ケロロ軍曹でエロパロ 其の6

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646 ◆K8Bggv.zV2 :2008/04/28(月) 22:33:59 ID:8FW36Kgh
一安心した夏美は、ギロロにまだ昼間の買出しに付き合ってもらったお礼を言っていない事に気付く。

「昼は、買出しに付き合ってくれて、ありがと」

「あ、ああ。役に立てたのであれば、嬉しいが…」

「ええ!とっても助かったわ!」

ギロロとしては、夏美に褒められることはとても嬉しいのだが、
しかし、ケロロたちの前でとなるとさすがに気恥ずかしかったし、
何より、そうした手伝いが出来たきっかけは、クルルのどうしようもない“悪戯”が発端だっただけに、
その表情は、少々複雑だった。

だが、そんなギロロの心中を知ってか知らずか、食事中も夏美はギロロに優しい視線を注ぎ続けた。

その後は、いつも通りの時が流れた。
入浴し、みんなでお菓子を摘みながらテレビを見て笑い、明日の予定の確認をして、
そして、「おやすみなさい」の挨拶。
だが、さすがにギロロは、テレビを見ていた最中、
「武器の手入れがある」とかなんとか言って、テントに引き上げてしまったが…
647 ◆K8Bggv.zV2 :2008/04/28(月) 22:34:53 ID:8FW36Kgh
夏美の部屋。

夏美は、ベッドの上に仰向けに身体を投げ出し、今日一日のことを思い出す。
思わぬ昼寝をしてしまったので、意識は冴えていた。

クルルのラボに飛び込んできたときのギロロの顔色。
スーパーでの買い物のときのギロロの横顔。

ギロロ、とっても優しかったな…
それに、ちょっと、カッコよかったかも…

ふんわりと熱を持ち始めた頬をそっと掌で押さえる。
その感触から、夏美は、今、自分が自分で自覚している以上に微笑んでいるのだという事を知った。

「うふふ…」

ギロロのことを考えながら幸せに微笑んでいる自分自身が、何だかとても嬉しい。

あたし、ギロロのことを、本当はどう思っているんだろう…?

『好き』なのかな…

いいえ、それは無いわ。

うん…、それは無いと思う…。たぶん、だけど…

それじゃ、この気持ちは、一体何…?
648 ◆K8Bggv.zV2 :2008/04/28(月) 22:35:47 ID:8FW36Kgh
あ!そうよ、そうだわ!
あたしは、ギロロのことを『頼り』にしているのよ!!

事実誤認もいいところであった。

夏美は、自分の憧れの対象は326だと思っていた。
それはそれで間違いではないのだが、しかし、それは年頃の少女の“当然の選択”だった。
或いは、『消去法的な選択の結果』と言い換えてもいい。

確かに326はとても魅力的な人物であり、しかし、だからこそ、
年頃の少女が、
『同性でなく、年齢が離れておらず、カッコ悪くない』という当然ともいえる条件で恋愛相手を選択する場合には、
その候補となって当然の存在であった。

だが、これがギロロの場合は全く違っていた。
ギロロは『同性』『異性』の別を問う前に『異星人』であり、年齢は不詳だが明らかに完全な大人で、
身長約56cmの半蛙人(?)の姿形をしているだけでなく、そのコミカル極まりない顔には派手な傷跡まであるのだ。
つまり、ギロロはそもそもの始めから、夏美にとって恋愛の対象になりようがない無い存在なのだった。

そんな存在が、これほどまでに良い意味で『気になる』という事はどういうことなのか、
その意味するところをちょっとでも考えてみれば、
自分にとってのギロロという存在がどのような意味を持つものなのかについて分かりそうなものなのに、
夏美はそのことに気付こうとはしなかった。

そしてこのことが、後刻、夏美に激しい心理的動揺をもたらし、
その“被害”はギロロに、そしてその影響は地球の命運にまで及ぶ事になるのである。

だが、そんな事になるとはまだ知る由も無い夏美は、胸元に枕をギュッと抱き締めながら、
この『頼り甲斐のある存在』を何とかもっと自分の身近に置く方法は無いものかと企みを巡らせていた。

「そうだ!あいつらの星の軍隊から、私がギロロを獲っちゃえばいいのよ!
そうよ、それがいいわ!いつだってギロロは、私の味方をしてくれるんだから!!
それとも…」

夏美は、一度も見たことが無いケロン星を想像すると、それを自分の部屋のいつもの見慣れた天井に投影した。
そして、それに向けてぐっと腕を伸ばし、軽く握った指のうち親指と人差し指を立てて拳銃の形を作る。

「ケロン星…、覚悟ッ!」

片目を瞑り、天井に描いたケロン星の真ん中に照準を合わせると、
口で「ばん!」と発射音を鳴らしながら、手首をクイッと上に捻った。

粉々に砕け散るケロン星。

「これで、ギロロは私のものよ!」

夏美は、とても愉快そうにアハハハッと笑った。
そして、幸せな眠りに堕ちていった。
649 ◆K8Bggv.zV2 :2008/04/28(月) 22:37:59 ID:8FW36Kgh
今回は、以上です。
次回投下まで、また、少々お時間を頂く事になってしまうかもしれません。
期待せずにお待ちください(←無責任…)。
650名無しさん@ピンキー:2008/04/29(火) 02:23:35 ID:j+1wxVW/
>>649
プレッシャーになるかも知れないから、期待せずに待ってるよ。
いつまでも待ってるよ。
651名無しさん@ピンキー:2008/04/29(火) 17:53:54 ID:J4sipbOk
トモキ
652名無しさん@ピンキー:2008/04/29(火) 20:02:54 ID:P5d6iMqy
タママ女体化のタマ→ケロ←モア前提モアタマ……とか書いてもおk?
モアタマというかモア←タマなんだが。
653名無しさん@ピンキー:2008/04/29(火) 20:12:00 ID:Cs9t/oeJ
>>652
とりあえず書いてみると良いんじゃないかな?
小出しにすると保管の時に面倒なので、
ある程度段落毎にまとめて投稿したら良いと思いますよ。
654名無しさん@ピンキー:2008/05/03(土) 23:50:25 ID:j6jMGlsY
てんさい

膨乳・巨乳化・おっぱい改造スレッド
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1192443818/348-352
655名無しさん@ピンキー:2008/05/06(火) 17:57:46 ID:DjzNWhf5
おまえら知ってるかあ?
日向夏美はウンコするんだぜえ〜、クーックックック!
656名無しさん@ピンキー:2008/05/08(木) 23:09:33 ID:sfTEU39z
だ、、、大地震が来る前に続きを、、続きをーーーーっっっ
657名無しさん@ピンキー:2008/05/17(土) 19:23:40 ID:z+oS/+YN
くぎみゅ
658名無しさん@ピンキー:2008/05/17(土) 21:05:20 ID:hxSbvpVo
っていうかボケガエル!
659名無しさん@ピンキー:2008/05/27(火) 18:51:41 ID:8Nhkj420
660 ◆K8Bggv.zV2 :2008/05/28(水) 20:58:51 ID:vZLRMV3J
>>648の続きです

翌朝。

夏美は、とても爽快な朝を迎えた。
小鳥のさえずりさえも、今の夏美の耳には天使が囁いているように聞こえる。

今日の家事の当番は夏美だ。初仕事は朝食の支度。
「そうだ!ギロロに聞いてみよう!」

リビングから庭への出口となっているサッシをカラカラと開ける。
サンダルを履いて、朝露と草いきれが心地よく香る庭に出る。

「んっ、ん〜ん…」

夏美は、両手の指を組み合わせて腕を天に向けてぐいっと突き上げ、
蒼い空に真っ白く輝く太陽に両の掌を見せ付けるようにして大きく伸びをした。

朝露の乾きかけた芝生を、ギロロのテントに足取りも軽く歩み寄る。

「ギーローロッ!お、は、よっ!」

夏美の朗らかな呼びかけに、ギロロはテントからひょっこりと笑顔を突き出した。

「おはよう、夏美。なんだか嬉しそうだな?」

「んふふふ…。今日は私が当番なの」

「そうか。それはご苦労だ」

「でね、ギロロ。今日一日のメニューは何がいい?」

「ん?俺の食事…?」
夏美の質問の真意が分からないギロロは、少し怪訝そうに夏美の顔を見上げる。
それに対して、夏美は満面の笑みで答える。
「そう!何か食べたいもの、ある?あるんなら遠慮なく言ってよね!
今日一日の献立は、ギロロの好きなものを中心にして組み立てるから」

「うーん…。ないわけではないが、しかし、冬樹たちの希望も聞かなくてよいのか?」

「いいのよ!今日の当番は私で、その私が、『ギロロの好きなものを作るんだ』って決めたんだから!」

「しかし、それでは…」

夏美は、ギロロの目を見詰めながら両腰に手の甲を添えて、
腰から上を、ギロロへ向けてぐっと折り畳むように近付けた。

「軍人は、身体が資本なんじゃない?だったら、食事の管理は重要よ!」

その台詞や口調はキッパリしていたが、夏美の表情は、とても優しい。

「そうか、それならひとつ、お願いするとしようか」
その表情は優しいけれど、好きな献立をギロロから聞き出すまで諦める様子のない夏美の態度に、
夏美の“頑固さ”を熟知しているギロロは、
当たり障りのない、冬樹やケロロたちにも美味しく食べられるような普通の(?)献立を夏美に注文した。
661 ◆K8Bggv.zV2 :2008/05/28(水) 21:02:37 ID:vZLRMV3J
「えーっ!そんなんでいいの?遠慮しなくていいのよ」

「いやいや、同じものでも、冬樹が作ったものとお前が作ったものでは微妙に違うのだ。
俺は、夏美が作ったものが食べたいと…」
「えっ…」
「あっ…。その…」
「…」
「…」

二人は、真っ赤になって俯いてしまった。

ギロロとしては、
夏美と皆のために、『作るのが簡単で皆が美味しく食べられる献立を』と考えての提案だったのだが、
これではまるで、『夏美が作ったものならば、何でも美味しい』といっているようなものであった。

「と…、とにかく、だ。俺は、今言った料理が食べたいのだ。よろしく頼む…」
「うん…。わかった…」

「じゃあ…、支度が出来たら、呼ぶわね…」
「あ…、ああ…」
いかにも気恥ずかしげにそそくさと家の中へと戻っていく夏美と、
真っ赤に染まった顔をあさってのほうに向けながら返事をするギロロ。

こうして、二人の、そして地球の運命を変えることになる一日が始まった。
662 ◆K8Bggv.zV2 :2008/05/28(水) 21:03:48 ID:vZLRMV3J
ケロロたちを交えての美味しくて楽しい朝食が無事(?)終わり、
ギロロは、お礼に夏美の食器洗いを手伝う。
「拭いた皿は、ここへ重ねておけばいいのか?」
「うん!ありがと」
仲良く並んでシンクに向かうギロロと夏美のいかにも楽しげで幸せそうな背中。
冬樹は、それを、微笑ましく思いながら、そして、二人を邪魔しないようにそっと見守る。


ピリリリッ!ピリリリッ!

「ん?誰からだろ…」
浴室の掃除を終え、リビングで冷たい麦茶と煎餅で一息入れていた夏美の携帯が鳴った。
「ママから…?」

「はい。ママ?どうしたの…?」
『夏美!ごめん、ちょっと頼まれてくれないかしら…』
秋の口ぶりには普段の鷹揚さは全く無い。
秋によると、日向家の二階の“日向魔窟”に収納されている秋のもののなかに、
秋が勤めている出版社が発行している雑誌の特集号があるはずだという。
もし無いとすれば、田舎の秋奈のところに送ってしまったはずだから、
すぐにでも秋奈のところにとりに行かねばならない。
箱の色と大きさを伝えるから、
それに該当する箱が魔窟の中に有るか無いかの見当だけでも付けておいてくれとの事。

これには、夏美もピンと来るものがあった。
実は、まさにその秋が編集者として関わっている少年漫画誌に連載を持っている人気漫画家が、
突然、ライバル誌への移籍の意向を示したことで、業界が大騒ぎになっていたのだ。
今の秋の突然の依頼も、そのことに関係あるに違いなかった。

「わかったわ。とにかく、見てみる」
『有り難う、夏美。でも、無理はしないでね。荷物が崩れると危ないから』
「うん。じゃあ、見つかったら、すぐ電話するわ」
秋は、「助かるわ」と「ありがとう」を何度も何度も繰り返して、電話を切った。

「困ったわ…。どうしよう…?」

大好きな母からの一刻を争う依頼に気持ちは焦るものの、なんといっても、魔窟での“発掘作業”である。
薄暗くて狭苦しくて蒸し暑くて埃っぽいのは何とか辛抱できるとしても、
とにかく様々な大きさの重い段ボール箱の小山まで辿り着くには、
まず、複雑に立て掛けてある長尺の物を掻き分ける必要があった。
いかにスポーツ万能の夏美でも、このような魔窟の深くて暗い無秩序(カオス)には怯まざるを得なかった。

だが、やるしかない。

意を決した夏美が魔窟のドアノブに手をかけようとした、その時…
663 ◆K8Bggv.zV2 :2008/05/28(水) 21:04:56 ID:vZLRMV3J
「お嬢さん、お困りのようですね…」

夏美の内心の焦りと不安を見透かしたような、クルルの声。
もうこれ以上事態がややこしくなっては堪らない。
夏美は、その声の方へゆっくりと振り向きながら、トーンを少し落とした声で答える。

「余計な事はしなくていいから」

「オッサンを地球人に変身させて使うかい?
隊長は急に軍本部に呼び出されて今日から暫くの間留守になるんだが、
昨日の騒ぎの埋め合わせかたがた、
自分の留守中、アンタの手伝いやら何やら、よろしく頼むって言われててな…」

何時もであれば、「ボケガエルのヤツ、他人に手伝いを押し付けて!」とか一言毒づくところだが、
しかし、現在の状況からすれば、正に『渡りに船』である。

それに、ギロロを地球人姿に変身させるってことは…

もう一度、ギロロの地球人姿が見られるんだわ!
今度は、しっかり見なくっちゃ…!!

だが夏美は、そんな嬉し恥ずかしの内心をクルルに悟られまいと、
必死に表情を取り繕いながら可能な限り素っ気無く返事をする。

「じゃ、じゃあ、しょうがないわね…。
そういうことなら、ギロロにはボケガエルの分まで働いてもらうからね!」

「あいよ。で、どうする?」

「え?どうするって、何がよ?」

「オッサンを地球人姿にするのはいいとして、その顔形なんだが、
昨日のデータをそのまま使うのか、それとも、今のアンタの心の中を反映させるのか…」

「出来るの?そんなこと!」
夏美は、思わず表情の制御をきれいさっぱり失念して大声を出しながら身を乗り出してしまった。

「(ああっ!しまった…)」

自分の慌て振りにハッと気付いた夏美はクルルからの冷やかしとせせら笑いを覚悟したが、
意外にも、クルルはサラリと答える。

「モチコース!で、どうするよ?」

「そ…、そうね…。あ、あたしの心とかはどうでもいいんだけど、力仕事を頼みたいから…」
視線を泳がせ顔を赤くして四苦八苦しながら返答する夏美の言葉を最後まで聞かず、
クルルはあっさり結論を出す。

「よし。じゃ、一緒にラボに来な。もう、オッサンはスタンバイしてるぜ〜。ク〜ックックックッ…」

「え〜!何よそれ!!」

夏美は、そもそもの最初から自分の心をクルルに見透かされていたようで、
えらく恥ずかしくて、そして、ちょっと腹が立った。
664 ◆K8Bggv.zV2 :2008/05/28(水) 21:06:07 ID:vZLRMV3J
地下基地の長い廊下。行き届いた空調と煌々と照り輝く照明の中を、
夏美とクルルは、彼等しか乗っていない自動スライド式のフロアに乗って進んでいく。
ここでは、地上に満ちている「節約」や「エコロジー」の掛け声も虚しいだけだ。

ギロロに逢ったら、なんて言えばいいのかな?
それより、まず、どんな顔でギロロに逢えばいいの?

ドキドキ、ソワソワ、ワクワクを抑え切れない夏美を従えて、クルルがラボに入る。
クルルの話どおり、部屋の中央には既に例の装置が据え付けられ、
その横には、ギロロがいかにも所在無げに佇んでいる。

「夏美…」
「ギロロ…」

思わず目を合わせたまでは良かったが、しかし、その後、言葉に詰まってしまった二人を、
クルルの無遠慮な指示が救う。

「じゃあ、お嬢ちゃんは、昨日と同じにここに座ってこのヘッドギアを着けな。
ギロロ先輩は、そこら辺に適当に立っててください。クックック〜」
「『クックックッ』って、何よ!」
「『そこら辺に適当に』とは、何事だ!」

クルルという“共通の敵”が出来たことで、
夏美とギロロの間に漂っていたぎこちなさがすんなりと消失した。

夏美は、昨日と同じく高機能診察台に寝そべってコードの束が装着されているヘッドギアを被る。
ギロロは、壁を背に足を少し開いて立ち、怪光線の照射の衝撃に備える。

「ギロロ、ちょっと我慢してね!」
「うむ、心配は無用だ」
「じゃ、いくぜー!」

これまた昨日と同様、クルルの構える光線銃の銃口から発射された怪光線がギロロの身体を包み、
その身体から吹き出た薄桃色の煙が、ギロロの姿を一時的に覆い隠す。

「ヘッドギア、もう脱いでもいいぜ」
待ってましたとばかりの勢いで夏美がヘッドギアを外しながら診察台から起き上がる。

壁際を覆うように漂っていた薄桃色の煙が晴れる。

そこには、地球人の姿になったギロロが立っていた。
665 ◆K8Bggv.zV2 :2008/05/28(水) 21:08:13 ID:vZLRMV3J
「ギロロ…」

その姿を見た夏美の口から、思わず、呟くように、囁くように、そっとギロロの名が洩れる。

これが、『あたしの好みの男』なんだ…

第一印象は、昨日のそれと余り変わらない感じだ。
背丈は175cm前後。体躯は普通の人に比べれば明らかにがっしりとしているが、
しかし、ムキムキマッチョというわけではなく、身長とのバランスが取れている。
肌は健康的な小麦色に焼けていて、深い緋色のサラサラの髪を後ろへ撫で付け、
スッと美しく伸びる細い眉の下にある少し大きめの目には“目力”があって目付きもやや鋭いが、
その眼差しはあくまで優しく、軍人の誇りと大人の余裕に満ちてキラキラと輝いている。
鼻筋はすっきりと通り、鼻も、一見無骨な造りに見えるが、しかし形も、他の造作とのバランスもなかなか良い。
頬には無駄な脂肪も余計な筋肉もついておらず、浮き出ている尖った頬骨が精悍さを演出していた。
左の瞼の上から頬にかけては、それほど目立たないながらもギロロのトレードマークの縫い傷がある。
唇はほんの少し大きめで、赤みはそれほど強くは無いがいかにも練達の軍人らしくキリリと引き締まり、
その下の顎も、がっしりとして逞しいながらも下縁のラインはすっきりと研ぎ澄まされていて、
先端の尖り具合も程よい。
耳の大きさも形も好ましく、もちろん、首筋から鎖骨にかけて余計な脂肪など全く付いてはいない。

服装は、上下共にモスグリーンの戦闘服。
両肩の階級章止めには、野戦で目立たぬように黒線で表された伍長の階級章が取り付けられており、
両の胸元には大型でフラップ付きの収納力が高そうなポケットが付けられている。
その上の方にはケロン軍の徽章を始めとしていろいろな記号や番号の入ったタグが、
そして、袖の二の腕の外側部分には、
目立たないように工夫された配色ながらもなかなか洒落たデザインの、
所属部隊を示すワッペンが縫い付けられていた。
また、首には、顔写真入りのIDカードを入れたネックストラップがかけられている。
ズボンは、いわゆるカーゴパンツタイプで、腿の横などに大きなポケットが複数付いており、腰には、
やはりモスグリーンの幅広の布製の編み込みベルトを締め、そこに拳銃のホルスターが下がっている。
足元は黒い半艶の頑丈な編み上げ式の半ブーツだ。

「へー…」

かっこいい…、かも…

あっ…!いけない!!

ギロロを見つめていた自分が、
その姿の凛々しさに我知らず感嘆の声を上げてしまったということに気が付いた夏美は、
見る見るうちに首から上を真っ赤に染めて下を向いてしまった。
それに気が付いたギロロも、耳たぶを真っ赤にして、
さっきまで夏美の瞳に合わせていた視線を宙に泳がせる。
666 ◆K8Bggv.zV2 :2008/05/28(水) 21:09:15 ID:vZLRMV3J
このぎこちない空気を打破したのは、またもクルルの一言だった。

「お嬢ちゃん、俺がアンタにしてやる“手伝い”はここまでだ。
ギロロ先輩、日向家の“お手伝い”、しっかり頼みましたぜ…。ク〜ックックックックッ…」
「日向家の家事の手伝いといっても、今回のそれは隊長命令によるものだ。
お前に言われなくても、手抜きなどせん!」
「だから、その『クックック〜』っていうの、何とかならないの?もう…」

それぞれ自分の立場からの文句を言う二人に、クルルはチクリと反撃する。

「へいへい、そりゃあ申し訳ありませんでしたね。
で、お嬢ちゃんは、秋から、何か頼まれ事があったんじゃないのかい?」
「あっ!そうだったわ!!ギロロ、一緒に来て!二階の“魔窟”にあるママの荷物を探したいの」
「わかった」
「あ!そのブーツだけど、家の中では脱いでね」
「了解!」

夏美は、クルルに早口で「ありがとう!」と言い残すと、
ギロロの戦闘服の肘の辺りをちょいと摘んで引っ張りながら慌ただしく小走りにラボから出て行く。

「毎度あり〜」
その後姿に、クルルはニヤニヤしながら意味有り気に声をかけた。

「いやはや、何とも仲の御よろしいこって。ク〜ックックックックッ…」
片方の手を口に当てながらせせら笑いを漏らすクルルがもう一方の手で壁のスイッチを押すと、
かすかな唸りを伴って床が開き、診察台と装置一式が静かに床下に降下していった。
667 ◆K8Bggv.zV2 :2008/05/28(水) 21:10:33 ID:vZLRMV3J
日向家二階の納戸、通称“日向魔窟”の中はもちろんクーラーなど無く、また、
換気扇も備えられていないので、中の空気はとても蒸し暑い上にカビと埃の臭いが澱んでいた。
天井に取り付けられている蛍光灯の乳白色のカバーも薄汚れ、
実際には光量は十分なのだが、なんとなく薄暗い感じだ。
そんな中、夏美は蓋を開けた沢山の段ボール箱に囲まれて床に座り、
ギロロは、夏美の指示に従って段ボール箱の山を軽々とさばいていく。

「これでもないわ…」
「違うのか?」
「うん、ごめん…」
「気にするな。次はどれだ?」
「ありがと。じゃあ、あの『○○みかん』って書いてある箱の上の二つ、とってくれる?」
「よし、任せろ」

ギロロからあれこれと箱をとってもらって開くけれど、なかなか目的のものが見当たらない。
いかにも申し訳なさそうにうな垂れる夏美を、ギロロが優しく励ます。

魔窟で“発掘作業”を開始した当初は、夏美もギロロの横顔をチラ見する余裕を持っていたが、
しかし今では、そんな余裕など全く失せ果てていた。
目指す箱が見つかるまで狭苦しい魔窟の中でギロロと一緒に過ごせるということは嬉しかったが、
ここまで発見に手間取ると、
発見を待っている秋にも、箱を取り出してくれるギロロにも申し訳が無かった。

「これと、これだな」
「ありがと」

戦闘服の袖を捲り上げ白い軍手を付けたギロロの逞しい腕が、
重そうな段ボール箱を二つ、軽々と夏美の前に丁寧に据える。

期待を込めて開けてみる。

また、違った。

「これも違うわ…。どうしよう…」
目的のものを発見できないもどかしさが募り、じわじわと増す蒸し暑さに、思わず苛立ちの呟きが漏れる。

「ここはだいぶ蒸してきたから、お前は一旦外に出て、少し休め。
その間に、今までに調べた箱を向こう側に積んで、それらしいものをここへ持ってきておくから」

ギロロ、優しい…
ギロロがいてくれて、本当に良かった…

夏美は、黙々とダンボールの小山を積み直すギロロの逞しい背中に熱い視線を送る。
668 ◆K8Bggv.zV2 :2008/05/28(水) 21:12:45 ID:vZLRMV3J
「うん。じゃ、冷たいものでも持ってくるね」
「ああ」

振り返って微笑みかけるギロロに、夏美もニッコリと笑顔を返す。
そして、よいしょ、と立ち上がろうとしたが、しかし、狭いところに永いこと座っていたせいで、
その足がふらりと縺れ、開いた段ボール箱の蓋に爪先が引っかかって大きく身体のバランスが崩れた。

「キャッ!!」
「よっと!」

軽い掛け声と共に、ギロロは、微妙な角度と方向に倒れかけた夏美の身体を、その胸元に抱き留めた。

「あ…、ありがと…」
「大丈夫か?」
「うん…」

夏美は、ギロロの胸元に身体を預けたまま、彼の顔を見上げた。

心配そうな表情で瞳を覗き込むギロロの眼差しが、とても嬉しい。
背中を支えてくれるギロロの逞しい腕に程よく込められている力も、
服地を通して伝わってくるギロロの温もりも、とても心地よい。
ギロロの匂いを、それと意識しながら、初めて身近に感じた。
とても、暖かい匂い…

何でだろ…?
こうして抱かれていると、とても安心する…
669 ◆K8Bggv.zV2 :2008/05/28(水) 21:14:05 ID:vZLRMV3J
「わあっ!」
「ひゃあっ!」

次の瞬間、二人は首から上をパアッと蛍光ピンクに染め上げると、
足場が悪いのにもかかわらず、針で突かれたような勢いでお互いの身体からサッと離れた。

「ほ、ほ、本当に、だ、だ、大丈夫か?足とか…、ひ、捻ったりは、していないのだな?」
「う、うん!だ、だ、大丈夫よ…!ちょっと…、バランス…、崩した…、だけ…」

調子の悪い合成音声のような遣り取りが、自分たち自身でも滑稽だ。

「つ、冷たいもの、持って来るね…!」

夏美は、逃げるように魔窟を出て、風のように階段を駆け下りる。
開けっ放しの入り口のドアから聞こえてくるその足音を聞きながら、
ギロロは、今まで我知らず詰まらせていた喉を開放して、大きく溜め息をついた。
そして、さっき起こった出来事の内容とその重要性をまだ十分に認識できぬまま、
腕と胸元に残っている夏美の感触と、鼻腔が感じ取った彼女の匂いをそっと想い起こした。

とっさのこととはいえ、この腕に、この胸に、夏美を抱いたのだ。

ケロン人姿では、決して出来ない体験だった。

「夏美…」

特にどういう意味を込めてということでもなかったが、
さっきまで夏美が座っていた場所を見つめながら、ギロロは静かにその名を呼んだ。

「あっ!いかん!!」

夏美が帰ってくるまでに、これまでに点検を終えた分の段ボール箱を片付けて、
これは、と目星を付けた段ボール箱を夏美が点検しやすい位置に並べておく約束だった。

ギロロは、戦闘服の袖を更にキリキリと捲り上げ、
半ばニヤけた顔にふんっ!と気合を入れなおすと、未踏の段ボール箱の小山に立ち向かっていった。
670 ◆K8Bggv.zV2 :2008/05/28(水) 21:15:10 ID:vZLRMV3J
「これ…、かなぁ?」
ギロロが新しく出してきた段ボール箱の一つを開けて中を覗き込んだ夏美が、半信半疑に呟く。

「ん?それらしいものが、あったか?」
夏美にもらった冷たい麦茶のコップを空けたばかりのギロロが、静かに尋ねた。

「そう…、そうだわ。『月刊少年アルファ』の200□年の□月号…。
これよ!あった!あったわ!!ありがとう!ギロロッ!!」
箱の中から取り出した一冊の少年漫画誌の表紙をとても嬉しそうに見詰めながら、夏美が叫ぶ。
「そうか!良かったな!」
ギロロも、精悍な顔立ちをふわっと緩めて喜びを表情に表す。
「うん!早速ママに電話するわね!」
夏美はショートパンツのポケットから携帯を取り出し、カチャっと開いて素早くダイヤルボタンを押す。

トゥルルルッ…、トゥルルルッ…、トゥルルルッ…

『はい、もしもし、夏美?』
「ママッ!『月刊少年アルファ』の200□年の□月号、あったわ!!」
『有り難う、夏美!助かるわ!!ほんとに有り難う!!』
「ううん。ギロロが段ボール箱の移動を全部やってくれたの!私一人じゃ、絶対無理だったわ!」

ギロロは、夏美たちの遣り取りの中で自分の名が出たことにちょっと驚いたが、
しかし、夏美の口調から、自分の働きが役に立ったことが確認できたので、とても嬉しくなった。

秋は夏美に、ギロロに電話を換わってくれるように言い、携帯がギロロの手に渡される。
秋の深甚な感謝の言葉に、ギロロは控え目で誠実な言葉を返す。
携帯が、ギロロの手から夏美の手へと戻ってくる。

「わかったわ。今からバイク便の業者さんが取りに来るのね」
秋がバイク便を手配したようだ。
「え…、それは…。ママが帰ってきた時に説明するわ。直接会えれば、わかると思うし…」

それから一言二言の遣り取りの後、夏美は、「お仕事がんばってね」と言って電話を切った。
他人の電話に聞き耳を立てるのはマナー違反だが、
しかし、夏美の口調にも態度にも、明らかな動揺が感じられる。
秋が帰ってきた時に直接説明しなければならないような、何か新しい問題が起きたのだろうか?
671 ◆K8Bggv.zV2 :2008/05/28(水) 21:17:19 ID:vZLRMV3J
「どうした?何か不都合があったか?それとも、新しい探し物でも?」
「ううん…。それは、大丈夫なんだけど…」
「ん?」
「ママがね、『ギロちゃん、段ボール箱と同じくらいの身体の大きさなのに、
重い箱をたくさん積んだり下ろしたりして、とても大変だったでしょう?』だって…」

なるほど…。それが『直接会えればわかる』に繋がるというわけか…
ケロロのヤツが軍本部から帰ってくるまで、日向家の家事の手伝いはこの姿でやることになるのだから、
今度、秋が帰ってきた時に変身状態であれば、その時が、この姿を“お披露目”する良い機会だろう。
ともかく、探し物を発見でき、そして、それを秋に連絡できたのだから、まずは一安心だ。


ピンポーン ピンポーン

発見した雑誌を夏美が丁寧に厚手の模造紙でくるみ終えたちょうどその時、バイク便が集荷に到着した。
「こんにちは!△△急配です!」
「はーい!」

「よろしくお願いします」
「はい、有り難うございました!」
魔窟の中のダンボール箱の整理を終えたギロロが階段を降り始めたのと、
配送員が夏美に見送られて玄関のドアを出たのがほぼ同時だった。
672 ◆K8Bggv.zV2 :2008/05/28(水) 21:18:45 ID:vZLRMV3J
クーラーが程よく効いたダイニングは、魔窟とは全くの別天地だ。

「はい、どうぞ!」
「ああ、すまんな」

夏美は、テーブルについているギロロの前に食べやすく切り分けたスイカが乗った皿をコトリと置くと、
自分もギロロと向かい合うように席に着いた。

「ギロロ、ほんとに、ほんとに、ありがとね!」
夏美が、ギロロの精悍な顔を見詰めながら改めて真剣に感謝の気持ちを伝える。

「あ、その…、先ほどの行動は、日向家の者を遺漏無くサポートせよ、という隊長命令に基づくものでだな…、
つまり、任務を遂行したまでのことであって…、当然のこと、というか…」
しどろもどろに返事をするギロロの表情はキリッとカッコよく引き締まってはいたけれど、
その健康的に日焼けした頬は、明らかに赤く染まっている。
そんな、全く恩着せがましい素振りを見せぬばかりか御礼の言葉に照れるギロロを、
夏美は、とても可愛いと思った。夏美の顔から、思わず笑みがこぼれる。

「ウフフ…」

「な、何か可笑しい事でもあるのか?」

「ううん」

「…」

別に何も可笑しい事など無いと言いながらも、
こちらの顔を小首を傾げて微笑みながら覗き込む夏美に、ギロロは大いに戸惑った。

「ギロロ…」
夏美が、囁くようにギロロの名を呼ぶ。

「ん?どうした?」
ギロロは、生真面目に、食べかけのスイカを口元から離して顔を上げ、夏美の瞳に視線を合わせる。

別に何かはっきりとした理由などは無かったが、無性にギロロの名を呼びたかったのだ。
いや、本当は、ギロロに自分の方を見て欲しかったからなのかも、
そして、ギロロの声が聞きたかったからなのかも知れなかった。
もしそうであるのならば、夏美の、いかにも年頃の少女らしい試みは、まんまと成功を収めたことになる。

「ねえ、もう一つ頼みたいことがあるんだけど、いいかな?」


「ああ、構わんが」

「ありがと!」

夏美は、昨日行ったスーパーに、買出しの続きに行きたいのだという。
もちろん、ギロロはすぐに同意する。
673 ◆K8Bggv.zV2 :2008/05/28(水) 21:20:01 ID:vZLRMV3J
軽くシャワーを浴びて、二人はスーパーへと出かけた。

青く晴れ渡った中天に真っ白く輝く太陽は地上の万物をジリジリと焦がし、
湿気を含む大気はじっとりと肌にまとわり付く。
こんな時は、出来る限り熱源となる存在から離れて過ごしたいものだが、
夏美は、とても嬉しそうにギロロの隣にピタリとくっ付いて歩く。
ギロロにとっては幸いなことに、ちょうど今の時刻、通りに人影はまばらだった。

「こっちよ」
夏美は、スーパーがある大通りに出る直前の道を、スーパーとは逆方向へ曲がる。

「…?夏美、スーパーはこっちの道だろう?」

「いいのよ!こっちで…」
夏美が「いい」というのならいいのだろう。ギロロは、夏美のリードに黙って従う。

少し歩くと、路傍の道標の表示は二人が今いる場所が超井の頭公園に近いことを示していた。
行き付けのスーパーとは方角も正反対なら距離もかなり離れてしまっていることになる。

夏美は歩調を緩める気配を見せない。
夏美の真意を測りかねていたギロロは、距離的にも時間的にもそろそろ潮時と見て、尋ねた。

「違うスーパーに行くのか?」

ひょいとギロロの側から離れた夏美は、タタッと身軽にステップを踏みながらギロロの前に回りこむと、
ギロロと向かい合ったまま手を腰の後ろで組み合わせて後ろ向きに歩きながら“衝撃の事実”(?)を告げる。
「ううん。スーパーには、行かない!」

「!?」

夏美のことが大好きなのだがどうにも女心に疎い−女心を学ぼうとしない−ギロロは、大いに戸惑った。
実は、『スーパーに行く』と言ったのは、ギロロを誘い出すための方便だった。

「公園の近くにね、美味しいアイスクリームの移動販売車が来るの」
「アイスクリームなどどこでも買えるだろう?確か、家にも幾つか買い置きがあったはずだが…?」

「とっても美味しいのよ!ギロロもきっと気に入るわ!」
ギロロからのアイスの買い置きについての指摘を軽くかわした夏美は、再びヒラリと身を翻してギロロと並ぶと、
首をちょこっとひねってギロロの顔を見上げながら楽しそうに話を繋いだ。

そう、夏美がギロロを連れ出した本当の目的は、デートだった。
674 ◆K8Bggv.zV2 :2008/05/28(水) 21:21:03 ID:vZLRMV3J
超井の頭公園の近くに来ると、さすがに人通りが多くなる。
なんといっても、公園を含めたこの周囲一帯は文化園や美術館などを含む緑地帯として整備され、
四季折々のイベントなども催されて周辺住民のよき憩いの場となっていたから、それも当然であった。

二人は、公園に沿って設けられている広い遊歩道に出た。

さっき入った甘味処の感想を大声で話し合う、日傘を差した熟年婦人の一団。
大きなバックパックを背負い、首からカメラを提げた外国人旅行者。
かわいい日除け帽子を被った孫を連れた、涼しげな作務衣姿の初老の男性。
そして、若いカップルたち。

「ギロロ、手、繋ごうよ」
夏美が、まっすぐ前を向いたまま、呟くように囁く。

「え…!てって…?て!?手!!」
例によって、首から上を蛍光ピンクに染め上げて激しく狼狽するギロロ。

「そ、手」

「な、な、な、なぜ、お、お、俺とお前が、て、て、手を、つ、つ、つ、繋がねば、な、な、ならんのだ…!?」

「手を繋がないと、私たち、仲が悪いんじゃないかって思われちゃうわ。そんなの、私、嫌だな…」

「いや…、そんなことは…、ない…、んじゃないか…」

だが、見れば、二人の周りのカップルは、そのほとんどが手を繋ぐか指を絡めあっている。

もちろん、ギロロだって夏美と手を繋ぎたいのは山々なのだが、
しかし、言われるままにホイホイと手を繋ぐのはいかにも軽々しいし、
何より人前で手を繋ぐなど恥ずかし過ぎるではないか。

「し、しかしだな、我々は…、別に、交際しているというわけではないのだから…」

「…」

夏美の横顔が、とても寂しそうに、とても哀しげに、曇る。
さっきまで身体全体に漲っていた溌剌とした気が、見る見るうちに抜けていくのがはっきりとわかる。

夏美の激しい消沈に、ギロロは顔色を失った。

「あ…、いや…、その…」

必死に話を繋ごうとするギロロに、俯いたままの夏美が呟く。

「だめ…、なの…?」
675 ◆K8Bggv.zV2 :2008/05/28(水) 21:21:57 ID:vZLRMV3J
「…『だめ』というわけでは…」

「イヤ、なの?」

「ちょ、ちょっと待て!嫌なわけが無いだろう!どうしてそうなるのだ!」
夏美からの全く予想外の問いかけに対して、ギロロは思わず大声で応じる。
『戦場の赤い悪魔』の異名を縦にする歴戦の勇士も、この“奇襲”は全くの予想外だった。
どれほど巨大な戦力を擁する戦闘集団も、完全な奇襲に対しては瞬間的にせよ全く無力となる。
それはギロロの場合も例外ではなく、大声を出したのは二重の意味で失敗だった。
一つは、周囲の視線を自分たちに集めてしまったこと。
もう一つは−こちらの方が余程重要なのだが−、
敢えてこのような質問を“しなければならなかった”夏美の心情を理解する努力を怠った挙げ句、
形だけとはいえ、怒鳴りつけるようなかっこうになってしまったこと。

「じゃ、どうして、手を繋いでくれないの…?」
ギロロの顔をそっと見上げる夏美の眼差しは、
決してギロロを責めても怒ってもいなかったが、しかし、耐え切れぬ程のやりきれない切なさに満ちていた。

ギロロの心の中で、とても優しくて暖かいスイッチが、パチン!と軽やかな音を立てて入った。

すっと伸びてきたギロロの手が、力なくだらりと提げられている夏美の指先をキュウッと握り締める。

「あっ…」
「す、すまん。痛かったか?」

「ううん…」
「そうか…」

夏美の頬が鮮やかな血色を取り戻し、その表情からも、身体からも、嫌な強張りは去って、
完全に普段の健康的でさわやかな雰囲気が戻ってきた。
だが、頬は、いつもの鮮やかな肌色を回復してからも、更に赤くなり続けた。

「ギロロ…」
「ん?」

ギロロの逞しい指に握られていた夏美の指がキュッと丸められ、逆にギロロの指を握り締める。

「ありがと…」

「ああ」

「とっても、嬉しい…」

「そうか…」

ギロロは、夏美に握られている指をちょっと動かして、夏美の指をそっと握り返した。

夏美は、その指を握り返しながら、とても幸せそうにギロロの顔を見上げる。

ギロロは、照れながら、チラリと横目で夏美の表情を窺う。

二人の目が合う。

ギロロは恥ずかしがって、慌てて視線を逸らしてしまう。
676 ◆K8Bggv.zV2 :2008/05/28(水) 21:23:00 ID:vZLRMV3J
「ウフフフ」

夏美は微笑みながら、指先に込めていた力を一旦抜いた。
ギロロも、それに従って指を緩め、夏美の細い指先を解放する。
次の瞬間、力が抜けて間隔が疎らに空いたギロロの指にさっと夏美の指が複雑に絡み付くと、
そのままキュッと優しく締め上げた。

「ギロロの手、大きいね…」

「そうか…」

ギロロは、自分の顔を一心に見上げる夏美と敢えて目を合わせようとはしなかったけれど、
しかし、その横顔はとても優しく微笑んでいる。

と、ここで、夏美が大切なことを思い出した。

「あ!そうだわ!」
「どうした?」
「アイスクリーム!!」
「ああ!そうだったな…。だが…」

「?」

「な、夏美と、二人で食べるなら…」

「あたしと二人だったら…?」

「何処のアイスクリームでも…」

「何処のアイスでも…?」

「最高に旨いと思うぞ…」

「ギロロ…」

耳の先まで蛍光ピンクに染まり切ったギロロの横顔を、夏美は、夢見るような眼差しで見上げた。
677 ◆K8Bggv.zV2 :2008/05/28(水) 21:24:16 ID:vZLRMV3J
「ウフフ」
「…」
「ねえ、こっち向いてよ…!」
「え…、あ…、歩くときは…、ちゃんと…、前を見て…」
「あ〜あ、こっち見てくれないと、あたしたち、仲が悪いんじゃないかって思われちゃうかも…」
「えー!なんだそりゃあ!」
「だ、か、ら、こっち向いてよ!」
「こら…!お…、大人を、からかうもんじゃ、ないぞ…」
もう恥ずかしさでいっぱいいっぱいのギロロはしどろもどろで、その声は完全に裏返ってしまっている。

「あ!あったわ!ほら、あの薄いブルーのきれいなワゴン車がそうよ。早く行きましょ!」
「ちょっ、待っ!そんなに引っ張るな!」

夏美がぐいぐいとギロロの腕を引っ張ってアイスクリームの移動販売車に小走りで駆け寄るその姿は、
誰がどこから見ても、紛れも無く、付き合い始めたばかりの恋人同士だった。

その後二人は、アイスクリ−ムを食べながら公園内を一通りそぞろ歩いたが、
残念ながら、緊張のためにアイスの味は殆んど分からなかった。

日差しは、『西日』と呼ぶべき位置に傾きつつあった。
もうそろそろ帰らないと、冬樹が心配するし、食事の支度に差し支えるだろう。

「そろそろ帰ろっか」
「り…、了解…」

ギロロが今、何よりも聞きたかった一言が、ようやく夏美の口から出た。
もちろん、ギロロだっていつまでも夏美と一緒にいたいのは山々だったが、
余り戦い慣れない“心理戦”に不意打ちで引き込まれた挙げ句、終始相手のペースでの戦いを強いられて、
さすがの歴戦の勇士も、今や全身はじっとりと嫌な汗に塗れ、心身ともにくたくたに疲れ果てていた。

夏美に導かれるようにして家路を辿るギロロは、何処をどう歩いてきたのか覚えていなかったが、
とにかく日向家に帰り着いた。

ピンポーン!

「はーい!あ、姉ちゃん、お帰り!ギロロも…、お帰り…」

家に帰った二人は冬樹の出迎えを受けた。
冬樹は、ギロロのくたびれ加減と夏美のウキウキ、ソワソワした様子から瞬時に大体の事情を察したが、
特にギロロの様子を見るに、自分からはそのことに触れないほうが賢明だとの結論に達した。

ギロロの変身が解けたのは夏美が夕食の支度に取り掛かったのと同時だったが、
夏美は、ケロン人姿に戻ったギロロに、つい今しがたまでと全く変わらぬ態度で接した。

この日から夏美は、チャンスを見つけてはギロロと一緒にいる時間を作るようになった。
冬樹が家事当番の時に予期せぬ用事でその帰宅が遅れた場合など、自分に時間的な余裕があれば、
冬樹に代わって、ギロロと一緒に食事の支度や庭掃除などをして過ごした。
もちろんギロロはケロン人姿のままだったが、外見など、今の夏美にとってはどうでもいいことだった。

だが…
678 ◆K8Bggv.zV2 :2008/05/28(水) 21:25:30 ID:vZLRMV3J
そんな一週間が過ぎた日、夏美はクルルズ・ラボを訪ねた。
そう、地球人姿のギロロに再び逢うために。

「ねえ、クルル」

夏美の呼びかけに、クルルがセンターコンソールの椅子をくるりと回して夏美のほうへ向き直る。

「どうした?アンタがわざわざここまで来るなんて珍しいな。
おっと!俺たちゃ、何にもしてねぇぜ。隊長は、まだ軍本部から戻ってきちゃいねぇし、作戦の指示もねぇ」

「文句言いに来たんじゃないわよ…」

「ん?だったら、何だ?」

「ギロロのことなんだけど…」

「オッサンが、どうかしたのかい?」

クルルの口元が瞬く間にいやらしくニヤリと歪み、
その口調も声音もあからさまに何時ものからかい半分のヘラヘラしたものになった。
それでも夏美は、怯むことなく話を続ける。

「千円で、いいのよね…?」

「ん?何が?」

「ギロロを変身させるのに、タダってわけにはいかないんでしょ?」

「ほう…。今日も、オッサンとどこかへ出かけたい、と…?」

予想通りの、厭らしい質問。
だが、こんなことで怯んでなどいられない。
昨日から徹夜で考えた尤もらしい理由だって用意してあるし、
何より、ギロロを変身させることを拒めば、最終的に困るのはケロロたちなのだ。
679 ◆K8Bggv.zV2 :2008/05/28(水) 21:26:20 ID:vZLRMV3J
「違うわ。地球人姿のギロロの方がボケガエルなんかよりよっぽど役に立つから、
アイツが帰ってこないうちに、ギロロに手伝ってもらってやってしまいたいことが沢山あるのよ」

「(どうよ、この完璧な理由付け!)」

「ま、地球人の手伝いをするには、地球人の姿のほうが都合がいいからな…。
了解だ。オッサンを変身させてやるよ」

「(あら、あっさりしたものね…。『案ずるより産むが易し』って、昔の人はよく言ったもんだわ!)」

「じゃ、千円ね」

「いらねーよ」

「言ったろ?『日向家の手伝いをしっかりやれ』って隊長からきつーく言われてるって」

「あ…。え、ええ。この間、聞いたわ」

「ま、そういうことだ。だが、その代り…」

クックックッと含み笑いを噛み殺すクルルに、夏美は、恐る恐る尋ねる。

「な、何よ…」

「アンタが自分で、オッサンをここへ連れて来るんだ。俺は今、手が離せないんでね…」

『今、手が離せない』なんて言ってはいるが、誰がどう見ても、クルルが今、全く暇なのは明らかだった。

「わかった。連れてくるわ」

夏美としては、もう、恥も外聞もあったものではなかった。
ケロン人姿のギロロも決して悪くは無かったが、
しかし、『“中身”がギロロ、外見が“自分の理想の地球人男性”』という黄金のコラボに敵うものは無かった。

「よし…」
クルルは、コンソールのシートからひょいと身軽に飛び降りると、
白い小さなリモコンのスイッチを押しながらわざと夏美に聞こえるように独りごちた。
「じゃあ、『地球人なりきりセット』の準備をしますかねっと…」

いったん開き直ってしまうと、そんなクルルのあからさまな冷やかしすら返って心地良く感じられるから不思議だ。

「すぐに連れてくるから!」
汎用人型決戦兵器を使用しての戦闘を指揮する軍装の麗人さながら、
夏美は、クルルに毅然とした態度と口調で言い放つと、さっと身を翻してラボを出て行く。

パシュッという軽い音と共に自動式の装甲扉が完全に閉まったことを横目で確認すると、
クルルは、誰にも聞こえないような小声で今度は本当に独り言を呟いた。

「一週間、か…。年頃のお嬢ちゃんにしちゃ『よくがんばった』というべきか、
普段強がってる割には『あっけなかった』というべきか…。だが、ともかく、第一段階、クリアー…」
680 ◆K8Bggv.zV2 :2008/05/28(水) 21:27:25 ID:vZLRMV3J
南中の太陽が肌を刺すような日向家の庭。
夏美は、ギロロのテントに呼びかける。

「ギロロ、いる?」

「ああ。どうした、夏美」

テントから、ギロロがひょっこりと顔を出した。

「あのさ、地球人姿になってくれるかな?」

「あ、ああ。構わんが…」

「じゃ、あたしと一緒に来て」

「よし」

ギロロの声に少し元気が無かったが、
この暑さじゃ無理も無いわね、と、心の中で夏美はそれを気候のせいにした。
だがそれは、とんでもない間違いだった。

夏美たちがラボに入ったとき、クルルは既に例の装置のウォームアップを完了していた。

「面子が揃ったな。じゃ、始めるぜ…」

夏美はヘッドギアを被って診察台に寝そべり、ギロロは壁を背にして立つ。

「いいわ」
「こっちもだ」
681 ◆K8Bggv.zV2 :2008/05/28(水) 21:28:23 ID:vZLRMV3J
ここで、ギロロの表情の硬さに気付いていたクルルが、探りを入れるために“問診”を始める。

「先輩。現在、肉体に異常は無いですね?たとえば、骨折、激しい打撲、捻挫、あるいは風邪…」
「ああ、大丈夫だ」
「精神面も?」
「問題ない」

ギロロの声のトーンが、明らかにいつもと違う。元気が無いというべきか、少しばかり上の空なのか…
「(ああ、こりゃ、何かあるな…。もちろん医学上の疾病じゃなく、あくまで気分的なもんだろうが…。)」

「念のためにもう一度言っとくが、この装置の構造と作動原理上、
被験者の精神および肉体に悪影響が及ぶということは全くありえねぇ」

「わかってる。大丈夫だ」

診察台の上では、夏美がちょっと上半身を起こして、二人の遣り取りを少し不安げに見守っていた。

それに気付いていたクルルは、夏美が中止や延期を申し入れる前に、と、
わざと景気の良い掛け声をかけた。
「なら、いくぜ!」

怪光線がギロロを包み、ギロロの身体から発煙。そして、その煙がゆっくりと晴れていく。

一刻も早く“地球人ギロロ”の姿形を見たい夏美は、ヘッドギアを着けたままの頭をひょいと持ち上げた。
それを横目で見ていたクルルが夏美に声をかける。
「あ、それ、もう脱いでもOK!」

「ギロロ!」
ヘッドギアを外した夏美は身軽な動作で診察台から降り、とても嬉しそうにギロロの元に小走りに走り寄る。
夏美の身近にいる人物の中で、こちらの秘密を知られると一番厄介なのはもちろんクルルなのだが、
夏美は、そのクルルの見ている前で、いや、クルルに見せ付けるようにギロロに走り寄ったのだった。

最早、夏美は、ギロロとの関係を誰にも隠し立てするつもりは無かった。

「ありがと!クルル」
「ど〜いたしまして!」
抱き付かんばかりにギロロに身を寄せた夏美は、身体をぐっとひねってクルルを振り返って礼を述べ、
それに対してクルルは、きわめて慇懃に頭を下げた。

「行きましょ、ギロロ!」
「ああ」
夏美に腕をとられてギロロはゆっくりと歩き出すが、その表情はやはり冴えない。

「お幸せに〜!!…って、おやおや…」
クルルは、今まさにラボを出ようとする二人の背中に呼びかけたが、全く無視されてしまった。

「『ありがと、クルル』か…」
その場に一人残されたクルルは、ポツリと、さっきの夏美の口調を真似た。

装置がクールダウン態勢に入り、冷却ファンの作動音が一段と高まる。

「実は、有り難いのは、こっちだったりしてな…。クックックッ…」
クルルの呟きは、冷却ファンの騒音に溶けていった。
682 ◆K8Bggv.zV2 :2008/05/28(水) 21:29:15 ID:vZLRMV3J
基地の自動スライド式の廊下に乗って進む二人。

「ねえ、腕、組んでいい?」
ギロロにピッタリとくっ付いている夏美が、ギロロの精悍な顔を見上げながら、その腕をねだる。

「夏美…」
「何?」

夏美の願いを聞き入れず、逆に夏美に呼びかけるギロロの少し沈んだ顔を見上げながら、
夏美は心の中で自問自答する。

「(機嫌が悪いわけじゃなさそうだけど、どうしたのかしら…。やっぱり、暑さのせいかな?
それとも、あたしがいろんなお手伝いを頼みすぎて、疲れてるのかも…)」

「話があるんだ…」
「うん…」

「(何だろう、改まって…。なんか、不安だわ…)」

夏美の“勘”は、当たっていた。
もしギロロが夏美に「好きだ」と告白したい、または、これからそういう告白をする、というのであれば、
いつものように耳の先まで真っ赤になって俯きっ放しになるはずだった。
だが、今のギロロの顔色はそんな“幸せの赤”とは程遠く、どちらかといえば少し青褪めていた。

ここ一週間全く無かった、
いや、ギロロと夏美が出会って以来一度も無かったような冷たい沈黙が、二人の周囲に漂っている。

ゆっくりと歩くギロロの後ろに夏美が従う形で、二人は日向家のダイニングに入った。

どちらからとも無くソファーに腰を下ろすと、ギロロが重い口を開いた。

「夏美」
683 ◆K8Bggv.zV2 :2008/05/28(水) 21:30:09 ID:vZLRMV3J
「何?」

「夏美が俺のことを慕ってくれるのは、とても嬉しい…」

「うん」

「今更こんなことを言うのは、かえってお前の心を惑わすことになるかも知れないが、しかし、聞いてくれ」

「うん…」

「俺は、お前のことが、好きだ」
「あ、ありがとう!!」

この状況での、『告白』というには余りに深刻すぎる告白に、それでも、夏美は嬉しさを隠せない。

「だが、この気持ちというのは、冷静に考えれば、『所詮、地球人とケロン人は結ばれるはずが無い』
という大前提の下での、“火遊び”のようなものだったんじゃないか、と思うんだ…」

「え?それって、どういう…」
夏美は、『結ばれるはずは無い』『火遊び』という単語に、激しい衝撃を受けた。

話が本筋に入ったのか、ギロロの顔が青白さを増し、話しにくそうに、何度も何度も両の唇を湿らせる。

「つまり、俺たちは、どれほど親密になろうと、侵略する側とされる側、
その立場は変わらないし、その相違は決して乗り越えられない、ということだ」

ギロロは一言一言を区切りながらゆっくりと話したが、
夏美を傷付けまいとの配慮から直截的な言い回しを避けたため、
不安に苛まれ混乱している夏美は、かえって、その内容をすぐ正確に把握できなかった。
だが、ギロロの言葉が二人の離別に関係しているということだけは直感的に理解した。

「それ…、どういうことよ…」

「俺たちは、もう、これ以上親しい関係にならないほうが、お互いのためなのではないかと思…」
「な、何よそれ!?どうしてそうなるのよ!!」

ギロロの言葉を遮って、夏美が悲鳴に似た声で反問する。
どうしてそうなるか−つまりその“理由”については直前にギロロが述べたばかりなのだが、
混乱の窮みにある今の夏美に対して、もしもそのことを指摘する者がいるとするなら、
その者は大怪我をするに違いなかった。
684 ◆K8Bggv.zV2 :2008/05/28(水) 21:31:23 ID:vZLRMV3J
「どんな時だって、ギロロはあたしの味方をしてくれたじゃない!!」

「そ…、それは…」
そうなのだ。
問題はそこにあり、ギロロにとっては、夏美の身の安全や地球人として立場を護るためならば、
ケロロの命令を無視したり、その作戦を妨害したりすることなど何とも思ってはいなかったし、
あのガルル小隊による侵攻の一件以来、
夏美専用パワードスーツの起動用リモコンは夏美に預けっぱなしになっており、
先日の、氷山を改造した半潜水基地を用いた作戦の際には、夏美はパワードスーツで出撃し、
あろうことか、クルルが開発中だった新兵器でその基地を融解して作戦を失敗させていた。
これらは、何処の誰がどう観察しても明白で重大な利敵行為に他ならず、
もしケロロが謹厳な性格であれば、ギロロは今までに何十回も銃殺刑に処せられているはずだった。

「ほら見なさい!ギロロは、あたしのことが好きなのよ!あたしだって、ギロロのことが大好き!!
だから、もう、『一緒にいても、どうしようもない』みたいな事は言わないで!!」

「しかし、俺はケロン軍の軍人であって、
俺がここに来たのは、この地球(ペコポン)をケロン星の支配下に置くという目的を達成するためだ」

「そんなこと、わかってるわよ」

「だが、お前は、この地球を守ろうとする。もちろんそれは当然のことだ。
もし、俺がお前と同じ立場に置かれれば、お前と同じ、いや、それ以上の行動をとるだろう」

「…」

「だから、侵略する側の俺と、それを排除する側のお前は、どうしても相容れぬ存在、立場が正反対…」
「立場が反対でも!水と油みたいでもッ!!」
「…」
「でも…、あたしたち、遠い遠い星で生まれて、でも…、こうして出逢って…」
「…」

「大好きになって…」

夏美の美しいガーネットの瞳から、小粒の真珠のようなきれいな涙がぽろぽろと幾つも零れ落ちる。
685 ◆K8Bggv.zV2 :2008/05/28(水) 21:32:18 ID:vZLRMV3J
「夏美…」

ギロロは、すっくと立ち上がると、
別離を切り出して夏美を哀しませた我が身には最も相応しくない行動とは知りながら、
夏美のすぐ隣に座りなおす。
夏美は、ギロロの胸元に縋り付くように両の掌を押し当て、その掌にぎゅっと力を入れる。

「…だが、俺た…」
「いいから、あたしの傍にいて…!」

「しかし、夏…」
「あたしの傍にいなさいよ!」

「夏美、落ち着いてよく考…」
「うるさい!黙って、わたしの傍にいてよ!!ずっと、ずっと、私の傍にいなさいよ!!!」

「お願いよ!ギロロッ!!」
感極まった夏美は、ギロロにしがみつくように抱き付くと、ギロロの胸で激しく慟哭した。
ギロロは、その広い掌で、激しく震える夏美の肩先を宥めるようにそっと包む。

夏美は、ギロロの胸の中で何度も何度も大きくしゃくりあげ、喉を詰まらせる。
ギロロの掌が、夏美の背中を何回も優しく撫でた。

夏美の様子が少し落ち着いたのを見計らって、ギロロは再び説得を試みようとする。

「夏美」
「うん」
「お前の気持ちは、本当に嬉しい」
「うん」
「だが、やはり、俺たちは…」

ギロロが説得を諦めていないことを知った夏美は、
ギロロの胸元に埋めていた顔をさっと上げ、ギロロの黒曜石のような漆黒の瞳をキッと睨み付ける。
そして、ギロロの身体を突き放すようにして、それまで密着させていた上半身を離すと、
ネックストラップでギロロの胸元にぶら下がっているIDカードが入ったクリアホルダーを掴んだ。
そして、次の瞬間、その手を自分の胸元へと思い切り引き付けた。

「!」

クリアホルダーの上の取付金具がピン!と弾け飛び、
ネックストラップの紐だけがフニャリと力なくギロロの胸元へと戻っていく。

夏美の手には、IDカード入りのクリアホルダーだけがしっかりと握られている。

「アンタみたいな、たった一人の女の気持ちを受け止められないような意気地無しに、
大事な任務なんて、上手くこなせるはず、ないわ!!」
686 ◆K8Bggv.zV2 :2008/05/28(水) 21:33:33 ID:vZLRMV3J
夏美は、ギロロの瞳を睨み付けながらケースからIDカードを摘み出す。
そして、ケースを横にポイと捨てると、カードの真ん中あたりを両手の親指と人差し指で固く握り、
両肘を外側にグイッと張った。
そのまま夏美が両腕に力を込めて捻れば、IDカードはひとたまりも無く破れるか、無残に折れ曲がるだろう。

反射的にギロロはカードを取り戻そうと手を伸ばすが、夏美は素早く身をかわす。

「ちょっと待て!夏…」
「いいえ!待たないわ!アンタみたいな腰抜けで役立たずの兵隊がいると、
他の立派な兵隊さんが凄く迷惑すると思うの!だから、こうしてあげる!!」

夏美の両腕に、ぐっと力が入れられようとした、その瞬間…

「違うんだ!IDの裏側には、お前の写真があるんだ!!」

ギロロの切ない叫びに、夏美の身体全体がフリーズする。

「本当だ。裏を見てみろ…」

夏美が、細かく震え始めた指でカードをそっと裏返すが、自分の写真は無い。白い無地だ。

「…?」

「…『裏』というか、IDの“後ろ側”に、だ…」

言われたとおり、カードを持っている指を少しずらしてみる。

すると…

あった。

カードの裏側にピッタリと重なっていたから分からなかったのだ。

今は裏返しになっている、少し指の圧迫痕が付いてしまった写真を、恐る恐る裏返す。

確かに、自分の写真だった。
687 ◆K8Bggv.zV2 :2008/05/28(水) 21:34:37 ID:vZLRMV3J
どういう状況で撮影されたのかは定かではないが、
学校指定のカーディガンを着て、
いかにも小生意気に眉をちょっと吊り上げて左目でウインクをしている表情を、
左やや下から撮影したようなその写真は、紛れも無く夏美のものだった。

写真を見たまま再びフリーズしている夏美に、ギロロが優しく説明する。

「その写真は、俺がいつも肩から掛けているベルトのバックルの中に、“お守り”として入れているものだ」

「(あたしの写真を、“お守り”に…)」

いつも無茶ばかりしているギロロ。
真っ先に危険な場所に飛び込んでいくギロロ。

平和なこの国で暮らす平凡な中学生の自分には戦場の本当の危険さなんて分かりっこないけど、
兵隊さんていうのは、命ぎりぎりのところで働く職業だってことくらいは分かる。

そんな、生きて帰れるのが不思議なくらい危ない所へ行く時の心の支えとして、
あたしの写真を、いつも肌身離さず持っていてくれたんだ。

もし、ギロロに万が一のことがあったときには、
あたしの写真が、最後までギロロと一緒にいて、最期にギロロを看取ることになるんだ。

そんなにまでこのあたしのことを思っていてくれるギロロのこと、あたし、ひどい言葉で罵った…

夏美の身体が、ガタガタと震えだす。
ガーネットの瞳から止め処なく溢れ出る熱くて綺麗な涙が、絶え間なく頬を伝い落ちる。

「ごめん…」

「夏美…」

「あたし、ギロロのことを『意気地無し』って、言った…」
688 ◆K8Bggv.zV2 :2008/05/28(水) 21:36:03 ID:vZLRMV3J
「いいんだ」

「『腰抜け』って、言った…」

「気にするな…」

「本当に、ごめん…」

「夏美」

「本当に、本当に…、ごめんなさい」

ギロロは、夏美の傍にそっと座り直した。
それと同時に、二人は、どちらからともなく腕を伸ばして、互いの身体をとても愛しげに抱き締めあった。

「ギロロ…」
「ん?」
「あたし、ギロロがいないと、だめみたい…」
「俺も、やはり、夏美がいなければだめなようだ…」

ギロロだって、夏美を悩ませ泣かせようとして好き好んで将来の別離を話題にしたのではなかった。
今、わざわざこうしたことを話題にしたのは、もちろん、ギロロ自身の心を整理するためもあったが、
しかし、将来必ず訪れる凄まじい“矛盾”から夏美を守ろうとしてのことだったのだ。
だが、それを夏美に告げた結果、
誰あろうギロロ自身が、夏美無しでは生きられなくなっていたことに気付かされたのだった。

また、ギロロにこのタイミングを選ばせたのは、ギロロの『戦士の第六感』だった。

ケロロが軍本部に出頭してから一週間以上、そして、クルルが肝心な場面で妙に親切…
異変が起きるとすれば、それは近々中で、しかも相当大規模なものとなるだろう。

だが、自分自身の命令違反やケロン軍の武器の夏美への不当貸与などの利敵行為について、
今まで何とか軍中央に発覚せずにすんでいたのだ。これからだって、上手くやれるに違いない。

今日これまでの夏美との遣り取りを通じて、
ギロロは、ようやく、これからの人生を夏美のためだけに生きていく覚悟が出来たのだった。
689 ◆K8Bggv.zV2 :2008/05/28(水) 21:37:06 ID:vZLRMV3J
「ギロロ」
夏美が、ギロロの胸元を掌でゆっくりと撫でながらその名を呼んだ。

「ん?」
ギロロが、夏美の艶やかな赤い髪に顎先を埋めながらそっと返事をする。

「今まで、頼れる大人の男の人がいなかったの…」

「うん」

「そういう男の人が欲しかったの…」

「うん」

「やっと、見付けた…」

ギロロが、夏美を抱く腕にぎゅっと力を込める。
それに応えて、夏美も、ギロロの胸元にいっそう深く頬を埋めた。

「夏美」

「何?」

「俺は、お前の期待に応えられるような男かどうかは分からない。
だが、お前に寂しい思いをさせたり、哀しませたりするようなことだけは、しないつもりだ」

「ありがと、ギロロ…」

「夏美…」

「ギロロ…」

愛しげに互いの名を呼び合う二人の声が途切れ、柔らかな沈黙が訪れる。

ギロロは夏美の身体を優しく抱いていたが、しかし暫くすると、夏美の身体が少し重くなったように感じられた。
その呼吸も、静かに、規則正しくなっていた。
690 ◆K8Bggv.zV2 :2008/05/28(水) 21:38:10 ID:vZLRMV3J
「夏美…?」

返事が無い。

ギロロがそっと夏美の顔を覗き込むと、
幸せそうにふんわりと微笑んだ頬に涙の痕を残したまま、夏美はギロロの腕の中で寝入ってしまっていた。

無理も無かった。

平凡な中学生の女の子が、ほんの数時間のうちに、
恋愛の歓喜と地獄を体験し、その上、宇宙規模の問題にまで結論を出すことを強いられたのである。
その精神的負担は計り知れないものであったに違いない。

「夏美…」

その甘酸っぱい匂いを鼻腔いっぱいに感じながら、
ギロロは、自分の腕の中ですやすやと健やかな寝息を立てている大切な大切な女にそっと囁きかけた。

「お前を、必ず、護るから…」
691名無しさん@ピンキー:2008/05/28(水) 21:42:00 ID:vZLRMV3J
今回は、以上です。

だいぶお待たせしたのに、何だか、
新聞の一番最後のページの中段少し下に掲載されてる連載小説みたいになっちゃって、
すみません。

次回は、ギロロと夏美をイチャイチャさせてみたいと思います。
692名無しさん@ピンキー:2008/05/28(水) 21:51:50 ID:PoYuXYJw
>>691
乙!次回もまってるよ
693名無しさん@ピンキー:2008/05/30(金) 00:49:48 ID:hUpA4rMR
>>691
GJ!!やっぱギロ夏は最高だわ
694名無しさん@ピンキー:2008/06/04(水) 19:13:50 ID:XOjuIo/1
ギロ夏SSの続き、密かに楽しみにしてる
695名無しさん@ピンキー
トモキリン