>>658 わりとその辺は個人事情が絡むからねえ……。みんなの要望に応えるのは難しかったり。
心情的には
>>658に同意。
ノートのちっこい上に無駄に高精細で目がチカチカするモニターを使う身としては、
台詞の行上下を一行ずつ開けてくれるととても読みやすいうえに、目が疲れない。
でも、読む環境は人それぞれだからね。
重々承知してるつもりなんだけど、夢日記氏とかのだと空けてあって読みやすいんだよ。
職人の皆様方、どうかその辺を少しだけご検討していただきたく存じます、はい。
ブラウザの設定変えればいいだけじゃん
>>660 しかし、例えば獅子国みたいに会話シーンが全体の半分越えるSSでそれやったら、逆に激しく冗長になる気がするわけで……
夢日記も冗長と言えば冗長なんだよなぁ。
上手くまとめれば半分以下で同じ内容を表現出来ると思う。
だがそれをやると無味乾燥になる罠。
個人的には、書き手の個性ってのを重視したい。
夢日記は今のままで十分読んでて面白いし。
全員が同じ文体だとオリジナリティがなくなってつまらんしなwww
みんな違ってみんないい
>>666 なんという拘束具www
妙にレトロくさいギミックがwktkを誘うw
ウサギは数の力で押し倒す
ネコは魔法で操る
カモシカはギミックを利用する
イヌはやりたくなる雰囲気を作り出す
ヘビはまず相手に襲わせてから十倍返し
……そんなイメージがあるw
671 :
獅子国外伝:2007/10/22(月) 21:35:39 ID:bKKZpDAk
672 :
名無しさん@ピンキー:2007/10/23(火) 10:59:31 ID:qqKzObZy
携帯で読むおいらの場合は行間が空いてる方が読み易いっす。
ただ、なんか途中で読み込みが止まったけど。
ミコト、良くなると良いね。
>>671 携帯読みだが、詰めたほうが読みやすいかな。
ミコトから襲えば解決すると理解した。
675 :
名無しさん@ピンキー:2007/10/23(火) 16:37:36 ID:xEshSVat
>>673 きっと高級車くらいのヤツだからモニターか高所得しか買えないんだろうな。
性的な意味で健康大国アトマーシャらから、地味にマッサージ機能とか温熱機能とか付加してそう。
使用者はいろんな意味でトロトロになるわけだ。
しかし、このスレで投下後二日たってもGJどころか乙さえつかないSSも珍しいなw
寸止めだからじゃないかと予測。
あ、おいらは行間なしのほうがいいです。
「乙」「GJ」 がないだけで、感想レスはちゃんとついてるように見えるのは
俺の見間違いかな?
乙とかGJとかは社交辞令みたいな部分もあるからな
キチンと感想が付くんだから、それだけでも有難いと思わなきゃ
まったくスルーされたりする事も他所のスレじゃ、よくあることだし
自分は、ここに投下して、少なくとも誰かが読んでくれるというだけで満足。
GJや乙とか応援の言葉があったらもっと嬉しいけど、妄想をぶちまけられる
だけでもありがたい。
避難所も絵板も停滞気味だし、多分アクティブな住人が他に出払ってる次期なんだろう。
「※スレの残りが40KBを切ったみたいなので、投下する人はお気をつけて。」
って書いてあるったからなのかと思ってた。
虎の威の続きが気になってしょうがないんだ・・・
次スレたてちまう?
まだ早いだろ。
>>684 容量、容量。
このスレ的にはあと25kbってかなり微妙なラインだ
最近、直接投下が減ってるからなぁ。
前ほど25Kが少なくなくなってる気がする。
ああ、それにしても万獣が怖い。
たしかに万獣怖いな。
ほんとコワイ
読んだらきっと怖さのあまり徹夜するくらい怖いな
ああ、俺も怖いぜエネマとか拘束とか同性愛とか
されたくないし見たくもない
これからそんな展開があると思うと面白くても見るのを躊躇しちゃうぜ
そうだな
激しく悩んだあげく結局右クリックを押してしまうだろう自分も怖い
691 :
名無しさん@ピンキー:2007/10/26(金) 20:41:07 ID:NOein6BF
おまいらうまいこと言ったつもりかww
個人的にはティンダロス(ry
そして書き手はヲチャ(のスルー)が怖い。
693 :
とらひと:2007/10/26(金) 22:06:18 ID:BwYzHaQa
海を見た。
船に乗った。
砂浜で遊んだ。
魚を食べた。
沢山の町を巡り、いくつかの街を巡り、村や集落の小さな宿屋で夜を明かし、時には道端で
野宿した。
アカブに色んな話を聞いた。
喧嘩のような雰囲気になったりもした。
両親や友達が恋しくなった。アカブにしがみ付いてめそめそ泣いた。
この世界にも音楽がある事を知った。アカブは意外と歌が上手い。
酒場で踊りを教わった。テーブルの上に躍り上がって、珍妙な楽器に合わせて足を踏み鳴ら
して踊るのだ。発情期なのに発情していない女は貴重なのだと、一晩中踊りに付き合わされて
筋肉痛で次の日は立ち上がれなかった。
月が二つある夜空が好きになった。獣人の表情が容易に読み取れるようになった。旅が好き
になった。もっと沢山の街を見たいと思った。いろんな国を見たいと思った。
そして、発情期が終った。
両手で足りない量の土産と、一日で語りつくせない土産話をぎゅうぎゅうに詰め込んで、思
い出を語り合いながら馬車に揺られて帰路に付く。
アカブは大丈夫だと言い張ったが、二週間の間にもう一度だけ、アカブのものをしゃぶった。
気持ち良さそうなアカブを見るのは嫌いでは無いと思う。口の中に出される代わりに思い切
り顔にかけられたが、慌てて綺麗に拭ってくれたアカブを前に笑いを堪える事ができなかった。
口だけで――というのが少し申し訳ない気がしたが、どうしてもそこから先に踏み出す勇気
は湧かなかった。
「来年の発情期もさ」
帰りの馬車に揺られながら、ふと千宏がアカブを見る。
「色んなとこに連れてってくれる? 今度はもっとちゃんと準備して、野宿しても体が痛くな
らないようにしてさ」
そうだなぁ、とアカブが勿体ぶって目を閉じた。
「俺に女が出来なかったらな」
にやりと笑うアカブにぱちぱちと目を瞬き、千宏はうーんとわざとらしく考え込んだ。
「それまでに適当な相手で処女喪失してアカブの恋人に収まれば解決か」
びしりとアカブが凍りつく。
怒涛のように押し寄せてくる小言の嵐を舌を出してやり過ごし、千宏は遠くに見慣れた川を
見つけて窓から身を乗り出した。
***
馬車に山と積まれた通常ならば考えられない量の土産を見て、パルマとバラムは何があったのかと驚愕し、エクカフに行ったんじゃないのかと主にアカブに詰め寄った。
海に行ったんだ、と短く答え、アカブは飄々とした様子で土産を家に運び込む。
千宏もそれを手伝って箱を一つ抱えると、バラムにひょいと取り上げられた。
ここは俺がやるから先に中で休んでいろと促され、千宏はありがたく、パルマをまとわりつかせながら先を歩いているアカブを追いかけた。
重たい扉を軽々と開き、アカブが千宏を待って立ち止まる。
その扉の隙間をするりとすり抜けて、千宏は久々の我が家に両手を突き上げてのびのびと背
を反らし、帰ってきたーと半ば叫ぶように声を上げた。
「もう! 二人だけで旅行するなんてひどいよ! ずるい! ねぇ聞いてよアカブ。バラムっ
たらひどいんだから! 折角の発情期だっていうのにさ、ずーっとチヒロの心配してるの!
そりゃ私だってすごーく心配してたけど、だけどさ、礼儀を欠くと思うのよね」
「そうか?」
「そうだよ!」
「そうかもなぁ」
明らかに右から左へ受け流しているアカブの様子に、パルマはそれでも構わないのか不平不
満やバラムに対する文句を言い募る。
土産物を居間に運ぶ間にすっかり文句を言い終えると、今度は箱や袋の中身を漁ってきゃあ
きゃあとはしゃぎながら、土産話を話して聞かせろと落ち着きなくせっついた。
どっかとソファに腰を下ろしたアカブの横に陣取って、ぱたぱたと尻尾の先を振っている。
アカブは家族の人気者だ。千宏は密かにお母さんだと思っている。
694 :
とらひと:2007/10/26(金) 22:07:09 ID:BwYzHaQa
遅れて現われたバラムがアカブに酒瓶を投げつけて、千宏には甘い果物ジュースをよこして
長旅を労ってくれた。
今回の発情期で、千宏には一つ趣味が出来た。
ローブおよびフードつきケープの収集である。
今までワンセットしか持っていなかったので単なる必需品として見ていたが、旅の最中にそ
の必需品を致命的に汚してしまい、新しい物を買わざるを得なくなったのが始まりだった。
外出できない千宏の代わりにアカブが買ってきてくれたのは、深まる秋に備えてやや厚手の
生地が使われている黒くて柔らかな一揃いのローブとケープだった。
ローブの裾とフードの側頭部に白糸で可愛らしい花の刺繍が施してあり、デザインとは無縁
の味気ないローブしか知らなかった千宏は感動して大はしゃぎした。
そしてアカブにねだって連れて行ってもらった衣料品店で、色や柄だけでなく機能や形も多
種多様にある事を知り、千宏の乙女心に火がついた。
パルマが千宏のために買ってくるアクセサリーなどよりも、恐らく今後外出時は永遠に着続
けるそれだからこそ、そんなにも興味と愛着をそそられたのだろう。
顔すら半分隠してしまうような装束に似合うも糞もないだろうが、アカブはそれでもはしゃ
ぐ千宏を笑ったりはしなかった。
その衣料品店で、ふと目にとまった物がある。
黒地に白で細やかな刺繍の施してある、繊細な印象を与える細身のリボンだ。
それを手に取ってみて、千宏はバラムの長い銀髪を思い出した。
長い髪をいつも鬱陶しそうにしていて、切ればいいのに、と何度も思った。実際に切らない
のかと尋ねた事もある。
結果は否。切るつもりは皆無らしい。
鬱陶しくないのか、ポリシーなのかと重ねて聞くと、バラムはいかにも複雑そうな表情を浮
かべ、鬱陶しいが、長い方が色々と都合がいいのだと苦笑いした。
その曖昧な返答に千宏は首を傾げたが、とにかく切りたいが切ってはいけないという事は理
解できた。それならば――と思うのは、極自然な事だろう。
縛ればいいのだ。しかし市場で見かけるのは女性向けの可愛らしいヘアゴムや、きらびやか
なスパンコールがキラキラと輝く豪奢で派手なリボンばかりで、男のバラムが身に着けても差
し支えない地味なものを見つける事は出来なかった。
トラは基本的に派手好きなのだと知ったのは、割と最近になっての事である。
とにかくこのリボンとの出会いは、アカブの毛並みを整えるのに奮闘した時と同様に、千宏
に義務感めいた情熱を湧きあがらせた。
即断で二メートル程度購入し、それは今、千宏の手の中にある。
土産話を肴に三人が酒を酌み交わす中、千宏はちびちびとジュースを舐めながらバラムの長
い銀髪を観察した。
パルマもそうだが、なかなか手ごわそうなクセ毛である。なにせとにかく長いので、三つ編
み一つ編むのに一時間はかかりそうだ。
三つ編み――? 一瞬、長い銀髪をきちんと三つ編みにしたバラムを想像してしまい、千宏
は危うく思い切り吹き出しそうになった。
屈強な大男に三つ編みとは――長髪が似合っている時点で奇跡なのだ。そこに三つ編みを重
ねようなどと、無謀この上ない試みである。
第一、三つ編みを解いた時にどうなるか――ソバージュヘアのバラムなど悪夢以外の何物でもない。
あらぬ物を想像して一人ぞくぞくと肩を抱き、千宏は恐るべきイメージを振り払おうとする
ようにぐいぐいと残りのジュースを飲み干した。
半ば引きずられるようにしてパルマと一緒に風呂に入り、二人きりの空間でパルマが興味を
示したのは、千宏がアカブと“やった”のかどうかだった。
肩まで湯船につかっていた千宏は危うく溺れそうになる程狼狽えて、やるわけが無いだろう
と言い切った。
「大体そんな、か、家族の間でそんな事はだねぇ……しないでしょ普通。しないよ」
平静を装ってタオルで汗を拭いながら千宏が答えると、パルマは不満げな声を上げて唇を尖
らせた。
「家族かどうかなんて関係ないよ! 二週間も二人っきりだったのに、世の中発情期だったの
に、アカブってばなーんにもしなかったの?」
「し……しなかったよ」
実際、何かしたのは千宏の方であるから嘘ではない。
パルマは納得できないと言うようにしつこく食い下がり、だってだってと繰り返した。
695 :
とらひと:2007/10/26(金) 22:07:48 ID:BwYzHaQa
「だってチヒロはこんなに可愛いのに! なのになんにもしないなんて絶対おかしい! 男と
して礼儀を欠く行為だよ! 私が男だったら絶対押し倒してるもの!」
パルマが男でなくて本当に良かったとしみじみ思う。
しかし千宏はもう、パルマの言葉が理解できる程度にはこの世界に馴染んでいた。
発情期に二週間も町々を渡り歩いたのだ。フリーで好みの女がいたら、相手が発情していよ
うといなかろうととりあえず声を掛けるのが常識らしいということは知っている。
「チヒロだって、私の事好きでしょ?」
ふと、不安そうにパルマが聞く。
なんだか妖しい響きに聞こえるな、と自覚しながら、しかし千宏は頷いた。
「アカブのことも、バラムのことも好きでしょ? 私たちもチヒロが好きだよ。それにチヒロ
はさ、なんて言ってもヒトなんだもん。オキテだとかシキタリだとかハンショクだとか、そう
いう難しい事考えなくていいんだよ? 好きな人と好きなだけ気持ちいいことできるんだよ」
じりじりとにじり寄り、パルマがぎゅっと千宏の両手を掴む。
白くて柔らかそうな体に、沢山の赤い痕が散っているのを今更になって気が付いた。
目のやり場に困って、おろおろと視線を反らす。
「痛いのが怖いならさ、バラムに言ってみなよ! バラムはマダラだから、家族の中でも一番
魔法が得意なんだ。絶対に気持ちよくしてくれるよ。絶対!」
「あ、いや、でも……だ、だ、だけど……」
「今夜部屋で待ってて! 私がバラムに言っておいてあげる! だってね? いつかはきっと、
チヒロだって女の子だから、誰かとする事になるでしょ? でも、ヒトは初めてする時痛いん
だよね? いざ好きな人と! って時に気持ちよくなれないなんて、興ざめじゃない。だから
さ、ね? いい考えだよね」
いい考え――いい考えだ。千宏だってずっと考えていた事である。
どこか路地裏で、見知らぬ男に強姦されるよりも――とバラムは言った。
それを思えば、バラムかアカブに――パルマの言う事が本当なら、破瓜の痛みを伴わないよ
うバラムに処女を奪ってもらうのが一番だ。
だけど――でも――だけど――。
「今日は……つ、疲れてるから……」
あ、そうか、とパルマがぴくん、と尻尾を震わせる。
「私ったら興奮しちゃった。そうだよね。今日帰ってきたばっかだもんね」
じゃあ、一週間後くらいが妥当かなぁ、とパルマが思考を巡らせるのを眺めながら、千宏は
ぼんやりとアカブのことを考えていた。
しゃぶったものの大きさは、とても自分の体に収まるとは思えない。
初めての相手――という概念が、あまり存在しないトラ達である。処女を愛する誰かに捧げ
たいだとか、そんな考えも随分前に無くなった。
「……慣れないとなぁ」
ぽつりと、自然に言葉を零す。
その言葉に、パルマは盛大に頷いた。
「そうだよ! それでさ、チヒロがアカブの恋人になってあげればいいんだよ!」
口元まで湯船に沈み込み、ぶくぶくと息を吐くと、パルマが勢いよく湯船から飛び出した。
「子供はさ、チヒロの分も私が産んであげる。アカブの子供がいいって言うなら、そりゃあ誰
か他の人に頼まなきゃいけないけど、私とバラムの子供でもいいでしょ?」
ふるふると尻尾を振って尻尾を飛ばし、パルマが笑う。
あまりの気の早さに唖然とした。
「でも、チヒロの寿命って凄く短いんだよね……うーん。先にチヒロの子供作ったほうがいい
のかなぁ。でも、家長は長男ってシキタリだしなぁ……」
「ちょ、ちょちょ、ちょっとパルマ! まだ子供なんて、そんな、き、気が早いよ!」
一人湯船につかったまま、千宏は慌ててパルマの独り言を遮った。
「大体、アカブだって恋人が出来るかもしれないんだしさ。あたしはヒトで、世間的に見れば
ただのペットで、奴隷だよ?」
「そんなの関係ないよ。チヒロは私達の家族で、私たちはチヒロが好き。アカブは女性不審で
もう恋人なんてゴメンだって思ってるけど、チヒロの事は好きで好きでしょうがないんだもん」
ばさりと、パルマがかごの中のバスタオルを体にまきつける。
銀色の髪から滴り落ちる水滴は、それ自体も銀色に見えるのだな――と思った。こうして見
ると、パルマはとてつもない美人だ。
「それに、市場でもチヒロは頭のいい商人だって有名なんだ。だれもチヒロがヒトなんて知ら
ないし、思いもしないよ。フードの下の美貌を知ってるかって噂になってる。アカブがチヒロ
と結婚したって話を聞いたら、きっとみんな物凄く悔しがって祝福するよ」
696 :
とらひと:2007/10/26(金) 22:08:31 ID:BwYzHaQa
そういえば――と、ふと思う。
カブラ達がほぼ軒並み排除しているようだが、商談の折にプレゼントらしき物を渡される事
が何度かあった。
千宏はそれを“そでのした”として認識していたので全て拒否してきたが、そうか、あれに
はそういう意味があったのか。
それにしても美貌とは――神秘の美とはよく言ったものである。隠してあるとそれだけで、
それは尊い物になってしまうのだ。
「ま。ぜぇんぶチヒロしだいなんだけどね」
にんまりと、意味ありげにパルマが笑う。
あいつの言う事はよくわかんねぇ――と前にアカブが言っていたが、なる程確かによくわか
らない。
先に上がるね、とのこしてパルマが浴室を去ったあとも、千宏は一人、のぼせそうになるまでぶくぶくと湯船で空気を吐き続けた。
***
旅行から帰った翌日に市場に出向く――と言うハードスケジュールに果敢にも挑戦したのに
は、それなりの理由がある。
疲れた体を引きずってバラムについて馬車に乗り込み、千宏はリボンをバラムに差し出すタ
イミングを今か今かと見計らっていた。
千宏としては、極普通に何気なく差し出すつもりだったのだが、なぜか何気なくバラムと二
人きりになる機会が今まで一度もなかったのだ。
別に二人きりでなくてもいいのだが、何せバラムは忙しい男である。
家族が揃う時も食事をしていたり仕事をしていたりアカブと込み入った話をしたりしている
ので、千宏が割ってはいる暇がない。
となれば、長時間二人きりで行動できるのは市場に向かう日くらいしかなく、千宏はやめて
おいた方がいいんじゃないかというアカブの制止も無視してバラムについていくことを決めた
のである。
それにしても――と、千宏はじっと窓の外を眺めてみるバラムを盗み見た。
初めて会ったときから、こんなに威圧感のある男だっただろうか。
初対面の時は何と言うか――もう少し馬鹿そうと言うか、とっつきやすい印象を覚えたのだ
が、今のバラムは家長然としていて気安さがない。
もし初めて会った時にバラムがこうだったならば、千宏も耳を引っ張るなどという暴挙には
でなかっただろう。
「――そのフード」
突然、バラムが会話の口火を切った。
ぱっと顔を上げると、ちらと投げられた視線に射竦められる。
「いいもんだな――おまえが選んだのか」
「あ、これはアカブが選んでくれたんだ。ほら、フード汚しちゃったって話したじゃん? あ
の時、とりあえず――ってアカブが買ってきたのがこれ」
黒の無地に、銀に近い白糸で施された花の刺繍。
可愛いでしょ、と自慢げに笑う千宏に、しかしバラムは笑い返さなかった。
そうだな、とだけ頷いてまた黙ってしまう。
「でさ。あのね。それでアカブに頼んで衣料品店に連れてってもらったんだけど、そこでいい
もの見つけたんだ」
しかしその沈黙を好機と見て、千宏はごそごそとフードの裏地に縫い付けられているポケッ
トをまさぐった。
いいもの? と聞き返したバラムの前に、適度な長さに切って両端を三角に処理した黒のリ
ボンをぴん、と張って見せる。
「ル・ガルの有名なブランドなんだってさ。イヌの国ってこういうシックなデザインが得意な
んだって。見て。この刺繍、すごく細かいんだ。でも全然派手じゃなくて、上品だと思わない?」
「あぁ……そうだな。悪くねぇんじゃねぇかな。おまえ、黒が好きなのか?」
今着てるのも黒だし――と言うバラムの言葉にきょとんとする。
黒は――確かに好きだ。第一黒は汚れが目立たないし、何より着こなしにあまり頭を悩ませ
る必要がない。
だけど、それでもこんなに白と黒に興味を示すようになったのは――。
「……あんた達のトラ柄。白と黒で綺麗だよね」
たぶんそうなんだろうと思うが、実際は元から好きだったのかもしれない。
697 :
とらひと:2007/10/26(金) 22:09:17 ID:BwYzHaQa
だけど今は、たぶんそういうことにしておいた方が都合がいい。
「あたし、バラムやパルマの肌の色と銀髪、すごく綺麗で、うらやましいなって思う。アカブ
の白と黒の毛並みも大好き。だからじゃないかな。たぶん」
想像もしていなかった――と言うような、アカブそっくりな間抜け顔。
そこに家長の威厳らしきものは無く、千宏は俄然勇気を出してリボンを持ったままバラムの
隣に移動した。
「これ、バラムに似合うだろうなって思って買ってきたんだ。後ろ向いて。縛ってあげる」
「お……れに?」
「あたりまえじゃん! あたしに縛る髪があるように見える? いつも髪、鬱陶しそうだった
からさ、切るのはダメでも縛る事くらいは出来るでしょ?」
フードの奥でにまっと笑う。
バラムはどう反応したらいいのかわからないのか、ただぼんやりと千宏を見下ろし、そして
言われるままに馬車の中で窮屈そうに背を向けた。
硬い髪質の、実に手ごわいくせっけだ。ブラシを持って来ればよかったな、と思いつつ、何
度も丁寧に手グシですく。
顔にかかる横髪を耳の上を通して後ろに流し、千宏はひとまとめにしたバラムの髪をくるく
るとリボンで束ね、ぎゅっと固く結んでから飾りに大きく蝶々結びを作って満足げに微笑んだ。
「嫌われてると思ってた」
「――え?」
ぽつりとバラムが零した言葉に、千宏は思わず聞き返した。
振り返ったバラムは、鬱陶しい髪が綺麗に束ねられていて――真面目な顔をしていればそれ
なりに知的に見える。
お、と思った。結構似合う。これで眼鏡などかけた日には、きっとそっち系のお姉様がたが
キャアキャア言うに違いない――と千宏は確信した。
「怯えられてるって思ってた」
千宏のどこかよこしまな思考をよそに、あくまで真面目にバラムが言う。
「なんだ」
に、と――それはもう幸せそうに。
「俺の思いすごしか」
笑う。
あぁ、あの日と同じだ、と思った。
ご主人様とはぐれたのか、と、安心させるように微笑んだ温和なバラムだ。
可愛い。耳が。尻尾が。たまらなく。
「――あのねバラム」
「うん?」
「ごめんね」
「――うん?」
先に謝って、千宏はぬっとバラムの両耳に手を伸ばした。
ぎゅっと、容赦なく掴んでぐいぐいと引っ張る。
「ば――馬鹿! よせ、耳を掴むな! よせってこら、やめ――!」
「だまらっしゃい! ええいけしからん耳め! こうしてくれる! こうしてくれる!」
狭い馬車の中でばたばたと暴れる。
くすぐったいのか痛いのかバラムは本気で抵抗したが、狭苦しい馬車の中である。
逃げ場などあるわけもなく、かといってまさかトラの力でヒトの千宏を殴るわけにもいかず、
思い切り振り払うわけにも行かず、じたばたともがきはすれどバラムはほぼ無抵抗である。
座席に倒れたバラムに圧し掛かってぐにぐにと耳を堪能し、ついでとばかりに尻尾に手を伸
ばすとがっとその腕を掴まれた。
「しまった! 迂闊!」
「てめぇはキツネかイノシシの剣士か! 大人しくしてろ!」
怒鳴られ、背後から抱きすくめる形で拘束される。
バラムの腕の中でぎゃあぎゃあと暴れるもその腕は一向に解ける様子も無く、千宏は観念し
てぐったりとバラムの胸に背を預けた。
さすがに、アカブの膝より座り心地は落ちるが、まあそれほど悪くない。
うん。よし。これならば大丈夫――と、千宏は満足して頷いた。
バラムが好きだ。怒ってさえいなければ、この男は怖くない。
「ねぇ、どう? 髪。邪魔じゃない?」
首を反らせて見上げると、きょとん、としてバラムは後ろで束ねた髪に手をやった。
それから首を捻って不思議そうに、
「ああ。いいなこれ」
と呟いた。
698 :
とらひと:2007/10/26(金) 22:09:52 ID:BwYzHaQa
その答えに満足し、フードの奥でにまにまと口元を緩める。
「またこんど、可愛いリボンやヘアゴム見つけてあげるね」
あ、バンダナって手もあるなぁ、と、一人うきうきと千宏がはしゃぐ。
「したら、俺もおまえに新しいローブ見繕ってやらねぇとな」
ぽんぽんと頭を撫でられ、千宏は「ほんとに? やった!」と手を叩いて喜んだ。
結局、市場に着くまでバラムは千宏を放してくれなかったが、馬車の座席よりも座り心地が
良かったので千宏は別に構わなかった。
市場に着くなり駆け寄ってきたブルックに久しぶり、と笑顔を向け、発情期は楽しめたかと
下品な冗談で困らせる。
その程度には、彼らとももう打ち解けていた。
どうやら三人組はそろって空振りだったらしく、それなりに楽しめはしたがパートナーは見
つからなかったらしい。
千宏から見れば三人とも、それなりに見られる容姿はしていると思うのだが――。
「カアシュは性格の問題だよね。押し弱そうだし」
バラムに店を預けて三人を共につけ、ふらふらと市場を巡りながら、千宏はチクチクとカア
シュをからかった。
「ち、違う! 俺はただ、り、理想が高いんだ! 相手を選びさえしなきゃ、俺だって……!」
「そりゃ、お前みてぇなチビから見りゃまともな女はどれも高嶺の花だろうよ」
言い訳がましい言葉を並べるカアシュに対し、カブラがげらげらと茶々をいれる。
なんだと、珍しくカアシュが言い返した。
「カブラだって、イシュに相手にされないからって意地張ってるんじゃねぇか! 好きな女が
いるのに告白できねぇでいるおまえより、相手がみつからねぇだけの俺のがずっとましだろ!
なぁチヒロ?」
「だ、だ、誰があんな万年発情女! てめぇどこに目ぇつけてんだ!」
喧嘩になりそうな二人を、まぁまぁとブルックがなだめる。
自称、温和な博愛主義者である。
「ブルックはどうなの? 好きな人でもいるの?」
姿勢を低くして唸りあう二人の間に入って双方をなだめていたブルックが、その言葉に驚い
たように目を瞬いた。
「俺は……色恋沙汰とか、よくわかんねぇや」
「よく言うぜ。いい女引っ掛けてはぽいぽい捨ててるくせによ」
とんだ博愛主義者様だよ、とカブラが舌を出して嫌味を言う。
その言葉にブルックが憤慨し、結局仲裁役まで喧嘩に混ざるのだから救いようの無い三人組である。
「仲いいねぇ」
と千宏が零すと、
「どこがだよ!」
と三人同時に言い返すところなど、完璧なコンビネーションである。
市場を一巡りして結局なんの収穫も無く、千宏は果物ジュースだけを二人分手に入れてバラ
ムのところに戻った。
髪を結わえたバラムはやはりと言うかイシュに大好評で、それを見て不機嫌そうなカブラの
様子にブルックとカアシュがニヤニヤ笑う。
そこに千宏も混ざってニヤニヤとやる物だから、とうとうカブラは怒ってどこかに行ってし
まった。
見た目によらず純真なんだ、とブルックが耳打ちする。
ふと気がつけば、三メートルの距離はいつの間にか無くなってしまっていたが、三人に対す
る恐怖心がほぼ消えた今となっては別にどうでもよかった。
馴染んだなぁ――と、バラムと並んで甘ったるいジュースを飲みながらしみじみ思う。
馴染まなければならなかったのは事実だ。
馴染もうと努力もした。
だがそれでも、こんなにも急速に、こんなにも穏やかにこの世界に馴染めたのは、やはり周
囲が千宏を受け入れてくれたからだと思う。
そう思うとしみじみと、誰も彼もにとにかく感謝がしたくなった。
だからとりあえず、すぐ隣に座っている男に言ってみる。
「バラム」
「んー?」
「あたしをさ、拾ってくれてありがとね」
699 :
とらひと:2007/10/26(金) 22:10:37 ID:BwYzHaQa
あの日、あの夜あの森で、もしバラムが助けてくれなかったら、拾ってくれなかったら千宏
は今ここにいない。
何を突然――とぎょっとするバラムににこにこと笑いかけると、バラムは訝るような顔をし
て気味悪がった。
市場で変な物でも食ったのか? と聞くような始末である。
「幸せだなぁ」
何気なく呟いたその言葉が、すとん、と胸の奥の方に落ちてくる。
あんなにも恐ろしいと、理不尽だと、立ち向かわなければならないと思った世界に、今自分
はこんなにも馴染んでいる。
幸せだと、幸運だと千宏は感じていた。実感していた。
その言葉を、この世界に落ちてきたヒトの何割が一体言えるのだろう。
それを思うと、少し複雑ではあるのだが――。
結局、長旅の翌日に市に出るのはやはり千宏には無理があり、気がつけば壁に寄りかかって
すうすうと眠り込んでいた。
好機とばかりに忍び寄るイシュの魔の手を、バラムが鋭く牽制する。
誰と比較する事も無く、なにと比較する必要もないその幸福の価値を――しかし千宏はまだ、
よく理解してはいなかった。
切らせていただきます。
容量ヤバスなんで一行レスだけどごめん。
ぐっじょぶ。
…それにしても、今スレはこちむい世界のヒトの幸せって何だろうと考えたくなるSSが多かったな。
GJ。
「不幸な家庭にはそれぞれの原因があるが、幸福な家庭は皆似ている」という言葉があったなあ。
ぐぐぐっじょぶ!
毎回毎回、続きが気になってたまらない。
バラムかわいいよバラム。
不器用っぷりがたまらん。
虎の威GJ
今までで1番好み
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と ノ *゚ *゚ ・ 。ヽ、 つ
と、ノ ・゚ ・゚ +゚ * ヽ、 ⊃
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チヒロは天然魔性の女と、心の底から叫びたい。
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