優しく声をかけてくれる。ひとみはすぐに顔をあげ、なんでもないと首を振った。
「私の腕の中で、誰のことを考えていたのかな」
「そんな……」
 目を泳がせると、アレンはふっと笑った。
「何も考えられなくしてあげようか」
「えっ? あ、アレンさ……」
 視界がぐるりと反転した。月明かり差し込む窓。書物の詰まった本棚。背中に感じるベッドのシーツ。
 ぱらぱらと降ってくる、金色の――…


『神崎……』


 近づいてくるアレンの顔に、重なるものがあった。
 夢中で手を伸ばして首に抱きつこうとすると、決まってあの人はやんわりとそれを制し、ひとみの太ももをさらりと撫でるのだ。
 身をすくませた隙に、端正な顔は撫でた部分に顔を寄せ、熱い唇をそっと落とした。

『どうして、キスしてくれないんですか』
 ぞくぞくと震えながら、ひとみは訴えた。
 彼はひとみの胸に顔を埋め、泉の中を指でかきまわしながら、意地悪く、官能的な声で囁いた。

『俺はね、神埼を焦らすのが楽しくて仕方ないんだ。だって知ってるか? 今の神埼、すごく……』
『ひぁっ!?』

 膨らみ始めた花の芯をぎゅっとつままれて、ひとみは悲鳴をあげた。慌ててその口を手で覆いながら、彼はくつくつと笑う。

『すごく、いやらしい顔してる……』

 答えになってないよ、先輩。
 どうして?
 ねえ、どうしてなの……?
17名無しさん@ピンキー:2008/01/03(木) 22:48:45 ID:pQUqtqK/
「また、誰かのこと考えてる?」
「あ……」

 いつの間にか、囁いても充分に聞こえる距離まで、アレンの顔が迫っていた。
 そうだ。ここは地球じゃない。先輩に何度も弄ばれた、放課後の保健室じゃない。
 アレンさんの、部屋だ――

「そうやって目の前にいるのにどこかへ行ってしまわれると、私はとても不安になるよ。
 昔からそうなんだ。私が愛する女性は、いつも遠くへ行ってしまう……」
 アレンはそうつぶやくと、そっと唇を重ねてきた。
 雨の中、橋の上で見つめあい、抱き合い、初めてキスをしたことを思い出す。
 先輩はくれなかったキスを、彼はくれた。愛情と共に。
 そうして雨に打たれた体を寄せ合いながら、ふたりは当たり前のようにアレンの部屋まで来たのだ。
「君まで消えないでくれ。ひとみ」
「アレンさん……」
「君を愛している」
 吐息と共に吐き出された甘美な言葉に、ひとみは酔いしれた。
「あたしも、好きです。アレンさんのこと……」
「では、その誓いを」
 アレンはひとみの手を取り、指の先に口付ける。
 ひとみがぽっと頬を染めるのを横目で見ると、含み笑いをしてから、その指に舌を伸ばしてきた。
「え!?」
 ひとみが驚いて手を引っ込めようとしたが、
 アレンは固くひとみの手を握り締め、指を舐めるのをやめなかった。
 先端から根元まで、ねっとりと舌を這わせ、わざと見せ付けるようにくちゅりと音をさせる。
 ひとみが起き上がろうとすると、素早く唇を重ねた。
「ん……っ」
 潤った舌がぬるりと侵入してきた。息が荒くなり、呼吸をするため自然と舌を受け入れる形で唇を開くと、
そこへどっと唾液が流れ込んできた。
「んく、んぅっ、ん……」
 驚いてそれを飲み下すと、アレンは起き上がり、糸を引いてひとみから顔を離した。
「は、はぁっ、はぁ……」
「ひとみ……」
 アレンはひとみを抱き寄せ、服の下から手を入れる。雨で塗れた半乾きの制服は重かった。ひとみは慌てて言った。
「あたし、脱ぎますっ。だ、だから向こう向いてて下さいっ」
 アレンはきょとんとした後、にこりと笑った。
「君のきれいな体をいつまでも見ていたいね」
「え!? あぁああの、でもその」
「それに、待てそうにない」
 アレンは制服の上を強引にたくしあげると、下着に覆われた双丘に目を注いだ。
 ひとみがますます恥ずかしくなって身をよじろうとしても、力には敵わない。
「綺麗な形だ。……初めてかい?」
「!」
 恐らく、アレンはひとみが経験がないものと分かっていてそんなことを訊ねたに違いなかった。
 ひとみはそんなアレンの意思とは反対に息を呑み、わずかにうつむく。
 アレンは知らず、頭の芯が焼け付くような、ジリリとした痛みを感じ、
 制服をそのまま上へ引っ張り上げ、再度ひとみを押し倒した。
18名無しさん@ピンキー:2008/01/03(木) 22:50:41 ID:pQUqtqK/
「きゃあっ!?」
 どさりと倒れ、丸まった制服は両腕に縫いとめられた。雨に塗れたそれは、簡易な拘束具に近かった。
 アレンは下着をずりおろし、その弾みで揺れる柔らかなふくらみに手を当て、硬くなった先端へ唇を寄せ、含む。
「あっ、アレンさんっ」
 ひとみが喘ぐ。舌で先端を転がすようにしてやると、ひとみの腰がじれったそうに左右に揺れた。
 スカートの中に手を入れると、すでに雨ではない粘着質な液が指先に流れた。
「君が考えていた男は……」
 嫉妬のあまり、声が低くなっていることにアレンは気づいていなかった。
 あまりにも濡れているため肌の色が透けるほどになっている下着の上から、アレンはやや強引に指を差しいれる。
 つぷんと簡単に入った更に先を行こうとすれば、案外抵抗なく、指は第二関節までずっぽりと収まった。
「あぁぁああっ、あぁんっ」
「君の体を、こんなにしたのか」
 悶えるひとみを仇の様に見下ろすと、アレンは素早く服を脱いだ。飛び出てくる怒張に手を添え何度かしごくと、
 ふと思いついたように、先ほど自分が唾液で汚したひとみの手をつかみ、それに触れさせる。
 片方の手はすでに使い物にならない下着を足首にまでおろしていた。茂みをかきわけ、泉を探り当てると、
 膨れ上がる蕾をこねくりまわす。
 背筋に電流が一気に流れ、ひとみは嬌声をあげた。
「は、あぁあっ、ん、あ!」
「面白くないものだね。君の体を知っている男がいるというのは」
 淡々と言いながらも、ひとみに自身を握らせる。
 引っ張り上げられ、片手を背中の後ろに置いたまま、
 ひとみは促されるまま濡れた手を上下に動かした。
 ぬるぬるとした手の動きは少々ぎこちなく、時折小指の爪が引っかかった。
 そのわずかな刺激がアレンの息を荒げさせる。
 ひとみの体を抱き寄せ、更に密着させる。ぐちゅんと水音をさせ、茂みの奥を更に指が進むたび、
 ひとみはぎゅうっと怒張を握り締めた。
「ん……っ」
 思わず達してしまいそうになり、アレンは咄嗟にひとみの頭をつかむとぐいぐいと肉棒に押し付けた。
 ひとみは背中の後ろに置いていた手を放し、両手でアレンのモノを包むと、大した抵抗も見せずにそれを口に含んだ。
 その手馴れた所作が憎らしかった。幻の月で、何度ひとみは知らない男のものをくわえたのだろう?
 そんなことがよぎり、アレンはぐっとひとみの頭を押さえ、一気に放出した。
「んぶっ、う、うううっ、う……っ」
 思っていたより量があったようだ。そういえば、自身で慰めることをやめてから、どれ程経っていただろうか。
 ひとみは口の端から零れ出る液を、必死で手で拭おうとしていた。全て飲めとでも言われていた名残だろうか?
 そんな些細なことにすら、我を失いそうだった。
 アレンはひとみの頭から手をどけ、朦朧とするひとみの腰を抱いた。
 口の中のものを必死で飲む下そうとするひとみの顔は、妙に官能をそそられる。この顔も見たのだろうか。
 男なら誰でも欲情しそうになる、このいやらしい顔を。
 つかんだ腰を持ち上げて、未だそそりたつ怒張の上にあてがった。
 ごくりと喉が鳴り、嚥下したひとみは口を押さえていたが、アレンがしようとしていることを知り、
 ややためらいがちに、両手をアレンの肩に乗せる。
「……幻の月に、男がいる?」
 入れる前に、アレンは聞いた。
 ひとみはわずかに目を見開いたが、ふるふると首を振った。
「もう、忘れました」
 君は悪魔のようだ。
 アレンは自嘲気味に微笑んだ。
「私の中に、閉じ込めてあげるよ」
 天使のように柔らかく微笑んで。

「ああああああああああああっ!!」
 一気に根元まで押し込んだ。
19名無しさん@ピンキー:2008/01/03(木) 22:55:04 ID:pQUqtqK/
 肩に置いた手が強く握られて、爪が皮膚に食い込んでくる。
 いっそ押し倒して欲望のままに腰を動かし続けたほうがどんなに楽か分からなかった。
 だがアレンは、ひとみの腰と尻をモノのように掴んで、前後左右に揺さぶった。
 めちゃくちゃに揺れる肉の塊に歯を立て、その度に降ってくる悲鳴を聞くと更に煽られ、
 やめるどころかますます強く噛み付いてしまう。
「やあああっ! 痛いっ! 痛い……っ!」
 のけぞって叫ぶひとみの声が、言葉が、アレンには何より嬉しかった。

 痛がればいい。処女のように。
 初めて君を抱いたのは、私なのだから。

 自分でもおかしいと思うのに、止めることができないでいた。
 ろくでなしの父親は、幻の月の女に囚われ、あげく妻を愛しているとのたまった。
 最後の最後で救われた母親は死んだ。
 妹は神隠しに会い、想い人はフレイドの王のものになり、愛を与えて死んだ。
 ……どうして正気を保てて居られるか?
 ようやく手に入れた、愛する女。
 とっくに他の男のものになっていようが、もう関係ない。
「逃がさない……っ」
 じわりとにじんでくるものに吸い付くと、血の味がした。
 アレンは乳飲み子のようにそれにむしゃぶりつく。音を立て、更にひとみの腰を強く揺さぶる。
「アレンさんっ、アレン……っ」
 ぎゅうっと、ひとみの中が締まる。ひとみのほうが、アレンを逃がさないとでも言うように。
 アレンは笑って顔を離すと、半分意識のないひとみの顔をうっとりと眺めた。

「私の鳥かごに閉じ込めてあげよう。……永遠に」

 ひとみの両膝の裏に手を差し入れ、どさりと倒れこむ。
 汗にまみれたひとみの体が、夜空の月の光を浴びて、てらてらとしていた。
 アレンは一度だけ顔に張り付いた髪をどけると、ひゅっと息を吸い込み、力の限りの律動を繰り返した。

「あっ、あ、ああ、あ、あ」
 揺れるたびに声が漏れ、ギシギシとベッドが揺れる。息ができない。目の前で火花が散る。
 あの人はこんな風にしてくれなかった。
 後ろからするのが好きだと言って、顔をあんまり見てくれなかった。歯止めが利かなくなるからと。
 それでよかったのに。我を忘れるほど、求めて欲しかったのに。
 これは正統なお付き合いじゃない。
 放課後の保健室の、エッチなお遊び。
 そんな関係から脱したかった。
 だから、なんでもした。
 口でするのも、あんまり好きじゃないけど我慢した。全部飲み干せといわれたら、言われたようにした。
 卑猥な言葉も、命令されるまま口にした。恥ずかしくてうつむくと、それがヤバイと言って、無理やり入ってきたこともあった。
 それでも、キスだけはしてくれなかった。
 だから、あの時。

 ――あたしのファーストキス、お願いします!

 ひとみは頭の中が真っ白になる寸前、両腕を伸ばした。
 金の髪がそよいで、パラパラと降ってくる。
「ひとみ……っ」
 どくん、と中のものが波打った後、目の前の人は名を呼び、唇を求めた。
 まだ口の中に残るものがあるのにも構わずに、夢中で舌を入れてくる。
 ああ……
 それを必死で受け入れながら、ひとみは安堵の息を洩らした。
 それすらも飲み込む勢いで求めてくるこの人を。

 もう一生、放してはいけないと思った。
20名無しさん@ピンキー:2008/01/03(木) 22:58:11 ID:pQUqtqK/
「平気か……?」
 互いに汗の臭いがする身体を寄せ合っていると、アレンが心配そうに囁いてきた。
 ひとみはこくんとうなずいて、アレンの胸に頬を寄せる。
「すごく、嬉しかった……」
 涙がにじむ。
 スンと鼻をすすると、アレンは少々気まずそうに更に言った。
「ひとみ」
「? はい」
「私のこの質問には、いくつか意味がある」
「……はい」
 目じりを拭いながら顔を上げると、アレンは見たこともないような、少年のような顔で笑っていた。
「ひとつめは、君にかなり無茶をさせてしまったことは平気か? という意味」
「あ、はい。あの、あたし、平気です」
 真っ赤になって挙動不審になるひとみを見下ろし、アレンは目を細める。
「ふたつめは」
 涙を拭ったひとみの手を取り、頬に当てた。
「君に結婚の約束をしても平気か? という意味」
「え!?」
 手の平にそっと口付けると、アレンは起き上がった。
 くしゃくしゃになった金の髪。汗に光る身体が月光に浮かび上がる。
 ひとみも自然に上体を起こしながら、なんて美しいひとだろうと呆然と思った。
 何故このひとを、あのひとと似ているなどと思ったのだろうか。
「天空の騎士、アレン・シェザールは」
 ひとみの手を取ったまま、アレンはまっすぐにひとみを見つめた。
「神崎ひとみを、生涯この命に代えても守り抜くと誓う」
「アレンさん……!」
「だから君には、帰って欲しくないんだ」
 アレンはそう言って、手の甲に口付ける。
 そこから伝わるアレンの心が、ひとみの全身に甘く浸透していく。
「みっつめは、故郷を捨てることになるが、平気か? という意味」
「あ、の」
 戸惑いが手から伝わってくる。
 それでも、逃がさない。
「最後は」
 ひとみを抱きしめ、耳元で囁いた。
「君の返事は聞かないが、平気か? という意味」





終わり
21名無しさん@ピンキー:2008/01/03(木) 23:01:57 ID:pQUqtqK/
以上です。
すいません。ageるといったレスがageてなかったので
次でageてしまいました。
アレンさんは最初は格好よかったのに女運のない人で終わってしまったので、
ちょっと必死にさせました。こんなのアレンさんじゃないと思われたらすみません。
それでは、失礼します。
22名無しさん@ピンキー:2008/01/04(金) 02:06:28 ID:iDdm6m/4
>>21
おお>>4様!お待ちしておりました。あけましておめでとうございます。
超GJです!!

大暴落後の底値のアレンさんが好きなので、あの器のちっささがねっちょりと描かれてて
スゲエ人間臭くて個人的には大満足ですよ。
それでいていけ好かねえ気障野郎っぷりも健在とは!うまい、うますぎるよー!
ひとみの天然魔性っぷりもまた素晴らしいです。
鬼畜天野先輩がエロゲ的で笑えました。西日射す保健室であんな事やこんな事を…
何やってんだ先輩!ブラボー!!

正月からいいものを見せてもらいました。ありがとう!
よかったらまた書いてください!
23名無しさん@ピンキー:2008/01/05(土) 09:09:17 ID:IUzQkJ+a
>21
すんごく興奮しました!これは良い!
またエスカで書いてほしいです。
24名無しさん@ピンキー:2008/01/06(日) 04:49:44 ID:p1W4jW/x
>>21
GJすぎてため息しかでないよ…はぁ〜ん
キャラが違和感なく、そのまんまで感動した!
次回も期待してます!
25名無しさん@ピンキー:2008/01/10(木) 22:55:52 ID:7kAxuxfS
>>21
バァンがアレンに嫉妬するのはありえると思うけど、
アレンが天野に、というのは意外で面白かった。
ファーストキスの意味も良いですね。
エロいし、原作を上手く扱っていて素晴らしかったです。
そのうちまた書いてほしいです。
26名無しさん@ピンキー:2008/01/11(金) 19:42:35 ID:0DGIMkgN
>>16-21
あなたが神か!?
何かもう最高過ぎてお腹いっぱいです。
ストーリーがすごく良かったです。
特に最後のアレンのプロポーズがカッコ良くて萌えました。
ひとみも可愛い。
27名無しさん@ピンキー:2008/01/15(火) 23:59:07 ID:kmtuRzWV
別分岐妄想ものすごい楽しいんだけど
ちゃんとした形にするのは物凄い難しいね。
>>21は偉大すぎる。
28名無しさん@ピンキー:2008/01/19(土) 23:54:16 ID:mJnAZC+4
オリキャラはどこらへんまでOK?
29名無しさん@ピンキー:2008/01/23(水) 04:05:25 ID:aKbKw3rO
誰かセレナものを書いてくれまいか
30名無しさん@ピンキー:2008/01/23(水) 07:09:18 ID:FxuDCQfo
セレナと言うと相手は誰がいいかのう
31名無しさん@ピンキー:2008/01/28(月) 18:52:42 ID:MbDnU7EK
幼セレナ
 ザイバッハ魔導師の皆さん、ジャジュカ、ドルンカーク様、兄貴

ディランドゥセレナ
 ザイバッハ魔導師の皆さん、ジャジュカ、兄貴、
 竜撃隊の皆さん、ドルンカーク様、フォルケン兄貴、ゾンギ

ED後のセレナ
 アレンお兄様、兄貴の部下の皆さん(特にガデス)、姫様方、
 アストリア国王様、竜撃隊の皆さん(霊)、ドルンカーク様(霊)、シド王子


ありそうなのを書いてみたよ。
個人的にはED後のセレナは夢が拡がり過ぎてたまらんです。
32名無しさん@ピンキー:2008/02/05(火) 17:13:51 ID:jXjWLPVm
hoshu
33名無しさん@ピンキー:2008/02/13(水) 11:59:58 ID:tqgREPwi
これは?携帯だけだけど
ttp://courseagain.com
34名無しさん@ピンキー:2008/02/23(土) 18:26:53 ID:YW3AMK2T
脳内でセレナいじりまくってる時
高山声が再生された瞬間正気に戻ってしまう…
35名無しさん@ピンキー:2008/03/02(日) 19:42:10 ID:UKDTyRqQ
ほっしゅ

>>4が神すぎて気後れしてたけど
最近動きが無さすぎて寂しいから
拙文ながら書き始めたよ

来週までに投下できたらいいな
36名無しさん@ピンキー:2008/03/03(月) 00:34:36 ID:dMr5ZVl3
>35
楽しみにしてる
37名無しさん@ピンキー:2008/03/03(月) 14:09:19 ID:FV6WCMXg
女とヤってお金が貰える♪
まさに男の夢の仕事!
出張ホストっておいしくない?
ttp://monitorguide.biz/2ch/01_info.html
38名無しさん@ピンキー:2008/03/12(水) 22:25:00 ID:3IlrcPv0
>>35
待ってるよ!
39名無しさん@ピンキー:2008/03/14(金) 21:13:38 ID:3VPmZlI2
ホシュ
40名無しさん@ピンキー:2008/03/19(水) 23:28:15 ID:Qmzoibm5
ほしゅ
41名無しさん@ピンキー:2008/03/22(土) 02:32:55 ID:z9TrU5uh
本スレで結構似たようなこと考えてる人がいたのを知って嬉しかったので
セレナ×バァン書いてみたいんだが、ED後2〜3年くらいで妄想してるんで
オリジナル設定てんこもりになってしまう。
42名無しさん@ピンキー:2008/03/22(土) 19:36:35 ID:9sfJQb6k
>>41
読みたいな。
43名無しさん@ピンキー:2008/03/23(日) 23:29:16 ID:LP9kka/N
うーん、途中ディラの性格復活したら怖いなw
44名無しさん@ピンキー:2008/03/24(月) 21:17:05 ID:klOxv7ei
前スレにはセレナとアレンてのがあったな。
45名無しさん@ピンキー:2008/03/25(火) 17:47:24 ID:CazpIHHw
今でも時々読み返すよ。うまかったねえ。
46名無しさん@ピンキー:2008/03/26(水) 01:00:53 ID:KAyif2Zl
あったっけ?
兄上とエリ・ナリ姉妹のは覚えてるが。
47名無しさん@ピンキー:2008/04/02(水) 16:22:23 ID:Oecl4fhC
>>21様、私は神をみました‥素晴らしいです アレンは嫌いだったのに惚れた俺が今、此処にいます
48名無しさん@ピンキー:2008/04/03(木) 17:25:21 ID:P1c4E4r+
>>42
ありがとう。チャレンジしてみる。ほんで年内中にこっそり貼る。
でも他の人のも読みたいなあ。

>>35はどうなりましたか…
49名無しさん@ピンキー:2008/04/04(金) 04:04:39 ID:L2qbJ2Sz
>>41
バァンとセレナ、自分も気になってた
投下待ってる!!
50名無しさん@ピンキー:2008/04/10(木) 11:25:35 ID:mVTJhR3X
ほしゅ
51名無しさん@ピンキー:2008/04/14(月) 15:20:52 ID:viY5mghK
ディランドゥとミラーナも・・よくない?
52名無しさん@ピンキー:2008/04/16(水) 14:31:50 ID:8UQkjeNM
ひとみとプラクトゥ・・・
53名無しさん@ピンキー:2008/04/17(木) 00:21:44 ID:OJHMCl+m
もうディランドゥとセレナでいいよ
54名無しさん@ピンキー:2008/04/21(月) 15:34:35 ID:9QKaNyY0
>>51
あまりにアクロバティックで想像できないが、心躍りますね。

読みたいです。書いてくだされ!
55名無しさん@ピンキー:2008/04/21(月) 18:33:56 ID:VKr8mhLJ
ディランドゥ×セレナ
セレナ×竜撃隊の皆さん
は考え付いたが、
ディランドゥとミラーナとなると…
物凄い想像力を逞しくしないとならんなw
56名無しさん@ピンキー:2008/05/01(木) 03:34:39 ID:CTa8zQuG
直接絡むシーン無いもんなあ。難易度高えー
57名無しさん@ピンキー:2008/05/04(日) 21:45:06 ID:otMPY8ar
ディラとミラ‥いいっすね
58名無しさん@ピンキー:2008/05/04(日) 21:48:10 ID:xDnO+OAa
いや、ディラとメルルでしょ
59名無しさん@ピンキー:2008/05/04(日) 22:50:13 ID:UyE4eUdc
(´ε`;)ウーン…混乱してきたぞ
DVDでもう一度あの世界を見てこよう
60名無しさん@ピンキー:2008/05/05(月) 13:14:44 ID:UnS7aVdY
ディランドゥ様が好きです☆おばちゃんたちも4様ぢゃなくてディランドゥ様に応援を☆☆
61名無しさん@ピンキー:2008/05/06(火) 16:54:37 ID:zES8m4iV
お久しぶりです。
投下した者です。
セレナ×ジャジュカ
セレナ×ミゲルができましたので、投下いたします。
セレナ×竜撃隊の皆さんは今回は無理でした。
セレナが魔性の女?になっていますので、清純なセレナを見たい方は、
読まれないことをおすすめします。
62名無しさん@ピンキー:2008/05/06(火) 16:55:34 ID:zES8m4iV
 これは罰なんだ。

 ――ひとりで遊びに行っちゃいけません。
 ――必ず、お兄様と一緒に行くのよ。

 何度も何度も、お母様に言われていたのに。
 だから私は、罰を受けてるの。
 いけない子なの。
63名無しさん@ピンキー:2008/05/06(火) 16:56:16 ID:zES8m4iV
「……可哀想に。髪を切られたのか」

 犬のおじさんはそう言って、私の髪を悲しそうに撫でた。
 泣いてる私は、罰だから、しょうがないのとは言えない。しゃくりあげる喉が、言っちゃいけま

せんって、言ってるみたい。
 あのね、怖いおじさんがたくさん来て、私の身体を皆で触ったの。
 大きな冷たい箱に入れられて、たくさん針を刺されたの。
 怖かったけど、痛かったけど、泣くしかできなかったの。
 いけない子。
 お母様の言いつけを破った。
 だから私は、言う通りにしなくちゃいけないの。


「大丈夫。私はいつも、傍にいるよ」

 犬のおじさんは、泣いてる私を抱きしめる。あったかい。ふわふわしてる。大好きなおじさん。
 だけど私は悪い子だから、おじさんに優しくされちゃ、いけないの。
 大好きだって、思っちゃいけない。
 もっと抱っこしてって、言っちゃいけない。
 だって私は、いけない子なの。


 ――おまえはウソツキだ。


 誰かが囁く。どうして?


 ――おまえは卑怯者だ。


 誰かがつぶやく。どうして?


 ――本当は、全然いけないだなんて思ってないからさ。


 誰かが言った。何故?


 ――だって見てご覧。自分の姿をさ。


 誰かがあざ笑う。何を?


 ――おまえは大好きな犬のおじさんに……ククッ


 誰かが笑う。……誰を?


 ――おまえがいるから、みんながおかしくなるんだ。


 誰かが……
64名無しさん@ピンキー:2008/05/06(火) 16:59:44 ID:zES8m4iV
「ジャジュカ。もっとよ……」

 気づくと、私は全身を柔らかい何かに包まれたまま、息を乱れさせ、懇願していた。
 荒い息遣いと共に、ぬるりとした感触が、太ももを這う。甘い痺れが広がって、私はうめき声を出す。
「あぁ……やっぱりおまえが一番よ」
 恍惚としながら誉めてやれば、忠実な番犬は、嬉しそうにその舌をぴちゃぴちゃと濡らす。
「ご主人様……」
 滴る涎がぬるりと私の腿を伝って行く。
 膝を立て、騎士が忠誠を誓う者の衣にするように口付けをする私の犬は、
こらえきれないといった顔で私を眺め、その先をとねだるかのように、だらだらと涎を垂らす。
「ん……」
 川の行き着く先がどこに到達するかわかりきった上で、犬はとろとろと小川を私の泉へと注ぎ込む。
 つっと流れるその生ぬるい粘液は、こんこんと沸き出でる私の中へと侵入を始める。
「いけない子…………っ、あっ」
 躾のなってない犬は、猛獣のような唸り声を上げたかと思えば、
びちゃりと私の茂みに顔を突っ込んだ。
 細面の鼻先がぐずるように私の中に入ろうとする。
鼻腔から漏れる息ですら刺激となって、私は身をくねらせて嬌声を上げる。
「ジャジュカ……まだだめっ! 『待て』と言ったでしょ。あんっ!」
 鋭い牙が、やんわりと私の肉弁を甘噛みしてきた。
 飼い犬が手を噛むとはこういうことを言うのかしら。後でたっぷり、お仕置きをしてやらなくちゃ。
 一瞬よぎった黒い考えを見透かすように、犬は私の両の足を持ち上げ、
秘部がよく見えるようにすると、容赦なく舌と牙で私を責める。それはがっつく犬そのもので、
餌になった私は、今だけそれを許してやることにした。
「あぁっ! す、すご……っ、ん、んうぅっ、もっ、もっとよ……っ、あっ、あ……っ」
「ご主人様、ご主人様……っ、もう、もう耐え切れない……っ」
 弓なりにしなる私の身体を抱きしめて、濡れた顔を私の頬に摺り寄せながら、犬は切羽詰った声を出した。
 柔らかな毛並み。その全てが私の五感を刺激する。とろとろ溢れる泉に染まっていく淫らな私の忠犬。
 ぞくん、ぞくんと泉が脈打ち、私を官能の渦へと呼び寄せる。
犬の中心から猛ったモノが、私の中へ入りたいと、その存在を私の腹にこすりつける。
「ああ、困った子。私の可愛い犬……」
 ぺろぺろと私の顔をなめながら、柔らかな手足で私の身体中を撫で回す犬。
 ああ、どうしてこんなに心地いいのだろう。
 私は罰を受けなくてはならないのに。
「入りたい……っ、あなたの中に、ご主人様……っ」
 ぐっと肩を押し付けられ、犬は狂ったように唸ると、自身を熱く握り締め、私の中へと――
65名無しさん@ピンキー:2008/05/06(火) 17:02:41 ID:zES8m4iV
「何をしている! このケダモノが!!」

 ぐちゃぐちゃになろうとしている私たちへ、水を浴びせるような第一声が響いた。
 まどろみの中にいる私とは違い、犬はぱっと我に返り、声の主を睨みつける。
 その姿は主人から身を守る忠犬そのものだったが、次第に力を失って行くのが、手に取るようにわかった。

「ミゲル殿か……」
 その声には落胆と失望と、かすかな妬みが混じっていた。
 犬――ジャジュカは、裸のままで、私の上からすっとどき、ベッドから降りるとすくっと立った。
 獣人であるジャジュカは、服など着なくとも何らおかしいところはない。
 彼の事をよく知っている私は、鎧姿の彼を見て、笑ってしまうことさえあったのだ。
 ぐっしょりと濡れる犬の姿。情事の余韻を残した香りをまとった獣は、ぞっとするほど美しかった。
「貴様ごときが、ディランドゥ様の肌に触れることが許されると思っているのか! この獣が!」
 ミゲルは青ざめ、ぶるぶると震えている。
 ……ディランドゥ?
 訝しがる私をよそに、ジャジュカは少々嘲りを含ませた声で言った。
「誰の事です。ここはセレナ様の寝室ですが。……貴殿は場所を間違えたのではあるまいか」
「黙れっ!!」
 雷のような怒号に、私は恐ろしくて身をすくませた。
 そんな私をわざとらしく見下ろしたジャジュカは、
「セレナ様。ご安心下さい。私が守って差し上げます」
「その方に触れるなっ!!」
 労わるように私のむきだしの肩に触れようとするジャジュカに向かって、
ミゲルはつかつかと歩み寄ると、乱暴にその手を振り払った。
 薄明かりの灯る寝室の中で、ジャジュカの体毛がひらひらと舞うのが見える。
「獣の臭いが――!」
 ミゲルはそう言うと、私の髪に顔を寄せて吐き捨てる。
「ミゲル……なんなの? どうしたの……」
「あなたもあなただ!」
 何もわからない私を苛々と見下ろし、ミゲルは泣きそうな顔になる。
 どうして、そんな顔をするの?
 私は、何かいけないことをしたの?
 私まで泣きそうになった。
「お寂しいならいつでも呼んで下さいと、私は日頃から言っていたはずです!
 何もこんなケダモノに、相手をさせることはなかったんだ!」
「ジャジュカは私の大切な人よ。どうしてそんなことを言うの?」
 こわごわとそう言うと、ミゲルの顔の後ろで、ジャジュカが鼻を鳴らして笑うのが見えた。
「人なんかじゃありません!」
 ミゲルはそう叫ぶと、にやにやしているジャジュカにすらりと剣を向けた。
「いやっ!」
 私が悲鳴をあげても、ふたりは動じない。
「ここから出て行け!」
「……いつも思っていたのだが」
 ジャジュカは涼しい顔でミゲルに言った。
「何故、貴殿はここぞという時に現れる」
「……なんだと」
「獣に抱かれるセレナ様のお姿に、欲情しているからではないのか」
「貴様……!」
 ぐいと鼻先に剣を突きつけられても、ジャジュカは余裕の笑みを崩さなかった。
66名無しさん@ピンキー:2008/05/06(火) 17:03:35 ID:zES8m4iV
「だから貴殿は、この後すんなりその方を抱けるのだ。……ケダモノはどちらだ。この人でなし」
「出て行けっ!!!!」
 光の残像が横凪に走るのがかろうじて見えた。空気が流れ、濡れた私の髪が泳ぐ。
「慰み者にされるその方を哀れと思うなら、抑えるのも時に必要ではないのか。
 私はセレナ様に必要とされている。この差は埋まらないよ」
 体毛がハラハラと舞い落ちる中、ジャジュカはどこか哀れむような声で言った。
「出て行けというのが……!!」
 ミゲルの背中が怒りで震える。私は咄嗟にそれにしがみついた。
「やめてっ! 私がいけない子だから悪いの! ジャジュカ! 逃げて!」
「仰せのままに、ご主人様」
「消えうせろっ!!」
 ジャジュカが一礼した気配があった。けれどミゲルにしがみつく私にはそれが見えない。
 ミゲルの身体は火の様に熱い。服越しからでもわかってしまう。素肌は鉄板のようなのだろうか。
……想像するだけで、濡れてくる。
 犬が去るまでミゲルは出入り口を睨みつけていた。
 ぱたんとドアが閉まると、私を物のように振り払い、どさりとベッドに押し倒す。
 息がかかる距離で、彼は叫んだ。
「約束してください。二度とあのような者に肌を許しはしないと……!」



 私はずるい女だ。



「……ええ」



 そしてそれを、この男は知っている。



「もう二度と、彼を頼ったりしないわ」



 ふたりとも、知っている。
67名無しさん@ピンキー:2008/05/06(火) 17:09:57 ID:zES8m4iV
 獣の臭いが染み付いたベッドにはいたくないと、ミゲルは私を床の上で四つんばいにさせた。
「犬に抱かれるのはどういうご気分でしたか、ディランドゥ様」
「違う。私はセレナよ。誰なの、知らない名前で私を抱かないで!」
「こうやって抱かれたかったのでしょう」
 ミゲルは私の言葉を聞かずに、突然押し入ってきた。
 ずぶんと音がしそうな太さ。私は彼に何も刺激を与えていないのに……
「あう……っ! ふ、あ、大き……っ」
 拳を握り締めて耐えると、彼は私の腰を両手でつかんだ。
「犬なんかに、あなたの中を許しはしない……っ!」
 ずぶりと引き抜かれ、肉ごともって行かれそうになる。私は吐き気をこらえながら息を殺す。
「あ……っ!」
「んあっ!」
 先端があてがわれたと思った瞬間、息が止まる。思考が止まる。
 突き上げるものが大きすぎて、喉が詰まりそうに苦しい。
 私は今、死んだのだ。
 根元まで一気に入ってきたミゲルは息を荒げた。
「この感触まで、犬に渡してたまるものか……っ、あぁっ、どうして……っ」
「は、あ……っ、苦しい……っ、苦しいわ、ミゲル……!」
 私は肩越しに振り返り、早く抜いてくれと懇願した。
68名無しさん@ピンキー:2008/05/06(火) 17:10:39 ID:zES8m4iV
「苦しい……?」
 ミゲルは私をゴミでも見るような目で見下ろした。
「本当の苦しみもわからないあなたが、何故その言葉を口にする……」
 ずるりっと、また彼は私の中から出て行った。ほっと安堵の息を漏らす暇もなかった。
 ズンッと突き上げる衝撃が、脳天を揺らす。
 あまりのことに快感すら抱ける余裕がない。
 ただ、苦しいだけだ。
「あ………っ、いやっ、やめて……っ」
 肩から力が抜け、両手で支えることもできない。
 がくんと落ちた私の上半身。
 頬に当たる床の温度が心地いい。
 でもミゲルは許してくれない。
「犬の愛撫には気持ちよく目を閉じていたくせに……っ!」
 ミゲルの声が降ってきた。でも何も感じない。
 頬が上下に揺れて、唇から涎が出る。
 肉棒が私の中をかき回す。私はまるで料理鍋。シチューをかき混ぜるように。お好きなように――
 涎でぬるぬると頬が滑る。
「どうして俺じゃ駄目なんだっ! くそっ!」
 人形のようにされるがままの私を見て、ミゲルは悪態をつきながらも、腰の動きは緩まない。
 喉が枯れた私には、声にならない悲鳴すら出ない。
「運命め……!」
 お仕置きの終わり。
 知らずに彼を締め付けていた。
「何故、俺にこの方を下さらないのか……!」
 ぐっと突き出した腰が、私の中でようやく止まる。
 どくんと発せられる生暖かいものの感じ。
 私はこれだけは好きだった。
 もう罰が終わる。
 いけない子だから、お仕置きを受ける。
 その終わりの合図だから。
「あなたに罰を与えるのは、この俺だ」
 折り重なるように倒れたミゲルの重みと言葉。
 でも、もう遅い。


 彼女はもう、僕が殺した。




 ――殺しちゃったよ。
69名無しさん@ピンキー:2008/05/06(火) 17:12:17 ID:zES8m4iV
「――傷がねえ、疼くんだよ」
「はっ!」
 冷たい青年の言葉に、朦朧としていた男の脳裏がはっきりしてきた。
 咄嗟に見れば、ベッドを背に、裸の青年が身体を投げ出している。
虚ろな目で、頬にできた刀傷を指でなぞっていた。
 男は見事なまでに女のかけらもないその引き締まった身体を見て、咄嗟に手で口を押さえ、嘔吐をこらえた。

 ――戻った……! 戻ってしまった! なんてことだ……! いつもなら、もっと――

 男の狼狽ぶりを見ても、青年は何も感じていないようだった。
 くっきりと残った屈辱の印を何度も指でなぞりながら、誰かに向かって呪いの言葉を吐いている。
「ディランドゥ、様……」
 慌てて服を整えながら、ミゲルは出かかった胃液を何とか飲み込み、蒼白になりながら男を見た。
「じくじく、じくじくね……一緒にこれも、持って行けばよかったんだよ、あの売女……」
 赤銅色の瞳が、ようやくミゲルを捉える。
「――あの女を殺した気分はどうだい、ミゲル」
「あ……っ」
 裸のままで、四肢を投げ出したままのディランドゥは、乾いた笑い声をあげた。
「あの女は、戻ってこない。君が首を絞め、僕が止めを刺した。お仕置きの時間は終わったんだよ」
 愕然となり、ミゲルは震えだした。ディランドゥは死神をその身にまとったような陰湿さで言った。
「よくも今まで、僕の安定しない体を弄んでくれたね……」
「あ、あぁ、私は……!」
 ディランドゥはぴくりとも動いていないというのに、ミゲルはがんじがらめになったような息苦しさを感じた。
 動けない――…逃げられない!
「でもまあ、礼を言わなくちゃ……
 おまえが乱暴に壊してくれたお陰で、あの女は二度と戻れなくなった。ようやくこれで、この身体は僕だけのもの……」
「せ、レナ、さまは」
「セレナぁ?」
「ひっ!」
 搾り出した言葉に、ディランドゥが眉を上げる。ミゲルは後ずさった。
 思えば初めてだった。
 『彼女』の名を口にしたのは。
 それは、咄嗟の時に、間違えないためだ。
 こうやって口に出せば目の前の鬼がどうなるか、言わずともわかっていたはずなのに。
70名無しさん@ピンキー:2008/05/06(火) 17:13:23 ID:zES8m4iV
「そうそう――」
 ディランドゥは、面白い遊びを覚えた子供のような顔になった。
「近いうちに、軍師殿がまやかし人を連れてくるかもしれない話を耳にしていてね……」
 ミゲルは蒼白なままで、生唾を飲み込む。
「僕の部下も同伴させようかと思案していたんだが、決めたよ」
 傷口をなぞる手を外し、すうっと、ミゲルに指を向けた。


「おまえが行け」


 死ねと、言われた気がした。
 ミゲルは頭を垂れながら、馬鹿なことをと思い込もうとした。
「仲良くやるがいい。まやかし人は、軍師殿に絶対の忠誠を誓っているからね……、
 機嫌を損ねないようにすることだ……」
「ありがたく――」
「言っておくが」
 顔を上げたミゲルの前で、死神は嗤った。



「僕はまやかし人が、大嫌いなんだ」



 自分はもう帰れないと悟ったのは、今思えばあの時だったのだろう。
 まやかし人――ゾンギに首を絞められながら、薄れ行く意識の中、最期にミゲルは、そんなことを思った。
71名無しさん@ピンキー:2008/05/06(火) 17:15:25 ID:zES8m4iV
前半はここまでです。
後半、ディランドゥ×ミラーナを今夜か今週中に投下します。
今読み直すと、エロが少なめで申し訳ないです。
前回のアレン×ひとみにレスを下さった方、ありがとうございました。
それでは一旦、失礼します。
72名無しさん@ピンキー:2008/05/06(火) 17:33:36 ID:f3vQNNRv
ミゲルううううううううううううううううううー!!!!!!1


うお、あんたアレン×ひとみの人か!なんといい昼ドラだ!ごっつぁん、超ごっつぁん!!!!
キャラを掴んだドロドロがうまくて惚れたよ。ツボをピンポイントで責めてくるよ。
次回ついにあの……待ってるよー!
73名無しさん@ピンキー:2008/05/06(火) 19:58:26 ID:W8x5pRSO
GJ!!!
セレナいいよセレナ、犬になってセレナにモフモフされたいよ
こういうセレナとディランドゥの関係も萌えるかも(*´д`)
74名無しさん@ピンキー:2008/05/06(火) 23:58:42 ID:zES8m4iV
すみません。投下した者です。
ミラーナとディランドゥを絡ませるためにと書いていた話が長くなり、
しかもエロが全くないので、エロが来たらその時に投下することにしました。
エロの少ない長編になるかもしれませんが、
保守がてら読んでくだされば幸いです。流れ的にドライデンも出るかもしれません。
明日の夜には投下できると思います。
お待たせして申し訳ございません。
前半にレス下さった方、ありがとうございます。
75名無しさん@ピンキー:2008/05/08(木) 01:04:10 ID:0yC7TKya
ミラーナとディランドゥwktk
76名無しさん@ピンキー:2008/05/09(金) 00:43:15 ID:F2wiwcIK
長編( `д´)b オッケー!です。
この二人がエッチまでもっていくためには、かなり長いいきさつになるのは仕方のないこと。
ドライデンどこで出てくるんだろう。
とにかく楽しみにしています!
77名無しさん@ピンキー:2008/05/09(金) 01:14:56 ID:rlTEF4eD
投下した者ですが、遅れに遅れて申し訳ございません。
週末あたりになりそうです。こねくりまわしているのですが、ミラーナの親父が邪魔で邪魔で……
ディランドゥとひとみの時はうまくいったんですが、ミラーナとなると本当に難しいですね。
報告レスで申し訳ありません。待ってくださっている方、本当にありがとうございます。
もうしばらく、お待ちください。
78名無しさん@ピンキー:2008/05/11(日) 23:41:21 ID:6E1CaHAx
投下した者です。
お待たせして申し訳ありません。
話が大きくなってしまっているので、今日仕上げた分だけ投下いたします。
エロもほとんどないのでエロパロ板向けではないのですが、持っていかせるようにします。
79名無しさん@ピンキー:2008/05/11(日) 23:46:48 ID:6E1CaHAx
話は、6〜7話目あたりの、ひとみがヤモリ人にさらわれそうになる前辺りからです。
もしひとみを助けたのがバァンではなかったら、というのを前提にして書きました。
その割にはひとみは出てきません。





「悪ふざけが過ぎるな、ディランドゥ」
 アストリア王国から浮遊要塞ヴィワンへ帰還したフォルケンは、見るも無残に溶け落ちた、アルセイデスの残骸と、
ディランドゥに向けて渋い顔で言い放った。
「バァンを殺す気か。あれには利用価値があるというのに」
「ふん。はっきり言ったらどうだい。弟に手を出すなと」
 ディランドゥはにやりと笑った。
「……私は確かにここから動くなと命じた。だがアルセイデスからクリーマの爪で攻撃をしろとは命じていない」
「今度から気をつけるんだね。僕に命令したかったら、大雑把はダメだよ。一から百は命じてくれないと。
最も、肝心な時に忘れちゃうかもしれないけどさ」
 悪びれもなく言ってのけたディランドゥに、フォルケンはため息をついた。
「その結果がこれか。貴重なガイメレフを一体台無しにした」
「量産型があるじゃないか。次の戦にはそれで出る。文句は言わないさ」
「……それほどまでに、バァンが憎いか」
「はっ!」
 苦々しく言ったフォルケンに対し、ディランドゥは頬の傷をよく見えるようにしてつきだすと、その上から指をえぐるように

して吠えた。
「僕のこの美しい顔に! この……美しい顔に傷をつけたんだぞ!」
「美しいだと」
 フォルケンは皮肉に笑う。もしこの時、弟を狙われたことによるいらだちがなければ、今後の運命は変わっていたかもしれな

いと、彼はずっと悔やむことになる。
「アストリア王国の姫の美しさに比べれば、おまえの顔など大したことはない。戦で彩られた死化粧風情だ。
本当の美しさとは、姫君たちのような陽の光を浴びてきらめく女神のようなものを言うのだ」

 ――私の母上のような。
80名無しさん@ピンキー:2008/05/11(日) 23:48:25 ID:6E1CaHAx

 美の化身のようだった母親の姿を思い出す。父が周囲の反対を押し切ってまで手に入れたかった呪われたアトランティスの
民、竜神人の女。
 息子の自分が見ても、彼女は美しかった。あのどこか悲しげな瞳をした女性。目の前の血に濡れた猛獣のそれとは、
重ねる気にもなれない。

「美しいだと……?」
 刹那、物思いにふけっていたフォルケンは、ディランドゥの怒りに満ちた声に我に返る。
 わなわなと震える目の前の青年は、美というより鬼の化身と言ったほうがふさわしかった。
「是非、会ってみたいものだねえ」
「これ以上、私の手を煩わせるのはやめるのだ」
 フォルケンは眉根を寄せた。
 運命改変装置によって性別まで変えられた哀れな人間と思って今まで接してきたが、そろそろ限界が近かった。
 一度ならず、二度までも故意に弟の命を狙うこの男を放置しておくのは、あまりにも危険に思える。
「これからはおとなしくしておくよ。だから今度アストン王に謁見するときは、僕も連れていくんだね」
「勝手なことを言うな、ディランドゥ」
「あんたのやり方じゃ、時間がかかってしょうがないんだよ」
「……君に政治がわかるのか?」
 フォルケンが目を細めると、ディランドゥは笑い飛ばした。
「ははっ。面白いことを言うんだね、軍師殿。あんたは舐められてるんだよ。白い竜の居場所も吐かせられない。
国の保身しか考えられない王様は、どうやったらあんたを出しぬけるか今も考えてる最中だろうさ」
「そこを敢えて乗ってやり、事を進めれば穏便にすむ」
「弱みも握らずにかい? まあ、見ておいで」
 ディランドゥは馴れ馴れしくフォルケンの肩を叩くと、歩き去った。
「何を考えている」
「僕の考えもわからなくなってしまったのかい、軍師殿?」
 ディランドゥは振り返らずにひらひらと手を振った。
「昔も、今も、これからも」
 足音が遠ざかる。


「――殺すことだけさ」
81名無しさん@ピンキー:2008/05/11(日) 23:50:04 ID:6E1CaHAx
「先日、面白いものを手に入れましてね」
 アストリア王国城内の謁見の間で、青ざめるメイデンと、それを責めるような眼で睨みつけながら仏頂面になっているアストン王の前で、
フォルケンはにこりと言った。後ろには、ぞっとするほど美しい青年が、不気味な笑みを浮かべて控えている。
「そちらの客人が、ヤモリ人にさらわれそうになっていたのを、私の部下が追い払いました」
 フォルケンの後ろから、愉快そうな声が聞こえた。
「大事な同盟国のためだからねえ。夜に何かあっちゃいけないと、徘徊させてもらっていたんだ」
「な、なんとも頼もしい……」
 額に浮き出る汗を拭うこともできず、アストン王はしどろもどろになりながら、時折ちらりと傍らのメイデンを見る。
「きゃ、客人とは……?」
 メイデンが愛想笑いを投げかけながら、フォルケンを探るように見た。
「おや。変わった服を着た異国の娘がおりましたでしょう」
 フォルケンが含み笑いをすると、メイデンは愚かにも首をひねってみせた。
「果て、そのような娘がいたかどうか」
「白を切るつもりかい? なんでもこの間滅んだファーネリアの王様が連れてきた娘だそうじゃないか。面白いのはこれからでね。
誘拐犯のヤモリ人を締めあげたら、依頼人は誰だと言ったと思う?」
「ディランドゥ」
 フォルケンが穏やかに止める。
「仮にも国王の御前だ。口を慎みなさい」
「誘拐犯を友達に持つような国王に? はは、ごめんだね。かよわい乙女を無理やり攫って、どこへ売り飛ばすつもりだったんだろうねえ」
 フォルケンはこの時、ディランドゥが怒りを抑えているのを見てとった。
 ……記憶は消したつもりでも、彼には自分も同じような目に遭ったことの記憶が、おぼろげながら残っているのかもしれない。
「フォルケン殿。言いがかりはやめていただきたいものだ。我々は同盟を結んだ言わば友人。このようなことで争いたくはない」
 メイデンをにらみつけて黙らせた後、アストン王は、なんとか場を収めようとした。
「無論、私も争い事は好きではありません」
 フォルケンは鷹揚にうなずいた。後ろでディランドゥがくっと笑う。
「昨晩、白き竜が出現したのを彼が見ています。即刻、こちらに引き渡して頂きたい」
「なんと。竜が出たと」
 弱弱しい声で、アストン王はようやく額の汗をぬぐった。
「どうやって我が国へ入ってきたのかは知らぬが、竜がいるならすぐさまあなた方に捕獲願いたい」
「……食えない男だ、あなたは」
 フォルケンが目を閉じる。そこに割って入る声があった。
「それともうひとつ」
「! ディランドゥ……」
 フォルケンの制止の声も無視して、ディランドゥがアストン王の前に立った。
「噂の姫君と、異国の娘を交換したいね」
82名無しさん@ピンキー:2008/05/11(日) 23:50:29 ID:6E1CaHAx
「な!」
 これには一同が目を丸くした。
「何を――」
「い、いい加減にせぬか!」
 さすがのアストン王も、愛娘のこととなると黙っていなかった。
「どこの娘ともわからぬ者と、わしの娘を交換だと!? 応じると思うか!」
「誰でもいいんだ。あんたの娘は何人だっけ?」
「こ、この――! フォルケン殿! 部下の教育が少々行き届いていないようですな!」
「申し訳ない。ディランドゥ――」
「幻の月の娘だそうじゃないか」
 ディランドゥは笑みを崩さない。蒼白になって立ち尽くすメイデンを下からねめつける。
「高値がつくと踏んだんだろう? 商人さん。言い値で渡してやってもいい」
「わ、私は、そんな、娘は――」
「私の娘にはそれぞれ許婚がいる!」
 商人としてしか物事を考えられないメイデンの言葉には頼るまいと、アストン王は切り札をつきつけた。
「へえ?」
 ディランドゥは、面白そうにアストン王を見た。
「そこのメイデンの息子と、もうずっと前からだ! だから娘は誰にもやれんぞ!」
「こんな男の息子だって? 冗談だろう?」
 ディランドゥは豪快に笑った。
「国王様。僕はこの男よりよっぽど金を持ってる男だよ。僕にしておきなって」
「な、何」
 そこで初めて、国王の心がぐらついた。
「アストン王! なりませぬぞ!」
 メイデンが慌てて叫ぶ。
「あんたにとっても悪い話じゃない……どうせ内心ザイバッハのこと疎んじてるんだろう? うさんくさいって、思ってるんだろう? 何か、確かなつながりを持ちたいと思っていたんじゃないのかい? こういったやりとりではなく、さ」
 赤銅色の瞳が、糸のように細められた。
「同盟を結んだ証として、お互いの血を分けておくのも、悪い話じゃないと思うよ。この先我が国はどんどん勢力を増していく……あんたの国に何かあったとき、まっ先に力になりたいんだよ」
 口の減らない男だ。
 黙ってやりとりを聞いていたフォルケンは、呆れるばかりであった。
 おまえは金どころか、身のあかしを立てるだけで日々精一杯だというのに。
 よくぞここまで嘘を並べたてられるものだ。
 これが美への執着なのだろうか。
 利口なんだか、愚かなんだか。
「あ、アストン王!!」
「え、ええい、黙らぬか! そなたが馬鹿なことをしでかさなければ良かったのだ!」
 アストン王はうるさげにメイデンを振り切ると、ごほんと咳払いをした。
「メイデンの息子と婚約していたのは、私の二番目の娘、ミラーナ。ミラーナ・アストンだ。
 む、娘を……、生涯幸せにできるというのなら……」
「王!!」
 アストン王は、苦渋の決断を下した。


「ミラーナを、君に……任せよう」
83名無しさん@ピンキー:2008/05/11(日) 23:52:15 ID:6E1CaHAx
 メイデンの悲鳴は、誰の耳にも届かなかった。
 フォルケンはこっそりと息をつき、アストン王はすでに後悔の色をにじませている。
 ディランドゥだけが恭しく一礼し、いささか棒読みとも取れる言葉を述べた。

「生涯この身に代えましても、姫を愛し、守ることを誓いましょう。……ふふ、これでいいのかい?」

 ちらっと顔をあげ、それから仁王立ちで笑い出した。
「喜ぶがいいよ、国王様! あんたはこれから僕の父だ! 僕は息子だよ? いい親子関係を築いていきたいものだねえ!
 あはははははははっ!」
「交渉成立ですな」
 フォルケンは踵を返した。
「ま……!」
「竜は頂きます。後ほど保護した娘をよこしますので、姫君をお連れ下さい。それでは」
「待て……!」
 浅黒く、恰幅のいいアストン王が、蒼白になり、この数分間でげっそりとやつれたように見えた。
 太く短い、豪奢な指輪をはめた指が、背を向けて去るふたりの略奪者に向けて広げられる。

「どうなっても知りませぬぞ……」

 ぼそりと漏らしたメイデンに、
「貴様がああっ!!」
 謁見の間に、鈍い音が響き渡った。
84名無しさん@ピンキー:2008/05/11(日) 23:54:24 ID:6E1CaHAx
「どういうことですの。お父様!」
 ミラーナは、突然部屋に入ってきて、うつむき加減に言い放った父親の言葉に耳を疑った。
「どうしてもという話が持ち上がってな……」
 アストン王は、しどろもどろになっている。
 護衛もつけず、青ざめ打ちひしがれた様子の父を見て、ミラーナは眉をひそめた。
 せっかくこれからお気に入りの服を着て、念入りにメイクをして、アレンを乗馬に誘おうかと思っていたのに。
 テーブルの上に広げられた幾枚もの洋服たちが、今はかすんでみるのはなぜだろう。
「……お父様は、わたくしをなんだと思ってるんです!? 勝手に許婚を決めておきながら、今度は別の殿方とだなんて!」
 ミラーナの言い分は最もだった。
 こんな支離滅裂な話に、誰がはいそうですかとうなずけるだろう。
「おまえには申し訳ないと思っている」
「でしたら撤回してください! わたくしにはもう好きな方が……!」
「そちらが、我が姫君ですか」
「!」
 背が高いほうではない父親の体が、また小さく見えたのは気のせいだろうか。
 王の後ろからひょっこり顔を見せた美貌の青年に、ミラーナは一瞬呆けた後、眉根を寄せた。
「どなた? ここはわたくしのプライベートな部屋よ」
「今義父上が紹介してくださったでしょう?」
「ちち――!?」
「ディランドゥ殿!」
 混乱するミラーナを前に、アストン王は脂汗を滲ませながら、ディランドゥに詰め寄った。
「何故ここへ!?」
「保護していた娘を返したついでに、僕の妻になる女の顔を、一刻も早く見たくてね。いけなかったかい?」
「な……!」
 王が絶句している間に、ミラーナは果敢にもディランドゥの前に割って入った。
 ディランドゥの目が細められ、無遠慮にミラーナの顔を眺め始める。
「どういうことなのか、説明してくださらない? わたくしは、便利な道具扱いされるのは嫌よ!」
「ふぅん」
 詰め寄るミラーナの言葉は、ディランドゥの耳には届いていないようだった。
 明るい巻き毛かかった金の髪が、陽の光を受けてきらきらと輝いている。白くて張りのある肌は怒りで紅潮し、
 アメジスト色の大きな瞳は爛々とディランドゥを見上げている。薄く紅が塗られたぽってりとした唇。
 ふんわりと漂う香水の匂いは、背伸びしている大人の女性を思わせた。
 値踏みするかのような不躾な視線にミラーナがわずかにたじろぐ。
「な、なんですの?」
「なるほどね。女神も思わず嫉妬するほどの美しさだ」
「え――?」
「ディ、ディランドゥ殿!」
 困惑顔のミラーナをかばうようにアストン王が立ちはだかった。
「娘にはこれから伝えますので、どうか、今日のところは」
「もったいぶるんだねぇ」
 ディランドゥはくつくつと喉の奥で笑いをかみ殺し、踵を返した。
 アストン王は肩をなでおろし、娘を振り返る。
「み、ミラーナや。話は後で――」
 一陣の風が空気を切り裂いた。
「きゃ……っ!」
 王には何が起こったのかわからなかった。
85名無しさん@ピンキー:2008/05/11(日) 23:54:49 ID:6E1CaHAx
 ダンという音がしたと同時に、ミラーナが壁に押し付けられ、その肩を強く掴んでいる男の背があった。
 脳が状況を理解するのに数秒の時間を要す。アストン王は我を忘れてディランドゥに詰め寄った!
「貴様……っ!」
「動くな」
 いつの間に抜いたのか、王の鼻先には白刃に光るものが突きつけられていた。
 ディランドゥは王を見ようともせず、剣を王に向けたまま、声も出ない程ショックを受けているミラーナに顔を近づけた。
「リスクを冒してようやく手に入れてみれば、なんだいこのお姫様は。城の中で大切に大切に育てられてきた、傷ひとつない宝石のようじゃないか……」
 ミラーナの肩に食い込ませていた手を外し、白い顎をぐいとつかむ。
「痛……っ!」
「これが本当の美だって? 笑わせる。――おまえなんか大嫌いだ……!」
 蛇が威嚇するように、ディランドゥは吠えた。
「――さっきから――!」
 ミラーナは渾身の力でディランドゥを突き飛ばした。片手で剣を構えていたせいか、はたまた多少の油断があったのか。
 意外なほどあっさりディランドゥは後ろに下がった。
 ミラーナは肩で息をしながら、ディランドゥをにらみつける。
「無礼者! おまえが何者かは知りませんが、これ以上わたくしに触れることは、許さなくてよ!!」
「おやおや。この僕に命令かい? 調教のしがいがありそうだね」
 ディランドゥは顔を歪めて笑うと、アストン王から剣を引き、鞘におさめた。かちんと音が鳴った瞬間、王はディランドゥの頬を打った。
「娘を傷つけるような真似は、絶対に許さん!」
「挨拶をしただけじゃないか」
 ディランドゥは不気味なほどの笑顔で打たれた頬を触る。
「もう一度、フォルケン殿と話す必要がありそうだな」
「まあ、好きにすればいいさ」
 憤慨するアストン王に監視されながらミラーナの部屋を出るディランドゥは、立ちつくし、威嚇するように睨みつけてくるミラーナを見て鼻で笑った。

「あんたは僕のものになる。血ぬられた花嫁衣裳は、すぐに用意させるよ」
86名無しさん@ピンキー:2008/05/11(日) 23:55:43 ID:6E1CaHAx
 嵐が去った後、ミラーナは恐ろしさと屈辱のあまり、小刻みに震えながら立ち尽くしていた。
 あの男は、名前すら名乗らなかった。
 父が呼んでいた、ディランドゥというのがそうなのだろう。
「だ、誰が、あんな男なんかと……!」
 掴まれた肩と顎には、まだ感触が残っていた。至近距離で見つめられた、あの男の瞳の色が怖かった。
「アレン……!」
 自分を抱きしめ、うずくまる。
 この名を呼べば、勇気が湧く。
 自分を恐怖から救い出してくれる。
 そんな希望さえ抱きながら、ミラーナは恋しい男の名を呼び続けた。
「そうよ……」
 やがて、涙をにじませた目をあげる。
「わたくしは、城の中でおとなしくあんな男との結婚を待つような姫じゃない!」
 立ち上がると、軽くめまいがした。
 先ほどまで、あんなに浮かれていた気持ちも、服を散乱させてわくわくしていた気持ちもどこかへ吹き飛んだ。
 代わりに、己に誓いを立てる。
「わたくしは、アレンについていく!」
 そうつぶやくと、クローゼットの奥から、青いかばんをひっぱりだした。
 それをつかみ、潔く部屋を出て行く。
「誰か、アレンはどこにいるかご存じ!?」
 廊下に、凛とした声が響き渡った。
87名無しさん@ピンキー:2008/05/11(日) 23:58:35 ID:6E1CaHAx
「そん、な……」
 ミラーナは愕然となった。
 アレンが投獄された上、そこから逃げ出したという知らせを聞いたのである。
 しかも、バァンとひとみたちまで!
「わ、わしは知らんぞ! やつらが勝手に逃げたのだ!」
 アストン王は弁解がましくわめいた。
「それは、父上がアレンを牢へ入れたからでしょう!? 何故です!?」
 ミラーナは悲鳴のような声で父を責めた。
「ザイバッハの者がこちらに来ているのだ! 小競り合いを起こした者にいられては困る! やつは竜を隠していたのだぞ!」
「そんなこと……!」
 ミラーナは聞いていられないと、王の間から飛び出した。
「ミラーナ!」
 城から出、アレンたちが逃げ去ったという港まで走る。
「アレン……!」
 潮風が、ミラーナの金の髪を揺らした。
「何故、わたくしも連れて行って下さらなかったの……!」
 呻き、両手で顔を覆った。
「天空の騎士とは言ったものだね。籠から空へ逃げた。ひきょう者さ」
 突然、背後で声がした。涙に濡れた顔で振り返れば、そこには当然と言ったように、ディランドゥが立っている。
「……何をしているの」
 慌てて涙を拭き取りながらそう言うと、ディランドゥは肩をすくめた。
「竜を捕らえようと思ってね。娘を引き渡した後おまえに会いに行っている最中にこれさ。初めてだよ。自分の愚かさに笑ったのは」
「……わたくしのせいだと言いたいの?」
「そう言いたいところだけど、軍師殿のせいさ。僕より美しいものがあるなんて言うもんだから、柄にもないことをしちゃったよ」
 ミラーナには彼が何を言っているのかわからなかった。
「……あなたたちは、何を考えているの? どうして、あなたがわたくしを?」
「さっきも言ったろう。美しいものがいるというから、手に入れに来たのさ」
「……?」
 訳がわからず眉をひそめる。
 ディランドゥは鼻で笑った。
「僕より美しいものがあるなんて、認めたくないからね。手に入れたら、存分に傷をつけて、獣の餌にでもするつもりだった」
「な――!?」
「まあ、今はしないよ。時期ではないからね……」
「あなたは……!」
 ミラーナは拳を握り締めた。
「人の命をなんだと思っているんです!」
「綺麗な箱庭でお育ちになった宝石は、言うことも綺麗だね」
「馬鹿にしないで!」
「気に障ったのなら謝ろうか? お姫様」
 ディランドゥの見下した笑みはミラーナの癇に障った。
「今すぐ、お父様に許婚を解消するようお言いなさい! 馬鹿げてるわ……!」
「僕に命令するんじゃないよ」
 ディランドゥの笑みがすっと消えた。
 まだ太陽は高く昇っているというのに、ミラーナはぞくりと背筋に悪寒が走るのを感じる。
 人は――、人は周囲に幾人か、いる。大丈夫だ。そう簡単に、この男は自分に手出しはできない。何かあっても、すぐに駆けつけてくれるはず!
 身構えるミラーナに、ディランドゥはずかずかと近づいてきた。
88名無しさん@ピンキー:2008/05/12(月) 00:24:41 ID:FkOGhBG7
「女はすぐそうやって調子に乗る。髪を長くして着飾り、素直な顔をしておきながら、言いつけを守らないんだ……」
 言いながら、一瞬風になびくミラーナの髪に触れ、何かを思い出すかのように指でいじると、忌々しげに顔を見てくる。
「さ、触らないで!」
 ミラーナは一歩後ろへ退いた。
「女はみぃんな、いけない子……」
 ディランドゥは暗い瞳でぶつぶつとつぶやいている。
 ミラーナは、不可解な生き物でも見るような顔つきになった。
 恐怖より、好奇心が勝り、まじまじと見上げてしまう。
 ……青白い肌に、虚ろな目。
 情緒不安定な性格。
 まるで医学の書物で読んだ、中毒者のようではないか。
「ディランドゥ様!」
 ふたりの背後で声がした。
「あぁ?」
 不機嫌そうに振り返るディランドゥの前でぴしりと立ち止まったダレットは、
「竜の行き先がわかりました!」
 とかしこまって告げた。
「そうかい」
「どこ!?」
 覇気が戻ったディランドゥと同時に、ミラーナも身を乗り出していた。
 ダレットは怪訝そうな顔をし、ディランドゥは舌打ちをする。
「おまえには関係がないことだ」
「アレンはどこなの!?」
「アレン……?」
 ダレットに詰め寄るミラーナを見ながら、ディランドゥの眉がぴくりと動いた。
「ディランドゥ様、この女は……」
「僕の妻だよ」
「ちょ……っ!」
 絶句するミラーナを無視して、ディランドゥはダレットを一瞥した。
「竜たちはどこへ向かった?」
「はっ。どうやら一同は、フレイドへ向かっているものと――」
「それはまずいね……」
 ディランドゥは親指を噛んだ。フレイドには、パワースポットがある。
 ドルンカーク様の目的のためには、絶対に攻め落とさなくてはならない国だ。
「これからヴィワンで出る。軍師殿は」
「すでに用意はできております」
「わかった」
「わ……」
 ミラーナはごくりと息をのんだ。

 この男についていくことで、何か取り返しのつかないことになるかもしれない。

 そんな予感が、ちくりと胸を刺す。
 けれど今ここで前に出なければ、もっと自分は後悔する!
 その思いが、ミラーナに力を与えた。

「わたくしも、乗せていってください」
89名無しさん@ピンキー:2008/05/12(月) 00:30:32 ID:FkOGhBG7
「……何故」
 ディランドゥは、冷めた目でミラーナを見下ろした。
 もしこの時彼についていくと言わなければ、許婚の話もなかったことにできたかもしれなかった。
 それに気付いたのはずっと後になってからのことだが、今のミラーナは、一刻も早くアレンの元へ行きたいという衝動に駆られていた。
「会いたい人がいるから」
「天空の騎士殿のことかい?」
「……ええ」
 きっぱりと、ミラーナは言った。アメジスト色の瞳がきらきらと輝き、ディランドゥの瞳の中に流れ込んでくる。
 その毅然とした立ち姿は美しかった。
 息をするのも忘れた自分が腹立たしかった。
 この手でぐちゃぐちゃにしてしまえば、どれだけ気が晴れるだろう。
 醜い傷跡が残ったこの顔の前で、よくもそんな美しい顔を向けられる!
 理不尽な怒りにディランドゥは震えた。
 
「いいだろう、花嫁さん」
「ディランドゥ様!?」
 ディランドゥは、ダレットからすれば気味の悪い笑顔をミラーナへ向けた。
 まだディランドゥのことをよく知らないミラーナは、その笑顔に愚かにも安堵する。
「ありがとうございます。――あの」
「?」
 目で促すと、ミラーナは、視線を泳がせ、おずおずと口を開いた。
「……ディランドゥ、で、よかったのかしら。あなたのお名前……」
 眉を吊り上げたディランドゥに、何故か傍らのダレットが緊張した。
 間違いなく、殴られる。
 いっそ自分が前に出てしまって折檻を受けたほうがましだと思えた。
 それほど、ミラーナという女性は美しかった。
「――ああ、そうだよ、ミラーナ」
 踵に力を入れ、いつでも飛びだせるようにしていたダレットは、小鳥が口ずさむような弾んだ声に、拍子ぬけしてぎくりと体をこわばらせた。
 恐る恐る見上げると、ディランドゥは楽しそうな顔で、ミラーナへ手を伸ばしている。
「僕の名前を覚えておいで。……まあ生涯忘れることはないだろうけどね」
「……?」
 首を傾げながらその手をつかむミラーナは、瞬間思いがけないほど強く握り返され、小さく悲鳴をあげた。
「僕の手をつかんだね」
「え?」
 ディランドゥは歩き出した。引っ張られるようにしてミラーナは進み、ダレットがそれに続く。
 前を向きながら、ディランドゥは愉快そうに笑った。
「おまえが決めたことだ。後悔しても、遅いからね」
「なんですの? それより、手――」
 ミラーナは抗議したが、当然ディランドゥに無視された。
「せいぜい僕に飽きられないようにするんだね。でないとすぐに、捨てちゃうよ」
 そう言いながら、ディランドゥの興味はもう、別のことに移っていた。
「竜は生かしておく。ただ他のものは、壊しちゃってもしょうがないよね……」
 
 そのつぶやきの意味をミラーナが知るのは、そう遠くない未来だった。
90名無しさん@ピンキー:2008/05/12(月) 00:32:13 ID:FkOGhBG7
今回はここまでです。
続きは出来次第投下していきます。色々と申し訳ありません。
91名無しさん@ピンキー:2008/05/15(木) 01:21:13 ID:CD8Xk1D+
気長に待ってますぜ!
一体どうなってしまうのかー!?
92名無しさん@ピンキー:2008/05/15(木) 12:34:31 ID:+jnYEKQp
本編で絡みがないキャラ同士なので導入部分がしっかりしてる方がありがたいです
続きに超期待!
93名無しさん@ピンキー:2008/05/16(金) 11:04:15 ID:Q1NhCxOH
素敵っ!!!!楽しみwktk大感謝です!書いてくれてとてもありがとう!
94名無しさん@ピンキー:2008/05/18(日) 01:51:15 ID:7uly7c84
プラクトゥとシド王子マダー
95名無しさん@ピンキー:2008/05/18(日) 11:55:42 ID:lGXY5DY/
おまえが書けよ
96名無しさん@ピンキー:2008/05/19(月) 01:13:41 ID:/9DgGUqY
投下した者です。遅くなりました。
書いた分だけ投下します。








「ディランドゥ……!」
 ヴィワンに戻った一行は、眉をひそめるフォルケンに出迎えられた。
 得意げな顔で笑うディランドゥと、青ざめ、唇を引き締めているダレット。
 ――鬼の手につながれている哀れな姫君。
 フォルケンは瞬間目を閉じ心を落ち着かせると、ゆっくりとまぶたを持ち上げ、ミラーナに目を向けた。
 気品ある顔立ちがいささか青白くなっているのは、ヴィワンの照明のせいだけではあるまい。
 まるで狩りに出かけて獲物を捕ってきたような顔のディランドゥは、やや乱暴に後ろに立っていたミラーナを前に立たせた。
「挨拶してごらん、ミラーナ。ここで一番偉いお方だから」
「え? あ……」
「全く……」
 戸惑うミラーナの視線を受け、フォルケンは義手の腕を前に出し、それを曲げながら深々と一礼する。
「ご無礼をお許しください姫君。これは私の本意ではありませんでした」
「はっ」
 ディランドゥが馬鹿にしたような声を出す。ミラーナは慌てて言った。
「どうかお顔をお上げになって……ここへ来たのはわたくしの意思です。許婚の話は承諾していませんが、
わたくしはどうしても、アレンの所へ行きたくて……」
「なんと……」
 意外な言葉に、フォルケンは顔をあげる。
「しかしその言葉を、アストン王が信じて下さるかどうか」
「父は、関係ありません!」
 ミラーナはきっぱり言った。
「父は、わたくしを政治の道具としてしか見ていないんですもの! わたくしは、自分で自分の幸せを手にするために、
無理を行ってここへ来たのです!」
「愛情が伝わらない寂しさは、私にも覚えがあります」
「……え?」
 興奮していたミラーナは、静かな水面のような穏やかな声に我に返る。
 背筋を伸ばしたフォルケンは、どこか遠くを見るような顔つきになった。
「こちらの愛情を、相手がそのまま受け取ってくれるとは限らない……
 人と人の心が通い合うということは、親子であっても、身内であっても難しいものなのです。
 あなたのお父上は、あなたのことを愛している。
 ……しかしそれを伝えるには不器用すぎた。――私のように」
 苦笑するフォルケンに、ミラーナが口を開きかけると、
「下らない話はやめにして、竜のいる正確な位置でも見つけたらどうだい」
 ディランドゥが水を差した。
97名無しさん@ピンキー:2008/05/19(月) 01:15:36 ID:/9DgGUqY
「まあ……!」
 ミラーナがむっとしてディランドゥを睨みつけた。
「竜の居場所はわかっている。このまま行けば、いずれ追い付く」
 フォルケンは冷静に告げた。
「相変わらずのんびり屋だね、軍師殿。僕は待たされるのが嫌いなんだ」
「勝手な行動はするな、ディランドゥ。私の指示なしで動かぬようにと言ってあるはずだが」
「ああ、……そうだったね」
 ディランドゥは、ちらりと傍らのミラーナを見た。
 ミラーナはわずかにたじろぐが、まっすぐにディランドゥを見返す。
 ディランドゥの笑みが深くなった。
「ならばそれまでに、僕は我が姫君と過ごすとするかな」
「!?」
 フォルケンがわずかに目を見開いた。ダレットなどは顔面蒼白である。
「……この中を案内して下さるの? わたくし、医術を学びたいと思っていて……」
「ああ。それならここは、おまえにとっていい遊び場になるだろうさ」
「遊びだなんて!」
「まあまあ」
 ディランドゥは笑いながらミラーナの手を引く。
「失礼するよ、軍師殿。文句はないだろう? 何しろこの姫君は、自分からここへ来たいと言ったんだ。
僕が無理やり攫ってきたわけじゃない……」
「……」
「ディランドゥ様……!」
 じっと何かをこらえるように眼をつぶるフォルケンと、焦って一歩を踏み出すダレット。
「ついてくるんじゃない」
 ディランドゥは、ぴしりとダレットに命令した。
「それは野暮ってもんだろう?」
「は……」
 かしこまるダレットを一瞥し、ディランドゥはふんと笑った。
「じゃあね、時間が来たら知らせてよ」
 そうして、ふたりは去って行った。
「フォルケン様……」
 ダレットはおずおずとフォルケンを見上げた。
 フォルケンは息をつくと、操縦室へと歩き出した。


「姫君には気の毒だが、あれを野放しにするよりはましだろう。彼女はいい足かせになる……」
98名無しさん@ピンキー:2008/05/19(月) 01:21:07 ID:/9DgGUqY
 廊下をふたりで歩きながら、ミラーナは言い知れぬ不安にさいなまれていた。
 この中を案内してくれるなんて、この男がするだろうか?
 出会ってまだ数時間――そうだ、まだ出会ってから一日も経っていない!
 そんなことに今更気づいて、ミラーナはぞくりと震える。
 いくらなんでも、軽率だった。
 こんな短い間でも、この男が危険だということは十分にわかっていたではないか……!
 味方であるはずの部下やあの義手の男性ですら、この男をもてあましているように見えた。
 そんな男が、どうして自分にだけ親切にしてくれるだなんて思えるだろうか?
 それにさっきから歩いているここは……

「あの、ディランドゥ?」

 ミラーナは恐る恐る、前を行く青年に声をかけた。
「どこへ向かっているの? 案内して……くださるのよね」
「そうだよ」
「でも、あの、……どこへ?」
 人気のない廊下だ。エンジン音がわずかに聞こえるだけで、ほかはふたりの足音しかしない。
「決まってるじゃないか」
 ちょうど、ふたりはある部屋の前で立ち止まった。
 ディランドゥがその扉を開ける。
「? ここは……」
 暗闇が中に詰まっている。
 扉が開けられても、中には一切光がなかった。
 その闇に飲まれるようにディランドゥが消えていき、手をつながれているミラーナはそれに嫌でも続く。
 闇に足を踏み入れた途端、嫌な熱が体中にまとわりついて、思わず息を止めた。
「あの……」
「僕の部屋だよ」
 ばたん。
 ディランドゥが言い終えたと同時に扉が閉まった。
 咄嗟に振り返るが、ディランドゥはそんなミラーナごと強く腕を振り回し、悲鳴をあげるミラーナを奥のベッドへと放り投げ

た。
「きゃあっ!?」
 ようやく手が解放されたと思う間もなかった。
 起き上がろうとしたミラーナの目に、周囲の闇よりも密度の濃いものが覆いかぶさってくる。
「なに……をっ」
 肩を強く押さえつけられ、ミラーナはわけがわからずもがいた。
「暴れるんじゃないよ」
 耳元でディランドゥの声がささやく。ミラーナは身の危険を感じて体をこわばらせた。
「おまえは僕の妻になったんだよ。だから僕の好きにしていいんだ……」
「勝手なことを言わないで! わたくしがいつ……!」
「おまえが決めたことだ。おまえがここへ来たんだよ、ミラーナ……」
「それは……それは、でも……っ」
 叫ぶミラーナの唇の横に、何か熱くてぬめったものがぴちゃりと張り付いた。
99名無しさん@ピンキー:2008/05/19(月) 01:27:28 ID:/9DgGUqY
「え……っ、あっ」
「おとなしくしておいで。でないと壊しちゃうよ、おまえもね……」
「い……やっ、いやっ、やめ……っ」
 それが彼の舌であることに気付いたのはすぐだった。
 唇の横から顎へ、首筋へと移動するディランドゥの舌が、ざらざらとミラーナの肌の味を覚えていく。
 ぞわぞわと這い上がる嫌悪感がミラーナに抵抗する勇気を与えた。
「おやめなさい! こ……んなっ、ことっ」
「――うるさいメスだね!」
 金属音がしたかと思うと、ミラーナの全身に風が走った。
「きゃ……っ!?」
 なぶる空気の後に、衣服がはだけていくのがわかる。
 胸元が裂け、下着とともに切り取られた布が左右に割れた。豊満な胸が揺れながら顔を出すのがわかっても、
ミラーナは恐怖のあまりそれを隠す力さえ残っていない。
「妻の仕事はなんだ? 夫である僕を慰めることだろう? 戦の前で気が昂ぶってる僕を、おまえがこうして……」
「い……っ!」
 やわらかな感触が胸元に当たったと思ったら、鋭い牙で切り裂かれた――ような痛みが走り、ミラーナは声を殺し、
はっとする。――ディランドゥがミラーナの胸に歯を立てていた。
「痛い! やめて! いやあああああっ!」
「僕に逆らうからお仕置きしてるんだ……おまえの血の味は悪くないね……くくっ」
 じわっと広がるものがある。ディランドゥに容赦なくかみつかれて皮膚が裂けたのがわかる。視界が闇で覆われている分、
四肢の感覚が冴えわたっていた。
 ディランドゥの舌が伸びて、それを丹念になめとる。ぴちゃぴちゃという水音と、ふたりの荒い息遣いが闇の中ではっきりと聞こえた。
「お願い……」
 ミラーナは知らずにすすり泣いていた。
「お願いです、ディランドゥ……」
「なんだい、おとなしく服従する覚悟ができたのかい?」
 ディランドゥはミラーナの肉を乱暴につかみ、傷口から血が出るようにしてそこをひたすら吸っていた。
乳飲み子か、吸血鬼か。そんなことはどちらでもよかった。
「わたくし、男の方の肌を知らないの……」
「あぁ?」
 ミラーナはみじめな気持で続けた。
「そんなことしないで……わたくしを、娼婦のように扱わないで……!」
「ふん」
 ディランドゥは顔をあげた。
 両手をミラーナの顔の横につき、ただ涙を流しているミラーナの顔を見下ろす。
「優しいのがお望みかい?」
「ちが……う。わたくしは、愛する方としか、こういうことはしたくないの……!」
「……ふ」
 ディランドゥはそれを聞くと、肩を震わせた。
 泣き続けるミラーナに顔を寄せる。
「ふ、ふふ、ふはは、あはははははははははっ!」
「!」
 大声で笑われて、ミラーナはぎょっとしてディランドゥを見上げた。
 ディランドゥはひとしきり笑うと、ぴたりと真顔になった。
 不思議なことに、暗闇の中でも彼が今笑っていないのが、はっきりとわかった。
「娼婦のような扱いをするなって?」
「……!」
「娼婦がどんな扱われ方をしているかも知らないで、口だけは一人前のつもりかい?」
 鼻と鼻がくっつくほどの距離で、ディランドゥがすごむ。
 ミラーナは痛みもわすれてごくりと息をのんだ。
「僕がいつも女をひどく扱ってると思っているのかい?」
「だ……って」
 そうなんでしょう?
 言いたい言葉が、なぜか出ない。
 ミラーナは心臓が飛び出しそうなほどの動悸を抑えて次の言葉を待った。
100名無しさん@ピンキー:2008/05/19(月) 01:31:05 ID:/9DgGUqY
「僕は女が嫌いだ。だから触れることもしなかった」
「え……」
「でも僕は」
 ディランドゥはミラーナの耳に唇をつける。ミラーナが身をすくませると同時に囁いた。

「男が女に何をするかは、知ってる。この身体が覚えてるんだよ。恋人のように優しく」

 ディランドゥの手がドレスのすそを手繰り寄せ、ミラーナの足の間に滑り込む。

「あっ!」
 ミラーナが慌てて足に力を入れる前に、ディランドゥの指が秘所へと侵入した。

「そう……ここだ。ここを弄られると体が暴れるんだよ。網にかかった魚のように」
 わずかに濡れていたそこに指を差し入れ、眠っていたつぼみを呼び覚ます。
 電流が全身に走り、ミラーナが弓なりに跳ねた。
「あ……! あぁっ!」
「そう、優しくしてやるんだ。愛しい人に触れるように」
「んあ……っ! あっ、あ……」
 つぼみをいじられ、ミラーナはわけもわからずじたばたと暴れた。
 ディランドゥは熱に浮かされたようにつぶやきながら行為をしているのに、ミラーナをがっちり拘束して離さない。
 やがてとろとろと泉があふれ出すと、ミラーナは羞恥のあまり身をくねらせた。
「これは……っ、あっ、ちが……!」
「別に悦んでるわけじゃないんだ。だろう?」
 ディランドゥは冷静だった。
「体が勝手にそうなるんだ。自分を護るためだからね。仕方ないんだ。でも言われるんだよ。
『感じてるからこうなってるんだろ』って……はは、何もわかっちゃいないんだ、やつら」
 虚ろに笑うと、濡れた指先をぐっと奥へと突っ込んだ。
 ぎちぎちに狭い入口に、指がずっぽりとおさまりぎゅうっと締め付ける。
 ミラーナは激痛に大声をあげた。
「痛い! やめて! 抜いて……!」
「だろう? でも止めてくれないんだよ……」
 ディランドゥはそう言うと、またミラーナにつけた傷口に舌を伸ばした。
「止めるどころか、笑うんだ……もっと泣けって……そう、僕は娼婦だったんだ……それもとびきり酷い……」
 ずっと、指が乱暴に引き抜かれた。内部の肉が指にまとわりついて、音を立てて離れた。痛くてたまらない。
胸の傷にはディランドゥが吸いついている。じわじわとした痛みと、傷口からどくどくと脈が走っているのを感じる。
 だめだ。これ以上されたら、死んでしまう……!
「痛い……! ディランドゥ!」
「!」
 ミラーナの悲痛な叫びが、ディランドゥを我に返らせた。
 ミラーナのすすり泣きが聞こえる。
 ディランドゥは濡れた指先をわなわなと眼前に寄せ、がちがちと震えだした。
「あ、ああ、あぁ……」
「っく……、うぅ……」
「あぁ、何を……僕は何を……」
「……?」
 泣いていたミラーナは、震えるディランドゥに気付き、重い体をのろのろと動かした。
「違う……あれは僕じゃない……あれは……!」
「ディ……」
 おかしい。
 この男が元からおかしいのはわかってる。
 でもこれは、別の何かだ。
 ミラーナはくじけそうになる自分を必死で奮い立たせた。


 ――しっかりするのよ、ミラーナ。わたくしはこんなところで小さくなってる女じゃない。そうなるのが嫌だから、
城を出たんじゃないの!
101名無しさん@ピンキー:2008/05/19(月) 01:38:53 ID:/9DgGUqY
「ディランドゥ。あなた、どこか――」

 自分を襲った相手に声をかけるのは吐き気がするほど嫌だったが、今はこの状況をなんとかするしかない。
 この男を落ち着かせなければ、この空中に浮かぶ要塞から叩き出されるかもしれないのだ。
 破れた衣服を掻き合わせる。胸はディランドゥの唾液でまみれ、傷口からの出血と混ざってぬるぬるしているのが気持ち悪い。
 それでも、不満を漏らしている余裕はなかった。
 ガタガタ震えるディランドゥにそっと触れると、ばっと顔をあげたディランドゥがミラーナにのしかかってきた。
「きゃあっ!」
 ミラーナは咄嗟にディランドゥの腰元に手を伸ばし、剣をつないでいるベルトに触れた。
 先ほどの剣があれば、どうにか最悪の事態は免れる!
「いい加減に――!」
「僕はいけない子なんかじゃない……」
「え……?」
「僕は言いつけを守ってるんだ……!」
 ディランドゥは、ミラーナを抱きしめているというよりは、しがみついているように腕をからませていた。
 ミラーナは困惑して、ベルトに手を伸ばすのをやめる。
「ディランドゥ……?」
 落ち着かせるように背中に手を当てると、ディランドゥはびくりとして、今初めて気付いたかのように体を離してミラーナを見つめた。
「おまえ……」
「……?」
 しばらく、無言で見つめあった。
「……あの」
 やがて気まずさに耐え切れなくなり、ミラーナが口を開けると、唇に熱い息が吹きかけられるのを感じる。
反射的に顔をそらそうとした瞬間だった。
「ん……っ、ん……、んっ」
 ベッドに押し付けるような形で、ディランドゥはミラーナの唇を奪った。
 息を止めていたミラーナだったが、やがて苦しくなって強引に顔を横へ向ける。だがディランドゥは回り込んで、
更に熱く唇を重ねてきた。強引に舌をねじこみ、歯の裏側まで丹念になめまわす。ミラーナの舌をなぞり、ぴちゃぴちゃと絡ませた。
「あ……っ、はぁっ、ん……」
 時折顔を放し、銀色の糸がぴんと張り詰める。ディランドゥはそれごと再度唇を寄せてくる。ミラーナの舌を音を立てて吸い上げ、
唇の肉を甘く噛み、ミラーナの吐息も含めた全てを吸いつくした。
 両手はディランドゥに強く掴まれたままだ。最初は抵抗していたミラーナも、先ほどとは違う、いじめるための行為ではない、
すがるような、何かに急ぐようなディランドゥの行為に、次第に力が抜けて行った。
 無理やり指を入れられた箇所がじんわりと熱い。何も入っていないのに、花弁が震えてきゅうきゅうと締まる。
 胸が痛くて苦しい。噛まれた箇所が、どくどくと脈打つ。
 ミラーナは知らずに舌を伸ばし、顔を近づけていた。
「ん…………う、ふ、あ……っ」
 涎でまみれた顔中がぬるぬると滑る。舌が相手の口から抜けて、ずるりと頬を這う。その熱すら刺激となって、
ミラーナは自然と両足をディランドゥに絡ませた。腰がうねり、更に体を寄せていく。
 ディランドゥの猛りが布越しから伝わると、ミラーナはぞくんと震え、更にディランドゥに足を絡ませた。
「は……っ、いいのかい、お姫様」
 息を荒げながら、ディランドゥは笑った。
「好きな男を追いかけてここまで来たんじゃなかったのかい?」
「!」
 ミラーナはざっと血の気が引いた。


 何をしてるの!?
102名無しさん@ピンキー:2008/05/19(月) 01:40:50 ID:/9DgGUqY

 こんな莫迦な女はいない!
 ミラーナはショックのあまり呆然となった。
「いいよ。おまえが欲しがってるものをあげよう」
「ま……待って!」
「今更待てると思うかい?」
 ディランドゥは上体を起こし、逃げようとするミラーナを膝で押さえつけながら、布越しからでも十分にわかるそれを、
取りだそうとした。
「待――」


 その時、扉を叩く音がした。

「ディランドゥ様。竜が!」
「ふん」
 部下の声に、ディランドゥは興醒めしたような声を出した。
 ゆっくりとミラーナの上からどき、ベッドから降りる。
「続きは帰ってからだ」
「あぁ……っ」
 ミラーナはがくがくと震え、己を抱きしめていた。
「この分だと、僕らはいい夫婦になりそうじゃないか。おまえもまんざらでもないようだしね」
「違う……!」
「僕はどっちでもいいけど。おまえの心など、もとから興味はないからね」
「!」
 きっと顔をあげるミラーナは、ようやく目が闇に慣れてきたことに気付いた。
 闇の中で浮かぶシルエットが、じっとこちらを見つめている。
「……」
 息をひそめていると、影がぐっと近づいた。


「でも心も手に入れられたら、面白くなりそうだよ」



 肩を抱き寄せられ、身構える。


「捨てる時のおまえの顔が、今から楽しみだ」


 そう言い残して、ディランドゥは去って行った。
 扉が開けられた瞬間差し込む光にミラーナは目を背ける。
 残された言葉は残酷であったのに、何故額に触れたのだろう。優しい唇で。

「どうして……」

 ミラーナは問わずに居られない。

 何故、アレンのことが頭から離れたのだろう。嫌いな、恐ろしい男に触れられている間に。


「……どうして……」

 何故、光の中で振り返った彼が、

 ――優しく微笑んだように見えたのだろう。
103名無しさん@ピンキー:2008/05/19(月) 01:42:39 ID:/9DgGUqY
今回はここまでです。
これで終わってもいい感じですが、本番がまだなので、
まだ続きます。申し訳ありません。
レスを下さった方、本当にありがとうございます。
大変励みになりました。
それでは、また書き次第投下します。
104名無しさん@ピンキー:2008/05/19(月) 08:23:03 ID:EwfiyI4A
>>103様、素敵です!ディラ様大好きな自分にとって最高です!!!キャラを壊さず展開されるお話、素晴らしいです。本当に感謝です。
105名無しさん@ピンキー:2008/05/19(月) 19:35:28 ID:kNjwGqKx
すごい、、、読むのに夢中になってしまいました。

接していくうちに少しずつ変化していく二人の心の描き方がとてもいい。
ミラーナ姫、ディラ様のことが恐ろしくて嫌なのに、
それでも彼に興味を持ち、向きあっていく姿がいい。彼女らしい。

強引な設定のはずなのに、すんなりと読めました。ありがとうございます。

>>104さんもおっしゃっているように、
キャラの特徴を壊さずにこのような話にもっていってくれているのがとても嬉しいです。
続き楽しみです!
106名無しさん@ピンキー:2008/05/22(木) 14:09:29 ID:zjGPXvI2
ディランドゥらしさが丸ごと表現されてていい!想像出来ます。
107名無しさん@ピンキー:2008/05/23(金) 08:14:49 ID:qajzRbzP
ディランドゥ様‥あいしてます。
108名無しさん@ピンキー:2008/05/26(月) 00:40:10 ID:kACZDUy3
投下した者です。
続きを投下します。










 照明を見つけたのはしばらくしてからだった。
 ミラーナは痛む体を引きずりながら、わずかに灯る明かりを見て安堵する。
 ベッドサイドに備え付けられていた小さなランプが照らし出す現実は、ミラーナに涙を与えた。
 乱れたベッドの上に散乱している自分の衣服。
 膝を抱えると、ディランドゥの匂いを思い切り吸い込んでしまい、咳が出た。
 じっとりと粘つく汗が全身を覆う。
 ……国を出てから、どれくらい時間が経ったのだろう。
 ミラーナは指で涙を拭いながら、冷静に考えることのできる自分に感謝した。大丈夫。どこも壊れてはいない。
 じくりと痛みが走り、のろのろと顔をあげる。両手首にはディランドゥに拘束された痕が残っていた。
 ぞっとして身震いすると、今度は胸の傷跡が目に入る。
 楕円形の、まるで縫い目のような歯型の跡。血が固まって黒ずんでいる。
 そっとそこに触れると、固まった血液がこそりと肌を伝って落ちて行った。
「……っ」
 悔しくてまた涙がにじんだ。
 唇をかみしめると、ディランドゥの味が口内に広がって、ミラーナはまた咳をした。
 どうして、許してしまったのだろう。
 自問するのはそのことばかりだ。
 訳の分らぬまま今まで会ったこともない、しかもザイバッハの男と許婚にさせられ、無理やり奪われそうになった。
 アレンの名を叫んでやればよかった。好きなのは、肌を許したいと思えるのは彼ひとりだけなのだと。
 ……何故それが、できなかったのだろう。
 今まで、アレン以外の男に目もくれたこともなかった。
 国など関係ない。愛しているのは彼だけだった。
 あの乱暴な手がアレンであればどれだけ嬉しかっただろう。
 しかしアレンはいつだって、自分のアプローチを避けてきた。
 追いかけるばかりで、一度も振り向いてもらえたことはない。 
 ……アレンは、自分を通していつも誰かを見ていたような気がする。
「わたくし……」
 ああ。
 ミラーナはぶるりと震えた。
 ディランドゥの仕打ちにではない。自分の醜さに気付いたのだ。

 ――わたくしは今まで、求められたことなんてなかった。
   一時の高ぶりであっても、あの時の彼は、わたくしだけを求めていた。
   ……それが単純に嬉しかったのだわ。わたくしはそれに応えたいと思った。なんて愚かな女。
109名無しさん@ピンキー:2008/05/26(月) 00:47:46 ID:kACZDUy3
 アレンはいつも孤高の存在で、その心に入り込むのは容易なことではなかった。
 それでもいいと思っていたのに。
 ディランドゥは簡単に自分に弱さを見せた。何かに脅え、震えていた。
 それを包んでやりたいと思った。
 きっとそれは、同情の類だった。
 自分を置いてフレイドへ行ってしまったアレンへのあてつけだったのかもしれない。……いや。
「違う……」
 ミラーナはつぶやいて、また涙をこぼした。
 アレンにあてつけなんかしたって意味がない。
 彼はわたくしを見てくれたことなんてないもの……

 ミラーナはベッドからゆっくりと下りた。
 周囲を見渡すと、いくつか扉があるのがわかる。
 そっと足を伸ばし、扉を開けていくと、最後に浴室を見つけた。
 傍らには衣服が放ってある。瞬間眉をひそめるが、裸同然の自分を見下ろし、落ちているそれを拾い、目の前で広げてみた。
 幸い女が着ても違和感のない形をしている。ミラーナは息をつくと、それを丁寧に折りたたみ、
 そばにあった棚の上に置くと、静かに中へ入って行った。
 中は小さな個室で、漬かるための湯船も見当たらない、かなり質素なものだった。
 ひとつしかない栓をひねると、壁に立てかけられたシャワーから適度なお湯が放出された。
 ミラーナは顔を洗い、落ちていた石鹸を拾って泡立たせる。
 いつもは広々とした浴場で侍女に体を洗ってもらっていたが、今は当然ながらひとりだ。
 泡を腕に乗せて滑らせる。侍女の力加減に注文をつけていた頃が遠い昔のようだった。
 泡を胸元へ持ってきたとき、傷口にしみてミラーナは一瞬体をこわばらせた。
「……信じられない。わたくしの体に傷を……!」
 今更ながらに、怒りがこみあげてきた。
 熱いお湯に当たっているうちに、凍結されていた感情が溶け出していくようだ。
 彼に触れられた箇所を念入りに洗ってゆく。
 両手でくびれた腰から太ももへ手を伸ばしたとき、ディランドゥの手の動きを思い出して、ミラーナはかっと熱くなった。

 ――彼は、わたくしも知らない場所へ手を……

 ごくりと喉が鳴る。
 何か酷く罪深いことをしている気になり、ミラーナはちらりと周囲を窺った。
 そっと、自らの茂みに触れてみた。
 中指だけを進ませると、驚くほど柔らかい肉に触れた。
 確か、彼は……
「ん……っ」
 足に力が入った。
 ふたつの花弁を人差し指と薬指で押さえ、中指を奥へと入れてみる。
 違和感が走り、慌てて手を止めた。
「はぁ……っ」
 緊張のあまり息を止めていた。何かが違う。彼の指はもっと太かった。この感覚はなんだろう。
 そうだ。確か彼は、何かを探り当てていた。それに触れられた途端、体が勝手に跳ねた……
 浴室に座り込んだ。
 誰かに見られたら大騒ぎになるどころか、乱心したと思われるだろう。
 それでもミラーナは、自らの好奇心を止めることができないでいた。
110名無しさん@ピンキー:2008/05/26(月) 00:48:23 ID:kACZDUy3
 大胆にも両足を折り曲げ、秘所がよく見えるようにすると、慎重に茂みをかきわけて、花弁を指で押し広げる。
「や……っ」
 あまりにもグロテスクなその内部を見てしまい、ミラーナは小さく悲鳴をあげた。
 医学書で読んだ記憶はあるが、実際に目にするとこんなにも違うものなのか。
 まじまじと息を殺して見つめていると、花弁の奥から奇妙な悪寒が這い上がってきた。
「あっ」
 花弁が閉じたと思った瞬間、どろりとした熱が出ていくのがわかる。
 お湯とは違う粘液が指を濡らし、ミラーナは知らずに胸の突起に触れていた。
「あぁ……なんなの、これは……っ」
 指で弄り回すとすぐに固まる蕾。歯形のついた肉をつかむと、鈍い痛みが背中をかける。
「あん……っ」
 はしたない声が浴室に響いた。その声にすら反応する。
 くちゅくちゅと指を出し入れさせていると、親指がある一点に触れた。
「ああぁっ!」
 嬌声が響く。ミラーナは遂に探し求めていたものを見つけた。
「あぁ、許して……」
 ミラーナは首を振りながらも行為に没頭した。
 傷口から出血するのも構わずに、強く胸をもみしだく。甘いしびれが全身に広がる。抜き差しする指の速度が速くなっていく。
「あっ、あっ、あっ、あっ、……いい……っ」
 息が荒く、全身を叩くシャワーの感覚が気持ちいい。
 ミラーナは何を思ったか、立て掛けられているシャワーを手に取ると、そこを秘所へとあてがった。
「あああああああああっ! ああっ、ああっ!」
 鋭く突いてくるお湯の硬さが、充分に弄られた花弁の奥へと容赦なく入っていく。
 ミラーナは喜びに震えながら、更に強く押しつけた。
 空いている手で花弁をまさぐり、一番感じる新芽をつまむ。
「んあああっ!」
 電流が走る。そう、これだ。これが欲しかった!
 ミラーナは夢中になりすぎてバランスを崩す。その時、新芽をつまんでいた指に力が入ってしまい、
一層強い刺激が全身を駆け巡った。
「あ――――っ!!」
 目の前が真っ白になった。
 ミラーナはびくんと大きく震えると、シャワーを放り出し、横向きに倒れた。
111名無しさん@ピンキー:2008/05/26(月) 00:52:35 ID:kACZDUy3
 顔に当たるお湯でほどなくして我に返る。
 とろんとしていたミラーナの瞳に、徐々に光が戻って行った。
「いや……っ、わ、わたくし……っ」
 慌ててシャワーの栓をひねった。
 途端に静まり返る浴室。ぽたぽたと髪から流れる滴。酷く荒い自分の息遣い。
 ミラーナは両手で顔を覆った。

「嫌よ、こんなのわたくしじゃないわ……!」

 変わってしまった。
 変わってしまった!
 ミラーナは羞恥に震えて泣きじゃくった。

 落ち込みながら浴室を出、タオルを探して手に取った。
 体を拭き、先ほどの服を手に取る。髪の毛を別のタオルで包んで頭からすっぽりとかぶった。
 わずかに大きかったが、全く着られないほどではない。
 麻の質素な服だった。
 髪をタオルで叩きながら、これからのことを考える。
 どうすればいいだろう。
 彼は――、ディランドゥは、今どこへ?
 ミラーナははっとした。
「アレン!」
 自分のことなんかにかまけて、今の状況を忘れていたなんて!
 格好のことは気にせず、ミラーナは部屋から飛び出した。
 来たときは静まり返っていた廊下が妙に騒がしい。

「ディランドゥ様!」
「誰か、医者を! 魔術師を!」

 怒声と罵声。
 ただならぬ事態にミラーナは声のするほうへ走った。
 幾人もの人とぶつかり、そのたびにぎょっとされながらもそんなことに構っていられない。
 嫌な予感が胸中を渦巻く。胸につけられた傷がどくどくと脈打っていた。
「何の騒ぎです!?」
 人だかりのほうへ行くと、背の高いフォルケンが、その中で自分を見つけるのがわかった。
 一瞬目を見開くが、駆け付けたミラーナに冷静に告げる。

「フレイドへ行く竜たちを捕獲しようとしたのですが……」
「えぇ!?」

 フレイド。
 三年前に亡くなった、マレーネお姉さまが嫁いだ国。
 そうだ、確かにそんなことを言っていた……
 自分の愚かさを呪いながら、ミラーナは次に告げられた言葉に絶句した。
「ディランドゥが、負傷しました」
「なんですって!? ……どいて、おどきなさいっ」
 無理やり人垣をかきわけ、ミラーナは担架に乗せられているディランドゥを見た。
「なんてこと……!」
 苦悶の表情を浮かべるディランドゥの腹部から、血がどくどくと滲んでいた。
「クリーマの爪を弾いた竜の剣のせいで、爪の一本がディランドゥ様を!」
 悔しげにつぶやくダレット。
「ミゲルの野郎のせいだ! 迂闊にしゃしゃり出てきやがったから!」
 別の隊員が苦々しく吐き捨てる。
「敵の捕虜にまでなるとは、なんたる面汚し!」
「そんなことを言ってる場合じゃないでしょう!? これは今すぐ縫合が必要な傷だわ。お医者様はいないの!?」
 ミラーナが一喝する。隊員たちはしんとなった。
「……残念ながら、ヴィワンには魔術師はいても、医者はおりません」
 フォルケンの声が突き刺さってきた。
112名無しさん@ピンキー:2008/05/26(月) 01:01:12 ID:kACZDUy3
「な、なんですって!? ここは要塞ではないの!? 商船ではないんでしょう!?」
 ミラーナがあっけに取られ、隊員たちも口々に不満の声をあげる。
「そうです! ここには魔術師だって、医者だって何人も――!」
「正確には、彼の治療をする医者はいない、と申し上げるべきか」
 フォルケンは苦い表情で言った。
「そんなバカな話があってたまるものですか!」
 ミラーナは憤慨してフォルケンに向き直った。
「医者は、人を治すのがお仕事でしょう!? 何故彼の治療はできないの!? 
 彼はここに必要な人ではないの!?」
「無論、必要です」
 フォルケンは淡々としている。
「しかし、彼らはディランドゥの心や、肉体の変化にしか興味がない。
 このような傷を治してまで生かす価値があると思うかどうかまでは……」
「ディランドゥ様は竜撃隊隊長であらせられます! 指揮官がいなくては――!」
 ダレットが叫ぶ。
「アデルフォス将軍がおられる。今後はあの方の配下に置かれることになるだろう」
「そんなことができるわけが――!」
 フォルケンと竜撃隊の問答の中、ミラーナは苦しげに息を吐くディランドゥを見下ろした。
 青白い顔がさらに蒼白になっている。額に浮き出た汗が止まらない。
 歯を食いしばり、時折うめき声をあげている。
 ミラーナはひざまずき、汗に濡れた前髪を払った。

「――あんたならできるでしょう、お姫さん」

 その時、間延びした声がした。
 一同がざっと振り返る。ミラーナは目を丸くした。
「もぐらさん!?」
「き、貴様、どこから入った!」
 シェスタが血相を変えて、小柄な男に詰め寄った。
「最初からいましたよう。あんた方、お姫さんに見とれるばっかりで、
 あたしのことなんざ気にもかけてくれないんですからねえ、ぐへへへへ」
 もぐら男は笑って頭を掻いた。
「そ、そんなバカな……!」
「ありえん……!」
「まあまあそんな話は置いておきましょう。お姫さんは、そのザイバッハの軍人さんを、
 お助けになりたいと思ってらっしゃるんでしょう?」
「わ、わたくしは……」
 もぐら男がひょこひょこ近づいてきた。ミラーナは困惑し、苦しむディランドゥを交互に見る。
「確か姫君は、医学にご興味がおありだとか」
 フォルケンが言うと、ミラーナはますます眉根を寄せた。
「それは……で、でも、わたくし、書物を読んだきりなんです。勉強をしたくても、お父様がお許しになってくれなかったから」
「でも、少なくともここの連中よりは、あんたのほうがお詳しいじゃありませんかぁ」
「でも……」
「姫!!」
 ミラーナの前に、竜撃隊一同がずらりと整列した。
「どうかディランドゥ様をお救いください!」
「そ、そんな」
「あなたしか、頼れる方はおりません。どうか!」
113名無しさん@ピンキー:2008/05/26(月) 01:04:12 ID:kACZDUy3
「……しかし、いいのかな。姫君はディランドゥと無理やり許婚にさせられた身。
 ここで彼を見殺しにしたほうが、姫君にとってもいいのでは」
「フォルケン殿!!」
 冷やかな一言に、竜撃隊が一斉に睨みつけた。それから、不安そうにミラーナを見つめる。
 ミラーナはたじろぎ、もう一度ディランドゥを見た。
「わたくしは、民の力になりたくて、医学を学びたいと思ってきました。それがたとえどんな方でも……」
 瞼を閉じる。
 浮かぶのは、恐ろしい顔をしたディランドゥばかりだ。
 でも。


 額に触れた、彼の優しい唇を覚えてる。




「――もぐらさん、わたくしの青いかばんはある?」
「はいはい。ここにありますよぉ」
 もぐら男はにかりと笑い、後ろ手に持っていたミラーナの青い鞄を前に出した。
 ミラーナはうなずくと、立ち上がる。

「やります」

「姫!!」
 竜撃隊の顔が明るくなる。
 それを見たミラーナは、ディランドゥのもうひとつの顔を見た気がした。
 ……大丈夫。後悔は、しない。
「手術のできる場所を作ってください。何か役に立ちそうなものがあれば、全て持ってきてください。お湯とタオルもたくさん

用意して、それから、どなたか手伝いを頼みます」
「わかりました!!」
 竜撃隊がばらけて行く。
 フォルケンは意外そうな顔をしていた。
「まさか姫君が彼を助けようとなさるとは」
「あなた方がしてくれないからですわ」
 ミラーナは怒りに満ちた顔でフォルケンを見上げた。
「誰であっても見捨てたりしない。それが人というものです。何故そんなこともわからないの!?」
「……そうですね」
 フォルケンは、義手の腕を見つめた。

「何故、忘れていたのでしょう」
 
 
 もういいと、ミラーナは踵を返した。
 もぐら男と竜撃隊のひとりが手招きをしているのを見つけ、そこへ向かって足早に去る。
 フォルケンはその姿を見送りながら、ぼそりとつぶやいた。




「あなたのその優しさと勇敢さは、彼を救うかもしれません。しかしあなたは必ず後悔する。
 ……これも運命の導きなのか……」
114名無しさん@ピンキー:2008/05/26(月) 01:06:52 ID:kACZDUy3
今回はここまでです。
かなり強引な展開にしました。
まだかかりそうで誠に申し訳なく思っております。
前回の投下にレスを下さった方々、本当にありがとうございます。
今回ディランドゥがほとんど出てこなくてすみません。
どこまで続けていいものかと自問しながら書いていますが、
もう少しおつきあいください。
それでは、失礼します。
115名無しさん@ピンキー:2008/05/26(月) 05:45:56 ID:US0sTWw8
>>114
GJGJGJ!!確かに強引だがそこがいいw
ついに姫様のエロが!!!!!

筋が(ミラーナがアレンを治療する)本ルートの裏って感じで
かなりグッときました。
この後の展開も楽しみに待ってます!
116名無しさん@ピンキー:2008/05/26(月) 08:25:37 ID:Hwiuf+BB
>>114ありがとうございます!最高です。まさか、あの展開につなげるなんて‥最高にGJです!!今後ますます楽しみです。ディラ様好きとしては、エロ小説本として欲しいくらいです!
117名無しさん@ピンキー:2008/05/29(木) 06:36:13 ID:UfrHXgN+
いいよォ、すごくね…期待
118名無しさん@ピンキー:2008/05/31(土) 21:12:26 ID:MNLn/zAI
続き頑張って下さい!何も出来ないけど応援しています
119名無しさん@ピンキー:2008/06/02(月) 01:22:40 ID:zYa9RJzW
投下したものです。
書いていくうちにどんどん広がってしまい、
ふたりの心の距離を縮めるにはまだ時間がかかりそうな感じです。











 ミラーナは白衣とマスクを受け取った。
 着る前に、鏡に映った自分を見てあまりの格好に唖然としたが、動転している暇はないと襟を正す。
 ボサボサの髪をひとくくりにし、麻の服の上から白衣をまとい、マスクをした。

 ――まさか、医者でもないわたくしが、メスを握ることになるなんて……

 責任の重大さに、ミラーナは一瞬震えた。
 しかし時間はない。
 自分以外に、彼の命を救える者はいないのだと、ミラーナは再度己にいい聞かせた。

「姫。こちら、準備はできております」
 シェスタが緊張した面持ちで、ミラーナを出迎えた。
「ありがとう。……まあ、さすがだわ。これほどの設備が」
 部屋に入って、ミラーナは感嘆した。
 ありとあらゆる最新式の機械が所狭しと並んでおり、ディランドゥはそれに囲まれるようにして眠っていた。
 麻酔は最初に打っておいたので、今は苦悶の表情はない。子供のような、安らかな顔で瞼を閉じるディランドゥを見て、
ミラーナは必ず助けなくてはならないと、強く誓った。
「できる限りのことはします。皆さん、よろしくお願いします」
「はっ!」
 シェスタ、ガァティ含む数人の竜撃隊が、揃って踵をつけた。
「では念のために、暴れださないよう、いつでも体を押さえつけられるように数人か、彼の傍に――」
120名無しさん@ピンキー:2008/06/02(月) 01:23:28 ID:zYa9RJzW

 長い時間が過ぎて行った。
 戦で死体は見慣れているといっても、こういうときとはまた事情が違うのだろう。
 竜撃隊のひとりが途中で具合を悪くして退室した。
 人間の体を切り開き、中に刃物を入れるという行為を見慣れている人間はどれほどいるだろうか。
 人を殺すために剣を突き立てるのではなく、人を生かすために刃物を入れる。
 ……何か思うところがあったのかもしれないと、ミラーナは口元を押さえながら立ち去る隊員の背をちらりと見送った。

 ――ディランドゥは、わたくしがこうして命を救おうとしていることを、どう思うのかしら。

 ミラーナは手を動かしながら思った。
 屈辱だと顔をゆがめるかもしれない。お節介だと罵られるかも。
 それでも、砂粒程度でいいから、何かを感じてほしかった。
 恩義ではなく、別の何かだ。
 例えばそう、命の重さというものについてでも。

 ――莫迦ね、あなたは。

 ミラーナの目元が緩んだ。
 どんなに想っていても、望んでいても、叶わないことがあることくらい、知っているじゃないの。
 今は、自分ができることをしなければ。
 なるべく感情を押し殺し、ミラーナは書物と傷口を交互に見つめながら、慎重に事を進めていった。
「……できた……」
 手術用の糸で傷口を縫って行き、最後にぱちんと切り終えると、ミラーナは血にまみれた両手をぶらりと下ろした。
「姫……」
 シェスタがおずおずと口を開く。
 ミラーナは弱弱しく微笑んだ。
「無事、終わりました……大きなミスはないはずです。彼の眼が覚めるのを待ちましょう」
「ありがとうございます!!」
 ダレットが飛びつかんばかりの勢いでミラーナの手を握り締めた。
「あっ、血が……」
「ああっ」
 ゴム手袋にこびりついたディランドゥの血液で、ダレットの手が滑る。
「この馬鹿めっ」
 シェスタが嬉し涙をにじませながら、ダレットにタオルをよこした。
「姫がいなければどうなっていたことか」
「このご恩は忘れません!」
 ふたりが泣いてミラーナの前で頭を下げる。
 ミラーナはゴム手袋を外して滅菌用の袋に入れて口を閉じ、ゴミ箱へ捨てると、ふたりに向きなおった。
「まだ油断はできません。ディランドゥがおとなしく寝ていてくれれば、傷の治りもよくなると思うのですが……」
「う……」
 ふたりは眠るディランドゥを見て固まった。
「彼の傷がいえるまで、わたくしでよければそばにいます。なるべく安静にさせるようにしましょう」
 ふたりの様子を見て、ミラーナはなぜか進んで申し出てしまう。しまったと思った時は、竜撃隊の面々がぱっと明るくなっていた。
「それは心強い!」
「早速皆にも知らせてきます!」
「あの……!」
 慌てて伸ばした手が空を切った。
 瞬間、今までの疲労と緊張の糸がぷつりと切れ、ミラーナはそのまま意識を失った。
121名無しさん@ピンキー:2008/06/02(月) 01:27:03 ID:zYa9RJzW
 気づけば、草原に立っていた。
 夕暮れ時、草も木も何もかもが橙色に染まっていた。遠くには家すら見えない。
 侍女はどこかと、ミラーナは周囲を見渡した。
 こんな広原に独りでいるなど危険すぎる。お忍びで街に出ることはあるが、それは近くに城があるのがわかっているからだ。
 こんな場所でたったひとりでいるなど、ありえない。
 そもそもここはどこなのだろう?
 ミラーナは一歩を踏み出した。
 途端、強い風が襲ってきた。
「きゃ……!?」
 髪がほつれ、服がはためく。
 ミラーナは腕を交差させて顔の前で構え、風が収まるのを待った。
「おねえちゃん」
 ようやく風が落ち着いたころ、子供の声がした。
 腕をおろし、声のするほうを向くと、すぐそばに金色の巻き毛をした女の子が立っている。
 ミラーナは首をかしげた。
「驚いた。あなた、どこから来たの?」
「遠くて、近いところ」
 謎かけのような答えに、ミラーナは困惑した。
「遠くて、近い? ……あなた、自分の家はわかる?」
 よくはわからないが、この辺の子供なら、人のいるところへ案内してくれるかもしれない。
 そんな希望も込めての問いかけだった。
 しかし子供はにっこりと笑うばかりで、ミラーナをますます困惑させるだけだった。

「――セレナ!」

 その時だ。
 ミラーナの耳に、懐かしくてたまらない声が届いたのは。
「……アレン……!」
 長い金の髪をまとわりつかせた青年が、こちらに向かってかけてくる。
 青い瞳。吸い込まれそうなほど美しい顔立ち。アストリア随一の、剣の使い手!
 ミラーナは感極まって、走ってくるアレンに飛びつこうとした。
 だがアレンは巧みにミラーナをかわし、代わりに少女を抱き上げる。
「あ、アレン?」
 すがるように手を伸ばしたミラーナに、アレンは少女を抱き上げたまま、軽く一礼した。
「随分と長く、あなたとお会いしていなかったような気がいたします。ミラーナ姫」
「あの……」
「私はようやく、満たされた」
 アレンは少女と顔を見合わせ、幸せそうに微笑んでいる。
 ミラーナは嫌な予感を覚えた。
「アレン……その子は?」
「私の妹です」
「妹……? そんな小さな? 確かあなたのご両親は……」
「ミラーナ姫」
 戸惑うミラーナに、アレンは目を細めた。
「私を想ってくださるあなたのお心に添えないことを、お許しください」
 ちくんと、胸が痛んだ。
「……何故、そんなことを?」
 声が震える。
「これから先も、わたくしがあなたの心に入り込む余地はないということなの?」
「お別れしなくてはなりません」
 その問いには答えず、アレンは言った。
「どうか姫はお健やかに……これからもその純粋なお心のままにお過ごしください。
 あなたの行いは、間違ってはおりません。そのことを忘れないで……」
「別れ!? どういうこと!? アレン!」
 混乱するミラーナがアレンに近づこうとすると、アレンは笑って首を振り、一歩下がった。
「皆にすまないとお伝えください。それから……」
「アレン!」


「フレイドの王子に……」
122名無しさん@ピンキー:2008/06/02(月) 01:31:18 ID:zYa9RJzW
「っ!」
 頬に流れる涙の熱で眼が覚めた。
 心臓がうるさく内側から暴れているのがわかる。
 ミラーナは荒い息をしながら、ぼんやりと天井を見上げた。
「夢……」
 つぶやいて、安堵の息が漏れる。
 そう。
 自分は先ほどまでディランドゥの手術をしていたのだ。草原にいるはずがない。
 しかし何故あんな夢を見たのだろう。
「!」
 ミラーナは起き上った。
「ディランドゥは!?」
 ふっと見れば、ここはディランドゥの部屋ではなく、違う部屋なのが見てとれた。
 手術はしてくれなかったが、病室は用意してくれたということなのだろうか。
 その割には窓もなく、閉鎖的な印象がぬぐえないが、ベッドを用意してくれただけありがたいことなのだろう。
 ミラーナは陰湿な部屋から出て、扉へ向かおうとした。


「冷たいお医者さんだね。病人を放ってどこへ行こうっていうんだい」


「!」
 振り向けば、少し離れた場所で、ディランドゥが寝ているのが見えた。
「ディランドゥ!」
 まさか同じ部屋にいたとは思っていなかったミラーナは、慌ててそちらへ駆け寄る。
 点滴につながれたディランドゥは、若干青ざめてはいるものの、皮肉な笑みはそのままに、息を弾ませるミラーナを見上げていた。
「良かった。眼が覚めたのですね。……傷のほうは……」
「僕の体を勝手に切り刻んでくれたそうじゃないか」
 ミラーナの言葉を無視し、ディランドゥはイライラした口調で言った。
「そんな、切り刻むだなんて……っ、あなたは傷口を縫合しなくては危険な状態で……っ」
「僕にまた醜い傷が残るなんてね……それも医者ですらない異国の女なんかに!」
 ミラーナはショックを受けた。
 感謝されるとは微塵も思っていなかったが、まさかここまで言われるなんて!
「か、勝手に手術をしたことは、謝ります」
 ミラーナは怒りをこらえてかしこまった。
「でも、あなたを助けるためでした。……助けたかったんです、ディランドゥ」 
123名無しさん@ピンキー:2008/06/02(月) 01:36:33 ID:zYa9RJzW
「何が狙いだ」
「!!」
 ディランドゥはぷいと横を向いた。
 あまりな言われようにミラーナが絶句していると、
「おまえが何の見返りもなく僕を助けるなんておかしいじゃないか。ここへ来たいと言ったのはおまえだよ。
 今更帰してくれなんて泣きついたって遅いからね」
「ディランドゥ」
 ミラーナは、おずおずとディランドゥの頬に触れた。
 目にかかる前髪をそっと払う。
「…………」
 抵抗しないディランドゥを見て、ミラーナは理解した。

 ――なんて、不器用な人なの。

 嬉しさや喜びを素直に表現できないのだ。
 だからこうやって、攻撃的な言葉で相手から引き出そうとする。望む言葉を。
 横を向かれて露になった頬の傷をそっと撫でた。
「醜くなんてないわ、あなたは」
「当たり前のことを言うんじゃないよ」
 ディランドゥはその手を取ると、甲に口づけた。
「僕は借りを返す主義だ」
「え……、あっ!」
 口づけられた甲に激痛が走った。
 咄嗟に引っ込めようとすると、その手をぐいと引っ張り、倒れこむミラーナを、ディランドゥは抱きしめた。
「何を……!」
「血が足りないんだよ」
 ディランドゥはそう言うと、噛みついたミラーナの手の甲から滲む血に唇をつけた。
「輸血はそうするものではなくてよ!」
 何度血を吸えば気が済むのかと、ミラーナはディランドゥの顔をひきはがしにかかった。
「へえ。じゃあ教えてよ、お姫様」
「んっ!」
 意地悪く微笑んだディランドゥの顔が眼前に迫ったかと思うと、ミラーナは深く口づけられた。
 これが手術を受けた人間のすることなのかと思うくらいの力強さで、ベッドに押さえつけられる。
「夫の命を助けるなんて、妻の鑑だね、ミラーナ」
「お放しなさ……い、ちょっ、嫌っ!」
 耳をなめられ、そのまま舌が首筋を這う。
 今度はそこに噛みつかれるのかと、ミラーナは包帯で巻かれたディランドゥの傷口に手を当て、軽く力を込めた。
「ぐ……っ」
 途端、ディランドゥの身体がこわばり、動かなくなる。
 ミラーナはこれ幸いとベッドから抜けだした。
 肩で息をしていると、
「やってくれるね……!」
 ディランドゥの苦痛に満ちた声がする。ディランドゥはゆっくりとベッドに体を預ける形で倒れこんでいた。
 ミラーナはほっとして笑った。
「けが人はおとなしくしていなさい」
「元気になったら覚悟しておくんだね」
 悔し紛れのディランドゥの声に、ミラーナは果敢にも腰に手を当てて言ってやる。
「わたくしをどうこうしたいのなら、わたくしの言うことに逆らってはだめよ。いつまでたっても動けませんからね」
「ふん」
 ディランドゥは布団を頭から被って横を向いてしまった。
 しばらくそれを見守り、人を呼びに行こうと扉へ向かうミラーナの背に、ぽつんと声が当たった。


「おまえは馬鹿だよ。……ほんとに」


 その言葉に幾重もの意味が隠されていることを、ミラーナは後で思い知ることになる。
124名無しさん@ピンキー:2008/06/02(月) 01:38:53 ID:zYa9RJzW
今回はここまでです。
長くて申し訳ありません。
前回の投下でレスを下さった方々、いつもありがとうございます。
本当に励みになっております。
今月中には終わらせるように致します。
それでは、失礼します。
125名無しさん@ピンキー:2008/06/02(月) 13:12:22 ID:hTfrUS5x
最高、本当に嬉しいです!今後も楽しみです。長編大変ですが、応援しています!
126名無しさん@ピンキー:2008/06/02(月) 22:31:59 ID:MJEBU2X+
もの凄く読み応えがあります。
ミラーナ好きとしてはたまらん。
続き楽しみにしてます!
127名無しさん@ピンキー:2008/06/09(月) 01:30:17 ID:boiT4AD3
 投下した者です。
 続き投下します。








 ベッドに縛り付けられてから幾日もの時が過ぎて行った。
 ディランドゥは苦虫を噛み潰したような顔で、天井をにらみつけている。
 刺された腹部の傷のうずきは治まらない。時折様子を見に来る竜撃隊の連中がうっとうしく、
彼らが来るたびにディランドゥは攻撃的な言葉で相手を退けた。
 しかし、恐縮する彼らの後ろから、ミラーナが眉を吊り上げてひょっこり顔を覗かせると、バツが悪そうな顔になって、
ぷいと横を向いてしまう。
 かしこまって出ていく部下の足音が遠ざかるのを確認してから顔を戻すと、両手に包帯を抱えたミラーナが残っていた。
 ……気に入らない。
「何故あんな風に追い返すの? あなたが意識を失っている間、彼らは酷く狼狽してたわ。あなたにも見せたかったくらいよ」
 こつこつと規則正しい靴音をさせて歩いてくる。
 それに合わせて鼓動が早くなるのはどんな冗談だ。
「僕はやつらの上官だよ。その僕が負傷して、動揺するなと言うほうが酷だ。……最も、僕はそんな教育をしたつもりは
ないんだけどね」
「素直にありがとうと言うだけで、ずいぶん違うのに」
 お姉さんぶるようなその口調に、ディランドゥはムッとした。
「うるさいよ。僕の隊のことにまで口を出すんじゃない。お節介だよミラーナ」
「わたくしはお節介が好きなんです」
 ミラーナはディランドゥが寝ているベッドの足もとにひざまずくと、レバーをまわした。するとディランドゥのベッドの上半分がゆっくりと持ち上がる。
「僕に無断で何をする気だい、お節介さん」
「また勝手に動かれて、傷口が開いたら困るからこうしているのよ」
「僕の傷口を拳でえぐったのはどこかのお姫様だと思ったんだけどね」
 ディランドゥは忌々しげに言った。
「まあ。女性がほんの少し触れた程度で大げさな。あなた、大分無理をなさったのね。気をつけないといけないわ」
 ミラーナは涼しい顔で眼を丸くして見せた。ディランドゥはふんと横を向いて舌打ちする。
 ミラーナは肩をすくめ、ディランドゥの襟元に手を伸ばした。ぎょっとしてその手をつかむ。
「! 何をする」
「静かにして」
 ミラーナはもう片方の手で、ディランドゥの手をそっと押さえた。
128名無しさん@ピンキー:2008/06/09(月) 01:33:25 ID:boiT4AD3
 触れられるのは大嫌いだった。
 許可もなく、誰かの手が自分に触れることは同時に嫌なことが起こる前触れでもあったから。
 知らずに体が小刻みに震え、歯の根元がかちかちと鳴った。
「やめろ……僕に触るな!」
「何もしないわ」
「してるじゃないか! やめろ!!」
「ディランドゥ!!」
 両手を振り回して暴れようとしたディランドゥの両肩を、ミラーナは痛いほど掴んだ。
 ディランドゥははっと我に返り、荒い息をつく。
 ミラーナはその様子を痛ましそうに見た。
「包帯を換えるのよ。それから、あなたは汗をかきすぎなの。着替えもしなくてはならないわ。いつまでもこのままじゃ、
治りも遅くなるし、あなたも嫌でしょう?」
「自分でできる……だから僕に触るな……!」
 怯えた顔で、ディランドゥはミラーナを見つめた。赤銅色の瞳の中に映るミラーナの顔は、今にも泣き出しそうになっている。
「……困った方」
 ミラーナは吐息をつくと、ディランドゥからゆっくりと離れた。
 それから、傍らに置いてあった簡易な椅子に座ると、まだ震えるディランドゥをじっくりと観察するように見守る。
 ディランドゥはその視線に気づき、ばっと顔を背ける。
「……僕を哀れだと笑いたいんだろ」
「そんなことしないわ」
「じゃあ何が狙いだ!」
「……わたくしが何か狙っているとしたら」
 ミラーナは息をつく。
「あなたの傷が、早くよくなりますようにってところよ」
「嘘つきめ! おまえが僕の傷を治したいなんて思うわけないじゃないか!」
「……もうっ! 一体何度この問答をしなくてはならないの?」
 ミラーナは立ち上がった。
「あなたはわたくしが手術をしたのよ。どうして治ってほしくもない人に、そんなことをすると思うの。
 あなたも言ったでしょう? わたくしは、望んでここへ来たのよ。だから、ここから降ろして欲しくて手術をしたんじゃないわ。
あなたに、早く良くなってほしいのよ」
「……嘘だね」
「ディランドゥ!」
 ミラーナは抗議したが、ディランドゥはそれきり黙ってしまった。
 そろそろ包帯を取り換えなくてはならないのは本当のことだ。
 いつでも清潔な布を巻いておかなければ、化膿するかもしれない。
 ミラーナはごくりと息を飲んだ。
 こうなったら、力づくだ。
129名無しさん@ピンキー:2008/06/09(月) 01:37:34 ID:boiT4AD3
 細い指が肩にかかったかと思うと、ぐっと強く掴まれた。
 かっとしてミラーナに向き直ると、ミラーナは青ざめた顔でディランドゥを見ている。
「触るなと――!」
 声を荒げたが、ミラーナは聞かなかった。
 ディランドゥの上着を素早くたくしあげ、布の塊をディランドゥの顔に押し付ける。視界と呼吸を遮られてディランドゥは叫んだ。
「やめろ! この馬鹿女!!」
 瞬間、激痛が走る。
「う……っ!」
 息がつまり、体が硬直する。ミラーナはそのすきに上着を取り払い、汚れた包帯を手早く解いた。
 ぬかるんだ衣服が顔からどいた瞬間、さっと新鮮な空気がかすめていく。ディランドゥは涙目になりながら、
憎たらしい女が許可もなく自分の肌に指を這わせているのをにらみつけた。
「血がにじんでるわ。わたくしのいない処で、どうして動くの?」
 ミラーナは、そんなディランドゥに気付かず、傷口を見て呆れたように顔をしかめていた。
 包帯のほかに持ってきた消毒液をガーゼにしみこませ、ちらりとディランドゥを見やる。
「……なんだよ」
「しみますわよ」
「いちいち僕を見るな」
 そう言ってから、ぎゅっと目をつぶる。
 ミラーナがくすりと笑う気配が伝わってきて、ディランドゥはぎりりと奥歯をかみしめた。
 ひやりとした感触が伝わったかと思うと、途端に焼き鏝を当てられたような痛みが全身を駆け巡った。
「馬鹿! しみるじゃないか!!」
「ですから、そう言いました」
「悪趣味だねミラーナ。一番痛い薬を使ってるんだろう」
「そんな薬はありません」
 ミラーナはテープでガーゼを押さえると、立ち上がって洗面台のほうへ歩いて行く。
 ディランドゥはその隙に、ガーゼを取って捨ててやろうかと考えたが、ミラーナがまた同じことをするのかと思うと、何故かそんな気も失せてしまった。
 息をついていると、ミラーナが湯を張ったタライを持って戻ってきた。
「今度は僕にどんな拷問をしてくれるんだい、お医者様」
 皮肉を言うと、ミラーナはタライを脇に置き、こほんと咳払いした。
「清潔にしないと、傷の治りもよくないの。包帯を巻く前に、体を拭きます」
「おまえが? 僕の?」
「……別にこれくらいは、あなたがしても構わなくてよ。あなたは動きたがっているようだし」
 ミラーナは先ほどまでの勇ましさはどこへやらで、もじもじと顔を横へ向けている。
 ディランドゥは、主導権を握るのはここしかないと、口角を吊り上げた。
「是非やってもらいたいね。痛くしないんだろう?」
「……そんなことしないわ。いいの?」
「もちろん」
 王のように寛大に微笑んでやると、ミラーナは疑惑の目を向けながら、湯にタオルを浸した。
 それから両手で絞り、いったん広げてから四つ折りにする。
 さてと向き直ると、上半身裸で、色白のディランドゥがにやにやしながらミラーナを見つめていた。
「……あんまり見ないでくださらない? やりづらいわ」
 ミラーナは頬を紅潮させる。二人の間に、よくない空気が流れているのは明らかだった。
「どうして? 僕の体だ。おまえが適当にしているのがすぐわかるように、見ていなくちゃいけないだろう?」
「……っ」
 ミラーナは、息を止めてから、なるべくディランドゥの顔を見ないようにして、手を動かした。
130名無しさん@ピンキー:2008/06/09(月) 01:40:22 ID:boiT4AD3
 あの時は暗がりだった。
 だけど、覚えている。この女の体と匂いを。
 鼻先を、ミラーナの金の髪がかすめるたびに、いい香りが鼻腔をくすぐった。
 胸の先端を生暖かい布が通り過ぎるだけで、ぞくりとする。それをしているのがこの女なら尚更だった。
 腹の傷には触れないよう、細心の注意を払っているのがわかる。だけどその緊張はそれだけじゃないだろう?
 ディランドゥは、ミラーナがタオルを洗い直すたびに大きく息をつくのに気付いた。
 ぐっと唇をかみしめてからこちらに向き直り、かがむたび、彼女から息がしない。
「そんなに固くなるなよ」
 からかうように言ってやると、ミラーナはぎょっとしてまともにディランドゥの顔を見た。
 下唇をかみしめていたせいか、うっすらと腫れぼったくなっている。息を止めていたのがよほど苦しかったのか、アメジスト色の瞳はうっすらと潤んでいた。
 ディランドゥは本能のままに、顔を近づけた。
「……馬鹿だね。そんな顔を僕に向けるんじゃないよ」
 自分でも驚くくらい、それは優しい声だった。
 穏やかな心のまま、唇を重ねる。
 かすめるようなキスに、ミラーナはぐっとこらえるような顔になった。瞬間、瞳を覆っていた涙の膜が滴となる。
 その水晶をなめとり、ディランドゥはミラーナを引き寄せた。
「僕を誘惑したって、何も出ないよ」
「誘惑だなんて……!」
「だって、僕のここを見てごらんよ」
 ディランドゥが笑いながら言って、ミラーナをひきはがす。ミラーナは素直に振り返り、膨れ上がった欲望を見てぱっと顔を戻した。
「いけない子だね。僕が動けないのを知っていて、おまえは平気でこういうことしちゃうんだから」
「あ、あの……」
「おまえが鎮めてごらんよ」
「えぇっ?」
 ミラーナは真っ赤になってうろたえた。
 その姿を見て、何故今自分は動けないのだろうとディランドゥは悔やむ。
「早くしないと、ベッドを汚しちゃうかもしれないよ」
「でもっ」
「奇麗にしたいんだろう? 僕の下半身を無視するなんて、酷いじゃないか」
 ミラーナはかぶりを振ったが、ディランドゥは許さなかった。
「このまま出て行ったら、ベッドをおまえが見たこともないようなもので汚してやる。おまえ以外にシーツは取り返させないからね」
 ミラーナは泣き出しそうな顔でディランドゥをにらみあげている。
「僕だって嫌だけどね。おまえはもっと嫌だろうさ。結構きついんだ。……臭いが」
「い、嫌っ!」
 ミラーナは立ち上がろうとした。
「どこへも行かせないよ、お姫様」
 ディランドゥはミラーナを背後から抱き締めた。
「放してっ!」
「放してほしいなら、僕の言うことを聞くんだね」
「あ、あなた、治りたくないの?」
「おまえがおとなしく言うことを聞けば、すぐに治るさ」
 ずきずきとひきつるような痛みを無視しながら、ディランドゥは服の上からミラーナの胸に触れた。
「あっ」
 ミラーナがびくりとする。
「おまえは僕のものなんだ、ミラーナ」
 耳元で囁き、固く拳を作るミラーナの手を持ち上げる。甲には先日つけたディランドゥの歯形がまだ残っていた。
「その方がいいんだよ」
 言ってから、ふくらみに触れていた手にぎゅっと力を込める。
 ミラーナが悲鳴をあげてもがけばもがくほど、ディランドゥはミラーナを離さない。
 パニックを起こしたミラーナは、知らずに叫んでいた。


「――嫌あっ! アレン!!」
131名無しさん@ピンキー:2008/06/09(月) 01:46:50 ID:boiT4AD3
 その刹那、間違いなく、全ての時が止まった。
 この切り取られた空間の中で、動くものは何もなかった。
 ミラーナは震えながら、この不気味な静寂の意味を涙ながらに考える。
 何故?
 ……違う。


 違う……!


「呼んだって無駄だよ」

 ざわざわと胸の奥が騒いでいる。
 何も聞きたくなんかない。そのために、今、時を止めたのだから。



「おまえの騎士はどこにもいない」


 なのに何故聞こえるのだろう。この声だけが。

 何も聞きたくなんかないのに。



「おまえは誤ったんだ」




 ――忘れないで。


「僕を助けるべきじゃなかったんだよ」


 ――忘れないで……
 


「おまえの愛しい天空の騎士は」



 ――あなたの行いは……



「おまえを残して逝ったんだ」



 ――それを、忘れないで……



「いやああああああああああああああああああっ!!!!!!」

132名無しさん@ピンキー:2008/06/09(月) 02:16:03 ID:boiT4AD3
 半狂乱になってわめきだしたミラーナを、ディランドゥは傷の痛みも忘れて抱きしめていた。
 だから馬鹿だというんだと、悪態もつけた。
 しかし何を言っても、今の彼女には何も伝わらないだろう。
 もう少し後になってから言おうと思っていた。
 体を結び、悦びの声をあげてひれ伏した馬鹿な女の心をずたずたにする切り札と、取っておいたのだ。
 あの時、天空の騎士と対峙したふたりの間に割って入ってきたのはミゲルだった。
 あの男は、性別が不安定な頃に女になった自分を弄んだ軽蔑すべき部下だった。
 何を血迷ったかクリーマの爪を乱射し、その内の一本が、それぞれふたりを貫くなど、どんな笑い話か。
 しかし爪は、ディランドゥの脇腹を刺し、騎士の乗るガイメレフの方は面を貫通していた。
 どう見ても即死だった。
 薄れゆく意識の中で、誰かが出て行った気がしたが、もうどうでもよかった。
 あの男が死ねば、間違いなく泣く女がいるなと、ぼんやりと思っただけだった。

 どれほどそうしていたかはわからない。
 ミラーナは、ディランドゥの腕の中でおとなしくなった。
「……僕を憎むんならそうすればいい」
 ディランドゥは、諦めにも似た胸中でつぶやいた。
「だけど僕は、おまえごときに殺されてなんかやらないからね」
 言ってから、ずきんと胸が痛んだが、それは傷のせいということにしておく。
 ミラーナはわずかに身じろぎし、しゃくりあげた。
「……憎むなんて、アレンは望まないわ」
「そうかい」
 急にミラーナが憎たらしく思えた。ディランドゥは突き放すように吐き捨てると、拘束していた腕を解く。
 ミラーナはベッドから立ち上がり、ディランドゥに背を向けて、静かに騎士の死を悼んだ。
「アレンは最期に、わたくしに会いに来てくれた。……それだけでいい。アレンは幸せそうだったの」
「おまえの妄想だろ」
 身も蓋もないディランドゥの言い方に、ミラーナは苦笑した。
「そうかもしれない。でも、あの笑顔を見られたから、わたくしは大丈夫だわ」
 振り返って弱弱しく微笑んだミラーナを見て、ディランドゥは舌打ちした。
 それは、思い通りに混乱しないミラーナを腹立たしく思ったせいだろうか。
「僕の前で嘘は言うんじゃないよ」
「……」
 心に切り込んでくるような一言だった。
 ぐっとしまいこんでいた感情が、露になりそうになる。
 ディランドゥは、この時ミラーナが見た中で一番美しい顔立ちになった。
 まっすぐに見つめてくるディランドゥの赤銅色の瞳は、この時だけ血の色をしていなかったように思う。
 ディランドゥは、両腕を広げた。


「おいで」
133名無しさん@ピンキー:2008/06/09(月) 02:17:38 ID:boiT4AD3
 目が丸くなる。
 腕を広げたまま傷ついた姫君が飛び込んでくるのを、ただディランドゥは待っていた。
 強制ではなく、自分の意志で。
 そうすることで、もう本当に逃げられなくなる。
 これは最後の忠告であり、チャンスだった。
 ミラーナはしばらくの間、ディランドゥを見つめていた。
 時折しゃくりあげ、咳をする。
 それでもディランドゥは、その姿勢を崩さなかった。

 
 ミラーナは、何故この人を憎めないのだろうと思いながら、ディランドゥの腕の中で泣いた。
 仇だと言ってしまっていい人なのに。
 知りすぎたせいだ。
 それしかない気がした。
 何も知らない間柄でいれば、憎むこともできた。今この瞬間だって、弱っているこの男の命を取ろうと思えばできるだろう。
 でも、できない。
 できなかった。
 自分の選択を正しいと認めてくれたアレンの言葉。
 それが後押しとなって、ミラーナは飛び込んでしまった。逃げられない檻の中に。
 もう後悔はしないと誓いながら。
134名無しさん@ピンキー:2008/06/09(月) 02:18:55 ID:boiT4AD3
今回はここまでです。
前回レスを下さった方々、いつもありがとうございます。
また書きあげ次第、投下いたします。
それでは、失礼します。
135名無しさん@ピンキー:2008/06/09(月) 07:09:12 ID:caCiLzf6
キャラの口調や性格がそのままなので、違和感無く引き込まれてしまいます。毎回とても楽しみにしています!
136名無しさん@ピンキー:2008/06/09(月) 09:18:02 ID:JCXZzkzt
>前回
お兄様死んだー!!!?

と思ったらやっぱり死んでたー!!!!
今回も予想外の展開でした。ツンデレっぽいミラーナかわいいっす。
137名無しさん@ピンキー:2008/06/11(水) 07:27:31 ID:zzxf92Vu
おもしろいな、これ!長編大変だと思いますが、頑張って下さい。待ってます!
138名無しさん@ピンキー:2008/06/16(月) 00:06:31 ID:Z4gYOD1+
いよいよ本番来る!?
今夜も投下が楽しみで眠れません><
139名無しさん@ピンキー:2008/06/16(月) 01:04:54 ID:GM0E5+2y
投下した者です。
続き投下します。









 背中に熱い滴が流れ落ちていく。
 全く、身体を拭いてくれるというのはどうなったんだか。
 ディランドゥはそう思いながらも、全く悪い気分ではない自分に気づく。
 口元に浮かぶ苦笑の意味はなんだろうかと考えながら、腕の中の女を手放す気になれない気持ちと同等のものなのかもしれないと、
我ながら解読に時間を要する結論を導き出した。
 時折天を仰ぎながら、自分の行動に何か間違いはあっただろうかとも自問する。
 自分より美しいものは嫌いだという理由で手に入れたはずの女だった。
 それがどうだ。
 美しいだけの女ではなかった。
 女というものを知り尽くしている気でいた。自分が元はそうであったから。
 それなのに、理解できない。
 難攻不落の城と呼ばれるものを前にした気分だ。
 身体を揺らしながら嗚咽を続けるこの女を、この先自分はどうしたいのだろう。
 手放す気にはなれない。
 でもこの気持ちはいつか変わってしまうかもしれない。
 それを恐れた。訳もなく。
 いや、訳はきっとある。
 しかしそれを今決めてしまうのは、あまりにも早急すぎると思った。
 まだ、今は。

「僕の檻にいる気分はどうだい」

 長くも、短くもない時間が過ぎる頃、ディランドゥは静かに言った。
 タライの中はすでに冷え切っており、それを浸したもので体を拭かれるなど御免だと、ぼんやりと思った。
 ミラーナもだんだんと落着きを取り戻しているようだ。
 ディランドゥの体を拭いていたタオルで顔を押さえ、鼻をすする音がする。
 美人が台無しだと思ったが、その顔を見てみたい気持ちになった。
 くすりと笑ってから肩に手をかけると、ミラーナはうつむいたまま身をよじる。
「今更恥ずかしがることなんてないだろう? 顔を見せておくれよ、花嫁さん」
 声をかけると、ミラーナはささっとタオルを押さえたままでベッドから降りた。
 今まで温めていた卵を取られた親鳥の気分とはこういうものなのだろうか。
 素肌をさらしていたので尚更か、急に部屋の温度が下がったような寒気が襲う。
 ミラーナはこちらに背を向けたまま、タオルで顔を拭っていた。
「こっちを向いてごらんよ」
 からかうように声をかけると、ミラーナは肩を怒らせて、口元をタオルで押さえたままこちらを振り返った。
 目も鼻も真っ赤だが、そのアメジスト色の瞳は曇ってはいない。
 そうでなくてはと満足した。
 死んだとはいえ、他の男のせいで心を閉ざされてもらっては困る。
 今は寛大な心で許しているが、いずれ思い知らせてやるのだ。
 怒るのも、悲しむのも、憎むのも。
 ――全て捧げるのは、僕にだけだ。
 ふたりの間に、奇妙な沈黙が下りていた時だった。
140名無しさん@ピンキー:2008/06/16(月) 01:09:15 ID:GM0E5+2y
 不意に扉をノックする音がして、ミラーナは我に返ったようだった。慌ててかけていく。
 興をそがれた気分でディランドゥが上着を着直していると、
「気分はどうだ、ディランドゥ」
「――別に。見ての通りだよ」
「あ、あの。順調に回復していますわ」
 静かにフォルケンが入ってきた。そっけないディランドゥの対応をフォローする形でミラーナが口を添える。
 フォルケンは目を細めると、ディランドゥの傍らにある椅子に腰をかけた。
「また共に酒を酌み交わそう。傷が癒えたらの話だが」
「なんだ。見舞いに来たんなら、それくらい持ってきてくれてもいいんじゃないのかい、フォルケン」
「いや、それはまたの機会に」
「ふん」
 ミラーナはそんなふたりのやりとりを見て、口元をほころばせていた。
 フォルケンという男は、ディランドゥの手術にあまりいい顔をしていなかったと思ったのに、こういったやりとりができる間柄だったのだ。
 今まで見舞いにも来なかったのは、きっと仕事が忙しかったのだろう。
 ミラーナが見守る前で、フォルケンは話し出した。
「今回の作戦についてだが」
「軍師殿。こんな場所でその話は感心しないね」
 ディランドゥが眉をひそめる。フォルケンはちらりと後ろのミラーナを見たが、目を戻した。
「何か問題でも?」
「おやおや。何事にも慎重に事を進めるのがお好きなんじゃなかったのかい?」
 ディランドゥは明らかに苛立っている。ミラーナは邪魔にならないよう、出て行こうとした。
「姫君はどうかここにおいでください」
「え……っ」
「フォルケン!」
 静かなフォルケンの声に、ふたりは驚いた。
「ザイバッハのことだよ。あの女は関係ないじゃないか!」
「あ、あの、わたくしは……」
「いや。いてもらって構わない」
「気でも触れたのかいフォルケン。あんたらしくないね」
「そうかな?」
 所在無げに扉の前に佇むミラーナを、笑いを含んだ瞳で見やると、フォルケンはディランドゥを見た。
「今回の作戦に、君は不要だ。今は体を治すことだけを考えていてほしい」
「……あぁっ!?」
 ディランドゥの荒れた声に、ミラーナはびくりと身体を震わせた。
 久しぶりに見た気がした。
 今にも人を殺してしまいそうな、あんなディランドゥは。
「馬鹿にしてもらっちゃ困るね軍師殿……」
 ディランドゥはフォルケンのマントをつかんだ。その手がぶるぶる震えている。
「今の君に、ガイメレフを乗りこなすことは無理だ」
「フレイドまであとどれくらいだ!?」
「ディランドゥ」
「あと何日でつくのかって聞いてるんだよフォルケン!!」
 噛みつきそうな勢いで吠えるディランドゥに、フォルケンはやれやれと口を開く。
「あと十日もあれば」
「十分な時間じゃないか……それまでに治してみせるさ、こんなかすり傷はね!」
「無理だ」
「無理じゃない! ……僕にバァンの相手をさせないつもりだねフォルケン……そんなに弟が可愛いかい? ええっ!?」
「え!?」
 フォルケンが目を閉じると同時に絶句したのはミラーナだった。
 ディランドゥはミラーナを見ることもしない。
 爛々と燃える赤銅色の瞳を、フォルケンは淡々と見返した。
「竜たちが先にフレイドに着いたとの報告を受けている。
 すでにまやかし人も潜入済みだ。我々に戦う意思はないことをフレイドに知っていてもらわねばならない……」  
「それが狙いだろう? どうせ落とす国だ。竜も捕獲でき、フレイドも陥落できる。その作戦に僕が必要ないだって? 
 疲れてるんじゃないのかい軍師殿。僕は何日もベッドで休んでいるからよくわかるよ、あんたの頭がおかしいってことがね!」
「いや。今の君に一番足りないのは冷静さだ」
「おまえが僕の楽しみを奪う権利がどこにある!」
 つかみかかるディランドゥに対し、フォルケンはどこまでも冷徹だった。
 義手をディランドゥの首にかけたかと思うと、指の先端から針を出し、突き刺した。
141名無しさん@ピンキー:2008/06/16(月) 01:16:39 ID:GM0E5+2y
「う……っ!?」
 目を見開き、ディランドゥの体がくず折れていく。
「ディランドゥ!」
 ミラーナは咄嗟に走り出ると、その熱くなった体を支え、ベッドにゆっくりと寝かしつけた。
「やはりこうなったか。……成長しないな、ディランドゥ」
 憐れみをこめたその声に、ミラーナはかっとして振り返った。
「何故こんなことを!?」
「彼が無茶をしないためです。姫君がいない間、彼は次の戦に備えていた」
「だからって! ……こんなやり方は酷いわ!」
「随分と、彼にお優しいのですね、姫君」
「……え?」
 激昂していたミラーナは、その物言いに目を丸くする。
「彼は仇ではないのですか、アレン・シェザールの」
「……っ!」
 ミラーナはフォルケンをにらみあげた。
 やはり知っていたのだ。
 いや、その事実を今の今まで知らされていなかったのはミラーナひとりだったのだろう。
 だからフォルケンは、ディランドゥの手術を買って出たミラーナに忠告したのだ。親切にも。
 ……大きなお世話だ!
「お目が赤い。そのことで泣いていたのでは? それを慰めたのは彼ですか。信じがたいことですが」
 フォルケンは容赦がなかった。
「愛していた男を殺したのは彼でしょう。私には理解できませんが、それもあなたの優しさですか、姫君」
「――口を慎みなさい」
 ミラーナは背筋を伸ばした。
「――アレンのことを、黙っていて下さったのには感謝しますわ。もし手術をする前に知ったら、わたくしはきっとディランドゥを救わなかった。メスを握る手が震えたことでしょう」
 前で重ねた手に力が入る。
「わたくしは、騎士を愛しました」
 脳裏に浮かぶのは、背中ばかりだった。
 何度あの広い背を追いかけただろう。
 いつだったか強引に唇を重ねた夜もあったが、彼はただ逃げなかっただけだ。受け入れてくれたわけではない。
 それを知ってて、尚追いかけた。
 振り向いてくれない背中。
 ……でも。

 ――忘れないで……

「これからも、それは変わらないでしょう」
 ミラーナは微笑んで見せた。
 フォルケンは目を見開く。
「……何故そのような顔ができるのです」
 その問いに、ミラーナは不思議な笑みを浮かべるだけだった。
 説明しても、きっとわかってもらえない。
 最後の最後で振り向いてくれた。
 この気持を表す言葉を、自分は知らない。
「アレンという男は、幸せ者ですね」
 フォルケンは穏やかに言った。
「死してもそうして想ってくれる方がいるのだから」
「……アレンへの思いはずっとあることでしょう。でも……」
 ミラーナは笑みを深くする。
「わたくしは、報われない恋をする運命にあるのかもしれません」
142名無しさん@ピンキー:2008/06/16(月) 01:20:21 ID:GM0E5+2y
「! それは」
「それよりも」
 フォルケンが追及するのを避けるように、ミラーナは口を出した。
「先ほどのお話について、聞かせてください」
「……どのお話でしょう」
「おとぼけになるのがお上手ね」
 ミラーナは苦笑した後、真顔になる。
「あなた方は、ファーネリアを滅ぼし、更にフレイドにまで攻め入るおつもりなのですか」
 フォルケンは何も言わない。ミラーナは眉根を寄せた。
「……先ほどディランドゥが言ったことは、本当ですの? あなたが、バァンの……」
「……すべて、事実です」
 フォルケンは囁くように答えた。
「なんてこと……」
 ミラーナは充血した目を細めた。
「それも全て……」
「ザイバッハのため? 何故です? バァンのお兄様ということは、あなたはファーネリアを継ぐお方だったはずです! 何故ザイバッハに!?」
「あなたが国を捨てる覚悟でここにいるように」
 フォルケンは、義手の手を握り締めた。
「私もここにいる。……我々の望む未来は、ザイバッハを含む全ての人々のためになることなのです」
「ご自分の国を滅ぼしてまで、あなたは未来に全てを託すのですか」
「それが必要とあらば」
「フォルケン様」
 ミラーナは首を振った。
「そんな未来で、誰が幸せになれるというの」
「幸せは、人の手で作れるもの。それを我々は探求し続けてきた。ようやく、つかみかけているのです、姫君」
「男の方は、ロマンを語るのがお好きね」
 ミラーナは笑えない冗談だと言うようにこめかみを押さえた。
「ついてくる民がいなくて、何が未来だというの。そんな暗雲に包まれた未来なら、わたくしは今を見るわ。
 傷ついた民を救い、すぐに来る明日を共に生きようと一緒に立ち上がるわ。
 そのための王族ではないの?」
「民を先導するのも仕事です」
「……その民を滅ぼして、何が仕事なの!?」
「だから私は、もう王族ではない」
「っ!」
 ミラーナは、手を振り上げた。
 静かな湖畔のようなフォルケンの瞳は、揺らぐことはない。
「……っ」
 ミラーナは唇をかみしめながら、静かに手を下ろした。
「…………フレイドを攻める理由を、教えてください」
「あるものを手に入れるためです」
「滅ぼしてまで、手に入れるものなの?」
「いいえ。彼らが友好的であれば、それに越したことではない。私は戦を好みません」
 ミラーナは今度こそフォルケンを打った。
 乾いた音が室内に響く。
 フォルケンは微動だにしなかった。
 ミラーナは痛む手を握りしめ、まっすぐにフォルケンを見た。
「わたくしに行かせてください」
143名無しさん@ピンキー:2008/06/16(月) 01:22:21 ID:GM0E5+2y
「…………」
「わたくしなら、彼らと話し合えます。彼らはわたくしの顔を知っています。姉がフレイドへ嫁ぎましたから。……もう亡くなりましたが」
「――感謝を」
「えっ?」
 頬を腫らしたフォルケンは、うっすらと微笑みながら、ミラーナに手を差し出した。
 義手が突然マントから現れたので、ミラーナは反射的に下がり、ベッドの端へ膝の裏をぶつけた。
 フォルケンはわずか目を細めたが、ミラーナはそれに気付かなかった。
「あなたなら、そう言って下さると思っていました。姫君。勇敢なあなたなら」
「あ、あなたまさか、最初から……!?」
 絶句するミラーナに、フォルケンは静かに微笑みかける。
「その優しいお心は、必ずやフレイドにも伝わるでしょう」
「あなたという人は……!」
 差し出された手を振り払ってやろうかと思った時だった。

「僕の妻に触るんじゃないよ」

「!?」
「起きていたのか」
 けだるげな声が後ろからして、ミラーナはぎょっとし、フォルケンは意外だと目を丸くした。
「あんたの可愛い弟と違って、僕はこういう薬にはある程度免疫ができてるんだよ。
 ……今回ばかりは、忌々しいあの魔術師共の実験体にされていて良かったと思うべきかな」
 ディランドゥは息をつきながら前髪を後ろへ払った。
「どこから聞いていた」
「僕のお節介なお姫様が、フレイドと交渉するって辺りからかな」
 ディランドゥはつまらなそうに言った。
「お手並み拝見といこうじゃないか。どうせ僕は動けないんだしね」
「ディランドゥ……!」
「ほう。おまえがそんなことを言うとは思わなかった」
 ふたりの言葉に、ディランドゥは舌打ちする。
「またあんな失態はごめんだからね。今回はおとなしくしておくよ」
「おまえにしては、賢明な判断だな」
「うるさいよ。もう用は済んだんだろ。つまらない見舞いをありがとう軍師殿」
「心おきなく休むがいい。ディランドゥ」
 フォルケンはミラーナを見た。
「では、よろしく頼みます、姫君」
「できる限りのことは致しますわ」
 フォルケンは軽くうなずくと、静かに出て行った。
144名無しさん@ピンキー:2008/06/16(月) 01:45:58 ID:GM0E5+2y
「随分と仲良くおしゃべりしていたみたいだね、ミラーナ」
 扉が閉まると、ディランドゥはミラーナの腕をつかんだ。
「……どうしたらそう見えたのか、教えてほしいものですわ」
 まだ怒りが冷めないミラーナは、ディランドゥをにらみつけた。
「おまえは僕のものだと言っただろう?」
「それに了承した覚えはありません!」
「ならわからせてやる。夫の機嫌を損ねた詫びをしろ」
 ディランドゥが腕をつかんだ手を引いた。慌ててベッドの端を手でつかんで体勢を整えると、ちょうどディランドゥを見下ろす形になった。
「いけないことをしたら、ごめんなさいって言うんだ」
「……言いません」
「さっきまで僕の胸で泣いてたくせに」
「…………っ」
 羞恥に頬が染まった。
 まだアレンを失った悲しみは心の中にあるというのに、今は目の前の赤銅色の瞳が自分を捉えて離さない。
「……ごめんなさい」
 小さな声でそう言うと、ディランドゥは馬鹿にしたように笑った。
「誰が許すか、この間抜け」
「んぅ……っ!?」
 ぐいと後頭部を押さえつけられ、荒々しく唇を奪われた。
 歯と歯がぶつかり、ちりっと痛みが走る。どこか切ったようだ。顔を離そうともがいても、ディランドゥの手は力強く、このまま押しつぶされるのかと恐怖すら覚えた。
「優しくすると、すぐこれだ……」
 銀の糸で結ばれながら顔を離す合間に、ディランドゥが独り言をつぶやいているのがかろうじて聞き取れた。
「やめ……っ」
「こんな血の量じゃ足りないよ……っ、雨みたいに血が降る中を走るのが好きなんだ……!」
「い……っ!」
 がぶりと、首の根元を噛まれた。
 わざと音を立てて吸いつかれ、肉を食いちぎられそうな激痛が走った。
「その成りで出かけるといいさ。おまえがどんなにザイバッハと争うのはやめろと訴えたところで、フレイドはおまえを信用しない。
おまえは哀れな捕虜で、僕たちに拷問されたと思われるだろう。おまえのせいで、戦争になるぞ。おまえのせいで、国が燃えちゃうんだ。いい気味だ!」
「あなたは……!」
 ミラーナは涙をこぼしながら、ディランドゥを打った。
 二度目の乾いた音。
 ディランドゥは目を見開き、わなわなとミラーナに向きなおった。
「僕を……僕の顔を……!」
「今度は顔くらいじゃ済まなくてよ!」
 ミラーナは泣きながらディランドゥの両肩をつかんだ。
「せっかくこうして生きているのに、何故あなたはそうやって死に急ぐの!? あなたには心配してくれる人があんなにいるのに、どうしてそれをわかろうとしないの!」
「何を――」
「見ていなさい。わたくしは戦争なんか絶対に起こさせない!」
 ミラーナの気迫に、ディランドゥは息をするのも忘れた。

 ――なんだ。何がどうなってる。どうしてこの僕が、女ごときにひるまなくちゃいけないんだ!

「勝手にしろ!」
「ええ、勝手にしますとも!」
 ミラーナは放置してあったタライを抱えると、足早に去って行った。
 扉が閉まると同時に、ディランドゥはありったけの力をこめて、枕を投げつける。
「おまえの思い通りになんか、させるもんか……!」
 ぎりぎりと奥歯をかみしめる。
 何がいけなかった? 
 何故、あの女は怒るんだ?
 そんな自問が脳裏をよぎるが、強引に打ち消した。
「何もできるわけないじゃないか。あんな女に!」
145名無しさん@ピンキー:2008/06/16(月) 02:08:09 ID:GM0E5+2y
 それからフレイドへ着くまでの十日間、ミラーナは一度もディランドゥのいる部屋を訪れなかった。
 最初は同室だったが、ミラーナがディランドゥの夜這いを警戒して別室にしてもらったのだ。
 竜撃隊のうっとうしい見舞いもどうでもよくなった頃、ディランドゥは驚異的な回復力を見せ、ちょっとした運動ならできるようになっていた。
「もういいのか、ディランドゥ」
 後ろに竜撃隊を引き連れてやってきたディランドゥを見て、操縦室にいたフォルケンが声をかけた。
 周囲をちらちら見ながら、ディランドゥは面倒そうに答える。
「僕はいつでも出撃できるよ」
「ディランドゥ。その必要はないと」
「関係ないね。フレイドと同盟を結ぼうが、その前に僕らの力を見せつけておかなくちゃ……」
 気もそぞろといったディランドゥの様子を見て、フォルケンは微笑んだ。
「――姫君は、すでに準備をしているが」
「ああそうかい」
 ディランドゥはどうでもいいといった風に肩をすくませるが、ちらりとフォルケンを覗き見た。
「……地下の、捕虜のいる部屋にいるが」
「親善大使に随分な扱いだね。あの女にふさわしいよ」
「いや、別の客人がそこにいるのでね。姫君は彼に会いに行ったんだろう」
「彼ぇ?」
 途端に不機嫌になる。フォルケンは穏やかに言った。
「獣人だ。彼自らが、地下の方が落ち着くからということでね」
「全く、僕の奥さんは何人の男をたぶらかしているんだか」
「君の心配は、彼を見れば杞憂に終わると思うが」
「何を言ってるのかわからないねフォルケン。僕にもわかる言葉で話しておくれよ」
 ディランドゥはひらひらと手を振って歩き去った。
146名無しさん@ピンキー:2008/06/16(月) 02:09:14 ID:GM0E5+2y

 フォルケンの言葉は、獣人を見てすぐに理解した。
「あん時の軍人さんじゃないですかぁ〜。良かったですねえ。もう歩けるようになってえ」
 異臭に顔を背けるディランドゥの前で、もぐら男はにやにやと黄色い歯を見せて笑っていた。
「なんだ、こいつは……!」
「彼が手術道具を用意してくれたの。あなたの命の恩人よ」
 口も利くものかと思っていたミラーナは、そんなディランドゥの様子を見て気分をよくした。
「寒気がする……! ほんとに悪趣味だよミラーナ! 囲うなら、もっと美しいものにするんだね」
「きれ〜なものなら、あたしゃいっぱい持ってますがねえ、ひひひ、ほら、お姫さん」
 もぐら男はリュックサックを探ると、中から豪奢な首飾りを取り出した。
「……まあ!」
 ミラーナがその光に吸い寄せられていくのを、ディランドゥはつまらなそうに見た。
「これからフレイドの王様と会うんでしょ? だったらちょっとおめかししていかなくちゃぁ」
「これ、貸して下さるの!?」
「とんでもない。差し上げますよぉ。この持ち主はあんただ。宝石は人を選びますからねえ」
「ありがとう!」
 ミラーナは早速その首飾りをしてみせた。
「ほう! たまげた。やっぱりぴったりだぁ。ねえ、軍人さん!」
 まるでミラーナに合わせて作られたかのような首飾りは、ミラーナの美しさを更に引き立てる。
 暗い部屋の中でも目を細めたくなるほどのまばゆい輝きが、ディランドゥの目を撃った。
「ふん。そんなものでいちいち喜ぶんじゃないよ」
 ディランドゥはぷいと顔をそむけた。
「ありゃりゃ。へそ曲げちゃったよ、この軍人さん。お姫さんがあんまり綺麗なんで、照れてるんですなあ、うひゃひゃひゃひゃ」
 笑い転げるもぐら男に殺意の目を向けるディランドゥ。
 ミラーナは咄嗟にディランドゥの腕を取った。
「迎えに来て下さったんでしょう? 行きましょうっ」
「ふん。ごまかそうったってそうはいかないよ」
「行ってらっしゃぁあ〜い。気ぃつけてぇ〜」
 間延びしたもぐら男の声を背に、ふたりは足早になった。
「……でも、よかったわ。あなたがこうして元気になって」
 ふたりで出口へ向かいながら、ミラーナはぽつんと言った。
「言うのが遅いんだよ」
 ディランドゥは、待機していた竜撃隊がこちらに向かってくるのを見ながら、そっけなく言った。
「ふふ、ごめんなさい」
「覚悟しておくんだね。今まで色々された分は、全部覚えてるからさ」
「はいはい」
 ミラーナは取り合わず、フレイド公国に降り立った。


「――よう! 待ってたぜ!」


 緊張した面持ちでフレイドへ足を踏み入れようとしていた一同を待っていたのは、場にそぐわない軽い声だった。
「若旦那〜!」
 小さな男が必死の形相で走ってくるのを無視し、声の主は呆気に取られているミラーナの前に立った。
「久しぶりだなぁ! なんて綺麗になっちまったんだぁ、俺の許婚は!」
147名無しさん@ピンキー:2008/06/16(月) 02:13:00 ID:GM0E5+2y
今回はここまでです。
ようやく終わりが見えてきました! ちょっと先は長いですが。
前回レスを下さった方々、いつもありがとうございます。
本番なくてすみません。
お互い健康な状態の方がよかろうと、先延ばしにしてしまいました。
まだ素直になれないふたりですが、もうしばらくおつきあいください。
それでは、失礼します。
148名無しさん@ピンキー:2008/06/16(月) 07:25:42 ID:2qcNp4ay
ただのエロ小説ではなく、丁寧な構成で面白いです。話のつなげ方がお上手ですわ!!
149名無しさん@ピンキー:2008/06/19(木) 01:44:58 ID:sJ9kO3XT
ミラーナもディランドゥもなんか可愛くていいなw
150名無しさん@ピンキー:2008/06/22(日) 23:25:24 ID:Daf5hAx2
投下した者です。
今回エロが全く出せませんでした。
長くて申し訳ないです。









「お久しぶりです、ミラーナ叔母様。父は領地を回っているため、私が代わりに参りました」
 誰かを思い出させる柔らかな金の髪と、青い双眸をくりくりさせた小さな王子が、控える一同の前で微笑んでいる。
 あれからすぐにフレイドの兵たちが彼らを出迎え、不機嫌になっているディランドゥと、特に変わった様子もないフォルケンを伴って
フレイドへ入国した一同は、そのまま王の間へと通された。
 ミラーナの後ろに、仏頂面のディランドゥと、静かに膝を折るフォルケンがかしこまっている。
「まあ、シド。こんなに大きくなられて! 前にお会いした時は、まだほんの小さな子供でしたものね」
 内心の動揺をひた隠しにしたまま、ミラーナは目を細めて見せた。
「まだまだ父上には及びませんが、精進していくつもりでおります。フレイドは、あなた方を歓迎いたします。失礼ながら、
ミラーナ叔母様のお顔を見るまで、私は疑心暗鬼でしたが、思いすごしのようですね」
 シドは無邪気に微笑んで見せた。
 ミラーナは小さく苦笑する。
 これがフレイド公王であれば、恐らくこうはならなかっただろう。表と裏を使い分け、探りを入れる綿密な会話を楽しむに
違いない。 ザイバッハの悪名を知らぬ者はいないのだから。
 ミラーナがいなければ、こんなにやすやすとフレイドへ入ることは叶わなかっただろう。
 だがシドを責めるつもりはない。こればかりはいくら頑張っても、経験が物を言うのだから。
「シド王子はお人がよろしすぎますなあ」
 突然隣の男がからからと笑い出した。
「! ドライデン!」
 ミラーナが驚いて男をたしなめる。
 しかしドライデンと呼ばれた男はにたにたとシドを見据えた。
「いいことを教えて差し上げましょう! 戦いは、剣と剣を交えてするのだけを言うのではありません。
 今! この場ですら、もう始まっているのです。例えばこの場でもし私が」
 ドライデンは骨ばった指をピストルの形にしてシドに向けた。
「何を!」
「無礼であろう!」
 たちまち周囲の者が腰を上げる。
「ドライデン!」
 ミラーナが真っ青になるが、ドライデンは人差し指をシドにぴたりと当て、にやりと笑った。
「――あなたを撃てば、それで終わりです。
 油断は禁物。
 商人の俺にこういった真似は性に合わないんで、口先三寸で相手をやりこめますがね。
 シド王子は、もっと人を疑った方がよろしいと俺は思いますよ」
「ご忠告、感謝いたします、ドライデン殿」
 シドは沸き立つ周囲を黙らせると、にっこりとドライデンを見つめた。
151名無しさん@ピンキー:2008/06/22(日) 23:27:53 ID:Daf5hAx2
「私は若輩者ゆえ、そういったお言葉は大変ありがたく思います。
 己の証は己で立てる。これはフレイドの掟でもありますが、ドライデン殿は疑わしいと思った相手に、どういった策を講じる

のか興味がありますね」
「これはこれは」
 ドライデンはぺしんと自分の額を叩いた。
「商人であるこの俺に、その方法をお尋ねになりますか!」
「ええ、是非。もう私たちは友です。友情に見返りは求めない。これは私の持論です」
「はははっ」
 ドライデンは豪快に笑った。
「また教えておかなくちゃいけないですかな。人と人とのつながりに金が要り用になることもある。
それをこれからご覧にいれますよ」
「シド王子、無礼をお許しください」
 ミラーナがたまらず間に割って入り、深々と頭を下げた。
「ミラーナ叔母様。よいのです。僕はまだまだ知らないことばかりです。……人の言うことを素直に真に受けることは、時に愚

かなことなのだということも知りました」
「えっ?」
 ミラーナが顔を上げる。シドは悲しげに微笑んだ。
「数日前に、ファーネリアの王と共に、アレンの亡骸がこちらに」
「!」
 ミラーナを含めた誰もが息を飲んだ。
 封じ込めていた感情が、堰を切ってあふれ出しそうになるのをミラーナはかろうじてこらえる。背後に控えるディランドゥ

の突き刺さるような視線を背中に感じた。
「……私の母は、アレンの話をよくしていました」
 シドがぽつりとこぼした。
「美しく、勇気があり、誰にも負けない天空の騎士。それがアレン・シェザールだと。
 ですが僕の元に来たアレンは、顔もわからないほど損傷を受けていて、僕は姿すら見られませんでした」
「シド……」
「彼らの話によれば、アレンと戦ったのは、ザイバッハの方々だとか。……フレイドの王子として、私はその真偽を確かめたい

のです。というのも、彼らが連れてきた捕虜が、ザイバッハはこの国を守るためにここへ来たと証言しているのです。どちらを

信用すればいいのか、私にはわかりません。捕虜の言葉は、プラクトゥより引き出した真実のものだと皆は言います。けれど僕

は」
 シドは目を伏せた。
「……わかっているのです。母上がしてくれた話は、幼い私を喜ばせるためのおとぎ話だったのだと。でも僕は、……私は、本

当のことを見つけなくてはならないのです。
 己の証は己で立てる。
 どうか私に、真実をお教えいただきたい。
 アレンの部下たちは、ザイバッハがフレイドを攻め落とすつもりだと言います。
 ……それは事実ですか」
「だとしたらどうするんだい」
「!」
 ミラーナの後ろで、ディランドゥが挑戦的に言った。
152名無しさん@ピンキー:2008/06/22(日) 23:31:56 ID:Daf5hAx2
 周囲がざわめく中、フォルケンは苦い顔をし、どうすればこの場を鎮めることができるかを瞬時に計算し始めた。
「……あなたは」
 シドが静かに問う。
「ザイバッハの軍人だよ。知ってるかい? 軍人ってのは、戦いを仕事とする者のことを言うんだ」
「ディランドゥ!」
「本当のことだろ? 戦って何が悪い。敵が目前にいるのにただ間抜けに切られるのを待ってろっていうのかい」
 ミラーナが白くなって振り返るが、ディランドゥは皮肉な笑みを崩さない。
 不穏な空気の中、フォルケンがすっと目を開けた。
「数々の非礼をお詫びいたします。王子」
 深々と頭を下げてから、静かにシドを見つめる。
「確かに、アレン・シェザール一行といざこざがあったことは認めましょう。しかし捕虜の言葉は事実です」
「その捕虜ってのは僕の部下だよ。勇敢にも単独で危険を知らせに来てくれたんだろうね。今どこにいるんだい? 会わせておくれよ」
 ふたりの言葉にミラーナは冷や汗を浮かべる。
 明らかに嘘をついている。
 それを糾弾できるのはこの場では自分ひとりだというのに、体が動かない。
 下手なことを言えばどうなるかは言わずもがなだ。
 苦い顔をするミラーナに気づき、ディランドゥは鼻で笑った。

 ――言いたいなら言えばいい。僕は別に、どちらでもかまわないさ。

 赤銅色の瞳がぎらりと光った。
 今できることは、戦争を起こさせないこと。それに尽きる。
 それにザイバッハの者と共に来てしまったのだ。今更何を言えばいいのだろう。
 ミラーナは青ざめた顔をシドに向けた。
「それが……」
 シドは言葉を濁した。
「捕虜は、脱走しました」
「なんだって?」
 恰幅のいい、浅黒い肌の男が重々しく口を開いた。
「その理由がわからず、我々も困惑しております。本来ならあなた方はこのような席にくるべきではなかった。
 ミラーナ様ならともかく、後の者はプラクトゥによる尋問を受けてからと進言していたのですが」
「ボリス」
 シドがそれをたしなめる。
「客人に向かってそのような口は慎みなさい」
「は――」
「僕の部下が逃げただって? それは聞き捨てならないね」
 頭を下げるボリスと同時に、ディランドゥが顔をゆがめた。
「あなた方がフレイドに危害を及ぼさないというのなら」
 シドは厳しい顔つきになった。幼いながらも、その姿は次期国王となるべくしてなる者の凛とした威厳を感じさせる。
 ミラーナはその姿を見ていて胸が痛んだ。
 ……何故だろう。
「その証を、私に」
「いいだろう」
 ディランドゥが獰猛な顔つきになるのと対照的に、フォルケンが穏やかに言った。
「フレイドの掟に従うことに異存はありません。その前にいくつか質問をさせていただきたいのですが」
「なんでしょうか」
「ファーネリアの王を含んだ他の者たちは今どうしています」
「……バァン・ファーネル殿ですか」
 シドは浮かない顔だ。
「その者は今、白きガイメレフの中に閉じ込められている状態です。中を開けようにもびくともせず、下手に触れることすらできませぬ」
 ボリスが目を閉じたまま首を振った。
「バァンが!? なんてこと」
 ミラーナが口を押さえる。ディランドゥは今にも立ち上がらんばかりの勢いだったが、フォルケンはその肩をつかんでとどまらせ、苦渋の顔つきになった。
「ほう! そいつは興味深いね」
 ドライデンだけが膝を叩いて喜んでいた。
「後で一緒に見に行こうぜ。その証とやらは、あんた方ふたりででなんとかしてくれ」
「なんてことを! 人の命がかかっているのですよ!」
 物見遊山なドライデンの態度にミラーナが声を荒げる。ドライデンは片目をつぶってみせた。
「なんでもその白いガイメレフは伝説の乗り物なんだろう? 俺ならなんとかできるかもしれないぜ」
153名無しさん@ピンキー:2008/06/22(日) 23:36:42 ID:Daf5hAx2
「えぇ!?」
「それは、真ですか」
 シドも目を丸くした。
「さっきも言ったろう? 人と人とは、金でなんとかできる場合もある。話は終わりかい? 俺は早くそのガイメレフを拝みたいねえ!」
「勝手なこと言うんじゃないよ。おまえ、何者だ?」
 ディランドゥの不躾な視線を受けても、ドライデンはひるまなかった。
「おっと、俺を知らない奴がこのガイアにもいたとは驚きだねえ! 俺はドライデン。ドライデン・ファッサだ。
 商船団率いる若きイケメンっていや、ちょいと名の知れたモンなんだけどなあ! ま野郎には関係ねえか。はははっ」
「こいつも尋問してもらったらどうだい。怪しいことこの上ないじゃないか」
「無論そのつもりだ。申し訳ないが、客人たちには証を立てていただく前に、プラクトゥによる尋問を受けてもらう」
 ボリスがうなずいた。
「申し訳ありません。本来このようなことはしたくないのです」
 シドが肩を落としている。ミラーナは首を振った。
「当然のことですわ。本当に、ご立派になられました」
 言い終えてから、ミラーナはちらりとディランドゥを見た。
 話には聞いたことがあるが、フレイドには心を読む魔術師がいるという。
 その者にかかれば、彼らの嘘は容易にばれてしまうのではないか?
 その時彼らはどうするのか。
 自分はどうしたらよいのか。
 先が見えない展開に、ミラーナは鉛を飲み込んだ気持ちになった。


 地下の一室に通された一同は、そこで待っていた長身の男を見た。
 香が焚かれた間にひとり坐禅を組んでいる男は、彼らを見てかっと目を見開く。
「まずはドライデン殿からお願いいたす」
「はいはい。ほう、こりゃ催眠の一種かな? わくわくするねえ!」
「遊びではございませぬぞ!」
「はははは」
 ボリスに一喝されてもへらへらしているドライデンは、掛け声とともにプラクトゥの前に胡坐をかいた。
「他の方は退出願いたい。尋問はひとりずつ行いますゆえ」
「ちぇ。つまんないの」
 ディランドゥは下らないものを見るようにプラクトゥを一瞥すると、すたすたと部屋を出て行った。
 フォルケンもその後に続いたが、その際一度だけプラクトゥを見つめる。
 プラクトゥは一瞬だけ眼の光を強めたが、薄暗い部屋の中、それは誰にも気づかれなかった。
「あんたには残っていてもらいたいね」
 フォルケンの後を追おうとしたミラーナに、ドライデンが声をかけた。
「え……」
 ミラーナが困惑して振り返る。
「俺って男を知ってもらいたい」
「ドライデン殿!」
「よい、ボリス」
 シドはミラーナの手を取った。
「これを機に、叔母様にもプラクトゥの力を見ていただきましょう」
「シド……」
 ミラーナはシドを見下ろしてから、ドライデンを見た。
「俺は誰に自分の心を見られたってなにもやましいことなんかないぜ。それを証明してやるのさ、他でもない、あんたにな」
「おしゃべりはそこまでだ」
 プラクトゥが口を開いた。
 両手で複雑な紋を編み、それをドライデンにかざす。
 ドライデンはくたりと頭を垂れた後、ぼんやりと顔をあげた。
「偽りなき心で以て、我が問いに答えよ。名前は」
「……ドライデン・ファッサ」
 自信に満ち溢れていたドライデンの声が、抑揚のないものに変わっている。
「これは……?」
 ミラーナが小声で尋ねると、ボリスが答えた。
「プラクトゥの術にかかったのです。彼はプラクトゥの言葉に逆らうことなく、本心を述べるようになっています」
「ここへ来たのは何故か」
 プラクトゥの尋問は続く。
「許婚の後を追ってきた……」
「!?」
154名無しさん@ピンキー:2008/06/22(日) 23:39:24 ID:Daf5hAx2
 その答えに、ミラーナはぎょっとした。シドもボリスもミラーナを見る。
「許婚?」
「アストリアのミラーナ・アストン王女。親同士の決めた許婚だと気にもしていなかったが……
 ザイバッハのボンボンがそれを無効にした挙句、婚約までしたと親父に聞いて……」
「ドライデン……!」
 ミラーナの頬が真っ赤になった。ふたりの視線を受けておろおろする。
「いてもたってもいられなかった……」
「ならばおまえは、バァン・ファーネルの手先ではないのだな?」
「違う……
 俺はミラーナに会いにきた……
 信じられないほど綺麗になったミラーナ……
 取り返しに来た……」
「ほう!」
 ボリスが感嘆の声をあげ、ミラーナを見て慌てて咳払いしてごまかした。
「彼は許婚だったのですか」
「え、ええ」
 シドの純粋な瞳に耐え切れず、ミラーナは目を泳がせる。
「今は、どなたとご婚約を?」
「あ、あの……」
「バァン・ファーネルの乗る白いガイメレフには興味がある……」
 ドライデンの話はまだ続く。
 シドとボリスの関心がそちらに向かうのをいいことに、ミラーナはほっと胸をなでおろした。
「おそらくイスパーノ製だろう……
 どこかにイスパーノ族を呼ぶためのスイッチがあると思う……
 白いガイメレフ……エスカフローネ……
 俺はそれを……早く……みたい……」
「!! ボリス!」
 シドがボリスを素早く仰ぎ見た。
「承知! プラクトゥ! もうよい。術を解くのだ! 彼を急ぎ白きガイメレフの前へ連れて行かねば!」
「あいわかった」
 プラクトゥはうなずくと、再度両手で複雑な紋を編み、ドライデンの眼前にかざした。
 ドライデンはびくりとすると、それからぱっと顔をあげ、きょろきょろと辺りを見回した。
「んあ? もう終わりか? ……どしたい」
「〜〜〜〜〜!!! 知りません!!」
 ミラーナがぷいと横を向く。
 ボリスはずかずかとドライデンに近寄ると、ぐいと腕を掴んで立たせた。
「おお、おいおい!? なんなんだよ一体!?」
「そなた、白いガイメレフのことを知っているな!?」
「えー……と、あれ。俺色々まずいことしゃべっちまったか?」
「この者を連れて行け!」
「ええっ!? 俺連行されんの!? なんで!?」
 兵たちがぞろぞろとやってきて、ドライデンを両側から拘束した。ドライデンはあわてふためいている。
「ファーネリア王があの中へ入ってからもう幾日も経っております……早急になんとかせねばなりません……!」
 ボリスはそれを見送った後、待っていたディランドゥとフォルケンの元へ行った。
「では次の方から――」
「僕が行くよ。待たされるのは好きじゃないんだ」
 一歩進み出たフォルケンを制し、ディランドゥが進み出た。
 プラクトゥの待つ間へ入ると、ふんと鼻で笑ってから、どかりと腰を下ろす。
「ディランドゥ……」
「さっきの男についてはいろいろ聞かせてもらうからね」
 心配そうに見守るミラーナに、ディランドゥは場違いなことを言ってミラーナの目を丸くさせると、小馬鹿にしたようにプラクトゥに向きなおる。
「始めよ」
 ボリスの声を合図に、プラクトゥは再度両手を掲げた。
155名無しさん@ピンキー:2008/06/23(月) 00:06:10 ID:Pt/rzf2T
「!?」
 驚いたのはプラクトゥの方だった。
 いつの間にか、見知らぬ草原にひとりで立っている。
「ここは……?」
「僕の心の中なんだろ?」
「!?」
 すぐ背後で声がして、プラクトゥは振り返った。
「これは!?」
「僕にだけ術が効かないって思ってるのかい? いいや、ちゃんとかかってるさ。現に僕らはこんな場所にいるんだからね」
 膝まで届く草野原に佇むディランドゥは肩をすくめ、指を向けてきた。
「ここではおまえも、元の姿ってわけだ。だろう? まやかし人」
「!!」
 男は自らの姿を見下ろして絶句した。
「なんて臭いだ。まるで死人だね……いや、あながち間違いでもないのかな。ほんと、悪趣味だよフォルケンは」
「何故私のことを!?」
 まやかし人は化け物でも見るような目でディランドゥを見た。
「フォルケンからまやかし人のことはずいぶん前から聞いていたからね……それに、ミゲルが脱走したっていうから、もしかしてと思ったのさ」
 ディランドゥは首を傾げた。
「随分前にミゲルに言ってあったんだよ。まやかし人の元へ行けとね。おかしな話じゃないか。脱走する理由なんかミゲルにはないんだよ。
 僕の命令には絶対に従う。……特にミゲルにはそうしてもらわないといけない理由もあるしね……」
「そ……」
 まやかし人は言いよどんだ。
 代わりにディランドゥが口を開く。
「ミゲルを殺したね」
「お待ちください! 彼は本当に脱走しようとしたのです! 彼は捕虜になった言い訳を探し、あなたに許してもらうための手柄をと――」
「僕の部下に酷いことするじゃないか」
「自分を見失っていました! 私の言葉など聞く耳も持たなかった! 危険な思考を――!」
「おまえの言葉?」
 ディランドゥは笑った。
「僕はまやかし人が嫌いさ」
 ディランドゥの拳がまやかし人の顎をとらえた。
 草の中に顔を埋めて倒れ伏したまやかし人は、言い知れぬ恐怖を感じる。
 ざくざくと草を踏みしめて近づいてくるディランドゥに向けて手をかざすと、辺りは急に真っ暗になった。
「し、知っているぞ……!」
「…………」
 まやかし人は、暗闇の中でビジョンを映し出した。
 そこにはセレナがミゲルに犯されている映像が空いっぱいに広がっている。
「おまえが運命を改変された実験体だということも! ここ、この男のおもちゃにされていたことも――!」


 ディランドゥは何の感情もないまなざしで、映像を見つめている。
 後ろから突かれて悦びの声をあげるいやらしい女。
 その女の腰をつかみ、一心不乱に動く男。
 女は涎を垂らしながら絶叫し、もっとと叫んでいる。

「醜い姿だ」
 ディランドゥはつぶやいた。
「これがおまえだろうが!!」

 ――もっと。もっとよ。ねえ、今のもういっかいちょうだい。欲しいの。

 甘ったるい女の声。
「淫乱なメスめ! 貴様のような者がフォルケン様の部下など汚らわしいわ!」
「だから?」
「あぁっ!?」
 ディランドゥの静かな声に、まやかし人は唾を飛ばした。
「おまえも正体を現したらどうだ!」
「これが僕だ。もうあの女はどこにもいない」
156名無しさん@ピンキー:2008/06/23(月) 00:51:03 ID:Pt/rzf2T
「何を言う!」
「僕は運命に勝ったのさ。そして負けるのはおまえだよ」
「この――!」
「僕に過去はない」
 つかみかかってくるまやかし人を蹴り飛ばしながら、ディランドゥは晴れやかな顔になった。
「あの女が全て持って行った。僕に過去を見せて動揺させようというんなら失敗だったね。
 僕には育ててくれた親も何もいない。記憶もない。覚えているのは魔術師共の陰険な顔が僕を見下ろしていることだけ。
 なかなか可哀想なもんだろ? だからこれから面白い思い出をたくさん作るつもりなんだ……」
 立ち上がろうとしたまやかし人の顔をわしづかみ、ディランドゥはくつくつと喉を鳴らした。
「そのためには、おまえが邪魔なんだよ」
「ここは私の術が作り上げた世界だぞ……!」
 もがきながらまやかし人はわめいた。
「ここは僕の世界だ。さっきも言ったろ? 馬鹿なやつだね」
 ディランドゥの笑みが深くなった。
「が、あ、ああああああっ!」
「どの世界でも強いものが勝つ。おまえごときの絶望が、僕が受けた屈辱にかなうと思うな!」

「……どうしたのかしら。さっきから、ふたりとも動かない……」
 ミラーナは、固まったままのふたりを見て不安になった。
「ボリス。これは……?」
 シドも困惑している。
「わかりません……このようなことは、私も初めて見ますゆえ……」
 ボリスも厳しい目でふたりを見つめている。
 すると、プラクトゥがことりと倒れた。
「!? プラクトゥ殿!?」
 ボリスが慌てて駆け出した。ミラーナもシドもそれに続く。

「そのプラクトゥとやらは、偽物だよ」

「! ディランドゥ!」
 固まっていたディランドゥが目を開けた。
 ミラーナはひざまずき、ディランドゥの頬に手を伸ばす。
「大丈夫なの!? 何をされたの!?」
「うっとうしいよ、ミラーナ」
 それを払いながら、ディランドゥは立ち上がった。
 むっとするミラーナだが、ディランドゥが青ざめているのを見て気を取り直す。
「これはどういうことですか!」
「だから、そいつは偽物。アレンか誰かが雇ったまやかし人かもね。ミゲルの証言を取り消すつもりで、本物のプラクトゥを殺し、
なりすまして再度尋問にかけようとしたんだろう。ミゲルはそれを知って殺されたんだ」
「そんな、アレンが!?」
 ショックを受けたシドを見て、ディランドゥはぷいと顔をそむけた。
「ま、全然違う人かもしれないけど。とにかく本物はどっかで死体になってるだろうから、探してみればいいよ」

 その後、国はずれの森の中で、変わり果てたプラクトゥの姿が発見された。
 シドは青ざめながらもディランドゥの言葉を信用することにした。
 だがミラーナは、アレンの汚名を晴らしたかった。せめてシドにだけでも。
 皆がドライデンの様子を見に向かう途中、ミラーナはシドをそっと引き止め、ふたりでゆっくりと歩いた。
 ディランドゥがそれを気にしながら歩いているのには気づいていたが、ミラーナは言わずにはいられなかった。
157名無しさん@ピンキー:2008/06/23(月) 01:06:03 ID:Pt/rzf2T
「シド。……信じてもらえないかもしれないけれど、わたくし、アレンと会ったの。アレンが……亡くなった日に」
「え?」
 今にも泣き出しそうなシドは、潤んだ青い瞳をミラーナに向ける。
「何故かはわからないの。でも、アレンは幸せそうだった。……それでね」
 ミラーナは立ち止まって、シドと目線を合わせた。
「アレンはあなたに伝えてほしいと、わたくしに伝言を頼んだの。

 『人を心から信じることは、時に戦より勇気がいることかもしれません。
 あなたにこの意味がわかりますか』

 って……」
「アレンが、僕に……?」
 シドが目を丸くする。ミラーナはうなずいた。
「ええ。何故シドに伝えてほしいと言ったのかはわからないの。でも、夢の中で会ったアレンは確かにそう言ってた。
 ……シド。わたくしのことを信じて下さる?」
「叔母様……?」
 ミラーナは声を詰まらせた。
「あなたが思い描いていたアレンは、わたくしの知るアレンと全く同じだわ。
 強くて、美しくて、ガイア一の剣の使い手だった」
 シドを見ていると、胸がつぶれそうになる。一体この気持はなんだろう? ミラーナはこらえきれずに泣いた。
「あなたのお母様は、嘘なんかついてない。
 シド。人を疑うことも時に必要だけど、信じることはもっと必要なことなの。
 でもね、それをわかっていても、逆のことをしなくてはならないのが大人なの。
 大切なのは、その見極め方よ。
 わたくしはこれ以上、大事な人を失いたくない。
 だから嘘をつく。
 シド。わかってもらえる?」
 ミラーナの涙を見て、シドの青い瞳が徐々に見開かれて行った。
「わたくしを、信じられる?」
 叔母の言葉に隠された意味。
 シドはしばらく黙ってミラーナを見つめる。あふれ出しそうな涙はもう渇いていた。

 ――人を心から信じることは……


「――信じます」
「シド!」
 きっぱりと言ったシドに、ミラーナの頬に新たな涙が流れた。
「ザイバッハが何を望んでいるかはわかりません。けれど僕はこの国を守らなくちゃならない。僕は王になってはいけない人間なのかもしれないけれど」
 シドは母の形見の指輪を見た。
「叔母様を信じます。どうか、あなたのお心のままに」
「……感謝いたします。シド王子!」
 ミラーナは膝をつき、頭を垂れた。


「ふん」
 ふたりの様子を遠巻きに眺めていたディランドゥは、舌打ちして踵を返した。
「いつまでも死んだ男の亡霊にとりつかれて、ざまあないね」


 ――そうやっておまえは、いつまでたっても僕を見てくれないんだ。


 我知らず浮かんできた言葉に、ディランドゥはぎくりとした。
「ちっ、まやかし人の呪いか? 忌々しい!」
 吐き捨てて、歩みを速めた。
158名無しさん@ピンキー:2008/06/23(月) 01:09:26 ID:Pt/rzf2T
今回はここまでです。
前回レスを下さった方々、本当にいつもありがとうございます。
だんだんエロパロじゃなくなっているので、
毎回申し訳なく思っていたため大変励みになりました。
それでは、失礼します。
159名無しさん@ピンキー:2008/06/24(火) 06:40:29 ID:nkUjMtTu
アニメとうまく合体してる感じが良いですね!ますますエロが楽しみになります!!
160名無しさん@ピンキー:2008/06/25(水) 13:17:43 ID:Msl3tawN
おもろいス。これはこれでいけまス。裏エスカ。
161名無しさん@ピンキー:2008/06/29(日) 22:39:46 ID:3D/8s+n1
投下した者です。
申し訳ありません。今回で終わりませんでしたorz
必ず7月中には終わらせます。
今回もエロなしです。すみません。









 遅れて到着した彼らは、傷ついたエスカフローネの周りの人だかりを見た。
 金属音がそこかしこで響き渡り、バァンの悲鳴も混じって聞こえてくる。
 近づくにつれ、エスカフローネに何人かがとりついて修理しているのがわかった。
 その中に、懐かしい顔ぶれが目に飛び込んでくる。
「ひとみ!」
 ミラーナは駈け出していた。
「ミラーナさん!?」
 左右に割れる人の群れの中心に、血だらけになって狂ったように叫んでいるバァンと、それを取り押さえるガデス達、
床に座り込んで泣きじゃくるメルル。そのそばに、ドライデンと涙で頬を濡らしたひとみが立っていた。
「ひとみ……」
 歩みだし、ミラーナは口を開きかけるが、次の言葉が出てこない。
 それはひとみも同じことで、ふたりとも、しばらく互いの顔を見つめていた。
 話すべきことは山ほどあった。
 互いの近況、今までのこと。
 ――そして。
 今がその時ではないことはふたりともわかりきっているのに、胸中をかけめぐる激情は治まってくれそうもなかった。
「王様は今、エスカフローネの痛みを感じてやがるのさ。エスカフローネの修理が終われば助かる」
 ふたりの様子を知ってか知らずか、ドライデンはわめくバァンを見下ろした。
「痛みを感じる?」
「あたしのせいなんです」
 ひとみがうつむき、肩を震わせる。
「あたし、バァンがつらい時、突き放す言い方をしました。頼りにされたのに、怖いビジョンをもう見たくなくて、
もう頼らないでって言っちゃったんです。だからバァンは」
「あんたのせいだけじゃないさ」
 ドライデンはあっさり言った。
「古代書にもある。エスカフローネは乗り手をとり殺し、やがては自分が主人となって、契約者を殺すまで動き続けると」
「とり殺す……!?」
「そういうこと。あんたがどうこう言っても言わなくても、王様はこうなる運命だったのさ」
162名無しさん@ピンキー:2008/06/29(日) 22:43:19 ID:3D/8s+n1
 イスパーノ人の修理が終わる頃、バァンの傷はすっかりなくなっていた。
 本人も拍子抜けしたように、腕や足を見つめている。
 一同がほっと胸をなでおろしていると、イスパーノ人のひとりがバァンに歩み寄ってきた。
「血ノ契約」
「!?」
「えすかふろーねハ、竜神人ノ血ノ契約デ動ク。次ハ命ノ保証デキナイ」
「……っ!」
 バァンが息を飲む。
 イスパーノ族が去っていくと、フォルケンとディランドゥがその前に歩いてきた。
 バァンは驚愕に目を見開き、ディランドゥを見るや立ち上がる。
「何故、このふたりがここにっ!」
「バァン。私と共に来るのだ。これ以上戦をすれば、次は死ぬ」
「なんだと!? ……フレイドは一体何を考えているんだ! ザイバッハは敵だぞ!? 俺の国を滅ぼし……!
 アレンまで殺した!」
 吐き捨てた言葉に、ミラーナの胸が痛む。
 済んだことはどうにもならない。
 たとえアレン自身が納得していようが、残されたものの苦しみは続くのだ。こうやって。
「あの時、ザイバッハのガイメレフは俺を狙っていたんだ……剣で弾いたりしなければ……!」
「戦場における死は、軍人にとって名誉なことじゃないか」
 ディランドゥはにやにやしながら言った。バァンはかっと目を血走らせ、ディランドゥにつかみかかる。
「よくもそんなことが言えるな! アレンを殺しておきながら!」
「正確には僕じゃない。どれほど優れた剣術の使い手だろうが、死ぬ時は死ぬのさ。おまえは小さい男だね。
そこの王子の方が、よっぽど考えてるよ」
「なに……っ」
 バァンが目を向けると、そこにはシドが立っていた。
「お初にお目にかかります、バァン殿」
「シド王子ですわ、バァン」
 ミラーナが口添えする。
 バァンはディランドゥに向き直り、しばらく睨みつけていたが、やがて突き放すようにディランドゥの胸倉から手を放し、
シドの前にひざまずいた。
「お見苦しいところを見せてしまい、申し訳ありません。幾日かのご迷惑も、重ねてお詫び申し上げます。
 シド王子。どうかザイバッハの者の言葉に惑わされないようお願いします。やつらはこのフレイドを攻め落とすつもりです!」
「そうだそうだ!」
 アレンの部下たちが騒ぎだした。
「お頭の仇め! よくもおめおめと!」
「よさねぇか、おめえら!」
 ガデスが慌てて止めに入っている。しかし振り返り、ミラーナをまっすぐに見た。
「説明してもらえませんかねえ、ミラーナ様。隊長を殺った連中と、何故あんたが一緒にいるんです?」
「何か、訳があるんですよね、ミラーナさん」
 ひとみが両手を握り合わせながら言う。
 ミラーナは一度目を伏せると、顔をあげた。
「アレンを追ってきたのです。そのためには、……彼らの協力が必要でした」
「馬鹿な!」
 バァンが吠えた。
「ザイバッハに協力などしてまで、何故!? あんたはアレンが好きなんじゃなかったのか!」
「好きですわ!……だからこそ、わたくしは」
「見損ないましたぜ、お姫様」
 ガデスが醜悪な顔つきになった。
「隊長が何故あんたを残して旅立ったか考えもしなかったんですか。隊長は隊長なりにあんたを心配し、残すことで守ろうとしてた。

その気持ちもわからずに、なんでザイバッハなんかと!!!」
「随分な言われようだね。嫌われるのには慣れてるけどさ」
 ディランドゥがくつくつと笑った。
163名無しさん@ピンキー:2008/06/29(日) 22:45:40 ID:3D/8s+n1
「フレイドを攻め落とすだとか、言いがかりも甚だしいね。それがもし本当なら、僕らがここにのこのこ出向くわけがないだろう? 

嫌疑をかけられてるのは、むしろおまえたちじゃないのかい」
「……確かに、アストリア王からは、アレンが謀反を起こしたとの報告も入っております」
 ガデスが重々しく言う。
「なんだと!? そんなのウソに決まってるじゃねえか!」
 たちまち部下たちが憤りの声をあげた。
「どちらにせよ、我々に戦う意思などありません」
 フォルケンが静かに言った。
「信用できるか!!」
「フレイド公王にお会いするまでは、なんと言われようがここに居させてもらうつもりです」
「フォルケン……!」
 バァンが奥歯をかみしめる。
「仲良くやろうじゃないか。同じ客人同士さ。最もおまえたちは、牢屋でもてなしを受けるだろうけどね」
 ディランドゥがひらひらと手を振る。
「刑の執行人には喜んでなるよ。おまえを見てると、傷口がうずくものだからね……」
「く……っ! このふたりは危険だシド王子! 何故わからない!?」
 バァンはシドを射殺す勢いで睨みつけた。
「バァン殿」
 ボリスが進み出る。
「例えザイバッハがどのような思惑でいようとも、フレイドは決して屈することはありませぬ」
「何故っ!」
「我らは死すら厭わぬ覚悟の元、この地で生きているからです。いざとなれば、我々はこの城と敵とともに滅ぶでしょう。
それがフレイドに生まれた者の定め」
「そのとおりだ」
 凛とした声が響き渡った。
「!?」
「父上!」
 皆が振り返ると、そこには兵を複数連れたフレイド公王が立っていた。
「おお、ご帰還なされた!」
 ガデスが感極まっている。
「他国の船が何隻が止まっているのが見えたのでな。急ぎ戻ってきた。……シド!」
 公王はシドを厳しい目で見た。
「これは何事だ。私の留守に、これほど異国の者を招き入れるとは!
 場合によってはフレイドの危機になっていたかもしれぬのだぞ!!」
「彼らには、身の証を立ててもらうつもりでおりました。それから、私の判断で」
「おまえごときが人を推し量れると思うな!」
 公王は一喝し、ずんずん歩いてきた。
「証を立てることがどれほどのことかわかるか」
「それは……」
「命を懸け、時に落としてまで立てる覚悟のいる行為ぞ! それをおまえが判断できると思うか! 恥を知れ!」
 シドは肩を落とした。
「お待ちください、お義兄さま! ……いいえ、姉上亡き今となっては、もうそうお呼びすることも叶わないかもしれません」
 ミラーナが公王の前に立った。
「! ……そなたは」
「ミラーナですわ。お久しゅうございます。どうかシドを責めないでください。ザイバッハを通したのは、わたくしがいたからです。

シドには何の否もないことです」
「叔母様……」
「ザイバッハはフレイドを落とすつもりです。アレンはそれを知り、ここへ来る途中で命を落としました」
 バァンが憎しみ治まらぬ顔で苦々しく口を開いた。
 それを聞き、公王の目が見開かれる。
「……アレンが……」
「どうかアレンの遺志をわかってやってください。このふたりを捕虜にすれば」
「この国に踏み入った以上、私の判断に任せてもらおう」
 バァンの進言を、公王は退けた。
「ミラーナ姫。あなたの話を伺いたい。ほかの者は、拘束させてもらおう」
164名無しさん@ピンキー:2008/06/29(日) 22:53:22 ID:3D/8s+n1
 不平不満を漏らしながら退出していく一同を見送ると、公王はミラーナを離宮に案内した。
「ここは……?」
「マレーネが使っていた部屋だ。アストリアで使っていたものを、ここまで移動させた」
「まあ……」
 ミラーナはきょろきょろと周囲を見回した。小さい頃に見た姉の部屋。おぼろげな記憶の中と、確かにここは同じだった。
「ここに滞在する間は、好きに使っていただきたい。そのほうが、マレーネも喜ぶだろう」
 公王は、壁にかけられたマレーネの肖像画を見上げている。
「――ところで姫。ザイバッハの者とここへ来られたのは真か」
 肖像画から目を外した公王は、ミラーナを見つめた。ミラーナは両手を前で握り締めると、こくんとうなずく。
「……それはなにゆえか」
「愚かでした。……ええ、思えばわたくしは、本当に愚かでした」
 ミラーナは、全てを話し出した。
 話し終えると、公王は渋い顔になり、首を振った。
「無謀なことを。……とてもマレーネの妹君の行動とは思えませぬな」
「わたくしは、姉妹の中で一番異質なんです」
 ミラーナは苦笑する。
「そのようだ。だがそれほどの強い思いこそが、アトランティスの力の源。姫の思いは無駄にはならないでしょう」
「……そうだとよいのですが」
「現に、そなたはフレイドを戦火の海に飲まれることから救われた」
「えっ?」
 公王は微笑みすらしなかったが、少々穏やかな口調になった。
「ザイバッハが表面的にも友好的な態度でこの地へ足を踏み入れたのは、姫がいたからこそ。
 だがここからはわかりませぬ。プラクトゥの死の解明がされないことには……」
「恐らくは、ザイバッハがらみのことかと」
 ミラーナは思い切って言った。
「でしょうな。だが確固たる証拠がない」
 公王は息をつくと、もう一度マレーネの肖像画を見上げた。
165名無しさん@ピンキー:2008/06/29(日) 22:53:51 ID:3D/8s+n1
「やつらの目的はわかっている。我らフレイドが長きに渡って守っている秘宝のことだろう」
「秘宝?」
「そうだ。アトランティスの歴史が記された剣、パワースポットと呼ばれる地下の岩場……寺院にて固く守られている場所。
 あれを狙っているのだろう。恐らくザイバッハは、失われたアトランティスの力を再びガイア界にもたらそうとしているのだ」
 ミラーナは口元を手で押さえた。
「……なんの、ために?」
「ガイア界を乗っ取る気なのだろう。……先ほども言ったが、アトランティスは、思いの力で発動するもの。
やつらがどんな思いを抱いているかはわからぬが、フレイドの王として、私はそれを阻止せねばならない」
「思いの力……」
 公王はミラーナを見つめた。
「そなたは思いの力で叶うものがあるとしたら、何を望む」
「……わたくしは」
 ミラーナは眉を寄せる。公王は遠くを見る顔つきになった。
「私は、妻を生き返らせたいと願うだろう」
「……お義兄さま……!」
 ミラーナは、遠まわしに言い当てられた気になってぎくりとした。
 同じだと、思う。
 愛する人が死んだとき、真っ先に願うこと。
 それは、誰もが願うこと――…
「だがそれだけは、アトランティスの力を用いても無理だろう」
「……はい……」
「ミラーナ姫」
「は、はいっ?」
「そなたは姫であるがゆえに、政略結婚を強いられている。
 それもザイバッハの軍人に破棄させられて、無理やりその軍人と契りを交わされた」
 公王は、沈んだ顔になった。
「……辛くはないのか。愛する男がいるのに」
「……」
 ミラーナはうつむいた。
「もしそなたが願うなら、何か力になれると思うのだが」
「……お義兄さま?」
 顔をあげると、公王は目を細めてミラーナの肖像画を見上げている。
 その横顔は悲しげだった。
「マレーネは、私を愛して死んだ」
「……」
「私はその愛を勝ち取るために、あらゆることをしてきたつもりだ」
「お義兄さま……」
「その軍人は、そなたの愛を得るためのものを、与えられそうか」
 公王はミラーナの方を見た。
「そなたはその軍人を、死ぬまで愛せるか」
「!」
「返答次第で、私はそなたに尽力する」
 ミラーナは息を呑んだ。
166名無しさん@ピンキー:2008/06/29(日) 22:57:11 ID:3D/8s+n1
今回はここまでです。
気づけばこんなところまできてしまいました…
ふたりのエロはこんなに長い道のりなのか……
それでもレスを下さった方々、いつもありがとうございます。
それでは、失礼します。
167名無しさん@ピンキー:2008/06/30(月) 07:10:29 ID:PSpZYu8y
乙です!長い間書き続けてくれて本当嬉しいです。ミラーナとディラのエロを最初に言い出したのは私なので‥すごく感謝しています!!
168名無しさん@ピンキー:2008/07/07(月) 00:06:44 ID:WgInPZZQ
投下した者です。
続き投下します。










 一方、牢に拘束されているディランドゥたちは、各々過ごしていた。
 バァンはむっつりと黙りこみ、そばにはひとみとメルルがそれを不安そうに見つめ、ガデスは苦虫を噛み潰したような顔で
天井を睨みつけ、ほかの部下たちは出せとしきりに外に向かってがなりたてている。
 そんな中で火花を散らしているのは――

「この俺を牢に入れるなんざ、フレイドめ、いい度胸してやがるぜ。俺の商品を買いたいとぬかしてきやがったら、
何割か吹っかけてやるかな」
 ドライデンはそう言って、壁にもたれかかってあぐらをかいている。
「せいぜい首を取られないようおとなしくしておくんだね。僕とフォルケンはともかく、他はいつ殺されたっておかしくない
んだからさ」
 ディランドゥはふんと鼻で笑った。
「随分な自信だなぁ。根拠があるのかな? この色白の軍人さんは」
 丸メガネの奥の垂れ目を鋭く光らせ、ドライデンはディランドゥを挑戦的に見る。
 それをまっすぐに受け止めて、ディランドゥは肩をすくめた。
「今フレイドの公王と話しているのは僕の許婚だからね。身の潔白はあいつがしてくれるさ」
「ほう! それは意外なことを言ってくれるねえ!」
 ドライデンの眼光がますます強くなった。
「そもそも、なんで俺との婚約が解消されたのか、俺は不思議でならねえんだ。何か裏であったんだろうなっていう臭いが
しやがってなあ」
「アストリアの王がそう言ったんだよ。僕の方がいい男に見えたんだろ」
「へーえ」
 ドライデンは壁から背を離し、片膝を立てて座っているディランドゥに四つん這いで詰め寄った。
「なんだ。気味の悪い」
 ディランドゥが顔を背けると、ドライデンは無遠慮にディランドゥの顔をじろじろと眺めまわした。
「確かに悪くない顔立ちをしてるがね。いい男なら、俺の方がわずかに分がある。やっぱ解せねえ」
「知らないよ。僕の方が金持ちだから、あっさり乗り換えたんだろ。許婚の親を悪く言うのは気が引けるけど、
あの男は金で動くタイプのようだしね」
「はは。白々しいね。堂々と言いやがって」
 ドライデンは意地悪そうに笑い、それからすっと真顔になった。
「おまえさんが金を持ってるとは到底思えない。口から出まかせもいいところだな」
「それこそ、何を根拠に、だろ?」
 眉ひとつ動かさずディランドゥは応じた。黙ってそのやりとりを見ているフォルケンは、大した役者だと内心苦笑する。
 ドライデンは淀みなく言葉をぶつけてきた。
「第一おまえさんからは、金のにおいがしない」
「あからさまににおわせてる方が下品だと思うけどね」
「それに、貴族なら俺の耳に名前くらい届いててもおかしくない」
 ディランドゥは流れるようにそれらをかわしている。
 ドライデンは最後にずばりと言い放った。
「何が目的で、ミラーナを俺から奪った?」
「はぁ?」
 ディランドゥは目を丸くした。
169名無しさん@ピンキー:2008/07/07(月) 00:09:29 ID:WgInPZZQ
「はっ、その反応だと、そういう気はなかったみたいだな。それならいいんだ。まだ間に合うからな」
 ドライデンは安心したように髪をかきあげた。
「あんな美人がいたら、男なら誰だって手に入れたいと望むものさ。気持ちは分かる。だがそろそろ俺に返しちゃくれないか。
 あんたは軍人だ。所帯を持つにゃ、ちょいと女が可哀想過ぎる。俺ならいつだってそばに置いて愛してやれる。幸せにできる

だけの財産もある。未来はバラ色ってな。その点あんたはいつおっ死ぬかわからん身だ。女の気持を考えてみれば、どちらの男

の元へ嫁げば幸せになれるか一目瞭然だろ?」
「馬鹿馬鹿しい」
 ディランドゥは息を吐いた。
「金で女が幸せになるなんてのは、自分に自信がない証拠じゃないか。あんたはそういう後ろ盾がないと、好きな女にも迫れな

いのかい」
「……なんだと?」
 ドライデンの声が低くなった。
「それに、あんたにあの女の気持がわかるとはとても思えないね。偉そうに色々言ってるけど、結局あの女が決めることだろ?
僕らの邪魔はしないでもらいたいね」
「……意外だな」
 ドライデンは痛いところを突かれたような顔で笑った。
「てっきり捨て台詞とともに俺に返してくれるのかと思っていたんだが。おまえさんが入れ込んでるとは思えなかったからな」
「何故あんたのものでもない女をあんたに返す必要があるんだ。あの女は僕のものさ。どこにもやらないからね」
「ほう」
 ドライデンはにやりと口元を歪めた。
「聞いておきたいんだが、おまえさんは金以外のものでミラーナを幸せにするそうだが、どう幸せにするんだ?」
「さっきから幸せ幸せってうるさいよ」
 ディランドゥはハエを追い払うように手を振った。
「そんなに目くじら立てて求める幸せなんか、僕は要らないね。人の幸せは、人それぞれじゃないか」
「逃げないで答えてくれよ。そうでなきゃ、俺も引き下がれない」
「おふたりとも、こんな時に馬鹿なこと言ってねえで、この状況をなんとかする方法でも考えてくださいよ」
 そこを、あきれ顔でガデスが割って入った。
「馬鹿なこととは言ってくれるねえ。世の中恋愛事ですべてがまわってるって言っても、過言じゃねえんだぜ?」
 ドライデンは本気とも冗談ともつかぬことを言い始めた。
「またそんな……」
「恋だ愛だと馬鹿にするのは結構だ。だがな、実際ミラーナ姫は愛のためにザイバッハと手を組んでここまで来た。
俺はそのミラーナ姫を追ってここまで来た。愛ってのは偉大なもんよ。何でもできちゃうんだからなぁ!」
「ミラーナさん……大丈夫かな……」
 ひとみがぽつんと言った。
「アレンさんを追ってきたのに、……こんなことになって……」
 唇をかみしめるのと同時に、涙が零れた。
「ひとみぃ……」
 メルルがひとみの頬をぺろりとなめる。
「愛は時に、残酷でもある」
「何を語ってるんだい。僕はそんなもののために動かされたことはないよ」
 しみじみ言うドライデンに、ディランドゥがぷいと顔をそむけた。
「俺もだ。下らない」
 珍しく、バァンも同意した。
「己の不甲斐無さで逃げ出すような愚者もいる。生まれ故郷を滅ぼすような、な。それが愛のためだと言うのなら、
俺は生涯そんなものは必要としない!」
 憎しみに満ちた目でフォルケンを睨みつける。フォルケンは静かに目を閉じた。
170名無しさん@ピンキー:2008/07/07(月) 00:14:40 ID:sTQ+Mbx4
「はは。ま、こればっかりはな」
 ドライデンはガリガリと頭を掻いた後、遠くを見つめた。
「アレンなぁ……まさか死んじまうたぁ思わなかった……いろいろ聞きたいこともあったんだがな……」
「聞きたいことって?」
 メルルが素直に聞いた。
「んー? ほら、アレンの父親のことさ。結構な有名人だからさ」
「そうなんですか?」
 ひとみがわずかに身を乗り出した。バァンが我知らず、眉根を寄せている。
「案外あんたら知らないかもな。アレンの親父さんは、家を捨ててアトランティスのことを調べるために蒸発しちまったのさ。すげーだろ?」
「それは本当か!?」
 バァンを筆頭に、ガデスたちも驚いていた。
 ディランドゥだけは顔をそむけたまま無反応だった。
「んで、だ。俺はそのアレンの親父さんが残した日記ってえのを、見てみたかったんだがな」
「日記?」
 ガデスが反応する。
「おう。アトランティスのことを調べていた男の日記だぜ。垂涎ものだろう? もし残ってたら、それはアレンの遺品になるなあ。
あ、不謹慎なこと言っちまったかな」
「……前に」
 ひとみが目をこすりながら口を開いた。
「あたし、前にアレンさんを占ったことがあるんです。その時、アレンさんは、お父さんのことで今も苦しんでいるという結果

が出て……近いうちに、再会を果たすことになるかもしれないって……」
「――まあ、父親が蒸発したんだ。いい思い出なわけはないわな」
 ドライデンが顎をなでる。
「……お頭、今頃あの世で親父さんぶん殴ってるかもな」
 ガデスの横で、リデンが拳を握り、片方の手のひらに打ち付ける。
「だろうな。隊長、すんげ強いし、ボコボコにされてんのは間違いないだろ」
 ガデスは何かを吹っ切るように頭を振った。
「ドライデンの旦那。俺、その日記ってのを持ってますよ」
171名無しさん@ピンキー:2008/07/07(月) 00:15:17 ID:sTQ+Mbx4
「マジかよ!?」
 しんみりしていた雰囲気を吹っ飛ばす勢いでドライデンがガデスに詰め寄った。
「うわっ、顔近付けないでくださいよ。気持悪っ! 隊長の私物を片づけてたら、出てきたんです。
 隊長に中身のこと聞いたことあるんだけど、知らんの一点張りで……。捨てるには忍びないけど読む気はしないってとこだったのかなぁ……」
 そう言って、懐から古びた一冊の書物を取り出した。それをひったくるようにして奪い去ると、ドライデンは震える手でページをぱらぱらとめくった。
「こいつはすげぇ……!」
 それからしばらく、一同はドライデンが鼻息を荒くしながら日記を読むのを見守っていた。
 やがてドライデンは丸メガネをくいと指で押し上げて、ふうと息を吐いた。
「いやはや、すごいお人だったんだな」
 そう言って、横目で見ているディランドゥに目をやった。
「この人は、幻の月の娘を追っかけて、家を捨てたんだとよ」
「はぁ?」
 ディランドゥは目を丸くした後、何故か腹の底から怒りがわいてくるのを感じた。
「なんだって?」
「かーっ! ロマンだねえ!」
「幻の、月……?」
 ひとみがおずおずというと、ドライデンはにやりと笑ってひとみを見つめた。
「そ。あんたと同じだな」
「あたしの他にも……」
「そんなことはいいよ。アレン・シェザールのろくでなしの父親が、なんだって?」
 不機嫌なディランドゥの声が水を差した。
「んあ? だから、アレンの親父さんは、女を追いかけて蒸発したんだ」
「……最低な男だね。死んで当然だ」
 ディランドゥは吐き捨てた。
「何を怒ってんだ? 俺は好きだけどな、こういう生き方!」
「残された妻子のことを思えば笑えない冗談だね。愛があったのにそれを捨てて、新しい愛に走る? ありえないね」
 ディランドゥはぎりぎりと奥歯をかみしめていた。それをフォルケンがじっと見つめている。
「ならあんたは、生涯ミラーナ姫を愛し続けると?」
 ドライデンが苦笑交じりで言った。
 ディランドゥはしばらく黙って怒りを抑えていたが、やがてふんと笑った。


「誓いならもうしたよ。花嫁の父親の前で、とっくにね」
172名無しさん@ピンキー:2008/07/07(月) 00:18:36 ID:sTQ+Mbx4
今回はここまでです。
前回の投下で、ミラーナとマレーネを間違えている箇所がありました。お詫びします。
レスを下さった方、リクエストをしてくださってありがとうございます。
こんなに長くてエロもないのに、暖かいお言葉に救われました。
後数回で終わりますので、もう少しだけ、おつきあいください。
それでは、失礼します。
173名無しさん@ピンキー:2008/07/07(月) 05:20:00 ID:VSV4+8o5
乙です!!投下して下さる月曜日が毎回楽しみになっております。今後どうエロに繋がるのか想像出来ません。ますますwktkです!!!!!
174名無しさん@ピンキー:2008/07/08(火) 01:56:34 ID:qTMim1pH
ドライデン登場→三角か!三角きたんか!!と
いろんな意味でドキドキしてしまいました。

いつもながら面白かったです。
ひとみが原作っぽくてうまいと思いました。かわいいっす。たまんねっす。
175名無しさん@ピンキー:2008/07/13(日) 04:28:21 ID:vOVdyXy4
エスカフローネ懐かしい〜と覗いてみたら何この神スレ!?
一気読みしてしまいましたよ
奇声を上げてゲラゲラ笑っている印象しかなかったディランドゥは、実は愛の人だったんですな
そして当時あまり好きではなかったミラーナさんの魅力に気付きました
職人さんGJです!

ビデオもDVDもCDも無いのでゲーム版でもひっぱりだすか…
176名無しさん@ピンキー:2008/07/13(日) 23:41:48 ID:lnP1+TuD
投下した者です。
続き投下します。








 フレイド公王の言葉に、ミラーナは立ちすくんで固まっていた。

 ――返答次第で、私はそなたに尽力する。

 ……今なら、元の生活に戻れるかもしれない?
 ミラーナの動悸が早くなる。
 公王の顔からは、何を考えているか想像もつかないが、何かを悔やんでいるのは読み取れる。
 それは何に対してなのか。何を償おうとしているのか。
 黙りこくるミラーナを見て、公王は柔らかい口調になった。
「急いで答えを出す必要はない。ただ私は、そなたには幸せになって欲しいと思っているのだ」
「……何故です? マレーネお姉様に関係が?」
「そうだ」
 公王はうなずくと、わずかに目を伏せた。
「マレーネは物静かな女だった。同盟を結ぶための婚姻も静かに受け入れたように見えた。
 互いに利益のあることだからと、我々は割り切った結婚をした。
 ……だが私は、彼女を心から愛していることに気づいた」
 肖像画を見上げる横顔には、複雑な思いが浮かんでいた。
「私はマレーネのために全てを捧げるつもりで日々彼女に接した。
 だがマレーネは、私が大切に扱うたびに、やつれていったのだ」
「え……?」
 ミラーナの顔を見て、公王は小さく笑う。
「その名を口に出すことはしないが、彼女には他に愛する男がいた。だが彼女とその男は、国のためにと身を切られる思いで
運命を共にしようとはしなかったのだ」
「そんな、マレーネお姉様が……!?」
 驚愕のあまり、それ以上言葉が出てこなかった。
 あの、マレーネお姉様が!
177名無しさん@ピンキー:2008/07/13(日) 23:42:35 ID:lnP1+TuD
「ある晩、彼女は私に短剣を差し出した。自分は彼の子供を身ごもっている。私の妻でいる資格はないから、
どちらかを殺して欲しいと涙ながらに訴えた。……あの美しい女は、私の前で、床に額をこすりつけて、泣いて懇願したのだ」
「なんてこと……!」
 青ざめ、ミラーナはがくがくと震えた。足元がおぼつかない。涙が零れる。息ができない。首飾りが戒めのように重く、
喉がしめつけられるようだ。
 公王はミラーナの肩を抱き、静かに椅子に座らせると、その前にひざまずいた。
「すまない。このようなことを、そなたに聞かせるべきではなかった。
 だが、私は彼女を許し、シドを実の息子として育てている。
 あれは私の子だ。フレイドを継ぐべき王になる男だ」
「公王……! ああ、なんとお詫びすればよいか」
 ミラーナは溢れる涙を指先で拭いながら嗚咽する。
「そなたが謝ることなど何もない」
「いいえ! いいえ、言わせてください。姉を許してくださって、ありがとうございます。シドを愛してくださって、
ありがとうございます……!」
 ミラーナは泣きながら、深々と公王に頭を垂れた。
 きっと姉も、同じ事をしただろう。
 血が繋がっているとはいえ、自分にこんなことを言う資格はない。
 茶番じみた台詞を言って泣くのは自己満足にすぎない。
 それでもミラーナは、公王の心の寛大さにひれ伏さずにはいられなかった。
「そなたにこのような真似をさせるために、この話をしたのではない」
 公王は困惑しながらも、優しくミラーナの肩に手を置いた。
「マレーネは私を愛して死んだが、そなたはどうなのだ。あの男を愛せそうか?」
「わ、わたくしは」
「ザイバッハの男の元へ嫁ぐということは、色々なものを捨てなくてはならない。その覚悟はおありか?」
 ミラーナは充血した目を公王に向けた。
「お義兄さま」
 ミラーナは首を振った。
「わたくしの恋は、実らないものと決まっておりますの。……ここ数日、その覚悟を固めていたところですわ」
178名無しさん@ピンキー:2008/07/13(日) 23:44:35 ID:lnP1+TuD
「誓いだぁ?」
 ディランドゥの言葉に、ドライデンは大げさにのけぞって見せた。
「そう。だからこの話はこれで終わりだよ」
 ディランドゥはうるさげに手を振る。
「おまえさんの言葉に、どれだけ信憑性があるのかねえ」
「しつこい男は嫌われるよ、商人殿」
 ディランドゥは舌打ちする。取り上げられた剣さえあれば、こんな男の口などすぐにふさげるものを。
「彼が誓いを立てたのは本当のことだ」
 すると、今まで黙っていたフォルケンがぼそりと言った。
 ドライデンが眉をつりあげ、バァンが殺意のこもった目で兄を睨みつける。
「へえ! そいつはすげぇ」
「ふたりは婚約した。あなたはその事実を認めたほうがいい」
「認めてないから食い下がってんだよ俺は!」
 ドライデンはバンと床を叩いた。
「ドライデンさん!」
 ひとみが非難の目を向ける。
「わわ、若旦那、どうか冷静になって……」
 今まで小さくなって震えていたドライデンの従者がおずおずとなだめる。
「――みなさん!」
 そこへ、ミラーナが公王と共に現れた。
「ミラーナさん!」
 ひとみがほっとして格子に近寄った。
「手荒な真似をしてすまなかった」
 公王は兵に指示を出し、鍵を開けさせる。
 わらわらと出てくる一同を前に、公王の後から現れたボリスが姿勢を正して言った。
「完全というわけではないが、そなたたちの疑いは晴れた。アストリアにはアレン・シェザールの戦死を伝え、
皆を帰還させる手はずを整える」
「そいつはありがてえ!」
 一部を除いた皆が歓喜した。
「ただし、アストリアでどういう歓迎をされるかはわからんぞ」
「知ったことか! いざとなりゃ逃げ出すまでだぜ!」
 リデンがにやりと笑うと、残りの部下たちも下卑た笑いを浮かべた。
「王様たちはどうするんですかい」
 ガデスがバァンたちを見た。
 バァンはフォルケンを見据えながら、きっぱりと言った。
「――俺はここに残る」
「バァン……」
 ひとみが心配そうに、バァンを見上げる。
「好都合だね。僕らもおまえに帰ってもらっちゃ困るところだからさ」
 ディランドゥが見下すような目つきをして笑った。
「王様が残るんじゃぁ、俺たちも帰るわけにゃいかねえなあ……」
 ガデスがうなる。
 バァンは安心させるように微笑んで見せた。
「アレンを、弔ってやってくれ。俺なら大丈夫だ」
「王様……」
「あたしもバァンについていきます」
「あたしも! あたしも!」
 ひとみとメルルが、バァンを守るように傍らに寄り添った。
「……なんかあったら、アストリアに帰ってきてくださいよ。戦力は必要だ。その頃にゃ、
俺らも充分に準備しておきますんで」
「ああ!」
 ふたりは固く握手した。
179名無しさん@ピンキー:2008/07/13(日) 23:48:58 ID:lnP1+TuD
「公王」
 フォルケンが進み出た。
「……」
 公王は無言でフォルケンを見つめる。
「フォルケン!」
 バァンが咄嗟に割って入った。
「何をする気だ! 公王に手出しはさせん!」
「バァン……」
「ファーネリアの王よ」
 公王は、殺気立つバァンをなだめた。
「そなたは、その内に巣食う鬼を鎮めねば、何も見えはせぬぞ」
「……っ!」
 バァンがかっとして公王を振り仰いだ。
「そなたからは焦燥と憎悪しか感じられぬ。白き竜がそなたを閉じ込めていたのは、
 その鬼を解放することを恐れたからやもしれぬ」
「俺は……っ!」
「そうだよ、バァン」
 ひとみがバァンの腕に触れた。
「あのイスパーノの人も、もうエスカフローネに乗っちゃいけないって言ってたじゃない。あたしもそう思う。
 今度はどうなるかわからない。エスカフローネは乗り手をとり殺すって!」
「俺はとり殺されたりなんかしない!」
 バァンは乱暴にひとみの手を振り払った。
「きゃ……っ!」
「ひとみ!」
 よろけたひとみを、メルルがしがみつくようにして支えた。
「哀れな」
 公王はそれを痛ましそうに見つめた。
「近くにいる者の思いをわかろうとせず、そなたは何を思って鬼のいいようにさせているのか。
 その鬼は、そなたを死に急がせる。何故それがわからない?」
「!」
 ぎくりとしたのは、バァンだけではなかった。

 ――せっかくこうして生きているのに、何故あなたはそうやって死に急ぐの!?
   あなたには心配してくれる人があんなにいるのに、どうしてそれをわかろうとしないの!

 ディランドゥは、はらはらしながらバァンたちを見守っているミラーナをこっそりと見つめた。
 バァンの仲間だったくせに、どうして向こうへ行かないのだろう。
 アストリアへ帰れるというのに、何故動かない?
 ……自分を心配しているという人間の中に、まさか。
「ファーネリアの王には休養が必要なようだ。しばらく部屋でゆっくりされるがいい」
 公王の言葉と共に、兵たちがわらわらやってきた。
 抗議するバァンを半ば強引に連れ出す。ひとみとメルルも小走りでそれについていった。
「王様が心配だな。俺たちも行くか」
 その場の空気を読み取ったのか、ガデスがちらりとミラーナを見、仲間たちを振り返った。
「だな!」
 リデンの合図と共に、男たちもそれを追う。
 静かになった場で、公王が口を開いた。
「おまえたちの狙いはわかっている」
「……ザイバッハだけの問題ではないのです」
 フォルケンは瞳を閉じた。
「このガイア界全ての幸福のために」
「何故アトランティスの力が封印されたかわかっているのか?」
「使い方を誤ったせいです」
「おまえたちなら正常に動かせると?」
「はい」
 公王は全く表情を変えることなく、フォルケンを長いこと見つめていた。
 それから、不意にミラーナの方を見た。
「!?」
 ミラーナがどきりとすると、公王は言った。
「どうやら話は長くなりそうだ。場所を変えよう」
180名無しさん@ピンキー:2008/07/13(日) 23:58:25 ID:lnP1+TuD
フォルケンと公王はふたりだけで交渉を進めるようだ。
 マレーネの部屋に戻り、ミラーナは鏡台の前に座って一息ついていた。
 映った自分の顔を見て、目を丸くする。
「……怖い顔」
 ディランドゥと出会ってからの日々は、呑気にショッピングを楽しんでいた甘い時間からは縁遠く、緊張の連続だった。
 勝気で無邪気な小娘だった顔が、今では目元が引き締まり、化粧も大分落ちている。
「ふふ。でも、嫌いじゃなくてよ」
 なんだか、大人になったみたいで。
 アレンの背を追いかけていた、恋に恋していた無垢な乙女だった自分。
 ディランドゥと過ごした、決して甘くはない中で過ごした自分。
「……ええ、嫌いじゃないわ。今のわたくし」
「俺の方がもっと好きだね」
「!?」
 唐突な声にぎょっとする。鏡台には、ミラーナの後ろで笑みを浮かべるドライデンがいた。
「あ、あなた、ノックもせずに!」
「したさ。あんたが気づかなかっただけ」
 立ち上がり、抗議するミラーナを見つめながら、ドライデンはずんずん近づいてきた。
「な、何の御用?」
「決まってる。一緒にアストリアへ帰って、結婚することを承知してもらうことを言いにな」
 うろたえるミラーナの両脇に手をつくと、ドライデンはにやりと笑った。
 鏡台に背を預け、ミラーナは眉をひそめる。
「何を言ってるの?」
「もう一秒だって待ってられない」
 ドライデンはかちりと丸めがねを外して後ろへ放ると、訳がわからないといった顔をしているミラーナの頬に触れた。
「こんなに美しい女がいるなんてな……誰が手放すかよ」
「ドライデン……!」
「あんたはずっと昔から、俺のものだった」
 搾り出される声と共に、頬に触れていた手が耳の後ろをつかんだかと思うと、ドライデンはミラーナに唇を寄せた。
「……!?」
 がたんと鏡台が揺れ、ミラーナは目を丸くしたが、すぐに自分が何をされているかに気づき、
両手をドライデンの胸に当てて身を放そうとする。
「ん……っ、はっ、思ったとおりだ。あんたの唇はすごく甘い……」
「や……っ、いやっ!」
 身をよじるミラーナを強引に抱きしめて、ドライデンはミラーナ着ているドレスに手をかけた。
 スカートの部分をたくしあげ、露になった部分へ手を伸ばす。
「ひ……っ!」
「ああ、この感触ときたら……っ! なあ、あの軍人とはもう寝たか?」
「!」
 ドライデンの息が荒い。囁かれるようにしてつぶやかれた言葉に、ミラーナはショックを受けた。
「俺はどっちでも構わない……いや、寝てないならそれに越したことはないな。こんなに綺麗な女を目の前にして、
 理性を抑えてろってのが無理な話だ。あんな貧相な身体した男じゃ物足りなかったろ?
 俺なら、あんたをもっと感じさせてやれるぜ……!」
 言いながら、ドライデンはミラーナの膝を抱え込み、強く鏡台に押さえつけると、
開いた足の付け根に自らの腰をすりよせるようにしてのしかかってきた。
「あぁ……っ」
 布越しからでもはっきりとわかる固くなった感触を直に感じ、ミラーナは恐怖と羞恥で顔を横に振る。
「俺は欲しいものは必ず手に入れる。今までずっとそうしてきたんだ。なあ、俺が好きだと言えよ。
軍人なんかがあんたを幸せにできると思うか? なあ――」
「やめて……っ!」
181名無しさん@ピンキー:2008/07/14(月) 00:04:13 ID:AOm7Egv0
「あんたの身体は嫌がっちゃいない。なあ、俺のに触れよ、今、怖いくらいにあんたに感じてるんだぜ」
 ミラーナの手を掴み、ドライデンは自らの欲望を握らせようとする。ミラーナはぞっとして固く拳を握り締めた。
「まだそんなに深い仲にゃなってないみたいだな。安心したぜ。今から俺が教えてやる。我を忘れるほどに溺れさせてやるよ。
あんたを幸せに出来るのは、俺だけだ」
 ドライデンは荒々しくミラーナの胸をつかんだ。ずるりとドレスを下げると、真っ白な果実が顔を覗かせる。
「全部、俺のものだ――!」
「あぁっ、あっ!」
 熱い舌がぬるりと肌を味わったかと思うと、ドライデンはそこに吸い付いた。わざと水音をさせ、劣情を煽って行く。
片手は濡れ始めたミラーナの秘部を探り当て、もう片方は吸い付いている隣の果実へ伸ばした。
「やめて! ドライデン!」
 ミラーナが強く肩を叩いても、ドライデンはびくともしなかった。
「ほら、火照ってきたろ? 今あんたは俺に感じてるんだ。すぐに心も俺の物にしてやる。俺が欲しいと言え、ミラーナ!」
「いやぁっ!」
「こんなにしてるくせに……! ま、素直じゃないあんたも、俺は好きだがな」
 くちゅりと音をさせ、ドライデンはミラーナの秘部からあふれ出した蜜をすくいとりながら笑った。
 涙が浮かんでくる。
 違う……!

 ――別に悦んでるわけじゃないんだ。だろう?

「!」
 ミラーナは目を見開いた。

 ――体が勝手にそうなるんだ。自分を護るためだからね。仕方ないんだ。でも言われるんだよ。
  『感じてるからこうなってるんだろ』って……はは、何もわかっちゃいないんだ、やつら

「――あぁ……!」
「泣くなよ……今から気持ちよくしてやるから」
 ドライデンの困ったようなつぶやきも耳に入らない。
「愛してる。俺の物になれ」
 唇を塞がれる。
 ぐちゃぐちゃと溢れる泉の中に、ドライデンの欲望があてがわれる。
 あっと叫ぼうと口を開けると、舌が割って入ってきた。
 揉みしだかれる胸が、痛んだ。
「――!!」
 ミラーナは咄嗟に、口の中をかきまわす舌に噛み付いた!
「!!」
 突然の激痛に、ドライデンはかっと目を開けてのけぞった。
 ミラーナはその隙に、ドライデンを思い切り突き飛ばし、扉へと走る!
「っ痛ぅっ……! とんだじゃじゃ馬姫だなっ!」
「きゃあっ!」
 後ろから抱きつかれ、ミラーナはもがいた。
「情事の最中に相手に噛み付くなんざ、随分とお行儀が悪いな」
「放してっ!」
 ディランドゥに噛み付かれた胸が痛んだのだ。もうとっくに治っている傷なのに。
 それが、ミラーナを我に返らせた。
182名無しさん@ピンキー:2008/07/14(月) 00:08:30 ID:AOm7Egv0
 初対面で自分を大嫌いだと罵った男。
 ぼろぼろにして捨てるつもりだと宣言した男。
 捨てるときの顔が楽しみだと見下した男。


 でも。



「報われない恋だっていい……!」



 でも!


「幸せになれなくたっていい!」


 ミラーナは叫んだ。




「わたくしは、ディランドゥが好き!!」




 その時、けたたましい音と共に扉が開かれた。
 あられもない姿のふたりが、扉の向こうにいる男の姿を見て絶句した。
「あ……!」
 ミラーナの瞳から、新たな涙が零れる。
 それを見た男は微笑んだ。
「――ようやく言えたね。ご褒美をあげようか? その邪魔者を始末した後に」
 足で扉を蹴破ったディランドゥが、にこやかに言った。





 だがその目だけは、笑っていなかった。
183名無しさん@ピンキー:2008/07/14(月) 00:11:32 ID:AOm7Egv0
今回はここまでです。
このままエロなしで進むのかと思っていましたが、
ドライデンのお陰でなんとかなりました。
エロ親父みたいになってしまい、ファンの方申し訳ありません。
前回の投下にレスをしてくださった方々、いつもありがとうございます。
ふたりのエロまであと少しです。
それでは、失礼します。
184名無しさん@ピンキー:2008/07/14(月) 06:28:58 ID:w318jvCD
乙です!!!ミラの告白に胸キュンしてしまいました。本当展開が上手くて毎回wktkです!ディラ様の今後が‥最高に楽しみであります。
185名無しさん@ピンキー:2008/07/19(土) 23:06:50 ID:W/Xzj8U0
age
186名無しさん@ピンキー:2008/07/20(日) 17:27:02 ID:A3fFIB+S
ディラとミラーナいいね
187名無しさん@ピンキー:2008/07/20(日) 21:44:16 ID:bm08hBLr
>>183
ドライデン好きだけどここまで壊すといっそ清清しいよwやらしすぎワロタ
というか伏線回収、やるねえ!次回ついにですか…感慨深いなあ
188名無しさん@ピンキー:2008/07/21(月) 01:18:01 ID:RWUTxolI
投下した者です。
今回量が少ないので、また時間を置いて投下しますね。
エロなしです。





「ディランドゥ……!」
 このときほど、彼を愛おしいと思ったことはなかった。
 何度も何度も傷つけられた相手なのに、彼を前にして、今これほど自分は安堵を覚えている。
 来てくれた。
 彼が来てくれた!
 その事実が心に広がるたびに、ミラーナは幸福に包まれた。
 ミラーナの体から力が抜けたのを感じ、ドライデンは顔をゆがめた。
「へえ、野獣がいつの間にか王子様に変貌したか! だがあいにく、このお姫様は俺が戴く。
親同士が決めた約束なんざどうでもいい。こいつは俺の女だ!」
「強姦野郎が偉そうにほざくんじゃないよ」
 ディランドゥはぞっとするほど低い声で吐き捨てた。
「性欲の塊はこれだから始末に負えないんだ。さっさとアストリアに帰って娼館にでもかけこんだらどうだい。
そういう下半身のだらしない男のために、ああいう場は用意されてるんだよ。知らないわけじゃないだろ?」
「出ていくのはあんたの方だ。俺とミラーナの間に割り込みやがって、一体どういうつもりだ!」
「全く……」
 ディランドゥはつかつかと早足でふたりに近づいてきた。途中でドライデンが放った丸メガネをぐしゃりと粉々に踏みつぶす。
「出て行けというのが――!」
「黙れええええっ!!!!!!」
 ぐいとミラーナの腕をつかんだかと思うと、ディランドゥは絶叫しながらドライデンの顔面に拳を叩きつけた!
「ぎゃっ!」
 小柄な体躯のどこにそんな力が隠されていたのか、ドライデンは鏡台に突っ込んだ。
 鏡台に組み込まれていた小さな人形の玩具がばらばらとこぼれ、めちゃくちゃなメロディを奏でだす。
 ミラーナを胸にしっかりと抱き、ディランドゥは怒りで燃えた目をぎらぎらさせながら、
鼻と口から鮮血をこぼすドライデンを睨みつけた。
「何事か!」
 騒ぎを聞きつけ、兵たちが駆け付けた。
「そこの馬鹿を拘束しろ。僕の花嫁を凌辱しようとした不届き者だ! 二度と僕らの視界に入れないでもらいたいね。
次に見つけたら殺すから」
 ミラーナの姿を見た兵たちは、きっとなってへたりこむドライデンを見ると、素早く彼を縛り上げた。
「自分の立場がわかっているのか!」
「フレイドの城内でこのような……!」
「おまえがフレイドの男であったら、すぐさま宦官の刑にしてやるところだ!」
 兵たちに口々に罵られながら連行されるドライデンは、ふたりとすれ違いざまに言った。
「さっき言ったことは……本当か」
 ミラーナはディランドゥにしがみつきながら、こくりとうなずいた。
「……そうか」
 ドライデンはふっと笑うと、すぐさま痛みに顔をしかめたが、自嘲気味に言った。
「どうやら、空気を読んじゃいなかったのは俺のほうだったらしいな。……いや、ほんとは最初からわかってた。
 こんなことなら、もっと早くあんたをものにするんだったぜ」
「さようなら、ドライデン」
「その台詞は早いかもしれないぜ。あんたが幸せじゃないと聞きつけたら、どこにいたって駆けつけてやるから」
「とっとと歩かんか!」
 兵に背中を小突かれ、ドライデンはよたよたと出て行った。
 室内には調律の狂ったオルゴールが鳴り響いている。
 最後に残った兵が、別の部屋を用意させようかと申し出たが、ミラーナは首を振って拒否した。
 兵はうなずき、一礼して出て行った。

 扉が閉まると、室内にはオルゴールの音だけが残された。
189名無しさん@ピンキー:2008/07/21(月) 01:22:30 ID:RWUTxolI
「……なんで、あんなこと言ったんだい」
 ディランドゥは静かに言った。
 ミラーナはうつむいた。

 ――彼はきっと、迷惑に思うわ。それに、わたくしがああ言った意味をわかってくれないに違いない。
   聞きようによっては、わたくしがあの場から逃れたい一心で、嘘をついたように思えるもの。
   彼は他人の好意を決して受け入れない人よ。今までだってそうだったじゃない……
「それは……」
 ――彼はわたくしのことが嫌いなのよ。
   本心を言ってどうなるの?
   捨てられるかもしれないわ。彼はそうすると言った。
   どんな形であれこの人のそばにいるには、わたくしの気持ちを悟られるようなことを言っちゃいけないわ!

 だってアレンがそうだった。
 好きだと言って追いかけたら、置いていかれて死んでしまったのだ。
 二度と同じ思いをしたくない!
「ご、ごめんなさい。わたくし、あなたを利用したのよ。あ、あ、あなたのことなんて、好きじゃないわ。……だから、
だからわたくしのこと、まだ捨てられないわよ。残念だったわね」
 気丈にふるまおうとしたが、無理だった。
 身体は先ほどの恐怖でガタガタと震え、笑ってしまうほど声に力が出ない。
 涙があふれてくるのを見られたくなくて、ミラーナは顔をあげることができなかった。

「――ああ、良かった……」

「!?」
 ディランドゥがほっとしたように笑った。
 ミラーナは胸がえぐれる思いで息をのむ。
 ……やはり、自分の選択は間違っていなかったのだ。
 生涯この実らぬ恋心を抱き続けて生きていくのだ。
 それが自分の運命。
 ――受け入れるのだ。受け入れるしかない……!
 震えながら懸命に涙をぬぐっていると、そのままきつく抱き締められる。
「え……?」
 戸惑って顔をあげると、優しい赤銅色の瞳が見つめていた。
「僕が好きだから言ったと言われたら、今度は僕が連れて行かれる番だったろうね」
「? どういう――」
 訳が分からずきょとんとすると、ディランドゥは肩をすくめた。
「だっておまえは、嘘をつくって言ったじゃないか」
「え?」
「あの小さな王子に言ったろう?」
「――あ……!」

 ――人を疑うことも時に必要だけど、信じることはもっと必要なことなの。
   でもね、それをわかっていても、逆のことをしなくてはならないのが大人なの。
   大切なのは、その見極め方よ。
   わたくしはこれ以上、大事な人を失いたくない。
   だから嘘をつく――

 ミラーナは口に手をあてた。
 まさか、あの時のシド王子との会話を!?
 ディランドゥはミラーナを抱えあげると、そのまま壁に背を預けて座り込んだ。 
「もしおまえが」
 ディランドゥは天井を見上げた。
「あの男を好きだと言ったら、そのままバァンを連れてこの国を出るつもりでいたんだ」
「! そんな……!」
「……いや……そうはしなかったろうね」
 ディランドゥはミラーナを見下ろした。
「だっておまえは嘘をつくから」
「え? でも……」
「でもおまえは、僕が好きだと叫んだ。僕はそれを信じたよ。見極めたってわけさ」
190一旦ここで区切ります:2008/07/21(月) 01:29:36 ID:RWUTxolI
 ディランドゥはひとりで笑った。
「我ながら自己解釈が勝手だと思うよ。でも、さっきのは賭けだった。もしおまえが僕を好きだと言ったら、
僕はあの男と同じことをしただろうね」
 ミラーナは信じられない思いで目を見開いた。
「……なぜなの?」
「わからないのかい?」
 ディランドゥは、優しくミラーナの額に唇をつけた後、耳元で囁いた。
「おまえを僕のものにしたかったからさ」
「だって……!」
 恐怖とは違う震えがミラーナの全身を覆った。
 ディランドゥの言葉が全く理解できなかった。
 恋や愛とは無縁の男ではなかったのか。
 だから自分は、報われない恋に生きる決意を固めていたのに――
「好きだと言われたら、そうかとおまえを押し倒していた。でもおまえは僕を嫌いだと言った。
だから僕は、そうかとおまえを押し倒せるわけだね。どちらにせよ、おまえは僕のものになるしかないのさ」
「い、言ってることがむちゃくちゃだわ!」
「そうかい? でもおまえは、僕が好きなんだろう?」
 先ほどから気味が悪いくらいにディランドゥが優しい。
 そのことが、ミラーナを不安にさせる。
 これは自分を捨てるための布石に過ぎないのではないかと勘ぐってしまう。
 どうしてこんなに穏やかな顔ができるのだろう?
「……僕は定期的に、魔術師共に体をいじられるんだ」
 唐突にディランドゥは言った。
「でも、おまえが来るようになってからは、それもなくなった。
 それ以来、イライラすることが減ってきたんだ」
 ディランドゥの腕の中で、わずかにミラーナの体がこわばった。
「おまえはフレイドに着くまでの十日間、僕のもとに来なかったね。
 その時だろう? 僕の薬の中身を換えたのは」
「!」
「僕に隠し事はできないよ」
 面白がるように細められる眼は、どこまでも優しかった。
「……麻薬の一種だったの」
 ミラーナは諦めたように口を開いた。
「あなたを最初に見たときから、あなたの情緒不安定な様子を見て、もしかしたらと思ったのよ。
 それで、あなたが寝ている間に与えられようとしていた薬を竜撃隊の人に頼んで持ってきてもらって、調べたの。
 極端に感情が昂ぶって、破壊衝動が抑えられなくなる。そういう薬だった。
 だからわたくし、フォルケン様に頼んだの。もうそういう薬をあなたに与えるのはやめてほしいって。
 彼は自分の一存ではどうにもならないと言った。
……だからわたくしは、もし協力してくれないなら、フレイドへは降りないって、もぐらさんのところで過ごすことにしたのよ」
「……とんだ詐欺師だね、フォルケンは」
 ディランドゥは苦笑した。
「……そこまでするほど、僕が好きなんだ」
「もう嘘は言わないわ」
 ミラーナは微笑んだ。

「そこまでするほど、あなたを好きになっていたのよ、ディランドゥ」

 ふたりは固く抱きしめあった。
 いつの間にか、オルゴールの音は止んでいた。
191続きです:2008/07/22(火) 00:13:51 ID:0EKSvYvi
 マレーネが生前使っていたベッドに倒れこむと、ふたりは唇を重ねた。
 まるで神聖な儀式を行うような、清浄さに満ちたキスだった。
 閉じた瞼を持ち上げると、ディランドゥが微笑んでいる。
 その笑みは優しく、心にすっと浸透した。ミラーナは嬉しさのあまり、目を潤ませた。
「……怖いかい」
 額をくっつけて、ディランドゥが囁いた。
「いいえ……怖くはないわ。あなたがいるから」
 ミラーナは両手を伸ばして、ディランドゥにしがみつく。
 着崩したドレスをそっと下に引っ張り、ディランドゥが背中を撫でた。
 ぞくり、と足の付け根がうずく。
「……最初はすごく痛いよ。酷いときは痛みが何日も続くんだ。だから無理強いはしない。
 後ろからのほうがいいって言うね。おまえはどうしたい?」
 背中を腿をゆっくりと撫でながら、ディランドゥはミラーナの耳元で囁いた。
「あ……っ、あ、あっ」
 ミラーナは息を荒げながら、腿に触れる手をつかみ、茂みへと誘った。
 目を丸くするディランドゥの顔を見上げてから、喉仏に唇を寄せる。
「おかしくなりそうなの……っ」
 言いながら、両手をディランドゥの衣服の中に滑り込ませる。
「どう、おかしくなりそうなんだい」
 突起をつままれて、ディランドゥが息を吐いた。
「早く、あなたのものになりたいっ、あっ」
 茂みに誘った手が、花弁に触れた。芯にも到達していないのに、それだけで体がしなる。
「……それじゃあ、この間の続きといこうか……」
「……え……っ?」
 じんじんと痺れるような下半身を持て余しながらミラーナがぼうっとした目を向けると、ディランドゥは上着を脱ぎ捨て、
胸を這っていたミラーナの両手をつかみ、自身の欲望へとあてがった。
「あっ」
 ミラーナは下を見て、慌てて目を戻す。
「おまえが取り出すんだ。これからひとつになるんだからね。丁寧に扱うんだよ」
 布越しに伝わるそれを握らせると、ディランドゥは鼻にかかった声を出す。
 その声を聞いた途端、ミラーナはディランドゥの腰のベルトに手を伸ばし、くつろがせると、
ぎこちない手つきでベルトごとズボンをゆっくりと下に降ろし始めた。
「は……っ、ん、いいね……、こういうのも悪くない……」
 布の摩擦でも十分に感じるのか、ディランドゥの息がますます荒くなってきた。
 へそまで反り返った欲望が外気に触れるのを感じると、素早く両足から引き抜いて、両手をついてミラーナを見下ろす。
 全身を真っ赤に染めたミラーナは、あえぎながら両足をディランドゥの腰にからめてきた。
「もう我慢できない?」
 ミラーナは無言で、更に足をからめてくる。
「いいよ、花嫁さん。僕のものにしてあげる」
 考えたくもないが、先ほどのドライデンとのやり取りで、体の準備は十分に整っていたのだろう。
 腰に押し付けられた下半身はすでに濡れそぼっており、密接した部分からはぐちゃぐちゃとした音が聞こえてきた。
192続きです:2008/07/22(火) 00:15:20 ID:0EKSvYvi
「ほら、少し力を緩めて……」
「あぁんっ!」
 ディランドゥは、ぎゅうぎゅうと絡んでくる足の付け根に手を伸ばし、茂みをまさぐった。
 すでに硬くなった芯を探り当て、そこを指で押しつぶすようにしてやる。
 ミラーナは背筋に電流が走ったように上半身を浮かせてのけぞり、その反動でずるりと両足が落ちた。
「いやらしい子だね。とても初めてとは思えない」
 ディランドゥは笑いながら、ミラーナの膝を持ち上げた。
「……へえ、前に指を入れたときより緩くなってるね?」
「い、言わないで……っ」
 ぬるりと指がすんなりと入った。
 一抹の不安を覚えてミラーナをみると、ミラーナは更に赤くなって身をよじらせている。
「……僕の他に、こういうことさせた奴が?」
「ちが……っ、じ……」
 さらに指を深く入れると、ミラーナはあえいだ。
「あぁっ、自分で……っ、んぅっ」
「……自分で?」
 ミラーナは枕に顔を埋めている。
 ディランドゥは笑みを浮かべた。
「とんだ淫乱だね、ミラーナ。そういうことしちゃうんだ……」
「あ、だ……って、あなたが……っ」
「僕が?」
「ああいうこと、する、から……っ」
 中に入れた指をくっと曲げてやった。
「ああっ! いやっ! いやぁ……っ」
「嫌じゃないだろ? ね……」
「あっ!? ディラン……」
 指を抜き、ディランドゥは両手で茂みをかきわけると、蜜で溢れた花弁へと顔を寄せた。
「な、なん……っ、あうっ! あ、だめ……!」
 じゅるじゅると音をさせ、ディランドゥはその蜜を味わっていた。鼻を芯にこすりつけるようにして、一心に貪っている。
 下半身が麻痺するくらい痺れ、生ぬるい舌の感触がぞわぞわと頭の回線を焼き切っていく。
「うあ、あ、そんな、とこ……ろ、だ……っ、んんっ!」
 全身から汗が噴き出す。丹念に蜜をなめとるディランドゥの銀の髪が視界の隅で動いている。
髪の先が肌にこすれる感触にすら感じてしまい、ミラーナはあえぐ。するとディランドゥの手が伸びてきて、震える果実を包み込んだ。
「あぁっ!」
 先端部分を人差し指と中指が挟み、ぎゅっと力がこめられる。
 バチバチと火花が目の前で散り始め、ミラーナは左右に体をくねらせて嬌声をあげた。
「ふあぁっ! あっ、あああ……!」
 入れていた舌先の周りの肉が収縮を始めた。ディランドゥは顔をあげ、ミラーナに覆いかぶさった。
 再度指を埋め込むと、急速に出し入れさせた。
「ああああっ! あ……っ!」
 弓なりにしなる体を抱きとめ、胸に顔を埋めた。硬くなった蕾を口に含み、舌先で転がしてやる。
 ビクビクと下腹部の肉が揺れ、やがてミラーナの体から力が抜けた。
 ディランドゥはにやりと笑うと、片足を持ち上げて、先端から愛液を滴らせる自身をその中心にあてがった。
193名無しさん@ピンキー:2008/07/22(火) 00:17:02 ID:0EKSvYvi
 ぞぶり、と入ってくる感触に、まどろんでいたミラーナは我に返る。
「はぁ……っ、まだ、きつ……」
「あっ、ディ、ディランドゥ!?」
「ほら……、よく見てごらん。ようやく、つながった」
 満足げなディランドゥの言葉に、ミラーナは下を見た。
「あ……!」
「これで僕たちはひとつだ……」
 根元まで収まったディランドゥとミラーナは今、これ以上ないくらいひとつの形としてそこに在った。
「……痛いだろ?」
 気遣わしげに聞いてくるディランドゥの一挙一動、全てが愛おしい。
 じんじんと響く痛みを無視して、ミラーナは微笑んで見せた。
「……だい、じょうぶ……わたくし、すごく幸せよ、ディランドゥ……これで……」
 終わったのね。
 そう言おうとしたミラーナの口を、ディランドゥは唇で遮った。
「んむっ!?」
 痛みと驚きでミラーナが両手をあげてディランドゥを引きはがそうとすると、顔を離したディランドゥは意地悪く笑った。
「おまえ、男女の交わりってもんが、本当にわかってないんだね」
「え……? だ……って」
 きょとんとするミラーナを尊大に見下ろして、ディランドゥはミラーナの膝の裏から手を差し入れ、持ち上げた。
「本番はこれからだよ? お姫様」
「え? ちょ……、んあ、あぁぁっ!」
 ぐちゃっとディランドゥの欲望が引き抜かれたかと思うと、一気に根元まで押し入ってきた。
 結合部分からあふれる二人の愛液が飛び散り、顔にまで跳ねる。
「あ、あんっ、ああっ、あ」
 突かれる度に、声が勝手に飛び出した。
「すごいね……っ、はっ、あっ、気持ちよすぎる……っ!」
 ディランドゥは時折角度を変えながら容赦なく突いてくる。
 痛みも快感も投げ出したミラーナの反応が鈍くなると、突きながら器用に芯をこねくりまわし、
ミラーナが声をあげると満足して更に腰を動かした。
 斜めから入られたとき、先端部分が壁を思いきりこすり、ミラーナはショックのあまり悲鳴をあげた。
 ディランドゥはそれを見て笑みを深くする。
「ここが、いいんだね?」
「あっ、だめ……あああっ!」
 ディランドゥは奥深く入ってきた。
 先端がごつんと最深部で止まると、ミラーナはふやけた頭で、彼は子宮にまで到達したのだと思う。

 ――子宮に……ええと、男性の……が……入る……と……

「ディランドゥ、待っ……、ん、んあ、これ以上……ああんっ!」
「はぁっ、はっ、待ってだって? それはおまえが決める……ことじゃ、ない……っ!」
 力なく手を伸ばしたが、ディランドゥはその手に自分の手を重ねてきた。
 指を絡ませ、そのまま突いてくる。
 リズミカルなその動きに身を委ねながら、ミラーナはまた意識を手放した。
194名無しさん@ピンキー:2008/07/22(火) 00:19:16 ID:0EKSvYvi
 虚ろな目でくたりとなったミラーナを見下ろしながら、ディランドゥはまだ止まらなかった。
「だめだ……っ、まだ、足りない……っ」
 未遂に終わった今までのことを思うと、そのたびに欲望がうずきだす。
 積極的に求めてきたミラーナがこんな状態なのに、ディランドゥの渇きは収まらない。
 どちらが相手を求めていたのかは、明白だった。

 好きだと言われる度に、理性が消し飛びそうになった。
 肌に触れただけで、何も考えられなくなりそうだった。
 獣のまま行動してもよかった。

「はあ……っ、んあっ」
 額の汗が、ぽつりとミラーナの胸元へ落ち、横へ流れた。
 それを見ただけで、たまらない。
 切ないくらいの情が押し寄せてきて、腰の動きが速くなる。
 完全に男になって、初めてわかった。
 好きな女を抱くという行為は、麻薬のようなものなのだ。
 だからそれを失うことを思うと、耐えられない。
 獣のように行動できなかったのは、単純なことだった。
 ディランドゥは、されるがまま、揺れるミラーナの耳元に唇を寄せた。

「……好きだよ、ミラーナ……っ」

 嫌われたくない。
 この女に嫌われたら、もう生きてなんかいけない。
 ディランドゥは腰を震わせ、果てた。


 ふたりが目覚めたのは翌朝のことだった。
 濡れたシーツがひんやりと冷たく、ミラーナは身震いしながら目を開ける。
 すると、誰かがぎゅっと抱きしめてきた。
「!?」
 驚いて顔をあげると、そこにはディランドゥの寝顔があった。
「……あ……っ」
 昨日のことを思い出し、ミラーナはかっとなった。
 動こうにも、抱きしめる腕の力が強くて振りほどけない。
「ど、どうすれば……」
 恥ずかしくてうつむいた。
 足をもぞもぞと動かすと、腰に激痛が走った。
「い……っ!」
 目をぎゅっととじ、痛みをこらえる。
 初めてが痛いものだというのは知っていたが、まさかこれほどのものとは……
 今日は起き上がれないかもしれないと、漠然と思った。
「……男の方は、ずるいわよね」
 意外に長い睫毛を伏せて眠るディランドゥを見上げ、ミラーナは口をとがらせた。
「そうでもないさ」
「きゃあっ!?」
 ぱっちりと目を開けたディランドゥが、面白そうにミラーナを見つめる。
 驚いて真っ赤になるミラーナに唇を寄せ、ディランドゥは囁いた。
「僕も腰が痛くて大変さ」
「……っ!」
 その意味に気付いたミラーナが更に赤くなるのを、ディランドゥは嬉しそうに見つめた。
「今日は一日こうしていようか。公王も許してくれるさ」

 今日は安静にしなくてはだめよと言おうとしたが、それは明日になりそうだと、ディランドゥの唇を受け入れながら、ミラーナは思った。


195名無しさん@ピンキー:2008/07/22(火) 00:21:49 ID:0EKSvYvi
今回はここまでです。
ようやくふたりのエロまでたどり着けましたが、
あんまりエロくなくて申し訳ないです。
前回の投下にレスを下さった方々、いつも本当にありがとうございます。
次回が遂に最終回となります。
後少しだけお付き合いください。
それでは、失礼します。
196名無しさん@ピンキー:2008/07/22(火) 06:44:36 ID:pgxzoqt5
ヌハ(;´Д`)ディラ様愛し杉格好良杉!!!!エロ具合もなんかすごく丁度いいです。エロなのに綺麗な感じで、しつこくない甘さ。職人様ステキ!!!感謝です。
197名無しさん@ピンキー:2008/07/24(木) 17:17:00 ID:zhtyU4uG
「……好きだよ、ミラーナ……っ」

(*ノノ) キャー

もう最高です!
本当に愛ある二人になったので、おどろきました(笑)
次で終わってしまうのはさみしいですが、、、

いつも惜しげもなく素敵な話を載せてくれてありがとうございます。
最終回楽しみにしています!
198名無しさん@ピンキー:2008/07/26(土) 09:44:39 ID:979NW4wp
アゲェ〜〜ン
199名無しさん@ピンキー:2008/07/28(月) 01:29:10 ID:DiBJEmEA
投下した者です。
最終回、投下します。






 話は、ディランドゥが伏せていた頃に遡る。
 竜撃隊のひとり、ダレットからディランドゥに与えられるはずだった薬を入手したミラーナは、
その成分を調べて蒼白になっていた。
「なんなの、これは……」
 スポイトで垂らした透明な液が、さっとどす黒いものに変わってゆく。
「姫、これは……?」
 傍でそれを恐る恐る見守っていたダレットは、小刻みに震えるミラーナを慎重に伺った。
「なんてこと……、ダレット、もう一回聞くわ。彼はこれを、いつも与えられていたのね?」
「え、ええ。魔術師たちに言われて……」
「これは、麻薬よ」
「っ!?」
 疲れた顔でミラーナは真っ黒になった液体を見つめた。
「……これは、そういうものに反応するようになっているの。不法に取引された薬を調べるために、兵が使うこともあるわ。
もっと詳しく調べなくてはわからないけれど、感情が昂ぶるような……あまりよくないものが含まれているのは確かよ」
「そ、そんな……!」
「こんなものを投与され続けたら、人格が崩壊してしまうわ……!」
 ミラーナは片手で顔を覆った。
「あんの魔術師共……! ディランドゥ様によくも!!」
 駆け出そうとするダレットを、ミラーナは慌てて引き止めた。
「待って! ……わたくしから、フォルケン様に話してみますわ。このことはどうか内密に」
「姫……!」
 ダレットは一瞬両の手を掴まれて引っ張られる子供のような顔になったが、眉根を寄せてミラーナに向き直る。
「……あなたがディランドゥ様のお傍にいて下さることは、奇跡としかいいようがありません」
「き、奇跡って、そんな」
 突然言われた言葉にミラーナが拍子抜けする。
「ディランドゥ様は、孤独でした」
 ダレットは悲しそうに微笑む。
「誰もあの方の御心に近づける者はいなかった。でも、あなたなら」
「誤解してるわ。彼は――」
「あの方をお救い下さい。身も心も、全て」
 跪かれ、懇願される。
 その光景は、姫という身分の自分からすれば、ありふれたものと言ってよかった。
 従者はいつでも跪き、礼を尽くした。
 しかしこれは、そのどれもと同じではなかった。
 ミラーナの手を両手で握り締め、その甲に額をつけているダレット。
 他者のためを思う儀式。
「ダレット……!」
 これほど、心打つものに出会ったことはなかった。
「必ず、彼を救うと約束するわ」
 自然と言葉が口をついて出た。
 涙を滲ませて顔を上げたダレットは、安堵の笑みを浮かべる。
「我が君」
「わたくしを信じてくれる?」
「無論です」
 ダレットは立ち上がった。
「自分に何かできることがあれば、何なりとおっしゃってください」
「ありがとう」
 ミラーナは微笑んだ。
200名無しさん@ピンキー:2008/07/28(月) 01:32:12 ID:DiBJEmEA
 数日後、詳細なデータを記した書類と共に、ミラーナはフォルケンのいる操縦室へと足を運んだ。
 進路の調整を指示していたフォルケンは、ミラーナの様子を見て目を細める。
「ディランドゥについていなくてよいのですか、姫君」
「お話したいことがあります、彼のことで」
「……わかりました」
 大体のことは察しているのか、フォルケンは意外にもすんなりと申し出を受け入れた。
 無人となった小部屋へ移動すると、ミラーナは胸元に抱いていた資料をフォルケンに突きつける。
「何故彼に、あんな薬を投与する必要があるのですか」
「あんな、とは?」
「あなたはご存知のはずですわ」
 ミラーナは医学書を広げた。
「神経に介入する麻薬の一種が、ザイバッハ独自の調合によって更に恐ろしい成分を含んだものとなっています。
この医学書にも載っていないものが入っている。こんなものを彼に投与し続ければ、いずれ彼がどうなるか、
あなたにわからないはずがないでしょう!?」
 フォルケンは答えなかった。
「今までのあなた方の発言をよくよく思い返してみれば、実験体だのなんだのと、随分と穏やかではなかったわ。
どういうことですの? ザイバッハは一体、彼をどうするつもりなのですか!?」
「それをあなたにお答えする義務はないと思いますが」
「わたくしは彼の婚約者です!!」
 ミラーナはきっぱりと言った。
「アレン・シェザールを殺した男の?」
「卑怯な言い方はお止めになって」
 ミラーナは拳を握り締めた。
「言ってください。何故なんです?」
「……本来の彼は、虫も殺せないような純朴な心を持った人間でした」
 フォルケンは流れるように話し始めた。
「だからそれを変える必要があった。姫君、あなたには理解できないと思います。彼は男性ですらなかったのです」
「……」
 ミラーナは、それを信用するだけの経験をしていた。
 虚ろな目でミラーナの身体をまさぐったディランドゥの言動は、男性にはありえないものばかりだった。
 しかしそれをこの場で口に出すことはためらわれたので、ミラーナは黙っていた。
「我々は、少女の運命を根底から覆す実験をしていました。……他の子供にも」
「他にも!?」
 ミラーナははっとしてフォルケンに詰め寄った。
「性別という定められたものすら変える実験です」
「そんな実験をして何になるというの!!」
「そこまでは私にはわかりかねます。全てはドルンカーク様のためですから」
「……子供たちは、納得して実験に臨んだの? 違うのでしょう? どこから連れて来たの」
「……」
 フォルケンは沈黙した。
 悲痛な思いでフォルケンを見上げていたミラーナの脳裏に、アレンとひとりの少女の姿が浮かび上がる。
「………セレ、ナ?」
「!!」
 フォルケンが珍しく目を見開き、うろたえた。
「何故、その名を?」
「ああ……!」
 ミラーナは泣き崩れた。
201名無しさん@ピンキー:2008/07/28(月) 01:36:43 ID:DiBJEmEA
 夢の中のアレンとセレナは、ようやく再会した喜びに満ちていた。

 ――私はようやく、満たされた。

「アレン……!」
「アレン?」
 怪訝そうに眉をひそめるフォルケンは、突然泣き出したミラーナを前に戸惑っているようだった。
 涙で濡れた頬をあげ、ミラーナは告げた。
「セレナは、アレンの妹なのです!」
「!」
 その時の衝撃は、計り知れなかった。
 責め立てていたミラーナが困惑するほど、フォルケンは打ちのめされた。
 義手を口元にあて、フォルケンは苦痛の表情でそこに立ち尽くしていた。
 兄弟の片割れを失った気持ち。
 あいつなら大丈夫だろうと心の片隅で思いながらもえぐられた胸の痛み。
 祖国ファーネリアを滅ぼし、鉄仮面を貫き通した表情の下で、フォルケンは弟の安否を祈っていた。
 結果弟は無事だった。そのことがどれほどこの心を癒してくれたか。
「バァンは、あなたの弟だと言ってましたわね」
 ミラーナは首を振った。
「わからないわ。共に生まれ育った兄弟を不幸にしてまで創り上げたいガイア界の未来ってなんなの!?」

 あなたにはわからない。
 麦畑でたった二粒の麦を救う為に、畑を無駄にできるとお思いか?
 我ながら馬鹿げた例え話をしようとして、フォルケンは顔を歪めた。
 その二粒の麦を虫が食もうが腐ろうが、麦畑のためになるなら、くれてやりましょう。
 そんな愚かなことを、この姫君を前にして言えるのか?
 彼らは麦ではないのに。
 そこまで思うと、フォルケンはふっと笑った。ミラーナが眉根をひそめるのすら、愉快な気分になる。

 ――全く、とんだ計算違いもいいところですよ、姫君。

「……正直なところを申し上げますと」
 フォルケンは静かに言った。
「彼のことは、全て魔術師に一任してあるのです。ですから、私の権限は及ばないかと」
「ならば、わたくしはフレイドへは降りません」
 ミラーナはきっぱりと言った。
「なんと」
「わたくしがいなければ、フレイドと友好的な交渉はできないかと思いますわ」
「そうきましたか」
 フォルケンは苦笑した。
 元々、ミラーナの介入は計画の内には入っていなかった。
 だが彼女が来てくれるならと、計画を変更したのだった。
 ミラーナがいないのなら、当初の計画通りに進むまで。
 だがフォルケンは、敢えてミラーナに負けてやった。

 ――私にもまだ、心はあったのだ。

 ディランドゥの唯一の肉親であった兄を、知らなかったとはいえ奪ったのはザイバッハだった。
 子供を誘拐し、実験体にしていたのはフォルケンも知っていた。
 その償いをしたいと思った。
 ミラーナがいなければ、天地がひっくり返っても思わなかっただろう。

 ――あなたは私に、人の心を思い出させた。だからこそ私は後悔する。この痛みは生涯続くのだろう。

 言うことを聞いてくれないなら、地下牢で過ごすと告げた姫君の背が遠ざかっていくのを、フォルケンは複雑な思いで見守

った。
202名無しさん@ピンキー:2008/07/28(月) 01:39:17 ID:DiBJEmEA
「ザイバッハなら、パワースポットの力、うまく扱えると申したな」
 物思いに耽っていたフォルケンは、フレイド公王の凛とした言葉に我に返った。
 大事な交渉の最中にらしくないと小さく微笑むと、公王はそれを肯定と受け取ったようだった。
「よかろう」
「それは、真ですか」
 交渉には何日もかかると踏んでいたフォルケンは、意外な言葉に慎重になる。
「偽りの言葉を口にするのはフレイドの恥である」
 公王ははっきりと言った。
「ああ、くれてやるとも。アトランティスの呪われし力、欲しければくれてやる。我らが長きに渡り守り続けてきた秘宝。
 ……時代は変わっていくものだ。時代がそれを欲しているなら、使うがいい」
「フレイドの寛大な御心に感謝を」
 フォルケンは深く頭を下げたが、公王は険しい顔つきになった。
「強大な力を使った時、その者は人の心を失うやもしれぬ。あれは人智を超えた、貴様らには及ばぬ神の領域だ。
 果たして人の心を保っていられるか」
「お言葉ですが」
 フォルケンは顔をあげ、にやりと笑った。
「我らが皇帝ドルンカーク様は、すでに人を超えております」
「驕りもいいところだな」
 公王は動じなかった。
「人は人として生まれ出でた瞬間から、人以外のものにはなれないのだ。心を失わぬ限りな」
「その心を失うかもしれないと危惧される力をお譲りくださるのは何ゆえですか」
「知れたこと」
 フォルケンの問いに、公王はあっさりと答えた。
「我には心があるからだ。息子のため、そして妻の妹のため」
「……姫君の?」
「左様」
 公王は、わずかに父親の顔つきとなった。
「不思議なものだ。ほんの少し前まで、死を恐れることは恥であると思い、そう国民に説いてきたつもりだった。
 国のために死ぬことが誉れであると信じて疑わなかった。
 だが、私はまだ死ぬわけにはいかぬ」
 公王は、病床で最期に残した妻の言葉を思い出していた。

 ――もっと一緒にいたかった……
   わたくしは、公王様を愛してしまったから……

「妹が、この場を設けてくれた」
 公王は目を閉じた。
「私は王である前に、父親であることを選んだ。
 愛する者を置いて、旅立つには早すぎる。
 私は愛する者の幸せを、傍にいて守りたいと思ったのだ。
 息子と、かつての私の妻のように、望まぬ結婚を強いられている妹のな」
「……」
「息子はまだ幼い。まだ私がついていてやらねばならぬ。
 そして妹は、……そう、私の妻のように、愛する男を置き去りにし、国のために結婚した男を愛し始めている」
 フォルケンは目を見開いた。
「その妹の幸せを見守りたいと思う。その妹が夫に選んだ男はザイバッハに与している。協力しないわけにはいかぬ。
 ……私を愚かだと思うだろう。
 だがあの姫なら」
「ええ、姫君ならば」
 ふたりは静かに微笑んだ。
203名無しさん@ピンキー:2008/07/28(月) 01:42:01 ID:DiBJEmEA
 翌日、ガデスたちと、顔の腫れ上がったドライデンがフレイドを後にした。
 ミラーナとディランドゥは現れず、ひとみは心配したが、ドライデンは不貞腐れた顔で放っておけと吐き捨てた。
「ドライデンさん、どうしたんですかその顔」
「……なんでもねえよ」
「殴られた跡じゃないか。何があった?」
 バァンも無遠慮にドライデンの顔を眺めている。
「だからなんでもねえって言ってんだろ! くそ、俺としたことが焦りのあまり大失態だぜ! 無駄な金払わされるし散々だ!」
「は?」
「おい、王様もな、女に迫るときは焦っちゃ駄目だ。慎重に、かなり慎重に事を進めないとならんぞ」
「……何の話だ?」
 耳打ちしてくるドライデンに、バァンは眉をひそめた。
「女は男の言葉しか信用しねえんだ。好きなら好きってさっさと言わねえと、どこぞの馬の骨にかっさらわれちまうからな!」
「だから何の……」
「何話してるんですか?」
 ひとみが近づいてくる。ドライデンはささっとバァンから離れた。
「わけがわからん」
 バァンは首を傾げている。
「若旦那! そろそろ出発します〜!」
 ドライデンの従者が、商船から叫んだ。
「あいよ。んじゃ、王様たちもお元気でっと」
 ドライデンは傷が痛むのか、しかめっ面で背を向けた。
「またどこかで!」
 ひとみが声をかける。
「はいはい。……ああ、俺のお姫様に会ったら伝えておいてくれ。迷惑かけたって。
それと、誓いを立てるなら本人の前で言えって、盗人にもついでに言っておいてくれ!」
「は、ええ!? ちょ、盗人って誰のことですか!」
 その背に向かってひとみは叫んだが、ドライデンは背を向けたままひらひらと手を振って、二度と振り向くことはなかった。
「王様たち、またお会いしましょう!」
 もう一方では、ガデスたちがシェラザードに乗り込み、ひとみたちに手を振っていた。
「またいつか〜!」
 メルルがぴょんぴょん跳ねながら手を振る横で、ひとみとバァンも大きく手を振った。
「……さっき、ドライデンさんと何話してたの?」
 二隻の船が小さくなって行くのを見送りながら、ひとみがバァンにさりげなく訊ねた。
 バァンはふむと思案してから、
「女に迫るときは焦るなとか、す――」
「えぇ?」
 バァンは、ひとみを見た。
 呆れ顔のひとみを見ると、その先がどうしても言えない。
「す?」
「す……」

 ――好きなら好きと――

「何よ、すって」
「〜〜〜なんでもない!」
 バァンはうつむくと、踵を返してずかずかと歩き去った。
「バァン様ぁ〜!」
「ちょっと、バァン!?」
 メルルとひとみは、慌ててその後を追った。
204名無しさん@ピンキー:2008/07/28(月) 01:47:50 ID:DiBJEmEA
 ミラーナとディランドゥが部屋を出てきたのは、その翌日のことだった。
 まだ少しよろけるミラーナの腰を抱きながら、ディランドゥはかつてない程穏やかな顔をしていた。
「大丈夫かい?」
 優しく訊ねてくるその顔つきを見たら、竜撃隊は間違いなく卒倒するだろう。
 しかしミラーナは騙されなかった。
「し、白々しく聞くのはやめてくださらない!? わ、わたくし、あなたに殺されるかと思ったわ!」
「へぇ? どうして?」
 ディランドゥのにやにやは止まらない。
「あ、ああ、あんな何回もわたくしに―――って、言えないわ!!」
 顔を真っ赤にして、ミラーナは横を向く。
 ディランドゥは腰を抱き寄せると、耳元で囁いた。
「本当にいやらしい奥さんだねお前は。腰が砕けるかと思ったよ。まあ、おねだりするお前の顔を見るのは嫌じゃなかったけどね……」
「な、なな……!」
「搾り取られるかと思った。殺されそうだったのは僕の方さ。まだ欲しい、まだ欲しいって……」
「いやあああああ!」
 ミラーナは耳を押さえた。
「そんなに僕が好きなんだね。いいよ、これからはいつでも――」
「ちょ……っと! あっ」
 ドレスの上から知り尽くしたミラーナの身体をまさぐっていると、その背後でガタガタと音がした。
「誰だ!?」
 素早く振り返り、背中にミラーナを庇ったディランドゥは、廊下で倒れている竜撃隊の一同を見て目を丸くした。
「お、おまえたち!?」
「ディランドゥ様」
 よろよろと立ち上がったシェスタが、鼻血を出しているダレットを蹴り飛ばしながら冷や汗を流している。
 ミラーナは今すぐどこかへ逃げ出したい衝動に駆られながらも、恥ずかしさのあまりディランドゥの背後から動けない。
「も、申し訳ございません! あ、あの、あのフォルケン様が、その――」
 しどろもどろになっているシェスタを半目で睨んだディランドゥは、嫌がるミラーナを引きずりながら、ダメージを受けている
竜撃隊へと近づいてきた。
「フレイドとの交渉は成立したとの――」
「ごくろう」
 血の気の失せているシェスタに一言告げると、ディランドゥは何の前触れもなくシェスタを殴り飛ばした。
 悲鳴をあげるミラーナを無視し、起き上がりかけている隊員を無慈悲に踏みつけながら、ディランドゥは歩く。
「きゃっ! ごめんなさい! ちょっと、ディランドゥ! なんてことするの!」
 一緒になって踏んでしまい、謝りながらも進むミラーナは、前を行くディランドゥの耳が真っ赤になっているのを見つけた。
「あいつらめ……今度お仕置きしてやる……」
 ブツブツつぶやくディランドゥがおかしくて、ミラーナは笑ってしまった。
205名無しさん@ピンキー:2008/07/28(月) 01:50:22 ID:DiBJEmEA
 ヴィワンの入り口まで行くと、そこにはフォルケンと、ミラーナの見たことがない獣人が待っていた。
 ディランドゥはその獣人を見てはっとしている。
 訝るミラーナから手を離し、ディランドゥはすたすたとふたりに近づいて行った。
「フォルケン。誰だいこの男は」
「ジャジュカでございます。ディランドゥ様」
 フォルケンが紹介する前に、獣人は一礼した。
「……どこかで会ったかい」
「いいえ」
 ジャジュカはきっぱりと言った。
 ディランドゥは眉根を寄せる。
「彼は、君とは面識がないかもしれないが」
 フォルケンが口を開く。
「フォルケン様」
 ジャジュカはそれを強く遮った。
 それだけで、ディランドゥにはわかってしまう。
「……どうやら、僕の忌まわしい過去を忘れさせてくれないヤツが、また現れたようだね」
「!!」
 ジャジュカは、ディランドゥの顔から陰鬱さが消えているのを見てかっとなったようだった。
 背負っている重みから解放されたその晴れやかな顔。
 許せなかった。
 元々その身体は――!!
「もう、よいのです」
 ジャジュカは、聖人君子のような声で、ディランドゥに語りかけた。
 ディランドゥを始めとした皆が、その異様な声色に疑問符を浮かべる。
「よいのです。私がおります。もうお戻りなさい。セレナ様」
 ジャジュカはディランドゥの肩をつかんだ。

「もういいのです! どうか、あの心優しきセレナにお戻り下さい! セレナ様!!」

 腹部に激痛が走り、ジャジュカはくず折れた。
 小刻みに震えるディランドゥの拳が、ジャジュカの腹から引き抜かれる。
「ディランドゥ!」
 ミラーナが慌てて駆け寄るが、ディランドゥの怒りは治まらなかった。
「あの女はそんな大層なものじゃなかった!」
「う……っ、セレナ、様…っ!」
「その名で僕を呼ぶな!!」
 ディランドゥは吐き捨てると、傍らのミラーナを強く抱きしめる。
「!?」
「答えてご覧」
 ディランドゥはがちがちと震えていた。
「僕が誰だか! ミラーナ!」
「ディランドゥよ!」
 ミラーナは必死で叫んだ。
「誰がなんと言おうと、あなたはディランドゥだわ! セレナじゃない!」
「いいや、その身体はセレナ様のものだった!」
 ジャジュカが苦痛をこらえて叫び返した。
「おまえが乗っ取ったんだ――! セレナ様を私に返せ!」
「セレナはアレンと行ったわ!」
 ミラーナは泣いた。
「だからもう、彼の中にセレナはいないのよ!」
「……嘘だ」
 ジャジュカがふらりと立ち上がった。
「セレナ様は、私のご主人様は、いなくなったり、しない」
 ジャジュカは焦点の合わない目で、ミラーナにしがみつくディランドゥを見つめた。
「セレナ様は、どこだ……?」
「もう、どこにもいないわ」
「嘘だ……」
 ジャジュカはふらふらと、ヴィワンの中へ入っていった。
 彼が後に、ザイバッハ皇帝ドルンカークを暗殺するまでに至るのは、また別の話である。
206名無しさん@ピンキー:2008/07/28(月) 01:54:24 ID:DiBJEmEA
「大丈夫か、ディランドゥ」
 一連のやり取りを、痛ましい思いで見つめていたフォルケンは、そっと声をかけた。
「……ああ」
 ディランドゥは若干青ざめているものの、ゆっくりと振り返る。
 ミラーナの手を握り締め、薄く微笑んだ。
「とうとう僕にも弱点ができたよ。僕は花嫁さんに、頭のあがらない一生を送りそうだ」
「結構なことだ」
 フォルケンも苦笑した。傍らのミラーナは真っ赤だった。
「竜撃隊の姿が見えないが……彼らは君に伝言を託したのだろうか」
「ああ。フレイドとの交渉がうまくいったんだろ? 聞いてるよ。やつらの顔は、しばらく見たくないね」
「ほう?」
 拗ねた顔つきになったディランドゥは、もうジャジュカのことは頭から追い出したようだった。その強さを与えたのは、
間違いなく傍らの可憐な花だろう。
 フォルケンは目を細める。後悔の念は心に巣食ったままだが、いずれ消え去るだろう。公王が姫君の幸せを案じるように、
恐らく知らぬ間に、自分もこの獰猛な獣が穏やかになっていく様を見ることが楽しみになりつつあるのだ。
「そんな話はいいよ。それで? これからどうするつもりなんだい。竜のこともあるしね」
「そのことだが」
 フォルケンはふたりを促しながら、ヴィワンの中へと入って行く。
 ミラーナを連れて行くことに、最早何の疑問も抱いていない。
 ミラーナはそれに気づき、小さな幸せを噛み締めた。

 フレイドへの滞在は長くなりそうだった。
 同盟を結ぶ証として寺院で儀式を行った後、パワースポットを調べ、その活用に至るまでの経緯を考えると、
一ヶ月は下らないとの結論が出たのだ。
 バァンたちは竜撃隊が監視することとなったが、バァンが思ったよりおとなしく従っているために、予想されていた小競り合いは起きていない。
 実はそのままザイバッハへ行き、ドルンカークに戦いを挑もうとしていることにフォルケンは気づいていたが、運命改変装置の力を利用すればと淡い思いを抱いている。
 そのフォルケンが、やがてひとみやミラーナによって徐々に心変わりして行くことは、本人たちもまだ知らないことである。
 軍人であるディランドゥは、その間、フレイドの周囲を探索し、フォルケンの護衛なども勤めたが、一週間程度でそれにも飽き、
ミラーナと過ごす時間の方が長くなっていた。
「何をしてる?」
 一晩中愛し合った後、朝日が差し込む頃目覚めたディランドゥは、鏡台の前にいるミラーナを見つけて声をかけた。
「……お姉様の、日記を見つけたの」
 堅い表情で、ミラーナは答えた。
「日記?」
 欠伸をしながらベッドから降り、すっかり片付けられ、壊れたオルゴールも修復された鏡台の前まで近寄ると、ミラーナの泣きはらした顔が見えた。
「何故泣くんだい」
「わからないわ」
 力なく首を振るミラーナから日記を取り上げる。ミラーナは悲しそうな顔になった。
「……あなたは、もしかしたら読まないほうがいいかもしれない」
「ふぅん?」
 ディランドゥは寝癖の残った頭を傾げて見せると、適当に日記をめくった。
 そこには、公王の妻である女が過去に愛した男とのことが詳細に書かれていた。

 ――何故私は姫で、彼は騎士なのだろう? わたくしは彼のことを、こんなに愛しているのに!

 ――公王様は、とても優しくしてくれた。その度にわたくしは、罪の意識に苛まれる。
   ……何故もっと早く、この方と出会えなかったのだろう。

 ――間違いない。あの夜に出来た子だ……!
   どうすればいいのだろう? わたくしは、公王様を愛し始めている!

 ――公王様は、全てお許しになってくださったのだ。
   ああ、わたくしは彼に愛されている。そのことが何よりも嬉しいはずなのに、わたくしはこの罪の深さゆえ、
   長くは生きられないのだ。
   この身の脆さが恨めしい。もっと早くに出会いたかった。もっとお傍にいたかった!
207名無しさん@ピンキー:2008/07/28(月) 01:56:00 ID:DiBJEmEA
 ミラーナは、注意深くディランドゥの様子を窺っていた。
 しばらくして日記を閉じたディランドゥは、つまらなそうな顔で日記をミラーナに返した。
「僕がどんな反応をするか、知りたかったかい?」
「え?」
 あっけないほど、ディランドゥは素のままだった。
「おまえの姉上は、おまえじゃない」
 ディランドゥは伸びをした。
「僕は今がこうしてここに在るなら、それでいいよ」
「ディランドゥ……」
 その言葉だけで片付けられるほど、その日記は簡単なものではないはずだった。
 何故なんとも思わないのかと、ミラーナは心配になった。
 セレナとは違う。それだけの理由だからだろうか?
「おまえは、姉上が公王の前に愛した男について心配しているようだけど」
 ディランドゥは肩を揺らした。
「僕としては、似たような立場であるおまえの方が心配だよ。
 でもふたりとも、結局こっちを選んだんだ。何も心配することないじゃないか。だろう?」
「え、ええ……」
 曖昧にうなずくミラーナを見て、ディランドゥはところで、と前置きした。
「その日記、全て読んだのかい?」
「え? いいえ。辛くてとても、最後まで読めなかったわ」
「なんだ。なら読めばいい」
 ディランドゥは笑い出しそうな顔になった。
「読みながら、これでも聴いておいで」
 そう言って、オルゴールの前に並ぶ人形たちの頭をつついた。
「……?」
 ベッドの向こうへ消えて行くディランドゥを見つめてから、曲の心地よい音色と共に、ミラーナは顔をしかめながら日記帳を開く。
 この日記は、オルゴールの仕掛け扉から現れたものだった。
 何気なくある人形の頭を強く押したら、並ぶ人形たちがくるりと回転し、その後ろからこの日記帳が出てきたのである。
 読まなければよかったと後悔したが、さほど心が痛まない自分にミラーナは驚いた。
 それほど、ディランドゥを愛しているということなのだろう。
 ……そういえば。

 ――わたくしは、まだ一度も彼から言葉を贈られたことがない。


 本当は一度だけ、夢の中で囁かれたことはあった。
 でもあれはきっと、現実のことではない。
 彼の性格からして、そんなことを口に乗せるのは不可能だと半ば諦めていた。


 ――でも、一度だけでも、言って欲しい……


 日記を読み進める。
 そこには、公王を深く愛し始めた姉の切ない思いが綴られていた。
 最後のページへ差し掛かると、そこにはこんなことが記されていた。




 ――このオルゴールの音色に乗って、わたくしの思いが公王様に届きますように。
208名無しさん@ピンキー:2008/07/28(月) 01:58:26 ID:DiBJEmEA
「……え……?」
 顔をあげると、ディランドゥの笑顔と目が合った。
「てっきり、それを読んだから僕に日記を渡したのかと思って、意地悪しちゃったじゃないか」
「……ディランドゥ……」
 ディランドゥはミラーナの手を取った。
「僕の気持ちを言わせたいなら、この音色を聴けばいい」
 ミラーナの瞳が潤み始めた。
「でも僕の口から言わせたいなら、今この場だけ、言ってもいいよ。これを受け取ってくれたら」
 手の平に、小箱を乗せる。
「これは……?」
「鉱山で採れたものを、職人に渡して作らせたんだ」
 箱を開ければ、そこには指輪があった。
 心臓がどくんと跳ねる。
「正直僕は、金と呼べるものとは無縁でさ」
 ディランドゥが肩をすくめる姿がぼやけていく。
「だからまあ、こういうことしかできないんだけど」
「……ああ……っ」
 ぽつんと、指輪の上に雫が落ちた。
「ほら、泣いてちゃわからないよ」
 ディランドゥは照れたように言って、ミラーナの返事も聞かずにその指輪を左手の薬指に押し込んだ。
「嬉しいなら、嬉しいって言うんだ」
 ミラーナはディランドゥの首に両腕を回した。
「ミラーナ――」
「愛してるわ」
 涙でくぐもった声で、ミラーナは囁いた。
「わかってるよ、花嫁さん」
 ディランドゥは、優しくミラーナを抱きしめる。
「ねえ、歌って」
「は?」
 ミラーナは、くすくすと笑った。
「あなたの歌声が聴きたいわ」
「……笑うなよ」
「笑うかも」
 ディランドゥは、頭をこつんとミラーナの頭にぶつけてから、息を吸い込んだ。
 オルゴールの音色が、ちょうどそのフレーズに差し掛かるのを待ってから、口を開く。
 マレーネの日記に記された、その言葉を――





 ――君を 君を 愛してる 心で 見つめている

                      君を 君を 信じてる 寒い夜も――













終わり
209名無しさん@ピンキー:2008/07/28(月) 02:02:40 ID:DiBJEmEA
以上になります。
まさかこんなに長くなるとは思ってもいませんでした。
この三ヶ月、辛抱強くつきあってくださった皆様に深く感謝します。
レスを毎回下さった方、いつも本当にありがとうございました。
毎回申し訳ない気持ちで投下していたので、励みになっていました。
ディランドゥ随分人格変わりすぎて、誰だよ状態になってしまってすみません。
アニメを見返すと、竜撃隊を失う前と失った後の彼の心の荒みっぷりがすごくて、
こういう拠り所がないと彼は生きるのが大変だったのかとも思い、ああいう風にしました。
最後はかなり強引でしたが、まとめてみました。
今度投下することがあったら、短編におさまるように精進します。
本当にありがとうございました!
210名無しさん@ピンキー:2008/07/28(月) 05:29:57 ID:3tc8U8je
>209
お疲れ様でした!
終わるまで待っていたので、一気に読んで堪能しました
あの二人でこんなに萌える話が読めるとは…
またの投下を心から待ってます
211名無しさん@ピンキー:2008/08/01(金) 01:43:31 ID:MfdVFEvc
>>209
GJです!お疲れ様でした!!
想像も出来ない二人でこんなに素晴らしい物語が・・・
す、素敵過ぎます。
ありがとうと言いたいですよ、ほんと!
素晴らしい作品ありがとうございます!お疲れ様です!
212名無しさん@ピンキー:2008/08/03(日) 09:20:17 ID:qe8giMcM
保守
213名無しさん@ピンキー:2008/08/03(日) 23:58:49 ID:mctW336n
>>209
GJ!ありがとう!終わっちゃったよ!!サスペンス!!
最後ついにきたエロシーンはしつこくないねちっこさですごいよかったです。
しかも屈折してる部分がサラリと仕込んであるのがまたツボで
たまらんかったです!
性格がほとんど別人になっちゃってるwけど
過程が丁寧に書いてあって全然不自然じゃなかったですよ。
長いこと楽しみにさせてもらってたんで寂しいですが、
また気が向いたら是非よろしくお願いします!
214名無しさん@ピンキー:2008/08/27(水) 11:31:29 ID:nEGo5A4A
215名無しさん@ピンキー:2008/08/27(水) 19:13:25 ID:3zCtIawn
ひとみ×ディランドゥ読みたい★
216名無しさん@ピンキー:2008/09/04(木) 22:24:47 ID:W2f/JTgp
>>209
デレ期入ったディラ様の台詞にニヤニヤしつつ(待て)、彼の可能性に感動した
ひとみの時もそうだったけど違和感無いっす
ゴッドジョブ
217名無しさん@ピンキー:2008/09/12(金) 21:30:15 ID:z8fbo/5E
久々にカラオケの映像でセレナ見た。
むちゃくちゃグッときた。たまらん。
218名無しさん@ピンキー:2008/09/13(土) 00:51:30 ID:Aed8mpaQ
「約束はいらない」の映像は反則だよね。
泣けるシーンばかり集めてあるから、
ストーリーを思い出して涙がこみ上げてきちゃってあせったよ。
219名無しさん@ピンキー:2008/09/21(日) 21:09:34 ID:W64XF+Qs
もうちょっとどうにかならんかったのかと思うところもあるけどね。
最初2話か3話あたりの家来衆壮絶討ち死に→いきなり最終回のコンビネーション。
220名無しさん@ピンキー:2008/10/14(火) 22:22:13 ID:gpqDD0W6
保守
221名無しさん@ピンキー:2008/10/22(水) 16:44:54 ID:LLRSC54m
ディラ×ひとみに胸キュン
最後の再会シーンで思わず満面の笑みをこぼしてしまったバスの中で
222名無しさん@ピンキー:2008/10/28(火) 23:16:38 ID:j1HacPaV
222
223名無しさん@ピンキー:2008/10/29(水) 01:20:32 ID:CgsUd5e2
バァン×セレナを読みたいというか書きたいというか
いや、書けるもんならとうに書いとる
どうしても、どうしても書けなかったんだ!

だから誰かお願いします
224名無しさん@ピンキー:2008/10/31(金) 18:49:50 ID:2tfiEZYb
想像つかんから粗いプロットだけでも晒し希望
いや雑談ネタとしてねw
225名無しさん@ピンキー:2008/11/01(土) 18:38:42 ID:i+9Ed24O
バァン×セレナは…すごいむずかしいw
どうやって接点を作ろうか。
ガデス×セレナだったら考えたことあったけど。

ディラ×ミラーナだってありえないと思ったのに、
神ってほんとすごいよw

またどこかの神が実現してくれるのだろうか
226名無しさん@ピンキー:2008/11/01(土) 23:28:37 ID:JAPLwZlL
ひとみが帰った後、というのならできそう。
アレンがまた振られる形になりそうだがw
作中で、となると難しいな。
227名無しさん@ピンキー:2008/11/02(日) 01:49:01 ID:JGOZOhTI
バァンとセレナなら最終回後でファーネリア復興の援助代わりに、
対ザイバッハで活躍したバァンと強固な信頼関係作りたい。でも国の規模からして家の娘はちょっと・・・
って思ったアストリア王が家柄も悪くなく、アレンの妹なセレナを紹介とか?
それに何時ディランドゥが再発するかわかったもんじゃないからどっか適当なとこに押しつけたいってのもありそう
228名無しさん@ピンキー:2008/11/02(日) 01:49:54 ID:7r6hH4v+
バァンとひとみはお互い以外の相手を考えるのがめちゃくちゃ難しいな…

と言いつつスレの最初のほうにあるアレン×ひとみにはバッチリ
萌えさせていただいたわけだが…
まあでもこの二人は曲がりなりにも付き合ってたわけだし

一途で不器用なバァンの相手にひとみ以外の女性を推すとなると
説得力のあるバックボーンが必要になるな

…神、お待ちしております!
229名無しさん@ピンキー:2008/11/02(日) 03:27:48 ID:mBoiISRU
こんばんは223です。
>>224
自分が考えた導入部は大体>>227さんのおっしゃる通りですw
婚約する事になったバァンとセレナ
初めはディランドゥの事もありぎくしゃくする二人だったが
同じ時間を過ごしていくにつれ徐々に心を通わせる二人
しかし結婚式の日に実は「ディランドゥだった時のファーネリアを滅ぼした記憶があって、バァンの事は好きだけど罪悪感でいっぱいだから一緒には居られない」とか言い出したセレナが光の柱をおっ立てて行方不明に
バァンがエスカフローネを再起動させて探しにいって見つけて連れ帰る
おわり

こんな感じで考えてました。
改めて見返すと酷い話だなー
230名無しさん@ピンキー:2008/11/02(日) 04:01:10 ID:5PRIcHuE
やっぱここの住民の想像力は毎回凄いや。真面目に敬服の念が堪えないっす
個人的にセレナはディラ様の件でめっちゃ気強くなってるけど、
同時に嫌悪感から、壮絶な程自分を戒めてるイメージもあったり…違うかな?

>プロットの方
去っちゃうくだり、アレンはどうしたとツッコミたくはなったw
ひとみの場合があまりに運命的な成り行きだったんで
セレナとの場合エスカ使わずに、剣や羽くらいで解決するのを希望してみるテスト
231名無しさん@ピンキー:2008/11/15(土) 23:17:22 ID:ps8jvAYd
セレナが嫁ぐ事になったら相手に関わらずアレンさんは荒れるだろうな…と思うのは私だけー?
しかしいつまでも手元に置いておくわけにもいかんだろう
232名無しさん@ピンキー:2008/11/26(水) 02:39:15 ID:cKgCDVIs
ほしゅあげ
233名無しさん@ピンキー:2008/12/05(金) 01:46:14 ID:Lp+lwTq+
あげ
234名無しさん@ピンキー
ほしゅ