「え……ええーっ、お酒!?」
「そうよ、いわゆる酒風呂ってヤツね。一度やってみたかったのよ」
「いけませんっ! 私達は未成年なのよ!? お酒だなんて言語道断でしょう!」
模範御子クローシェの正当な反論にも、ジャクリはただ
貴女達はそうでしょうけどね、と軽く流して意見を述べる。
「別に呑もうって言ってるんじゃないわ。浸かるだけよ。とっても温まるらしいし、
デュアリスノ結晶との相乗効果が期待出来るかも知れないじゃない」
あくまで強気の姿勢を崩さないジャクリにクローシェは尚も何か抗議したが、
結局代案もないし、面白そうだから入れてみることになった。
ジャクリが勢い良く栓を抜き、瓶を豪快にひっくり返して中身を空けた。
白濁の美酒が湯船に溶け、浴槽全体に拡がっていく。
「はあ……。なかなかいい感じね」
湯面を手の平ですくいながら、ほっとしたようにクローシェが呟く。
ルカも浮かぶあひるを突っつきながら、笑顔で応える。
「そうですね、すっごく温まる感じ……。でもお酒臭くならないか心配ですけど」
「……香りで酔ってしまう何て事はないわよね?」
「あはは。いくらなんでもそれは無いと思いますよ。
ねぇ、ジャクリ……」
……横を向くと、隣にいた筈のジャクリの姿がない。
いや、いなくなった訳ではなく、
沈んでいた。
浮いていた、のではなく、完全に湯船に没していた。
「きゃ―――っ! ジャクリ溺れてるっ!!」
「か、香りで酔ったんじゃなくて!?」
「い、いやそれはないと思います……。とにかく引き上げなきゃ!」
浴底で長い黒髪がうねる軽くホラーな物体を、二人は必死に抱き起こそうとする。
顔半分を湯船に沈めて、何とかジャクリの体を支えようとするが、
「うう〜げぼっ! 何よぉ、ヒック、わたひの酒が呑めないってのぉ!? がはっ」
当人は、溺れた際に湯を相当飲んでしまったらしく、早くも出来上がっていた。
「きゃーっ、ごぼっ、暴れないでジャク……がぼっ!」
「クローシェ様あぶな……! きゃあっ、がぼぼっ!」
暴れるジャクリにバランスを崩され、遭えなく二人は酒風呂にひっくり返る。
その拍子に思いっきり、酒湯を飲み込んだ。
ある意味、お約束といえる。
「あの三人のお風呂っていっつも長いよね〜」
ロビーのソファーで軽く伸びをしながらの、ココナの何気ない一言。
傍で一緒に寛いでいたアマリエも相槌を打つ。
「そうねー。きっと色々時間かかるんでしょう、女の子だしー。
あークロア、今ヘンな事想像してたでしょー? や〜んやらし〜い」
「く、クロはぷーな事考えたりしないよっ! で、でも、もしそうだとしても
男の子なんだからココナは何とも思わないからね!」
話の矛先が嫌な感じでこちらに向けられたのを感じ、
「……もう部屋に戻るよ。おやすみ」
クロアは眼鏡を抑えながらソファーから立ち上がると、素早くその場を去った。
「ふううぅ……」
あれから暫く経って、ルカは今、やっと自分の宿部屋へ向かっているところである。
かなり遅い時間になってしまったので、薄く明かりが灯るだけの暗い通路に、人影はない。
宿泊客は皆、とうに寝静まっているのだろう。ルカの足音だけが細く響く。
「疲れたぁ……。何か、クラクラするし……」
結局、助けを呼んでもジャクリの泥酔振りを説明しにくいし、第一恥ずかしいので
何とか二人だけでジャクリを運び、彼女の部屋へ寝かせたのだった。
クローシェも先程、おぼつかない足取りで静かに部屋の中へ消えた。
そうしてルカも、浅く蛇行しながら部屋のドアへ到着した。ノブを回す。
「……着いたぁー。もう寝るぅ……」
入るや否や、薄暗い部屋の中、勘だけを頼りにベッドへ文字通り倒れこんだ。
気持ちよくマットに埋まる、筈だった。
だが、
「うわっ!?」
別の堅い何かを下敷きにした。と同時に、誰かの声がした。
そこにいたのは、
「る……ルカ!?」
「あ〜、あれぇ……? クロア……?」
クロアが先客で、ベッドを使っていた。
――いや、正しくは、ルカが自分の部屋を間違えただけなのだが。
ルカは少し首を傾げたが、諸々の理由で判断力が低下している彼女は
大して気にも留めずに、
「えへへ、まあいいかぁ……。おやすみなさい……」
仰向けに寝ていたクロアを下敷きにしたまま、彼の上でうつ伏せに寝た。
こてん、と顔をクロアの胸へ埋めた拍子に、彼女の藍色の髪が扇上に広がり、
彼の顔をくすぐる。そして自然と絡み合う、お互いの素足。
そのまま寝入られたら精神衛生上、大変困るのでクロアは慌てた。
「い、いや待て! 頼むからルカ、起きてくれ」
上体を起こして、少し強めの声でルカの起床を促す。
彼女は虚ろな眼でクロアを見返した。その頬は紅潮し、瞳は焦点が合っていない。
「何よぉ……。ここは私の部屋なのに寝ちゃいけないのーっ?」
「い、いやだから、ここはルカの部屋じゃなくてだな……。……ん?」
至近距離のルカからほんのりと、アルコールの微香が漂ってくる。
彼女の雰囲気も平素とは違う。何しろバスローブ一枚でクロアの前に姿を見せるなんて事、
今まで無かったからだ。残念な話だが。
「る、ルカ……何だか少し酒くさいぞ? まさか、呑んだなんて事は……」
「やだなーっ。呑んでなんかいないよぅ……。お風呂に入れただけだよっ?」
それで何故ほろ酔いになっているんだと問いたいが、今は原因を
突き止めている場合ではない。
素面ではないのは目にも明らか。早急に自室へ帰して寝かせるべきだ。
「さあルカ、部屋に戻ろう。俺も一緒に行くから、な」
ルカの体を揺すって宥める様に言葉を掛けるが、酔っている彼女には通じない。
逆に不服とばかりに言い返しを食らう。
「……クロアはぁ〜、私と、寝たくないんだねっ? ……ひどいよぅ」
「……どうしてそうなるんだよ」
「私って……そんなに魅力ない……?」
ルカは、只でさえ至近距離にある顔を、更に近付けてきた。
艶っぽく潤んだ双眸が、薄い灯りに照らされて見える。
「だぁって……クロアったら、毎日の様にお話してるのに……。
……なんにもしないんだもん」
少し、拗ねた様な言葉選び。だがその声はまるでクロアを誘う様に甘く響く。
「な、何にもって……」
「クロアにとって、私……そういう対象じゃないのかなーって。
自信、なくなっちゃうよぅ……」
「………」
少しの、間があって。
「……ルカは」
静寂を破って、ぽつりと、クロアが口を開いた。
「本当に……判ってくれていないんだな。
俺にも、内面と外面の違いくらいあるって事を」
何処かの誰かにも言った台詞を、もう一度、独り言の様に呟く。
その声は静かだったが、言葉には妙な力があった。
「……え?」
ルカがその言葉の真意を理解する前に、彼は動いた。
クロアは上体を斜めに起こすと、自分の上に乗っているルカをシーツへ滑り落とした。
そして仰向けに転がるルカの上に、両腕を支えにして覆い被さる。
ルカの顔の、ほんの数センチ上に、見下ろすクロアの顔。
「……クロア?」
彼女はほんの少し、瞳をまるくした。
「……見せようか?」
上から、言葉が降る。それは、禁断の提案。
薄暗がりに、悪戯を思いついた子供の様なクロアの表情が見える。
「俺が、ルカをどう思っているのかを、態度で」
「えっ……と。う、――うん……」
少し戸惑いながらも、恥ずかしげに頷いてから、彼女は照れた様に付け足した。
「でもっ、ええとやっぱり――」
「もう遅い」
――ベッド横にあるテーブルに置かれた、小さな灯りに照らされて。
壁に伸びる二つの影は、ゆっくりと、重なった。
最初は、触れて。次第に深く重ね、中でお互いが出会い、交じり合う。
「――ん……ふっ……はぁ、っん……――」
唇と唇の僅かな隙間から、漏れる吐息と、恍惚の微声。
クロアはルカの艶やかな感触を感じながら、尚も執拗に重ね、求め続けた。
舌先で中を蹂躙し、滑らかな唾液を貪る。それは彼にとって至福の味。
ようやく解放した頃には、ルカの瞳は潤み、すっかり息を乱していた。
口付けだけで憔悴した少女の耳元で、愛おしそうにクロアは囁く。
「……これだけで降参されると困るんだが」
「……だ、だってっ、クロア……。長い、よぅ……」
言葉の継ぎ間に息継ぎをしながら、ルカは頬を真っ赤にして、やっとそれだけを返す。
その紅潮の原因はもはや、ほろ酔いの所為なのか、酸素不足だからなのか、
はたまた羞恥心からなのかは判別できない。
「我慢してきたからな。控えめだぞ、これでも」
「……!! く、クロアって、そういう性格だっけ……?」
「ルカにだけだ」
「も、もぅーっ! クロアのすけべっ、えっち!」
ぷいっと顔を背ける素振りの後、少し俯いてから、そっと呟く。
「でも……びっくりしたけど、嬉しいよ。クロア……」
それは初めて触れて貰えて、安堵したルカの心からの一言。
こんなにも嬉しそうで、眩しい彼女の笑顔を見るのは、クロアにとって
初めてかも知れなかった。
隣で横になっているクロアの厚い胸に、ルカがそっと寄り添うと、
彼も、彼女の肩を抱いて、その華奢な体を包み込む。
誰にも邪魔されない、穏やかで幸せな二人だけの時間。
そして、頃合いを見計らって―――期待を込めて、クロアは囁いた。
「ルカ……」
しかし、胸の中にいる少女からの返事は無い。
「……ルカ?」
少し身を引いてクロアが様子を覗き込むと、
――彼女は深い寝息を立てて、既に眠りに落ちていた。
「え……」
邪気のないルカの寝顔を見つけて、クロアは軽く脱力した。
無理もない。
これでも一応彼は男盛り、長すぎたぬるま湯の関係を脱却すべく、
『先の展開』を画策していたとしても、それは決してやましい事ではない。
「……やれやれ」
どこか恨めしげに溜め息をつきながら、クロアは穏やかに眠るルカを見つめる。
そういえば、こんなに近くでまじまじと彼女の寝顔を見るのは初めてかも知れない、
とクロアは今更のように思い当たった。
かの魔大陸でのインフェルスフィアダイブの時、ちらりと寝顔を盗み見たのがせいぜいだ。
――しかし、あれは正確にはルカ本人ではなかった、というのは、詭弁だろうか。
そして第一、そんな雑念を擡げている状況ではなかった。
当時は、ただ、必死だった―――。
クロアは、そんな事を取りとめなく考えながら
首に掛かる彼女のさほど長くない髪を、優しく梳く。
その拍子に、髪がひと筋はらりと落ちて、白い首筋が露わになった。
「………」
クロアは後ろにやや身を引いてから、少しの間、それを見た。
こくり、と喉が鳴る。
やがて髪を梳いていた手を、少し躊躇いがちに――彼女の首筋に滑らせた。
やや、ルカの肩が震えた気がしたが、目を覚ます様子は無い。
今度は殆ど、何も考えずに眠るルカの左耳を食んだ。口先で優しく甘噛みし、首元へ
唇を這わせながら移動する。知らずと舌先でルカの首筋を撫ぜると、
ひくり、と小さく肩がはねた。
そのまま艶やかな肌の柔らかさを感じながら、鎖骨までのラインを舐めとる。
「――ん、……っ……」
薄く開かれたルカの唇から、かすかな呟きが漏れる。
だが、軽く酒の入っている彼女はやはり気がつく様子はない。
「………」
クロアの脳裏に、先程のルカの言葉が妖しく響く。
―――だぁって……クロアったら、毎日の様にお話してるのに……。
……なんにもしないんだもん。
それならば、と彼は思う。
――ルカだって望んでいるのだから、もう少し触れてもいいのではないか、と。
(……だいたい、意中の女にバスローブ一着で目の前で寝られて、
我慢できる男がこの世界にいるわけないだろう?
ルカにだって、非はある―――)
そんなご都合な考えをめぐらせながら、クロアは、意を決した様に手を伸ばした。
バスローブごしに、ささやかにふくらみが分かる部位――ルカの胸に触れた。
「んっ……」
ルカの吐息が、少し漏れた。
クロアは尚も、その存在を確かめるようにふくらみに沿って撫でてみる。
今度は少し、強めに。
「っ……ん、ぁっ……――」
まどろみの中にあっても、明らかにルカは反応しているようだ。
クロアの動きに呼応して、かすかに息を乱し、指先を振るわせる。
女性の身体はこんなにも敏感なものなのか、それともルカが過敏なのか――。
どちらにしても、クロアには喜ばしい事だった。
興奮で首後ろがぞくぞくと震える。高揚する気持ちにあらがわず、
クロアはバスローブの上からルカの胸を口に挟んた。
「は、っう……!」
意外と薄いローブの生地越しに、薄いふくらみの先端を甘咬むと
ルカは身体を引きつらせた。
クロアはルカの目が覚める事も厭わないかのように、ただ一心に彼女の胸を
口先で食み、舐め撫ぜる。その度にルカは少し身をよじり、頭を弱く振る。
「ぁん、……はぅ、んっ……」
絶えず小さく漏れる、ルカの甘い微声。喘ぐ気配。
程なく、しっとりと濡れたローブがぺたりと肌に貼りつき、
ルカのあまり豊かではないふくらみの形が、クロアの目に曝された。
部屋は薄暗く、眼鏡を掛けていないのにも関わらず、クロアにはその輪郭が
眩しく映る。下には何もまとっていないのは目にも明らかだ。
またそれを優しく口に食みながら――次は左手を、ローブの下から滑り入れた。
ルカの膝下から、腿内側、そして更に上へと指の腹で撫で上げてゆく。
「やぁっ……ん」
クロアの手がルカの秘所へ辿り着くのと、彼女がひくつき、嬌声をあげたのは同時だった。
そこは甘美な温みと、程よい湿り気。
薄い下着の生地越しに、股奥から手前へ、そこの柔らかさを確かめるように
指を這わせる。真ん中の秘所の窪みで、布越しに指を押し入れるとルカの脚がびくっと動いた。
そしてきゅうっ、と秘所がつぼまれ、クロアの指が軽く締め付けられる。
「はぅ、……んぁ、あっ……あぅ、――ひぁんっ」
クロアの戯れに応じて、ルカは過敏に反応し、息を乱す。
ちなみに最後の声はクロアが、きり、と爪を立てたから。
ルカのそこは、クロアによって弄られて、もう既にやや濡れ始めているようだった。
もはや彼は、荒ぶる欲望を停める術を見失っていた。
――もういっそ。
いっその事、ルカを貫いてしまいたい―――
着衣一枚隔てた先の、生まれたままの彼女を愛しみたい。
それのどこが、咎められるだろうか。
己の欲情に支配されるまま、クロアの思考は堕ち掛けていた。
その時、だった。
「クロ、ア……」
ふいに、名を呼ばれた。クロアは、やや焦りつつさっと動きを止める。
起きたかな、と上体を起こしてルカの様子を伺うが、穏やかな寝息はそのまま。
それなら続きに勤しもう、とクロアが下劣な事を考えた時
また、ルカの唇から、小さな呟きが漏れた。
「……クロア。だい、すき……」
――それは、ただの寝言だった。
たわいもない、ただのうわ言だった。
それは例えるなら
乾いた砂地に降り落つる、ひと雫の潤い。
不協和音の中で儚く響く、澄んだ鈴音。
たわいなく、微かで、つたない存在―――。
ただ、ルカのその一言は、クロアの荒んだ我欲を諫めるには充分だった。
思わず、息を詰まらせた。
引き切った堕欲の後に残されたものは、虚無と、後悔。
「―――……っ」
クロアは左手で前髪をぐしゃり、とわしった。
ルカの笑顔を、心を裏切りかけた己の浅ましさと憤りで、
吐きそうになった。
―――最低だ。
右手でベッドシーツを、爪が食い込むほど握り締める。
無垢な表情で眠る無防備なルカを見下ろしながら、
「……最低だ」
もう一度声に出して、呻く様に呟いた。
薄闇の中、灯りに照らされて壁に映る、ひとつの影。
先程までの動きを止めていたその影が、やがて立ち上がった。
――そこは誰もいない、静かな暗い宿部屋。
そのドアを、誰かが少し開いた。だが一旦、足音は通路の向こうへ遠ざかる。
程なくして、眠る少女を抱きかかえた青年が、ゆっくりと戻ってきた。
そうっと、大切に慎重に――途中、寝ぼけた少女に抱き付かれて、
腕をほどくのに苦慮したりもしたが――ベッドへ少女を寝かせて
肩の上までしっかりとシーツを掛ける。
長い睫毛を下ろして、すややかに眠る少女の寝顔を、暫くの間ベッドの傍らで、
青年はどこか申し訳なさそうな表情で見つめていた。
やがて、腰を上げた。少女に顔を近づける。
そして、その額に、そっと口付けた。
「おやすみ、……ルカ」
小さく呟くと、青年は名残惜しそうにその部屋を後にした。
夜が更け、空が白み、東の雲海から世界の色が戻る頃。
朝の射光が差し込む階段を降り、一階のロビーへ向かう少女が居た。
そこで先に長ソファーに腰掛けていた先客を見つけて、声をあげた。
「クロア……!」
「る、……ルカ」
呼ばれてからルカの存在に気付き、クロアは思わず立ち上がった。
だが当の本人は、呼んだ積もりはなかったらしく、逆にクロアに面されて
困っている様子だった。慌てて挨拶を重ねる。
「あ、えっと。お、おはよっ、クロア」
「あ、ああ。お早う、ルカ」
両者とも、何故かぎこちない。
ルカは時折、ちらり、とクロアの顔を上目で盗み見ては頬を赤くし、
クロアといえばルカとは全く視線を合わせようとしない。
そのまま、お互い会話もせずに暫し立ち尽くした。
居たたまれなさに耐えかねて、ルカが口火を切った。
「あ、あの、クロアごめんなさいっ!」
ぺこり、と頭を下げられる。
「え、―――いや」
いきなり謝罪されてクロアはやや面食らったようだが、
自分もルカの言葉の勢いに続いた。
「いや、ルカは悪くない。悪いのは――」
クロアは言い募ろうとしたのが、
「ゆ、昨夜はねっ、ちょっと自分の部屋に戻るのが遅くなっちゃって……。
ついでに、すぐに寝ちゃったから……」
ルカのこの弁明に、クロアは言葉を止めてほんの少し、眉根をひそめた。
そんなクロアの様子に気付かずに俯いたまま、ルカは更に言葉を継ぐ。
「だ、だからねっ。クロアがお話をしようと部屋に来てくれてても
私、気付かなかったかも知れないから……。
だから、ごめんなさいっ!」
そこまで勢い良く言ってから、顔を上げると、おずおずと確認するように訊いてきた。
「……クロアは、昨日の夜、私の部屋に来た……?」
「………」
クロアは、少しの間何かを考えている様だったが、やがてこう返した。
「――いや。昨夜は俺もすぐに休んだ。
だから、ルカが心配するような事はない」
「そ、そっか。よかった……」
ルカは、本当に安堵したようだ。
ほっと肩をなで下ろすその様子を、クロアはじっと見ていた。
やっと、ルカは気晴れた表情を見せた。手を後ろで組んで下からクロアを覗き込む。
「なーんだ、クロアは昨日早かったんだ。ちょっと心配しちゃって損したかも。
……でもその割にはクロア、目が赤いよ?」
「あ、いや少し寝不足で……」
「ふーん。……昨夜早かったのに?」
もっともな指摘に、クロアは内心ぎくりとしたが、ルカはそんな彼の挙動には
気付かずに自分の言葉を続けた。
「あー! 分かった。夢見が悪かったんでしょ?
実はね、クロアの顔見たら思い出したんだけど、
私も昨夜はすっごい夢見ちゃって……―――っ」
そこまで言って、ルカは、ばっと自分の口を塞いだ。
見る間に顔が真っ赤になっていく彼女に向かって、クロアは追従する。
「……。へぇ……。
夢って、どんな? 俺も出てたのか?」
やぶへびだったとばかりにルカは両手を顔の前に出してぶんぶん振った。
「なんでもないよっ! い、今のは忘れてっ!」
「そう言われても。……ルカが自分の見た夢の話するなんて珍しいからな。
ちょっとどんな感じか、興味があるというか」
「え、そうだったっけ? でも何ていうのか……ちょっとアレは、
欲求不満だったのかなぁって感じなだけで……」
言いながら、しっかり誘導されている事に気付いたルカは、
あわててそっぽを向く。拍子に髪の切れ間に見えた耳も、赤かった。
むぅ、と軽くむくれてルカが言い放つ。
「もーう! ノーコメントっ!」
「分かった分かった」
クロアは中指で眼鏡を押さえ直して、苦笑した。
「じゃあ、最後にひとつだけ」
「内容によっては黙秘しますっ」
ルカの念押しにクロアはそれでもいいから、と返してから、訊ねた。
「ルカにとって、それはいい夢だったか?」
少し、妙な質問だった。
ルカもそう感じたのだろう。きょとん、とした表情でクロアを見返した。
だが、やがて視線を下に落とすと、小さくまるめた右手で口元を隠しながら
こくん、と頷いて黙示した。
「えへへ。……ちょっと、夢だったのが勿体なかったなぁって
思っちゃうくらい……」
頬を染めたままで、ルカはぽつりと呟いた。
「そうか」
クロアは、目を細めた。
そして、彼はもう何も言わなかった。
それでもルカは落ち着かないようで、あちこちに視線を走らせた後
そうだっ、と何かを思い出したように声を上げた。
「わ、私、ジャクリとクローシェ様起こしてくるねっ。
そろそろ朝食だし!」
「ああ、そうだな。頼む」
「うんっ、じゃあまた後でね」
ひらり、と華やかな衣装を翻して、先程降りてきた階段を駆け上がってく
ルカの背中を、クロアは見えなくなるまで見送る。
そうしてから、長い溜め息をついて―――自嘲した。
やがて、誰にいうともなく、心の中で堅く呟く。
―――続きは、今度こそ、君の意思と共に。
……その後、なかなか朝食に起きてこないジャクリに対して旅の仲間が
心配するのだが、クローシェの
「何だか調子が悪いみたいなのよ。ですから今日は皆、一日待機にしましょう。
私とルカでジャクリは看ますから、他の方々は面会謝絶です!」
という強い通達により、詳細はうやむやにされた。
クロアが、苦心してあの夜に起こった「珍事」をクローシェから聞き出し、
その偶然と幸運を一人ひっそりと感謝するのは、数日経ってからの事である。
―――おわり
妙なものでスイマセン
ありがち定番(?)の酒乱ネタをやってみた
本当はパンツの上から甘噛みさせたか(ry
見てくださってありがとうございました
リアルタイム遭遇ktkr
ありがとうぐっじょぶ!本当はのあたりも是非次の機会にでもw
ルカは可愛いしクロアはへたれかこいいし萌えさせていただきました
定番といえば、とろむらネタを見ないなそういえば
GJ
いいもの読ませてもらった
今読んだ
ドロデレは俺の弟の妻の義兄の嫁
GJ!GJ!!
瑠珈かわいいよ瑠珈
しかし外道と言われようとも限界まで貫いてほしかった
クロアは私を大切に想ってくれている。それはもう、私、ルカ・トゥルーリ
ーワースにとっては絶対不変の定義。
クロアは私を傷つけることはあっても裏切らない。クロアは私に隠し事はし
ても嘘はつかない。同じように、私はクロアを裏切らないし、嘘がつけない。
ううん、つく必要がない。
それは私の中で絶対に揺らがない確信だった。
理由をあげるなら、コスモスフィアというレーヴァテイルにしかない精神世
界の中の一番奥までクロアを潜らせることができた自分への自信であり、潜っ
てきてくれたクロアを信じてるから、だ。
今までだって、レーヴァテイルで良かったなと思ったことはたくさんある。
詩魔法が謳えるようになった時、ダイバーズセラピストとして働けるようにな
った時、それなりにお金が稼げるようになった時、I.P.D.の子を助けることが
できた時、塔の出現に成功した時、メタファリカを紡ぎ出せた時。
でも、クロアが私のコスモスフィアを完了してくれた時、私を少し照れた様
な優しい笑顔で見てるクロアと並んで座ってた時ほど、幸せな満ち足りた気持
ちで「よかったー」って思ったことはなかった。
一緒にあの旅をくぐり抜けた仲間もほとんどが離れて過ごすようになってし
まったし、まだまだ毎日は慌ただしいし、おかげでクロアとゆっくり二人きり
の時間もあまりとれなくなってしまってるけど、でも私はクロアが私と妹の傍
にいて護ってくれてるだけで十分だった。
ちょっと疲れたなって時、辛いなぁって時、ふと顔を上げればクロアが私を
見てる。大丈夫か、って瞳が言ってる。それに頷き返すだけで、とりあえずそ
の場をくぐり抜けるくらいの元気は沸いてくるから、不思議だ。
そんなわけで、私は幸せすぎて怖いくらいに幸せだった。
ううん、今もそんな幸せな状況のはずだ。
彼氏の家に置いてある自分用の荷物入れの前で、バスタオル一枚の姿で悩ん
でいるなんて、多分他の人に話したらただのノロケ以外の何ものでもないだろ
うと思う。
そう、今日は久しぶりのお泊まりでのデートの日だった。夕方からレイカち
ゃんへの贈り物の買い物に付き合ってもらって、クロアお手製の晩ご飯をごち
そうになって、のんびりと過ごしていた時、ふと私は棚においてあったボード
ゲームに目をとめた。
特にすることもなかったし、軽い気持ちでクロアに勝負をもちかけた。セラ
ピのお仕事でやったことのあるゲームだったし、そこそこ自信もあった通り私
は5連勝を達成した。そこで、クロアにもう一つ提案をしたのだ。
――これに勝った方が、ひとつだけ負けた方の言うことをきくってどう?
だけど、結果は僅差で私の負けだった。クロアがその前まで手を抜いていた
のか、単に火事場の馬鹿力を発揮したのかは私にはわからない。
ちょっとだけクロアのスケベっと思った事は確かだけど。
ずるいとさんざんごねたけれど、涼しい顔ではいはいと受け流すクロアに観
念して、なんでもどーぞと姿勢を正した。
すると、クロアはどこまでも穏やかに、
「一緒にお風呂に入ろうか」
と、私への『命令』の中身を告げたのだ。
もちろん私はものすごく驚いたし、照れたり拗ねたりして思いきり抵抗した。
なんていうか、そりゃ今夜だっていわゆる恋人同士にはおきまりの展開があ
るんだろうなと思ってたし、期待してなかったと言ったら嘘です素直に認める。
だってこのデートだって何十日かぶりなんだし、一応健康な若い恋人同士と
しては普通の心理状態だよね。
でも、お風呂ってなんていうかこう、妙に気恥ずかしいのは私だけかな。い
っそそのまま押し倒されるか抱きすくめられる方が恥ずかしくない。命令の中
身だって、私からキスしろとかそのあたりなら、ちょっと恥ずかしいけどきっ
ともっと楽に出来た。
なのにどうして、よりにもよってお風呂なんだろう?
お風呂上がりの姿なんてそろそろ見慣れて来てるし、もっと言えばその、そ
れ以上の姿だってそれなりに見慣れてる。
でも、お湯に浸かってる間とかどうすればいいんだろう。もちろん身体も洗
うんだし、その間はバスタオル巻いてるわけにいかないし、ってクロアもどう
するんだろうとか色々ぐるぐる考え込んだ私をよそにさっさとクロアは準備に
行って、「お風呂入ったからルカから先に入っておいで、俺は夕飯の後かたづ
けをしてから行くから」とやっぱり余裕の顔で台所に行ってしまったのだ。
そんなわけで、入浴剤をずらっと並べて私は真剣に考え込んでいた。別にイ
ンストールするわけじゃないから、効果を考える必要なんてない。ただ目前に
迫ってる恥ずかしい事態からちょっと目をそらせたかっただけで。
いっそシャーベリーを大量に入れてクロアを閉じこめて逃げようか。ううん
私に先に入れって言ってるんだから無理か。というより、その後の事を考える
と恐ろしい。手加減してもらえなくなったりしたら、私は明日大鐘堂に帰れな
くなってしまう。クロアの未来を守る為にも。
無難にいくならこっちだけどな、と石鹸の香りがする瓶を手に取ろうとした
とき、ふとピンクの瓶に指があたって転げ落ちそうになった。とっさに受け止
めたその瓶を手の中で転がして、ふと悪戯を思いつく。
そうだ、私ならある程度これに耐性がついてるし、あとでお湯で薄めちゃえ
ばいいんだし。そう考えて、私はその入浴剤を持ってお風呂場に入った。あれ
だけうろたえさせられたんだから、クロアだってちょっと慌てたらいいんだ。
それくらいの軽い気持ちで。
軽く身体と髪を洗い終わって湯船に浸かった頃、扉の向こうに人の気配がし
た。
「ルカ? 入ってもいいか」
律儀に尋ねてくる声に、私はとっさに身体に巻いてるバスタオルの具合を確
認してから、瓶の蓋をあけた。
とろっとしたその液体をお湯に混ぜて、私は口を開く。
「い、いいよっ」
どもってしまったのはしかたがないのよ恥ずかしいものは恥ずかしいんだか
ら! と一人で言い訳をして、入り口の方にくるりと背を向けた。だってクロ
アが入ってくるのをじっと見てるなんて出来そうにない。
扉が開いて、閉まるまでになんだかちょっと間があった。動けなくて、クロ
アに背中を向けたままじっと固まる。
うう、アヒルくらい持ってきたらよかった。手持ちぶさたで間が持たないよ
ぅ……!
どうしてかクロアも無言で、かけ湯をしたり身体を洗ったりしている音が響
くだけ。しばらくためらったけど、私は沈黙に耐えきれず立ち上がってお湯か
ら出た。
ちらりとクロアの様子を確認してみたけど、クロアもこちらに背を向けて身
体を洗っている。一応タオルで隠してくれてるみたいだし、うん大丈夫。
スポンジに石鹸をこすりつけて泡立たせてから、クロアの背中の後ろに膝立
ちになった。この位置ならそんなに恥ずかしくない。
「せ、背中流してあげるね」
やっぱりどもってしまった自分がちょっと情けなかったけど、クロアは肩越
しに振り向いてちょっとだけ笑ってくれた。
「ありがとう」
「どういたしましてっ」
笑い返して、クロアの広い、あっちこっちに大小の傷跡が残る背中をスポン
ジで擦る。傷跡のところだけちょっと弱くスポンジを滑らせていたら、クロア
が笑い声をあげた。
「ルカ、くすぐったい」
「え、そう?」
「うん。跡なんだから別に痛いわけじゃなし、普通にしてくれていい」
「う。確かにそうなんだけど……」
言われた通り、一緒くたに擦ってから、私は汲んでおいたお湯を背中にかけ
た。泡が流れて消えていく。
ちょっと気が紛れたのと、作業を完遂した達成感で満足した私は、自分の手
についた泡を流してから立ち上がった。
「よし、終わりっと。私、先に上がって――」
「じゃあ次はルカの番だな」
悲鳴を上げる間もなく、気が付いたら私は背中からクロアに抱きかかえられ
ていた。その両手にはいつの間に用意したのか、たっぷりの泡。
「え、な」
「俺ばっかり洗ってもらったんじゃ不公平だろ?」
体勢が変わった時にはだけてしまったらしいバスタオルの隙間から、泡だら
けのクロアの手が滑り込む。
「っひゃあ! ち、違う違う不公平なんかじゃないからっ」
「だいたい、この匂い」
言ったクロアが、やっぱり泡まみれの親指で浴槽を示した。半ばパニックに
なりかけた私の耳元に、低い声音が触れる。
「――アレだろ、ルカが作った入浴剤。あんなの入れておいて、ダメだなんて
言わないよな?」
背中が震える。息が上がる。クロアの両手はふわふわの泡をクッションにし
て私の肌の上を滑っていく。
だめだ、流されちゃう。だってクロアは私の弱いところなんて知り尽くして
る。どうしたら私が気持ちいいか、私が反応するか、きっと私よりよく知って
る。
必死に足をばたつかせて、もがきながら私は口を動かした。
「言う! 言うもん! お風呂一緒に入るだけじゃ」
「『だけ』なんて話はした覚えがないな」
私の抗議をさらっと受け流して、クロアの手は私のどちらかといえば小さな
胸に触れる。とっくにバスタオルはほとんど外れかけていて、私はあわてて前
をかき合わせた。
「す、ストップ! わ、私、もう洗ったからだいじょうぶだよ!」
「――そうか」
クロアの返事と一緒に、もうちょっとで私の一番弱い脇腹あたりに触れよう
としていた手が止まった。思わずほっと息をつく私からバスタオルが剥がされ、
クロアごと丁寧にお湯がかけられる。
泡が全部流れ落ちると、そのままひょいと抱え上げられて、暴れる隙も与え
られないままにお湯の中に戻された。もちろん体勢はほとんど変わらないまま。
……どこからがまずかったんだろう。この入浴剤にしたとこかな、それとも
クロアの勢いに負けたところかな。それとも賭けなんて持ち出したあたりかな。
――やっぱり全部か。
私がそんな後悔にくれていることなんてしらんふりで、クロアはせっせと私
で遊んでいる。間違いなくこれは楽しんでる。
入浴剤のせいでとろっとしているお湯は、私の肌を撫ぜるクロアのてのひら
や指を滑らせる。その感触が楽しいのか、抱きかかえたままの私をクロアは撫
で続けた。いつもよりとっても熱心に。
インストールポイントを示すタトゥーの様な模様を辿った指が、つるりと逃
げるように離れて、また戻ってくる。
耳たぶが柔らかく食べられるように噛まれた。うなじから肩へ舌先が滑り降
りる。
「ね、っちょ……、のぼせちゃうよぅ……んっ」
「その前にやめるよ」
「やっ、耳噛みながらしゃべらな、くぅんっ」
するりとクロアの手が足を割って入ってくる。や、ちょっと、ぬるぬるして
るから力を入れて閉じようとしてもうまくいかないよぅ……!
クロアの笑ったような吐息が耳に掛かる。それだけで背中が震える。身もだ
えしてもやっぱり滑って、クロアの膝の上からずり落ちそうになるのをクロア
の腕が支える。
本当の意味で溺れる方が早い可能性に、まだかろうじて残ってる理性の部分
で気づいた時、クロアは私の両脇の下に手を差し入れた。
「きゃ……ん! やぁっ、ダメだってそこはクロア!」
身じろぐ私を抱え上げるようにして、クロアは私をくるりと反転させる。そ
れも、クロアの太腿の上に私を馬乗りにさせるような形で。
脇腹から手が引いてほっとしたのもつかの間、自分がどこに乗っているかを
知って私の思考は一気に沸騰した。
「っちょ、やだぁ! いや、クロアっ」
暴れようとして、でもそうするとその、クロアに――擦りつけるような形に
なっちゃって動けない。顔が赤くなりすぎてるのがわかって、クロアをにらみ
つけることもできなかった。
クロアの指が私の頤にかかる。
「こんな悪戯したルカが悪いんだろ?」
「い、今悪戯してるのはクロア――んっ」
お風呂の中でする初めてのキスは、いつもの通り優しかった。柔らかく触れ
た唇に包まれるようにふさがれて、やがて入り込んできた舌先が私の中を探る。
恥ずかしさに腰を浮かすようにしてクロアの首にかじりついて、舌先を絡め
る。くぐもった呼吸が、身じろぐたびに聞こえるお湯の音が、私とクロアの間
で立つ水音が、妙に反響するお風呂場の中で響く。
「……どうした、ルカ?」
耳を塞ぐ訳にもいかなくてただ頭を振る私に、クロアが囁いた。
「いやなのか?」
「ち、ちが……そうじゃなく、てっ! お、……音とか……っが」
「音?」
「い、息とか……もっ、ひ、響いて……っ」
上がる呼吸を挟みながらの私の主張に、クロアは微笑した。
「ルカ。慣れてくれ」
「なっ――そ、や、っちょ、クロ……ん、クロ、アっ」
切れ間に呼んだ名前も吸い上げられる。私がしっかりしがみついてるからか、
クロアの手はさっきよりも大胆に動いてる。
するりと背中から足までを撫で下ろされて、思わず背中を反らせた。と、私
の膝のあたり当たった感触に私は反撃を思いついた。
右手だけをほどいて、そっとそれに触れる。クロアが身体を強張らせたのが、
しがみついたままの私にもダイレクトに伝わってきた。
いいもん、クロアが私で好き勝手にするなら、私にだってできるもん。
そんな言い訳を呟いたはずだけど、クロアに伝わったかどうかわからない。
ムキになったようにクロアも私の胸をなぶる指先に力を込めたし、キスだって
ますます深くなる。
「んっく、……あ、んう、――あっ、やぁっ」
お湯にのぼせたのか行為にのぼせたのか、それとも入浴剤のせいか、暴走し
た思考のままにひたすら互いの身体を探るように触れ合う。
切り上げたのはクロアが先だった。
「――ルカ、出よう。そろそろのぼせる」
額にキスを落として、クロアはいつの間にか湯船の縁にかけられていた私の
バスタオルでくるむようにして私を抱き上げた。手を滑らせないためだろう。
そのままシャワーのコックを捻って、頭から新しいお湯を被る。入浴剤を落
とす為のてのひらの動きすら、今の私には刺激にしかならない。
まだお湯にしとどに濡れたまま、クロアがお風呂場の扉を開けた。ひんやり
とした空気に身体が震え、クロアにしがみつく。
私を抱えたままマットの上に座り込むようにしたクロアが、私にはりついて
いたタオルを籠の中に放り投げ、新しいタオルを私の頭にかぶせた。わしわし
とあまり優しくない手つきで拭われながら、私も手探りで自分が持ってきた新
しいタオルを取り上げて、クロアの身体に押し当てる。
雫がしたたり落ちない程度には水分を拭い終わった身体を適当にタオルでく
るまれて、持ってきてあった着替えもそのまま残して、私は寝室に運ばれた。
乾いたシーツに横たえられたけど、身体が触れた部分からあっというまに水
分を吸って湿っていく。
のしかかってきたクロアを、両手を広げて受け止めた。噛みつくようなキス
を交わして、肌をまさぐる指の熱い感触に背筋を逸らせる。
「っや、あぅ――っく、んっ!」
甘く噛まれる。指先で摘まれる。滑り落ちるように動いた指先に翻弄される。
お返しとばかりに肩に噛みつく。鎖骨の当たりに吸い付く。クロアの背中を
固く抱きしめる。隙間なんてなくなっちゃえばいい。全部クロアのものになっ
ちゃえばいい。
前触れもなく押し入ってきた熱さに、あっけなく高いところに押し上げられ
た。落ちていく感覚に、必死でクロアにしがみつく。
クロアに揺さぶられて煽られて、うまく息ができない。天井から降ってくる
切れ切れの嬌声は、私が上げたもののはず。なのに全然そんな気がしない。
クロアの声だけが身体の中にしみこんでくる。クロアが時折呻くように呼ぶ
私の名前だけが、私をつなぎ止めている。クロアの熱だけが、私に伝わってく
る全部。
「ひゃ、あ……っ、もぉや、だ、っめ――んぁ、や、ぁああっ!」
そこから何度達したかわからない。それでも構わず私を追い上げ続けるクロ
アだって、とっくに限界のはず。
なのに全然終わりが見えない。果てがわからない。
ずっと高いところで保たれたままの快感に、私はいつの間にか声をあげて泣
き出していた。子どもみたいにしゃくりあげながら。
どうしようどうしよう。気持ちいい、よすぎてつらい、クロアの意地悪、で
も大好き、もっとぎゅってして、もっとたくさん気持ちよくなって。
クロアの唇が頬に押し当てられて、涙を吸い上げていく。その感触すら心地
よさにしかならない。
全部がクロアへの愛しさに変わって、クロアを求める気持ちに変わって、と
っくに力なんて入らなくなってる腕が性懲りもなくクロアに伸びる。
もうやだ、一人じゃいやだ。クロアも一緒に。とっくに意味のある言葉なん
て紡げない唇が、ただクロアの名前を呼ぼうと動く。
息が止まるほどきつく抱きしめられた瞬間、意識ごと光に飲み込まれた、気
がした。
目が覚めた時には、既に朝陽が登りかけていた。
風邪をひかなくてよかったね、と一つの毛布にくるまったまましみじみと私
はクロアに語り、クロアも真顔で頷いた。
とりあえず喉が限界だったので、水を飲むために身体を起こした。一息でコ
ップの水を飲み干してからもう一度あったかい毛布の中にもそもそと潜り込ん
で、クロアの肩に額をくっつけるようにしながら、私は唇を尖らせる。
「途中からよく覚えてないんだけど……」
「そうなのか? すご」
「きゃー! 言わなくていい! いいから!」
慌ててクロアの口を塞ごうと伸ばした手はさっさと捕まってしまい、クロア
は私の額にキスを落としてから、わざとらしく首を傾げた。うん、これは絶対
にわざとだ。
「すごくかわいかった、と言おうと思ったのに。何かダメだったか?」
「忘れて下さいお願いします顔から火が出そうだよもうっ」
一息に断言してから、私は実際に熱くてたまらない頬をなんとか冷やそうと
両手で挟んだ。なおも何か喉の奥でくつくつ笑いながら、クロアが私を抱き寄
せて、頬を覆った手の甲の上からキスをする。
「……今度は何で賭けようか?」
「絶対! もう二度と! クロアとは! 賭けなんてしない!!」
顔を隠したまま力一杯主張すると、今度こそ吹き出したクロアは私をぎゅう
っと抱きしめた。
なんだかその温もりだけで全部を許してしまいそうになる私も、たいがいク
ロア馬鹿だなぁって思いながら、私は目を閉じた。
おわり。
700 :
691:2007/12/22(土) 22:47:25 ID:85qynf/C
とろむら見ないなと言った責任をとって自分でやってみました。
やまもおちもいみもないですが、読んで下さった方ありがとうございました。
GJ!
ルカ可愛いよルカ。
GJGJ
畔章さんたらムッツリ
703 :
686:2007/12/23(日) 00:59:28 ID:YSe5zG4S
GJ!ルカ視点って新鮮
萌えましたありがとうございました
レスくださった方々もサンクスです
また書いているので完成したら投下したいです
GJ!
新作期待してます
クローシェ様大好きな俺からするとクローシェ様の話が全く無いのがものすごく悲しいがもしかして人気無かったりするのか…?
>686
寸止めクロアが切なくて可愛いな
次はノーブレーキでガンガンやっちゃえ!
>700
とろむらエロい。
お風呂の中でむにゅみにゅがエロい。
GJです!
>704
YOU! 書いちゃいなよ!
お前らドロデレ大好きだなw
ツンデレのエロが全然ないよ
ないのなら書いてしまおうぜホトトギス
ないないって嘆くより小ネタ投下とかで職人さんを刺激するとかどーよ
それはそれとしてドロデレどっちもグッジョブ
それぞれ萌えさせて頂きました(*´Д`)
709 :
名無しさん@ピンキー:2007/12/23(日) 18:01:49 ID:/huO6tjV
じゃあSSかけないので小ネタ。クロア×クローシェ
「クロア、明日は久しぶりの休暇なのですから今晩は…してあげてもいいわよ?」
「……」
「ちょ、ちょっとクロア?そっぽ向いてないでこっちを向いて」
「はい。何ですか?クローシェ様」
「も、もう、何度も言わせないで」
「すみません、よく聞こえませんでしたから」
「な…だ、だから、その…してあげてもいいって」
「何を、ですか?」
「わ、私の口から言わせないで。分かってるでしょう?」
「分かりませんよ。はっきり言ってくださらないと」
「…!で、ですから、クロアも欲求不満でしょうし、その…溜まっているのを…」
「そんなことはないですけど?…クローシェ様?もじもじして股をすりよせて…
どうしたんですか?」
「い、意地悪…」
「よく聞こえませんね。でも何だか辛そうです。大丈夫ですか?
俺に出来ることなら何でもしますよ。俺はクローシェ様の騎士なんですから」
「く、クロアの馬鹿……命令します、私を抱いて……」
「いいんですか?俺で」
「あ、貴方しかいないじゃない。私がそんな風に想える相手は」
「光栄です。でも、どんな風に?」
「そ、そんなことまで……」
「命令なんですからもっと詳らかにどうして欲しいか言ってくださらないと、ね」
「お、お願い。意地悪はもう言わないで」
「お願いなんですか?それならもっとやりようが他にあるんじゃないですか?」
「お、お願いします。クロア……私を、クローシェを優しく抱いて下さい……」
「…御子様が四つんばいになってお願いですか?」
「い、言わないで、あ……」
「クローシェ様って素直ですよね。強くしたほうがずっといい顔なさるんですから」
「苛めちゃいやぁ……」
「そんな顔されたら男だったら誰だってもっと苛めたくなりますよ」
「ひゃ、ん……も、もっと、お願い」
「クローシェ様って本当にスケベですよね」
「あ…だ、誰のせいだと…じ、焦らさないで…」
「駄目ですよ。人のせいにする御子様にはおしおきです」
「ひ、ひどい…ひゃ、あ…」
続かない
最後の行間違えてるぞwww
ちゃんと「続く」って書かないと
で、続きはいつ?
すごく…GJです…
Mなクローシェ様可愛いよクローシェ様
うはwwクロ姉派の俺にはたまらんwwテラGJ
ts
716 :
名無しさん@ピンキー:2007/12/26(水) 18:59:03 ID:HDKd0Wew
スクリプト爆撃対策age
クローシェ様よりルカのほうが人気あるのかな
?
クローシェ様のあのツンデレムチパツっぷりは大好物なのだが…
GJ!!
クローシェ様イイ
太股に挟まれたい
クローシェ様に足コキされたいのにいぢめたくなっちゃうんだよな
クローシェ「クロア?貴方は私の犬なのでしょう?」
クロア「そうですけど……」
クローシェ「なら、そこに膝まづいて御覧なさい。首輪、かけてあげる…」
クロア「いいですけど、その前にクローシェ様にプレゼントがあるんです」
クローシェ「わ、私に?……こ、これは…!ちょっと貴方、これは一体何のつもりです?」
クロア「見ての通りです。クローシェ様、可愛いもの好きでしょう?」
クローシェ「で、ですが、これを、こんな猫耳を私にプレゼントって……」
クロア「付けてみて下さいませんか?似合うと思いますけど?」
クローシェ「ば、馬鹿にしているのですか?」
クロア「そんな、とんでもない。俺はクローシェ様の騎士にして犬ですから」
クローシェ「だったら……」
クロア「でも、クローシェ様はそんな俺の可愛い猫ですから」
クローシェ「え?…」
クロア「ほら、クローシェ様、ちゃんとそれをつけて……」
クローシェ「く、クロア……」
クロア「似合ってますよ。クローシェ様、凄く可愛いです」
クローシェ「……にゃ、にゃん…」
GJ!
猫耳は漢の浪漫だよな。クローシェに猫耳もいいがクロアに犬耳もいいかも。
ところで、容量が490KB超えてるけどここって500が限界だったっけか?
「あら、タルガーナ、探していたのよ 」
「これはクローシェ様、何か御用でしょうか?」
「そろそろスレの容量が少ないようです、早急に次スレを用意しなさい 」
「なっ! なぜ私がそんな雑務を… 」
「あっれー? 御子サマの命令がきけないんだ〜?」
「くっ…! …わかりました、用意させましょう
………くそっ! あいつら人が下手に出ればどこまでも〜!」
「まあまあタルガーナ、それだけお前が優秀だってことだからさ、
政治がらみじゃ俺なんか全然役に立たないし、お前だけが頼りなんだよ 」
「クロア… フッ、まあ確かにそうだろうな。
よかろう! そこで私の華麗なるスレ立てを見ているがいい!!」
「はぁ、まったくめんどくさい奴だよな… 」
「あはは、クロもたいへんだよねー。 それで、ココナたち次はどこ行けばいいの?」
「ああ、えっと… 」
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1198757408/l50 『ココナー、次スレは、ここなー ………なんつって 』
「うああっ! なにこれ!? いきなり寒くなってきたよ〜!?」
「コ、ココナ!? しっかりしろっ! ココナーー!!」
(あら? これはココナさんのファニーセプター?
確か髪飾りが武器になっているやつで、クロアが考えたって言ってたわよね)
(…………)
(……ちょっとだけ……着けて見ようかしら)
(…………)
(あ、ちょっといいかも……後はこう外して……。
うりゃりゃりゃりゃ、とか振ってたり……後は)
ビシッ!
「クローシェ式詩魔法っ!」
(……とか言ってみ……)
クロア「……(・д・)……」
(…た…り………………)
クロア「……(・д・)……」
「あぁ、また何か変な事を考えている顔だわあれは!
今度は何?ココナプレイ?
そんな所触るのぷーですわ、とか言わせさせられるのかしら?」
クロア(……(・д・)途中から心の声を口に出しているのはやっぱ命令なんだろうか……)
723 :
名無しさん@ピンキー:2008/01/01(火) 20:04:39 ID:+3COaPCs
保守
724 :
か:
か