嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ37.5ロシ(皆殺し)
SSスレのお約束
・指摘するなら誤字脱字
・展開に口出しするな
・嫌いな作品なら見るな。飛ばせ
・荒らしはスルー
・職人さんが投下しづらい空気はやめよう
・指摘してほしい職人さんは事前に書いてね
・過剰なクレクレは考え物
・作品に対する評価を書きたいなら、スレ上ではなくこちら(
ttp://yuukiremix.s33.xrea.com/chirashi/)へどうぞ
スレは作品を評価する場ではありません
このスレでは
「24時間以内の連続作品投稿は禁止」
なんてルールはフィクションであり実在するテンプレ、過去ログ、常識、その他の修羅場作品やプロットとは一切関係ありません。嘘っぱちです。
テンプレ
このスレでは、24時間以内の連続作品投稿は禁止です。
具体的には、前回作品の最終レスから24時間以内の投下を禁止しています。1〜2レス程度の小ネタは、作品には含まれません。
自分一人のスレではありません。皆が気持ちよく使えるよう、他の作者さん、読者さんへの配慮を忘れないようにしましょう。
上記は、個人の脳内ルールなので作者さんは気にしないで下さい。
1:事実に対して仮定を持ち出す
2:ごくまれな反例をとりあげる
3:自分に有利な将来像を予想する
4:主観で決め付ける
5:資料を示さず自論が支持されていると思わせる
6:一見関係ありそうで関係ない話を始める
7:陰謀であると力説する
8:知能障害を起こす
9:自分の見解を述べずに人格批判をする
→10:ありえない解決策を図る
→11:レッテル貼りをする
12:決着した話を経緯を無視して蒸し返す
13:勝利宣言をする
14:細かい部分のミスを指摘し相手を無知と認識させる
15:新しい概念が全て正しいのだとミスリードする
いま、ここ
どちらを削除対象としますか?
数字だけならこっちの方が早いが立った時間はあっちが先
だけど前スレでの告知はあっちのが後。
――――――――一つ上から新スレ――――――――
>読者さんへの配慮
読者に負担を強いるのが配慮とは初耳
前スレの最後の方を見ればわかるように普通の作者さんなら別に気にせず投下できてる、そして普通以下の作者なんていらない。
いつもの風習にのっとって、一番先に投下があった方が新スレでいいと思うよ。
↑ごめん、アホがバカやらない内に補足
「まともな」投下があった方が新スレでいいと思うよ。
どっちの新スレにも俺ルール全開の奴がいるな
> 330 名前:ROCO ◆VpKHzOu04Y [sage] 投稿日:2007/08/15(水) 13:20:31 ID:pF+Mp4m/
> 640 名前:名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日:2007/08/15(水) 15:37:35 ID:pF+Mp4m/
>
>>624-625 > おいおい、草は資料も歴史の勉強もいらないだろ。ちゃんと読んでるのか?歴史モノでもなんでもなくて、ただのファンタジー。
> 別に史実と関係があるわけでもないし、適当な横文字の名前を並べて、行き当たりばったりで戦争がどうの、魔法がどうのやってるだけ。
> 一山いくらで捨ててあるような設定継ぎ接ぎした草なんかと歴史モノをいっしょくたにしたら真面目に資料漁って歴史モノ書いてる人が怒るぞw
> つか、資料どころかなんの専門知識もいらんわこんなもん。
>
> 643 名前:名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日:2007/08/15(水) 15:58:35 ID:pF+Mp4m/
>
>>641 > 草作者発狂w
> もう投下しなくていいからね。長いわつまらないわで見るに耐えないよ。
>
>>642 > つまらないだけなら無視すりゃいいけど草連投のおかげで他の職人引っ込んじゃったから、百害あって一利なしだわ。
20 :
名無しさん@ピンキー:2007/08/16(木) 00:19:51 ID:8HYTbzxt
重複スレ建ててんじゃねぇよ
削除依頼出しとけ草
新スレと言う事もあって新しい話投下します
って言うか既存の続きが進まなくてorz
――もしも時を巻戻せたら。 誰もが一生に何度かそう思うこと。
この少年、加賀 凍祈緒の頭の中もそうした思いで一杯であった。
そして口からは何度目かの溜息が零れる。
「お〜い、トキオく〜ん」
その時凍祈緒のみみに明るい少女の声が耳に届く。
声のした方を見れば一人の少女が可愛らしいツインテールを揺らしながら走ってきた。
「ハァ……ハァ……。 ゴメンね身支度に手間取っちゃって……」
そう言って少女は方で息をしながら凍祈緒の顔を見上げる。
大きな瞳で上目遣いで見つめる其の可愛らしい顔は男なら誰でも保護欲を描きたてるような愛くるしさがあった。
顔立ちだけではなく其の小さな背丈も彼女に良く似合う可愛らしい服装も、
其の全てが世の男を魅惑するに十分な要素を持っていた。
「イ、イヤ……俺も少し前に来たばかりだし」
だがそんな愛らしい少女の笑顔に対し凍祈緒の声はなんとも歯切れの悪いものだった。
「ありがとう。 トキオくんってばやっぱ優しいよね」
しかし凍祈緒の其の物言いも少女には照れてるように見えたのか少女は親愛の情を込めて抱きつく。
凍祈緒の腕に少女の背の低さには釣り合わぬふくよかな胸が当たる。
「お、おい……あんまり引っ付くなよ……」
「照れないの。 だってあたし達恋人同士なんだからさっ」
そう、この可愛らしい少女――鉄宮 沙津樹(かねみや さつき)は凍祈緒の彼女、恋人同士なのであった。
今も二人はデートの待ち合わせをしてたのである。
可愛くて健気な彼女。
そんな人が見れば羨むような状況の凍祈緒が何ゆえ先ほどのような溜息をついていたのか。
そして何ゆえ時を巻戻したいなどと思っていたのか。
それは――。
「ありがとうトキオくん。 今日はとっても楽しかったわ。 またデートしようね。
それじゃぁまた明日学校でね。 バイバイ」
「ああ、それじゃまた明日」
楽しい一日も終り沙津樹を無事送り届けた凍祈緒は岐路につこうとする。
「あ、待って。 未だあんまり暗くないし少しよっていかない?」
帰ろうとする凍祈緒に向かって沙津樹は声をかけた。
「ありがとう。 でも実は宿題がやってなかったのが残ってるんで帰るわ」
だが凍祈緒は其のもてなしに申し訳無さそうに断わる。
「そっか〜。 じゃぁ仕方ないね。 無理に引き止めてジャマしちゃ悪いものね。 ゴメンね」
「ううん。 コッチこそゴメン。 それじゃバイバイ」
そして二人は今度こそ別かれた。
沙津樹の家を離れると凍祈緒の口から漏れるのは溜息。
オマケに足取りも重くとても今日一日楽しいデートを終えた少年のする仕草には見えない。
せっかくの誘いを断わってしまったのを申し訳なく思ってのことなのだろうか?
そしてしばらく歩くと足をとめ時計を見、考え込む。
そしてややあった後、今度は何か意を決したように走り出した。
凍祈緒は息も切れんばかりに走って走って、そしてたどり着いたのはある美術館。
美術館ではあるアーティストの特別展がやっており。 実は今日がその特別展の最終日であった。
ちなみに時間は入場ギリギリの時間。
凍祈緒は料金を支払うと飛び込むように館内へ入った。
凍祈緒はそれほどまでにこの特別展が見たかったのであろうか?
だが、それなら何故今日のデート場所をココにしなかったのか?
館内へ飛び込んでからの凍祈緒は何かを探し回るように早歩きで館内を歩き回ってる。
それは何かを探してるかのよう。
時間が無いので一番見たい絵だけを探してるのであろうか?
やがて其の脚はある場所で停まる。 そして凍祈緒の目の前に立つ絵を見ていた一人の少女が振り返る。
「あれ? トキちゃん? 今日は用事があったんじゃなかったの?」
そう言って振り向いた少女は柔らかな長髪を揺らし眼鏡の奥の穏やかそうな瞳を見開き口を開く。
「いや、其の用事が丁度済んで、時間もギリギリ間に合いそうかな、と思ったので来てみたんだ」
凍祈緒は口を開くと笑って見せた。
「そうなんだ? でも、もうすぐ閉館時間だよ?」
「あ、うん……。 でも今日で最終日だから……」
「そうなんだよね……。 よし! じゃぁ私が選りすぐりのを選んで案内してあげよっか?」
少女の言葉に凍祈緒はパッと顔を綻ばせる。
「本当?! レンちゃんがそうしてくれるのなら是非お願いするよ」
「了解! じゃぁついてきて。 私の選りすぐりを案内するから」
そう言って凍祈緒と少女――千鳥 憐花(ちどり れんか)は二人連れ立って館内を回り始めたのだった。
「案内してくれてありがと、レンちゃん。 お陰で短い時間でも楽しめたよ」
「どういたしまして」
館内から出てきた二人は楽しそうに談笑しながら歩いていた。
「でも本当レンちゃんって昔っから絵が好きだよね〜。 久しぶりに会ったってのにちっとも変わってないし」
「そりゃもう三つ子の魂百まで、だもん」
そう言いながら話す二人の話は今日の特別展の感想に混じって幼い頃の思い出話に花を咲かせていた。
そう、この二人は幼馴染同士であった。
だが幼い頃、憐花が親の転勤で引っ越してしまい、つい最近また引っ越してきて再会したばかりだったのである。
そして再会した時言いようも無いほどの嬉しさがこみ上げてきた。
何故なら凍祈緒にとって憐花は初恋の相手であったのだから。
其の気持は驚くほど幼い頃と変わっていなかったことに凍祈緒自身、驚きを隠せなかった。
それは同時に、逆にある後悔も沸き起こったのである。
それは沙津樹のこと。 沙津樹に告白された事をOKしてしまったこと。 沙津樹と付き合っていた事。
そして思わず思ってしまった
――もしも時を巻戻せたら。
投下終了です&1乙
>>24 GJ
1/8も楽しみにしていますが無理をせず着実に進めていってください。
でないとリアルで体壊しますからね。(実体験・・・)
やっと正式スレ決定しましたなぁ
散々揉めて揉めての引越しでしたけ名作の投下今スレもいっぱいあると良いな
新スレGJだ!!!!!!
投下します
* * * * *
王城は、今までにない賑わいを見せていた。
属国という性質上、主国の者を歓待する機会は多いが、此度の大会のように、多くの主国貴族が滞在するのは珍しい。
開会式が終わってから、王城内の使用人の混乱といったら、目も覆わんばかりである。
不幸中の幸いというべきか、賓客は全員それなりの待遇でもてなせる見通しは立っている。
とはいえ、普段の数倍以上の仕事量に、王城の使用人達は破裂寸前だった。
だからといって。
「なーんで試合に出る人間が仕事しなくちゃいけないのよーう。ぶーぶー」
口を尖らせ、同僚に愚痴っているのは。
王子付きのメイドにして大会出場者、ツノニ。
本来、大会に出場する選手は、王城内か、近場の高級宿で、明日からの本戦に備えているはずなのだが。
何故かツノニは、王城内での雑事を手伝う羽目になっていた。
そんなツノニに同僚はにっこり笑顔で、
「ぐだぐだ言う暇があったら動いてね☆」
「鬼じゃー! 鬼がここにおるぞー!」
「うっさい。
大会直前になって『あ、私も大会出るからー』とか言って引き継ぎも無しに出て行っちゃって!
あんたの唐突な行動のせいで、少なくとも20人は地獄を見たのよ!」
「全使用人の1割未満なら問題ないでしょー。
それよりお仕事手伝ったせいで負けたらどうしてくれるのよう」
「心配しなくても今夜の修羅場を乗り切ったら解放してあげるわよ。
ツノニの試合は明々後日でしょ? まだ余裕あるじゃない」
「いやでもここはホラ、死線に赴く同僚を気遣って、最後の休養を取らせてくれてもいいとこじゃない?」
「一人で20人分の仕事をこなせる猛者を、そうそう手放してなるものですか」
「うっわ、現金ー」
ツノニも同僚の女性も、仕事の手は全く緩まずに、しかし他の数倍の速度で己の作業をこなしている。
作業の内容は単純な備品整理だが、二人とも流れるような動きで作業を進めていた。
「しっかし、ツノニが暗殺者だったとはねえ……」
「驚いた?」
「いやまあ、有り得ないくらいの若さで働き始めたくせに、仕事は一級品とか、怪しさは抜群だったんだけど」
「ひでぇ」
「――でも、ここの人を狙ってるわけじゃないんでしょ?
なら、私は気にしない。ツノニは私にとって、頼りがいのある同僚。それだけ」
「……ありがと」
ツノニは目を閉じ、少しだけ逡巡した後。
感謝の言葉を、呟いた。
「――と、あんなこと言われた直後で気分は乗らないんだけど」
誰にも聞こえぬように呟きながら。
ツノニは夜の城内を歩いていた。
歩くといっても、足音は立てない。無音歩行に気配消去。紛う方なき隠密の歩き方である。
「主国のお偉方もそれなりに腕利きの囲い娘を連れてきてるみたいだけど……まだまだよね」
口元を歪めるツノニ。
そこには己の力量に対する絶対的な自信が見て取れた。
「……昔の私だったら、ついでに主国の主立った連中殺して回ったかもしれないけど。
というか、ここまで大きな連中が集まるのなんて、今後有り得ないんじゃない?
なんというか、暗殺とか仕掛けるには絶好の機会だよね――こんな感じで!」
言いながら、腕を振る。
放たれたのは、二本の投げナイフ。
黒く塗りつぶされたそれは、微かな煌めきすら残さず、目標へと突き立った。
一拍遅れて、人の倒れる気配。
「……今の、他の連中に悟られてないよね?
音もしなかったし、元々気配消してたし」
周囲を用心深く探りながら、ツノニは倒れた人影の元へと向かう。
ツノニと同じく使用人の姿をしたそれは、しかし彼女に見覚えのない者だった。
「……んー。主国が連れてきた使用人でもなさそうね。
いちおーお抱えの連中の顔は全部覚えてるし。
機に乗じて、どっかが送り込んできた暗殺者かなあ?
――おや、奥歯に変な詰め物。こりゃ確定、と」
ナイフに塗ってあったのは昏倒薬。命まで奪っているわけではない。
個人的には起こして尋問したいところだが、今はそんなことをしていられるほど暇ではない。
「てい」
顎の下から細長い刃物を突き通し、脳を破壊。
素早く引き抜き、差し込み口にテープを貼り付ける。
殺害と、漏血防止の処置を一瞬で済ませ、近場のゴミ処理容器に放り込んでおく。
「んー。大会が始まっても自分の仕事をするなんて、
私ってばなんて偉いんだろう! ……くっちーにあとで褒めてもらおっと」
侵入者の排除。
それは、ツノニがこの城で働くようになってから、人知れず行い続けてきたことである。
誰に命令されたわけでもない。
ただ純粋に、クチナ王子に近付く危険を排除したくて。
一人で勝手に。ずっと。
「ねむー。これ以上の夜更かしはお肌の大敵よね。
あと5、6匹始末したら、終わりにしよっかな。
私としては王様とくっちーをメインに狙う奴さえいなけりゃ無問題なわけだし」
今ツノニが人知れず侵入者を排除しているのは、
あくまで“クチナに危害が及ぶ可能性がある”からである。
一晩のうちにそこそこの数を始末できれば、
警戒して、本来の標的――主国の貴族以外を狙う馬鹿は現れないだろうから。
「どーせ、主国の連中には優秀な護衛が付いてるだろうしねえ」
故に、ツノニはクチナやその父の寝室に近いところを中心に、鼠狩りを行っていた。
その、途中で。
「――ッ!?
くっちーの部屋に向かってるのが一匹!
良い度胸してるじゃない! 小者のために命賭けるだなんてね!」
自らの主を小者呼ばわりするツノニだが。
その目は。これ以上ないくらいに真剣だった。
かけて3秒。侵入者を殺すのは、彼女の中では確定事項になっていた。
故に。
そこまで勢い込んでいたのを急停止させるのには、苦労した。
(ちょ!? アレって確か――)
射出しようとした針を咄嗟に抑え、クチナの寝室の前に立つ人物を、確認した。
そいつは――間違いない。大会出場者の一人だった。
(名前は、えっと、サラサ、だよね)
明日の試合に出場するはずの、くすんだ銀髪の少女が。
クチナの寝室の前で、おろおろしていた。
(………………。
……まあ、選手が賞品の部屋に行くのはルール違反じゃないみたいだし、別にいいけど。
――って、あらら?
この気配ってひょっとして……修羅場?)
* * * * *
サラサは、悩んでいた。
(――なんて言って入ればいいんだろう?
こんばんはー、とか?
失礼しますー、とか?
それともここは奇をてらって、一緒に寝てー、とか!?
……あー、王子様の部屋への入り方なんて、誰にも教えて貰ってないしなあ。
この前のときは竜騎士が一緒だったから気楽だったけど、今回は私だけだし。
クチナ王子、起きてるかな? 寝ちゃってたらどうしよう?
その場合は大人しく帰るとか? でもでも、折角ここまで勇気を出して来たんだし)
とか何とか。
悶々としながら、ボサボサの銀髪をばっさばっさと振り乱している。
ここはもう、無心になって突貫あるのみ……かもしれない。
引かれたらそれはそれで。下手に悩むよりできることをやる方が、サラサの気性に合っている。
とはいえ。
初めてなのだ。
“嫌われたくない相手”というのは。
だから、余計なことをたくさんたくさん考えてしまう。
それだけ、サラサにとって、クチナ王子という存在は、特別だった。
――絶対に、いつかお金を貯めて、君を買うよ。
この言葉を思い出すと、今でも頬が緩んでしまう。
彼の言葉を信じて、ずっと闘技場で待っていてもよかった。
胡散臭いネキツの命令など聞く耳持たず、王子のものになる日を待つ。
それはそれで、幸せな未来が待っていたのかもしれない。
でも。
――だから、それまで元気でいて。
サラサの戦い方はひとつしかない。
相手の攻撃をひたすら耐えて、一撃を叩き込む。
このような戦い方では、どんなに体が丈夫でも――いつかきっと、壊れてしまう。
クチナとの約束を守るのは、難しかった。
だから、ネキツの誘いに乗った。
ネキツに命じられるがままに動き、そして、今に至る。
今のところ、サラサが命じられていることは2つ。
――大会に出場し、死ぬまで戦うこと。
――王子の周りで見聞きしたことは、逐一報告すること。
これさえ守れば、自由にしていいと言われた。
とはいえ、相手はあの腹黒い公爵だ。
優勝したところで、本当に王子の妃になれるかどうか疑わしい。
奴は自分を、都合の良い駒だと思っている節がある。
王子の妃になった後も、鬱陶しい命令を下してくる可能性が高い。
だから、今くらいは。
ネキツから解放されているのだから。
少しだけ、幸せな気分を、味あわせて欲しい。
(――うん。部屋に、入ろう。
それで、クチナ王子と、いっぱいお話、するんだ)
覚悟を決めて、顔を上げようとした。
そのとき。
「――えっと、入らないのなら、先にいいですか?」
はっとして振り返ると。
見覚えのある顔――棒使いの女が、困ったような表情を、浮かべていた。
――明日戦う、相手。
自然と拳を握り締めてしまったが、相手が武器を持っていないのに気付き、力を緩めた。
彼女も、クチナに用があるのだろうか。
明日の試合に緊張しているようには見えないが、最悪、会えるのは今日が最後かもしれないのだ。
サラサのように、クチナと何か話しておきたいと考えても、おかしくない。
しかし。
できれば、譲りたくなかった。
「……私が先でも、いい?」
気付いたときには、そう言っていた。
だが、訂正する気もない。
早くクチナ王子に会いたい――その気持ちは、本当だったから。
それに――
「はい、別にいいですよ。待ってますから、ごゆっくり」
「……ありがと。……あのさ」
「?」
「あんたが、クチナ王子の護衛? この前、彼を守ってたし」
「……違います。私はメイラ王の護衛です。クチナ様の護衛は、私の妹」
「ふぅん。――ねえ、あんたは、それで良かったの?」
「――別に。私が決めることではありませんし」
「そっか。それじゃあお先に」
短い会話。
これ以上、話す気はなかった。
何故だろう。
会話なんて、今の短いものが初めて。
あとは、二回遠目で見ただけ。
なのに。わかってしまう。
――こいつからは、私と同じニオイがする。
それが、どうしてか、とても腹立たしくて。
理由のない憤懣を紛らわせるために、サラサは強めに、ノックをした。
クチナの寝室に入る直前。何故か、ふと。
――ボクだったら、我慢なんてしないのに。
――ずるい。
そう、思った。
次回、戦闘開始
>>1乙
>>23 GJ!
もし〜だったら。こんな気持ちが修羅場の種になるんですよね。素敵です。
GJ!!
いよいよ本格的に戦う事になりましたな。
九十九共々、頑張ってください!
超GJ!!
続きをwktkしながら待ってます!
ボクっ娘+嫉妬の組み合わせはドストライクです!!
次回から戦闘開始と聞いてwktkが止まりませんぜ!
>>34 GGGGGGGJJJJJJJJ
修羅場に早くならないかなw
そして
>>1の執念に感動を覚えた
>>34 GJです!
ところで質問なんですが七戦姫の10〜11はどこでよめるのでしょうか・・・
まとめにないのですが・・・
>>40 つい先日、管理人の阿修羅さんがログ受け取ってまとめ中
俺も早く読み直したいので我慢中w
『ごめんね、美也子ちゃん。僕はアイツを裏切れない。ずっと僕を支えてくれた美奈子、キミのお姉さんのことを』
だって。よかったね、お姉ちゃん。
七嗣さんの心はしっかりお姉ちゃんのものみたいだよ。
そりゃそうだよね。御子上のババアに三村さん、好きになった人が二人も死んじゃって落ち込んでたとき文字通り『躰を張って』慰めてくれた幼なじみだもん。
これであっさりその妹に乗り換えたらバチあたっちゃうよ。
で も ね。
わたし、いいこと聞いたんだぁ。
お姉ちゃん最近咳がよく出るでしょ。
お医者様が話してるの聞いちゃった。
喉にね、悪性の腫瘍が出来てるんだって。
手術しても薬を飲んでも半年もつかわからないらしいよ。
でも大丈夫。お姉ちゃんが死んじゃってもわたしがその後を引き継ぐよ。
ご近所でも似てるって評判の姉妹だもん。双子と間違えられることだってあるよね。
始めはお姉ちゃんの代わりでいいよ。
少しずつ少しずつ、
お姉ちゃんとの思い出も、お姉ちゃんにあげた言葉も。全部わたしにすりかえてあげるか。
せいぜい今のうちに七嗣さんの恋人気分を味わっていればいい。
わたしはお姉ちゃんと違って気が長いからゆっくり待つよ。
長々と
>>1乙
今見てきたら、まとめサイトが更新されていた。
阿修羅氏、お疲れ様です
更新キタァー(゜∀゜)ーー!!!!
やっと、気になった作品が読めるw
まとめサイトの奴…ボクの住民たちを誑かしやがってっ!
今更戻ってきて何のつもりだ?いくらSSの数が多いからって、貴様みたいな婆にボクは負けない!
み な ご ろ し の な は だ て じ ゃ な い ん だ よ ?
埋めネタの方でも投下してるし、緑猫さんもペースが戻ってきた様子。
さらに阿修羅氏が無事まとめ更新を再開してくれたおかげで、このスレも
再び息を吹き返すムードになって参りましたな。
前スレ埋めネタ緑猫さんGJ!
久々に血塗れのキャラ達に会えて嬉しい
前スレ埋まったな。
ヘンな埋まり方をした気もするが作者様方にはあんまり気にせず投下していただきたい
緑猫氏グッジョブ
やっぱほのぼの展開のほうがいいずぇ
前スレの埋めネタで誤字と誤表現を発見しました
861の2行目
高給 → 高級
865後半
(胸焼けしそうな) → (胃もたれしそうな)
失礼しましたorz
>>52 前スレでの投下GJです(*^ー゚)b
胸と胸焼けをかけてるのかと思ってたわw
後半も楽しみにしてます!
保管庫が更新されてたんで行ってきたんだが…
『すみか』面白すぎる。
GJどころか、もう百回ぐらいGJと言いたいというか…
もう…なんだ…つまり……アレだよ。
続 き ま だ で す か
>>54 簡潔に、‘GJ!続きwktk’で良いじゃない。そんな無理に催促するような言い方じゃなく、こっちの方が、まだ可愛げがある。
別にわざわざ突っかかるところじゃないだろ……
すまん
>>52 うお、前スレに埋めネタが投下されてたのか…
37.5スレばかり見てたせいで気が付かなかったよ
あれなんか後ろに人のけは
怪物姉GJ!
投下してみます。
百合注意。
秋宅伊織は、下駄箱を開け、その中に白い封筒が一通納まっているのを確かめた。
それがファンレター、あるいは恋文の類であることは、封筒の中を確かめるまでもなく分かっていた。
何であれ、他人から愛情を向けられるのはうれしいことのはずだ。
そして、伊織には現在恋人もいず、また恋愛に飽き飽きするほど老成しているわけでもない。
だが、素直に喜べない理由が伊織にはあった。
伊織は、れっきとした女性であり、そしてここが彼女の通う女子高の玄関である以上、その恋文を出したのもやはり女生徒のはずなのだ。
彼女には、「そのケ」はなかった。しかも、入学以来まだ2ヶ月あまりしかたっていないにもかかわらず、こんな風に女生徒に愛情を伝えられたことは初めてではなかったので、いささかうんざりしてもいた。
「ああ、またもらっちゃったんだ」
伊織の横合いから、声がかかった。伊織の友人である植田早苗だった。
伊織は、「まあね」と困惑の混じった苦笑を早苗に見せた。
「相変わらず、もてるんだね。入学してからこれで何通目?」
「さあ、どうだろ。わざわざ数えてないから」
伊織は封筒を手にとって、差出人の名前を確かめながらいった。
「知ってる人?」
「いや、少なくともこっちは知らないな」
「先輩からだったりして」
「そうかな?そうかも」
「だったらどうする?」
「どうするって、どうもしないよ」
伊織が女性にしてはいささか低く聞こえる声でそういうのを、早苗は伊織の顔を見上げながら聞いていた。
伊織の背は、早苗に比べてずっと高かった。高校一年生のごく普通の身長である早苗に対して、伊織は170センチを超えていた。
その顔を見上げながら、早苗はこの学園の女生徒が彼女にあこがれるのも無理はないと感じるのだった。
友人の早苗からしても、伊織の面貌は実に美しく、りりしく見えた。
少し色素の薄い髪を短く切り、その下には直線的で細く濃い眉。いかにも意志の強そうな、大きな二重の目。欧米人のようなとがった鼻に、薄く結ばれた唇。
鋭角的な小さなあご。その面貌を映えさせる白皙の肌。そして、制服である白いセーラー服を持ち上げる豊かなバスト。
ヨーロッパ人の血が混じっているという噂もあるが、それも無理はないと思わせる、日本人離れした美貌を伊織は誇っていた。
しかも、早苗もよく知るように、男のようにさっぱりとしていて、それでいて女性らしい優しい性格でもあった。
女子高という特殊な空間が、伊織の人気を押し上げているのは間違いないとしても、たとえ共学であっても彼女なら男女から今に劣らない人気を集めたはずだろうと早苗には思えた。
しかも、伊織は、この名門の学園にふさわしく、さる大きな会社の社長令嬢でもあった。
できすぎた人間というのは本当に存在するのだと、早苗は伊織のことを思うたびに感じるのだった。
早苗は、そんな伊織と友人になれたことは奇跡のようなものだと思っていた。
彼女は、ごく普通の家庭に育った、普通の少女であり、その容貌も人並み以上のものではなかった。
とはいえ、醜いというわけではなく、三つ編みの黒髪を肩からたらし、制服のブレザーをきっちりと乱さず着こなしている様は、非常に清潔な印象を見る人に与えた。
利口そうな広いおでこに、薄い眉、伏目がちなまなざし。少しだけ低めの鼻の下に、小さな唇。そして、凹凸の控えめな体。
なんとはなしに、優等生の雰囲気をまとっていた。実際、彼女は学園内でもトップを争う優秀な学生であり、そのおかげでこの伝統ある名門校に特待生として入学金、授業料免除で入学することができたのだった。
そうでもなければ、ごく普通のサラリーマン家庭の出である早苗が、この学園に通うことなどできないはずだった。
成績が良いことは昔から早苗にとって唯一ともいえる誇りのよりどころだったが、そのおかげでこの学園に入学し伊織と友人になれたことで、早苗はいっそう自らの頭脳に感謝するようになった。
「どうしたの?」
ぽけっとしながら感慨にふけっていた早苗は、伊織のその声で現実に引き戻された。
「ううん、ごめん、なんでもないから」
「そう?じゃ、いこう」
そういって、伊織が封筒をかばんの中にしまおうとしたときだった。玄関の向かい側の窓を、教師の一人が開けた瞬間、強い風が入り口から吹き込んできて、伊織が手にしていた封筒を飛ばした。
伊織は、あっと声を挙げて捕まえようとするが、封筒はそれを逃れて玄関まえの廊下まで飛んでいく。
・
「ああ、もう」
伊織は視線で封筒を追いながら急いで靴を上履きに履き替え、姿勢を低くして廊下に駆け寄った。
そして、封筒がスリッパを履いた誰かの足元に着地しているのを確かめて、拾う前に一言断ろうと、その足の持ち主の顔を見た。
まず目に入ったのは、まるで紅を引いたかのような赤い唇だった。伊織は、なぜか彼岸花を連想した。
そして、長くて黒い髪。漆黒というのも足りないほどに黒々とした髪で、緑がかってすら見えた。
切りそろえた前髪の下には、細いアーチ状の眉に、ガラスにダイヤモンドで刻み込んだような、深い切れながの目。
その瞳も、彼女の髪に劣らず、漆器のような黒さに輝いていた。
細くとがった鼻。柔らかい曲線のあご。そして、若干青みがかかったような、白い肌。
そして、転校生ででもあるのか彼女は学校指定の白いセーラー服ではなく、つやのある黒いセーラー服を着ていた。
髪の黒さと、セーラー服の黒さが、彼女の色の白さを輝かせんとばかりにいっそう引き立てていた。
伊織には「そのケ」はない。
だが、彼女を見て、伊織は素直に美しいと感じた。それと同時に、何か危険なものを感じもした。
あまりに美しい調度品や美術品を見ると不安を感じることがあるが、それと同じことなのだろうかと伊織は思った。
すると、彼女がニコリと笑みを浮かべながら、伊織の顔を見返してきた。
そうすると、それまで感じていた危険な感じが霧散し、人懐っこいとさえいえる雰囲気に代わった。
伊織は自分が他人の顔をまじまじと見つめるという不躾を犯していることに気がついた。
「ああ、ごめんなさい。失礼なまねをして。その、封筒が」
彼女は伊織の言葉を全部聞かないうちに膝を折ってかがむと、封筒をついと拾い上げた。
「はい、どうぞ」
細く、形のよい指に挟まれて、封筒が伊織に差し出された。
だが、伊織がそれを受け取ろうと手を伸ばすと、封筒が引っ込められ、空を切った。
「え?」
伊織が困惑した顔をすると、彼女は今度は控えめな上品な声を上げて笑った。
「これをお返しする代わりに、職員室の場所を教えていただけますか?」
「え?ああ、もちろんそれはいいけど」
それを聞くと今度こそ封筒は伊織に手渡され、その代わりに伊織は職員室の場所を彼女に教えてやった。
「もしかして、転校生?」
「ええ、先生に連れられていたのだけれど、きょろきょろしているうちにはぐれてしまって。この学校って素敵で面白いでしょう?」
「そうかな」
「そうよ。ほら、そこの窓枠だって」
早苗は、そんな風に談笑する二人を見ながら、まるで西洋人形と日本人形が会話しているようだと思っていた。
どこか、非現実的な光景に見えた。それだけ、二人の様子は絵になっていたのだ。
だがそれだけでなく、早苗はよく分からない胸騒ぎを覚えていてもいた。
それは見知らぬ少女が、どれだけ人懐っこそうな笑みを浮かべていても消えることはなかった。
むしろ、彼女のまとう雰囲気が親密そうなものであるだけ、胸騒ぎは大きくなった。
自分は嫉妬しているのだろうか、と早苗は感じた。
伊織はさっぱりとした性格をしているが、それでも彼女に気安く声をかけられる人間は限られていた。
その美貌にあこがれるものはいくらでもいるが、その憧れが彼女からひとを遠ざけてもいた。
その伊織と親友と呼べる間柄なのは自分だけだという自負が、早苗にはあった。
ただ、それと同時に自分が伊織とは不釣合いな存在であると自覚してもいた。
いずれ、伊織にふさわしい友人が現れて自分はお払い箱になるのではと、ひそかな恐れを抱いていた。
伊織がそのようなことをする薄情な人間ではないと知っていながら。
「それじゃあ、今川さん」
「はい、またいずれお会いしましょう」
伊織は手を振り、少女はお辞儀をして別れた。
「名前、聞いたんだ」
「ああ、今川しのぶさんだって。転校生で、1年らしいよ」
「1年生?そうは見えなかったけれど」
「もしかしたら同じクラスになるかもね」
早苗は伊織が笑顔でそういうのを聞いて、さきほどの胸騒ぎをいっそう大きくした。
以上、「フラワーガーデン」第一話でした。
「マリみて」よりは、「おにいさまへ」がすき
>>64 GJ!続き期待してるわ
「おにいさまへ」って男読まなくないか?w
っていうか、「おにいさまへ」ってタイトルなのに
百合なのか?
gjッスー
前々スレのウメネタ投稿してくだせぃー
前スレが埋まってしまったようなので、こちらに投下します。
ライトな修羅場(?)しかありません。
吉村一男はぼんやりとプールを泳ぐ人々を見つめていた。
日中の熱い時間帯にプールで泳いで過ごそうと考える人は1人ではないらしい。
一男がプールサイドに座っている間に、何人もの人がプールの中へと浸かっていく。
その代わり、プールの中で過ごすことに飽きた人や時計を見て渋々立ち去る人もいるので、
プールに入れなくなるほど満員になることはない。
そうしているうちに、一男の待ち人が二人、ようやく背後から現れた。
「お待たせ、吉村君」
「ま、待たせて悪かったわね、一男」
組子と神川の2人だった。
先頭に神川、神川に手を引かれる形で組子が続いていた。
「その会議とやらはもう終わったのか?」
「うん。たいして難しい議題でもなかったし。ね、組ちゃん」
「え、えぇっと、……うん」
組子はうつむきながら、小さな声で答えた。
胸には軽く握りしめた左手をあてている。
一見して不安そうで、一男がいつも見ている組子とはギャップがあった。
「どうかしたのか?」
「ううん。なんでも、ない……」
どう見ても普段とは違う様子であるが、一男はあえて何も言わなかった。
今はとにかく、乾いた体をプールの水で一刻も早く濡らしたい気分だった。
「神川、もう泳いでもいいのか?」
「いいよ。最初からそのために来たんだし。あ、吉村君が先に入ってね」
「ん? ああ」
「そんで、作戦通りに組ちゃんが続く、ってことで、ね?」
「……うん」
相変わらず組子の元気はなかったが、意志の力だけはしっかりと持っているようで、神川の言葉に力強くうなずいていた。
一男はプールサイドから滑り落ちるようにして、水の中へ浸かった。
冷たすぎない水が、乾いて熱くなった体と水着を濡らしていく。
一男はそのまま頭まで水の中に沈み込んだ。
そして再度浮上する。
「うむ。これぞプール。プールに来たからにはやはり泳がなければ。組子と神川も早く入ったらどうだ?」
「だってさ、組ちゃん?」
「う……うん」
神川が手を離すと、不安そうな顔で組子はプールサイドに立った。
ちらり、とプールに浸かって、目線の下にいる一男を見下ろす。
一男の居る位置は、プールサイドから1メートルほど離れた場所。
「一男」
「なんだ?」
「しっかりと私を受け止めてね」
なにを言ってるんだお前は、と一男が言うより早く、組子がプールに飛び込んだ。
正確には、神川に背中を押された。突き落とされたのだ。
一男が居た位置は組子の正面。すると、
「のぉっぷ! ……うっ、……げほ……けほっ……いきなりなにしやがる!」
「よーし、ナイスキャッチ! いいよー、組ちゃん、吉村君! 完璧だあ!」
当然一男の上に組子が落ちてくることになる。
組子は両手を広げて落ちてきたので、一男は反射的に組子の体を抱きしめて受け止めた。
神川はそんな2人をプールサイドから見下ろしてガッツポーズ。
作戦とはどうやらこれのことだったらしい。
「なにが完璧だ! 危うく水を飲んじまうところだっただろうが! カルキ入りの水ってまずいんだぞ!」
「平気平気! 私なんか小学生のころのどが渇いたら飲んだりしてたもん。あとでお腹壊したけど」
「全然平気じゃねえ!」
「高校生なんだから大丈夫! あとはがんばってね、組ちゃん!」
そう言い残すと、神川は2人からステップを踏んで離れた。
そして飛び込み台の上から、比較的空いたレーンに美しい弧を描いて飛び込む。
無駄に水しぶきを立てない、水泳の練習を積んだ者の動きだった。
しばらく見ていても浮いてこないところからすると、人の足をかき分けて潜水しているのだろう。
「くそ、あの女。明日は俺の分の課題もやらせてやる」
「……そう、だね」
「おい、組子?」
「……なによ」
「いや、離れてくれてもいいんじゃないかと思ってな」
一男が受け止めたとき、組子はしっかりと一男の体を抱きしめていた。
一男はすでに手を離していたが、組子はずっとそのままだったのだ。
いや、離すどころかさらに力を入れて抱きしめていた。
そうすると、当然一男の胸には組子の胸が押しつけられることになる。
組子の胸は自慢できるほどの大きさではないが、確実に存在している。
一男に水着越しの柔らかな感触を伝えるには十分な大きさだった。
「組子……胸、当たってるぞ」
「あ、それは……あれよ、ほら。こういうときよく言うじゃない。あ、あて、あててて、のよ」
「ああ、言わなくても言いたいことはわかった。……けど、悪いが離れてくれ」
「なんでよ」
「だって、ほら、俺たちは……」
恋人ではなく、ただの幼なじみだ。こんなのは恋人がするようなことだ。
「離さないよ、私」
「は?」
「だって、一男に、その……こう、したかった、から……」
一男は、自分の耳が一瞬で赤くなるのを自覚した。
組子が言ったのは、それほどの破壊力を持っていた。
完璧な不意打ちだった。
一男にとって、組子は勝ち気な性格の女の子だと認識されている。
甘えてくるなど考えられない。暴力を振るってくるのは予想できても、柔らかく抱きしめてくるなど想定の範囲外。
組子が目線を斜め下45度に向けながら、恥ずかしげに身をよじるなどあり得ない。
さらにその仕草に強烈なギャップ萌えが感じられるなど大地が裂けてもありえない。
そう思っていたというのに、なぜ今の組子はこんなに可愛いのだろうか。
「一男、聞いてくれる?」
半分ショック、半分興奮、という状態のせいで一男は動けない。
「私、私ね、本当は……」
一男はもう、組子の言葉を遮ろうとはしなかった。
ただ、ありのままの今を受け入れよう、そう思っていた。
が。
「うぉあひゃひゃひゃひゃひゃ!」
「へ…………え、えと、なんで? なんで笑ってんの?」
「いや、今後ろから、あ、ちょ……そこはダメ……」
「何よ……何よその顔! だらしなく鼻の下のばしちゃって! 人が真剣になっているときにぃぃぃぃぃ!」
「ちがっ、ちがくって、お前じゃなくって今俺をくすぐってるやつが……まさか、神川か?」
すでに怒り顔の組子に開放されていた一男は、水面を見下ろした。
たしかに誰かがいる。水面でゆらめいていた人の姿がぼんやりと明らかになっていく。
一男がその人物が誰なのか確認する前に、水の中から人が飛び出してきた。
水しぶきがあがると同時に、沈んでいた人物の腕が一男の首に回る。
体全体を押しつけてほおずりなどしながら、浮いてきた女性が言う。
「一男! マイ・スウィート・ダーリン! ひどいぞ、プールに行くなら私も連れて行け!」
「く、倉子さん?」
「姉さん、なんで、ここに……?」
浮いてきたのは倉子だった。着ている水着は白のワンピースタイプ。
組子と比べるとだいぶ大きな胸は、水着の中にあってもその存在を主張していた。
組子にとって忌まわしき大きさを誇るそれは、今は一男の胸に当たっている。
「なんでここに倉子さんがいるんですか!」
「なにを言う。一男がどこかにでかけたから追いかけてきたまでだ。何が悪い」
「追いかけてきたって、俺、自転車で来たんですけど……あ」
「一緒に自転車で走っていたというのに、突然プールの方へ曲がるとは思わなかった。
おかげでここに来るまでに水着を新調しなくてはいけなくなったじゃないか」
「やっぱりそうか……」
一男がプールに向かっているとき、後ろから追いかけてきたロードバイク。乗っていたのは、倉子だったのだ。
倉子は妹の姿を認めると、一男に抱きついたまま声をかけた。
「おや、そこにいるのは組子じゃないか。今日は一男と遊びにきたのか?」
「え……? なにその反応」
「違うのか? たまたまここで会ったか?」
「……いいえ。私は、一男に誘われてここまできたのよ。いわゆるデート、ってやつね」
「そうか。まあ少しぐらいなら構わないさ。なんせ幼なじみだものな」
何の含みもない表情で倉子がそう言った。
組子は姉を挑発したつもりだった。見下ろすような口調で言ったつもりだった。
だというのに、倉子は対抗心をむき出しにしない。
以前であれば、なんだとどういうことだ一男、組子には一男は渡さん、と言うところだ。
それから考えると、今の姉の反応は異常そのものだった。
「姉さん、悪いものでも食べた? それとも……一男のこと、諦めた?」
「昼飯は食べていない。一男のことは諦めていない。なぜそんなことを聞く?」
「いや、だって……姉さんどこかおかしいよ」
「おかしい? うむ、確かに少し浮かれているかもな。なにせ、一男に愛の告白をされたのだから」
倉子はしれっとそう言った。
当然組子は姉の言っていることが理解できない。一男も同様だった。
「何言ってるの、姉さん」
「わからないか。一男、教えてやれ。私たちの心がすでに通じ合っている、ということを」
「いえ、あの……ええ?」
「好きだ、と言ってくれただろう。一男の家で、二人っきりの時に」
一男は柔らかなふくらみの感触を追いやって、思考を開始した。
思い出すのは昼、倉子が勝手に自宅にあがってカレーを作っていたときのこと。
あの時倉子は、一男のことを昔から気に入っていた、と言った。
だから嬉しさのあまり、俺も倉子さんのこと好きですよ、と言葉を返した。
しかし、愛の告白という意味で好きだと言ったわけではない。
姉として好きだ、と言ったつもりだった。
――だが、倉子にとっては「好き」の一言で十分だった。
そして、組子にとっては、一男が倉子に「好き」と言っただけで激昂するには十分だった。
「かぁずぅおぉ、おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「く、組子? なにその雄叫びは?」
「あんた、人を馬鹿にすんのもいいかげんにしなさいよ!」
「いや、あのな? 人の質問にはなるべく答えを返そうって――」
「成敗っ!」
一男の言葉など、組子は聞きはしない。問答無用だ。
その場で腕を振りかぶり、力任せのストレートを放つ。
標的はもちろん一男。
組子の腕が、一男の顔へ向けて一直線に伸びる。
――だが、その拳が一男の顎を打ち抜くことはなかった。
組子の拳は、倉子の手によって一男に当たる寸前で受け止められていた。
「な……ぁっ、姉さん……!」
「組子、悪いことは言わない。やめておけ」
「離してよっ! そいつっ……!」
「自分が選ばれなかったからといって、一男に八つ当たりするのはよくないな」
「なっ……」
「潔く身をひけ。私は実の妹であるお前と戦いたくない」
「ふん、ちょうどいいわ。ここで、姉さんも一緒にっ!」
「やってみるがいい! 一男を奪いたいのなら、私を倒すことだ!」
倉子の手が組子の拳を弾いた。
その隙に倉子は一男を後ろに追いやり、組子の前に立ちはだかる。
「一男、そこで見守っていてくれ――お前の妻の戦いぶりを」
言い終わった瞬間、組子の左フックが倉子へ襲いかかった。
倉子はそれをスウェーバックで躱す。だが少しばかり遅かったようで、鼻先を拳が掠めていた。
追い打ちをかけるようにして組子が打ち下ろしの一撃を放つ。
しかしフックを躱した勢いで倒れていた倉子は、水の中だった。
打ち下ろされる拳。弾かれ、水面から立ち上がる水柱。
一秒ほどの間。
次の瞬間、飛び散る水の中に――宙を飛ぶ組子の姿があった。
水面に叩きつけられ、組子は水の中へ沈み込んだ。
組子がなぜ宙を飛んだのか。それは、倉子が打ち下ろされた組子の腕を掴み放り投げたからだった。
組子が水の中から顔を出したことを確認して、倉子は言う。
「甘いぞ、打撃だけで格闘技を極められるとでも思っていたのか?
プールの中という足場の悪い状況では、力を拳に込めるのは難しいだろう」
「このっ、いつまでも馬鹿にしてっ……!」
「勝ちたいと思うのなら、努力しなければいけない。お前には努力が足りていないということだ」
「たった一回投げただけで、調子に乗るな!」
組子は離れた距離を走って近づこうとする。
だがここはプールの中。そのスピードは歩くのと変わらない。
のろのろと近づいていく組子。両手を広げ腕を上げた熊のようなポーズで待ちかまえる倉子。
一男は今、闘争心むき出しの2人をプールサイドにもたれるようにして見守っていた。
傍らには神川の姿がある。
「いいの? あの2人を放っておいて」
「まあ、いいんじゃないかな。2人が喧嘩したらいっつも引き分けだし。プールの中だから結構早く力尽きると思う」
「いや、そうじゃなくって。ほら」
神川が顎で指した先。そこには姉妹の戦いを迷惑そうな目で見つめる人々の姿があった。
「はっきり言って、邪魔だし迷惑だよね。喧嘩なんかされたら」
「たしかに。でも止めようがないしなあ……」
「何言ってんの? 吉村君が止めないとダメだよ。2人とも、吉村君を巡って喧嘩してるんだから」
「どうやって止めろと言うんだ、あの2人を」
倉子と組子の戦いはさらに激化していた。
組子は手数で攻め続け、倉子はそれをことごとく捌く。
組子の体が宙に浮いた、かと思ったら投げを仕掛けた倉子の腕を掴み空中で方向転換して水面に落ちる。
もはや半径5メートル以内に近づいたらとばっちりを受けそうな状況だ。
「簡単だよ。どっちが好きなのか、はっきり言うだけ。私としては友人のよしみで組ちゃんを推すけどね」
「いや、俺は……」
どっちが好きなわけでもないんだが。2人とも同じぐらい好きだし。
「どっちがいいか選べない? ……でも、いつ終わるかわからないんなら、一回声でもかけてみたら?」
「2人とも聞いちゃいないと思うんだが」
「ものは試しって言うでしょ。向かいのプールサイドの上に立って、見下ろしながら
『俺のために争うのはやめろ!』って言えばやめるかもよ?」
「俺はヒロインかよ。……仕方ないか。ダメもとで言ってみよう」
「不肖、この神川が介錯を務めさせていただきます」
神川の言葉には返答をせず、一男はプールから上がった。
そしてプールサイドをぐるりと一周して、水の中で器用にとっくみあいを続ける2人の前に立つ。
一番近い位置には倉子、倉子に向かい合うようにして組子がいる。
プールサイドに立ち、ため息を吐いた後で口を開く。
「あー……もしもし倉子さんに組子さんや」
「む……一男。もう少し待て。あと3分で片付けるから」
「一男……あんたの命、あと90秒よ。そこで今までの短い人生を思い出してなさい」
とてもじゃないが止められそうにない。この2匹の鬼をどうやって止めろというのだ。
神川は両手でメガホンを作って「頑張れー」などと言っている。協力してくれそうにない。
何か強力なインパクトが必要だ。それこそ誰の動きでも止めてしまいそうな何かが。
だが一男にはたいした特技がない。そして協力者は一人もいない。
どうすればいい――?
「あれ、お兄ちゃん?」
ふいにかけられた声に振り向くと、上目遣いで見上げてくる恵子の姿があった。
着ているのはスクール水着。中学校指定のものだろう。
「恵子、お前も来てたのか」
「うん。ちょっと友達と遊びに。ねえ、お姉ちゃん達なんで喧嘩してるの?」
「これには深い誤解というか単なる意識のすれ違いというか、そんなものがあってな。
きっかけはたいしたことじゃないんだ。すぐに治まる……はずだ」
「本当? 2人ともなんかすっごい怖い顔してるけど」
「いつもあんな顔してるだろ?」
「してないよ」
ちらり、と倉子と組子の顔をのぞき見る。自分で言ったことではあるけど、やはりいつもとは違うな、と思う。
「どうしたら止められるかな?」
「そうだな……恵子が『お姉ちゃん、やめて!』って言えばなんとかなると思うぞ」
「……それ、本当? 嘘じゃない?」
「おう」
「じゃあ、やってみよっと」
一男の言葉を信じて姉達の喧嘩を止めようとしてくれる恵子。
いい子だ。あんな姉たちに囲まれてどうしてこんなにいい子が育つんだろう。
「『お姉ちゃん、やめて!』でいいんだよね?」
「ああ、言ってやってくれ。争いは何も生まない、不毛なものだということを教えてやってくれ」
「うん。よーっし……」
倉子は一男の左、プールサイドに仁王立ちで立った。
次に、すうううう、と聞こえてきそうなほど深く息を吸い込んだ。
限界まで吸うために、背中をのけぞらせ――あろうことか後ろに倒れた。
「う、うわわわっ!」
まずい――! と言うより早く一男は動いた。
恵子が頭を打たないよう、左手をさしのべる。
左手で恵子の後頭部の重みを受け止める。しかし体には手が回っていなかった。
そしてそれこそが間違いだった。
後ろに倒れることをよしとしない恵子の本能は、勝手に腕を伸ばした。
溺れる者は藁をもつかむという感じで、手近にあった掴みやすいものを掴んだ。
掴みやすかったもの、それは――一男の履いていたトランクスタイプの水着だった。
一男は、ずるり、という効果音を聞くと同時、下半身が急に涼しくなり無防備になったのを感じた。
それはそうだろう。水着の下にもう一枚着込む人間はいない。
だから、今の一男は下半身――だけでなく全身が生まれたままの姿そのものになっていた。
「きゃうっ! 痛ったー、腰打っちゃった。ごめんね、お兄ちゃ――」
尻餅をついた恵子は、一男に詫びるために、視線を上げた。
その時恵子が見たものは、おそらく忘れられないものになるだろう。
「ぁ……け」
次の瞬間、絹を引き裂くような声を、一男は聞いた。
誰の発したものかはわからない。恵子かもしれないし、プールに来ていた人の誰かかもしれない。
一男はふと、倉子と組子のことが気にかかった。
自分の格好よりも先に2人のことが気になったのは、2人への思いゆえなのかもしれない。
一男がプールの方に目を向けたときには、既に倉子と組子は動きを止めていた。
2人ともが一つの方向を向いていた。――一男の下半身を見つめていた。
次に聞こえてきたのは、自分を罵る声。
――変態。たしかにそう言われた。
だがそれに落ち込むより早く、組子が動きを見せた。
呆然とした顔のまま、直立不動になっている姉の肩を掴み――水面から飛び上がった。
倉子が立っていた位置はプールサイドのすぐそば。
だから組子が浮いている場所は、一男のすぐ目の前。
このとき一男が見た組子の綺麗なふとももは、水に濡れて輝いていた。
――その見栄えのする足が自分の股間に突き刺さるのを、一男ははっきりと見た。
悲鳴があがった。
一男以外の、その場にいる男の全てが悲鳴をあげていたのだ。
皆が一様に前屈みになって、一男を見つめていた。
一男は見られて恥ずかしいとは思わなかった。
露出狂の気があるわけではない。痛みで羞恥を覚える暇さえなかったのだ。
一男は蹴りを受けて後ろに倒れず、手で股間を押さえてその場に膝を落とした。
痛みが内臓を侵食した。
痛みは脳から考える力を喪失させた。
痛みが全身から力を奪った。
一男の体が前へ倒れていく。
目の前にあるのは水面。波打っている様さえはっきりと見て取れた。
一男の体は水の中へ沈んでいった。
浮き上がるだけの力は一男には残されていない。
このまま、緩やかに溺れていくしか道は残されていない。
意識を失う寸前、一男は一つのことを思った。
そういえば、今日の朝は倉子さんに股間を蹴られたっけ。
俺の夏休みはこうやって過ぎていくんだな。あはははは…………。
そして、一男は水を飲み込んだ。
*****
翌日、一男は学校へ補習へ向かった。
痛みからは奇跡的に回復していた。
実を言うと、あの時は本当に危険な状態に陥るところだったらしい。
水を飲んでいたうえ、股間を全力で貫かれたのだから当然だろう。
それでも助かったのは生まれ持った強運のおかげだ。
たまたまプールに来ていた人間に応急処置の心得のある人がいたおかげで病院に担ぎ込まれずにすんだのだった。
一男は、同じクラスで補習している女子生徒へ目を向けた。
神川。昨日、一緒に町民プールへ行った女の子だ。
机に向かって課題をひたすらにこなす神川の横顔を、一男はじっと見つめた。
神川は一瞬だけ一男に目を向け、またすぐに目を逸らす、ということを繰り返していた。
その頬は、赤くなっているようにも見える。
「神川」
「…………なに、かな?」
「俺、昨日の記憶がないんだが」
「へ、へえ……そうなんだあ……」
もちろん記憶がないなど嘘だ。自分の身に起こったこと、受けた痛みのかけら、全て思い出せる。
ただ、客観的に確認したかったのだ。昨日起こったことが本当なのかどうかを。
「お前、変なものを見なかったか?」
「え! いっ、いやややや。なな、なーーんにも、見てないよ」
「本当か? ……小さかったか?」
「うーん……昔見たうちのお父さんのよりは大きかっ…………! え、え〜? なんの大きさのこと?
私なんにも見てないから、わかんないな。あははははははは」
「ふーん、そっか。見てないんだな」
「うん。何にも見てないよ。見てない見てない」
そう言うと、神川は再度課題へと取りかかった。
一男は窓の向こう、グラウンドへと目を向けた。
あそこでは、組子が走っているのだろうか。いや、走っているのだろう。
そのままずっと走り続けてくれ。できれば夏休みの間、ずっと。
お前を見ていると、俺の股間がうずくんだ。――正確には、痛みを思い出して疼くんだ。
あの痛みだけは、もう味わいたくない。
――誰かが恋人になってくれれば、この痛みを慰めてくれるのだろうか?
そんな人いるわけないよな、と思いつつ、一男は補習の課題へ取り組むのだった。
おしまい
終わりです。
あと、SS保管庫の管理人の阿修羅様へ。
「タイトルの姉妹夏休みネタ(仮)」を「三姉妹+1の夏休み」に変更願います。
リアルタイム投下GJ!!
>>8 嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ その38
ttp://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1187181758/l50 でもしつこく自己ルールを押し付けやがってうざいヤローだ
以下それに対する他者の反応↓
:名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 22:12:34 ID:ofC49GSW
上記は個人の脳内ルールなので作者さんは気にしないで下さい。
9 :名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 22:12:49 ID:De83o8NE
>>7 これは画期的なルールですねw
10 :名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 22:15:55 ID:TQLbTpO8
>>7 現在正式な決定は為されていないテンプレです。注意セヨ
11 :名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 22:17:33 ID:iR5WKfC8
そんな丁寧な言い方で…「SSで勝負出来ない阿呆の戯言」、これに尽きます。
少しは反省したらww まあ無理だろうがww
>>80 せっかく落ち着いて職人も帰ってきてるのに蒸し返すお前も同罪だ
おわっちゃったのかぁぁぁあぁぁ
gjですっ
このスレのウメネタもさりげなく期待してますw
テンプレ改竄は削除依頼通るよね?
しかし、姉、妹、幼馴染、の嫉妬はどうしてこんなに萌えるんだろうか
これが日本人の遺伝子に刻まれた萌え機能なのか?
>>86 幼馴染は分からんが、昔は近親相姦は普通だったらしいからな。その名残じゃない?
実際ド田舎とかは未だに近親婚があるらしいし…
マジかよ
忠臣蔵より存在する、不利な方を応援したくなる判官びいきの精神じゃないだろうか。
姉妹は元よりなぜかこのスレでは幼なじみも不利になる傾向にあるし、より切実で必死な方に日本人は肩入れしてしまうのかもしれん。
嫉妬萌えは日本特有の文化なのか?
(美少女が)(十)数年間、長い間想い続けてきた相手が、いきなり現れた泥棒猫(美少女)に奪われる様はゾクゾクしないか?一瞬にして長い間秘め続けた想いを否定されるのだから堪らない。
だからこそ一生懸命になるんだろう
俺が好きなシチューはなんだろ
長い間幼なじみで色々世話を焼いてた相手に急に義理の家族ができて(その家族の方は恋心は別に抱いてなくてもいいんだけども)結局幼なじみの邪魔をしてしまうってのがいいな
結構定番だがw
シチュー・・・?オイ、その鍋空だぞ・・・
あー携帯だからシチュと打とうとしたらシチューと先読みされた
というか空鍋ってネタがわからん…
>>94 >空鍋ってネタがわからん…
同じスレの住人として一言
君は大事なもの見落としている
とりあえずTSUTAYAに行くんだ
もうなんならニコニコでも構わん
一刻も早く空鍋を理解しろ
話はそれからだ
だんだんと自分の居場所を奪われていくところを考えるとなお良し。
(朝起こす、登下校、昼の弁当などなど・・・)
むなんだか急にプロットが沸いた
だが俺にSSつくれるか微妙だ
とりあえずがんばってはみるがw
ちなみに空鍋探してみるわ
むしろ、幼馴染の彼に恋人が出来て、いつも自分がしていたことを
泥棒猫の恋人に全て奪われてしまうシチュはどうよ
机の片隅で泥棒猫と主人公はイチャイチャお弁当を食べているのに
幼馴染ヒロインは主人公の恋人ができる前の日常通りに
お弁当を2個作ってくるという切なさ・・・・
そして、我慢して我慢して壊れてゆく幼馴染が
いいんだけどな
居場所奪われるって、
監禁されて、勝手にアパートや定期解約されてバイト辞めさせられた上に、二人で住んでるって言いふらされる
ってことかと思った
あー空鍋わかった
ストーリーは知ってたんだが地雷だと思って原作もアニメも手つけなかったんだよな
よくあるハーレム物みたいで…
惜しい事をした
俺が初めてしゃほーを知ったのは血塗れ楓が緑の生首を鍋で煮てる絵からだった……。
その後アニメを見ていつまでたっても首チョンパしないので少し残念だった。
だから今期の言葉の言動に禿しく期待している。
あと誰か緑生首の絵持ってないかい?
しゃほ〜じゃないけど、涼宮 ハルヒの憂鬱という作品の佐々木というキャラが鍋でカチューシャのついた何かを煮込み、
『(主人公の名前)、今日は君の大好きなものだよ』って言っている絵なら佐々木スレで見たことある。もしかしたら、同じ絵師さんかもしれない
ssスレでスレチなのはわかっているが言いたかった
おや、こんな所で佐々木スレ住人に会うとは奇遇。
誰か恋愛否定の理論派ボクッ子が寝取られてから自分の感情に気づいて、嫉妬に狂うSS書いてくれんかな。
佐々木スレって・・・倒産した奴?
スレ違いなんで自重しましょう^^
投下します。
+ + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + +
かつて、この列島において最大の勢力と謳われていた比良坂家。
四代目である祖父の代からその力を徐々に衰えさせながらも、未だ広大な支配域を保持している大
名家の長女として生まれ落ち、物心付く頃から、わたくしは大勢の人間を従えていました。
家来は勿論、他の男兄弟や、今では自らの父をも圧倒しかねない程に。
それがおかしいとは思わないません。何故なら、わたくしは無能な彼らよりも優れていたのだから
。
至極当然の事。強者が弱者の上に立つというのは、即ち世の理に他ならないのです。
「これ、夕重。じきにお前の婿殿が来ると言うのに、このような所で何をしておるのだ」
「兵法の学習ですわ、父上。刻限には間に合わせますので、こんなときにまで顔を出さないで下さい
な。集中の妨げになります」
わたくしが常の如く兵学に勤しんでいると、臆病で他人の機嫌取りだけは人一倍な父上が私室へや
って来て、よりにもよって今最も聞きたくない話をしてくる。
「お、おお、そうか、……その、すまなかったな」
……この面汚しめ。
今では祖父が残してくれた遺産を食い潰すだけの父を、睨みつけて追い返した。
縁談。このわたくしと、たかだか田舎に小さな城を幾つか持つだけで、全く見ず知らずな者との。
事情はわかっている。近年の比良坂は同盟を組んだ周囲の大名達による一斉攻撃を受け続け、急速
な弱体化を免れぬ状況にあるからだ。
それを食い止める手段としての、地方有力者との繋がり。全てはこの、身分に実力がまるで伴わぬ
愚か者らの失態を、有力な部外者を婿に迎え入れる事で補う為。
その手で自らの領土さえ守れないのであれば、いっそ不相応な名など捨ててしまえばよろしい。
当主に取って代わり、これまでのような中途半端な規模でなく、比良坂の全軍を正式に率いる。今
のわたくしの力を以ってすれば、同盟を頼りに人の庭を荒らす小賢しい連中など、端から始末してく
れるものを。
年功序列は同じ軌跡を辿る者達だけに有効であるべきであり、わたくしが敬う部分を何一つとして
持たない父上に従う家来達も、本来ならわたくしに仕えるのが正しい有り方だと言うのに。
「誰も彼も、まるでわかっていませんわ」
「日野久景と申します。此度はその方が長女、夕重殿と婚儀を交わし比良坂一門へ加わる為、約束の
松倉と、もののついででは御座いますが、津川を手土産に只今参上仕りました」
ざわざわ…
その言葉に、並んでいた者達から驚きの声が上がる。かく言うわたくしも、父上の横でそれの意味
する所に、しばし眉を顰めておりました。
「津川ですと…」
「一体どうやって…」
そのような呟きがあちこちから漏れ聞こえてくる程、久景という男の言葉は絶大な威力があった。
婿入りする一応の最低条件として比良坂家が与えたのが、男の持つ領地の傍で、我々比良坂へ向か
う道半ばにはだかっていた、松倉という大名の収める領地を手に入れる事。松倉はさほど兵を持たな
い弱小で、他の大名が揃ってこちらを攻撃しているのを幸いに、今まで生き延びてきた勢力であるの
だが。
「証拠は何かあるのですか」
わたくしが一言そう放つと、辺りは沈黙して、皆が男に注視する。
津川。松倉の近くに領土を持つ大名で、比良坂殲滅を目的とした周辺大名達の中、特に大きな兵力
を持ち得ている主勢力の一つ。
わたくしも自らの軍を率いて戦い、何度となく辛酸を舐めさせられた相手である。
勿論、当主である父上やわたくしのような一部の人間は、予め向こうからの文でその節を知らされ
ているが、確信を得ない事には鵜呑みになど出来ない。第一、松倉領は既に日野に対して降伏の構え
を見せているが、津川は最近動きを潜めているとはいえ、その旗は未だ上がったままである。ならば
、これをどうして疑うまいか。
この男がただの法螺吹きでなければ、その証明に値するものをここまで持って来た筈。
「もし特に考えもせず、かように下らぬ虚言をこの比良坂へ吐いたとあらば」
むしろ好都合。その首を落とし、婚儀を反故する理由として使わせて頂きましょう。
「確かに。言葉だけで信じろと申すのも、些か無理のある話」
「と、当主っ!」
男が深く頷いたとき、守衛の一人が襖を勢い良く開け入ってきた。顔には、動揺と驚愕の色を濃く
浮かべ、それが尋常な報せではない事を如実に表している。
「何事だ、このようなときに騒々しい」
「と、東北の陣にて相手取っていた持藤の後詰めとして、津川の軍勢が現れ…」
「なんだと!?」
比良坂が今、兵の三分の一を割いて矛を交えている東北領土。敵の持藤軍へ対し、数に頼ってどう
にか優位を保っていたそこへ、津川が。
俄に、室内の空気に緊張が走った。ここで主要拠点の一つを押さえかけている持藤まで退けられね
ば、我々の態勢は一気に不利へ傾いてしまう。
―――いや、それよりも!
「日野殿、おぬしの申した事はやはり偽りであったか! 狙いは何だ、これは津川らの差し金か!」
「お待ち下さい」
焦りで流石に激昂しかけた父上を、日野久景はあくまで冷静に対応する。まるで、万事予定通りの
展開と言わんばかりに。
「守衛殿の報告は、まだ終わってはいないようですよ」
頭を下げたまま背後を振り向きもせず、男は入って来た守衛へと続きを促した。この期に及んで何
を言うかと思えば、ほとほと呆れ……
「そ、その、津川の軍勢が、持藤の陣に到着するなり突然同士討ちを始めまして。じきに大将の津川
実直自ら同盟の脱退とわが軍への加勢を宣言し、現在正面と背後からの挟撃により持藤軍は総崩れ。
あちらの降参は、もう間もなくかと思われます…」
「「……………」」
立ち上がっていた者達は、話の成り行きに唖然となって、今度こそ完全に黙り込んだ。……後詰め
に来た筈の津川が、持藤を急襲?
「共にこちらへ赴くよう伝えただけなのですが、よもやそこまでしてくれるとは。思った通り、津川
殿は大分気の利く御仁でしたな」
「お、おぬしは一体……」
何者、と、続く声は紡がれるまでもなく理解し、共感出来る。
「さて、期せずして土産がもう一つばかり増える事に相成りましたが。そちらに関しては、別段不都
合などは御座いますまい」
ゆっくりと上げた精悍な面には、大胆不敵な強者特有の笑み。途端、男の身体からある種異様な迫
力が生まれた。
口調は丁寧な今までのものと変わりないが、こちらが日野久景の素顔である事は間違いない。
なんということ……。
戦慄を覚えました。こんな顔をする人間は、今日まで過ごした浅いながらも濃密な戦いの年月、そ
こで目にした武将達のいずれにも記憶にありません。
「比良坂家の盃を、ここに頂戴致しましょう」
日野改め、比良坂久景。
後に、列島の覇者と呼ばれる事になる夫との出会いでした。
+ + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + +
「久景様、只今お戻りになられました」
おお……
城中にどこからともなく、家臣達の感嘆の息が漏れる。我らが若殿のご帰還だ、と。
比良坂家へ久景が婿入りしてから一月半。得た権力で瞬く間に行動を開始したあの男は、戦、外交
、内政、策略と場所を選ばぬその活躍振りにより、周囲の敵対勢力を驚異的な速度で駆逐し、侵略さ
れた領土を次々に奪回していきました。
曰く、戦場で振るいし指揮は軍神の如く、敵将へ寝返りを囁くは化生の如し。
それらの事実が、わたくしには全く面白くありません。
「ふん…」
「あっ」
通りすがった小間使いの足を引っ掛ける。手に持っていた盆はあえなく床に落ちて、載せられた湯
呑みや急須、茶菓子が辺りに転がり、中身の緑茶も無残に撒かれた。
あの程度が何だと言うのですか。わたくしとて女などでなく、十分な地位と兵さえあれば敵を屠る
くらいわけは……。
憤る傍ら、頭の冷静な部分が訴えかける。あれの真似を完璧にする事は出来ないと。
ただ戦に強いだけではならない。一族内の有力者を始めとした、味方となる人物達との信頼関係を
作り足場を踏み固め、その上で任せられる部分は他へ回して苦労と手柄を譲る。
それに平行するように、筆頭大名であった津川の影響力を足掛かりとした、隣接する大名達の積極
的な勧誘。有力者との繋がりと自らの弁舌を頼りに、時間と兵力の消耗を最低限に抑え、幾つかの敵
勢力を協力、あるいは静観態勢にまで持って行き事実上の無力化を図った。
従わない者はその見せしめと言わんばかりに、反則めいた統率力を誇る軍勢を率いて容赦なく攻撃
。男が指揮を執る軍の圧倒的な打撃力を前にして、最初に挑みかかった大名達は、その首を槍の穂先
に飾る事となった。そうした脅威は他方へも伝わり、結果として交渉の成功する率もまた上がる。
それぞれの行動が無駄なく他と連動し、一石投じて二鳥どころか三鳥四鳥と落としていく。まさに
神業とも言えるその手錬手管と、利あらば危険な綱すら躊躇わず渡る度胸。
非を唱えさせない勝利と成功を積み上げ続ける、あまりに強者然とした姿。
今の自分には、あそこまで鮮やかな指導者を演じる事はどうやっても不可能。頭ではそれぐらい理
解している。
「どうしました、早く拾い集めて床を拭きなさいな」
「そ、そんな」
しかし、それを認めるのは、これまで己こそが頂点に立つ人間と信じてきた自尊心が許さない。故
に、わたくしはやり場の無い苛立ちを家来達へとぶつけました。
いつもよりも理不尽な要求を出し、突っ返す。自分より劣った者を虐げる、束の間の気晴らし。
「話には耳にしていたが、これは確かに行き過ぎだな」
「っ!」
ふと、背後からあの忌まわしい声が聞こえてくる。こんな所にまで……!
「ここに居たか、ユエ。…全く、溢れ返った敵の撃退といい、この家の者は入り婿に対する酷使をま
るで厭わんと見える」
「若旦那様っ!」
「その入り婿風情が、わたくしに一体どのような用向きでございましょう」
取り縋る給仕の女に、久景は後は任せておけ、とだけ伝える。さも、わたくしが厄介者であるかの
ように。
「何、聞けば我が家には横暴で癇癪持ちの姫が居ると言う。それが自分の妻と来れば、いかに今が忙
しいとて黙認するわけにもいくまい」
偏にこれも夫の務めと言うもの、と、嘆息交じりに口にした。その刹那、わたくしの怒りは一気に
沸点を迎え、眼前の男に対して爆発する。
「わたくしを前にしてその様な無礼な態度……! わたくしは、貴方の様な不届き者の妻になるつも
りなどチリほどもございませんわっ!」
「既に一門入りは果たした。今更お前の意思などどうでも良いが、叱り役が他に居ないとあらば、私
の邪魔にならない程度に、ここできつく言い聞かせてやらねばならん。
……その年で戦術指揮に秀でながら、一対一の腕比べも得意らしいじゃないか。丁度良い、不満が
あるなら私が直接相手をしてやろう」
一面畳の敷き詰められた、城内の道場。
比良坂家に代々受け継がれてきた柔術の極意を実践し学ぶ場に、道着を纏った二人の人間が相対し
ていた。
互いに得物は持たず、徒手空拳での試合である。わたくしにとって有利な条件を言い出したのは、
この男の方だった。
愚かな。女子と侮り、このわたくしに素手の決闘を申し込むだなんて。
「後で文句を言われては敵わん。生憎と行儀の良い試合とは無縁だった故に、武器以外のあらゆる方
法を用いて、一方を地に伏せた時点で勝負ありとさせてもらうが」
「構いませんわ、……すぐに、這い蹲らせて差し上げます!」
言うなり、即座に間合いを詰めて先制。立ち合いの居ない私闘において、挨拶など持っての他。
が、あちらもそれは予測していたのか、素早く身をかわし再び距離を取る。軽やかな足捌きを見る
に、どうやら何らかの武芸を嗜んでいるようだ。
「ふん。ただの粋がる小娘とばかり思っていたが、戦いの本質は心得ているようだな」
「軽口を!」
憤怒し久景の道着を掴もうと追い掛けるも、二度三度と軸をずらす予測の付かない動きに惑わされ
、上手く壁際へと詰める事が出来ない。
付かず離れずの間合いを保ち、決して接近を許さぬ見えざる守り。
「せっ…!」
これまで数多の相手を投げ飛ばしてきた自身の両腕が、指が、ひたすら空を掴む。
都合七度目となる空振りに、半ば未知の恐怖が湧き上がる。まるで寄せては返す波の様に、どれだ
け手を伸ばしても、あの男の襟と袖に届く気がしないのだ。
わたくしとて、柔術では一門でも有数の使い手。いくら不可思議な歩法を持っているとは言え、そ
れだけでここまで捕らえるのに難儀するなど……
「息が乱れてきているぞ、埒が明かなくて焦り始めたか」
「……っ!?」
三、四歩離れた位置に立つ男が、目を閉じたままそう嘯く。まさか、そんな……。
「わたくしの、呼吸を読んで…」
「柔を以って武を制すには、今のお前は冷静さが足りん。
…正直、私に柔術の呼吸法を教えてくれた親父殿の方が、余程手強かったぞ」
「なっ……」
その言葉に愕然となる。脈が上がり、怒りによる身体の震えが収まらない。
わたくしが、あの無能な父上に……?
小馬鹿にするように、したり顔で久景が片手をこちらへ伸ばした。
「聞こえなかったなら、もう一度言ってやろうか」
「……黙りなさい」
「良く耳に入れておけ、家族から甘やかされているのにも気付かぬ身の程知らずめ。お前の実力はま
だまだ無能と謗った親父殿にも遠く及ばんぞ」
「黙れと言っているでしょうっ!!」
一瞬でその手首を掴み、渾身の力で引き寄せて重心を崩しに掛かり。
「………ぇ」
ぐりん、と。
巻き込まれた久景の腕だけが、通常では有り得ない角度へ曲がった。その間、当の本人はこちらの
留守になった足首へ絶妙の払いを入れ―――
ドシィィン
道場内に響いたのは、呆気に取られた表情のわたくしが、畳へ面白い程に綺麗な尻餅を付いた音。
しかし、心身の反応がそれらの事実にしばらく追いつかない。何が起きたのか、理解する事も信じ
る事も出来なかった。
負けた? この、わたくしが……。
「私の勝ちだな、ユエ」
「ぁ、え………?」
見上げた先には、肩肘の伸び切った片腕を垂らし、無表情に呟く男。化け物じみたその立ち居姿を
目にして、初めて極限の緊張が走る。
「ひぃ……!?」
慌てふためき逃げようとするも、恐ろしさと衝撃から腰が抜けて足が動かない。その為、無様に両
手を這いずりながら、間近に迫った脅威から距離を取ろうとするが。
ぐい…
それさえも、袴を踏みつける片足によって阻まれた。
「逃げるなよ」
果たして、今起きているのはどのような奇術の類か。久景は垂れ下がった腕の関節を、もう片方の
手を器用に使って、所々鈍い音を立てながら嵌めていく。
「慣れているとは言え、相変わらずそれなりに痛いな。これは」
見る間に元通りの形を取り戻した腕を振るい、軽く苦笑する顔。…あの瞬間、こちらの投げ掴みに
合わせ、この男は自らの関節を、自然に素早く外したのだという事を把握した。
妖怪。そんな二文字が即座に思い浮かび、いかにも板に付いたその響きに総身が粟立つ。
「さて、やり過ぎた娘に仕置きと行こう」
「ぅあっ……!」
ゆらりゆらりとにじり寄るそれから反射的に後退りしようとするが、力の抜けた身体と袴を依然押
さえ付けられているのとで、がくがくと震える事しか出来ない。
そうして抵抗らしい抵抗もろくに叶わないまま、久景に抱きかかえられたわたくしは、世間で言う
所のお尻叩きの態勢を取らされ―――
そこから先は、羞恥と屈辱に満ちた時間が待っていました。
「お前が一体ここの者にどれだけの事をしてやれる! 偉そうに威張り散らす暇があれば家来に愛想
の一つも振りまいて見せろ!」
「痛い痛いいたいっ、いたーい! たすけて、だれか、だれかーーー!!」
「戯けがっ、今のお前に痛みを訴える資格など無い! これが今までのお前の家来達に対する態度、
その総決算だと思え!」
「いやっ、いたいの! いたい、やだ、やだぁぁぁ!! ……ひっく、いく、いたいよぅ…っ、だれ
か…たすけてよぉ……あ、あやまるから…おねがい、だから……っ、おしりぶたないで……ぁぁぁ」
「謝ると言ったな、ならばこの場で迷惑を掛けた全ての人間に謝ってみろ! どうした、早くしろ!
! 相手が多すぎて忘れてしまったか!? 小便を漏らす前にする事があるだろう鈍間が!!」
「あひぃぃっ!! ぁ、ぁあやまります、…しますっ! ごめんなざいちちうえ、あにうぁぁっ!!
わかりまじだ、すみまぜんちちうえさま、かあさま、かねしげあにうえさま、さねもりあにうえさ
ま、たいしろう、じいや、ばあや、けらいのみんな……ぁ、ぎぃっっ!!?」
「どうした! お前の夫で、今最も迷惑を被っている者の名がまだ出ていないぞ!! 今日まで私が
何人にこんな下らん事を頼まれたと思っている!? お前が先程挙げた全ての者からだ、わかるか!
? そのお蔭でここでの行動がどれだけ滞ったか、それがわかったならとっとと誠意を込めて謝れ、
このじゃじゃ馬め!!!」
「あがっ、あぁぁぁ! ぁぁーーー! ぁぁぁあ!! ごめん、なさ、……ごべんなざい、びざがげ
ざまぁ、ぁぁぁぁ! おじりがっ、いたいよぉぉぉおうあああああん!!」
「ふざけるな!! 何だ今の謝罪は、もっと腹から声を出してはっきり名を言え! 泣けば許される
とだろうと思っているな? この大馬鹿者め、そんな余裕があるなら気合を入れて謝れ!! たかだ
か数度戦を遠目に眺めていただけの小娘如きが、私を舐めているのか!!!」
「ひぃぃぃっっ! ごべ、…ぐずっ、ごめんなさい!! ひさかげ、だんなさま、旦那様っ!!
ごめんなさい! ごめんなさい! もうしません、ゆるしてください!! いた、ぶたな、ぶたない
でぇ……!!」
パシィン、パシィン、パァン…パァンパァンパァァン! スパァァァン!!
人気の無い道場に延々響き渡っていた、怒号と絶叫に、お尻へ平手を打ち付ける強烈な音。
体感的に終わりを感じさせない仕打ちは、わたくしの自尊心を、精神を覆う防壁ごと粉々に崩壊し
てしまいました。
後に残されたのは、すっかり幼児退行して、男の膝の上で丸くなっている娘が一人。
「ぅ……ひく、だんなさま、ごめんなさぁい…」
「いや、まあその、………分かれば良い」
頭上から聞こえた声は、微妙に困っていた様な気がしたけれど、今のわたくしがそれを察するのも
無理な話。許しを得られて安心するのが精一杯です。
一つ小さな咳払いをしてから、彼はゆっくりと、子供に言って聞かせる風に語り出した。
「ここの親父殿や兄上殿を始めとする将は皆、戦を勝利に導く武官ではなく、領土での内政を整える
文官寄りの人間だ。初陣を終えて帰った後、本人からもしきりに頭を下げられたよ、力及ばず申し訳
無いとな。周りでどこも戦火が上っている現在の状況では、その穏やかな性質が裏目と出るのも致し
方有るまい。
……たった一人で頑張り続け、お前もさぞ悔しい思いをしてきた事だろう」
権威でもなく、自分の下に付く多くの兵などでもなく。
「なあユエよ。私が訪れるまでの間、ご苦労だったな」
わたくしがずっと欲しがっていたのは、そんな言葉だったのかもしれません。
ああ……ぁぁ。
その身に漂う、先程までと打って変わった優しい雰囲気。そっと撫でられた頭から、感じた事の無
い温かさが全身に染み渡り、気が付くと渇いた筈の目元には再び涙が浮かんでいた。
「うっ、ぅぅぅ、ぅぅ……!」
「よしよし」
胸の奥底に沈殿していた重たい何かが、彼に頭を撫でられる度、優しい声を囁かれる度、一つずつ
綺麗に消え去っていくのがわかります。
ありがとう、…ありがとう。……わかってくれて、ありがとう。
口にしたくとも、出てくるのは意味を成さない、みっともない泣き声。
嬉しかった。荒み、ささくれ立っていた心に、その言葉はあまりに温かかった。
「うぁ、…わああぁぁぁぁぁぁぁああん! あああああああ、あぁぁぁああ!!」
零れていた嗚咽は、いつしか慟哭へ。
男にあやされながら、そのまま疲れて眠ってしまうまで、わたくしは赤子の様に大声で泣き続けて
いました。
119 :
名無しさん@ピンキー:2007/08/18(土) 00:24:43 ID:brYL1PxL
草イラネ
自分がうざがられてるのわかってるのか?
あーあこれでまた荒れるな
投下終了です、今回はユエ視点。サンドロさん、子供相手に大人気無いです。
今回もややこしい設定や単語がちらほらと見えますが、本作は資料などをきちんと
用意、勉強した上での所謂本格派ではなく、100%作者の適当なイメージで書かれた
「なんちゃって戦記物」ですので、正しさや詳細さを追求されると厳しい部分が多くあります。
今更な説明になりますが、読まれる際はどうかその辺りを了解の上でお願い申し上げます。
な、なんという依存量産装置。この主人公は間違いなく畳の上では死ねない。
122 :
名無しさん@ピンキー:2007/08/18(土) 00:26:59 ID:t4Tl7mcI
GJ
草キタァー(゜∀゜)ーー!!!!キタァー(゜∀゜)ーー!!!!
GJ
これ以上の言葉は出ない
んーなんとも読ませる文章がうまい。gjデスっ
whichとか小恋とか転帰の更新こないかなー
GJ!!
GJ
自分のサドッ気に気が付きました
>>120乙&GJ!
この主人公は女も男も取り扱うのが上手いな。
修羅場になっても機転一つで丸く収めちゃいそうだ。
>>120 素直にGJと言わせて頂きます。
こういう飴と鞭を使い分けられるサンドロの技量に感服。
次は恐らく本編だと思うのでwktkしてます!
GJ!
ハエがこれからうざくなるだろうけど頑張ってください
まぁ、有名税というやつですよ
ハエは貴方が弱気な部分を見せたら容赦なくたかるだろうので注意してください
もう内容なんてどうでもいいから早く終わってほしいな、草。
こ、これはGJと言わざるを得ない
ビューティフォー!
ああ、SSで勝負出来ないチキンがまた来たか。
気持ちはわかるけどあんまし煽りもイクナイヨ
>>134 SSってさあ、誰かと勝ち負け争うもんなの?
いっそのこと、住民みんなで読んでる作品に点数つけるか!
ビリは打ち切り、連載終了。
雪桜の舞う時に 70点
七戦姫 65点
草 0点
草
作
者
死
亡
ま
だ
?
GJよ!
なんかサンドロさん、柔術も覚えたし、あの歩法とかあちこちで無数の技術取り込んできてそうだが
閨事の特殊技術とかもどこかで習得してたりするかなv
つか久景の名を手に入れるまでの人生も波乱万丈っぽいv
しかしサンドロにとって厄介な暴走できるだけの始めての女がユエだっただけで
これ以前にも行き過ぎなぐらい依存させちゃった奴いるんじゃなかろうかv
しかし前スレでID固定で暴れた後、また単発に戻って煽り……
中の人が一人ってとっくに(ry
>>139 何「v」とかつけてんの?きめえええええええええええええええええええええええええええええ
作者がゴミなら読者もクズだな。
ID:aWwMYd6V
なるほど、また一時的に固定のID使ってそれっぽく見せようとしてるのか
私の素晴らしい作品に文句を言う奴はみんな自作自演だ!
投下間隔が早い?馬鹿な、みんな私の作品が早く読めて喜んでいる! by草作者
>>110 .>それがおかしいとは思わないません。何故なら、わたくしは無能な彼らよりも優れていたのだから。
>至極当然の事。強者が弱者の上に立つというのは、即ち世の理に他ならないのです。
思わないません(笑)日本語で喋れ(笑)そんな言葉遣いで他人を無能呼ばわりするな(笑)
もういい加減にしろよ
夏だからなのかなんなのか知らないが暴れすぎだろ
草が嫌いだろうと作者が嫌いだろうとスルーすればいいはなしだろw
しかもそのくらい打ち間違い誰にだってあるだろうが…
それともそれくらいもスルーできずに空気嫁ないほどの子供か?
145 :
名無しさん@ピンキー:2007/08/18(土) 03:51:21 ID:USFIm/p1
>>138 インターネットだからといって、こういうこと書き込むなよ
まあ何はともあれ今回もこうやって普通に荒らしてきたことで、24時間云々というのが
ただ単にその場で理由としてでっち上げた脳内俺ルールだったってのが証明されたな。
↓結論は出たことだし、これ以降の荒らしの意味無し書き込みは皆スルーで。
訂正
>「ふざけるな!! 何だ今の謝罪は、もっと腹から声を出してはっきり名を言え! 泣けば許される
>とだろうと思っているな? この大馬鹿者め、そんな余裕があるなら気合を入れて謝れ!! たかだ
「とだろうと」の部分を「だろうと」に修正お願します。
それと
>>143でも挙げられた「思わないません」の部分も「思いません」で。
確認が遅れてすみません。よろしくお願します。
しかしゴッ○ーを彷彿させるぜ
サンドロはまともな死に方できないと思います!
一人何度もID変えては必死に粘着してるオナニーさんがいらっしゃいますね
>>78 三姉妹+1の夏休み、楽しみにしてたのに終わってしまったとは・・・(´・ω・`)
次回作、楽しみに待ってます。半裸で。
夏だなぁ……。
>>153 昨日半裸で寝てた俺からの忠告
半裸は止めておけ。マジで体調壊すぞ
>>78 GJ&お疲れさまー!あのペースで作品投下は大変だったと思うので感謝してます
また、ネタが浮かんだら、是非新作などを書いてくれると嬉しいっす|ω・`)
>>153 こういうときは半裸より全裸の方がオススメ
朝起きると何故か全裸で体がダルい+姉の顔がツヤツヤ
のコンボは個人的にツボ
どうしようか・・・昨日考えたプロットでSSをはじめてつくってみたんだが不安だ・・・・
投下しようか迷う・・・・
誘い受けならいりません
投下したいなら胸を張って投下なさい!!
批評は怖いが投下してみようとおもった
>161ありがとう
“こんなはずじゃなかった…”
いつもゆーくんは優しくて、ちょっと鈍感だけれども、それでも私のとなりにいつもいてくれた…
“なのにあの親子が…あいつらがゆーくんちに来たときからそれが変わってしまった…!”
ううん、本当はあいつらとか呼ぶのもいやだ
ゆーくんのお世話をするのは私なのに、
ゆーくんの隣にいるのは私なのに、
ゆーくんの笑顔をもらうのは私だったのに…
小さいころゆーくんは母親をなくしてしまった。
なんで死んでしまったのかは忘れたけれども
それからゆーくんのお父さんは人が変わったように仕事人間になり、家に寄りつかなくなった
それからのゆーくんは見るのも辛いほどに落ち込んでて、話しかけても私なんて気にかけてなくて、小さいころからゆーくんが好きだった私にはそれが辛かった…
だから私はお母さんに頼み込んでゆーくんをうちに呼ぶようになった
ゆーくんができるだけ元気を取り戻すように、ゆーくんがちゃんとご飯を食べれるように、そしてゆーくんがちゃんと私を見てくれるように…
ゆーくんのためにご飯を作りたかったから料理も覚えた
そしてある日ゆーくんは私に笑いかけてくれた
「おいしいよ」
たったそれだけで私の今までの思いが報われた気がした
そしてますます私はゆーくんのお世話を焼くようになった
だんだんと元気になったゆーくんは優しくて私の事をいつも気にかけてくれる私だけのゆーくんだった
みんなに優しいけれども私だけは特別に優しくしてくれるような気がした
そう私だけのゆーくんだったのに…
あの日奴らがあの牝狐たちがゆーくんの家に来てからゆーくんは変わってしまった
違う。変わったんじゃない
牝狐達がゆーくんを拘束するようになったのだ
ゆーくんは優しいから嫌とは言えないだろう
今までゆーくんの事をほおっておいたのに、なんでいまさら再婚してゆーくんと同居させるのよ
ゆーくんのお父さんは本当気がきかない
ゆーくんがあれだけ助けを必要としてた時にはいなかったのに、必要なくなった今になって牝狐達を家にいれるんだもの
あの二匹の牝狐の次にやってしまいたい
本当空気が読めないおじさんは嫌だ
ゆーくんには私がいて、私にはゆーくんがいる
ただこれだけでよかったのに
窓の外に目を向ければゆーくんちのリビングのあたりの明かりがついている
母狐がゆーくんとご飯を取りたがるものだからゆーくんは夕飯に来なくなってしまった
朝食も作らなくてもよくなってしまった
学校にいくときも娘の方が二人きりの時間を邪魔をする
しかもこの娘の方は空気が読めない
あの中年と一緒で空気が読めないのだ
普段は会話に参加せずゆーくんを心配させているのにいい雰囲気になってるときに邪魔をするんだ
お昼もお弁当を作らなくてもよくなってしまったし、友達が少ないとかなんとかで牝狐もやってくる
私だけのゆーくんをあいつらは奪っていこうとしてる
ねぇゆーくん。
私はどうしたらいいのかな
どうすれば振り向いてもらえるの?
私が今までやってきたのはなんだったの?
ゆーくんのためにできることが私には段々となくなってくるよ
ゆーくんは私を見捨てちゃうのかな?
私は、わたしは、ワタシはあれだけゆーくんのためにやってきたのに、
ねぇゆーくん助けてたよ
心臓が押しつぶされそうで血がどくどくいってるのに、頭のなかは真っ白だよ…
気分がワルいよ…
ねぇゆーくん…
投下終了
うんなんか初めてだからすまないw
ダメだと思ったらスルーしてくれ
GJ
まあ、慣れれば良くなると思うんだが、
一人称だと、どうしても状況説明がしづらい(気を抜くと説明調になってしまう)から、
もっと具体的な事例えば、昼休みの風景を細かく描写するとかしたらどうかな?
上手くアドバイス出来なくてすまん。
単発の投下だとフーンですんでしまうが、
話のプロローグとしてなら非常にGJだと思う。
というわけで、続きカモン。半裸で待つとしよう。
ラブコンがやべぇwwwwww
>>166 GJ!
期待してます。ただ、タイトルの横の数字が気になった。
>>166 初めてのわりにはうまいじゃない
次もせいぜい頑張りなさいね
でもちょっと誉められたからって調子乗らないでね!
投下します
<一>
王都の中で一日に死ぬ人間はそう少ないものではない。
餓死から始まり、病死、凍死、あるいは事故死、そして変死。それらを集めれば、一日で百を越えることもある。
勿論、疫病などが流行ればその限りではないが、平常の数はやはり百かその程度である。
右庵が王都における一日の死者の数について正確なことを知ったのは、千里耳の元に通うようになってからである。
当初千里耳のことについて懐疑的だった右庵が、彼女が本当に都のことについて知り尽くしている、と思い知らされたのも、その数を教えられたからであった。
千里耳から、都の諸事が記載された書を渡された後、右庵は死者の数と、それらの死についてのある程度の概要を知らせるため、まず最初に詰め所に向かう。
それが右庵の日課であった。
何処其処で誰彼が死んだ。
右庵は、他人に比べ、そのことある程度詳しく知ることができる。
だが、右庵にとってそれは特別なことではなかった。
彼は、他人の死などどうでもいいことであった。
また、それは都に住む大多数の他の人間も同じである、とも考えていたのである。
「…これを」
「確かに受取った。
と、ああ、木下殿はこれから見回りか?」
「はい」
「気をつけてな」
「…は」
都廻の詰め所で書を渡してから、右庵は都中の見回りを始めた。
千里耳の情報があるということもあり、見回りをすべきところは、鈍重であるという自覚がある右庵にすら、ある程度見当がついた。
これでも、右庵は夜回りとしては三年ほどの経験がある。
ゆえに、都中の見回りにも慣れている。しかし、弊害が無い、と言えば嘘であった。
「…」
「どうした右庵。
そんなしかめ面をして」
その弊害が、右庵の視線の先にいる騎士姿の女だった。
右庵が詰め所を出て最初に向かった、店の連なる通りにいたのは千里耳だった。
千里耳は、どこをどうやってかは知らないが、何故かいつも、右庵の見回る場所にいた。
確か私は書を書いていただくよう言ったはずですが、と言おうとして、右庵はその言葉を口の中に押し込めた。
これもまた平常のことなのである。
話を聞くまでもなく、すでに千里耳は己のやるべきことは終わらせてしまっているのだろう。
「ここら辺りは夜盗のよく出る場所だったな。
わざわざこのような場所に来ても夜盗と出くわすはずがないと思うのだが」
女がその顔に浮かべたのは、嫌味な言葉とは裏腹の人の良い笑みだった。
千里耳は、先ほどの長屋で出会ったときとは全く違う服装である。
豊かな胸を晒しに押し込め、着ているのは袴と羽織。
その容姿は、肩の辺りで毛先が揃えられているという、少々風変わりな髪形をした、華奢な体格の騎士にしか見えない。
とても、先ほどまで酒を呑み、あられもない格好をしていた女とは思えない。
いや、右庵以外の者には女とすら気づかせぬほどの変装であった。
千里耳は、いつもこのような格好をして右庵と共に見回りをする。
何故かは知らない。前任者も、こういった経験は無いようで、粗相の無いように、という型どおりの意見しかもらえなかった。
だから、文句も言わず、元より言えるはずもなく、右庵は千里耳のさせたいようにさせていた。
「…啓蒙というものです。
千里耳様も都廻のやり方はご存知でしょう」
「効果があるとは思えんがな」
からかうような千里耳の言葉に再び口を結び、右庵は商家の門を叩くのであった。
<二>
「…」
「ほれ、どうした。
ここの酒代は私が持つといっているだろう。飲まんか」
男が観念したのは、騎士姿の女が口許に笑みを浮かべつつそう言った時だった。
右庵と千里耳は、いくつかの商家と長屋を回り、店主や家主と話をした後、都の南西を一通り見回った。
その後、右庵と千里耳はある飯屋に来ていた。
彼らの見回りが終わった時点ですでに、夜半を一時(二時間)は過ぎていた。
今は、すでに明け方が近くなっている刻限であろう。
「しけた面をするものだ」
決して不味くはない酒を不承不承飲み始めた右庵に、千里耳は笑みを向ける。
右庵には、それがまるで面白がっているように見えた。
飯屋は狭く、人もいない。
右庵には、それが自分たちのせいのように思えて仕方がなかった。
“都には いらぬものが三つあり 騎士に狸に 稼がぬ夫”
騎士は都の嫌われ者である。
特権階級である、というだけで嫌われる十分な原因であろう。
王から土地を授かり、仕事をしないでも米を食うことができる。
騎士のほうにも民に対して優れているという意識がある。
ひいては、民を切り捨てることすらも彼らの権利に数えているとあらば、騎士が民に好かれる道理はない。
例外的に、時たま民に持ち上げられる騎士もいる。
二代前の都廻の長、小丘飛後守(こおかひごのかみ)などは、話もわかる、粋も知った騎士だと評判であった。
とはいえ、右庵には自分が民に好かれているなどと考えることはできなかった。
「しかし、この店は空いているな、主人。
いつもこうなのか?」
「ははは、そんなことはございやせん。
夜に賑わうのは、女茶屋や郭の近くの屋台ぐらいなもんでしょう。
あっしの飯屋は味で勝負してるんで、昼は客でごった返しで大忙しでさ」
かか、と笑いながら言った馴染みの主人の言葉も、本当かどうかはわからない。
心の中で、騎士に対する反感を膨らませているかもしれぬのだ。
そういった人間を、右庵は都廻の初めの二年で散々見てきた。
「しかし、いい呑みっぷりだねえ」
「そう、こやつは酒を呑む量だけは人後に落ちんのだ。
全く酔わぬから酒を呑ましてもつまらぬのだが」
「そりゃあいけねえ。
酔わない酒ってのは飛べねえ豚くれえに意味がないもんですぜ」
「飛べない豚?何だそれは」
「いや、最近やってる浄瑠璃であったんでさ。
とある青年の話なんですがね…」
「ちょ、ちょいと蜂さん!!大変だよ!!」
聞きなれぬ声が聞こえたのは、飯屋の主人が流行りの浄瑠璃について語ろうとした矢先だった。
「な、なんだい?」
「いや、橋の向こうの…とにかく、来ておくれよ!
人が一人でも必要なんだ!!」
一体何が、と右庵が思う前に、飯屋に駆け込んだ女と右庵の目が合った。
「あ、あなた様、都廻の騎士様かい!?」
「…そうですが」
「聞いておくれよ、流れ者が、火をつけていきやがった!!」
機転が利く女だったのであろう。
右庵が都廻であると知るや、女は素早くそう言い切った。
「…千里耳様」
「放火か。火付改めにでもまかせておけ」
「そうは参りません…少なくとも、消火は私どもの仕事でもございます」
「やれやれ」
先だって右庵が席を立ち、暖簾をくぐる。
飯屋の中も薄暗かったが、外は尚暗い。
しかし、完全な闇ではなかった。
光が西にあり、人の騒ぐ声も聞こえた。
「この先か…」
と、右庵が呟き走ろうとすると、後から通りに出た千里耳が声をかけた。
「待て、右庵!」
「…は」
「火をつけたのは千十太の長屋、その一室に居候していたやくざものだな?」
「は?」
「はい!?」
千里耳の唐突な言葉に、火付けの知らせをした女が素っ頓狂な声をあげる。
しかし、千里耳は落ち着いた様子で、右庵に指示を下す。
「長脇差を持った髭面の禿げた男だ。見ればわかる。追え。
名は研呉郎、無宿の流れ者だ」
「…それは、放火を行った男ですか?」
「そうだ」
「は。それと…」
「わかっている。飯と酒代は踏み倒したりはせん。
火がついている人家を放ってどこかへ逃げることもな」
「…は」
右庵が頷くと同時。小火の光りがあるのとは正逆、闇に包まれた通りの先で、獣が鳴いた。
右庵がその獣の鳴いた方角を見据えるのと、ありゃ、と火付を告げた女が首を傾げるのはほぼ同時だった。
「…あれ?騎士様、私研呉の糞野郎のこと、言ったっけね?」
「気にするな。奴が研吾郎とやらを追う。
代わりに私が火消しの指示をとる。案内せよ」
「そ、そうだ早くしないと!!
蜂さん、ほら、アンタも来とくれって!」
後方でそんな会話を聞く。
寅の刻限が過ぎた頃。高い獣声に向かって、右庵は走り出した。
<三>
「…」
自分が追うべき者はすでに袋小路に追い詰めた。
少量とはいえ酒を飲んだにもかかわらず、それでも十分過ぎるほどに走ることができた自分の体に感謝し、右庵は立ち止まった。
足には自身はあったが、旅を続けてきたような男に勝てるかどうかは彼自身にもわからないことであった。
しかし、どうやら元より地の利のある己が有利だったようだ、と右庵は心の中で思った。
「騎士がなんの用じゃぁ!!ワシが何をしたぁ!!」
明け方になると、必ず厄介ごとに巻き込まれる。
そう右庵が気づいたのは、千里耳について一ヶ月たった頃だったろうか。
何故、と考えて行き当たったのは千里耳のことだった。
都の全てを知っている千里耳ならば、事件が起こるべき場所に自分を連れてゆくのも造作もないことだろう。
しかし、問うた右庵に返ってきたのは、千里耳の呆れたような言葉だった。
―――見回る場所を決めているのはお前自身であろう。
―――それならば、事件に巻き込まれるのはお前のせいではないか?
「密告があった。放火を働いたな」
右庵の抑揚の無い声が闇に通る。
先ほど大声のせいだろう。すでに、幾人かの人間がこちらの路地を覗き込んでいる気配が右庵にも感じられた。
右庵には思い当たらないことであったが、おそらくここで罪人を獲り逃せば、都廻の評判は落ち、下手を打てば他の町人にも被害がでることは明らかであった。
「何でワシが放火したことになる!!」
支離滅裂にわめいた男は、追い詰められたから自棄になった、というわけではなさそうだった。
むしろ、大声を以って隙を作ろうとしている、と右庵は感じた。
内容に意味はない。必要なのは、必要以上の声量なのであろう。
その証拠に、罪人の手には油断なく長脇差が握られており、剣先も震えてはいない。
往生際の悪い罪人に、右庵は厄介だ、と思った。
応援は来るかどうか定かではない。
その上、詰め所からここまではかなりある。
そして、近場を見回っている同僚はいない。
それでも、どうにかなる、ということをある程度右庵は察していた。
時間が過ぎれば、相手は冷静さを失うはず。故に隙を窺うだけでよい。
そこまで右庵は考えたわけではない。
ただ、いくつかの経験からどうにかなるであろう、と考えていただけである。
「何でワシが火をつけたことになる!
告げたのは誰じゃあ!!」
ここで告げた者の名を出すわけにはいかない、と思った時には、すでに右庵は言葉を放っていた。
「狐だ」
突拍子もない言葉と同時、犬や狼とは違う、獣の高い鳴き声が空に聞こえ。
「ぐぁ!?」
罪人が苦悶の声をあげた。
理由はその右足にあった。足に獣が噛み付いている。
その獣は、狐。
見物人に罪人、誰もが突然の出来事に驚く中、ただ一人冷静に動く者がいた。
木下右庵は、己の腰にさげた刀を鞘から抜くことなく、振った。
その刀、いや、鞘はしたたかに男の手を打ち、その手に携えられた長脇差を叩き落す。
それだけでは右庵はすまさなかった。
さらに腿、脹脛を続けざまに右庵は叩く。
「…都廻である。
放火の罪につき、無宿研呉郎、大人しく縄に付け」
そう右庵が言った時には、研呉郎は足を押さえうずくまっている。
すでに狐はおらず、空は白み始めていた。
<四>
右庵が火付改方に研呉郎、すなわち放火の犯人を引き渡し、南西町にある火付改方の詰め所から出た時にはすっかり空が青くなっていた。
放火の対応に捕り物、さらには役人への、未明の小火と実行犯の素性についての報告。
それだけの仕事を二時(四時間)あまりで済ませた右庵は、ひどく疲れた様子で歩いていた。
姿勢の悪いことが、彼の疲れをより一層大きなものに見せているのかもしれないが、目や瞼の様子からも疲労の具合は知れた。
今日も遅くなってしまった、と思いつつ、右庵は家に帰ることにした。
都廻の騎士、それも実際に町内の警邏を行っている者は、詰め所に戻る必要は無いとされている。
忙しく、詰め所に戻る暇の無い右庵のような騎士も珍しくはないからである。
当然、その抜け穴をついて楽をしようとする都廻もかなりの数に上る。
しかし、それらはうまくいかず、かなりの数の騎士が数ヶ月もしないうちにで都廻を追われることとなる。
一部の騎士は、都廻の有力な情報源の一つである元罪人の連中が、騎士団の上部から監視の命を受けているのだろう、と考えていた。
「無事か、右庵?」
「…」
いつの間にか、千里耳が右庵の隣にいた。
その姿は先ほどまでの騎士の姿から、女ものの単衣を着ただけの、長屋にいた時の格好となっていた。
「まあ無事だったろうがな」
「…ごらんの通りです」
彼女は何も言わずに、困ったように笑った。
その温かい笑みは、決して家族からは向けられることのない笑みである。
ふと、右庵は今は亡き父母のことを思い出した。
頭に過った過去の思い出を頭の片隅に置いたまま、右庵は別のことで礼を言った。
「消火の件、ありがとうございました」
「何、私は何もしとらん。
私が何かをするより先に、近くの職人連中がよってたかって火を消したからな。
まあ、壊す場所の指示ぐらいはしたが…それでも飛び火は防げなかった」
「それで十分です」
右庵の言葉に、千里耳がそっぽを向いた。
それが、どのような意味を持つのか、右庵には知れなかった。
彼にもわかったことは、ただ千里耳の沈黙が長く続いた、ということであった。
「……さて、飯でも食うか?
丁度、お前も腹が空いた頃合ではないか?」
「…昨日の夕刻に私が言ったことは覚えておいででしょうか」
「よいではないか。稲荷鮨の一つや二つ、食うのにそこまで時間がかかるものではあるまい」
「…」
どうやら、やけに上機嫌な千里耳の中では、稲荷鮨を食べることはすでに決まったことであるらしい。
しかし、流石に右庵も二日連続で針の筵に座するつもりはなかった。
家に待っている姉と妹はかなりの怒りを覚えているはずだ。
そしてまた、別の意味でも右庵は早く屋敷に戻りたかった。
「では、その分の銭だけ…」
「わからぬ奴だな。
お前が食わずしてどうする」
朝に、騎士が道端で遊女のような格好をした女と連れ立って歩く。
それだけでもかなり目立つ光景である。
そういった事情も含めて、右庵は陽が昇ってから千里耳と連れ立って歩くことは遠慮願いたかった。
一方で、右庵の心情を知ってて尚、千里耳はわざわざ女物の服に着替えたのだろう、と右庵は何となく察していた。
「…申し訳ありませんが、ここはなにとぞお許しを」
「そんな顔をするな。
まるで私が悪事を働いたようではないか」
「…」
「…ああ、わかったわかった。帰れ帰れ。
お前の好きなようにするがいい」
やはり今日は上機嫌だったのであろう。千里耳は、あっさりと右庵の申し出を受け入れた。
明日の、いや今日の夕方からの仕事もうまくいくかもしれぬ、と考えた右庵は、少しだけ心が弾んだ。
歩を進め、いつしか騎士屋敷が並ぶ通りの近くにまで来た。
と。
右庵の決していいとは言えない目がどうにか人影を捉える。
騎士屋敷の通り、彼らの向かい側から一人の女が歩いてきていた。
若い娘である。騎士の家の娘が一人で出歩くことはありえ無い、とは言えないが珍しい。商家の使いか何かだろうか。
それにしては身なりがよく、やけに歩みが上品だ、と右庵が考えたとき、左手に気配を感じた。
「…?」
先程よりも、半歩ほど千里耳がこちらに近づいている。
反射的に、半歩ほど右庵は右に動くがそれを封じるように、するり、と千里耳が手を絡めてきた。
同時。
「…右庵殿」
底冷えのする声がした。
<五>
向かいにいた女は紗恵であった。
先も言った通り、騎士の妻や娘は、屋敷から滅多に外に出ることは無い。
外出の必要がある用事が舞い込んだ場合、そういった仕事は全て下男や下女に任せるのが普通である。
しかし、山下の家は、諸々の事情からそれが出来なかった。これに限って言えば、扶持が少ない騎士の家にはよくあることでもあった。
「…右庵殿」
己の名を呼ばれた右庵は体を縮めこませた。
先ほどまでは、曲がりなりにも騎士としてあった風格が、ただの一言で消え去ったのである。
右庵のその変化に紗恵は目を細める。不機嫌を露にして、再び紗恵が右庵に声をかけようとした。
が、先に右庵に声をかけたのは、彼の右腕にすがり付いていた女であった。
「馬鹿者。しゃんとせんか」
言って腕をほどくと、千里耳は右庵の背中を叩いた。
軽い音が響く。
慌てて右庵が姿勢を元に戻す。とはいえ、元より姿勢が悪い右庵である。
大してその威風に変化はなかった。おそらく、気勢が衰えているのが元々の原因なのであろう。
と、それまで右庵にのみ注がれていた紗恵の視線が、横に移った。
まるで、それまで存在しなかった物を見つけたがごとく、紗恵は言葉を紡いだ。
「…無礼な。
騎士に向かって、そのようなことをしてもいいと思っているのですか」
「男と女の間に騎士も何もないものだろう?」
右庵の前に出た千里耳の顔には、右庵に向けるものとは違う笑みが浮かんでいる。
先ほどまでの雰囲気は完全に消え、千里耳の別の顔が覗いていた。
それにもまた畏れを感じる右庵であったが、彼の姉には全く畏まるに足りぬことであったらしい。
「それは獣の理屈でしょう」
「獣で結構。男女の繋がりなどそんなものよ。
屋敷に引きこもり、いつまでも嫁がぬ未通女にはわからぬことだろうがな」
明らかな侮蔑である。
しかし、紗恵はその何も浮かばぬ表情を変えることなく、真正面から千里耳の顔を見据えていた。
右庵には、少なからず紗恵の怒りが垣間見えた。
紗恵の存在に萎縮していた青年も、これはまずいと悟ったか、少々及び腰だったが、彼女らに近づき口を聞いた。
「…千里耳様、姉様、往来にございます。」
右庵の言葉に、千里耳は、肩をすくめる。
それはまるで、この女が悪いのだ、とでも言わんばかりの動作であった。
だが、紗恵は怒りが抑えきれぬのか、まるで右庵の言葉に抗うように、次の言葉を口にした。
「そのような女、手打ちにでもすればよろしいでしょう」
紗恵は、ひどく平坦な声でそう言った。右庵には、冗談を言っているようには聞こえなかった。
いつも姉に感じる畏怖とはまた違う、別の感覚を右庵は感じ取った。
背中に感じた冷たいものを無理やり抑え付け、どうにか右庵は言うべき言葉を言えた。
「姉様…落ち着いてください」
「私は落ち着いています。
右庵殿こそ落ち着いて今の状況を把握して欲しいのですが…あ」
と、そこで紗恵が滅多にあげないような、間の抜けた声をあげた。
いつの間にか、千里耳は姿を消していた。
通りの先にも後ろにも、屋敷の方角にもいない。
千里耳も嫌な気分になったのだろうか、と右庵は考える。
いつものこととはいえ、仕事を知らぬ姉と仕事の相棒の会話に頭が痛くなる。
千里耳が屋敷までついてきて紗恵と鉢合わせるということは、よくあることではあった。
その度に、紗恵は千里耳に敵意を向け、千里耳もまたその敵意に敵意を以って相対するのである。
しかも、その後必ず、紗恵の敵意は向けるべき場所を失い、右庵への不満となってぶつけられるのであった。
だから。
右庵は、この後行われるであろう紗恵からの追求と、今日の夕方に必ずしなければならない千里耳の機嫌取りに頭を悩ますのであった。
「妖物め」
囁かれた言葉ではなく、歯を噛み締める音を右庵は聞いた。
彼が右手を見ると、一文字に口を結んだ紗恵の顔がある。
言葉が出ない。右庵はしばし迷った挙句、言うのを忘れていたある言葉を口にした。
「…姉様、遅くなりました。申し訳ありません」
一拍。それだけの間の後、姉は弟へと目を向けた。
「言うだけならば誰でもできるのです」
「…」
「付き合いを止めろ、とは言えません。
団長殿からも、“あれ”が警邏番においても重要な職務についているということは私も聞いております」
正確には職務ではないのだろう、と右庵は考えたが、そういうことになっているのならあわせた方がよい。
そう考えて、小言を言いつつ屋敷へと歩み始めた紗恵の後ろ姿を追って、何も言うことなく右庵は歩を進めた。
「それでも、私や十夜のことを心配してくれるのであれば、もう少し早く帰ってきてください」
「…はい」
右庵の姿勢が、再び縮こまる。
細かく刻まれる紗恵の足音に、くたびれた右庵の足音が続いた。
「右庵殿。
風呂はもう沸いております。食事の前に湯におつかりください」
「…はい」
「ああ、それと―――」
頷くしかない右庵に、紗恵は視線を向ける。
疲れているのか、それとも厄介ごとに頭を悩ましているのか、右庵の足取りは重い。
「―――酒を買っておきました。
明日の仕事に差し支えない程度にお飲みになってください」
「…ありがとうございます」
右庵の感謝の言葉に、ほんのわずかに紗恵の顔が緩む。
しかし、地面に視線を向けている右庵の視界には、その表情は存在しなかった。
以上で投下終了です
長い割に嫉妬分や修羅場分が不足していることをお詫び申し上げます。
前回聞かれた登場人物の読み方は以下の通りです。
右庵:うあん
紗恵:さえ
十夜:とよ
千里耳:せんりじ
186 :
名無しさん@ピンキー:2007/08/18(土) 20:10:06 ID:Odiu0alA
>>185 GJ!!!
紗恵の嫉妬ktkr!!
ここからどう修羅場になっていくのか期待するよ!
何ageてんだ俺はorz
恥ずかしいな
嫉妬する男性の物語が読みたくなってきた
NTRスレ行け
寝取られは、男は諦めるかこの雌ブタという目で見るかの二択って感じがするのが、このスレの傾向とは違うところだな。
寝取った相手を殺すとか、女を調教して自分しか見えなくするとかって方向には繋がらない。
それが作者含めて全体の要望なのか、男と女の傾向を正しく書き写したものなのかは分からないが。
男の嫉妬はものすごく醜く感じるんだよな、男の自分にはとても受け容れられない
しかも1人の女に求愛する男達ってどんな乙女ゲーだよって感じじゃないか?
気に入らないならスルーしろって意見もあるかもしれんが、やっぱりNTRに行くかジャンルを分けて別に立てたほうがいいと思う
>>192 いや別に俺も男の嫉妬物語が見たいんだ!と強固に主張するわけじゃないがねww
しかし、乙女ゲーて、このスレっていわばエロゲそのものじゃないか。あんまり違いはないとは思うんだけど。
まぁNTRスレ含めて読んでるのが9割9分くらい男だろうから、いいんだろうね、これで。
誠 入り口にあったエロ本は時間稼ぎだろう目的は俺か!心ちゃんと言う線もあるが何れにしても世界の無事を確認してからだな
チュドーン
泰介 こちらを向けゆっくりと
誠 えぇーい!こんな時に
泰介 聞えなかったのか誠
泰介 こちらを向くんだゆっくりと
誠 言葉は罪なき人々を一方的に殺した 君はそんな女に
泰介 便利な力だなハーレムとは
誠 ウゥアッ
泰介 自らは影に隠れ責任は全て他者に擦り付ける
泰介 傲慢にして卑劣
泰介 それがお前の本質だ・・・
泰介 光!
光 アッ!
泰介 君も誠の性癖を知りたくはないか?
光 何を今更!
泰介 君にも立ち会う権利はある!
光 あっ!待てぇ!
チュドーン
光 何で!どうしてぇ・・・・!
泰介 信じたくは・・・なかったよ!!
光 誠がぁ・・・
誠 そうだ!俺が伊藤誠だ!
誠 ハーレムの騎士団を率い巨乳の言葉に挑み断られ・・・世界を手に入れる男だ
光 あなたは私達の身体を利用しようとしていたの・・・あたしの事も!
誠 結果的にお前はは泰介から解放される文句はないだろ
泰介 早く君を殺すべきだったよ
誠 俺が言葉の身体目当てだってことに気付いていたのか
泰介 確信はなかった・・・だから否定し続けていた・・・誠を信じたかったから
泰介 だけど君は嘘をついたね!僕と言葉に!世界に
誠 あぁ・・・その世界が攫われた!
泰介 えっ!
誠 泰介!一時休戦といかないか!世界を救う為に力を貸して欲しい
誠 俺とお前二人いれば出来ないことなんて!
泰介 甘えるな!!
誠 うっ!
泰介 その前に付き合うべきは言葉だった!
泰介 君と言葉が付き合えば光は!
誠 全ては過去!俺と言葉の関係は終わったことだ!
泰介 過去っ!!
誠 お前もゲームと小説で言葉をレイプしているだろ!懺悔など後で幾らでもできる!!
泰介 いいや!誠には無理だ!!
誠 なにっ!
泰介 お前は最後の最後に言葉を裏切り!世界に裏切られた!
泰介 君の願いは叶えてはいけない!!
誠 馬鹿め!愛人と恋人だけで俺が満足するものか!!
誠 さぁ!撃てるものなら撃ってみろ!!流体孕み浜をな!!
光 ハァッ!
誠 俺の心臓が止まったら爆発する! それより取引だ。お前に光を紹介したのは誰だ!?
泰介 お前の存在が間違っていたんだ!!!!! お前は世界からはじき出されたんだ!!!!!
泰介 西園寺は俺が!!
誠 泰介ぇぇぇぇ!!!!!
泰介 誠おぉぉぉぉぉ!!!!!
ズギュウゥゥゥン
↑これなんてスクールデイズギアスw
つまんね
アニメが始まるとこんなことも起こりますよ
>>185 GJ!雰囲気がなんか好きだわこの作品。次回も期待してます。
>>193 乙女ゲーもエロゲーもあんま違いはないけど男の嫉妬なら乙女ゲーとか漫画で十分なんだよね。
女のすごい修羅場っていうほどあんまないからヤンデレスレとかキモ姉スレとかこのスレは重要なかんじ。
お互いいいからもうやめようぜ、議論がしたいなら他でやってくれ
「私の名は修羅場嫉妬、人呼んで嫉妬マン。ただのセールスマンじゃございません。
私の取り扱う品物は嫉妬、人間の嫉妬でございます。ホーホッホッ・・・」
「この世は老いも若きも男も女も、心のさみしい人ばかり、
そんな皆さんの心のスキマをお埋め致します。いいえ、お金は一銭もいただきません。
お客様が満足されたらそれが何よりの報酬でございます。
さて、今日のお客様は・・・」
>>166 乙です。これが修羅場の幕開けかと思うとwktk。
続きを楽しみに待ってます。半裸で。
>>168 >半裸で待つとしよう。
半裸で待つなんて、こ、この変態!!!!
ノントロ・・・
>>202 ノントロがどうしたの?
言いたいことはちゃんと最後まで書こうね^^
欲しい・・・
>>185 GJ!
このスレの主人公で右庵さんが一番好きだ!
>160 初めてでなかなか要領つかめないだろうが続きがんばってくれ
こういう感じのオープニングは好きだ
>185 このジワジワと迫りくる修羅場が楽しみだ
こういうのって最初弱いだけに後で爆発するときの差が激しいんだよな
>>185 時代小説みたいで好きだな。姉や妹に尻にしかれてる感じが必殺仕事人みたいでおもしろいし
「右庵殿!」が「婿殿!」みたいな感じで
そういや、去年の夏ごろ辺りにアビス氏がうpしてくれた
サウンドノベル持っている人いますか? あれやってみたいんだが
まとめに時代劇風な良SSある?
作品が増えまくって嬉しいんだがどれがどれだかわからなくなってきた><
完結してないけど、『ユメノマタユメ』とか
なんだっけな月夜の華?あれが好きだな
自分コテコテの萌えアニメが好きじゃなくてスクデイ見てないんだが
どんな感じ?
他人から聞いてもしょうがないじゃん。
どうせ見ないんだしさ・・・しかもスレ違い
投下します。
『晴香さん』が『姉さん』に変わっただけ。
それだけで私達はお互いをぐっと身近に感じられるようになった。
朝の挨拶や朝食、夕食での会話、家事や夕食の献立についての相談、休日には買い物や遊びに出かける。
家族同士の当たり前のコミュニケーション。
今まで上手くいかなかったそれを取り戻すかのように私達は同じ時間を重ねてゆく。
「姉さん」
私を呼ぶ声。
それは私だけに許された特別。
私はそれが嬉しくて、私は八雲にもっと甘えて欲しくなる。
もっと頼って欲しいと思うようになる。
けれど、八雲は甘え下手だった。
人に頼られることは得意なのに、人を頼ろうとはしない。
大概の事は自分でやってしまう。
それに―――どこかに遠慮がある。
それは今まで甘えられる人間が傍にいなかったからかもしれないけれど、八雲はあまり私に甘えてくれない。
その反面、私は甘え上手で甘えん坊だった。
父さん以外の私が甘えていい対象。
八雲は求めれば応じてくれる。
まるで役割が違う。
甘やかしてあげたいのに、気が付けば私はいつも甘やかされている。
癒してあげたいのにいつも癒されている。
私は八雲に姉らしいことを何もしてあげられていないのではないか?
胸の隅っこでくすぶるジレンマ。
けれど、私には『姉さん』を手放すことが出来ない。
『姉さん』は『晴香さん』よりもずっと居心地が良い。
感覚の麻痺した私はいつしか『晴香さん』には戻りたくなくなってゆく。
私はずっと駄目な姉でいたい。卒業なんてしたくない。
ずっと八雲に甘やかされたい。
けれど―――私は、八雲を手に入れたい。
姉よりもその先を目指したい。
そんな女としての衝動を消せないまま、私は『姉さん』に溺れてゆく……。
阻止
新しい生活がいつもの日常に変わる頃。
私と八雲と雨音。
ずっと傍にいると気付いてしまうこともある。
雨音が八雲をどう見ているか?
雨音が八雲に抱いているのは間違いなく私と同じ感情。
これが普通の恋ならば私は雨音を応援してあげられる。
他の誰かなら私は雨音の味方になれる。家族でない他人なら諦められたかもしれない。
でも、八雲だけは無理。
八雲はすでに私の生活の大部分を占めている。
朝は八雲に起こしてもらっているし、昼は八雲といっしょに昼食を摂るし、夜は八雲の隣でテレビを見る。
どれ一つ欠けても、もう生きてはいけない。私にとって八雲は換えのきかない存在になっている。
それに私はまだ自分の罪を何も清算できていない。
私が八雲にしてきたこと。
それは私が生涯をかけて償わなくてはならない。
そのためにずっと八雲の傍にいなければならない。
たとえそれが、私が八雲の隣にいるための口実だとしても………。
それに雨音だって薄々気付いているはずだ。
私達は八雲にとって『家族』でしかない。
どれだけ愛情を持って接しても、八雲にとってそれは家族愛の延長線。
たとえそれを乗り越えた所で、私達は許されない過去を抱えてる。
私達には八雲を好きになる資格すらない。
私達は心のどこかで知っている。
これは実らない恋。
想ってはならない恋。
今の状態が一番幸せなんだってこと。
だから、私も雨音もそれ以上は踏み込めない。
―――拒絶されるのは怖いから。
―――『家族』のぬくもりさえも手放したくはないから。
不満もあったが、安心感もあった。
八雲は私たちを本当に大事にしてくれる。
でも、時々夢を見てしまう。
もしも、八雲が私だけをみてくれたら―――。
八雲の手は二つだけしかないから。
私と雨音が手を繋いでしまえば、それでおしまい。
八雲の両手は塞がってしまう。
もしも、八雲があの両腕で私を包んでくれたなら―――
抱きしめてくれたなら―――
それはどんなに願っても、叶わない願い。
私が八雲の右手を決して放さないように、雨音も左手を放したりはしない。
だから、私達姉妹は八雲と手を繋ぐだけ。
一つの手のぬくもり。
今はそれで我慢できる。
そう言い聞かせるのが、今の私の精一杯。
幸せの夢路。
そうそう諦めきれるものでもない。
雨音が同じ制服に袖を通して7ヶ月。
八雲に悪い猫が寄るようになった。
その薄汚い雌猫は学園祭を餌に八雲を誘惑する。
縋るような眼差しで八雲に擦り寄ってきて、数日前の喫茶店であいつは八雲の笑顔を奪った。
私達姉妹が分け合ってきたあの笑顔を、横から入り込んで独り占めしていた。
吐き気がする。
わかっていても耐えられないものがある。
実らない恋。想ってはならない恋。
ならば、いつかは訪れる私達とは別の影。
目の前のそれを私は直視できなかった。
八雲の隣に私以外の女がいる。
あの香りがするやさしい場所に……。
その瞬間、思考が爆ぜた。
ふざけるな!!
そこは私の場所だ!!
私がやっとの思いで手に入れた私の居場所!!
少し頼りないけれど、温かく包んでくれる私の居場所!!
それを何?
何処からともなくやってきて、我が物顔で居座って!!
許されるものなら今すぐにでもあの雌猫の前足と後ろ足を縛って道路に投げ出してやりたい。
そうすれば車に引かれれてぺしゃんこ。
猫には相応しい末路。
けれど、安易にそんな事は出来ない。
私には守るべき生活がある。
八雲との幸せな営み。それをこんな雌猫一匹の為に揺るがすわけにはいかない。
喉元から這い出そうになる殺意をぐっと噛み殺す。
幸い、私達の学園祭での出し物はパネルの展示。
三年生で受験前ということもあり、私のクラスはわりと楽な出し物を選んでいた。
自分の担当を済ませてしまえば、私の身体は自由になる。八雲の傍であの女から八雲を守ってあげられる。
だから今は耐える。
だけど、今だけだよ薄汚い猫さん。
さっさと退かないと―――我慢できなくなっちゃうかもよ?
私は数日を使って自分に割り当てられた作業分を済ませ、八雲のアルバイト先へと走る。
そういえば……。
今日は夢中になって作業していたので雨音に連絡を入れるのを忘れていた。
まぁ、いいか。
きっと先に八雲のところへ行ってるだろう。
雨音にしてもこの数日は、八雲と過ごす時間が減ってヤキモキしていただろうから。
別に今日くらいはいいよ。明日の放課後からは私が八雲と過ごすから。
身近な未来に思いを馳せて、私は脚の回転速度を少し上げる。
商店街入り口。
学校の制服、後姿、私が八雲を見間違えるわけがない。
確か八雲はまだアルバイト中のはず……。
それなのに八雲は商店街の入り口から私達の家がある方向へと歩いていた。
「あれ、八雲ちゃん? アルバイトはど〜したの?」
八雲は真面目だから、理由もなしにサボったりなんかしない。
きっといつまで経っても私が来ないのを心配して、早退して探しに来てくれたに違いない。
「ああ! わかった!! お姉ちゃんに会いたくてバイトを抜け出してきたんでしょう!!」
図星だったみたい。
八雲の慌てた顔、可愛いな。
「駄目だよ八雲ちゃん。でも、お姉ちゃんは許しちゃうぞ」
喜びを隠せない私はおもむろに八雲の右手を取って歩き出す。
ふとよぎったのは、数日前の八雲とあの女の光景。
まるでデートみたいだったあの光景。
「そうだ! 商店街も近いことだし、お姉ちゃんと二人でちょっとお茶して帰ろうか?
家でお留守番中の雨音ちゃんにはナイショだからね」
今度は八雲の腕を取ろうと手を伸ばす。
もう逃げられることは無い。
なのに、そこにあったはずの腕が指の隙間からすり抜けた。
なんで?
「姉さんよく聞いて」
「ん? なぁに?」
「僕らは―――もう少し距離を取ったほうがいいよ」
突然、なにを言っているのかわからなかった。
今日は二人きりのお茶を楽しんで、あの雌猫とは格の違う所を八雲ちゃんに教えてあげるつもりだった。
お姉ちゃんといっしょの方がずっと楽しいって、お姉ちゃんといっしょの方がずっと笑顔でいられるって、
それなのに………。
「八雲ちゃん? なに言ってるの?」
「僕らはもう少し距離を取ったほうがいいって、言ったんだ」
八雲は今になってそんなことを言った。
でも私はそんな言葉知らない。
私と八雲ちゃんが離れる?
そんな事は認められない。
だから冗談だと思った。
けれど八雲は「違う」と言う。
私は知っている。
八雲は自分からは絶対にそんなことは言わない。
だって私たちは八雲の大事な『家族』。
私達とは形は違えど八雲は『家族』に依存している。
だから、八雲からそれを手放すことはしない。できない。するはずがない。
ならば、八雲にこんな酷いことを言わせる原因はただ一つ。
―――あの女だ。あの女の所為だ。
あの女は八雲が純粋なのを良い事にある事ない事を吹き込んだに違いない。
私は確信を持って八雲に詰め寄る。
けれど八雲は「違う」と言う。
八雲は始めて、私の前で大声を張り上げていた。
猛烈な勢いに乗った言葉にはガラスの破片がいくつも散らばっていて、その鋭い欠片が私の胸に突き刺さってゆく。
八雲は言う。
わかってる? これから先に姉弟は進んではいけない。仲が良すぎるのもおかしいよ。
わかっているの? 姉弟は恋人にはなれない。いつかは別の恋人を見つけなければならない。
わかっているよね? 僕達は姉弟なんだよ。
だから、無理やり止めた。
八雲が一番苦しむ言葉。
それをわかっていて使った。
ちゃんとわかっている。
八雲の言っていることの意味。
わかっているけど………聞いていられない。
八雲は私達の愛情が罪悪感から生まれていると信じて疑わない。
私が八雲に向ける愛情、それは八雲にとっては過去の罪滅ぼしにしか見られていない。
そうでなければ、あんな言葉が口から出るわけもない……。
歯痒い。
どんなに言葉を重ねても八雲はきっと考え方を変えたりはしないだろう。
私達が与えた傷痕は消えない過去として八雲の中にしっかりと根付いている。
それが今になっても私の、私達の想いを遮る。
「僕は――僕は二人の足枷なんかじゃない」
八雲はそう言った。
けれど、八雲は理解していない。
八雲は自分が私達の足枷だと勘違いしている。
雨音なら雨音自身が八雲の足枷になってると考えるだろう。
でも、私はそうじゃない。
足枷をはめたのが八雲で私は八雲の虜。
愛情という名の足枷、重い鎖のその先に繋がれているのが私。それなのに……。
「姉さんは姉さんの人生を進んでいいんだ。
好きな友達と遊んで、好きな部活に入って、好きな男の人と付き合って、
わざわざ僕の顔色を窺う必要なんか無いよ。僕は二人の邪魔になんかなりたくない!」
八雲は心を奪っておいて、身体を自由にしようとする。
それは矛盾した行為だ。
心と身体が離されたら人は生きていけない。
私の心を奪ったのは八雲なんだから、さっさと身体も奪ってくれればいい。
私はそれを望んでいる。
そして―――おそらく雨音も―――。
どうしてこんな簡単なことがわからないのだろう。
これだけあからさまな態度を取っているのだ。普通の男の子ならとっくに気付いてもおかしくはない。
それなのに、どうして?
私は考える。
八雲が普通の男の子達と違う所………。
―――そっか、八雲ちゃんは愛されたことがないんだ。
八雲は生い立ちから両親や周囲の人達から愛情を与えられたことがない。
だから、私がいくら愛情を注いでもそれに気付けない。
家族の愛と異性の愛。
その違いを知らないから勘違いしてしまう。
―――見つけた。
私が八雲の為にしてあげられる事。
お姉ちゃんであるこの私が八雲を救ってあげなければならない。
愛情の不足分。
それを八雲にも分かる形で与えてあげればいい。
もっと分かりやすい形で。
愛情を知らない可哀相な八雲には教育が必要なんだ。
私の助けが。
今、八雲には私が必要なんだね。
「いいわ。少し頭を冷やしなさい八雲ちゃん。
八雲ちゃんはお姉ちゃんや雨音ちゃんがいないと何も出来ないって事を身に沁みて感じるといいよ。
どうせ数日も経たないうちに謝りに来るんだから、お姉ちゃんは部屋で待っててあげる。
そのときは―――たっぷりとお仕置きしてあげなきゃね」
そう、たっぷりとお仕置きしてあげないといけない。
あの女にそそのかされて、悪い子になってしまった八雲にはお仕置きが必要なんだ。
でもね、これは必要な躾なんだよ八雲ちゃん。
大丈夫。昔みたいに痛いことなんて何もしないよ。
ただ、本物の愛情をしっかり、しっかり、しっかり教えてあげるだけだから。
恐い事なんて何も無いよ。
思いっきり可愛がってあげる。甘えさせてあげる。優しくしてあげる。
えへへ。
楽しみだな。
八雲はすっごく鈍感だからちゃんと言ってあげないとわからないんだよね。
だから、言ってあげる。
私は八雲ちゃんのことを愛していますって。
本当は八雲の方から言って欲しかったし、今までは過去のことや雨音を気遣って言わなかったけれど、
勇気を出して告白しちゃおう。
八雲を救うために。
ごめんね。雨音ちゃん。
お姉ちゃん、抜け駆けしちゃうけど許してね。
けど大丈夫、心配しないで。
ちゃんと雨音のことも大事にしてくれるように八雲を教育してあげるから。
ただし『妹』として、までだけどね。
玄関の閉まる音。
私が帰りついてから約30分後に八雲は家に帰ってきた。
玄関で待ち伏せしていた雨音が八雲の制服の袖を引いてリビングへと連れて行く。
早速切り出すのかと思ってたけど、雨音は何も言い出さない。
どうやら雨音は何も知らぬ振りをしたままやり過ごすつもりらしい。
でも、雨音はわかっていない。
間違いなく八雲は雨音にも私と同じ事を告げる。
そういうところで八雲は律儀。
いつも私達を平等に扱おうとする。
だから雨音の行動は時間稼ぎにしかならない。
どれだけ雨音は持ち堪えられるかな?
私は様子を伺うのを止めて部屋に戻ることにした。
だって、普段どおりを演出する雨音の必死な表情が少しだけ前の私を見ているようで、
思わず笑いそうになるのを堪え切れなかったから。
部屋で待つこと数十分。
悲鳴に似た叫び声が家の空気を切り裂く。
どうやら始まったらしい。
意外と早かったかな? それとも良く持ったほうなのかな?
どっちでもいいや。
ここまでは計画通り。
後は打ちのめされた雨音が私の部屋に来るのを待って、
私が八雲を教育するほんの少しの間、静かにしておいてもらうだけ。
私は雨音が部屋を訪れるのを待ち構える。
ガシャン!!
と派手な音がして、それから人が居なくなったかのような静寂に包まれた。
つい先ほどまで言い争うような声が聞こえていたのに、この家は静まり返っている。
まるで私だけが時間の流れから取り残されてしまったような得体の知れない胸騒ぎ。
私は二人に気付かれぬようにこっそり部屋から抜け出して、二人の居るリビングの様子を伺う。
―――キス?
瞳の中で火花が散っているように、目の奥がチカチカする。
それでも私の脳裏には二人の重なった唇が焼きついたまま。
なんで!?
なんでこんなことになっているの!!
間違ってる!!
私のほうが先のはずだった!!
あれは私のキスのはずだった!!
やめて!!
叫びが声にならない。
頭の中をフラッシュのような閃光が何度も何度も駆け抜けて、全身が麻痺してしまっている。
「だ、だめだよ!!」
八雲が雨音を引き剥がす。
それでも雨音は止まらない。
八雲を見据える雨音の瞳。
あれはもう一つの私の顔。
雨音の顔したもう一人の私。
一度あの味を知れば、もう止まらないことはわかっている。
うすうす勘付いていた。雨音の内にも私と同じものが潜んでいること。
でも、油断していた。
雨音は罪悪感に縛られて、それを押し留めたままだって思っていた。
私と同じように動けないままだと思っていた。
ずっと鍵を掛けたまま、妹でいると思っていた。
そして今、雨音が八雲の唇を貪るのをただぼんやりと眺めている。
「―――頭の悪い女」
雨音からは見えない位置にいるはずの私に雨音の言葉が突き刺さる。
ねぇ、見てましたか? 私、兄さんとキスしました。
姉さんはこうなることがわからなかったの?
もしかして油断してたんですか?
妹だからって甘く見て、隙を見せたでしょう?
昔と同じように姉さんの言うがまま、姉さんの部屋に行くとでも?
私、姉さんが思っているほど、バカな女じゃありませんよ。
言葉の裏側にあるメッセージ。
ずっと握り締めたままだった拳から紅い雫が落ちる。
手の平に広がる鋭い痛み。
でもこれはこのままでいい。これは―――戒め。
私達は仲の良い姉妹だった。
私達の間にはお互いに対抗心もあったけれど、奇妙な連帯感があったのも事実。
八雲を他の誰にも渡さない。
その一点において私達は共通の認識を持っていた。
だから今日まで軽く衝突することはあっても、激突することはなかった。
上手くバランスを取ってこられた。
でも、雨音は侵してはならない絶対線を乗り越えた。
兄妹でも手を繋いだりするかもしれない。抱きついたり、じゃれあったりはするかもしれない。
でも、いくら兄妹だからってキスはしない。
つまりこれは雨音からの宣戦布告。
雨音は大切な妹。
けれどそれとは別に確かにある感情。
雨音にだけは負けたくない。
雨音はズルイ。
大切なことは全部、雨音が先。
打ち解けたのも、兄妹になったのも、料理を食べたのも、可愛いって言われたのも、手を繋いだのも、告白も、
そして、キスだって―――。
八雲がやめて欲しいと言ったのに、それを無理やり奪った!!
私は我慢してきたよ!!
お姉ちゃんだからって我慢してきた!!
ずっと、押し殺してきた!!
それなのに!! それなのに!! それなのに!! それなのに!! それなのに!! それなのに!!
いつも雨音は抜け駆けをする。
私よりも先へ行こうとする。
私のほうがお姉ちゃんなのに………。
いいよ。
もうわかったよ雨音。
いつかはこうなることはわかっていた。
姉妹で同じ人を好きになったのだから。
わかっているよ。
お互いに引く気が無いのは嫌というほどわかってる。
だって、私達は姉妹だから。
だから、もういいよね?
お姉ちゃんも覚悟を決めるよ。
ワタシ オネエチャン ヤメルカラ
――Side 晴香 End――
ここまでです。
後半はやや駆け足気味でしたが、姉妹の回想編はこれでおわりです。
次回からはまた本編です。
リアルタイム転帰予報きたこれ!
姉妹の内情がどんどん掘り出されて、これからの本編の流れがやたら楽しみになってきました(・∀・)
それと山岡さんの出番にも期待。
GJ!
次回がついに過去の回想が終わって本編か
楽しみだぜw
姉妹対決の修羅場がちょっと楽しみだがw
姉妹の嫉妬の方が萌える俺はこのスレでは異物だなw
>>227 転帰予報キター!
策士策に溺れちゃったけど晴香可愛いよ晴香
遂に戦闘開始でwktkが止まらない
>>227 (*^ー゚)b グッジョブ!!
俺から言えるのはそれだけだ
続き、楽しみにしてます、全裸で
コレはすごく続きが楽しみだGJ!!
今まで姉妹モノは結構あったけど其のほとんどが姉妹間の連携は保っていた
しかし! 今回は見るからに姉妹同士のガチ対決!!
マジwktkが停まらねぇ!!
引き続き期待して応援してますぜ!
作者の気合を入れるために
, ',´ィ ' ´ \
/ '/ ___ 、 、 ヽ //ヽ
. / '´, ' / , ,...:.:.':.´:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:`:.:.:.ヽ ヽ 冫:;ィ::::;' __
'′/ ,/ /':.:.:.:.;:. -―¬¬¬―- 、:.:ヽ ヽ/:/,.l:::::l':´_ハ
/ .,.,'' , /:,: '´ ` ', ',//;:l::::;'´ /:::/
,' // / ,'´ i l ! . | ! , r '´ l::〈 /::::ノ
i /.,' / l i l __tハ l ! .| t T¬ ト l、 ! ト、 !:::l /:; '
l./ .l ,'! l ,レ'T´ ll! !.l, l li. |', ト, _!_l `! lヾ':.l::::!l::::l
l,' l ! ! ! l', l ,ゝェ 、',|',l',. ! !.l >' ,r 、 ヽ,,'l l::ヾ:!:::|.l::::!
! l ! ', . l ' / /.n.',` .'|',| '! l 0 l '' ! .l;:::l::ー':;'::/
', !. l '., ',::''::.ヽニ.ノ, .: ::... ミニ'r l. ! ll::::ト:ヾー'
', ! ! ヽ':;:::.` ̄ ..::. ,' . l. !l::::! ';::':,
', l l ';`::::.. .::::::' ,' l !.';:::', ':;:::':,
'.,! ! ';::::::::...:::::::::r--ァ ..;' .l l! l ';:::', l';::::',
. ! l lヽ:::::::::::::::::ー.′ ..::;:;' l .l! ! ';:::':!,';::::',
! l !. ! ` 、::::::::::: ...::;:::'::/ ! ,'!. / ヽ::::':,!::::!
! l .l .l ! `ヽ:、:;::::':::::::/ ! ,','./ l ヽ:::';:::l
l l! ', . ト、. ト、',、 !:::::::::::/ , / ./// ト、、 .l! !:::ト'
l ハ . ', ',ヽ ', ヽ',\ !::::/ ///>、 、 ! ヽ!', l.l,'';;';!
「泥棒猫は綺麗にお掃除しなくっちゃね」
これ置いておきますねw
234 :
名無しさん@ピンキー:2007/08/19(日) 23:02:03 ID:O/RTseMf
頭の悪い女発言はこういう意味か・・・
痺れたわw
test
しかし、頭の悪い女発言
妹や姉は黒くなっていくのだが
互いに想い合う心がなくなるのはちょっと寂しいなw
>>227 GJ!やっぱ姉妹で争うのか・・しかし山岡さんにもがんばってほしいんだぜ!
しかし天帰みたいな作品だとどうしても男主人公に萌えてしまう俺がいる・・・
転帰だったねすいません
>>227 これはいい修羅場www
頭の悪い女の意味には本気でゾクゾクした・・・
しかし山岡さんも病んでいるのだろうかが気になるな
これからの展開にwktkだっぜ!
晴香ざまあwwwww
ってのは冗談でGJ!
姉と妹のガチンコ修羅場で勃起する展開もいいが
姉と妹の和解して主人公とラブラブになる展開でも萌える
色々あって姉妹は仲直り
姉妹が喧嘩してしまったのは八雲のせいだ
また家族をバラバラにしようとした!
やっぱりあいつは疫病神だ!!
殺してしまおう!!
さすがにこれはないかww
むしろ、
いろいろあったのは八雲のせいだ
二人で協力して追い出してしまおう!
やったぜとうとう偽家族を追い出したざまあ!
と思いきや雨音の策略で別の場所で八雲をかくまい独り占め
「馬鹿な女、アハハッ」
なのも美味しそう
姉妹のイチャイチャEDでも萌えるぜ
いやこのスレ的にも個人的にもそれはない
修羅場wkwk
すまない
>>166の作者なんだが投下しようと思ったらとりのパス忘れた・・・
ということで新しいトリで投下する
IDテスト
「…さん、兄さん起きてください。
もう朝なんです。」
朝のまどろみの中で気持ちよくなっていると体を優しく揺さぶられる
目をあけるとそこにいたのは小さいころから慣れ親しんだ幼なじみではなくてちょっと驚いてしまう
あーそうか。最近は直が俺を起こしにくるんだと思いながらも体を起こす
多分詩織さんも下で朝ご飯つくって待ってるはずである
その証拠とでも言うべきか直が少しじれったそうに僕を見る
まぁ無口な直の考えを読みとれるようになったのは嬉しい事だ
やっぱり家族とは良好な関係でいたいしただでさえ無口な直の事だからほっておいたらため込んでしまうのが怖い
それは自分の経験から来るべきものと言うべきか
だけど直一つ言っていい?
いくら家族だからといってさすがに女の子がいるところで着替えるのはちょっときついんだけど…
だからそこ顔を赤らめたようにしないで
恥ずかしいならでてってよ直・・・
「おはよう優磨さん、朝食できてますよ」
下に降りると詩織さんがテーブルの上にはいかにも洋食って感じの奴が乗っていた
席に座ってパンを食べ始めるがちょっと違和感がある
やっぱ僕には朝食は和食って感じなのかも…
とか思いながらも朝食をすすめる
やっぱりこれはこれで食べないといけないし
ふと詩織さんと直の方を見るとなんか食べ方が似ている
そんなところやっぱり親子なんだなと思ってしまう
普段は全然似てないのに
そんなことを思ってると詩織さんは
「優磨さん?何笑ってるんですか」
ってちょっと不機嫌そうに言ってくる
「すいません
あまりに詩織さんと直の食べ方が似ていたので…」
サラダにフォークを突き刺すときなんて本当に同じだったし
やっぱり小さいころから一緒にご飯をとってると似てくるのかもしれない
僕も裕美と似てるところがあるのかも知れない
ご飯を食べ終わると席を立ち外にでる
「行ってきます」
と詩織さんに言って玄関のドアをあけると幼なじみの裕美がいた
「おはよう優磨くん」
そう言いながら僕に笑いかけてくる裕美は、やっぱり綺麗だった
小さいころから見慣れてるけど裕美はやっぱり美人なんだと思う
「おはよう裕美」
思わず裕美に見とれてしまうのを恥ずかしく思い誤魔化すように返事を返す
直は直接は声に出さないが頭を軽く裕美に下げたようだ
裕美には別にファンクラブがあるとかそういう事はある訳ではないが中学生のころから、友達に「お前はいいよなー。あの“裕美”ちゃんかいて」とか言われることがしばしばあった
そのたびに否定はしていたが最近は別の攻め方もでてきてちょっと困っていた
直も美人だったのだ
もっとも直は裕美のように愛想はよくないが、それでも凛とした感じの美人だったので時々直を紹介しろとも言われてしまう
まったく「学校では裕美ちゃん、家では直ちゃんがいるお前は本当羨ましいよ。本当刺し殺したくなるくらいだ」
とかいう友人がいるので本当困る
詩織さんまで見られたら本気で死にそうだ僕…
とか考えながらも学校へ歩いていく
「直、学校には慣れたか?」
裕美と僕は口数は多いほうではないが自分から話をできるからいいが、直のほうは結構無口なのでいつも気にかけてしまう
僕としては新しくできたこの妹が心配だ
直は自分から話を振るタイプじゃないから振ってくれる人がいないとな…
って過保護だぞ僕
「うん。慣れたと思う」
「それはよかった」とりあえず兄としてはこの無口な妹に友人ができるのかやっぱり心配だった
でもなんだろ裕美って直苦手なのかな?
僕には話を振ってくるけれども直に直接話を振ることがないんだよな…
「優磨くん宿題はちゃんとやった?」
とか
「優磨くん今日の体育はマラソンだよ。私走るのあんま得意じゃないんだけどな。」
とかちょっと世話好きな面を僕には見せてくれるのに
「じゃ直昼休みにね」
学校につくと中庭のところで僕達はお別れだった
裕美はともかく学年の違う直は別の学年のげた箱に行くからだ
「わかった、兄さん」
そして裕美と一緒にクラスに行く
「おい優磨、今日もラブラブだったな。両手に華とは羨ましいぜ」
と教室につき自分の席に座ると悪友であり僕の命を狙ってるであろう須藤がやってきた。
いつものように
「お前を殺して俺がその位置に座る」とか冗談にとりづらいことをいってくる
須藤は成績はいいし頭の回転もはやいんだけど、そういうとこがバカなんだと思う
というか須藤
お前顔いいしスポーツもできるしでモテるんだから、いい加減あきらめてくれないかとか思うが、須藤に言わせれば
「それとこれとは別」なんだそうだ
相変わらず理不尽な悪友である
と須藤とじゃれあってるうちに授業が始まりそうになる
めんどいけれどちゃんと受けないと…
二時間目は数学だった
教壇に立つのは『暴君』『皇帝』『現代に現れたネロ』とか訳のわからない異名をもつ数学教師狩野
やつの授業は説明はうまく、ちゃんと聞いてさえいれば大半のことは理解できるのだが、要求してくることが尋常ではない
ある単元が終わりそうになると宿題をだし、それと平行して小テストをやるのだがそれが尋常ではなく難しく大学受験もかくやというレベルだった
もちろんここは進学校みたいなので出すのはわからないでもないが、いくらなんでも受験レベルの問題はないだろって感じである
授業を聞いてればわからないでもないのだが、聞き逃してるとわからないようなレベルの問題もあり全く授業に気が抜けない
まー須藤は頭がいいので授業は寝はしないが軽く聞き流してるみたいだ。
裕美は頭はいいんだけど数学が苦手みたいで後でよく僕に聞きにくる
もちろん僕もそのとき苦手な国語あたりを聞くのだけど、単元の終わり頃になると皆どこかに集まりだし勉強会をやる
もちろん僕も須藤と裕美と一緒に僕のうちでやる
みんなそうでもしないと狩野の宿題でまずつまづき、テスト勉強すらできないのだ
ちなみに宿題をやってこなかったり小テストで点が悪いと評価に響くので、皆必死になってやるようだ
そして魔の数学が終わりを告げる鐘がなった時、教室中が死屍類似となっていた…
三時間目の体育は裕美が言ってたようにマラソンだった
ちなみに須藤はスポーツ万能の癖にこういう時、よくサボっている
サッカーとかになると本気でやる癖に…
あいつによれば保健室の先生が美人で、その人が呼んでいるそうな
まぁそれは方便だと思うが、須藤は実に多くの女性から人気がある
バレンタインとかはヒドかった…
須藤に渡すように女子から迫られ泣かれ脅されて、ちょっとトラウマになりそうだった
しかも何を勘違いをしたのか、いつも義理チョコを渡してくれる裕美が
「そんなにチョコもらったんなら私からはいらないよね」
とか不機嫌そうになってたので機嫌をとってチョコをもらうのが大変だったような…
あーもう今年のバレンタインもあんな風になるのかなとグラウンドを走りながら嫌な事を思い出してしまう。
まったく癖の強い友人を持つと困るな…
昼休みになり、裕美と一緒に弁当を持って屋上に出る。
既に直がいて食べる準備をしている
そしてもうしばらくすると須藤がやってくる
直が僕らと一緒にご飯をとるんだけど、新しくできた友達と一緒に食べればいいのに
わざわざ僕にあわせなくてもいいのにな
今日の須藤の弁当誰のだろうな?
「須藤、今日の弁当は美人の保健の先生か?」
「よくわかったな。先生の弁当はやっぱり大人の女って感じがして好きなんだよな〜」
「須藤くん昨日はみーこちゃんの弁当は可愛くて好きなんだよな〜とか言ってなかった?」
「それはそれ、これはこれだ」
まったく本当須藤刺されても知らないからな…
とそこでみな適当に座って弁当をあける
須藤の弁当はちょっと凝ったような感じだが見た目もよく、栄養も考えられてる感じで確かに大人の女性が作った感じである
まぁ僕と直の弁当も似たようなものであるが
確かに詩織さんこういうの凝りそうだしな…
昔は毎日食べていた裕美の弁当はそのころよりもますます上手になったみたいで色彩もあざやかで確かに食欲を誘う様子である
そんな事思ってると
「優磨くん。私のお弁当食べたいの?」
とかいってくる裕美がいて
「おー優磨さんは羨ましいな。殺したくなるくらい…」
と茶化すような感じで言ってくる須藤がいて
「兄さん…」
とかちょっと恨みがましい目で睨んでくる直がいて…
いや直、裕美の弁当食べたいのなら直接言えばいいじゃないか
っというか裕美卵焼きを箸でつまんでこっちに向けないで
屋上には他にも人がいるし恥ずかしいじゃないか
どうすればいいんだよ僕
ちょっと裕美人がいるから、ちょっと恥ずかしいから僕こういうの苦手なんだから
そういうの察してよ裕美
だからほら須藤もなんかにやけた笑いをしてないで助けてくれ
いつも僕須藤から迷惑かけられてるんだからこういうときこそたすけてよ
あー教室帰ったらラブラブだねとか言われて
家に帰ったら結婚届書いて明日には役所にいくんだろうな
そして子供は男の子と女の子1人ずつで結婚記念日には毎年旅行行って
マイホームをたてて・・・・
本当どうするんだ僕
なんか何言ってるかわからなくなってきたぞ
投下終了
なんか修羅場成分足りない気もするけども
そこらへんは妄想で補ってくれると嬉しいところです
トリップは完全に手違いがおこったという・・・・
そしてまだまだSSを書く力がたりないと実感した・・・・
>>256 GJ!
ただ、句読点はちゃんとした方が良いかもしれないな。
258 :
名無しさん@ピンキー:2007/08/20(月) 22:27:18 ID:tP1vh8d0
>>256 作者様、GJ!
オイラは面白いと思うな。
ゆーくんのニブさ加減にはニヤニヤさせられるし、
須藤も修羅場作りそうで何となく期待してしまうね。
>257 あー携帯で打ってたからPCで見直したほうがよかった・・・
今後気をつけます
感想ありがとう
もっと力をつけて満足できるような作品をつくれるようになりたいという・・・
主人公よりも須藤のほうがヒドい修羅場に巻き込まれそうだな
なに、形態からとナ・・もつかれさまです
なに、形態からとナ・・もつかれさまです
ごめん、なんか連投してたorz
携帯だと打つのはまだしも投稿はきついからな
てか、携帯で小説を書くのがちょっと信じられんなw
PCはブラインドタッチでも
携帯で打つのはおじいちゃん並の遅さな俺
携帯で早く打てるのはマジで尊敬するわー
ここまで書いて思ったけど
メールでの誤変換と誤爆と誤解を使って修羅場とかできんかなー
てか、女友達宛のメールを彼女に間違って送って
彼女がどんどん疑心暗鬼になる展開ならあるんじゃないの?
普通に親しい女友達へ送ったメールが間違って幼馴染に届いたり
もしくはお風呂に入ってる間に姉に見られたりとかな
後は冗談のつもりで「デート行こうか?」とかおくったメールを冗談ととらなかったりなw
てか、修羅場サウンドノベルの所を見てみたら
とらとらシスターがあったんだけど、いつの間にサウンドノベル化をしていたんだ
全く、知らなかった・・・。誰かうpを頼む
>>269 い・や・だ^^
まぁ持ってないだけなんだけどね
「七誌君と付き合う事になったんだって?? 良かったねぇ〜。それにしても七誌君に告白するなんてよっぽど自分に自信があるんだね。ボク羨ましいや。でも美奈子ちゃん可愛いから七誌君と凄くお似合いだと思うよ。幸せにね。
ところで美奈子ちゃんボクが誰を好きか知ってたよね?」
こんな会話を受信した。
>>271 実は好きなのは美奈子ってオチじゃないだろうな
もしそうなら是非続きを書いてもらうぞ
>>271 ナツカシス
夏子さんとか書いていた絵師さんの作品にあったな。
>>271 一瞬、発言者は男で美奈子を好きなのかと思った
投下します。
+ + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + +
ヒラサカの領地と化した旧ウォーレーン城内、会議室。
大陸制覇という目標を秘め十人程度で囲んだ長机には、列島から渡って来たユエ達ヒラサカ家の者や、
ウォーレーン周辺の将兵だった者など、見知った顔も居ればそうでないものも並んでいた。
「では各地への侵攻を計画する前に、初めに現時点での簡単な勢力図をお教えします。地図を」
「はっ」
側近の部下が用意していた大判の地図を持ち上げ、そのまま机の上に広げて見せる。三日月を太くした
様な大陸の内部に、それぞれの国との境界を表す線が数本。
ユエは懐から扇子を取り出し、その先端でおもむろに幾つかの線をなぞっていく。
「まずは東端から横長に根を張り、大陸東半分の上下を完全に分断している二本線。その内側がかつての
ウォーレーンであり、我らヒラサカ国が現在所有している全ての領土になります。
旧来のウォーレーンよりも下幅が増しているのは、ここを手にする前準備として押さえておいた領土分
の修正を加えたものです」
そう説明されたヒラサカの領土は、確かに以前地図で見たウォーレーンより若干南に広がっていた。こ
ここそ私が大陸制覇を行う出発点であり、全てにおける最重要拠点。
「そして、現状において最大の勢力と思われるリザニアはここ」
次いでユエが指したのは、ヒラサカからそれなりに離れた比較的規模の大きい領土。二年に及ぶ激闘の
末、東にあった強国を見事打破してみせ、最近では西側の隣国イスト、そこから更にイストリアを取り込
み領土を広げた北の大国リザニアである。
……悪くない位置取りだ。
机に肘を付き、私は内心の笑みを深めた。
出来たばかりのヒラサカ国に、今リザニア軍と直接対決するだけの力が不足しているのは否めない事実
。列島から渡って来た選りすぐりの精鋭達は心強いが数が限られ、これから集めなければならない新兵と
もなれば、当然あちらとの錬度がまるで違う。
リザニアを攻略するには、ヒラサカは未だ準備の段階にある。だが、それは向こうとて同じ事。
イストとイストリアはくれてやった。が、ウォーレーンは既にこちらの手の内よ。
確かに私はリザニアに居た頃、エイブル将軍に協力する形で西側の領土を広げていた。その行為の殆ど
が、同じく大陸の制覇を目論むあの男に利するものだというのも承知の上で。
”リザニアに勝てる国”か、……考えたものだな。
しかし、戦争で被った被害の建て直しが完全に済んでいないリザニアが直面する、イストリアを手にし
た事による隣接国の増加、拡大した領土の統治という問題。
それらの相手をする傍らに、距離のあるヒラサカを攻めるという策は現実味に乏しい。何より、同盟国
であるウォーレーンを陥落され、憂慮していた国境を囲む防壁たる八つの砦、それが有効活用出来るだけ
の敵に渡ったとくれば、制圧は困難を極める。
加えて、周囲を固めようにもヒラサカは大陸東側の上下を完全に分断しており、よしんば北側の国境に
隣接する土地を全て制圧したとしても、旧ウォーレーンの誇った防壁に対して軍は真正面からぶつからざ
るを得ない。そして、そんな不利な条件での長期攻略にかまけていては、西側の国々からあっと言う間に
足元を掬われてしまう。
結果として、リザニアはヒラサカから先の領土を諦め、イストリアを基点として大陸の西半分から攻め
て行かなければならないのだ。
その間に、こちらは他勢力が支配する東半分の侵略を進める事が出来る。リザニアから襲われる心配も
なく、着々と国力を高めながら。
まさに、彼我の位置関係を逆手に取った理想的なスタート。
「進むは南だな」
私の声に、ユエを始めとする何人かの将兵が、賛成の意を口にしながら頷く。そう、この国を覆う強固
な防壁をリザニアに対しての盾とし、時間稼ぎに活かさぬ手など無いのだ。
「仰る通り。それゆえ当面、我々の侵略先はこちらを予定しております」
扇子の先端が、南の方へと徐々に下がっていく。それが止まり示した部分は、
「……奴隷の名産地か。安く手早く兵を増やすには、実に都合が良い」
外海に面し、ヒラサカよりやや南東に位置する領土。戦争の最前線に用いる決死部隊の兵士等を主に、
とかく重労働を課す奴隷の調達場として、キルキアに渡ってから私もよく耳にしていた地名である。
本国周辺に広大な植民地を置き、人身売買が生業となっている国、ジウ。
「国王は暴君で知られており治安も悪く、支配後の統治も民衆の支持を得られる事でしょう」
「だが、そこへ行くには障害があるな。手勢を考えるに、あるいはこれもまた丁度良いか」
呟く先には、互いの国境間に存在する線で象られた領地。
ヒラサカからジウまでの直線上にはだかる小さな国。ここもまた、ジウの持つ植民地の一つである。
「ええ、ですのでまずはここを落として、ジウへの経路を繋ぎます。今の状態でも戦力的には問題ありま
せんが、先にジウ北方にあるこの植民地を奪い、数割の奴隷兵をこちらで確保しておけば、互いにより低
い損害での制圧が望めるでしょう」
そう締め括り、異論は無いか周囲の将達へ意見を求めたが、誰もが反対を唱えず黙って頷いた。最後に
全員分の視線が数人から釣られる様に私へと集まり、静かに指示を仰ぐ形に落ち着く。
一応、ここでの立場はただの参謀なのだが、…どうせユエが吹聴して回ったのだろうな。
逃げた男の身としては、全く以って複雑な心境である。
肩書き上はユエが女王であっても、私が実質的な最上位に居るならば、確かにそれに越した事は無い。
むしろ、列島からの将兵はユエが王妃で私が王と見ている者が大半だろう。
既に夫婦の縁は切ってあるにも関わらず、未だに古株達からは旦那様や、殿などと呼ばれる始末。離縁
の件についても、ほんの行き違い程度にしか思われていないのではなかろうか。
ともあれ、今はこちらの問題が先になる。
思考中に閉じていた目を開き、私は平素の態度を崩さずに口を開く。
敵はウォーレーンを腐らせていたモンストロと同様に、一般大衆の求める繁栄には不要な存在。ならば
、侵略の際に最も重要な大義名分もまたこちらの手にある。
「決まりだな、狙うはジウだ」
「サンドロ様、何故わたくしと共に指揮を執っては下さらぬのですかっ!?」
会議終了から間も無く、私に割り当てられた例の和洋折衷部屋にて。
あの後、私が出したジウ攻略にあたっての具体的な案が余程堪りかねたらしい。部屋まで無言で半歩後
ろをぴったりと付いて来ていたユエが、襖を閉じるなりやや錯乱気味にそう言い放った。
…二人になるまで持ったのは大した進歩だな。
正直に言えば、若干視線がこちらへ寄っていた気がするが。まあ、そのぐらいは許容範囲と見て良い。
「何故も何も。植民地の一つを奪う程度なら、お前達だけでも十分に事足りるだろう」
それに、ただ正面から当たるのみでは旨味が薄い。どうせするならば、外と内との両面侵攻がより効果
的で理に適っている。
奴隷の産地で知られるだけあり、向こうの本国には金持ち連中を楽しませる為の施設として、植民地か
ら持ち寄った奴隷や、賞金を求め参加する者達を殺し合わせて儲けを得る闘技場がある。そういった中に
は大抵即戦力と成り得る実力者が居たりするもので、他国との戦が始まれば兵隊として使われてしまう奴
隷剣闘士や腕利きの戦士も、事前にこちらが買い取るなり雇うなりしてしまえば大得だ。
故に、今回の植民地制圧に始まるジウへの攻撃を行う前に、私やゴースを中心とした隠密部隊が先んじ
て潜り込み、いつもの様に偵察や諜報をしながら現地で優秀な人材を引き抜く。その間にユエ達がヒラサ
カの方で戦争へ備え、指示を受け次第いつでも進軍出来る状態にしておくというのが、つい先程纏まった
作戦方針なのだが。
「ならばわたくしもお供させて下さい!」
「馬鹿言え、お前が居なかったら誰が軍の指揮をするという。ツガワには城の留守を頼んであるし、総大
将のお前が出なければ兵の士気が下がるだろうが」
第一、ユエは戦闘指揮や計略をやらせてこそ非常に強力な将であって、周辺国への外交手腕はともかく
、内政や諜報活動では長所に劣り、立場的にもその真価を発揮する事が出来ない。こうした裏方仕事は私
やゴースの様に、その道を得意とした者へ回す方が無難である。
「適材適所だ。諦めろ」
「ああああ、そんな。…ようやく、ようやくお傍に居られると思いましたのに……」
よよよ、と、畳にのの字を指でなぞって分かりやすくいじけるユエ。初めての頃から相変わらず、私と
二人きりの時は精神年齢が低下する傾向にある様だ。
何と言うか、これさえ無ければ避けようとする意識も多少薄れるというものを。甘え頼られるのは結構
だが、あくまでも仕事の時は仕事優先であって、私情を挟み過ぎるとロクな目に……
「………おい、何をしている」
「だっこ」
くい…
「だっこ、……して下さいな?」
上目遣いにそう言って、私の懐に入り服を掴む。幼さを漂わせた言葉遣いをするユエからは、半ば状況
を開き直ったかの様な、”ここで元を取っておこう”という意思がひしひしと感じられた。
列島時代の私の生活では、頻繁にあった事。
……もう次が来たか。
何らかの形で私に対する不安や不満が溜まると、ユエはだだ甘えの状態になる。私個人の連れなさに止
まらず、部下や官僚等からの嫌味を理由に飛び込んで来る事もしばしばで、今回は部下が私だから、その
両方になるだろうか。
とにかく、そんな状態で更に蔑ろにすると、不機嫌な態度が後々までしつこく尾を引くので、私はこれ
をユエの理性メーターに付いた程々の目安として捉えている。常ならばもう少し自制も利くのだが、最も
新しい記憶が再開時のあれだったので、今のペースはまさに不在だった期間を取り戻すが如き勢いだ。
「お前と言う奴は……。十代半ばの子供とて、いい加減に卒業する頃だぞ」
言いつつも、機嫌を取る為にその柔らかな身体を持ち上げ、しっかりと抱えてやる。巻き込んでしまう
と少々痛がるので、長く切り揃えた黒髪を腕の外側へと払っている途中、こちらの背に回された両手が一
層強く締められたのを感じた。
「良いの。わたくしは特別だから、だっこしてもらっても大丈夫なのです」
「訳の分からん事を」
所々に子供口調が混じり出したユエの頭を片手で胸元へ引き寄せ、そのまま艶やかな髪を梳いていく。
昔からこれが一番のお気に入りらしく、甘ったるい猫撫で声を出しながら身体を震わせている。
仕置きといい、これでは夫婦と言うよりむしろ親子なのではと思う。夫婦と言っても”元”という字が
付く上、親に恋心を持つ子もまたそれで問題有りだが。
急場さえ凌げるならば、そんな細かい事はどうでもいい。
過去の行いを清算する許しは出したが、復縁までした訳ではないのだ。そうして元の木阿弥と成り果て
ては、酒の席での笑い話にも使えはしない。
甘えるなり、依存するならある程度応えもしよう。私自身もまたそういう質の人間であり、それがこち
らが引きずり込んでしまった責任に対しての義務でもある。
「ふや、……ふぁぁぁあ……ぁ」
生来、人心掌握の為の話術や洞察力に関しては他に劣らぬ自負を持っていた。それでも、感情心理を解
けば解くだけ、今度は余計な心配事が勝手に増えてしまう。
かく油断ならないものなのだ、人間関係というやつは。見方によって底は広く狭く、深くも浅い。
明けれども 暮れて止まぬは 理なりけり。
……どうにかしたいとは思うものの、こればかりはな。
季語が付かないものは、確か川柳だったろうか。心の中で、ひっそりと一句を諳んじる。
抱きかかえたユエの髪を撫でながら、見えない位置にある私の顔は半ばそうした状況を楽しむかの様な
、僅かな苦笑を浮かべていた。
+ + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + +
「こりゃまた、領主の人が知れやすなあ」
出立から十日。途中にある幾つかの関所を掻い潜り、障害となっていた小国を越え目的地へ辿り着いて
開口一番、ゴースは押し殺した笑い声を上げそう言い放った。
もっとも、その感想には私も全面的に同意だが。
「用途がはっきりとそう定められていた分、植民地の方にはまだ納得が行ったものの…」
「どちらも大した差はありやせんね、こっちの市民も大半は奴隷階級なんでしょう」
税収は高く見込めるだろうが、これではその他の産業発展は望めん。
事前に聞き及んだ情報通りの混沌とした街並み。道行く貧しい人々の目に映る、多くの絶望。
商業、取り分け奴隷を使った商売が盛んな事で知られるジウ城下の、噂に違わぬ風景であった。
「とりあえずは、今後の宿だ。ここならば情報収集や交渉も他より容易い、手分けして行くぞ」
「承知いたしやした」
頷くなり、即座に街の中へと消えるゴースに続いて、私も別方向へと一人歩みを進める。互いに真髄を
心得ている者同士、付き添う理由などないだろう。
これとはまた微妙に異なるが。考えてみれば単独行動など、リザニアに降って以来久しくしていなかっ
た気がするな。
何となく、このキルキア大陸、あるいは列島へ渡って来た最初の頃を思い出し、そこはかとない郷愁感
が胸を掠めていく。
今も大概だが、あの頃は輪を掛けて無茶を繰り返していたものだ。懐かしい。
以前まで共に行動していたリザニアでの部下達は残らずあちらへ送ってしまったので、現在の偵察部隊
編成はヒラサカから新たに若干名加えたのみ。それもジウ本国へ入る前に別れ、植民地周辺での工作を任
せている為、今ここへ居るのは私とゴースの二人だけだ。
まあ、多ければ良いものでもなし。向こうも気の知れた奴等だ、きっと上手くやってくれるだろう。
かつて列島における隠密任務を私の下で携わってきた者達。列島組と一緒に隊の半数程付いて来た彼等
も、どうやら昔と変わらず影ながら奔走していた模様。
未だに私の事を主と慕い、忠義を尽くさんとする彼等に期待を寄せつつ、反面些か後ろめたい気持ちも
あったのだが。腹を割って元副隊長と話してみた所、「夕重様の御乱心では致し方有りますまい」と笑っ
たもので、思わず他の者も交えて当時の話を酒の肴に盛り上がってしまった。
……が。つい盛り上がり過ぎてしまったな。
その様子が、後でしっかりユエの耳に入った事は言うまでも無い。
潜入して翌日の昼。
「そいつぁ朝の分とまとめて、昨日のサービスに付けとくぜ。兄ちゃん」
「ありがたく頂こう」
「なぁに、あんたは久々の上客だ。いいってことよ」
肉やパン、スープ等の料理が多めに並べられ、宿の亭主がテーブルにグラスと酒瓶を置いて行く。礼を
述べると、がっしりとした体格の強面の男主人は、口髭を弄りながら陽気に笑った。
何時の時代も、持つべきものは金と人脈と、それを扱う器量だな。
物事の成否において有益な相互作用を及ぼす、黄金の三角関係。
水で半分程度に薄めて中身を攪拌した後、一口含む。異常が無いか一応の確認をし終えて、私はグラス
に新たな酒を注ぎ足していく。
指し当たって、ここは有用、と。
夜の内に、別々の宿を取る片手間で大まかな調査を済ませ、互いの宿泊先を報告し合って終わった初日
。二階建ての宿の下半分が酒場となっているそこで、私は出された料理と共に得られた情報を脳内で咀嚼
していた。
最初にわかったのは、ジウの国民は全部を十で数えるとして、貴族と商人と奴隷市民と、それぞれ概ね
1:3:6の比率で構成されているという事。確立された神官職や宗教家などは見かけず、こうした土地
では良くある極端に流行っているか廃っているかの二択、ジウはその内の後者だという解が窺える。
奴隷達に救いは必要ないという事だろう。現地民の不満抑制の為の、侵略後における一定の文化保護等
を考えれば、国に妙な宗教が根を張っていたりしない方がこちらとしても好都合だ。
他にも、多くの貧困層はやはり植民地から来たのが殆どである事や、それら奴隷階級の扱いが度を越し
ているのを主な原因に、一部の上流層を除いた国の治安が著しく乱れている事。かく言う私の居るこの宿
も、酒場としては普通に機能し、宿泊客に対しては寝込みを襲って儲けを得るという、所謂追い剥ぎ宿と
呼ばれる類のものである。
「代わりは要るかい?」
「いや。それよりそろそろ他の客が見え始めてきた、仲介は頼むぞ」
平らげた皿を片付ける亭主にそう告げると、私はまだ栓を開けていない酒瓶を手に持ち、時間にそぐわ
ず早くから人の集まり出した一角へと足を運んだ。
恰幅の良い者や、服装の所々に装飾をしている者。何よりその場所に居る全員に共通した、奴隷階級達
の悲観と諦念から来たものではない、余裕を窺える捕食者側の笑み。
「楽しそうだな。私も一つ話の仲間に加えてもらおうか」
テーブルを囲む男達の前に酒瓶を置き、まずはそう挨拶する。
「お? こいつぁありがてえ」
「何だ。アンタ見ねえ顔だが、よそから流れて来たか?」
それまで自前の商売の話で盛り上がって、如何にもな雰囲気を醸していた四、五人の男達は、どうやら
そうした飛び入りにも慣れている様子。
「ああ、ここは金の匂いが特に強いんでな。海を越えて稼ぎに来た」
類は友を呼ぶ。この手のあくどい商売をしている酒場宿では、似た様な連中による取引現場を目にする
のも日常茶飯事というもの。
国の暗部を熟知している闇商人達の溜まり場。多少のリスクはあるものの、押さえておけば貴重な情報
源になる上に、協力を得られれば国へ攻め入る際の工作も非常に有効だ。
なので、手始めに私は宿の亭主を金銭で懐柔した。場所代というやつで、一定の金を持った者達のみが
酒場の裏側を利用する資格を得られ、そこから仲間同士で様々な情報提供や交渉を行う仕組みである。
ちなみに、私が払った額は土地相場の約三倍。握らせる時に浮かべた微笑は「黙って従え」の意。
目の前の金貨袋を見て一瞬怯んだ後に、上客の気配を素早く察した亭主は、にやりと悪人の笑顔で応え
た。性根はどこも人それぞれだが、やはりこうした所の人間は基本的に話が通じ易くて助かる。
「亭主、メニューを出してくれ」
「あいよ! 今日は何でもじゃんじゃん頼んでくれー!」
私の声掛けに、気前の良い返事がカウンターから飛んで来た。おおー、と、その様子に感心する数人。
「すげえな。マスターの口からそんな景気の良い台詞、オラぁここしばらく聞いてなかったぞ」
「最近は泊りの女客が来てない様だ。所帯を持たぬ亭主殿は、下の方もさぞかしご無沙汰だったろうさ」
「そりゃ本当かよ! おいおい、どうりでここんとこ飯がイカくせぇと思ったぜ!」
どっ、と、店内に下卑た哄笑が響く。後ろで亭主の冗談半分の怒鳴り声が聞こえ、それがまた笑いの燃
料となって場が沸いた。
「……さて。酒に良く合う美味い摘まみがあるならば、是非とも教授願いたいのだが」
「ひー、…くっく。お前さん、中々わかってんじゃねえの。ツラ構えといい、そこらの俄か連中共と違っ
て、かなり場数を踏んで来てやがるな?」
笑い過ぎて涙が出たのか、目元を拭いながら一人の男が私を見つめて言う。未だに堪え切れぬか身体を
震わせているものの、やはり視線は真剣に品定めをしていた様だ。
「何、各地を流れていく間に得た、ほんの嗜み程度に過ぎん」
出だしは良好。後は掴んだ流れを離さずに、メンバーの一員として順応し、情報の交換に臨むのみ。
ユエ辺りは言うに及ばず。たとえ隠密として他の技術では私が今一歩後ろを行くゴースにも、この状態
から更に彼等ともう一足飛びの信頼関係へと進める事は出来まい。
紛れもない自負。イストリアで、アリアに初めて暗示の魔法を教えてやったときの事を思い出す。
慣れれば使えるとは言ってやったが、実践的にここまで扱える者はまあ居ないだろう。
私の瞳に、常人には不可視の仄かな光が宿り始める。―――交渉開始だ。
投下終了。本編も今回で新章突入、また男だらけですがご勘弁をば。
草きたこれ!
いよいよ導入編を抜け、話の中核へと近づいていくわけですね。期待しています。
投稿ペースも安定していて嬉しいです。
GJ!
プロットをひとつ思いついた。
戦争の後が舞台。
ヒロイン1は敗戦国の人間だが、過去に多くの権力者を誑かしてきた傾城の美女。
今回も戦勝国の将(主人公)に取り入ってやろうと思っていたが、主人公は全く落ちない。
どんなにアプローチしても全くダメ、それどころか彼女より数段美しさの劣る恋人を愛していた。
美女は、最初はプライドを傷つけられた怒りから主人公に構うが、主人公の人柄に触れるうちに徐々に本気になっていく。一方で主人公も、美女の本当は繊細な内面に触れるうちに、心を許していく。
しかしそれが、主人公の恋人の嫉妬に火をつけ・・・
個人的に、美人とか高貴な身分の女性が劣勢なのに萌える。
>>283 んー…うまいなぁ。
なんというか、「ふん!こんなの良くある戦記もののいいところだけを寄せ集めた中二病の産物だ!」
と思う自分と「でもそうは言っても俺じゃ絶対書けないな。」と思う自分がいるよ。正に嫉妬!
とにかくGJ。
まぁ他の話からいいところだけもってこれるのも才能の1つだとは思うな
新しいことを書ければそれでいいが、難しいしな
みんながそれぞれの作風があるんだからな
なにを今さら、、、プロの世界だってどこかしらからパクッてる作品だらけの現状で全くのオリジナルを作るなんて無理だろ
要はストーリーを構築する才能
どこかから持ってきた設定とかいってるやつは視野が狭すぎ
もっときちんと『作品』を見ようぜ
嵐マダー
なんというか、とりあえずすぐに厨二病ってのは視野が狭いと思うぜ
>>283 GJ!!もうたまらんとですよ!
いやぁ、やっぱ世界中に嫉妬と修羅場の種を巻いて行きそうな気配濃厚だなぁサンドロ……まあ過去の修羅場の種も期待してますが。
その修羅場の嵐の中でもきっちり上手く立ち回りそうなあたりも並の主人公とは違って。
あと、厨二病て……結局のところ創作なんてよほどにお堅い楽しみ要素の無いの除けば、殆どが突詰めればそういうのに行き着くんだから気にする方が変だと思うな。
タランチュラさんは連載されないのでしょうか?
草のいいところは、嫉妬だけじゃなくて主人公その他世界
そのものがちゃんと描写されてるからだろうね。
そんなわけで続きが待ち遠しいですわぁ
相変わらず引き込まれていきます・・・
次の話も期待っ
大人の話も好きだけど、ガキの頃に考えるような話も童心に還れるようで
イイジャマイk
>>285 ヒロイン1がビッチな時点で残念ながら俺はOUTだ…
子供じゃあるまいし…
298 :
286:2007/08/22(水) 03:00:07 ID:Ae2vC75z
別に俺は草の作品性を貶したいわけじゃなくて十二分に楽しんでるよ。
たとえれば、「こんなのただのハンバーグじゃない…でもまいうーー!くやしいっ…ビクビクッ」
って感じかな。
おまえの比喩は分かりにくい。
通常嫉妬の矛先になるサンドロが闘牛士のように華麗にかわし続けそうなので
このスレに生息するものの一人として草に対する期待としてはそうやって矛先を逸らし続けサンドロが台風の目になることで
台風=修羅場の規模が世界的にどれだけデカくなるかってのを期待してる
>>283 ずいぶんな長編乙です
だけど混乱してきたよ・・・・・
「草」は嫉妬もの・戦争もの両面とも益々面白くなりそうで楽しみなんだが、
できれば大陸の地図が欲しい。
三日月形とか大陸の東端とか言われても、文章だといまいちわからないな。
そこまで求めるのは酷だろ
脳内補完で我慢しろ
その辺はブログを作って、オンライン解説でもやればいいんだが・・・
そこまでやるくらいならここでなくて自分のサイトにうpするだろ
てか、ブログ持ちの神々はここに来る回数が極度に減ったような気もする
まあ、山本君のお姉さんの神は日記が物凄い容量なので満足しているが
その他は・・・・・・
まあ、仕事をしていない主婦の募集を募るかw
大体これって仕事じゃないんだから、そこまでするひとは少ないだろうよ
趣味でやってるのにそこまで求めるのはな…
適当に自分で作ってみるといい
紙に書けば分かりやすいぞ
投下します。
ソワソワ……
「うー、なんか、緊張、するぜ。」
あれから望を家まで連れてきてしまった。話を聞こうにもただ泣き付いてるだけだし、なによりあの暴風雨のなかにいたら、風邪をひいちまうからだ。
「ああ!しかもメシ買い忘れちまった!!……しゃーねー。自分で作るか……望の分も。」
台所に向かう途中、風呂場をにそっと近付く。
サァァァ……
「うぅ……ぐすっ……ひくっ」
シャワーの音とともに、痛々しい泣き声も聞こえて来る。あー、誰かに……特に女の子に……目の前で泣かれるのって苦手なんだよなぁ。
あんなに錯乱した状態には、なにか暖まる物が一番だ。早速冷蔵庫を開け、なにがあるか物色。…………うん、これならシチューが作れるな。
調理に取り掛かり、野菜を炒め始めたところで、望が風呂からあがってきた。
「そっちで待っててくれ。直に出来上がるか…ら……おぉぅ……」
振り向いて望を見た瞬間、思わず呻いてしまった。湯で湿った長い黒髪は、本当に同い年か?という程美しかった。それに、不謹慎だが、さっきまで泣いて涙で潤っていた瞳が、彼女の艶かさを増していた。……俺が女に見とれるなんて初めてだ。
「……」
望は、コクリと頷くと、声も出さずに居間の方に向かった。その横顔は、相変わらず絶望に満ちていた。
・
・
・
・
・
・
・
・
・
「ほらっ、出来たぜ。これでも食いなよ。満腹になればちったぁ落ち着くだろ。」
「あり……が、とう……」
家について初めて聞いた声は、普段学校で聞いていた声とは似ても似つかない、ガラ声だった。
「……いただきます……」
「いただきます。」
二人で手を合わせ、シチューを啜る。うん、なかなかうまく出来たて思うが……望の口には合うか?こいつの味覚とか全く知らんからなぁ。
やっぱりお嬢様だから、毎日高くて旨いもん食ってんかな……っと、それは偏見か。
「おいしい……こんなにおいしいシチュー、初めて……」
……心配することもなかったようだ。今のおいしいは、感情的なものも含まれていただろうが、気に入ってくれてよかった。
「……ぐずっ…おかわり、大盛り、で……」
「……食うの早くない?」
俺、まだ半分も食べてないよ?
結局望は、もう一回おかわりし、計三杯もシチューを食べた。
「………」
「………」
食べ終わってから十分……何を話すでもなく、沈黙だけが続いている。時々、チラリと望の顔色を伺うが、彼女はただ俯いているだけだ。しょうがない、俺から話しかけますか。
「で、さ。率直に聞くけど、なにがあったの?」
「……こんな言い方、失礼ですけど、聖君のご両親は……その……」
「あぁ、昨日、めちゃくちゃになったよ。」
「ッ……そのっ……」
「ま、別に気にしちゃいないんだけどね。あれ?もしかして知ってた?」
「はい……その原因が、私の……お父様にあるんです。」
……それが、さっきの泣きわめいていた理由か。望は、時々涙声になりながらも、ことの内容を話した。俺の母親の浮気相手が、望の父親だということ。
俺の親父が母親を殺したせいで浮気がばれ、警察が望の家に来たということ。もううんざりだ。あのクソ野郎は、他人にまで迷惑をかけなきゃすまないのかよ。
「いいよ。」
「えっ?」
話を途中で遮り、顔を上げた望に目を合わせる。
「別に、さっきも言ったように気にしちゃいないし、お前に責任があるわけじゃないだろ?」
「で、も……私っ……」
「それで?お前はこれからどうすんだ?」
「……家には、帰りたくありません……し、しばらく、ここに泊めてくれません、か?なんでもしますから!」
「……はぁぁ。ま、好きしろよ。面倒見る自信はないからな。」
「はいっ!」
これが、俺の人生を狂わす始まりだった……
以上です。長い間投下できず、本当に申し訳ないです。
313 :
名無しさん@ピンキー:2007/08/22(水) 18:16:01 ID:YlGKNY8V
gooood job!!
自分のペースでいいんじゃないかい^^
久々にキター
GJ
人生狂っちゃうのか……。
素晴らしいじゃないか!
楽しみにしてますgj
GJ!
待ち焦がれてたぜ!
待ってたぜ…GJ!
イエスっ!!!GJですっ
あぁ続きも気になります。。。
小恋とすみか来ないかなー
ノントロこいこい
>>319 作者どこ行ったんだろうね
まあ、いつか帰ってくるでしょ
wktk
まあ長期中断してた作品もちょろちょろっと再開してくれる流れだし
色々な作者さん達が休止中の作品を再開してくれる事を期待しつつ全裸(ry
>>312 GJ!
最後の〆方が素晴らしいわ、続き楽しみにしてます(*´д`*)
326 :
『夢』:2007/08/23(木) 18:40:17 ID:nl7NG2Pp
これまで読むだけだったのですが、初めて書いてみたので短編を投下します。
SSはこれまで全く書いたことがないので、読みにくかったりおかしいところがあってもご勘弁を。
327 :
『夢』:2007/08/23(木) 18:41:43 ID:nl7NG2Pp
いつの日からか始まった妙に現実味のある夢。
その夢の中で私……片瀬未亜は自由に行動でき、いつもと同じ学校生活を送っている。だれもが違和感ないほど、現実と変わらない性格、行動……
けれど、全ては夢に違いなかった。あらゆる感覚が感じられたが、痛覚…痛みだけが感じられない。
夢か現実か…私にとってはどちらでもよく、何より……
彼と……大好きなあの人と普通より長くいられることが嬉しかった。
現実でも、夢でも、変わらない笑顔、優しさで接してくれる。
そのうち、夢だと分かれば私は現実とは違い、積極的に彼に近付いていった。
現実でないのなら……失敗しても怖くない。現実では味わえないようなできごとを経験できるかもしれない。
だんだんと、私は大胆になって行く。告白したり、彼にいきなりキスをしたり、抱き付いたり、ペ〇スを急に握ったり……
『あの…ずっと前から、その、す……好きでした!』『おはよう、……君。チュッ』『むぎゅ。えへへ……君って暖かいよ』『……どう? 気持ち……いい?』『だぁめ、まだお預け』
いつしか、夢と現実は大きくかけ離れていった。
現実では相変わらず彼とは距離があるまま。遠くから見つめるだけ。触れることはおろか、話すことさえできない。しかし、夢の中では彼は私のもの。付き合うこともあれば、一方的に言い寄ることもある。
夢と現実……そのあまりのギャップが私を苦しめる。
私の彼にクラスの女が話しかける、手を触る、匂いを嗅げるほど近付く、委員会の仕事を手伝ってもらう…
ギリリ……
どれも、夢の中で私がして来たことばかりだ。
私の、彼を……
何よりも許せないのは、彼がそれらの行動を許すことだ。頼まれれば手伝い、誘われれば一緒に帰る……
必然的に、夢の中での行動がエスカレートして行く。
付き合えば交わり、付き合わなければ無理やり拉致って監禁、やはり交わる。
『もっとぉ……君の、大きな、ペ〇スで、私の、中を、かき回してぇ』『えへへ……もう、逃がさない。……君は私だけのもの。さあ、繋がろう? ずっと、ずぅ〜っと、私が満足するまで止めないからね?』
『他の女と一緒に帰っちゃだめ。手伝ったらだめ。話すのもだめ。近付くのもだめ。目を合わせるのもだめ。ううん、視界に入れるだけでもだめ。私を、私だけを愛し続けてね?』
しかし、夢がエスカレートするに連れて、現実ではますます他の女が彼にまとわりつく。
ベタベタ
イチャイチャ……
私はただそれを遠くから見つめ続ける。なんの感情も表情に出さない。ただひたすら、能面の様に、無表情で見つめ続ける。
いつしか、私の目は光を失い、どんより、黒く、……濁っていった。
328 :
『夢』:2007/08/23(木) 18:42:33 ID:nl7NG2Pp
気がつけば、制裁が始まっていた。もちろん、夢の中でだ。現実で彼に近付いた女を陥れ、辱め、あらゆる弱みを探し出し……人前に、彼の前に表れないようにしていった。
メス豚は私が排除する。
しかし、なんの因果か……
メス豚を排除すればするだけ、次の夢で女が彼にまとわりつく。それを排除すれば、また新たな女がまとわりつく。ゆっくりと、しかし確実に夢の中の私と彼の距離は開いていった。
いつしか、夢も現実と変わらないほどに墜ちて行く。
気付いた時には、すでに彼は私の元からほぼ離れ去っていた。
そのころから、私の狩りが始まった。
制裁では済まさない。
彼にまとわりつく女たちを片っ端から処刑して行った。
校内で、グランドで、道で、家で……
朝に、登校時に、昼に、下校時に、夜に……
一時も休まず狩り続ける。
あるときはバットでぐちゃぐちゃにし、あるときはカッターで切りつけ、あるときは背中を押し、あるときは拉致って道具で〇し尽くし、あるときは罠にはめ男どもに〇させ……
それでも、どれだけ処刑しても豚は減らない。
きりがない。処刑すればするほど現れる。
だから、私も片っ端から処刑していく。
毎日毎日、何度も何度も……
いつしか、私は処刑が楽しみになっていた。
どう〇すか。どう罠にはめるか。どう〇すか。どんな喘ぎ声、悲鳴をあげさせるか。どんなプ〇イをするか。どう精神を壊すか……
一種のシミュレーションゲームだ。
処刑する……それが楽しくて、快感で……
しかし現実は残酷だった。
最近噂になり始めていた彼と5組の桜田……それが完全に付き合い始めたのだ。
現実での彼が完全に私から離れ去る……
ギリリ……
許せない。彼に近付くあの女が……
私の方がスタイルいいのに。あの女はただ小柄なだけ。顔がそこそこいいだけで、他にいいところなど何も無い……なのに……
殴る、刺す、〇す、〇させる……
何度も何度も……繰り返し処刑する。しかし、それだけではつまらない。私の気持ちが満たされない。
気絶させては縛り上げ、服を破き、道具を使って凌辱し、それを道に放置する。
時には教室や校門に放置したり……あの女の評価が地に墜ちるのを見て楽しんだりもした。
夢の中、決して彼に桜田を近付けさせなかった。
彼をあの女なんかに渡さない。
そうやって女を消して、彼に近付いた。
久しぶりに彼の傍による。そして久しぶりの抱擁……しかし
『…………あの女の匂いがする』
何度も何度も何度も何度も何度も何度も処刑してきた。
相手の姿を、形を、声を、悲鳴を……それこそ黒子の位置を覚えるほどあの女に近付き処刑してきた。
そのときに鼻についた汚らわしい匂い……それが今の彼から漂ってくる。
なんど〇しても、なんど凌辱しても、桜田は私から彼を引き離し、ついには所有権を主張してきた。
いいかげん、○すだけでは変わらないことがわかってきた。処刑しようがあの女は何回でも現れる……
ならば、いつもと違うことをするしかないだろう……
329 :
『夢』:2007/08/23(木) 18:44:05 ID:nl7NG2Pp
『……私の彼に近付かないでください』
帰り道の途中、人気の無い細い道に桜田を呼び出す。
『なんで? なんで片瀬さんがそんなこと言うの? 彼は私の彼氏なんだよ?』
しらじらしい……私から彼を奪っておきながら……
『彼はあなたの彼氏なんかじゃありません。私のモノです』
『片瀬さんのモノ? それって酷くない? 人をモノ扱いして。それに彼言ってたよ? 最近片瀬が怖い、気持ち悪いって。いつもじっと見てきて、何をする時も後ろにいて……気味が悪いってさ』
『嘘だッ!!』
怖い? 気持ち悪い? 気味が悪い?
私が? こんなにも彼を愛している私が?
『彼がそんなこと言うはずありません。私と彼は結ばれてるんです!』
『結ばれてる……? はぁ……まさかそこまでおかしくなってるなんて。妄想も行き過ぎはよくないよ? そしてそれを他人に押しつけるのも。
だってね、彼の初めてをもらったのは私なんだから。
お互いに初めてで……それからはそれ以外の人と交わったことなんてないの。だから勘違いでも片瀬さんのモノなんて言わないでね? こう言っちゃ彼に悪いけど……あなたには言わせてもらうわ。
彼は私のモノなんだから。それに……私、彼との子ができちゃったし』
『!』
いま……なんて?
子供……?
私ですら妊娠してないのに?
『まだ彼には報告していないけど、彼ならきっと喜んでくれる。
だって、私たちはずっと一緒なんだから。あなたなんか関係ないの。だからあなたが私たちに近付かないでね』
それじゃ、と言って背を向けて歩き出す桜田。
我慢できなかった。殺しても現れるなら、説得できればどうにかなると思っていた。けれど……もうダメだっ!
『ギャッ!』
鞄から、鉄でできた文鎮を取り出すと桜田の無防備な後頭部に思いっきり振り下ろす。
『ちょ……冗談でしょ? やばいって……やめっ!』
殴られた部分からは真っ赤な鮮血が飛び散り、流れ始める。
それでも当たりが浅かったのか、逃げ出そうとするメス豚。
慌てふためき混乱している桜田を、血の付いた文鎮を振り上げて、感情のない瞳で見下す。
『わ、わかったから……彼には近づかないから。
だから……ね? その手に持ったもの……置こう?』
醜い。
急に媚びる桜田。
そして、そんなに簡単にも彼を諦める精神。
……どれだけ謝られようが、許す気などない。
それが伝わったのか、再び謝り続ける。
『許して……、お願い、許して……
なんでも言う事聞くから。彼だって諦めるから。
なんだったら、片瀬さんと彼の橋渡ししてもいい。
手伝ってあげるから。ね? だから……
殴らないで。殺さないで。許して……』
必死の命乞い。
本当に言っていることを実行するなら悪くはない。
しかし……
『……この泥棒猫ッ!!』
再び文鎮の……渾身の一撃が桜田の顔面に食い込む。
グシャ、メキメキ……
嫌な音が辺りに響き渡った。そして一瞬感じる手の痛み。
けれど、振り下ろす手は止まらない。再び上に上げては、勢いをつけて叩きつける。
いつもやっていることだ。いまさら止める必要も無い。
ぐしゃりぐしゃりぐしゃりぐしゃりぐしゃりぐしゃり
その可愛い目、可愛い唇、小さな胸、細い腕、細い足、淫らな秘部、孕んだ腹……
それらを残さず潰していく。『泥棒猫泥棒猫泥棒猫泥棒猫泥棒猫泥棒猫泥棒猫泥棒猫泥棒猫ッ!!あははははははははははははははははは!!』
330 :
『夢』:2007/08/23(木) 18:44:39 ID:nl7NG2Pp
『…………片瀬?』
気がつけば、彼が道の入口に立っていた。私の足下にはただの肉と化した一人のメス豚の残骸。
『なにを……桜田は?』
私がこの女を呼び出したところを見たのか、一緒に歩いていたところを目撃したのか……もしくは後ろをつけてきたのかもしれない。
『あ、……君。こんにちは。見て?……君のためにやったんだよ? ね、これで今回は一緒になれるね』
全身を返り血で染めたままにっこりと微笑む。もう、顔にはかつての片瀬未亜の面影は残っていなかった。あるのは狂気と化した女の顔……
『う……ぁ……うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』
彼はその場に崩れ落ちる。そして、恐れを含んだ目で私から遠ざかろうと、ジリジリと後退する。
『なんで……? なんで……君が私から逃げるの? ほら? こんなに頑張ったんだよ? 私たちを邪魔するメス豚は、これで消え去ったんだよ?』
褒めてくれたっていいのに。
彼を堕落させる害虫を駆除したんだ。
そして、愛する私のもとに戻ってこれるのだ。
なのに……
『よくも……よくも桜田を……この化け物めっ!』
化け物め……その言葉が私を打ちのめした。
『そっか……、……君も私を受け入れてくれないんだ。そんな……君、もう死んでいいよ? 次の……君に優しくしてもらうからさ。でも、私を裏切ったんだから、この……君にはその女以上の苦しみを与えて あ・げ・る』
文鎮をその場に放り投げると、今度は鞄から包丁を取り出した。
『う……ぁ……、やめ……ろ。く、くるな……』
座ったまま後退する彼と、立ったまま見下ろすように一歩、一歩と近づく私。そして……
『うぎゃぁぁぁぁぁっ!!』
『あははははははははははははははっ!』
何度も、何度も……○してしまわないように包丁を振るう。
もう、止まらない……
最初のころは響いていた彼の叫び声が、だんだんと小さくなっていった。
数時間後、私は手を止めた。
辺りはすでに闇に包まれている。
他人に気付かれた様子もない。
手には血まみれの包丁、服は返り血で完全に真っ赤に染まり、顔には邪悪な笑み。
彼をいたぶる夢も……なんだかいいかもしれない。
じっくり時間をかけて彼をいたぶった私は、笑いながら家に帰っていった。
331 :
『夢』:2007/08/23(木) 18:45:38 ID:nl7NG2Pp
HRが始まる。いつもなら全員そろっている時間だ。
けれど、クラスには空席が一つ。
一日経っても彼は学校に来なかった。いや、来れなかった。私が彼を夢で○したから。いや、実際に○してしまったから?
嘘だ。彼を○してしまったなんて。夢、夢、夢…
昨日のことも、今もきっと夢なんだ。現実なんかじゃない。そう、きっと夢なんだ。
それに、今が現実だったとしても、彼はただ風邪を引いただけかもしれない。家の用事で遅れるだけかもしれない。
心配することはない。きっと大丈夫だから。いつもどおりの日常だから。
彼は私のものになったんだ。何も、心配することはない……
『……君ですが、昨日、お亡くなりになりました…』
……………え?
先生今、何…て?
『非常に言いにくいんですが、何者かに殺害されたようです。犯人はまだつかまってないので、登下校はまとまってかえってください。あと、部活は当分中止です』
ざわざわ……教室内は生徒達のざわめきで騒がしくなる。けれど、私の耳には何の音も届いていなかった。
彼が……死んだ? しかも……○された?
犯人はまだ…つかまってない?まさか……まさか……あれは、あれは……現実……?
『……た話しによると、あいつ、5組の桜田とイチャイチャしてたときに○されたらしいぜ。二人とも帰り道に』
5組の………桜田。
聞きまちがえるはずもない。彼に…私の彼に付きまとっていた、うるさいメス豚。私が○してやった、ひぃひぃ命乞いした女…………
それと彼が○された?
しかも帰り道に?
あは……あはは……
それって、私じゃん。
私が○したんじゃん。
彼が、私に振り向いてくれなかったから。他の女ばかり見てたから。
なにより、私を認めてくれなかったから……
手を真っ赤に染めて、何度も、何度も、すぐ○さないように痛めつけて……
あは、あはは……
そんなはず……ないよね?
私……人○しなんかじゃないよね?
これも、夢……だよね?
夢だ。これは夢だ。夢だから、寝れば…気を失えば覚めるよね?
332 :
『夢』:2007/08/23(木) 18:46:21 ID:nl7NG2Pp
私はゆっくりと自分の頬に手を持っていき……爪を立てた。ぶちっ!
爪が頬に食い込み、皮膚を突き破り、肉を傷つける。鮮やかな血糊は頬を伝わり、指を伝わり、服を……机を……床を……少しずつ、少しずつ真紅へと染めていく。
私は立ち上がった。
『あは、あはは、あはははは!』
『せ、先生!か、片瀬さんが……』
『片瀬……さん!な、何を!?』
突然の私の行動に、回りの皆は驚き、声を無くす。けれど、私には彼らなど関係がなかった。
『あははは。痛く……ない。夢だ。痛くないから……これは夢だ。あはは。痛くない痛くない痛くない痛くない……』
頬にある手をゆっくりと下へと下げていく。
血の付いた指を肌に沿わす姿はなんとも魅惑的で、回りの人も思わず見とれていた。
そして、私は 手を 自分の 喉まで 持っていくと……
力一杯かきむしった
強く、深く、何度も、何度も…
爪に引き千切れた自分の肉が付いても、辺りが赤く染まっても、私はやめること無く爪を食い込ませ続けた。
そのうち、とうとう爪が動脈を傷つけ、一気に血が吹き出す。
『いひ、あはは、あははははははははははは!
痛くない、痛くない!夢、夢だ。夢、夢、夢夢夢夢夢夢!
あははははははははははははははははははははははははははは
はははははははははははははははははははははははははははは
はははははははははははははははははははははははははははは
はははははははははははは…………………………………………』
そして、彼女は二度と目を覚ますことはなかった。
END
333 :
『夢』:2007/08/23(木) 18:53:50 ID:nl7NG2Pp
以上で終了です。
なんか中途半端な話になってしまいました。
SSって難しいですね;
あらためてSS職人のすごさを実感しました
怖過ぎるがGJ!
こういう夢と現実がごっちゃになる話は大好きだ
投下します。
+ + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + +
ワァァァァァァァァア
「やれー、やっちまえーー!!」
「いいぞぉ、そこだっ! ぶっ殺せぇ!!」
「もたついてんじゃねぇ、とっとと刺し殺してやれ!」
「がぁぁ!! なぁにやってやがる!」
しかし、耳が痛くなってくるな、ここは。
場内に轟く、市民達の怒号の嵐。現在、城下町で最も活気のある施設。
本国潜入から一週間半。二日目以降通い続けていたジウの闘技場は、今日も大賑わいであった。
ずしゃっ
近くに居たら、おそらくそんな鈍い斬撃音が聞こえただろう。
たった今まで戦っていた男達の片方が、もう一人の振り抜いた剣によって頭上から口の辺りまでざっく
りと切り裂かれた。その瞬間、客席から一際大きな歓声が上がる。
私は最前列から三つほど離れた席に座って、生き残った側の疲労困憊な様子を眺めていた。服装からし
て、あちらは闘技場で取り扱われている奴隷剣闘士。
今のは狙っていたな…。こういう所でも客を喜ばせなくてはいけない辺り、奴隷が勝つのは難しい。
ルールは鎧や盾などの防具抜きに、一対一で先に相手を戦闘不能にした者が勝ち。方法は問わず、武器
を落としての降参宣言でも、命を奪うでも個人の自由だ。
観客は盛り上がるものの、毎試合人死にが出ては流石に全体の参加者が減ってしまうので、非殺傷での
勝利の方が貰える賞金は高く設定されている。とは言え、いざ戦うとなると余裕を見せている訳にも行か
ず、それらを狙って実践出来る者は少ない。
胴元に飼われている奴隷剣闘士や、金と名声が目当てで来た他所からの剣士、戦士達。中央の広場で互
いが敵を倒さんと、ともすれば殺す気で切り掛かる。
普段の酷使による鬱屈した気分を払拭する為、観客達も思い思いの参加者になけなしの賭け金を出し、
ここぞとばかりに熱狂の渦へとその身を置く。
「おらぁ! 次の試合はどうしたぁ!!」
「もったいぶってんじゃねえぞー!」
他の国でも幾つか見てきたが、これ程までに盛況はしていない。…圧政の反動ここに極まれり、か。
侮っていた。初日での見解とは、どうやら思っていたより食い違いがあったらしい。
事は何も闘技場に限った話ではない。ここの他にも、各種賭場、風俗店と、周囲の植民地とは違った
点として、本国には下級市民の心の均衡を程々に保つ施設が、これもまた狙い済ました様な価格設定で
整っていた。
彼等は金の掛からぬ神への祈りよりも、金を捧げて一時の快楽を得ているのだ。背後で糸を引く人間
達の手によって、ほぼ無意識に。
お偉方も楽しませる為、それ専用の高級施設まで周到に揃えてある。
こういった一般大衆の心理を煽っての莫大な収入源があるからこそ、ジウの様な国は市街の見た目と
裏腹に上手く回っている。ついでに周辺国の貴族達も娯楽として誘えば、有力なコネクションも出来上
がって行くという、国の性質を活かしたかなりの上策と言えるだろう。
加えて、酒場にて今やすっかりと親睦を深めた闇商達の話では、この界隈を取り仕切っている大元の
組織にも、やはりスポンサーとして積極的に関わる貴族が多いとの事。
確かに、今のジウは体裁はともかく、金と労働力を巻き上げる仕組みと貴族の行楽地としてならば、
おそらく大陸で一、二位を争う完成度だろう。誰かは知らんが、味な真似をするものだ。
間違いなく、今後のヒラサカの経済的、人員的動力源に成り得る領地。来た当初は若干心配になって
いたが、この国を支配するに辺り俄然意欲が沸いてきた。
ジウの実権を握る者がこちらに応じてくれれば僥倖だが、ただでさえ新参勢力であるヒラサカにどれ
程の価値を見出せるものか、考えるまでも無い話。しからば、取る手段も自ずと決まる。
要は、見せ付けて、認めさせてやれば良い。無視出来ない状況にまで持ち込んで、それから時間を掛
けて賢い連中を融和してしまえばこちらのもの。
そして、今はその下準備。
「アレクさんよ、こっちの根回しは済んだぜ」
ふと、背後から野太い声が聞こえてくる。
「後はアンタが大抵の無茶しようが、その辺に散ったオレ達の仲間がどうにかしてやる」
「協力感謝する。前金とは別に、報酬は事が済み次第すぐに渡そう」
振り返れば、そこには私がここ数日の間で仲間とした、あの酒場を使っている面子の内の一人。これ
からこの闘技場内で起こる出来事を、”ちょっとしたハプニング”程度に揉み消す為、各所へそれぞれ
話の付く商人達を回してもらった。
二人して観客席を後に、登録所へと向かって行く。
「おうおう、アンタが言うんなら期待して良いんかね」
「さあな。それは私の体力によるだろうが、なるべくその期待には応えよう」
使える兵は一人でも多く欲しいからな。
「んじゃ、オレぁ入り口の所に居るぜ。死ぬんじゃねえぞ」
そう言って別れた闇商に対して手を振って応え、私は受付へ到着した。
室内にはそこそこの実力者と思しき数人の剣士が互いの様子を見合って留まっているものの、割り込
んでくる強敵を警戒してか登録に踏み切る者は未だ居ない。このまま行けば次が奴隷同士の戦いになる
事は確実だろう。
丁度良い。ならばこの身を以って引き摺り込むとしよう。
「次の試合に参加したい。登録を頼む、名前はアレクだ」
「おっ、良いねえ。命知らずな若者がまた一人。…あいよ、っと」
ぴくり
「……おい、俺も頼む」
担当に申込の旨を伝えて踵を返した直後、横に居た男が素早く参加登録を要求した。私の気軽な雰囲
気に勝てると踏んだのか、随分とあっさり掛かった。
それを見ていた受付の男が、口元をにやりと嫌らしく歪める。これもまた、賭場や闘技場では比較的
良くある光景。
「アンタなら余裕だってよ兄ちゃん、まあせいぜい頑張んな」
「無論だ」
顔が売れてしまっては、戦争が始まるまで他の行動をする事は許されない。
ジウに潜入してから一週間半。ヒラサカで出陣を待っている軍への頃合を見計らった攻撃命令、現地
での撹乱部隊の指揮等は既にゴースに任せてある。
植民地の方に配置した部隊も、各々与えられた役割を果たしてくれるだろう。
私も、私の仕事をせねばな。
「これより次の試合を行う。前へ!」
「見ろ、今度はどっちも奴隷じゃねえぞ!」
「おーおー。いいぞーおめえら、やっちまえーー!!」
立会人の声に応じ、私と先程の剣士が広場の中央へと進んで行く。戦う両方が西側、登録参加者側か
ら現れたので、観客席から軽い歓声が上がった。
「両者共、武器を持って準備を」
指示を受け、腰に差した細く鋭い剣を一振りで抜き放つ男。対し、私は素手のまま。
「おいお前、なぜ剣を抜かん」
「宿に置き忘れてしまってな。別に武器は無くとも良いのだろう?」
両腕を広げて、何も持っていない事を立会人に表明し、このままで構わないと宣言する。向こうは
何も言わず了承して、試合を開始せんと手を挙げた。
「き、……きっさまぁ」
「不服なら、更に目でも閉じてやろうか」
「始めっ!!」
手を降ろし、合図を出した瞬間。
怒りと屈辱に身を震わせ、相手の剣士はこちらへ全力で切り掛かってくる。
それなりの速度で袈裟から襲いくる刃をかわし、一旦距離を取ってから、私は敵の実力をしばし窺
う事にした。
「許さんっ!!」
武器による反撃の恐れが無い為、怒涛の勢いで剣を振る男。言葉からは憤慨の意がはっきりとして
いるが、決して荒れて乱れた剣筋ではなく、積み重ねた経験に比例した機敏な動きを見せる。
中々に強い。これならば並の兵士三、四人分は役に立つだろう。
「おお、あの素手の野郎よく避けやがるな!」
「あれでもう五度目だ!」
初撃は油断を誘うのと様子見、か。いきなり良い相手にぶつかった。
ヒュン、ヒュ!
(筋が良いな。お前、私の下でその剣を振るう気は無いか?)
「?……な、なにぃっ?」
攻撃を避けながら、少し離れた所に居る立会人に聞かれない程度の声で、私は口元を動かさずにそ
う語り掛ける。他者との密会等で、周囲に唇を読まれない為の技術だ。
(闘技場での敗北は死を意味する。衆目の為に散るのも結構だが、どうせならお前の力を役立てたい)
「! くっ……どこまで侮辱すれば!!」
ヒュンヒュン、…ブンッ!
「どうだ?」
「俺を殺せるものならっ、殺してっ、見せろぉ!!」
挑発とも取れる誘い文句に、剣を振る男の怒りが頂点に達し、次第に詰めの一撃が甘くなって行く。
ここまで来れば、後は煮るも焼くも、得物を奪うのも容易い。
ヒュヒュヒュヒュ、ヒュカッ、ヒュン、……パシッ
「そうか」
「なっ、ぁ…!?」
男の呼吸と完全に合わせて、剣線の死角に自然な動きで入り込み、武器を持つ側の手首を軽く叩く。
力点を押されて呆気なく地面へ取り零される剣の柄を、残った片手で逃さず掴む。
比良坂流柔術において、得物持ちの敵を無力化して逆に奪う技術の一つ。改良の余地が殆ど見当たら
ない程に洗練された、その冴え具合。
……刀身の細い剣で助かった。これなら普通の幅のものより、加減も少なく済む。
「ならば、死ね」
スッ
流れる動作で柄を反転させて逆手に持ち、鋭い剣先を男の胸目掛け一気に突き刺した。
「ッ……か、は………ぁ…」
音は一切漏れない。持ち主である男の背から、僅かに赤い斑点の付いた刀身が顔を出す。
傷口を徒に広げぬ様、静かに手際良く剣を引き抜く。二、三度の痙攣後、力を失った身体が私の肩に
持たれかかる様に崩れた。
「「…………………」」
その光景を目にして、客席が驚愕のあまり静まり返る。
「心音と脈は取った方が良いか?」
「ぇ、ぁ……」
言われて、我に返った立会人がこちらへと恐る恐る近付き、剣士の脈拍確認をした。血は殆ど流れて
いないものの、男の顔は既に青白くなっており、容態は診るまでも無い。
…が。周囲には、はっきりとそう認識させておかねばな。
「ウ、ウォレス選手、死亡により戦闘不能。勝者、アレクッ!!」
「「ぅぉぉぉぉぉぉぉおおお!!!」」
「すげえ! おいすげえぞあいつ!!」
「見たか今の!? 一体何したんだあの野郎!」
「こいつはとんでもねえのが来たもんだぜ、ええおい!!」
ようやく状況を飲み込んだのか、やにわに会場内が大きな歓声に包まれた。至る所から観客達の狂喜
した会話が耳に届き、私は成功の感触に胸中で満足の笑みを浮かべる。
「ま、まだ続けるか?」
「ああ。だがその前に、次の戦いに備える時間を一試合分貰いたい」
「そうか、…わ、わかった」
目の前の人間に得体の知れなさを覚え、初めと違い完全に及び腰になっている立会人へ許可を取ると
、私は控え室へ向かって行く。
「おいやるじゃねえかアンタ、まさかあれ程つえぇなんてよ! 何だありゃ!」
鉄柵を潜り抜けて室内に入ると、その場所を任されていた闇商達の一人が、興奮冷めやらぬといった
様相で私に話し掛けてきた。列島独自のキルキアには全く無い動きなので、彼等にとって柔術等は特に
珍しいものなのだろう。
「諸国を旅する内に身に着けた技術だ。ここらの奴には一度じゃ見切れんだろうさ」
「へえ、今度オレも教えてもらいたいもんだね。何せ物騒な世の中だ、けっけ! ……と、ご到着だ」
入退場門とは逆方向の入り口から、二人の工作員が担架を運んでやって来る。担がれている人物は、
つい先程の試合で私に敗れたウォレスと言う名の剣士。
「アレスさん。言われたとおり運んで来たけどよ、こんなん一体どうすんだい?」
「おう、もう死んじまってるぜ? こいつ。奪うなら装飾品だけでもいいんじゃ…」
「見ればわかる。少し下がっていろ」
傍まで寄ってから、戸惑いながらも担架を床に置く二人に離れるよう指示を出し、私はおもむろに拳
を振り上げ、
「ふんっ!」
ドン!
「っ……ごふっ!?」
刺された跡の残る胸部に狙いを定め、かなり強めに叩く。と、それまで死体同然だったウォレスが突
如息を吹き返した。
……間に合ったか。
鋭利な先端部を持つ凶器による刺突を用い、目立たぬ程度の血量で心肺の機能を絶つ無音の暗殺術。
今回はその応用として、引き抜く際に剣を持つ方とは別の手で内部へと僅かな治癒を施し、一時的に心
停止した仮死状態へ持っていく。
その後で、止まった血の流れを再び戻す為に、元の位置へと正確に打突を放ち蘇生を図る。差し詰め
改良版、無音の活殺術といった所だ。
「うぉおぉおおぉぉ!!?? こいつ、生き返りやがった!!」
私の後ろでそれを見ていた男が、驚きと恐怖で腰を抜かす。下がっていた二人も、声こそ上げなかっ
たものの、気持ちは全く同じな様子。
「お、っふ! っは、っはぁ………? ここは、俺はさっきあいつにやられたはずじゃ…」
「ああ、そうだな」
「ぅんっ!? おおお、お前は……!!」
「動くなよ、まだ血液が完全に循環していないんだからな」
眼前に自分を殺した相手の姿を認め、がくがくと震えるも、すぐに貧血を起こし担架へと倒れるウォ
レス。まあ、いきなり死んで生き返って、それを驚くなと言うのも無理な注文だろう。
「生還おめでとう。もう五分処置が遅ければ本当にあの世行きだったが、そっちの方が良かったか」
「――――――」
自らの身に起きた諸々の現実を理解した剣士は、しばらく呆然とこちらを見ていた。これなら次の返
事は期待出来そうである。
「ところで、勧誘の件は覚えているな? 私の下に付くならば、今よりは良い思いをさせてやるぞ」
「………一度は死んだ身だ…どうするなり好きにしろ……」
仰向けた顔を両手で覆い、ウォレスは観念した様にそう呟いた。
良し、まずはこれで一人。
死んだ筈の人間が生きており、それを他の者に見つかっては八百長と疑われてしまう。展開に付いて
行けず動揺している他の連中へ、私は次なる指示を出す。
「動ける様になり次第、周りの目を避けて例の宿へ案内してやれ。亭主には話を通してある。
私もこれ以上控え室に留まるわけには行かない。……ゴース、次から蘇生はお前に任せたぞ」
「承知いたしやした」
ざわわっ!
突如物陰から聞こえた声に、私以外の四人が一斉に驚く。今の彼等から見て、果たして私やゴースは
どう見られたものか、いつかのレイナートを思い出す状況だ。
「それではな、仲良くやれよ。……ああ、それとウォレス」
「? な、何だ今度は…」
「良い剣だな。しばらく借りるぞ」
完全に奇異の眼差しでこちらを見るウォレスに、その手から奪った細剣をちらつかせる。最初に当た
った相手がこいつで本当に良かった。
後は同じ作業の繰り返し。あのパフォーマンスの後なら、次もまた強い剣闘士が出て来る事だろう。
リィス隊長並の実力者が現れたら洒落にならないが、そうなったら大人しく降参すれば良い。
その後できっちりと、今度は用意を整えた上で正々堂々と勧誘する。
勧誘方針を今一度確認してから、私は更なる軍の戦力を求め、再び広場へと続く門を潜って行った。
「勝者、アレクッ!!」
わああああああああああ
「お、おいっ、今ので何人やった!?」
「そんなんも数えらんねえくれえ酔ってんのか? 四連勝だよ、よんれんしょう!!」
「うぉぉぉーー!! 最高だぜ兄ちゃん!!」
そうそう目にしない光景を前に、場内はまさに割れんばかりの大歓声。掛け金の売り上げもそれに比
例して、今頃は既に大した額になっている事だろう。
これで小隊長格が四人か。……大収穫だな。
一度の勝利で退場するのが凡その基本である闘技場で、現れる挑戦者を初戦以降休み無しで打倒して
いく私は、さながらショーの捌き役と言った所か。
「続けますかっ!?」
「ああ」
もはや新しい脅威にも慣れたのか、立会人の男がやたら威勢の良い口調で戦闘の続行を尋ねてくる。
成るべく傷付けないまま生け捕りたいが為とは言え、敵の攻撃を殆ど無傷で避け続け、最後に一撃で
仕留めるという戦法は、観客からすれば華麗なパフォーマンスにしか映らない。そこから察せられる実
力差に剣闘士としての血が滾るのか、飛び入りで挑んで来る挑戦者達の全員が全員、それなりに名を売
れるぐらいの腕利き揃いだった事はどう捉えるべきか。
お蔭で、さっきの奴は懐に入るまで少し手こずってしまったな。
「すぅぅぅぅ………はぁぁぁ」
回を増す毎に強まる声援を耳にする反面、私はゆっくりと呼吸を落ち着けていく。疲労もそこそこに
溜まってきているが、中堅級の相手を一対一で次々と手玉に取って歓声を浴びる内、ここ最近落ち込み
気味だった私の戦闘に対する自信も徐々に立ち直ってきている。波に乗っているのだ。
しかし、今日はこれで最後にした方が良さそうだ。
主催者側の注目を集める役割も込めたここでの振る舞いも、度が過ぎれば会場荒らしとみなされ、数
に物を言わせて襲われる可能性がある。主催者側の貴族に勧誘されれば有力な繋がりを持つチャンスだ
が、邪魔者として命を狙われては話にならない。
加えて、治癒を続ける私の小容量な魔力も問題だ。
今の所はそれらしい動きは見せていないが、もうそろそろ向こうの考えが出て来てもおかしくは……
ざわざわざわ…ざわざわ
「……おお、来たぞ来たぞ」
「あの首刎ね奴隷だ! ほれ、見ろ!」
突然、会場全体が軽くざわめき、興奮と緊張の入り混じった奇妙な沈黙を見せる。どうやら予想した
通り、いよいよ本命のお出ましのようだ。
「……………」
次の試合を始めんと東門、主催者側の鉄柵から現れたのは、ボロボロになった奴隷服を身に纏う一人
の小柄な少女。手入れのまるでされていない荒れ放題の髪や煤けた顔は、貧しく薄汚れた印象を前面に
押し出している。
私が今まで通っている間に見た中で、少なくとも十一人の剣闘士を葬った。この闘技場の売り上げを
大きく賑わせる、主催陣営の擁する花形役者の一人。
「奴隷番号0913、前へ!」
「……………」
自らの番号を呼ばれて、少女がこちらに無言のままぺたぺたと歩いて来た。実際に前に立たれると、
尚の事その身長の低さが際立つ。
だがそれ以上に目を引いたのは、破れほつれた奴隷服から垣間見える、薄く付いた皮下脂肪に隠され
たしなやかで無駄のない筋肉。単に鍛えて手に入れたそれとは違う、生来に備わった才能という幸運の
もたらした産物。
少しまずいな。………こいつは、速いぞ。
向こうの得意な戦法は、筋を見切れなければ一瞬でやられるスピード勝負。暢気に様子見をかまして
いる余裕が果たしてあるものか、とりあえず無傷での決着は有り得ないだろう。
一応のルールとして降参は認められているが、この空気で今更そんな事をしようものなら、街に留ま
っていられるかさえ疑問だ。ここまでしたからにはショーを最後まで盛り上げろという、主催者側の思
惑がありありと感じ取れる。
順調だった狩りの帰りに、獰猛な熊と出会った密猟者の心境だな。
行けるだろうか若干不安だが、周囲ははいそうですかと待ってはくれない。
「両者、武器を持って準備を」
私はウォレスから借り受けた細剣の切っ先を正面に向け、防御の構えを取る。対して、少女はシミタ
ーと呼ばれる、刀身の大きく反り返った斬るに適している剣を手に持ち、
「始めっ!!」
「―――――」
試合開始の合図と同時にその姿が消え、横合いからウォレスの時とは比較にならない速度の白刃が、
私の首元を目掛け襲い掛かる。―――やはりそこへ来たか!
「ふっ!」
キィィィンッ
予測済みの動作に素早く剣を降り抜くと、金属同士の甲高い衝突音が広場に響いた。初撃を防がれた
事を理解した少女は、軽い身のこなしで更にこちらの死角へと飛び込んで行く。
キィン、キィン、キィンキンキィンキィィン!
見えない方向から次々と繰り出される斬撃の嵐に、経験から手筋を読んで少女の動きに剣を持つ手を
合わせ相殺する。息を付く間もない攻防が十数秒続いた所で、ようやく間合いを離す事が出来た。
すぐさま追い縋ろうとする少女に対してもう一度、次はやや上段に構えを取って牽制。
「なんつう速さだ、まるで筋が見えやしねえ…」
「だがあの兄ちゃんも負けてねえぜ! あのガキの攻撃があれだけ防がれる場面なんざ、オレはこれで
初めて見るぞ!!」
「こいつぁわかんなくなってきやがった!! 一体どっちが勝つんだ!!?」
緊張から一旦外れると、それまで息を飲んで見守っていた外野の声が途端に広がっていく。観客達を
黙らせる程に、数秒前までの剣戟は見事なものだった。
物騒な異名の通り、さっきから隙を突いては狙って首に斬り掛かって来るが。生憎と、こちらもそれ
相応の研究は事前に済ませてある。
それが闘技場主催者から、彼女に課された勝利の条件なのだろう。実用性より観客を魅せる事に重視
した戦い方は、私の取っていたそれとお互い良い勝負である。
死角へ回り込む足運びと斬撃の速度は確かに驚異的なものだが、多分に勘に頼った動きと首狙いとい
う条件付けの為、数合でも打ち合ってしまえば、不規則な様に見えて単調な太刀筋を把握するのは容易
い。しかし、これまでの相手にはその数合を耐え切れる者が居なかったので、それでも十分に通用した
のだろう。
殺すだけならまだ行けるが、捕らえるとなるとこちらも際どいか。
純粋な反射神経やバネの良さでは私を上回るものの、如何せん上級者相手の経験不足が災いしている
せいで、それらの長所を活かし切れていない。その他にも、これから伸ばせる点はまだ幾つもある。
………欲しいな。
隠密。ゴースとはまた違った意味での懐刀として、実に育て甲斐がある逸材だ。
適当に茶を濁してしまっては、少女が自らの意思で行動出来ない奴隷の身分なだけに、再び闘技場を
訪れたとして次があるとも知れない。中堅所ならまだしも、花形ともなれば買い取れるだけの持ち合わ
せも当然無い。
例え命を賭してでも、ここで手を伸ばす価値はある。
静かに、わかりやすく深呼吸をして隙を作る。剣を垂らす様に構えた少女が、案の定すかさずそこへ
割って入ってきた。
ヒュン、ザシュッ!
足元から這う様に迫る、一歩間違えれば片足が吹き飛ぶだろう斬撃を、打ち合おうとはせずに大きく
飛び退く。が、どうやら上手く避け切れなかったらしく刀身と私の居た空間に、多少の赤色が見えてい
た。
が、そんな程度で怯んでいる暇など無い。
更に追撃せんと足を踏み込んだ少女へとタイミングを完璧に合わせて、後ろへ引いた際に、弓を絞る
形に片手で構え直した剣の狙いをその胸に定め、
「シッ!」
「―――――」
ヒュカッ……キィィィィン!
放たれた、先の四人を例外なく仕留めてきた必殺の一撃を、これまでの試合を見て向こうも予期して
いたか、少女は神業的な反射速度を以って打ち返した。私の得物であった細剣が歪に折れ曲がって地面
へと弾かれた絶好の勝機を見逃さずに、返す刀で今度は逆にこちらの首筋目掛け、彼女の止めの剣線が
迸る。
ここまでは、全て計算通り。後はこの並外れた高速の一太刀を、全身全霊で―――止める!
「は……っっっ!!」
「―――――」
パシィィ!!
「「………ぉ…ぉぉおお……!!!」」
観客席から漏れる声には、紛う事なき驚嘆の色。
皮一枚斬られた私の首から、一筋の鮮血が流れていく。剣は標的を断ち切るには至らず、あと少しと
いう所で現れた障害物によって、その動きを完全に停止していた。
硬直したシミターの反り返った刀身に新たな赤を彩るは、細剣を弾かれる直前に手放した私の手と、
それを補うもう片方の手。ウォレスの時よりも更に難易度の高い、振り抜かれた敵の斬撃を素手で直接
無力化する技。
比良坂流柔術、対刀戦技が一つ。別名、白刃取り。
「せい!」
ブンッ
両手で挟んだシミターを梃子の原理でもぎ取り、後方へと放り投げる。武器を失った少女はそれでも
私を殺そうと、再度態勢を取り直して襲い掛かってきた。
シュ、ヒュ、ババッ
が、ユエやゴースならばいざ知らず、両者が徒手空拳ならばリィス隊長とて敵ではない。身体能力は
人並み以上とはいえ、先程までの剣技とは違い、明らかに精彩を欠いた少女の格闘技術。
猛獣も、こうなっては俎板の上の鯉に等しい。
互いに武器を手放した状態ではあるが、ここまで来てしまえば主催者側とてこの試合を中断する事は
出来ない。ただ、黙ってショーの結末を眺めているのみ。
パシ、パシ……スッ
最初は右肩。続いて、左肩。
至近距離で攻撃を捌きながら、私の両手がするりと丁寧な細工を施す。
パシ……ス
「―――――」
痛みを感じぬ程に綺麗に関節を外され、力の入らない自らの垂れ下がった両腕。それを目にしても、
驚くべき事に少女は一切表情を変化させなかった。
ただがむしゃらに。死を恐れず、むしろ死を求めているかの様な無謀な特攻。
……ふん、こうした境遇ではありがちなタイプだ。
ブンッ!! パシィ
大きく飛び上がりまたしても首狙いに放たれた回し蹴りを、勢いを殺さないまま受け流し、一回転さ
せてから仰向けに地面へ叩き付ける。衝撃に咽ている少女の長い前髪から覗く瞳は、まるで感情が存在
しないのではと錯覚してしまう程、無機質な灰色を見せていた。
(待っていろ。これから先、必ずもう少しマシな目をさせてやる)
馬乗りになった私がそう呟いてから、再び少女の胸元へと目掛け、左手で指突の構えを取る。ウォレ
スに借りた細剣が折れてしまった今、互いに激痛を伴う荒業となるが致し方ない。
ゴリュッ……ポキ、ゴキ。
躊躇わずに、寸分の狂い無く。人差し指と中指を、少女の薄い胸に渾身の力で突き刺し、剣の場合と
同じ要領で活殺術を試みる。
本来貫く程の勢いで指突を用いる箇所ではない、筋肉の集中する胸部狙い。貫手とは違いこちらは二
指しか使えない為、途中で何度か骨の拉げる音がした。
「っ、…! ……っ!! っ………」
当然そうそう使うやり方では無いので、武器でのものと比べて熟練の程は未だ完璧からは遠い。しば
らく続けられる剣で貫かれた程度では済まない激痛に耐えかねたか、少女は抜け出そうと藻掻いた数秒
後、ぱたりと意識を失う。
引き抜きざまに治癒を掛け、処置は無事に終了。但し、私の左手は一部悲惨な状態だ。
何日か治癒に魔力を専念しなければならんが、良しとしよう。それより、流石に無茶をし過ぎた…。
「ど、……奴隷番号0213死亡により、勝者アレク!」
ワァァァァァァァァァア!!!
両肩の関節を外され呼吸も無い。これまでより更に酷い敗者の有様に、立会人は既に診断を放棄した
らしく、こちらが立ち上がると同時に勝敗を下す。
興奮が最高潮に達した観客席からの大歓声は、心身共に消耗し尽くした私の耳へ、さながら音の暴力
となって長々と降り注いでいた。
投下終了、闘技場はもう少し続きます。
皆さんは完璧な主人公は好きでしょうか、私は大好物です。
>>333 短い中に、修羅場要素をこれでもかと詰め込んだ様子がナイスです。
GJ!
ちょいと擬音が気になったが、
さらにさらに新しいヒロインフラグで期待もより膨らみました
GJ!
面白い上に、速い!なんてペースだ。
書き溜めてるんでないとしたらすごいな。
いいやっ、この主人公は完璧じゃないね!
何故なら修羅場の種を順調にかつ物凄い勢いで撒きまくっているからだ!
だがそれがry
血塗れな白い子を思い出して切なくなったぜ…
と、それとは別にGJだぜ!
修羅場の種を蒔き続けるのは完璧の一部だろ…このスレ的に考えて
>>353 それは完璧じゃないのか?
修羅場の種をまくなんて凡人にはできない
そういえば、結構血生臭いスレで強い女の子もいっぱい出てきてるけど、
自分が戦える主人公って珍しいな。それを凌ぐリィス隊長どんな化け物?ってことになるけど。
訂正
>「アレスさん。言われたとおり運んで来たけどよ、こんなん一体どうすんだい?」
アレスではなくアレクでお願します。ウォレスとごっちゃになってしまいました。
イヤッハー大好きですw
このこと夕重との修羅場に期待
>>349 GJだぜあんた!
新たに出てきた女の子にwktkが止まらないッ!
投下します。
わくわくする。どきどきする。むずむずする。そわそわする。
心が私の中を飛び回っている。いや、跳ね回っている。
とにかく、落ち着かない。
郷護に会える。幾日振りだろうか。
…三ヶ月と一週間と四日振りか。
本来はもう少し我慢するはずだった。
私の研究、開発が終了し世界の問題が解決する。
その後に郷護と暮らす。
これが最初のプラン。というより郷護との約束だった。
だから後一、二ヶ月先であったビッグイベントが急に目の前に来たこの状況、
舞い上がってしまってもしょうがない。
うん、しょうがない。誰も私を責められない。
あぁ…それでもしかし、だがやっぱり、郷護に会えるその時が、
近づくにつれこの心、氷のように緊張し、光輝くその姿、
迎えるために気の利いた、言葉の一つも出てこない。
…私の知識、能力は自然科学系に特化している。
文学的知識不足がこんな形で私に襲い掛かるとは。
私のこの溢れんばかりの想いが、郷護に伝えられない。
こんな苦悩があるだろうか。言葉とはなんと不自由なものだ。
いっそのこと言葉なんて媒体に頼らずに私の意識を電子情報化して、
郷護の頭ダイレクトにこの想いを原液のまま流し込むことが出来たら素晴らしいのに。
…待てよ。
出来ないこともないんじゃないか。
心なんてのは結局脳で作られるものであって、
脳で作られる情報は電気信号なんだから……問題はその出入力だな。
どーやって電気信号を取り出し、違うものへと移し替えるか。
うん。興味深いな。
次の研究対象は決まった。意識の移動だ。
移動先をロボットにすれば寿命が半永久なんてのも実現できるじゃないか。
世界中がドラ〇もんになる日も遠くないな。
そのうち夢のポケットだって開発してやろうじゃないか。
その次に作「ピーーッ回線が繋がりました」
…遂に来たか。
「連絡、待望していた。源郷護の参加の具体的日時を請う。」
「源氏の参加は不許可となった。」
…おかしいな。私の耳が悪いのか。このパソコンが悪いのか。
「正確に聞き取れなかった。申し訳ないが再度聞かせてもらいたい。」
「要請は却下された。源氏が今回の開発に携わることは無い。」
訳が、わからない。
「……理由は?」
「伝える必要は無い。」
「必要は……無い?」
「現状のまま開発を行ってもらう。我々は君の能力に期待している。」
「その…その決定は郷護本人の意思なのか?」
「連絡は以上だ。」
「おい!!待て!質問に答えろ!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――
……一方的に回線を切断された。
なんだろう。この感覚。
釈然としない苛立ちに心の形がいびつになっていく、この感覚。
少し前にも感じた、あの感覚に似ている。
郷護に寄生したクズ虫を見た時。
目の前が灰色になり破壊衝動に身体が呑まれるあの感覚。
何故私はこんな気持ちに?
郷護が私の頼みを拒絶したから?
違う。
郷護はそんなことをしない。するはずがない。
では、
絶対に有り得ないはずのことが起きたから私は混乱しているのだろうか。
…違う。
違う。そうじゃないんだ。
私は……この感覚は、そう、殺意。
邪魔な奴らを消し去りたい、ただその一心。
たぶん、私は理解していた。連絡を聞いたその瞬間に。
邪魔をした奴がいる、と。
私が郷護に合うことを阻止する存在がある。
クズ虫の寄生から一刻も早く郷護を救い出さねばならないのに、
私と郷護を引き離す奴がいる。
…………赦さない、絶対に絶対に絶対に赦さない。
そんな奴はあのクズ虫と何も変わらない。
郷護を汚す虫、私を邪魔するバカ。
まとめて消してやる。
逃げ切れるなんて思うなよ。
以上です。
先日、胃腸風邪にかかって死にかけてました。
今回話がわかりにくいしなぁ。
あとこの話、微妙にスレ違いな気がするのは気のせいでしょうか。
もつかれ
>>368 GJ!
紛れもない嫉妬スレの聖典の一つだよ
>>368 >>1を読んだかぎりスレ違いではないですし、wktkが止まらないので是非続けてください。
荒らしでもないかぎり、良作を拒む者はいませんよ。
体を大事にしてくださいね。
嫉妬ヤンデレキモ姉妹ほの純スレをみているが、正直境目はあまりないと思う
嫉妬スレが一番懐が深いかな。草のような作品他のスレにないし・・・
まあ、他のスレはそれぞれの属性が特化したものだからねえ
そういう意味ではやっぱり親元?というかなんでもこいやwみたいな雰囲気
があるんでしょ、このスレは
>>368 GJ!&ktkr!
とうとう雪奈覚醒か!?
今から全裸で続きを待ってるぜ!
376 :
悪夢十夜:2007/08/24(金) 03:48:40 ID:8jRUg8Ua
初投下の人に触発され投下。
題名から出だしから微妙にかぶってるのは偶然ですw
377 :
悪夢十夜:2007/08/24(金) 03:49:32 ID:8jRUg8Ua
こんな夢を見た。
私には春華という二つ上の姉がいる。
子供の時から私の世話ばかり焼いていて、私はそんな姉のことが大好きだった。
いつだったか、大きくなったら姉さんをお嫁に貰ってあげるよ、と言ったことがあった。
姉は静かに微笑んで、いつか必ずそうして下さいね、と言っていた。
今思えば恥ずかしい限りである。
しかしそんな私たちも一度だけ喧嘩をしたことがあった。
十四の時分だったか、私が近所で悪さをしたのを咎めた姉に対して、そんなことを言う姉さんなんて大嫌いだ、と深く考えずに口にした途端、姉が見たこともないほど悲しそうな顔をするので、逆に面食らってその後何も言えなくなってしまったことがある。
そのことを深く悔いて、以来十九になる今日まで私は姉と喧嘩をしていない。
又、姉はちょっと見ないくらいの器量良しで、何度も良家から縁談話が持ち上がるのだが、姉はその全てを断っている。
父と母が困った顔で姉の部屋から出て行った後、必ず姉は私の元へやって来て、姉さんは何処へも行きませんからね、いつまでもお前の傍に居ますからねと言うのだが、その度私は申し訳ない気分になるのだ。
きっと姉は優柔不断で軟弱な私が心配で、おちおち嫁にも行けないのだろう。
早く身を固めて姉を安心させなければ、と思うようになり、そして半年ほど前、私は夏芽という女に出会った。
378 :
悪夢十夜:2007/08/24(金) 03:52:17 ID:8jRUg8Ua
夏芽は美しい娘で、私には勿体無いくらいの女だったが、私のどこを気に入ってくれたのか怖いくらいとんとん拍子に縁談まで話は進んだ。
私は真っ先に姉を喜ばせてやりたいと思い、息を弾ませて姉へ報告に向かった。
しかし姉はぼんやりとした様子で、私の話を良く分かっていない様子であった。
どうしたのか、具合でも悪いのか、と私は尋ねたが、姉は何でもないの一点張りで私は一向に了見を得なかった。
それからだ、姉の様子がおかしくなったのは。
今まで、男女七つにして同衾せず、と言って従妹の秋葉を預かった時も、私が枕元で寝かしつけるのを目を吊り上げて怒っていたのに、お背中をお流ししましょう、などと風呂場に断りも無く入ってくるなど尋常のことではない。
しかも長襦袢一枚しか纏っていないのだから始末に終えない。
蒸気で透けていく薄布の向こうに見える肌色と、かすかに見えた桜色に私は慌てて目をそらした。
それからは恥ずかしくて一度も姉を見ることが出来ずにいる。
惜しいことをしたという気持ちは正直に言うと少しある。
しかし私は大好きな姉を自らの劣情で汚してしまうことを何よりも恐れたのだ。
他にもある。
朝私が目を覚ますと部屋の前で待ち構えていたのかと思うほどぴったりに部屋に入ってきて、お着替えを手伝いますと言ってされるがままの私を着せ替え人形のように着替えさせてしまうのだ。
何度も自分でやるからいいと言って聞かせても、あなたは私が居なければ何にも出来ないのですから、大人しくしていなさいと言って聞く耳を持たない。昔から頑固な所のある姉であったが、こんなに人の話を聞かないのも少々珍しいものだと思った。
他にも夏芽が家へ来た折に姉と夏芽の言い争う声が聞こえたという使用人の話もある。
所用で私はその場に居なかったが、姉が声を荒げるなど私の記憶の限りないことなので驚いたものだ。
姉にも夏芽に聞き出しづらく結局詳細は聞かずじまいだ。
二人とも私に何事も言ってこないので大したことではないのだろうと勝手に決めこんで、そのことは忘れることにした。
そうしている内に結納も済み、いよいよ結婚は明日という日まで来た。
379 :
悪夢十夜:2007/08/24(金) 03:53:45 ID:8jRUg8Ua
この日は一日中しんしんと雪が降っていたが夜には止み、今は雲の切れ間から満月が覗いていた。
そんな静かな夜、姉が私の部屋を訪れた。
姉は冬だと言うのに長襦袢しか纏っておらず、いつも結い上げている長い髪は下ろしており、尋常ではない様子であった。
縁側へと続く障子を開けて入ってきた姉は頬を上気させ、目が潤んでいた。
障子を開けた拍子に冷たい夜気が流れ込んでくる。
「どうしんですか姉さん。そんな格好をしていては風邪を引いてしまいます。どうかこちらに来て暖まって下さい」
何事かと驚きながら、私はそう言って姉をストーブのある部屋の中に勧めたが、姉は聞こえているのか聞こえていないのか判然としない様子で、二歩三歩と足を進めるとそこでまた立ち止まってしまった。
これはいよいよ何かあると思い、私は腰を上げて姉の前に立った。
「冬樹さん……」
熱に浮かされたような声で、姉が私の名を呼ぶ。
「姉さん、本当にどうしたんですか。風邪でも……」
私はその言葉の先を言うことは出来なかった。
姉が私の言葉を遮るようにその身体を私に投げ出したからである。
思いの外小さかつた姉の身体が私の胸にすっぽりと収まった時、えもいわれぬ香りが私の鼻腔を突いた。
「冬樹さん、……行っては、嫌です……」
消えるような声で姉は言った。
姉のこんな声を聞いたのは生まれて初めてであった。
そしてその時、私は全てを悟った。
姉の熱っぽい、潤んだ視線が何を意味するのか。
何故私の部屋を訪れたのか。
何故こんな寒い夜に薄布一枚なのかを。
今までの姉との思い出が走馬灯のように私の脳裏に浮かび、そして消え、また浮かんだ。
姉は私のことを愛していた。
私もまた姉のことを愛していた。
しかし私の姉に対する愛は肉親へのそれであり、姉の私に対する愛は男へのそれであったのだ。
姉の気持ちは胸が熱くなるほど嬉しく、しかしこれから口にする言葉を考えると身を切るほど切なかった。
それは十四の時以来口にしていなかった姉に対する拒絶の言葉になる。
私は今まで生きてきた中で一番真剣な目をして姉を見つめた。
それは夏芽に求婚する時にすら向けたことの無い視線だった。
「姉さん、駄目です。私には……」
できません、の一言がどうしても言えず、私は凍えきった身体で縋り付く姉を抱きしめることしか出来なかった。
「……すみません」
私はただ謝る。
最愛の姉に対する初めての、そして生涯最後の抱擁になるだろう。
……どれだけの間そうしていたことだろうか。
私が姉の身体を離そうとその華奢な肩に手をかけた時であった。
不意に何事か、私の耳元で姉が呟いた。
蚊の泣くような声だった上、不意のことだったので私は即座にはその意味を測りかねた。
……ただ、何となく背筋が寒くなった。
それから姉は自ら身体を離すと、待っていてくださいね、と言って部屋から出て行ってしまった。
そう私に言った姉の笑顔は、今まで見てきた中で最も美しい笑顔であった。
私はしばらく呆然としていたが、はたと気が付き部屋から飛び出した。
姉の姿を探す内に使用人を見つけたので尋ねたところ、台所に向かったそうだ。
その話を聞いているうちにもう一人の使用人が慌てた様子でやって来て、姉が包丁を持って家を飛び出して行ったことを伝えた。
それを聞くや否や私はすぐに玄関に向かった。
380 :
悪夢十夜:2007/08/24(金) 03:55:01 ID:8jRUg8Ua
私は雪の降り積もった町を徘徊していた。
ただ徘徊しているのではない。
姉を探しているのだ。
人から見ればただの狂人だろう。
裸足で、しかも上着も羽織らずに師走の夜を走り回っている男など気が違ったのかと思われても仕方が無い。
しかし外には誰も居らず、静か過ぎるほどであつた。月は雲に隠れ、ガス灯の明かりを頼りに私は姉を探した。
そして私は姉が何故包丁を持ち出したのか考えていた。
……分からなかった。
本当は分かっているのかも知れないが、私の頭はそれを分かろうとはしなかった。
それからは何も考えず、ただ無心に姉の姿を探すのみであった。
やがて私はその姿を見つけた。
雪道の向こうからこちらに向かって歩いてくる姉は、最後に見せた美しい笑顔のままであった。
しかし薄く白い着物には赤い斑点、その右手には血に染まった包丁という狂人の様相であった。
いつの間にか空は晴れ渡り、天には満月が輝いている。
裸足で雪を踏み締めて歩み寄ってくる姉を見つめながら、私はこの時戦慄するより先にああなるほど、と得心していた。
先ほど姉は私の耳元でこう言ったのだ。
「あの女が居るからなのね」
と。
381 :
悪夢十夜:2007/08/24(金) 03:59:03 ID:8jRUg8Ua
これで終わりです。
なにぶん初めてで最初の投下と次からのが文章の間隔がバラバラで申し訳ない。
これは夏目漱石の「夢十夜」という掌編集に感化されて書きました。
ので、明治ごろの話と思っていただければ。
誰か一人でもいいな、と思っていただければ幸いです。では
GJ!!!
超良かった!!!
GJ!!
すばらしい。初めてとは思えないくらいに。
触発されていただいたのは嬉しいかぎり。
自分では書けない、こういう嫉妬、修羅場は大好きだよ!!
なんという投下ラッシュ
GJ!!
夏目大好きな俺から泣きたくなるぐらいのGJを作者に
>>381 GJ!!
姉の弟を思うが故の暴走は大好物だぜ!
投下ラッシュでエロいこともといエラいことになってますね。
皆さんGJです!
草以外はGJっす!
またかwww
森鴎外の舞姫思い出すなー。高校の教科書載ってたヤツ。
破局からエリス発狂のラストを何度も見返してた記憶あるわ。GJ!
学園物投下します。
季節外れですが、冬のお話です。
それは、何てことないいつもの放課後。
「ねえ遼君」
「何すか?」
別に特別なことは何一つなくて、
「もうすぐ冬休みだね」
「そうっすね」
ただ、放送室の中はひたすらに寒かった。
「何か予定とかあったりする?」
由美先輩は外の景色を眺めながら、そんなことを尋ねてきた。
「別にないっすけど」
僕も窓から外を見る。
雲量10、どう見ても曇り。どんよりとした雲が空を覆っている。雨でも降るだろうか。
「そっか」
今年の初雪は、まだ。
別にそれも普通で、例年通り。先輩が何だかよく分からないけど嬉しそうに笑っている
のもいつも通り。
「何かないっすかねー」
「何かって?」
今年の冬もきっといつも通り、これといって変わったことはないだろう。
でも、
「何かは………何かっすよ」
心のどこがで『何か』が起こることを、僕は期待している。その『何か』は、具体的な
ものじゃなくて、もっと漠然としていて、とにかく『何か』なのだ。
この日々をほんの少しだけでもいいから面白くしてくれる、『何か』。
それを僕は待っていた。
「何それ? 訳分かんないよ」
先輩は笑う。僕も笑う。とにかく変わったことは特にない。
でもまあ別に―――それもいい。
うちの高校の放送部の部員は二人。部長の松本由美先輩と僕――中原遼。通常業務は連
絡放送、集会時のマイクセッティング。放課後は大抵、放送室でだべってる。そんな感じ。
「そろそろ帰ろっか」
校舎がロックされる時間が、僕たちの帰る時間である。
「そうっすね」
荷物を持って僕らは放送室を出た。下校時刻間際の校舎の中は静かで、僕と先輩の足音
が廊下に響いていた。
「あ、雨降ってる」
僕より先に昇降口から出た先輩が言った。
「ホントだ、雨っすね」
やっぱり、雪にはならなかったみたいだ。
「遼君、傘持ってる?」
「ええ、折りたたみ持ってますけど………」
僕がそう答えると、先輩はため息をついて
「残念、相々傘は出来ないみたいだね」
なんて、鞄から傘を出しながら、冗談めいた口調で言った。
「ほんと残念っす」
―――僕と先輩は別に、付き合ってる訳じゃない。ただの先輩後輩の間柄で、そういう
のは一切ない。
「あー、心から思ってないでしょー」
「そんなことないっすよ」
先輩のことは嫌いじゃない。好きか嫌いかで言えば、多分好きの方。だけど、僕は先輩
に『恋』はしていない。
その理由の一つは、先輩が美人だということ。っていうか美人なだけじゃなくて、スタ
イルも良くって、性格もいいし成績もいい。まさに完璧、ミスパーフェクト。
それに対する僕はまあ、パッとしない、いわゆるフツーの男の子。こんなんじゃ、先輩
には到底釣り合わない。恋心を抱くなんて恐れ多い。
先輩は僕のことをどう思っているんだろうか?
…………分からない。とりあえず嫌われては、いないと思う。
だからといって、恋愛感情なんかは持ってないんだろうなあ。
「…………何考えてんだか」
「どうしたの?」
隣を歩く先輩が傘の下から覗いてきた。この構図も、由美先輩だからかなり絵になる。
「何でもないっすよ」
笑って誤魔化す。先輩は「ふーん」とつまらなさそうにまた歩き出した。
そうだ、これだって別に悪くない。
何かを無理に急ぐ必要なんか、ない。
僕は今のままだって構わない、いや今のままでいい。
そうだろ、僕?
帰り道、先輩と別れた後僕はふとコンビニに立ち寄った。
漫画の立ち読み、主な目的はそれ。
「いらっしゃいませー」
僕にそう挨拶をした店員さんは見ない顔だった。新しいアルバイトの人だろうか、見た
ことがない。別にそんなに気にすることでもないのかもしれないけど、その新しい店員さ
んがなかなかに―――いやかなり可愛い女性だったから、自然とその人に目がいった。
うん、『可愛い』でいいと思う。先輩を『美人』と言うなら、この人は『可愛い』だろう。
背はそんなに高くなく体つきは小柄なほうだけど、こんなコンビニには似合わないほどの
存在感があった。
―――と、
「………あ」
目が合って、僕は思わず声を出してしまった。彼女は不思議そうな目で僕を見ている。
僕は目を逸らして、雑誌コーナーに足早に向かった。恥ずかしくて仕方がなかった。やっ
ぱり人をジロジロ見るのは、良くない。
「は〜………」
ため息をついてから、僕は発売したばかりの月刊漫画誌を手に取った。
巻頭カラーは、よくある学園ラブコメディー漫画。冴えない主人公が複数の美少女に好
かれまくるっていう、現実的に見るとメチャクチャな物語。こんなの有り得ねえよな〜、
なんて思うのだけれどついつい読み進めてしまう。
そして、大体目的の漫画を読み終えた頃だった。
「静かにしろ!!」
ドアが勢いよく開かれる音と同時に声が聞こえた。その方向を見ると、
「レジに入ってる金をおとなしく全部渡せ!!」
―――強盗だった。レジの、あの『可愛い』女の子に包丁を向けている。そいつの容姿
はジーンズ、黒いジャンパー、そして目出し帽。笑っちゃうくらい典型的な強盗さんだっ
た。
おいおいマジかよ。こんな夕方の、人気の多いコンビニに押し入る強盗ってなんだよ。
頭悪いんじゃないか?
非常時にもかかわらず、意外に僕は冷静だった。
「早くしろ!!でねえと、こいつでぶっ刺すぞ!!」
間近でそんなことを言われている店員さんは僕と正反対で、顔は青ざめてブルブルと震
えていた。
強盗の興奮具合は異常で、目はメチャクチャに血走っていたし、呼吸も妙に荒かった。
「てめえ、聞こえねえのか!? 早く金を出せって言ってるんだよ!!」
包丁はますます店員さんに近づく。
「い、いや………やめて……」
震える声で彼女はそう言った。恐怖で体が動かなくなっているのだろう、要求通りにレ
ジから現金を出すことさえ出来そうになかった。
―――これは、マズイかもしれない。あの異常な強盗さんは、興奮のあまり彼女を本当
に刺してしまうかもしれない。店の中には女子高生が二人、おばさんが一人、そして残り
は僕。もう一人のコンビニ店員のおっさんは、腰をぬかしておにぎりの棚の辺りで倒れて
いた。店員二人があの様子じゃあ、きっと交番に通報だってしていないだろう。
―――こうなったら僕が……。
そう思ったけど、『おいおい、俺ってそんな勇敢な少年だったっけ?』と、心の中の僕が
言った。
―――………そうですね。
正直にそう答えた。
第一あんな奴に立ち向かっていって無傷で済むだろうか? それに僕はそんなに強くな
い。
きっとこういうとき、あんな漫画の冴えない主人公君だったら、間違いなく店員さんを
助けようとするんだろう。
だけど、これは漫画じゃなくて、現実。刺されたりしたら物凄く痛いだろうし、もしか
したら死ぬかもしれない。正義感に任せて特攻!! なんて出来やしない。
だからゴメンね、店員さん。
僕は黙ってことの一部始終を見守ることにした。
ヘタレだな、僕。
「早くしやがれっつってんだよお!!」
強盗の興奮状態はもはや最高潮に達していた。店員さんに刃が届くまで、あと数センチ。
彼女の目からは―――涙が流れていた。
―――その涙が、僕の気持ちを変えた。
なんて、この言い方はちょっとカッコ付け過ぎかもしれないけど、確かに僕の気持ちは
変わった。
近くの壁に、モップが立て掛けられていた。僕はそのモップを手に取る。
『一撃必殺』
僕の狙いはそれだけ。こっそりあいつの背後に回って、この聖剣でトドメをさす。卑怯
かもしれないけど、それが最良で最強の選択肢。あわよくば気絶なんかしてもらって、そ
れでK.O。それが理想。
奴の死角を通るようにして、僕は静かに近づいていく。
「早く金、金をだせよおおおお!!」
「お願い、許して、許してぇ………」
後一歩で僕の間合いに入る。僕はモップを振り上げた。
―――喰らえ、正義の剣をっ!!!
心の中でそう叫んで、僕がエクスカリバーを振り下ろす直前
「あ?」
強盗がこちらを振り返る。それに驚いて僕の手元が狂った。
「うぎゃあ!!」
モップは彼の後頭部ではなく、右肩にヒット。一撃必殺は失敗。僕の頭を絶望が掠める。
強盗はすぐさまターゲットを店員さんから僕に変更。狂気に満ちた目が僕に向けられる。
なるほど、こんな目に睨まれれば身動きも取れなくなるだろう。店員さんの気持ちが今に
なって分かった。
「この野郎!!」
僕が第二撃を放つ前に、強盗は僕に突っ込んできた。反応が遅れて、僕は完璧にそれを
かわすことが出来なかった。
「っつ………」
包丁が左腕を掠った。僕は急いで距離を取る。
「早く!! 交番に連絡して!!」
僕はレジで腰を抜かせてしまった彼女に叫んだ。
「は、はい!!」
僕の一言で、ようやく彼女は動き出した。
「死ねやああああああ!!!!」
強盗が僕にもう一度駆け寄ってくる。それを僕はモップの先端で突き返す。こちらのほ
うがリーチは長い。用は近寄らせなければいいのだ。
「うおっ!」
僕に押し戻された強盗はバランスを崩して壁際の冷蔵庫に激突した。
―――チャンスだ。
今度こそ僕は渾身の一撃を奴の脳天にぶちかました。
「ぐへえっ」
間抜けな声を出して、そいつは倒れた。
「ふう………」
これにて、一件落着!! なんつって。
以上で投下終了です。
続きも近いうちに投稿したいと思っています。
ありがとうございました。
まだ嫉妬分出てきてないのでなとも言えないが続きに期待
放送部の描写に共感を覚える元放送部員ですw
俺も大会と学校行事の無い時はだべりまくってたなー
素朴な疑問なんだけど、「放送部」が活動できない程
部員が居なかった場合、連絡放送とかは誰がやる事に
なるのかな?普通に生徒会かな?
投下します
「兄さん」
帰りのホームルームがおわると、いつものように直が僕の教室にくる
「じゃあそろそろ帰ろっか」
僕は裕美と直の二人を促し、教室を出た
ちなみに須藤のやつはホームルームがおわるとすぐに
「かわいー女の子が俺を待っている」
といつものようにナンパしに行ったからな・・・
いつか刺されるぞといつものように結論づけながらも
まぁでも須藤は要領いいから、意外とそういうの慣れてるかもしれない
あいつ妙に淡泊だし、恋愛自体は好きだが、相手にあまり興味がないのかもしれないな
全く変なことになるなよと心配してしまう
本当須藤が好きなる子も、須藤を好きになる子も、かわいそうだよな
あいつの身勝手な恋愛につきあわされて…
とそんな事を直と裕美の二人に話すと
「須藤さんだから」「須藤くんだしね」と、妙に納得して三人で苦笑してしまう
よかった…
昼休みのあれから微妙に二人の雰囲気が悪かったんだよな…
なんだろやっぱり僕って鈍感なんだろうな
嬉しそうとか機嫌悪そうというのはわかるけれども、その理由が全然分からない
たまに会う年上のいとこには、
「優磨ってさ優しいけれども、酷いよね」
とか言われてしまう
その度に僕は反応に困りながらも、内心妙にへこむことになるのだが…
とりあえず僕としては二人とも仲良くして欲しくて、でも二人は妙にぶつかってしまうので、
その度に冷や冷やするのにその理由が分からないから困るんだよな
全く難儀な妹と幼なじみを持ったものだ
晴れた空は僕の悩みには関係なく、雲が流れていて、
その雲のように、風のように生きられたら、どんなに楽だろうとは思うんだけど
そんな事を考えてると、僕らの家の前につく
「じゃ裕美また後で」
「うん。後で来るから」
「えっと…(中略)だから なのでこうするんだよ」
真剣な眼差しでノートに目をむける裕美に、一つ一つ今日の数学の要点を教えてゆく
「凄いね、優磨君。私全然わからなかったよ」
帰ってきて自分の部屋に入り着替えると、しばらくすると裕美がやってきて、いつものように勉強会になる。
まぁ裕美は数学が苦手みたいなので、いくら狩野の授業が分かりやすいとはいっても、
理解しずらいところはあるみたいで、そこを教えるのが僕の努めだ
まぁ変わりに僕は苦手の国語を教えてもらう
だがどうしても小説とか物語の登場人物が、何を考えてるのかいまいちわかりづらいし、説明されてもやっぱりピンとこないから苦手だ
裕美とか国語の教師あたりに言わせれば、そういうのはその人物の描写を見ればわかるというのだが、
普段から人間関係に鈍い僕はそういうのは苦手で、テストのたびに国語だけ時間が足りない
ちなみにテスト前になると、須藤のやつと直のやつがこの勉強会に加わる
さすがに数学のテストは凄いので、僕にもわからない問題は須藤に教えてもらうしかないのだ
だけど須藤のやつ天才肌のせいか、教えるのは得意じゃないみたいで、
僕が理解してからそれを裕美に教えるという変な流れになっているが
直は一学年下なので、僕らが勉強を教えてあげている
といっても直は優秀みたいなので、あんまり教える事がないけれども
須藤と同じで、学年でのトップ10に入ってるみたいだ
まぁ直のほうは、努力の秀才という感じかもしれない
「っとこれで今日の宿題は終わりかな」
「優磨君今日もありがとう」
「うーん僕も教えてもらってるし、お互い様だよ」
「ううん、優磨君の教え方がいいから」
「あはは、ほめても何も出ないよ?」
「そういうんじゃないんだって」
そう言った裕美の顔はちょっと寂しげで、声をかけてあげないととは思うけれども、
かける言葉が見つからなくて、僕らの間には微妙な雰囲気が漂ってしまう
どうにも気まずい感じになってしまったので、ごまかすように
「もう夕飯だね。いい匂いがするよ。詩織さん今日は何を作ってくれたんだろ?」
というと裕美はますます悲しそうな顔をするがそれも一瞬、
すぐに取り繕うように、笑顔になると
「詩織さん料理上手みたいだしね。私もおなかすいたから家に帰るよ。」
というと片付けをさっさと終わらせ、玄関まででていく
そうして僕は裕美を見送ると、リビングへと向かう。
「優磨さん、今日のご飯はハンバーグですよ」
僕がリビングに入ってきたのに気づいた詩織さんが、ニッコリと微笑んでくれる
ちょうど夕飯の支度が終わったみたいで、テーブルの上にはいかにもおいしそうな感じのハンバーグが乗っている
ほかにもサラダにコンソメスープが乗っていて、いかにも食欲を誘ってくれる
直はもうテーブルに座っていて食事の準備は万全のだった
やっぱり人のいる食事はいい
食事が始まると詩織さんがまず僕に質問をし、それに僕が答え、それで直に振っていく形が多い
まぁ僕が先に答えた方が直も答えたやすいだろうし、詩織さんも新しい息子である僕とコミュニケーションを取りたいんだろう。
人と人のつながりは大切だからね
このテーブルもキッチンも一時期は全く使われていなかったが、詩織さんたちが家に来てからまた使われ始めた
昔ののことを思い出すと本当に裕美に申し訳ないし、感謝の気持ちでいっぱいだ
だからこうやって僕が新しい家族となごんでいるのは、裕美にちょっと申し訳ないとは思ってしまう。
だけど新しくできたこの家族とも、僕はうまくやっていきたいし、やっていかないといけないと思う
詩織さんは父さんにはとって、本当に大切な人だと思うから
あのときから父さんはふさぎ込んでしまって、家にも帰らなくなってしまった
僕には裕美という幼なじみがいたけれども、父さんには誰もいなくて、本当に孤独だったんだと思う
そんな父さんを救ってくれた詩織さんには、僕は感謝の気持ちでいっぱいだ
父さんは今出張でいないけれども、二人は毎晩電話してるし、凄く仲はいい
本当見てるこっちの方が恥ずかしいくらいだけど、あの二人なりにいろんな事を考えたんだと思う
僕が口出しできことじゃないよな
直は口数は少ないけれども、凄くかわいい妹だ
何者も寄せ付けない雰囲気をだしながら、実は寂しがりやな感じがしてついつい面倒を見てしまう
初めてあったときは触れればきれてしまいそうな、そんな感じがして刺々しいんだけど痛々しかった
まるで昔の僕を見ているようで、ほっとけなかったのかもしれない
僕と直の持っていた傷は同じじゃなかったけれど、似ていたからこそ苦しみが伝わってきて
詩織さんはあんま話してくれなかったけれども、直も直で色々あったという話だ
割れたガラスのようなそんな雰囲気が出ていた直
僕にとって裕美がいたように、父にとっての詩織さんがいたように、僕も直を助けたかったんだと思う
直は口数は少ないけれど、昔よりは雰囲気が柔らかくなってる
だから直が僕に段々と心を開いてくれるのが嬉しかった
直の心が少しでもあの暗闇からぬけだせたことに喜びを覚えていたんだ
だからこそ僕はこの新しい家族に、新しい生活に、希望を見出しそれがうまく行くことを願ってたんだ
投下終了
まだ修羅場成分あんまないな・・・・
GJ!!これから修羅場になっていくことをwktkして待ってますよ。
差し出がましいことを言うようですが、文末には「。」を付けて貰えればありがたいです。
裕美いいな。是非とも頑張ってほしい
>>391 ああ、高校時代なんであの話だけ好きだったのかようやくわかった
これからどんな修羅場になるか期待だな
ま、伏線微妙にはってるのがどうなるかだな
俺は夏目のやつがすきだった
先生が自殺するやつだ
あれ女の子嫉妬しないじゃないか。
男の嫉妬なんぞみっともない。
俺はなんだろ
ちょっと異端だからな
殺伐としてるのが好きなだけだ
そういや「こころ」って漫画化されてるんだけど、
舞姫も?
なんか最近新規の投稿が多いな
いい流れだ
俺も舞姫好きだったな
発狂するエリスに心踊らせる俺を変な目で見る級友
授業中に文庫版こころを読んで、注意された所を逆切れしたのも今は良い思い出
>>416 周りからは決して誉められたものではないがこのスレ的には拍手喝采ものだなwww
こころは納得いかなかったな、先生は自殺して満足かもしれんが奥さんはどうなるんだよ
って中学の時思った
こころは修羅場としては別にどうでもいい、あの先生の独白が好きだ
どうして先生はあんな風に変わってしまったのかとか、「世の中善人ほど悪人に変わる」みたいな台詞が良かったな
ちなみに先生は上京する前に従姉妹との縁談蹴ってます、従姉妹は先生の事どう思ってるのか正確には描写されてなかったはず
けどもしキモ従姉妹なら先生と奥さんが結婚する時に包丁持って…長々と済まんな、とにかく投下してくれた人ホント乙です
初投下ですがよろしくお願いします
お、いい流れがつづいてるな
がんばだ
同窓会、そんなサブタイトルのメールが送られてきたのは、高校を卒業してから3年、
少しずつ高校時代の記憶も薄れつつある夏のことだった。
昼下がりの大学構内、地下一階に階段に隠れるようにして存在しているベンチ。ほぼ物
置になっているこの階に、踏み込む者は多くない。人ごみの嫌いな僕の憩いの場所である。
今日は次の講義まで時間が空いていたため、ここでのんびりと読書でもしていようと寝
転がったその矢先に、決して小さくない着信音が地下に鳴り響いた。無論、こんな湿っぽ
い場所に昼間からいる物好きは僕くらいである。滅多に鳴る事のないメールの着信音をもう
少し聞いていたい衝動に駆られながらも、携帯を開いた。
「もうそんな時期になるのか」
普段滅多に開かれることのない携帯を片手に、ぼんやりと呟く。メールには、高校3年時
のクラスのメンバーでの同窓会を、2週間後に開くといった内容のものだった。
同窓会。それは、余程暗く後ろめたい学生生活を送っていない限りほとんどの人にとって楽しいものに違いない。余程後ろめたいことがない限り、だが。
「不参加、と」
恐らく主催者であろう、メールを送ってきた送り主、クラスのまとめ役であった委員長の顔を浮かべながら、僕は参加する意思がないことを返信しようとした
「全く・・・相変わらず暗いところが好きね純。だから根暗って言われんのよ。」
突然声を掛けられた事に内心相当驚いていたが、なるべくそれを表に出さぬよう言い返す。
「その暗いところに毎日現れる君は相当な変わり者だな。」
それ以前に根暗などと言われたことはない。どうせ今彼女が思った事をそのまま口にした
だけだ。根暗だなんて面と向かって言われたことは・・・
もしかして直接言われていないだけでそう思われているのか?確かに僕は読書ばかりして
いるし一人のほうが大勢でいるより好きだが・・・
自分の評価が本気で心配になってきた頃、目の前の彼女、美東あすかが僕に問いかける。
「同窓会のメール来た?」
そう質問する彼女は少し、本当に少しだが、普段気の強い彼女にしては不安げに聞いてきた。
「来たに決まっているだろ、そこまで友達少なくないぞ?」
決して多くはないが。
「行くの?」
「いや、面倒だから行かない。それに再来週は提出物が多いんだ。」
嘘は言っていない。
本当の事も言っていない。
本当の事は言いたくない。
しかし、そんな僕の答えではきっとあすかは満足しない。
「本当にそれだけ?」
ほらきた、わかりきっているくせに。
「柳さんは来るってよ?」
・・・遠慮というものをこいつは知らないのだろうか。
「だからなんだ?」
自分でも驚くぐらい冷めたい声だった。その声に一瞬あすかは怯んだが、すぐいつもの勢
いを取り戻しさらに畳み掛ける。
「いい加減忘れたら?純は十分苦しんだじゃない」
「苦しんで忘れられるなら誰でもそうするよ」
もうこの話は終わりにしたくて、僕は目を閉じた。あすかはそんな僕の隣に無言で座り、
強引に膝枕をしてきた。僕は抵抗したが、少し開いた瞼から彼女の意地の悪そうな、それで
いてどこか悲しげな笑顔を見て、抵抗をやめた。
僕こと、二見 純 と 美東 あすか は世間一般で言うところの彼氏と彼女の関係にあ
る。少し遠まわしに表現したのには理由がある。僕たちは肉体関係、つまりキスやその先を
したことがないからだ。手ぐらいは繋いだ事はあるがそれ以上はなにもしていない。別に僕
は不能なわけではないし、それなりにそういう事をしたいとも思っている。では何故そうい
う行為に至らないのか?それは僕が絶対に自分からそういう行為に誘わない、否、誘えない
のだ。
今から4年前、僕が高校3年生の時、僕はあすかとは違う女性と付き合っていた。勉強が
得意だが運動が不得意な彼女。努力家であり、誰にでも優しかった。そんな彼女に、僕は
惚れていた。
最初は遠巻きに見ていることしかできなかった僕が、彼女と仲良くなったきっかけは、
席替えで隣の席になった事だった。それからどれぐらいだったか、紆余曲折を経て僕たち
は付き合うことになった。僕は有頂天だった。さっそく二人きりで会えるよう「勉強会」
という名目で彼女を呼び出した。最初は二人で会話を交えつつ勉強をしていたが、段々と
僕は彼女の唇に、胸に、可愛らしい服から覗く肢体に目を奪われた。そして、とうとう僕
はキスをせがんだ。少し困った顔を彼女はしたが、彼女は
「君がしたいって言うなら・・・キスだけだよ?」
と照れながら言ってくれた。
そんな彼女を僕は裏切った。
キスから先にも進んでしまったのだ。僕は調子に乗っていた。もうどうしようもないくら
い調子に乗っていた。もう少し冷静なら、彼女の胸に手を伸ばした時に彼女の顔が歪んだの
に気づいたはずである。ショーツに手を入れた時に彼女が涙を流したのに気づけたはずであ
る。
彼女の涙に気づいたのは彼女を床に押し倒した時だった。
僕は必死に謝った。
謝って許されることではないと知りつつも必死で謝った。そんな僕に彼女は、
「平気だから」
と弱弱しく微笑んだ。この時、僕は感じていた。すべては手遅れなのだと。
それから1週間後の事だった。彼女から別れのメールが届いたのは。
私、美東あすかと二見純は、所謂幼馴染という奴である。家は隣で、毎朝彼の家まで起こ
しにいって、お昼はお揃いの手作り弁当。なんて事はなく、中学生まで男友達のように一緒
にゲームをしたり、買い物に出かけたりしているだけの仲だった。周りの連中は、私たちの
事をお似合いのカップルだと口々に言っていたが、純は勿論私もそんなつもりはなく、一緒
にいたのは友情であり愛情ではないと思っていた。しかし、高校に入学してから私は本当の
気持ちに気づいた。
学力の近かった私たちは同じ高校に入学した。残念なことにクラスは別になってしまった
が、私は気軽に話せる相手がいなくなって残念程度にしか思っていなかった。新しいクラス
では、彼女の気さくで明るい性格も助けとなり、すぐに友達もできたし特に問題はない、そ
う思っていた。しかし、心の片隅で純のことが気になっていた。
「純はちょっと暗いのがネックなのよね・・・」
クラスにいきなりは馴染めないかもしれないから様子でも見に行ってやるか。どこか、純
と仲良くできるのは自分だけ、という優越感を持ちながら純のいるF組の教室へと向かった。
それから5分後、F組の教室の前にあすかは立ち尽くしていた。
その視線の先には何人かの女生徒に囲まれて困っている純の姿があった
中学では、あすかと純は公認のカップルになっていただけあり、純に異性として近づく者
はいなかった。しかし、高校ではそうはいかなかった。純は素質は元々良いのだ。あすかは
特に意識したことはないが、身長はそんなに高くないものの顔は大分整っていて、本来なら
もっと女性に騒がれてもおかしくない。
(嫌なら嫌ってはっきり言いなさいよ・・・)
思っても口にはだせない。自分は彼女でもなんでもない、ただの友達なんだから。
ただの友達なんだから・・・
そう自分に言い聞かせるも、納得するこのできない感情があることにあすかはそのと
き初めて気づいた。
以上、投下終了です。一応続きます。
改行失敗した・・・
読んでくれた方、感謝します。
GJを送りたいが、投下宣言から4回ほどの書き込みで20分も消費はあまり感心しない
数分おきに書き込んでいるから、書きためているのはわかる、パソコンに何かあったのかい?
投下の間の数分間、続きが気になって仕方がなかったよ
>427
ご指摘感謝します。
書き込む時に少し見直すつもりで文章を目で追っていたのが原因かと
次回は気をつけます。
>>426 GJ!!!!!
活気が戻ってきて嬉しいよ!
『夢』に続いて二作目。
まだまだ新米ですが投下します。
どうしてこんなことになったんだろうか……
気がつけば俺の両手は真っ赤に汚れていた。
辺りにはただの肉の塊と化した物体が無残にも転がっている。
どこから俺の人生はおかしくなったんだろうか……
高校生になるまでは、そう、彼女に出会う前まではこんなことはなかったのに――――――
「とうとう高校生か……たのしみだなぁ」
俺は真新しい制服に身を包み、満員電車で揺られながら、新しい学校を目指していた。
今年から高校生になる俺は、地元では有名の進学校『元石(がんこく)高校』に通うことになったのだ。
電車の中にも同じく元石高校の新しい制服を着た人たちがいっぱい乗っていた。そんな彼らを見回し、
みんな同じ一年生なんだな。話し掛けたほうがいいのかななんて思いつつ、なかなか声をかけることができなかった。
大きな川の上にかかった橋を越えると元石生が下りる駅が見えてきた。
地方なだけあって無人の小さな駅。
辺りには目立った観光地や商店街があるわけではなく、まさにこの高校のためだけにあるような駅だった。
俺は電車から降りると高校を目指して坂を登っていく。
この坂が昔から運動部などのトレーニングに使われ、登るのがきつい事から『大蕪坂』などという名前がついた坂だった。
坂を登りきると校門が見えてくる。早くも校門を越えたところにある掲示板には人だかりができていた。
「お、もうクラス割が張り出されてるんだ。同じ中学の奴いるかな?」
俺は人ごみを掻き分けるように掲示板へと進んでいく。
しかし、あまり背の高くない俺にとってこの人ごみのなかを進んでいくのはなかなか難しい。
「よ、何してるんだよ間江寺(まえじ)」
必死に進んでいると、となりから急に肩を捕まれる。
「なんだ、高岩(たかいわ)か。それよりお前もうクラス割見たか?」
「おぅ、もう見たぜ。残念ながらおまえとはクラスが違うようだがな」
「そっか、高岩とは違うクラスかよ。まぁ、同じ一年だしこれからもよろしくな」
「おうよ、それと…お前も頑張れよ」
などと謎の言葉と笑みを残して高岩は人ごみを抜け生徒玄関へと向かって行った。
なんであんな言葉を残していったんだろうか……まさか俺のいるクラスは同じ中学がいないのか!?
不安になりつつもなんとか前に進んでいき、やっとクラス割の紙の前まで来る事ができた。
「さて、俺のクラスは……」
1年1組は理数科なので関係なく、俺は普通科の2組から順に見ていく。
「2組はないか。3組は……あった! 1年3組23番、間違いないな」
自分の名前を発見し、ほっと一安心したら、先ほどの高岩の言葉が不安になってきた。
「本当にいないのか?」
自分の名前だけを気にしていたので、他の名前を見ていなかった。なので3組を上から慎重に見ていく。
「えっと、同じ中学の奴は―――ってなんだ、ちょい悪の比良岡(ひらおか)もいるじゃないか。あとは…………え」
見てはいけない二つの名前を発見した瞬間、俺は後ろから声をかけられていた。
「またいっしょだね、翔ちゃん♪」
振り返ると、まったく同じ顔をした、二人の女子生徒が微笑みながら俺を見ていた。
少し長めの髪を頭部の後ろで二つに結んだ髪型が特徴の女子生徒だった。
一番見たくはなかったのだけれど、声をかけられてしまってはしょうがない。
「え、あ、あぁ、また同じ……だね」
「よかったよね眞保ちゃん、知ってる人がいて♪」
「そうだよね志保ちゃん、しかもそれが翔ちゃんで♪」
と、二人楽しそうにしゃべりあっていた。それをみて、俺は深いため息をつく。
二人は佐倉多志保(さくらだ しほ)と眞保(まほ)。一卵性の双子である。
家が近かったので幼いころから仲がよく、小中と学校が一緒なので俺は二人と仲がよかった。
けれど、双子は双子でも親も間違えるほどにそっくりで、俺はいつも二人には騙され、からかわれてばかりだった。
ばかりだったといったが、いまだに区別がつかなかったりする。いや、幼馴染なのに情けない;;
俺が見分けられないのを知ってか、二人はいつも俺ばかりを標的にし、そのせいで他の奴からもからかわれたりした。
そんなこといったってそいつらだって見分けられないはずなのに……
そんなこんなで、俺は二人を避けるようにしていた。
でも、たぶんそれだけではなく、中学生になって二人を女の子と認識するようになったからかもしれない。
それまではただの幼馴染としか思っていなかったのだが、中学の後半にもなってくるといろいろと知識もつき
、思春期にも入り女性というものを意識するようになる。
じっさい、二人はそこまでの美人でもなければ、とっても可愛いわけではないのだがそこそこ可愛く、
身長が140届かない程度と俺の好きなロリ体型だったりする。
なので、気まずいから高校になったらクラスが離れてほしいと思っていたのだが……
「また同じクラスだって。からかいがいがあるよ〜」
はぁ、まだからかう気ですかこの二人は。
おれはあきれつつ二人を残して新しい教室へと向かって行った。
引率の先生に連れられて体育館に行き、入学式はなんなく終わった。引率の先生に「先生が担任ですか?」
と聞くと、「いや、ただの引率です。担任の先生は入学式の後、クラスで紹介になりますよ」といわれた。
どうやらこの高校は担任の先生をギリギリまで教えないという変わった傾向があるようだ。
まぁ、どうせ名前だけ発表されてもどんな先生か分からないので別にいいのだが……
自分たちの教室に入り、出席番号順に座ると引率の先生は
「もう少しで担任の先生がいらっしゃられるからもうちょっと待ってくださいね」
といって廊下に出て行き、数分すると戻ってきた。どうやら担任の先生を迎えに行っていたらしい。
廊下にはもう一人の人の姿がうっすらと窓越しに見えた。
「はい、担任の先生がいらっしゃいました。
これから一年お世話になる先生です。みなさんしっかりとあいさつしましょう」
と、引率の先生はご丁寧に説明してくださいました。って俺たちは小学生か!
心の中で軽く突っ込むが、引率の先生には聞こえるはずもなく、話を続けている。
「それでは、入ってもらいましょう。皆さんの担任の新志村美月(にしむら みづき)先生です」
え………?
聞き覚えのある名前が耳に入り、慌てて顔をあげてしまう。聞き間違えか、それとも同姓同名か……
けれど、目に映ったその顔は、間違いなく知っている人のものだった――――
「皆さんの担任の新志村美月先生です」
そう引率の先生が言った時、私は思わず驚いてしまった。
まさかそんなはずは……と思ったのだが、入ってきた若い女の先生をみると、驚きが驚愕へと変わる。
慌てて翔ちゃんの方を見ると、翔ちゃんも驚きから固まっていた。いや、食い入るように見つめていた。
なんであの女がこの学校に……
新しい高校生活が始まるから、悪い虫が翔ちゃんにつかないようにと今日も朝から掲示板の前という目立つところで
翔ちゃんと私たちをアピールしたのだ。高校生にもなると知らない女どもがたくさん湧いてくる。
しかも湧くだけならまだいいのだが、別の中学の男子でかっこいい人やかわいい人がいるとキャーキャーさわぎ
、近づいてこようとするのだ。その辺、今朝の私たちの作戦は成功したといっていいだろう。
女どもの会話を聞く限り、翔ちゃんの話題は出てこないし、出てきたとしても私たちの名前とセットであった。
けれど、まさかあんな予想外の女が出てくるとは……
『新志村 美月』
翔ちゃんが小学三年生のとき知り合った高校生の先輩。
なぜ小学三年生の翔ちゃんが当時高校一年のあの女と知り合ったのかは知らないが、
翔ちゃんに誘われてよく私たちもあの女のところに遊びに行ったことがある。
高校生だから当時の私たちが知らないような事もたくさん教えてくれたし、勉強も教えてくれた。
その点は感謝してるが、私はあの女が大嫌いだった。たぶん眞保ちゃんも嫌いだったと思う。だって……
あの女は翔ちゃんに色目を使っていやがった!!
高校生のくせに小学生に色目を使い、発育した体を武器に翔ちゃんを誘惑していたのだ。
しかもそのせいで翔ちゃんが騙され、あの女に恋をしてしまった……
私たちの翔ちゃんがとられてしまう。小学生だった私たちでも、そのことは自然と理解できていた。
だから表では従順なフリをしつつも、あの女のことが大嫌いだったのだ。
けれど、それも長くは続かなかった。
高校二年も後半になってくると、女は大学受験の勉強があるからと翔ちゃんに会わなくなったのだ。
そして大学受験が済むと今度は大学に行くから会う事ができない
。私たちが小学4年の冬を最後に、あの女は私たちの目の前から姿を消したのだ。
会えなくなったすぐ後では翔ちゃんはすごく落ち込んでいた。
だから私たちが、ゆっくりと翔ちゃんの頭の中からあの女のことを消そうと慰めてきたのだ。
だから翔ちゃんは笑顔を取り戻し、私たちの元に戻ってきてくれた。そう、信じていた……
けれど、あの女が戻ってきた。まさか翔ちゃんがいまさらあの女に惹かれるとは思わないが……
万が一ということもある。今のうちからなにかしら対策を考えたほうが良さそうだ。
今日1日、俺はまともに思考をめぐらす事ができなかった。
入学式の日だから、まだ授業があるわけでもなく、ちょっとしたホームルームや学校説明だけだったのだが、
頭の中ではずっと担任の先生のことばかり考えいていた。
新志村先生……いや、美月お姉ちゃん。会えなくなってかなりの年月が経っているが、
美月お姉ちゃんはあのころと変わらない笑顔で俺を見てくれた。
いや、あのころよりもずっと綺麗になっていると思う。
そんなことを思いながら美月お姉ちゃんのことを考えていると、子供のころの思い出が次々と思い出された。
勉強を教わった事。いろいろな知識を教えてくれたこと。中学や高校の様子。
一緒にプールに泳ぎに行ったり、バーベキューをしたり、花火を見たり、そして、お姉ちゃんに恋をしたこと……
楽しかった思い出を思い出すたびに、俺は嬉しさで顔をほころばせていた。
また、あの美月お姉ちゃんに会えたんだ。しかも自分たちの担任。これから毎日会う事ができる。
確かに当時は恋をしていたけれど、いまは別にそんなことはどうでもよかった。
ただ、長い間会えなかったのに会えた事が純粋に嬉しく、そして、懐かしかった。
そんなこんなでぼーっとしたままその日の学校を終えると、俺はぼーっとしたまま帰路についた。
けれど、俺はまっすぐ家には帰らず、寄り道をしていく。
ここは初めてお姉ちゃんとあった交差点。
買い物の帰り道だったお姉ちゃんと俺はぶつかってしまい、お姉ちゃんは手に持っていた荷物をばら撒いてしまい、
俺はそれをあわてて拾った……そんなベタな出会いが俺と美月お姉ちゃんが知り合ったきっかけであった。
しばらくあるいていくと、小さな公園に行き着いた。ここもお姉ちゃんとの思い出の場所。
つらいことなどがあったら、ここでブランコを漕ぎながらお姉ちゃんに相談したりしてたっけ……。
そんなことを思い出しながら、俺は小学生以来漕いだ事のないブランコに座り、ゆっくりと漕ぎ始める。
何時間くらいそうしていただろうか……
空がオレンジ色に染まりかけてきたとき、急に背後からクラクションが聞こえた。
振り返るとそこには赤いスポーツカー。空いた窓からは美月お姉ちゃんが顔を出し、こっちに手を振っていた。
「この時期はご両親いないんでしょう? ちょっとうちに来ない? 晩御飯くらいならご馳走できるよ?」
突然のお誘いに驚くが、親がいないのは本当なので俺はありがたくご馳走になる事にした。
両親がともにデザイナーの仕事をしている我が家では、この時期になると両親が数ヶ月海外に働きに行くのだった。
それは俺がお姉ちゃんとあったころから変わらず、今も続いている。
車に乗ったのはよかったが、いざお姉ちゃんと二人っきりになるとなかなか話しかけることができず、
俺は黙ったままだった。
お姉ちゃんもまだ免許を取って日が浅いからか、こっちに話し掛けようとはせず、慎重にハンドルを切っていた。
「さぁ、入って入って。一人暮らしの狭いアパートだけど、掃除だけはきちんとしてあるから」
街のはずれにある住宅街のアパートの駐車場に車を止めると、
お姉ちゃんは自分の部屋の鍵を開けつつ、俺を部屋の中へと促す。
「おじゃましま〜す……」
女の人の部屋に入るという緊張感から、ゆっくりと部屋の中に入っていく。
いかにも女性っぽいといった可愛らしいカーテンや家具などが目に入ってくる。
お姉ちゃんがいっていた通り、部屋の中は綺麗に整頓されており、掃除も行き届いているようだった。
「そんなに緊張しないでいいよ。もっと楽にさ♪」
笑いながら軽く俺の肩を叩くと、お姉ちゃんは部屋の奥の一室へと向かっていく。
「ちょっと着替えてくるから、適当にその辺に座っててね。それと……かってに女性の部屋をいじくったらダメだぞ」
と、にやけながら部屋へと消えていく。言っておくが、俺にそこまでの勇気はないです。
しばらくすると、お姉ちゃんが部屋から出てきた。
スーツ姿のときはピシッとしているのだが、私服に着替えると可愛いデザインのせいか、
昔のお姉ちゃんのままのような気がして、急に緊張感が取れる。
「それにしても大きくなったね。間江寺ちゃんは」
テーブルをはさんで向かいがわに座ったお姉ちゃんは頬に手をついて、こちらの顔をゆっくりと上から下まで見ていく。
「もう間江寺ちゃんはやめてくださいよ。美月おね……いや、新志村先生」
「ん〜ん、おねえちゃんでいいよ。じゃぁ、私は翔太ってよぼっかなぁ」
名前で呼ばれるのもなんだか恥ずかしい気がしたが、俺はそう呼ばれることを承諾した。
それからは俺たちは会えなくなってからの事をお互いに話し始めた。俺は小学の事、中学の事。
お姉ちゃんは高校の事、大学の事、教員試験の事……
一度緊張が解けると話が弾むもので、気付けばかなりの時間がたっていた。
「そういえば晩御飯ご馳走するんだったね。ちょっと待ってて、すぐに作るから」
そういうとお姉ちゃんは台所に向かい、さっさと準備をはじめる。
「大学4年間で腕を上げたからね。ぜったい翔太驚くよ?」
一度だけ小学生のときにお姉ちゃんが作った料理を食べた事があるのだが、
あの時は塩と砂糖を間違えていたらしく、とても微妙な味の料理を食べた記憶がある。
心配しながらも待っていると、台所からおいしそうな香りが漂ってきはじめ、
しばらくすると両手にお皿を持った美月お姉ちゃんが出てきた。お皿を机の上に置くと、
「ご飯ついで来るから少し待ってね」といい、再び台所へ向かう。
机に置かれたお皿には、おいしそうに湯気を立てた焼きたての和風ハンバーグが置かれていた。
見た目は完璧、匂いもおいしそう。どうやら大学で腕を上げたのは本当のようだ。
お姉ちゃんが戻ってきて、二人とも席につくと、いただきま〜すとそろって合掌をし、食べ始めた。
箸でハンバーグを一口サイズに切り、そっと口の中へ運んでいく。
美月お姉ちゃんはそれを嬉しそうに眺めていた。
「おいしい、すごくおいしいよお姉ちゃん!」
口に入れてかんだ瞬間、ジューシーな肉汁が口の中に広がっていく。
和風の醤油風味のソースもちょうどいい濃さで、味もバッチリだった。
「よかった。よろこんでもらえて」
食事が済んだ後も、俺とお姉ちゃんは楽しくこれからのことなどを話し合った。
「あ、そうだ。ちょっと見せたいものがあるから、こっち来て」
急にそう言って立ち上がると、お姉ちゃんは先ほど着替えていた部屋へと進んでいく。
扉に手をかけ開けると、先に俺に入るように手招きした。
なんだろう、と思いながらおれは部屋へと入っていく。
俺が入り終わると、お姉ちゃんも部屋の中に入り体の後ろで扉を閉めた。
寝室らしく、その部屋にはベッドと、洋服用のクローゼットがあるだけだった。
「それで、みせたいものって?」
「それはね……」そういってお姉ちゃんは俺に近づいてくると、いきなりベッドの上に押し倒してきた。
「な、何を!」
「……私を、見てほしいの」
「え―――――――――――」
「……私を、見てほしいの」
長年秘め続けていた自分の思いを、素直に翔太に伝えていく。
「私はあの時から翔太が好きだった。けれど当時は小学生。
さすがにどうかと思ってたけど、翔太はもう高校生。それに、あの時よりもさらにかっこよくなってた。
だから、私だけを見てほしいの」
私は、ズボンの上から翔太の股間をなで上げていく。
それに反応するように、翔太のそれは少しずつ熱く、硬く大きくなっていく。
「お、おねえちゃん、な、何を」
急な出来事に翔太は驚いたように声を上げ、そして顔を赤らめていく。
私は昔から翔太が好きだった。それは今でも変わらない。そして、翔太も私が好きだったはずだ。
当時の彼が私を見る目は、明らかに私を恋しているものだった。だから、今でもそうであろうと私は信じている。
初恋の相手が久しぶりに目の前に現れたならなおさらだろう。
翔太の驚きを横目に、私は少しずつ手の動きを大きく、強くしていく。
「だ、だめだよお姉ちゃん。こんなことしちゃ……」
さすがに高校生。これからすることがどんな事か理解しているんだろう。
口では抵抗しつつも、翔太の顔はどんどん赤らんでいき、それはズボンを押し上げるほどに大きくなっていた。
「初めてなんでしょ? お姉ちゃんが優しくしてあげる」
恥ずかしさで身動きができない翔太のベルトをはずし、手をかけてズボンごと下着を脱がそうとする。
「ねぇ、やめてよお姉ちゃん!」
相変わらずも恥ずかしさから抵抗している。翔太もまだまだ子供なんだなと思いながら、一気に下着を取り去った。
「………大きい」
すでに熱く反り返っているそれは想像以上に大きく、黒く、グロテスクな感じをかもし出している。
「うふふ、皮被ってるね。お姉ちゃんが剥いてあげる」
翔太の肉棒を片手で優しくつかみ、もう片方の手で下にずらすように皮を剥いていく。
つるん
皮という拘束具がはずれた事により、翔太の肉棒はより一層膨張し、赤く脈打っていた。
「ほんとにやめてよ、こんなことしちゃだめだよ」
いまだに続く翔太の声を聞きながら、私は肉棒に口を近づけ、しゃぶるように優しくそれを口に含む。
ぴちゃぺちゃ
「うっ!!」
これまで感じたことのない感覚に、翔太が体を振るわせる。
そんなウブなところが、翔太が童貞だということを物語っていた。
それまで皮を被っていた亀頭は強い生臭さを発しており、
外気にさらされていなかった事によりより強い快感を翔太に与えていた。
「む……んちゅ、ずちゅ……んあ」
ゆっくりと肉棒を全て口に含むと、上下に顔を動かしながら、舌を使っていろいろなところを舐めていく。
「お姉ちゃん、やめて、俺……こんなこと」
翔太はすでに全身の力が抜け、抵抗する気はないようだった。つまり、それは私を受け入れてくれたってことだ。
私はいったん肉棒から口を離すと、自分の服を脱ぎ捨て、翔太の上にまたがる。
「私が、翔太の初物マツタケを狩り取ってあげる」
片手で翔太の肉棒を固定すると、自分の恥部を擦り付けるようにあてがう。
「ま、まって…おねえちゃ」
ずちゃ!
愛液の水音とともに、翔太が私の膣内を貫く。
貫かれるとともに、全身を襲うような激痛がわたしの体の中を駆け巡る。
「く、……ふぅぅ!!」
痛いとは聞いていたが、翔太の侵入には予想以上の痛みがともなっていた。
結合部からは純潔の証の赤い液体が滲み出してくる。
「お、おねえちゃん、それって……」
滲み出してきたそれをみて、翔太が驚きの声を上げる。まさか翔太は私が処女だったとは思っていなかったようだ。
「……っ、あはは、……ずっと、この……ときまで、守ってきた、んだよ?」
痛みに顔をゆがめながら、なんとか笑顔を作りしゃべる。
「じゃぁ、動くね」
痛みが引いてくると、私は翔太のために腰を上下し、肉棒を膣ですりあげる。
痛みが消えたわけではないが、痛みすらも翔太との交わりの証。私はそれさえも嬉しさから受け入れる。
ずちゅずちゅ
私は翔太を喜ばすために、一生懸命腰を振りつづける。
「あん、……はぁっ!」
「う……おねえ……ちゃん」
すでに痛みは消え、私の中も翔太の中も快楽だけが体を支配していた。
腰を振りながらも、私は翔太の手を取ると豊富な胸へと持っていき揉ませるように手を動かす。
自然と翔太も自ら手を動かし、私の胸を揉みだした。
「ん………」
翔太のやわらかい唇に口付けをすると、むさぼるように自分の唇を押し付け、口の中に舌を侵入させる。
最初は戸惑っていた翔太だが、次第と自分から舌を絡ませるように動かしてきた。
その動きがぎこちなくて初々しくて可愛い。口付けをしながらも、私は激しく腰を振る。
「だめだ、おねえちゃん、おれ、もう……」
私の中で翔太の肉棒がより一層大きくなり、何かをたえるようにぴくぴくと震えだす。
「いいよ、きて、私の……中に」
ラストスパートをかけるように私はよりいっそう激しく腰を振り、翔太の肉棒を締め付ける。
「う、あ………ダメだ!」
どん
「えっ……?」
翔太の肉棒から白濁の液体が出る瞬間、翔太は私の体を突き放した。
その衝撃で私の膣から翔太のものが抜け、白濁がベッドの上に飛び散る。
「どうして………?」
信じられない。愛し合っているはずなのに、いいよっていったのに、翔太は私を直前で拒んだ。
「おねえちゃん、ごめん。俺……まだ学生だし、責任取れないし……それに、俺たち教師と生徒って関係だからさ。
こういうことはまずいよ。それに、俺はまだ自分の心がわからない」
ほんとにごめん。というと、翔太は気まずそうに自分の下着とズボンをはき、私の部屋から出て行った。
後には、裸でぽかんと口を開けたままの私と、翔太の白濁がベッドの上に残っていた。
どうにかしないと……
そう思いながら、私と志保ちゃんは自分の席についた。
入学してから二日目。担任が翔ちゃんを奪い取る前に何とかしないと。
考えているうちに、担任が教室に入ってきてホームルームが始まる。そのとき、私は違和感に気がついた。
あれ……?翔ちゃんが担任を見ていない?
昨日あれほど担任を見つめていた翔ちゃんが、どういうわけか担任の方をまったく見ようとしていなかった。
それどころか気まずそうに顔をそらしてばかりいる。
担任も時々翔ちゃんのほうを見るのだが、顔をそらされ、悲しそうに話を続けていた。
昨日何かあったんだ。それも、担任のほうから……
まさかこんなにも早く担任が動くとは思っていなかった。ならば私も早く行動するしかないだろう。
どうやら担任は昨日うまくいかなかったみたいだ。なら、チャンスは今しかない。
私はカバンの中から、家から持ってきたナイフを取り出す。
そしてそれを自分の制服の中に隠しいれると、昼休みに翔ちゃんを屋上に呼び出した。
普通高校といえば昼休みになると屋上に生徒が集まるのだろうが、
うちの学校はどういうわけか屋上には誰も寄り付かなかった。
だから、人を呼び出すときなどは誰にも見られることなく話をすることができる。
一足先に屋上につくと、翔ちゃんが来るのを扉を見ながら待ちつづける。
しばらくすると、階段を上がる足音がし、扉が開いて翔ちゃんがやってきた。
「眞保、話って何だ?」
屋上にくるや否やストレートに話題に入ろうとする翔ちゃん。
その辺が昔から変わらない翔ちゃんの特徴でもあった。だから、私もまわりくどい事はやめて、ストレートに本題に入る。
「前から翔ちゃんのことが好きでした。私と……付き合ってください!」
私がそう告げると、翔ちゃんは驚いたように動きを止めた。
あまりにも急激過ぎただろうかと思い、もう一度口を開こうとすると、先に翔ちゃんがしゃべった。
「何で……俺なの? 最近俺はお前たちを避けてばかりだし、お前たちは俺をからかってばかりなのに……」
鈍い、気付いてなかったのかこの男は。普通あそこまでやると気付きそうなものなのだが……
まぁ、この際はどうでもいいだろう。
「避けられたのはしょうがないの。私たちがからかいすぎたんだから。
でも、それも私なりの愛情表現の1つだった。でも、それが嫌だって言うんなら私はもうしない。
それに、私と志保ちゃんが区別できないって言うんなら……」
そういうと私は制服の中からナイフを取り出し、刃をかまえ、
「お、おぃ、何を……」
特徴であった結んだ髪に刃をあて、一気にナイフを引いた。
ふさぁ
切り取られた髪が風に乗って舞い散っていく。
「これで、志保ちゃんと区別がつくでしょ?」
女の命とも言われる髪を目の前で切られ、翔ちゃんは驚き固まっていた。
しかし、すぐに真顔に戻り、しばらく悩んだような顔をすると、顔を上げまっすぐ私の目を見つめてきた。
「眞保の気持ちはよく分かった」
「そ、それじゃぁ……」
「いいよ、付き合おう――――」
まさかとは思っていたが、やはりいきなり眞保から告白されたときには驚いた。
眞保が俺のことを好きだなんて気付かなかったし、所詮男のささやかな願望だと思っていたからだ。
しかし、いざ告白されるとなかなかOKと返事できないのが情けなかった。昨日の事が、頭をよぎったからだ。
中には出していないとはいえ、お互い初めて同士で美月お姉ちゃんとセックスをしてしまった。
しかも、俺のほうから一方的に行為を中断し、何も言わないまま帰ってしまったのだ。
昨日お姉ちゃんに告白されて嬉しかったか、と聞かれれば俺は嬉しかったと答えるだろう。
初恋の人が自分を好きだったといってくれたのだから。
しかし、愛しているのかときかれるとYESとは答えられなかった。
確かにお姉ちゃんは初恋の相手だ。しかし、それは昔の話。あの時からすでに何年もたっている。
そのせいか、昔ほどお姉ちゃんのことを身近な存在と感じ取る事はできなかったし、
少し離れた存在のようになってしまっていた。だから、俺はお姉ちゃんを愛しているとは言えなかった。
正直言うと、もう会いたくなかった。
向こうはこっちを愛しているとはいえ、こっちの気持ちを確かめるまでもなくセックスを……
だから、俺はお姉ちゃんときっぱり別れるために、眞保の告白を受け入れた。
「いいよ、付き合おう――――」
眞保のことは嫌いじゃなかった。どちらかというととても気になっていた、というべきかもしれない。
でも、それが眞保なのか志保なのかと聞かれれば困るのだが、
こうして眞保のほうから告白をしてきて、しかも自ら髪を切ってくれた。
ならば俺は眞保を本気で愛する事にしよう。
これがお姉ちゃんとの関係を断ち切るための関係ではなく、本当の恋人同士の関係へとなるために………
眞保ちゃんが昼休みが終わって教室に戻ってきたとき、私は思わず声を上げて驚いてしまった。
姉妹おそろいの髪形が変わり、ショートヘアーになっていたからだ。
それだけならまだ、驚きだけで済んだのだが隣りにいる人物を見て私はどうしていいか分からなくなった。
翔ちゃんといっしょにいる。しかも、お互いに顔を赤くしながら寄り添うように……
それだけで私は理解してしまった。眞保ちゃんが私を出し抜き、翔ちゃんに告白したんだと……
私たちはいつも一緒だった。姿は一緒だし声も一緒。好みも一緒だし髪型も一緒。考えも一緒だし好きな人も―――
私たちはお互いに翔ちゃんのことが好きだった。
小さいときからずっと、あの女があわられる前からずっと。
だからあの女が消えてからは二人して一緒に翔ちゃんを慰めてきたのだ。
私たちは二人で一人。お互いの気持ちに気付いていたからこそ一緒に翔ちゃんを愛しようと思っていたのだった。
たとえ翔ちゃんが私たちを愛さなくても、たとえ翔ちゃんがどちらかを好きになろうとも……
しかし、眞保はその私の思いを裏切った。自分から、しかもお揃いの髪を切ってまで翔ちゃんに告白したのだ。
怒りがふつふつと湧いてくる。
いつもなら私と話してから席につくのに、眞保は翔ちゃんと笑みを交わし自分の席についた。
許さない。翔ちゃんを自分だけのものにした。翔ちゃんを私から奪った。
あの女じゃない。仲間だと思っていた眞保にとられた。それが、私の心を黒く染めていく。
そうか、眞保はそんな手段をとるか。ならば、私もあらゆる手段をとろう。
翔ちゃんを取り返すために。私の、私だけのものにするために―――
私は授業が終わると、一人で家に帰った。いつも横にいる眞保はいない。翔ちゃんと一緒にゆっくりと帰っているからだ。
家に着くと、机の上に一枚の紙が置いてあった。
『今日はお父さんの仕事の関係で外泊します。食事は適当に取っておいてね』
どうやら、親は今日は帰ってこないらしい。仕事だといっているが、私は知っている。
私たちがいるから家ではセックスができない。だから月に何回かは二人そろってホテルに泊まりに行く事を……
親がいないなら好都合だ。私はたったいま思いついた考えに微笑しながら、眞保が帰ってくるのを待った。
「ただいま〜。志保ちゃん帰ってる?」
玄関から明るい眞保の声が聞こえてくる。
翔ちゃんと帰ってきたからだろうか、むかつくほどに上機嫌な声だった。ぎり、と奥歯を噛み締める。
いや、まぁいいか。これから私の復習が始まるのだから。
「あれ?志保ちゃんいないのかな?お母さんもいないみたいだし……」
部屋の中をうろつく眞保に気付かれないように身を隠しながら、私は機会をうかがっていた。
そして、眞保が私の目の前を通過したとき……
私は急に飛び出し、気配に気付き振り返ろうとした眞保の頭を思いっきり厚い本で叩いた。
「きゃっ!」
短い悲鳴とともに、眞保の体が崩れ落ちる。どうやら見事に気絶してくれたようだ。
私は気絶した眞保の体を抱え上げると、手足を縛り、口をガムテープで塞いで自分たちの押入れに押し込んだ。
そして、準備ができると私は受話器を持ち上げ、慣れた手つきで番号を押していく。
「あ、翔ちゃん?眞保なんだけど……今日、両親と志保ちゃんが出かけてて、私一人なの。
翔ちゃんも今ご両親いないんでしょ?だ、だからね、今日……うちにこない?」
電話を終えると、私はナイフを持って眞保のもとへともどる。
気絶したままの眞保の頬をナイフの腹で軽く叩き、目を覚まさせる。
「眞保ちゃん?目覚めた?あはは、自分がどんな状況かよくわからないみたいだね」
目を覚ました眞保は、なんで?というふうな視線を私に投げかけてくる。
しらじらしい。分かっているくせに知らないフリをする。それが私をさらにむかつかせる。
「なら、状況を教えてあげようか? えっとね、今日は両親はいないの。
そして、いまから翔ちゃんがうちにくるんだぁ。そして家には私しかいない。ね?どういうことか分かるでしょ?」
そこまで聞くと、眞保の顔から血の気が引いていく。私がどうするつもりなのか気付いたようだ。
「でもね、彼は私に会いに来るんじゃないの。
可愛い可愛い恋人の眞保ちゃんに会いに来るの。だからね、私はこうするんだぁ」
私はナイフを取り出し、眞保と同じように髪の毛を切り落とす。
「私との区別をつけるために髪を切ったみたいだけど、私もこうしてしまえば区別つかないでしょ?
もともと翔ちゃんは私たちの区別がつかないんだから。だからね?私が翔ちゃんを食べちゃうから♪」
にやりと眞保に笑いかけ、何かを言おうと頑張る眞保を無視して私は押入れの扉を閉める。
そこで虚しく聞いているがいい。私と翔ちゃんが交わる音を……
しばらくすると、玄関のベルが鳴った。翔ちゃんが来たのだ。
私は精一杯の笑顔を浮かべ、翔ちゃんを招き入れる。
部屋に入ると、用意してあったお菓子を食べたりジュースを飲みつつ、これまでの思い出話を話したりした。
ここでミスるわけには行かない。私は自分の記憶の中の眞保と志保を入れ替えながら、うまく話をあわしていく。
まぁ、翔ちゃんは元から私達の区別が付かないのでそこまで神経質になる必要はなかったのだが……
そして、タイミングを見計らって、とうとう切り出した。
「私たち、恋人同士になったんだよね。だから……もう、してもいいんだよね?」
うつむき、恥じらいながら上目遣いで翔ちゃんを見つめる。
「髪だけじゃない。翔ちゃん自身で私の体に違いをつけて……」
翔ちゃんも赤くなりながら、静かに頷いた。
「うん、しよう……」
私は知識しかないのだが、翔ちゃんもマニュアル通りしか知らないらしく、
お互いに緊張しながらの性交渉が始まった。ベッドに横になった私の服を、
翔ちゃんがごくりとのどを鳴らしながらゆっくりと脱がしていく。
高校生になっても発育してない小さな私の体があわらになった。
はずかしい……
自分の体があの翔ちゃんに見られていると思うと、恥ずかしくて翔ちゃんを直視できなかった。
翔ちゃんは、慎重に私の小さな胸を触ると、撫で、舌を使って舐めていく。
翔ちゃんの手が、舌が私の体を這い回るごとに、
私は快感に体をのけぞらせ、恥部からはじわりじわりと愛液が滲み出していた。
「そろそろ行くよ……」
一通りの前戯が済むと、翔ちゃんは自分のモノを取り出した。
はじめてみるそれは大きく、黒かった。
あはは、これで翔ちゃんは私のものになる。眞保のものではなく、私のものになる。
私だけの、翔ちゃんになる……
翔ちゃんは私の恥部に肉棒をあてがうと、ゆっくりと私の中に侵入してきた。
「っっっ!!!」
膣が裂けるような痛みが私を襲う。
よくセックスは相手と一つになるとか言うが、まったくそんな感じではなかった。
異物。自分の中に自分以外の物が入ってくる感覚。
それは気持ちいと言えるものではなく、どちらかというと不快な感じであった。
けれど、あの翔ちゃんとつながっている。
その意識が、私の不快感を快楽へと変えていく。これが愛の力なのかもしれない。
「ゆっくりと動くよ?」
私が処女だと分かると、翔ちゃんは優しく動き始めてくれた。
ゆっくりと、ゆっくりと、優しく、痛くないように……
その動きがなんだか慣れているようで、私は疑問に思った。
まさか、翔ちゃんは初めてではないのではないだろうか……
今日の朝の落ち込みよう。あの女への翔ちゃんの対応。まさか、昨日の夜に……
ぎりり、と再び奥歯を噛み締める。するとそれを痛みに耐えるためと思ったのか
「ごめん、もうちょっと優しくしようか?」と彼は聞いてきた。
まぁ、今は他の事を考えるのはやめよう。初めてをとられてしまったのならもう遅い。
ならば、翔ちゃんを私で染め直そう。私以外とはできなくなるくらいに、完璧に――――
「ううん、大丈夫。もっと……動いていいよ?」
「そう?じゃぁ、痛かったらちゃんと言ってね?」
そういうと、彼は再び腰を動かし始める。
じゅちゅじゅちゅ、ぱんぱん
部屋の中には私の喘ぎ声、翔ちゃんの声、結合部からのいやらしい水音と、肉と肉のぶつかる音が響き渡っている。
いまごろ眞保はこの音を聞いて、押入れの中でどんな気分になっているのだろうか。
くくく、あはははははっ!私を裏切った事、暗い押入れの中で後悔しつづけるがいい。
「眞保、そろそろ、俺は……限界だ」
眞保と呼ばれるのは気に食わないがこの際そのくらいはいいだろう。
「いいよ。出して、私の中に出して。私の中を、翔ちゃんで満たして!」
「う……くっ、出る、出すよ!」
翔ちゃんは一段と肉棒を奥深くに入れると、私の中に翔ちゃんをぶちまけた。
「ああぁぁぁぁぁぁっっ!!」
お互いにシャワーを浴びて服を着替えると、赤くなりながらも、それじゃ…といって翔ちゃんは帰っていった。
作戦は成功。翔ちゃんは最後まで私だと気付かなかった。
上機嫌なまま私は自分の部屋に戻ると押入れを開ける。
中には目を真っ赤にし、涙を流す眞保の姿があった。
「あはは、いい気味。私を裏切って抜け駆けなんかするからよ。でも、残念ね。私、翔ちゃんと繋がっちゃった♪
中にも出されたし、私妊娠しちゃうかなぁ」
それを聞くとますます首を左右に振りながら、眞保は泣き崩れる。
私はそれを思いっきり笑いながら眞保のロープやガムテープをとっていく。
「いい? 翔ちゃんは私のものなんだから邪魔しないでよね?」
次の日に学校に行くのはなんだか恥ずかしかった。だって昨日眞保としちゃったからだ。
だから、朝から顔を合わせるのが気まずく、今日は一人で早くに登校していた。
「それにしても、眞保気持ちよかったな……」
昨日の事を思い出しながら、俺は自分のものを大きくさせていた。
初めてはお姉ちゃんだったが、あの時はいきなりだったのでそこまで感覚を楽しむ暇がなかった。
けれど、今回は恋人同士でゆっくりとやった。その分、ゆっくり快楽を味わう事ができたのだ。
それに眞保の膣の狭さといったら……
お姉ちゃんは処女だったといえど、完成された大人の体型だったからかそこまで締め付けは強くなかった気がする。
けれど眞保は未発達のロリ体型。膣は狭く、俺のナニをぎゅうぎゅうと締め付けてきていた。
「また、やりたいなぁ……」
と、そんなことを思いつつ、俺は学校へと向かうのであった。
学校についてしばらくすると、佐倉多姉妹がやってきて俺は驚いた。
二人の髪型が一緒だったからだ。
それに気付いた片方が髪に手をやり、答える。
「ん? これ? あぁ、眞保ちゃんが短くしたみたいだから私も短くしたの。私たちは双子でおそろいなんだから♪」
眞保ちゃん、と言っていたから志保の方だろう。ねぇ〜と隣りの眞保に同意を求めている。
眞保はというと、昨日の事が恥ずかしいのか、俺とは目を合わせようとせず、自分の席に歩いていった。
「ねぇ、昨日から眞保ちゃんが変なんだけ翔ちゃん何か知ってる?」
志保の方が俺に話し掛けてくる。昨日俺は眞保と一緒に歩いて帰った。
だから、俺たちが付き合ってるってことを知ってるんだろう。だから俺にこう聞いてきたのだ。
だが、まさかエッチをした、とは言えるわけもなく、俺は適当にごまかしておいた。
「ふ〜ん。そっかぁ」
と、意味ありげな笑みを残して、志保も自分の席についた。
学校で翔ちゃんに会ったとき、私は悲しくて顔を合わせることができなかった。
翔ちゃんは昨日私とやったつもりでいるのだろう。けれど、それは私ではなく、志保ちゃんだったのだ。
わたしは担任の出現であせり、大切な事を見失っていた。志保ちゃんだって翔ちゃんのこと好きだったんだ。
だからこそ、二人で翔ちゃんと仲良くしていこうと、言葉には出さなかったけれどお互いに信じてきたのだった。
けれど、それを私は破ってしまった。志保ちゃんが怒るのも無理はない。
だから、私は志保ちゃんを怒ったり憎んだりする事はできなかった。
けれど、私はこれからどうすればいいんだろうか。志保ちゃんからは邪魔をするなと釘を刺されている。
けれど、翔ちゃんは私としたつもりでいるのだ。
まさかこのまま志保と眞保を入れ替える、なんてことまでしないとは思うんだが……
ここは別れ話を切り出したほうがいいのだろうか。うん、そうしよう。私が志保ちゃんを裏切ってしまったんだ。
それぐらい、私がちゃんとしないと……
よっぽどあのことが恥ずかしかったのか、眞保は数日間俺とは顔をあわせようとはしなかった。
その度に志保に「何か知ってる?」と聞かれるのだが、俺は答えることができなかった。
まさか、俺がひどい事をした、ひどい事を言ったと思っているのだろうか。
あまりにも眞保が俺を避けているな……と思い始めたころ、眞保が急に話があると言ってきた。
けれど、俺はその日は用事が会ったので遅くなる、というと、眞保はじゃぁ翔ちゃんちに夜行くね。
とだけ言うと、自分の席へと戻っていった。
夜に俺のうちへ来る……それはつまり、またやりたいってことではないのだろうか?
つまりここ数日俺を避けていたのは、あの行為が予想以上に気持ちよくて、
眞保もまたやりたかったってことじゃないだろうか?
けれど、そんなことを言えば自分がえっちな子って思われてしまう。だから、時間を置いたのではないだろうか。
ならば、俺はその気持ちに応えよう。えっちな子なんて思わない。
だって恋人同士なのだから。してあたりまえなんだ。そう思うと俺は嬉しくなって、急いで用事を済ませに行った。
用事が済むと、俺は準備に取り掛かった。シャワーを浴び、歯も磨き、下着も新しいものに履き替える……
なんだかそんなドラマのような行動をするのが恥ずかしく、また楽しかった。
ピンポーン
約束の時間になるとドアベルが鳴った。ドアを開けると、そこにはうつむいた眞保が立っていた。
これからすることが恥ずかしいからだろう。
「さぁ、あがって」というと、眞保は俺について部屋へと入ってきた。
「で、話なんだけど……」
と眞保がいいかけたところで、俺は眞保を押し倒した。
再びエッチしたいなんて女の子が言うのはとても恥ずかしい事だろう。
だから、眞保が恥ずかしい思いをする前に、俺のほうからしてあげようと思った。
これなら眞保から誘ったわけではなく、俺がやったことになるから。
それなら、眞保はえっちな子って気にしなくて済むのだから……
「ちょ、ちょっとまって、は、話を……」
眞保が何かを言いかけるが、俺はそれを言わせないよう、眞保の口を自分の口で塞ぎつつ、服を脱がしていく。
「らめ、はな、ひを……」
二回目だから一回目とは違い、最初からけっこう激しく前儀をすると、眞保は力が抜けたのか、呂律がまわらなくなっていた。
もう我慢できない。前儀もほどほどに、俺は自分の物を取り出す。
それをみた眞保が目を見開き、体を引こうとする。
「らめ、まって!」
俺はかまわず眞保の体を引き寄せると、自分の肉棒を眞保の恥部にあてがい、一気に突き入れた。
ぶちっ!
「いやぁぁぁぁぁぁっ!!」
何かを突き破るような感覚がペニスにしたかと思うと、部屋の中に眞保の悲鳴が響き渡った。
そして、結合部からは鮮血が滲み出している。
「え――――――」
一瞬俺はわけがわからなかった。なぜ、眞保の膣から血が出るのだろう。眞保は処女じゃないはずなのに……
頭が真っ白になった俺から眞保は離れ、服を着てしゃべりだした。
「この間のは……私じゃなくて志保ちゃんだったの」
それから、眞保はこれまでの経緯を話し始めた。
二人とも俺のことが好きだったこと。
眞保が志保を裏切り、俺に告白した事。志保がそれに怒って、あんな計画をしたこと……
俺は信じられなくて、認めることができなかった。
「うそ……だ」
もし本当なら、俺は眞保を強姦したも同然になる。
たしか眞保はさっき待ってと言ってなかったか、ダメと言ってなかったか……
けれど、シーツについた赤い眞保の血が、それらが事実だった事を告げている。俺はなんてことを……
「だからね、私今日は翔ちゃんと分かれようと話をしに来たの。
裏切った私が、志保ちゃんから翔ちゃんを取ることはできないから。
だから、あの告白は志保ちゃんからって思って。だから……さよなら」
それだけ言うと、眞保は俺の家から出て行った。
取り残されたおれは、ただ呆然とするのみだった。
この1週間で三人の女性としてしまった。
一人にはいきなり襲い掛かられ、一人は彼女と思ってやったのに本人ではなかった。
最後の一人にいたっては、俺からの無理やりだった。
俺はどうすればいいんだ……
次の日、俺は学校に行く事ができなかった。どうあの双子に会えばいいか分からなかったからだ。
俺が愛しているのは眞保なのか、志保なのか……。
美月お姉ちゃんとあんなことがあった後だからと、簡単にOKなど出したのが間違いだった。
俺は自分の心が分からない。志保も眞保も外見はまったく一緒。
さらにこれまで見分けれていなかったのだから、どっちがどういう性格なのかということすら分からないのだ。
なのに、片方だけ愛する事なんてできるはずがなかったのだ。
俺はなんてことを……
そればかりが頭に浮かび、俺は苦悶しつづけた。
その間にも時間はどんどんと過ぎていき、いつのまにか学校が終わる時間になっていた。
ピンポーン
しばらくすると、ドアベルがなった。出たくはなかったのだが、あいにく両親はいない。
大事なことかもしれないので出ないわけにはいけなかった。
「は〜い……」
気のない返事をすると、おれは玄関に向かい鍵を開ける。
開いた扉の向こうにいたのは美月お姉ちゃんだった。
「学校を無断欠席したから心配しちゃって」
部屋に上がると、お姉ちゃんはそう切り出した。
「すみません、どうも体調が悪くて、電話する気にもなれなかったんです」
ホントの事などいえるはずもなく、俺は適当にうそをつく。
「そぅ………」
お姉ちゃんは出された紅茶を一口飲む。
そのままお互いに黙り込んでしまった。
あの出来事からまともに顔を合わせてもいない。だから、自然と気まずい雰囲気となりはなすことがない。
けれど、その沈黙を美月お姉ちゃんが破った。
「この間はごめんね? いきなりで驚いたでしょう」
沈黙の原因の出来事について、お姉ちゃんは謝ってきた。
「いえ、驚きましたけど……もう大丈夫です。だから気にしないで下さい」
その後にもいろいろな事があったために、俺にとってはあの出来事はけっこう薄れていた。
だから、お姉ちゃんの謝罪も、すんなり受け入れることができた。
「しかし、翔太には眞保ちゃんって彼女がいたんだね……私、知らなかったなぁ」
眞保……彼女……
今、一番悩んでいる言葉が聞こえ、おれは自然と泣き出していた。
「お姉ちゃん、俺……」
辛かった。誰かに相談したかった。昔みたいにお姉ちゃんに聞いてもらいたかった――――
だけど、涙が溢れ嗚咽ばかりで、俺はそれ以上話すことができなかった。
そんな俺をお姉ちゃんは優しく抱きしめ、頭を撫でてくれる。
「うちにこよ?そこでお姉ちゃんが話を聞いてあげるから」
また、話を聞いてくれる。そのことが嬉しくて、俺は泣きながら頷いていた。
お姉ちゃんの部屋につくと、お姉ちゃんは温かいココアを入れてくれた。
俺はそれを飲みつつ、ぽつり、ぽつりと最近のことを話し始めた。
それをお姉ちゃんは言葉をはさまず、一生懸命聞いてくれている。
「それでね、俺は……あれ?なんだか急に眠気が……」
話していると急に頭がぼぅっとし、眠くなってきた。だめだ、このままじゃ寝てしまう。
なんとか寝ないようにと頑張るのだが、耐え切れなくなって目を閉じてしまった………
ふふふ、どうやらココアに入れた睡眠薬が効いてきたようだ。やっと翔太が私の元に戻ってきた。
話を聞く限りではだいぶ佐倉多姉妹にたぶらかされたようだ。私の翔太をたぶらかしやがって……
けれど、あの二人は私には勝てないだろう。なんたって私が翔太の童貞を奪ったのだから。
それにいまあの姉妹は翔太を苦しませている。だからこそ、翔太は私の元に戻ってきてくれたのだ。
誰にも翔太を渡しはしない。ちょっとこの前は強引で翔太を困惑させてしまったようだけど、もう逃がさない。
だから、早いところ翔太を繋いでしまおう。自由にさせているから悪い虫がついてしまうのだ。
虫に会わせる機会さえ与えなければ、翔太はたぶらかされる事もない。
私は押入れから手錠を取り出すと翔太をベッドに寝かせ、大の字状態で両手、両足を手錠でベッドの柱に固定する。
これで、私はず〜っと翔太と一緒にいられるのだ。
「う………」
しばらくすると、ごそごそと動いて翔太が目を覚ました。
「おはよう翔太。いや、これからは翔くんって呼ぶね。改めておはよう翔くん♪」
まだ頭のはっきりとしていない翔くんに笑顔で呼びかける。
「ここは……え、何で手錠が……」
体が動かないのを不思議に思ったのか、自分の両手を見た翔くんが手錠に気づいて驚く。
「それはね、翔くんがどこかに行かないようにするためなの。
だって翔くんはどこかに行くと悪い虫にたぶらかされて悲しい目にあうでしょう?
今回だってあの二人のせいで悲しい目にあった。だからあの二人には私がしっかりとお灸を据えておくね。
だから、翔くんは安心して。これでもう苦しむ事はないんだから。これでず〜っと一緒に私といられるよ♪」
そう言って、私は鋏を取り出し、翔くんのズボンを切り取っていく。
「もし、翔くんが私から逃げようとしたら……これを切り取っちゃうからね?」
下着も切り取り、あらわになった黒い棒を鋏でつつきながら、私は翔くんに微笑みかけた。
「お姉ちゃん、なんでこんなことを……」
「ん? 翔くんが好きだからに決まってるじゃない。だからね、翔くん。
翔くんは私以外の女に触れちゃいけません。いや、話すこともいけません。
ううん、他の女を見ることだっていけません。それができないなら、先ほど言ったことを実行しますね?
私そんなことしたくないですから、翔くんも私に手間をかけさせないで下さいね♪」
そういうと、自分も服を脱ぎ捨てると翔くんにまたがった。
なんだか一週間前と同じみたいだが、今回は前回と違う。今回は翔くんは完全に私のものなんだから。
「それじゃ入れるね。んんっ!」
私は腰を沈め、翔くんの大きく熱い肉棒を膣で咥え込む。
そしてそのまま、大きく上下に腰を動かし始める。
「あん、翔くんの……もので膣が擦れて……、やっ、だめ、気持ちいい」
なれてくると上下だけでなく、翔くんを気持ちよくさせるために腰を前後にも揺らす。
「あはははは、翔くん好きだよ? 大好き……
これからはずぅぅぅっと一緒。もう離さない……絶対に離さない……
ずっと私の……私だけのものなんだから……
翔くん翔くん翔くん翔くん翔くん翔くん翔くん翔くん翔くん翔くん翔くん翔くん翔くん翔くん
翔くん翔くん翔くん翔くん翔くん翔くん翔くん翔くん翔くん翔くん翔くん翔くん翔くん翔くん
翔くん翔くん翔くん翔くん翔くん翔くん翔くん翔くん翔くん翔くん翔くん翔くん翔くん翔くん
翔くん翔くん翔くん翔くん翔くん翔くん翔くん翔くん翔くん翔くん翔くん翔くん翔くん翔くん
翔くん翔くん翔くん翔くん翔くん翔くん翔くん翔くん翔くん翔くん翔くん翔くん翔くん翔くん
翔くん翔くん翔くん翔くん翔くん翔くん翔くん翔くん翔くん翔くん翔くん翔くん………………
あはっ♪ 名前呼んでるだけで気持ちよくなってくる。ん……翔くん、や、だめ、そんなに……
もう翔くんったら。これからは毎日毎日飽きるまで膣に擦り込んでもらうからね?
あ、飽きなんて来ないか。だって……
私たちはこんなにも愛し合ってるんだもん。
あははっ………翔くん好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き
好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き
好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き
好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き
好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き
好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き…………………………」
眞保が翔ちゃんに別れ話を切り出しに行ってから、翔ちゃんは学校に来なくなった。
別れたことはその日のうちに眞保から聞いていたのだが、眞保がこんなに物分りのいい子だったなんて。
私の双子のはずなのに。
翔君が学校に来ないのは、
たぶん今回の事が相当ショックだったんだろう。だから私が翔ちゃんの心を癒してあげなきゃ。
毎日会ってあげるし、何回だって私の体を使わせてあげる。
そうと決まれば今日さっそく会いに行ってあげよう。
私はそう決めると、早く学校が終わるように、集中して授業を受けることにした。
あの女の様子がおかしい。それに気付いたのは昼を過ぎてからだった。
別のことを考えすぎていたからか、新志村への注意を怠っていた。
これまで翔ちゃんにふられて落ち込んでいたはずなのに、なぜか一昨日からず〜っと笑顔になっていた。
それもはちきれんばかりの明るさで。
まさか、翔ちゃんに何かあったのだろうか……そんな不安が私の中に芽生えてくる。
翔ちゃんが来ない……なのにあの笑顔……
まさかあの女が翔ちゃんを取り返したのか。いや、そんなはずはない。けれど……
そんな考えばかりが頭に浮かび、私は翔ちゃんのうちへの道を急ぐのだった。
「翔ちゃ〜ん、大丈夫〜?」
家に着くなり、私はチャイムを鳴らしながら中に呼びかける。
だけど、中から答える声はなく、また人が動く気配も感じられなかった。まさか本当に……
いても立ってもいられなくなった私は、庭の端にある植木蜂を持ち上げる。
昔から間江寺家はここに合鍵を置いてあったのだ。私はそれを摘み上げると、すぐに玄関に向かい鍵を回す。
「翔ちゃん、入るよ?」
返事がないので無断で家に入る。
閉め切られているからか、中の空気は淀み、床には埃が薄っすらと積もりかけていた。
不安を抑えつつ、家の中を歩き回る。
翔ちゃんの部屋、台所、お風呂場……
あらゆる場所を探してみた。しかし、翔ちゃんは何処にもいなかった。
慌てて新聞受けをみると、ここ二日新聞が取り入れられていなかった。
さらに、部屋の中にもこの二日生活したような跡は見られなかった。
そのとき、私は台所の流し場にさげられているティーカップに気がついた。
後から洗うつもりだったのか、まだあらわれていないカップが二つほどさげられている。
おかしい。翔ちゃんの性格からして、食器類を洗わずに置いて行くことなどないはずなのに……
そのとき、その一つに赤いものがついているのに気がついた。
口紅―――――
鮮やかな赤。翔ちゃんの母親が使うものではない。
あきらかに若い人向けのもの……
見間違えようはずもなく、それは間違いなくあの女がつけている色の口紅だった。
「あの……女ぁ」
ぎりりりり……
許さない。翔ちゃんのはじめてを奪っただけでなく、翔ちゃんを奪いさるとは……
そのとき、後ろから声が聞こえてきた。
「志保ちゃん、翔ちゃんを取り返そう」と……
翔ちゃんが学校に来なくなって、私も心配していた。
私が別れ話を持ちかけたから、翔ちゃんは困ってしまったのではないかと……
もう二日も来ていないのだ。たとえ別れたといえど、会えないままなのは寂しい。
ずとこのまま気まずいのも嫌だ。せめて以前のように話せるくらいには戻りたい。
そこで私は放課後に翔ちゃんちに急いで行った。
しかし、そこには赤い口紅のついたティーカップを見て肩を震わせている志保ちゃんが立っていた。
瞬時に私は状況を理解する。
「志保ちゃん、翔ちゃんを取り返そう」
私たちは急いで高校に戻ると、タクシーを呼び出した。
担任の赤いスポーツカーはまだ駐車してあり、担任は帰っていない。
それを確かめながら、私たちは学校のすぐ横に止めたタクシーの中で、担任が出てくるのをまっていた。
本来ならタクシーはこんなことには使えないだろう。
けれど、この運転手さんは私たちの昔からの知り合いで、私たちには小さいころから親切にしてくれていた人だった。
「二人にどうしてもって頼まれたからやるけど、今回だけだからね」
そういいながらも、運転手はにこりと私たちに笑いかけてくれる。どうやら、私たちの必死さが伝わってくれたようだった。
あまりにも遅いので、タクシーから出て教員用の玄関近くに身を潜める。
翔ちゃんを取り戻したのなら、もっと早く出てくると思っていたのだが……
しばらくすると、教員用の玄関から、担任が上機嫌で出てきた。今にもスキップをはじめそうなほどである。
担任が車に乗って走り出すのを確認すると、私たちもタクシーに乗り込む。
「あの赤いスポーツカーを追って!」
さすがタクシー運転手のベテランというべきか、しばらく進んだだけで担任の行き先がだいたいわかったらしく、
かなりの車間距離を空けつつも見失うことなくついていっていた。
そして、ついに私たちは担任の家を見つけ出した。どうやら街外れの住宅街にあるアパートの一室のようだ。
担任が部屋に入ったのを確認して、私たちはタクシーから降り、部屋番号を確認する。
表札に、新志村と書いてある。
「101……間違いないね」
好都合なことにどうやら担任の部屋は1階のようだった。これならなんとか侵入できるだろう。
二階なら、小柄な私たち二人では困難なところであった。私たち二人は素早く窓の位置、植木、塀などを確認する。
私たちはそれを頭に叩き込むと自分たちの家へと戻っていった。
次の日、両親には学校に行くフリをしつつ、私たちは担任のアパートに向かった。
両親たちは今日は朝から外出するらしく、私たちが学校に行かなかったことはばれないだろう。
アパートに着くと、すでに担任のスポーツカーはなかった。
HR開始20分前。もう学校に行っているだろうし、HRが始まらないかぎり、
私たちがいないことには気付かない。
「眞保ちゃん、行くよ……」
志保ちゃんに声をかけられ、私は頷く。
あたりに誰もいないことを確認すると、窓ガラスに近づいていき、テープを張っていく。
昨日確認しておいたところだ。
ちょうどこの窓は小さく、木の陰になっていて外から見えにくい場所だった。
なので私たちはテープを張り終えると、音を立てないようにガラスを打ち破る。
二人して慎重に部屋の中に侵入すると、静かに部屋の中を歩き出した。
「この部屋……しかないよね」
「うん、絶対そこだよ」
担任の部屋は台所兼居間の一部屋と、居間私たちの目の前にある個室の二部屋から構成されているようだった。
つまり、翔ちゃんを監禁するにはここしかないわけだ。
「いくよ」
志保ちゃんがドアノブに手をかけ、慎重にあける。
「翔ちゃん!!!」
扉が開いてすぐに眼に飛び込んできたのは、下半身を露出した状態でベッドに縛り付けられている翔ちゃんだった。
下半身は汚れ、疲れきったように眠り込んでいる。
「あの……女ぁ……よくも翔ちゃんにこんなことを……」
怒り出す志保ちゃんをなだめ、私は手錠の鍵を探した。
これで見つからなかったらどうしようもなかったのだが、担任は普通に机の上に出しっぱなしにしていた。
まさか私たちがこんな所に来るとは思っていなかったのだろう。
もしくは、嬉しさのあまり油断していたのかもしれない。
「翔ちゃん、起きて!ここから逃げるよ!」
私が手錠を外す間に志保ちゃんが翔ちゃんをたたき起こす。
私は担任の箪笥をあさると、翔ちゃんでも履けそうなジーパンを引っ張り出した。
「ん……あ、志保、眞保ぉ!!!」
助けが来たことに翔ちゃんは喜び、泣きながら志保に抱きつく。
「いいから、早く逃げるよ。とりあえずこれを履いて!」
目の前に佐倉多姉妹が現れたとき、俺はてっきり夢かと思った。けれど夢ではない。
俺はあの監禁から助けられたのだ。自分でほっぺたをつねってみる。
「……痛い」
俺は、助かった―――――
監禁されてからは毎日が地獄のようだった。お姉ちゃんが帰ってくるたびにノンストップでセックス。
どれだけ搾り出されても中断することはなく、出し切って自分のナニが痛くなっても止めてくれることはなかった。
それが、今はない。志保と眞保の二人に助け出され、俺は佐倉多家の一部屋に座っていた。
「ほんとにありがとな。志保、眞保」
そう言って俺は二人の頭を撫でてやる。どっちかを選ぶのなんてあとでいい。
いまはただ、助かった喜びを味わいたかったから……
何もすることがなく、ただ俺たちはすわってぼ〜っとしていた。
志保も眞保もあの事件を引きずっていないのか、どちらも険悪のムードではないようだった。
二人で俺を助け出したことによって、志保の敵対感情が薄れたのかもしれない。
そんなことを考えていると、あたりが暗くなってきた。
気付けば二人とも目を閉じて眠りこけている。
「しょうがないな……今日は助けてもらったし、晩御飯くらい俺が用意してやろうか」
そう思い、おれは立ち上がると、佐倉多家を後にした。
佐倉多家を出ると、俺はいったん自分の家により、服を着替えて財布を取る。
さすがにいつまでもこのジーパンではいけないだろう。
しかし……久しぶりに自分の家に帰ってこれた。もうダメかもと思ったときもあったのだが。
これも志保たちのおかげなんだなと思うと、早く美味しい晩御飯を食べさせてあげたくなる。
気分を新たにし、玄関から外に出ると俺は近くの商店街へと向かい、晩御飯のための食材を買い始めた。
「よし、こんなもんでいいだろう」
手にした買い物袋には今日の晩御飯用の食材と明日用の食材が少し、それとお菓子が詰め込まれていた。
二人には迷惑をかけたんだ。それにきっと疲れている。これくらいはしてあげていたほうがいいだろう。
さらに何品か必要なものを買い揃えると、俺は佐倉多家に急いだ。
佐倉多家を出てからすでに1時間は経っている。一応置き手紙はしてきているのだが、気づかずに心配しているかもしれない。
そう思い、俺は荷物をしっかりと持ち直し佐倉多家に急いだ。
チャイムが鳴ったのはそんな時だった。
私は少し前に翔ちゃんが出て行ったときの音で目が覚めていた。
最初は何処に出て行くのか心配だったが、出て行く直前に翔ちゃんが
「すぐに戻ってくるから」と言っているのを聞き、少し寂しかったが安心していた。
あぁ、翔ちゃんはまた私たちのところに戻ってくるんだと。
気付けば眞保はまだ隣で寝いていた。酷いことをしてしまった……と今は思う。
悪いのは眞保ではない。あの女なのだ。
眞保ちゃんは翔ちゃんがあの女に取られる前にどうにかしようとしただけ……
その証拠に、眞保ちゃんだって翔ちゃんが好きなはずなのに、すぐに身を引いてくれた。
それに今回だって、眞保ちゃんの作戦があって、眞保ちゃんがいてくれたからこそ翔ちゃんを取り戻せたのだ。
やはり私たちは双子、争う必要なんてないんだ。
これからも二人で翔ちゃんを守ろう。そして、
二人で愛していこう……
ピンポーン
と、そこでチャイムが鳴る。翔ちゃんだろうか、いや、出る時に起こさないように行ったのだ。
わざわざ帰るときに起こすような真似はしないだろう。それじゃぁ、普通の来客か。
両親がいないので私が出るしかないだろう。けれど、志保は忘れていた。
翔ちゃんが帰ってきたことで気が緩んでいたのだろう。
もう一人の訪問者の可能性を……
「はぁ〜い」と言ってドアノブに手をかける。
ばんっ!!
「きゃっ!」
手をかけるのと同時にドアが勢いよく外側に開かれる。つられて私は外に引っ張り出された。
「翔くんは……どこっ!!」
開かれたドアの隙間から訪問者が家に侵入する。
新志村美月……忌まわしきあの女が、今私の傍に立っていた。
翔ちゃんを探したのか、服は乱れ、腕は擦り剥き……血がにじんでいた。
切り傷もある。ガラスでも割ったのかもしれない。
髪は乱れ、顔からはかつての美しさが損なわれ、目は色を失い、暗く黒く、かすみ濁っていた。
あっという間に家の中に上がると、眞保ちゃんが眠る部屋の扉を開けようとする。
運がいいというべきか、翔ちゃんは丁度今いない。ならば、この女を諦めさせることも可能かもしれない。
この狂った女の相手をするのは面倒だ。それに時間をかければ翔ちゃんが戻って来てしまう。
ここはさっさと退場を願おう。
「ちょっと先生、いきなり何なんですか。私達の家に間江寺君なんていませ「私の翔君を何処に隠した!」
私の声に新志村の声が重なる。
プチ……
今、何て言った? この女……『私の』なんて言いやがらなかったか?
「ちょっと……誰があんたのモノだって? 翔君は私たちのものなんだけど?」
その声に、新志村が振り返る。
「あ、こんにちは佐倉多さん。ん〜? 姉のほうかな? 妹のほうかな?」
「そんなのあなたには関係ないわっ! とっとと出て行きなさいよ!」
それに対して、新志村はクスリと笑う。
「あぁ、志保ちゃんのほうか」
「っ…………!」
そんな……一瞬で私と眞保ちゃんを見分けるとは。
翔ちゃんばかりを見ていたと思っていたが……やはり敵に注意を怠らないってことか。
「こうやって面と向かって話すのは久しぶりね……それより、私の翔くん……どこにやった?」
口調は穏やかだが、内面は狂ってやがる。その証拠に、顔には作り笑顔が張り付いている。
「だからあんたのじゃなくて、私たちのって言ってるでしょ!」
「ふぅ〜ん、へぇ〜」
「な、なによ」
なんだこの気に障る態度は……
「へぇ、二人のモノなんだ……」
「そうよ、だからあんたのなんかじゃないの!」
「でも、おかしいなぁ……」
「な、何がおかしいのよ!」
再びクスリ、と笑う。
「だって……翔くんは『眞保ちゃんの』告白を受け入れたんでしょ? 志保ちゃんのじゃなくて」
この……女ぁ……
新志村の声には、明らかにこちらを馬鹿にしたような響きが含まれている。
こいつには……こいつにだけはそんなこと言われたくない。
「あんたに翔ちゃんの何が分かるのよっ! たったの数年……しかも長年会ってなくて。
こっちは翔ちゃんが小さいころから一緒に過ごしてるの。あんなみたいな泥棒猫が入る隙間なんてないのよ!」
「入る隙間がないのは貴方の方よ? 志保ちゃん。
だって私は彼の初めてをもらっちゃったんだもん。知らないでしょ?
ウブな彼がエッチの時どんな反応……どんな可愛い声上げたかなんて。
私は知ってるの。だから彼と私は特別な関係なのよ?
それに、貴方は選ばれなかったものね。翔くんが選んだのは眞保ちゃんだもん」
「うるさいっ!!! うるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!!!」
確かに翔ちゃんは眞保ちゃんを選んだ。しかしあれは仕方がなかったこと。
この女に取られないようにするため。
もし、私が告白していたら翔ちゃんだって私を選んでくれた。
だから、私はそのことに関して眞保ちゃんをもう憎まない!
けれど……この女に言い負けるのだけは許さない。
「眞保は……私がいいように誘導しただけよ」
口から、思ってもないことが次々と出てくる。この女に……負けないために。
「だって眞保みたいな弱虫が翔ちゃんを手に入れることなんて出来ないもの。
だから、私がせめて告白だけでもさせてあげたのよ。
所詮眞保は使い捨て。現に翔ちゃんは私だって愛してくれるわ。
でも残念ね。翔ちゃんは私のもとに帰ってきたのよ。
貴方……捨てられたのよ? 私の作戦に負けたのよ?
あはは、この負け犬。いや、出来損ないの泥棒猫。
良かったわ。眞保を上手く使えて。 私の勝ち、さぁ、早く出て行きなさいよ。
この年増っ!!」
ぴき……
新志村の作り笑いの表情が凍りつく。
「とし……ま?」
「そうよ、と・し・まっ!! 膣だって緩々なんじゃない? おばさん」
「おばさん? 私がおばさん? あはは、お前なんて乳臭いガキじゃないか。
膣が緩々だって? お前なんかキツキツで翔くんを受け入れることだって出来ないんでしょ?
それにそのまな板。翔くんも満足しないでしょうね。だって翔くん……あんなに私の胸に飛びついてきたんだから」
「そうね……でも、私はまだ成長するのよ。あんたは年取っていくだけでしょ?
それにね、私はあんたが知らない翔ちゃんのことたくさん知ってるんだから。
食事の時の癖、好きなもの嫌いなもの、お風呂の入り方、その他何でも……
小さい時からずっとずっと一緒にいたんだから。だから、どうすれば翔ちゃんが喜ぶかも知ってるの。
でもあんたは分からないんでしょうね。一生その垂れた胸で頑張ってれば?」
「 ……くくく、あははははっ!」
急に、新志村が笑い出す。
「そうか、そうなんだ……確かにお前の方が知ってるみたい。
なら……お前がいなくなれば私が一番になれるんだっ!!
そして、翔ちゃんも騙されることなく私を見てくれるんだ!!!
そうだ、そうなんだ……お前さえ、お前さえいなければ翔ちゃんは私のものなんだっ!!!!!」
新志村は横に立てかけてあった金属バットを手に取ると、こちらに向かって一気に振り下ろした。
野球好きな父が購入したバット……それが私のスレスレのところで宙を切る。
勢いあまった新志村は私を通り越し、玄関のドアの辺りまで行っていた。
「な……狂ってるよあんた! 冗談じゃない!」
死ぬ。間違いなく死ぬ。
金属バットなどしゃれにならない。
玄関への道を塞がれているかぎり、玄関からは出られない。ならば……
急いで体の向きを買え、眞保ちゃんが寝ている部屋への扉を開けようとする。
あの部屋ならば裏口もあるし、窓もある。逃げれるはずだ。
ドアノブに手をかけ、扉を開ける。
ドッ!
そのとき、信じられないほどの衝撃が私の後頭部を襲った……
佐倉多家についたとき、俺は違和感を感じた。あたりはすっかり暗くなり、あたりの家には電気がついている。
なのに、佐倉多家には電気がついていなかったのだ。
「まだ寝てるのかな?」
あれだけ二人には精神的な負担をかけ、さらに俺を助け出すという肉体的な負担もかけている。
あれからずっと寝ていてもおかしくはないと思うのだが……
そう思いつつも玄関の扉を開け、二人が待っている部屋へと向かおうとする。
けれど、何か雰囲気がおかしかった。なにが変なのかといわれると、何が変なのかは分からない。
けれど、本能が全力で俺に告げている。この家はおかしい―――と。
「志保?眞保?」
たとえ本能が拒否しようとも、俺は確かめなければならない。
まだこの家には志保も眞保もいるはずなのだ。
俺は二人を呼びつつそ〜っと部屋の扉を開けた。
「寝てるのか?」
そう思い、おれは入り口のところにある電気のスイッチを入れた―――――
「なっ!!!!!」
明かりに照らされた部屋は、赤く染まっていた。床、壁、天井……部屋のあらゆる場所に赤い染料が塗られている。
けれどそれは不規則で、飛び散ったように模様を作っていた。
そして、部屋の真中には、赤黒く変色した何かの塊が存在していた。
「なんだよ……これ」
俺は後ずさりをしようと、足を一歩後ろに下げようとして何かにぶつかった。
「え―――――――」
「やっと見つけた。翔くん♪だめだよ、逃げちゃダメだって言ったじゃない」
振り返ると、そこには返り血で全身を真っ赤に染め、片手に金属バットを持った美月お姉ちゃんが立っていた。
驚いて俺は4歩下がる。足の裏に血のどろっとした感触がまとわりついた。
「なん―――で………」
顔に不気味な笑みを浮かべたまま、お姉ちゃんは首をかしげる。
「ん?それのこと? だってそれ、翔くんを苦しめた悪い虫だよ? 虫は退治しなくちゃ
。それにわたしから翔くんを奪っていったんだもん。
一度なら許してあげてもよかったんだけど、二度も奪っちゃったらね。心の広い私だって許せないよ♪」
「だからって……なんでこんな!?」
あり…えない。ありえない。こんなこと、ありえない。これは……夢じゃないのか?
「あ〜ぁ、また翔くんがたぶらかされちゃってるよ。
また教育のしなおしかなぁ。そういえば、約束破ったらどうなるか覚えてるよね?
あはっ♪ ホントにあれをやったら教育できなくなっちゃうから、別の罰にしてあげよう。
そうだなぁ……まずはその頭から治さないといけないかな?」
そういうと、美月お姉ちゃんは手に持ったバットを構え、ゆっくりと近づいてくる。
「ま、まさかそれで叩くわけじゃないよな? そ、そんなもので叩かれたら……死んじゃうよ?」
「大丈夫だよ。わたしが翔くんを殺すわけがないでしょ♪
さぁ、逃げないでよ。こんどこそ私だけの翔くんにしてあげるんだから」
うそ……だろ。まさかここまでするなんて。
狂っている。間違いなくこの女は狂っている。すでに目の前にいる女は、優しかった美月お姉ちゃんではない。
目の前にいるのは別人。ただ狂気へと堕落した醜い化け物が存在するだけだった。
視線を横にそらすと、今は醜い肉の塊となった、可愛らしい姉妹の残りが横たわっていた。
志保、眞保……ごめん。俺のせいでこんな……
俺は頭の中で、姉妹に謝罪を告げる。
それが済むと、俺は目の前の化け物へと意識を切り替えた。
俺は死にたくない。こんなところで死にたくない。
もし、あのバットで死ななかったとしても、俺は一生監禁されて生きていくことになるんだろう。
そんなのは……いやだ。
ごっ!
振り下ろされたバットが俺の腕をかすめ、地面にめり込む。
「っう!」
かすったとは言え全力の一撃、かすめた腕が悲鳴を上げる。
痛い、半端なく痛い。夢ではない。これは、間違いなく確かな現実……
「あはっ♪ うまくかわしたね。でも、かわしたら意味がないんだよ?これは治療なんだからぁっ!」
バキッ!
横一直線に振られたバットが、今度は俺の腹をかすめて本棚を叩き砕く。
「お姉ちゃん! 正気に戻ってよ!」
化け物にこんな言葉なんて通じないかもしれない。だけど、俺は少しでもお姉ちゃんを信じて言葉を放つ。
いや、ただ単に死にたくなかっただけかもしれない。
「正気に戻る? あはははははっ♪何いってるの翔くん。お姉ちゃんは今も正気だよう!」
ゴス、ドカッ、バキ、グシャ……
攻撃を外すたび、お姉ちゃんは構えを変えていろいろな角度からバットを俺にめがけて振ってくる。
このままでは殺される。いまだってギリギリかわしているが、すでに体は動きすぎて限界だった。
それに、ところどころバットが当たり、青痣になっている。ひょっとしたら骨にひびくらいは入っているかもしれない。
このままでは数分ももたず、あのバットが俺の頭を粉砕するだろう。
そんなの……いやだ。
ぜったい……いやだ。
精神の疲労が、体の痛みが、死への恐怖が俺の理性を極限まで削り取っていく。
すでに俺には、自分が生き残るという事しか考えられなくなっていた。
「……お前の」
「えっ?」
お姉ちゃんは俺の声が聞こえたのか、再び振りかぶったバットを止め、俺の直前で足を止める。
「なにか言った?翔くん」
俺の声を聞くためか、バットの構えを解き少し近づいてくる。
俺はゆっくりと体を動かしながら、部屋の隅に寄っていく。
そして……
「お前の言いなりなんかになるかっ!」
俺は無我夢中で近くにあった観葉植物の鉢を投げつける。
「きゃっ!」
突然の事で驚いたお姉ちゃんがバットから手を離し、バットが下に落ちる。
「お前なんかに殺されてたまるか!」
俺は無意識に落ちたバットを手にとると、大きく振りかぶり、思いっきり振り下ろしていた。
ぐちゃっ
一瞬、目の前を赤い物体が横切る。
それでもかまわず、俺は再びバットを振り上げた。
「誰が、お前、なんかに、殺されるか、誰が、殺されるか。俺は、死なない。この、化け物め。
お前が、死ね。死ね、死ね、死ね、死ね、死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!!!!!」
気がつけば俺の両手は真っ赤に汚れ、全身も真っ赤に染まっていた。部屋には肉の塊が相変わらず散らばっている。
けれど、それは俺が帰ってきたよりも、明らかに量が増えていた。部屋もさらに赤く染まっている。
「は、はは……」
思わず、膝をつく。
「俺が殺しちまったのか……」
新たにできた肉の塊を見つめながら、ぽつりとつぶやく。
「そうか、おれが……」
部屋のあちこちは家具や木材の破片が飛び散り、無残な光景となっていた。
「おれ……が…… う……く、志保ぉ、眞保ぉ」
死ぬしかない。死んで……償うしかない。
死ぬなんて卑怯と思うかもしれない。けれど、俺のせいで志保と眞保が巻き込まれ、
二人は死んでしまったのだ。ならば、その分も償うしかない。
彼女らは……向こうにいるのだから。だから、俺も彼女らの元に行く。
それが、せめてもの彼女たちへの償い……
台所へ行き、包丁を取り出す。
「今から……行くよ」
首に包丁を当て、力を入れようとして……
後ろからその手を止められていた。
「ダメだよ、翔ちゃん……死んだりなんかしちゃ」
ありえない声。もう聞けないはずの声……
驚きのあまり、ゆっくりと後ろを振り返る。
するとそこには……
笑みを浮かべた眞保が立っていた。
「私の翔君を何処に隠した!」
廊下から聞こえてくる大きな声で、私は眠りから目を覚ました。
この声は……新志村?
どうやら、私たちが翔ちゃんを取り返したと気付き、押しかけてきたようだ。
「翔君は私たちのものなんだけど?」
その新志村に対し、志保ちゃんの声が聞こえる。
私たちのもの……
志保ちゃんはそう言った。
翔ちゃんを助け出している途中、志保ちゃんの私に対する怒りが薄れて行っていう事には気がついていた。
けれど、まさかそこまで許してくれてるとは……
あまりの嬉しさに、一瞬目の奥が熱くなる。
ダメだ、今こんなことろで泣いちゃぁ……
その間にも、新志村と志保ちゃんのいい争いが続いている。
そうだ、早く加勢しないと。
「志保ちゃ「眞保は……私がいいように誘導しただけよ」
え……?
今……なんて?
「眞保みたいな弱虫が翔ちゃんを手に入れることなんて出来ないもの。
だから、私がせめて告白だけでもさせてあげたのよ」
次から次へと、信じられない言葉が聞こえてくる。
さっきまで……私たちと言っていたのが嘘のようだ。
どうして? なんで? 私を……許してくれたんじゃなかたの?
「所詮眞保は使い捨て」
「!」
使い……捨て……
全て……志保ちゃんの思惑通りだったってこと?
あは、あはは、あはははははは
なんて私って馬鹿な子なんだろう。
私が志保ちゃんを裏切っちゃった。だから身を引かなきゃなんて思っちゃって。
馬鹿だなぁ。
もったいないなぁ。
志保に翔ちゃんを譲る理由なんてないじゃない。
翔ちゃんは私を選んでくれたんだから。
志保でも新志村でもない。選ばれたのは私。
志保に加勢する必要なんて、少しもない。
あは、あはははははは。せめて、二人で潰し合えばいい。
私はその場を離れると、事の成り行きを見守るために二階へと上がっていった。
一階から物音がしなくなったので一階に下りてみる。
音だけを聞いていれば激しく争ったようなのだが……さて、どうなったのか。
私にとってはどっちでもいい。一人減ればあとあと楽になる。
けれど、部屋の扉を開けた私を待っていたのは、予想以上の光景だった。
転がっている死体は二つ……そして、台所には血まみれの翔ちゃんが座り込んでいた。
私は一瞬で理解する。なるほど、邪魔者は消えたのか。
そっと翔ちゃんの後ろから近づくと、包丁を持っていた手を止めた。
「ダメだよ、翔ちゃん……死んだりなんかしちゃ」
振り返った翔ちゃんが、驚きで目を見開く。
「私は生きてるから……ね?」
私が生きていることで気が緩んだのか、翔ちゃんの目に涙が浮かぶ。
「眞保ぉ……俺……俺……美月、お姉ちゃん、を……」
「大丈夫、それから先は口にしなくても」
ぎゅっ
っと、翔ちゃんの頭を両手で抱きかかえる。
「大丈夫、翔ちゃんは悪くないから。悪いのはその二人」
「それでも……俺が……」
「いいの。確かに、翔ちゃんにも責任がある。でも、それはこれからゆっくりと果たしていけばいいの。
ゆっくりと……一生かけて……。その間、私が……ずっと傍にいて支えてあげるから」
「う……眞保ぉ……」
泣き崩れ、私の胸に顔をうずめる翔ちゃん。
これで……完璧だ。
邪魔者もいない。心の隙間につけ込んだ。
もう……離さない。
翔ちゃんは……私だけのもの。
他の女には、二度と手を出させない。
いや、他の女には二度と会わせない。
そうだ、翔ちゃんを匿おう。
ことのほとぼりが冷めるまで。
死体は適当に強盗の仕業にでもすればいい。
だから、翔ちゃんを外には行かせない。
悪い虫が付かないように。
それなら安心でしょ?
会う女が私だけなら翔ちゃんだって私しか見れないもの。
よかった。
これで二人きりになれた。
ずっと一緒……
ずっとずぅっと一緒だよ?
翔ちゃん……愛してる。
小さいころからこれから先まで、翔ちゃんだけを愛してる。
だから翔ちゃんも私だけを愛して。
そして、二人だけの未来を歩んでいこう?
ずっと、ずっと、永遠に……
END
以上で終了です。
無駄に長くてすみません;;
それにコピペなんで改行を移すの忘れてしまい……
キャラ視点の変更が分かりにくくてすみません;;
それでも読んでくれた方、ありがとうございます。
GJ!
おもしろかった
実は主人公をなぜか前原圭一でイメージしてたから、バットで美月を
フルボッコにしたときはビビったwww
GJ!!
ヒロイン達だけでなく主人公まで狂ってしまうのが面白かった
それにしても修羅場ものはやっぱ生き残った者勝ちなんだな・・・
なんという漁夫の利
>>460 うおおおおお!!GJ&乙です!
まさにこのスレ番の37.5ロシに相応しいSS!!
お姉ちゃんが死んでしまったのが残念だったけど・・・。
次のSSも楽しみにして待ってます。
>>460 GJ!
オレ的に双子のイメージはアイマスの亜美、真美でした。
元ネタの人名2人がダブルキャストって知ってる年代が居ない事に憤る俺三十代。
お蔭様で美月と志保と聞けば姉妹や惨劇を思い出すトラウマは今だに絶好調。
ジェノサイド編はトラウマすぎる
投下します。
+ + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + +
扉を開けた先には椅子にソファは勿論、床の絨毯や壁画等、あらゆる高級家具が瀟洒な雰囲気を持っ
て飾られた室内。
市街の闘技場より少し掛かる距離に建った、その地方を統括する領主が住まう大きな館。他方や自国
の要人を迎え入れる応接間へ、私は足を踏み入れていた。
これは良い趣味をしている。
「ただ高価な家具を集めただけでは真似の出来ない、見事な内装ですな。無理に舶来もので格好を付け
ようとはせず、揃い易い地元産の素材を活かした統一感を覚えます」
「ほう、君にもこの美しさがわかるかね」
左右に護衛を従え片方のソファに腰掛けている男が、賞賛の言葉に口元を綻ばせる。素朴で風雅な造
りの和風部屋も気に入っていたが、こちらもまた、相応に落ち着いた印象があり好感が持てた。
「ええ。長らく国々を旅した経験から、少々目が利くもので」
そう言って、館の主たる身なりの良い小男へと笑いかける。互いに穏やかな表情をしているが、その
視線は至って冷徹に、相手の器を品定めしている最中だ。
「お初にお目に掛かり光栄です、伯爵。私の名はアレク、しがない流れの剣闘士に御座います」
「話は聞いておるよ。何でも先日は我輩の闘技場で五人抜きをやってのけ、最後はこちらが秘蔵の奴隷
剣闘士さえ圧倒したそうではないか」
「恐縮ながら。伯爵から御声が掛かるのを期待してとは言え、売り上げに貢献する大事な花形を殺めて
しまい申し訳御座いません」
口調とは裏腹に涼しげな顔の私に対して、ジウ王都周辺をその手に収める男、デコーズ伯爵は浮かべ
た笑みを更に深くした。自分と同類の存在を見つけた様な、細くギラついた目。
この男、やはり只者ではない。
「食えん奴だな、君は。これまでもそうして旨味に有り付いて来たのかね?
……とりあえず、腰を据えて話をしようではないか」
「では御言葉に甘えて」
許しが出たのでもう片方のソファへ私も浅く腰掛け、真正面に居るデコーズと対面した。向こうの護
衛と同じく、こちらの背後にも数名の兵士が付き、槍を手に持ち待機をしている。
「どうやら互いに求める所は同じ。ならばここで、貴殿へ単刀直入に切り出させてもらおう」
懐から一枚の紙を取り出し、見える様にテーブルの上に置く。そのとき、重なり合う視線の先にある
伯爵の瞳は、私にとって非常に馴染みの深い薄明かりを点していた。
……成る程。道理でどこか似た感じがしていたが。
「アレク殿、その武勇を高く評価した上で命じよう。我輩直属の部下となり、忠誠を誓いたまえ」
「はっ、しかと了解致しました」
続く台詞に向かって、私はそれを掛けられた者が取るだろう反応と、全く同じ演技をする。
暗示の術。瞳に込めた魔力が隠れもせずに漏れている為、彼のはおそらくは教わったものでは無い。
かつてアリアが用いていた治癒と同じ、理論を学ばず感覚的に扱う天然の魔法。
デコーズ伯爵。闇商達から聞き得た情報では元々貴族の家柄でなかった筈の男が、偶然にしては出来
過ぎな勢いで上り詰めた地位の理由は、つまりそう言う事なのだろう。
くくくっ、…こちらにも既にその気があるからと、いきなり吹っ掛けてきたものだ。
当然ながら、私にそうした類の術は通用しない。おそらくは以降も度々同じ様に言葉を掛け、次第に
対象を自分へ完全に取り込んで行く寸法なのだろうが。
目の前の人物へ、魔力の気配を遮断した、本物の魔法を掛ける。
「では今日の所は一旦宿へと帰り、明日にまたこちらへと窺わせて頂きます。なにぶん、闘技場を出た
直後の事により、準備が済んでおりません故」
「うむ、わかった。送って行こう」
私の意見に対し何も不審を抱かず、傍に居た護衛の一人に馬車の手配を命じるデコーズ。自らが放っ
た暗示を弾かれ、逆に相手に同じ術を受けたなど、その存在を正しく把握していない彼には想像も付か
ないだろう。
これで今日の分の魔力は底を付いた。しかし、見返りに得られた成果は、こちらの両手に余る程だ。
宿へと送らせた剣闘士達は逃げていたりはしないか。ゴースに任せていればまず大丈夫だろうが、こ
こへしばらく留まる事になる前に、自分で直接話を通しておきたい。
生きてるか心配な奴も一人居るからな。
あの奴隷の少女。上手く蘇生が行えたのか、他に比べて少々自信に欠ける所である。
そんな思案に暮れながら、私は伯爵の出した馬車で街の宿へと向かった。
「おお、来たぞ! 五人抜きのアレクの到着だ!!」
「見せてもらったぜ、アンタの戦いぶり! べらぼうに強えな兄ちゃん!」
入る前から漂っていたアルコールの匂いは、中で如何に大勢の人間が飲み騒いでいるかを分かり易く
表している。闘技場にて手を借りたここの会員達も、今夜はほぼ勢揃いだろう。
「お疲れさん、送ってきた面子は大体こっちに集まってるぜ。あんたのおかげで今夜は大繁盛だ」
伯爵低を出てからしばらく経った、夜中の街。
途中で馬車から降り、少し歩いてから酒場の扉を開いた私を、闇商達と亭主の明るい声が出迎えた。
「どうやら報酬は無事に賞金で足りた様だな」
「おうよっ、オレぁ二試合目からはアンタに張ってたからな。そりゃ儲けさせてもらったぜ!」
「あ、おれもおれも!! こいつなんか最後の試合に有り金全部賭けやがってよ!」
「うう、うっせー、勝ったんだから良いじゃねえか! そら、みんなでヒーローに酒飲ますぞっ!!」
特に騒々しい一角へと立ち寄った途端に、酔っ払った男達に取り囲まれ、酒や料理を渡されてはバシ
バシと背中を叩かる。仕舞いには全員で瓶の口を振り回して、自分達の身体はおろか、テーブル丸ごと
酒浸しにしかねない勢いだ。
皆で囲む酒の席で、共に羽目を外してはしゃぐというのも、周りの雰囲気を含め、私も決して嫌いで
はない。だが、怪我と疲労でやや足に来ている今の状態には、正直かなり堪えるこの状況。
酒宴に誘う彼等の手をやんわりと断り、闘技場で手を合わせた剣闘士達の居るテーブルへと向かう。
「ウォレス。済まないがお前に借りた剣を駄目にしてしまった、替えは用意しておこう」
「ぅっ…、い、いや、良い。それぐらい構わん」
ウォレスを始めとする四人の男が、視界に私の姿を認めた瞬間僅かに身体を硬直させた。相変わらず
こちらに対する恐怖心が残っている様子に、軽く嘆息する。
「そう固まるな、取って食う訳でなし。お前達がこっちに従う気があるか、確認の為に来ただけだ」
「いや…。頭ではわかっているのだ、一応は……うむ」
自分を納得させる様に、口々に何やら言い訳をして男達はジョッキを呷った。…多少の苦手意識があ
るものの、これなら全員滞りなく戦力に加えられるか。
…まあ、舐められるよりはマシだろう。
「そういえば、もう一人ここへ送った筈だが。あの娘はどうした」
「ああ、あの首刎ね奴隷なら上に運ばれていったよ。…そうだ、あれもあんたが負かしたんだよな」
不在者に気付いた私の質問に、横に居た剣士が恐々と答えた。確かに、ここの人間ではあの少女と一
対一で戦い、勝てる者は居ないだろう。
「そうか」
なら、疲れて寝る前に会っておかなければな。
傘下に入るにあたっての諸注意を適当に添えてから、今後は一先ずゴースの指示に従うように言い付
け、その場を後にする。
小さな軋み音を上げる足元。私は二階の宿へ続く階段を、ややふらつきながら上って行った。
「へえ、旦那」
「……噂をすれば」
明かりはあれど、階下の酒場とは打って変わって人気の無い宿。自らの部屋に辿り着く数歩前方に、
スッと、何の前触れも無くヒラサカが誇る隠密頭が姿を現す。
相変わらず気配の読み辛い奴だ。痛みと疲労と働き詰めだった虚脱感とで、今は余計にそう思う。
一息付くには、まだ少しばかり早いか。
「例の娘、ここまでほとんど動きらしい動きをしておりやせんが、とりあえず旦那の部屋に逃げないよ
う拘束しておきやした」
「ご苦労、こちらも伯爵に取り入る事が出来そうだ。下の奴等も含め、残りは頼んだぞ」
「承知」
他人に聞かれない程度の声量での会話を終え、音も無く去って行くゴース。心なしか普段より雰囲気
が違って感じたが、どこかに思う所でも………ああ。
「ゴース」
「へえ」
見えない位置から、その声が聞こえる。
「気になるか、あの娘」
「……何のことやら。覚えはついぞありやせんが」
「ただの勘だ。違っていたなら、笑ってくれて結構」
首を竦めて両手を軽く持ち上げる私に対し、ひっひ、と、陰気な笑いが響く。そこへほんの一滴だけ
含まれた、悲哀と憐憫の色。
「旦那にゃ敵いやせんね」
「お互い、柄にも無い状態という訳だ」
違えねえ。
そう言ってゴースはもう一度だけ笑い、それきり気配は消えてなくなった。
「……ふう」
思わず溜息。
誰が何を思おうと、するべき事に変わりはない。そんな仄かな感傷も、ここでは山と転がっている。
無人の廊下を数歩渡り、私は自分の部屋へ繋がるドアのノブをゆっくり回した。
「……………」
「加減が上手く行ったかどうか今一つ自信が無かったが、どうにか無事のようだな」
目の前には、両手両足を縄でそれぞれ対になるよう縛られ、ベッドに横向きに倒れている少女。灰色
の瞳は相変わらずの無感情で、こちらを見るともなく見ていた。
酒場から持って来た肉の入ったスープの皿を、横にあった机の上に置く。それからすぐベッドへ向か
って、身体の自由を奪っていた拘束を手早く解いて起き上がらせる。
「手荒な真似をして済まなかった。何か腹に入れておいた方が良いだろうと思って持って来たが、食べ
られるか?」
というか、そもそも言葉を話せるのだろうか。この娘は。
「……たべ…る」
ふとそんな事を考えたが、どうやら杞憂だったらしい。私の手から離れて、少女はよたよたと机から
床へスープを下ろし、備え付けたスプーンを使わずに口で直接啜り出した。
「待て待て、それでは口元が汚れる。これで食べるんだ、これ。…使った事は無いか?」
「……」
こくり
手に持って見せたスプーンに対して、少女が無言で頷く。他にどれだけの事を知らないかは定かでは
ないが、せめて最低限の作法だけでも覚えてもらわねばなるまい。
「では私が手本を見せてやる。ほら、こうして食べるんだ」
「……」
そう言って、持ったスプーンを使い皿のスープを口に運んで見せた。
「わかったか?」
「……」
ふるふる
その後にもう一度尋ねたものの、見ただけでは理解出来なかったか、それとも単に使う気が無いのか
、少女は首を横に振るのみ。
疲れている身として、これ以上一々向こうの認識を確かめながら相手をしてやるのは、正直言って非
常に面倒臭い。気分的には、今この瞬間にでも少女を無視してベッドへ倒れ込みたいくらいだ。
「そうか、ならとりあえずこっちを向いて口を開けろ」
「……」
スッ…ぱく
スープの入った皿を持ち、正面に向かい合った少女がその小さな口を開いた所へ、中身をひと掬いし
て運ぶ。向こうもこちらの意図は分かっている様で、自分の方へと近付くスプーンを咥え、スープを啜
っては離してという行為をしばし繰り返していた。
何処となく、親鳥から餌を与えられる雛鳥を連想する食事風景。
「ん、食べ終わったな。替わりがもっと欲しいか?」
「……」
ふるふる
程無くして空になった皿を持って尋ね、もう要らないとの意思表示を確認してから机に戻した。
内心ではっとして、小さく項垂れた。さっきまでのゴースとの会話を思い出す。
…いかん。また、まだるっこしい手順を踏んでいる。
どうやら私も、他人にとやかく言えた身分ではなかったらしい。…そんな事は、これまでの女性遍歴
を振り返ればこそ、とうの昔に把握していた事なのだが。
「次は、その服装をどうにかせんとな」
「……」
荷物から自分用のシャツを取り出してから、特に躊躇はせずに少女の奴隷服を脱がしてタオルで軽く
拭き取り、着替えさせてやる。何らかの抵抗や反応があるかと思ったが、少女は嫌がる素振りも見せず
、じっと私にされるがままの態度だった。
「…これで良し、と」
流石に物乞いの様な格好で隣に居られるのも、気分は良くないからな。
などと、胸中で理由付けをしているが、それだけでは無い事もまた否定し切れない。九割の打算に対
し、残る一割分の情。
少なくとも、私は他との接し方をそう捉えている。果たして、その冷静なつもりの分析も合っている
のかどうか、先に浮かんだ前例を鑑みるに全くわかったものではないが。
「後は寝床だが、何処で寝るなり好きにしろ。私ももう眠いんでな、そこまで付き合ってられん」
どのみち、今の様子ならば脱走する恐れも有るまい。逃げたところで、この娘には帰る場所すら既に
無いのだから。
一般的に死ぬまで続くと言われている闘技場での奴隷剣闘士は、植民地から自ら出稼ぎに来た者や、
あるいは、本人にその気が無くとも身内に金で売られるパターンの二択。まだ十台半ば程に見えるこの
少女が、それらの内どちらに当てはまるかなど、わざわざ考えるまでも無い。
「私はもう寝かせてもらう、お休み」
言うなり、とうとう待ち焦がれたベッドに倒れ伏して以降の思考を放棄した。斬られた足や、折れた
指の痛みも気にせず、あっという間に頭の中が睡魔で染まっていく…
ス…
筈、だったのだが。
「……」
「………何だ」
私の視界に、不意にボサボサの頭が現れる。ベッドを使うなら使うで、僅かに空いてるスペースがま
だあるだろうに。
「なん…で」
「質問に質問で返すな。私は暇ではない」
閉じた瞼の先には、おそらくまだこちらを見つめ続けているだろう灰色の瞳。少女が服の裾をほんの
少しだけ掴む気配がした。
ああ、目を閉じたら本当にもう駄目だ…疲れた。
「なんで……たすけて、くれたの…?」
「必要だったからだ。…もう十分だろう」
意識の方が半分以上船を漕いでしまっている状態。こうなっては、もはや声を出すのも億劫である。
私の記憶は、そこで遂に途絶えた。
「なまえ……なんて、いうの?」
「アレクサンドロ……アレクで良い……」
「……あり、が…とう…アレク」
投下終了。何気にサンドロ友達多そうな。
最近久々の方や新規の作者様方の作品投下が、以前のスレに近付いている
のをROMりながら実感して、一人モニターの前でニヤニヤ嬉し笑いしてます。
ぐj
GJ!
やはりサンドロはこうでないと、色々な意味で
アリアやユエの時もそうだったけど、サンドロってお父さんって感じだな。
以前の勢い、確かにちょっと戻ってきてる気もする。
いなくなってしまった作者さんもいるけど、ひょっこり続きが投下され出した作品もあるし。
本当に良かった。これも夏休みの力なのだろうか。
>>475 投下お疲れ様です。
今回も無慈悲に修羅場の種を蒔くサンドロにニヤリ。
以前のスレに近づいているのもコンスタントに投下して下さる作者さんのお陰です。
これからも頑張って下さいm(_ _)m
草の人の筆の早さがウラヤマシス
あれか、これは俺に物書きの才能がないってことか。
投下します
埋めネタを連載に変更する形ですので、前回までのあらすじを。
【前回までのあらすじ】
ロリコンが小さな女の子を引き取ることに
一行で終わってしまいましたorz
「えっと、もうすぐで僕の家に着くんですけど、約束して欲しいことが2つあります」
「……?」
夕闇時の帰路。
真剣な表情で、年の頃は十前後の少女に語りかけるのは。
自宅に諜報員を2名囲っている執政官秘書、ユウキだった。
学院生時代の先輩に押しつけられ――もとい預けられた少女を家に連れて行く途中。
どうしても、少女――ホワイトに言っておかなければならないことがあった。
「ウチで見聞きしたことは、アマツ先輩には秘密にしておいて欲しいんです。
えっと、その、言われたら困るものがあるというか、いるというか……。
あ、別に怖いモノとかがあるわけじゃないし、君に嫌な思いはさせないと思います!
でも、えっと、うーむ……」
「……(きゅ)……(ふるふる)」
言葉に悩むユウキの裾を少女は掴み、顔を見上げて首を振った。
それはとても小さな仕草で、普通なら意図も読みとれず困惑するしかないかもしれないが。
「……大丈夫、ってこと?
僕がひどいことしないって信用してくれてるのかな?
――きみ、いい子ですね。偉い偉い」
「……(むみゅ)」
少女の意図をあっさりと汲み取ったユウキは、その頭をぽふぽふと撫でた。
いきなりの行為に、少女は少し面食らった表情を見せたが、
嫌がる素振りは欠片も見せず、ほんの少しだけ、頬を赤く染めていた。
それを誤魔化すかのように、ぐいぐいとユウキの裾を引っ張り始める。
「わわ!? な、何……って、ああ、もうひとつの約束か。
えっと、もうひとつ約束して欲しいのは――」
ユウキは少しだけ考え込んだ後。
諦めのような溜息を吐き、こう言った。
「――驚かないでくださいね」
少女は不思議そうに、首を傾げた。
「……姉さん、なにしてんの?」
「あらセっちゃんいいところに。ちょっとここ押さえててー」
「いや、罠仕掛けるの止めなさいよ。
っていうか扉に雑巾仕込むとか、姉さんの将来が本気で心配なんだけど。主に諜報員的な意味で」
「私は戦闘と癒しが専門だからいいのー。
そんなことより刺客撃退装置3号さんの設置を手伝ってよう」
「ツッコミどころが多数あるけど、差し当たって一番重要そうなのを。
――1号と2号を片付けてきなさい」
「えー」
「夕飯抜きにするわよ!」
「ちぇー」
妹に罠の設置を咎められ、しょんぼりするユメカだった。
――と。
その顔をはっとさせ、きょろきょろと周囲を気にし始める。
そしてそのまま台所へダッシュ。
逃げたのか、とセツノは思ったが、どうやら違った模様。
台所の入り口でユメカは立ち尽くしていた。
「――せ、セっちゃん?」
「ん?」
「この張り切りっぷりは一体全体どうしちゃったの!?」
心底驚いた様子で叫ぶユメカ。
台所には、調理中のものから準備が済んだものまで、所狭しと手料理が並べられていた。
どれもがセツノの得意なメニューばかり。
その秘めたる威力は、見ただけで唾液だだ漏れになっているユメカから推して知るべし。
「……え? 別に普通でしょ。普通」
「嘘だー! このエビのクリーム煮、この前私が作ってって頼んだときは“めんどくさい”の一言で切って捨ててたのに!」
「……そだっけ? 姉さんの発言は記憶に留めてないからなあ」
「なにげにヒドッ!?
……ま、まあ、それはそれとしてっ!
セっちゃん、貴女――」
「あの小娘が来るからって、気分良くしてるんでしょ! このロリコンめ!」
「誰がロリコンよ誰が。
それに、べ、べつに張り切ってなんて……ないからね」
「嘘だっ!」
ぎゃあぎゃあと喚くユメカ。
何とか誤魔化そうとしているセツノ。
そんな二人は、同時に。
ユウキと少女の帰宅の気配を、察知していた。
「「――ッ!」」
初動は同時だった。
刺客撃退一号の起動を図るユメカ。
具体的には天井から垂れた不自然な紐を引っ張ろうとした。
その手が全力で蹴りつけられる。
常人なら骨が砕けてもおかしくない一撃を受け、しかし平気な顔で「妹が反抗期に!?」とか言っている。
続いて豪快にスライディングし、床に不自然に備え付けられていたスイッチを押そうとする。
その手を容赦なく踏み付ける妹。
常人なら以下略。今のセツノには容赦というものが存在しなかった。
そうこうしているうちに、気配は玄関の前まで到達し――
「しまった! 一番馬鹿っぽい罠を外すのを忘れていた!」
「馬鹿っぽいとは何よー!」
自信作を貶されたユメカは、怒り顔でセツノに迫る。
最後の罠を守るために、妹にタックルして動きを止めるつもりのようだ。
しかし、そこは流石にユメカの妹。
姉を止める術は嫌というほど身に付けていたりする。
「ていっ!」
「ああっ! それは私の大好物の、ササミのチーズ――ふがっ!?」
料理名を言い切る前に、その顔に皿が押しつけられた。
ただ顔を押さえられただけでは、ユメカの突進は止まらない。
しかしそこに、彼女の好物が挟まれると――
「……やっぱり食べてるし……! なんでこんなのが姉なんだろう……」
ちょっぴり鬱になりながら、セツノは罠の解除へ向かう。
仕掛けられているのは扉の上部。
僅かに開けられた隙間には、嫌な感じに湿っている雑巾が鎮座坐していた。
時間に余裕はない。
セツノは鍛え上げられた脚力で跳躍し、ダイレクトに回収を目指した。
――間一髪、扉が開かれる直前に、雑巾はセツノの手によって回収される。
その、瞬間。
扉は開かれて。
セツノは跳び上がっていて。
膝が丁度、帰ってきたユウキの鳩尾の高さと同じくらいで。
結果。
見事なまでのニードロップが、炸裂した。
>>479 GJ!!!
いやあ、本当に最近の勢いはすごいね。
雰囲気も良いし、このまま続いていってほしいな。
その後。
激しく土下座するセツノと、後ろで「作戦通り……!」と嘯いているユメカを。
新しい居候の少女は、少し怯えた様子で見つめていた。
それもそうだろう。
自分を引き取ってくれた優しそうな人が、扉を開けた瞬間、空中飛び膝蹴りをお見舞いされたのだから。
ちなみにユウキは応急処置を受けてぐったりしていた。
本当ならば何かしらのフォローをして、少女が新しい環境になれる手伝いをしなければならないのだが。
セツノの膝蹴りは思いの外威力が高く、まともに動くことすら困難だった。
戦闘訓練を受けているセツノならば、直前で蹴りを止めることもできたはずなのだが。
新しい住人を迎えるために、少々浮ついていたのと。
姉との馬鹿なやりとりで集中力を乱されていたのが。
惨劇を引き起こす要因となってしまったのかもしれない。
まあそれはそれとして。
常人で在れば発言に困難を示すであろうカオスな空間の中で。
誰も常人と認め難い人物が、場を仕切ろうと口を開いた。
「――これは、悲しい事件だと思うの。
ひょっとしたら、避けることができたかもしれない。
でも現実に事件は起きてしまって、私たちはそこから目を逸らしてはならない。
だから、だからね――」
また馬鹿姉がトチ狂ったことを言おうとしてる。
そう確信したセツノは、ユメカを止めるべく、土下座の姿勢から反転、鋭い蹴りを見舞おうとした。
が。
その前に。
「…………(ぺこり)」
女の子が、思い詰めた表情で。
深々と、頭を下げていた。
それは、どう見ても謝罪の仕草で。
慌てたのは、セツノとユメカだ。
「え? え? そんな、謝って欲しいわけじゃなくてね、
というかこれをネタにセっちゃんをいじめようとしただけだから、その、気にしないで?」
「あ、あなたが謝ることじゃないのよ!?
悪いのはそこの頭の悪そうなお姉さんで、っていうかむしろ謝りなさいよ馬鹿姉!」
二人の、いつもの言い争いが始まった。
ぎゃあぎゃあと言い合う姉妹。
それを、少し離れたところから、悲しそうに見つめる少女。
――やっぱり、ここも駄目なのか。
そんな諦めが、少女の胸を支配しかけていた。
寺院でもこうだった。
少女の生まれが、とある名家の傍流だったこともあり、本人とは関係ない部分で、周囲の諍いが生まれていた。
聡い少女は、それが遠回しに責められているようで、辛かった。
――お前がそんなだから、私は悲しくなるのよ。
もう言われなくなった言葉。
それを思い出し、自分自身が嫌いになる。
そんな自分を直したくて。
たとえ話せなくても、周囲の人を不快にさせない人間になりたくて。
はじめて、自分と“会話”できた青年の家に行くことを、勇気を出して、決意した。
だけど。
彼の家に同居する女性達は。
そんな少女の意志とは関係無しに、激しく罵り合っている。
やはり、青年が特異な例だっただけで。
自分のような人間が、周りと楽しく穏やかな時間を過ごすことなんて不可能なのだろうか。
そう、思っていたら。
「――あの二人、別に喧嘩してるわけじゃないんですよ」
そんな言葉が。
横から、聞こえてきた。
びっくりして振り返ると、そこには苦笑いをしている青年の姿があった。
「あれ、とても仲悪そうに見えますよね?
でも実は違うんですよ。しばらくしたら、何事もなかったかのように元通り。
彼女たちにとって、あんなの、喧嘩でも何でもないんですよ」
嘘だ、と少女は思った。
だって、あんなに激しく言い合っているのに。
自分があんな風に言われたら、きっと立ち直れないだろう。
それが、喧嘩じゃない? そんなことは、信じられなかった。
「……きみは、色々なものが見えすぎてしまうのかな。
でもね、見えるものだけが絶対、なんてことはないんですよ。
あの二人にはあの二人のルールがあって、それさえ破らなければ、二人はずっと仲良しのまま。
そういったルールは、人によって様々なんですよ。
――ほら、さっき約束したじゃないですか。“驚かないで”って。
自分が見えるものだけを絶対と考えるのではなく、違うものを受け入れる努力を、少しでいいからしてみましょう。
そうすれば、きっと、きみも少しは楽になれますよ」
そう言って、微笑んでくれた。
青年の言葉は、少女の胸に自然と染み入る。
と、青年の言葉を聞いていたのか、姉妹が少女の方へと近付いてくる。
少女は微かに身を竦める。自分のせいで喧嘩になったから、何か言われるかもしれない。
そう、思ったのだが――
「あはは、お客様をほったらかしにしちゃって、ごめんね?
さっきのは喧嘩してたわけじゃないの。だから、気にすることなんてないんだよ?」
「……ちょっと、悪ふざけが過ぎちゃったよね。ごめんなさい。
セっちゃんには後で厳しく言っておくから。
だからその見返りとして、チーズ入り厚揚げは譲ってほしいなーなんて」
「子どもにたかるんじゃないっ! ……はあ。姉さん用に厚揚げはたくさん作ってあげるから」
「ふふふ。これが交渉というものよ。お子ちゃまには少し難しかったかな?
まあ、そーゆーわけだから、私とセっちゃんは喧嘩なんてしてないのよー」
「まあ、本気で喧嘩なんて、まだまだ姉さんには敵わないしね。
――それじゃ、お料理の途中だから私はこのへんで。
美味しいごはん、たくさん作ってあげるから! 楽しみにしててね!」
直前までの剣呑な空気は何処へやら。
姉も妹も、何事もなかったかのように、少女に優しい声をかけてきた。
というか、あんな激しい口喧嘩が、厚揚げひとつで治まってしまうとは如何なることか。
少女は呆然としながら、二人の言葉を聞いていた。
「ほらね、こんな感じなんですよ」
そう言う青年の口元には。
楽しげな笑みが、浮かんでいた。
「あの二人なら、きっときみを受け入れられますよ。
僕だけじゃなくて、あの二人も。そしていつかは、他の人たちとも。
きっと、楽しく話せるようになる。それは僕が保証しますから」
「――だから、悲しそうな顔はしないで。一緒に暮らしましょう」
少女は俯く。
どんな顔をしていいのか、わからなかった。
ただ、先程までの嫌な気持ちは消え去っていて。
――ここに、いたいな。
そんな気持ちが、生まれていた。
だから。
「……(こくり)」
一度だけ。
少し熱くなった頬を見せないように。
頷いて、みせた。
と。
ここで終われば、何の問題もなかったのだが。
「――ってすっかり忘れてたーっ!」
おもむろに、ユメカが声を張り上げた。
「よく考えたら、この子刺客だったんだ!
いけないいけない。その場の流れで受け入れてしまうところだった……!」
「え? あの、ユメカさん……?」
「ユウキさん! ロリコンはいけません!
まだ体のできてない子にそーゆーことをしちゃうと、あとあと後悔することになりますよ!」
「は? ちょ、ひょっとしてまたいつもの暴そ」
「なんかこの子可愛いから、追い出すのはやっぱり止めにしますけど!
でも! だからといってユウキさんを渡すわけには! 絶対!」
「せ、セツノちゃん! またユメカさんが――」
「だから、ユウキさんに大人の女性の素晴らしさを叩き込んでおきたいと思います!
セっちゃんの準備状況から考えて、あと1時間は余裕があります!
とりあえずハイペースでこなせば8回は大丈夫ですよね! というわけでいざ!」
言うなり。
ひょい、とユウキの体を担ぎ上げるユメカ。
「ごめんねー。ちょっとユウキさんを借りちゃうね。
とりあえずこの家のことはセっちゃん――さっきの、私の劣化版みたいなお姉さんに聞いておいてねー。
それじゃあ、夕飯までには帰るから!」
目を白黒させている少女に、それだけを言い残して。
ユメカはユウキを担いだまま、外へと駆け出していった。
「やめ、ていうか1時間で8回は流石に、だ、誰か助けてー!?」
ユウキの悲鳴が響いていたが。
超展開に付いていけなかった少女は、ただ呆然と、連れ去られるユウキを見送ることしか、できなかった。
ちなみに。
丁度夕飯が完成したときに帰ってきた二人は。
片方がとても満足げで、もう片方が異常なほどやつれていた。
一時間でどうしてここまで変わってしまうのか、少女はとても不思議がっていたが。
それはまた、別のお話。
美味しいところはほとんど後編に出すことになったので、今回の話だけだとただのラブコメに見えてしまう不思議。
まあそれはそれとして、こちらも埋めネタから連載に昇格します。やっぱり書いていて楽しいですし。
キャラとか設定とか知らない人は、まとめサイトの「血塗れ竜と食人姫」をご一読していただければ幸いです。
>>460 GJ! 眞保かわいいよ眞保。
裏切られてはっとする瞬間が大好きです。
裏切りは淑女の嗜みですよね。
>>475 GJ! いつも楽しく読ませていただいております!
サンドロかっこいいよサンドロ。そして新しい娘が激しくツボです。
刷り込みは主人公の嗜みですよね。
>>491 GJ!
本編のキャラが多数出始めて来たという事は
これは血塗れのトゥルールートというか別ルート扱いなのですかね。
>>491 ああ…もう…なんつーか、やっぱり俺は白が好き………orz
ありがとう…ありがとう…
神が連続で来ている!GJとしか言いようがない!!
自分の作品が霞む。
投下します。
496 :
名無しさん@ピンキー:2007/08/26(日) 02:27:26 ID:W35Cr1g1
>>491 GJ
あの本編の後だからかなんか涙でてきそう
私と純が付き合い始めたのは、高校を卒業してすぐの事だった。
純への本当の気持ちに気づいてからというもの、私と純の関係は段々とギクシャクし
ていった。私が一方的に意識しているだけだったので、純は
「高校生になったんだから男と女、今までどおりには行かないか・・・」
程度にしか考えていなかったようだが、私にとっては毎日ちょっとした事で嫉妬と寂
しさに苛まれる日々だった。そんな日々が2年と半年ほど続いたが、ある日を境に、私は
悩むことさえ許されなくなった。
金浦 純と柳 恵理が付き合っているらしい
そんな噂を耳にしたのは、大学も純と一緒の所に行ってそこからもう一度関係をやり
直そう、と受験勉強に力を入れていた時だった。柳さんと言えば、学年トップの成績な
うえに容姿端麗。恐らく同学年で知らないものはいないであろう人物だ。初めは何かの
冗談かと思った。3年になり私と純は同じクラスになり、柳さんも同じクラスだった。
見ている限り二人にそういう様子はなかった。
しかし、その噂を聞いてから数日後、見てしまったのだ。
夕暮れの通学路、手を繋いで歩く二人を。
男は恥ずかしがりながらも見たこともない笑顔で。
女はどこか安心しきったような笑顔で。
それは見間違うはずもない、純と柳さんだった。
その後、私はどうやって家に帰ったか覚えていない。気がついたら自分の部屋のベッ
トで泣いていた。
私は甘く考えていた。自分から積極的に会話に参加することのない純は、クラスでどこか
浮いていた。だから恋愛にまで発展することはないだろう。そんな風に思っていた。
それは、純に気軽に話しかけられなくなっていった自分への言い訳であった。そう自
分に言い聞かせることで、逃げていた。眺めているだけで満足だった。その結果がこれだ。
純は手の届かない誰かの所へ、自分じゃない誰かの所へ・・・身を切り裂かれるような思いだった。
それは初めて、自分の恋心に気づいた時の比ではなかった。その日から私は一週間学校を休んだ。
純に会いたくない、その一心で学校を休んでいたが、仮病も母に見抜かれてしまった。
仮病を許すほど我が家の母は甘くなく、私は重い足取りで学校へ向かった。
一週間も学校を休んでいた私を友人は心配してくれた。少し心が痛んだが、失恋し
た悲しみが大きすぎてあまり気にならなかった。授業を受ける気にもならず、ただ黒板
を眺めて午前中が終わった。彼が視界に入らないように必死だった。
昼休み、食欲もなく私は自販機で飲み物を買って昼食を済まそうとしていた。教室にいたくない、
という理由もあった。そこで出会ってしまった。私が一番会いたくなかった彼に。
「お、珍しいな。こんな所で会うのは。」
私は、普段家から飲み物を持参していたのであまりこの辺には来ないが、今日は頭が回
らなかったのか持ってくるのを忘れていた。
声を掛けられただけで私は動揺していたが、何とか平静を保って茶化すように言い返す
「純こそこんな所にいていいの?愛しの彼女さんが待っているんじゃない?」
自分で言っていて悲しくなった。もう十分涙を流したはずなのに、また涙が出そうになっ
たので、顔を背け立ち去ろうとした。しかし、次の瞬間私が聞いたのは、純の
泣きそうな声だった。
「別れたよ・・・」
私は耳を疑った。悲しすぎて幻聴でも聞いたのかと思った。
「昨日別れた。」
正直、飛び跳ねて喜びたかった。しかし、私はこの時冷静に心の中で誓った。別れた理由
を聞きたかったが、付き合って2週間たらずで別れたのだから、余程なにか深刻なことがあった
に違いない。私はあえて理由は聞かず、純を慰めた。
もう絶対後悔はしない。ここから私の戦いは始まった。
次の日から私がしたことは、外堀を埋めることだった。中学の時そうだったように、実際付き合っ
ていなくても周りがそう思っていれば、純によってくる女は少なくなる。
これは簡単に済ますことができた。元より私たちが疎遠になったのも、私が一方的に意
識していただけであり、こちらから中学の時のように積極的に話し掛け、休日は遊びに誘え
ばよいだけだった。一ヶ月と経たない内に私たちは学校公認のカップルとなっていた。
私は、情報収集も欠かさずおこなった。柳さんと純が付き合った時、私は全くその事に
気づけず、純の機嫌が最近良い気がする、程度にしか思っていなかった。だから私は、少
しでも純に気があるような素振りを見せた女や、そういう噂を聞いたら、そいつの前で純に
抱きついたりした。
私の努力は報われ、その後高校では純に彼女はできず、高校を卒業してすぐ私は純に告白
した。生まれて初めての告白に心臓が止まるかと思ったが、純はいつもの調子で
「いいよ」
と気軽に答えた。もうちょっとマシな言い方があるのではないかとも思ったが、嬉しさが上回
り泣いてしまった。その時の純の戸惑った顔を忘れることはないだろう。
それから、私達は恋人として大学生活を楽しむはずだった。
ある日、デートに出かけた帰り道、夜中の公園、人気無し、男女二人、途切れる会話。
もう、これはアレしかないだろ。女性にしては少し下品な発想だが、私は期待していた。
付き合ってからもう3年近く経った。私達は一回も寝たことはない。同じベッドに入ったことは何回かある。
しかし、そういう行為はしたことがない。それどころかキスすらしたことがない。勿論、そういう
行為だけが恋人の証でないことは理解しているつもりだったが、愛されている証明が欲しかった。私
は、寂しさを覚えると共に、それ以上の怒りを覚えていた。そして、純の
「帰るか」
の一言をきっかけに、私の今まで溜めてきたものが溢れ出た
「私に魅力がないっていうの!?」
「浮気してんじゃないの!?」
「嫌いなら嫌いって言ってよ!?」
私は純に詰め寄って思っていた事をすべて吐き出した、純は黙って聞いてが、私が言葉も失って
泣き始めると、
「ごめん」
と短く謝った。私は、やけになって純の唇を奪った。抵抗はされなかった。
どれくらい経ったのだろうか。念願のキスの筈なのに、私は満たされない。
顔を離して彼に問いかける
「ねえ、正直に答えて。私の事が嫌いなの?」
「・・・そんな分けないだろ」
「じゃあ純からキスしてよ」
彼は震えているだけで何もしてこなかった。
「やっぱり私のこと・・・」
「違う!!」
いきなりの彼の怒声。普段声量の小さい彼からは考えられないような声だった。
私はその大声対する驚きと、純を怒らせてしまったのではないかという不安から喋れずにいた。
すると、純は深いため息をついてから、高校の時、柳さんと何があったのか、別れる原因に
なったことを話してくれた。
「・・・初めて気づいたのはあすかの所に泊まった時だったよ。正直、俺は手を出そうとしたけど無理だったんだ。手が、震える。脈が速くなる。柳の泣きそうな顔が浮かんで消えないんだ。」
純は本当に苦しげに、吐き出すように話した。私は驚きを隠せなかった。別れたのは
3年以上前である。
それほど好きだったのだろうか?
それほど愛していたのか?
たった2週間足らずで?
まだ忘れられないのか?
確かに思い当たる節があった。
高校の時、純が柳さんから別れてからずっと、私と純は食堂で昼食を共にしていた。
その時に、たまに彼はある女をチラチラと見ていた。
そして、その女も純をチラチラと見ている。
たまに目が合うと慌ててそらす。
柳 恵理
きっと彼女は純に未練があり、また純も彼女に未練があるのがはっきりとわかった。
私が高校で一番危惧していたのが柳さんだった。いつかまた付き合いだしてしまうのではないか?
そんな不安から、特別彼女の前では純とのスキンシップを図った。
高校を卒業して安心していたというのに。どうやら柳恵理という存在は純の中に深く根付いているらしい。
どうしようもない女だ。自分から振ったくせに。
何とか彼女を忘れさせることはできないか・・・
今のままでは私は彼女の代替品にすぎない、憎悪で激しく歪む自分の顔を見られないように、
私は純を抱きしめた
それから数日後だった。私の携帯に同窓会を知らせるメールが届いたのは。
あらすじ吹いた
以上です。
書き忘れてましたが
>>422の続きです
>>475 だめだ・・なんかサンドロがアンジェリカのエルに思えてしまう・・!
>>491 本編見た後だからやっぱり・・ウッ(;ω;)
>>503 GJ!これから物語が動きそうで楽しみ。
二見純?
金浦 純?
>>505 >>506 非常に申し訳ない、二見 純が正しい名前です。
金浦はプロット段階で使っていた名前でした。
>>504 バカ!おめぇのせいで俺もそう思えてきたじゃないか!設定とか全然似てないはずなのにそう思えるこの不思議。
>>491 怪物姉妹懐かしいw ロリは完全に覚えてないんで保管庫行かなきゃな。
実はエロシーンの描写期待しているんだぜ?この姉妹なら…この姉妹ならやってくれる!
白は俺の嫁、にはならないな…邪魔者扱いがオチだぜ。
時事ドットコム:「1人でやった」=元同僚、勤務態度はまじめ−27歳女性遺体・宮城県警
http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2007082500245 > 仙台市若林区で6月、近江由希子さん=当時(27)=が他殺体で見つかった事件で
> 死体遺棄容疑で逮捕された元同僚村山真紀容疑者(33)が
> 「わたしが1人で殺って遺棄しました」と供述していることが25日、分かった。
> 同容疑者は昨年秋ごろまで数年間、近江さんの夫(31)と交際。
> 近江さん夫婦は今年5月に結婚しており
> 捜査本部は交際のもつれが動機とみて追及している。
> 村山容疑者が勤めていた総合食品販売会社によると
> 同容疑者は8年前からパートとしてスーパーに勤務。
> レジなどを担当していたが、勤務態度はまじめだった。
> 近江さんを殺害したとされる6月半ばから退職する同月末までの間も
> 欠勤せず特に変わった様子はなかったという。
GJ
これからも定期的に投下して欲しいものだ
そういえば最近の新規の作品は、わりと修羅場を少な目にして伏線はる作品が多いみたいだが、俺はそういうの結構すきだな
なんかじらされてるんだが、それで期待してしまう…
いつのまにか、嫉妬スレの作品を読みすぎて感覚が麻痺してしまってた…
初めて読んだ作品がまとめサイトにあった、
「妹(わたし)は実兄(あなた)を愛してる」で、当時は嫉妬物の作品なんて全く無知で
それを読んだときはあまりにも衝撃的で、尚且つドロドロしすぎていて
頭がクラクラしてしまった…けどそれ以降どっぷりと嫉妬物にハマってしまったなぁ
今では毎日ここに入り浸ってるよ
好きな作品がなくなった俺はこのスレに居るべきなのだろうか・・・・
知らねえよぼけ
投下します。
<一>
十夜は、兄である右庵―――もとい、後一郎に無数の不満を持っていた。
後一郎が酒好きなこと。
やたらと姿勢が悪いこと。
使用人をいつまでたっても雇わないこと。
十夜と紗恵を残して勤めに行き、早く帰ってこようという努力すら見せないこと。
しかも、時に女を連れて帰ってくることすらあること。
紗恵の縁談を一向にまとめようとしないこと。
彼の仕事のため、紗恵が昼に寝て、夜に起きることを余儀なくされていること。
後一郎が屋敷にいない時、十夜はそういった不満を紗恵に漏らすことがあった。
しかし紗恵はそのたびに、悲しそうに笑って、そういったことは言うものではありません、と言うのだった。
十夜には、紗恵が右庵を庇っているように思えた。
その様を見ると、何故か十夜は、どす黒い想いが腹に座るのを感じるのであった。
極論すれば、後一郎がこの家の当主であること、後一郎がこの屋敷に存在することそのものに、十夜は不満を抱いていた。
しかしそれでも、十夜は己の感情を外に出すことはしなかった。
せいぜいが後一郎を叱責する程度で、それ以上行動を起こしたり、感情を顔に出すといったことはまずなかったのである。
<二>
十夜の、幼い頃についての記憶は最早薄れてきている。
幼子の頃の記憶など、海に移る不知火のようなものである。
元からはっきり覚えているわけでもない。
それでも、思いだそうとすれば明確に脳裏に映る光景は、確かにあった。
一つは、紗恵の柔和な笑顔と、冷たい瞳である。
紗恵は年端のいかぬころより十夜と後一郎の世話をしてきた。
子供だけで使いにいくことや、あるいは遊びに行くこともあったかもしれない。
そのような時、紗恵はいつも自分には笑顔を向けてくれた。
あの笑顔があれば、何があっても大丈夫だ、と思えたものである。
その一方で、紗恵は厳しくもあった。
禁じられたことや、公序良俗に反することを行えば、容赦なくあの冷たい瞳で十夜を射抜いていた。
そして、紗恵は、いつも後一郎にはあの冷たい瞳をむけ、決して笑顔を見せることはなかったのである。
あるいは、後一郎の愚図な行いも、十夜の記憶の奥底には残っている。
後一郎は、剣や手習い、学問に関してはある程度そつなくこなしていたが、日常の生活ではひどく鈍重であった。
たかが掃除だけで時間がかかり、一々こちらに何かを聞いて来た。
その度に、自分は勢いのいい言葉で罵倒したように、十夜は記憶している。
そして、すでに一枚の絵のようにしか思い出せない光景もある。
その絵の中では、滅多に変えない表情を夜叉のように変化させて、紗恵が後一郎を叱責していた。
全く前後の話は思い出せないが、紗恵は、昔から後一郎のことは疎ましく思っていたのであろうという想像をするには十分であった。
十夜の中にある、幼い頃の紗恵と後一郎についての記憶はその程度のものだった。
些少な出来事ならある程度は思い出せるが、それは大して意味の無い出来事ばかりである。
十を過ぎた頃の記憶であれば、ある程度鮮明に十夜にも思い出せた。
中でも、十夜にとって、最も鮮明な記憶は、父母の死であった。
八年前、十夜が十一歳、紗恵が十八歳、後一郎が十四歳の時である。
最初に父が仕事の最中に調子を悪くし、続けざまに母もまた倒れた。
紗恵が二人につきっきりで看病したが、彼女の努力も空しく、二週間足らずで彼らは息を引き取った。
父母の死後、しばらくのことは十夜も記憶していない。
だが、その後、父母が亡くなったことで生活が厳しくなった辺りからの記憶ははっきりしていた。
紗恵が内職をしていた光景は、今も鮮やかに思い出せることができた。
生活が安定し始めたのは、十五となった後一郎が都廻の役目についてからであった。
父の死後、家督を継いだのは後一郎であった。彼は右庵という実名を得て、木下家を継いだ。
都廻の役目を得たのは、さる要職についている騎士の口ぞえということであった。
木下家は直参の騎士ではなくて家禄も少なく、後一郎が都廻の役目を得たことによる俸禄で家族三人が暮らしていけるようになったのである。
しかし、その一方で。
後一郎が都廻の役目についてから、十夜の彼に対する嫌悪は膨れ上がっていった。
<三>
その日も後一郎が屋敷に戻って来たのは、巳の刻にさしかかろうかという刻限であった。
「右庵殿。食事の後はいかがなされますか?」
紗恵が、空になった食器を片付けながら後一郎に話しかけるのが、十夜の耳にも届いた。
紗恵は、後一郎のことを右庵、と呼んでいた。
後一郎の本名は木下後一郎右庵である。
「右庵」というのは確かに彼の名前だが、それは実名であり、本来であれば口にするのを避けるべき名である。
通例であれば、通り名である「後一郎」という呼称で彼を呼ぶべきなのだが、紗恵は後一郎のことを実名で呼んでいた。
いつからかは十夜も覚えていない。
だが、すでにそれが当然に思えるほど長い間、紗恵が後一郎のことを実名で呼んでいることは確かであった。
「…今日は寝ます」
「わかりました」
それだけの言葉の後、何も語ることなく紗恵は居間を立ち去った。
襖の陰から十夜が居間を覗いてみると、そこからはわずかに酒の臭いがした。
居間の中心には、恐縮しきった後一郎が胡坐をかいて座っている。
盆暗が、と十夜は心の中で後一郎を罵倒した。
何故堂々としていられないのか。お前のその態度が姉様の怒りを助長する原因なのだと何故わからない。
しかも、酒を呑んで何様のつもりだ。酒を買うような金を稼ぐぐらいなら、何故少しでも早く帰って来ないのか。
無数の言葉が彼女の頭の中を駆け巡る。
しかし、十夜はそれを決して口にすることはなかった。
間もなく、頭を抱えた後一郎が立ち上がる。
おそらく水浴びでもして寝るのだろう。
今日は後一郎に話しかけられなかったことを安堵しつつ、十夜はやりかけの裁縫の仕事に戻ることにした。
後一郎は、用事がなければ紗恵にも十夜にも話しかけることがない。
その点においては、十夜は後一郎を評価していた。
<四>
時は過ぎて、申の刻より少し前。
寝ている紗恵の代わりに家の中を掃除している途中、十夜は風を切る音を聞いた。
よくよく聞くと、その音は庭から聞こえてくる。
十夜にとっては、聞くだけで眉をしかめたくなる音であった。
庭を見ると、後一郎が鉄の棒を振っている。
十夜の目には、ひどく稚拙な動きに見えた。
一つ一つの動作が大きく、緩慢なのである。
生前の父とは比べ物にならないほど頼りなかった。
と、音が止まった。
しまった、と十夜が思う前に、後一郎がこちらの存在に気づいてしまった。
「…お疲れ様です」
「はい、おはようございます兄様」
十夜はどうにか顔を繕い、挨拶を返す。
後一郎は、十夜の努力も他所に、再び鉄の棒を振るい始めた。
「…っ」
思わず、十夜が舌を打った。
理由はわからないが、無性に腹が立ったのだ。
しかし、その音は後一郎の棒を振るう音に掻き消された。
後一郎は、十夜の存在など無いもののように鉄の棒を振るうことに専心していた。
そのことに、十夜は余計に腹が立った。
何故だろうか。最小限の会話しかせずに済んだのに、どうしてここまで怒りがこみ上げてくるのか。
思わず、いつものように難癖をつけて兄を叱責しようとした時、後ろから声をかけられた。
「十夜、どうしたのですか?」
怒りに心を占められていたところに唐突に背後から声をかけられ、十夜は思わず体をびくりと震わせてしまった。
背後にいたのは、言わずもがな紗恵であった。
「あ…姉様、おはようございます」
「はい」
慌てて挨拶をした十夜に、穏やかに肯く紗恵は、そのまま庭へと目を向けた。
彼女の視線の先には、庭に干された洗濯物があった。
「あ、洗濯物を取り込んでおきましょうか」
「…いえ、後でいいでしょう。
食事の仕度をします。十夜も手伝ってください」
「は、はい!」
返事とともに、軒先から土間へと向かう姉を十夜は追う。
庭からは変わらず風を切る音が聞こえていた。
<五>
夕刻。
すでに、外も、そして屋敷の中もひどく暗くなっている。
間もなく、暮れ六つを知らせる鐘が鳴る頃だろう。
「…行ってまいります」
「はい」
短い問答の後、後一郎は屋敷から出て行った。
同時、何かから解放されたかのように、紗恵の顔が緩んだのを十夜は見た。
「それでは、私達も食事にしましょうか」
「はい、姉様」
紗恵の顔に浮かんでいるのは、後一郎が屋敷にいる時には決して見せない柔らかい笑みである。
後一郎が家を出た後に、姉と共にとる食事。
その食事の時間が、十夜にとって最も心安らぐ時間であった。
以上で投下終了です。
乙。く、くらー。どんどん陰湿な感じになっていくので楽しみ。
GJ!
嫉妬の華が咲いてきたなww
GJ!
右庵その内過労死しそうだw
ひでぇ嫌われようだな
>>527 年頃の娘からみた父親なんてこんなもんだろ…
>>528 ただ、それだと嫌悪であって、嫉妬じゃ無いからねぇ。
これから、どう嫉妬の部分のを前面に出してくるのか、作者さんに期待ですよ
ということで、GJ
GJ!
きっとこの嫌われっぷりは転帰の八雲のように幸せになる(ある意味で)ための
壮大な伏線なんだよ!!
では投下致します
第9話『朝倉京子見参』
その男は強気な口調で周囲を威喝して明らかに自分以外の他人を見下していた。
傲慢な態度は初対面の印象を悪くするのは充分過ぎると言ってもいいであろう。
少なくても、俺や更紗や刹那はこの『青山次郎』という男に関わるのは良いと思っていない。
重苦しい程の雰囲気の中で俺は時間がさっさと過ぎ去ることを祈っていた。
だが、その期待は倒れ伏せていた男の驚異的な復活によって、あっさりと裏切れた。
「Oh! 麗しき花嫁を未亡人にするなんてカレーが許しても、このワタシが許さないぞよ。
カズキに寝取られるぐらいなら、核兵器型カレー爆弾で心中した方がまだマシであるぞよ」
4回転のきっちりと無駄な仕草で回っている店長が勢いを付けて俺達の居る場所まで飛んでやってきた。
相変わらず、この店長のやるべきことは人間業ではなかった。
「久しぶりだな……東山田国照。我輩の長年のライバル」
「貴様は……ジロウ。アオヤマジロウじゃないかっっっ!!!!」
二人の中年男性はお互いを睨み常人に理解することができない殺気を飛ばし合っていた。
冷静に俺は二人のおっさんが見つめ合っている姿はキモイとしか思っていないが。
「我らの師が多大なる食中毒事件を起こして、カレー世界から退いた事件。『あのカレーは腐ってる』以来か。国照よ……」
「もう、そんなになるぞよか」
「あの事件を境に我輩の顔に泥を塗った貴様を打ち倒すために死ぬ気で修業してきた。
その成果はカレー専門店『ブルー』という店を起業することができた。
本来ならば、こんな寂れた場所で店を開店するのは愚かなことだが……
手始めに国照が経営している店を潰すのいい余興だと思って、
隣に我輩の店を出店した。光栄に思え」
「やれやれ……ツンデレ野郎の相手をするのは本当に大変ぞよ」
「フン……。今の内に好きなだけボケを好き放題にやればいい。
我輩が本気になれば、こんな古ぼけた店は1ヵ月以内に潰れるであろうな……。
ふっふはははは。愉快だ。
かつては我輩の地位を脅かしてきた男が手も足も出せずに敗北の味を舐めることになるとは」
「いや、うちの店長と競い合っている時点で同類な予感も」
次郎の高笑いの隙に俺はぼそりと嫌味を呟いた。どうも両者の会話はすでに絡み合うどころか、
互いに縦斜め横の上を行っている。会話が全く成立できずに茫然と二人のやり取りを見るのは案外辛いものである。
「カズちゃん。こんなとこで働くぐらいなら、他にいい場所を探したら?」
「俺はいつもそう思っているよ。でもな……いろいろと複雑な理由があって辞めるに辞めれない」
「あっははは……カズ君もいろいろと大変だね」
この場所で働いているといろんな意味で同情を受けるのは仕方ない。
更紗と刹那に対する同情は嬉しかったが、それを表情に出すのは恥ずかしいので二人に背を向けた。
「開店は明後日だ。そこまで存分に平和な日常を堪能してくれたまえ。
もうすぐ、訪れる客が全くやって来ない……」
青山次郎の饒舌な口調を遮るようにカレー専門店のオレンジのドアに付けられている鐘の音が鳴り響いた。
中年男性とは違う訪問者は俺や更紗や刹那と同じ年頃の少女が物凄い剣幕で殴り込むように入ってきたのだ。
「クソ店長……開店準備も手伝わずにどこで油を売っているの!!
そんなことはこの朝倉京子の目の黒い内はサボリ途中退社資金横領は絶対に許さないから!!」
その少女は青山次郎と同じ調理師の白衣を身に纏い、腰まで伸ばしている長い髪を紐で一つに纏めていた。
容姿は大人しくしていれば美人の分類に入るであろう。
だが、勝気な態度と乱暴な口調でそれは全て台無しになっているが、彼女自身の独特な雰囲気がいい味を醸し出していた。
その彼女は視界に入った青山次郎の返事も待たずに己れの判断で無表情のまま、
首から顎の部分に誰もが目に移らない速さで拳を放っていた。
気が付いた時には青山次郎は壁に激突して口から汚い涎を零して地面に倒れ伏せていた。
ほんの数秒の出来事に誰もが彼女の行動に驚愕していた。
(こ、こ、この女。できる)
「これでゴミクズは片付いたわ」
蔓延なる笑顔を浮かべる彼女は自分の上司の倒れ具合に非常に満足していた。
その光景はカレー専門店オレンジで起きる事と酷似していた。
暴走する上司を自分が鍛え上げた拳で制止する。
それはここでは特に珍しくもないありふれた光景だが、
自分と同じことをやり遂げる人物が他にもいることに驚きを隠せない。
「あらっ……オレンジの皆様。こんにちわ。私は朝倉京子(あさくら きょうこ)と申します。
以後、よろしく。明後日から開店するカレー専門店『ブルー』のウエイトレス兼ホールスタッフをやっています。
短い間ですが宜しくお願いします。てか、記憶に残らない程の短い付き合いになりそうね」
「なんだと……」
「あららっ。本当のことでしょう。クソ店長はともかく。朝倉京子様が率いるカレー専門店『ブルー』に死角はないわよ」
朝倉京子は自信に溢れた表情を浮かべ大きく胸を張っていた。
その根拠のない自信は一体どこから溢れてくるのかと問い詰めてあげたい。
高飛車で強気な女の戯言を最後まで聞いてあげるほど、俺は品行方正な人間ではない。
彼女の欠点を……一つだけ。大げさに強調するかのように彼女の体の一部分に指を差した。
「黙れ……貧乳」
「なぬっっ!!」
「貧乳よ。大草原のように真っ広い称号を持つ者よ。一つだけ言っておこうか。
せめて、パットでも入れたらどうだ?」
「こ、こ、こ、こいつは……」
自分の欠点を指摘されると朝倉京子は胸を隠すように両手で覆い隠した。
顔を赤面に染まり、俺の方に殺意と等しき視線を送り続ける。
「ふふっ……私が最も気にしていることを……。こ、殺すわ。絶対に殺す。
顔を剥ぎ取ってから、血に餓えたピラニアの水槽の中に入れ込んでやるわよ!!」
「楽しみにしておくよ。貧乳」
「クキャーーーー!! オマエだけは絶対に許さないんだから!!
クソ店長、いつまで寝てるのよ。さっさと帰って、こいつらを血祭りに仕上げる方法を考えるわよ!!」
気絶している青山次郎の首根っこを掴んで、逃げ去るように朝倉京子は連れと共に店を去っていた。
女性の細身で成人の男性を運べる力が一体どこにあるのかと疑問に思ったが、
個人的には俺の背後で睨んでいる幼馴染の方が気になったりした。
恐る恐ると後ろを振り返ると……。
目が全然笑っていない更紗と刹那に『私たち以外の女の子の体をいやらしい目で見るなんて。
許しませんよ』と怒っていた。
結局、店が閉店になるまで俺は幼馴染に徹底的に説教させられて。
その日に決まるはずだった更紗と刹那の採用は曖昧になってしまった。
なんてことだ。
以上で投下終了です。
ようやく、かなりの溜めが作れたので
これからは余裕を持って投下できそうです。
>>523 う〜んドロドロですなw
これからどういう風に修羅場になっていくのかにwktk
あと、
>「右庵」というのは確かに彼の名前だが、それは実名であり、本来であれば口にするのを避けるべき名である。
>通例であれば、通り名である「後一郎」という呼称で彼を呼ぶべきなのだが、紗恵は後一郎のことを実名で呼んでいた。
ってありますが、騎士というのはそういうものなんですかね?
>>534 GJ!
しかし、キャラ多すぎて書くの大変じゃないですか?応援してますんで頑張って下さい
>>535 これだな。
字(あざな)は、中国など東アジアの漢字圏諸国で使われる人名の一要素である。
歴史的に、中国人は個人に特有の名として姓(氏)と諱(名)と字の3要素を持った。
例えば諸葛亮は諸葛が姓、亮が諱であり、字を孔明という。
諱は軽々しく用いられることは忌避され(ために日本に入って「忌み名」と訓じられた)、
親や主君などの特定の目上の人物を除き、名で呼びかける事は極めて無礼な事とされていた。
そのため、普段使う呼び名として字が必要となり、通例成人した時につけられる。
ただし、官職に就いた場合は官職名で呼ぶことが優先された(諸葛亮なら「諸葛丞相」。丞相が官職名である)。
この場合、親しい間柄以外は、字で呼ぶことは諱ほどではないが、やはり無礼なこととされていた。
また、死後に諡を送られた場合は、諡が優先された(諸葛亮なら「諸葛武侯」。武侯は諡の忠武侯を略したもの)。
なんという為になる予備知識
投下ラッシュktkr!!
神々に感謝&GJです!!!!
ちなみに
>>537の「言盆」(漢字が変換出来ぬ…)
は「おくりな」です。
wktk
ちょっwwww 村山容疑者wwww
ヤベェwww
みんなGJ!
ってか自分でSS書いてて思ったんだが……
読むとき、誰の視点で書かれているSSが好き?
俺は狂う女の視点で、ゆっくりと思考がおかしくなっていくのが好き
基本は主人公視点で、たまに女の子視点が入るのが好きだな
ゆでれんの方ごっすんでしたー
パチュのとき壁コンであそこから1発で持ってかれるとは思わなかったぜ
ってものすごい誤爆だわ
ノントロみたいにずっと男性視点の話も好きだし、沃野みたいに毎回視点が代わるのも好きだ
548 :
名無しさん@ピンキー:2007/08/27(月) 21:16:42 ID:Iqopj6pS
ソ連軍の戦車はカッコイイよなドイツみたいにゴツゴツしてなくて
萌え萌えっす
549 :
名無しさん@ピンキー:2007/08/27(月) 21:17:35 ID:Iqopj6pS
フヒw誤爆w
(#^ω^)ビキビキ
ねえ
>>549 もしかして……浮気……してるの?
ねえ、答えてよ
ねえ!
>552 ノリ悪いなw
554 :
名無しさん@ピンキー:2007/08/27(月) 23:54:20 ID:Iqopj6pS
wktk
今日保管庫の作品読んでてふと思ったことだが
全体に幼馴染の登場率高いな。そして同時に失恋率も
そしてそのことを認めることができない幼馴染の子が惨劇をやらかして主人公が
身を挺してかばう→死ぬor一命を取り留める
っていうパターンが多いな
幼馴染(or姉・妹)は主人公への異常な執着の理由付けがやりやすいからね。
まあそれ以前に嫉妬というのは二人以上ヒロインがいて成り立つものだから、唐突に複数のヒロインが今までモテてなかった主人公に惚れるより幼馴染みを先に惚れさせておいた方が話も作りやすいんだろう
そして俺の大好物でもある
姉と幼馴染以外は余計なのだっっっっ
幼馴染と姉と妹の共通点はいつも主人公の傍に居て
ずっと、想っていたからね・・。
それがどこの馬の骨かわからない泥棒猫に奪われたら
ヤンデレや黒化するのは無理ないと思うんだが・・・・・
blood maryに続編があることを保管庫で今更ながら発見したので
どうでもいいと言われるかもしれないが記念ktkrしてみる
幼馴染スキーとしては悲しい限りだ…
祖母が孫を近所の女の子にとられて、女の子に嫉妬
これほど萎える話はない
>>565 16歳で、できちゃった結婚。
娘が初潮と同時に11〜13歳のときに幼なじみを逆レイプ。
孫が5歳ぐらいのときなら、30代前半でセーフだと思うが……
>>565 某巫女漫画の化け猫祖母ならば十分にバッチコイです
主人公の祖父と再婚した義理の幼祖母が未亡人になり、夫の面影を求めて主人公に…
でも身替わり感あふれてて萌えないな。
>>567 年齢の壁を妖怪属性で突破するのは、いい案だし萌えるな。
569 :
名無しさん@ピンキー:2007/08/28(火) 02:53:58 ID:AZXWy00z
い・・・・・いもうとは?
実は小さいころ妹は一度死の危険にさらされたが、一命を取り留めたはずだった
しかし実はそれは妖怪とか悪魔とか天使が乗り移ったのだったとかはどうだ?
というか姉は天使で妹は悪魔。
それで主人公の魂を巡って修羅場とか?
リアル修羅場は流石に無理だった
妄想に限るね
>>570 乗り移った時点で姉でも妹でも無いかと。
それなら先輩や後輩が天使と悪魔だった、とかでも代用できてしまうわけだし。
切なさ重視なら主人公を無自覚な悪魔憑きにすべし。
ハンター役に姉妹と幼馴染と泥棒猫を持って来て葛藤と格闘させればいい。
思い出を美しいままにしたい人とこれからを過ごしたい人とのぶつかりあい。
修羅場必至。
>>573 選ばれなかった女の子が
「彼は悪魔つきだから邪魔するやつも一緒に殺さないといけない」
とか言い出して選ばれた子もろとも殺される主人公が思い浮かんだ
ただ殺されてはこれまでと同じ。悪魔が憑いていると言うところがミソ。
選ばれなかった娘にこれまでの思い出を想起させたりして憎しみの種を蒔くのです。
そしてハンター同士「あの女が悪魔?」と互いに疑心暗鬼になり戦闘継続。
本当の悪魔の主人公とはギシアンをやらかす展開に。
もちろん悪魔バージョンで引っ掛けた娘がいるのはお約束。
救済? 4人の心を一つに合わせ! ・・・となると主人公が独占不可になるから困る。
投下します。
+ + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + +
「おう、アレクの兄ちゃんか。昨日はこっちが大分うるさかったが、上じゃ良く寝れたかい?」
「問題なく熟睡させてもらった。…しかし悲惨だな、これは」
「夜明け前にゃあらかた追い出したんだが、まあいつものことよ」
心身共に疲弊しきって泥の様に深く眠り、一晩明けた早朝。寝覚めも良く部屋から一階の酒場へ降り
ると、飲み過ぎてテーブルに突っ伏したまま眠っている数人の会員達のだらしない有様と、頭と胃が不
快感を伴う位まで室内に充満したアルコール臭。
私が部屋で寝入ってからも、宴はあのペースのまま夜通し行われていたようだ。
「ほれ、まずはそれで目ぇ覚ましな」
とりあえずカウンターに座ると、目の前に冷えた水の入ったグラスを置かれる。
「仕事の話や、商品の引渡しなんざも大抵はここでやるもんだから、下手すりゃ家よか入り浸ってる奴
もいるくらいだ。…朝メシはどうする? もうすぐに出るのかい」
「いや、向こうへ着くのは昼過ぎにしようと思う。軽めにパンとスープをくれ、この空気の中で朝から
重いメニューは到底行けそうもない」
あいよ、と応え、調理を始める亭主。
ここの連中で、デコーズの所と接点がある奴は誰だったか…。
グラスを手に持ち揺すりながら、伯爵低での自由を利かせる為の協力者を割り出していると、不意に
階段の方から足音がしてきた。目線をそちらへやると、そこには先程まで私のベッドでぐっすりと寝て
いた少女の姿。
「……」
「早いな、普通はまだ眠っていても良い時間だぞ」
ふるふる
睡眠はもういい、という意思表示だろうか。少女は例によって無言のまま首を横に振り、その度にボ
サついた髪がみっともなく揺れる。
………この不潔さは問題だな。服役中の囚人でも有るまいし。
変装というでもないのにも関わらず不衛生で汚れた格好は、私の持つ個人的な美意識に反する。昨日
は身体を軽く拭いて着替えさせるだけに留まったが、気力の回復した今、そのみすぼらしい姿を黙って
容認する訳には行かない。
「亭主、出来上がりを少し遅くする替わりに、料理は二人分を用意しておいてくれ。それと、浴場を借
りるが構わんな」
「……なるほどな。わかった、好きに使ってくれ」
材料庫に潜っていた亭主が顔を出し、事情を把握してから再び準備に戻る。朝から湯を沸かすのは流
石に無理なので水洗いになるが、それだけでも十分だろう。
「さあ、起きたのならさっさと身体を洗って汚れを落とすぞ。来い」
「……」
結論から言って、私が朝食を摂る事が出来たのは、それからたっぷり一時間強が経った後となった。
「ほおー、見違えたねえ。兄ちゃん、手先がえらい器用なんじゃねえのか」
浴場からようやく戻って来た私達、と言うか私の横に立つ少女を見て、亭主が驚嘆の声を上げる。
「まあ、一通りはな」
それもその筈、ついさっきまで煤けた顔に荒れ放題だった少女の肌は、念入りな水洗いによって年齢
相応の瑞々しさと色合いを取り戻していた。無造作に伸びた頭髪に至っては、鋏と櫛を用いて肩上まで
小洒落た感じに切り揃えて、鬱陶しい前髪も程々に処理し、今や完璧に別人の様子。
……張り切り過ぎた。
自らの手腕に惚れ惚れしながら、内心で呆れ声を出す。
と言うのも、最初はただ単純に汚れた部分を落としてやるだけのつもりだったのが、磨き、洗ってい
く内に、少女の他より優れた下地が見えてしまい、ついこちらも興が乗ってしまったのだ。
「さあ、メシの用意は出来てるぜ、嬢ちゃんも食いな。…しっかし、ははあ、オレの目もまだまだ節穴
だなこりゃ」
「……」
再びカウンターへと腰掛け、暖め直したスープとパンを食べる私と少女。
相変わらず着ているのは昨夜与えたシャツのままだが、これでそれなりの服装もさせてやれば、途端
に育ちの良いお嬢様が出来上がる。予想外に高かった完成度は、私の美意識をこの上なく満足させた。
くい、と服の袖が横から引っ張られる。
「どうした、お前は気に入らなかったか?」
ふるふるふる
「なまえ」
気持ち強めに首を横に振ってから、生地を掴む手を離さずそう言う。数秒考えて、私は浴場で少女と
交わしていた会話の内容を思い出した。
後の作業に集中してて、あまり気に留めていなかったからな…。
「どしたい、兄ちゃん」
「いや、こいつの名前をどうするかという話を、ついさっきしていてな」
親か身内によって、生まれ落ちて間も無く闘技場へ売り飛ばされていたのか。本人に名を聞いてみた
所、最初から自分は奴隷番号で呼ばれていたとの事。
「そうか、そういやそうだな。名前ねえ…」
空になった皿を順に片付けていきながら、宿の亭主がふむと得心した風に頷く。
呼び名が無ければ何かと不便だし、その意味では個人的にはいっそ番号のままでも構わないのだが、
自分から不要な悪印象を与えるのも馬鹿馬鹿しい。と言う訳で、こうして少女の名前を考えてやる事に
なったのだ。
時間もそう無くなってきているし、とっとと決めてしまおう。
「わかった、少し待っていろ」
「お?」
「……」
そう言い残して踵を返し、私は二階の自室へと足早に歩いた。ドアを開けて荷物から取り出したのは
、ジウ潜入に際して自分の装備にと持って来た武器。
……これか、運が良いな。
再び階段を渡って二人の元へ戻った私の右手には、鞘に納まった一振りの片手剣が握られていた。
「受け取れ、そして抜いてみろ」
「……」
それを手渡された少女は、しばしの逡巡の後、両手で柄と鞘とを持ち、ゆっくりと引き抜く。 横に
居た亭主が、その刀剣の正体に思い至り目を丸くした。
「おいおい、そりゃタルワールじゃねえか。あんたそんなもんを何処で…ってえか、ホイホイくれてや
っても良いのかよ」
「以前イストリアへ渡ったときに、仕事の報酬に貰い受けた物の一つだ。何、誰であれ優秀な使い手の
元にあれば、武器にとっても本望だろう」
現れたのは造形美と機能美とを兼ね備えた、木目の様に流麗な模様の浮かぶ反りが強い片刃の刀身。
闘技場にて彼女が使っていたシミターと概ね似た形状だが、こちらはよりしなやかさと強靭さを併せ持
つ非常に高品質な鋼の産物で、売る場所を考えればその辺の財宝にも勝る価値がある。
「前の物と扱い方は同じだし、重量もそう変わらん。どうだ、使えそうか?」
「……」
こくこく
「なら決まったな、タルワール。今日からそれがお前の名だ」
刃の模様をまじまじと見ていた少女、タルワールが、刀身を鞘に収めこちらへ振り向いた。
由来を知る者には些か違和感が残るものの、高級感のある響きは女性に付けるものとしても、あなが
ちずれたネーミングでも無い筈である。同じ剣でもカッツバルゲルやグレートソード等、聞くからに無
骨で男臭い感じのものよりは数段良いだろう。
と言うか、グレートソードに至ってはもはや人名にすら聞こえない。この場合はむしろ、トゥハンド
と呼ぶのが正しいのか、それともソードの部分を抜かすのが正しいのか。
いずれにしろ似た様なセンスだな。
「…タル、ワール」
「そうだ」
「……タルワール…」
何度もそう呟き、自らと同じ銘を冠した剣を胸に抱え込む。どうやら私の付けた名前は無事、彼女の
お気に召したらしい。
「良かったじゃねえか嬢ちゃん。そんな箔の付く名前もそうそうねえぜ」
「…うん…。ありがとう…アレク」
「手入れはしっかりするんだぞ、替えは用意してやれんからな」
「うん」
頷く顔は無表情のまま、しかし、こちらを見つめる瞳には微かにではあるが、ようやく感情の光が窺
えた。プレゼントが武器と言うのもなんだが、喜んでいるならそれに越した事は無い。
「命名はこれで済んだわけだが。ところで亭主、私が戻ってくるまでこいつを預かってはくれないか」
「ああ? 他の奴らもウチの宿に泊めるんだから、そりゃそうだろ」
「少し違う。あいつらは後でこちらの仲間と別行動を取ってここを離れるが、こっちは私が直接迎えに
来るまでだ」
不可解と言う風に首を傾げる亭主に、私は続けて説明をした。
実力はともかく、今の状態ではろくに指揮も下せん。
勧誘した他の剣士達は現場での経験も当然積んでいるので、ジウへ本格的な攻撃を行う際に、上官で
あるゴースの出す指示にも比較的スムーズに対応出来る。奇襲や撹乱を主とするゴースの部隊では、個
人の武力よりも、的確で迅速な情報伝達が重要なのだ。
そこへ行くとタルワールは単独行動の資質は優れているにしろ、集団行動の任務にはかなり不向きで
ある。何せ会話もはっきりと出来ない上、そもそも実地の経験が不足しているのだから、いきなり群れ
での精密さを求める場面へ放り込むのは妥当ではない。
素早い連携が取れず味方を危機へ追いやるとも知れぬし、最悪、敵に囲まれて孤立する恐れもある。
そうなってしまえば、何の為にここまで手を尽くして彼女を引き入れたか分かったものではない。
「一応の話だからな。私の仲間が連れて行くと言ったなら、その時は止めなくても良い。
まあ、見ればわかるがこの容姿だ。それまではせいぜいそっちで皿洗いなり給仕なりに使って、つい
でに言葉や簡単なマナーでも教えてやってくれ」
「注文が多いなオイ。人手は足りねえときもあるから、おれも助かりはするけどよ、大丈夫なのか?」
つい、と、話の中心たる少女を顎で指す亭主。当のタルワールは、またどうでも良さそうな表情へと
戻り、私の隣で食後のミルクを飲んでいる。
「大丈夫になる様に、頼んだぞ」
「おい本当かよ、参るぜ。ったく…しょうがねえな」
苦笑いを浮かべて大きく肩を落とす亭主に、感謝の意を込めた笑みを返す。
人物の貴賎は始めに容姿や職で見極められる事も多いが、必ずしも全てが受けた印象通りの性格であ
る事など、広い世の中では当然有り得ない話。彼等も人から悪徳と呼ばれる立場にあると言えど、一度
輪の中へと入れば、そこにあるのは普通の有り触れた仲間関係に過ぎないのだ。
「アレク、どこかへ行くの…?」
手からコップを置き、タルワールがふと私にそう尋ねると、こちらにしか見えない様に口笛を吹く真
似をする亭主。一瞬、投げ飛ばしてやりたい衝動に駆られたが、預かってもらう恩もあるのでこの場は
堪える事にする。
「仕事をしにな。その内お前にも手伝ってもらうから、それまでここで大人しくしていろ」
「いつ帰ってくるの?」
「正確にはわからん。一ヶ月で終わるか、それ以上になるとも…」
じ……
「それまで、アレクには会えない…?」
口調は平坦ながら、真剣な眼差しでこちらを見つめる灰色の瞳。
返事に対して間髪入れずに質問を続けるタルワールに、とうとう我慢出来なくなった亭主が、震えな
がらカウンターの裏へ沈んでいく。…この野郎。
「暇があればここにも寄る。必ず一回は様子を見に来るから、要らん心配をするな」
「ほんとう、に…?」
尚も注意深く聞き返す少女の頭を無造作に掴み、ぐしゃぐしゃと撫でて黙らせる。たかが子供の相手
如きで、何故に自分がこうも手を焼かねばならないのか、幼かった頃のユエを思い起こして無性に心が
空しくなってきた。
「良いか、三度は言わん。ちゃんと来てやるから、心配するな」
「……」
こくり
その言葉にようやく満足したのか、タルワールはそれ以上言葉を発する事なく、ただじっとしている
のみ。時計の時刻が差し迫っている中、これで私もやっと伯爵低へと向かう準備に移れるというもの。
頭の中で編み出した訪問先リストを反芻しながら支度を整え、少しの荷物を背負い出入り口に立つ。
「亭主、私はもう出る事にする。余裕はあまり無いが、道の途中で他の者にも声を掛けようと思う」
「こっちからも口利きはしておくぜ、安心しな」
「ああ、有難う。…ではな、行儀良くしているんだぞタルワール」
「……うん」
返答までのぎこちない間から察するに、どうやら自信はそれ程でも無い様子。無論、特に期待らしい
期待も抱いてはいない、言ったのはほんの気紛れである。
店の前まで見送る二人に小さく手を振り、私は酒場宿を後にした。
投下終了、今回はやや短めです。
ちなみにサンドロの例えに出てきたカッツバルケルの意味は
大体が「荒くれ者」「ならず者の剣」と言うそうです。
武器名か…大刀でシャムシールでも…と言うのは我儘なので言わない。
投下、お疲れさま。国関係の勢力図を練るのが大変そうだが頑張って。
楽勝にしても興醒めだし、人材が居るから苦戦ぐらいが丁度いいか、な?
gj
GJ!
たるわーるかわいいよたるわーる
また新たなる姫がww
GJっ
てか、この時間に投稿ってニートさんなんですね
gj
>>582 投下GJです!!
しかし、これで本格的に新たな嫉妬の芽が出ましたなw
次回からのサンドロの活躍に期待。
それにしてもタルワールが可愛い・・・
>>582 GJ!!!!!
主人公修羅場の種蒔き過ぎwww
GJ!!!!どこまで依存させるんだサンドロー!!
タルワールかわいいよタルワール!!サンドロかっこいいよサンドロ!!
きっといずれは「修羅場王」サンドロ!!
うはwwwwwwwwwwwwwwwwww
>>593 ナウマクサンマンダボダナン・アビラウンケン・ソワカ
修羅場魔破拳
タルワールは十代半ばということは15〜17ぐらい?
名前的には最終的に東の果てまで征服しようとして途中で無念の病死を遂げそうな感じだけど。
>>582 なんという主人公…
いいぞ、もっとやれ!!
>>598 いいや最後にはハーレムを作るね。ただし他の女は近づこうとした瞬間消される。武闘派と魔女だし。
>>595 そりゃ修羅王だ。
……今“修羅王”と言えば、スパロボを思い浮かべる人間の方が多いんだろうなあ。
ほんのついこの前まで「COMPACT3? そんなの出てたっけ?」とか言われてたのに。
では投下致します
第10話『絶望』
幼馴染の更紗と刹那がやってきてから2日目の夜。
俺は桜荘の住民に呼び出されていた。
先程の夕食は雪菜や美耶子が嫉妬して俺の隣の席を独占する暴挙に出たおかげで、
二人の幼馴染から冷たい視線を浴びられていた。夕食を食べた気が全くしなかった。
その夕食を食べ終えてから憩いの場を離れた時に……安曇さんが幼馴染たちや桜荘の住民には気付かれずに
指定した時間にその場所に来てくださいと言われた。
桜荘の住民の中で最も良識のある人間(個人的な妄想で)安曇さんの呼び出しとなれば、俺に拒否権はない。
ちゃんとした時間厳守で桜荘の名物である庭に建てられた大きな桜の木の前に向うために歩いていた。
夜に見る桜と昼頃に見る桜とでは全く印象や雰囲気も違っている。
夜桜は月の光に照らされて幻想的な雰囲気を漂わせている。
そこで待ち合わせている安曇さんもいつもとは違う顔があった。
「あっ。深山さん来てくれたんですね」
舞い散る桜の花びらが安曇さんの着ている服に少しだけ積もるように付いていた。
散り行く桜の運命を象徴する現象に名残惜しく思える。
彼女は俺がやってくると笑顔を浮かべて、明るく迎えてきた。
「安曇さんの呼び出しを華麗にスルーしたら後が恐いしな」
「むっ。酷いことを言ったらダメですよ。女の子は何気ない一言でも簡単に傷つくんだからね」
「で、肝心な用件は何なんだ? こんな場所にまで呼び出して」
本来なら何でもない用件なら安曇さんの部屋で話を聞けばいいのだ。
だが、あえて彼女は桜の木の前に呼び出しをしている。
更に更紗や刹那の幼馴染たちや桜荘の住民には気付かれずに来て欲しいと言えば、大切な話なのは明らかである。
「白鳥更紗さん。進藤刹那さん。深山さんの幼馴染の二人についてです」
「更紗と刹那がどうしたって言うんだ?」
「私もこの桜荘に来る前にそうだったのですが……二人とも絶望している。
少なくても、明日に希望を持つことができない。そんな寂しげな子犬のような目をしています」
「……!?」
「深山さんと更紗さんと刹那さんの間に一体何があったのかはわかりませんが。
同じく、世界から絶望していた頃があった私にとっては他人事だと思えなかったんです。
誰も信じられずに家族の温もり、仲間の大切さを知らず。
常に自分だけが不幸で孤独だと思い込んで。
差し伸ばされた手を拒んだ愚かな私まで助けてくれた深山さんの想いのおかげで今の私がいるから」
安曇真穂。
俺と同時期に大学に通うための下宿場所として桜荘に入居。
その頃の安曇さんは桜荘の唯一の良識のある人間ではなくて……物凄く荒れていた。
人と人の関わり全てを否定して、信じられるのは自分だけだと。
人を寄せ付けぬ雰囲気を漂わせていた。桜荘の憩いの場として料理を奮うまでにはいろんな出来事があったが。
彼女は自分の力だけではなくて、桜荘の住民の助けや励ましで絶望から立ち直った。
少なくても、今の安曇さんがいるのは俺の想いだけではなくて……桜荘という居場所があるおかげであろう。
「だから、更紗さんや刹那さんには立ち直って欲しいんです。
私はかつての自分と同じ空気を持った人間を見ただけで……支えになってあげたいと思いました。
世界は優しくて厳しいけれど、そんなに絶望するだけの世界じゃあないと教えてあげたい」
「安曇さん……」
「それに誰かに奉仕させられるだけのために奮った料理の腕よりも、
皆を笑顔にするための料理の作り方を桜荘で学びましたからね。これからは大変ですよ。
7人分の料理の支度をしなくちゃだめなんですから」
「いつも美味しい食事を作ってくれてありがとうな」
「えへへ。もう、深山さんったら誉めて何も出ませんからね」
安曇さんの顔色は朱に染まり、嬉しそうに微笑を浮かべた。
彼女にとっては誰かに強制的に奉仕させられるのは已むべきことであり、
祝辞の言葉を語る人間は桜荘に来るまで言われたこともなかったのだ。
「後、もう一つだけ。更紗さんと刹那さんが桜荘にやってきたおかげで。
ようやく、私は深山さんも絶望している事に気が付きました」
「俺が絶望?」
「はい。そうです。深山さんも桜荘に来る1年前は私と同じように落ち込んでいましたよね?
この1年間でいろんな出来事があって、深山さんは立ち直っていたと思っていました。
でも、違ったんですね」
「……」
安曇さんの指摘に俺は返す言葉が見つからなかった。
そう、1年前以上に起きた悲劇は今も悪夢として何度も再現され俺を苦しみ続けている。
「だって、いつもの深山さんは笑っているのに。
あの子たちが来てから、深山さんが滅多に笑うことがなくなったんですよ。
食卓にいる時は更紗さんや刹那さんの方を見る度に辛そうな表情を浮かべてる」
「そこまで注意深く観察されているとこちらとしては恥ずかしいわけだが」
「だって、深山さんの視線を無意識に追っているんだから。誰でも深山さんが本来の調子とは違うって気付きますよ。
それに……いつも……なた……ことを……見て……から」
安曇さんは顔を下に向けて、表情を悟らせないように髪で隠して、耳まで真っ赤に染まる程に顔色を紅潮させていた。
最後の一部分だけは小声で聞き取ることができなかった。
新手の病気じゃないのかと思うほど、桜荘の女の子の赤面率は高い。
女心というのは理解しがたい物があるな。
「確かに更紗と刹那の事に関しては過去にいろんな事があったりしたけど……」
幼馴染の告白を断ったあの時から失ってしまった大切な絆。
粉々に壊してしまったことを後悔して泣き続けた。
臆病な自分は故郷から遠い地にまで逃げた。
だが、逃げた場所が悪かったのだ。桜荘の暮らしが自分を変えてしまった。
この家族と呼べる仲間達の出会いは俺の荒んでいた心の色を塗り替えたのだ。
だから……。
「どうにかなると思うよ」
何の根拠もなかったわけだが、自然と胸の奥深くから自信というものが沸いてくる。
「その意気ですよ深山さん。さてと無事に背中を押す役を全うしたので。私はお風呂にでも行ってくるとしましょうか」
「ありがとう。安曇さん」
去って行く小さな背中を見送った後にもう一度だけ俺は誰にも聞こえない声で安曇さんにお礼の言葉を呟いた。
更紗と刹那が桜荘に馴染んできた頃。桜は間もなく枯れ落ちようとしていた。
投下終了です。
今回はちょっと短いです。
しかし、今書いている本編はキャラクター人数が
多いおかげで書く量が増えたせいなのか。
全く、終りが見えない状況です。
一応、頑張って完結させますが
次回作品の妄想が止まらないw
GJ!!!
次回作もwktkして待ってます!
ggggggggggg
jjjjjjjjjjj
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
とりあえず、散る言葉に涙w
:::::::::::::::::::::::::::::::: : :: :: : ::: : : ヽマジデ〜? i
::::::::::::::::::::::: : : : :: ヽ ウッソ〜 チョーウケルー
:::::::::::::::::: : : : _ \ , -ヘ、 ,'´/二、ヽ
:::::: ::: : : : :'´ ,、 ヽ 〃,'´  ̄`ヽ |!'i⌒j゙リ! ,r'´
::::: : : :: : リノソノ )) i \ イi i レリハレハll ‘∀ノ)((ゾ'リ
: : : : : .|l、.・,,|l i ル从リ^∀ノリ )允iつ ゝ^ワ
___ l⌒i⌒⊂)リ___ ヽ _ く)允iつ | |j〉 ∩i允(
⌒'⌒ / \ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
__ _____/|| ||\________
_|||_____||/|| ||\||_____|||__
||| し し .|| || || || |||
「何か嬉しそうだね」
「いえ、ずっとお昼休みだったらいいのになーって」
「……言葉?」
「なんでもないです、忘れてください」
_ <
'´/ ,、ヽ ,''´ '`´ ゙ヾ ?
i (ノノ"))i "リノソヾ、 ル
li l| "ヮノl| i、ー゚ i)v゙
┌ リ./)允i ゝ─── /f~Y~jヽ──┐
├((゙く/_lj〉))───U!_ハ__lソ.──┤
│ しじ r_イ__f │
↑を見るだけで涙が・・・・
611 :
名無しさん@ピンキー:2007/08/29(水) 10:47:54 ID:LUeAOmgB
ここまで鬱な展開にしたんだ。ちゃんとこのクズ共を全員皆殺しにするんだろうか心配だ。
ここまでやって報復は世界か誠をぶっ殺しただけですなんてそれこそ鬱だ。
言葉は何も悪くないのにな…
昨日のラストのあのシーンってやっぱりもうレイパーにやられちまったんだろうか…
よりによってそのルートかよw
ひでえwww
>>613 深夜放送とはいえ放送していいのか?
地方が違うからまだ見てないけど鋸の可能性ある?
本スレ行こうな^^
むしろ、言葉様のようなヒロインを量産するためにこのスレはあるんだから
作者の執筆の励ましになるだろw
俺は世界タイプのほうが好きだな
久しぶりにまとめサイトのSSを読み直したんだけど、
>>1にある可愛いラブコメチックなヤキモチものって無いよな。
自分で書けばいいじゃない
まーかわいいヤキモチで書くと、どうしてもネタになりやすいが、ネタならこのスレの場合激しい嫉妬になりやすいからな
最近だと「キモウトなんてでないが穴を掘る話」あたりがそうだな
俺的にはヤキモチは、どっちかといえばハーレムすれ向きだと思うが…
幼馴染の嫉妬、姉の嫉妬、妹の嫉妬、同級生の嫉妬、ストーカーの嫉妬
どれが素晴らしいかと言うと
俺は黒化してくれるなら誰でもいい
ハーレム系の話と嫉妬スレのSSって人数とかは同じで仲良しかバトルかみたいな違いくらいだものね
あーあとBloody Maryのように、最後ハーレムエンドでも途中で修羅場るのもあるしな
あーそういえばかわいいヤキモチといえば、なんか獣少女がでるSSあったよな?
PETなんたらとかいうやつ
しかし、このスレも二週間ほどで凄い勢いで進んだな。昔の活気が戻ったかのようだ。
これもひとえに、神作品を投下してくれた神々のおかげだよ。
投下します。
+ + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + +
オォォォォォォォォォォォォオ
「そうだ、このまま押し切れぇぇ!」
「くぁぁ……っ!?」
「何のこれしき! おい、各地の警備を早く回すんだ!!」
「現在召集を掛けておりますが、そこにも反乱軍が!」
「止まるな! 突き進むんだ!!」
槍を振るうジウ国の正規軍、それを迎え撃つ反乱軍に雇われの剣士達、ひたすら響き渡る怒号。
潜入から約二ヶ月。デコーズ邸付近の王都を始めとしたジウ本国領土は、伯爵が各地の貴族に声を掛
け集めた反乱軍と、その目と鼻の先にある王城からやって来た討伐軍とによって、今まさに激しい戦闘
の最中にあった。
争いの理由は単純で、暗示とそれを使いこなす巧みな話術により次々と国内での勢いを強めていった
デコーズに対し、王は呼び出しをしてこれ以上の増長を止めさせようとする。が、デコース伯爵はそれ
に面従腹背の構えを取り続けていた。
王は圧政に伴う権利欲求のみに醜く固執して、徒に国の治安を悪化させる暴君。今もう一歩という所
まで進んだ、ジウの特性を最大限に引き出す自らの理想の実現化に際し、最も邪魔な存在である。
既に多大な国内で権限を持つデコーズは、これを出世街道における最後の踏み台と考え、甘い汁を吸
うだけで自分に従う気の無い古参達をも纏めて一掃するべく、長らく企て続けていたクーデターをつい
に実行したのだ。
「老いぼれ共の時代はここまでだ、我々が真のジウを完成させる!!」
「「うぉぉぉぉぉぉぉぉお!!」」
本陣である伯爵邸にて、檄を飛ばし味方を鼓舞するデコーズ。互いの喉元が至近距離にあるこの戦い
、先手を打って一時的に主導権を握っているものの、数で勝る相手との戦力差は五分。
ここから僅かでも流れが不利な方向へ傾けば、反乱軍の敗北は必至。それ故、戦闘の最前線である王
都は、序盤からまさしく阿鼻叫喚の様相を呈していた。
王率いる主力との分断を図れればと思っていたが、まさかデコーズが既にここまで単独で手を回して
いたとはな。
「なっ、貴様いった」
ザシュッ
その最前線。市民達の大半から協力を得て、反乱軍は地形の援護を活かした急襲や不意打ちを繰り返
している中、私も今、兵士の首をまた一つ切り落とす。
全ての国民を対象とした恐怖政治を旨とする国王とは比較的異なり、伯爵が掲げたのは下級市民達に
対してもある程度の権利と自由を与えるという公約。実際は奴隷制度の劇的な撤回が成される訳では無
いが、両者の争いが起きた今、少しでも自分達に利益の保証がある方へと市民は従うもの。
見所のある奴だ。
暗示の強制力はあくまで補助的なもの、例え魔力が無かろうと、この男はいずれ同じ道程を辿ってい
たに違いない。キルキアへ渡り魔法を習得する前の自分と、どこかしら通ずるものがある。
ただの奴隷産地と歓楽国としてではなく、ゆくゆくは他の近い分野への発展を促し大国を目指さんと
する姿勢に、私は統治者たるに相応しい才覚を見た。
「「ワァァァァァァァ」」
しかし、と、周囲を見渡す。
国王側もいよいよ手段を選ばなくなったか、街のあちらこちらから火の手が回り始め、堪らず市民達
が家を捨てて安全な場所を求め逃げて行く。
…この状況下、未だ王城を制圧出来ていないとなると、戦運びの方はそう上手くないか。
何せ拠点の位置が位置なだけに、仕掛けるからには一瞬で勝負を付けなければならないこの作戦。協
力者達への根回しは及第点だったのだが、戦い始めてからどうにもテンポが悪い。
同じ条件で私が指揮を執るならば、既に国王の首級を揚げていても良さそうな時間。ところが、反乱
軍は市街地の協力を得られなくなる中、徐々に敵との兵力差が効き始め、今や侵攻のペースが停滞して
しまっている。
もっとも、本人にして見れば些か予想外の展開になるからな。不意のアクシデントに対する対処がな
っていないとも取れる。
「死ねぇい、反逆者共めっ!」
「手こずらせやがって! この!!」
ドスッ、ドスッ!
「ぐふっ……む、無念…」
追い詰められた何人かの反乱軍兵士が、騎兵隊の槍に貫かれて無残に命を散らした。
「絶対に退くな! 押し返されたら全員死ぬぞ!!」
「ち、畜生! なんだってこんなことに…城へ行った奴らはどうしたんだよぉ!?」
少しづつ不利になっていく戦場に絶望しながら、兵士の一人がそんな事を叫ぶ。問いに応える声は無
く、代わりに鋭い刃が彼を襲った。
今回のクーデターにおいて先手必勝を期すべく、王の首を求め城へと先駆けて行った反乱軍の突撃部
隊。デコーズが自ら選び抜いた精鋭のみで編成され、おそらくはその第一矢で鮮やかに勝利を手にする
筈だった男達。
彼等の死を覚悟した奇襲攻撃は、彼我の距離を考えても非常に有効な戦法であり、あの伯爵が満を持
して行うだけあって、王城へと侵入する経路の確保や隙を作る為の陽動等、事を成す為に必要な準備も
万全である。
しかし、それにも拘らず決死隊の急襲は直前で失敗。城内を混乱させて一時的に戦の主導権を握った
ものの、目的である国王の命をその場で奪う事は出来なかった。
「態勢は立て直った、ここからが我らの反撃だぞ!」
「そらそら! さっきまでの勢いはどうした!!」
さて、では何故それ程に念入りな手順を踏んで行った奇襲は不発に終わったのか。
ズシャ、ドスッ
「げはぁ!?」
「くぅぅぅ、そんなバカな…」
「国王様に逆らおうとする不逞の輩共めが、成敗してくれる!」
簡単な話である。選抜隊に入った私が、直前にその内容を向こうへ知らせたからだ。
兵が殺到する城内を抜け出すのは少々骨を折ったが、お蔭で戦況は良い具合になっているな…。
他の指揮官もそれなりに頑張ってはいるが、軍人はまだしも傭兵達は士気の低下が見られる。逆に国
王軍は調子に乗り始め、双方の均衡が崩れるのも間も無くだろう、中には早速引き返す者までもが現れ
始めたのを、私は王城付近の衛兵に紛れて眺めていた。
……そろそろか。
黙っていても成功していただろう、デコーズ伯爵のクーデター。しかし、その結果が圧勝ではこちら
に然したる利益が生まれず、反乱軍がそのまま新しいジウの正規軍に取って代わるのみ。
ならばここは、敢えて妨害による混戦化で互いの被害を増やし、ひいては反乱軍の総大将であるデコ
ーズを危機に追いやる。やり過ぎれば即敗北してしまうので、場面を見ては王国軍に対してもゴース隊
と闇商達の手を借り、秘密裏に撹乱や足止めといった時間稼ぎをした。
「はーっはっは! 国王陛下万歳!!」
「虫けらが、どけどけぇ!!」
「くそっ、もう駄目なのか……!」
そして、王国軍がいよいよ反乱軍を圧倒し出した今この時こそ、
「第一陣用意…てぇーー!!」
ヒュンヒュンヒュンヒュン!
「ぐぁっ」
「な、なんだ、横から…ぅぐ!?」
「! ジウの旗ではないぞ、…あれは一体どこの軍だ!?」
来たな。……良いタイミングだ、ユエ。
「第二陣用意…てぇーー!!」
突如として横合いから放たれた矢の雨によって、次々と倒れていく王国軍。その光景にしばし呆然と
していた兵士達が、飛んで来た方向へと視線をやる。
「しかと聞きなさい皆の衆、我が名は比良坂国が女王比良坂夕重! これより、貴方達を残らず冥土へ
案内する者です!!」
「第三陣用意…てぇーー!!」
ヒュンヒュンヒュンヒュン!
「なにぃ!? く、ぬぁっ!」
「ヒラサカ軍だと? 最近こっちへ攻め込んで来た奴らが、いつの間に…ちぃ!! この大事な時に、
植民地の連中は何をしていたんだ!?」
「前線部隊、ほぼ壊滅です! 隊長、ここは一旦…ぅっ!!」
王国軍が慌てて周囲へ展開しようとするも、間断無く撃ち込まれる矢をもろに受け、全く対応出来な
いまま一掃されていく。
「今だ、敵は浮き足立っているぞ! 全軍突撃ぃーー!!」
「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお」」
「くそくそくそっ!! ぐぁぁぁぁぁ!!」
弓兵隊による三段構えの斉射を浴びせ掛けた直後、突撃槍を構えた部隊を率いて、今度は別の指揮官
が高々と号令を上げ、黒い甲冑を身に纏ったヒラサカ兵達が雄叫びを伴って敵陣へ殺到する。
「第一軍団は敵の殲滅、第二軍団は援護射撃、及び街の消火と市民の救助を!」
「はっ!!」
クーデターが起きる少し前、事が発覚するのはほぼ同時という絶妙のタイミングで攻め込んで来たヒ
ラサカ軍。大将に戦術と知略の女王ユエを置き、障害物である小国植民地を迅雷の如く突き抜け、この
地へ馳せ参じた兵およそ総力の七割。
それでも数では敵軍に劣れど、向こうは未だ各地へ分散している上、個の質でこちらが勝っているの
は明らかである。列島制覇を成し遂げた者達から代表して来た歴戦の兵は、リザニアの正規軍が相手と
しても、決して遅れを取りはしない。
「守れぇ! 城だけは何としてでも死守するの…げふっ!!」
「どうした、ジウとはこの程度か!」
「我らの実力、とくと思い知らせてやれっ!!」
デコーズ本人のみの力で王都を制圧し、ジウの全権を取らせるのではない。両者の疲弊した横からヒ
ラサカ軍が漁夫の利を得てジウを占拠、その後の国王の後釜として、こちらが主導する形でデコーズを
据えてやるのだ。
あの伯爵は、有能であるが故にただで従う性質の男ではない。だからこそ、ここで必要なのが絶対に
こちらへ従わざるを得ないだけの理由となる。
当初の目安より好機へ傾いていた本国の情勢において、この方法こそがヒラサカにとっての最善手。
滞在していた伯爵邸でその筋書きが見えた瞬間、私はすぐにゴースへ合図を送った。
結果は見ての通り。市街地の被害だけがネックとなったものの、これ以上無いと言える程見事に連中
を手玉に取る事が出来たと言えよう。
さて、一つ大きな恩を売りに行くか。
残るは詰めの一手のみ。見知らぬ新手の敵を迎え撃たんと、血相を変えて飛び出していく残留兵達に
逆行し、私は踵を返して手薄となった城内へ再び駆けて行く。
案の定、ジウ城内は殆ど空と言っても差し支えない位に兵が出払っていた。
「ええい、…邪魔なデコーズの奴めをこれでようやく排除してやれると思ったら、今度はどこの国とも
知れぬ軍勢だと…? 冗談ではないっ! わしの、わしのだ…この国は土地から民まで、全部わしだけ
の物……! だれだ! 今入って来たのは誰だ、答えい!! くそぅ、番兵はどうしたぁ!!」
「陛下、お下がり下さい! ここは我らが食い止めます!」
申し訳程度に残った兵士達を切り伏せて玉座に向かえば、そこには半狂乱となっている一人の肥え太
った男が居た。側近に言われ城の奥へと逃げようとしているあの者こそが、ジウの国王でまず間違いは
ないだろう。
「これまで散々贅を尽くしてきたのだ、死んだとて一片の悔いも有るまい、愚かな王よ。お前の最後の
役目として、ここで私の糧となるがいい」
「黙れ! 陛下を愚弄するその口、この場で叩き切ってくれる!! ……陛下!? いつまで呆けてお
られるのです! 早くお逃げ下さ」
ザシュッ
言葉は最後まで紡がれる事なく、鮮やかな一刀のもとに盛大な血飛沫を上げ側近の首が飛んだ。相手
の気を逸らす口上を述べていた私は、その様子を少し離れた位置からただ見ていただけに過ぎない。
すたすたと、今し方切り落としたばかりの首を拾いに行く人影。その腕には、既にジウ王の首が抱え
られていた。
「良くやった、タルワール。そっちの首は必要無い、行くぞ」
「…うん」
たったった
片手でどう持つか考えた末、髪を掴もうと屈み掛けていた少女、タルワールが、側近の生首から離れ
てこちらへ駆け寄って来る。国王の首を抱えている腕と反対の手には、木目模様の浮かんだ美しい剣が
しっかりと握られていた。
「……」
じ……
半歩前に出てから駆け足を止め、歩く速度を同じくしたタルワールは何も語らず、その瞳だけがずっ
とこちらに向いている。ユエやアリア、リィス隊長辺りもさり気ない風を装って時折送ってくる、所謂
”もっと褒めて”と言うニュアンスの込められた目線。
「ああ、偉い偉い。頑張ったな」
くしゃくしゃ
小さく溜息を吐きながら、前を行く小さな頭を掴んで数回撫でてやった。終結間近とは言え、戦闘中
にそんな要求をするのも考え物だが、今回は一応初めての手柄と言う事で大目に見ておこう。
「…ん」
変化に乏しい表情からは中々読み取り難いものの、漏れた吐息には微かな満足と喜色が窺えた。妙に
懐かれてしまった感が否めないが、この程度の褒美で済むのならば全く拾い得なものである。
何よりあの戦闘力、…連れて来させて正解だったな。
城内潜入の特攻任務を失敗させた後、ゴース隊とは別に単独で戦闘妨害を続ける私のサポート役とし
て、例の宿から所定の位置へと闇商に頼みタルワールを待機させていたのだ。国王軍と反乱軍の撹乱を
する傍らに、留守になりがちな背後を周囲の敵から守らせるだけでも、役割を分担する事によってこち
らの仕事が大分やり易くなった。
ウォレスを始めとする他の剣闘士達の力量は並の兵士を凌ぐが、タルワールは護衛としてなら彼等が
三、四人集まるより役に立つ。ゴースは戦闘も然る事ながら情報収集等の技術が飛び抜けているので、
必然的に別行動での補佐役となってしまう為、彼女こそが私のもう一本の護身刀として、常に手元へ置
いて刃を光らせる事になるだろう。
「おお、殿! ご無事でしたか!」
城の裏口を出た所で、おそらく列島からの古参であろうヒラサカ兵と鉢合わせる。最初に私へ焦点を
当てていた視線が、背後で抜き身の剣を持つタルワールへと移った途端ぎょっとした。
「安心しろ、私の護衛だ。ところで、ここまでヒラサカの兵が居ると言う事は、既に王都の敵は粗方始
末が付いたのか?」
「はっ、後はジウ王を討ち取りこの城に我らの旗を上げるのみです!」
「そうか、……タルワール」
姿勢を正した兵士の戦況報告を聞き終えると、私は後ろに立ち止まっている少女から国王の生首を寄
越す様に手招きし、それをおもむろに男の方へ見せてやった。
「これは、…まさか!」
「一番乗りの褒美だ、お前が今からこれを持って戦を終わらせてこい。私は別の用があるんでな」
「は、ははっ! 有り難き幸せ!!」
困惑から驚愕、次いで興奮と歓喜へと変わる表情。王の首を受け取った兵士は大きく頭を下げると、
喜び勇んで来た道を戻って行った。
まあ、とりあえずはこんなものだろう。
あれも大事な交渉材料の一つには違いなく、自分で持って行っても別段構いはしないのだが、私が大
将首を取ったところでこれ以上出世する訳でもない。むしろ、これからユエに戦後交渉を頼む相手であ
るデコーズに私とヒラサカの関係を知られては困るので、あの兵士も丁度良い所に現れたと言える。
後はヒラサカ本陣まで行き、ユエに詳しい経緯と、デコーズを含めた反乱軍の処分について伝えるだ
けか。
念の為、暗示の簡単な対処法も教えておいた方が良いだろう。この状況では幾ら魔力の補助を得た話
術を用いたとて効きはしないだろうが、土壇場で事態がまずい方向へ転んでしまっては面白くない。
以降の直接交渉は自分でするつもりだが、顔を知られている以上、最初にこちらへ引き込むには別の
人間が相手をする必要がある。奴にタネ明かしをしてやるのは、そうしてヒラサカへの逃げ道を全て塞
ぎ、私を裏切れなくなってからだ。
「お前を連れて、脅しの種にしてやるのも悪くないな」
「……?」
横に立つタルワールが、意味を量りかねて小首を傾げる。かつての闘技場の花形役者が自分の眼前に
得物を持って現れれば、果たしてあの伯爵はどのような反応を見せるだろうか。
あるいは、度胸試しをするには誂え向きかも知れん。
そんな事を考えながら、新たな二本目の懐刀を侍らせ、私はヒラサカ軍本陣へと足を進めて行った。
投下終了、とりあえずジウ攻略は今回で終了。
サンドロさんはいつにも増して外道っぷりを発揮してます。
こ、これはGJ
こんなに覇王なのに少女の「褒めて褒めて」を見過ごせないとか、完璧すぐるww
GJ!!
タルワールかわいいよタルワール
GJ!
たるわーるかわいいよたるわーる
GJ!
同じ男から見ても良い男はどうしてもてるのか納得できる
そして、そろそろ次スレだな。スレがたってから半月、皆殺しの異名は伊達じゃないな
640 :
名無しさん@ピンキー:2007/08/30(木) 01:01:13 ID:7UitgxTg
んで?
いつまでこの自演は続くの?
ヤキモチするなら可愛い感じで頼む
おおっ超GJですー
早く続き読みテェ・・・
タルワールとユエの絡みも早く見たいw
なんかもうみんなかあいいwwww
てか、次スレ・・立ててくれ
そこから埋めネタトークしようぜw
>>634 GJ!!!こんだけ外道なサンドロでも嫉妬女には苦手意識を隠せないんですよね(w
…刺されて死んじゃえ。
>>625 あー、俺アレ好きなんだよなぁ
短篇でも良いからもう一度書いてほしい
いつのまにか前スレがdat落ちな件
やばい気づいたことあるわ・・・・
俺前スレでも「前スレとうとうおちたな」とか言ってた記憶gじrhfgrごうえt
3ヶ月ぶりに会ったらもう新しい娘を手に入れてる上にこれからはいつでも一緒だと言い出すサンドロが今から楽しみな俺。
37スレは即死したわけでもないし、
このスレは実質38スレだったはずだけどな。
やっぱり、ここに来ると癒されるなぁ
>>651 スレ主は前スレに起きた騒動を知っているのか
忘れているのかは知らないが・・このスレ名なら誰だって38と思うだろうにw
本当は39で
次は40なのに
50になったら、TVアニメ化になるかもしれんなw
655 :
651:2007/08/30(木) 15:28:20 ID:aHB+OPCq
>>654 一応毎日見てるんで前スレの騒動も知ってます。
ただ、流れ的に37→37.5→38の方が混乱しないかな、と思ってスレ立てしました。
本当にすいません。
嫉妬した彼女は思いました
あの人が私の物にならないなら、彼と一緒に飛び降りれば・・・
もう、あの女は追ってこないように
こんなとこで宣伝するな
ちょっと買ってくる
>>659 OK、一つだけ教えてくれ。
その修羅場は、素晴らしいか?
一巻から読んだほうが良いかも
このスレの住人みたいな奴が出て来るしなw
m j d ?
購入決定
文学少女シリーズをamaで見たけど、表紙の絵柄も
柔らかい感じでいいね。
久しぶりにラノベ買う事になりそうだ。
文学少女は一巻から読んだほうがいいよ。
現行スレはこっちか。
一桁台のスレ読んでたら37までいっててびっくり。
670 :
名無しさん@ピンキー:2007/09/06(木) 22:55:22 ID:1NI4qBwT
アゲアゲ
まだこのスレは埋まらない・・・・・
|ω・`)埋めネタ用ってことで・・・
38スレなんかに七誌君は渡さないんだから!
このスレのヒロインは使用できる武器のレパートリーが広いな
素手や歯といった原始的なものから、彫刻刀や包丁といった日用品、剣やマスケット銃といった重武器まで何でもありだな
嫉妬の心があらゆる武器を装備可能にさせるんだな
流石修羅場ヒロイン
でも、歯を使ったヒロインっていたっけ?
>>675 当時はあんなに熱中して読んでたのにすっかり忘れてしまっていた・・・
もう一年経つのか・・・時間の流れは速いな・・・
とりあえず反省して七戦姫を全裸で待つぜ
でもその前にちょっくら食い殺されてくるノシ
>>673 そのうちF-14に乗って宇宙人を倒しにいく妹すら現れそうだな。
そういや毒殺って今までなくね?
確かにないなあ
地味だからその後修羅場に持っていきにくいんじゃね?
毒殺成功の時点でライバルが死んでるわけだし
>>677 保管庫の「曇天のち…」という作品を読んでみてください。
F-14どころかヒロインはF/A-18ホーネット使いです。
これまでにない戦闘方法か…そういや人型兵器(所謂巨大ロボット)ってあったっけ?
って、これ書いてて脳汁が出てプロットがひとつ出来上がったんですが、
擬人化&ロボット戦闘物って需要ありますかね?
擬人化&ロボット戦闘ものならないがそれぞれならある
擬人化は九十九の願いで、ロボット戦闘者はやんでれの保管庫にあったな
勘違いしてた
需要があるか・・・
とりあえず書き上げてupするんだ話はそれからだ
なぁ、女の子がサ
思いを寄せてる男の子が男友達と仲良くしてるのを嫉妬する、ってのは
あり?
ありじゃないか?男友達にも軽い嫉妬を覚える作品は何作かある。
深い嫉妬にしたいのなら、親しい人間全てに嫉妬するようにすれば違和感ないと思う。
37.5スレを見殺しにするなんて、絶対に許さないよ
ごめん
38スレが待ってるんだ
……じゃ
38 は 38 で危機的状況のようだが。
はっっっ!!
ともだおれで、ヤンデレまたはキモ姉妹が漁夫の、やっやめsauotekふじこ・・・
あ、まだ死んでなかったんですか。
先輩言ってましたよ、前の女が付き纏って気持ち悪いって。
だから綺麗な思い出になってもらおうと引導を渡してあげたのに、本当にしつこいですね。でも終わりです。
感謝してくださいよ?今のあなたの、顔以外埋められて、しかも汚い血泡まみれの姿を名無し先輩に見られずに済んだんですから。
じゃ、さよなら。
確認
なんかトリついてると期待してしまうじゃないか
こっちもまだチェックしている人が居るみたいなので埋めついでに投下いたします。
タイトルは 香水と機械油と忘恩の花 です。しばしお付き合いください。
『月側8時の方向、交戦距離突入!各機散開して迎撃!』
隊長代理の声に『了解』と通信を入れてペダルを踏み込みスティックを握り締める。
そして同時に音声入力でミサイルの射撃管制を起動させて…
「FOX2! …当たった、一機撃破!」
『管制よりBlack2へ、Black2ヒース准尉はSフィールドの増援に向かってください』
「Black2了解。これよりSフィールドへ向かう!」
ミサイルラックの残弾はあと13発。そして手持ちの100mm狙撃銃に固定武装の
腕部40mmバルカンこれが俺の相棒である人型機動兵器"ラナンキュラス"の装備だ。
俺の名はヒース。年齢は21、階級は地球軍准尉。
21XX年、地球は宇宙怪獣とでも呼ぶべき異形の怪物に襲われていた。
幸か不幸か第何次になるかわからない世界大戦で地球に残った国家は片手で
数えられるほどしかなくしかも強固な友好国だっため対宇宙怪獣の部隊創設や
各国の戦力の一本化はスムーズに至った。
そして地球を荒れさせないためにも戦場に宇宙を選び、かくしてこの俺も
宇宙で巨大ロボットを乗り回して化け物退治をしているということさ。
「Black2、Sフィールドに到着敵兵力多数確認これより戦闘に入る!」
この日俺は片腕を化け物にもぎ取られながらも、そいつに最後のミサイルを
ゼロ距離で叩き込んだところで戦闘が終わった。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「ヒースおつかれさま、ハイ、タオルとドリンク」
「おう、ミントかサンキュ」
整備兵のミント一等兵からタオルとドリンクを受け取り一息入れる。
ショートボブに眼鏡をかけた彼女は俺の機体の整備兵だ。
学徒兵で歳はまだ17才と聞いている。
序盤の劣勢を学徒兵と人型機動兵器の投入で五分五分に戻した地球だが、
最近また劣勢に転じ始めている。
なんとかしないと…
「ヒ、ヒース怖い顔して…も、もしかして今日の調整どこか悪かった?
やっぱりあたしの整備が下手だから片腕やられちゃったの?
ご、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいきらわないでごめ…」
「ち、違うよ、ミントの整備はどこも悪くないよ調子いいよ!
ちょっと考え事をしていただけさ」
虚ろな目をしながらブツブツと謝罪の言葉を呟くミントの肩を掴み目線を合わせる。
するとミントの顔に表情が戻ってきた。
「ほ、ほんとうに?」
「もちろんだとも。腕もちょっと敵に近づかれて格闘戦をするはめになっただけさ」
「良かった… ヒースが死んじゃったらあたし…」
「大丈夫さ、ミントを残してやられたりなんかしないよ俺は」
戦局が悪くなってきてからは補充されてくるのは学徒兵ばかりで、精神が戦場という
ものに慣れる前に壊れてしまうケースが多い。ミントもそうだ。
シェル・ショックに陥り、壊れて、死ぬ寸前に俺は人間として最低の事をして
ミントを踏み止まらせた。
今のところ俺がついているからあと一歩のところで踏み止まっているが…
「そうそう。ヒース准尉は私が守るから平気よ」
「え? あ…サイネリア少佐…」
振り向くとロングストレートの髪をなびかせながら歩いてくるのはサイネリア少佐。
俺たちの艦である軽巡洋艦"イラクサV"の僚艦である"イラクサW"の艦載機隊長だ。
士官学校主席卒業にして地球軍宇宙艦隊総参謀長の父親を持ち、地球でも屈指の
エレクトロニクス系会社の名誉会長の祖父を持つ絶世の美女。
どうも俺は彼女に惚れられたらしくことあるごとに転属を勧められていた。
「またですか少佐? 何度も言うように俺は"イラクサV"の艦載機乗りで…」
「ええ、だから私が"イラクサV"に転属したわ。"W"は丁度昇進した見込みのある
部下が居たからそいつに押し付けてね」
少佐は笑いながらとんでもないことを口にする。
確かに先週の戦闘で我が艦の艦載機隊長は負傷、後送されまだ補充が着ておらず
さっきの戦闘も副隊長が臨時に指揮をとっていたが。
少佐はそう言ってミントから俺を引き離して見せつけるように俺に抱きついた。
「しょ、少佐! やめてくださいって」
「い・や」
「ヒース、やっぱりあたしより少佐がいいの?
あたし少佐より背は低いし胸も小さいしあたしなんかあたしなんかあたしな…」
「ミント落ち着けっ! 少佐も勝ち誇ったように笑みを浮かべるのはやめてください」
「あ〜ら、誰だってこんな機械油臭い子供より、香水の香りのする大人ほうがいいはずよ?」
「そういうものではありません! 人前なんですから抱きつくのは」
「じゃあベッドの中でならいいのね? …ミント一等兵、その目はなぁに?
その目は上官反抗罪モノよ?」
ミントを見ると完全に瞳がイっちまってる。
やばい、ああなるとミントは…
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ヒース、ハァ、ハァ、ハァ、ヒース、ヒース、
ハァ、ヒース、ヒース、ヒース、ヒース、ヒース、ヒース、ヒース、
ヒース、ハァ、ヒースはあたしの、ヒースはあたしの、ハァ、ハァ、ヒース、
ヒースはあたしの、ヒースはあたしの、ヒースはあたしの、ヒースは…」
顔を真っ青にして過呼吸を起こしながらミントは腰に挿していた
マルチプルドライバー(サイズや+−を調律できるドライバー)を取り出して
形状を鋭い錐状の刃物へと調律させた。
やばい! こうなると血を見るかアレをしないとミントは戻らない!
ミントは凄い形相で、だけど美しい笑みを浮かべて、凶器と化したドライバーを
思いっきり振りかぶって突進してきた!
腕を首に回してしなだれかかっていた少佐を俺は突き飛ばすように放す!
「少佐、離れてっ!」
「ヒィィィィィスはぁァァぁ゛ァ゛あ゛たしのぉぉぉぉぉぉっっ!!!むぐっ!!」
ドライバーを持つ右手首を掴みながらもう片方の手でミントの頬を寄せて
その可憐な唇に俺の唇を無理矢理押し付ける。
「っ!!…っ!……っ……っっ………………っ…………………………っ……っ」
数秒か、数十秒か、自分でもよくわからないほどの時間が経つ。
足元にドライバーが力なく転がり落ちた音を聞いた俺は唇をそっと離した。
もうミントの過呼吸は収まっており表情も戻り、瞳にも光が満ちていた。
「ヒース………あ、あたし、ま、また……なんてことを………」
「いいんだ。なにも言わなくていい。
少佐、すみませんがミントには俺が居ないとダメなんです。
だから、俺には少佐の想いに応えることはできません」
「ヒ、ヒース准尉…そ、そんな…」
そして俺は失礼しますと言い残すとミントの手を取って自室へと向かって行った。
俺は、最低の、人間の、屑だ。
人型機動兵器のパイロットというのは一種のエリートで士官学校生の憧れの的だ。
卒業し初めて任された人型機動兵器と部下と言う名の専属の整備兵。
それに浮かれて、固執していた。
だからミントが精神が壊れそうになったときに恐怖した。
『この子が壊れたら俺は責任を取らされてパイロットを降ろされる』って。
今思えばそんなことあるわけがない、パイロットにだってシェル・ショックはあるし
こればっかりはどうしようもない。
違う艦に所属している士官学校の同期も何人か整備兵が壊れたが、補充が来ただけで
今でも――生き残っているやつは――人型機動兵器のパイロットを続けている。
そのときの俺は馬鹿で無知だった。だからミントを、俺に依存させた。
壊れかけた精神を俺という膠で繋ぎとめて、本来なら後方の安全な場所で
ゆっくりと療養しながら歳相応の人生を歩めたはずなのに、俺のせいで
壊れかけた精神で戦いを強要されている。
「すまないミント、俺のせいで…」
「なんで謝るのヒース? うふふ…あたし、幸せ」
今夜は一晩中ミントと居よう。そう考えていたからだ。
通路を曲がり見えなくなる直前、少佐が呟いていた言葉を聞き漏らしてしまったのは。
「あの女さえ死ねば、ヒースは私を………」
投下終了です。これもしかしてここじゃなくて依存スレ向き?
続きも考えてありますが、どうせ1レスもつかずに他の職人さんが
降臨して忘れ去られる運命なんで書きません。
どうしても続きが読みたいなんていう奇特なかたは、
☆印をクリックしながら"わっふるわっふる"と書(省略されました
何ていうか…構ってちゃんだな
構ってチャンはこのスレにはむかないよ。
依存スレでたっぷり可愛がって上げるからそっち行こう
ume
るのは少し待ってほしい
朝、太陽がのぼり晴天の一日を約束すると、七誌は思わずにはいられない。
こうして人間はまた、互いにつぶし合う天の財宝を手に入れたわけだ、と。
自分たち人間が奪い合わぬものは何一つない。富、健康、名声、楽しみ、情愛、そしてこの連中のように、罪の許しさえ。
目の前に並んでいる人間は様々だ。悲痛な面持ちの女性もいれば、飲んだくれて赤ら顔の中年もいる。あの老女のように、習慣で黙想会に参加した信徒。親の意志で洗礼を受けさせられたのだろう、何も知らない、きょろきょろとあたりを見回している少年。
こいつらは誰も彼もが七誌の憎む両親と同様に、神によって罪を許され、死後の幸福を得るために必要な『徳』とやらを貪り食うために集まっている。
熱心な信徒ほど性質の悪いものはない。無分別に神の愛を解き、他人にそれを強制して悦に入って、罪の意識という自虐的な快感に身もだえし恍惚の涙を流す信心家<ありがたや>は、自分だけでは済まさず周りの人間にも不幸を撒き散らす。
七誌の両親がそうだった。七誌が基督教徒になったのも、寺めぐりやお経を覚えるなどの、死んだら極楽浄土へいきたいという例の似非仏教徒特有の強欲さにうんざりしたからだった。
両親は年寄りだから仕方がないともいえるが、まだ若い七誌がもつ潔癖な正義感からどうもそれが好きになれなかったのだ。
しかし、七誌の嫌っていたそれは基督教の教会でも同様だった。
年老いた信者たちは涙を流し、子供たちは大人から聞かされる神の罰に恐れおののく。退廃的ではなかったが、辛気臭い、気味の悪い清浄さがこの地の教会に漂っていた。
葡萄酒の臭いが充満した暗い告解室で、その臭いの元となっている外人の老司祭に金網を隔てて跪く。
片手をあげながら事務的にラテン語の祈りを唱え終えると、老司祭は体を横に向けて七誌の告白をじっと静かに待っていた。
「私は……。」
七誌は言いかけて口をつぐんだ。たとえ宗教的な義務とはいえ、自分の罪をこの老人にさらけ出すことをためらった。
「早くしなさい。」
老司祭が促す。後が支えていると言外に示しているのだろう。次の人が待っている、早く私はこんな仕事を終わらせたい、だからさっさとしろ、と。
この葡萄酒くさい息を吐く神父を前にして、七誌の気持は楽になった。彼は役所の人間と一緒で、七誌のことなんかこれっぽっちも気にかけてはいない。だったら自分も事務的に罪を告白してやろうと七誌は思った。
「私は……。」
私は取り返しのつかない罪を犯しました。私は、一人の女を不幸にしたのです。
私と女は結婚の約束をしていました。女は私を愛し、私も女を愛して、男女の関係に、婚前交渉さえ行っていたのです。
その女は美奈子という名で、私の幼馴染でした。私と美奈子は同じ年に生まれ、共に幼い日々を過ごし、手をつないで学び舎へ通いました。
十二になるときにはもう、私たちは自分たちの恋に夢中になりました。私たちはお互い、福音書にある高価な真珠のように相手を想っていました。
それを手に入れるためならば、持ち物を残らず売り払おうと考えられるほど、私たちは互いに恋焦がれていたのです。
美奈子は物語が好きな娘でした。幼い頃から美奈子は私に物語を語り聞かせて、私もまた、彼女の語る恋物語にうっとりとして聞き入ったものです。
美奈子の空想のなかにいた少女たちは一途に男性を想い続けて、様々な困難を乗り越えたあげく、ついには想い人と結ばれるのでした。
私たちは彼女たちの物語を自分たちの将来に当てはめて、いつかきっとこの方々と同じように一緒になろうと指を切ったのです。
それは子供らしい、無知ゆえの純粋な恋でした。
そして、私たちお互い恋慕を抱いたまま成人しました。精神は依然幼いままでしたが、肉体は成熟しておりました。
ええ、その頃の私は異教徒でもありましたし、何ら罪も感じずに肉体関係を持ってしまっていたのです。
今思えば、私は彼女を本当には愛していなかったのかもしれません。幼い頃からの惰性で感じた思いを、メディアで嫌というほど垂れ流されている恋愛感情とやらに置き換えてしまったのかもしれないのです。
それというのも、成人してしばらく経ったある日に、私は他の女性に恋焦がれてしまったからです。
私が生来もつ浮気性からきたものではないと断言は出来ません。ですが、今の私が彼女を愛しているのかと聞かれたなら、胸を張って愛していると答えられます。
私が愛するその女性は、とある教会の娘でした。
成人してしばらく経ったある日、熱心な異教の信者である両親の偶像崇拝にうんざりした私は、その女性のいた教会にふらりと迷い込んだのです。
彼女は私の支離滅裂な打ち明け話に、嫌という顔一つせずに聞き入ってくれました。
その聖女の名は、美弥といいます。
宗教アレルギーとでもいうのでしょうか、その頃の私は自分の周りに広がっている信仰と名のつく全てのものに対して、大変な怒りを抱いていました。
私は彼女を罵倒したのかもしれません。両親に対する憤りから、彼女と彼女の主に向かって愚かな怒りをぶつけたのかもしれません。
ですが、美弥は私に一つも咎めの言葉をかけませんでした。彼女はじっとしたまま、私の罵詈雑言を全て受け止めてくれました。
そうしてあらかたの話を終えた私に、美弥は私のためになればと、一冊の聖書を差し出しました。
これをきっかけして主への信仰の道が開けたのですが、その過程は今語るべきことではありません。ともかく、美弥のおかげで私は救われたのです。
そうして基督教徒になった私は、毎日のように教会へ通い続けました。
美弥と共に祈り、主への愛に身を委ねるうち、私は彼女に恋慕の情を抱きました。
その感情は忌むべきものでありましょう。主に仕える聖女に、邪な想いを持ってしまったのですから。
ですが、私が彼女への秘めた愛を抱いたと同時に、美弥も私に同様の想いを感じていたのです。
私たちは互いに隠しあい、己の罪深さに涙を流しました。そうして悲しみに身を震わせる日々が続いたある晩、運命の皮肉とでもいいましょうか、私たちは互いの想いを知ってしまったのです。
十字架の前に跪いて主に私への恋慕を告白する美弥の姿に、耐えに耐えてずたずたに引き裂かれていた私の情愛はとうとう決壊しました。
私は叫び、美弥に想いを打ち明けました。二人は涙を流して抱き合い、主の眼前で接吻をかわしました。
はい。これは婚姻の儀でありましょう。秘蹟を授ける神父様はおられませんでしたが、私たちは将来を誓い合ったのです。
ですが、美弥と永遠の愛を誓った私には美奈子という恋人がいました。
私はそのことを美奈子には言い出せずにいました。美奈子は胆汁質で嫉妬深い女です。美弥とのことが知られれば、私はともかく、美弥の身にどのような報復が待ってるかわかりません。
美奈子の親はその土地の有力者でした。私は彼女の行使する権力によって、美弥が傷つけられることだけはどうしても避けたかったのです。
美奈子は学生時代にも、私に告白した女性に悪魔の所業とでもいえる振る舞いをしました。詳しいことは、私の口からは言えません。彼女たちの名誉に関わることですから。
結局、私と美弥がとった手段というのは、駆け落ちして私たちを知るものが誰もいないこの地に逃げ延びることでした。
美弥のご両親にはすまないと思いましたが、彼女と彼女の肉親の安全を護るにはそれしかなかったのです。
私たちは置手紙を一つ残して、住み慣れた故郷を後にしました。
今はようやく新しい生活も軌道に乗ってきたところです。風の噂ではまだ美奈子が私を探していると聞きましたが、私と美弥は幸福な日々を過ごしています。
しかし、愛のためといえば聞こえはいいでしょうが、美奈子を捨てて他の女に走ったのですから、私のしたことはれっきとした裏切り行為です。
一方的に婚姻の約束を破棄して他の女と逃げることは、許されざる悪行なのです。
私の罪とは、そうして美奈子という一人の女を不幸にしてしまったことです。私は不誠実な男として生きてきました。私は美奈子に対して罪を犯しました。
私は懺悔します、神父さま。
「我々の罪をすべて背負って、彼は死んだのですから……。」
事務的な口調のまま簡単な訓戒と簡単な償いを命じると、外人司祭はまた片手をあげてラテン語の祈りを唱えた。
安心して行きなさいと面倒臭そうに促され、七誌は立ち上がって葡萄酒臭い告解室を出る。
罪は許された。跪いた膝が少し痛むが、とにかく彼の罪は許されたのだ。この告解で、七誌の心の底に淀み、留まり続けていた美奈子への感傷は完全に埋まった。
「さて、注文していた指輪をとりに行こう。」
クリスマスが近い。七誌は晴れやかな気分のまま辛気臭い教会を後にした。家では美弥が彼の帰りを待っている。
以上、埋めネタです。
37.5(みなこ)と38(みや)かよwwww
最後に気付いて噴いたぜ
>>703 >「我々の罪をすべて背負って、彼は死んだのですから……。」
彼?
>>704 GJだぜ!なんか、このあと、見えないところでいろいろ起こってそうだが・・・
美奈子視点も見てみたいな|ω・`)
>>694 俺のような依存スキーとしてはGJとしか言えない!
>>706 よく知らないけど懺悔の時に言う決まった台詞なんじゃないか?
37.5さんと38さん
俺は最後までッ
気づかなかったッ
まだ・・・まだ死ねないのよ・・・あの女を殺すまでは・・・
私は死のうと思っていた。ありったけの錠剤を机の上に広げてコップに水を注いだとき、吐き気を覚えた。
急いで買い求めてきたそれにはうっすらと青い線が浮き出ていた。
私は妊娠していた。生まれるまでは、生きていようと思った。
彼が突然姿を消した日から八ヶ月後に、私たちの赤ちゃんが生まれた。
赤ちゃんには、「さくら」と名づけた。彼が私の前から居なくなる直前に、彼と二人で眺めた桜のことを思い出して。
保育器の中で泣き喚いているさくらを、私は醜いと思った。
今回も自殺に失敗した。両親にさくらを奪い取られた。
おっぱいをあげなきゃいけないのに。ひとりぼっちは寂しいのに。私はお母さんなんだから、いつまでもいっしょにいてあげなきゃならないのに。
白い壁に囲まれた部屋の、小さな鉄格子から桜の木が見えた。
シーツが桜の花と同じ色になっていることに気付いて、お腹を抱えて笑い転げた。
くすくすと笑い続ける私を押さえつけて、白い服を着たオバサンが何かを叫んでいた。
私とさくらを会えなくしちゃうなんて、パパとママは酷いことをする。
今日もわたしはいいこにしていました。ママはこの前会ったときに、もうすぐ出られるからがんばってねとはげましてくれました。
何をがんばればいいのか私にはわからないけれど、ここから出れば七誌くんと会えるから、とにかくいいこでいようと思いました。
さくらは泣き止んでくれません。せっかくいっしょに住めるようになったのに、おっぱいをあげようとするとわんわんと泣き出してしまいました。
わがままする子はめぇーだから、わたしはちゃんとさくらをしかってあげます。
そうしたら、パパとママにさくらをとられてしまいました。七誌と同じように、この二人も私から大切なものを……どうするんでしょうか。わたしには何もわかりません。
今日もわたしはいいこでいましょう。そうすれば、少しでも早く七誌くんと会えると思いますからね。
クリスマスの日が近づいてきました。わたしはパパとママとさくらの四人で、さくらのお誕生日プレゼントを買いに町へやって来ています。
道路のわきの真っ白に染まった木はぴかぴかと光っていてとてもきれいです。
お家の屋根も真っ白に染まっていて、なんでもかんでも白く染まっている街はまるであの部屋のようだと思いました。
でも、つめたいあの部屋とはちがってここにはパパも、ママも、さくらもいるからとてもあったかいです。
もしも七誌くんがいれば、わたしはぽかぽかしすぎて熱がでちゃうかもしれないけれど、わたしはあったかいのが大好きなので、サンタさんに七誌くんと早く会わせてくださいとお願いしました。
靴下に入っている七誌くんの姿が頭にうかんでわたしはとても幸せな気持になり、道路の真ん中でくるくると踊り続けます。
そうしていたら、遠くからとてもきれいな声が聞こえてきました。声のあるほうへいってみると、そこはとても大きな家で、大勢の子供たちがみんなでお歌を歌っていました。
黒い服をきたお婆さんが大きなオルガンを弾くと、それに合わせて子供たちが誰かを誉める言葉を合唱します。
すると、わたしは大きな音にびっくりして思わずしゃがみこんでしまいました。
だけれど、しばらくじっとしたまま子供たちのお歌を聞いていたら、なんだか胸がどきどきして、体じゅうがそわそわしてきます。
わたしはなにかに背中を押されるように、体育館のように大きな部屋のなかを進んでいきました。
子供たちが私に背を向けて並んでいます。何かを見つめながら、一心不乱に誰かを称える歌を歌い続けています。
きらきらと虹色に輝く窓から差し込んだ陽の光が、わたしを照らします。舞台に近づくにつれ、吐き気を催す香炉の香りがただよいはじめます。
わたしは突然立ち止まり、呆然とした目それを眺めました。
パパが後ろで何かを叫んでいます。さくらを抱いたママが狂ったように喚いています。
わたしの視界には、人間の罪の証がありました。
かつて基督が背負い磔にされた、賤民によって石をぶつけられまたその賤民によって教義の証に仕立て上げられた、原罪という大仰な名を付けられ生来の自虐愛好家どもによって崇め続けられている罪過の借用書が。
そう、わたしから彼を奪った根本原因である忌々しく妬ましい存在が、十字架がそこに整然と突き立っていました。
子供たちは私の叫び声に怯えていました。パパは携帯電話を取り出そうとしていました。ママは跪いて絶望しきった顔で啜り泣いていました。さくらは苦しそうに唸っていました。
そうして私は、全てを思い出した。
何もかもが不愉快だった。体全体に広がる虚脱感、水をいくら飲んでも収まらない喉の渇き、耳元で鐘を鳴らされるような頭痛。
この原因が自分にあるとわかっているから、なおさら不愉快だった。口に広がった酸味のある唾液が気持悪い。吐く息にさえアルコールが混じっている気がする。
大量の水で膨らんだ胃から、体中に毒素が染み込んでいくようにも思えた。口を開いたままでも唾液が分泌されて、否応なく酸っぱい体液を味わう羽目になる。
体は冷え切っていて、心臓が鼓動を刻むのと同時に寒気を伴った痛みが脳髄に響いた。焦点の定まらない視界のまま、ふらつきながら便所に駆け込む。
便座を上げる動作さえもどかしく、すかさずしゃがみこんで水面を凝視した。傍から見れば、便座に顔を突っ込んでいるようにも見えるだろうが、痴態を晒す相手は誰もいないので関係ない。
大きく口を開けて、犬のようにだらしなく舌を垂らす。便器から漂う塩素臭が不快感を加速させる。この苦痛の元凶であるおぞましい液体を吐き出すべく、たぷたぷと脈打つ水っ腹を思いっきり引き締めた。
だが、吐き出されるものはつんとした臭気ばかりで、みぞおちに力を込めるごとにげぇげぇと空しいげっぷが喉から響く。便
便器の中は酒臭い空気で充満し、呼吸するごとに嗅覚を刺激した。
今度こそはと、指を口に突っ込んで硬く閉ざされた喉の奥を無理矢理こじ開ける。そのまま臭気を大きく吸いこみ、意図的に吐き気を増幅させてから腹筋に力を入れた。
ようやく熱いものが喉を通り、口から勢い良く飛び出してくれた。びちゃびちゃと便器に叩きつけられる胃液を目にしてやっと私は意識をはっきりさせることが出来た。
あまりに不快感が激しすぎると、死のうという気持ちさえ萎えてくるものだ。
昨晩あれだけ激しかった自殺衝動も今はなりを潜めている。脱水症状で朦朧とした頭のなかでは、とりとめのないことや、下らないことが駆け巡っている。
いのちの電話とやらで自殺志願者を思いっきり罵ってやれば、今の自分のように不快感に支配されて自殺する気なんてなくなるんだろうなと一瞬思ったが、すぐに撤回した。
どうせあとになってリバウンドして、とてつもない欝が襲ってくるだろうと確信したからだ。
くすくすと自虐的な笑い声が漏れる。今の自分の精神状態はいわゆる躁の状態だ。激しい二日酔いで気持悪さを通り越して、逆にハイになっているのだ。
それを自覚すると、暗く澱んだ心の奥底からふつふつと爽やかな衝動が湧いてくる。
泥棒のように私から七誌を掠め取った名も知れぬ女への妬み。手紙一つ遺して私の前から消えた七誌への憤り。悪魔のように七誌に囁いて誑かした基督教への怒り。
なぜ私が苦しまなければいけない。どうしてさくらが父なし子にならなければいけない。なんであの泥棒猫だけが笑っていられて、私だけがこうして暗闇の中で罵っていなければいけない。
理不尽だ。アイツが幸せで私が不幸なんて、理不尽だ。後から来て七誌を掠め取ったくせに、理不尽すぎる。
七誌たちの神はこの理不尽を許すというのか。正当な幸福を受けるべき者が罰を受けて、公正な罰を受けるべき罪人が幸福になることを。
いや、あの自己中心的な異教徒はそれを肯定するだろう。七誌が置いていった彼らの経典をぱらぱらとめくると、旧約の部分で神は随分と凄惨な所業をしている。
異民族を皆殺しにするのはあたりまえ、敬虔な同胞にさえも理不尽な罰を与えている。
『神はおのれの姿に象って人間をつくった。そのお返しに、人間はおのれの姿に象って神をつくった』というヴォルテールの言葉はたしかに正しい。
この汚らしい紙束からは信者どもの卑しい根性がにじみ出ている。自分たちだけが救われるという、ある意味もっとも自己中心的で、彼らのいう隣人愛とやらとは矛盾した教えがまかり通っている。
私から七誌を奪った女は、敬虔な信者なのだろう。つまり、それだけ自己中心的で、貪欲な雌豚だということだ。
砂漠の聖者は薄汚れている。彼の体には蝿がたかり蛆を産み付け、その臭いに釣られて豚さえもがよってくる。
あの聖女とやらはその豚のなかでもっとも卑しい者に違いない。体じゅうから腐った臭いを発して、穢れた口で糞尿を貪り、ブゥブゥと呻きながら七誌に擦り寄る豚。
そしてあまりの臭さで七誌の鼻は曲がってしまい、ついには涙で目も利かなくなり、豚の口で引っ張られるがまま盲目の彼はほいほい付いて行ってしまったのだ。
ならば、この破廉恥な家畜に対して私たち人間様がすべきことは決まっている。
厚顔無恥な泥棒豚から七誌を取り返して、きちがいじみた教義に洗脳された彼を助け出すことだ。
そう、それこそが彼の永遠の伴侶であり半身でもある私、美奈子の義務なのだ。
考えたその瞬間、私の体に稲妻が走った。脳髄から発されて背筋を通ったその衝撃は、私の肌を粟立たせ、肢体全体に激しい熱を伝達する。
涙腺は緩み、かつて七誌の子種を受けた子宮からぞくぞくと電流が走る。
開放のカタルシスとでもいうのだろうか。嘆き悲しみ苦悩したこれまでの記憶が走馬灯のように意識を横切り、一斉に解き放たれる。
すると、負の方向へ向いていた意志が、正の方向へ転じ、私という理性的存在者は快方へ向かった。
そうだ。私は私の義務を認識したのだ。私は七誌を取り戻さなきゃいけないんだ。
あの女に誑かされた七誌を、私の手に取り戻す。それが私のすべきことであり、存在意義なんだ。
今までだってそうしてきたじゃないか美奈子。中学のときは不埒な女をみんなに虐めさせた。高校のときは根暗なストーカーを強制的に彼から遠ざけさせた。大学のときは淫らな売女を社会的に抹殺してやった。
私は、常に勝利者の座に在り続けたのだ。そして、王者というものには挫折がつきものだ。たかが一度や二度奪われただけで、絶対に諦めたりしない。
不死鳥のように何度も甦り、愛する者を取り戻すのだ。幸いなるかな、私には不屈の王者に必要とされる力がある。
金銭という社会的権力と、何よりも大事で絶対不可欠な力、七誌への愛という意志の力があるのだ。
母として、一人の女として、私は七誌を取り戻してやる。
北の町はひっそり静まりかえって、ただ屋根をさらさらとすべる雪のかすかな音ばかり。
あの教会で十字架を見た日からちょうど一年のこの日、私は辛気臭い基督教の教会の前に立っている。
二年と八ヶ月だ。さくらが生まれて二年、私が私自身を取り戻して一年、七誌が失踪してから、二年と八ヶ月も経ってしまった。
それだけの長い時を、あの女と七誌はともに過ごしている。いや、違う。たったそれっぽっちの時間といったほうが正しい。
私が七誌といた二十二年間に比べれば、八分の一以下の時間でしかない。
あの女の八倍以上、私と七誌は愛を育んできたのだ。七誌と私は一緒の乳房から乳を飲み、ともに学び舎で過ごし、同じ瞬間に純潔を失った。
七誌の魂の髄まで私という存在が染み込んでいる。そしてそれは私もいっしょだ。
だから、今みたいに二人が離れているのは自然の摂理から反したことなんだ。
目の前の教会の中では今、黙想会という怪しげな儀式が繰り広げられている。
その詳細は知らないが、どうせろくでもない儀式なのだろう。
連中は元は金貸しだ。無法者で、やくざな手合いなのだ。そして、やつらの聖典にはこうも書いてある。
われ昔律法(おきて)なくして生まれたれで誡命きたりて罪は活かえりわれは死り――ロマ7-9
つまりやつら自身自分たちに罰が帰ってくるのだということを自覚しているのだ。それでいて救いを求めるのだからなんとまあ面の皮が厚い連中だ、腐れきりしたんどもめ。
現に、神父とか名乗るジジイに金を握らせたらすぐに名簿を漁って七誌の名を見つけてきてくれた。賄賂をやった私がいうのもなんだが、本当に卑しい連中だ。
興信所を頼る前にこの方法に気付いていれば、もっと早く七誌に会えたかもしれないが、過ぎたことは忘れよう。
私に大切なのは、これから作る七誌との未来なのだから。
邪教の館の扉が開いて、日本人の誇りも忘れ欧米にかぶれた非国民どもがぞくぞくと飛び出してきた。
どいつもこいつも卑屈な面構えで、自分が救われるためなら平気で他人を突き落とすような人種だろう。
本物の日本人、日本に誇りをもち、日本の神を信仰する人間を銀貨数枚で欧米人に売り渡すような思想の淫売ども。
私はこいつら卑劣な狂信者どもから七誌を救い出さなきゃいけない。テレビニュースのインタビューで『尊師がやれと仰ったから殺しました』なんて言う連中の仲間には、絶対にさせない。
私は、何度盗られたって七誌を奪い返してやるんだから。やつらは病人を治すために一度殺すような連中なんだ。そんな連中のなかにいちゃ、七誌もいつか殺されちゃうんだ。
私はどんな手を使ったって、七誌と添い遂げてみせる。
来た、七誌が出てきた。気だるそうに歩いて、七誌が私の前に現れた。
私は七誌に駆け寄る。足元は雪に埋まっていて、歩きにくいけれどかまわない。
七誌、七誌、七誌、七誌、七誌!
「みな……こ……。」
「やっと逢えたね……七誌。」
どんな人でも、いつか死んでしまうだろう。火葬されるにしろ、土葬されるにしろ、死者の肉体は土の中に埋められてしまうのだ。
死者は暗闇の中で、まだ生きている人間を羨み、妬み、呪詛を唱え続ける。
かつて愛した者は他の人間を愛し、かつて妬んだ者は愛する者を掠め取る。
それでもなお、埋められた死者には孤独に罵ることしか許されていない。たとえ最愛の人を奪われても、ひとりぼっちで呻いているしかないのだ。
私は死のうと思っていた。けれど、生きていようと思った。七誌の愛を取り戻し、彼とともに生涯を過ごすまでは。
――それまでは、私は絶対に埋まらない。
力作おつ
もう七誌はいっしょに埋まるしかないな
読めば読むほど味が出る良作
でもさくらはダメだろww
七誌が鬼畜すぎるww
39スレ目の事か>さくら
>>721 GJ!!!!
続きがあるのなら激しく期待
このしつこさは旧劇場版エヴァの弐号機に近い…。
うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふh
ふふふふふふふふふふふふふふふふふふひ
なんで?なんで埋めちゃうの?そんなに私の事嫌いなの?