嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ 25った瞳

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1名無しさん@ピンキー
浅いものはツンツンしたり、みたいな可愛いラブコメチックなヤキモチから
深いものは好きな人を独占して寵愛する為に周囲の邪魔者を抹殺する、
みたいなハードな修羅場まで、
醜くも美しい嫉妬を描いた修羅場のあるSS及び、
他様々な展開の修羅場プロット・妄想を扱うスレです。

嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ 泥棒猫24を
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1165495801/
■まとめサイト
2ch 「嫉妬・三角関係・修羅場統合スレ」まとめサイト
http://dorobouneko.web.fc2.com/index.html
2名無しさん@ピンキー:2006/12/24(日) 20:26:05 ID:GKrncAOe
■関連スレ
嫉妬・三角関係・修羅場統合スレ 第16章
http://idol.bbspink.com/test/read.cgi/hgame/1165004952/
■姉妹スレ
嫉妬・三角関係・修羅場統合スレinラ板
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/magazin/1132666398/
嫉妬・三角関係・修羅場統合スレin角煮板
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/ascii2d/1157942116/
誘導用
【創作】ハーレムな小説を書くスレ【情報】 6P
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1165242554/
ヤンデレの小説を書こう!
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1148704799/
●●寝取り・寝取られ総合スレ4●●
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1164867401/
3名無しさん@ピンキー:2006/12/24(日) 20:27:09 ID:GKrncAOe
SSスレのお約束
・指摘するなら誤字脱字
・展開に口出しするな
・嫌いな作品なら見るな。飛ばせ
・荒らしはスルー
・職人さんが投下しづらい空気はやめよう
・指摘してほしい職人さんは事前に書いてね
・過剰なクレクレは考え物
・作品に対する評価を書きたいなら、スレ上ではなくこちら(ttp://yuukiremix.s33.xrea.com/chirashi/)へどうぞ
スレは作品を評価する場ではありません
4名無しさん@ピンキー:2006/12/24(日) 20:36:18 ID:2SHUqwOG
>>1さん乙です
5名無しさん@ピンキー:2006/12/24(日) 20:40:47 ID:h5XrdpxF
乙でんがな
6リボンの剣士 39話 ◆YH6IINt2zM :2006/12/24(日) 20:45:50 ID:Dxq3omBW
>>1乙です。早速ですが投下します。
7リボンの剣士 39話 ◆YH6IINt2zM :2006/12/24(日) 20:46:32 ID:Dxq3omBW
「んむっ……」
凄い、これ……。
あたしの口の中で、どんどん大きく、熱くなってる。
気持ちいいのね、人志……。
「……っ」
びくっ、と人志の身体が震える。
今のが良かったの? それなら、もっとしてあげる。
カサの部分まで口に入れて、先っぽを舌でつついて……。
入ってないところは、手で擦る。
「……。……!」
リズム良く、人志の身体が反応した。
皮の中まで舌を進めると、少し苦い味が入ってくる。これが人志の味……。
「はぁ……はぁ……」
人志の息が荒くなってる。胸が上下して、顔には汗が浮かび始めた。
「ん……」
額の汗を、失礼してぺロリ。
思ったよりしょっぱくなかった。舐めた部分が、汗の代わりにあたしの唾液で湿る。
もっと、ツバつけたい。

口の中で、唾液を溜め込む。
その間も、手でしごいてあげるのは忘れない。
ある程度溜まったところで、人志の顔の真上で口を開け、唾液をたらす。
ぴちゃ、って音がして、まとまった液が頬に乗った。
そしてそれを、舌を使って広げる。人志の顔に、あたしの唾液を塗る。
この行為に、背中はぞくぞくして、自分でもうるさいくらいに息が上がる。
「っ……」
微かに震えて、人志の目がゆっくりと開いた。王子様のお目覚めよ。
ぼんやりとした感じの瞳が、次第にはっきりと光を点して、あたしを見据える。
もちろん、あたしは人志から一瞬も目を離さない。
口を開こうとした瞬間、あたしの唇を人志のそれに押し当てる。
言葉は……いらない。気持ちは通じ合っているから。
舌を出して、人志の口の中にも唾液を送り込む。
すぐに、人志の舌で迎えられた。口の中での、熱い抱擁。そこに加えてあたしたちの吐息で包まれるのだから、
その熱さはさらに増して、狂っちゃいそう。
そうだ。あたしも準備しないと……。
人志の背中に回しているほうの手を戻して、自分のところを弄って――。

あれ?
8リボンの剣士 39話 ◆YH6IINt2zM :2006/12/24(日) 20:47:20 ID:Dxq3omBW
急に、あたしの身体が軽くなった。
かと思うと、体の向きが反転して、背中から床に落とされる。
人志が、あたしの上に覆いかぶさった。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
血走った眼が、あたしの体を頭から足先まで、這い回るように視ている。
まるで、これから獲物に牙を立てる獣のよう。
人志の手が、あたしの肌に触れた。
邪魔だとばかりに、乱暴に服を剥ぎ取られる。あたしが取りやすいように体を少しでも動かさなかったら、引き
ちぎりそうな勢いだった。
普通の状態じゃないのは分かってる。多分木場に、そんな風になる薬を盛られたのよ。
あの女のことだから、それくらい平気でやってもおかしくない。
「明日香……!」
でも人志は、あたしだけを見ている。今やってる事だって、女だったら誰でもいいのとは違う。
元々、木場のことなんてそういう目ですら見てなかったってこと。
残念だったわね、唯一の武器が効かなくて。
下着も全部脱がしたら、即座に人志はあたしの胸に吸い付いた。
その頭を抱きしめる。
人志の欲求、全部あたしが受け止めてあげるわね。
木場は隅で転がりながら、あたしたちが愛し合うのを眺めてればいいのよ。


人志と一つになってから、どのくらい時間が経ったのか分からない。
時計を見る余裕も無かった。
それくらい、人志の欲求は底抜けてて、激しい。
中で何回も出してるのに、太さも硬さも変わらないまま、一度も抜かずに暴れ続ける。
初めこそ、準備が出来てないまま突っ込まれたから少し痛かったけど、段々痛みは弱まって、代わりに快感が沸
き上がって溢れた。
声もはっきり出せなくなって、ただ人志にしがみ付くしかできない。人志はあたしの体を軽々と持ち上げて、
前から後ろから横から、上も下も分からなくなるくらい、攻め続けた……。


人志の欲求が落ち着いたのは、明け方になった頃だった。
朝までずっと、あたしと愛し合っていた。
今は服も着て、座った人志の膝の上に丸まりながら、頭や髪を撫でられている。
夜は激しく、朝はそっと優しく愛してくれる人志。
幸福感に満たされる。
心も体も通じ合ったこの時間を、あたしは一生、生まれ変わっても忘れない。
9リボンの剣士 39話 ◆YH6IINt2zM :2006/12/24(日) 20:47:56 ID:Dxq3omBW
外が明るくなってきて、出歩く人の声がぽつぽつ聞こえ始めた。
このままずっと人志と一緒にいることが、あたしの幸せ。
だけど、それよりも優先しないといけないのは、人志の幸せ。
外が少し騒がしくなった。

「人志……」
「ん?」
「あたしのこと、好き?」

見たことも無い人がこの部屋に入ろうとしたけど、すぐ出て行った。

「好きだ」

はっきりと、人志は答えてくれた。

「じゃあ、約束してくれる?」

あたしの、最後のお願い。

「その気持ち、ずっと忘れないで」

一生の、お願い。

「忘れるものか」

人志の手が、また優しく髪を撫でた。

サイレンの音が聞こえる。

良かった。これであたしの思い残すことはない。


入ってきた警察には、何も言わなかった。
連れて行かれる直前に、人志の方を見る。
本当に、これが最後。

「さっきの約束、守ってね」


この世で一番伊星人志を愛してる、新城明日香より。


(最終話Aに続く)
10リボンの剣士 39話 ◆YH6IINt2zM :2006/12/24(日) 20:49:42 ID:Dxq3omBW
次がラストです。
一番乗り失礼しました。
11名無しさん@ピンキー:2006/12/24(日) 20:58:49 ID:ucVzzKKg
>>1乙!
>>10早速の投下キタ━━(゚∀゚)━━!!
GJであります!
12名無しさん@ピンキー:2006/12/24(日) 20:59:19 ID:wfUkCqoA
一番乗りGJ!
知ってるかい
前スレより前々スレの方が容量あいてるんだぜ?
13名無しさん@ピンキー:2006/12/24(日) 21:08:32 ID:47i8zwHW
あと一カ月程でこのスレの誕生日か。
14名無しさん@ピンキー:2006/12/24(日) 21:28:41 ID:ApYFOIKi
>>10
俺はずっと投下を待ちわびてたぞ!そしてGJ。GJすぎる。
>>12
そうなんだ・・・。神作品の数々の投下が早すぎて気が付かなかった・・・
15名無しさん@ピンキー:2006/12/24(日) 21:49:32 ID:tyqKiM8H
GJ!!!

そういやトライデント氏どうなったんだろうか・・・
16名無しさん@ピンキー:2006/12/24(日) 21:51:39 ID:YfJB1KJ8
昼来たばかりだろう・・・・
17名無しさん@ピンキー:2006/12/24(日) 21:54:57 ID:tyqKiM8H
>>16
あ・・・ほんとだスマソ
18名無しさん@ピンキー:2006/12/24(日) 22:14:35 ID:USRs9fZk
ここだけ時間が加速してるなw
19名無しさん@ピンキー:2006/12/24(日) 22:22:18 ID:P0ZwkpzE
アビスさんどうなったんだろう
20名無しさん@ピンキー:2006/12/24(日) 22:46:01 ID:iB1f9HuV
ここのコテハン執筆者は揃って文体が印象深く、前回の作品を読めば他の作品も
その後の展開がなんとなく判るんだ…そしてつい読み飛ばしてしまう
21名無しさん@ピンキー:2006/12/24(日) 22:47:36 ID:Dfw4+F9G
つ チラシ
22名無しさん@ピンキー:2006/12/24(日) 23:09:12 ID:ty8BDXVc
人それぞれ
だからわざわざそんなことを主張して他人の楽しみに水を差すなよだぜ?
23名無しさん@ピンキー:2006/12/24(日) 23:14:18 ID:31IMsh8O
ただの煽りだろ。ほっとけ
24 ◆6xSmO/z5xE :2006/12/25(月) 01:08:28 ID:oGImx2xN
では、投下いきます。
25ブラッド・フォース ◆6xSmO/z5xE :2006/12/25(月) 01:10:08 ID:oGImx2xN
『サトシに触れるなぁっ!』

 エルの叫びが上がるのと同時に、綸音は智の身体を手放した。
 ぽすんっ、と智が芝生に静かに沈み込むのを横目で確認しつつ、剣を逆袈裟に振りかぶって大きく一歩を踏み出す。
 2,30メートルは離れていたエルが、既に目前に迫っていた。



 殺れる、とエルは思った。
 初動の遅れた相手に対し、こちらは既に全速域に入っている。
 剣が振り下ろされようとも、その前に突っ切れるという自信があった。
 右手に力を込めつつ、一気に懐に潜り込もうとして―――。

「っ・・・!?」

 ―――潜り込もうとして速度のギアを入れ替えようとした瞬間。
 刹那に満たない瞬間を狙い打つように、綸音の剣がエルの踏む込もうとしている空間を薙いでいた。

 避けられない。退かねば当たる。
 だが、当たっても耐えればそこはもう間合いの死角。確実に取れる距離だ。

 吸血鬼の耐久力を信じて敢えて虎口に飛び込もうとしたエルだが、その動きが突如止まった。
 直進のベクトルを一気に真逆に切り替え、大きく後退する。
 綸音はそんなエルの様子に動じることなく、振り下ろした剣を引き態勢を整える。
 剣を腰溜めに保った居合いの構え。その眼光は鋭く、どんな些細な動きも見逃すまいとエルを睨みつけていた。

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26ブラッド・フォース ◆6xSmO/z5xE :2006/12/25(月) 01:12:08 ID:oGImx2xN
 足に疲労から来る痛みを覚えるなど何十年ぶりだろうか。
 全速力を一気に覆した反動に舌打ちしながら、エルは動揺した心を必死に落ち着けていた。

 回避不可能の一閃。あれは偶然なのか。
 動きが一通り――速度と方向の微調整――に絞られるタイミングを薙ぎ払われたのだ。
 その瞬間でなければ、回避しつつ攻撃を加える行動パターンが幾通りも取れたはずだった。
 剣の描ける軌跡など、この空間の広さに対してあまりに小さい。
 対して吸血鬼である自分は、その広大な空間を自在に駆ける運動能力を持っているのだから。
 だが、行動の起点を封じられてはどうしようもない。

 加えて、彼女の持つ剣。
 灰がかった白の光沢を持つ刀身。吸血鬼の弱点である銀の刃だ。
 踏み込もうとした瞬間、本能的な危険を感じて飛び退いたのだが、どうやら正解だったようだ。
 耐えて懐に潜り込むなどとんでもない。激痛に蹲ったところに止めを刺され、こちらがやられていただろう。

 思いのほか手強い。
 ただの人間じゃないと、そう自身に言い聞かせながらも、エルは怖気づくどころか殺意を更に漲らせていた。
 綸音の後方をチラリと見やると、そこには血溜まりを作って倒れ臥す智の姿。
 銀の剣で実際に貫かれた彼の痛みは、どれほどのものだったのだろう。

 智を傷つける者は。自分と智を引き裂こうとする者は。


 絶対に、許さない。







 下がったエルを鋭く睨み据えながら、綸音は内心で舌を巻いていた。
 凄まじい勢いの突進と後退。どう見ても、人間の身体能力のレベルを超えている。

 想像していなかったわけではない。
 感を使うまでもなく、撒き散らす瘴気が彼女を人外の魔――それも智を遥かに上回る――だと告げていた。
 怒りの全てを綸音に定め、一気に猛進してくることも分かっていた。
 だが、実際に反応出来るかどうかはまた別の問題だ。
 知覚に身体が付いて来てくれるとは限らない。真っ向勝負のストレートだと分かっていても空振りしてしまうように。
 初動が遅れたこともあり、今の切り返しが上手く行くかは正直言って賭けだった。

 藍香のお付きを任されているだけあり、綸音の武術の腕前は相当なものがある。
 特に剣技に掛けては、神川の一門全体で見ても、綸音に及ぶ者はそうそういないほどだ。
 だが今目の前にいるのは、その彼女をして戦慄させる、文字通りの化物。
 感が一度でも外れれば、もしくは感に一度でも反応出来なければ、その時点で自分の負けだ。

 それでも、やられるわけにはいかない。
 目の前にいる女――いや、女の姿の魔物は、智を闇の道に引き摺り落とそうとしている。
 彼が魔の者に変貌したのにも、この女が関わっているに違いない。

 やはり、この人を守れるのは自分だけなんだ。

 そう自身に言い聞かせると、綸音は腹に力を込めてエルを睨み返した。

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27ブラッド・フォース ◆6xSmO/z5xE :2006/12/25(月) 01:14:42 ID:oGImx2xN
「智先輩を誑かすのは止めてくれませんか?
 あなたが何者かは存じませんが、魔物と人間は相容れないものです。
 先輩のことは私に任せてもらって大丈夫ですから、どうぞお引取り下さい」

 迎撃の構えはそのままに綸音が告げる。
 見たところ外国人であり言葉は通じないかもしれないが、言わずにはいられなかった。
 だが綸音の予想に反し、エルははっきりとした日本語で返してくる。

「ええそうよ、分かってるんじゃない。人間と化物は同じ位置では共存出来ない。
 吸血鬼と共に生きられるのは吸血鬼だけ。サトシと本当の意味で寄り添えるのは私だけなの。
 去るのはあなたの方だわ」

 当然のように言い放つエル。先程のお返しとばかりに、見下した目で嘲笑ってみせる。
 ギリッ、と歯噛みする音が綸音の口から小さく漏れた。
 しかしその優越感に浸ることなく、エルの表情はすぐに険しいものに戻る。
 双方口調こそ穏やかだが、滲み出る殺気までは隠せない。
 共に相手に去れと言っているが、それだけで済ますつもりがないのは明白だった。

「先輩は化物じゃない!
 この人は人間です。身体がどうだろうと、心までは侵されてない。
 先輩だって、人として生きていくことを望んでる。あなたのような化物になど渡さない。
 私が守るんですから!」

「ふざけないで、何が『守る』よ!
 身体のことが分かっているのなら、何故銀の剣なんかでサトシを刺したっ!?」

 いつになく激した綸音に、エルも激昂して牙を剥く。
 こんなことをしておいて、出てきた言葉が『守る』と来た。
 化物は問答無用で殺すとか言われた方が何倍もマシに思える。それほどの怒りが、エルの中で暴れ狂う。
 だがそれに対する綸音の反応は、先程までの激しい口調ではなかった。


「守るために刺したんですよ。どこにも行けないように、私にしか触れられないように。
 だって、そうしないと智先輩は他の女の血を吸ってしまうじゃないですか。どんどん魔に堕ちていってしまうじゃないですか。
 どうしても我慢できないなら、私に手を出すまでにとどめないと駄目じゃないですか。私なら先輩を止められるから。
 私がいないと生きていけなくなることが、先輩を守り、ひいては先輩を人間に留めることに繋がるんです」

 うっとりと、陶酔するように話す綸音。
 その目は、エルから見て酷く濁っているように映った。
 だが綸音から見れば、きっとエルの目の方こそ濁っているように映るのだろう。
 そう、エルは思う。なぜなら。

「・・・狂ってるわ、あなた・・・」
 そう吐き捨てる一方で、綸音の気持ちに一抹の共感を覚える自分がいるのも事実だったから。
 もっとも、だからと言ってエルの智を望む気持ちが揺らぐことは微塵もなかった。
 エルは思う。本能の強制力をこの女は分かっていない、と。
 人間が食を取らずに生きられるか? 睡眠なしで生きられるか? 当然、否だ。
 吸血鬼に血を吸うなと言うのは、人間にそれら無しで生きろと言うのと同じことなのだ。



 智に吸血鬼であることを望むエルと、人間であることを望む綸音。
 彼を守りたいという根っこは同じながら、想いのベクトルは正反対だ。
 どの道、相容れないことは初めから分かっていたこと。

 無駄話の時間は、終わった。
28ブラッド・フォース ◆6xSmO/z5xE :2006/12/25(月) 01:16:34 ID:oGImx2xN




 再びエルが駆け出した。
 トップスピードとまでは行かなくとも、かなりの高速で見る見る綸音に迫っていく。
 綸音も今度は出遅れることなく、腰を捻っていつでも抜刀出来る態勢を取る。
 共に、牽制で相手の出方を伺おうという気持ちはない。
 傷つき倒れている智がいるのだ、相手を倒すに時間を掛けてはいられない。

 エルが間合いに入る瞬間を見切って、綸音が逆袈裟の一閃。
 迎撃を予測していたエルはあっさりと身を翻し、サイドステップに切り替えた。
 間合いのぎりぎり外を横っ飛びに移動し、外足を軸に身体を旋回させる。
 コンマ数秒に満たないその所作の間に、エルは綸音の側面を取っていた。
 近距離での水平移動は、綸音からすればいきなり消えたように映っただろう。
 そのまま回転するに任せて、綸音の背中に裏拳を叩き込む。
 決まった、という確信を持って。
 だが―――。


「そんなっ・・・!?」

 エルから驚愕の言葉が漏れる。
 ドンッ、と鈍い音を響かせ、エルの拳は綸音に命中した。ただし、肩ではなく腕に。
 咄嗟に身を引いて左腕を掲げ、攻撃をガードしていたのだ。
 背に当たれば全身に広がっていただろう痛撃は、左腕を痺れさせるのみに留まった。
 その強烈な衝撃に顔を顰めながらも、綸音は右手に持った剣を、掲げた左腕の下を潜るように突き出す。

「きゃうっ!?」

 不安定な態勢と左腕の痛みからか、腹部を狙った刺突は脇腹を掠めただけだった。
 それでもエルの顔は苦痛に歪み、すぐに綸音との距離を取る。
 赤紫の血が流れるその場所は、肉の焦げた音を立て薄い白煙を立ち上らせていた。



29ブラッド・フォース ◆6xSmO/z5xE :2006/12/25(月) 01:19:21 ID:oGImx2xN
 ―――いける。

 痺れて動かない左腕を気にしながらもその様子はおくびにも出さず、綸音は確信した。
 銀の剣の効力は予想以上だった。掠ってこれなら、まともに入れば一撃で戦闘不能にできる。

 加えて、分かったこともいくつかある。
 エルは攻撃を受けたり流したりしない。いや、出来ないのだ。
 銀に触れることを厭い、わざわざ体捌きで攻撃をかわしている。
 斬撃を受け流すなどそうそう出来ないことを差し引いても、エルの意思が銀に触れることを嫌がっているのが分かる。
 更にもう一つ。
 エルには技術がない。力、速さはとんでもないが、それだけ。身体能力頼みのゴリ押しタイプということだ。
 本格的な戦闘訓練を受けた経験などはないのだろう。
 もしあの身体能力に洗練された技術が加わっていたら、いくら感があっても綸音はとっくにやられていたはずだ。
 それに、魔物と言っても超能力や催眠術など、そういった妖しげな技を使うわけでもないらしい。
 勿論まだ油断はできないが、変に吸血鬼がどうとか意識して惑わされるべきではないと思った。

 次こそは、致命傷を入れる。
 勝利への意思を込め、綸音は再び構えを取った。







 ―――どうして反応出来た?

 脇腹の痛みが表情に出ないよう気を払いながら、エルは自問自答していた。
 こちらが側面を取った時、綸音はこちらに気づいてはいた。
 だが、意識しようともそれが身体に伝わるには若干のタイムラグを要する。
 綸音の身体はまだ薙ぎ払った前方を向いており、今更反応しても間に合わないはずだった。
 なのに防がれたということは。
(読まれていたの? 始めから・・・)
 気づいてから反応しても間に合わない攻撃を防ぐのなら、あらかじめ感づいている他ない。
 だが、斜め後方からの打撃を正確に止めるなど、並大抵のこととは思えない。
 これが達人の妙技なのか、それとも目の前の小娘が特別なのか。
 吸血鬼だからといって戦闘に長けているわけでも経験豊富でもないエルには分からない。
 だが、こんな調子で戦っていてもジリ貧になるだけだ。
 何とかしなければ。


 ふと右手を見下ろすと、爪先に若干の血が付いていた。真っ赤な、自分のものではない血。
 裏拳を繰り出した時にだろう。何かの拍子で綸音の腕を引っ掻いていたらしい。
 何となく、エルはそれを舐めて―――吐き気を催した。

30ブラッド・フォース ◆6xSmO/z5xE :2006/12/25(月) 01:23:19 ID:oGImx2xN
 不味かったからではない。むしろその逆で、美味かったからだ。
 流石にこの量ではたかが知れているが、それでもエルは力が満たされていくのを感じた。
 清廉で、精気に溢れ、ほんの僅かの汚れもない。
 外見が示すとおりの潔癖さ、瑞々しさを持ち、同時に麻薬のような中毒性を持つ真紅の血だ。

 もし男の吸血鬼がこの美しい少女の味を知ったなら、決して手放そうとしなくなるだろうと思うほどに。


 だが同時に、エルは気づいた。 
 攻めあぐねている苛立ちも込めて、綸音に向かって言い放つ。

「ふうん、生娘か・・・。まだ処女なのね、あなた」

 ピクンッ、と綸音が反応した。
 構えは崩さないものの、身体が若干硬くなる。
 図星を指されてのものだと、エルはすぐに気づいた。

「サトシに抱かれたこと、ないんだ。まあ仕方ないかしらね、そんな男の子みたいな身体じゃ」

 綸音の身体が僅かに震えた。
 同年代と比べて要所の発育が悪いことは、彼女自身自覚している。傍にいる藍香を見れば尚更感じることだ。
 智と出会う以前なら、胸などあっても剣を振るう邪魔にしかならないと思うだけだった。
 だが、今は―――。

「私は―――あるわ。
 裸になって、抱き合って、繋がって。
 サトシので貫かれて、膣内をいっぱい犯されて、熱い精液を何度も子宮に注がれて。
 最初は私から強引に襲っちゃった形だけど、最後は彼から私を求めてくれたのよ。
 『泣かないで』って、優しく囁いてくれた」

 思い出すのは屋敷にて何度も交わる智と藍香の姿。
 豊かな乳房を揉み、しゃぶり、大きいお尻に容赦なく腰を打ちつけ、藍香は蹂躙される悦びで雌の声を上げていた。
 仮に智が自分とセックスして、藍香にするように激しく貪ってくれるだろうか。
 それ以前に、このどうしようもなく幼い身体に欲情してくれるだろうか。

 女として、求めてくれるのだろうか。


「身体だけじゃ、男と女は一つにはなれない。でもね、心だけでも足りないの。
 あなたがサトシを愛していても、サトシはあなたを『愛して』はくれないわ。
 だから、あなたには・・・・・・」

 やめろ。やめろやめろやめろ。
 その先は言うな。言わないで。

 思い知らせないで。




「あなたには、サトシの全てをを受け止めることは出来ない」


 鋭すぎる故か、綸音の心は時に脆さを露呈する。
 突きつけられた、限りなく現実に近いであろう推測に―――。 


「うあああああああああああああああああああっ!!!!」

 ―――綸音は我を失い、目の前の女に飛び掛っていった。
31 ◆6xSmO/z5xE :2006/12/25(月) 01:26:14 ID:oGImx2xN
今回はここまで。毎度長くてすみません。
戦闘シーンがショボいのは仕様です、ご了承ください。むしろアドバイスしてくれって感じです。


次回で決着の予定。白黒つきます。
32名無しさん@ピンキー:2006/12/25(月) 01:28:25 ID:ZdC+myAw
GJ
最高のクリスマスプレゼントだぜ!
33名無しさん@ピンキー:2006/12/25(月) 01:28:26 ID:VY7bfjt7
GJ!次回綸音タソ大ピンチか!?短い天下だった……
34名無しさん@ピンキー:2006/12/25(月) 01:28:51 ID:dX8vETx/
ほんと
35名無しさん@ピンキー:2006/12/25(月) 02:14:36 ID:wecfXawM
メリークリスマス乙!
しかし一つ思ったのは…エルが持ち前の筋力でそこら辺のものをぽいぽい投げつけたら勝てちゃうんじゃね?
36名無しさん@ピンキー:2006/12/25(月) 02:23:50 ID:oLG5PRFT
ブラッディーなクリスマスプレゼント、GJ

>35
戦闘の素人だから投擲術なんてもってないんじゃね?
37名無しさん@ピンキー:2006/12/25(月) 03:01:01 ID:wecfXawM
>>35
結構狙って当てるのは難しいのかな?エルも死にかけ智を見て焦ってる、とか。
38名無しさん@ピンキー:2006/12/25(月) 03:14:58 ID:Db3aeILm
ヤッベー綸音がヤッベェー!!
これは次回見逃せないぜ
39名無しさん@ピンキー:2006/12/25(月) 03:17:56 ID:OBEDRRmD
>>31GJです!
独占欲剥きだしのエルかわいいよエル(*´Д`)ハァハァ
40名無しさん@ピンキー:2006/12/25(月) 16:43:10 ID:mqi238xY
クリスマスのイメージカラーの赤は
嫉妬に狂った女の子が作り出した赤だと感じた
神の投下ラッシュに感謝(*_ _)人
41 ◆zIIME6i97I :2006/12/25(月) 18:47:10 ID:Ah1PaWwx
知らず、前スレに投下してしまいました。しかも、全部投下できなかった。
改めてこっちにノン・トロッポ、投下します。
42ノン・トロッポ:2006/12/25(月) 18:47:46 ID:Ah1PaWwx
美術部は美術室を部室として使っていた。
愛美は戸を開けると、その中へつかつかと入っていった。
愛美の後についてきていた進は、体は教室の外に置いたまま、教室の中を覗き込んだ。
何かあれば、すぐに帰ろうと思ってのことだ。
そこには、女生徒がひとりだけいた。その女生徒と目が合った。見覚えのない顔だった。女の子にしてはずいぶん背が高い。
髪を無造作にゴムで束ねていた。束ねきれていない髪が、ぴょんぴょんとはねている。髪の色は多少薄かった。
くっきりした二重の目に、濃い眉毛。目の下あたりにそばかすが散っているのが特徴的だった。全体的に、彫りの深い顔だった。
その彼女と目が合ってしまったのだから仕方がない。進も諦めて教室に入ることにした。

進は愛美の隣にたった。愛美が口を開きかける。
だがその前に、女生徒が機先を制して話し出した。

「おお、君は平沢進君ではないか。いや、お噂はかねがね」

進はそれを聞いて、機嫌を悪くした。
沙織のおかげで、進は校内でそれなりの有名人であるが、その評判はよいものではなかったからだ。
沙織の金魚の糞であるというぐらいなら事実なのでまだいいが、根も葉もない噂も流されていた。
それを察したのか、女生徒が付け加えた。

「おおっと、誤解しないでもらいたい。あたしは足立沙織と同じクラスの友達でね。沙織から直接、君のことは聞いているのだよ」

つまり、彼女は1年先輩らしい。

「あたしは3−Aの山口翠(やまぐち みどり)。美術部の部長をやっている」

「あ、僕は」

「だから知ってるって。平沢進君。2−C所属。まれに見るがんばりやさんだが、子供っぽいところがある。好きな食べ物はシチュー。コーヒーには砂糖とミルクを入れる。
炭酸飲料が苦手。好きな色は青で、好きな音楽はテクノ。趣味は読書、それから」

翠は、そこでいったん休憩を入れて、というよりタメを作って続けた。

「絵が上手いらしい。これは全部沙織が勝手にしゃべったことだから。間違いがあったらいってね」

進は沙織の暴露ぶりにあきれた。友達と自分の話をしているなどと、想像もしていなかった。

「いや、だいたいあってます。絵が上手いってこと以外は」

翠はそれを聞いて「ふーん」と肯いた。
43ノン・トロッポ:2006/12/25(月) 18:48:17 ID:Ah1PaWwx
「で、その平沢進君がいったい何用でこんなところまで?」

そこで、蚊帳の外に置かれていた愛美がやっと口を開いた。

「見学です、美術部の。平沢君、どこにも入ってなくて、だからわたしが誘ったんです」

「ほおほお、グッジョブ、川名さん!この部には何かが足りないと思っていた。画材か?予算か?いや違う!それは若い男だ。あたしは若い男に飢えていた」

「あの、別にまだ入ると決めたわけじゃないですから」

進は釘を刺した。翠はいかにも口が上手くて、押しの強い娘であるように、進には思えた。
進はそういうタイプが苦手だった。あれよあれよと向こうのペースに巻き込まれて、進のような人間はいつの間にか流されてしまう。
実のところ、沙織もまた似たようなタイプだったのだが。

「いやいや、まあ見てってよお客さん。画材は全部部費で買えるし、静物だってこんなのもあるし」

翠はそういって、水牛の頭蓋骨らしきものを手に取った。

「ほらほら、ハリケーンミキサー!!なんちて。それだけじゃない。うちの部には5人の美少女が控えている。そこにいる川名さんなんて、結構かわいいでしょうが。え、何?
それとも川名さんがかわいくないとでもいうつもり?」

「あ、いや、かわいいと思いますけど」

翠の押しに、進がついいってしまうと、愛美はそれを聞いて顔を赤くした。
翠はそれを見て、にやりと笑った。

「まあもちろん、筆頭美少女はこのあたしなんだけどね。なんだったらモデルだってしてあげるよお。何、全裸がいい?仕方ないなあ、そこまでいわれちゃあ、後には引けない。あたしのナイスバディーを拝んで空までぶっ飛びやがれ!!」

翠はそういって、セーラー服のリボンを解き始めた。進は展開のあまり速さについていけていない。
おろおろすることもできず、ただ唖然としていた。
翠を止めたのは、進ではなく、愛美だった。

「ちょっと部長!平沢君が困ってますから」

「あははー、ごめんごめん。やっぱりメインは後輩に譲らないとね。ほらほら川名さん、平沢君も待ってるから、じっとして」

今度は、翠のリボンを解き始めた。

「あっ、あのっ」

愛美はなぜか律儀に翠のいうことを聞いて、じっとしていた。リボンが完全に解かれてしまう。
愛美が進の方をちらりと見た。赤い顔をしていた。だが、単に恥ずかしがっているという風ではなく。
進はやっと再起動した。
44ノン・トロッポ:2006/12/25(月) 18:48:53 ID:Ah1PaWwx
「ストップ!僕はいいですから、もう止めてください」

「ふむ、平沢君がそういうのなら、このくらいでよしておくか。じゃあ、入部は決定ということで」

翠が愛美のリボンから手を離した。愛美はそれをすばやく結びなおした。

「いや、だからまだ決めたわけじゃなくて」

「まあまあ、とにかく仮入部ということで。しばらくここに来て、いい感じだったら本入部すればいいんだし。だから、明日から放課後にはここに来るように。いちおう活動日は月曜から金曜まで。
うちは固いところじゃないから。気が進まなかったら休んでもいいし、天気がよかったら外で描いていてもいいし。顧問は明日来ると思うから」

「あの、でも沙織ちゃ、足立先輩が」

「知ってる知ってる。いつも一緒に帰ってるんでしょ。まあ、そのときまでいればいいじゃない。教室で描くのも、ここで描くのも一緒でしょ」

確かにそうだった。それに、断るのに沙織のことを理由にするのは、いかにも情けないことのように進には思えた。
だとすれば、他に断る理由などないようにも思えた。

「あの、分かりました。とりあえず明日から様子見ということで」

「おお!来てくれるか。後の歴史家は、君の決断を英断と呼ぶだろう、平沢卿」

翠はそういって、右手を差し出してきた。握手をしろということらしい。
進が杖を離して右手を出すと、翠はそれを握ってぶんぶんと振った。
怒涛の展開に時間を忘れていたが、そろそろ沙織が迎えに来る時間だった。今日はもう戻ることにした。

「ささ、川名さん。旦那を送って差し上げて」

一人で大丈夫だという進に、翠は無理やり愛美をつけた。
美術室に来たときと同じように、二人して教室に向かった。

「すごいひとだったね」

「あの、ごめんなさい、うちの部長っていつもああだから。迷惑だった?」

愛美が顔をうつむかせていった。

「いや、確かに驚いたけど。でも面白かったし。ああいう人は嫌いじゃないっていうか」

「平沢君は部長みたいに明るい人が好きなの?」

話が妙な方向に進んでいた。
45ノン・トロッポ:2006/12/25(月) 18:49:30 ID:Ah1PaWwx
「好きって言うか、嫌いじゃないっていうか、でもそういう恋愛感情とは違うっていうか」

「そう」

愛美はやっと顔をあげた。
そのとき、背後から声が響いてきた。

「進っ」

振り返ると、やはり沙織だった。進のかばんを持っていた。こちらに駆け寄って来る。

「ちょっと、もう、どこにいたの!?」

沙織は進の前まで来ると、そういった。
少し怒っているようだった。確かに約束の時間はすぎていた。しかしそれも僅かなものだった。

「いや、ちょっと、出てて。今、教室に帰ろうかと」

進は腰を引かせながらそういった。人に怒られるのは苦手だ。

「そう。で、こっちの子は?」

沙織は愛美の方をじろりと見た。
愛美は固まっている。

「えと、僕のクラスメートで、川名さんっていって、美術部で」

「そう、じゃあ川名さん。進はわたしと帰るから。さようなら」

沙織はそういうと、進を引っ張るようにして愛美から引き離した。

「ちょ、ちょっと待って、沙織ちゃん。あ、じゃあ、川名さん、またね」

愛美は、半ば引きずられるようにして連れて行かれる進の背中を見送った。
46ノン・トロッポ:2006/12/25(月) 18:50:02 ID:Ah1PaWwx
「で、どこに行ってたの」

校門を出たところで、沙織が聞いた。
美術部にいっていたと、進は正直に答えた。

「美術部?どうして?」

「ああ、美術部に入ろうかと思って、その見学」

「へ?美術部?何でいまさら?」

「いや、放課後待ってる間さ、別にどこで待っててもいっしょかなと」

進は、こんどは正直にはいわなかった。
なぜか、愛美に誘われてとはいいにくかった。

「あのさ、待つのが暇だったら、わたし部活やめよっか?」

まさか、そんなことを言い出すとは進も思わなかった。沙織の目を見ると、本気でいっているらしい。
冗談ではなかった。そんな理由で沙織を部活からやめさせたとあっては、学校中の生徒からどんな目にあうかしれたものではなかった。

「いやいや、それはおかしい。それくらいなら、帰りは別々にするとか」

それは、進がいずれいおうと思っていたことだった。
成り行き上とはいえやっと口に出せたことに、進は自分に喝采を送ってやりたい気持ちになった。

「なに?進はわたしと帰りたくないの?」

沙織が進の目をみていった。固い口調だった。進はそれを聞いて、すぐに日よってしまう。

「いや、そんなことはないけど。でも、沙織ちゃんが大変なんじゃないかと、思って」

「別に。わたしは大変だと思ったことなんてないよ」

沙織はきっぱりといった。

「だって、あのとき約束したでしょ。進のことはわたしがずっと面倒見るって」

沙織は進の目をさらにじっと見ながらいった。
それが重荷なんだけど、などと進はいえなかった。ただ、その視線に気おされて押し黙るだけだった。
それから、二人はお互い黙ったまま家に帰った。
47 ◆zIIME6i97I :2006/12/25(月) 18:50:55 ID:Ah1PaWwx
以上、ノン・トロッポ第4話でした。

前スレの余白で遊びたかった人、申し訳ない。
48名無しさん@ピンキー:2006/12/25(月) 19:00:25 ID:ZUqXmepn
GJGJ!
49名無しさん@ピンキー:2006/12/25(月) 19:09:30 ID:y3OCqU08
GJ!
この娘、芙蓉楓を彷彿とさせますね…
後の修羅場が楽しみになります。
50名無しさん@ピンキー:2006/12/25(月) 19:17:36 ID:xDLAo8Cl
GJ!
うーん、相変わらず面白い・・・まだ修羅場ってる訳でもないのに面白いってのが凄い
51名無しさん@ピンキー:2006/12/25(月) 19:30:07 ID:lpHJPoW+
今更だが
>>1スレタイ乙

>>47
GJ過ぎwwwww
52名無しさん@ピンキー:2006/12/25(月) 19:44:36 ID:wecfXawM
GJです。ずっと主人公のみの一人称視点で描いていくんでしょうか?ちょっと新鮮でおもしろい。
53名無しさん@ピンキー:2006/12/25(月) 21:57:11 ID:I2KTTatk
wktkがとまんない
54名無しさん@ピンキー:2006/12/25(月) 22:38:02 ID:ZUqXmepn
いま読み返して、やっぱミスターを超える主人公はいねえなと思った
55名無しさん@ピンキー:2006/12/25(月) 22:41:56 ID:4sfAKtBz
何を基準にするかで大分変わってくるとおもうんだが(´・ω・`)
56名無しさん@ピンキー:2006/12/25(月) 22:58:53 ID:/H1n4IQy
読者の印象を物語の振興の中でがらりと大きく変えたという意味では
ミスターは確かに其の最高峰にいると思う
始まった直後は稀に見る鬼畜外道だったのに終盤では見事なナイスガイになってたものなw

それはそうと翠先輩にベタ惚れしてしまった漏れはどうしたらよいのだ

あぁ、身勝手な願いだがかってないほどマルチエンドを望んでいる俺ガイル
57名無しさん@ピンキー:2006/12/25(月) 23:05:19 ID:S2W59S6a
>>47
GJ!
伊勢カワイソスorz
58名無しさん@ピンキー:2006/12/25(月) 23:14:40 ID:dX8vETx/
ミスターが出てくる話のタイトル教えて
59名無しさん@ピンキー:2006/12/25(月) 23:32:14 ID:ZUqXmepn
ミスタープレイボーイ
60名無しさん@ピンキー:2006/12/25(月) 23:35:37 ID:EQWHauWm
>>58
ミスタープレイボーイ
最後の展開が唐突だったような気もするけど、最後は結構良い感じだった
個人的にとらとらと同じ位気に入っててオススメ出来る


とらとらは最後に子供が二人居たが、続編は無いのだろうかと思ったり
61名無しさん@ピンキー:2006/12/25(月) 23:42:42 ID:4sfAKtBz
子供といえば、「沃野」と「わた実」はすごいのが産まれてたな。

既に義理の兄をターゲットにしている千里眼少女に、そこに加わる未来視少女とか。
外見炉利の天才姉とか……。
62 ◆n6LQPM.CMA :2006/12/25(月) 23:55:51 ID:IcM/x55x
間に合った……では完結編投下します。
63修羅サンタ ◆n6LQPM.CMA :2006/12/25(月) 23:58:01 ID:IcM/x55x
「だ〜か〜ら、サンタなんているわけないじゃん!!いい年して何言ってんのよ
お兄ちゃん!!」
「いや、いる!!絶対にいる!!その証拠に……」
「あ――はいはい、その腕輪でしょ。それもどうせお父さんかお母さんが着けて
くれたんでしょ」

この腕輪が朝、自分の腕に嵌められているのに気がついたあの時から
もう11年の時が過ぎていた。

サンタは小学4年生の時を最後に来てはくれなくなっていた。
それは多分自分が大人になった証拠なのだろう。
事実自分の周りには「サンタなんてお父さんが変装してるんだよ」とか
「サンタなんているわけないじゃん。あはは……」などなど
もはやクリスマスはただ単に「ケーキを食べる」や「サンタに扮したお父さんから
プレゼントを貰う」などのイベントと化していた。

そして今日12月25日

夕飯を食べていた僕と妹の美紗はサンタについて「いる」「いない」
などと話していたのだ。

だが僕は忘れなかった。うとうとしていたからよく覚えていないが、暗闇の中赤い服を着た人が
袋からプレゼントを出し、腕輪を嵌めてくれた所とか、それから、それから……

「お兄ちゃんどうしたの?顔真っ赤にして」
「え?!い、いや何でもない何でもない。あはは……」
「?」
64修羅サンタ ◆n6LQPM.CMA :2006/12/25(月) 23:59:36 ID:IcM/x55x
危ない危ない。どうもサンタに頬にキスされたことを思い出すとにやけてしまうな。気をつけなきゃ。

「とにかく!!私はサンタなんか信じてないわよ!!だけど……」

美紗の瞳に殺意が漲り始めた。

「10年前に何者かが侵入してきて私を簀巻きにして、廊下に投げ捨てた者がいたのは確かだわ!!」


そうあの日。朝起きてみると枕元には欲しかったプレゼントがあって僕は大喜びしたが
一緒に寝ていたはずの美紗は朝ベットに居なくて、なぜか一階の階段下で血を流して倒れていた。
すぐ病院に行って診てもらった所、命に別状は無く、階段から落ちた際に鼻の骨を折り額を5針
縫う怪我を負っていたのだ。

事情を聞くと

「……夜、サンタの格好に般若のお面を被った人が……ぐすっ、私を縛って廊下に……
うっうっ……呼んでも誰もいないし、怖いし……ぞじたら急に坂をころがるように下に
……う、う、うわああああああああああ―――――ん!!!!」

後に窓のガラスが割られていたため、窃盗事件として警察を呼んだが指紋など犯人に結びつく
証拠など出なかったため、迷宮入りになっている。
ただこの事件以降だろうか。美紗がサンタの格好をしている人を見る度に
殺気を放ちながら額の傷を擦るようになったのは……

「ん?どうした?急に険しい表情をして……」
「……来る」
「来るって……何が?」
「この額の傷が疼くわ……。10年前に受けたこの恨み、100万倍にして
返す時が来たわ!!!あははははは!!!」

そう言って傍らに置いてあった木刀を握りつつ、額を擦っていた。

来るって……まさか?!

卓也はある一つの可能性を考え、頬を擦っていた。
65修羅サンタ ◆n6LQPM.CMA :2006/12/26(火) 00:01:14 ID:M+XyKKey
「さあ早く来なさい、侵入者!!私の一撃で全てを終わらせるわ!!」
「それはいいんだけど……ちょっと離れてくれ」
「ダメ!!今日はこうしていないと……思い出しちゃうから」

今、二人はベットの中に潜り込んで侵入者を待ち構えていた。
10年前と同じように、美紗が卓也にしがみ付きながら……

「毎日こうしてるけど、今日だけはちょっと気分が違うわ」

あの事件以来、美紗は極度のブラコンになり夜寝る時も一緒、通学も一緒と
片時も離れなかった。
卓也もあの時助けれなかった負い目があり、あまり強くは拒否できないでいた。
だからもし侵入者を美紗が倒せばブラコンも少しは改善できるかも……
でも僕は……

ミシッミシッ……

「しっ、お兄ちゃん、来たかも」

高鳴る心臓を抑え、呼吸を整え耳に全神経を集中させた。

キチキチキチ、カチャ

(あ、鍵を開けた!!)

どうやって開けたか分からないが、侵入者は鍵をいとも容易く開け
部屋へ侵入した。
ちょっとだけ目を開けると、クリスマスツリーのネオンでうっすらと人影が見えるが、
間違い無く10年前と同じミニスカサンタの格好をした人だった。
耳を澄ますと何やら独り言を呟いているようだ。
66修羅サンタ ◆n6LQPM.CMA :2006/12/26(火) 00:02:33 ID:IcM/x55x
「やっぱり10年も経っちゃうと部屋も変わっちゃうわね。」
(お兄ちゃん!!やっぱりあの時の侵入者よ!!)
(あ、ああ……)
暫く沈黙が続いた後侵入者が

「さってと、それじゃ熟れた果実を収穫するとしますか」

静かに、ゆっくりとベットに近付き、毛布に手を掛けた瞬間

「チェストオオオオオ――――!!!」
「きゃ!!!!」

毛布の下からの突きだったため、威力は思ったほどではないが、手ごたえはあった。

「いったぁ………誰よ!!こんなことするのは!!」
「それはこっちのセリフよ!!この不法侵入者!!」

ベットから立ち上がった美紗は持っていた木刀の先端を侵入者こと三択の顔面に突きつけ

「あの時、よくも、よくも簀巻きにしてくれたわね!!おかげで傷物にされたわ!!」
「は?!簀巻き?一体……あ、あ――!!思い出した!!あの時少年にしがみ付いていた
寄生虫ね!!」

ブチッ

「誰が寄生虫よ!!」

大上段から大きく振りかぶった木刀を三択の頭目掛けて振り落としたが―――

「あっぶなぁ……ちょっと!!殺す気!!」
「あったりまえでしょ!!大人しく死になさい!!」
67修羅サンタ ◆n6LQPM.CMA :2006/12/26(火) 00:06:26 ID:M+XyKKey
殺気の篭った木刀の攻撃を紙一重でかわしていた三択だったが―――

「うふふ、遂に追い詰めたわ」
「くっ……」

美紗は闇雲に振り回しているふりをして、少しづつ部屋の隅に追い詰めていたのだった。

「長かったわ……あんたを倒すためにこの10年間剣道を習ってきた甲斐があったわ。
あの時から暗闇は怖いわ、サンタの服を見るだけで殺人衝動が起きてたけど、全て
これで終わらせるわ」
「ちょっと!!一体あんたはあの子の何?」

突然の質問に驚いた美紗だったが

「……私はお兄ちゃんの妹の美紗。あんたこそただの侵入者なの?」
「私は三択ロース410号。本物のサンタで、あの子をスカウトに来たのよ」
「は?サンタ??冗談も大概にしてよね。せいぜい命乞いでもしたら?まあ許さないねど」

その時、三択は目ざとくある物を見つけた。

これは……

「御託はもういいわ。死ね!!!!!!」
「じょ――だんじゃないわよ!!」


三択の頭が割れ、脳漿が飛び散る様を想像した美紗だったが……

え?!

「ふ〜〜、危機一髪だったわ」

三択の頭を砕くはずの木刀は、その寸前で三択が握っているバットによって防がれていた。

……くっ

形勢不利とみたのか美紗は一歩引き、木刀を構えつつ

「しぶといわね。次で決めてやるわ」
「次があるのはどっちかしら」
68修羅サンタ ◆n6LQPM.CMA :2006/12/26(火) 00:08:42 ID:M+XyKKey
薄暗闇の中、じりじりと間合いをつめ、お互いがお互いの射程距離に入った瞬間、
視界が真っ白に光った!!

「「きゃああああああああああああああ!!!!!」」

二人ともあまりの眩しさに両手で目を覆い、バットと木刀を落としたが、
それを卓也が薄目のまま拾い

「はい、ケンカはここまで。二人とも座って」
「え?!お兄ちゃん!!なんでよ!!今ここでこいつを……」
「言うこと聞かない子はお兄ちゃん嫌いになっちゃうよ?」
「ひっ、座る座る!!だから嫌いにならないで!!」

涙目で、泣きそうになりながら正座して座り

「よしよし、良い子だ。じゃ、次は三択さんも座って下さい」
「は―――い。よいしょ」
「あの……僕の膝の上に座らないで下さい」
「あ、あんた!!なにやってんのよ―――!!」



何とか全員座った所で卓也が

「え―、ともかく三択さんがサンタというのは免許証を見せて貰いましたのでわかりました。
じゃ、美紗を簀巻きにしたのも三択さんなんですか?」

三択はしぶしぶ

「うん、まあ」
「やっと白状したわね。あんたのせいで私は……」
「それじゃ三択さん、美紗に謝って下さい。美紗もそれで許してあげような」
「な?!じょ、冗談じゃないわ!!そんなことじゃ……」

抗議の声をあげる美紗だったが卓也は

「美紗、お兄ちゃんはなずっと後悔してるんだ。なぜあの時美紗の声が聞こえなかったんだ?
なぜあの時美紗を守ってやれなかったんだ?……てな。
確かに三択さんは美紗を傷つけた。だけど美紗を守ってやれなかった
僕にも責任がある。だから殺すなら僕と三択さん二人にしてくれ」
69修羅サンタ ◆n6LQPM.CMA :2006/12/26(火) 00:10:18 ID:M+XyKKey
卓也の迷いのない真っ直ぐな瞳に、美紗は目から涙を流して

「そんな……酷いよ……そんなこと言われたら私、私……う、う、お兄ちゃ―――ん!!」

あとはもう言葉ではなく、涙で全てを語った。

「うんうん、無事解決っと。じゃ、早速スカウトの話しに……え!!」

三択は時計を見て愕然としていた。

AM12:00

「し、しまった―――――!!クリスマスが終わっちゃった!!帰らなくちゃ!!」

そそくさと部屋を出ようとした時

「それじゃ、またね」

三択が部屋を出た後には口をポカーンと開けた二人とプレゼントが置いてあった。
70修羅サンタ ◆n6LQPM.CMA :2006/12/26(火) 00:13:00 ID:M+XyKKey
3日後

「あれは何だったんだろう……」
「もういいじゃない。あんなの忘れましょ」

朝の登校中、美紗に腕を組まれている卓也はふと考えてしまった。

結局聞きそびれたし、言いそびれたな……

頬を摩りながら教室に入ると、クラスメイトがざわついていた。

「お、卓也。聞いたか?今日教育研修の先生がくるんだって。それも超絶美人だって。
こりゃ美紗ちゃんにべったりのお前もくらっといくかも……」
「さ、お兄ちゃんゴミはほっといて席にすわろ」
「…………」

血の海に沈む友人に合掌しつつ席に座ると、間もなく担任の先生が入ってきて

「え〜〜、すでに聞いてると思うが、今日このクラスに新しい先生が着任します。
それじゃ、入ってきて下さい」

入ってきた先生を見た生徒はあまりの美人にすっかり興奮していた。
ただ卓也は「うそ……」
美紗は「な、なんでよ!!あんた帰ったんでしょ!!」

「え〜〜、ただいまご紹介に預かりました、「三田・\・ローズ」です。日本とノルウェー
のハーフですがよろしくね♪」

まだざわめくクラスの中、最前列に座っていた卓也の耳元のそっと口を近づけ

(サンタは24,25日だけ。今日からは一人の女性よ。これからもよろしくね)

そう囁き、卓也の口に熱くキスをした。



美紗との壮絶な戦いはまだまだ続く……


修羅サンタ  完
71 ◆n6LQPM.CMA :2006/12/26(火) 00:18:33 ID:M+XyKKey
続きを書く予定では無かったんですが、一人は寂しいので書いちゃいました。
クリスマスに合わせて書いたのでだいぶ突貫工事で作ったためだいぶ設定や
話しに無理があると思いますが、ご容赦下さい。
だいぶ使わなかった設定があった(腕輪とか)ので、続きはいつか書くかも…
72名無しさん@ピンキー:2006/12/26(火) 00:22:07 ID:QZYcd+xi
律儀に日付を守るとは、あんた男だな。
殺人に一片の躊躇もない妹にワラタww
73名無しさん@ピンキー:2006/12/26(火) 00:23:30 ID:G8nVOOSI
いやーワロタワロタw
実に素敵なクリスマスプレゼントでしたマジGJでした

あと突貫で時期ネタを書いてしまう其の行動力実行力に感服
自分では出来ない事をやってのけてくれたそこに痺れる憧れるぅ!!
74名無しさん@ピンキー:2006/12/26(火) 00:27:03 ID:4GK7TK6f
次は修羅正月→修羅ホワイトデーですな
75名無しさん@ピンキー:2006/12/26(火) 00:30:29 ID:oJQ3qiRJ
バレンタインはどうしたんだよw
76名無しさん@ピンキー:2006/12/26(火) 00:31:03 ID:ECEzxd63
GJです。
この世界の教育システムが気になるw
77名無しさん@ピンキー:2006/12/26(火) 00:47:36 ID:e8jHAtGH
正月のイベントといえば、親戚回りと初詣。

本家への挨拶に嫁候補連れて行ったら親戚の女の子と修羅場るとか……。
現実とのギャップに凹みそうな妄想を抱いた。
78名無しさん@ピンキー:2006/12/26(火) 00:50:09 ID:VvJVaWTc
何その嫉妬記念日wwww
その流れで行くと

1月 修羅正月

2月 修羅場レンタインデー

3月 ホワイトライアングル(三角関係)デー

4月 エイ不倫フール

5月 端午の嫉妬

6月 梅雨子の独占的豪雨

7月 台風なな号とアメリカンタイフーン「ジェシカ」の修羅雨

8月 海の日に海岸で修羅場事件多発(動機として「お兄ちゃんがあの女を見てた」などと供述するもの)

9月 体育祭で修羅b(ry 以後一般的に9月には体育祭が余り開かれない

10月 文化祭で(ry

11月 勤労監禁の日 女性上司による部下の監禁が許可される



黄金のカレンダーwwww
79名無しさん@ピンキー:2006/12/26(火) 00:53:13 ID:QZYcd+xi
命がいくつあっても足りねぇww
80名無しさん@ピンキー:2006/12/26(火) 01:04:43 ID:oWzamoPH
このスレ的な死亡フラグってどんなのだろう?
81名無しさん@ピンキー:2006/12/26(火) 01:06:22 ID:oJQ3qiRJ
っ二人以上の女の子と交友がある
82名無しさん@ピンキー:2006/12/26(火) 01:08:44 ID:e8jHAtGH
>二人

それって、修羅場の発生フラグじゃね?
死亡までいかないだろw
83名無しさん@ピンキー:2006/12/26(火) 01:22:46 ID:68uovEUQ
「君にはもううんざりなんだ!」と叫ぶ。
84名無しさん@ピンキー:2006/12/26(火) 01:37:17 ID:M8ugnkZH
男性はパートナーが浮気をした場合、自分の彼女を憎む。
女性はパートナーが浮気をした場合、浮気相手の女を憎む。
ありそうで実はそんな無いのかもしれんね。主人公の死亡フラグは。
85名無しさん@ピンキー:2006/12/26(火) 02:09:55 ID:QZYcd+xi
心中(不義理チョコなど)、修羅場の巻き添え(血塗れ竜など)が主人公の死ぬパターンかな。
短編では無理心中で死んじゃう主人公も結構いるのでは。
86名無しさん@ピンキー:2006/12/26(火) 02:23:06 ID:iBur9U8Y
義理のねーちゃんにチューされた
ttp://www.2ch.net/2ch.html
87名無しさん@ピンキー:2006/12/26(火) 02:34:41 ID:+Y/1UCQ9
いいやつほど仲裁に入ろうとして殺される確立が上がっていく法則
88名無しさん@ピンキー:2006/12/26(火) 02:42:00 ID:3RJDZW8+
昔話の世界では物の怪に好かれると死亡フラグが立つな。
89名無しさん@ピンキー:2006/12/26(火) 02:48:51 ID:QZYcd+xi
ファンタジー系の主人公は女の子の戦力も跳ね上がるので死亡確率も跳ね上がる
90名無しさん@ピンキー:2006/12/26(火) 03:04:27 ID:1Paz90OI
ヒロインが死神
91名無しさん@ピンキー:2006/12/26(火) 03:29:54 ID:9+p00kKS
どーでもいいがヒロインが死神てサラダデイズにあったな。
92名無しさん@ピンキー:2006/12/26(火) 06:47:41 ID:sKBgzBZB
ttp://ex17.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1167044605/l50

復活です。職人さんをお待ちしてますよ
93名無しさん@ピンキー:2006/12/26(火) 07:10:10 ID:owxARxpz
女は逆に、男同士が繰り広げる修羅場を見たかったりするんだろうか
94名無しさん@ピンキー:2006/12/26(火) 08:21:36 ID:Fr+R37ti
つ 少女漫画、昼の連ドラ
95名無しさん@ピンキー:2006/12/26(火) 08:33:15 ID:RtpJ2IqG
女は男の修羅場に対して淡白なんじゃねぇかな
96名無しさん@ピンキー:2006/12/26(火) 09:56:56 ID:44xzqZY6
けんかをやめてー ふたりをとめてー
わたしーのためにーあらそーわーないでー
97名無しさん@ピンキー:2006/12/26(火) 11:03:05 ID:bSFhn023
>>91
結末覚えてないけど、なんかコーヒー飲むやつ?
98名無しさん@ピンキー:2006/12/26(火) 12:41:40 ID:9+p00kKS
>>97
よく判ったな。
主人公がピアニストかなんかだったか。
ヒロインが「おまえを殺したい」とか言い出して、厨房だった俺には衝撃だった。
…いい加減スレ違いか。すまん。
99名無しさん@ピンキー:2006/12/26(火) 12:51:21 ID:594IpPTu
つ「ごん太を殺せ」
100名無しさん@ピンキー:2006/12/26(火) 19:47:03 ID:RdHvW7QH
涼宮ハルヒのSSんとこにもいい感じのSSがあった。
ttp://www11.atwiki.jp/xgvuw6/pages/2107.html
101名無しさん@ピンキー:2006/12/26(火) 21:46:35 ID:DL/N8GV7
二次だと、性格改変のヘイトにしか見えないな。
スパシンとかU-1くらい突き抜けてればまだ……。
102名無しさん@ピンキー:2006/12/26(火) 21:56:23 ID:44xzqZY6
専門用語?が多すぎてなにいってんのか分からん
103名無しさん@ピンキー:2006/12/26(火) 22:01:12 ID:MSiSjE+d
それらの言葉の領域はかなり危険だから関わらないほうがいい。
しいて言えば原作の設定完全無視した作者の自己満足二次作品の象徴だ。

やっぱ二次の修羅場系は、原作考えれと痛々しくて嫌かもな。
104名無しさん@ピンキー:2006/12/26(火) 22:08:43 ID:yxCrap6V
>>103
何気にこのスレの神々をバカにしてないか?
105名無しさん@ピンキー:2006/12/26(火) 22:28:16 ID:RdHvW7QH
>>104
いや、2次創作の修羅場SSに対する意見じゃないのかな?
このスレの神々はGJなほどオリジナルな作品だしさ。
確かに誤解を招き易い言葉回しには気をつけてほしいけど。
106名無しさん@ピンキー:2006/12/26(火) 22:29:53 ID:MSiSjE+d
いやいや、ごめん。
表現がうまくできないみたい。
原作を知ってて、それが修羅場とかには無縁なのに修羅場が書かれてると…ってのを感じるんだよな。
牧場物語のやつは面白かったけどねw
もちろん保管庫のSSは読みつくしてるし大好きだ。
俺だけなのかもしれんw
107名無しさん@ピンキー:2006/12/26(火) 22:31:54 ID:QZYcd+xi
>>106
いや、分かるよ。
普通の漫画やゲームのパロディで修羅場を作ろうとすると、性格の改変とかは多くなると思う。
それを含めておもしろいSSに出会うことも結構あるけど、原作無視されると嫌な人もいるわな。
このスレはオリジナルだから関係ないけど。
108名無しさん@ピンキー:2006/12/26(火) 22:32:20 ID:MSiSjE+d
ちなみにそれらの言葉ってのはスパシンやらU-1の事です。
関わらないですむなら関わらない方がいいかなと。
109名無しさん@ピンキー:2006/12/26(火) 23:41:52 ID:eE12Upd7
もう二次の話は止めないかい? 変に議論かますと神が投下しづらい雰囲気になると思うんだが
110名無しさん@ピンキー:2006/12/26(火) 23:49:25 ID:vs6x/rfC
あー明日になっちゃう。
111名無しさん@ピンキー:2006/12/27(水) 00:02:30 ID:8U54aspa
「もしもし…あ、加奈?」
「…伸人、今まで黙ってたことがあるの。好きだよ」
「……ぁ」
「やっぱり私に言われても意味ないんだね」
「そんなことは…」
「わかってるよ、無理しないで。言って欲しいのは綾香さんで私じゃないんだよね」
「……知らなかったよ」
「知ってて恋愛相談してたならあまりに残酷だよ」
「ごめん」
「悪いのは私だよ。あなたが私に求めてるのが友達だってのは知ってたし。その了解を破ったのは私だもの」
「でも俺は…」
「いいの。謝らないで。悪いのは私。我慢するつもりだったけど無理だったみたい。やっちゃった」
「…」
「会いたくて、伸人に会いたくて会いたくて屋上で泣いてたら綾香さんに会ったの」
「…加奈?」
「突き落としちゃった」
「加奈っ!?」
「だって綾香さん伸人のこと手に入れてるくせにちっとも真剣じゃないから。駆け引きが楽しいなんて言ってるから、つい。私の方が伸人のこと好きなのに」
「あ……綾香は?」
「落ちたよ。ぐしゃぐしゃになってる。だから、ごめんね」
「お前、今どこにいる!?」
「伸人のいないところ。ごめんね。じゃあ、さよなら」

そういって電話は切れた。



続かない。ふと浮かんだワンシーンだけど。神SSの代わりにはならないけど神SSの種…
112名無しさん@ピンキー:2006/12/27(水) 00:04:01 ID:8U54aspa
神SSとか自分で言うな俺orz
113名無しさん@ピンキー:2006/12/27(水) 00:11:52 ID:sQbVaIlI
そして伸人が家を飛び出した時に待ち構えていた加奈に監禁されるのか(*´Д`)
114名無しさん@ピンキー:2006/12/27(水) 00:42:52 ID:cg7v71jg
つまり全ては策略…!
おそらく綾香は今も健在で何も知らずに主人公の告白を待っている…!

加奈…恐ろしい子…!

115名無しさん@ピンキー:2006/12/27(水) 01:28:40 ID:6OoTOirE
「ごめんね伸人。でもせめて遺品くらいは送ってあげる」

そう言いながらぐしゃぐしゃの綾香、いや、元綾香に近づく。
むせ返るような血の匂いと死臭が鼻につき、男であろうと直視するのを躊躇しそうな遺体。
だがそれも気にならない。頭の中にあるのは伸人との思い出だけだ。
ふと目に付いたのはイヤリング。
それを外そうと遺体の顔を仰向けにしたところで違和感に気付いた。

「なにか…おかしい…」

顔は潰れているが背丈や体格は似ている、なによりここは自分が突き落とした場所だ。
頭から落ちたため顔のパーツは潰れていてわからないが、どことなくもう少しアゴの輪郭は
ほっそりしていたと思う。
一度気になると他の部分も気になってくる。
もう少し目は垂れ気味ではなかったか?もう少し頬肉はついていなかったか?
もう少し眉は細くなかったか?もう少し…もう少し…もう少し………

そのとき、不意に誰かに肩を掴まれた。
そして振り返ってみるとそこにいたのは、自分が屋上から突き落としたはずの…

「ひぃぃぃっ!!あ、ああああ、あ、綾香さん!!」
「やっぱりこうなったわね」
「どどどどどどどどうして、な、なんで、それじゃああの死体は…」
「ああやって挑発すれば暴走すると思ったわ。
 そして伸人にも電話をかけた。今なら貴女が消えてもあの内容なら伸人は貴女が
 自殺か失踪を計ったと考えるわ。
 うふふ、ちょっとだけ怖かったけど伸人に想いを寄せる汚い雌豚の炙り出しには成功ね」
「え、それって…」
「うん、本当は私も伸人のこと好き。愛してるわ。
 でもほら、彼は人当たりがいいから雌豚が近寄ってきても邪険にできないのよね。
 だから恋人になる女としては搦め手も駆使して駆除しないとね」
「あああああああの死体は!!!」
「ん、一昨日伸人に告白しようとしていた他の雌豚。
 今日の為にちょっと精神だけ壊して生かしておいたの。
 筋書きはこう、嫉妬に狂った貴女は後姿が似ているあの女を私と間違えて突き落とす。
 罪の意識から伸人に電話を掛けてそのまま失踪、と。
 安心して、1週間くらいしたら首吊り自殺体が林の中から発見されるから」

そう言うと突然変な薬品が染み込んだ布を口元に押し付けられた。
これって…ドラマなんかでよく見る…い、意識、が、遠く………
116名無しさん@ピンキー:2006/12/27(水) 01:31:26 ID:6OoTOirE
勝手に続きを書いてみた。
>>113-114の展開に反逆してみたかった。
もちろん1ミクロンたりとも反省なんかしていない。

そしてどなたか綾香ENDでも逆転に成功した加奈ENDでも、
第3のキャラ登場でもいいので続き書いてくれません?
117 ◆j6xIfCOdTc :2006/12/27(水) 01:31:48 ID:rwhDD/00
こんばんわ、空軍者の奴です
以前、予告していたSSがほぼ完成したので投下します。
タイトルは「蒐集家と依存者と電波娘」です。
118蒐集家と依存者と電波娘:2006/12/27(水) 01:32:47 ID:rwhDD/00
冷たく、透き通っているような冬の空。
空を見上げながら、冷たい空気を胸一杯吸い込む。
そのお陰で冴え渡る頭。
小学校、いやもっと昔から冬の間はこうだったかなぁ。
お、そろそろ────

ガチャッ
「ゴメンね恵ちゃん!」

静かな冬の朝に響くのは、ドアを開ける音と、それに続く聞き慣れた声。
その声は────

「未来、そのセリフを聞いたのは一万回目だよ」

俺の幼馴染み、朝生 未来の物だ。

「恵ちゃん違うよ?
まだ1726回目だよ?
恵ちゃんたらうっかりさんなんだから〜」
プンプン!って言い出しそうなくらい頬を膨らませながら言う未来。
未来は天然なので、色々とオカシな部分があるが、いつもの事なので気にしない。
「未来も適当だろ?
ほら、早く学校行くぞ!」
未来は適当な数字を言ったのに妙にリアルな数字だった。
ま、トロそうに見えて頭悪くないからな、未来は。
119蒐集家と依存者と電波娘:2006/12/27(水) 01:34:43 ID:rwhDD/00
「待って!、忘れ物しちゃった!」
「…またですか」

お決まりのパターンその2
2日に一回は忘れ物をする。
ま、トロそうに、じゃなくて、本当にトロい部分もあるからね。
今日はいつもより焦ってたみたいだなぁ…、何か大切な物でも忘れたのかな?

「おまたせ〜」
「遅い。もう結構ヤバいよ」
「あわわ、今何時?」
「8時ジャスト」
「なんだ、まだ余裕あるよね?」
「あと30分で学校に着けと?」
「うん」
「はぁ…、走らなきゃならんでしょうが」
どうしてこう未来は楽観的なんだろ?
いや、幼い頃から甘やかした僕の責任か…orz
「そうだよ〜?ね、早く行こ?」
そう言って俺の前に立ち手を差し伸べる未来は、冬の星のように輝く、澄んだ笑顔だった
俺は未来が時折見せるこの表情が好きだった。
そうして今日も20分のマラソンに興じることになった。


…登校中
「そう言えば未来なに忘れたんだ?」

「乙女の秘密!」
この時は、この素朴な疑問に対する本当の答えを知るとき、俺と未来の関係が大きく変わってしまう事に気付かなかった
120蒐集家と依存者と電波娘:2006/12/27(水) 01:38:52 ID:rwhDD/00
『未来…未来…』
誰かに名前を呼ばれた気がして、重い瞼を持ち上げる。

「ん…、おはよう恵ちゃん」

上半身を起こして、此処には居ない幼馴染みで、『想い人』の守屋 恵ちゃんに挨拶する。
…あ、レズかと思ったでしょう!
恵ちゃんはね、めぐみ、って書いて、けい、って読むんだよ?
だから立派な男の子!
あれ、何で恵ちゃんの説明なんかしてるんだろ?
「うーん……はっ!今何時!?」

何だかおまぬけな事を考えてる内に、恵ちゃんが来るまでもう少しになっちゃった!
「お風呂入らなきゃ!」

急いで階段を降りて、お風呂場に飛び込む。
急いでシャワーを浴びて、ドライヤーをかける。
目の前の大きめの鏡には、肩の辺りで切りそろえた、亜麻色の髪の女の子が映ってる。
自分で言うのもなんだけど、かなりかわいいと思う。
おっきな目、小ぶりなお鼻、可愛らしい唇。
ふぅ…なんで伝わんないんだろ?
「恵ちゃん……」

想い人の名を呟き、暫しトリップする。

はぁ…こんな感じの朝になるのは1592回目。
何年経っても冬は寝起きが悪いんだよねぇ。
ま、恵ちゃんが待っててくれるからいいんだけど!

着替えも身だしなみもちゃんと整えて、家を出た。
121蒐集家と依存者と電波娘:2006/12/27(水) 01:42:09 ID:rwhDD/00
「ごめんね恵ちゃん!」

ドアを開けると、家の前に恵ちゃんが居た
王子様だ!
こう思うのは初めて会った時から毎日だ。
サラサラの髪の毛、優しさを帯びた瞳、キリッとした眉毛、スッキリとした鼻梁、etcetc…
とにかく魅力的なの!。
恵ちゃんのお顔に見とれていると、流石の恵ちゃんも少し呆れてるみたい。

「未来、そのセリフを聞くのは一万回目だぞ」

恵ちゃんたら適当なこといって!

「恵ちゃんたら違うよ?
まだ1726回目だよ?
も〜恵ちゃんたらうっかりさんなんだから〜」

プンプン!って感じだよ!もぉ!
「お前も適当だろうが!
ほら、早く学校行くぞ!」

適当じゃないのに!
まぁいっか!
あれ?なんか忘れてるよーな……!!!
あーーーーっ!!!
『アレ』忘れちゃった!!!
「待って!、忘れ物しちゃった!」
「…またかよ」

慌てて家へ入り、靴を脱ぎ捨て、部屋へ飛び込む。
『アレ』は机に備え付けの引き出しの一番下の段に……あった!!!

その引き出しの中は私の宝物(コレクション)が沢山、と言うか山ほど入ってる。
恵ちゃんの使用済み消しゴム、使用済みストロー、使用済みティッシュ、…etc.etc.
122蒐集家と依存者と電波娘:2006/12/27(水) 01:44:00 ID:rwhDD/00
その中でもとびっきりの『アレ』
『アレ』は私にとっての御守り
よく小さな女の子が使うような安っぽい宝石箱。だけど、私にとってその中身はどんな宝石より大切で、価値のある物
大切な大切な────恵ちゃんの髪の毛。
426本。その全てに恵ちゃんと私の思い出が詰まっている。
その宝石箱を大切に鞄の中に入れて、再び家を出た。

「おまたせ〜」
「遅い。もう結構ヤバいぞ」
「あわわ、今何時?」
「8時ジャスト」
「なんだ、まだ余裕あるよね?」
恵ちゃんってば、いつも大袈裟なんだから
「あと30分で学校に着けと?」
「うん」
「はぁ…、走らなきゃならんだろが」
「そうだよ〜?ね、早く行こ?」

そう言って手を差し伸べる。
けれど、恵ちゃんはその手を握ってはくれなかった。
いつからか手を繋いでくれなくなった恵ちゃんを少し恨めしく思った。
123 ◆j6xIfCOdTc :2006/12/27(水) 01:45:48 ID:rwhDD/00
以上、第一話「コレクター未来、推参!」でしたww
124名無しさん@ピンキー:2006/12/27(水) 01:52:38 ID:4yL2j/bR
やっべかわいすぎる
なぜわざわざ危険を冒してまであんなもん持ってくんだ…
125 ◆SNU1m8PwXY :2006/12/27(水) 02:00:24 ID:P6BUiJpm
投下します。
126good boy:fake girls 夕方  ◆SNU1m8PwXY :2006/12/27(水) 02:02:22 ID:P6BUiJpm
──魅惑の放課後、天使さんとのわくわく下校タイム。

とまぁ、こう言う風に書いてみたら少しは色っぽく見えるかも知れない。
・・・いや、そんな事はどうでもいいんだけど。

今でこそ彼女と一緒の下校と言うのが日常となっているけれど、しかしこの習慣が生まれる迄には一つの経緯と言うか、設定が存在する。
生憎聞いても退屈な上に無駄に長い為、ここで内容を述べるのは割愛するけれど。
しかし何と言うか・・・変わった切っ掛けではあった。
敢えて格好よく一言で表現するならば、≪護衛の役目と日々の糧との交換条件≫と言ったところだろうか。

今でも思い出すのは、あの一月の寒い日、僕の机の前に立った優等生の少女がこちらに向けて掛けてきた言葉。
──ねえ薙代君、ちょっとお願いがあるんだけど、よかったら聞いてもらえるかな?
きょとんとする僕の眼前でそう告げると、天使さんは少しだけ恥ずかしそうに、薄く笑いを浮かべたのだった。
あの台詞と笑顔から、今に至る迄の僕と彼女との親交が始まるなんて、その時の僕は全く思っても見なかった。

全く本当に、因縁奇縁とはよく言ったもの。
天使さんと僕の関係は概ねその一言に尽きるんじゃないかと、少なくとも僕はそう思っている──。



と言う事で、天使さんと一緒に歩む帰り道。
彼女は毎日電車で通学しているので、駅のところ迄僕がつき添って行くと言うのがいつものパターンだ。
学校から駅迄続く下り坂を自転車が滑り出さない様にブレーキで制御しつつ、僕は天使さんの歩調に合わせて進む。
遠く地の果てには半分以上その身を沈めた太陽が赤々と輝き、背後には僕らにつき従うかの様に二つの陰影が長く伸びていた。
・・・ふむ、これだけ見たら普段通りの光景だと僕は思う。

思うのだが、しかし。
「・・・」
今日の天使さんは普通じゃなかった。
頬を膨らませて、唇をへの字に曲げて──まあ、それでも彼女の可愛さが損なわれる事はないのだが──むっすりと黙り込んだ侭だった。
簡単に言ってしまえば、不機嫌であった。
127good boy:fake girls 夕方  ◆SNU1m8PwXY :2006/12/27(水) 02:04:19 ID:P6BUiJpm
そしてそんな少女に、顔では平常を保ちつつも内心戦々恐々とする僕。
何か声を掛けるべきとは思うものの実行に移せず、結果、先の脱履場からこの場に至る迄一言も会話がない。
何しろ天使さんがこの様な態度を取ると言う事は、彼女が相当に御立腹であると言うのを暗に意味しているからだ。
確かに彼女が機嫌を悪くする事自体は珍しい訳ではない、けれど小さな憤り程度だったら全く根に持たないのが常の天使さんなのである。
しかし、この状況は明らかにいつもとは違う・・・どう見ても天使さんは怒っている。
何が原因なのだろうか、と少女の不機嫌の動機について僕は思考を巡らせてみるものの、特にこれと言ったものは見当たらない。
唯一考えられ得る可能性としては、先程の脱履場での件が挙げられるが・・・
いや、しかしそれでも天使さんの不興を買う様な事があったかと言えばそうでもない。

分からない──一体彼女は、何に対して苛立っているんだろう?



「・・・ねえ」

天使さんが徐に声を発したのは、校門を出て既に五分近く、道程のほぼ三分の一に過ぎた辺りの事だった。
唐突な呼び掛け、しかも明確な険悪さを帯びた言葉を受けて、意図せずぴんと伸びる僕の背中。
動揺の所為か、少しばかり応答の声が裏返ってしまった。
「は、はい、何でしょう?」
「薙代君・・・。どうして、あんな事言ったの?」
「は・・・あんな事、とは?」

あんな事・・・って、何だろう。
天使さんの言う抽象的な言葉の意味を捉えられず、僕は質問に質問で返した。
それに対して、天使さんは顔を前に固定した侭喋る。
「だからさ・・・私と薙代君が特別な関係じゃないって言う、あれ」
「? だって、別に僕と天使さんは彼女が誤解する様な仲じゃないですし。
僕が天使さんの恋人だなんて言ったら、恐れ多いにも程がありますよ」
何でそんな当たり前な事を訊いてくるのかは分からなかったが、取り敢えず少女の問いに僕は答える。
と言うか万一そんな事にでもなったら、直ぐにでも天使伊祈ファンクラブの方々に撲殺されるだろうし。
128good boy:fake girls 夕方  ◆SNU1m8PwXY :2006/12/27(水) 02:06:38 ID:P6BUiJpm
けれども妥当だと思える僕の回答に、天使さんは溜飲を下そうとはしなかった。
それどころか、突っ掛かる様にしてより一層問い詰めてくる。
「・・・だからって、私はそこ迄薙代君とは疎遠じゃない積もりなんだけど。それとも薙代君、本当は私の事が嫌いなの?」
「え? いや、そんな事はないですけど・・・」
突然ふっと足の動きを止めると、じとりと僕を睨みつける天使さん。
責める様なその言い方に、思わず口にした否定の言葉も尻窄みに途切れてしまった。

・・・どうも、今一よく分からない。
天使さんの物言いだと、まるで彼女が僕と深い関係にある事を望んでいる様な感じがしてしまう。
無論そんなのは僕の都合のいい錯覚なのだろうけど、
それにしたってどうして先の僕の発言がこれ程迄天使さんの機嫌を損ねたのか理解ができない。
御陵さんは安心していい、僕は天使さんとは特別な関係じゃない、天使さんが僕に世話を焼いてくれるのは僕が不甲斐ないから──
うん、やっぱり僕の発言に特に問題な事はない、筈なのだけど。

天使さんは苛立ちを隠そうともせず、尖った口調で更に続ける。
「だったら答えてよ。どうしてさっき、あんな事言ったの?」
最早威圧感さえ伴っている目上の少女の言葉に、心中びくびくしつつ弁解する部下の僕。
「ですから・・・あれは御陵さんの誤解を解く為だったんですよ。
もし僕が何か天使さんを傷つけたり侮辱したりしたなんて言うのなら謝りますけど、
あの場では御陵さんに変な誤解をさせたくなかったんです」
「そんなの別にどうでもいいじゃない。あの子が少し位誤解したところで、私も薙代君も困らないでしょう? 
そんな事、勝手に誤解する方が悪いのよ」
「・・・」

──勝手に、誤解するのが、悪いって?
流石に今の言葉は、少なからず頭にかちんと来た。
何故ならそれは、御陵さんを侮辱しているから。
別に僕が謗りを受けるのは幾らだって構わないけれど、御陵さんの純真な思いを軽侮した事は天使さんでも許せない。

先の脱履場での一件が、脳裏にまざまざと蘇る。
表面上は激怒、しかしその裏には縋りつく様な弱々しさを浮かべて、僕を必死に引き止めようとした御陵さん。
御陵さんのあんな姿、僕は初めて見た。
普段は凛とした態度で振る舞う彼女が、本当はこんなに女の子らしい一面を帯びているなんて。
──なればこそ、助けたかった。
彼女の思いを支えられる様に、彼女の力になれる様にと、そう僕は願ったのだ。
129good boy:fake girls 夕方  ◆SNU1m8PwXY :2006/12/27(水) 02:08:44 ID:P6BUiJpm
心の中で渦を描き始めた怒りを表出しない様にしながら、僕は飽く迄言葉での説得に努める。
「そんな・・・その言い方はないでしょう、天使さん。
御陵さんは、つき合いの浅い僕が言うのも何ですけど、とっても一途で健気な女の子なんですよ。
僕は彼女の思いに応えたくて・・・だから、詰まらない誤解を与えたくはなかったんです」
「・・・そっか。そうなんだ」
短く素っ気ない返事をすると、黙り込む天使さん。
・・・僕の意図するところが漸く伝わったのだろうか?
よかった、それなら僕も冷静に話した甲斐があったと言うものだ・・・。



と、そう安堵したのも、束の間の事だった。

「じゃあ・・・じゃあ、何!? 薙代君は、私なんかよりあの子の方がいいって言うんだ!?」
「は・・・はぁ!?」
突如として、天使さんが吼えた。
今迄僕が一度も聞いた事がない様な、怒声以外の何物でもない大声を上げて。
唐突と呼ぶにも生温い出来事に、僕は口にするべき言葉を失って狼狽えた。

自身の置かれた状況を把握できずに混乱する僕に向けて、怒れる少女は更に畳み掛ける。
「だってそうでしょう!? さっきから御陵さん、御陵さんって、薙代君はそんなにあの子の事が大切なんだ!? 
だからあの子の思いに応えるなんて言うんでしょ!?」
「は・・・ちょ、ちょっと待って下さい! 天使さん、何を言ってるんですか!?」
彼女の言っている事が本当に理解できなかった。
何故僕が御陵さんを大切に思っているのが悪いのか、何故そんな事で天使さんがこう迄憤慨するのか。
しかし分からないなりにも、僕にはこの事態を収拾する以外に道はない。
一先ず怒り狂う少女を宥めようと肩に手を伸ばすものの、天使さんはこれを鋭く払い除ける。
そして血走った瞳で刺す様にこちらを睨みつけて、更に叫んだ。
「ねえ、答えてよ! 私とあの子、一体どっちが大事なの!? 薙代君、私よりあの子の方が好きなんでしょう!? 
そうなんでしょう!? だったら、私──」

・・・不味い、今の天使さんは完全に理性を喪失している。
どうにかして止めなければ、と決意した僕は、手荒な真似である事を覚悟で眼前の少女に向けて両腕を伸ばした。
それによって支えを失った自転車が派手に音を立てて転倒するが、今は構っていられない。
伸ばした手で天使さんの両の肩口をがっちり掴むと、強く前後に揺さ振った。
「天使さん、落ち着いて・・・!」
「私、あの子の事を絶対に許さないんだからあっ──!」
「お願いですから正気に戻って下さい、天使さん!」
僕は半分無我夢中で叫ぶ。
彼女がどうしてこうも豹変したのか、一体何を僕に伝えたいのかは分からないが、この状況を招いたのが僕であるならば、
それを収めるのも僕の義務である。
130good boy:fake girls 夕方  ◆SNU1m8PwXY :2006/12/27(水) 02:10:29 ID:P6BUiJpm
だがそんな必死の努力も虚しく、天使さんの狂乱は止まらない。
それどころか、今度は僕の制止を振り切ろうと体を動かして暴れ始めた。
「放して! どうして、どうしてあんな子が薙代君を──」
「天使さんっ!!!」
「──放してよっ!」



その時だった。
「・・・ぐっ、う──」
一際大きく吼えると同時に、自らを押さえつける両手を撥ねつけようと振った天使さんの右手。
偶然にもその爪が、僕の左眼孔の数センチ下を鋭く掠めた。
不意の痛撃に怯んだ僕は、呻き声と共に思わず天使さんを抑止していた手を離してしまう。
爪の通った部分に左手の指を這わしてみると、皮が切れた感触と共に、ひりひりする様な痛みが神経を伝わった。

「──あ、あぁ」
呆けた様な声に、僕は伏していた顔を上げる。
そこには先程の烈火の如き激情がすっかり消え去り、逆に顔を真っ青にした天使さんが立っていた。
「ど、どうしよう、私、何て事を」
恐怖を伴った声を上げて狼狽する天使さん。
「い、痛かったよね? 御免なさい、私何でもするから、お願い、許して・・・!」
「あ・・・いや、別に僕は平気ですから。だから、そんなに恐縮しなくても・・・」
「だけど私、薙代君に怪我させちゃったんだよ? だったら、償わないと・・・」
「・・・いや、本当に大丈夫ですから! 御心配には及びません」
余りにも少女が絶望的な口調で語るので、僕は語気を強くしてその懸念を打ち消した。

「──それに僕、少しだけほっとしてるんです」
「え・・・?」
「だって天使さんが元に戻ってくれましたから。さっきは言葉も通じない様でしたし」
そう、もし僕がここで傷を負う様な事がなかったら、天使さんの暴走は止まらなかったかも知れない。
寧ろ僕の顔の皮一枚如きで彼女の理性を取り戻す事ができたと考えれば、安い代償と言ってもいいだろう。
「あ・・・そ、そうだよね。御免なさい、見っともないところを見せちゃって」
先の自分の狂態を思い出したのか、顔を赤くして恥じ入る天使さん。
どうでもいいが、これも中々レアな表情である。

まあ怪我の功名と言ったところか、兎に角天使さんと正常な対話ができる状態には持ち込めた様だ。
「いえ、それはいいんですけど・・・。どうして、あんなに取り乱したりしたんですか?」
普段の姿からは考えられない様な激しさを帯びて僕を問い詰めた天使さん。
彼女をそう迄駆り立てた動機と言うのは、一体何なのか。
すると僕の質問を受けて、少女は言い辛そうに口をもごもご動かした。
何だろう・・・そんなに話し難い事なのだろうか?



約二分弱の沈黙の後に、ばつの悪い表情を浮かべながら天使さんは告げた。
消え入りそうな位小さい声ながら、しっかりと僕の眼を見据えて。
「・・・薙代君は、あの子の事が好きなんでしょう・・・?」
131good boy:fake girls 夕方  ◆SNU1m8PwXY :2006/12/27(水) 02:11:47 ID:P6BUiJpm
──え。
いや、ちょっと待って。
今の発言はどう考えたっておかしい。
僕が異性として御陵さんを好きになると言うのがどうして天使さんの不都合に繋がるのかは不明だが、
今はそんな事よりももっと大きな問題が存在している。

「・・・天使さん。どうしてそうなるんですか?」
「え、どうしてって・・・あの子の意志を尊重したいって、さっき薙代君が・・・」
「ええ。確かに、僕は御陵さんの思いに応えるとは言いましたよ。だけど、僕がいつ御陵さんを好きだなんて話したんですか?」
事ここに至って気づいたのだが、どうも天使さんは何か変な考えをしているみたいだった。
僕は御陵さんの事を同じ部活に属する者として大切に思っているけれど、別に恋愛感情を抱く程に深い間柄と言う訳でもない。
きっと彼女だって、僕の事を同じ道を志す仲間、精々よくて友人程度としてしか思っていないのだろうし。

だと言うのに、天使さんはまるで見当外れの事を告げてきた。
「だって・・・あの子は、薙代君の事が好きみたいだから・・・。その気持ちに応えるって事は、やっぱり・・・」

・・・。
しぱしぱしぱ。
三回、瞬き。



「は? 御陵さんの好きな人は僕じゃなくて天使さんでしょう?」



だってそうだろう?
片や学校一の才媛として同性の女子からも人気が絶大な天使さんと、片や極々詰まらない平凡な男の僕。
どちらに御陵さんが惹かれるかなんて、考える迄もなく分かり切っている事じゃないか。

それに、その事を踏まえて先程の脱履場の出来事を思い返してみれば、見事な迄に全ての不思議を解決できてしまう。
御陵さんが僕の紹介を待たずして天使さんの名前を挙げたのは、前々から天使さんに恋していたから。
御陵さんが天使さんと相対した時に緊張した面持ちを見せたのは、憧れの人と間近に接したから。
御陵さんが僕が帰ろうとした時に強い憤激を示したのは、一緒に天使さんと帰宅する事のできる僕に嫉妬したから。
御陵さんが天使さんと僕の関係が深くないと知って安堵したのは、自分に天使さんと結ばれるチャンスがまだあると分かったから。
・・・ほら、どれを取ってみても全く不自然はない。
132good boy:fake girls 夕方  ◆SNU1m8PwXY :2006/12/27(水) 02:13:34 ID:P6BUiJpm
しかもその好意の程度は並々ならぬものと推測される。
何せ嫉妬の余り人の手首に青痣を残す位の力を発揮するのだ、さぞかし彼女の天使さんへの恋慕は深いものなのだろう。
いや、最早これは好きと言うレヴェルを通り越して、愛と呼んでもいいかも知れない。
どちらにしたところで、御陵さんが天使さんを好いているのは確かな事だろう。



よく気づけたものだと我ながら己の発想力のよさに充足していると、突然天使さんが言葉を投げ掛けてきた。
何故か唖然とした表情で、何故か非常にぎくしゃくした声で。
「じゃ、じゃあ、さ、薙代君。さっき、あの子の思いに応えるって、い、言ったのは・・・」
「え? あぁ、あれは勿論、御陵さんの恋を応援するって意味ですよ。当然でしょう? 
僕が御陵さんを異性として好くなんて、とんでもない」
全く、一体何を間違えれば僕が御陵さんに恋しているなどと言う解釈が生まれてくるのだろうか。
それとも天使さんは、御陵さんの恋路を励ます事が即ち彼女を好きになると言うのと同じとでも言う積もりなのだろうか?
・・・はは、そんな馬鹿な、それでは勘違いが甚だしいにも程がある。

──ん?
・・・あぁ、やっと理解できた。
要するに天使さんは根本的な部分で大きく誤解をしていた訳か。
そしてそれが原因でさっきの不機嫌や激昂が生まれた、と。
先程は何が何だか全然分からなかったが、蓋を開けてみれば実に些細なものである。
いやはや、全く長い前振りだったものだ、と僕は心中で苦笑した。

しかしまぁあんなに露骨な態度を示されたと言うのなら、天使さんも御陵さんの思いに気づいておかしくない筈なのだけど。
普段人から鈍い鈍いと言われている僕でさえ分かったと言うのに・・・もしかしたら、天使さんは僕よりも鈍感なのかも知れないな。
大体もし御陵さんが天使さんを好きでなかったとしても、代わりに僕に好意を抱くと言う可能性は絶無にして存在しない。

だって御陵さんは、あの忌まわしき≪ラヴワゴン事件≫の被害者なのだから。



「・・・」
「確かに、僕も最初そうだと分かった時には吃驚しましたけどね。まさか御陵さんが天使さんを恋い慕っていただなんて」
「・・・」
「でも、考えてみれば仕方ない事ですよね。本人がいないところで言うのも何ですけど──
あんな事件があったら、もうまともな恋愛なんてできる筈がない」
「・・・」
「だけどさっきも言った様に、僕は御陵さんと懇意にさせてもらってますから。だから、彼女の恋を応援するって決めたんです」
「・・・」
「・・・あぁ、だったら帰るのに御陵さんも誘えばよかったですかね。
御陵さん、今は車で送り迎えしてもらっているみたいですけれど、僕と天使さんを合わせた三人なら夜道も安全でしょうし・・・」
「・・・」
「・・・天使さん?」

先程から、一言も言わずに沈黙している天使さん。
流石にその違和感に気づいた僕は、口を動かすのを止めて少女の様子を窺ってみる。
133good boy:fake girls 夕方  ◆SNU1m8PwXY :2006/12/27(水) 02:14:58 ID:P6BUiJpm
すると。
「・・・」
天使さんの顎が外れていた。
・・・いや、勿論これは比喩なのだが、しかし本当にそうではないかと思ってしまう程に天使さんはあんぐりと口を開いていた。
信じられないと言う様な表情を浮かべる彼女の瞳は白目を剥いていて、誰が見ても焦点が合っていないのが明らかだ。
その縦に開かれた口から、白い魂がひょろひょろ抜け出ている様に見えるのは果たして僕の気の所為だろうか。

時は夕暮れ、場所は幅の狭い下りの路地。
そこに立つのは少年と少女、内一人は現在放心中。
「あ、天使さん。しっかりして下さい」
虚脱状態を曝す美少女、と言うのはそうそうお眼に掛かれるものではなかろうが、
だからと言ってその侭放っておく訳にも行かないので声を掛けてみる。
「・・・」
が、天使さんからの反応は得られない。
と言うか僕の言っている事自体が耳に入っていないのか、ぼんやりした侭立ち尽くしている。
「天使さん、天使さんってば」
言葉だけでは足りないと思い、僕は少女の肩をゆさゆさ揺すったり、頬を軽くぺちぺち叩いてみるものの、
まるで一向に彼女が回復する気配は見えない。



・・・ど、どうしよう。
天使さんが壊れてしまった。
134 ◆SNU1m8PwXY :2006/12/27(水) 02:22:27 ID:P6BUiJpm
どう見ても鈍感です。
本当にありがとうございました。

と言う事で、五話目です。
結局夕方パートが終わりませんでした。
て言うか前回投下した時から早二ヶ月・・・書くの遅過ぎですね。
職業の都合上、正直次にいつ投下できるかも分からない様な有り様ですが、
必ず完結迄導く積もりなので、どうか生暖かく見守って頂ければこれ幸いです。

それでは、来年も修羅場スキーの人に幸多からん事を祈りつつ。
135名無しさん@ピンキー:2006/12/27(水) 02:26:56 ID:4PAmANU9
gj
この主人公好きだわー
136名無しさん@ピンキー:2006/12/27(水) 02:29:28 ID:qOnpxBdI
それでこそこのスレの主人公だ。
137名無しさん@ピンキー:2006/12/27(水) 02:43:47 ID:nHrap2St
GJ!
鈍感ってレベルじゃねぇぞ!
138名無しさん@ピンキー:2006/12/27(水) 02:45:56 ID:1RRki+gn
GJッ!
いくつか重要そうなキーワードが出て来て、物語が加速してしていきそうだと思ったのに、主人公…鈍すぎw
139名無しさん@ピンキー:2006/12/27(水) 02:48:13 ID:HThRwcRQ
その思考回路、修羅に生きるなら是だ!
140名無しさん@ピンキー:2006/12/27(水) 05:35:50 ID:lK0TZBnq
GJ。いやーこう転がすとはwもはや鈍感というか現実認識の仕方に障害を抱えた(ry
141名無しさん@ピンキー:2006/12/27(水) 10:34:44 ID:RxLFLrKI
やっぱり主人公は鈍感じゃないとな|ω・`)
と俺の性癖が訴えていた、作者様GJ
142名無しさん@ピンキー:2006/12/27(水) 11:00:13 ID:T4BS5aGi
GJGJGJGJGJGJGJ!!!!
といっても言い過ぎではないくらいこの主人公いいね。
こいつは修羅場のために生まれてきたに違いない
143名無しさん@ピンキー:2006/12/27(水) 11:43:11 ID:WVzLYS77
慇懃な喋り方が個人的にはちょっとむかつくが、何だかゆう君を彷彿とさせるところがあるな。
144名無しさん@ピンキー:2006/12/27(水) 20:00:49 ID:GHEkEe9W
保守
145名無しさん@ピンキー:2006/12/28(木) 00:09:14 ID:rIr/LeF1
鈍感っていうかただの馬鹿だろwwwww
146名無しさん@ピンキー:2006/12/28(木) 00:16:28 ID:SQYtzZIL
うるせー馬鹿
147名無しさん@ピンキー:2006/12/28(木) 00:17:14 ID:QE1b56Qk
投下まだかな〜(チン
148名無しさん@ピンキー:2006/12/28(木) 05:36:15 ID:XdL2cY9X
>145 このスレではこれでいいんだよ。
149名無しさん@ピンキー:2006/12/28(木) 08:55:36 ID:j5/QUNRw
寝取られスレなら、この主人公は悲惨
150名無しさん@ピンキー:2006/12/28(木) 09:54:16 ID:Z4OnsjE5
むしろ寝取られたことに気が付かない
151名無しさん@ピンキー:2006/12/28(木) 09:54:39 ID:YwVXAqV3
鈍感、かつ、それでいてキバヤシ真っ青の思考回路・・・
152名無しさん@ピンキー:2006/12/28(木) 10:48:03 ID:KMp2oNoy
御陵さんが被害者被害者と言っておるが
まさかレイプ被害とか鬱になるものじゃないよな・・?
もしそうだったら見てられないorz
153名無しさん@ピンキー:2006/12/28(木) 11:48:31 ID:OjeGy1Ky
嫉妬にどす黒く染まったおせちで新年を迎えたい
154名無しさん@ピンキー:2006/12/28(木) 13:08:52 ID:j4wPz1aj
ノロウイルスにでも犯されそうなおせちだな。
俺はやられてしまった。皆も気をつけろ。

「どうしてそんなにちょくちょく席を外してトイレに行くのよ!ほんとは別の女にメールでも打ってんでしょ!!」
「いや、違う、まじで、やばいんやて、離して、く、れ、あ、あああ」
155千歳の華:2006/12/28(木) 13:33:01 ID:jl1RBtXs

【参】

『時春様…時春様…』

脳の裏側で響く声。

『時春様…せっかく輪廻を超えてお会いできましたのに…どうしてわたしに声をかけてくださらないの?…』

声の主の悲哀が、物理的なものになって胸を襲った。
蛇となってするりと心臓に絡みつき、文字通り締め付けるような感情が体を引き攣らせる。

『約束しましたのに…生まれ変わりた後は、必ず添い遂げると誓いましたのに…』

ぎりぎり…締め付けは強くなる。
肋骨も同時に引き裂こうと、万力で。

『あの忌まわしい、鬼の子め…』

ぞぞぉ…と寒気が背筋を駆け上がった。
体の中を百足が這いずり回るような、言い表せない不快感。
冷気になって身を刻む。

『結ばれるはずだったわたしたちを、千年もの間引き裂いて…今度は我が物顔で時春様の隣に座っておるか…』

許すまじ、許すまじ…
怨嗟のように呟く。

長い前髪で隠れていた声の主が、不意に顔を上げる。

声色に合った、麗らかな顔はなかった。

おぞましい居住まいをより引き立てるように施された朱の化粧。
刻まれた幾つもの印。

巨木ほどはあろうかという白い大蛇が、錦の単を纏っていた。

『必ずや、貴方様を我が物に…』

すぅ…と縦長の瞳を細める。
感情の薄い蛇眼には、明確な思慕が浮かんだ。
シュー、シューと規則的に吐き出される呼気は腹の底に溜まるように身を凍らせていく。

『必ずや、彼の者に阿鼻叫喚の死を…』

――――瞳の色が強烈な憎悪に変わった。

天地を乖離させるほどの唸り声が響くと、息苦しさに任せて俺は目を醒ました。


「――――――――はっ」


156千歳の華:2006/12/28(木) 13:33:51 ID:jl1RBtXs


俺の部屋だ。ほかに誰も居ない。
体に蛇は絡み付いていないし、女の声も聞えない。
荒い息を吐きながら、胸を押さえて呼吸を整える。
なんだ、あの夢は…
「はぁ、はぁ…」
唾液を飲み込んで、渇きを癒す。
それでも張り付くような血の味が、口腔から失せない。
横目で目覚まし時計をチェックする。
深夜三時…

「はぁっ…」

そのままベッドに倒れこんだ。
最近はいろんなことがありすぎて、疲れてるんだ。
瑠璃が急に怖い顔をしたり、転校生が悲しげな瞳でこっちを見ていたり…
猫の清春が、口元を真っ赤に濡らしていたり…

もう、訳がわからない。
誰か説明してくれるなら説明して欲しい。
俺は身を預ける布団の冷たさに包まれ、死ぬように眠った。






「と・き・は・るちゃ〜〜ん!!!朝だよッ!!」

がばぁっと、布団を引っぺがし当社比三倍の騒々しさで瑠璃がやってくる。
はちきれんばかりの笑顔だが、昨日の表情と重なって透いた恐怖を感じる。
本能的な衝動に突き動かされて飛び退いた。
「――――――――」
瞬間、瑠璃が面を伏せる。
くくられたツインテールが瞳を隠して、唇が吊りあがった。
暗いオーラが一瞬にして張りつめ、酸素が部屋から抜けていく。

「…どんな夢、見たのかなぁ…?“彼女”の、あたしに、説明して、欲しいなぁ…」
ぼそ、ぼそ、と呪うように呟く。
恐ろしすぎる。思わず固唾を呑んだ。
「ねぇ、時春ちゃん…?また、あたしにいえないような夢見ちゃったの?」
顔を伏せたまま、瑠璃がにじり寄ってくる。
怖い。怖い。怖い。
逃ゲロ逃ゲロ逃ゲロ。
いつもは痺れるばかりの色気を感じるのに、今日は恐怖しかない。
むしろ今まで存在し得なかった警鐘を心の深い部分が鳴らしている。

――――――――痛っ。

突如首筋に痺れが走り、伝線したまま神経が窄み、俺は全身の支配を失った。

157千歳の華:2006/12/28(木) 13:35:22 ID:jl1RBtXs

「ふぅん…」
「る、瑠璃?」
瑠璃は考えるように指を顎に這わせ、顔を上げて俺を睨んだ。
「そんな時春ちゃんには、お仕置きが必要だね」

呟き、

「昨日ずっとあたしの傍にいるって約束したのに、時春ちゃんは約束破っちゃったね」

誰もいないところに視線を留めたまま、

「うん…お仕置きが必要だよ。うーんときついの…」

腰に手をやり、

「もう他のなにかに目移りできないような、きーーーっついの」

にまぁ…と。
亡霊のように笑う。

「覚悟してね、時春ちゃん。いつもより、もっと多く貰っちゃうから…」

捕食される寸前。瑠璃の唇が俺の首筋に触れる一歩前で、インターフォンが鳴り響いた。

『ごめんください…』

外から控えめに響く声。
鈴が鳴ったように淑やかで、立ち込めた暗雲を一瞬で払ってしまった。

「ふぅん…」

その声をしっかり耳朶に収めた瑠璃は、ゆらりと立ち上がって階段を下りていった。
俺にとっては救世主であったが、なんだか瑠璃の様子が輪にかけておかしくなった。
とにかくヤバイ。
胸が半鐘をあげている。
走れ、走れ、走って瑠璃をとめろ!!
「瑠璃!!」
転げ落ちるように階段を降り、二歩先を歩く瑠璃に手をかけようとして…

「ぐっ…」

急に膝の力が抜けた。
貧血とも違う。
直接心臓を握りつぶされるような不快感と、針で突かれるような寒気が走り抜ける。
俺がそんな風にしているうちに、瑠璃は玄関の扉を開け放ち―――

「おはようございます、ときは――――」

日差しが差し込む玄関には、何故か百合のような笑みを浮かべたほおずきさんがいて…

鬼神のごとく立ちふさがった瑠璃に気づくと、鼻筋に皺を寄せて蛇のごとく瞳を吊り上げた。

「――――――――」
「――――――――」
158千歳の華:2006/12/28(木) 13:36:18 ID:jl1RBtXs

こぉぉぉぉお…と

足元から凍り付いていく空間。

微動もせず、ただ視線を交わすふたり。

「おはよう。藤原ほおずきさん。うちに何の用かな?」

こちらに背中を向けているために顔はうかがえない。
しかし、立ち上る怒気が尋常じゃない空気にピリピリ伝わる。

「あら…わたしは藤原時春様のおうちに参りましたはずなのに、いやですわ…間違えたのかしら…」

ひゅゅゅゅゅゅ…

温度が三十度、湿度が五十%下がった。
初夏なのに、涼しいいや寒い。

「ううん、ここは時春ちゃんのおうちだよ。でも、あたしは時春ちゃんの彼女だからここにいていいの」

「…………」

藤原さんの面から笑みが消えた、

「…彼女、ですの?…」

「あぁ、彼女って言っても三人称の彼女じゃなくて、こ・い・び・と」

可愛い口調で言ってみてもだめですよ、瑠璃さん。
半音下がってますよ、半音。

「こ、い、び、と?…あらやだ。わたし、庶民の言葉はよくわかりませんの。どういう意味かしら?」

「…………あまりいい気になるなよ。蛇女」

「…………そのままお返ししますわ。鬼女」

眼に見える。
見えるよっ!!
渦を巻く殺気が、二人の頭上で雷雲になってるよっ!!


「あ、あのさ…藤原さん?どうして転校生の君がここにいるのかわからないけど…」

「ほおずきで結構ですわ。時春様」

残ったカロリーをすべて消費して放った一言は、あっさりと返される。
満開の笑みが眩しいのだが、瑠璃の背中から発せられる尋常じゃない威圧感に気分が悪くなった。

「は、はぁ…」

あまりにも良い笑顔に、思わずこっちも破顔する。
代わりに瑠璃が発するオーラが一回りほど大きくなって、フローリングの廊下に黒い影を落としていく。

「時春ちゃん!!!!!」
159千歳の華:2006/12/28(木) 13:37:04 ID:jl1RBtXs

釣られてヘラヘラしていると、瑠璃が般若のような形相で振り返った。
喉から神経を切り刻むような金切り声をあげ、尖った視線で俺を穿つ。
スカートを握り締める指先は白く変色して細かく震え、唇を割れるほどにきつく噛み締めている。

「いひっ!!」

その恐ろしさといったら、無い。
思わず信長か!!と突っ込みたくなるほど情けない悲鳴を上げ、俺は尻餅をついていた。
振り返った瑠璃はゆらぁりと俺に歩み寄ると俺の顔を掌で掴み、打ち据えるように問い詰めた。
黒曜石のような瞳が嵌っているはずの場所は、血走って真っ赤になっている。

「ねぇ時春ちゃん、前から思ってたんだけど。他の子に目を向けすぎだよ。あたしが気づかないと思ってたのかなぁ?
 同じクラスの女の子、生徒会長、新任の若い先生、通勤途中のOLさん…いっつも厭らしい目でみてるよねぇ?
 あれだけ搾り取ってるのに、まだ余ってるの?いっそのこと気絶するまで試してみる?あたしはいいよ。
 時春ちゃんと一緒ならどんなどころで、どんな恰好でも…だからね、時春ちゃん、あんまりあたしを不安にさせないでね。
 ただでさえあたしは生理が重いのに、あたしに黙ってオナニーしたでしょ?わかってるんだよ?
 匂いが部屋中に充満してるじゃない。時春ちゃんの牡の匂い。ゴミ箱に丸めてポイしただけで隠せると思った?
 それと辞書のカバーに隠したエッチな本とタイトル貼り替えて誤魔化したDVD。あたしが気づいてないって今でも思ってるの?
 無駄だよ、あたしには何を隠しても無駄。
 ほんっと、時春ちゃんは可愛いよね。そんな時春ちゃんが愛しくて愛しくてたまらないの。
 だから多少のことは目を瞑ってるけど…
 その娘と仲よさそうに視線を交わしたり、名前で呼んだりするようなことは絶対しちゃだめだよ!!
 そればっかりはあたしも許せないから。今まではちょっとキツくエッチするだけで済ませてったけど…
 もしそんなことしたらちょっと痛い目を見てもらうかもしれないからね?だから、だから…
 こ っ ち む い て!!!!!!」

ほおずきさんの方を向いていた俺の視線を無理矢理自分に固定し、喰らいつくすようなキスで奪われた。
それはほおずきさんに見せ付けるように深く、熱く重ねられた。

「…………」

そんな俺たちの姿を、ほおずきさんは無表情のまま見つめている。
柔らかさを殺がれた顔。
目の前で起きていること、すべてを網膜に焼き付けるようにしっかりと視線を固定している。
彼女はそのまま大きく肩を震わすと、踵を返して走り去った。

「わ、悪かったよ…」

べっとりと付着した唾液、銀の橋になって俺と瑠璃を繋ぐ。
甘い香りと脳髄に突き刺さる快楽。俺は抗えない。

「うん、わかればいいよ。だから、早く着替えてね」

柔らかい体を押し付けるようにして瑠璃が軽く頬にキスをした。

俺の首筋を優しくなぞる指先は、暖かい。
だがその瞳は、笑ってなどいなかった。


160 ◆pmLYRh7rmU :2006/12/28(木) 13:44:43 ID:jl1RBtXs

とっくに忘れ去れていると思いますが、短編の続きです。
スレのレベルに追いつけない筆力で申し訳ない。
あとずいぶん前ですが、HP作りました。
161名無しさん@ピンキー:2006/12/28(木) 13:53:06 ID:ZSugNbIE
GGGGGJです!
この作品を楽しみに待ってました(´Д⊂
162名無しさん@ピンキー:2006/12/28(木) 14:43:55 ID:c1k/YwGi
嫉妬ってレベルじゃねーぞ!


たった1レスで俺もうイキそうなんだがががが
163名無しさん@ピンキー:2006/12/28(木) 14:53:53 ID:j/RAWBYN
>>160
うおーやっと続き来た!GJ!

で、HPのアドレスは・・・・
164名無しさん@ピンキー:2006/12/28(木) 15:02:38 ID:YpIHQhxi
>>160
GJ
つい最近読み返してたからタイムリー(*´д`*)
蘭ちゃんも活躍しないかなぁ・・・
165名無しさん@ピンキー:2006/12/28(木) 15:03:16 ID:f+G0pnkO
刻むぜ!!嫉妬のビートッ!!
166名無しさん@ピンキー:2006/12/28(木) 15:18:15 ID:g8U6+oPk
嫉妬によって血液中にエネルギーを細胞中に貯蔵!
しだいにしだいにだばねて 一気にパンチとして泥棒猫のぶち放ち破壊する
それが唯一泥棒猫をたおす方法だッ!!
167名無しさん@ピンキー:2006/12/28(木) 16:57:11 ID:IP+dNSip
ドッギャーン!!
168名無しさん@ピンキー:2006/12/28(木) 17:29:58 ID:g8U6+oPk
フーフー吹くなら・・・・・・
この俺のためにファンファーレでも吹いてるのが似合っているぞッ!!
169小さな恋の物語 ◆855esSIgqY :2006/12/28(木) 18:15:10 ID:kyap7WDO
最近誠の様子がおかしい

学校から帰って来るとすぐまたどこかへ遊びに言ってしまう
いや遊びに行くのは別にいい。誠にも仲の良い友達もいるだろうし
遊んでいる友達も全て同性だというのも把握済みだ

だが…

何をして遊んでいたのかをさりげなく聞いて見てもどうもお茶を濁されてしまう
誠も6年生だし友達同士の秘密というのもあるのだろうが…
最近は一緒にお風呂も入らなくなったし寝るときにも端の方にいってしまう
お休みのキスだけは頑として譲っていないが

反抗期といえばそれまでなんだろうがやはり妻としては心配になってしまう
まさか…

まさか友達に悪い遊びでも教えられてそれに夢中になっているのだろうか
まさかビニール袋の中に揮発類(主に接着剤)を溜めて匂いに耽るなどという危険極まりない遊びを友達から!?

待て落ち着け私

誠がそのような遊びに耽るはずがなかろう
誠の歯は白く輝いているし目も充血していない
あらぬ方向に向かって話しかけている様子も無い
第一そのような遊びをしているのなら妻であるこの私が気づかぬはずが無い

では何故?

無論誠のことは信じている
あの奈菜とかいう小娘がいまだにまとわり付いているのは気に食わないが
あくまでも”お友達”という範囲を逸脱してる訳ではない

ふっ無様だな小娘

いかんいかん

今はあんな小娘ごときを気にかけている場合ではない

とにかく誠の様子がおかしいのは確かなのだ

何か悩みがあるのならば当然妻であるこの私が助けになってやらねばならぬ
その手がかりを掴む為にこうして誠の部屋にいるのは妻として当然の事なのだ
何ら恥じることではない
無いったら無い
170小さな恋の物語 ◆855esSIgqY :2006/12/28(木) 18:15:46 ID:kyap7WDO
余り物が置いてない為広く感じてしまう六畳間の部屋を見渡す
勉強机、パソコン、本棚、クローゼット、TVにゲーム機
ベッドは置いていない

当然だな
誠は夜は私と同じ布団に入るのだから

……愛人が付いてくるのが噴飯物ではあるが今は置いておこう

ざっと見渡しても特に怪しい物は何も無い
クローゼットの中にも衣類だけ

やはり反抗期なのか…

安心すると同時に一抹の寂しさが心に残る

大人への通過儀礼とはいえ寂しいものだな…

しかしそれは誠が成長している証なのだ
ならば温かく見守るのが妻として当然の勤め

そう心に誓いを新たにしている私の視界をパソコンの起動ランプの点滅が刺激した

いかんな
パソコンが付けっぱなしでは無いか
電気の無駄使いはいかんぞ誠

もったいないおばけの話を久しぶりに夜の寝物語に語ってやろう

電源を切るために一度モニターの電源を入れる
マウスを操作してスタートボタンにポインタを合わせた時

画面上のショートカットに奇妙なアイコンを見つけた
小さくて見づらいが制服のようなものを基調としたアイコン

私は好奇心に駆られてそのアイコンをダブルクリックするとタイトルが出てきた



  「 同○生 」




………………………………………………………

………………………………………………

………………………………………

………………………………

………………………

………………

………
171小さな恋の物語 ◆855esSIgqY :2006/12/28(木) 18:16:44 ID:kyap7WDO
………ふっ

ふふふふふふふふふふふふふふ…


そうか

そういうことだったのか誠

そうだったな

男子には反抗期と同時にもう一つ芽生える感情があった

そう

第一次性徴

異性への興味

ふふふ

その経験したことの無い激情を誠は持て余していたのか

だから最近一緒にお風呂に入らずに寝るときも私を避けていたのだな

なるほど全てが繋がった

安心しろ誠

お前は他の友達と違う

誠は"こんな物"に頼る必要は無いのだよ

誠には私が…妻であるこの伊吹綾がいるのだ

それを今夜教えてやろう

さぁそうと解れば早速準備をしなければ

まずは家族計画だな

学校の友人に分けてもらった分だけでは心許ない

誠が帰ってくる前に調達しておかねば
172小さな恋の物語 ◆855esSIgqY :2006/12/28(木) 18:18:13 ID:kyap7WDO
っとその前にやることがあったな

私は画面に写っている"こんな物"に目を向けた

短い間であったが誠の激情を受け止めてくれて感謝する

どこの誰かは知らぬし名前を聞くつもりも毛頭無いが礼だけは言っておく

もう二度と会うことは無いとは思うが貴様のことは誠の部屋を出るまでは覚えておいてやろう

ではさらばだ

私は心の中で礼の言葉を述べるとアンインストールのボタンを押した

ああ

誠のパソコンから同級○が消えていくのと同時に私の中からもどろどろとした何かが消えていく

実に爽快な気分だ



今日は早く帰ってくるのだぞ
173小さな恋の物語 ◆855esSIgqY :2006/12/28(木) 18:22:00 ID:kyap7WDO
大変長らくお待たせいたしました
小さな恋の物語続編でございます
スレにちらほらと小恋物マダーという書き込みがありましたので
無い知恵絞って書き上げました

お嬢様は心配性もぼちぼち書き上げますので
待っていてくださる方がいらっしゃいましたら年明けまでお待ちくださいませ

感想お待ちしております
174名無しさん@ピンキー:2006/12/28(木) 18:30:22 ID:c1k/YwGi
これなら年明けまででも続きを待てるよ!待てるよ!

    ハ_ハ
   ((゚∀゚∩
    ヽ  (
     ヽヽ_)
175名無しさん@ピンキー:2006/12/28(木) 18:35:18 ID:8/S1FSJE
小さな恋の物語キタキタキタキタ━━━(゚∀゚≡(゚∀゚≡゚∀゚)≡゚∀゚)━━━━!!
176 ◆zIIME6i97I :2006/12/28(木) 18:49:05 ID:j4wPz1aj
ノン・トロッポ、投下します。
177ノン・トロッポ:2006/12/28(木) 18:49:48 ID:j4wPz1aj
結局、進は沙織から美術部に出入りすることの承諾を得た。
もちろん、改まってお伺いを立てお許しを得たという情けないことをしたわけではないが、進の心境としては同じようなものだった。
おそらく美術部の部長が彼女の友人である翠だということが、沙織が心を許した決定的な理由なのだろうと進は推測した。
話を聞くと、確かに翠と沙織は友人同士であり、たびたび一緒に遊びにいく仲なのだという。
ただ、それにしても自分のプロフィールをあんなふうにしゃべられてしまうのは気に食わなかった。

「あはは、ごめんね。でも、なんだか進君のこと、ついつい話したくなっちゃうんだよねえ。進君ががんばりやさんだからかなあ」

進は沙織のその言い訳にもならない言い訳を聞いて、冗談ではないと思った。
どうか、それを聞いた人が惚気話だなどと思っていませんようにと祈った。
これ以上、自分の知らないところで嫉妬の種を蒔かれるのはごめんだった。

まさかそのせいではないだろうが、進は次の日、沙織との仲に関して初めて直接的な警告を受けた。
トイレで用を足していたときのことだ。ちなみに進は、杖を器用に使って立ったまま小便をすることができた。
同じく横で用を足していた男子学生が、ぼそりとつぶやいた。

「おまえ、調子に乗るなよ」

トイレにいたのは二人だけだった。思わず出入り口の方を確認するが、見張りらしき人影はない。
どうやら、いきなりここでリンチにあうことはないようだ。

「なんのこと?」

内心のおびえを隠しながらいうと、男子学生は薄ら笑いを浮かべながらいった。

「ふざんけんじゃねよ。分かってんだろ。足立沙織のことだよ。おまえ、身障だから構ってもらってんだろうが。勘違いしてべたべたしてんじゃねえよ」

もちろん、「男の嫉妬はみぐるしい」などといえるはずもなく、小さな声で「分かってるよ」とだけいうのが関の山だった。
相手の体は、進よりずっと大きい。片足というハンデがなかったとしても勝ち目はないだろう。
勝てないけんかはしない主義だった。といっても、進がけんかで勝てる相手など限られてしまうだろうが。
それに正直、けんかをする理由もなかった。その学生にいわれたことは、進が常々心に言い聞かせていたことでもあるからだ。
腹が立つのはただ、いまさらお前に言われたくないというそのことだけだった。
いや、改めて他人から現実を突きつけられるのも確かにつらいのだが。
男子学生は、進より一足先にトイレから離れた。そして、手洗い場で手を洗うと、わざわざ戻ってきて進の制服で手をぬぐい、それから出て行った。
とっくに小便を終えた進は、安堵のため息をついた。情けないことにそのため息が、少し震えていた。

「あー、情けない情けない」

進は自分と、それからおそらくは振られた腹いせに身障者に絡んできたさきほどの学生に向かってそういうと、手を洗ってトイレを出た。
手はもちろんハンカチで拭いた。母親ではなく、沙織が毎朝注意するので、いつも持ち歩いているハンカチだった。
178ノン・トロッポ:2006/12/28(木) 18:50:31 ID:j4wPz1aj
「今日は、別々に食べない?」

進がそういうと、昼食の誘いにきた沙織は目を丸くした。学校での昼食はいつも一緒に弁当を食べることにしていたからだ。
それをこちらから断ったことなどなかった。

「どうして?」

「あー、たまにはほら、それぞれの友達と一緒に食べるのもいいかなって。沙織ちゃんだって、友達によく誘われるんじゃない?」

進でも、女子生徒にとって誰と一緒に昼食を取るのかが人間関係の構築と維持にどれほど切実なものであるのかをおぼろげながら知っていた。
これまでずっと進と一緒に食べてきて、それでも友人の多い沙織はきっと希少種なのだろう。
進の方はさっぱりなのだが。

「うん、それはそうだけど。でも進君は?」

そう問われて、とても「一人で食べる」とはいえない。それはあまりに情けないように思えた。
多少の嘘は仕方がない。これは、沙織の交友関係のためにも、進の沙織からのひとり立ちのためにも必要なことなのだ。
決して、脅しに屈したからではないのだと、進は自分に釈明した。

「ああ、僕にも友達くらいいるから。大丈夫大丈夫」

「そお?まあ、進君だってお友達と食べたいときだってあるだろうけど」

沙織はまだ釈然としていない様子だった。

「じゃあ、そのお友達って誰?ご挨拶しなきゃ」

沙織のその言葉に、進は一瞬絶句した。本当はそんな友達はいないという事実をかんがみて、そしてわざわざ幼馴染の友達に挨拶をしなければと思い至るその保護者根性に。

「なにいってんの。僕の友達なんだから沙織ちゃんは関係ないじゃない。いいからさ、ほら、早くいかないと昼休み終わっちゃう」

進は片手で、ぐいぐいと沙織を押して教室から引き離した。

「え、でも、もう、押さないでってば、片手じゃ危ないよ進君」

沙織はそういって、自分から離れた。
そして、進の目をじっと見た。確かに嘘はついているが、これは必要なことで後ろめたいことはないはずだ。進は自分にそう言い聞かせてその目を見返した。
しばらくそうして、沙織も諦めたようだった。

「はあ、分かった、分かりました。じゃあ、今日は別に食べることにします」

二人は手を振って分かれた。ただ、沙織は何度も進の方を振り返っていた。
いきなり、昼食を別にするといわれて、混乱しているのだろう。
ただ、沙織と一緒に昼食をとりたい人間など、男女含めてそれこそ学校には数えられないくらいいるのだから、心配することはない。
そして進も、別に一人で昼食を取るのがいやだというわけではなかった。

席に戻って弁当箱のふたを開けて食べ始めると、周りの生徒の空気が少し変わったのに気がついた。
みんな、いつも沙織と一緒に食べているのを知っているのだ。
ただ、進がわれ関せずで弁当を食べていると、やがて関心を失ったのか、皆それぞれの食事と会話に集中し始めた。
しかし、誰もがそうやって進に無関心でいるわけではなかった。
179ノン・トロッポ:2006/12/28(木) 18:51:03 ID:j4wPz1aj
「あの、平沢君?」

愛美だった。ピンクの布に包まれた小さな弁当箱を持っていた。

「今日はひとり?」

「ああ、うん、ちょっとね」

詳しいことは説明しづらい。

「あっ、じゃあ、えと、よかったら一緒に食べてもいい?」

愛美の唐突な提案に進はどう反応してよいのか分からない。
それをどう勘違いしたのか、愛美はあわてだした。

「うん、そうだよね、いやだよね、わたしといっしょなんて、ご、ごめんね、変なこといって」

愛美は暗い顔をして、そのまま弁当箱を持って立ち去ろうとした。
このまま行かせてしまえば、後で罪悪感にさいなまれること間違いなしだと思った進は、あわてて引き止めた。

「いや、そうじゃないから、驚いただけだから、うん、一緒に食べよ」

進がそういうと、愛美は子犬をもらいたての女の子のように笑った。

「でも、どこで?ここで?」

進でも、同じクラスの男女が一つの机で二人きりで昼食を取るということが世間の目にどう写るかくらいは分かっていた。
われながら、多少図太いところがある自分はいざしらず、いかにもプレッシャーに弱そうな愛美にそれはつらいだろうと進は思った。

「あの、わたし、いつも美術室で食べてるから。それであまった時間に絵描いたり」

お世辞にも、美術室が食事に適した場所だとは思えなかった。テレピン油やらの匂いがするのだ。愛美は慣れているのかもしれなかったが。
ただ、それも少し我慢すれば済むことだった。
愛美の提案どおり、二人は美術室で食べることにした。

「いやあ、早速来てくれたのかい、平沢君!」

二人きりだと思ってきてみれば、美術室には先客がいた。翠だった。
予想していなかった事態に、進は美術室の出入り口で立ち止まってしまった。
翠は、右手で絵筆を動かしながら、左手で3色パンを口に運んでいた。行儀が悪かった。

「いや、ただ川名さんに誘われて昼飯を食いに」

「ほう、そうかそうか、川名さんに誘われてねえ」

翠は、進の横に立っていた愛美の方へにやりと笑いかけた。
愛美は顔を赤らめながら、伏せた。
180ノン・トロッポ:2006/12/28(木) 18:51:38 ID:j4wPz1aj
「ああ、ほらほら座って座って。まあ、ここはお茶もなんにもないけどね。絵を描きながらご飯が食べれるくらいで」

進と愛美はがたがたといすを動かして、向かい合ってすわり、膝の上に弁当を置いた。
進はだまって、愛美は手を合わせていただきますをいってから、弁当を食べだした。

「先輩もいつもここなんですか?」

進が聞いた。

「先輩だなんて水臭いなあ、みどりんでいいっていったのに」

「どうなんですか、先輩」

進が乗ってこないのに諦めて、翠がまともに答えた。

「まあね、さっきもいったように絵を描きながら食べれるしね。でも平沢君は?いつもは沙織と一緒じゃなかったっけ」

「そんなことも知ってるんですか」

「あったりまえ、学校中の人間が知ってるんじゃない?中庭で二人でいれば目立つでしょうが。あそこ、カップル専用なのに」

「へ?」

進にはきいたことのない情報だった。

「うそ、まじで知らなかったの?いやー鈍いねえ旦那。周りみりゃ分かるでしょうーが、だいたい」

確かに、改めて思い出してみると周りにはカップルばかりがいたような気がする。
ただ、進はいつも沙織といるときには、いやなものを見てしまうので周りには極力注意を払わないようにしていたので気がつかなかった。

「まあ、いーや、それで、なんで今日は、川名さんとここで?」

「別に、僕だっていつも足立先輩と一緒にいるわけじゃありませんから」

進は、若干不機嫌さをにじませていった。いい加減、自分を沙織の金魚の糞のように扱うのは止めて欲しかった。

「でも、いつも一緒にいるじゃん」

わりとしつこく、翠が追求した。

「だからです。そろそろ、その、ひとり立ち、じゃなくって、なんというか、えと」

たった一つ違いの幼馴染から、「ひとり立ち」しなければならないという自分の境遇に、進はへこんだ。
どれほど甘ったれなのだろうと、進は思った。

「なるほど、まあいいんじゃない。沙織だって今年で卒業しちゃうわけだしねえ。新しくお友達を作っとくのもいいよねえ」

翠はそういって、やはり愛美ににやり笑いを向けた。
愛美がまた顔を赤くして伏せた。
181ノン・トロッポ:2006/12/28(木) 18:52:30 ID:j4wPz1aj
「それ、止めてもらえます」

「え、なになに何を止めて欲しいって?」

「それです、その笑いです」

「えー、人の笑顔を奪うこの悪魔、冷血漢、未来の管理社会、ビッグブラザー、H・G・ウェルズ!」

「なんですかそれ。それに最後のはオーソン・ウェルズでしょ」

そのやり取りを聞いていた愛美が、いきなり肩を震わせた。笑いを堪えているようだ。
「ぷくくくく」と愛美には似つかわしくない笑い声が漏れていた。

「ほら、川名さんだって笑ってますよ」

「ちがうの、平沢君、それジョージ・オーウェル」

進はそれを聞いて、赤面した。それなりには読書家であるとの自負があったのだ。

「あーあ、恥ずかしい間違いしちゃったねー」

「何いってんですか、先輩よりも僕の方が近いですよ」

「いやいや、あたしはちゃんと分かっててボケたんだもん」

「嘘ですよ!」

「いやー、恥ずかしい恥ずかしい。「それに最後のはオーソン・ウェルズでしょ」だってさー」

翠は、進の口真似をしていった。

「なんですかそれ、もしかして僕の真似ですか?ゼンッゼン似てませんから」

愛美は、そのやり取りですでに笑いを我慢するのを止めていた。
半ば本気で、半ば冗談で翠に噛み付いていた進は、それを横目で見ながら、たまにはこういうのもいいのかもしれないとそう思った。
182 ◆zIIME6i97I :2006/12/28(木) 18:53:30 ID:j4wPz1aj
以上、ノン・トロッポ第5話でした。

皆も、ノロウィルスには気をつけよう。
183名無しさん@ピンキー:2006/12/28(木) 19:47:34 ID:8LMClYPu
GJっす。
紅いお正月をwktkしながら、師走を駆け抜けます
184名無しさん@ピンキー:2006/12/28(木) 20:25:36 ID:YpIHQhxi
小恋とノン・トロッポの作者の方GJ

ノン・トロッポの方はコンスタントに投下していただいてうれしい限り
そして小恋が帰ってきたのはいい知らせだわ(*´д`*)
この勢いで山本姉も帰ってこないかしら・・・
あとモカさん(;つД`)
185名無しさん@ピンキー:2006/12/28(木) 20:50:28 ID:P95hp971
ノロウィルスとインフルエンザにダブルで掛かったらしい知人がいる。
体内では「この男は私のよ!」「なにいってんのよ、毎年私のものよ!」
「てめーら!コイツの体でなにやってやがる!さっさとでていけ!」
とかなってるんだろうか。
最後の僕ッ子に勝ってもらわないとbad end確定で非常に心配な今日この頃。
ノン・トロッポ相変わらずのgjです!まだまだまともそうな愛美がここからどうなるのか期待してます!
186名無しさん@ピンキー:2006/12/28(木) 20:53:09 ID:IP+dNSip
あー俺もまたモカさんに会いたひ…。

ノン・トロッポは執筆早いねー。
愛美は一見「いのちだいじに」なのに実は「ガンガンいこうぜ」なのがいいな。
187名無しさん@ピンキー:2006/12/28(木) 21:25:00 ID:i1/yAh16
>>173
小恋物がキ…(-_-)キ(_- )キ!(-  )キッ!(   )キタ(.  ゚)キタ!( ゚∀)キタ!!( ゚∀゚ )キタ━━━!!!
>>182
男の嫉妬テラ見苦しス、そしてカップル専用の場所を使ってた沙織は麗しい
188名無しさん@ピンキー:2006/12/28(木) 21:32:45 ID:8S8+ISws
小恋物キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
189名無しさん@ピンキー:2006/12/28(木) 21:33:25 ID:QE1b56Qk
>>173
両方待ってまつ!!
>>182
テラGJ!  これだけで全てが伝わるはずだ
>>185
その発想はなかった・・・・orz
190名無しさん@ピンキー:2006/12/28(木) 21:38:31 ID:T0r6k325
帰ってきた!戦士たちが帰ってきた!!!!!
191名無しさん@ピンキー:2006/12/28(木) 21:51:12 ID:SQYtzZIL
タタリ神か!
192名無しさん@ピンキー:2006/12/28(木) 21:52:13 ID:IP+dNSip
やめてオッコトヌシさま!去っていった神たちは戻ってこない!
193名無しさん@ピンキー:2006/12/28(木) 22:08:59 ID:f+G0pnkO
これで・・・

これで神絵師の麻耶たんと流たんと山本君のお姉さんが揃えば悔いの無い年越しを・・・・
194名無しさん@ピンキー:2006/12/28(木) 22:10:39 ID:4+c9Mzzr
   ∩
(゚∀゚)彡 千歳!千歳!
 ⊂彡
    ∩
(゚∀゚)彡 小恋!小恋!
 ⊂彡
   ∩
(゚∀゚)彡 ノン!ノン!
 ⊂彡
195恋と盲目(1/3) ◆IOEDU1a3Bg :2006/12/28(木) 22:15:22 ID:kp6cZUnB
「……あら、今日って13日の金曜日ね」
深夜、カレンダーを見たら思わず呟いていた。
6月13日金曜日……確かに電子式のカレンダーにはそう表示されていた。
「そうか……どうもここの所、曜日の感覚が薄れているような気がするよ」
「仕方ないわよ。最近は色々と忙しかったんだから」
そう言う京司の顔色は少し悪い。
無理もない、元々京司の体はあまり頑丈に出来ている訳ではない。
表彰式だのお祝い会だのと普段よりも多くの用ができただけですぐに体調を崩してしまう。
今は単なる疲れですんでるみたいだが、油断すると熱でも出しかねない。
……まあ、それはそれで看病と称してベタベタする機会ができるのだが。
「今日はもう休みなさい。ぐっすり眠ってたくさん食べれば、すぐにいつもの京司に戻るわよ」
幸いにして明日以降はこれといった用事は無い。
天気予報でも明日は快晴だと言っていた。
書きかけの原稿を進めるには最適な日だと言っても良いだろう。
そう考えると、今は少しでも早く京司には休んでほしい。
「そうやっていつも緑は僕を子供扱いする」
だが、そう京司が不満そうに呟く。
「年上でしょ?私の方が」
「4ヶ月ね……」
京司はそう言い残して部屋に戻った。
いつも彼は年齢の話題になるとちょっとだけ不機嫌になる。
不機嫌……と言うよりも、ふてくされていると言うほうが正しいかしら。
お互いがお互いのお兄さんお姉さんになりたがって、それでも誕生日の差で私に勝てないものだからふてくされているのだと思う。
たぶん立場が逆だったら私がふてくされる側に回るのでしょうけど……
「ふわぁ……」
大きなあくびが出た。
私も……かなり眠たい。
私が京司の側を離れずに世話をし続ける以上、京司が忙しくなれば私も忙しくなる。
なんだかんだで私も少々疲れているのだと自覚する。
戸締りはした、ガスは使っていない、電気は消した、予定表は確認した。
後は部屋に戻って寝るだけ……と言いたい所だけど、まだ日記をつけていない。
私は京司に会うよりも前から、ずっと日記をつけ続けている。
何度も何度も代替わりを繰り返し、私のかなり恥ずかしい記録と記憶を綴った日記帳……
弟に頼んで作ってもらった二重底の引き出しの奥から日記帳を取り出す。
自分で言うのもなんだけど、この中には京司への嘘偽りの無い想いやら京司に近づいた女への呪詛だのが書いてあり、
他人に見られるとかなり危険な状況になると思う。
家にはどうせ普通の文字が読めない京司しかいねいけど、どうしても警戒してしまう。
その日記帳を開き……
196恋と盲目(2/3) ◆IOEDU1a3Bg :2006/12/28(木) 22:16:10 ID:kp6cZUnB
ミカゲ忘れるなミカゲ忘れるなミカゲ忘れるなミカゲ忘れるなミカゲ忘れるなミカゲ忘れるなミカゲ忘れるなミカゲ忘れるな
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197恋と盲目(3/3) ◆IOEDU1a3Bg :2006/12/28(木) 22:16:58 ID:kp6cZUnB
「うっ……ぐぅ……」
吐き気がした、頭痛がした、目眩がした。
胃液が逆流し、喉を焼いた。
まるで脳の中央にビスでも打ち込まれたかのような感覚がした。
脳の神経に過剰な電流が流れるような感覚がした。
その文字はたしかに私の筆跡だった。
しかしその文字を良く見てみると、複数の筆記用具で書かれている事がわかる。
……まるで複数回に分けて書いたかのように。
いや、そんな事はこの際どうでもいい。
問題は……ミカゲ?
うぅ……気持ち悪い……頭が痛い……
私の頭がミカゲについて考えるなと命じてくる。
待った、こんな事は前にも無かったかしら?
そう考えると、私は毎晩日記を開いた時に原因不明の体調不良を感じた事を思い出す。
その記憶は恐ろしく鮮明で、何故忘れていたのかさえ思い出せない。
そしてどうしても思い出せない原因は……これか。
頭をフル回転させてミカゲの事を考える。
最初は頭がミキサーにでもかけられたかのような激痛が襲ったが、ある一瞬からそれはピタリと止んだ。
すると次から次へとミカゲに関する記憶が蘇ってくる。
ミカゲ……京司の小学校時代のクラスメイト、私とも面識があった、白羊出版の記者、私の敵。
何故忘れていた……いいえ、違う。
私は意図的にミカゲを思考から外していた?
違う……違う違う違う違う違うっ!
何かがおかしい?私がおかしい?頭が痛い?ミカゲって誰?
頭がおかしい?記憶がおかしい?吐き気がする?ミカゲって何?
世界がおかしい?浅野緑がおかしい?頭が回る?ミカゲ?


どうして私は……自分の思考が信じられないっ!!!


 ザクッ!
「うっ……痛ぁ……」
意識が薄れていくのを感じた。
咄嗟に私はペーパーナイフを腕に刺した。
少しだけ……ほんの少しだけ明確で明瞭な意識が戻る。
たぶん後数秒もしたら私は意識を失うだろう。
その僅かな間に考える。
きっと明日になれば私は全てを忘れる。
あのミカゲとかいう女が京司を我が物にしようとしているのだとすれば、私は何の手も打つことができない。
そんな事はさせないっ!絶対にっ!
考えるんだ、手段を、方法を、明日の私に危険を伝える策を。
日記じゃ駄目、何とかしてミカゲの情報を引き出して対応策を……
なんとか……
……なん……と……か……
198名無しさん@ピンキー:2006/12/28(木) 23:46:07 ID:OYnc1sJh
懐かしい作品の続編が二つもキター!!
小恋は遂に根強いファンの願いが通じたって感じだなw
恋と盲目はミステリアスで謎めいた感じが更なる期待を駆り立てる!!
この勢いに乗って他の未完作品も帰ってきて欲しいな

そしてノントロッポはやっぱ俺、翠先輩大好きだわ!
マイノリティだろうと俺は翠タソを応援し続けるぜ!
199名無しさん@ピンキー:2006/12/29(金) 01:23:28 ID:kmnX8tBf
千歳の華が復活しててまじでうれしいw
ほかにも今日はイロイロ復活しててまじでびっくり。
これがあるからやめられませんな。
ノントロッポは毎度この執筆速度とクオリティーは神過ぎるw
作者さんGJ
200 ◆gPbPvQ478E :2006/12/29(金) 01:26:29 ID:iJkM6Nqe
投下します
201九十九の想い ◆gPbPvQ478E :2006/12/29(金) 01:27:21 ID:iJkM6Nqe

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
 
 流が俺を襲った事件から一週間が経過した、らしい。
 
 らしい、というのは、俺は昨日目覚めたばかりで、詳細は話に聞いただけだからだ。
 記憶は、正直なところ、曖昧だった。
 脳味噌をぐちゃぐちゃにかき回されたかの如く、事件前後の記憶が混乱していた。
 精神状態も不安定で、ふと気を抜いた瞬間に、得も言われぬ悪寒に襲われ、嘔吐してしまうことも度々ある。
 細かいことを思い出そうとすると脳が拒絶する。
 流と会ったような記憶はあるが、どんな話をしたのかは思い出せない。
 ただ、彼女が言った、とある一言だけは、鮮明に覚えていた。
 
 ――決して傷つけるつもりはありませんので、ご安心を。
 
 だから俺は、流に対して不信感など覚えていない。
 きっと、何か止むに止まれぬ事情があったのだろう。
 
 流は現在、謹慎処分ということで離れの一室に隔離されている。
 人を傷つけた付喪神は、厳しく罰せられる。
 それが付喪神研修制度での共通規則。
 どこの霊能者の家でも、徹底していることだ。
 実際、流が研修中の身だったら、有無を言わさず封印処分となっていただろう。
 そうならなかったのは、流が浦辺家に忠信深く仕えてきたことを、皆が知っていたからだ。
 だからこそ、皆、今回の流の奇行には首を傾げるしかない。
 自分たちに見る目がなかったのか、それとも特殊な事情があったのか。
 流は決して事件のことについて語ろうとせず、大人しく謹慎処分を受け入れている。
 結果、全てが曖昧なまま、ただ無為に時間だけが過ぎていた。
 
 流はこれからどうなるのか。
 流と、これからどう接していくべきか。
 
 俺には、わからなかった。
 
 
 更に。
 気になることは、流のことだけではない。
 
 ――茅女。
 
 彼女の様子も。
 流に負けず劣らず、不可解なものだった。


202九十九の想い ◆gPbPvQ478E :2006/12/29(金) 01:28:03 ID:iJkM6Nqe

「――郁夫? どうかしたのか」
 
 体を起こしていたところに、ぴたり、と茅女が側に張り付いてくる。
 何でもない、と答えるも、茅女はそのまま離れようとはしなかった。
 
「なら、無理はするな。して欲しいことがあったら何でも言っておくれ。
 ――妾にできることなら、何でもしてやるからな」
「そ、そんなに気遣ってくれなくても大丈夫だって。
 それより、茅女の方は大丈夫なのか? 昨日からずっと一緒にいるけど……」
「わ、妾は何も問題など無いぞ。それよりヌシじゃ。
 まだ快調ではないのだから、回復するまでは大人しくしておれ」
 
 茅女は早口でまくし立てながら、半ば押し倒すように体重をかけてくる。
 ぼすん、と後頭部が枕に着陸。
 その強引さは、どう見たって何かを隠しているようにしか見えない。
 
 では、何を隠そうとしているのか。
 
 心配されることがそんなに不都合なのだろうか。
 否、茅女の態度は、そういったものとは根本的に違う気がする。
 まるで――“気を遣われる自分”を恐れているかのようだ。
 その上で、こちらの状態を気遣っているのだから、自然と強引な看病になるのだろう。
 
 また、茅女がこちらを気にかけるのは、何故か。
 彼女が第一発見者だったから?
 俺のことを、少なからず気に入っていたから?
 どちらも合ってるような気がするし、そうでない気もする。
 
 ただ、ひとつだけ断言できることがあるとすれば。
 
 今、茅女は、ひどく“何か”に怯えている。
 
 それだけは、確実だった。
 
 触れたものなら何でも切り裂くことのできる包丁の付喪神。
 戦い方によってはあらゆる妖怪や霊能者を屠ることすら可能な怪異。
 そんな茅女が、まるで外見相応の少女のように、酷く怯えて縮こまっている。
 
 そんな茅女を放っておくことなんて、できなかった。
 
 
 
 
 
203九十九の想い ◆gPbPvQ478E :2006/12/29(金) 01:28:48 ID:iJkM6Nqe

「――郁夫。橘音が食事の支度をしてくれたようじゃ。今持ってくるからな」
「ああ、いいよ茅女。もう歩くことくらいできるから……っと」
「ば、莫迦者! 食事は妾が持ってきてやるから、無理をするな!」
 
 起き上がろうとしてよろけたら、茅女は怒って駆け足で部屋を出て行った。
 確かに、体調が芳しくないのだから、世話を焼いてもらうのも悪くない。
 茅女の態度や流の状態などは気になるが、それは回復してからでもいいのかもしれない。
 
 
 しばらくして、急ぎ足で茅女が戻ってきた。
 手には昼食の乗った盆。薬草粥が美味しそうに湯気を立てている。
 
 茅女は俺の隣に腰を下ろし、蓮華に粥をひとすくい、そのまま――
 
「ほら、郁夫」
「いや、もう自分で食べられるって」
「……そうか」
 
 ああもう。そこでそんなに寂しそうな顔するなよ。
 
「……やっぱ、最初の一口だけ」
「そうか! 郁夫、あーん」
「あー……熱っ」
「す、すまぬ! 冷ますのを忘れておった。……ふー、ふー」
「はむ……ん。美味しいな。ありがと、茅女」
「き、気にするな。それより、もう一口どうだ?」
 
 素直に礼を言うと、照れくさそうに微笑みながら、もうひとすくい粥を準備してくる。
 流石に何度も食べさせて貰うのはこちらも恥ずかしいため、茅女の誘いは断ることに。
 
「じゃあ、あとは自分で食べられるから」
 そう言って、手を差し出す。
「……うー」
 再び寂しそうな顔を見せるが、情に流されるのは一度まで。
 普通に蓮華を受け取って、自分で粥を食べ――
 
 
 ぽろり、と。
 蓮華が手からこぼれ落ちた。
 
 
「……あれ?」
「こら、郁夫。まだ手に力が入らないのではないか? やっぱり妾が食べさせ――」
「いや、大丈夫だって。ものを持つのが久しぶりだから、上手く持てなかっただけだ」


204九十九の想い ◆gPbPvQ478E :2006/12/29(金) 01:29:38 ID:iJkM6Nqe

 言いながら、掛け布団の上に落としてしまった蓮華を拾おうとする。
 しかし。
 
 掴んで、持ち上げようとしたところで。
 手から完全に力が抜け、蓮華は再び転げ落ちる。
 
 畳の上に落ちようとした蓮華を、咄嗟に茅女が受け止める。
「郁夫、やはり疲れているのだろう? 大人しく妾の世話を――」
「ごめん、茅女、もっかい貸してくれ」
 茅女の言葉を遮って、半ばもぎ取るように蓮華を奪おうと――
 
 
 ぽろり、と。
 蓮華は手からこぼれ落ちる。
 
 
「……郁夫?」
 
 こちらの様子を見て、茅女も異常を感じ取ったか。
 ぶるぶると震える俺の手を、茅女が訝しげに見つめている。
 
「力が入らないのか? 一週間寝たきりだった故、別段おかしなことではないぞ?」
「……いや、違うんだ」
 
 手を開閉させ、力の入り具合を確認する。
 病み上がりで多少弱っているものの、蓮華が持てないレベルではない。
 
 なのに。
 
「……っ!」
 手を伸ばし、盆の上の箸を取ろうとする。
 しかし――蓮華と同じように、持とうとした瞬間、すとんと力が抜けてしまう。
 
 これは、まさか。
 
 布団から飛び起きて、部屋中のものを持とうとする。
 しかし、どれも例外なく、手からこぼれ落ちてしまう。
 
 
「……持てない?」
 
 
 呆然と手のひらを見つめながら。
 俺は、そう呟くことしかできなかった。


205九十九の想い ◆gPbPvQ478E :2006/12/29(金) 01:30:32 ID:iJkM6Nqe

「刺された影響か」
 
 その声は。
 ぞくり、と凍り付きそうな冷たさを含んでいた。
 
 振り返ると、能面のような無表情でこちらを見つめる茅女がいた。
 
「あの刀に裡を引き裂かれた結果、物に対して恐怖心を植え付けられたのかもしれんな」
「……恐怖、心?」
「刀――流のことを、ヌシは信頼していたのだろう? それこそ人間と変わりなく。
 そんな信頼していた相手に、心をズタズタに引き裂かれたら、大抵の人間は不信に陥るの」
 
 えっと、つまり。
 流に刺された後遺症で、俺は物を持てなくなったということだろうか。
 
「しかし、それにしては拒絶が強いのう。
 刀を持てなくなる、というのならわかるが、あらゆる物を持てなくなる、というのは異常じゃ」
 言いながら。
 茅女はこちらに歩み寄ってくる。
 そして、ゆっくりと、俺の腕に――触れた。
 
「……茅女?」
「ふむ。この姿では平気なようじゃの。看病できていたことからも察せられるか」
 
 ぺたぺたと俺の腕を触っていた茅女は、ふいに、俺の手のひらを強く握った。
 
「郁夫」
「な、なんだ?」
「振り回すなよ」
 
 言うなり、茅女は。
 変化を解いて、元の姿――包丁へと戻った。
 
 
 柄が手のひらに収まるように。
 白木作りの柄と、小振りな刃。
 五百年の時を経てなお健在な包丁が、俺の手に――
 
 
 収まらなかった。
 
 
 やはり、力は入らずに。
 そのまま包丁を落としてしまう。


206九十九の想い ◆gPbPvQ478E :2006/12/29(金) 01:31:25 ID:iJkM6Nqe

 畳にぶつかる直前に、茅女は少女の姿へと変化して、こちらを見上げる。
「やはり……駄目か」
「ご、ごめんな」
「気に病むでない。半ば予想できていたことだ」
 そう言う茅女の表情は、しかし硬く尖っていた。
 
「道具を持てない、か。只の拒絶じゃこうはいかぬ。
 ――あの刀、意図したかどうかは知らぬが、心を弄ったな」
 
 心を、弄った?
 
「おそらく、奴の怪異はこれじゃろう。
 ――斬った相手の心を操作する、か。
 まさに妖刀じゃの。使いようによっては最悪の武器となるの」
「……おい、それってつまり」
「流は、ヌシの心に侵入したとき、その中身を一部書き換えたのよ。
 おそらくは、“自分以外の物を持てなくなる”といった類にな」
「…………」
 
 信じたくはなかった。
 しかし、一切の物を持てない現状から考えると、茅女の言うことは信憑性があった。
 
 
「……そうするに至った奴の心情は理解できる。
 が、これは許容の域を脱しておる。
 …………郁夫が妾を持てないというのは、嫌じゃ」
 
「か、茅女?」
 
 茅女の瞳は。
 こちらに縋っているかのように、弱々しく。
 その儚さに言葉を失われているうちに。
 気付けば、腕を掴まれていた。
 
 
 ぐい、と引っ張られて重心を崩されたかと思ったら。
 そのまま畳の上に押し倒されてしまった。
 
「――心を繋げる方法は、妾を持たせる以外にもある。
 妖怪としての怪異ではなく、人間の使う技法だがな」
 
 まて。
 何をする、つもりだ?
 
「――房中術、というのを、聞いたことはあるか?
 なに、行為としては初めてだが、失敗することは無かろうて」



207 ◆gPbPvQ478E :2006/12/29(金) 01:32:38 ID:iJkM6Nqe
お久しぶりです。
ノロって怖いですね。

>>160
私もブログを作ってみました。
修羅場の絡まない外伝とかは向こうに載せるかもしれません
208名無しさん@ピンキー:2006/12/29(金) 01:44:37 ID:78dTJzTJ
九十九キタ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(゚∀゚)゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*!!!!!
まさか流たんがあの時にそこまでやっていたとは(*´Д`)ハァハァ 
209名無しさん@ピンキー:2006/12/29(金) 01:49:17 ID:THvEZJ22
キタ━━━━━━≡゚∀゚)≡゚∀゚)≡゚∀゚)≡゚∀゚)≡゚∀゚)━━━━━━!!!!!
茅女可愛いよ茅女
あとブログどこー?
210名無しさん@ピンキー:2006/12/29(金) 01:49:41 ID:yGtCcERK
GJです。
流さんの能力は全ての修羅場女があこがれる能力ですね
でも茅女をどんどん可愛く書いていく作者様は悪い人だ!

……小恋の続きを読めたのはホントに嬉しかったよ〜
211二人の姫君:2006/12/29(金) 03:35:01 ID:LNRlnJ02
大陸暦995年

タイラント王国


「ア〜ル〜」

―――おれを呼ぶ声がきこえる。またかと思い声のするほうへ走っていく。

「なにかご用でしょうか。姫さま」
「はやくいっしょにあそぼ?」
この国の王女であるラナ姫さまが屈託の無い笑顔で聞いてくる。
「あの、今、訓練中なので・・・」
「は〜や〜く〜あ〜そ〜ぼ〜?」
「あの、だからですね――」
「・・・アル、あそん、で、くれない、だね、う、うぅ」
姫さまは笑顔から一転して今にも泣き出しそうになった。
「はぁ・・・、隊長・・・・・・」
「仕方ない、アル、今日はもうあがっていいぞ」
「ほんとっっ!!じゃあはやくお庭にいこっっ!!」
隊長が言うやいなやすぐにおれの手を取って走り出していく。
さっきまで顔をグシャグシャにして泣いていたのが嘘のように笑顔になっている。


212二人の姫君:2006/12/29(金) 03:36:41 ID:LNRlnJ02
このタイラント王国には少年騎士団がある。
騎士団と言っても貴族の息子や戦災孤児なんかが騎士見習いとして所属していて、正規の騎士になるための訓練兵みたいなものだ。
おれもここに戦災孤児として所属している。
姫さまとは一年前の入団式のときに会い、それ以来ずっとこんな調子だ。

「きょうはおままごとね」
「・・・・きょうは、っていつもと同じじゃ・・・」
「はい、アーンして」
・・・人の話も聞かず空の器からスプーンですくうマネをしておれにスプーンを向けてくる。
そしておれはいつものように食べるマネをする。

「おいしい?」
「・・・おいしいです」
無難な返答をかえす。
「えへへー、よかったっ!じゃあ、つぎは・・・・・」
「姫様、王様がお呼びですよ」
いきなり侍女のマリアさんが遮るように現れて言った。
「ええ〜お父さまがー?あとでじゃ、だめ?」
「だめです」
「もーしょうがないなー。ちょっとまっててね、アル」
「はい」
姫さまは不機嫌そうにマリアさんと歩いていく。
おれはそれを見送っていった。



213二人の姫君:2006/12/29(金) 03:40:33 ID:LNRlnJ02
ボーっとしていると渡りの廊下でメイドの女の子が洗濯物を大量に運んでいる。
それも前が見えないほどに。
大丈夫か?と思ったら―――

「きゃあ!!」

案の定、こけた。

「大丈夫ですか?」
「ああ、すいません!!すぐに片付けますから!!」
メイドの女の子は廊下にぶちまけた洗濯物を慌てて拾っている。
しかしすごい量だな・・・

「手伝いますよ」
「えっ!!」
この洗濯物の量を一人で運ぶのは大変だろう。
「でも・・・騎士さまにこんなこと・・・」
「いいんですよ。それに騎士って言っても見習いなんですから」
「・・・じゃあ、お言葉に甘えて・・・」


214二人の姫君:2006/12/29(金) 03:41:50 ID:LNRlnJ02


「すいません。お忙しいのに運ぶのまで手伝ってもらって・・・」
「い、いえ、そんなことはないですよ」
姫さまが待っててって言ってたけど、まあ大丈夫だろう。
しかし結構重いな・・・。二分割してもこの重さなのに、すごいなこの・・・
「えっと名前は・・・」
「ミヨっていいます。先日この仕事に就いたばかりなので、まだ慣れてないんです」
「・・・そうなんですか。あっぼくの名前は―――」
「アルさん、ですよね」
「えっ!どうして知ってるんですか?」
「みんな噂していますよ。赤い瞳の少年騎士が姫さまに取り入っているとかどうとか」
・・・しまったな。意外と有名になってるんだ・・・。
「あ、でも私はそんなことは思いませんよ。実際会ってみるととても優しいので」
「そ、そうですか?」
面と向かってこんなこと言われると照れるなぁ。
「そうですよ。・・・ふふっ」
「・・・ははっ」
つられて笑ってしまう。


「アル」

・・・後ろから聞き慣れた、そして底冷えするような声でおれの名前が呼ばれた。




215名無しさん@ピンキー:2006/12/29(金) 03:49:38 ID:LNRlnJ02
神々が投下しているなかへ下手な文章ですみません
よければ続きを書いていきたいと思います
216名無しさん@ピンキー:2006/12/29(金) 04:34:22 ID:EEOydZ4t
>>207
ハァ――(*´Д')――ン!!!!!

GJッ!!

>>215
俺達はいつでも嫉妬と修羅場分を渇望しています。

故に、続き
Щ(゚Д゚Щ)カモォォン
217名無しさん@ピンキー:2006/12/29(金) 04:57:07 ID:0RG+uQBZ
やばいなんだこの神ラッシュは、幸せすぎるw
>>160
>>207
よかったら教えてください。超絶気になります!!
218名無しさん@ピンキー:2006/12/29(金) 10:36:31 ID:51fA4pMS
>>207
キター!!
流…最高だな!恐ろしいひとだ。レイプされた記憶に震えるいくおもちょっと見たかったw

>>215
いつでもウェルカムだぜ
219名無しさん@ピンキー:2006/12/29(金) 11:22:21 ID:mP/w4789
>>215
生殺しではないか・・・・・・orz
故に続きをくれ!
220名無しさん@ピンキー:2006/12/29(金) 14:26:05 ID:KE9blx/k
誰か‥彼らのサイトのURLを…
221名無しさん@ピンキー:2006/12/29(金) 16:24:46 ID:8DzVBY5R
>>220
とりあえず作品名でググッてみようぜ。
222名無しさん@ピンキー:2006/12/29(金) 18:40:11 ID:UtfuyAyJ
血塗れ竜は検索したら直ぐ見つかった
でも千歳の華は検索してもまとめサイトしかヒットしなかった

予断だがここの神でHPやブログ持ってるのって
他には「疾走」と「振り向けばそこに…」と、
他に誰かいる?
223名無しさん@ピンキー:2006/12/29(金) 18:42:09 ID:FQzUgoAd
これからは↓でOK?

◆pmLYRh7rmU = カミナリ氏
◆gPbPvQ478E = midorineko氏
224名無しさん@ピンキー:2006/12/29(金) 18:43:32 ID:FQzUgoAd
>>222
『スウィッチブレイド・ナイフ』と『Pet☆Hot☆High-School!』でググったら出てきた。
225名無しさん@ピンキー:2006/12/29(金) 20:49:49 ID:ZCpz4gxn
>>215
最高だぜ
続きは・・・続きはまだなのかい!
226名無しさん@ピンキー:2006/12/29(金) 21:30:25 ID:qDlReio6
そういや、姉妹日記とスウィッチブレイド・ナイフのプロットネタを
俺は書いたことがあるな
後々に神作品になるとは夢にも思わなかったわけだが
227名無しさん@ピンキー:2006/12/29(金) 23:36:01 ID:rF4xutuP
>>226

今更彼の幼馴染みだなんて言って出てこないでよ!
あなた今まで彼に何もしないで逃げてただけじゃない!
あんたみたいな泥棒猫の居場所なんてもうないの。彼は私だけのものなんだから!邪魔な雌豚は出て行きなさい!






ごめんなさい。あなたと作者さんにはどれだけ感謝しているかorz
228名無しさん@ピンキー:2006/12/29(金) 23:47:46 ID:Nc66o//s
神投下ラッシュがキテルー!!!
>>226-227
この流れワロス&テラGJ!
229恋と盲目 ◆IOEDU1a3Bg :2006/12/30(土) 00:05:18 ID:SbXIPBYO
左腕がズキリと痛んだ。
「……あれ?」
気がつくと私は、板張りの床の上に転がっていた。
昨晩の記憶は抜け落ち、頭が少し痛む。
そこまで考えて、昨晩は京司が賞をとったのを祝い、友人たちがささやかながら祝賀会を開いてくれた事を思い出した。
うっかり飲みすぎて……そのまま寝ちゃったのかしら?
それとも寝返りで布団の外まで出た?
思い出そうにも記憶は見事なまでに無くなっていて、どうにも思い出せそうにもない。
周りを見渡すと、部屋には布団すら敷かれていなかった。
手元に日記帳が落ちていたので、引き出しの中に戻す。
毎日の日課だった日記すら放っておくあたり、かなり酔っ払っていたらしい。
酔っ払って記憶が飛んだ時はたいて京司の布団の中で眼を覚ますのだけど、辺りに京司の気配は無い。
……まあ、気にしても仕方が無いわね。
机に置いてある時計を手探りで探し、スイッチを押す。
「タダイマ、6ガツ14ニチ4ジ44フン、デス」
「うわっ、不吉……」
電子音が余りにも不吉な数字を伝え、思わずそう呟いていた。
つい頭が痛いのも左腕が痛いのもこれが原因なのじゃないかと疑ってしまう。
とはいえ、何時までも寝ている訳にもいかない。
頭が起き上がりたくないと訴えてはいるものの、その痛みは眠気をすっかり散らしてしまっている。
私は一念発起して、ゆっくりと起き上がり……
「……つっ!?」
力を入れた瞬間、左腕にさらなる激痛が走った。
ようやく私は異常を感じ、左うでに視線を延ばした。
……左腕は紅く染まっていた。
「何よこれ?」
酔っ払った……にしては行動が過激すぎる気がする。
側にはたぶん私の血で染まったペーパーナイフ。
床には血の跡が広範囲に広がっていた。
幸いにも傷はそう深そうではないし、床は板張りなので掃除はそう大変ではない。
だがしかし、過去に酔っ払った経験は数多くあるが、流石に気づかぬ内に怪我をしていたという経験は無い。
……と、ここで一旦思考を中断する。
ばい菌が入る前に傷の手当をした方が良さそうだ。
重い頭を引きずるかのように歩き、キッチンへとたどり着く。
軽く顔を洗い、次に左腕を洗う。
冷水の感触を心地よく感じた。
真っ赤に染まった左腕はすぐに肌色に戻り、数分もしない内に血は洗い流された。

『ミカゲ シラベロ』

腕にそう書いてあった。
傷口がまるで文字のように……いいや、これは完全な文字だった。
「何……これ?」
230恋と盲目 ◆IOEDU1a3Bg :2006/12/30(土) 00:06:09 ID:SbXIPBYO
薬を塗り、包帯を腕に巻きながら考える……
誰がこんな事をしたのだろうか?
私がやった……とは考えにくい。
私にはサドッ気はあってもマゾッ気は無い。
京司がやった……とも考えにくい。
と言うよりもむしろ、京司がやっただなんて考えたくはない。
他の誰かがやった……としたら、家の警備環境を徹底的に見直す必要があるだろう。
とはいえ私の部屋に血痕があった以上、やっぱり私がやったと考えるのが普通だろう。
だったらその理由は?
酔っ払った勢いで……もう一度確認、私にはサドッ気はあってもマゾッ気は無い。
しかし、他の理由も考えにくい。
しいて言うなら……この傷を見ていると、どうしても花京院典明を思い出してしまう。
まさか死神13が……居る訳が無い。
だったらジェイル・ハウス・ロックが……居るのならお眼にかかってみたい。
結局、犯人も理由もわからない。
なら次に考えるべき事はこの文字の意味だろう。
『ミカゲ シラベロ』
普通に考えるのなら、ミカゲについて調べろと書いてあるのだと思うのだけど……
「緑かい?今日は早いんだね」
「おわっ!!」
背後からの突然の声によって思考が中断される。
振り向かなくてもわかる、京司だ。
「緑……仮にも女性が『おわっ!』だなんて言うべきじゃないと思うんだけど……」
……振り向かなくてもわかる、京司が心底呆れた顔をしている。
「仮にもって何よっ!?今のは後ろからこっそり近づいて来た京司が悪いわ」
だから無意味に反論してみた。
お互いに反発したり、逆にくっついたり、そんな磁石のような関係が一番心地良い。
私も、たぶん京司も。
「ふふっ……そうだね。
それはそうと、どうしたんだい?こんなに早く起きたりして」
「いつもと一時間しか違わないわよ。京司こそどうしたの?」
「嫌な夢を見たんだよ」
そう言って京司は手馴れた手つきで冷蔵庫から水を取り出す。
夢の事は……聞かない方が良さそう。
それよりも京司に聞くべき事があったような気がする……
「京司……ミカゲって誰?」
……気がつけばそんな事を口に出していた。
ミカゲが人名かどうか、京司がそれを知っているかどうかなんてわからない筈だったのにだ。
すると京司は眉間に皺を寄せ……
「何かの冗談かい?」
……と、返してきた。
「知ってるの!?だったら教えて」
私がそう言うとさらに京司は困った顔をしていた。
「小学校のクラスメイト。昨日の祝賀会にも来てただろう」
「来て……た?」
ミシリ……と、頭蓋骨にヒビが入った音が聞こえたような気がした。
231シベリア! ◆IOEDU1a3Bg :2006/12/30(土) 00:07:05 ID:lDEuKCoY
たぶんこれが今年最後の更新だと思います。
書ける時に書いておかないとまた忙しくなる……

来年の目標
二週間以上更新する間隔をあけない。
趣味に走りすぎない。
修羅場スレの神になる。
232名無しさん@ピンキー:2006/12/30(土) 00:32:40 ID:1GGrK4NT
修羅場って…面白!!
233名無しさん@ピンキー:2006/12/30(土) 00:33:28 ID:oV9bDU7L
>>226
生まれた時から好きでした

>>231
GJ!常人っていうレベルじゃねぇぞ!!

それと今年一年お疲れ様でした。


まだ少し早いが・・・楽しかった・・
このスレと神々と阿修羅氏とお前らが居たから
今年は楽しかった・・・
そう思うぜ。
234名無しさん@ピンキー:2006/12/30(土) 01:06:19 ID:An+sgwSY
>>231
神は「修羅場」が「何物か」を知っている!!
その恐怖に立ち向かい、その恐怖を我々へ伝える、それが神の素晴らしさッ!!
「修羅場賛歌」は「神」への賛歌ッ!! 修羅場の素晴らしさは神の素晴らしさ!!

神を崇める覚悟はいいか? オレはできてる。
235名無しさん@ピンキー:2006/12/30(土) 01:18:02 ID:THPtMF3Q
投下します
236白き牙 ◆tVzTTTyvm. :2006/12/30(土) 01:21:05 ID:THPtMF3Q
「う……ん……」
 カーテンの隙間から差し込む朝陽に私は目を覚ます。
 辺りを朝の静寂が包み耳に聞こえるは小鳥の囀り、と愛しい人"達"の立てる静かな寝息。
 そう昨晩情事をすごした相手――リオ、と……。

 私はリオの体を挟んで向こう側で寝ているクリスに手を伸ばしそっと其の髪を撫でる。
 改めて昨晩の事を冷静に思い返してみる、と……。
 普通とはちょっと……いや、かなーり違う初体験だったわね。 うん……。
 でも、考え無しの勢いでしたわけじゃない。 だから勿論後悔なんてしてない。
 ううん、むしろ其の逆。 そうしてなければきっと後悔してたと思う。
 クリスは私にとってかけがえの無い仲間で、親友で、妹分で、そして……。
 そう。 リオと並んで私にとって何よりもかけがえの無いこのコが、
思ってた以上にそれだけ大きな存在になってたのだ。


 リオに出会うまで男に幻滅し、毛嫌いしてた私は、元いた世界で……同性からは結構モテてた――。
 武術をかじってたし、女の子にちょっかい出したり悪さしようとしてた不良をぶちのめし、
助けてあげた事があったのも原因の一つかも。 そんな訳で言い寄ってくる女の子は結構いたのだ。
 でも応じた事は無かった。
 いや、試しに応じかけた事も何回かあったけど女友達以上の感覚は沸かなかった。
 それどころか思い返せば親友と呼べるほど気を許せた相手もいなかったかも。
 だから当時から考えればクリスともこういう風になるとは思ってもいなかった。
 でもいざなってしまえば違和感は無く残ったのは幸せな余韻。

 あの時、リオと一つに繋がろうとした時。
 幸せな気持と歓びと期待で満たされながらも其の一方で感じた違和感、そして……寂しさ。
 其の感情はクリスがいないことから来るものだった。
 その時私は感じてしまった。 欲してしまった。求めてしまった。 クリスにもココにいて欲しい、と。
 だからリオに言ったのだ。 ここにクリスを呼んでも良いか、と。
 クリスとも一緒に過ごしたい、一つになりたい、と。
 確かに普通じゃないとも思う。 でも、それでも私は求めずにはいられなかった。

 私の言葉を耳にしたリオは表情に驚きを見せ――当然よね――でも直後微笑んでくれた。
 そして <あなたの望むようにして良いですよ> と言ってくれた。
 まるで見透かし分かっていたかのよう。 うん、実際お見通しだったのかも。
 私のクリスに対する思いを、若しかしたら私以上に分かってくれてたのかもしれなかった。

 リオにも認めてもらえて私は直ぐにクリスを連れてくるべく飛び出そうとした。
 はやるあまり裸のまま飛び出そうとしてリオに笑われ、思わず私も苦笑いを浮かべ。
「フフッ……」
 思わす思い出し笑がこみ上げる。
 そんな私の声に反応したようにクリスが瞼を開ける。
237白き牙 ◆tVzTTTyvm. :2006/12/30(土) 01:22:35 ID:THPtMF3Q
「おはよう。 クリス」
「おはよう。 姉さん――」
 応えながらクリスは状況を確認するように首を廻らせる。
 そう。ベッドの上、私とクリスとリオはそれぞれ皆一糸纏わぬ生まれたままの姿で横になっていた。
 そしてクリスは今更ながら気付いたように頬を朱らめ、
其の様子に私はた堪まらないほどの愛しさが込み上げ手繰り寄せ抱きしめた。


 あの時、部屋を飛び出した私は真っ直ぐにクリスの部屋に向かい、でもそこにクリスはいなくて――。
 直後私が中庭で見つけたクリスは――泣いてた。
 其の涙を見たとき私の中に感じた感情。
 それは大事な妹分にこんな思いをさせてしまった自分に対する不甲斐無さに対する憤り。
 そして――。
 変な言い方だけど反面嬉しいような気持ちもあった。
 何故なら、其の涙の意味が、それがクリスが私が感じたのと同様の寂しさを感じててくれた
その事の証に思えたから。

 私はその場でクリスを抱きしめ、そして抱きかかえ部屋へと駆け戻った。
 その時クリスが戸惑い驚きの声を発してたけど、気にせず私は抱きかかえたまま駆けた。
 そしてリオの待つ部屋へ舞い戻ったわけだけど、クリスが直ぐに私の求めに応じてくれたかと言うと
そうもいかなかったのよね。
 まぁ当然よね。 半ば強引に連れてきちゃったし客観的に見ればやっぱ普通じゃないし。

<同情なら……、やめてください……!>
 あの時――部屋に連れてきた直後クリスは戸惑いと自虐を含んだ声でそう言った。
 このときクリスが言ったように私の気持が同情によるものだったら私は言い返せなかったろう。
 でもそのときの気持は言ってみればそれは私の我儘だったから。
 リオとだけじゃなくクリスともこの時を共にしたいという。
 どこまでも、こんな時までも三人一緒にいたいという私の――。

 私が胸のうちの思いのたけを明かすとクリスは――。
<ありがとう姉さん……>
 そう言ってくれて、でも――。
<でも、やっぱり出来ないよ。 姉さんの気持は嬉しいけど、だけどリオにいさんに悪いよ……。
それにボクこんな、胸だって姉さんみたいに大っきくないし色気無いし、
傷だらけで全然女らしくないし、何よりこんな片目の潰れた顔の女……>
 その時私はクリスのあまりにも自分を卑下する言い方に口を開こうとしたが、
でもそれより先に口を開いたのはリオだった。

 確かにクリスの顔の傷はコンプレックスになるほど致命的で大きい。
 でも傷さえ気にならなければ、傷が気にならない人間からすればクリスは十分魅力的なのだから。
 同情や憐憫なんかじゃなく本心から私は、そしてリオもそう思ってたのだから。
 だからその時リオは私に同意し其の意を汲んで一緒にクリスをなだめ、諭し、説得してくれたのだった。
238白き牙 ◆tVzTTTyvm. :2006/12/30(土) 01:24:14 ID:THPtMF3Q
 クリスは――傷さえ気にしなければという言い方は正確じゃない。
 そう、クリスの本当の魅力は顔の傷程度でかげるようなものなんかじゃない。
 それは今まで幾度となく私達を助け手くれた戦士としての優秀さだけでなく女の子としても。
 戦士として無駄なく鍛え上げられ絞り込まれたプロポーションはとても均整が取れており、
そしてクリスの全身を包む鍛え上げ洗練された筋肉は弾力にとんで、とても柔らかかった。
 そう、一流のアスリートと一流のモデルやアクトレスの躯は其の柔軟さでとても似通ってると、
そう聞いた事があったが、クリスの躯は正にそれに当てはまるのだ。
 胸は確かにかなり小振りだけど、でも年齢的にまだまだ発展途上だし
柔らかさや感度は其の小ささを補って余りあるほど。
 そう、感覚の鋭いクリスは其の感度も人一倍敏感で、その為その感じる度に見せる仕草は
とても愛らしかった。
 そんなクリスを加えて過ごした私達の夜は更に激しく燃え上がり、そして私達は文字通り
身も心も一つになったのだった。



 布団をまくればシーツには二つの赤い染み――純潔をささげた証。
「やっぱ夢……じゃなかったんだね」
 シーツの上の染みを目にしながらクリスが小さな声で呟いた。
 一つは私の。 そしてもう一つはクリスが――。
 こうして目の当たりにすると改めて実感が込み上げてくる。

 こういう形で繋がる事が出来たのは私達三人だったから。
 私はリオが大好きで、そしてクリスも大好き。
 そしてリオとクリスは――二人にとってはこういう関係になるとは予想外だったろうけど……。
 その場の流れや雰囲気もあったろうけど、でも、互いに兄妹のように見知った仲だったし、それに――。
 クリスも、そして未だ夢見心地のリオもとても幸せそうな顔してる。
 だからこうなった事は間違いじゃなかったと自信を持って言える。

 そして、願わくばこの幸せな関係が何時までも続いてくれますように――。


To be continued...
239 ◆tVzTTTyvm. :2006/12/30(土) 01:27:07 ID:THPtMF3Q
嫉妬や修羅場から程遠い展開ばっか続いちゃってごめん
でもコレでお膳立てが整ったから
村に帰って、リオとコレットが出会うとき
その時……
240名無しさん@ピンキー:2006/12/30(土) 01:39:14 ID:COCQ2Fcl
>>231
本当に今年一年おつかれさまでした。来年もよい修羅場でありますように〜。

新世界の神でなぜか、修羅場超人たちが仁王立ちで行く手をふせぐ山(頂上の超人はシルエットで見えない)に挑む、
額にシベリアと書かれたマスクを着けた男が浮かんだ。そうか肉弾戦なのか…
>>239
基本、Mなんで焦らされた方が興奮するッス。
241『鬼ごっこ』 ◆jSNxKO6uRM :2006/12/30(土) 01:46:19 ID:7pw41ShX
「恋人かぁ……」
「ん…」
「一年の時一回だけ告白されたけど……断っちゃったんだよなぁ。」
「んー、んー。」
「あの時付き合ってれば沙恵も今みたいにならなかったのかなぁ。」
「ぶぅ……」
「どうしたんですか、先輩?膨らましたほっぺたなんかつっついて……」
「うぅ、海斗君て本当に意地悪で鈍感だね……」
「ええ?」
酷い言われようだなぁ。自分でいうのもなんだけど、結構他人に気を使う方なんだけどなぁ。
「こほん、え、ぇ、わ、私が、海斗君の恋人になってやらないこともないですよ?」
「………」
一瞬にして思考が停止する。あのあこがれの先輩が僕の、恋人?いいや、よく考えるんだ、水瀬海斗。これにはなにか別の意味があるはずだ。そう………
「あ、ええ、はいはい。恋人のフリをしてくれるってことですね。いやぁ、ありがとうございます。先輩に手伝ってもらっちゃって。」
「え?えぇ……あははは、そ、そうそう。そういうこと………はぁ………ここまで来ると鈍感も病気だよ…」
「なにかいいました?」
「ううん、これで大丈夫だねって言ったの。」
242『鬼ごっこ』 ◆jSNxKO6uRM :2006/12/30(土) 01:47:13 ID:7pw41ShX
「ええ、きっと大丈夫ですよね。これで夜も安心して眠れます。」
「それじゃあ、さっそく一緒に帰りましょう。また妹さん、校門で待ってるの?」
「いえ、今日は委員会が終わった後、買い物して帰るらしいんで、先に帰ってますよ。」
「あ、う。そうなの?」
「ええ、ですから一緒に帰る必要は………」
「でも、それでも一緒に帰りましょう!もう夜も遅くなったし、ボディガードも兼ねて一緒に帰りましょう!!」
「そ、そうですね。近ごろは物騒ですし、この街は暗いですもんね。」
先輩の勢いには有無をいわさず肯定するしかなかった。僕の返事を聞いた途端、慌ただしく帰る準備を始める先輩。
すでに下校時刻は過ぎており、校内で電気がついているのは、この部室と職員室ぐらいなものだった。ああ、早くしないと沙恵に怒られるなぁ。
「…………」
さっき沙恵離れしようと決めたばかりなのに、いきなり沙恵にたよってしまった。まずいなぁ。沙恵を何とかする前に、僕自身、沙恵がいなくてもなんとかできるようにならないと。
「うん、戸締まりもよし。じゃあ、帰りましょうか、海斗君。」
243『鬼ごっこ』 ◆jSNxKO6uRM :2006/12/30(土) 01:48:13 ID:7pw41ShX
それから先輩を家まで送っていったが、終始落ち着かずにソワソワしていた。そんなに恋人のふりをするのが不安だったんだろうか。
「はぁ、変なこと頼んじゃったなぁ。やっぱり明日断ろうかな。」
変な気分のまま帰宅。勇気を出してドアを開ける……と。
ゴゴゴゴゴゴ……
「うっ…」
沙恵は玄関で仁王立ちしていた。まさに怒ってますよと言った雰囲気が漂っているのは勘違いではないだろう。
「……ずいぶんと遅いお帰りですね。部活ですか?」
「う、うん。ちょっと片付けに手間取っちゃって。」
「今日は美術部の顧問は休みなはずですけど?」
「………せ、先生がいなくても………」
「うちの学校は顧問不在の部活は禁止ですけど?」
「……ぐ…た、ただ寄り道しただけさ。」
「ふぅん。………すん…」
そう言うと僕に近寄り、制服の襟を掴んで鼻を近付け、匂いを嗅ぐ。
「……私の匂いしかしないね……」
「え?」
なにかまずい言葉が聞こえたようなので、聞き返してみる。
「ううん、なんでもない。それより、今日の夕飯はお兄ちゃんの好きなモツ煮だよ。」
「う、うん。」
なぜか聞けないオーラがあったため、僕は小さくうなずいて家に上がった。
244名無しさん@ピンキー:2006/12/30(土) 01:55:49 ID:A+RF71hd
体は修羅場で出来ている。

血潮は嫉妬で、心は憎悪。

幾人もの泥棒猫を葬り不敗。

ただの一度も躊躇せず、ただの一度も容赦しない。

彼女は常に孤独、それでも主人公の為にその手を血で染める。

故に、彼に近づく泥棒猫が居る限り殲滅は続く。

その体は、きっと無限の修羅場で出来ていた。




何となく思いついちゃったんで書いてみました。
同じネタがあったら申し訳無いです。
245名無しさん@ピンキー:2006/12/30(土) 02:03:08 ID:LxQeCqYG
大奥って修羅場じゃね?
246名無しさん@ピンキー:2006/12/30(土) 02:10:20 ID:H5KCS87j
>>243
GJ!! さえがこの後どう鬼になってくのか・・・

>>245
確かにそうだが・・・・
247名無しさん@ピンキー:2006/12/30(土) 02:34:39 ID:pwkwzuS6
しばらく書いてなかったらマジで全くかけなくなっている・・・
対処法教えてエロイ人
248名無しさん@ピンキー:2006/12/30(土) 02:38:26 ID:Z94LzpQG
書き続ければいいじゃないかな?
249名無しさん@ピンキー:2006/12/30(土) 02:55:12 ID:uPyljjLI
短編書いてリハビリしかないんじゃない?
正月ネタで嫉妬といえば弁財天とかどうよ
250名無しさん@ピンキー:2006/12/30(土) 04:08:06 ID:xSCSugQt
未来日記を読んだり修羅場ゲーをプレイしたりしてはどうかと

>>231
GJ!ネ申、いわゆるゴッド!!1
>>239
溜めて溜めて一気に修羅場を爆発させる、醍醐味の一つだぜ
>>243
キモウトのマーキング(*´д`*)ハァハァ 海斗の体中から先輩の匂いがする時が楽しみだ
251名無しさん@ピンキー:2006/12/30(土) 10:09:50 ID:K8cxV4Sb
>>239萌えて悶えてGJ!
しかしコレットはどうやってこの鉄壁を崩すんだ。
別作品だが、ふと一子vs次子の絶望的な戦力の差を思い出してしまった。
252名無しさん@ピンキー:2006/12/30(土) 10:10:29 ID:NurZQ0Gd
クロックワークホイールズと記憶こないかなー
253名無しさん@ピンキー:2006/12/30(土) 11:02:02 ID:TMFXkYOi
>>251
おや、絶望したコレットの様子が?

コレット「ククククク、クク、クハ、クハハハハハハ、ハーハハハハハ」
リオ「な、なんですか、このコレットから放出されるすさまじい魔力は!!」
コレット「リオ、あなたはわたしのものよね」(目から怪しい光)
リオ「ぐっ、あ、頭が!」
セツナ「リオ!大丈夫?」
リオ「・・・はい、僕はあなたのものです、コレット」(うつろな目)
セツナ「ちょっと、リオ!どうしちゃったの?!」
コレット「ククク、まだ分からないの?お馬鹿さん」
クリス「どういうことだ!」
セツナ「はっ、ま、まさか」
クリス「何か分かったんですか、姉さん?!」
コレット「ククク」
セツナ「そうか、コレットの誕生日と名前を変換してノイズを消せば・・・、やはりそう、わたしたちはなんという思い違いを」
クリス「姉さん!何がどうなってるんです?!」
セツナ「コレットこそ、コレットこそ魔王そのひとだったのよ!!」
クリス「な、なんだってー!!!」
254名無しさん@ピンキー:2006/12/30(土) 14:53:08 ID:1GGrK4NT
人様のキャラで遊んでんじゃねえぞ(´・ω・`)
255『鬼ごっこ』 ◆jSNxKO6uRM :2006/12/30(土) 16:00:42 ID:7pw41ShX
PiPiPiPi……
「うぃ……あ、朝か……」
なんだか体の節々が痛い。よく寝たはずなのにあまり疲れが取れてない気がする。おかしいな。変な体制で寝ちゃったかな?
「……起きよ。」
トントントントン……
顔を洗いリビングに向かうと、沙恵が台所で朝飯を作っていた。ちょっとおかしな妹とは言え、こういった風景がどこぞの男に取られるというのもなんか悔しい。
「沙恵、おは…よ……」
「あ、お兄ちゃん、おはよう!」
朝っぱらから目眩がしてしまった。確かに沙恵は朝飯を作っていたのだが、一つ……たった一つだけ、変だった。
「………なんで僕のブレザー着てんのさ?」
「えへへ、ちょっと寒かったから借りちゃった。」
「ん、そう。」
この事態にあまり驚かない自分がいることに、ちょっと驚き。ちなみに朝飯のスクランブルエッグはちょっとしょっぱかった。
「はい、お兄ちゃん。今日のお弁当。」
「あ、沙恵。昨日の弁当、髪の毛はいってたぞ?」
「あっ、ごっめーん。今日は大丈夫だよ、髪の毛は、入ってないから。」
「うん、作ってもらってるのにごめん。」
256『鬼ごっこ』 ◆jSNxKO6uRM :2006/12/30(土) 16:01:34 ID:7pw41ShX
「〜〜♪」
朝はあれだけ体調が悪かったのに、昼休みはすこぶる気分がいい。
「おう、海斗。鼻歌なんか歌って、なんかいいことあったか?」
「え?うん、まぁちょっとね。」
そこまで機嫌よくしてたかな。まぁ沙恵の変態っぷりが抑え気味だからだろうか。
ひょこ、ひょこ
「ん?」
なにやらさっきから教室のドアを見たことのある顔が行き来する。あれは………
ザワザワ……おい、秋乃葉先輩だよ………
ザワザワ…マジか?あの学園アイドル?……
ザワザワ……きゃー、秋乃葉先輩よ!
「……え、先輩!?」
僕の顔を見た途端に笑顔になり、チョイチョイと手招きされる。その視線の先が僕だと気付き、クラスから無言の重圧がのしかかる。
それに耐え切れず、押し出されるように教室の外に向かう。
「ど、どうしたんですか?教室にまできて……」
「えー、だって恋人のフリするんでしょ?だったら一緒にお昼食べてもいいよね?」
「う……ああ、そうでした……」
フリとはいえ、ここまでするのか。いや、これが噂になって沙恵の耳に入ればいいのか。
「じゃあ、一緒に食べましょう、ここで。」
257『鬼ごっこ』 ◆jSNxKO6uRM :2006/12/30(土) 16:02:49 ID:7pw41ShX
「え?っと……きょ、教室……うっ…」
ちらっと振り返ってみると、教室の男女全員から、刺さるほどの視線を受けていた。先輩!この空気を察してください!!
「海斗君の席はあそこだよねー。」
「ああっ!先輩!?」
全く気にしない様子で教室に入っていく先輩。その後を追いかけようとしたら。
「お兄ちゃん!一緒にご飯食べよっ!!」
「ああぅ……」
後ろから再び畏怖が襲いかかる。振り向かなくてもわかる、沙恵だ。
「ほら、お兄ちゃんの席で食べよ…………あら、秋乃葉先輩、いたんですか?部活の連絡かなにかでお兄ちゃんに用ですか?一緒にご飯食べたいんで早くしてほしいんですけど。」
「ううん、ここにきたのは私個人の用事。海斗君と一緒にご飯食べにきたの。」
「は?」

「「「「は?」」」」
沙恵とクラス中の声が重なる。再度言われるとちょっとうれしはずかしな感覚だ。あ、沙恵のこめかみに力が入ってる………
「……私の耳がおかしいみたいです。先輩、まさかとは思いますが、お兄ちゃんと一緒にお昼ご飯を食べるなんて聞こえたんですけど?」
258『鬼ごっこ』 ◆jSNxKO6uRM :2006/12/30(土) 16:04:20 ID:7pw41ShX
「……冗談は冗談で済ませましょう。いったい、誰の許可を得て、お兄ちゃんとご飯を一緒にしてるんですか?」
「なんで?許可なんているの?本人だっていやがってないし、どっちかといえば喜んでるよ?それに……」
そう言うと先輩は、沙恵に耳打ちするように近寄り、そっと呟く。
「私、海斗君と………。」
「っ!!」
「?」
先輩は何を言ったんだろう。ぼそぼそと何か呟いた途端、沙恵のリボンがピクッと跳ね上がった。……どんな仕組みになってるんだろう。
「は、ははは。まさか、そんなはずはありませんよ。先輩、嘘もほどほどにしといたほうがいいですよ?」
「嘘だと思いたいなら、そう思ってればいいよ。現実は変わらないけどねぇ。」
あ、リボンを見ているうちに状況が……
「お兄ちゃん!!!」
「は、い!?」
「今日、夕飯の時にお話があるから、部活も出ないで早く帰ってきて。寄り道もしないで、絶対に、早く!わかった!?!?」
「わわ、わかりまっした!」
それだけを言うと、沙恵は教室を出ていってしまった。
「頑張ってね、海斗君。私達のためだよ。」
……かき混ぜたのは先輩でしょうに……
259『鬼ごっこ』 ◆jSNxKO6uRM :2006/12/30(土) 16:06:15 ID:7pw41ShX
今年最後の一仕事!
みなさん、来年もいい修羅場を
260名無しさん@ピンキー:2006/12/30(土) 16:10:10 ID:MfML/dcZ
GJ!
本年はお疲れ様でした。来年もぜひぜひよろしくお願いします。
261名無しさん@ピンキー:2006/12/30(土) 16:30:15 ID:MfML/dcZ
突然だが、スレ住人の好きな小説家って誰だ?

俺は南木佳士と村上春樹。
彼らの書く何だかんだといっても優しい男とか、
少し女性的な部分を持つ男達が修羅場に巻き込まれて
苦悩する姿を妄想すると激しく萌える。
262名無しさん@ピンキー:2006/12/30(土) 16:56:37 ID:1GGrK4NT
そういうのはSSスレじゃなくて本スレかチラシの裏でやれや、な?(´・ω・`)

鬼ごっこGJ
263名無しさん@ピンキー:2006/12/30(土) 17:13:16 ID:TMFXkYOi
>>254
正直スマンかった。

「鬼ごっこ」はお疲れ様。よいお年を。
264名無しさん@ピンキー:2006/12/30(土) 17:13:19 ID:/33vrEvn
>>259
GJです。
今年はあなた方神々によって充実した1年となりました。
ありがとうございます
265名無しさん@ピンキー:2006/12/30(土) 17:18:38 ID:rZkxRA/O
>>259
今年はお疲れ様でした
来年もよろしくお願い申し上げます

そして、嫉妬成分を補給させてください (*´д`*)
266修羅場の神 ◆IOEDU1a3Bg :2006/12/30(土) 21:31:21 ID:cQyCYg1Y

「父様、いらっしゃいますか?」
「……っ!!?」
「どうしたんですか父様。何を慌てているのですか父様。
今に何かを隠しませんでしたか父様。見られてはいけない物でもあるのですか父様」
「アテナ……か。お前は毎回毎回本当に間が悪い時にくるのぅ」
「そんなに褒めないでください」
「嫌味じゃよ」
「それはそうと父様、お願いがあるのですか」
「却下じゃ」
「何故ですか?」
「お前の願いにはろくな物が無い」
「嫌だなあ父様、親愛なる父様に迷惑をかけるような事を私が言う訳が無いじゃないですか」
「6:4で迷惑をかけられた方が多いわい」
「7:3です」
「なお悪いわっ!」
「大丈夫です父様、今回は私の失敗の尻拭いではありません」
「誰の尻拭いじゃ?」
「父様、タルタロスへ調べ物をしに行きますので通行許可証をください」
「却下じゃ。あんな所へ何をしに行くつもりなんじゃ」
「祖父様の所へ……ちょっと……」
「祖父様……駄目じゃ駄目じゃ駄目じゃ、絶対に駄目じゃ。
万が一あやつが蘇りでもしたらどうなるかわかっておるじゃろう」
「万に一つですよ」
「とにかく絶対に駄目じゃ。今回ばかりは諦めい」
「どうしてもですか?」
「どうしてもじゃ」
「ところで父様、ナナセとかいう女の子……可愛いですね」
「……どこで知った?」
「実はですね、二日前に撮った父様の写真をどこに置いたのか忘れてしまいまして。
何かきっかけがあれば思い出せると思うのですが……」
「うぐぐ……」
「どうしたんですか父様、体調でも悪いのですか?」
「持っていけ……泥棒……」
「ああ、やっと思い出しました。義母様の書斎に置いてきたのでした」
「よ……よりにもよって最も危険な場所にいいいぃぃぃ……」
「良し、目標達成。後で良い保険会社を探しておきますよ、父様」
267後日談 ◆IOEDU1a3Bg :2006/12/30(土) 21:32:09 ID:cQyCYg1Y
おまけ
「容赦せんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせんせん……」
「ギイィャアアアアアァァァァァッッッっっっ……」
268シベリア! ◆IOEDU1a3Bg :2006/12/30(土) 21:33:03 ID:cQyCYg1Y
超思いつき短編。
続きません。
ギリシャ神話を知らない人にはさっぱりですがフォローもしません。
269名無しさん@ピンキー:2006/12/30(土) 22:55:13 ID:FR1yp/PW
>>268
た、確かにw ギリシャ神話に限らず神話は婚姻・恋愛関係がグチャグチャなのが多いからなw
続きを読みたいと思った。

ちなみに
ゼウス=超女好きな主神、既婚者
ヘラ=ゼウスの妻、超絶に嫉妬深い女神
アテナ=ゼウスの娘、ヘラ以外の女神との間の娘
270名無しさん@ピンキー:2006/12/30(土) 23:13:39 ID:Qtz9XBDO
      |、  , .| /       _____,,,,,,,_
 ノー----ヘ / .| .||  __,,:-ー;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;''"
ト".     ヽ.|、 || ||_,,,,;;;;;;;;;,,,, ;;;;;;'",, ,, ,;;;";;;;''''""
< 容  ス  || ヾ;;;ヽ ,,,,, ,,;;;;;;''",,,;; '' ''',,,;" ''''""",,,
{  赦  ト 入〉;;;;;;;;;ヽ、",,;;''",",,;;;;;,, ,,;" ,,,,,,,,,,  "
〈 せ  レ /7ヽ、;;;;;;;;ヽ、,,,,,,;;;;;;;;;;;;' ,,;;;''"";;;;;,,,,,,;;;"
.j ん  イ |/;/ ;ヽ;;;,,,,,,,,ヽ";'',,,,,;''' '""   "'''''',,,,,,
/ //  ツ |;;"'''',,,,,,";;;;;,,,;;;;,,,,,;;;;;;;;;;;;",,,,,,,,,,,;;;;;;;;,,,;;;;;;;
、・・   ォ |;;;;;;;;;'''" ""''"./^-7ハ;;;;;;;;;,,, ,,,,, ,,,;;,,;;
<、      〉;;// ///"';,, || ||;;;;;;;;;;;,, '';;,,,"''''''
 '" ̄ ̄"'^'"//,,/;;/;;;// : ;: .|| || ||ヾ;;|;;; ,, ;,,,, ;";
    //;;;;'',,;;;;;;;;;;∠ミミェ_ュ,,'; : ;;||"\\\;;;;;;;,,,,,,"''
    //./;;;;;;r、| 气弋ョァュ,;;レ;;≡|ニニニ三Ξ|;;;;;;;;;;;,,,,
_,,,,./ ,=;;;;;;;;;|ハ;|  ";; ̄;;;".j ,,  |;;丈`ミジ>巛巛";;
" ̄// /;;;;;;;;;;ヽ^|   :::;;;;;  i ,j  丶;;;;;;;;''''  ||入巛
  | | |;;;;;;;;;;;;;;;;ヽ|   "''; / .|, ,,,ハ;:::::   :.ヾ 夊"
  | | |;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ハ    \j_,j,,,-;;;  .\:  ,: λ\;
  | | |;;;;;;;;;;;;;;;;/ ;;|   へ,,ヽ_,,,,.   丶 j ./〉 |川
  | | |;;;;;;;;;;;;;;/  ヽ  にミΞニつ    / j |;;,,"
  .| | |;;;;;;;;;;;/  ;;;\ ヽ"⌒"''''"   /;;;; ,' |川;;
   ヽ|;;;;;;;;;|  ;;;;;;;;;ヽ  て⌒;;ン  ./;" ;;:  ||;;| |
_   ヽ;;;;;;;|  ;;;;;"";ヽ .(;::,,,,,  /;;;:::  ;:  .| 川;
  "''ー-''''"フ  ノ;: : :;;;;;;;ヽ-,_/: : :;;: :  .;;   .||| ||;
l;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ノ  /: : : : : :く;;;;;;;;;;/: : : "  冫    |;ll,,l|;
`ヽー-、'"___/: : : : : : : :;;;;;;;/ : " ,,;;; : : ,,    ヽ;;;;;
        `ヽー-、: :;;;;;;;;;,   ;;;; : : ;;",,,,
                `ヽー-、___ ,,;;;;;;;;,,
271名無しさん@ピンキー:2006/12/31(日) 00:16:22 ID:eYtUM+Qf
     (~ヽ            γ~)
     |ヽJ       .あ     し' |
     |  (~ヽ     .け  γ~)  |
   (~ヽー|ヽJ     ま   し' |ーγ~)
   |ヽJ  |  |   お .し   .|  |  し' |
   |  |  |―|   め .て   |―|  |  |
  ミリ彡ミ,ソ彡   で    ミ彡ミ彡ミノ彡
  ミミソ彡ミ彡ミ   と    彡ミミソ彡ミ彡
   》======《   う      》======《
   |_|_|_|_|_|_|_|         |_|_|_|_|_|_|_|
272名無しさん@ピンキー:2006/12/31(日) 00:26:49 ID:Oeic8pCg
>>268
GJ、そこまでギリシャ神話に興味が無かったが、>>269の素敵設定見て興味が湧いた

>>259
今年はナイスな修羅場をありがとうございました
273名無しさん@ピンキー:2006/12/31(日) 00:52:36 ID:tSYMY3bO
職人さんよ明日正月記念SSよろ
274 ◆zIIME6i97I :2006/12/31(日) 00:58:16 ID:7Jo+mK3y
ノン・トロッポ、投下します。
275ノン・トロッポ:2006/12/31(日) 00:58:49 ID:7Jo+mK3y
進はスケッチブックに鉛筆を走らせながら、翠に尋ねた。

「川名さん、遅いですね」

「うん、どしたのかね。今日はもう来ないのかな」

翠の方は、キャンバスに筆を走らせながらそういった。
進が初めて美術部に来てから、数日が経過していた。その次の日には、顧問の教師と、それから愛美と翠を除く部員と顔をあわせていた。
愛美のいっていたとおり、翠はもちろん、他の人間も進のことを歓迎しているように見えた。
懇願されて自分の描いた絵を見せると、歓迎色はいっそう濃くなった。
ただ、翠と愛美を除く部員たちは必ずしも出席に熱心というわけではなく、たびたびその二人に進を加えた3人で活動をしていた。
今は、進と翠の2人しかいない。
しかし、愛美は教室で用事のあった進を残して一足先に美術室へ向かったはずなのだ。
もちろん、途中でどこかトイレにでも寄っているということもあるだろう。ただ、あれから1時間近くが経過していた。
進が思い出してしまったのはついこの間のことだ。あのとき、愛美は複数の女生徒に絡まれていた。
もしかすると、あれと同じことが起きているのかもしれない。進はそう思った。
スケッチブックを置いて立ち上がった。

「僕、ちょっと見てきます」

「そうね。あの子が何もいわないで休むことってなかったし、少し心配かも」

翠もこのときは、茶化すこともなかった。
進はとりあえず教室へ戻ることにした。早足で階段を降りた。
教室の前に来て、進は戸の向こうから多少荒っぽい声がしてくるのを聞いた。
予想外だったのは、それが進にも聞き覚えのある男子生徒の声だということだった。
「なんでだよ」などといった男の声と、「やめて」とか「そんなつもりじゃ」などというこれもやはり進に聞き覚えのある女の声が聞こえてくる。
それは、一方的な苛めというよりはむしろ、痴話げんかのように聞こえた。
もしそうなら、ここで進が首を突っ込むのは野暮ということかもしれない。
進は、教室の外で逡巡した。
しかしそれも、「いたっ」などという声が聞こえてきたために、破られてしまう。
進は、ここ最近すっかり癖になってしまった小さなため息を一つついて、それから教室の戸を開けた。

中にいたのは、愛美と、それから同じクラスの岩田だった。
教室の窓側の後ろ、つまり進の机の近くで、ふたりはほとんど寄り添うように立っていた。
岩田が愛美の手首を握っていた。
進はそれを見て、二人の関係をいろいろと推測する。
ただ、それがなんにせよ二人の間に接点があったということが驚きだった。
岩田は、背の高いちょっとしたハンサムで、なかなか女子生徒の人気も高かった。
しかし、彼には彼女がいたはずだった。それこそこの間、愛美に絡んでいたかわいい、平瀬という彼女が。
そこで進は、愛美が絡まれていた理由を推測することができた。

「なんだよ、平沢」

岩田が、教室の戸をあけてからそこに立っていろいろと考えていた進にいった。不機嫌そうな、ばつの悪そうな顔をしていた。
そのすきをついて、愛美が岩田の手を振り解いた。
276ノン・トロッポ:2006/12/31(日) 00:59:22 ID:7Jo+mK3y
「平沢君!」

愛美が進の方に駆け寄ってきた。それこそ、進の予想外の出来事だった。
愛美のおかげで、単なる闖入者だった進が、もう一方の当事者になってしまった。
進のそばまでくると、愛美は立ち止まって岩田の方を振り返った。

「なんだよそりゃ、お前馬鹿じゃないのか?平沢だぞ、そいつ」

「あの、わたし違うから、そういうんじゃないから」

「だって、お前から……」

岩田と愛美は、進にはよく分からない言葉を交わした。客観的に見れば、愛美が岩田を振って進に走ったように見える。
だが、進にしてみればそこで三角関係に巻き込まれる理由が分からなかった。
そもそも、進は愛美に好意を打ち明けられてなどいないし、進の方からもそんなことをした覚えはなかった。
岩田は、進の顔をきっとにらみつけると、やがて反対側の出口から教室を出て行った。
その瞬間、硬直していた愛美の体から力が抜けたのが、進にも分かった。

「ごめんね、また助けてもらっちゃって」

「いや、それはいいんだけど……」

ここまで来ると、事情を聞かないわけには行かないような気がしていた。
要求してみると、意外とあっさりと愛美はそれを話してくれた。
簡単な話だった。
つまり、岩田は恋人である平瀬と最近上手くいかなくなっていた。そこで岩田は愛美にアプローチをかけ、それから愛美は平瀬に目をつけられることになった。
愛美の話を聞くに、そういう筋書きが浮かんできた。

「じゃあ、もしかして岩田君と川名さんって付き合ってるとか?」

進がそういうと、愛美は首を激しく振って否定した。
なんでも、愛美の方は岩田には恋愛感情はまったく持っていないらしい。愛美はそれを何度も強調した。
ただ、それにしては岩田の様子が、まるで自分になびいてい女に裏切られたかのような様子だったのが気になった。

「あの、わたしがよくなかったの。はっきりしなかったというか、昔から誤解されやすくて」

進が気になっていることを察したのか、愛美の方からそういった。
進は、意外ともてるのだなと感心した。これからは、少なくとももてない同士という認識は改めなければならないようだった。

「部活出る?山口先輩も心配してたし」

進がそういうと、愛美は肯いた。
277ノン・トロッポ:2006/12/31(日) 01:00:36 ID:7Jo+mK3y
美術室への道中、愛美は押し黙っていた。あんなことがあったのだから、無理もないのだろうが。

「そういえば、さ」

いい加減沈黙が重くなってきた進は、愛美に語りかけた。
愛美が進に顔を向けた。

「ほら、前、僕が消しゴム拾ったときあったでしょ」

「あ、うん、あのときはありがとう」

あんなことぐらいでいつまでも礼をいわれていてはたまらない。

「いやいや、それはどうでもいいんだけど。あのときさ、川名さん、僕が後ろから何度か呼びかけてたの知ってた?」

進が尋ねると、愛美は首を振った。

「ああ、やっぱり。なかなか気づいてくれなくてさ、あれ、なんか川名さんに無視されてるのかと思って悲しかったなあ」

進は冗談交じりにいったのが、愛美の方はそれを聞いて顔を暗くした。
その反応に進はあわてた。

「いやいや、それこそどうでもいいことで、別に本気で気にしてたわけじゃないから」

愛美は、顔を暗くしたままいった。

「それ、多分わたしの耳がよくないせいだと思う」

愛美の話によれば、彼女の右耳は音が聞き取りにくいのだという。
こうして一対一でしゃべっているときなどは問題ないのだが、周りに雑音があったりすると、特に右の方から聞こえる音が聞こえにくいのだという。
それこそ、すぐうしろから呼びかけられて気がつかないほどに。
生まれつきのものかと聞くと、愛美は否定した。ただ、そうなった原因については話してくれなかったが。
つまり、もてない同士という共通項は外れたが、そんなところに新しい共通点があったわけだ。

「へえ、それはなんだか奇遇っていうか、僕も」

「ううん、平沢君は足でしょ。わたしなんか比べ物にならないくらい大変だと思う。わたし、前から平沢君のこと、すごいって思ってた。ひとりで、すごいがんばってるって」

愛美は、こんどはいくらか顔を明るくしていった。
面と向かってそういわれて、進は照れた。それと同時に、それは自分に対する過大評価だと思えた。

「いや、別にすごくなんかない。それに僕はひとりじゃなくて、沙織ちゃんに手伝ってもらってやっとだから」

愛美は、沙織の名前を聞いて、また顔を暗くした。なかなか器用だと、進は感心した。

「やっぱりつきあってるの?」

これまで何度か問われてきた質問で、進は別にうろたえたりはしない。
いつもどおりに否定するだけだ。ただの幼馴染であると。
278ノン・トロッポ:2006/12/31(日) 01:02:04 ID:7Jo+mK3y
「でもね、この足の原因、足立先輩もかかわってて。それで多分、同情とか罪滅ぼしの気持ちとか、そういうのがあるんじゃないかなって。そう思うとなんだか心苦しくて。
いい加減、僕のことから解放してあげないと。彼氏も作れないしね」

進はそういいながら、自分の心が痛むのを感じた。沙織が自分以外の誰かと付き合うなど、本来なら考えたくもない。

「それにそうしないと、僕もひとり立ちできない気がして。前に山口先輩にいったでしょ、あれ、結構本気なんだ」

ただ、美術部に出入りするようになってから、状況がそう変わったわけではなかった。
あの日別々にした昼食は、次の日からはもう沙織のごり押しで一緒にとるようになっていた。
翠を通して、進が美術室で愛美と一緒に弁当を食べたということが伝わっていたらしい。
そして相変わらず、ふたりで一緒に登下校していた。この日も、部活が終われば、沙織を待つ予定だった。

「でもだめだ。恥ずかしいけど、これまで甘えてた癖が抜けなくて。こんなことじゃだめなんだけど」

進は深々とため息をついた。

「あのっ、じゃあっ」

愛美は、いつの間にか立ち止まっていて、進の後ろに立っていた。進は振り向いて、愛美の話をきいた。

「よかったらその、ひとり立ちのお手伝いというか」

「お手伝い?」

「だから、その、多分平沢君一人だから足立先輩に頼っちゃうんだと思うの。いつも足立先輩と一緒だし。だから、他の人と一緒にいたら頼らなくてすむかも」

「でもそれ、結局その別の人に頼ることになるんじゃ」

「うん、でも平沢君は足立先輩に頼るのがいやなんでしょ。だったら平沢君が選らんだ人にだったらいいんじゃない?」
279ノン・トロッポ:2006/12/31(日) 01:02:46 ID:7Jo+mK3y
愛美の話は、確かに一理あった。進に、沙織以外にほとんど友達がいないということが、結果として学校では沙織に頼らざるをえないという状況を作っているともいえた。
問題は、その「別の誰か」だった。

「でも、僕、ほとんど友達もいなくて」

「わたしたちは、その、あの、だから、友達でしょ?」

愛美が、上目遣いでそういった。もちろんそういわれて、否定することもできない。
進が少し考えていると、愛美があわてていった。

「わたしも、わたしもいろいろあるから、平沢君と一緒にいると助かるし」

ギブアンドテイクの関係だから気にするなといいたいらしい。
確かに、先ほどの件もあり、愛美にもメリットはあるだろう。もちろん何かあったときに進が手助けできるかどうかは疑問だったが。
ただ、少なくとも進の側は、愛美の申し出はありがたいように思えた。
ベストは男の友達を作ることだが、この際贅沢はいっていられなかった。それよりは、愛美との友達関係から、友達づきあいのこつを思い出していくほうが建設的だと思えた。
どうやら、積極的に断る理由はないようだった。
280 ◆zIIME6i97I :2006/12/31(日) 01:05:08 ID:7Jo+mK3y
以上、ノン・トロッポ第6話でした。

皆さん、今年はありがとうございました。
よいお年を。
281名無しさん@ピンキー:2006/12/31(日) 01:08:06 ID:6OvHLIA3
一日早いお年玉が!GJ。
主人公、特に何もしていないのに段々状況がヤバくなってきそうw

友達にもいたな。片耳だけ悪い子。
普段は何も問題ないんだけど、困るのがバスとか電車で悪い方の側に座った時。
282名無しさん@ピンキー:2006/12/31(日) 01:17:39 ID:aBJZ3ldQ
GJすぎてGJ。主人公がネガティブすぎて切なくなってくるwそこが俺のモロツボに入ってしまっている訳でして…w 本当に今年は『ノン・トロッポ』非常に楽しませてもらいました!ありがとうございました!!来年になっても期待して待ってます。最後に…長々とした駄文スマンw
283名無しさん@ピンキー:2006/12/31(日) 01:58:13 ID:fzacwVje
神の皆さん、今年1年本当にGJでした
来年もまたお待ちしてます
そして沙織先輩。主人公には見えない裏で一体どれほど嫉妬しているのやら…想像するのも素晴らしい
応援するぜ!
284二人の姫君:2006/12/31(日) 02:43:48 ID:aLvlS7sY
「アル、なにしてるの?」
「姫さ、ま・・・?」

 振り向くとそこには姫さまが立っていた。
俯いていて目は前髪に隠れて見えないが口元が笑っていない。

「あ、あの、今、ちょっと手伝いを―――」
「まっててね、っていったよね」

・・・・・・・・・。

「・・・その、待ってる間時間もありましたし―――」
「まっててね、っていったよね」
・・・理由を話そうとしても話を遮られる。というより聞く気がない。
姫さま・・・怒ってるのか・・・?


「ア、アルさん、ここまででいいので・・・」
「え、あ、はい」
「じゃあ、本当にありがとうございました!」
空気を察したのかミヨさんはおれから洗濯物を取って行ってしまった。
周りに人はいなく、姫様と二人きりされてしまった。
285二人の姫君:2006/12/31(日) 02:45:13 ID:aLvlS7sY

「アル」

「あの子、だーれ?」

いつもと同じ口調。だけど何かが違う。
口元は笑っておらずいまだに前髪で目が隠れていて表情が読めない。

「あの子はメイドのミナといって、自分はその手伝いを―――」
「アルはわたしより、あの子のほうがいいんだ」
・・・何でそうなる。

「・・・わたしね、すぐにもどってきたんだよ。でも、そしたらアルがいなくてね。
わたしさがしたんだよ。いっしょうけんめい・・・。
でも、やっとみつけたら、アル、ほかの女の子とたのしそうにおはなししてたんだもの。わたしじゃない女の子と・・・。
だめだよ・・・そんなの・・・。ひどいよ・・・」
286二人の姫君:2006/12/31(日) 02:46:38 ID:aLvlS7sY
・・・そんなにひどい事なのか?
それはともかく泣き出しそうになってきたな・・・。
おれが待っていなかったせいだからなぁ・・・。ちゃんと謝っておかないと。

「姫さま、申し訳ありませんでした。姫さまの命に背いてしまい・・・。これからは姫さまのお望みとあればなんでもいたします」

「・・・なんでも?」
お、なんでもって言葉に反応したな。
ようやく顔を上げて見えた顔は少し嬉しそうに見える。
ま、今までも姫さまの言う事はなんでも聞いてきたがこれで泣かせずに済みそうだ。

「ほんとうに、なんでも?」
「はい、なんでもです」
「じゃあ・・・・・・わたしと・・・けっこんして!」
287二人の姫君:2006/12/31(日) 02:48:08 ID:aLvlS7sY

「・・・・・・・・・さすがに、それは・・・」
「・・・うそつき。なんでもするって言ったのに・・・」
・・・また泣き出しそうだ。勘弁してくれ。

「姫さま。自分は平民出の騎士、姫さまは王女です。結婚などできるわけがありません」
「・・・わかった。・・・だったらずっといっしょにいて!!」

「ずっといっしょに、ですか?」
「うん!おとなになってもずーっと!!これならいいでしょ!?」

「・・・・・・わかりました。約束、しましょう・・・」
「うん!!やくそくだよ!!!」


―――ずっといっしょに、か・・・。
ほとんど姫さまの勢いで約束をしてしまった。
でも、約束は守れそうにない・・・。
・・・ごめんなさい、姫さま。おれにはそんな資格はありません。


―――おれはあなたの、『敵』ですから・・・。

288名無しさん@ピンキー:2006/12/31(日) 02:52:20 ID:aLvlS7sY
続きを書いてみました
まだ修羅場分足りないけどorz

次回もう一人のヒロイン出す予定です
289名無しさん@ピンキー:2006/12/31(日) 03:03:28 ID:qLU2xfsH
GJ!!!
う、裏切りのヨカーン(・∀・)!!!
290名無しさん@ピンキー:2006/12/31(日) 03:09:01 ID:6OvHLIA3
鈍感なスパイなのかな?槙原の曲思い出したw
291名無しさん@ピンキー:2006/12/31(日) 03:19:58 ID:xTOILGNw
>>290
あれはスパイっていうよりストーカーだろw
292名無しさん@ピンキー:2006/12/31(日) 03:20:55 ID:5HKEFJS0
神社の境内に続く階段は、それなりに雪が除去され、どうにか昇降はできるレベルにはなっていたが、
それでも着飾った初詣客が利用するには泥がキツすぎた。
「ほらほら、スグル、はやく、はやく!」
そんな最悪コンディションの階段を、振袖を器用に繰りながら登り、こちらに手を振るのは
綾辻 一美__つい1週間前のクリスマスに付き合い始めた、俺の恋人だ。
もうすぐ同じ大学を卒業して、まったく違う道を歩み始めることが分かっているのに、
そんな笑顔を見せられてしまうと、この1週間、卒業後のことを思って悶えてたことが
馬鹿らしく思える。

「そんなに飛び跳ねてたら危ないって。ほら、端っこのほうは雪が深いんだから」

そう言って階段の片端を示す。雪が取り除かれているとはいっても、両サイドにかためてあるだけだ。
そんなわけで、階段以外の斜面には結構な深さの雪が積もっている。
まったく、どうして毎年この時期に限って寒波が来るのかね。ああ、また雪が舞い始めた。

「むー、スグルはノリが悪い!」
「そうはいってもなあ、、」

クリスマスの後のイベントといえば、正月だ。
そんなわけで、一美と初日の出を見た後、初詣に出てきたわけだが、
上記のようなコンディションにより、すでに後悔し始めている次第である。
まぁ、そうはいっても、こうして一美の笑顔が見られるのなら、それはそれでいいことじゃないか。


そんなこんなで、結構な段数のある階段を上りきり、境内にやってきた。
それほど大きな神社ではないとはいえ、地元では氏子の多い社だけあって、
結構な賑わいになっている。
あちこちに露店が出ていて、暖かいたこ焼きや餅にありつきたくなってしまうが、
とりもあえずも、最優先事項として本殿へ。
やはりここが一番混雑しているようだが、幸いにも、知り合いの顔らしいものは見受けられない。
なにしろ大学が休みに入ってすぐの付き合いなものだから、俺たちの関係を知るものは
殆どいないはずだ。いずれは知られると分かっていても、今はまだ秘密にしておきたい。


繋いでいた手を一旦離し、小銭入れから100円玉を取り出す。
最初は5円玉を使おうとしたのだが、となりから一美が
「スグルにはもうご縁は必要ないんだから!」との厳しいご意見。
で、他の小銭は100円玉しかなかったという次第。
あとでたこ焼きを買う時は札を出さないといけないなぁと思いつつ、賽銭箱に投げ込み、
随分と錆付いてしまっている感じの鈴を鳴らす。
深いお辞儀を二回、両手を胸の高さで合わせ、二拍手。
両手を合わせて祈り、手を下ろして最後に一礼。
所謂、二拝二拍手一拝というやつだ。結構知らない人が多いのは残念だ。
あ、前の人、拍手多いのはNGだよ。
293名無しさん@ピンキー:2006/12/31(日) 03:22:32 ID:5HKEFJS0
「スグル、スグル、何をお願いしたのかなっ!?」
礼を済ませたらしい一美が、俺の腕に絡みつきながらたずねてきた。
ああ、バカップルの会話だ・・・・
そう思いながらも、満更でもなくて照れに照れつつ、「お、おまえとおなじことだよっ!」というと
一美も一美でサンタも真っ青になりそうなほど顔を赤らめてしまった。
・・・・もしかしたら俺以上にたくましい妄想を膨らませていたのではあるまいな。。
(俺は一美と一緒にいたいと願っただけだが)

二人で引いたおみくじを結び、本殿を離れた辺りから、
さきほどまではちらほらと舞っていた程度だった雪が、本格的に降り始めた。
もう少しのんびりしていたかったが、そうもいかず、俺は食べ物を調達、一美はお守りを買うべく、
一旦別れる事にした。


「すみませーん、お守りをくださーい」
「あ、一美じゃない」
「あ、御影(みかげ)ちゃん。今年もやっぱり巫女さんの手伝いなんだねっ」
「ええ、まぁ自分の家のことだから」
「うーん、毎年大変だね。ちっちゃなころからずっとだもんね」
「流石にもう慣れてるわ。それより一美、どんなお守りがいいのかしら?」
「うん、縁結び!即効性のヤツね!」
「凄く直球ねぇ・・・・・・って、もしかして、一美・・・」
「あ、わかっちゃった?・・・・えへへぇ、実は今、スグルと一緒なんだぁ」
「・・・・・そう。」
「うん、だから、さ、ばーんと、ゴールインできそうなの、ないかな!?」
「・・・・そうね、、、、じゃあ、特別に」
「特別に??なにかあるの?」
「うん、、ちょっと、こっちにきてもらえるかな?」



「うー。さぶい。一美、まだかよぅ。。たこ焼き、食っちまうぞ」
お守りを買うのって、そんなに時間はかからないと思うんだけどなぁ。
あ、でもここは馴染みの神楽坂(かぐらさか) 御影ちゃんの家でもあるし、
もしかしたら話し込んじゃっているのかもな。
なんか俺が割って入っちゃうとボロがでそうだし、休憩所でのんびり待つかな。



「御影ちゃん、どこにいくのー?」
「ところで一美、この神社のご神体って、何が奉られているか、知ってた?」
「え?・・・・・・えへへ、ごめんね、わかんないや」
「じゃあ、教えてあげるよ。今のあなたに、ピッタリなのよ」
「え?本当?」
「ええ、一美になら、特別におまじないをかけてあげる。もう、即効性なんだから」
「!!ありがとう!恩に着るよ!!」
「どういたしまして、じゃあ、ちょっと、そこに正座して、目を閉じててもらえる?」
「うん」
294名無しさん@ピンキー:2006/12/31(日) 03:23:24 ID:5HKEFJS0


・・・
・・・・・

「一美、いいわよ、目を開けて」
「うん・・・・・って、わ!御影ちゃん!??」
「驚いた?ここのご神体、この般若の面なの」
「え?それって・・」
「こういうことよ」

___がんっ!





・・・
・・・・・


一美、帰ってこないなぁ。
話が盛り上がっちゃったりしてるのかな。
いつぞやは、御影ちゃんと話が止まらなくなって、御影ちゃんが仕事投げっぱなしになって
親父さんに散々怒られたこともあったし。
・・・・今年も、ありえない話ではない。
俺がいるとボロが出そうとは思ったけど、一美が勝手にボロを出しかねない、こちらから出向くか。
って、丁度いいところに御影ちゃんが。

「や、御影ちゃん」
「あ、スグルさん」
「実はさっきまで、一美も来てたんだけど、見かけてない?」
「うーん、さっき、お守りを買いに来てたけど?」
「そっかぁ。トイレなのかな。って、御影ちゃん、なんでそんなの持ってるの?」
御影ちゃんは、巫女装束に大きなショベルという、ありえないような組み合わせで、
雪まみれになっている。それもなぜか本殿の脇から出てきたような。
「ああ、これね、境内の雪かきの手伝い。また雪も降ってきたし、私しか人員がいないからね」
「たくましいね」
「何か失礼なニュアンスを感じるんだけど?」
「そんなことありませんよ?」


それから御影ちゃんとかるく雑談するが、一美は現れない。

「うーん、なじんでいる場所のはずなんだけど、迷ってるのかな。探しに行ってみるよ」

腰を上げると、御影ちゃんも立ち上がり、ショベルを肩に引っ掛け、振り向きざまに言った。





「そうね、春くらいになったら、ふらりと出てくるかもしれないわよ?」
295阿修羅:2006/12/31(日) 03:25:38 ID:5HKEFJS0
年内にもう一度更新するつもりだったのに、無理そうな感じなので、
悔しくて15分で書いた。今はとても後悔して(ry
ついでにとんでもなく罰当たりでごめんなさい。
最初は般若の面の由来が長々語られたり、ヨモツヒラサカを舞台に、鬼神として蘇った一美と
ジェノサイダー巫女さんの御影が壮絶な戦いを繰り広げる・・・なんてのも考えたのですが
あまりにもアレというか趣旨がちがいそうなかんじなので没。
二度と書きません。多分。


更新が停滞しまくったりで本当にごめんなさい。皆様良いお年を。
296名無しさん@ピンキー:2006/12/31(日) 04:00:25 ID:ni+cI+3a
阿修羅さんGJ!
このままSSも…と贅沢は言いません、HP運営乙です
来年も修羅場パワーで乗り切りましょう
297名無しさん@ピンキー:2006/12/31(日) 04:28:40 ID:DhLhwH6H
乙かれさまです。
298名無しさん@ピンキー:2006/12/31(日) 06:19:57 ID:asw6IVTy
なんて素敵(*´Д`)
299名無しさん@ピンキー:2006/12/31(日) 09:36:56 ID:jvypoPiu
投下しますよ
300『甘獄と青』Take18:2006/12/31(日) 09:38:02 ID:jvypoPiu
『今日の午後3時、いつもの公園で待っています』
 手紙に書いてあったのは、シンプルなその一文。差出人の名前はリサちゃんだったが、
その面影は殆んど見ることは出来ない。簡潔な文面や綺麗な文字からは、今まで見ていた
子供らしさが全く感じられない。今までの姿が嘘であると、あのときに見せた姿は嘘では
ないと、そう言われたような気がして心が痛んだ。
 それでも行かなければいけない、問題を解決する為に。
「……行かれるのですか?」
「うん、行くよ」
 悲しそうに目を伏せるナナミを尻目に、僕は玄関の扉を開いた。
 最近急に冷たくなってきた空気が、頬を切るように撫でてくる。吐く息は白く広がり、
澄んだ空へと立ち昇り、そして溶けて消えてゆく。僕の出身である第二惑星は気温が高い
らしいが、幼い頃に第三惑星に移住し、そして捨てられた僕には関係無いと思っていた。
しかしこうして肌寒いと思うのは、出身惑星が関係あるのだろうか。
「そういえば、ユンちゃんやリーちゃんが元気そうにはしゃいでたっけ」
 彼女達は生まれも育ちもこの監獄都市だが、第四惑星出身の遺伝子が騒いでいるのかも
しれない。そして、リサちゃんはどうなのだろうか。彼女も第四惑星の出身だが、やはり
この季節を楽しみにしているのだろうか。
 そんなことを考えていると、いつの間にか公園に着いていた。まぁ、歩いてもそれ程に
時間がかかる場所でもないし、普通にしていてもすぐに着く場所だ。今までも、皆で出掛けたときはそうだった。
 いや、これ以上は止めよう。
 思考を切り替える為に、時計を見た。デジタルで表示されているのは、午後の2時45分。
約束の時間までは残り15分程、短くはないけれど長くもない。それまでに覚悟を決めよう。
 いつものベンチに座り、入口を見た。
301『甘獄と青』Take18:2006/12/31(日) 09:39:50 ID:jvypoPiu
 数分。
「待ちましたか?」
 久し振りに見たリサちゃんは、まるで別人だった。手紙を見てなんとなく予想していた
ことだったが、実際に見てみると衝撃は意外と多い。着ているスーツは新品だが、違和感
を感じさせないのは着慣れていたからなのだろう。それが彼女の実年齢を視覚的に表して
いて、直視しづらかった。誤魔化すような笑みを浮かべ、軽く首を振る。
「すっかり元通りになりましたね。風が冷たくなったのは、違いますけれど」
「そうだね」
 立ち上がり、彼女の隣に並ぶ。
「この格好に、何も言わないんですね」
 苦笑を返し、彼女もそれに応えた。
「近くにホテルをとって、今はそこに住んでます。話なら、そこでしましょう」
 十数分後。
「さて、どこから話せば良いですかね。まず、あたしの本当の名前からでしょうか。本当
の名前は、フランチェスカと言います。リサというのは、姉の名前でした」
 そんな語り口から始まったのは、軍人一家に産まれた双子の姉妹の悲しい物語だった。
親に命令されるままに軍に入った二人は、双子でありながら決定的に違う部分があった。
それは才能の違い。姉は歌と踊りに優れていたけれども、戦には向いていなかった。逆に
妹は歌と踊りがあまり得意ではなく、生まれ持った才能は全て戦うことに向いていたのだ。
彼女が出た戦は全て勝ち戦へとなり、そこを軍の上層部に目を着けられてしまったのだ。
上層部は更に彼女を強くしようと実験に実験を重ね、辛い日々が続いていた。助けを乞おうにも身内は全員が彼女が武勲
をあげることを喜び、強くなることを寧ろ良しとしたのだった。彼女の味方をしてくれる
のは、部隊の仲間と姉だけだった。その仲間達と一緒に歌い踊っている時間だけが、彼女
が心から安らぐことの出来る唯一の時間だったのだ。
302『甘獄と青』Take18:2006/12/31(日) 09:41:10 ID:jvypoPiu
「でも」
 そんな優しい時間にも、残酷に終わりは訪れた。最初の被害者は、彼女の一番の味方で
あった姉だった。その人は誰よりも彼女をかばい、何度も上層部に訴えを出していたので
邪魔だったのだろう。弱い者を強くするという名目で投薬実験の実験台として選ばれて、
結果怪物のようになってしまった。そして実験結果のテストに選ばれたのは、皮肉なこと
に軍で最強の誉れも高い彼女だったのだ。
「あたしは、姉を殺してしまいました」
 そこでも話は終わらない。
 この事件をきっかけに、彼女の仲間は集団でデモを起こすようになった。それを危険だ
と感じた上層部は、反乱分子を死組として激戦区の最前線に送り込んだのだ。停戦が可決
したことを知らせもせずに。だが停戦協定が結ばれても今まで争い、殺し合ってきた者達
には納得のいかないものがある。彼女の仲間は次々に殺され、今までの人生で壊れかけて
いた彼女の精神は完全に崩壊し、駐屯していた町の住人3000人を虐殺してしまった。話を
聞けば、彼女に非が殆んど無いことは分かる。そうしなければ、生きてこれなかったのだ。
だが停戦協定を結んでいるときに殺戮を行ったことを理由に、彼女はSSランク罪人という
烙印を押されてしまった。その絶望的な状況から生まれたのは、姉を生き返らせて家族仲良く暮らすという突拍子もない
夢のような計画だった。彼女は失敗を繰り返し、僕を頼り、そして今に至っている。
 リサちゃんは全てを語り終えると、自嘲気味に口の端を歪めて首輪を弄んだ。不規則に
揺れる首輪同士がぶつかり、冷たく硬質な音を部屋の中に響かせる。
「どう、思いましたか?」
 どう、と問われても言葉が思い浮かばない。酷く現実離れしているような感じがして、
実感出来ない、理解がどうにもしにくいというのが僕の現状だ。
303『甘獄と青』Take18:2006/12/31(日) 09:42:55 ID:jvypoPiu
「どうして、僕にこの話をしたんだ?」
 散々考えて出てきた言葉は、こんなものだった。
「別れの言葉を言う前に、せめて全てを言いたいと思ったんです」
 別れ?
「それが、せめてもの礼儀だと思いました」
 寂しそうに微笑み、リサちゃんが抱きついてくる。
「一方的で、悪いとは思っています」
「……どうしても、行くのか?」
 言葉は返ってこない。
 その代わりに僕を抱く力が強くなった、決意は固いらしい。
「なら、最後に僕に何か出来ないか?」
 数秒。
 沈黙の後に、頬を赤く染めてリサちゃんが見上げてきた。
「あたしの初めてを、貰って下さい。子供が欲しいとか、そこまでは言いません。ただ、
ここで、皆で楽しく過ごした記憶というものが欲しいんです」
 言い終え、俯くリサちゃんの顔を上げさせて唇を重ねた。
「あは、これファーストキスですよ」
 照れたように笑うその姿は儚いけれど、とても可愛い。綺麗、という言葉が思い浮かば
ないのは、以前の記憶を僕が引きずっているからなのだろうか。
「それと、贅沢を言ってすみません。今だけは姉の名前でなく、フランと呼んで下さい」
「フラン」
 言うと、快い返事と共に唇を重ねてきた。初めてだったのは本当らしく、ぎこちなく唇
を重ねるだけ、というものだ。前歯がぶつかり硬い音をたて、首輪が鳴る音を思い出す。
僕もフランも普段耳にしている、SSランクの罪人の証。それがぶつかりあう音に似ていた。
 一旦唇を離し、シャツの釦に手をかける。一つ一つ外してゆくと、陶器のような滑らか
で白い肌が視界に入ってきた。軍で一番の強さだったという彼女は、その肌に傷一つ無い。
激戦地の中でも圧倒的な力で戦いぬいたという証明だ。
304『甘獄と青』Take18:2006/12/31(日) 09:44:15 ID:jvypoPiu
 僕はそれに見とれていたが、フランは恥ずかしかったらしい。胸の部分を抱くようにし
俯いて、耳まで赤くなっている。僕は少し考えて、笑みを浮かべた。
「乳が小さいね」
 睨まれた。
 けれど構わない、暗くなったりするよりはずっと良い。ふざけても怒られる程度で済む
のなら、幾らでもふざけてやる。僕はそんなタイプではないけれど、今だけは馬鹿になり、
少しでも和まそうと思った。気楽に笑い、最後は笑顔で別れたい。
「気にしてるんですから、言わないで下さい」
「大丈夫だ、揉めば大きく」
「なりません!」
 軍で最強の拳を叩き込まれ、僕は倒れ込んだ。
「す、すみません。つい」
 つい、で凶悪な打撃を加えないでほしい。
 だが四ん這いで覆い被さってきたことで、再び胸のガードが緩くなった。僕は掌をそこ
に滑り込ませると襟を開き、肩口の少し下まで引きずり下ろす。綺麗な鎖骨と、今まで誰
も触れたことが無いだろう綺麗な桃色の乳首が見えた。釦を更に外してゆけば、そこから
続く女性の線が見えてくる。ユンちゃんやリーちゃんとは違うくびれたウエストラインは
成人した女性のもの、今までの年月を積み重ねてきたものだ。形の良い臍に吸い付き、舌
をこじるようにしてその穴へと潜り込ませる。二三度動かせば、頭上から黄色い声が降り
かかってきた。感度はかなり良いらしいが、そっちの方が良いだろう。最終的には股間に
僕のものを入れるのだ、体格差による苦痛は少しでも減らした方が良い。
 舌を上へと滑らせ、固さを持ってきた胸の先端を口に含む。舌で擦り、転がすと、途端
に肥大して完全に固くなった。指先でいじるもう片方も同じ状態になっており、体が反応
していると知らせてくれる。初めてなので刺激は抑え目に、丁寧に愛撫を続けた。
305『甘獄と青』Take18:2006/12/31(日) 09:45:52 ID:jvypoPiu
「上手い、んで、すね」
 そりゃ、ナナミと特訓しまくったからなぁ。
 言葉が漏れそうになったが必死で堪え、笑みを浮かべて、
「生娘が分かるものか」
 こめかみに数発拳が飛んだ。
 痛みを堪えながら空いた手を股間に動かし指先で擦り、僅かな感触を頼りに小さな突起
を探り当てた。いきなりは良くないから軽く突くように押せば、フランは今までとは少し
違う声を出して身をよじらせた。ここが弱点らしい。連続で撫でて刺激をすれば、その分
の反応が返ってくる。元々濡れやすい体質なのか、暫く続けていると下着越しでも指先に
絡む程の量の愛液が溢れ出してきた。これなら、次の段階に進めることが出来るだろう。
「指、入れるよ」
 下着を脱がし、周囲を責める。ほぐれてきたところで軽く指先を当てて、割れ目に侵入
させていった。まずは一本、問題ない。多量の蜜が潤滑油となり、簡単に滑り込んでゆく。
指の数を二本にすると、少し辛いのかフランの目尻に涙が滲んだ。しかし入ることは入る、
大丈夫だろうかと思いながら指を動かした。
「痛ッ」
「ちょっと我慢して」
 僕のものの太さは指三本よりも少し上、これで駄目だったならば、入れることは物理的
に不可能だ。無理に入れて使いものにならなくなったら、心にも体にも一生ものの傷跡が
残ってしまう。それだけはいかんと、ゆっくりと指でほぐした。
306『甘獄と青』Take18:2006/12/31(日) 09:47:21 ID:jvypoPiu
「どう?」
「大分、慣れてきました」
 頬に僅かに残る涙の跡を下で拭いながら、体勢を逆転させた。僕がフランに覆い被さる
ようになり、割れ目に僕の先端を当てがう。緊張しているのか小さな体は強張っていて、
細い肩の震えは止まることなく続いている。
「力を抜いて」
 我ながらベタな台詞だと思いつつ、ゆっくりと腰を押し進める。壊れることは無い、と
思いたい。フランよりも小さい双子でも飲み込むことが出来たのだ、だから大丈夫だ、と
自分に言い聞かせるようにして侵入を進めてゆく。
 果たして、僕のものは収まった。
 体格の差もあり半分程で奥に辿り着いてしまったが、それでも十分だ。
「入ったよ」
 言葉を返すのも辛い状態なのか、フランは無言。しかし涙と笑みが返ってくる。
 僕は腰を少しずつ動かし、本番を開始する。
 程なくして、僕はフランの奥に射精した。フランにとっては苦しかっただろうし、僕も
腰を動かしていた間は気遣ってばかりだった。まるで僕も初めてのときのようだったと、
思わず苦笑が込み上げてくる。フランから引き抜くと、溜っていた訳でもないのに大量の
白濁液が割れ目から溢れ出してきた。
 衣服を整え、立ち上がる。
 これで、最後か。
「さようなら、ですね」
「……また会おう」
 無理矢理に笑みを浮かべて、僕は部屋を出た。
307ロボ ◆JypZpjo0ig :2006/12/31(日) 09:49:09 ID:jvypoPiu
今回はこれで終わりです

今年読んで下さった方、ありがとうございます
来年も宜しくお願いします
皆様、よいお年を
308名無しさん@ピンキー:2006/12/31(日) 10:57:09 ID:lbjTFNJs
大晦日の連続投下キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!!
全ての神々と阿修羅氏に感謝(-人-)

皆様良いお年を
309名無しさん@ピンキー:2006/12/31(日) 15:56:31 ID:SXWagbPK
嫉妬スレの住人なら

鮮血 永遠 我が子

という単語だけでなんとなく意思疎通ができるはずだ
310僕と世界にお別れを:2006/12/31(日) 16:55:45 ID:1Q2C/TXt

「あぁ、またやっちゃった・・・うぅ」

枕元の時計に目をやり、嘆息する。ただいまの時刻はちょうど九時。くーくんはもうとっくに学校に行ってしまっただろう。
お弁当を作り終えて、調子に乗って朝ご飯の準備に取りかかったあたりで記憶が途切れている。我ながら朝に弱すぎる。

「低血圧っていうんだよね、こういうの。血圧が上がれば治るのかな?」

塩分を沢山取ると血圧が上がるって、お昼にみ○さんが言ってた気がする。

「でも、わたししょっぱいもの苦手なんだよね・・・甘いものならいくらでも食べられるんだけどなぁ・・・ふぁ」

いけないいけない。益体もないことを考え始めた頭を叱咤してずるずると布団からはい出す。取り敢えず冷たい牛乳でも飲んで目を覚まそう、うん。






「ん?」

どうにかキッチンへと辿り着き冷たい牛乳をぐびぐびやっていると、テーブルの上に見慣れない物を発見した。綺麗に二つに折られたメモ用紙。

「これは・・・お手紙、かな?」

『笹揺さんへ 作りかけだった朝食仕上げておきました、暖めてから食べて下さい。それと、お弁当ありが
とうございます。ただ、朝調理をする場合は出来れば僕を起こして下さい、心配なので。今日は部に寄っていくので少しだけ遅くなるかもしれません。それでは、行ってきます』

「・・・えへへ」

思わず顔がほころぶ。

実務的で、丁寧な文章が綺麗な楷書体で書かれている。朝、くーくんに会えなくてどうにも損をしたような気になってしまったけれど、こんな事で幸せになってしまう。なんだか、共働きの夫婦みたいだったから。
そう、あのヒトも夫フになッたのニコんなフうにしュうしテイねいニ■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■うん、今日も良い天気だね。ご飯食べたらお洗濯しよ!

「・・・あれ?私起きたの九時くらいだったよね・・・うーん・・・ま、いっか」



先日くーくんと一緒に買ってきたキッチン用の小さな時計は、十時過ぎを指していた。




311僕と世界にお別れを:2006/12/31(日) 16:56:16 ID:1Q2C/TXt
「・・・おじゃましまーす」

誰もいないのは分かっているけど、抜き足差し足でくーくんの部屋へ。別に入っちゃ駄目とも言われていないし、今までも何度も入ってるけど、やっぱり何となく緊張する。
あんまり物は多くない。まだ引っ越しが終わっていないからかと思ったけど、荷物はこれで全部だという。
すかすかの本棚には、まるで本のようにいくつかの盾や賞状が突っ込まれている。友達に誘われて、中学の頃からずっと剣道を続けているらしい。
あとは文庫本が幾つかと、教科書だけ。その、年頃の男の子の大半が秘蔵している類の本はまだ見つけたことがない。もっとも、くーくんが本気で何かを私から隠したら、見つけることは出来ないだろうけど。
なにせ私はどんくさい。それに引き替え、くーくんは私の子とは思えないくらい利口でしっかりした子だ。遺伝って不思議。

さて、私のこれからの行動は、いつも決まっている。

「うりゃっ♪」

ぼふっ。

「ん〜・・・くーくん・・・」

くーくんのベッドに飛び込み、顔を埋める。我ながら何やってるんだろう、とも思うけど、くーくんのいない寂しさを埋めるつもりでやってたら癖になってしまった。でも、やっぱり――――

「寂しい、なぁ・・・」

なにせ布団は温かくないし、頭も撫でてくれない。くーくんの手が私の髪を梳くように撫でてくれる感覚を思い浮かべながら、自分の頭を撫でてみる。・・・やっぱり何だか違う。

「まだかなぁ、くーくん・・・」







312僕と世界にお別れを:2006/12/31(日) 16:57:08 ID:1Q2C/TXt
人が“頭が良い”と表現するとき、その内容には二つの種類があると思う。一つは、様々な知識を持ち、またそれを有効に用いる術に長けていること。そして、もう一つは――――

現在41手目。殆ど途切れることなく得物を打ち合わせる音が響く。通常、この競技ではこのような状況にはならない。ギリギリまで機を窺い、刹那の内に決まる、そういう競技だ。
ここまで来ると反射神経よりも、先を読み体系立てて考える能力、例えば将棋で何十手も先を読む棋士のような能力が要求される。

――――やっぱり本質的には変わっていないんだな、と思う。彼女は本来、思慮深く頭の回転が速い人間だ。ただ、『あの事』があってから、僕の前だけではなくあらゆる人の前で
“人畜無害で”“人好きがして”“ちょっとバカで”、あらゆる意味で人に敵意を持たれにくい、そんな少女の仮面を被るようになった。
もっとも、彼女がそうなってしまった原因の大半である僕がそのことを憂うのはおこがましいことだし、その面しか表に出ないのならそれが本当の顔であるとも言える。

でも、やっぱり寂しいとは思う。僕はミヤのことは好きだけど、彼女のことも好きだったから。だから、この時間は僕にとってとても大切なものだ。ずっと昔に会えなくなってしまった初恋の人に会えるような気がするから。

「シッ!」

現在59手目。このままだとあと14手で詰み、僕の勝ち。けど、その通りにあっさり片が付くことは殆どない。ほら、彼女が想定ラインから外れた。

ここに来て真っ正面からの飛び込み面。明らかに定石から外れている。一歩下がればかわせるけれど、それで済むとは思えない。こうやって、いつも最終的には勘頼りの読み合いになってしまう。

半歩下がり、ギリギリで回避、完全に死に体になったところで一手で決める。そう思った所で―――完全に空振りしたと思った剣先がぴたりと止まった。僕の丁度首の位置。ミヤがにやりと笑うのが見える。

「―――ッ!」

片手突き。足首を返し、さらに間合いを切る。一瞬が何秒にも引き延ばされる感覚。突き出された切っ先がこちらに迫る。あと30センチ、20、10―――。
ミヤの腕はあまり長いとはいえない。彼女の小柄な体躯はこういった場面でいつもネックになる、これ以上は無い―――そう思ったところで、丸めた新聞紙が僕の首にねじ込まれた。

一体何が起こったんだ、驚愕と酸欠でパニック状態になる僕の眼前にミヤの顔が広がっていた。こっちに飛び込んでくる。
成る程、後先考えずにこちらに飛び込んで間合いを埋めたのか・・・じゃなくって、大体こんな打ち方はあり得ない、残心が無い打突はどんなに綺麗に決まろうが有効打にはならない訳で――――

『よろしくー♪』

ミヤの形の良い唇がそんな風に動いた気がした。そして僕らは――――さっきまでのそこそこに洗練された動きが嘘のように、無様にもつれ合ってすっ転んだ。




313僕と世界にお別れを:2006/12/31(日) 16:58:16 ID:1Q2C/TXt
久しぶりに部活に顔を出してくれたくーと、久しぶりの新聞紙チャンバラをする。私にとってとても大切な一時。
まぐわうような、というと変だろうか?でも性的かそうじゃないか、というだけで多分大差ない。
この瞬間、互いの世界にいるのは二人だけになる。いつまでも続けていたい、とは思うけれど。くーは強い。半端じゃなく強い。
ちょっとでも間違えるとそこで終わってしまう。だから、最後はいつも私が奇をてらった策で一発勝負を仕掛けることになる。
勝率は五分。でもくー相手にこの勝率はかなり自慢しても良いと思っている。


今回は大成功。私を受け止めてくれたくーが私の下で何か言いたげな目でこちらを見ている。あとは『ごめんごめん♪』といって体を起こすだけ・・・なのだけれど、何故か私はそうする気にはなれなかった。

今日、私以外の人間を大事にするくーを初めて見た。くーは一見誰にでも優しいように見えるけど、それは拒まないだけ。好意ではなく、惰性。だから、勘違いしてしまう子が多い。私もそれで苦労しているし。
でも、くーが母親のことを話すとき、紛れもなく好意らしきものがあった。私だけにしか向けられたことが無かったはずの。だから、だろうか。

私は、くーの母親に嫉妬している―――――

自分の事ながらここまで変態だとは思わなかった、まさか相手の母親に嫉妬するとは。でも、あながちこの感情が間違いではないような気がするのは何故だろう?

「・・・ミヤ?」

くーが不思議そうな目でこちらを見ている。声変わりは済んでいるはずだけれど、どこか少年のような、優しく響く声。こうして近くで見ると、やっぱり整った顔立ちをしている。
ただ、美男子というよりは女の子に「可愛い」、何て言われてしまうタイプだ。女装とかしたら似合いそう。
小さい頃は本当に女の子みたいだったし。あの頃から、私が見てきた。私だけが。ずっと。

「ミヤ、どうかした?大丈夫?」

私をミヤと呼ぶのはくーだけだったし(他にもそう呼ぼうとした人はいるけど、変えてもらった)、
くーをそう呼ぶのも私だけ(これは絶対に譲れない)。私はくーだけのものだ。それなら。

くーを、私だけのものにしてもいいのではないだろうか?

くーの頬に手を触れる。少しくすぐったそうな、不思議そうな顔をするくー。拒まれて、ない。
ざあっ、と頭に血が上る感覚。いいのだろうか?このまま、全部、くーを、私の、私に――――


私は、くーの唇に噛みつくように口づけた。





314ID:lUn9y3db:2006/12/31(日) 16:59:00 ID:1Q2C/TXt
どうにか今年中にできました、第三話です。毎日更新している方とか、凄いですよね。本当に同じ人間なんでしょうか?疑わしいです。あ、これ褒め言葉です。
片や腹黒。ならもう片方がおっとりのほほんお母さん?そんな落ちはありません、ここを何処だと思っているんですか?そんな話です。
次回は半月以内に仕上げたいと思います。それでは皆さん、良いお年を。
315名無しさん@ピンキー:2006/12/31(日) 17:13:57 ID:Lis0YKkv
( ゚д゚)こ、この投下ペース…早すぎて読み切れないぜ…
316名無しさん@ピンキー:2006/12/31(日) 18:09:06 ID:qLU2xfsH
ま、まさに嫉走!!!
317名無しさん@ピンキー:2006/12/31(日) 18:27:40 ID:9XPhkK27
>>316
誰がうまいこ(ry

新年ギリギリまで投稿いただけるなんて・・・作者の皆様、ジュラ紀のころから好きでしたGJ!!
318名無しさん@ピンキー:2006/12/31(日) 18:53:00 ID:eFEwTTrQ
今日で2006年終わりか…。

「遼君ほら、食べて。あ〜ん。どう美味しい?」

ふふ、君達どうだ?羨ましいか?
ついに俺にも大学3年にして彼女ができたのだよ。
彼氏馬鹿になるかもしれんが、この彼女が本当に可愛くて家庭的で俺にはもったいないぐらいなんだ。
ちなみに、今年のクリスマスが歴代最高のものだった事は言うまでもあるまい。
今年の年末こんな感じに幸せに……

なることはなかった。

「ねえっ遼君聞いてるの!?お客さんなんかにデレデレして!」

決して浮気なんかじゃないぞ?
バイト(彼女が俺のバイト場を知ってすぐ、彼女も俺と同じバイトに入ったんだ。羨ましいだろ。)での客で高校時代の知り合いとばったり会ってな。少し会話が弾んだだけなんだが…。

「遼君。私ね、遼君に心もその…体も全部捧げたの。だから遼君も全部私だけに捧げて?」

何て可愛らしいんだ。妬きもち焼いちゃって!たまらんわい!


後にあんな事件を起きてしまうとは、俺にはその時考えもつかなかったんだけどな…。
319名無しさん@ピンキー:2006/12/31(日) 19:03:20 ID:haqsstZi
>315
ね? 他のヤツなんか見なくて良いって言ったでしょ?




私だけを見てね♥
320名無しさん@ピンキー:2006/12/31(日) 19:08:49 ID:tUBMQiZH
なら俺は一次性徴期から好きでしたGJッ
321名無しさん@ピンキー:2006/12/31(日) 20:09:07 ID:D83TBxCJ
しかし何故自分は嫉妬という本来忌み嫌う筈の感情にこうも惹かれるのかねぇ、と考える年の瀬。
今年光臨された全てのSS書きに最大限のGJを。
322名無しさん@ピンキー:2006/12/31(日) 20:33:15 ID:7vkFxWcy
2006年、ごめんね。もう大晦日なんだ。
これからは2007年と一緒に歩んでいくよ。
君の事は忘れないから・・・さようなら。
323名無しさん@ピンキー:2006/12/31(日) 22:09:35 ID:Aa69FWq/
>>322の2006年カレンダーには、いつのまにか13月が追加されてるんだぜ
324名無しさん@ピンキー:2006/12/31(日) 22:18:30 ID:FvQcDDcb
貴方が年を越せないようにするまでだよ。
325名無しさん@ピンキー:2006/12/31(日) 22:18:52 ID:sHBj7wlQ
>>322さんが今日○んじゃえば2006年とずっと一緒だよ?
326名無しさん@ピンキー:2006/12/31(日) 23:42:13 ID:QDBnaJWI
ひとまず今年はさようなら。ではまた来年。
327名無しさん@ピンキー:2006/12/31(日) 23:59:08 ID:MBxNQda8
ううう、新年最初の投稿を狙っていたが、間に合いそうにない。
328名無しさん@ピンキー:2006/12/31(日) 23:59:50 ID:606ZrPi8
後一分以内に阻止されなければ
樹里さんと麻耶たんと白と山本君のお姉さんと森さんとかおるは俺のものッ
329名無しさん@ピンキー:2007/01/01(月) 00:01:43 ID:nfo3Tca3
今年一番を狙う。あけましておめでとう。
330名無しさん@ピンキー:2007/01/01(月) 00:16:11 ID:aBUn0EHh
あけましておめでとうございます。
331名無しさん@ピンキー:2007/01/01(月) 00:16:45 ID:fXOdKEB8
今年も良い修羅場を……
332名無しさん@ピンキー:2007/01/01(月) 00:20:12 ID:zzwnnyx8
あけましておめでとう
333名無しさん@ピンキー:2007/01/01(月) 00:21:54 ID:zzwnnyx8
sage忘れたorz
334名無しさん@ピンキー:2007/01/01(月) 00:39:16 ID:tPAsLcdU
あけましておめでとう。
今年も良き修羅場に出会えますに(´人`)
335名無しさん@ピンキー:2007/01/01(月) 00:41:23 ID:y/PELifg
職人様今年も修羅場よろしく
336名無しさん@ピンキー:2007/01/01(月) 00:52:58 ID:0hF3fPXz
あけましておめでとう。今年も嫉妬する女の子を、そっと影から愛でていきましょう。
337名無しさん@ピンキー:2007/01/01(月) 00:57:51 ID:Aca4JbXl
皆様あけましておめでとうございます
今年も修羅場を愛していきましょう
338トライデント ◆mxSuEoo52c :2007/01/01(月) 00:58:30 ID:S+tT/RdG
あけおめ
今年初の修羅場SSを投稿します

339水澄の蒼い空 ◆mxSuEoo52c :2007/01/01(月) 01:01:59 ID:S+tT/RdG
 第13話『対面』

 あれから二週間の月日が流れていた。
 俺は……。
 知らない内に鷺森家の家政婦さんになっていた!!

「月ちゃん。月ちゃん。今日の夕食はなにするの?」
「今日は音羽が大好きなハンバークでも作ろうかな」
「やった。楽しみに待っているからね」
 と、音羽が穏やかな表情を浮かべて微笑していた。

 あれから。
 俺は音羽の知り合いの医者に足を診てもらい、ただの打撲程度の怪我だと診断された。
 とはいえ、足が不自由な事は確かだし立て替えてもらった治療費の恩を返すために一人暮らしの音羽の強い勧めもあり、

 ここで二週間を暮らすはめになった。最近の女の子の一人暮らしは物騒で男手がいることは充分に心強いことであろう。
 一人暮らしの孤独を埋めるのに俺程度でも何かと役に立つ。
 さすがに三日もコンビニ弁当が続くと嫌気がさしてきたので、俺は再び台所に立つ決心をし、
 水澄家で鍛え上げた料理の腕を披露すると音羽はとても喜んだ。

 だが、『あの姉妹はいつも月ちゃんの愛情たっぷりの料理食べているんですね。許せませんね』と
 たまにぼつりと呟く言葉は少し聞かなかったことにしておこう。
 そんな風に気が付いたら音羽との共同生活はもう二週間が過ぎていた。時が経つのは早いものである。

「月ちゃん。一緒に買物に行こうよ。駅前のスーパーで安売りやっているだって」
「よし。わかった。さっさと行こうぜ」
 俺と音羽は激戦区であるスーパーに夕食の買物を求め旅立つのであった。

 駅前のスーパーに辿り着くと俺と音羽は手を握り締めて激戦のためにお互いに頑張ろうと目で合図する。
 首で頷いてから前方に見えるオバさんたちが我先に商品を取り合っている現場へ直行する。
 今日の目的は『ミンチ』のつもりだったが、高級の国産牛の肉が手頃な値段で手に入るなら、
 誰だってそっちの肉に向かってしまうだろう。俺たちもついそっちの方に目が向いてしまった。

 よって、ハンバークから今日の夕食はすき焼きへと変更となる。

 売場に辿り着くとオバさんたちの雄叫びと断末魔が響いていた。
 この図をわかりやすく例えるなら、地獄絵図に残りそうなグロテスクな表現と描写が含まれている。

 隣にいた音羽が怯えた瞳をして、震えた手で俺の手を強く握り締めている。
 さすがにこの光景は言葉で言い尽せない程に恐いと思われる。

 混雑しているおかげで肉の売場は全く見えはしなかった。
 俺達は混雑に紛れて後ろから前の方々が空くのを待っていた。
 この状況で突っ込んでゆくのは自殺志願者か、命知らずのバカのどっちかだろ。

 スーパーの社員さんと救急隊員がフロアの片隅でいつでも出られる準備をしているなら。
 ここで戦いに参入すると俺こそが肉のミンチとしてスーパーの商品として売られることを意味をしている。

 あっ。

 オバさんの一人が鋸を持ち出して、取り合っていたオバさんの頚動脈を突き刺した。
 飛び血がこっちにかからないように祈りながら、俺と音羽は安売りセールの惨劇をただ見届けるしかなかった。
340名無しさん@ピンキー:2007/01/01(月) 01:03:33 ID:MaKGVgaD
        All this time these twelve thousand years I know 愛 し て る
☆ ゚。*   Eight thousand years from the time that I've met you my love grows strong than ever before
    _ _∩.  Words can't say of this time I've been waiting to share my love with you
  ( ゚∀゚)彡 I'd give you my life, I would give you the world to see you smiling every day
  (  ⊂彡  Onehundred million and two thousand years from now 愛してる
   |   |   I want you to know since you came in my life  
   し ⌒J.  everynight  you  give  light  to  the  darkest  skies  
     . ゚。,   。 .  .。   o。。.゚*。゚ 。.゚ 。 ☆+。
    ゚ . ゚。, ☆ * 。゚. o.゚   . , 
341水澄の蒼い空 ◆mxSuEoo52c :2007/01/01(月) 01:04:12 ID:S+tT/RdG
 数十分後。
 血があちこちと散らばった床をスーパーの店員さんが平穏な表情を浮かべて掃除をしている。
 先程鋸を持ち出したおばさんは言わずとも警察に逮捕されて、殺されたオバさんは救急隊員の人が死体を持ち運んでいた。
 俺と音羽は異常な光景に互いの手を握りしめ合ったまま離そうとはしなかった。
 あまりにも恐ろしい惨劇を目撃したおかげで俺の足は震えて、音羽の顔色は青白くなってきた。「大丈夫? 君たち」
「いえ、大丈夫です」
 スーパーの店員さんが俺たちのことを心配して声を尋ねてきた。
 さすがにこんな衝撃的な光景を見せ付けられるといい意味でトラウマに残りそうだ。
「やっぱり、学生さんや初めての方にはちょっと刺激的だったかな? 
 まあ、激安セールをする時にはいつも何人かぐらいは死者が出るんだよ。
 今日はちょっと少ないけど、いつもなら怪我人も半端にならない程多いんだぜ。
 少なくても、前線で戦った人は指の一本や二本ぐらいは覚悟した方がいいよ。
 常連は卑劣な凶器を使い、商品を奪ってゆくんだから。それでも、無事レジまで肉を運んだ人間はたった一人しかないんだけど」
「そ、そうですか……」
 激安セールには二度と行かない。
 ってか、こんな店に二度買物するか。
342水澄の蒼い空 ◆mxSuEoo52c :2007/01/01(月) 01:06:53 ID:S+tT/RdG
 惨劇を目撃した後、俺と音羽はチキン野郎になったのか。
すき焼きからハンバークへと夕食の献立は異議もなく変更された。
あの戦場に立ち向かうなら聖杯戦争にでも参加した方がまだマシである。
 肉のミンチやハンバークに必要な材料を買い揃えてから、冷凍食品が置いてあるフロアに向かうために曲がり角を曲がってしまうと
俺は新たに血が雨のように降る惨劇を予感した。
「月君っ!!」
「兄さんっ!!」
「げっ。虹葉姉と紗桜っ!!」
 買物かごにはインスタントと冷凍食品が中心にたくさん詰まれている重容量の荷物を虹葉姉と紗桜が二人で仲良く持ち合っている。
そして、俺は音羽と手を握りながらイチャイチャと恋人のバカカップルに間違われてもおかしくない状況。
 姉妹の表情はどんどんと険悪になってゆく。
 エロ本騒動から約二週間ぶりの再会であった。

「私たちがどんな想いをして心配していたのに。
よりによって、泥棒猫と仲良く恋人のように買物している姿を見るとお姉ちゃんの我慢の限界点突破だよ」
「兄さん。遺言状を書く準備は済みましたか? 
葬式なしでお墓に直接に放りこみます。これきっと恋する女の子達の総意です。今、わたしが決めちゃいました」
 戦闘能力は俺が知っている数値を遥かに超えている。
 この逆鱗に触れたような怒り方はまだあのエロ本の事で怒っているというのか? 
 ならば、俺が死を恐れずにやれるべきことは。
「月ちゃん。行ってください!! ここは私がなんとかして時間を稼ぐよ」
「それは助かる」
「待ち合わせは私の家で落ち合いましょう」
「わかった」
 ここは音羽の言う通りに逃げるしかあるまい。
 敵前逃亡は恥じる行為だが、あの姉妹を相手にして戦う勇気はない。
 先程の肉を巡る惨劇以上の被害を軽く超えることぐらい想像できる。
 だから、逃げる。
「あっ……月君。ま、待ちなさいよ!!」
「兄さんっ!!」
 姉妹たちが悲鳴に似た罵声を浴びるが、俺は後ろを振り返ることはしない。
 だって、俺は水澄家を出たんだもん。
 もう、あの姉妹と俺の関わりは……。
 赤の他人だ。

「月ちゃんとのラブラブ同棲生活の邪魔は絶対にさせませんから」
「この泥棒猫。月君をよくも洗脳したわねっ!!」
「ふっ。愛の力は家族の絆に勝ちます」
 三人の白熱した視線だけで行なわれる戦いは先程の安売り激戦よりも血生臭い戦いが見れるかもしれないが、
 命が欲しいので関わる気はなかった。
343トライデント ◆mxSuEoo52c :2007/01/01(月) 01:08:54 ID:S+tT/RdG
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。

今年も頑張って修羅場しますw
344名無しさん@ピンキー:2007/01/01(月) 01:33:37 ID:zzwnnyx8
一番乗りで乙!!

いやはや、いい修羅場ですねw
今日はなんだかぐっすり眠れそうです
345 ◆zIIME6i97I :2007/01/01(月) 01:37:20 ID:5J1+ujZV
ツイスター、投下します。
修羅場でなくてごめんなさい。まあ、嫉妬を含んでいるのでこれもありなかと。
346ツイスター外伝:2007/01/01(月) 01:38:34 ID:5J1+ujZV
チャイムを聞くと、伊勢はそそくさと玄関へと向かった。
初詣に誘ってくれた太郎が、迎えにきたのだ。
伊勢は、相手を確かめもせず、ドアを開けた。太郎に、一刻も早く自分の姿を見せたかった。

「あけましておめでとうございます。先輩」

「ああ、あけましておめで、と、う」

伊勢の思惑通り、太郎は伊勢の振袖姿に驚いたようだ。
ピンク色をベースに、白い花模様があしらってある、華やかな着物だった。

「あの、どうですか、これ?」

伊勢はそういって、その場でくるりと回った。

「ああ、いいよ、すごく似合ってる。何かいつもと雰囲気が違って新鮮だ」

「うふ、ありがとうございます」

伊勢は、にっこりと笑った。履物を履き、太郎の腕を取った。

「じゃ、いきましょ、先輩」

そうして、玄関を出たとき。

「伊勢さん、おめでと、今年もよろしくね」

聞きなれた、だが聞きたくはなかった声が聞こえた。

「は、ははは、そうよね、絶対ついてくるわよね……はい、おめでと」

伊勢は、がっくり肩を落としながら次子にいった。太郎が出かけるというのに、この娘がついてこないわけがなかったのだ。
しかも、次子も振袖を着ていた。真っ赤な生地に、白い花が散っていた。

「ごめんね、伊勢さん。この子がどうしてもついてきたいって。わたしはその、次子のお目付け役だから。ああ、それからおめでとう」

次子の横には、一子がいた。こちらも振袖を着ている。次子とは逆に、白い生地に、赤い花をあしらったものだった。
どうやら、振袖のインパクトは、あまりなかったようだ。

「ううん、わたしは大丈夫だから。おめでとう、簸川さん、それから山鹿さん」

伊勢は、内心の忸怩たる思いを隠しながら、なんとかそれだけいった。
次子と一子だけでなく、その後ろには山鹿までもがいた。水色の和服を着ていた。ちなみに太郎は、普段のコート姿だった。

「ああ、おめでとう。まあ、たくさんでいった方が面白いぞ、多分」

したり顔でいう山鹿に、伊勢は心の中で悪態をついた。

「じゃ、みんなそろったところで行こうか」

太郎がいった。

「でも、どうやっていくんですか?」

ここから初詣をしにいく「妹姫神宮」までは、歩きでいくにはつらい距離があった。
その答えは、家の門を出たところにあった。大きなリムジンが止まっていたのだ。山鹿の家のものに違いなかった。
347ツイスター外伝:2007/01/01(月) 01:40:03 ID:5J1+ujZV
これまで経験したことのないほど快適なドライブを終えて、妹姫神宮に到着した。
車から降りると、一行はぞろぞろと神社へ向かって歩き始めた。
その集団は、なかなかに目立った。振袖すがたのかわいい娘が3人、しかもそのうち二人はそっくりな双子。
そしてその双子の片割れとめがねの娘は、それぞれ一人の男の両側で腕を組んでいる。
二人の美少女をはべらせる太郎に、嫉妬まじりの視線が突き刺さった。太郎は苦笑いを浮かべるしかない。

「すごい人だねえ、お兄ちゃん」

次子が感心したようにいった。

「でも、初詣って何?こんなにいっぱい人を集めて何するの?」

「あれ?いってなかったか?初詣ってのはそうだな。年の初めに神様に今年一年のお願いをするのがメインか。みんな普段は神社になんかこないけど、このときだけはそれをしに集まるんだよ」

「へえ。ねえねえ、お兄ちゃんは、何をお願いするの」

「え?はは、まあそれは心の中にとっておいてだな」

「わたしはね、わたしはね、お兄ちゃんとずっと一緒にいられますようにってお願いするよっ」

次子は、これ以上ないほど朗らかな笑顔でそういった。
太郎はそれを聞いて照れ笑いを浮かべ、伊勢はぎりぎりと歯軋りをした。

「でも、次子ちゃんもいつまでもお兄ちゃんにべったりなのはどうかと思うな、わたし」

気を取り直した伊勢が、太郎を挟んで反対側から次子にいった。

「ほら、先輩もいつかは結婚したりして、あの家にお嫁さんが来たら次子ちゃんもい辛くなるんじゃないのかなあ。兄妹では結婚できないってことぐらいは、いくら次子ちゃんでも知ってるよねえ」

「うん、それはこの前お兄ちゃんに聞いたから。でも大丈夫、お兄ちゃんが結婚してもわたしずっと一緒にいるから」

伊勢は、それを聞いてさらに歯軋りした。その顔を見たすれ違いの参拝客が、思わず後ずさりしてしまうほど怖い顔をして。
「そりゃ何かい、われ。わしらが結婚した後も邪魔しくさるつもりっちゅうことかい。そりゃ宣戦布告のつもりなんか、われ」とはき捨てたいのを伊勢は堪えた。

「あはは、そう、いつまでも先輩と一緒にいるつもりなんだ。あはは、そうなんだ、あはは」

「うん、そうだよ」

「あはは、そう、あはは」

新春のさわやかな空に、伊勢のむなしい笑い声が響いた。
348ツイスター外伝:2007/01/01(月) 01:40:43 ID:5J1+ujZV
それぞれ、五円玉を賽銭箱に放って手を合わせた。
いや、山鹿だけは、五枚のお札を賽銭箱にいれた。しかも、一万円札を。周りからどよめきがおこった。

「おい、さすがにそれは多すぎじゃないのか」

「何をいう。これはいわば巫女さんたちへのご祝儀だ」

「巫女さん?」

「知らなかったのか。この妹姫神宮の巫女さんはすべて妹なのだ。もちろん処女のな」

「なるほどな。お前がこの神社を勧めたわけがよーく分かったよ」

太郎の両脇では、次子と伊勢が両手を合わせていた。

「(先輩と幸せになれますように。先輩と結婚できますように。小姑に邪魔されない甘甘でエロエロな新婚生活が送れますように)」

そう拝みながら、伊勢はちらりと次子の方を見た。なぜか、次子の方も、伊勢の方を見た。そして、馬鹿にしたように舌を出した。
伊勢はそれを見て内心金切り声を上げながら、拝殿に向き直り、さらに深く祈りに没頭した。

「ずいぶん熱心に拝むんだな、伊勢は」

「まあ、事情があるんだろ、事情が」

次子が舌を出したのに気がつかなかった太郎がそういったのに、山鹿はくつくつと笑いながら答えた。
太郎がふと目を山鹿の隣にやると、一子が静かに手を合わせていた。
伊勢ほどではないにせよ、それでも熱心に拝んでいた。それを見つめていると、一子が顔をあげた。
そして、ずっと見ていた太郎の視線に気がつくと、ぷいっとそっぽを向いた。太郎は苦笑する。

「おみくじ、引いてくか?」

全員の参拝が終わって、太郎は聞いた。

「当たり前だろう。ここに来て巫女さんからおみくじを受け取らなくて何をするというんだ」

「はいはい、じゃ、いきますか」

やはり参道を歩いてきたのと同じような格好で、一行はおみくじ売り場へと向かった。

「すみません、おみくじいいですか?」

「うん、お兄ちゃん。こっちから引いてね」

太郎は耳を疑ったが、それは間違いなく目の前の巫女装束の娘の言葉だった。

「「お兄ちゃん」?お兄ちゃんって」

次子もまた混乱していたが、それは太郎のそれとは若干違っていた。
349ツイスター外伝:2007/01/01(月) 01:41:15 ID:5J1+ujZV
「お兄ちゃん!いつの間に私以外の新しい妹なんて作ったのよ!!」

次子が太郎の胸倉をつかんで揺さぶった。

「ち、違う。俺は、知らん。というか、これは、妹じゃ、ない、だから、止めろ!」

次子の誤解が解けるまで、太郎の頭はシェイクされ続けた。

太郎はふらふらになりながら、山鹿は「妹と巫女、巫女巫女妹、いや巫女巫女シスターか」などとぶつぶつつぶやきながら、次子は散々迷った挙句、伊勢は真剣なまなざしで、そして一子は気のない振りを見せて、おみくじを引いた。
それぞれが引いた番号のおみくじを受け取る。
太郎は「小吉」だった。そして、プラスともマイナスともつかないような微妙な今年の運勢が書いてある。
召還された妹と同居しているという奇妙な状況にあるものとしては平凡な結果に、太郎はどこかほっとした。
伊勢は、玉砂利の上に、がっくりと膝をついていた。次子は、飛び上がって喜んでいる。どうやら対照的な結果だったらしい。
山鹿は、どちらともつかないいつもの無表情でおみくじを読んでいる。確かに、おみくじの結果に一喜一憂する山鹿というのは想像もつかないが。
意外だったのは一子の様子で、あからさまに残念そうな顔をしていた。

「おい、よくなかったのか?」

太郎がそういうと、一子は読んでいたおみくじを背後に隠した。

「べ、別にいいでしょ!見ないでよ、馬鹿!」

「いや、見はしないけどさ」

「結んで」

ぷいと顔を横に向けていた次子がぽつりといった。

「へ?」

「だから木に結んでよ。高いところに結んだほうがいいっていうでしょ。こんなときくらい、その無駄に伸びた背を役に立ててよ」

「あ、ああ、そのくらいいいけど。じゃあ」

太郎が手を差し出すと、一子は「絶対読まないでよ」と念を押しながらおみくじを渡した。
太郎はそれを、他にもおみくじの結んである椿の木に結んだ。なるべく高いところを選んで。
350ツイスター外伝:2007/01/01(月) 01:41:59 ID:5J1+ujZV
「うん、でも別に山鹿さんにやってもらってもよかったんだからね。勘違いしないでよねっ」

「勘違いって、お前、なにいってんだ?」

太郎がそういうと、一子は顔を赤くした。
山鹿はそれを「うんうん」とうなづきながら見ていた。

「あー、ずるいです先輩、わたしのも結んでください!」

「あ、わたしもわたしも!!」

「次子ちゃんは、よかったんだから結ばなくていいの!!」

「えー、どうしてー?」

伊勢と次子がまた掛け合いを始めた。太郎はそれを見て、実は二人は仲がいいのではないかと思い始めていた。

騒がしかった初詣を終えて、まず伊勢を家まで送り、それから太郎たちも自宅に戻った。
めったに人ごみの中にでない次子は疲れてしまったのか、夕食をとって風呂に入ると、そのままソファで寝付いてしまった。

「おい、次子、寝るならベッドで寝ないと風邪引くぞ」

「うーん、お兄ちゃん……」

「しょうがないな」

次子の寝言に苦笑した太郎は、その体を抱えて次子の部屋へ連れて行こうとした。
持ち上げた瞬間、風呂上りの石鹸の匂いが立ち上がる。

「じゃあ、次子、ベッドに寝かせてくるから」

太郎は、同じソファでテレビを見ていた一子にそういうと、リビングを出ようとした。

「うん。……あのね、兄貴」

だが、一子は太郎をそのまま見送りはしなかった。

「なんだ」

「今日さ、あのおみくじ、いやなことが書いてあったんだよね」

「そりゃそうだろ、だから木に結んだんだし」

「そうじゃなくって!……最近できた大事な人がいなくなるって、そんな感じのことが書いてあってさ」

「そうか」

そう書かれてあって、連想するのは次子のことだけだ。
351ツイスター外伝:2007/01/01(月) 01:42:34 ID:5J1+ujZV
「わたし、今って、結構いい感じっていうか、それって多分、次子のおかげかなって思うんだ」

一子は、ぽつりぽつりと話し出した。

「でも、それだけじゃなくて。なんていうか、わたし多分次子のこと、妹みたいに感じてしまってて」

「それは俺も一緒だよ」

「だから、もしだよ、もし次子がいなくなったら、それって家族がひとりいなくなるってことだって思って」

一子の声の調子が落ちた。心なしか、言葉の端が震えているようにも聞こえる。
だから、太郎はできるだけ安心させてやれるよう、心を込めていってやる。

「大丈夫だよ。大丈夫。次子はいなくなったりしないし、俺だってそうだ。何も変わらないよ、ずっと」

「……うん、そうだよね。わたしももう寝よっかな」

一子はそういって、目の端をぬぐうと、立ち上がった。

「だから、ほら!早く次子をベッドに連れて行ってやってよ。あ、でもいやらしいことしちゃだめだからね!」

早くもいつもの調子にもどった一子に、太郎は笑っていった。

「ああ、お休み、一子」

「うん、お休み」

やがて簸川家の明かりがすべて落ちて、それきり静かになった。
明日になれば、いつもと変わらぬ朝が来るだろう。次子が太郎を起こし、3人で朝食を取って、学校で山鹿と伊勢と出会う、そういう朝が。
352 ◆zIIME6i97I :2007/01/01(月) 01:45:02 ID:5J1+ujZV
以上、ツイスターの外伝、ifモノでした。

ありえたかもしれない、ほのぼの路線のツイスターということで。
でも、伊勢があまり報われていないのはなぜだ。

それでは最後に、あけましておめでとうございます。
353名無しさん@ピンキー:2007/01/01(月) 02:03:27 ID:atGSnhZ1
明けましておめでとうございます

幸先のよい修羅場ライフのために
先ずは嫉妬に狂った女の子に刺される初夢が見られますように
354千歳の華 【外伝、”蘭”の記憶】:2007/01/01(月) 02:14:36 ID:65uGG6OA

ボクは最近、変な夢を見る。

夢の中でボクは、一人の剣士だった。
そして夢は必ず炎に包まれた寺院で終わる。
悲しみに張り裂けそうな心と、向ける矛先の無い強烈な嫉妬に塗れながら。

『殿、どうしてわたくしではダメなのですか?この身でも殿を、存分に愛して差し上げられるのに…』
『蘭丸よ、所詮貴様は男子。そしてこのワシも他ならぬそれなのじゃ。女子のない戦場ではそちを抱いたが、今はただの部下に過ぎん。
 さっさと着物を纏って出てゆけ!!』

月の綺麗な、晩。
ボクの心は刀で切り刻まれるくらいの激痛に襲われる。
瞼が歪むほど苦しみ、身が捩れ、思考が歪むほどの憎悪を自分に抱く。
やりようがない。
どう足掻いても変えられぬ現在。
自分は男で、殿も男。
きっと女性のいない戦場で、この少年は抱かれたのだろう。
数多くの選択肢の一つ、として。
そして、殿と呼ばれた人物にとって少年は都合のいい性欲処理機でしかないのだ。

その光景を見つめるボクの頬を、涙が一筋伝う。
ぜんぜん知らない光景なのに、何故か心に響く。

割れそうなほど切なく、苦しく、愛しい。
思わず胸を押さえてその場にへたり込む。

『そ、ん、な…あの時殿は確かに、愛を囁いてくれましたのに…』
『その場しのぎの戯言を信じるか!!愚か者め。汚らわしい奴隷身分であった貴様を拾ってやった恩を愛情と違えおって!!』

派手な着物を纏い、剃り上げた頭に刺青を施した、“殿”と呼ばれる壮年の男性は持った朱塗りの杯を投げつける。
こつり…と、少年の額を割り、一滴鮮血が零れた。

『殿の舌先は、どんな銘酒よりも甘く、身に染みるお言葉は、毒薬よりも私を痺れさせるのに…どうして!!!』

月を落としてしまいそうなほどの叫び。
それでも事態は好転しなかった。

355千歳の華 【外伝、”蘭”の記憶】:2007/01/01(月) 02:17:18 ID:65uGG6OA

『貴様も存分に理解しているだろう。儂には側室もおるし、こうして濃も控えておる。そちはお役御免じゃ。
 薄汚い平民よ、さっさと消えろ!』

壮年の男性は奥の襖を開くと、悩ましく気崩した妙齢の女性の首筋に口付ける。
その口付けに応えるように熱い吐息を女性が吐くと、悲哀に歪んだ少年の顔が、憎悪に歪んだ。

『貴様のような、汚らわしい泥棒猫が、殿を、誑かしたか…』
『あ〜ら、心外ね。元からこの人は妾のものよ。貴方こそ汚らわしい泥棒猫じゃなくてぇ?〜』

うふふ…と、蛇のように舌先をちらつかせ、男性の唇を割る。
ぬちゃ、ぐちゃと、少年を置き去りに男女の情事が始まった。

一段低いところに控える少年に、その行為を邪魔することはできない。

ただひたすらその光景を焼き付けるように瞳を見開き、割れんばかりに握り締められる拳と、とっくに噛み切られた唇を赤く濡らして耐えている。

『蘭丸よ、もし、生まれ変わりて後、お前が女であるならば、愛してやろう』

女性に下半身を吸われ、快楽の息を漏らしながら男が言う。
その喘ぎも、自分がもたらすものではない、と少年は奥歯を鳴らす。

『輪廻を経、この狭き下天にて、儂を見つけることができたら、愛してやる』

だから失せろ、塵め――――

横目で告げる女の視線。

『くくく…貴様のような輩に、それができたらな。せいぜい待ち焦がれているがよい。来る世の儂を。永遠に、乙女のようなまなざしでな………おおぅ?』

快楽に消えていく言葉。

『ふふふ…やはり、女は良いわ。この肉感、まるで生き物のように絡みつく…』

との、との、との…

どうしてそんな化生の体に、溺れるのですか?
そのような毒に塗れた汚らわしき体に。
私は完璧に純潔のまま殿に捧げましたのに…


それに。

忘れませぬ。

忘れませぬ。
そのお言葉、絶対に忘れませぬ。

必ず見つけ出して、愛して差し上げます。
全霊を賭して、この体の総てを用いて。

だから、だから…


――――――――――――早く前世にて、めぐり合いましょう。
356千歳の華 【外伝、”蘭”の記憶】:2007/01/01(月) 02:18:42 ID:65uGG6OA


一閃。

頭に響いてくる少年の怨念と共に、金の屏風に朱色が散る。

衝動に任せるまま、抜き身の刀で男性と女を貫いた。

月夜を受けて鈍色に輝く刀身。
愛するもの、憎むものの血を吸って怪しく蠢く。
物の怪のごとくざわめく少年の笑み。
感情が消えうせ、憎悪と思慕に取り付かれた亡霊となった少年は、
燭代の火をまいて寺を焼き尽くす。

『殿、こうすればすぐに来る世にて出会えますね!!この憎きアマも生まれ変わるとなると、腹立たしいですが、これ以上見ていられません。
 私以外の者を抱いて、熱く零す殿の姿、打ちつけられる猛々しい迸り。
 総て私のものです。総て!!!忘れませんよ、殿!!必ず生まれ変わりて後は、殿と添い遂げまする。
 汚らわしい泥棒猫を焼き殺し、殿に近づく連中をこの刃で貫いて!!だから、今度こそ必ず愛してくださいまし!!
 この私を!!他ならぬ、女子として生まれ変わりた私を!!!』

灼熱の渦が三人を飲み込んでいく。
炎をより赤い海に沈む二人は、即死なのだろう。言葉もない。

だが、どこまでも続く果てしない怨念と、歓喜に塗れた少年は、灼熱の業火を身に受けても、狂笑を止めない。
昼夜過ぎても猛り続けた後、灰燼となったその寺院でも、少年は笑ったまま朽ちていた。

とっくに焼け焦げた大事な者の欠片を、膨らみのない胸を抱えて。




「――――――――はっ」

寝苦しさに、ボクは目を醒ます。
何度この夢を見ただろうか。
少なくともボクは愛するものに恵まれているというのに、これ以上何を求めているのだろう。
ボクの隣で寝息を立てるノブくんを見下ろす。

眠っているノブくんは、当然だけど大人しい。
起きているとすぐに別の女の子に目を遣るから、もしかしたら寝ているときのノブくんのほうがかわいいかも。

すっ――――と、ノブくんの首筋に手を遣る。
刻まれたキスマーク。
勿論ボクがつけた。
ボクの、ボクだけのもの。
どんなに別の人を見ても、ノブくんは必ずボクのところに戻ってくる。
何度でも、どんな運命に巻き込まれても。

「ノブくん…」

額に舌を這わす。


「ねぇ、ノブくん。ボクたちの初めての出会い、憶えてる?」

357千歳の華 【外伝、”蘭”の記憶】:2007/01/01(月) 02:19:25 ID:65uGG6OA

ボクは憶えてるよ。
忘れてなんかいないし、これからも絶対に忘れない。十年、百年経っても。
輪廻がボクの記憶をぐちゃぐちゃに引き裂いても、絶対に忘れることなんかない。

だって、ボクにとってノブくんはかけがえのない、

たった一人の■なんだから――――



あれは五年前だよね、ノブくん。









ボクは周りの女の子が次々と女の子らしくなっていく中で、取り残されたみたいに幼かった。
初潮は無事に迎えても、胸やお尻はちっとも膨らまない。
それどころか、お父さんが有名な剣道家で物心つく前から竹刀を握っていたせいか、体は筋張って、柔らかいはずの掌は石みたいに硬くなっちゃったんだ。
それに、この『ボク』っていう一人称も相まって、文字通りボクは周りから浮き立ってしまった。
男の子にはオトコ女ってバカにされ、剣ばかり握っていたせいで女の子の話の輪には入れない。
中学校に入っても、ボクはずっと一人だったんだ。

お父さんが部活の連中と馴れ合うと心が弱くなるなんていうから、放課後もまっすぐ家に帰って道場に篭りっきり。
周囲が色恋に沸き立つ中、ボクは閉ざされた空間でずっと自身と戦っていた。
それでもボクには剣しかなかったから、打ち込むしかなかった。
手が擦り切れるまで腕を振るい、髪の毛が汗で硬くなるまで走りこむ…
鏡に映った自分を見て、何度絶望したかなぁ?とても数え切れないよ、ノブくん。
唯一映し出された姿が少女のものだと認識できる長い髪の毛は顔を覆い隠し、ずっと室内で鍛錬しているせいか、肌ばかり白い。
身長は伸びないし、肉付きの薄い二の腕には柔らかな女の子らしさより、生傷ばかりが刻まれていく。
でもボク、がんばったんだ、がんばったんだよ。
お母さんが早く死んじゃったから、お父さんに嫌われたらボクは一人きりになっちゃうから、期待に沿えるように、全力でがんばった。

だけど、ある日――――

『蘭!!お前最近たるんどるぞ!!朝は弱くなるし、一ヶ月のうち数日は熱を出して寝込む。
 お前は儂のたった一人の後継者なんだ。あれが亡くなってしまったから、もうお前しか居ないんだ!』

お父さんはいつものようにボクを罵倒する。
彼も生まれたときから剣一筋だった。
だから女の子の事情なんてわからないんだろう。
自分が刻み込んだ訓練の作用で見た目に表れてなくても、中身は女の子なんだよ?
熱を出すのだってアレが重いだけだし、朝が弱くなるのは、お母さんの――――

『言い訳ををするか!!この愚か者。ふん…せっかく儂が歳を食ってから授かった子だというのに、どうして女子なのだ!!
 男子なら…この程度で根をあげることなどないのに…』

ボクが言い返そうとするより早く、父は初めて見せた弱い声で、そうぼやいた。
小さな声だったけど、ボクの耳にはしっかり届いた。

“どうして、お前は、オンナなんだ??”

358千歳の華 【外伝、”蘭”の記憶】:2007/01/01(月) 02:20:06 ID:65uGG6OA

積み重ねて、積み重ねて、あふれないようにしていた感情が堰を切る瞬間というのは、とても呆気なかった。
心の表面がパリパリと剥がれ落ちて、黒い、黒い感情が、全身に染みこんで行く。
ボクは唯一信じて、頼るべきものに、裏切られてしまったのだ。
女であることに負い目はあった。
でも、それは努力でなんとかなると思っていた。
だがそんな思いさえ、お父さんは砕いた。

こナゴなニ、完プなきまデに、ウチ砕いタ…

『――――っ!!』

気づけば竹刀を叩きつけ、ボクは走った。
お母さんが死んでから大きさが揃わない砂利の敷き詰められた庭を裸足で駆け抜け、暮れなずむ路地へ当てもなく飛び出した。

息が切れる。

でも、それ以上に胸が痛い。

ボクは、きっと何か理由があって女の子に生まれてきたのに、それを否定したあの人を赦せない。
何かとてつもなく大事なもののためにこの体を選んだはずなのに、どうして“お父さんごとき”に否定されなくてはならないのだろうか??

胸の痛みを押さえつけ、走った。

締まりかけた踏切をすりぬけ、クラクションの五月雨をかいくぐり、走った。

気づけば、知らない道路の真ん中にいた。

真っ赤に沈み行く夕日を飲み込んでしまったような大きな川。
その河川敷に、ボクはへたり込んだ。

乾いて血の気が広がる口を、唾を飲み込んで潤し、綺麗にそろえられた芝生に胴衣のままに寝転ぶ。
胸はまだ痛い。
壊れそうなくらいに痛い。
どうして、どうして、お父さんは、否定するの?ボクは、女の子なのに。

涙にふたをするように、ボクは手で顔を隠して嗚咽した。
今までの鬱屈が燃え広がり、収まることを知らないままボクは泣き続けた。




もうあの家には帰れない。
剣を握らないボクにお父さんは興味がない。
じゃあ、どうすれば――――?

『うっ、ひぐっ…』

枯れたと思っても、次々とあふれて滲み出す。

帰る場所がないなら、もう死んじゃおう…

思って、手の甲で涙をぬぐったその瞬間――――

359千歳の華 【外伝、”蘭”の記憶】:2007/01/01(月) 02:20:42 ID:65uGG6OA

『なーに泣いてんの??』

どさっ、っと隣で物音がしたかと思うと、涙で滲んだ世界に、救世主が舞い降りた。

正確には、一人の男の子だった。
金色の髪の毛を逆立てて、眉毛を短く切りそろえ、整った顔に片方の口の端を吊り上げる特徴的な笑みを浮かべている。
テレビでよく映される、不良少年。
それを絵に描いたような男の子だったけど、ボクには彼がどうしようもなく尊く映った。

まるで長年待ち続けた思い人に邂逅するような――

世間から廃棄される絶望から救い上げるような――

そんな暖かい掌を差し出しながら、金髪の男の子はボクの顔をとても楽しそうに覗き込んでいた。

『あっ…その…』

ボクはほとんど男の子と話したことが無い。
だから挙動不審になってしまうのは仕方がなかった。
それに、目の前の男の子がトクベツに見えてしまったのだから当たり前だ。
ぐしぐしと顔を真っ赤にして、ボクは必死に涙をぬぐった。
こんなところを見られたら、“また”嫌われてしまうような気がしたから。

『あれ、女の子だ』

ボクがやっとのことでその人の顔を上目でうかがうと、少年は驚いた風にそういった。
それは、歓喜だったのだろうか。もしそうだとしたら、ボクはうれしい。

『あの、ゴメン、なさい…』
『なんで謝るのぉ〜?それにそうやって顔伏せてたら、お前の顔が見えないじゃん』

少年はとっさに顔を隠そうとしたボクの手首を掴むと、額が触れ合いそうな距離で視線を合わせた。
黒い、大きな瞳だった。
自信に満ち溢れた、それでいてとても優しい――

どくん…っと、胸が大きく高鳴る。
時を越えて沈黙していた時計が動き出すような、春を思わせる萌動で、大きく脈うった。

『やっぱ、カワイイ。お前、髪の毛垂らしてるより、こうやってるほうがカワイイぞ』

そう言って笑みを深くすると、少年はボクの前髪を上げ、手首にまいていた黒いヘアゴムで束ね上げた。

『う〜ん。これっじゃあ変か〜じゃあ、前髪そろえてポニーにするのはどうだ?』

ああでもう、こうでもない…と。
ボクを置き去りに、思考錯誤を始める。
眉根を寄せたり唇を尖らせたり、ボクが見たことのないとてもやんちゃな男の子の顔で、少年は髪をいじくっている。

『あの……』
『ん?なんだ?』
『髪の毛…』
『あ゛…』

360千歳の華 【外伝、”蘭”の記憶】:2007/01/01(月) 02:22:14 ID:65uGG6OA

言ったときには、もう遅かった。
ボクの長い髪の毛はあちこち跳ね上がり、とても人前に出られる様ではなくなっていた。

『わりぃ…』
『……』

気まずい沈黙が落ちた。
でも、少年は笑みを絶やさずにこういった。

『あんなところで泣いていたってことは、お前家出少女だろ?髪のこともあるし、今晩はうちに泊まれよ。
 まぁ、ウチっても、親戚のオッサンの家だけどな』

ニッ、っと白い歯を見せる。
ボクにはどうしようもなく眩しかった。
ネクラで、誰にも相手にされず、唯一すがるべき父にも見捨てられた僕にとって、彼の笑顔は本当に太陽のようだった。

『あぁ、イトコのねーちゃんも居るから安心な!!ちーっとばっかし怖くて蛇みたいだけど、美人でいい女だぜ』
『あ…うん…』

成り行きで返事をしてしまったが、ボクは内心安らぎを覚えていた。

だって――――

再度差し出された手は、とても暖かく、ボクを優しく包み込んでくれたんだから。

『言い忘れたぜ、俺、信長。お前は?』
『ボク、森、蘭…』
『へぇ〜信長に蘭か。なんか初めて会った気がしないよな』

その笑顔はとても美しく、気高く、ボクを溶かしていく。
ふやけてしまいそうな指先、熱く高鳴る鼓動。

繋いだ手は、離さない。

ちょっと指先に力が篭ると、ノブくんは驚いたように立ち止まる。
そして更に眩しい笑顔で、こう言う。

『お前、やっぱカワイイじゃん。俺の彼女にしてやるよ』



ボクは、

――そんなノブくんの横顔を、絶対に忘れないからね。


立ち返ってみると、
きっと当時のノブくんにとって、ボクは扱いやすい女の一人でしかなかったんだろう。
そう考えると寂しいけど、仕方ないよ。
ノブくんは現に他の女の子に興味いっぱいみたいだから。

361千歳の華 【外伝、”蘭”の記憶】:2007/01/01(月) 02:23:08 ID:65uGG6OA

だけど、どうしてもノブくんが別の女のこと仲良くしてると、燃えるように胸が熱くなるの。

その泥棒猫と一緒に、ノブくんの胸を貫きたくなっちゃうの。
でも、我慢だよ。
ノブくんを絶対に放したくないし、ボクはもうノブくん無しじゃ生きていけない。

重い女でゴメンね、ノブくん。
たまたまひっかけた女がこんなんで、ゴメンね。

ノブくんの寝汗を舌でぬぐってあげる。
しょっぱい汗の代わりに唾液を塗りつけて擬似マーキングだよ。
こうすれば、別のメスが――――

「ううん…濃、ねぇちゃん、ダメだって…蘭にバレたら、殺され…」


――――――――べきり。

ノブくんの額に吸い込まれそうになった指先を、咄嗟にエアコンのリモコンに置き換える。
変わりに液晶がひしゃげてボタンが飛び出し、電池が割れる。








「……………………あのひと、まだノブくんにちょっかい出してたんだ…」



懲りないなぁ、ホントに懲りないよ、ノブくんも、あの女も。


「「――――――また貫かれなければ気が済まぬか…」」

暗闇に悲鳴が響き渡った。










362千歳の華 【外伝、”蘭”の記憶】:2007/01/01(月) 02:23:53 ID:65uGG6OA

朝日が眩しい。
今日もいい日だね、ノブくん。
一緒に登校できないのが残念だけど、帰ったらちゃんとお世話してあげるからね。

「おはよ〜〜〜蘭!!」

後ろから元気な声がかかった。
この調子、瑠璃ちゃんだね。

「おはよう、瑠璃ちゃん、それに藤原くんも」
「おっす…」

藤原くんはまたげっそりしてる。なんでかな?
この人たちはボクの数少ないお友達。
瑠璃ちゃんとは色々気が合うんだ。
浮気性の彼氏を持つとお互い大変だよね。

「あれ、信長は?」

藤原くんのどうでもよさそうな声。
浮気亭主も揃って仲がいいのです。
こればっかりは困った。

でも、今日はちょっぴり機嫌がいいので、ボクは元気よく応えた。

「昨日寝言で女の人の名前を呼んだから、椅子で殴りまくったの。
そしたら動かなくなっちゃったから、ベッドに縛り付けて監禁しちゃった☆」

恐怖に引きつる藤原くん。
何か思いついたようにハイライトの消えた瞳でステキな笑顔を浮かべながら、彼を見つめる瑠璃ちゃん。


世の中は今日も平和です。
だから、



『ずっと一緒だよ(です)、信長ちゃん(さま)』
363 ◆pmLYRh7rmU :2007/01/01(月) 02:30:59 ID:65uGG6OA

あけましておめでとうございます。
神作品の後にショボイssで申し訳ないです。

>>226
ssを書くきっかけを下さってありがとうございます。
感謝してもしきれません。

今回は微妙に要望があった蘭を活躍させてみました。
あと、ブログにたくさん来ていただいてありがとうございます。

これがブログのURLです。阿修羅様、去年はお世話になりました。
お手数かけますが、よろしければリンクなど張っていただけると幸いです。

ttp://pochitamakon.blog54.fc2.com/

それでは嫉妬を愛する皆様に、今年もご多幸ありますよう。
364名無しさん@ピンキー:2007/01/01(月) 02:35:56 ID:l4kp1P2q
これが年末&新年パワー…!!!
最高にGJだべえ…
365名無しさん@ピンキー:2007/01/01(月) 03:05:11 ID:YYcXFP24
>>501
うるせーぞ
366名無しさん@ピンキー:2007/01/01(月) 03:19:28 ID:Aca4JbXl
蘭はとても一途で純愛な少女でつね
>>343
新年1発目ktkr!月はにげだした、しかし潜伏先がばれてしまった
>>352
IFでも伊勢ソス(´・ω・`)
367名無しさん@ピンキー:2007/01/01(月) 13:00:24 ID:udTiOKO2
>>366逆です。あの巨乳が報われないから伊勢さんなのです。
368名無しさん@ピンキー:2007/01/01(月) 17:05:58 ID:I8ghHBWm
てかこのスレの巨乳キャラは報われない人ばっかりですね……
369名無しさん@ピンキー:2007/01/01(月) 17:32:31 ID:zqPp44UI
>>368             だがそれが良い
370山本くんとお姉さんSP ◆RiG2nuDSvM :2007/01/01(月) 20:23:36 ID:dRvA2m0G
山本くんとお姉さんSP(お正月スペシャル) 〜『お姉ちゃん初め』


>でてくるひと
・山本秋人……山本くん。姉と二人暮らし。なんだかんだ言って姉萌えだが、空気を読むのはちょい苦手。
・山本亜由美……弟を偏愛するキモ姉。弟には「優しい姉さん」と誤認されている。やはり嫉妬深い。
・山本梓………山本くんの一歳下の従妹。過去のトラウマにより表面上はクール。根はかなり嫉妬深い。
・藤原里香……山本くんの隣の席の女の子。おとなしいけどちょっとだけ腹黒。なかなかに嫉妬深い。

※ちゅういがき
本作はあくまでお正月スペシャルです。時系列が「山姉」本編と矛盾しています。
ふかいこと考えず、「どうせキモ姉だから」と軽く読み流してくださるようヨロシクお願いします。
でも設定や人物背景等は、本編のまんまです。ごく一部、本編の今後のプロット上のネタバレもあります。



>阿修羅さまへ
こんなSSですから、もし掲載して頂けるとしても、別枠タイトル扱いして頂かなくて結構です…。
こんなものを“SSタイトルリスト”に加えると、リストが見づらくなって皆様に迷惑がかかりそうです。
「山本くんとお姉さん2」のページに、「外伝だぞー」って感じで、適当に突っ込んで下さればOKっす。
「山姉2.5」も放置中で、申し訳ありません。すぐ帰還したいとは思っておりますので。


↓↓「山本くんとお姉さんSP」前半、ココからたぶん6レス
――――――――――
371山本くんとお姉さんSP ◆RiG2nuDSvM :2007/01/01(月) 20:24:06 ID:dRvA2m0G
<1>


ぽちゃん。


――くす、くすくすくす。
「すぴ〜……すぴ〜……」

暗闇だ。
暗闇に、ぎらぎら輝く双眸が浮かび上がっている。

――くすくすくすくすくすっ。
「すぅ……すぅ……」

この部屋の主である少年の寝息だけが、静かにリズムを刻んでいる。
闇に浮かんだ双眸が、だらぁんとだらしなく垂れ下がった。

……姉、だ。
弟の顔を、枕元で凝視していた姉だ。
無防備な寝顔を覆い潰すように、見下ろしている姉だ。

姉はその口元を、もごもごとさせている。
その愛らしい唇に、きらきらと透き通った唾の雫が、溜まっていく。

「すぴ〜……すぴ〜……」

やがて。
自重に負けて、つーっと糸を引いて垂れる露。姉の粘液。
狙い過たず、半開きになっている弟の口に、吸い込まれるように――

落ちる。

ぽちゃん。

「すぴ〜…… ―――ゴホッ! ごほ、ごほっ! ………んグ…………すぴ〜……すぴ〜……」

姉の顔の真下で、むせる弟。
その喉がコクンと上下に動いたのを確認して、闇の中の双眸がニタリと歪む。

――くすっ、くすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくす
「すぅ……すぅ……」

百発百中だ。
熟練の賜物。長年やってきたことだから、そうそう外すことは無い。

「……おねえちゃんからの………おとしだま、だよ……?」

わけのわからないことを呟いて、姉はまた口元をもごもごさせ始めた。
弟のための、姉の蜜。再び唇に溜まり始める。



時は2007年1月1日、午前3時30分。
除夜の鐘は、今年も姉の煩悩を取り払うこと叶わなかったようだ。
372山本くんとお姉さんSP ◆RiG2nuDSvM :2007/01/01(月) 20:24:50 ID:dRvA2m0G
<2>

「……ん……?」

朝。
目を覚ますと、鼻先に姉さんの顔があった。

「姉さん……おはよ……。あれ……?」
「おけましておめでとう、秋くん」

姉さんの顔がスライドする。
見慣れたつまらない天井に、なんだかとてつもなく安心感。

「……あれ? いつからそこにいたの……? いま、何時……?」
「ちょうど今、起こしにきたところだよ。あけましておめでとう、だよ」
「あぁ。あけましておめでとう、姉さん。今朝も早いね」
「うん。お姉ちゃん初めだから」

にこにこしながら、なんだか意味がよく分からないことを言う姉さん。
昨晩は年越し蕎麦を食べながら、僕と一緒に行く年来る年を観ていたのになぁ。
姉さんだって夜更かししたのに、どうしてこんなに朝が早いんだろ。
……というか、よく見ると姉さんの目が赤いし。やっぱり寝不足なんじゃなかろうか……?

「これから、お雑煮作るからね。秋くん、お餅は何個がいい?」
「ええと、二個……。いや、三個お願いしようかな」

『それじゃ早く降りてきてね』と言い残して、姉さんは部屋を出て行った。
寝よだれでベトベトになっていた口元を拭ってから、僕もそれに倣う。

……しかし新年早々、息苦しい初夢をみたなぁ。
向こう岸で姉さんが呼んでいるんだけど、もがいてももがいても水を飲んでしまって、溺れそうになる夢。
今年は水難に気をつけた方がいいのだろうか?
373山本くんとお姉さんSP ◆RiG2nuDSvM :2007/01/01(月) 20:25:25 ID:dRvA2m0G

    *      *      *      *      *

やられた。

「ね、ねえさん……」

い、いや、姉さんは悪くない。
たぶん、きっと、僕の落ち度なんだ。
『餅を三個』とは指定したが、『どの餅を三個』とは指定しなかったんだから。


――鏡餅が、三個。


食卓の僕の席に置かれた、超巨大どんぶりのお雑煮。もちろん姉さんお手製である。
出汁の中で鏡餅×3が、どこまでも続く白い海のように広がっていた。

「はい。おねえちゃんの愛情たっぷりだからね」

一個だけ切り餅を浮かべた、可愛らしい小さなお椀に箸をつけて、姉さんがにっこり微笑んだ。

「たくさん食べてね、秋くん!」


……
………

自分の分を、あっさり食べ終わった姉さん。
頬杖をついて幸せそうに、餅をかきこむ僕を眺めている。

……。
そうしている時の姉さんは、本当に本当に幸せそうで。
ほころぶようなその笑顔は、僕が何を引き換えにしてでも守りたいものであって。
僕は少しでも長く、そんな時間を姉さんと過ごしたいと思うのであって。
だから……

だから。
例え無理をしてでも、鏡餅×3の雑煮を腹に詰め込む価値はあるというものだった。
気合を入れて、箸を持ち直す。
どうせ今日は正月休みだ―――死ぬ気でやって、そのあとホントに死体になっても大丈夫さ。

ふんふん鼻歌を歌いながら、リズムに合わせて頬杖を揺らす姉さん。
テーブルの下では、姉さんのスリッパもぱたぱたと揺れている。

「姉さん、今日はなんかご機嫌だね」
「うんっ」


「年の初めは、お姉ちゃん初めだから」
374山本くんとお姉さんSP ◆RiG2nuDSvM :2007/01/01(月) 20:25:58 ID:dRvA2m0G
<3>

「こ、混んでるね……」
「ぎゅうぎゅう詰めだねぇ」


……
………

過酷な朝食任務を終え、居間でぐったりしていた僕。
そんな死人の僕の手をくいくいっと引いたのは、おめかしをしたよそいき姿の姉さん。

『秋くん、一緒に初詣に行こ』

――姉さんがそう言うのなら、弟として立たねばなるまい。
そんなわけで三十分後、僕らは揉みくちゃにされながら、満員バスに揺られていた。

「うぐぉッ!? お、おなか押されると、で、出る……餅がッ……!」
「あぁん! 秋くん、そんな風に迫られるとお姉ちゃん、お姉ちゃん……」

この根取川市で一番大きなお宮さんといえば、須登丘神社(すとおかじんじゃ)だ。
でも元日に考えることはみんな一緒、ということで―――神社行きのバスはものすごい混み具合である。
市内で頼りになる公共交通機関はバスしかないので、今日はこの路線に人が集中するのだ。

「う、ぐ、ぐ……。ちょ、この詰め込み具合、道路交通法違反にならないのかっ?」
「よくテレビで観る、東京のラッシュアワーみたいだねー」

バスが揺れれば、右に押し潰されたり左に押し付けられたり。
そのたびに車内のあちこちから、悲鳴や呻き声が聞こえてくるほどだ。
小さな姉さんの身体が潰されないように、できるだけ僕の胸の中に抱きしめるようにして、耐える。


……
………

そんな、満員バスの中でのことだった。
僕はふと、自分の身体に違和感を覚えたんだ。

――誰かが、ジーンズ越しに、僕の太股を、撫でている……?

『痴漢』――すぐにその二文字が頭に思い浮んだ。
うえぇえ、気持ち悪い!
……だがしかし、馬鹿な奴だな。僕は男だっていうのに。
大方、目当ての女の子を触ろうとして、間違えているんだろうけど――――――ハッ!!!?

そこまで考えて、すぐに思い当たった。

――姉さんだ。
満員バスで真っ先に痴漢に狙われるのは、姉さんじゃないかッ!!
美人で、可愛らしくて、向日葵のような姉さんを前に、痴漢が手を出さずにいられるはずがないッ!!
疑う余地はない。ソイツは姉さんを触ろうとして、間違えて僕を触っているだけなんだッ!
375山本くんとお姉さんSP ◆RiG2nuDSvM :2007/01/01(月) 20:26:33 ID:dRvA2m0G
「ね、姉さん、へいきっ!?」
「……どうかしたの? ぎゅうぎゅう詰めがちょっと苦しいけど、お姉ちゃんは大丈夫だよ?」

窮屈そうに、僕の胸の中で答える姉さん。ほっと安堵が広がる……が、予断は許さない。
痴漢なんて――そんな下種な輩の汚らしい手を、天使のような姉さんの身体に触れさせてなるものかッ!
この僕がついている限り、例えこの身がどうなろうと、姉さんにそんなことはさせないッ!

――さわさわと蠢く手の平の感触。だんだんと、僕の股間の方へ上がってくる。

うえええぇ、気持ち悪い……。
しかし『もし被害者が姉さんだったら?』と考えただけで、身体中の血が沸騰しそうになる。
……もう、ゆるさんぞ。

そこだッ!!
目当てをつけてソイツの手首を掴み、思い切り捻りあげた。

「あぁん、痛ぁい!」
「……あ、姉さん。ご、ごめんっ、間違えたっ!」
「急にお姉ちゃんの手首を掴んで、どうしたの……?」
「い、いや、別になんでもないよっ」

くそッ!
こうも揉みくちゃ状態では、どれが犯人の手だか分かりゃしない!
……でも、なんとかしないと。僕が食い止めないと。
姉さんにだけは、絶対に、指一本たりとも触れさせるもんかッ!!


――“手”は、僕のシャツを捲りあげて、腹から胸元へかけてまさぐり始めた。

す、好き放題やりやがって!
……だが僕が辱められている間は、姉さんは無事だということだ。
鳥肌が立つほどの気色悪さの中、それだけが僕にとっての心の支えだった。

ええいッ! こんどこそッ!
シャツから離れてまた下の方へと移動しようとするソイツを、逃がさずに掴み上げた。

「痛ぁい! やぁん!」
「……あ、姉さん。ご、ごめんっ、また間違えたッ!!」
「秋くん……。どうしてさっきから、お姉ちゃんに意地悪するの……?」
「ほ、ホントにごめんっ! そんなつもりじゃなくて、あの、そのっ」

姉さんを傷つけてどうするっ!? あぁ、泣きたくなってきた……。
くそう、一体どこから手を伸ばしてきているんだ……?

……あ……?
うわわわっ、わっ!?
――“手”は、ズボンの中に入りこもうとしてきた。
な、なんて大胆な奴なんだッ!?
376山本くんとお姉さんSP ◆RiG2nuDSvM :2007/01/01(月) 20:27:15 ID:dRvA2m0G
だが……。
ふっふっふ、クックックックックック。
僕もいい加減、キレたようだ。もう恐れるものは何も無い。いいだろう、触らせてやろう。

そして、驚くがいい!
ショックのあまり、正月三賀日を塞ぎこんで寝込むがいいッ!!
お前が今まで弄んでいたモノは、オトコだ! ちゃんと、“ついて”いるぞ!!
わーーーっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!

するするとパンツの中に入り込んできた手の平は。
僕の『僕』に行き当たる。
わーーーーーーっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!

躊躇いなく、ソレを、掴む。
さわさわさわさわ、ソレを摩り始める。

はっはっは…………………アレ?
さぁっと、自分の顔から血の気が引くのが分かる。
真っ青になる僕をよそに、その手はいよいよ暴虐無人にパンツの中で蠢きはじめた。

も、もしかして……?
最初から、狙いは、『僕』だった………とか?
ソ ッ チ の ケ が 有 る 人 ? ? ?

あわっ!?
あわわわわっわっ! た、たすけッ、たすけて――

望まない刺激によって搾り出された先走り液を、掬うように。
塗りつけるように。つるん、と。
『僕』を、指先で撫でた。

――うッ!?
うわあああああああああああああああああああああああああああぁぁああああああ!!!


――ピンポン
『まもなく須登丘神社、すとおかじんじゃです。お降りの際は押し合わないよう、足元にご注意下さい』

    *      *      *      *      *

ようやく着いた目的地。
新年早々身も心もズタボロにされて、転がり落ちるようにバスを降りる。
もう……お婿に行けないよ……。

ガックリと肩を落としながら、……それでも、姉さんだけは無事に守りきれたという誇りはある。
そんな大切な姉さんは、バスから降りて上機嫌。
どういうわけか、ぺろぺろと自分の指を舐めている。

「あ、姉さん。指なんて舐めたら汚いよう」
「ううん、汚くないよ。……だって――――」


バスの走り去る爆音で、その後の声は聞こえなかった。
377山本くんとお姉さんSP ◆RiG2nuDSvM :2007/01/01(月) 20:27:49 ID:dRvA2m0G
――――――――――――――
↑↑↑『山本くんとお姉さんSP』前編はココまで。

なんとか正月に間に合った……。筆速が鈍行列車ですんません。
まだレス数を計算していませんが、このSSは正月三賀日の投下で完結すると思われます。
……てか、まだ修羅場にも到達してません。

『山本くん2.5』に関してです。
既に9割方完成しているのですが、どうしても気に喰わない箇所があり(次の投下になる箇所)
その部分の改訂に手間取って、先に進めなくなっている状態です。
いずれトンネルを抜けると思うので、しばらくお待ちください。

それとは全く別に、『山本くん』ではない作品も書いています。
題名は『赤い帽子のまほうつかい』。
Wizardryのような世界観の、ベッタベタのファンタジー修羅場モノになります。
完成度は4割程ですが、こちらの方が2.5よりも早く書きあがりそうです。

投下が季節をまたがるほどに遅筆な私ですが、今年もよろしくおねがいします。
378名無しさん@ピンキー:2007/01/01(月) 20:42:07 ID:R+rC3tdN
うお〜年初めから山本くんが読めるとはイイことありそうな予感です
後編も楽しみにしておりますよ
379修羅場の神 ◆IOEDU1a3Bg :2007/01/01(月) 21:24:12 ID:cGSBiIUj
トロイヤ戦争・前哨戦


ギリシアの神々のほとんどが招待された結婚式があった。
しかし不和を司る女神エリスは結婚式にふさわしくないという理由で招かれなかった。
腹を立てたエリスは黄金のリンゴに一文を添え、結婚式場に投げ込んだのだった……

『最も美しい女神様に捧げる』

ヘラ「当然、私よね」
アテナ「義母様、最近目尻にシワが目立ってきておりますよ。
    古来より老いては子に従えとの言葉もございますし、ここは潔く後進に譲る事が最良の選択かと思います。
    例えば私などは……」
アフロディテ「何を言っているの貴方達。愛と美を司るこの私を差し置いて、一体誰がこのリンゴを受け取れると言うの」
ヘラ「アテナ……死にたいの?」
アフ「そうよそうよ、貧乳は引っ込んでなさい」
アテ「均整の取れていると言いなさい。どこぞの脂肪太りとは違うのです」
アフ「しぼっ……戦地でしか役に立たないマッチョガールが何を言うのっ!
   まあ、所詮戦争の神ごときにはこの私の美貌が理解できないのは当然だったわね」
アテ「おあやおや、これは面白い。私はどこぞの脂肪太りとしか言っていないのにアフロディテが返事をしました。
   一応、自覚症状はあったのですね。
   だいたい理解のされない美など無いも同然です。どうせ理解されないのなら戦地で役に立つ方がよほど上等なのではないですか?」
アフ「なんですって……」
ヘラ「話がすり替わっているわ。今決めるべきは誰が最も美しいかでしょう」
アフ「いけないいけない、そうだったわ……」
アテ「ちっ……」
ヘラ「だいたいアテナは余裕が無さすぎるわ、すぐに他人を攻撃しようとする。
   雄大な度量を持つ心にこそ、真の美は宿る物よ」
アテ「心に着眼する辺り、義母様も肉体では勝てないと悟っているようですね。懸命な判断です」
アフ「いっつも怒ってばかりのヘラ様に度量の話をされるのも……ねぇ……」
ヘラ「二人とも、表に出なさい」
ゼウス「やめんかっ!千日戦争を起こすつもりか」


ヘラ「あなたは」
アテ「父様は」「「「黙っていてくださいっ!!!」」」
アフ「ゼウス様は」


ゼウ「ごめんなさい……」
380修羅場の神(IF) ◆IOEDU1a3Bg :2007/01/01(月) 21:25:03 ID:cGSBiIUj
『最も嫉妬深い女神様に捧げる』

アテ「義母様、どうぞ」
ヘラ「どうして一秒も迷わずに私の所へ持って来るのよ?」
アテ「ですから、義母様どうぞ」
ヘラ「貴方とは一度ゆっくりと話し合う必要があるみたいね……」
アフ「でもアテナだってヘラ様に匹敵する位嫉妬深いんじゃない?
   蜘蛛に変えたり、怪物に変えたり」
アテ「……殺してはいません」
アルテミス「ほぅ……少し前にアイギスの盾に付加された石化の呪い、どこが出所だった?
      あれは間接的に殺したのと変わらん」
アテ「何の事ですか?私は困った人間に救いの手を差し伸べたにすぎません。
   相手が罪の無い民を苦しめる怪物ともなれば尚更です」
アル「その罪の無い民を怪物を怪物に変えたのが誰か、知らぬとは言わせんぞ」
アテ「知りません」
ヘラ「………………」
アテ「………………」
アフ「………………」
アル「………………」
ヘラ「あなた、帰るわよ」
ゼウ「ヘラ、たかがリンゴにそうムキになるのも……」
ヘラ「か・え・る・わ・よっ!」
アル「興冷めだな……私も帰らせてもらう。
   黄金のリンゴはアテナにこそ相応しい」
アフ「それもそうね……あなた、私達も帰りましょう」
アテ「そこまで言うのならリンゴは貰っていきますよ……色々と役に立ちますし……」


エリス「計画通り」
381シベリア! ◆IOEDU1a3Bg :2007/01/01(月) 21:25:52 ID:cGSBiIUj
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。

またもや思いつき短編です。
恋と盲目の方はもう少しだけ待っていてください。
382名無しさん@ピンキー:2007/01/01(月) 21:27:40 ID:N5cYOMU0
山本くんとお姉さんキタ━━━━━━≡゚∀゚)≡゚∀゚)≡゚∀゚)≡゚∀゚)≡゚∀゚)━━━━━━!!!!!

>ベッタベタのファンタジー修羅場
やべー、wktkがとまんない!!!!!!!!
383名無しさん@ピンキー:2007/01/01(月) 21:45:44 ID:atGSnhZ1
>>377
う、うおぉぉぉおおおッ!!!!!
究極のおとしだまktkr!!!!!
あ―もうお姉ちゃん最好
もうこの焦らされが病み付きになりつつGJッ!!

>>381
千日戦争超期待GJ!!
384名無しさん@ピンキー:2007/01/01(月) 21:47:54 ID:MuvaNs3X
山本くん待ってたぜ (;´Д`)
385名無しさん@ピンキー:2007/01/01(月) 22:54:51 ID:jj1DL0+v
>>381
Hahahahahaha! 続きサンクス!

……痴情のもつれで世界が滅んだ、ニーベルンゲンの指輪ネタも希望しても良いですか?
386 ◆n6LQPM.CMA :2007/01/01(月) 23:10:02 ID:MCF5gwlb
あけましておめでとう!!今年一発目投下します。
387修羅正月 ◆n6LQPM.CMA :2007/01/01(月) 23:12:20 ID:MCF5gwlb
1月1日 元旦

「一年の計は元旦にあり」
意味は、一年の始まりの元旦に今年一年の計画を立て、無計画に日々を過ごすことなく、計画的に
過ごしましょうといった所です。

しかし世の中そう計画的に物事は運びません。
トラブルはいつも不意にやってくるのですから。




「ふわあああああ………朝、か」

日頃の習慣の賜物か、たとえ休みでも決まった時間に起きてしまった卓也は
まだ寝ている頭を覚醒させていた。

今日から2007年か……
去年はクリスマスに酷い目にあったからな、今年は平穏無事に過ごしたいな。

そんなことを考えていたら、いつもと違う感覚に襲われた。

あ、あれ?そういえば美紗がいない。

最近は卓也にしがみ付いたまま寝て、卓也が起きるまで絶対起きない美紗が
今朝はベットにいなかった。

珍しいな、美紗が1人で起きたなんて。
まあお正月だし、早起きでもしたんだろう。俺も腹減ったし、お雑煮でも食べるか。
若干冷える階段を下り、居間に入ると

「あ、お兄ちゃん。お早う」

パタン
388修羅正月 ◆n6LQPM.CMA :2007/01/01(月) 23:13:17 ID:MCF5gwlb
「ち、ちょっと!!何で扉閉めるのよ!!」

あ、あれは我が妹の「美紗」なのか??
もしかしたら親戚の誰かが来た?いや美紗の友達か?それともここは他人の家かも……

なわけないか。兎に角よく確かめて見ないと。

カチャ

「酷いよお兄ちゃん、私と目が合った瞬間に扉閉めちゃうなんて!!」
「あ、ああ悪い。その……あまりにも綺麗だったからつい……」
「え?嬉しい!!お兄ちゃんに褒められた!!ねえねえどお??似合う??」

卓也に褒められてよほど嬉しいのか、その場でくるりと一回転して見せた。

いや〜〜、我が妹がこうも変わるもんとはな。

春らしく、明るい色の振袖
癖っ毛の強かった茶髪のセミロングの髪は後頭部に綺麗に髪飾りで纏められ
薄化粧された顔はほんのりと赤みがかっていた。

「うん、一気に春が来たって感じだな。似合うよ」
「良かった……、朝早く起きてお母さんに着付けしてもらった甲斐があったわ。
あ、お兄ちゃんお雑煮あるから食べよ♪」

美紗は台所からお雑煮、御節などを持ってきて、卓也はそれらを摘みつつ

「もぐもぐ……そういえば親父とお袋は?」
「二人して朝早く温泉に行っちゃった。で、お兄ちゃん……この後予定が無かったら――」

ピーンポーン
389修羅正月 ◆n6LQPM.CMA :2007/01/01(月) 23:14:14 ID:MCF5gwlb
「あれ?お客さんだ。はーい」








「お兄ちゃん、誰もいなかった……」
「はい卓也、あ〜〜ん」
「ちょ、ちょっと三択さん自分で食べれますから」
「だ〜〜め♪はい口開けて」

美紗は目の前に起きている事象が認識できなかった。

えっと、今日は兄弟水入らずでお雑煮食べて、初詣行って、お正月を満喫するはずよね。
なのになのになのになのになのになのに

「ふ――っ、ふ――っ、はい、卓也熱くないからあ〜〜ん♪」



ブチッ



「それは私がするんだから――――――――――!!!!!!!!!」

テーブルに置いてあった木刀を素早く掴み、雷光の如き突きを三択めがけて繰り出したが
三択はひょいとかわして

「んもう危ないわね。正月早々物騒だこと」
「そんなことよりあんた!!!!どうやって入ってきたの!!!」
「そこ」

三択が指差したのは、全開に開いている窓

「久々にピンポンダッシュしちゃったわ」
「まさかさっきのインターホンは…………」
「はい卓也、餅焼けたわよ。あ、寄生虫はヤキモチでも食べてれば?」
390修羅正月 ◆n6LQPM.CMA :2007/01/01(月) 23:15:15 ID:MCF5gwlb
「へえ―――――、結構人いるのね」
「この辺では一番大きい神社ですから」
「………………………」

あの後、家の耐久力の限界を超えそうだったため、三人で初詣に来た。
とはいえ三択は上機嫌に対して美紗は終始何やらブツブツ呟いていた。

「……お兄ちゃんと二人っきり……そのはず……なのに……何で……」

こりゃマズイ!!こうなった美紗は暴発寸前だ!!……よし!!

「さ、美紗本殿にお参りに行こう」

卓也はそう行って硬く握り締められていた美紗の手を握った。
一瞬驚いた美紗だったが、握られた手を見て表情が緩み

「うん!!行こうお兄ちゃん!!」

良かった。何とか機嫌が直ったか。……ん?誰かに左手握られているな

「ちょっとあんた!!何でお兄ちゃんの左手握ってんのよ!!」
「いいじゃない。私も手握りたいんだもん」

美紗は我慢の限界だった。だが、今騒ぎを起こせば折角握ってくれた卓也の手を
離すことになるだろう。それだけは避けたかった。

後でアイツの右手…………捥ぎ取ってやる!!!!!!

「それにしても三択さん、すごい格好ですね」
「え?どこが?お正月には振袖を着るんでしょ」
「振袖を着るのは間違いないですが、そんな振袖初めて見ましたよ」
「えへへ、特注で作ったんだ」

特注か……なるほど。
そりゃ特注でもなけりゃ「ミニスカ振袖」なんてないよな。

「…………歳考えろ色ボケババア(ぼそっ)」
「…………えぐれ胸(ぼそっ)」



「うわ!!やめ、何で喧嘩してんの!!あ、髪は引っ張り合うな!!」
391修羅正月 ◆n6LQPM.CMA :2007/01/01(月) 23:16:05 ID:MCF5gwlb
「やっと着いた………………」
「あんたが邪魔するから!!!!」
「それはこっちのセリフよ!!!」

神社から本殿までたかだか数十メートル。
だが、本殿に着くまで一時間。三人とも生傷だらけ。

さすがに疲れた卓也だったが、せっかくきたからにはお参りしたかった。

「さ、美紗。三択さん。お賽銭入れて今年一年の願いでもお祈りしようよ」
「うん、そうね」
「へ〜〜これが本殿ね。なるほどここにお金を入れるのね」

ちゃりーん

(今年一年無病息災、家内安全、金運開運アップアップ!!!)

卓也はお祈りを済ませ、二人を見るとまだ一心不乱にお祈りしていた。
二人ともピリピリとした、只ならぬ気迫が伝わってきた

凄い気迫だ。一体何を願ってるんだ??

耳を澄ますと、美紗の口から呟きが聞こえ

「お兄ちゃんと結婚お兄ちゃんと結婚お兄ちゃんと結婚お兄ちゃんと結婚お兄ちゃんと結婚
お兄ちゃんと結婚お兄ちゃんと結婚お兄ちゃんと結婚お兄ちゃんと結婚お兄ちゃんと結婚
子供は一姫二太郎三択死ね三択死ね三択死ね三択死ね三択死ね三択死ね」

……聞かなことにしとこう
三択さんは何だろう??
すると三択の口からも呟きが聞こえ

「卓也と夫婦サンタ卓也と夫婦サンタ卓也と夫婦サンタ卓也と夫婦サンタ卓也と夫婦サンタ
卓也と夫婦サンタ卓也と夫婦サンタ卓也と夫婦サンタ卓也と夫婦サンタ卓也と夫婦サンタ
子供はタップリ寄生虫死ね寄生虫死ね寄生虫死ね寄生虫死ね寄生虫死ね寄生虫死ね」

……誰か助けて!!!
392修羅正月 ◆n6LQPM.CMA :2007/01/01(月) 23:19:12 ID:MCF5gwlb
「さ、次はそこで御神籤でも引こうか」

見ると神社の巫女さんがお守りや破魔矢、御神籤などを売っていた

「一枚100円か。ほら美紗も引いてみろよ」
「う、うん……」

今一乗り気じゃない美紗に対して三択は

「はい100円。よ〜〜し、当りを引くわよ」

「そんなのないよ」とつっこみつつ卓也も引いてみた

「え〜〜……っと、「中吉」か。何々、「金運」普通、「健康運」普通
……どれも普通だな。ん?「女性運」修羅場警報発令!!」

なんちゅう籤だよ。三択さんは何だったんだろう

「見てみて卓也!!「大吉」だって。「金運」最高、「健康運」最高
へ――、良いじゃない。「恋愛運」願いが叶います。うふっ、じゃあ卓也は
私と結ばれる運命なのね」
「まあ所詮御神籤ですからね。「当たるも八卦、当たらぬも八卦」ってやつですよ。
ところで美紗はどうだった?」

美紗は体をビクッ、と震わせて御神籤を後ろに隠して

「ヴェ!!あ、あ、ふ、普通よ!!!「中吉」だったよ!!うんそうそう!!!」
「ふ〜〜ん、俺と同じか」
「へ〜〜〜、「超凶」が「中吉」ねえ〜〜〜??」
「え??あ、あれ?」

美紗が持っていた御神籤が何故か三択の手に握られていた
393修羅正月 ◆n6LQPM.CMA :2007/01/01(月) 23:20:53 ID:MCF5gwlb
「何々……「金運」死ね、「健康運」死ね、……あらら。まあ
ある意味くじ運はあるかも。「恋愛運」無謀ヤメロ」
「返せ!!いつの間に持っているのよ!!」

三択から取り返したクジを美紗はズタズタに引き裂き、空中にばら撒いた

「あんなのは無かった見なかった、クジッテナンデスカ」
「あ、そうだ。本殿で破魔矢と御札買って来ないと。ちょっと待ってて」

その場の冷たい空気に耐えられなくなった卓也は販売の列に並んだ。
卓也が美紗の視界から消えたその瞬間、美紗が三択の目を合わせずに

「ちょっとあんた!!何時までこの街にいるつもり?」
「卓也をゲットするまで、よ」
「そんなことはこの私の目の黒い内は許さないわ」
「だったらその目、白くしてあげる」
「……出来ると思ってるの?」
「……えぐれ胸相手だったら余裕っち」

お兄ちゃん……ゴメン。もう限界
こいつは……こいつだけは……
多分今すぐ処理しないと、未来において私たちに災いを呼ぶわ

美紗は懐から木刀を
三択は逃げる算段を

二人同時に動こうとした瞬間、一人の巫女が近づいてきた




394修羅正月 ◆n6LQPM.CMA :2007/01/01(月) 23:24:24 ID:MCF5gwlb
「いや〜〜、遅くなってごめんごめん。混んでてさ〜〜、どうしたの?」

三択は何か飲んでて、美紗は地面に倒れていた

「さあ?今貰ったこの甘酒飲んだ瞬間ぶっ倒れちゃった」
「むにゃ……お兄ちゃん大好き……」




「へ〜〜、こいつお酒全くダメなんだ」
「ええ。飲むどころか匂い嗅いだだけでこうなっちゃうんですよ」

帰り道、美紗をおぶっている卓也と隣を歩いている三択
しかし三択はニヤニヤしながら寝ている美紗を睨み付け

こいつ本当に寝てるの?羨ましい…………
だけど覚えておきなさい、12月25日には卓也はサンタになって
私と一緒にノルウェーに帰るんだからね。そう、その腕輪を嵌めてて銀色に輝く限り…………




修羅正月   完
395 ◆n6LQPM.CMA :2007/01/01(月) 23:26:50 ID:MCF5gwlb
やはり正月ネタはかぶっちゃいますね。申し訳ございません。
それでは次回2月14日にて
396名無しさん@ピンキー:2007/01/02(火) 00:15:18 ID:J+5pszCP
>>395今年初ニヤニヤktkr!!
クリスマス編読んで(続き書いてくれね〜かな〜)と密かに期待してたんでまじ嬉しいぜ。
397名無しさん@ピンキー:2007/01/02(火) 01:12:51 ID:ut+kwcqd
山本くん&キモ姉復活キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!!
ギリシャ嫉妬神話もキタキタ━━━━━━(゚∀゚≡゚∀゚)━━━━━━!!!!!!!!
正月にサンタクロースキタ Y⌒Y⌒(゚∀゚)⌒Y⌒(。A。)⌒Y⌒(゚∀゚)⌒Y⌒Y !!!!!!!!
398名無しさん@ピンキー:2007/01/02(火) 03:48:52 ID:aa0mpsbs
復活と季節物が一気に来る年末年始はやっぱ凄いな
まとめの更新履歴の日付を見ると感慨深い
399 ◆z9ikoecMcM :2007/01/02(火) 06:58:08 ID:RQAz0YS9
ちょっと遅いですが、あけましておめでとうございます。
拙い作品ですが、今年も読んで頂ければ幸いです。

投下します。
400RedPepper1/2 ◆z9ikoecMcM :2007/01/02(火) 06:59:08 ID:RQAz0YS9
昼休み。花梨はいつもの様に吉備の教室にいる。
引き戸に手をかけて、ゆっくりと息を吐く。
覚悟を、決めて………思いっきり

戸を、開ける。

教室に居る人間が、一斉にこちらを見た。
気持ちを抑えて、ゆっくりと歩く。花梨たち三人は…窓際か。
教室は、静まり返っている。…おあつらえむきだ。

机を挟んで、吉備の前に立つ。右には花梨、左には蔓だ。
右手を机について、吉備の顔を覗き込む。…目を、見据える。
「初めまして」
挨拶をする。が、返事は無い。戸惑っているようだ。…先を続ける。
「名波和三です。よろしく」
ようやく、よろしく、と返事がきた。かずくん?という花梨の声も聞こえるが、そのまま目を離さない。
そして、口を開く。
「吉備くん」
ためらわず、
「今日は」
はっきり、
「君から花梨を奪いに来た」
…と。



周囲はザワついている。が、当の本人…吉備は、キョトンとしている。
何を言われたのか理解できていないらしい。

「ど…どういうこと…?かずくん…」
先に口を開いたのは…花梨の方だった。
吉備から視線を外して、花梨に顔を向ける。…花梨も困惑気味だ。
「…花梨を無理やり俺の女にしにきた。…ということだけど?」
そう言ってやると、花梨は一瞬眉をひそめてから、顔をみるみる赤く染めていった。
…やはり怒ったか。まあ当然だな。
「な…な………何を言ってるのよかずくん!」
花梨は少々金切り気味の声で叫んだ。
「かずくんは…かずくんは私が吉備さんのことが好きだって知ってるじゃない!!
 あの時だって…私のことを応援してくれるって、そう言ったくせに!何でそんなこと!!!」
「事情が変わったからだよ花梨」
しれっとそう言って、吉備にチラリと視線を向ける。
「あの時は、まさか吉備くんがこんなに優柔不断な男だとは思わなかったからね」
そして、花梨に視線を戻す。
「花梨が不幸になるのを見過ごすわけにはいかないじゃないか。…だからだよ」
401RedPepper2/2 ◆z9ikoecMcM :2007/01/02(火) 07:00:06 ID:RQAz0YS9
「そんなの…勝手よ!大きなお世話よ!」
「…聞いてなかったのか?花梨。…俺は、花梨を、奪いにきたんだ」
花梨の目を見つめて…宣言する。
「だから、花梨がどう思おうと関係ない。無理やり吉備から引き離して、俺のものにする」

しばらく花梨と睨み合ってから、視線を外して吉備の方を向く。
吉備の顔は強張っている。状況は飲み込めた様だな。…吉備、ここからが本番だ。
「さて、そこでだ。…花梨をすんなり渡してくれないか?そうしてくれると、少しは楽になるんだけどね」
吉備の目を見据えると、吉備もそのまま見返してきた。…意外だな。
「…断る」
「なぜ?」
「君のような人間に彼女は渡せない」
…なかなか言葉を選ぶのがうまいな。
「じゃあ俺が立派な人間なら喜んで渡してくれるのか?」
「…っ、それは…」
吉備の顔に動揺が走った。追い討ちをかけるなら、今だな。
「違うだろう?君が花梨を渡したくないのは、別の理由があるはずだ。…それは?」
「………それ…は…」
さすがに俺が何を言わせたいのか気づいたみたいだな。さあ、どうするんだ吉備?
「花梨さんは、ぼくにとって大切な人だから…」

…甘い。

「それは、そこの彼女よりもか?」
そう言って蔓のほうに視線をずらす。吉備もつられて蔓を見て、
「えっ…ぅあ………」
そのまま固まった。…無理もない。蔓はすごい形相だ。嫉妬むき出しの、まさに般若の顔。
だが、容赦はしない。
「もう一度聞くぞ。…そこの彼女より、花梨のほうが大事なんだな?」
吉備の首が、ギギギとイビツに動いてこっちを向き………口を開いた。
「……同じ…位…」
「…同じ?」
突然、ガタンと音を立てて吉備が立ち上がった。



「そうだ…そうだッ!僕は…僕は花梨さんも蔓さんも同じくらい好きだ!どっちも愛してる!悪いかぁッ!」



………物音一つ、しない。ただ、吉備のゼイゼイ肩で息をする声が聞こえるだけだ。

右を見る。花梨は…ポカンとした顔をしている。放心状態だ。
左を見る。蔓は…あんぐりと口を開けて、遠くを見つめている。
後を…見なくても分かる。皆あきれて声も出せないのだろう。

しかしまあ、どうしたものか。…いや、もう吉備には何もする必要は無いのか。



「花梨…花梨!ちょっと一緒に来い」


402名無しさん@ピンキー:2007/01/02(火) 10:44:47 ID:+T358yVF
いいぞ ベイべー!
どちらか選べない奴は修羅場男だ!!
選んで修羅場る奴はよく訓練された修羅場男だ!!
ホント 修羅場は地獄だぜ! フゥハハハーハァー
403名無しさん@ピンキー:2007/01/02(火) 10:51:37 ID:MJwLCK1b
待ってました!!
吉備君がこれからどうなっていくのか気になりますね
GJ!!
404 ◆tVzTTTyvm. :2007/01/02(火) 15:19:36 ID:M5FPNvgG
既に二日だけど あけましておめでとう
正月早々から沢山作品が投下されてて
今年も修羅場に満ち溢れた良い一年になりそうだ

>401
>どっちも愛してる!悪いかぁッ!
悪いに決まってるだろw だがこのスレ的には最ッ高の答えだw
あと、かずくんがカッコいいぞ

>377
痛ぁい! ごめん!
このやり取り最高w あと神社の名前も最高w

じゃ新年一発目の投下イキます
405白き牙 ◆tVzTTTyvm. :2007/01/02(火) 15:25:05 ID:M5FPNvgG
<div align="center">+      +      +      +<div align="left">


「すー―っ……はぁ……っ」
 リオは深く深呼吸をし、そして目の前のドアノブに手を掛けようとするが、
だがドアノブに指が触れる直前手を引っ込めてしまった。
 掌を見ればじんわりと汗ばんでいた。 そんな掌を見ながら零れる溜息一つ。
 リオは一度目を閉じると再び瞼を開け目の前の扉を真っ直ぐ見据えた。

 今リオが立って言る場所、それはコレットの家の前。
 休養や調べ物の為の定期的な村への帰還。
 だが今回のそれはいつものそれとは大きく異なる事が一つ。
 ある、大事な事を伝える為にも戻ってきていたのだ。
 だが其の伝えなければいけない事の内容を思うとの気持は鉛のように重かった。
 それでも逃げるわけにはいかなかった。
 そして覚悟を決めドアノブに手を掛けようとした瞬間――。

「おかえりなさいリオ」
 其の声にリオが振り向けばそこには良く見知った幼馴染の顔。
 いつもは、今までは其の笑顔に迎えられ旅の疲れを癒される想いだったが、だが今回は……。
「た、ただいまコレット」
「今回は随分長かったわね」
 今回の冒険はクリスの大怪我などもあった為村に帰るまで
いつも以上に時間が空いてしまったのだ。
「う、うん。 まぁね……」
「まぁ、良いわ。 疲れてるでしょうし積もる話は中でしましょう」

 そしてコレットに通されリオはテーブルに着いていた。
「お腹空いてない? 簡単なのなら直ぐできるけど?」
「ありがとう。 でも大丈夫、未だそんなに空いてないから。
それより……大事な話があるんだ」
「どうしたのリオ。 何? 大事な話って。 そんな真剣な顔しちゃって……」
「じ、実は其の……こ、婚約の事なんだけど……」
 リオは声を振り絞るようにして口を開いた。
 そうしてリオの口から出てきた言葉にコレットは思わずドキリとした。
406白き牙 ◆tVzTTTyvm. :2007/01/02(火) 15:26:03 ID:M5FPNvgG
 ――婚約。 そう、リオとコレットは結婚の約束を交わしていた。
 この冒険が終わったら、リオが魔王討伐の使命を無事果たせたのなら一緒になろうと。
 そう約束を交わしていたのだ。
 だがそれは裏を返せば使命を果たすまでは――魔王を倒すまでは結婚出来ないと言う意味。 其の話を今ココに来て持ち出すと言う事は――。
 思わずコレットの胸は高鳴った。

 魔王を倒す。 それはあまりに途方も無い夢。
 確かにリオが魔導士としての才能に満ち溢れてる事をコレットは誰よりも良く知ってた。
 だがその溢れんばかりのリオの才能と努力をもってしても困難と思えた。
 ゆえにコレットは不安になる事も多かった。
 魔王を打ち滅ぼし自分とリオが結ばれる日が本当に来るのだろうか、と。
 そんな思いに駆られ不安になる事も少なくなかった。

 だが最近になって事態は好転してた。
 そう、待ちわびてた打倒魔王の切り札、すなわち勇者の出現。
 そして其の勇者が紛れも無い本物であったと言う事。
 何せ今まで誰も敵わなかった魔王の腹心の部下である魔将軍達を
次々と打ち倒して見せたのだ。
 魔王が打ち倒される日の到来に現実味を持たせてくれたのだ。
 そうした事態が良い方向に進む中改めて切り出された婚約の話。
 これは、若しかして……いや、きっとそうに決まっている。
 魔王討伐の目処が立ってきたから改めて其の確認で、
いや若しかしたら式の日取りや日程……。

 コレットの頭の中には期待に満ちた妄想で溢れ始めていた。
 そして其の妄想を決定付ける言葉が出るもの、という期待を込めてリオの次の言葉を待った。
 コレットの視線がリオに、特にその口元に釘付けになる。
 視線だけではない。 其の耳もまた紡ぎだされる言葉を決して聞き逃すまいと
最大限の意識を、集中力を向けていた。 まるで心臓の鼓動までも拾えそうなほどに。
 そんなコレットの視線を、想いを、其の身に浴びながらリオは口を開く。
407白き牙 ◆tVzTTTyvm. :2007/01/02(火) 15:27:06 ID:M5FPNvgG
「ゴメン……コレット。 無かった事にして欲しいんだ。 婚約の、事は……」
 そして紡ぎだされた言葉にコレットは自分の耳を疑った。
 いや、言われた事の意味が理解できず思考が凍りついたと言った方が良いだろうか。
 その言葉があまりにも予想とかけ離れすぎた、全く想像もしてなかったものだったから。


 リオは押し潰されそうだった。
 ――空気がよどみ其の重さを増し、其の重圧がのしかかってくるかのような錯覚に。
 分かっていた事だった。 分かりきっていた事だった。 何度も予想してたことだった。
 自分の言った言葉がコレットをどれだけ傷つけ、呆然とさせるかと言う事は。
 十分予想した上で、覚悟の上で話したはずだった。
 それでも其の罪悪感後ろめたさから来る重圧はとてつもない重さだった。

「うふっ……、ふふふ」
 突然笑みをこぼし始めたコレットにリオは困惑の色を浮かべる。
「アハハッ。 もう〜リオったら冗談キツいんだから〜。
そんな嘘言って私を驚かそうだなんて人が悪いわよ?」
「い、いや……、嘘や冗談なんかじゃなくって……」
「リオ!!」
 コレットはリオの言葉を遮るように言葉を発した。
 其の顔は俯ききつく握り締められた拳は震えていた。
「ねぇリオ……。 じょ、冗談だよ……ね。 う、嘘……」
「ゴ、ゴメ……」
「嘘だって言ってよ!! ど、どうしてよ?! どうして……、どうしてなの?!
わ、私のこと嫌いになっちゃったの?!」
「そんな事、無いよ……。 だけど……」
「だ、だったら何で……!」
「だけど! ……違うんだ。 確かにコレットの事は嫌いじゃないし好き……だよ。
でも……違うんだ。 あくまでもそれは幼馴染や妹みたいな、そんな感じで……。
そう言う気持で婚約とか結婚とかは……」
 "バンッ!!"と大きな音がリオの言葉を遮った。 コレットがテーブルを両手で叩いた音だ。

「幼……馴染? 妹……みたい? だから結婚、できない……って言うの?」
 其の言葉にリオは頷こうとしたが――。
「ふざけないでよ!!」
 其の言葉を遮るようにコレットは叫んだ。
「だから?! だからそれが婚約を無かった事にして欲しい理由だっていうの?!
そ、そんな事……。 リ、リオが私のこと幼馴染や妹程度にしか思ってないことなんて
とっくの昔から知ってるわよ!!」
 其の言葉にリオは驚きの表情を見せ、そんなリオをコレットはキッと睨み据えた。
408白き牙 ◆tVzTTTyvm. :2007/01/02(火) 15:29:23 ID:M5FPNvgG
「そうよ! とっくに気付いてるわよ! 当たり前でしょ?!
一体何年幼馴染やってると思ってるのよ?!
気付いていたわよ。 だ、だって……、い、今まで……、
婚約を交わした後だって一度だってリオからキスしてくれた事無かったじゃない!!
初めての……初めてのキスの時だって私から不意打ちみたいにしたのだったじゃない!!!
旅のお土産やプレゼントだって私がお願いしなければ買ってきてもくれないじゃない!
以前貰ったのとおんなじ髪飾り買ってきた事だってあったわよねぇ?!
知ってるわよ! 分かってたわよ! リオが私のこと其の程度にしか思ってないことぐらい
ずっと前から気付いていたわよ!!
でもね! それでもね! 私はリオの事が好きなの!! 大好きなの!!
リオ以外の男のことなんか考えられないの! リオを他の女なんかに取られたくないの!!
ねぇ、リオ。 知ってた? 村の中にどれだけリオのこと好きだった娘が多かったか。
リオが旅に、冒険に出てる間、旅先で誰とも知れない女に目を付けられてやしないかって
私がどれだけ不安な気持に駆られてるか知ってた?!
ずっと……、ずっと不安だったんだから!!
だから……、だから多少強引にでも婚約を迫ったのよ?!
今だから言うけどね、お父様もお母様も最初私とリオとの婚約に賛成してくれなかったのよ?
そりゃね、お父様もお母様もリオの才能を高く評価して認めてくださってたわよ!
その才能のために惜しげもなく援助してくださったわ。 でもね結婚となると別だったのよ……。
だって何時命を落とすとも知れないそんな危険な冒険に身を置くことを常としている
魔導士になんかに娘を嫁がせられない――そう言って反対されてたのよ?!
でもね、それでもどうしてもリオと一緒になりたかったから私一生懸命説得したの!
それに持ちかけられたお見合いや結婚の話だって数え切れないぐらい多かったのよ?!
それこそ貴族や大商人や王族の遠縁のヒトや、人から見れば羨むような縁談だって沢山あったし、
それを断わってお父様と大喧嘩した事だってあったのよ?!
だから……だから婚約を取り付けられたとき本当に、本当に嬉しかった……。
なのに、それなのに……今更無かった事にしてくれなんてどう言う事よ?!!」
409白き牙 ◆tVzTTTyvm. :2007/01/02(火) 15:31:55 ID:M5FPNvgG
 コレットの両の瞳からは涙が溢れていた。
 其の涙にリオは抉られるような胸の痛みを感じながら振り絞るように口を開く。
「ゴメン……。 でも、だ、だからそれは……、お、幼馴……」
「幼馴染で恋愛感情が芽生えないから?! べ、別に良いじゃない!!
い、いいわよ! いや本当は良くないけど……で、でも!
リオが私の事そう言う風にしか見てくれなくったって、
わ、私が……私が其の分までリオのこと大好きならそれでいいじゃない?! ねぇ?!
よ、世の中にはねお見合いとかで結婚して、恋愛とか経ないで、
それでも上手くいってる結婚や夫婦なんて幾らでもいるのよ?!
きっと私達だって上手くやっていけるわよ!!
だから……だから婚約を解消する何て言わないでよ!!!!」
「ゴメン……確かに……その、恋愛感情なんか無くっても、って以前はそう思ってた……けど」
「けど?! けど何よ?! 他にも理由があるって言うの?!
……女? ほかに好きな女が出来たの? だから私と婚約解消した言って言うの?!
誰よ?! どこの泥棒猫よ?! わ、私の……私の知ってる女なの?!」
 リオは黙ったままだった。 だが其の表情からコレットは読み取った。
 其の"女"が自分も知ってる人間だと言う事を。

 コレットはリオの胸倉を掴んで問い詰める。
「誰なの?! 答えなさいよ?!! ポーラ?! ジャネット?! リンダ?!
それとも……?!」
 コレットは自分の知ってる限りの女の名前を叫び続けた。
 其の名前の殆どが古くから知る同じ村に住んでる娘達である。
 だがどの名前にもリオの表情は反応を示さない。
 コレットは言えるだけの知ってる娘の名前を言い尽くした。
 だがリオの表情から手ごたえを感じ取れる名前は無かった。
 まさか自分の知らない相手だろうか、とも思ったが其の考えを直ぐ否定する。
 知ってる女なのか、と聞いたときのあの反応からこの推測は間違ってないはずだとの
確信はあった。

 じゃぁ一体――。 その時未だ一人だけ口にしてない名前があった。
 まさか、そんなはずは――。 コレットはその可能性を否定しようとする。
 何故なら彼女はこの世界に救いの光をもたらす救世の使命を帯びた伝説の勇者さま。
 そんな人が自分とリオとの婚約を知っていながら、
そんな泥棒猫みたいな人の路に反した真似をするわけが無い――。
 そう思いながらもコレットはその名前を口から紡ぎだす。

「セツナ……?」
 其の名前に、リオの表情が動いた。


To be continued...
410名無しさん@ピンキー:2007/01/02(火) 15:54:05 ID:Cdb6qGYg
GJ!
リ、リオの身が危ない!?
411名無しさん@ピンキー:2007/01/02(火) 16:02:39 ID:EmxImOzj
GJ…あっ…死亡フラグ…
412名無しさん@ピンキー:2007/01/02(火) 16:50:14 ID:OMaqdbTa
「恋する女は美しい」という言葉を聞いた事があります
なら一途な愛を持つなら更に尊いんでしょうね
413名無しさん@ピンキー:2007/01/02(火) 18:31:19 ID:zgqwyOwd
どこかの10分間問い詰め並に凄いですね
414名無しさん@ピンキー:2007/01/02(火) 18:34:36 ID:uFVWGa1c
吉野家か?
いやあれは小一時間か
415名無しさん@ピンキー:2007/01/02(火) 19:37:19 ID:dg8hXsjQ
このまま首をキメられたら殺られる
416名無しさん@ピンキー:2007/01/02(火) 19:54:41 ID:EE2dOH4L
>>401
よっしゃ、名波が漢を見せたな。
これで花梨が吉備を選ぶようなビッチなら四ツ川とくっ付いちゃえ!
・・・その後吉備に捨てられた花梨と修羅場りそうだが・・・ww
417名無しさん@ピンキー:2007/01/02(火) 19:58:38 ID:4duRUkJo
>>414
Windだな。
詳しくはググるべし
418山本くんとお姉さんSP ◆RiG2nuDSvM :2007/01/02(火) 21:58:45 ID:t+0AiLUu
『山本くんとお姉さんSP』、中篇を投下します。
このレスを含めて11レス頂きますが、たぶん連投規制にかかると思われます。
途中で投下が止まっちゃってたら、ゴメンなさい。
その場合は、私に構わずに書き込んだり投下したりしちゃってください。
規制で書き込めなかった分は、頃合をみて改めて投下しますので。

↓↓↓ここから
――――――――――――
<4>

>2007年1月1日、午前11時
>須登丘神社

「わぁ、やっぱりお正月は賑やかだね!」
「いつもは全然、人がいないのにねぇ〜」

人ごみのごったがえす中を二人、腕を組んで歩く。
参道には露天が立ち並び、たこ焼きや大判焼の香ばしい匂いが漂ってきた。
姉さんの雑煮によって胃袋崩壊さえおこしていなければ、存分に食欲を刺激されていたことだろう。
……それでもまぁ、こういう雰囲気を見ているだけでも、なんだかウキウキしてくるものだ。
ホラ、あの人の晴れ着なんか、すごく艶やかだよねぇ。うわぁ、綺麗なひとだn

―――痛ッ!?

「ごめんね、秋くん。足ふんじゃった」
「……ううん、いいんだよ」

前見て歩いてなかった、僕が悪いんだ。

    *      *      *      *      *

「んっ、んっ、ん〜〜っ! 前が、みえない〜」

姉さんが、一生懸命背伸びしている。
拝殿の前に人が群がっていて、とても近寄れないのだ。
ここから五円玉を投げようと思っても、お賽銭箱自体もなかなか見えない。

人の頭の波間から、お賽銭を握り締めた腕だけ突き出して、ふりふり振っている姉さん。
放っておくと、目の前のおっさんの後頭部に五円玉をぶつけそうだ。
そっと手の平からお賽銭をもぎとって、代わりに投げてあげる。ついでに自分の五円玉も投げる。

さてと。お願いごとは―――
そうだなぁ。やっぱり、『家内安全』だよな。
これしかないだろう。
二拝二柏手一礼して、今年も平穏無事に暮らしていけるよう、神様に祈る。

「秋くんが………て…………秋…………わた……………秋く………対………」

手を合わせて、とても真剣にお願いごとをしている姉さん。
ブツブツと漏れ聞こえる呟きが、明らかに僕の名前を指している。
――きっと、僕のことばかりを、色々とお願いしてくれているんだろうな。
……姉さんは……本当に弟想いの、優しい人だよな……。
いつも僕のことばかり、心配してくれて……。

きゅっと胸が締め付けられる思いと、『家内安全』ではなんだか申し訳ない想いが沸き起こる。
だから僕は、財布から二枚目の五円玉を取り出した。
お正月の神様は、これだけ沢山の人のお願いを聞いても忘れないほど記憶力がいいんだ。
もうひとつぐらいなら、なんとか耳の端にでも残しておいてくれるさ。

『姉さんが、しあわせになれますように』
419山本くんとお姉さんSP ◆RiG2nuDSvM :2007/01/02(火) 21:59:38 ID:t+0AiLUu
……。
………うん。これで、いい。
さて、と。

「姉さん、そろそろいこうか?」

『――今年こそは秋くんに襲われますように。今年こそは一線越えて、既成事実ができますように――』

「おーい、ねえさん。もういくよー?」

『――秋くんによその女が近づかないように。秋くんがお姉ちゃん以外に興味をもたないように。
 秋くんがお姉ちゃん以外で自慰に耽らないように。あと、藤原里香がのたれ死ぬように――』

    *      *      *      *      *

「あ、破魔矢買わなきゃ。秋くん、売店寄ってこ?」

参拝が終わるとすぐに、姉さんにずるずる引っ張っていかれた。
お正月は神社のかきいれどきだ。売店もなかなかの人だかりである。
……そうだなぁ。来年は僕も受験だから、学問のお守りでも買っておこうか?

「破魔矢くださーい」
姉さんは、売店の巫女さんにそう注文した。

「『学業成就』のおまもり下さい」
僕は、巫女さんにそう注文した。

「あ、『安産』のおまもりくださーい」
姉さんは、巫女さんにそう注……

…………。
……安産……?
???

「秋くん、呆けた顔してどうしたの?」
「え? あ、いや……」

……ふかいこと考えるのはよそう。
巫女さんが、お守り二つを小さな紙袋に包んでくれる。
この巫女さん、なんか大和撫子って感じだよなぁ。すごく清楚で可愛いらs

―――痛ッ!?

「ごめんね、秋くん。破魔矢刺さっちゃった」
「……ううん、いいんだよ」

ぼやっとしていた、僕が悪いんだ。
420山本くんとお姉さんSP ◆RiG2nuDSvM :2007/01/02(火) 22:00:15 ID:t+0AiLUu
<5>

「あれぇ? 亜由美ぃ!?」

帰ろうとした矢先、姉さんが名前で呼び止められた。
振り向けば、茶髪のおねえさんがカラカラ笑っている。

「さゆり……」

この人は姉さんの大学の友達、さゆりさん。
サバサバした感じの、気持ちのいいおねえさんだ。
一度だけ家にも来たことがあるが、その時に初めて会って以来、姉さんは二度と連れてこようとはしない。

「あけましておめでとうございます、さゆりさん。お久しぶりですね」
「あ〜、秋人君……だっけ? ちょっと見ない間に、身長が伸びたねぇ〜。
 ―――――……って、亜由美。人が会話している間に、割って入らないでよ」

僕の前に立ち塞がって、わたわたと手を振る姉さん。
仲、悪いのかな……? 

「うんうん、イイ男になってきたねぇ〜。よし、18歳になったらお姉さんが相手をしてあげようっ!
 ―――――……って、亜由美。今の冗談だから、その顔はやめて」
 
通りがかりの参拝客のみなさんが、怯えたような表情をしている。
姉さんの顔に、何かついているのだろうか……?

「さゆり。わたしいま、忙しいんだけど」
「忙しいってアンタ……弟と腕組んでただけでしょーが。向こうに、エミもみいもトーコも来てるよ?
 アンタ付き合い悪いから、ちょっとぐらい顔出してきてやんなさい。
 ―――――……って、亜由美! 露骨に嫌そうな顔すんな!」

……。
どうやら姉さんの友達が、揃って参拝に来ていたようだ。

「姉さん、お友達に挨拶していきなよ? 僕はそのへんブラブラしてるから」

姉さんは僕の世話をすることに時間を割きすぎて、自分のことに関しては無頓着なきらいがある。
弟にとってそれは、姉を犠牲にしているようで、心苦しさを感じることでもあるのだ。
……優しすぎるんだよ、姉さんは。
もっと自分の友達付き合いとかも、大事にして欲しかった。
花の女子大生なんだから、もっともっと自由に遊べばいいと思う。――そ、その、オトコ遊び以外で。

「ん……。でも、せっかく秋くんと……」
「いい弟さんじゃないの〜。安心なさい、しばらくの間、あたしが秋人君の相手しといてあげるから」
「――駄目ッ!!! さゆりも一緒にくるのッ!!!」

さゆりさんをずるずる引っ張って、ぷりぷりしながら姉さんが行く。


……
………
「もうっ! みんなどこにいるのよっ! せっかくの二人きりの時間を邪魔してぇッ!!」
「アンタいつも二人きりで暮らしてるんでしょうが! ……ってゆーか、マジで弟を狙ってたの!?」
「だから! マジも大マジだっていつも言ってるでしょうがッ!!」

初詣で賑わう喧騒の中、何を言っているのかは聞こえないが、二人は言い争いをしながら消えていった。
421山本くんとお姉さんSP ◆RiG2nuDSvM :2007/01/02(火) 22:00:52 ID:t+0AiLUu

    *      *      *      *      *

……さて。
そんじゃ僕は、時間つぶしにお御籤でもひいていこうかな。
さっきの巫女さんのところに戻って、御籤筒を振らせてもらうことにする。

『末凶』

………。
ブービーだ。ドン底である『大凶』よりは一歩だけマシだから、良かったとしておくべきなのか?
どれどれ、内容は……。

『女難の相あり』 ―――女難……? はて、心当たりはないけど……。
『待ち人来まくる』 ―――なんだこれ? こんな記述って、普通のお御籤にあるのか?
『白刃に遭う凶相あり』 ―――なんだよこれはッ! こ、こわいじゃないかッ!?

な、なんかやだなぁ……。
このお御籤、向こうの木に結んでおこうっと。
悪い結果のお御籤は、利き手じゃない方の手で木に結ぶと“困難を克服できる”んだ。


……
………

沢山の白い紙に纏わりつかれたご神木は、甚だ迷惑そうに境内の一角に佇んでいた。
僕と同じように、それぞれの作法でお御籤を結んでいる参拝客たち。
絵馬に想いを書き綴っている人たちもいる。
『祈願、根取川大学現役合格!』『無病息災。妻の安産を願ふ』『あの泥棒猫に死を……許さない』
色んな想いの篭った絵馬が、ところ狭しと掲げられている。

――そんな中。
ふと、見知った姿を見かけたんだ。

濡れるような長い黒髪。燃え立つほどに赤く瑞々しい唇。
寒空の下でうっすらと頬にさした紅が、その純白の肌をより一層引き立たせている。
この人ごみの中でさえ、人目を惹き付けざるを得ない美少女っぷりは、間違いない。

「あずっ!」

山本梓。僕のひとつ年下の従妹だ。
ごそごそ絵馬にペンを走らせていた彼女の肩を、ポンと叩いた。

「ココで会うとはぐうぜんだねぇ! あけまして、おめでと――――お?」

振り向いた梓の顔は、ゆでだこ状態に真っ赤で。
さっきまで書いていた絵馬を、さっと後ろ手に隠してしまって。
いつものクールビューティーもどこ吹く風、あわあわとしどろもどろに口を開いた。

「――あっ、あ、あっ、秋人さんっ!? お、おはよ、じゃない、おめでとう、ご、ございますっ!」
「……あ、うん……。ごめん、邪魔しちゃったかな……?」
「い、いえぇッ! も、もう帰るところでしたから!」
422山本くんとお姉さんSP ◆RiG2nuDSvM :2007/01/02(火) 22:01:27 ID:t+0AiLUu
そんな梓に、僕もそれ以上の追及ができない。
――チラと。
梓が振り向く瞬間に覗いた絵馬の文字が、僕の胸に突き刺さっていたから。

『お兄ちゃん』

それだけが。
その文字だけが、目に焼きついている。

なにを……書いたのだろうか……?
……『お兄ちゃん』とは、僕のことなのだろうか……?
彼女は決して教えてくれないだろうけれど………気になって仕方がなかった。

あずは……
あずはまだ、僕のことを、『お兄ちゃん』と呼んでくれるのだろうか……?

    *      *      *      *      *

「おまたせ秋くん〜! ………って、ええええええええええッ!?」
「あ、姉さん。そこで偶然、あずに会ったんだよ」
「あけましておめでとうございます、亜由美さん」
「……あ、あけまして、おめでと……」

カチンコチンに固まっている姉さん。お友達とお話しが盛り上がって、疲れちゃったのかな?
なら、そろそろ家に帰らないと。

「あずは一人なのかい? 一緒に帰ろうか?」
「あ、はい! ちょうど初詣の帰りに、秋人さんの家へ伺おうと思っていたんですよ」
「そっか」
「父から伝言なんです。ご馳走を用意するから、今日は家に夕飯を食べにきてくれって。
 久しぶりに、お二人の顔を見たいそうですよ?」

お正月にさえ日本不在の父母に代わって、僕たち姉弟の保護者代わりをしてくれているおじさん。
自宅が近所で僕の家から歩いて行けるのだが、肝心のおじさんが多忙なので会えない時の方が多い。
でもさすがに元日ぐらいは、家でのんびりしているみたいだった。
……それなら年賀参りをしておかないとな。いつもお世話になっているし。

「そっか。じゃ姉さん、このままおじさんの家に直行しようよ。夕ご飯の心配もしなくていいし――
 ―――――……って、姉さん。まだ固まっているの……?」


神社の一角に佇む、お地蔵さん。
それが姉さんだった。
423山本くんとお姉さんSP ◆RiG2nuDSvM :2007/01/02(火) 22:02:04 ID:t+0AiLUu
<6>

>2007年1月1日、午後3時15分
>叔父さん邸

「あーーーーーーーっ! 秋人くぅぅううううううううううんっ!!!」
「こ、こんにちわ」
「やあぁぁぁぁぁぁん、ひっさしぶりぃいいいいいいいいっ!!!!」
「あ、や、ご無沙汰してます……」

抱き締められた。
張りのある大きな胸の中に、むにゅうっと顔が埋められる。
あわ、わわわわ。

「――――――オバさん」
「――――――お母さん」

背後から、底冷えするような二人の声が聞こえてきた。


…… 
………

この人は、山本茜さん。僕の叔母にあたる人だ。
梓のお母さんだけあって大変お綺麗な、まだまだお若い35歳である。

「秋人くーん、うしろの人達が睨むよぉ」
「あっ、やっ、それは」

「――――――オバさん、おじさんの前でふしだらですよ……」
「――――――お母さん、年を考えてください……」

……どうしたことか。
豪邸であるこの叔父さん宅の照明が、少しずつ暗くなっていくような気が……。
暗雲が、まわりに立ち込め始めていた。

「あ、あの、叔母さん。ちょっと、離してもらえませんか?」
なんとなく身と周囲の危険を感じて、そっと叔母さんを窘める。

「……つれないなぁ〜。秋人くんが赤ちゃんの頃は、よくおむつを代えてあげたのに……。
 麻美ちゃん以外で、最初に秋人くんのおちん○ん触ったのは、叔母さんなんだよぉ?」
「で、でも今はですねぇ――」
「おっぱいだって、麻美ちゃんが居ない時は、叔母さんのを飲んでいたんだよ?
 秋人くん、ちゅっちゅっ、ちゅっちゅって。すごい勢いでしゃぶりついていたんだから」

――な、なにぃッ!?
おむつの話はよく聞いていたが、おっぱいまで貰っていたとゆーのは初耳だったッ!!

「そうだったんですかぁ!? ……姉さん、知ってた?」

姉さんはどういうわけか、僕の背後でまたまた石化を始めていた。

「…………乳兄妹…………」

あずがぼそっと、何かを呟いた。
424山本くんとお姉さんSP ◆RiG2nuDSvM :2007/01/02(火) 22:02:43 ID:t+0AiLUu
………
……


「やー秋人君、久しぶり久しぶり! おぢさんとビール飲もう?」
「おじさん! あけましておめでとうございます!」

赤ら顔で出てきた、でっぷりとしたこの人が僕の叔父さん。山本篤志さん。
大手不動産会社で重役をしている、えらい人なのだ。

「男の子がいると、酒を酌み交わせるのがいいねぇ。さぁさぁ、おぢさんとビールを飲もう」
「あー、僕まだ未成年ですから……」
「正月ぐらいいいよいいよ。保護者であるおじさんが許す! さぁ、おぢさんとビール飲もう」

酒気を漂わせながら、おじさんが僕の背中に手を回し――

――突き放された。
僕の右腕に姉さんがしがみつき。僕の左腕をあずが引っ張って。
僕の腰に抱きついた叔母さんが、おじさんから思い切り引き離す。

「駄目ですッ!! 秋くんがビール腹になったら困りますッ!!」
「……お父さんの息、お酒臭いからアッチいってください」
「あなたは手酌酒がお好きでしょうにぃ? 一人で飲んでてくださいねぇ?」

「………」
「お、おじさん……」

一家の家長は、ひとりショボンと居間に戻っていく。
男性側の権力が極端に弱いのは、山本家の伝統だった。

    *      *      *      *      *

「いいお肉があるから、今日はすき焼きにするからねぇ!」
「……あ、ちょっと! 秋くんの分はわたしが作るからいいですっ!」
「なぁにぃ、亜由美ちゃん? 今日ぐらいは主婦しなくてもいいじゃない〜」
「かまいませんっ! 秋くんの好みは、わたしが一番知っているんですから!」
「あん、亜由美ちゃん邪魔しないでよ〜」
「――ほら、このネギなんか! これじゃ駄目ですっ!
 秋くんはおネギが苦手なんですから、もっと小さく切らないと食べられないんですっ!」
「じゃあ切るわよぉ〜」
「わたしが切るからいいですっ!」
「それなら叔母さんは、お味噌汁を……」
「このお味噌汁、駄目ですッ! 秋くんは、夕食には合わせ味噌って決まっているんですッ!」

あ、あのぉ……。
僕は別に食に拘りがあるわけではなくて、姉さんに出されるままの物を食べているだけなんですが……。
……ま、まぁいいか。

台所に突撃して、叔母さんと奪い合うように料理を始めた姉さん。
お正月から、働き者だよなぁ。

「秋人さん秋人さん」
「はいはい?」
あずが僕の服の袖をつまんで、ちょいちょいと引っ張っている。

「お暇でしたら、ちょっとお願いしたいことがあるのです。……宜しいですか?」
425山本くんとお姉さんSP ◆RiG2nuDSvM :2007/01/02(火) 22:03:15 ID:t+0AiLUu
<7>

巨大な液晶テレビと、5.1chのホームシアターシステム。
棚には処狭しとDVDソフトが並び、壁には防音素材使っているこの部屋は、あずの家のAVルームだ。
完全無欠に豪華仕様である。

「これなんですよ」
「こ、これはッ!?」

あずが手に取って差し出した、少し大きめの白い箱。

「――これは、仁天堂の『Wee(うえぇ)』じゃないかッ!!」

『うえぇ』とは、昨年末に発売されたばかりの仁天堂最新型のTVゲーム機だ。
リモコン型のコントローラーを振り回して、身振りや手つきで体感型のゲームを楽しめるという。
孝輔の奴が欲しがっていたけど、バイト代が入った頃にはどこも売り切れ御免で、悔しがっていたもんだ。

「買ったの!?」
「いえ、頂きものなんです。父が取引先の方から頂いたそうで」

へぇ〜。
やっぱえらい人になると違うんだな。貰えちゃうのかぁ。

「でも、どうして箱の中に入ったままなんだい? 遊ばないのか?」
「繋げ方とか使い方とか、全然分からなくて……」

おじさんの家は、こう見えて家族全員機械音痴なんだ。
この部屋の家電を買う時も、街の個人経営の電気屋さんに注文して、配線から設置まで全部お任せらしい。
大手量販店のチラシを見比べるのが楽しい庶民とは違う、ブルジョアな買い方である。

「折角頂いたものを一度も使わないのは、先方に失礼ですし……。秋人さん、なんとかなりませんか?」
「セットアップすればいいんだね? ようし! お兄ちゃんにまかせとけいっ!」
「………お願いしますね」

さりげなく、“お兄ちゃん”にアクセントをつけてみた。
あずの変わらない反応に、また寂しさが募る――

………
……


「――よっ?」
「わあぁっ! すごいすごい!」

難なくTVと無線LANに繋がった『うえぇ』。
とりあえず、一緒に置いてあった『うえぇスポーツ』というソフトを起動させている。
色んなスポーツのゲームを遊べるようだが、僕が得意なスポーツといえば中学までやっていた野球だ。
なので、まずは“ベースボール”を選んだ。

「――はっ!」
「すごーい! すごーいっ!」

……なるほど。
この『うえぇ』というゲーム機の仕組み、だいぶ分かってきたぞ。
要するに振った時のタイミングと向きが重要で、振る勢いなどは感知できないらしい。
逆に言えば、そこにさえ気をつければ、手首のスナップだけでもホームランが出せる。
正確なフォームで気張って振ると、流すつもりがセンター返しになったりして、思惑が外れるようだった。
426山本くんとお姉さんSP ◆RiG2nuDSvM :2007/01/02(火) 22:03:52 ID:t+0AiLUu
ウーム……。どうせなら、肘と腰と膝にもセンサーをつけたらいいのに。
プレイヤーのスタンスとバッティングフォームまで感知して、打球の動きを計算してくれたらなぁ。
理想的なバッティングゲームになりそうなんだが―――仁天堂さん、なんとかしてくれないかねぇ?

……まぁ、でも。

「すごいすごいっ!」

目をキラキラ輝かせて、無邪気にはしゃいでいるあず。
ゲームに慣れていない彼女には、このゲーム機の仕組みなんかには考えが及ばないのだろう。
実際に野球が上手くなければホームランが出せないとか――そう思っているに違いない。
そして純粋に、“格好よくバット(に見立てたリモコン)を振る僕”を見て感動しているのだ……。

……だから。
姑息にホームランを出すテクニックよりも、彼女を喜ばすパフォーマンスの方がずっと重要だと悟った。
ぶった切り打法やらフラミンゴ打法やら、特に見栄えのするスタイルを色々と試してやる。
本当に野球をしているように、大袈裟にバッティングをした方が、彼女は喜んでくれるのだから。

「わぁっ! またほーむらんだぁっ!」

こんなにも無防備で、無邪気で……。昔の、あの頃のように笑ってくれるあず。
こんな彼女に会えたのは、ほんとうに、ほんとうに、
ひさしぶりだから……。

「お兄ちゃん、私もやるっ!」
「ハハ。はい、それじゃ交代。……………………………ぇ?」
「……………………………ぁ」

……今、なんて言った……?

慌てて口元を押さえたあず。
僕の手からリモコンをもぎ取るようにして、液晶テレビに向い合う。

……あず……。

    *      *      *      *      *

「――やあっ!」
『ストライクッ!』
「――たあーっ!」
『バッター、アウツッ!』

なんとなく微妙な、気まずい雰囲気が漂う中。
ゲームに専念しているあずが、ひたすらに三振を続けていた。

才媛である従妹だが、ゲームとかスポーツとかは少し苦手らしい。
ピッチャー(というか画面)に対して正面向いて構えているし、
バット(というかリモコン)の握りも右手左手逆だったりする。
本人は真剣に、打席に入っているつもりで構えているのだろうが―――まぁ、ご愛嬌というやつだな。
リモコンを振るタイミングも、まるで狙っているかのように正確に、ボールが通り過ぎた半秒後である。

「できませんよぉ……」

柄にもなくしょぼくれた態で、泣き事をいう従妹。
とはいえ僕にとっては、コッチの方が昔ながらの梓だった。
なにかあるとすぐにぴいぴい泣いては、僕の背中にすがりついてきた少女――。
どこにも隙がなくて、どこか張り詰めていて、どうにも無理をしているあずを見ている方が、本当は辛い。
427山本くんとお姉さんSP ◆RiG2nuDSvM :2007/01/02(火) 22:04:38 ID:t+0AiLUu
「どれどれ。まずバットの持ち方が違うんだよ。―――こう、ね?」
……まぁ、バットじゃなくてリモコンだけどさ。

「野球のバットってさ、腕じゃなくて下半身で振るのがコツなんだよ。もっと腰を落として――こう」

梓の背中から手を回して、そっと手を添えて「野球」の素振りをしてみる。
ハッキリ言って、このゲームの攻略に「野球」のコツなど全く必要ないのだが。
……それでも僕は、彼女に教えてあげたかったんだ。
僕よりずっとずっと頭が良くなってしまった今の梓に、それでも教えられるのはこんなことぐらいだから。

「腰の軸は動かさないように、お腹から投手に向けるようにして――こう、振るんだよ」
「こ、こうっ、ですか!?」
「……うん。あ、顎を少し引くと、もっとサマになるかな?」

真剣そのもので、僕の指導に聞き入っているあず。なんだか可笑しくなってきた。

「――とおっ!!」
『ストライクッ!』

……だって。
どんなにフォームが良くたって、タイミングが全てのこのゲームでは何の意味もなさないから。

「すこーし、振るのが遅いのさ。ほら、タイミングを合わせてあげるよ」

背中からあずに手を添えて、一緒にリモコンを振ってやることにする。
柔らかなシャンプーの香りが、ふわりと鼻腔を刺激した。

3、2、1、せーのっ!

「今だ!」
「――やああああーーーーーーーーーーっ!」

うわっ、とっ、とっ!?
予想以上に気合を入れて、力一杯に振りかぶったあず。
その勢いに、背中を支えていた僕のバランスが崩れて。
脚がもつれあって。
――とすん、と。

背後のソファーに、倒れこんだ。
『ストライクッ! バッター、アウツッ!』

………
……
428山本くんとお姉さんSP ◆RiG2nuDSvM :2007/01/02(火) 22:05:35 ID:t+0AiLUu
気がつけば、芳香の中。
目の前の絹のような肌に、恥ずかしそうに生えているうなじの産毛。
僕の胸の下に押し倒されている、記憶にある以上に柔らかな、細身の美少女――
叔父さんのAVルームの高級ソファーは、まるでベッドのようにふかふかで――

「……あ……」

長い睫毛の奥の、うっすらと濡れそぼった瞳が、見上げるように僕を覗き込む。
黒のハイソックスとプリーツチェックのスカートの合間から覗く、シミ一つない真っ白な太股。

「………あ、ず………」
「――――――――――――秋くん―――――――――――――」

飲み込んだ唾が、自分でもギョッとするほどに、大きな音を立てた。
みじろぎするように、太股をずらした、あずのスカートが、捲れあがって、アズの……隙間から……

「――――――――――――秋くん―――――――――――――」

……二人して、顔を上げた。
防音ルームの戸口に、立っていた。

「――――――――――――ごはん―――――――――――――」

そこに、立っていた。
少し大きめのエプロンをつけて、お玉を片手に持った――

「――――――――――――できたんだけど―――――――――――」



――姉さんが。


――――――――――――――――
↑↑↑「山本くんとお姉さんSP」中篇、ここまで。規制にかからず投下できた〜!
コンセプトが“修羅場サザエさん”なので、お約束の嵐でございます。「山姉SP」、たぶん明日完結。
429名無しさん@ピンキー:2007/01/02(火) 23:02:11 ID:p0uKtLf5
GJ!マジGJ!あずかわいいよあず
430名無しさん@ピンキー:2007/01/02(火) 23:17:46 ID:+XhPRKGw
Wキテター━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
431名無しさん@ピンキー:2007/01/02(火) 23:18:24 ID:0GUJlnF7
>待ち人来まくる
ワロタw
432名無しさん@ピンキー:2007/01/02(火) 23:19:25 ID:jMtmPwfI
帰ってきたら山本姉が復活してる!|ω・´)
>>363蘭ちゃんの嫉妬の期待に応えて下さりありがとうございます(*_ _)人
GJっす(*´д`*)
今年もまた作者様方のおかげでいい修羅場と嫉妬に出会えそうです
皆様にとって今年がいい年でありますようお祈り申し上げます
433名無しさん@ピンキー:2007/01/02(火) 23:46:47 ID:aeRIAEmk
うえぇワロスwwwwwwwww
434恋と盲目 ◆IOEDU1a3Bg :2007/01/03(水) 00:58:48 ID:oJ6mnQMN
「ミカゲ、ミカゲ、ミカゲはと……」
押入れの奥から引っ張り出した卒業アルバム……
もし本当にクラスメイトだったとすれば、顔を見れば思い出すと思っての行動だ。
その中からミカゲという名の人物を探していく。
幸いにして、私と京司が卒業した学校の生徒数はそう多くない。
全校生徒となると少し手間がかかるが、私達と同学年だけを調べるのならそう時間はかからない。
そう時間はかからない……
時間はかからない……
時間は……え〜と……
……結局、名簿を持ち出して全校生徒を調べてしまった。

結論:ミカゲなんて名前の持ち主は一人も居ない

……とはいえ、これは私が6年生の時の名簿だ。
途中で転校して違う学校へ行ってしまったとか、京司の記憶違いで実は先輩だったとか、原因は色々と考えられる。
待った……今、何かが私の頭の中をよぎった。
なにかなかったかしら?転校じゃない、転校じゃなくて……誰かが居なくなった?
「何をされてるんですか?」
 ゴッ!
「へぶぅっ……」
……突如として左手に衝撃が走った。
左手が紅く染まり、生暖かいなにかが飛び散る。
「雨漏り……かしら?」
ベランダから外を見る……空には太陽が爛々と輝いていた。
その太陽を視界の端に捉えた途端、何故か濡れ女子と言う単語が思い浮かんだ。
「ふえぇ……」
妙な感触を感じ、包帯を見た。
朝は真っ白だったそれは、血が滲んでいる。
痛みは無いけど、もしかしたら傷口が開いてしまったのかもしれない。
まさか背後で涙目になっている人の鼻血だなんて訳が無い。
いくら精神的に緊張していたとはいえ、背後に立っていた人に裏拳を当てたりなんかしたりはしない。
「……ふっ……ふええええぇぇぇぇんん……」
あまりにも情け無い泣き声が聞こえてきた。
……そろそろ意図的に無視するのも限界かもしれない。
いいかげんに自分のしでかした罪と向き合う必要がありそうだ。
「はぁっ……」
無意識の内にため息が出ていた。
「御影さん……ごめん」
「浅野さんっ!?」
以外にも、御影さんはその一言で一気に泣き止んだ。
まるでありえないモノ……幽霊でも見るかのような眼でこちらを見据えていた。
「鼻、大丈夫だったかしら?」
「はっ……はいっ!大丈夫だすっ!」
「だす?」
「大丈夫……です」
435恋と盲目 ◆IOEDU1a3Bg :2007/01/03(水) 00:59:40 ID:oJ6mnQMN

地獄のように熱く、絶望のように苦い漆黒の泉が湧き始める。
……早い話がコーヒーである。
居間には京司と御影さん。
さっき話を聞いた限りでは、今日は取材ではなく京司が個人的に御影さんを呼んだらしい。
……コーヒーが沸きあがる、手早く用意していたお盆に載せ早足で移動する。
「コーヒーお待たせ」
……ごく自然に乱入。
思ったよりも場の雰囲気は重い。
気まずい……と言うよりも、お互いがお互いに遠慮をしあっているような感じがする。
これは危険な兆候だ。
こういう関係はある一線を越えると一気に親密になる可能性を大いに秘めている。
だがしかし……流石に京司の目の前で妨害するのも考え物でもある。
「御影さん、本当にさっきはごめんなさい」
「あ、いえ……こちらこそ」
……考えた結果、京司との会話が始まっていない事を利用し、私の方が先に御影さんに対し話題を提供する策に出た。
私の裏拳による鼻血と涙は止まってはいる。
しかし包帯を取り替える際にものの見事に取り乱し、壁に正面衝突をし再び鼻血と涙をこぼしていた。
その純粋すぎる眼は誇張表現抜きで赤子のようで、同性の目から見ても可愛いと言わざるを得ない。
そんな御影さんをこれ以上京司に近づけるのはどうしても避けたかった。
……これは、女の本能とでも言うべきなんだろうか?
 ぽすっ
「ふぇ!?」
 なでなでなでなで……
「あ……あのぅ……」
……これは、女の本能とでも言うべきなんだろうか?
「可愛い」
「はっ!はひっ!?」
ああ……可愛い。
頭を撫でるだけじゃなく、いっそ抱き締めてキスでもしたくなってくる。
私よりもやや高めの身長、小さめの胸、赤子のような瞳……
「あの……ちょっと……」
……いけない、流石にこれ以上は迷惑かもしれない。
「あったかい……手です……」
その瞬間、私は脊髄反射のように手を離していた。
御影さんはどこか遠くを眺め、まるで私を見ていなかった。
何か決して触れてはいけないモノに触れていたような気がした。
誰かの大切な思い出を汚しているような気がした。
その言葉とは裏腹に、御影さんが寂しさで震えていたような気がした。
まるで……小さな赤子の幽霊の様に……
「御影さん、大丈夫かい?」
京司は敏感にこの雰囲気を察知していた。
そんな京司の心遣いを感じてか、御影さんの異常はすぐに収まる。
「すみません……こんな風に撫でてもらうの、初めてだったんです」
そうやって御影さんが笑った。
私にも、きっと京司にも、それが無理な笑い顔だとわかった。
すぐに抱き締めてあげたい衝動が全身を駆け巡った。
だけど……今となっては不可能のように思えた。
手を離した事を……今更のように後悔をした。
436シベリア! ◆IOEDU1a3Bg :2007/01/03(水) 01:00:42 ID:oJ6mnQMN
世界中
みんながトモダチ
敵は無し
これぞ無敵の極意なり
437名無しさん@ピンキー:2007/01/03(水) 01:19:41 ID:2CugEDJX
そして一人が裏切り大修羅場w

レッドペッパーの吉備のへたれ具合に感動し、白き牙の問い詰めにハァハァし
そしてキモ姉は梓と山本くんの次回の展開にwktk状態が巻き起こる
438『閉鎖的修羅場空間』 ◆wGJXSLA5ys :2007/01/03(水) 14:29:05 ID:Jaf2+wvF
「え?え?なんなのよ?これ」
金持ち女の相手をしていると、違う女の声が聞こえた。そこに目をやると、学校で買うようなジャージを着た女が立っていた。
俺たちと違って状況が余り掴めておらず、フラフラしながら部屋を見回していた。
「あのぉ……」
「あ?」
また別の声がしたと思ったら、なんとカウンターバーから眼鏡を掛けた女が出てきた。
「ご、ごめんなさい……なんだか隠れたら出辛くなっちゃって……わ、私達閉じ込められちゃったみたいですね……」
「そーみたいねー。」
金持ち女が不機嫌そうに答えた。この様子だとあと二人いるだろうな。地下に部屋は六つ。一部屋に一人いるはず。
「なぁ、あんた。」
「は、はい!?」
眼鏡女が、声を掛けただけで怯える。まずいな、こういう女はどうも接しにくい。
「たぶん、下の部屋にまだ人がいると思うから、よんできてもらえないか?」
「あ、はあ…わかりました…」
まだ要領がつかめてないのか、首をかしげながら地下へ向かう。そして案の定、あと二人……計六人が、このラウンジに集まった…………
439『閉鎖的修羅場空間』 ◆wGJXSLA5ys :2007/01/03(水) 14:31:29 ID:Jaf2+wvF
それから六人で簡単な自己紹介を始めた。
眼鏡の女が城山美夜子(しろやま みやこ)。普通校の二年、17歳。眼鏡を外すと、本当に何も見えないらしい。
ジャージ女が馬瀬京子(ませ きょうこ)。工業校の陸上部一年、16歳。中学では全国大会にも出たらしい。
次に制服を着た女、姫野霧(ひめの きり)。俗に言う『お嬢様学校』の三年らしい。18歳。見るからにおっとりとした
次にスーツを着た女。王鞍縁、22歳。とある会社のオフィスレディをやっているらしい。腰まで伸びた長い黒髪が特徴的だ。
そしてさっきから不機嫌そうな金持ち女が、聖翔子(ひじり しょうこ)、やはりというか、有名会社の社長令嬢。20歳。
「ほら、あんたの番よ。」
言われなくても分かってるのに、催促してくる。……まったく。
「えー、御堂祐吾、24歳。一応働いてる。」
「!!」
「ん?」
俺が名前を言った途端、姫野がビクンと動いた。明らかに動揺したような動きだ。そのまま下を見ながらも、こっちをちらちらと伺ってくる。
……自己紹介をしてみて分かったことは、誰にも知り合いや共通点がないことだ。
440『閉鎖的修羅場空間』 ◆wGJXSLA5ys :2007/01/03(水) 14:33:00 ID:Jaf2+wvF
今回は人物紹介までで。親戚中ノロウイルスで全滅。みなさんもお気をつけて。
441sage:2007/01/03(水) 15:58:38 ID:YBikNVr7
山本君シリーズ再開したと聞いて、とんできました。

http://bbs9.fc2.com/bbs/img/_166100/166037/full/166037_1167807379.jpg
442名無しさん@ピンキー:2007/01/03(水) 18:09:09 ID:ebfzvj/u
>>441
このキャラで四コマ漫画をやっても面白そう。
443名無しさん@ピンキー:2007/01/03(水) 19:16:49 ID:rYwa/37X
23スレ目が落ちた…
444名無しさん@ピンキー:2007/01/03(水) 19:41:05 ID:VM/2iI2D
ああ、正月にこうもたっぷり山姉が読めるとは夢のようだー
「待ち人来まくる」と「うえぇ」にワロス
そしてあずあず頑張れあずあず
445名無しさん@ピンキー:2007/01/03(水) 19:45:12 ID:DP9RhXrv
久々の絵師神降臨にGJ!
>>440
続きに期待
446名無しさん@ピンキー:2007/01/03(水) 20:31:41 ID:Z9kkH6au
投下しますよ
447『とらとらシスター』正月SP:2007/01/03(水) 20:32:59 ID:Z9kkH6au
 体を揺すられ、目を開く。視界に入ってきたのは鮮やかな海色の布地、目を擦ってよく
見てみると振袖を着た青海の姿だった。すらりとした体型の青海には、着物が似合う。
「虎徹君、あけましておめでとうございます。さぁ、二人の新しい年の幕開けだ!!」
 目が覚めるなり、青海が元気に挨拶をしてきた。元日ということもあり、只でさえハイ
な状態の精神に物凄い加速がついている。だが青海が元気だと僕も嬉しいので、つい僕も
笑みを返してしまった。朝は少し苦手だったが、最近は平気になってきているのは青海の
影響だろう。いつも爽やかでクールな彼女の姿を見なければ朝が始まらない、とさえ思う
ようになってきた。我ながら、随分と色ボケになってきたものだと思う。しかも色ボケと
言われても構わないと思うのは、相当重症だ。
「あけましておめでとう、虎徹ちゃ……青海ちゃん何やってんの!? 羨ましい、あたしも
エロいことする!! 暫く我慢してたけど、新年だし良いよね!?」
 良くない。
 新年の挨拶を姉さんに返そうと思ったけれど、目を反らして青海に振り向いた。見れば
青海は帯を緩め、肩口を大胆に開いている。大きくはだけた襟口からは細く形の良い鎖骨
や豊かな胸の谷間が見え、日本独特の衣装と合間って官能的な雰囲気をかもし出していた。
青海は鋭い目を更に細めて、こちらを流し目で見つめてくる。何が言いたいのかは一瞬で
分かったが、これはどう反応したら良いのだろうか。
448『とらとらシスター』正月SP:2007/01/03(水) 20:33:45 ID:Z9kkH6au
 数秒。
「青海、姉さん、あけましておめでとうございます」
 僕は紳士的に笑みを浮かべ、紳士的に新年の挨拶をして、紳士的に立ち上がり、紳士的
に青海の着物の乱れを直し、紳士的に二人の頭を撫でた。そして紳士的に二人を部屋から
追い出して、紳士的に着替えを始める。後は紳士的に顔を洗いに行くだけだ。
「あけましておめでとうございます、兄さん」
 洗顔を済ませて居間へと行けば、丁度おせち料理を並べ終わったらしいサクラが挨拶を
してくる。姉さんとお揃いの赤い着物が、よく似合っていた。相変わらず抑揚の少ない声
や無表情だが、心なしか弾んでいるように見える。良いことだ。
「あけましておめでとう、サクラ」
 定位置に座ると、瞬時に両隣にサクラと姉さんが腰を降ろしてくる。目出度い新年でも、
この二人のポジションは変わらないらしい。僕の正面に向き合うように座る青海も同じ、
食事の度に睨みあうようにしているのも同じだ。今にも喉笛を食い千切ろうとしている、
虎のような雰囲気は新年だというのに変わっていない。
「虎徹、朝から大変ねぇ」
「全くです、昨夜も折角の年越しを邪魔されて」
 青海が姉さんとサクラを睨みつける、思い出しただけでも相当怒っているらしい。
 だが、僕としては忘れたかった。
449『とらとらシスター』正月SP:2007/01/03(水) 20:35:36 ID:Z9kkH6au
 何せ、半ば逆レイプ気味に年越しセックスを始められた上に、除夜の鐘が鳴る度に両隣
の部屋から打撃音が聞こえてきたのだ。辛うじて僕と青海の交際は認められているらしい
ものの、まだまだ不満は残っているらしい。その結果が、嫉妬丸出し騒音なのだ。
「て言うか、何で青海はそんなに元気なんだよ?」
「昨日の夜に、御馳走を沢山貰ったからな。コテツミンさえ摂取すれば、わたしは元気だ」
 あまりの発言に、父さんと母さんの箸が止まる。
「昨日は虎徹君の太く長いものを頂いたし、今年も太く長く生きれそうだ」
 出来れば、親の前ではそんな発言はしないでほしかった。付き合い始めたばかりの頃は
辛うじて残っていたような気がしないこともない恥じらいが、完全に消えてしまっている。
最初からこうだったような気もするけれど、それはきっと気のせいだと思いたい。青海は
いつでもクールで完璧なお嬢様の筈だ、断じて変態ではない。
 矛盾を感じながら料理に箸を伸ばしたところで、気が付いた。
「今日だけは妙なものを入れてないよな?」
 数ヵ月前に知ったことだが、青海が認められる前までは料理に愛情だけでなく唾や愛液
を入れていたらしい。うっかり知ってしまったことだが、知らぬが仏とはよく言ったもの。
今が節目ということもあり、妙な猜疑心が生まれてしまった。
 囁くように耳元で確認すると、サクラは軽く頷いた。
「大丈夫です」
 安心したのも一瞬。
「特製のものの場所は全て覚えています」
450『とらとらシスター』正月SP:2007/01/03(水) 20:36:26 ID:Z9kkH6au
 冷静に料理を皿に盛ると、サクラは差し出してきた。これはやはり、食べなければ駄目
なのだろうか。断ろうとも思ったけれど腹は青海のせいで空いているし、何よりこちらを
真剣な目で見つめてくる様子がいじらしく、ついコブ巻きを口に入れてしまった。
 美味い。
 それに妙なものも入っている様子もないので、ちゃんと噛み、飲み込んだ。次は大好き
な黒豆。サクラの作る黒豆はふっくらとしていてツヤも良く、程良い甘さが馴染む一級品。
甘いものは苦手だけれど、幾らでも食べられるような気がする。
 三個目を口に入れたところで、サクラが僕の顔をじっと見つめていることに気が付いた。
「そう言えば」
 何だろう。
「黒豆って青海さんの乳首みたいですね、真っ黒で」
 こいつ、急に何を言い出すんだ。
「いっつも兄さんに欲情してエロいことをして、それはもう黒いんでしょうね」
 低い声で言い、青海を睨みつけた。
「ふん、見たことも無い癖に。わたしのはこの紅白カマボコのように綺麗なピンクで」
 カマボコを飲み込むと、次はカズノコのを箸で持ち上げ、
「おまけにカズノコ天井だ」
 美味そうに食べる。別にそんな上手い返し方をしなくても良いから、せめて親の前では
もう少し普通に振る舞ってほしかった。父さんも母さんもどう反応して良いのか分からず、
気不味そうに目を反らして、無言で餅を食べている。
451『とらとらシスター』正月SP:2007/01/03(水) 20:37:56 ID:Z9kkH6au
 このままではいけない、救いを求めて僕は姉さんを見た。本当ならば僕が注意しないと
いけない立場なのだろうが、僕が何を言っても喜ぶので効果は薄い。それよりは、青海と
正式に付き合うことになって以来、少しずつ尊敬され始めている姉さんが注意をした方が
良いと思う。ユキさんが居るのがベストだと思うが、屋敷の使用人はハウスキーパー役の
人を数名残し、皆休みにしてあると昨日青海が言っていた。当然ユキさんも休みで、今は
あの愛する小さな嫁さんと一緒に和んでいるだろう。二人とも、着物がよく似合いそうだ。
「いかんいかん」
 脳内ユキさんの振袖姿があまりにも可愛くてつい思考が脱線しそうになったが、サクラ
と青海の言い争いは今も絶好調だ。改めて姉さんに救いの視線を向けると、頬を赤く染め、
もじもじとした照れたような表情で見つめ返された。僅かに動く口元から判断出来る言葉
は、一体何を勘違いしたのだろうか。
『あ・と・で・ね』
 僕は吐息を一つ、
「姉さん、二人の喧嘩を止めてくれ」
「え、うん。サクラちゃん、メッ!!」
 相変わらず迫力の無い叱り方をすると、サクラが姉さんを睨んで舌打ちをした。
「栗キントンみたいにツルツルな脳の姉さんは黙っていて下さい」
「え、えぇと……伊達巻き!!」
452『とらとらシスター』正月SP:2007/01/03(水) 20:38:52 ID:Z9kkH6au
 いくら正月に因んだ言葉が思い付かなかったからといって、直で言い出すのはどうかと
思う。それならばせめて、普通に注意をしてほしかった。ここは、サクラが不機嫌になる
のを覚悟して僕自らが注意しなければいけないのだろうか。
 いや、まだ活路はある。
 僕は笑みを浮かべ、
「皆せっかく可愛いのに、喧嘩は良くない。新年なんだし、仲良くしよう」
 一拍。
「そうだな、わたしとしたことが。虎百合さん、すみませんでした。虎桜君、着物がよく
似合っているよ。和服ベスト的体型、乳がない体型が心の中から羨ましい」
「黙れこの泥棒猫!! 大体いつまでこの家に居るつもりですか? さっさとあの変態カマ
執事と一緒に帰ったらどうですか? 全く図々しい、乳にばかり栄養が行って脳に栄養が
足りてないから、こんな失礼千万を働けるんです。姉さんも、いやらしくで乳ばかり……」
 サクラがキレた。
 虎の目はどこまでも恐ろしく冷たい光を放ち、口から漏れる言葉はえげつない。正直、
耳を塞ぎたくなる程の酷い言葉の羅列は、我が妹ながら信じられない。普段が物静かな分
鋭さが際立ち、青海以外の並の人間ならばたちどころに泣いてしまうだろう。
 並の人間である僕は、逃げ出した。
 部屋に戻り、ベッドに寝そべると妙な感触があった。小さな悲鳴もあり予測がついたが、
布団を捲って中を見てみれば予想通りに姉さんが居る。しかも振袖を着崩した状態で、今
にも襲って下さいという雰囲気だ。シーツ上に広がる虎毛色の髪は和服に違和感を覚える
筈なのだが、姉さん独特の雰囲気がそれを忘れさせている。
「虎徹ちゃん、姫初めって、知ってる?」
 知ってるが、それは、
「いかん、虎徹君と姫初めるのはわたしだ!!」
 肩で息をしながら部屋の戸を開き、青海が叫んだ。
「駄目です、兄さんは私と」
 もう、訳が分からない。
 そんな僕の心情も置き去りに、三人は声を揃え、
「「「いただきます」」」
 僕は絶叫した。
453ロボ ◆JypZpjo0ig :2007/01/03(水) 20:41:05 ID:Z9kkH6au
今回はこれで終わりです

三ヶ日の内に書けて良かった
しかし今時『とらとら』とか、覚えている人が居るのだろうか
454名無しさん@ピンキー:2007/01/03(水) 20:53:23 ID:AxPe66j/
GJです!
>とらとら

覚えてます…というか最初に読んだので忘れられない
特に電車がTT
455名無しさん@ピンキー:2007/01/03(水) 21:06:57 ID:5s0OghYx
とらとらのせいで姉属性と妹属性がついた俺
456名無しさん@ピンキー:2007/01/03(水) 21:49:28 ID:E46XQKJr
このスレのせいで修羅場属性が付いてしまったのは、俺だけじゃないはずだ。
457名無しさん@ピンキー:2007/01/03(水) 21:54:25 ID:uuJX7pR7
俺なんか属性どころか
このスレの(おかげ|せい)でエロゲを始めて
去年だけで修羅場ものを30本も買っちまったよ
458名無しさん@ピンキー:2007/01/03(水) 22:50:44 ID:IiZU0d6g
まともに買ったら、30本×約7000円でおおよそ21万……!?
なんてリッチなんだ!!

俺のひと月の手取り以上じゃあねえか。
459名無しさん@ピンキー:2007/01/03(水) 22:57:40 ID:uuJX7pR7
なあに、過去の名作が多いから中古メインさ
980円〜だから学生@バイトで十分

と、ただ言えるのは阿修羅氏のまとめサイトは
本スレ住人にもありがたい存在ですよってことだあな
460名無しさん@ピンキー:2007/01/03(水) 23:30:10 ID:6c1xQrZx
正直エロゲよりもまとめサイトのSSのほうがよほど抜けるから困る
461名無しさん@ピンキー:2007/01/04(木) 01:07:21 ID:V0vi02bG
>>453
GJっす
やっぱり、主人公が受けってのはステキですね(*´д`*)
462名無しさん@ピンキー:2007/01/04(木) 06:47:26 ID:OKaatbby
保管庫更新されてますね。
阿修羅氏乙かれさまです!
463名無しさん@ピンキー:2007/01/04(木) 09:13:31 ID:LRTsbyYx
更新初め乙&GJ!!
今年もよろしくお願いします
>阿修羅さん
464名無しさん@ピンキー:2007/01/04(木) 10:29:36 ID:Dz5NFOu5
阿修羅氏お疲れ様です。今年もよろしくおねがいします。
手軽に過去SS読んだり、絵を観ることができるのも阿修羅氏のおかげです。

>>441
やほーい。あずあずがとても可愛いよ
465名無しさん@ピンキー:2007/01/04(木) 10:47:56 ID:c9Wh1+Rz
茜さんに抱き締められたい。
466名無しさん@ピンキー:2007/01/04(木) 12:15:30 ID:P8OxHtsM
茜さんにクビ絞められたい
467名無しさん@ピンキー:2007/01/04(木) 18:11:16 ID:BqpNgZSu
>>441
ナイスです
絵柄は可愛いのに主人公以外どう見ても危険人物です本当に(ry
あずあずに比べて藤原やキモ姉は笑って人を殺せそうw
468名無しさん@ピンキー:2007/01/04(木) 18:20:55 ID:BmawcsNw
嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ

血に咽ぶ → 血26せぶ
469山本くんとお姉さんSP ◆RiG2nuDSvM :2007/01/04(木) 18:41:23 ID:kqlM1hmz
昨日寝正月してしまったせいで、仕事初めにまでひっかっかってしまいましたお正月SS。
一日遅れでスンマセン。

完結までに、ここから16レスあります。
いいかげん連投規制にかかるので、まずは半分だけを投下します。
残りの半分は、9時過ぎにでも投下させて頂きます。

↓↓↓ココから、まず9レス
――――――――――――――――
470山本くんとお姉さんSP ◆RiG2nuDSvM :2007/01/04(木) 18:42:12 ID:kqlM1hmz
<8>

>2007年1月1日、午後3時15分
>叔父さん邸食堂

卓上コンロの上に、香ばしい割下がグツグツと煮えた鉄鍋。
傍らには、雪化粧を纏ったかのような、見栄えさえも美しい霜降り牛肉の皿。
もの凄く高価なお肉だということだけは、僕にも分かる。

――それでも。
育ち盛りの胃袋がそれらを前にしても、なお心が浮き立つ余裕すらなかった。
僕の右隣りの席から、もくもくと湧き上がっている暗雲……

「ん? この蛍光灯、もう古いのかねぇ……?」

おじさんが、不思議そうに天井を見上げた。
――ちがう。ちがうよ、おじさん。
部屋の薄暗さの原因は、室内蛍光灯なんかにあるわけじゃない。
僕の右隣り……圧倒的な瘴気が沈黙のプレッシャーとなって、僕に襲い掛かってくる。


お、正月早々、どうしてそんな展開になるんだよぉ?
待ってくれよぉ、心の準備ができてないよぉ。

こ、この、姉さんの雰囲気は、紛れもない。
『お姉ちゃん怒っているからね』モード……。
いったいどうして……? こんな時にまで、どうして……?

た、た、た、

たいへんだぁ。

    *      *      *      *      *

目の前には、すき焼きのご馳走。

大きな四角いテーブルに、東向きに並んでおじさんとおばさんの席。
西向きに僕の席。
北向きにあずの席。
南向きに、すなわち僕の右手側に、姉さんの席。

「……こ、この配置は、『鴻門の会』……?」

中国史で習ったなけなしの知識が、もわわんと唐突に浮かんできた。
さながら、絶体絶命の劉邦の役回りが僕、というところなのだろうか?

いったいどうして、こんなことになっているのだろう……。
お茶碗と箸を両手に持ちながら、思わず呆然としてしまう。
今朝起きてから、今この瞬間までの自分の行動を省みても、姉さんを怒らせた原因に心当たりがないんだ。
今日は一日、良い子でいたはずなのに……。

「あ、亜由美ちゃん、どうかしたのかい?」
「お腹すいてないのぉ?」
おじさんとおばさんがようやく事態に気がついたように、姉さんの顔色を伺う。

姉さんは、瞬き一つせずに。
一心不乱に、卓上コンロの炎を、見つめていた。
471山本くんとお姉さんSP ◆RiG2nuDSvM :2007/01/04(木) 18:43:07 ID:kqlM1hmz

……
………

――コンッ!!
思わず、肩を竦める。
姉さんが、すき焼き用の玉子を割っていた。

――コンッ! コンッ!
テーブルの角に、玉子をぶつけている。
玉子の尻を、叩きつけている。
姉さんの視線は、コンロの炎に釘付けのままだ。

――コンッ! コンッ! ぐちゃっ!!
……潰れた。
小皿にあけられる、殻の欠片がそのまんま混入した生玉子
もちろん、手元などは一瞥もされていない。姉さんは、コンロの炎しか見ていない。

「…………はぁ」

だから僕は、刺激しないようにそっと、姉さんの小皿と僕の小皿をすり替えたんだ。
我が前にやってきた、グチャグチャに殻の混ざった可哀想な生玉子。
……やれやれ。

……って。
……あれ……?

スッと。
左側から手が伸びて、僕の小皿が従妹の小皿と取り替えられた。
「あず?」
押し黙ったままのあず。
無残な玉子の小皿から、箸で一つ一つ、殻を取り出し始めた。

「あ、あず、僕なら別にいいから――」
「……………………………………………………………………………………………みっともない、ひと」

――あず? 
……今、なにか呟いたような……?
僕が見たことのないような表情で、じっと正面を見据えたまま、作業を続けるあず。
殻を抓む箸の先が、ほんの少しだけ震えている――。

    *      *      *      *      *

「あっ」
姉さんが、僕の小皿を取り上げた。

そうだった。
鍋料理の時は必ず姉さんが、僕の小皿におかずを取り分けるんだった。
……まぁ別に大した理由はなくて、いつもそうされているからお約束になってしまっただけの話だけれど。
とはいえ、今の姉さんは相変わらず、焦点の定まらない視線でコンロの炎だけを見つめているわけで――

――ドボン。ドボンドボン。

適当に、乱暴に、いい加減に、それでも山のように、おかずが盛り付けられていく。
冷たい白滝、煮えていないシイタケ、味のついていないちくわ、崩れた焼き豆腐――
「――あ、姉さん、さすがに肉だけはっ」
生々しくも赤いままの霜降り肉が、容赦なく小皿に突っ込まれる。
472山本くんとお姉さんSP ◆RiG2nuDSvM :2007/01/04(木) 18:43:52 ID:kqlM1hmz
あ〜あ……。
目の前に戻ってきた小皿、うず高く盛られた生煮えのすき焼きの具材たち。
いいお肉だったのに……仕方ないなぁ……。

はぁ……――って。
あっ、ちょっと!

僕が呆けている隙に、またまた梓が手を伸ばして、さっと小皿を奪い取った。
冷静さなのか、苛つきなのか、まるで読めない無言の様子で席を立ち、流し台の方へ運んでいく。
「あ、あず、いいってばっ……」
従妹は流し台で、丁寧に具材を洗い始めた。
姉さんの方はやはり、喰い入るようにコンロの炎だけに魅入っている。

「……あず……?」
能面のような表情で、鉄鍋の前に戻ってきた梓。
綺麗になった材料をもう一度、機械的な手つきで割下の中に並べていく。

「あの〜、あずささ〜ん……?」
今度はひとつひとつ丹念に煮え具合を吟味しながら、僕の小皿に料理を盛り付け始めた従妹。
肉も野菜もバランスよく取り分けられた小皿が、そっと僕の前に差し出される。

「あ、あず、そんなことしてくれなくてもさ……」
「どうぞ」
その時だけ、ニコリと微笑んだ従妹は。
そしてまた馴染みのない険しい表情で、玉子の殻を取り除く作業に没頭する。

……ど、どうしちゃったんだろう、今日のあずは……?
姉さんも変だ。今朝はあれだけご機嫌だったのに、どうしていきなりおかんむりになってしまったのか。
見れば姉さんが虚ろな目をして、コンロの火の中に自分の箸を突っ込んでいる。
あー姉さん、それは危ないってば……。
火に炙られた姉さんの箸を、優しく取り上げようとして――

――押し当てられた。
「で、でッ!? あ、あちち゛ち゛ち゛ッ!!」
ご、根性焼きぃッ!? あち、あち、あちっ、あちッ!

椅子から飛び上がりそうになる。
……と。
その寸前。火傷しかけの手の平が、冷たくて気持ちのいい感触に包まれた。
いつの間にそんなものを用意していたのか、梓が身を乗り出して、濡れたハンカチを押し当てていたのだ。

「あ、ありがと、あ……ず?」
「…………………………………………………………………………………………………そうやって……」

あずが、何かを憎々しげに吐き捨てる。
柳眉を逆立てて、何ものかを正面に見据えて、睨みつけている。

「………………………………………………そうやって……………んを……傷つけて、ばかりいる……」

きゅっと結んだ、赤い唇。
ギリギリと――奥歯の軋む音だけが、聞こえる。
あずは、いったい何を、そんなに――

「………………………………………………………………………………………いけない、ひと…………」

な、なんだか、妙な雰囲気になってきたような……?
二人とも、どうしたっていうんだよう……。 お正月早々、何が勃発しているんだよう……。
僕はお茶碗を持ったままの間抜けな格好で、状況も把握できずに、きょろきょろと左右を見比べるだけだ。
473山本くんとお姉さんSP ◆RiG2nuDSvM :2007/01/04(木) 18:45:41 ID:kqlM1hmz
「ま、まぁまぁ、亜由美ちゃん。おぢさんのビールでも一杯、どうかねぇ?」

僕ら三人の様子をオドオド見渡していたおじさんが、おっかなびっくり姉さんのコップにビールをついだ。
無言のまま、がっしとコップを掴んだ姉さん。
おもむろに呷って、喉を鳴らしながら一気に飲み下していった。
ごく。
ごく。ごく。ごく。ごく。ごく…………

    *      *      *      *      *

『……あ……あき……あき……くぅん………Zzzzz……』

お。
おぉぉぉぉぉ!
そ、その手があったかぁ!!
コップ半杯のビールで、見事に酔いつぶれてしまった姉さんだっ!

「あ、亜由美ちゃん、大丈夫かねぇ……?」
「姉さんお酒に弱いけれど、これくらいなら大丈夫ですよ。起きなければ、僕がおぶって帰りますから」

それよりも、おじさんはやっぱり凄いやぁ!
あの状態の姉さんを一発で鎮める方法を思いつくなんて、年の功は伊達じゃないっ!

「いや、おじさんはただ、酒飲み仲間が欲しかっただけで……」

まぁ、とりあえず姉さんには眠ってもらって、後でまたゆっくりフォローするとしようか。
どうしてヘソを曲げてしまったのか、今回はとんと心当たりがないし……。
……あ、そういえば今朝の姉さん、なんか赤い目をしていたっけ。
寝不足でご機嫌斜めだったのかもしれないな。それならやっぱり、このまま寝かせといてあげないと。

『……あき…く……あき………くぅん……Zzzzz……』
「はいはい、ここにいるからね〜」

酔い潰れながらも、うなされるように掴みかかってくる手をあやしながら、姉さんをソファーに横たえた。
梓が二階から、随分と重そうな毛布を抱えてやってくる。

「あぁ、あず。気が利くね、ありがとう」
「よいしょ」

どすん、と姉さんの身体に覆い被せた。
『……あき…―――――き―――ぅ―――――――――z―』
ずずっと、姉さんの顔まで巻き上げた。
『―――き―――――――――――――ぁ―――――――』
ぼすっと、その上に巨大な枕を押し当てた。
『―――――――――――――――――――――――――』







……
………って!?

『―――――――――――――――――――――――――』
「あ、あず、それじゃ姉さん息ができないよッ!!」
「………? そうですか?」

おいおい、しっかりしてくれよう。
474山本くんとお姉さんSP ◆RiG2nuDSvM :2007/01/04(木) 18:46:21 ID:kqlM1hmz
<9>

「そーかそーか。秋人くん、ちゃんと勉強頑張ってるじゃないか!」
「普通にやってるだけですよ……。梓には、もう全然敵いませんし」
「秋人くん、大学はどうするのぉ?」
「姉さんには、根取川大学にしろって言われているんですけどね。自宅から通える国立ですし」

山本(叔父)家の食後の団欒は、和気藹々ムードで進展していた。
……ソファーでうなされている姉さんには、少し申し訳ないけれど……。

「そういえば、明兄さんと麻美ちゃんはどうしているのかい?」
「ひと月前まではマラウィにいたらしいんですけどね。新年はエチオピアで迎えたようです」

山本明は僕の父さん、山本麻美は母さんの名前だ。
海外勤務と言っても優雅なものではなく、両親は“世界最貧国”と呼ばれる国々ばかりを巡っている。
当然政情が不安定だったり、危険な地域も多い。
なかなか逢えなくてもいいから、どうか元気でいて欲しいというのが、息子としての本音だった。

―――――あっ!

「そうそう! 父さん達からニューイヤーカードと、エチオピア土産の珈琲が届いているんですよ!
 おじさんたちの分も一緒に受け取っているんです。忘れちゃった!」
「あぁ、いいよいいよ。今度また持ってきてくれれば」
「いえ、走って行けばすぐです! 僕、ちょっと家に戻って取ってきますよ!」

駆け足で行けば、片道で十分もかからないからな。
一緒に送ってくれた写真もツッコミどころ満載だし、おじさんが在宅の時に話のネタにしておきたかった。
僕は上着を着込んで、大急ぎでおじさん宅を飛び出したんだ。

    *      *      *      *      *

>2007年1月1日、午後8時07分
>山本くん家前

自宅前。
息を切らせて走ってきた僕は、我が家の門前にうずくまっている人影を見かけた。
あの子は……。

「ふ、藤原さん!?」
「……あ……。やまもと、くん……!」

僕のクラスの隣りの席の女の子、藤原里香さんだった。
でもどうしてこんなところで、こんな時間に……?

「藤原さん、いったいどうしたの!?」
「うん。山本くんにこれを……、えへ」

僕の姿を発見して、ぴょこんと嬉しそうに立ち上がる。
藤原さんが差し出したのは、一枚の年賀状――可愛らしい文字で、新年の挨拶がプリントされていた。

「どうしても直接、わたしたかったから。………えへ」
「なっ、わざわざそんなこと……!? 普通に郵送してくれればいいのに……」
「だ、だって……」

しょぼんと、うな垂れてしまった藤原さん。
あ、わ、わ、僕、なにか悪いこと言っちゃったのかな?
475山本くんとお姉さんSP ◆RiG2nuDSvM :2007/01/04(木) 18:47:07 ID:kqlM1hmz
「去年は隣りの席で仲良くなれたけど、今年も山本くんと同じクラスとは限らないし……。
 昨晩も零時に、山本くんの携帯にメール出したのに、へんじくれなかったから……。
 もう、嫌われちゃったかなって思って……。それで……わたし……」
「ええ!? メールぅっ!?」

慌てて携帯を取り出して、メールボックスをチェックした。
………藤原さんからのメールは、見つからない。

「届いていないみたいだよ?」
「えぇっ!? どうして……」
「……あ。そういえば、新年の零時にはグリーティングメールの規制をするって、TVで言ってたっけ。
 配信状況が悪くて、届かなかったのかもしれないね。……ごめんね、気づいてあげられなくて……」
「そ、そっかぁ。よかったぁ……」

泣きそうな顔をして、嬉しそうに息をつく藤原さん。
そんな彼女の姿を見ていると、なんだかとても切なくなってくる。どうして藤原さんは――

「僕は今朝からずっと、外出しててさ。藤原さんはいつからココで待ってたの?」
「ついさっき来たばかりだから、平気だよぉ。……えへっ」

……嘘だ……。
着込んているダッフルコートの下で、小さく震えている藤原さんの身体。
立っているのも辛そうな彼女を見れば……相当な時間、ここで僕を待っていたのが分かる。

「……あの、藤原さん。良かったらさ、家の方に上がって、温まっていってよ? 
 お茶くらいなら出せるし、女の子が身体を冷やしちゃ……駄目だよ」
「………うん………ありがと。っと、わっわわ――」
「あわわわ、ちょっ、だいじょ――うわっ!?」

よれよれとふらついた藤原さん。
あわてて手を差し出したら、ぽすんと。僕の胸の中に納まってしまう。
―――小さな身体、だった。

「あっ!? あ、あのっ、藤原さんっ!?」
「……山本くん……あったかい……」
「あ、あの、と、とりあえず、家の方へ、ねっ!? こ、この状態は、ちょ、ちょっと……」
「……うん……。でも――」


「もう少しだけ………こうさせて………」

    *      *      *      *      *

「お、おじゃま、しまーす……」
「さ、入って入って」
「山本くん……、お姉さんはご在宅なの……?」
「姉さん? 姉さんは今、親戚の家で酔いつぶれてるよ。挨拶できなくてごめんね、アハハハハ」
「そっかぁ! それじゃ、お邪魔しまーっす!」

藤原さんをリビングにお通して、急速暖房をかける。
その次は、大急ぎで湯沸しだ。ええと、アレはどこだ………あった!!本場エチオピアの高級珈琲の缶!
おじさんの家にも持って行くところだったから、丁度いいや。
旨いんだよ、これが。

「藤原さーん、珈琲淹れるから、ちょっと待っててねー」
「はーい! ご馳走になりまーす」

続き部屋のキッチンとリビングとで、掛け声の応酬である。
476山本くんとお姉さんSP ◆RiG2nuDSvM :2007/01/04(木) 18:47:43 ID:kqlM1hmz
「山本くんのおうちに、わたし初めて来たよー」
「ハハハ、あんまり友達とか連れてこないからねー。孝輔なんかは、よく夕飯食いに来るんだけどさ」
「矢島くんと仲良いもんねー。ちぃちゃんなんか羨ましがっていたよー」

ちぃちゃん? 
……あぁ、比良坂さんのことか。同じクラスの、藤原さんの友達だ。

「女の子の友達を連れてくるようなことは、まずないからなぁ〜。藤原さんが初めてかも」
「……ふぅ〜ん。そうなんだぁ〜」

ええとサイフォンはどこだ、サイフォンは……。
台所は姉さんの支配下にあるから、いざという時どこに何があるのか分かり辛いんだよなぁ。

――…………あれ?

「藤原さーん。今、何か光ったー?」
「ううん。そんなことないよー?」

……一瞬、部屋が光ったような……。
まぁ、気にせいかな。うん。

    *      *      *      *      *

「はい、お待たせ。しっかりと温まっていってね」
「ありがとぉ。山本くんのお手製かぁ………えへ」
「じゃ、僕はちょっと失礼するね」

次は、父さんからのニューイヤーカードを探さないと。
リビングにもキッチンにも見当たらないんだ。
姉さんなら知ってそうだけど、起こしたくはないし………あっ! 姉さんの部屋かもしれないな!
藤原さんをリビングで寛がせておいて、僕は二階へと駆け上がった。

………
……


『お姉ちゃんの部屋』とネームプレートが下げられた、姉さんの部屋。
小学生の頃、僕とお揃いで作ったプレートだ。

「ね、姉さん、入るからね……?」

普段、滅多に入れてもらえない姉さんの部屋だが――こ、こういう時は仕方ないもんね?
……ち、ちょっとドキドキする。

「お、おじゃましま〜す……」

一歩踏み出せばそこは、むせかえるほどの姉さんの匂い。
姉さんのシャンプー、姉さんのハンドクリーム、姉さんの汗……。すべて、姉さんの、匂い。
頭が、クラクラ、する。
477山本くんとお姉さんSP ◆RiG2nuDSvM :2007/01/04(木) 18:48:40 ID:kqlM1hmz
さすが姉さん、綺麗に片付けられた部屋だった。
見渡してみたが、机の上にもベッドサイドテーブルにも、カードは見当たらない。
その代わりに目立つのが、机やサイドテーブルや本箱の上や、あちこちに置いてあるフォトスタンドだ。
――どれもこれも、僕と姉さんの二人の笑顔が映っている写真ばかり。
じわりと、胸に温かいものが込み上げた。
こんなにも姉に大切にしてもらえることは、弟冥利に尽きるというものだ。

……でも。
どうしてどのフォトスタンドも、妙なシミが付いているんだろう?
角の方にシミがある物ばかりだ。古いフォトスタンドなのかな?
――ならば……そうだ! 三月には、ホワイトデーがある!
その時には、姉さんに新しいフォトスタンドを贈るとしようか。

……っと。いけないいけない、肝心の用事を忘れるところだった。
カードは一体どこにいったのだろうか? 床にでも落ちていないのかなぁ?
姉さんの部屋の絨毯に這いつくばって、360度見渡してみる。

ムムッ!! ムムムムッ!!
発見! 発見!! べ、ベッドの下に何かが……あるぞッ!
布切れみたいだ。

……ド、ドキドキしてきた。もしや、もしや、あの、白い布は……。
いけないいけないと思いつつも、ついつい“ソレ”に手を伸ばしてしまうのが男のサガだった。
あぁでも、駄目だ駄目だッ!! 大切な姉さんにそんなふしだらなことをして、弟としては――
――……ちょっとだけなら。ねぇ?

震える指をベッドの下へ伸ばして、ソレを……………掴む。
あぁ姉さん、ごめんなさいごめんなさい。弟なのに、僕はなんて変態な、イケナイことを……
……でも、でも、僕は、僕はッ―――――って。
あれ?

………これは。
姉さんの下着じゃなくて…………僕のパンツじゃん。

さらに奥に手を突っ込んで、触れるものを掻い出してみた。
出てくる出てくる、僕のブリーフとトランクス。
最近妙に代えのパンツが少ないと思ったら、ココにあったのか? でも、どうして……?
洗濯したまま、脱衣所の下着箪笥に入れ忘れていたのだろうか……?

よく見ればどのパンツもよれよれで、もうとても穿けそうにない状態だった。
ならば一気に捨てようと思って、ココに溜めておいたのかもしれないな。
……そもそも、だ。
姉に自分のパンツまで洗濯させている、僕が悪いんじゃないか。改めて、気恥ずかしさで一杯になる。
自分の物の洗濯ぐらいは自分でするって言っているのに……聞く耳もたないんだもんなぁ、姉さんは。


……
………

ととと、と。まったりしてちゃ駄目じゃないか!
カード、カード! カードはどこに行ったんだよう?
もう一度姉さんの机の上を調べてみるが、何もない。それなら……引き出しの、なか?

ごくり。

……いやいやいや。さすがにそれはマズイよ。
親しき仲にも礼儀あり、だよ。姉弟とはいえ、プライバシーというものがある。弟としては――
――……ちょっとだけなら。ねぇ?
478山本くんとお姉さんSP ◆RiG2nuDSvM :2007/01/04(木) 18:50:18 ID:kqlM1hmz
震える手で、一番上の引き出しを開ける。
ロープ、十徳ナイフ、バール、痴漢撃退用の電気ショック、ドライバー、小型ノコギリ、果物ナイフ……
さながら工具箱のような様相を呈して、それらが綺麗に並べられていた。
……姉さん昔から、このテの小道具を集めるのが好きだよなぁ。いつもなにかしら持ち歩いてるし。
この引き出しは、どうやらお道具箱のようだった。なら、ここには無いよな。

二番目の引き出しを開ける。
「なんだこりゃ。………髪の毛……?」
引き出しの底に綿を敷き詰めて、なにか意味があるように分類された、様々な髪の毛の束……。
男性の髪の毛もある。チリチリした毛もある。女性のように、長くて色のついた髪もある。
――そっと、その引き出しを閉じた。
きっとこの引き出しには、軽々しく触れない方がいい……。そう、思ったから。

三番目の引き出しを開けた。
「おッ!?」
中には、一杯に詰められた郵便物。一番アタリがありそうな場所じゃないか! 
カード、カード、カード、カード……。

ごそごそ探っていると、手紙の束に行き当たった。
――小さな白い便箋。
あまりにもフォーマルなその形は、手にした者にたった一つのイメージしか植えつけそうにない。
“ラブレター”だ。

「……」

まぁ……。そりゃ、そうだよな……。
姉さんが、こういうモノを貰わないはずがない。
むしろ、この程度の量で済んでいることの方が、僕にとってはショックなくらいで……。
で、でもッ!

なんだか表現のしようもないモヤモヤしたモノが、胸の奥で燻り始めていた。
ね、姉さんも、こんなモノを後生大事に残しておかなくたっていいじゃないかッ!!
差出人はどこの誰だよッ! 高校時代の同級生とかか!?

『木下知美』
――ね、姉さんは、女の子にも人気があったのか……。

『山本秋人さまへ』


……。

………あッ! 
あった、あった!!
ニューイヤーカード、見つけた! もう、こんなところに仕舞い込んじゃって、姉さんったら……。


さぁ、急いでおじさんの家に戻らないと!
479山本くんとお姉さんSP ◆RiG2nuDSvM :2007/01/04(木) 18:51:46 ID:kqlM1hmz
まずはここまで。
随分長い占有になってしまって、申し訳ありません。
残りは9〜10時くらいに。
480名無しさん@ピンキー:2007/01/04(木) 19:02:43 ID:5HlkE60t
乙乙
481名無しさん@ピンキー:2007/01/04(木) 19:06:52 ID:s5JDBJhf
>>479
なんか俺の修羅場感知センサーが
全力でレッドゾーン振り切った・・・・

でもwktkする自分が抑えられない!!
482名無しさん@ピンキー:2007/01/04(木) 19:10:59 ID:32pzYIqT
さすがは神の作品
山本君のお姉さんの破壊力(萌え度)最強すぎるよwww
483名無しさん@ピンキー:2007/01/04(木) 19:21:37 ID:3optGQvv
手紙スルーw収集家のお姉ちゃんがたまらんw
484名無しさん@ピンキー:2007/01/04(木) 19:25:23 ID:qbqSTKl9
この修羅場すごいよ、さすが山本くんのお姉さん!
485名無しさん@ピンキー:2007/01/04(木) 19:27:25 ID:5vEY7N+p
おじさんかわいいよ
486名無しさん@ピンキー:2007/01/04(木) 19:57:08 ID:fC92RrKS
一見純情そうに思える藤原さんかわいいよ藤原さん、でもやっぱり腹g(ry
それと某引き立て役のあの子の明日はどっちだ!?


阿修羅氏あけましておめでとうございます今年もよろしくお願いします+更新お疲れ様です
487名無しさん@ピンキー:2007/01/04(木) 20:19:26 ID:Ez4eWchL
弟の宛てのラブレターを隠す姉に萌えますねwwwww
488名無しさん@ピンキー:2007/01/04(木) 21:15:23 ID:FocHv9+V
あずかわいいよあず。半年待った甲斐があるってもんです。マジGJ
489山本くんとお姉さんSP ◆RiG2nuDSvM :2007/01/04(木) 21:21:01 ID:kqlM1hmz
最後まで、一気にいきます
↓↓↓ここから
―――――――――
<10>

「……あれれ?」

リビングに戻ってみると、誰もいない。
珈琲カップも、キッチンの方へ片付けられていた。

「あれ? ふじわらさーん?」
「――は〜い――」

どこかからか、返事だけは聞こえる。
トイレだろうか?

「ふじわらさーん、どこだーい?」
「――ここだよ〜――」

どこだどこだ?
かくれんぼだろうか? 庭にも洗面所の方にもいないや。

「おーい?」
「――ここにいるよ〜――」

二階の方か? さっきまで気づかなかったけど……。

「おーい、ふじわらさ〜ん?」
「――ここ、ここ〜――」


……
………

「ここでしたぁ〜」

僕の部屋のドアを開ける。
可愛らしく袖余りの手をひろげて、ジャーンと自己アピールする藤原さんに迎えられた。

「な、なんだ、僕の部屋にいたのか。よく部屋が分かったねぇ」
「うん。だって、ネームプレートがかかっていたからね」

そうか。そりゃ、誰でも分かるか。

「ごめんね、藤原さん。僕はこれからもう一度、親戚の家に行かないといけないんだ。
 もう夜も遅いし……藤原さんも、早く帰った方がいいよ?」
「あ、うん! わたしの方も突然押しかけて、お邪魔さまでしたぁ。     
                                      ――もう用も済んだし」

僕の部屋から出てきた藤原さん。
その右手に、何かを持っている。………デジタルカメラ?

「藤原さん。デジカメなんか持って、どうしたの?」
「うん? あぁ、コートのポケットにたまたま入ってたんだよ。………………えへっ」

そっか。
まぁお正月ともなると、色々とデジカメの出番が多いからなー。
490山本くんとお姉さんSP ◆RiG2nuDSvM :2007/01/04(木) 21:21:44 ID:kqlM1hmz
………
……


二人、肩を並べて玄関を出る。
吐息の白さに、冬の夜の寒気を改めて思い知らされた。
藤原さんはこんな寒い中を、年賀状を渡すためだけに、わざわざ待っていてくれたんだ。
……どうして彼女は、僕にそこまでしてくれるんだろうか……?

ダッフルコートに身を包んだ、藤原さんの背中。
そんな彼女にろくなおもてなしもせず、追い帰すことになってしまった……。
罪悪感が募る。いけないことをした気も。
 
……と思った刹那、藤原さんはデジカメを後ろ手にしてくるっと振り向いた。
よかった、笑顔だ。

「山本くん、“また”新学期にね」

うん、三学期に!
藤原さんはコートを翻して、元気よく夜道を駆けていった。

    *      *      *      *      *

>2007年1月1日、午後8時55分
>叔父さん邸

「た、ただいま戻りました〜。すいません、探すのに手間どっちゃって」
「おう、おかえり。遅いから心配したよ」
「あ、秋くぅん……」

あぁ、姉さん。起きたんだね。
とろんとした目つき。寝起きでぽやぽやしている姉さんは、とてつもなく愛らしい。

「秋くん、どこ行ってたの……?」
「家に戻っていたんだよ。おじさん、これがエチオピアの珈琲です。こりゃ旨いですよ〜」

姉さんに上着を脱がせられながら、おじさんに珈琲缶を渡す。
ふと、姉さんが呟いた。

「――――――――――女の匂いがする――――――――――」
491山本くんとお姉さんSP ◆RiG2nuDSvM :2007/01/04(木) 21:22:27 ID:kqlM1hmz

……
………へ?

姉さんの呟きに、向こうにいたあずが、静かに振り向く。

――グホッ!? げほっげほっ!?
姉さんに、襟首を乱暴に掴まれた。
胸元に鼻頭を押し当てて、鼻腔を膨らませる姉さん。

「――――――――――女の、匂いが、する――――――――――」

向こうにいた、あずが、音もなく、近づいて来る。

ちょ、ちょっと待ってよ、二人とも急にどうしたっていうのさ? これはただ藤原さんが――
――ぐふぉッ!? ぐ、ぐ、苦しッ、い゛、息!
姉さんが、僕の襟首を万力のように締め上げる。
首筋からおへそまで、ひくひくと震える鼻腔が、走査する。

「――――――――――秋くんから、女の、匂いが、する――――――――――」

真正面から、あずに、見据えられる。
瞬きひとつしない、白磁そのままの美貌。ただ見開いた瞳だけが、どこまでも深く、黒く――

「――――――――――藤……ワラ――――――――――」

ぽそっと。断定する、姉さん。
――なッ!?
な、なんで分かるんだよッ!? ど、どうして、どうして―――――――ハッ!?

僕の表情の動きを、神経一本の反応まで逃さぬように見つめていた……あずのドライアイスの視線。
長い睫毛を、ツと、一度だけ伏せて―――見開く。
光ひとつ差さぬ、漆黒の世界が広がっている梓の眼。

「――――――――――秋くん」
「――――――――――秋人さん」

二人の声色が、ぴったりと揃う。
……あぁ、何年ぶりだろう。姉さんとあずが、姉妹のように見えるのは……。
懐かしいなぁ。昔は三人で、姉弟みたいに過ごしたものだったナァ。懐かしいナァ。
ハハ、ハハ ハ ハ、ハ ハ ハ ハ ハ   ハ    ハ    ハ     ハ 

「「――――――――――家で――――――――――」」

……た、たすけて……。
助けてっ! 誰か、誰かッ!! おじ、おじさん、助け――

「「――――――――――何を、していた、の?――――――――――」」


……
………

居間に引篭もったおじさんは、助けに出てきてはくれなかった。
492山本くんとお姉さんSP ◆RiG2nuDSvM :2007/01/04(木) 21:23:10 ID:kqlM1hmz
<11>


ぽちゃん。


「すぴ〜……すぴ〜……」


ぽちゃん。ぽちゃん。


「すぅ……すぅ……」


暗闇だ。
暗闇に、きらきらと輝く雫が、降り注ぐ。
小さな水音だけが、漏れ聞こえてくる。

2007年1月2日、午前2時07分。

弟の寝顔に、ただただ静かに水滴が降り注いでいる。


    *      *      *      *      *


どうしてこの子は……わたしを、こんなに簡単に裏切るんだろう……?

わたしはただ……
ただ新しい年の初めぐらいは、ずっと二人きりでいたかっただけなのに。
わたしだけを見て、わたしだけを想って、過ごして欲しかっただけなのに。
お姉ちゃんだけの――弟で、いて欲しかっただけなのに。

昨晩だって、新年明けて早々の零時に、藤原の女狐からメールを受け取っていた。
カマトトを装った下心丸見えの文面――姉のわたしを差し置いて、弟を初詣に誘おうとしていた雌豚。
幸いにも日課にしていた携帯チェックによって、弟の目に止まる前に消去することができたのに。
水際で、連れ出されるのを阻止することができたのに……

なのに――なのにッ!!
わたしの知らないところで、あの女に会っていたッ!!
わたしが倒れている隙にッ、わたしが苦しんでいる間に、あの阿婆擦れに敷居を跨がせていたッ!!

もし、あのメールをちゃんと読んでいたら……?
お姉ちゃんなんかさっさと置きざりにして、あの女と嬉々として出かけていたに違いないっ!!
裏切り者だ……。
浮気者なんだよ………ッ!!

ちょっと目を離せば、すぐに従妹ともイチャイチャするッ!
あの子にだけは、いつまで経っても甘い目を向ける。かばおうとする。守ろうとする。
……貴方はあの子の、“お兄ちゃん”なんかじゃ、ないのにッ!!
493山本くんとお姉さんSP ◆RiG2nuDSvM :2007/01/04(木) 21:23:50 ID:kqlM1hmz
今日初めて、叔母からも聞いた。
この子は叔母のおっぱいには、子供の頃から吸い付いていたんだ。
この弟は、産まれた時から、浮気者なんだ。
お姉ちゃん以外の女にばかり、その目を向ける……裏切り者なんだ。

お姉ちゃんには――姉のわたしの胸なんかは、絶対に自分からは指一本触れようとしないのに。
どんなに誘っても。どんなに惑わせても。どんなに貴方の趣味に合わせても。
どんなに――わたしが、愛しても。
こんなにも、好きなのに。こんなにも、愛しているのに。こんなにも、貴方だけを見ているのに。
こんなにもこんなにも、貴方のことだけでいっぱいになっているのに。

難しいことなんて、なにもいらない。
ただ、わたしを見てほしいだけ。わたしだけを見ていてほしいだけ。
ありのままの、わたしだけを愛してくれれば……、それ以外なにも望んでいないのに……。

――姉。
姉、姉、姉、姉、姉、姉、姉、姉、姉、姉、姉、姉、姉、姉、姉、姉、姉、姉、姉、姉
姉、姉、姉、姉、姉、姉、姉、姉、姉、姉、姉、姉、姉、姉、姉、姉、姉、姉、姉、姉ッ!!
貴方が見ているのは、いつだって“姉”でしかないッ! わたしじゃ、ないッ!!
貴方が勝手に作り上げた“優しい姉さん”という仮面ばかりで――わたしの姿を見ようともしないッ!!

「………わたし………だって……ッ……」

「………わたしだってッ……好きで、姉に、産まれたんじゃ………ない……」

「………貴方の、姉に、産まれたかったんじゃッ…………………ないよッ!」

「………こんな気持ちになるぐらいなら………お姉ちゃんになんか、なりたくないよぉッ………!」


もう……やだよ……。
こんなの……もう……やだよぉ……。
どうして、血なんか繋がっちゃったんだろう……?
世の中にはたくさんの人がいて、生涯で一度も会わないような人ばかりで、みんな赤の他人で――
――それなのに、よりによってどうしてわたしと貴方だけが、繋がってしまっているんだろう……。
どうして、わたしたちは……

………
……


涙でべとべとの手の平を、そっと弟の首筋にかける。
喉仏を押し潰すように、そっとそっと、力を加える。
どうせ手に入らないのなら―――
どうせ他の女に汚されるくらいなら―――

もういっそ……
いっそ……

「……ねえさぁん……すぅ……すぅ……すぴ〜……」

この手で、もう……。
わたしだけの……。

「………ねえさぁん……にひひひひ………ねぇさん………すぴ〜……すぴ〜……」

………。

「……ねぇさん……」
494山本くんとお姉さんSP ◆RiG2nuDSvM :2007/01/04(木) 21:24:27 ID:kqlM1hmz

――ぽちゃん。

ぽちゃん、ぽちゃん、ぽちゃん。

鼻頭を伝って、顎を伝って、口元を辿って、落ちていく。
溢れていく涙が、とまらない雫が、ぽたぽたと弟の顔に舞い落ちては、はじける。

「残酷、だよね……秋くんは」

嗚咽交じりの、声にもならないこえ。
どうせ聞こえてもいない、弟。
夢の中で、そんなもの虚構に過ぎない理想の姉に向って、微笑みかけるのに夢中な弟。
ただの女になりたいわたしに、それでも“優しい姉”を演じることを強いる、最低な弟。

「ざんこく、すぎるよねッ……いつも、いつもッ!」

もう……やだよう……。
こんな想い、やだよう……。

「だいすき、だよ……」


    *      *      *      *      *


暗闇だ。

暗闇の中で、姉が、小さな肩を震わせている。

姉は唇を、そっと弟の口元に寄せた。
それでも、どうしても。
どうしても、触れることができない。
ただぽたぽたと涙をながして、弟の寝顔だけを濡らし続けている。

ぎゅっと瞼を瞑って、目頭から涙を振り絞る。
結んだ唇が震え、嗚咽が漏れてもなお、姉は弟の唇に触れることができなかった。


やがて姉は、頭を振って歯を喰いしばる。
涙を拭いて、乱れる呼吸を落ち着かせて、昂ぶった気を鎮めるようにして。
ようやく弟に、ほんの少しだけ口付けた。
――弟の、額に。
唇を震わせて、弟の頭を抱え込むように、そのおでこだけにキスをする。


そして、静かに。
姉は静かに、弟の部屋から出て行った。
495山本くんとお姉さんSP ◆RiG2nuDSvM :2007/01/04(木) 21:25:21 ID:kqlM1hmz

<???>

静かにドアを開けて、姉が出て行く。

わずかに差した廊下の灯も、音も無く締まったドアに遮られる。
少年の部屋を、再び暗闇と静謐が支配した。


2007年1月2日、午前2時35分。
部屋の主以外、誰もいなくなった少年の部屋。


小さな――


小さな溜息が、一度だけ漏れる。


あとはただ、静寂の世界。
そのうち、少年の寝息だけが聞こえるようになる。





                                  山本くんとお姉さんSP 
                                    〜『お姉ちゃん初め』
                                          Fin 

                   
                       System error....
                       ゲームディスクを、本編の物と入れ替えて下さい


―――――――――――――――――
↑↑↑「山本くんとお姉さんSP」ここまで

……とまぁ、こんなお話だったりします。
茜さんとかさゆりさんとか名前が出てきましたが、修羅場に無関係なサブキャラですので……すんません。
このシリーズの修羅場は、山本秋人、山本亜由美、山本梓、藤原里香、及び比良坂千草と矢島孝輔の六人
で構成されています。

次のSSは「山姉2.5」と前後して、新連載「赤い帽子のまほうつかい」を投下しようと思ってます。
二月いっぱいには、なんとか。それではどうか、今年もよろしくお願いします。


>>441
65535回保存しました! こんなに上手い方に描いて頂けるなんて……
自分の産んだキャラクターが愛されて、二次元にして頂けるのは、こそばゆくて嬉しいものですね。
あずあずがちゃんとベレーを被っている辺り、かなり読みこなしてますねぇw
修羅場サザエさんなので、こういうデフォルメが非常に似合っています。すばらしいチョイスです!
本当に、ありがとうございました!
496名無しさん@ピンキー:2007/01/04(木) 21:56:45 ID:abymDEZE
早く2月にならんかな
497名無しさん@ピンキー:2007/01/04(木) 22:10:39 ID:l3+yALGh
あかん。いつものコメディ調で最後まで行くと思って油断した。
不意打ちでラスト少し泣いてしまった。姉さん…カワイソス
498名無しさん@ピンキー:2007/01/04(木) 22:11:20 ID:59kwvfqN
>>495
山本くんとお姉さんGJ杉。

何かこう亜由美姉さんに限らず修羅場ヒロインの切ない心情を読んでると
こう胸ががチクチクしないかね諸君。
499名無しさん@ピンキー:2007/01/04(木) 22:16:36 ID:V0vi02bG
>>495
GJJJJJJJJJJJJJJJJ!!
なんていう素敵な姉だ、羨ましすぎるぜ(;つД`)
バレンタインがあって憂鬱だった2月をこれほど楽しみに待つことになろうとは・・・
続きと新作、頑張ってください
500名無しさん@ピンキー:2007/01/04(木) 22:23:23 ID:qHtb9XKz
クチュクチュしちゃうね
501名無しさん@ピンキー:2007/01/04(木) 22:49:31 ID:qbqSTKl9
あず派の自分も思わず亜由美ねぇに傾きかけた。
なんと形容すればいいんだろうこの感情……キモせつない?

二月まで結跏趺坐して待ちます。
502ベッドの上から:2007/01/04(木) 22:55:14 ID:cfMxpKSD
 休日の午後。二段ベットの上で横になったまま、文庫本に目をやる。
 ベッドの下から小学生の弟が連れてきた友達とワイワイやっている声が聞こえてくる。相手は二人の女の子。
 一人は隣の住んでいる子。同い年なので物心ついた頃から一緒に遊んでいるので自分にとっても妹のような子だ。もう一人は――今まで見たことのない顔だ。この間女の子が転校してきたからと言ってたから多分その子だろう。
 やがてベッドの下からは「私がまー君と結婚するの」とやら可愛らしげな話題で盛んになっていた。
 ああ、こんな事が僕も昔に……経験してないな……
 そんな無駄な感慨にふけっていると下からの言い争いはケンカじみてきた。ここは年長者として二人を嗜めるべきだろうと思い、上半身をおこし、ベッドの下へ顔をやった。
 声をかけようと思った時には既に二人の少女は既に取っ組み合いのケンカとなっていた。小さな少女の体の動きは猫科の肉食動物の動きには見えた。ついでに助けを求める弟の視線がこちらに飛んでくる。
「ふ、二人ともケンカはよくないよ」ようやく出てきた声は自分でも情けないぐらい上擦っていた――ようするに小学生の女の子の気迫にびびっているのだ。しかも自分に向かってきていない気迫に。
「お兄さんは黙ってて!!」二人の少女は声をそろえてこちらに向かって叫ぶ。間違いない、二人の体こそ小さいものの大型肉食動物の気迫だ。気を抜けば喉元を食いちぎられる。
 携帯オーディオをつけボリュームを最大にして布団に潜り込む。こうしていれば少なくとも自分にはこれ以上危害は及んでこない。
 許せ弟よ。情けない男となじりたくばなじれ。兄は所詮お前より少しばかり早く生まれてきただけに過ぎない一人男に過ぎないのだ。
503名無しさん@ピンキー:2007/01/04(木) 22:57:03 ID:cfMxpKSD
<チラシの裏>
なんか書けない。
テンションも、時間的にも。あー正月休み今日で終わりなのに
</チラシの裏>
504名無しさん@ピンキー:2007/01/04(木) 23:09:03 ID:qHtb9XKz
長男なおれはちょっとへこむ
505名無しさん@ピンキー:2007/01/04(木) 23:11:47 ID:5HlkE60t
>>504
つ キモウト キモイトコ
506名無しさん@ピンキー:2007/01/04(木) 23:14:20 ID:Ur5tQKvF
つ[キモジブン]
507名無しさん@ピンキー:2007/01/04(木) 23:44:21 ID:LRTsbyYx
傍観者視点の主人公もなかなかいいなあ
と思った
508名無しさん@ピンキー:2007/01/05(金) 01:40:47 ID:4UGly1hw
乳児期にまでさかのぼって嫉妬するお姉ちゃんはどこへ行くのか
お兄ちゃんフォローは完璧の梓、しかも梓視点では告白され済み、さてどう攻める
藤原さんは撮った山本家の写真をどうするつもりなのか
そして秋くんの自制心の限界は

ともあれ全裸で雪上にて待ってます
509名無しさん@ピンキー:2007/01/05(金) 01:53:19 ID:bqXO4ezg
誰か角煮にスレ立てできる人いないか?
新しいスレが立つ前に埋まってしまったから、俺は試したが無理だった
スレ違いかもしれないが頼む
510名無しさん@ピンキー:2007/01/05(金) 03:24:32 ID:pyYirWAf
>>508
>雪上にて全裸で

お前だけに良いカッコさせるかよッ
511名無しさん@ピンキー:2007/01/05(金) 07:51:32 ID:BOfQXdZ1
>>508
全裸と聞いて飛んできたぞ同士よ
512名無しさん@ピンキー:2007/01/05(金) 08:13:04 ID:B5liUvce
無茶しやがって・・・(AA略
513名無しさん@ピンキー:2007/01/05(金) 11:34:54 ID:x//K9+VO
俺のミャー子はまだか・・・・?
514名無しさん@ピンキー:2007/01/05(金) 12:59:25 ID:xmwuLqGg
俺の雪桜さんはまだかぁ?
515名無しさん@ピンキー:2007/01/05(金) 13:04:33 ID:t8zvP/oF
俺のイツキ君はまだかね?
516名無しさん@ピンキー:2007/01/05(金) 13:11:34 ID:ALOrHvo2
モカさんモカさんモカさんモカさんモカさんモカさんモカさんモカさんモカさん
モカさんモカさんモカさんモカさんモカさんモカさんモカさんモカさんモカさん
517名無しさん@ピンキー:2007/01/05(金) 13:14:34 ID:WUlyHr4g
流は?
518名無しさん@ピンキー:2007/01/05(金) 13:47:24 ID:nqj7T83a
エル・・・
519名無しさん@ピンキー:2007/01/05(金) 14:57:58 ID:gYD00uLn
レスが増えてるから何かと思えば……。
520名無しさん@ピンキー:2007/01/05(金) 15:50:17 ID:JZk2ye+W
夕子・・・
521名無しさん@ピンキー:2007/01/05(金) 17:28:29 ID:ZZsKxMN+
山鹿…
522名無しさん@ピンキー:2007/01/05(金) 19:39:17 ID:u28Uc3j5
ユウキ・・・
523名無しさん@ピンキー:2007/01/05(金) 19:42:43 ID:1/Y0/9SV
僕は、神山満月ちゃん!
   ∧_∧
 ◯(´∀`)◯
  \   /
 _/ __ \_
(_/  \_)

   |||
524名無しさん@ピンキー:2007/01/05(金) 20:30:27 ID:gYD00uLn
>満月

ニュースキャスターの名前だっけ?
525名無しさん@ピンキー:2007/01/06(土) 00:12:30 ID:djEP55rd
嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ

1 :名無しさん@ピンキー:2006/01/22(日) 16:27:29 ID:kPoLLgG3

浅いものはツンツンしたり、みたいな可愛いラブコメチックなヤキモチから
深いものは好きな人を独占して寵愛する為に周囲の邪魔者を抹殺する、
みたいなハードな修羅場まで、
醜くも美しい嫉妬を描いた修羅場のあるSS及び、
他様々な展開の修羅場プロット・妄想を扱うスレです。



お正月スペシャルがひと段落しましたが、みなさん。
二週間後の今月22日は、このスレ一周年の創立記念日ですぜ。
526名無しさん@ピンキー:2007/01/06(土) 00:15:45 ID:Nft0s4Ey
投下しますよ

百合が苦手な人はスルー推奨
527『花束』三本目:2007/01/06(土) 00:16:46 ID:Nft0s4Ey
 気に入っているバンドのCDを買い、家に帰る。その買ってからの道のりはボクの数ある
楽しみの一つだ。特に今日買っバンドのは他のものより少しだけ思い入れのあるもので、
それは尚更楽しい気分にさせてくれる。未練と言われれば否定の出来ない理由だけれども、
思い出を大切にしたいボクの性格が思考を前向きなものへ変えてゆく。
「Danceing on the……」
 気が付けば、歌を口ずさんでいた。
「イッちゃんって、よくそれ歌うね。どこのバンド?」
「イギリスの。本当は、もっとテンポが早いんだけどね」
 それに、歌っているのは男の人だ。昔カラオケに行ったときによく聞いていて、それで
なんとなく覚えてしまった。これを歌っていた彼が説明してくれたところによると、この
バンドが演奏するシンフォニックパワーメタルというジャンルの中で、少し位置が違うと
のことだ。実際にボクも聞くようになって、それを理解した。他の曲が力強い感じがする
のに対して、これは神秘的な感じがする。英語は苦手なので歌詞の意味は分からないけど、
主役の女の人はそれを意識して踊っているようだった。
「よく分かんないけど、綺麗な歌だね」
 向けられた笑みにボクも笑みを返して、続きを歌いながらマンションのエントランスに
入る。滅多に物が入っていないことは分かっているけれど、いつもの習慣で手紙入れの中
を見る。中には珍しく手紙が入っていた。多分仕事関係だと思う、父さんにあてたものが
数枚。これは出張先に電話をしておけば良いだろう。
528名無しさん@ピンキー:2007/01/06(土) 00:17:16 ID:V3CLJfBA
新参者の俺としてはこのスレの消費スピードに驚嘆せざるを得ない。

っていうか一年で25スレも消費してるの?
保管庫の作品って全部一年の内に投下された作品なの?
どこまで神スレなんだこのスレは。
529名無しさん@ピンキー:2007/01/06(土) 00:17:59 ID:fGQtsdjx
>>524
種村有菜
530『花束』三本目:2007/01/06(土) 00:18:11 ID:Nft0s4Ey
 そして、ボクあてに一つの便箋が入っていた。ラブレターかもしれないと思ったけれど、
普段貰うものに比べると薄い感じがする。封筒も白くシンプルなもので、女の子が出すに
しては素っ気ない感じだ。よく見てみれば、この字体には見覚えがあるような気がした。
裏返して送り主を見てみれば、その理由が分かった。
「虎徹君、だ」
 二年前に離れた、好きだった人の名前。今もたまに夢に見る、虎毛色の髪をした男の子
の名前が書かれている。通りで見覚えがあった筈だ、なにしろ当時はよくノートを見せて
貰っていたのだから。その頃は人見知りが激しく、そのせいで友達も少なかったボクにも
気軽に接してくれた男の子。誰とでも分け隔てなく接する彼のお陰で、ボクも自分の姿を
気にすることなく他人と触れ合うことが出来るようになった。
「イッちゃん、どうしたの?」
 いけない、あまりの不意打ちに呆けていたらしい。
「ごめんね、久し振りだったから」
「知り合い?」
 数秒。
「うん、大事な友達」
 大事な、大切な、ある意味ではミズホよりも大きな存在。
「これからイッちゃんの家に行こうと思ってたけど、邪魔かな?」
 心配そうに見つめてくるミズホに対して、ボクは軽く首を振った。怖いからじゃない、
けれど何故だかミズホと一緒に読みたいと思った。二人なら、何が書かれていても大丈夫
だと、何の根拠も無しに思った。やっぱり、怖いのかもしれない。
531『花束』三本目:2007/01/06(土) 00:20:16 ID:Nft0s4Ey
 無言で家に戻り、ミズホと並んで封筒を開く。
『僕は幸せになれました。
 イツキちゃんも、幸せだと嬉しいです』
 中に入っていたのは、簡素な二行が書かれた手紙。普段饒舌だった彼にしては珍しい、
しかし大切な言葉だ。それが、丁寧で綺麗で、虎徹君独特の筆跡で書かれてある。きっと
彼のことだから、散々考え抜いた末のものだろう。少ない文字量の中でそれが読み取れた。
「……大丈夫?」
「平気だよ」
 平気、平気。
「でも、イッちゃん泣いてる」
 ミズホが手指を伸ばして、頬を撫でる。肌を滑らせて離れた指先は夕日の光を反射して、
オレンジ色に光っていた。それを見て、自分が泣いていたのだと自覚する。自覚すると、
急に感情が溢れ出してきた。決壊したダムのように涙が流れてゆくのが自分でも分かる。
 胸が、痛い。
「ひ」
 痛い。
「ひぁ」
 痛い、痛い痛い痛い。
 痛みによって、漸く理解した。
 ボクの初恋は、ここで終わったのだと。
 二年以上の片想いが、敗れ去ったのだと。
「やだ、やだぁ」
 情けない、体が崩れそうになる。
「大丈夫だよ」
 脱力し、崩れそうになる体を支えるものがあった。
 それは震える体を押さえて、次の瞬間には包み込んでくる。触れる肌から伝わってくる
のは人間の体温、支えてくれている人の温もりだ。それが誰かは考えるまでもないけれど、
改めて確認するように彼女に向き直る。
 優しい、ミズホの笑みがあった。
532『花束』三本目:2007/01/06(土) 00:21:15 ID:Nft0s4Ey
「大丈夫だよ、私が居るから。私は、絶対にイッちゃんから離れないから」
 そう言って、ミズホはボクを抱く力を強くする。
「こんなときに言うのも卑怯だけどさ、私はイッちゃんが好き。愛してる。イッちゃんの
お父さんの都合で離れ離れになったときは悲しかったし、二年前に戻ってきてくれたとき
は本当に嬉しかった。今日も結婚してって言われたとき、本当に嬉しかったんだよ」
 でも、目を背けていたような。
「あれは、何だか恥ずかしかったから。ついでに言うけど、サオリ先輩やチハヤちゃんを
嫌ってたのはカモフラージュだよ。イッちゃん、レズ嫌いみたいだったし。でもね、私、
やっぱりイッちゃんが好きなの。その気持ちに嘘はつけないし」
「ミズホ、今凄いこと言ってるよ」
 自分でもそう思う、と言って小さく笑い声を漏らす。それが可愛くて、同性なのに不覚
にもときめいてしまった。そして、いつの間にか暗い気持ちが消えていることに気付く。
体の震えも、涙も、いつの間にか消え去っていた。
「ね、イッちゃんは私のこと嫌い?」
 そんなことはない、それどころか益々好きになってしまった。
 問掛けてくる瞳に応えるように、ミズホの唇に自分のそれを重ねる。数秒続けて離し、
もう後戻りは出来ないかもしれないと思って苦笑した。けれど、不思議と後悔の気持ちは
浮かんでこない。胸の底から沸き上がるのは、もっと別の暖かいものだ。
533名無しさん@ピンキー:2007/01/06(土) 00:21:52 ID:9glOpKut
もう、1年も経ってしまったのか・・
まさか、ここまで規模が大きくなってしまうことは誰が予想できたことやら
その辺のエロパロの過疎スレになるどころか
神と阿修羅様のご活躍により、次々に神々の作品を投下されてある意味で有名なスレになってしまった
まとめサイトで神々のSSを読めるのは阿修羅様のおかげであり、神が書いてくれた作品があるからこそ
このスレは今までやってこれたのだと思います。

ゆえに更なる発展を求めて提案したい事は

嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレの宣伝バナーとか作らないかと

某エロゲーメーカーによくある宣伝バナーをHPやブログを持っている連中が

嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ応援中です
って感じでバナー張りまくるわけですよ。
そうしたら、更に人が集まって俺も作品を書こうかなと神々が更に投下してくれる可能性は大



534『花束』三本目:2007/01/06(土) 00:22:31 ID:Nft0s4Ey
「ありがと、イッちゃん。さ、せっかく両想いになれたんだから、やることやらなきゃ」
 やること?
 笑みを浮かべてミズホは離れ、立ち上がった。体温が消えてゆくのを少しもったいない
と思いながら、楽しそうに歩くミズホに着いてゆく。どこに向かうのかと思ったら、辿り
着いた先はボクの部屋だった。そう言えば買ったばかりのCDがあったけれど、今は虎徹君
を思い出すのであまり聞きたくない。多分、暫くは聞けないだろう。
 部屋に入るとミズホはベッドに腰掛け、隣を軽く叩いた。ボクもそれに習い、腰掛ける。
寄りかかってくる軽い重さが気持ち良く、柔らかな感触や甘い匂いに胸が僅かに高鳴った。
「ね、イッちゃん」
「何?」
「自分で脱ぐ? 私が脱がせる?」
 あまりの発言に、思考が飛んだ。いきなり何を言い出すのだろう。漸く戻ってきた思考
が答えを導き出すけれど、理解が追い付いてこない。何故、いきなりそっちの方に行くの
だろうか。キスはしたけれど、その数分後に全裸はないと思う。
「だって、恋人でしょ?」
「その展開は飛躍しすぎだよ!」
「いやぁ、カミングアウトしたら気が楽になって」
「楽になりすぎ!! 順序ってモンがあるでしょ!?」
 恋人になった直後にセックスだなんて、考えただけで顔が赤くなってゆくのが分かる。
でもミズホは幼馴染みでお互い知らない間柄でもないし、何回も一緒にお風呂にも入った
こともあるし、何だかボクも断ろうって気はないし、どうしたら良いのだろう。
 ステップ・バイ・ステップ、何事も順序が大事ですよ。
「し、シャワー浴びてくる!!」
 するとは決まっていないけれど、ボクは逃げ出すように部屋を飛び出した。
535ロボ ◆JypZpjo0ig :2007/01/06(土) 00:24:08 ID:Nft0s4Ey
今回はこれで終わりです

『花束』がリシアスに分類されているのに驚いた
これのジャンルは……何でしょうね?
536名無しさん@ピンキー:2007/01/06(土) 00:26:55 ID:fGQtsdjx
>>535
ごめんなさいごめんなさい割り込んでごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃぃ…

GJです。ゴッドのGJ。想いが叶って良かったけどきっと全然良くないんだろなw
つかとらとらー!!!
537名無しさん@ピンキー:2007/01/06(土) 00:28:27 ID:XK344dc0
>535

リシアス (百合+シリアス)って事で一つ…
続きお待ちしてます。
538名無しさん@ピンキー:2007/01/06(土) 00:29:41 ID:Nft0s4Ey
凡ミス発見宝島
チハヤちゃんでなく、チヨリちゃんでした
名前弩忘れにも程がある
539名無しさん@ピンキー:2007/01/06(土) 00:31:27 ID:BToKNwN2
>>515でおねだりしたら願いがかなった!
ロボさんGJ!
って、虎徹君がこんなとこにも
540名無しさん@ピンキー:2007/01/06(土) 00:33:19 ID:IwKFN51o
>>535クロスオーバーコテツミンキタコレ!
541名無しさん@ピンキー:2007/01/06(土) 00:36:14 ID:bjdbBcMr
このスレが誕生したのが自分の誕生日と同じとは…。
542名無しさん@ピンキー:2007/01/06(土) 00:37:06 ID:9glOpKut
やべぇ・・
長文書いている時に割り込みしてしまった・・
殺されるかもしれん
543名無しさん@ピンキー:2007/01/06(土) 00:47:20 ID:lI5PSDnI
信じられない私達の間に割り込むだなんて私達の仲を引き裂こうだなんてそんなこと自分がされたらどう思うの
何でそんなに人の幸せを邪魔したいの何でそんなことして心が痛まないの何でそんなことして恥ずかしくないの
何でそんな風に生きてられるの何でそんなに死にたいのダメだこれはもう許せないんだ許せないんだ許せないんだ
544 ◆j6xIfCOdTc :2007/01/06(土) 00:57:09 ID:emkuSlCf
みなさんあけましておめでとうございます。
久々の投下になります。
今回は依存者の登場です。
では
545蒐集家と依存者と電波娘 ◆j6xIfCOdTc :2007/01/06(土) 01:01:44 ID:emkuSlCf
キーンコーンカーンコーン…
間の抜けたチャイムの音と共に、脱力し机に突っ伏す物が居れば、いそいそと鞄から弁当を取り出す奴、走って購買へ走る奴も居る。
つまり、今は昼休みと言うこと。
朝のあの後、20分に及ぶマラソンのお陰で間に合った。
そのおかげで朝のホームで脚がツってしまったのだけど。


「あぁ…、昼休み、つまりランチタイムだ!」
そう俺の前で軽快なステップを披露しやがるのは、栗輪 和(くりわかず)だ。
あだ名はもちろん────
「黙れ、『クリリン』」

だからといって、コイツはスキンヘッドでもなく、額に六つの点があるわけでもない。
どんな奴かと言うと、割と遊び人なタイプだ。

「地球人最強なんだぞ!
…ところでご一緒にランチしません?」
「おまえ佳奈ちゃんはどうしたんだよ?
この間まで『ラヴ・ランチ』してたじゃないか」
「ご想像にお任せします」
相も変わらず彼女がよく変わる奴だ。
ラヴ・ランチは栗輪の『じゃ、佳奈ちゃんとラヴ・ランチしてくるから』
と言う捨て台詞より抜粋
546蒐集家と依存者と電波娘 ◆j6xIfCOdTc :2007/01/06(土) 01:04:58 ID:emkuSlCf
「しかたねぇなぁ…」
そう言いながら机を合わせ、弁当を鞄から取り出す。
ちなみにこの弁当は僕が作った。
料理は出来るからな。
料理の出来ない未来にも作ってやってる。
「いやぁ、久しぶりだなぁ」
「で、どうして別れたんだ?」
遠い目をする栗輪にそうツッコむ。
未来の次くらいに付き合いが古いので遠慮は要らないしな。
「いや、その…」
急に口ごもる栗輪
「浮気?」
「…バレた?」
いや、それ以外の理由でお前が別れた事無いから。と心の内でツッコむ。
半ば呆れ果てながら弁当箱の蓋に手を掛けた瞬間、ガラッ。と教室の戸が開いた
「守屋 恵先輩は居ますか?」
飛び込んできたのは、俺の所属する邦楽部の後輩、澄須(スミス) エリナちゃんだ。
輝くブロンドのショートカットに、空色の大きな瞳。
上級生相手に緊張しているのか、不安げに八の字に曲げられた眉に、思わず抱き締めたくなるような可愛らしさを感じる
確実にこの学校の五本指に入るほどの美少女だ。
スミス、なんて名字や、ブロンドなのは、父親が帰化日本人だからだそうだ。
547蒐集家と依存者と電波娘 ◆j6xIfCOdTc :2007/01/06(土) 01:10:12 ID:emkuSlCf
「どうしたの?エリナちゃん」
椅子から立ち上がり、エリナちゃんに近付く
「いえ、その…、お昼ご一緒しようと思ったんですが…」
チラリと栗輪の方をみて、
「…先輩のお邪魔になる様なので…」
酷く落ち込んだ様子のエリナちゃん
あぁ、栗輪を警戒してんのかな?
奴は在る意味有名人だからな。
「全然邪魔なんかじゃないぞ?、栗輪も一緒で良いなら一緒に食べようか」
「えっ?いいんですか?」
パッと顔を輝かせるエリナちゃん。やっぱり可愛い

「いやぁ、エリナちゃんみたいな美少女とランチ・タイムを御一緒できて光栄だよ」
「そ、そんなことないですよ!」
「僕もそう思うよ?」
僕がそう言うと、チラリと此方を見て頬を赤らめる。
照れてるんだろうか…?
そう考えると鼻血が出そうになった。
この後のエリナちゃんは栗輪に対しても楽しげに接していた。
警戒してた訳じゃなかったんだな…




放課後
今日も邦楽部の部室による。
未来は女子バスケットボール部でエースでキャプテンなので、放課後は殆ど会わない。
548蒐集家と依存者と電波娘 ◆j6xIfCOdTc :2007/01/06(土) 01:16:03 ID:emkuSlCf
邦楽部は、みんなで好きな曲を聴いたり、バンドをやったりする部活だ。
毎週水曜の昼休みには、リクエストに応じて曲を放送したりもしている。
邦楽部にはプロデビューした凄い先輩達のバンドがあるお陰で音楽室が部室になっている。
今日も部室に一番乗りだった。
今日はmaniac loveの『Too deep love』を聴こう。
maniac loveは先述の先輩達のバンドだ。
最近ではよくマニラなどと呼ばれるガールズバンドで、
激しく、一途な女の子の愛が歌詞になっている。
それが受けたのか、大流行して、年末の音楽番組で、数々の新人賞を受賞している。
だけど、マニラの影響で、女性による監禁や、恋敵の惨殺事件なども増えているらしい。
マニラのメンバーには一人一人、恐ろしい話があって、
ひとりは恋敵を東京湾に沈め。
ひとりは恋敵をミンチにして。
ひとりは恋人を監禁し。
またひとりは他のメンバーがやった事を全部やったらしい。
ま、噂だろうけど。
549蒐集家と依存者と電波娘 ◆j6xIfCOdTc :2007/01/06(土) 01:18:02 ID:emkuSlCf
『Too deep love』

朝目が醒めて 最初におはよう 伝えたいアナタは隣にいない

どうしていつも そんなに優しくできるの 私なんか 突き放せばいいのに

目と目があって telepathyで『アイシテル』 伝えたいアナタの隣にはアイツ

どうしていつも 隣にアイツが アイツなんか 殺してしまおう

夜目を閉じて 最後にオヤスミ 伝えたいアナタは 物言わぬ屍

アナタはワタシと永遠に一緒

ワタシの愛の海底で

ワタシだけを見つめてて
────────


うーん…、相変わらず凄い歌詞だなぁ
えーっと…、作詞はMIYAKO?メンバーじゃない人だ。
なんて聴きながら考えていたら、突然ドアが開いた
「遅れてスイマセン!」
そう慌てて部室に入ってきたのはエリナちゃんだった。
「オッス!エリナちゃん」
片手を上げ、声を掛ける
「オッスです!先輩!」
エリナちゃんも元気よく返事をしてくれた。
「ところで、遅れてって何に?」
邦楽部には、開始時間も活動日も特に決まって無いので、何かに遅れる、と言うことが無いんだけど…
550蒐集家と依存者と電波娘 ◆j6xIfCOdTc :2007/01/06(土) 01:20:26 ID:emkuSlCf
「先輩…、もう忘れちゃったんですか…?」
不安げな瞳のエリナちゃん
その眼差しにちょっとドキッとした。
や、ヤバい!
このままではエリナちゃんを悲しませてしまう!
考えろ!考えるんだ僕!
「えーっと…そうだ!マニラの曲の練習だったね?」そういえば、昼休みにそんな約束したなぁ…。
エリナちゃんはあの電波バンドの大ファンだそうだ。
「はい!」



2時間後…
「エリナちゃんは凄いなぁ、もう簡単に弾けちゃうなんて」
「そんなこと無いですよ!
私なんかまだまだ先輩には及びません!」
謙遜するエリナちゃん。
良い子だなぁ〜、ホント。
家の隣の誰かさんとは大違いだ。
「きっとすぐ追いつくよ、
…そろそろ暗くなるし帰ろうか?」
それに、エリナちゃんみたいな美少女に誉められると照れるな…
「えっ!、は、はい!帰りましょう!」
なんだか慌てた様子のエリナちゃん
うーん、流石は美少女。どんなときでも可愛いな。
551蒐集家と依存者と電波娘 ◆j6xIfCOdTc :2007/01/06(土) 01:22:36 ID:emkuSlCf
今更だけど、エリナちゃんは俺より頭一つ分背が低いなぁ。
それもあって、余計に可愛く思えるのかもしれない。

部室をでて、玄関に向かう。
「エリナちゃん」
「な、何ですか?先輩」
「やっぱりエリナちゃんみたいな美少女がひとりで帰るのは危ないから送ってくよ」
うん、当然だな。
エリナちゃんが一人だと確実に襲われそうだし
「いいんですか…?」
何故か俯いて答えるエリナちゃん。
耳が赤く見えるのは夕日のせいだろう。



と、まあ、この後は特に何もなく、2人で話しながら帰った。
時折、こちらを見る瞳や、無邪気な笑顔が眩しい。
本当に美少女だなぁ…
あ、そういえば、栗輪曰く未来も学校で五指に入るくらいの美少女だそうだ…。
身近すぎて実感わかないけど……

「じゃあ、俺は此処で」
あれこれと世間話をしている内に家の前に着いてしまった
「あ、先輩…」
「どうした?エリナちゃん」
「あ、いえ…、その…」
何か煮え切らない態度のエリナちゃん。
「…?どうしたの?」
「な、なんでもないですっ!!」
「?ならいいけど…、あ、また何かあったら言ってね!」
「えっ?良いんですか?」
552蒐集家と依存者と電波娘 ◆j6xIfCOdTc :2007/01/06(土) 01:23:50 ID:emkuSlCf
「エ、エリナちゃんの頼みなら何でもやっちゃうよ!」
心底嬉しそうに微笑むエリナちゃん。
僕との身長差のおかげで上目遣いになってる。
あぁ、こういう時に人は犯罪を犯して仕舞うんだなぁ…、と思った。
「じゃ、じゃあ、もう帰るね!」
「はぃ…」
「そんな悲しそうな顔しないでよ、明日、またね!」
「また、明日です…先輩」
そう言ってエリナちゃんに背を向け、歩き出す。
心臓がドキドキしてる…
もしかしたら、恋してしまったのかもしれない…



すっかり日も沈み、所々で道を照らす街灯を頼りに帰宅する
家の前に佇む人影に気付かずに…
553 ◆j6xIfCOdTc :2007/01/06(土) 01:27:00 ID:emkuSlCf
今回は以上です。
これからどんどん依存度が上昇します。
ところでロボ氏GJ!!!
554名無しさん@ピンキー:2007/01/06(土) 01:28:28 ID:U8c5VEGO
リアルタイムで投下に居合わせてしまった

>>553
はげあがるほどGJです
555名無しさん@ピンキー:2007/01/06(土) 01:35:33 ID:mMkegufA
GJです。続きを楽しみにしております
556名無しさん@ピンキー:2007/01/06(土) 01:37:56 ID:LtuM2Yxd
俺のアンテナにビンビンときたぜ
イツキたんと虎姉妹の間にあったであろう修羅場を見てみたいってね
557『閉鎖的修羅場空間』 ◆wGJXSLA5ys :2007/01/06(土) 13:07:41 ID:ex1q44V2
とりあえず、今の状況では何の手出しもできない。一通り室内を確認しようと、ソファーから立ち上がり、男子トイレに向かう。
明るい蛍光灯に、大、小の便器一つずつ。やけに綺麗になっている。
ほとんど使われていないのだろう。部屋の隅に換気扇が回っていたが、体を通せるような大きさではない。
「無理、か。」
吸い終わった煙草を捨て、リビングに戻ってみると、聖がなにやら騒いでいた。
「なんなのよっ!携帯も繋がらないじゃない!早くパパに連絡してこんなとこ出たいのに………ああもうっ!パパに言って、こんなことした奴を目茶苦茶にしてやるんだからっ!!」
重度のファザコンらしいな、あいつは。さっきからパパ、パパ。よほど父親に甘やかされてきたんだろうな。社長令嬢というぐらいなんだから。
リビングには聖と姫野、城山だけがいた。他の二人は部屋に戻ったのだろうか。確かにあいつのヒステリックに付き合ってたら疲れるからな。俺も部屋に戻ろう。
「あ、あのっ!」
階段を下りる途中、誰かに声をかけられた。振り返ってみると、姫野が顔を赤くして立っていた。
558『閉鎖的修羅場空間』 ◆wGJXSLA5ys :2007/01/06(土) 13:08:38 ID:ex1q44V2
「……何か様か?」
抑揚のない声で聞く。自分も相変わらず愛想のない奴だなと思いながら、姫野の返事を待つ。
「あ、あの……間違ってたら大変申し訳ないんですが………祐吾さん、兵馬、又は相楽という名字を名乗ったことはお有りですか?」
「兵馬に、相楽?」
また聞くに懐かしい名前を出してくる。
「……覚えはないな。なんでそんなことを?」
「そうですか……申し訳ございませんでした。昔、私にはお兄様…とはいっても義理ですが、いたのです。とてもお優しくて………」
「ああ、うん、で?その人が?」
「はい、それが……幼い頃に家庭の事情で離れ離れになってしまい、私が姫野家、お兄様が相楽家に引き取られたのです。そのお兄様の名が祐吾、と申しますので…」
「じゃあ、引き取られる前は、二人とも兵馬の姓を名乗ってたのか?」
「はい、祐吾さん、と同い年ですので、もしかしたらと思ったのですが………」
「いや、悪いが別人だな。」
「い、いえっ、こちらこそ、勝手に考えを先走ってしまって……」
そう言いながら何度も頭を下げ、姫野はリビングへと戻っていった。
559『閉鎖的修羅場空間』 ◆wGJXSLA5ys :2007/01/06(土) 13:09:54 ID:ex1q44V2
「ふぅ。」
部屋に入り、ベットに倒れこんで一息つく。いったいなんでこんなことになってしまったのか。
つい昨日まではなんの変わりもない毎日を過ごしていたのに。
ごろんと横になると、部屋の隅に見慣れた鞄があった。俺が仕事に持っていく物だ。こいつも俺と一緒に連れてこられたのか。なんだか親近感がわく。
「どれ…」
ドサドサドサドサッ
鞄を開け、ひっくり返して中身をブチまける。別に割れ物や取扱に注意する物も無い。
携帯……やっぱり圏外か。煙草、ライター、眼鏡ケース、車の鍵、家の鍵、仕事関係の書類、筆箱、免許証、財布……金やカードは取られてない。
「ん?」
その中に一つ、おかしな物を見つけた。何のラベルも張られていない、ビデオテープだった。
「こんなの、覚えねえな。」
興味をそそられ、早速部屋にあるテレビで再生してみる。
ピッ
「うあ!?」
再生したとたん、驚きで声をあげてしまった。それもそのはず。映っていた部屋の真ん中で、女性が血まみれのまま倒れていたからだ。まだ殺されたばかりなのか、血が止めどなく流れている。
「どうも、はじめまして。」
560『閉鎖的修羅場空間』 ◆wGJXSLA5ys :2007/01/06(土) 13:11:24 ID:ex1q44V2
「!?」
その光景に放心していると、ビデオから突然声がした。それは変声機を使っているような、耳障りな声だった。
「これを見ているということは、すでに状況にお気付きかな?」
その声と共に現れたのは、片目のところに穴を開けてある紙袋を被っている人物だった。……昔映画であった、『エレファントマン』の真似であろうか。
それだけでも異常なのに、さらに血がこびりついているのが、猟奇性を醸し出していた。あの女性の返り血なのだろうか。
「この女かい?」
そう言って血塗れたてで、女性の死体を指差す。
「これは僕の妻だったんだけどねぇ、浮気しているって言ったら、離婚するとか言い出したんだよ……だめだぁ、だめだなぁ………」
男はビデオカメラを掴み…ブンブンと振り始めた。
「女性は!!嫉妬に焦がれるからこそ!!!!美しいんだ!!!!!!!なにが離婚だ!!!!!!!!嗚呼!!美しくない!!!醜い!!!!汚い!!
その離婚相手の家に包丁片手に乗り込んで!!!!!あわよくば刺すぐらいのことはしないと!!ダメなんだよぉぉ!!」
561『閉鎖的修羅場空間』 ◆wGJXSLA5ys :2007/01/06(土) 13:12:35 ID:ex1q44V2
……俺はその奇異な映像を、理性をフル動員して見ているしかなかった。
「ハァー、ハァー、はぁーーー……だから僕は、自分で体験できないなら、他人の修羅場をみて楽しむことにしたんだ。
………そこで君の出番さ。」
そう言ってこっちを指差す。
「その建物からの脱出方法は、二つある。一つは……」
「な、なんだ?」
脱出方法と聞こえ、ふと我にかえる。
「そこにいる女性のうちの一人を孕ませること。」
「は………あ?」
今なんていった?孕ませる、だと?
「無事に孕ませることができ、妊娠の確証が取れたら、君と、その孕んだ女性はそこから出してあげよう。後の女性は……わからんな。」
「意味のわからんことを……」
こんなキ○ガイ野郎に耳を傾けるのも無意味だが、とりあえず二つ目の脱出方法を聞く。
「二つ目は……君自信で見つけることだな。」
「馬鹿が、消えろ。」
ピッ
頭が痛くなってきたので、全て見終える前にテレビを消す。だが、見て損はしなかった。脱出方法は二つ……そう、一つ目みたいな馬鹿なことをしなくても、ここから出られるのだ。それを探そう。
待っててくれ…………
562『閉鎖的修羅場空間』 ◆wGJXSLA5ys :2007/01/06(土) 13:13:43 ID:ex1q44V2
なんかハイになってるなぁ、俺orz
563名無しさん@ピンキー:2007/01/06(土) 17:37:31 ID:uvdLhGtn
GJ!修羅場を見つめて居たい、それを作り出して実行する修羅場スキーのエレファントマンワロスw
564名無しさん@ピンキー:2007/01/06(土) 18:00:15 ID:E+6Z1oSC
昨夜、電話で桜ちゃんーーあの女から電話がかかってきた。
「私、稟君に告白したの。私、稟君と寝たのー」
そんなことを言った、私はすべてが崩れていくのを感じた…そして
「大丈夫、稟君はもう、あなたと会うことは無いから」、そして電話を切った。
そして、その日のうちに私は行動を起こしたーーー
私は、おはようのキスがしたくて――その欲求が抑えきれずに――彼の口枷を外そうと手を伸ばした。
彼だってもう、私がどんな風に彼のことを思っているか理解してくれたはず。無闇に声を上げたりはしないと思う。
口枷に手が掛かる。なぜか彼の顔は怯えているように見えた。そんなわけないのに。 口枷が外れて、
「稟君――」
「この変態女っ! 近寄るな、触るんじゃねえ!縄をほどけよっ!」
稟君は絶叫した。
「変態?」
無意識に、私は稟君をオタマで殴っていた。無意識なのだから、加減なんかできるはずもない。
カンッ、という甲高い音が四、五回もしただろうか。気が付くと、両の頬を真っ赤に腫らした稟君が倒れていた。
酷いことをしてしまったと思う。今の彼はあの女の影響を受けているから、私を受け入れてくれるに時間がかかるのはしかたがないのに。
私は謝ろうと口を開いて、
「ごめん――」
けれどそれは、稟君のさっき以上の大音量の叫び声にかき消されてしまう。
「助けて! 助けてくれっ! 桜っ!」
一瞬、目の前が白くなったような気がした。顔面を鍋で殴った。
なんで、私の気持ちを分かってくれないんだろう。こんなに大切に思っているのに。
馬乗りになって、鍋を無茶苦茶に叩き付けた。
どうして、あの女の名前なんて呼ぶんだろう。よりによって、あの女の名前を。
叩くのをやめると、両手を拘束してあるせいで顔を庇うこともできない稟君は、
ぼろぼろになって鼻からは血を流していた。
「やめて……やめてくれよ……」
弱々しく呻く彼にまた口枷をはめて、手足の拘束を確認してからクローゼットに押し込める。
一緒に朝食を摂ろうと思ったのに――。

まあいい。私が学園にいってる間、ひとりでいれば頭を冷やしてくれるだろう。
そうすれば、誰が本当に稟君をかけがえなく思っているか理解してくれるはず。
565名無しさん@ピンキー:2007/01/06(土) 18:11:30 ID:mBW0rslk
>>564
七誌?
566名無しさん@ピンキー:2007/01/06(土) 18:14:22 ID:vQZhEUjX
シャッフルの楓様だろ、ちなみに桜ってのは稟と楓の共通の幼馴染
567名無しさん@ピンキー:2007/01/06(土) 19:36:39 ID:I38xbQM0
投下します
568バック ◆8BVPwsPs7s :2007/01/06(土) 19:37:57 ID:I38xbQM0
 痴情の縺れから生まれる血で血を洗う醜い修羅場。
 そんなものは、やらせ番組やゴシップ誌の中だけに存在するもので、実際には滅多に起
こるものじゃない。
 ましてや、自分が体験するなんて未来永劫ありえない。
 そう思ってこれまでの三十年を生きてきた私だったが、

「あなたっていう人は……! あたしという妻がありながらッ! 子供まで作っておきな
 がらッ! あんなメスブタに誑かされるなんて!!」

「おおお落ち着け落ち着こう落ち着くんだ、亜美! とりあえず、危ないから包丁は置こ
 う。あと佐奈が起きるから静かに、な?」

 ただいま、修羅場の真っ最中でございます。
 こうなった原因は、私の浮気にある。全面的に私に悪いのだから、言い訳はしない。
 だが、今はなによりもまず、喉元に刺身包丁を突きつけている、結婚五年目の我が妻を
説得しなければならない。
 殺されるのも殺させるのも勘弁だ。

「許さない……。絶対に許さないんだからッ!! あなたも! あの女も!」

 無理、かな……?

「待てって! 話せば分かるから! 落ち着いて話し合おう!」

「五月蠅い五月蠅い五月蠅ァァァアアアい!! 他の女に盗られるくらいならッ!」

「あ――――」
 
 よく砥がれた刺身包丁は、それが本来の用途であるかのごとく私の喉笛を刺し抉った。
 致命傷だと直感する。
 数歩よろめいて、身体は床に崩れ落ちた。
 喉が――――冷たい。
 痛いとも熱いとも感じなかった。
 どうやら、私の神経はもうまともに感覚を伝えることができないらしい。
 髪を振り乱し、涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゅにした亜美が泣き縋る。

「イヤァァアアッツツ!! 死なないで、死なないであなた! 死んじゃ嫌よ! 私を残
 して逝かないでぇえ!!」

 自分で刺したくせに、死なないでとは身勝手な。
 そう思った次の瞬間、私の意識は闇に喰われた。


 死んだ。
569バック ◆8BVPwsPs7s :2007/01/06(土) 19:39:32 ID:I38xbQM0
 誰だって、一度は考えたことがあるだろう。
『もしも、過去に戻れたなら』と。
 受験に失敗したから、ギャンブルで大損したから、仕事でミスをしたから、事故や事件
に巻き込まれたから、結婚生活に満足がいかないから、そして、浮気がバレたから。
 考えるに至る理由は多々あれど、この願望には必ず一つ共通の前提条件がつく。
『未来の記憶を持ったままで』という。
 当たり前だ。ただ過去に戻っただけでは、同じ時間・場所・状況に置かれれば、また同
じ失敗をしてしまう。それが人間というものだ。
 だから、失敗した時の――より正確に言えば、失敗に至るまでの――情報を持ったまま
過去に戻り、『正しい選択』をし直すことを、どんな人間であれ一度は願う。
 とは言っても、そんなものは所詮叶わぬ願い、妄想に過ぎない。21世紀になって10
数年経ったが、ドラ○もんはおろかア○ムさえ造られていないのだ。タイムマシンなんて
夢のまた夢。そもそも、時間というものを人間が恣意的に扱うこと自体が不可能なのだ。
 「昔に戻りた〜い」なんてことを考えている暇があるのなら、失敗をバネに二度と同じ
過ちを繰り返さないように、より一層努力するのが常識人として正しいと言える。

 私もそう思っていた。
 思っていたのだが――――

570バック ◆8BVPwsPs7s :2007/01/06(土) 19:40:58 ID:I38xbQM0

「……ぃ、ぉい、おい起きろ!」
「んあ?」

 誰かの呼ぶ声で、私の意識は深遠なる闇の胃袋から吐き戻された。

「やっと起きたか。授業はとうに終わったぞ。単位ギリギリの身にしてはあるまじきお美
 事な眠りっぷりだったな」

 少し霞んだ目に映るのは、縁無し眼鏡をかけた長身痩躯の男。年齢は二十歳くらいだろ
うか。手には六法辞書と刑法の教科書、ノート。典型的な法学部の大学生だ。

 その顔には見覚えがあった。

「南条? お前、南条か!? じゃあここは天国なのか? ――なんでオレまで?
 ……とにかく、お前にまた会えて嬉しいぞ、南条!!」

 立ち上がり目の前の男に抱きつく。
 この男、南条正也は同じ地元の高校からの親友だった。大学卒業後に同期の中では唯一
人司法試験に合格し、それを祝って開いた飲み会の帰り道、暴漢に襲われ殺された。
 飲み会なんてやらなければ、別の店にしていれば、少し時間をずらしていれば……。
 何度後悔しただろうか。誰にでも気さくに接し、思いやりに溢れ、生きて弁護士になっ
ていれば、きっと世のため人のために働いたであろう、この親友が死後に天国でなくて何
処に行くというのだ。
 再び会えた親友の姿に、私は歓喜の涙を零したが、南条の反応は全く違った。

「気色悪い、抱きつくな泣くな! ここは天国でも地獄でも煉獄でも辺獄ない! 寝ぼけ
 るのも大概にしろ。まったく……、どんな夢見ていたんだ?」
「――――ゆ、め?」

 親友が発した単語の一つに私の身体は固まった。
 目の前の男は今なんと言った?

「だって! お前は交通事故で、オレはさっき刺されて死んだ…………」
「は? どれだけ物騒な夢を見たんだ? 自分が死ぬ夢を見る人間には自殺願望があると
 いうが。能天気に見えてそんな悩みがあったのか……」

 迷惑そうだった視線が一転、こちらを気遣うようなものに変わる。
 やっぱり南条はいいやつだ。嫌な夢を見た友人を心配しているのだろう。

 そう、夢を――――。

 言葉の意味を咀嚼し終えた瞬間、私は弾かれたように立ち上がり、辺りを見回した。
 昔流行ったファッションで身を固めた若者たち。ぼろぼろの天井と壁。さっきまで座っ
ていた壊れかけの机と椅子。汚い字で黒板に書かれた法律用語。
 
 ――――間違いない。
 
 ここは私が四年間通った大学だ。
 いくらなんでも、ここが天国なわけはなかろう。いや、もちろん行ったことはないから
断定はできないが。
 ふと視界の隅になにかが映る。
 それは窓ガラスに映る、茶髪で安物のパーカーとジーンズを着た青年の姿。
 紛れも無く若かりし頃の私――――。
 瞬四肢がガクガクと震える。全身から血の気が引いていく。
571バック ◆8BVPwsPs7s :2007/01/06(土) 19:42:09 ID:I38xbQM0

「南、条……」

 聞いてはいけない。だが、聞かなくてはならない。

「今日は……何年何月何日、だ……?」

 私の声は自分のものとも思えないほど、かすれしゃがれていた。
 まるで地獄から黄泉返った亡霊のように。

「合コンのし過ぎで疲れているんじゃないのか? ほどほどにしておけよ」

 心配そうにそう言ってから、南条は『今日』の日付を口にした。
 心のどこかで予想していた通り、それは私の主観では『過去』のもの。
 二十歳の冬。
 大学二年の後期。
 好き勝手にやっていた若かりし頃。
 亜美に刺し殺される十年前。
 そう、十年前――――!

「は、はははは、はは、はははははははははははははは…………」

 なにがなんだか分からない。考えたって分かるはずもない。
 だから、笑うしかなかった。
 今までのことは、全て夢だったのか?
 遊び呆けたツケでなかなか就職先が見つからかったこともゼミの教授に泣きついてどう
にか職を確保したこともギリギリの単位で卒業したことも卒業コンパで泥酔してカー○ル
おじさんにハイキック入れたことも初出勤の日に痴漢に間違われたことも忘年会で部長の
カツラを剥いだことも……。
 南条が死んだことも!
 亜美と結婚したことも!
 佐奈が生まれたことも! 
 同窓会で再会した『彼女』と一夜の過ちを犯してしまったことも! 
 それが原因で亜美に刺されたことも!
 この十年の全てが夢だったというのか!?

「あっははは、は、はははははははははは、はははははは、はは…………」

「おい、ハル! 本当に大丈夫か?」

 ハル。
 私、川島遥貴の学生時代の愛称。
 それがダメ押しだった。
 慣れ親しんだ呼び名が、私に現実を思い知らせる。
 神の戯れか悪魔の暇潰しか。
 私は十年前に『戻って』来てしまったのだ。

「助けて、ドラ○もん……」

 発狂寸前の心で、縋るようにネコ型ロボットの名を口にした。
572バック ◆8BVPwsPs7s :2007/01/06(土) 19:43:52 ID:I38xbQM0
 ここまでです。
 修羅場神の皆々様に憧れて、こんなものを書いてみました。
 よろしくお願いします。
573名無しさん@ピンキー:2007/01/06(土) 19:53:05 ID:jIkwunWX
GGGGGGGGGGGGGGGGGJJJJJJJJJJJJJJJJJ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
574名無しさん@ピンキー:2007/01/06(土) 20:07:02 ID:LtuM2Yxd
かなりぐっとくるシチュエーションだ!!
GJ!
575名無しさん@ピンキー:2007/01/06(土) 20:29:06 ID:HN39SQs8
>>572
GJ|ω・`)b
こいつは先が読めない展開だぜ
若い頃の亜美がどんな修羅場を出すのか期待
576名無しさん@ピンキー:2007/01/06(土) 21:21:30 ID:7X/RFRBo
>>572
憧れるも何も、俺の中ではあなたも既に修羅場神の一員ですから。
続きが気になって仕方がねー!!
577名無しさん@ピンキー:2007/01/06(土) 21:38:17 ID:02QhGXPa
泥棒猫の最後よぉ!!
                       _ノ″  ¨アly_   , .∴| ̄ ̄| ̄ ̄| ̄|
                   _,yr!!^゙″      .゙\,  ', ・| ̄| ̄ ̄| ̄ ̄|
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  ノノ.ヘ(i|#゚ヮノi|つ 〜♪             ¨アluyy,,,,yzll},・| ̄| ̄ ̄| ̄ ̄|
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578恋と盲目 ◆IOEDU1a3Bg :2007/01/06(土) 21:51:55 ID:0rn/LJg8
「当社にはミカゲという社員はおりません」
……一時間も玄関で待たされた結果がこれだった。
そう答えた受付嬢に、歓迎の念は無いという事はわかる。
私のような一般人にそれを察せられる限り、この人は受付向きの人材ではなさそうである。
だが……この場で嘘を言う理由は見つからなかった。
なら仮にこの言葉が本当だったとしたら……
待った、一回頭を整理してみよう。

1・京司の勘違い説
説明としては一番自然な説明がつく仮説。
とは言え、それはそれで京司が何と勘違いしたのかが問題になる。
ミカゲという名で、京司のクラスメイトで、白羊出版の記者で、祝賀会にも出席した。
……そんな人物が居るとどうして京司が思い込んだのか?
それに対する答えは見えてこない。

2・ミカゲ、アルバイト説
ミカゲという名の記者は白羊出版の正社員ではなかった。
だから受付嬢が調べてもその名は出てこなかった。
仮に私とミカゲが同年齢だった場合、ミカゲの年齢は24、
先輩だった場合は多めに見積もって29、後輩だった場合は19だ。
その年でフリーターというのも不自然な話じゃない。
……ただし、この説には一つだけ問題点がある。
いくら有名所では無いにせよ、賞を取った直後の作家を取材するのにアルバイトを起用するか否か。
普通はしない……たぶん。
白羊出版がそんなに抜けているとも人材不足とも思えない。

3・白羊出版の陰謀説
白羊出版が何らかの事情でミカゲの存在を隠そうとしている。
……却下。
隠そうとしている人物にしては露出が多すぎる。
あるいは何か汚職でもやらかしたのかしら?
残念ながらそんな噂は聞いた事も無かった。
とすると……

「……で、貴方はいつまでそこでうんうん唸っているのでしょうか?」
……受付嬢から放たれた殺気で思考が中断された。
「あははっ……ごめんなさい……」
一瞬だけ心臓が停止したかのような錯覚を覚えた。
一瞬だけ人で在らざる者の気配を感じたような気がした。

その感覚が脳のある神経を繋げた……ミカゲって人間なのかしら……と。
第四の説……ミカゲ人外説……
579恋と盲目 ◆IOEDU1a3Bg :2007/01/06(土) 21:52:48 ID:0rn/LJg8
 ……ガタンッ
   ……ゴトンッ
電車に揺られながら、私は先ほど思い至った第四の説を形にする。
ミカゲが本当に人で在らざる者であるかどうかはこの際関係無い。
問題は、ミカゲに常人を超えた能力があるかもしれないという事だ。
なら……具体的なミカゲの能力は?
これは推測するしかない。
ハッキリと言ってミカゲの情報が少なすぎる。
それでも今までの状況を綺麗にまとめる仮説をなんとか考える……
考える……も、想像すらつかなかった。
それは仮説と言うには余りにも不恰好かつ御都合主義。
小説として出されたのなら佳作にもなる事はないだろう。
それでも……それでもあえて一番まともそうなのを選ぶとするなら……
違った、一番しっくりと頭に馴染む仮説だ。

それは……ミカゲは他人の記憶を改竄する事ができる……といった内容の物だ。

「バカバカしい……とは言い切れないのよね、残念ながら」
周りに人が居ない事を確認し、意識的に独り言を呟いてみる。
この世に二桁を超える子を産ませ、娘兼孫である母さんに手を出し、
あまつさえ当時中学生だった私にすら手をつけようとした変態近親相姦ロリクソエロジジィの存在。
私と全く同じ親、同じ家庭、同じ環境で育ったにも関わらず、確かに宮間の血統を受け継いでいる私の弟。
その弟の周りに集まる人でない者達。
私は確かに小説よりも奇妙な事実を知っているのだ。
故に私は、今更記憶の改竄程度で驚きはしない。
そして私は考える……この説には一つだけ問題点がある。
他の点は全てこの仮説で説明できる。
左腕の文字はやはり私が書いた物で、おそらくこれ以外の方法で記憶を失った私に危険を伝える方法が思いつかなかったのだろう。
白羊出版では周りの者にミカゲという人物を居ないものだと思い込ませているのだろう。
時々飛んでいる記憶は、ミカゲに会っているのか、あるいはミカゲについて重要な何かを眼にしている時なのだろう。
では……何故京司の記憶は改竄しなかったのか?
白羊出版の社員の記憶を改竄している点から考えて、祝賀会に出席した者にも能力は及んでいると考えた方が良い。
京司の記憶がそのままなのは忘れてほしくなかったからだろうか?
それとも忘れさせる事ができなかったからだろうか?
いかんせん、情報はまだまだ少ない。
……とにかく、今から向かう場所で調べられる事を全て調べ終えたら、祝賀会に出席していた全員から話を聞く必要がありそうね。
もう一度車内を見渡し、無人を確認する。
包帯を解けば、まだ左腕の文字はハッキリと確認できた。
「ミカゲ、シラベロ……か」
この文字を見る限り、ミカゲの能力は完璧ではない。
たったそれだけが私の希望であった。
だが……もしも全てがミカゲの掌の上での出来事だったなら……
もう間もなく、私と京司がかつて通っていた小学校へと辿り着く。
私は一度思考を中断させ、懐かしい景色を眺める事にした……
580恋と盲目・おまけ ◆IOEDU1a3Bg :2007/01/06(土) 21:53:38 ID:0rn/LJg8
変態近親相姦ロリクソエロジジィこと、宮間麟太郎。
享年:116歳
死因:首を切り落とされ即死
鑑識は凶器を鋭利な刃物であると断定。
現場には激しく争った跡があり、付近には多量の血痕が付着。
頭部は胴体から2m離れた場所にて発見、胴体部には多数の切り傷があった。
凶器らしき物は現在の所発見されていない。
血液の鑑定により、現場の血痕は宮間麟太郎の物と浅野巧の物であると判明。
また事件発生と同時に浅野巧が行方不明となっており、警察は重要参考人として行方を追っている。

浅野緑:当時15歳
浅野巧:当時13歳
581シベリア! ◆IOEDU1a3Bg :2007/01/06(土) 21:55:58 ID:0rn/LJg8
少しづつながら、確信に迫っていっている実感があります。
次回に乞う御期待。
582名無しさん@ピンキー:2007/01/06(土) 22:25:27 ID:ryb+zYSf
要するに新手のスタンド攻(ry

アレ?すたんどッテナンダッケ。オモイダセナイ。
583 ◆zIIME6i97I :2007/01/06(土) 22:36:10 ID:km75XYpi
ノン・トロッポ、投下します
584ノン・トロッポ:2007/01/06(土) 22:37:11 ID:km75XYpi
部活が終わって教室にいた進の耳に、沙織の声が聞こえてきた。
一人ではないようだった。

「今日ぐらい付き合ってよ」
「だから、わたしは進を送らなくちゃいけないから」
「いつもそうじゃない。たまにはいいでしょ。みんないくんだから。沙織、カラオケ好きじゃない」
「うん、でもごめんね、ほんと」

そんな会話が聞こえた後に、教室の戸が開いた。
沙織と、その後に何人かの女生徒が控えていた。
沙織は遅れたことを謝ると、進を促してすぐさま帰ろうとした。
女性徒は、なおも沙織を引きとどめようとするが、いくら本人をなじっても効果がないのを知ると、今度は進に話を振った。

「ねえ、平沢君からもいってよ」

彼女の話によれば、女子テニス部と男子テニス部の有志でカラオケに行こうという話になったが、沙織は進を送るといって聞かないのだという。
これまでもいくども遊びに誘ったが、そのたびに同じ理由で断られてきたそうだ。
とはいえ、高校最後の年になって、仲間といられるのも後わずかであるのに、その調子で卒業してしまっては沙織はきっと後悔するだろうと、女子生徒はそういうのだった。
そのとおりだと進は思った。
沙織の残りの高校生活もそう長くないのだから、放課後にはクラスや部活の仲間と一緒にすごすべきだ。
そして、今のこのタイミングでそんな話が降ってきたのは、チャンスなのではないか。
ささやかな一歩を踏み出すための。

「いってきなよ、沙織ちゃん」
「え?」
「僕は大丈夫だから。ちゃんとひとりで帰れるから」

すんなりとそういえた自分に、進は驚く。いってしまえば、なぜこんな簡単なことが今までいえなかったのか、それが不思議だった。

「ほら、平沢君もこういってるんだから。男子テニスのやつらも、みんな沙織が目当てなんだからさ。沙織がいないと始まらないよ」

進はそれを聞いて、胸がちくりと痛んだ。

「でも、ひとりで帰したりして、事故にでもあったら」
「大丈夫だって。心配のしすぎ。男の子だよ」
「でも、進は足が」
「あの、わたしが一緒に帰りますから」

会話に割り込んだのは、3人のやり取りを聞いていた愛美だった。
沙織の目にも、最初から彼女の姿は入っていたはずだが、それまでは気に留めていた様子はなかった。
沙織は改めて、愛美の方を見た。
そこで愛美は初めて沙織に自己紹介した。
進とはクラスメイトであり、そして美術部員であると。
沙織はそれを聞いて、眉をひそめた。

「わたしの家、平沢君と同じ方向にあるんです。だから途中まで一緒に帰れます」

それでも、渋る沙織の肩を、件の女生徒が背中から抑えた。

「ほらほら、沙織も野暮だよ。邪魔しちゃ悪いって」

彼女は誤解をしているようだったが、わざわざそれを解く必要もないだろうと進は考えた。
585ノン・トロッポ:2007/01/06(土) 22:37:57 ID:km75XYpi
女生徒は、半ば引きずるようにして沙織を強引に連れて行こうとした。

「ちょっと、待ってってば。わたしはまだ」
「それじゃあ、ええと川名さんだっけ。平沢君をよろしく。沙織に代わって無事に守ってあげてね」
「はい。きちんとエスコートしますから」

それでは男女の役が逆だと進が文句をいうと、愛美は楽しそうに笑っていた。
だが、その笑顔が引きつって顔が青ざめた。
進は何かあったのかと尋ねるが、愛美は固い笑顔で首を振るだけだった。
沙織の方へ顔を向けるが、そのときにはもう、彼女は女性徒に連れられていってしまった後だった。
教室には、進と愛美だけが残された。騒がしかった教室に、静寂が降りた。
愛美がため息をついた。

「それじゃあ、行こうか」
やがて、進がいった。

沙織以外と下校するのは、本当にひさしびりだった。
それゆえに、いつもと違う調子に戸惑うこともある。
たとえば、登下校中の会話は、常に沙織の主導だった。進はもっぱら聞き役だ。
沙織は、話題も豊富で、ユーモアもあり、つまり話術があった。
だが、愛美は違う。彼女は、決しておしゃべりではなく、どちらかといえば無口な少女だった。
そうなれば、いくら苦手だとはいっても、進の方で会話を主導しなければならなかった。
最初はぎこちなかったが、話しているうちに、会話も弾んできた。
クラスの話、いやな教師の話、それから絵の話。
もっぱら聞き役だった愛美も、しまいには自分から話題を振ることさえした。

「なんか不思議だ」

一瞬会話が途切れた間に、進がポツリといった。

「なにが?」
「いや、沙織ちゃん以外ともこんな風に話せたのかって」
「あまりないの?」
「ぜんぜん。恥ずかしいけど、僕友達いないから」
「わたしも」
「ああ、だったら友達いない同士だから上手くいったのかな」
「平沢君は、足立先輩がいるでしょ」
「沙織ちゃんは、友達というか、幼馴染だし」
「どう違うの?」
「どうかな。なろうとしてなったのが友達で、そうじゃないのが幼馴染かな。うちなんかは親同士が友達だから生まれる前から幼馴染だったみたいなものだから、特にね」
「わたしは?」
「え?」
「わたしは、なろうとしてなった、その、友達なの?」

愛美が上目遣いで聞いてきた。
586ノン・トロッポ:2007/01/06(土) 22:39:12 ID:km75XYpi
きっかけは偶然で、こうしていま一緒にいるのも多分に成り行きの要素があった。とはいえ、関係を続けることを選んだのは、確かに進自身だった。
そう思った進は、そのとおりだと肯いた。
沙織は、うれしそうに微笑んだ。

二人して、進の住むマンションの前まで来た。愛美の家は、さらにここから5分ほど歩いたところにあった。
ここでお別れ、という段になって愛美がいった。

「平沢君、明日も一緒に帰る?」

そう問われて、進は少し考えてからいった。

「いや、でも川名さんも迷惑だろうし」
「そんなことない!」

愛美は、思わず出した声の大きさに自分でびっくりしたようだった。今度は、声を低めていった。

「わたしは、平沢君と一緒にいるの楽しいから。だから、平沢君がよかったら一緒に帰りたい」
「えと、じゃあ、一緒に帰る?」
「うん」

そうして、明日も一緒に帰ることを約束して、二人は手を振って別れた。

進はエレベーターの中で、気持ちが高揚しているのを感じていた。
他人から、一緒にいて楽しいなどといわれたのは初めてだった。
誰かを不快にさせることはあっても、楽しくさせることができるとは思ってもみなかったから。
性格的にも、肉体的にも。
沙織が、自分の側にいるのは、楽しいからではないだろう。ほとんどは、義務感に駆り立てられてのものだろう。
それこそ、放課後に部活の仲間と遊ぶといった、自分の楽しみを犠牲にするほどに重い義務感。
もちろん、そのことで沙織が愚痴をいったこともなければ、表情を曇らせたことすらない。
むしろそれが進にとっては重荷だった。
しかし、愛美との関係は違った。愛美の言葉に嘘はないと進は感じた。
進は、一人きりのエレベーターの中で、「よしっ」とひとこと叫んだ。
587ノン・トロッポ:2007/01/06(土) 22:40:21 ID:km75XYpi
進が家に帰って、1時間ほどして、沙織が訪ねてきた。
予想外に早い帰りに進が戸惑っていると、沙織はひとりだけ抜け出してきたのだといった。

「どうして。ゆっくり遊んでくればよかったのに」
「どうしてって。進が心配だったからでしょ」

沙織が、どこか得意げにいった。
進はそれを聞いて、深々とため息をついた。そして、いまだ高揚している気持ちのまま、もう一歩踏み込む覚悟をした。

「あのさ、沙織ちゃん。この際だからいうけど。もう、僕のことは構わなくていいから」
「え?」
「これまで、沙織ちゃんには本当に世話になってきたと思う。それはすごく感謝してる。でも、もうそろそろいいんじゃないかと思うんだ。沙織ちゃんだって、やりたいことあるだろう?
僕のためにそういうの犠牲にするのはもういいから。沙織ちゃんが僕の足のこと気で気にしてるのは知ってる。けど、10年だよ。もう時効だよ。沙織ちゃんはもう、僕のことは忘れてもいいと思う」

自分でそういいながら、進は胸が熱くなってくるのを感じた。
だが、沙織は本当に何をいわれているのか分からない様子で聞き返した。

「なにいってるの?」
「なにって、だから」
「あの女に何かいわれたの?」

沙織は、無表情にそういった。その口調といい、いつもの沙織とは別人のようだった。

「川名さんは関係ないよ。これは前から僕が思ってたことで」
「嘘でしょ」
「本当だよ」
「嘘」
「本当だよ」
「嘘」

進は、珍しくいらいらしてきた。

「なんで嘘だなんていえるんだよ。僕の思ってることを本当か嘘か、沙織ちゃんが決めないでよ。だいたい、沙織ちゃんはいつもそうなんだよ。僕は確かに障害者だけど、自分でできることはできるんだ。
手助けしてもらうときだってあるけど、それも自分で頼みたいんだよ。僕はもう高校生だよ?ただの子供じゃないんだから」

進がいっきにまくし立てると、沙織はぽつりとそうかと肯いた。
進はやっと分かってくれたのかと思ったが、そうではなかった。

「そっか、進も反抗期なんだね」
「はあ?」
「そうだよね、進もそういう年頃なんだよね」
「ちょっと、何いってるの?そんなんじゃなくて、僕は本気で」
「分かったから。わたしもそういう時期があったし。でもね進、一時の感情に任せてそんなこというと後で絶対後悔するから。一晩寝て頭を冷やしなさい!」

沙織はぴしゃりとそういって、進のおでこを軽く叩いた。
そして、また明日の朝くるからと言い残して、進の部屋を出て行った。
進は、あっけに取られながら、それを見送った。
588 ◆zIIME6i97I :2007/01/06(土) 22:41:55 ID:km75XYpi
以上、ノン・トロッポ、第7話でした。
589名無しさん@ピンキー:2007/01/06(土) 22:46:00 ID:MNBX3EHn
590名無しさん@ピンキー:2007/01/06(土) 22:47:23 ID:Ro0QcBNT
GJです職人様。
何でこんなに面白いかなぁ?
本当に素晴らしいです。
591名無しさん@ピンキー:2007/01/06(土) 22:57:59 ID:Mla23jUP
GJ!
沙織がどんな形相してたのか気になるw
592名無しさん@ピンキー:2007/01/06(土) 23:05:35 ID:6eVJ2vn7
沙織と愛美が入れ替わってるとこがありますな
593名無しさん@ピンキー:2007/01/06(土) 23:08:30 ID:jIkwunWX
俺もこんな幼なじみ欲しかったなぁ・・・・・・
594名無しさん@ピンキー:2007/01/06(土) 23:09:19 ID:stvlOPWQ
沙織ちゃんいい感じで病んで来た!
日本語が通じない(このスレでは褒め言葉)嫉妬娘クルー!!
595名無しさん@ピンキー:2007/01/06(土) 23:11:15 ID:ryb+zYSf
うーん、いいな。
このまま少年のささやかな自立と軽い嫉妬の物語になるのか大嫉妬死人出まくりになるのか。
ワクワクするぜよ。

>>592
え?気づかなかったな。
596名無しさん@ピンキー:2007/01/06(土) 23:14:29 ID:Iy/JPI75
同感だ。金払っても読みたいくらいだ。
597名無しさん@ピンキー:2007/01/06(土) 23:22:11 ID:oj4f7O7G
ずっとこれを待ってた
598名無しさん@ピンキー:2007/01/06(土) 23:24:38 ID:hPK8S/4W
>>572
これは面白い
すごく好きだぜそのシチュエーション

>>588
俺もそんな幼馴染が欲しい
そして今の記憶のまま高校1年くらいに戻りたい


599名無しさん@ピンキー:2007/01/06(土) 23:25:27 ID:LtuM2Yxd
GJ!
なんかもう毎回必ずどこかしら名前とかタイトルとかが入れ替わってしまうのがお約束みたいになってますね(´・∀・`)
この作者さんは視点が移らない限りヒロインの嫉妬をあまり露骨に描かないね。それがもどかしいと同時にいい味になってる。
600名無しさん@ピンキー:2007/01/06(土) 23:43:21 ID:mMkegufA
>586                                               沙織は、うれしそうに微笑んだ。                                   ここは愛美かと・・・
601名無しさん@ピンキー:2007/01/06(土) 23:49:12 ID:mMkegufA
うわ・・・行が大変なことに・・・orz
602名無しさん@ピンキー:2007/01/06(土) 23:49:38 ID:lI5PSDnI
タイムスリップものとは
これはどんな修羅場か先が読めねぇ…

沙織は一体どんな顔してたんだw
603名無しさん@ピンキー:2007/01/06(土) 23:57:32 ID:wJ9b2US9
>>587
>「あの女に何かいわれたの?」

「出 出た……一秒間に十回の独占欲発言、ほ、本物だ」
「スゲエ、作者様への俺たちの祈りが、嫉妬の神を沙織さんの中に呼び覚ましたんだ……」
604名無しさん@ピンキー:2007/01/07(日) 00:02:11 ID:IIUE6fa/
デトロイト・修羅場・シティ
605名無しさん@ピンキー:2007/01/07(日) 00:28:49 ID:5o4b2bhQ
さぁらけ出せ狂気の芽♪デ、デン♪
606うらき:2007/01/07(日) 00:40:15 ID:XV+PYaPN
素晴らしいです!
607名無しさん@ピンキー:2007/01/07(日) 00:48:29 ID:6FXSKDHp
もうそろそろ次スレタイトル考えた方が良いんじゃね?
450kbいったら直ぐ新スレ建てられるように
608名無しさん@ピンキー:2007/01/07(日) 00:49:56 ID:cheZmVaQ
泥棒猫26限地獄を

とかどう?
609名無しさん@ピンキー:2007/01/07(日) 00:56:31 ID:LFUlzsT9
|ω・`)元々460〜スレタイ募集じゃなかったっけ?
最近は作品長いのが多いから450でも良いかもしれないが・・・
610名無しさん@ピンキー:2007/01/07(日) 01:02:41 ID:8NznO3x0
投下しますよ

百合が苦手な人はスルー
611『花束』四本目:2007/01/07(日) 01:03:43 ID:8NznO3x0
 少しお湯を暑めに設定して、ノズルを捻る。僅かな時間でお湯が暖まり、湯気が沸いて
視界をぼんやりとしたものに変えた。肌に当てると微かな痛みがやってくるが、体はすぐ
に順応して気にならなくなった。気持ち良い、と思いながら、まずは全体を濡らす。
 目、赤くなってないかな。
 なんとなく気になり、鏡を掌で拭った。映っているのは、毎日お風呂に入るときに見る
ものと変わりのない自分の姿。身長の割にはあまり高くない座高、それを支えている体は
意識して見てみると、自分でも意外だと思うくらいに細い。確認するように、今度は鏡で
間接的に見るのではなく、直接自分の体を見下ろした。二の腕は、見なかったことにする。
けれど、どこを見てもいつもの体だ。胸は、同年代の娘よりは大きいかもしれない。腰は
普通、お尻は安産型だと言われるけれど、脚は普通だと思いたい。
 そして、肝心の眼。
「やっぱり、極悪だ」
 赤くはなっていないけれど、細く鋭く狂暴な感じがする。
「でも」
 ミズホは、そんなボクでも好きだと言ってくれた。
 いけない、ミズホが待っている。
 体を洗う。
 洗う。
 洗う。
 セックスするとは決まっていかいけれど、体を清潔にするのは大切だ。ただ、念の為に
新品のスポンジ、それのざらついた面で三回も洗ったので肌が少しヒリヒリする。でも、
後二回は洗った方が良いのかも。これ以上は肌がかさかさになるから止めた方か良いかな。
612『花束』四本目:2007/01/07(日) 01:04:51 ID:8NznO3x0
 それでも割れ目は丁寧に、もう三回程洗っておこう。これからのことを考えながら指を
這わせると、何だか気持ち良くなってきた。意識して、勝手に動き出す指を止める。股を
濡らしていったら、いくら何でも引かれるかもしれない。
 最後に体を流し、バスタオルだけを身に付けて戻った。これはエッチなことをするため
じゃない、長くお湯に当たっていたからだ。自分に言い聞かせ、部屋に入る。
「遅かったね」
「うん、でもいつもこんな感じだよ」
 嘘だ、普段は五分で終わる。
「私も入ってくるね」
 入れ違いになる形で、ベッドに腰掛ける。
 吐息。
 一人になると、待つ時間がやけに長く感じる。一分がまるで一時間くらいのように思え、
思考の置き場がなくなってくる。しかし、不思議と辛くはない。
「でも」
 どうすれば良いんだろう。
 ボクはそんな経験もないし、多分ミズホも無いだろう。やり方がさっぱり分からなくて
悶々としてくる、今鏡を見たらまた顔が真っ赤になっているだろう。
 気恥ずかしさに俯いた視界に学校の鞄が入って、チヨリちゃんからのプレゼントを思い
出した。茶色い封筒を手に取り、開けて中のものを取り出した。
 うわ、結構グロい。
 ピンク色のそれは、結構えげつない形をしていた。男の人のものを形取ったものらしい
けれど、こんなものが本当に体の中に入ってしまうのだろうか。色々な角度から観察して
みたけれど、それが入っている様子が想像出来ない。
613『花束』四本目:2007/01/07(日) 01:06:28 ID:8NznO3x0
 軽音。
 不意のノックに、双頭バイブをへし折ってしまった。
「は、入って良いよ」
 慌ててベッドの下に放り込み、平静を装った。
「何だか、恥ずかしいね」
 ミズホもバスタオル一枚だけの姿で、頬を赤く染めて俯いている。そのままボクの隣に
座ったけれど、言葉が出てこない。何とも微妙な雰囲気だ。
 無言。
「えっと、まずは何だろう」
 沈黙に耐えきれなくて、ボクから切り出した。
「ぬ、脱ぐ?」
 言葉通りに、ミズホがバスタオルを外した。ボクもそれに習い、バスタオルを外す。
 お父さん、そして天国に居るお母さん。ごめんなさい。あなた達の娘は、女の子を相手
に初体験を迎えようとしています。笑って下さい、ボクも何が何だかよく分かりません。
でも後悔はしていないので、祝福してくれると嬉しいです。虎徹君、ボクは幸せです。
「えっと、次は?」
 ミズホの声に、現実に引き戻された。
 次は、何だろう。雑誌や男の人向けの本、ビデオでは最初に舐めていたような気がする。
「な、舐める」
「どこを」
 ボクにもミズホにも、棒は付いていない。この場合は、どこを舐めれば良いんだろう。
いきなり股間はアウトな気がするし、それにそこを触られるのも少し怖い。嫌ではない、
けれど順番があると思う。不味い、思考が訳分からなくなってきた。
「お、おっぱい?」
 やがて生まれたのは、そんな言葉。
614『花束』四本目:2007/01/07(日) 01:07:17 ID:8NznO3x0
 ミズホは戸惑いながら頷くと、唇を重ねてきた。そして舌を伸ばして口の中を探って、
ゆっくりと離す。これは凄い、ただ唇を重ねるのと全然違う。頭が呆けて、思考が曖昧な
ものになってくる。正直本の中の世界でだけだと思っていたけれど、馬鹿に出来ない。
 そんなことを考えている間にミズホは首筋に舌を這わせ、顔を滑らせて下へと移動する。
その度に背筋が震える程の快感がやってきて、声が漏れてしまいそうになる。自分でする
ときよりもよほど気持ち良い、と言うより怖い。このまま胸まで来たときのことを考えて、
思わずミズホの頭を掴んでいた。力は入らないけれど意思は伝わったらしく、顔を離して
こちらを見上げてきた。上目遣いがとても可愛い。
「嫌?」
 嫌、じゃない。
 迷った一瞬の隙を突いて、顔を胸に埋めてくる。まるで赤ちゃんのようだけれど、ボク
に刺激を与えようとする動きは決定的な違いだ。最初はじらすように周囲を舌でなぞり、
ついに唇は先端まで辿り着く。固くなっているそれを柔らかく甘噛みされると、今までは
我慢出来ていた声が漏れてしまった。自分でもこんな声が出せたのだと、思考の隅の冷静
な自分が囁いてくる。側面を唇で、正面を舌でねぶられると我慢出来ない声が大きくなる。
「待って、それ以上は」
「待ったなし」
 一瞬だけ唇を離してそう言うと、ミズホは再び顔を埋めてくる。
615『花束』四本目:2007/01/07(日) 01:08:49 ID:8NznO3x0
「や、やだぁ」
「でも」
 股間に指先が走り、
「イッちゃん、濡れてるよ」
 目の前で広げられた手指の間には銀色の橋がかかっていた。
「今度は私に、して?」
 恥ずかしさに目を閉じていたせいで、耳元で囁かれる声が余計にはっきりと聞こえる。
まだ目は開けないけれど、場所は大体覚えている。手探りで場所を確かめるようにミズホ
の胸を撫でると、指先に、他の柔らかな感触とは違うものが当たった。そこに唇を当てて、
ミズホがしてくれたように舌を這わせる。途端に喘ぎ声が聞こえて、軽く抱いていた体が
震えた。小さな声で、しかし何度も呼ばれるボクの名前が嬉しくて、夢中で吸い、舐める。
先程やられたようにミズホの股間に指を滑り込ませると、指先に濡れた感触がやってきた。
膣内を傷付けないように表面だけを擦るけれど、それだけでも粘着質な音が聞こえてくる。
目を薄く開くと、とろけた笑みがあった。いやらしい、愛しい表情だ。気が付けば、唇を
重ねていた。
 舌を絡ませ、息が苦しくなってきたところで唇を離す。は、という吐息の後で、小さな
笑い声があった。ボクより低い位置にある肩が震え、俯いた頭が僅かに上下している。
「どうしたの?」
「イッちゃん、エッチだね」
 ごめんなさい、お父さんお母さん虎徹君。ボクはエロい娘らしいです。
 でも、止まらない。
 ボクは再びミズホに唇を重ね、胸に手を這わせた。僅かな力でも自在に形を変え、掌を
包んでくるのが快い。その感触を楽しみながら、もう片方の手を股間に這わせて、擦る。
ミズホもそれに応えるように、ボクと同じく割れ目に指を這わせてきた。割れ目をなぞる
ものがミズホの手指だというだけで、一人とは比べ物にならない程の快感だ。体が処理を
しきれなくなったのか、不意に涙が溢れてくる。それを舌で拭うと、ミズホは微笑んだ。
616『花束』四本目:2007/01/07(日) 01:09:44 ID:8NznO3x0
「ね、イッちゃん。もっと気持ち良く、なろ?」
 もっとって、本やビデオで見た、お互いの顔を股間に埋める例の体制だろうか。さすが
にそれは、ちょっと遠慮したい。お互い初めて同士なのに、それはレベルが高すぎだ。
 ボクは少し考えて、ミズホの体を抱き締めた。そしてお互いの割れ目や胸を合わせて、
体を上下に動かし始めた。どちらにも男の人のものはないから、差し動かすのではなく、
擦りあわせる動き。動く度に胸が擦れ、割れ目から水音と物凄い快楽が脳に伝わってくる。
たまに思考が飛びそうになる程の強い刺激に、胸の奥底から波がやってくる。自分が自分
じゃなくなる程の波、それが全身に響いてゆく。
 怖い。
 けれど、腰の、体の動きが止まらない。
 何度も唇を重ね、舌を絡ませ、唾液を交換する。本来無味な筈のそれは酷く甘く、高級
なお菓子のように思考をぼやけさせてゆく。何も考えられず、ボクはひたすら体を求めた。
「イッちゃん、大好き」
 ミズホがボクの鎖骨に舌を滑らせて、
「や、だめ。だめ」
 直後。
 思考が完全に飛び、続いて頭の中が真っ白になった。
 二人で脱力して、並んでシーツの上に寝そべった。本来は一人用のベッドなので、肩を
くっつけている状態だ。触れ合った肌からはミズホの体温が感じ取れて、それが嬉しくて
そっと手を握る。細く滑らかな手指が強く握り返してきて、それがまた嬉しかった。
「ね、イッちゃん。大好きだよ」
「ボクもだよ」
 二人で笑みを浮かべて、そっと唇を重ねた。
617ロボ ◆JypZpjo0ig :2007/01/07(日) 01:11:06 ID:8NznO3x0
今回はこれで終わりです

明日もガッツリ仕事だってのに
こんな時間に何書いてんだ俺
618名無しさん@ピンキー:2007/01/07(日) 01:27:41 ID:6FXSKDHp
花束はとらとら並に好きなので投下は嬉しい
しかしエロイね
ガチ百合マンセー
619名無しさん@ピンキー:2007/01/07(日) 01:52:41 ID:KuAiZdGy
早々に次スレタイの話題持ち出す奴は何なんだろうね
スレタイも素直にxxスレ目でいいじゃないか?
正直言って毎回不毛な会話にしか見えないし、その前に作品の感想欲しいよ
620クロユリ ◆/qHTzufVAQ :2007/01/07(日) 01:58:27 ID:QMFOqYGs
修羅場神に影響されて書いてみました。
誤字や読みづらいところなどありましたら教えてください。
投下いきます
621名無しさん@ピンキー:2007/01/07(日) 01:59:24 ID:07vJVdnL
>>619
別によくね?そのぐらい。
622【クロユリ第1話】 ◆/qHTzufVAQ :2007/01/07(日) 02:00:24 ID:QMFOqYGs
クロユリ
クロユリ第1話
My sister encountered the girl.

寒さで目を覚ますことが多くなってくるであろう今日この頃。
皆さんはどのようにお過ごしですか?


「……ほら、稜(りょう)。起きなさい」
ゆさゆさと俺の防寒城を切り崩す存在。
この程度では、城壁は崩れん。
「また遅刻するわよ?」
大丈夫。遅刻ボーダーまではあと10分もある。
「窓、開けとくから」
そのような脅しには断じて負けない!!
……
………
…………
……The 崩壊

「死ぬっっ!!!!」
「朝の挨拶はおはようでしょう?」
「……おはよう。姉ちゃん」

まぶたを開けばそこにいるのは我が姉こと鶴川綾音(つるかわ あやね)だ。
一応都内の大学に通っている花も恥らう(?)女子大生。
まあ、見た目がボーイッシュだから、恥らいはしないだろうな。
623【クロユリ第1話】 ◆/qHTzufVAQ :2007/01/07(日) 02:01:32 ID:QMFOqYGs
「朝ご飯作ってあるから、下降りてきて食べちゃって」
「ん。今日、大学は午前だけ?」
「そ。なんか夕飯に食べたいものある?」

食べたいものと聞かれれば、悩んだ末に何でもいい、と答えるのがデフォルトだけれど、姉ちゃんの場合にそれをやると本当に「食べられそうな物体」が出てくることがある。
それだけは避けなければならない。

「んじゃあ、三ツ星チャーハン」
「その、三ツ星って何よ?」
「味、量、愛の三拍子そろったチャーハンさ!!」
「ごめん。最後の一拍子無理だわ」
「orz」
「口で言うな!」

結構努力したのにな。orzの発音。
今日の部活で流行らすか。
制服に着替え、部屋を出て階段を下りる。
この家もずいぶん狭く感じるようになったな。
廊下突き当たりのドアを開け、リビング、イン。

「夕食だけど、チャーハンでいいのね?」
「うん。よろしく頼む」
「よろしくお願いしますでしょう?」
「………よろしくお願いいたします」
「よし」
「それじゃ、いただきまーす」
「うん。食べたらお皿片付けといてね。それじゃ、いってくるから」
「いってら〜」
624【クロユリ第1話】 ◆/qHTzufVAQ :2007/01/07(日) 02:02:30 ID:QMFOqYGs

朝のニュースをBGMにしつつ、朝食のサンドイッチを頬張る。
先週から学校は冬休みに入ってるから、今日は午前中に部活だけだ。
俺は弓道部に所属していて、一応副主将になってる。
まぁ、腕前の方はと聞かれれば、そこそこですと言うしかないな。
ん、そろそろ家を出ないとまずいな。



ガスの元栓オッケー。電気オッケー。施錠ヨシ。
立派な一軒家だけど、住んでるのは二人だけだしな。用心するに越したことは無い。
俺たちの両親は4年前に他界してしまっている。あの時は、テレビでも大々的に報道されてたな。
死因は二人とも心臓まで達する刺し傷による失血死。何でも人間関係の縺れらしい。
父さんと母さんって恨まれるような人たちじゃなかったのにな。
そんな波乱があって一時期は鶴川家は大混乱した。生活費は両親の保険金で何とかなってるみたいだ。
そういえば、家事とか家計とか全部姉ちゃんに押し付けちゃってるなあ。
鶴川家長男として情けない。機会があれば家事でも手伝おう。

俺が通う学校までは一度バスで駅まで出てからまたバスに乗って行かなければならない。ずいぶんと不便なところへ進学しちまったもんだ。
学力は中堅ってところ。変わった行事なども無い平凡な学校だ。

学校に着いて直ぐに弓道場へと向かう。弓道場までの道には、学校がある日でも人通りは少ない。
果たしてこの学校に弓道場があるということを何人の生徒が知っていることやら。
っと、到着。

10年くらい前の建替えと同時に新設された弓道場。
現在の部員数は男女合わせて25人。大所帯のような気もするが、サッカー部と比べたら月とすっぽんだな。
現在時刻7時45分。何故にこのような早朝に弓道場へ来なければならないのかというと、副主将が故にである。
弓道場の鍵は主将が持ってるから、こうして外で待たなければならない。
625【クロユリ第1話】 ◆/qHTzufVAQ :2007/01/07(日) 02:03:31 ID:QMFOqYGs
「はぁ〜っ。しばれるのぉ〜〜」
一人で呟くのって、寂しいな。
早く来い〜〜〜〜〜。さみい〜〜〜〜〜。
「お待たせ!!鶴川君!!!」
極寒の大地にて待つこと5分。ようやく主将様のご退場だ。
川野夏美(かわの なつみ)である。いつもポニーテールに結わいてある髪がおろしてあるところを見ると、どうやら寝坊したらしい。
「さみいよ〜〜。川野さん〜。」
「ごめんね〜。寝坊しちゃった」
「だいじょぶさ。俺のハートは凍りはしない!!」
「鍵、開いたよ」
「orz」

道場に入って荷物を置き、道具と的のセッティングを済ませる。
こんな寒い日に袴着たらマジで凍傷になるかもな。

「あ、そうだ鶴川君。」
「うん?どうしたの?」
「今日部活終わったら午後、時間あるかな?」
「午後ならあいてるよ。何か用事でも?」
「うん。明日、部で新年会やるでしょ?それの買い物に付き合って欲しいんだけどいいかな?」
「おっけ。それじゃあ、駅で買い物かな?」
「そうだね。よろしくお願いね」

着替え終わって更衣室から出てきた川野さんは、いつもどおりのポニーテールになっていた。

お、そろそろ他の部員の来始めたみたいだな。

「それじゃ、そろそろ挨拶しようか?」
「りょーかい」

いつもどおりの練習メニューをこなしていくうちに、練習終了時間がやってきた。

「これで今日の練習を終わります。ありがとうございました」
「「ありがとうございました〜!!」」

本日の営業終了っと。あとは片付けしてから買い物だな。
626【クロユリ第1話】 ◆/qHTzufVAQ :2007/01/07(日) 02:04:12 ID:QMFOqYGs
全ての部員が道場を出たのを確認して、戸締り確認。道場の鍵を閉めて今日の部活はおしまい。
あとは朝に川野さんに言われた通り駅で、新年会の買い物だ。

バスに川野さんと隣同士で座る。なかなか新鮮な感じだ。
揺られること十数分、駅に到着。女の子が隣に座ってて軽く緊張していたのだろうか、少し疲れたな。

「それで、何を買いに行くの?」
「え〜とね、とりあえずは食材かな」
「よっし、じゃあ駅ビルに行こう」

駅ビルスーパーで食材を買うことにした。だって、当たり前だろ?
627【クロユリ第1話】 ◆/qHTzufVAQ :2007/01/07(日) 02:04:54 ID:QMFOqYGs
Side綾音

午前中は大学。教室内は暖房が利いていて集中力が散漫になる。
この講義が終わったら今日はもうお終い。
今日の夕飯はチャーハンだ。稜からのリクエスト。
リクエストするだけしておいて何も手伝わないから腹が立つ。
思えば、4年前から今の生活形態になって、家事全般をこなすようになった。
自分なりに、稜を守っていこうとして、手探りながらうまくやってこれたと思う。
そろそろ、稜にも自立していってもらおうかな。

チャイムが鳴り響き、講義の終了を知らせた。

「よっし、今日はこれでおしまい!」
「綾音、じゃあね〜」
「うん、また〜〜!」
帰りに駅で夕飯の買い物をするとしよう。

自宅からの最寄駅は一応ターミナル駅になっていて、周辺も発展しているから買い物には困らない。
特に駅ビルのスーパーは痒いところに手が届く品揃えで日ごろから利用している。

駅には冬休み中もあってかカップルが目に付く。
「私も恋人作らなきゃな〜。でも家の事が忙しいし………」

そうこうしているうちに駅ビルのスーパーに到着し、早速チャーハンの探す。
左右をきょろきょろと見回していると、見知った背中を見つけた。
弟の稜だ。こんなところで何をしているんだろう。
「お〜い!!りょ……」
「鶴川君!!これなんて明日にどうかな?」
「おっ!!いいねぇ。ナイスセンス!」
目に映ってきたのは、知らない女の子と楽しそうに買い物をする弟の姿だった。

姉としての日常は、終わりを迎えようとしている。

【第1話  FIN】
628 ◆/qHTzufVAQ :2007/01/07(日) 02:07:27 ID:QMFOqYGs
以上です。
やはり、自分で書いてみると難しい
読み易い文章を書くコツを知りたいです
629 ◆/qHTzufVAQ :2007/01/07(日) 02:10:04 ID:QMFOqYGs
>>そうこうしているうちに駅ビルのスーパーに到着し、早速チャーハンの探す。
チャーハンの具材を探す。です。
「orz」
ちなみにクロユリの花言葉は
狂おしい恋、呪いです
630名無しさん@ピンキー:2007/01/07(日) 02:10:36 ID:07vJVdnL
>>628
GJ!
期待の新人だな・・・・・・
てか割り込みかけた、スマソ
631名無しさん@ピンキー:2007/01/07(日) 02:19:40 ID:cheZmVaQ
>>628
GJ!
姉の嫉妬ぶりに期待だぜ!
632名無しさん@ピンキー:2007/01/07(日) 02:35:40 ID:6FXSKDHp
>>628
最後の一文が良質の修羅場を予感させる
GJ 新たな一歩を心から歓迎する

>>468
血に咽ぶ → 血26せぶ は中々良いスレタイ案だと思う
633名無しさん@ピンキー:2007/01/07(日) 02:38:36 ID:rRbOxNQx
もうpart26とか26匹目とかにしてほしいな。
いい加減どれもこれも、苦しすぎる・・・
634名無しさん@ピンキー:2007/01/07(日) 02:41:42 ID:2aWqbYSC
普通っぽい姉がどこまで修羅道に行くのか楽しみだ!

GJ!
635名無しさん@ピンキー:2007/01/07(日) 03:00:49 ID:4dxEY+e5
>>633
同意
636名無しさん@ピンキー:2007/01/07(日) 03:11:58 ID:JxKQGgWz
>>628
タイトルとラストの文章にドロドロとした物を感じるぜGJ!

>>633
まあタイトル案は結構続いてきているしそう目くじら立てなくても良いと思う
ただ、やっぱり基本としてスレ立て前にちょろっとやる程度でな
637名無しさん@ピンキー:2007/01/07(日) 03:12:01 ID:IIUE6fa/
どうせ次スレ後半になったらまたスレタイ云々の話になって、次々スレタイがふんにゃらかんにゃらなことになるんだろうよ。
以前まとめられてたスレタイの変遷からみればわかるけど、そういうパターンが決まってんだろ。
638名無しさん@ピンキー:2007/01/07(日) 06:08:00 ID:KuAiZdGy
という訳ですので、もうスレタイ考案は次回を以って終了
次々回以降は普通にPartXXということで如何ですか?
639名無しさん@ピンキー:2007/01/07(日) 07:57:53 ID:Jw9bUrVb
今までほとんどゴロ合わせが続いてたんでしょ。
なら今更そのスタンスを崩す必要もないように思える。
640名無しさん@ピンキー:2007/01/07(日) 08:04:54 ID:ZgO+Bs4H
次のスレタイの話で埋めなきゃ埋まらないスレじゃないんだから素直にXXでいいんじゃね?
641名無しさん@ピンキー:2007/01/07(日) 08:17:11 ID:s2nWUS2R
スレタイのゴロ合わせで話合うのもこのスレの醍醐味なのにねぇ
642名無しさん@ピンキー:2007/01/07(日) 08:27:36 ID:EwUZj75K
でももうたいした語呂無いでしょ
643名無しさん@ピンキー:2007/01/07(日) 08:28:00 ID:U4TnLXfM
語呂合わせが嫌ならそいつがスレ立てすればいい

俺は神々の修羅場SSが読めて
女の子が嫉妬に狂っていく様を愛でられればどうでもいい。
644名無しさん@ピンキー:2007/01/07(日) 09:25:31 ID:IIUE6fa/
統一しませんかって話なのよ
今みたいにスレ立てる人間によってころころ変わるようなのはすごく……気持ち悪いです……
語呂合わせなら語呂合わせでずっと続けばいいけど、どうせまた誰かが急に数えとかにしたりするだろうし
645名無しさん@ピンキー:2007/01/07(日) 09:33:57 ID:jjurHv87
スレの住人が修羅場してても萌えないんで次スレ建ててきました

http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1168129885/
646名無しさん@ピンキー:2007/01/07(日) 11:44:11 ID:ESdiAgUh
大量投下GJです。

>>570
南条の死因が暴漢に襲われたのか交通事故なのか?両方ならスマンです
647名無しさん@ピンキー:2007/01/07(日) 12:24:02 ID:b3gTAd5X
しかし、嫉妬スレの消費は早い
早いってレベルじゃないぞwww
648名無しさん@ピンキー:2007/01/07(日) 13:18:14 ID:LFUlzsT9
>>645

過去のスレタイだと監禁○日目が意外と好きだった・・・
可愛い子に嫉妬されて監禁されるというのは男の夢だよね (´・ω・`)
649名無しさん@ピンキー:2007/01/07(日) 13:45:40 ID:6TJBskPk
監禁26日目ともなると、もうそろそろ正気を保てそうにないのだが
650名無しさん@ピンキー:2007/01/07(日) 14:05:49 ID:nE/LXq6Q
もう陥落してそうだな
651名無しさん@ピンキー:2007/01/07(日) 14:22:11 ID:zZ98h5Kp
>武士の妻は体が弱く、はやくに亡くなってしまいました。
>妻は死の床にあって懇願した。どうか、わたしのほかには、もう二度と妻をとらぬと約束してください。
>小さな鈴と共に、妻は庭の片隅に葬られる
>しかし
>やがて約束は忘れられ
>武士はあたらしく妻を若く美しい妻を迎える
>亡き前妻の姿が現れたのはそれからだ
>
>ちりーん」
>
>屋敷の隅から鈴の音が
>すこしずつ、すこしずつ
>若妻のもとへ近付いてくる
>武士は宿直で家を空けている
>助けを呼ぼうにも声が出ない
>呼んで来てくれる人も無い
>
>「ちりーん」
>
>「ひでぇはなしだ」
>「え?」
>「だって、約束を破ったのはダンナだろ?なんでそこで、新妻ン所に化けて出る?」
>「…………」
>「…何だよ」
>「びっくりした。小泉八雲もね、その話を聞いた時に妻のセツに、そう言ったんだって」
>『化けて出るなら夫のもとに出るべきだ』
>「そしたら妻は言ったの」
>
>『それは男のひとの考えであって、女の感じ方ではありません』
>             (漫画『ナイーブ』/白泉社/二宮ひかる著より)
652名無しさん@ピンキー:2007/01/07(日) 15:22:22 ID:gOZCClJr
何方か嫉妬に狂った女を口説き落として・・・ってな感じの作品書いてくんないかなぁ?
当然ですが私は無理っス。
653名無しさん@ピンキー:2007/01/07(日) 16:21:36 ID:ER/lU6Yq
お帰り〜。 どしたの? 憤怒の顔で。
え? 私は養女かって?
うん、そうだよ。
あーこらこらこらこら、
女の子がブシャシャシャなんて笑うんじゃありません!
政敵の追い落としに成功した政治家みたいな顔も止めなさい、
貴様のアドバンデージは無くなった? 何の話? 何でもない? そう?
ちなみにお兄ちゃんも養子だから。 二人とも姉さんの子供。
あとでお仏壇に手を合わせてきなさい。 あーもしもし、聞いてる?
その側近の裏切りに気付いた独裁者みたいな顔も止めなさ〜い。
どうしたの? 壁をにらんで。 そっちにはお隣さんしか無いよ?
え? ダークヒロインも悪くなかろう? さっきから何の話?
きみの百面相は見ていておもしろいけど、焦土戦を決断した
軍司令官みたいな顔も止めた方がイイと思うなお父さんは。
せっかく綺麗な顔に生まれたんだから。
え、また出かけるの? いってらっしゃ〜い。
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1168129885/
654名無しさん@ピンキー:2007/01/07(日) 16:47:05 ID:fDzkHWD3
>>653
けっこう面白かった。
でも父親視点だっていうのが読んでてわかりにくかったかな。
655653:2007/01/07(日) 17:23:54 ID:6vYUhBSf
精進します〜。
656653再掲:2007/01/07(日) 19:55:25 ID:dNn9b6U5
お帰り〜。 お父さん一人だよ〜。
お兄ちゃん?
隣りに遊びに行ってるかな?
どしたんだい? 憤怒の顔で。
え? 私は養女かって?





う〜ん、男の子は養女って言わないと思うな〜。
657653:2007/01/07(日) 20:07:20 ID:dNn9b6U5
改変でしたね失礼しますた。
658リボンの剣士 最終話A ◆YH6IINt2zM :2007/01/07(日) 20:41:28 ID:65kCNgw6
新スレが立ってますが、一応ラストなのでこっちに投下します。
659リボンの剣士 最終話A ◆YH6IINt2zM :2007/01/07(日) 20:42:05 ID:65kCNgw6
花瓶が置かれた机と、何も乗っていない机。
これに座る者は、もういない。


クリスマスイブのことだったか。明日香が、木場を日本刀で殺害した事件。
当時の俺の記憶は、他人からの説明によって形作られた。
突然明日香が押しかけて来て、刀を突き付けて、木場の命を貰う、と。
それを俺が止めようとして、頭を打たれたのは憶えている。はっきりしていなかったのはその後だ。
夢でも見ているのかと思った。あの状況で、明日香と体を重ねるなど。
ずっと夜明けまで、明日香と肌を触れ合わせるなど――。

だが、現実だった。

明日香がレイプされたのも。
明日香が木場を殺したのも。
明日香が俺と体を重ねたのも。
そして、明日香が逮捕されたのも……。

さらに、明日香のレイプは、本当に裏で木場が糸を引いていたことも知らされた。
証言を元に、実行犯の自宅からその写真が見つかったという。
写真を見たくなくて、見られたくなくて、検証していた警察官に掴みかかって怒られた。
どれほど辛かっただろうか。どれほど苦しかっただろうか。
俺も事件の容疑を掛けられたが、殺人の動機に関わるとはいえ、実行とは無関係ということで、数日拘束された
だけだった。
それで済んだのも、明日香の懇願によるところが大きい。

泣いた。何日も泣いた。

明るい道を歩んでほしかった明日香は、全てを失った。
木場は、ただ一人のために間違った道に踏み込んで、二度と帰って来ない。
こうなってしまった原因は何処にある?
……此処にある。
全部、自分の不甲斐なさが引き起こした事。
それなのに、表面上は、俺は無罪。
660リボンの剣士 最終話A ◆YH6IINt2zM :2007/01/07(日) 20:42:54 ID:65kCNgw6
何かしなければならないと思いつつも、何をやっても取り返しがつかない現実に押される。
警察から釈放された後、明日香の家に行った。
出迎えたおばさんは、俺から目を逸らす。

「……もうここには来ないで。でないと、人志君に言いたくないことまで言いそうだから……」

ドアが閉まりそうなところを、手で止める。
俺はその、『言いたくないこと』を出させようと粘った。無理やり閉めようとしているのを力を入れて踏ん張り
押さえる。
溜まっているのを俺にぶつければ、おばさんやおじさんの気休めくらいにはなるかと思った。
そうなって欲しかった。
おばさんの手が顔を覆う。

「お願いだから、変な事はしないで……。人志君に八つ当たりしても、何にもならない……」

涙声だった。
違うんだ。明日香のことは、俺のせいなんだ。おばさんは文句を言って当たり前なのに……。
逆に気遣われてしまった。
俺は閉められたドアをしばし見つめた後、その場を立ち去った。

学校に復帰できたのは、冬休みなどとうに終わった後だった。
多くの人は無関心。元々関わりのなかった人からは特に何もされなかった。

しかし教室に入ると、一斉に放たれた冷ややかな視線に射抜かれる。
その中の一人、木場のスタイルについてプールで語っていた奴が、俺に掴みかかった。
木場が死んで、その怒りを、原因である俺に向けている。
何を言われても返す言葉がない。たとえ殴られても、蹴られても、反撃など出来ない。
だが、間に数人の女子、明日香の友達が入ってきて、俺とそいつを引き離した。

結局事無きを得たわけだが、友達の一人は俺に言った。
「本当はお前ぶっ飛ばしてやりたいけど、明日香が嫌がるからな」
その目つきは、さっきの奴と何ら変わらない。


俺の身は、今も明日香に守られている。
661リボンの剣士 最終話A ◆YH6IINt2zM :2007/01/07(日) 20:43:43 ID:65kCNgw6
守られていながら明日香を欠いた学校生活は、色を失った世界と化した。
部長さんや屋聞が何か俺に言った気がするが、その内容は欠片も頭に残っていない。
そもそも、学校で何をしていたのだろうか? 家に帰った後、一番に湧いてくる。

記憶が、途切れ途切れになっている。

明日香と過ごした部分はカラー映像なのに、現実に目から入ってくるのはモノクロの映像でしかなかった。
そんな日々が続く。
……気が付けば卒業していた。
いつの間に卒業式をやったんだか。まあいつでも良いのだが。

学校に行く必要が無くなったと言っても、体感的に変化があるわけじゃない。
どうせ学校での出来事など、あの時以来ほとんど憶えていないのだから。
しかし家から出る用が無くなると……ああ、これを引き篭もりと言うのか。
流石にそれではいけないと思い、今日は外を少し歩いてみることにした。
卒業から、まだそれほど日は経っていないはずだ。多分。

外を歩く。ただそれだけのことで、神経が磨り減るとは思わなかった。
ふとした拍子に気が抜けて、車に轢かれそうになったり、自転車とぶつかりそうになったり、電柱に激突しそう
になったりした。
加えて、特に意識もしていないのに、我に返ればすぐ近くに明日香の家、なんてこともある。

……あそこにはもう二度と近寄らないと決めたんだ。
おばさんと鉢合わせするかもしれないから、商店街と、そこまでの道のりに入ってもいけない。
注意する事がこんなに多いとはな……。

「……先輩?」
どこかの道で、誰かとすれ違った直後に、後ろから声がした。
さっきすれ違った人、女が、戻って俺の前方に来た。
顔と声は憶えている。
屋聞だ。

――!?

急に、周りは一斉に色が塗られた。
モノクロが、カラーになる。近くの通りを走る車の音が、スピーカーの音量をぐいっと上げたが如く、極めて五

月蝿いものになった。
662リボンの剣士 最終話A ◆YH6IINt2zM :2007/01/07(日) 20:44:22 ID:65kCNgw6
「ここで会うとは奇遇ですね」
「……そうだな」

まさか屋聞に出くわすとは思わなかった。きっと向こうも同じだろう。
しかしまあ、こいつの今の服装は……。
「女の格好をしてるから分からなかった」
スカート履いてるし、妙に似合っている。
すると屋聞は腰に手を当てて俺を睨みつけた。

「あのですね、前にも言ったでしょうが」
「前?」
「ちょっと訳有りで、男の振りをしていたんですよ」

……聞いた覚えがない。

「学校で二人のときに話したでしょう。卒業する前ですよ」
「忘れたな」

あの事件以来、学校であったことは穴が開いたように記憶が抜けている。
はあ、こいつ女だったのか。
屋聞はため息をついた。

「全く……。それにしても先輩、少し疲れているのではないですか?」
「いや?」
神経は磨り減っているかもしれんが、別に足の筋肉は疲労していない。

「先輩の家に鏡はないんですか? ぱっと見がバイオハザードですよ」
「何だと」
文句の一つでも言ってやろうとした時だった。

体が……動かない!?

まるで金縛り、金属の鎖で縛られているようだ。
「顔色が非常に悪いですよ。外に出歩いて大丈夫なんですか?」
屋聞が、眼前まで来る。

すぐ後ろに、誰かがいる。

「熱はないようですね……」
額に屋聞の手が当てられる。と同時に、首筋に冷たいものが当たる。

刀だ。

刀が俺の首筋に、ぴたりと当てられている。
視界が次第にぼやけて、屋聞の顔が分からなくなった。
この刀を持っているのは……。

――ねえ、約束、憶えてる?

後ろから聞こえる、幼馴染の声。
青いリボンに竹刀がトレードマークの、大切な幼馴染の声。

――破ったら、許さないからね……。

「わかってる」
「は?」
ぼやけて色しか分からない風景は、青と白だけに変わった。
俺に出来るのは、明日香との約束を守ること。
青と白の視界は、上から下へ黒く染まって――――。
663リボンの剣士 最終話A ◆YH6IINt2zM :2007/01/07(日) 20:45:43 ID:65kCNgw6
……
…………
………………

今、俺は病院のベッドの上にいる。
屋聞と話しているうちに、道端でぶっ倒れてしまったそうだ。
とはいえ、さっき医者と少し話してからしばらく休んで、意識もはっきりしている。

  「…………問診の……ですが……神に異常………………です」

ある程度、気持ちの整理というか、構えのようなものも出来てきた。

  「……から………………セリングの……を付け………………………」

自分がどうなろうと、俺をいつでも守ってくれる明日香が、

  「今日の………………安定剤……………………」

リボンの剣士が俺の側についているから、恐れてはならない。
・ ・ ・ ・
隣にいる明日香の手を握ると、やる気が出てくる。

  「………………先輩は……………ですか」

握った手の暖かさは、全身を巡る。
これからだ。これから、明日香に色々と返していかなければ。

明日香の穏やかな視線を体で感じながら、俺はもう一眠りすることにした……。


(これより先の話は無い)
664リボンの剣士 最終話A ◆YH6IINt2zM :2007/01/07(日) 20:47:15 ID:65kCNgw6
やっと終わりました。
こちらは、かなり前に予告したエンディングの内の一つ、ノーマルエンドです。
ひとまずは、終わりまで付き合って頂いたスレ住人の皆さんに感謝を。
また何日か後には、アナザールートの投下もしますので、これからもよろしくお願いします。


……何故・の位置が揃わないんだ。
665名無しさん@ピンキー:2007/01/07(日) 20:49:10 ID:IIUE6fa/
GJ!
↓貴様は次に「あー分岐でよかった」というッ
666名無しさん@ピンキー:2007/01/07(日) 20:53:04 ID:6TJBskPk
あー分岐でよかった

……ハッ!?
667名無しさん@ピンキー:2007/01/07(日) 21:05:20 ID:ESdiAgUh
一途な明日香の想いが消えない絆となって人志に残っているのですね
668名無しさん@ピンキー:2007/01/07(日) 21:20:26 ID:JO+A8qAs
すまない…今だから言うけど







木場派だった。
669名無しさん@ピンキー:2007/01/07(日) 21:47:23 ID:5o4b2bhQ
>>664
まずはノーマルルート完結、作者様おつかれさまでした。
アナザーも楽しみに待たせていただきます。
女の子たちの嫉妬に狂う姿を愛でるのが、このスレの大前提ですが、
それでも彼女達にハッピーエンドになって欲しいと思うのは、一体どうしてなんでしょうね。
670名無しさん@ピンキー:2007/01/07(日) 21:53:30 ID:dLCez3L0
これはこれで明日香にとってはハッピーエンド?
671名無しさん@ピンキー:2007/01/07(日) 22:17:51 ID:DjmtlXst
あ、明日香の生霊が……人志の精神を持っていっただと!?
672名無しさん@ピンキー:2007/01/07(日) 23:08:11 ID:LFUlzsT9
>>664
GJ!
なかなか重い結末でしたがお見事です|ω・`)
アナザールートも期待してます(*´д`*)
673名無しさん@ピンキー:2007/01/07(日) 23:49:15 ID:loN+Snpw
どうせ最後明日香が釈放されて仲良くなるんだろ?とか思ってた時期が俺にもありました
674名無しさん@ピンキー:2007/01/08(月) 02:08:05 ID:Nz1yXNNG
人志って切ない子だね・・・
生まれてから一つもいいことないまま精神崩壊

いつかプールの木の葉を見て、言った言葉は自分を客観的に見ていたのかもしれんね
675名無しさん@ピンキー:2007/01/08(月) 02:09:48 ID:Nz1yXNNG
>>673
俺はあの先輩がボロボロになった人志を手篭めにして結婚
そこへ出所してきた明日香がやってくる・・・てのを想像してた

うん、いつか見たことあるオチです
676名無しさん@ピンキー:2007/01/08(月) 04:37:58 ID:6MDynS0z
明日香の生霊が最後に人志を独占するとは(((((((( ;゚Д゚)))))))ガクガクブルブルガタガタブルガタ
677名無しさん@ピンキー:2007/01/08(月) 11:38:35 ID:B82k76to
俺はてっきりこれがハッピーエンドだと(ry
678 ◆8BVPwsPs7s :2007/01/08(月) 11:49:30 ID:K903yXgl
感想下さった皆様ありがとうございます。

>>646
完全に私のミスです。
正しくは暴漢に襲われて死にました。

阿修羅様、お手数でなければ保管庫収蔵の際に、
以下と差し替えていただけないでしょうか。
679バック(訂正パート) ◆8BVPwsPs7s :2007/01/08(月) 11:51:45 ID:K903yXgl

「……ぃ、ぉい、おい起きろ!」
「んあ?」

 誰かの呼ぶ声で、私の意識は深遠なる闇の胃袋から吐き戻された。

「やっと起きたか。授業はとうに終わったぞ。単位ギリギリの身にしてはあるまじきお美
 事な眠りっぷりだったな」

 少し霞んだ目に映るのは、縁無し眼鏡をかけた長身痩躯の男。年齢は二十歳くらいだろ
うか。手には六法辞書と刑法の教科書、ノート。典型的な法学部の大学生だ。

 その顔には見覚えがあった。

「南条? お前、南条か!? じゃあここは天国なのか? ――なんでオレまで?
 ……とにかく、お前にまた会えて嬉しいぞ、南条!!」

 立ち上がり目の前の男に抱きつく。
 この男、南条正也は同じ地元の高校からの親友だった。大学卒業後に同期の中では唯一
人司法試験に合格し、それを祝って開いた飲み会の帰り道、暴漢に襲われ殺された。
 飲み会なんてやらなければ、別の店にしていれば、少し時間をずらしていれば……。
 何度後悔しただろうか。誰にでも気さくに接し、思いやりに溢れ、生きて弁護士になっ
ていれば、きっと世のため人のために働いたであろう、この親友が死後に天国でなくて何
処に行くというのだ。
 再び会えた親友の姿に、私は歓喜の涙を零したが、南条の反応は全く違った。

「気色悪い、抱きつくな泣くな! ここは天国でも地獄でも煉獄でも辺獄ない! 寝ぼけ
 るのも大概にしろ。まったく……、どんな夢見ていたんだ?」
「――――ゆ、め?」

 親友が発した単語の一つに私の身体は固まった。
 目の前の男は今なんと言った?

「だって! お前は飲み会帰りに殺されて、オレはさっき刺されて死んだ…………」
「は? どれだけ物騒な夢を見たんだ? 自分が死ぬ夢を見る人間には自殺願望があると
 いうが。能天気に見えてそんな悩みがあったのか……」

 迷惑そうだった視線が一転、こちらを気遣うようなものに変わる。
 やっぱり南条はいいやつだ。嫌な夢を見た友人を心配しているのだろう。

 そう、夢を――――。

 言葉の意味を咀嚼し終えた瞬間、私は弾かれたように立ち上がり、辺りを見回した。
 昔流行ったファッションで身を固めた若者たち。ぼろぼろの天井と壁。さっきまで座っ
ていた壊れかけの机と椅子。汚い字で黒板に書かれた法律用語。
 
 ――――間違いない。
 
 ここは私が四年間通った大学だ。
 いくらなんでも、ここが天国なわけはなかろう。いや、もちろん行ったことはないから
断定はできないが。
 ふと視界の隅になにかが映る。
 それは窓ガラスに映る、茶髪で安物のパーカーとジーンズを着た青年の姿。
 紛れも無く若かりし頃の私――――。
 四肢がガクガクと震える。全身から血の気が引いていく。
680 ◆8BVPwsPs7s :2007/01/08(月) 11:53:46 ID:K903yXgl
 以上です、失礼しました。

>>664
完結お疲れ様です。分岐ルートも楽しみに待っています。
681名無しさん@ピンキー:2007/01/08(月) 19:07:03 ID:OjZgirzE
そうだったのか。
てっきり、主人公は混乱してても「殺された」なんて言葉を南条君に告げるのがつらくて
とっさに交通事故だと言ったんだと思ってたよ。
682名無しさん@ピンキー:2007/01/09(火) 20:06:56 ID:R/3oU+jZ
hoshu
683 ◆U9DQeTtJII :2007/01/10(水) 15:07:01 ID:4QisaDgH
投下します。
684Boy meets the stalking girl ◆U9DQeTtJII :2007/01/10(水) 15:08:02 ID:4QisaDgH


今の状況を一言で言い表すならヤバイ、ヤバすぎる。
客観的な状況は俺が可愛い女の子を押し倒しているような光景にしか見えない。
こういうことに免疫のない奴は固まってしまってフリーズしたままだ。
しかし、その硬直が解けた瞬間俺は最低でも半殺しにされることは間違いないだろう。
つまり、今なんとかせねばならんということだ。


「ま、待て真純。これは……そう、誤解だ」

恐怖のあまり声がきょどってしまう。これじゃ、余計怪しい。
とりあえず、嘘偽りのない事実を彼女に教えねば。

「今から俺の言うことは真実だ。決して嘘なんかではなく、ホントのホントだ。
 実は彼女はだな……」



「 俺 の ス ト ー カ ー だ 」



685Boy meets the stalking girl ◆U9DQeTtJII :2007/01/10(水) 15:08:40 ID:4QisaDgH



「これは彼女に刺されそうになったときに偶z……」


俺の言葉は最後まで紡がれることなく彼女の拳に阻まれる。
直撃でもしようものなら即死ものだ。避けれたのは本当に運が良かったとしかいいようがない。

「待て! 嘘みたいなんだけど本当だ。彼女はストーカーなんだ」
「黙れ! こんな娘を自分の家に連れ込んどいていきなりストーカーだ!?
 ふざけんじゃないわよ、この女の敵ッ! この手で引導を渡してくれる!」
「ひぃっ!!??」



顔を真っ赤にさせながら真純が俺に迫ってくる。
ああ、俺はこんなつまらないことで死んでしまうのだろうか。
幼馴染みに殴り殺されて死亡……恥ずかしくて死にたくなる。
これじゃ、親父やお袋にも顔向けできやしねえよ。


「大体ねえ、ルックスも勉強もスポーツも平凡でこれといった取り得のないアンタが!
 彼女いない歴=年齢のアンタがなんでこんな子にストーカーされるってのよ!
 ありえないじゃない。そんな嘘は自分の鏡を見てから言いなさいよ!」

真純の一言一言が胸に突き刺さる。くそっ、悪かったな平凡で。
お前だって彼氏いねえくせに。それを覗けばルックス、スポーツ、勉強全ての面で負けてるが。
そうこういう内にいつのまにか真純の攻撃の射程圏外に入っていた。
俺は来るべき衝撃に備えて防御姿勢をとり待ち構えるが一向にその気配はない。
目を半開きにしてみる。そこには、これまた不思議な光景が。
なんと、彼女が床に突っ伏して倒れているではないか。これは、いったい!?


「なにをやってるのかな?」
「私の目の黒いうちは彼に指一本触れさせませんよ。
 まったく、優真さんにこんな野蛮な雌猫がついていたとは、思いもよりませんでした」
「ちょっと、待て」
「こんな薄汚い女。今すぐに切って刻んでつぶして今すぐ海の藻屑にしてあげます。
 あ、少し待ってくださいね。すぐにこの女を塵にしますから」
「だから、待てと」
「ますは、どうしましょうか。体をバラバラにし……」
「待て、と言ってるだろうがーーーー!!!!」
686Boy meets the stalking girl ◆U9DQeTtJII :2007/01/10(水) 15:09:12 ID:4QisaDgH
これ以上、聞くと不穏な単語の数々が聞こえてきそうなので、
真純をKOさせた厚さ数センチの辞書をこのストーカーっ娘から取り上げてそのネジの外れた頭に一撃をお見舞いした。
ってか人様の私物を勝手に武器の代わりに使ってるんじゃねぇよ。

「いたた……な、何するんですか」
「やかましい! 勝手に人の幼馴染みを殺す算段つけてるんじゃない!」
「でも、「言い訳しないッ!!」」
「君はそこで正座!」












問答無用の気迫で彼女を黙らし部屋の隅に正座させておき、
俺はとりあえず伸びてる真純に適当に座布団を枕代わりに彼女の頭に敷いて起きるまで待つことにした。
その間、暇なんで俺は真純がひもじい俺のために持ってきてくれた奴の家の残りもんに舌鼓をうつことにした。
いつも、貧相な食事しか取れない俺にとっては嬉しい限りだ。ありがたくいただかせてもらおう。
ちょうど、全部食べ終わろうとしていた頃にようやく真純が目を覚ました。
俺を見るなりまた暴れだしそうな真純をなんとか落ち着かせ今までの事情をこと細かに説明。
隣で正座中のmyストーカーに逐一確認をとりながらやったので、一応納得してくれたみたいだ。


「と、いうわけだ。理解してくれたかな?」
「一応ね。ってか、本当に何をどう勘違いしてアンタに惚れたのかねえ?
 それで、どうするわけ彼女?」
「どうしようかねえ?」

そういわれても困る。本当にどうすればいいんだろう?
まあ、常識的にいえばこのまま、警察にでも連絡したほうがいいんだろうが。
仮にも刺されそうになったわけだし特に問題らしきものはなかろう。
それでも、この極めて常識的な判断も隣でいる彼女を見ていると揺らいでしまう。
俺が怒鳴りつけたせいか震える小動物みたいにビクビク怯えていて
そんな女の子を仮にも犯罪者にしてしまうのはなんだか可愛そうに思う。
687Boy meets the stalking girl ◆U9DQeTtJII :2007/01/10(水) 15:11:10 ID:4QisaDgH

「やっぱり、警察に突き出したほうがいいんじゃない?」

真純の言葉に彼女の体がビクリと震える。
不安に満ちたその表情が俺の視線とぶつかった。
そんな顔を見せられたら余計に通報するのが気が引けてくる。

「なんか、怯えてるし通報するのが可愛そうになってきたんだけど」
「可愛そうで済んだら警察はいらないでしょうが」
「何か事情があるかも……」
「事情があればアンタは刺されてもいいわけ?」
「いや、さすがにそれは……でもさ〜」
「『でも』ってなに。なにその子を庇ってんの、自分がされたことわかってないわけ。
 その子が思ったよりも可愛いから? 頭冷やしてよく考えなさいよ!!」

説教されてしまった。当然だ、真純のいうことには非の打ち所がない。
しぶる俺のほうがおかしいのだ。彼女が可愛いってのも、まあためらう理由の一つにないとは言い切れない。
しかし、それ以上に躊躇してしまう理由というのがあのすがるような目だ。
目を見れば何をいいたいのかわかる、というが言葉以上に彼女の目が切実な思いとやらを物語っている。
俺に嫌われたら生きていけないとまで彼女は言った。
ならば俺がここで彼女を警察に突き出すということは彼女を奈落の底にでも突き落とすようなものだ。
客観的な事実を伝える理性と心情をそのまま吐露する感情が脳内で一年戦争を起こしそうな勢いだ。




688Boy meets the stalking girl ◆U9DQeTtJII :2007/01/10(水) 15:15:49 ID:4QisaDgH



「あのさ、なんで俺なんかにこんなことしたわけ?」

これ以上黙っていると間が持たなくなりそうなのでとりあえず適当に話しを振ってみた。
それに、今聞いたことは一番彼女に聞いてみたかったことなのでまったく関係のない話しでもないと思う。
向こうは何も答えない、もといどこか答えづらそうにしている。なので、また適当に話しを変えてみる。

「ところで君の名前は?」
「藤堂楓花……です」

はて、この名前どっかで聞いたようなないような気がする。
いったいどこで? 思い出しそうで思い出せない。今にものどから出そうな勢いだ。

「どうしたのよ? いきなりしかめっ面なんかしちゃって?」
「いや、どっかでその名前を聞いたような聞かなかったような」
「けど、初めて会ったっていってたじゃない?」
「あの、名前を知ってるくらいならおかしくないと思います。
 私、優真さんと一応同じクラスですから」

なんですと!?

「それ、本当?」
「はい」
「俺、君がクラスにいた記憶がないんですが」
「仕方がないと思います」
「なんでさ、これでもクラスメートくらいの名前と顔くらい一応……」
「通ってないんです」
「はい?」
「実は私、学校には行ってないんです」

ついに聞かされてしまった衝撃の事実にこちらはしばし唖然として彼女を見ていた。
一方、彼女は実に気まずそうにこちらを見ていて全体的に振る舞いにぎこちなさが見える。
689Boy meets the stalking girl ◆U9DQeTtJII :2007/01/10(水) 15:17:57 ID:4QisaDgH

「もしかして、不登校児?」

そういや、そんな噂が初期の頃クラスに流れたような気がする。
無論、そんなものは刺激的な高校生活を送る我等にとって朝露のごときあっけなさですぐに別の噂に埋もれていったが。
もしかしたら、それを俺がどこかで小耳に挟んでいたのかもしれない。

「すいません……」
「いや、俺に謝られても……」

ますます、しょぼくれてしまう楓花さん。
人には触れてはならないものがあるというらしいがそれに触れてしまったのかもしれない。
さすがに、理由まで聞く気にはなれずに俺も真純もただ何もいわず……いや、言えずに立ちすくんでいた。
既に今の俺には彼女との出会いを聞く余裕など微塵も残ってなどいない。


とりあえず、彼女はいい感じに頭のネジが外れてる気がする。
後、なんだか恐ろしいほど俺に対してどこか尋常ならざる偏屈した思いを寄せてるということだけは理解できた。


なんとかしてやりたいと少しだけ思った。理由はわからない。
こんなふうに出会ったのも何かの縁と思ったのか。
はたまた、か弱い女の子をなんとかしてやりたいとかいうくだらない男のプライドが働いたのか、
すがるような目つきにアイ○ルのCMおじさんのような変な保護欲が働いたのかわからない。
だから、後で真純に自分の言ったことを咎められても何も言えなかった。
俺は彼女の目の前に座り込み指を三本立てながら、彼女の目の前で突き出す。

「今から俺の言うことを三つ守ってくれるのなら君のしたことを水に流そう」
「ふぇ?」


一つ ストーカーまがいの行動をしない
二つ これから、学校に行くよう努力する
三つ この、本条優真またそれに近しい人に危害を加えない

「これら三つの条項を守れるようなら普通の友人くらいの付き合いをしよう」

この譲歩案、すんなりと受け入れられるとは思ったが意外と向こうは難色を示している。
歯切れが悪そうに、聞こえるか聞こえないかの、か細い声で何か言ってるようだが聞き取ることは出来なかった。

「何か不満でも?」
「えっと、学校に……行くんですよね」
「ええ、それはもちろん」

はっきりと、こちらが意思表示するとますます相手は難色を示してくる。
このままではラチがあかないと思ったので少し卑怯な手段を使わせて納得してもらった。
まあ、簡単なことだ。「断るなら警察につきだしてやる」といっただけだ。
半ば脅しのような形でこんな要求を了承させたわけだが楓花と真純を帰らせて冷静に考えて思ったっことがある。
何故、俺はここまでしてしまったんだろうか?
690 ◆U9DQeTtJII :2007/01/10(水) 15:22:13 ID:4QisaDgH
続き書く気ないとかいいながらふと妄想が炸裂したので書いてしまった。
今ではすごく反省している。
続き書きたい神がいたら……本当スイマセン(´・ω・`)
もちろん、anotherものを書きたい神がいたら(ry
連載とはいえ、短めに終わらすつもりで書いてます。
基本的にはおバカなノリでオチもおバカにいきます。
あと、阿修羅氏さんにはお手数ですがタイトルの変更をお願いしたいです。
691名無しさん@ピンキー:2007/01/10(水) 17:00:02 ID:00jzxxz3
乙。でも新スレに移行してるぞ。
692 ◆U9DQeTtJII :2007/01/10(水) 17:08:05 ID:4QisaDgH
本当だ○| ̄|_ 張りなおしたほうがいいんだろうか……
693名無しさん@ピンキー:2007/01/10(水) 17:55:04 ID:OLngFANB
|ω・`) GJ
おばかなノリ、大好きですので期待してます

結構早めに新スレに移行しちゃったから
問題ないと思うよー
694名無しさん@ピンキー:2007/01/10(水) 18:45:48 ID:Ju6gKT9o
>>690
まさかこの作品の続編が来るとは…
スタンドも月までブッ飛ぶ衝撃!

>今ではすごく反省している。
反省などしないでください。
どうしても、とおっしゃるのなら私が貴方の代わりに反省させてもらいます。
楓花に刺されるという苦行でもって。
695名無しさん@ピンキー:2007/01/10(水) 20:24:14 ID:ZiahLL6W
ストーカー・ラプソディ改めBoy meets the stalking girlの続編キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!!
かよわいストーカーは 大 好 き だ!

>>694
では俺は貴方の代わりに楓花に刺されることにしますね
696名無しさん@ピンキー:2007/01/10(水) 20:57:29 ID:Ju6gKT9o
>>695
これは譲れない、と言いたいところですが仕方ありません。
楓花に刺されるのは貴方にお譲りして、
私は真純に殴られることにします。もちろん馬乗りで。
697名無しさん@ピンキー:2007/01/10(水) 20:58:27 ID:p2Idp3dW
このドMどもめ
698名無しさん@ピンキー:2007/01/10(水) 22:17:34 ID:O6u/ruY8
妹が同じ名前だ
699名無しさん@ピンキー:2007/01/10(水) 22:21:12 ID:O6u/ruY8
幼なじみと
700名無しさん@ピンキー:2007/01/10(水) 23:14:38 ID:ii20gMPC
俺はおねえちゃんだ






脳内だがな\(^o^)/
701名無しさん@ピンキー:2007/01/11(木) 00:10:02 ID:+YArYq3T
保守
702名無しさん@ピンキー:2007/01/11(木) 23:12:41 ID:UmfFjPBl
埋めに協力して下さい

次スレ
嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ その26
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1168129885/
703名無しさん@ピンキー:2007/01/12(金) 00:20:15 ID:suuVGA5g
埋めネタとして一つ

最近このスレを友人に教えたらお礼に灰被り姫の憂鬱と言うエロゲを貰った
コノスレの住人向けなゲームだとおもうのだが諸兄の意見はどうだろうか?


桜子カワイイよ桜子
お願いだからその日本刀で刺し殺して下さい
(*^ω^*)
704名無しさん@ピンキー:2007/01/12(金) 00:28:35 ID:+UYIy5nB
嫉妬に狂った女子に持たせてみたい武装と言えばなんだ?

俺は
1.スコップ
2.シャベル
3.ペットボトル
4.靴下と砂利(砂とかでもおk)

705名無しさん@ピンキー:2007/01/12(金) 00:31:23 ID:GiO4tNqu
青いランタンと大きな銃
706名無しさん@ゴーゴーゴーゴー!:2007/01/12(金) 00:31:28 ID:vVkZ6z8w
まだ残ってたのか25スレちゃん
君とは楽しかったけど、26ちゃんのほうが今は僕をワクワクさせてくれるんだ。
勝手なようだけど、さよなら
707名無しさん@ピンキー:2007/01/12(金) 00:35:02 ID:l6Bl/Fda
>>704
>4.靴下と砂利(砂とかでもおk)
は素晴らしいな。
質問を見た瞬間にニーソ+ジュース缶を思いついた俺としては
大変共感できる。
708名無しさん@ピンキー:2007/01/12(金) 00:35:46 ID:924GIdja
>>704
鋭利な狂気
709名無しさん@ピンキー:2007/01/12(金) 00:43:14 ID:SOwQ5eYl
「カズくん、背中流してあげようか?」
「……これから服脱ぐんで出て行ってください陽子さん」
「やん!半分冗談なのに」

「冗談でもドキっとしちゃうじゃないか」 カラカラ…
「え、えへへ」
「つ、月子! なにやってんだ!」
「あ、あのね、湯船の中に、隠れて、驚かせようかと、
 してだん、だけど、
 熱くて、のぼせ、ちゃった
 もう、少し、埋めてから、に…………」
「月子ーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
710名無しさん@ピンキー:2007/01/12(金) 00:46:28 ID:SOwQ5eYl
しまった! 嫉妬が無い!
711名無しさん@ピンキー:2007/01/12(金) 00:47:53 ID:SOwQ5eYl
>>704
スタンガン
712名無しさん@ピンキー:2007/01/12(金) 00:58:04 ID:+UYIy5nB
ニーソか……ハァハァ。
俺としては、ふくらはぎ程度までの靴下を想像してたが、ニーソもなかなか……。

片側ニーソ少女が、手にジュース缶を詰めた凶器を持って……。

なんて、萌えるんだ。
713名無しさん@ピンキー:2007/01/12(金) 01:00:13 ID:kSi4yMqS

「あっは。この指は先週、名無し君の肩に触れた指ね」

 そう言って26スレは25スレの指を一本ずつ丁寧にへし折った。
骨が砕ける、痛々しい音が暗い部屋にこだまする。

「それじゃ、次。足ね。三日前にこれで名無し君を誘惑したでしょ?
……嘘ついたってダァメ。あははははっ。私見てたんだから。名無し君の目の前で足組み直してるの」

 どこから持ち出したのか、裁縫用のハサミを25スレの、その絹のような腿に突き立てる。
二度と名無しを誑かせぬよう、醜い足に変えてやろうと何度も、何度も。

「えーと。次は何だったかな。……あ、そうそう。その牛みたいなおっぱいね。
25スレごときがこんな胸してたらダメだよ?名無し君が勘違いしちゃう」

 弾んだ声とは裏腹に、26スレの目つきが変わる。
―――胸は、26スレにとってコンプレックスの塊でしかなかった。

「そんな重いもの、ぶら下げてたら肩凝るでしょ?軽くしてあげるね?」

 泣き叫ぶ25スレの胸に取り出した包丁を執拗に斬りつける。
凶行の中でも26スレが肺や臓器に達しないよう心掛けてるあたりに、25スレは恐怖に震えた。

「はぁはぁ…あは。そろそろ最後ね。名無し君の精子が入ってるその子宮。
もう。驚いたわよ、昨日。二人して何してるのかと思えば…。
ダメじゃない。赤ちゃんが出来ちゃったらどうするの?
名無し君は私としか子供作っちゃいけないのに………だから」

 先刻、胸を切り刻んで血塗れになった包丁を布で拭う。
だが、26スレの視線は手元を捉えておらず、常に25スレの下腹部に注がれていた。


     「今から、名無し君の精子を掻き出してあげる」

振り下ろされる刃。濁った26スレの瞳。
 痛みと恐怖にガチガチと奥歯を鳴らす25スレは、最期の断末魔を上げた。


「埋めええええええええええぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!!」
714名無しさん@ピンキー:2007/01/12(金) 01:00:56 ID:5M42+k+L
恋する姉は切なくて弟クンを思うと♀豚を埋めたくなっちゃうの
715名無しさん@ピンキー:2007/01/12(金) 01:04:08 ID:Y66a6djv
月子って聞くとルサンチマン思い出す俺は負け組みorz
716名無しさん@ピンキー:2007/01/12(金) 01:12:03 ID:SOwQ5eYl
ずるいよ右ばっかり
箸を持つのも右、ペンを握るのも右、
歯を磨くのもやっぱり右手
アレだって右
ずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるい
ずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるい
ずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるい

「ちょwwwww左手がケツの穴にwwwwwwwwwマテそんな趣味ないwwwwww」
717名無しさん@ピンキー:2007/01/12(金) 01:30:30 ID:SOwQ5eYl
ルサンチマンは普通に読めた。
だがNHKにようこそが痛くて読めない。
718名無しさん@ピンキー:2007/01/12(金) 05:08:31 ID:5A2cWnWa
NHKにようこそも時代遅れになってきたな
小説版発売当時のひきこもりはまだ罪悪感が残ってたから・・・・
719名無しさん@ピンキー:2007/01/12(金) 10:52:04 ID:Y66a6djv
確かにNHKは読んでるとなにか胸が痛くなってくるな
720名無しさん@ピンキー:2007/01/12(金) 13:16:07 ID:GiO4tNqu
それは恋だよ
721名無しさん@ピンキー:2007/01/12(金) 16:00:04 ID:vt/wAmWD
>>719
俺も横隔膜がドキドキしてくるぞ?
722名無しさん@ピンキー:2007/01/12(金) 16:17:11 ID:924GIdja
>>721
しゃっくり?
723名無しさん@ピンキー:2007/01/12(金) 20:50:37 ID:l6Bl/Fda
>>721
俺なんか胸の鼓動が変に小刻みになっ
724名無しさん@ピンキー:2007/01/12(金) 21:16:34 ID:3jcbLTOE
>>723
おい!しっかりしろ!おい!しっかりすうううういうyglhj
725名無しさん@ピンキー:2007/01/13(土) 01:52:48 ID:KMT5EzeI
私まだ死ね(落ち)ないんだから、七氏君は私のモノなんだからアンタ(26スレ)になんか絶対渡さない!!

そうだよね七氏君、そうだと言ってよ!!
昔みたいに優しくしてよ!!
じゃないと私…何するか分からないよクスクスクス
726名無しさん@ピンキー:2007/01/13(土) 01:55:52 ID:aDaq/Pwy
ギョエーッ!
727名無しさん@ピンキー:2007/01/13(土) 03:50:48 ID:UHMYeMfh
>>726
ヤンデレスレの住人と見た。
728名無しさん@ピンキー:2007/01/13(土) 04:25:01 ID:WE51l73a
昨日のVIPのスレの人じゃねーか?
729名無しさん@ピンキー:2007/01/13(土) 09:49:17 ID:opVMYbe5
人じゃないんじゃないか。
730名無しさん@ピンキー:2007/01/13(土) 10:05:19 ID:4FkeZULk
>>729
やだなぁ…人に決まってるじゃない。人じゃなかったら一体なんなのよ…クスッ
729くんって面白いこと言うんだね。新たな一面発見だよ。さぁ行こう。2人きりの世界へ…
731名無しさん@ピンキー:2007/01/13(土) 13:42:09 ID:zxSAWf2a
>>730
彼女は変わってしまった、出会ったころとは
732名無しさん@ピンキー:2007/01/13(土) 14:03:52 ID:bUrsds3M
>>731
…いや、これが彼女の本当の姿だったのかもしれない。
単に俺が彼女に本性に気づけなかった、気づくだけの眼を持ってなかっただけだ。

…これも不正確だろう。
気づけなかったんじゃない。俺が意図的に避けていたのだ…
兆候なら今までにいくらでもあった。そうとしか考えられない行動もあった。
ただそれを、彼女の本性、を見るのが怖かった。知りたくなかった。

だが俺の臆病さ、愚かさがこんな事態を招いたというのなら、
もう目をそむけるのは…止めだ。
俺が直接手を下すべきだ。
これが償いになるなんて思ってはいない。全ては遅すぎた。
しかし彼女…仁美…を止めるのは俺でなければならない。
733名無しさん@ピンキー
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   !  l !      ', . l ' / /.n.',` .'|',| '!  l 0 l  '' !    .l;:::l::ー':;'::/  >>1ぶらるなよ
   ',  !. l     '., ',::''::.ヽニ.ノ, .:    ::... ミニ'r  l.   !  ll::::ト:ヾー'
    ', ! !      ヽ':;:::.` ̄   ..::.        ,' .  l.  !l::::! ';::':,   
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