嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ その37

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1名無しさん@ピンキー
浅いものはツンツンしたり、みたいな可愛いラブコメチックなヤキモチから
深いものは好きな人を独占して寵愛する為に周囲の邪魔者を抹殺する、
みたいなハードな修羅場まで、
醜くも美しい嫉妬を描いた修羅場のあるSSを扱うスレです。

■前スレ
嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ その36
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1181224518/

■まとめサイト
2ch 「嫉妬・三角関係・修羅場統合スレ」まとめサイト
http://dorobouneko.web.fc2.com/index.html

■避難所
嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ 二人目の子
http://www2.atchs.jp/dorobouneko/
2名無しさん@ピンキー:2007/07/20(金) 19:08:07 ID:LqA81MIE
■関連スレ
嫉妬・三角関係・修羅場統合スレ 第20章
http://idol.bbspink.com/test/read.cgi/hgame/1183835795/
■姉妹スレ
嫉妬・三角関係・修羅場統合スレinラ板 その2
http://book4.2ch.net/test/read.cgi/magazin/1172035731/
嫉妬・三角関係・修羅場統合スレin角煮板3rd
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/ascii2d/1176121368/
誘導用
【みんな】ハーレムな小説を書くスレ【仲良く】 10P
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1184196127/
ヤンデレの小説を書こう!Part8
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1182914768/
ほのぼの純愛 9スレ目
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1171372657/
●●寝取り・寝取られ総合スレ5●●
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1179749372/
キモ姉&キモウト小説を書こう!Part3
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1181762579/
3名無しさん@ピンキー:2007/07/20(金) 19:27:44 ID:7CTDRFUA
乙ー

しいて言うなら37だけは語呂が良かったかな。
誰でも想像出来るあの言葉があるんだし・・・
4プロット王者:2007/07/20(金) 19:30:01 ID:oXTY9zaq
低迷する日本のボクシング界。しかし、それを吹き飛ばすニュースが来た。
日本人初のヘビー級王者の誕生。彼は一夜にして国民的ヒーローとなった。
デビュー戦の時から彼を取材し、苦しい時も取材してくれた女性記者とともに
喜びを分かち合った。これを機に、彼の周りが一変する。アメリカの大手企業の
女社長が彼の人気ぶりに目をつけ、日本進出の足がかりにしようと、スポンサーになった。
そして、今や世界の主流であり、NO.1のキックボクシングの女プロデューサーが、
彼を引き抜こうとする。さらに、妹も世界王者を機に、彼に引退を迫り、二人きりの生活を、
実現しようとする。彼の人生は、どうなってしまうのだろう。
5名無しさん@ピンキー:2007/07/20(金) 19:32:51 ID:RZYi6SaT
乙カレー
6名無しさん@ピンキー:2007/07/20(金) 19:38:50 ID:fY+/jG5x
乙ー

>>3
375スレ目に付けりゃいいんじゃ?
7名無しさん@ピンキー:2007/07/20(金) 22:21:04 ID:gP/5vNyY
乙です
8名無しさん@ピンキー:2007/07/20(金) 22:53:33 ID:lveAiLey
SSスレのお約束
・指摘するなら誤字脱字
・展開に口出しするな
・嫌いな作品なら見るな。飛ばせ
・荒らしはスルー
・職人さんが投下しづらい空気はやめよう
・指摘してほしい職人さんは事前に書いてね
・過剰なクレクレは考え物
・作品に対する評価を書きたいなら、スレ上ではなくこちら(ttp://yuukiremix.s33.xrea.com/chirashi/)へどうぞ
スレは作品を評価する場ではありません

>>6
つ、突っ込まないんだからね!!
9名無しさん@ピンキー:2007/07/20(金) 23:02:20 ID:LG7nTQ/6
すごく前に37564スレ目と言う意見もありましたな
10名無しさん@ピンキー:2007/07/20(金) 23:06:20 ID:kMwKYyCP
>>9
もはや語呂合わせ要らないな
11名無しさん@ピンキー:2007/07/21(土) 00:24:28 ID:zwjJuj1A
>>6
案外笑い事でもないかも・・・

>>10
立てる人の自由だね。個人的には450k越えたら37殺しで立てよーかなと思ってたけど
445で立っちゃったらしい。
12名無しさん@ピンキー:2007/07/21(土) 11:07:21 ID:xMSbj4Gu
>>11
いや、スマン、ちょっとはしょりすぎた
37564スレなら言葉の補足要らないなwって意味で書いただけ
結局投票とかやったのに立てる人の自由になっちゃったのね
13名無しさん@ピンキー:2007/07/21(土) 12:20:40 ID:2J95aqC0
投票やった結果が色々あってgdgdになっちまったからそうなったんだよ
今更蒸し返すな、そんな話
14名無しさん@ピンキー:2007/07/21(土) 13:02:20 ID:4NtZw0ld
その37ってエロパロスレでは短いかもしれんな
ヘタレ男がこのスレのヒロインを泣かした数に比べたら
少ないよ
15名無しさん@ピンキー:2007/07/21(土) 16:51:16 ID:+E3OFLxs
>>14真面目な話、エロパロ板で37スレってとんでもない長寿だよ。
他に37スレ突破したのって何かある?
俺はハルヒスレぐらいしか見た事無い。
16名無しさん@ピンキー:2007/07/21(土) 17:53:15 ID:xMSbj4Gu
>>15
悪意は無いと思うけど長寿だとか他スレとの比較は
変な人が粘着する理由になるから辞めた方が良いよ(´・ω・`)
17名無しさん@ピンキー:2007/07/21(土) 18:11:14 ID:Uou9hs7g
>>14
大丈夫だ
ま(ryや孝之みたいなヘタレは俺達がボコって叩いているので
美味しくヒロインを奪ってます
18名無しさん@ピンキー:2007/07/21(土) 21:47:04 ID:xMSbj4Gu
>>17
マテ、そんなことをすればお前が刺され・・・
19名無しさん@ピンキー:2007/07/21(土) 21:51:34 ID:IFaSThjj
ヘタレ男を刺すのは大歓迎されるけどな
ま(ryがアニメスレやアニメ感想ブログで相当に叩かれているから
それを公約に掲げて立候補すればいいw 

なんか、言葉の相手するのって……疲れる。

↑言葉様の信者の俺はブチ切れ
20名無しさん@ピンキー:2007/07/21(土) 21:56:13 ID:mO3Rj4Hp
日本語は難しいって事っすよ
21名無しさん@ピンキー:2007/07/21(土) 23:29:41 ID:kPYZPa9b
>>14
まとめサイトとか見る限りだと
ここのスレってあまりヘタレ主人公が少ない気がする
・・・感覚が麻痺してるのかな?
22名無しさん@ピンキー:2007/07/21(土) 23:43:31 ID:Fb6RWUgU
>>21
そりゃまぁ…
ま(ryとか鳴海とか見てたらそうなるわな。
…いや、ゆう君がいた。
女装ショタじゃない方のゆう君とかいっぱいいた…
23名無しさん@ピンキー:2007/07/21(土) 23:43:44 ID:bwnw0WhW
>>21
言いたい事は分かったからメ欄にsageを入れるんだ
24ロボ ◆JypZpjo0ig :2007/07/21(土) 23:59:56 ID:Vex5TZ/g
かなりお久しぶりです
『花束』投下しますよ
25『花束』六本目:2007/07/22(日) 00:01:03 ID:Vex5TZ/g
 サオリ先輩は、ふう、と吐息を一つ。
「こんなに騒いだら他の者に迷惑だし、何よりイツキ君が嫌がっている。好きだというの
ならば、それこそイツキ君が嫌がるようなことなどするべきではないのかね?」
 そう言えば、さっき激しく喋っていたのはミズホとチヨリちゃんだけで、サオリ先輩は
普段の奇抜な求愛行動から考えると不自然なくらいに静かだった。あ、それと嫌がる云々
の辺りで突っ込んで良いのかな。普段からスカートの中を覗かれたりとか積極的痴漢とか
実は結構嫌なんだけど、でも空気的には駄目なんだろうなぁ。駄目だ駄目だ、何だか頭が
こんがらがって意味の分かんないこと考えてる。
 でも、まずやらなきゃいけないことは一つ。
「ありがとうございます、サオリ先輩」
 お辞儀をすると、サオリ先輩は頷いた。満足そうに何度かそれを繰り返し、しかしボク
が顔を上げると何故か悲しそうな顔になった。あれ、もしかして上目遣いが見たかったの
だろうか。違う、角度的なものと、今のボクの服装を考えて、
「見ました?」
 尋ねると、返ってくるのは満面の笑み。
「イツキ君は実に白が似合うね、レース地のものだというのもポイントが高い!!」
「そんな大きな声で寸評しないで下さい!!」
 慌てて襟元のボタンを一番上まで留めて、ネクタイもきっちり締める。それだけやって
まだ視線が胸の方に着ているので、腕で隠すように体を抱いた。これだけ厳重にしたら、
幾らサオリ先輩が変態でも中を見たりとかは出来ない筈だ。いや、そうだと信じたい。
26『花束』六本目:2007/07/22(日) 00:02:32 ID:Vex5TZ/g
「それで、何でミズホとチヨリちゃんまでボクの胸を見るのかな?」
「いやいや、やっぱイッちゃんのおっぱいだし。生とは違う醍醐味が」
「純粋にセンパイの乳が見たいので。来たれ目覚めよESP(EroSpecialPower)!!」
 四面楚歌、ボクは完全に包囲されている!!
 何だろう、この理不尽な仕打ちは。確かに険悪な雰囲気は消えたみたいだけど、何だか
妙な方向にヒートアップしている。突っ込み役だったミズホまでおかしくなって、もう、
ボクはどうしたら良いんだろうか。ちょっと前までの常識重視人間ミズホに戻ってほしい。
「さて、馬鹿な話はここまでにして、真面目に……もう少し良いかね?」
「駄目です」
 一瞬うなだれた後、すぐにサオリ先輩は顔を上げ、目を細めた。元が物凄い美人だから
こうした仕草がよく似合う、素直に格好良いと思ってしまった。ちょっとだけ羨ましい、
と思う。ボクがこうしても、犯罪者が悪巧みをしているようにしか見えないし。
「ミズホ君もチヨリ君も騒いでいたが、肝心なことを忘れている」
 二人を交互に見て、その後でサオリ先輩はこちらを向き、
「大切なのはイツキ君の気持ちではないのかね?」
 沈黙。
 ミズホもチヨリちゃんも、それどころか食堂全体の声が止んだ。箸やフォークを動かす
音もなく、BGMにエンドレスで流れている伴奏のみの校歌の音だけが耳に入ってくる。
「ボクの、気持ち?」
27『花束』六本目:2007/07/22(日) 00:04:41 ID:Vex5TZ/g
 声が消えるのと同時に、頭の中身も消し飛んでしまったらしい。つい呆然としていて、
馬鹿みたいにオウム返しをしてしまった。しかしサオリ先輩は特に気にした様子もなく、
そうだ、と言って一直線にボクの目を覗き込んでくる。怖い、と言うよりも不思議な感じ。
「イツキ君、君の気持ちだ。あぁしたい、こうしたい。あぁしたくない、こうしたくない、
そんなものがあるだろう。率直に言ってくれても構わないし、言わなくても良い。自由だ」
 自由。
 自を由とする、という意味を持った言葉。
 でも今はその言葉の持つ意味が、よく分からなかった。どうにでも出来るということは、
したいこと、するべきことを自分で選ばなければいけないということだ。選択肢や結果が
全て肩や背中に乗っかってくるということ。殆んど無限に存在するそれは、堪らなく重い。
そして重ければ何も出来ないし、何も出来ないということは全然自由じゃないということ。
 言葉が、浮かんでこない。
「イッちゃん」
 左を見ると、不安そうなミズホの顔があった。
「うん」
 何が、うん、なのか。適当に返事をするしか出来ない自分がとても憎たらしい。
「イッちゃんは私のこと、好きだよね?」
 今度は意味を持って「うん」と言おうとしたけれど、それを遮るように、
「口を挟まないで貰おうか」
 冷たいサオリ先輩の声が響く。
「確かにミズホ先輩にはムカっ腹立ちますけど、そんな言い方」
 チヨリちゃんまでもがミズホの擁護に回ろうとしたけど、それも鋭い視線で遮られた。
28『花束』六本目:2007/07/22(日) 00:06:00 ID:Vex5TZ/g
は意味を持って「うん」と言おうとしたけれど、それを遮るように、
「口を挟まないで貰おうか」
 冷たいサオリ先輩の声が響く。
「確かにミズホ先輩にはムカっ腹立ちますけど、そんな言い方」
 チヨリちゃんまでもがミズホの擁護に回ろうとしたけど、それも鋭い視線で遮「私は意見することも恨まれるのも構わんがね、しかしイツキ君の気持ちになってみたら
どうだろうか。強引に私が作り出したものとはいえ、今は大切な時間だ。必死に悩んで、
そして答えを出そうとしているときに外野に騒がれたらどう思うね?」
「あの、ミズホは外野じゃ」
「答えを出すのは君だよ、イツキ君。私達は答えの受け手だ」
 何も反論出来ない、どうすれば良いんだろうか。こんなときに虎徹君だったら、多分、
悩みながらでも答えのヒントくらいは自分で見付けていたかもしれない。うろたえたり、
迷ったり、そんなことをしながらでも進もうとする人だった。でも、それに対してボクは
何も考えられない。考え、悩んで、答えを出そうとしている。そんなサオリ先輩の評価は
間違っている、買い被りも良いところだ。どうにも出来ずに道の真ん中で立っているだけ、
進むことも戻ることも何も出来てやしない。どうしよう、泣きたくなってきた。
「ヒドいですよ、それ」
 ボクの気持ちを代弁するように、隣から声がした。
「そんなの、イッちゃんに対する押し付けじゃないですか」
「恨まれるのは構わないと言った筈だ、そして言葉を慎めとも」
 あくまでもサオリ先輩の言葉は冷静なもの、周りの全てを突き放しているとさえ思える
ような、感情を削り取ったようなものだった。きっと、言っているサオリ先輩本人が一番
辛いんだろう。だからこそ人に見せたくなくて、きっとそうしているんだろうと思う。
 そして見せていないから、気付かない人が居た。
29『花束』六本目:2007/07/22(日) 00:07:31 ID:zel/ju7P
 拳を握り締め、ミズホは立ち上がり、
「駄目です」
 意外なことに、ボクが動く前にチヨリちゃんに止められた。声の力は弱くて、制止する
動きも裾を軽く摘んだだけのものだ。あまり力を込めていない腕の一振りでも外すことが
出来るようなもの。だけど表情は強く意思が表れたもので、頑なものがある。退かない、
と悟ったらしく、ミズホはサオリ先輩から視線を外して再び座った。ミズホが怒ったのは
純粋にボクのことを心配してのことだろうから、ボクもあまり強く言えず、視線を向ける
ことしか出来なかった。そしてまた静かになる。
 数秒。
 沈黙が続き、
「さっきサオリ先輩が口を慎めと言いましたが、あたしからも一言あります」
 二度目の静寂を破ったのは、チヨリちゃんだった。
「サオリ先輩がセンパイにラブラブズキュンなのは分かりますし、あたしも子宮に直撃的
メロメロリンですが、その方法は卑怯だと思います。サオリ先輩の方法を恨みはしません、
でも、これだけは言わせて下さい。今のサオリ先輩は、はっきり言って最低です」
「分かっている」
 そうですか、と答えて、次にチヨリちゃんの目が向いたのはボクの方だった。
 何か、言わなくちゃ。
 さっきは出来なかったこと。
 迷い、悩み、考えて、不格好だけど一つの言葉を見付けた。人はそれを逃避とかヘタレ
とか言うかもしれないけれど、僕にとっては違うもの。多分虎徹君も、こう言ってくれる
と思う言葉を、心の中で強く浮かべた。
 覚悟、と。
30『花束』六本目:2007/07/22(日) 00:09:30 ID:zel/ju7P
 そう格好着けたけど、随分情けない覚悟だな、と思いながら、息を吸い、そして吐き、
「ごめんなさい」
 その言葉で切り出した。
「ごめんなさい。チヨリちゃんも、サオリ先輩も。そしてミズホも。自分勝手かもだけど、
答えは出せないよ。ボクはミズホが好き、それは間違いないけどさ。でも二人の気持ちも
無下にしたくないし、それを消化できる考えも持ってないんだよ。だからね、もし許して
くれるんだったら少しだけ時間を頂戴。そしたら絶対に、答え、見付けてみせるからさ。
だから、ごめんなさい。今だけは、この言葉を預かってもらって良いかな? いつか必ず、
その言葉を返してもらえるようになるから」
 時間は絶対にかかる。
 その間は皆を傷付けてしまうだろうし、馬鹿ばかりしてしまうだろう。
 エゴかもしれないけれど、でも、絶対に納得出来る答えを見付けてみせるという、その
覚悟をボクは決めた。他の誰でもない、サオリ先輩が言った通り答えを決める『ボク自身』
が納得出来るような、そんな答えを出すと決めた。
 きっとそれが、誰にとっても一番だと信じて。
 ふむ、とサオリ先輩はいつもの無表情に顔を戻し、
「今日はここでお開きだ。押し付けかもしれないがね、私は、全てをイツキ君に任せよう
と思う。そうして考えた末の結論なら、例えどんな結果になっても受け入れよう」
 喉が渇いたな、と言って一気にお冷やを飲み干して、拳で唇を拭う。結構なお嬢様の筈
なのに、意外と男前な仕草。そしてサオリ先輩はこちらを一度も見ることなく、トレイを
おばちゃん達のところへと持っていった。
31ロボ ◆JypZpjo0ig :2007/07/22(日) 00:10:52 ID:zel/ju7P
今回はこれで終わりです

あと遅くなりましたが
>>1
32名無しさん@ピンキー:2007/07/22(日) 00:13:17 ID:uPF0YuYl
>>31
gj
お久しぶりです
33名無しさん@ピンキー:2007/07/22(日) 00:16:16 ID:zel/ju7P
>>28
ミスった!
正しくは↓


「私は意見することも恨まれるのも構わんがね、しかしイツキ君の気持ちになってみたら
どうだろうか。強引に私が作り出したものとはいえ、今は大切な時間だ。必死に悩んで、
そして答えを出そうとしているときに外野に騒がれたらどう思うね?」
「あの、ミズホは外野じゃ」
「答えを出すのは君だよ、イツキ君。私達は答えの受け手だ」
 何も反論出来ない、どうすれば良いんだろうか。こんなときに虎徹君だったら、多分、
悩みながらでも答えのヒントくらいは自分で見付けていたかもしれない。うろたえたり、
迷ったり、そんなことをしながらでも進もうとする人だった。でも、それに対してボクは
何も考えられない。考え、悩んで、答えを出そうとしている。そんなサオリ先輩の評価は
間違っている、買い被りも良いところだ。どうにも出来ずに道の真ん中で立っているだけ、
進むことも戻ることも何も出来てやしない。どうしよう、泣きたくなってきた。
「ヒドいですよ、それ」
 ボクの気持ちを代弁するように、隣から声がした。
「そんなの、イッちゃんに対する押し付けじゃないですか」
「恨まれるのは構わないと言った筈だ、そして言葉を慎めとも」
 あくまでもサオリ先輩の言葉は冷静なもの、周りの全てを突き放しているとさえ思える
ような、感情を削り取ったようなものだった。きっと、言っているサオリ先輩本人が一番
辛いんだろう。だからこそ人に見せたくなくて、きっとそうしているんだろうと思う。
 そして、見せていないから、気付かない人が居た。
34名無しさん@ピンキー:2007/07/22(日) 00:50:28 ID:NtukyyY/
もつかれだぜ
35名無しさん@ピンキー:2007/07/22(日) 03:29:50 ID:tfJTyjeB
このスレも過疎ってきたし、
俺自信、このスレあきてきたから
九十九と雨の音が終わったら
ロムるのやめようと思ってるだけど
投下なくて気持ちよく終われないんだぜwww
マダー?
36名無しさん@ピンキー:2007/07/22(日) 03:35:09 ID:xeWZ7gjY
にほんごでOK
37名無しさん@ピンキー:2007/07/22(日) 07:18:49 ID:VVBDLus4
日本語でOK
38名無しさん@ピンキー:2007/07/22(日) 11:12:19 ID:KK3Mb+qb
過疎っていいるというか、黄金期が異常だったわけで
まあ、他のスレ同様にのんびりと待て
39名無しさん@ピンキー:2007/07/22(日) 13:25:03 ID:p+uoWf8m
ロボに足りない物は


速さが足りない!!!!
40名無しさん@ピンキー:2007/07/22(日) 13:35:40 ID:HDrtyPcm
何様だあんたは
41名無しさん@ピンキー:2007/07/22(日) 15:02:23 ID:JCrg1PFC
>>31
ロボさんお疲れ様。
最近見かけなかったけど、まさかヤンデレちゃんやキモ姉妹の所になんか行かなかったよね♪
42名無しさん@ピンキー:2007/07/22(日) 15:21:32 ID:ppo3ubp/
>>39
それなんてスクライドネタ?

どうせなら、ロボdeきしめんだ
43名無しさん@ピンキー:2007/07/22(日) 15:53:48 ID:ZIbUsSY/
>>39
情熱、思想、理念、頭脳、気品、優雅さ、勤勉さ
も足りないだろ
44名無しさん@ピンキー:2007/07/22(日) 16:59:09 ID:zXebtCHF
唐突だけど、保母さん(いまは保育士だっけ)の嫉妬って萌えないか?

主人公と仲良くする女の子には厳しい対応をして、主人公には激甘。屋内で遊ぶときは、保母さんのヒザの上が定位置。まるで携帯とスタンドみたいな感じでガッチリと。

……ショタな主人公ってあまり人気ないか
45名無しさん@ピンキー:2007/07/22(日) 17:30:49 ID:8gqX2426
>>31
お疲れさまっす
相変わらず人物描写がうまくてステキです(*´д`*)
>>44
ショタだと自然に男が受けになるから好物だが些か幼すぎる・・・
せめて小学生以上じゃないと単なる保護欲っぽくなりそう (´・ω・`)
46名無しさん@ピンキー:2007/07/22(日) 19:59:50 ID:leMc7mFf
>>44
その保母さんはとてつもなく痛いと思うぞ
47名無しさん@ピンキー:2007/07/22(日) 20:37:21 ID:RLrw8Czs
>>44
職業として考えた場合、かなりまずいと思う。寧ろ平常時は人一倍厳しく、二人だけの時は……。ってところまで妄想して、現実にいたらと思ったら吐き気がした。なんだこの駄目大人。
どっちにしても対象が子どもってだけでひどく不愉快だ。
48名無しさん@ピンキー:2007/07/22(日) 20:40:16 ID:sIywcl2E
>>44
なんかヤンデレっぽいな
49名無しさん@ピンキー:2007/07/22(日) 20:50:18 ID:qu1iQjc+
まぁ人気あるのは感情移入できる成人男性だよな
50名無しさん@ピンキー:2007/07/22(日) 21:22:11 ID:VzC9ip9r
しかもヘタレじゃないといかんな
51名無しさん@ピンキー:2007/07/22(日) 22:44:43 ID:JCrg1PFC
昨日の時かけでふと思ったんだが、意外とタイムスリップものなんて盲点じゃないかな?
52名無しさん@ピンキー:2007/07/22(日) 22:48:31 ID:2B+Rh50x
SSまとめにあるシューティングスターてのがタイムスリップものだね
時間絡んでくると、キャラの行動に自由がききすぎてまとめるの大変そう……
53名無しさん@ピンキー:2007/07/22(日) 23:03:23 ID:zqD9RIlY
妻に大学時代の友人との浮気がばれて刺し殺されるってやつか。
懐かしいな。
54名無しさん@ピンキー:2007/07/22(日) 23:06:08 ID:JCrg1PFC
>>52
あれ1つしかなかったからさ・・・
てか時かけも女一人男二人のどろどろの修羅場か!?と思ってwktkしてみたら・・・orz
55名無しさん@ピンキー:2007/07/22(日) 23:20:49 ID:rIMx2/WM
>>53
それは、『バック』のことじゃないか?
56名無しさん@ピンキー:2007/07/22(日) 23:27:29 ID:zqD9RIlY
ああ、ホントだ。
勘違いしてた。
57名無しさん@ピンキー:2007/07/22(日) 23:34:57 ID:wYs8DRAy
リンカーンの妻も美人で評判な大佐の娘と親しげに話してたら手がつけられないほど暴れたらしい
元が貧乏なリンカーンと資産家の娘だったから自分がいなきゃなにも出来ないっていう感じで政治にまで口出ししてた
結構な嫉妬だな

あと劉邦の妻も夫が死んでから愛人をだるまにして便所兼豚小屋に捨てたんだよな
58名無しさん@ピンキー:2007/07/23(月) 00:08:30 ID:Y3xgNooo
>自分がいなきゃなにも出来ないっていう感じで政治にまで口出ししてた
(;´Д`)ハァハァ
59名無しさん@ピンキー:2007/07/23(月) 00:26:12 ID:q/B+1laq
単なる権力欲やプライドのせいな希ガス
60名無しさん@ピンキー:2007/07/23(月) 00:38:45 ID:rY0rXbxc
その辺は妄想でカバー
61名無しさん@ピンキー:2007/07/23(月) 09:18:06 ID:41BCPyWZ
可愛い嫉妬がないのが問題だな
62名無しさん@ピンキー:2007/07/23(月) 11:54:01 ID:A6MeAf5q
だったら日本の北条政子やお江でいいじゃん。
63名無しさん@ピンキー:2007/07/23(月) 14:50:13 ID:VXCat8el
大河ドラマ「葵」の岩下お江の可愛さは異常
64名無しさん@ピンキー:2007/07/23(月) 18:17:13 ID:kRO7wWk0
>>63
ちょっとTSUTAYAでDVD借りてくる
65名無しさん@ピンキー:2007/07/23(月) 21:49:04 ID:SLQSB2Dl
葵は普通にドラマとして良くできてていいぞ。
66名無しさん@ピンキー:2007/07/23(月) 23:16:30 ID:jziXA6Ca
>>43
ちょwwwそれなんてぶらばんww w
67名無しさん@ピンキー:2007/07/24(火) 01:54:29 ID:12qFg4mb
>>66
いや元々はスクライドだ
とそのネタをぶらばんで知った俺が言う
68名無しさん@ピンキー:2007/07/24(火) 03:16:18 ID:VAcYyOY8
もはやクーガー兄貴はスタンダードではないのか………
俺には「若さが足りない!」と言う訳だな

若い泥棒猫に嫉妬する姉さん女房はアリですか?
69名無しさん@ピンキー:2007/07/24(火) 10:53:51 ID:Qrno3hB0
ずっと雑談のターン
70名無しさん@ピンキー:2007/07/24(火) 11:13:02 ID:DzJ88F6B
なのはスクライドは余裕で笑えるけどなwwwwwww
71名無しさん@ピンキー:2007/07/24(火) 18:34:50 ID:fYWt1Rzi
とりあえず、オレンジを公表するぞ 
72名無しさん@ピンキー:2007/07/25(水) 01:51:43 ID:Nv+AMFVP
何の話だ!?
73名無しさん@ピンキー:2007/07/25(水) 02:18:15 ID:7mnn2Is7
オレンジ・・オレンジ・・・ってなんだ・・・
まさかジェレミア卿が・・・
74名無しさん@ピンキー:2007/07/25(水) 19:25:52 ID:UZqvoqdS
この嫉妬スレで嫉妬SSを待つか、オレンジ畑で働くか

どっちかだ
75名無しさん@ピンキー:2007/07/25(水) 20:42:10 ID:8TNHHXYV
自分で書くという選択肢はないのかw
76名無しさん@ピンキー:2007/07/25(水) 20:43:27 ID:8TNHHXYV
うわ…sage忘れゴメン
77転帰予報 ◆JyN1LsaiM2 :2007/07/25(水) 23:43:06 ID:CZPLKv0U
投下します。
78転帰予報 ◆JyN1LsaiM2 :2007/07/25(水) 23:43:55 ID:CZPLKv0U
 私が初めてあいつを拒まなかったあの日。
 八雲の掌から伝わった、確かな温かさ。

 私、天野晴香は飢えていた。
 あの温もりに。

 中学3年生。
 思春期を迎える頃なると、私はどうして同世代の異性がしきりにちょっかいをかけてくるのかが解り始めていた。
 彼らは私のことが気になっているのだ。
 自分で言うのもなんだけれど、私はそこらの女の子より顔の作りやスタイルが良い。
 それはおそらく自意識過剰ではなく事実だと思う。
 学校でも優等生を装っていた私は多数の男子生徒からお付き合いを申し込まれることも多く、
 毎日のように下駄箱にラブレターが入っていることも稀ではなかった。
 もちろん、私の外面ばかり見てるような奴らと付き合う気はないが、使える武器は使えばいい。
 私が優しくすれば八雲はきっと喜ぶ。

 そして、八雲は私に惚れる。

 安易な考えだけれど、私には自信があった。
 私は八雲に天野晴香を徹底的に刻みつけて、私無しでは生きられないようにする。
 それが私を狂わせた罰。
 あの笑顔も、あの優しさも、あの掌も、すべて私の物。

 私はすぐに行動を起こした。
 向かうは無防備な八雲の背中。
 私は八雲に気付かれないよう、後ろから思いっきり抱きつく。
 こうすれば男の子は喜ぶものでしょう? 八雲にはサービスして胸も押し付けてみる。
「うわぁぁぁ!! や、止めてください!!」
 忘れもしない。
 このとき八雲は間違いなく怯えていた。
 目を丸くする私を見て、八雲は顔を庇っていた両腕を解きしどろもどろになって言い訳を始める。
「いや、ち、違うんです。いきなりだから、驚いて……本当に、ちょっと驚いただけですから……」
 初めて意識する二人を隔てる深い溝。
 拒絶。
 一度意識がそれに捕らわれてしまうと、なかなか抜け出せない。
 八雲は努力してる。この一件以降、何かと私を気にかけてくれるし、声をかけてくれる。
 けれど、遠慮がある。八雲は必要以上には近づいてこないし、近づけないのだろう。
 身体に覚えこまされた恐怖。
 記憶できないほど重ねられた暴力。
 そして育まれた無意識下での拒絶。
 それはこの数年で八雲が組み立てた自己防衛。
 惚れるとか、それ以前の問題。
 私の立てた計画。
 そんなものは妄想でしかなかった。
 私をすぐに許してくれる八雲、私が楽をするための八雲、私を満足させるための八雲、私にとって都合のいい八雲。
 ただの妄想。
 現実には程遠い、おとぎ話。
79転帰予報 ◆JyN1LsaiM2 :2007/07/25(水) 23:45:01 ID:CZPLKv0U
 私と八雲の立場はここに来て逆転していた。
 私がどれだけ歩み寄っても、触れられる距離には届かない。
 どれだけ手を伸ばそうとしても、拒まれるのを恐れて手を伸ばしきれない。
 もちろん昔よりはマシな関係にはなった。
 ぎこちないながらも会話をするし、今は同じ食卓を囲んでいる。リビングでいっしょにテレビを見たりもする。
 けれど、そこから先は平行線。
 隣にいる。でも、交わることはない。
 私の知っているあの温かさを横目で物欲しそうに眺めているだけ。

 八雲も似たような思いをしていたのだろうか?
 私と雨音が部屋で過ごしているのを八雲はどこかで眺めていて……眺めていることしかできない。
 近づけば拒絶される。それでも、近くに、もっと傍にいたい。
 そういえば、そんな時の八雲はよくヘラヘラと笑っていた。
 でも今ならわかる―――あいつはきっと笑ってなんかいなかった。
 私の心は冷え込んでゆく。
 やっとみつけた、本当に欲しかったもの。
 それが私の手では触れられないものだと認識したとき、私の心は後悔で埋め尽くされる。

 『嫌だ』はただの我が儘。
 『違う』は本心の裏返し。
 『嘘だ』は自分を偽るまやかし。
 今日はどれも役に立たない。

 私の頭の中にはいつも八雲が『居る』
 けれど私は『居ない』八雲を想い続けている。
 何時でも、何処でも、何度でも………。
 満たされない。
 私が欲しいのは人肌のぬくもり。
 ただ八雲が傍に居てくれたらそれでいい………。

80転帰予報 ◆JyN1LsaiM2 :2007/07/25(水) 23:45:41 ID:CZPLKv0U
 雨音は八雲を『兄さん』と呼ぶ。
 でも、八雲は相変わらず私を『晴香さん』と呼ぶ。
 それだけの違い。
 べつに私は八雲の姉になりたいわけではない。
 だからそれでも構わないはず―――なのに、私の心は焦っていた。
 八雲と雨音の距離はどんどん縮んでゆくのに私だけが独り置いてきぼりされてしまいそうだった。
 それだけではない。
 最近、雨音は可愛くなった。
 少し前の雨音は極端に人付き合いを避け、無愛想で暗い女の子だった。
 八雲に酷い事をしている。人前では顔色一つ変えることのない表情の裏にはそんな後ろめたさもあったのかもしれない。
 しかし、最近の雨音はよく笑顔を見せるようになった。
 私が人前でよくやるような作り物の笑顔ではなく、心許せる人にだけ見せる本当の笑顔。
 そして、八雲に向ける誰にも見せたことのない眼差し。
 笑うたびに雨音はどんどん綺麗になり、少しづつ人付き合いもするようになっていった。
 私は―――私はまだ笑えなかった。
 笑ったとしても、それは良く出来た作り笑い。本物には敵わない。
 私と雨音にどんな違いがあるのだろうか?
 同じ姉妹。 同じ過去。 同じ罪。
 同じはずなのに何かが違う。
 正体不明。
 それだけに私は焦った。
 けれど、私はどうしていいかすらわからない。
 罪悪感とストレスで眠れない日が続く。
 高校受験を控え、最も集中しなければならない時期。
 授業中は溜息ばかり、考えるのは一人の少年のこと。
 ノートには数式の代わりに愛しい名前が書き込まれていて、残りは白紙で埋められた。
 隣に自分の名前を書き込んでみると、少し幸せな気分になった。
 けれど、全然足りない。
 それからの私は、八雲の物を見つけては自分の部屋へ持ち帰ってみたり………、
 八雲の使ったお箸をこっそり舐めてみたり………、
 八雲の布団の中で自分を慰めてみたり………、
 そんなことばかりやっていた。
 飽きもせずに。寝る暇も惜しんで。他の事に手が回らなくなるほどに。
 

 そしてある日。
 私はまたぶっ倒れた。

81転帰予報 ◆JyN1LsaiM2 :2007/07/25(水) 23:46:24 ID:CZPLKv0U
 朦朧とする意識、ぼやけた天井。
 あの日の焼き回しだと思った。
 氷枕に濡れたタオル、そしてベットに寝かされている私。
 もし、これがあの日の再現ならば………

 ――二度、ドアを叩く音。
 私は期待してしまう。
 今度は頭が回らないなんてことはない。
 ここ最近はいつだって八雲のことを考えていた。だから準備は出来ている。
 八雲がドアを開けてくれたら、部屋に招き入れて、優しくタオルで汗を拭いてもらって、
 お礼を言って、部屋から出て行こうとする八雲を引き止めて、もしそれで八雲が風邪をひいたとしても、
 今度は私が着きっきりで看病してあげる。
 一晩中、一週間、一ヶ月、一年、一生涯………どれだけ風邪をこじらせたってずっと傍にいてあげる。
 寂しくならないようにずっと傍に居て、手を握っていてあげる。
 目覚めたときには優しく微笑んであげる。「おはよう」って声をかけてあげるの。
 おかゆだって私が食べさせてあげる。熱ければ私がふーふーしてあげるし、
 食欲がなければ私が口移しで食べさせてあげる。
 なんでもする!!
 私、八雲のためならなんでもするよ!!
 だから! だから! 早くそのドアを開けて!!
 八雲!!

「姉さん、具合はどう?」
 この家で私を姉さんと呼ぶのは一人しかいない。
 私の妹だけ。
「酷い顔してる……大丈夫?」
 酷い顔?
 私はどんな顔をしているのだろう。
 全身に力が入らない。気が抜けるというのはこういうことを言うのだろう。
 私は雨音が食事の準備をするのをぼんやりと眺めていた。
「ねえ、八雲は?」
「兄さん? 買い物に出かけましたよ」
 それもそうだ。
 八雲が前に部屋に入った時に私は拒絶した。
 入ってくるはずがない。
「姉さん、食べないと元気でないよ」
 いつまでも食事に手をつけない私を雨音が促す。
 食べたって元気など出るものか。
 思わず口に出して言いそうになってしまう。
「姉さん」
 再び促されて、私は雨音が持ってきたおかゆに口をつける。
 いつか口にした、塩と昆布ダシだけのつまらない味。
 これは、私と八雲だけの秘密。
 雨音の知らない二人だけの秘密。
 でも、この部屋にはそれを共有する相手が居ない。
 雨音が羨ましい。
 雨音は今、幸せの内側に居る。
 私は雨音になりたい。私が雨音だったら、八雲は私を受け入れてくれる。

82転帰予報 ◆JyN1LsaiM2 :2007/07/25(水) 23:47:49 ID:CZPLKv0U
 深夜3時。
 薬の作用で眠くなってはいたが、私は眠ったりしなかった。
 これが前回の焼きまわしならば、もう一度だけチャンスがあるはずだった。
 破り捨てたメモ帳。
 紙を引き裂いた感触、悲鳴に似た音。
 まだ確かに覚えている。
 皮肉なものだ。
 自ら破り捨てたものに願いを賭けている。
 バカは―――私のほうだ。

 待ち続けてどれくらい経っただろうか?
 睡魔の所為で時間の感覚が希薄になっていた。
 コツコツ。
 と、前回よりも控えめなノックの音。
 しばらくして私の部屋に蛍光灯の光が差し込む。
「晴香さん? もう寝ちゃいましたか?」
 ちゃんと来てくれた。
 それがわかった瞬間、八雲の顔が滲んでよく見えなかった。
 反射的に私は顔を背けて、寝た振りをする。
「寝てます―――よね?」
 八雲は少し疑うような仕草を見せるものの、また勘違いをして部屋の中へ入ってくる。
 次第に近づく足音。
 ずっとこの機会が来るのを待っていたくせに、いざ本番になると私の頭は真っ白になってしまう。
 結局私はまた八雲にされるがままに看病を受けていた。
 何か言わなければならない。
 私は八雲をこのまま帰すつもりなど毛頭無い。
 けど、なんて言えばいい。
 もうそろそろ八雲はまた部屋を出て行ってしまう。
「ねぇ、ここに居てよ。もう出て行けなんて言わないから……」
 咄嗟に出た言葉。
 八雲は驚いた顔をしたものの、何も言わずにベットの横に腰を下ろす。
 引き止めたものの会話が続かない。
 言いたいことはたくさんある。
 大好き。 どこにも行かないで。 ずっとここにいて。 
 お願いだから避けたりしないで。 もっと優しくして。 もっと私のことも見て。
 でも、私の唇は―――
「もう私の事、嫌いかもしれないけど………」
 もっと前に言わなければならないことをよく知っていた。

「ごめんね」

 今思えば私は一度も八雲に謝ったことがなかった。
 何よりもまずしなければならないこと。
 少し考えればわかること。
 そんなこともわからないほどに、本当に私はバカだった。
83転帰予報 ◆JyN1LsaiM2 :2007/07/25(水) 23:48:40 ID:CZPLKv0U
 八雲は複雑な表情でこちらを見ている。
 いろいろな感情が入り混じったとしか言いようの無い顔、八雲はそれを呑み込んで笑った。
「あの、僕に出来る事があれば何でも言ってください」
 そう言ってこちらに微笑みかけてくれる。
 私は―――私は八雲の特別になりたかった。
 雨音に負けない、何かに……。
「じゃあ、私のこと一度でもいいから『姉さん』って呼んでみて」
「………いや、それは」
 八雲は少し戸惑った。
 当たり前だ。少し前まで『姉さん』などと呼ぼうものなら半殺しにしていたような女だ。
 八雲が混乱するのも無理はない。
 でも、ここで引き下がるわけにはいかない。
 やっと巡ってきたきっかけ、今を逃してはもう二度とやってこないかもしれない。
「私、がんばるから……八雲のお姉さんになれるように。だから……お願い」
 お願い。
 八雲はこの言葉に弱い。卑怯かもしれないけど私はそれを知っていて使った。
 いま断られたら、私はきっと立ち直れない。
 だから、このチャンスを逃すわけにはいかない。
「でも……ちょっと恥ずかしいよ」
 恥ずかしがる八雲の様子がもどかしくて、ついつい本音が零れ落ちる。
「雨音ちゃんには『兄さん』なんて呼ばせてるくせに……」
「別に、あれは僕が言わせてるわけじゃなくて!」
「それじゃあ、私じゃ『姉さん』になれない?」
「そんなこと!!」
「じゃあ、呼んでみて……」
 八雲はその言葉を口にする。

「………ねえさん」

 大袈裟な深呼吸のわりには小さな声、八雲は耳の先まで真っ赤にしていた。
 まだどこか出来の悪い言葉は、驚くほど私の体内に自然に入ってきた。
「………よくできました」
 自然と八雲の頭を撫でてやると、嬉しそうに目を細める。
 本当にドキドキした。
 でも、それ以上に嬉しかった。
 もっと、この両手で包んであげたい。
 ずっと傍にいて、この少年の傷を癒してあげたい。
 それが私のやるべきこと。私にはその義務がある。

 本気になったのは八雲ちゃんではなく私。
 存在を刻みつけられていたのも私。

 もう、それでいい。

 安心するとすぐに眠気が襲ってきた。
 まだ眠りたくない。もっと伝えたいことがいっぱいある。
「おやすみ……ねえさん」
 すぐ耳元、どこか遠くで八雲の声が聞こえる。
 眠っても八雲がどこかへ行ってしまわないように八雲の掌を固く握って私は眠りに落ちた。
84転帰予報 ◆JyN1LsaiM2 :2007/07/25(水) 23:49:49 ID:CZPLKv0U
 ここまでです。

 日本がんばれ!
85名無しさん@ピンキー:2007/07/25(水) 23:55:42 ID:VzKYGRBY
>>84
キター! 待ってました!
そして晴香可愛いよ晴香
86sage:2007/07/26(木) 00:28:50 ID:cY1kZQ+E
転帰予報ほどキャラの高感度の浮き沈みの激しいSSはないな
87名無しさん@ピンキー:2007/07/26(木) 00:30:20 ID:cY1kZQ+E
本気で反省してます
88名無しさん@ピンキー:2007/07/26(木) 00:36:55 ID:hQRiRAL1
                         刀、           , ヘ
                  /´ ̄`ヽ /: : : \_____/: : : : ヽ、
              ,. -‐┴─‐- <^ヽ、: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : }
               /: : : : : : : : : : : : : :`.ヽl____: : : : : : : : : : : : : : : : : : /
     ,. -──「`: : : : : : : : : :ヽ: : : : : : : : :\ `ヽ ̄ ̄ ̄ フ: : : : :/
    /: :.,.-ァ: : : |: : : : : : : : :    :\: : : : :: : : :ヽ  \   /: : : :/
    ̄ ̄/: : : : ヽ: : : . . . . . . . . . . .、 \=--: : : :.i  / /: : : : :/
     /: :     ∧: \: : : : : : : : : : ヽ: :\: : : 〃}/  /: : : : :/         、
.    /: : /  . : : :! ヽ: : l\_\/: : : : :\: ヽ彡: : |  /: : : : :/            |\
   /: : ィ: : : : :.i: : |   \!___/ ヽ:: : : : : : :\|:.:.:.:/:!  ,': : : : /              |: : \
   / / !: : : : :.ト‐|-    ヽ    \: : : : : l::::__:' :/  i: : : : :{              |: : : :.ヽ
   l/   |: : :!: : .l: :|            \: : : l´r. Y   {: : : : :丶_______.ノ: : : : : :}
      l: : :l: : :ト、|         、___,ィ ヽ: :| ゝ ノ    '.: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : /
      |: : :ト、: |: :ヽ ___,彡     ´ ̄´   ヽl-‐'     \: : : : : : : : : : : : : : : : : : イ
        !: :从ヽ!ヽ.ハ=≠' , ///// ///u /           ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
      V  ヽ|    }///  r‐'⌒ヽ  イ〉、
              ヽ、______ー‐‐' ィ´ /:/:7rt‐---、       こ、これは>>84乙じゃなくて
                  ィ幵ノ ./:/:./:.! !: : : : :!`ヽ     ポニーテールなんだから
              r‐'T¨「 |: | !:.∨:/:./: :| |: : : : .l: : : :\   変な勘違いしないでよね!
               /: : .|: :| !:.!ィ¨¨ヾ、:.:/ !: : : : l: : : : : :.\


89名無しさん@ピンキー:2007/07/26(木) 00:39:46 ID:LPl3J2oh
転帰予報キター――――!!!!!!!
修羅場スレに潜伏してた甲斐があったよ。
過去編も気になるけど現代編もすごく気になる。>>84 超GJ!!
90名無しさん@ピンキー:2007/07/26(木) 00:44:27 ID:nc9+K5jY
待っておりました!!
日本は残念だったけど、いい1週間の心の中休みになったぁ
91名無しさん@ピンキー:2007/07/26(木) 01:00:34 ID:3Xu14IGO
>>84
|ω・`)bグッジョブ!!
サッカーで日本は負けて悔しいが
その分癒されたわ、thx
92名無しさん@ピンキー:2007/07/26(木) 03:16:07 ID:eEw3BXQc
>>84GJです!
キャラの心の揺れが丁寧に描かれていて引き込まれます。
93名無しさん@ピンキー:2007/07/26(木) 07:28:17 ID:rgmoppVL
>>84
GJ!
晴香が可愛いのなんのって…w

心情の描写の仕方も最高すぎる
94名無しさん@ピンキー:2007/07/26(木) 08:44:55 ID:l/cCPtDF
転帰がキター!
転帰がキター!
来てくれたー!

晴香姉さんの八雲中毒っぷりが素晴らしすぎる。
この作品の最萌は間違いなく八雲ちゃん(ぇ
超GJ
95名無しさん@ピンキー:2007/07/26(木) 22:15:38 ID:S0gFRPXD
ヤベェ、姉さん可愛すぎる
>>84GJ!!!
96名無しさん@ピンキー:2007/07/27(金) 15:58:06 ID:L5IeHxh5
正直、地雷ゲーのあかね色に染まる板をプレイしてから
こっちの作品を読むと癒されるわ・・

購買層の欲しい作品ばかり置いているからな
97名無しさん@ピンキー:2007/07/27(金) 16:43:28 ID:BHLlIffj
>>96
どういうところが地雷なのかKWSK
98名無しさん@ピンキー:2007/07/27(金) 16:49:56 ID:bdEtCYs/
>>96
板噴いた
99名無しさん@ピンキー:2007/07/27(金) 19:33:09 ID:R9VfEW1T
転帰予報GJ!!!!!!
100名無しさん@ピンキー:2007/07/27(金) 21:14:22 ID:THmJ6byr
ヤベェ転帰予報ヤベェwww
姉の独占したい気持ちに激しく萌える俺はこの前まで姉は嫌いだったorz
101両手に嫉妬の華を ◆kNPkZ2h.ro :2007/07/27(金) 21:57:08 ID:+Izi+e8r
投下します。
102名無しさん@ピンキー:2007/07/27(金) 21:58:04 ID:l79x1Ru2
転帰予報キタよキタ!!!!
GJ!!!!!!!!!!!!
103両手に嫉妬の華を ◆kNPkZ2h.ro :2007/07/27(金) 21:58:06 ID:+Izi+e8r
「佐藤、お前何言って――」
「――言うね」
「え?」
「離れて……言う、って言ったのよ……」
 視線を佑子さんの方へと固定したまま、ゆらりと佐藤早苗は数歩下がった。
どこからか風でも吹いたら、そのまま薙ぎ倒されてしまうのではないかと思うほど不安定な足取りで。
その危なっかしさは、一瞬とはいえ”離れて”の意味を早合点して迸る激情に絆されていた俺ですら、支えてやりたいと思ったほどだ。
 佐藤早苗の前言の意味を再確認し、それを俺と佑子さんに向けたものと勘違いしたという事実に、羞恥心が臨界点突破を果たしそうになる。
悟られないように平常心を保とうとするが、努力虚しく頬は紅潮し切ってしまっているのが自分でもわかる。
ばつが悪いので顔をやや俯かせつつ、目線だけを上げて佐藤早苗を見据える。
相変わらず佑子さんを舐るように凝視している佐藤早苗は、意図の読めない距離を十数歩置くと、その場で立ち止まった。
時折吹く風に靡く髪を気に掛ける様子もなく見つめ続ける佐藤早苗に対し、それに応えるように佑子さんも熱な眼差しを送っている。
お互いのことをあまり知らないであろう二人が視覚の糸電話を繰り広げるこの光景は、非常に奇妙に見えた。
そこに存在するのは理性から来る感情ではなく、知りたいという欲求を露わにした純然たる本能――こんな状況、初めてだ。
 きっかけもなくここまで相互理解を求め合う二人を前に、恐怖とも不安とも似つかないむず痒い気分になる。
何かに毒されのかと疑ってしまいそうなほど早鐘を打つ心臓が、余計にそれを助長させる。
はっきりと認識しているのにその全貌がわからないというのは、予想以上に気持ち悪いことだとわかった。
思わず脳内で、誰かの声だけが響く真っ暗闇というホラー映画さながらの情景が再生された。
 オリンピックの金メダリストが流すような爽やかな汗とは対極に位置するそれが首筋から滴り落ちている。
だが腕で拭い去るのを億劫に感じるほど俺は、目でコミュニケーションを行う二人に心を囚われていた。

 呆然と傍観者に徹していること十数秒、当事者たる二人の瞳によって支えられていた意思疎通用の橋は、突如崩れ――。

「ごめんなさい!!」

 佐藤早苗の叫び声が空気を切り裂いたのと同時に、今までの緊迫感は全て忘却の彼方へと追いやられてしまった。
 今俺の頭の中を支配しているのは、佐藤早苗が――土下座しているという事実だけだ。
躊躇の気を一片も見せることなく、俺たちの前に跪きそして、地面に額を擦り付けている。
 予期せぬその行動の周りに蝿のように集る純粋な異質さを感じ取り、俺は巣食う畏怖から逃げるように一歩下がってしまった。
「な、何してんだよ佐藤お前!? 自分のしてること……わかってんのかよ」
 か細くて震えた、とても男のものとは思えない声を搾り出すのがやっとだった。
「わかってるからやってるのよ!」
 それも、怒気を含んでいるのかとさえ錯覚してしまいそうなほど切迫した佐藤早苗の声によって吹き飛ばされた。
勢いに押され、生唾を嚥下してしまう。
俺より低い位置で身を縮こまらせているはずの佐藤早苗が、どうしようもないほど圧倒的な存在に見える。
 方向性の違う小さな巨人を連想しつつ、必要不必要の区別なく様々な物が入っている俺の机のような頭で状況を整理すようとする。

「あれを……あのメールを、仲川の携帯から送ったのは――あたしだから」

 しかし俺の脳内整頓を一瞬で遮った佐藤早苗の言葉が、受け入れる以外に道が残されていない現実を突きつける。
 ――あのメール。
 記憶の書斎から引っ張り出す努力をしなくても、それが意味することは鮮明に頭に刻まれている。
送った覚えがなくても、事実として俺の携帯電話から送信されていた、佑子さんを拒絶したメールのことだ。
その具体的な文面を思い出すのも憚れるほど、反吐が出そうになる文字の羅列。
自分が送っている訳がないという確信があっても、精神的衝撃の被害者である佑子さんに対して罪悪感を感じてしまった、最低の戯言。
 俺はその存在を確認したものの、佑子さんに誠意を見せる為に理由やら経緯やらの追究を後回しにしていた。
だがあのメールの背景について状況を確認するだけで、確信まで目と鼻の先にある推測が生まれる。
そして佐藤早苗の告白が「ひらけごま」となって、俺の中にいる優柔不断な裁判長に判決を下らせた。

 ――佑子さんにあのメールを送ったのは、佐藤早苗だ。
104両手に嫉妬の華を ◆kNPkZ2h.ro :2007/07/27(金) 21:59:07 ID:+Izi+e8r
 佐藤早苗の顔を見た時から、薄々勘付いてはいた。
なのに結論を導くのが遅くなったのは、勿論佑子さんの誤解を解くのを優先したが為だ。
それは断言できるが……理由が他にあることも俺は自覚している。
単純なこと――認めたくなかっただけだ。
自分が好きだった女の子が、三百六十度どの方向から見ても非としか取れない行いを働いたという事実が気に入らず、真相リストにそれが侵入してくるのを拒絶していただけだ。
いつの日かドラマの中に出てきた、意中の女の子が犯人だとも知らずにその娘の無実を証明しようとして結局彼女に裏切られてしまった主人公を冷めた視線で刺し殺していた、恋愛感覚皆無の俺がまさかそんな心理状態に陥るとはね……笑うしかないな。
 気恥ずかしさのせいで佐藤早苗から目を逸らしつつ、無理に自嘲的な笑いをしようとする。
しかし、移動した視界の先に広がっていた、佐藤早苗に土下座されてあたふたしている佑子さんの姿が、空笑いを喉下で飲み込ませた。
それを更に肺の奥へと追いやるように息を大きく吸い込みつつ、再び佐藤早苗を見る。
「佐藤、お前が何で謝っているのかはわかったよ」
 そして、佑子さんが困っているということが、俺の次に口にする言葉を決定させた。

「でも謝るくらいなら、何で俺の携帯を使ってまで佑子さんにあんなメール送っちまったんだよ?」

 佑子さんの戸惑っている様子なんてもう見ていられない。
俺が見たいのは、笑顔の佑子さんだ。
陰り一つない、暗澹としていた俺の心を明るく照らしてくれた、澄み切った太陽のような微笑みだ。
 あれをもう一度拝む為にしなければならないのは、佑子さんの蟠りを取り除いてやることだ。
だからこそ、俺は佐藤早苗に今のような問い掛けをした。
話についていけていないであろう佑子さんに全てを説明することで、思考の大海原から救う為に。
「まさか悪戯でしただなんてことないだろ? 何か理由があんだろ」
 子供に軽い尋問をしている親の心境はこんな感じなのかなと思いつつ、なるべく穏便な口調で言った……つもりだ。
「……それは……」
 俺の言葉を受け地面から頭を離しはしたが、顔を上げることはせずに未だ地面を睨みつけたまま佐藤早苗は硬直している。
それに、小さく「あの」や「えと」を繰り返すだけで中々俺の質問に答えてくれない。
刻々と経過する静寂の時間が、徐々に不安を積み上げているのを感じる。
焦燥感が増大し、貧乏揺すりが止まらなくなっている。
 正直、俺はまだ佐藤早苗のことを信じたいと思っている。
佐藤早苗の行為には何かやむを得ない事情があり、仕方がなくやってしまったのではないかと。
もしそうなのであればそのことを佐藤早苗がしっかり佑子さんに言って、理解を得た上で許しを請い、それを佑子さんが許す――そんな風になるのがベストなのだと。
 ついさっき佐藤早苗を感情に任せて怒鳴りつけた俺が言うにはあまりに傲慢なことだが、俺はやはり誰にも傷付いて欲しくない。
 だから――。

「佐藤、早く言ってくれ……」
「…………」
「言ってくれないと、何もわからないんだ……」
「……、……」
「……佐藤……」
 段々と俺の声まで萎縮してきている。
このままでは気まずい沈黙に飲み込まれてしまうのを本能的に感知しつつも、佐藤早苗への催促以外の言葉を言う勇気はない。
昨日今日と何故かやけに感情的になっている俺の口から、再び佐藤早苗が出てしまうという可能性を恐れているから。
全く……こんな臆病者が、ちょっと好きな子との仲が良好に向かっているってだけで有頂天になって、覚悟のない格好だけの解決策を提唱するとは。
今の俺の姿は、きっと失笑にすら値しないだろうな。
 ただ待つことしかできないことに嫌気が差し、誰にも聞こえない程度の歯軋りをする。
こんな時に突っ立っているだけの自分を心の中で卑下しながら、全ての感覚を封じ込められたら幸せだなんてことを考えてしまっている。
「…………」
 俺と佐藤早苗両方の無言が重なり合い、とうとうサイレントタイムへ足を突っ込んだなとぼんやりと考えていた。

「あの……」

 その寂寞は寸でのところで掻き消された。
砂漠の女神であるオアシスのような、コンクリートを突き破って咲き誇っている花のような……何とも形容し難い澄んだ声が俺の鼓膜を震わした。
すぐに聞こえてきた方向を向くとそこにはやはり――佑子さんがいた。
こちらを伺うかのように控え目な視線を送ってくる佑子さんを見て、何だか言葉を紡ぐ勇気が少しだけ湧いた気がした。
何とも都合のいい男だな、俺は。
105両手に嫉妬の華を ◆kNPkZ2h.ro :2007/07/27(金) 22:00:15 ID:+Izi+e8r
「どうしたんですか?」
「あのですね、間違ってたら申し訳ないんですが……」
 何とも言いにくそうにしている佑子さんを前にして、俺は釣りかかった魚を逃すまいとする貪欲さで以って尋ねる。
「いえいえ、もう何でも訊いちゃって下さい。今なら俺の生きてきた十六年の中の最高羞恥体験まで言っちゃいますから、どうぞどうぞ」
 よっぽど無言の世界を嫌がっているのだろう。
阿呆みたいに饒舌になっている自分に呆れつつ、笑顔を佑子さんに向け平生を装う。
それが効いたのか、ほんの少しだけ佑子さんが表情を緩ましたのを俺はしっかりと目に焼き付けておいた。
「その、彼女って……仲川くんのお友達ですよね?」
 さっき俺に向けていたものよりも謙遜した目線を佐藤早苗へと注いでいる佑子さんの姿を見て、即答する。
「佐藤はまぁ、俺の友達ですよ。佐藤が何か?」
「えぇと、本当に失礼なんですが、お話を聞いていると、私にあのメールを送ったのって、その……」
 そこまで言うと佑子さんは目を伏せてしまった。
そうしたくなる気持ちは物凄くわかる。
自分の過ちはすぐに認められるけど、案外他人の過ちは気を遣ってしまって指摘し難いものだ。
その思いを汲み取って、俺は腹を据える。
「俺の方からも謝ります、本当にすいません」
 佑子さんに向かって頭を下げる。
俺のクラスを受け持っている熱血体育教員の『頭を下げる時は四十五度以上でも以下でも失礼』だとかいう教えを完全に無視して、背中がほぼ地面と平行になるまで。
そういえばその体育教員は『男が頭を下げるべき時は素直にしろ』とも言っていたが、少なくともそれは守れているな。
「いえ、別に仲川くんが謝ることじゃ、あっ、それは佐藤さんに謝れって言っている訳でもなくて、つまりですね……」
 言葉を頭の中で整理しているであろう最中の佑子さんの様子を見ていると何とも和む。
ずっと両手で口を押さえているが、きっとそれは癖なのかもしれないな。
そういう小さな発見をすると、ちょっと『俺だけが知ってるんだぜ』的優越感と共に微笑ましい気分になる。
 一人で飯を食いながら昼ドラを見ている母親のような気持ちを満喫しつつ、頬が緩みそうになるのを感じる。
「もしかしてですけどね、仲川さんって」
「はい! 何でしょう!」
 とりあえず自重します。
明らかな夢心地とまで呼べてしまいそうな俺の心境とは正反対な語気を含んだ佑子さんの言葉が、表情を引き締めさせた。
シリアスなこの場で俺は何を考えていたのだろうか……。
後で本当に自分のことを殴っておこうと思う。
 心中で話に一応の決着を着けて、今は佑子さんの言動に気を払うことにする。
「佐藤さんに、詳しく話してないんじゃないかな、なんて思って……」
「え?」
「いえですね。佐藤さんが私にあんなメールを送ったということは、とりあえず方向性は別にして私に関心を持っていたということですよね?」
「ま、まぁ、そういうことになるんじゃないんですかね……」
 何だか急に何も言いたくなってきている自分がいる。
誓って佑子さんにそんな気がないのは断言できるのだが、何と言うか佑子さんに問い詰められているような錯覚に陥ってしまうのだ。
ヤバイな、とうとう被害妄想の毛まで出てきてしまっているのかもしれない。
ちょっと今日は家に帰ったら姉に殴られてこようかな……やっぱ止めとこ。
 雑念を払拭する為に軽く頭を振ってから、再び佑子さんに視線の先を定める。
「多分、佐藤さんは誤解してるだけだと思うんですよ」
「誤解って、どんな?」
「私なら――」
 一拍置いてから、言葉は続けられた。

「――自分の友達が見知らぬ人と仲良くしているのを見たら、不安になると思います」

 客観性抜群のその発言が、俺の中で蠢いてた釈然としない感情を吹き払い、全てを繋げた。
 何だ……俺が勘違いしてただけじゃないか。
俺は今まで佐藤早苗の佑子さんへの行為を、佐藤早苗の悪ふざけだと思っていた。
実際佐藤早苗自身も悪ふざけだと認めてたから、それ以上深く考えはしなかった。
だが、佑子さんの言葉で気付かされた。
佐藤早苗がどんな心境でいたのかということを。
 つまり、佐藤早苗から見たら、俺と佑子さんの関係は物凄く怪しく映っていたのだ。
そりゃそうだ、自分の友達である俺が他校生徒なんかと親密にしてたら、不審に思うのも頷ける。
だから、佑子さんのチョコを蹴飛ばしたのも、俺にしつこく佑子さんとの付き合いを止めさせようとしたのも、あのメールを俺に送ったのも……全部俺を心配してのことだ。

 ――結局佐藤早苗は、友達思いだったってだけだ。
106両手に嫉妬の華を ◆kNPkZ2h.ro :2007/07/27(金) 22:01:18 ID:+Izi+e8r
 少々そのやり方は過激だったが、佐藤早苗の行為には一片の悪意もなく、寧ろ誠意が溢れている。
それに俺を気遣うあまり佑子さんに強く当たってしまったことに関しても、土下座してまで謝っている。
ということは、既に事態の半分は綺麗さっぱり解決しているってことじゃないか。
 後の半分は――俺の役目だ。
そもそもこんなにややこしい状況になってしまった要因は一つ、佐藤早苗が俺と佑子さんの関係を表層的にしか知らないからだ。
佐藤早苗からすれば、俺は道端にたまたまいただけの娘に一目惚れして好きになったみたいに解釈されているのだろう。
事実、俺はどのような経緯で佑子さんを想うようになったのかをまだ伝えられていない。
喫茶店で話していた時だって、いざ言おうとしたところでコーヒー溢したり何かしてうやむやになってしまったしな。
だから俺は佐藤早苗に理解させなければならない――俺たちがどれだけ”深い”のかということを。
言葉よりももっと単純で正確なやり方で。
「佐藤、もういいから顔を上げてくれ」
 そう言いながらしゃがみこみ、佐藤早苗に手を差し伸べる。
「ありがと……仲川……」
 まだ引け目を感じてるのか遠慮がちに目を伏せたままだが、それでも自身の左手でしっかり俺の手は掴んできた。
掌に伝わる弱々しい力に揺れかける心を隠しつつ、一気に佐藤早苗の体を持ち上げる。
両の手と足を砂や土で汚している佐藤早苗の姿は、外観に反してとても神聖に見えた。
その汚れが友情の為だと知っているからだろうが、純粋に格好良いと思った。
こいつとはこれからも友達……都合良く行けば親友くらいの関係でいたいな。
 穏やかな気分が自然に表情を柔らかくした。
佐藤早苗に微笑を見せながら、そんな笑顔とは全然合わない言葉を口にする。
「今まで悪かった。しっかり伝えときゃ良かったのに。ごめんな、佐藤」
 一瞬で呆けた顔になる佐藤早苗を見て、俺の言葉が今度はしっかり伝わっていることを確認する。
すぐに続ける。
「今から”教えてやる”から、見といてくれ」
 言い終わった後体の向きを佑子さんへと向ける。
今まで蚊帳の外だったのに突然話へと引き込まれたからだろう、佑子さんは若干体を震わした。
構うことなく佑子さんとの間にあった数歩の距離を即座に詰める。
互いの胸の間にあるのは拳一つ分だけの間隔……って、ちょっと近付き過ぎたな。
ほら、いきなりそんなに迫るから佑子さんが不安げな目でこちらを見上げてるじゃないか。
一歩下がろうかと考えたが、ここまで来て退いたら男じゃない。
 覚悟を決め、咳払い一つ。
「佑子さん、お願いです。”あの続き”、聞いて下さい」
「あの続きって?」
「説明してなかったですよね。俺が佑子さんを煙たがる訳がないって根拠を」
「あっ……それって……」
 瞬間的に顔をりんごのように真っ赤に染める佑子さん。
女の全てをわかった気でいるようにしか見えない少女漫画の男じゃないが、今の俺には佑子さんが何を期待しているのかが手に取るようにわかる。
もし間違ってたとしても、俺一人が笑い者になるだけで済む。
 自分の言葉によってどのような未来になるのかを幾度となくシュミレーションしながら、納得を得たところで口を開ける。

「俺は――佑子さんが好きですから」

 これで、言うべきことは言った。
もし俺の告白を佑子さんが受けなかったら、それで何もかもがお終い。
佐藤早苗に『あたしの言った通りじゃん』とか罵られながら泣き寝入りするだけだ。
逆に俺の告白を受けたとしても、それで全ては完結する。
俺と佑子さんは晴れて結ばれるし、佐藤早苗にも自然にこの事実を受け入れさせることができる。
まさか佐藤早苗も、会って二日”だけ”の男の告白を受け入れるだなんていう風に佑子さんのことを軽視してはいないだろう。
そうなると、佑子さんが俺の告白を受けるというのは、俺たちが即興の関係じゃないことを示すことに繋がる。
 まぁそれにしても……本当に言ってしまったんだな。
覚悟を決めていたつもりだったが、やはり軽い後悔の波が心を濡らしている。
正直フラれたらどうしようかってマイナス思考ばかりが先走ってしまっている。
こんなに格好付けておいて俺の勘違いだったら、多分完治不能の女性不審症に陥るだろうな。
そうなったら「男の世界」の住人になって一生友情に生きていくことにしよう……うわっ、想像したら吐き気してきたよ。
 一生に一度のお願いを神に捧ぐこと数秒。
「……私も……」
 完全思考停止。

「私も、仲川くんが好きです……。他の誰よりも……」
107両手に嫉妬の華を ◆kNPkZ2h.ro :2007/07/27(金) 22:02:40 ID:+Izi+e8r
 数秒後現実を飲み込んだ瞬間に体を包み込んだのは、穏やかな多幸感だった。
何だか不思議な感じだ。
思い切りガッツポーズ作ってもっと喜んでもいいくらいの奇跡なのに、今はただ呆然としていたい。
心に蓄積されていくかつて味わったことのない温かみを全身で感じていたい、というのが妥当な表現かな。
もっと直接的に言えば――俺が知っているどの表情をも凌駕した佑子さんの最高の笑顔をずっと見続けていたいってところだ。
 絶対に俺は今日で一生分の幸せを使い切ってしまったな。
無論それで構わない。
たとえそうだったとしても、それ以上に大切なものを俺は手に入れたのだから。
「それってつまり、俺の――」
「はい、仲川くんの彼女にして下さい」
 未だに現実を虚ろにしか理解できない小心者な俺が今更なことを訊こうとしたところを、佑子さんの言葉と――差し出された右手が遮った。
この右手を掴めば俺と佑子さんは恋人になる。
ならば、選択肢は一つしかない。
あぁないとも……だけど、大丈夫かな。
恋愛を含めて何事も出だしがかなり肝心だよな。
いや手は洗ってるけど、さっきまで緊張状態の真っ只中にいたことを考えると、今の俺って汗ばんだりしてないだろうか。
万が一にでも気持ち悪いとか思われたらいきなりビリでレーススタートになっちゃう訳であって、ここは一旦ハンカチで拭いた方が……ってそんなもんは持ってないしどうしよう…………。
「佑子さん!」
 いざとなるとうだうだ小言ばっかり言うようになるチキン根性に喝を入れる為、雄叫び一発。
うん、何だか佑子さんの名前を呼んだら物凄く自信がついた。
「は、はい! 何でしょう……」
 耳まで真っ赤にした佑子さんが俯いた状態で尋ねてきた。
その佑子さんが空に投げ出している右手を、俺は両手で強く握り締める。
あまりの柔らかさに驚き、手繋いだままでいたいななんて煩悩に支配されそうになる心を叱咤する。
そして――。

「俺、佑子さんの彼氏になります! てかならせて下さい! よろしくお願いします!」

 さっきまでの不気味なまでの落ち着きはどこへやら、俺の頭の中は酷くざわついている。
本当に、土手の真ん中で俺は何大声でこんなこと言ってるんだろ……。
これをクラスの連中に聞かれてたら明日から登校拒否起こしそうだな。
まぁ断られてはいない訳だから別にいいんだが……て、逆に断られてないと、彼女なし同盟の連中共に何されるかわからんな。
きっとあいつらとの友情もそこまでになってしまうのかな。
ごめんな皆、仲川信悟会員番号二十八番は今日を以って同盟を脱退します。
天の上から皆に彼女ができることを願いつつ、佑子さんとラブライフを共有するよ。
「こちらこそ、ありがとうございます」
 気付けば顔を上げていた佑子さんが、微笑みの爆弾を投げかけてきた。
あれ、何で滅茶苦茶苦しい壁だってぶち壊す勇気とパワー沸いてきてんだろ?
まぁいいや、とにかく今はこの幻想とさえ思える甘美な事実をたっぱり堪能させてもらおう。
「何だか、恥ずかしいですね」
「そうですね、佑子さん」

「へー……。良かったね仲川。おめでとう……」

 妄想ワールドの玄関口まで来たところで、一気に現実へと引き戻される。
声のした方を向くと、佐藤早苗が両手を小さくパチパチと叩いていた。
そういえばこいつのことをすっかり忘れていたが、元々は佐藤早苗の為にやったことだったんだよな。
祝辞を述べてくれるところから察するに、佐藤早苗にはちゃんと俺と佑子さんの関係について理解してもらえたようだ。
 これで一件落着。
一時はどうなるかとヒヤヒヤしたが、ちょっと勇気を出せば怖いくらい簡単に済む話だったな。
「おう、サンキューな」
 意気地なしの俺が結果として佑子さんに告白できたのは佐藤早苗のおかげでもあろうから、そのことに関して感謝の意を示す。
つい前は怒鳴ってたくせに心変わりの激しい奴だな俺は、なんて思った時――
「それじゃあね……」
 ――結局終始俯き気味だった佐藤早苗は最後も俺に顔を見せることなく、俺と佑子さんの間を抜けて走って行ってしまった。
佐藤早苗が通る際に佑子さんの手から離された俺の手が宙を虚しく泳いでいる。
再び自分から繋ぐのは恥ずかしかったので仕方なくポケットにその右手を仕舞いながら、手でメガホンを作る。
そして、既にかなり遠くに見える佐藤早苗の背中に向かって叫ぶ。
「佐藤ォー! これからも友達でいてくれよなぁ!」
 生憎その声は届かなかったのか佐藤早苗が止まることはなかったが、俺の心は九月一日に夏休みの宿題を終わらせた時のような達成感に満ち溢れていた。
108両手に嫉妬の華を ◆kNPkZ2h.ro :2007/07/27(金) 22:03:45 ID:+Izi+e8r
「それじゃ帰りましょうか、佑子さん」
「そうですね。もう暗いですもんね」
 いつの間にか夕陽は沈んでいて、この時季ではまだ空の受付担当時間が長い月が地面を照らしていた。
携帯電話で確認してみると、もう時間は六時を裕に超していた。
別に俺は男だし、門限もないから日付が変わりさえしなければ誰にも心配されることはないのだが、心配なのは佑子さんだ。
夜道をこんな可憐な女性が歩いていたらやりたい盛りの男子生徒や、人生に疲れたおっさんやらに絡まれるかもしれない。
こんな時間まで残すきっかけを作ってしまった訳だし、そこら辺の責任はしっかり果たさないといけないな。
……とかいうのは勿論、佑子さんと一緒に帰る為の口実な訳だが。
 とりあえず、それとなく聞いてみることにする。
「そういえば暗いですね。何かこんなに暗いと一人じゃ不安になりません?」
「そうですね、暗いとことか狭いとことか私苦手ですし」
 おっ、結構いい方向に話が進んでいる。
もしかしたら本当に、夢の「ナイトツアー、ウィズ佑子さん」が実現するかもしれない。
「ですよね。あの、よければ……」
「でも、迎えが来るから恐くないです」
 良かった、これで佑子さんの安全は守られた……って、迎え?
「あの、答えられる範囲でいいんですが、迎えって一体?」
「それはですね……」
 そう言うと、佑子さんはスカートのポケットから携帯電話を取り出した。
これを見てるとどうしても未だにあのメールのことを思い出してしまう自分がいることに気付き、嫌な気分になる。
”あれ”は佐藤早苗の過度な心配が生んだ悲劇の爪痕なんだから、早く忘れないとな。
 複雑な心境な俺をよそに、佑子さんは少し携帯を指先で弄った後、画面を突きつけてきた。
「この番号に掛けると、迎えが来るんですよ。便利ですよね」
 笑顔な佑子さんが持っている携帯の画面に映っているのは、「迎え専用」の文字と普通の携帯電話の番号だった。
「佑子さん? ……その迎えって、黒くて凄く長い車だったりしません?」
「リムジンっていうんですよね、あれ。どうやって駐車してるのか不思議でなりません」
 物凄く普通に、物凄くおかしなことを言ってる気がするのですが……と言いたいのを寸でのところで思い止まる。
「そうですね……。ところで、佑子さんの家には、ご家族以外にどなたかいたりしますか?」
「父が雇っている使用人が何人かいるくらいで、後は妹と両親だけですよ?」
 使用人か……物凄くいい響きですね。
貧民に片足突っ込みかけの俺の家じゃ数光年待っても縁のない存在ですよ、本当に。
それにしても使用人が迎えに来るんじゃ、俺が誘ったって嫌がるだろうな。
下手したら、『夜道は危ないから一緒に帰ろうね』とか鼻息荒くしながら言うおっさんと同じように見られるかもしれない。
惜しいが、ここは我慢だ。
大丈夫、まだまだ俺たちの恋人生活は始まったばかりだ。
焦らず、これから徐々に距離を詰めていけばいいんだ。
「ありがとうございます……。そんじゃ俺はこれで失礼しますね」
「え、帰っちゃうんですか?」
「はい、姉に用事がありますので」
 そう言いながら、気持ち良く別れられるように笑顔を向ける。
「これから絶対に佑子さんを幸せにしますんで、今後ともお願いします! では」
 そして、そのまま全速力で駆け抜けて行く。
恥ずかしいことを言った後ってのは妙に走りたくなるなとぼんやり思いつつ、俺は土手の真ん中をどこまでも突っ切っていった。

 ――数分後。
「ぜぇ……ぜぇ……ぶはっ……」
 そこには、土手の真ん中で無様に息切れした俺の姿が。
うん、ここ一ヶ月佐藤早苗のことで浮かれまくって部活出てなかったのをすっかり忘れてた。
物凄く体力が落ちてる。
ヤバイな、このままじゃ今年のマラソン大会は三桁突入かもしれないな。
 額に浮かぶ汗を袖で拭いつつ辺りを見渡し、人が他に誰もいないことを確認しておく。
正直に言うと、ここまで走ってきたのは佑子さんに対する恥ずかしさもあるが、もっと別の理由があるのだ。
誰もいないここならうってつけだなと何度も人がいないことを見渡しながら確かめ、自分で納得できたところで鞄を適当なところへ放り投げる。
そして、天を仰ぎながら、両の拳を握り締める。

「よっしゃぁあああああ!!!!」

 心の中に積もりに積もった嬉しさを声に乗せ一気に吐露する。
俺の雄叫び木霊する土手の真ん中で、俺は自然に佑子さんの顔を浮かべていた。
あの人とこれから恋人として接すことができると思うと……頬が緩むのを止められない自分がいるのに気付いた。
109両手に嫉妬の華を ◆kNPkZ2h.ro :2007/07/27(金) 22:05:17 ID:+Izi+e8r
「ただいまぁ! 母さん、姉ちゃんどこ?」
「沖美なら自分の部屋だけど」
「サンキュ」
 一人土手で咆哮の花火を上げた後、俺は家に帰ってきた。
そのまま台所で晩飯を作ってる母親に変に思われないように、自然な流れで姉の部屋がある二階へと向かう。
そして姉の部屋の扉を軽くノックする。
「姉ちゃん、俺だけど入っていい?」
「どうぞ〜」
 腑抜けた姉の声に安堵しながら、俺は静かに扉を開ける。
何故か既にパジャマ姿の姉はまだ湯気の立っている黒いショートヘアをそのままにして、物が散乱したベッドの真ん中で嬉しそうに漫画を読んでいた。
「おい、それ前も読んでなかった?」
「いいの、三部は何度読んでも飽きないんだから」
 漫画から目を離さないまま姉は返答してきた。
てか人と会話する時は相手の目を見て話そうぜ、姉弟なんだかさ。
「まぁそれはいいんだ。姉ちゃん、悪いんだけどこれ洗ってくれない」
 そう言いながら、俺はあらかじめベルトを外しておいた制服のズボンを脱ぎ、姉に差し出す。
「えぇー、嫌だ。何で高校男子のむさ苦しいくて汗臭いズボンをわざわざ洗わなくちゃならない訳?」
「そう言わないでくれ。俺は洗濯機の使い方をしらないんだ。それにだな……」
 俺はズボンの一部分を強調するように姉に見せ付ける。
勿論、見せているのは佐藤早苗との一件でコーヒーを溢して染みになってしまった箇所だ。
黒に対しての茶色だからそれほど目立ってはいないが、やはり近くから見ればわかってしまうし、何よりコーヒー臭い。
これをどうにかしたいね。
「うわっ、やっちゃったね。おとなしくクリーニングに出せば」
「そんな金掛かることできるかよ」
「自業自得でしょ」
 うっ……そこを突かれたら何とも言えない。
いちいちことの顛末を説明するのも面倒臭いし、かといって僅かな小遣いで細々とやりくりしている高校生一般男子の俺にクリーニング代なんてとんでもない。
それだけで一ヶ月ピンチだ。
 しょうがないな、奥の手を使うとするか。
「頼む姉ちゃん。『俺は今すごーく機嫌がいいんだ。俺の今の気分と同じくらい晴れた空が映りこむぐらいピカピカに磨いてくれ』」
「”つけ”は高くつくよ?」
 そう言いながら姉は喜んで俺のズボンを受け取った。
ふぅ、一昨日三部読んでといて正解だったな。
それにしても、自分の好きな漫画のネタに反応するなんて、姉もまだまだ子供だな。
「よろしくね」
 俺より三つ上の姉にそう思いながら部屋を出ようとする。
「待って、信悟。私の部屋から出て行く時は……」
 しかし不意に止められる。
何か忘れ物したかなと考えながら振り向くと、姉が物欲しそうな目で俺を見つめていた。
……というより、”言って欲しそうな目”だな。
ま、クリーニング代浮くんだし、それくらいいいかな。
 額に手をかざしながら、姉曰く『流暢な感じ』で言う。
「アリーヴェデルチ(さよならだ)!」
「うん、六十点だな」
 妙に厳しい姉の採点基準を別に恨むことなく、俺は揚々と姉の部屋を出た。
 そして、その足でそのまま自分の部屋へと入る。
さっき姉のベッドの上の有様を見てちょっと引いてたが、俺の部屋はそれ以上だった。
というか足の踏み場が殆どない。
いつか整理しようという永遠に達成されることのないであろう約束を自分に取り付けながら、ベッドへとダイブする。
ちょっと固いベッドの感触に包まれながら、佑子さんの手はもっと柔らかかったなんて変態じみたことを夢想してみる。
これからはあの手に自分の手を絡めることが許される訳か……いいな、それ。
小鳥の囀り響く通学路を一緒に歩いている時にふと手を繋ぐと顔を真っ赤にしながら繋ぎ返してきたりとか。
電車の中で吊り革の代わりにお互いの手を握り合ってそこから伝わる体温に心臓を高鳴らせるなんてのもシチュエーション的にいいかもしれない。
後は佑子さんの命令の赴くままに自分の精液のついた指を舐め取るとか……って俺何でこんなキモい妄想しちまったんだろ。
 ベッドに頭を叩きつけるが、ただ反発するだけ。
阿呆らしくなり、ベッドに横になりながらこれからのことを思う。
佑子さんと甘い生活を送り、そのことを佐藤早苗に冷やかされつつも楽しく笑い合ったり……ん?
 「佑子さん」……「佐藤早苗」……この二人を同時に思い浮かべた時、ふとこんなことを口ずさんでいた。
「あの二人……今日何で一言も会話しなかったんだろ」
 他人同士なんだから当たり前かと自問自答を完結させながら、俺は母親の「ご飯よー」の声に誘われて呑気にリビングへと向かった。
110両手に嫉妬の華を ◆kNPkZ2h.ro :2007/07/27(金) 22:06:12 ID:+Izi+e8r

          ―――――――――――――――――――――――――          

 ――『佐藤はまぁ、俺の友達ですよ』
 ――『これからも友達でいてくれよなぁ!』

 ――『友達』……『友達』……『友達』……『友達』……。

「違う!!」
 昂ぶった感情を抑え切れず、手元にあった枕を壁に力の限り投げつける。
そこまで派手な音を立てることもなく、叩きつけられた枕はすぐに床へと落下した。
何も抵抗せず流れに従うその様は、まるであたしを嘲笑しているようで余計に腹が立った。
 何……このまま現実を受け入れろっての!? あたしは仲川の友達? 冗談じゃないっ!
あたしは仲川の彼女だ! 友達なんて枠に収まるほど小さい関係じゃないんだ!
 だって、あたしたちには”絆”がある……。
”あの日”のことを思い出しながら、毎日ポケットに入れている”あのハンカチ”を手に取る。
デザインも何もないこの質素なハンカチに、一体どれだけの想いが詰まっていることか。
そう、これはこの世で唯一仲川の優しさを具現化しているもの……。
仲川が持っている、人を上辺だけで判断しない何よりも澄んだ心を顕著に示しているんだ。
そしてそれを持たされているのはあたし……そのあたしが、どうして仲川の彼女じゃないんだ!?
どうしてあんな訳のわかんない女に仲川の彼女の席を奪われなければならないんだっ!? おかしいっ!
 ……そうよ、わかっていた。最近の仲川、ちょっと変だったもんね。
何故かあたしがあげたチョコが義理だとか言い出したり、どこから湧いてきたのかわからないような女に関わったりするし……。
でも全部、あの女のせいだよね。絶対に仲川に何か吹き込んだに違いない。
 全く……調子に乗るな。何が『誰よりも仲川くんが好きです』よっ!
あたしは仲川のことを一年も想い続けて続けて……それでやっと結ばれようとしたというのに。
たった二日しか仲川と接していないようなあの女が、仲川と付き合っていいはずがない。
どうせ仲川の優しさに惚れ込んだんでしょうけど……既に仲川の”隣”はあたしが貰ってるの。
あんな仲川の上辺だけを見て好きになっただなんて勘違いしてる馬鹿女に……仲川は渡さない!
 ……渡さない? 何を言ってるのかしら、あたしもちょっと頭を冷やさないとね。
仲川はあの女のものなんかじゃない。仲川はずっとあたしのものだ。
昔を思い出すんだ。あたしが勇気を出せず告白できない間の一年間、あたしが仲川を忘れたことがあった?
逆に、仲川があたし以外の女を見たことがあった? 確かにその関心が外面的なものだとはわかっている。
だけどあたしと仲川は形式として結ばれなくても、その間に割って入れる者は誰一人としていなかった。
それは、あたしたちが結ばれるべきだということの証明だ……絶対だ!
 だから、あの女もあたしと仲川の関係を壊すことなんてできない。だけど、今は引いといてあげる。
今回は”初めてのこと”で取り乱し過ぎて、仲川からの信用を著しく低下させてしまったから。
まずは、今まで通りの関係を継続できるようにおとなしくしていることにしよう……。
そういえば、あの時はあの女に助けられたな。
あの女に謝ったのなんて建前だけで、理由もなかったから仲川にそれを聞かれた時はどうしようかと思った。
そしたらあの女、間抜けにも適当な理由を勝手に作ってくれちゃった。
おかげで好感度が少しだけ上がった……”友達”というベクトルの方へとねッ!
 えぇ、そのことに関して、物凄く感謝してるわよ。
でも、すぐに返してもらうから……何倍もの利子をつけて、絶対に返してもらうから。
あの女にも、自分の好きな人が盗られていく苦しみをしっかり教えてあげる。
その為にも、せいぜいしばらくの間仲川と過ごして、仲川のことをもっと好きになるがいいわ。
 ――嵌れば嵌るほど、抜け出す時は大変だけどね……。
「ばーか」



「早苗、ご飯できたわよ……。って、どうしたの?」
「どうしたって? お母さん」
「何だか、嬉しそうに見えるわよ。いいことでもあった?」
「ううん、ないよ」
「そう、じゃあ何で?」

「これから、いいことがあるから」
111両手に嫉妬の華を ◆kNPkZ2h.ro :2007/07/27(金) 22:07:12 ID:+Izi+e8r

          ―――――――――――――――――――――――――          

 三月の冷たい夜風が、興奮し切った心を気持ち良く冷やしています。
これだけ気持ちに抑揚があった日は初めてです。悲しい、辛い、死にたい、そんな負の感情も沢山経験しました。
でも最後にはやっぱり最高のハッピーエンドが待っていました。
 私にとっての初めての恋人――仲川信悟くん。
仲川くんとはたった二日間しか時間を共有していません。それだけ関係が浅いということも認めます。
でも、それでもこんなに想いが通じ合ったというのは――私と仲川くんが結ばれる運命だったということなんですよね。
”同じ傷”は私と仲川くんが会う為のきっかけであり、二人三脚で生きて行く為のリボンなのでしょう。
そしてそれは同時に、これからもそれは私たちを確固たるものとして結びつける為の”絆”として存在し続けます。
”傷”は事実として消えませんが、それ故の永遠……何て素晴らしいのでしょう。
 ……それにしても、今日は今後のお付き合いについて、反省点を見出しましたね。
私はまだまだ仲川くんのことを知りませんし、それはこれから知っていけばいいだけです。
でも、”これ”だけは忘れてはいけませんね。

 ――仲川くんが私を嫌うことは絶対にない。

 私は”あんなメール”一つに惑わされて、仲川くんに醜い一面を見せてしまいました。
これについては今後も気をつけておかなければなりませんね。
今回のことについても、もしかしたらあれで仲川くんから愛想を尽かされていたかもしれませんしね。
 とにかく私はこれから仲川くんの彼女として頑張っていけばいい。そうすれば、自ずと仲川くんとの幸せへの道は切り開かれていきます。必ず。
そのことに気付かせたのは確か……佐藤さんでしたっけね。非常に可愛らしい容姿をされた方でしたね、彼女。
男の方なら殆どの方はあぁいうのがタイプなんじゃないかと思いますよ、本気で。
それに仲川くんが友達でいたいと言っていたほど人格的にも優れている方なのでしょうから、私も仲良くなりたいですね。
 ……まさか、仲川くんのことを好きな訳ないでしょうからね。
万が一にでも佐藤さんが仲川くんを好きだとするなら……言い方が悪いですが、それは非常に滑稽なことですね。
たとえば私のチョコを蹴っちゃった時ありましたけど、もし”そうであるのであれば”あれはわざとだということになります。
それをあたかも事故のように装っていたってことになりますけど……正直、わざとにしか見えませんでした。
あのメールだって「仲川くんが心配」だなんてのはただの口実で、結局は醜い嫉妬に狂っただけということですよね……て、それは私が咄嗟に考えてあげた言い訳でしたね。
何だか仲川くんがやけに佐藤さんに関心を払うので、離れさせたい一心でやってしまった感情的な行動でした。
そこも反省しないといけませんね。
 いずれにせよ、佐藤さんは自分がしてることによってどんどん状況を悪くしているんですから……馬鹿としか言い様が……。
あっ、勿論”仮の話”ですから。好きでないなら全然問題ありませんからね。
これからも仲川くんの大切なお友達として高校生活を謳歌して下さいね。
 ――そう、お友達としてね……。



 気付けば、迎えの車がやって来ていました。
「お待たせしました」
 中から出てきた使用人の一人の男性が運転席から出てきて、助手席へと私を案内してきます。
ドアが開けられ、中に入るように促され、そのまま助手席へと座ります。
この幼少の頃から繰り返されてきた形式的で無感動な行いも仲川くんが行ってくれたらどれだけいいことか……。
「それでは」
 運転席に戻った使用人が、車のエンジンをかけます。
その姿を隣から眺めながら、口を開きます。
「すみませんが、二学期からは送り迎えはいりませんので」
「良いのですか? どうかされました?」

「いいことがありましたので」

          ―――――――――――――――――――――――――          

112両手に嫉妬の華を ◆kNPkZ2h.ro :2007/07/27(金) 22:08:54 ID:+Izi+e8r
投下終了です。
次回から飛ばしていきます。
113名無しさん@ピンキー:2007/07/27(金) 22:19:45 ID:4t6RjytR
GJ!!!投下待ってますた。
114名無しさん@ピンキー:2007/07/27(金) 22:21:42 ID:svZHTaH2
待ってました!もうwktkが止まりません。
115名無しさん@ピンキー:2007/07/27(金) 22:44:42 ID:aQ43lx+G
イヤッホォォォォォォウ!!!
待ってましたぁぁあぁぁぁ
116名無しさん@ピンキー:2007/07/27(金) 23:17:13 ID:IkVrvfi/
連投!連投!
117名無しさん@ピンキー:2007/07/28(土) 00:59:56 ID:lJVcWE82
いやほおおおおおおおおおおおおおおお
118名無しさん@ピンキー:2007/07/28(土) 01:13:22 ID:TlNJRqrW
きたーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!
119名無しさん@ピンキー:2007/07/28(土) 01:20:17 ID:J5HSrv7y
ヤベェw 良作が連続で来ているぜ!
つーかヒロイン二人ともヤベェwww
120名無しさん@ピンキー:2007/07/28(土) 02:12:45 ID:DXnG8nPx
黒ーいぜ、黒ー過ぎるぜ、エーキセントリック嬢♪
やはり装備も充実(地下室とかヤバい薬とか鋸とか)なんだろうか、金持ちだし
121名無しさん@ピンキー:2007/07/28(土) 03:37:09 ID:Xqpx/SUQ
早苗が黒いのは分かってたけど、
佑子さんがあまりに黒いのにワロタw
122名無しさん@ピンキー:2007/07/28(土) 04:46:44 ID:yZJye1Kv
ビューティフル嫉妬ッ!!!!!!
123名無しさん@ピンキー:2007/07/28(土) 06:02:38 ID:tLeQCwDk
転帰と両手にを続けて見れるなんて……。ありがとう。
124名無しさん@ピンキー:2007/07/28(土) 11:38:11 ID:4cBsaxbh
両手に嫉妬キタ〜〜〜〜〜〜〜〜〜(・∀・)ノ
125名無しさん@ピンキー:2007/07/28(土) 11:56:53 ID:ODGE1lam
単発投下します。
126「草」:2007/07/28(土) 11:57:36 ID:ODGE1lam


―――耳を澄まし、息遣いを隠し、一切の動きを止め。ただ、目標へと意識を傾ける。

 遠く、パチパチと薪の爆ぜる音が聞こえてくる。それに合わせ、男達の陽気な声が幾重にも森の中に反
響する。
 愚かなことだ。
 身を潜めている茂みから窺う限り、標的たる盗賊達は、いまだこの森林に潜む侵入者の気配を察せぬま
ま、宴に酔いしれている。

「隊長、敵はどうやらこちらに気づいていないようです」
「数はどれぐらいいるの?」
「焚き火の周りに二十人ほど、それに見張りが各方にニ人づつ。念の為に周囲を探らせましたが、それ以
上の人員は無いものと見ていいでしょう」

 半端な装備に警備の甘さなどから考えて、おそらくろくな訓練を積んでいないならず者の集まりなのだ
ろう。

「これで安全圏に逃げたつもりだなんて、うちの隊も随分と舐められたものね」
「同感です。……して、いかが致しましょうか」
「ふふっ…どうせすでに準備は出来てるんでしょう?」

 言いつつ、おもむろに手を挙げた隊長が、そのアイスブルーの瞳に、たっぷりの余裕と、私に対する信
頼の意を込めた視線を宿す。

「より迅速に上官の意に応える為、当然の事です」
「そう言うと思ったわ。…うん、あたしの補佐が務まるのはサンドロだけ」

 機嫌良さげに目を細めた彼女が、その手を振るい、

「―――全隊員に告ぐ。速やかに賊共を襲撃・掃討したのち、奪われた物資を回収せよ!」

 指を鳴らす。その瞬間。
 幾条もの弓矢の風を切る音が、正確に数人の賊の心臓を射抜いた。
 突然の事態に、残りの連中が戸惑っているその隙に、

「突撃ィッ!!」

 剣や槍を装備した部隊の、一斉攻撃が始まった。
127「草」:2007/07/28(土) 11:58:57 ID:ODGE1lam
+ + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + 


 右に左に、声、声、声。
 道行く旅人や世間話をする市民、軒先に店を広げて声高に品物を売る露天商。城下町はそんな人々の活
気で溢れていた。

「今回の敵もまるで歯ごたえがなかったわ」
「国内で起きる事件や紛争など、ほとんどそんなものでしょう。厄介な問題は無いに越したことはありま
せん」

 あればそれは、すぐに私達の目の前にやってきてしまうから。
 それこそ、隣国との戦争でも起きようものなら、今いるこの城下町の明るい空気も、血と闘争にまみれ
たそれへと早変わりする事だろう。
 物足りない、といった面持ちを見せていた隊長も、一転して惚けた笑みを浮かべる。

「そうね。あたしもサンドロと一緒に戦場を駆ける機会が減ったのは残念だけど、こうして二人で街を歩
いたりするのも、その、……良いものだと思うわ」
「隊の装備の補充、及び情報収集を兼ねた市街の警邏という事をお忘れなく」
「…それが、プレゼントを選びながら言う台詞かしら?」
「お言葉ですが、それは隊長が、「日頃の感謝の意を込めて、サンドロはあたしに何か贈り物でもするべ
きだと思うの。そこのところどうなのかしら? あたしとしては最近は装飾類が欲しいかもだけれど、ど
うなのかしら?」と、昨日の昼から詰め所から出るまで延々言い続けていたからでしょう。周りに他の者
が居るのも構わずに」
「ええ、わかってる、わかってるわ。こうした行為には色々と言い訳が必要だもの。それはサンドロだっ
て例外じゃないわ。だってあたしも、今かなり照れてるんだから」

 皮肉と嫌味とを、口調と顔の両方に多分に出しつつ牽制したが、どうにも堪えた様子は無い。めげない
人である。

「ときに、リィス隊長。隊長は「社交辞令」という言葉をご存知でしょうか」
「「嫌よ嫌よも好きのうち」ならば耳にした事があるけど」
「隊長、それは世に蔓延る加害者達の免罪符です。デマに惑わされてはいけません」
「でも、「やらずに後悔するよりもやって後悔しろ」って昔の偉人も…」
「隊長、それは今貴女の頭に浮かんだ新しい格言です。歴史の捏造は良くありません」
「そうやって憎まれ口を言いつつも、しっかり良い品を選んでくれてる。あたしはサンドロのそんなとこ
ろが大好き」
「恐縮です。ええ、恐縮ついでにいっそ消えて無くなってしまいたいくらいです」

 しっかりと選ばなければ、後で恨み言を山程言うくせに、まったく口の減らない人だ。
 それでも仕事はきちんとこなすのだから文句は言えない。まあ、愚痴はこぼさせてもらうが。
128「草」:2007/07/28(土) 12:00:30 ID:ODGE1lam
「そんなの困るわ。サンドロが居なければ誰があたしの副官をするっていうのよ」
「何を。隊長ほどの人であれば、副官など居なくとも敵を倒すぐらいは問題無いでしょうに。それでも自
分の片腕を置きたいのであれば、有志を募ると良いでしょう。隊長の奴隷となっても構わないという仕官
が二桁は集まるはずですよ」

 前例があったのだから間違いない。
 彼等はきっと嬉々としてコキ使われるはずである。私は仕事量の斜め上へと飛んだ酷使は御免被るが。
 リィス=ブラム。
 かつてこの国を巻き込んだニ年に及ぶ戦争の中、当時若干十六歳で貴族の一門たるブラム家から、兄達
を無能と誹り自ら軍人となり、手持ちの部隊で局地戦における軍の窮地を幾度と無く救った女傑。
 歴戦の将軍らもかくやというほどの武勇を持ち、髪に身体に目に肌に、これでもかと言うくらい美しさ
を強調しているその姿は、味方にはさながら戦乙女に見える事だろう。

「……嫌」
「はあ」
「言った筈でしょ。サンドロじゃなきゃあたしの片腕は務まらないんだから。他の凡百の仕官兵なんかに
用は無いの。あたしには、サンドロが居ればいいのよ」
「例え話です。お気になさらずとも、貴女は私の上官で、私は貴女の部下だ」
「むっ…はぐらかさないで。あたしが言いたいのはそうじゃなくて」
「隊長」

 食い下がろうとする彼女に、私はその場凌ぎの餌を撒く事にする。

「これなんてどうでしょう、きっと隊長に良く似合うはずですよ」
「…またそうやって誤魔化す。卑怯者」

 くい、と、自分の目の前に差し出されたネックレスを、隊長が恨めしそうに見やる。

「嘘は言ってません」
「ふん…待ってなさい。すぐに付けるから」
「いいえ、私が付けましょう。そのまま動かないで」

 言うなり、出来る限り優しい動作で、肩までかかる銀糸のような細く美しい髪を分け、その細い首筋に
金のネックレスをかけてやる。
 隊長は一瞬驚きに身を竦めたが、微かに頬を赤らめる以外はすっと大人しくなってくれた。
 予想通り、ネックレスはばっちりと似合っていた。恰幅の良い髭の商人に代金を払うと、私達は城の方
へと戻って行く。

「……本当に、卑怯な奴」
「それが嗜みです」
「名前で呼んでもくれない」
「普通に呼んでいるじゃないですか。リィス隊長って」
「隊長は余計」
「リィス殿」
「…わざとやってるでしょ?」
「卑怯者だそうですので」

 不満をもろに表情に出している隊長に、皮肉混じりの笑顔を向ける。
 それを見た隊長が、さらに落ち込んだ顔を見せるので、こちらとしても内心参ってきてしまう。
129「草」:2007/07/28(土) 12:01:16 ID:ODGE1lam
「そんなに沈んだ顔をしないで下さい。折角のプレゼントなんですから」
「優しくない。サンドロはこういうところが、本当に全くこれっぽっちも優しくない。何がプレゼントな
もんですか。一旦喜ばせてから更に落とすんだからもっとタチが悪いわ。それならいっそ、最初からこっ
ちの誘いを断ればいいのよ。それは、まあ、断られても強引に取り付けたのは他でもないあたしだったけ
れど…」

 尚もグチグチと不満を並べる彼女を見て、どうしたものかと思い悩む。
 本当は、この曖昧なくらいの友好関係が一番良いんだが。あまり焦らして煮詰めるのも互いの為にはな
らないし、私とて些か忍びないものがある。
 別に嫌いなわけではない。容姿は勿論だが、性格的・人間的、あるいは自分との利益関係を考えても、
彼女が好意を寄せてくれるというのはこちらとしても望ましい。
 ただし、それは彼女が私に対し一方的に想いを寄せる場合に限った話。そこで私が応じてしまえば、色
々と不都合が出て来てしまう。正確に言えば、不都合が「出そうな気がする」のだ。

 いわゆる、経験による直感というやつだ。

 それほど長い年月を過ごしたわけではないが、密度で言うなら私にも多少の自身がある。
 そういったこれまでの人生の中で得た経験がそう、まさしく直感的に、「この女に捕まると厄介だ」と
言ってくるのだ。
 戦争中に敵であったこのリザニア国に捕虜として捕らえられ、紆余曲折を経て、このリィス隊長殿と同
じ隊の副隊長として配属されてから一年と少々。
 こちら側への侵入を許してしまえば、際限無く依存し、程度はあれどこちらにもそれを求めてくる。あ
れはそういう女だと、機会のある度に本能が語りかける。
 度重なる戦いの中で何度も救われた自分の直感は、道行く老人の説教話のようにあっさりと無視出来る
ものではなかった。
130「草」:2007/07/28(土) 12:02:03 ID:ODGE1lam
+ + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + 


 話は一年前に遡る。

「これより、この隊の副隊長として配属される事となりました、アレクサンドロ=ディールトンです。よ
ろしくお願い致します」
「ご苦労様。あたしが隊長のリィス=ブラムよ。先の戦いでは大分我が軍の兵を屠ってくれたそうだけど
、……あんた、そのままの勢いで味方を襲ったりしないでよね?」

 隊に入ってからはじめ、私は隊の副隊長としてここでの身の振り方やルール等、リザニア軍内部におけ
る諸々の基礎を周囲から学んでいた。
 リィス隊長も、最初からああまで私に好意を示していたわけでは無かった。むしろ、敵国から寝返った
兵士として、侮蔑の眼差しを向けていたくらいである。
 そんな自らを取り巻く環境を良くないものと考えた私は、すぐにこの空気を改善する事にした。

「隊長、索敵完了しました。敵の数は正面に百騎余り、左右から遅れて五十騎。先制攻撃の準備は既に整
っております」
「む、そう、……早いわね」

「隊長、これより敵の援軍が来る事が予想されます。ここは一旦砦の中へ退避した方がよろしいかと」
「? どうしてそんな事がわかるのよ?」
「あらかじめ敵軍付近に兵を伏せておきました。間も無くここは敵兵で埋め尽くされましょう。どうぞご
決断を」
「……分かった。聞きなさい! 全隊、これより後方の砦へと急ぎ引き上げるわ!!」

「ご苦労様です。後は私が見張り役を引き受けましょう。隊長はどうぞお先にお戻り下さい」
「アレクサンドロ……。ごめん。礼を言っておくわ、正直助かった」
「いえ、どうぞごゆっくりお休み下さい」

 内心でどう思われていようと構わないが、それが戦闘中にまで影響してしまってはかなわない。
 私はなるべく彼女への印象を良くする様に、下された命令には忠実に従い、ときには内容を先読みし、
およそ気の付く事は全て先に行動して、自分が補佐役として有能である事をアピールした。
 それでも隊長たる彼女の意思には逆らわず、提案が却下された際も大人しく引き下がり、優秀であると
同時に無害であることを証明する事も忘れない。
 水面下では他の部下達にも気を配り、また、軍務以外の雑用等の面でも彼女の負担を軽減させようと、
積極的に手伝いを申し出て、あれこれと手を尽くした。

 寝返った兵士が味方の信用を得るのは簡単な事では無い。そこには見える努力も見えない苦労も多分に
含まれているのである。
 荒んでいた信頼関係も時間をかけて地道に整えていけば、いずれは自分にとって居心地の良いものへと
変えることが出来る。そういった事を理解し、実行できる程度には、当時の私も学習していた。
 そうして、惜しみない労力と一月半ほどの時間をかけて、概ね現在の私の立ち位置に近いものを作るの
に成功した。
131「草」:2007/07/28(土) 12:02:56 ID:ODGE1lam
 だがしかし、あまりに熱心に構い過ぎていた為か、抱かせた感情は友好を通り越し、あらぬ方向へ走っ
て行ってしまった。
 年若き彼女も、軍の中では常に気を張り詰めていたのだろう。私に対する彼女の接し方がいつもと変わ
ってきたのは、丁度その頃だったと記憶している。
 最もわかりやすい所でいくと、私の呼び方が変わった事だろうか。

「ああ、来た来たサンドロ。今度の作戦なんだけど…」

 少し照れたような表情で、隊長が愛称で私を呼ぶ。
 既に隊の部下達からはサンドロ副隊長と呼ばれ親しまれていたので、彼女に突然そう呼ばれようと特に
どうとも思わない。
 そのときは、ようやく彼女との友好関係が形となって現れたのだと、むしろ安堵していた。
 ただ、その日の隊長はいつもよりも身嗜みに気を配っていた気がする。

「ありがとう。サンドロのおかげで大分仕事が片付いたわ」

 いつものように、隊の細かな備品の整理を手伝った後で、私に労いの言葉をかける。
 この辺りから、少しの違和感を感じるようになる。
 私が入隊したてだったとき、隊長はこうも軍の雑務をこなしていただろうか?
 小さな疑問は、彼女が手ずから淹れてくれた紅茶と一緒に胃の中に流し込まれた。

「隊長、折り入って相談があるのですが…」

 戦争もじき佳境に差し掛かろうとしていたある日、軍の上層部に我が隊の活躍が認められ、私は何人か
の上官に作戦室へ呼ばれる事になる。
 話の内容は、これまでの戦いによる私の武勲を称え、軍が新たに作る部隊の隊長を務めてみないか、と
の誘いだった。
 私が抜けた後の隊にはこちらから新しい補佐官を出すと、上官の一人が用意していた候補者のリストを
出して見せる。
 つまりは、事後処理もしっかりと用意出来ているという事だ。
 待遇のほどを聞いて見ると、なるほど、悪くない条件だった。余所者の自分にここまでの評価が下され
るとは思っていなかったので、正直気分は良い。
 しかし、私が今この隊から外れるのは少し都合が付かない。断ろうとした私に、彼等は今回の人事異動
の発案者たる将軍の名を出す。ならばと私は同意する事にした。
 後は隊長からの除隊許可を得れば問題無い。私は上官達に礼をして作戦室を後にすると、隊長のいる部
屋へと足を運んだ。
132「草」:2007/07/28(土) 12:03:51 ID:ODGE1lam
「あれ、サンドロ。どうしたの一体? 何か良い土産でも見つけてきてくれたの?」

 午後の突然の来訪に隊長は機嫌を損ねるでもなく、まばゆいばかりの笑顔で対応する。
 その手に先ほどのリストを手渡し、作戦室での異動の件について私は話した。
 それまでにこやかだった隊長の顔が、一瞬で色を失う。

「…………………………なん、ですって?」
「ですから、私がこの隊を抜けて新しい隊へ行」


「しない」


 言い終える前に、隊長は私の除隊を拒否した。
 手にした新しい副隊長の候補者リストを、躊躇無くびりびりと破り捨てる。

「許可なんてしない。サンドロの除隊は、あたしが認めない」
「…隊長?」
「以上よ。用はそれだけ? なら今から紅茶の時間にしましょ。そこに座ってて、実は昨日、良い茶葉を
町で仕入れてきたの。サンドロもきっと気に入ると思って多めに買ってきちゃった」

 有無を言わせぬ口調で私をテーブルに座らせると、いつもの笑みを取り戻した隊長が紅茶を淹れに席を
立った。


 翌日の朝、私が朝の鍛錬をしに部屋を出ると、先に外で待っていた隊長に、昨夜の内に異動の件を取り
消しにした事を知らされた。
 そのとき彼女が浮かべていた笑みを、私はおそらく忘れる事は無いだろう。
133「草」:2007/07/28(土) 12:04:39 ID:ODGE1lam
+ + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + 


 そうだ。あれから隊長は私に対し、露骨な執着心を見せるようになったのだ。
 今は一見して強気で気丈な態度を見せているが、本格的に交際でも始めようものならどうなる事がわか
ったものではない。
 純真で一途な想いを持つ女性は美しいと思うが、それも匙加減一つで違うものへと変わってしまう。
 人間、軽い失敗は中々学べぬものだが、一度大きなミスを犯したら、それと同じ種類の事には過剰なま
でに敏感になるものだ。
 過去に、そうしたタイプの女から痛いほどに味わった教訓が、私に女性に対するちょっとした警戒心と
遠慮を植え付け、半ば強制的に拒絶を促す。

「……仕方ありませんね」

 それでなくとも、この手の女性というものは、それとは別のところにある本能を揺さぶってくるので苦
手だ。
 少しばかり相手に接近を許し過ぎた。これ以上向こうに要らぬ期待を抱かせる前に、ここで適度に引き
離しておく必要があるだろう。

「貴女のいるこの隊に配属されてから、今日まで様々な形で口説かれてきましたが」
「…サンドロ?」

 嘆息をついてそう言う私から何を察したか、隊長は期待と不安の入り混じった目でこちらをじっと見て
いる。

「今、貴女の期待に応える事は出来ません。残念ながら、私にも都合というものがあります」
「何よそれ。なら何時なら良いの。あたしはどうすれば良いっていうの?」
「どうもしなくていいのです。私は貴女の望む関係になるつもりはありません。ありませんが」

 縋るような双瞳。ああ、私も出来ればこのぐらいが丁度良いのだが。あれを思うと胃が痛んで仕方が無
い。
 我ながら結構な小心者っぷりである。しかし仕方ない。生きる上での面倒事など、ほどほど程度にあれ
ばそれで良いのだ。

「貴女がこの国の全軍に指揮を執れるほどになったなら、そのときは一生貴女の片腕だろうが何だろうが
謹んでお受けしますよ。それまでの差が、そのまま、今の貴女と私との距離と思って下さって結構です」
「な………」

 言ってから、自分でも随分と無茶苦茶な要求をしたものだと思う。
 ようは、この国で最も偉い将軍になれ、と、そう言ったのだ。
 それこそ歴代の戦貴族達が、いくつもの大きな功績を積み上げようやく手にするだろう地位だ。若くして
すでに一つの中隊をまとめ上げている彼女だが、それよりはるか上を行く地位への躍進は、冷静に考えれば
不可能である。
134「草」:2007/07/28(土) 12:05:25 ID:ODGE1lam
 というか、勢いで言ってしまったが、もう少し言い方というものがあったような気がする。これでは事実
上の絶縁宣言に等しいのではなかろうか? 今でさえ自分より上の立場である彼女に対しこんな要求をする
とは、私の方こそ一体何様のつもりだと言われてもおかしくない。
 もしこの場で斬りかかられでもしたら、単純な力量で劣る以上、どうしようもない。上官に向かって戯け
た事を言ってのけた部下が一人、無残な姿で野に捨てられるだけだ。
 まずい、どうにも余計な事を口走ってしまった。こんな街中で剣の錆となるのは勘弁だ、すぐに柔らかく
訂正しなければ。
 思考は時間にしてわずか三秒。私はすぐさま口を開き、

「た」
「わかった。その条件で良いのね?」

 隊長、の隊の字すら言わせてもらえなかった。
 返事が罵声と斬撃でなかった事が予想外なら、応える隊長の瞳が、ようやく目標を見つけた肉食獣ように
輝いているのも、まったくの予想外である。
 どうやら、彼女は私の想像よりも大分タフで、ついでにポジティブ思考だったらしい。

「………は?」
「ふふっ、どうしたの。呆気にとられたような顔をして。これまではのらりくらりとかわされてきたけど、
これでようやくしっかりと捕まえたわ。後は全力でその条件を満たしてやるまでよ。そう、サンドロはあた
しの隣でその様を見届けてればいいの。あたしの手助けをしながらね。うふふっ、ああ、次の戦が楽しみだ
なぁ♪」
「な、ちょ、隊長待っ…」
「リィス隊長、アレクサンドロ副隊長、出動命令です!」

 丁度、私の声を遮るかのように使者が現れ、軍からの命令を告げる。
 内容は、この間任務で赴いた森から少し離れたところにある平原にて、今度はここリザニアとは隣国であ
るイスト国の兵士達が現れ、現在はそこの警備兵達と戦闘中につき、急ぎ応援に向かえとの事。
 隣にいた隊長が、したり顔でこちらを見る。

「どう、サンドロ? まさに天の配剤ってやつじゃない。神様もあたし達の仲を応援してくれてるみたい」

 もしそうだと言うのなら、物騒な祝福の仕方もあったものだ。全く以って、笑えないジョークである。

「それでは、なるべく早く敵が去ってくれるようにとも祈っておいて下さい」

 そうして数分後、私達は馬を駆り、新たな戦場へと赴いたのだった―――。
135「草」:2007/07/28(土) 12:06:15 ID:ODGE1lam
+ + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + 


 昼下がりの曇り空、鉛色の雨雲が泳ぐ草原は、今や兵士達の怒号と悲鳴で満たされていた。

「これは、…一体状況はどうなってるの? 敵は一個小隊程度では無かったの?」
「は、それがどうにも、あちらも既に増援要請をしていたようで」
「そんなのは見れば分かる! 報告員は何考えてるの、このぐらいは最初から考慮に入れておくはずでしょ
!!?」

 喜び勇んで馬を飛ばしていた隊長も、これには流石に衝撃を受けている様子。
 もはや先ほどまでの暢気なやり取りなどしている余裕は無い。私の眼前に広がる景色はまさしく戦場であ
った。
 敵の数は、聞いていた情報の十数倍にものぼっていた。これではすでに大隊単位である。
 対し、こちらは増援として私達の隊と、他にも指令を受けて来た小・中隊が二つほどに、現在向こうで見
る間に切り崩されていく警備隊のみだ。
 防護陣を生かして、どうにか敵の攻撃を凌いでいるが、急いで駆けつけなければ押し切られてしまう。
 今の状況ならば防ぎ切れない事は無いが、犠牲は多く出る。加えて、これ以上の敵の増援が無いという保
証はどこにも無い。そうなれば、ただでさえ数で劣るこの局面はより絶望的なものになるだろう。

「単なるミスと考えるには楽観が過ぎる。現実的に見て、軍の内部に敵の回し者が居たようですね。こうし
た外部からの攻撃に対処する命令を出せるということは、おそらくそれなりの地位を持ったネズミでしょう
。あるいは、我が隊や共に来た小隊を快く思っていない上の嫌がらせか。……敵方へ攻めるならばともかく
、こちらの領土がかかっている事や、今回の咄嗟の命令を考えれば、前者の可能性が高いですが」
「…あたし達は、その罠にまんま誘き寄せられたわけね」

 隊を戦場へと向かわせながら、隊長が忌々しげな声を出した。どうやら、私の前フリに乗ってきてくれた
ようである。

「隊長、まだ状況はそう悲観したものではありません」

 一応、副隊長の体裁として味方を鼓舞する小芝居でも打っておこう。
 私は努めて冷静な声で、これから行うべき作戦を提案する。
136「草」:2007/07/28(土) 12:06:59 ID:ODGE1lam
「策は大きく二つあります。一つはこの場を離れ、以前来た森付近で戦況を見守りつつ国へ援軍を要請しま
す。敵が防衛線を突破し次第、そのいくつかをこちらへ誘い込み、地の利を生かし殲滅ないし撃退を繰り返
しながら援軍を待つ逃げの手です」
「向こうの出方次第で即全滅や、そのまま無視されることも考えられるけど」
「なるべく我が隊で受け持てるだけの敵を引き寄せる必要がありますが、この平原で戦うよりはいくらかこ
ちらに分があります。幸いにして兵の質は我が隊が上のようですので…」
「そのつもりは無いわ。あるんでしょ? もう一つの勝てる手が」

 勿体振るなと言わんばかりの視線を投げて寄越す。見れば、兵達も一様に同じような、期待とこれから起
こるであろう乱戦への奮起の表情を浮かべている。
 ……きっと彼女というきちんとした隊長役がいるからだろう。いつもの事ながら、この隊は士気を高める
のが容易に行えてとても助かる。
 この様子ならば、わざわざ逃げの守りに転ずる必要は無さそうである。いつも通り、攻めの姿勢だ。

「ええ、我が隊ならば、更に倍の敵でも耐えられるでしょう。……隊長、指示を」
「うふふ。言わなくっても、皆わかってるみたいね」

 不敵な笑みを浮かべ、隊長が剣を掲げる。

「全隊、これより防衛線へ向かい敵軍を撃退する! 蹴散らすわよ!!」
「「ォォォォォォォォォォッ!!!」」
137「草」:2007/07/28(土) 12:07:48 ID:ODGE1lam
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 偏に、戦争における彼我の優劣を決めるものは昔から数というのがまず基本である。
 十の兵よりも二十の兵、百の兵よりも千の兵が勝るのは言うまでも無い。
 しかし、実際の戦場においても兵の数がそのまま勝敗を分けるかといえば、答えはまったく違うものにな
る。
 数で勝る方が上を行くという理論は、あくまでも互いの兵の質がある程度同じ場合にのみ言える事。上が
りたての新兵と熟練の兵とでは、単体としての質はまるで異なる。
 また、それら兵士個人の力量が個体の質を決定付けるのに並ぶように、それらを束ねる軍全体の質を左右
するものがある。それが士気である。

 例えば、武器を持った十の兵達の元へ一人の兵士が襲い掛かってくる。相手も武器を持っていて、まずは
背後からの不意打ちで一人を仕留め、残りがその状況を把握しようとしているところをもう一人。
 突然の襲撃を受けた八人はまず混乱を起こし、次にたった一人の兵士に対し恐怖を覚える事になる。八人
が一斉に掛かれば、たかだか一人の人間程度、あっと言う間に無力化出来るだろう。だが、彼等は想像して
しまった。もしそうなれば、確率にして八分の一で自分が死ぬ事になると。
 結果として、九人を包む場の流れ、ペースというものは、僅かな時間とはいえその一人のみに支配される
のだ。そのときには、たとえ個人の質が本来近いもの同士であろうと、互いの士気は大きく開いているので
ある。
 そして、そこで味方としてもう一人が、少ない方の加勢したとする。おそらく八人はその瞬間、自らの生
存確率を計算していた事だろう。
 大分強引な考え方だったが、この時点ですでに彼等の戦闘は決着が着いていると言っていい。後はいかに
勢いに乗ったまま、未だ驚愕の最中にある敵を倒すかである。
 詰まるところ、人間は不意の出来事に弱いのだ。それを立て続けに起こし、相手を動揺を誘うのが士気を
下げる有効な手段であり、それでもなお冷静さを保つのが、優秀な兵士と言えるはずだ。

 では、その逆。この例えで言えば少数だった側の兵士達の士気を上げていたものは一体何か。
138「草」:2007/07/28(土) 12:08:57 ID:ODGE1lam
「どきなさいっ!ここから先はリザニア国が領土、決して行かせはしない!!」
「行くぞ、我が隊の実力を思い知らせてやれ!」

 隊長が槍を振るい、イストの兵を次々と切り裂きながら戦場を疾駆する。仕留め損ねた者や、隊列を組み
直そうとする残りの兵を、間髪入れずに私がもう一度切り伏せていく。
 烈風のような突進によって陣形を崩されたところへ、周囲のリザニア兵達も口々に雄叫びを上げ猛攻を仕
掛ける。そのあまりの勢いに対処し切れず、敵は成す術も無く散っていくのみだ。
 その様を見た他の小隊も、我も我もと奮起して怒号と剣戟はより激しさを増す。そして、それに反比例す
るかのように敵の陣営は旗色を悪くしていっている。先ほどまでこちらが攻めていたかと思いきや、いつの
間にか敵が怒涛の反撃を見せたのだ。動揺のほども窺える。
 それら各隊の士気の変動で起きている一連の連鎖反応は、今や追い詰められかけていた戦況をそのまま引
っ繰り返す形にまでなっていた。

「何だこいつらは…ひぃぃ!」
「畜生! 聞いてねえぞこんな化け物ッ!!」
「敵は浮き足立っているぞ!この機を逃すなよ!!」

 実は、兵達の士気を最初から格段に上げる方法はそうは無い。あるにはあっても、その方法はいずれも容
易では無いのだ。
 軍隊の士気を高めるものは、これまでの戦闘で成功と勝利を積み重ねに裏打ちされた自信と、指揮する者
のカリスマ性である。
 名だたる名将、勇将たちには、その称号を得る前からか得た後か、漏れなくこの能力が備わっていた。
 指揮者などとは言うものの、戦場で彼等が下す指揮はある程度熟練した者達ならば、概ねは似たようなも
のだろう。指揮能力とは、奇抜な策を編み出すものでは無く、本来は堅実さと信頼性に重きを置くようにあ
る。
 ならば、その指揮者達の優劣を決めるのは如何なものか。それこそが、カリスマなのだ。
 凡将と名将、その裁量が同じであれば、兵士はどちらの下でならより自信を持って槍を振るえるか。答え
は言うまでも無く後者となり、前者たる凡将が相手たれば、なおその意気は高まる。
 そして、カリスマ性とは指揮者本人の武勇や容姿、ないし智謀や人徳、家柄等に多分に依存するものだ。
 そう、それを確かだとするのなら、

「行けぇぇぇぇいッ!!」

 ―――前戦争以来、未だ無敗を誇る我が隊の隊長たる彼女に、その資質が備わっているのは、疑うまでも
無い事実だろう。

「敵将の首、このリィスが貰い受けた! リザニアに栄光あれ!!」

 もはや蜘蛛の子を散らしたかのような惨状のイストの部隊に、追い討ちを掛けるように隊長が首級を掲げ
高らかに宣言し、それに呼応してあちこちから兵士達の勝ち鬨の雄叫びが聞こえた。
 窮地を立て直すのにやや骨を折ったが、ともあれ此度の戦いは、無事リザニア軍の勝利に終わった。
139「草」:2007/07/28(土) 12:10:13 ID:ODGE1lam
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 午後の城内。夕焼けに赤く染まった景色のを背に、戦を終えた各隊の兵士達が馬から下りて自分達の部屋
へと戻って行く。

「どうにか前線への合流に間に合う事が出来ましたね、お疲れ様です隊長」
「サンドロこそ。よくフォローに回ってくれたわ、おかげでこっちは敵陣に切り込み放題だった」

 とてもにこやかな笑顔で、馬から降りた隊長が槍を掲げてみせる。

「いや、これまで成功しているから問題無いとはいえ、敵陣への突進はもう少し抑えて欲しいものです。付
いて行きつつ部下達を引っ張っていくのも一苦労なんで」
「何言ってんの、サンドロならそれが出来るでしょ。だから今、こうしてあたし達はここに居るんだし」
「……いいですか隊長、少しは部下の苦労というものをですね」
「これで」

 愚痴を混ぜた説教を途中で遮られる。目の前にはいつもの自信に満ちた笑顔に、熱情の色を宿した隊長が
立っていた。

「一歩、サンドロに近づいた」
「そうですね」

 熱っぽい目線を送る隊長に、私はあくまでも平素の表情を崩さない。

「今の戦い。多分だけど隣国との戦争の下火として、上の連中に使われると思う」
「私も同感です。あるいは、これもネズミの撒いた何らかのエサだったのかもしれません」
「そうなれば、また戦争が始まる。あたしはサンドロにもっと近づく事が出来る」

 妖しく、それでいて頼りなげな雰囲気を醸し出しつつ、隊長が私の方へ歩み寄ってくる。私はそこから動
かない。
 ついには互いの吐息を感じられるほどの距離まで来ると、今さっきまで戦場で槍や剣を振るっていたとい
うのに、銀の髪から鼻腔をくすぐる甘い匂いがしてくる。
 疲れきっているときにこの匂いは少しまずい。まるで頭の中を揺さぶられているようだ。
140「草」:2007/07/28(土) 12:11:02 ID:ODGE1lam

「待っていて」

 言って、するりと身体を離すと、隊長は自分の部屋へと戻って行った。

「…………参った」

 向こうの執念に負けて、あんな事言わなきゃ良かった。
 過去の失敗を忘れ、こういうのもやっぱり良いよなと思い始めている自分が情けない。
 軽く自己嫌悪に陥っていると、向かいの通路から衛兵が規則正しい足取りでやって来る。

「アレクサンドロ副隊長、エイブル将軍がお呼びです。至急作戦室へお願いします」
「この疲れてるってときに、本当部下を労わる気持ちが足りてないよなこの国は…」

 エイブル将軍は前戦争にてリザニア軍の攻撃の要として活躍した猛将で、砦を落とした際に捕虜となった
私を牢屋から出し、この隊へと配属させた張本人である。
 齢五十も半ばの爺さんなのだが、とにかくまあ豪胆かつ厄介にしてまことに食えない人物だった。
 今回のネズミ騒動とは多分関係は無いだろうが、未だ油断のならない相手ではある。色々と恩はあるが苦
手なものは仕方が無い。

「今度は何を言われる事やら、あの人やる事成す事情け容赦が無いからなあ…」

 やれ、孫に計略を教えろだの、肩を揉めだの、チェスの相手をしろだの。
 うちの隊長に振り回されるだけでもすでに手一杯だというのに、老人はいっそ介護でも頼んでろという。
 どうせまたろくでもない事を頼まれるのだろう。私は諦めて作戦室へ足を向けることにした。

 ちなみに、その孫とは他でもないリィス隊長の事である。
141「草」:2007/07/28(土) 12:11:47 ID:ODGE1lam
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「よく来たな、まあそこに座ると良い」

 ノックをし、名を名乗ってから作戦室の扉を開ける。奥の長椅子にどっしりとした身体を預けていた初老
の男性が、白髭をたっぷりと蓄えた強面に、にやりとした笑みを浮かべ私を迎え入れた。
 彼こそが、現在我が軍における最高責任者、リザニアの剣と誉れ高き大将軍エイブルその人である。

「用件は何でしょうか」

 立ったままでいると何をされるかわからないので、一礼してから席に着き、呼び出した用を尋ねる。

「そう急かすでない。……そう、まずは孫のリィスが先週わしに手作りのパイを振舞ってくれた事の自慢を
させてもらおうか。どうだ、羨ましかろう? 何せ初めて作ったという話だ。味の方こそけっして美味くは
無かったが、その孝行振りにわしは心を打たれたね」
「先週の昼頃、部屋に来た隊長にぜひとも食べるようにと勧められた黒ずんだアレは、成る程そういった経
緯で作られたのですね。「先に練習をしておいたから、きっとそれよりは上手く出来たはずだ」と言ってお
られましたが、さては将軍殿は黒炭でも出されましたか」
「…………切なくなる事を言ってくれるではないか小僧」
「…炭だったのですね」

 焼けば良いというものでもあるまいに。
 壁の方を見て遠い目をしているエイブル将軍は、何やら年相応の哀愁を漂わせていた。まあどうでもいい


「で、用件は何でしょうか。まさか身内の虐待話を聞かせる為にわざわざ呼んだわけではないでしょう」
「おぬしも、その達者な口は直らんようだな。命の恩人に向かってこの扱いとは、全く以ってけしからん。
給料差っ引くぞ」
「度量のほどが窺えますな。隊長殿が聞いたらさぞや哀れと思うに違いありません」
「待て待ておぬしそれは少しばかり卑怯というやつではないか。家族を出してくるのはいかんぞ。ただでさ
え、最近妻にも見放されつつあるというのに。さてはおぬし悪魔の化身か」
「将軍のお家事情は私めの知る所ではございませんが、少なくともこの身は人より生まれたものと存じ上げ
ます」
「おお、妻よ孫娘よ、ここに上司の恩を仇で返す不孝者の部下がいる。クソ覚えてろいつか軍法会議にかけ
てやる」

 言葉は強気ながらも、手ではいじいじと机にのの字を描くエイブル将軍。実にウザイ。
 延々と続きそうな前置きにいい加減げんなりしてきた私は、もう一度はっきりと催促を試みる。

「それは結構ですので、もうそろそろ本題へ移ってもらってもよろしいでしょうか? あまり長いとお互い
後の軍務に差支えが出ましょう」
「ぬぅ、そうだな。わしも先の戦で上の方が忙しくなったようでの、これ以上怠けているわけにも行くまい
てな」
142「草」:2007/07/28(土) 12:12:54 ID:ODGE1lam
 机をなぞっていた指を組み、気を取り直した様子の将軍がこちらを見る。今度はその瞳に幾らか真剣さと
凄味が増す。
 私も改めて姿勢を正し、次の言葉に耳を傾ける。

「さて、用というのは他でもない、その戦いについてなのだがな」

 エイブル将軍が、厳かな口調で続ける。

「おぬしにも見当は付いてると思うが、我がリザニアと隣国イストとで互いに通じ合っている者達がいる」
「ええ、おおよその事態は察しております」
「こちらの方で、先ほどその内の一人を捕らえた。今尋問にかけているところだが、まあそう容易く口を割
る事もあるまい。喋ったとして、有益な情報を持っているとも限らん。何せ下っ端もいいところだったから
な」
「……それで、私に如何な事をお望みで?」

 変わらぬ表情で、私は将軍に問いかける。
 他の上官達ならいざ知らず、この老将が私を敵として見誤る事は無いと思う。
 それ以外の話だというならば、それは一体何か?

「この大陸に、新しい流れが出来つつある。これまでおぬしには孫の背中を守らせてきたが、それも事情が
変わってきた」

 ぎらりと、年老いて尚衰えぬ鋭い眼光を宿し、将軍が言う。

「この国に巣食う虫どもはわしが全て捕らえておく。おぬしにはわし個人の私兵として、ここへ攻め入った
イストのみならず、いずれはその他の国にも潜り込んで敵の情報網を掴み、それを逆にこちらへ流してほし
い。その為の人員も必要ならば用意しよう」

 自らの内心に浮かんだ僅かな動揺を無表情の裏に隠す。
 それは、つまり、

「向こうの規模の知れぬ網を更に上回る間諜となれ、と?」
「そういう事だ。戦乱の草とくれば、おぬしの右に出るものはそうは居まいて」

 再び長椅子に背を預け、国一の名将が頷く。

 ―――相変わらず、きつい要求を出してくれる。

 私は額に手を当て、しばし考え込む。
 おそらくは失敗に終わったであろう、今回のイストによる襲撃。しかし、これで両者の間に少なからず緊
張が生じてしまった。
 そうなれば襲撃を受けたリザニアは勿論、攻め入ったイストにも今以上の警戒が敷かれる事だろう。その
イストに、手始めに探りを入れて来いと言う。
143「草」:2007/07/28(土) 12:13:38 ID:ODGE1lam
 間諜とは、本来何も無い状態においても後の憂いを考え、機先を制す布石として他の国へ置くのが本来の
用途であり、最も効果的なやり方だ。
 それを攻め入られた直後の、このタイミングで敵国へ差し向けようというのは、普通ならば裏目に出る可
能性の高い悪手である。
 だが、

「承知しました」

 この、幾多の戦場で槍を振るい、単純な武勇に優れる強者であり続けながら決して術数権謀を軽んじず。
 敵軍の兵をして、「名将」と呼ぶに相応しいエイブル将軍が、何の用意も無しにそんな愚挙に出るとは到
底思えない。
 何せ実際に戦場で刃を交えた私が言うのだ。これほど敵にしたくない相手も中々見つからないだろう。

「引き受けてくれるか」
「……将軍は私の事を些か買い被り過ぎな気がしますが。此度の件も、おそらく考えがあるのでしょう。そ
れが何かなどと、今更一々問う気はございません」
「そう言ってくれると助かる。おぬしには面倒をかけるな」
「恩義と信用と、ついでにささやかな自負を量りにかければどうという事は。……むしろ、将軍こそよろし
いので? 私は仮にも元・敵軍の将なのですよ?」
「なに、たとえもう一度寝返ったとしても、そのときにはまたわしが引っ捕らえてやる。それにしても、さ
さやかな自負だと? よく言うわ、おぬしがそんな殊勝なタマか」

 私とエイブル将軍、お互いにある程度の理解と信頼を表した笑みを交わす。
 作戦とは、元よりそうした上司と部下との繋がりが無ければ成功しないものだ。

 私はリィス隊長の部下として働いてきたが、それも元を辿ればエイブル将軍の手引きによるものであり。
言ってみれば、エイブル将軍に捕らえられ、捕虜からこの軍の兵に転じたときから、形の上ではどうあれ私
はこの老将の私兵同然に動いていたのである。

「つきましては、こちらに数人手持ちの兵を頂きたいのですが」
「ああ構わん。許可はわしが出しておく、気に入った者を見繕って来てくれ。行動は早い方が良い、…そう
だな、明日までに出る準備を全て整えて来い」

 猶予は一日。妥当なところだろう。
 戦の疲れを癒すべく、さっさと休もうと思っていたが、そうとあれば手早く事を済まさねば。
 私は将軍に向かい一礼をする。
 
「では、これにて失礼…………する前に。そうだ、将軍に一つ申し上げておきたい事がございます」
「む? 何だ、言ってみよ。わしと妻と孫の悪口以外は許す、それが馬鹿な宰相共なら喜んで聞いてやろう
ではないか」

 どんと来いとばかりに構えるエイブル将軍に、私は大分無責任な口調で、ごく最近頭を悩ませている一人
の女性の事を口にする。

「ええ、実はその将軍のお孫さんなのですが。どうにも今日から貴方の地位を狙うそうですので、戦場にて
しばしば敵に特攻しに行かれるやも知れませんので、その際はどうかご用心を」
144「草」:2007/07/28(土) 12:14:28 ID:ODGE1lam
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 空の白み始めた夜明けの城内、身支度を終えた私は自分の部屋を見渡す。

 エイブル将軍との約束から、期日の三日目になった。

 最低限の装備や道具類は昨夜のうちにまとめた。部下はその前日から、適正のありそうな者を軍から選び
抜いてある。
 準備は万端だ。

「……行くか」

 最後に、まだ幾らか生活臭の残る部屋に軽く一礼をして、私はドアの取っ手を掴み、

「どこへ行くの、サンドロ」

 ―――開けた先には、無表情のままじっと立っている隊長が居た。

「耳が早いですね。将軍に直接聞きでもしましたか」

 実の孫に迫られては、さしもの大将軍もつい口を滑らせてしまったのだろう。
 仕方の無い人達だ。

「まあいいでしょう、出来れば知られずに行きたかったのですが。……隊長、私は今からイストへと出向き
ます」
「……嘘」

 それを聞いた彼女の、宝石のようなアイスブルーの瞳が不安に揺れる。
 私の服の袖を掴み、隊長が苦しげに声を出した。

「嘘よ。サンドロはあたしの部下でしょ、どこへも行かせはしない。サンドロもあのときそう言った…」
「貴女が私の上官であり、私は貴方の部下であるとは言いましたが、所属を離れないと約束した覚えはあり
ません」
145「草」:2007/07/28(土) 12:15:12 ID:ODGE1lam
 きっぱりと言い放つ。

「聞いてない。あたしはこんな話は聞いてない…!」
「貴女の許可を得る必要が無かったからです」
「なんで…なんで、サンドロが行く必要があるの! 間諜ならお爺様が自分の兵にやらせれば良い。それを
どうして、サンドロに行かせる必要があるっていうのよ…っ!!」
「今回の件に対し適格と判断された私が、この隊の隊長である貴女の部下である前に、エイブル将軍の部下
だからです」
「サン…ドロ?」
「現場の上官の指示は聞かねばなりません。さりとて、それより更に上の命令とあらばそれに従うのが務め
です」
「あたし…あたしが、まだ中隊長の地位にしかいないから、サンドロはあたしの元を離れるの…?」

 本当はそれ以前に、私が将軍お抱えの駒としているからなのだが、わざわざ両人の関係をこじらす原因を
撒く事も無い。
 顔中に怯えと戸惑いを見せる彼女の手が、痛いほどに両腕を握り締めてくる。

 その手を、ゆっくりと引き剥がしていく。

「リィス隊長、今まで色々とお世話になりました。またいずれここへ帰ってきたときにお会いする事もある
でしょう、それまで隊長もどうかお元気で」
「サンドロ…や、嫌だ! 駄目、行っちゃ嫌だ! 待って、サンドロ!!」

 もはや絶叫に近い声を上げるリィス隊長に背を向け、私は外へ待機させている部下達の所へと歩き出した
のだった。
146「草」:2007/07/28(土) 12:15:58 ID:ODGE1lam
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「よろしかったんで? 隊長殿」

 城の外へ出たところで、後ろの方から声を掛けられる。

「…聞いていたのか」
「すいやせん、どうにもそれっぽい空気がぷんぷんしてたもんでつい」

 へっへ、と、陰気な笑いを浮かべ、特に悪びれた様子も無く私の後に付いて来る痩せた男。
 私がエイブル将軍から兵を借りて編成した部隊の副隊長に選んだ、ゴースである。
 ゴースはリィス隊長の隊に就いたときから共にいた部下で、諜報・参謀能力に優れ、見た目は悪いが信頼
の置ける奴だ。

「構わん。早いか遅いかは別として、あそこに居続けたとしてもいずれ起こるべき事態だったさ」

 まあ、その場合においても、割と早くにありそうだったが。

「アンタも中々の女泣かせでいらっしゃる。リィス隊長は後でさぞかし恨む事でしょうに」
「そうなると思ったから、これまで深い付き合いを避けてきたのだ。どうやらそれも無駄だったようだが」
「こりゃ参った。我らが隊長殿は女の扱いにも精通してる、まったく大したもんだ」

 もうすぐ残りの部下達との集合場所である。
 変わらぬ笑みで軽口を叩くゴースに、私は溜息を一つ吐く。

「その距離を測り損ねたからあんな事になったのだ。勘違いするなゴース、私はそれほど上手い人間ではな
い」
「そう言いつつ、結構良い具合に転がしてたじゃねえですか」
「不可抗力だ。望んでやったわけではないさ」
「へえへえ、ではそういうことにしておきやしょう」

 口が減らないのはお互い様、か。

 これから厳しい環境に身を投じるのだ、それぐらいの気概でなければ困る。
 気付けば指定の場所へ着いていたようだ。視線の先には、これから共に敵国へ潜り込む為に私が選んだ部
下達。
 課された任務は一筋縄では行きそうにないが、なに、やってやれない事は無い。
 せいぜい、あの爺さんの期待に添えてやろうじゃないか。
 こちらに集まってくる兵士達に向けて、私は軽く手を挙げる。

「今日より結成された我が隊に、その身を預けてくれた兵の諸君。お早う。私が諸君等の隊長を務めさせて
もらうアレクサンドロ=ディールトンだ」

 あまり恨んでくれるなよ、リィス隊長。私は悪い奴なのだから。

 まだ土地柄暖かくなっていない初春のリザニア国。辺りには早朝特有の、全身に染み入るような冷たい風
が吹いていた。
147名無しさん@ピンキー:2007/07/28(土) 12:18:25 ID:ODGE1lam
投下終了です。

戦記物でひとつ作ってみようと思って出来たのがこれでした。
嫉妬や三角関係は無いですが、ヒロインから離れる際のプチ修羅場を
楽しんでいただけたら幸いです。
148名無しさん@ピンキー:2007/07/28(土) 13:01:20 ID:FGIwtZti
いやあ楽しみました、有難うございます。

さらなる嫉妬、三角関係、修羅場はわが脳内にたっぷり醸成されました。
至福です。満足です。とか言ってて続きが欲しかったり。
こういう狐タイプの副官を演じる人間はホント、好きですね。

・埋伏先で同じ様なタイプの女性に仕える。
・実はリザニアに捕まったのも計略のうち。実は本国の『草』。
・本国には同じ様なタイプの女性がいて、相手はさらに高貴な御身分。
・兵士の中に献身的な女性兵士が。有能だが嫉妬のカタマリ。

などなど! いやあ、世に嫉妬と三角関係と修羅場の種は尽きまじ!
149名無しさん@ピンキー:2007/07/28(土) 13:14:15 ID:WP/XH5w2
>>147
GJ!!!
滅茶苦茶読み応えがあって且つ面白いなんて・・・まさしく神
こういう展開は大好きなんで是非続きを切望します!!
あと、「過去に、そうしたタイプの女から痛いほどに味わった教訓が、私に女性に対するちょっとした警戒心と
遠慮を植え付け、半ば強制的に拒絶を促す。」という事は昔修羅場に会ったってことで良いんですかね?
150名無しさん@ピンキー:2007/07/28(土) 14:10:58 ID:ODGE1lam
※訂正
> エイブル将軍との約束から、期日の三日目になった。

> 最低限の装備や道具類は昨夜のうちにまとめた。部下はその前日から、適正のありそうな者を軍から選び
>抜いてある。

の下りで「期日の三日目になった」や、「その前日」等といった記述がありますが、正しくは
「翌日」、「前日」で。
他にも誤字・脱字等ありますが、ご容赦下さい。

>>148-149
ありがとうございます。
続編はその気になったらという事で、なるべく期待はしないで下さい。
主人公の過去については、まあ色々とそれなりの事情があったという事で。
151名無しさん@ピンキー:2007/07/28(土) 18:23:15 ID:zSvV5NgP
>>150
「期待はしないで」なんて言われても、これだけの快作を見せられたらやっぱ期待しちゃうじゃん。
そんな想いを込めたGJ!
152名無しさん@ピンキー:2007/07/28(土) 19:00:11 ID:s/PBkOFF
小学4年生の女の子が、
憎き姉を転落しさせ、
一緒に住んでいるメイドさんを生きたまま焼き殺し、
慕っている人の元彼女を毒殺し、
(罪を父親になすりつけて殺害し)、
慕っている人の彼女の猫を電子レンジで爆死させ、
慕っている人の大事な大事なかけがえのない将来刑事さんを夢見る仲睦まじいカップルの彼女を溺れされて殺害し、
それを邪魔させないように犬をけしかけて車に体当たりさせる


の作品が読みたい・・誰か書いて・・
153名無しさん@ピンキー:2007/07/28(土) 19:00:51 ID:dZQzNHmR
>>152
自分で書くといいよ
154名無しさん@ピンキー:2007/07/28(土) 19:06:21 ID:8IEOkKMg
>>152
おまい露骨すぎw

ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm314985
155名無しさん@ピンキー:2007/07/28(土) 19:09:25 ID:RXaZDdEb
>>152
それ、なんて狂った果実?
156名無しさん@ピンキー:2007/07/28(土) 20:16:36 ID:H1o/blrY
>>152
お前、ヤンデレスレに貼られてたの見ただろwwww
157名無しさん@ピンキー:2007/07/28(土) 20:27:23 ID:P/yeOmpl
こんだけ神作品の投下が続くと、ROMってた甲斐があったなぁと思う…いやマジで。

良いもん読ませてもらってthx(`・ω・´)b
158名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 01:30:37 ID:+DahglFD
>>150
GJ!!
非常に続きが読みたくてたまらんですwww
主人公の過去の話も気になるし…

とにかくグッジョブ!
159名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 15:36:39 ID:6gp0Gfhx
ああ……次は敵国で通い妻を作るべきだ……
160名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 15:38:38 ID:6gp0Gfhx
違う、通い妻じゃなくて現地妻だな
161名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 17:03:32 ID:/bTlm1eD
プロット

妹編
病弱な妹は病室で入院している日々が幼い頃からずっと続いてた。
親以外を除けば、外部の接点があるのは兄だけ。いつも、学校が終わると
真っ先に妹を心配して毎日お見舞いにやってくる優しい兄のことが小さな頃から
大好きだった。精神的に依存できる相手は兄だけ。妹は学校に通ったのは数回だけであって
友達もできずに、兄の日常生活を聞くのが唯一の楽しみであった。

そんな、兄が高校に進学した時・・。
妹の病室に訪問する回数が極端に減った。毎日、放課後になれば病室に尋ねてくるというのに
それは妹にとっては恐怖以外何でもなかった。寂しさと孤独に我慢できない妹はついに兄に問う

どうして、病室にやってくる回数が減ったの?

兄は私の目の前では見せることのない幸福な笑顔を浮かべて言った

「俺、彼女が出来たんだ」

この一言がきっかけで妹の精神はどんどんと病んでゆく・・。
お兄ちゃんを寝取った泥棒猫に殺意と怨恨を込めたてるてる坊主を作って
首をぎゅっと強く絞めた。


泥棒猫サイド
高校入学当初に学年男子生徒からからかわれていた所を主人公を助けてもらった
泥棒猫は彼の優しさに一目惚れをする。彼の事を想うだけで毎晩夜も寝付くこともできずに
胸がモヤモヤしている。友人の助けにより、主人公を裏庭に呼び出して。精一杯の勇気を込めて
彼に告白した。貴方のことが大好きです。だから、わたしと付き合ってくださいと。
主人公は少し躊躇しながら、いいよと承諾した。

晴れて彼氏彼女仲になった泥棒猫は有頂天になっていた。
だが、少し付き合ってから彼の挙動不審が明らかになっていた。
日曜日土曜日という休日には必ず用事があるといい、放課後も付き合ってくれる日はそう多くない。
本当に恋人の関係なのかなと不安に抱いた泥棒猫は主人公に問い詰めた

「どうして、いつも私と一緒に居てくれないの?」
 主人公は事情を彼女に説明した。
 彼には病弱な妹が居て、忙しい両親の代わりに妹の面倒を見るので
 彼女と一緒にいる時間はあまり多くないと。
 泥棒猫は表面上では納得していたが、心の裏側では憤慨していた。

 彼にとっては恋人の私よりも肉親である妹が優先される事実が気に喰わなかった。

 だから、まだ見ぬ妹に嫉妬心が燃やすが

 その二人が近い内に対面するのはそう遠くはなかった。

 

 んな感じでプロット投稿終了
お兄ちゃん大好きで依存している妹VS泥棒猫

これで修羅場が起こったら面白そうな予感w
162名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 17:22:07 ID:wIGafq4V
突然だがプロットだけ浮かんだので投下する。

舞台は桜舞い散る新学期の中高大一貫のマンモス校。
主人公は一つ学年が上がり先輩であり後輩でもある平和な華の高校二年生生活を送るはずだった。
しかし突然これまでほとんど女っ気など無かった彼の前に様々な女性が現れる。
クラスの皆にはめられ生徒会委員になってしまい、生徒会長室に行ったらツンデレなお嬢様生徒会長にいきなり絡まれたり、
一人暮らしの主人公を見かねた優しい天然の従姉のお姉さんから同棲しないかと申し込まれたり、
幼い頃両親が離婚して以来逢っていなかった血の繋がってない大人しい読書っ娘な妹がこの高校に一年生として入学していて偶然再開したり、
昔主人公が可愛がっていた猫の生まれ変わりの天真爛漫少女が後輩として猛烈にアタックしてきたり、
そんな主人公の周りが突然女だらけになっているのを見て思わず嫉妬してしまうクールな幼馴染みが突然不審な行動を取り始めたり
と普通の男子なら泣いて喜ぶようなシチュエーションが主人公に到来する。
しかし主人公を含む全員には誰にも言えない秘密があった・・・
そして始められるスレの住人達が渇望する血で血を洗う嫉妬・修羅場の嵐!
果たして主人公にハッピーエンドは訪れるのだろうか・・・?

・・・ストーリーがはっきりしてなくて何かすごくハードルが高いかもしれんが誰か書いてみる?
一応キャラの設定とかは考えてあるから必要だったら言ってくれ。
163名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 17:25:12 ID:znJvTFtQ
夏ですねぇ・・・
164名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 17:46:14 ID:mgnVMN9+
みんなが言いたいことはわかっている。
我慢してだまっているのも先刻承知の上だ。

しかし書いてやらねば、わからん馬鹿もいる、
これは厳粛なる事実として受け止めねばなるまい。

あえて火中の栗を拾おう。

>>162
>・・・ストーリーがはっきりしてなくて何かすごくハードルが高いかもしれんが誰か書いてみる?
>一応キャラの設定とかは考えてあるから必要だったら言ってくれ。

「自分で書け!」
165名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 18:03:55 ID:/bTlm1eD
こういう時に専属のシナリオライターと小説家が欲しいとこですね
嫉妬スレ専属のな
166名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 18:23:23 ID:zn56YqIN
ここ笑うところ?
167名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 18:53:01 ID:VsdOmC4Z
無視するところ
168名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 19:16:38 ID:qvF3AmXN
>>166
鋸片手に虚ろな目で狂ったように笑うところ
169名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 19:16:51 ID:6gp0Gfhx
私の為だけにお話を考えて、私の為だけにお話を作ってくれればいいのよ。
他の女(スレ)にあなたのお話を聞かせるなんて勿体無いわ。
……そうだ、もう足はいらないわよね? ずっと私の側にいるのだから、余所に行く必要なんてないじゃない。
ずーっと私が抱きしめていてあげるから、ずっと私の為だけにお話を聞かせてね。
私だけ。あなたには私だけ、私にはあなただけ。他の女が入る隙間なんてないのよ、うふふふふ……。

さぁ、お話を聞かせて、私のためだけのお話を。





……と、>>165が申しております
170名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 19:26:22 ID:mgnVMN9+
予告編のキャシー・ベイツが怖すぎて見ていない・・・
171名無しさん@ピンキー:2007/07/30(月) 04:55:33 ID:YPNuy39G
>>161
まとめサイトの「赤色」読んでこい
そして漏れと一緒に続きを請うのだ
172名無しさん@ピンキー:2007/07/30(月) 11:07:43 ID:C4QaqjG2
>>162
なぜか読んでて恥ずかしくなった
173名無しさん@ピンキー:2007/07/30(月) 12:42:13 ID:qfRlL72L
タランチュラをペットで飼っている男が主人公。
大学進学で一人暮らしを始めたのをきっかけにタランチュラを飼い始める。
しかしタランチュラの飼育に夢中になり、せっかく出来た彼女とも別れてしまう。

夏休みになり、主人公が何も連絡してこないことを不安に思った両親は、
夏休み中、主人公の所で遊ぶと約束していた妹を派遣させる。
妹が合鍵をもって主人公の部屋へ入るとあたり一面クモの巣だらけ。
周りにはタランチュラの生態や飼い方についての資料がたくさん。
部屋の奥へ行くとベットにはケースに入った大きな蜘蛛が。

「夏休みの約束すっかり忘れてる!
私よりこんな毛むくじゃらの化け物が大事なの!?」
と嫉妬に駆られた妹はクモの巣を取り払いタランチュラを嬲り殺した…


××××××××××××××××××××××××××××××××

両親から妹が遊びに来ることは聞いていたがこんな急だとは思わなかった。
小さな虫でも嫌がる妹だから、タランチュラなんて見たら気絶する!
と、主人公が急いで帰ると部屋は今までに無いくらい整理されていた。
「俺のタランチュラは!?」
掃除をしていた妹に聞くと、ドアを開けたら大きな蜘蛛見たいなのが飛び込んできて
外に逃げてしまった、と言う。
酷くショックを受けたが、ケースをしっかりしていなかった自分に責任があり、落ち込む。
もしかしたら帰ってこないかな…と思いながら妹と生活する。


数日が過ぎ、二人で食事をしているとピンポーンと呼び鈴が鳴った。
主人公が出てみると、どことなく見覚えのある白髪の美女が立っている。
「何か御用ですか?」と主人公が聞く。
「ようやく直接触れられる…」いきなりその女性に抱きつかれた。
突然のことにドキドキしていると、般若の形相の妹がやってきて乱暴に二人を引き剥がした。
「お兄ちゃん、この女(ひと)だれ?」主人公が妹の剣幕に押されて何も言えずにいると、
その女性がガシッと妹の髪をつかんで妹に寄った。
人間離れした綺麗な赤い瞳で睨みながら言う。
「先日は世話になったな」
妹は一瞬で理解した。こいつはあの時バラバラにした蜘蛛だ…




というような話を考えてたけどタランチュラじゃどう擬人化しても萌えません本当に(ry
174名無しさん@ピンキー:2007/07/30(月) 13:31:18 ID:O9OwWqqt
擬人化は大好物です
175名無しさん@ピンキー:2007/07/30(月) 13:32:35 ID:WhoAEAXo
まあ、タランチュラはね・・・w
176名無しさん@ピンキー:2007/07/30(月) 13:35:11 ID:iLCgICun
蜘蛛女……語尾に「〜ッシャ」とかつきそうだ
177名無しさん@ピンキー:2007/07/30(月) 13:41:47 ID:nCAkKjk2
>>176
それなんてトランスフォーマー?
178名無しさん@ピンキー:2007/07/30(月) 15:12:14 ID:0rc14Ltz
交尾のあとオス食べちまうんだぜ
179名無しさん@ピンキー:2007/07/30(月) 16:05:26 ID:XVbwh7fK
最後はもちろん地獄に落ちた主人公の前に蜘蛛の糸が垂れて、それを上ってる途中で他の奴を蹴落とそうとした途端糸が切れるんだよな
180名無しさん@ピンキー:2007/07/30(月) 16:15:31 ID:WhoAEAXo
テラ芥川www
181名無しさん@ピンキー:2007/07/30(月) 17:46:12 ID:VFFuIrxK
蜘蛛女とか大好物です
蛇女でもいいぞ!
182名無しさん@ピンキー:2007/07/30(月) 18:45:13 ID:lN6Wi9ww
朝の蜘蛛は殺してはいけない。
――朝の蜘蛛は福を持ってくるから、殺したらだめなんだよ――
まだ婆ちゃんが元気だった頃、僕に教えてくれた迷信を思い出す。
家賃二万六千円、風呂トイレ付き六畳一間のボロアパートで迎えたはじめての朝、
都会での大学生生活への期待と戸惑いで眠れぬ夜を過ごした僕の起床を促したのは、新調した目覚まし時計でも、使い慣れた携帯電話のアラームでもなく、
胸元でわしゃわしゃと蠢く、タランチュラだった。

体長七センチ、黄色く縁取られた八本の足、雪のようにふわふわとした真っ白な毛。
「……ひぃっ」
朝特有の気だるさは一気に吹き飛び、背筋に氷柱を突き刺されたような寒気が昇る。
何で?どうして?日本だよなここ?ドッキリ?田舎と違って都会の蜘蛛はセレブなんですか?
息をすることも叫ぶことも出来ず、金縛り状態の中、自分でもわけの解らない思考が飛び交う。
「ちょ……ま……」
未知の恐怖と混乱に支配され凝固した体の上で、そろりそろりと足を伸ばし、徐々に僕の首元へと近づいてくる大蜘蛛。
足がむき出しとなった僕の鎖骨へと伸び、ざわざわという毛の感触が生理的嫌悪感を催す。
思わずちびりそうになる。
「ふっ……ふっ……あっち……いけって……」
僕は何を思ったか蜘蛛に向かって必死に息を吹きかけ、風圧で体の上から吹き飛ばそうと無駄な努力を続ける。
起き上がるなり手で退かすなりすればいいのに、そのときの僕はこういう馬鹿な仕方しか思いつかなかったのだ。
一分か、一時間か、永遠にも感じられる恐怖の中で、僕はつとめて気を落ち着かせようとした。
ともかく、この化け物が僕の体に陣取っている限り起き上がることは出来ない。
ひぃひぃふぅふぅと妊婦のように息を吹きかけ続ける。
がむしゃらに、無我夢中に、十八年間の人生の中でこんなに必死になったことはないと言えるほどの努力の結果、ようやく蜘蛛さんは僕の体から退いてくれた。
蜘蛛の足が僕の肩を離れると同時に、ばっと身を起こし壁際に避難する。
離れられるだけ離れて安心したのか、ばくばくと耳障りだった心臓の鼓動も落ち着き、少しは冷静に物事を考えられるようになった。
大蜘蛛はまるで自分が部屋の主人であるかのように悠々と畳を這い回っているが、僕に危害を加える様子は見せない。
しばらくにらみ合い――睨み付けているのは僕だけだが――が続く。
183名無しさん@ピンキー:2007/07/30(月) 18:47:00 ID:lN6Wi9ww
枕元にある昨晩使用した写真集を足で引き寄せ、手にとって丸める。
ゴキブリと同じようにやっちまえばいいのさと精一杯虚勢を張るが、基本的に小心者の僕は近づくことすら出来ずにいる。
目覚まし時計が鳴り、携帯のアラームが鳴っても僕は壁に張り付いていたが、大学のことを思い出して、自分に言い聞かせるように口を開く。
「時間もないし……殺すのはやっぱりかわいそうだよ、な……」
着替えと鞄は昨日のうちに用意していたため、大蜘蛛を警戒しつつもなんとか身なりを整え、そそくさと部屋を後にする。
これが、僕とタランチュラの奇妙な同居生活の始まりだった。

――二週間が経った。
相変わらずタランチュラは僕の部屋に居座り続けている。
大学の図書館で調べたところ、このタランチュラはチャコジャイアントゴールデンニーという種類らしい。
大型だが非常におとなしいタランチュラだと書いてあった。
一般人にとっては大人しけりゃいいというわけでもないが、少なくとも僕の命が危険に晒されることはなさそうだ。
あの日、僕が大学へ行っている間にタランチュラは窓際の本棚を占拠し、すっかりと自分の住処を整えていやがった。
参考書を入れるつもりで購入した本棚は、この化け物の飼育箱になってしまったのだ。
かといってへたれの僕は領土を奪い返すことも出来ず、大戦末期の日本のように蹂躙されるに任せるしか出来ない。
まぁ、最初は驚いたが、特に腹が立つわけではない。
最近では僕もこいつに慣れてしまったのか、夕飯やお菓子をあげたり、気分のいいときには遊んでやったりしている。
さすがにまだ直接触れる度胸はないが、ボールペンに足を絡ませて遊ぶ程度のことは出来るようになった。
「ちっちっちっ……このやろ、ほれっほれっ」
今もふんふんと鼻歌を歌いつつ、顔をだらしなく緩ませ猫を愛でるように遊んでいる。
自分でもこの態度は気色悪いと思うが、止めるつもりもない。
今日の僕は非常に気分がいいからだ。
184名無しさん@ピンキー:2007/07/30(月) 18:49:32 ID:lN6Wi9ww
「は、初めて会ったときから、わ、私、亮介さんのことが……」
肩まで伸ばした黒髪、縁なし眼鏡をかけた小柄な女性が頬を薔薇色に染め、弱弱しい声で言葉を続ける。
このパッと見地味目の女性は佐藤由美子さん――僕が大学に入学して初めての友人だ。
大学初日に隣の席に座ったことがきっかけでお近づきになれた人で、僕と同じように田舎から上京して来たため、周りに知り合いが居ない者同士自然と関わることが多くなったのだ。
で、今日も今日とて二人で帰り道を歩いていたわけだが……
「す、好きです……付き合ってください……」
「よろこんでッ!」
なにこれ?告白、されたのか?
条件反射で了承の返事を返す。彼女いない暦十八年の悲しい性である。
「ほんと、ですか?」
「は、はい……」
こっちが聞きたいくらいです。どうして僕なんかを好きになったのかと。
自慢じゃないが僕はモテない。高校では女ッ気が全く無く、バレンタインデーの時など義理チョコさえもらえないし、クリスマスだって仏教徒の鏡といえるほどしめやかに済ませるような人種である。
去年の夏休みも、親友だと思っていた連中に裏切られ、遊び相手がいないため家に引き篭もることしか出来なかったのだ。畜生め。
高校最後の夏は幼児退行し彼女欲しい彼女欲しいよぉと駄々こねて妹にしこたまぶん殴られた記憶しかない。
ちょっと仲良くなってんじゃないと自意識過剰気味に感じた相手に「お願いですからもう話しかけないで下さい!」と泣きながら言われたときは自殺しようかと思った。
自分で言ってて悲しくなってきたぜ。
「それでは、私はここで」
「あ、うん。気をつけてね、佐藤さん」
「さようなら、亮介さん」
家族以外の女性に名前で呼ばれたのなんて、何年ぶりだろうか……
あまりにも幸せすぎて、狐に包まれているのかと思った。
僕に、彼女が出来るなんて……これなんてエロゲ?
185名無しさん@ピンキー:2007/07/30(月) 18:51:19 ID:lN6Wi9ww
首元にぞくっとした感触。目を開くと、今日もあいつの姿があった。
「おはよう、タランチュラ」
こいつのお陰で、高校生時代のように寝坊することがなくなった。
実家に居たときはいつも時間ギリギリで、妹に怒鳴られてやっとこさ起きれるという具合だった。
寝起きの体調も随分と良くなった。以前はやけに体がだるく、大量の寝汗をかいたり涎を垂らしたりして散々だったのだ。
妹の代わりのこいつが僕の目覚ましとなってからは、気持ちの良い朝が迎えられるようになっている。
ちなみに、タランチュラとはこいつの名前である。
洒落た名前を付けようにも僕の貧相な語彙ではロクな名称が思い当たらず、悩んだ末結局なんのひねりも無いこの名前になった。
朝のニュースを見ながら食パンを咥える。タランチュラはあいつ専用の皿で、ウインナーをかじっている。
満足したのか、噛み跡のついたウインナーから一歩離れ、前足をあわせてご馳走様をした。
僕はタランチュラの微笑ましい姿に頬を緩ませ、指先で胸を撫でてやる。
こいつはものすごく頭がいい。試しに芸を試してみたら、たった一度で覚えるくらいに。
犬なんかより余程覚えがいいのだ。もしかしてこいつは、どこかの研究所で生まれたスーパーな蜘蛛なのかもしれない。
「おまえに噛まれたらスパイ○ーマンになれるかな?」
下らないことを言ってみると、タランチュラは頭をかしげてから、僕の指にじゃれ始める。
「ははっ、おまえが僕を噛むはずないか」
最近、こいつが可愛くて仕方が無い。はじめ気味が悪く見えたこいつの見た目も、馴れてくると可愛げがあっていいと思うようになった。
模様のように縁取られた体。黄金と漆黒のグラデーションが喩えようのない色気をかもし出している。
ふさふさとした純白の毛は彼女の美しくしなやかな肢体に雪化粧を施したようで、清楚さと艶やかさが同居した人外の美を演出する。
極めつけは、お腹の部分の模様だ。真っ白な毛によって彩られるキュートなハート型の刻印。
胸を撫でてあげるとまるで清純な少女が時たま見せるはにかみのように形を変える。
ころころと変化する表情も彼女の魅力の一つなのだ。
186名無しさん@ピンキー:2007/07/30(月) 18:53:54 ID:lN6Wi9ww
「可愛いな、おまえは……」
食後の休憩。すっかり習慣となってしまったこの愛撫は僕を陶酔させ、飽きることのない安らぎと平穏な悦楽を与えてくれる。
僕は時間を忘れて、いとおしげにタランチュラを撫で続けた。
「亮介君?講義始まっちゃうよ?」
――由美子さんから電話が来るまで、ずぅっと……







>>173試しに冒頭部だけ書いてみた。
タランチュラのことはよくわからん。
慣れないことはやるものじゃないですね。
187名無しさん@ピンキー:2007/07/30(月) 19:20:24 ID:nCAkKjk2
>>186
やべぇwwwwツボだwwwww
マジで続編キボンヌ
188名無しさん@ピンキー:2007/07/30(月) 19:43:00 ID:/VyOUtzc
名前の下りでタラちゃんと思い付いたのは絶対に俺だけではないはず
189名無しさん@ピンキー:2007/07/30(月) 19:57:24 ID:O9OwWqqt
ちょwwwww続きが気になる、ここでやめるとかはなしだぜ?
190名無しさん@ピンキー:2007/07/30(月) 20:20:18 ID:KsDhXQb3
素で面白かった訳だが。
191名無しさん@ピンキー:2007/07/30(月) 20:36:33 ID:qfRlL72L
>>186
僕は、君に、敬意を表するッ!


自分の妄想駄文をこんな素晴らしいものに昇華してもらえて
俺は今、猛烈に感動しているッ!!
192名無しさん@ピンキー:2007/07/30(月) 20:44:55 ID:62LujSGf
>>191
おまいの発想力にも俺は敬意を表するよ
193名無しさん@ピンキー:2007/07/30(月) 21:01:43 ID:KpR5W3rF
>>186
GJ!
もろにツボったww
本来気持ち悪い対象の蜘蛛を可愛いらしく描写出来ているのにSHIT!w

だけどこれから殺されるであろう蜘蛛ちゃんカワイソス(´・ω・`)
194名無しさん@ピンキー:2007/07/30(月) 21:48:57 ID:mbSz8k87
:1/8スケールのHeart→Hate をwltkしながら待ってます
195名無しさん@ピンキー:2007/07/30(月) 23:18:28 ID:6CKFdQ1v
わ、わるてか…?
196名無しさん@ピンキー:2007/07/30(月) 23:54:53 ID:KFaafkit
俺はクロックワーク・ホイールズを全裸で待ち続けている。
今日は涼しかった。
197名無しさん@ピンキー:2007/07/31(火) 00:04:23 ID:/VyOUtzc
期待と勢いに乗って書き上げた、「草」の続きを投下させて頂きます。
198「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/07/31(火) 00:05:55 ID:zUkHPX07
+ + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + 


 暖かな日差しが差し込む室内に、羊皮紙をめくる音が静かに響く。

「……国の掃除には一応の片が付いた、か」

 エイブル将軍の使者から寄越された報告書を読み終えた私は、その内容にとりあえず安心した。
 、直接の連絡手段を持たない今、私とエイブル将軍は、使者を通じて半ば定期的に報告のやり取りをして
いる。
 無論、他者に怪しまれないようにと使者は至って普通の配達人を雇い、報告書には暗号隠語その他色々を
使い合わせて、結果私と将軍が恋人同士であるかのような内容になってしまっている。甚だ不愉快な事に、
私の文通相手は故郷に一人残してしまった恋人かつ幼馴染のエリスン十八歳だ。
 ちなみに、特にどちらが先に出すとは決められていない。何らかの進展が見られた側が、それを逐次伝え
合っているのである。どうやら、今回はこちらが先に受け取る側になったようだが。
 というわけで、恋人エリスンからの秘密の手紙を読み解いたところ、どうやらリザニア国内に紛れた敵国
の間諜は、一部を除き概ね始末あるいは懐柔したらしい。
 国の内部に存在する草を一つ残らず根こそぎ除去する等というのは、すなわち国の滅亡に他ならないと、
私は一間諜として考えている。見えていないだけで、どこにだって人の目と耳は付いているのだ。
 それを考えると、この報告書の内容がジジイのお茶目な嘘八百でも無い限り、向こうも相当頑張ってくれ
ているようである。
 何も書かれていない羊皮紙を書類棚から机へと引き抜き、自分も椅子に腰掛ける。

「私も、やるべき事をやらねばな」

 羽ペンにインクを付けて、何はともあれ、まずは「愛しのエリスンへ」と前置き。
 続く文章を、私は頭の中であれこれと暗号化していった。 



 リザニアを出る際に選抜した隊を率い、敵国の制圧により祖国を追われた将を装ってこのイスト国の内部
に将兵として潜入してから、もう一、二月ほどで半年が経つだろうか。

 常の如く諸々の下準備をしっかりと整えてからイスト軍に入り、概ね文句の無い状態でスタートを切った
かのように思われた今回の任務だったが、蓋を開けてみれば、司令部から末端の一兵卒に至るまで、軍全体
に何とも胡散臭い雰囲気が漂っている。
 最も怪しかった一例を挙げるならば、各隊のあちらこちら…あるいは部隊そのものに、やたらと他の草ら
しい者達が目に付いた。
 他の一般の軍人がそれに気付くかどうかは知らないが、少なくとも私の部隊の全員や、もしくは勘の鋭い
将はそれとはっきり認識出来る程度に、……そう、これではわざと撒いているのではないかと思えるほど、
不自然さが蔓延している。
 原因を確かめる為と、手っ取り早く手柄と信用とを挙げる為に、手始めに最初の任務にて共に行動する事
になった、あからさまに不審な部隊の隊長を任務完了の直前に締め上げてみる事にしてみたのだが、やはり
と言うべきか、向こうもこちらと同じ事を考えていたらしく、報告を告げに戻るまでの若干のタイムラグの
中、味方同士での小規模な戦闘が起こった。
 とは言え、私もその手の戦いならば慣れたもの。ましてやこちらの不審さを見出すでもなく、ただ賊のよ
うに襲い掛かった来ただけの敵など寝中の牛を仕留めるに等しい。

 かくして、一方的なうちの隊による攻撃によってあっさりと捕らえられたチンピラ部隊に、とりあえず現
在のイスト軍を取り巻く違和感と、軍の中に居る間諜達について小一時間ほど尋問した。
 隊長をしていた男に血反吐と一緒に引き出した情報は、それまで組み立てていた私の推論を決定付ける要
因となった。
199「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/07/31(火) 00:07:01 ID:zUkHPX07
 ―――今のイストは、他国の傀儡と成りかけている。

 それが一体どこの国か。
 考えるまでもない。イストと国境を面している国はそう多くないからだ。

 地図上大陸の北方付近にあるリザニアより西に位置するイストは、国土面積こそ大国に劣る横長に伸びた
形の、北と南とをそれぞれ険しい山々や森林に挟まれ交易と軍事に乏しい造りとなっているが、しかし、そ
の地形ゆえに他国による侵攻も正面から少数の軍勢でぶつかるしか術が無く、結果として今日まで王都は戦
火に晒されぬまま、豊富な資源を蓄えた農産業の国として十分栄えていた。
 そのイストに隣接する国といえば、片やついこの間まで争いの気配をちらとも見せず協調の姿勢を見せて
いたリザニア。
 そして、片やリザニア国が東方の強国と熾烈な争いを繰り広げている以前から、じわじわとイストに攻略
の手を進めていた工業国イスタリア。

 外からでは手間がかかると、内側から侵食されていったのだろう。

 何せ戦争経験に乏しい国である。リザニアから移った兵も幾らかは居るだろうが、今までがなまじ正面攻
撃のみだったのに油断して、計略に対する警戒を怠っていたのだろう。
 私がイスタリア側の立場だとしても、イストへ侵攻するならまずは内から攻めるはずだ。
 しかも、あの不自然な空気が放置されたままということは、おそらくこの軍の上層部には有能な人材が極
僅かと限られているのか、もはや軍の掌握は秒読み段階となっているか。
 前者は国柄からして多分に有り得そうだが、後者は……まだかろうじで間に合いそうだ。むしろ、そうで
なくては困る。
 だが、ならばこの腐敗した軍内部の状況にもある程度納得が行く。

 ―――イストという庭のそこらじゅうに植わっていたのは、草ではなくイスタリアという名の種だったと
いうわけだ。



「失礼します、イズルード将軍」
「何だ」

 ノックの音に反応して報告書を懐に仕舞い込むと、使いの衛兵がドアを開け入ってくる。
 イズルードというのはここで生活する際の私の偽名だ。

「定時会議の時間が迫っておりますので、急ぎ作戦室までお越し下さい」
「わかった、すぐに向かおう」

 腰掛けていた椅子から立ち上がると、イスト国軍の模様の付いた甲冑を身に付け、私は部屋を出た。
200「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/07/31(火) 00:08:13 ID:zUkHPX07
+ + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + +


「イズルード様、参られました」

 衛兵の声と共に私が幕をくぐって出ると、室内がやにわにざわめき立った。
 既に席に着いている他の将兵らが羨望や尊敬、あるいは嫉妬に畏怖を宿した視線を傾けてくる。

「遅れてしまい申し訳ありません。軍師兼第二軍団長イズルード、ただ今参りました」
「いや、丁度良い時間だ。では、全員揃ったところでそろそろ会議を始めたいと思う。今回の議題は――」

 イスト国王がそう言って私に着席を促し、実際に私が自分に割り当てられた席に座るまで彼らの目はずっ
とこちらへ向いていた。
 それら度の過ぎた注目のされようも、私のしてきた事を考えれば無理もないだろう。
 隠密を旨とする間諜として、この注目のされようはよろしくないものなのだが。今はそんな悠長に構えて
いる暇は無い。



 事態は急を要する。もしもこのままイスタリアに攻め入られ、完全にイストが陥落してしまえば、未だ戦
後の建て直しが整っていないリザニアが、その直後起こるであろう戦い、先の平原でのものより更に規模の
大きな争いで不利を被る事になってしまう。
 そこで負ける事は無いにしても、敵はイスト、イスタリアだけではない。痛手を負ったのが他の隣国に悟
られては、これ幸いと叩かれる事になる。

 そうなる前に私がここで歯止めをかけ、イスト国軍の機能を復帰させる。
 尚且つ、その際に不安定極まりない国の情勢に付け入り、イスタリア兵ごとこの国を取り込むのだ。

 およそ並の所業ではない。
 しかしまた、決して不可能でもない。
 現実的に考えれば、この時点ですぐ隣のリザニアに侵略要請を出し、他の二国より兵の質と勢いで勝る今
のうちに徹底的にイストを制圧しておくのが常套策である。
 だが、その場合リザニアとイスタリアが争う最前線は、まだ統治者の判然としないイスト領地内。それも
、周囲を山林に囲まれた狭い土地での争いは確実に長期戦になるだろう。

 そんな事になれば、そこに住んでいる民間人はどうなる?
 計略により混乱に陥っている今のイストに、国民を無事に逃す術など当然有りはしない。どころか、イス
タリアがリザニアの兵力を削る為の捨て駒として、真っ先に敵地へと差し向けられる筈。
 後はもう、イスタリア軍とリザニア軍双方に、端から端まで国土を蹂躙されるだけだ。
 たとえリザニア軍の進撃がどれだけ調子良く行われ、その中で私もあらゆる策を用いたとて、どうあって
もイスト制圧までには一月以上の時間がかかってしまう。
 そうして残ったものは、無残に荒れ果てたイスト領と、怒りと絶望に染まった住民達を落ち着かせるため
の戦後処理。疲弊した自軍に残存勢力との攻防。

 これではリザニアにとっての旨味がまるで無い。上にスマートさに欠ける辺り、私の個人的な美学にも全
くそぐわない。

 件の部隊からイスト国軍の内情を聞き出し、ゴースをはじめとする部下数人により詳細な情報を数日ほど
探らせ、今後の方針を固めてからの私の行動は素早かった。
201「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/07/31(火) 00:10:18 ID:zUkHPX07
 まずは取り急ぎエイブル将軍の元へ使者を送る。イスト軍の兵士達は可能な限り捕らえて、指揮官級の人
間で怪しい者が居れば迷わず尋問にかけ、イストの領土へは決して攻め入る事のないように。
 特にリィス隊長なんかは血気に流行って敵を片っ端から殺して、勢いのままにこちらに突撃してきそうだ
ったので、そこもきっちりと念を押しておく。

 次に、私はゴース達により寄せられた王侯貴族や、軍の各隊の情報を元に国内の有力者達をイスト、イス
タリア問わず、脅迫、勧誘、煽動、交渉、懐柔、篭絡と、とにかく使える手段を全て使って次々と吸収して
いった。無論、全ては明るみに出ないよう、水面下で密かに速やかに。
 必要な分だけ手中に収めた軍事的、政治的発言権を駆使し、まずは徒に兵力を消耗させるリザニアへの進
撃回数を徐々に減らして、最終的にはぱったりと止めさせるまでに至った。
 それと少々遅れてから平行するように、イスト領内で戦闘を行う場合を考慮した住民の緊急避難時のシミ
ュレートや危機意識を促す演説、加えて兵士達の錬度を上げる為の訓練等、強引に得たコネクトを最大限に
活かして国力回復を計り、それに伴い協力者達の信頼も脆かったものをより頑丈なものへ固めていった。

 どうにも回避の出来ない衝突や暗闘も数度かあったが、そうした場合はむしろ周囲に私の存在をアピール
し、ともすればイスタリアの手足を少しでも鈍らせるべく、派手にわかりやすく実力を見せ付る。昼夜を問
わず襲い掛かってくる暗殺者には、漏れなく恐怖を植え付け、こちらの勢力が大きくなった頃には見せしめ
と敵方の士気低下の為に晒し首にもして見せた。

 そう。こちらの勢力はこの数ヶ月の間に、既にそこまでの事が出来る程に大きくなったのだ。
 このイスト国内において、今や将軍イズルードの名を知らぬ者は居ない。
 現在この地で起こる出来事に、その全てに大小あれど私が関与していると言っても過言ではないだろう。
 それほどまでに私がイストを動かし、急速に国を纏め上げていっていた。

 こんな無茶がまかり通ったのも、偏に国の極端な不安定さと、侵略する側のイストリア兵とされる側のイ
スト、共に頭の回る有能な人材が私の前に立ちはだからなかった事が最も大きな理由だ。要するに運である

 いずれ力を付けるであろう才能を持った若手の将達も、この段階では殆ど使い物にならない。
 せめてもう少し手こずるかと警戒していたのだが、正直ここまでスムーズに事が運ぶとは思わなかった。
 統率者の育ち難いイストだけならまだわかるが、そこそこ隣国の多いイストリアまでもがこの体たらくと
いうのは些か不可解である。
 このイスト侵略にしてもやり方が下手というか、どうにも焦りや徹底不足が垣間見えた。力で押し切る場
面でも兵力が不十分で片手落ちだったり、何人かはこちらの勧誘に割合あっさり乗ってきたりと、何かと不
自然な点が諸所に浮上している。
 何より各国の位置関係からして、イストを手に入れたイスタリアを待ち構えているのは、どうあっても現
時点で勝ち目の薄いだろう強敵リザニア国のみ。

 そう、イストリアがイストに攻めるメリットなど、それこそ皆無な筈なのだ。だからこそ、これまでイス
トとイストリアの長年に渡る争いも本当の本気でなく、あくまでじっくりとやってきたのだから。
 それがどういった意味合いを持ち、今後の行動にどのように影響していくのか、私はしばらく思案した後
、試しにイスタリアへ偵察隊を仕向けてみた。

 戻ってきた部下から報告を聞いたその瞬間、私は今回のイスト乗っ取りの成功を確信した。
202「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/07/31(火) 00:11:20 ID:zUkHPX07
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「―――以上が、今後の我が国の方針となります。陛下、何かご不満な点はございますか?」
「……いや、何も文句は無い。このような状況とあっては、例え属国となろうとも、今リザニアとの繋がり
を持たねば、イストもイストリアの二の舞か、最悪、リザニアによって滅ぼされかねんのだからな。仕方あ
るまい」

 私の出した方策にイスト王は得心のいった顔で頷き、他の将軍らに意見を仰ぐが、細々とした質問や確認
はあったものの、反対的な意見はついに一つも挙がる事は無かった。

 当然だろう。何せ今の私はこれでもかというくらい勢いに乗っている状態だ。

 下手に意見など出して敵対的と見られようものなら、どんな恐ろしい事になるか。そんな内心の恐怖が彼
等の態度からありありと見て取れた。
 別に、それがただの嫌がらせや反抗意識によるものではなく、建設的な意見であればむしろ喜んで聞き入
れるのだが。まあ、少なくともイストリアとの件で片が付くまでは、誰もそうした意思は表してくれなさそ
うな空気である。

「では確認を。西のイストリア軍に関しては、私とレイナート将軍であたりたいと思います。王は大臣らと
共に内政を、他の諸将軍らには兵の鍛錬を引き続き行ってもらいます。レイナート将軍は残って私と打ち合
わせをするように。陛下、よろしければ解散のお言葉を」
「うむ。では会議をこれにて終了する、各員、与えられた役目を怠らぬように」
「「ははっ」」

 その一言を幕引きに、長机を囲んでいた面々がそれぞれの持ち場へと戻って行く。どうやら鍛錬の成果が
目に見えてきたのが嬉しいらしく、何人かの将兵が仲間同士で自分の受け持つ兵達を自慢し合っていた。そ
の表情には現在の環境による熱意と充実感の色が浮かんでいる。
 ここへ来た当初にあった不穏な雰囲気は、もはや微塵も感じない。
 良い傾向だ。

「しかし、王を始め、私に対するお偉方の頼りきりな姿勢は後で正さなければな。便利屋が欲しければ他所
をあたれという」
「ぐ、軍師様。王にそのような畏れ多い事を申されるのはどうかと……」

 嘆息を吐き作戦室の出入り口を見つめる私に、おそるおそるといった風に一人の将兵が声を掛ける。
 レイナート将軍。イスト軍内で有望な人材は居ないかどうか探していたところ、戦闘指揮において適正有
りと判断し、以来何度か私自らが陣形や隊列等の指導をして育てている青年である。計略や外交の方面は望
み薄だが、今のイストには私やゴースといったその道に精通したエキスパートが居るので、専ら戦闘面を担
当してもらうつもりだ。
203「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/07/31(火) 00:14:19 ID:zUkHPX07
「何、いずれ戦いを繰り返していくうち誰もが気付く事だ。非力を嘆き助けを求める事が悪いわけではない
、ただ、出来ることは自分でやるようにならないとな」

 現に、この国は私を通じてリザニアに多大な借りを作ってしまったが故に、こうして同盟という名の属国
化を免れぬ事態になってしまっている。我々を救ってくれた軍師殿の指示ならば仕方なし、と。
 この度の件にしても、イストの領土に政治的な価値があると踏んで、その他諸々の利害関係からなるべく
国土を荒らさぬように行動したが、もしイストがそのような価値も無いありふれた国家で、もう少しだけ周
囲を覆う山や森の面積が広かったとしたら、私は迷わずにここを戦場に選んだだろう。
 脅威から身を守る術を持たぬ愚かしさも敵国たればこそ、利用する手段として望ましい。
 一度こちらの側として加わったとなれば、役に立たない荷物にしておくわけには行かないのだ。その為の
内政であり、鍛錬である。

「ともあれ、まずは目の前の問題を解決するのが先だ。……おい、そんなに硬くなってどうする。まだ戦い
が始まったわけでも、陣中に居るわけでもないぞ」
「は、はい、ですがどうにも…」

 私の対面に座り直し緊張した面持ちのレイナートに、落ち着かせるように口を開く。

「物事は初めての事ほど気楽に、慣れてる事ほど緊張している方が上手く行く」
「……え」
「お前が会議中に落ち着かずに考えを回すのも、夜に眠れないくらい目を冴え渡らすのも、まだ早いって事
だ。それじゃ、打ち合わせを始めるぞ」
「!? は、はいっ!」

 半ば当てずっぽうだったが、心当たりがあったらしい。レイナートは驚いたように背筋をビシッと伸ばし
て威勢の良い返事を出した。



 イスタリアへ飛ばした偵察隊が見てきたものは、国土の西と南に面した二つの隣国から集中攻撃を受けて
、それらに必死の抵抗を試みる傍ら、退路を求めイストへ向かうイスタリアの軍勢であった。
 私の予想のうち、こちらにとって最も都合の良い筋書き。裁量を誤りさえしなければ、手勢の被害を抑え
たまま、二国三国と芋蔓式に絡め取る事の出来る絶好の機会である。
 そして、これはその為の第一歩。

 ………全く、ここまで予測していたのだとしたら、あの爺さんの慧眼もいよいよ化け物じみてくるな。

「イスタリア軍吸収合併計画」

 笑みを浮かべる私と、息を飲むレイナート。どちらからともなく、そんな呟きが零れ落ちた。
204「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/07/31(火) 00:16:10 ID:zUkHPX07
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 イスト領内、西の森。
 所々踏み固められた道があるものの古くから天然の要塞としてその防衛性能を誇ってきた、この国の象徴
とも言える深い緑。
 纏った甲冑に柔らかな木漏れ日を浴びつつ、私はイスト軍の部隊に王都へ連れられていく負傷兵達を主と
したイストリア軍の姿を見送っていた。
 向こうが先に連れて来た一部の国民達は都の安全な場所へと避難させており、現在はイストとの国境付近
に位置する砦を拠点として、イストリア軍で余力を残している部隊とイストの補給部隊で陣を敷いている。

エイブル将軍との連携もあって、リザニアへと恭順する手引きも滞り無く終わり、全ては思惑通りに動いて
いた。

「何とか、無事に交渉が済みましたね」
「ああ。彼等も既に後が無い状況だったからな、加減を間違えればあの場で人質にされかねない所だった」

 本当、冷や冷やしましたよ。と、隣でしきりに頷くレイナート。

 イストリア国に使者を送り、軍の代表と交渉を開始したのは昨日の昼頃。
 その際にこちらが信用出来るかどうか確かめる為、イストリアの陣中の真っ只中に私とレイナートは丸腰
の状態で立つ事になった。
 実際に捕らえられでもしたらどうしようもないのだが、向こうの切迫具合もいよいよ極まってきていた様
子で、今更敵の将兵二人を人質に取ったところで、滅亡は免れないと理解しているのだろう。
 あちらの代表として出てきたのが、今までの者とは違い義理堅くそこそこに頭の回る有能な人物であり、
自分達の圧倒的不利をきっちり納得した上で交渉に応じてくれたお蔭で、敵陣に身を置きながらも話はイス
ト側にかなり有利な条件で運ぶ事が出来た。

 ―――我等が祖国の地を取り返して、残された国民達を救って欲しい。

 こちらがイストリア国のイスト属国化を条件に出したのに対し、彼等の要求はイストの今後の動向を考え
ればそうするのは当然と言えるような、実に真摯でささやかなものだった。

「でも、今までうちの軍をあれだけ掻き回してた敵にも、やっぱりどうしようもないって理由があるんです
ねえ……」
「妙な悩みを持つ前に言っておくが、争う者同士に良いも悪いもありはしないからな。大抵はその時点での
周囲の過半数が味方をする方が正義と呼ばれて、後は戦いに生き残った側がそれを自分の都合に合わせて随
時修正してきただけの話だ」

 民衆や兵士に聞かせる演説の向上としてならばまずまず上等の煽り文句だが、戦場において正義だ悪だの
と青臭い台詞を大真面目に持ち出すのは、実戦経験の無い甘ったれだけである。

「隊長殿。ここに居やしたか」

 最後の集団を見送ったところで、真横の茂みから気配を消していたであろうゴースが突然現れた。
 後ろでレイナートが面白いくらい驚いていたが、それはこの際脇へ置いておこう。

「どうした」
「へえ、イストリアの代表が隊長殿に用があるみてえで、国王陛下が王都までお呼びですぜ。何やら向こう
の王族の生き残りを連れて、どうのこうのと騒いでやしたが」

 国を追われた王族の生き残り。その取り扱いで、向こうの軍の代表と揉めているのだろうか。
 一通りの指示は既に言い渡してある筈だが、さて……

「わかった、今からそちらへ向かうとしよう。……いつまでも味方に驚いてるな、とっとと戻るぞ」
 
 深く茂った森の中で全く物音を立てずに動くゴースを、物珍しそうにまじまじと見ていたレイナートが、
ふと思い出したかのように私の後ろへ駆け足で追い掛けてきていた。
205「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/07/31(火) 00:17:14 ID:zUkHPX07
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「と、いうわけなのだが。……おぬしはどうしたら良いと思う、イズルード?」
「はあ」

 半ば条件反射的に口を突いて出た相槌は、不覚にも若干間の抜けた声になってしまった。

「なりませぬ、姫様! これまで姫様の我侭を情けなくも度々通してしまいましたが、このゾモロフ。今は
亡き父上様の為にも、それだけは断じて許すわけには参りませぬぞっ!!」
「ゾモロフは黙っていて下さい。わたしはこの方々と話をしているんです」
「姫様っ!」
「上に立つ者が自ら前に出て道を示さずして、どうして人を従えられますか。それでなくても、ゾモロフや
周りの人は私に対して過保護なんです」

 時はじきに夕刻を迎える頃だろうか。
 あれから急ぎ足で王都の宮殿に戻って来た私は、玉座に着いていつもの困り顔を浮かべている国王と共に
、眼前で繰り広げられるイスタリア軍の代表と、イストリア国王女との問答をしばし眺めていた。

 事のあらましを尋ねたところ、イストの傘下に入ったイストリア軍を現在の我が軍にどう組み込んでいく
かについて、国王ならびに数名の将兵がイストリア軍代表……ゾモロフだったか、と話し合おうと集まり、
さあどうするかとこちらが切り出した直後、顔出しという事でこの場に参じた王女様が、何を思ったかいき
なり「自分も兵士として志願したい」と申し出たのだと、早くも助けてイズルード状態の王が説明してくれ
た。

 …………アホらしい。こんな事の為にわざわざ私に使いを寄越したのか、このヘタレ国王は。
 周りに居た他の将らも同罪である。誰も彼もが揃ってそんな姿勢だから簡単に国を奪われかけるというの
に、平和ボケも大概にしろという。

「失礼、ご両人。お互い意見をぶつけ合うのも結構ですが、どうかここが国王陛下の御前という事をお忘れ
ないように」

 とりあえず、放っておけば夜が明けるまでここで平行線の会話を続けていそうな二人の仲裁に入る。

「むう!? こ、これはとんだご無礼を。……申し訳ありませぬ、イスト王に軍師殿」
「……………私語が過ぎた非礼をお詫びします。どうかお許しを」

 完全にうろたえているゾモロフ氏と、返事が数拍遅れた辺り、自分まで一緒に窘められた事に納得の行き
かねる様子の王女。
 
「ええ、会話の成立には双方が落ち着いている必要があります。ここからは王に代わり、ひとまず私イズル
ードが話をお伺いしましょう。ではまず、イストリア国王女殿下。……の前に、遅れて来てしまったもので
、申し訳ありませんが、今一度貴女のお名前の方をお聞きしたい」
206「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/07/31(火) 00:18:15 ID:zUkHPX07
「え、あ、………わたくしの名は、アリアベル。アリアベル=ド=イストリアです」

 突然硬質の空気を当てられ、イストリア国王女、……アリアベルがびくりと返事をする。

「では改めまして、マリアベル殿。貴女は先ほど我が軍への入隊を志願したそうですが、その心は如何に?

「真実です。わた、……わたくしは、これからイストリアの国土を取り戻すにあたって、それを他者の手に
のみ任せて……、自らは隠れて安穏と戦火が過ぎ去るのをただ待つなど、到底耐えられません」

 言葉遣いに気を付けて、私の問いにアリアベルが一つ一つゆっくりと答えていく。
 世間知らずゆえの強情さとはいえ、私の言外に込めたプレッシャーに負けじと自分の意思を引っ込めずに
話す度胸は確かに大したものだろう。そこで事の推移をハラハラしながら見学しているうちの根性無しども
にも少し見習わせてやりたいくらいだ。

「ではゾモロフ殿、彼女の言い分に対する貴殿の意見は何でしたかな」
「無論。イストリア王家に長年仕えて来たこの身に賭けて、一族最後の生き残りたる姫様がみすみす死地へ
飛び込むのを、見過ごすわけには参りませぬ故」

 続いてゾモロフ氏に尋ねると、こちらもようやく冷静さを取り戻したようで、先日に同じく威厳を持った
受け答えをしてくれる。
 わかりました、と置いてから、私はとっととこの茶番を終わらせる為に、妥当と思われる落とし文句を言
わんと口を開く。

「結論から申し上げまして、我が軍は志願者に対しての貴賎は問うておりません。それは、属国であるイス
トリアの姫君においても、あるいは、我等がイスト国の王妃であったとしても例外ではありません」

 その瞬間、すぐ横で先程のレイナートの三倍は面白い顔を作っている国王がこちらを凝視していたが、そ
れに対する反応を鉄の意志でもって制し、私は続けて一気に畳み掛ける。

「しかし、それらは当然、志願者に軍人として何らかの適正があると見られた場合のみに限られるわけです
が。
 ………ときにアリアベル殿、これまでに軍隊で活動した経験や、各種武器の扱い、戦術、乗馬、ないし救
護の心得等の内、自身に当てはまるものを何か三つ以上お持ちでしょうか? 体力に自信があるだけでも、
十分こちらの要求は満たせますが」

「ぅ……」
 
 途端、それまでの勢いを失ってアリアベルが沈黙する。

「王族が軍を率いるのは決して珍しい事ではありません。その存在はただそこに居るだけで味方の士気を高め
る事が出来ますし、のみならず、先程アリアベル殿が言われた通りに、国の指導者が自ら戦場へ赴く姿は国民
にも影響を与えます。
 ですが、それは生きて帰ってくるのが前提の話です。身を守る為の武力を持たず、指揮官に必要な戦術知識
も無い。にも関わらず戦地へ向かい敵と出会おうものなら、私が敵の立場であればまず真っ先に貴女を捕
虜にするか、もしくはその場で殺害するでしょう」

 無表情にそう言い放たれ、アリアベルの表情から血の気が引いていく。
 実際そんな都合の良い標的が戦場に居るなら、私だったら殺さず人質にして交渉材料にするが、まあ今は彼
女の気勢を削ぐのが目的なので黙っておこう。

「もしそうなれば味方の士気をどれだけ下げる事になるか、それでなくとも貴女を守る為に戦力を割かねばな
らないのですから。前線は鉛を背負って戦うようなものです。
 もう一度お聞きします、アリアベル殿。貴女は我が軍の役に立つ要素を何かお持ちですか?」
207「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/07/31(火) 00:19:10 ID:zUkHPX07
 無いならこれで話は終わりだ。そう言わんばかりの目で私は属国となったイストリアの姫を見やる。
 既に虚勢が崩れかけ、半泣きに近い状態になっているアリアベルが、それでも引き下がらんと服の裾を掴ん
だ拳と声を震わせて、一言。


「………ま、まほうなら…すこしだけど、つかえます……」


「「…………?」」

 ぽつり、と。蚊の泣くような声で捻り出された言葉に、王室は再び困惑の色を漂わせた。
 アリアベルの傍で黙って成り行きを見守っていたゾモロフ氏が、「姫様っ!?」と必死の表情になって、王
女を言い咎める。……………ほう。

「魔法と、そう申されましたか」

 問い質すような視線の私に、発言者であるアリアベルはおずおずと、しかし多少は希望が射したかのような
調子で続ける。

「は、はい。……その、小さい頃に庭で転んで擦りむいてしまったとき、頭の中でおまじないをして手を当て
たら、その……」
「擦り傷が塞がった、と?」

 こくり。こちらの様子を窺うように、綺麗に整えられた赤毛の頭が上下した。
 また何か言い出しそうだったゾモロフ氏に目をやってみると、どうやらそうした事例に彼も覚えがあるらし
い。

「他には?」
「え、えっと、それだけ、です。……他には、何も………」
「成る程」

 言うなり、私は懐から短剣を抜き出して、おもむろに自らの袖を捲り左腕に当てた。
 そこまで深くはしないが、浅くもしない。手入れの行き届いた鉄の刃を、程々に加減して食い込ませる。

 ジワ……

「……っ!」
 
 目を見張るアリアベル。出血の目立ちやすい箇所を狙ったので、多分足元には小さな血溜まりが出来ている
だろう。
 唐突な行為に周囲の視線が少し動揺めいたものになるが、大した事はない。気にせず私は問いかけた。

「それではこの場で、アリアベル殿。私の傷を癒してみて頂こう。どうぞこちらへ」
「え、あ………」
208「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/07/31(火) 00:20:10 ID:zUkHPX07
 まだショックから立ち直りかけている途中なのか、私の差し出した血塗れの腕に向かってフラフラとした足
取りで歩み寄って来る。
 おそらく血の流れ出る様を間近で見るのは初めてだろう。端正な顔立ちはすっかり青くなっていた。

「さあ。どうぞ」
「は、……はい。わかりました……」
「……………………」

 …………いや、早くしてくれないとこっちもそろそろ痛いんだが。

 数秒硬直していたアリアベルを視線で促して、ようやく決心が付いたらしく、未だに身体を震わせているも
のの、ゆっくりとその手が傷口かざされた。

「……い、いたいのいたいの、とんでけ〜………」
「……………………」
「……ぇ…………ぇと……」

 何を言ってるんだこいつは。

「王女殿下、呪い文句は何も口にする必要は無いのではありませんでしたか?」
「うぁ、ぁっすみません! 間違えました!」

 慌ててもう一度やりなおそうとするアリアベル。しかし、

「おぉ……」
「なんと、これは……」
「……ぬう」

 周りからそんな声が幾つも上がる。

 それはそうだろう、私の傷口が淡く白い光に覆われ、少しづつだが塞がっているのだから。

 自らの施した術の成功に気が付いたアリアベルが、あわわともたつきながら再度傷口に手をかざす。
 私以外の誰もが固唾を飲んでその様子に注視するも、弱々しい光は程なく霧散してしまい、後には治りかけ
の傷が残るのみだった。
 その場に居た誰からとなく、落胆の溜息が漏れる。

「あ………」
「どうやら、ほんの軽傷ならともかく、それ以上は出来なさそうですな」

 だがそれらの反応に対し、私はまるで磨けば輝く原石を発見したような心境だった。

「陛下、折角こうして王都へ戻って来た事ですので、私もイストリア軍の処遇について検討させて頂きますが
、今はこの傷を医療班に治してもらおうと思います。ですので、二時間後、もう一度ここで。
 ……それと、アリアベル殿はお話したい事がありますので、私にお付き合い頂きたい。心配でしたら、ドモ
ロフ殿も是非ご一緒に」

 有無を言わせぬ口調で王に告げ、集まりはそこで一旦お開きになった。私はこれから自分がどんな目に遭う
のか不安の色を全面に出しているアリアベルと、困り果てた様子のゾモロフ氏を連れて医務室へと向かう。
 途中の廊下で幾つかの質問を二人にしたが、彼等の返事は私に満足の笑みを浮かべさせるに十分なものだっ
た。
 曰く、あの「魔法」は誰かに教わって覚えたものではなく、いつの間にか使えるようになっていたもので、
以降もそんな事の出来る人物は他に居なかった、と。つまり、この王女にはまだまだ成長の余地が見込めると
いう事。

 ―――使える。 

 私は頭の中で、まずはゾモロフ氏を説き伏せる為の方便を思索していた。
209「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/07/31(火) 00:21:11 ID:zUkHPX07

+ + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + +


 二時間半後。

「それでは、兵の訓練内容、戦術指導はイスト軍のものと一律にしますが、基本的にイストリア軍の指揮はゾ
モロフ殿を中心に、そちらの将軍に任せる形で。国土奪還の要として動いてもらいますが、どうかよろしくお
願いします。
 アリアベル殿については、一時的に我が隊に身を置いてもらい、私自らが戦闘についての指導をしつつ、イ
ストリア領開放後を目処に自国の統治に戻って頂きますが。……ゾモロフ殿、よろしいでしょうか」

「………承知致しました」

 これで良し。

 医務室からここまで、延々説得を続けた甲斐があった。
 アリアベル王女の保護者であるこの人物さえ押さえてしまえば、他は鶴の一声である。

「うむ、ではこれにて解散としよう。諸君らもこれまでの疲れが溜まっている事だろう。今夜は早々に身体を
休めるが良い」
「は、失礼させて頂きます……」

 王の前で礼儀正しく振舞ったのは最後の意地だろうか。廊下へ出る直前、顔を両の手で覆いううと唸り声を
上げるゾモロフ氏の姿がかろうじで見て取れた。
 あの老人もリィス隊長に邪険にされたときに同じような動きをよくしていたが、性格は違えど子を持つ親の
反応は概してこんな感じなのだろうか。エイブル将軍の場合、正しくは子ではなく孫にあたるが、似たような
ものだろう。

「私もこれで失礼しますが。陛下、私の手がいつでも空いてるわけではない事、ゆめお忘れなきよう」
「む、むう……済まぬ」
「いえ、では」

 最後に王に皮肉を言い残すと、踵を返して私は自室へ向かった。
 その背後から、とことこと付いて来る人物。言うまでも無く、イストリアの王女、アリアベルである。

「凄いです! ゾモロフがあんな風に言い負かされる所なんて。わたくし、初めて見ました……」
「それは良かったな」

 ドアを閉めて、医務室での舌戦から未だ興奮冷めやらぬ様子のアリアベルに対し、私はようやく素の口調で
話す。

「ああ、お前も別に無理して喋りを変えなくても構わんぞ。王の相手をしてるわけでなし、特に気を遣う必要
は無い」

 普段が平均以上に礼儀正しくしている為、初めての相手には大抵意外に思われるが、どうやら今度も例外で
はなかったようだ。キョトンとこちらを見つめるアリアベルに、客人用のソファに腰掛けるよう勧める。

「あ、はい。どうも、…………なんだか、ちょっとびっくりしました」
「よく言われるが。気にするな、そこまで粗悪な口は利かん。……紅茶を出すが、茶菓子はいるか?」
「え、と、いただ、じゃなくて、もらいます」
210「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/07/31(火) 00:22:35 ID:zUkHPX07
 しどろもどろに対応するアリアベル。私はわかった、と言って二人分のティーセットを用意していった。
 適当な葉を棚から選び、両方のカップに淹れたての熱い紅茶を注ぐと、私は向こうと反対側のソファに腰掛
けて、早速話を切り出す事にした。

「さて、それじゃお前をうちの隊に入れるのを許可した理由だがなアリアベル。王族だというのもそうだがそ
れ以上に、ずばり、お前の持つその力が狙いだ」
「え? でもわたしの力なんて……」

 全然大した事無いのに。そう言いたげな目である。

「それは今までお前に魔法を教えてやれる奴が居なかったからだ。我流でどうにか出来る場合もあるが、普通
は誰かに習うでもしない限り、才能があってもろくに使えやしない」

 当然ながら魔法の才能を持って生まれてくる者は稀であり、それに気付くのもまた稀だ。
 特にこの周辺の国々では、その手の話に縁が無い。マリアベルのような者が時折現れても、素質を開花させ
る事なく生涯を終えるのが殆どだろう。
 リザニアと争う以前の私は、かつてそうした魔力を持った者の多く生まれる土地で一度生活していた事があ
り、そうした魔法について造詣の深い住人から多くの知識を学んだ。
 結果として、秀でた才能には恵まれずとも、希少価値の高い情報と、少しばかりの恩恵に与った私は、以来
その能力を様々な方向で有効活用している。
 例えば、相手の意識に軽い暗示をかけ、自分の意見を少しだけ通しやすくする魔法。
 これだけでは気持ち程度の役にしか立たないが、それにこちらの話術等を掛け合わせてくると中々馬鹿に出
来ない効果を発揮するもので、私は演説や作戦会議等、とかくハッタリが勝負の場面において重宝している。

「そこで」

 仄かに湯気の立ち上るカップの中身を一口啜り、私はアリアベルに視線を合わせた。

「今日から私がお前に魔法の師として、また戦術の師として基礎からみっちり叩き込んで、実戦で使えるレベ
ルの指揮官に育て上げてやる」
「え、…………ええー!? ま、魔法って、使えるんですか? えっと…」
「イズルードだ。名前でも軍師殿でも将軍殿でも好きなように呼べ」

 私の呼び名をどうしようか迷っているアリアベルに、軽く息を吐きつつ答えてやる。

「そ、……それじゃ、イズルードさん。イズルードさんも、わたしと同じで魔法が使えるんですか?」
「生憎と才能は普通の人間に毛が生えた程度だがな。お前が一人前になるよう教えてやれるだけの知識は持ち
合わせている」

 それを聞いたときのアリアベルの目の輝きようときたら、余程魔導師に憧れがあるらしい。
 まあ、やる気があるならそれに越した事は無い。
 基本的な事が出来るようになるまで最低でも半月は必要だろうし、それに加えて指揮官としても鍛えなけれ
ばならない為に、それに掛かる手間暇は今の私には非常に重荷であるが、あの異能の力を使いこなせるように
なれば後々の戦術にも幅が増えるし、衆目へのパフォーマンスにも箔が付くというもの。
 諸々のコスト対効果を考えれば、ここでの苦労はむしろ嬉しい悲鳴だ。

「ともあれ今夜はもう遅い、さし当たっては指導よりもお前の寝床だ。ここから出て右隣の部屋がお前に割り
当てられた部屋になっているから、それを飲んだら今日はもう寝ておけ。明日から本格的に鍛えてやる。
 ただ、私も暇なわけではない。イスト、イストリアとあちこち走り回る事になるだろうが、その際は訓練も
含めて一緒に来い。くれぐれも勝手な行動は取るなよ」

 言ってから、私は残った紅茶を一気に喉に流し込む。ようやく適温になったばかりの紅い液体が、胃の中に
熱く染み渡っていった。
 レイナートの面倒を見るのも忘れてはならないが、そちらは魔法に関する知識に依らないので、適時ゾモロ
フ氏に付けて経験を積ませても問題は無いだろう。
211「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/07/31(火) 00:23:24 ID:zUkHPX07
「はい、わかりました! お休みなさいイズルードさん」

 同調するようにアリアベルもカップを空にし、――何も急げば明日になるというわけでもあるまいに――私
に深々と礼をしてから、挨拶もそこそこに部屋を出て行った。

「元は大人しそうな気質だが、まだまだ年相応の娘という事か」

 天真爛漫と言えば聞こえは良いが、祖父に似て結構平気で無茶をする性格のリィス隊長と比べれば。
 最初の接触もそこそこに好感触だった分、あの少女を扱う上での苦労は少なく済みそうだ。
 頼まれたから出したものの、結局食べられずじまいだった茶菓子を一つ摘まみ、ひょいと口に入れて咀嚼す
る。そこそこに高級品だというのに、勿体無い。
 幸い紅茶はまだ温かいままポットに残っている。外交、内政、戦闘に教育と、更に忙しさを増す今後の対応
を今だけは忘れ、優雅な夜のひとときを過ごすのも悪くないだろう。

「あ、あの…………すみません。ト、トイレはどこへ……」
「…………………」

 前言撤回。
 私がそんな洒落た事を出来るようになるまでは、まだまだ時間が要りそうだ。
212名無しさん@ピンキー:2007/07/31(火) 00:26:21 ID:zUkHPX07
投下終了です。
相変わらずだだ長い上に、今回は修羅場要素どころか後半まで女っ気皆無という、
このスレにあるまじき内容になってしまいましたが、次回投下する際はそういった
要素を再び盛り込んでいきたいと思いますので、平にご容赦下さい。
213名無しさん@ピンキー:2007/07/31(火) 00:32:25 ID:kAvfF7nQ
>>212
おつかれさまー
読むのに傾注してしまいましたよ
こういうファンタジー大好きな自分は頬が緩むの止められませんな。
気合入れてSS書こうと思ったら時々はこういう感じになるのは当然ですよ。
これからも大いに期待しております。無理をせず頑張って下さい。
214名無しさん@ピンキー:2007/07/31(火) 00:44:38 ID:IpIT4fzd
なんていうか・・・エロパロ板にあるのが勿体無いくらい描写がきっちりしてて
中世西欧小説といった感じだなw
215名無しさん@ピンキー:2007/07/31(火) 01:22:24 ID:JvzKwPae
レイナートかわいいよレイナート
レイナートの性別がどっちなのか気になるww
216名無しさん@ピンキー:2007/07/31(火) 01:32:40 ID:K9T7/kFw
青年って書いてあったから男じゃね?
217名無しさん@ピンキー:2007/07/31(火) 01:38:54 ID:eVoU1JXy
熟読しすぎて目が疲れたw
GJでございます。
218名無しさん@ピンキー:2007/07/31(火) 02:57:11 ID:tH2VU+58
今回も主人公はサンドロってことでいいのかな?
219名無しさん@ピンキー:2007/07/31(火) 09:03:34 ID:esC103LC
待て。レイナートは実は男装の麗人と言う線も無くはないぞ?
220名無しさん@ピンキー:2007/07/31(火) 18:36:49 ID:mrLsm8Hy
サンドロって登場したっけ?
221名無しさん@ピンキー:2007/07/31(火) 18:56:51 ID:cEBVg6eX
え、サンドロ=イズルードなんだべ?

しかし、嫉妬や修羅場要素がなくても十分充分におもしろいとは畏れ入る
一話が長めだから読み応えあるし、次回も楽しみにさせていただきます
222名無しさん@ピンキー:2007/07/31(火) 21:30:56 ID:nx9NUzyT
最初はハーレムとかラブラブなものが好きだった
けれどある日「IZUMO2」というゲームの体験版をやってみた
嫉妬されるというスリル感が好きになった
今にして思えば嫉妬成分なんてあんま入ってないのだが…

数年たった今では普通の純愛系とかスリルのないハーレム物じゃ物足りなくなってしまった俺がいる
そして発見したのがこのスレだった…
223名無しさん@ピンキー:2007/07/31(火) 22:10:55 ID:YpCJZHew
IZUMO2に嫉妬シーンとかあったけ?
そういや、IZUMOの妹が兄のことを好きで
わたしのことが恐い? とか自嘲的な笑みを浮かべている所は勃起したw
224名無しさん@ピンキー:2007/07/31(火) 22:14:31 ID:uoTir4ip

随所に専門知識も織り込まれており、前回に続いてなかなか
興味深く読み応えのある内容でした。 次回も楽しみです。 >>212
225名無しさん@ピンキー:2007/07/31(火) 22:49:14 ID:nx9NUzyT
うーんIZUMO2序盤(体験版収録)は結構好きな展開だった
主人公は幼なじみの物静かで大和撫子な姉と明るい妹がいて実は二人とも主人公が好きなの(特に姉)だが幼なじみな関係だった
だがそこに義理の家族がアメリカから帰ってきて主人公に猛アピール
それで幼なじみ姉は焦るのだが主人公が鈍感で気づかない
さらに主人公の親友がその姉が好きで…
という修羅場な展開で期待してたのだがそれからは普通のハーレム物ぽかった。
226名無しさん@ピンキー:2007/07/31(火) 23:20:27 ID:4VbT7MmL
まさか人間化してない蜘蛛に萌えることになるとは・・・
227名無しさん@ピンキー:2007/08/01(水) 00:56:13 ID:H8VwyIyB
蜘蛛の話はキモウトフラグばりばりでワロタ
228名無しさん@ピンキー:2007/08/01(水) 01:14:44 ID:BhNjzwjc
すぐに嫉妬とか修羅場ってわかるようなのもいいが、主人公視点のみでしかもそういうフラグが隠れてたってるような作品もいいよな…
重いものを食べた後は軽いものを食べたくなるような感じ
229名無しさん@ピンキー:2007/08/01(水) 02:08:59 ID:lpQyShSS
擬人化スレも見ている自分としてはタランチュラたんが可愛くて仕方がない。
草も大作になりそうで楽しみだし、本当このスレのポテンシャルは無限大だぜ。
230名無しさん@ピンキー:2007/08/01(水) 02:40:20 ID:BhNjzwjc
あーヤバいな…
なんかいいSSがあがるので創作意欲をかき立てられるのだがいかんせん、まずプロットが組みたたない
王道は結構あがってるし、狙いすぎるとダメだしな創作とは難しい…
231名無しさん@ピンキー:2007/08/01(水) 04:48:37 ID:H8VwyIyB
で、起きたら唾液べたべただったり寝汗がひどかったりするキモウトフラグばりばりのキモウト登場はまだですかな?
タラちゃん人化も併せて冒頭だけってのは生殺しですぜ旦那…!
232名無しさん@ピンキー:2007/08/01(水) 11:02:55 ID:NYPMUumf
まさにクモウト
233名無しさん@ピンキー:2007/08/01(水) 12:12:38 ID:F4vBJAm9
キモ姉妹の嫉妬は倍になるのか、相乗するのか
どっちだと思う?
234名無しさん@ピンキー:2007/08/01(水) 19:27:32 ID:mJL3Ql5K
むしろ相反します
235名無しさん@ピンキー:2007/08/01(水) 19:59:43 ID:BhNjzwjc
∞に拡散します
236名無しさん@ピンキー:2007/08/01(水) 20:50:53 ID:vkm7WQUI
誰か投稿してくれ・・w
237名無しさん@ピンキー:2007/08/01(水) 21:21:42 ID:cyxH1FY9
蜘蛛の人化っていうと初音姉様を思い出すよな?
238名無しさん@ピンキー:2007/08/01(水) 21:25:26 ID:lZ5Y+kxK
おい仰天ニュース見ろ。
239名無しさん@ピンキー:2007/08/01(水) 21:28:44 ID:S3HOu2PY
食肉処理で精神が安定……?
まさか、旦那も……。
240名無しさん@ピンキー:2007/08/01(水) 21:38:39 ID:lZ5Y+kxK
旦那殺されたwwww!!
241名無しさん@ピンキー:2007/08/01(水) 21:40:22 ID:S3HOu2PY
なんだ、ただのボーダーだったのかよ。
242名無しさん@ピンキー:2007/08/02(木) 00:36:05 ID:78BEGu6x
てすてす
243名無しさん@ピンキー:2007/08/02(木) 01:26:21 ID:OAJ/20cc
「草」面白いね!!!続きwktk
244名無しさん@ピンキー:2007/08/02(木) 02:39:24 ID:DjZ8JMys
ちょっと仲良くなってんじゃないと自意識過剰気味に感じた相手に「お願いですからもう話しかけないで下さい!」
と泣きながら言われたときは自殺しようかと思った。


なにこのキモウトフラグwww
ていうか蜘蛛可愛いwwww
245名無しさん@ピンキー:2007/08/02(木) 03:44:07 ID:Yj5awpd6
>>244
それもキモウトフラグだったのかよw
保管庫の理想の12か条を思い出した。
246名無しさん@ピンキー:2007/08/02(木) 10:39:13 ID:V6tYUasL
チュラ子さん(仮)はやはりボンテージ系の美女なのだろうか。
個人的には蜘蛛女は白髪赤眼に黒和服のほうがツボなのだが。
247名無しさん@ピンキー:2007/08/02(木) 10:49:30 ID:8N0JglnF
スレ違いだけど最近の藍蘭島に嫉妬が溢れている件について…
248名無しさん@ピンキー:2007/08/02(木) 12:21:43 ID:zr2ycmkK
すずは嫉妬しまくりだしな
249名無しさん@ピンキー:2007/08/02(木) 14:18:07 ID:CFxGa7YO
18話の嫉妬は良かった。
あんな感じのちょっとした嫉妬は最高だな。
250名無しさん@ピンキー:2007/08/02(木) 14:29:11 ID:xq3x3qEN
今回初めて見たんだけれど、あの舞台設定って女護ヶ島……だよな?
結婚とか独占欲て概念は有るのか?
251名無しさん@ピンキー:2007/08/02(木) 18:25:43 ID:Uc0rGfGY
>>250
12年前まで普通に男いたって設定だったはず(12年前に男だけ全員島の外に流された)
252名無しさん@ピンキー:2007/08/02(木) 18:45:58 ID:a2YlqP14
タランチュラは大型の種類らしいから、擬人化したら
身長180cm越えの爆乳スレンダー美人だな
いや、勝手な妄想だからスルーしてくれ
253名無しさん@ピンキー:2007/08/02(木) 18:46:54 ID:5sGv4GuZ
ってか、コミック版のすずは8巻辺りから物凄く嫉妬深くなるw
特に最新刊のすずの嫉妬は萌えるw
254名無しさん@ピンキー:2007/08/02(木) 20:26:30 ID:SVxx126h
まあ、スレ違いなんでここまでな。
255名無しさん@ピンキー:2007/08/02(木) 20:51:07 ID:LteMK7pu
「草」投下します。
256「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/08/02(木) 20:51:52 ID:LteMK7pu
+ + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + +


 ちゅっ、ちゅちゅ、ちぅぅぅ

「ん、ちゅぷ……ふぁ、ぁ………ぁ」
「……おい、おい。気を確かにしろ、アリアベル…」
「ふぇ? んちゅ、ちゅ、………んふふふ♪」
「ちぃ、やはり無駄か! まずい……これはまずいぞ……」

 薄雲に覆われた空の上、その姿を大きく欠けさせた月が時折顔を覗かせる夜のイストリア。

 悩ましい吐息を伴い、若い女特有の甘い匂いが微量ながらも室内の空気と混ざっていく。
 衣服を僅かにはだけさせた赤毛の少女、アリアベルが私の身体にぴたりと密着し、上着から開いた胸板に何
度も口付けをしては、体臭を嗅ぎ恍惚の表情を浮かべる。
 ベッドが二人分の重みを受けてかすかに軋む音を出した。

 何たる不覚。

 この部屋に見える煉瓦の数ははて幾つだろうか等と、思わず現実逃避に走りたくなる意識を叱咤する。
 今から数分だけ時間を戻せるなら一秒も待たずに即決したい所だが、ここで目を背けるわけには行かない。

 リザニアよりイストへ渡って以来久しく、私は焦りの感情を表に出していた。



 話は数時間前。現在のイスト、イスタリア連合軍の最初の目標である国境付近の都市制圧を無事に終えた所
まで遡る。

「これは祖国開放の足掛かりに過ぎぬ! この勢いで王都も近く取り戻して見せるぞ!!」
「「ぉぉぉぉぉぉお!!」」

 砦の頂上にゾモロフ隊の手によってイスタリアの旗が上がる様子を、私は都市部に敷かれた陣から眺めてい
た。レイナートも今頃はあそこで正式な初陣での勝利に歓喜して、大勢の雄叫びの一つに紛れているだろう。 
 今回の私の役割は、イスタリア領解放軍の総大将に据えたゾモロフ氏の副官として序盤は彼等と共に戦闘に
参加し、こちらが優勢になってきたところで後方からの補給支援や負傷兵と増援部隊の敏捷な入れ替えをする
為の指示にあたる事。
 この地方の民衆はイスタリア軍合併に際してイストに避難済みなので、各部の連携は作戦通りの機能を発揮
してくれた。
 元はイストでもイストリアでもない流れ者な上に、今はアリアベルという重石を抱えた私が前線の指揮を執
るより、ここは地の利に聡く、且つイストリア兵の信頼も厚いゾモロフ氏が適格と判断しての総大将任命だっ
たわけだが……
257「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/08/02(木) 20:52:47 ID:LteMK7pu
「中々やりやすね、あの爺さん」
「ああ、思った以上に上手く兵を動かしてくれる。流石に敵の集中攻撃を耐え凌いできただけあるな」

 敵部隊を撹乱しに行っていたゴースが、仕事を終えて陣に戻ってきた。
 アリアベルには悪いが、さっきまでさながら水を得た魚の如く敵を屠っていたゾモロフ氏も、あるいは主君
に恵まれなかったが故に、王都防衛時は実力を出せなかったのかもしれない。
 そうでなければ解せないくらい、彼の率いる軍は抜群の指揮系統を誇っていたのだから。

「そっちも、首尾は上々といった所か」
「ええ、ええ、そいつぁ勿論。……ところで隊長殿、あのお姫様はあそこで一体何をしてらっしゃるので?」
「パフォーマンスを兼ねた実技訓練だ」

 訝しげなゴースの視線の先、傷付いた兵士達を医療隊が介抱している中に混じり、そのアリアベル王女殿下
がずらりと並んだ列の先頭に立って治癒の術を掛けていた。

「知識を詰め込むのも確かに大事だが、目の前にある実践経験の場を見逃す手は無い。まだ出来る事は限られ
ているが、本人に自信を付けさせるには丁度良いだろう」

 それなりに深い切り傷を負った者達を優先的に回して、まずそこでアリアベルが軽傷程度まで再生してから
隊員に譲り、包帯等の道具を用いて治療をさせる事で、隊の持つ消耗品の負担を軽減している。
 ああした類の術は、術者の力の源たる魔力を効き目に応じて消費する為、大きな怪我を癒して即座に魔力切
れを起こすより、他に治療を任せられる者と役割を分担した方が賢明だ。
 そもそも、アリアベル自身が未だ大きな力を操れないので、望む望まざるに関わらず節約を余儀無くされて
いるのではあるが。

 まあ、小出しとはいえあれだけ連続して回復させられるのだから、私と比べれば魔導師としての下地は雲泥
の差だろうな。

 同じ事をしようと思ったら、せいぜいが四、五人で打ち止めだ。
 だからこそ私の用いる魔法は、生まれ付いた才能からくる魔力よりも、本人の集中と精神力の側に多く依存
するものを選んでいる。
 馬鹿も鋏も、全ては使い方次第だろう。

「イズルードさぁぁん……」

 これからこの砦を王都制圧までの一時的な司令塔にして、そこへ常駐する為の軍をどうするか考えようとし
ていた所に、魔力が底を付いたのと、ついでに気疲れもあるのだろう、くたびれた様子のアリアベルが私の元
へ戻って来た。

「ご苦労だったな、あの人数を相手に出来たのならまずまずの成長だ」
「思った通りに力の調節が効かなくて、もうへとへとです……」
「兵士達の前では弱気を見せるなよ。統率者は常に余裕を浮かべていなければならない、全体の士気に影響す
るからな」
258「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/08/02(木) 20:53:32 ID:LteMK7pu
 うぅ〜……、と苦渋の色を露わにするアリアベル。
 私に対してあれこれと弱音を吐くものの、もう嫌だなどと言って自分に課せられた役目を投げ出す事の無い
姿勢は評価に値する。

「向こう方も今制圧が完了した所だ。行くぞ、付近の警備は他の隊に任せ、私達はこのまま砦に入り待機する
。そこでも私の仕事量に変わりはないが、お前はひとまずゆっくり休めるだろう」
「はい。………あの、イズルードさんは疲れたりしないんですか?」
「馬鹿者」

 民の気配が消えた街中を歩き、やがて他の隊の兵士が見えなくなると、私は至って自然な動きでアリアベル
の頭を小突いた。

「ぃたひっ!」
「人の話を聞いていなかったのか? やせ我慢は指揮官の必須技能だ」

 慣れと器量でいなせる部分も多くあるが、最終的には常に気力頼みである。
 実際は出陣して敵と戦っている間はただ戦闘のみに集中して指揮を振るえばいいのであって、本当に忙しく
なるのは制圧を終えた後の戦後処理だ。
 これまでに場数をこなしてきた私にはまだ幾許か余裕が残っているわけだが、いつ予想外のアクシデントが
起こるとも知れないこの戦場、驕りや油断は命取りになりかねない。
 涙目でぐずっているアリアベルを連れ、私は今し方手に入れたばかりの拠点へと向かう足を速めた。
259「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/08/02(木) 20:54:17 ID:LteMK7pu
+ + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + +


「………………………で、だ」
「あ、んむ……ちゅむ、ん」

 それが何故、どのような経緯で以って今の状況に繋がるのか。



 あの後、砦に入った私達は、他の兵士達が外と内とで不寝番をして大半が一つの部屋に許容数ギリギ
リの人数まで入っているのに対し、私はともかくアリアベルの分まで個室を用意するわけにも行かず、
仕方なく用意された指揮官用の部屋に一緒に入れたのである。
 そこで各方面から寄越される報告を順に処理していき、とりあえず今日しておくべき事が無くなった
頃。

「少し遅くなってしまったが、まあ今は相部屋だから問題有るまい。勉強の時間にするぞ」
「はい」

 私がせっせと働いている間、ひと寝入りして多少は魔力も身体に戻ってきただろうアリアベルが元気
な返事を出した。

 まずはこれまでのおさらいという事で、その場で幾つか魔法理論の基礎について問いを出す。たまに
織り交ぜた意地の悪い内容の質問に対しても、アリアベルは正確に答えていった。
 魔法の師事を始めてから三週間と少し。生徒本人の熱心さもあってか、どうやら早くも次の段階へと
進めそうである。

「さて、いよいよお前にも治癒以外の魔法を教えるときが来た。私が昔に作った本を後でやるから、そ
れを参考に相性の良さそうなものを覚えると良いだろう」

 簡素な造りの椅子に腰掛けて一息吐く。聞かされた言葉に、ベッドに座っているアリアベルが不思議
そうに首を傾げた。

「今すぐ渡してくれるんじゃないんですか?」
「それはこっちが手を離せないときの自習用だ。その前に、私が実際に手本を示してやれる魔法を、こ
の場で伝授してやる。目を合わせてみろ」

 そう指示されて、素直にこちらの目をじっと見つめる黒い双眸。
 神経を鋭く研ぎ澄ませ、私はその瞳の更に奥を目指すイメージで、一瞬、魔力を込めた視線を送る。
 いつものようにハッタリを使わない分、丁寧に失敗の無いよう。

「よし、もういいぞ。……ところで、ちょっと着ている服を全部脱いで見てくれないか?」

 椅子ごと後ろを向き、何気ない口調でそう言い放つ。
 すると、背中の辺りからスルスルと衣擦れの音が響き、四半秒程を経過した辺りで、

「ぇ………わひゃぁっ!!?」

 慌てて両腕で自分の身体を抱き締める音、……結構持ったな。

「な、ななななな……!」
「落ち着け、まずは服を着ろ。話はそれからしてやるから」
260「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/08/02(木) 20:55:21 ID:LteMK7pu
「……は、はい」 

 急ぎ脱ぎかけの衣服を元に戻し、終わりました、と合図を出すアリアベル。許可が下りたので私が振
り返った後も、その顔は羞恥と混乱により赤くなったままだった。

「あれが私が最も得意としている暗示の魔法だ。慣れないうちはさっきのように一対一で睨めっこでも
しない限り効かないが、努力次第で演説のような多人数を相手にするときにも使えるようになる」
「そ、そうですか、……でも、なにもあんな命令にしなくても…」
「済まない。それについては少し配慮が足りなかった」

 感心しつつも、非難めいた目を向けられる。確かに他にもやりようはあったが、通常従わないような
内容であの時すぐに思い浮かんだ命令があれだったのだから仕様が無い。
 しかしそんな理屈が被害者側に通用するとも思ってないので、さっさと謝っておく。

 それから、術のやり方と使用上の注意を簡単に説明して、今度はアリアベルが私に仕掛ける番となっ
た。暗示の内容は先に知っておくと意味が無いので、実際に本人が口にするまでは聞かない。
 再び向かい合い目と目を合わせる私とアリアベル。

「いいか、絶対に力んで必要以上の魔力を込めるなよ。結構加減の難しいやつだからな」
「はいっ」

 初めて人から教わる魔法に緊張してか、はたまた新しい力を得た高揚感からか、髪を揺らし力強く頷
くアリアベル。

 ………絶対にわかってないだろうな。

 内心で呆れ半分の嘆息を漏らすが、真剣な表情でこちらを見据えるアリアベルには気付かれぬように
ポーカーフェイスを装っておく。
 最初は多少失敗しておいた方が、魔法を学ぶ事の厳しさを知り、後の慢心からくる事故を未然に防ぐ
事にも繋がる。いきなり成功から入ってしまって調子に乗った見習い魔導師が、身の程を弁えず上級の
魔法を行使した挙句の大惨事等、かの地ではよく耳にした話だった。
 なので、少なくとも今夜中はアリアベルの意識にも、しっかりと失敗を刻み付けてもらわなければな
らない。その為に、自習前に私が自らフォロー出来るように先んじて、数ある”中級”のうち特に失敗
し易い暗示の魔法を教えているのだから。

 術の習得如何はこの際どうでもいいのだ。

「んっ…………!」

 その瞬間、こちらに刮目したアリアベルの瞳に魔力が宿ったのを私は感知した。



「甘かった」

 何が、と問われれば、ずばり「詰めの深さ」である。
 私も何だかんだで、ここまで気を張ってきた疲れが溜まっていたのだろうか。

 わかっていたのだ、……聞き訳が良いとは言え、この少女が年齢と相応程度には子供だという事は。

 おそらく掛けようとした暗示の内容は、私がアリアベルにした命令と似たようなものだろう。向こう
にしてみれば、それはささやかな悪戯心だったに違いない。
261「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/08/02(木) 20:56:59 ID:LteMK7pu
 結果、魔力を込め過ぎて暴発した暗示は、威力を増して使用者の身に降り掛かった。
 仮に放出するのに成功して、やや効果の乱れた術がこちらに向かってきたとしても、私ならば防御法
を心得ているので問題は無い。
 また、今のようにアリアベル自身がその脅威に晒されても、「笑え」、「踊ってみろ」といった普通
の命令だったら、私が気にせず周囲に怪しまれないように対処すれば済む。

「んちゅっ、………ぁ、イズルードさん……」

 しかし、この有様ではお手上げだ。

 真っ赤に火照った表情で、私の名を愛しそうに呼ぶイストリア国王女の、冷水を浴びせ掛ける程度の
手段では持ち直しそうに無いその状態。
 上着は既にばっちり脱がされてあり、その手が今は生地の上から私の股間をゆっくりと撫でさすって
いる。その中にあるモノを心待ちにするように。
 これから行うべき処置を砦内に居るイストリア兵に見られたら、ほぼ確実に内部分裂の引き金となる
事だろう。

「いい加減、腹を括らねばな……」

 部隊を率い怒り狂って突撃してくるゾモロフ氏の姿を頭の隅に追いやってから、私は下半身にべった
りと絡み付いているアリアベルの衣服の下半分を丸々綺麗に脱がし、ポケットに常備させているハンカ
チを持って開きっぱなしの彼女の口を塞いだ。

「都合良く記憶が抜けてくれれば助かるが、………悪く思ってくれるなよ」

 小さく謝罪の言葉を呟くと、その華奢な身体を引き寄せ、まだ毛が生え揃ってもいないだろう薄い茂
みに残る片手を忍び込ませる。
 指先に触れる感触から、既に秘部が十分に濡れそぼっている事が見るまでもなく把握出来た。これな
らわざわざほぐす必要も無いだろう。

 他の人間に気付かれないうちに、手早く済ませなければ。

 私は手の平でそこを軽くひと撫ですると、皮を被ったままの小さな陰核を探り当て、愛液を掬った指
の腹で包皮ごと摘まんだ。
 グリグリと、少女の神経が集中している粒の果実を覆う外膜をゆっくり剥き上げていく。
262「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/08/02(木) 20:57:48 ID:LteMK7pu
「ん、んん、……ん〜〜!」

 自らの性感が高められていく様子に、いやいやをするように首を振るアリアベル。しかし、その動作
は拒絶からではなく、耐え切れない感覚に身悶えるものだった。
 私は弄る指の動きを止めない。
 今や完全に皮を剥かれてしまった芽は、僅かに膨張して外気に晒されながら更なる刺激を求めピンと
屹立している。
 裸身を暴かれ不安に怯えるいたいけな少女の様なそれを、二本の指先で挟み込み、引っ張り、抓って
、掻き、擦り。思い付くが侭に嬲り尽くす。

「―――! ――――っ!!」

 体内に篭った情欲を全て抜き取る為。
 一回や二回達したくらいでは決して離さず、何度も、何度も、執拗に。
 小さな豆粒程度に凝縮された少女の全てを通じて、私は若いアリアベルの肉体を征服し続けた。



「…………ふぅ」

 一時間後、ベッドには小水を漏らしたように大きな染みを作って、数え切れない絶頂を迎えピクピク
と痙攣しているアリアベルが仰向けに横たわっている。
 放って置くと風邪を引くので、布で身体に付着した汗や愛液を拭き取ってから服を着せてやった。

 ……………どれ、今日は床で我慢するとしよう。
263「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/08/02(木) 20:58:37 ID:LteMK7pu
+ + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + +


「おんや、何やら女難の相が出ておりやすが、隊長殿」

 翌日の昼前、敵陣偵察の報告に上がったゴースは、部屋に入るなりそう言った。
 消臭、換気処理には苦労したのだが、やはりこいつの鼻は誤魔化せないらしい。

「………わかるか」
「匂いが残ってますぜ、それもついさっきって感じの」

 ひっひ、と肩をすくませ笑われる。

 そりゃそうだ、何せ三十分前の話だからな。

 あれから目を覚ましたアリアベルは、事情を忘れているどころか、暗示の効果が未だに持続していた
ようで起きるなりこちらに襲い―――私の心境的には語弊は無い―――掛かり、お蔭で魔力を多く食う
人除けの術まで使い、朝食もままならずに昨夜の再現と相成った。

 まさかああも暗示に弱い体質だったとは、……これは先に精神防御を教えた方が良さそうだ。

 そうすればもしも敵の魔導師から精神攻撃を受けても多少は緩和が効くし、何より今回のような肝を
冷やすハプニングも無くせる。
 当の本人には事後に冷水をバケツで浴びせてやり、今ははっきりと、余計な事まで含めて意識を取り
戻したようで。私の一応の弁明を聞いて、自らの赤毛に負けず劣らずの顔で一通り押し黙ってから静々
と部屋を出て行った。
 逆効果になりかねない口封じをする訳にも行かないので、どうかゾモロフ氏の襲撃が来ないよう祈る
ばかりである。

「まあ、………過ぎた事だ、悔やんでいる暇は無い。報告の方を頼む」
「承知致しやした」
264「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/08/02(木) 20:59:23 ID:LteMK7pu
+ + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + +


 幾重にも、前方を見据える私の耳に其処彼処から金属のぶつかり合う音が鳴り響く。
 イストリア王都。
 鉱山付近に巨大な工場を置いて大量の鉄を扱う事により、従来の軍事力に強力な付加要素を盛り込ん
できた工業都市が、今まさに鉄の剣戟で埋め尽くされている。

「前線の被害状況は?」
「ゴース殿の撹乱によって敵連合軍の連携が崩れているのと、幸いにも近隣住民が我等に協力してくれ
ている為、各隊の被害は軽微に御座います」

 次に行うべき作戦に備え一時的に撤退しているゾモロフ氏から、前線部隊の途中経過を聞く。

「敵の喉元を掻き切るまで、あと一歩と言った所か」

 ………やはり有能な将を据えると兵の動きも違うな。

 イストリア領の攻略を開始してから一月半。私達は領民の支持と土地勘、加えて二国の兵が合わさっ
た敵軍の亀裂を煽る事で極めて迅速に領土を開放していき、この戦い最大の山場である王都制圧戦を迎
えていた。
 ここさえ押さえれば、後は領内に取り残された部隊を端から掃除して行けばいい。
 喋る傍らで周囲の隊に指示を飛ばす私に、しかしゾモロフ氏は懸念の色を浮かべる。

「イズルード殿、我等の軍もこれまでの連戦で疲弊しております。このまま王都を押さえたとて、程な
く大挙してくる敵の増援を前にしてはひとたまりもありませんぞ」
「案ずるな、手は既に打ってある」

 対し、私は笑みのまま答えた。

「え、………援軍です、援軍が到着しました!!」
「何っ!? それはどちらのだ、敵か! 味方か!?」

 叫ぶ連絡兵の声に、どきりと背筋を伸ばし緊張を走らせるゾモロフ氏。

「そ、それが……」
「見ろ。来たぞゾモロフ、とても頼りになる味方がな」


「やぁやぁ! 我等、リザニアが大将エイブル様より遣わされた精鋭軍なり。その方等が軍師イズルー
ド殿の呼び掛けに応じ、只今参上仕った!!」


 高らかに宣言してこちらへ駆けて来たのは、リザニア一の戦闘力を誇るエイブル将軍直属の騎兵軍団
だった。
265「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/08/02(木) 21:00:11 ID:LteMK7pu
 イストリア軍との交渉を終えた直後、敵との兵力差を見越した私が予め使者を送り、かの将軍に援軍
を要請しておいたのだ。

 ”追伸:実家で採れた野菜を送っておくわ。そっちの人たちと一緒に仲良く食べてね”

 少しの後に返って来た手紙の文末には、その許可を示す言葉が記されていた。

「何と、……あの大将軍エイブルの軍ですとっ!?」

 ゾモロフ氏が驚愕を露わにそう叫ぶ。
 じきに目の前までやって来た軍団長の男が、私に威勢の良い口調で話し掛けてくる。

「よお、軍師殿! 今はこっちで色々やらかしてるみたいだな、追加注文の騎馬も後で別隊が連れて来
るはずだぜ」
「障害物に囲まれたイストならともかく、ここからは平地の戦いも必要になってくるからな。助かった
ぞ、ラウリィ。
 ……それにしても、私はただ援軍を出すよう言っただけなのだが。わざわざ一番槍のお前達を寄越す
とは、あの爺さんも随分気前の良い事をしてくれる」
「違いねぇ、帰ったらあんまし甘やかすなって伝えといてやるよ。それで、俺等は一体ここで何をすり
ゃいいんだ?」

 軽く周囲を見回してから、チラとこちらに目線をやる軍団長、ラウリィ。

「お前達には敵の増援が来る位置に先に待ち伏せて、向こうがノコノコやって来たら返り討ちにしても
らう。案内はその辺から適当な奴を選んで構わん」
「おうよっ、任せな!」

 指示を受けるなり、ラウリィは最も近くに居た先程の連絡兵を軽く掴み上げ、そのまま電光石火の勢
いで軍を率い国境沿いへと駆け去って行った。相変わらず行動が一直線というか、清々しいまでに迷わ
ない男である。
 待ち侘びていた援軍の到着で、こちらの準備も全て整った。

「聞こえたろう、ゾモロフ。後詰めは向こうに任せて、お前が引き上げた部隊で全力を挙げ王城を制圧
するんだ。私はゴース達と共に都市内の敵を引き受ける」
「りょ、了解しましたっ」

 すぐに放心から立ち直ると、突撃の掛け声を上げて城へと向かっていくゾモロフ氏。
 これで、イストに続きこの国も無事手中に収まるだろう。

 ―――次なる標的は西と南の二国。果たして、どちらが先に味方を売るか……。

 それから間も無く、制圧を終えた王城にイストリアの旗が上がり、王都は俄に歓声の渦に包まれる。

「の前に、さて。折角の祝勝会も王族が出て来ないんじゃ場が締まらん」

 私は後衛に預けておいたアリアベルを迎えるべく、戦闘開始時の拠点としていたあの砦へと馬を飛ば
した。



「おい、アリアベル。居ないのか? おい!」

 周辺の警護を担当していた隊も、常駐しているはずの衛兵さえも見当たらない無人の砦。
 自らの足音のみが反響する廊下を歩くうち、私の思考が少しづつ戸惑いの色を帯びていく。

 何故誰も居ない? 敵襲があったとしても、死体の一つすら落ちていないのは一体どういう事だ?
まるで自分達で勝手に出て行ったように。……いや、いい。まずはアリアベルを見付けなくては。
266「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/08/02(木) 21:01:17 ID:LteMK7pu
 名前を呼びながら砦内を隈なく探して回る。都合五度目の空き部屋を覗き落ち込む傍らで、ようやく
彼女の居そうな所に一つ思い至った。
 指揮官用に誂えた幾つかの個室のうち、私とアリアベルが使っていた場所へとやって来て、木製の扉
のノブに手を掛ける。

「アリアベル、ここに………っ」

 果たして、そこに居た少女に私は安堵の息を吐こうとして、突如目標がこちらに向かって思い切り抱
き付いて来た衝撃によろめいた。

「何を………」

 口を開こうとするも、迫る唇にまさしくあっと言う間に塞がれてしまう。
 途端、鼻腔を刺激する女の匂いと、それに伴う魔力の残滓。
 押し問答の末に私が強引に身体を引き剥がして見れば、そこに震える足で立っているのは淫蕩な顔付
きで続きを求めんとするアリアベルの姿。
 そして無言で私を見つめる、その目。

「……………………」
「お前………また暗示を」

 暴走させたのか……? それとも、………

 様々な予測が頭を過ぎるが、私は続く言葉を声には乗せず、とにかく一度落ち着かせる為にアリアベル
をベッドへ連れて押し倒した。



 私達以外の人間が存在しない砦内。
 時計の長針がおよそ四分の三程度は回っただろうか。
 スカートを捲って、下着の中へ手を滑らせ幾度も繰り返した行為。そのちょっとした節目にふいに頭を
両手で掴まれ、再び唇を合わせられる。
 雛が餌を啄ばむ様な動きに、諦めの念を込めてさせるがままにすると、以外にも彼女はそこで顔を離し
た。

「す、………好きです」

 ぽつり、と。
 息も絶え絶えに、耳まで赤くなったアリアベルがそう呟く。
 潤んだ黒い瞳には、もう魔力の気配を感じない。

「貴方の事が、……好き、なんです………」
「そうか」

 空いた片手で赤毛の頭をくしゃりと撫でた。
 擽ったそうにしつつも、まだ理解を得られていないと思ったのか不安げな双眸がこちらを見る。
267「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/08/02(木) 21:02:02 ID:LteMK7pu
「……あ、あのっ、魔法とか、暗示は関係なくて」
「知ってるよ。どうせ勇気付けるつもりで鏡に向かって自己暗示でも掛けたんだろう」
「ぁ、え」
「で、ついでに周りの兵士達にも出てってもらおうと人除け」
「ぅ………」

 図星を突かれた様に黙り込んだ。
 こんな事をする為だけに、短期間で中級魔法を二つ。………魔力に物を言わせれば何とか使える人除け
にしてもこの広範囲で、のみならず難易度の高い暗示まで習得してしまうとは。

 呆れたな。

 私は軽く畏怖の混じった苦笑いを浮かべた。
 これでは怒りたくても怒れない。アリアベルの才能は、並の魔導師を凌駕している。

「お前の気持ちはわかった。だが正気に戻ったのならまずは王都に行くぞ、勝利したのに王女が不在では
ゾモロフ達が心配する」
「それで、向こうへ帰ったらイズルードさんと離れないといけないんですか?」
「まあ、お互いの役職を考えたらそうなるな」

 そもそも、最初からそういう約束だ。

「………嫌です。わたし、これからずっとイズルードさんのお傍でお手伝いしたいんです」

 アリアベルが、聞き分けの無い子供の様に、しかし目付きだけは女のまま駄々を捏ねる。

「こら、それでは話が違うだろう。大体、お前がイストリアに居ないとだな……」
「ゾモロフだってきっと納得してくれます。イズルードさんは自分の主君に相応しい人物だ、って。
 ……それに、もし聞いてくれないようだったら………」

 その瞬間の表情を見て、私の背筋に冷たいものが走った。
 尻すぼみになって最後まで聞き取れなかったが、あの後に続く内容など考えなくてもわかる。何も、人
心掌握の類は暗示のみとは限らない。

 この少女の力を常に懐に収め利用すれば、あるいは………

 いつの間にか自らの秘部を触っていた私の腕を抱え、大事な宝物を逃がさないように、けれど強過ぎな
い加減できゅっと締め付けるアリアベル。その様子が、まるで私の現状を端的に表しているかのように思
えてくるのだから笑えない。

「お願いします。絶対、絶対役に立って見せますから……」

 必死に許可を求める態度は、あくまでも従順で純真無垢な少女のもの。
 なのに、あの瞳は、………あの顔は、かつて私を縛り付けたそれを彷彿とさせる。

「ああ、……ああ、わかった。参った、降参だ」

 そう容易くは逃げられない。ならば自らが手綱を繰るしか方法は無い。
 美味なる毒を食らわんとすれば、同じく華美な皿までも。

 我ながら運が良いやら悪いやら。

 ”おんや、何やら女難の相が出ておりやすが―――”

 あの時言ったゴースの皮肉は、奇しくも私という的の正鵠を未来に向けて射抜いていた。
268名無しさん@ピンキー:2007/08/02(木) 21:04:18 ID:LteMK7pu
投下終了です。
調子に乗ってペチペチ文章打ちながら、密かに他の作者様方の投下を心待ちに
してたりします。本作はどうか、それまでの繋ぎとしてご利用くださいませ。
269名無しさん@ピンキー:2007/08/02(木) 21:05:36 ID:/8X4Azft
アリアベル覚醒キター!!
GJですぜ!
思う存分ペチペチなされww
270名無しさん@ピンキー:2007/08/02(木) 21:09:16 ID:30XFhqHe
>>268
わー来た来た、GJ!
繋ぎだなどととんでもない、私のここ最近の一番の楽しみですわ
271名無しさん@ピンキー:2007/08/02(木) 21:26:54 ID:dYkMUoge
>>268
うおおおおおおおおおおおおおおおお!!GJJJJJJ!!
据え膳食っちまった伊豆ルードの今後がめっちゃ気になります!!
しかしリィス隊長のあれだけの積極的な誘いは駄目でマリベルはおkっていうのはちょっと違和感が・・・
何か裏があるんでしょうか?
272名無しさん@ピンキー:2007/08/02(木) 21:44:05 ID:9rOly5VN
リィス中隊長も援軍で来てたりして
273名無しさん@ピンキー:2007/08/02(木) 21:44:07 ID:WMdjO3GD
そこは嫉妬の炎を拡大させるためだよと解釈して置くのが吉
いや 嫉妬深い女性から憎悪されずに逃げるためには理由が必要なのだよ

「殺されてもかまわない理由=被害担当者」がね
274名無しさん@ピンキー:2007/08/02(木) 22:14:41 ID:H9Vdek4/
>>268
アリアベルに対する主人公の姿勢について少し説明不足な気がしましたが
しかしながら今回も非常に続きの気になる展開で、楽しく読ませて頂きました。
275名無しさん@ピンキー:2007/08/02(木) 23:50:55 ID:Uc0rGfGY
なんと言うスケコマシ…来世はきっと大神一郎w
276名無しさん@ピンキー:2007/08/02(木) 23:55:25 ID:8N0JglnF
GJ
ア リ ア ベ ル 参 戦
277名無しさん@ピンキー:2007/08/03(金) 00:53:48 ID:mpkL9L7b
草の作者さんの筆の早さがウラヤマシス
278名無しさん@ピンキー:2007/08/03(金) 01:08:01 ID:jGNjJyMJ
いただきますwwwwwww
279名無しさん@ピンキー:2007/08/03(金) 01:17:15 ID:mmmlnYUC
GJ
280名無しさん@ピンキー:2007/08/03(金) 01:34:18 ID:OlSEPBEO
まぁ暗示の魔法覚えられたから断っても無意味だと感じたんじゃね?
281名無しさん@ピンキー:2007/08/03(金) 01:46:43 ID:jGNjJyMJ
連投になるが・・・GJ!!!!!!
282名無しさん@ピンキー:2007/08/03(金) 02:33:17 ID:4MDyvb45
喰って無くね?入れてないし・・・・

なにわともあれGJ
283名無しさん@ピンキー:2007/08/03(金) 09:52:48 ID:xIg5FFow
現地妻! 現地妻!
284名無しさん@ピンキー:2007/08/03(金) 10:33:36 ID:nCmZ5XeP
GJJw
というか前スレ息長いな・・・w
285名無しさん@ピンキー:2007/08/03(金) 10:53:55 ID:aVok9IqH
しかしオールマイティーな主人公も珍しい
286名無しさん@ピンキー:2007/08/03(金) 15:38:06 ID:gStLMnCl
いや、運のパラメーターだけが非常に低いかやや低いだ。

 嫉妬深い女性に好かれるのは耐性が無いときついぞ〜?
女性の内心を想像して、敢えて嫉妬される行動を取って、
自らに受ける罰に喜びを感じるくらいにならなければ。

 つまりはサドで無いと駄目なんだ。どこまでが大丈夫で
どこまでが駄目か見極める能力と、責めて欲しいポイントを
見分ける能力。マゾに崇められるサドは馬鹿では出来ない。

 つまりは嫉妬して嫉妬相手、泥棒猫の虐待に走るのは
かなり我がままな被虐精神の顕われなのだよ。愛が欲しい、
愛のある虐めが欲しい、とね。

 愛情がちゃんと伝わっているなら? 男を永遠に独占する
ため殺害に走る。「もう誰からも奪われない。私だけが記憶の
中で永遠に愛でてあげる」最高じゃ無いか! 男冥利に尽きるね!
287名無しさん@ピンキー:2007/08/03(金) 15:40:25 ID:gStLMnCl
ああ、後者は、男自身への殺害に走る、だ。

泥棒猫を殺害したって次がすぐ出て来る、と考えるからね。
288名無しさん@ピンキー:2007/08/03(金) 18:27:20 ID:OlSEPBEO
そういえば嫉妬メインでは書かれてはいないんだがSanctuaryってとこのInnocent Gardenって小説がそれっぽくていいんだよな
最初主人公と彼女がすれ違いから別れるとこから始まって、ずっとすれ違ったままなんだが彼女のほうは気があるそぶりなんだよな
主人公視点だけだしひどい嫉妬はないのだがそれが焦らしっぽくていい
個人的にはノントロっぽいと思ってる
289名無しさん@ピンキー:2007/08/03(金) 19:38:00 ID:ryVgb0uK
ノントロ続きこないかな〜〜〜〜
290名無しさん@ピンキー:2007/08/03(金) 19:54:03 ID:nCmZ5XeP
ノントロいいよな確かにw
依存する自分をかえなくちゃというのとけれどどうしても沙織に惹かれてしまう葛藤とかもいい
そこに依存する自分と自立しようとする自分を象徴するようなヒロインの配置
あれはまさに神だと思ったな・・・

俺もInnocent Gardenは好きだぞ
291名無しさん@ピンキー:2007/08/03(金) 20:14:32 ID:aVok9IqH
ぶらっどまりぃと草さえあれば俺は・・・
292名無しさん@ピンキー:2007/08/03(金) 22:27:38 ID:BuxT5ZhD
草おもしろいですねー、最近の楽しみなんてこれぐらいです。戦記物って面白いんですね・・・
ちょっと読まず嫌いな所があったので読んだことありませんでした。
みなさんは何かお勧めの戦記物ってありますか?
293名無しさん@ピンキー:2007/08/03(金) 22:42:39 ID:OlSEPBEO
修羅場自体が戦記物な事実
294名無しさん@ピンキー:2007/08/03(金) 23:14:24 ID:J4eay+iJ
>>293
奇襲謀略脅迫凋落裏切り血みどろ大戦争♪
295名無しさん@ピンキー:2007/08/03(金) 23:21:09 ID:oixaLBHc
草面白いんだけど、それぞれの国と国の関係がごちゃごちゃになってしまった
誰か簡単に説明してくれないか
バカでごめん
296名無しさん@ピンキー:2007/08/03(金) 23:29:56 ID:J4eay+iJ
リザニア
 最初に舞台になってた国。サンドロが仕えているのは本当はここ。エイブル将軍、リィス隊長のいる国。
イスト 
 サンドロがイズルードとして潜入した国。頼りない王やレイナートがいる。
イストリア(イスタリア)
 リストを狙ってたんだけど途中で他の国に襲われてリストに助けを求めた国。マリアベルとゾロモフの故郷。
 

イスタリアとイストリアが混じってるんだ。
ここら辺作者さんのミスなのだろうか。
297名無しさん@ピンキー:2007/08/03(金) 23:36:01 ID:J4eay+iJ
ああ、言ってる俺も間違えたww
イストリア(イスタリア)
 イストを狙ってたんだけど途中で他の国に襲われてイストに助けを求めた国。マリアベルとゾモロフの故郷。
298名無しさん@ピンキー:2007/08/03(金) 23:49:30 ID:pyhDw8Z4
>>297
作者様ではないが、細かいことを一つだけ言わせてくれ。マリアベルじゃなくて、アリアベルだぜ。
299名無しさん@ピンキー:2007/08/04(土) 00:08:17 ID:xoM9jPJl
>>296
>イストリア
革命か何かがあって、ただ一人の王族になってしまったアリアベルがイストに亡命してきたんじゃなかったっけ?
300名無しさん@ピンキー:2007/08/04(土) 00:18:02 ID:CM2cAQEh
>>298
アルェー、と思ったらマリアベルもアリアベルも両方いるしww

>>299
いや違う。
>>203参照
>イスタリアへ飛ばした偵察隊が見てきたものは、国土の西と南に面した二つの隣国から集中攻撃を受けて、
>それらに必死の抵抗を試みる傍ら、退路を求めイストへ向かうイスタリアの軍勢であった。
>私の予想のうち、こちらにとって最も都合の良い筋書き。裁量を誤りさえしなければ、
> 手勢の被害を抑えたまま、二国三国と芋蔓式に絡め取る事の出来る絶好の機会である。
>そして、これはその為の第一歩。
301名無しさん@ピンキー:2007/08/04(土) 00:19:18 ID:xoM9jPJl
なんでこんな脳内保管してるんだ俺w
302名無しさん@ピンキー:2007/08/04(土) 00:36:34 ID:WCT2HU47
とりあえず、説明してくれた人たちホントにありがとう
303名無しさん@ピンキー:2007/08/04(土) 00:37:26 ID:CM2cAQEh
流れとしてはこうだろう。
サンドロがエイブル将軍に捕らわれた後手駒となってリザニアに仕える

イストが攻めてくる。どうも内通者がいるようなのでサンドロがイストに潜入することに。

イズルードという偽名でイストに潜入するが、実はイストもイストリアからの密偵だらけでガタガタ。
イストがイストリア領になったらまずいので密偵追い出して兵の訓練をしてやる。

と思ったら今度はイストリアが他の国に攻められてイストに逃げてきた。
サンドロは、このままイストリアをイストの属国にし、イストをリザニアの属国にし、
という風に芋づる式にリザニア領にしていくつもり
304名無しさん@ピンキー:2007/08/04(土) 00:40:07 ID:NoY8yvdV
ゆうくん・・・この響きが忘れられませんwww
305名無しさん@ピンキー:2007/08/04(土) 00:50:17 ID:9O7rQMwu
俺は、むしろ 「ゆう君!!」だな
306名無しさん@ピンキー:2007/08/04(土) 01:09:34 ID:Un+D6yih
ユウキは俺の嫁
307名無しさん@ピンキー:2007/08/04(土) 01:49:12 ID:NoY8yvdV
しつこいようだが神の画廊にあったあの胡桃の一見ほんわかした顔がわすれられませんww
308名無しさん@ピンキー:2007/08/04(土) 02:48:17 ID:N29IYIJZ
>>288>>289>>290
ノントロの作者の人は、どの作品も相当レベルが高かったよな。
エロパロ板のSSとしては、何故かあんまりヲタっぽい臭いを感じさせないんだけど
萌え的なツボの突き方はメッチャ上手いと言うか。
特にノントロの設定や前フリには、物凄く面白い作品になりそうな予感を感じさせられたから
それだけにこのままで終了するのはもったいないなぁ。
309名無しさん@ピンキー:2007/08/04(土) 03:23:22 ID:JshDefky
たしかにノントロの作者の人はすごかったが去ってしまった人にいつまでも執着するのもいくない気がする。
他に名作もおおいんだし今連載されてる人たちを応援しようぜ。
310名無しさん@ピンキー:2007/08/04(土) 03:56:36 ID:N29IYIJZ
>>309
そうだな。
ちょっとした雑談のつもりだったんだが思慮が足りんかったかもしれん。
他にもレベルの高いSSが多いし、作者さん達には感謝してるよ。
311名無しさん@ピンキー:2007/08/04(土) 06:01:01 ID:VYHS7ag3
てか2〜3日前くらいから現れた人か知らんが、雑談少しは控えろよ
雑談続けられると作者も投下し辛いんだから
312名無しさん@ピンキー:2007/08/04(土) 07:42:47 ID:oHHNpeto
そうだ、そうだ。
全裸で神を待ち続ける身になってみろ!

七戦姫、まだかなぁ・・・
313名無しさん@ピンキー:2007/08/04(土) 09:55:24 ID:Ra0BZWzI
ふん、ノントロや七戦姫を待っている人など、11ヶ月も雪奈を待ち続けている俺に比べればまだまだよ。
雪奈かわいいよ雪奈・・・
314名無しさん@ピンキー:2007/08/04(土) 14:04:21 ID:MIXGxwZn
どの雪奈だよ
315名無しさん@ピンキー:2007/08/04(土) 16:59:07 ID:nsmHnInE
倉庫にレベルの高いSSはあるけど・・
ちゃんと完結して欲しい。500円ぐらい払っていいから
完結させてくれw 
316名無しさん@ピンキー:2007/08/04(土) 17:41:53 ID:Ra0BZWzI
>>314
まとめサイトにもある「作られた命」って作品です。
設定が個人的にクリティカルなんで諦めきれません…
317名無しさん@ピンキー:2007/08/04(土) 18:03:57 ID:XGwqQDjp
ああ俺にSSを作る力があったら今すぐ書くのに・・・・
俺は押しかけ三角が好きだな
318名無しさん@ピンキー:2007/08/04(土) 18:33:30 ID:KrsDp3GY
SSスレのお約束
・職人さんが投下しづらい空気はやめよう
・過剰なクレクレは考え物

ちょっと過熱しすぎてないかい?
319名無しさん@ピンキー:2007/08/04(土) 18:43:42 ID:CM2cAQEh
でも一時期に比べればずっと投下しやすい空気ではあると思う。
雰囲気がせっかく元に戻ってきてくれたから、もっと書き手の人たちにも戻ってきてほしいね。
320名無しさん@ピンキー:2007/08/04(土) 19:28:21 ID:LzLuPFmD
確かに過度のクレクレはいけないと思うけど、書き込む間隔が空いた職人さんは書き込みにくいんじゃないかな?
もちろん、完結してない全ての作品をwktkしながら待ってますよ……
321名無しさん@ピンキー:2007/08/04(土) 19:35:34 ID:lnvtmoFV
ちょっと前まで修羅場だったのに何この馴れ合いっぷり
322名無しさん@ピンキー:2007/08/04(土) 19:44:07 ID:2dTy5v1M
いくら今が平和でも「age荒らしうぜーよ」くらい言ってもおkだよな?
323名無しさん@ピンキー:2007/08/04(土) 20:02:20 ID:1O0BYyU+
許可する
324名無しさん@ピンキー:2007/08/04(土) 21:53:43 ID:jEeovGyL
「草」投下します。
325「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/08/04(土) 21:54:43 ID:jEeovGyL
+ + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + +


 リザニアの王宮内、初陣以来祖国に数多の勝利を貢献してきた英傑たる大将軍に割り当てられた豪奢な
造りの私室。

「アレクサンドロ。イスト属国化の件、実に良い仕事をしてくれたな」

 庭木に群がる鳥の囀りを耳にしつつ、部屋の主たるエイブル=ブラムは労いの意を込めそう口にした。

「全ては将軍の先見性を以ってしての事。私はそこで自分の役を果たしただけです」
「イストリアまで手に入れておいて、言いよるわ小僧め」

 ぐわはは、と豪快な笑い声を上げて、エイブル将軍は愉快極まりないといった表情で私を見る。
 どうやらあちらは彼の注文外だったらしい。

「誰がそこまでするなどと考えようか。向こうで戦う為の援軍要請を手紙で目にしたときは、おぬしを部
下にして心の底から得した気分だったわ」
「私はてっきり今回の件、皆見通した上で遣いに出されたのだと思ってましたが」
「見通す為におぬしを出したのだろうに。いつぞやの際は結果的にわしが勝ったとはいえ、あまり過大な
評価はしてくれるなよ? 妄信するのはラウリィのような奴の仕事だ」
「確かに、それは仰る通りですな」

 二人して、扱い易い兵士の見本の様な男を思い出して吹き出す。
 実際、相談役でもない限りはあれぐらい指示に対して迷わず行動してくれる部下が望ましいだろう。

 最後に個人的な手落ちがあったものの、概ね完璧にイストリアの制圧を終えた私は戦後処理を済ませて
から少しして、自分の代理になる軍師や足りないと思われる人材をリザニアから派遣した後、任務完了の
報せをするべくこうしてエイブル将軍の元へ戻って来ていた。
 これまでの戦力では領土の維持が心許なかったが、今回の戦いを経てこちらの属国となったイストリア
に、正式にイストを国の一部としたリザニアより優秀な将兵を加えて、当面の相手となる西南の二国に対
し互角に渡り合う事が可能となるだろう。

「ところで、そこの娘は確かイストリアの王女であろう? わけは知らんが連れの部下にしては随分と異
色な気がするのだが。………その、服装的にも」

 将軍は笑いが収まると、先程からずっと気になっていた様に。
 奇異の眼差しで、私の後ろで慎ましやかに佇んでいる侍女服姿に身を包んだ少女、アリアベルを見やっ
た。

「存じていらしてるようで光栄です、将軍閣下」

 外向け用の態度で、注目を受けたアリアベルがぺこりと礼儀に則った挨拶をする。

 それなりの地位を持った者が従者を傍に置く事自体は、さして珍しい事では無い。大きな家柄となって
くると邸宅の管理や自身の補佐等、むしろ雇っていない方が不自然である。
326「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/08/04(土) 21:55:37 ID:jEeovGyL
 私はリザニア軍でこれといった高い地位にあったわけでも、何か爵位を与えられているわけでもないが
、ここへ来るまでの忙しさで言えば黙々と判を押すだけだったイストの王よりは格段に上であり、従者の
一人や二人抱えていても特におかしい立場では無い。
 事実、従者でないにしても確かな補佐役としてゴースが居た。
 だがこの場合エイブル将軍が疑問に思っているのは、何故それがイストリアの王女なのかという事。

「魔法の使い手なもので、ゴース同様部下として向こうから引き抜いて来ました」

 不本意ながらも。
 ほお、と感心した様子でアリアベルを観察する将軍の傍ら、私は一人複雑な心境でいた。

「して、私は今後如何致しましょう」

 イスト偵察の任は既に果たされたのだ。再び元の所属で働くというのは考えづらいので、おそらくはま
た通常とは毛色の違う命令が下されるだろう。

「それなんだがな、おぬしには再び隊を率いて他国へ飛んでもらおうと思う。それも今度はイストの様な
隣国ではなく……」

 言いながら懐から大陸の地図を取り出し、エイブル将軍はリザニアを一度指差してから海路に出て南東
へと進み、とある名前の部分でその動きを止めた。

「………成る程。ウォーレーンへの援軍に伴い、同盟の解消を防ぐ為に監視。敵対するようであれば、そ
の時点で私の手で何らかの処置を施せ、と」
「奴め、どうやら手強いのを相手にしてるようでの。ともすればわし等と手を切り敵に降ってしまう可能
性が出て、今後東側への勢力拡大が難しくなってしまうやもしれぬ」

 丁度三日月を太くして、両端を南に向けた様な形をしている大陸キルキア。地図上から見てその東端に
領土を広げているのが、同盟国ウォーレーンである。
 実質的な国の支配者であるモンストロ将軍が、大陸制覇の野望に燃えるエイブル将軍と数年前から結ん
でいた軍事的な協力体制を敷いた国家。それが今、南側からやって来た敵によって脅かされていると、向
こうに伏せてある間者から聞かされたらしい。

「モンストロは虫の好かん男だが、リザニアがウォーレーンを潰すタイミングは今ではない。行ってくれ
るな? アレクサンドロ」
「ええ。少なくともイストのときよりは目的が判然としている分、対処もし易いでしょう」

 あくまでも予測は予測に過ぎないが。
 正直今のリザニアには多少居づらい事もあり、依頼を断る理由など私には無かった。

「うむ、ありがとう。ではあちらへ行く際に同行してもらう部隊として……」
「サンドロっ!!」

 将軍が説明を言い終える前に、後ろの方で扉が勢い良く開く音と半年振りに耳にする声が響く。

 げ………。

 その刹那、エイブル将軍の「済まぬ」と書かれた顔を見て内心愕然としつつ、私は今回の同行者たる声
の主へと振り返る。

「……お久し振りですね、リィス隊長。お変わりないようで」

 何より、とは言えまい。自分の元から離れていった男など、さっさと忘れてくれれば良いものを。
 あれ以来目にする事の無かった銀の髪に、強い意志を秘めた青い瞳。

 押さえ切れない喜びの色を湛えたリィス=ブラムが、そこに立っていた。
327「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/08/04(土) 21:56:29 ID:jEeovGyL
+ + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + +


 ―――恨むぞ爺さん。

 私は臨時に貸し与えられた客室で、深い溜息を付いていた。
 アリアベルのときといい、ゴースを呼び出して八つ当たりに前蹴りの一つも喰らわせてやりたい気分で
ある。

 何故にリィス隊長をここで出してくるのか。

 あの後、出発へ向け準備を整えるようにとの言葉で締め括られたエイブル将軍の私室内で、リィス隊長
は私に会えなかった半年間の寂しさを切々と語り続け、仕舞いには痺れを切らした祖父自らの手によって
部屋を追い出された。
 今頃は自分の隊の兵士達に遠出の支度を急がせているに違いあるまい。
 援軍が目的とはいえ船で海を渡る為、比較的少数で向かわねばならない今回の任務。まだ軍内で小回り
の利く立場にあり、戦力面も申し分無い彼女ではあるのだが。
 向こうは俄然やる気を出してくれるかもしれないが、こちらは精神的にやりづらい事この上無い。主な
働きをするのは私だというのに、相変わらずこの軍の中間職への配慮の無さときたら。

 わかっている。あの爺バカな将軍の事、どうせまたリィス隊長に押し切られたのだろう。

 そうでなくとも、今挙げた条件だけでも彼女が出てくる理由としては十分納得が行く。要は私情を挟ま
ず職務を全うせよ、という事だ。………ああ、絶対に無理。不可能。

「はい、ご主人様。あったかい紅茶です」

 机に肘を付いて目を閉じていると、淹れたての葉の穏やかな香りが鼻腔をくすぐる。
 瞼を持ち上げれば、手元にそっとティーカップを置くアリアベルの姿。

「……丁度一服したかった所だ、助かる」
「イズルードというのは偽名だったんですね。アレクサンドロさん」

 私は今度こそ本気で頭を抱えたくなった。

「言いたい事はわかる、名を偽ったのは悪かった。だがあのときは出自を知られるわけには行かなかった
のであって」
「さっきエイブル将軍から聞いたのが初めてでした」

 イストリアを治めてもう何日も経つのに。

 そう言わんばかりの恨みがましい視線をぶつけるアリアベル。銀のトレイを持つ手に僅かに力が込めら
れている。
328「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/08/04(土) 21:57:21 ID:jEeovGyL
「済まん、伝えておくのを忘れていた」
「自分の仕えるご主人様の名前も知らないなんて、従者としてあってはならない事だと思います。本当に
反省してるんですか、アレクサンドロさん」
「ああ、している」
「そうですか」

 じゃあ、と、彼女はトレイを机に置き、おもむろにスカートの裾を持ち上げる。
 ソックスを固定しているガーターベルトの上に、秘部を隠す為の布は履かれていなかった。

「………いつもの、して下さい。その、……優しく………」

 頬を朱に染め、アリアベルが弱々しい声音で呟く。断っておくがやったのは砦内での二回だけで、まだ
「いつもの」などと言われる覚えは無い。
 市場に出回っている艶本の湯文字じゃあるまいし、そういった補佐を欲しているのでも無いのだが。

 安売りは決して出来ないが、仕方が無いな……。

「二十分だけだ。それまでに気をやったらそこで止めにするからな」
「! ………はいっ!」



 きっかり二十分間後。

「はふぅ」
「………………」

 ベッドの上ですっかり夢心地となっているアリアベルを放置して、私は憮然とした表情で既に風味の掻
き消えてしまった紅茶をぐいと飲み下した。
329「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/08/04(土) 21:58:06 ID:jEeovGyL
+ + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + +


「サンドロ、この女は何?」
「わたしはご主人様付き添いをしている、アリアと申します」
「あんたには聞いてないわ。サンドロ、答えて」

 どんよりと。
 空は快晴、順風満帆である筈の航路は何故か極局地的に嵐の気配が漂っている。その渦中に立たされて
いる私に、逃れる術など当然用意されてはいない。

 事の発端はつい先程。イスト潜入時のメンバーに若干変更を加えた私の隊、リィス隊長の戦闘特化部隊
を乗せ、軽快にウォーレーンへと帆を進めるリザニア軍の船内でそれは起きた。
 船室にて、出航前にエイブル将軍から渡された詳細な資料へ目を通しながら、教育の一環としてアリア
ベルにこの土地で戦闘を行う場合の注意点等を授業していた所、さも「遊びにやって来たわサンドロ」と
いう風情のリィス隊長が部屋の扉を開いた。

 人によっては仲睦まじくひとときを過ごしている様にも見えるのだろうか、少なくとも彼女にはそう映
ったと思える。昔もこうだったが、そろそろこの人にも浮かれてる時にノックを忘れる癖を直してもらい
たい。

「彼女は私のメイドのアリアです。これでも多忙なもので」

 せめて苦味を表には出すまいと、涼しげな顔で返答する。アリアというのは私のメイドとした際に、高
貴な響きの長い名前では妙なので短く変えた彼女の新しい呼び名。
 由来は言うまでもなくアリアベルの略である。

「む…………ぅ」

 そう言われては黙り込むしかなく、むくれた表情で私を見るリィス隊長。
 はっ、と。次の瞬間、その視線が鋭さを何倍にも増して肩越しの誰かに向けられた。

「くす」

 確認するまでもない、問題の付き添い侍女である。
 私の半歩後ろに控えていたアリアベル、………アリアの喉から漏れた、僅かな失笑の響きが耳に届く。
その声音には、紛れもない優越の色が混じっていた。

「こ、ここここ、………この」

 鶏、という単語が思い浮かんだが、今そんな事を言おうものなら本気で殴られかねないので心に止め黙
しておこう。

 リィス隊長が怒りに肩を震わせ、親の仇を見つけたが如く睨み付ける。
 対して、アリアは余裕の表れかこほん、と、わざとらしい咳払いまでして見せる始末。
330「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/08/04(土) 21:58:52 ID:jEeovGyL
「あー、……リィス隊長。今は向こうに着いてからの行動を思索してる途中ですので、私用であれば後に
しておいて下さい」

 そのうちきちんと構ってあげますから。

「なっ……!? サンドロ、サンドロまでそんな………」

 口元を手で押さえ、衝撃の程を露わにするリィス隊長。
 半ば以上に呆れと諦めを含んだこちらの言葉に、向こうはさも恋人に浮気を居直られた片割れのように
、…………………違うよな? 私は。

「………っ!!」

 場の雰囲気に堪え切れなくなったか、彼女は来た時とは真逆の様子で部屋を出て行った。
 開けっ放しになったドアを閉めたアリアが、振り向きざまに笑みを浮かべる。

「さあ、続きを教えてください。ご主人様」

 ありありと見て取れる、相手を独占したい気持ち。そうまで誰かに好かれ求められるのは、重みを感じ
る傍ら心地良いものだと思う。それについては否定しない。

「その前に。私と一つ約束をしろ、アリア」
「はい、……約束って、何をですか?」

 但し、あくまでそれは私個人に限った話。想いの矛先が他の誰かに向き、結果が私の都合にそぐわない
ものとなるのであれば、見過ごす理由など何処にあろうか。

 あの手の問題は、事が起きてからでは何もかも手遅れなのだ。

 条件反射で返事をしたアリアに、平素の表情を些かしかめ、かつて彼女を隊に加えるかどうかという問
答の際に見せた態度を作る。

「今後、さっきのような感情を他人にぶつけて、それが元で私に何らかの不都合が生じた場合」

 続ける内に徐々に細められていく目に悟られぬ技量で暗示を宿し、眼前の侍女を見据えた。


「お前をただちにイストリアへ送り返す」


「え………」
「状況的に不可能であっても、そのときはお前を頭の中から捨て去る」
「っ!?」

 その数秒。まさしく絶句、といった様子で、アリアが驚愕に目を見開く。
 瞬く間に顔を青ざめさせ、ガタガタと震えながら小さく声を漏らす彼女の姿は、私が放った言葉の威力
を知るには十分過ぎるものだった。
331「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/08/04(土) 21:59:46 ID:jEeovGyL
「そ、それだけは、……それだけは」
「約束出来るか」
「ごめんなさい………します、しますから……ゆるしてください………」

 涙に濡れた瞳で必死に懇願するアリア。そんな所まで、彼女と似ている。

 ドクン、ドクン

「そうか」

 握った手綱には、離れる時まで責任を持とう。
 懲りずに鎌首をもたげる支配欲を程々に押さえ込み、私はカチューシャの乗った頭に手を置き、優しく
数回撫でてやる。

「なら、いいだろう」
「………ありがとうございます……」

 女の泣き顔は、やはり魅力的だった。
332「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/08/04(土) 22:00:28 ID:jEeovGyL
+ + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + +


「おお……、これはこれはリザニア軍の、よくぞ遠路はるばるお出で下さった! ささ、長い船旅でお疲
れの事でしょう。部屋を用意しておりますゆえ、隊の方々はどうぞごゆるりと休んで下され。隊長殿らは
馬車で私とお話を」

 数日に渡る船旅を終え、大陸から見て内側にあるウォーレーン国の港町に到着した私達を自ら出迎えた
のは、近衛隊を引き連れて馬車に乗って現れた、やたらツヤの良い顔付きの男。
 どうやら、この如何にも周囲に金品と女を山程置いていそうな狸っぽい親父が、ウォーレーン軍最高指
揮官のモンストロ将軍で間違い無さそうだ。

「ええ、私達も是非ともこの地の詳しい事情を、閣下御自身の口からお聞きしたい」
「閣下とは何ともくすぐったい響きですなあ。我々はあなた方を頼る身、もっと毅然と構えて下さって一
向に構いませんぞ。アレクサンドロ殿。
 ………ところで、そこの女性も隊の長をしておられるのですかな? 何やら随分若く美しいお顔立ちを
しておられるようですが」

 満更でも無さそうな笑みを浮かべながら、彼は私の横に並び同じく隊長格の勲章を付けたリィス隊長を
まじまじと見やり、ぐふふ、と内心の声が聞こえて来そうなくらい口元を歪めた。

「私は今回アレクサンドロ隊長の任務に戦闘部隊として同行させて頂いております、リィス=ブラムです
。以後、お見知りおきを」

 覚えてもらおうなどと欠片も思っていないだろうリィス隊長が自らその名を名乗ると、モンストロは驚
きもそこそこに、早速彼女への対応を女性兵から「お偉方用」のものへと切り替えた模様。ある意味賞賛
に値する、素晴らしい反応速度である。

 ………予想通り、権威を持った下衆の手本のような男だな。

 城に着くまでの二時間程の間。彼の話し方や立ち居振る舞い、馬車から覗く町の様子等。モンストロと
いう人物の持つ自らの利に執着し民を慮れない傲慢さ、そして有力者にはいち早く媚を売る目敏さといっ
た性質を把握するには十分な猶予だった。
 同盟相手でありながら、エイブル将軍が毛嫌いするのも良くわかる。あれは私達と似て非なる出来損な
いだ。
333「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/08/04(土) 22:01:04 ID:jEeovGyL
 モンストロに支配する者として足りなかった物。それは自らが民をどう思うかに関わらず、国を動かす
土台として利用しようと試みる為に必要な、国民に対する関心である。

 諸所にかつての栄華の名残を見せながらも、町を包む全体的に鬱屈した空気。
 おそらくは政治に優れていただろう前の統治者の遺産を、あの権力に敏感な鼻を持った豚が横合いから
掠め取ったに違いあるまい。

 そんな今回の出先であるウォーレーン。家畜の食いかけに残った価値は如何ばかりか……。



「ああああムカつく! 何よあのスケベ親父!!」
「まあまあ、落ち着いて下さいリィス隊長」

 憤懣やる方ないといった感じにリィス隊長が思い切り投げつけた枕を、届きそうな距離だったので片手
でどうにかキャッチ。そっと元の位置に戻しておく。
 今はウォーレーン国城内、宛がわれたそれなりに豪華な客間に私達は居た。ここはリィス隊長用の部屋
であり、アリアは私の方に自習を含め留守番させている。

「うちの官僚連中も大体似たようなものでしょう。何事も慣れが肝心ですよ」
「あいつらだってあそこまで露骨な視線じゃなかったわよ。あんな目で見られたら肌が汚れるわ、ほんっ
と気分悪いったら!」

 確かに。戦場に咲く花とリィス隊長を崇める軍人や文官は多いが、相手がかの大将軍の孫娘とあっては
迂闊に下賤な目を向けるわけにも行かない。誰だって長生きはしたいのだから。
 ただ、そんな爺さんのお膝元であるリザニアの人間と違い、事情を知らなかったモンストロの舐る様な
品定めの目線は、彼女にとっては未だ経験の無い代物だったのだろう。
 少々乱心召されている様子のリィス隊長を、とりあえずどうどう、と宥めておく。

「うう、……あんな奴の為に戦ってやらなきゃならないなんて、屈辱だわ」
「でしょうね。そんな悔しそうな顔を見るのは、昔エイブル将軍が茶目っ気を出して貴女の入浴中に背中
を流しに来た時以来でしょう」
「何でよりにもよって今そんな事思い出させるのよこの馬鹿ぁぁぁああ!!」
334「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/08/04(土) 22:01:39 ID:jEeovGyL
 先程のも確かに全力だった筈だったのだが。
 気のせいでなく速度と威力を増して一直線に飛来して来た枕が、掴もうとした私の両手を潜り抜け見事
顔面に命中する。部屋の内装はともかく枕の質はそれ程でもなかったようで、かなり痛い。

「ぐ、……どうやら私が居ない間、腕力には更に磨きが掛かっていたようですね。今後の戦いでも頼もし
い限りです」
「ち、ちがっ!? 今のはサンドロが変な事言うから、……ああもう! 折角久し振りの再開なのに、ど
うしてこんな事になるのーー!!」

 ドスドスドスッ、と、今度はベッドに拳を打ち込み始めるリィス隊長。うむ、やはり彼女との間合いは
このぐらいでなければ。
 出来ればアリアも以前の関係に戻したいが、それはまあ、追々何とかするとしよう。

 それよりも、まずするべき事は別にある。
 此度の我々の相手となるであろう、敵勢力について。

 ウォーレーン領南方より現れたという軍団。………話では見慣れぬ姿をしていたらしいが、さて。

 援軍として来たからには、モンストロの指示無しに勝手な戦闘は行えない。さし当たっては偵察隊を送
り様子見となるだろう。
 ベッドを殴り続けるリィス隊長を横目にしながら、私は未だ相見えぬ敵の対処法を思案していた。
335名無しさん@ピンキー:2007/08/04(土) 22:06:02 ID:jEeovGyL
投下終了です。
前回投下時に方々から教えて頂いた誤字に対しての返答ですが
正しくは、
「ア」リアベルとイス「ト」リアでした。

ご指摘どうもありがとうございました。今後も出来る限り出さないよう
気を付けたいと思いますが、発見して下さった場合はどうかご一報下さい。
336名無しさん@ピンキー:2007/08/04(土) 22:45:40 ID:KrsDp3GY
>>335
GJ!
とうとうリィス隊長とアリアが対面してしまって間に挟まれるサンドロが良い感じです
戦記物としても十分に面白いですし、今後の展開に期待します。
337名無しさん@ピンキー:2007/08/04(土) 22:47:48 ID:Ypf/ADTj
草GJ
そういえば今日のサスペンスは嫉妬深い妻が浮気相手を殺すというやつだった…
338名無しさん@ピンキー:2007/08/04(土) 22:56:32 ID:xoM9jPJl
さていい気分で寝れるな
339名無しさん@ピンキー:2007/08/04(土) 23:11:39 ID:++HLMXHq
執筆が早くてうらやましいです。
GJ!!!!!!!!!
340名無しさん@ピンキー:2007/08/04(土) 23:18:58 ID:s2yhdP0v
  _   ∩
( ゚∀゚)彡GJ! GJ!
 ⊂彡
341名無しさん@ピンキー:2007/08/04(土) 23:26:45 ID:zofwdpK0
今はこのスレは「草」でなんとか持っていますね
GJ!!!!
342名無しさん@ピンキー:2007/08/05(日) 00:41:03 ID:MNhUrEbQ
そんなこと言うのいくないお・・・

まあ、それは置いとくとして

gjです!!!!!!!!
343名無しさん@ピンキー:2007/08/05(日) 01:08:37 ID:bx/jVCE6
GJ!
好きな人に捨てられたり、捨てられると早とちりして絶望する女の子は可愛いな。


避難所に修羅サンタが投下してた。いいキモウトだよ。
344名無しさん@ピンキー:2007/08/05(日) 01:20:22 ID:qpUoedm5
やっぱりサンドロ=イズルードだったのか。
345名無しさん@ピンキー:2007/08/05(日) 01:25:01 ID:+inBQ1WI
おいおい、ちゃんと読んでるか?
普通に読者には説明されてたじゃん・・・。
346名無しさん@ピンキー:2007/08/05(日) 08:02:33 ID:nRVPrTzt
>>344
このニブチンめw
347名無しさん@ピンキー:2007/08/05(日) 08:05:20 ID:rG53RRvD
雨の音キタ--------------------------------------------!!!!!!!!!!!!!
348名無しさん@ピンキー:2007/08/05(日) 12:10:46 ID:aUrvaQd+
雨の音マジで来てるーーーーーー!!!!!シヲン可愛いよシヲン
349名無しさん@ピンキー:2007/08/05(日) 15:27:42 ID:mEbMg/hc
雨の音キタァー(゜∀゜)ーー!!!!
はGJなのだが

すでに寂れている本スレで投稿してもいいんじゃないのか?
ここはもう人があんまり来ないから荒れる必要性はないんだしw
350名無しさん@ピンキー:2007/08/05(日) 16:12:13 ID:BKjLFz86
>>349
確かこっちに投稿出来なくなったからあっちに投稿すると言っていた気がする
351名無しさん@ピンキー:2007/08/05(日) 16:14:10 ID:RxD0pYOO
ちょっと今ジブリを見たわけだが。



女の子が心を込めた贈り物を他の女に渡したら、このスレ的には何フラグが立ちますか?
352名無しさん@ピンキー:2007/08/05(日) 16:16:51 ID:X2ffeUhk
カヤのことかー
353名無しさん@ピンキー:2007/08/05(日) 21:30:21 ID:z7dxyoU9
>>351
このスレ的恋愛フラグ
354名無しさん@ピンキー:2007/08/05(日) 21:37:46 ID:EoOj5iiL
筋肉いぇいいぇーい! 筋肉いぇいいぇーい! 
355名無しさん@ピンキー:2007/08/05(日) 22:53:32 ID:ZTAvwABJ
とりあえず、タランチュラまだかな〜?
356名無しさん@ピンキー:2007/08/05(日) 23:18:22 ID:MJRWiark
スレが移動したのに気付かずすっと36を更新し続けていた俺を誰かあざ笑ってくれ
357名無しさん@ピンキー:2007/08/06(月) 00:01:52 ID:X2ffeUhk
>>356(笑)
358名無しさん@ピンキー:2007/08/06(月) 00:10:07 ID:hLQXHnJX
>>356
そんなに・・・あの娘(36スレ)の方が・・・いいの? こんなに・・・好きなのにぃぃぃっ!
あのアマぁ! ぶち殺してやるっ! よくも私の>>356クンの心を独り占めにしてっ! 

はは・・・はははは・・・道化ね・・・道化だわ・・・全部私(37スレ)の・・・一人芝居・・・(グスン)
ねえ・・・わたしのモノになって・・・>>356クン・・・? もちろん・・・永遠に・・・ね? (シュラン、ドスゥ!)
359名無しさん@ピンキー:2007/08/06(月) 01:15:00 ID:f7MFawG9
そういえば工房の頃に赤と黒って小説読んだんだがいい嫉妬、修羅場があったなぁ。

何気に文学系の小説ってそういうの多くないか?
360名無しさん@ピンキー:2007/08/06(月) 02:51:44 ID:E/rLE1Xo
>>356
あるあ…ねぇ…あるあるwwwwwwwwwww
……他スレだが俺も一回orz
361名無しさん@ピンキー:2007/08/06(月) 03:27:00 ID:Z7ZjLLIa
>>359
夏目漱石なんて好んで三角関係の話を書いてたしな。
三四郎なんかの野々宮との三角関係は最高だよ。
まぁ、男→悪女←男って関係だからこのスレの住人の求める嫉妬とはだいぶ違うけど。

そういや、男の嫉妬物ってこのスレで出たことあったっけ?
362名無しさん@ピンキー:2007/08/06(月) 03:27:21 ID:GgOZ4HnE
同じスタンダール作品ならパルムの僧院もおすすめ。
主人公を溺愛する叔母(未亡人)がツンデレヒロインに嫉妬して、
「絶対にあの女と結婚させてたまるものですか!」と健気にがんばるお話。
主人公のためなら国王暗殺さえやってのけるほどのキモ叔母が
ありとあらゆる手段を用いてエロゲ体質な主人公を手に入ようと奔走する……
大体こんな話だったと思う。
363名無しさん@ピンキー:2007/08/06(月) 10:54:19 ID:LLGrLMUO
このスレは活気があっていいな
364名無しさん@ピンキー:2007/08/06(月) 11:49:55 ID:9u4rbF8s
>>358
「・・・」を多用しているせいで面白さが半減してる
ネタを書くにしても、まずはきちんとした文章を書くように努力してくれ
365名無しさん@ピンキー:2007/08/06(月) 13:15:16 ID:f7MFawG9
>>362
読んだけど周りに金をばらまく主人公が好きになれなかった。

それにしても最後の
TO THE HAPPY FEW
だっけか?
何かかっこいいと思った学生時代。
366名無しさん@ピンキー:2007/08/06(月) 18:50:38 ID:CbqBf8xZ
やっと前スレが倉庫いったな・・・
367名無しさん@ピンキー:2007/08/06(月) 19:50:50 ID:N4zwqCwY
やっと逝ったか……
368名無しさん@ピンキー:2007/08/06(月) 20:00:43 ID:U192E8OT
俺が前スレを離れてからすぐだったな



あれ?こんな時間に誰だ?
369名無しさん@ピンキー:2007/08/06(月) 22:39:27 ID:mm//1w/D
鬼ごっこを読んでいたらさ、ストーカーとその妹に捕まって真相を語れる場面に
勃起した・・・これから、襲われるんだろうかとニヤニヤが止まりませんよ
370名無しさん@ピンキー:2007/08/07(火) 00:57:43 ID:bP1bimJg
sasuganisokomadewa......

sonnkeisimasu...
371名無しさん@ピンキー:2007/08/07(火) 08:05:16 ID:LV1zuboq
こうして>>371はボッキングと名付けられるに至ったのであった
372名無しさん@ピンキー:2007/08/07(火) 08:15:16 ID:bCnTplat
>>292
秘密の図書館にある「皇帝陛下は15歳!」とかオヌヌメ
373名無しさん@ピンキー:2007/08/07(火) 10:18:00 ID:/DYiit64
>>371
やぁボッキング
374名無しさん@ピンキー:2007/08/07(火) 10:24:43 ID:2hwtKjOv
>>ボッキングLV低すぎww
375名無しさん@ピンキー:2007/08/07(火) 10:35:47 ID:TNn7YZaH
「草」投下して良いでしょうか
376名無しさん@ピンキー:2007/08/07(火) 10:38:07 ID:yFIjXGW4
作者さまでしたらどうぞお願いします。
377「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/08/07(火) 10:38:54 ID:TNn7YZaH
+ + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + +


 二日後の朝。
 幸か不幸か、敵の姿を拝む機会はすぐに向こうから訪れてきた。
 国境の外側に居る敵からの侵略を防ぐ為に、ウォーレーン国土外周に配置された八つの砦。その内で東
南東を守る役割を与えられた私達は、隣にある南東の砦へと草原から粉塵を巻き上げ敵軍が押し寄せて来
る光景を目にしていた。
 遠目にはためく軍旗には知らない模様が織り込まれており、どうやら敵は情報通り何処かの地方で新た
に興った国らしい。
 モンストロから聞かされた西南西で戦っていたという軍は、ウォーレーンの主力をそこへ引き付ける為
の囮だろう。真の狙いは、手薄になった南東の守備の、更に奥にある大きな市街地。

 やはり、補給路を断ちに来たな。

 北と南で半々に数を分けられた砦。戦闘時その南側の四つに補給物資を送る役を果たすのが、南東の街
になっている。
 中に居るのはこれといった抵抗力を持たない補給部隊と、その援助に協力させられる一般市民。武装し
た兵士達が襲い掛かれば領土を丸ごと制圧するのは造作も無い。
 そうなると困ってくるのが、砦に残った守備軍である。
戦の命綱である兵糧を運ぶ為のラインが途絶えてしまっては、数に頼ったウォーレーンの戦術はそのまま
裏目に出てしまう。日に日に活力を失っていく防衛線に攻撃を仕掛け、効率良く早期に周り囲む砦を残さ
ず落とせれば、後は無防備となった本陣へと王手をかけるのみ。

 これまでの経緯を把握した私はモンストロにそこを重点的に守るべきだと進言したが、外交技術ばかり
身に着け戦術に疎い奴は「何を仰る、それでは南西が落とされてしまうではありませぬか」と、頑として
こちらの言葉に耳を貸そうとしなかった。
 暗示の魔法も使い併せ言う事を聞かせようにも、向こうの領土を奪われる事に対する怯えの念が強くて
失敗するのは明らかだろう。

 馬鹿め、何の為に私がエイブル将軍直々に派遣されたと思っている。

 そうした敵の戦略から弱将率いる多数の軍を救うのが、今回の目的だ。ざっと見た限り、数の差のみを
除けばイストの時とする事はさして変わらない。
 しかし、自信のまるで無かったイスト国王と違い、モンストロは逆に己を過信していた。
 指導者がこれでは余所者の私が軍を動かせる筈も無い。結果、ものの見事にウォーレーンは敵の奇襲を
自らの急所に浴びる羽目に遭っている。
 ここへ来たとき、あるいはエイブル将軍から話を聞く段階から薄々思ってはいた事だが、この任務で敵
軍から猛攻を受ける同盟国を守るというのは。

「手に余るな……」

 砦の窓から外の景色を眺めるのを止めて、私は額を軽く押さえる。
 せめて時間的余裕がもう少しあれば、モンストロに信用させ多少の権限を得てから巻き返す事も出来る
のだが。そうしようにも、何せ状況は既に敵の手の中だ。
 リザニアへ間者が来た時点ではまだ猶予を残していただろうに、運悪くも敵は相当に有能らしい。

 豚の首を刎ねて代わりの頭を据えようにも、誰がここの長に適しているかすらわからんのでは……。

 事態を混乱に導くばかり。
 時期が遅かった、正直言って手詰まりもいい所である。
378「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/08/07(火) 10:39:34 ID:TNn7YZaH
「へえ、隊長殿」

 自前の戦力でこの負け戦をどう立ち回ろうか考えていた所に、偵察を終えたゴースが緊迫した様子で戻
って来た。
 手練れの隠密たる身体には数本の血筋が浮かんでおり、その事実が私の敵に対する警戒感を否応無しに
高める。

「その傷は、………ゴース、何を見て来た」

 横に控えていたアリアが驚きつつもすぐに治癒を施す中、私は偵察部隊隊長の男に急ぎ報告を促す。

「陣地を四割方記録した所で向こうの隠密に気取られやして、迎撃から逃げるうちに三人がその場で捕ま
っちまいやした」

 私が選び抜き育てさせた諜報専門の隊員達が三人も……。

「それで、敵はどんな連中だった」
「やはりここ数年で出来た勢力で、名をヒラサカ国と近くの奴等が言っておりやした。兵士は騎兵が主で
も、やけに反りの強い剣に妙な鎧や兜と、キルキアの物に混じって見た事の無い装備を……」
「ご苦労。もういい」

 報告を続けるゴースを手で遮り、大きく項垂れる。
 卓越した戦運び、キルキア大陸にはない武装、極め付けにその国名。

 まさか、こんな所で出くわすとは………。

 私は、それら全てに関わる人物に覚えがあった。
 室内が沈黙に包まれかけたとき、扉を叩きつつ開けるという器用な真似をしながら、リィス隊長が入っ
て来る。

「サンドロも見たでしょ。どうするの、あれ? 援護に回るなら急がないと」
「間に合いませんよ。この国はここで終わりでしょう」

 リィス隊長とアリアがごくりと息を飲んだ。ゴースは直接見に行っただけあって、二人と違い驚いたり
はしない。
 今回の敵がこれまで相手にしていたイストやイストリア、その先にいた二国とは勝手が異なる事を理解
しているのだろう。

 ここでもたついていればウォーレーン軍のみならず、近くに居る私達までもやられかねん。

 少なくとも、ろくに準備の整っていない態勢で槍を交えて良い相手では決してない。援軍に向かえば国
の僅かな寿命と引き換えに、味方の被害が当初より数隊分増えるだけだ。
 知らず握り締めていた拳に、じんわりと汗が浮かぶ。

「リィス隊長。これより私達はここに着いた時の港町まで戻り、船で本国へ撤退します。至急、兵士達を
集めて下さい」

 南東の砦と市街地が落とされれば、そこで我々の逃げ場は失われる。ウォーレーン軍が持ち堪えている
今の内に、一刻も早くこの国を立ち去らねばならない。
 数分で撤退の準備を終えると、私達は任された砦を置いて一路港を目指し馬を飛ばした。
379「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/08/07(火) 10:40:09 ID:TNn7YZaH
+ + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + +


「居たぞ! 目標確認!!」
「二番隊、三番隊、左右から挟み込め! 四番隊は後方に連絡を入れろ、目標を捕捉したとな!!」
「ちぃぃっ!!」

 ウォーレーン、………いや、つい先程ヒラサカの占領地と化した、まだ記憶に新しい港町の一角にて。
 周囲から飛んでくる怒声に舌打ちしながら、私は深刻な状況に表情を険しくさせる。
 途中で通り過ぎた西南西の砦から聞こえる剣戟音が、先程よりも心なし減っていたかと思えば、やはり
こういうつもりだったらしい。

 手の内を読まれていた―――!

「まずいわっ! こっちからも!!」
「どんどん数が増えてます、ご主人様!」

 リィス隊長とアリアが叫ぶが、伝えられるまでもなくぞろぞろと大勢の兵士が現れる様が、私の目にも
はっきり映っていた。
 闇雲に逃げ回ってはすぐに捕まってしまう。

「右方の隊を突破します、リィス隊長!」
「ええ、行くわよっ!!」
「「ウォォォォォォォォオオ」」

 街道を進んでいた私達の左右二方向から、同時に襲い掛かって来るヒラサカの部隊。狙うならば砦寄り
で陣の固まっている左側面より、脇道も多い右側面だ。
 先頭を駆けるリィス隊長が、近くまで迫っていた兵士数人の首を薙ぎ払うのを皮切りに、隊は雄叫びを
上げながら凄まじい勢いで取り押さえようとする敵兵に向かって突撃する。
 流石に幾多の戦場で常勝不敗を誇ってきただけあって、彼女の戦闘における技量は抜きん出ていた。
 兵の錬度で言えば強国リザニアと全く遜色無い動きをする向こうの集団に、一切の反撃を許さないまま
いとも簡単に切り刻んで行く。歴戦の英雄である祖父エイブル将軍譲りの、神懸かっているとしか言いよ
うのない圧倒的強さ。
 まだ多少、戦闘中冷静に周囲を見渡す戦術眼に欠ける所があるが、今この場には私が居るのだ。時折ば
らけそうになる味方の間隔に、こちらの兵士を援護に回して全体のバランスを補ってやる。

「腕を負傷した者は私の横に来い! アリア、頼んだぞ」
「わかりましたっ!」

 私自身はアリアを後ろに乗せている為無理が利かないが、傷付けられた兵が居れば傍に呼び寄せ、多少
強化された治癒によって走りながらも器用に回復を施していった。矢傷に切り傷と、槍を振るう関節部の
動きを取り戻した兵士達は、その腕に新たな武器を携え再び敵へと切り掛かる。
 こちらの方も、まだまだ改良の余地を残しているものの、現段階でも十分実戦で魔法が活用出来る程度
に戦術を確立していた。
 惜しむらくは彼女自身が未だ治癒以外の戦闘向きな術を習得していない事だが、それらは今後の成長待
ちだ。この場に無い物を求めても始まらない。

「うろたえるなっ! 各個撃破の隙を与えず徐々に包囲だ!!」

 しかし敵方の指揮官も大したもの。眼前でこちらの猛威を見せ付けられても怯む事無く、落ち着いて隊
列変更の指示を周囲へと飛ばし連携を取り直す。力で押さえ付ける形から、引きも加えた翻弄の形へ。
 先程までと明らか変化した様子のヒラサカ兵達の動きは、その辺の小国や弱将の元ではそうそうお目に
かかれない素早さと正確さを誇っていた。
380「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/08/07(火) 10:41:19 ID:TNn7YZaH
 陣形が細やかでより捕らえづらくなった為、最初は気迫と勢いで立ちはだかる敵を圧倒していたリザニ
ア兵達も、掴み所の無い機敏な戦法を前に次第と補え切れないばらつきが目立ち始め、危うく隊を分断さ
れそうになる。

「敵兵に惑わされるな! 我々の目的は退路を走るのみ、脱出に繋がらん攻撃は無用だ!! ……アリア
、私の腰に掴まっていろ!」

 叱咤しつつ、今まさに切り掛かられんとしていた兵士の眼前に片手槍を投擲する。力み過ぎずしなやか
に、放たれた鋭い一撃は敵の武器を両手ごと吹き飛ばした。
 すかさずこちらの足元へ勇み飛び込んで来る突撃兵。槍を投げる姿勢の延長動作で抜き放った剣が、馬
に刃が突き刺さる寸前で相手の首を刎ね飛ばす。

 数を増す相手にこれ以上構っていられる暇は無い。向こうが包囲網を完成させる前に、後はひたすら走
り続けねば。

 敵の動作が慎重になったと言うなら、そこを逆手に取って突き抜けるのみ。
 本格的に逃げる態勢を整える為に声を張り上げる傍ら、リィス隊長もこちらとやや距離を置いた所で、
一つの隊に単機で苦戦していた。

「くっ……この! ちょこまかと!!」
「深追いしては思う壺です、リィス隊長もこちらへ!」

 味方から外れそうなる彼女を進行方向に導きながら、私はこの窮地を脱する方法を考える。
 だが幾ら手を考え付こうとも、それら全てが条件不足に終わってしまう。現在の戦況は、こちらにとっ
て余りに不利過ぎた。
 予め確かめておいた裏道や町中の死角を辿り退路を探す私達に対し、学習した敵は反撃を警戒するよう
になり、少数では当たらず要所に威嚇を与えながら、互いに連絡を取り合いジワジワと追い込んで行く。
 こちらが一小隊程度ならばまだしも、なまじ単独行動するには多いこの人数。これでは細過ぎる道幅は
通れず、上手く撒く事が出来ない。

 退却開始時の位置が、港に最も離れた東南東の砦でさえなければ……!

 来てくれた援軍に途中で突然帰られない為の措置だ。今頃は泡を食っているだろうモンストロに対し、
苛立ちの感情が湧き上がってくる。
 相手は私が南東のウォーレーン軍を無視して港へと直行するのを承知した上で、囮として戦わせていた
西南西の戦力に追加の部隊を寄越し、強引に砦を突破して、そこから更に離れたこの港町まで先に回って
待ち伏せていたのだ。
 西南西から南東、そしてもう一度攻め込んだ西南西の守りは、奇襲に焦ったあの将軍によってその大半
がとうに東へと移動済み。崩れかけで手薄になった砦の制圧はさぞかし容易だった事だろう。

「よし、今だ! 二、四番隊、五から七番隊、取り囲め!!」

「サンドロ!!」「ご主人様!!」
「……………………」

 ここまでか……。

 リィス隊長とアリアの必死の呼び掛けに、私は静かに押し黙る。出来る事なら彼女達だけでもリザニア
の、エイブル将軍の元へと何とか送ってやりたかったのだが。
 町の噴水がある大きな広場まで誘導され、私達はとうとう視界をヒラサカの兵で覆われていた。
 進退窮まるとは言い得て妙だろう。

 敗北は砦で爺さんとやりあった時と、その前にあった魔導の町での件を含めて、これでもう三度目か。
……このキルキアに渡って以来、私もケチの付きっぱなしだな。

 思わず自嘲の笑みを浮かべてしまう。
 かつてあらゆる武将から天才などと畏れられ自惚れていたこの自分にも、勝てない相手はどうやら意外
に多いと見える。
381「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/08/07(火) 10:41:59 ID:TNn7YZaH
 打てる手は全て打った。その末の結果がこれならば、もはや犠牲を増やすだけの悪足掻きもするまい。

 負傷した味方は三分の一程度だが、まだ奇跡的にも死者は出ていなかった。この辺りでいい加減潮時を
弁えておくとしよう。
 黒い甲冑を身に纏った兵士達が、いずれも訓練の行き届いた身のこなしで構えを取り、油断を見せずに
私達を注視する姿勢を維持する。
 ようやく全様が明らかとなったその兵力差、数にして我々リザニア軍のおよそ三倍強。これでモンスト
ロの居る城へ向けての攻略と、多少遅れながらも同時進行しているのだから、全く以って恐れ入る。
 全方位から突き付けられる武器には、確かに件の反りの強い剣、………刀や、薙刀といった、私にとっ
て馴染みの深いものが混じっていた。

「全員馬から降り武器を捨て、ゆっくりと両手を挙げろ!」
「……ああ、わかった」

 部隊の指揮官らしき男の声で、私を始め他の兵士達が次々に下馬して向こうへと武器を放り捨てる。
 ”あれ”から逃れたい一心で藻掻いてみたものの、わざわざ戦うまでもなかった。相手の総大将が誰か
わかった瞬間に、頭の中で勝敗は既に決していたのだから。
 降参の意を示すポーズを取りながら、私は戦いに集中する為に放置していた、今回の敵軍の腑に落ちな
かった点を掘り下げてみる。

 こちらを追うべく下された臨機応変且つ的確な命令。しかし、決して予想出来なかったわけではない。

 例えば私がリザニア軍を追い詰める側の立場であっても、やはり同じ手段を用いただろう。何故ならウ
ォーレーン周辺は匿う勢力の居ない、エイブル将軍の影響が及ばない土地。城を落としながらでも、国境
を越え他国に亡命する前に、追撃の手を伸ばすには事足りる。
 逃げ道は最初から航路の一択しか有り得ないのだ。
 だが、それを行うにはリザニアが援軍としてこの戦いに参加している事と、その位置が東南東の砦とい
う事。何より、狙う理由として私が隊の中に居たという情報を持っていなければならない。
 こちらの隊に敵の間諜が紛れ込んでいたという可能性は、両者の距離を考えれば連絡の手間が掛かり過
ぎる為、リザニアとウォーレーンのように船での速やかな交通ラインを確保しない限り非現実的だ。
 では先に捕らえられた偵察対の誰かが口を割ったのかというと、私の受け持つ兵に関してはそれこそ愚
問だろう。彼等はただの懐柔策やそこらの拷問技術では喋りはしないし、そんな事をする時間も向こうに
は無かった筈である。
 モンストロに尋ねてみた所、戦が始まって以来ウォーレーンも余所者は中へ入れていなかったと聞いて
いるが、果たしてそれ以前ならばどうだろうか?
 戦いは情報を制した者が勝つ。来るべき日に備え草を撒いての諜報活動は、戦略家たるもの基本中の基
本だ。
382「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/08/07(火) 10:42:34 ID:TNn7YZaH
「……私の名前を触れ回らせるのも、あるいはやりかねんだろうな」


「勿論。そんな程度、わたくしにしてみれば至極当然の事ですわ」


 私の正面、僅かに開けた人垣の奥から護衛を従え一人の女が姿を現していた。

「あの状況で一兵の部下も死なせず、わたくしの部隊をここまで手こずらせるだなんて。……うふふっ、
やはり貴方様は」

 何て素敵な御方でしょう、と。
 恍惚に色めく声の響き。

 嫌な予感自体はしていたのだ。何せここ最近ゴースのお告げが立て続けに当たっているのである。
 ともすればこんな事も起こり得るのではないかと、密かに浮かんだ冗談交じりの懸念を自分で笑ってい
た。用心も度を過ぎれば気を病むのみ、と。
 まさかそれが現実のものになってしまうなどとは、流石に夢にも思っていなかった。

「あれから、ずっと探していたのですよ?」

 頼んだ覚えはついぞ無いがな。

 額に冷や汗を垂らしつつ、心中でそう毒づく。
 小声で何事か命令を受けた護衛兵は、失礼、と、きちんと言い置いてから私を拘束し、そのまま彼女の
目の前まで連行された。

 向かい合う顔と顔。

「ユエか」
「ええ、サンドロ様」

 ユエ=ヒラサカ。
 着物と言う、キルキアとは異なる大陸の色彩鮮やかな装束に身を包み、長い黒髪を綺麗に揃えた女。
 もう何年も前の事、当時住んでいた国で若気の至りから大きな過ちを犯した原因であり、叶うならば二
度と会いたくはなかった私の最大のトラウマにして、最愛の妻”だった”女―――

「貴方様の夕重が、只今お迎えに上がりました」
383「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/08/07(火) 10:45:21 ID:TNn7YZaH
投下終了です。
無茶が利かないと言いつつ結構頑張っちゃうサンドロを
「あれー?」とか思いながらも、気にせず文章打ってました。
384名無しさん@ピンキー:2007/08/07(火) 10:45:58 ID:yFIjXGW4
なんという寸止め!
これではwktkで夜勤の為の昼ねができないじゃないか・・・。
385名無しさん@ピンキー:2007/08/07(火) 10:56:34 ID:Un3XHHyq
この時間に来るとは!
GJといわざるを得ないッ!
386名無しさん@ピンキー:2007/08/07(火) 11:20:45 ID:659U2R9C
GJ!!これで女性陣は全員出揃ったのかな?
それにしてもこの文章量でこのペースは凄すぎる
387名無しさん@ピンキー:2007/08/07(火) 11:40:16 ID:krGnCYoD
>>383
前妻キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ !!!!!
なんでこんないい場面で終わるのか・・・早く続きが読みたいです!!
388名無しさん@ピンキー:2007/08/07(火) 11:43:05 ID:aQeJE9kv
寸止めすぎるぜw
389名無しさん@ピンキー:2007/08/07(火) 16:11:00 ID:bP1bimJg
ちょwwwwwwww
神様きてうww
390名無しさん@ピンキー:2007/08/07(火) 17:39:47 ID:hEB3PSZ+
女性陣よりゴースの方が好きな俺は異端
391名無しさん@ピンキー:2007/08/07(火) 17:48:22 ID:IQbjAprv
ゴースが一癖ありそーな悪寒
392な ◆NL4Q2CGqwc :2007/08/07(火) 19:05:56 ID:TaTHsjuo
投下します。
393キモウトなんて一切出てこない穴を掘る話。:2007/08/07(火) 19:07:07 ID:TaTHsjuo
 いつも通りの、ある休日の朝のヒトコマ。妹にコンビニに行ってくると伝え、玄関から出た俺を待っていたのは──

「穴掘ろう」

 ──という、何故か俺の家の前に居る少女からの、何の脈絡もない言葉だった。

 補足すれば、この少女は、思い付きで喋る、というか思い付き以外で喋ったところを見たことがない、計画性という言葉と無縁の少女である。

 さらに言えば、とてもお約束なことに、今まで少女が思い付いたことで厄介でないことはなかった。

「──おおっともうこんな時間だいけねぇ俺のことを待つ最愛の妹が寂しがっちゃう!」
「うわぁシスコンとかマジどん引きだわ」
「ああ!? ブラコンなめてんじゃねぇよ! マジ子犬のようにキュートに待ってんだからな! お前なんかよりはよっぽど可愛いし胸だってあるぐはぁ!!」

 グーで顔殴られた。っていうか、気分としては撃ちぬかれた感じだった。

「ははは、変態発言もいい加減にしねえと埋めるぞむしろ自分で自分の墓穴掘りたいのかああ?」
「……ぷっ。図星つかれると人間が怒るってホントだったんぐおーッ!?」

 鮮やかな上段廻し蹴りが顎に決まった。軽く脳が揺さ振られた。

「──いやぁ、二回繰り返すのは、笑いの基本だよな?」
「ちッ。本気で蹴ったのに何で平気そうなんだてめぇ」

 そりゃあいつもいつも蹴られてりゃ耐性もつくと思いますよ。悲しいことに。

「あと、スカートの時に上段廻し蹴りとかやらない方がいいよ?」
「あら、天国と地獄が同時に味わえるってワケね」
「というよりは、地獄と地獄?」
「どういう意味だこのシスコン!」
「わかりきったことを。マイディアーシスターレベルとは言わないから、せめて世間一般程度には、おしとやかに──って、ああ、そもそも無理?」

 一応聞いてみる。

「もう、お兄ちゃんたら☆ そんなことばっかり言ってると、私泣いちゃうぞー☆」
「そういや何で穴掘るの?」
「──くっそー! 所詮私は万年妹以下だよちくしょー!」

 だっておしとやかにってリクエストからかなり外れてるじゃないですか。それで評価しろと言われても困る。

 っつーか、よく俺の前で妹キャラなんか演じようと思ったな。無謀にもほどがある。俺の妹審美眼はちょっと普通じゃないZE!

「まあいいや。いいもん。気にしてないもん。……がーッ! この鬱憤は穴を掘ることで癒す!」
「後ろ向きな癒し方だなぁ」

 いいけど。ある意味似合ってるからいいけど。

「喧しい! いいから行くぞ! ほら、スコップ持てよー」
「笑顔で押し付けるなよ。……ったく。あーあ。すまん妹よ。兄は暴君に連れられて行くよ……」

 もちろん言った後殴られました。何がそんなに気に食わないんでしょうか。理不尽窮まりない。
394キモウトなんて一切出てこない穴を掘る話。:2007/08/07(火) 19:07:47 ID:TaTHsjuo
 家の近所の山を登った。めんどくさかった。

「んじゃー、ここら辺でいっか。始めよっか?」

 今コイツが見せた笑顔に、ほんの少しだけ胸キュンしたけど、よく見るとスコップを肩に背負っていたので、胸キュンじゃなくて恐怖心なんだ。

 そこに気付く俺は流石としか言いようがなく、まさしく賢明であった。危ない危ない。いわゆる吊橋効果ってヤツだろう。細心の注意を払わないと、それこそ墓穴を掘ることになりかねないNE!

「どのくらい掘るの?」
「気のすむまで?」

 ──コイツはすました顔で何をほざいているんだろう。

 心の底から自分が今ここに居る不幸を呪ったが、もし居なければ今度は自分が目の前の悪魔に呪われてしまうので、結局不幸だということに気付く。

「あー……じゃあ、とりあえず」

 めちゃくちゃ気が進まないが、まあ、仕方あるまい。ガンバって、早く終わらすことが、今俺に出来る最善だ。

 なぁに、最狂に愛くるしい妹の笑顔を思い浮かべれば、穴を掘る程度、昼飯前だぜホントの意味で!(うまいことを言ったつもり





「うっわ何これ穴掘るのたのしー!」
「……あははー。ちょーかっこいいよー……」

 すごくテンション低そうな声が後ろから聞こえてきたけど、気にならないくらい楽しい!

 いやっほーぅ! マジ最高! 穴掘るのがこんなに面白いなんて知らなかったよ僕!

 ここでそもそもそんな楽しみは間違ってるとか言われても、ぜーんぜん気にならないもんね。むしろますますの勢いをつけてざっくざく掘っちゃうもんねー!

「何だよぅー。お前も遠慮しないで穴掘っていいぞぅー。あっはっはー!」
「爽やかに笑うなよ。少しときめくから。──ま、好都合だからいいだけど」
「んんー? 何か言ったかー?」
「何もー? うふ、カッコイイから、もっともっと掘っちゃってよ!」
「そんなこと言われると、調子乗っちゃうよ俺! よっしゃあ任せとけ!」

 そろそろ腰まですっぽり入るくらいの深さだぜ! もういっそ全身が埋まるまで掘る!

 ──というか。
395キモウトなんて一切出てこない穴を掘る話。:2007/08/07(火) 19:08:21 ID:TaTHsjuo
「あ、腹減った」
「君も私のことを言えない程度には思い付きな人生だよね」
「いや、俺は気付くのが遅い鈍感な人生を送っている」
「……………………わかってんじゃねーかよ」

 何だ、何か不満なのか。そんなに暗い病んだ顔してどうかしましたか。

「……あー、いいや。それじゃ、昼食にしましょ」
「おけ。どうする? コンビニ行く?」

 そういや、当初の目的それだったし。ああ、我が生涯の伴侶は心配してるなぁ。連絡しようにも、すぐに帰るつもりだったから、携帯を持っていなかった。多分目の前の悪魔は貸してくれないし。

 ──ま、大丈夫だろう。高性能妹であるから、兄の状態くらい最新の機器でリアルタイムで把握してるに違いない。盗聴器とか。ううん、愛されてるなぁ、俺。

「じゃじゃーん」

 そんな掛け声と共に、とても得意気な顔で、何かの包みを取り出した。

「ええっと、──ばくだ」
「今この流れからして弁当だろうが。空気読め」

 ここでからけとか言わない俺は偉い。当たり前のことが出来るって素晴らしい。

 それにしても、弁当、ねぇ……。

「何でまた急に」
「んー、だってほら。無理に付き合わせちゃったし?」
「──あ、感動した」

 そこそこに長い付き合いであるのだが、まさか自分が気遣ってもらえる日が来るとは思っていなかった。

 気遣うならそもそも穴掘りなんかさせんなよって意見もあるけど、そんな意見からはそっと目を逸らしましょう。

 まあ、穴掘り楽しいし。後ろからの声援があるなら、なおさら。

「うん、じゃあ食おうぜ」
「ん。味は期待していいよー?」
「あ、読めた。ひとつだけタバスコがぎっしり詰まったロシアンルーレット的な料理があるな?」
「あるけど、私もどれかわからないから条件はフェアだよ?」

 ──そんな感じで、ほんの少しのスパイスが効いた昼食の時間は和やかに過ぎていった。
396キモウトなんて一切出てこない穴を掘る話。:2007/08/07(火) 19:09:03 ID:TaTHsjuo
「あー、掘った掘った」

 いつの間にやら、もう日が暮れるころ。いかに体力に自信があるとはいえ、疲れてたりする。

「んー、君、自力で出れる? 君の身長よりも深く掘ったみたいだけど」
「まあ、掘った土をわざわざバケツリレー的に外に出さなきゃいけないくらい掘ったからなぁ。んー、そうだなぁ、ぎりぎり、あくまでぎりっぎり、無理かなぁ。いや、ホントは出れるんだけど、めんどくさいからさぁ」

 ──カッコ悪いから虚勢張ってますが、実はさっきから筋肉痛で動くことが辛いです。休憩した途端に気付きました。っていうか、休憩する前まで気付きませんでした。

 なので、いつもなら登れるこの高さも、今はどう考えても無理です。本当にありがとうございました。

 ……俺、何してるんだろう。何で限界越えてまで穴掘ってるんだろう。

「よしよし。……なんか想像以上の結果というより、想定外の結果だなぁ」
「何の話?」
「何で穴を掘ったかの話」

 ああ、そういえば何でか聞いてなかった。そんなことがどうでもよくなる程度には、穴掘りに夢中になっていた。

 意外な趣味発見である。今更ながら。

「色々と策略を練っていた私の努力を全て水の泡にしてくれたけど、むしろそんなに穴掘りが好きとは思わなかったけど、これで君は動くことが出来なくなったわけだ、筋肉痛で!」

 筋肉痛がばれていた。何てことだ。

「えっと、つまり?」
「なぁに、心配しないでいいさ! ちゃんと後で梯子だか何だか持ってくるから。……あ、梯子があったなら、登れる?」

 うん、と頷くが、どうにも、意図が見えない。

 ……まさか、とうとう、頭が可哀相な人になってしまったのだろうか。前々からその兆候はあったのだが。

 そんな俺の憐れみの視線にも気付かず、やけに興奮した様子で、言葉を続けた。

「なら何も問題はなし! これであのくそったれなブラコン女に復讐出来る!」
「……ああ、そういうことか」

 わかりやすすぎて、なおかついつも通りの理由。確かに、俺が居たら絶対邪魔するからなぁ。

 どうせまた、口喧嘩でもして完璧に負けたんだろう。いい加減勝てるはずがないことに気がつくべきだ。

 いやホント。俺の妹は最高ですよ?

「む、胸が大きいからって『はっ(鼻で笑った)、そんなまな板でお兄ちゃんを誘惑しようとしたんですか。ちゃんちゃらおかしいですね。っていうか、お兄ちゃんは私にぞっこんなので諦めたらどうなんですかくすくす』とか、マジでふざけんじゃねーッ!」

 うわぁ、マイハニーが俺のことをお兄ちゃんって呼んでたのって、随分前ですよ。今は名前にさん付け。これいいよ、新婚さんっぽくていいね!

 ……しかし、そんなどうでもいいことを気にしてるんだ。是非昔のことは忘れて今を生きてくれ。

「あー、俺は別にいいけどさ、お前のために一応言うなら、やめた方が──」
「無理! っていうか、さっきのに限らない! いくらでもある! そして私はあの子に勝って、で、……ええと、その後どうするかはその時考える!」

 やっぱ無計画。やれやれ。こうなったら何を言おうが無駄だとわかっているので、説得は諦めよう。

「じゃ、行ってくる! もし勝って帰ってこれたら褒めてね!」

 それは構わないけど、無理だろう。どう考えたって、アイツじゃ勝てない。

 もう俺に出来ることは、せめてダメージが、少しでも少なければいいなぁ、と祈ることのみだ。
397キモウトなんて一切出てこない穴を掘る話。:2007/08/07(火) 19:09:34 ID:TaTHsjuo
「うあ、うぇえ、う、ううう〜っ!」
「だから言ったのに」

 すぐに泣いて帰ってきた。マイスウィートが居ないところを見ると、完膚無きまでに言い負かされて、走って逃げて来たのか。

 まあ、ちょっとだけ足遅いからNE! そんな鈍臭いところも含めて完璧なのが、我が最萌です。

「う、ううう! うあう、うぇあう、ぇあうー!」
「あー、うん。俺のことになると、容赦ないから。さらに、今日一日のらぶーな時間を奪ったからなぁ。なおさらだろうよ」

 何を言っているのか依然として判らないが、身振りでだいたい言いたいことはわかった。

 ……後でどうやって機嫌をとろう。キス三回くらいで許してくれるといいなぁ。

 まったく、甘やかすのだって楽じゃないのに。幸せなだけでシスコンがつとまると思うなよ!

「う、うう、もう穴があったら入りたい気分だぁ……」

 ……あー、わかりやすいなぁと思わないでもないけれど。

 ま、気にせずにいこう。ちょうどあるんだから、有効活用。無駄はよくないぜ。

「──入る?」
「ぅ?」

 うーん、泣けばコイツも可愛いのか。しかし、いつも泣いていてくれないかなんて言ったら、どう考えても変態だ。

 案外頼んだらオッケーしてくれそうだけど。

「だから、穴。あるよ?」
「────」

 無言。プラス見つめ合い。

 そして数瞬の間。

「──とうっ」
「うおう」

 何もいきなり飛び込んでこなくても。危ないな。
398キモウトなんて一切出てこない穴を掘る話。:2007/08/07(火) 19:10:15 ID:TaTHsjuo
「うむ。受け止めてくれてありがとう」
「気にするな。それより今気付いたんだが、ここ狭い」
「わかりきったことを。ふふん、てっきり、密着したいから誘ってくれたんだと思ったよ」

 なんだ、立ち直り早いじゃねえか。そんなありえないことを思い付くようなら、もう大丈夫だな。

「っつーか、別に素敵な感触があるわけでも──」

 ふに。(素敵な感触を示す擬音

「ううん、何だってー?」
「ノーコメント!」

 しまった、ないと言えばないが、それは比較対象であって、確かにある! 柔らかいものがある!

 くっ、これは誤算だった。──誰だ嬉しい誤算って言ったヤツは。妹に操を立てろ。

「あ、ちなみにさ。これ、今気付いたから、わざとじゃないの。だから怒らないで?」

 その台詞の後で怒らないような事態は起こり得るのかしら。

「──ゴメン、上に登る手段がない」
「な、なんだってー!」

 何だそれ、どうしろと!? そろそろ星が見えてますよ!? 帰って布団でいちゃつく時間ですよ!?

「いや、お前だけでも、」
「君の背よりも高いのに、どうやって?」

 ちなみに、胸に比例してか、結構身体は小柄で、いつも俺のことを見上げながら会話している。

「ううん。お弁当食べたときのシートはあるから、土の上で寝なくて大丈夫。私が君の上に乗るから、何とか足のばせるかな?」
「お泊まり確定!?」

 いやいやいやいや! 泊まりはマズイ! いくらお兄ちゃんのことを愛しているからといっても、許せないこともあるからねって言ってた! 笑っていない笑顔も魅力的でした!

「え、ええい。腕が上がらないくらいが何だ。あの小さくて白い花がそっと咲いたような笑顔のためならー!」
「けっ! 逃がすもんかー! このせっかくの機会にキメてやるー!」

 怖い! 怖くて何をキメるつもりか聞けない!

「──くす。でもさぁ、逃げようとするって、“そういうこと”だよね? あーあ。だぁめ。もう私、我慢できない、……よ?」

 え、ちょ、待て、その表情はマズイ! 妖艶なのはマズイって! あ、あ、……うわあああああああああ!
399キモウトなんて一切出てこない穴を掘る話。:2007/08/07(火) 19:13:05 ID:TaTHsjuo
 ──さて。後日談というか、今回の穴掘り話のオチ。

 “いろいろ”とあった後、「っていうかさ、肩車してよ。梯子取ってくるから」という、実に画期的な意見で、穴の中で一夜を過ごすという事態は避けることが出来た。最初から言えよ。

 そうして、満身創痍となって帰った俺を迎えてくれたのは、もちろん愛しの君で、

「おかえりなさいお兄ちゃん、随分と遠いコンビニまで行ってきたんですね。携帯電話もお持ちにならなかっ
たようで、その他色々を予防するための最新機器が全くの無意味となり、大変心配しておりました。ああ、で
も何となくならばわかりましたよ。繋がってますものね、深い部分で繋がってますものね。あら、何だかとて
も疲れてるみたいですね。お疲れ様です。何をやってたんですか、ああ、山で穴掘り。ということは、首の一
部が赤くなってるのは蚊に刺されたからですよね。そうに決まってます、それ以外の解答などありはしません
。そうそうちょっと前に、あの貧乳──あ、いけないいけない。私はそんなことは言いませんよ。で、あの頭
も胸も可哀相な女が来てですね、はっはーん、アイツは今私の手の中だ、とか言うんですよ、意味がわかりま
せんよね、憤ってしまいますよね、当たり前ですよね。だからちょこーっとだけ、どんな頭の弱い人にだって
わかるように、私とお兄ちゃんの愛がいかに強固で優美なものかを懇切丁寧に説明してあげたんですけど、半
分どころか一割も話してないうちに逃げ出したんですよ、アイツ。ああ、そんな話はどうでもいいんです。ね
え、お兄ちゃん? 別にあんな妄言を信じるわけではありませんが、一応聞きますね。大丈夫です。いつも通
り強引に連れられていったんでしょう。わかってますよ、だから正直に答えてくださいね。今さっき気付いた
んですけど、お兄ちゃんの方から甘い香りがするんですよ。もちろん香水か何かつけてるんですよね。あはは
、初めてですね、もしかして突然お洒落に目覚めたんですか。──ねえ。何で何も言わないの。おかしいよね
。あははは。何やってきたの、お兄ちゃん。ねえ、これ以上無言で居たら私誤解するよ。たとえば、私とでさ
え、お兄ちゃんが、この世で一番愛している、私と、あは、この私とでさえも、やったことのないことを、あ
の牝犬とやったんじゃないか、とかさ。ううん、あは、そんなことないよね、お兄ちゃんは私のことを愛して
いるもんね誓ったもんね約束したよね。ほら、こっちを向いて私を抱きしめてキスしてよ。そのときもしもお
兄ちゃんから何か嫌な感じがしたら、どうしよっかな。ありえないところを蚊に刺されていたりしたらどうし
よっかな。あは、どうしたらいいと思う? 考えちゃうなぁ。ハサミとかよさそうかな。ふふ、あ、ごめんね
。そうだよね。その何故か私の頭がどうにかなりそうになる匂いはやっぱりどこにだって売っている香水の匂
いで、その何故か私の目が焼き切れそうになる首の赤い痕はキスマークなんかじゃなくて蚊に刺された痕だも
んね。……だから、ほら、そんな隅っこで震えてないで、こっちに来て話そうよ。いつも通りの二人の距離で
話そうよ。汗とか色々混ざって交じり尽くしていっそ身体が溶け合ってしまいそうなくらいにくっつこうよ。
ねえ、ねえねえねえ。どうして私のこと見てくれないの触ってくれないの愛してくれないの、寂しいな寂しい
な寂しいな、私はこんなにお兄ちゃんのことを愛してるのに誰よりも何よりも愛しているのに──あは。もう
、後ろには下がれないよ、もう逃げられないよ、もう──嘘はつけないよ。──ね、お兄ちゃん。最後に一回
だけ聞くよ。最後だよ。何で、あはははは、何で、お兄ちゃんから、──私の一番嫌いな匂いがしているのか
なぁッ!?」

 ──という熱烈な愛情を受けました。
400キモウトなんて一切出てこない穴を掘る話。:2007/08/07(火) 19:13:38 ID:TaTHsjuo
 流石の俺も、ブチ切れると、呼び方がお兄ちゃんに戻るっていうのは知りませんでした。次回から気をつけようと思います。保身のために。

 あと、ぶっちゃけ続きがあるんですが、何と言うか、あまりに可愛すぎる姿だったので、その記憶は永遠に封印することにします。永久保存版です。むしろ破棄したくてもできません。印象が強すぎて。

 で、妹と“いろいろ”することで、何とか許してもらいまして、当然ながらますます愛しくなりました。どんどん墓穴を掘り下げている気がするのは、おそらく気の迷いです。

 ──さて、まあ、そろそろこの辺で、今回の話を終わろうと思う。

 軽く追記するなら、よくわからないけれど、アイツが弁当を作ってきてくれるようになったので、学校のある日は屋上で一緒に昼飯を食べてる。

 近々籍を入れることになった新妻(予定)の弁当も残せないのが辛いところだ。

 うん、なんて幸せなんだろう。何故か綱渡りをしている気分ですが。は、ははは。(渇いた笑い

 ──もういっそ、穴の中でひっそりしたいぜ畜生!(上手くオチをつけたつもり


じえんど。


【エピローグ:まだまだ(墓)穴を掘り続けよう!】


 いつも通りの、ある休日の朝のヒトコマ。妹にコンビニに行ってくると伝え、玄関から出た俺を待っていたのは──

「地下室行こう」

 ──という、何故か俺の家の前に居る少女からの、何の脈絡もない言葉だった。

 っつーか今回露骨すぎんだろ、って、うわ、何だその手錠やらスタンガンやらは──





 さらに追記。

 幸せは、痛いものだと知りました。助けてまいでぃあー。あ、しまった、違う、間違った、まいでぃあーはお前のこと──
401な ◆NL4Q2CGqwc :2007/08/07(火) 19:15:21 ID:TaTHsjuo
お終いです。

初めての投稿なのでちょっと改行とか変でした。すいません。

402名無しさん@ピンキー:2007/08/07(火) 19:21:11 ID:VqMMo9me
なんというカオス・・・・・・
次からはもうすこし分かりやすくしてくれると嬉しい
でもGJだぜ
403名無しさん@ピンキー:2007/08/07(火) 19:57:27 ID:USyQeGH2
GJ!!!!
これはもう連載するべきだよ。
初めてとは思えないぐらいイイヨ。
404名無しさん@ピンキー:2007/08/07(火) 20:42:16 ID:krGnCYoD
>>401
なんと言うか改行云々よりノリが合わなかった・・・
あと、場面転換が分かりづらいのと登場人物の科白がネタ過ぎてどうも・・・
405名無しさん@ピンキー:2007/08/07(火) 20:53:45 ID:scyq+pEs
>>386
>敗北は砦で爺さんとやりあった時と、その前にあった魔導の町での件を含めて、これでもう三度目か。

もう1人いると見た。美少女の魔法使い2号がw
406名無しさん@ピンキー:2007/08/07(火) 21:12:03 ID:yFIjXGW4
よく考えると、3回しか敗北してないってのもすごいな。
407名無しさん@ピンキー:2007/08/07(火) 21:32:57 ID:659U2R9C
>>405
だとするとサンドロ同じ過ち繰り返しまくりじゃないかwww
408名無しさん@ピンキー:2007/08/07(火) 21:36:47 ID:SBi9/wwe
>>406
女関係の失策の方が多そうだな。
409名無しさん@ピンキー:2007/08/07(火) 22:27:52 ID:YgY+fm5P
いや、意外と女の方も少なそうな気がする。

ただ、どっちも一回一回の負けが大惨敗なんだよ。きっと。
410名無しさん@ピンキー:2007/08/07(火) 22:32:12 ID:9fGmuyau
恐るべし平坂国 
411名無しさん@ピンキー:2007/08/07(火) 23:02:21 ID:YnoCnSSM
GJ!
キモウト熱烈杉www
412名無しさん@ピンキー:2007/08/07(火) 23:16:19 ID:NRyPN8dJ
黄泉つ比良坂?
413名無しさん@ピンキー:2007/08/07(火) 23:18:33 ID:6olU/RdR
キャラの説明が足りない気がする。
414名無しさん@ピンキー:2007/08/07(火) 23:25:03 ID:vTr1jyEC
要るか?
415名無しさん@ピンキー:2007/08/07(火) 23:33:56 ID:/DYiit64
いまここで「やきもち幼女」ってのをやってるぞ
http://wwwww.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1186300720/
416名無しさん@ピンキー:2007/08/08(水) 00:30:23 ID:wu+5dN/0
>>401
GJ!
良い意味で非常にラノベちっく
主人公のハイテンションっぷりが読んでて、
穴があったら入りたいくらい恥ずかしくなった(うまいことを言ったつもり
417名無しさん@ピンキー:2007/08/08(水) 03:15:27 ID:3pXMPaFq
初とは思えない。また妄想が溜まったら投下夜路です
418名無しさん@ピンキー:2007/08/08(水) 09:56:27 ID:nVHxuHDY
ついに言葉様覚醒キタァー(゜∀゜)ーー!!!!
419名無しさん@ピンキー:2007/08/08(水) 17:32:42 ID:QkvQqF2+
あぁ完璧を求める奴は崩れた時が酷いからな
サンドロは冷静で準備も万端だが不測の事態に弱いと見える
420名無しさん@ピンキー:2007/08/08(水) 19:13:03 ID:TSEpdEaC
>>401
たまにこういうライトなのが投下されると嬉しい
GJ
421名無しさん@ピンキー:2007/08/08(水) 19:41:02 ID:vWguepH5
>>419
いやあ今回を見るにサンドロは不測の事態からの立て直しも割と出来る奴だと思うよ。
今回は失策が立て直しきれる範囲から一つぐらい多かった(東南東の砦)ので立て直し切れなかっただけで。
やっぱ女関係は情念でタジタジになって修羅場に一度押し込まれたら並大抵の事じゃ逃げられないからデカイ敗北になるんじゃないかな。
422名無しさん@ピンキー:2007/08/09(木) 06:17:02 ID:Abhl0eJu
>>419
逆に考えるんだ。ヤンデレな権力者から何年も逃げられるのは凄いと考えるんだ。
423名無しさん@ピンキー:2007/08/09(木) 11:13:43 ID:NRQ4zae+
予想

◎ 隊長
○ 姫様
△ 元妻
ダークホース ゴース

だな。
424名無しさん@ピンキー:2007/08/09(木) 12:14:27 ID:WDDO1uxc
まあなんにせよwktkしてますよwww
425「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/08/09(木) 23:00:04 ID:dgz/tyNM
投下します。
426「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/08/09(木) 23:00:55 ID:dgz/tyNM
+ + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + +


 ”わたくしを前にしてその様な無礼な態度……! わたくしは、貴方の様な不届き者の妻になるつもり
などチリほどもございませんわっ!―――”

 済まなかったな。だが私からしてみればお前の方が余程無礼だぞ、小娘。

 ”ふ、ふんっ……少しはお出来になられる様ですが、天下を取るにはまだまだですわね!―――”

 言われなくても、それぐらいはわかっているよ。

 ”あ、と…その、……ん、  様………―――”

 何だ、初めて名前で呼ばれたな。

 ”美味しゅう御座いますか?   様―――”

 ああ、美味いぞ。よく頑張ってくれてるのがわかる、ありがとう。



 ”  様、……夕重は、貴方様を永遠にお慕い申しております―――”




「お目覚めになられまして、サンドロ様?」
「…………」

 重い瞼を開けば、後頭部に暖かな感触。
 見上げた先には微笑を浮かべた懐かしい顔が、こちらをじっと見つめている。
 愛しみ、慈しむその眼差し。ユエが私に膝枕をしていた。

 ああ、そういえば捕まってしまったんだったな。こいつに。

 起き上がろうと力を入れるが、やんわりと両肩の力点を押さえられて思う様に行かない。
 主に徒手空拳において効果を発揮し、更に応用として得物を用いた武芸全般に通ずる達人の業、……柔
術だったか。私が行く先々から盗み得た数ある知識、技術の内、特に役立った一つなだけはある。
427「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/08/09(木) 23:01:36 ID:dgz/tyNM
「こうして膝枕をして差し上げるのも、随分と久し振りに感じますわ」

 涼しい表情で、全く力を込めずに私の上半身の動きを封じるユエ。ほぅ、と感慨に耽り、拘束している
ような素振りはまるで見えない。
 本人にもそのつもりがあるのかどうか。無意識でやってるとしたら怖過ぎるので、過去にも尋ねた事は
ついに無かった。やられる度に無言の抵抗をするのみである。

「……四年、…っ……だったか」
「ええ。四年もの間、貴方様と離れてしまいました」

 そうだな、と、適当な相槌を打ちながら点をずらそうと藻掻く。水面下での熾烈な攻防を繰り広げた末
、こちらが先に根負けしてしまった。

 四年間。人探しの期間にすれば、いい加減投げ出しそうなものだと思うが。
 相も変わらず、何と執念深い女だろうか。
 昔はそんな所も含めその他諸々分け隔てなく愛せていたが、今の私にはとても不可能な芸当である。人
は、取り分け女は自分の思い通りには動いてくれぬものと知ったが故に。

「……とりあえず、食事を摂らせてくれ。話したい事は色々あるだろうが、正直腹が減って仕方無い」

 横まで垂れていた長い黒髪をさらさらと撫で付けながら、私はユエに頼む、と。

「そうですね。わかりました、この夕重が直々に朝餉を振舞って差し上げましょう。四年振りの妻の手料
理、楽しみにしておいて下さいませ」
「ああ」

 意外にもあっさりと承諾してくれた。朝餉と言うからには、今は朝なのだろうか。
 膝から私の頭を解放し、彼女は嬉しそうにスタスタと襖の向こうへ、…………襖?

 ………はて。では、この不自然だった床の手触りは。

 身を起こしつつ、ゆっくり下を見る。やはり、丁寧に伊草で編み込まれた畳があった。
 襖に、畳。

「……何?」

 再び天井を仰ぐ。目に映ったのはキルキア全土で基本となっている造りの、決して和風と称されていた
それとは違う。
428「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/08/09(木) 23:02:19 ID:dgz/tyNM
 周囲を観察するも、内装はこれまで良く見かけてきた室内と何ら変わりない。ただ、床部分を草色に染
め上げる畳と、出入り口たる箇所に取り付けられた襖の二つだけが、強烈な異彩を放っていた。

 こ、これは一体……。

 窓は、―――無い。どこか大きな建築物の中心付近にあるのだろうか、それらしい物は見当たらない。
 垣間見えた襖の向こう側にもキルキア式の廊下が続いていたので、おそらくここがかの土地で無い事は
確かなようだ。
 段々と、まどろんでいた意識が覚醒してくる。

 そもそも、私は今までどれくらいの時間を眠っていたのだ。

 あの後、護衛兵の一人に睡魔を促す香を滲ませた布を手渡され、有無を言わさぬ様子で嗅ぐように指示
された自分が、観念してその匂いを吸い込んだ事までは覚えている。
 遅効性だが効果は長持ちするので、不眠症で疲れの溜まっている者が良く服用する薬だ。
 眠りに落ちる前に、リザニア軍の部隊を見逃してくれるようユエに頼み込んだ筈だが、果たして彼女の
返答は如何な内容だったか。
 ふと、己の身体に目が行く。撤退の際に纏っていたリザニア軍の甲冑はいつの間にか脱がされており、
代わりに浴衣と呼ばれる、主に向こうでの寝巻きとして使っていた物を着せられていた。
 向こうではキルキアの事を洋大陸と呼んでいたので、部屋の内装も含め、今の様子は差し詰め和洋折衷
と言った所になるか。

 まずは、あいつに聞かなければならんな……。

 ユエの料理の腕は確かだ。
 気は進まねど食は進む。もうじき出される懐かしい和食の味に思いを馳せて、何はともあれ彼女が戻っ
て来るのを待つとしよう。
429「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/08/09(木) 23:03:22 ID:dgz/tyNM
+ + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + +


「美味かった」
「お粗末様です。お茶の用意も出来ておりますよ」

 使わなくなって久しかった箸を置き、私はユエから手渡された湯呑みを一度口に運んでから、しげしげ
と中を覗く。思えば緑茶というのも、この大陸に着いてからは見る事の無かった飲み物だ。気候や風土に
よって育つ作物や独自の文化も国ごとに違ってくるものだが、海を隔てればその幅も更に増してくるとい
う事なのだろう。
 味で言えば正直和風の方が好みではある。旅する内に知ったが、キルキアは食の趣が些か雑だ。

 まあ、今はそんな事はどうでもいいな。

「私はどれだけ寝ていた?」

 この場で食通を気取るつもりは無い。熱い緑茶を軽く啜り息を整えると、私はユエの方へ視線を傾ける

 把握しかねる箇所が幾つかある今の状況、まず聞いたのは時間の事。

「丸一日眠っておられました。ここを用意させるのも同程度時間が掛かりましたので、丁度よろしかった
でしょう」

 ここ、と言うと、やはりこのごった煮状態な空間を指すだろう。聞くと、列島に居た頃の暮らしを少し
でも思い出してもらえたら、という理念に基づき模様替え、もとい改築したらしい。

「すると、港町の何処かという事か」
「いいえサンドロ様。ここは城の中に御座いますわ」

 しれっとした表情のままユエが言う。

「城? ……ウォーレーンの、王城の事か?」

 ええ、と、さも何でも無い事のように彼女は笑った。

 馬鹿な。

 いくら戦略に優れ、あのように強力な軍勢を従え、且つ敵が兵力を活かせぬ無能であろうとも。
 指揮官や兵の強さ、戦況の進み具合から予想したヒラサカ軍の数はウォーレーン軍のおよそ半分。寡兵
を以って敵を制するにしても、そのスピードが速過ぎる。
 あれからたった一日。力押しで敵本拠地を攻略するなど、到底有り得ない筈だ。
 もしそんな事が出来るとしたら………。

 そういえば、こいつ確か。

 抵抗空しく広場で捕らえられ、向かい合った彼女が口にした名前。そして、今も先程から何度となく耳
にしていた名前。
430「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/08/09(木) 23:04:05 ID:dgz/tyNM
 彼女は私の事を何と呼んだ。

 ………ふん、おかしな話だな。

 必死で押し隠していたものの、心の内側まではやはり誤魔化し切れなかったようである。
 再び出会ってしまった恐怖と緊張で、そんな考えすら浮かばなかったが。そう、そうだった。


 私はユエの前では、一度もアレクサンドロという名前を使った覚えは無い。


「そこまでの仕込みとは、さぞや蔓を張り巡らせたのだろうな。私のこの名はいつ知った?」
「準備に二年半。貴方様の新しい御名と居場所を知り、行動に移したのが一年半前」

 口の端を苦笑に歪めた私に、ユエは歌を諳んじるように答える。

「…………成る程」

 爺さんめ、これでは話が違う、……ああ、いや、そうか。”一部”を除き、だったな。

 つまりは、目の前のこの女こそがエイブル将軍の懸念していた、キルキア大陸の新しい動き、その波紋を
生じさせた張本人という事。
 しかし、ならばリザニアまでの航路も確保済みだろう。何せウォーレーンの一部が、既に彼女と通じてい
る筈なのだから。
 その後はモンストロの性格を考慮した上で、私を捕らえるに足る状況を自然に作り上げ、仕掛ける段階と
踏めば敵方の同盟国リザニアへと使者を出させる。
 あるいはあの男も、この罠の仕掛け人だったのかもしれない。間接的に私を追い詰めるよう演じさせた、
策士である彼女の駒として。

 更に、決定的な一つ。戦略的な意味合いではなく、これは個人的なプライドの問題だ。
 くっく、と忍び笑いを漏らす。

「何だ。列島の覇者たる男も、本当に大した事は無かったのだな」

 本音を言えば、そんな状況で負けただけだったならまだ納得出来た。言い訳が利くからだ。土台からして
崩れていたのでは致し方有るまい、と。
 戦乱の草が聞いて呆れる、自分の隊からして余所者混じりなのだから世話は無い。
 一年半前、入隊したリィス隊の元に同じく居て、以来私の動向を傍で見る事の出来た者。そしてウォーレ
ーンの援軍をした際、偵察から戻り敵の情報を伝えて間接的に砦を捨てさせた、この捕り物の最後の一手。

「ゴース、か」
「あの大将軍と貴方様を出し抜くには、あの者ぐらいでないと出来ませんでしたから。放った間諜の中で最
も優秀だったのが、わたくしにとって非常に大きな幸いでした」

 此度の任務、エイブル将軍の元へ間諜がやって来て、そのお鉢がこちらに回った時点で、ユエとの勝負に
は敗れていた。
 更に、前段階として植えつけられた草を見抜けなかった事で、かつての偉大なる天才は、一個人としても
負けていたのだ。完膚なきまでに。

「貴方様がここへお出でになって下さるかどうか試みたのは、これで二度目になります」
「わかっている。大方、所属を異動しそうになった辺りだろう」

 そこを考えると、ウォーレーンにはかなり早い内から手を伸ばしていたのかもしれない。
431「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/08/09(木) 23:04:57 ID:dgz/tyNM
 あの時はリィス隊長の癇癪により止められたが、あれが無ければユエの前に連れ出されるのも一年ほど早
まっていた事になる。どちらへ賽が転んでも似た目が待っているとは、実に皮肉な話だ。

「私の為にわざわざこんなお膳立てまでしてくれたか。……ヒラサカ国、だったな。装備等は向こうから遙
々ここまで運んで来たのか?」
「潮の流れや位置関係から、もしも海へ出たのならこの大陸に流れ着くのは予測出来ましたから。列島中を
支配していたわたくし達の力を以ってすれば、事は容易でした」
「ここから向こうへは戻れんのだぞ。島の統治は誰がする」

 和の国を治めていた頃、キルキアから島へ戻る為の航路は、行きとは向きを変える周囲の強い潮流によっ
て成り立たず、近場の漁師達から「帰らずの海」と恐れられていた。
 島を離れる直前だった私の場所が偶然にも大陸寄りだった事もあり、ならばいっそという気持ちで海へと
出たのだが。

「そんな物、貴方様のお傍に居れないのでしたら興味は御座いませんわ。場所が変わるだけならば、この地
で再び貴方様と共に覇道を歩む手立ても致しましょう」
「そうか」

 言いながら、緑茶を啜る。程よい渋みが口中に広がった。
 その為のヒラサカ軍。まあ、こっちでまで列島に居た頃の国名を引き摺る必要は無いが、なんともはや。
 向こうでは死後の世界を意味するらしい、ユエの氏。

 黄泉路の海より渡って来た、死の国の軍勢、か。

 全く、大した手土産を持って来てくれたものだ。

「リザニア軍はどうした」
「ご希望通り、本国へ送り返して差し上げました。行きに使われた船は念の為にと壊してしまったので、そ
れよりやや小振りの船で二隻。……本当は一人残らず引き入れるなり始末するなりしたかったのですが」

 身の内に湧き上がる何かを堪えるように、すっと俯くユエ。その様子に、内心ひどく驚いた。
 目を閉じる直前、リィス隊長とアリアがユエに対して食って掛かっていたのを覚えている。ゴースからの
報告でも、それぞれ私との関係を耳にしている事は間違い無いだろう。
 にも関わらず、彼女はそれを黙って見逃したと言うのだ。その場で殺さずに、わざわざ船へと乗せて。

 あの、ユエが……。

 夫婦の契りを結んだ次の日。周りに仕えていた女達を給仕に至るまで全て締め出し、妾は勿論、私が一度
でも伽を共にした相手は目に入った瞬間殺すか、獄中にて夜な夜な拷問に遭わせていた、あのユエが。


 まだ私が列島の制覇を遂げる途中、城下町の団子屋で看板娘に気に入られる事があった。

 何処かで身分を知っての事かは定かでは無い。ただ、そうした態度は見なかったように思える。
 そこの店は味が確かで娘も可愛らしいと、巷でも評判の有名所である。当然、城主であった私も偶に忍び
で通い、常連客とはいかないが、それなりの回数を重ねていた。
432「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/08/09(木) 23:06:00 ID:dgz/tyNM
 ところがあるとき店から上機嫌で戻った私は、その次の日からユエの出してくる茶菓子が団子に変わった
事を知る。
 さては誰かから聞き出し、自分の茶菓子が相手にされないのに妬いたのか。
 最初の方こそ見てくればかりで味が伴わなかったが、本人の影なる努力の賜物か、日を追う毎にそれは質
を上げていった。職人芸たる菓子造りというものを考えれば、目を見張る成長振りだろう。
 その頃になると、巷の方でも団子屋の噂がいつの間にかぱったりと止んでおり、私もユエの懸命さがただ
嬉しくて、店へ通うのをしばらく止めていた。
 そんなある日、久しく来ていなかった件の団子屋へと足を運ぶと、店の主人は弱り果てた表情で客に謝り
倒している。何事か尋ねてみると、返った言葉は「娘がしばらく前から使いに行ったきり帰って来ない」、
との事。
 嫌な推測が頭の中に閃いたので急ぎ城内を探し回ってみると、果たしてそこに見つかったのは、恐怖に塗
り潰されかつての明るい面影を失った看板娘。
 震える姿に、何があったのかは敢えて聞かなかった。知った所でどうするつもりも特に無い。
 娘を店の主人の元へ送った後、私はこれで何度目かになるユエの団子を茶の供として頬張った。顔に少し
疲れの色が見えるものの、彼女はやり遂げた満足気な笑みを浮かべている。

「いかがですか?」

 味は、文句無しに店と寸分違わぬ物になっていた。


「そうか……」
「そちらでの話は、ゴースから伺っております。サンドロ様がわたくしとの事を悔いていらっしゃるのも、
様子を見ればわかります」

 ……まあ、だろうな。

 港町で散々逃げ回ったのだ。それもそうだろう。
 ですが、と、ユエが言い置く。その目には、やはりかつて良く見たものが浮かんでいる。

「この身が冷たい。空虚なものへと、変わっていくのがわかります……」
「…………」
「夕重はもう、……貴方様に嫌われたく御座いません……っ…置いて行かれたく、ございません……」

 止め処なく流れ落ちる雫で顔をくしゃくしゃにしながら、彼女が胸に縋り付いて来る。これまで何度も困
らされてきた、弱々しい顔で。
 惚れた女の涙だ。その効果は今もなお健在で、どうしても憎めずつい許してやりたくなってしまう。
 そもそも、私はユエの嫉妬と執念を恐れてこそすれ、憎しみや怒りといった感情を持って逃げ出したわけ
ではない。恐怖の原因の片方が薄れれば、自然と表情から険しさが抜けるのもまた道理だ。
 大分都合の良い思考だが、仕方有るまい。そう思ってしまうのが性なのである。遍く人々がどうかは知ら
ない。ただ、少なくとも私だけは。

 ああ、入ったな、これは。

 手に持っていた湯呑みを置く。……これも、所謂勝ち負けのある戦いに数えられるのだろうか。
 だとしたら私の戦績はえらい事になりそうだ。

「ユエ」
「離れないで…離さないで下さいまし……久景様」

 ヒサカゲ、嗚咽交じりにそう言う。
433「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/08/09(木) 23:06:41 ID:dgz/tyNM
 列島での私の名前。由来は、向こうへ渡ったとき一番最初に殺した男。
 彼女が十二の頃に居た、まだ会った事も無い許婚の名だった。

「お前には色々と手を焼かされた。笑えん事も度々あった」
「申し訳御座いません、久景様……全て、この夕重が悪う御座いました………!」
「加えて、今回は私をも謀ってくれたな」
「ああっ……! 二度と、そのような事はもう二度と致しませんから……っ……ですから!!」

 我ながら、よくもまあいけしゃあしゃあとこんな台詞を吐ける。

 最初から今も含め、騙した嘘の数と質なら勝てる者などそうは居ないだろうに。
 ユエも、リィス隊長もアリアも。
 可哀相に、随分と仕様の無い男に引っ掛かってしまったものだ。

「後ろを向いて、跪け」
「っ!」

 一瞬身を竦ませたかと思うと、ほぼ反射的な動作で、背を向け指示通りの姿勢になるユエ。
 こちらに尻を突き出す形になり、その顔に怯えの色が微かに過ぎる。
 それが上辺だけな事も当然知っていた。一皮捲れば歓喜と悦楽を混ぜ合わせた、不安とは程遠い表情へと
すぐにも変わるに違いない。
 何故ならこれが、出会った頃から私と彼女の間で行われていた許しの儀式。

「準備をしろ、いつものように。早く」

 努めて冷たい口調で言い放つ。……この演技も随分と久々にする。
 今にして思えば、まだ幼さを多分に残す少女時代、こんな事をしていたせいで精神的な安定感を失くして
しまったのかもしれない。心の拠り所を、自分からこちらの側へと強引に向けられて。
 ユエが慌てながら膝を浮かせて着物の裾を捲り上げ、私の眼前に桜模様をあしらった生地で隠されていた
、桃のような美しい尻が露わになった。

「ひ、久景様」

 畳に手足を付き、既に喜びが僅かばかり滲んでいる声で。

「準備が、ととの……ひっ!?」

 スパァンッ!

 合図を言い終える前に、その油断し切った箇所を目掛け渾身の一発を見舞ってやる。

「い、痛い、……久景様、そんっ!!?」

 パァン、パァン、パァン、パァン

「ひぃっ! …っ! ぁ……」

 続けて四発、間髪入れずに平手を打つ。慣らしの意味合いも込め、まずはこんなものだろう。
 自分の合図を無視した突然の開始に呆然となっているユエ。早くも赤くなりかけている尻に手を置き、こ
れまではそこに無かった物をくい、と指で引っ張り弄ぶ。

「何だ、これは」
「ぁ……し、下着、です」
434「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/08/09(木) 23:07:57 ID:dgz/tyNM
「何故こんな物を身に着けている。キルキアに来て、お前も一丁前に洋風の真似事か」
「それは、ここでは女性は皆……ぁぅっ!?」

 パァンッ!

 室内に乾いた良い音が鳴る。弁明しようとするユエを黙らせ、私は更に詰問を続けた。

「なあユエ、仕置きの最中にこんな物は要らんな」
「も、もうしわけございませんっ、すぐに脱ぎ……ぃっ!」

 パァン、パァン……パァンッ!

「妙だな、私は先程”準備が整った”と、お前の口から聞かされた気がするのだが」
「あ、ああ……もうしわけございま……っ……ぅあ……ぁっ」

 パァン、パァンパァンパァンパァン

 使い親しんだ楽器を叩くように、丸い尻肉へリズミカルに平手を打ち続ける。ユエは手足をプルプルと震
わせ謝罪の言葉を声に出そうと努力するが、鋭い痛みに遮られてそれもままならない。

「………っ……っ………っ」

 しばらくそんな調子でやっていると、初めはしきりに「申し訳御座いません」「お許し下さい」の二言を
熱心に繰り返していた彼女も、次第に呂律が怪しくなってきて、今では悲鳴とも嬌声とも取れない声を漏ら
しながら、ただ私の名前を呼ぶのみになった。
 涙をボロボロと零す綺麗な顔立ちは、強く叩かれ続けている場所と同様に、羞恥と恍惚、被虐に興奮と、
様々な感情によって見事な赤に染まっている。
 その中でユエの心中の割合を一際多く占めているのが、私という相手にこの行為を”してもらっている”
という充実感。

 優れた才能を持ちながら、幼さ故に無邪気で傲慢な少女だったのを覚えている。

 元々、これを始めたきっかけがユエと出会った当初、家臣達に無茶な命令を下し横暴を極めていた我慢知
らずの彼女に対して、私が言う事を聞かせるべく行った、何処の一般家庭でも比較的有り触れていた躾だっ
た。違いは、私達がそうした一般の家庭では無かったというだけである。
 他の者は誰も叱れる立場に居らず、養育係もほとほと手を焼いていた為、やって来た許婚に白羽の矢が立
ったと言う訳だ。厄介な事に。
 しかしどういうわけか、二回目辺りからこの行為に対し味を占めてしまったユエは、前にも増してこちら
の手をわざと煩わせるようになったのだ。

 ……そこで考えた最終手段が無視刑、と。

 罰を受ける本人に喜ばれては丸きり仕置きの意味が無いので、彼女が家臣の一人が大事にしていた壷を割
ったと聞いたとき、試しに一週間決して話し掛けないよう過ごしてみた。
435「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/08/09(木) 23:08:39 ID:dgz/tyNM
 効果は抜群で、二日と持たず泣き付かれたのを今でも偶に思い出す。
 以後、ユエが悪行に走った際の手段として、無視は本当の仕置き、尻叩きは許しの意味を、それぞれ持つ
事となったのだが。

 ”許し”の方まで続けてしまったのは、明らかに逆効果だったのだろうな。

 ときにはねだられる事さえあったそれも、あるいはもっと早くに止めておけば、彼女にこのような性癖を
植え付ける事も無かったろうに。
 あれから私がキルキアへ渡る決意をした事件まで、従順さに比例して依存の度合いは上りに上った。
 飴と鞭とはよく言うが、きっとあの場合はもう一つ何らかのアクセントが必要だったのだろう。お蔭で敵
として捕まえた相手でありながらも、私に対しユエは未だにこんな行為を心から望んでいる。

 パァン……パァンッ

「全く、相も変わらずだらしのない奴だ。少しは心身共に成長したかと思えば、やはりまだ私に叱られて喜
んでいるのだからな。
 おい、尻を叩かれるのがそんなに嬉しいか? 構ってもらえてそんなに嬉しいのか?」
「はひ……はぃぃっ……うれしゅうございます…夕重は、うれしゅうございますぅ……」

 言葉で詰られ、身体も嬲られ、それを至上の幸福と言わんばかりに受け止めるユエ。
 そうしたのが他でもないこの私だというのだから、もう何とも言えない。
 この状態もいい加減やりづらいので、邪魔だった下着を太股辺りまで摺り下ろしてから、正座をした上に
柔らかな身体を持ち上げ、うつ伏せにした彼女を抱え込む。本格的に躾ける態勢だ。
 行為を再開する前に、ようやく剥き出しになった柔らかな尻をしばし撫で続ける。秘肉からは愛液が止め
処なく流れ出ており、淫靡な空気が部屋一面に広がっていた。

「ぁ……っ…ひさかげ、さまぁ……ひさかげさま、ひさ…っ…ま……ぁん」

 うわ言の様に、私の名前を甘えた声で何度も呼ぶユエ。その姿は、何処となく主人の膝元へ擦り寄って来
る子犬を連想させる。
 情とは、かくも人を狂わすものか。

 当時もそうだったが今にしても、私も半分くらい楽しんでるというのがな。

 ユエの件から先は意識的に禁欲生活を送っていたが、最近ではアリアが危うくなった良い例だろう。
 普段理性で押さえている異性に対する征服欲が、事ある毎に顔を覗かせてくる。
 そうして最後まで事を終えてしまってから、一人後悔と自責の念に駆られるのだ。ああ、またあれがやっ
てくるのだろうか、と。
 何も抱いた全ての女がそこまで危険な訳では無い。ただ、私は抱く度に恐怖と、それと同じくらいの興奮
に頭を支配される。まるで麻薬のような、後を引く感覚。

 パァァンッ!!

「………っっ! …………ぁ……ぁ」
「仕置きはこれで終わりだ、ユエ」

 打ち方はそれ用のものにしているが、四年振りともなるとやはり手も痛くもなるか。

「許してやる」

 私の膝の上には、失神寸前と言った面持ちで涎と愛液を垂れ流し、目に幸せの色を浮かべているユエ。
 姿勢を変えてから三分、彼女の尻は既に元の肌色を探す方が困難な状態だった。
436「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/08/09(木) 23:09:22 ID:dgz/tyNM
+ + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + +


「いやはや。………旦那も、本当に見てて面白いお方でいらっしゃる」
「私も、最近は段々そう思えてきたよ」

 事が済んで、ユエと正式にヒラサカ国へ入る事を約束した私は、ウォーレーン城屋外の壁に寄り掛かり、
物陰に潜む一人の隠密と話をしていた。

「確かに、”列島の覇者”だった頃のアンタじゃ、負けていたでしょうなあ」
「ああ、……何せ向こうでは、魔法などと言う反則技は存在しない」

 ゴース。
 私が魔導の町にて得た魔法で、暗示等の系統における上級の一つ、読心の術によってその出自を見破られ
たユエの隠密頭。

 読心は目を合わせた相手の考えを、瞳を通じて細部まで読み取る力。細部とは言うが、その時考えている
事しか読めずタイミングが非常に困難な上に、魔力よりも消費される集中力が暗示とは桁違いなのでコスト
面も劣る、本当にここぞと言う場面以外は滅多に用いない大変使い勝手の悪い魔法である。
 有効な利用法は、暗示である程度相手の思考を知りたい情報へ方向転換した後に掛ける事だが、ただでさ
え神経を使う暗示の最中、更に大きな精神力を要求されるのだから、およそ尋常な燃費の悪さではない。
 魔法の存在自体知っているものはそう多くなく、中でも読心の知名度は限り無く噂に近いものなので、初
見で防がれる心配がないのが唯一の旨味だが、使った後は立ち眩みを起こす事請け合いだ。
 ここまで来るとただ魔力が豊富にある程度では絶対に習得出来ないし、覚えるにも努力と結果が見合わな
いので、おそらく使えるのは大陸中で二、三人居るか居ないかだろう。
 ちなみに私の場合は、習得の際にこの系統とかなり相性が良かった事に起因する。

「さしもの奥方も、まさかいきなり旦那に密偵の正体を掴まれていたとは思いませんぜ。それが自分から釣
られに来たってんだから、仰天ものでありやしょう」

 身の回りに居たそれらしい人物には労を惜しまず、日を重ねながら読心を掛けていった私はじきにゴース
と出会い、その背後にユエが居るのを知りながら逆に彼を絡め取った。
 何故なら、そう、非常に不本意ながら。

 私がこの地を全て収めるには、今は悔しい事に力が不足している。

 ”国を用意しろ。強い、リザニアと張り合えるだけの国を――― ”

 その瞬間のゴースの顔は、長蛇の列を作る劇場で最高の舞台を前にした観客のようで。
 私は、この男こそ自分の影の片腕に相応しいと判断した。

「しかし、ユエにあんな形で負けるとは思わなかった。もっと粘る筈だったが、あれは悔しかったぞ」
「おんや? すると旦那、撤退の時は本気でやってたんで?」
「腕試しだ。あの悪条件で今の自分がどこまで逃げれるか、……犠牲を考えなければもっと行けただろうが
、それでは条件付けの意味が無いからな。戦闘指揮というやつは、何より経験が物を言う」
437「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/08/09(木) 23:10:04 ID:dgz/tyNM
「こわやこわや。列島てえのはどんな地獄だったのか、あっしにゃ及びも付きませんぜ」

 陰気な笑い声を上げ、ゴースがそう皮肉る。皮肉とくれば、こいつもアリアのときは中々味な事を言って
くれたものだが。まあ良い、許してやろう。
 事実、あそこまで逃げ続けられたのも、それを含めて何度か受けた敗北も、全てがこれまで培われた経験
と技術の結果なのである。
 あれから、ユエもどうやら更に腕を上げたようだ。お蔭で私の自負が少なからず傷付けられたが、これも
また明日への確実な糧だ。

「ところで旦那。奥方はあの通りですが、残りのお嬢様方は一体どうなさるおつもりで? それと、あの鬼
みてえに強い将軍殿」
「ああ、そうだな」

 さあ、こちらはもう逃れようが無くなってしまったが……。

 この身に絡まる思慕の縄は、恐れ多くもこれ一つでは無い。
 意外にも本当にユエが船で逃がしたらしい二人。
 それぐらいなら、これまでを考えればまだ比較的マシと言える。彼女達の力はまだユエのように組織立っ
たレベルでは無いのだから、捕まる可能性は極僅かだ。が、しかし。

「本当に大きいのが、この足元に掛かってるからなあ……」
「アンタのお望み通りの展開でしょうに。今更情けない事言ってがっかりさせて下さんなよ」

 まあ、そうなのだが。どう考えても、道筋としてはこっちの方が洒落になっていないだろう。
 何はともあれ、まずは任務の失敗と、ついでに離反の意を添えた別れの手紙を送らねばなるまい。勿論、
相手は”故郷に一人残してしまった恋人かつ幼馴染”。
 口元に歪んだ、征服者がするに相応しい強かな笑みを浮かべる。仔細はどうあれ、私はヒラサカ軍に敗れ
たのだ。あの時とまた同じく。
 だから、そう。

 ―――恨んでくれるなよ? 将軍。これは元々、貴方も承知の上での事なのだから。

 ”なに、たとえもう一度寝返ったとしても、そのときにはまたわしが引っ捕らえてやる―――”

 エリスン、もといエイブル=ブラム。互角の条件で破れ、私が戦った中で最も強く恐ろしかった相手。
 今度は地獄の王となって、あの英雄大将軍と再び争うのかと思うと、運命などという物を信じるわけでは
無いが、そのあまりな筋書きに笑えてくる。

「上を目指すもの同士、こればっかりは譲れんでしょうなあ」
「男の命題だな」

 このキルキア大陸に真の覇者は二人も必要無い。
 一度負けたハンデとして、多少の領土を増やす手伝いはしてやった。リィス隊長やアリアなど、適度な位
に育った人材もくれてやった。これらは勝利の為には全くの無駄な行いだが、その無駄を善しとする美学こ
そ、私の生きる上でのルールであり最大の目的だ。
 理念を伴わないただの称号に用は無い。欲するのは、ここに生き様を駆けて戦ったという証。
 彼女等も、あるいは私の元へ再び舞い戻って来るかもしれないが、そこは奴の裁量次第だろう。どう使お
うが好きなようにすれば良い。
 リザニアが有する強大な力も。その他、未だ見ぬ在野の勢力も。

 先は長くなるが、いずれはこちらが全て叩き伏せ、奪い尽くしてやるまでの事。

「私が勝つ。今度こそ、あの男に」

 ―――これは、宣戦布告だ。
438「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/08/09(木) 23:14:01 ID:dgz/tyNM
投下終了です。いよいよ本性を現したサンドロ、超悪役です。
今回は、最初の方と同じくまた大分尺が長くなってしまいました事をお詫びします。
ペースが進んでるのもあって、スレを私物化するつもりではありませんが、
ご迷惑なようでしたらどうかお申し付け下さい。成るべく頻度か量を調整します。
439名無しさん@ピンキー:2007/08/09(木) 23:32:44 ID:mb1XEbQr
>>438
|ω・`)GJ!
個人的には早く読めるのはうれしいですよ〜
440名無しさん@ピンキー:2007/08/09(木) 23:48:10 ID:lMipBlkI
GJ!!
本性を表したサンドロが素敵過ぎるv
なんて影の黒幕ぶりなんという大物ぶりだv
どんどん突き進めーv
でも事が終わった後に「ああ、またあれがやっ てくるのだろうか、と。」後悔ってv
自制してたとは言えこの文章からすると思ってたよりも列島から渡ってきてから手だした相手多そうv
そしてこれから本気で大陸制覇にv
サンドロがシリアスに覇道歩む中裏である意味コミカルである意味怖い修羅場修羅場の嵐が…wktkv
441名無しさん@ピンキー:2007/08/10(金) 00:00:07 ID:hLMa4JTF
ううん、やるなぁ。おもしろいよ。
アリアの時に「懲りずに鎌首をもたげる支配欲を程ほどに抑え込み」、
ってのがあったがありゃアリアの支配欲じゃなく自分のものだったのか。
修羅場の種を意識的にまき続ける主人公、ってのも珍しいなw
442名無しさん@ピンキー:2007/08/10(金) 00:15:34 ID:LjDZVcif
kita-----------!!!!!!!!!!!!
443作られた命 ◆zTiCoBeZnU :2007/08/10(金) 01:40:13 ID:jMt2rY9W
……接続中、しばらくお待ち下さい………
……回線が繋がりました。

「Tか、そちらからアクセスしてくるとは珍しいな。」
「報告。新エネルギー系の開発において現在完成度約六割。」
「そうか、順調そうで何よりだ。」
「更なる開発に則し、支援が必要と判断。」
「……出来る限り要望に応えよう。具体的には?」
「源郷護氏の開発プロジェクトへの参加。」
「源氏の専門は生化学だが?人的資材の支援なら他に…」
「生化学による視点からの研究でコスト削減の飛躍的進歩を予想。
源氏の参加が最善と判断。」
「了解した。迅速に対応しよう。」
444作られた命 ◆zTiCoBeZnU :2007/08/10(金) 01:41:46 ID:jMt2rY9W
……………プツン
「…ふぅ。」
回線を落とし一息つく。
意外と簡単に事は済んだ。私の能力はそれなりに信頼されているのだろう。
まぁ、郷護以外の存在に信頼されても嬉しくはないが。
だいたい私と郷護以外の人間なんて無能もいいところだ。
郷護に纏わり付いていたあの害虫…
即刻削除してやろうとして軍事衛星に侵入したのに、まともな攻撃手段がありゃしない。
命中精度の低いミサイルが何の役に立つのか。
人間一人を正確に撃ち抜くレーザーくらい用意しておいて欲しいものだ。
まったく、軍事大国が聞いて呆れる。
445作られた命 ◆zTiCoBeZnU :2007/08/10(金) 01:43:17 ID:jMt2rY9W
私が直々に出向いて害虫駆除をしてやろうかと考えたところで閃いた。
郷護のほうをあの害虫うごめく危険地帯から救い出せばいいのだ。
私の研究室に郷護を避難させてあげれば全ては解決。
郷護に寄生していた汚物は宿り主を失って嘆いてればよい。
決して邪魔の入らない研究室で二人の初めての共同作業。
開発もはかどるだろう。
新エネルギー系の完成が早まれば世界も幸せ。
郷護が傍にいて私も幸せ。
私が傍にいて郷護も幸せ。
なんて見事な幸せのスパイラル。
こうして世界は平和になった。
446作られた命 ◆zTiCoBeZnU :2007/08/10(金) 01:44:57 ID:jMt2rY9W
…それにしてもこの研究室に郷護が来るなんて夢みたいだ。
狭い密室で男女が二人きり。
何が起こるかは自明の理。
むろん、郷護は初めはそんなこと意識しないであろう。
しかし、何度も言うようにこの研究室は決して広くない。
作業中に二人の身体が触れ合うのは必至の事態。
数回の接触では動じない郷護も、
度重なる肌と肌とのコミュニケーションにより次第に私の「女」を意識する。
タイミングを計り郷護の胸にもたれ掛かる私。
潤んだ瞳で訴える。
「…郷護にだったら……私……」
郷護は私を押し倒す。
二人はそのまま夢の世界へ……
447作られた命 ◆zTiCoBeZnU :2007/08/10(金) 01:46:26 ID:jMt2rY9W
あぁ!!郷護、早く来い!一刻も早く私の胸に飛び込んで来てくれ!!!
私がお前を奪ってやる!大丈夫。怖がらなくていいからね。
…………………………………うん?
違う。違うぞ私。何を考えている。
胸に抱き抱えられるのは私であって、抱き抱える役目なのが郷護だ。
奪うのは郷護。奪われるのは私。
そこは間違えてはいけない。
盛り上がってくると冷静な思考が出来なくなるのは駄目だな。
郷護が生んだ世界一の頭脳を持つ私なんだから、
興奮して暴走するのは郷護の名を汚してしまう行為だ。
これからは気をつけるとしよう。
448 ◆zTiCoBeZnU :2007/08/10(金) 01:48:42 ID:jMt2rY9W
…と、言うことで雪奈でした。
トリ間違ってたら本気でごめん。約一年ぶりなもので…
読みにくいという特徴で同一の人と判断してください。
オチまでのプロットは出来ているので今度こそ完結させます。
449名無しさん@ピンキー:2007/08/10(金) 01:51:17 ID:CVisOHdf
作られた命キターーーー!!!!
一年近く待ってた甲斐があったよ。
GJ
450名無しさん@ピンキー:2007/08/10(金) 02:33:25 ID:lrRa06IN
>>448
おおー! よくぞ投下再開してくださった!
作られた命は私の中でも赤色と並んで続きを待っていた作品なんですわ

しかし雪奈、意外とかわいいキャラしてるんだなw
451名無しさん@ピンキー:2007/08/10(金) 03:13:18 ID:kD4r96El
おぉ!お二方GJ!
草のほうでちょいと気になったんだがサンドロはユキと会ったとき何歳ぐらいだったんだ?
俺の中でサンドロが幼女調教する変態男になってしまったわけだが。
後ユキはヒラサカ国で初めて殺した男の許嫁で良かったよな?
いくらユキが顔見てなかっても他の人間分かるんじゃね?
今回も楽しく読まさせて頂いたが少し気になったもので。
452名無しさん@ピンキー:2007/08/10(金) 04:00:32 ID:LjDZVcif
うーん・・・先ずはその『ユキ』を直してからにしよう・・・
453名無しさん@ピンキー:2007/08/10(金) 07:42:25 ID:lXE13wwB
GJ!GJ!
サンドロは過去が明らかになったと思ったら、列島へ渡ったということで更に過去の謎が増えた罠
ただでさえ列島⇒大陸⇒リザリアの間のいろいろも気になるのに更に??⇒列島の謎まで
本気で何者なんだw
454名無しさん@ピンキー:2007/08/10(金) 07:57:43 ID:kCYkmPj7
作られた命ktkr
頑張って完結させちゃって下さい
455名無しさん@ピンキー:2007/08/10(金) 08:45:11 ID:o0u667Sw
ところで纏めサイトがなかなか更新ないんだが、なんかあったのか?
456名無しさん@ピンキー:2007/08/10(金) 08:54:16 ID:wjQBmdig
なぁ、サンドロってどんな顔立ちなんだ?
やっぱ日系か?気になるが、GJ!
457名無しさん@ピンキー:2007/08/10(金) 08:55:37 ID:eD7HpD+o
なんか国名こんがらがるなw
ともあれgj
458名無しさん@ピンキー:2007/08/10(金) 21:13:49 ID:MV1ETkLL
サンドロが真に敗北したのはエイブルだけだったって事か。
こういう主人公大好きだから、嫉妬もそうですが物語りも
凄い気になりますわー。
459名無しさん@ピンキー:2007/08/10(金) 22:01:03 ID:kW9cCcFl
サンドロが一番可愛いと感じてしまう俺は末期に違いない。何のとは言わんが。
それにしてもこのペースは凄いなぁホントに。
460名無しさん@ピンキー:2007/08/10(金) 22:13:22 ID:N/+YHcew
ユエ→サンドロ→エイブル
      ↑    ↓
      ←リィス←
461名無しさん@ピンキー:2007/08/10(金) 22:52:17 ID:kW9cCcFl
アリアはどうしたwww
462名無しさん@ピンキー:2007/08/10(金) 22:56:31 ID:rZjfV/iG
     ↑
ユエ→サンドロ→エイブル
      ↑    ↓
      ←リィス←
463名無しさん@ピンキー:2007/08/10(金) 23:05:43 ID:wg9PgXqJ
しかし、他の神々は光臨すらしなくなりましたね
ヤンデレやキモウトの方が盛り上がっているしww
464名無しさん@ピンキー:2007/08/10(金) 23:18:20 ID:IZiWuKtP
    ↑
    ア
     リ
    ア
←ユエ サンドロ→           エイブル→|
    リ
    ィ
    ス
    ↓          
465名無しさん@ピンキー:2007/08/11(土) 01:01:54 ID:+Y+Yc9ZN
まあ、みんな忙しいんでしょww
466名無しさん@ピンキー:2007/08/11(土) 01:29:37 ID:niNlvn02
サンドロ⇔エイブル
467名無しさん@ピンキー:2007/08/11(土) 10:12:41 ID:33vAWvWr
夏は全裸で投下を待つ事が辛くないから良いな|ω・`)b
468名無しさん@ピンキー:2007/08/11(土) 13:26:28 ID:WjGyOkCV
俺なんか皮まで脱ごうか真剣に考えているぜ
469トライデント ◆J7GMgIOEyA :2007/08/11(土) 14:03:42 ID:KCCFv7qy
では投下致します
470桜荘にようこそ ◆J7GMgIOEyA :2007/08/11(土) 14:06:41 ID:KCCFv7qy
 第8話『ブルー』

 自分の気持ちを真剣な眼差しで幼馴染に訴えた。クズ男から離れるためには、
更紗と刹那は俺から自立して巣立って行かなければならない。
だから、俺は少し距離を置いて冷たい態度で二人に接していた。それが二人のためになると信じて。
 だが、更紗と刹那は俺に対する態度をナナメ横に受け止めていたらしい。

「一緒には居られないって……それはようするに桜荘の女の子とイチャイチャしたいから? 
私と刹那ちゃんというコブ付きがいるから他の女の子に言い寄れないのが嫌だから追い出したいんじゃないの? 
ねえ、そうでしょカズちゃん」
「待て待て」
「雪菜ちゃんからはお兄ちゃんお兄ちゃんって慕われているよねカズ君。
昨日、カレー店で二人ともツーカーでわかりあえる仲だったもんね。
どうやって、あの幼女を誑かしたのか詳しく教えてくれないかな?」
 更紗と刹那はこれまで沈んでいたのか嘘のように悍ましい殺気と黒いオーラーを発していた。
俺の体は身震いが止まらずに鳥肌が立っていた。距離を置こうと思ったけど、一秒でも早く部屋から逃げ出したくなるとは。

「さ、更紗も刹那も誤解している。てか、頼むから落ち着いてくれ」
「カズちゃんが他の女の子に手を出したら、私はその女の子を殺して、バラバラに切り刻んでミキサーに入れるから。
そして、私も死ぬから。そんな人を殺した私がカズちゃんに愛されると思っていないし、
汚れてしまった私はカズちゃんに相応しくないから」
「どこかで聞いた台詞だなオイ」
「更紗ちゃんとは恋のライバルですが、無垢なる刃の誓いの元にカズ君に近付いてくる女の子を
協力して排除する同盟を結んでいるんです。
その同盟が結ばれたのは私たちが小学生の頃です」

「どうりで俺の人生に女の子からモテたことがなかったのか。って、あんな幼女の頃から何をやっているんですか!!」

 無邪気な冷笑で恐ろしいことをすらりと呟いた少女たちに怯える俺。
真面目な話、純粋すぎる愛は一方的な暴力に等しいのではないかと悟りを開いてもいい頃であろう。
更紗も刹那も幼馴染の仮面を外せば、少し病んでいる女の子だ。
中身は1年前とは何も変わっていないことを俺は心地よい殺意と共に現在進行中で刻み込まれている。
 俺が逃げ出した理由の一つとして挙げられるのは、
更紗と刹那の告白を断った時に精神的に一生に残るような傷を与えてしまったこと。
それが原因で二人は尋常では行動力と生気が篭もっていない瞳。
性格が急に豹変してしまうことだ。主に俺が他の女の子と絡むとこのような修羅場を迎える。

「ど、ど、ど、どうせ、カズちゃんは同じ年頃の安曇さんか、
ちょっと毒舌を放つフェロモン放出の女子高生の美耶子さんか、
ちょっと年上で酒ばっかり飲んでいるお姉さんか、童顔のお兄ちゃんと慕っている年下の女の子がいいもんね。
幼馴染属性なんて最初から興味ないんだね。昨日は一緒に寝て、わ、わたしの胸を触ったくせにぃぃ!!」

「なにゅっっ!?」
「ね、捏造だぁぁぁ!!」
471桜荘にようこそ ◆J7GMgIOEyA :2007/08/11(土) 14:09:08 ID:KCCFv7qy
 更紗の唐突な告発に刹那は声にならない驚愕の声をあげて、俺は速急に彼女の発言を否定した。
残念ながら、幼馴染の胸を触るという性犯罪的な行為をやってないと高らかに主張したいところだが、
昨晩は更紗と刹那による強制的に腕を固定されていたので寝呆けて触った可能性があるかもしれない。
薮から蛇を出す前に話題をさりげなく変えよう。それしか、最悪な事態を回避する手段はない。

「わ、わかった。俺の降参だ……。頼むからこれ以上偏頭痛のネタを増やすのは勘弁してくれ」
「何を降参するのかな? カ・ズ・ち・ゃ・ん」
「最低限の譲歩は認めてやる。俺の部屋から出てもらうが、桜荘の空いている部屋には住んでいい」

 贔屓にしていたプロ野球のチームが10連敗して落ち込んでいる熱狂なファンのように俺はがっくし重い腰を下ろした。
仕方ないのである。捏造とは言え、このような事実を桜荘の住民に聞かれるだけで朝食の悪夢が再来する可能性がある。
それだけは嫌だ。朝はご飯に目玉焼きに味噌汁を、悠長に味わって食べたいのだ。
 特に青汁だけはもう嫌……。

「ブーブーブー。本当はカズちゃんの部屋に泊まりたいんだけど」
「3人に一緒に衣食住ができるような部屋でもないし、ここは空部屋が他に一杯あるんだから。そこに住みなさい」
「カズちゃんがそこまで言うなら仕方ないけどね」
 ようやく、我侭娘が納得するように頷いた。
何とか捏造問題を糧に同居させられるというお約束なオチは見事に回避されたと俺は安堵の息を吐いたが。
更紗の嘘を真に信じていた者がいたことを忘れていた。
 頑張って徹夜したテスト勉強の範囲が間違っていたぐらいに沈んでいた刹那が呟いた。

「うっ……更紗ちゃんの胸を触ったのに……どうしてどうしてどうしてどうして
 カズ君は私の胸を触ってくれなかったの? 
ううん……女の子が一緒に寝ているのに。
オオカミになって襲わないのは女の子にとって失礼じゃないですかぁ!!」

「待て待て。妄想を爆発させるんじゃない」
「カズ君を襲いたいのを我慢しているんですよ。
今も押し倒したい衝動を抑えるのに苦労しているのに。
妄想を現実として実現しても更紗ちゃん以外は誰からも責められませんから!!!!」

 すでに話題は胸を触ったことから、年頃の男の子が同じ布団に寝ている女の子を襲わないことに責められていた。
刹那も気が動転して自分でも何を言っているのかわからないのである。
長い付き合いだ。そんな時は大抵することが決まっている。

「カズキチョッッッップーーーー!!」
 刹那の頭上から素早く俺の手刀が炸裂する。
少し力を加減しているので気を失うことはないが、せいぜい正気を取り戻すぐらいであろう。
ちなみに店長なら手加減抜きの全力でやるので仕事中に何回も気絶させたことがある。

「カズ君痛いよぉ〜」
 悲痛な叫びで頭を手で擦っている刹那を軽く無視して、
 本日の二度目の重大な用件を彼女たちに伝えよう。
「さて、更紗と刹那の働く場所は……」
472桜荘にようこそ ◆J7GMgIOEyA :2007/08/11(土) 14:12:14 ID:KCCFv7qy
 更紗と刹那を何とか説得して、これから働く場所を視察もとい見学するためにアルバイト先へと向かっていた。
昼食を食べ終わった後で温かな日差しに触れるだけで睡魔が襲ってくるが、
何とか堪えて前へと街道を歩く。俺の後方にはちゃんと離れずに二人で楽しそうに喋りながら離れずにくっついてくる。
この光景は俺が中学生の頃と酷似していた。

あの頃は思春期の真っ最中で男の子と女の子が一緒に居るのはからかわれる対象だったし、
意地を張りたい男の子であった俺は更紗と刹那とはそれなりの距離を置いて、男同士の友情を育みたいと思ったが。
捨てられた子犬のような目をして、二人が必死に俺の後を追い掛けられたら、情が沸いてしまうのが人間である。

突き放すことができずに学校内ではあまり近付かないことを絶対的な条件にして、
家や誰もいない場所では今まで通りの関係を維持していた。

 あの頃とは違うが、自然と自分の後を追っている姿は懐かしい頃を思い出す。
胸が鼓動が高鳴り、自然と笑みが浮かんでくる。その姿は更紗と刹那が夢中に会話していたので気付くことなかった。
 やがて、数十分ぐらい歩いた先に辿り着いたのは洋風なレンガで組まれた建物に洋風なイメージを漂わせるカレー店。
俺がアルバイトで働いてるカレー専門店『オレンジ』。
 頭のネジが数本外れた店長が経営している店は近所の皆様やカレーマニアの方々から好まれている。

儲けは淡々と右肩上がりで上昇傾向であるが、店長が接客に応対すると一気に今まで築いてきた信頼と信用を一気に失ったりもする。

不思議なお店。
 その店の隣には見知らぬお店が開店準備を始めていた。
昨日までは偽ブランドを売っていたお店が跡形も無くなっていることに驚いたが、

俺達は気にすることもなく自分たちの店の従業員専用ドアを開いた。

「うーむ……難問ぞよ」

 カレー専門店のオレンジの店長が珍しく悩んでいた。
更紗と刹那の両方を首を横に振って見比べていた。
俺が午前中に休んだことによって起きてしまった店内の損害や厨房の片付けのために3時間ぐらい店を閉めることにした。

夕方の仕込みするにもちょうどいいが、ついでに更紗と刹那をここのウエイトレス兼ホールスタッフで雇って欲しいと頼んでみた。
店長は滅多に見せない真剣な表情を浮かべて、『少し考えさせてくれ』と言った。
それから、30分の時が流れていたが正式な回答はまだない。
 不安そうな表情を浮かべて、ちょっと強ばっている更紗と刹那のためにさっさと雇えといつものように
蹴りをお見舞いしようと思ったが、仮にも雇い主だ。ここは華というモノを持たせてやろう。

「どちらをお嫁さんにするのか……一生の問題だな」
「なんですとっっっ!?」
「一人は勝ち気のある幼馴染。もう一人はお金持ちで旅の行き先で世界一の大富豪の親バカが貴重なアイテムをくれるお嬢様。
どちらを夜の相手として迎えるか。いや、一夫多妻制度がOKというリアルなら両方頂くことも可能ぞよ」

 だめだ、こいつ。なんとかしないと。

 そういうわけで。

「サンダーキックじゃあボケぇぇぇぇぇぇーーーー!!」
 電光石火に店長の頭に俺の放ったキックは炸裂した。
吹っ飛んだ店長が五月蝿く調理器具と共に倒れ伏せた。
俺はくるりと華麗に着地して、今の状況に驚愕している更紗と刹那を宥める優しく微笑んでから言った。
473桜荘にようこそ ◆J7GMgIOEyA :2007/08/11(土) 14:14:26 ID:KCCFv7qy
「まあ、こんな場所でもいいのなら……一緒に働かないか?」
「カズちゃん」
「カズ君」
 自分でも矛盾している事だというのは嫌程分かっている。
こんなクズ男とは一緒には居られないと宣言したのに。更紗と刹那を自分と同じ職場で働かそうとする。

(……一緒に居たい)
 曖昧な距離は彼女たちに誤解を与える。二人は俺から巣立って行かなければならない。彼女たち自身のために。

(……一緒に居たい)

 だって、更紗と刹那には俺よりも相応しい相手がいるはずだ。
そいつに幸せにしてもらえばいい。俺は這い上がることができない絶望に飲み込まれたから。

(一緒に居たい)
 でも、あの二人が居るだけでこんなにも安らぎを覚えるのは何故だろうか? 
血迷ったことをしまった理由の根源はそこにあるかもしれない。
仲の良かった幼馴染の関係に戻れると薄い期待を抱いてしまう。

(だから、あなたが憎い)

「更紗と刹那が良かったら……」 
 一緒に働いてくれないか? と言う前に俺の言葉は豪勢な鈴の音によって遮られた。
ドア付近には見知らぬ人間が威張った態度で立っていた。

「この店のオレンジの店長はいるかな? あの腰抜けで脆弱なクソ野郎だ」
 その男はオレンジの店長と同じ年頃の中年男性であり、背の高い細身の人物である。
清潔感を漂わせる白衣の服は調理師が仕事をするための作業着である。
その男は堂々と店の中までしっかりとした歩調で店内に入り込んできた。
厨房にやってくると周囲を見渡してから、情けない格好で倒れ伏せている店長に視線を移した。

「フン。長年のライバルを尋ねてきたやってきたが。なんてくだらない。
私はこんな男を生涯の目標としてこれまでのカレー人生を生きていたのかと思うと自分が情けなくなるな」

「あの貴方は一体誰ですか?」
 突如、現われた不審な人物に冷たい視線と警戒心を丸出しで俺は尋ねた。
「我輩は明後日からカレー専門店オレンジの隣で開店させていただく
 カレー専門店『ブルー』の店長、青山次郎(あおやま じろう)と言う。
 短い間だと思うが、その紫色の脳細胞に深く刻み込んでくれ。カレー革命を起こすであろう偉大な男の名前をな」

 青山次郎と名乗る男の登場により、俺は新たな頭痛のタネを抱える予感がしていた。

 そう、ウチの店長と同類の匂いが。
474トライデント ◆J7GMgIOEyA :2007/08/11(土) 14:16:01 ID:KCCFv7qy
以上で投下終了です。

久々の投稿でしたが、ある程度執筆する時間が出来たんで
また、頑張ってみようと思います。
475名無しさん@ピンキー:2007/08/11(土) 14:26:38 ID:pcNl9LVT
GJであります!
476名無しさん@ピンキー:2007/08/11(土) 16:02:21 ID:+Y+Yc9ZN
みんな本当にgj!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!111111
477名無しさん@ピンキー:2007/08/11(土) 19:26:24 ID:GpsXgQJe
>>474
GJ
執筆がんばってな
478名無しさん@ピンキー:2007/08/11(土) 19:31:30 ID:O5DHzq4M
俺はいつまでも螢火を待ち続ける
479名無しさん@ピンキー:2007/08/11(土) 19:32:12 ID:O5DHzq4M
俺はいつまでも螢火を待ち続ける
480名無しさん@ピンキー:2007/08/11(土) 19:34:45 ID:V+HZAdkq
なんで2回言った?
481名無しさん@ピンキー:2007/08/11(土) 19:35:26 ID:V+HZAdkq
なんで2回言った?
482名無しさん@ピンキー:2007/08/11(土) 20:03:32 ID:PVzS/T5h
ニュー(・∀・)トリノ!
483名無しさん@ピンキー:2007/08/11(土) 21:05:17 ID:WjGyOkCV
GJ!
484 ◆CjaIRU0OF. :2007/08/11(土) 21:19:11 ID:ILDmnakt
投下します。
485或騎士之難儀 ◆CjaIRU0OF. :2007/08/11(土) 21:20:45 ID:ILDmnakt


 騎士であるところの木下後一郎右庵が家路につくのは、陽が昇った後である。
 仕事を終え、享楽に耽るわけでもなく、ただ真っ直ぐに帰路を行く。
 周囲の者達の喧騒にも動じることなく、黙然と道を歩く。
 その足取りは、健脚、と言うほどではないが、速い。
 右庵は、疲労を色濃く残しながら、しかし、足早に王都の大通りを行く。

 時たま、彼に話しかける町の者もいる。

「旦那、今日もお疲れで…」
「騎士様、ご苦労様です」

 が、そのような者達の言葉にも、彼は会釈だけで通り過ぎる。
 話しかける者達もまた、返事など期待してはいないのだろう。
 声をかけただけで、すぐ各々の仕事へと戻る。

 大通りを一刻ほど歩いたところで、右庵は路地に抜ける。
 そこでは、すでに朝の仕度を終えた女達の会話や、仕事を持たぬ男達の愚痴、あるいは休んでいる男達の無駄話が飛び交っている。
 その者達は、右庵に話しかけようとはしない。
 逆に、右庵の方が時たま会釈をして通り過ぎてゆく。

 再び、比較的大きな通りへと抜ける。
 そこは、大小様々な屋敷が並ぶ通りである。

 がっちりとした門に、黒光りする瓦の大きな屋敷もあれば、そのような巨大な屋敷に挟まれた小さな屋敷もある。
 ただ、どの屋敷も同じように門が閉じていた。

 この通りに入ったところで、それまでは気づかれることすらなかった右庵のみすぼらしさが覗いた。

 髪は茶筅。着物は仕事帰りとはいえ薄汚れ、右庵の姿勢の悪さがそれらを助長して見せている。
 しっかりとした設えの屋敷の前に立ち、掃除をしている子供は、右庵を、汚い獣でも見るような目で彼を見る。
 あるいは、すれ違う商人にこれ見よがしに舌打ちをされる。
 それらに反応せず、黙りこくって歩いていることが、彼のみすぼらしさを一層引き立てていた。

 その一方で、彼に親しげに話しかけてくる者もいた。
 右庵と似たような格好をし、だが彼とは違って立派な大太刀を腰にさげた男は、よう木下殿、と右庵に声をかけ。
 右庵もまた、ご苦労様です、と言葉を返してすれ違う。
 背中に薬箱を背負った女は、おとよさんの様子はいかがですか、と聞き。
 それに右庵も、おかげさまで、と答える。

 いずれも平凡なやりとりであり、そのようなやり取りをこなしつつも、右庵は足早に歩いてゆく。
 間もなく、右庵は一軒の屋敷の前で足を止める。
 そこで、右庵は眩しげに目を細めた。
 すでに、陽が昇ってから一時が過ぎていた。
486或騎士之難儀 ◆CjaIRU0OF. :2007/08/11(土) 21:22:28 ID:ILDmnakt

「今日も随分と遅かったのですね」
「…すみません。
 仕事が長引いてしまって…」
「仕事が、ですか。
 いつも同じように、仕事が長引くのですね」
「…」

 針の筵、という言葉を右庵は思い出していた。
 帰ってくるのが遅いといつもこうなのだ。
 右庵の前で食事の準備をしている紗恵は、彼にひどく冷たい視線を向けていた。

 紗恵は右庵の姉であった。
 体は痩せ、起伏に乏しいものの、かなりの器量の持ち主である。
 怜悧、という言葉が相応しいそのかんばせは、時折会うだけであれば美貌、と呼べるものなのであろう。
 しかし、常日頃から目を合わせている右庵にとって、その切れ長の目と黒く輝く髪は、恐怖の対象となっていた。

 紗恵の怒りからどうにか逃れようと、ただでさえ姿勢の悪い右庵の体がよけい縮こまる。
 そんな彼の頭に湯気が当たる。
 いつの間にか、茶の入った湯のみが右庵の前に置かれていた。
 おそらく、紗恵が淹れたものなのだろう。
 彼女は、何をするにしても手際がいい。
 それに比べて自分は、と右庵が溜息をついたところで、部屋の右にある障子が開いた。

「姉様、もう昼の…あ、兄様」
「ただいま帰りました」

 障子を開いて部屋に入ってきた少女に、右庵が頭を下げる。
 途端、少女がかなりの勢いで捲くし立てた。

「兄様!!
 何故もう少し早く帰っていただけないのですか!
 我が家は女二人、何かあってもどうにもならないのですよ!!
 お役目なのはわかります。
 しかし、貴方が私達を慮るのであれば、一刻も早く帰ってくるべきなのではないのですか!?」
「…申し訳ありません」
「兄様のそれは聞き飽きました!
 いつも同じ返事しかして下さらないではないですか!
 私が求めているのは謝罪ではありません!」
「…」

 その問い詰めは、ひどく理不尽である。
 かといって、妹の言っていることは、常日頃右庵がどうにかせねばならぬ、と思っていることでもある。
 結果として、右庵は再び黙り込んでしまった。

「兄様はいつも謝るばかり!!
 理由といえば仕事だから、仕事だからと同じ答えを繰り返されるだけ!
 同じ夜回りをしている楠原殿はもっと早くお戻りなっているというのに…」
「…」

 右庵に叱責を浴びせる少女の名は、十夜、と言う。
 紗恵と同じく、やや体が痩せていて、その面はやはり美しい。
 しかし、その上背と瞳に宿したものは全くの正反対である。
 十夜の背は低く、そして大きな瞳には炎のような輝きを宿している。
 他にも、所々その造作に差異が見られた。

 つまるところ。
 右庵という名の、王直参の騎士である青年の実の姉妹が、紗恵と十夜なのである。
487或騎士之難儀 ◆CjaIRU0OF. :2007/08/11(土) 21:25:04 ID:ILDmnakt

 紗恵の冷徹な言葉と、十夜の喧しい言葉がひと段落したのは、食事の用意ができた頃だった。 
 長髪を後ろにたくし上げた紗恵は、風呂を沸かして参ります、と言って立ち上がる。

「ああ、水浴びですませるので…」

 姉様はゆっくり休んでいてください、と言おうとした右庵の言葉は、途中で喉の奥へと飲み込まれることとなった。
 姉が、その冷たい瞳で睨んでいたからである。
 まずいことをした、と心の中で思いつつ、右庵の体は勝手に縮こまっていた。

「何か言いましたか、右庵殿?」
「いえ…」
「そうですか」

 これ以上は何も話すことはない、という体で紗恵は立ち去った。
 おそらく、これから風呂を焚きに行くのであろう。

 縮こまった右庵の視線は自然と湯のみに向かっていた。
 思い出したように、右庵は湯のみをあおる。
 その中に入っていた茶は、多少ぬるかった。

「…十夜」
「はい?」

 すでに隣の部屋に戻ってしまった妹に、右庵は呼びかける。
 呼びかけに、十夜が素早く右庵のいる部屋へと戻ってきた。

「ヨミズさんが、貴女の体のことを心配していましたよ」
「はあ…それがどうしたのです?」
「いえ、わざわざそのように薬師の方が聞いてくるということは、十夜の体の調子が悪いのかもしれない、と思いまして」
「そのようなこと、兄様が心配なさることではありません」
「…」

 家族なのだからそんなことはないのではないだろうか、と右庵は考えて、いや、ともう一度考え直した。
 大人であれば、私の生活にみだりに踏み入られるのは良しとはしないだろう。

 少女とは言え、それは右庵から見た話で、十夜はすでに立派な大人であるのかもしれない。
 右庵自身、齢を二十数えたばかりであり、十夜も余り歳は違わない。
 このように、ただひらすら恐縮するだけの自分に比べれば、はきはきと自分の意見を言える十夜の方がよほど大人なのではなかろうか。
488或騎士之難儀 ◆CjaIRU0OF. :2007/08/11(土) 21:25:44 ID:ILDmnakt

 そこまで考えて、右庵は自分の考えがひどく悪い方向へと向かっていることに気づいた。
 同時に、卓の上に乗っていた食事が全て平らげられていることに気づく。
 どうやら、紗恵が膳を並べおわってから、いくらかの言葉を十夜と交わすまでの間に、飯から汁物まで全て口の中に入れてしまったらしい。

 いつの間に、と右庵は思ったが、その思考すら常の事である。
 疲労していたから、気が疎かになっていたのだろう。
 そう結論付けて、右庵は立ち上がった。

 仕事の速い紗恵のことである。
 もしかしたら、風呂は焚きあがっているのかもしれない。
 別に完全に湯が温まっていなくても、汚れがとれればそれでいい。

 ここにいて、十夜と話をしたとしても、右庵から話しかければ突き放され、十夜の口からは愚痴か文句が出るのみなのだ。
 余裕があれば、そのような会話であろうと喜んで受け入れただろうが、仕事を終えたばかりの右庵にそんな余裕はない。

 しかし、右庵はある一つの事柄に気づいてはいなかった。
 要は、風呂場には薪を焚き、その火加減を調節している紗恵がいるわけであり。
 十夜から離れても、紗恵に小言を言われるに過ぎないのである。

 立ち上がった拍子に、右庵がよろめく。
 もしかしたら、明け方の、泥棒との駆け競べが今になって足に効いてきたのかもしれない。
 明日に響かねばいいが、と思いつつ、右庵は、冷徹な姉の待つ風呂場に向かうのだった。
489或騎士之難儀 ◆CjaIRU0OF. :2007/08/11(土) 21:28:21 ID:ILDmnakt

 日は暮れて、次の朝、ならぬ次の夜。
 紗恵に起こされ、今夜こそは定刻通りに帰ってくるように、と念を押されて家を出て。
 右庵が向かった先は、仕事で毎日訪れている、とある長屋だった。

 都中を練り歩き、馴染みの町人に話を聞き、あるいは町の様子を自分の目で探る。
 咎人がいればそれを捕らえ、好ましくない振る舞いをする輩には注意をする。

 騎士団では、この役目のことを「都廻」と呼んでいた。
 実のところ、その呼称は俗称である。正式には、「王属騎士団都中警羅番」という。
 名の通り、都の警邏が都廻の主要な仕事である。

 都廻の中にあって、右庵は情報収集の任に携わっている。
 要は、都の風聞、治安状況から、どこそこの誰が死んだ、変わった病が流行っているなど諸々の情報を仕入れるのが彼の仕事である。
 その仕事において、最も重要な情報源となっている存在に、右庵は会いに来ていた。

「いつものことではないか。
 お前の帰る刻限が遅いのも、お前の姉と妹が怒っているのも」
「確かにいつものことですが…私が言いたいのは、朝方まで私を引っ張りまわさないでいただきたい、ということなのです」
「ほう。お前がそのようなことを言える立場であったか?」
「…」
「私がいなければ、お前の仕事も成り立たないであろう」

 都の全てを把握している者がいるということを知っているのは、ごく一部の人間であるという。
 ごく一部の例外を除けば、騎士の中ですら、右庵と他数名しか知らない事である。
 つまりは、その都のことを全て知るという、秘中の秘、とでも言うべき存在が、今右庵の目の前で酒を飲んでいる女なのだ。

 いや、右庵自身、千里耳のことを女であることは愚か、人間であることすら信じてはいない。
 前任者に幾度も念を押された、というだけでなく、右庵は実感として目の前の存在を人と思ってはいないのである。

「…では、本日の分の書は…」
「まだ出来上がっておらん」
「…」

 酒をかっくらいながらも、雪のように白い肌を一向に赤くする気配もなく。
 偉そうにそんなことを言う女に、右庵は呆れるでもなく、ただ押し黙る。

490或騎士之難儀 ◆CjaIRU0OF. :2007/08/11(土) 21:29:47 ID:ILDmnakt

 千里耳。
 千里先のことすら聞き及んでいる、という意味のその名は、目の前の女から右庵が、そう呼べ、と言われた名前である。
 右庵の前任者に聞いたところ、その老人には黒巫女、などと呼ばせていたらしい。

 とにもかくにも、その名の通り、彼女は都のまさしく「全て」を知り尽くしているわけである。
 そんな彼女の機嫌をとり、その日その日の都で起こった目ぼしい事柄を抽出してもらい、書類としてもらうのが、右庵の最も重要な仕事であった。

「では、この辺りの見回りをしてきますので、どうか夜明けまでには…」
「おや、酒が尽きたようだな」

 右庵が立ち上がろうとする機先を制して、千里耳はそんなことを言う。

「わかりました。
 それでは酒を買った後、見回りに参ります。
 よろしいでしょうか?」

 そう言った右庵に、千里耳は、肩の辺りで切りそろえられた髪を揺らし、当然のごとく頷いた。
 では、と言って、今度こそ立ち上がろうとした右庵を、千里耳が再び言葉で止めた。

「ああ、右庵」
「…は」
「これが今日の正午までの分だ。
 それ以降のものは今からまとめよう」
「…」

 千里耳がどこか誇らしげに差し出したのは、昨夜から今日の正午にかけての、諸々の情報が書かれた紙束だった。
 見れば、明け方、右庵がこそ泥を捕らえたことまで事細かに記載してある。

 何故、自分の周囲の人間はこうも仕事が速いのだろうか。
 右庵はそう考えつつ、今度こそ、薄暗い長屋の一室から立ち去った。

 薄暗かった部屋よりなお暗い外へと右庵は出る。
 彼は、この刻限でも空いている酒屋をすでに二三、頭の中に思い浮かべていた。

 右庵は、千里耳から情報を受取るたびに、酒を買い、あるいは食事を共にしていた。
 千里耳が金を出すこともあるが、大抵は右庵の懐からその金は出ていた。
 軽い懐を探りつつ、右庵は路地から通りへと抜ける。

 夕暮れ時から夜が明けるまでが、右庵の仕事の刻限。
 右庵の仕事は、今始まったばかりなのである。
491或騎士之難儀 ◆CjaIRU0OF. :2007/08/11(土) 21:30:53 ID:ILDmnakt

 陽が落ちてから、半時ほど過ぎて後。

「戸締りはしましたか?」
「はい」
「…ありがとう。
 十夜、もう寝てもよいですよ」
「はい、おやすみなさい、姉様」

 木下邸では、そのような会話の後、二つの灯火のうち、一つが消える。
 もう一つの灯りは、満月が南に至っても尚、点いたままとなっている。
 さらに一時が過ぎ、二時が過ぎても、それでも、灯りは点ったままである。
 結局、その灯りは、夜明けが訪れても尚消えず、外が明るくなってきたところでやっと消える。

「…右庵殿。
 貴方は、またあの女と共にいるのですか…?」

 物憂げな溜息と、心配そうな、しかし怨念じみた言葉と共に。
492 ◆CjaIRU0OF. :2007/08/11(土) 21:32:14 ID:ILDmnakt
以上で投下終了です
493名無しさん@ピンキー:2007/08/11(土) 23:05:54 ID:pcNl9LVT
>>492
GJ!
好みの文体です。これからどうなるのか非常に楽しみですので、
どうかこれから頑張って下さい。
494名無しさん@ピンキー:2007/08/11(土) 23:10:43 ID:GTmqEoQp
主人公の名前って、「うあん」で姉が「さえ」で妹が「とおや」
酒女が「せんりじ」でいいの?
495名無しさん@ピンキー:2007/08/11(土) 23:13:03 ID:fJjzOtwU
名前が名前だけに受ける印象が騎士というよりお侍さん。これからどうなるのか非常に楽しみですGJ。
496名無しさん@ピンキー:2007/08/12(日) 00:20:22 ID:6G62n3sy
>>474
小学生は幼女じゃない童女だ!これは譲れない
>>491
これからの修羅場をwktkしながら待ってるよ

そして、お二方GJ!!
497 ◆zTiCoBeZnU :2007/08/12(日) 00:56:56 ID:MkW1C77c
投下します。
(今回脇役が喋ってるだけです)
498作られた命 ◆zTiCoBeZnU :2007/08/12(日) 00:57:55 ID:MkW1C77c
「…私はたしか源郷護氏に連絡を入れたはずだが。
何故君がくるのかね、鶴見君。」
「代理人です、局長。郷護は現在多忙ですので。」
「忙しいのもわかるが、彼に直接来てもらわねば意味が無い。
研究室入りしてもらうのは彼自身なのだから。」
「局長、その件についてですが反対です。」
「反対?」
「言葉通りの意味です。郷護の参加は有り得ないということです。」
「……理由を聞かせてもらえるかな。」
「ハイリスク、ローリターンであるからです。」
「リスクとは?」
「人造人間の危険性です。いつ暴走するかわかりません。」
499作られた命 ◆zTiCoBeZnU :2007/08/12(日) 00:59:46 ID:MkW1C77c
「君はそう言うが、その可能性は低いんじゃないか?
源氏は何度かTと接触してはいるが彼はこう言っていたよ。
あの子に危険は無い、人間の子供と変わらない、とね。」
「欲目ですよ。自分の製品を危険だと言う制作者がどこにいるんですか。
現にあれは既に一度パソコンを大破させているんですよ。
いつその矛先が人間に向かうか…」
「鶴見君、聞いたところによると君は源氏とは長い付き合いだそうだ。
君の判断にこそ私情が絡んでいるのではないかな?
わずかな危険性を強調し過ぎているように聞こえる。」
500作られた命 ◆zTiCoBeZnU :2007/08/12(日) 01:01:08 ID:MkW1C77c
「…局長、パソコンはいくらでも代わりがききます。
しかし人間はそうはいきません。
ましてや郷護はこの世界に必要とされている人材です。
万が一の時にはもう取り返しがつかないんですよ。」
「しかしだな、開発を順調に進めるためにも
Tの意見を聞き入れるべきではないかね。」
「功を焦ってもろくな事はありません。現時点で既にこれ以上無い開発速度です。
何も危険を犯してまで郷護を参加させることはありません。
何回も言うようですが、あれは」
「パソコンを大破させている、か。
Tは実験の一つとして報告しているがね。」
501作られた命 ◆zTiCoBeZnU :2007/08/12(日) 01:02:23 ID:MkW1C77c
「だからこそ危険なんです!!
局長はあれに倫理観が備わってるとお思いですか?
物と人間の区別がつくとお思いですか?
実験と称し、パソコンを破壊する。そしてそれは容認された。
新しいパソコンも配備された。
壊したって代わりがやってくる。
そんな環境で人間だけには手を出さないとお思いですか?
作られた命に、本当の命の価値がわかるでしょうか。
忘れないで下さい。
あれは人造人間、怪物なんです。
外見が似通っていても、人間じゃありません。
人間の常識など通用しませんよ。
いつ我々に牙を向いてもおかしくありません。」
502作られた命 ◆zTiCoBeZnU :2007/08/12(日) 01:03:59 ID:MkW1C77c
「君もしつこいな。話も飛躍的だ。少し落ち着いたほうがよい。
今回、源氏の参加は見送る。今日はそれでお帰り願いたい。」
「ありがとうございます。
ですが、忘れないで下さい。
今は役に立っていても、あれは人類にとって脅威であることを。
それでは、失礼致しました。」


(…考え過ぎだよ。
しっかりと管理しさえすれば、Tは人類に不可欠な存在になる。
誰しもが多かれ少なかれTの恩恵を受けることになる。
Tは、人類が発明した最高の道具だ。
船、自動車、テレビ、飛行機、パソコン……何よりも優れた道具だよ、単なるね)
503 ◆zTiCoBeZnU :2007/08/12(日) 01:06:46 ID:MkW1C77c
以上です。
会話だけで終わるという粗末な展開。
しかも物語は進行してないし、雪奈出番無し。

申し訳ないです。
504名無しさん@ピンキー:2007/08/12(日) 01:09:28 ID:3WEpWbWM
GJ!
これは雪奈マジギレフラグ……?
505名無しさん@ピンキー:2007/08/12(日) 03:49:16 ID:9O30++mz
GJ!!!!!!!!

また活気が戻ってきて嬉しいよ!
506名無しさん@ピンキー:2007/08/12(日) 05:51:03 ID:VMjSuSVU
GJ!!見るのは初めてだから、早速ログ読んでくる。



ところで、ドラえもんのロボ子とかはスレ住民的にどうよ?安い不良品だが。
507名無しさん@ピンキー:2007/08/12(日) 13:00:38 ID:eARe7nNL
>>503

GJ!ずっと君の再来を待っていた甲斐があった!

>>506

ポンコツドジッ娘ヤンデレメイドロボを想像してしまった…

ポンコツな自分にも優しいご主人様のことを一途に思っているが
人間の女が馴れ馴れしくご主人様に近づくことに
恋する機械仕掛けの乙女のハートという名の動力機関を
オーバーヒートという名の嫉妬の炎で燃え上がらせ
次第に暴走し、狂っていく…

まとめスレにメイドロボものがあったような気がするけどかぶってないかな?
508名無しさん@ピンキー:2007/08/12(日) 13:06:13 ID:gSlJSsbC
>>507
だからそのメール欄をなんとかしろよ素人
sageも知らねえのか新参が
509名無しさん@ピンキー:2007/08/12(日) 13:13:13 ID:xKbFvRLR
避難所に雨の音が投下されてたぜ。

あっちでなぜか書き込めなかったからこっちで言わせてもらう。
雨の音、GJ!
510名無しさん@ピンキー:2007/08/12(日) 14:09:50 ID:rS4/Od6Y
転帰予報まだかな
511名無しさん@ピンキー:2007/08/12(日) 18:34:27 ID:AWb+dECH
179 : 雨の音  ◆ tTXEpFaQTE 2007/08/12 (日) 11:41:57 ID = c5b30051b0

今回の投下終わり。


問題が無ければ、ですが、どなたかこれ、本スレに転載
していただけませんか?
やっぱりあっちに投下したいので。

…ってわけだから、代わりに投下する
512名無しさん@ピンキー:2007/08/12(日) 18:35:58 ID:AWb+dECH
175 : 雨の音  ◆ tTXEpFaQTE 2007/08/12 (日) 11:33:20 ID = c5b30051b0

雨の音


気がつくと、うつ伏せにされていた。
後ろで手をつかまれ、身動きが取れない。
それをいい事に、相手は自分の首筋を嘗め回す。
電流が背筋を駆け上る。

「…う…」
思わず声が漏れる。
「…あなた、こんな事して、いいとでも…」
相手を、首を回して睨みつけても、相手は答えず、
さらに相手は上着を強引にはだけさせ、あらわになった背中にも
舌を這わす。

「…んん」
声を上げるのを必死で押さえる。

背中から与えられる舌の感触に耐えていると、不意打ちのように強い刺激が来た。
相手が胸に手を伸ばしてきたのだ。
柔らかな手つきで、胸を揉んでくる。
「…あなた、い、いい加減に…」

それにもまだ、はしたない嬌声をあげるのも我慢できた。
だが、相手が胸を揉む手つきに、こり、と乳首を引っ掻く動きを加えた瞬間、
「きゃあっ!!」
と、思わず声を上げてしまった。

一度声を上げてしまえば、もう取り繕う事は出来なくなった。
上半身をのけぞらせ、びくびくと動いてしまう。
相手の行為に、自分でも驚くぐらい過敏に反応してしまう。

そうやって上半身を散々に弄ばれたあと、その相手は両手を胸から離し、
太ももとおしりを触ってきた。
「う…」
そのいやらしい手つきに、ゾワリ、と鳥肌が立つ。
その手が、だんだんと中心に近づいているのが感じられる。

「あ…ちょ、まって、 いやぁ!」
だって、そこは、そこは、今…すごく、濡れて……

その相手に、そこまで感じさせられた事を気付かれるのが嫌で、
必死で足を動かす。


513名無しさん@ピンキー:2007/08/12(日) 18:36:35 ID:AWb+dECH
176 : 雨の音  ◆ tTXEpFaQTE 2007/08/12 (日) 11:34:11 ID = c5b30051b0

だが、相手はあっさりと足首を捕まえ、ぐいと両足を広げさせると、
ショーツの中に手を入れ、股間を直接撫で回した。

クチュクチュと、濡れた音が聞こえた。
泣きそうなぐらい屈辱的だった。
だって、今までずっとその相手は私のおもちゃだったのだ。
そのおもちゃにいい様に弄ばされるなんて、なんて悪夢なの。

ポロポロと涙がこぼれた。
次々と嬌声がこぼれた。

顔は怒りながら、唇は悦びの声を上げていた。

「この…いい加減、調子に乗るの、やめなさいよ…」
それでも、何とかプライドを呼び覚まし、相手を睨みつける。

「あんたは、私のモノなんだからね・・
 立場ってのをわきまえる事ね…」

そう言えば、その相手は怯む筈だった。
だが、今日に限って。
その相手はそうやって睨みつけた自分の顔を布団に押さえつけ、さらに力を込めて
愛撫を続けた。

そして、ついに、股間に何か当てられる感触。
このバカは、遂にここまでの狼藉を働くつもりなのか。
私の初めてを奪うつもりか――――

頭が怒りで真っ赤になる瞬間、始めてその相手が囁いた。
「僕がお前のモノじゃあない。
 お前こそが、僕のモノなんだ―――」

ぶち、と脳の血管が切れたかも知れない。
何ほざいてるの、このバカ。
自分の立場を忘れたの。
ここまで身の程知らずとは思わなかったわ。
もういい、死になさい。
さようなら。

一瞬にして、そんな罵詈雑言が頭を埋め尽くした。
514名無しさん@ピンキー:2007/08/12(日) 18:37:04 ID:AWb+dECH
177 : 雨の音  ◆ tTXEpFaQTE 2007/08/12 (日) 11:35:18 ID = c5b30051b0

だというのに。
体のほうは。
その言葉こそが何よりの極上の悦楽だと言わんばかりに反応してしまった。

ずぐり、と何か体に入ってくる感覚。
その一撃だけで、全てが吹き飛んでしまった。
あるのは、凶暴な快感のみ。
それと、先ほどの言葉。

―――お前は、僕のものだ―――

もう何も考えられなかった。
自分が怒っているのか、喜んでいるのか、悦んでいるのかさえもはやどうでも良かった。
ただ、叫んでいた。
「…ッああ!!
 ひい!ひいよお!!もっとぉ!!
 もっとしてええ!!
 お願い……ねえ、ねえ!ヒビキぃ…」
 
そして、シヲンはこれ以上は無いほど、深く絶頂した。



「ヒビキぃ……!!」
そう叫びながら、ビクッと体を震わし、その途端、シヲンは目を覚ました。

目に入るのは、見慣れた自分の部屋の天井。
聞こえてくるのは、自分の荒い途息。
  
状況が理解できない。

あたりを見回しても、自分の体を弄んでいたヒビキは居なかった。

体を確かめる。
胸は寝間着の上からも解るほど尖っているし、ショーツがぐしょぐしょになるほど
股間も濡れているが、それでも衣類に乱れは無かった。
処女が奪われた形跡も無かった。

つまり、
「……また、こんな夢を…」
そういうことだ。
515名無しさん@ピンキー:2007/08/12(日) 18:37:41 ID:AWb+dECH
178 : 雨の音  ◆ tTXEpFaQTE 2007/08/12 (日) 11:35:57 ID = c5b30051b0

こんな夢を見たのは初めてではない。
どういう理屈か知らないが、二年前の十三歳のときに初潮が来て以来、生理が近づくたびに
こんな夢をシヲンは見るのだ。
しかも、毎回律儀に相手役は響のみ。
その上、今回のように強引にされるパターンが多い。

思い出すだけで怒りがこみ上げてくる。
夢の中とはいえ、ヒビキなんかに襲われるとは。
こんな夢を見せてくる、自分の体の不調が気に食わない。

「…寝ましょ・・・」
夢の中とは言え、深く絶頂した後なので、体全体が疲れていた。
二度寝しようと再び横になったが、ドアがノックされた。

「お嬢様、お嬢様、そろそろ起きてください。
 今日は旦那様の会社のパーティーの日ですよ。
 旦那様も響様もご用意を始めてますよ。
 早くしないと、間に合わなくなってしまいますよ」

そうだった。今日はお父様の会社のパーティの日だった。
それを思い出し、シヲンは機嫌を悪くした。
パーティーは嫌いだった。
人が大勢居るのは苦手だし、自分の見た目のよさに釣られて鼻の下を伸ばして来る男たちを、
父の迷惑にならない様に適当にあしらうのは死ぬほど面倒だった。

それともう一つ、パーティーが嫌いなわけ。
最近、ヒビキはそう言ったパーティーに呼ばれると、ヴァイオリンを弾くことを要求される。
実際、ヒビキの演奏は間違いなくプロになってやっていけるだろうというほど上達していた。

大勢の人間に、ヒビキのヴァイオリンを聞かれる。
それはまさしく、今まで一人で隠してきたおもちゃを、急に皆で使おうと言われた時の様な不快感があった
516名無しさん@ピンキー:2007/08/12(日) 18:39:48 ID:AWb+dECH
ごめんさっきageてしまった
517名無しさん@ピンキー:2007/08/12(日) 20:58:22 ID:C2K4O1w9
乙&GJ
今回早いなw
また早めでよろ!
518名無しさん@ピンキー:2007/08/12(日) 22:36:32 ID:wSY7rYvw
まとめサイト誰でも編集出来るようにすればいいのに。
519名無しさん@ピンキー:2007/08/12(日) 22:57:38 ID:gSlJSsbC
お前が誰でも編集できるまとめサイトを作ればいいのに。
520名無しさん@ピンキー:2007/08/12(日) 23:06:26 ID:6G62n3sy
阿修羅氏も引っ越し先で新たな泥棒猫と出会い、嫁さんと新しい泥棒猫との修羅場中なんだろ
521名無しさん@ピンキー:2007/08/13(月) 00:20:48 ID:Iz9vjSZd
今のまとめに乗ってない部分だけをまとめた新しいまとめを作ればいいじゃない
522名無しさん@ピンキー:2007/08/13(月) 00:30:26 ID:swjRxY+g
前作ろうかとも思ったけど二重に作るってのも気が引けるのですよ。
さんざん頼りになってきた手前阿修羅氏に悪いなあと思うし。
523名無しさん@ピンキー:2007/08/13(月) 01:01:01 ID:J8nxq/8F
阿修羅氏が
避難所で嫉妬SSその36の過去ログを持っている方は渡してくれ
今こそ、恩を返す時だぞw
524名無しさん@ピンキー:2007/08/13(月) 05:17:54 ID:OPaYOqwP
まとめから来たド新参携帯厨の俺狂喜乱舞
管理人様に多大な期待と感謝を
525名無しさん@ピンキー:2007/08/13(月) 06:48:26 ID:m23AnZV0
>>522
いや普通に更新辞めたいんだと思うよ阿修羅氏は
いくら忙しくてもこれだけの期間更新きてないのはおかしいし
526名無しさん@ピンキー:2007/08/13(月) 07:38:46 ID:Z5U0fTbK
>>525
お前避難所見てないの?
パー?
527名無しさん@ピンキー:2007/08/13(月) 09:28:32 ID:rtRcraVp
>パー?
どんな意味?
528名無しさん@ピンキー:2007/08/13(月) 09:32:42 ID:4DA0V9J/
頭がパー
パープリン
529名無しさん@ピンキー:2007/08/13(月) 09:37:25 ID:oGJM0htP
これが、ジェネレーションギャップというものか。
530名無しさん@ピンキー:2007/08/13(月) 09:40:58 ID:rtRcraVp
いかりやちょうすけ頭はパー
正義は勝つみたいな奴かな?
531名無しさん@ピンキー:2007/08/13(月) 10:18:11 ID:4f2KRDPH
誰でも編集できるようにしたら正直荒らされる気がする
最近はここ落ち着いているけど荒れること多いしさ。
532名無しさん@ピンキー:2007/08/13(月) 11:17:34 ID:ehE+abQN
荒れるとか無視
煽る人間はスルー方向にしてくれ
いちいち、構ってやるからスレが荒れて神がいなくなったんだろうが
533名無しさん@ピンキー:2007/08/13(月) 11:29:12 ID:oGJM0htP
てきとーな事言ってはぐらかしてるのに、いちいちマジレスするやつとかも居るしな。
534名無しさん@ピンキー:2007/08/13(月) 11:34:49 ID:Z5U0fTbK
だからやめろアホー
535名無しさん@ピンキー:2007/08/13(月) 11:49:31 ID:/54LMEKI
マッチポンプ
ID:Z5U0ftbK
ID:rtRcraVp

ところで、「草」の勢力別キャラ紹介がとても欲しいんだが、
作者さん、もし見てたなら是非作って頂きたい
536名無しさん@ピンキー:2007/08/13(月) 11:58:50 ID:ALfKsXDF
>535
作者に強要するなと言いたい
仕事増やすことになるだろうが

そのくらい話読んでるならわかるだろ…
流し読みせずちゃんと最初から読め
537名無しさん@ピンキー:2007/08/13(月) 12:19:28 ID:9uX1/mna
お前ら落ち着けよ
今日は迎え盆だぞ。地獄の釜の蓋が開くんだぞ
538名無しさん@ピンキー:2007/08/13(月) 12:33:55 ID:/54LMEKI
>>536
すまん。言葉が足りなかったな…orz
強要とか無理やりとかの意味じゃなかったんだ…
これのせいで本編の投下に支障が出たら本末転倒だもんな

>>537
彼女達が帰って来るというのか!!
539名無しさん@ピンキー:2007/08/13(月) 13:17:09 ID:rtRcraVp
>>538
頭パーですか?
使い方間違ってないよね
540名無しさん@ピンキー:2007/08/13(月) 15:28:42 ID:aKn4Y1za
>>537
このスレで死んでいった泥棒猫たちが帰ってくるのか・・・
541名無しさん@ピンキー:2007/08/13(月) 15:53:24 ID:stS6CIdc
>>535
っていうかそんなの作者じゃなくても作れるだろ
ファンなら自分で作れ
542名無しさん@ピンキー:2007/08/13(月) 16:55:34 ID:EArCiYNm
何このカオスwwww
543名無しさん@ピンキー:2007/08/13(月) 16:57:24 ID:JMtrzUr5
女の子の嫉妬とは背中に薄黒いオーラーを背負うのか
頬を膨らませて、うみゅと主人公を睨むべきなのか

定義が難しいなオイw
544名無しさん@ピンキー:2007/08/13(月) 17:18:36 ID:9uX1/mna
両方だろ
545名無しさん@ピンキー:2007/08/13(月) 17:47:53 ID:y12qJRvJ
後者は嫉妬
前者は焼きもち
ソースは俺の脳内
546名無しさん@ピンキー:2007/08/13(月) 18:12:37 ID:/54LMEKI
>>545
つ、突っ込まないんだからねっ!!!
547「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/08/13(月) 18:25:08 ID:nbei3Xki
投下します。
548「草」Another side ◆yNwN3e7UGA :2007/08/13(月) 18:26:13 ID:nbei3Xki
 あちこちで兵士達の声や、物資を運ぶ音が聞こえてくるリザニア軍前線拠点。
 時間はまだ一般の市民が起きてくるには少し早い頃、案内役の衛兵に連れられて、一人の男がやって来
た。

「これより、この隊の副隊長として配属される事となりました、アレクサンドロ=ディールトンです。よ
ろしくお願い致します」

 敵軍の隊に入る引け目を感じさせず、だからってこっちに偉そうな態度を取るわけでもなく。
 テントに入って来るなり、あたし達の目の前でそいつは堂々と名乗り上げた。
 砦の攻略に手間取ってたお爺様が、この間の攻撃でようやく負かしたっていう相手。お爺様からは、必
ずお前の役に立ってくれるだろうとか、あれの戦い方を良く見て学べとか、べたべたに褒められてたやつ
だ。

 ……ふん、取り入ろうとしてるのが見え見えなのよ。

「ご苦労様。あたしが隊長のリィス=ブラムよ。先の戦いでは大分うちの兵を殺してくれたそうだけど、
……あんた、そのままの勢いで味方を襲ったりしないでよね?」

 あのお爺様が敵の評価をあんなに嬉しそうに言うなんて、今まで見た中で一度も無かった。だから、正
直あたしにはそれが信じられない。
 どうやって気に入られたのかは知らないけど、こいつは絶対に敵だ。寝返った兵士に信用出来る人間な
んているはずがないんだから。
 前線で戦い続けているこの隊に、お爺様たっての希望だからと、あたしの意思と関係なく無理やり入り
込んで来たこの男。

「は、肝に銘じさせて頂きます」

 こっちの皮肉がまるで通じていないみたいに、素知らぬ顔で受け流すその態度。
 気に入らない。敵の、……あたしの前で余裕ぶっているこいつが。

 絶対に、その化けの皮を剥いでやる。


+ + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + +
549「草」Another side ◆yNwN3e7UGA :2007/08/13(月) 18:27:24 ID:nbei3Xki
「隊長、索敵完了しました。敵の数は正面に百騎余り、左右から遅れて五十騎。先制攻撃の準備は既に整
っております」
「む、そう、……早いわね」

 先週から入った新顔の副隊長、……アレクサンドロが近くの部下と何か連絡を取りながら、あたしに敵
の兵力を教えてくる。あたしが視察を頼んだのは、その横に居る兵士の方だったんだけど。

 まあ、いいわ。早く済んだならそれに越した事はないし。

「聞いて下さいよ隊長。副隊長、オレらがまだ敵も見つけていなかったのに数を言い当てたんです」
「左右の方なんて旗も上がってねえのに、びっくりしましたよ」

 見事その通りの数で現れた敵に、あいつが手引きするまま行動を起こすと、これまであたしの隊が何度
も苦戦してきた敵の奇襲戦法は、嘘みたいにあっさりと撃退する事が出来た。
 残った兵力と装備を確認している最中、同行していた二人の兵士が興奮した感じでそう喋る。最初はし
きりに疑っていたけど、実際ほぼ完璧に合っていた敵兵達を目の当たりにして、アレクサンドロの横で弓
を構えながら驚いていたらしい。

「陣や出方に関しては元、向こうの兵ですから、大方の見当は最初からある程度把握していました」
「でも、正確な数までは難しいんじゃないの?」
「経験ですよ。現在の状況で敵がこの場所を攻めるに適した人数や、その他諸々。索敵に行ったのはこち
らに来ているかの確認みたいなもので、後は殆ど流れ作業です」

 隊長もその内わかるようになりますよ、と。
 後で本人に聞いてみたところ、別段どうってことないって風にそう説明された。それじゃ他の兵より早
く敵を発見出来たのもそうなのかと、無意識に続けた質問にも微笑を浮かべて。

「探すのにも慣れは必要です。それに、これでも目には多少自信がありまして」

 何となく、ムカついた。丁寧な態度の裏で、お前の隊はまだまだ未熟だと、その目が語っているような
気がして。



「隊長、これより敵の援軍が来る事が予想されます。ここは一旦砦の中へ退避した方がよろしいかと」

 リザニアの押さえた砦に向かって攻めて来る敵軍、その片翼に死角から奇襲を仕掛ける任務。
 正面で奮闘するお爺様の軍を順調に援護していた途中で、アレクサンドロがそんな事を言い出した。

「? どうしてそんな事がわかるのよ?」

 今もう少しだけ頑張れば、敵の左側面は完全に機能を失わせる事が出来ると言っていたのは、他でもな
いこいつなのに。ここで退避するなんて。

「あらかじめ敵軍付近に兵を伏せておきました。間も無くここは敵兵で埋め尽くされましょう。どうぞご
決断を」

 副隊長として配属されてから一ヶ月。こう言うと悔しいけど、アレクサンドロは白兵、騎馬戦以外の全
ての要素で、あたしよりも上を行っていた。それも、簡単には追いつけないレベルで。
 実際に手合わせをした事は無いけど、きっと一対一でやってもそれなりに厳しい相手だと思う。
 これが指揮を執る戦闘だったりすれば、あたしは無事でも周りの兵士は必ず多くの負傷者が出る。頭に
血が上ったあたしが一直線に敵へ突撃するから、それに付いて行けない兵がやられてしまう。
 この間、それをアレクサンドロに注意され、吹っ掛けるつもりでその次の任務で指揮の大半を委ねてみ
ると、こいつはあたしの目の前で、一兵の被害も出さずに敵を殲滅して見せた。
550「草」Another side ◆yNwN3e7UGA :2007/08/13(月) 18:28:50 ID:nbei3Xki
 兵士達に指示を出すのはあたしがやっていたから、その功績は他の人間にはわからなかっただろう。

 でも、あたしは、あたしだけにはわかった。

 敵の捌き方、陣形の組み方、攻撃のタイミング。
 自分が今までやってきたのは、単独での力と勢いに任せて突っ込む、ただの指揮官ごっこでしかなかっ
たという事実。
 兵士達の動きは見違えるほど良くなり、あたしはこのとき初めて連携という戦術の意味を理解した。
 動かされる彼らもとても驚いていた。何で今日に限ってリィス隊長の指揮が優れていたのか、と。

 こいつは、本当に強いんだ。

 あたしに指示させる為の手間が無ければ、多分もっと早く済んでたはず。
 それを知ったあたしは、アレクサンドロに今回は戦闘の指揮を全部任せてみようと、邪魔するプライド
をどうにか引っ込めて、余所者に頼る恥を忍んで話し掛けた。
 こいつの力を前線で十分に出せば、この戦いを今よりも早く終わらせられる。
 ちょっと考えてみれば、それこそ将を志す者として恥じるべき行いだとすぐにわかるのに。

”ここは誰の隊ですか?―――”

 特に感情を込めるでもなく、そう言う。でも。
 あの目がまた、今度は前よりはっきりと冷たく語っていた。……馬鹿が、と。
 叱られた。家族以外の人間に、初めて。 
 衝撃的だった。何で、と思った。

”いいじゃない、そのくらい。あんたは部下でしょ? 言う事聞きなさいよ?―――”
”貴女が目指しているのは、どんな将ですか―――”

 聞かれるまでもない。
 あたしはただ愚図な兄様達とは違う、気高く強い騎士に………
 そこまで言いかけて、あたしはすぐそこに居た弱い自分に気が付く。何で、どうしてあたしはこんな弱
音を吐いているの?

”聞けば、隊長もこの戦争に参加して一年との事。おそらくは、張り詰めていた気がふとした拍子に緩ん
でしまったのでしょう―――”

 淡々とした様子でアレクサンドロが言う。……確かに、そうかもしれない。
 これまでの戦いの中で、あたしはあたしなりに全力で生き抜いてきた。誰にも負けないよう、女だから
と侮られないよう。
 隊の皆は、あたしに付いて来る為に応えてくれる。文字通り、本当に死ぬ気で。
 でも、いつも自分の落ち度で死んでいく兵士達を見るのが、とても悲しくて悔しくて。時々、指揮を執
るのが嫌になる事もあった。

”エイブル将軍は貴女の事を大層気に懸けておられましたよ、いつか気を病んでしまうのでは、と。……
私に隊を任せるつもりであれば、貴女はもうご実家へ帰られた方が良い―――”
551「草」Another side ◆yNwN3e7UGA :2007/08/13(月) 18:29:56 ID:nbei3Xki
 お爺様がこいつをあたしの部隊に入れた理由が、何となくわかった。
 今、あたしは試されているのだ。戦場で剣を執り、人を殺し、殺され続けるに耐える意志を。

”……悪いけど、前言撤回させてもらうわ。余所者のあんたなんかにうちの指揮は任せられない―――”

 そして、あくまでも戦いを続けるつもりであれば。
 意地の悪いお爺様の顔が思い浮かぶ。ついでに、目の前の男のムカつく微笑も。

”そうですか―――”

 ならば、私を使うと良いだろう。小娘。
 お前が一人前になるまでは、せいぜい爺の代わりに面倒を見てやる。

 そう、言われた気がした。

”あたしが、最後までやる。あんたは、あたしの補佐をしなさい!―――”

「……分かった。聞きなさい! 全隊、これより後方の砦へと急ぎ引き上げるわ!!」



 不寝番というものは、何度やっても中々慣れない。
 傍にある松明の小さな明かり以外、辺りは闇一色に包まれている。単独部隊での遊撃任務を終えた後、
あたし達は撤退する途中にある山岳地帯で夜を過ごしていた。
 本陣への移動を始めて二日目。今日の当番はあたしを含めた隊員三名。

「ご苦労様です。後は私が見張り役を引き受けましょう。隊長はどうぞお先にお戻り下さい」

 ふと、小声でそう呟きながら、暗闇の向こうからあいつが音も無く歩いて来た。まるで周囲の暗闇と一
体になったようなその動きに、最初は疲労から来た幻覚かと思ったくらい。
 そんな事を舟を漕ぎかけている頭で考えている間に、当の本人はもうあたしの前に立っていた。
552「草」Another side ◆yNwN3e7UGA :2007/08/13(月) 18:30:34 ID:nbei3Xki
「アレクサンドロ……。ごめん。礼を言っておくわ、正直助かった」

 心から感謝を込めて、頭を下げる。兵士達の手前、強がって平気な振りをしていたけど、昨日の激しい
戦闘に続いて、帰りも険しい山々を越えて行かないといけない今回の任務、あたしの疲労もそろそろピー
クに来ていたから。

 でも……。

 見上げた先には、影になってて表情はわからないけど、疲れをまるで感じさせない平然とした立ち姿。
 この副隊長は、あたしや他の兵士なんかよりもずっと働いているはずなのに。昨日や今だって、見張り
を置きながら自分は周囲の偵察に行ってたり、気力に底が無いんじゃないかと思うくらいだ。
 事実、こいつがそういう行動に出た時は、本当に敵を見つけてたりする事がほとんどで、一人二人だっ
たりした場合、その場で返り討ちというのもまたよくある事だった。

「いえ、どうぞごゆっくりお休み下さい」

 これも、また慣れの一言で片付けられるのだろうか?
 少なくとも、その境地へ辿り着くには並の人間では不可能だと思う。だって、もしこんな奴が敵味方そ
こらじゅうに居たりしたら、あたしなんてとっくの昔に死んでるもの。

 そういえば、あたしもその内なれるって言ってたよね……。

 アレクサンドロの立つ領域に、自分も踏み入れることが出来る。もはや疑いようも無く優秀で、あの時
聞かれた目指すべき将の姿、その最も近くに居る存在に。

 嬉しい。早くそうなりたい。

 頑なに拒んでいた男の言葉が、今では純粋にそう思える。
 あたしは彼に惹かれていた。

「うん。……おやすみ」

 いつか正しく、その横に肩を並べられる日を願って。
 最後に一言そう呟くと、静かに眠りの中へ落ちていった。
553「草」Another side ◆yNwN3e7UGA :2007/08/13(月) 18:31:11 ID:nbei3Xki
+ + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + +


 リザニア王国内。

「ああ、来た来たサンドロ。今度の作戦なんだけど…」
 
 あれからしばらく、あたしは色々な方法でサンドロに近づこうと努力した。
 簡単なようで一番苦労したのが、この呼び方。隊の皆は早くから気軽に略していたけど、意地を張って
いたあたしは、ずっと「ねえ」、とか「あんた」、とか、名前で呼ぶことすら稀な有様だったから。
 それはもう緊張した。部屋にやって来たとき何気なく言ってみたものの、後ろに回された手は汗を握り
通しで、心臓は早鐘のように脈打っているほど。

 な、馴れ馴れしいとか思われないわよね、流石に。皆に言わせてるんだし、あたし隊長だし……。

 前日の夜からどうやって言おうか考えて、今朝にはわざわざ身体を隅まで洗って、部屋中を掃除して、
棚にサンドロをもてなす為の、とっておきの葉がちゃんと残っているかも確認した。
 そこまで思い出して、ドアの前でサンドロが立ち止まっているのに気が付く。

 え、……なに、もしかして、ダメだったの? それとも、あたし何か変な顔してた?

 慌てて平静を取り繕おうとするけど、その行為が上手く行っている自信は少しも無かった。

「ああ、いえ。以前来たときよりも部屋の雰囲気が変わっていたので」

 お気になさらず、と言って、サンドロがこちらへもう一度会釈をする。……自分の呼ばれ方については
、気付いてもいないんじゃないかと思える、その普通な態度。

 これで良かった、……の?

 なんというか、こう。
 成功には違いないんだろうけど、微妙なあっけなさというか、そこはもっとリアクション取るべきなん
じゃないの? とか思ったりしないでもない。
 でもよく考えたら、部屋を綺麗にした事に関してはわかったみたいだし、努力の結果はあったはず。

「そ、そう。それじゃ早く座ってちょうだい、サンドロ」

 念の為にもう一度、今度はちょっとわざとらしく言ってみる。

「ええ、わかりました。今回はまた敵部隊への奇襲作戦でしたね」

 やはり、無反応。

 ……ひょっとして、名前とかはどうでも良かったりするのかしら。

 肩透かしを受けた気分。だけど、今はこれで納得しておこう。
 あたしがサンドロをそう呼べるようになっただけでも、すでに十分な収穫なんだから。



「ありがとう。サンドロのおかげで大分仕事が片付いたわ」

 なんて、普段はそんなに顔出してるわけでもなかったんだけど。上への報告とかもあるし。

「これからお茶にしようと思うんだけど、一緒にどう?」

 紛失物が無いか最後の点検をしているサンドロに、作業を一足先に終えたあたしが、さり気ない口調
でそう誘う。
554「草」Another side ◆yNwN3e7UGA :2007/08/13(月) 18:31:48 ID:nbei3Xki
 題して、気が利く上司の労い。
 隊の結束に必要な交流は、ただ上から物を言うだけでは深められない。そこで、いつも部下達がして
いる雑用にも率先して手伝い、さらに気兼ねなく話せる雰囲気になったところへ、自分からお茶の誘い
の一つもしてみせ、お互いの親密さを上げようというこの作戦。
 訓練中に閃いたときは、我ながら素晴らしいと拍手したくなった発想。なんだけど。

 ……これって、ようするにサンドロの真似よね。

 にこやかな表情を作りながら、今さらそんな事に思い至る。
 そう、あたしがサンドロに近づこうと現在実行中な手段は、隊に入ったときから彼が部下達に対して
やってきたものなのだ。
 意固地になっていたあたしを除き、大半の兵士は早い段階からサンドロと打ち解けて、戦闘にあたる
際もしっかりと信頼を寄せていた。昼夜を問わず隊に尽くし、事前に整えられた下地によって。

「有り難く相伴致しましょう」

 確認を終わらせたサンドロが、少しだけ肩をすくませて息を吐く。
 そのなんでもない仕草の裏には、一体どれだけ多くの苦労が積み重ねられてきたのだろう。自分の事
で精一杯だったあたしには、見当なんか到底付きそうにない。

 もっと、頑張らないと。

 強く、気高く。
 サンドロに近づく為に。
555「草」Another side ◆yNwN3e7UGA :2007/08/13(月) 18:32:29 ID:nbei3Xki
+ + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + +


「…………………………なん、ですって?」

 聞いた言葉が信じられなくて、あたしは声を出す事はおろか、数秒の間呼吸すら忘れて呆然と立ち尽
くしていた。


”人事からの話がありまして。本日付で、新たに作られる部隊へ所属を移させて頂きたいと思います”


「ですから、私がこの隊を抜けて新しい隊へ行」
「しない」

 反応の仕方が悪かったのか、サンドロがもう一度同じ内容を口にしようとするのを、あたしは反射的
に遮った。これ以上そんな事を聞いていたら、頭がどうにかなってしまいそうだったから。

 サンドロが、あたしの傍から離れる?

 手渡された資料、……新しい副隊長のリストを無意識の内に何度も引き裂いていた。でも、その行動
を別に悪いとも思わない。
 だって必要無いんだから。破こうとくず入れに捨てようと、こっちの勝手。

「許可なんてしない。サンドロの除隊は、あたしが認めない」
「…隊長?」



 そこから先はあまり覚えていない。大好きな彼の前で、自らの醜態を晒すような真似だけはしていな
いと信じたかった。
 気が付くと、あたしは鎧に身を固めて、愛用の剣を腰に携え。お爺様の私室へと、ノックもせずに入
っている。
556「草」Another side ◆yNwN3e7UGA :2007/08/13(月) 18:33:05 ID:nbei3Xki
「おお、リィスか。その格好はどうした、まるで今から直談判でも始めそうな顔しとるが」
「お爺様っ!」

 つかつかと、意外な様子であたしの横に歩いて来たその人と向き合う。この辺りからまた、わずかに
落ち着きかけていた頭が再沸騰し出した。

「サンドロの異動の件、取り消すように取り計らって下さい! 彼は、あたしの部下です!!」
「なにぃ? どうしてだ、お前もあやつの事は最初あれほど嫌がっておっただろうに。いつの間にそこ
まで入れ込んでおったのだ?」

 聞けば、今回の異動と新規部隊設立の考案者は、まさしく目の前に居るお爺様本人だと言う。
 こちらの反対する言葉に対し、向こうは純粋に驚いた表情を見せた。自分からあたしの指導者と片腕
としてサンドロを宛がっておきながら、今頃になってそれを取り上げようだなんて、信じられない。

「新しい副官なんて要りません! 軍でサンドロと同じだけの人材なんて、他に居るわけない事ぐらい
お爺様もわかってるでしょ!! だからあたしの隊に、未熟なあたしの補佐をするよう任せたんじゃな
かったの!?」
「い、いやまあ、それはそうなんじゃがの、リィスよ……」
「指揮はまだサンドロの足元にも及ばない! 偵察や細かい戦術、計略なんてもっと遠い! 学んでな
いものはいくらでも残っているのに、どうして今こんな事をするのよ! 馬鹿!!」
「お、ぉおうっ!?」

 ぐらり、打ちひしがれたように身体をよろけるお爺様。そんなの、全然知ったことじゃない。
 何としてでも、この話を無かった事にしないと。

 ダメ。サンドロが居なくなるなんて、絶対に考えられない……!

 溢れる焦りと苛立ちから放たれた、罵詈雑言を後半から大量に含んだ必死の説得が一時間。
 ほとんど一方的に繰り返される言葉の応酬で、とうとうその首を縦に振らせることに成功した。

「久し振りに会話らしい会話をしたかと思ったら、何故にこんな目に……」

 深く頭を抱え込みながら、各所へ撤回の旨を言付けた衛兵を出しているお爺様を無視して、あたしは
さっさと自分の部屋に戻る。きっと、サンドロは明日も早朝に鍛錬を始めるから。
 そのとき、あたし自身が言ってあげるんだ。

 もう除隊しなくても大丈夫だよ、サンドロ。大好きだから、ずっと傍に居てね。
557「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/08/13(月) 18:38:09 ID:nbei3Xki
投下終了、今回はリィス視点でお送りしました。
次回以降もまたしばらく女性陣からの視点で振り返って行こうと思います。

>>535
私も見ていて時々ややこしいなと思う点ではあるのですが、続きを書く内に
そういった人物の関係や詳細も変わってしまうので、残念ながらそのご希望に
応える事は出来ません。
ですが、一つ一つの質問でしたら投下の度にお答えしますので、どうかそれで
ご勘弁下さい。
558名無しさん@ピンキー:2007/08/13(月) 18:39:49 ID:1jAvzHHb
GJです!
女性陣視点もwktkでお待ちしてます
559名無しさん@ピンキー:2007/08/14(火) 01:05:03 ID:bFuVSRbU
もう神過ぎて何も言うことはありません・・・
560名無しさん@ピンキー:2007/08/14(火) 01:37:13 ID:59AMWNgG
GJ!!としか言いようがない……
続きにwktk以外何をすればいいのか分からないぐらいだ……
他のヒロイン達の話も今から全裸で待ってるぜ!
561名無しさん@ピンキー:2007/08/14(火) 03:22:04 ID:5SByS0Mc
「草」ばっかでつまんね、他の職人さんたちもっと頑張れよ
562名無しさん@ピンキー:2007/08/14(火) 03:33:32 ID:Z9uWWJ7b
>>561
ごめんね……
563名無しさん@ピンキー:2007/08/14(火) 03:47:32 ID:PciNtC8w
>>561
おまいいい奴だな
564名無しさん@ピンキー:2007/08/14(火) 06:55:13 ID:nf0R/bDU
GJ!GJ!他のキャラの視点から見るサンドロってのも得体の知れなさが増していていいなw
565名無しさん@ピンキー:2007/08/14(火) 15:20:15 ID:bFuVSRbU
とりあえずぬるぽしてみるw
566名無しさん@ピンキー:2007/08/14(火) 15:34:55 ID:/4lNlHSN
>>565
ガッ

>>562
ガンバ!

567名無しさん@ピンキー:2007/08/14(火) 15:42:42 ID:CxS4iwpJ
正直、投下しようかどうか迷ってる
キモ姉スレに行くべきか、ヤンデレに行くべきか、、、ここで投下するべきか、、、
このスレってなんか「この内容なら絶対ここ!」的な一押しがないんだよな・・・
568名無しさん@ピンキー:2007/08/14(火) 15:54:44 ID:ZMjJGPr2
嫉妬・三角関係・修羅場の要素さえあればここでいいんじゃないかい?
間口が広いのがここの売りだと思うし
迷ってるなら投下してください。是非に
569名無しさん@ピンキー:2007/08/14(火) 16:12:45 ID:LDgM8YbA
まぁかぶったところで誰が困るわけでもないし、結構みんないろいろ読みにいってるだろうしな。
570名無しさん@ピンキー:2007/08/14(火) 16:23:21 ID:CtEpeSem
嫉妬さえあれば何でも許されるスレ



嫉妬スレにお願いします!!
571名無しさん@ピンキー:2007/08/14(火) 18:18:17 ID:Rnc/5LT8
今投下してもまとめにのらなそう

そう思って投下を見送ってるのは俺だけじゃないはずだ
572名無しさん@ピンキー:2007/08/14(火) 18:27:26 ID:d9sP9A06
掲載
235 名前 阿修羅 ◆ a/4J9L3aM6 2007/08/13 (月) 00:48:09 ID = b66cf09e92

保管庫、避難所管理人です。
長い間放置してしまい申し訳ありません。
引越し作業がほぼ完了し、ネット環境も開通しましたので、
近いうちに復帰できるかと思います。

つきましてはお願いがあるのですが、本スレ19章、
SSスレその36のログをお持ちの方がいらっしゃいましたら
私までご提供いただけないでしょうか?

添付ファイルなどで
[email protected]
まで送信していただければ幸いです。

また、送信してくださった場合、重複を避けるため、
この場所にて、送信した旨の申告もお願いいたします。
お手数をおかけしますがどうかご協力をお願いいたしますm(_ _)m
573名無しさん@ピンキー:2007/08/14(火) 18:39:06 ID:AxlhMy5Y
>>572
キタコレ!待ってた甲斐があったぜwww
36スレのログ誰ももってなかったら泣ける
574名無しさん@ピンキー:2007/08/14(火) 18:53:43 ID:LDgM8YbA
実はログの意味が良く分からんのだけど、本文全部貼って送ればいいのかな?
575名無しさん@ピンキー:2007/08/14(火) 18:55:56 ID:WfeY+ZCz
>>574
Htmlに変換もしくはDatで添付して送ればおk
576名無しさん@ピンキー:2007/08/14(火) 19:08:13 ID:ZMjJGPr2
あれ?
管理人さんの手元には、すでにログ届いたって報告があったような希ガス
おまいらちゃんと避難所読んだか?
577名無しさん@ピンキー:2007/08/14(火) 19:14:04 ID:LDgM8YbA
おおホントだ。

>>575
無駄にはなったがHtml変換について知れたよ。ありがとう。
578名無しさん@ピンキー:2007/08/14(火) 21:02:17 ID:z4eayHOq
>>519
勝手に作っていいの?
579名無しさん@ピンキー:2007/08/14(火) 23:52:22 ID:bV3XsLfT
いちいち許可取るもんでもねえだろ
空気を嫁れば
それくらい分かれ満22歳
580名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 00:19:04 ID:mX38doh6
こう言う突っ込み系の奴って大体会社で失敗しやすいんだよな。
581名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 00:20:16 ID:1z60OX2y
とりあえず、PINKは十八歳からになったぜ。

と誰かがするであろう不毛なツッコミをしておく。
582名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 00:22:50 ID:1z60OX2y
会社で失敗、か……orz
583名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 00:44:48 ID:gCPegl+8
草以外なら誰でもいいから投下キボンヌ
584名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 01:44:45 ID:vq/IuOAZ
草でもなんでもいいから投下してくださいお願いしますもう修羅場SSがないと生きていけないんです
585名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 01:46:58 ID:QJt/rXg/
なぜ、草以外?
586緑猫 ◆gPbPvQ478E :2007/08/15(水) 01:49:36 ID:iMouGZgS
盆ということで黄泉返りました。
投下します
587九十九の想い 1−15 ◆gPbPvQ478E :2007/08/15(水) 01:51:54 ID:iMouGZgS

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
 
 その日もさゆは、人肉を調理していた。
 塩漬けにされ鉛のように硬くなったそれを、ガリガリと骨から刮げ落とし、鍋に放り込む。
 一刻ほど煮込み、ようやく柔らかくなってきたところで味付けをする。
 その後はひたすら煮込むのみ。
 歯がほとんど無くなってしまったさゆが食べられるくらいになるまで煮込まなければならない。
 それに最近は、獲物がどれも痩せ細ってきているため、無駄遣いは厳禁である。
 何処も余さず食せるように、さゆは念入りに煮込んでいた。
 
 そんな、さゆの日常。
 
 しかしそれは、この日限りだった。
 
 
 義父の帰宅。
 さゆはいつものように出迎えて。
 いつもとは違うものに、気が付いた。
 
 今日も義父は、“獲物”を抱えていた。
 しかし、その獲物は、死んでいなかった。
 瞼こそ落ちているが、その体は呼吸によって微かに動いている。
 すうすうと寝入る獲物は、さゆより一回りは小さい娘だった。
 
 既視感。
 新しい娘。
 ああ、そうか。
 今度はこの子が、義父の新しい娘になるのか。
 そして自分は。
 さゆは、どうなるのだろうか。
 
 料理を教えてくれた義母。
 優しかった義母。
 さゆが初めてこの家に訪れ、混乱と恐怖で頭が真っ白になっていたとき、
 優しくて暖かい言葉をかけてくれた、女性。
 包丁の使い方を、教えてくれた。
 ここでの過ごし方を教えてくれた。
 そして。
 
 自分が初めて、捌いた。母。
 
 
 ――ああ、そうか。
 母親のように。
 自分も。


588九十九の想い 1−15 ◆gPbPvQ478E :2007/08/15(水) 01:52:43 ID:iMouGZgS

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
 
 夕陽に赤く染まる裏庭で独り。
 刀の付喪神は、立ち尽くしていた。
 瞳は空虚。心は暗闇。行く当てのない想いは、その重みで持ち主を潰そうとしている。
 
 どうして。
 
 立ち尽くし、考えるのはそのことだけ。
 物を物と見ず、心を見てくれた郁夫が。
 まるで心などないかのように、辛辣な言葉をぶつけてきた。
 積み重ねられた想いが崩れて、滅びていてもおかしくなかった。
 
 だが、流は踏みとどまった。
 支えたのは、ひとつの疑念。
 
 ――どうして郁夫は、あのように変わってしまったのか。
 
 郁夫に酷い言葉をかけられる直前。
 そのときも、郁夫は正常ではなかった。
 それはきっと、糞婆――茅女の仕業だと確信している。
 郁夫に良くないことを吹き込んだか何か、小細工を仕掛けたに違いない。
 でも、その後の豹変は。
 小細工というには、かなり無理のある変化だった。
 
 直前までは、嫌悪感を抱きながらも、それでも郁夫なりの気遣いが残っていた。
 しかし――途中から、がらりと郁夫は変わってしまった。
 それは、何故か。
 何がきっかけで、郁夫は変わってしまったのか。
 
 
 郁夫が変わる瞬間。
 
 茅女が、郁夫に触れていた。
 
 
「……あれか」
 
 ぽつり、と。
 夕闇時の赤い空気に、流れの呟きがこぼれて消えた。
 
 郁夫が変わる瞬間――確かに、茅女が郁夫に、触れていた。
 さも恋人同士であるかのように、指を絡め、


589九十九の想い 1−15 ◆gPbPvQ478E :2007/08/15(水) 01:53:38 ID:iMouGZgS

 がきん、と歯の砕ける音が響いた。
 口の端から、鮮血が滴り落ちる。
 
 ――落ち着け。
 怒り狂うのは後でいい。
 それより今は、郁夫の変調について考えなければ。
 
 郁夫は流の異能によって、流以外を持てない状態になっていたはず。
 ならば、通学は勿論着替えにすら困難を来すはずだ。
 なのに郁夫は先程、普通に制服を着て鞄を持っていた。
 それに、使用人との雑談の中で、郁夫がそういった不調を訴えた話は終ぞ聞けなかった。
 ということは――郁夫の状態は、元通りに改悪されたことになる。
 
 異能によって変じられた状態は、異能によってしか崩せない。
 ならば、それは誰の異能によるものか。
 
 考えられるのは2つ。
 
 まずは郁夫の瞳術だ。
 全ての歪みを正させる、浦辺の家に伝わる凝視。
 鏡か何かを用いて、自身の異常を直すことも、郁夫になら不可能ではないはずだ。
 だが――この場合だと、郁夫の更なる変調の説明が付かない。
 
 もうひとつは、茅女によって歪められた可能性。
 茅女本来の異能は、“触れたものを切断する”というものだが、
 無駄に歳を重ねているのだから、何か一つ二つ、小賢しい手を有しているのかもしれない。
 
 先程の郁夫の瞳を思い出す。
 本来の彼は、如何なるものも受け入れる、澄んだ瞳を持っていた。
 物を物と思わない、綺麗な瞳が、あらゆる物を惹き付ける。
 しかし。
 流に瞳術を仕掛けた郁夫は。
 元来の輝きを失い、濁っていた。
 汚い泥が幾重にも塗り重ねられ、清澄さを覆い隠していた。
 
 茅女が、その泥を、塗ったのだ。
 
 
「……してやる」
 
 もう、己の感情を抑えることはできなかった。
 流は激情を隠さぬまま、拳を木に叩き付ける。
 
「――殺してやる、あの糞婆……!」
 
 どれだけ、郁夫を不幸にすれば気が済むのか。
 奴さえ現れなければ、自分も郁夫も、幸せでいられたはずだ。
 なのに、突然現れて、浦辺の家を踏み荒らしていった。
 五百年級の大妖怪? そんなこと一切合切関係ない。
 どんな手を使おうとも、確実にこの手で殺してやる。


590九十九の想い 1−15 ◆gPbPvQ478E :2007/08/15(水) 01:54:30 ID:iMouGZgS

「……正攻法は、駄目。あの糞婆には、厄介な能力がある」
 
 郁夫をこの手に取り戻すため、流は茅女を屠る手段を考え始めた。
 俯き気味に沈んだ顔は、夕闇の影を纏っていた。
 口からは、ぽたぽたと朱がこぼれている。
 
「徒手では確実に掴まれる。かといって得物を持っても触れられてしまったら意味がない――」
 
“触れたものを切断する”という能力は、これ以上ないくらいに厄介である。
 単純であるが故に攻略しがたい。
 かつ、こちらの被害は甚大なので、迂闊に戦闘を仕掛けるわけにもいかない。
 だいたい、触れたものを全て切断できるだなんて、反則以外の何物でもない。
 近接格闘で、相手に触れられずに倒すことなど、よほど実力差がない限り不可能である。
 もし、茅女の能力を知っていなかったらと思うと、ぞっとする。
 わけもわからぬまま、切断されて――
 
 
「――待て。どうして、あいつは、自分の能力を明かした?」
 
 
 ふと浮かんだ疑念を、流は無視できなかった。
 茅女がその能力を明かしたときの状況を思い返す。
 ――あのときは、流が切断されて、郁夫と茅女が向かい合っていた。
 流に使った後なのだから、隠す必要がないと考えたのだろうか。
 否。たとえ目の前で見せられたところで、その能力に確信を覚えられる者は少ない。
 その詳細に対して少なかず考え込むのが常であろう。
 それだけでも、十分以上に効果はある。
 なのに、自分からその詳細を明かしてしまったら、その僅かな効果すら失ってしまう。
 あのとき、本命である郁夫は健在だったのだ。
 しかも、茅女は郁夫の能力を知らなかった。
 だとすれば――どう考えても、己の能力を明かすのは、不自然である。
 郁夫に未知の能力を少しでも警戒させるべきだ。なのに、そうしなかった。
 
「……そういえば、私を切ったときも、郁夫様のときも……」
 
 ある可能性が、流の脳裏に閃いた。
 だとすれば。ひょっとしたら。
 
「――試す価値は十分にある。いや、きっと、間違いない……!」
 
 逢魔が刻に、ひとつ。
 紅と影に彩られ、鬼が笑みを浮かべていた。


591九十九の想い 1−15 ◆gPbPvQ478E :2007/08/15(水) 01:55:18 ID:iMouGZgS

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
 
 目の前には、鈍色の髪の少女。
 長き時を経てなお、その想いと形を保ってきた、包丁の化身。
 時折脳裏に浮かぶのは、きっと彼女の記憶だろう。
 睦事を通じて流れた想いが、こちらの脳内で再生されているのだろう。
 そこまで、俺と茅女は深く関わってしまっていた。
 
「郁夫、どうし――」
 
 先程の叫びを聞いたのか、やや心配げな表情で、茅女は俺の方に近付こうとした。
 瞬間。
 茅女は動きを止め、信じられないものを見るかのように、表情を歪ませていた。
 
「――な、なにゆえ、そのような瞳で、妾を、見る?」
 
 きっと、彼女が期待していたのは、先程までの俺。
 茅女のことだけを想い、他の全てを蔑ろにする。
 そんな一途な俺を、彼女は求めていたのだろう。
 ……でも、そんな幻想は崩れてしまった。
 
「……茅女」
 
 できるだけ、優しい声を出したつもりだった。
 しかし、小さな付喪神は、びくりと大きく体を震わせ硬直した。
 
「あのな、」
「い、郁夫は!」
 
 こちらが声をかけようとするのを妨げるように。
 大きな声を、茅女は張り上げた。
 
「わ、わ、妾を、どうするつもりなのだ!?」
「え?」
「妾がしたことは、わかっておるのだろう?
 そ、それを咎めるのか?
 とが、咎めるならそれは構わない。ど、どんな罰でも甘んじて受ける!」
 
 必死の形相で詰め寄る茅女。
 その剣幕に余裕はなく、何かに追い立てられるかのように言葉を紡いでいた。
 
 だから、と。茅女は想いを口にする。
 
 
「妾を、す、捨てないで……!」


592九十九の想い 1−15 ◆gPbPvQ478E :2007/08/15(水) 01:56:15 ID:iMouGZgS

 その想いは、あまりにも切実で。
 こちらの心を締め付けるような哀しみを纏っていた。
 
「な、何でもする! 郁夫が望むことなら如何なる事も拒まぬ!
 罵倒だって甘んじて受けよう! ヌシにはその権利がある!
 口汚く罵ってくれて構わない。壊れる寸前まで妾のことを痛めつけても文句は言わぬ!
 だから、だから……妾を、捨てないで……もう捨てられるのは、嫌ぁ……」
 
 どうして、茅女は。
 こんなにも、必死に許しを乞うのだろうか。
 
 俺は正直なところ、今回の件に関して、誰にも怒りを覚えていない。
 流に対しても、茅女に対しても。
 そんなことより、俺自身がしでかしたことの方が、どう考えても悪質だろう。
 心を操られていただなんて、ただの言い訳に過ぎない。
 生まれたばかりの、幼い付喪神の不安を解消してやれなかった。
 何かを長年抱え続けてきた付喪神の、負い目に気付いてやれなかった。
 そして、その結果が、今だ。
 流には口汚い罵倒を投げかけてしまい、茅女には今のような悲痛な表情をさせてしまっている。
 
 流や茅女が俺にしたことなんて、可愛いものだ。
 誰にだって、魔が差すことくらい、ある。
 それを許してやれなくて、どうする。
 
 過ぎてしまったことは仕方ない。
 それより、まずは目の前で震える茅女に対して何か言わなければ――


593九十九の想い 1−15 ◆gPbPvQ478E :2007/08/15(水) 01:57:16 ID:iMouGZgS

 そう思い、口を開きかけた、瞬間。
 
 茅女が、こちらに手を伸ばした。
 
 それは、縋りたくて無意識に伸ばしたのか。
 それとも、再び俺の意識を弄ろうとしたためか。
 わからないが、俺は茅女の指が、こちらの意識を自由に操れることを知っていたので。
 意識はそちらに集中し、それ以外が目に入らなくなってしまった。
 きっと茅女も、俺のことで気持ちが一杯で、他のことなんか気にする余裕もなかったのだろう。
 
 だから。
 二人とも、反応することができなかった。
 
 
 手を伸ばした茅女。
 その後ろに、一振りの刀を持った女性が。
 得物を、大きく振りかぶって。
 
 
 一閃。
 
 
 神速とも呼べる一撃。
 このような斬撃、出せる者は限られている。
 刀を持つ女性は、年配の使用人。
 この屋敷に長く勤めている彼女だが、剣術を修めていたという話は聞かない。
 
 
 手に持つ刀は、見覚えのあるものだった。
 
 
「……流……」
 
 
 俺が刀の名前を呟いた瞬間。
 
 
 ごろり、と。
 鈍色の頭が、床に落ちた。



594緑猫 ◆gPbPvQ478E :2007/08/15(水) 01:59:03 ID:iMouGZgS
茅女を久しぶりに書いたら料理したくなってしまった今日この頃。
しかし未だに千切りをマスターできないヘタレです。助けて茅女さん。
 
 
まあそれはそれとして。
頂いたヌエの絵をこちらにも貼ってみます。
http://bbs9.fc2.com/bbs/img/_166100/166037/full/166037_1187109829.jpg
心の底からGJ!
そして七戦姫も頑張ります。修羅場万歳。
595名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 02:00:23 ID:vq/IuOAZ
うほーこんな時間に投下するとはGJと言わざるを得ない
596名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 02:05:06 ID:PWRDa3jA
ヌエのイメージがランスYのカロリアと被った件について
597名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 02:10:33 ID:kp324Axy
草以外なんでGJ!!!
598名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 03:07:25 ID:0flDaHkp
GJ!!
全裸で続きを待っていた甲斐があった!
599名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 03:15:20 ID:iYNcnzGn
>>596
ヌエGJ

というか、七戦姫の続きはいつ投下されるんだーーーーーーーーーーー
600名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 03:38:42 ID:u6uO/pOZ
早速草にもアンチがついたようだな。めげずに頑張って欲しいよ。
しかし何回見ても賞賛レスの中に他の作者を貶める発言があると気分が悪い。
レスしてる奴はそのことが賞賛した作者に対しても失礼な物言いであることが自覚できないのか。
勢いで書いてしまったがまたアンチや荒らしをスルーする作業に戻らなければならないことを考えると反省はしてない。
601名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 03:57:42 ID:jk/YTFyA
>>594
久々に
九十九を読めて
嬉しいと
思っていたら
茅女が逝った

いきなりーーーッ!?
ちょっとぐらい、ちょっとぐらい手加減してくれても………

でもGJ、七戦姫もお待ちしてます
602名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 05:05:12 ID:gtKXkkjX
アンチっていうより例のアレじゃないかな

603名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 05:45:18 ID:ofC49GSW
>>594
久しぶりの投下GJ!!
随分と続きが気になる終わり方ですな。
次回の投下も期待してます。
604名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 06:18:49 ID:jgb9sudi
>>597
各々好みがあるから別にいいけどまずはsageようぜ
605名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 06:54:49 ID:Zy4tSDM3
>>600
でもさ、あんまり言いたかないが、草って話の内容が腐女子ぽ過ぎやしないか?
具体的な指摘は失礼だからしないけど、あーこれ男の書いた話じゃないなって雰囲気をひしひしと感じるんだが。
606名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 06:57:53 ID:Zy4tSDM3
別に、だから悪いと言いたいんじゃなくて、そのせいでアンチがついてると思うよってことね。
俺はアンチじゃないから誤解しないでくれ。
607名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 07:03:53 ID:ofC49GSW
>>557
書き忘れてましたけど、草の作者さんもGJです!
サンドロへのリィス隊長の独占欲が良く表されていてとてもwktkしました。
次の投下もwktkしてますね。

ところで、良いお盆ネタってないかな?
608名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 08:35:29 ID:KUeDRgZV
>>605
お前だけだろそんな風に思うのは
勝手な自分の感性振りかざして作者さんに下らない言いがかりかけてんじゃねえよ
609名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 08:43:54 ID:VCKRIb1/
お盆ネタねぇ・・・
お盆で帰ってきた先祖の女性(の霊)と幼馴染との三角関係とか?
610名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 09:35:18 ID:Q6p3mro8
>>605
頼むから消えろ
611名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 10:19:09 ID:ywTjgOh8
俺はアンチじゃないけど〜→いや、アンチだろ消えろって流れで荒れるから
作者さんの事を思っての指摘でも、「荒れそう、空気悪くなるかも」と思ったら避難所の雑談スレにでも書くようにしたらどうかな?
こっちには「厳しい意見かもしれないので避難所に書きました」とでも書いとけば良いし。
厳しい意見でも見たい作者さんは読みに行くだろうし、見たくない場合は見ないで済む。
それでもここに書く奴は嵐かアンチと見なして作者さんも住人もスルーするとか。
612名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 10:25:08 ID:gnee3glX
    /: : /:: : : / : : : !:: : : : !: : !: : : ヽ:: : : : : ',
   /: : /: : : 斗--、 :|: : : : :|: : | ,ィT: ',: : :ヽ : !
   |: : |: : : : : |: /  \: : /|:.ィ: :ヽ: : :.|.: : : ト、:|
   |: : |: : : : /!/ ⌒ヽ| :/ |:./⌒ヽV: |.: : : | V
  < : _: : / 〈  {} |/  レ  {} }|:./ヽ: : |
  <:: |. 小{   _,,.. -    、-.,_  レ{: :.|ヽ:|
   厶ヘ ハ         、     {ハ/ V    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
      \_!      _ '     !         |なぁ世界・・・
        ヽ    /   `t   /      < 草の自作自演の相手するのって・・・疲れる
      ___,r| \  {    / /         \____________
    /:/::::| \  ヽ `_⌒ ィ ´            (⌒)
  /::::::/::::::|  \   ´ ∧>、         ノ ~.レ-r┐、
/:::::::::::/::::::::|    \  /  !\::`ー- 、  ノ__  | .| | |
::::::::::::::/:::::::::∧    /二\ |::::::ヽ:::::::〈 ̄   `-Lλ_レレ
::::::::::::/::::::::::::::∧ヽ  /: : : : :}ヽ!::::::::::〉:::   ̄`ー‐---‐‐´
613名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 10:35:00 ID:ffyW8e9T
夏だなぁ
614名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 10:48:59 ID:ofC49GSW
>>609
やっぱり幽霊物になっちゃうか…
他にも、事故で死んだ姉の初盆の為に主人公が故郷にかえると、
妹or幼馴染による姉の死への驚愕の真相が明らかに、
なんて電波を受信したんだがどうよ?
615名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 10:54:22 ID:cwS7q7W+
お盆ネタか…
何故だろう……蚊に嫉妬する女の子を想像してしまった。
「先輩は私のものなんだ……だから、先輩の逞しい躰も、澄んだ瞳も、そして体内を流麗に流れる血液も、みんな…みんな私のもの……だから、だから勝手に先輩に近付くな!!!」
ぷちぃ
「この虫螻がッ!!」
みたいなのが浮かんだ
ってか、お盆全然関係ない……泥棒猫すら出ていない………orz
616名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 11:02:37 ID:lpFkuoL8
612のAAよく見るけど、どうみてもへたなんだよな・・・
誰か作り直して・・・
617名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 11:50:43 ID:JHVApowA
夏草すぎてワロタ
618名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 12:46:03 ID:otI+g/JM
ageんな
619名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 12:48:12 ID:urfVCMx3
臭(笑)
620名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 12:55:53 ID:9VlJrnR8
あーはいはい
そんなに草が嫌いなら見なければいいだろうが…
621名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 12:58:09 ID:otI+g/JM
というか一々単発IDでアンチウザ
622名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 12:58:30 ID:TiFcrjKp
>>620
スルースルーだぜ
623名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 13:09:04 ID:urfVCMx3
>>620
そうそうスルーだぜw
624名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 13:19:48 ID:e7hr35ta
ん〜? どっかのゲーパロパクリしかできねーSS作家の嫉妬だろ(草叩き)w
完全オリジナル歴史モノで人気出すのはホントの実力ないとできねーからな。
嫉妬スレにふさわしい出来事だぜ!


  そだ  |------、`⌒ー--、
  れが  |ハ{{ }} )))ヽ、l l ハ
  が   |、{ ハリノノノノノノ)、 l l
  い   |ヽヽー、彡彡ノノノ}  に
  い   |ヾヾヾヾヾヽ彡彡}  や
  !!    /:.:.:.ヾヾヾヾヽ彡彡} l っ
\__/{ l ii | l|} ハ、ヾ} ミ彡ト
彡シ ,ェ、、、ヾ{{ヽ} l|l ィェ=リ、シ} |l
lミ{ ゙イシモ'テ、ミヽ}シィ=ラ'ァ、 }ミ}} l
ヾミ    ̄~'ィ''': |゙:ー. ̄   lノ/l | |
ヾヾ   "  : : !、  `  lイノ l| |
 >l゙、    ー、,'ソ     /.|}、 l| |
:.lヽ ヽ   ー_ ‐-‐ァ'  /::ノl ト、
:.:.:.:\ヽ     二"  /::// /:.:.l:.:.
:.:.:.:.:.::ヽ:\     /::://:.:,':.:..:l:.:.
;.;.;.;.;;.:.:.:.\`ー-- '" //:.:.:;l:.:.:.:l:.:

625名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 13:46:02 ID:tUP49KFS
どっかのゲーパロパクリしかできねーSS作家の嫉妬だろ


SS作家の俺からするとゲーパロの方が数段に難しいと思うんだけど
完全オリジナル歴史モノは適当に自分の思い通りに作れるのでそっちの方が簡単だよ
資料を用意して、歴史関連を勉強すれば誰だって作れる。

ゲーパロはゲーム原作の雰囲気を壊さずに文章を書くのは難しい
二次創作はある程度の才能がないと無理ですハイ
626名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 14:02:04 ID:iYNcnzGn
オリジナルの方が簡単とか・・・・まぁ人それぞれかもしれんが

オリジナルの場合設定を全部一から組み立てる必要がある、その分、自由にキャラ配置などもできるという強みもあるけど、自由にやりすぎるとストーリーが破綻していく事もありバランスが難しい
二次創作は「オリジナルの雰囲気を残したまま」というのが前提であれば難しい、基本的にはキャラを使えばなんでも書けるが、既存のキャラには性格がある以上あまり自由にキャラを動かせないし、やりすぎると雰囲気を損ねる

ただし雰囲気を守らないでいいのであれば二次創作のが簡単
○○という漫画の『主人公がこんな性格だったら〜』とか、『ヒロインがこういう事をしていたら〜』とか『こんなアイテムがあったら〜』とか改変して自分の書きやすいように書けばいい、というか最近はそういうのの方が多い

自分はオリジナルの方もある程度才能がないと無理だと思う
627名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 14:03:01 ID:kshKhY2C
もういいだろ、野球が上手い人とサッカーが上手い人のどっちが凄い? ってぐらいナンセンス
628名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 14:07:38 ID:+ihLQuAV
>>625
二次創作の方が簡単です
だってパクリだもん、細かい事考えなくていいし

>資料を用意して、歴史関連を勉強すれば誰だって作れる。
二次創作ならこんな勉強もしなくていい
その作品のファンがキャラで妄想しただけ
あなた本当にSS作家?
629名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 14:09:09 ID:TiFcrjKp
お前ら大人なんだろ?
もちつけって
630名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 14:13:42 ID:pPog2nGJ
で、何の話だっけ?
そうそう、草アンチがわいたんだったな

  ☆ チン

        ☆ チン  〃  ∧_∧   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
          ヽ ___\(\・∀・)<  七戦姫まだー?
             \_/⊂ ⊂_)_ \_______
           / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄/|
        |  ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄:| :|
        |           .|/
631名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 14:19:37 ID:qQyvgGRk
ちょっと思ったんだがまとめに書いてある
これ(↓)テンプレにいれないか?

SSスレのお約束
・指摘するなら誤字脱字
・展開に口出しするな
・嫌いな作品なら見るな。飛ばせ
・荒らしはスルー
・職人さんが投下しづらい空気はやめよう
・指摘してほしい職人さんは事前に書いてね
・過剰なクレクレは考え物
・作品に対する評価を書きたいなら、スレ上ではなくこちらへどうぞ

↑こちらっていうのはまとめね
632名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 14:21:01 ID:qQyvgGRk
ごめん、なってるなwwwww
吊ってくる
633名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 14:24:14 ID:tUP49KFS
>>628
俺は二次創作書けないから、オリジナルよりも難しいという結論だけ言っておこうか


>資料を用意して、歴史関連を勉強すれば誰だって作れる。
>二次創作ならこんな勉強もしなくていい
>その作品のファンがキャラで妄想しただけ
>あなた本当にSS作家?


お前の言っている意味がよく理解できないな
二次創作でもただの自分の妄想を垂れ流しするだけでは
原作信者に叩かれるだけだと思うんだが?
ある程度、原作の雰囲気を壊さずに物語りを展開してゆくのは
かなり難しいし、ある程度の才能がないと書けないって
634名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 14:26:36 ID:5q03Arwq
荒れそうなので
633はスルー推奨
633にレスする人もスルー推奨
某スレ住人のスルー技術の高さには感動を覚えるぜ・・・

さて、投下はまだかな・・・
635名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 14:29:49 ID:+ihLQuAV
>>633
オリジナルだって叩かれるときは叩かれるだろ
いまの話の流れで原作信者は全く関係ないと思うがな
お前がただ単に叩かれたくないだけっていうのはわかった

さて、コミケが近いですね
妄想垂れ流しの同人誌の中に嫉妬物があることを切に願うよ
636名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 14:31:09 ID:jgb9sudi
今君望を押し入れから引っ張り出してプレイしてみた。

孝之「そうじゃない!どうやって部屋に入ったのかって聞いてるんだ!」
愛美「えっ?鍵ですけど……」
……鍵!?
孝之「か、鍵って……」
愛美「はい。合鍵を作らせいただきました」


やべぇwwwwww
637名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 14:32:35 ID:TxqPV/qz
>>636
遥バージョンもキボンヌ!!
638名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 14:33:33 ID:TiFcrjKp
>>636
和む
639名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 15:01:01 ID:U0gImoH3
>>636
でも今じゃそれぐらいやらないと、インパクトの薄いモブヒロインになっちまうんだよなぁ。
640名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 15:37:35 ID:pF+Mp4m/
>>624-625
おいおい、草は資料も歴史の勉強もいらないだろ。ちゃんと読んでるのか?歴史モノでもなんでもなくて、ただのファンタジー。
別に史実と関係があるわけでもないし、適当な横文字の名前を並べて、行き当たりばったりで戦争がどうの、魔法がどうのやってるだけ。
一山いくらで捨ててあるような設定継ぎ接ぎした草なんかと歴史モノをいっしょくたにしたら真面目に資料漁って歴史モノ書いてる人が怒るぞw
つか、資料どころかなんの専門知識もいらんわこんなもん。
641名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 15:40:53 ID:4TQx6BPP
>>640
キモ
642名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 15:53:54 ID:ZbQenkj4
好きの反対は嫌いじゃなくて無関心だ。
好みに合わないSSにはレスを付けるな
存在自体を無視するんだ、NG登録してあぼーんするべし
643名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 15:58:35 ID:pF+Mp4m/
>>641
草作者発狂w
もう投下しなくていいからね。長いわつまらないわで見るに耐えないよ。
>>642
つまらないだけなら無視すりゃいいけど草連投のおかげで他の職人引っ込んじゃったから、百害あって一利なしだわ。
644名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 16:03:44 ID:ffyW8e9T
>>636
君のぞ、螺旋回廊のタムーテキストは後生に語り継ぐべき名作。
645名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 16:22:49 ID:IkcukJ5C
>草連投のおかげで他の職人引っ込んじゃったから、百害あって一利なしだわ。
作者としては何も投下されてないところに投下するよりは
誰かが投下しているのに便乗の方が投下しやすいよ

むしろそういう風に言われると
「自分が投下しても叩かれるんじゃないか」
っていう意識がでてきて投下しにくくなる
646名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 16:25:07 ID:JO1vNVqr
荒らしに反応しないでください、お前ら。
647名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 16:28:16 ID:9VlJrnR8
むしろこうやって新しく出てきた作者を叩くことが新しく投稿しようとする作者の気を萎えさせるんだよ…
お前のカキコの方が百害あって一利なしだわ…
648名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 16:34:28 ID:otI+g/JM
荒らしは関係なく、オリジナルと二次の難易度の話だがどっちがどうってことはないと思う、難易度は作品のレベルと比例するものだと。
ただ二次創作でただの願望垂れ流しじゃなくその作品を題材にして書くことに意味があるきちんと内容のある作品ってのは極めて稀少なのが現実。
649名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 16:47:30 ID:ofC49GSW
お前等気づいてると思うが、荒らしが書き込んだ後に、皆がスルーしてもレスする奴がいる。
恐らく荒らしの自演なのでスルー推奨
650名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 16:56:27 ID:ofC49GSW
>>636
やっぱりマナマナはキモいなぁ…
あれ、なんかドアの所に人の気配が
651名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 17:18:53 ID:OHwI9zdm
マナマナやめて、やめてマナマナ



・・・俺ちょっと豊胸手術してくるわ
652名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 17:43:54 ID:P/jFEVxi
てか、自作自演酷すぎるだろ・・・・
これだから、ワナビの残骸は嫌いなんだよ
653名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 17:51:22 ID:otI+g/JM
ふぅ、暑いなぁ
654名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 17:52:27 ID:F12QaXSk
トライデント氏の次は草の作者かよw 本当に荒らしは百害あって一利なしだな
草の作者はとりあえず、叩かれても作品は頑張って投稿してくれw
某トライデント氏は叩かれても完結した3作品
荒らしを完全にスルーしてを投稿していたので

大切なのは『鈍感力』だよな
スレの住人達よ、病むのは言葉様だけでいいんだよw
655名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 18:23:59 ID:ofC49GSW
>>651
まて、そっち行っちゃ駄目だw
656名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 18:27:04 ID:dOsAWU3K
しかしながら、なかなか香ばしい事になってるジャマイカ・・・
ちゃんと宿題はやらないと…夏休みもあとすこしだぞww
657名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 18:32:40 ID:KUeDRgZV
はいはいみんなでお口にチャックしましょうねー
658名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 18:35:20 ID:F12QaXSk
マナマナよりも茜BADENDの魔性遥に萌える俺はこのスレでは異物な存在かもしれないな
だって、あの遥の手を振り払うって何か人間最悪だしな
まあ、黒遥がストーカーになり、マナマナのような監禁さえあれば

もう、たまらんぞぉぉぉぉ

俺、ちょっと病院に行って来る
659名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 18:45:10 ID:ffyW8e9T
>>658
遥CGのせいでで回収騒ぎがあったのを思い出した。

おしおき・・・しなくちゃ・・・。はヤンデレのバイブル
660「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/08/15(水) 18:54:01 ID:vZgSzjgq
投下します。
661「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/08/15(水) 18:54:39 ID:vZgSzjgq
+ + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + +


 王宮の中で、お飾りの王女でいるのが嫌でした。
 今はもういなくなってしまったお父様や、それでもわたしを守り続けてくれているゾモロフ、国のた
めに戦っている沢山の兵士の人たちみたいに。もしどうでなくても、街でお店を出してお金を稼ぐ商人
、村で畑を耕す農民でもいい。
 一方的に助けられるんじゃなくて、自分からも相手を助けてあげることの出来る。
 わたしはただ、誰かの為に何かがしたかった。

「おい、アリアベル」
「はい?」

 べしっ

「ぃたっ!?」
「お前は実に幸せな奴だな。王女なんて飾られるのが仕事だろうに」

 いきなり、おでこに指をぶつけられました。爪の部分が丁度当たって、すごく痛いです。
 こういうのをもらった事も無いんだろう? って。……こういうのって、この、おでこが痛いののこ
とでしょうか?

「何処も彼処も戦火の真っ只中にあるこの時勢に、そんなおめでたい事を平気で言うくらいだ。どこで
も護衛や召使に囲われて、ロクに一人で城内を出歩いた経験も無いんじゃないのか」

 目の前のソファに座っている男の人が、呆れたような調子で深く座り直す。
 名前はイズルードさんと言って、わたしのいた国、奪われたイストリアの領地を属国化と引き換えに
取り戻す手伝いをしてくれている、イスト王国軍の軍師さん。

「そ、そうですけど…」

 とても喋るのが上手で、昨日はわたしを軍に入れる為にゾモロフを説得したとき、最初は凄く怒って
いたゾモロフの口数がだんだん減っていって、最後なんて黙り込んでしまったほど。
 他にも、王様を含めたイストの人たちの態度が、喋り方とは別に、まるで自分よりずっと格上の人を
相手にしてるみたいで、それだけでこの人がとても偉い立場にいることがわかりました。

「これはあくまでも個人的な意見になるがな、きょうび他人の為にと心底願って生きている奴など、そ
れこそ死ぬまで祈りを捧げ続ける熱心な信者か、お前のような世間知らずぐらいのものだ。打算の全く
無い生活を送る人間なんて、せいぜい五千人に一人居れば良い方だろう」

 厳密に考えれば、その極少数すら弾かれる。
 両手の指を組んで、イズルードさんがそう言いました。

「で、でもっ、家族や大事な人たちを守ろうと必死で戦う軍人や、それにお父様やゾモロフだって…」
「勿論、言いたい事はわかる。むしろそれが一般的な考え方で、私の方がただ捻くれているだけだから
、そこまで心配しなくても良い」

 手元にあったティーカップを口に運んで、一拍空けるように目を閉じる。
 ただ、と、前置きをしてから、イズルードさんは向かい合ったわたしを難しい顔で見つめました。
662「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/08/15(水) 18:55:29 ID:vZgSzjgq
「自分の為に何かをして、それが結果的に人の役に立つか、人の為に何かをして、それが結果的に自分
の役に立つ。
 ……この二つの、一体どこに違いがある?」
「え……」
「分かりづらかったなら言い方を変えよう」

 混乱しかけていたわたしに、もう少し噛み砕いた説明をするように口を開く。

「お前が今こうして軍に入ったのは、誰かの為に何かをしたいお前自身の為だ」
「……………え」

 意味はわかりましたけど、今度は驚きで同じ言葉が出てしまいました。

 あれ、だって、わたしはこれまで楽をしてきた自分の為にじゃなくて……。

 考えれば考えるほど、また頭の中がパニックを起こしそうになります。
 イズルードさんは、結局それでわたしに何を言いたいのか、思考がそこまで結びつきません。……
人は、それぞれ自分勝手に生きているということでしょうか?

「まあ、有り体に言えばそうだ」
「ええと、出来れば、もう少しわかるようにお願します……」

 話の内容がややこし過ぎて、自力ではとても理解しきれない状態。このままだと先に知恵熱が出て
きそうです。
 一瞬考える素振りを見せてから、イズルードさんが持っていたティーカップをこっちに向けてきま
した。

「例えば、お前はこれまでの生活の中で、ゾモロフ殿が世話を焼くのを疎ましく感じた事はあるか?
 ……王との謁見であった光景を考えれば、今更聞くまでもないが」
「はい、……あります。結構、いっぱい」

 出された問いに対して、わたしは素直に答えました。
 だって、ゾモロフって一々うるさいし、言う事聞かないとすぐにお父様の名前持ち出してくるし。
 大体のことは、護衛や使用人に任せているんですけど、まるでわたしを籠の中の鳥みたいに、生活
のほとんどを管理してくるんですもの。

「お前を大事にしようと思っての行動だな」
「それはそうですけど……」
「わざわざ全ての面倒を見なくても、出来る事は自分でする。自己満足をこちらに押し付けられては
堪ったものではない。そう思うだろう」
663「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/08/15(水) 18:56:06 ID:vZgSzjgq
「………あ」

 ”わたしを”大事にしようと思っての、”自己満足”。

「親愛の意味として、あるいは相手を安心させようと後先考えて使うなら構わない」

 ポットから新しい紅茶を注いで、熱くなった表面に軽く息を吹きかける。緩やかな波紋がいくつも
浮かび、紅い水面に広がっては消えていきました。
 それを眺める、憂うような、少しだけ疲れたような表情。

「だが、決して自分の心の中でまで、責任を相手に転嫁するなよ。お前の人生だ。例えどんな事であ
れ、その手で起こした行動の理由なら、全て最後はお前の為なんだから。
 …………と、私は個人的に思っているよ」

 イズルードさんが、そこで大きく溜息を一つ吐きました。

「あの、わたし…」
「共感しようとしなくても構わん。要するに現実を見て、うろたえるなと言いたかっただけだ。
 お前の本音を聞くだけだったつもりが、話が長くなってしまった。済まない、それでは今から最初
の授業を始めるとしよう」

 そう言って、横に置いておいた魔法理論の書かれた資料をささっとテーブルに並べ、講義の準備を
進めてしまうイズルードさん。

 いえ、もっとお話を聞きたかったんですけど……。

 まあいいか、と思う。続きや違う話を聞く機会は、きっとまだまだ沢山あるし、魔法について色々
習うのも、とても楽しみだったから。
 駄々をこねていたわたしの前に現れた、一人の男性。
 この人の存在そのものが、わたしにとって新鮮なものだった。

 これから、いっぱい聞かせて、教えて下さいね。

 それが、わたしとイズルードさんとの授業一日目。
 魔法や地位だけではなく、その考え方や人物自体にも確かな興味を覚えた初めての日。
664「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/08/15(水) 18:56:43 ID:vZgSzjgq


+ + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + +


 イズルードさんに魔法理論の基礎や、初歩戦術に演説指導なんかもごちゃ混ぜで教え込まれてから
、もうすぐ一ヶ月が過ぎようとしてます。
 そのあいだ、授業を通じてわたしのイズルードさんに対する興味と関心は、収まるどころか日増し
に強まるばかりでした。
 魔法訓練も、指揮見学も、弁論講義も。
 教わったことは知らないものだらけで、その全てがあの人の少し素っ気ないような、それでいて適
切でわかりやすい説明が添えられて、何もかも楽しく感じられたんです。

「イズルードさんイズルードさん、この場合は味方をどう動かせば良いんでしょう?」
「ああ、そこは敵中央の手薄さを利用して、左右に分断させてやれば正解だ」

「イズルードさんイズルードさんっ、今回の台本は自信ありですよ!」
「甘い、理想を振りかざすだけではテロの煽動と変わらん。国を栄えさせたければ、民衆にその方法
を伝えなければならない。口上はまずまずだが、残念ながら片手落ちだな」

「イズルードさんイズルードさんっ! 見て、見てくれましたか今の!! あんな怪我今まで治せな
かったのに!!」
「ちゃんと見ていたから安心しろ。それより、周りに人が居るとき無闇にはしゃぐんじゃ、……こら
、落ち込むな。見ていたと言ってるだろう、上出来だったぞ」

「イズルードさんイズルードさんイズルードさぁんっ!!」
「やかましい! こんな目立つ場所で、大声で私の名前を連呼するな!」

 自分でも、ちょっと行き過ぎな気がするくらい。
 イズルードさんと一緒にいる時間は、王宮内での生活より何倍も刺激的で、わたしがこれまで生き
てきた中で一番輝いていて。



「う、ぅぅぁ………」

 そうして、本当に行き過ぎてしまいました。
 原因は、訓練中のわたしの悪ふざけ。真面目に教えてくれてたあの人を巻き込んで、文句なしの、
完全な自爆です。

 わ、わわわた、わたし、イズ、イズルードさんと………っ!

 多分、エッチなことを、してしまいました。
 見たことも聞いたこともないから、詳しいところはよくわからないけど、きっと沢山。

 今朝方、バケツいっぱいの冷水を浴びせかけられてしまいましたので、近くで人気の無い場所を借
りて、濡れた服を持って来た別のものに取替えます。
665「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/08/15(水) 18:57:19 ID:vZgSzjgq
 いつもはイズルードさんに部屋を空けてもらうのですが、今はあまりの恥ずかしさと情けなさで、
とてもじゃないですけどまともに話しかけられません。

 こんなはずじゃなかったのに、なんてことを……。

 顔色は昨日の夜から、もう病気なんじゃないかっていうくらいの赤。ゾモロフなんかに見られたり
したら、わけもないのに八つ当たりしてしまいそう。

「あ……」

 服を脱ぐ拍子に自分の肌と肌が触れ合い、はっと息を飲む。
 冷たい水を浴びたにもかかわらず、わたしの身体は、まださっきまでの熱を持ったままでした。
 先に替えの服を着てから、下着を付けていないお腹の下の方へ手をずらす。

 くちゅ…

 静かな空間に入り込んだ、かすかに湿った音。
 指を、あの人に触られっぱなしだったそこへと動かします。

 …ここ、を……。

 弄られたんだ。
 何度も何度も、背筋から電気が走るような知らない感覚に、わたしがすぐに追いやられてしまって
からも、止まらない二本の指先が、ぐりぐりとか、きゅっ、てしたりして、気を失うまで絶対に離し
てくれなくて。でもやっぱりあの人のしてくれることだから、それだって当然イヤな気持ちなんかじ
ゃなくて、とっても、ものすごく気持ち良くって。
 それがまた欲しくて、今朝も最初は意識があったはずなのに、気付いたらイズルードさんに思い切
り抱きついてて、前の夜と同じように困った顔をしてたんだけど、やっぱりわたしのして欲しかった
通りのことをしてくれて。今度はもっともっと長く触ってもらいたかったけど、我慢出来なかったわ
たしのせいで、けっきょく半分くらいしかしてもらえないまま終わってしまって。わ、わたしは、ま
だまだ物足りなくって、本当はそんなことを知られたくなかったから、その後もあの人の目を見て上
手く話せないままここへ逃げ出してしまって、あ、あああああああ。

 気が付くとわたしは自分のそこを指で、あの時の様子を思い出しながら、ただ一心不乱に触り続け
ていました。

「だ、だめ、だめ……」

 残った理性を必死で集め、頭をブルブル振ってそのいやらしい行為を中断します。
 あの人があんなことをしたのは、心からじゃなくて、わたしの暴走を止める為に仕方なかったから
。他の理由なんてひとつも無いんだから、今のは真剣に助けてくれたイズルードさんに対して、とて
も失礼な行い。

「忘れなくちゃ、だめです。…あんなこと、もう絶対にしてくれないんですから」
666「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/08/15(水) 18:57:55 ID:vZgSzjgq
 でも。

 うつむいて、地面をじっと見つめる。
 あれも、それも、みんな。あの人がしてきたことの全ては、あくまでわたしという教え子をきちん
と育てる為の、一教師としての行動。
 そこに、寂しさを感じる。

 何ででしょう、目の前がぼやけて、不安で胸が苦しいです。……切ないです。

 未知だった多くの感情の高ぶり。その正体が、たった今わかってしまいました。



 部屋へ戻って来ても、中はすでに誰もいない空っぽの状態。さっき衛兵さん達が大声で何か言って
ましたから、近くで起きた戦闘に指揮官として向かってしまったんでしょう。
 わたしを呼び戻して、戦場へと連れて行かなかったのは、やっぱりいつもの分かりづらい気遣い。

 物知らずな王女はお好きですか? 武器を持って兵を率いる体力も、国を導く術も持たない、好奇
心だけ一人前な娘です。
 見出してくれたとっておきの才能も、困らせるようなことに使ってしまいました。きっと、そんな
どうしようもないダメな娘よりは、利発で器量のある人の方が良いのでしょうね。

 テーブルの上に置いてあった一冊の本を、そっと胸に抱きかかえる。
 あの人がわたしに与えてくれた、秘術の魔導書。

 それとも、育て甲斐のあるやつと、可愛がってくれるでしょうか? 間抜けなやつだと、お傍で利
用してくれるのでしたら構いません。
 たとえどんな魔法でも、喜んで覚えてみせます。ただ親愛なる、あなたの為に。

「イズルードさぁん…」

 泣きそうな声で、その人の名前を呼ぶ。

 あれほど一緒にいたのに、あなたの心が見えません。
 教えて下さい。こんなとき、わたしはどうすれば良いのですか?
667「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/08/15(水) 19:02:51 ID:vZgSzjgq
投下終了です。今回はアリア視点。
何やらスレの雲行きが以前の流れと同じ風になってしまい、些か恐縮している傍ら、
それと平行するように、投下を始める前よりも徐々に他の作者様方の投下を目にする
機会が増えて少しは頑張った甲斐があったのだろうかと喜んだり、微妙に複雑な心境です。
668名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 19:05:18 ID:9JJFZxgf
嵐は完全放置で

それとお疲れ
669名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 19:15:45 ID:UVq86gK+
おつかれさまです
670名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 19:19:43 ID:Q6p3mro8
>>667
GJ!
荒らしは全然気にしないで好きなようにやってください
毎回楽しみにしてるんで
671名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 19:23:13 ID:otI+g/JM
GJデスよ
アリアはエロいな、嫉妬で暴走したら凄まじくエロくなりそうだな
嵐つっても単発で暴れてるだけだしスルーで
672名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 19:29:09 ID:gT/IXZ2S
イヤッホオオオオオオオオオオオオウ!
673「草」 ◆yNwN3e7UGA :2007/08/15(水) 19:47:03 ID:vZgSzjgq
今頃間違いに気付きましたが、まとめの際は今回も前回と同じく
Another sideの方へ入れてくださるようお願します。>>667
674名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 19:55:03 ID:MyLkYs3c
最終話 希望を胸に すべてを終わらせる時…! 「草」第1巻は、発売未定です。 ◆yNwN3e7UGA

サンドロ「ウオオオオオオ!くらえエイブル!究極魔法読心!」
エイブル「さあ来いサンドロオオ!ワシは実はただの孫溺愛ジジイで強くないぞオオ!」
(ザン)
エイブル「グアアアア!こ この英雄大将軍と呼ばれるリザニア国のエイブルが…こんな小僧に…バ…バカなアアアア」
(ドドドドド)
エイブル「グアアアア」
将軍A「エイブルがやられたようだな…」
将軍B「ククク…奴はリザニア国の中でも最弱…」
将軍C「元部下ごときに負けるとはリザニアの面汚しよ…」
サンドロ「くらえええ!」
(ズサ)
将軍A、B、C「グアアアアアアア」
サンドロ「やった…ついに四将軍を倒したぞ…これでリザニア王のいるラザニア城の扉が開かれる!!」
リザニア王「よく来たなサンドロ…待っていたぞ…」
(ギイイイイイイ)
サンドロ「こ…ここがラザニア城だったのか…!感じる…リザニア王の魔力を…」
リザニア王「サンドロよ…戦う前に一つ言っておくことがある お前は私を倒すのに『リザニアと張り合えるだけの国』が必要だと思っているようだが…別になくても倒せる」
サンドロ「な 何だって!?」
リザニア王「そして裏切り者のリィス隊長とアリアベル、ついでにユエはやせてきたので最寄りの町へ解放しておいた あとは私を倒すだけだなクックック…」
(ゴゴゴゴ)
サンドロ「フ…上等だ…オレも一つ言っておくことがある 年端もいかないユエを調教したこのオレはロリコンであるような気がしていたが別にそんなことはなかったぜ!」
リザニア王「そうか」
サンドロ「ウオオオいくぞオオオ!」
リザニア王「さあ来いサンドロ!」
サンドロの勇気が世界を統一すると信じて…! ご愛読ありがとうございました!
675名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 20:02:58 ID:17lR07m2
嫉妬はホント>>674(空し)いな。消えろよ。
676名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 20:11:36 ID:F12QaXSk
まさか、この程度の文章でゲーパロを書いていたのか・・・・・・?
いや、神を叩く前にその小学生以下の文章をどうにかしてくれない
そりゃ、神に嫉妬の一つも二つも抱くわけだよ
わかりやすく言うとジャニーズ事務所に入ろうとした勘違い系のキモオタよりも痛いです
677名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 20:23:26 ID:MyLkYs3c
>>675
黙れ。糞(草)作者は内容より連投で叩かれてるってわかんないのか?
あれだけ連投うざい言われてるのにこのペースは何だよ。スレの私物化はよくないとかほざいて口だけか。
>>594の投下から一日も経ってねえ。一日くらい待てないの?全員が糞を楽しみにしてるとでも思ってる?専用スレ立てろ出ていけ氏ね。

>>676
コピペにマジレスとはさすがだな。
678名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 20:25:41 ID:F12QaXSk
で、黒遥が孝之をストーカーをする話で盛り上がろうか
679名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 20:27:12 ID:al/YFdtR
うざいうざい言ってる割にはちゃんと読んでるのな
熱心なこって
680名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 20:28:06 ID:Acr+I6sO
今の旬は言葉様ですよ
ついに言葉様があの憎き泥棒猫の世界にビンタしているんだから
ここはもうちょっと盛り上がるべきかと
681名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 20:28:21 ID:MyLkYs3c
他が投下したら一日くらい投下控えるのが常識。長文なら余計に。
一時的に過疎だったが、更に過疎が進行して糞以外いなくなりつつあるのは明らかに連投のせい。
糞が投下して時間がたって、他の職人が投下しようかなと思ったらまた続けて糞が投下。
嫌がらせか。ばっかじゃねえの。
682名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 20:30:37 ID:CGaq5UsL
あんた、バカぁ?
683名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 20:31:50 ID:+NfeLfTL
ID:MyLkYs3cの文章力は小学生並みだ
どこのお坊ちゃまですかぁ?wwww
684名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 20:32:12 ID:iTrza4z0
>>667
はやっ!!出来もいいが筆の速さがすごいなあんた。

そうだね、誰かが頑張れば、それだけスレに活気が戻ってくるからね。
「へっ、あいつだけにいいかっこさせるもんかよ・・・うおおおお!」
みたいな心境になる作者もいるのかもしれないww
685名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 20:33:18 ID:ff8y+dgu
>他が投下したら一日くらい投下控えるのが常識。

初耳なんだが。
つかそんなに連投が嫌ならテンプレに乗せるよう提案してみなよ。
そうすればその常識とやらを知っている人間が何人いるのかわかるからさ。
686名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 20:34:20 ID:CNfC9FQP
草の作者はGJだよ
また、すぐに作品を投下してくださいね
このスレ一同はいつでも嫉妬関連なら全裸で待っていますからw
687名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 20:35:14 ID:al/YFdtR
少なくとも現時点で場を荒らしてるのはID:MyLkYs3cだもんな
こいつのレスこそ嫌がらせ
688名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 20:42:56 ID:MyLkYs3c
ここまで言ってもまだ草書いた奴が連投するなら終わるまで粘着するからよろしく。

>>685
どうせ草作者と信者の自演で以下のようなレスがついて水泡に帰すだろうから言うだけ無駄。嫌がらせには嫌がらせ。
「テンプレに連投禁止加えようとしてるのは荒らし!」
「早く読めて嬉しいから連投はいくらしても構わない!」
「ここは草の連載で持ってるスレですから、ペース落ちたら寂れます!」
689名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 20:46:09 ID:rcqH5ia4
荒らし宣言来ましたw
690名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 20:48:33 ID:MyLkYs3c
>「ここは草の連載で持ってるスレですから、ペース落ちたら寂れます!」
そういえば、これは実際に言ってる馬鹿見たことある。連投で投下タイミングないだけなのに、笑えるわ。
691名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 20:49:12 ID:al/YFdtR
SSスレのお約束
・指摘するなら誤字脱字
・展開に口出しするな
・嫌いな作品なら見るな。飛ばせ
・荒らしはスルー
・職人さんが投下しづらい空気はやめよう
・指摘してほしい職人さんは事前に書いてね
・過剰なクレクレは考え物
・作品に対する評価を書きたいなら、スレ上ではなくこちら(ttp://yuukiremix.s33.xrea.com/chirashi/)へどうぞ
スレは作品を評価する場ではありません

とりあえずこれ位の日本語は理解してもらわないと困る
692名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 20:49:54 ID:ff8y+dgu
>>688
じゃあせめてその常識とやらがテンプレに乗っているスレを紹介してくれないか?
初耳な物でもしそういった常識が本当にあるのなら見てみたいのだが。

その常識とやらを盾に批判するんだから、行為が非常識であることくらい楽に証明できるよね?
693名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 20:51:36 ID:De83o8NE
相手してて楽しいか?
694名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 20:52:44 ID:ofC49GSW
エロパロ板で連投禁止って馬鹿かお前…
お前の言ってる理由で荒らすならこの板の全てのスレで荒らしてね^^
695名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 20:52:58 ID:CNfC9FQP
妄想プロットでも書こうぜw
696名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 20:53:48 ID:MyLkYs3c
でも一応言っとくか。24時間連投禁止、テンプレに加える気ある?
あるならもう別に言うことないんで、くだらないことしてないで撤収するけど。

>>692
スレの私物化云々は草作者が自分で言ったことだが?
わかっててわざとやってるんだよ。
697名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 20:53:59 ID:AKmJLjb8
MyLkYs3cの嫉妬は見苦しいな
リアル嫉妬はなんと醜いことよのぉ
698名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 20:55:08 ID:AKmJLjb8
撤収してくれや
そして2度と来るな ID:MyLkYs3cこと腐れSS作者が
699名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 20:57:06 ID:IkcukJ5C
連投禁止ってどの程度の事をいってるの?
長編投下したいときは5レスづつとか?
それ以降は他の書き手が投下してから?
そんな事したら過疎になるだけだろ、いらなすぎ

書き手同士が相談して投下方法を決めるとかならともかく
何も書かない読み手がいう事じゃないだろ
とりあえずその案を通したいならトリつけて、投下してみろ
700名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 20:57:10 ID:MyLkYs3c
自分で迷惑かもと言っておいて全然気にしないのって厚顔無恥もいいとこだよな。荒らしと一緒。

>>698
だったらテンプレに連投禁止載せろ。禁止と明示しなくても、時間を空けての投下推奨って書け。
701名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 20:59:41 ID:MyLkYs3c
>>699
他の作者の最終レス(荒らしや1レスネタなど除く)から24時間は投下禁止。
ただこれだけのこと。連載一回のレス数は問わない。一日に一回は投下がある計算になるんだから、過疎にはならない。
702名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:00:52 ID:Z8SNbL+g
以下、スルー。
703名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:01:17 ID:De83o8NE
避難所に行こうぜ
火病った香具師に正論言っても理解できないし
704名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:02:03 ID:MyLkYs3c
24時間経ってないのに同じ作者が連投とか、色々な人間が投下するスレとしてまずいと思わないのか?
思わないなら勝手にやってろ。草が終了した時がこのスレが終わるときだ。
705名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:02:08 ID:mjfJs0Ua
そんなに自分の書いたのを評価して欲しかったのか?
どれ書いたか言ってみなさい。今ならみんな怒らないから。 ID:MyLkYs3c?
706名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:03:59 ID:mjfJs0Ua
自分ルール押し付けてる時点でおかしいと思わないのかね?
スターになりたきゃ他で書けばいいだろ? な? 荒らすなよ。
707名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:04:43 ID:iTrza4z0
>>705
無意識のうちに俺の心をずたずたに切り刻まないでくれないか。死にたくなるじゃないか。
708名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:05:03 ID:MyLkYs3c
スターになりたがってるのは他の書き手のことなんか考えないで馬鹿みたいに続けて投下してる草作者の方だろうが。
709名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:05:06 ID:al/YFdtR
まあ、ID:MyLkYs3cとしてはこういう流れに持って行きたいんだろうな
仮に24時間以内に連投禁止が受け入れられれば万々歳
受け入れられずに叩かれても「草」の作者に対する嫌がらせには充分
自分自身はなんら回りに貢献しないけど周りのやる気を殺ぐ
AIDSウイルスみたいなもんだな
俺としては作品が早く読めるのは大歓迎だけど
710名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:07:40 ID:Y5qB0PD5
春もそうだったが邪魔な奴が来たらみんなで避難所行けばいいだけ
ここで反応してる馬鹿は荒らしの仲間入りですよ^^^^^^^
711名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:09:08 ID:MyLkYs3c
>>709
24時間連投禁止のどこがまずいのか具体的に言ってみ?
今みたいに特定の作者に偏らなくなっていいじゃないか。
712名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:09:11 ID:De83o8NE
ID:MyLkYs3cの呼称は以後、連投君で
713名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:11:07 ID:otI+g/JM
普通に読み手としてはどの作品も早く読めれば読めるほど嬉しいのに
正直1日1回とか制限すんのワケわかめ
つか誰かID:MyLkYs3c以外の人に教えてほしいんだけど
「連投で投下タイミングない」
今回の投下5分ぐらいしか掛ってないけど
何か他の人投下した後投下しちゃダメとかってルールあるの?
714名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:11:38 ID:MyLkYs3c
連投禁止反対派は何一つまともな反論ができないのな。
なんにも意見言わないで、荒らしはスルーで片付ける。
草嫌いなものからすれば連投で他の投下を邪魔する草こそ荒らしなのに。
715名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:11:43 ID:mjfJs0Ua
嫉妬って怖いなと思うね。こういう時は特にそう思う。

完全に男の思考法。相手にかなわないと思うからこう言うやり方をする。
そこらへん女のほうがかわし方が上手なんだよ。知ってる?

男性は相手に負けたと思えば完全屈服だけど、
女性は相手の凄さを認めても自分にはこう言う良さがあるって思う。

ID:MyLkYs3cの嫉妬は男性的な嫉妬だよ。見苦しいったらありゃしない。
716名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:12:59 ID:q5XyHZty
嫌いで嫌いで見るのも嫌なら黙ってNGにすればいいじゃない
SSにしても荒らしにしても
717名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:13:00 ID:De83o8NE
>>713
初耳
逆にそのルールがあるスレが知りたい。さぞ職人が豊富なスレなんだろうな
718名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:14:08 ID:sSEE9EPB
推敲を十分にして高いクオリティを維持してくれれば連投も問題ないかと
719名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:15:00 ID:mjfJs0Ua
>>714
投下したいならすればいいじゃない? 負けるのが怖いの? 評価されないのが怖いの?
そんなチキンじゃ誰も貴方の書いたものを期待してくれないよ? 投下したければ投下したら?
そんな連投禁止なんて馬鹿な自分ルールだと、投下されるSSのレベル自体が落ちちゃう。アタマ悪いよ。
720名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:15:06 ID:MyLkYs3c
>>713
以外と書いてあるがあえて答える。
書き手は大体気を使ってるよ。書きあがってても投下遅らせたりする。
誰だって自分が書いた直後に被せるように投下されたらいい気はしないから。
それをわかってる(自分で言ってる)癖に全然気にしないで他に被せてくるのが厚顔無恥な草作者。
721名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:16:29 ID:q5XyHZty
>>720
ルールがあるのかないのかを聞いてるのに……
頭悪いね
722名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:16:48 ID:De83o8NE
今日一日暑かったからなぁ
723名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:17:17 ID:urfVCMx3
>>721
ルールとマナーの違いもわからないゆとり乙
724名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:17:30 ID:MyLkYs3c
ルールにするまでもないことなんだよ。
法律で禁止されてなければ何をやっても許されるって考え方の人ですか?
725名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:18:24 ID:mjfJs0Ua
>>720
ずいぶんと甘い環境で書いてきたんだね。へタレ以外の何者でもないよそんなの。
作品で勝負できないからってこんな汚いことするんだから、貴方のレベルも大したことないな。
どのスレでどれ書いたか言ってみてよ。
726名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:19:31 ID:JO1vNVqr
NGID
ID:MyLkYs3c
ID:tUP49KFS
ID:pF+Mp4m/
ID:Zy4tSDM3
ID:iYNcnzGn
ID:9VlJrnR8
ID:F12QaXSk
ID:ff8y+dgu
ID:ofC49GSW
ID:AKmJLjb8
ID:IkcukJ5C
ID:mjfJs0Ua
ID:al/YFdtR
ID:otI+g/JM
ID:De83o8NE
727名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:19:35 ID:iTrza4z0
>>720
そんなことはたいしたことではない。むしろ必然さ。
自分の作品にまったくアンカがないのに後から来た作品にいくつもの乙が投げかけられ、
自分も気づけば乙と言うなんて、そんなことは下手な書き手にはいつものこと

ああ、何で泣いてるんだろう、俺。
728名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:19:53 ID:FaO0FAGL
いいから黙れよ馬鹿ども
729名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:20:46 ID:ofC49GSW
>>720
>書き手は大体気を使ってる
脳内ルール乙

24時間以内とかきめてるスレが何処にあるのか教えてくれない?
730名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:21:32 ID:mjfJs0Ua
すべては嫉妬のなせる業ってことね。 ID:MyLkYs3cがたいした事ない書き手なのはわかった。じゃ。
731名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:22:35 ID:MyLkYs3c
別に>>727が下手だからとかじゃないと思う。基本的に、スレへの投下は被せたもの勝ち。
よっぽどレベルが違えば別だけど、>>727がレス貰えないのは、面の皮の厚い作者に即投下で潰されたからだよ。
732名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:23:58 ID:De83o8NE
24時間のルールのスレどこ?
733名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:25:13 ID:mjfJs0Ua
>>731
黙ってよ下手糞。口が臭いのよ。
734名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:25:40 ID:MyLkYs3c
ルールなんかにしなくても投下するものならして当然の気遣いだって何度言わせる。
735名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:25:44 ID:ofC49GSW
>>731
で、24時間投下以内禁止スレは何処よ
736名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:26:17 ID:q5XyHZty
>>732
彼の脳内マナーです
マナーに厳しいはずなのにこのスレに投下しにくい雰囲気作ってるけどなw
ま、それに関しては俺も人の事いえないからもうレスすんのはやめとく
737名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:27:33 ID:ofC49GSW
>>734
その当然の気遣いをしてるスレは何処よ
738名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:29:15 ID:JO1vNVqr
     ト、                  ______)
     「::::\┐  _,,. --──- 、..,,_    `ヽ.    通  い
   r-‐'へ::::::::!_'´ __,,,,......,,,,,__    `ヽ、    ',  報  い
   >:、:;::::::>''"´       `"'' 、   ':,   i.  し   加
  └─ァ''"  /            `':.,  ',.   !.  ま  減
     ,:' /   / ,' /  ,' i.  ', ':,  i    ',!  i.  |.  す   に
   / ,'  .,'`メ、!,_,/ ./! 、i__,,!イ .|.  i ,ゝ |  |.  よ  .し
   ,'  i   ,!/,.-ァー;' / !/ァ;ー'-r'、 ! /__」  |   |   ! !  な
   i   ! ハ!イ i `ハ     i `'ハ Y/ i/  ; |  |.      い
  └'^iー! ,iヘ ':,_ン    ':,__ン ノ!'  |  i. i  ,'       と
    ,:'  .!.7,.,.,     '     .,.,., ,'!  .!  | |∠,_    ________
 o ゜/  ,:'. ト、   r‐,-‐ ''"´`ヽ. / ;   |  ! !  `Y´ ̄
   ,' .// i. `i:.、.,!/      ,.イ,:' ,'   | ,'i .|
   レヘ_/ヽ. !ァ''"´ `ヾi、ー=''"/ヨ___,/、___!へr┘
       /      ヾ!二へ/:::::ト,.-'‐'^ヽ,
       ,'        ',l>く}:::7    rノ   ,. '"´ ̄`ヽ.  っ
     K_    _,r-イYン/ムi:::::/   ,ノ´  /        ', っ
       /Y>ベ´   '';:::::io:/   ,イ   /           !
     ,.:':::::ヽ、ン':,    ヽ/   ,イ /゙,ー、,'   、    ,.-‐、,'
   /:::/:::::::::::::::::ヽ.   '    ,.;'ヾ/、/_/ノ  ヽ. ヽ,/,.-‐'/
 ,く:::::::/::::::::::::::::::::::::`ヽ、___,.,.イi `'ー'^''‐'/      ヽ.,/ (___)
'´::ヽ`'::、::::::::::::::::::::::::::::::::/!::::::::::!    ,'       ,.:'"´
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::::::;'::::::!::::::::::';:::::::::::\:::::::::::::::::!:::::::':,  ヽ、       ノ ノi
739名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:29:28 ID:KUeDRgZV
まさかとは思うけど、
本気で効果があると信じてやってるの?
その独りよがりのネガティブキャンペーン。
740名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:30:06 ID:otI+g/JM
読み手として言わせてもらえば被ろうが何しようが面白かった作品には
アンカー入れたり入れなかったりでレスするけどなー
741名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:30:11 ID:MyLkYs3c
むしろルールに明記しなきゃわからない作者(草作者)がいたことの方が衝撃的。
バスに「シルバーシートでは高齢者の方に席をお譲りください」ってでかでかと広告打つくらいモラルハザード。
でもこうやって因縁つけられて、草作者も自分が他人にやってきたこと少しは自覚したんじゃない?

>>737
他のスレちょっと覗けばいくらでも見つかる。
気を使わない奴もいたりするが、草みたいに長編でひどい連投はしないから大体スルーされる。
742名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:32:12 ID:De83o8NE
>>741
>>他のスレちょっと覗けばいくらでも見つかる。
だから具体的にスレ名を教えろよ?
743名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:34:44 ID:MyLkYs3c
>>742
数が多過ぎていちいち言ってられない。そっちこそ、連投なんてして当たり前なんでしょう?
だったら草作者みたいに同一作者がしつこく連投してるスレで、他の作者の投下もあるスレ教えてよ。
744名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:36:44 ID:MyLkYs3c
ここの民度(草作者)が最悪だから連投禁止ルールなんて馬鹿な話になるんだよ。
それくらいわかれよ。
745名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:36:47 ID:OXkbicvV
何でこんなの相手するの?
無視すればいいのに
それより、そろそろ次スレだが
746名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:38:03 ID:sSEE9EPB
荒してるID:MyLkYs3cも粘着してるID:De83o8NEも自重しろ
747名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:38:24 ID:tfQU5Dhx
>>743
結局おまえさんは何がしたいんだ?
草作者の連投をやめさせたいのか
草作者並のペースで投下してくれる作家増やしたいのか

スレが盛り上がるんだったら連投なんか全然おkだろ
748名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:38:29 ID:KUeDRgZV
構ってもらえて結構なことだな。
軽くあしらわれて滑稽なことだな。
749名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:39:02 ID:ofC49GSW
素晴らしい気遣いスレの詳細マダー?
750名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:42:05 ID:otI+g/JM
>>738
「通報しました」はマダー?
マナーだのルールだの純粋に作品楽しんでる読み手への嫌がらせにしか思えない内容なワケですが
751名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:42:25 ID:MyLkYs3c
スレを円滑に進めるための常識なんだから、いちいち明文化しないで、書き手のマナーに任せてるだけ。
言わないとわかりません、人が嫌な気分でいるかもしれないけど知りません、そんなのあるか。そんな奴は書き手なんてやるな。
生みの苦しみは、書き手が一番わかるだろうが?

>>747
他の作者の最終レスから24時間以内の投下を草作者がしなければ問題ない。それだけ。
誰も投下するななんて言ってない。連 投 を 止 め ろ と言っている。
752名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:43:35 ID:De83o8NE
おまえ馬鹿だろ?
753名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:44:16 ID:MyLkYs3c
それとも何か、お前らの大好きな草作者は、そんな決め事も守れない低脳なのか?
自分の投下したい時が投下する時で、他なんて知ったこっちゃないって言うのか?
754名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:45:07 ID:ohQNQAAV
荒らしの連投を許容しているスレも無いと思うんだけどね。
755名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:45:24 ID:ofC49GSW
書き手のマナーが守られてるスレの詳細マダー?
756名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:46:39 ID:otI+g/JM
ID:MyLkYs3cの発言には作品を早く読みたいという読み手なんか知ったこっちゃない観が溢れてますね
757名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:47:26 ID:ofC49GSW
>753
>そんな決め事
あんたの脳内ルールを守る必要なんてありません><
758名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:49:00 ID:De83o8NE
 1:事実に対して仮定を持ち出す
 2:ごくまれな反例をとりあげる
 3:自分に有利な将来像を予想する
 4:主観で決め付ける
 5:資料を示さず自論が支持されていると思わせる
→6:一見関係ありそうで関係ない話を始める
 7:陰謀であると力説する
 8:知能障害を起こす
 9:自分の見解を述べずに人格批判をする
 10:ありえない解決策を図る
 11:レッテル貼りをする
 12:決着した話を経緯を無視して蒸し返す
 13:勝利宣言をする  
 14:細かい部分のミスを指摘し相手を無知と認識させる
 15:新しい概念が全て正しいのだとミスリードする

懐かしいものを引っ張り出してきたw
759名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:49:04 ID:QkhqaEHR
760名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:50:18 ID:OXkbicvV
>>759
761名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:50:55 ID:MyLkYs3c
>>754
主張は本音だが、連投は草作者への皮肉だよ。草作者の投下直後に燃料入れてログ流す。
これで草作者も自分がどういうことやってるか体感できたんじゃないの?
これに懲りたら投下間隔には気を使ってほしいね。

>>756
そんなに草作者一人にスレを埋めさせたいの?それこそ避難所でも行けば?
賞賛レスが自演じゃなければ、漏れなく信者もついてくるんじゃない。
762名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:51:45 ID:1z60OX2y
嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ その38
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1187181758/

報告のタイミングを見計らってたせいで被らせてしまった。どうしよう。
763名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:53:23 ID:iR5WKfC8
どれかひとつをID:MyLkYs3cの理想郷としてつかってもらおうw
764名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:54:38 ID:ogIx4sJV
>>761
>そんなに草作者一人にスレを埋めさせたいの?
なんでゼロか全てかでしか判断できないんだ?
ここは誰が投下してもいい場所だろ
他の作者が投下するかどうかは他の作者次第
投下するもしないも草作者次第

草作者一人が投下してる現状が気に食わないならお前が間に何か投下すればいいだろ
もしくは他の作者を奮い立たせるように努力しろ
765名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:55:59 ID:iR5WKfC8
かれはあたまがわるいんだよ。かんじもよめなさそうだし。ぜんぶひらがなにしてれすしようよ。
766名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:56:51 ID:KUeDRgZV
実は明文化されていなかった常識なんだけど、
本当は「24時間以内に同じスレに二回レスする」という行為は禁止だったんだよ!!!!!!11
767名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 21:58:58 ID:Q6p3mro8
論破とか反論とかしなくていいから無視しろよ
768名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 22:00:13 ID:iR5WKfC8
もどそう。
何にせよ久々に香ばしい打ち上げ花火を見た気がするよ。夏だねぇ、風流だねぇ。嫉妬の夏。
769名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 22:01:13 ID:MyLkYs3c
言いたい事は全部言ったからもういいや。
それに、野次馬に何言ったってしょうがない。
草作者もここ見てるだろうから、最後に作者に向けて言っておく。
次からの投下では、他の書き手を潰すような真似はしないでくださいね。
自覚があるのかないのかしらないけど、非常識な連投のせいで、今草作者が感じてるような嫌な気分を、他の人間にもさせてるんですよ。
それさえ守れれば二度と口出ししませんから。
770名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 22:01:44 ID:De83o8NE
つか重複スレどうする?
eroparo:エロパロ[スレッド削除]
http://sakura02.bbspink.com/test/read.cgi/housekeeping/1157053512/
771名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 22:02:16 ID:OXkbicvV
>>762
2分の差とは
何て言葉をかけたらいいのかわからない
今までは、最初に投下が来た方だったり、先にたてた方だったり、話し合ったりして決めてた。
772名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 22:06:05 ID:iR5WKfC8
>>769
そんな事で潰される書き手なら潰れてしまった方がいい。
少なくとも2ch系掲示板向きでは無いよ。自分も楽しく読み手も楽しくするのが書き手。

てめえなんざ書き手を名乗るのもおこがましいってんだよ! 糞野郎! 去ね! 外道!
773名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 22:08:27 ID:NTMO2mqS
37.5(皆殺し)対38か。

次の名無しの心を射止めるのはどちらなのか……。
774名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 22:09:11 ID:+ddBEtqh
後に報告した方が先に立ててる辺り声のかけようがない
どうすんだこれ

後お前ら次スレにはこんなん持ち込むなよ。頼むから
775名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 22:10:05 ID:De83o8NE
MyLkYs3cが両方に出現してて笑ったw
こいつ確信犯だ
776名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 22:11:40 ID:iR5WKfC8
了解。次は気をつけます。すんませんでした。
常駐スレの厨房の言い草にそっくりだったんでついヒートアップっす。
そいつも自分の脳内ルールを他人に押し付けるコマッタちゃんでした。
オイラとSSで勝負して負けてスレを汚しまくる糞でした。ハイ。
777名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 22:12:26 ID:iR5WKfC8
え、いたの? SS書いてって頼んでおけば良かった。
778トライデント ◆J7GMgIOEyA :2007/08/15(水) 22:13:13 ID:Mdqd7VJD
では投下致します
779名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 22:13:34 ID:q5XyHZty
結局は一人で勝手にテンプレ追加か
自分勝手なマナー違反野郎はどっちなんだか
780名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 22:15:30 ID:De83o8NE
支援?
781雪桜の舞う時に ◆J7GMgIOEyA :2007/08/15(水) 22:16:43 ID:Mdqd7VJD
 アナザー3『お買い物』

 藤宮アリスさんの手厚い応援に背中を押されて、
私は愛しい愛しい桧山さんの家へ向かう途中でさっぱりと道に迷ってしまいました。

当然です。

だって、私は桧山さんの住所なんて知らないもん。
親しい間柄なのに私は桧山さんの家を知らないなんて。
もう、未来のお嫁候補として失格ですよ。
 憔悴した気持ちで私は駅前にあるスーパーへと向かいました。
今年の夏休みはお母さんが仕事で家を留守するので、事実上、今日から一人暮らしなんです。

体に悪いインスタントの物ばかり買う予定です。
とはいえ、女の子の一人暮らしはとても不安なんですが、それ以上に一人で長い夏休みを孤独で暮らすことはとっても嫌です。
 桧山さんが隣に居れば、すぐに幸せな気持ちになれるんだよ。
 立ち止まって、彼のいない毎日を思い浮かべるだけで私は泣きだしそうになった。

「長い夏休みをたった一人だけ暮らすなんて……絶対に嫌だぁぁぁ!!」
 ずっと、孤独だったの。皆から苛められて、誰も私に近付いてこなかった。
殴られて、叩かれて、お腹を蹴られて、ずっと一人で痛い目に遭っていたんだよ。
皆が楽しそうに遊んでいても、輪に入れてももらえずに。一人で寂しく遊んでいた。

 あの頃になんて、戻りたくないよ。
 ねぇ、桧山さん?
 あなたと出会ったおかげで私は独りぼっちじゃなくなったんだよ。

誰にも苛められることもなくなったし。毎日が幸せだったのに。
 どうして、こんなことになってしまったの?
 空を見上げ、白い雲の隙間にある青空に問う。

 だが、私の問いに答えることがない。いつも、世界は私を助けてくれないのだ。
 ふと、視点を元に戻して、立ち止まっていた私は混雑する人込みの中から愛しき人の背中が見えた。
 愛しい愛しい桧山さんの後ろ姿を見間違えるわけがないです。
 桧山さんは私の先方をゆっくりと歩いている。目的地はわからないけど、目の前には私が行くはずだったスーパーが見えていた。
 ここで出会ったのは二人は結ばれる運命なんですよね!! うわっ。神様に感謝致します。
 この機会を逃せば、私は桧山さんと接する機会を永遠に失ってしまう。
 少なくても、夏休みの間は会うことができない。
 更にその期間中に桧山さんがほ、ほ、他の女の子と付き合うことになったら……。
私はもう生きていけませんよ。

 夏という季節。
 来年、受験を控えている学生にとっては今年の夏こそが立派な発情期です。
男は獣になり、女は狡猾に男を誘うんですよ!! そう、私の恋仇、東大寺のように。
 彼女が私が必死に隠していた秘密を桧山さんにバラさなかったら、
今年の夏は桧山さんと……恋人同士の関係になっていたかもしれないんだよぉぉぉぉぉ!!

その野望を達成するために、私は今日限定で桧山さんをストーキングしちゃいます。
 だから、覚悟してくださいね?
782名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 22:19:19 ID:De83o8NE
支援
783雪桜の舞う時に ◆J7GMgIOEyA :2007/08/15(水) 22:19:29 ID:Mdqd7VJD
 スーパーに辿り着いた途端に俺の背中は鳥肌と悪寒が走り、背後を振り向いても何事もない。
ただの気のせいだと思って、俺はスーパーのかごを取ると飢えた虎のために夕食のおかずを買いに走る。

「もうすぐで鮮血祭だよ!! 参加者は各自持参してきた凶器を使ってください。
後、死亡者が出たとしても、当店は絶対に責任を持ちませんので。自己責任で参加の方をお願いします」
 と、スーパーの店員の煩いメガホンの声が聞こえてくるが。

当然、スルーだ。
あんなもん、由希子さんのような人間規格外の怪物が参加する行事であり、
美味しい食材を手に入れたとしても命を失う可能性はある。
一見参加者は五体満足で帰れないし、

スーパーの従業員が白いビニールの傘を持っている時点で周囲には血の雨が降り注ぐことは間違いないだろう。
 今回の目的は命懸けのバーゲンセールではなくて、普通に肉を求めている。
あの弱肉強食の頂点に立つ、虎を黙らされるために奴の好物な肉を叩きつける。
このクソ暑い夏の中で冷房の効いた部屋でのんびりと俺の夕食が出来上がるまで待っている、あの虎に。

夏の厨房の暑さを実感させるために今宵の夕食は焼肉だ。
 ふっふっふっ……、思い知るがいい。虎よ。
 と、バカ笑いを浮かべて、俺はお目当ての焼肉の食材を買い揃えるために足を動かす。 

ある程度、食材を集めて、食後の甘いお菓子を手に取ろうとした時だった。
 190円のブルーベリー味のチョコレートを狙った俺の手に、もう一人の手が偶然に重なってしまった。
 俺はその相手の顔を見て、驚愕していた。

「ゆ、雪桜さん!?」
「桧山さん!! にゃあ!!」
 その再会は俺の中でも予想外であった。

こんな場所で雪桜さんと出会うはめになるとは。
それは幸運なのか不幸なのかと尋ねたら、間違いなく幸運だと俺は言い切るだろ。
 雪桜さんはスーパーのかごにたくさんのインスタント商品(カップラーメンが主体)を積み上げていた。
絶対に体の健康に悪い商品を俺の目安で1週間分の食料を重たそうに彼女は提げていた。ちょっと重そうだ。

「き、奇遇ですね。桧山さん。こんな場所で、で、出会うなんて……」
「そ、そうだな」
 あの時の出来事を思い出して、今の俺と雪桜さんの関係は微かな異変を迎える。
憎悪の対象だったはずの女の子からの愛の告白。

返事はしていないが、こんな自分を好きだと言ってくれる雪桜さんに
秘密が発覚した時とは憎しみに満ちた感情で接することはできない。とはいえ、必要以上に馴れ合う必要もないわけだが。

「そ、そ、そのブルーベリー味のチョコレートはとても美味しいぞ。というわけで、失礼する」
「ひ、桧山さんっっっ!!」

 雪桜さんの悲痛の叫びを無視して、俺は逃げ去るようにスーパーのレジに向かって、さっさと清算を済ませた。
これ以上、雪桜さんと居ると顔が赤くなっていることをバレてしまうし。
784雪桜の舞う時に ◆J7GMgIOEyA :2007/08/15(水) 22:21:17 ID:Mdqd7VJD
 そんな出来事があった帰り道に俺は自分の後ろを金魚のフンのように追いかけてくる少女の姿に気が付いていた。
もちろん、その正体は雪桜さんである。
 彼女は風でなびく白いワンピースの裾を抑えながら、
インスタント商品をたくさん買い揃えた重たそうなスーパーの袋を両手に持ち、足を引き摺るようにして、

俺の後を必死に追いかけていた。
残念ながら雪桜さんや。俺はいつも通りの歩調で歩いているのに。
彼女は5Mぐらい間隔を空けて、息をハァハァと切らしていた。
 んな状況が続いて現在に至る。

 たまに後ろを振り向くと雪桜さんは嬉しそうな笑顔を浮かべ、俺に向かって大きく手を振ってくれた。
 やれやれである。
 雪桜さんとは昔のような関係ではいられないのに彼女は俺を求め続けている。

突き放しても、現在進行中で後を追いかけてくるのだ。
 もはや、雪桜さんは立派なストーカーの仲間入りしているんじゃないのかと杞憂に思ってしまうが。
もうすぐで自宅に着く。

家の中に入ってしまえば、さすがの雪桜さんも何もすることができないはずである。
 雪桜さんが石に躓いている間に俺はとっと自分の家の中に逃げ込んだ。







 痛い。
 痛いです。
 あっ。
 私がコケている間に桧山さんは自分の家に逃げ込みました。
自分の彼女がコケているのにそれを無視するのは立派なDV行為ですよ。
でも、桧山さんのDVなら喜んでお受け致しますよ。ほらっ。
私は殴られたり冷たくされるのには慣れていますから。
 私は重い荷物を引き摺りながら、桧山さんの家を眺めていた。
そこのインターホンさえあれば、桧山さんは喜んで私を家の中に招待してくれるのかな?
 でも、いきなり、親御さんに紹介されるのは私もちょっと恥ずかしいから。今だけは遠慮させて頂きますよ。
 桧山さんの家もわかっていたことだし。この荷物を置いてから。
 また、来ますね。
 うふふふふっっ……。
 楽しみに待ってくださいね。桧山さん 
785名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 22:24:30 ID:De83o8NE
支援
786トライデント ◆J7GMgIOEyA :2007/08/15(水) 22:25:03 ID:Mdqd7VJD
投下終了です。
久々に雪桜を執筆すると桜荘にようこそよりも短時間で
1話を書き終えてしまいましたw

さて、↑は荒れているようですが

>24時間以内の連続作品投稿は禁止です

何かデスノートのルールみたいですねw
まあ、荒らしが作ったテンプレは守る必要があると思わないので
スルーするのが無難でしょうねw

では。
787名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 22:26:47 ID:De83o8NE
788名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 22:28:03 ID:ezpcqNeR
乙です
789名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 22:28:46 ID:TQLbTpO8
このスレの最後の投下主にどちらを使うか決めてもらうとか・・・
790名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 22:29:36 ID:TQLbTpO8
>>786
乙ですー

しかしデスノートですか・・・・・・言い得て妙だなぁ
791 ◆Fyl/9UhYTo :2007/08/15(水) 22:31:09 ID:Reg7Ig2d
部外者が書き込むけど投下間隔をあけて欲しいのはあります。
自分は某板で書き手をしているけれど
投下した直後に別の人が投下されて自分のSSがスルー気味になるのは少し悲しいものがあります。
自分はGJレスの為に書いてるわけではありませんけどね。
それでも書き手にとってGJレスや感想レスやwktkレスはなによりの励みになります。
毎日投下(?)となると読み手は続けて読めるわけだから諸手を挙げて喜ぶでしょうけど書き手は投下しづらいのが現実です

24時間とか明確な数字はどうかと思うけど常識的な範囲は守ってもらいたいです。
まあこれは他の書き手にも同じことですけどね


なら「直後投下もなんのその」な名作を書けばいいとか仰るかもしれませんが、少なくとも私は張り合うためにSSを書くわけではありません。
その理屈なら上手い人が毎日投下したらそのスレには誰も投下できなくなってしまいます。
792名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 22:34:48 ID:JO1vNVqr
◆Fyl/9UhYTo

NGNameに指定した。
793名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 22:36:01 ID:OXkbicvV
『雪桜の舞う時に』キターーーーー!!!!!!!!
雪桜さん可愛いよ雪桜さん
命がけで買い物をする気にはなれないです
これからも頑張って下さい
794名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 22:39:31 ID:KUeDRgZV
795名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 22:40:11 ID:TQLbTpO8
現在以下の二つのスレが立っている。

嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ37.5ロシ(皆殺し) 2007/08/15(水) 21:46:21設立 告知は21:49:04
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1187181981/l50




嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ その38  2007/08/15(水) 21:42:38 設立 告知は21:51:45
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1187181758/l50


如何なる手段にて正式な次スレとするか?


しかし別スレの書き手(此処では本物であるとします)が降臨ですか・・・
先にトライデント氏がスルーすべきとも言ってますし・・・
出来ましたら他の書き手の方々の意見もお聞きしたいところです。
796名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 22:45:04 ID:aIw/a9Wc
正直皆殺しはおいしいと思う。


しかしお盆だなぁ。普段地獄の底にいる泥棒猫が帰って来てるよ
797名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 22:45:22 ID:De83o8NE
しかし何でまた部外者コテが急にきたんだ?
798795:2007/08/15(水) 22:47:05 ID:TQLbTpO8
個人的には色々な意味で物凄い執念を感じる37.5を推す。
色々な意味で美味し過ぎる。このスレらしいし
799名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 22:48:10 ID:GXA7iWv6
てかさ・・・・冷静になって考えると
昨日今日現れた草の作者に嫉妬している荒らしの言葉とさ

去年の6月辺りから、我々を楽しませてくれる作品を投稿している
トライデント氏の発言

一体、どちらを信用するのかと問われると
私はトライデント氏を支持しますね

彼はこの嫉妬スレの黄金期を支えてくれた一人だし
築き上げてきた信頼は違うわけでしょ

荒らしは草に嫉妬しているだけの気の弱い奴なんだから
相手にするだけ時間の無駄だと思う。

次の嫉妬スレは順番に考えると
次スレは38でいいんじゃないのか?
800名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 22:49:04 ID:Reg7Ig2d
>>794
ちなみに言っておきますが普段はトリップを用いません。
自演認定されると思っての行動です。

以後ROMります
801名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 22:49:50 ID:s9aHU2NN
>>795
下の方が立つの早いし
語呂合わせのためにスレ番を変えるのは感心しない
よって下を推す
802名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 22:51:03 ID:fCeeiVGa
俺は荒らしを支持するね、だって実際つまんないもんトライデント氏。

嫉妬スレの黄金期に確かにいたけどいただけで実際に支えてたのは山本君や優柔で
あってトライデント氏の作品ではない
803名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 22:51:21 ID:De83o8NE
>>800
どうでもいいよ

繋ぎ直しじゃなければ
804名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 22:52:20 ID:MyLkYs3c
 
805名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 22:52:33 ID:TQLbTpO8
それ言ったら告知が・・・

まぁ結局は何時も通り先に投下された方ってとこかな。
語呂だ連番だと揉めるのは非常に不本意。
806名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 22:53:25 ID:KUeDRgZV
だからね、先にまともな投下があった方を新スレにすればいいだろと
どっちもスレタイ以外に差はないんだから、作者さんが好みの方でいいよ

あとスレ番号はスレ立てする人間の好きなようにつけていいって以前さんざ議論して決まったからね
80738の方の人:2007/08/15(水) 22:54:42 ID:1z60OX2y
>>786
いろんな意味で乙です。

えっと、375ロシスレの方がいいんじゃないかと思うな個人的には。テンプレ微妙にミスっっちゃったし。
ま、先に投下があったらそっちでいいと思うけど。
808名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 22:54:55 ID:ZNxwIgv0
荒らしのおかげで過疎化している嫉妬スレに新たな投下があるとでも
ちなみに

どっちが荒らしが立てたスレ
809名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 22:55:00 ID:TQLbTpO8
>>802
この問題について質が良い悪いと言うことや主観は省くべきではないだろうか。
それが荒らしの付入るスキとなる
810名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 22:58:27 ID:TQLbTpO8
>>808
どちらも荒らしではなくスレを心から愛する善意の住人が立てたスレです。
811名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 23:01:42 ID:ZNxwIgv0
じゃあ、連番でいいんじゃねぇの?
37・5だったら、次スレ名は38になるわけかw
812名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 23:06:28 ID:qML2B9J1
だから先にまともな投下がされたほうが新スレでいいんだって、
連番で37,5が先だなんてこと言い出したら37,6とか立った時また困るだろ?
813名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 23:29:04 ID:dOsAWU3K
俺が心配なのは草の神がこの煽りでやるせなくなってしまわないかどうかだよ・・・
せっかく良い作品なのに荒れてしまって正直悲しいお
814名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 23:37:42 ID:K2Lrf6x5
いちいち外面を気にするやつは真性のアホ


最悪神が決めればいい
815名無しさん@ピンキー:2007/08/15(水) 23:38:42 ID:ZNxwIgv0
てか、荒らしているのはスレの住人だろ
議論したければ、避難所使えばいいだろうに
816名無しさん@ピンキー:2007/08/16(木) 00:04:55 ID:NunRCmW6
草以外ならなんでもいいよ
817名無しさん@ピンキー:2007/08/16(木) 00:13:09 ID:+loCCgFY
次スレも立ったから敢えて聞くんだけどさ。

草の神に文句つけてる奴は、他の神々が投下しにくいからって理由で意見を述べてるんだよね。

でもこのスレ、昔なんか一日に二人も三人も投下してたりしたわけじゃん。問題なくね?

正直読み手としては、これだけハイペースで良質な作品が投下されるのは、スレの活性化になるとしか思えない。
818名無しさん@ピンキー:2007/08/16(木) 00:14:44 ID:j0x2qVDh
てか、草を叩いている奴の正体バレただろwwww
819名無しさん@ピンキー:2007/08/16(木) 00:21:23 ID:H1+lNPiU
>>817
一日の内に同一の作品が投下されているって所に突っ込みたいんじゃない?
そこまでして騒ぐ程の問題かどうかは俺には分からんが。
820名無しさん@ピンキー:2007/08/16(木) 00:22:06 ID:0d3alKhr
いい感じで殺伐してるじゃねーか!!!
821名無しさん@ピンキー:2007/08/16(木) 00:23:05 ID:+loCCgFY
そうだな、「アンタはアタシのためだけに作品を書くべきなのよ!あんなスレに投稿するなんて言語道断だわ!……そう、あのスレ、過疎の振りして同情を誘ったのね。騙されちゃ駄目よ!あの泥棒猫なんかにはアンタの作品、いえ書き込みすら勿体ないわ!」

とか言っちゃうちょっと素晴らしいおにゃのこだったな。
822名無しさん@ピンキー:2007/08/16(木) 00:24:26 ID:+loCCgFY
すまない、妄想開始が遅かったようだ
823名無しさん@ピンキー:2007/08/16(木) 00:46:14 ID:Gq+Wgjvb
> 330 名前:ROCO ◆VpKHzOu04Y [sage] 投稿日:2007/08/15(水) 13:20:31 ID:pF+Mp4m/
こいつな

さて、こいつがどんな作品を投下してたのか探してみるかね
824名無しさん@ピンキー:2007/08/16(木) 00:49:00 ID:sQFRqVq2
お前ら…
久々に修羅場スレが凄い勢いじゃないか!これは神が大量に降臨しているに違いない!
と初めてゲーム機を買ってもらった小学生のごとく瞳を輝かせながらスレを開いた俺にあやまれ!
ここの住人はもう少しスルースキルが高いと思ってたぜ…
荒らしにレスとかしてんじゃねえよくそったれが。
825名無しさん@ピンキー:2007/08/16(木) 00:58:56 ID:f5g1d1mk
>>824
ごめん
826名無しさん@ピンキー:2007/08/16(木) 00:59:34 ID:o2RilY/Z
たった今37.5の方にtVzTTTyvm.氏による投下がありました。従いまして
38の方は削除申請を行っておきました。住民皆さんの移動を御願いします。

http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1187181981/l50


うーん直ぐに消されてしまう38スレの復讐が怖い・・・
827名無しさん@ピンキー:2007/08/16(木) 01:16:50 ID:bQ9HigzF
>>823
一応かなりの数の作品を書いている職人さんだし本人に突撃する前に一度
> 330 名前:ROCO ◆VpKHzOu04Y [sage] 投稿日:2007/08/15(水) 13:20:31 ID:pF+Mp4m/
この部分の信憑性だけは確かめたほうがよくないか?こんなものID部分だけすげかえればいいだけだし、
828名無しさん@ピンキー:2007/08/16(木) 01:21:04 ID:pzoviS3R
バカエロ専門のROCO氏がこのスレ降臨するわけないだろ
他人に迷惑かけんのも大概にしろよ
829名無しさん@ピンキー:2007/08/16(木) 01:22:12 ID:pl7u51aS
てか突撃すんなって、他のスレ住人不快にするだけだし、このスレにも火種が増えるだけだし
仮にもし本当だとしてもスルーでいいだろ
830名無しさん@ピンキー:2007/08/16(木) 01:33:48 ID:+bJl5XsW
ここからは埋めネタの時代です
831名無しさん@ピンキー:2007/08/16(木) 01:35:23 ID:SkboYPQD
>>827
そことは別の場所で確認した。突撃する必要はないと思うから別にどことかいわんけど
ちょこちょこスレ覗けばわかるよ
832名無しさん@ピンキー:2007/08/16(木) 01:57:25 ID:HBEbfcQU
ROCO ◆VpKHzOu04Y(笑)
833名無しさん@ピンキー:2007/08/16(木) 02:10:01 ID:SdPB0O/R
>>823
大した職人じゃないって言ってたヤツ涙目wwwwwwwwww
834名無しさん@ピンキー:2007/08/16(木) 02:26:25 ID:Jd35TwhS
常にNTRワンパが大した職人とは思わん
835名無しさん@ピンキー:2007/08/16(木) 02:28:58 ID:9UYGZuZR
真実かはわからん
証拠に乏しすぎる
おちつけ
836名無しさん@ピンキー:2007/08/16(木) 02:34:14 ID:eXCrrqCe
「その3」で検索すると真実がわかるかもかも
837名無しさん@ピンキー:2007/08/16(木) 02:35:07 ID:qLHXH4s/
言うだけは誰にだってできるしな
例えばかき回したいだけのオナニー荒らしさんとか
838名無しさん@ピンキー:2007/08/16(木) 02:37:49 ID:fiuBjT6W
ここの住人はNTRやレイプの属性がないヤツが多いからそう思うんだ
逆にいえば嫉妬ヤンデレワンパの職人には惜しみ無いGJを送ってるのはどこの誰かな
839名無しさん@ピンキー:2007/08/16(木) 02:47:48 ID:qLHXH4s/
なーに下らない煽りにいきり立っちゃってんの
840名無しさん@ピンキー:2007/08/16(木) 03:05:48 ID:Jd35TwhS
「NTRワンパ」職人じゃなく「(空気読まず荒れてた事もある)NTR」「(意味無し即堕ち)ワンパ」職人って言ったつもり
841名無しさん@ピンキー:2007/08/16(木) 03:11:35 ID:qE3YYvOg
なんにでも好みがあるから仕方ないけど
住み分けできないのが問題だな

まぁたった一人だから住み分けも糞もないけど
嫌なら見ないしね
842名無しさん@ピンキー:2007/08/16(木) 03:38:43 ID:OhbMUNzS
緑の看護婦がーーー…


…嫌い。
アニメ版で壊れた笑声を上げていた時の水月が好きだ。
843名無しさん@ピンキー:2007/08/16(木) 03:45:10 ID:BTFRcusQ
>>838
話がすり替わってるぞ
今回問題なのは、自分は作品投下してるくせにわざわざ他の作者さんを非難中傷(上のレスの様に本当に気分が悪くなる程)してた奴がROCOだったって話だ
844ROCO ◆VpKHzOu04Y :2007/08/16(木) 04:08:54 ID:u6oGn10a
信じてもらえるかどうかわかりませんが、とりあえずこっちの同IDの書き込みは自分の書き込みじゃないです。
その時間は、すかいらーくで遅めの昼を食べてましたし。
845名無しさん@ピンキー:2007/08/16(木) 04:18:19 ID:gH+/jaFE
久しぶりに開いてみたらお前らはまだ荒らしがどうとかやってんのか
846名無しさん@ピンキー:2007/08/16(木) 04:49:05 ID:cupMLdBO
書き込んだの俺なのに、冤罪着せられてROCOかわいそ。
847名無しさん@ピンキー:2007/08/16(木) 05:49:36 ID:fACYdk6k
あのさ、余所から来たアホは少し黙ってくれないか。
俺はSSが読みたくて来たのよ。お前のクソの役にも立たない文を読みに来た訳じゃないわけ。

ルールなんぞ投下した神が決めればいい。乞食が決める事じゃない。それともお前は何かこのスレに貢献したのか?
してから来いビッチ。
848名無しさん@ピンキー:2007/08/16(木) 06:22:48 ID:+bJl5XsW
もうそろそろつまらない争いはやめろ
埋めネタが書けないじゃないか
849名無しさん@ピンキー:2007/08/16(木) 07:37:08 ID:ys+I9SSQ
俺は優れているがゆったりペースな作品よりも最低限読めるレベルで投稿テンポのいい作品の方がいい
べつに遅いのを非難するわけではなくただサクサク進めてくれる作者はありがたいなと思うだけ
850名無しさん@ピンキー:2007/08/16(木) 10:29:56 ID:7Dymavv5
>>844
見苦しい嘘にワロタwwww
おい、ニュース速報にお前の非難や抗議をするスレを立ててもいいんだぞ
これ以上、草の作者を侮辱するようなことや嫉妬スレを荒らす行為をやれば
言葉様の制裁を受けることになるんじゃないのか?




な ん て  う  ら  や  ま  し  い  ! !


窓を開けると言葉様が笑っていたり、彼女を連れてデートをしていると
彼女の頚動脈が勢いよく噴出するなどの素晴らしいフラグだなw
851名無しさん@ピンキー:2007/08/16(木) 10:32:30 ID:qLHXH4s/
いい加減黙ってろアホ
852名無しさん@ピンキー:2007/08/16(木) 10:54:52 ID:V/rLELjA
ROCO 必死すぎww
853名無しさん@ピンキー:2007/08/16(木) 11:05:37 ID:0d3alKhr
つーか普通にID被る事はあるよ。
まあROCOがそうだったのかはわからんが。
854名無しさん@ピンキー:2007/08/16(木) 11:56:43 ID:s8F5OBHH
855名無しさん@ピンキー:2007/08/16(木) 14:30:59 ID:mATr0NV6
SS読みたいなぁ…
856名無しさん@ピンキー:2007/08/16(木) 16:11:44 ID:v9XGUSBo
これが大人のやることか?
857埋めネタ:2007/08/16(木) 21:08:10 ID:nLzBfGhO
ホントに…まとめサイトに行っちゃうの?
確かにあの女の方がたくさんSSがあるかもしれないよ?
でも、あの子に書き込めるのは、阿修羅氏だけなのよ。あなたのものじゃない。
私なら…いつだって書き込める!dat落ちするまで…ずっと、ずーっと、ずーーっとあなたの話を聞いてあげられる。
……私のなにがいけなかったの?荒らしが沸いたから?
ううん、それとも容量が足りなくなってきたから?
……許さないよ。まとめサイトにも、皆殺しにも、絶対にあなたを渡すもんか!
……ちょっと、出かけてくるよ。
ま っ て て ね
ほ か の す れ に い っ ち ゃ い や だ よ ?
858名無しさん@ピンキー:2007/08/16(木) 21:10:40 ID:nLzBfGhO
sage忘れるなんて…私もまだまだね。
待っててね?あなたにふさわしいスレになるまで
859緑猫 ◆gPbPvQ478E :2007/08/16(木) 21:11:23 ID:oJu/YoIB
埋めネタ投下します
久しぶりに、あの人が活躍します
860怪物姉乱戦記(前編) ◆gPbPvQ478E :2007/08/16(木) 21:12:46 ID:oJu/YoIB

 季節は初秋。
 帝都は四季の変化がそれほど激しくない地域なので、秋になったという実感は湧きにくい。
 しかし、辺境の方では季節に応じた特産品が出てくるので、流通の中央となる帝都にも、秋らしいものが出そろい始める。
 
 特に食材は、夏の間に栄養を溜め込んだ野菜が、店頭にたくさん並んでいる。
 料理好きの者にとっては、腕の奮い甲斐のある季節だった。
 心なしか商店通りを歩く人々も、どこか浮ついた気分が広がっていた。
 
 セツノ・ヒトヒラも、そんな一人である。
 
「――あ、いいのが入ってるなあ。今晩のメインはこれにしよっかな」
 るんるん気分で食材を見て回る。
 その足取りは軽く、今にもスキップを踏んでしまいそうなくらい。
 
 それに対し、ユメカ・ヒトヒラは論外だった。
 
「……えー。まだ買うのー? ちかれたー。帰りたいー。ユウキさんとはぐはぐしたいー」
 両手には多数の紙袋。中には食材が一杯で、いつ積載量オーバーしてもおかしくない。
 その足取りは重く、表情はだれにだれきっていた。
 
「うっさい馬鹿姉。日頃全く家事しないんだから、荷物持ちくらいは手伝ってよね」
「えー。それを言うならユウキさんはー?」
「お、お兄さんはいいの! お仕事してるし、手伝ってくれようとするし」
「仕事なら私たちだってしてるじゃない。しかもユウキさんより高給」
「……私たちのは後ろ暗いお金じゃない――っと、これもいいなあ。あーでもさっきのも捨てがたいし……むむむ」
「もー。材料なんか何だっていいじゃない。セっちゃんなら美味しく料理できるんだからあ」
「黙れ」
 
 姉の文句を一蹴する。
 料理に関してはちょっぴりこだわりのあるセツノだった。
 
 と。
 
「――お。ねえねえセっちゃん」
 
 料理に関しては全くこだわりのないユメカが、何かを発見したのかセツノの裾をくいくいと引っ張る。
 
「なに? 可愛い猫でも見つけたの?」
「猫じゃなくて、ユウキさんがあそこに」
「っ! ……ん。は、話しかけたい気持ちはわかるけど、多分お仕事中だろうから、余計なちょっかい禁止」
「あ……喫茶店に入ってった」
「…………ち、ちょっと休憩しよっか。姉さんも疲れたでしょ?」
「やったー」


861怪物姉乱戦記(前編) ◆gPbPvQ478E :2007/08/16(木) 21:13:35 ID:oJu/YoIB

 帝都の喫茶店は、ただ茶を飲んで休憩するだけのところから、社交場の役割を果たすところまである。
 ユウキが入っていった喫茶店は、上の下クラスの、高給といって差し支えない店だった。
 単に休むだけなら、もっと別の店を選ぶだろう。
 ということは――
 
 
「……ねえ、セっちゃん。あれって」
「……うん。とりあえず、私たちも離れた席に座ろっか」
 
 
 
 
 
「すみません、お待たせしました」
「ああ、待った待った。ここお前の奢りな」
「……あの、待ち合わせ時間まで、まだ余裕ありますよね?」
「アタシは待ったぞ。それで十分だろ」
「……理不尽だ……」
 
 項垂れながらも、ユウキは席に着いた。
 学院生の頃から、目の前の人物はこんな感じだったので、今更どうこう言う気はない。
 とはいえ、なにかと難癖付けてこちらの奢りにするのであれば、もう少しランクの低い店にして欲しかったりする。
 
「いやー、しっかし久しぶりだなユウキ。元気してたか?」
「おかげさまで何とか。……アマツ先輩も変わりないみたいですね」
「ばっかお前、アタシの方は色々大変なんだぞ。
 就任してすぐなのに遠征任されるし。しかも戦闘あったし。マジ疲れたわ」
「ああ、噂は聞いています。任務お疲れ様でした。しばらく帝都に滞在されるんですか?」
「んにゃ。明日には向こうに戻らなくちゃいけない。
 色々面倒な手続きがあるのよ――っと、注文がまだだったな」
 
 ユウキの先輩にして元学院執行部長、アマツ・コミナトは、指を鳴らしてウェイターを呼びつけた。
 相変わらず偉そうな仕草が似合ってるなあ、という感想を、ユウキは心の裡に留め置いた。
 見た目こそ、流麗な金髪と整ったプロポーションが周囲の男の視線を集めるが、
 その実中身は、誰よりも男らしいという、非常に希有な人物だった。
 普段は騎士という立場上、騎士服や甲冑を身に纏っているのだが、
 今はオフだからか、落ち着いた女性らしい、シックなドレス調の服装をしていた。
 
「ほれ、ここはお前の奢りだ。好きなの頼め」
「……はい。えっと、紅茶をひとつ」
「んじゃアタシはマルクス産の珈琲と、サーモンチーズのサンドイッチ、クリームスープをスティック付きで。
 あとはそうだな……子羊のローストとアップルパイを2つずつ。こんなもんかな」
 
 さようなら僕の財布の中身。
 と、ユウキがぼんやり儚んでいたところで。
 
「ほら、お前も好きなもん頼め。コイツの奢りだから何も遠慮しなくていいんだぞ?」
 
 と、アマツはユウキではない人物に、そう声を掛けた。


862怪物姉乱戦記(前編) ◆gPbPvQ478E :2007/08/16(木) 21:14:32 ID:oJu/YoIB

「…………」
 
 第一印象は、白い、の一言に尽きる。
 そんな女の子だった。
 輝くような白銀の長髪。
 飾り気のない、薄い色彩の長袖シャツと膝丈スカート。
 年の頃は10代前半か。育ちの良さそうな上品な姿勢で、ちょこんと椅子に座っている。
 
「ほら、何でもいいから。腹減ってるだろ。
 好きなの指させ。この字体は読めるだろ?」
「あの……アマツ先輩? その子……」
「ん? ああ、こいつ、喋れないんだ。実はコイツのことでお前を呼び出したんだが――」
 
 アマツは少女に選ばせるのを諦め、適当に、年頃の女の子が好きそうな甘味をいくつか注文した。
(……おや?)
 ふと、ユウキは気付いた。
 アマツが少女の注文を決めた瞬間。
 ほんの少し。決してアマツに悟られないように。
 少女が、残念そうな表情を、していた。
 
 
 注文したメニューが届き、まずか互いの近況報告を済ませてから。
 アマツは、改めて本題に入ろうとした。
 が、その前に。
 
「すみません、その前に注文させて下さい」
 言いながら、下手くそな指鳴らしでウェイターを呼びつける。
「? 別にお前の奢りだから構わないけど」
「えっと、子羊のローストと、ウィンナーの盛り合わせ、あとは渋めの紅茶を適当に見繕って下さい」
「うん? 珍しいな。お前がこんな時間にそんな重いもの頼むなんて」
「えっと、まあそれはそれとして、お話をどうぞ」
「ん、ああ。それで、さっきも言ったが、今日の用件はコイツについてなんだ」
 
 アマツはそう言って、傍らの少女を手で示す。
 
「コイツ――名前は、ホワイトっていうんだけどな。ホワイト・ラビット。
 アタシの遠縁の親戚なんだが、ちと困ってる状況にあってだな」
「? はあ……」
 
 剛胆な先輩にしては、妙に遠回しな話の進め方だな、とユウキは微かに首を傾げた。
 ユウキのよく知るアマツだったら、余計な前情報なんてすっ飛ばして、単刀直入に結論から言い始めるのだが。
 
「さっきも言ったが、こいつ、ちと訳ありで、しかも喋ることができないんだ。
 そんな感じだから、ここんとこ、誰とも打ち解けることができなくてだな。
 最近じゃ私しか構う相手がいないって始末なわけだ。で、えっと……」
 
 もごもごと、何か言おうとしては止める、を繰り返すアマツ。
 こりゃあ本格的におかしいぞ、とユウキが思い始めたところで。
 
「――お待たせしました。こちら、ご注文のお品になります」
 
 ユウキの追加注文したメニューが、届いた。


863怪物姉乱戦記(前編) ◆gPbPvQ478E :2007/08/16(木) 21:15:18 ID:oJu/YoIB

「お、来たみたいだな。話の前に、先にそれ食ってもいいぞ?」
「――いえ、すみません、これらはそちらの女の子に」
 
 ユウキはそう言って、少女の方を示した。
 
「かしこまりました」
 
 言われたとおり、少女の前に料理を置くウェイター。
 アマツも少女も、不思議そうな顔をしていた。
 もっとも。
 アマツの方は“どうしてコイツに?”という、ユウキの行動を理解できていない表情だったが、
 
「どうぞ。こっちも食べたかったんでしょ?」
 ユウキはそう言い、にっこりと微笑んで見せた。
 
 少女は、“どうしてわかったの?”という、心底驚いたような表情を、していた。
 しばらくユウキが笑顔を向けていると、はっとしたように我に返り、
 ユウキに対し、はにかむような笑顔を見せた
 
 
 
 美味しそうに肉料理を食べる少女を横目で見ながら。
 アマツは恐る恐る、ユウキに向かって訊ねてきた。
 
「……どうして、コイツが肉食いたいって、わかった?」
「いえ、何となくですよ。
 それより――この子が周囲と上手く打ち解けられないって話ですけど、大体察しは付きましたよ」
「へ?」
「この子、凄く頭が良いですよね。会話は出来なくても、周囲の状況をよく見ています。
 だけど、自分なりに状況は整理できても、他の人と言葉を交わすことができないから、
 周りは周りで、勝手にこの子の状態を決めつけて、色々押しつけることになっちゃってるんじゃないですかね。
 この子にとって、それは大きな重圧になって、周りに積極的になれなくなってるんじゃないでしょうか」
 
 自分が思ったこととは別のことを、周りから勝手に決めつけられるのだ。
 それを否定しようにも、言葉は出ず、常にコミュニケーションは一方通行。
 これで社交的になれと言う方が間違っている。
 
「だからまずは、近くの人が、この子の話をじっくり聞いてあげることが必要なんだと思います。
 別に言葉を話せなくても、仕草や視線を、時間を掛けてじっくり見てあげればいいんですよ。
 ――っと、別に君が悪いって話をしてる訳じゃないですよ。
 それより、ゆっくり味わって食べて下さいね。あ、口の周り、汚れちゃってますよ。ほら」
 
 食事の手を止め、こちらの様子を伺っていた少女に、
 ユウキは声を掛け、身を乗り出して口の周りをハンカチで拭ってやった。
 少女は嫌がる素振りもなく、目を細めてそれを受け入れていた。
 
 
「……ふむ」
 
 それを見て。
 アマツは何やら、ひとり頷いていた。


864怪物姉乱戦記(前編) ◆gPbPvQ478E :2007/08/16(木) 21:16:09 ID:oJu/YoIB

「しかしアレだな。お前は歩く託児所か。このロリコンめ」
「褒めてませんよね。というか非道いですね」
「まあそれはともかく、これなら大丈夫そうだな」
「?」
 
 アマツは隣の白い頭をぽんぽんと撫でながら、
 
 
「コイツ、住むところがないんだ。
 できれば中央に置いておきたいんだが、私は明日からまた出なくちゃいけない。
 というわけで、ユウキ。
 ――お前が、コイツを預かってくれ」
 
 
 そう、言った。
 
 
「…………はい?」
「お前、今は省庁の個別寮に入ってるんだろ。
 一人二人増えても問題ない広さだから大丈夫だろ?」
「い、いえ、その、いきなりそんなこと言われても」
 
 だいたい、既に二人居候してるし――とは言えないが。
 
「生活費の心配はしなくていいぞ。ちゃんとそれなりの額を払うから。
 家事とかの手間も、気にするな。コイツ、物覚えが凄く良いから、教えれば一通りできるようになると思うし」
「と、とは言ってもですね、勝手に僕たちの都合で決めるのは良くないというか」
「なあホワイト、お前はコイツ――ユウキのところで住むの、嫌か?」
 
 アマツの問いかけに。
 少女は、ふるふる、と首を横に振った。
 
「ま、そりゃそうだよな。今の寺院に押し込めてられるよりは数百倍マシだろ。
 というわけで決まりな、ユウキ」
「ちょ、そんな一方的に――」
 
 ユウキは抗議しようと声を荒立てて、
 
 少女の表情を見て、ぴたり、と止まってしまった。
 
 
 少女は。
 ――私、行っちゃダメなの?
 と、目で訴えかけていた。
 
 今住んでいるところがそんなに嫌なところなのか。
 それとも自分のことをそれなりに気に入ってくれたのか。
 わからないが、少女のそんな“声”を聞いてしまっては。
 ユウキが断ることは、できなかった。


865怪物姉乱戦記(前編) ◆gPbPvQ478E :2007/08/16(木) 21:16:55 ID:oJu/YoIB

 それからは、話の流れは激流の如き速さだった。
 あれよあれよという間に、少女を預かる上での手続きについて確認させられ、
 気付けばアマツから纏まった額の生活費を渡されて、
 引っ越しに当たって、少女の荷物がまとめて置かれている場所を教えられ、
 最後に、きっちりと店の伝票を押しつけられていた。
 
 
(……ユメカさんとセツノちゃんに、何て説明しよう……)
 
 
 アマツは、既に店の外。
 向かいには、美味しそうに肉料理を食べている白い少女。
 
 ユウキは、誰にもばれぬように。
 こっそりと、溜息を、吐いた。
 
 
 
 
 
「――あ、お兄さん、溜息吐いた」
「お人好しだもんね――じゃなくて! これは一大事よセっちゃん!」
 
「え? 何言ってんの姉さん?」
「私とユウキさんの愛の巣(+お邪魔虫)に、刺客が送り込まれるってことじゃない!
 どうしてそんなにのほほんとしてられるの!?」
 
 憤慨するユメカだが、セツノは落ち着いた表情で、
 
「誰がお邪魔虫よ誰が。
 ……っていうか、ユウキさんの部屋なんだから、私たちが口出せることじゃないし」
 
 余裕たっぷりに、そう言った。
 それに対し、ユメカは納得がいかない模様。
 ――と、何か思い当たったのか、はっとした顔になる。
 
「そうか……!
 セっちゃんには家事というアドバンテージがあるけど、私には何も無い……!」
「姉さんには(胸焼けしそうな)豊満な体があるじゃない」
「あ、脂っこくなんてないもん!
 ……というかセっちゃん、最近たくましくなってない?」
「気のせい気のせい。
 しっかし、あんな可愛い子と一緒に住むことになるのかあ。
 楽しみだなあ。物覚えがいいって言ってたから、料理も教え甲斐がありそうだなあ」
「ああっ!? セっちゃんがお姉さんモードに!
 そういえばイナヴァ村でも、小さい子の面倒をよく見てたよね……!
 くうっ! たとえセっちゃんが裏切っても、私は負けないからね!」
「あーはいはい。がんばってー」
 
「ふんだ! こうなったら私だけでも戦い抜いてやるんだから!
 ――あんな小さな女の子に、ユウキさんは渡さないもん!
 ユウキさんをロリコン道に堕とそうとする小悪魔は、私がこの手で成敗してやるんだから!」


866緑猫 ◆gPbPvQ478E :2007/08/16(木) 21:17:41 ID:oJu/YoIB
続くかもしれません。
ついカッとなって書きました。今は反省してます。
まあそういうわけで本編のキャラを二人出してみたり。
かなり久しぶりでしたが、ユメカは何度書いても楽しいです。
867名無しさん@ピンキー:2007/08/16(木) 21:18:59 ID:ZIE3akHk
おお緑ネコ、あんたも今回は随分筆が早いな。
書き溜めてたのか、それとも夏休みきゃ?どちらにしろうれしいよ。GJ。
868名無しさん@ピンキー
テンプレ

このスレでは、24時間以内の連続作品投稿は禁止です。
具体的には、前回作品の最終レスから24時間以内の投下を禁止しています。1〜2レス程度の小ネタは、作品には含まれません。
自分一人のスレではありません。皆が気持ちよく使えるよう、他の作者さん、読者さんへの配慮を忘れないようにしましょう。」


↑ルール違反なのでは?