男主人・女従者の主従エロ小説 第二章

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1名無しさん@ピンキー
男主人・女従者の主従関係ものを扱うスレです。

・英明な王に公私共に仕える美貌の女宰相
・ぼんくら閣下と美人の副官
・屋敷の坊ちゃまとイケナイ関係になる女家庭教師(ガヴァネス)

などなど身分の違いから階級による違い、雇用関係など主従なら何でもあり。
純愛鬼畜陵辱ハーレムなんでも可。エロなしSSでも主従萌えできるなら全然おけ。
“妖魔と主従の契り”とか“俺様魔法使いとドジッ娘使い魔”とか人外ものもドンと来い。

ちなみに一番オーソドックスと思われる“ご主人様とメイドさん”はこっちでもいいけど
専用スレあるので投下は好きなほうにドゾー。

主従SS投下と主従萌え雑談でマターリ楽しくやっていきましょうや。

◇過去スレ◇
男主人・女従者の主従エロ小説
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1164197419/

◇保管庫◇
http://wiki.livedoor.jp/slavematome/d/
2名無しさん@ピンキー:2007/07/28(土) 22:32:49 ID:mZTYUcoA
◇姉妹スレ◇
【従者】主従でエロ小説【お嬢様】 第四章
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1174644437/

↑こちらは女が主人で男が従者(時と場合により女従者)の主従を扱うスレです。
双子のようなもんで、そっくりですが性質は全く違います。
仲良く棲みわけましょー。

◇その他関連スレ◇

【ご主人様】メイドさんでSS【朝ですよ】part2
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1182588881/

男装少女萌え【8】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1163153417/

◆◆ファンタジー世界の女兵士総合スレpart4◆◆
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1173497991/

●中世ファンタジー世界総合エロパロスレ●
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1145096995/
3名無しさん@ピンキー:2007/07/28(土) 22:35:45 ID:mZTYUcoA
以上テンプレ。
part2でいいかとも思ったけど姉妹スレに対応させて第二章にした。

アドレスとか他にも間違いあったら誰か修正よろしく。
あと保管庫は今の時間帯繋がりにくい模様。
4名無しさん@ピンキー:2007/07/28(土) 23:22:36 ID:BretuVG4
乙!
ついにこのスレも第二章かー
5名無しさん@ピンキー:2007/07/28(土) 23:57:43 ID:MbNchYeI
こっちにもついでに
乙!!
6名無しさん@ピンキー:2007/07/29(日) 00:12:14 ID:IjKeTL98
乙です
7名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 01:06:34 ID:YjP0dEN0
乙!

王都騎士団の続きを密かに待っとります…
8名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 01:29:59 ID:DNCN7bcs
乙カレー! 保守がてら小ネタを投下。ラブコメ以前の話。


 プロボーズに必要なものといえば何だ。
 いや、そもそも女性が喜ぶものが分からない。
 こんなことなら若い時に一度ぐらいは合コンでも行っておくべきだったか……。

「……しょ、将軍?」
 その声に男は思い出したように顔を上げた。目の前には軍属についたばかりの若者が今にも泣き出しそうな顔でこちらの気配を窺っていた。
 ……どうしたというのだ、頼んでいた書類は自分の望んでいた成果を高らかに謳っていたというのに。
 とりあえず下がる許可を与えると、部下は一目散に部屋を出て行ってしまった。

 全く理由が分からず首をかしげていると、部屋のインターホンが鳴り、扉が開いた。
「将軍、一体、何をなさったのですか? 彼が粗相でもしましたか?」
 入ってきたのは男より十は年下のグレーの瞳が印象的な女性士官だった。彼女は男の主席副官であり、何より事務能力に長けた有能な部下だ。
 そして、男が密かに恋焦がれる相手でもある。
「いや、何もしていない」
「将軍は普通の顔が不機嫌を通り越して怒っているように見えるんです。気をつけて下さい」
 こうやって男を叱り付けることができるのは彼女ぐらいだ。その竹を割ったような性格が男は好きだった。聞けば血筋は名のある貴族らしいが、彼女は何の不満のない生き方を捨て、軍に入ったらしい。それも好感が持てた。
 自分のように戦いしか知らない男など相手に相応しくないとは分かっていたが、それでも自分の気持ちに嘘が付けなくなってかなり経つ。
 嫌われてはいないと思う。いつもの礼だと言って食事を誘えば、彼女は嬉しそうに付いてきてくれる。それなりに脈はあるはずだ、──多分。

 ああでもないこうでもないと一人考え始めた上官に、有能な副官は顔に似合わず男の好きなココアを入れてやろうと部屋を出て行った。
 まさか彼が自分のことで悩んでいるなど、彼女はその時になるまで全く思いもしなかった。
9名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 02:20:51 ID:3KQXzTcA
10名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 11:28:50 ID:6TEv/sjO
>>1乙!

>>8
続き待ってます!
11名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 12:48:36 ID:kpZyoeLO
>>1

>>8

続きを!
12名無しさん@ピンキー:2007/08/04(土) 07:13:17 ID:6eNMe4vV
ほしゅ
13名無しさん@ピンキー:2007/08/05(日) 02:11:43 ID:PIJfm/QQ
即死回避?保守
14名無しさん@ピンキー:2007/08/06(月) 18:27:07 ID:pxMlOZHE
中性的でシャイな男
90年代中頃でしたでしょうか、「フェミ男」などという言葉が流行りだした頃から、ちょっと中性的でシャイな男がモテるようになりました。
私自身は古い人間ですので、男はちょっと強引なくらいが好みです。
が、最近は特に、女性が年上のカップルも増え、可愛い男、シャイな男が好みだという御姉様方も多いようです。
シャイな男というのは、自ら果敢に攻めるということがないため、気が強くてちょっとわがままな女性や、しっかり者でリーダーシップのとれる年上の女性と付き合うことが多いようです。
ただし、私について来いと言わんばかりの強引なだけの女はNG。いくらシャイでも男は男ですから、弱さや可愛らしさという女の「隙」がなければ恋愛には発展しにくいものです。

俺様系の強引男
俺様系の強引男というのは、男としてのプライドが高く、どちらかと言えば女性を卑下する傾向も強いのが特徴です。
女に対しては綺麗でか弱いという幻想を抱いていることも少なくありませんですので、自分より有能そうなバリキャリの女性や、男勝りで女らしさに欠ける女性などは敬遠しがち。
しかし、じつは俺様系を前面に出している男性こそ、内面は意外と繊細で脆いものです。
弱い犬ほどよく吠える、というアレですね。人間関係で躓いたり、仕事で失敗した時などは、つべこべ言わず優しく側にいてくれる、癒し系の女性に惚れやすいでしょう。
普段は自分が主導権を握っていても、いざという時は女性に甘えるのが俺様系の強引男です。
15名無しさん@ピンキー:2007/08/06(月) 18:30:45 ID:pxMlOZHE
中性的でシャイな男
90年代中頃でしたでしょうか、「フェミ男」などという言葉が流行りだした頃から、ちょっと中性的でシャイな男がモテるようになりました。
私自身は古い人間ですので、男はちょっと強引なくらいが好みです。
が、最近は特に、女性が年上のカップルも増え、可愛い男、シャイな男が好みだという御姉様方も多いようです。
シャイな男というのは、自ら果敢に攻めるということがないため、気が強くてちょっとわがままな女性や、しっかり者でリーダーシップのとれる年上の女性と付き合うことが多いようです。
ただし、私について来いと言わんばかりの強引なだけの女はNG。いくらシャイでも男は男ですから、弱さや可愛らしさという女の「隙」がなければ恋愛には発展しにくいものです。

俺様系の強引男
俺様系の強引男というのは、男としてのプライドが高く、どちらかと言えば女性を卑下する傾向も強いのが特徴です。
女に対しては綺麗でか弱いという幻想を抱いていることも少なくありませんですので、自分より有能そうなバリキャリの女性や、男勝りで女らしさに欠ける女性などは敬遠しがち。
しかし、じつは俺様系を前面に出している男性こそ、内面は意外と繊細で脆いものです。
弱い犬ほどよく吠える、というアレですね。人間関係で躓いたり、仕事で失敗した時などは、つべこべ言わず優しく側にいてくれる、癒し系の女性に惚れやすいでしょう。
普段は自分が主導権を握っていても、いざという時は女性に甘えるのが俺様系の強引男です。
16若君と女家庭教師:2007/08/07(火) 18:45:16 ID:DoAT1lP3
 「本当に、私があのグレイザー卿のご子息の家庭教師で、よろしいのですか?」
 エリザは、澄んだ湖のような蒼い大きな瞳を、歓喜の涙で潤ませながら、囁いた。
 「ええ。貴方のように、若く思慮深い、女性を、主は探しておられたのです。」
 ニッコリと執事のアルバートは微笑みながら、告げた。
 (……しかし、この方もすぐ落胆されてしまうかもしれない。)
 屋敷で新たに家庭教師を求めるのは、これで五人目だ。 
 原因は言わずと知れた、この屋敷の若君ロベルトだった。
 17歳になり、紳士として社交界へのデビューは当然果たしていなければ、ならない筈なのに、
未だそれは果たされない。いつまでも、子どもの様に野山を駆け回り、犬や獣達と戯れている。
  (国の英雄とご主人様は讃えられているが、若様は……)
 「どうぞ、明日からよろしくお願いいたします。」
 きっちりと貴婦人としての礼にかなった所作で、エリザは挨拶をした。
 主に対する畏敬の心。若く美しい彼女は、教育者としての情熱に、満ち溢れていた。
 (今度こそ、若様を変えてくれると信じていますよ。)
 「こちらこそ、よろしくお願いいたします。」
 アルバートは彼女なら、若君を救えるかもと一縷の望みを託し、深いお辞儀をした。
 「こちらこそ、よろしくお願いいたします。」




 「…っ!せ、先生。このような、動きで…よろしい、でしょうか…」
 「あぁ…。と、とてもお上手です。こ、これならどんな貴婦人も喜ばせることが、
…―んっ。あ…」
 しがみついた豪奢な机の脚が、二人の激しい動きにあわせギシギシときしんだ。
 エリザの金色の髪は乱れ、汗ばむ額に張り付いた。いつもはきつく閉じられた前ボタンは開かれ、
豊かな乳房がこぼれ出しロベルトの手で、優しく愛撫されている。
 背後から貫かれているエリザは、振り返り潤んだ瞳でロベルトにキスをねだった。
 「んっ。…はぁ…キスを…」
 荒々しく、エリザの桜色のふっくらとした唇を、ロベルトはついばんだ。
 「ほ…ほんとにお上手に……」
 「お―お願いです。もう、出させてください。」
 「い、いけません!まだ、まだ……やっ!あぁぁぁ」




という、ホシュ。
17名無しさん@ピンキー:2007/08/07(火) 22:16:53 ID:3axz66lA
>>16
GJ!
一癖も二癖もありそうな登場人物たちがイイ
年下主人×年上従者ってのも全然ありだな
18名無しさん@ピンキー:2007/08/13(月) 23:41:08 ID:McBhAkU8
あげ
19名無しさん@ピンキー:2007/08/14(火) 03:21:07 ID:pVVqKxa5
年下と聞いてショタだと思った俺は死ねばいい。
20名無しさん@ピンキー:2007/08/14(火) 05:19:34 ID:BoXc61Tf
男主人・女従者に当たるかどうか微妙ですが、場所を借りさせていただきます。
ファンタジー
怪我人と看護師
エロ未到達

 こんにちは。ニーナです。
 今日は田舎も田舎の超ど田舎の、町と呼ぶのもはばかられるごくごく小さくて質素な町に来ています。
 道も舗装されていないし、お洒落なブティックなんかも当然見当たりません。
 だけど私は大丈夫。
 なにを隠そう、私は超エリートな看護師なので、お洒落にもお化粧にも全く興味が無いからです。
 嘘です。嘘をつきました。
 興味はあるけど手を出す勇気が無いだけです。
 だって今更お化粧なんかしたところで、同僚に「あらニーナ、あなたって女装癖があったのね」なんていわれるだけなのは目に見えているからです。
 もう何もかも諦めました。私は仕事に生きるのです。
 車が上下にガタガタと揺れます。
 資料の地図が正しければ、私の目的地は川沿いの水車小屋に隣接するレンガ造りの二階建て。
 大変な怪我をして体が不自由な友人がいるので、住み込みでその人の面倒を見てくれと言うご依頼です。
 男の人の家で住み込みなんて嫌でしたが、私の一月の給料を軽く越える特別手当に目がくらんで引き受けてしまいました。
 まぁ、大変な怪我をしているなら襲われる心配もないでしょう。
 なにより私は体は小さいけど力は凄いと同僚からも評判で、私の倍の体格の男性くらいだったら軽々と持ち上げられる力持ちです。
 それにしても、田舎町の町外れには本当に何もありません。
 果たして私が来るまでの間、その大怪我をした男性はどうやって暮らしていたのでしょう。
 きっとこの依頼をしてきた男性が、苦しむ友人のお世話をしていたに違いありません。なんと美しい友情でしょう。私は愛とか勇気とか希望とか友情とか、そういった鳥肌もののお話が大好きです。

 そんな妄想に一人浸っていると、ようやくレンガ造りの家が見えてきました。
 あれは果たして家なんでしょうか? 私にはただの廃墟に見えます。
 っていうか、屋根に盛大に大穴が開いています。これでは大変な雨漏りです。漏るというより、雨が普通に吹き込んでくるんじゃないでしょうか。住人の神経を疑います。
 ひょっとしたらとんでもない貧乏人で、食べる物にも困る暮らしをしているんじゃないでしょうか。
 だとすると、この依頼の特別手当は何処から出ているんでしょう。依頼を持ってきたご友人でしょうか。
 まぁ、私は私の口座にお給金さえ入っていればそれで満足なので、お金の出所については詮索しない事にしましょう。
 私は車から軽やかに降り立つと、とてつもなく陰鬱な空気を発散している廃墟のドアの前に立ちました。
 呼び鈴は何処でしょう。
 見当たりません。表札もありません。本当に誰か住んでいるのか疑問になります。私は何か間違えたんでしょうか?
 しまった、ここは田舎町です。呼び鈴なんてハイテクな物があるなんて、都会的な私の思い込みです。
 きっとこの町ではノックが主流なのでしょう。私は早速、ガッチリとした扉を拳でどんどんと叩きました。
 驚きました。扉は鉄です。って言うか電子ロックです。物凄く近代的です。そのくせ窓は壊れて開いています。本当に防犯する気あるんでしょうか。
 っていうか電子ロックの前に呼び鈴を付けやがれと思います。私は非常に腹立たしく思います。
 腹立たしく思った瞬間、家の中で物凄い音がしました。何かがひっくり返ったような、そんな音です。
 私の怒りが天罰を与えてくれたのでしょうか。
 やっぱり神様は存在します。
21名無しさん@ピンキー:2007/08/14(火) 05:21:27 ID:BoXc61Tf

 そして、扉は開かれました。
 しかし何も見えません。あぁ、見えていました。これは男性の胸部でしょうか。見事に発達
していますが、同じく見事に痣だらけでひどい有様です。しかも裸体です。
「なんだ、おまえ」
 上から声が降ってきました。
 それもかなり上の方からです。
 思わず見上げて、私は呆然となりました。
 あり得ません。育ちすぎです。大きすぎます。二メートル超えてませんかこの人。
「で……でっかい……」
 思わず声に出てしまいました。
 第一印象はでっかい、第二印象派頭悪そう。今のところいい印象は一つもありません。あ、
気付きました。今気付きました。巨大な絆創膏や前髪が鬱陶しくて分かりにくいですが、結構
な色男です。たぶん私よりもきれいです。
 男の人は真っ直ぐに私を見下ろしています。
 怪我人だと聞いていましたが、それほど深刻な怪我ではなさそうです。
 安心なような、残念なような、これでは私の腕の見せ所がありません。
 しかし、どうして私を見ているのでしょう。一目惚れ? いえいえ、そんなはずありません。あぁ、分かりました。私がいつまでも質問に答えないからに違いありません。
「あ、本日からお世話になります、ジョージア医療介護サービスの者です。こちらはフランシ
ス様のお宅で間違いございませんでしょうか?」
「いらん。帰れ」
 ばたん。
 扉が閉まります。

 なんでしょうこの展開。門前払いの典型例みたいなことになってます。
 私は慌てて扉に取り付き、再びガンガンと扉を叩きました。ついでにドアノブもがちゃがち
ゃやりますが、全く開く気配がありません。
「あのー! フランシスさん! せめてお怪我の具合だけでお確認させていただけませんか! 
ご友人の方からのご依頼で、決して怪しい者ではないんですー! フランシスさーん!」
 再びドアが開く気配を感じ、私はぱっとドアから離れました。
 すると、中から物凄く嫌そうな顔をしたフランシスさんが出てきます。
「……友人?」
「はい。えぇと、ご近所のパン屋さんのウィルトス様です。ご存知ですか?」
「……待て、確認する」
 ばたん、と、また乱暴にドアが閉じられます。
 とてつもなく失礼な方です。っていうか、全然大怪我じゃありません。だったら普通の家政
婦を雇った方が遥かに安上がりのはずです。
 私がいらいらしながら待っていると、また、中でひっくり返る音が聞こえました。
 背が高いとバランスも悪いんでしょうか。
 それとも身長は無関係で単に彼のバランスが悪いだけなんでしょうか。

 三度目にドアが開かれた時、今度こそそこに人はいませんでした。
 おや、と思うと、足元に気配があります。見下ろすと、フランシスさんがうつ伏せに倒れて
いました。
 ここまで這ってきたような様相です。
「あの……フランシスさん?」
「添木が折れた……立てん」
22名無しさん@ピンキー:2007/08/14(火) 05:22:43 ID:BoXc61Tf
 なんの事でしょう、と失礼ながらひょいとフランシスさんをまたぎ越し、私はぐったりと伸
びたその脚に手を触れました。
 確かに、ズボンの中に添え木があるようです。そして、確かにそれは折れていました。転倒
した弾みに折れたのでしょうか。これはなんとも一大事です。
「ズボンを破かせてもらいますよ」
「だめだ」
 無視してズボンを破きます。
 私は思わず絶叫しそうになりました。
 膝が紫色に変色し、大きく晴れ上がっています。っていうか見るからに折れています、完全
に折れています。しかし鮮やかな折れ方をしています。人為的に誰かに折られた物でしょうか。
危険なお仕事の香りがしますが、私は怪我人には分け隔てなく接する潔癖な看護師です。

 早速持ち前の剛力を発揮して、フランシスさんを担ぎ上げます。
 そこで気付きました。あり得ません。肋骨が折れてます。右腕も折れてます。左腕にはなに
やら大仰に包帯が巻かれています。
 私の看護師魂が激しく燃え上がりました。
 この人はなんとしても、私が完治させて差し上げます。
「ベッドルームはどこですか」
「最近の看護師は力があるんだな……」
 ぼんやりと呟くフランシスさんの指し示す先に、その巨体をのしのしと運びます。
 やけにきちんの整っているベッドに根転がし、腰に下げた作業バックから取り出したマイ裁
ちばさみでフランシスさんのお洋服を容赦なく切り裂きます。
 よく見れば随分な高級品ですが、治療の前では衣服などただの邪魔者に過ぎません。
 見れば見る程大怪我でした。なんでこれで動き回れるのか疑問です。
 一体何があったのか聞きたくなる所ですが、余計な質問はしないのが我がジョージア医療介
護サービスのモットーです。
 私は看護師として機械的に、かつサービス精神旺盛に患者さんの完治に勤めればいいのです。
 私の迅速勝つ華麗なる治療テクニックに身を任せながら、フランシスさんはぼんやりと天井
を眺めながらなにか考え込んでいるようでした。
 何をしても痛がらない患者と言うのは初めてですが、やりやすくて非常に優秀な患者さんだ
と思います。
 世の中の患者さんがみんなこうだといいのにと切に思わずにはいられません。
 そして手当てがすっかり終わり、私がばたばたと治療セットを片付けていると、ようやく私
の存在を思い出したようにフランシスさんが私を見ました。
「……使えるな、看護師」
 そのたった一言に、私の自尊心はこの上ない満足を覚えました。
 そうです、私は有能で使える看護師なのです。

「あの、ところで私、ニーナって名前なんですが……」
「知らん。寝る」
「はぁ、おやすみなさい……」
「お前もだ。添い寝しろ」
 当たり前のように言ってきます。
 なんでしょうかこの男。激しい怒りを覚えます。
「では、電話で娼婦を呼んで起きます。骨折を悪化させたくなかったら、ことをいたす時は控
えめにおねがいしますね」
「何の話だ。俺はおまえに言ってるんだ。小さくて抱き心地が良さそうだ。きっとよく寝られる」
「申し訳ありませんが、当社ではそういったサービスは行っておりません」
「来い」
「嫌です」
 格好良く言い捨てて、私はひらりと横暴な好色男に背を向けました。
 その途端、背後で起き上がる音が聞こえます。
23名無しさん@ピンキー:2007/08/14(火) 05:23:30 ID:BoXc61Tf
 まさかと思い振り返ると、やはり彼は立ち上がっていました。しかも足をしっかりと床に付
けて仁王立ちしています。
 そして一歩足を踏み出すなり、がくん、とバランスを崩して盛大にその場に転倒しました。
 私が来た時に家の中から聞こえていたのは、彼が折れた足で歩こうとして失敗している音だったのです。

「な――何やってるんですかあなた! 折れてるんですよ足! 膝! なんでわざわざ治りが
遅くなるような事してるんですか!」
「歩けるから歩く。それだけだ」
「歩いちゃいけないんですよ! 歩けちゃいけないんですよ!」
「何故だ」
「治りたくないんですか!?」
「歩かなければ何も出来ん」
 一人暮らしの男性です、確かに歩かなければ何も出来ないのは確かです。
「ご……ご友人の方がいらっしゃったりはしなかったんですか?」
「友人はいない」
「そんな! だって私をここによこしたのはパン屋の――」
「あれは友人なんかじゃない。もっと汚いものだ。失礼な」
 友人よりも汚い関係ってなんでしょう。
 それにしても、どうして友人でもない存在のために大金を支払って看護師をあてがったりす
るのでしょう。パン屋さんってそんなにお金持ちなものなんでしょうか。
 なんだか疑問ばかりです。
「と、とにかく。これからは私がお側にいますから、なにか欲しい物とか、したい事あったら
言ってください。おトイレもしばらくは尿瓶です」
 言いながら、私は再びフランシスさんをベッドに寝かせてあげました。
 するとなんと、フランシスさんは立ち去ろうとする私の手をガッチリと掴んだのです。
「添い寝しろ」
「まだ言いますか!」
「でなければ歩く」
 これは脅し文句のつもりなのでしょうか。
 こんな時のための拘束具ですが、私の本能がこいつには何をやっても無駄だと告げています。
 ベッドを引きずって歩きそうな気がします。さすがにそこまではしないでしょうが、何故か
絶対に大丈夫と言う確信が持てません。

 物凄く悩んでから、私か仕方なくこの要求を受け入れる事にしました。
 あの足で動き回られたら、私ははらはらしすぎてきっと胃潰瘍になるに違いありません。
「……変な事したら、睡眠薬血管にぶち込みますからね」
「変な事ってなんだ」
「胸を揉んだりお尻を触ったりです」
「どちらもないように見える」
「血管に十リットルの酸素ぶち込みますよ」
「そんなに入るのか」
「物の例えです」
 例えか、とフランシスさんが繰り返し、なにやら考え込むように目を閉じました。
「よし、わかった」
「わかりましたか」
「だから来い。眠いんだ」
 ぐいぐいと腕を引っ張られ、私はフランシスさんの腕の骨折を気にしながら仕方なくベッド
に横たわりました。
24名無しさん@ピンキー:2007/08/14(火) 05:25:29 ID:BoXc61Tf
 ジョージア医療介護サービスは、患者さんの完治のためなら多少無理な注文は聞き入れる事
が多いのです。

 折れた腕で人形のようにぎゅうっと抱きしめられ、私は内心慌てました。
 こんな風に男性と密着したのは恐らく父親以来です。
 ときめいて恋に落ちたりしたらどうしましょう。
「……おまえ、ひょっとして女か」
「――はい?」
「男だと思っていた……やわらかいな、おまえ」
 怒りに任せて眠たげな横っ面をひっぱたきます。
 ばちん、といい音がしましたが、フランシスさんは特に痛がる様子もなく、動けないように
更にガッチリと私の体を抱きこみました。
 腕に力を入れすぎです。これでは明らかに骨に悪影響です。
「フランシスさん! 腕に圧力をかけちゃだめです。腕は胸の上に置いて動かさないでくださ
い。固定しますよ」
 すぅ、と気持ち良さそうな寝息が聞こえました。
 信じられません。もう寝てます。とても人間とは思えません。
 しかも、がっちりと私を抱きこんでいる腕は一向に外れません。
 仕方ないので、私はその腕の中で必死になって身じろぎし、なるべく骨折部に負担がかから
ない位置を見つけて落ち着きました。
 こんな時、小さな体は便利だと思います。
 それにしてもこの大怪我、フランシスさんの動きたがりの気性を考えると、完治には随分と
かかってしまいそうです。
 そんな事を思いながら、私はいつしかうとうととし始めていました。
 とても信じられない事ですが、フランシスさんの腕の中は暖かく、寝心地は抜群です。
 寝てしまっていいでしょうか。
 この際寝てしまいましょう。
 こうして、私はこの家の期間限定の同居人となったのです。


                          切らせていただきます

前半の改行ミスは脳内で修正しておいていただけると助かります……申し訳ない
25名無しさん@ピンキー:2007/08/14(火) 08:46:10 ID:37amxVG7
GJ
こっちで外伝が続くことになったんですか
26名無しさん@ピンキー:2007/08/14(火) 10:33:22 ID:0kgsF4lA
をー、サイコなフランシスがラブコメの主人公になるのかwww
続きに超期待
27名無しさん@ピンキー:2007/08/14(火) 18:32:59 ID:wgj/RJK2
GJ!

外伝て、本編はどこのスレにあるんだ?
28名無しさん@ピンキー:2007/08/14(火) 18:58:00 ID:37amxVG7
ボーイッシュスレ
まあフランシス氏が脇役(?)で登場してるくらいだけど
29名無しさん@ピンキー:2007/08/14(火) 23:06:18 ID:yFQSw6hl
見慣れた名前見て茶噴き出した
続きが楽しみだ GJ!
30名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 09:36:25 ID:02rnI7u8
GJGJGJ!!
以前ここでちらっと話題に上って読みにいったクチな自分。
震えるほど面白かった。こっちでも投下してくれて嬉しいです。
フランシス可愛いよフランシス。ニーナがんばれ。
31名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 10:24:52 ID:Q4VCod+F
うわー!GJ!!
ニーナかわいいよニーナ!
フランシスも気に入ったのかな。
女の子だけど 。

続きキボン!
32名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 22:27:13 ID:aabgmCMq
エルヴェとツィラの人に書いて欲しい
33名無しさん@ピンキー:2007/08/17(金) 09:25:11 ID:awkDlaYQ
上げる
34名無しさん@ピンキー:2007/08/17(金) 22:57:38 ID:5Zc3nN/0
陛下に会いたい……
35名無しさん@ピンキー:2007/08/18(土) 01:05:42 ID:eiU3yT5R
ユリシスの人のサイトが403エラーなんだけど閉鎖した?主従同盟もそのままだし。
ここできくのはよくないかもしれないけど他にきくとこないから。
閉鎖したのかどうかだけでも誰か知ってたら教えて(´・ω・`)
36名無しさん@ピンキー:2007/08/18(土) 01:12:04 ID:56588JFj
閉鎖したお
37名無しさん@ピンキー:2007/08/20(月) 20:59:42 ID:BNjdY9AS
閉鎖したんだ。教えてくれてありがとう
38名無しさん@ピンキー:2007/08/20(月) 22:07:57 ID:iAuykbWz
もっとSMチックで変態的なのも欲しい
39名無しさん@ピンキー:2007/08/20(月) 22:32:48 ID:kVYFiCog
>>38
同意
40名無しさん@ピンキー:2007/08/20(月) 23:12:34 ID:9hH4pkIw
それは言い出した38が書かなきゃw
41名無しさん@ピンキー:2007/08/21(火) 04:40:25 ID:XYQhsaBg
>>35
つヒント 同人モバイルサーチ
42名無しさん@ピンキー:2007/08/21(火) 10:00:03 ID:z3VPyhVO
>>38
SMっつーと、お仕置きプレイとかだろうか・・・。
そっち方面には詳しくないので
ことこまかに詳しく解説してもらおうか
43名無しさん@ピンキー:2007/08/22(水) 04:18:51 ID:TvIs7YRk
とうかまち
44名無しさん@ピンキー:2007/08/22(水) 11:49:28 ID:cf1wpVVu
言葉責めくらいなら萌えるけど、肉体的に虐めて何がいいのかわからん。
45名無しさん@ピンキー:2007/08/22(水) 11:56:30 ID:Le/E0zO/
46名無しさん@ピンキー:2007/08/24(金) 02:02:30 ID:FqH21Qpr
age
47名無しさん@ピンキー:2007/08/26(日) 20:40:55 ID:OFtUaaFN
待ちつつ保守
48名無しさん@ピンキー:2007/08/28(火) 23:36:00 ID:6UnAQHiX
あげる
49名無しさん@ピンキー:2007/08/30(木) 00:15:08 ID:8iLRU/Cz
前スレ645
乙でした!
50名無しさん@ピンキー:2007/08/30(木) 09:33:30 ID:P36bNEE6
前スレ645 ありがとう、本当にありがとう。

前スレ、埋まったようです。
51名無しさん@ピンキー:2007/09/02(日) 21:37:53 ID:uJpsLgXA
age
52名無しさん@ピンキー:2007/09/06(木) 04:37:57 ID:Fq74XicA
エロなしですが、我儘主人×新米護衛。保守代わりに投下します。
53我儘主人×新米護衛 1:2007/09/06(木) 04:39:14 ID:Fq74XicA
 主に対面するのは初めてのこと。無礼のないようにと思えば思うほどに緊張は高まっていく。
 跪いて頭を垂れ、ヴォルテールは緊張から息を飲む。
「へえ」
 傍らに立つヴォルテールの父が話し終えると主となるべき青年は緩く波打つ髪を気だるげにかきあげた。
「それで、僕の護衛をしてくれるわけだ」<BR>
 明らかに見下した目で青年はヴォルテールを見た。ヴォルテールの心を失望が覆う。
「この、どう見ても子どもにしか見えないか弱い少年が」
 ゆったりと背もたれにもたれたまま、青年は腕を組んで嘲笑う。
「若。見かけで判断してはなりません。こう見えてそこらの大人には負けはしませんぞ」
 父の反論に青年は鼻で笑う。
 仕方がないのかもしれない。主となるべき青年は他人を信用がするのが嫌いなのだと父が言っていた。そして、信頼を得るのは難しいかもしれないがヴォルテールなら出来るはずだとも言ってくれた。
「お、おそれながら申し上げます」
 ヴォルテールには父の期待に応える義務がある。父の期待に応え、主の信頼を得る――それは後継者としての責務だ。
「確かに私では父には及ばぬかもしれません。しかし――」
 体は反射的に避けようとする。けれども、主への忠義が辛うじてヴォルテールをその場へ留まらせた。
「僕は発言を許した覚えはないし、顔を上げてかまわないとも言っていないよ」
 ぽたりと髪を伝って滴が落ちる。青年は机に置かれた水差しの中身をヴォルテールへぶちまけたのだ。
「申し訳ございません」
 じわりと涙がこみ上げるがヴォルテールは必死にそれを堪えた。
「僕がなんと言おうと君はきかないんだろうね」
「ええ。若には申し訳ありませぬが、私の主は若の父君。逆らえはしません」
「……そこの濡れた子犬は番犬くらいにはなるのかな」
 青年が父に全幅の信頼を寄せているのはヴォルテールにもよくわかった。
「君が言うなら子犬の一匹くらい飼ってもいい。――但し、僕には絶対に逆らうな」
 ヴォルテールは跪いて頭を垂れたままだ。
「いいね、子犬君。さあ、顔を上げてごらん」
 しばらく迷い、ヴォルテールは意を決して顔を上げた。
 明るい色の柔らかそうな髪と深い色の瞳。少し冷たそうではあるが、青年の容姿は彫刻のように美しく整っていた。
 ぼんやりと青年を見上げ、ヴォルテールはその容姿に見惚れた。
54我儘主人×新米護衛 2:2007/09/06(木) 04:41:57 ID:Fq74XicA
「僕に忠誠を誓うことを許可してあげるよ」
 くるりと椅子ごと青年がヴォルテールへ体を向ける。
 目の前に靴を差し出され、ヴォルテールは意味が分からず困惑する。それを見た青年は不快げに眉をひそめた。
「一から躾てやらなきゃならないのか。面倒だな」
 靴の爪先がヴォルテールの額をこつんと小突く。
「申し訳ありません」
 よくわからないなりに主の機嫌を損ねたことにだけは気づき、ヴォルテールはうなだれる。
「まあいい。僕の身辺警護をするのは許してあげる。但し、その目障りな姿を必要以上に僕の前に晒さないでくれ」
 ひらひらと手を振られ、ヴォルテールはまたしても首を傾げる。
 助けを求めるように見上げた父は楽しそうでいて困ったような表情で傍観している。
「だから」
 苛立たしげに青年は髪をかきあげ、ヴォルテールを睨みつけて舌打ちをした。
「いいかい。僕が呼びつけない限り、僕の前にその間抜け面を晒すなと言ってるんだよ。今すぐ、僕の前から消えてくれ。濡れた顔して、目障りなんだ」
 自分が水をかけたことを棚上げして怒り出す青年を理不尽に思うよりも、ヴォルテールは青年の意図を理解できない自分自身に失望する。このままではいつまで経っても父の期待に応えられそうにない。
 とりあえずと部屋から出たヴォルテールは青年の目に触れぬように護衛をするための作戦を唸りながら考え出すのであった。


おわり


またスレに活気が戻ること祈ってます。
55名無しさん@ピンキー:2007/09/06(木) 19:18:51 ID:Vl1GCMoE
ヴォルテールはつるぺただと理解した
主はそこをなじりながらも愛していくんだね

…ツンデレ?
56名無しさん@ピンキー:2007/09/07(金) 03:03:55 ID:P3PPmj1L
ツンデレな主とそれに健気に尽くす女従者とか最高だろ
主は鬼畜臭いくてもよし
57名無しさん@ピンキー:2007/09/08(土) 19:17:10 ID:J5NNsgIV
age
58名無しさん@ピンキー:2007/09/12(水) 20:56:54 ID:0UaoKDmv
上げ
59名無しさん@ピンキー:2007/09/14(金) 21:44:08 ID:APGDIMYu
人少ない・・・
60名無しさん@ピンキー:2007/09/14(金) 22:42:43 ID:B/Bhvj/L
そうだな
61名無しさん@ピンキー:2007/09/15(土) 02:16:40 ID:EtwlYuvI
ほしゅ
62名無しさん@ピンキー:2007/09/16(日) 23:04:05 ID:0yTaoNuy
ほ、、ほしゅ?
63 ◆KK1/GhBRzM :2007/09/18(火) 01:32:37 ID:Xh+0GDP/
お久しぶり&新スレでの初投下

いつもの二人ではなく、今回は別カプ
少なくとも、デュー×ファムよか主従色は濃いかと

エロ無しですが、暇潰しになれば幸い
64王都騎士団【感謝の気持ち】1 ◆KK1/GhBRzM :2007/09/18(火) 01:33:57 ID:Xh+0GDP/

 王都騎士団赤河隊は、重装備兵を主力とするため、古くから女性騎士の入隊は禁止されていた。
 実際、男性騎士の間でも、大人一人分の重さの装備で行軍出来る者は、限られている。

 だがしかし、赤河隊が見習い騎士達に敬遠されているかと言うと、そうでもない。
 精鋭部隊である黒旗隊に次いで、志願者が多いのは、華やかな場面に出る事が多いからとも言えよう。

 それはさておき。
 赤河隊内部で、一番の不満を挙げるとすれば、やはり、男ばかりのむさ苦しい隊、と言った声だろう。
 付属養成学校は男女混合。他の隊も、多少割合は違えども、女性騎士が所属している。
 気を使わなくて良い反面、華が無いと言うのも困った物である。

 特に兵卒は、棟の掃除から下着の洗濯まで、担当を決め割り振られている。食事だけは騎士団棟の一角にある食堂で賄われるが、それ以外は全て、自分達でこなさなくてはならない。
 これはどの隊にも当てはまるのだが、側遣えの侍女を持てるのは、私室を当てがわれる副隊長補佐以上の者のみである。



 そして。



「本日よりお世話を申しつかりました。ミラルド・カッツェと申します。よろしくお願い致します」

 シルヴァリア・ハリスが、赤河隊副隊長に就任した時、挨拶に現れた侍女を前にして、うろたえる余り執務机に膝をぶつけたのも、有名な話である。

65王都騎士団【感謝の気持ち】2 ◆KK1/GhBRzM :2007/09/18(火) 01:34:49 ID:Xh+0GDP/

 シルヴァリアは当時二十八歳。
 十八歳で赤河隊に入隊してからと言うもの、家族や親戚以外で女性と話した事は皆無に等しい。
 その家族も、母親や年老いた乳母以外に女性はなく、はっきり言えば女性に免疫がないのである。

 しかし、そんな事はミラルドの知るところではない。

 彼女は仕事熱心で良く働いた。
 細かい所まで気がつくし、常に笑顔を絶やさない。
 シルヴァリアが、長期に渡る演習から戻って来た時などは、どんなに夜が遅くても出迎えるほどに、ミラルドの働きぶりには目を奪われる物があった。

 そのお陰か、半年もすれば、シルヴァリアも、ミラルドに対しては打ち解けられるようになっていた。
 さほど変わらない、二十七歳という、彼女の年齢のお陰もあったのかも知れない。



 そんなある日。

 三年前から付属養成学校の講師としても働くシルヴァリアは、今年黒旗隊に入隊したばかりのデュラハム・ライクリィを連れ、城下街へと出ていた。
 シルヴァリアにとってデュラハムは、教え子と言うよりも年の離れた弟のような存在だった。
 事実、デュラハムはシルヴァリアよりも十四歳年下で、講師に就任した最初の一年を、養成学校のルームメイトとして過ごした事もあり、他の生徒達とは違ってプライベートな付き合いも多い。
 この日も、デュラハムの入隊祝いと称して、久々に二人で食事でもしようということになったのだ。
 言い出しっぺがデュラハムなのは、今更言う間でもない。
66王都騎士団【感謝の気持ち】3 ◆KK1/GhBRzM :2007/09/18(火) 01:36:43 ID:Xh+0GDP/
 冬の空気は冷たいが、穏やかに晴れているからか、さほど寒さを感じない。
 先を歩くデュラハムの後に続きながら、シルヴァリアは賑やかな城下に目を細めた。

 ここ数日、新しく赤河隊に入隊が決定した見習い騎士達の世話で、城下に降りる暇もなかった。
 デュラハムに誘われなければ、暫くは執務室に篭りっぱなしになっていただろう。

「見ろよ、シルヴァ」

 まだあどけなさを残すデュラハムは、立ち並ぶ露店の一角を指差す。
 新年を間近に控えた街は着飾り、一風変わった品物も多く並んでいた。
 デュラハムが示したのも、その中の一つ。王国内では出土の少ない銀を扱う店であった。

「ほう…銀細工か」
「帝国製だってよ。……格好良いなぁ」

 細やかな細工のナイフは、革の鞘と共に置かれ、目の玉が飛び出る程ではないにしろ、相応の値がつけられている。
 柄の部分にも装飾が施されていたが、店の主人に断りを入れ、手に取ってみると、しっくりと馴染む。
 単なる装飾品ではなく、実用的に作られている辺り、軍国の異名を取る帝国製と言うのも頷ける。

「俺も俺もっ」
「振り回すなよ」
「しねぇよ!」

 せがむデュラハムにナイフを渡し、シルヴァリアは他の商品にも目を向けた。
 帝国から流れて来た物以外にも、様々な銀で作られた品がある。
 ふと、その中の一つに目を奪われたシルヴァリアは、引き寄せられるようにしてそれを手に取った。
67王都騎士団【感謝の気持ち】4 ◆KK1/GhBRzM :2007/09/18(火) 01:37:31 ID:Xh+0GDP/

 デイジーを象った髪留め。

 掌サイズだが、その装飾は見事な物で、比例して他の髪留めよりもやや値が張る。

「どうした、シルヴァ?」
「ん? あ、いや」

 ナイフを戻し、他に面白い物はないかと物色していたデュラハムに、不意に声を掛けられ我に返る。
 手にしていた髪留めにデュラハムの視線が向けられたが、シルヴァリアは平静を装って、髪留めを元の位置に戻した。

「あれ、買わねぇの?」
「……買わん」

 ニヤニヤと悪戯小僧のように自分を見上げるデュラハムに、軽い睨みを利かせてみる。
 もっとも、その程度でデュラハムの表情が変わる筈もなく、デュラハムは髪留めとシルヴァリアを交互に見ると、芝居掛った仕草で頭を左右に振った。

「俺の事は気にしなくて構わねぇのに」
「誰がお前の事など気にするか」
「あれ? 彼女にプレゼントじゃねぇの?」

 冷たく言い放つと、今度は不思議そうに此方を見る。
 シルヴァリアは小さな溜め息を吐くと、店の主に「邪魔をしたな」と声を掛け、デュラハムを置いたまま歩き出した。

「ちょ、待てよ、シルヴァ!」

 慌てて後を追って来るデュラハムが隣に並ぶ。
 頭一つ分は背の低い少年を一瞥し、シルヴァリアはフンと鼻を鳴らした。

「何だよ。シルヴァ、彼女いねぇの?」
「俺に女がいなくて悪いか」
「や、悪かねぇけどさ」

 態と突き放した物言いで返すと、デュラハムは少し決まりが悪そうに口篭った。

「だったら……何で、髪留めなんか見てたんだよ」
「別に。他意はない」
「……ふぅん」

 本気で機嫌を損ねたとでも思ったか、それ以上デュラハムが口を開く様子はない。
 大人気ないかと内心反省しながらも、シルヴァリアは、暫く無言を貫いた。

 とは言え、その程度で居心地の悪くなる二人ではない。
 二年前までは日常茶飯事の遣り取り。
 食事を始める頃にはもう、二人はいつものように他愛ない雑談を交すようになっていた。

68王都騎士団【感謝の気持ち】5 ◆KK1/GhBRzM :2007/09/18(火) 01:39:04 ID:Xh+0GDP/


 シルヴァリアが執務室に戻ると、暫くして扉がノックされた。

「どうぞ」
「失礼致します」

 涼やかな声が聞え扉が開かれる。
 いつもならエプロンドレスを身に付けているミラルドが、私服姿で姿を現した。

「どうかしたのか」
「お戻りになるのをお待ちしておりました」

 問掛けに、ミラルドはにっこりと笑う。
 意図する事が分からず、不思議そうな表情を浮かべるシルヴァリアに、笑み顔のミラルドは小さく頭を下げると、顔を上げた。

「暫くのお暇を頂きましたので、発つ前にご挨拶をと思いまして」
「あぁ、今日だったのか」
「はい」

 間もなく新年を迎える。
 新しい年を王都で迎える者も少なくないが、側遣えの者の大半は、故郷に戻る。
 ミラルドもその中の一人で、シルヴァリアも以前から話は聞いていた。

「わざわざ私を待たなくても構わなかったのに」
「いえ」

 素直な想いを口にすると、ミラルドは口許を綻ばせ、からかい混じりに目を細めた。

「私が居ない間、お部屋を汚されては敵いませんもの。留意して頂かないと」

 その言葉に、シルヴァリアは一瞬目を丸くしたが、直ぐに笑いを溢すと、クツクツと肩を震わせながら席を立った。

「そう心配するな。その手の事であなたを煩わせた事はないだろう?」
「そう言えば、そうでしたね」

 くすくすと笑うミラルドの髪は豊かな黒髪。いつもはネットに収まっているそれは、今日ばかりは下ろされて、ミラルドが笑う度に柔らかに揺れた。

「それでは、私はそろそろ」
「ああ。気を付けて行けよ」
「はい。ハリス様もお風邪など召されませぬよう」

 浅く会釈を残したミラルドが部屋を出る。
 背後の窓から差し込む、冬の日差しに黒髪が輝き、シルヴァリアは、暫しそれに見惚れていたが、ミラルドの姿が見えなくなると、小さな溜め息を吐いて、また執務に戻る事にした。




 何度も言うが、赤河隊は女性と接する機会が少ない。
 こと、シルヴァリアに於いては、実直な性格も関係してか、女性関係には人一倍縁が無かった。

 だからこそ。
 ミラルドに対する己の感情に、気付かなかったとも言える。

 少なくとも、この時までは。

69王都騎士団【感謝の気持ち】6 ◆KK1/GhBRzM :2007/09/18(火) 01:40:27 ID:Xh+0GDP/

 王都内にある生家で新年を迎えた翌日、シルヴァリアは早々に、騎士団の己の執務室に戻ってきた。
 名家の出とは言え、シルヴァリアは分家の身。更に言えば、騎士団に入隊した時から、一切の煩わしい関わりを断っていた。

 閑散とした、人気のない棟はいつもと違うが、執務に没頭してしまえば気にならない。
 そうやって、二刻ほどの間、春先の合同演習に向けて、書類と睨めっこをしていたシルヴァリアだったが。

 ふとした拍子に感じた違和感に、ペンを走らせる手を止めた。

 大した事のない違和感だが、やけに胸の内に引っ掛かる。
 小さな棘のような違和感は、やがて徐々に大きくなって、その時になって初めて、シルヴァリアは喉が乾いている己に気が付いた。

「あぁ……そうか」

 気付いてしまえば何の事はない。
 いつもは喉が乾く前に、ミラルドがお茶の支度をしてくれていたのだ。
 ただ、それだけ。

 シルヴァリアは席を立つと、給仕室へと足を向けた。
 今は副隊長補佐のデール・ギブソンも休暇をとっている。お茶を煎れるぐらいは自分でするしかない。

「そうか……彼女がいないと、こうも不便なんだな」

 フと溢れた笑みは、僅かに苦い物が混じってはいたが、それ以上にミラルドの有り難みを感じていた。

 シルヴァリアは、ミラルドが煎れたお茶を拒んだ事はない。
 それどころか、彼女にお茶を煎れるよう指示した記憶もない。

 今まで気にした事がなかったが、思い返せば、ミラルドは常にシルヴァリアの望むタイミングでお茶の支度をしてくれていた。
 いくら職務に忠実とは言え、多忙な自分を相手に、そうそう都合良くお茶の支度など、直接の部下であるデールにも出来るかどうか。

「絶対無理だな」

 そう思えば思うほど、ミラルドがいかに自分を気に掛けてくれていたのかが分かる。
 こんな些細な事だからこそ、それが良く分かってしまうのだ。
 例えそれがミラルドの職務だとしても、彼女以上に自分を気遣ってくれている人間もいないだろう。

「……何か、礼をするべきかも知れんな」

 給仕室の前に立ち、ぽつりと呟いたシルヴァリアは、ふいに顔を上げると、足早に今来た道を戻り始めた。

70王都騎士団【感謝の気持ち】7 ◆KK1/GhBRzM :2007/09/18(火) 01:41:27 ID:Xh+0GDP/


 執務室の扉がノックされ、シルヴァリアは返事と共に顔を上げた。

「どうぞ」
「失礼致します」

 予想通りの相手の声に、シルヴァリアは軽い咳払いをして、慌てて机の引き出しに手をやった。
 扉を開けて入ってきたのは、簡素な服装のミラルドである。

「新年おめでとうございます、ハリス様。本年も引き続きよろしくお願い致します」
「あぁ、こちらこそ」

 見慣れたエプロンドレスを身に付けていると言う事は、今日からミラルドも仕事に戻るのだろう。

 シルヴァリアから遅れる事三日だが、まだ新年休暇を得た者達の殆んどは戻っていない。
 ミラルドは比較的早い方と言える。

「生家はどうだった」
「お陰様で、みな健勝でした。両親も兄も、皆様に宜しくとのことです」
「それは何より」
「ハリス様もお代わり無くて何よりです」
「む……そ、そうか」

 他愛ない話をしている間も、シルヴァリアの手は、引き出しの取っ手を握ったり話したり。
 中に入っている物を渡すだけだと言うのに、いまいちタイミングが計れない。

「いつ、こちらにお戻りに?」
「二日に」
「まぁ、そんなに早く」
「色々と、執務があるのでな」


 半分上の空で口を開くシルヴァリアだが、ミラルドは気にした様子もなく、それどころか執務が忙しいと思ったのだろう。
 歯切れの悪いシルヴァリアの口調に、邪魔をしてはいけないとばかりに、「それでは……」と頭を下げて出て行こうとする。

 その姿を目にした瞬間、シルヴァリアはガバと引き出しを開いた。

「ま、待て。カッツェ!」
「……はい?」

 勢いはそのまま大声となり、ミラルドはびっくりしたのか、目を丸くして振り返った。

「その……ちょっと、待ってくれ」
「は……はい」
71王都騎士団【感謝の気持ち】8 ◆KK1/GhBRzM :2007/09/18(火) 01:43:13 ID:Xh+0GDP/

 無性に緊張するのは何故なのか。
 その理由すら考えられないシルヴァリアだったが、決意を固めたのは二日も前の話。
 ここで後には引けない。
 むしろ先に伸ばす方が、精神衛生上、良くないに違いない。

「その……あなたに、言わなくてはならない事が……」
「……はい」

 くるりと向き直ったミラルドは、不思議そうに目をぱちくり。
 シルヴァリアは大きく一つ深呼吸をすると、紙包みを掴んで立ち上がった。

「あなたが俺に仕えるようになって半年だが……その……俺は、今までそれが当然の事のように受け止めていた」
「それは当然のことですから」
「いや、違うんだ」

 机を迂回し、ミラルドの前に立つ。
 ミラルドはやはり不思議そうに口を開いたが、シルヴァリアは首を左右に振って、話の続きを始めた。

 拳に固めた左手の中は、じんわりと汗ばんでいて気持ちが悪い。

「当然と言えば、そうだが……俺は感謝しているんだ。だが、それを、今まで口にした事がなかった。だから……少しでも、それを伝えたくて……」
「……はい」

 もごもごと口篭った口調だが、ミラルドはシルヴァリアの言葉に笑みを浮かべる。
 柔らかなその表情に、シルヴァリアは一瞬息を飲んだが、次の瞬間、ぐいと右手を彼女の前に差し出した。

「あの……?」
「嫌なら捨ててくれて構わん。だが、今は受け取って欲しい」

 早口でそう告げたシルヴァリアは、押し付けるようにして、ミラルドに紙包みを手渡す。
 ミラルドは戸惑ったように、紙包みとシルヴァリアを交互に見ていたが、やがて、そっと紙包みを広げた。

「これは──」

 銀細工の髪留めは、デュラハムと共に出掛けた日に見付けた物である。
 そもそも、女性に物を贈ったこともないのだ。
 何が喜ばれるかなど、真剣に悩んだこともないし、この髪留めもたまたま見付けたに過ぎない。

 もちろん、ミラルドはそんな事は知らないが、シルヴァリアはがりがりと頭を掻いて、ミラルドから視線を外した。

「あなたに似合うだろうと思って……。こんな形でしか、感謝の気持ちを表せないが、今までの礼だ」
「そんな……お気持ちだけで充分ですのに」

 手の中の物を見つめたミラルドの声は、困惑の色が混じっている。
 しかしシルヴァリアは、有無を言わせぬ口調で、矢継ぎ早に口を開いた。
 ただし、視線は逸らしたままである。
72王都騎士団【感謝の気持ち】9 ◆KK1/GhBRzM :2007/09/18(火) 01:44:38 ID:Xh+0GDP/

「いや、それだと俺の気が済まないんだ。……あなたがいなくて、この三日、俺は不便で仕方なかった。こんな物で礼の代わりにするのも、どうかと思ったんだが」
「…………」
「……受け取ってもらえるか?」

 沈黙を続けるミラルドに、シルヴァリアは不安で仕方ない。

 恐る恐る視線を移すと、ミラルドもゆっくりと視線を上げ、それからにっこりと微笑んだ。

「ありがとうございます、ハリス様」
「……え」
「大切にします。……本当に、嬉しいです」

 両の手で包み込むようにして髪留めを握り締めたミラルドの言葉に、シルヴァリアは心底安堵して、深い深い溜め息を吐いた。

 ミラルドは早速髪留めを付けると、指の先でそっとなぞる。
 微笑みに満たされた表情は、彼女の言葉が嘘でない事を物語っていた。

「それにしても……」
「ん?」

 ふと視線を戻したミラルドに、シルヴァリアは己の視線を交わらせる。
 ミラルドは少し可笑しそうに笑いながら、口許を緩めた。

「ハリス様がご自分の事を「俺」とおっしゃる姿を、初めて見ました」
「え!? あ……」

 悪戯に笑うミラルドに、そう言えば、と思い出す。

 執務の時は常に「私」で通しており、「俺」はプライベートの時でしか使用しない。
 何と無く身に付いた言い回しだったが、ミラルドには新鮮だったのだろう。

 それだけ緊張していたのか、と、今更ながらシルヴァリアは恥ずかしくなったが、ミラルドは気にした様子も見せず、くすりと笑みを溢した。

「それでは、仕事に戻ります。お茶の用意をして来ますね」
「あ、あぁ……ありがとう」

 一礼して立ち去るミラルドに、シルヴァリアは暫し呆けていたが。

 緊張していたせいか、妙に喉が乾いている。
 それをミラルドが察したかどうかは分からないが、相変わらずのタイミングだ。

「……敵わないな、彼女には」

 苦い笑みを浮かべて呟いたシルヴァリアは、ゆるゆると首を振って席に戻る。
 目を閉じると、先ほど一瞬だけ目に止まった、黒髪に栄える髪留めが瞼の裏に焼き付いていて。

 シルヴァリアは、本日二度目の安堵の吐息を漏らした。


73 ◆KK1/GhBRzM :2007/09/18(火) 01:48:19 ID:Xh+0GDP/
以上です

番外編のつもりでしたが、この二人の方がスレの主旨には則してるような気が…orz
次回はエロ有りを持ってきます
74名無しさん@ピンキー:2007/09/18(火) 05:25:12 ID:lCFKJAir
おぉ、待ってました!王都騎士団!!
しかし、若かりし日のシルヴァがこんな純情だったとはwww
次はエロありとの事ですが、ここからどうなったらそんな素早い展開になるんだろう…
wktkして待ってます。
75名無しさん@ピンキー:2007/09/18(火) 23:15:38 ID:8Y0qGvHq
うぉーニヤニヤが止まんねぇー
同じくwktkして待ってます!
76名無しさん@ピンキー:2007/09/20(木) 14:54:10 ID:VK6WQCZ9
>>20続き

 こんばんは。ニーナです。
 今は夜です。夜中です。
 こんな夜中でもフランシスさんは眠りません。パソコンが要るんだと騒ぐので仕方なくベッ
ドルームまで重たいモニターと本体を運び込み、指示通りに配線をしてから一週間、フランシ
スさんは上機嫌で一日中パソコンに向かって過ごしています。
 昼だろうと夜だろうと、眠い時に寝て起きていたい時に起きているのが彼のスタイルらしい
のですが、とても不健康な行為なのであまり好ましい事ではありません。
 ですがお仕事だと言われてしまえば私に口を出す権利はなくなります。悔しいですがこれば
かりは仕方ありません。
 お手洗いは尿瓶です。
 お食事は作って運んであげます。
 未だに名前は呼んでもらえませんが、最近では呼びつけられる頻度が上がっているように思
います。
 最初の頃は全部自分でやろうとして直りかけた骨を折ったりと酷い有様でしたが、もうそん
な事も起こりません。
 仕事は増えましたが看護師として誇らしい限りです。
 この一週間で一度だけ、一人お客さんがありました。
 すらりとしていて背の高い、赤茶けた髪も愛らしい大人な印象の男性です。
 お話を伺ってみるとこの男性が私をフランシスさんの所に派遣した張本人らしく、お仕事ご
苦労様ですとおいしそうなパンを頂きました。
 そうです。私をここに派遣したウィルトスさんは、この町で人気のパン屋さんなのです。
 何やらフランシスさんに御用があるとの事なので寝室までご案内すると、フランシスさんは
物凄く不機嫌そうでした。
 ですがウィルトスさんが茶封筒をちらつかせると急に上機嫌になり、自分から椅子を勧める
始末です。
 封筒の中身が気になったのであえてその部屋に留まっていると、フランシスさんに追い出さ
れました。不満です。
 しかしジョージア医療介護サービスは決してお客様のプライバシーを侵害しません。
 その日私は大人しく退室し、今日に至るまでその袋の中身を知る事はありませんでした。

 そうです。
 つまり今日。正確には数分前。私はその袋の中身を目撃してしまったのです。
 それは、真夜中にも関わらずフランシスさんの部屋から物音と光がこぼれていたので、早く
寝ろと注意をしに行った時の事でした。
 ドアノブを握ろうとした私の耳に苦しげな呻き声が飛び込み、私は慌てて部屋に飛び込みま
した。
「どうしましたフランシスさん! どこか痛むんですか!」
 と、実に颯爽とした物です。
 しかしそこで私が目撃したのは、見事に勃起した立派な生殖器を自ら掴み、そう、自慰をな
さっている最中のフランシスさんの姿だったのです。
 思わず股間のナニを凝視して固まった私を、しかしフランシスさんは無視して事をおし進め
ました。
 そして大きな体をびくりと震わせ、亀頭部にあてがっていたティッシュをくるくると丸めて
側の込み箱に放り込みました。
 そして股間のナニをきっちりしまい、そこでようやく私を見て言ったのです。
「なんだ、見てたのか」
 私は驚愕しました。
 戦慄しました。
 そして私は気付いたのです。
 ベッド一杯に広げられている色鮮やかな写真の存在に。
「これか? 俺の女神だ。おまえも見たいか?」
 そう、無邪気な笑顔を浮かべたフランシスさんの言葉に、私は自分がひどく傷つくのを意識
しました。
 しかもあろう事か私は、その差し出された写真をまじまじと見てしまったのです。
 どう見ても少年でした。しかしフランシスさんが女神と言うからには女性なのでしょう。
 幸せそうに笑っていたり、不機嫌そうに怒ったりしている姿はとても可愛らしくはつらつと
していて、もしも少年だったら私が放っておかないところです。
77名無しさん@ピンキー:2007/09/20(木) 14:54:44 ID:VK6WQCZ9
「俺の腕の傷、酷く痕が残るって言っただろ。この刻印を刻んでくれた女だ。俺を踏みつけに
して、俺を殴り、俺を銃で撃って俺の骨を折った女だ」
「そ――その傷全部、その人にやられたんですか!?」
 驚愕して叫んだ私に対して、フランシスさんが自慢げに笑います。
「凄いだろう。こんなこと出来る女は他にいない。俺は女には勃たないがこの女にだけは勃起
する。たまらない。あぁ、愛しい、愛しい俺の女神」
 形のいい唇から色艶のいい舌を出し、フランシスさんがうっとりと写真を舐め上げます。
 たまらず、私は部屋から飛び出しました。
 そして今、私はフランシスさんに与えられた自分の部屋で、一人しくしくと枕をぬらしてい
るのです。
 ショックです。衝撃です。男性の生殖器を凝視してしまった事も、見られても平然としてい
るフランシスさんの図太さも、写真を舐める変態振りも。
 そして何より、フランシスさんが写真の人に恋をしている事実に衝撃を受けた自分自身がシ
ョックで仕方ありません。
 これじゃあまるで、私がフランシスさんに恋をしているみたいです。横恋慕です。
 いやいやそんな事があるわけありません。
 私は依頼人に特別な感情を抱く事は決してない、潔癖で完璧なジョージア医療介護サービス
の敏腕看護師なのですから。

 ぐすぐすと泣きながら一晩を過ごし、私は泣きはらした目のままぐったりと仕事に取り掛か
りました。
 栄養バランスがよく、なおかつ消化にいい朝食を用意して、フランシスさんの部屋に運びます。
 ノックをして部屋に入ると、フランシスさんはまだ起きていました。
 昨晩から一睡もしていないのでしょうか。真剣な表情でキーボードを叩いています。
 その、テーブルの空きスペースにトレーを置き、私は無言で踵を返しました。
 しかしその腕を、前触れも無くフランシスさんがつかみます。
「なんですか?」
 と平静を装って振り返ると、フランシスさんはいかにも困ったと言うような、そんな表情で
私を見ました。
「泣いたのか」
「泣いてませんよ」
「目が赤いぞ」
「花粉じゃないですか?」
「どうして泣いた」
「泣いてませんってば」
「言え。誰に泣かされた」
 あんたですよあんた。あえて原因を上げるとすれば、あんたが美形なのに変態でしかも少年
の様な美知らぬ美少女を愛してるのが原因ですよ。
 言ってやりたいのを必死に堪え、私は再度なんでもありませんと繰り返した。
「関係なくないぞ。看護師だろう」
「看護師にだってプライバシーはあるでしょう」
「知らん。俺のものだ」
「私はジョージア医療介護サービスの社員で、依頼主はウィルトスさんです。ここはただの勤
務地であってフランシスさんはただの患者です」
 困り顔から、不機嫌顔に。
 ぶんぶんと腕を振るも、フランシスさんが放してくれる様子はありません。
78名無しさん@ピンキー:2007/09/20(木) 14:55:19 ID:VK6WQCZ9
「放してください」
「なんで泣いてる」
「だから泣いてないって――!」
 ぽたりと、暖かなしずくが落ちました。
 なんて事でしょう。本当に泣いています。しかも涙は後から後から溢れてきて――。
「な、泣いて……ないてなんか……」
 だめです。声まで震えてきました。泣きそうです。っていうかもう泣いています。
「う……うぅ、う……ふぇえぇえ!」
 なんて惨めなんでしょう。こんなのってあんまりです。
 産まれて初めての一目惚れの相手が“こんなの”で、しかもあまりといったらあんまりな振
られ方です。
 まだ愛の告白もしていなかったのに。
 一目惚れの事実にも気付いていなかったのに。
 振られた瞬間に気が付く愛なんて悲恋物の恋愛小説だけで十分です。
「もう! 全部フランシスさんのせいです! なにもかもフランシスさんのせいです! この
変態性欲者! マゾヒスト! 潜在的同性愛者!」
「それとおまえが泣くのとなんの関係がある」
「否定しないんですか!」
「すれば泣きやむのか?」
「私が泣こうが喚こうがあなたには関係ないじゃないですか! あなたなんか写真の人の事で
も考えながら自慰にふけってればいいんです!」
 わぁああぁん、と子供のような泣き声を上げる私を前に、いよいよフランシスさんは困り果
てたように、それでも私の手は離さずに沈黙しました。
 一分か二分くらいでしょうか、ただ私の鳴き声だけが無駄かつ滑稽に響きます。
 そしてふとひらめいたように、フランシスさんが顔を上げました。
「分かった。さては生理だな」
「なんでそうなるんですか! セクハラです!」
「女は生理になると情緒不安定になるんだろう」
「生理が原因じゃなくてホルモンバランスの変化が原因なんです! 生理なら全部の女性が情
緒不安定になるなんて思わないでください!」
「そうなのか」
「そうなんです!」
「まいったな。本当にわからん。降参だ。教えろ」
 なんなんでしょうこの男。
 どういう育ち方をしたらこういう性格に育つんでしょう。
 そんなに聞きたいなら教えてやります。驚愕して狼狽えて困り果てればいいんです。
「好きです」
 ずずず、と鼻水をすすりながら、まったくムードの欠片もない愛の告白を決行し、私は自由
になる方の腕でごしごしと涙を拭いました。
「なにがだ」
「フランシスさんが好きなんですよ! それなのにあなたが他の人を好きだって知っちゃった
から泣いてるんですよ! 傷ついてるんですよ! 乙女の失恋劇ですよ!」
 何を考えているのかよく分からない表情で、フランシスさんが私を見ます。
 ガン見です。凝視です。なんですかまったく。そんなに私の泣き顔がみっともないですか。
「おまえ……俺を愛してるのか?」
「あ、あ、愛って……! ま、まだそんな……そこまでは」
「なんだ違うのか」
「愛してます!」
 理解しました。
 この人は言葉をそのままの意味で受け取ります。
 乙女の恥じらいとか全く考慮していません。
 仕方なく半ば逆ギレ気味に断言すると、フランシスさんはようやく私の手を放し、スライド
式のベッドテーブルをぐいと足元に押しやりました。
79名無しさん@ピンキー:2007/09/20(木) 14:55:54 ID:VK6WQCZ9
 再び私の手を掴み、引っ張って乱暴にベッドの上に引っ張り上げます。
 ベッドに横たわっているフランシスさんに横抱きにされるような形になり、迂闊にもされる
がままになっていた私は瞬く間に赤面しました。
「な、な、な……なにを――!」
「動くな」
「ちょ、ちょちょ――ちょっとま! 待ってください! 待って!」
 私の制止を無視して、もぞもぞと私の胸元を探ります。
 ぷつん、と看護服のボタンが一つ外され、次の瞬間、部屋中に痛そうな音が響きました。
 音を立てたのはもちろん私の手の平です。
 顔面をひっぱたかれたフランシスさんは一瞬呆気に取られたように唖然とし、直後ににたり
と――本当ににやりなんてレベルじゃなく――笑いました。
「勃った」
「は……はへ?」
「驚いた。もっと早くに試せばよかった。おまえも小さくて、ふわふわしてて、たまらなく抱
き心地がよかったから、ひょっとしたらとは思ってたんだ」
 ずいと、フランシスさんの危ない笑顔が迫ります。
 次の瞬間には唇を塞がれていて――ファーストキッスは犯して貪るような、優しさの欠片も
ないものでした。
 生暖かい舌がぬめぬめと私の口の中を這い回り、私の舌を絡めとってちゅうちゅうと吸い上
げます。
 きもちいい物ではありません。ですが妙にくらくらします。
「ふ――フランシスさん! やめてください! ちょっと、私初めてなんです! だから告白
したら即時セックスで気持ちよくってラブラブなんてことにはならないわけで! 聞いてます
かフランシスさん! フランシスさん!?」
 私の言葉を完全に無視して、剥ぎ取るように看護服の上を脱がされ、私はささやかながらも
形がいいと自負している乳房を両腕で隠しました。
 その手を恐るべき腕力で引き剥がされ、フランシスさんの舌が私の乳房をべろりと舐めます。
「うひゃあぁ! ちょ、ちょっと、ちょ――本気ですか! 本気なんですか!? 落ち着いて
ください! おちつぃ……いぁあぁ!」
 喋ると意思に反して変な声が出てしまいます
 しかし黙っていると行為を黙認している事になってしまいます。
「ふ、ふわ、ふわぁあぁ……! そ、そんなに、舐め……なめなぃ……ひゃぁあぁ!」
 ちゅうっと音を立ててフランシスさんが私の乳首に吸いつきます。
 舌でべろべろ舐められて、ころころと転がされて、押しつぶされてまた吸われて。
 き――気持ちよすぎてどうでも良くなってきました。
 いつの間にか両腕が自由になっています。
 それはつまり、フランシスさんも両手が自由と言う事で――。
「女を抱くのを初めてなんだ」
 ど――童貞ですか? それは嘘でしょう。
 ぐったりとなった私の体をひょいと持ち上げ、フランシスさんは向かい合うようにして私の
体を抱き寄せました。
 あれよあれよと言う間にズボンが脱がされていきます。
 こんなに手馴れた、しかも手の早い童貞なんて許しません。認めません。
「って――だ、だ、だだ、だめです! フランシスさん! 本当にそっちは――!」
 フランシスさんの大きな手が、すべすべと私のお尻を撫で回しました。
 指が回りこむようにして私の股間をまさぐり、恥ずかしながら溢れ出していた分泌液をにち
ゃにちゃと音を立てます。
80名無しさん@ピンキー:2007/09/20(木) 14:56:31 ID:VK6WQCZ9
「なるほど、こうなるのか」
「ほ、本気で童貞なん、ひぅ――! うわ、うわぁ、あ、なかに、入って……だめぇえ!」
「女はここが感じるんだろう?」
「きゃん!」
「犬のまねか。上手いな」
 何が悲しくてこんな状況で犬の鳴きまねしなきゃならないんですか。
 あなたが無遠慮にぐにぐにと――そ、そんなとこ、を、お、押しつぶさないでぇぇ!
 って……あれ?
 ちょ、ちょっと。
 なんでお尻の穴なんていじくって――うわ、ゆび! ゆびが!
「き、汚い! フランシスさ――ちょ、ゆゆ、ゆび! ぬひてぇ……」
 なんでしょうこの感覚。
 体に力が入りません。
「あう、あぁ、ん……ひん。ふぁ、あぁ……ふら、んしす……さぁん」
 意思に反して体が小刻みに震えます。
 なんだか、お腹の辺りになにか、硬いものが――。
 そんな事を思っていると、フランシスさんが私を快楽で責めさいなんでいた手を止め、ズボ
ンをごそごそとやり始めました。
 そして、布地の下から引きずり出された――凶器。
 無理です。
 いえ物理的にどうという話ではなく、精神的に不可能です。
 こんなものが私の中に入るわけありません。
 しかし顔面蒼白で硬直した私を気にかける様子も無く、フランシスさんは負傷しているはず
の両腕で軽々と私を持ち上げました。
 元々痛覚が存在していないとしか思えない人なので今更驚きませんが、この期に及んで傷の
悪化を心配している自分の看護師精神に感服します。
「処女か? 看護師」
「しょ、しょ……処女ですよ! あ、あたりまえじゃないですか!」
「そうか。処女は痛がるんだってな」
 しまった。
 その事実をすっかり失念していました。
 痛いのは嫌です。ですがなんか、もう絶対に後戻りできない所まで無理やりつれてこられて
しまった感じです。
 どうしましょう。どうすればいいんでしょう。
「我慢しろ」
 なんでこの人、常に命令口調なんでしょう。
 いえ、いい加減なれもしましたが、なんといいましょうか、こういう時くらい優しくなって
も良さそうなものなんですが、乙女の甘い幻想でしょうか。
 しかも我慢しろって――。
「あとでケーキ買ってやる。好きだろ? 甘いもの」
 ケーキごときで処女を売り渡す女と思われていることが衝撃ですが、しかしケーキは確かに
魅力的です。
 決してケーキが原因ではありませんが私が気合を入れて目を閉じると、フランシスさんはギ
ンギンに勃起している赤黒い凶器でぐちぐちと入り口のあたりを擦り上げました。
「は、はぁ……ん、んん……あう、あ……」
「入れるぞ」
 はい――と答える間もなく、フランシスさんは乱暴とも言える動きで私の中にずぶずぶと押
し入ってきました。
 い――いた、いたたたた……た、た?
 ……あまり痛くありません。
 いえ、確かに痛いですが、引き裂かれるような――だとか、脳髄を突き抜ける――だとか。
「……あれ?」
「どうした」
「いえ……そんなに痛くない、かなぁ……なんて」
81名無しさん@ピンキー:2007/09/20(木) 14:57:06 ID:VK6WQCZ9
「そうか。我慢強いな。看護師」
 我慢強いと言うか、これが音に聞く個体差というやつなのでしょう。
 これはラッキーです。幸運です。これならば、フランシスさんの体に負担をかけずに済みそ
うです。自分で動いてしまいましょう。
「看護師?」
「ふ、フランシスさんは怪我人ですので、激しい運動は控えたほう、が……いいので、僭越な
がら私の方で、出来る限りの事を、いたします」
 フランシスさんのお腹あたりに手を置いて、おそるおそる腰を浮かせ、またゆっくりと腰を
落としてみます。
 よし。大丈夫。やっぱり痛くはありません。
 やっぱり男の人は、こういうのは激しく動いた方が気持ちいいんでしょうか。
 肋骨に負担をかけないように慎重に、動きます。
 こつを掴んでくると滑らかに動けるようになり、ちらと様子を伺うと、フランシスさんは気
持ち良さそうに息を乱して快楽に浸っているようでした。
 なんでしょうこの優越感。
 これはいい。なんだか楽しくなってきました。こんな私は変態でしょうか。
 いえいえそんなはずありません。患者さんに気持ちよく、心地よく、快適に過ごしていただ
く事を何よりも喜びとする看護師精神の表れなのです。
「は、は……あ、はぁ……んん……っは、んぁ」
 経験は無いながらも、ちょっと踏み込んだところまで書いてある大人の恋愛小説を愛読して
いた私です。
 三度に一度はきゅっと締めるなんて難しい事は出来ませんが、それでもがんばって締め付け
てみたりします。
 ふと、思い出したようにフランシスさんが私の体に触れました。
 腰をすべすべとなでさすったり、太腿をむにむにしたりしています。
 あ、ちょっと気持ちいいかもしれません。
「あ、だ、だめ……そんな、さわったら……じょ、じょうずに動けな……」
「努力しろ」
 きゅ、とフランシスさんが私の乳首をつまみます。
 くりくりと転がされて、なんだか下半身がきゅうってなって――。
「い、いく……! うわ、うわぁあ……!」
 じゅぷじゅぷと音を立てる結合部にフランシスさんの指が伸びて、指先で充血して敏感にな
ってる突起をくすぐります。
 そんな風にされるものだから、つま先が丸まって、握り締めた拳も解けなくって、な、涙が
出てきました。
 って、いつの間にかフランシスさん、腰動かしてませんか。
 そんなに下から、え、えぐられた、らあぁ――!
「うあぁ! あ、ふあぁ! ふら、ん、しすさ……だ、だめ、あぁ、け、けが、が……!」
 不意にフランシスさんが上半身を起き上がらせ、がっちりと私の腰を掴みました。
 ギリギリまで引き抜かれ、叩きつけるように突き入れられます。
 そうすると奥の方に何か当たって、なんだか痛くて、だけどじんじんと、きゅうきゅうとし
てしまって――。
「出すぞ――!」
「ま、ま――だだ、だめです! なか、なかは……!」
 って、思い切り生で入ってるのに、今更外で出そうが中で出そうが同じでしょうか。
 なんたる不覚。
 なんだか妙に冷静な思考とは裏腹に、私は乱れに乱れて髪を振り乱して喘ぎました。
 ぐ、と奥まで押し込まれ、フランシスさんが動きを止めます。
82名無しさん@ピンキー:2007/09/20(木) 14:58:15 ID:VK6WQCZ9
 どくん、と中で大きく脈打って、熱ささえ覚える暖かいものがじんわりと広がっていくのが
わかりました。
 ぞくぞくと体が震え、いつの間にか私の理性を焼ききっていた絶頂の余韻に浸ります。
 結合部からどろりと白い液体が溢れ、私はその様子を見ながら、シーツを取り替える手順を
考えていました。

 ことを終えて後片付けに動き回る私を、フランシスさんは興味深そうに観察していました。
 曰く、愛を交わした直後にそんなに事務的に動き回る奴は始めて見た――だそうで、あの行
為に愛があったとは到底思えなかった私はその言葉にほんの少し驚きました。
 しかし、女を抱くのは初めてじゃ無かったんでしょうか。
 女じゃなくて男なら抱いた事があるとかいう落ちだったらどうしましょう。
 なんだか恐ろしくなったので聞いていました。
「そんなに沢山、男性とは経験があるんですか?」
「ああ。特に少年はいい」
 今ほど聞かなければよかったと後悔した事はありません。
 私は一連の会話をなかった事にしてフランシスさんを着替えさせ、シーツを取り替えて洗濯
機に放り込みました。
 一仕事を終えて一息つくと、ようやく気恥ずかしさや後悔が襲ってきます。
 やりました。
 やってしまいました。
 関係を持ってしまいました。しかもなんだか、正常とは言いがたい関係を気付いてしまった
ような気がします。
 セックスフレンド?
 肉奴隷?
 女神とまで賞した写真の女性を、別の女に告白されて一回肉体関係をくらいで諦めるような
潔い人間には思えません。
 泥沼です。
 どろどろです。
 しかしセックスがあんなに気持ちいいものだとはおもいませんでした。
 あれははまります。だだはまりです。
 しまったアフターピルを飲んでおかなければ、妊娠したらわりと洒落になりません。
 フランシスさんが責任を持って結婚するとか言い出す人では無い事は確かです。
「……まぁ、こんな第一歩もありか」
 肉奴隷から始まる愛もあるかもしれません。
 私はよし、と小さく気合を入れ、ひそやかにフランシス陥落作戦の決行を心に決めたのでした。

 以上です。
 お付き合いありがとうございました。
83名無しさん@ピンキー:2007/09/20(木) 15:54:03 ID:rgWYABuU
昨日ボーイッシュスレの過去ログ読みふけってきたばっかりだw
ニーナ可愛いよニーナ GJGJGJ!
84名無しさん@ピンキー:2007/09/20(木) 18:40:40 ID:u0XFladw
GJ!!大爆笑したッッ
ニーナがフランシス落とすとこまで見てみたいものです
85名無しさん@ピンキー:2007/09/20(木) 18:52:25 ID:Iu9IEUPj
ニーナの恋が実ると良いですね。GJ!
86名無しさん@ピンキー:2007/09/20(木) 22:28:34 ID:HAc8oOjT
ニーナが可愛すぎてやばい
87名無しさん@ピンキー:2007/09/20(木) 23:19:43 ID:3N0x6Q+O
ニーナまってましたww
GJです!!
ボーイッシュスレの時から
あなたの作品が大好きです!
次回の投下、楽しみにしてますww
88名無しさん@ピンキー:2007/09/22(土) 06:42:48 ID:KRhgoFhs
age
89名無しさん@ピンキー:2007/09/22(土) 22:15:23 ID:OD7aWZ80
よっしゃ、ニーナオッケエェェェ!!
90名無しさん@ピンキー:2007/09/25(火) 15:05:57 ID:nnRdGchs
90
91名無しさん@ピンキー:2007/09/27(木) 22:19:51 ID:/453W0fB
保守
92名無しさん@ピンキー:2007/09/30(日) 00:35:07 ID:vfpSnHBo
新作待ち
93名無しさん@ピンキー:2007/10/04(木) 12:01:41 ID:Yk5VhmgG
あげ
94 ◆KK1/GhBRzM :2007/10/06(土) 08:16:26 ID:/ysLN0ey
>>64-72の続編

短くまとめる才能がないため、結局前後編にorz
今回はエロ無しなので、興味のない方は申し訳ないがスルーでお願いする
95王都騎士団【愛しい人・前編】1 ◆KK1/GhBRzM :2007/10/06(土) 08:17:49 ID:/ysLN0ey


 仕事を持つ身でも、二十五を過ぎれば行き遅れ。三十を過ぎれば貰い手もない。そんな周囲の「常識」の中、ミラルドは二十八の誕生日を迎えた。

 親兄弟はのんびりとしたもので、ミラルドが結婚しようがどうしようが、本人の好きにさせておけ、が基本スタンスだったし、ミラルド自身も、結婚なんて自分には縁がないと思っていた。
 しかし、周囲はそう思わなかったようで。

 王都騎士団侍女長の、サリー・ヘッグマンから、見合いの話を持ち出されたのは、誕生日の翌日だった。

「私が、ですか」

 不意の話に目を丸くするミラルドの前で、サリーはにこにこと笑いながら頷いた。

「そうよ。ブランド子爵の末息子さんなんだけど、中々の好青年でね。少し年はいってるけど、ホラ、あなたもアレじゃない?」

 中途半端に言葉を濁すサリーに、ミラルドは苦い笑みを浮かべる。

 ──行き遅れって言いたいなら、言えば良いじゃないですか。

 喉元まで出掛った言葉を、すんでの所で飲み込んで、ミラルドは曖昧な相槌を返した。

「はあ……」
「それにほら、あなたのお母様もトレバー男爵家のお家柄でしょう? 決して釣り合わない話じゃあないと思うの」
「ええ……」
「会うだけでも会ってみてはどうかしら。悪い話じゃないわよ」
「まあ……」

 正直、あまり乗り気ではなかったが、不幸なことに断る理由が思い付かない。
 なにより、サリーの押しの強さは侍女達の間でも有名なところ。

 ミラルドは歯切れの悪い、曖昧な相槌を返しながら、ふと、彼に話せばどうなるだろうかと考えた。

96王都騎士団【愛しい人・前編】2 ◆KK1/GhBRzM :2007/10/06(土) 08:19:37 ID:/ysLN0ey

 それを実行したのは、もう夕方から夜へと、空が色を変えた時刻だった。

 王都騎士団・赤河隊副隊長は、つい先程貴族評議会の議会室から戻って来たばかりで、疲れた様子で持ち帰った資料を執務机に置いた。

「お帰りなさいませ」
「あぁ、ただいま」

 微かに笑みは浮かべているが、シルヴァリアの顔に疲労の色は濃い。
 ここ数ヶ月、隣国から流れて来る難民が後を断たない。
 元々、さほど豊かではない国だったが、今年は近年稀にみる不作の年で、その影響が出ているからだろう。

 それだけならば良いのだが、流れてきた難民達は、各所で混乱を招く原因になっていると言う。

 王族評議会でも、難民の処置をどうするかが議論の対象になっており、その下の貴族評議会では特に、隣国に近い貴族達から苦情が寄せられているのだと、ミラルドも人伝に聞いたことがある。

 基本は王都を守護する騎士団だが、王国内のあちこちに支部もあり、貴族達の私設騎士団とも繋がりがある。
 今回の件は、その私設騎士団と、遊撃隊である黄鐘隊で混乱を収める方向に働くことになるようだったが、その一部に赤河隊が同行する事になったらしい。

 ミラルドは用意していたお茶を置くと、じっとシルヴァリアの様子を伺った。

 いつも穏やかなシルヴァリアだが、評議会から戻った時は、決まって疲れたように口を開かない。
 実際、頭脳労働は得意でも好きではない性格らしく、長期遠征から戻った時の方が、彼は口数が多かった。

「ハリス様」
「ん?」

 ミラルドの視線に気付いたシルヴァリアが、資料から目を外して顔を上げた。

「……お疲れのようですね」
「まぁな。だが、王都に混乱を招く前に、事態を緩和させるのが俺達の仕事だ。愚痴を溢している暇はないさ」

 フと浮かべた笑み顔に、ミラルドは少し眉尻を下げる。

 今年の初め、ミラルドが生家から戻って以降、シルヴァリアはミラルドの前では、仕事の顔を見せることが少なくなった。
 いつもなら「私」と自身を呼んでいるが、二人きりの時は「俺」と言葉を崩すのが、その際たる証だろう。

 その事が、ミラルドの中で変化をもたらしていた。
 だからこそ、聞いてしまったのかも知れないが。
97王都騎士団【愛しい人・前編】3 ◆KK1/GhBRzM :2007/10/06(土) 08:21:23 ID:/ysLN0ey

「あの、ハリス様」
「何だ?」
「……もしもの話ですが」

 そう前置きするミラルドに、シルヴァリアは不思議そうな眼差しを向ける。
 いくら距離が近くなったとは言え、気軽に雑談を交すほど、二人は親しい間柄ではない。
 どちらかと言えば、シルヴァリアとの距離は、付属養成学校の生徒達の方が近いだろう、と、ミラルドも感じている。

 だが、聞かずにはいられない。

「もしも、私がお暇を頂く事になれば……ハリス様はお困りになられますか?」

 なるべく婉曲に。言葉の真意を悟られぬよう、ミラルドが尋ねる。
 問われたシルヴァリアは、少しばかり眉を顰めたが、すぐに笑みを浮かべると、残っていたお茶を飲み干した。

「それは今すぐ、と言う話なのか?」
「いえ。仮に、の話ですが──」
「正直に言えば、困るな」

 問い返され、やや口篭ったミラルドに、やはり笑みを向けたままのシルヴァリアは、きっぱりと言い切った。

「美味いお茶が飲めなくなるし、何より俺の仕事が一つ増える」
「と……言いますと?」
「お茶が飲みたいと、わざわざ侍女に言いつけなければならないだろう?」

 茶目っ気混じりに笑うシルヴァリアが、軽くカップを持ち上げる。
 その様子に、ミラルドはくすりと笑いを漏らして、ティーポットを手に取った。

「なるほど。私は専属のお茶係な訳ですね」
「もちろん、それだけではないがな」

 とぽとぽと掲げられたカップにお茶を満たす。
 侍女の仕事は数多いが、仕える相手に負担を掛けてはならないのが鉄則。

 ミラルドは意識的に行っていた訳ではないが、今までにも何度か、お茶の煎れ方とタイミングをシルヴァリアに褒められた事がある。
 その点だけで言うならば、お茶のために呼び付けられることのないミラルドは、他の侍女達に比べて有能とも言える。

「あなたは良く気が付くし、仕事も早い。何より、俺の気付かぬ部分で、想像以上に支えられていると感じている。俺にとっては、大事な人だよ」

 シルヴァリアは何気無く言ったつもりだろう。
 しかし、その言葉を聞いた瞬間、ミラルドは、つくり、と、胸の内に何かが刺さったのを感じた。
98王都騎士団【愛しい人・前編】4 ◆KK1/GhBRzM :2007/10/06(土) 08:23:13 ID:/ysLN0ey
 それは決して嫌な物ではなかったが、何故だか無性に気になってしまう。
 動揺、と呼んでも良いかも知れない。

 その動揺を悟られぬよう、ミラルドはお盆にポットを戻すと、微かな笑みを取り繕った。

「それでは、私はお暇を頂けませんね」
「無理にとは言わんよ。あなたにもあなたの事情があるだろう。どうしてもと言うなら、俺は止めん」
「そう……ですか」
「何か切っ羽詰まった事情でもあるのか?」
「……いえ」

 二杯目のお茶を飲みながら、シルヴァリアは穏やかに笑う。
 その様子に、ミラルドは益々動揺を激しくした。

 否。それは確かに動揺ではあるのだが、明らかにさっきとは種類が違う。
 妙な苛立ちが胸の奥深くに湧き起こり、さっき刺さったばかりの何かを、ぐりぐりとえぐり出そうとしているのを感じる。

 心地良かった筈なのに、苛立ちがそれを消そうとしているのに気付いて、ミラルドは思わず眉をしかめた。

「それでは、ハリス様は、私がお暇を頂いてもよろしいのですか?」

 言葉に知らず棘が含まれる。
 そう気付いた時には、既に言葉は口から溢れ、シルヴァリアまで届いてしまっていた。

 シルヴァリアはと言うと、不意に不機嫌そうな口調で問われ、不思議そうに目を見開いている。

 呆けたようなシルヴァリアの顔を見ているうちに、ミラルドは段々と苛立ちを募らせる。
 何故、そんなに腹が立つのか、自分でも良く分からなかったが、抑えの利かない苛立ちは、ミラルドから冷静さを奪っていた。

「もしかしたら、結婚するかも知れないんです。私」

 きっぱりと、今までにない強さで告げると、シルヴァリアの目は益々開かれて、ミラルドを凝視した。

「ですから、こうしてお茶を煎れられなくなるかも知れません」
「それは……いつ……」
「さぁ。早ければ来月にでも」

 適当なことを言っている。
 だが、ここまで来て引くことは出来ない。
 冷静さを欠いたミラルドは、お盆を手にすると、深々と頭を下げた。

「執務のお邪魔をしてしまい、申し訳ありません。失礼します」
99王都騎士団【愛しい人・前編】5 ◆KK1/GhBRzM :2007/10/06(土) 08:24:45 ID:/ysLN0ey
 固く強張った表情を見られぬよう、顔を上げると背中を向けて扉へと向かう。

 悔しい。

 何故かその一言が、胸の内を掠めて行ったが、ミラルドは足を止めようとはせず、扉に手を掛けた。

 だが、

「待て、ミラルド!」

 不意に強い口調で呼び止められ、次の瞬間、ミラルドの耳に、ガラスが割れるような音が届いた。
 その音よりも、初めて名前を呼ばれた事に驚いたミラルドが足を止めると、今度は強引に肩を掴まれた。

「な……」
「あぁ、くそっ!」

 驚きで目を白黒させたミラルドの耳に、焦ったような呟きが届く。
 が、それを理解するよりも早く、ミラルドは何か暖かな物に包まれるのを感じた。

 ミラルドを抱んだのは、シルヴァリアの大きな体だった。

 二人の間に挟まれたお盆が床に落ち、僅かな飛沫と陶器の破片が床に散る。
 だが二人は、それに気を回す余裕も無く、シルヴァリアは固くミラルドを抱き締め、ミラルドは何が起こったのか分からず、されるがままになっていた。

「それならそうと、早く言ってくれ」
「な……にが」
「あなたが結婚なんかしたら、俺は困る」

 頭上から振る声は、今までに聞いた事がないほどに、悲痛の色が濃い。
 懇願にも似た声で紡ぎながら、シルヴァリアの腕に力が込められ、ミラルドは息苦しさを感じた。

「副団長の立場なら、俺は止めん。だが、一人の男としてなら、話は別だ」
「ハリス様……苦しい」
「……あぁ、すまん」

 何かとんでもない事を言われたような気もするが、取り合えず息苦しさを何とかしようと、ミラルドはシルヴァリアの胸許に手を掛ける。
 それに気付いたシルヴァリアは、少し腕の力を緩めたが、ミラルドの体を離そうとはしなかった。
100王都騎士団【愛しい人・前編】6 ◆KK1/GhBRzM :2007/10/06(土) 08:26:04 ID:/ysLN0ey

「あの……」
「本当に、結婚するつもりか?」

 戸惑うミラルドだが、シルヴァリアは少し首を傾げて、ミラルドの顔を覗き込む。

 ミラルドが顔を上げると、間近にあるシルヴァリアの灰色の瞳は、真っ直ぐにミラルドを捉えていた。

「……かも知れない、と」
「それは……困る」

 途端、フとシルヴァリアの顔に苦笑が浮かぶ。
 その時になって、ようやく冷静さを取り戻したミラルドは、事の次第に頬を赤く染めてうつむいたが、シルヴァリアもそれ以上に顔を赤くして、唇を噛み締めた。

「自分でも呆れる話なんだがな、ミラルド」
「……はい」
「俺はどうやら、俺が考えていた以上に、あなたを必要としているらしい」
「と、言いますと……」
「どう言えば良いのか分からないが……」

 さっきまでの勢いは何処へやら。視線をさ迷わせ、シルヴァリアは口の中でもごもごと何事かを呟く。
 しかし、その声は酷く篭っていて、ミラルドの耳に届いても、言葉までは分からない。

 はっきりしない態度に、ミラルドは訝しげな面持ちで、シルヴァリアを見上げた。

「ハリス様?」
「あぁ、いや……その……」

 言い淀む様は、到底、戦斧の似合う重装備兵とは思えない。
 立ち居振る舞いは謙虚で礼儀正しいが、その容貌は武骨で大きな岩山を想像させる。
 そんなシルヴァリアが、少年のように顔を真っ赤にしているのを見て、ミラルドは思わず笑いそうになった。

 だが、

「ミラルド」

 意を決めたかのように、シルヴァリアが表情を固くする。
 真摯な眼差しに、溢れそうになった笑いは引っ込められて、ミラルドは息を飲んだ。

「俺は、あなたに恋している」
「……え」
「だから、あなたが他の男の物になるのが許せない。あなたの幸せを願う事も、俺には出来ない」

 強い眼差しと強い口調。
 それを受けたミラルドの胸の奥を、何か大きな物が突き刺さった。

「……こんな事を言われて、あなたは迷惑だろうが」

 目を伏せたシルヴァリアが、抱き締めた腕の力を強くする。
 しかし、先程のような性急さはなく、むしろ優しく包み込まれるような抱擁に、ミラルドは自分の両腕をシルヴァリアの背に回した。
101王都騎士団【愛しい人・前編】7 ◆KK1/GhBRzM :2007/10/06(土) 08:27:29 ID:/ysLN0ey
 突き刺さった何かはじわじわと溶け、酷く暖かな物が胸の内に広がっていく。
 身体中の細胞一つ一つが、その暖かな物に歓喜の声を上げている。
 その声に従って、ミラルドは両の手に力を込めた。

 迷惑などではない。
 それどころか、慕う相手に想われていた事実は、ミラルドにとって喜び以外の何物でもない。

 薄ぼんやりと自覚はしていたのだ。
 シルヴァリアの為に働ける事が喜びだと、そう想った時から。

「ハリス様」
「……」
「私は、貴方を愛しています」

 シルヴァリアの胸に顔を埋め、それでもしっかりと言葉を紡ぐ。

「迷惑だなんて、思いません。貴方が幸せになれるのなら、私は何でも捧げられます」
「……ミラルド」

 頭上で深い吐息が漏れる。
 少し顔を上げたミラルドは、戸惑いを隠せないシルヴァリアの表情を目にすると、にっこりと笑って見せた。

「だから、安心して下さい。私が結婚すればハリス様が幸せになれないと言うなら、私は一生独身で構いません」

 自分と同じ物がシルヴァリアにも突き刺されば良い。
 そう想いながら告げた言葉に、シルヴァリアは一瞬言葉を失ったが。

「……ありがとう」

 やがて穏やかに目を細め、そっとミラルドの額に口付けた。


102 ◆KK1/GhBRzM :2007/10/06(土) 08:30:10 ID:/ysLN0ey
今回はここまで

後編はエロが八割…
この連休中に投下しますので、しばしお待ちを
103名無しさん@ピンキー:2007/10/06(土) 09:22:04 ID:MsLR39X8
わーい! 待ってる待ってる

104名無しさん@ピンキー:2007/10/06(土) 09:56:27 ID:T2xiJqO5
very乙です
105名無しさん@ピンキー:2007/10/06(土) 16:17:28 ID:lEUVCR8i
正座して待ってます!
106名無しさん@ピンキー:2007/10/07(日) 01:51:31 ID:fn+jP79Q
GJ!
毎度の事ながらにやけてしまうな
107名無しさん@ピンキー:2007/10/07(日) 08:59:30 ID:r0LWaqSk
待ちます!
108 ◆KK1/GhBRzM :2007/10/07(日) 16:53:04 ID:2uMkCt/x
後編、別名イチャイチャ編投下

デューよりシルヴァの方がエロが長いのは
若さ故と言う事にしておいて欲しい
少し長めなので、投下規制に引っ掛かるかも知れないが
その時はその時で

以下、投下
109王都騎士団【愛しい人・後編】1 ◆KK1/GhBRzM :2007/10/07(日) 16:55:07 ID:2uMkCt/x

 シルヴァリアの私室に、足を踏み入れるのは初めてで、ミラルドは所在無さげにあちこちを見回した。
 その様子に、シルヴァリアは笑みを深くし、ソファに腰を下ろすと、ミラルドを手招いた。

「そう固くなるな。何も、取って食おうと言う訳ではない」

 本人は安心させる為なのだろうが、時刻は日付を回る頃。
 しかも、いつもの騎士団の制服ではなく、私服に着替えた相手を前にして、不安になるなと言う方が無理がある。

「ミラルド」

 名前を呼ぶシルヴァリアは、穏やかな表情のまま、こちらの様子を伺っている。
 寸間、ミラルドは躊躇ったが、やがておずおずとシルヴァリアの前に歩み出た。

 近付いたミラルドの手を取り、シルヴァリアが引き寄せる。
 向かい合わせに抱きつく格好になったミラルドを、シルヴァリアは軽々と持ち上げると、自分の膝を跨らせるように座らせた。

「まさかさっきの今で……」

 互いに想いを告げたのが数刻前。
 あの後、微妙にぎこちなくなった二人の間に、副隊長補佐のデールが現れなければ、どうなっていたのか想像もつかない。

 シルヴァリアはミラルドの腰に両腕を回し、少し困ったように眉を下げた。

「善は急げと言うだろう」
「意味が違います、ハリス様!」

 珍しく冗談めかすシルヴァリアに、思わず声を荒げたが、シルヴァリアはクツクツと笑いながら、ミラルドに顔を寄せた。

「俺は心配症なんだ、ミラルド。だから──」
「ひゃっ!」

 かぷりと、ミラルドの耳にシルヴァリアが噛みつく。
 突然の事にたじろいだミラルドだが、シルヴァリアの舌はゆっくりとミラルドの耳を沿う。

「さっきの事が夢でない証が、早く欲しい」

 ちろちろと這う舌先と、耳元で囁かれる低い声音に、ミラルドは目を閉じてシルヴァリアの首にすがりつく。
 腰に回された両の手が優しく背を撫で、それが一層ミラルドの吐息を熱くする。

「あなたが誰の物にもならないのならば……俺の物にして構わんだろう?」

 唇を滑らせ、シルヴァリアの舌がミラルドの顎を捕える。
 薄く目を開けたミラルドの視界に、上目使いで見つめるシルヴァリアの顔が写り、ミラルドは唇を噛んだ。
110王都騎士団【愛しい人・後編】2 ◆KK1/GhBRzM :2007/10/07(日) 16:56:35 ID:2uMkCt/x

「まさか、自分がこれほど独占欲の強い男とは、思わなかったがな」

 顔を離したシルヴァリアが目を細める。
 僅かに刻まれた眉間の皺に気付き、ミラルドは不思議と穏やかな心持ちになり、シルヴァリアの頬を両手で挟んだ。

「そんな顔をなさらないで下さい。誰も嫌だとは言ってないじゃないですか」

 恋ではなく愛。
 求めるのではなく、与えることが喜び。

 ミラルドはゆっくりと顔を寄せると、何事かを言い掛けたシルヴァリアの唇を自分のそれで塞いだ。

 自ら舌を差し出し、シルヴァリアの口内へと滑り込ませる。
 途端、舌を絡められ、ミラルドは小さく呻いた。

 熱い舌がミラルドのそれを捕え、吸い付かれる。
 遡るようにしてシルヴァリアの舌が這い、ミラルドの口内へと潜り込むと、余す所なく舐め回される。
 かと思うと、下唇を噛まれちゅうと音をたてて吸い上げられた。

 シルヴァリアの片手は何かを確かめるようにミラルドの背を撫で、もう片手はするりと足の上を滑っていく。
 僅かな衣擦れの音と共にワンピースの裾がたくし上げられたが、抗議の声はシルヴァリアの口の中へと吸い込まれる。

 ごつごつと骨張った手が足をなぞり、そのゆったりとした動きに震える背筋を、やはり男らしい手が優しく撫でる。
 シルヴァリアらしからぬ執拗なまでに長い口付けと、シルヴァリアの人柄そのままの愛撫に、ミラルドは頭の中がぼんやりと白くなっていくのを感じたが、そのどちらもが嬉しくて、ひたすらに甘い感触に酔い知れた。

 やがてシルヴァリアが顔を離す。
 二人の間で透明な糸がつぅと伝い、ぽたりと落ちた時にはもう、ミラルドは完全に息が上がっていた。

 瞼を押し上げると、僅かにぼやけた視界の向こうで、何処か苦しそうなシルヴァリアの表情が映る。
 何かやらかしたかとも思ったが、どうやらそうではないらしい。
 シルヴァリアの手は、変わらずミラルドの体に甘い刺激を与えているし、よくよく見ればシルヴァリアの頬も朱に染まっている。

「……ハリス様?」

 掠れた声で名前を呼ぶと、シルヴァリアは少し困ったように微笑んで、二人の隙間を埋めるように、強くミラルドを抱き締めた。

「どうされました?」

 ミラルドの髪に顔を埋め、シルヴァリアは大きく息を吐く。
 その吐息が酷く熱く思えて、ミラルドは知らず首筋に回した手に力を込めた。

「……さっきの言葉を、訂正しなければならん」
111王都騎士団【愛しい人・後編】3 ◆KK1/GhBRzM :2007/10/07(日) 16:58:06 ID:2uMkCt/x
 背中を撫でる手が心地良い。
 うっとりと目を閉じながら、シルヴァリアの言葉を耳に入れていると、シルヴァリアはミラルドの耳元に口を寄せて、申し訳なさそうに呟いた。

「取って食いはしないと言ったが……そんな余裕もなくなりそうだ」

 何処までも律儀な人柄に、ミラルドの口許が綻びを見せる。
 ただひたすら優しく背を撫でるシルヴァリアに、ミラルドは緩く首を左右に振ると、少し顔を離してシルヴァリアの顔を覗き込んだ。

「何を今更。私だって子どもじゃありませんよ? 部屋に呼ばれた時点で、十分に意味は理解出来ています」

 まるで大きな子どもを相手にしているようだと、シルヴァリアの目を見つめながら思う。
 シルヴァリアは、少しバツが悪そうに眉を顰めていたが、ミラルドの言葉に安心したか、ゆっくりと笑みを取り戻すと、くしゃりとミラルドの髪を撫でた。

「俺は、あなたのそう言う所に恋しているんだろうな」

 照れも混じった穏やかな微笑みを浮かべながら、シルヴァリアの手が後頭部に伸びる。
 するりと髪留めが外されて、癖のついた黒髪が、背に落ちた。

 デイジーを象った銀細工の髪留めを視界の端に捕えると、ミラルドもにっこりと笑みを返す。

「私は、貴方のそう言う性格を愛しています」
「……そういう直球は、心臓に悪い」

 素直な気持ちを言葉にしただけなのに、シルヴァリアは途端に拗ねた子どものように顔を赤くしそっぽを向く。
 ゆらゆらと気恥ずかしさを著すように揺れる髪留めが、益々愛しさを募らせ、同時に可笑しくもあって、ミラルドは笑みを深めた。
112王都騎士団【愛しい人・後編】4 ◆KK1/GhBRzM :2007/10/07(日) 16:59:22 ID:2uMkCt/x
 しかしシルヴァリアは、手にした物をミラルドに渡すと、ミラルドの体に手を回し、ソファから立ち上がった。

「ハ、ハリス様!?」
「笑うあなたが悪い。いつまでも膝の上では、居心地も悪いだろう?」

 切り替えの早さもシルヴァリアの美点。
 そう離れていないベッドの上に優しく放り出され、ミラルドは反射的に両手の中の物を握り締めた。

 そんなミラルドの両手を自分の手で包み、シルヴァリアが顔を寄せる。
 ついばむような口付けを繰り返し、唇を舐める。
 包み込まれた両手は、その形を確かめるように指が伝い、愛し気に摩られる。
 髪留めを握り締めていた力は徐々に抜け、シルヴァリアの舌が再び口内に差し込まれると、ミラルドはそれを受け入れる事に集中した。

 もしも媚薬があるとすれば、きっとこんな感じなのだろう。
 甘く酔い知れるミラルドは、口付けを受けながらそう思う。

 シルヴァリアの手が体を這い、前留めのボタンを一つ一つ外される。
 絡められた舌はミラルドの熱を煽り、握り締めていた筈の髪留めは、気付けばシーツの上に落ちていた。

 肩までを大きく開けられ、シルヴァリアの手が下着の上から胸に触れる。
 豊かな乳房は、シルヴァリアの手には少し余るらしく、揉まれるたびに形を変える。
 初めて与えられる刺激に、喉の奥から声が漏れたが、深い口付けのせいか、呻き声にしかならない。

 ミラルドに馬乗りになる形で覆い被さったシルヴァリアは、舌を絡めながら両手でミラルドの柔らかさを確かめていく。

 だが、一瞬唇が離れた瞬間。

「あっ…!」

 大きな掌に擦られた頂に、今までにない甘い刺激を感じ、ミラルドは思わず声を上げた。
113王都騎士団【愛しい人・後編】5 ◆KK1/GhBRzM :2007/10/07(日) 17:00:48 ID:2uMkCt/x
 それまで、一度も聞いたことのない自分の声に、ミラルドは慌てて口を閉ざすが、見下ろすシルヴァリアは目を細め、とても嬉しそうに笑っている。

「や……ちょっと、待って──」
「待てん。俺を生殺しにするつもりか?」

 呼吸を整える暇も与えられず、シルヴァリアの手が下着をたくし上げる。
 固く尖った頂に指が触れ、ミラルドは再び声を上げた。

「あんっ、だめ…っ!」
「ならば、こちらの方が良いのか?」

 くりくりと指先で頂をもてあそばれ、ミラルドの肩が小さく震える。
 それに制止を掛けようとすると、シルヴァリアは意地悪く問掛けて、頂を口に含んだ。

「や、ああっ」

 ちゅう、と音を立てて吸い付かれ、軽く歯を立てられる。
 反対側の胸も、シルヴァリアの手で揉みしだかれ、頂は指でこねまわされた。

 生暖かなねっとりとした舌は、少しざらついていて、それが触れるたびに体の奥が溶け出しそうになる。
 強く吸い付かれれば、その刺激はぞくりと背筋を這上がり、頭の芯がぐらぐらと揺れる。
 自分で自分を慰めたことはあるが、それよりも遥かに気持ち良い。

「あ、あぁ、やぁあ」

 求めるままに遠慮のないシルヴァリアの動きは、ミラルドの全身を朱に染める。
 中途半端に脱がされた服が邪魔をして、思うように動けなくてもどかしい。

「ハ、リスさまぁ…っ」

 両腕を伸ばしてシルヴァリアの頭を掻き抱くと、両手で胸を寄せ指で摘んだ頂を交互に舌で柔躪していたシルヴァリアは、益々行為を激しくした。

 胸に吸い付きながら、ずるりとワンピースを肩から引き抜く。
 その動きに促されるように、少し体を浮かすと、ワンピースは足元までずらされて、シルヴァリアの手が直接肌に触れた。

 腹を、腰を、太股を。ゆったりとした動きで撫で摩りながら、体のあちこちに唇を落とす。
 時折痛いぐらいに吸い付かれると、日に晒す事の少ない箇所は、薄らと赤く充血した。
114王都騎士団【愛しい人・後編】6 ◆KK1/GhBRzM :2007/10/07(日) 17:02:12 ID:2uMkCt/x
 最後に残った下着の上を、シルヴァリアの指先が伝う。
 恥丘からさらに下へ。
 一瞬、敏感な突起に指が触れたが、ミラルドは唇を噛み締めただけで、何とか声を押し殺す。
 いくら覚悟しているとはいえ、はしたない声を荒げるには、まだ理性が勝っている。

 だが、さらに奥に指が触れた瞬間、その強がりはあっさりと砕かれた。
 下着の奥から滲み出た蜜が、ぬちゃりと掠かな音を放つ。
 その音は、本当に小さな物だったが、静かな室内ではやけに大きくミラルドの耳に届いた。

「凄いな。もうこんなに──」
「そ、れは…ハリス様が……っ」

 感嘆の吐息を漏らすシルヴァリアに、恥ずかしさのあまりミラルドは両手で顔を覆ったが。

「嬉しいよ、ミラルド」

 シルヴァリアは熱の篭った眼差しをミラルドに向けると、下着に手を掛け、一息に脱がせた。

「やだ、ハリス様!」
「あなたが嫌でも、俺はこうしたいんだ」

 ミラルドの制止の言葉も聞かず、シルヴァリアは大きくミラルドの足を割り開く。
 今まで、誰にも見せたことのない部分を晒していると思っただけで、ミラルドは恥ずかしさで死にそうになったが。それと同時に体の奥が溶けるような錯覚を感じ、とぷりと蜜が溢れるのを自覚した。

「いや……また……」
「あぁ、溢れているな。そんなに、気持ち良かったのか」

 問掛けではなく、確認なのだろう。
 独り言のように呟いたシルヴァリアは、ゆっくりと顔を近付けると、ミラルドの秘所に舌を伸ばす。
 焦らすように秘肉を舐め、足の付け根にキスを降らせる。
 それだけでミラルドは耐えきれなくなって、仔猫が親猫を求めるような切ない声を上げながら、体の奥からとろとろと蜜を溢れさせた。

「やぅ、や…あ、は、ハリ、ス、さまぁ」

 周囲の蜜を舐め取っているのか、シルヴァリアの舌は思う所に刺激を与えてはくれない。
 なのに、眼差しは酷く熱くて、ミラルドの反応を一つも逃さまいと、全身に向けられている。
 その眼差しだけで蜜が溢れ出し、ミラルドは小さな子どものようにふるふると首を横に振った。
115王都騎士団【愛しい人・後編】7 ◆KK1/GhBRzM :2007/10/07(日) 17:03:51 ID:2uMkCt/x

「や、だ…ハリス、さまぁ……もっと、いっぱい…っ」

 恥ずかしいはずなのに、じらされ続けて、ミラルドの体は快感を欲して止まない。
 口許を抑えながら、それでも耐えきれず漏らした言葉に、シルヴァリアは口許を弧にすると、蜜の溢れる秘所に舌を伸ばした。

「ひぅ、は、ああぁっ!」

 ぴちゃぴちゃと蜜を舐めとる音がしたかと思うと、柔らく弾力のある物が、体の中へと侵入する感覚に、ミラルドは堪らず声を上げた。
 胎内を掻き回され、指で肉芽を撫でられて、ミラルドの腰は逃げそうになったが、シルヴァリアの腕ががっちり掴んで離さない。

 明らかに異質な温度のそれは、胎内を蠢いたかと思うと、秘所を上下に這い回り、肉芽を強く転がしていく。
 気付けばシルヴァリアの腕は外されていたが、ミラルドはもう、されるがままで、刺激されるたびにビクビクと体を揺らした。

「や、は…あ、あぁっ、あぁぁっ!」

 指で剥き出しにされた肉芽にシルヴァリアが吸い付く。
 産まれて始めての快感は、ミラルドの理性を容易く破る。
 もう、恥ずかしいとか、はしたないとか、そんな事を考える余裕もない。

「きも、ち…いいっ、ハリ、ス、さ──」
「シルヴァだ」

 ちゅうちゅうと肉芽に吸い付いていたシルヴァリアが顔を上げる。
 口の回りに付いた蜜を舌で舐めとりながら、シルヴァリアは衣服を脱ぎ捨てた。

「シルヴァ、と…呼んでくれ」
「は…、シル、ヴァ…様」

 切な気な眼差しで見下ろされ、ミラルドは荒い呼吸の隙間から、途切れ途切れに名前を呼ぶ。

 顔も、体も。爪先までもが熱くて堪らない。
 なのに、名前を呼んだだけで、さらに熱が高まったような気がする。

「シルヴァ、さま……」

 もう一度。今度はしっかりとシルヴァリアを見つめて、その名を呼ぶと、シルヴァリアは嬉しそうに破顔した。

「そう、シルヴァだ」
116王都騎士団【愛しい人・後編】8 ◆KK1/GhBRzM :2007/10/07(日) 17:06:03 ID:2uMkCt/x
 優しく囁きながら、シルヴァリアが秘所に手を伸ばし覆い被さる。
 太く長い指がゆっくりと差し込まれ、ミラルドはビクリと肩を震わせ、シルヴァリアの首筋に腕を回してすがりついた。

「あ、あぁっ、シルヴァ様っ!」
「きついな……初めてか?」

 解すように入り口を掻き回しながらシルヴァリアが問う。
 ミラルドが小さく頷くと、シルヴァリアは更にゆったりと動きを緩めながら、ミラルドの頬に口付けた。

「俺もだ」
「え……」

 目を見開くと、シルヴァリアの視線とかち合う。
 少し困ったような微笑みで、シルヴァリアは口を開いた。

「俺も、女性を抱くのは初めてなんだ」
「や、で、でも…んっ! すごく…手慣れて、ます、シルヴァ様…っ」

 くちゅくちゅと掻き回す指が、胎内へと侵入する。
 異物感は馴れないが、肉壁を擦る動きは優しくて、気持ち良いと言えなくもない。

 だがミラルドを気遣うシルヴァリアの動きは、初めてにしては余裕がある。
 思わず正直な感想を口にすると、シルヴァリアは益々困ったように笑い、空いた方の手でミラルドを抱き寄せた。

「男は、良いところを見せたがる生き物なんだ。──正直、そんなに余裕もない」

 その証と言わんばかりに、引き寄せられた体の間で、一際熱を放つ物を感じる。
 硬く猛った肉棒を下着越しに感じて、ミラルドは目を丸くした。

「シ、ルヴァ…さま」
「だが、我慢強さなら自信はあるからな」
「んんっ!」

 情事の最中にはふさわしくない、冗談めかした声で言いながら、シルヴァリアの指が更に奥へと滑り込む。
 散々濡らされた胎内で、指はさほど抵抗もなく動き回り、痺れるようなうずきに、ミラルドは体を固くした。
117王都騎士団【愛しい人・後編】9 ◆KK1/GhBRzM :2007/10/07(日) 17:07:38 ID:2uMkCt/x

「あなたを気遣うぐらいは、まだ出来る。──痛いか?」
「い、いえ……どちらかと言えば、気持ち、良い…です」

 ゆっくりと抜き差しを繰り返す指に、ミラルドの熱は昂ぶりを見せる。
 正直に答えると、シルヴァリアは指を増やして、再びゆっくりとミラルドの中へと埋め込んだ。

「ひゃ、あ、あっ!」

 狭い入り口を掻き分けて、二本の指が入り込む。
 より大きくなった異物感は痛みを伴い、ミラルドはシルヴァリアにすがりついた。

「あ…う、んん…っ」

 抱きつくミラルドに、シルヴァリアは口付けを交す。
 指の動きはそのままに、少しでも気をそらそうと、肉芽を転がしながら、口付けは徐々に深くなる。

 一瞬の痛みはやがて甘い痺れとなり、交す口付けに、ミラルドは頭の芯がぼぉっとなった。

「う、ん…くっ、ふぅっ」

 口許と下腹部とで起こる水音は、静かな室内に大きく響く。
 やがてシルヴァリアは指を引き抜くと、唇を離して体を起こした。

 ぼんやりと見つめるミラルドの前で、下着を脱ぎさり、ミラルドの足を大きく割り開く。
 ぬちゃり、と蜜を絡めた肉棒が花弁の間を上下に擦り、ミラルドの体が小さく震えた。

「あ…それ……」
「気持ち良いのか?」
「……はい」

 硬く熱い物で擦られるたび、言い様のない快感が背筋に走る。
 思わず腰を浮かせれば、シルヴァリアはがっしりと腰を支え、更にぐちゅぐちゅと肉棒を擦り付けた。

「あ、あぁっ、や、あつ…っ、シルヴァ、さまの、熱いぃ…っ」

 肉芽を突かれ、秘部全体を擦られて、ミラルドは甘く鳴き声を上げる。
 知らず、シルヴァリアの動きに併せ腰が動き、更なる快感を得ようと、ミラルドは腰を押し付けた。

「ミラルド、もう…っ」

 熱い吐息と共にシルヴァリアが呟いた瞬間。

「っ──!」

 くぷり、と先端がミラルドの中へ埋め込まれた。

 言葉にならない声を飲み込み、ミラルドは己の体を抱き締める。
 充分過ぎるほどに潤ったとは言え、指とは比べ物にならない太さの物に、狭い入り口は悲鳴を上げる。
 ぎゅっと体を硬くしたミラルドだが、ずるずると入り込む異物に、少しでも楽になろうと、深く息を吐き出す。

「っ……すまん、ミラルド」

 大きく呼吸を繰り返す姿を見下ろして、シルヴァリアが申し訳なさそうに眉を顰める。
118王都騎士団【愛しい人・後編】10 ◆KK1/GhBRzM :2007/10/07(日) 17:09:33 ID:2uMkCt/x
 肉棒はまだ半分ほど入っただけなのに、酷く窮屈だったが、ミラルドは無理矢理笑みを浮かべると、小さく首を横に振った。

「平気、です。だい、じょうぶ…ですから」

 叱られた子どものように、肩を落とすシルヴァリアに笑い掛け、ミラルドは両手を伸ばす。
 いざとなれば女性の方が強いのか、などと、妙な事を考えながらシルヴァリアの手に自分の手を沿えると、シルヴァリアは指を絡めて手を握り返して来た。

「すまん」

 痛みが顔に出ているのだろう。
 謝罪の言葉を繰り返すシルヴァリアに、無言で首を振ったミラルドは、握り締めた手に力を込めた。

 それが合図であったかのように、再びシルヴァリアが侵入する。
 ミラルドが息を吐き出すのに併せ、ゆっくりと進められる動きは緩慢で、二人の体に汗が滲む。
 やがて全てを飲み込むと、今度はゆっくりと引き抜かれる。

「くぅ、…あぁ、ぁっ!」

 痛みを伴う熱に胎内を擦られて、ミラルドは声を上げた。
 初めの方こそ余裕を見せていたシルヴァリアだが、二度三度と繰り返すうちに、動きは徐々に早くなって行った。

「あ、あぁっ、やあ…!」

 酷い痛みは最初のうちで、何度か擦られていくうちに、その痛みすらもぼんやりと薄らいでいく。
 与えられる熱の狭間に、ほんの時折痺れる甘さが、痛みを和らげているようだ。

「すまん、一度……っ」

 粘ついた水音の隙間、小さくシルヴァリアの声が聞えたかと思うと、次の瞬間、膨らんだ熱が弾けて、ミラルドの体の奥に熱い塊が吐き出された。

「ひ、──あぁぁ……っ!」

 どくどくと流れ込む熱に、大きく息を飲む。
 体を硬くすれば、吐き出された物は行き場を失い、繋がった隙間から溢れ落ちる。

 シルヴァリアは大きく肩で呼吸しながら、ミラルドに体重を預けるように覆い被さり、触れるだけの口付けを繰り返した。

 胎内では、シルヴァリアの物がぴくぴくと震えている。
 それを感じながら、ミラルドは汗の伝うシルヴァリアの頬を撫でたが。

「……シルヴァ…さま…?」

 口付けの隙間から名前を呼ぶが、シルヴァリアは笑みを浮かべ、唇を重ねる。
 今だ胎内に肉棒を埋めたままで、引き抜かれる様子はない。

「あの……」

 もしかすると、とんでもなく恥ずかしい体勢なのではないだろうか。
119王都騎士団【愛しい人・後編】11 ◆KK1/GhBRzM :2007/10/07(日) 17:11:41 ID:2uMkCt/x
 戸惑いを隠せぬミラルドは、シルヴァリアの胸元を軽く押したが、その意図を察したらしいシルヴァリアは、ミラルドの両手を片手で掴むと、不意に体を起こした。

「今度は、あなたに満足してもらう番だ」
「え? あ、きゃっ!?」

 繋がったまま、向かい合わせに座る形を取らされ、不安定さに思わず抱きつく。
 シルヴァリアはミラルドの頭を固定すると、少し目を細めて、強引に口付けた。

「ふっ、うぅ…ん!」

 舌を絡め、上顎を擦り、口の中を犯される。
 馴れ始めたばかりの口付けは、麻薬のように全身に痺れをもたらし、ミラルドの体から力が抜けた。

「む、ふぅっ…ん、シル、ヴァ…っ」

 髪を撫で、背中を伝うシルヴァリアの手に、ミラルドの中で小さくなっていた昂ぶりが、再び熱を取り戻す。
 同時に、胎内で硬くなり始めた肉棒の感触に、ミラルドは思わず体をよじった。

「や……だ、だめっ」

 痛みは平気なのだ。
 それよりも、先程少しだけ感じた甘い刺激が怖くて、ミラルドはシルヴァリアから離れようとしたが、シルヴァリアの手はしっかりとミラルドを支えて離さない。

「大丈夫。怖くはない」

 ミラルドの不安を感じとったか、耳元で優しく囁いて、シルヴァリアはズンと腰を持ち上げた。

「ぁああっ!」

 最奥にぶつけられた衝撃は、びりびりと全身を走り、快感をもたらす。
 繋がった隙間から、二人の体液が混じりあった物が流れ、そこを汚すが、シルヴァリアは気にする事なくミラルドの体を揺らし始めた。
120王都騎士団【愛しい人・後編】12 ◆KK1/GhBRzM :2007/10/07(日) 17:13:28 ID:2uMkCt/x

「ひ、あ…あっ、あぁぁっ」

 その形すらも記憶出来そうなほど、窮屈な胎内に埋め込まれた肉棒は、肉壁を擦り最奥を突く。
 指先までも走り抜ける快感に、ミラルドの思考は切り放される。

 口付けを求め、交し、シルヴァリアの体に自身を預ける。
 先を求めるシルヴァリアに、全てを捧げながら、ミラルドは全身でシルヴァリアを求めた。

「は、あっ、シル、ヴァ、さまぁ…っ、シルヴァ…さま…っ!」

 シルヴァリアの背に両腕を回し、突き上げられる動きに併せて体を揺する。
 唇と言わず頬と言わず、無茶苦茶に口付けるミラルドに、シルヴァリアは唇を滑らせながら、その体を横たわらせた。

「ミラ、ルド…っ」
「あん、ああっ! いっ、あっ、いいの…気持ち、いい……っ!」

 しっかりと抱き合いながら、不安のなくなったミラルドからは、甘い悲鳴が絶え間なく溢れる。
 何度も互いの名を呼び、貪るように熱を求める。
 初めは揺らすだけだった動きも、やがて大きな抽迭へと代わり、そのたびに結合部からは、淫猥な水音が響いた。

 何度も突かれ、余す所なく胎内を擦られ、気持ち良さと充足感に涙が溢れる。
 なのに、シルヴァリアが与える快感は気持ち良すぎて、身も心も溶けてなくなりそうで。

 それが酷く恐ろしい。


「は、ぃやっ、シル、ヴァ、さまぁ! や、やあ…っ!」

 思わず制止を掛けようとしたが、シルヴァリアはミラルドを抱き締め、涙を拭って口付けた。

「だい、じょうぶ。ミラルド……、大丈夫、だ」

 少しでもミラルドの不安を拭おうとするシルヴァリアの声も、酷く掠れて余裕はない。
 子どものようにしがみ付いたミラルドは、半分泣きじゃくりながら、シルヴァリアの名を呼んだ。

「シルヴァ、さまぁっ…シルヴァああ…っ!」
「ミラルド、くっ、あぁ…ミラル、ド──!」


 ──愛しい人。


 その一言を耳にした瞬間、ミラルドは、頭の芯が溶けて無くなる錯覚を覚え。
 深く突き上げたシルヴァリアが、二度目の熱を吐き出すのを、不思議と遠く朧気に感じながら、自分を包み込むシルヴァリアの暖かさに全てを預けた。

121王都騎士団【愛しい人・後編】13 ◆KK1/GhBRzM :2007/10/07(日) 17:15:47 ID:2uMkCt/x


 少し眠っていたのだろう。
 ミラルドが目を覚ますと、幸せそうに笑うシルヴァリアの顔が横にあった。

「あ……」
「大丈夫か、ミラルド。辛いところは?」
「い……いえ……」

 ミラルドの黒髪を指に絡めて遊びながら、シルヴァリアが問う。
 流石に、もう繋がってはいないが、裸のまま布団一枚を掛けただけの姿は、恥ずかしさを呼び起こす。
 もぞ、と布団に潜り込もうとしたミラルドだったが、シルヴァリアの腕が回されていて、自然と引っ付く形になるしかない。

「あの……私、どれくらい…」
「ほんの半刻ほどだが……すまん。俺も手加減出来なかった」

 もしかして、謝るのが口癖なのではないだろうか。
 何と無くそんな事を考えて、ミラルドはシルヴァリアの胸に頭を預けた。

 よくよく考えれば、あれほどの情交の後なのに、大した気持ち悪さを感じない。
 シルヴァリアに尋ねるのも恥ずかしいが、聞けばあっさりと事後処理をしたと言われ、ミラルドは恥ずかしさと申し訳なさで顔を真っ赤にした。

「も、申し訳ありません!」
「いや。──それよりも」

 心地良い一時を作り出すのは難しい。
 まともに顔を上げられないミラルドだったが、シルヴァリアの声に恐る恐る顔を上げると。

 シルヴァリアは、こちらも顔を真っ赤にして、真剣な表情でミラルドを見つめていた。

「もし……あなたが嫌でなければ、なんだが」
「……は、はい」

 言い淀む姿は、何処かで見た覚えがある。
 事に及ぶ前と──今年の始め。
 真っ直ぐに気持ちをぶつける時、シルヴァリアはいつも真っ直ぐにこちらを見ていた。
 顔が赤いのは、きっと、とんでもなく恥ずかしいから……なのだろう。

「また、さっきの今で…と思われるかも知れんのだが」
「はい」
122王都騎士団【愛しい人・後編】14 ◆KK1/GhBRzM :2007/10/07(日) 17:16:45 ID:2uMkCt/x

「…………結婚、してはくれんか」

 いったい何を言われたのだろうと、言われた意味を理解するのに精一杯な自分がいる。その一方で、本当に言葉が出なくなる事があるのだと、妙に冷静に考えたミラルドは、目を丸くしてシルヴァリアを見つめ返した。

「もし、子どもが出来ていたら……勿論、責任を追うつもりであなたを抱いたが! やはり、こういう事はきちんと順を追うべき、と言うか……」

 しどろもどろになりながら、シルヴァリアが視線を外す。
 徐々に思考が回復したミラルドは、思わず小さな笑いを漏らした。

「だから、いつとは言わんが──」
「私で良いのですか?」
「あなたが、良いのだ。俺は!」

 わざとからかうように問掛けると、シルヴァリアは焦ったように声を荒げる。
 余りに必死なその姿に、ミラルドはもう絶えきれなくなって、くすくすと笑いを溢した。

 笑われたシルヴァリアはと言うと、まるで睨むような眼差しでこちらを見下ろしているが、それすらも、今のミラルドにしてみれば、愛しさを募らせるだけで。

「……私で良ければ」

 小さく頷くと、拍子抜けしたように呆けた表情を見せたシルヴァリアに、ミラルドはにっこりと笑い掛けた。



 二週間後。
 今まで女気一つなかった赤河隊副隊長が、側仕えの侍女と、文字通り電撃的な素早さで結婚式を上げ。
 その十ヶ月後、二人の間に可愛らしい男児が誕生したが。

 それはまた、別の話である。




「あの時、先にプロポーズをすれば良いのに、と思いましたけど」
「は、はぁ……」

 ハリス邸の一角。
 日の当たるサロンで、二人の成れ染めを聞いていたファムレイユは、歯に衣着せぬハリス夫人の言葉に、苦い笑みを浮かべた。

「で、でも、結果的には良かったんじゃないですか? その……当たり、だった訳ですし」

 こんな事を言って良い物かどうか。口にしてから後悔したが、ハリス夫人は、にこりと笑み浮かべて、お茶を飲んだ。

「ええ。後悔など、これっぽっちもしていませんよ。二十三年たった今でも、毎日が驚きと幸せの連続です」

 年を経ても、相応の魅力を持つ人間はいる物で。
 同じ女性ながら、その美しさに、ファムレイユは感嘆の吐息を漏らした。

「だからあなたも、後悔しない結婚をなさい。彼が相手では、少し手は掛るでしょうけれど」
「お、奥様っ!!」

 暗に誰の事を示しているのか。心当たりのあるファムレイユは、慌てて相手の言葉を遮った。
 それと同時に部屋の扉が開かれて、屋敷の主人と一緒になって姿を現したのは、噂の主その人だった。

「あら、お話はもうお済みですか?」
「あぁ、これから少し外へ出て来る」
「では私も──」
「や、お前さんは良いわ。大した用事じゃねぇし、すぐに戻る」

 ハリス夫人の問掛けに、主人は小さく頷く。
 直属の上司が出るならば、自分も共に向かわねばならないと、ファムレイユは席を立ったが、それを制したのは噂の男だった。

「それに、一応休みだろ? 折角だ、今夜の晩飯の手伝いでもしとけ」
「おい、デュラハム?」
「上司命令。今日はお前さんちで、晩飯だ。俺とこいつの分も頼むな」

 眉を顰めた主人に、男はニヤリと人の悪い笑みを寄越し、ハリス夫人に片手を掲げて拝む。
 呆れ顔の主人とは対照的に、ハリス夫人は笑って頷き、いまだ渋る主人を促して二人を送り出した。
 ファムレイユはと言うと、その遣り取りに呆気に取られているだけだ。

「……申し訳ありません、奥様」
「良いのよ。いつもの事ですもの」

 快活なハリス夫人に掛っては、男も掌の上の猿も同然らしく。
 少しだけ「この性格は見習うべきか」と、ファムレイユは小さな溜め息を漏らした。


124 ◆KK1/GhBRzM :2007/10/07(日) 17:19:56 ID:2uMkCt/x
以上、投下終了

15レス越えたのが始めてで、正直ドキドキ

また何か思い付けば、お邪魔したいと思いますノシ
125名無しさん@ピンキー:2007/10/07(日) 17:35:57 ID:zXiUCyV1
GJ
二人が幸せになって良かった
126名無しさん@ピンキー:2007/10/07(日) 17:43:03 ID:kF8v6ocX
おお、良い仕事です。
大作、お疲れ様でした。
127名無しさん@ピンキー:2007/10/07(日) 18:32:59 ID:3zzoXRZR
良い仕事乙です
128名無しさん@ピンキー:2007/10/07(日) 22:06:51 ID:AIxFh6wc
本編の二人も好きだが、シルヴァのストレートな愛情表現、
ミラルドのしっとりと匂い立つ色気に萌えた。
じっくりと描かれたエロもおいしく頂きました、GJ!

129名無しさん@ピンキー:2007/10/09(火) 19:16:07 ID:aNfXjLsb
二人とも可愛くて萌えたw
GJです!
130名無しさん@ピンキー:2007/10/09(火) 19:41:25 ID:+9d2x8I7
GJ!
131名無しさん@ピンキー:2007/10/09(火) 20:10:21 ID:gRpStV2F
……ミラルドと聞くとどうしても召喚士の想い人を思い出す俺。
132名無しさん@ピンキー:2007/10/09(火) 23:23:29 ID:H50V3SO5
テイ○ズ?
133名無しさん@ピンキー:2007/10/10(水) 04:34:58 ID:4mQqeZhX
GJ!このシリーズ大好き!男キャラが皆純情で床上手って素晴らしいわ。
ファムも好きなんで、またいちゃいちゃ待ってます。
134名無しさん@ピンキー:2007/10/13(土) 13:49:26 ID:K9lVAU3/
ほしゅ
135名無しさん@ピンキー:2007/10/13(土) 16:53:27 ID:Imq0Z/Rq
保守がてら初投下。
スレタイに触発されて書きました。
関係成立までの話しです。
136セイレーンの乙女:2007/10/13(土) 16:55:19 ID:Imq0Z/Rq

ブノア王国の第二王子ラファエルは、戦火の広がる街を丘の上から満足げに眺めていた。
眼窩に広がるユベール公国の首都が、彼の手に落ちるのも時間の問題のようだ。
今回のユベール公国侵略の任についてから、一度も被る機会のない兜を小脇にかかえ、
赤褐色の頭髪を風になびかせながら、にやりと笑う。
どうやって、世に名高いセイレーンの乙女たちを屈服させようかと、ラファエルは
琥珀色の瞳に好色の光を浮かべていた。
大陸の南に位置するユベール公国の民には、南の海に住む精霊の血が混じっている
という古くからの言い伝えがある。
実際、民の中には、精霊の力と思われる不思議な術を使う者がいるらしい。
俗にセイレーンの乙女と言われ、言霊で男を操るとされる魔性の女たちだ。
その力のせいか、ユベール公国の君主の座は、代々直系女子にのみ引き継がれ、
巧みに不可侵条約をとりつけることで、大国からの侵略を免れていた。
「口で丸めこまれるなら、交渉のテーブルにつかなければいい」
ラファエルはそう言って、今回の武力によるユベール公国侵略の算段を練り、
自ら父王に提案してその全権を任された。
現ブノア国王の御世になってからというもの、ブノア国はその領土を拡大し、
近隣諸国より恐れられる存在になったが、その功績の影には、この二十歳そこそこの
第二王子の働きもあった。
「ラファエル殿下」
今回の遠征でラファエルの右腕を勤めるヴァンサンが、兜を脱いで跪く。
「主城が開門いたしました」
「そうか」
ラファエルは余裕の笑みを浮かべて身を翻し、白亜の街を見下ろす丘から
出立することにした。
137セイレーンの乙女:2007/10/13(土) 16:57:02 ID:Imq0Z/Rq

ラファエルが、無駄な殺戮と略奪を固く禁じたためか、ユベール公国の主城の中は
静かなものであった。
中庭には、武装を解除して降伏した騎士たちが集められ、侍女や小間使いは別室に
集められている。
階上の渡り廊下を歩きながら、中庭の様子をうかがったラファエルは、
女騎士が多いことに驚き、またその器量のよさにも感心した。
わざわざ遠征した甲斐があったというものだ。
ユベール公国の女は美女揃い。というのも、公国にまつわる伝聞の一つだった。
「殿下、主の間はこの奥です」
ラファエルの頬が緩くなったのを見て、ヴァンサンが話しかける。
「ああ」
ラファエルはきりりと表情を正し、自分に続く精鋭からなる一個小隊に、
当初の作戦を実行するように命じた。
騎士たちは頷いて、耳に栓をする。
主の間に入って以降は、手によるサインで支持を出す作戦だ。
もはや主城は完全にラファエルの軍に制圧されている。
むやみに抵抗してくるとも思えなかったが、念のため、セイレーンの乙女に対する
対策だけはしておくことにした。
唯一、ブノア王国の要求をつきつける立場のラファエルだけは、耳栓をしていない。
彼には、乙女の力に負けないという根拠のない自信があった。
操るといえど、実際のところは、少々カリスマ性があってその言に逆らえなくなる
というのが本当だと、ある人から聞いていた。
そんなものは、気高く生まれた自分に通用するはずがない。
ラファエルは悠然と構えて、主の間の扉が開かれるのを見ていた。
138セイレーンの乙女:2007/10/13(土) 16:58:37 ID:Imq0Z/Rq

高い天井と奥行きのある主の間は、訪問者の視線を遮るように天井から幾重にも
垂らされた薄い絹の幕が揺れ、それに天窓から差しこむ日の光が反射して幻想的な
空間になっていた。
ラファエルとその一行は、薄布を忌々しげに払いながら、奥を目指した。
あと一枚。
薄い絹の向こうに玉座が見える。
「止まれ!」
不意に響いた鈴の鳴るような女の高い声に、ラファエルたちは、反射的に足を止めた。
ラファエルは驚いて目を見開く。
女の声は耳栓に遮られることなく、騎士の耳に届くのだろうか。
誰も止まれのサインを出していない。
「女大公の御前である。膝を折り、頭を下げろ!」
騎士らに動揺する気配がある。
「控えろ!」
続く女の声に、ラファエルは辛うじて耐えた。
女の言葉通りに、膝を折りそうになったのだ。
が、後ろの騎士たちは、一斉に跪いて頭を垂れた。
本人たちの口からも、自分の行動が信じられないというような苦しい息遣いが漏れた。
これが、セイレーンの乙女の力なのかと、ラファエルは密かに舌を巻いた。
相手のペースに乗せられてはいけない。
賢明なブノア国の第二王子は即座に判断した。
「ふっ。いまだ自分たちの立場が分かっていないのか。ユベール公国は今日をもって、
その歴史に幕を閉じたのだ。その玉座も今やブノア国王のもの」
「何を言う! この簒奪者め!」
怒りに上擦った女の声は意外に幼く、ラファエルはおやと思う。
感情のままに叫ぶのなら、こちらに分がありそうだ。
「大人しく渡さぬというなら、こちらにも考えがある」
ラファエルが挑発のために剣の柄に手をかけると、薄布の向こうでも動きがあった。
剣が鞘走る音と、長靴が大理石の床を蹴る音がした。
薄絹が人の形に膨らんでくる。
ラファエルも抜刀し、床を蹴った。
「殿下!」
ヴァンサンが叫ぶ。
次ぎの瞬間、布ごしに剣がかち合い、金属音が主の間に鳴り響いた。
相手は声の女だとラファエルは確信していた。
なかなかの打ち込みだったが、切り結んでしまえば、力はラファエルの方が
圧倒的に強い。
女の力を測りながら押し合い、相手が全力で押してきた瞬間に、剣を弾いた。
互いに間合いを取ると同時に、薄絹が天井から落ちてくる。
遮るものがなくなり、初めて相手の顔を見た瞬間、ラファエルの身体に衝撃が走った。
――ものすごい好みだ。
139セイレーンの乙女:2007/10/13(土) 17:00:14 ID:Imq0Z/Rq


思わず口角が上がりそうになるのを、ラファエルは必死に抑えた。
表れた女騎士は、年は16、17といったところで、まだまだ女性の丸みに欠ける
細身の身体つきだったが、胸まで届く淡い金色の髪と、意志の強そうな
薄青色の大きな瞳を持った、なかなかの美少女だった。
陶器のようになめらかな白い肌の中、怒りのために紅潮させた頬と、
固く結ばれたピンク色の唇が愛らしい。
真っ直ぐにラファエルを睨みつける眼力も鋭くて、それにもそそられる。
ユベール公国最初の女は彼女にしようとラファエルは勝手に決めて、
彼女の第二撃を受けとめた。
剣の筋も悪くない。
女の非力をカバーするため、しなやかな全身のバネを使って攻撃してくる。
ラファエルは、懸命に剣を繰り出す彼女に半ば見とれて、その剣を受けとめていた。
「フェリシテ。お止めなさい」
玉座に座る女大公が初めて口を開いた。
艶のある静かな声だった。
その容姿も、銀の真っ直ぐな髪に紺碧の瞳と、高貴な女性が持つ華やかさを
供えている。女騎士の初々しさとは異なる成熟した美しさを持つ女性だった。
女大公の命令に、フェリシテと呼ばれた女騎士はラファエルを一睨みすると、
大人しく剣を引いて女大公に跪いた。
その姿を見ながら、ラファエルはユベール公国公家の家系図を頭の中で思い描く。
女大公の妹の娘が、確かフェリシテといったか。
ラファエルは、当初の戦略をどう修正しようかと、即座にいくつかの案を捻り
出していた。
「あなた様は、ブノア王国の第二王子ラファエル殿下であらせられますね」
「ええ」
「投降した者、力なき者の命をお助けくださり、ありがとうございます」
「当然のことです」
剣を収めて、ラファエルは丁寧に答えた。相手が礼節をもって接してくるのであれば、
こちらもそれ相応の態度で臨む。元来、ラファエルは女には優しい性質だった。
「私達は、これ以上、無益な血を流すつもりはございません。そちらの要求に従い
ましょう。ただし、いくつかお願いがございます」
来たなと、ラファエルは内心思った。
「いいでしょう」
戦に勝った余裕が成せる優雅な笑みを浮かべて、ラファエルは交渉のテーブルに
つくことにした。
140セイレーンの乙女:2007/10/13(土) 17:01:48 ID:Imq0Z/Rq


交渉の相手として、ユベール公国の女大公は、確かに手強かった。
結局、ユベール公国の名は、今後も地図に残る事になったが、その実権はブノア
王国が握ることとなり、ラファエルも父王に胸を張って報告できる結果となった。
ユベール公国はこの後、18歳になる第一公女のミレーヌを現ブノア国王の側室として
差しだし、6歳の第二公女セレスティーヌの婿として、ブノア国の第四王子である
3歳のダミアンを迎えるのだ。そして、ダミアンが次期大公となる。

ラファエルは、交渉の結果に満足して、主城で一番豪華な客室の寝台に寝転がっていた。
彼にとってはこれからがお楽しみである。
いや、本番とでも言おうか。
セイレーンの乙女を完全にモノにするには、ここからが重要なのだ。
ノックの音に、ラファエルはニヤケ顔を正して、寝台の上に起き上がった。
「入れ」
遠慮がちに室内に入ってきたのは、昼間主の間で剣を交えた女騎士のフェリシテだった。
さすがに無骨な鎧は脱ぎ捨てて、白い簡素なドレスを身につけている。
女大公との交渉の最後に、今日の閨にとフェリシテを所望すると、その願いはあっさりと
聞き入れられた。
公女もブノア国王に嫁ぐことになった今、公族として、フェリシテも我を通す訳には
いかないのだ。
「こっちに来い」
昼間の威勢のよさはすっかり影をひそめ、フェリシテは重たい足取りで、寝台の上に
上がってきた。
その白い腕を少し力を入れて引き寄せると、フェリシテは困ったように視線を下に向けた。
金色の長い睫が白い頬に影を落とす。
形のよい顎に手を添えて上を向かせると、今度は薄青い瞳としっかり目があった。
「昼間は……ごめんなさい」
艶やかなピンク色の唇から、殊勝な言葉が紡がれて、ラファエルは表情を崩さずに
感激した。すぐにでも押し倒してしまいたいのを堪える。
「気にするな。なかなかの腕前で、楽しめた」
フェリシテの眉頭がぴくりと動く。格下に見られたのが癪に障ったのだろう。
それさえも今は可愛く思えて、ラファエルはその艶やかな唇に口付けた。
141セイレーンの乙女:2007/10/13(土) 17:03:22 ID:Imq0Z/Rq

唇を奪った瞬間、フェリシテの身体がピクリと震えた。
全身を強張らせるフェリシテを怖がらせないように、ラファエルは軽く唇をついばむ。
我ながら優しいなと、恋も戦も負けしらずのブノア王国第二王子は心の中で
自画自賛した。
公族として大切に育てられた16歳の少女。
剣を持つなど男勝りではあるが、おそらく初めてのキスだ。
それを裏付けるように、舌を入れようとすると驚いたように目を開き、ラファエルの
肩に手をかけて身体を引こうとする。
その背中に左手を回し、右手で顎をくいと下げて唇に隙間を作ると、ラファエルは
固く閉じられた歯列に舌を這わせた。
執拗に唇を吸っていると、息苦しさに顎が開く。
その瞬間に、ラファエルの舌がフェリシテの口内に忍び込んだ。
一度舌が入ってしまえば、あとはラファエルの独壇場で、逃げようとする小さな舌に
ねっとりと唾液を絡ませる。
「んっ」
口内を弄りながら、うっすらと目を開けてフェリシテを窺えば、固く瞳を閉じていて、
男の責めに耐えようと一生懸命の様子。
両の手のひらは、ラファエルの服を強く握り締めている。
ラファエルはその反応に嬉しくなって、彼女の腰を引き寄せた。
より深く唇が重なって、フェリシテの唇の端から、どちらのものとも言えない唾液が
溢れた。
「んんっ!」
不意に、胸板を強く叩かれて、ラファエルは口付けを中断した。
「ばかっ、息が、できない」
唇を拭って、はあはあと肩で息をするフェリシテに、ラファエルを自然に微笑んだ。
「そういうときは、鼻ですればいいんだ」
「うう……」
もっともなラファエルの言に、フェリシテは言葉をつまらせ、耳の先まで赤くする。
そんなフェリシテの細い絹糸のような金髪を優しく撫で、ラファエルは彼女の呼吸が
落ち着くのを待つ間、頬や耳たぶ、髪にキスを落とした。
唇の端に口付けると、けなげにもフェリシテが瞳を閉じたので、ラファエルは唇への
キスを再開することにした。
優しく舌を差しこむと、彼女の柔らかい舌が遠慮がちに絡んでくる。
ラファエルは、そろそろ色々我慢ができなくなっていた。

142セイレーンの乙女:2007/10/13(土) 17:04:48 ID:Imq0Z/Rq

フェリシテの白いドレスは、背中に紐がついていた。
キスをしながら、ラファエルが器用に紐を解いていく。
開いた服の間から直接背中に触れても、フェリシテは少し背中を反らせただけで、
拒絶することはなかった。
どちらからともなく唇を離すと、フェリシテは惚けたようなとろんとした表情で
甘い溜め息を吐いた。
形のよいフェリシテの唇から垂れた二人の唾液を、ラファエルが手で拭ってやる。
ラファエルの親指が、赤味を増した桃色の唇をなぞると、その青い瞳に艶っぽい光が
宿った。
まるで男を誘うようなフェリシテの視線に、ラファエルの手は反射的に白いドレスを
脱がしにかかっていた。
背中側から前の方へドレスを引っ張ると、フェリシテは素直に両腕を抜く。
首から鎖骨、肩へと続く、女らしい柔らかなラインが露わになり、二つの乳房に
ラファエルの視線が釘付けになる。
フェリシテはそれを隠すことはなかったが、やはり恥ずかしいのか、目を伏せていた。
ラファエルは、その間に自身も上半身の服を脱ぎ捨てると、乳房の下の丸いラインを
掬うように両手を伸ばした。
「ぁ!」
フェリシテがシーツを掴む。
ラファエルは、そんなフェリシテの反応を観察しながら、まだ弾力のない薄桃色の
頂点を乳房の中に押しこんでみた。
「やっ」
思わず身体を離そうとする少女を、ラファエルが追う。
「!」
ラファエルが押し倒す形で、二人は寝台の上に身体を横たえた。
フェリシテの身体の儚さと柔らかさを、ラファエルはしばらく味わった。
フェリシテも人肌の温もりと重みを感じて鼓動を高ぶらせた。
「わたし……初めてなの」
消え入りそうな声で呟くフェリシテ。
「分かってる。優しくする」
身を起こし、ラファエルはフェリシテの熱く潤んだ瞳を見つめた。
その瞳が閉じられたのを見て、優しく唇を奪う。
そして、頬、耳たぶ、首筋へと、彼女の存在を確かめるように顔を埋めた。
143セイレーンの乙女:2007/10/13(土) 17:06:45 ID:Imq0Z/Rq

仰向けに寝ているフェリシテから、ラファエルは白いドレスと下着をとりさった。
生まれたままの姿になったフェリシテの全身を見て、ラファエルの口が感嘆の形に
一瞬変わる。
白い肌にはシミ一つなく、豊かな乳房の頂点は、穢れを知らないキレイな薄桃色を
している。
薄い筋肉がついて括れた腰と、適度に脂肪ののったしなやかな太腿から細い足が
すらりと伸びる様は文句なく美しかった。
そして、頭髪よりも少し暗い金色の薄い茂みが被う股間が、男の劣情を誘う。
ラファエルに見られていることが恥ずかしくて、フェリシテは身体をよじった。
それが期せずして、お尻の線と、瑞々しい秘所の一端を見せることになり、
ラファエルの理性が吹き飛びそうになる。
――まずい。
理性は最後の最後まで残しておかなければいけないのだ。
今さらながら、処女のセイレーンの乙女を抱く危うさを思い知り、ラファエルは
ふるふると頭を振った。絶対にコイツはしかけてくると、幾分か冷静な思考を
取り戻して、自分のズボンと下着を脱ぎにかかった。
そんなラファエルを、フェリシテは直視できないようだった。
裸になったラファエルが、再度フェリシテにのしかかる。
下半身に感じる熱くて固い感触に、フェリシテは頬を染めた。
が、すぐに、ラファエルの唇が乳房を這い始め、意識がそこに集中していく。
まるでそれ自体が一つの生き物のような舌が、柔肉を揉み、乳首に粘液を
擦りつける。
「あっ」
ぷくりと起き上がった乳首にラファエルが歯を立てた瞬間、フェリシテの背筋に
悪寒にも似た疼きが走った。
「だめ、こんなの……」
今まで感じたことのなかった疼きは背徳感を呼び起こし、これ以上の刺激に身を委ねる
ことに、恐れを抱かせた。
そんな処女の胸の内を知ってか知らずか、ラファエルの剣ダコのある固い手のひらは、
白いの乳房を揉みしだく。
乳首を摘まみ、薄桃色の乳輪の淵を親指でなぞると、フェリシテの背中が仰け反った。
144セイレーンの乙女:2007/10/13(土) 17:08:09 ID:Imq0Z/Rq

「ぁんっ!」
フェリシテの甘い喘ぎ声に、ラファエルの男根がさらに固くなった。
セイレーンの乙女の喘ぎ声は、普通の女以上に、男をその気にさせる魔力が
あるようだった。
「やっ、やめっ」
今更ながらの拒絶の声に、ラファエルは耳たぶを唇で舐りながら訊ねた。
「どうした、怖いのか?」
「っ!」
答えの変わりに、フェリシテの手がラファエルの胸板を押しのけるようとする。
「わたしが、わたしで……なくなっ…ちゃうっ!」
腹筋を撫でられ、フェリシテが身体をよじらせる。
瞬間、ぎゅっとつむった瞳から、涙の筋が流れた。
「大丈夫。……お前は、お前だ」
フェリシテの頬を大きな手で包んで、ラファエルは言った。
流れた涙を舌で舐めとってやる。
「快楽に抗うな。悪いことじゃない」
そう言って、ラファエルが深く口付けると、フェリシテの手がラファエルの頭を
強く抱いた。
フェリシテの喉が嚥下の動作で上下する。
ラファエルから注がれた唾液を、自然と受け入れるようになっていた。
激しいキスにフェリシテの身体は解けていったが、男の手が太腿に伸びると、
再び緊張で身体を強張らせる。
それでも、フェリシテの秘所はすでに潤いを蓄えていた。
割れ目に沿って指を動かせば、確かに卑猥な粘着性の水音が聞こえてくる。
「はぁぅっ!」
ラファエルの中指が、慎ましやかな肉芽を探り当てた。
円を描くように軽く押しつけると、フェリシテは首を左右に振って身悶える。
新たに溢れ出た愛液が、ラファエルの手のひらを濡らした。
水音は、ますます激しく淫らになっていく。
「んんっ!」
肉襞に蜜を塗り込めていたラファエルの中指が、ゆっくりとフェリシテの
膣内へ沈んでいった。

145名無しさん@ピンキー:2007/10/13(土) 17:09:56 ID:Imq0Z/Rq

とりあえず、ここまで。
sage間違ってすみません。
続きは夜にでも。
146名無しさん@ピンキー:2007/10/13(土) 20:17:49 ID:J2rRph7j
ぐっじょび
147名無しさん@ピンキー:2007/10/13(土) 22:04:10 ID:/NOdaAP7
全裸で星座して待ってる
148名無しさん@ピンキー:2007/10/13(土) 23:11:19 ID:6W96EX2w
ところで唐突なデレ化の裏には一体何があったんだw
149名無しさん@ピンキー:2007/10/14(日) 00:45:41 ID:KJJv8n96
セイレーンの乙女の続きです。
150セイレーンの乙女:2007/10/14(日) 00:48:55 ID:KJJv8n96

ラファエルの陰核と秘唇への愛撫によって、フェリシテのそこはしとどに濡れ、
入り口を指でさすれば、異物を飲みこもうと、ひくひくと動くまでになっていた。
「もう、だめ……おかしく、なっ…ちゃう」
白い肌は、いまや全身が桃色に染められ、汗を滲ませていた。
「はぁん!」
自ら吐き出した蜜の塊が膣内を流れるだけで快感を感じている。
「入れるぞ」
前後不覚に陥っているフェリシテのために、一応断りを入れたが、拒絶の言葉は
返ってこなかった。
時間をかけてほぐしたとはいえ、処女の中は狭い。
先端が入っただけで、かなりの圧迫感があったのか、フェリシテは初めて
彼の名を呼んだ。
「ラファエルさまぁ……」
「!」
名前を呼ばれただけで果ててしまいそうで、ラファエルは焦った。
――恐るべし、セイレーンの乙女。
自分の欲望のままに事を終わらせることは簡単だったが、フェリシテへの
配慮が、ラファエルの頭の片隅を支配していた。
こんなときでも女に甘い自分にラファエルは苦笑する。
これは負けられない戦いだというのに。
「フェリシテ……」
際奥よりも手前で行く手をはばまれ、ラファエルは腰に力を入れた。
「んんん! あーっ!!!」
内臓を串刺しにされたような激痛に襲われたフェリシテの瞳が見開かれ、
その身体が跳ねた。
「ぃい痛っーーーーーー!!」
そんなフェリシテの身体を強く抱きしめ、ラファエルは最後まで腰を進める。
フェリシテも夢中でラファエルの身体にしがみついた。
151セイレーンの乙女:2007/10/14(日) 00:50:08 ID:KJJv8n96

「あなたが初めての人でよかった……」
まだ痛みの収まらぬフェリシテが、自分の身体を撫で、顔の至るところにキスを
しているラファエルに向かって呟いた。
瞳に徐々に光が戻ってきている。
これも作戦のうちかもなと、一瞬、ラファエルは穿った捉え方をしてしまったが、
それでも、やはり最後は素直に嬉しく思う。
「光栄だ」
ラファエルは、フェリシテの目尻にキスをした。
「もう、平気だから……」
「ああ」
フェリシテが無理をしているのは分かったが、このままじっとしていても、完全に
痛みが消えることはないので、ラファエルは円を描くようにして、腰を動かし始めた。
わざと陰核をさするようにし、乳房の柔らかさと突起の感触を楽しむように胸板を
密着させる。
「んっ……ん…っ…」
少しづつ腰の動きが大胆になる。
結合分にちらりと視線をやると、男根も秘所も破瓜の血に染まっていた。
ラファエルは思わずにやりと笑ってしまった。
「ぁ…ぁん…ん…あっ……熱っ……熱いのっ」
しばらくすると、フェリシテの声に甘さが混じり、すらりとした白い足が
ラファエルの腰に絡みついてきた。
背中にまわされた手に導かれるように、ラファエルがその艶やかな唇を舐めると、
可愛らしい舌が差し出される。
貪るように吸ってやると、膣壁がわなないた。
そろそろくるかなと、ラファエルは思った。
なるべくフェリシテの声に集中しないよう、腰を振ることに専念し、処女の膣内を
蹂躙し続けた。
152セイレーンの乙女:2007/10/14(日) 00:51:57 ID:KJJv8n96

「ラファエル様……」
狭い膣壁がさらに締まった。
背筋を駆け上る快感に耐えきれず、ラファエルはフェリシテの耳元に顔を埋めた。
「好き」
頭に直接響くような、セイレーンの乙女の言霊。
「フェリシテ…っ!」
ラファエルは、もはや彼女の身体を労わることも忘れて、己の欲望を
放出することだけを目的に本能的な往復を開始した。
フェリシテの肩を押さえて、より深くつながるようにと角度も変えた。
「あっ…あっ…んっ…ゃっ…ぁん!」
フェリシテの口から漏れる甲高い嬌声が、ラファエルの脳をチリチリと焦がす。
その上、微妙に腰まで振ってくる。ラファエルは密かに舌を巻いた。
「ラファエル様ぁ……愛しています」
その冷めた色合いとは対照的な熱い光の篭もった瞳で、ラファエルを見つめる
フェリシテ。
心臓が大きく脈打ち、頭を殴られたような衝撃がラファエルを襲った。
さらに秘肉が根元から搾り取るようにラファエルの男根を締めつけて、
主の意志を無視して暴発寸前の状態に誘う。
「ずっと……私を、愛して、永遠に」
フェリシテがラファエルの背中をすがるように抱きしめて、言霊を発する。
「!」
その言霊を合図に、ラファエルは、フェリシテの際奥に己の欲望の楔を
強く打ちつけた。
「あああああっ!!」
白い喉を晒してフェリシテの身体が反り返り、男の背に爪を立てる。
全身を震わせて、今処女が果てた。
「……おねがい」
イった後に繰り返される膣内のぜん動運動に、ラファエルは何とか持ちこたえた。
『俺も愛してる』
承諾の言葉を必死の思いで飲み込み、交わる前から決めていた残酷な言葉を
紡ぐため、口を開いた。
153セイレーンの乙女:2007/10/14(日) 00:53:16 ID:KJJv8n96

「お前の愛には、応えられない……」
そう言った瞬間、初めての絶頂に恍惚としていたフェリシテの顔が、引き攣った。
「いやーーーー!!」
悲痛な叫び声に、膣内がきつく締まる。
ラファエルは、滾る欲望を放出するために、激しいピストン運動を再開させた。
一度絶頂を極めたフェリシテの身体が、再び燃え上がり、快感と絶望の相反する
感情に翻弄されて、キレイな顔を歪ませていく。
「ど、おして? ……なんで、なんで、拒否するの!?」
青い瞳から大粒の涙が零れ落ちる。
その瞳からは光が失われ、激しく突かれるままに、中空を見つめている。
その姿は、痛々しくもあったが、ラファエルは強烈な劣情を掻き立てられた。
白い太腿の裏を抱えてより深く挿入し、悲しみにむせび泣く彼女の顔と妖しく
揺れる乳房とをまじまじと見つめて腰を振る。
「はうっ……ぁんっ……ひどいっ……ぃやぁ…こんなぁ」
二度目の絶頂に向けて、フェリシテの身体は強制的に昇り詰めさせられていた。
結合部からは愛液が飛び散り、肉のぶつかる音が鳴り響いている。
「ラファエルさま……ラファエル…さ、まぁ……」
官能の渦に意識が混濁しているのか、甘えるように名前を呼ぶ。
伸ばされた腕に応えて、ラファエルは強くフェリシテを抱きしめた。
フェリシテの足がラファエルの腰に絡みつく。
ラファエルは、小刻みに最奥をついた。
「あ、ぁあーー! ラファ、ラファエル様ー!!!」
怒張が、引き千切らんばかりに締めつけられた。
――くっそ。たまんねー
ラファエルの視界で光が弾け、女の膣内に初めての白濁液が放たれた。
男根が脈打つ度に、何度も熱い滾りが子宮口を叩く。
フェリシテに体重を預けたまま、ラファエルは全身で呼吸した。
154セイレーンの乙女:2007/10/14(日) 00:54:48 ID:KJJv8n96

――勝ったな。
瞳を閉じて荒い息に胸を上下させているフェリシテから、本懐を遂げた男根を
引き抜くと、秘裂から鮮血の混じった白い粘液がとろりと零れ落ちた。
「どうして……」
目を開けたフェリシテは涙を拭き、寝台の天蓋をじっと見ていた。
「純潔まで捧げたのに……」
可哀想ではあったが、ラファエルにはこうするしかなかった。
「私のこと、そんなに嫌い?」
ラファエルは、流した涙で頬に張りつく金髪をそっと梳くった。
「俺が幼少のみぎりに通っていた王立学院の師に、若い頃諸国を旅していた
という変わった男がいてな。そいつが言うには、セイレーンの乙女の純潔を
散らす場合には、かなりの覚悟がいるというのさ」
「あなた! 知っていたのね!」
「ああ。セイレーンの乙女は、破瓜の際に、相手の男を一生自分に縛りつける
ように言霊を発するとな。操り人形になりたくなければ、愛の言葉を返すこと
なく拒絶しろと教わった」
ラファエルは、爽やかに笑う。
「ひどい人!」
「ふっ。何を言うか。自分たちだって、俺を篭絡して、講和条約をユベール
優位にするつもりだったんだろーが」
「処女を奪ったんだから、責任をとるのは当たり前でしょ!」
「女大公の旦那のように骨抜きにされて、いいようにこき使われるのが、
責任のとり方とはお笑いだ」
「でも、二人は愛し合ってる。幸せになれるわ!」
「俺は、そんな、砂糖菓子みたいな幸せはいらない……」
「最低!」
完全に頭に血が上ったらしいフェリシテは、そそくさとドレスをまとうと、
覚束ない足取りで出口へと歩いた。
「ちょっと、待て」
ラファエルの声に、フェリシテの動きが不自然なくらい、ぴたりと止る。
155セイレーンの乙女:2007/10/14(日) 00:56:15 ID:KJJv8n96

「俺は何も責任をとらないとは言ってない」
振り向いたフェリシテの頬が強張っている。
「お前のことは、ちゃんとこれからも可愛がってやるよ。下僕としてな」
「ふざけないでよ!」
ぷいっと顔を背けて、フェリシテは今度こそ部屋を出ようとする。
「お座り!」
「きゃあっ」
膝がくずれて、フェリシテはその場にしゃがみ込みんだ。
何が起こったか分からない様子で、目を瞬かせている。
ラファエルは満足そうに笑みを浮かべた。

「純潔の契りで相手の男をものにできなかったセイレーンの乙女は、その男に
心を捕らわれ下僕となる。まさか、ここまでのこととはね。最強の人心掌握術
には、それなりの対価が伴なうって訳か。爪が甘かったな、フェリシテ。
お前の腰の動き、初めてにしてはなかなかよかったぞ。セイレーンの乙女は、
男を虜にするために、処女でも感じるって本当だったんだな」 
ラファエルはそこまで言うと、フェリシテの肩が震えていることに気がついた。
嗚咽の声も漏れている。
ラファエルは黙って赤褐色の髪を掻いた。そこまで苛めるつもりはなかった。
「来いよ」
ラファエルの声に、フェリシテの泣き声が止む。
が、一向ににラファエルの方へ来る気配はない。
「来い」
語気を強めて繰り返すと、フェリシテは緩慢な動きで立ち上がって、
ラファエルのいる寝台まで歩いた。
今となっては、ラファエルに逆らうことなどできないのだ。
彼の言霊には絶対服従。
それでも瞳は伏せたままのフェリシテを、ラファエルは強引に自分の側に
引き寄せた。
「許せ、フェリシテ。俺は女に主導権を握られるのが嫌いなんだ」
ラファエルの真剣な顔を見て、フェリシテの頬を新たな涙が伝った。
156セイレーンの乙女:2007/10/14(日) 00:57:55 ID:KJJv8n96

「あなたのことなんて、好きでもなんでもないし。これだって、ユベールの
ためだもん」
男の残滓が新たに秘所から吐き出され、その感触にフェリシテは身を震わせた。
「ちゃんと、あなたを好きにならなかったから、こんな結果になっちゃったんだわ。
言霊の力が足りなかったみたい。自業自得ね。まだまだ未熟だったんだ、私」
「フェリシテ……」
「でも、ユベールにはまだまだ優秀な乙女がいるから、あなたなんて、明日には、
陥落しているはずよ、きっと。そうなったら、見物ね。骨抜きにされちゃえば
いいんだから! あっ」
悲痛な涙を流して喋り続けようとするフェリシテの唇を、ラファエルのそれが塞ぐ。
もがくフェリシテを押さえつけ、ラファエルは荒々しく口付けた。
十も数えないうちに、フェリシテは降参する。
初めて感じたこの激しい気持ちは偽ることができないことを悟った。
「フェリシテ……俺は、明日もお前がいい」
今までで一番長いキスの後、ラファエルがそう言うと、フェリシテは熱く潤んだ
瞳で愛する男を見つめ返した。
「嫌か?」
「そんなこと、ない」
フェリシテは慌てて首を横に振った。
まだヒリつく膣内がきゅんと縮まって、新たな蜜が滲み出る気配がする。
自分に淫乱な素質があるような気がして、フェリシテは眉根を寄せた。
「初めてでも腰を振る淫らな女は嫌い?」
「いや、悪くない」
「じゃあ……終わったばかりなのに、すぐ欲しくなる女は?」
ラファエルは少し驚いたが、勇気を振り絞るように、頬を紅潮させて訊ねる
フェリシテの姿を見て、琥珀色の瞳を細めて微笑んだ。
「望むところだ」
すでに彼の分身も固い。
ラファエルは、再びフェリシテを押し倒し、寝台の上に組み敷いた。
二人の初めての夜は、まだまだ終わりそうになかった。
157セイレーンの乙女:2007/10/14(日) 00:59:08 ID:KJJv8n96

一ヶ月後。
戦の後始末と講和条約締結のための諸手続きを終えたブノア王国第二王子
ラファエルは、故国へと凱旋するため、ユベール公国を後にした。
その軍の中には、武装して帯剣するフェリシテの姿もある。
彼女は第二王子付きの近衛騎士として、あらたな人生をスタートさせた。
純潔の契りで失敗したため、下僕という屈辱的な立場であったが、それでも
フェリシテは幸せに似た温かい感覚に包まれていた。
「フェリシテ! こっちに来い!」
呼ばれてフェリシテはあわてて馬を進めて、ラファエルの一馬身後ろにつけた。
その隣では、ヴァンサンが渋い顔をしている。
フェリシテのお蔭で、ユベール公国の他の女たちの操は守られ、
下手にブノア王家の子種を残すということはなかったのだが、
ヴァンサンはフェリシテの扱いに困っていた。
ただの臣下なのか、愛人なのか、それとも未来の――。
そんなヴァンサンの苦悩を余所に、当の王子はブノア王国に関する知識を
喋り倒している。
王子の晴れやかな顔を見ていると、ヴァンサンも苦言をはさむことができず、
ただただ王子の幸せを祈るばかりだった。
158名無しさん@ピンキー:2007/10/14(日) 01:00:31 ID:KJJv8n96

以上です。
長々と失礼しました。

159名無しさん@ピンキー:2007/10/14(日) 02:06:24 ID:oBRmPlou
GJ!
途中二人がどうなるのかハラハラしたけど最後は幸せな終わり方で良かった!萌えた!

フェリシテ可愛いよフェリシテ
160名無しさん@ピンキー:2007/10/14(日) 09:20:15 ID:oeg6ayQ9
一部トンデモな所もあったがGJ
161名無しさん@ピンキー:2007/10/15(月) 03:42:44 ID:QJHNo88A
GJ!言霊に縛られ、本当は恥ずかしいのにラファエルのいいように乱れさせらる
フェリシテのこれからの痴態に期待!しかも勝ち気っ娘と意地悪主人…萌える設定だよう!
162名無しさん@ピンキー:2007/10/15(月) 13:22:31 ID:+a8bGT6k
戦争捕虜と戦勝国の王子が何でラブラブなのか全く理解できないんだが
誰か三行
163名無しさん@ピンキー:2007/10/15(月) 17:35:22 ID:8NYuvShW
まあまあ
164名無しさん@ピンキー:2007/10/15(月) 18:53:33 ID:+cI3aUoA
まあ、>>160ってことだろう。
しかし王の側室に姫を差し出すって
おかーさんは賭けに出たんだろうが、ラファエルはいいのか?
王が誘惑に負けてアイチテルーとか言っちゃったら終わっちゃうじゃんw
165名無しさん@ピンキー:2007/10/15(月) 22:21:16 ID:0EcQ8HG6
コメディなんだし(だよね?)楽しければおk
てなわけでGJでした。
166名無しさん@ピンキー:2007/10/16(火) 23:14:04 ID:nmexR5Mm
>>162
侵略され敗北して敵国の領土に併合されたら、旧王家の人間は処刑されるかもしれんが
この話の場合は、降伏して宗主権を認めて属国になっただけで、一応独立国としての体
裁は保たれてる。ということは、建前上はフェリシテちゃんは他国の王族の姫なんだか
ら、粗末に扱う方がおかしいんじゃないか。
言霊はファンタジーとして、この設定はトンデモとは思わんかったけど。

面白かったので、続き期待してます。
167名無しさん@ピンキー:2007/10/17(水) 01:59:45 ID:Um3kerbG
>>164
きっとパパも美男子ナルシストで高貴な精神をお持ちなんだよ!

>>166
色々と落ち着けw

俺だけかも知らんが、投下した後で前後の内容の食い違いに気付くのはたまにあることだから
そういう時は深く追及しないで各自脳内補完するがよろし
168名無しさん@ピンキー:2007/10/17(水) 02:26:28 ID:8ErVypkA
>>166
いや、そこの設定じゃなくて。
例えばフェリシテが出会い・情事前・中・後でキャラがブレすぎじゃないかと
この簒奪者め!と罵った相手に、チャンスとはいえ娼婦の真似事しろって言われて
王族なのに悔しがるとか一切なしで「ごめんなさい」だし。
「申し訳ありません」「ご無礼を…」とかじゃなくて。立場下なのに
なんかあまりに親密な空気が流れてるから、昔からの知り合いだったのかと思った
高貴な感じ→甘えキャラ→強気な町娘風っていう変遷がなんとも

とはいえ面白かったし、かなり好きな部類w
濡れ場の描写も良かったww
169名無しさん@ピンキー:2007/10/17(水) 18:22:07 ID:lHmKw6fW
>>168
なんというツンデレ。

何だかんだいいながら皆158が好きだという。
その人気にshit!!!
170名無しさん@ピンキー:2007/10/18(木) 01:57:00 ID:9LnSJj5P
さりげなく最後の英単語がキツイなと
無粋なツッコミをしてみる
171名無しさん@ピンキー:2007/10/19(金) 08:33:16 ID:iGk+o7if
〜にshitって割とよく見る気がするけど?
172名無しさん@ピンキー:2007/10/22(月) 07:24:51 ID:o5MChuue
ほしゅ
173名無しさん@ピンキー:2007/10/23(火) 13:30:42 ID:nuw0yekC
浮上
174名無しさん@ピンキー:2007/10/27(土) 01:04:58 ID:0Vpt1sw8
保守しとくべ
175uni ◆/pDb2FqpBw :2007/10/31(水) 19:00:59 ID:o/h9gFxV
<M'aider M'aider>

@@1

「嫌です。」
きっぱりと断言される。にべもないとはこの事だ。

「困ったな・・。」

「困りません。それが私の仕事です。さ、若様。」
そう言いながら若葉さんはいつものようにきゅいと肩までの髪をちょんまげに結わえ上げた。
若葉さんは見た目だけは凄くソリッドな感じの美人だから
そういう伝法な動作がなんとなく似合う。

「でも」

「でもも味噌もありません。若様は私をクビにするおつもりですか?」
「そんな事無いよ。でもさ。僕の話を聞いてくれても」

「私の仕事は私の仕事。若様の仕事は私にお世話される事。
 次代の御当主がそんな我侭ばっかりじゃ駄目なの。」
はいはい。と言いながら僕の背中を押す。

若葉さんは大人の女だ。
確か今年でもう17歳になっている。
13歳になったばかりの僕とは違う。
だからこうやって理屈で攻められると、いつも何もいえなくなってしまう。

それでも若葉さんは僕付きの上女中の中では
一番年が若いから何でも相談がしやすい。
そういう事もあって提案したのだがにべも無く却下されてしまった。

若葉さんはぐいぐいと背中を押す。そして言った。
「さ、お風呂に入りましょう。若様。」
176uni ◆/pDb2FqpBw :2007/10/31(水) 19:03:04 ID:o/h9gFxV
@@

ちょっと遅かったけど毛が生えました。(まだ一本だけだけど)
だからお風呂には1人で入りたいです。

要求はそれだけだ。
それだけなのだが、それをどう言うかが問題なのだ。

「毛が生えたので1人でお風呂に入ります。何か文句でも?」

そう言えれば苦労はしない。
僕だって男なんだ。プライドだってある。
そんな事を言える筈が無い。

だって絶対にからかわれるもの。
見せてみろとか言われる。
あとなんかこそこそと裏で話し合ったりするきっと。凄く真面目な顔で。
絶対嫌だ。冗談ではない。

現在、僕付きの上女中は3人いる。百合さんと、文乃さんと、若葉さんの3人だ。
それぞれ教育担当、生活担当、両方の補助となっている。

お風呂に入る担当なのは生活担当の文乃さんと若葉さんの2人だ。
今日は若葉さん。
しかし上女中の3人の代表は一番年上の百合さん。
だれに相談するのかが考えものなのだ。
177uni ◆/pDb2FqpBw :2007/10/31(水) 19:04:04 ID:o/h9gFxV

一緒に入りたくないと言った時、
百合さんは理由を徹底的に追求してくるだろう。
何が問題で、それに対してどういう解決方法があり、どう実現していくか。
普段の真面目で融通の利かない性格がフルに発揮されるに違いない。
ちょっと気分でとか察してくださいとかそういうのは一切通用しない。
根掘り葉掘り理由を聞かれ、追い詰められ、結局言う羽目になる。

文乃さんの場合、恐らくパニックになる。
普段の献立だとか身の回りの事だとかそういった事は完璧な文乃さんだが、
その代りといっては何だけれど致命的に察しが悪い上に
突然の事態に対応するのがとても苦手だ。
あと結構思想がネガティブ。
多分さめざめと泣いた後お世話になりましたとか言う。多分というか絶対。
それも困る。

でも、若葉さんなら。
大人とは言っても一番年は近い事だしもしかしたら。と思ったのだ。
僕の様子からぴーんと察してくれて、からからと一つ笑って、
よし判ったよ。私がうまく皆に話しておくね。
なんて言ってくれるかなーとか思ったわけだ。

嫌です。の一言で却下されるなんて事は思いもしなかった。
まさか全く察してくれないとは。
頭を抱えたくなる。
178uni ◆/pDb2FqpBw :2007/10/31(水) 19:05:58 ID:o/h9gFxV

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多分、僕が元から相馬の家にいたのであれば
こういう事にも疑問を持たなかったのだと思う。
いつまでも慣れなかったり、違和感を持ったりするのは
多分、僕が貰われっ子である事が原因にある。

元々遠縁ではあったらしいが、一度も会った事も無い相馬の叔父さんの養子となったのは4年前、僕が9歳の時になる。

若くして僕を1人で産んだ母は、4年前に僕を置いて逃げた、らしい。
本当のことは良く判らない。
ある日学校から帰ったらその時は会った事も無かった相馬の叔父さんがいて、
「始めまして。秀君。急な話なんだけどお母さんは病気になって入院してしまったんだ。今日からは叔父さんの家で暮らすといい。」
急にそんな話があるかふざけるなという話だけれど、
部屋の中に母はすでにいなかったし当時小学生の僕に選択権なんてものは無かった。
後々母が病気ではなく僕を捨てたのだろうという事は想像が付いたが
それにしても相馬の叔父さんも下手な嘘を吐いたものだ。

訳も判らないまま叔父さんに附いて行き、
馬鹿でかい家に着いたその瞬間いつの間にか僕は相馬の養子という事になっており、
百合さんと、文乃さんと、若葉さんが連れて来られて
「今日から秀君付きの子達だ。何でもこの子達に聞きなさい。」
と紹介されたのだ。
今思い返すに拉致に近い。
跡取りを拉致してくる金持ちというのも想像がつかないけれど。
179uni ◆/pDb2FqpBw :2007/10/31(水) 19:07:30 ID:o/h9gFxV

まあそんな訳で相馬の家に入った訳だけれど
まず戸惑ったのは訳の判らない仕来りやルールだ。
相馬の家は貴族の出の上に閉鎖的な田舎にあるからか色々と仕来りが多い。
叔父さんに連れてこられた時に戸惑うかもしれないとは言われてはいたが
実際に生活を始めてみると予想以上、というか今まで普通であった事が
相馬の家では全くの非常識であったりするのだ。
跡取りには特にそういったルールが色々とあるようで、
急に跡取りとさせられた僕には未だに良く判らなかったり理解できない事が多い。

例えば、上女中と下女中。
相馬の家には代々近くの村や町からお手伝いさんが入る。
上女中さんは住み込み、下女中さんは住み込みと通いの2通りに分かれている。
上女中と下女中には厳密な階級があるらしくて
上女中の仕事、下女中の仕事は明確に分担されている。
上女中は当主や跡取りに付く専門の女中さんだ。
当主、跡取りに子供の頃より専属で付けられて
若い頃は教育、その後は当主にくっついて秘書の様な仕事をするらしい。
だから同年代か少し年上が多い。
女中さんというより執事さんとかそういった方が近いのかもしれない。

主人と女中さんという区別はあるものの朝から晩まで一緒にいるので
パートタイムの仕事、というよりも一緒に生活をしているような関係になる。
仕事柄ずっと共にいる事、当主の仕事に携わる事もあるという事で
生活全般において他の使用人の人からは優遇されていて
若葉さんなんかも学校に行きながら上女中の仕事をしている。
当然当主、跡取りとの関係も近いものとなり、
相馬の叔父さん付きの上女中は10人ほどいるけれど
昔からの人はもう30年にもなる人もいる、らしい。
ちなみに若葉さんのお母さんも相馬の叔父さんの上女中をしていたりする。
180uni ◆/pDb2FqpBw :2007/10/31(水) 19:08:31 ID:o/h9gFxV

下女中は所謂家の中の仕事を分担している。
お掃除をしたり、洗濯をしたり、といった仕事だ。
その中でも通いの下女中さんは村からその年毎に入れ替わりで入ったりしていて
村のおばあちゃんが空いた時間に手伝いにきたりもしている。

この上女中、下女中という階級が曲者なのだ。
色々な仕来りに縛られているみたいで、
ルールが判らないで付き合うと色々と苦労をする。
例えば下女中は当主、跡取りには触れてはならないという仕来りがあるらしく。
最初の頃はうっかりと色々な事をして大騒ぎになったりもした。
181uni ◆/pDb2FqpBw :2007/10/31(水) 19:11:43 ID:o/h9gFxV

ここで言っておきたいのは仕来りとは厄介だとはいうものの
厄介なのは別に触れてはいけない、というルールそのものだけにあるわけではないのだと言う事だ。
仕来りとは法律ではなくて考え方なのであるという事を僕は相馬の家に来て始めて知った。

この触れてはいけない問題もルールとしてはどうも
下女中さんからみだりに馴れ馴れしくしてはいけないという位の事であって
僕や相馬のおじさんが決して触れてはいけないという訳ではないらしい。
現に相馬の叔父さんなんかはよく出かけに特に若い子供の下女中さんの頭を撫でたりお菓子をあげたりもしている。
それを叔父さん付きの上女中さんは別段見咎める事もなくニコニコとみていたりもする。

しかし仕来りの怖いところはどうも下女中に触れるとか仲良くするという行為は
何故だか上女中のプライドをとても刺激する部分もあるらしいという事だ。
おばあさんとか年配の下女中さんだとまだいいのだけれど、
百合さん、文乃さん、若葉さんと同年代の下女中さんについこちらから何かを取ってもらったり、
一緒に何かをしたりすると大変だ。途端に3人の機嫌が悪くなる。
この前は雨が降っていたからつい下女中の雪子さんという人の傘の下に潜り込んで一緒に傘をさしたら1週間口を聞いてくれなくなった。
182uni ◆/pDb2FqpBw :2007/10/31(水) 19:12:30 ID:o/h9gFxV

まあ、上女中さん下女中さnだけをとってもそんな具合であるわけで。
相馬の家では結局生活全てがこんなふうに何らかの仕来りやルールに支配されている。
最近では僕のやる事なす事に驚かれる事にも慣れてしまったが
やってきた当初は何をやっても目を丸くされるか怒られるかで
ずいぶん戸惑い、寂しい思いもした。

でも、そんな時にでもどうにかやってこられたのは百合さんと、文乃さんと、若葉さんがいたからだ。
3人ともずっと相馬の家にいるから僕のやる事なす事に未だにびっくりするらしいけれど。
僕が戸惑っている時は年の近い3人がいつも傍にいて何もかもを教えてくれたおかげで何とかやってこれたという面が多い。
だから僕は未だに3人に頭が上がらないのだ。
183uni ◆/pDb2FqpBw :2007/10/31(水) 19:13:31 ID:o/h9gFxV

@@

ちなみに上女中さんと一緒にお風呂に入る。
という行為も相馬の家では当たり前の行為である。
僕が男で上女中さんが女の人、というのは断る理由にならないらしい。

相馬の家に来た直後、一緒に入ろうとした若葉さん(当時13歳)に恥ずかしいから1人で入ると強く言って1人で入った僕は
30分後ホカホカになってお風呂を出た瞬間に、立ち尽くしボタボタと涙を零す若葉さんと
その隣で相馬の叔父さん付きの上女中さんの1人が百合さん(当時18歳)と文乃さん(当時15歳)を凄い勢いで叱り飛ばしている光景と
他の叔父さんの上女中さんが青ざめた顔で膝を付いて僕の方に何か問題があったのかを問いかけてくる光景に出くわした。
それ以降、あきらめてお風呂は文乃さんか若葉さんと一緒に入るようにしている。
184uni ◆/pDb2FqpBw :2007/10/31(水) 19:14:23 ID:o/h9gFxV

まあもちろん一緒にお風呂に入るといっても
一緒に湯船に浸かってのんびりする、という訳ではない。

僕と一緒に入る上女中さんは身を清めるという意味で
僕が入る前に1人で上女中さん用のお風呂に既に入っている。
一緒に入るというのは手伝いをするという訳だからだ。
だから一緒に入るといっても僕が湯船に浸かっている間、
若葉さんはいつものメイド服のような服を着て洗い場で待っていて、
体や頭を洗うのを手伝ってくれる訳だ。
まあ逆に言えばこれが僕の我慢出来る限界でもある。
若葉さんも一緒に湯船に浸かるなんて話になったら
さすがに僕も万難を排してでも1人で入るようにする。

185uni ◆/pDb2FqpBw :2007/10/31(水) 19:15:10 ID:o/h9gFxV

@@

「若様さ、さっきは何でお風呂に一緒に入りたくないなんて言ったの?」
ざばざばと僕の背中にお湯をかけながら若葉さんは声を掛けてきた。
僕はスポンジを手に持ちながら体の前面を洗っている。
前面に関しては絶対に駄目だと強く言っている為、
若葉さんは諦めてその間はお湯を背中にかけていてくれるけれど、
文乃さんは未だに隙あらば洗ってこようとするから油断がならない。

「だって、やっぱりおかしいよ。1人で入れないわけじゃないのに。」

「・・・ふーん。でも若様は1人で出来る事を全部1人でやる訳じゃないでしょう?」

ざばーんとお湯をかけて僕の背中を撫でながら
若葉さんはちょっと考えてからそう言った。
因みに僕がお風呂に入るのを手伝う訳なのでお湯はざばざばと使われる。
洗い終わる頃には若葉さんのメイド服も文乃さんの女中服も終わる頃には毎回びしょ濡れになって
正直刺激が強いので僕は洗ってもらった後は若葉さんと文乃さんの方は見ないようにしている。
186uni ◆/pDb2FqpBw :2007/10/31(水) 19:16:31 ID:o/h9gFxV

「どういう事?」

「例えば、若様はご飯を作れないわけじゃないよね。
ご飯を炊いて、お魚焼いて味噌汁くらいは作れるんじゃない?」
「まあ、その位は」

「じゃあ、若様は作るの?」
「だって、毎日毎食作るのは大変だよ。それは出来ないって事になるんじゃない?」

「うん。確かに意地悪な質問かもしれない。でもこれは例えばの話だから若様、聞いて。」
「・・・うん。」

「若様。私は違うけど、下女中の人の中にはお屋敷でお手伝いをさせて頂いてやっと家族が食べられる人もいるの。
若様がご飯をつくる事になっちゃったらご飯を作ってくれる下女中はいらなくなっちゃうんだよ。」
「・・・」
「ご飯だけじゃない。お掃除も、お庭も全部そう。やらなくてもいい仕事はあるかもしれない。合理的に考えればね。
だってお庭が綺麗じゃなくてもご当主様はもしかしたら全然困らないし、
もっと言えばご当主様が働かなくても、お屋敷には全然困らないくらいのお金がある。」
「うん。」
187uni ◆/pDb2FqpBw :2007/10/31(水) 19:17:58 ID:o/h9gFxV
「でも、ご当主様はお仕事をしていて運転手はご当主様の送り迎えをしている。
ご当主様をお仕事の場所に連れて行くのが彼の務め。
お庭の人はお庭を綺麗にして、そこに働く人やご当主様や若様、お客様に恥ずかしい思いをさせないのが務め。
下女中は屋敷内の事を全て遺漏なく保つ事が務め。
上女中の皆はご当主様や若様のお手伝いを一生懸命して
ご当主様や若様がお屋敷にいる間に何一つ心を痛めなくて済むようにするのが務め。」

「うん。」

「やらなくてもいいよ。って若様に言われてしまったら困る事もあるの。
それは忘れないで欲しいな。」

「・・・ごめんなさい。」
僕が洗い終わったスポンジを若葉さんに渡しながら俯くと、
若葉さんはん、頷いて笑いながらこう言った。

「それに、若様は私達に気を使ってそういう事を言う事もあるみたいだけど。
 私は、若様に今している事で嫌な事なんて一つも無い。
 これも忘れちゃ駄目なことかな。」
188uni ◆/pDb2FqpBw :2007/10/31(水) 19:19:17 ID:o/h9gFxV

そしてもう一回ザバーンとお湯をかけてからこう言った。
「ま、文乃とか百合さんとかは気が付いてないみたいだけど
私は若様の恥ずかしいってのは判らなくも無いけどね。」

「本当!?判る?」
やっぱり、若葉さんは判っていてくれていたのだ。くるりと振り返る。
するとメイド服をびしょ濡れにしている若葉さんが目に入って。
シャープだけどなんだか胸の辺りだけがやたらと主張していて
そんな体の線がくっきりと浮き出ているからなんだか凄く刺激だけれど
そんな事は今は関係ない。

若葉さんは振り返った僕の顔を見て胸を張りながら言葉を続ける。
「そりゃ判るわよ。だって、若様9歳でお屋敷に来たでしょう?
私だってずっとお屋敷にいて若様だから当たり前だけど他の男の人だったら別だよ。
お仕えするのなんて絶対無理。」

「じゃ、じゃあ若葉さんもやっぱり恥ずかしいの?」
189uni ◆/pDb2FqpBw :2007/10/31(水) 19:20:10 ID:o/h9gFxV

若葉さんはちょっと猫目がちな目を伏せてうーんとちょっと考えてからこう言った。
「だって若様だもの。一緒に入ってお世話するのは当たり前だから恥ずかしいっていうのはそんなにないかな。
でも、やっぱりちょっとね。」
そう言ってちょっと。と親指と人差し指をくっつけながら笑いかけてくる。
若葉さんは普段はシャープな感じがするからそうやってふにゃっと笑うと、
とても魅力的な可愛い顔になる。

「そっか!やっぱり若葉さんも恥ずかしいんだね!」

「それに若様最近・・・あれ?」

「そうかあ。よかった。僕いっつも若葉さんとかに迷惑掛けてばっかりで、
ここに来てから僕の考え方は変なのかもしれない、
変なのかもしれない。ってずっと・・って若葉さん?」

ふと気が付くと若葉さんの視線が僕の下腹部に張り付いていた。
喜びのあまり若葉さんに向き直ったのを忘れていた。
若葉さんも僕にお湯をかけながら話していたから泡で隠されてもいない。
「うわっ!」
あわてて前を押さえて後ろを向く。
190uni ◆/pDb2FqpBw :2007/10/31(水) 19:21:13 ID:o/h9gFxV

「・・・若様・・・・」

恥ずかしさで顔が真っ赤になる。
勿論お風呂に入っているのだから今までだって何度も見られているのだけれど
こんなにまじまじと見られることは無かったし見せないようにしていた。

「・・・若様、毛が・・・」
恥ずかしい。
でもまあ毛が生えた位、恥ずかしがる事はないのかもしれない。
生えたといっても良くみなければ判らないくらいだし、
大体13、今年は14にもなるのに生えてなかった方が異常なのだし。
当たり前の話だ。
そう思うと少し気が楽になった。
それに今、僕の胸の中には若葉さんと分かり合えた喜びがあった。
きっと若葉さんはこんな事を告白する僕の事を笑いながらからかうに違いない。
もしかしたら、ちょっと真面目にこういう事の話をしたり
それこそこれからはお風呂は自分1人で、って話になるかもしれない。

「あ、あはは、う、うん。実は若葉さん、遅かったけど僕生えたんですよ。毛。
ちょっとだけだけ」


その瞬間。
若葉さんは僕に最後まで言わせずすたっと立ち上がった。
191uni ◆/pDb2FqpBw :2007/10/31(水) 19:22:10 ID:o/h9gFxV
「若様、少々お待ち下さい。」
口調まで変わっている。
立ち上がったその勢いで若葉さんはびしょ濡れのまま風呂場を飛び出すと
文乃さんと百合さんの名前を呼びながら風呂場を出て行った。

「あれ、若葉さん?若葉さん?」

1人で取り残される。

嫌な予感がする。
ここの仕来りとか慣習とかいうのには慣れていたはずなのに。
いつもそうだ。
忘れちゃ駄目だった。
なんでもないことなのかなって思って口に出した瞬間にこうなるのだ。
判り合えたと思った瞬間に。

192uni ◆/pDb2FqpBw :2007/10/31(水) 19:22:49 ID:o/h9gFxV

風呂場に近づいてくる足音が聞こえる。
かなりの大人数のようだ。
「赤飯を早く用意しなさい!!今日は全て作り直し!」
台所担当の昔からいるという大柄な下女中のおばさんの
気合の入った声が窓の向こうからかすかに聞こえてくる。
何処か遠く、屋敷の門の方向から何台もの車が
猛スピードで出発しているような音が聞こえる。

予想以上だ。
大騒ぎだ。

何か良く判らないけれど、何かが起こっている。
ちょっとでも期待をする度にいつもそうだ。
とりあえずほんのちょっと先の未来だけは僕にも判ったから湯船に飛び込んでおく。

その瞬間、風呂場のドアが音を立てて開いた。
百合さんと文乃さんがもつれ合いながら風呂場に入ってくる。
その後ろには濡れネズミの若葉さんと叔父さん付きの上女中さんの姿もある。

193uni ◆/pDb2FqpBw :2007/10/31(水) 19:23:48 ID:o/h9gFxV

百合さんと文乃さん、若葉さんは何かを言いたそうにこちらを見ている。
しばし、時間が止まる。

又きっと何かがあるのだろう。
話に聞くのも怖い。絶対碌な事じゃない。

でもまず言う事がある。
何が来るにしてもまずはこの要求を呑んで貰ってからだ。
顎までお湯に浸かりながら、僕は3人に向かって叫んだ。

「いいからパンツ持ってきてください!!
パンツ渡してここから出て行ってくれるまで、絶対上がらないからね!」



194uni ◆/pDb2FqpBw :2007/10/31(水) 19:25:33 ID:o/h9gFxV

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始めまして。宜しくお願い致します。
195名無しさん@ピンキー:2007/10/31(水) 19:37:57 ID:crRBrpk6
ごめん、登場人物が日本人のって萌えないんだー。
196名無しさん@ピンキー:2007/10/31(水) 19:45:50 ID:Z0FIFuWQ
うにさんだ…マジでようこそ。続き期待してます。
197名無しさん@ピンキー:2007/10/31(水) 19:47:13 ID:0LkXwYIN
続きを希望。
198名無しさん@ピンキー:2007/10/31(水) 20:18:54 ID:HVcxoFpY
>>194
個人的にはGJ
これからどうしていくのかが楽しみ
199名無しさん@ピンキー:2007/10/31(水) 21:53:26 ID:12Y0eAM0
主人公の語り口が軽妙でいい、GJ
200名無しさん@ピンキー:2007/10/31(水) 23:19:00 ID:O4N6kLUW
男主人が年下で女従者が年上というのが好きです。
続きおながいします。
201名無しさん@ピンキー:2007/11/01(木) 01:17:49 ID:9DidVAR3
毛一本で4Pは精子が足らんと思うのだがどうよ
202名無しさん@ピンキー:2007/11/01(木) 02:28:39 ID:vKh7aJjx
>>201そこはそれ、アレだ。
きっと超絶倫。

続きwktk
203名無しさん@ピンキー:2007/11/01(木) 07:38:47 ID:2eSGafAe
ここでもうにさんの見れるとは。
いやー、期待してます。
204名無しさん@ピンキー:2007/11/02(金) 08:34:45 ID:jCGhjFpd
>>193
GJ。こういうノリは大好きなんだぜ!
続きwktk
205名無しさん@ピンキー:2007/11/02(金) 13:06:29 ID:bidJMPLq
ところでuni氏は元々どこの住人なんだ?
206uni ◆/pDb2FqpBw :2007/11/02(金) 18:10:49 ID:Wm4HsP5k
<M'aider M'aider 2話>
<Freesia争奪戦 前編>

@@

「そこで若様は立ち上がって私に言った訳。
若葉、もっとこっちの方を洗ってくれ。って」
若葉が身振り手振りを交えながら得意げに胸を張って喋っている。

「はい、そこで嘘。秀様は若葉なんて呼ばないでしょ。」
私がそう言うと頬を膨らませる。

「呼びました。呼んだもの。でね、でね、若様は私に体を洗わせながらこう言ったの。
若葉、そんな洗い方じゃあ駄目だな!って。
だから私は申し訳ございません、
若様の体をスポンジで洗うなんて若葉が考え違いを致しておりました。
ってお答えした訳。
そして私が手と唇で洗って差し上げようとしたその時、その時に気が付いたの。
・・・若様のに毛が生えてるっていう事に!」

「若葉、本当ドMだよね。妄想が。」
と、ばりばりと煎餅を齧りながら前に座っている百合さんが口を挟む。
妄想もそうだけれど若葉は見た目のシャープな印象に比べて
本性は夢見がちな少女という所が問題だと思う。
隠してるけど人形とか好きだし。
207uni ◆/pDb2FqpBw :2007/11/02(金) 18:12:00 ID:Wm4HsP5k

「ドエムって何よ?大体妄想じゃないし。」

「判らないならいいけど。大体ね、妄想じゃないって
秀様が若葉が言ってるようなそんな事言う訳無いじゃない
どうせ偶然確認することができたってだけなんだから
夜中にするような妄想はいい加減にしなさい。」
むう、と若葉が黙る。

「大体若葉、そういう妄想絶対に秀様に見せちゃ駄目よ。」
ぴしゃりと言い放つ。さすが百合さんだ。締める所は締める。

今は週に一度の秀様付き上女中の会議時間だ。
週に一度、3人で集まって秀様に関してお互いの情報を共有し、
今後の予定を話し合う場として使われている。

まあお菓子があったり、若葉が暴走したり、
雑談が混ざったりするのはご愛嬌。
別名休憩時間とも言われる所以だ。
まあ、女の子が3人で集まっているのだからこんなものなのである。
208uni ◆/pDb2FqpBw :2007/11/02(金) 18:13:06 ID:Wm4HsP5k

百合さんがんん。と咳払いをする。
「さ、雑談はこのくらいにしてそろそろ会議にしましょうか。」
さあ、これからだ。
いつもに比べて多少硬い声で百合さんが会議の開始を宣言する。

さあきた。
私の予測が外れていないなら。
今回の議題は、恐らく私達3人にとって非常に重要なものとなるはずだった。
209uni ◆/pDb2FqpBw :2007/11/02(金) 18:19:38 ID:Wm4HsP5k

@@

私だけではない。
若葉があんなに秀様のを見た見たと力説しているのも
彼女なりの作戦のうちだ。
若葉も本日の議題が何であるかを気が付いているのだ。

「性教育・・・だよね」
沈黙に耐え切れず口火を切った若葉の声に
うん。と百合さんは首を縦に振って背筋を伸ばしながら私達に言った。

「そう。若葉の言う通り、この前の女中会議にて正式に決定しました。」
ここで一度区切る。

私達の顔を一度見回してから、百合さんは続けた。
「秀様、いえ若様に対して私達は今後・・・性教育を行って参ります。」

ここまでは想定通りだった。
仕来りに基づいて大人と認められた未来のご当主様、つまり秀様には
今後上女中によって性教育が行われる。
当然教育なので専門の担当者が付くという事を意味する。
今日はその話だ。

ここからが勝負。
それは3人とも判っていた。そう、百合さんも含めて。
騒いでいた若葉もいつの間にか鋭い目で百合さんを見ている。

210uni ◆/pDb2FqpBw :2007/11/02(金) 18:21:16 ID:Wm4HsP5k

性教育担当は百合さんの担当している教育担当や
私の担当している生活担当等の恒久的な担当とは意味合いが異なる。
云わば暫定的な担当なのだ。
つまり他の担当者が兼務する形となり、
どの上女中にも担当になる権利はあるという事だ。

「で・・担当者なのですが・・・
女中会議では秀様付きの上女中から候補者を出すように、との結論に達しました。」

一瞬だけ若葉と目を交わす。第一段階はクリアだ。
そこが駄目だと話にならないからだ。
性教育担当になれるかどうか、のである。
性教育担当は暫定対応であるが故にご当主様付きのベテランの上女中の中から
外見の優れたものが担当として選ばれる例も多いと聞く。
そうなってしまった場合、ご当主様の上女中には頭の上がらない私達の出番は完全になくなると見ていい。
最悪のパターンだ。

つまりここまでのこの結果は百合さんが女中会議にて勝ち取ってきたという事でもある。
恐らく秀様の特殊なご事情を説明し、
秀様付きの上女中から出すべきだと強弁したのだろう。
ご当主様付きの上女中にとって次代のご当主様の性教育担当となることは名誉だ。
会議が相当難航したであろう事は想像に難くない。

私だったら勝ち取れたかどうか。
そう考えると百合さんが勝ち取ってきたこの結果には頭が下がる。
211uni ◆/pDb2FqpBw :2007/11/02(金) 18:22:30 ID:Wm4HsP5k

しかし頭を下げてばかりはいられなかった。
ここから、今日の会議は私達3人の戦いとなる。

まずはここまでの情報を先に知っており、
この会議の議長でもある百合さんがどういう手段を考えてきて、どう出てくるかだ。
そしてそれを私達がどう切り崩すか。
私と若葉は固唾を呑んで百合さんの動向を見守るしかない。
ここを崩すまでは若葉との共闘となる。

淡々と百合さんは会議を続けようとしている。いつも通り、冷静に見える。
が、震える手に百合さんの動揺は現れていた。
百合さんもここが勝負どころである事は心得ているのであろう。
勝負をかけてくるつもりなのだ。それも今すぐに。

212uni ◆/pDb2FqpBw :2007/11/02(金) 18:24:05 ID:Wm4HsP5k

百合さんは大きく息を吸う。
そして早口で一気に捲くし立ててきた。

「で、担当者ですが教育担当である私が適任だと考えていますので
そのように次回の女中会議にて提案を行う予定です
では今週の会議を終了します各自仕事に戻って下さいはい終了。」
一息で言うと椅子から立ち上がりはい解散とパンパンと手を叩く。

そうきたか。
ふ、と鼻で笑う。
職権を利用して担当者の選定は既に決定事項として会議の場にて発表する。
社会でも中間管理職という職責にある人間がよく使うテクニックの一つだと
ビジネス書で読んだことがある。
これに対する手は・・・
文句を言おうと口を開こうとした瞬間、若葉ががたんと立ち上がる。

「百合さんそれずるいっ!!」

先手は取られたが私も立ち上がる。
「百合さん、私も異議があります。候補者の選定には万全を期すべきです。」
213uni ◆/pDb2FqpBw :2007/11/02(金) 18:25:22 ID:Wm4HsP5k

そう、異議を唱えるべきなのだ。
このような時に必要なのはベストの対案を出す事ではない。
スピードのある異議だ。
兵法にも拙速は巧遅に勝るとある。
決定には早い事のみを主張し、まずは敵の作り上げようとしている防壁を破るのだ。

「却下しますもう会議は終わりましたはい仕事、ぼやぼやしない!」

「ずるいです。」
「候補者の選定には万全を期すべきです。」

会議を終わらせようとする百合さんに対し私達は動かない。
絶対に動かないぞという意思を視線に込めて百合さんを見つめる。
それを見てごり押しは無理だと悟ったのであろう。百合さんの肩が落ちる。
「・・・私が教育担当ですので適任だと思います。それに一番年上です。
ご当主様の時もご当主様付きの上女中から選ばれましたが
一番年長の上女中が担当しました。」

それに対して若葉が被せてきた。
「若様が男になられたのを発見したのはさっき話した通り私な訳でしょう?
だとしたら適任者は自ずから決まってくるんじゃないかな。
それに年齢に関しては寧ろ一番若様と近い私の方が適任といえると思うし。
だってこういう事は近い年齢の方が若様も話し易い筈だよ。絶対。」

「いえ、こういう事は経験です。
特に性教育担当は若様の心の奥底に触れるとてもデリケートなお仕事であり、
そして臨機応変さが求められる仕事でもあります。
そうするとこの前の夏で20歳となった年長の私が最も適任です。
あと倫理的にも。」
214uni ◆/pDb2FqpBw :2007/11/02(金) 18:27:29 ID:Wm4HsP5k

「臨機応変。百合さん臨機応変って言ったよね。
だとすると文乃さんには難しい仕事って事になるのかなぁ。」
百合さんの言葉を受けて若葉がにやりと笑う。
シャープな顔立ちが歪む。
防壁は既に突破した。
早速若葉が敵に回ったという事だ。
しかしこんなことは織り込み済み。
まずは私を候補者から外して百合さんと一騎打ちとの腹積もりなのだろう。

それに対して・・・
私は目を閉じ、口を閉じる事で応じた。
はっきり言って理屈で攻められたら私は負ける。
特に秀様に年が近い訳でもなく、百合さんよりは年下。
そうは言っても今年で19歳なのだから17の若葉、
20の百合さんとはそう変わらない訳だけれど、数字は残酷でもある。
厳密に攻められたら中途半端な年齢であると、そう言わざるを得ない。

それに私にとって致命的なのは今若葉が指摘してきたその部分にあった。

言い訳の出来ない欠点だ。
私にはパニックに陥りやすい。
準備をし、ある事を予定通りに遺漏なく行う事に掛けては私は自信がある。
ミスをせず、想定できる範囲の事に関しては全て想定して事に臨む。
しかしそこから事態がずれるような事があった場合に
一瞬にして頭が真っ白になってしまうのだ。
そうなると涙が出てきて、何か訳の判らない事を口走り、
挙句の果てにその場を走り去ってしまう。
そして恐怖に駆られて走った事でさらにパニックが襲ってくる。
子供の頃からそういう事があって、未だにどうしようもなかった。
無論一度そうなってしまった事に対しては今後想定を行って事に望むから
同じ事が2度繰り返される事は無い。

しかし常に秀様の傍にいて、何かあった時にこそ資質を問われる上女中としては
致命的な欠陥と言わざるを得なかった。

だから私は外に出たり、お客様が訪問されるという様な
何らかの想定外の事態が起こりうる仕事は
出来るだけ百合さんや若葉に任せるようにしていた。
生活担当というミスが許されず、その代り起伏の少ない仕事を担当しているのは
そういう事情に起因する。
215uni ◆/pDb2FqpBw :2007/11/02(金) 18:28:29 ID:Wm4HsP5k

だが今回ばかりは絶対に譲るつもりは無かった。
今回の仕事に臨機応変さが必要なのは判っている。
しかし譲るつもりはない。
もしご担当できる事になったら全ての想定しうる事態を想定し、
絶対にパニックにならない準備をする。
解決策があるのであればそれがどんなに困難でもクリアしてみせる。
クリアすればそれは欠点では無い。

絶対に勝たなくてはいけない。一歩も引くつもりは無い。
だからこそ。
だからこそ今は口を開かないのが得策なのだ。
ここは話し合いを泥沼に持ち込むべきだ。
私にとっての勝負はそこからだ。

私が黙り込んだのを見て2人は私が脱落し、一騎打ちになったと判断したようだった。
2人でどちらが相応しいかを延々と言い合っている。

水を口に含む。
5分程は待つ必要があった。
場が泥沼になって、前にも後ろにも動かなくなった時に私が橋を掛けてあげるのだ。

216uni ◆/pDb2FqpBw :2007/11/02(金) 18:30:18 ID:Wm4HsP5k

10分ほど待つ。
場が白熱し、ネタが出尽くして百合さんと若葉は睨み合っている。
ここだ。

一度落ち着いたそのタイミングのを見計らって、おもむろに私は切り出した。
「精通に導いて差し上げる。というのはどうでしょう?」

「・・・は?」
「・・・は?」
2人の動きがぴたりと止まる。
視線が私に集まる。

「んん。」
咳払いをする。勝負だ。

「失礼ながら生活担当として秀様をご担当させて頂いている関係上、
どうやら秀様はご精通されていないように見受けられます。
初心な秀様を一番最初に精通に導いて差し上げられた人をその後の性教育担当とするのです。
もちろん無理やりなんてのは駄目ですよ。
秀様が怯えられないように、自然に優しく、判りやすくお教え差し上げるのです。」

「ちょっと待ちなさい文乃。性教育担当とはそういう事をするのではなくて」

「百合さん、判っています。
無論、そもそも性教育担当とはそういう意味ではありません。
世の中の仕組みを学ばれる若様の大事な時期に男女の事柄を知って頂く事、
そして正しい知識を知って頂くことにより
それに惑わされない心の強さを持って頂く事がその本質。」
百合さんの抗議を途中で遮る。

217uni ◆/pDb2FqpBw :2007/11/02(金) 18:31:48 ID:Wm4HsP5k

「しかし、本質と実態は又異なる事を百合さんは知っているでしょう?若葉も。」
ぐっと2人が詰まる。
それはそうだ。寧ろそれが目的である。

「外見の優れたものが選考対象としての最低条件という意味がどういう事であるかという事を。
確かに必要なのはは正しい知識を身につけていただく事。
それを私達の言葉にて身に付けていただく事が理想です。
けれどそれはあくまで机上の論理。
デリケートな問題を話し合う時に言葉だけでは伝わらない事もあります。
ましてや若様は14になられるお年。
時に衝動が理性を上回っても何もおかしくはありません。
いえ、寧ろ正常であるのだといえるかもしれません。
現に性教育担当者は若様のは、は、は、・・・」
落ち着け私。自分の言葉にパニックになるな。
今日のこの勝負の為に何度も練習してきた言葉だ。
胸を押さえる。

「は、初めての相手にお選び頂く事も多いと聞きます。」
ここで2人に視線を送る。
百合さんがついと目を逸らす。
若葉が素早く鼻を押さえる。鼻血だろう。

218uni ◆/pDb2FqpBw :2007/11/02(金) 18:33:54 ID:Wm4HsP5k

「勿論、そのような事にならないようにする事が重要です。
もしそのようになったらきちんと私達でなく未来の伴侶となる方が決まるまで
そのような事は我慢して頂くよう教育するのが私達の務め。
しかし、万が一、万が一という事もあります。
お仕えしているうちに若様の気分が高まるような事がもし万が一あった場合。
若様が『私達の』名前を呼びながら切ない声でお求めになられたら。
どこまで私達が拒みきれるでしょうか・・・。
いえ、拒まなくてはいけません。しかし・・・」

百合さんがハンカチを取り出して目頭を拭く。感極まっているようだ。
若葉は鼻に当てたティッシュを真っ赤に染めながら悶えている。

「・・・因みにご当主様の性教育担当を務められた女中頭の沙織さんの話を
2人とも知っているでしょう。」

上女中なら全員知っている。
毎年の上女中同士の忘年会で酔いが回ってきたタイミングで
「このような事になったのは私の未熟さ故です。
今考えるに私はいかに未熟だったか。お断りしなかった私は上女中失格です。
私の教え方がいけなかったからあのような事に。悔やんでも悔やみきれません。
でも、でもあの時ご当主様は逞しく私を布団の中に横たえると・・・もう我慢できないっ!などと仰って・・・はぁ・・・
皆さんは絶対にこのような過ちの轍を踏まないように
私の話を聞いてよくよく参考にしなくてはいけませんよ。
でも、でもあの時のご当主様・・・」
と頬を染めて身悶えながら数時間にわたって思い出話をする女中頭の姿を。

因みに女中頭の沙織さんはご当主様より年上なのでもう50に手が届く筈だけれど外見上、
未だに30代前半にしか見えずしかも非常に美人である。
その仕事に対する厳しい姿勢を含めて若い女中の間では
影で妖怪と呼ばれて尊敬されている。
普段は本当に本当に鬼のように怖い。
219uni ◆/pDb2FqpBw :2007/11/02(金) 18:35:47 ID:Wm4HsP5k

「女中頭はああやって毎年毎年暮れの忘年会の度に
私達若手の上女中を前に大変深く深く反省しておられます。
しかし、あの女中頭でさえ、過ちを犯してしまう。
因みに、女中頭は18の折、15歳のご当主様の性教育担当となり、
お手が付いてから5年間に渡って毎夜ご当主様のお部屋にて教育を行われたとの話があります。」

出血多量でリタイアするかもしれない。
と横目で鼻血を振りまきながらのた打ち回る若葉を見て話を続ける。

「んん。しかし、しかし私は逆に毒が薬になる。
という言葉もあるのではないかと思うのです。
今のご立派なご当主様がおられるのも、その時に過ちを知ったからこそ。
それが良いご経験となったのかもしれない。と。
そういうことも踏まえ、万が一の万が一、もしその時を考えて、
そういった面においても上手く行えるものが
最も担当者に推薦されるに相応しいと考えます。」

「だからまず、若様を自然に精通へと導いたものをその候補者にすると、
文乃はそう言いたいのね。」

「そうです。」

「自然にって・・・」

「自然には自然にです。あからさまに誘惑をするようなそのような事は上女中として許される訳がありません。
秀様に自分の体に自ずから疑問を持って頂き、それが何かを教えてあげる。
そういった流れで導いてさし上げる事。これが条件です。」

2人が黙り込む。
多分、今必死に2人はこの提案が自分にとって有利かどうかを考えている。
しかし結局は首を縦に振るであろう。
2人の性格、行動パターンを考えた末での作戦だった。
220uni ◆/pDb2FqpBw :2007/11/02(金) 18:40:35 ID:Wm4HsP5k

恐らく2人は長期戦を想定しているだろう。
若葉も百合も目算はあるはず。
どうせ若葉は夜の休憩時間、百合さんは勉強時間を当てて
一ヶ月ほど掛けてじっくりとでも今考えているのであろう。
そしてそれぞれ自分には勝機があると考えているはず。

そこが狙い目だった。
私は逆だ。短期決戦。
つまり、今日中に勝負を決める。
2人が唖然としている間に勝利を引き寄せる。
そこに私の作戦があった。

お風呂当番である。
一緒にお風呂に入るというのはこの提案の解決には正にぴったりなのだと言う事を私は気が付いていた。
お風呂でお仕えする事は生活担当としてのごく当たり前の仕事だから
まだ2人は気が付いていない。

しかも、今週のお風呂当番は幸運にも私だ。
今週が若葉の担当なのであればこんな提案はできなかった。
百合さんも、そしていくら若葉でも冷静になって考え直せば直ぐに気が付く。
この勝負は短期決戦で決着を付けなくてはいけない勝負だったと。
しかし今それに気が付いているのは私だけ。
そして、勝負が始まってしまえば断然私が有利なのだ。
221uni ◆/pDb2FqpBw :2007/11/02(金) 18:42:23 ID:Wm4HsP5k

んん。
私の顔と若葉の顔を見ながら百合さんが咳払いをする。
もう提案を受け入れた顔だ。
しかし百合さんの事、最後に一回悪あがきをするはず。

「ん。んん。確かに文乃の言う通り、万が一のもし万が一を考えて担当者を決める。
というのは正しい考え方であると思います。
しかしですね。文乃の言うとおりそれほどに難しい仕事であればやはり年長の私が。」

そうくると思っていた。
賭けではあるが、最後の切り札を出す。

「さっきから年長、年長って言ってますけど百合さん処女ですよね。」
瞬間、百合さんの顔が真っ赤に染まる。
やはり図星か。

「な、な・・・」
目を丸く見開いている。よほどびっくりしたのであろう。
222uni ◆/pDb2FqpBw :2007/11/02(金) 18:44:59 ID:Wm4HsP5k

「うそ。本当なの?絶対百合さん違うと思ってた。
 だって休みになると百合さんどっかいくじゃない。デートじゃないの!?」
百合さんの真っ赤になった顔を見て若葉も絶句する。

上女中だから恋愛をしてはいけないという訳ではない。
大体上女中とはそんな厳密なものではないのだ。
求められるのは忠誠心、それだけだ。
寧ろ恋愛感情を持つ事は禁忌と言って良い。
もし恋人を持つ事が上女中の仕事に支障を来たすのなら
下女中に配置換えをして貰えば良いだけだし現にそういう例もある。

だからこそ厄介だった。
私達3人は違った。
昔からいた若様じゃなかったから、
私達に頼らなくてはいけなかった若様だから。
始めて若様を見た時の百合さんの顔を覚えている。
そして最初は戸惑っていたけれど、すぐに優しい若様に夢中になった若葉の事を。

恋をしているのだと、思う。
百合さんも若葉もそして、私もだ。
だから譲れない。
3人とも譲る気は無いはず。

私だって絶対に譲らない。
私が不利だからと言っていつものように譲る気はない。
どんな策を弄してでもだ。ひっくり返す。
223uni ◆/pDb2FqpBw :2007/11/02(金) 18:46:50 ID:Wm4HsP5k

「あれは競馬か打ちっぱなしの練習です。ですよね。百合さん。」
「な・・・なんで知ってるのよ。文乃。そんな事・・・」
わなわなと百合さんが震える。

「ご想像にお任せします。
百合さん、ご当主様の上女中から選ばれる例が多いと言うのは
年長であるが故に経験済みであるからだと聞きます。
百合さんが処女なら私達は状況としては横一線と言っても良いのではないですか?」

百合さんは声も出ない。

「若葉も。あなたは若様に対して友達扱いのような振る舞いが目立ちます。
教育をするという担当において今の時点で本当に自分が相応しいと言いきれるの?」

若葉も黙る。

「じゃあ、そういう事で良いですね。初心な若様に精通とは何かを伝え、
導く事ができたものを担当者として推薦してもらいます。」
百合さんと若葉がこくり。と頷く。

駄目を押しておく。
「い い で す ね。」

「う、うん。」
「はい。」

「では今日の会議は終了と致します。」
会議の終了は、私が宣言する。
舞台は、整ったのだ。


/後編へ続く

224uni ◆/pDb2FqpBw :2007/11/02(金) 18:53:49 ID:Wm4HsP5k
ーーーーー
ご感想ありがとうございました。
嬉しいです。

次回は後編で。
このペースで書くと死にそうになるので一週間くらいで出来れば。

>>205さん
最初は気の強いとか幼馴染とか
ハリーポタとかでした。
ただ基本的に流れ者です。

ノシ
225名無しさん@ピンキー:2007/11/02(金) 19:05:05 ID:bidJMPLq
>>224
リアルタイムGJ!性教育争奪戦とはまた斬新な修羅場ですな
全裸で正座しながら保管庫でも読みあさって待ってる
226名無しさん@ピンキー:2007/11/02(金) 20:48:28 ID:rANOnZAV
性教育争奪戦されてみたいっす!!GJでした!!
227名無しさん@ピンキー:2007/11/02(金) 22:51:55 ID:JMn6WJ1w
想定外の事態が発生!
若様は今朝自慰を覚え、既に精通していた。
どうする文乃!
…だったらまた泥沼化。uni氏GJ!沙織さんの話も読みたいぜ!
228名無しさん@ピンキー:2007/11/03(土) 11:47:14 ID:ZxQOrvzF
このテンションの絶妙さが素晴らしいw
一気に三人のキャラが理解できた。
229名無しさん@ピンキー:2007/11/04(日) 20:10:27 ID:/LItWSM1
文乃に親近感を覚えた。頑張れ文乃
230名無しさん@ピンキー:2007/11/04(日) 20:28:56 ID:bzs1v36H
明治時代の感じが新鮮
続きが楽しみです
231名無しさん@ピンキー:2007/11/05(月) 14:45:14 ID:xuYZFEND
時代背景は現代だと思ってますた。スマソ
232名無しさん@ピンキー:2007/11/05(月) 15:41:44 ID:445gr1xG
一言も明治なんて書いてないが…
233名無しさん@ピンキー:2007/11/05(月) 18:05:04 ID:M0sEQvvy
勘違いだったか…スマソ
234uni ◆/pDb2FqpBw :2007/11/05(月) 20:05:08 ID:5cEsyYdC
<第2話 Freesia争奪戦 中編>

@@1

何か変だ。
屋敷を何か緊張が取り巻いている。
何か空気に薄い皮膜でも張り合わせたかのような、
一つ一つの動作に何か制限でも掛かっているような、
空気中を泳いでいるようなそんな緊張感がある。

普通の人なら判らないかもしれない。
しかしこちとら捨て子の貰われっ子。なめてもらっちゃあ困る。
空気を読むことに掛けては万人に引けを取らない自信がある。
その僕が感じるのだ。
屋敷に充満する震えるような緊張感を。
235uni ◆/pDb2FqpBw :2007/11/05(月) 20:05:47 ID:5cEsyYdC

確かに一見するといつもと変わらない。
若葉さんも、百合さんも文乃さんもいつも通りだ。
下女中の皆さんも朗らかでいつも通りだ。
何ら変わらない。
しかし何故だか強い空気を感じる。
何か、屋敷内の空気そのものに意思でもあるような・・・

まあ、気のせいなんだろうけれど。
もしかしたら女中さん同士で何かイベントがあったり、
こっそりと隠れて何か遊びのような事
(例えば、何かのスポーツの結果で休みの日の演劇のチケットの争奪戦をしていたりとか)をしたりしていて、
その空気がそんな風に僕に感じさせているだけなのかもしれない。
236uni ◆/pDb2FqpBw :2007/11/05(月) 20:06:26 ID:5cEsyYdC
@@2

「今日のお食事はどうでした?」
文乃さんがニコニコしながら聞いてくる。
お風呂前の一時の休憩時間である。
僕の部屋で文乃さんは僕の前に座っていて、手にはトランプを持っている。
小脇にはお風呂セットが置いてある。
文乃さんは生活担当と言う事で毎日の献立なんかを考えてくれたりしている上女中さんで
今年19歳の優しいお姉さん、という感じの人だ。
口調も丁寧なんだけれどとても優しく問いかけてくれるから
一緒にいるとなんだかとても落ち着く。
ここに来たばかりの頃は仕来りを知らなくて迷惑を掛けてしまった時など
百合さんに怒られては文乃さんに慰めてもらっていた。
今ではこの2人が怒り役と慰め役で僕に色々な事を教えてくれていたんだという事位、判っているけれど。
因みにその頃、若葉さんは何故だか僕と一緒になって怒られたり慰められたりしていた。
237uni ◆/pDb2FqpBw :2007/11/05(月) 20:06:57 ID:5cEsyYdC

文乃さんは落ち着いた口調と同様、外見も全体的に柔らかい感じがする。
シャープな印象の若葉さんや百合さんとは違う。
地毛だそうだけれどちょっと明るめの髪は緩やかなウェーブが掛かっていて
私服を着ているときはなんだかどこかのお姫様のように見えたりもする。

街にでればきっと凄くモテるんだろうなあと思うのだけれど、
文乃さんは人込みは苦手との事で休みの日もいつも屋敷の中にいるし、
僕が外出する時も若葉か百合さんが同行する事はあっても文乃さんが同行する事は無い。なんだかちょっともったいない気もする。

そんな文乃さんの質問で、
そういえば今日の夕食はなんだか物凄く豪華だった事を思い出す。

238uni ◆/pDb2FqpBw :2007/11/05(月) 20:07:37 ID:5cEsyYdC

「ええと、今日は凄かったね。鰻と、白子とニンニクの丸揚げ。あとヤマイモのとろろ。あと不思議な味がしていたけどあのスープみたいなのは何だったの?」

「南米はペルーという国のマカという所で採れる、
日本で言えば蕪のような植物を使用したスープです。
ちょっと苦味がありましたからミルクを入れて味を調えさせました。」

「あれも凄く美味しかったよ!」
凄くまろやかだけど、なんだかとても元気になりそうな味だった。

「そう、それは何よりです。
秀様に喜んで貰えると私も遠くから取り寄せておいた甲斐があります。」
そんなに珍しいものを態々取り寄せておいてくれたらしい。
あ、とその言葉で思い出す

「そういえば珍しく叔父さんとは全然違う献立だったね。」
叔父さんの献立は叔父さん付きの上女中さんが考えるのだけれど、
一緒に食事をする日は大体同じ内容になるように
文乃さんと叔父さん付きの上女中さんで打ち合わせておくのだと聞いたことがある。
今日は叔父さんの食事と僕の食事が全然違っていたので
叔父さんが「おいおい、秀のは豪華だなあ」等と目を丸くしていた事を思い出す。
そんなに珍しいものなら叔父さんの食卓に上ってもおかしくないけれど
あのスープは僕の方にしかなかった。
239uni ◆/pDb2FqpBw :2007/11/05(月) 20:08:33 ID:5cEsyYdC

「ご当主様に同じものを食べさせたら今日のお夜伽の女中が次の日仕事にならないから
出せませんと向こうの上女中が・・・んん!ん!ん。
食べ盛り、育ち盛りの秀様とご当主様では食事の中身も
多少変えてお出ししないといけないのです。そういう配慮です。」

「そうなんだ・・・。所で今言ってたオヨトギって何?」
聴きなれない言葉が出てきたので聞き返す。
オヨトギの女中だから何かの場所だろうか。
それとも役目だろうか。
なんかの植物っぽい単語だけれど。

「・・・そんな事私、言いましたか?」
ついと文乃さんが目を逸らす。

「・・・今、言ったけど・・・」

「聞き間違いですよきっと。はい。上〜がり。」
と最後のカードを場におかれる。
240uni ◆/pDb2FqpBw :2007/11/05(月) 20:09:05 ID:5cEsyYdC

「あっ!ああああああ・・・」
話に夢中になっている間にいつの間にかゲームは文乃さんが上がっていた。

「私の勝ちです。そうですねー。今日の罰ゲームは何に致しましょうか・・・。」
「お手柔らかに・・・」
文乃さんはふふん。と笑う。
僕と文乃さんは大抵お風呂に入る前にカードゲームをやる事になっている。
負けた方が罰ゲームだ。
大抵文乃さんの罰ゲームは次の日の夕食に僕の好きなものを入れる事になって、
僕の罰ゲームは体に良い、でも僕の好きじゃない食べ物が
次の日の夕食に入る事になっていた。

241uni ◆/pDb2FqpBw :2007/11/05(月) 20:09:45 ID:5cEsyYdC
「あーあ。」
明日は菜っ葉のお浸しにでもされるのかなあ。と考えつつ文乃さんの顔を見る。

けれど文乃さんはいつもの様に柔らかく笑いながらいつもじゃない事を言った。
「うーんと。いつもいつも明日の夕食の内容じゃ、飽きちゃいますよね。
 今日の罰ゲームはいつもとは違うものにしましょうか。
 お風呂場で出来る罰ゲームなんてどうでしょう。」
そう言いながら僕の頭を柔らかく撫でて。
さ、お風呂に入りましょう。と言いながら
文乃さんは傍らのお風呂セットを持って立ち上がった。

なんだか文乃さんがいつもとちょっと違う雰囲気だなあと思いながら、僕も立ち上がる。
いつも前を歩く文乃さんが僕の横に来て、行きましょうと言う。
文乃さんは年上だけれど背は僕より小さいんだなあと。
僕は、今まで思った事の無い事を思う。
242uni ◆/pDb2FqpBw :2007/11/05(月) 20:10:23 ID:5cEsyYdC



@@3

「百合さんさぁ。」
「ん、何?」
湯船の中から声を掛けると百合さんはこちらを見ずに声を返してきた。
相馬家のお風呂はご当主様、若様用と上女中用、
そして他の使用人用と3つに分かれている。
私達は上女中用のお風呂に入るわけだけれど使用人用とは言ってもそこそこ広い。
5人位は余裕で入れるので休憩に同時に入ったような日は
文乃や百合さんと一緒に入る事もある。

百合さんはカラスの濡羽色とはこういう髪の色を言うのだろうという感じの
長い黒髪を漱いている。
この人は本当に同姓から見ても立ち居振る舞いが綺麗だ。
なんというか、昔風と言うか。
お風呂場での百合さんを見ているとカポーンという音が
どこかからか聞こえてきそうな気がする。

243uni ◆/pDb2FqpBw :2007/11/05(月) 20:11:05 ID:5cEsyYdC

「…え〜っとさ、今日の文乃が言ってた事。本当なの?」
「文乃が言ってた事って?」

「……その、百合さんが処女って事。」
百合さんがぴたりと止まる。

「い、いやだってさ。百合さんだよ百合さん。
沙織さんの再来と呼ばれて次代の女中頭とか言われてる」

「…あの妖怪の再来ぃ?」
「だってさ。」
言いよどむ。すると百合さんはくすくすと笑った。

「…もう。何で私が処女なのが不思議なのよ?」
「だって。百合さん結構どころかかーなーりモテてたでしょう?
高校の時は女子生徒で初めての生徒会長だったし、
今だってお見合いの話がわんさか来てるって話だし。」

「モテるなら文乃の方がモテるわよ。
あの手の一見お嬢様で守りたくなるタイプに男の子は弱いのよ。」
学校じゃ相馬の家のご令嬢じゃないかって噂が絶えなかったのよ文乃。
と言いながら百合さんはくすくすと笑う。
244uni ◆/pDb2FqpBw :2007/11/05(月) 20:11:57 ID:5cEsyYdC

「だって文乃はあれじゃない。
高校の時だって学校終わったら屋敷に即直行でしょ。
恋人なんか居たわけないし。
百合さんはよく門限ギリギリになってたじゃない。
学校時代とかそれ以降とか何も無かったの?デートとか。」

「よく見てるわね。・・・ま、お誘いは多かったけど。」
「え、ええ!?誰かと付き合ったことあるの?」
百合さんは笑う。
「どっちにもびっくりするんじゃない。映画は何回か行ったかな。
誘われて。野球部の人でね。」
エースの人。と百合さんは笑いながら髪の毛を結い上げて、
じゃばんと私の横に身を沈めて来た。

「え、え、それで、それでどうしたの?」

「どうしたのって若葉が期待するような事はなにも。
何回か映画に行って、何回か手紙のやり取りをしてそれだけ。」

「なあんだ。つまんない。キスとかもなし?」
がっかりとしてしまう。

「ないよ。まあ、付き合ってもいいかな。と思うことはあったんだけどね。」
そういって百合さんはぶくぶくとお湯に沈む。
百合さんにしては珍しい、歯切れの悪い受け答えだ。
245uni ◆/pDb2FqpBw :2007/11/05(月) 20:13:00 ID:5cEsyYdC

「好きだったの?」
「嫌いじゃなかった。」

「じゃあなんで?」
「時間が無かった。」
「嘘。」
ここはとても労働環境が良い。
そのうえ若様はとても良い子だ。
そんな時間なんてその気になれば幾らだって作れた筈だ。
と私は百合さんに言う。
と、百合さんは少し驚いた顔をした。

「若様が良い子。だと若葉は思うの?」
「う、良い子って言い方は良くないかもしれないけど。」
「そう、ううん。たしかに良い子。若様は。とても良い子。」
若葉はそう思うのね。と百合さんは続ける。

「何?違うって言うの?」
「違わない。でも私は若様付きの上女中としてずっと心配だったから。今もね。」
「何がよ?」
イライラとして私が聞くと百合さんはこちらを見てちょっと寂しそうに笑った。
「良い子、なんだよね。若様。誰から見ても。」
それから湯船の中で、しゃんと背筋を伸ばして正面を見た。
なんだかいつもの会議の時みたいな格好だ。
246uni ◆/pDb2FqpBw :2007/11/05(月) 20:13:31 ID:5cEsyYdC

「歴代のご当主様はね。とても我侭だったそうよ。子供時代。
今のご当主様もね。もう沙織さんに聞いて驚く位。
我侭と言うより無茶苦茶。
それはそうよね。こういう閉鎖的な場所で育てられるのだもの。
でも私は思うの。その我侭さはきっと必要な我侭さだって。
我侭に我侭に育って貰って。
で、徐々に色々な事を知って頂いて、我侭と我侭じゃ駄目な事を知って頂く。
これが本当の上女中の仕事なの。
何故ならご当主様は、いざと言う時にとても我侭にならなくてはいけないから。
お前は死ね、お前は生きろと選択をする事すらある。
我侭で、他人の事なんか一つも考えないで。
そうじゃないと選択できない事もあるから。」
私が黙ると、百合さんは続けた。
やっぱり寂しそうな顔で。

「ねえ、若葉。お母さんに捨てられて、不良にならない子ってどう思う?
私はね、…おかしいと思う。
あなたが一番、世界中で一番可愛いくて良い子ねって言ってくれる人が自分を捨てて、
平気で居られるわけがないもの。
他人を妬んで、傷つけて当たり前。
若しくは自分の殻に閉じ篭るか。どっちかになって、当たり前。」

「でもそれは」
百合さんの横顔を見て、私は私達がいたからと言う言葉を呑み込んだ。
それ位厳しい顔をしていたから。
247uni ◆/pDb2FqpBw :2007/11/05(月) 20:14:03 ID:5cEsyYdC

「若葉は秀様の事、好きよね。ううん。言わなくたって判る。
言葉だけじゃない。立場とかじゃなくて本当に好きよね。
文乃もそう。文乃も若様に夢中になってる。
あの子の場合、ある意味若葉よりずっとね。
でもね、そうやって私達上女中が若様を好きになるのって正しいのかなって。
私は思うの。
沙織さんが昔、私に笑いながら言った事があるの。
私、昔はご当主様にこのクソガキって300回位思ったのよって。
ね。
私は若様にクソガキだなんて一回も思ってない。
ね。今のご当主様はそうなの。
多分、昔のご当主様も。
ね、私達の顔色を読むような、私達に優しいご当主はご当主じゃない。
そうなんじゃないのかな。
私達に優しいご当主様なんて。
優しくて、私達が好意を持ってしまようなご当主様は
ご当主様としては失格なのかもしれないんじゃない?
私達は何か間違えているのかもしれない。
ね、今回の事も。
私達は本当は上女中の名誉の為に抱かれなきゃいけないんじゃないのかって思う。
ね、若葉と文乃、そうなったとしたら2人とも御手付きにされたって思うのかな。
そうじゃないんじゃない?
好きな人に抱かれたって、そう思うんじゃない?
ね、間違ってるんじゃないかな。それ。
248uni ◆/pDb2FqpBw :2007/11/05(月) 20:14:37 ID:5cEsyYdC


少なくとも女中会議の時、ご当主様の上女中は名誉の為に自分達から候補者を出したいと、そう言い切ったよ。
多分今のご当主様の時もそうだったんだと思う。
でも私達は違った。
若葉も、文乃も本気。それも若様が来てからずっと。
ご当主様の上女中と私達若様付きの上女中の違い。
その違いは正しい違いなのかな。
上女中として正しく出来ているのかな私達は。私はずっとそれが心配。
今更どうにもならないのかもしれないけれど。
若様はね、今までのご当主様とは多分、違うの。
だから今までのやり方じゃあ、私達は駄目なのかもしれない。
ね、思うんだ私。
もしかしたら、もしかしたら私達は本当は相馬家の上女中の中でも始めての、
前例の無いやり方を若様にしていかなくてはいけないのかもしれないんだって。
そう考えたら、私はとても怖い。怖いと思う。
もし、沙織さんの真似をしてもそれが全く駄目なんだとしたら。
どうしたらいいのかなんて、私は判らない。


正面を向いたままそこまで言うと、百合さんは一つため息をついてこっちを向いた。
249uni ◆/pDb2FqpBw :2007/11/05(月) 20:15:10 ID:5cEsyYdC

「で、私は若様をどう思ってるのって顔してるわね。若葉。」
「う、うん。」
百合さんが厳しい顔のままなので思わず緊張したまま頷く。

その瞬間、ふにゃんと百合さんは顔と体勢を崩した。

「抱かれたいに決まってるじゃない。」
「え」
「私ロリコンだもの。ロリコンって言わないのかな女の人の場合は。」
「えええええええええ、今までの話はあ?」
がっくりと脱力する。

「今までの話は上女中としての私。
何で処女なのって若葉言ったでしょ。
若様としたかったからに決まってるじゃない。
野球部の人を見て、帰ってきて若様を見て、もう全然。
私駄目だなって思っちゃった。
もう、若様可愛くて可愛くて仕方ないもの。私。」

「真面目に聞いて、損した・・・。」
百合さんはすでに隣で目を輝かせている。
真面目な顔をしたと思えばこうやって可愛くなる所が百合さんはずるい。
美人なのか可愛いのかはどちらか一方だけにしておくべきだ。
250uni ◆/pDb2FqpBw :2007/11/05(月) 20:15:42 ID:5cEsyYdC

「あーあ。今日の会議、失敗したなあって。
女中会議から持ち帰ったなんて言わないで、
もう最初から私に決まったって言っておけばよかったなぁ。」

「ちょちょっと!百合さん。」
「ちょっとした友情を見せたお陰で、賭けなんてする羽目になってさ。
あ、どうするのよ、若葉。どうせ色々考えてるんでしょ。」

「敵には言いません。百合さんこそあれでしょ。
 勉強教えてる時に胸元とか開ける予定でしょ。」
夜の遊び時間にテレビを一緒に見ながら膝の上に乗ってもらって
あれ、若様大きくなってない?どうしてかなーなんて作戦は言わない事にしておく。

「私も言いません〜。」
百合さんがふんにゃりしながら言う。

「あ、でもさ、今日私文乃があんな事言うなんて思わなかった。」
私が言うと百合さんは湯船の淵に顎を乗せてにやにやと笑った。
「ふふふ。それは若葉、文乃を判ってないなあ。
まあでもそれにしても今日の文乃、気合入ってたよねえ。
なんだかんだ言っても、あの子がある意味一番夢中だからねぇ。若様に。」
文乃はこわいよう、と百合さんは冗談めかした声で言う。
251uni ◆/pDb2FqpBw :2007/11/05(月) 20:16:36 ID:5cEsyYdC

「なんでよ。私だって。」
若様に夢中よと言おうとして百合さんにちっちっちと止められる。

「あの子はね。特殊。性欲とか、恋とかそんなんじゃないから。」
「じゃあなによ。」
「んー。」
暫く考えてから、百合さんは答えた。

「大岡越前かな。」
「おおおかえちぜん?」
「そう。ここに1人の子供がおります。2人の母親が両方、
その子供が自分の子供だと言っていました。って奴」

「あ、知ってる。両方から手を引っ張れって奴でしょ。」
「そ。離した方がより子供を考えているっていうやつね。」
「そうそう、それ。」
それなら知っている。昔何かの本で読んだ。

「文乃はね、離さない方。」

「何それ。じゃあ駄目じゃない。」
そう言うと百合さんはちょっと首を傾げた。
「ふふ。そうなのかな。
でもね、多分文乃はどうしてもね、離せない。
それが愛情だって判っていても、離せない。
そういうタイプ。」
「わかんない。」
ん、判んなくていいよ。と百合さんは言いながら
じゃばじゃばと行儀悪く足でお湯をかき混ぜた。
252uni ◆/pDb2FqpBw :2007/11/05(月) 20:17:48 ID:5cEsyYdC

「文乃はどういう作戦で来るんだろうね。興味あるなあ。
お風呂に入っているボーっとした頭じゃ、思いつかないか。」

「そだねーま、どっちにしろ明日からどう出てくるかだね。」

「だねー。」

「うーん。お風呂でボー。お風呂、お風呂・・・・・なんか忘れてない?」

「なんだろうねえー」
2人して湯船の淵に顎を乗せて呟く。

段々茹だって来た。
うーん。何か忘れているような気がしてならない。


/後編へ続く。
253uni ◆/pDb2FqpBw :2007/11/05(月) 20:27:02 ID:5cEsyYdC
ーーーーー
ご感想ありがとうございました。
嬉しいです。

次回こそ後編です。

>>230さん〜
世界感は
大正、昭和から第2次世界大戦を迎え、
結果もう少し上手く終わらせた後、
大正ロマンを残した現代のような感じを想定しているです。
勝手に。

では。
254名無しさん@ピンキー:2007/11/06(火) 01:37:08 ID:AI5AdOji
今度は百合に萌えた。
GJとしか言えない。
255名無しさん@ピンキー:2007/11/06(火) 22:38:41 ID:uTOsybXq
年長のお姉さんが年下の男の子のチンポくわえる姿に萌える漏れ。
百合さんには是非若様のチンポをフェラしてほしい。
256名無しさん@ピンキー:2007/11/07(水) 08:16:59 ID:1uj6CoBV
ぐじょーぶなんだぜ。

若様も大好きだけど、西洋ものが好きなので
誰かそういうのも書いてクリン。
テンプレでいうなら王と女宰相みたいなの(・ω・)
257名無しさん@ピンキー:2007/11/09(金) 04:37:25 ID:aMYioG6s
保管庫から作品を削除できるのはIDを持っている方もしくは承認されたユーザーだけになるそうなので、IDをお持ちの管理人様に削除をお願いします。
以下、削除していただきたいものを書きだします。

ユリシスとイリス、シリウスとメル、サンタ×トナカイ、奴隷と主人、陛下と側近、
グランとエス、執事とメイドと若様と、探偵と助手、初代スレ486保守、初代スレ631埋め

シリーズものはシリーズ全て削除していただきたいです。
数が多いので手間をかけますが、お暇なときでかまいませんのでよろしくお願いいたします。

コテやトリがないので本人だと証明しろといわれると難しいのですが、書いた本人ですので疑わずにいてもらえればと思います。
258名無しさん@ピンキー:2007/11/09(金) 08:26:25 ID:TZUxPFvb
あれっ、消しちゃうんだ。残念だな。

つかまとめってWikiじゃなかったけ。
Wikiでもページ削除にIDいるの?
259名無しさん@ピンキー:2007/11/09(金) 13:48:15 ID:aMYioG6s
編集は誰でもできるけどページの削除はID持ちか承認されたユーザーしかできないそうです。
年の差スレもwikiがまとめになってるんですが、IDをお持ちの方がそう仰ってました。
260名無しさん@ピンキー:2007/11/09(金) 18:50:08 ID:vfztVLEO
保管庫の管理人さんはまだスレ見てたり保管庫管理してたりしてるの?
まとめの人がコメント欄に削除してくれって書いたページが削除されてないし
放置状態なんじゃないかと
261名無しさん@ピンキー:2007/11/09(金) 22:58:37 ID:aMYioG6s
放置状態では消していただくというのは不可能ですね。削除していただきたかったのですが。
でも、もしかしたらまだ見てくださっているかもしれないのでもう少し待ってみます。
262名無しさん@ピンキー:2007/11/13(火) 22:54:24 ID:jN/v8Ww7
ほしゅ
263名無しさん@ピンキー:2007/11/16(金) 21:40:26 ID:A6wfNCwb
百合のショタコンに萌え
264名無しさん@ピンキー:2007/11/19(月) 00:27:25 ID:r58bT8mI
保守
265名無しさん@ピンキー:2007/11/21(水) 09:03:57 ID:6t859UP3
週末あたり圧縮かも保守
266名無しさん@ピンキー:2007/11/21(水) 14:06:39 ID:NNqTJzdA
まとめwiki管理人です。
スレの方はヲチしていましたが
wikiのほうまで手が回っていませんでした
申し訳ございません
ページの方は削除可能ですが
タイトルは一覧より削除せずリンク解除+打消線での対応とさせていただきたいとおもいます
お返事をいただいてからの対応となりますのでよろしくおねがいします
267名無しさん@ピンキー:2007/11/22(木) 17:50:36 ID:XUe3E6Be
>>266
削除依頼した者です。
wikiだと消した後事情を知らない方がまとめに載せたりするかもしれませんし、その対応でかまいません。考えて下さってありがとうございます。
お手数おかけしますが姉妹スレ含めよろしくお願いいたします。
268名無しさん@ピンキー:2007/11/24(土) 07:24:18 ID:oY/6uRsN
269名無しさん@ピンキー:2007/11/25(日) 18:33:16 ID:a+RIQAN+
270名無しさん@ピンキー:2007/11/26(月) 01:09:59 ID:lcQn9w5y
271uni ◆/pDb2FqpBw :2007/11/26(月) 20:25:37 ID:cfq5fR36
お世話になってます。

M'aider M'aider
[第1話]
>>175-193

[第2話]
前編>>206-223
中篇>>234-252

後編その1です。
272uni ◆/pDb2FqpBw :2007/11/26(月) 20:26:15 ID:cfq5fR36
<M'aider M'aider 2話>
<Freesia争奪戦 後編その1>

@@1

「文乃さん・・・」

「若様・・・」
見詰め合う瞳、上気した頬。

「文乃さん・・・」
「若様・・・はやく・・・」
一刻も早くとばかりに文乃さんはもどかしげに首を振る。
首を振るたびに優しくウェーブの掛かった栗色の髪が汗で塗れた首に張り付く。
文乃さんはとても柔らかい感じのする美人だ。
シャープ若葉さんとは違って

「文乃さん・・・」
問いかける僕の声など聞こえないように、いや,いやと首を振る。
早く、早くと訴えかけてくる視線は僕の瞳を捕らえて離さない。
ひり付く様な喉の渇きを覚えて唾を飲みこんだ瞬間、ごくりと喉が鳴った。

いや、できない、そんな事はできない。
と首を振ろうとする度、声に出してもいないのに。
文乃さんは判っているかのようにそっと首を振る。
273uni ◆/pDb2FqpBw :2007/11/26(月) 20:31:25 ID:cfq5fR36

いつもと違う。
いつもの文乃さんは物分りがよくて、優しくて
僕の嫌いなものが献立に入っていても
一口食べることが出来たらそれでよし。と微笑んでくれて。
百合さんに叱られた時、若葉さんに苛められた時には優しく庇ってくれて、
いつも本当のお姉さんみたいに僕を可愛がってくれて。

僕はそんな文乃さんを、本当に本当のお姉さんみたいだって・・・
それなのに・・・
そこまで思って、僕は首を振った。

駄目だ。やっぱりそんな事は出来ない。
いくら文乃さんにだってそんな事は出来ない。

「文乃さん・・・無理です。」
俯いた僕の顔を文乃さんはさらに低い位置から見上げるように。
もどかしげな顔すらして訴えかけてくる。

「そんな事ない。お願い、若様。私を助けると思って。」
「そんな・・・無理、無理です。文乃さん」
「早く・・・して。こぉら、若様。」

優しいだけじゃない、艶かしいような、
決して叱っているのではない、甘えるようなそんな声で囁いてくる。
優しいんだけれどいつもの文乃さんの優しさとは全然違う。
なんだかまるで、プライベートな文乃さんの
誰にも見せていない素顔を見せてくれているような
そんな気すら起こさせるような顔で文乃さんは僕を見つめる。
学校にいた時は相馬の姫様と噂されたという端正な顔立ちも
なんだか今日はちょっと甘く溶けているような気がする。
274uni ◆/pDb2FqpBw :2007/11/26(月) 20:32:09 ID:cfq5fR36

「で、でも・・・やっぱり無理です。」

「もう・・これは、必要な事なんです・・だから・・」
文乃さんは僕の目を見ながら情熱的に訴えかけてくる。。
やっぱり無理だ。本当に無理。
俯き、首を振る僕に更に首を振って拒否の意を示し、
どうしてもとせがもうとする文乃さんに対して更に僕は首を振る。

文乃さんはそれを見て、一度は力なく俯く。
しかしそれは一瞬だった。
ぶんぶんと甘えるようだった先ほどとは違う、力強い首の振り方をして。
きっと睨むような強い視線で此方を見てきた。
そして宣言をするように文乃さんはゆっくりと口を開いて。

「駄目です。やっぱり駄目。
早くタオルを取って、おちんちんを私に見せてください。
早く。早く。」

と言ってきた。

275uni ◆/pDb2FqpBw :2007/11/26(月) 20:38:44 ID:cfq5fR36
@@
「いや・・・無理です」
という言葉を文乃さんの真剣な顔を見て飲み込む。

現在の僕の格好と言えば下半身にタオル一枚で、
文乃さんは珍しく女中姿ではなくつい半年前まで着ていた高校の頃の制服を着ている。
文乃さんが学校に行っていたつい半年前までは学校帰りに一緒に遊んで、
制服のまま一緒に入ることもあったけれど最近では珍しい。
まあそれを除けばお風呂場に二人でいるという点だけを見れば
僕らの普段のお風呂の光景と同じである。

しかし、いつもと完全に違っているのは僕らの態勢だった。
いつもなら僕は湯船に浸かって、
文乃さんは洗い場にいて僕と今日あった事とか、
今度はどんな遊びをしようかとか何を食べたいかなんて話をする。
しかし今日は違った。
僕はお風呂に入るなり湯船の縁に座らされていて、
なぜだか目の前で跪く文乃さんに熱狂的に変なお願いをされている。

風呂の湯気のせいだろうか、いや湯気のせいだけではない。
文乃さんはいつもと違って妙に強情で、それでいてこんな風になんていうか、
ちょっと違う雰囲気なのは初めてだ。
だから僕はびっしょりと汗をかいて下半身のタオルを押さえている。

だって文乃さんの言う事を聞くなんて絶対に無理だって。
絶対に出来ない。
文乃さんが何でこんな事を言っているのか意味がわからないし、
見せるなんて無理無理絶対無理。
276uni ◆/pDb2FqpBw :2007/11/26(月) 20:39:23 ID:cfq5fR36

「早く。早く。わかはには見せたのに、文乃には見せてくれないんですか?」
若葉さんには見せたんではなく見られたんです。

「見せてくれたら、私のも見せますから!」
何でこんな幼稚園児のお医者さんごっこみたいなことを文乃さんは言っているのか。

「そうじゃなくて、そうじゃなくて、訳を教えて下さいよ訳を、文乃さん。」
とにかく流れを、この流れを変えなくてはいけない。
訴えかけてくる文乃さんを必死で抑えながら
お願いだからいつもの優しくて余裕のある文乃さんに戻って下さい。
と訴えかける。

「駄目。早く。バスタオル取って。おちんちん。ね。若様。」
聞いてくれない。

今宵の文乃さんはマジだ。
口調は兎も角、その裏に隠されている雰囲気はマジな時の雰囲気だ。
嫌いな献立の時、一口は食べるんです。と言う時の真剣な雰囲気だ。

絶対絶命である。
277uni ◆/pDb2FqpBw :2007/11/26(月) 20:41:18 ID:cfq5fR36


@@

おちんちんとは何か。
残念ながらもうすぐ14歳になろうとする今の今まで
本気で考えた事がなかった事に今更ながら後悔する。

今まで僕は何をやってきたのか。
学校の勉強ばかり真面目にやって、こんな事も判らないのだろうか。
数学や、国語なんてこんな時、全然役に立たない。
それは人としてどうなのか。
胸を苦い後悔の味が過ぎてゆく。

今の僕には、おちんちんを見せてと言う文乃さんに対して
おちんちんを見せる事が出来ませんと説明する術がない。
納得させられる手段を持っていない。
駄目だから駄目です。
こんな事では絶対にこういう状態の文乃さんは納得してくれない。

なぜ駄目なのか。
いつもお風呂で体を洗ってくれたりする文乃さん。
ご飯の前とかに一緒に遊んだり、
文乃さんの上女中のお仕事の休みには一緒に本を読んだり。
そんな文乃さんに見せる事がなぜ駄目なのか。
僕は今、今すぐにでも文乃さんに説明できなければならない。
今そういう状況に置かれて、
僕は生まれて初めておちんちんとは何かという事を真剣に考えている。。
278uni ◆/pDb2FqpBw :2007/11/26(月) 20:41:52 ID:cfq5fR36

よく考える。文乃さんに駄目だ見せられないと言う事を
説明出来ないというのは何故なんだろう。
何故だ?何故。
今ちゃんと考えれば、きちんと説明できるはずだ。
百合さんも家庭教師の時間に言っていた。
説明できるという事は理解できたという事です。
説明できないという事は理解できていないという事です。
当主になる為には皆に色々な事を説明できるようになる。
そしてその人達を動かせるようになるという事なのです。と。
いつか相馬家の当主になるとかそんな事は関係がなくて。
せめて僕は今お世話になっている3人にはなんでも僕なりにきちんと考えて、
納得してもらえなくてもそれでも説明を出来なくちゃいけない。
その位の義務が僕にある事くらい、僕は理解できる。

きちんと考えれば、それは恥ずかしいものではないはずだ。
男なら誰でも持っていて、持っていることを女の人だって皆知っている。
世の中大きいほうが良いとか、剥けてる方が良いとか
色々あるという事くらいは知っているけれど
別段そんな事にコンプレックスを感じることはない。
人間個体差がある。胸を張って生きていけば良い。
良いと思う。多分。
そのうち剥けると思うし。ねえ。
そう、恥ずかしいものではない。
人として当たり前の器官が当たり前の場所についている。
なんら恥じることは無い!
ないはずだ!
多分。
279uni ◆/pDb2FqpBw :2007/11/26(月) 20:42:40 ID:cfq5fR36

・・・でもさ、見せろってのは別だと思う。
だって見せるのは恥ずい。
すごぶる恥ずい。
そう、恥ずかしいんだ。

何で恥ずかしいかっていうと・・・。
何故だろう。
多分・・・。
そりゃあ、僕だって見たいと思う事くらいある、からだ。
そうかもしれない。
文乃さんが同じ気持ちなのかどうかは判らないけれど
僕は僕でそういう、見たいとか、変な事を考えてしまうこともある。
例えば、若葉さんが遊ぼうと言ってくっついて来た時だとか、
文乃さんがにこにこしながら隣で一緒にカードゲームをしている時だとか。
その、おっぱいを見てみたいとか触ってみたいというような
そんな気持ちになる事がある。
3人は昔どおりに接してくれているのに、僕だけが変な事を考えてしまう。
そんな気持ちになることに罪悪感を感じる。

そう、自分で言うのもなんだが僕だって健全な14歳だ。
エロ本だって持ってる。1冊だけだけど。
月間テラエロスの昨年の12月号。水着だけじゃなくてヌードの写真まである。
あとエッチな漫画とかも巻末についている。
学校で友達に貰って、若葉さんに、文乃さんに、百合さんに絶対に見つからないよう
鞄の奥の奥底に潜ませて胸をドキドキとさせながら持ち帰った。
その後ベッドの脇にある本棚の中、3人が決して興味を抱かないであろう
建築学の基礎という分厚い叔父さんから貰った本の裏に大事に隠してある。
280uni ◆/pDb2FqpBw :2007/11/26(月) 20:43:10 ID:cfq5fR36

3人は僕の事を子供扱いするけれど。
つまり、その位の、恐らく人並みにそういうものを
日々夜にこっそりと眺めるくらいの、その位の女の人への興味は僕だってある。
正直言って、おっぱいとか見てみたいし触ってもみたい。
まあ友達とかが言うSEXとかにも興味はあるけれど、多分それは早すぎるよね。
結婚をして、それからだから多分当分先の話だ。

でもきっと、そういうものに興味を持っている僕は、
そういう気持ちを心の中に持っている僕はきっと3人が期待していない僕だ。
そう思う。
きっとそういう事がばれたら嫌われてしまう。
気持ち悪いとか思われると思う。
だって自分でも思う位なのだから。

もちろん思うだけじゃばれないかも知れない。
思ったことが全部周りの人にばれていたらそれは大変だ。
普通は思うだけじゃばれない。
だから、僕も百合さんや文乃さんや若葉さんに嫌われなくても済む。
普通なら。

281uni ◆/pDb2FqpBw :2007/11/26(月) 20:43:55 ID:cfq5fR36
そこがお風呂場じゃなければだ。

男の辛い所だ。辛い所だと思う。多分。
時々大きくなってしまうのだ。
変な事を、考えてしまう事によって。
例えば文乃さんが、僕の背中だけじゃなくて前を洗いそうになった時とか、
若葉さんがびしょびしょに濡れながら僕にフザケかかってきた時とか。

このままその・・・おっぱいを触ったりしたり出来ないかなとか、
その、そんな事を考えてしまって大きくなってしまう。
そういう時は隠すのに凄く苦労する。
大抵はお湯をこっそり水に変えてじゃばじゃばと掛けてむりやり小さくしたりする。

だから、若葉さんとか文乃さんとお風呂に入りたくないというのは
ただ社会的に、倫理的に恥ずかしいだけじゃなくて、そういう所もあるのだ。
僕が、変な事を考えてしまうから。
そしてそれがばれてしまうかもしれないから。
ばれてしまったらきっと変だって思われるから。

だから、きっとそう云う事なんだろう。
僕は、僕の心の中にあるそういう事をばらしたくなくて、
知られるのが怖くて、それが恥ずかしいという感情になるのかもしれない。

そう、だから僕は嫌なんだ。
見たいと思う自分の気持ちが嫌で、
そういういやらしい気持ちが気づかれるのが嫌で、
だから見せたくないんだ。
282uni ◆/pDb2FqpBw :2007/11/26(月) 20:44:56 ID:cfq5fR36

でも。
じゃあ文乃さんはなんで僕のあれを見たいんだろうか。
そんな疑問がふと浮かぶ。

僕は見たいと思う。
いつもいつもじゃないけれど、でもそういう事を考えてしまう事があって。
そういう自分が嫌でそう思っていることを知られたくない。
だから文乃さんも僕と同じ気持ちだと勝手に思い込んでそれで嫌だと思ってた訳だ。

でも文乃さんは違うかもしれない。
いや、多分違う。
単純に、何か相馬家の仕来りとして何かそういう事があって、
それで見たいのかもしれない。
それなら見せないっていう僕の恥ずかしさは
ただ僕の自意識過剰だからくる感情なのであって、
本当は恥ずかしがる事なんてないのかもしれない。
逆に見せないほうが不振に思われるのかも・・・。

でも、
文乃さん恋人がいるとか聞いたことがないし
多分そんな事は絶対無いと思うけど文乃さんはちょっとこれで変な所もあるから
僕のそういうことに僕と同じような意味で興味とかあったりしたら
それはきっといけない事だ。
ぼ、僕も見たいけどで、でも見せあいっことかそんな事は駄目だ。

だって人とは獣ではないのだから。
見たいから見せてください。はいどうぞ。という訳にはいかない。
そ、そういう理由なら見せられない。
だって、見たくてもそういう事は我慢すべき事なんだから。
283uni ◆/pDb2FqpBw :2007/11/26(月) 20:46:08 ID:cfq5fR36

だからまずどういう理由で見たいのか。
それを僕は確認するべきなんだ。
僕は前を向いて目の前の文乃さんに口を開く。

「文乃さん、何で見たいんですか。理由だけ教えて下さい。」

「別に理由なんて無いです。」
ないのか。こんなに考えたのに。
ぷいと横を向きながら文乃さんは答える。

「な、ないなんてない筈です。
 た、例えば上女中のお仕事としてとか、そそういう事ならですね。」

「…違います。」
なぜか眉根を顰める文乃さん。

「あのね、若様。いくら文乃でもお仕事でおちんちんを見たいなんていいません。」
仕来りじゃないのか。

「じゃあなんで」

「文乃が見たいからです。」
尚更なんでなんですか。

「あのね、若様。いくら私でも心の準備が必要なんです。
私も恥ずかしいんですから。」
会話が噛み合わない。

「私は若様より年上ですけど。緊張するものは緊張するんです。
 ご当主様の上女中はしないかもしれないけど、
 百合さんと若葉と私は絶対にするんです。」
迫力に思わず頷く。

「年上だって緊張するのっ。そういう所で気を使えないと、もてないんですよ。」
こんな事だったら学生時代にたくさんあったお誘いの一つ位・・・
、いや、でもやだもの。そんなのやだもの。せっかく守ってきたのに。
とぶつぶつと文乃さんは柔らかく髪を揺らしながら呟く。
なぜ怒られているのか意味はわからないけれどはい、と僕は頷く。

284uni ◆/pDb2FqpBw :2007/11/26(月) 20:50:18 ID:cfq5fR36

話がこんがらがって判らなくなってきた。
湯あたりをして来たようで、頭がぼんやりとする。
まるでお正月の時にお神酒を飲まされた時みたいに。

僕がこんなに真面目に考えているのに文乃さんは見せて見せてと言う。
僕は説得できない。
そんなに見たいか。
なら見せてやろうじゃないか。
残念ながら僕は完全に勃起しているけれども。
嫌われたって構わない。
嫌われたら嫌だけど。

でもそんな僕だっているんだって事を知ってもらっても良いのかもしれない。
そうしたらもう一緒にお風呂には入らないことになって
それはそれで僕の望んでた所なんだけれど、
でも3人に気持ち悪いとか思われて、それで入らないことになるのって何か嫌かもしれない。
でも、
僕は我侭だ。
でも
でも
でも
ああ、もう考えるのはいやだ。

「わかりました。文乃さんがそんなに言うのならバスタオル外します。
 でも、あんまり見ないで欲しいです。」

そこまで言って。
僕はあんまり良く考えるのはよして、
こくこくと頷いている文乃さんの前でバスタオルを外した。


/
後編2に続く
285名無しさん@ピンキー:2007/11/26(月) 20:51:20 ID:dDFN9kga
スーパーおちんちんタイム!?
286uni ◆/pDb2FqpBw :2007/11/26(月) 20:52:42 ID:cfq5fR36
ーーーーー
ご感想ありがとうございました。
嬉しいです。

次回、第2話最終回です。多分。

では。
287名無しさん@ピンキー:2007/11/26(月) 21:06:50 ID:subOoScV
ここでお預けか〜
288名無しさん@ピンキー:2007/11/26(月) 23:56:44 ID:ndZ2UAyX
優しくしてください、文乃さん…
289名無しさん@ピンキー:2007/11/27(火) 23:09:52 ID:VVo2LauG
おお、続き待ってました、GJ!
是が非でも若の純潔を奪ってやってください
290名無しさん@ピンキー:2007/11/28(水) 22:01:35 ID:Q3xN4SNY
若様…
お口がいいですか?
手がいいですか?
それとも胸が
いいですか?
そ、それとも下のお口?
291名無しさん@ピンキー:2007/11/29(木) 12:06:45 ID:e2g6azTA
>>290
じゃあお尻で
292名無しさん@ピンキー:2007/11/29(木) 22:35:43 ID:8tT+h5mm
尻コキなんて…マニアックしますうう!
若様、どどどこでそんな事を!?
293名無しさん@ピンキー:2007/12/04(火) 01:04:58 ID:qyWXFfsL
ほしゅ
294158:2007/12/06(木) 23:19:47 ID:bbrjM2Ry
別の話書いてみました。
295王太子と女騎士:2007/12/06(木) 23:21:38 ID:bbrjM2Ry

「お許しください。殿下!」
ユマは悲痛な声をあげた。
寝椅子の上に自分を押し倒し、圧し掛かってきた男の身体を力ずくでどけようとする。
「なぜ、こんな酷いことをなさるのですか!?」
男の手が、騎士団の制服の上から荒々しく胸を揉み、ボタンに手をかけていた。
その銀髪の前髪から覗く紫色の瞳には、女への劣情の他に怒りの色が混じっている。

「君が、女だからだ」
そう言い放ったクライドは、自分を押しのけようとする女騎士の両手をひとまとめにし、
制服から剥ぎ取った帯剣用のベルトで縛り上げた。
話し合って解決しようとユマが油断していたせいもあったが、単純な力比べなら男の方に
分があった。
「女ならば、他にも沢山いるではないですか!」
ユマの声は、ショックで強張っていた。

普段は温厚で聡明な主人が豹変した理由が分からず、ユマは困惑の極みにあった。
十代にして常に何人かの愛人を囲っているクライドが、女に困っているはずはない。
肩の上で短く切りそろえられた栗色の髪と、女だてらに剣を持ち、筋肉質で女性の丸みに
欠ける身体のどこに欲情したのだろうと、ユマは眉根を寄せた。

「あぁ! それ以上は、どうか、お止めください! いやぁあああ!!!」
ユマの懇願を無視し、クライドは女騎士の服の前をはだけさせ、胸を固定する下着をずりあげた。
薄い乳房と桃色の乳首が、クライドの眼前にさらされる。
もうすぐ二十一歳になるユマは、まだ男を知らなかった。


ユマは縛られた両手で懸命に胸を隠そうとしたが、クライドは非情にもそれを押しのけ、
僅かに盛り上がる乳房を強く掴んだ。
「やめてぇええ!!」
ユマは激しく身を捩って抵抗した。
三年間で築き上げた二人の信頼関係が、音を立てて崩壊していくようだった。

「君が悪いのだ……」
クライドが低い声で呟いた。
ユマの腕を頭の上までどかすと、微かに反応を示す乳首を口に含む。
「いや、こんなの」
ユマの藍色の瞳に涙が滲んだ。
296王太子と女騎士:2007/12/06(木) 23:23:22 ID:bbrjM2Ry

クライドの愛撫で、ユマの両乳首は痛々しいほどに固くなり、白い乳房には所々に
赤い鬱血の斑紋がつけられた。
その膨らみの上下には、いくつかの古い傷跡が残っている。
なかには、クライドと一緒に戦場を駆け、負傷したものもあった。

クライドは目を細め、脇腹にある傷跡のひとつに優しく手を這わせた。
「こんなことをして何になりましょう。もう、やめてください」
クライドの手の動きが落ちついたのを見て、ユマは神妙に頼んだ。
「これは、二年前に北の蛮族を討伐したときに負った傷だな。
 あのとき僕たちは、陽動作戦で深追いし、同じ隊の味方もすべてやられて、
 二人で孤立してしまった。
 もうダメだと思ったが、僕たちは救援がくるまで持ちこたえた。
 あのときは、君がいてくれて、本当に心強かった」

遠い目をするクライドに、ユマも当時のことを思い出す。
男に押し倒されている状況を忘れて、神懸り的に強かったクライドの勇姿を思い浮かべた。
「君が背後にいるなら、いつまででも戦える気がしていた」
ユマは無言で頷いた。
実際は、救援が駆けつけたところで、二人とも立っていられないほど疲労していた訳だが、
戦っている最中は、このまま二人でずっと戦っていたいとさえユマは思っていた。

クライドが傷跡をそっと指でなぞると、ユマは脇腹に痺れを感じた。
つるりとした表面の傷跡は他の皮膚と感覚が異なるのだ。
脇腹の痺れは、唾液に濡れて感覚が過敏になっている乳首にも飛び火する。
「やめて、殿下……」
ユマは目で訴える。
戦場で、かつてないほどの一体感を共有した貴重な関係を壊したくなかった。

しかしクライドは、そんな女騎士の思いを踏みにじるように、ユマのズボンに手をかけた。
「駄目!」
ユマは目を強く瞑り、反射的に腹筋を使って上体を起こした。
クライドの重心が下に移動していたこともあり、すんなりと置き上がれたユマは、
身を守ろうとする本能のままに、クライドに勢いよく上半身をぶつけた。

297王太子と女騎士:2007/12/06(木) 23:25:10 ID:bbrjM2Ry

「っ!」
想定外の反撃に、クライドは寝椅子の端に弾き飛ばされた。
ユマは、寝椅子から降りて、窓際まで逃げる。
部屋から出て行かなかったのは、今の自分の格好を考えた結果だった。

「僕に抱かれるのが、そんなに嫌か!!」
クライドが怒鳴った。
その口元には血が滲んでいる。ユマの頭突きが当たったのだ。
「殿下! どうか、冷静になってください! 
 私は……、私は来春嫁ぐのです。
 殿下の一晩のお戯れで純潔を失うわけには……」
「黙れ!」
クライドは強く奥歯を噛み締めた。

「誰が、騎士を辞めるのを許した?」
「陛下に許可を頂きました。来月には正式に解任手続きを……」
「相手は二まわりも上の男だぞ。それに再婚だ!」
「貴族の結婚など、みんな似たようなものです。
 家同士の利益のためにするのですから。
 それにこの縁談は、大臣閣下からのお話で……」
断わることができない。
手の自由を奪われている状況と、結婚への不安からか、月明りが差し込む窓辺に佇む
女騎士の姿は儚げだった。

クライドは、自分の妃候補の中に大臣の娘がいるのを思い出し憤然とした。
「君が断われないのなら、僕が破談にしてくれる」
クライドの申し出に、ユマは首を横に振った。
「なぜだ!?」
「もう、限界なのです」
「いくら男より体力の衰えが早いとはいえ、君は、まだ十分現役で戦える!」
いつも落ち着いているクライドが、焦りも露わに声を荒げていた。

「……体力のことではありません。辛いのです」
ユマは藍色の瞳を伏せ、唇を噛み締めた。
「何がだ!?」
「お許しください。殿下。私は騎士を辞め、嫁ぎます」
クライドの問いに、ユマは答えなかった。

298王太子と女騎士:2007/12/06(木) 23:26:51 ID:bbrjM2Ry

「ユマ!!」
クライドが寝椅子から立ち上がり、ユマのほうへ一歩歩み寄ったときだった。
ユマは縛られた両手で短剣を取りだし、自身の首筋に刃を向けた。
「何をする!?」
「近づかないでください!
 それ以上近寄ったら……自ら命を断ちます!」
ユマの声は真剣で、鬼気迫るものがあった。
クライドは、胃の府から込み上げる強烈な吐き気を堪えた。
「君は! ――それほどまでに、僕を拒絶するのか!?」

焼けつくほどの悲しみは、憎悪にも似て紫色の瞳を焦げつかせていた。
クライドの激情が自分に向けられていることに、ユマは心を震わせる。
「違うのです! これは私のわがままです。
 私は貴方の唯一の女でいたい。
 一緒に戦場で命をかけた唯一人の女に。
 ……そうなれば、剣に捧げたこの身も救われましょう。
 だから、ここで抱かれる訳にはいかないのです。
 関係を持った沢山の女の一人に成り下がってしまうから……」
戦場での二人は、お互いに命を預け、他の誰も割り込めないほどに固い絆で結ばれていた。
その自負を胸に、ユマはこれからの人生を生きようと思っていた。

「それは、僕の気持ちを踏みにじってまで、貫き通すものなのか」
クライドは毛足の長い赤い絨毯に視線を落とし、力なく呟いた。
「殿下の気持ち?」
ユマの鼓動が一際大きく脈打つ。
「君を愛している」
ユマに熱い視線を投げ、クライドははっきりと言い放った。
299王太子と女騎士:2007/12/06(木) 23:29:29 ID:bbrjM2Ry

「からかわないでください!」
ユマは耳まで真っ赤に染め上げて叫んだ。
「からかってなどいない!」
クライドの反論に、聞きたくないとばかりに、ユマは首を左右に振って後退る。
「私は殿下の愛人を何人も知ってます。
 皆、可愛くて、華奢で、女らしくて、私とは正反対だった」
愛人たちを見るにつけ、自分がクライドに愛される日などくるはずがないと思っていた。
だから、身体の繋がりより、戦場での心の繋がりの方が重いと、ユマは自分を納得させてきたのだ。

「愛人の容姿は、僕が君を好きだということの否定にはならないよ」
「そんなこと、信じられません!」
ユマは短剣を強く握り締める。
藍色の瞳には涙がたまり、今にも零れ落ちそうだった。

クライドは大きく溜め息をついた。
「どうして、君はいつもそう頑ななんだ……
 誰よりも騎士らしく、常に清廉潔白で、剣のみを愛して男には目もくれない。
 色んな愛人を君にわざと引き合わせたりもしたが、顔色一つ変えなかった」
「な、……酷い! わざとだったのですか?」
愛人たちの元に通い、彼女たちを愛でるクライドの姿を垣間見るにつけ、
ユマは胸が張り裂けんばかりだった。
女としてクライドに愛される彼女たちが羨ましい。
そう自覚したとき、ユマは戦場での心の繋がりが意味のないもののように感じてしまった。
強い羨望の感情は妬みを孕み、ユマはクライドの側にいることに見切りをつけた。

堪えきれず、ユマの瞳から涙が零れ落ちる。
「少しは、妬いてくれていたのか?」
ユマの様子が緩やかに変わりつつあるのを感じ、クライドは余裕を取り戻した。
「……」
「君を他の男に渡したくない」
「……だからって、こんな」
肌蹴た上着の隙間から覗く、白い乳房につけられた赤い斑紋を目にとめて、ユマは口篭もった。

これをつけたときのクライドは、欲望と怒りの感情を剥き出しにしていて、少し怖かった。
けれど、自分の身体に彼が触れた痕跡が残っているという事実に、ユマの胸は熱くなる。
「ユマ」
気がつけば、クライドはユマのすぐ側まできていた。
「殿下、私は……」
ずっと望んでいたものが目の前にある。
優しく自分を見つめる紫の瞳に目を奪われながら、ユマの唇は本心を告げるために開かれた。
「殿下の愛人が、羨ましくて、羨ましくて仕方なかった……」
震える声でそう呟いたユマの手から、短剣が滑り落ちる。
ユマが自分の顔を両手で覆うよりも早く、クライドはユマを強く抱きしめた。

こんな風に抱きしめられたことは、今までなかった。
クライドの体温と匂いが近くにあって、鼓動は早くなりつつも、包み込まれて守られて
いるような安心感をユマは感じた。
「殿下……信じさせてください」
ユマの瞳から流れ続ける涙を、クライドが拭う。
「ああ」
頷いて、クライドはユマの唇を奪った。

 ◇
300王太子と女騎士:2007/12/06(木) 23:31:02 ID:bbrjM2Ry

ユマの身体は、男のクライドから見れば、十分に女らしかった。
薄く筋肉のついた身体は、傷跡さえも綺麗に見えて、クライドはことさら丹念に全身を愛撫した。
小ぶりな胸は感度がよく、膣内は男を強く締めつけ、艶やかな唇から漏れる声は甘かった。
破瓜の痛みに耐える顔はけなげで、クライドの精が膣内に放たれると、頬をバラ色に染めて、
幸せそうにはにかんだ表情を見せた。

今、男の腕の中で疲れて眠る寝顔は、まだ十代のようにあどけなく可愛らしい。
その栗色の髪を梳きながら、クライドは、今後どうやって彼女の立場を確固たるものにするか、
算段を巡らしていた。
「とりあえずは、縁談か」
ユマが一晩、王太子の私室から出てこなかったとなれば、縁談はすぐに立ち消えになるだろう。
大臣には釘をさしておかなければと、クライドは考えていた。
「クライドさま……」
ユマの寝言にクライドは破顔する。
考えるのは明日にしようと、ユマを優しく抱きしめる。
軽く唇を重ねると、彼女は「ん」と小さく唸って、クライドに抱きつくように身を捩った。
これほどまでに他人に気を許し、隙だらけの女騎士の姿は初めてで、嬉しくなる。
「おやすみ。僕のユマ」
朝起きて、彼女がどんな顔で自分を見るのか楽しみにしながら、クライドは双眸を閉じた。


301名無しさん@ピンキー:2007/12/06(木) 23:34:19 ID:bbrjM2Ry

以上です。
正攻法で口説けばすむ話だったりしますが、
書いた勢いで投下してしまいました。
302名無しさん@ピンキー:2007/12/07(金) 00:44:26 ID:Yt35AU3z
好きな展開だ。グッジョブ(;゚∀゚)=3
303名無しさん@ピンキー:2007/12/07(金) 01:15:13 ID:v8cijZWq
俺も大好きだ(*゚∀゚)=3
98GJだな
304名無しさん@ピンキー:2007/12/07(金) 09:10:17 ID:0nLZEuCP
GJ!! こういう話大好きだ
主従ハァハア
305名無しさん@ピンキー:2007/12/10(月) 01:29:48 ID:QwRuJFvm
激しくGJ
306名無しさん@ピンキー:2007/12/11(火) 00:39:14 ID:FPWvpA/Z
新作投下サレテター

GJ!
出来たら立場を確保する過程もみたいな
307名無しさん@ピンキー:2007/12/12(水) 01:09:35 ID:oWi/3/4m
新作投下気ヅカナカッタ…

職人さんいまさらだけどGJ!
308名無しさん@ピンキー:2007/12/17(月) 02:37:30 ID:2Zz9KdF9
ほしゅ しとくね。
309名無しさん@ピンキー:2007/12/22(土) 20:40:20 ID:rZccaPzj
ほしゅ
310名無しさん@ピンキー:2007/12/26(水) 17:05:33 ID:speAIuqM
ho
311名無しさん@ピンキー:2007/12/26(水) 18:18:04 ID:KOM6NRAk
ほっしゅ
312名無しさん@ピンキー:2007/12/27(木) 01:55:42 ID:bw8IuILH
ぼっちゃまあああ
313名無しさん@ピンキー:2007/12/27(木) 05:29:30 ID:dTAdx7yz
保守
314名無しさん@ピンキー:2008/01/01(火) 20:51:00 ID:OHme2jAB
あげ
315名無しさん@ピンキー:2008/01/08(火) 00:58:22 ID:8T3wjnYB
ほしゅ
316王様と書記官:2008/01/08(火) 15:20:39 ID:AWDHW0fr
お正月なので勢い余って投稿。


「あん、あ、あっ……」
 ぐちゅぐちゅと隠微な音が響き渡る部屋。
 私に覆い被さった方は、私を様々な角度から責めたててきた。
 思えばそれはほんの三月前、時間にすれば僅かな時間。
 私がこの方、現国王陛下に体を許すようになったのは。
 もう少しで雲から水滴が舞い降りてくるだろう、という時に特有の湿気が城を覆っていた。
 そんな夜だった。


 私、リトレ・サヴァンがラディス国の書記官を務めてから、もうそろそろ五年目になります。
 書記官というのはこの国特有の官僚制度で、王城の中で執務を執り行う文官です。
 宮廷武官とほぼ対になる立場で存在しているもので、主に貴族の子弟がなるものです。
 女の身で書記官という地位に就いている私に、人はあまり良い顔をしません。
 私自身、女の身で肩肘を張って仕事をするより、家でのんびりと過ごすほうが性分としては合っているほうです。
 まして、女であると言うだけならまだしも、前宰相であった私の父ラディ・サヴァンは謀反人処刑されています。
 謀反人の子供、それも女が秘書官などという職に就き、王宮で働いているのを見て、悪く言う者がいるのは知っています。
 私も、もし逆の立場ならばそう思ったでしょう。
 本来は父が亡くなった時点で爵位を返上するのが筋でしたが、その旨をしたためた書簡を送り、陛下にお目通りを願ったところ
「そのような必要はない、お前が当主となってサヴァン家を盛り立てるが良い」
 と言われ、爵位返上のための参上の筈が、サヴァン家当主の就任式となってしまいました。
 後で陛下に伺ったところ
「謀反を起こそうとした当人達は既に処刑している。それも未遂で終わっている事だ。
 一族郎党の全てを罪に問うつもりはないし、そのようなことをしていては国がつぶれてしまう」
 だそうです。
 成る程、宰相をしていた父を筆頭に、王宮の重要な役職は大体我が一門が占めております。
 もし一族郎党まで罪に問うことになったりしたら、この国の政治は止まってしまうでしょう。
 権力争いが起こり、悪くすれば他国の介入もあるかも知れません。
「平時なら良かったんだが、今は西の国境も不穏だし、権力争いに明け暮れるわけにもいかぬ。
 それならばお前を仮の当主に据えたほうがいい。」
 陛下は私に言い聞かせるように仰いました。
 思えばその時、国王陛下は若干12歳。
 私より5歳も年若だというのに優れた洞察力を持ち、人並み優れた施政の力を持っておりました。
317王様と書記官:2008/01/08(火) 15:30:35 ID:AWDHW0fr
 当時、まだ年若い陛下を侮る者は数多く、その筆頭は宰相である私の父でした。
 小僧に何が出来るとうそぶき、王以外は触れてはならないはずの王印を自宅に持ち帰ったりもしていたそうです。
 しかし、国王陛下はそのような行為を黙って見過ごすような方ではありませんでした。
 私の兄であるディクレ・サヴァンは、本名よりも「お調子者のディー」というあだ名の方が有名な人間。
 陛下はそのお調子者の元に極上の女を忍ばせました。
 女は、来る日も来る日も囁きます。
「国王陛下はまだ子供。跡取りのいないうちに殺してしまえば、王の位は宰相である貴方の家に転がり込んでくるでしょう。」
 勿論兄も、初めは取り合いませんでした。
 けれど、根がお調子者だったからでしょう。いくらか薬も使われていたようです。
 いつしか女の言うことを真に受けるようになり、女の言うままに国王陛下を暗殺しようとしました。
 後はもう、簡単なことでした。暗殺の準備が整い決行は明日、と言うところで女が役所に走ります。
 血判状や、実行計画をしたためた書類が動かぬ証拠として提出されました。
 兄と父の首が広場に晒されたのは、それからわずか半刻後のことでした。
 暗殺を企てていたとはいえ、ときの権力であった宰相を処刑し、見せしめのように一人残された当主は女。
 以来、陛下のことを年若だと侮るような人間はいなくなりました。
 あれからは、怒濤のように日々が過ぎていきました。
 なにぶん女の身です。当主となるような教育は、それまで一切受けておりませんでした。
 知っているのは行儀作法と刺繍を少し。男勝りと言われていても、できるのは僅かに乗馬くらい。
 当主の職務を覚え、こなしていくのであっという間に時が経ち、父が亡くなる少し前は
「お前もそろそろ嫁に行く頃だ」
 と言われていたのですが、気が付けばもう、とうに嫁に行くときは過ぎておりました。
 その頃にはおぼろげながら私にも
「自分は罪人の子だから、一生結婚することはないだろう」
 という諦めにも似た、一種の悟りのような考えが浮かぶようになっていました。
 その頃にお付き合いをしていた男性が他の女性と結婚したこともあったかも知れません。
 そのような一連の事件を経て、それもようやく落ち着き、当主としての務めにも慣れた頃。
 陛下に呼ばれたのは、そんなときでした。
318王様と書記官:2008/01/08(火) 15:32:46 ID:AWDHW0fr
 私が呼び出されたのは夜も更けた頃、もうそろそろ就寝しようと支度をしていたときです。
 陛下は若干17歳と、まだお若いながらも公私をしっかりと分ける方で、意味もなく夜更けに部下を呼びつける方ではありません。
 仕事で何か手違いでも生じたかと思いながら手早く支度を済ませ、陛下の待つ執務室へと向かいました。
「リトレ・サヴァン、参りました。」
 うっすらと月の光の差し込む執務室は、なぜか人払いがされておりました。
 一体何事だろうと訝しみながら陛下を見やると、ランプは消され、唯一の灯りである月が陛下のけぶるような金髪を彩っておりました。
 こういう時、私はぞくり、と戦慄を覚えます。
 年若い娘などは陛下のことをお美しいと素直に褒めそやしますが、私には陛下はなにか、怖ろしい生き物のように感じられるのです。
 陛下の目は金の瞳、太陽のようにまばゆいと人は言いますが、ほんの少しでも油断したら襲いかかってくる猛禽類のようにらんらんと光っております。
 そのお体は神々しく、アポリオンのように堂々としたお姿だと言いますが、その実、その中には得体の知れない企みや不穏な謀が詰まっております。
 その日、雨の降る直前のじっとりした空気は肌に重く、国王陛下の底知れぬ恐ろしさが空気ごしに伝わってくるようでした。
 私が、半ば後じさりながら陛下を伺っていると、一語一語をゆっくりと区切りながら
「お前に俺の閨の相手を命じる」
 そう、陛下は仰いました。
 遠いあの日、私にサヴァン家の当主になれと命じたときと同じ口調でした。

319王様と書記官:2008/01/08(火) 15:35:59 ID:AWDHW0fr
「閨…と申しますと、私に陛下の相手をせよと、そう言うことですか?」
 陛下の言葉が発せられてから、随分の時間が経って、私はようやくそう口にしました。
 実際はそんなに時間が経っているわけではないのかも知れませんが、私には嫌に長い時間だと感じました。
 うむ、と陛下が頷くのを見て、私はあっけにとられてしまいました。
 一体この人は何を言っているのだろう。
 計りがたい人だとは思っていましたが、今回ばかりは計るどころではなく理解不能。
 先ほど発したのも人間の言語かと疑ったほどです。
 恐ろしさも忘れてつい、まじまじと陛下を見つめてしまいました。
「あなたは…馬鹿ですか?」
 いつもならば決して口にしなかったような言葉がつい口から出てしまったとしても、仕方ありません。
 それほど吃驚していたのです。
 口に出してしまってからその言葉の不敬に気づき、身が縮こまる思いをしましたが、陛下はむすっとして、押し黙っていました。
 よくよくみると頬が赤らんでいます。
 ああ、これは照れているのだなと気が付くと、急に陛下を可愛らしいと思う気持ちが湧き上がってきて、くすくすと笑ってしまいました。
 私が笑うと、陛下はますます顔を真っ赤にして一言、笑うな、と仰いました。
 けれどその言葉に先ほどまでの王者の威厳は欠片もありません。
 そこに立っているのは、まだ初心な少年でした。
「陛下、お戯れもいい加減になさいませ。
 陛下にはもっと年若い、可愛らしい娘でないと。
 私のようなおばさんに、陛下の相手はつとまりませんわ。」
 では失礼。
 そう言ってスカートを翻し退出しようと思いましたが、それを遮ったのは、荒々しい抱擁でした。
「な……」
 何を、と言いかけた唇を強く吸われ、胸を無茶苦茶に揉まれました。
 その手つきがあまりに乱暴だったので眉をしかめ、抵抗しようと突っ張った腕は瞬く間に捻り上げられてしまいました。
「おやめ下さい、国王陛下!」
 体をねじり、必死でキスを逃れながら叫んだ声は、ドレスを破る音でかき消されました。
「いや、やめて…」
 必死で抵抗する私のあごを掴むと、陛下は私の唇を執拗に吸い、下着を剥いでいきました。
 涙のにじむ目で見上げると、陛下の目は赤く血走り、食い殺さんばかりの形相で私を見下ろしていました。
「ひっ………」
 あまりの恐ろしさに叫ぼうとしても、引きつったようなうめき声にしかなりません。
 まだ濡れてもいないような場所をいじられて、無理矢理貫かれました。
 その時に何と叫んだかは覚えておりません。きっと言葉ですらなかったのでしょう。
 陛下が私の中に精を放ったときは、霞がかかったような頭の中で、やっと終わった、とだけ感じました。
320王様と書記官:2008/01/08(火) 15:59:53 ID:AWDHW0fr
 事が済んだ後、私は放心したまま横たわっておりました。
 私もとうに乙女ではありませんでしたが、それでも男の人に体を開くなどと言うことがそうそうあったわけではありません。
 まだほんの年若で、与えられた役目の重圧にあえいでいた頃。
 うなだれていた私をかばい、励ましてくれていた方がおりました。
 お互いに心を寄せ合い、愛を誓い合った仲でした。
 謀反人の娘でも構わないと仰ってくれていたその方が、周りの声に抗いきれずに他家の娘と結婚することが決まったその夜。
 私とその方は、お互いの涙に濡れながら抱き合いました。
 それ以来、男の方と愛を交わしたことはありませんでした。
 自分でも心のどこかで、生涯あの方一人と決めておりました。
 その誓いが、こんなに容易く破れようとは思ってもいませんでした。
 呆然と見上げる天井は、重く冷ややかでした。
 月は、その姿すら見えないほど朧気で、それなのに光ばかりが差し込んで、陛下を残酷に照らしあげます。
 うつろになった体でぼんやりとその様を見ていると、ばさりと深緋が翻りました。
「お前は俺の閨役を務めるんだ。」
 これは決定事項だと、まるで書類を読み上げるような無機質な声で言うと、私の体に深緋のマントをうちかけました。
 深緋の色は、高貴な色。
 ただ一人、国王陛下にのみ許された色です。
 そのマントを掛けられると言うことは、所有か、もしくは死を意味しています。
 マントを掛けられ、私も観念しました。
「分かりました…」
 喉から出た声は、枯れた、かすれた声でしたが、陛下には届いたようで、満足げに目を細めるのが見えました。
 私はそれを見届け、ともすれば消えそうになる声で続けました。
「……貴方に体を許します。その代わり、この事は誰にも言わないで下さい。」
 もし私が国王陛下の愛人になったとしたら、その話は瞬く間に広がるでしょう。
 生涯ただ一人と誓った、あの方の元にまで。
 あの方にそのような噂を届かせたくはありませんでした。
 たとえあの方に妻がいようと、それでも私だけはただ一人、あの方だけを思っていたかった。
「秘密にしてください、お願い……」
 もう、この身は汚れてしまった。
 けれど、せめて表面だけでも清いままで。
 あの方に身を捧げたままでいたかった。
「秘密にせよと? 都合の良い、そんなこと聞くわけが…」
「聞かねば舌を噛んで、自害します」
 あざ笑う陛下の言葉を断ち切る厳しさを込めて言い放つと、陛下がびくりと震えた。
「随分外聞が悪いでしょうね、謀反人の娘が陛下の部屋で強姦された上に自害だなんて。
 お望みなら今この場で、舌を噛んでみせましょうか?」
 そう言って見せつけるように口を開き、突きだした舌をちろちろと揺らしながら、ゆっくりと歯を閉じていく。
 「分かった、分かったから止めよ!!」
 これには流石の陛下も慌てたらしく、すぐさま私に馬乗りになって口をこじ開け、舌を噛むことが出来ないように口の中に指を差し入れました。
 その動作があまりにも速かったので、私の方が驚いてしまったほどでした。
「そなたの言いたいことは分かった。そなたとのことは一切口外せぬ、誰にも秘密だ。
 だからもう、そのような真似をするな、良いな?」
 その言葉にこくんと頷き、あごの力を緩めたのを認めると、陛下は慎重に私の口から指を外しました。
「その代わり、そなたは俺の好きなときに体を開くのだ。よいな?」
 私はまた、頷きました。
 頷いた拍子にこぼれた涙に、月の光が映って見えました。
321王様と書記官:2008/01/08(火) 16:36:31 ID:AWDHW0fr
以上です。
王様と書記官で誰にも秘密、と言うシチュを考えたら
こんぐらがった設定になってしまいました。
322名無しさん@ピンキー:2008/01/08(火) 16:51:52 ID:/i1fkEKR
いや、面白いぞ。
続き、所望
323名無しさん@ピンキー:2008/01/08(火) 21:18:30 ID:rCG+hbBA
面白かった!続き!続き!
324名無しさん@ピンキー:2008/01/08(火) 23:44:09 ID:PCyu1Mpi
リトレさん、22歳はおばさんではない!仕方なく抱かれる〜みたいなところが最高でしたGJGJ!
325名無しさん@ピンキー:2008/01/09(水) 11:42:41 ID:u7KZT6Yq
朝チュンに近いものがあったから、そこに至るまでをじっくりねっとり書いてくれ
326名無しさん@ピンキー:2008/01/09(水) 18:42:20 ID:7dMMIOUC
うにさんまだ?
327名無しさん@ピンキー:2008/01/09(水) 20:43:08 ID:Ja+/hcUX
GJ!続きマダー?
328名無しさん@ピンキー:2008/01/09(水) 21:26:21 ID:GWdYIAL1
文乃!文乃!
329名無しさん@ピンキー:2008/01/09(水) 23:30:57 ID:7dMMIOUC
ほしゅ?
330王様と書記官 その2:2008/01/10(木) 23:43:17 ID:JC2w7ZFC
正月なので第二弾。


 王宮は多忙を極めていました。
 あと一月先に開催を控えた大舞踏会は冬越しの祭りと呼ばれ、その日には貴族も平民も、分け隔て無くお城に集い、歌い踊ります。
 この日に知り合った男女が結婚することも多いために、若い者を中心に城中の人間が……いえ、国中の人間が浮き足立つ季節です。
 そうなると、書記官の私も仕事が増えるわけです。
 冬越しの祭りの準備や、それまでに済ませてしまわなければならない仕事を済ませる為に文官総出で書類の山を処理したり、作り出したり。
 祭りのために王都へ出てくる地方領主との謁見の為の諸々の調整もやるわけですから、大忙しです。
「リトレ様、国王陛下に提出する書類が纏まりました!」
 そう声を掛けてきたのは、私の直属の部下であるディックです。
 今年で19になる彼は、若手の俊英と噂される頭脳の持ち主。
 まだ位階は三位と、書記官の中では駆け出しですが、これからが楽しみな青年です。
 受け取った書類を読みながら、その出来に感心します。
「良く纏まってるわ。流石ね、ディック。」
 そう言って書類から顔を上げると、緊張した面持ちだったディックの顔が、ぱっと笑顔になりました。
 喜怒哀楽が透けて見えるところが清々しくて軽く笑むと、ディックは真っ赤になって、ありがとうございますとお辞儀を返してくれました。
 とん、とん、と書類を揃えて袋に入れる。
 後はこれを陛下に提出すれば完了です。
「……あの、ディック。私はまだやらなきゃいけない仕事があるの。
 悪いけど、私の代わりに陛下にこれを持っていってくれる?」
 本来は、一位の書記官である自分が国王陛下の元に出向き、提出するべき書類です。
 けれどもどうしても、気が進みませんでした。
「え? 僕が陛下に、これを?」
「ええ。この書類はあなたが作ったものだし、あなたの方が上手く説明できると思うの、お願いね。」
 ディックに経験を積ませたいから、だから彼に頼むのだと心の中で言い訳じみた事も考えます。
 駄目押しのようによろしくねと言って、渋るディックを送り出しました。
331王様と書記官 その2:2008/01/10(木) 23:45:02 ID:JC2w7ZFC
「やっぱり、いきなりは無理だったかしら……」
 書記官室を出て行く時の半泣きだった彼を思うと、少し胸が痛みました。
 でも、あの書類を持っていくという事は、国王陛下と相対すると言うことなのです。
 私は陛下のあの、冷たく底光りのする金の目を思い出してしまい、両腕で自らの体を守るようにかき抱きました。
 あの夜。私と陛下、二人だけの密約が交わされてから、もう三月が経とうとしています。
あの日約束したとおり、陛下は私との関係を誰にも明かさず、表面上はそれまで通り、書記官と国王の間柄を続けております。
 私も初めはあまりに普段通りなので、あの夜のことは悪い夢か何かの冗談なのだと思いました。
 しかし、ある日いつものように陛下の執務室に行くと、いつかの夜のように人払いがされていました。
「失礼いたします。」
 衛兵も小間使いもいない執務室は、あの夜を思い起こすには充分でした。
 椅子から立ち上がり、近づいてくる陛下に、ドレスは破かないで欲しいと言うと、ちょっと目を丸くし、それから低い声で笑いながら頷きました。
 注文の多い人だ、と囁きながら口づけをされました。
 それから少し間を置いて、床でするのとソファでするのとどちらがいいかと聞かれました。
 床ですると背中がこすれて痛いのですが、ソファは窓際です。
 外から見えてしまう危険性もあるので床が良いですと答えると、陛下は私の希望通り、床の上でなさいました。
 陛下は目だけはぎらぎらと光って、欲望を露わにしていましたが、所作は年の割に落ち着いたもので、私の反応を観察なさっているかのようでした。
 政務に没頭していた国王陛下には浮いた話の欠片もありませんでしたから、女性の身体が珍しかったのかもしれません。
 それからは、執務室に行くと陛下に求められるようになりました。
 珍しい物でも扱うように私の反応を引き出してゆくことで、陛下自身もまた、上達してゆきました。
 「陛下の望む時に抱かれる」という約束をしてしまった以上、求めに応じないわけには参りません。
 陛下の方は「決して誰にも話さない」という約束を守ってくださっているのですから、なおさら私が拒むわけにはいかないのです。
 けれど、今回は間が悪すぎました。
 冬越しの祭りの準備でただでさえ疲れているというのに、陛下のお相手までしていたら、それこそ身が持たないというものです。
 更に、やっぱりこれも冬越しの祭りのせいですが、陛下に決済を求めるべき書類が異常と言っていいほどの数になっているのです。
 それまでは多くて三日に一度陛下の元に参上すればいいほどだったのですが、ここ一週間は毎日と言っていいほどに陛下の執務室を訪れています。
 そして、執務室を訪れる度に抱かれているのですから、ここ一週間の疲労は尋常ではありません。
 一昨日は四回も書類を持っていく事になり、色々な意味で死にそうになりました。
 流石に4回目をなさろうとしたときには「駄目です」と拒否して譲らなかったのですが、結局私が陛下に口で奉仕することになってしまいました。
「それは嫌です」とごねると、「嫌なら襲うぞ」と脅されたのです。
 おまけに全部飲め、などと言う始末。
 私が「こんな事は金輪際しないで下さい」と言うと、では抱かせろ、の一点張り。そんな事を言われても困ると言うと、約束が違う、お前はいつでも俺の望むままになると約束したではないか、と反論なさいます。
 結局は、陛下の仰るとおりにするしかありません。律儀に守られた約束は有り難いのですが、それは私をも拘束するものでした。
「身が持たないわ……」
 今も刻々と増えつつある書類の中で、こっそり呟きました。
332王様と書記官 その2:2008/01/10(木) 23:50:47 ID:JC2w7ZFC
 ディックが真っ青になって帰ってきたのは、彼を送り出してから暫くのことでした。
 何でも、私が参上しないことで陛下にねちねちと嫌味を言われ、上手く答えられなかった部分をしつこく追求された挙げ句、
「これでは埒があかぬ、リトレを呼んでこい」
 と言われたのだそうです。
 可哀想にディックは、唇の先まで蒼くなって
「ごめんなさい、ごめんなさい」
 と繰り返すばかりです。
 元はと言えば、陛下の元に行くのを避けようとした私に非があります。
 申し訳なく思って、ディックの震える手を取り、手の震えが収まるまで握ってあげました。
「謝るのは私の方よ。一人で行かせてしまったりしてごめんなさい。書類はしっかりしてるのだから、これに文句を付ける陛下の方が意地悪なのよ。」
 そう言って励ますと、ディックはみるみる血色が良くなっていきました。
「私が今から行って、お話してくるから安心して。きっと陛下も分かってくださるわ。」
 スカートを翻し書記官室を後にすると、むかむかと怒りがこみ上げてきます。
 彼の答えられなかった部分は報告の全体には関わってこないような枝葉の部分。
 あんなになるまでいじめられるような事ではありません。
 この忙しい時に可愛い部下を潰すだなんて、なんていう王様なのかしら!
 ぷりぷりと怒りながら陛下の執務室をノックすると、「入ってよいぞ」という了承の声も聞かず、陛下の執務室に飛び込みました。
「リトレ、随分と早く来たな」
 執務室の机の向こうに座っている陛下は、ディックをさんざん苛めてすっきりしたのでしょう。
 やけに上機嫌でした。
「私の部下をいじめて、そんなに楽しいんですか?」
 言葉に精一杯のトゲをまとわりつかせながら睨むと、陛下はにやにや笑いながら手招きをなさいました。
 私は先ほどディックから手渡された書類を持って、ずんずんと進んでゆきました。
333王様と書記官 その2:2008/01/10(木) 23:58:43 ID:JC2w7ZFC
「そっちではない、こっちだ」
 と陛下が自分の膝を指さしましたが取り合わず、書類の束を机に叩きつけました。
「一体どう言うつもりですか、この忙しい時に!
事と次第によっては、陛下でも許しませんよ!」
 腰に手をやって、本気で怒って抗議しているというのに、陛下はぬけぬけと
「だからそっちではない、そなたが来るのは俺の膝の上だ」
 と仰いました。
「何、ふざけたことを言ってるんですか!!」
「お前は部下の不始末を詫びに来たのだろう。
それならば俺の言うことを聞いて、俺の怒りを解く為に尽力するのが筋というものではないのか?」
 可愛い部下にいちゃもんをつけておいて何を、と思いましたが、
ここで下手に機嫌を損ねたら、有望な若者の前途が断たれてしまうかも知れません。
 私は怒りを抑えて、大人しく陛下の膝の上に乗ることにしました。
334王様と書記官 その2:2008/01/11(金) 00:01:02 ID:JC2w7ZFC
「では、失礼いたします。」
 スカートの裾を押さえ、貴婦人が乗馬する時のように横座りになって陛下のお膝に乗ると、違う、と言われてしまいました。
 こう、足を広げて陛下にまたがれと仰っているようで、私は随分嫌がったのですが結局は強引に押し切られ、恥ずかしい格好で陛下のお膝の上に乗っかることになってしまいました。
「ん、こうですか…?」
 スカートの裾がめくれて、露わになってしまう太腿を隠そうとすると、陛下にその手を制止されました。
「駄目だ。俺の背中に手をまわせ。」
 大人しくその言葉に従いながらも、スカートをどうにかしたくてもじもじしていると、
「恥ずかしいのか?」
 と、聞かれました。私が素直に「はい」と答えると、にんまりと笑って
「ならば、俺がそなたのスカートを直してやろうかな?」
 と言いながら、太腿をすっと撫でました。
「あっ……」
 思わず、溜息よりも甘い声が漏れてしまいます。はしたない声を漏らしてしまったことに恥じらいを覚えながら、それでも今は陛下に従うしかありません。
「陛下……。お願いします、どうかスカートを直して下さいませ……」
 甘くかすれる声を自覚しながら、私は陛下を見上げ、懇願しました。
 けれど陛下は金の目を輝かせながら意地悪そうに笑うばかり。
「さて、どうしよう。さっきは随分威勢の良いことを言っていたな。」
 言いながら陛下の手は、私の太腿をじっくりと味わうかのように動きます。
「陛下、いい加減おやめ下さい……!」
「俺の気が済んだら止めてやるさ」
 逃げようとしても、膝の上では逃げ場はありません。
 太腿への愛撫はいつしか秘所へも及び、身動きが取れないままに私の身体は解きほぐされてゆきました。
 陛下の指に目に舌に、嬲られるがままに身をくねらせ、喘いでいるうちに、剥ぎ取られたドレスがふわりと床に落ちました。
「ああ……陛下、いやぁ…………」
 執務室で、しかも陛下の膝の上で嬲られることに羞恥を覚えその身を縮こまらせると、陛下は嬉しそうに笑って「お仕置きだ」と言い、私の中へと入ってきました。
335王様と書記官 その2:2008/01/11(金) 00:02:11 ID:WYBRWiYb
 もう、何のための、何をした事によるお仕置きなのかもよく分からずに陛下の「お仕置き」を一身に受け、途中からは、これが「お仕置き」なのだ、と言うことすらも分からなくなっていました。
「よいか。これからそなたの部署の書類は全て、お前が持ってくるのだ。それがお前の仕事だろう?」
 さぼりおって、と言いながら陛下は私の腰を揺らします。
 密室に、隠微な音が響き渡りました。
 そうして正体をなくすほどの「お仕置き」をされた後に、気が付けば私は陛下に「一日一回は必ず陛下の元に参上すること」を誓わされていました。
 私が嫌だと言うと「うんと言うまでいかせてやらぬ」とまで言われ、泣く泣く条件を飲むことになったのです。
 その代わりに、陛下には「理不尽に家臣を怒らない」という条件を飲ませました。
 いつものように身なりを正しながら、陛下はもっと沢山の文官と触れあわなくてはなりません、と言うと、ちょっと嫌そうな顔をして、
「そなた以外の文官って……男しかおらんだろう?」
 男となど誰が触れあうか、という考えがその顔にありありと書かれていたので、
「ご不満なら女官も付けますが?」
 と言うと、「違う違うそうじゃない、そう言う意味ではないのだ!!」とか何とか言った後、「女官は付けずとも良い」と仰いました。
 いつものように居住まいを正し、退出するとき。
「リトレ」
 声を掛けられ振り向くと、陛下は私にそっと口づけを落とされて、
「また明日」
 そう、おっしゃいました。
「明日……ですか」
 思わず引きつった私の顔を面白そうに眺めると、
「明日、だ」
 そう言って、にっこりと。そこだけはやけにあどけない、年相応の顔で笑いました。
336王様と書記官 その2:2008/01/11(金) 00:05:00 ID:JC2w7ZFC
以上です。
ここまでエロを書き込んだのは初めてなので、うぷ主自身が羞恥プレイ。
改行が上手くいかなかった部分もあるので目に優しくなくてすいません。
337名無しさん@ピンキー:2008/01/11(金) 01:33:01 ID:ek6iSK/u
GJ
338337:2008/01/11(金) 01:36:53 ID:ek6iSK/u
途中送信してしまった。スマン
続きありがとう!投下お疲れ様
絶倫陛下が読めて、起きててよかったw
GJ、GJです
339名無しさん@ピンキー:2008/01/11(金) 02:11:18 ID:z6m2msy8
保守してきた甲斐があった!GJありがとう
やきもちやいた激しい王とかも見たいな。
340名無しさん@ピンキー:2008/01/11(金) 22:14:33 ID:z98dyK+b
GJ

いいよ、いいよー
はじめは温度差があるのは珍しいと思ってたけど、こういう展開もいいね
341名無しさん@ピンキー:2008/01/11(金) 23:03:39 ID:cnTSt0Nl
ほっしゅほっしゅ
342王様と書記官 その2.5:2008/01/12(土) 09:38:08 ID:cXr8Lyes
お正月のあまりもの。
エロ無しですが、微妙に続いてるので投下します。


 年越えの祭りが終わってもまだ春は遠く、寒空の下で細々と鳴く鳥の声は春を恋しがっているかのようです。
「今年の年越えの祭りは盛況だったな」
 と陛下が仰ったのは、もはや「いつもの」と言うしかない行為が終わった後でした。
 身を起こすと仕草は気怠げで、陛下の汗ばんだ身体には行為の後の濃密な空気が漂っています。
 私は白貂の外套にその身を横たえたまま、冷たく澄んだ光で映し出される陛下の姿をぼんやりと見上げておりました。
「みたいですね。私は会場の方には顔を出していないので知りませんが、
 お嬢様方が陛下と踊っていただいたって大騒ぎしてましたね」
 ことん、と頭を陛下のお体にもたれかけます。
「何だお前、祭りに参加しなかったのか? 道理で姿が見えないと思ったら」
「生憎と、書類の山に埋もれてましたので」
 素知らぬふりでそう言うと、ぽんぽんと頭を撫でられました。
「勿体ないことを。今年はこれでもかと言うほど大勢の娘と踊り倒してやったんだ、
 リトレとだって一曲くらい踊ってやったかもしれんというのに」
 撫でられた部分からひたひたと、私の身体を冷気が浸食してゆきます。
 私は身体の熱を奪い去られないように外套に身を潜めました。
「踊りはあまり、好きではありませんから」
「嘘を申すな。踊りが好きで、年越えの祭りを楽しみにしていたとそなたの父が……」
 そこまで言って気が付いたのでしょう、陛下は口をつぐみました。
 罪人として父が死んだ後、私の周りから急速に人が消えてゆきました。
 爵位こそ剥奪されなかったものの一人残された娘を見て、人々は正しく私の立場を理解したのです。
恭順の意を示して領地を差しだし、市井の中に紛れようとした私を、書記官として王城に留まらせたのは陛下ご自身。
 それは、思い上がった一族の末路を皆に忘れさせないようにする為でした。
 そのような人間が、どうして祭りなどに顔を出せるでしょう。

「約束だよ、リトレ。一緒に年越えの祭りに出よう。僕が貴方を誘うから」

 束の間、日だまりの中にいるような安らぎを感じさせてくれる日々もありました。
それはあっけなくかき消えて、果たされないままの約束が私の手元に残りました。
 気まずそうに目をさ迷わせている陛下の狼狽えようが可哀想になって、私はそっと、冷気に浸された部屋の空気を撫ぜるように笑いました。
 覚え立てのステップを踏み、それを夢見ていたのは、ずっとずっと昔のことです。
 沢山のおしゃべりと、刺繍と踊り。ひたすら甘いもので形作られていた時代。
「もう、好きではないのです」
 だから、そんな顔なさらないで。
 言外にそう伝えると、陛下はますます眉根を寄せられ、難しい顔をして俯きました。
 冷えきった室内で身なりを整え、扉に手を掛けたとき。
「すまない」
 絞り出された小さな声を、私は聞こえなかった振りをして退出しました。
343王様と書記官 その2.5:2008/01/12(土) 09:42:55 ID:cXr8Lyes
以上です。
お付き合いありがとうございました。。
344名無しさん@ピンキー:2008/01/12(土) 18:01:11 ID:BrdAvV1s
GJ!切なくっていい感じ。ハムスターのように空回りしている王様がいいですね。
345名無しさん@ピンキー:2008/01/12(土) 23:44:45 ID:p2GgR2Gh
王様と書記官、素晴らしい。
続きを激しく狂おしくキボンヌ。
でも作者さんの負担になるのは本意ではないので、
無理なら無理でいいです。
346名無しさん@ピンキー:2008/01/13(日) 20:17:22 ID:K7+qlpSv
保守がてらどうでもいい小話を投下してみる。改行変ですまん

「…はッ……あ…いや…もう、許してください……王子…」
「王子ではない、リオンだ」
俺のものになってもう半年が経つというのに、寝屋では名前で呼べと命令しているのに、この女は一向に命令を聞こうとしない。
……忌々しいな。
独占欲と焦燥感が入り混じったような、なんとも言えない気持ちを目の前の透けるような白い肌にぶつける。
「いやッ…あ…もうこれ以上はやめてください…」
「こんなに濡らして…」
触ってくれと言わんばかりに主張している膨れ上がった芽を、愛液を絡めながら中指で刺激すると、女は豊満な肉体をくねらせてよじった。
「あああああ…!!だめぇ!」
何がだめなんだ。この女の、俺を拒むような態度が気に食わない。
いつまでたっても…。
無意識のうちに女の身体に口づける。
首に、肩に、胸に。
「!王子、おやめ下さい!跡が残ってしまいます……服、服で隠れないところはどうか」
「見せつければいいだろう。おまえが実質俺の妾であるということは周知の事実だ」
「……!」
「それと王子ではない。…リオンだ」
女の耳元で囁きながら、自身のものを深く埋めてゆく。
347名無しさん@ピンキー:2008/01/13(日) 20:18:54 ID:K7+qlpSv
出会いは偶然だった。
鷹狩りの最中に偶然見かけ、その美しさに目を奪われた。
自らの権威を利用したのはその時が初めてだった。
結婚間近であった女を城へ無理矢理連れ帰り、自分付きの召使いにした。

その時から女は俺に笑いかけない。一度たりとも。
俺の地位と容姿に媚びる女共は腐る程いる。
隙あらばコネを作ろうとする武官や文官も多数いる。どうでもよい者ばかりが集まってくる。
俺が必要とする者たちは俺を嫌うのだ。
………この女も……両親も…………。

「…皮肉なことだな」
自嘲的な台詞を吐きながらも、次第に高まる快感に目を細めて耐える。
この女の泣き顔は見慣れたものだ。いくらでも泣くがいい。
どんなに泣いても喚いても、………離してやらない。


以上。スレ活性化を願って。
348名無しさん@ピンキー:2008/01/13(日) 21:37:13 ID:fWIedlBD
GJ!
淋しがり王子、可愛いな。
349名無しさん@ピンキー:2008/01/15(火) 00:03:17 ID:kZwxTKXh
GJ!こーゆう暗めの一方的なのも嫌いじゃない
350名無しさん@ピンキー:2008/01/15(火) 22:10:13 ID:IiD+PKIe
GJ! おいしく頂きました。
351名無しさん@ピンキー:2008/01/18(金) 01:13:01 ID:cEkZqdX5
いったん浮上
352名無しさん@ピンキー:2008/01/20(日) 14:36:03 ID:166ZtjQP
保守
353名無しさん@ピンキー:2008/01/20(日) 19:05:20 ID:uauyzmDJ
男・王子
女・部下の女騎士
でSMありのやつを書きたいんだけど携帯からでいつ書き終わるかわからないので
もう少し案を練ってから登校します。
354名無しさん@ピンキー:2008/01/24(木) 01:39:54 ID:sqo9pfBA
春休みになる前に登校してくれると嬉しいな
スカは苦手だがSMは好きなんでwktkして待ってるよ
355名無しさん@ピンキー:2008/01/25(金) 18:28:52 ID:bXuWGW1m
保管庫から削除してもらえるってユリシスの人が前にブログかいてたけど消えてないように見えるのは俺だけ?
ユリシスの人に削除されてないって教えてやるべき?
356名無しさん@ピンキー:2008/01/25(金) 18:48:51 ID:1Z41W2sm
ほっとけば?
357名無しさん@ピンキー:2008/01/25(金) 22:08:11 ID:kEvu4fum
好きにすりゃいいだろ、そんなの
358名無しさん@ピンキー:2008/01/26(土) 00:17:52 ID:6ECFn8go
>>355
お前みたいなのがいるから職人さん達いなくなったんだと思うんだ。自重しろ。



姉妹スレにも書いたんだけどこっちにも書く。

ここも姉妹スレも過疎ってきてることだし合併してはどうだろう?
359名無しさん@ピンキー:2008/01/26(土) 00:45:55 ID:/tvJ0PPR
>>358
姉妹スレとじゃスレの趣旨が違いすぎないか?
360名無しさん@ピンキー:2008/01/26(土) 01:45:31 ID:q3hHgeZp
>>359
主従スレのことだろ
一緒でいいんでないか
361名無しさん@ピンキー:2008/01/26(土) 19:31:03 ID:xvfDLL0T
合併賛成。だけどタイミングが…。
実はあっちの新スレ立てるときに提案しようと思ってたんだけどいつの間にか立っていたorz
まだ17レスだから、「今から統合です」で間に合うかだけが心配。
362名無しさん@ピンキー:2008/01/31(木) 12:12:04 ID:bKsSLQIB
むこうで次スレからって話が出てるみたいだし、
ここが埋まってから引っ越すのでおk?
363名無しさん@ピンキー:2008/02/04(月) 22:36:33 ID:iKhNGaTw
一応保守
364名無しさん@ピンキー:2008/02/04(月) 23:06:51 ID:151436rC
それでいいと思う。今はどっちのスレも容量あまってるから。
365名無しさん@ピンキー:2008/02/06(水) 13:05:33 ID:jnFUf0GY
保守
366名無しさん@ピンキー:2008/02/08(金) 15:45:13 ID:7uCJ4tfi
俺もそれで良いかな。

ところでここは社長×秘書とか、現代物もいけるのか?
367名無しさん@ピンキー:2008/02/08(金) 15:51:42 ID:xOD/5duO
問題ないかと
368名無しさん@ピンキー:2008/02/08(金) 17:23:46 ID:BKZ5AE00
>>366
大好物です。ぜひお願いします!
369名無しさん@ピンキー:2008/02/08(金) 17:33:41 ID:Qiq/dHTi
社会的な地位や主従関係は男>女で、
男がドMで、女がドSな場合、どっちのスレに投下すればいいんでしょうか?
例:ドSメイドとドMご主人様
370名無しさん@ピンキー:2008/02/08(金) 18:52:14 ID:Yqoa0r/d
>>369
本来の主従関係のスレに一言注意書きして投下するほうがいいと思う
どうしても気になるなら合併するまで待つとか
どっちにしろ注釈は必要
371名無しさん@ピンキー:2008/02/12(火) 18:17:05 ID:haYj7mTD
これは?携帯だけだけど
ttp://courseagain.com
372王様と書記官 その3:2008/02/14(木) 23:41:16 ID:TaR6f0Qz
バレンタインの滑り込みで投下させていただきます。
373王様と書記官 その3:2008/02/14(木) 23:43:39 ID:TaR6f0Qz
「ところでな、これには媚薬が入っているのだ」
 そう言って手渡されたのはチョコレートでした。
 いつものように陛下の元に参上すると、手招きをされ、右手にころんと黒い固まりを落とされたのです。
「びっ……な、何でこんな物を、陛下っ!!」
 そんな汚らわしい物、本当は窓の外にでも投げ捨ててしまいたいのですが、国王陛下から寄越された物を粗末にするわけにはいきません。
「ふ、ふざけたことは止めて下さい。どうせただのチョコレートなのでしょう? 
 そんなっ……媚薬入りのチョコレートなんて、そうそう手に入るわけがないじゃないですかっ!!」
 手の平にチョコレートを載せたまま、半泣きになって陛下を見ると、陛下は金色の目を実に愉快そうに細めておりました。
「実は、今朝方レジオン卿がやって来てな。俺に女性関係の噂が無いので
『これと思う女性がいたら押し倒せば良いんです! やったもん勝ちです、
媚薬でめろめろにして押し倒してしまいなさい!』といってな、これを押しつけられた」
 陛下はその時の事でも思い出したのか、やれやれといったご様子で肩をすくめてみせました。
「レジオン卿ですか…あの方、陛下にまでそんなものを……」
「何だ、知ってるのか?」
「以前、『貴方は嫁き遅れもいいところだから、これでもつけたら誰かが貰ってくれるでしょう』と、ほれ薬入りの香水とやらを頂きました……」
 女性に香水を送り付ける所といい、二重に失礼な方でした。
 私個人への嫌がらせかと思えばそうでもなく、会う人会う人に変な贈り物をして嫌がられているんだとか。
 巷では『愛の押し売り伝道者』と呼ばれている方です。
「それはまた、災難だったな」
「ええ、とっても」
 思い出しても溜息が出ます。
 そう言って溜息をついてみせると、笑われてしまいました。
陛下の笑い声にふくれっ面をして見せながら、そっと陛下のお顔を窺います。
 引き結ばれている口元が緩むと、年齢よりもなお若く、子供のようなお顔になるのです。
 自分でもそれを意識しているようで、陛下はあまり笑いたがりません。
 そんな所が余計に子供じみていて、密かに微笑ましかったりするのですが、それはともかく。
 今は手の上のチョコレートです。
「溶けておるぞ」
「知ってます」
374王様と書記官 その3:2008/02/14(木) 23:45:22 ID:TaR6f0Qz
 手の平の体温で柔らかくなったチョコレートは、溶けすぎてどうにも出来ない状態になっていました。
「食べぬのか」
「謹んでお断りいたします」
「だが、もう返して貰うことも出来ぬほどに溶けてしまっているな」
「こんなもの、手を洗えば済むことです」
「勿体ないではないか」
「チョコレートに媚薬などを混ぜ込んだ時点で既に勿体なくなってます。
 全く、城下にはお腹を空かせている子供だっておりますのに」
 お菓子で遊ぶなんて、と憤ると、陛下がまた笑いました。
「全く、リトレはいつも生真面目だな」
 そう言って私の右手を引き寄せると、手の平をぺろりと舐めました。
「へ、陛下っ……!!」
「勿体ないだろう?」
 思わず引っ込めようとした手を強く引き戻され、体のバランスが崩れました。
「きゃあっ!」
 ここで陛下に倒れ込んだりしては大変です。
 とっさに陛下のお座りになっている椅子の背もたれに手を付いて、何とか踏みとどまることが出来ました。
 根性です。
 私がそんな風になっているのを余所目に、陛下は丹念にチョコレートを舐め取ってゆかれます。 
「陛下、あの……」
「黙っていろ」
 それ以上は言いつのることも出来ず、右手を陛下に委ね、中腰のままじっとしていると、陛下のつむじが目に入りました。
 されるがままという状況が何だか口惜しくて、つむじでも押してやろうかしらと思いましたが、流石にそんな事を国王陛下に出来よう筈もありません。
 暫く左手を陛下の頭の辺りでうろつかせていましたが、指先に触れた髪の毛の感触が思ったよりも硬い事に驚いて、手を引っ込めました。
 舌が掌の上を這う感触はこそばゆくて、何だかこのままじっとしていたいような、暴れだしたいような、妙な感じがいたします。
 そうしてもじもじしていると、陛下は立ち上がりざま私の身体をぐいと引き寄せ、キスをなさいました。
「んっ……」
 口の中に甘くて苦い液体が流し込まれ、こくり、と喉が動きました。
 チョコレートの味の口づけに身体は甘く痺れ、いつの間にか陛下に縋り付いておりました。
375王様と書記官 その3:2008/02/14(木) 23:47:39 ID:TaR6f0Qz
「……どうだ、効いただろう?」
 なぜか得意気な陛下の声に我に返って、急いで身体を離しました。
「そ、そんなわけないじゃないですか。たかがチョコレートですよ、ばかばかしい」
 後ずさりながら早口に言うと、やっぱりそうかと陛下が呟きました。
「レジオン卿が退出するときに言っていたんだ。
 『陛下、女性にとって甘い物はときに媚薬以上の効果を発揮します。
 試してみる価値はあると思いますよ』とな」
「な……。じゃあ媚薬って、嘘じゃないですか!」
「いいや。俺に渡すとき、レジオン卿は確かに『媚薬入りだ』と言ったぞ」
「え? でも……」
「レジオン卿が何を考えているかは、俺にはいまいち分からん。
純粋にチョコレートかもしれんし、本当に媚薬が入っているのかもしれん。
リトレ、そなたはどう思う?」
「えっと……び、媚薬という物を飲んだことがないから何とも言えませんが……
 私には、普通のチョコレートのように感じます」
 口の中に残る甘い味を確かめながら私がそう言うと、陛下はちょっと考えてから
「媚薬だと言うことにしてしまわんか?」
 と、仰いました。
「え?」
「だから、これは媚薬だったのだ。よいな」
 言ってまた、私に長い口づけをなさいました。
「……っ、んっ……」
 思わず漏れた甘い息に、陛下はにやりと笑いました。
 ああ、確かにこれは媚薬かもしれません。
 だって、チョコレートより甘くて熱い。
「効いてきたのではないか。随分と感じた顔をしている」
 言葉に詰まって目をそらすと、陛下は服の曲線にそって私の身体をなぞってゆきます。
 肩から胸へ。
 ゆっくりと降りてきた手は、服のダーツに沿って降りてゆき、腰まで来ると、
また胸へと上がってゆきます。
 陛下の手は何度も胸と腰の間を往復なさいました。
 服と肌がこすれる音が恥ずかしくて辺りに目をやると、タペストリに織り込まれた
女神達が、アーモンドのような瞳で見下ろしておりました。
 まるで見られているような気恥ずかしさを覚えて目を伏せ、胸を揉み込まれる感覚に
耐えていると、スカートをたくし上げられました。
 そのまま下着の中に潜り込んだ指が、室内に湿った音を響かせます。
「もう……よいな」
 我慢できない、という色が滲んだ声で陛下に囁かれ、私も思わず頷いておりました。
376王様と書記官 その3:2008/02/14(木) 23:49:29 ID:TaR6f0Qz
「あぁ……すごい」
 壁に掛かったタペストリの上に縫い止められるような格好で貫かれ、思わず出て
しまった言葉を恥じ入る間もなく突き上げられておりました。
 豊饒の女神の上で交わるなんて、という私の言葉を嘲笑うように
深く、浅く、と責め立てられ、いつしか我を忘れて交わっておりました。
「良かったぞ、リトレ」
 ようやく我に返ったのは、陛下に耳元で囁きかけられてからのことです。
 途中はあまり覚えていないのですが……いえ、思い出したくもありません。
 あんな、ねだるような…………何でもないです、何でもないのです!
「あんなに可愛いお前は初めて見た」
 だから知りませんってば、そんな事!!
 私が真っ赤になってそっぽを向くと、陛下はおもしろがって、最中に私が発した
うわごとを耳元で囁いてゆきます。
「な……何でそんなこと、細々と覚えてらっしゃるんですか、いやらしい!!」
「そうは言っても、あんな可愛らしい声でもっともっととせがまれたら、
忘れろという方が酷というものだろう」
「やめてっ! やめて下さい!!」
「嬉しそうに声を上げて、搾り取られるかと思ったぞ。
 恥ずかしいとか言いながら、あそこは貪欲に……」
「違います! あれは……」
「あれは? 何なのだ、一体」
 反論できるものならやってみろ、とからかう陛下が小憎らしくて睨み付けると、
怖い怖いと首をすくめて笑われてしまいました。
 それ以来、抱かれる時に嫌だと言えなくなってしまいました。
 何しろ、あれほど乱れたのです。
 「嫌」と言っても、陛下は笑いながら「お前は嘘つきだ」と仰るのです。
 そこでやっきになって否定するのも気恥ずかしく、何も言えなくなってしまいました。
 それはその……段々気持ちよくなっているのは確かなのですが、決して積極的に
いたしているわけではありません。
 それなのに、まるで喜んで抱かれているように言われて、反論も出来ないなんて。
 あんまり口惜しいので、残りのチョコレートは全て没収して焼却炉に放り込んでおきました。


 あれから、チョコレートを食べる時に赤面してしまうことは誰にも秘密です。
377王様と書記官 その3:2008/02/14(木) 23:53:51 ID:TaR6f0Qz
以上です。

以前の話にコメント下さった方、有り難うございます。
やっつけなので色々あれですが、せっかくのバレンタインなので投下しました。
378社長と秘書:2008/02/15(金) 03:28:59 ID:mD6FawpP
机のうえの携帯が震えながら光る。



……五分後、私は社長室の前にいた。

五分前にかかってきた電話は社長からだった。通常、会社内の業務連絡などは内線を使う。
そう、これは誰にも秘密の会話…………


社長室の中にはいると、窓際の豪華なデスクに20代後半の青年が座っていた。
その青年こそ、起業して五年でこの会社を名の通る企業に育てた社長、中丸雄二だ。

「……お呼びですか?」

呼び出されてすることはわかっているが、あえて聞く。

「スカートをめくれ」

私は命令通りにタイトスカートを腰までずり上げる。
露出した下半身にはガーターベルトとストッキングを除いて纏っているものは何もない。

「よし、じゃあ始めるか」

そう言って彼がこちらに向かってくる……



ダメだ、つまらないorz
379名無しさん@ピンキー:2008/02/15(金) 04:24:47 ID:dj+aiM4f
王様と書記官きてたー!
今回は王様も心身ともにご満足されたことでしょうw
いじましいなあ。ハムスターから進化できてよかったよかった。
リトレさんの複雑な境遇や心情を思うと切なくなるけれど
今後どう展開していくのか楽しみにしています。
380弁護士秘書 茉莉花:2008/02/17(日) 12:37:06 ID:7rpH2LKG
「木野茉莉加君。何で呼ばれたかは……見当が付くな?」

 怒りを押し殺した低い声で呼ぶと、彼女は青くなりながらこくこくと頷いた。
 その様子を確認しながら、坂井は書類を半ば叩きつけるように机に置いた。
「読んでみたまえ」
「は……はひっ!」
 声がうわずってるな、と思いながら彼女の様子をじっくり見つめる。
 書類をめくる手は小さく細く、あまり労働には向かない手だ。
 茉莉花は震えながら一枚一枚書類をめくっていく。
「それは何だか分かるか?」
「こ、今度の裁判の資料です」
「それを誰が作った?」
「私……です」
「なぜ23箇所も誤植があるんだ?」
「そんなに少ないんですか?」
「木野君っ!!」
 ばん、と机を叩くと茉莉花はびくりと震え、ついでに一歩後ずさっていた。
「す、すいません……でも、前回が51個だったから、随分減ったなあと思ったんです」
「君って人は……」
 坂井が睨み付けると、彼女は身体を縮こまらせた。
 そうすれば書類の陰に隠れられるとでも思っているのだろうか。
 馬鹿じゃないのかと呟くと、今度は狂ったようにぺこぺことお辞儀を繰り返す。
「ご、ごめんなさい、善処します、頑張ります、精進しますっ!」
「昨日もその台詞を聞いたぞ。なのに君には全然進歩がない」
「あの、51から23というのは飛躍的な進歩だと」
「反省の色無しか、仕方ないな……机に手を付いて尻を突き出せ」
 溜息をつき、突き放した口調で命令する。
「せっ……せせせ先生、それは」
「黙ってろ。俺は昨日3時間しか寝てない、つまり機嫌が悪い。
言う通りにしないと手加減は出来ないぞ」
 彼女は暫くおたおたしていたが、坂井が促すように顎をしゃくると、書類を机に置き、
その横に手を付いた。
 そのままゆっくり腰を上げ、椅子に座ったままの坂井を懇願するように見つめた。
 悲痛な瞳に哀れみの感情がこみ上げたが、坂井はわざと視線を外し引き出しを開ける。

「今日はどんな道具が良い?」
 引き出しの中の物を一つずつ、彼女の目の前に並べてゆく。

 バイブレーター、ローター、鞭、セロハンテープ、ローション、消しゴム。

 一つ机の上に置く毎に、彼女は青ざめたり真っ赤になったりする。
 その反応が面白いので、たまに関係のない物を混ぜて並べてゆくのだが、
彼女はそれに気が付いていないようだった。
 それどころか、どのように使うのかと想像しつつ混乱しているらしく、
特大サイズのゼムクリップを置いたら顔が歪んだ。
 飴玉、シャープペン、ホチキスと並べたところで泣き出しそうになったので、
そろそろかと思い、坂井は席を立った。

 坂井は茉莉花の背後に立つとスカートをめくり上げた。
「命令の通りちゃんとガーターをつけてきたんだな。これだけは褒めてやろう」
 言って尻を撫でると、茉莉花はひう、と涙混じりの声を上げる。
 下着を引きずり下ろすと赤い裂け目が濡れそぼっていた。
「まず、誤植の数だけ鞭打ってやる。その後はこの中から一つ使ってお仕置きを
するから覚悟しとけよ」



という、保守。
381名無しさん@ピンキー:2008/02/17(日) 12:52:17 ID:f8MZNAj1
(;´Д`)
382名無しさん@ピンキー:2008/02/17(日) 16:23:38 ID:fONkKLIc
セクレタリーという映画があってだな
383名無しさん@ピンキー:2008/02/17(日) 20:54:54 ID:V4cmlcuU
ああ、あれはいい映画だった。
Mは究極のSという。

保守GJ。
384名無しさん@ピンキー:2008/02/17(日) 20:58:50 ID:wld8HR/w
>>377
遅ればせながら、GJ!

リトレさん、可愛らし過ぎる。
そして、>>379と同じく王様が少しはリトレさんに受け入れてもらえて良かったなぁと(2.5がチト暗かったらね)。

続きを楽しみにしています!
385保守:2008/02/21(木) 00:58:38 ID:oa9x0AYY
「あ、だめです……だんさまっ、ふあっ…いけません! なか、は……あっ、ああっ」
 今にも達しそうな私の高ぶりを内部で感じているようで彼女は力の入らない腕で必死に私の胸を押す。体を離そうとしているくせに、内部は蠢き吸い付き私の精を搾り取らんと複雑に締め付ける。
「大人しくして」
「あっ……できちゃ、っ! あッ」
「いいかい。こうして私たちが交わることは大事なことなのだよ」
 冷静に語りかけたつもりが声がだいぶ上擦っている。
 彼女が一瞬怯んだ隙に、深々と奥まで突き込んで欲望のすべてを吐き出した。
 射精感が全身を支配し、彼女のすべてを満たした歓喜に私は身を震わせる。
「ああ、私の可愛いレディー」
 繋がったまま抱き寄せると彼女の中がきゅっと締まった。
「いけませんと申しましたのに」
「さっきも言ったけれど私たちが交わることはとても重要なことだ」
 髪を避けて額に口づけ、私は彼女に微笑みかけた。
「時にはこうして交わり、その様を皆に見ていただくことでスレの存続を保たねばならない」
「しかし旦那様。それは中で果てることとは関係がないのでは」
「それは違う。私と君の間に子ができればその子が保守というかけがえのない仕事を継いでくれる」
 彼女は納得がいかないような顔をしている。言っていることに嘘はないが、中で果てたかっただけというのが理由の八割だとバレているのかもしれない。
 私はまだ衰えていない滾る欲望を使い、彼女を丸め込むことに決めた。
「ほら、もう一度。神々の降臨を待つ間、スレを保守しなければ」
「や、だんなさま……少しやすませ、ああっ」
「だめだよ。そうして気を抜いている間に圧縮がきたらどうするんだい? 神々を待つ間は私たちがスレを守るんだ。義務なのだから、さあ続けよう」
 ずっとこうしていられるなら過疎でもいいかと思った私の気持ちを見透かしたように彼女が涙ぐんだ目で睨みあげてきた。
 ……冗談です。神々の降臨お待ち申し上げております。
 彼女のこめかみにキスをして、私はしばしの睦事を思う存分楽しもうと誓った。
386名無しさん@ピンキー:2008/02/22(金) 01:20:56 ID:4X7iIiL/
ワロタ
387名無しさん@ピンキー:2008/02/23(土) 15:18:57 ID:Ct22xjSB
保守ついでに質問

このスレの住人は一回の投下がどのくらいの長さ&エロ割合を求めているんだ?
自分の勝手にやれって言われればそれまでなんだが、自分はエロメインに書けないんで参考までに。
388名無しさん@ピンキー:2008/02/23(土) 17:10:13 ID:AfkPDz2g
>>387

あくまで個人意見だが
話は長いにこしたことはない。
エロが多すぎると辟易するけどね
一割くらいがちょうどいいかな
389名無しさん@ピンキー:2008/02/23(土) 18:20:44 ID:h/gZrHg3
正反対っぽい意見になるけど、3スレぐらいで纏めてくれたらありがたいです
私は、短編シリーズ系読むのが好きなもんで…
390名無しさん@ピンキー:2008/02/23(土) 21:45:25 ID:qNqIcdmv
結論
話の出来が良ければ長短問わずOKってことで。 
391名無しさん@ピンキー:2008/02/23(土) 22:55:45 ID:OY+66xAS
うむ
392名無しさん@ピンキー:2008/02/24(日) 00:48:42 ID:AzDND6wU
タイトルにもこの板自体にもエロと入っているとおり
エロがないと一切読まない。
393名無しさん@ピンキー:2008/02/24(日) 01:11:29 ID:tVCzPVcN
エロといっても、キスやハグ、それこそ身体の一部が接触するだけであっても
ものすごくドキドキしたり色っぽいと感じることがあるし、極端な話
会話だけであってもエロいと思えればそれはもうエロだと思う。
あと、服装とか、それこそ綿か絹か麻か、そのさわり心地やしわのつき方の描写でも
読み手を想像力を刺激させることはできる。

逆にいえば行為自体の描写でも単なる組体操だとかホモサピエンスの交尾としか
受け取れないもんだってある。まあそこはたぶん男性女性で見方が変わると思う。


割合でいえば、前ふりが全くないのも味気ないが、たしかに直接関係のない部分が
長く続いても興が削がれるな。正直、たまに途中すっとばし読みすることもある。
だからといって厳密に割合このくらいが自分にはベストといいきれないから難しい。
394名無しさん@ピンキー:2008/02/27(水) 01:14:05 ID:xxw046Ib
過疎age
395名無しさん@ピンキー:2008/03/04(火) 21:16:12 ID:njGy56G3
上司と部下で小ネタ。保守代わりにどうぞ。
396保守小ネタ 1/4:2008/03/04(火) 21:18:47 ID:njGy56G3
 腕を掴んだ手を離され、私の体は柔らかなベッドに沈み込む。だけど、貫かれた部分はそのままで元帥は変わらぬ強さで私を責める。
 腰だけを突き出した体勢で私は元帥に突かれる度にシーツに顔を擦りつけた。
「や、げんす……もっ、だめ」
 まるで抉られるみたいに中を擦られ、たまらずにシーツをぎゅっと握りしめた。
「クロウ」
 腰を折り、元帥は私の耳朶に息をかけるようにして囁く。一瞬何を言われたかわからなくて、けれど元帥は同じ言葉をもう一度口にする。
「ベッドの上では名前で呼んでくれと言ったはずだ」
 元帥の手が腹を伝って下へ。私の体で一番敏感な場所を撫でられて、私は一気に上りつめる。
 元帥の動きが止まり、私の中が自分でもわかるくらいに収縮する。
「俺は個人的に君に協力しているだけで、これは俺と君の職務上の関係とは一切関係ないだろう。だから、名前で」
 私の中にあるものは熱く滾ったままなのに、元帥の声はそれが嘘のように冷静そのものだった。それでも、ほんの少し上擦っているように聞こえるのは彼も興奮状態にあるからだと思う。
「欲しいか」
 元帥に問いかけられ、全身が総毛立つ。
「くださ……クロウの、ほしい」
 必死でねだると元帥は私の腹に手を添えて抱き起こす。膝立ちのまま、ゆっくりと元帥は腰を動かし始めた。
「君が欲しいなら、いくらでも。早く俺の子を孕むといい」


◇◆◇


「俺でかまわなければ協力してやろう」
 祝勝会の席でひっそりとお酒を飲んでいたはずなのに気がつけば広いバルコニーで元帥と二人きり。相当酔ってしまっていたのだと認識できるほどには酔いはさめてきているらしい。
 何に協力して下さるのだろうかと首を傾げると元帥は変わらぬ調子で口を開いた。
「俺では不満か」
 一体何の話をしていたのかと記憶を辿り、思い至った途端に冷や水を浴びたように酔いがさめた。
 今の私は相当顔が赤いだろうと自分でもわかる。はいともいいえとも言いかねてしどろもどろになっている私を見て何を思ったのか元帥は小さく溜め息をこぼした。
「一個人としての俺でかまわないと思うならいつでも訪ねてくるといい」
 そう言って元帥は指から指輪を引き抜き私の手に握らせた。
「それがあれば屋敷へ入れる」
 呆然としている私に背を向け、元帥はバルコニーから立ち去った。


397保守小ネタ 2/4:2008/03/04(火) 21:21:46 ID:njGy56G3
 二日、私は悩んだ。
 そもそもどうして元帥と二人きりで話をしたりしたのかもわからないし、元帥にあんな話をしてしまったのかもわからない。けれど、元帥が協力を申し出て下さったのは夢でも幻でもない現実だ。
 私の家系は少し複雑でその事情により、私は早く子を産まねばならなくなった。でも、恋人なんていないし、知らない人の子なんて嫌。どうしたらいいのかが目下の悩みであったのだ。
 元帥が私の子の父親になってくれたらそれはとても素晴らしいことだと思う。三十を越えてはいるがまだまだ若く魅力的だし、賢く逞しい。子の父親として理想的だ。
 それに、実は密かに元帥に憧れていたりする。遠くから眺めるだけの、元帥はいわゆる高嶺の花だったのだ。
 机に置いた指輪をじっと眺めてみる。元帥の家の紋章が刻まれた指輪はあれが白昼夢ではないという証。何度も何度も確認したから間違いない。
 問題は、元帥が下さるのは子種だけだということ。好きな人に抱かれて子を宿しても、結婚して一緒に育てることは出来ない。それは凄く寂しいことだ。
 だからといって、知らない人の子を産むのはもっと嫌。
 二日も悩んだのに、私は自分では決められずにうじうじしているだけだった。


 三日目に私は元帥の屋敷を訪れていた。子種をもらいにきたわけではなく、もう一度お話をするつもりだったのに、気がつけば私は元帥の腕の中で身を強ばらせている。
 品のよい年配の男性に案内された場所は紛れもなく元帥の寝室で、私が何かを言う前に元帥は私を抱き寄せて唇を重ねた。
「名前で」
 唇を離し、元帥は私を抱き上げた。
「名前で呼んでくれ。今の俺は元帥ではない」
 困惑しながらも私は頷いた。
 寝台に横たえられ、また口づけられる。こうするつもりじゃないんだと言いたいのに、何一つ言い出せない内に元帥は私の服を器用に剥ぎ取ってしまった。
「来ないのかと思っていた」
 露わになった肩に額を当てて、元帥は吐息混じりに呟いた。
「必ず俺が君に子を抱かせてみせるから、俺以外とは寝ないと約束してくれ」
 顔を上げた元帥の顔がことのほか真剣で、今更話をしにきただけなんですとも言えずに私は唾を飲み込んだ。
 そして、頷いた。元帥が協力して下さるなら他の人に協力を求める必要などないのだから、それは杞憂というものだ。
「ありがとう」
 なぜか安心したようにお礼を言い、元帥は体を起こして服を脱ぎ始めた。
398保守小ネタ 3/4:2008/03/04(火) 21:23:28 ID:njGy56G3
 上半身が露わになるとこれから何をするのかということをいよいよ認識させられて私はぎゅっと目を瞑る。でも、目を閉じると衣擦れの音がさっきよりも大きく感じられてその方が恥ずかしいことに気づく。
 とはいえ、元帥の裸を見るのも恥ずかしくて、結局私は天蓋の模様をじっと眺めることで自分を落ち着かせた。
「呼んでみてくれ、俺の名を」
 頬に手を添えられて元帥と視線を合わせられる。
 名前を呼べと言われてもいきなりは恥ずかしい。ごにょごにょと躊躇っていると元帥が私を名で呼んだ。
「俺も君を名前で呼ぶ。だから、君も名前で呼んでくれ」
 姓でなく名で呼ばれるのはなんだかむずむずと不思議な感じで、けれど嫌ではなく嬉しい。元帥の発音は柔らかくて心地良く、私は私の名前が今までよりもずっと好きになる。
 小さく息を吸い、私は元帥の名前を呼んだ。男の人を名前で呼ぶことなど滅多にないから、口に出した途端に恥ずかしくて顔から火が出そうになる。
「ありがとう。元帥としての俺でない時は名前で呼んでくれ。ベッドの上では特に」
 了承の意味を込めて頷くと、頬に触れていた元帥の手が静かに下方へと動き出す。それが胸に触れた瞬間、私は今から何をするかを思い出して硬直した。
 私の緊張を解すように元帥は何度も何度も優しい口づけを下さり、何度も何度も名前を呼んで下さった。触れる手にはいやらしさなど欠片も感じられず、ただただ優しいばかり。
 氷のようだとか機械のようだとか言われる元帥が実はものすごく優しいのだと気づき、知らず私の緊張は解けていた。


◇◆◇


399保守小ネタ 4/4:2008/03/04(火) 21:27:41 ID:njGy56G3
 あの夜、私は元帥から無事に子種をわけてもらうことができたのだ。
 けれども、一度の交わりでは子はできず、最初の約束通りに元帥は子ができるまではと積極的に協力して下さる。
 今夜もまた宿舎に忍び込んだ元帥と狭いベッドで横になっている。
「お帰りにならないのですか」
 元帥の腕の中は心地良くて本当は朝までこうしていたいのだけれど、元帥との噂が立たないようにするには早々に帰っていただかねばならない。元帥の評判が下がるような噂が立っては後悔してもしたりない。
「君が眠れば帰ろう」
「まだ、眠くないです」
「そうか。それならば、もう暫くここにいよう」
 ずっと眠らずにいられれば。ずっと夜のままなら。そう思いはしても、疲れ果てた体はすぐに重たくなっていき、意識もふわふわと落ち着かない。
 本当はずっと、ずっと一緒にいたいんです――――伝えたい言葉を飲み込んで、代わりとばかりに私は元帥の胸に頬を寄せて温もりをしっかりと記憶に刻み込んだ。



◆◆◇◇◆◆◇◇


言い忘れてました。
保管庫入りは辞退します。保管しないで下さい。
400名無しさん@ピンキー:2008/03/04(火) 21:29:32 ID:HaPp/0Zt
Real Time Good Job!
401名無しさん@ピンキー:2008/03/04(火) 22:11:13 ID:7e24XJPu
これはとても素敵
402名無しさん@ピンキー:2008/03/04(火) 22:50:40 ID:pn7oxuyW
GJ!小ネタと言わずに是非とも続いて欲しいです。
読んでてにやにやした。元帥絶対惚れてるね。
403名無しさん@ピンキー:2008/03/05(水) 14:33:27 ID:7xB4fsxT
けしからん!元帥もっとやれ(*'д`)
404名無しさん@ピンキー:2008/03/05(水) 21:25:42 ID:WI9fmZYh
素敵な元帥がいるスレはここですか。期待期待
405395:2008/03/06(木) 00:51:46 ID:5yg3OhAu
保守のつもりだったからあんま細かいこと考えてなかったんだよね。
でも、せっかくだから続き書いてみた。
続きというかただいちゃいちゃしてるだけだけど。
406元帥×私 1/3:2008/03/06(木) 00:54:25 ID:5yg3OhAu
 しゃらりと首から下げた鎖が鳴った。細い銀の鎖の先には元帥からいただいた指輪が通してある。
「あ……クロ、ウ」
 いけないことをしている。それをまるで元帥に見咎められたような気がして、その背徳感が私の快感を二倍にも三倍にもする。
 元帥のことを思い出しながら敏感になった胸の先を摘み、もう片方の指で滑った入り口を擦る。それだけで達してしまいそうな自分の体が怖かった。いつの間にこんなに淫らになってしまったんだろう。
「クロウ……っ、あっ、ん……クロウ、クロウっ!」
 元帥の手はもっと大きくて、元帥の動きはもっと巧みで、本当はこんなんじゃ全然足りない。足りないのに、淫らな私の体は稚拙な指の動きに歓喜する。
 涙で滲んだ視界に、元帥の指輪が映った。
 ごめんなさい。元帥、こんな私を嫌いにならないで下さい。
 いけないことをしているのだと思えば思うほどに快感は高まり、私は背を仰け反らせて声にならない声を上げた。
「はぁ…………しちゃった」
 下着の中から指を引き抜くとくちゅりといやらしい音がした。
「元帥。寂しいです」
 滑った指で指輪を掴み、私はそれにそっと唇を寄せた。


◇◆◇


 東の街に魔物が出た。それがなかなかに強大で現地の派遣員だけでは手に負えないとの報告を受け、元帥が現地へ赴くことを志願した。
『元帥』が出るほどの魔物ではないと反対を受けても、彼は聞く耳を持たない。執務室の机に向かうより、現地で魔物に対峙する方が性にあっているのだと元帥は言った。
 私には討魔の才能などなく、組織を運営するためのただの一般構成員にすぎない。だから、元帥と一緒に東の街へ行くことはできなかった。
 それを寂しく思っても、特別な関係ではない私には元帥に何かを言う権利などなく。その事実が更に私の胸を締め付けた。

 白い手袋をつけ、白い外套を翻して元帥は部屋を後にした。
 出発前に呼び出され、問答無用でベッドに押し倒された私はくたくたの体でその背を見守った。
 その時の元帥を思い出す度に、心地良さと寂しさと狂おしさのないまぜになった感情が胸を焼く。

 東の街の魔物を元帥が問題なく処理したのだという知らせを耳にしたのは出発の翌日のことだった。それを聞いて無事を安堵するとともに、もうすぐ元帥に抱きしめてもらえるのだと喜びが込み上げる。
 けれど、私の期待はすぐさま砕け散ることになる。
407元帥×私 2/3:2008/03/06(木) 00:56:05 ID:5yg3OhAu
 往路は転移の魔法陣を使った元帥が、帰路はそれを使わずに帰るという。道中各地を見回るのだというのだから元帥らしい。
 おかげで私は元帥に抱きしめてもらうことを数ヶ月も我慢しなければならなくなってしまったのだ。


◇◆◇


 早く湯を浴びて身を清めなければならないのに体のけだるさが動くことを躊躇わせる。
 私は中途半端に脱げかけた服のまま、ベッドの上で浅い呼吸を繰り返していた。
「随分と楽しそうなことをしているようだが」
 びくりと体が跳ねる。扉の方から聞こえた声はつい先ほどまで何度も何度も繰り返し思い出したものと同じ声。
「もう、満足なのか?」
 恐る恐る身を起こし、私は扉の方へと顔を向ける。
 真っ白な外套、真っ白な手袋、輝くばかりの金色の髪。そして、優しく細められた目。
「げん、すい……?」
 優雅な動作でベッドへ近づき、そこへ腰を下ろしてから私の額を人差し指で突く。
「クロウ、だ」
 幻ではない。本物の元帥が目の前にいる。
 たまらずにしがみつくと優しく背を撫でられた。
「ただいま」
「おかえり、なさい」
 元帥の唇が髪に触れ、耳朶に触れる。ずっと欲しかった感触が惜しみなく私に与えられる。
「寂しかったかとは聞かないでおこう。さっきたっぷりと見せてもらったから」
 笑みを含んだ声音に思わず顔を赤くする。さっきたっぷりとは、どの辺りから見られていたのだろう。
「俺がいない間、いつも一人で?」
 まだ乾ききっていない指を元帥が引き寄せて唇に含む。
「だめ……汚っ」
「フ、今更だ。何度も口にしてる」
「で、でも」
「こんなにして、すごく濡れているんじゃないのか」
 元帥が下着の上から敏感な場所をやわやわと撫でる。下着はとっくに濡れてびしょびしょになっていた。
「すごいな」
 恥ずかしさで元帥の顔が見られない。たまらずに元帥の服をきつく握り締めて目を閉じた。
「何を想像してた?」
 元帥に協力して腰を浮かすとすぐに下着は取り払われ、手袋を外した指が直接濡れた場所に触れる。
 そんなことは言わなくてもわかっているはずなのに元帥は重ねて問う。恥ずかしさで死にそうになりながらも、私は答えた。
「元帥、の」
「クロウ」
「……クロウの、こと」
「俺のこと? どんな?」
408元帥×私 3/3:2008/03/06(木) 00:58:38 ID:5yg3OhAu
 触れるか触れないかの愛撫がもどかしくて、私の腰は元帥の指を求めてくねる。けれど、元帥は指を引いて私から逃げる。きちんと答えるまでくれないのだと悟り、私は絞り出すように答えた。
「クロウが、いつもしてくれることを、たくさん……たくさん、私のこと抱いてくれるのを、思い出して、それで、たくさん抱いてほしくて」
 そう。早く欲しい。会えなかった分たくさんたくさん抱いてほしい。こんな風に焦らされるのは嫌。
 私はクロウの胸を押し、彼をベッドに倒して唇を重ねた。初めは驚いたようにしていた彼もすぐに口づけに応えてくれる。
 荒々しく貪るような口づけに夢中になっている内に体勢が逆になっていた。
「積極的だな」
 ちゅっと啄む口づけを落とし、クロウが笑う。
「い、いやらしい? 私、いけないことをして……嫌いになった?」
 クロウは瞬きを数度繰り返し、蕩けるような甘い声で囁いた。
「まさか。俺の前でならいくらでも、どんなにいやらしくてもかまわない。嫌いになるわけないだろう」
「本当に?」
「当たり前だ。君があんなに俺を求めていてくれたのかと思うとたまらない」
 嬉しいよと囁き、クロウはいつもより少しだけ荒っぽく私の体に触れ始めた。クロウが触れるだけで私の体は過敏に反応し、一人の時とは比べものにならないほどの早さで高みに上りつめる。
 服を脱ぐのももどかしいとばかりにクロウは下衣の前だけをくつろげて私の中へ入ってきた。
 久しぶりの交わりは獣のように荒々しく激しく、私はクロウの与える快楽の中で正気を保つのが難しくなってきた。そして、大して抗いもせず私はその中へと堕ちた。


◇◆◇


「土産でも買ってくればよかった」
 夜明け前の仄かに白んだ空を見つめているとぴたり寄り添った元帥が気だるげに口を開いた。
「どうも俺は気が利かない」
「いいんです。お土産なんて、私は元帥がこうして下さるだけで嬉しいです」
「……可愛いことを言う」
 ぎゅっと抱き締められ、喜びに体が震える。
「君を喜ばせるには子を与えるのが一番ということか」
 子などできなくても寄り添えるだけで嬉しいのだと口にしかけて、それでは抱いてもらう理由がなくなることに気づき、私は口を噤んで元帥の胸に頭を預けた。どんな理由でも会いに来てくれるだけで嬉しい。
 ほんの少しだけ感じた悲しみは心の奥底にしまい込み、私は今感じる幸せだけを大切に思うことに決めた。
409名無しさん@ピンキー:2008/03/06(木) 01:00:32 ID:5yg3OhAu
また書き忘れてた。
前作同様こちらも保管庫入りは辞退します。
410名無しさん@ピンキー:2008/03/06(木) 01:40:22 ID:bma3wUgk
これはとてもエロス。
このまま結婚してしまえ。
411名無しさん@ピンキー:2008/03/06(木) 03:04:46 ID:mLHKp4eP
私可愛いよ私。
畜生…保管辞退だって?
紙に書いて保存しなければ!
412名無しさん@ピンキー:2008/03/06(木) 16:46:20 ID:49/ivqGK
>>411
アナログなお前に萌えたww
413名無しさん@ピンキー:2008/03/06(木) 17:21:23 ID:Ttq426Sb
なんという萌えるシチュ!
なんて素敵な元帥!転がりながらお待ちしております。
414名無しさん@ピンキー:2008/03/06(木) 22:55:57 ID:8LVndfAN
元帥キター!GJッ!すげぇ私かわいくて萌えたよ!
子供できたらこれ幸いと結婚だと元帥はほくそ笑むけどすれ違いとかでこじれちゃって元帥ヤキモキしちゃってでもすったもんだの末結婚
…なんて要するにもっと続いて下さい!
415名無しさん@ピンキー:2008/03/07(金) 01:37:25 ID:NM4tPhGA
元帥×私 完結編書いてみた。
わかってるとは思うけど時間かけてないから細かい設定ミスにはつっこまないでくれ!
416完結編 1/4:2008/03/07(金) 01:39:46 ID:NM4tPhGA
「……えっと、それは、あの」
 にっこりと華やかな笑みを浮かべて、困惑する私に彼は再度言葉を投げた。
「結婚を前提に、ね。僕はそう言った」
 どうすればいいのかわからずにおろおろするばかりの私の手を取り、彼は優雅に片膝をついた。そうして、おもむろに私の手の甲に口づける。
 それまで見て見ぬふりをしていた周囲の人間が色めきたつ。
「僕では不満かい?」
 何も言えず、俯いた私の耳に彼が小さく笑う声が届いた。
「今すぐでなくてもかまわない。考えてみてくれるかな」
 私が頷くのを見届け、彼は立ち上がる。
 非礼にならないように頭を下げて、私は逃げるようにその場を立ち去った。



 引き寄せられ、思わずもれそうになった悲鳴は柔らかな唇に飲み込まれる。
 突然のことに唖然としたが、背を撫でる手と温もりには覚えがある。
「……元帥」
「今すぐ抱きたい。だめか?」
 唇が離れ、確かめるために名を呼ぶと唸るように元帥は言う。
 駄目も何もここはさっきの場所からさほど離れてはいないし、何より建物の中ですらない。整備された庭の一角、木々の生い茂る人工の林のような場所だ。こんな場所ではいつ誰に見られるとも知れない。
「クロウ……クロウ、クロウ!」
 それなのに、私は元帥の首に腕を絡めて荒々しい愛撫に身を委ねている。
 もっと、もっと欲しいと浅ましい体が悲鳴を上げる。
 木の幹に背が押しつけられて痛いのに、そんなことよりも肌を這い回る熱が嬉しい。
「クロウ、やっ……ん」
「濡れてるな。すごく熱くなっている」
「やだ……いわな……ふぁ、ああっ」
 指が中をかき回し、私の体は快感に震える。
 もっと、そう指なんかじゃ足りない。元帥、元帥が欲しい。
 服の上から撫でるだけで元帥のものが大きく膨らんでいるのがわかった。
「リーファンの言うことなど無視してしまえばいい。忘れてしまえ」
 片足を持ち上げられ、元帥の熱いものが押し当てられる。けれど、リーファンという名前が私の熱を急激に冷ましていく。
「元帥、待って……ここではだめです」
「待てない」
「リーファン様のお屋敷です。人に見られては」
 そうだ。人に見られてはいけない。元帥の名が下世話な噂話にのぼるなんて耐えられない。
「元帥が悪く言われるのは嫌です」
 小さく舌打ちをし、元帥は私の足を離した。
 身支度を整え、元帥は苛立っているのかぐしゃぐしゃと髪をかき乱す。
417完結編 2/4:2008/03/07(金) 01:41:41 ID:NM4tPhGA
「早く帰ろう」
 震える足と指では上手に身支度ができず、見かねた元帥が手伝ってくれる。
 ぎゅっときつく手を握られ、手を引かれるままに元帥に続いて歩いた。


◇◆◇


「嫌がらせだ」
 グラスの中の酒を一気に呷り、元帥は憮然として呟いた。
「リーファンはいつもそうだ。俺に張り合おうとする」
 私はグラスをちびちびと傾け、酒を舐めるように少しずつ飲む。
「俺と君が」
 元帥は一度言葉を区切り、適切な単語を探すように黙り込む。
 屋敷へついてすぐ、元帥は私が立てなくなるまで何度も何度も求めてきた。そして、一人で寝室を離れて酒瓶を二本とグラスを二つ持って帰ってきた。
 私は裸のままベッドにおり、元帥はベッド脇に椅子を引き出して掛けている。
「えっと」
 元帥は機嫌が悪いらしく、私には信じられないような早さで瓶を空にする。
 私は何を言えばいいのかわからずに、口を開いたはいいがすぐに閉じた。
「つまり、俺と君が……恋仲……と勘違いしてああいうことをした。俺への当てつけというわけだ。更に、あわよくば俺から君を奪って優越感に浸ろうという下らない考えに違いない」
 肝心の部分はよく聞こえなかったけれど、元帥は恋仲と言ったのだろうか。
「恋仲?」
「……リーファンにはそう見えたのだろう」
 元帥は不服そうに言う。
「幾つになってもいけ好かない男だ」
 ぽっかりと胸に穴が開いたように空しさが私を襲う。
 苦虫を噛み潰したかのような元帥の顔を見るのが辛くて俯く。
 最初からわかっていたのに、なるべくなら考えたくなくて、ずっと見ない振りをしていた。
 元帥は私の恋人ではないのだ。私たちは体を重ねても愛を語らいはしない。
「泣、いているのか」
 ぽろぽろと涙がこぼれ、私はたまらずにベッドに突っ伏した。
「どうした? そんなに嫌なのか」
 動揺した元帥の声が聞こえるが涙は止まらない。後から後からこぼれてくる。
「俺と恋仲だと思われるのは泣くほど嫌なことなのか?」
 苦しげな声が聞こえ、私は少しだけ顔を上げる。
「一年以上も体を重ねてきた。今更そんな風に泣かれては……俺の方が泣いてしまいたくなる」
「お嫌なのは、元帥ではないのですか」
「なぜ? 馬鹿なことを。君と恋仲だと思われるなら、嬉しく思いこそすれ嫌がるなど有り得ない」
 元帥にきっぱりと言い切られ、私の涙が少しだけ止まる。
418完結編 3/4:2008/03/07(金) 01:43:02 ID:NM4tPhGA
「で、でも、嫌そうな顔をなさいました」
「リーファンが君に手を出そうとするのが嫌なだけだ。俺は君に他の男が触れることが許せない」
 それではまるで嫉妬しているようだと思うと頬が熱くなる。もしかして、元帥は妬いているのだろうか。
 希望的観測が現実のものか確認するために、私は勇気を振り絞って元帥に問いかける。
「それでは、まるで……や、妬いてらっしゃるようではありませんか」
 私と目が合うと、元帥が怒ったような照れたような顔をしてそっぽを向いた。
「そうだ、妬いている。君は知らないだろうが、君に男が近づく度に俺は妬いていた」
 あまりのことに開いた口が塞がらず、私は呆けた顔で元帥の横顔を眺めていた。
 しばらく二人の間に気まずい沈黙が流れる。
 気を取り直して尋ねようと口を開いても、声が上擦って震えてしまう。
「ど、うして?」
「年甲斐もなく恋をしているから」
「恋?」
「伝わっていないようだから言うが、相手は君だぞ」
 今度は違う意味でベッドに突っ伏す必要が生じた。
 今のはもしかしてもしかしなくても愛の告白と言うものではないのだろうか。しかも、元帥から私への。夢を見ているのかも知れない。そういえば体が熱い。眠っていると体温が上がるものだ。これは夢だ。きっと夢――
「どうして顔を隠す? 何か言ってくれないと恥ずかしいじゃないか」
 ゆさゆさと肩を揺すられ、私は逃げるように布団の中へ潜り込む。
「だから、どうして隠れるんだ」
 布越しに私を揺さぶる元帥の手は紛れもなく現実で、夢ではないのだと私に教えてくれる。
 心臓がうるさい。夢にまで見た告白なのに、どうしても元帥の顔がまともに見られない。
 嬉しさから溢れだした涙は止まらず、元帥への愛しい気持ちが込み上げてきて胸がいっぱいだ。
 喜びに浸っていたいのに、元帥は私の気も知らず布団を剥ぎ取った。
「顔を見せて」
 私の両頬を掴んで目を合わせ、私が泣いていることに気づいた元帥は動揺している。
「どうして泣くんだ? 嫌なのか。俺が嫌いか」
「違っ……嬉しい、の」
 元帥は安堵したように息をつく。
「大好き、です」
 勇気を出して、私は元帥に気持ちを伝えた。
「元帥が好き。大好き。愛してます」
 溢れる涙と同じで、一度口にすると止まらない。譫言のように何度も好きと口にする。
 そんな私に口づけを落とし、元帥はいつものように柔らかく笑んだ。
419完結編 4/4:2008/03/07(金) 01:47:26 ID:NM4tPhGA
「……リーファンよりも?」
「当たり前です」
「そうか。リーファンには俺からきっちりと断りを入れておくから君は心配しなくていい。大丈夫。流血沙汰にはならないさ」
 笑みの向こう側にひやりとしたものが見えた気がしたが、見なかったことにしようと決めた。元帥は意外と嫉妬深いのかも知れないと私はその時に初めて気がついた。


◇◆◇


「そもそも、俺は君のような娘が好みなんだ。姿形も性格も立ち居振る舞いも、好みにぴったりかち合う。前々から目をつけていたところにあのような悩み相談などしてくるからこれ幸いとつけこんだわけで」
 流されるままに再度体を重ねた後、元帥はそう語り出した。
「卑怯と言われれば卑怯だ。返す言葉もない。子ができたらそれを口実に逃げられないよう周りを固めて結婚に持ち込む気でいた。下準備は既に整っている」
「……それなら、もっと早く言っていただきたかったです」
「子ができる前に逃げられては困るだろう」
「逃げたりしません」
「……俺だって、惚れた女が相手では多少気弱になるものだ。小細工の一つや二つ仕掛けたくもなる」
 拗ねたような顔をする元帥が可愛くて、私はその頬を人差し指でつついた。
「君だって、一度もそんなこと言わなかった」
「言えばもう抱いて下さらなくなるかと思ったんです」
 お返しとばかりに元帥が私の額に額をぶつける。
「つまり」
「お互い様ということですね」
「そうだな」
 優しい口づけが落ちてきて、私は温かな腕の中でその優しさに浸る。
「愛している」
「私も、愛してます」
 いつまでもこうしていたいと望み、それは叶わないことではないのだと気づき、私は込み上げる幸せに頬を緩めた。



◇◇◆◆◇◇◆◆


元帥と私にラブコールくれた方々のために書いたぜ。保守小ネタのつもりだったのに楽しく書けたよ。ありがとう!


保管庫入りは変わらず辞退させていただく。
420名無しさん@ピンキー:2008/03/07(金) 04:14:00 ID:5CfMOcWb
職人さんGJです!完結編まで書いてくれてありがとう!
私可愛いよ私!やきもち元帥も可愛いよ(*´д`)
お断りシーンとか妄想するとニヤニヤが止まらない。
寝る前に覗いて良かった。脳内に焼き付けます。
良いもの見させてもらいました。本当ありがとう!
421名無しさん@ピンキー:2008/03/07(金) 08:02:38 ID:aqJKk247
おおおおおおおー!なんて素敵な可愛い元帥w
仕事行く前に覗いて良かった〜〜乙です。GJです!
子供も早く出来るといいね。ありがとう!
422名無しさん@ピンキー:2008/03/07(金) 12:16:26 ID:xJQjhrfZ
小細工を仕掛ける準備万端な元帥が可愛すぎる。
職人さんGJ!!!
423名無しさん@ピンキー:2008/03/07(金) 12:51:36 ID:EweazLXy
女とヤってお金が貰える♪
まさに男の夢の仕事!
出張ホストっておいしくない?
ttp://rootinghost.com/2ch/01_info.html
424名無しさん@ピンキー:2008/03/07(金) 14:43:30 ID:EXe9yUe0
>>415
ありがとう…ありがとう(*'д`)
私が一年も抱かれ続けて子供が出来なかったのは、きっと元帥がイチャイチャしたかったからに違いない。
出来たら出来たで子供に嫉妬しそうな奥さん馬鹿になりそうだ。
神さま、ありがとう!
425名無しさん@ピンキー:2008/03/07(金) 20:13:33 ID:lDb7B+qc
久々にこのスレに来たら
とんでもない萌え元帥が投下されてて大興奮
ありがたくメモ帳に保存させて貰いましたぜ!
426名無しさん@ピンキー:2008/03/07(金) 23:31:13 ID:P846oqt6
GJ!続ききてた!私も元帥も大人なのにかわいいよ!
完結編とは悲しいですが職人さまありがとうございました!
二人に倖あれ!
427名無しさん@ピンキー:2008/03/08(土) 02:31:56 ID:IRi7J2TF
「お互いさま」がよかった。
幸せな二人が見れてよかったよ。
428名無しさん@ピンキー:2008/03/11(火) 03:29:17 ID:a6I+wEKk
もっと読みたいけど完結編ってことは続きはなし?結婚もしくは子供できるまで書いてほしいよ
429名無しさん@ピンキー:2008/03/14(金) 21:55:28 ID:xsBO4d67
いやいや、それ以上描くのはヤボというもの。
あとは各自脳内妄想で萌えるなり禿げるなりするのが良かろう。
430名無しさん@ピンキー:2008/03/17(月) 02:07:46 ID:+PPPBYjg
保守
431名無しさん@ピンキー:2008/03/25(火) 01:38:15 ID:RcK1Leks
保守
432名無しさん@ピンキー:2008/03/26(水) 23:22:10 ID:ZgXDvYRd
「いやです!」
 組み敷いた少女から強く拒絶され、男は深々と嘆息する。
「夜伽というのは添い寝のことじゃないぞ」
 少女から返事はなく、男はまたしても息をついた。
「十日も我慢させて、少しくらい申し訳なさそうな顔でもしたらどうだ」
 男が体を起こすと、少女はすぐさまベッドの端に寄り、毛布を体に巻き付けた。
「こ、心に決めた人がいます」
「俺だってお前がいいんだ。手に入れると心に決めてる」
 男の手が少女の髪を撫でる。
「だいたい約束だ何だというなら絶対俺の方が先に目を付けていたのに」
 ぶつぶつ独り言ちる男の声は少女の耳には入らない。
 男の手からも逃れるように少女は毛布の中に頭まで潜り込んだ。
「せっかく迎えにきたのに忘れているんだから」
 男はまたため息をこぼす。


 約束を交わしたあの日の相手が彼であることを少女は知らず、彼女の待ち人が自分であることを彼は知らない。
 二人が事実に気づくのはまだずっと先の話。




不器用ツンデレカップルが見たいです、先生!
433名無しさん@ピンキー:2008/03/27(木) 21:38:05 ID:PjncKg4y
こんばんわ。

イカした>>432の希望を裏切ってスマナイ。
これから、刑事モノ男上司×女部下を投下するぜい。
一応エロ無(だって、本番に行きつくのが無理なんだもん)、ネタ的な意味では微エロ。
3or4レス借ります。

NGワードは【caleidoscopio】で逃げるべし。
では、ドウゾ!
434caleidoscopio 1:2008/03/27(木) 21:43:16 ID:PjncKg4y
 俺の右に出るヤツは誰もいないから、俺はお前をいつでも奪える。

     ***
「ふざけんなよ!」

芦原警察署刑事課の取り調べ室から怒声が飛んだ。
課員の皆が何事かと、ドアに目線を向けた。
あの敏腕刑事で知られる須崎亮警部補が珍しく憤慨していた。
カンカン状態での説教を窺い知ることは出来ない。
「須崎提督がキレた…」
上里が青ざめながら、フルフェイスヘルメットを被る。
元来、彼はヒステリッカーが嫌いで、悲鳴があれば、愛用のヘルメットをかぶる。
しかしこのヘルメット、自作の阪神タイガース仕様とは、手が凝っている。
「警部補、どこか調子悪いからなぁ…イラつくのも無理無いって」
次に喋ったのは中橋。
彼はサプリメントケースに新しいビタミン剤を収めながら、ケラケラ笑う。
食事には気を使うものの、やはりどこかで不摂生になる。
「ああ、上のミスで給料が来なかったからか?」
その直ぐ後に、下山田が市販の点鼻薬を鼻に打ち、天上を仰ぐ。。
「後少しで‥娘がぁ…ユウミが待っている…だが、もう少し待て。待つんだ…下山田ぁ」
急いでティッシュを何枚か抜き取り、口許に当てた。
薬が変な箇所にまわったのだろう。
上里が心配そうな視線を寄越してから、中橋が首をかしげる。
 謎が二点ある。
 一つは下山田の点鼻薬にある妙な汚れ。
 もう一つは、警部補の苛立ち…………前者は気にしないとして。
「いや…情報屋が事件予備軍の匂いを掴まないからじゃないか?しかし、誰に説教を…」
三人の課員がヒソヒソと噂するが、通りすがりの庵原が水を差す。
「…さっき、取り調べ室に遠野を呼びましたよ?」
「「「うえぇ!?トーコ!?」」」
「なんでも、事件だとか」
「「「え?事件…!」」」
窓を背に座る、西ノ宮課長がのほほんとお茶のおかわりを宣言する。
しかし、東山のばあさんは華麗にお盆を投げた。
お盆は課長の喉に衝突し、課長の身体は宙に返る。
「自分でやっとくれ」
ばあさんは後片付けをせずに、帰って行った。
課長がひっくり返った隙に、庵原は鍵の保管庫を調べた。
「んー…」
取り調べ室の鍵がない。
直ぐ隣にも部屋があるのだが、その鍵もない。
マスターキーもない。
「…変態上司め…」
舌打ちし、庵原はキャスターにライターで着火する。
435caleidoscopio 2:2008/03/27(木) 21:45:40 ID:PjncKg4y
 隔離部屋には、須崎以外に、ぺたりと尻餅をついた女性がいる。
 急な呼び出しを食らったのは、芦原警察署刑事課所属の遠野 千春巡査。
 彼女はガクガクと震えながら、涙を堪える。
 須崎はポータブルDVDプレーヤーを机に置き、遠野に座れと命じる。
 再生ボタンを押すと、穴からリビングを覗いたような映像に変わった。
 それこそ、ダブルオーセブンのオープニングに登場する穴に似ている。
「これ……私の…家…」
 一時停止を押すと、画面の右端に3Dの画びょうが止まる。
「お前の顔を知っているヨソの署の知り合いがな、俺に貸してくれたよ」
ぐるりと遠野の背後を周り、肩を抱く。
 遠野がぴくりと反応する。
 須崎は彼女の耳にかかる髪をかき上げて囁く。
「【あんたの部下がホシのオカズにされた】ってな」
「お…おか、ず…?…‥」
 かたかたと小さく震える彼女は不安そうに上司を、相方をやや上目遣いで見る。
「遠野のプライベートを覗いて、喜ぶ…そんなやつが世の中にいるんだ。おまけに遠野の家に忍び込むとは、手癖が悪すぎる」
 それにと、須崎は一本のシガレットをくわえる。
「‥う…そ……」
「刑事が盗撮されちゃ…問題だな」
「------え?」
「ちょっと考えてみろよ。裁判の資料に提出されて、裁判官のジイさんや検察や弁護士や、傍聴人にも見られる」
 すうっと、脳内が冷える。
 もし、この出来事を検察官の兄や海上自衛隊所属の父、中学教師の母に、芦原署の皆に知れてしまったら…。
 課長になんて謝ればいいだろう。
 他の課員は呆れるかもしれない。
 色眼鏡で遠野を視る人間も現れるだろう。
 彼女を煙たがる庵原は馬鹿にして、ネチネチと小言を云うに違いない。
 いつ誰が嗅ぎ付けるか、恐ろしくて考えもつかない。
 それに、もっと公になってしまったら…須崎警部補と捜査が出来ない。

 憧れであり、目標。
 大学での説明会で会ったあの日から、須崎の背中を追いかけてきた。
 その背中を、その名を知ったから、ここにいる。
 所轄を転々としていた須崎の異動を心待にしていた。 
 直ぐ後に、朗報が飛込む。
 須崎の芦原署刑事課異動。
 それから、遠野は須崎の相方になった。
全てが現実だということを、新しい相方と握手をして気が付いた。
 絶対に、足手まといにはならない。
 戒律を守れないなら…辞めてしまえばいい。
 ずっと、守り続けていた約束。
 けれど、降りる気はない。
 降りたら、降りたで後悔する。
 下がるのも、戻るのも、降りるのも、出来ない。
 憧れや目標以外に、もう一つの何かを知ってしまったから。
 尊敬じゃない、何かを。

 遠野は顔色を真っ青にし、須崎の腕を掴んだ。
436caleidoscopio 3:2008/03/27(木) 21:47:49 ID:PjncKg4y
「警部補っ…あたし‥もう覗かれるの嫌です」
「…………遠野…」
「だから……犯人を殴らせてください。事情聴取は私がやります!」
 泣きそうな瞳は訴える。
 やられて嫌な事はしない、させない。
「勝手に覗いて、いい気になっている馬鹿に…お灸をすえてやりたいねぇ」
 この女刑事は盗撮犯をボコボコにする気だ、須崎は手で制し、プレイヤーを片付ける。
「犯人はヨソが捕獲した。そいつに強烈な一発をお見舞いしてやれ。ビデオカメラ回収はその後でな」
 ちょっと失礼と、須崎が断りを入れると、遠野の身体は宙に浮く。
 すぐ下に落ちるが、須崎の手に落ちる。
「ひやっ!…って、でええ!!?」
「つかまっていろよ!」
 ばんっと、取り調べ室を飛び出す。
 庵原は取り調べ室のドアが壁に衝突する衝突音で、ギロリと二人を睨む。
「「「けーぶほおおおお!」」」
「ちょっと行ってきまーす」
 鍵を西ノ宮課長に投げる。
「いってらっしゃーい」
 上・中・下の苗字を持つ、三人組は口を通常より三十センチ大きく開ける。
「下山田、中橋………見た?」
「ばっちりと」
「横抱きにして、かっさらったな」
 二人が飛び出した刑事課は煙草臭さが一層強まった。
「…………………警部補…コロス」
「「「!!!」」」
 庵原の不機嫌さは刑事課のドアを超え、よその部署に影響を及ぼしたとか、しなかったとか。

 ばんっ。
「あがっ!」
 西ノ宮課長がまたお盆の餌食になった頃、泣きべその女刑事が盗撮犯をグーで思いっきり殴ったのだ。
「…っ…刑務所で頭を冷やしてくださいっ!」
 彼女は犯人を預かる署の刑事たちに頭を下げ、一足先に署を飛び出した。
 事情聴取は終了し、残るは盗撮器具の回収となる。
犯人は宅配業者で、郵便受けの裏に張り付けていた鍵を得て、仕掛けたと供述した。
 現場マンションの集合ポストは外部の人間でも開けることが出来るタイプで、郵便物を盗むには可能だ。
 遠野は鍵の紛失を恐れたのだろう。
 ポストの裏に鍵をしまっていたと判明した。
 マンションはセキュリティが充実している物件に限る。
 須崎は相方が角を曲がっても、向こうを見つめていた。
437caleidoscopio 4:2008/03/27(木) 21:55:07 ID:PjncKg4y
「…俺も行くわ。ディスク、ありがとう」
「ああ…そいつの処分はお前に任せるよ」
 須崎は同期の水原に片手を上げ、もう片方の手を上着のポケットに突っ込んだ。
「…ああ……そうだ」
 さも今思い出しましたと須崎は水原の肩を叩く。
「……一発、俺にも殴らせてくれねえか?」
 にっこりと須崎は笑うが、水原は寒気を感じた。
「…………あえ?」
 気のせいだ。
「………?」
 須崎の背後に取り巻く黒い霧も───気のせいだ。
「ごぶぁっ!」
同時刻。
また、西ノ宮課長がお盆と衝突した。

───今すぐ、水原の記憶の一部が消えますように。
 須崎は心の中で祈ってから、部下が待つ車内に合流しなければ。
 行先は彼女の自宅。
 その場所でじっと彼女を監視していたブツとご対面が待っている。
───躯のセンターやや下が疼くのは秘密だな。
 あのディスクで予習するんじゃあなかったと、言ったら嘘になる。

須崎は芦原署刑事課の西ノ宮課長に、この後の予定と直帰を伝えた。
「須崎君、現場検証って‥庵原君の目線が…痛いんだけど‥」
「すんません、課長。俺には出来ません」
その瞬間、庵原のキャスターは灰皿で山になった。
従兄妹の遠野 千春に密やかな好意を寄せている庵原は、須崎を呪わんばかりに、キャスターを延々と吸う。
その遠野本人は何も知らずに、覆面パトの車内で待っていた。
「俺には、遠野にキョウイクをしなきゃならないと思います。また、このような事件が起こるとは限らないですから」
「キョウイクね………うん、いいよ。行ってらっしゃい」
 すみません、課長。
上里・中橋・下山田の上中下コンビには申し訳無い。
刑事課の皆、庵原を止めてくれ。

───これも遠野の狂育のためだ、狂育!
    end
*****
拙くてサーセン;;; ある意味未完成なので保管庫には入れないで下さい。
ありがとうございました!!!
438名無しさん@ピンキー:2008/03/29(土) 16:03:45 ID:YXZoOmdr
>>432>>434もGJ!
久々に萌え分補給させて貰った。
439名無しさん@ピンキー:2008/03/29(土) 20:20:56 ID:oHj+/VKa
先生と生徒というか師匠と弟子も主従に入る?それなら一つ落としたいネタがあるのだけど。ここでいいのかわかんなくて。
440名無しさん@ピンキー:2008/03/29(土) 21:20:05 ID:RJyvDd8N
>>439
上下関係だからここの範疇だと思う
師匠と弟子 先生と生徒 上司と部下 先輩と後輩 箱入り娘と丁稚
441名無しさん@ピンキー:2008/03/29(土) 22:01:08 ID:V8r+i+5f
なんと、先・後輩もこのスレの範疇とな?
442名無しさん@ピンキー:2008/03/29(土) 22:16:00 ID:YXZoOmdr
上司と部下の延長線上に先輩・後輩がある……のかもしれん。
規律の厳しい、共学リリアンみたいなところの先輩後輩とか、
生徒会長と副会長、軍学校のエリート坊ちゃんとお目付役で入学した従者とか、
色々あるよな。
443名無しさん@ピンキー:2008/03/29(土) 23:24:43 ID:RJyvDd8N
>>442
そうそう
そんな感じでいいと思う
444439:2008/03/30(日) 03:22:14 ID:i6Ki5t0K
大丈夫そうなんで前後編予定で前編投下する。
今回エロなしなんでエロだけ読みたいって人は注意。
一応後編にはエロ入れてる、ぬるいけど。
445忘れ去られた聖地 1/6:2008/03/30(日) 03:23:55 ID:i6Ki5t0K
 床に散らばる硝子の破片が素足のシャロンを傷つけたが不思議と痛みはなかった。熱に浮かされたようにふらつく体で彼女は割れた窓へと近づいていく。
「可愛い僕のシャル」
 窓枠に足をかけ、まるで姫君の寝室に忍び込む秘密の恋人といった様子で青年は微笑む。
「僕はね、思うんだ。このまま君を連れ去るのは僕にとって難しいことじゃない。それは、そうだな。君が薔薇園から薔薇を失敬して部屋にこっそり飾るのと同じか、それよりももっと容易い」
 シャロンの枕元に置かれた一輪挿しを一瞥し、青年はくすりと笑う。
「でもね、それが出来ないんだ。どうしてだろうね、君を僕は浚えない」
 ようやく窓際にたどり着いたシャロンは呆けた顔で青年を見上げた。
「ああ、可愛い僕のシャル。君が愛おしい」
 手袋をつけた指がシャロンの頬を撫でた。
「せ、んせい」
 青年の言葉の意味がわからず、シャロンは喘ぐように問いかける。
「先生、何を」
 何をおっしゃっているのかよくわかりません。口にしかけた言葉は音になる前に消えた。
 幾度となく触れた唇が慣れた様子でシャロンの唇を塞ぎ、そして離れる。
「だからこそ僕は怖いんだ。この僕が恐れを抱くなんて、ああ、なんて滑稽なんだろう」
 青年は少しもおかしそうではない、今にも泣き出してしまいそうな顔でシャロンの瞳を覗き込む。
「忘れないで、君は僕のものだ。僕だけのものだよ、シャル」
 指が頬から離れるとともに青年の姿がゆらりと煙のように儚く消えた。
 伸ばした手が宙を掴み、頬を生暖かい何かが伝い落ちる感触にシャロンは叫んだ。
「先生!」
 はっとして辺りを見回す。窓は割れていないし、足も傷ついていない。
 ばくばくと鳴り続ける心臓を押さえ、シャロンは頬を伝う涙を拭う。
 夢だ。何年も何年もシャロンを苦しめる夢。忘れることを許さないとばかりに、シャロンの記憶が薄れそうになる度に夢は鮮明に記憶を色付ける。
 深く浅く呼吸を繰り返してシャロンは意識を落ち着ける。
 そして、すっかり鼓動がおさまると彼女は起き上がって身支度を整える。寝間着から白を基調とした制服へ着替え終え、細身の剣を腰に帯びた頃扉を叩く音がした。
「どうぞ」
 扉が開き、長身の男が姿を現す。詰め襟の上着は本来上から下まできっちりと釦で留めるよう作られているはずだが男は首元をくつろげて着崩しており、しかしすらりとしたズボンはきちんとブーツの中へと納められている。
446忘れ去られた聖地 2/6:2008/03/30(日) 03:24:44 ID:i6Ki5t0K
襟には彼の階級を表す紋章が印されており、それはよくよく見れば彼の身につけた手袋や腰に下げられた拳銃にもあしらわれている。
 シャロンとよく似た格好をしているのは彼も同じ組織に属する人間であり、彼の着ているものも支給される制服だからだ。違うのは色とあしらわれた紋章だけ。
「なんだ、起きてるじゃないか」
「寝ていると思いましたか」
「まあ、少し遅かったからな。他の面子は食堂に揃ってる」
「すみません。ですが、時間には遅れていません」
 壁に掛けられた時計を見やり、シャロンは微笑む。男――レスターは緩やかに波打つ自身の髪をぐしゃぐしゃとかき回した。
「シャロン」
 上着の釦をきっちりと留め、シャロンはレスターの立つ扉へと歩き始める。
「感情ってのは厄介だろう。一度芽生えた情はそう容易く消え去りはしない」
 いつから扉の前に立っていたんだろうかとシャロンは傍らの男を睨みつけたい衝動を賢明に堪えた。
「そうかもしれません。私は彼が憎い。憎しみは正常な判断を鈍らせる。彼を前にした私が憎しみから暴走するとお思いならあなたは私を使わなければよいのです」
 感情を消した顔でシャロンはレスターを見上げた。
「私を使うか使わないか。その判断を下すのはあなたで、私はあなたの判断に従うだけ。置いていくというなら素直に従いましょう」
 レスターは口を開きかけ、力なく肩を竦めた。
「俺はただお前が可愛いだけだよ。強くなったのは魔術と剣術の腕前だけで中身はあの頃のままだから」
 シャロンより頭二つ分背の高い男は、彼女の頬を優しく撫でた。
「レスター。あなたの心配は杞憂です」
「兄弟子としては心配せずにいられないんだが」
「あなたの気持ちは有り難いと思います。ですが、それ以上の気遣いは侮辱に等しい。今や私も一介の魔術師。あなたの庇護下に置かれ守られていた頃とは違うのです」
 レスターは溜め息をこぼし、そうだなと呟いた。
「悪かった。お前が可愛いからついつい世話を焼きたくなっちまう」
「いつまでも兄気分では困ります」
「なあに、今だけだ。公私混同はない」
「当然です。そうでなければ困ります」
 ぽんと頭に置かれた手を払いのけずに受け入れ、シャロンは少しだけ表情を緩めた。
 二人は並んで歩き、食堂を目指した。
 食堂では既に朝食が始まっており、シャロンと同じ制服を着た人々が席について食事をとっていた。
447忘れ去られた聖地 3/6:2008/03/30(日) 03:25:37 ID:i6Ki5t0K
 レスターが入室したことに気づき、皆が食事の手を止めて立ち上がる。
「さて、全員揃ったところで作戦会議といこうか」
 レスターがにんまりと笑い、椅子に掛けながら宣言する。彼の合図に従い全員が着席し、シャロンも自身の席へと腰を下ろした。

 数年間頑として足取りを掴ませなかったクラウスの目撃情報を得たのが三日前。事実関係の確認を急いでいた諜報員が姿を消したのが昨日。
この目撃情報が信憑性の高いものであるとして、レスターを中心とした追跡部隊が数年ぶりに再編成された。足取りを掴むための諜報活動を主としていたものから捕獲あるいは討伐を主としたものへと移行する。
 シャロン、そしてレスターの属する組織《忘れ去られた聖地》は大陸中央を拠点とした巨大な魔術集団である。大陸に存在する魔術師の約六割は《聖地》に属しているとされ、東西南北の地域に支部を置き、他の組織とは一線を画する。
 シャロン達の追うクラウスは元は《聖地》に属する魔術師であり、中核を担う幹部でもあった。しかし、今は《聖地》に追われる立場となっている。
 それは、彼がある日を境に忽然と姿を消したためである。《聖地》の情報網を以てしても目撃情報すら得られない。彼は姿を消したのだ。
 《聖地》が彼を見つけだすことに諦めを抱きかけた頃、彼は不意に姿を現し、そしてまた消えた。
 まるで遊んでいるかのように――現に彼にとっては暇潰しにすぎないのだろう――彼は出奔してからずっと《聖地》の追っ手から逃れ続けているのであった。
 初めの頃は穏便に連れ戻すことを目的としていた上層部も、時が経つにつれ目的を捕獲から討伐へと変えてきた。組織の矜持にかけて出奔者を好き放題にさせておくわけにはいかない。
 そう言った理由から久方振りに現れたクラウスを捕らえ、あるいは抹殺するためにシャロンを含めた追跡部隊は現在作戦会議に及んでいるのであった。



448忘れ去られた聖地 4/6:2008/03/30(日) 03:26:24 ID:i6Ki5t0K
 長い作戦会議が一応のまとまりを見せ、シャロンは自室へと戻っていた。
 寝台へ倒れ込み、枕元の一輪挿しを眺める。シャロンが初めて高等魔術を成功させた祝いに師が贈った品で、稀少価値の高い石材で作られた高価な一品だ。シャロンの好きな花の模様が彫られている世界に一つしかない一輪挿し。

『先生、これってすっごく高いんでしょう? レスターさんが教えてくれました』
 レスターが推定価格を口にした瞬間からシャロンはその一輪挿しを軽々しく持ち歩いていた自分が怖くなって師の部屋へと転がり込んだのだ。
『さあ、どうかな。僕はそれなりに高給取りだけど浪費家ではないから一輪挿し程度に“すっごく高い”なんて称される額は使わないよ』
 師は常と変わらぬ微笑で何でもないことのように言う。一輪挿しと師の顔を見比べ、シャロンは垂れ下がった眉をますます下げる。
『可愛いシャル。それはね、僕が君のために用意したご褒美なんだよ。僕の言いつけを守って毎日鍛錬を怠らず、今の君には難度の高い魔術を成功させた。頑張り屋さんの君へのご褒美』
 その頃にはもう師の腕の中で優しい口づけを受けることは珍しいことではなくなっていたから、シャロンは引き寄せられるままに彼の腕の中にすっぽりと包まれる。
『君の好きな花だ』
 シャロンの手の中の一輪挿し。その模様をさして師は言う。
『君を喜ばせるためだけに作られたものなのに、君が喜ばないとこの一輪挿しが可哀想だ』
 ついでに依頼した僕も可哀想と師は笑う。
『私、割ってしまうかも』
『形あるものはいつか壊れてしまうのだから、それを恐れてはいけない』
 それでもうじうじと思い悩んでいるシャロンを愛おしげに見つめ、師はそっと額に口づけた。
『可愛い僕のシャル。では、君のために僕は魔法使いになってあげよう――』

 目を閉じれば記憶は鮮明に甦る。今なお胸を焼く思い出を振り払おうとシャロンは一輪挿しを床へ払い落とした。
 鋭い音を立て、一輪挿しは砕け散る。けれどもそれは少しの間で、気がつけば元の形へ戻り、床には水と薔薇の花弁だけが散っていた。
 忌々しい。シャロンは舌打ちをして一輪挿しへ背を向けた。
 どれだけ時を経ても記憶は薄れず、師のかけた魔術も効果をなくさない。
「先生……」
 初めは信じられなかった。師が《聖地》を出奔したことも痕跡一つ残さずに姿を消したことも。
449忘れ去られた聖地 5/6:2008/03/30(日) 03:28:04 ID:i6Ki5t0K
それよりも何よりも自分を置いていってしまったことがシャロンには信じられなかった。
 彼は魔術の師であるだげでなく、シャロンにとって父であり、兄であり、恋人であった。かけがえのない大切な、心から愛する人だったからだ。
その思いはシャロンの一方通行ではなく、同じだけの愛情を与えられていると信じていただけに置いていかれたという事実はシャロンを打ちのめした。
 周囲から慌ただしさが消え、ずいぶんと穏やかになってからもシャロンは呆然として日々を過ごしていた。僅かに残された品すらすべて運び出されたがらんとした師の部屋でシャロンは待っていた。
待っていればいつか帰ってきてくれるのだと信じていた。信じていたかった。
 しかし、いつまで待っても師は戻らず、衰弱しきったシャロンを迎えにきたのは兄弟子にあたるレスターだった。
 レスターはシャロンを連れ帰り、師は戻らないのだという事実を長い時間をかけてシャロンに認めさせた。彼はもう先生ではないのだ、と。
 そうして事実を受け入れてからシャロンは魔術の鍛錬に没頭し、護身のための剣術を標準以上の腕前になるまで磨いた。
戻らないのならせめて自分の手で捕まえたい。それがかなわないのなら刺し違えてでも殺してしまいたい。新しい目標は追跡部隊に選ばれるまでにシャロンを鍛え上げた。
 今やシャロンは《聖地》でも上位に位置する魔術師へと成長している。マスターと呼ばれる幹部たちには及ばぬまでも並の魔術師では相手にならないほどには強くなった。
 シャロンは腰の剣へと手を伸ばし、柄を握って目を閉じた。
 きっとクラウスはシャロン相手に魔術を使いはしないだろう。彼が魔術を使えばシャロンは瞬きをする間に殺される。悔しいがそれだけの実力の差がある。
 だからこそ、クラウスと相対することがあればそれは剣術で。シャロンが銃や弓でなく剣をとったのはクラウスが好んだ獲物がそれであったから。
 かつて尊び愛した師と斬り結んでみたい。
 憎悪と愛情がないまぜになり、シャロンの心がクラウスを渇望する。
450忘れ去られた聖地 6/6:2008/03/30(日) 03:28:39 ID:i6Ki5t0K
 結局のところ、シャロンは師に認めてほしいのだ。足手まといだから連れていかなかったというのなら成長した自分を見てほしい。そして悔やんでほしい。こんなに強くなるのなら連れていけばよかったと。
 そうしたら、そうしたら、きっと――
 シャロンは息を飲む。
 どうするというのだろう。彼が自分を置いていったことを悔やんだとして、そうしたらどうするというのだ。
 シャロンはゆるゆると目を開く。
「嘲笑ってやればいい。今更何を言うんだって」
 自分に言い聞かせるように声に出し、シャロンは再び目を閉じた。こんな気持ちのまま眠れば夢見は最悪。それはわかっていたが、今はただ眠りたかった。





以上。前編終わり。
本当に主従スレでよかったのかちと不安だ。
451名無しさん@ピンキー:2008/03/30(日) 04:29:34 ID:XA6q4lR3
おお。いい設定です。
レスターにも頑張ってほしいなあ。
452名無しさん@ピンキー:2008/03/30(日) 23:46:08 ID:i6Ki5t0K
忘れ去られた聖地 後編投下します。
453忘れ去られた聖地 1/7:2008/03/30(日) 23:47:06 ID:i6Ki5t0K
 痛みはもうなかった。それよりも甘さを伴う慣れない感覚が全身を支配しており、それがたまらなく心地よかった。
 自分でもよくわからない体の奥の奥で愛する人を受け入れていることがシャロンの心を満たしている。
「ごめん」
 シャロンの肩に額を押しつけていた師が呻くように言う。けれど謝罪の意味がわからず、シャロンは首を傾げた。
「加減の仕方がわからない」
 さっきまでの激しさが嘘のように師はしおらしく呟く。その拗ねたような声が愛おしくシャロンは小さく吹き出した。
「どうして笑うの」
 師が顔を上げ、拗ねた顔でシャロンを見下ろす。
「だって、先生可愛い」
 素直な気持ちを述べたのだが、師は複雑に表情を歪めた。可愛いと言われても嬉しくないらしい。
「僕は真剣に悩んでるのに。君の体を気遣いたい。それなのに、未だかつてないほどの肉欲と渇望が僕にいたわりを忘れさせる。加減が少しも出来ないんだ。
体の傷はいくらでも癒せるけど、痛いとか苦しいとか君に思わせるのが嫌なんだ。だからといって、無理矢理快楽を呼び覚ますのはもっと嫌だし」
 ぶつぶつと師は独り言のように語り続ける。
 シャロンの体と心を案じてくれているのがひしひしと伝わり、それだけでシャロンは幸せの絶頂へ至る。シャロンの体は確かにまだ喜びを覚えてはいないが、心は幾度となく歓喜の声をあげているのだと師は気づかないのだろうか。
「先生」
 シャロンは未だ自身の中に収まったままの師の一部を撫でるように臍の下辺りに手を置き、師に微笑みかけた。
「私、先生に抱いてもらうの好き。まだちょっと苦しいけど、心は気持ちいい。先生が愛してくれてるって思うと泣きたくなるくらい幸せなの」
 師は黙ってシャロンを見下ろし、吐息混じりに名を呼んだ。
 シャロンの手の下で、萎えていたものが再び熱を帯びていく。
「教え子に手を出すなんて、僕はどうかしていると思ってた。いや、今も思ってる。でも、どうかしているとわかっていても僕は君が欲しくてたまらない。……愛だ。これが愛なんだよ、シャル。ああ、たまらない。君を愛してる」
 感極まった様子で師はシャロンに口づけた。そして、動きやすいように彼女の足を肩にはねのけ、先ほど吐き出した白濁を掻き出すように腰を動かし出す。
454忘れ去られた聖地 2/7:2008/03/30(日) 23:48:04 ID:i6Ki5t0K
 こうなってしまうと何度も欲を吐き出して疲れきるまでシャロンを離さないのだと経験上知っている彼女は強く打ちつけられる腰に僅かな痛みを覚えながらも喜びに咽ぶ。何事にも淡白な師が熱く求めてくれることが嬉しくてたまらない。
 もっと、もっとと慣れないながらも彼女は彼を誘う。ぎこちなく腰を揺らし、甘く掠れた声で師を呼ぶ。欲しくてたまらないのは彼だけではない。シャロンも同じだ。どれだけ与えられても足りない。彼女はいつだって彼に餓えている。
「せんせ……すき、っは、あっ、ン、すき……あッ、せんせぇ」
 屹立はシャロンの中を遠慮会釈なく蹂躙し、その荒々しさにシャロンはのけぞって応える。師が気遣いを忘れて、シャロンを貪ることに夢中になればなるほどにシャロンは満たされた。
 互いの粘膜が触れ合う粘着質な音とシャロンの喘ぎ、そして師の乱れた呼吸だけが室内を埋め尽くし、それは空が白む頃まで幾度も続いた。


 やはり夢見は最悪だ。幸せだった頃の、少なくともそう思っていた頃の記憶はシャロンの心を乱す。かつて愛した人を思い出すことは古傷を抉り塩を擦り込むように痛かった。
 まだ夢を見ているかのようにシャロンの体は火照っている。彼女は自身の体を抱き、胸の内から憎しみを呼び戻す。
 躊躇わずに彼を殺せるように常に憎悪をまとっていなければならない。愛情は刃を鈍らせるだけだ。
 ともに過ごした時間より離れて過ごした時間が長いのにどうして忘れられないのだろう。シャロンは奥歯を噛みしめる。
「シャロン」
 かけられた声にはっとして顔を上げる。
 扉にもたれたレスターがこんこんと扉を叩く。
「ノックはしたんだぞ、何回も」
 シャロンが震える息を吐くとレスターは寝台へと歩み寄り、許可も取らずに腰を下ろした。
「うなされてたな」
「見ていたのですか。悪趣味ですね」
「ずっとじゃないさ。さっききたばかりだからな」
 レスターの手がシャロンの頬を撫で、顎を掴んで上向かせる。
 視線が絡み、彼はゆっくりと顔を近づける。程なくして唇は重なり、どちらからともなく舌を絡めて口づけを深めた。
 レスターに肩を押され、シャロンは寝台へと横たわる。口づけを交わしたままシャロンは彼の上着に手をかけた。


「俺はお前を死なせたくない」
 露わになった背に唇を寄せ、レスターは囁く。
「ああっ、く……ふ、ぁッ」
 レスターは強く腰を打ちつけ、肩に噛みついた。
455忘れ去られた聖地 3/7:2008/03/30(日) 23:48:47 ID:i6Ki5t0K
「俺にはお前があの人に殺されたがっているように見える」
 上体を起こし、突き出した腰を掴んでレスターはシャロンを責めた。
「なあ、シャロン……くっ」
 それ以上喋るなと言う代わりに下腹部に力を込めて、シャロンはレスターを締め付ける。思惑は成功して、レスターは会話を止めて行為に集中する。
 レスターに抱かれると快感を得れば得るほど虚しさで胸が埋め尽くされる。この行為に愛などなく、お互いに傷を舐めあっているだけだと理解しているからだ。
 枕を掴んで顔を埋め、シャロンはレスターの責めから逃れようとする。先に達するのは嫌なのに、レスターは的確にシャロンの感じる部分ばかりを責めてくる。
 逃げようとした腰はしっかりと抑え込まれているし、片手が結合部へと滑りシャロンの敏感すぎる部分を指で撫で始めている。
 快感ですすり泣きながら、シャロンは悲鳴に近い嬌声を上げる。
「レ、スター……いや、だめっ」
「いきたきゃいけよ」
「いやぁ……あっ、い、いや……ああ、あっ、ああああああッ」
 堪えきれずに絶頂を迎え、シャロンの体が強ばる。それでもかまわずにレスターは腰を打ち付ける。レスターを止めようと膣はきつく収縮し、襞がまとわりついてくる。しかしレスターは止まらない。
 悲鳴を上げながら、シャロンは強すぎる快感から逃れきれずに小刻みに体を震わせる。
 逃れられないように腰をしっかり両手で掴み、レスターは自らが達するまで動くことをやめない。彼が満足してシャロンの尻に白濁を散らす頃には、彼女はぐったりとして寝台に体を投げ出していた。
 シャロンは虚ろな目でレスターを見上げた。優しい兄弟子を苛んでいるのは自分の存在だと気づいているのに、離れることが出来ない。いっそ突き放してくれればと思うが、優しい彼が自分を見捨てられないことも知っている。
「レスター」
 泣きすぎて掠れた声で彼を呼ぶと低く穏やかな声が答えた。
「ん? なんだ」
「ごめんなさい」
 困ったような顔で彼は笑い、シャロンの髪がぐしゃぐしゃになるのもかまわずに頭を撫で回す。
「それと、ありがとう」
「……馬鹿だな。お前みたいな可愛い女を抱けるんだから、こういうのは役得っていうんだ」
 レスターはおどけて見せたが、ありがとうとシャロンは重ねて口にした。



456忘れ去られた聖地 4/7:2008/03/30(日) 23:49:34 ID:i6Ki5t0K
 情報に従い、追跡部隊は北部へと向かった。転移魔術で《聖地》支部へ、そしてそこから馬車で三日かけて鬱蒼とした森へ移動した。森の中の古びた館にクラウスがいるという。
 今までの記録から想像するに、追跡部隊が到着した頃にはもぬけの殻になっている。あるいは姿は見せるが交戦の間もなく逃げられる。あるいは――
「以前北部で発見した時は負傷者多数でほぼ壊滅状態だったそうですね」
「気まぐれな人だからな。毎度結果はあの人の気分次第というところだ」
 落とした声でシャロンとレスターは言葉を交わす。
「だが、死人は出てない」
 レスターが不快そうに眉を寄せる。
「死なない程度に痛めつけることが可能だということはあの人は追跡部隊全員束ねてもまだ数段高見にいるってことだ。あの時は一度目の追跡だったから面子も今ほど攻撃に特化した奴ら揃えてたわけじゃなかったが」
 レスターの話を聞き、シャロンはぎりぎりと奥歯を噛みしめる。
 今回の追跡部隊にシャロンがいることに、きっと師は気づいているはずだ。逃げずに向き合ってほしいと願う。
「クラウスは私が必ず捕まえてみせます」
 この日のためだけにシャロンは十年を越える歳月を生きてきたのだ。
 決意も露わに、シャロンは前方に現れた目的の館をじっと見つめた。



「可愛いシャル。僕の、僕だけのシャル」
 別れた時のまま、目の前で師は笑んでいた。
「会いたくて、触れたくて、気も狂わんばかりだったよ。でも怖くて会えなかった」
 悲しそうに表情を歪め、片手で掴んでいたものから手を離した。それは力なく床へ倒れ込み、師は一瞥もくれることなくそれから剣を引き抜いた。
「……レスター」
 それの腹の辺りからじわじわと血が滲み、それは恐るべき速さで床に血溜まりを作った。
 床に横たわるのは追跡部隊の長であり、マスターと呼ばれる高位の魔術師であり、シャロンの二人目の師であり、クラウスの弟子であるレスターだ。
「せんせい」
 血の臭いがする。レスターの命の臭いだ。
「ああ、シャル。怖いのかい」
「レスターが、レスターさんが」
「仕方がないよ。僕だって嫉妬くらいする」
 体が動かなかった。館へ入ってすぐに体の自由を奪われた。
 攻撃は唐突で確実。シャロンの周りにだけ防護壁が張られ、不意をつかれた追跡部隊は雨のように降り注ぐ強烈な攻撃魔術にさらされた。
457忘れ去られた聖地 5/7:2008/03/30(日) 23:50:38 ID:i6Ki5t0K
当然彼らもすぐに防護壁を張り、姿の見えない敵に備えたが彼の魔術には際限がなかった。応戦することすらままならず、気がつけば立っているのはシャロンとレスターの二人だけ。そこでようやく魔術は止まり、変わらぬ姿の師が現れた。
 この時もまだシャロンの体は動かなかった。動かない体で二人の師が争うのを眺めていることしかできなかった。
 一方的だった。レスターが放つ魔術はことごとく無効化され、クラウスはレスターが無効化できるように加減をして魔術を放つ。クラウスは遊んでいる。それは傍目から見ても明らかだった。
そうして暫くレスターとの小競り合いを楽しみ、クラウスは虚空から剣を取り出してレスターの動きを止めた。
 応戦するレスターが動かなくなるまで痛めつけ、クラウスはシャロンへ向き直る。もう体を戒める魔術は解かれたのだと気づいてはいたが、シャロンは動くことができなかった。
「綺麗になったね」
 へたり込んだシャロンの前に膝をつき、師は彼女の頬にまるで壊れものに触れるようにそっと触れた。
「先生……レスターさんが、死んじゃいます」
 師が余りにも変わらないから、最後に会ったのが昨日のように思える。シャロンは昔のように師の胸にすがりついた。
「大丈夫」
「でも、血が、血がたくさん」
 ぐずぐずと鼻を啜る。師は優しく背を撫でてくれた。
「可愛い僕のシャル。形あるものはいつか壊れるし、命あるものはいつか尽きる。死は誰しも等しく訪れるものだ。それを恐れてはいけない」
 辺りに転がる追跡部隊は傷を負ってはいるが、治癒に特化した魔術師を呼び寄せれば死ぬことはないだろう。クラウスが彼らを殺さぬように治癒を施しながら痛めつけているからだ。
 だが、レスターは違う。あのまま放っておけば出血多量で死ぬかもしれない。
「先生」
 レスターの血に濡れた手で師はシャロンに触れる。
 涙がとめどなく溢れた。恐らく本当にクラウスは変わっていない。姿形だけでなく、内面もあの頃と変わりない。シャロンへ向けられる愛情もあの頃のままだ。
 それを痛いほどに実感し、シャロンは泣いた。
「会えば君を壊してしまいそうだったけど……よかった。僕はまだ君の先生でいられる」
 変わってしまったのはシャロンだ。今のシャロンにはもう盲目的にクラウスだけを愛することはできない。
 それに気づき、シャロンは泣いた。あの日、連れ去ってくれたなら、きっとずっと師だけを愛していられたのに――
458忘れ去られた聖地 6/7:2008/03/30(日) 23:51:29 ID:i6Ki5t0K
「どうして」
 だからこそシャロンは問いかけた。
「私を置いていったのですか」
 師は目を閉じ、深く息を吐いて、それから困ったような顔でシャロンを見た。



 治癒はあまり得意ではなかった。それでも、シャロンは震える手でレスターにありったけの魔力を注ぐ。
「レスターさん……やだ、死んじゃ嫌です」
 独りきりになったシャロンの手を取ってくれたのはレスターで、彼はそれからずっと側にいてくれた。まだ恩返しはできていない。
 師は再びどこかへ消えてしまい、シャロンは今度は自分で選んだ。彼についていくのではなく、《聖地》に残ることを選んだのだ。
 師が去ってから止まっていたシャロンの時間はようやく動き出したのだ。それを伝えて、優しい兄弟子を安堵させてあげたい。もう心配しなくていいのだと言ってあげたい。
「レスターさん、レスターさん」
 大きな傷はすべて塞いだ。足りない血液を補うように魔力を注ぎ込んだ。後は目を開くのを待つことしかできない。
 シャロンはレスターの大きな手を両手で包み、祈りながら待った。
「……シャ、ロン」
 ぴくりと体が動き、レスターが歪めた顔をシャロンへ向けた。
「あ、レスターさん」
 安堵とともに力が抜け、シャロンの頬を涙が伝った。
「シャロン……」
 亡霊でも見たような顔でレスターはシャロンを見上げている。そして、暫くしてからシャロンが握っているのとは逆の手でシャロンの頬を伝う涙を拭った。
「行かなかったのか」
 辺りに師の姿がないことに気づき、レスターは言う。
「馬鹿だな。こんな機会、最後かもしれなかったのに」
 レスターは辛そうに眉を寄せたまま、何度もシャロンの頬を撫でる。
「あの人はお前を待ってたんだよ。追いかけてきて欲しかったんだ」
 シャロンはレスターの言葉を黙って聞きながら曖昧に笑んだ。
「ずっと怖がってた。お前が愛おしくて、愛おしすぎて壊してしまいそうだって。だから逃げた。逃げたくせに、それでも、待ってたんだよ。シャロン、お前を待ってたんだ」
 シャロンは力なく首を横に振る。
「レスターさん」
 それでもレスターは何かを言いかけ、けれどそれ以上は何も言わずに口を閉じた。
「眠って下さい。まもなく医療班が到着します」
 独り言のような呟きに頷き、レスターはゆっくり目を閉じた。



459忘れ去られた聖地 7/7:2008/03/30(日) 23:52:30 ID:i6Ki5t0K
 一年の四分の一を雪とともに過ごす北部でも可憐に花は咲き誇る。庭園の花壇を眺め、中央では見ない種の薔薇をシャロンは愛でた。
「シャロン」
 だらしなさを感じる一歩手前まで制服を着崩したレスターがシャロンの傍らに立つ。
 《聖地》支部にて治癒を受け、追跡部隊員たちは翌日には本部帰還が可能なまでに回復した。レスターも自由に歩き回れるほどに回復している。
「その、なんだ」
 言いにくそうに口ごもり、がりがりと頭を掻く。そんなレスターを見上げ、シャロンは楽しそうに笑った。
「私になにか、レスター?」
 少しばかりの逡巡の後、レスターはシャロンの右手をとった。そして、人差し指の付け根に輝く金と碧の光を見つめる。
「これ、取れんだろ」
「はい。取れません」
「……なんでそんなに嬉しそうなんだ」
「私、決めたんです。今の私では並んで歩けないから、だからまだ駄目なんです。先生が怖がらずにいられるくらい強くなったらそうしたら隣に行こうって」
 愛おしそうに指輪を撫でるシャロンを見下ろし、レスターは深々と嘆息する。
「並べるくらいとなるといつになるかわからんぞ」
「でも、いいんです。先生は私がおばあちゃんになっても待っていて下さるってわかったから」
 レスターの手が頬に触れ、ついで唇が軽く触れる。
「……わかってたけど、前途多難だな」
 不意の口づけに瞬きを繰り返すシャロンを見てレスターは苦笑する。
「レスター?」
「なんでもない。こっちの話だ」
 ぐしゃぐしゃと柔らかな髪をかき回すように頭を撫でられ、シャロンは不思議と好ましい感触をなぞるよう唇に指で触れた。
 髪の影で指輪がきらりと煌めいた気がした。




以上。後編おわり。
前後編ともに保管庫には保存しないで下さい。
460名無しさん@ピンキー:2008/03/31(月) 16:51:55 ID:bBB66fMo
いいものを読ませてもらいました!
GJです!!
461名無しさん@ピンキー:2008/04/01(火) 05:21:16 ID:imI18KrY
462名無しさん@ピンキー:2008/04/01(火) 05:33:19 ID:oIVkXQOZ
463名無しさん@ピンキー:2008/04/02(水) 15:52:43 ID:Xs2zrc7N
このスレに常駐してる職人サンって何人くらいいるんだろう?
464名無しさん@ピンキー:2008/04/02(水) 22:32:37 ID:vty0G0Y2
面白かった!
続き読みたい
先生が謎だなあ
465名無しさん@ピンキー:2008/04/07(月) 02:23:08 ID:Y6sXX+y1
保守
466名無しさん@ピンキー:2008/04/13(日) 02:28:11 ID:FP9Cer48
保守
467名無しさん@ピンキー:2008/04/18(金) 03:13:44 ID:XMq/OC5u
保守
468名無しさん@ピンキー:2008/04/20(日) 02:55:53 ID:UVm6XsqL
保守
469名無しさん@ピンキー:2008/04/23(水) 03:38:46 ID:4UniOlM7
保守
470名無しさん@ピンキー:2008/04/24(木) 05:29:23 ID:N5+GE9ue
凄い勢いで過疎ったね…
職人さんキテー
471名無しさん@ピンキー:2008/04/27(日) 17:41:18 ID:3L0/48pn
投下します。
エロ無しなので、ダメな方はスルーかNGでお願いします。
472二組の”大佐と副官”-1 ◆GK0/6l5f56 :2008/04/27(日) 17:42:10 ID:3L0/48pn
 副官の机にうず高く積まれた書類の山がユラユラと揺れ始め、あっという間に
崩れ落ちていく様を、この部屋の主は「またか」といった表情で見つめていた。
  部屋の主の襟元には六つの星が並ぶ階級章が輝いている。王立軍の階級章は一つ星で
少尉、二つ星で中尉と言った具合に階級が上がる毎に星が増えていく。六つ星は現場の
トップである大佐を意味している。
 書類が散らかった床の真ん中にしゃがみ込み、オロオロとしている小柄な女性の襟元の
階級章は星一つの少尉のものである。
 暫くして落ち着きを取り戻した女性は、薄桃色のセミロングの髪を揺らしながら書類が
散乱する床に這い蹲った。そして、無数の紙の束を大慌てでかき分け何かを探し始めた。
そのかき分け方が尋常でなく、その場を余計に散らかすことなっていたが、彼女はお構いなし
だった──というよりも正直それどころではなかった。この紙の束に紛れ込んでしまった
本日の大事な会議資料を彼女は探していたのだ。
 しかし、崩れた書類の山は膨大な量で、目当ての資料は簡単に見つかりそうもない。
 「はあ」──部屋の主が額に手を当てながらついた大きな溜め息に反応して、彼女は
伏せていた顔を上げた。
 失態を恥じて彼女の細い秀麗な眉は”ハ”の字に引き下げられ、愛らしい円らな
ヴァイオレットの瞳はいつ泣き出してもおかしくないほどに潤みきっている。そして、
その桜色の可憐な唇を震わせながら、申し訳なさそうに頭を下げた。
「す、すみません、大佐。私、ま、またヘマを……」
 ”大佐”と呼ばれたこの部屋の主は黒髪の細身の男性である。歳の頃は二十代後半。
印象的な鋭い銀の瞳を持ち、鼻梁は彫像のように高くその下の薄い唇は固く引き結ばれている。
理知的で凛々しい印象を受けるその容姿から、彼が多くの女性の衆目を引いていることは
容易に想像できる。  
 額に掛かった前髪をかき上げヤレヤレといった様子で首を二度三度振ると、その男は
ゆっくりと革椅子から立ち上がった。
「こうしていては会議に遅れる。書類は後で構わないから行くぞ」
「で、でも……その会議に必要な書類じゃ……」
 今にも消え入りそうな声で、桃色の髪の女性は男の顔色を伺いながら恐る恐る発言した。
今にも泣き出しそうに歪められた顔立ちは実際の年齢よりも彼女を幼く見せる。
「気にするな、イルマ。一通り目は通し、中身は覚えている」
 長身痩躯の男は散らかった書類の束を避けて、マントを翻し部屋を出ていった。
「た、大佐ぁ!待ってくださいぃぃ!」
 イルマは自分の机に置いてあった革の手帳、羽ペンとインク瓶を抱きかかえるようにして
上官の後を慌てて追いかける。
──スヴェン大佐、怒っていらっしゃるのだろうか。そうだよね、だってとても大事な書類で
昨日もお持ち帰りになって夜遅くまで内容を頭に叩き込んでいたって、仰っていたのに……
私ったら。
 彼女は上官の三歩後ろを歩きながら、いつまで経っても治らない自分の不注意を呪った。
 イルマとドジは昔から同義語であり、士官学校時代から同窓生には散々からかわれていた。
目の前を歩く大佐の副官に任官されてからも、ミス、ヘマが減ることはまるでなかった。
冷淡な鉄面皮として彼女の上官は知られていてから、イルマはいつクビになってもおかしくないと
ビクビクしていた。 
473二組の”大佐と副官”-2 ◆GK0/6l5f56 :2008/04/27(日) 17:42:57 ID:3L0/48pn
 しかし、歳が十以上──正確には男が二十八歳で、イルマが十七歳なので十一歳も違う
ためか、呆れられることはあっても怒られることは滅多になかった。それでも上官にいつまでも
甘えていてはいけない、とイルマは毎朝出勤前に心に誓うが、就寝前にはやはり間の抜けた
自分を呪う日々が続いている。
──大佐……ごめんなさい。
 途端に前を歩いていた男が立ち止まる。ぶつかりそうになりながらもイルマも何とか踏み
とどまった。申し訳なくて、イルマは振り向いた上官と目を合わせられない。
「イルマ、そう落ち込むな。あの資料が無くとも何とでもなる」
「ど、ど、どうして……私が落ち込んでいるとお分かりなるのですか?ま、魔術ですか?」
 ちなみにイルマの上官は若いながらも優秀な魔導師で王立軍の中でも、一目置かれて
いる存在である。一般的に魔導師は知識と魔術の探求に一生を捧げ、人との係わり合いを
好まない。人里離れた場所に塔を建て研究に没頭する魔導師のイメージはあながち的外れ
ではない。しかし、何事にも例外はあるもので習得した魔術を用い、人の世で生きる魔導師も
少なからずいる。
「……それだけシュンとしていれば魔術など使わずとも誰でも分かると思うが」
「すいませんでした。スヴェン大佐」
「気にするな、と言った。これは上官命令だ」
 到って真面目な口調で、スヴェンと呼ばれた男は応えた。
「はい……」
 許しを得たことで安堵したのか、イルマの声のトーンが心なし上がる。その返事を聞いた
スヴェンは再び前方を向いて、会議室へと歩き出した。

 ◆ ◇ ◆ 

 昼食を挟んだ長い会議が終り、執務室へ戻る途中のスヴェンは終始ウンザリした顔だった。
魔導師らしく合理性に欠けることを好まない彼は、長々とした意味の無い会議が大嫌いだった。
 書類などなくとも自分の報告を完璧に済ませると、スヴェンは目を瞑り飛び交う無味乾燥な
議論に無視を決め込んでいた。
「まったく無駄な時間だった。あんなことをわざわざ仰々しい会議など開いて決める必要が
どこにあったと思う?」
 額にかかった髪をかき上げたスヴェンは同意を求めるかのようにイルマをその銀色の瞳で
見つめた。その銀の目は戦場においては猛禽類の如き鋭い眼光を放つことから、”鷹の目”と
揶揄されている。
「そ、そんな私は……その……」
──大佐の意見には同意したいけど……あれは執政官様が開かれた会議だから、
「つまらない」なんて言うと失礼だし……でも大佐が同意を求めているのだから……いやいや、
どこで誰が聞いているか分からないのだからやはり、「つまらない」などと言ってはいけないわ……。
 まごまごと答えに窮するイルマを見限ったのか、スヴェンは彼女から視線を外し黙って
自分の執務室に向って歩き出した。
474二組の”大佐と副官”-3 ◆GK0/6l5f56 :2008/04/27(日) 17:44:32 ID:3L0/48pn
──ああ、また私は大佐に嫌われてしまった。
 イルマは肩を落とし、スヴェンの三歩後ろを項垂れながらオズオズと部屋へ戻った。
 部屋に戻ったイルマの最初の仕事は、床一面に散らかった書類の片付けであった。
彼女がそれに取り掛かっている間、スヴェンはオーク材で作られた横長の執務机に
頬杖をつき、うららかな陽気の中で瞼を閉じ考えにふけっていた。
 床の片付けを終えたイルマは入り口に近い自分の机に座り、気取られないようそっと
スヴェンの顔を遠目に眺めていた。滅多に表情を崩さないスヴェンだが、午後のひと時、
黙考に耽っている間だけは穏やかな顔つきになる。イルマにとっては上官のその顔を
覗き見るのが、密かな楽しみであった。
──大佐のああいう顔を見れるのは、この部屋にいる私だけ……。
 だが、至福の時間はそうそう長く続かない。スヴェンが目を開けてしまったのだ。
その瞬間、イルマはすぐさま顔を伏せ、机の上の書類を読んでいるフリをする。スヴェンに
気づかれていないだろうかという心配から、小ぶりな膨らみの下に収められた心臓は
バクバクと大きな音を立て、全身の血が沸騰したのかと思うぐらいに熱くなる。
「イルマ」
 声を掛けられたイルマは思わずビクリと全身を震わせて、スヴェンに顔を向ける。
その様子はまるで油が切れたブリキの人形のようにぎこちない。 
「な、何でしょう?」
──お、お顔を盗み見ていたこと……き、気づかれていませんように……。
「さっきの会議の議事録を一応読んでおくから、貸してくれ」
「はい……えっと……この辺りに……えっ、あれっ?」 
 議場で速記を取っていた紙が見当たらない。
──確か、このバインダーに挟んだはずなのに……ない、ない、ない!!
 慌てたイルマは机の上の書類の束をひっくり返し、引き出しの中、書架の中、あげくの
果てに制服のポケットまで探り始めた。
「イルマ、幾らなんでもポケットには収まらんだろう?」
 スヴェンの呆れ声がイルマの胸にグサリと突き刺った。真っ当に考えれば確かに
そんなところにあるはずなかった。
「は、は、はい。すいません」
──ダメだぁ、またやってしまったわ……どうしよう……。
 本日何度目か数えることもできないヘマを後悔しながら、自分自身にほとほと嫌気が
さしたイルマの曇った視界には、滲んでぼやけたスヴェンの顔が映っていた。
「……ごめんなさい」
 しかし、スヴェンには別段咎める様子はない。彼からしてみれば、何時であろうとイルマの
ミスは織り込み済みなのだ。
「まあいい。アユタナの所に借りにでも行って来くれば良い」
 スヴェンが親しいラインベルガ=スニードの副官を務めるアユタナは、同性ですら
羨やまずにはいられない類稀な美貌に、煩雑な副官の仕事を事も無げにこなす能力を
兼ね備える完全無欠の才女として軍の中でも評判が高い。イルマにとってもまさに
憧れの存在であり、上官同士が仲が良いことから困った時にはいつも助けてもらっている。
475二組の”大佐と副官”-4 ◆GK0/6l5f56 :2008/04/27(日) 17:45:11 ID:3L0/48pn
 少し間を置いて、スヴェンが珍しく和らいだ声で切り出した。

「議事録は後で構わないから、コーヒーを淹れてくれないか?」

 その言葉を聞くなり塞ぎこんでいたイルマの顔がみるみる喜色の色を帯び、明るく
生き生きとした表情へと変わる。
「あっ……はい!」
 スヴェンの前ではヘマばかりのイルマでも、褒められたことの一つや二つぐらい
あるものだ。勿論多くはないが、その代表格がコーヒーを淹れることだった。特別なことは
していない、と言うよりもできないが、イルマの淹れたコーヒーを必ずスヴェンは「美味しい」と
褒める。だから、イルマも嬉しくて上官が「コーヒーが飲みたい」と言い出すのをいつも
心待ちにしていた。
「美味しいの、淹れますね」
 満面の笑みで応えたイルマの様子を見て、スヴェンは少しホッとしていた。

──イルマの場合は普通の味がするだけでも充分、褒めるに値する……部下の機嫌を
取るのもなかなか一苦労だ。

 込み上げてくる苦笑を必死に噛み殺す。
「ああ、頼む」
 スヴェンは少し口元を緩めると、再び瞼を閉じて黙考に耽った。一方イルマは、はやる
気持ちを抑えながらいそいそとお湯を沸かし始めた。

 ◆ ◇ ◆ 

 西日が差し込む軍本部の廊下にて、軍服がはち切れんばかりの筋骨隆々の大男とその
人物とは対照的な長身痩躯のスヴェン=ホークが立ち話をしていた。
「スヴェン、お前のところの副官はどうにかならんのか?」
 太い眉が印象的な厳めしい顔つきのラインベルガ=スニードの階級章は、スヴェンと同じ
六つ星だ。三十代前半にして大佐に昇り詰めたものの、窮屈なデスクワークよりも
血風吹き荒ぶ戦場に身を投じる方を選んでしまう根っからの武人である。
 獅子の鬣の如き赤髪と巌のような体躯で得物の大剣を振舞わすその姿は神話に登場する
軍神さながらであり、周辺国から”アルセリウスの獅子”と畏怖を込めて呼ばれている。また、
類まれな武勇に加え裏表のない性格で部下からの人望も厚い。
「先程もアユタナのところへ今日の議事録を借りに来たぞ。議事録ぐらいならばどうとでも
なるが、あのような様子では何時か大問題を引き起こすぞ」
 イルマを副官にしてからというもの、ラインベルガのお小言は半年間毎日続いている。
──半年間も毎日欠かさずミスするのは大したものだが、イルマ本人はあれで到って真面
目なのだから可哀想というべきだろうな。
 ラインベルガは決してイルマを悪く言うつもりなどない。純粋に心配しているからだと
いうことはスヴェンにも痛いほど分かるが、ほぼ毎日繰り返されていてはさすがに話半分
に聞き流してしまう。
476二組の”大佐と副官”-5 ◆GK0/6l5f56 :2008/04/27(日) 17:45:51 ID:3L0/48pn
「おい!聞いているのか、スヴェン!」
「そう言うな、ラインベルガ。あれはあれで良い所があるのだぞ」
 スヴェンの言葉にラインベルガは太い眉を寄せ、怪訝な顔をする。
「もしかして……お前、あういう娘が好みなのか?」
 突如、スヴェンの”鷹の目”が細まり途端に凄みが増す。その瞳に睨まれラインベルガは
全身に悪寒が走るのを覚えた。どうやらこの国きっての魔導師の虎の尾を踏んで
しまったらしい。
「誰がそんなことを言った?」
 聞いたものを凍りつかせんばかりのスヴェンの威圧的な声が響く。剛毅でならす、さしもの
ラインベルガもたじろがざるをえない。
「いや、う、噂だ。あれだけ足を引っ張られてもお前がイルマを解任しないことを不思議
がっている下士官どもの間で流れている噂だ」
「それを真に受けたでもいうのか、ラインベルガ?」
「ゴ……ゴホン。その……あのだな……あくまで、可能性として質問しただけなのだ」
「お前ともあろうものがつまらん風説を口にするとは嘆かわしい。噂は軍紀を乱し、
戦場では敵につけ入るスキを与える。よもやお前ほどの男が知らぬはずがあるまい」
 ピシリと言い放たれた正論に反駁の余地はまるでない。おまけにスヴェンの迫力から
推察するに、反論しようものならただではすまないことをラインベルガは本能的に悟った。
「あ、ああ。すまなかった」
 彼が冷や汗を垂らしながら頷くと、スヴェンの瞳がいつもの色に変わった。
──まったく、イルマのことになるとこの男は人が変わる。それでいて、恋心でもあるのかと
探ってみると今のように本気で怒りかね出しかねない……魔導師という奴らは厄介な連中だ。
 とはいえ、勘繰りを入れたラインベルガ自身がとびきりの朴念仁だったから、スヴェンが
僅かに見せた異質な気色に気がつくことはなかった。
 冷や汗が引き始めた友人を横目に、スヴェンが一言呟いた。
「イルマの良い所はだな……」
 ところが、イルマを褒めようとしたものの次が続かない。スヴェンの記憶の中のイルマは
ミスを犯して慌てている姿か、謝っている姿のどちらかだった。
 興味津々な様子でそのスヴェンをラインベルガは凝視している。
 暫く沈黙が続いた後、スヴェンがおもむろに口を開く。
「……コーヒーを美味く淹れる」
「コーヒー?」
 ラインベルガは呆気に取られたが、スヴェンは到って真面目に頷く。
「ああ、悪いか?」
「…………いや」
──お前、コーヒーだけなら副官にバリスタでも雇え!!
 と、叫びたいラインベルガであったが、命を天秤に掛けてまで口にすることはなかった。
477二組の”大佐と副官”-6 ◆GK0/6l5f56 :2008/04/27(日) 17:46:46 ID:3L0/48pn
 ◆ ◇ ◆

──まったく付き合いきれん。
 そんな気持ちでラインベルガは自分の執務室に戻った。誰もいないと思っていた部屋の
ドアを開けると、副官のアユタナ=リーランドがまだ書類を整理していた。
「まだ、帰らんのか?」
 ラインベルガの声に、見事なブロンドの髪をアップに纏めた美しい女性が顔を上げる。
銀色の細いフレームのメガネが良く似合う聡明な相貌は何だか嬉しそうに緩められている。
「後、少しで終わりますわ、大佐」
 婉然と微笑を浮かべるアユタナはラインベルガと八歳違いの二十三歳である。文官、
武官を問わず幾人もの傑出した人材を輩出した由緒あるリーランド公爵家の子女だ。
 若く家柄も良くおまけに美しい彼女が、何故むさくるしい平民出の自分の副官になど
志願してきたのか、ラインベルガにとっては未だに謎である。
「ゴホン……そうか、あまり無理はするなよ。根を詰めすぎると身体に毒だぞ」
「お気遣いありがとうございます。ところで、終わったら食事をご一緒して頂けませんか、
ベル?」
 親しげに掛けられた「ベル」という愛称にラインベルガは慌てふためき仰け反ってしま
う。
「リ、リーランド中尉!!」
 アユタナのいないところであれば、いくらでも彼女の名前を口にできる。しかし、面と
向うと、あがりにあがってしまい、彼女が任官されてから半年も経つにもかかわらず、
いまだにラインベルガは副官を名前で呼べない。
「し、執務中はそのように呼ぶのは止めろと言ったはずだぞ」
「あら、では執務中ではなければ宜しくて」
 ほっそりとしたアユタナの指先がメガネのフレームを押し上げる仕草は、相手を本気で
追及する兆候だ。こうなるとラインベルガは、戦場での武勇はどこ吹く風で蛇に睨まれた
蛙の心地に追いやられる。
「……い、いや、そういう問題では……」
「では、どういう問題なのですか?」
 ルージュを引いた柔らかそうな唇が緩み、澄んだ双眸が悪戯心に満ちた輝きを放つ。
 ラインベルガはドサリと自分の執務用の革椅子に巨体を沈めると、長く溜め息を付いた。
「だから……その……ええい!ダメなものはダメなのだ!」
 ラインベルガは友人のスヴェンのように思慮深くもなく弁が立つわけでもない。文官の
中でも一、二を争うほどに優秀なアユタナを相手に舌戦を試みても、勝ち目がないことは
痛いほど良く分かっている。そのため、下手に言い争うよりも半ば強引に話を打ち切る方を
彼は選んだ。
 しかし、ラインベルガの答えに納得がいかないアユタナは、ゆらりと席から立ち上がり
ヒールの音を立てながら彼に歩み寄る。
478二組の”大佐と副官”-7 ◆GK0/6l5f56 :2008/04/27(日) 17:49:13 ID:3L0/48pn
 軍の制服の上からでも分かる彼女の抜群のプロポーションには、強靭な自制心を誇る
ラインベルガですらわれ知らず見蕩れてしまう。重力に逆らう張りのある豊かな胸の膨らみ、
一切の無駄がない細く括れた腰とタイトスカートを押し上げる上向きのお尻があいまった
肉感的な体型は、美の象徴である月の女神の彫像が生命を得たのかと勘違いしそうになる。
そして、そんな色香を隠すどころかわざと強調するように、にじり寄ってくるのだから、純朴な
ラインベルガにしてみればたまったものではない。
「そんなつれないことを仰らなくても宜しくはありませんか?」
 薄いレンズ越しにラインベルガを見つめるサファイア・ブルーの瞳が妖しく揺れる。
 口元に微笑を浮かべたままアユタナはラインベルガの執務机の端に横向きに座り、わざと
見せつけるようにスラリと長く伸びた脚を組み替える。黒のストッキングとコントラストをなす
白い脚は生唾ものだ。挑発的な仕草にさしものラインベルガも思わずゴクリと喉を
鳴らしてしまう。それを見たアユタナはさも嬉しそうに微笑む。
「私、あなたがその気になるのをずっと待っているのですよ、ベル。そろそろお気づき頂
いてもいいかと」
「リ、リーランド中尉!か、か、からかうのは止めてくれ!」
 ラインベルガは耳まで真っ赤に染め、そっぽを向いて拗ねたように呟く。
「お、俺みたいな男を……お、おちょくって何が楽しいんだ?」
 その言葉を聞いて、アユタナは怪訝そうにラインベルガを見つめる。
「おちょくるなんて……今も昔もそんなつもりはサラサラありませんが?」
「き、君みたいな魅力的な若い女性が俺みたいなのを相手にするなど、誰が信じるという
のだ!」
 毎朝、鏡で見る自分の顔はゴツゴツと厳めしく武人としては申し分ないが、どう考えて
も女性の興味をひくとは、ラインベルガには到底思えない。そんな武骨な顔立ちと朴念仁の
性格が相まって、彼は三十一歳になる今の今まで女性には無縁の殺伐とした生活を送ってきた。
──そんな自分がアユタナのような若い美女に迫られるなど、夢だとしても信じられない。
これは何かの悪い冗談なのだ。そうとしか考えられん!
 眉間に深い皺を刻み、固く瞳を閉じたラインベルガが丸太のような太い腕を組む姿を見
つめたアユタナは、おもむろに制服の襟元に手を掛ける。

「では、こうすれば信じてくれますか?」

 室内に響くボタンを外す乾いた音に、慌ててラインベルガは瞳を開ける。
「…ちょ、ちょっと待て!」
「待てません!」
 彼の視線の先には、制服のボタンをドンドン外していく絶世の美女の悩ましい姿があった。
肌蹴た胸元から覗く黒い下着に包まれた豊かな膨らみが作り出す谷間に、ラインベルガの
視線は思わず釘付けになってしまう。
──いかん。いかん。な、何をしている!こ、こんな風紀に反するようなことは上官として止めねば!
「リーランド中尉、もう止めろ!じょ、上官命令だ!」 
479二組の”大佐と副官”-8 ◆GK0/6l5f56 :2008/04/27(日) 17:49:50 ID:3L0/48pn
 それでもアユタナの指は止まらない。上着のボタンを全部外すと今度はベルトのバックルを
緩めに掛かる。
「き、聞こえんのか!上官命令だぞ!」
「……力づくでお止めになったら、如何です?”アルセリウスの獅子”とも称されるお方が
女一人組み伏せることなど、造作もないことでしょうに」
 挑発するような流し目に、ラインベルガはドギマギしてしまう。戦場ではどれだけ白刃が
降り注いでもいささかも変化を見せない心臓の鼓動が、今は早鐘のように滅茶苦茶な勢いで
打ち鳴らされる。
「た、頼む、リーランド中尉。気を確かに持て!」
「持っていますが、何か?」
「いやいや……いつもの冷静な君を取り戻してくれ!」
「普段と何ら変わりませんが」
「…………なあ、頼む。俺を困らせて何が楽しいんだ」
 はぁぁとアユタナは悩ましげな溜め息をつく。
──何て、鈍感なのかしら。
 形の良い顎に手をかけ、見目麗しい副官は暫し思考を巡らせた。
「……ではどうでしょう。私の名前を呼んで頂けるのであれば、今日のところは確実な一歩を
踏み出したということで譲歩致しましょう」
 ラインベルガからいつも「リーランド」と家名で呼ばれることがアユタナには常々、もどかしかった。
好きな人間に自分の名前を呼んで欲しい──まさか、自分がこんな少女じみたことを切に
望むようになるとは、とアユタナは呆れていた。たかだか、名前如きと思っていても、
ラインベルガの低く野太い声で自分の名前を呼ばれることを想像すると、彼女の心は
キュッと甘く締め付けられる。そして、自然と頬が紅くなり目が潤んでしまう。
──本当はいきなり押し倒してもらっても構わないのだけれど、ベル相手では現実的な
ところから一つづつ進展させていくしかないわね。
 ラインベルガは「今日のところは」というところに引っ掛りつつも、事態の収拾を図るべく
副官の提案に不承不承頷き、彼女の名前を呼ぶことにした。しかし、やはりというべきか
色恋沙汰への免疫をもたない彼にはこんなことですら羞恥心が先走り、モゴモゴと言い
よどんでしまう。
 純情なラインベルガが必死に羞恥と葛藤している姿を眺めながらも、アユタナは衣服を
脱ぐ手を止めない。濃紺のタイトスカートが脚をスルリと通り抜け、前が肌蹴た上着を
羽織った彼女の下半身はガーターベルドで止められた黒いストッキングとショーツだけ
という姿になっていた。
 とんでもなく悩ましげで扇情的な姿にラインベルガは頭を抱える。下手をすると夢でも
誘惑されそうだ。しかし、切迫した状況にラインベルガはやっと勇気を振り絞り、彼女の
名前を蚊の鳴くような小さな声で呟いた。
「…ア、……アユタナ……中尉」
「中尉は余計ですわ」
480二組の”大佐と副官”-9 ◆GK0/6l5f56 :2008/04/27(日) 17:50:49 ID:3L0/48pn
 まったくどちらが上官かサッパリ分からない。

「…………ア……アユタ……アユタナ。頼むから、この辺で勘弁してくれ」

 ボソリした声だったが、アユタナにしてみれば至上の音楽と同じかそれ以上の響きだった。
あまりの喜びで飛び上がらんばかりに心が弾んだ。たかだか、名前を呼ばれただけにも
関わらず、彼女は身体の奥がキュッと熱くなるのを覚えずにはいられなかった。
 しかし、それとは別の感情も湧いてきた。
「私の裸など見るに堪えませんか?」
 口元には微笑を浮かべながらも、アユタナは少し悲しそうに目を歪めてみた。
「……そういう問題ではない。その、俺だって見てみたい……って、何を言っているんだ、
俺は!!!」
 あまりに恥ずかしい失言に頭を机に叩きつけ、ラインベルガは赤髪を掻き毟っている。
 その羞恥に悶える上官の姿と彼の口からはからずも漏れた本心を聞けたことから、
アユタナは安心した。
──ベルも興味があったのね。良かった。
「と、とにかくだ……服装を正してくれ。だ、誰か入ってきたら困るだろうが」
「私は構いません。できれば、情事の後ぐらいに勘違いしてもらった方が、話が早く良いの
ですが」
 平然とトンでもないことを言い放つ美貌の副官に、無粋の塊である上官は頭を抱える。
──何の話だ!何の!
「約束は守ってくれたまえ……頼む」
 今日何度、アユタナに頼むと言ったか数え切れないな、とラインベルガは思う。
「……仕方ありませんね」
 その返事にラインベルガはほっと安堵の息を吐くが、そんな気持ちとは裏腹に脳裏を
残念という思いがよぎる。慌てて理性を総動員して打ち消そうと躍起になるにもかかわらず
彼はアユタナが着衣を整え終わるまで、その姿から目を放せないでいた。

(了)
481名無しさん@ピンキー:2008/04/27(日) 17:51:20 ID:3L0/48pn
以上です。

お付き合い頂いた方、ありがとう。 
482名無しさん@ピンキー:2008/04/27(日) 19:16:48 ID:Dn0v6mIu
GJ
483名無しさん@ピンキー:2008/04/27(日) 20:01:14 ID:KAGwyLrt
GJ!アユタナ頑張れ!
484名無しさん@ピンキー:2008/04/27(日) 23:14:58 ID:Eu245mOz
GJ!
ラインベルガを追い詰めていくアユタナが可愛いな
485名無しさん@ピンキー:2008/04/28(月) 01:16:19 ID:p2es6Fl4
読んでる間、顔がニヤニヤしっ放しだったよ。GJ!
スヴェンとイルマの仲も進展させてやって下さい。
486名無しさん@ピンキー:2008/04/28(月) 03:00:50 ID:JOHC4jNG
ラインベルガは完全に尻に敷かれてるなw
487名無しさん@ピンキー:2008/04/28(月) 22:57:41 ID:ZP/6CYgg
違います。手玉に取られているだけです。コロコロ
488名無しさん@ピンキー:2008/04/29(火) 01:14:10 ID:smXYP3da
投下期待
489名無しさん@ピンキー:2008/04/29(火) 14:09:41 ID:cANfMZIA
良いもの読まさせて頂きましたGJ!!
490名無しさん@ピンキー:2008/05/01(木) 13:49:05 ID:vOy5XERi
上げとくか
491名無しさん@ピンキー:2008/05/06(火) 01:22:28 ID:TRdg896a
保守
492名無しさん@ピンキー:2008/05/10(土) 23:00:55 ID:whRFehbK
上げておこう
493名無しさん@ピンキー:2008/05/13(火) 11:44:29 ID:YghIJQEG
いつもはクールで表情を表に出さないような女軍人さんが主の前では、デレッデレになっちゃう、っていうのが好きだ
494名無しさん@ピンキー:2008/05/18(日) 22:11:53 ID:0BmPq05P
なんと素晴らしい
495名無しさん@ピンキー:2008/05/19(月) 02:17:46 ID:bGAm9tb1
最初は嫌悪と恐怖で主人に対して脅えている女性従者が徐々に主人に心を開くとかも好きだ。
496名無しさん@ピンキー:2008/05/19(月) 23:49:09 ID:21ldgLF9
上げ
497名無しさん@ピンキー:2008/05/24(土) 10:55:58 ID:wR4duyQO
盛り上がらない
498名無しさん@ピンキー:2008/05/28(水) 00:22:08 ID:RKzp50CP
保守
499名無しさん@ピンキー:2008/05/28(水) 00:47:53 ID:54K/f/J6
>>495
いいねえ。
500名無しさん@ピンキー:2008/05/28(水) 01:33:43 ID:mU45XrXp
人前では馬鹿殿のフリをしている主人が、
女従者の前でだけは素の真面目な顔に戻るとかいうのも好きだ。
501名無しさん@ピンキー:2008/05/28(水) 21:56:12 ID:7Ouqn1wN
ちと女の設定が姫だけど、大河篤姫の殿っぽいな
502名無しさん@ピンキー:2008/05/29(木) 10:40:59 ID:aPX2Xxmn
じゃあお志賀たん(側室)で
503名無しさん@ピンキー:2008/05/30(金) 20:02:30 ID:t/B57+OH
>>500
逆のパターンは結構あるよな
504名無しさん@ピンキー:2008/05/30(金) 21:12:36 ID:lc/gIor6
>>503
馬鹿のふりをしてる男従者だか女主人の前ではまじめってパターン?
505名無しさん@ピンキー:2008/05/30(金) 23:20:07 ID:3QIQmjMz
>>504
女従者と二人きりの時は自堕落でぐーたらしてて、
どうしてくれようこの馬鹿主人、とか思われてるような男主人が
公式な場では真面目一徹な超堅物で通ってる…とかじゃね?
506名無しさん@ピンキー:2008/06/04(水) 05:59:48 ID:StPtNPz/
投下期待
507名無しさん@ピンキー:2008/06/05(木) 08:26:02 ID:Lkc2MIU1

このスレの活性化を願って投下ー。

携帯から&初めてなもんで駄文になるかもだけど目を瞑ってやって下さい
508名無しさん@ピンキー:2008/06/05(木) 08:27:58 ID:Lkc2MIU1
とある世界の、とある街の、とある宿屋。
その一室の窓枠に一人の女が座っていた。

足首ほどまである長く美しい髪は燃え盛る炎のごとく紅く、月明かりに照らされて神秘的に輝いている。
青空を切り取ったかのような蒼い瞳は、優しく細められ、ベッドで眠る主人へと向けられていた。

いや――正確に言えばもう主人ではない。
契約期間である2年の月日は、数分前に終わりを告げたのだから。

「……」

彼女はこの世界では名が知れている。――この世の全てのものの中で最強だと。
そして、彼女を従者に選ぶと、契約期間の切れた日に、その者の命も切れる――と。

「……可笑しなものね。本来ならもう消しているのに」

後者の噂の真実は、彼女が契約主を抹殺していた。……それが彼女の使命だった。

彼女は数十人しかいない戦闘種族の娘。

生物研究者が彼女の一族を知ろうものなら、その身をモルモットとして欲するだろう。
そして多額の金を掛けて、彼女の一族を捕まえてしまうだろう。

数の少ない彼女達にとって、それは何より恐ろしいものだ。
しかし彼女は人目に触れてしまい、名が売れすぎてしまったため、姿を消せなくなってしまったのだ。
509名無しさん@ピンキー:2008/06/05(木) 08:33:43 ID:Lkc2MIU1
ならば情報を漏らす恐れのある者だけ―――自分を従者として雇った者だけを消せと、一族は彼女に命じたのだ。

今、目の前で安らかに寝入っているこの青年も消すべき者。


―――だというのに、彼女は青年を殺せずにいた。


何故かは、旅の中で知っていた。
彼女は気付かぬうちに、主人であったこの青年に想いを寄せていた。
そんなもの、一生抱くことはないと思っていたのに。

「複雑怪奇ね、感情って」

自嘲するように笑って、彼女は立って外に向き、普段隠している髪と同色の翼を出現させた。

そういえばこの翼を、この容姿を、褒めてくれたのもこの人だけだったな…。

ふと思い出す、今までの雇主。
この容姿を忌み嫌う者。興味のない者。そのどちらかだったはずなのに、彼はそれを褒めた。
不思議に思うだけだったのに、今今思い出すととても嬉しい。

「ありがとう…さよなら」

そうとだけ発し、彼女は夜闇へと飛び立






てなかった。
510名無しさん@ピンキー:2008/06/05(木) 08:43:08 ID:Lkc2MIU1
素早く手首に鎖が巻き付き、彼女を部屋に引き戻したから。
そのまま更に引かれ、よく見知った者の腕の中にすっぽりと収まった。

「…いつから起きてらしたんですか?マスター。いえ、元マスター…かな」

「残念ですが僕は寝てませんよ?」

見上げればにこりと笑っている青年の顔が目に入る。
手首に鎖が巻き付いているせいで、腰に回された腕から逃れたくても逃れられない。

「離して頂戴、元マスター」

「嫌ですよ。離したら貴女、どこかに行ってしまうでしょう?」

「当たり前でしょ。契約期間はもう切れたんだから」

“本当は貴方を殺さなければならないのだけれど。”
言葉の続きを呑み込んで、娘は俯いた。

「フレイヤ、僕のことを殺さなくていいんですか?」

「……!?」

何故知っているのかと驚いて顔を上げた途端、強引に口付けられた。
咄嗟に反応できず、口付けは深くなっていく。
511名無しさん@ピンキー:2008/06/05(木) 09:56:52 ID:Lkc2MIU1
僅かな隙間から舌が入り込んで、娘…フレイヤのものに絡められる。
体の芯が融かされるような感覚がして、力が抜けたフレイヤは青年に体を預けた。

互いに息苦しくなり唇が離れると、二人の間に名残惜しそうに銀の糸が引く。
ベッドに仰向けで寝かせられ、鎖で両手を柵に拘束された。

「も…と…マスタ…何を…っ」

「僕の名は“クロス”ですよ?前に教えたはずなんですが…」

「………」

勿論、覚えていた。
しかし彼は雇主。そして本来ならば殺さなければいけない存在。
だから敢えて呼ばなかった。

「取り敢えず僕は“元マスター”なんて名前ではないので何も答えられませんね」

一度彼女から離れ、もう一つのベッドの脇に置いていた自身のバッグからタガーを取り出した。

「あと…貴女の気持ちに気付けないほど僕は鈍感じゃありません」

一瞬真剣な顔付きになったかと思えば、再び妖しい笑顔を浮かべ、フレイヤの上に跨った。
そして、タガーで下着ごと服を裂く。

「ゃ…止めて!」

「止めて…ですか」

クスッと笑って、クロスは露になった豊かな胸の頂に触れた。
瞬間、甘い電流が体を突き抜けた。
512名無しさん@ピンキー:2008/06/05(木) 10:00:02 ID:Lkc2MIU1
「キスだけで立ってますよ?本当は嬉しいんじゃないですか?」

「…っんぁ…」

「クスッ…。いい声ですね、もっと聞かせて下さい」

固くなった頂を指の腹で弄び、片手ではもう片方の乳房を揉みしだく。

「ん…ぁっ…ひゃぅっ!」

想い人が相手だからか、それとも別の理由からか、抑えようとしても喘ぎが止まらない。

羞恥から涙があふれ、フレイヤの頬を濡らす。
それを舐め取られ、片手が胸から下へ滑っていくのを感じた。
513名無しさん@ピンキー:2008/06/05(木) 11:55:26 ID:Lkc2MIU1
取り敢えず今はここまでしか出来てないんで。
今週中には全部終わらせようと思うんで暫しお待ちを。
514名無しさん@ピンキー:2008/06/06(金) 16:06:39 ID:WTBX1rrb
おおGJ!
こういう展開大好きですwありがとう!

続き楽しみにしてます。
期待の意味もこめてage
515名無しさん@ピンキー:2008/06/06(金) 23:44:28 ID:AWlWCWZ/
>>513
gj!
エロの後も気になるぜ
516名無しさん@ピンキー:2008/06/07(土) 00:56:56 ID:YcIfotGg
+   +
  ∧_∧  +
 (0゚・∀・)   wktk
 (0゚∪ ∪ +
 と__)__) +
517名無しさん@ピンキー:2008/06/09(月) 06:14:44 ID:YESvdlXZ
スマン、昨日までに書き切れなかった。
今日か明日には投下できるようにするよ…
518名無しさん@ピンキー:2008/06/09(月) 07:26:34 ID:cou4Q+qD
がんばって!
期待してるよ!
519名無しさん@ピンキー:2008/06/09(月) 17:59:29 ID:Yb/6wCwo
楽しみです。
520名無しさん@ピンキー:2008/06/09(月) 19:07:25 ID:jAP/pUfl
“元マスター”って呼び方もいいな
正座で続き待ってるよ
521513:2008/06/09(月) 23:52:22 ID:YESvdlXZ
誰も見てないことを願いつつ、書けたので続き投下ー。

多分皆の期待には応えられんような文だと思うけどごめんよ。
522513:2008/06/09(月) 23:53:30 ID:YESvdlXZ
「…ぁ…ゃ…ダメ…っ」

喘ぎ混じりの制止の声も虚しくショートパンツが脱がされ、ショーツだけにされる。
それさえも自らの蜜に濡れ、あまり意味をなしていない。

「…“嫌”なんですか?本当に“駄目”だと思ってるんですか?」

どこか怒りを、悲しみを含めた様な声が耳に届く。
全ての行動が止まり、少しでも快楽から逃れようと閉じていた瞳を開くと、憂いを帯びた顔が目の前にあった。

「本当に嫌ならこんな風にはならないでしょう?」

「はぁ…んっ!」

ショーツ越しでもわかるほどぷっくりと膨らんだ蕾を撫で上げられ、甘い吐息が漏れる。

「気持ち良いんですよね?だからそんな声が出るんでしょう?だから濡れたんでしょう?」

くちゅり、と卑猥な音を立てて、ショーツの間から指が秘部へ3本入り込み、ナカを掻き回す。

「はぁぁ…っ!ひぅん…んっ…!」

「フレイヤ」

名前を呼ばれ、頬に温かい手が触れた。
心地よくてうっとりしていると、また深く唇が重ねられた。
続く下への愛撫に声を上げようとするも、くぐもった声になって満足に喘ぐことができない。

「フレイヤ」

唇が離れてまた名前を呼ばれる。今度は指が抜かれ、その際に吐息が溢れた。
523513:2008/06/09(月) 23:54:30 ID:YESvdlXZ
翡翠色の双眸と見つめ合っていると、少し前の様に妖しくニヤリと笑って耳に口を寄せた。

「貴女は…僕のことが好きなんでしょう?」

ビクリと体が揺れた。
身体は火照ったままなのに寒気を感じた。

鎖が解かれ優しく抱き上げられる。

直ぐに答えようとフレイヤは思ったが、自分の使命がそれを止めた。
彼は一族の存続ために殺さなくてはならない人間。
だから恋愛感情は持ってもそれを通わせてはいけないのだ。

…でも、クロスの哀しそうな瞳と目が合った途端、その心は霞んで消え失せた。

「…好きよ…」

「…僕もですよ、フレイヤ」

嬉しそうに笑うクロスを見て、フレイヤも釣られて微笑んだ。
同時に、胸がちくりと痛む。

自分は愚かだと心の中で自嘲する。
この先、この行為が終わった後に殺すというのに。
この笑顔を…壊さなくてはいけないのに。

「どうしました?」

「ううん、何でもない」

首を振りながら答えると、強く抱き締められた。

不思議に思って少し離して顔を覗くと少し顔を赤く染めて照れているようで。
524513:2008/06/09(月) 23:56:39 ID:YESvdlXZ
「すみませんフレイヤ。僕もう我慢の限界なんです。……いいですか?」

お腹の辺りに何か固い物が当たっているのを感じて、顔に血が上るのがわかった。

ゆっくり頷くと、また…でも今度は優しくベッドに押し倒される。
「勿体無いですが擦れて痛いでしょうから翼、仕舞って下さい」

言われた通りに仕舞いあぐねていた翼を仕舞うと、そっと啄むような口付けをされた。
さほど意味を成してないショーツが剥ぎ取られ、恥ずかしくも濡れそぼった秘部に熱い物が宛がわれた。

「いきますよ…」

「ん…っ!!」

指とは違う質量の侵入に息が詰まる。
そしてクロスも予想以上の締め付けに小さく呻きを漏らした。

「フレイヤ…もしかして、初めて…ですか?」

火照って赤くなった顔を更に赤く染めて頷く。

「そうだったんですか…では」

輝かんばかりにニコリと笑った後、いきなり蕾を擦り上げた。

「んぁぁぁあ…っ!!」

予期せぬ快感に身を捩りながら喘ぎ、締め付ける力が抜ける。
その隙をついて、一気に貫いた。

何かが破れる音がして、一瞬遅れて鈍い痛みが襲ってきた。
シーツを握り締めて痛みに耐えていると、そっと手が重ねられた。

「痛かった…ですよね?」

「ん…っへい…き……」

強がって答えたものの顔に出ているのだろうか、動き出しはしない。
実際破瓜の痛みは相当なもので、簡単には消えそうにもない。

汗で額に張り付いた髪が剥がされ、額に口付けが落ちる。
また見つめ合って、どちらともなく唇を重ねた。
525513:2008/06/09(月) 23:59:08 ID:YESvdlXZ
「…ほんとに…もう動いて…大丈夫だよ」

暫くそうして過ごし、大分痛みが消えてからそう告げた。

クロスは優しく笑って頷き、ゆるゆると動き始めた。
最初は痛みばかり覚えたものの、時が経つにつれ、それは快楽へと変わっていった。

「ぁ…っくぅ…っ!も…と…マス…タ…っ!」

罪に溺れぬよう、快楽に…欲に負けぬよう、わざと名前を呼ばない。
今更無駄なのかもしれないけれど、そうすることで自身に釘を打った。

そうでもしないと、離れられなくなりそうだったから。

「く……っ…!!…僕はクロス…です!」

「んぁ…ゃっ!!そん…激し…っ!!」

呼び方に反応して、クロスの律動が急に早くなった。
勿論そんな事をしても、名前を呼ぶつもりはない。

二人分の荒い呼吸、肌と肌がぶつかる音、互いの奏でる淫らな水音、抑えることのできない喘ぎ声。

静かな部屋にそれが響く。
隣の宿泊客に聞こえるんじゃないかと心配になって、快楽の波に掻き消される。

「ひゃぁ…っぅ…も…ダメ…っ!イっちゃう…っっ!!」

「んっくぅ…っ!!…いいですよ…っ…イって下さ…!」

元々早かった律動が速度を増し、更に奥へと入り込む。そうして絶頂へと駆け上っていく。

「は…っぁぁぁぁぁあん!!!!」

「…っ…フレイ…ヤ…っ!!」

絶頂を迎えたフレイヤはそのままベッドへ沈み、クロスも強い締め付けに殆ど同時に達し、その身体を横に倒した。

「愛してますよ…フレイヤ」

その言葉を残し、彼は気だるさからくる睡魔に負け瞳を閉じた。
526513:2008/06/10(火) 00:00:03 ID:YESvdlXZ
「……ごめんなさい、元マスター…」

今度こそクロスが完全に寝入っていることを確認して、フレイヤは囁いた。

「やっぱり、貴方の気持ちに応えるわけにはいかない」

重たい上半身を無理矢理起こして、隣にある若葉色の髪を撫でた。
この時ばかりは自分がスタミナの多い戦闘種族で良かったと思う。

「今、どんな方々でも貴方を殺せる」

それをせず立ち上がって、窓辺に落ちていたバッグから替えの服を取り出して着替える。

「今なら、ナイフか銃で貴方の心臓を確実に当てられる」

バッグを手に持ち、消していた紅い翼を広げて夜空へ飛び出し、振り向いた。

「ここからなら、ライフルで貴方の心臓を撃ち抜ける」

バッグの中からライフルを取り出し、それに照準を合わせる。

「さようなら……クロス。私がたった一人愛した人…」

ライフルの引金を引いた。
弾は見事に命中した。
明日になればきっと誰かが気付くだろう。

フレイヤの眼からは涙がこぼれ落ち、月光に輝いていた。
527513:2008/06/10(火) 00:04:22 ID:ThSUN6Px
時が経ち、季節は巡って再び同じ季節。

青々と木々が生い茂る森の中で、娘が一人、岩の上に座っていた。

娘の地面に付きそうなほど長い髪は紅く、月光に照らされて神秘的に輝いている。

大空を切り取ったような空色の瞳は、夜空にかかった星屑の川に向けられていた。

「もう…一年も経ったのね」

口元に笑みを浮かばせて、片手を空へ伸ばす。

「星を取りたいだなんて子供みたいなこと考えてるんですか?」

「……」

突然現れた青年に驚くこともせず、伸ばした手をそっと下ろした。

「起きたらいきなり感謝されてびっくりしましたよ。“就職中に開いてる窓から入り込んで荒らしてくる魔物を倒してくださった”…と」

「……」

「貴女でしょう?アレを撃ったのは」

「……何故…私だと?」

「近くに綺麗な紅い羽根が落ちていたので」

「それだけ?」

「貴女しかこんな綺麗な羽根を持つ人はいませんから」

青年は娘に近付くと、その手をとった。
娘は青年の方を向く。

「僕と契約を結んでくれませんか?僕が年老いて寿命が尽きるその時まで」

青年の強欲な申し出に驚いたような顔をした後、娘は嬉しそうに笑って告げた。


「はい…。マスター」




fin
528513:2008/06/10(火) 00:08:41 ID:ThSUN6Px
エロ薄くてごめん、つか下手でスマン。

初めてだから仕方ないと思ってやって下さい!

じゃあ腐った生卵投げ付けられる前に退散しますよ。

神の降臨を陰から願ってます。
529名無しさん@ピンキー:2008/06/10(火) 01:27:12 ID:FtY9SQhI
GJ!
無事再会して良かったよ(*´д`)

つ ゆで卵
これで栄養つけてまた投下してくれ
530名無しさん@ピンキー:2008/06/10(火) 03:02:48 ID:82AAE1VI
513いいぞ!もっとやれ
531513:2008/06/10(火) 06:57:32 ID:ThSUN6Px
スマソ、訂正部分発見。
>>527の“就職中に〜”っていう台詞は就職中じゃなくて就寝中だったよ…。
orz
532名無しさん@ピンキー:2008/06/10(火) 10:17:28 ID:FGG/MGWq
方法 が 方々 になってるっぽいところもあったよw

何はともあれ乙でした。
533名無しさん@ピンキー:2008/06/10(火) 23:59:42 ID:0wvGwqcJ
いや〜表現オシャレだったよ〜GJ!

ただ「就職中に開いてる窓から入り込んで荒らしてくる魔物」って誰のことだったの?フレイヤじゃないよね?
534名無しさん@ピンキー:2008/06/11(水) 06:38:07 ID:HFfvXZPG
フレイヤの監視とエスパー
535名無しさん@ピンキー:2008/06/12(木) 08:07:31 ID:uOe8Dfbi
GJ!
軽く読めたのにエロくて良かった。

つ 新鮮卵かけご飯
536名無しさん@ピンキー:2008/06/14(土) 20:03:37 ID:+0SyWFd4
保守
537513:2008/06/14(土) 21:08:43 ID:afcqWsKB
おお、皆さん自分なんかに感想下さってありがとうございます。

>>532
〇.....TZ
確かに方々じゃなくて方法だな…。
気が付かなかった…。

>>533-534
それはただの魔物のつもり。
フレイヤ達の種族はひっそりこっそり暮らしてます。


ところでここって非エロ駄目だよね?
538名無しさん@ピンキー:2008/06/14(土) 21:16:40 ID:2GIWK6Nx
え?と思って、
確かにスレタイは「エロ小説」だな、と思って、
>>1
> エロなしSSでも主従萌えできるなら全然おけ。
という事のようだ。
539513:2008/06/14(土) 21:43:15 ID:afcqWsKB
>>538
d。
エロ話の前後どっちか書きたいと思ってたんだ。
書けたらまた来やす。
540名無しさん@ピンキー:2008/06/18(水) 19:37:10 ID:uTfRxlN/
期待age
541名無しさん@ピンキー:2008/06/24(火) 18:11:12 ID:ntY08BLF
金持ち優秀生徒会長と貧乏お馬鹿元スケ番で主従っぽいのを
書こうかと思っているんだが、
これはこのスレで合ってるかな
542名無しさん@ピンキー:2008/06/24(火) 18:24:37 ID:+0HTXt4U
>>541
男主人で女従者ならここ
543541:2008/06/25(水) 03:21:46 ID:w2+LMDz4
保守を兼ねて投下します。
あんまり設定がしっかりしているわけではないんですが、
↓のあらすじを前提にして読んで下さい。
あとエロくありません。
すみません。

【あらすじ】
元スケ番の水上優子は風紀委員会にはめられて退学になりそうになった所を、
成績優秀容姿端麗運動神経抜群の財閥御曹司で生徒会長というマンガスペックの同級生、
高野道隆に助けられて、その人物像の中に勘違いから男気を見出し、舎弟になると誓う。
舎弟になった暁には高野のためならいざ鎌倉と馳せ参じる覚悟であるといい、
生徒会の役員にも立候補したりと、水上は高野に懐いて付きまとうが、
いつも問題を起こしてばかりなので高野は絶えずイライラを募らせている。

544痛いでしょう1:2008/06/25(水) 03:24:38 ID:w2+LMDz4
午後の授業に見なかったその顔を放課後の生徒会室に見つけて高野道隆は軽く肩をすくめた。
明らかに不審な挙動でこちらのの様子を伺いながら部屋の隅から高野を見ている。
それでいて近寄ってくるわけではない。
ばれたくないのならわざわざこの部屋に来なければいいのに、
水上優子はそれでも毎日ここにやってくるのだ。
頭が悪いことこの上無い。
高野は思い切りいい笑顔をつくるとやんわりと水上に話しかけた。
「水上さん」
「は、はい!」
びくりと水上はあからさまなまでにうろたえた。本当に、不可解な女だ。
「顔、誰にやられたんですか?」
「あ、はい、ちょっとその…誰にやられたのかよくわかりません!それに多分ちゃんと三倍で返したし…」
「そういう問題じゃない。あんた午後どこ行ってきたんですか」
「ちょっとその、野暮用で…」
「授業をさぼってまでやらなければならない野暮用とは?」
「えーと」
真っ青な顔で必死に言葉を探す水上。この高野道隆を論破できるなどとよもや考えていないだろうが、それにしても幼稚だ。
高野はじりじりと水上に詰め寄る。水上は壁際で逃れようがない。
「立場ってものをわきまえて貰わないと困りますよ。あんたこの生徒会の書記でしょう」
「はいっ!すみませんでしたぁ!」
びくりと肩を震わせて背筋を伸ばし謝る姿にはため息もこぼれようというもの。
大体このやり取り、最近週に一度はやっている。
「反省だけなら猿だってできますよ!このっ……ゴリラ女」
「すみません、ほんっとーにすみません!もうしません!」
「何度目だ、そのセリフ。もう呆れてかける言葉もない」
「すみません、本当に本当にすみません。今度こそ、絶対に今度こそ二度としません!」
「俺は信じて裏切られるのは、嫌いなんですよ。いいかげん解任…」
「ごめんなさい!本当にごめんなさいぃ!」
ああ畜生まただ。
水上優子はぶん殴られて赤く腫れたぶっさいくな顔をぐしゃぐしゃにして、ほぼ八割方泣いている。
「……あのねぇ……ちょっと……あーもう。あんたみっともないでしょう」
使い物にならなくなりそうでもったいないが、目の前でぐずぐす泣かれているのも嫌なものだ。
高野はハンカチを水上に差し出した。
「生徒会に居たいんでしょう?」
「……はぃ。ぐすっ」
「なら我慢くらいしなさいって」
「うっ……うぇえ」
「今度は何です?果たし合い挑まれたんですか?後輩の尻拭いですか?」
「だ、だって……」
545痛いでしょう2:2008/06/25(水) 03:26:42 ID:w2+LMDz4
「だってなんです?」
聞き返すと黙り込んでしまう。もういい加減彼女の行動のパターンというものを把握出来始めている。
こういう時は大抵――
「我が校の生徒会長にどんな用事であれ、用事のある方々であれば、きちんと私に取り次いで頂かなくては俺が困るんですが」
「ち、ちがっ」
顔面蒼白だ。馬鹿のくせにこういうことばかり気にして事態を複雑にする。
「違わないでしょうが。その様子からして派手にやったようですね。どうせすぐにわかることです。喋って楽になりなさい楽に」
「違うったら!ちょっと喧嘩売られて……それで」
「私事ですか、仕方ない。それではあなた解任し…」
「…っ!」
こうしていじめ続けるのが楽しくないわけではないあたり、
高野自身も自分の性格が悪いと思うが、差し当たって今回は彼女が悪い。
完全に彼女が悪い。悪いのだが、
「……見事に、腫れましたね。医務室には行きましたか?」
水上の顎に手をやって無理矢理上を向かせると、そのブサイク極まりない顔がよく見える。
ただでさえ殴られた左頬が腫れ上がり醜いのに、べそべそ泣くものだから見られたものではない。
「酷い顔だ。自覚はありますか?」
「これくらい、平気です」
「平気ってねえ、あんた」
「高野さんをお助けするためならこんなの蚊に刺された程度のもんです!」
正真正銘の馬鹿めっ!
言ってしまってからこの馬鹿、気がついたらしい。
水上優子は突然慌てて前言を撤回しようとした。
「や、これは例えばの話でしてね、あの、高野さん!?」
「……これ以上自分の墓穴を掘ってるんじゃないですよ。俺はあんたの馬鹿さ加減には呆れるの通り越して泣きそうです」
事実、頭痛がしてきた。
「水上優子、あんた。土下座してまでやりたいって言うから生徒会に置いてやれば失敗ばかりだし、書記の癖に漢字は間違えるし、何かといえば乱闘騒ぎ、わかってますよね?俺が怒る理由は」
「お怒りは……ごもっともです」
「この上俺の面子まで潰されちゃたまったものではない。……俺があんたの汚い面を盾にしているなんて、冗談でも言われたくないんですよ」
「はい……ごめんなさい」
相手が萎縮すればするほどフラストレーションがたまる。
別に高野は三歩歩けば何でも忘れる水上に反省など期待しない。
だがイライラする。すみません、もうやりませんと言いながら、また同じ問題が起きたら同じ行動をするだろう水上が憎たらしい。
546痛いでしょう3:2008/06/25(水) 03:28:55 ID:w2+LMDz4
殴られて顔を腫らすくらいで済んでいるうちはまだいい方だろう。
それ以上の何かがあっても、水上は高野のために突っ込んでいくのだろうから。
馬鹿は死んでも治るまいから、治そうなどとは思わないが、ちょっと調教してやらないことには高野の精神が安まらない。
「他に怪我はありませんか?」
「え、それはこれといって…えっ!?」
水上の制服のネクタイをグッと引っ張る。そのまま壁に体を押し付けてボタンを外す。
「高野さっ…何を!」
「黙ってろ。あんた嘘をつきますからね。実際見てみなきゃわかりやしない」
「嘘って…」
シャツの裾をスカートから引っ張り出しキャミソールごとまくりあげる。
案の定白い水上の横腹には青黒い大きな痣があった。
指先でなで上げるとひゃんとかなんとか、間抜けな声があがる。
「嘘つきが。蹴られましたね」
「だって……平気……うっ!」
グイッと痣を押すと呻き声があがる。
「痛いですか?」
返事はない。
「痛いんじゃないですか?さあはっきり言え」
「痛いです、痛いっ!」
「よく言えましたって誉めてあげましょう、とりあえずは」
笑いながら水上の首筋に顔を寄せる。汗臭い。そしてその首を舐める。
「きゃっ…やっいやっ」
「静かにしなさい、いちいちうるさい」
首筋を舐めながら徐々に下方に移動する。水上が高野を押しのけようと肩を掴んでいる手に力がこもってゆく。
(このまま最後までしてしまおうか)
そんな考えが頭をかすめた。しかし、
「……ひっ……ふっくっ……ぅうっ……ぐすっ」
「………」
急にどうにもやる気がなくなって、いつの間にか床に落ちていたハンカチを拾い上げると、高野はそれでしゃっくりあげる水上の顔を拭いた。
「高野さん……もうしないから、だからごめんなさい」
「子どもじゃないんですからもう少しマシな謝り方したらどうですか」
「…ずっと………考えてるんだけど、私やっぱり、馬鹿、なんでしょうか……」
「今更何言ってるんですか。あんた馬鹿意外の何者でもないでしょう。学習能力も思考能力もない見事な低脳、役立たず」
「はぁ……」
「別に無理にあんたに頼ろうなんて俺は全く考えてないし、あんたにやってもらえることもない。
俺を気に入らないやつらの処理対応だってあんたの力付くに任せるくらいなら俺がやった方がうまくいく。
あんたになんにも頼んでない。でしょう?水上さん」
水上は黙ってうなずいた。
「もう止めてください。こういうこと」
547痛いでしょう4:2008/06/25(水) 03:32:28 ID:w2+LMDz4
もう一度うなずいた。
「それから人と話しているときに泣くのはよしなさい。……不愉快です」
再びうなずいた。
わかればいいのだ。彼女が理解して行動に示してくれればそれでいい。
それでいいはずなのに、高野のイライラはまだ収まらない。
うなだれる水上を見ていると異常な加虐心がかまくびをもたげる。

水上は馬鹿だ。
救いようがない馬鹿だ。
かつて高野が水上を助けたのはことの成り行きとちょっとの気まぐれが理由に過ぎない。
しかし彼女はそれに異常な恩義を感じて道隆に心酔している。
ずっと欺かれていたと知ったら、どうするのだろう。
それを知った時に高野が全てを奪っていたとしたら、この大馬鹿はどうするのだろう。
殴られて鼻血を吹き出しても泣かないが、高野の一言でボロボロに泣き崩れる水上が。

(これはやはり、)
(どう考えてみても)

高野は水上を愛してしまっているようだ。

(困った)

あんな馬鹿を相手にしていたら、高野はおかしくなってしまう。その結論だけは断固抗議をしたい。
だがしかし、
そう考えないことには高野の苛立ちの奥にある小さな痛みに説明をつけられないのであった。

fin

ありがとうございました。
548541:2008/06/25(水) 04:24:10 ID:w2+LMDz4
高野の一人称など間違いがいくつかあります。
あと日本語として妙な所もあとから見るとありました。
すみません精進します。
エロは書いてるうちにまだムリかなと思ってしまったので今回はフェードアウトしました。
その代わり少しSMっぽい描写でお茶をにごしていますが、いずれ書けたらちゃんとエロも書きたいです。
携帯からですのでお見苦しいところなどあると思いますが
目を通して頂ければ幸いです。
重ね重ねありがとうございました。
549名無しさん@ピンキー:2008/06/26(木) 17:24:36 ID:4rul/7sa
も え た !
550名無しさん@ピンキー:2008/06/26(木) 17:49:32 ID:KESUQ5Cg
も え な い
551名無しさん@ピンキー:2008/06/27(金) 18:25:57 ID:hnky+7fh
このスレ埋まったら次スレから女主と統合するんだよね。スレタイとかどうするんだろう?



保守がてらに一本。
メイド×ご主人様。あくまで軽くだけど逆レイプ要素あり。
ラノベっぽく軽く読める感じを目指してみた。
552ご奉仕します! ‐聡子の場合‐ 1/5:2008/06/27(金) 18:27:21 ID:hnky+7fh
「――またか」
 秀麗な眉を寄せて天井を見据えながら聡子は吐き捨てるように呟いた、と同時にロングスカートを翻して唐突に走り出していく。


「ご主人!」
 スパンと勢いよく襖を開き、聡子は仁王立ちして室内の主を睨みつける。
 先ほどまで何を行っていたかは一目瞭然。シャツの裾を引っ張って露わな下半身を隠しながら、誠一は驚愕と困惑と羞恥を足して三で割って二掛けした表情を聡子へ向けた。
「学生の本分は勉学だ。ご主人が学生である限り学ぶことからは逃れられず、またその苦しくも実りある学業という行為に喜びを見いださねばならん。かくあるべしと先代も申している。理解しておらぬわけではあるまい、ご主人」
 嘆かわしいといった体の聡子に素直に謝ればいいのか怒って追い出せばいいのかわからずに誠一は曖昧な返事を返す。
 とりあえずズボンを履かせてくれ、頼むから。心中で頼み込みながら脱ぎ捨てたズボンに手を出そうとした途端、聡子から再び檄が飛ぶ。
「それを貴様は何だ。一昨日も昨日も今日も自慰に耽り、勉学を疎かにしている」
 何で知ってるんだろうかと自らの赤裸々な下半身事情に羞恥で顔を赤くする誠一を見下ろし、聡子は目を細めた。
「貴様は盛りのついた雄……犬? いや、猫? まあ、とにかく! 畜生にも劣る行い、我が主として実に嘆かわしい。先代とて草場の陰で泣いておろう」
「聡子さん、親父死んでないから。っていうか、十六歳男児として健全な行為だと思うんだけど」
「先代の御前にて、ご主人が当主として真っ当な道を歩むよう誠心誠意お仕えすると私が誓ったことをお忘れか? 貴様の邪なる欲望が勉学の妨げとなるならば、この聡子が誠心誠意ご奉仕するのみ」
「いや、なにそれ、俺が当主になることと関係なくない?」
「案ずるな、ご主人。この聡子、ご奉仕のためなら手段は選ばん」
「聡子さん、ちょっと意味わかんないんですけど! それは最早奉仕じゃな――――え、ちょっと、やめっ! うわぁぁぁぁぁぁっ!!」



553ご奉仕します! ‐聡子の場合‐ 2/5:2008/06/27(金) 18:28:02 ID:hnky+7fh
 戒められた手首はいくらもがこうと緩みもしない。暫く抵抗を試みたが聡子にかなうはずもなく、誠一はがっくりと頭を垂れた。
「……何かすごく間違ってる気がする。主従の力関係って普通逆じゃね? メイドに夜のご奉仕を強要するのがご主人様であって、メイドにご奉仕を強要されるご主人様っておかしくない? 絶対おかしい。俺はこんなこと断固として認めん」
 ブラウスのボタンを外し、聡子は自らの豊満な乳房を露わにする。
「往生際が悪いぞ、ご主人。さっきからぶつぶつと何を言っているのだ」
 聡子を見れば白く張りのある肌と淡い色をした突起が嫌でも目に入り、誠一はなるべくそちらを見ないように苦心しながらも素直な反応を示してしまう愚息に呪いの言葉を吐いた。
「う、あっ……っ、く……」
 傍らに座り込んだ聡子の指先が太股に触れる。そのまま触れるか触れないかの絶妙な加減で聡子は誠一の太股を撫でた。
「諦めて私のご奉仕を受けるがいい。貴様が二度と自慰などという愚かな行為に走らぬよう教育してやる」
 誠一はぐっと歯を噛みしめた。奉仕を受けることから最早逃れられぬと悟ったからこそ、誠一は戦うことに決めた。それならばせめて、聡子の奉仕よりも自慰の方がいいのだと思わせて聡子をやりこめてやるのみ。勝率は限りなく低いが負けるわけにはいかない。
「こんなに堅くして、どうやら貴様には羞恥心がないものとみえる。戒められて従僕にいいようにされることがそんなによいか」
「違っ……うあッ」
「ふふ、貴様の性癖なぞとうに把握済みだ。貴様のことで私の知らぬことなどないのだよ、ご主人」
 白魚のごとき聡子の手が誠一の猛った陰茎を握りしめた。痛みはない。快感だけを呼び覚ます程よい力加減で陰茎に指を絡め、聡子は手を上下に動かす。
 既に先端からは滴るほどに先走りが零れ、それを潤滑油代わりにして聡子は滑らかな動きで誠一に快楽を与えた。
「気持ちがいいか、ご主人。貴様の汚れた欲望がここにたっぷりと溜まっているようだな。思うさま出し尽くすがいい」
 空いた手で聡子は陰嚢に触れる。やわやわと優しく揉みほぐされ、誠一はぎゅっと目を閉じて快感を堪える。
 この世に生を受けて十六年、性的な意味合いを込めて他人に触れられたのは初めてのこと。誠一より幾らか年上とはいえ美しい盛りの女性に愚息を撫で回されてはたまらない。
554ご奉仕します! ‐聡子の場合‐ 3/5:2008/06/27(金) 18:28:52 ID:hnky+7fh
 男の手とは違う繊細で柔らかな感触が目を閉じたおかげでより鮮明に感じ取れ、誠一は先ほどの決意が嘘であったかのように呆気なく吐精した。
「……早いな」
 勢いよく飛んだ精液ははたはたと誠一の露わな腹部に落ちた。
 さも愉しげに口角を上げる聡子を誠一は羞恥心いっぱいに見上げた。早いなどと言われてはそれがいくら事実であったとしてもプライドが傷つく。
「もういいだろ。離せよ」
 常よりも荒っぽい口をきいてしまったのは仕方のないことであっただろう。
「まさか。自慰など馬鹿らしいと思うほどの快楽を体に叩き込むと言っただろう」
 聡子は立ち上がり、スカートを脱ぎ捨てた。
「え……?」
 白いレース付きの下着を脱ぎ捨て、誠一の腰を挟んで膝を突く。
「ちょっと、待って! 聡子さん、それはさすがに」
 慌てて腰を振って逃げようとするが膝で挟まれて身動きがとれない。しかも、聡子の半裸姿を目の当たりにしたおかげで愚息は既に臨戦態勢に入っている。
 聡子の手が陰茎に添えられ、ゆっくりと腰が落ちる。滑った場所に先端が押しつけられ、すぐにそこへ潜り込む。
「ほんとにダメだって!」
 半分泣きながら懇願すると聡子はぴたりと動きを止めた。
「何か問題でも?」
「俺、その……は、初めて、だから、その」
 恥じらいながらも意を決して告げた次の瞬間、聡子が一気に腰を落とした。
 とんでもなく気持ち良くてものすごく滑って狭い場所に迎え入れられる感覚は想像以上に誠一に快楽を与えた。ともすれば一瞬で果ててしまいそうだ。
「さ、聡子、さん……」
「初めてだと? そんなことは百も承知だ。古来より若君に性の目覚めを促すのは従僕の役目と決まっている。問題などない」
 きっぱりと言い切られ、誠一は脱力した。聡子の思考回路はやはり誠一には理解できない。
 しかし、聡子の中は気持ちよかった。もうどうなってもいいと思えるほどに。
「動くぞ、ご主人。遠慮なく喘ぐがいい」
 それが女の台詞かとつっこみたい気持ちはあれど、現実に誠一ができたことは女のように喘ぐことだけだった。
 聡子が腰を揺する度に全身が震えるほどの快楽が走る。たゆんたゆんと揺れる豊満な乳房や赤らんだ聡子の顔、結合部から響いてくるいやらしく粘着質な音。何もかもが未経験だった誠一を刺激する。
「さとこ、さ……手、といて」
「ん、だめ、だ……ッ」
555ご奉仕します! ‐聡子の場合‐ 4/5:2008/06/27(金) 18:29:47 ID:hnky+7fh
 あくまで誠一へのご奉仕というスタンスを貫き通すためか、聡子は何かを堪えるように眉根を寄せていた。自身が楽しまぬよう自制しているのかもしれない。
「胸、さわりたい」
 聡子はしばし無言で誠一を見下ろし、やがて動きを止めた。
 身を屈めて誠一の頭上へ手を回し、手首の戒めをといた。
「いいだろう。存分に味わうがいい」
 そうして、聡子は再び動き出した。
 誠一は揺れる乳房に手を添え、初めての感触を堪能する。聡子の乳房は柔らかく、揉んでいるととても気持ちがいい。
「っ……ん、くっ……ご主人」
 堅くなった突起を指で弄りだすと聡子が小さく声を漏らした。その艶めいた響きに誘われるように、聡子の腰に片手を添えながら誠一は強く腰を突き上げた。
「あッ……んんっ」
 ぎゅうっと中が締まり、誠一に吐精を促してくる。
「聡子さんっ! 俺、もう……」
 遠慮会釈なくがむしゃらに聡子を突きながら、誠一は悲鳴に近い声で訴える。
「かまわない。出せ。私の、中に……ああっ、ご主人……出してッ」
 腰を引き寄せるようにして一際強く聡子の中に潜り込んだ瞬間、誠一は二度目とは思えないほどに勢いよく射精した。全身が強張り、徐々に力が抜けていく。
「どうだ、ご主人」
 表面上はいつもと変わらぬ尊大な態度ながらも、聡子の頬は赤らみ呼吸も少し荒い。
「気持ち、よかったよ。自分でするよりも」
 素直に告げれば、聡子は喜色満面な微笑を浮かべた。年よりも幼く見える屈託のない笑顔を向けられ、誠一の胸が一つ大きく鐘を打つ。
「そうか。さすがは我が主。必ずや聡子の言い分を理解してくれると思っ――うあっ!」
 突如として聡子は前のめりに倒れ、後頭部をさすりながら体を起こした。
「聡子! あ、あなたという人は……! 騒がしいと思って来てみれば、私の若様になんということを」
 聡子の頭越しに一人のメイドの姿が見える。
「しかも……な、中出しだなんて、そんな、破廉恥なっ」
 真っ赤な顔でわなわなと震える明葉は崩れるようにうずくまり、ぽかぽかと聡子の背をグーで殴る。
「ご主人が一人遊びのし過ぎで馬鹿にならんよう躾ただけのことだ」
「若様だって、お年頃なんだからそのくらいいいじゃない」
「毎晩自慰に耽って勉学を疎かにしては問題だ」
「だからって、若様にこんな、こんな……っ」
556ご奉仕します! ‐聡子の場合‐ 5/5:2008/06/27(金) 18:30:55 ID:hnky+7fh
 自分そっちのけで自分についての討論を交わされるというのはものすごくいたたまれない。いたたまれないが、聡子が退いてくれないと席を外すことすらかなわない。
「あの、聡子さん、そろそろ抜いてほしいなあなんて」
 おそるおそる声をかけた誠一へ二人のメイドの視線が向けられる。
「なんだ。まだ抜き足りんのか。若いな、ご主人」
「違っ、そういう意味じゃなくて」
「聡子なんかに若様を好きにさせません。若様、ご奉仕ならば私が、誠心誠意を込めて若様に尽くさせていただきます! 聡子なんかより私の方がずっと若様を大事に思っていますからっ」
「男も知らない明葉がご主人を満足させられるわけがないだろう。せめてツーサイズは上げてから言え、貧乳め」
「む、胸が大きければいいというわけじゃないもの! 私には若様への愛があります」
 やいのやいのと再び始まった討論に口を挟む気力がもてず、誠一はぐったりと力無く布団にすべてを預けた。
「……さよなら、俺の童貞」
 ご主人様としての威厳ってどうしたら身に付くんだろう。制御不能なメイド二人を押しつけられた日から幾度となく感じた疑問を誰にともなく投げかけながら誠一は諦めに満ちた吐息を零した。


おわり



保管庫には保存しないで下さい。
557名無しさん@ピンキー:2008/06/28(土) 02:51:41 ID:VxAKkPzb
558名無しさん@ピンキー:2008/06/28(土) 08:41:54 ID:NLPOd6nv
いいよ〜GJ!
聡子さんツンデレっぽくて好きだなあ
559名無しさん@ピンキー:2008/06/28(土) 17:10:14 ID:nhmbzcBs
口調からメイドガイしか思い浮かばん・・・orz
560名無しさん@ピンキー:2008/06/28(土) 23:06:27 ID:l+mhu5DB
メイドガイってなに?
561名無しさん@ピンキー:2008/06/28(土) 23:29:56 ID:u919r9GY
筋肉ムキムキのおっさんがメイドというギャグ漫画
今ならアニメでもやってるはず。
562名無しさん@ピンキー:2008/06/29(日) 00:48:03 ID:yh6N987J
>>559
お前のせいでコガラシにしか思えなくなった
563名無しさん@ピンキー:2008/06/29(日) 02:19:39 ID:rm7TdlYE
新規住人呼び込みのためにage
564名無しさん@ピンキー:2008/06/29(日) 20:31:39 ID:pwfGxglj
>>539の小説を期待してるのは俺だけだろうか。
565名無しさん@ピンキー:2008/06/29(日) 21:13:55 ID:UNu83NLe
>>564
俺もだぜブラザー
566名無しさん@ピンキー:2008/07/01(火) 23:39:02 ID:Nx2JWm1c
こんばんは、毎度お馴染み>>513です。
小説書けたのでまたもややってきました。

ただ前に言ったように非エロです。
興味ない方はスルーお願いします。
そして携帯からですのでそこもスルーな方向で。


因みに時系列はエロ話の前です。
567名無しさん@ピンキー:2008/07/01(火) 23:40:11 ID:Nx2JWm1c
青々と木々が生い茂る森の中で、娘が一人、岩の上に座っていた。

彼女の足首まである長い髪は紅く、月光に照らされて神秘的に輝き、大空を切り取ったような空色の瞳は夜空にかかった星屑の川に向けられていた。

彼女は空に手が届くのではないかという錯覚に囚われて手を伸ばす。
でもやっぱり手は届かなくて。

「星を取りたいだなんて子供みたいなこと考えてるんですか?」

近付いてきた青年の第一声はそれだった。

「……」

無視して伸ばした手を下ろすと、突然青年がその手をとった。
今まで触れてくる者などいなくて、驚いて彼女が青年を見るとにっこりと笑っていた。

「僕と契約を結んでくれませんか?」

ふたつめに紡がれた言葉。
笑っているけれど、本気の笑顔には見えない。正直言って怪しい。
契約なんて結ばない方がいいのかもしれない。
けれど、彼女の返事は決まっていた。

「はい、マスター…」

例えどんな人でも、最後には殺すのだから。
568名無しさん@ピンキー:2008/07/01(火) 23:41:02 ID:Nx2JWm1c
――――――――…………



雨が降り出した。
次第に強くなっていき、水滴が視界を奪う。

「困りましたね…次の街はまだ遠いですよ」

「急ぎたいところですが…」

紅い髪の娘――フレイヤは魔物に警戒しつつ、三ヶ月前に主となった青年――クロスの隣を歩いていた。
暫く歩いていると、雨に霞んではいるが魔物らしきものが遠方に見え、立ち止まる。

「…マスター、止まって下さい」

腰に提げていた拳銃を抜いて、かろうじて確認できる魔物へと銃口を向け、そのまま引金を引く。
銃弾は魔物の足元に当たり泥を跳ね上げ、 銃声と銃弾に驚いたのか魔物は何処かに消えていった。

「……」

おかしい。
気配が消えてから銃を脇に差し直し、小さくフレイヤが呟いた。
その声は雨音に掻き消され、クロスには聞こえない。

おかしい。
いくら威嚇射撃だとしても、先ほど見えた魔物は大きく、簡単には恐れなど抱かないはずだ。
よほど怖がりなのか、それとも何か他に理由があるのか。

「……」

「どうしました?フレイヤ」

気付けばクロスが顔を覗き込んでいて、慌てて何でもありませんと言いながら首を振り、少し距離を取る。
569名無しさん@ピンキー:2008/07/01(火) 23:41:47 ID:Nx2JWm1c
おかしいと言えばこの人もだ。
心の中で、そんな風に呟く。

今までの主人達とは違い、この容姿を忌み嫌うこともなく近寄ってきて、戦闘時は彼も戦う。
しかもフレイヤの力添えなんてなくても充分なくらい強い。

なのに、何故雇ったのだろうか。呪われていると言われる自分を。
確かに信じがたいかもしれないが、実際死者は出ている。

そんな命が危なくなるような者をどうして雇ったのだろう。

「わからない…」

息のような声で呟き、ため息をついて一歩踏み出したときだった。

「…!!」

急に気配を感じた。
先程の魔物の気配。
ただし何処にいるのかがわからず、辺りを見回すがその姿は見えない。

「マスター!気を付けて下さい!どこから来るかわかりません!」

不甲斐ない。
唇を噛み締めながら目を閉じ、神経を研ぎ澄ますが詳しい場所はやはり分からない。

「く……っ!!」

「グギュルガァァァ!!」

地面が揺れ、背後で鳴き声がした。
振り向くと、魔物がクロスに爪を降り下ろさんとするところで。
クロスはというと、いきなり地中から現れたため戦う準備などできていない。
このままでは、クロスは死んでしまう。
570名無しさん@ピンキー:2008/07/01(火) 23:42:40 ID:Nx2JWm1c
「マスター!!!!」

不甲斐ない。
最強など嘘じゃないか。
そんなことを考えながら紅い羽根を出現させそこから飛ぶと、クロスを突飛ばした。

クロスに当たる筈だった魔物の爪は、フレイヤの背中を切り裂いた。

「ぐぁ…っ!!」

痛みで意識が飛びそうになるのを我慢して、低く飛んだまま素早く銃を抜いて心臓を撃った。

「フレイヤ!!」

意識が遠退いていく途中、クロスの叫び声と、何かの温かさを感じた。
571名無しさん@ピンキー:2008/07/01(火) 23:44:16 ID:Nx2JWm1c
――……‥‥・・

『噂通りだ。気持ちの悪い紅い髪、得体の知れぬ紅い羽根…』

『異界の化物が化けているのではないか?』

『呪いがある…という噂が立っても仕方がないな』

過去の雇主達の声が聞こえる。

『いいか、俺に決して触れるなよ』

『怪我の処置ぐらい自分でするんだな。もし血に毒があったらどうする』

『何故戦わなければいけない。お前は強いんだろう?お前だけで戦え』

彼らは女としてどころか、人として扱おうともしなかった。

一度も戦おうとしなかった。

そんな者に情が沸く筈もなく、殺すことに躊躇いはなかった。

名目は一族のため。
心では自分のため。

罵ってくる彼らを契約期間中、何度殺したいと思ったことか。

だから、今の主人は不思議なのだ。
触れてきて、侮辱することもなく、共に戦って。

正直、戸惑う。
分からない。
考えていることが。

貴方は…一体何を考えているんですか―――?

572名無しさん@ピンキー:2008/07/02(水) 00:06:52 ID:sft9jK0y
つ@@@@
573名無しさん@ピンキー:2008/07/02(水) 00:07:35 ID:Nx2JWm1c
――……‥‥・・


雨音が響いて聞こえる。
降られている感覚はない。
重たい瞼を上げると洞窟のような所にいて、寝かせられていた。

「気がつきましたか?」

クロスの声が聞こえて首を巡らせると、優しく笑っている彼がいた。

「起きたてのところ悪いんですが、座れますか?」

差し伸べられた手。
それを借りずに起きようとしたものの、背中の痛みと血を失ったとで力が出ず、結局力を借りて起き、仕舞っていなかった羽根を慌てて片付ける。

「綺麗な羽根ですね」

まただ。
前にも一度髪を撫でながら綺麗だと褒めてきたことがあった。
異端だと言われた、紅い髪を。

「じゃあ服、脱いで下さい」

「!?」

いきなり何を言い出すんだこの人は。

「服着たままじゃ治療ができないでしょう?」

「や…いいです…自分でやるので」

「そんな状態じゃ無理でしょう?それとも僕が脱がしましょうか?」

「!!」

574名無しさん@ピンキー:2008/07/02(水) 00:08:11 ID:x9FNnRU0
顔が熱い。
冗談ですよと告げるとクロスは背中を向けて座った。
外を向いてくれているため、誰かに見られる心配は少ないだろう。
仕方なくびしょ濡れの服を素早く脱いで、先程まで掛けられていた毛布を手繰り寄せ前を隠してから終わりましたと小さな声で告げた。

「……すみません。女性にこんな傷を負わせてしまって」

「いえ…私がちゃんと気配を感じ取れなかったからです」

「当たり前でしょう?熱があるんですから。気付かなかったんですか?」

熱?
確かに少し身体がだるい気がしていたが、雨が降っているからだろうということで片付けていた。

「…仕方のない人ですね…」

何か布が触れる感覚がする。
雨と血を拭き取ってくれているのだろう。

「…痛っ!!」

「我慢して下さい。化膿すると困るでしょう?」

消毒液が傷に沁みて、思わず声が漏れる。
でも化膿すると困るので、言われた通り我慢する。

さすがに前にも回さなくてはいけないため、包帯は一人でやることはできず、フレイヤと協力して巻いていく。
途中幾度となく手が触れたが、てくに気にした様子もなく、フレイヤがびくつくだけだった。

「これで終わりです…が、羽根の方は大丈夫ですか?」

「……」

「フレイヤ?」

「何故…ですか?」

「?」

「何故…マスターは私を褒めるんです?私に触れるんです?一緒に戦うんです?」

「……」

「第一マスターは私無しでも戦えるじゃないですか。契約期間が終わったら死んでしまうんですよ?なのにどうして私を雇ったんですか?」

「…理由なんてないです。ただ、貴女と旅がしてみたかっただけで」

「…どうして…死ぬんですよ?」

「貴女みたいな綺麗な女性と旅して死ねるなら構いません」

本気なのか、上辺だけの言葉なのかは相変わらず分からない。
でも。

「早く新しい服着ないと熱が上がりますよ?」

「…はい」

でも。
その言葉が本気であればいいと、ふと思った。
575名無しさん@ピンキー:2008/07/02(水) 00:08:52 ID:x9FNnRU0
――……‥‥・・



月日が過ぎるのは早いもので。
二年なんて時間はあっという間に経ってしまった。

「思えばあの時好きになったのかもね」

湯上がりの、火照った身体。
その背中にうっすら残る、三本の爪痕。

「……それでも私は…私は…」

自身の身体を抱き締める。
治まらない震えを止めようとするように。

「マスターを…消す…」

力なく呟くその声には、迷いがあった。

選んだ宿屋は夜中に魔物が襲ってくると言われている、客の少ない宿屋。
魔物に襲われたと思ってくれるだろうという考えでここを選んだ。

一日の終わりは、刻一刻と迫っていた。




fin
576名無しさん@ピンキー:2008/07/02(水) 00:13:40 ID:x9FNnRU0
以上で終了でつ。
途中原稿が消えてびびった。
なんとか打てて良かったです。

では石投げられる前に消えさせていただきます。
お休みなさい。
577名無しさん@ピンキー:2008/07/02(水) 18:41:44 ID:m7X5+C79
GJ!
石なんて投げないぜ
578名無しさん@ピンキー:2008/07/03(木) 19:03:03 ID:NgqBC7cD
   | \
   |Д`) ダレモイナイ・・トウカスルナラ イマノウチ
   |⊂
   |

ってことで、初めましてで3レスほどお借りします
579名無しさん@ピンキー:2008/07/03(木) 19:03:58 ID:NgqBC7cD
―――酒精が入っていた為に、はっきりしない。
言い訳をするならば、ただそれだけだ。
また成熟するには早く、萌え出でたばかりの蕾。自分はそれを手折ってしまったのか?
また青く、まだ堅く、閉じる萼を一枚一枚むしり取り。色付くにはまだ早い、その花弁を押し広げて。
アレは自分の妄想だったのか。
彼女の態度が違うのなら判断のしようもあるのに。
まるで何もなかったのように接してくる彼女。或いは本当に何もなかったのか。
一体……―――。

宗次郎は微睡みから醒め、その身を文机から起き上がらせた。
春も最中。
風もなく、ガラス越しに暖かく差し込む日差しは、上に一枚羽織っていなくても寒さを感じるほどではなかった。
はっきりとはしないままの眼差しで、そのまま外を見やる。
そこには余り背が高くないために、物干し竿を使い、苦心しながら洗濯物を干す少女の姿がある。

(沙知……)

それがその少女の名だった。
宋次郎は父が亡くなったのを契機に家を出、母が残したこの場所へとやって来たのだが。
どういう訳か屋敷を出たにも拘わらず、あの侍女は宋次郎に付いてきた。

「お前はあの家、あの屋敷に雇われているのだから、早く帰りなさい」

その言葉も、

「ですが宗次様お一人では、家事仕事がお出来に成らないじゃありませんか」

その様に言い返されては返答のしようもなく。
恐らくはあの堅物の兄に、自分に付くように申しつけられた、といったところが真相か。
それは兎も角として。
今まで何不自由なく過ごしてきた宗次郎が、自分で家事仕事が出来ないのは沙知の言ったとおり。
しかし、裏に建つアパートほどではないが、この家とてもそれほど広くはない。
書斎代わりにしているこの部屋が、もう少し整理整頓できていれば良かったのだが、床に積み上げられた書籍は如何ともしがたく。

早い話が、寝所に困り果てていた。
この書斎、台所、風呂トイレを除けば、使えるところは居間だけだ。
現状、その場にあるちゃぶ台を壁に立てかけ、布団を敷き延べていた。
では、屋敷を相続した兄が邪魔者の弟を、荒ら屋に行くよう誑かしたのかと言えばそうではなく。
この家は狭いが土地は広く、裏に建つアパート二棟がここの所有となっている。
物干し場の周りには芝が植え込まれ、アパートとの境は多少の木立が繁り遮っている。
小振りな池には鯉は居ないが、亀が甲羅を干し。
つまり土地に比べて、家が極端に狭いのだ。
生前父にこの家のアンバランスさを尋ねたが、さてあいつもその質問には笑っていただけだったな、との応えがあったばかり。
580名無しさん@ピンキー:2008/07/03(木) 19:05:07 ID:NgqBC7cD
話がそれた。
つまりは、若い身空の二人が一つ屋根、布団は離せど寝所は同じ、その様な環境に押し込められていることになる。
十近くも年が離れているとは言え、沙知も既に嫁ぐことも出来る年齢に達している。
いつ過ちが起こるか分からぬ環境なのだ。
そして、その様な折りに……。
あの夜、たまには来いとの兄の言葉に従い屋敷を訪い、二人して浴びるように酒を干した。
コレを持って行けと渡されたのは、封も切られていない洋酒のボトル。
家の前まで車で送り届けられ、家の中で封を切り、沙知にも勧め……。そこで記憶がとぎれる。
幸い二日酔いは味合わずに済んだその翌日、宗次郎が起き出す頃には既に沙知は床を上げていて。
故に答えは今にしても分からない。
直接問い質せるようなことでもなく、宗次郎は一人になると悶々と過ごすことになっていた。


(またあいつは)

宗次郎が笑みをうっすらと浮かべ、見る先には沙知が。
洗濯は終わったものか、脇には空になった洗濯籠。
陽気に誘われたか、芝の上に横たわるのは、屋敷時代から変わらぬ臙脂色のお仕着せと割烹着のままでだ。
和装の為に裾が少しはだけて、覗く素足が艶めかしく感じるのは、今までその様な思索に囚われていたが故か。
ヒラヒラと風に靡く蝶が、寝息に動く沙知の肩口に舞い降りた。
羽を休めて、二度、三度と。四度羽の動くのを数えたら、再び空へ舞い戻る。
また買い物に遅れたと、落ち込む姿を見るのも辛い。そう思って宗次郎は、沙知を起こすために文机の前から立ち上がった。




―――嗚呼これは夢だな、と。訳も為しに宗次郎は、そう思った。

「宗次様。おやめ下さい」

そう言って、宗次郎の頭を押し退けようとするが、沙知の力では如何ともしがたく。
足を広げさせ、その花弁を己が指で開き、宗次郎はその部分にむさぼり付く。
陰核を皮の上から舌で突き。幾度となく舐め上げる。
押し広げた襞にも丁寧に舌を這わせて、一分の隙もないように唾を付ける。

「あっ、そこ、は……」

片方の手で押し広げ、舌は広いところで舐め回し、もう片方の中指を秘所の内へと進ませる。
中は既にうっすらと湿りを帯びて。動かす指の動きに滞る様子は見られない。
入り端、上部の凝りを擦り、

「や、やめ、て……ゃあ、んぁ」

と、声を上げさせ。
最奥の窄まりにまで届かせては、

「はぁぁ、ん……んかっ」

と、息を乱れさせ。
いつの間にやら裸身となっていた宗次郎は、足の間から己の牡を沙知に見せつけた。
そのものを、瞳を潤ませ見つめる沙知。指を抜き、未だ口を開ける穴はぱくぱくと。
それの所有を主張するように戦慄く。
それを認めると己の牡をそこに当て、沙知の牝を貫く宗次郎。
581名無しさん@ピンキー:2008/07/03(木) 19:08:35 ID:NgqBC7cD
―――嗚呼、これはやはり夢なのだ。

僅かな抗いも見せず突き進む宗次郎の肉。それは沙知の出す愛液に導かれるまま最奥に至った。

―――沙知の破瓜を示す物が流れていないのだから。

宗次郎は、沙知の襟元から手を入れ、その膨らみを見せ始めた乳房へと手をやる。
揉むと言うよりは撫で付けるように。掌を動かし続ける。
次第にその掌の中で、固く結んでいく物。
頂上を表す蕾に指をかけ、軽く摘む

「やぁぁん」

堅くしこり、指に弾力を感じさせる蕾を宗次郎は離し、今度はその周囲を執拗に指先でなぞる。
なぞりながら、宗次郎は最奥まで至って留めていた牡を、漸くに動かし始めた。
腰を振り、指で乳首の周りを弄ぶ。
腰を振り、指で牝の蕾を激しく揺さぶる。

「あっ、……あぁん、はあっ」

―――いや、沙知の純潔を散らせてしまったのは、夢ではなかったのか?

宗次郎が両の手を使い、沙知の襟元を大きく崩した。そして露わにされる、その胸元。
その二つの白い丘は、先程より少しきつく宗次郎に揉み続けられていた。
沙知を攻め続ける、腰の往復。
蕾を同時に摘み上げる、宗次郎の指。
後は牡が吐き出す、白濁した物を最奥に植え付けるだけ。

―――いや待て。それは確か、まずい事に。

睾丸が上がり、体勢は整う。

―――いや、だから。……まずい事になったはずだ。

亀頭が、竿が膨らみを見せて、後は撃ち込むだけとなる。

―――だから!

何処か耳の奥に「ン、ぃく……あぁん……」と甘く痺れる声を聞いた気がしながら。


宗次郎は目を開けた。
何より先に己の股間へと手をやる。
極限まで膨らみはすれど、その先へは至っていない。
助かった、と。
明日の朝、起き出してすぐに、この暗闇の中、隣で寝息を立てる少女に、

「どうしてお風呂場で下着だけを洗ってらっしゃるんですか?」

と、あの曇りのない瞳で見つめられずに済む。
ただ、それだけのことで。
宗次郎は、明日一日が幸せに過ごせるような気がした。


 〜 〜 〜 〜 〜

以上です。ではまた(;´Д`)ノシ
582無しさん@ピンキー:2008/07/03(木) 19:41:39 ID:v4vDTSbv
純文学風の表現に、エロ・・・。
普通より、よりエロに感じた。
GJ!
583名無しさん@ピンキー:2008/07/03(木) 19:49:18 ID:OhaZN+w+
>>578さん
眼福でございました。ありがとう御座います

そしてもっとやれ、いややってください
584名無しさん@ピンキー:2008/07/06(日) 21:38:08 ID:VoAtWN/f
>>500
そのお題もらった!
・・・というか、有り難く頂きます。
585名無しさん@ピンキー:2008/07/08(火) 21:14:18 ID:34Ztg1kw
京極?
586名無しさん@ピンキー:2008/07/13(日) 02:24:56 ID:LcgIGAry
保守
587名無しさん@ピンキー:2008/07/14(月) 15:26:51 ID:kMeIV/dr
今まで投下された小説でおすすめってある?保管庫読みにいく上で参考にしたい
588名無しさん@ピンキー:2008/07/14(月) 22:11:39 ID:+TkGfn52
女男主従スレにも書きましたがこちらにも念のため。
>>1の保管庫、リンク先が個人ブログになってる
+そのブログにウィルス仕込まれてます。
管理人さんご覧になってましたら修正お願いします…。
589名無しさん@ピンキー:2008/07/14(月) 22:34:50 ID:LPLW6gnS
管理人じゃないがwiki修正しました。
いまやいたちごっことなっているので、もしもリンク先が怪しいと思ったら、
左メニューの「ページ一覧」からリンクを開いてください。
こちらはスパムでもいじれない箇所のはずなので、安全です(確か)。

590名無しさん@ピンキー:2008/07/15(火) 00:40:43 ID:l2CunWZf
>>589
乙です!
591wiki”管理”人:2008/07/19(土) 01:45:09 ID:FzSuQtLZ
おふさしすぎです。
>>588-589
GJでした。ついでにTOPと各作品一覧ページに復元ポイントなるものを設定してみました。
(LivedoorWikiは1ヶ月以内の編集履歴しか保存しないようなので。)
スパムがあったばあいは復元ポイントを使うなどして復旧をお願いします。
592名無しさん@ピンキー:2008/07/21(月) 21:23:21 ID:kz3pco78
そろそろ合併について具体的に話し合ってみないか?
埋まったら女主スレに移動するだけでいいのか?
593名無しさん@ピンキー:2008/07/21(月) 21:36:45 ID:HxiLA7zH
個人的には合併しても良いと思うけどなぁ…
594名無しさん@ピンキー:2008/07/22(火) 00:31:14 ID:qXJDpXlV
いきなり移動するだけじゃだめでしょ。とりあえず向こうのスレにも話題ださないと。
595名無しさん@ピンキー:2008/07/22(火) 00:34:21 ID:zde9mbFz
>>592
向こうはどう言ってるんだっけ、合併の話って。
596名無しさん@ピンキー:2008/07/22(火) 00:53:29 ID:CG/zqRsA
女主スレの15からの流れを見るとわかるが合併に反対はなし。注意促しつつ、男主が埋まり次第移行で話がまとまっていたはずだ。
そろそろ埋まりそうだし、もう一度向こうにも注意促すべきか
597名無しさん@ピンキー:2008/07/24(木) 02:35:31 ID:4Ldf6zmJ
保守
598名無しさん@ピンキー:2008/07/27(日) 00:06:25 ID:bE7oHMG6
美人従者とか・・・大好きなんだぜ
599名無しさん@ピンキー:2008/07/27(日) 20:00:37 ID:WQrnSaBu
>>598
主人より年上の美人従者なんて大好物ですが。
600名無しさん@ピンキー:2008/07/27(日) 22:24:48 ID:s6a3q/Pe
年上の教育係と秘密のレッスンですね、わかります。
601名無しさん@ピンキー:2008/07/28(月) 21:29:51 ID:qxhMlXFr
年下の主人が年上の清楚な処女従者を手籠めにするとかそんな展開で
602名無しさん@ピンキー:2008/07/30(水) 20:15:57 ID:UYLJRKuE
603名無しさん@ピンキー:2008/07/30(水) 22:32:32 ID:s4aroZ6D
し ョタで生意気な主人が年上美人従者に恋なんて展開で
604名無しさん@ピンキー:2008/07/30(水) 23:14:24 ID:Zm19zWS0
ゆ うかいされた男主人を取り戻す為に銃を手にする女従者とかいう展開で
605名無しさん@ピンキー:2008/08/01(金) 09:09:33 ID:4JSWk2Ds
しゅ 従の関係にあるのに全く気にせず敬語はおろか友達みたいに接する女従者とか大好物ですが何か?
606名無しさん@ピンキー:2008/08/01(金) 09:16:17 ID:+AYVbzQo
ほ のかな想い、胸に秘め
し ずかに見守る
ゆ 
607名無しさん@ピンキー:2008/08/01(金) 12:50:30 ID:itthZCir
女主スレで合併後のテンプレについて話し合ってるから意見あったら参加してくれ
608名無しさん@ピンキー:2008/08/01(金) 23:46:15 ID:1GfAtEsC
和モノ、OKでしょうか?
609目撃:2008/08/01(金) 23:54:31 ID:1GfAtEsC
とりあえず、投下してみます。
610目撃1/4:2008/08/01(金) 23:55:17 ID:1GfAtEsC
朝から心ここにあらず・・・頼姫は朝からうきうきと人待ち顔である。

頼の父は大河と山陽道と瀬戸内海を結ぶ交通の要衝を押さえて小さいながらも山城をかまえ一国を治めている。
頼姫は今年、数えで十五になった。上に総領息子である兄虎正と、隣国に輿入れした姉ゆうがおり、末娘としてのびのびと育てられた。

姫が落ち着かないのは、父の命で京に使わされていた、幼馴染で乳兄弟でもあるたきが帰ってくるからだ。
主家のために隠密に働く草の一族の出で、同年代で唯一の友達であるたき。
いつも自分のために、ここでは見られないような珍しい、美しい土産を携えてきてくれる。
頼姫は一生足を踏み入れることがないであろう京の様子を面白おかしく教えてくれるに違いない。

「・・・遅い」
京からの一行は一昨日国境を越えた、と先に馬で戻った兄から聞いたのに、いくらなんでも遅い。
本丸の私室で待つのに飽きてしまい、頼姫は城口まで迎えに出ることにした。
収穫の時期にあたる秋は城内に人影も少なく、絶好のお忍び日和である。
途中、兄に見つかるとしかられるので、兄の居室のある二の丸を避けるため山城の城壁沿いにつくられた石畳の通路を行く。

「・・・ぅ」

うめき声が聞こえたのは気のせいか。

「ぁ・・・若」

気のせいではない。しかも城内で「若」と呼ばれるのは兄だけだ。
一人歩きを叱られる、と頼姫はあわてて弓場の影に身を潜める。
そっとあたりを伺うと、城内ではなく城壁の外に、人の気配がある。以外に近い。
頼姫は息を詰めて射掛け窓からのぞいてみた。
そこには。
611目撃2/4:2008/08/01(金) 23:56:02 ID:1GfAtEsC
一段下の狭い足場に、兄がいた。
そして。兄の肩脱ぎにした逞しい上半身と城壁の大岩の間に、たきがいた。

兄が、たきの細い両手首を握って城壁に固定し、うしろから押しつぶさんばかりに密着しているのだ。
顔はたきのうなじにつけられているので、その表情は分からない。
たきの顔は上を向いているので、頬を真っ赤にして、泣いているのか、目が潤んでいるのが分かる。
ときおり、くぐもったうめき声がもれてくる。さっき聞いたのは、たきの声だったのだ。

頼姫も、夫婦が子を作るためにまぐわうことは、知識として知っていた。秘め事である、と聞いている。
まして、間近で、よく知っている2人だ。早くこの場を離れなければ・・・と思うが、足が動かない。
着物の端からのぞく、たきの白い胸元や足から、目が離せなかった。

兄がたきを抱き上げ、体勢を変える。
頼姫の視線に胡坐をかいた兄の男根が見えた。それは隆々とそそり立ち、天を仰いでいる。
かるがるとたきを男根の上に座らせると、その白い胸元に顔を埋めている。
たきもおずおずと兄の背に手を回し、身体を支えている。
「・・・動け」
兄の要求を、たきは嫌々をするように力なく首を振って、拒絶している。
「たき」
兄の声は低く抑えられているが、頼姫の耳にもしっかりと届いた。頼姫を、真剣に叱る声に似ている。
「たき」
再度の要請に、たきは抗いきれず膝をつき、兄の身体をささえにして腰をくねらせ始めた。
612目撃3/4:2008/08/01(金) 23:57:25 ID:1GfAtEsC
「・・・っふ、う、ぅ」
動くたびにたきの口からうめき声がもれる。そのたきの口に、兄が唇を重ねた。
貪るような深い接吻を頼姫は初めて見た。
その間にも兄の手は休むことなくたきの白い身体をまさぐり続ける。
「ゃあっ・・・ぁあぅ・・う、ぅっ」
兄の唇がたきの乳房の頂に移動したとき、たきが不意にがくがくと震え始めた。
「気をやるか?」
兄の問いに答えるように、たきが白い手を兄の身体にまわしてしがみつく。
たきのみずみずしい乳房が、兄の手で滅茶苦茶に揉みしだかれている。
「若・・・ぁ、ぁ・・・あ、あ  」
四肢を小刻みに震わせ、眉根を寄せた恍惚のたきと、満足げな兄の顔が、頼姫の脳裏に焼きついた。

ぐったりと脱力して兄に寄りかかるたきの顔が、頼姫のほうを向いている。その顔は知らない大人の女に見えた。
兄がまたしても体勢をかえてたきを組み敷いた。
白い足を押し広げ、その間で盛りのついた馬や犬のように腰を振りたてている。
その腰に、そっと白いしなやかな手が回されるのを、頼姫はみた。
「果てるぞ」兄の低い声に確かな官能を感じ取り、頼姫は思わず身震いをした。

獣じみた一声のあと、兄の動きが緩慢になる。
たきの乱れた髪を撫で付けながら、一言二言なにかささやいたようだが、それは聞き取れなかった。
兄が離れた後、横たわるたきの兄が納まっていた場所から、とろりとした白いものがこぼれるのがはっきりと見える。

たきは身を起したものの、岩に寄りかかってぼんやりとしている。
兄は自分の身支度を済ませ、たきの着物を直してやり始めた。
「今宵、二の丸へ来い」
困ったようにたきが兄を見上げる。
「お前に否はない」その声は穏やかだが、有無を言わせない強い意志を感じさせる。たきを見てにっこりと笑う兄を、頼姫は恐ろしい、と思った。
もとよりたきは主人の命に逆らうことなどできないのだ。
613目撃4/4:2008/08/01(金) 23:58:19 ID:1GfAtEsC
立ち上がった兄が城壁を登ってくるかとおもい、頼姫は我に返って身を硬くした。
が、兄はたきに接吻を与え、先に城壁から送り出す。
さすがにたきは草の一族である。一跳びで気配が消えてしまう。
続いて兄も、たきとは違う方向へ、わずかな足がかりで軽々と跳ぶように降りていってしまった。
2人の気配が遠く消えさった瞬間、その場に取り残された頼姫の緊張の糸がふつりときれ、へなへなと座り込んでしまう。

頼姫が立ち上がることができたのは、居室にいない姫を心配して養育係の常盤が探しにきてからであった。
居室に、たきが来ているという。・・・どんな顔をして会えばいいというのだ。
結局、日差しに当てられ調子が悪いと横になってみたのだが、たきの顔を見ると先ほどのことが思い出されかぁっと頬が熱くなった。
その様子はたきや常盤に発熱と誤解され、臥所に押し込められて、たきがそばに控えてくれることとなった。
おかげで、兄とともにとる事にしている夕餉に出向くかずともよくなり、頼姫は安堵した。
甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるたきは、頼姫がよく知っているたきで、先ほど出来事は夢であったのだろうか、と思う。
だが、夜半にそっと気配をけし、明け方戻ってきたたきを感じ、やはり本当のことであったのだ、と再び顔を火照らせた頼姫であった。

614名無しさん@ピンキー:2008/08/02(土) 11:01:39 ID:QYPCv8/d
う、うめえ。よかった
普段時代劇スレとかにいんの?他のものも読んでみたい
615名無しさん@ピンキー:2008/08/03(日) 08:22:55 ID:kcDMHVS0
GJです!
和もの好きだしエロくてどきどきしました
6161/4:2008/08/03(日) 14:34:27 ID:Tv1so3pb
「殿下ッ!」
悲鳴に近い声を上げて駆け寄ってきた相手を見ることなくアランは溜め息をこぼした。
「シャロン、小言は後だ」
逃げるように手を振って背を向けたアランは歩き出しかけてその足を止めた。
「いいえ、逃がしません」
きっちりと編み、背に流していた髪をシャロンが掴んだからだ。
煩わしさを隠しもせず、アランは振り向いてシャロンを見た。
そして、その眦に涙が浮かんでいることに気づき眉をしかめた。
「勇敢であることと無謀であることは同義ではありません。いくら貴方が高貴な血筋であり神の祝福を得ているからといって無策に敵陣に乗り込むなど無謀以外の何物でもありません。無茶苦茶です」
責める口調のシャロンの言葉はアランの耳にはまったく入らず、アランはシャロンの目に浮かぶ真珠のような輝きにのみ目を奪われていた。
「……泣いているのか」
形のよいアランの指が雫に触れる。
「貴方を、失うかと思いました」
「私を信じていないのか」
「今回ばかりは、無条件に貴方を信じてはいられませんでした。戦況の悪さは理解しています。貴方の無謀さもよく知っています。貴方はいつも私を不安にさせて下さる」
頬に手を触れ、アランは身を屈めてシャロンの眦に唇を寄せる。
頬や瞼にも同じく唇を寄せ、困ったような顔をしてシャロンを見下ろした。
「お前を泣かせた件に関してはすまなく思う。悪かった」
シャロンが何かを口にする前にアランは彼女の唇を塞ぎ、謝罪を込めて出来る限り優しいキスを彼女に捧げた。
「一度戻って、まだやらねばならぬことがあるから……」
唇を離し、アランは名残惜しそうにシャロンの頬を撫でる。
「お前は私の部屋で待っていろ。小言はその時にちゃんときいてやる」
不服そうながらも頷き、シャロンは歩み去るアランの背を見送った。


**********


アランがいかに無謀なことを行ったかを懇々と語っていたはずが気が付けばソファーに組み敷かれるような体勢をとらされており、シャロンは身じろいでアランの緩い戒めから逃れようとする。
やけに体に触れたり唇を寄せてきたりするものだと、真面目に話を聞かない彼に苛立ちはしていたが話が終わる前に押し倒すほど悪びれていないとは思わなかった。
シャロンが怒っている間は一応反省したふりをするくらいの気遣いは常のアランにはある。
「殿下、この体勢はなんですか」
6172/4:2008/08/03(日) 14:35:08 ID:Tv1so3pb
不満たっぷりなシャロンの訴えなど意に介さず、アランは彼女の耳朶に唇を寄せた。
「せっかく二人きりだから、時間は有効に使うべきだろう」
「何を、っ」
「最近させてもらってないし」
ご無沙汰というやつだとアランは言う。
確かにそう言われれば最後に肌を合わせたのは十日以上前のこと。
しかし、拒んでいたわけではなくそれどころではないほど互いに忙しかったことはアランだってわかっているはずだ。
「こんな、日の高いうちから、いけません」
「昼だろうが夜だろうが、始めてしまえばお前はすぐにわけがわからなくなるじゃないか」
行為に慣れていないこと、いつもアランに翻弄されている事実を指摘され、シャロンは意地になってアランの胸を押し返す。
「暴れると落ちるぞ。寝台と違って狭いんだ。しばらく大人しくしていろ」
せめてと顔を背ければ、そのまま体をひっくり返される。
シャロンはクッションに顔を埋める形にされ、アランはソファーとシャロンの間に手を入れて服をたくしあげた。
片手でシャロンの胸を弄り、片手で自身のシャツのボタンを外す。
クッションを掴んで堪えながら耳まで赤く染めるシャロンの後ろ姿を見て、アランは愛おしそうに微笑する。
「お前は、本当に可愛いな」
項に唇を押し付け、アランはシャロンの全身を優しく撫で回し始めた。
始めは声を出さないために頑なになっていたシャロンもアランと向き合うよう体勢を変えられ、彼が乳首を口に含んで愛撫しはじめると僅かながら声を上げるようになっていた。
「っ……ん、ぁ…んんっ」
アランの指が中を掻き交ぜ、シャロンは無意識にその指をきつく締め付ける。
幾度も肌を重ねてきたアランにはシャロンの弱点など目を閉じていてもわかる。
弱い部分を集中的に責め、短い時間で彼女の体を解していく。
「ふぁ、や……ん、っ」
びくびくと体を跳ねさせる彼女がアランの愛撫に感じていることは疑うまでもない。
それなのに、口元に手を当ててシャロンは声を堪える。
「声は我慢しなくていいといっただろう」
それを寂しく思うアランは前を寛げて取り出した屹立を前置きもなしに彼女の秘裂に突き立てた。
「や、あああああっ!」
いきなりの衝撃にシャロンは悲鳴に近い喘ぎを漏らす。
満足げにシャロンを見下ろし、アランはシャロンに口づけた。
舌を絡め、吸い付き、そうしながらゆっくりと腰を動かしだす。
粘着質な水音が動く度に室内に響いた。
「シャロン…っ」
6183/4:2008/08/03(日) 14:35:39 ID:Tv1so3pb
抱きしめるようにしながらアランはシャロンの中を突き上げる。
奥へ、奥へと欲求に素直に何度も強く突き入れる。
呼吸は互いに整わず、乱れた呼吸の合間に名を呼び合う。
生理的な涙を浮かべるシャロンの眦に舌を寄せて、アランは込み上げる愛おしさのすべてを込めて彼女をきつく抱きしめる。
「あっ、あああっ……アラン、さまぁ!」
「……っ、シャロン…シャロン」
久しぶりというのは嘘ではない。
アランは余裕のかけらもなく、荒々しくシャロンを攻めながら頂点へと向かっていく。
早すぎるなと内心苦笑しつつ、アランはシャロンの敏感すぎる突起を指で弄りながら強制的に彼女を高みへ押しやった。
痛いくらいに締め付ける彼女の中でアランは精をほとばしらせる。
ゆるゆると腰を振り、残滓もすべて吐き出してからアランはぐったりと力無くシャロンにのしかかった。


**********


一足先に身仕度をすませたアランは服の乱れを直しているシャロンをけだるげに眺めている。
怒った顔をしたシャロンは体を離してから一度もアランと目を合わせようとしない。
「悪かったといった」
我慢できなかったのだから仕方ないと開き直るアランにシャロンは冷たい視線を投げかけた。
しかし、情事の余韻を残した潤んだ目では迫力に欠ける。
「中は駄目ですといつも言っているのに、ひどいです」
「そういう余裕はなかった」
「子供が出来るかもしれないのに。殿下はもっと先のことを考えてくださらないと困ります」
「子を孕んだら産めばいい」
平然と言ってのけるアランをシャロンは嘆息しつつ窘める。
「簡単におっしゃいますがそんなにあっさり平民に子を産ませては」
「平民だろうが貴族だろうが私はお前が好きだ。惚れた女に子を産ませたいと思うのは生物として当然の欲求だろう。それに、子が出来れば堂々と愛妾にできるしな」
今ですら堂々と閨に連れ込んでいるではありませんかとは指摘するのも馬鹿馬鹿しくて言う気にならない。
好きだと臆面もなく言い切るアランを真っ正面から見ていることが恥ずかしくなり、シャロンは赤い顔で視線をそらした。
「そういうわけだから、今夜は久しぶりに共に過ごそう」
シャロンに目を反らされてもめげないアランは今晩の予定を勝手に決めて立ち上がる。
「さっきので火が付いた。満足するまで付き合えよ。お前が来なければ私が行く」
6194/4:2008/08/03(日) 14:36:16 ID:Tv1so3pb
彼女が異義を申し立てる前にアランはシャロンに満面の笑みを向けて反論を阻止した。
「よもや私から逃げられるとは思ってないだろうな」
反論の為に開いた口を閉じ、過去のあれこれを思い出し、シャロンはうなだれながら頷いた。
シャロンの同意を得られたことに機嫌を良くし、アランは鼻歌でも歌いだしそうな様子で部屋を後にした。


××××××××××


天衣無縫王子と苦労性従僕のつもりが中途半端だったかもしれん。無邪気の塊みたいにしたかったんだけど。

時間経ってから読み返すと恥ずかしくて悶絶しながら死にそうになるんで保管はしなくていいです。
620名無しさん@ピンキー:2008/08/03(日) 15:04:35 ID:4EEOASz8
や、王子かわいいと思うよ
GJ!
621名無しさん@ピンキー:2008/08/04(月) 00:21:37 ID:FuydwmHo
職人さんたちありがと(≧▽≦)
622名無しさん@ピンキー:2008/08/04(月) 00:52:17 ID:Nx6YiS5a
いつの間にやらいっぱい投下されとる…
どれもナイス!!
アランとシャロン保管庫いれないのもったいないくらい良かったぜ。
苦労性従とか大好物だ。
シャロン可愛いよシャロン。
623名無しさん@ピンキー:2008/08/07(木) 01:27:16 ID:XO0sqfQH
GJ!


ファムレイユの人はもう来ないかな?また王都騎士団の話が読みたいよ
624名無しさん@ピンキー:2008/08/09(土) 01:43:19 ID:MAB3hDDA
保守
625王様と書記官 その4:2008/08/11(月) 00:53:42 ID:E56eWeFp
随分お久しぶりですが、>>316からの続き物を投下します。
626王様と書記官 その4:2008/08/11(月) 00:55:34 ID:E56eWeFp
 陛下が離宮に籠もりました。
 籠もると言っても別に引きこもりというわけではなく、精進潔斎の類でもなく。
 ただ単に、
「これは俺の夏休みだ」
 ということらしいです。
 陛下が離宮に籠もる間は、召使いなども寄せ付けません。
 武官文官の類も制限をかけ、お側に行けるのは武官と文官で一人ずつ。
 王宮でもそれに合わせてお休みを取る者が多いのですが、私は陛下のお側に行ける文官として選抜されたため、離宮に詰めることになりました。
 王宮が半休暇状態に入っている為、やることはいつもより少ないのですが、今の私は文官の代表です。
 普段は私がやらない仕事もやることになるわけで、下手をしたら普段の仕事よりも大変だったりします。
 救いと言えば陛下が籠もっている離宮、通称『夏の離宮』が涼しい場所に建っている、でしょうか。
 これで暑かったらもうやってられません。
 私は書類の山の中で、これが済んだら休みを貰おう、そうしてゆったり休みを満喫しようと思いました。


 こんこん、とノックする音も、王宮の扉とは材質が違う為、少し軽やかに響きます。
「入れ」と言われた先にいらっしゃる陛下も、いつもの重々しい執務机と椅子ではなく、籐で編んだ涼しげな長椅子に寝そべって本を読んでいました。
 涼やかな緑の天蓋が覆う、硝子で出来た円形の部屋は、陛下のお気に入りです。
 ただ、この方の場合、周りの装飾品がどんなに軽やかになっても、本人が一番重苦しい雰囲気を纏っているので、寛いでいるだとか、リゾート中だとか、そう言った気がいたしません。
 むしろ、陣中見舞いに来た気分とでも言うのでしょうか……。
 いえ、ただ単にちょっとそんな気がすると言うだけですけど。
 私がそう漏らすと、武官代表でいらっしゃっているヴォリアス様は「違いない」と言って笑って下さいました。
「どうした、リトレ。」
 私がそんなことを思い出していると、表情に出てしまったのでしょうか。
 陛下がいぶかしげに私の顔を覗き込みました。
「い、いえ。ただちょっと今朝、ヴォリアス様とお話ししたもので。」
 申し訳ありません、と頭を下げると、陛下はぴくりと眉を動かしました。
「ヴォリアスと……?」
「はい。今までお話しする機会がなかったのですが、食堂で一緒になって。
 昼食をご一緒させていただいたのですが、随分と気さくな方ですね。」
 それに、有能そうな方でした。
 鋼のように鍛え抜かれた体躯は一軍の将として、十分に信頼に足るものでした。
 聞けば、ヴォリアス様は平民の出であるにも関わらず、その能力を陛下に認められ、離宮詰めの武官代表に抜擢されたんだとか。
 私はそれを聞いてヴォリアス様にも感心しましたけれど、それ以上に陛下の慧眼に感動しました。
 家柄や育ちに左右されて本質を見落としがちなのが貴族ですが、陛下は常に、その人間の本当に持っている力を見つめる事の出来る方です。
「あの方を見ていると、私も頑張らなきゃ、って思うんですよね。」
 ちょっとおこがましいかも知れませんけど。
 でも、同じ離宮詰めに選抜された者として、自分もあの人と対等と言えるほどの力量を持っていなければいけないと思うのです。
 でなければ、折角選んでくれた陛下に顔向けが出来ません。
 そんな思いがいっぱいで、言った先から刻々と陛下のご機嫌が急降下しているのに、私はちっとも気が付くことができませんでした。
 ついでに言えば、その理由も。
627王様と書記官 その4:2008/08/11(月) 00:56:35 ID:E56eWeFp
「ほお……。そんなにあいつが、気に入ったのか?」
「平民から出世した者の中には、慢心して普通の貴族以上に偉ぶる方もいますけれど、ヴォリアス様はそんなこともなく、武官としても人間としても、十分に尊敬に値する方だと思います。」
「人間としてもか? あいつのことを随分買っているんだな」
「それだけの人物だと思いました」
 だから、あなたも選んだのでしょう?
そんな意味を込めてちらりと視線を投げると、陛下は手にしていた本を傍らに置き、私に向き直りました。
「では、俺はどうなのだ?」
「は? ………いえ、失礼しました。ええと、それは、国王陛下を人間としてどう思うか……と言うことですか?」
「そうだ」
 急に何を言い出すのでしょう。
 あまりに陛下が突飛な事を言い出すものだから、思わず素っ頓狂な声を出してしまいましたが、陛下は全く威厳を崩さず、王者の風情でゆっくり頷きました。
 何というか、その…そこまで真面目な顔をされても困るというか……
「だって、国王陛下は、国王陛下じゃないですか」
 そう。我が国の国王陛下は建国神話の便宜上、神の一つ子とされています。
 大体、いくらなんでも自国の国王の人間性を本人の前で寸評するのもどうかと思います。 まあ、一言で言うなれば『怖い人』となるのでしょうけど、これは流石に国王陛下でなくってもあからさまに言うのはどうかと……。
「だから一体、何が言いたい?」
「えっとその、だから。陛下はそういった事の対象外というか、何というか……」
「対象外だと? 俺では論外だと言うのか?」
 「いえ、そうではなくて…何て言うか、私では陛下の器を推し量れるような力が足りないというか……」
 一瞬、やけに陛下の凄みが増したような気がしましたが、一度口に出してしまったことは取り消すことはできません。
 仕方がないので拙い言葉で何とかフォローしようとしても、上手い言葉が出てきません。
 しどろもどろになっていると、陛下は眉間のしわを深くして立ち上がりました。
「もうよい、そなたの言うことを聞いても埒があかぬ」
 そう仰ったかと思うと素早く私の手を取り、あっと思った時には長椅子に押し倒されておりました。
「陛下? ちょっと………」
「そなたの口から出る言葉など欲しくないと言っておるのだ」
 そう言って、いかにも不機嫌そうな顔で私の唇を塞いでしまいました。
 いかに緑で覆われているとはいえ、硝子造りの小部屋です。誰かに見られてしまうのではないかと身を固くすると、陛下もそれに気付いたのでしょう。人の悪い笑みをにやりと浮かべ、
「誰かに見られるのは好かぬのだったな。この離宮には誰も居らぬ。外を気にする必要はないのだぞ」
 そう言って手早くスカートを捲ると、下着の中へするりと指を滑り込ませました。
「あっ、駄目ですっ……」
 私のそこは、思いのほか猥らな音をたてて、陛下の指を飲み込んでしまいました。
「何だ、もう濡らしておるではないか。俺に弄られるのを待っておったのか?」
 否定しようとしても、陛下は私のあそこを指でもって掻き混ぜ、ふしだらな音を部屋の中に響き渡らせました。
 そんな猥らな音を立てられては、どうしようもありません。
「そなたのここは、随分と俺の指を気に入ってるようだな」
 そう言って、いよいよ指の動きを激しくなさいます。
「ぁぁっ……」
 火照った顔を陛下に見られないように俯いたとしても、自然に揺れてしまう腰は止められません。
 陛下の御手に、身体を擦りつけるような真似をする女を、陛下はどう思ったのでしょうか。
 刺すような視線を感じながら、それでも私は腰の動きを止めることが出来ませんでした。
「っ、はあ……」
 せめて、指の動きを止めてくれたら。
 今や陛下の指は、陛下ご自身を思わせる動きでもって激しく抜き差しを繰り返し、私を責め立てておりました。
「……ぁぁ……ぁああ……はぁん……」
 硝子の小部屋に響き渡る音は鳴りやまず、いつしかそれに私の喘ぎ声が加わり、聞くも恥ずかしい音楽が奏でられました。
 猥らな音楽に浸りきって思考力を奪われ、いつしか私は貪欲に陛下にねだっておりました。
628王様と書記官 その4:2008/08/11(月) 00:58:24 ID:E56eWeFp
 熱い楔が打ち込まれる度に、身を震わせて陛下の名前をお呼びすると、陛下は熱を帯びた目で私を見つめ、私の中に熱い迸りを注ぎ込んでゆきました。
 何度も何度も、角度を変えて交わります。
 緑の隙間から木漏れ日が舞い降りてきて、ゆらゆらと二人の上に降りかかりました。
「そなたはこうしているときが一番可愛いな。ずっとこうして啼いているがいい」
「っ、はぁ…………ず、ずっとぉ……?」
「そうだ、ずっとだ。ずっと俺に嬲られて、過ごすがいい。」
 陛下が私に、夢見るように囁きました。私も何だか、それはとても素敵なことに違いないと思いました。
 熱い楔が私の体から引き抜かれたので名残惜しげに声をあげると、お詫びとばかりに甘やかなキスが降ってきました。
 事が済んだ後も陛下は私をお放しにならず、私は陛下の肩越しに木漏れ日を目で追いながら、先ほどの「ずっと」という言葉をぼんやりと口ずさんでいると、とろとろと眠気が押し寄せて参りました。

    ずっと、ずっと。

 私の声が聞こえたのでしょうか。
 その日、緑の隙間からこぼれ落ちる光が夕闇にかき消えるまで、陛下は私を抱きしめて下さいました。


 目が覚めると辺りはすっかり薄暗くなっていました。
 今から文官の詰め所まで戻るのは大変だろうということで、陛下と夕飯をご一緒させて頂きました。
 陛下と食事の席を共にするのは初めてでしたが、周りの目もないし、体もくたくただし、ちょっとだけ甘えさせていただきました。
 ただ、「俺の膝に乗って食事を採れ」というのは有り難くご辞退させていただきましたが。
 そう言えば、陛下の私生活には今まで関心がなかったのですけれど、ひょっとして他の女官にもこういう事をしているのでしょうか。
 そういった噂はあまり詳しくない方なので何とも言えませんが、私のような者にまで手を出しているのだから、小間使いに手を出していない方がおかしいのかも知れません。
 疑問に思って陛下に聞いてみると、やけに取り乱して「してない! やってない!」と否定なさいました。
 その反応が却って怪しいと思ったのですが、あまり深く詮索しないことにしました。

    ずっと、ずっと。

 陛下もいずれ、相応しい方をお后様に迎えて、ご家庭を作るのでしょう。
 それは国王という立場にいる人間にとっては、義務でもあります。

    ずっと、こうして。

 陛下の隣に並ぶ方は、どのような方でしょう。
 陛下はその方を、どのような目で見つめるのでしょう。
 優しい声で呼ぶのかしら。今日のように優しく抱くのかしら。

    ずうっと。

 どうして胸が締め付けられるのでしょう。
 なぜこうも、陛下のお側にいるのが辛いのでしょうか。
 離宮になど来なければ良かった。
 こんな気持ちになるのなら、初めからこんな役目など辞退しておけば良かった。
 そんな思いに駆られて、私は『ずっと』という言葉を胸の中からかき消しました。
629名無しさん@ピンキー:2008/08/11(月) 01:03:27 ID:E56eWeFp
以上です。お粗末様でした。
630名無しさん@ピンキー:2008/08/11(月) 01:20:59 ID:vgjhd6/A
うお、キター!!
このスレには少し前にたどり着いて、最初から376までのお話を楽しく読ませてもらってました。
「面白いな、続きはないのかなあ」と思っていたので、嬉しいです。
陛下、あいかわらずいいキャラですね。
リトレがちょっと陰のある人なので、陛下の可愛らしい一挙一動に救われます。
631名無しさん@ピンキー:2008/08/11(月) 02:12:31 ID:3Hz/6JNE
待ってました!
すげーいい。泣ける。切なさって大事ないい調味料だよなぁ。

続き正座してお待ちしてますよー。
632名無しさん@ピンキー:2008/08/13(水) 16:23:53 ID:L9qRFCAU
GJすぐる!
続きも首長くして待っておりまする
633名無しさん@ピンキー:2008/08/16(土) 03:23:01 ID:C8id1Kd3
GJ!!!
その1から通して読んだら涙出ました
もしよければこれからもお二人のお話を聞かせてください
634名無しさん@ピンキー:2008/08/17(日) 01:25:32 ID:Dd02lDZD
猫と飼い主出会い・エロなし

亮介は疲れた体でオートロックを解除し、305号室へと帰宅した。
会社と家とを往復する毎日。誰もいない暗い部屋に遅くに帰るだけの一人暮らし。
しかしその日自宅のドアを開けると、そこにはなぜか猫が居た。
「にゃー」
「…」
真っ暗なはずの部屋には電気がついており、猫の着ぐるみスーツを着た女の子が床にぺったん座りをしている。
亮介の顔を見るといそいそと正座に直り、深々と礼をした。
「お家の方なのにゃ!?お帰りなさいにゃー。お邪魔させていただいてますにゃ」
「え…?君どこの子?」
「猫ですにゃ」
怪訝そうに問う亮介に猫は顔を上げて答える。スーツの顔部分の穴からから覗く素顔は、結構可愛い。
「何でウチにいるの?」
「行く場所がなくて困っていますにゃ。どうかこちらに置いてほしいにゃー」
必死にペコペコ頭を下げる猫はどうやら怪しい人物ではないようだ。小柄で細い女の子だしその気になればポイとつまみ出せるだろう。
「そう言われてもね…」
「旦那さまー、どうかお願いしますにゃ。猫は料理や掃除もできますのにゃ。お願いですにゃ〜」

そんなこんなで亮介と猫は一緒に暮らし初めた。
635名無しさん@ピンキー:2008/08/17(日) 21:08:34 ID:Dd02lDZD
猫と飼い主暮らす・エロなし

亮介はトランクス一丁でテレビの前へ腰を下ろした。
今まで風呂あがりは全裸だったが、ちゃねこと暮らし始めてからはそうもいかない。
ちゃねこ、とは猫少女の名前だ。着ぐるみが茶色いブチ柄なので命名した。
「旦那さま、ビールですにゃ」
亮介にちゃねこが両手で缶ビールを差し出す。
猫スーツは全身がファーで覆われていた。
手元までモコモコなので細かい作業をさせるのは危ないかと思ったが、肉球が滑り止めになり意外と器用に働いている。
「うい」
缶ビールを受け取りながらちゃねこの顔をしげしげと見つめる。
唯一肌が見える顔はかなり美少女だ。こげ茶の前髪と大きな瞳が可愛いらしい。
亮介がテレビでバレーの観戦を始めると、ちゃねこは部屋の隅をあさりだした。
そこにはちゃねこの荷物の小さな風呂敷包みがある。中身は小ぶりの洗面器、歯ブラシセット、それと猫スーツの着替えが一着入っているだけだ。
ちゃねこは洗面器を取り出すと、そそくさと風呂場に向かった。
「では私もお湯をいただきますかにゃ〜」
覗きはしないが、どうやら風呂ではスーツは脱ぐらしい。
(あいつ本当に猫なのかな…)
亮介の不思議な生活は続く。
636名無しさん@ピンキー:2008/08/18(月) 02:20:44 ID:3uNU4cVK
猫と飼い主眠る・エロなし

「寝るか…」
テレビを消すと、亮介はぶらりと洗面所へと立つ。
ビール臭い口内を歯磨きで洗浄し部屋に戻ると、ちゃねこがベッドを整えていた。
「お床の準備ができましたにゃ」
シーツをきれいに伸ばし終わったちゃねこは、亮介に寝巻き代わりのTシャツをうやうやしく捧げる。
「うい」
亮介がシャツを着ている間に、ちゃねこはベッドへと登った。
布団にすっぽりと潜り、その膨らみがモゾモゾと動く。ジーッとファスナーを引く音や布擦れの音が騒がしく鳴った。
しばらくして静かになると、ちゃねこが布団から頭だけをすぽんと出す。なんか可愛い。
頭は何も覆われておらず、こげ茶色のショートボブが丸見えだ。
「…」
電気を消すと、亮介もベッドに入る。
「おやすみなさいにゃー」
「おやすみ」
二人とも同じ歯磨き粉のためミントの香りが広がった。
「…」
亮介は布団の中でちゃねこに手を伸ばした。丁度胸のあたりに当たったのか、うにっと柔らかな感触がする。
「にゃー」
非難がこもったちゃねこの声に手を引っ込めるが、このつるつるした感触は明らかに人の素肌だ。
(こいつ実は猫じゃないんじゃ…)
疑惑の夜は更けてゆく。
637名無しさん@ピンキー:2008/08/18(月) 08:45:00 ID:RUqz1dBM
なんか新しいな
続きも期待して待ってる
638名無しさん@ピンキー:2008/08/18(月) 20:25:12 ID:B646Mp1C
猫と飼い主投下します。短い。エロなし。
NGは名前欄の「ちゃねこ突撃する」でお願いします。
639ちゃねこ突撃する1:2008/08/18(月) 20:27:21 ID:B646Mp1C
「佐伯君、ちょっといい?」
デスクで伸びをしていた亮介は苗字を呼ばれて振り向く。
そこには首からカードキーと社員証を下げた30半ばの美人がいた。
細身のパンツルックと隙の無いフルメイクが魅惑的である。男は皆スーツだが女子は基本的に服装が自由なのだ。
「なんですかチーフ」
亮介は会釈をしつつ、いい女だなぁと内心見惚れた。
チーフは身を屈めて顔を近付けると亮介の耳元に小声で囁く。紫煙の香りがかすかに漂った。
「受付に変な子が来ているらしいんだけど、佐伯君を呼んでるみたいなのよ」
「あっ…そっスか…ヤバイっスね…マジで…」
正直、話の内容などまったく頭に入ってこない。チーフの顔が、吐息が、こんなにも近い。
普段ベタベタしてこない知的なキャリアウーマンだからこそ、貴重過ぎる体験だ。
「ちゃんと聞きなさい!だから、佐伯君の知り合いの子?ちょっと下に入ってあげて。受付の子困ってるから」
「えっ、あっ、や、ウス。言ってきます」
慌てて立ち上がり、亮介は一階へと向かった。

昼休みということもあって、1階の出入り口はにぎやかだった。
しかし、いつもより人が多い。受付の辺りを囲んで人が集り何やらざわついている。
「えー、私も猫飼ってるけど普通もっと小さいって」
「あれ単に着ぐるみ着た女の子なんじゃない?」
「いや、本人が猫って言ってるから…」
ガヤガヤと騒ぐ人垣に埋もれ、茶色ブチの猫耳がかすかに見えた。
亮介は思わず目を剥き、背伸びして人ごみの先を見る。
受付嬢が中腰で屈み、今にも泣き出しそうなちゃねこをなだめていた。
「だからね、猫さんはアポイントメントはお取りじゃないんですよね?それにこのビルはペット持込み禁止なので…」
「…あぽいんとって分からないにゃ…。…さ…さえき…りょうすけさんの猫ですにゃ…お、お弁当を、お弁当…」
よく知らない場所で大人達に囲まれ、ちゃねこは目に涙を溜めて震えていた。
「あーあー!あああのすんません!あの、俺です!俺が佐伯です!」
手を挙げて亮介は声を張り上げた。ざわっと人垣周が亮介を中心に二つに分かれる。
亮介を見つけちゃねこは顔を輝かせた。
「にゃー」
「なんっっで会社に来てるんだよ!」
ちゃねこの元へ駆け寄り、亮介は受付の女の子にガバっと頭を下げた。
「申し訳ありません!ご迷惑をおかけしまして…」
「いえ。でも良かった、飼い主さんが見つかって。……この子、猫なんですか?」
受付嬢がその場の社員全員の疑問を代弁する。
640ちゃねこ突撃する2:2008/08/18(月) 20:28:51 ID:B646Mp1C
亮介は声を詰まらせた。それを一番知りたいのは他でもない、自分だ。
それでも、この場を収めるために適当に言葉をひねり出す。
「…まあ、猫的な…アレですね。こう…広い意味で猫みたいな」
あー、と一斉に納得の吐息が漏れた。
「なんだ、やっぱ猫じゃん」
「ランチ行こうよ。お腹減った〜」
わらわらと人ごみが崩れてゆく。受付嬢もなるほどと頷きながら持ち場へと戻った。

「…」
「…旦那さま、なんだか騒ぎになってしまってごめんなさいにゃ…」
「本当だよ、何しに来てんだよ」
機嫌の悪い亮介に怯えつつ、ちゃねこはちょこんとした風呂敷包みを差し出す。
「お、お弁当をお届けに来ましたにゃ…」
「…弁当?」
受け取ってその場で包みを開けてみると、片手に乗りそうな小さなポリ容器が入っていた。
蓋が透明なので中身が見えるが、白いご飯が敷き詰められ、上に焼かれたメザシが三本乗っている。
「………これ、作ったのか?…材料とかは、買ったの?」
「お米はお家のですにゃ。あ、めざしはちゃんと自分のお金で買いましたにゃ」
「ええ!?君働いてんの?」
収入があるとは驚きだ。
「いえ、自動販売機のお釣の取り口をあさったり、道に落ちているお金を拾っているのですにゃー」
「…」
亮介はしばし絶句する。
しかし、そのちまちま拾い集めた小銭を貯めて、めざししかおかずがないとはいえ弁当を作ってきてくれたのだ。
会社に勝手に来られたのは大迷惑だが、これ以上は怒れなかった。
「…弁当はありがとう。食べる。…でも、もう会社来ちゃだめだよ」
「はいですにゃ…」

小さな体をさらに縮めて、ちゃねこはトボトボと帰路についた。
心配になり、亮介は会社の玄関からしばしその背中を見送っていた。
が、道の途中でシュバッと自販機の釣り銭の返却口をあさる姿を見て、恥ずかしくなって会社に戻った。

亮介の奇妙な冒険は続く。
641名無しさん@ピンキー:2008/08/18(月) 20:31:44 ID:B646Mp1C
以上です。
642名無しさん@ピンキー:2008/08/19(火) 01:09:51 ID:RdnndzcR
うむ、GJだ
643名無しさん@ピンキー:2008/08/20(水) 00:40:40 ID:colMxXtr
いらね
644名無しさん@ピンキー:2008/08/20(水) 00:55:49 ID:nRdeFoPU
GJ
猫的なアレに吹いた
645名無しさん@ピンキー:2008/08/20(水) 13:19:38 ID:C7QWOrop
GJ!!
収入が釣り銭漁りとはw
646名無しさん@ピンキー:2008/08/20(水) 14:52:22 ID:DIbDWGlf
>>643
正直すまんかった。エロ無しでだらだら投下するのはマナー悪いしね。
次の書き手さんも投下のタイミングを計りづらいだろうし、次から気をつける。

読んでくれた人ありがとうでゴンス。
647名無しさん@ピンキー:2008/08/21(木) 00:09:50 ID:voSJIbBN
不条理な出現ぶりが面白いぞ
続きを書いてくれ
648名無しさん@ピンキー:2008/08/24(日) 10:26:48 ID:9ndPdaZ9
649名無しさん@ピンキー:2008/08/26(火) 19:05:06 ID:fyc7pYEG
ほっしゅ

見習い「ひなたぼっこ…ポカポカ…」
騎士「おい、演習中に寝てるんじゃない。…俺のマントは?預けておいたろ」
見習い「…うるさい。あっちに置いといた」
地べたに捨ててあるマント
騎士「おおおいっ!!貴様はどうして上官の物を粗末に扱うのだ!!」
見習い「私は貴方に仕官したんじゃない。私が仕官したのは団長。少し黙って」
騎士「ふざけるな!貴様のような半人前の下っ端が団長のお傍に付けるとでも思っているのか!」
見習い「………今まで黙っていたけど…実は私、団長の隠し子なの…」
騎士「ぅえっ!!!??」
見習い「本当はただのか弱いオンナノコだけど…行き場が無くてここに預けられている」
騎士「…(そう言えば目元の辺りに団長の面影がある様な無い様な…)」
見習い「騎士に混ざって生活しなければならないのは…辛い…。でも…私にはこれしか……」
騎士「…もう何も言うな。…わかった。なるべく俺も配慮しよう。…その、怒鳴ったりしてすまなかった…」


見習い「(信じた…馬鹿だ…)」
650名無しさん@ピンキー:2008/08/29(金) 01:24:26 ID:ErSS3yhf
>>649
団長がきれいなお姉さんだったらいいなぁ
651 ◆iLx12Y3JE. :2008/08/29(金) 01:24:25 ID:FHlhNrXH
投下します。
義手の少女傭兵と少年神官。エロ無し。厨二ファンタジー物。
長くなりそうなのでトリを用意してみました。NGは名前欄のトリでお願いします。
652光の庭へ ◆iLx12Y3JE. :2008/08/29(金) 01:27:42 ID:FHlhNrXH
傍らの傭兵が重い荷物を担ぎ上げた。
「カーナ、僕も手伝うよ」
傭兵の名を呼んで少年が手を伸ばす。
主のジュネは腕力はもちろん身長も体重もカーナには及ばないのだが、それでも何かカーナの力になりたかった。
「いえ、護衛の仕事です」
カーナは静かにそれだけを返す。拒絶でも遠慮でもない、単なる区別を口にする事務的な声だ。
ジュネの出した手の平は引っ込みがつかずにしばし空を掻き、やがて恥ずかしそうに体の脇へと戻された。
二人分の食料や衣服を肩に背負い港へと歩き出すカーナにジュネは慌てて続く。
ジュネの頬が熱い。いくら護衛と言えど、女性に力仕事を任せる自分が情けない。
「ま、待ってよ」
「はい」
ジュネの声にカーナは歩みを止め、子犬のように駆け寄る小さな主を待った。

カーナは女傭兵だ。
背中には鞘に納めた剣がベルトで固定されている。厚みはさほど無い薄い剣だが、幅は太く、長さはジュネの背程もある。
カーナはジュネより幾つ年上なのだろうか。しかしジュネの見上げる彼女の鼻梁や頬の線には、まだ成長しきらないあどけなさが残っていた。
すらりと伸びた手足と引き締まった小さな胴体をタイトな防護服が包む。
653光の庭へ ◆iLx12Y3JE. :2008/08/29(金) 01:29:42 ID:FHlhNrXH
くっきりと出た胴のシルエットは成熟した女性の凹凸とは遠く、固い果実のように痩せていた。
それでもすでにカーナの容姿が若い女性として魅力的なことは、小さなジュネにもわかる。
配置や大きさの整った目鼻は華美ではないが小作りな美形であったし、細い体も充分に女性としての機能を果たすのだろう。
ただ、多くの男性がカーナをそういった目では見ないこともジュネは理解していた。

しなやかなカーナの体の中で右腕だけが恐ろしく巨大だった。

荷を支えるその右腕が鉛の色に鈍く光る。義手だ。
カーナの二の腕から先を覆うそれは人の手を模した義手ではない。
甲殻を持つ化け物のそれに似ていた。
凶暴な形を誇示するように尖った外殻が組まれ、肘からは大きな鋼の歯車がはみ出ている。
五本の指は鉄片が重なりかぎ爪の形を成していた。

カーナの腕は街の人々の目を集める。
今も通り過ぎた食料店の前で、王国騎士達がカーナを指してささやき合った。「あんな物どこで造ったのか」「あれで剣が扱えるのか」と。
国でも有数のこの港街は様々な職業や人種で賑わっているが、その住民にもカーナの腕は奇怪に映るのか、カーナの姿を見た者は一様に顔をこわばらせ道を開けた。
654光の庭へ ◆iLx12Y3JE. :2008/08/29(金) 01:33:04 ID:FHlhNrXH
当のカーナは、ジュネに危害が及びさえしなければどんな視線にも反応を示さないし、ジュネはジュネでカーナ以外の事は気に止めない。
雑多な人混みを左右に分け、悠然と進む少女と少年は平和でのどかだ。
「ねぇ、カーナは船に乗ったことあるの?」
「はい」
「いいなぁ!僕は初めてなんだ。…ちょっと船酔いしないか心配なんだけどさ…。カーナは船酔いしないの?」
「はい」
「ふぅん。じゃあ僕も平気かなぁ」
ジュネの明るい声にカーナの短い答えが返ってくる。
まるで一方通行な会話だったがジュネは楽しそうだ。
カーナが側に居さえすればいつだってご機嫌なのだ。ジュネの小さな胸の中は常にこの無口な護衛のことで一杯だった。
ジュネは、子供が母に続く様にカーナの背で揺れる青い髪を一心に追う。
ベリーショートの栗色の髪からのぞくおでこや初々しいおろしたての神官服が、12歳という年齢よりさらに彼を幼く見せた。
ジュネの丸い瞳には、街の建物に切り取られた空に溶けるカーナの髪が映る。
網膜に漠然と映るカーナの髪は風にそよぐだけで、他の何の意味もジュネに示さなかった。

通りを抜ければ潮の匂いが一層強く溢れる。
「うわぁ…!海だよ」
655光の庭へ ◆iLx12Y3JE. :2008/08/29(金) 01:36:10 ID:FHlhNrXH
ジュネは初めて見る海へと目が釘付けになった。
石段のその先の景色は、途方もなく広がる水面で塗り潰されている。
「カーナ!ほら海だよ!海!」
はしゃいでカーナを追い越し駆けるジュネだが、港へと降りる階段に足をかけた瞬間「ふぎゃ」と悲鳴をあげて立ちすくんだ。
水面に反射したぎらつく光と肌を刺す塩気は内陸育ちのお坊っちゃんには刺激が強く、顔に手をかざしてたじろぐ。
「…しょっぱい…」
呟くジュネの隣を淡々と進むカーナがすり抜けて行く。
「……ねぇ、今気付いたんだけど、カーナの右腕海水で錆びちゃわないかな」
初めて触れる潮風にジュネは心配になって問うが、カーナもカーナの右腕も平然としていた。
「大丈夫です」
「そっかぁ…」
船に乗ったことがあるらしいから、海にも経験があるのだろうか。
ジュネは気を取り直し、カーナに続き石段を降りた。

いくつもの船着き場に国の持つ巨大な船や漁師達の小さな漁船がひしめき合う。
船底を濡らす波音と船乗り達の賑やかな声に混じり、高く響く海鳥の声が心地よい。
二人が目指すのは神殿の旗を掲げた大きな船。二十人ほどの乗組員を抱える、この港に並ぶ中では大きい部類に入る運搬船だ。
656光の庭へ ◆iLx12Y3JE. :2008/08/29(金) 01:38:23 ID:FHlhNrXH
辿り着いた二人を初老の船長が待ち構えていた。ジュネの神官服を認めると深々と頭を下げる。
「お待ちしておりました」
船長の挨拶に会釈を返し、ジュネは胸元のポケットから神殿の紋章を取り出して見せた。
鎖でポケットの縁と繋がったその銀盤には、太陽と月とを乗せた天秤が彫られている。公平を表す神殿の証だ。
「中央大神殿より参りました、ジュネリアと申します。この度はよろしくお願い致します」
ジュネの朗らかな挨拶にはいささかの緊張も気負いも見られない。
子供とはいえさすがは神官という人種だと、船長はばれぬよう小さく息をついた。
ふと、顔を上げた船長とジュネの目が合った。レンズの様に澄んだジュネの栗色の瞳に船長の無防備な顔が一瞬映る。
その船長の表情が瞬く間に恐怖で歪んだ。
火に触れた様に船長はジュネの目から顔を背ける。息はあがり、固く握った拳は震えていた。
「…申し訳ありません…」
船長は無礼を詫びるが、ジュネは優しく微笑んだ。
「大丈夫です。勝手に覗き見る様な失礼な真似は致しません」

ジュネに目を合わせられるのを人は嫌がる。
彼の性質を知らない赤の他人ですらも本能で悟る様に、その二つの目を恐れた。
657名無しさん@ピンキー:2008/08/29(金) 01:44:19 ID:FHlhNrXH
とりあえず以上です。

>>649を保守ついでに書いてたんだけど
>>650のおかげで、
美人団長の上からの圧力と美少女見習いの下からの突き上げに身も心もボロボロにされる騎士を幻視した。
ちょっと騎士物書く。
658名無しさん@ピンキー:2008/08/30(土) 00:22:01 ID:h2EPkazS
乙!!
マグロなカーナタンが心を開く展開は来るんだろうか?
659名無しさん@ピンキー:2008/08/30(土) 21:35:29 ID:E8AnTSNi
GJ!
ジュネの特殊能力が何かが気になるな。
660名無しさん@ピンキー:2008/08/31(日) 00:05:12 ID:bfZNIfYF
続き期待
661光の庭へ ◆iLx12Y3JE. :2008/09/01(月) 00:09:30 ID:qq8SqgPp
ジュネは、目と目を通して相手の心を透かし見ることができた。
相手がその瞬間に頭に浮かべている映像、音、香り、触感、すべてが鮮明にジュネの頭に送り込まれる。

思い出も。
異臭を放つ肉欲の妄想も。
ドス黒い殺意も。

―あそこのババァ豚みたい。
―頭を切り落とせば、まだ動く?
―もし世界中の男が俺以外死んだら、リサだって俺を。
―焼かれてみたい。
―ユリウス様の髪を掴んでここからあそこまで引きずる。

例えジュネが望まなくても、ありとあらゆるおぞましいモノが流れ込んだ。

物心ついた頃には既に両親の心を読んでいたから、生まれつきの能力なのだろう。
それがあまりに強い想いなら目を合わせずとも顔を見るだけで脳裏に映ることもあった。

「どうぞ…こちらへ」
船長は頭を下げたまま身を引き、船内へ続く渡し橋をジュネへ示した。
いつの間にか船員達が甲板に並び、大神殿からの客人に揃って礼をしている。
「はい!あ、彼女は護衛のカーナです。これからロックまでお世話になります」ジュネははしゃいで橋へと駆け出した。
カーナは無表情のまま一同に目線で礼をするとジュネに続く。
船員達は礼を解くと、物珍しそうに甲板から二人を見下ろした。
662光の庭へ ◆iLx12Y3JE. :2008/09/01(月) 00:11:21 ID:qq8SqgPp
客室に案内するために数人が迎えに降りるが、残りの者はその場で物珍しそうに雑談を始める。
安全な街から離れ海を渡る男達は皆日に焼けた逞しい体をしていた。
「護衛ちゃん可愛いじゃん。やったねー女の子来たよ」
「はぁ?お前あの腕見なかったのか。そっからじゃ見えない?」
「神殿さんのお付きなんだから中央で作った最新の義手かなんかじゃないか」
重い顔をした船長とは対照的に皆気楽そうだった。
それもそのはずだ。ジュネの読心の技のことを知っているのはごく一部の者のみ。
神殿と契約を持つ船とはいえ直接神官と関わりを持たない乗組員は、ただ神殿からの客人としか伝えられていない。
それは、ジュネとこの船員に限ったことではない。上位神官の特異な性質は、この国中でもほとんどの市民は知らないはずだ。
神官の中でも中央に勤める上位の者は、ジュネを含め全員が心を読む力を持つ。それが上位の神官としての絶対にして唯一の条件だった。
それはどんな方法でも構わないが、推理や第六感という不確かな物ではなく確実に他者の内面を暴ける術でなくてはならない。
ジュネはこの瞳のおかげで9歳の頃からこの国一番の高給取りの仲間入りをしているのだ。
663光の庭へ ◆iLx12Y3JE. :2008/09/01(月) 00:13:47 ID:qq8SqgPp
「あーすごい!ベッドがあるよ。立派な部屋だね」
ジュネは客室の奥に備え付けられた大きなベッドにポンと頭から飛び込んだ。スプリングが心地良く跳ねる。
ベッドが並んで二つ、テーブルも簡単な収納も付いた小綺麗な部屋だった。床は波で揺れるがかなりくつろげる。
実は狭い船の一室でハンモックに揺られる旅にも憧れてもいたジュネだが、地方神殿のあるロックまでは一週間もかかる。
柔らかな寝床でなければひ弱なジュネは1日で倒れてしまうだろう。
紋章を胸に入れたままの神官服で寝転べば息苦しく、ジュネは身を起こしモソモソと上着を脱いだ。
しかし、カーナが床に下ろした荷物をほどき始める姿が目に入り慌ててシャツ姿で飛び起きる。
「僕もっ!」
転がる様に床に降りると有無を言わせず素早く荷物に手を付ける。
今度こそ何か仕事をしたかったジュネは、張り切って荷物の中身を床に仕分け始めた。
「これは歯ブラシとタオル、これは…あ、食料だ。後で船員さんに渡さないとね。えと、これは僕の着替え」
カーナは立ち上がり、ベッドに脱ぎ捨てられたジュネの上着を皺にならぬようハンガーに通す。
仕分けに夢中なジュネを静かに見守りながら、壁へと架けた。
664光の庭へ ◆iLx12Y3JE. :2008/09/01(月) 00:15:57 ID:qq8SqgPp
「これは?…あ、カーナのパンツ…っ!!ああっ、ごめんっ僕見てないから!」
両手で広げてしまった白い下着にジュネの顔が真っ赤に染まる。
慌ててわたわたと下着を衣類の山に突っ込むが、カーナは気にせずに仕分けられた日用品を棚やテーブルに移動させていた。
ジュネはカーナの表情を気にしつつ、衣類を抱え棚へと移す。その布の山を見ない様に赤い顔を背けながら。

他人の心を通して性欲や情交を生々しく知っていたジュネだが、自身はまるで純情だ。
赤子の頃より当たり前の様に人の業に触れて育ったジュネにとって、人の抱くどんな汚泥も「人間なら誰もが普通に持つもの」でしかなかった。
男女の交わりも自分の身の上には遥かに遠い行為でしかない。ただの知識だ。
もちろんこんな能力を持つ人間全てがジュネの様に考えられるわけではない。
神官になってから知ったことだが、自分と同じ様に心を読む瞳を持つ者が過去二人発見されていたらしい。
一人は気が狂って自殺。もう一人は他者の内側に勝手に踏み入る業に絶望し自ら両目を潰したという。
そのどちらもが大人になってから読心の能力が芽生えたというから、生まれつきその目を持っていたジュネは幸せだったのかもしれない。
665光の庭へ ◆iLx12Y3JE. :2008/09/01(月) 00:19:18 ID:qq8SqgPp
気に病むことも卑屈に生きることもなく、ありのままとして健やかに少年期を過ごしている。
その不幸な二人の顛末を教えてくれたのは40半ばの先輩の上位神官で、彼は人の体に手で触れることで相手の心を読めた。
強大な力を管理する神殿という職場には必要な術なのだが、神官同士、その術を持つ故の辛さを労ってくれたのだろう。
彼は去年の神殿行脚の役目だった。今年はこうしてジュネが国中の各神殿を巡る。
年少の神官には異例の大役だが、瞳による読心という実用的な能力とジュネの将来への期待に他ならない。

「僕、頑張らなきゃ…」
「はい」
「うん。ありがとう。カーナもよろしくね」
「はい」
「うん!あ、ねぇ甲板に上がってみない?出航までにもっと港の景色を見ようよ」
「はい」
「じゃあ行こ!」
ジュネは元気よく戸に手を伸ばすが、上着を忘れたのに気付いて立ち止まる。
そのジュネの小さな肩に上着が静かに掛けられた。
カーナは無表情のまま、左手と右のかぎ爪の尖端とで傷付けぬよう上着を持ちジュネが袖を通すのを助ける。
「ありがとう…」
ジュネははにかんだ。肩が温かい。

異能の少年と異形の少女。
異常な事など何も無いように、寄り添う。
666名無しさん@ピンキー:2008/09/01(月) 00:21:21 ID:qq8SqgPp
とりあえず以上です。
もうすぐ合併の季節ですわね。
667名無しさん@ピンキー:2008/09/01(月) 03:44:51 ID:bTdrrLPz
カーナ可愛いなぁ
お稲荷様のコウちゃんを思い出す。
668名無しさん@ピンキー:2008/09/02(火) 23:34:27 ID:m3+FwreF
ジュネの純粋さに癒される…
カーナもそうだと良いなぁ
669名無しさん@ピンキー:2008/09/04(木) 20:01:20 ID:ZSbDzXDp
続き期待
670名無しさん@ピンキー:2008/09/05(金) 13:27:13 ID:IRuZyRP0
館の主人と使用人。エロ薄め。短い。

以下に、注意書き含めたネタバレあり。










金銭を対価に肉体関係を求める描写があるので苦手な方は、名前欄のタイトル「雨の洋館」でNGを。
671雨の洋館 1/4 ◆ZavxytTKqo :2008/09/05(金) 13:29:34 ID:IRuZyRP0
 雨の中を歩いていた。傘を持って、辺りを見回しながら。
 少女は人を探していた。雨に濡れて寒い思いをしているに違いない人を。
 そうして、自らの肌も常よりずっと低く下がりきった頃にようやく、彼女は探し人を見つけた。
 うんと手を伸ばし、彼女は自分より背の高い相手に傘を差し掛ける。
「風邪をひきますよ」
 緩慢な仕草で、相手は少女の方へ身体を向けた。
「もう、怒ってない?」
 問われ、彼女は困り切った顔で青年を見上げた。
「あなたの機嫌が治るまで、私は頭を冷やすよ」
 少女は嘆息した。
 淡い色の髪は水を滴らせるほど濡れてその色を濃くし、シャツは肌に張り付いている。一体いつから雨の中に立ち尽くしていたのか、考えたくもない。
「旦那様が風邪をひかれたら、私はもっと怒ります」
 青年は困惑し、探るように少女の表情を見つめた。その中に怒りの色がないことを悟り、青年は少女の手から傘を受け取る。
「帰りましょう。湯浴みの支度はできていますから、帰ったら身体を温めてください」
「うん。でも、あなたの身体も冷えてしまっているんじゃないかな」
「旦那様に比べれば熱いくらいです」
 青年は苦笑し、彼女が濡れないように傘を傾けて歩きだした。

 生い茂る木々の中をしばらく歩くと視界が開け、豪奢な洋館が姿を現す。青年は館の主であり、少女はそこで働く使用人だ。
 屋根のある場所に着いたと同時に少女は青年の手から傘を受け取り、畳んで雫を払った。
「葛葉さん」
 少女が傘立てに傘を仕舞う姿を眺めながら、青年は濡れた髪をかきあげて後ろへ撫で付ける。
「髪、あなたが洗って」
 幼い頃から使用人に身の回りの世話を任せてきた青年は、当然のように湯浴みの供を要求する。従事したばかりの頃は躊躇していた少女も近頃はそんな主人の要求にも慣れてきていた。
「先に行ってるから」
 振り向いた少女に微笑みかけ、青年は館の中へと消えていく。
 少女は小さく吐息をつく。慣れたのは言動だけで、行為自体にはまだ慣れていない。それどころか、慣れる日なんてこないのではないかと彼女は思っていた。


 青年の着替えなどを脱衣所に用意し、少女は浴室へ足を踏み入れた。もちろん、裸ではない。
 しかし、青年は当然一矢纏わぬ姿でそこにいる。少女は全身に緊張を纏う。
672雨の洋館 2/4 ◆ZavxytTKqo :2008/09/05(金) 13:30:49 ID:IRuZyRP0
 湯舟に浸かっていた青年が、少女の姿を認めて立ち上がる。恥ずかしげもなく裸体を晒され、少女はほんのりと頬を染めた。
 用意された椅子に腰を下ろした青年の背後に回り、少女は洗髪料を手にとった。
「葛葉さん、怒ってなくてよかった」
 少し手で泡立ててから柔らかな髪を傷めないようにそっと洗い始める。地肌に触れるときは爪を立てないよう、より慎重に。
「あなたは怒っていると来てくれないから」
「旦那様を相手に怒ったりしません」
「そうかな。葛葉さんは結構怒りっぽいよ」
 くつくつと喉を鳴らして青年は笑う。
 青年が雨の中に立ち尽くしていたそもそもの原因を思い出すなり少女はいたたまれない気持ちで顔を赤くした。
「あなたの言う通り、私は情けないし、卑怯だね」
 そう呟き、青年はいきなり身体を反転させて少女の手首を掴んだ。
「でも、仕方がないよ。あなたを前にすると、私は誰よりも愚かになってしまうんだから」
 引き寄せられ、唇を重ねられる。
 それは、掠めるように優しい口づけだった。
「葛葉さん」
 少女は腹の辺りに違和感を感じて視線を落とし、すぐさま目を反らした。
「だ、だめです」
「どうしても?」
「だって、旦那様……ずるい、一度だけって……んっ」
 青年の唇が少女の耳朶に触れる。
「うん、あの時はあの時だけ。今度はあの時とはまた別だよ」
「だ、旦那様……」
「今月の給金ははずむから。特別手当が必要ならそうするよ」
「そういう、問題じゃありません」
 薄い唇が項を伝う。少女は唇を噛んで耐えた。
「じゃあ、どういう問題?」
 少女は精一杯の力で青年の胸を押した。手首を捕まれたままでは上手くいかなかったが意志は伝わったようで青年は僅かに身体を離した。
「あなたが私に求めるものは金ではないの?」
 幾度も求められた末に拒みきれず受け入れた夜のやりとりを思い出す。身体を差し出す代わりに、少女は両親の抱えた負債を青年に肩代わりしてもらった。一晩限りの逢瀬の代価にしては破格の額面を青年は惜しむことなく受け入れたのだ。
 しかし、あれは一晩限りとの約束だった。青年があれからも少女を求めているのは言動や仕草で察していたが、少女に応じるつもりはなかった。
「あなたでなければだめだ。他の女では楽しめない」
673雨の洋館 3/4 ◆ZavxytTKqo :2008/09/05(金) 13:32:32 ID:IRuZyRP0
 愛人になるのを少女は厭う。ずるずると青年と身体の関係を結ぶのは愛人になるということだ。一度は金を対価に身体を許しはしたが、これから先ずっと金で囲われる女に彼女はなりたくなかった。
「葛葉さん……」
 しかし、少女には拒みつづける自信がなかった。
 それは、少女が青年に好意を抱いているからだ。好きな相手に強引に迫られれば拒みきれるものではない。
 このままでは流されて肌を重ねてしまう。逃げ切れないかもしれないと少女が身を強張らせた、その時、青年が素っ頓狂な声を上げて少女から手を離した。
 いきなりの解放に気が抜け、ぽかんとした顔で少女は青年を見つめ、次いでくすくすと笑い出す。
「大人しくなさらないからそうなるんです。ほら、そのまま目を閉じていてください」
 蛇口を捻って、青年の頭に湯をかける。
 洗髪途中で放ったらかしたせいで、流れた洗髪料が青年の目に入ったようだった。
 悶える青年の為に頭を流してやりながら、少女は安堵の息を吐く。
 すっかり洗髪料を流し終えると青年は赤い目で少女を見上げた。
「旦那様……」
 縋るような目をされると胸がきゅんと締め付けられる。
「あなたが欲しいんだ、葛葉さん」
 右手首はまたしても青年の手の中。少女はとくとくと脈打つ心臓を強く感じていた。
「……す、少しだけですよ」
 少女は青年の正面にぺたりと座り込み、彼の欲望をこれでもかというほど現す屹立と向かい合う。
「これで、我慢してください」
 囁くように語りかけ、少女はそれにそっと手を添えた。
 元より経験は一度きり。その時は触れさえしなかったものだ。触れ方も力加減もわからない。
 それでも、女同士の噂話程度でなら知識はある。少女は意を決して、青年への奉仕を開始した。
 青年が手を離したおかげで自由になった両手を使い、優しく上下に扱いてみる。芯の固い不思議な感触に触れている内に、少女の胸がどきどきと速まる。
「葛葉、さん」
 躊躇いがちに少女はそれの先端を舐めた。独特の味と匂いに、少女は驚いたように顔を離す。
 あまり好ましいとは言えないが青年のものならば大丈夫だと彼女は自らを鼓舞し、再度舌を這わせる。
674雨の洋館 4/4 ◆ZavxytTKqo :2008/09/05(金) 13:33:55 ID:IRuZyRP0
 扱いて、舐める。ただそれだけの稚拙な奉仕。けれど、青年はそれだけで十分すぎるほどの快楽を得ることができる。なにせ、初めて少女を抱いた日から今まで禁欲的な生活を送ってきたのだ。ともすれば口づけだけでも果ててしまいそうなほどに。
 そういった事情から、青年は情けないほど短時間で絶頂に達した。
「きゃっ……!」
 一生懸命舌を這わせていた少女は、握ったものが膨張したかと思った瞬間に視界に現れた白濁に驚き、小さく声をあげた。
 粘り気のあるそれは勢いよく飛び出し、少女の髪や肌にも落ちた。
 先端から滲み出るそれを指で掬いとる。先端を刺激された青年が小さく呻いたが、少女の耳には届かない。
「旦那様……」
 まじまじと見つめ、その白く濁ったものに既視感を覚える。初めて抱かれた夜に見たものと同じものに見えた――というより、同じものなのだろうと彼女は悟る。
 つまり。
「達してくださったのですね」
 少女の口から安堵の吐息が漏れる。青年が自分の拙い愛撫で達してくれた事実を少女は嬉しいような恥ずかしいような気持ちで受け止めた。
 見上げた青年の顔に浮かぶ表情は複雑なものであったが、少女はおっとりと笑んだ。
「次は私があなたを喜ばせるよ」
「いえ、それは結構です」
「でもね、あなたにだけ奉仕させるのは忍びない」
「旦那様は主人なのですから、私のような使用人に奉仕させるのは当然のことでしょう?」
 伸びてきた手から逃れるよう身を引き、憮然とし始める青年から少女は距離を置いた。
「このまま大人しくして私に湯浴みを手伝わせるか、駄々をこねながら一人で湯浴みをすませるか。どちらがよろしいですか?」
 青年は無言で少女を見つめ、やがて観念したように肩を落とした。
「あなたに手伝ってもらう」
「では、大人しくなさってください」
「努力するよ」
「約束してください」
「……約束する」
 ここまで言わせれば青年が大人しくなることは経験上彼女も理解しており、少女は再び青年へと近付く。
 まずは先程の後始末からと決め、少女は自身に纏わり付く性臭を服を脱がずに落としてしまう方法を考えようと頭を悩ませはじめるのであった。


 おわり


675名無しさん@ピンキー:2008/09/05(金) 18:31:10 ID:lAtVFXHN
GJ!!こういうお話好きです。
お金がらみだけど、全然おkだった。
旦那様も葛葉さんも可愛いな。ほのぼのカップル(未満?)だ。
676名無しさん@ピンキー:2008/09/05(金) 21:52:08 ID:chwBWDRk
ぜひカップルになってほしい二人だ
青年の想いが良いね
677名無しさん@ピンキー:2008/09/05(金) 23:03:33 ID:huLB4g2+
GJ
いやー、すごい良かったよ
最初に体を許した時の話も読んでみたい

お金がらみが気になるんだったら「金の力で困ってる女の子を助けてあげたい」スレが良かったかも
678 ◆ZavxytTKqo :2008/09/06(土) 02:45:31 ID:75AsmgU/
館の主人と使用人。エロなし。短め。

調子に乗ってもう一本。日常のヒトコマ。
NGはトリで。
679林檎の花 1/2 ◆ZavxytTKqo :2008/09/06(土) 02:46:21 ID:75AsmgU/
 森の中をゆったりと歩む背に少女は続く、桜もあらかた散り、森は真新しい緑に溢れていた。
 少女と青年は目的なく歩を進め、互いに無言だ。
 昼食の後片付けを終えた頃に「森に散歩に行こう。桜の時期は過ぎたけど、今日は天気がいいからきっと気持ちがいいよ」と誘われ、少女は首肯を返した。そうして今に至るのである。
「ああ、見てごらん」
 青年は立ち止まり、手招きで少女を呼び寄せる。距離をつめ、青年の隣に並び、少女はその視線の先を追った。
「可愛いね」
 綺麗ではなく可愛いと青年は言う。彼の指し示すものを確認し、少女は小さく笑みを零した。
 それは盛を過ぎた桜に代わり、森に華やぎを添えていた。淡く白い、甘やかな香りを持つ花だった。まだ花開く前の蕾は愛らしい桃色をしている。
「りんご、ですか?」
 おそらくそうであろうという花の名を口にすれば、青年は満足げに笑む。
「正解。あれはりんごの花だ」
 二人して林檎の木を見上げ、その花を楽しんだ。さわさわと風が枝葉を揺らす音だけが辺りに響いている。
 館が建つのは郊外の森の中。森全体が青年の家の所有地であるから、館を訪れるのは郵便配達人と本家から定期的に訪れる者のみ。
 世間から隔離されたような営みを送る青年にとって、森を散策することは数少ない娯楽の一つであった。少女はそれを知っているから散策への誘いを断ったことはない。断る理由などないし、この緩やかに流れる時間は少女にとっても好ましいものであったから。
 今もまた心地よい時間が二人の間に流れている。
「葛葉さんは、りんごの花言葉を知ってる?」
 ふいにかけられた青年からの問いに少女は首を横に振る。そういった知識は少女にはない。反対に、読書好きな青年はそうしたことにも詳しく、散策の度に少女にいろいろなことを教えてくれる。
「花言葉は、名声とか選択」
 青年はにっこりと笑う。その笑顔に見惚れ、少女は頬をほんのり染めた。
「あとは、そう、選ばれた恋」
 浮かんだ笑みが種類を変えたような気がして、少女は慌てて表情を引き締めた。
「私とあなたのために咲いてくれたのかな」
 青年の細く長い指が少女の頬に触れる。
 どくどく早鐘を打ち始めた心臓の辺りを少女は服の上からぎゅっと押さえた。
「あなたへの私の思いを後押ししているのかも」
 低く艶めいた声と呼応するよう指先も官能的に輪郭をなぞる。
「か、からかわないでください」
680林檎の花 2/2 ◆ZavxytTKqo :2008/09/06(土) 02:47:10 ID:75AsmgU/
 強く答えたつもりが、実際は蚊の鳴くような声しか出せていない。
 そんな少女を見つめ、青年はくすくすと笑う。
「からかっていないよ。私はいつだってあなたを求めているんだから」
 紡ぐ言葉は情熱的に、けれど青年は少女から指を離し、追い詰めることを諦める。
 少女が戸惑い、恐れを感じれば、青年は敏感にそれを察して一歩引いてくれた。それは有り難くもあり、不思議でもあり、青年の真意が少女にはまだよくわからない。
「もっと近付けば手が届くかもしれないね。少し待っていて」
 戸惑っている少女を置いて、青年は少し離れた場所に立つ林檎の木へと歩んでいく。
 そして、林檎の木にたどり着くとその枝へ手を伸ばし、躊躇いなく手折る。少女はその姿を見守りながら、徐々に呼吸を整える。
 青年は決して無理強いはしない。強引な時もあるにはあるがそれでも強く拒めばわかってくれる。それを思い出せば、胸の動悸も少しずつ落ち着いてくれた。
 彼は手折った枝を持ち、再びこちらへ歩いてくる。だいぶ落ち着きを取り戻した少女は、青年が戻る頃には頬の赤みを抑えることに成功していた。
「はい」
 花のついた細い枝。それを差し出され、少女はきょとんとした顔で彼を見上げた。
「葛葉さん。あなたに」
 受け取るよう促され、少女は枝をそっと掴む。そして、花を間近で見つめ、その可憐な様に微笑する。
 片手で枝を持ち、少女は青年に礼を言おうと口を開きかけ、青年の顔の思いもよらない近さに驚いて言葉を飲み込む。
「最も優しき女性に」
 眩しいものを見るように少女の笑みを見つめてから、青年は腰を屈めて少女の耳朶に囁いた。
「あなたにぴったりだ、葛葉さん」
 せっかく落ち着いた心臓はまた激しく鳴り響き、少女は顔を赤らめ俯いた。
 そんな少女の手を握り、青年は歩き出す。少女は手を引かれるままに青年の後に続く。
 日はまだ高く、散策のための時間はたっぷり残されていた。


 おわり

681名無しさん@ピンキー:2008/09/06(土) 08:54:03 ID:HlKRiJI2
やばい、萌え死ぬとはこういうことなのか!
GJすぎてなんて言っていいかわからんよ

続編楽しみにしてます!!
682名無しさん@ピンキー:2008/09/06(土) 09:49:36 ID:U+/CilnQ
青年の甘い囁きがいいですねー
GJです
683名無しさん@ピンキー:2008/09/06(土) 20:36:29 ID:yteJpc2Y
すごい良い!
早く青年の想いが少女に伝わればいいなぁ
続編期待してます
684 ◆ZavxytTKqo :2008/09/06(土) 22:52:35 ID:75AsmgU/
館の主人と使用人。エロなし。短め。


エロなしばかりですみません。NGはトリで。

楽しんで下さる方がいらっしゃるようなので、今回はエロなしですが、いずれ和姦まで書きたいと思います。
685苦いお薬 1/4 ◆ZavxytTKqo :2008/09/06(土) 22:56:10 ID:75AsmgU/
「ご苦労様です」
 玄関まで見送り、少女は医者に頭を下げた。
「若旦那にきちんと薬を飲むよう言い付けておくれよ。あの人はすぐ薬を捨てちまうから治りが遅くてかなわん」
 玄関先で渋い顔をする医者に苦笑いを返しながら、少女は「私が責任をもって飲ませます」と承った。
 森へ続く道と庭の境に停められた馬車へと乗り込む白衣を見送ってから少女は扉を閉めた。
 まずは栄養をとらなければ。そう考え、少女は厨房へ向かう。
 専属の料理人を雇えばいいのに館の主人はそうしない。掃除洗濯炊事は少女の役割で、庭仕事と館の管理と来客の接待は執事の仕事だった。要するに、この洋館には主人を含めて三人の人間しかいないのだ。
 少女の前任者は優秀であったらしく、一人ですべての家事をこなすことに不満はなかったらしい。始めこそ不満たらたらだった少女も今は慣れた。頑張れば何とかなるものだというのが彼女の素直な感想だ。
 少女は風邪をひいてしまった青年のために粥を作り始める。そうしながら、厨房の窓から外を眺めると壮年を過ぎた男性が庭木の剪定に励んでいる。館の周囲が整然と保たれているのは一重に彼の賜物だ。
「郡司さんのご飯も用意しなきゃ」
 同時進行で昼食の用意も始め、少女は慌ただしく厨房の中を行ったり来たりする。
 しばらくして少女の前には青年のための梅粥と自分たちのための簡素な昼食が並んでいた。
 厨房の窓を開け放し、少女は執事へ向かって声をかけた。
「郡司さん!」
 自らの仕事ぶりを遠目に観察していた執事は、庭木から目を離して少女の方へ向き直る。
「お昼ご飯出来ました」
「ありがとうございます。今そちらへ」
 のんびりと歩き出す執事へ少女はなおも語りかける。
「先に食べていてください。私、旦那様にお粥を持って行きますから」
 執事は目を細め、鷹揚に頷いた。
「そうですか。坊ちゃまもあなたがお持ちすれば素直に口になさるでしょう。私がお持ちしても、粥は嫌いだのと駄々をこねますからな」
「ふふ、旦那様らしいです。ちゃんと食べさせて、お薬も飲ませますから」
 厨房に付けられた扉まで来た執事と目を合わせ、少女は笑った。
 執事が厨房へ足を踏み入れたのと同じ頃、少女は粥の入った小さな土鍋を持って厨房を後にした。
 廊下を通り、階段を上る。そのまま歩を進め、少女は一つの扉の前で立ち止まった。
686苦いお薬 2/4 ◆ZavxytTKqo :2008/09/06(土) 22:58:19 ID:75AsmgU/
「旦那様、入りますよ」
 土鍋を持っているからノックは出来ない。声をかけ、返事を待たずに少女は両手を塞いだまま器用に扉を開いた。
 広く大きな寝台にぐったりと横たわり、青年は赤い顔で少女を見ていた。
「気分はどうですか?」
「あまり、良くはないと思う。でも、あなたの顔を見たら、少し元気が出たよ」
 相変わらずな青年に近付き、寝台横の机に土鍋を置いて、少女は彼の額に手を添える。熱を持った肌は汗ばんでいた。
「まだ熱がありますね」
 少女の手がひんやりとして心地いいと言うように青年は目を細める。
 額から外した手で、顔にかかる柔らかな髪を避けてやり、少女はそのまま数度青年の頭を撫でた。
「お粥、食べましょうね」
 寝台横に用意しておいた椅子に掛け、少女は土鍋の蓋を開いた。
「あなたが食べさせてくれるのか」
 梅を潰し、一口分を掬い上げた少女に青年が声をかける。
「旦那様は病人ですから、私がお世話します」
 問いを肯定するように少女はそっと彼の口元へ粥を運ぶ。
 青年は素直に口を開き、粥を口にし、咀嚼する。彼が飲み込んだのを見計らい、少女は二口目を運ぶ。
 そうしてしばらく粥を食べさせていると、青年が嬉しそうに笑った。
「こんな風に看病してもらえるならいつも風邪をひいていたいよ」
 少女は目を丸くし、次いで呆れたような顔で青年を見つめる。
「何をおっしゃるんですか。だめですよ、ちゃんと良くならないと」
「でも、風邪をひいている間あなたはそうして優しいんだろう?」
 青年は笑いながら「それならずっと風邪でいい」と嘯いた。
 屈託なくそう言われては何と返したものか判じかね、少女は黙らせるために粥を青年の口元へ運んだ。青年は素直にそれを口にする。
 ずっと風邪でいいなんて、苦しそうにしていたくせに何を言うんだろう。少女は昨夜の青年の様子を思い出し、むっとする。熱を出して苦しげにうなされている姿を見て一晩中心配したのだ。
 今はだいぶ良くなったようだが、放っておいたらまた悪化するに違いない。
 無責任な青年の発言に少女は腹を立て、けれど青年が求めているものが何かを考えると怒りを表に出すことは躊躇われた。
 青年は少女に甘えたがっているのだ。それくらいは少女にだってわかる。病人だからと理由をつけないと青年と親密なやりとりが出来ないくらい、近頃の少女は青年に対して余裕を欠いている。自覚は、あった。
687苦いお薬 3/4 ◆ZavxytTKqo :2008/09/06(土) 23:00:09 ID:75AsmgU/
「早く良くなってくださらないと、もうご一緒に散歩も出来ませんよ」
 最後の一口を運びながら少女は呟き、青年はそれを飲み下してから笑った。
「うん。やっぱり風邪は治さないといけないね」
 水差しからコップへ水を注ぎ、青年に差し出す。
「お薬、飲みましょう」
 医者から渡された包みを一つ取り出す。途端に青年が嫌そうな顔をした。
 その反応を訝しみ、少女は包みと青年を交互に見つめ、嘆息する。どうやら青年は薬が嫌いらしい。
「ちゃんと飲んでいただきますよ」
「嫌だなあ」
「飲まなきゃ治りません」
「あの人の薬は嫌いなんだよ」
 ぶつぶつと駄々をこねはじめた青年の手に、無理矢理薬を握らせる。
「どうしてですか? 先生も旦那様は薬を飲まないっておっしゃられてましたけど」
 手の中の薬を忌ま忌ましげに眺め、青年は溜め息をついた。
「だって、苦いじゃないか。苦いのは好きじゃない。甘いのがいいよ」
 少女はたっぷりと間を置き、青年の言葉を反芻し、脱力した。なんてくだらない理由だろう。
「良薬口に苦し、ですよ。さあ、飲んでください」
 若干腹を立てながら急かすと青年は渋々ながら包みを開いた。
「……本当に苦いのに」
 嫌々ながらも青年は薬を飲み下し、渋い顔で水のおかわりを求めた。
 改めて水を飲み干し、青年は吐息をついた。
「やっぱり苦いよ。好きじゃないな」
 その姿がまるで幼い子供のように見え、少女はくすくすと笑いながら青年の頭を撫でた。
「頑張って飲みましたから、きっとすぐに良くなりますよ」
「良くなったら、あなたはまた一瞬に散歩をしてくれる?」
 少女は僅かに躊躇い、けれど観念したように頷いた。
「はい。約束します」
「約束だよ」
 立てた小指を差し出され、少女はそれに自身の小指を絡める。熱を出しているからか、青年はいつにも増して子供じみている。それに伴い、普段の彼から漂う、少女が居心地の悪さを感じる空気は消えていた。
「さあ、眠ってください」
 促せば青年は寝台に身体を預けてしまう。肩までしっかりと布団で覆い隠し、少女はぽんぽんと布団越しに胸を優しく叩いた。
「眠るまで側にいて」
 手を差し出され、少女はそれを握り閉める。
 そのまま青年は少女の手を引いて頬に押し当て、心地良さそうに目を閉じた。
「あなたの温度は心地いい」
688苦いお薬 4/4 ◆ZavxytTKqo :2008/09/06(土) 23:01:20 ID:75AsmgU/
 とくとくと心臓が脈打つ。
 まるで触れた肌から青年の熱が移ったかのように、全身を流れる血液はどんどん熱を帯びていく。
 今の青年には下心などかけらもなく、きっと病を得て心細いだけなのだろう。そう思うのに、触れているだけで身体が熱くなる。少女はそんな自身の反応に戸惑いを覚えた。
 青年は目を伏せ、静かに呼吸を重ねる。眠りに落ちるのは時間の問題だ。
 近頃は真っ正面から顔を見ることが出来なかったから、こうしてまじまじと顔を見つめるのは久しぶりだった。少女は眠る青年の顔を飽きることなく眺めた。
 伏せられた睫毛が意外と長いことに気付き、少女は思わず自身の睫毛に触れてみる。きっと青年のものより短い。
 そうやって、青年の顔に自分の知らなかった部分をいくつか見つけていく内に少女は改めて思い知らされる。
 私は旦那様のことが好きなんだ――と。その事実は少女の胸を甘く熱く、そして狂おしいまでに切なく焼くのであった。


 おわり

689名無しさん@ピンキー:2008/09/07(日) 00:36:16 ID:LNXJ9rMq
>>688
グッジョーブ
690名無しさん@ピンキー:2008/09/07(日) 18:51:31 ID:lvJ3WsU1
ぎゃぁぁぁぁ萌え殺されるぅぅぅぅ!!
GJです!

ほのぼのカップルいいね
なんかもう夫婦になっちゃえとか思う
たまらん!!
691名無しさん@ピンキー:2008/09/07(日) 19:27:44 ID:bpBZsfE/
結婚しちゃえよ
692 ◆ZavxytTKqo :2008/09/07(日) 19:36:32 ID:ghSwItrk
館の主人と使用人。エロなし。前後編の前編。

今回ちょっと雰囲気変わってシリアス入ってます。
後編は深夜か明日にでも投下しにくる。
 母は、儚げな人だった。ともすれば消えてしまいそうな、思わず手を差し延べたくなるような。そんな女だから、きっと父は母を愛したのだろう。
 母はいつも空を見ていた。森を、花を見ていた。愛おしそうに、慈しむように。
 そんな母に私はいつも問うていた。
『お父様はどうして一緒にいられないの? どうして母様はいつも一人なの?』
 尋ねると、母は決まって困ったような顔をした。そうして、折れそうなほど細い腕で私を抱いた。
『あなたがいるから、母は一人ではありませんよ』
 母の答えは決まって、そうだった。
 いつしか、私は母に問うことをやめていた。その問いに満足のいく答えが返ることなどないと気付いたから。
『ごめんなさい』
 最期に母は私の頬に触れた。冷たい、冷たい手で。
『ごめんなさい、保名。ごめんなさい』
 父が母の最期に現れることはなかった。
 母はなぜ私に謝罪を述べたのか。私にはわからない。父の顔すら知らぬ私を哀れと思っていたのだろうか。
 謝罪などいらなかった。父親のいる生活を知らない私には、それを望むことも羨むこともなかったから。
 ただ知りたかった。父がなぜ私たちと、母と共に在ることが出来ないのか。生きているなら顔が見たかった。自分の父がどんな男なのか、知りたかっただけなのだ。
 やがて時が過ぎ、私は母が私を宿すに至る経緯を耳にした。それは実にありふれた陳腐な恋物語。
 愛し愛された結果が私のように育つなら、私は人など愛さずに生きよう。私には愛など必要ない。
 一人にしてしまうくらいなら、愛さない方がずっといい。
 愛を知らない私はそれを否定することしかできずにいた。それがどんなものかもわからないまま。





「目が覚めました?」
 少女は青年の顔を覗き込む。彼はまだまどろみの中にいるようで、視線はぼんやりと宙をさまよっている。
「もうすっかり良くなりましたね。熱がぶりかえす様子もないし」
 青年の額に手をあて、少女は微笑む。大事をとってゆっくり寝かせただけある。
 額から離した手が、突然青年に掴まれた。少女は驚いて目を丸くする。
「だ、旦那様?」
 寝乱れてくしゃくしゃの髪、虚ろな瞳。明らかに寝ぼけているようなのに、掴む腕は力強い。焦点の怪しい視線で縛り付けられ、少女は身動きできず、蛇に睨まれた蛙よろしく立ち尽くす。
「あの……ひゃっ」
 強い力で引き寄せられ、バランスを崩して青年に倒れ込む。そんな少女を抱き寄せ、青年はきつくきつく抱きしめた。
「葛葉さん」
「あの、まだ朝、っていうか、お昼かもしれませんけど、でも、お昼でも、やっぱり、その、こここういうのは、あの、あのっ」
「葛葉さん……葛葉」
 全身を巡る血液が沸騰しそうな熱さを感じ、少女は今にも気絶してしまいそうになる。けれど、なんとか意識を保ち、しどろもどろで青年の説得を試みた。
 しかし、青年の声音に切羽詰まったものを感じ取り、少女は抵抗するのをやめた。触れ方はけしていやらしいものではなく、幼子が母に縋り付くようなものだと気付いてしまったからかもしれない。
 少女は観念し、青年の頭を抱き寄せた。
「怖い夢でもみたのですか?」
 宥めるように髪を梳き、少女は優しく尋ねる。
 青年は少女にきつく両手を回し、柔らかな身体に頭を預ける。
 そうしてしばらく青年の好きにさせている内に、いつしか彼の腕から力は抜けていた。
「私は……」
 ぽつりと青年が呟く。低く掠れた声は泣いているかのようだった。
「私は、あなたが欲しくてたまらない。でも、私ではあなたを幸せにできないと気付いてる。あなたを不幸にしてしまうのに、私はあなたを求めずにいられないんだ」
 ぎゅうっと少女の胸が締め付けられる。
「あなたが好きだ、葛葉さん」
 優しく微笑まれる度に、温かな手で触れられる度に、甘く囁かれる度に。与えられる感情は少女の胸に柔らかく突き刺さり、甘美で熱く心地よいものをもたらした。それはけして嫌なものではなく、大切にしたいと思わせるようなものだった。
 彼女にとってそれは、受け入れれば叶う、けれど受け入れてしまえば喜びだけではなくなる、初めての思い。