>>673 あ、悪い。しばらく離れてたから忘れてたorz
ちょっと投票してくる
せんたいさん、これはなかなか面白い選択ですね
早速投票させていただきました!
せんたいさん面白かったです。
速投票です!
投票で無駄にスレが伸びるのを懸念して投票所設置したのに、
「投票しました!」とか書いてレス消費してたら結局同じことになるな。
報告するなとは言わんけど、上の人たちみたいにちゃんと感想もつけて書き込んだ方が良さそうだ。
そんなわけでせんたいさんGJ。
18:50時点 キュルケ劣勢。
へんたいさんGJ。
でもさぁ…アニエスが妻になったりすると、いつか鉈で((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル
な妄想をしたのは俺だけでいい。
新刊発売まであと一週間か…
>>679 ん?俺には2期の作り直しとみえるぞ?そうかそうかJCは悔い改めて(ry
はい、時間になりましたので投票を締め切りました。
結果はアニエス57票、キュルケ53票でアニエスさんの勝ちでした
アニエスさんがいかにしてコッパゲの魔の手に落ちたのかは、明日以降のお楽しみ!
ではではノシ
せんたいさん
面白かった!前振りでこれほど笑ったのは久々だ!
投票間に合わなかったけど、明日にはできると言う事は・・・
何度も言ってるが両方出来てるんでしょ?
両方待ってるよん。
連レスですまん。
せんたいさん
魔の手の落ちたのはアニエスじゃなくてコッパゲの方では?
685 :
ボルボX:2007/12/19(水) 00:39:52 ID:IdV3bW49
せんたいさんGJ。アニエス編楽しみにしてますw
……さて投下。
「各地の『王の森』はその名のまま、王が狩りをするための猟場でな。
鹿やイノシシが外に出て民衆の畑を荒らさぬよう、かつてのアルビオン王家が魔法で固定化した柵で広く森をかこった。
その柵を利用されて俺たちはウォルター、おまえら言うところのクリザリング卿に封鎖されてるわけだ。とはいえ、出ていこうと思えば出来なくはないが。
ほどこされた封鎖強化はむしろ、外の者が入らないようにするためだな」
案内された木造の小屋、粗末な台所。
才人とアンリエッタは丸太の長椅子に隣りあって座っている。
マーク・レンデルは二人に湯気の立つカップを渡しながら語った。
「現に、多くの領民は耐えきれず他所に逃げていった。無理はないのさ、ウォルターはときおり怪物を森にはなっている。
見なかったか? 女の顔にライオンの体の怪物だ。殺されたものは多い」
「……なんであんたらは逃げてないんだ?」
刻んだショウガを放りこんだ湯をすすりながら、才人はたずねた。
「なんでだろうな……まあ、くだらん意地やあれこれさ」
マーク・レンデルは二人のまえに椅子をひいて座り、自分もショウガ湯をすすりはじめた。額にしわを刻んで、沈鬱な表情。
四十は越していると見えたこの男が、意外にまだ若いことに才人は気づいた。
森の過酷な生活が、実年齢以上に風貌を老けて見せているのだろう。
「俺は親父の後をついだ森番だった。森林監督官の下に森番がいる。俺たちの家は先祖代々主君と家臣のようなもので、ウォルターの馬鹿は俺には『若様』だった。
ここの森番は、平民ゆえ形としては公務員ではなく、王領の領民で森林監督官に『自発的に協力』する者らだ。給料は謝礼という名目で出ていた」
そこで一度言葉をきり、いまいましげに無法者は顔をゆがめた。
「あれは子供のころから頭がよく、同時に過敏で気の弱い男だった。いまの『あれ』は、かつてのウォルターとはもはや別物だ。
あれがおかしくなったのは数年前、あの塔に頻繁にこもるようになってからだ。
〈永久薬〉には狂気が宿る、という言い伝えはここらのだれでも知っていたのに。入ろうとしたとき、すでに変貌していたのかもしれんが」
「ちょっと待った」
うん? と首をかしげた男に、才人は問いただした。
「あの塔の中になにがあるのか知ってるんだな?」
「〈永久薬〉の処方箋があると聞く。『塔のメイジ』が書きのこしたやつが。
たぶん、ウォルターはそれ以前に塔に踏みこんだことのあるクリザリング家の先祖たちと同じく、永久薬を作ろうとしたのだろう。
そして作ることに成功したのだと思う。ウォルターが使い魔のように使役するあの魔法人形は、俺たちが矢を何本突きたてても倒れなかった。
伝説では、永久薬の効果は、『物質の属性、効力を無限に引きのばす』ことだという」
はおらされた才人のマントにくるまっているアンリエッタが、はっと何かに気づいた態で頭を起こした。
クリザリング邸の晩餐で、彼女はほれ薬の一種をのまされたようなのである。
解毒薬を館で一回、効き目が薄れたためさきほどもう一回服用したのだが、様子はいまなお熱っぽい。
あせった様子で、女王は森の無法者に確認した。
「無限に?」
「ああ、いろいろな言い伝えがあるな。
『あの塔を守っているのは、永久薬によって長い年月を動きつづけている魔法人形の一群』。
『錬金の魔法をこめた杖が、とどまることなく触れるものを金に変えた』話。
『塔の最上階で生きつづけているメイジ』。
『永久薬をつかった眠り薬をのまされた姫君が、起きられなくなった』話」
才人とアンリエッタは、一度顔を見合わせた。才人が食い下がる。
「最後の話を詳しく!」
「そういえばそこの娘さんの事情と関係ありそうな話だな。
いや、単に、恋敵に眠り薬をのまされた貴族の姫君が、ほうっておくと昏々と眠りつづけるようになったというだけの話だ。
解毒薬を口から流しこむと少しの間起きていたそうだがね。ひんぱんに解毒しないとすぐ眠くなるので、一日の四分の三を眠ったまま一生を終えたという。
その眠り薬が、この塔で作られた永久薬の効果をおよぼされていたということだ」
アンリエッタが薄赤くなっていた顔色を、怯えで白にもどしている。
「一生? 解毒薬が、効かない?」
「うむ……詳しいことは知らんが、解毒薬がまったく効かないわけじゃないだろう。この眠り姫の話にしても、短い時間ながら中和していることだし。
毒の効果が切れないので、時間がたてば解毒薬が負けてしまうのだろうさ」
素人考えだがね、と率直に述べるマーク・レンデルだったが、アンリエッタはカップを持ったまま呆然とつぶやいた。
「いえ、もしそれだとするとこの状況の説明がつきます……王宮の薬剤師が、調合を失敗するはずがないのです」
「ん? どこの薬剤師って?」
「あ、あー、ところで、それならやっぱり塔の中を調べる必要があると思うんだけど。
行ってみるわけにはいかねえかな」
注意をそらすべく、内心焦りながらも提案した才人に、マーク・レンデルはすげなく首をふった。
「やめとけ、塔に踏みこめるのはウォルターだけだ。クリザリング家の血を引くものしか入れない。
どんな原理か、先代やウォルターが手を塔の扉にかざすと開いた。それは俺も見ている。
伝え聞いた話によれば、アルビオン王にもそれが可能だと言われていたがね」
それを聞いて、才人はうなった。
「どのみち、やらなきゃならねえんだよ。このままはまずいんだ。だろ?」
「ええ。かならず解毒しなくては」
才人に同意をもとめられ、アンリエッタが即座に首肯する。
二人とも、今の状況がどれだけ深刻かよくわかっているのだった。余人ならぬ国のトップが、この先まともな思考もままならないというのは極めてまずい。
マーク・レンデルが、難しそうに腕をくんだ。
「……あえて試みるなら夜の間だな。日が落ちたあと、あの塔は怪物たちを吐きだす。扉もゆるんでいるかもしれない。
危険だからやめておけよ、と言っておくがね。どうしても行かなきゃならないなら、ウォルターを捕まえて塔を開かせたほうが安全だ。
ところで」
森の無法者は、好奇心のこもった目を二人に向けた。
「ウォルターの館で薬を盛られたってのは聞いたが。
お前らがどこのだれだかは、まだ聞いてないんだがね?」
「……やっぱ言わなきゃならねえか?」
「思い切りが悪いな、坊主。俺たちに害意があるなら森で射ていたぞ。お前らを保護したあげく『仲間と連絡をとりたい』という要求を聞いてやっただろ。
俺の弟分たちが今、塔に向かったという連中をさぐってる。やつらが接触したらすぐ判明することだろうが。
身がまえなくても俺たちは、たんなる農夫兼猟師の集まりのようなものだ。凶悪なことはやってないぞ」
「でも盗賊とだれかが言ったような」
「……大胆だな坊主。平民とはいえ自由民をつかまえて盗賊呼ばわりは無礼だぞ。
俺たちが盗賊? 封鎖されてる森の中で、誰から盗むんだよ。
王の森の獣は食ってるから、しいて罪状をいうなら密猟だな」
まあ密猟は森林法に照らせば死刑もあるくらい立派な重罪なんだがな、とこともなげに元森番は言った。
複雑な表情で黙りこんでいるのはアンリエッタである。
才人は一応、そこにも突っこんだ。
「その密猟は取り締まられなかったのか、クリザリング卿に?」
「放置されている。本来それがあいつの任務のはずなのにな。あいつはおそらく、塔のこと以外のほとんどが、もうどうでもよくなったのだ。俺たちの生死も。
ウォルターは、俺たちを追いつめようとはしていない。さもなくば、いつでも殺せたはずだ……先ほど農夫兼猟師といったとおり、俺たちは森中に畑をつくって耕作してる。そこから離れられないのだからな」
森の男はしばし言葉をきり、首をふった。
「森にのこった俺たちは、かつてのウォルターのもっとも忠実な臣下だった。俺たちは、あいつを元に戻したい。叶わぬのなら殺したい。だが、そんな力はない。
……もし手を組むことで双方に利があるなら、そうしない法はない。だから、お前たちが何者であるか聞いておきたいのだ」
らんと獣のように強烈に輝く目で、マーク・レンデルは二人を見つめた。
才人とアンリエッタはもう一度目を見交わし、困ったようにもじもじした。しばしして、女王が問いただす。
「あの……失礼ながら、森の外のことについてはあまり情報がないようですわね」
この男たちに森の外の情報が遮断されていないなら、目の前の少女がトリステイン女王であることに思い至らないとは考えにくい。
いかに公式には「軽く視察する」程度にしか知らせていないとはいえ、トリステイン女王がアルビオンを訪れたことを全く知らないはずがないのだから。
「ああ、正直言うとな。先の革命や大戦も森のなかで知ったくらいだ。
ウォルターの君臨は政変にまったく影響されていないように見える。
アルビオン王家にウォルターが援兵を出さなかったとはいえ、レコン・キスタに王の森の管理官の地位を奪われなかったのはつくづく不思議だね」
このアルビオンの「王の森」の名目上の主権者は、二回かわっている。
アルビオン王家からレコン・キスタに、今はトリステインはじめとする連合軍が置いた代王政府に。
その二回ともウォルター・クリザリングは旗幟を鮮明にせず兵を出さず、そして深く干渉されず、実質的な領主である今の地位をたもちつづけていることになる。
むろん政治的術策の結果として、それは不可能ではないが。
(でも、難しいと思うわ……どうやって? レコン・キスタは甘い目こぼしをする組織ではなかった。
「与えるものは受け取ることができる」と枢機卿に教えられたことがあるけれど、この場合はよほど与えるものがないかぎり……
賄賂にしても莫大な額になるわ。そんな富がクリザリング卿にあるようには見えないし)
アンリエッタは茫洋としながらもそれを考えようとした。
才人は才人で、アニエスやルイズと合流したあとのことに思いをめぐらせている。
マーク・レンデルは二人を交互に見てから、「まあ、今すぐに話せとは言わんさ」と鷹揚にかまえてみせた。
「とりあえず斥候に出した奴らから連絡がくるまで休んだほうがいいだろう。下手に出あるいて迷うより、地元の俺たちに任せとけって。
この集落には小屋がいくつかある。半分以上は捨てられたものだから、どれでも好きに入りこんで使っていいぞ」
「……そうだな、連絡つくまでは下手に動かないほうがいいか。お言葉に甘えさせてもらうよ」
才人はショウガ湯を一気にのみほし、渡された獣脂のランプを手に立ちあがりかけた。
すると、アンリエッタも立ちあがった。
少年は固まった。そういえばそうだった。この問題があった。
……けっきょく外に出ても、つつましい足音が才人のあとを追い、小屋の中までついてきた。
ほこりまみれの粗末な寝台しかない小屋に入ってから、冷汗をにじませて才人が振りかえると、女王は朽ちかけたドアを後ろ手に閉めていた。
姫さま? とややたじたじとなっている才人の前で、アンリエッタは白皙の面を染めて熱をたゆたわせながら、静かに口をひらいた。
「すこし、お話ししませんか……」
\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\
マザリーニはフネの船尾近くから下を見おろした。
夜、地表をおおう木々は空からは黒い海のように見える。
信じがたいことに、ウォルター・クリザリングが動かすこの中型船三隻の艦隊は、無灯火で闇のなかを航空していた。
眼下の黒冥に視線をさまよわせながら、彼は杖をとりだして握った。
この高さならレビテーションかフライを使えば、無事に着陸できるだろう。
「なにをされるつもりかな」
いつのまにやら甲板にあがってきたらしいクリザリングの声が、風にのって背後から聞こえた。
黒衣をひるがえらせながら、マザリーニはふり向いた。
森林管理官が立っていた。そばに数名の召使がひかえている。異様に物静かな男たちだった。
「わざわざお招きいただいたのに心苦しいが、夜空の遊覧にも飽きたのでな。
降ろしてもらおうかと思っておる」
「なるほど。では好きにされるがよい」
特に興味もなさそうなクリザリングの返答に、マザリーニはやや意外そうに目をほそめた。
「ずいぶんと豪気だな。捕虜が逃げようとしているのだぞ」
「どのみち適当なところで放逐するつもりだった。
猊下をここまで連れてきたのは、指導層を我々の出はらった館に残しておけば、ほかの捕虜を煽動して火でもつけかねんと思っただけだ。
もっとも残すべき価値のある物もないが」
クリザリングの言葉は、マザリーニを拘束もしていないことが裏付けていた。
だがマザリーニの背筋には悪寒が走った。厄介払いするつもりだった、というのはおそらく事実だろう。しかし逃がすよりもっと手っとりばやい道は、マザリーニを殺すことだった。
この男は、どちらでもよかったのだろう。根拠はないながら、クリザリングの鬱勃としてなお透明な雰囲気に接し、マザリーニはそう直感していた。
「なにを考えているのだ、クリザリング卿。
貴殿は私には理解できぬ。わかるのは、貴殿が気違いじみているということぐらいだ」
風に劣らぬほど温度の低い声を出しながら、マザリーニはクリザリングと向き合ったまま一歩下がり、船べりに尻を乗せた。
青年は怒りも笑いもせず、突然に興味がわいたような表情でまじめに問い返した。
「気違い? それはたとえばどのような行為を指して?」
「この日の最初から最後まで、あらゆる行為をだ。
今このときに限っても、無灯火で艦隊を夜間航空させるなど、ほかにどう言いようがある?
着陸難というだけでなく、うっかり間違えば三隻のみとはいえ互いに衝突するぞ」
急速に、クリザリングは一片の熱もない醒めた様子に戻った。
「艦隊運用について猊下に心配していただく必要はない。みずから言うとおり、そろそろ降りていただこう。
彼がこれ以上とどまるなら、背骨を折って放りだせ」
クリザリングの最後の一言は、そばの召使たちに向けての命令である。
マザリーニは顔をしかめると、ゆるやかに背を倒し、船べりから後ろむきに身を空中に投げだした。
…………………………
………………
……
「手前はほとんどの事物に、執着するほどの価値を見いだせないだけだ。
これも諸人にとっては狂気の一種なのだろうかね、猊下」
「ウォルター・クリザリング」は船べりに立ち、マザリーニの飛び降りたあたりを見やる。
逃げたところで運が悪ければ、あの老人はすぐ死ぬ。
森にはスフィンクスを放っているし、王軍のところに逃げたのなら、これから自分が始めるつもりの戦闘に巻きこまれるだろう。
「どうせこの世は無常の夢、万象はさだまらず転変するだけだ」
ぶつぶつとつぶやく。
彼にとって、他者の去就は生死をふくめ、とくに考慮するほどのことではない。自分自身の末路でさえ、さほど問題にはしていないのだから。
今なおわずかなりと気にかかるのは、せいぜい女王の安否くらいである。なんといっても、ウォルター・クリザリングにとっては重要な少女だったのだから。
もの言わぬ家臣たちを向き、あごをしゃくって追い払う。
離れていくその後ろ姿を見ながら、思考をめぐらせる。
館にのこっていた女王本人は、大胆にも少人数で森に逃げたようだった。
彼女を殺すつもりはないが、捕らえておけばその配下たちをおとなしくさせられたかもしれない。
枢機卿では無理だろうが、女王とであれば王軍の者もあの少女を差しだすことに同意したかもしれないのだ。
しかしクリザリングは喜ばない、と彼は感情のない声で独白する。
「いかな種類でも『アンリエッタ姫』に危害を加えることを、そうだ、ウォルター・クリザリングは肯んじないだろう……そうとも。
では、やはりそれ以外を直接狙うか」
ラ・トゥール伯爵とはすでに激突した。あの、都市トライェクトゥムの商人貴族は手勢を引きつれて敗走した。
女王が塔に派遣した兵は、スフィンクスの魔法人形がかく乱しているだろう。
この二つの軍勢は森で合流する可能性が高い。
一方、こちらの手駒は、塔に収容していた魔法人形たちが主となる。数は、近衛隊とトライェクトゥム兵の連合の半数にも達せず、五十体ほど。
ただし巨躯が多い。
〈永久薬〉によって半永久に動きつづけ、形を徹底して破壊されないかぎり戦えるこの兵たちは、夕刻より森を驀進して館に駆けつけ、ラ・トゥール伯爵の兵をうち破る主戦力となった。
彼はその魔法人形たちを、この三隻の運搬用フネに搭載していた。重量の問題で三隻に分散させているのである。
「さて、どこまで手を出したものだろうか」
本来手をかける必要があるのは虚無の少女だけだ、と彼は続ける。
「抹消されるべきは、塔が強引に暴かれる可能性だけだ」
あの少女を殺す。ほかの有象無象は、邪魔だてする者だけ排除すればよい。
そこで、いや、と考えをひるがえす。
「否、否、考えてみれば、『虚無』の人物が重要でないわけはなく、重要人物を王軍が威信にかけて守らないわけもない……では、最初から徹底しておくか」
鏖殺するつもりでちょうど良いくらいだろう。そう、彼は結論した。
\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\
「火は効かないようだ。外の焚き火も、こちらの視界を確保するしか役に立っていない。
外では、いくつかの焚き火を背に円陣をしかせているが、あのスフィンクス、ときおり平然と姿をみせている」
塔と館をつなぐ、森に両側をはさまれた林道沿いにある小屋。
林道にはいくつもの焚き火がたかれ、兵たちが武器を手に緊張をはりつめさせている。
外の警備を副官とマンティコア隊の代表にまかせていったん離れ、小屋に入ったアニエスは仏頂面で報告した。
炉の前でマザリーニと向かいあっていたラ・トゥール伯爵が、いらいらと吐き捨てた。
「当たり前だ、魔法人形だからな。本物の獣と同じく火を恐れるはずがない。
クリザリングの奴はああいった奇怪なものを手駒として多くそろえているようだ、館の戦闘でも背後から魔法人形がわれわれに襲いかかってきた。
それさえなければ、トライェクトゥムの兵だけで圧倒してやれたのに」
小屋のなかではアニエス、逃げ出してきたばかりのマザリーニ、それにラ・トゥール伯爵が顔をつきあわせることになった。
帽子にクモの巣と木の葉がくっついたまま、椅子にすわって防寒用キルトにくるまっていたマザリーニがアニエスに向けて告げた。
「陛下のゆくえが知れない。館にはいなかったようだ、クリザリング卿に捕らえられてはいない。
てっきりラ・トゥール殿が連れて逃げてくれたものと思ったが、違うという。みずから行動して森に身を隠しておられるのかもしれん。
われわれは何よりも優先して、陛下の安全を確保するため動く必要がある」
つい数分前に、マザリーニは割合にかくしゃくとしながら森から林道に出てきたのである。
そのまま近衛隊によって保護されたのだった。彼は重要なさまざまの知らせをもたらした。
「それと、クリザリング卿は無灯火のフネに魔法人形をつめこんで航行している。
あの男の思考は読めぬ。十分に警戒せねばならん。
私は焚き火の明かりを見てここまで来れたのだが、間違いなく敵からも見えているぞ。なるべく早く腰をあげねば」
アンリエッタが行方不明と聞いて、アニエスは蒼白になっていたが、うろたえても益はないと合理的に判断することはできた。
(森をあてどなくさまようことになるが、ここは防戦にも向かんし、とどまるのはまずそうだ。
陛下も探さねば。なぐさめは、もし逃げたのならサイトがおそらく護衛として同道しているだろうことくらいか。
待てよ、森の無法者という連中がいたな。いっそ前の傭兵隊のように連中を味方につければ、森の地理を把握することができるのでは)
沈思するアニエスの前で、ラ・トゥール伯爵もまたなにかを考えていた。
彼は顔をあげて枢機卿にただした。
「マザリーニ様、さきほど聞いた話のなかで、フネの動力室も妙であったといわれましたな。詳しく聞くことをお許しいただけますか」
「……ああ、妙なことだけならほかにいくらでもあったのだがな。軟禁もされなかったので船内を歩きまわり、フネの動力室を見た。
違和感があった。風石の蓄えがなく、補充されたあともない。人の立ち入った気配さえほとんどなかった。動力源はすぐ消費されるのに」
「なるほど……」
下唇を指でつまんで考えこむラ・トゥール。
三人の横では、優先的に小屋に運びこまれた負傷兵たちが沈鬱に押し黙っている。
……この状況はいろいろな要因による。アニエスたちは塔に踏みこめず、かえって塔からあふれでた怪物たちに蹴散らされるようにして道をはずれ、森に逃げこんだ。
来た道とはべつの林道を見つけ、クリザリング邸に引きかえす途中で、館から敗走してきたラ・トゥール伯爵の一団と出くわしたのである。
それからほどなくしてマザリーニを迎え、館側の一部の事情があきらかになった。それでも、情報はまだ足りていない。
アニエスはラ・トゥールのほうに一歩ふみこんだ。
「ラ・トゥール殿の兵を背後から襲ったのは、たぶん塔の怪物たちだと思います。自分たち王軍も、その怪物たちから逃げてこの小屋に逃げこんだしだいです。やつらはそのまま館に行ったのでしょう。
現在、近衛隊を陛下からあずけられているのは私です、ラ・トゥール殿。
われわれ双方で徹底した情報交換が必要かと存じます。考えてみれば、あなたとクリザリング卿の戦闘の経緯さえも聞いておりません」
ラ・トゥール伯爵の目が、今夜はじめてアニエスをまともに見た。
うろんげな、わずかに戸惑いを見せる表情。こちらを見るその目の光に、アニエスは唐突に既視感をおぼえた。
このような眼光はよく見てきた。
銃士隊長にのぼりつめるまでに軍で、栄達してからは王宮や任務のためおもむいた場で。貴族と相対したときに、多くの者の目の奥に。
(これは、平民を侮蔑する者の目だ)
だがラ・トゥールの目の光は一瞬にして散じ、彼は愛想がよいとも言えるほどに気さくな声を出した。
さきほどアニエスが入ってきたときの不機嫌な応対とは、たいしたうって変わりようである。
「……ああ、たしか名はアニエス殿だったかな。失礼、勇壮な麗人であるという銃士隊長の名を、田舎者ゆえとっさに思い出すのに手間どりました。
戦闘の発端は、ウォルター・クリザリング、あの狂人」
その名をだしたとき、トライェクトゥム伯アルマン・ド・ラ・トゥールの四角い面に、憎悪の色がちらとかすめた。
「私は晩餐のあと奴と差し向かいで話しあい、昼間のことについて問いただすつもりでした。ですが交渉にさえ至りませんでした。
奴は召使にとりつがせた私の面会要求を、完全に無視してのけました。のみならず、そのまま私を拘束させようとしたのです。
幸いにも、わが兵が即座に反撃してくれました……そのあとの戦いはこちらに有利に進んでいたのですが、森からいきなり現れたおぞましい魔法人形の群れに背後をつかれたのです。
あとは知ってのとおり、館から撤退する途中であなたがたに出会い、こうして向かいあっているしだいです」
「なるほど、得心がいきました。
ところで、塔の〈永久薬〉について知っていますか?」
口をつぐんだラ・トゥール伯爵の顔色が数瞬のあいだに変わるのを、アニエスはやや皮肉っぽい気分でながめた。
その都市領主は、ややあって咳払いした。
「……そんなところまで、調べているのですか?」
(おや、これはなにか引っかかったな)
そう腹の中でつぶやき、アニエスは答えない。ただ、じっとラ・トゥールを見るだけである。
しばしして、腹をくくったような顔を見せ、ラ・トゥール伯爵は肩をすくめた。
「ええ、この際その薬のことをもクリザリング卿に問いただしてみようと思っておりました。あの話を最初に聞いたとき、私は一笑にふしたのですがね。
普通に考えれば与太話のたぐいです。実際にあれば喉から手がでるほど欲しいと思うことも否定しませんよ。ええ、もしそんなものがあれば、いくらでも活用できますから。
ですが、それがどうやら本当にあるようなのです。そしてクリザリングは、おそらくそれを実際に活用しています」
「それはいったいどういう……」
アニエスがつい引きこまれたとき、「アニエス!」と呼ぶ声がそれを中断させた。
やむなく場をはずす。
「……ちょっと失礼」
呼ばれたほうへ行く。
ずっと小屋の暗い隅のほうで、なにやらごそごそしていたルイズが怒り泣きするような顔でアニエスの前に立った。
「アニエス! 出ない! 出ないのよ!」
「心配するな、荒事のときは新兵によく見られる現象だ。
座ったらまず息を深く吸いこんで上を向き、口をぽかりと空けてゆっくり息を吐け。なにも考えずリラックスに徹しろ。
さすればおのずと膀胱はゆるむ」
「だ、だれがお粗相の話をしてんのよ!? 虚無よ虚無!」
地団駄をふんでルイズがわめいた。
「乱発しすぎて魔力が切れてるのよ!」
一拍おいてその言葉の意味を理解し、アニエスは慨嘆して天井をあおいだ。
そういえばルイズはあのスフィンクス相手に、半ばパニック気味でディスペルやエクスプロージョンを放っていた。
それらを全部、あの厄介な魔法人形は巧みにはずしてしまった。
空中までふくめた広い領域を、水中の魚のように迅く滑らかに駆けまわって、危ないと見れば森に逃げこんで姿をくらまし、やりすごしている。
ガンダールヴ状態の才人でも凌駕できるか怪しいほどのスピードもさることながら、不気味なのは生きた獣としか思えないその勘のよさだった。
ともかく結果、ルイズは無駄撃ちのしすぎで魔力のストックが切れたということらしい。
「魔力が回復するまでどのくらいかかる?」
「そ、それは……それがわかれば苦労しないわよ……」
「……やむをえまい。ラ・ヴァリエール殿は戦力からはずす。
私の後ろにいろ」
アニエスは落胆こそしていたが、とくに厳しい態度をとったつもりはなかった。だがやはり目に見えてルイズは沈んだ。
精神の成長いちじるしいとはいえこの少女はまだまだ、虚無が使えないと自身の価値はほとんどなくなるという強迫観念が、完全には消えないようなのだった。
\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\
獣脂の明かりの揺れる小屋の中。
寝起きの役にしか立たなさそうな小屋は、入ってすぐ毛布もないむき出しの木のベッドがある。
その上で女王は、夜を徹して語る覚悟を決めたようだった。
「クリザリング卿が、いまのところ最大の容疑者です」
今夜自分に「ほれ薬」を盛り、兵を動かして反乱同然の真似をした人物が誰かについて、アンリエッタは断定した。
求婚の件があるだけではない。
マーク・レンデルから聞いた種々の情報は、ウォルター・クリザリングという男に対する疑惑を深めるようなものばかりだった。
「もし彼が今夜の騒動の立役者であるのなら、わたくしたちはレンデル氏の共闘の申し出を受けましょう。かれらは森の地理には通暁しているはずです。
でも、ほかの可能性はないのかしら……ラ・トゥール伯爵のほうがわたくしに弓をひいたというような」
ともすれば薬のため散らばる思考をかき集め、わざわざ口にだしてつぶやく。
一つ一つ、必死につむぎあげる憶測を足がかりにして、さらに思索をすすめる。
才人が妙に硬いささやき声で口をはさんだ。
「あの伯爵ですか。なにか心当たりでも?」
その声を聞いて、アンリエッタは赤みがかったまぶたを伏せて「ええ」と答える。
いまや思考すること自体が、むりにでも理性をたもつための方法なのだった。
「ラ・トゥール伯爵家は、もともと都市トライェクトゥムの領主として、大権をふるってトライェクトゥムに君臨していた名門でした。
でも、何百年も前にラ・トゥール家による暴政がつづいたとき、市民たちが時のトリステイン国王に直訴し、王の裁きが下されました。
王家がトライェクトゥムの市民と組んで、ラ・トゥール家から大幅に実権をとりあげたのです」
立て板に水のようにすらすらと、ただし情動はほとんどない口調。
たぶん、詰めこまれた教育で得た知識を、教科書どおりに口にしているのだろう。
今の彼女にとっては、とにかく何でもいいから思い浮かべる材料があればいいようだった。
「そのあとはトライェクトゥムは、事実上の国王直轄地として栄えました。
それさえも、王家が市の参事会にさまざまな特権を保証して、見返りに税を受けとったというだけで、実際は市民の自治都市だったのですが……
いっぽうのラ・トゥール家は伯爵家という肩書きだけはそのままに、中小規模の貴族に転落したとのこと……です」
「なるほど。だから恨みを王家に、という考えで?」
「いえ……待って、よく考えれば、それも微妙ですね……
その昔日のころであれば、ラ・トゥール伯爵家が叛意をいだくことも納得できたかもしれませんが、長年のうちにラ・トゥール家は地道にじわじわと実権を取り戻し……、
ええと、そう、王家には恭順的で、市の参事会にも平和的に食いこみ、いまのアルマン卿の代では、参事会代表にものぼりつめ、完全に返り咲いて、いるはずで……
順風満帆なら、反乱してなにも、得るものは、ないのですから……やはり、……違うのでしょう、か……」
アンリエッタの頭がふらふらしはじめた。
才人は血相をかえてその肩をゆする。
「姫さま、気をたしかに!」
ぼんやりと女王が、半分閉じかけていた目を見開く。
傍からみれば、睡魔との戦いに似ていなくもない。
この数刻何度あたらしい解毒薬をのんでも、ほれ薬と解毒薬のせめぎ合いは最終的にほれ薬の勝利に終わるのだった。
やはりほれ薬のほうは、マーク・レンデルにさきほど聞かされた話の薬のように「永続」の属性を得ていると思われた。
どうにか持ちなおしたアンリエッタは、なるべく長く正気をたもつべく話を続ける。
彼女が一方的に口を動かしているのは、才人の声があまり彼女の耳に入ると、情感の高まりをこらえきれなくなるためだった。
「実は貴族の反乱も、無理ないかもしれないと少しだけ思うのです……
最近のわたくしの施政そのものが、彼らの敵意を誘発するものであったかもしれませんから……」
女王は「武器税」のことを話す。
諸侯の力をおさえ、平民を引きあげる政策の一環であるそれを。
赤らんだ表情を眠たげにとろかせながらも、この話をするとき瞳の奥には意志が光った。彼女なりに、こだわりがあることだから。
それでも精神が揺れているのか、いつのまにか語ることに弱音が混じっている。
アンリエッタは芯をどうにか保ちながら、しかし沈鬱な声音で話をつづける。
先の巡幸の一連から、みずからの目ざす施政が、それまでより形を幾分か変え、鮮明になったと感じたことを。
できる限りそれを成しとげたい、という思いを。けれどもマザリーニの反対をはじめとしてつきまとう困難と、自分でもまた悩みを捨て切れないことを。
「改革はこの先も、多くの貴族の恨みを買うでしょうし……もしも大規模な反乱が起き、かえって国家の屋台骨をゆるがすようなことになれば、失政のそしりはまぬがれません。
……ほんとうは自分でも自信がないの。巡幸のときのことがなければ、わたくしは貴族の力を削ごうとは、この先もずっと考えていなかったかもしれない。
そしてこれはけっきょく自分の、自分の罪悪感をごまかそうとしているだけかも、と」
静かに震えながら、アンリエッタは思い返す。
罪を問うような青い目を。【拙作SS】
唇をかみしめ、知らず知らずのうちに、黙って聞いている少年に問いかけてしまう。
「善政を敷くため行動しようとしても、発端がしょせん偽善ではないかと思えば……その結果も、安定していた国を乱すだけで終わるというのなら……
やはり、これも感情に翻弄されて、いたずらに国政を左右しているだけなのでしょうか……?」
重い心情を吐露されて、才人は目をふせて考えこんだ。
アンリエッタは胸を上下させながらも、それを妨げないよう少年の近くで静かに待つ。
ほのめく薄明としめやかな息づかいの中、時間がすぎてゆく。長く深く考えこんだ後、ようやく才人は顔をあげた。
彼はまず断っておく。「姫さま自身にわからないことは、俺にはなおさらわかりませんよ。ルイズと違って政治のことはたいして助言もできないです」と。
「ただ、俺の使い魔の力もそうですが、人間がやることの原動力ってたいがい感情がからみますし、結果がよければ発端とかが何でも気にしなくていいと思いますけど。
『その結果が出るのか自信が持てない』というなら、自分のやることが正しいのか、つねに考えながら進んでいけば……たとえ間違っても間違ったところまで引きかえせると思います」
アンリエッタはその言葉を真摯に受けとめ、気をぬけば崩壊しそうな理性に喝をいれて、意味を噛みくだいた。
たしかに政治は、結果で評価が決まるのだろう。
そして常に、この選択でよいのか考え続ける。終わることなく。
内容的にはけっこう厳しいことを言われたのかもしれなかったが、にもかかわらずアンリエッタはつい嬉しくなった。内容よりもそれを話すときの、少年の表情や口調の繊細な雰囲気に。
真剣に考えて忌憚なく話し、その上でなおもこちらを気づかっていることがはっきり伝わったから。
貴種の生まれ育ちゆえにアンリエッタは、他者の心のありようを察する能力が高いとはいえない。そんな彼女でも容易にわかる、情の深さ。それをこの少年は持っていた。
彼はたぶん誇りのため、またはこうして他人のためにどこまでも真剣になれるのだろう。うっかり意識したとき胸が熱くなり、(あ、駄目)と思いつつもゆらゆらと思考が雲散していく。
ちゅ。
アンリエッタに何度目かにキスされ、才人は固まった。
少女の手で顔を両側からはさまれて上向かせられ、ゆっくり唇で口元や頬をついばまれる。
ゆっくりといっても、それはアンリエッタがぎりぎりで踏みとどまっているがゆえである。
「ひ、姫さま、こらえろよ……?」
「………………失礼いたしました……」
どうにかという感じで、少女が上気した顔を離す。髪や肌からは、先ほどのキスのように甘い香りがふわりと立ちのぼる。
才人はひそかに固唾をのんだ。
精神力を総動員して耐えているのは、実のところアンリエッタだけではなくなりつつある。
「というかあの、この体勢からして、ちょっと変えたほうがと愚見しますが」
才人が指摘した。彼は壁に体をつけてベッドに座りこんでいる。
そのひざの上にアンリエッタが腰かけ、才人の首を抱くようにもたれかかった姿勢で話しているのだった。
少女が首をふった。至近距離で栗色の髪が揺れる。熱情がしたたるようなささやき。
「だめです……いまではもう、わずかでも離れたらかえって自分を見失ってしまいそうで」
「だーもう、なんて厄介な薬だよ」
才人が苦悩のうめきをこぼした。
もともと「離れると心がひどく乱れて、自我を保つのもままならなくなる」とアンリエッタが同じ屋根の下をもとめたのだが、それでも最初は彼女もかなり耐えていた。
ベッドの端と端に距離をあけて座っていたのである。
それが時間が経過するうち、いつのまにか距離がちぢまり、気がつくとこんな姿勢になっている。
そのあとは才人が、何度か発作的にこらえられなくなったアンリエッタに、首から上を咬まれたり吸われたり。
愛の妖精でも赤面しそうな光景が現出しているのだった。
確かにいまの才人は一人きりの護衛である。
女王から離れるのはいろいろ問題あるのだが、これでは別の意味で二人とも危険だった。
うっかり過ちを犯したらシャレではすまない。
そんなわけで目下、才人は必死で心に城壁を積みあげている。
ルイズ達と連絡がとれるまでの辛抱だ耐えろ俺、と心中につぶやいてから、才人はふと思いだして、気になっていたことを訊いてみた。
「そういやなんで、薬の効果が発揮されたのが俺なんです?
晩の食卓で盛られたっていいますけど、あの薬は飲んで最初に見た者に効くと思ってたんですが」
アンリエッタはうろたえたように視線をさまよわせた。
晩餐では才人やルイズとのことをはじめとして、物思いにふけっていた。
結果として、思考にあわせて視線が、護衛として離れた位置に立っていた才人に向きっぱなしになっていたのである。
どう言えばいいのか思いなやむうちに朦朧として、気がつくとアンリエッタはまた少年に唇を重ねている。
ごまかす意図のキスではないが、結果としてそうなりそうだった。
「ちゅ、ん、む、あむ」
今度ははしたなく薄い舌まですべりこませている。
先ほどの発作からほとんど間もおかない口づけに、面食らった顔をしていた才人がようやく反応した。顔をひいて唇を離す。
「姫さま、まずい、まずいからこれ」とうろたえ、アンリエッタの肩をつかんで離そうとする。
それに逆らい、少年の頭をかかえこむようにして、アンリエッタはなおさら深く唇を重ねた。
胸を満たすまろやかな情愛の切なさに、少女の瞳がうるんでいる。
口内で舌に舌をからめられて才人の手が、指をぴくぴくと引きつらせながらアンリエッタの腰にまわされかけ、どうにか硬直してとどまった。
才人にとっても、予想以上にきついのだった。
彼とて自分の精神力、というか我慢強さに自信がないわけではなかった。ルイズのほれ薬騒動のときも凶悪な状況だったが耐えきったのである。
……が、彼とて木石ではなく、くわえて今のアンリエッタはある意味危険物そのものになっていた。
「は……ぁむ、ちゅぴ……かぷ」
「ひゃわわわわわ! そこやめろストップ止まれ!」
アンリエッタが少しずつ身じろぎし、その降らせる口づけが下に移動している。いつのまにかパーカーのチャックも胸まで引き下ろされていた。
キスが首筋を通って鎖骨まで達し、そこで鎖骨に甘く歯をたてられたあたりで才人はこらえかねて制止の叫びをあげた。
愛撫がこれより下に行くのを何としてもとどめるべく、とっさに腕を少女の背にまわして動きを拘束する。
優美な背をたわむほどに抱きしめられて苦しげに息をつきながら、それでもアンリエッタは才人の顔や首筋に口づけていくのだった。
見るものことごとくを魅せるような濃い色香が、花のように匂っている。
単なるほれ薬だけの投与のときとはまた違う。
内奥での薬と解毒薬の終わらないせめぎ合いが、抵抗する少女の苦悩と痴酔の入り乱れるさまとなって表面に出、言いようもない危うい美をもたらしていた。
昔、ほれ薬をのんだときのルイズも危険物と化していたが、今回の危機はあれに勝るとも劣らない。
なにしろ今のアンリエッタは朦朧としているぶん抑えがきかず、スキンシップ過多の傾向がある。
才人は上向かされる。
口づけが、黒髪に。
髪からまぶたの上。下に移動して唇に軽く。
唇から頬。頬から耳。
才人が無表情になっているのは、平静をたもつべく必死につとめているからである。
……裏がえせば、精神力をふりしぼっても本気でヤバい局面が来ていることを悟ったのだった。
アンリエッタの「発作」は、どんどん間隔がみじかくなっている。くわえて威力もはね上がりだしている。解毒薬の効果が薄れていくためだろう。
「おい小僧、毛布を差し入れてや………………失礼」
マーク・レンデルが毛布を手にして小屋にふみこみかけ、即座にくるりと回れ右して出てった。
開いたドアがもとどおり閉まる。
しかしこの一瞬、アンリエッタの注意がわずかにそれた隙をねらって、才人はどうにかあまり乱暴にならず彼女を引き離すことに成功している。
密着状態がちょっとだけゆるんだので、説得にかかる。
「落ちつけ姫さま、深呼吸して正気に戻れー……?」
「…………おちつ…………」
「そうそう、がんばって、踏みとどまってください!」
「……お、し……お慕い……して、おりま、すぅ……」
火照った態。ついに目を回しながら睦言まで口走りはじめた。
いいかげんに限界のようだった。
才人はふところから解毒薬の小ビンを取りだし、アンリエッタにのませるべく栓をぬく。
蒼白になりつつ、足りるかどうか目ではかったそれは、あと三回分もないのだった。本来なら節約するべきではあろうが。
「……朝までもつかな……」とのつぶやきには、彼自身の精神的耐久力のことも含んでいる。
私怨
703 :
ボルボX:2007/12/19(水) 00:56:01 ID:IdV3bW49
投下途中で容量に気づいた。マジすみませんんん(土下座
容量のため〈中〉も途中ですけど、きりよく見えるところで区切りました。
〈中〉の残りは次スレに載せさせていただきます。おやすみなさい。
>>703 ウヌヌ、お前さんのアンリエッタはエロ過ぎなんだやうw
せんたいさんの新作を読んで日本のキャリア官僚が国会議員屋上司
の娘のお見合い写真を見たら断れないという話を思い出した
ボルボさんは相変わらずエロいww
>>703 GJ!やたーエロアンきたーw
こういう状況大好きw
>>707 定期的な淫アン姫様の神作品が投下されるのは本当の意味のセレビッチ
が好きな俺にはタマンネっすww
てすてす
七万相手に戦って一回死んだ才人が記憶喪失になりテファに救われてルイズのことを完全に忘れてテファと結婚して子供が生まれ、それを才人を探しにきたルイズが影から見て身を引く
という電波を受信した
文章にできねえ・・・だれかできる人はいないか・・・orz
>>710 せんたいさんのテファものじゃ駄目かね
あれも一応テファ妊娠&結婚手前まで行ってるぞ
まあルイズが全く身を引いていないが
埋めがてらtst
地文とポップアップでツンデレ仕様なんだが…
| /| /| ./| ,イ ./ l /l ト,.|
|_≦三三≧x'| / :| / ! ./ ,∠二l |. || ■ ■■ ■
|.,≧厂 `>〒寸k j / }/,z≦三≧ |. | リ ■ ■■■■■ ■■ ■■■■ ■ ■ ■ ■
/ヘ { /{ 〉マム / ,≦シ、 }仄 .j. ./ ■ ■ ■ ■ ■ ■
. V八 {l \/ : :}八 / ,イ /: :} ノ :| /| / ■ ■ ■ ■ ■
V \ V: : : : : :リ \ ./ .トイ: :/ ノ/ .}/ ■ ■ ■ ■ ■
' ,  ̄ ̄ ̄ └‐┴' { ∧ ■ ■■■■■ ■ ■
V \ヽ\ヽ\ ヽ \ヽ\ | \. ■ ■ ■ ■ ■
\ , イ▽` ‐- __ 人 \ ■■ ■■ ■ ■■
:∧ ∨ ∨ / ハ
::::∧ ヘ, / , イハ |
::::::∧. ミ≧ 、 ,∠, イ: : : : :.', |
::::::::::} 了`>ァ-‐ ´ } : : : : : : : : ', |
:::::::/ | ∨/\ / : : : : : : : : : } |
:::::/ レ'7 ̄{`ヽ. V/ : : : : : : : : : / .|
::/ / / V∧/: : : : : : : : : : / /
>>712 このAAが何処かしらのスレで犬夜叉って言われてた
>>716 通常のレス表示では無視される半角スペースの連続がポップアップ上では
反映されてしまう。それを利用したもの
■ ■
↑この四角と四角の間に大量に半角スペースを入れてみると・・・
>>717
>>716 つい最近まで俺の使ってるocnプロバイダが全域で書き込み規制されて(今はこの通り解除されてるけど)、
そん時解除要望スレに集まってきたやつが貼ってきたんだ。
作り方は分からんけど、感動したから貼ってみたまでさ。
…と書いてる間に
>>717解説d
余談だけどこんなのもあった。
■ ■ ■
■■■■■ ■■■■ ■
■ ■ ■ ■
■ ■■ ■ ■
■■■ ■■ ■■■■ ■
■ ■
■ ■ ■
>>718
| /| /| ./| ,イ ./ l /l ト,.|
|_≦三三≧x'| / :| / ! ./ ,∠二l |. || ■ ■■ ■
|.,≧厂 `>〒寸k j / }/,z≦三≧ |. | リ ■ ■■■■■ ■■ ■■■■ ■ ■ ■ ■
/ヘ { /{ 〉マム / ,≦シ、 }仄 .j. ./ ■ ■ ■ ■ ■ ■
. V八 {l \/ : :}八 / ,イ /: :} ノ :| /| / ■ ■ ■ ■ ■
V \ V: : : : : :リ \ ./ .トイ: :/ ノ/ .}/ ■ ■ ■ ■ ■
' ,  ̄ ̄ ̄ └‐┴' { ∧ ■ ■■■■■ ■ ■
V \ヽ\ヽ\ ヽ \ヽ\ | \. ■ ■ ■ ■ ■
\ , イ▽` ‐- __ 人 \ ■■ ■■ ■ ■■
:∧ ∨ ∨ / ハ
::::∧ ヘ, / , イハ |
::::::∧. ミ≧ 、 ,∠, イ: : : : :.', |
::::::::::} 了`>ァ-‐ ´ } : : : : : : : : ', |
:::::::/ | ∨/\ / : : : : : : : : : } |
:::::/ レ'7 ̄{`ヽ. V/ : : : : : : : : : / .|
::/ / / V∧/: : : : : : : : : : / /
/! ヾ`ー──┐
/ │ -――――――‐- 、  ̄  ̄O |
/ .|: / `ヽ、 °|
/ |: . . / \ |
/ /: : / \/
,′ /:./ / / ヽ
| ∨ l / / / / /
l |: / / / //'::. / /:!:. .:::. ヘ
l |: . ::/:/_ /-‐'// /::..__/|: / !::::::/::: ヘ
l :|: ̄{/ /∠.// /::../`7メ、 /::: /::: ..:::::::::l
l !::::厶f≦テ千ト< //xz≠< /::::/:::: ..::/.::::/
, ‐<⌒ヽ l:. :| l::W {:ヘ__,ィ/ ´7ヘ _,ハ/:/:::::. _/:::/
/ \ \ i::. ::l :::ハ 弋_:少' r'托/ ' ァー‐<{ /::/
く ヽ ヽ___}!:. ハ .::::::/>ヘ、.:.:::::: `ー' /::::::::...:::| '´
> >―‐- 〉 .ヾ∧::..::::ヽ.::::/ ___ヽ ' .:.:::::::: /:::_::::::::::::l-、
/'⌒く/: : : : : : : { }∧:: :::: f'´ ´ ̄ _} r―-, //  ̄`l:::::Vヘ
/: : : : : : : : : ゝ l_∧:::::::| '´ ヽ_` ー'´ __イ⌒ヽ |::::::Vヘ
/: : : : : : : : : : : : : : :ヽ lヽ∧ :::| / l_ r<⌒l \ ヽ |:::::::∨
. /: : : : : : : : : : : : : : : : :| l | ヽ:l ノ/ / { { .l ` ハ::::::::l
/: : : : : : : : : : : : : : : : : :| l | | r'_// ∧ ! / \:::|\
「………ふう」
「なによ、サイト? 溜息なんかついちゃって」
「ん? いや、そろそろかなって」
「なにがよ?」
「お別れだよ」
「……………え?」
「もう大分世話になったしな。いつまでもここにはいられないよ」
「ま、待ちなさいよ!! 何でそんな急に…」
「限界なんだ」
「え………」
「だから、もう無理なんだよ。もうここには居られない」
「うそ…うそよ…」
「うそなんかじゃないさ。前からこうなることは決まってたんだ」
「何よそれ…なんで? …なんでいきなりそんなこと言うのよっ!!」
「言ったところで、ルイズには何も出来ないだろ?」
「そんなこと……分からないかもしれないじゃない……!」
「…わかるんだよ、これは…もう、仕方無いんだ」
「そんな……」
「さて、もう時間かな。行くぞデルフ」
「やれやれ、相棒もせっかちだねぇ。まだもう少し時間はあるってのに」
「そうは言ったってここに居たって何も出来ないだろ?」
「まあな」
「………………だ」
「え?」
「…やだぁ……」
「ルイズ?」
「いっちゃやだあ! 出てっちゃ、やだぁ! ……ひっく、えぐ…もう、鞭で叩いたりし
ないからぁ!…ひぐっ、犬って言わない、からぁ…一人に…うぐ、えぐ…しないでよぉ…
サイトぉ…」
「ルイズ……」
「もうやなのぉ!! サイトがそばに居ないのはぁっ! だから…だから…どこにも行か
ないでぇっ! そばに…ずっと…いてよぉ…」
「ルイズ……」
「ぐすっ、えぐっ、ひっく……」
「……なにいってんだおまえ? なんで離れる必要があんだよ?」
「……………ふぇ?」
「あのなぁ、俺だけ行ったってしょうがねぇだろ。ルイズも一緒に行くんだよ」
「…え? え? だって、もう限界だって……あたしのことじゃ…」
「アホか、確かにルイズのわがままには我慢ならんが、それで出てくんだったらとっくに
でてくっつの」
「じゃ…出てくって?」
「あぁ、今のスレはもう500KB越えちゃうからな、次スレに行かなきゃ。書き込めないだ
ろ?」
「…………………………」
「早く準備しろよ? 遅くなるぞ?」
「………か」
「え? なに?」
「こんの…ばかあぁあああああああああああ!! まぎらわし言い方するなぁっ!! 不
安になっちゃったじゃないのぉっ!!」
「うわぁぁぁああああああああああああ?!」
「もう、ほんと…ばか…ご主人様泣かせるなんて…」
「悪かったって。…でも、ルイズは俺が居ないとダメなんだな、やっぱ」
「な、なによ急に?!」
「だって『ひとりにしないでよぉ〜』って。可愛かったぞ?」
「―――――――――っ!! あ、あれはっ!」
「あれは?」
「〜〜〜〜〜〜〜っっ! ……もう…ばかっ」
「ははは…ほら、置いてくぞ? ルイズ」
「あ、待ちなさいよ! ご主人様を置いてく気!?」
次スレ 【ゼロの使い魔】ヤマグチノボル総合25
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1197993274/l50
微妙に余ったorz
○________
|:|\\:::::||.:.||::::://|
|:l\\\||.:.|l///|
__ ィ ,. -――- 、 |:|:二二二二二二二 !
/ L / \. |:l///||.:.|l\\\|
/ ̄ ̄ ̄ ̄ 7 / / f / / l l l lハ |:|//:::::||.:.||:::::\\|
ト、 ,.  ̄ ̄Τ 弋tァ― `ー / 从 |メ|_l l_.l斗l |ヽ V |:| ̄ フ  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ヽ \__∠ -――く __ .Z¨¨\ N ヒj V ヒソ l .l ヽ\| / /
ヽ ∠____vvV____ヽ < ≧__/ ゝ、t‐┐ ノ .|┐ ./ /
. \\_____ivvvvvvvv| V. ( ( /Tえハフ{ V / /
\! | / 入_.V/| >-ヘ \:::∨::∧ / ∠ ____
__ |\ l/V _{_____/x| (_|::::__ノ }ィ介ーヘ ./ ,. ---―――
)-ヘ j ̄} /| /___/xx| _Σ___/| | |V::::ノ/ ∠___
{ V /`7. /___./xXハ ( |:::::::::::::::::ハ >' ____二二二
. \_ |/ /___l XX∧ __≧__::::::::/:∧/ `丶、
| ヽ /____|]]∧ __|__L.∠ ム' <`丶 、 `丶、
| ', { |]]]>' __ ∧ l\ \ 丶、 ` 、
ノ } l ̄ ̄ ̄.|] >' ,. '  ̄ / .// :/ V' \ ヽ `丶\/
/ ∧ { \ | .|>' / // :/ :/ : ', l \ ヽ ,.-――┬
入ノ. ヽ く ヽ______7 ー―∠__ 〃 l :/ :l l \V
`ー′ \ `< | { / | /〃 :|/ __V/ ̄| ̄ ̄{_