魔法少女、続いてます。
ここは、
魔法少女リリカルなのは
魔法少女リリカルなのはA's
魔法少女リリカルなのはS's(StrikerS )
のエロパロスレです。
ローカル ルール〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
*● Even if there is not Eroticism, it is all right. My Master!
(エロは無くても大丈夫です。マスター!)
*▽ Sir. But The Epistles of strange taste(included adult oriented)
asks for confirmation or Instructions of beforehand.
(サー。しかし特殊な嗜好の作品(18禁を含む)は投稿前に確認又は注意書きをお願いします)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
*+ マイスター、前スレと保管庫はこちらですっ!
☆魔法少女リリカルなのは総合エロ小説_第十二話☆
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1158573423/ ☆魔法少女リリカルなのはエロ小説☆スレの保管庫
ttp://red.ribbon.to/~lyrical/nanoha/index.html
にげとwwwwwww
>>3氏ねwwwwwwwwwwwww
≫1
乙です。
あの雲のように
第一章 第三幕
「……起きてますね」
暗闇の中、細い息遣いに混じって響く声。
疑問符のない確認の言葉。
「……よくわかったな」
「……ええ」
別に応えるつもりはなかったが自分が起きていた事実を嗅ぎつけた興味か、それとも眠れない自我を彼女と話すことで疲労させようと思ったのか。
気づいた時にはシグナムは彼女にすでに返事をしていた後だった。結局は都合のいい後付である。
「気配を悟られるとはな……私も落ちたものだ」
騎士としての身分を失ってそれなりに日は経つ。
まともな鍛錬などしていないのだ。体が訛るのも当然の摂理だろう。
「いいえ、私が鋭すぎるだけですよ」
囁きが静寂に音を作る。
誇るような口調でもなく、睡魔に漂う声でもない。明朗な彼女には割と不釣合いな声だった。
それを否定することもなくシグナムは黒に敷き詰められた天井を遠く見つめていた。日中の様子なら必ず一言、二言、彼女に何かしらの感情をぶつけていることだろう。
出来ないのは疲れのせい。あんな羞恥地獄を味わせられたのだから誰が見たってそう言うだろう。
「そうか……確かにそうかもしれないな」
闇は視覚を塗りつぶす。その分、鋭敏になった触覚が口元を緩めていることを教えてくれた。
シグナムにとってその緩みはどちらかといえば自嘲から来る。寝込みは襲われては……、なんて考え気を引き締めて。
結局、相手の言葉に満足に対応できない。頭の肝心な所は舟をこいでいるのだ。
騎士でもないのに、追われる身でもないのに、馬鹿げていることこの上ない。
「せっかくのシルクのベッドなんですよ。いっぱい寝ないと損しますよ」
「お互い様だろう」
「ですね」
言った本人だって目が冴えている。
あれほど息巻いていたというのにベッドを堪能していないというのはえらく滑稽だ。
「じゃあお話ししませんか?」
やはり寝ていたほうが良かったか。
そうも思ったのだが、よく考えてみれば夜が明れば二人は別の道を行くのだ。
別れの記念というわけではないが少しぐらい話に乗ってやってもいいかもしれない。どうせ、こんな変人とは金輪際会うことなどないはずだからだ。
「……なにをだ?」
一種の珍獣観察――動物に例えるなんて相手が知ったら怒るのだろうけど。
「……あなたがゾンネを追われたことです」
「寝るぞ」
少し大きな布の擦れる音。
寝返り、そっぽを向いた。
「太刀筋を見ればわかります……あの構えはあそこぐらいですから」
背中に凛とした声。またらしくない響きだった。
拒絶の意思を示すシグナムに構うことなく、閉ざしかけた心を抉じ開けるように彼女は語尾を早めた。
「知りませんでした。あの騎士団に生き残りがいたなんて……」
「生き残りか……結果的にそうなっただけだ。それにその時私はもう破門された身だ」
ゾンネファルケン――太陽の隼。
彼女が生まれ、育った場所。
そして今もう亡き故郷。
「私に関わろうとするのはそのためか……?」
静かに、しかし怒気をはらんだ声。
太刀筋で相手の生い立ちを見極めるなどそれこそ同業者だから出来ること。それが魔法もロクに使えない人間が出来る業か。
もしも今までの姿が猫を被っているものなら隣の人間は相当な手だれになり得ることになる。
危惧を抱き始めるシグナムに彼女は否定はせず、あえて言葉を続けた。
「……迷っていたから……なんて理由になりませんか?」
シグナムの予想とは裏腹に、彼女の答えは酷く曖昧さに満ちたものだった。
迷っていた――誰が? シグナムなのか言った本人自身のことなのか。どちらにせよ、おそらく今のままではシグナムにとって答えの形にすらならないものだった。
「ふざけているならもう私は――」
「何も見つけていない……空っぽの目をしていたんです」
それ以上口を開くことはできなかった。
魔法にでも掛かってしまったように声が喉元を最後に費えた。
「あんなに強くて……でも満足していない目……ううん、それすら忘れているようなからっぽの目」
シグナムではない、他の誰かを謳うように紡がれた声はやはり所在無く闇へ解けていった。
「…………」
彼女は今どんな顔しているのだろうか。
不意に気になり彼女に背中を見せるのを止めた。それでも面と向かうのはなぜだか気恥ずかしくて、視線は数分前と同じ場所の闇を見つめた。
よく考えればこの闇だ。顔など見れるわけがないというのに。
今の言葉を反芻しながらシグナムは静かに笑っていた。
「そうだな……そんなことあの日から考えていなかった」
「ゾンネが…………なくなった日からですか?」
さぁ、どうだろう。
心は答えても口は開かなかった。不思議と、査定することはその事実を都合のいい言い訳にしているように思えたから。
「私も……誇りはあったのだがな。……一日と持たず沈むか……あのゾンネファルケンが」
卓越した魔法技術と剣技を併せ持ち、礼節を重んじる戦いの神。
このベルカ世界においてその名を聞けば誰しも畏敬の念を抱かせる存在。
騎士――そう呼ばれた勇姿の象徴。
シグナムもかつてのその中に身を置き、そして数多の人々から賞賛されていた。
「西国が誇る騎士団の中で一、二を争う……いえ、最も強いとされた」
「ああ、私の誇りだった」
今でこそ冷戦まがいの争いを続けている東と西の大国。
規模では西国が圧倒的な領土を獲得し軍事力など特に秀でた豪族の園。
そう見えるのは上辺だけ。豊富な領土というのは名ばかりの飾りだ。
彼らが持った力はあまりに大きすぎた。力を鼓舞し続けるためには富がいる。彼らはそのためにありとあらゆる大地の恵みを貪り続けた。
その果てにあったのは栄枯盛衰の極み。資源は枯渇し、土地は荒廃し、ついには草木もろくすっぽ育たなくなった。
「遠征中の町で東の騎士に手も足も出ずに……らしいな」
他人事のようにそ知らぬ顔をしたのは認めたくない事実だからこそ。
顔に出してしまえば慟哭はしないまでも、酷い顔にはなるだろうから。
そんな顔は見られたくない。
「私もそう……聞いています」
西国の次なる一手は至極簡単なものだ。
――侵略。
国を守るため、ただそれだけのために彼らは豊富な資源を有していた東の国を蹂躙していく。
西とは違い、東国はいくつもの小国が寄り集まった、ある意味国と呼べない国だ。常に覇権を争い、血の臭い耐えない戦乱塗れの国。
纏まりなどどこにもなかった。刹那のごとく、最も西に近かった小国が落ちた。
「皮肉な命拾いだな」
しかしそれ以上、東の国が西の手に落ちた事実はどこにもない。
目先の覇権よりも国の行く末の重要さをいち早く察知したおかげか。小国が一つ落ちたことで他の小国が手を結んだのだ。
幾多の猛者と、幾多の技巧。合わさり生まれた力が西の横暴を許しはしなかった。
双方譲らず、この冷戦の基盤が作られるまで時間はかからなかった。
「じゃあ……なぜ騎士団を離れたのですか? ゾンネの長は義理に厚い人だと聞いていましたが」
「ああ、父上は立派な人だ」
騎士団長としてゾンネを率いたレコルトは誰からも信頼を寄せられ、尊敬される人間だった。
シグナムにとってそれは同じ。とりわけ彼の血を受け継ぐからこそ、その念は誰よりも強く固い。
筋骨隆々とした鎧のような体。無駄な肉は一切なく、長身も手伝い芸術品のように完成された体。
叢のように好き放題に生えた赤髪は、敵には恐怖を与える地獄の業火となり仲間には勇気を与える灯火のごとく。
豪傑で大胆不敵。戦では常に先陣、獅子奮迅。
爆炎の剣と轟雷の剣。軽々と二刀を振り回すその姿まさしく騎士。
「私もあの人を支えられる騎士であろうとしたのだがな……」
全ては家族を――彼は騎士団の仲間をいつもそうやって呼んでいた――守るために。
だからシグナムは父の背中を追い続ける。早く追いついて、追い越せるなら追い越してやりたいと渇望した。
「その父から直々に引導を下された……」
何がいけなかったのか。シグナムには理由と出来るものが全くなかった。
実力は騎士団の中で常に五本の指の内だ。父を追い、力をつけ、儀に厚く――。
だというのに渡されたのは非情な宣告と
「一応の形見か……」
ベッドすぐ傍に立てかけられた父の昔の愛刀――炎の魔剣レヴァンティン。
「今までの人生を否定されたような気がしたな…………あの時はほんと怒りよりも絶望の方が大きかった」
「なんて言われたんですか」
「もっと外を見て、中身を詰めろ……あの人らしい言い方だ。まったくもってわからない」
決して爆炎にはなれない、炎どまりだと。
レヴァンティンはまさにその例えではないか。邪推かもしれないがシグナムにとってこれを握らせられた時からその観念は亡霊のように取り付いていた。
「出て行かなければ斬る……あの人の目は本気だった」
半分、尻尾を巻いて逃げ出したようなものだった。
視殺される程度でよく五本の指だと誇っていた自身が物凄いちっぽけな存在に思えた。
「懐かしいものだな……父に追いつこうとあらゆる武芸を取り入れようとしていた自分が」
今のまま剣では父の助けになれない。それならば父も、他の仲間も出来ないような技を学んで、そうして助けになればいい。
剣、鞭、弓――。
それが一番の近道だと思っていたのに。向上心を持つこと、力を追い求めることが悪いこととは思えない。
「今では何もかも投げ出して……邪魔者だけを切り捨てるだけ」
目を閉じる。
少し喋りすぎた。自分が饒舌だったことは知らなかった。
もっとも、彼女にまたうまい具合に乗せられただけなのは言うまでもない。
認めようと思う。彼女は人から話しを聞きだすのが上手いのだ。聞き上手で上手い具合に他人から心を引き出す。
だからなのだろう。ガラにもなくこんな昔話を始めたのは。
「……それなら、なんで私を助けてくれたんですか?」
ようやく睡魔が寄り添ってきたというのにまだ聞き足りないのか。
いや、その疑問はシグナムにとっても回答のないものなのだが。
「気まぐれだろう……ちょうど腹も減っていたしな」
正直な所、無我夢中というわけではないが体が勝手に動いたのが真相だ。
叫びを聞いて、駆け出して、気がつけば火竜がバラバラになって転がっていた。
三流ホラーの展開みたいだ。
「そうですね……そういうことにしておきましょう」
「……なんだ、引っかかる言い方だな」
「いえ、気にしないでください。これ以上私の勝手な推測……押し付けたくないだけですから」
そろそろ寝ましょう、最後に付け足して今日という日を締めくくった。
「ああ……また明日だな」
腑に落ちない点もあるがこれ以上の思考はどうやら頭が拒否しているらしい。
一度眠り始めるきっかけを掴めば、人間眠るのは早かった。
次に起きる時は朝。さっさと別れを済ませてまた当てのない旅としゃれ込もう。
いろいろあったが、久しぶりの忙しい日々はそれほど居心地の悪いものではなかった。
あの仕事を除くなら……だけど。
次で終わるかな終わらないかな〜
なんというかシグナムの過去があるなら自分はこんな感じ
それだけです
前レスの方々今回もいろいろGJ!
4の422氏新スレ乙!
そうしてこれが保守代わりになるように
彼女に、旺盛な食欲はもう見られない。
「フェイトは、さ。リンディなりクロノなり、別の主と契約して生き続けろって言うけど」
赤毛の子犬が臥せた前には、彼女の食事用として置かれた愛用の皿があった。
そこには手つかずの、好物であるはずの大きな肉の塊が、乾きかけた表面を空気に晒していて。
「……」
彼女と同じくらいの大きさの、蒼い毛色の子犬───、ザフィーラは何も言えずただ、
忸怩たる思いで同類である彼女の穏やかな口調を聞いていた。
「あたしは最後まで、あの子の使い魔だからさ」
───使い魔。守護の獣。
誇らしいはずであるその単語が、今はひたすらにザフィーラの心に暗い影を落とす。
護るしか、能がない。
大切な存在を、仲間を。助けることすらできない。
自身を表すたった数文字の言葉が、暗にそう言っているように思えて。
彼は密かに、自分の無力を呪った。
魔法少女リリカルなのはA’s −the day−
第七話 僕が希望になるから
ガタン、と軽い衝突音を伴って。
突き飛ばされたはやての背中が、白い病棟の壁へとぶつかった。
「……なんで」
音はそこそこしたけれど、壁の硬さをひんやりと背中に感じただけで、殆ど痛みはない。
同年代の少女に突き飛ばされた程度の衝撃、壁との激突など、以前の病弱であった時分であればいざしらず、
日ごろから局の訓練や任務に従事している今の彼女にとってたいしたものではない。
フェイトからの告白を聞き、茫然自失とした精神状態であったことも、
彼女の病室を辞したその身の感覚をひどく鈍いものにしている。
「……あ」
だから、気付くまでに数瞬の遅れがあった。
自分を壁に向けて強く押しやった親友の涙を浮かべた瞳が、
こちらをきつく睨みつけているということに。
よくよく見ればはやてのすぐ隣には、出てきた病室の扉がある。
ということは、彼女は退出してすぐに、前をふらふらと歩いていたはやてを
押し飛ばしたということだ。
「なんでこんなこと、黙ってたのよ!!なのはも、あんたも!!」
「あっ……え、その……」
目尻から涙を散らしながら、アリサが金切り声で叫んだ。
考えるまでもなく、彼女は怒っている。
「あたしたちが……一般人だから!?だから隠してたわけ!?」
「違……っ!!それは……私はただ、二人がこのこと聞いたら悲しむ思て……」
「だったら何よ!!隠し通せるとでも思ってたっていうの!?」
「だめ……っ!!」
しゃくりあげ続けていたすずかが割って入り、やりきれない表情のシグナムが抑える形で、
はやてを責めるアリサと、彼女にたどたどしく反論するはやてを引き離す。
しばらくこちらを睨みつけたあとで、赤く染まった目を逸らしたアリサはぷいと彼女に背を向ける。
「……なのはは……」
「え?」
「なのははどこって、聞いてるんです!!一発ひっぱたいてやんないと、気が済まない!!」
「なっ……?」
拳を思い切り握り締め、吐き出すような叫びを床に向けて叩きつけ。
彼女は聞かれたシグナムが戸惑いつつも受け止めようと差し出した両腕をすり抜け、
答えも聞かず駆け出した。
勝手などまったく分からないであろう。
どこに一体どんな部署があるのかも知らないであろう、本局の長い通路を走りぬけんと。
「だめ、だめえっ!!」
「!?っ……すずか、放しなさいよっ!!あんたっ!!」
その怒りは、直接なのは本人に向けられた質のものではない。
突然知らされた現実、それに対するやり場のない感情が、わかりやすい矛先となる相手──この場合は、
自分たちを悪意がなくとも欺いていた人物──であるなのはへと向いてしまっているだけだ。
彼女の心に生まれた激情、混乱。様々にかき乱された精神によって。
そして衝き動かされるアリサの腕を掴み、引き止めたのは、
彼女と同じく事実をひた隠しにされ、枠外に押し留め続けられたもう一人の人物。
すずかであった。
「あんただってわかってるでしょ!?なのはは、あの子……フェイトの病気だけじゃない!!何もかもあたしたちに……」
「それでも、だめっ!!」
「悔しいとおもわないのっ!?」
掴んだ腕を抱きかかえ、いやいやをするように首を激しく振るすずか。
彼女は必死に、友を止めようとしていた。
「家族のクロノさんやリンディさんが言えなかったこと……なのはちゃんだって言えないよっ!!」
「けどっ……!!だって……」
「フェイトちゃんが、大変なんだよ!!」
アリサの腕にすがり、すずかは懇願の声を張り上げる。
普段の彼女からは考えられないくらい大きな、精一杯の大声で。
「喧嘩なんてしないでよっ!!」
フェイトのことだけでも、辛いのだ。
心優しく、繊細で脆い彼女がその上で友人同士の衝突など、見ていられるはずもない。
アリサが言葉を失い、はやてのほうを見返してくる。
視線が数秒間、交差した後、再び彼女はすがり泣くすずかに目を落とすと。
「───────ッ……!!」
声もなく。
すずかを抱き返し、二人重なるように両膝を折って崩れ落ちた。
二人の抱き合い、涙を流す様を見ながら、はやてもまた自身の体重を預けていた
病棟の壁をなぞるように脱力し、ゆっくりと尻餅をつく。
視界などとうになくても、それだけは親友たちからはずすことなく。
三人の少女たちは、二人の女性が見守る中、ただただ涙した。
人気のない個室ばかりの特別病棟には、その声だけが響いていた。
* * *
「なのはが、本を?」
「はい。主にリンカーコア関連の論文が多数寄せられた学術書に、高出力魔力炉の運用マニュアルの類ですが」
あれから五日。結局、ユーノはなのはとは会えずじまいだった。
彼女の部下を通して書類を渡した際の、感謝を告げるメールが、
二人の持った唯一の接点である。
ただし、ユーノのほうも急な出張が入り、三日ほど無限書庫の執務室を空けていたことも
その原因の一端であるが。
彼女のことがなんとなくひっかかりながらも出張を終え、
職場に復帰したユーノが秘書官に留守中のことを尋ねると、
変わったこととして彼が挙げてきたのがあろうことかなのはのことなのだから、
そのままにしておくわけにもいかない。
「司書長は留守である旨、申し上げたのですが……。資料を借りに来ただけだから、今はいいと」
「そうですか……」
一体なのはが、何の目的があってそのようなものを持っていったのだろう。
考えてみても、わからない。
彼女は有休中のはずだし、仮に任務で必要であったならば、
正式に書類が回ってくるはずだ。ならば今回のこれは、まったくの私的な利用。
「……いや、待てよ」
そもそも、その私的な利用のためにこの有休を取ったのではないか?彼女は。
だとすれば、今彼女がわざわざ仕事を放り出してまでやることといえば───ひとつしかない。
「!!」
あの時。
なのはらしき影が書類を落としていったとき、自分は秘書官と何の話をしていた?
そう。たしかあれはPT事件を洗い直して、出した申請が却下されたときのことで……。
……PT事件。フェイトとなのはが、自分達がはじめて出会った事件。
「なのは……まさかっ!?」
ひとつの想像にたどり着き、ユーノは頭を押さえる。
自分の予想が正しければ、なのはは。
机上の通話機から、アースラのクロノを呼び出す。
───はやく。はやく出てくれ。
いまいちそりのあわない友人の応対の声が、今は待ち遠しかった。
万一の場合、彼に動いてもらわねばならない。
不幸中の幸いは、数日前になのはの不審な行動を彼に伝えていたことだろうか。
彼も身構えてはいてくれているだろうから。
(早まるんじゃない……なのは……!!)
まだか。
鳴り続ける電子音に、彼の神経は苛立った。
机の上を、繰り返し指先が叩いて彼の精神状態をよく表していた。
* * *
「……フェイト、ちゃん」
暗い病室の中で、なのはは眠る親友を見下ろしていた。
聞こえていなくてもいい。
絶対に、助けるから。
己の決意を伝え、より確固たるものへとするために。
「待ってて、ね」
暗がりでもわかるほど、横たわる彼女の顔はやつれてきていた。
きっとシーツに包まれた白い四肢も、以前より細くなっていることだろう。
───やらなくちゃ。
友の姿を網膜に焼き付けるべく、瞼を閉じる。
準備は、既に整った。
必要なデータや知識は、自分の頭とレイジングハートに入れてある。
ミッドチルダをかけずりまわって、パーツや道具も揃えた。
すべては、一人でやらねばならない。
他の人間に迷惑は、かけられない。
あとは、あの場所に行くだけだ。
二人がはじめてその手を重ね合った、あの場所に。
あそこでわかりあえたから、今の二人がある。
「……行って、くるから」
深く息をつき、踵を返す。
自動ドアが開くと、そこから光が漏れ出してくる。
友を起こしてしまわないように足音を抑えながら、なのはは病室を出る。
「またね」
ドアの向こうの友を惜しみつつ、足を通路に向けると、向こう側から歩いてくる一人の少女がいた。
「……ヴィータちゃん?」
ふらふらと、心ここにあらずといった感じで歩いてくる赤毛の三つ編みを、なのはは受け止める。
彼女はなのはの存在にすら気付いていなかったようで、驚いたように顔をあげた。
「……なのは」
「どうしたの?一人でフェイトちゃんのお見舞いに?」
これほど元気のない彼女がかつて、いただろうか。
そう思わせるほどに、ヴィータの表情は優れず、沈みきっていた。
「フェイト」、その名を耳にした瞬間に虚ろだった表情はみるみる崩れ、
潤んだ瞳から滂沱の涙を流しなのはへと少女は抱きつく。
「はやてが……はやてが、笑ってくれねえんだ……」
なのはの丁度胸とお腹の中間地点くらいに顔を埋めながら、涙声でヴィータは言った。
「テスタロッサのこと聞いてから……病気になってから……はやてが……」
「ヴィータちゃん……」
それ以上は聞かずとも、理解できた。はやてが真実を知り、
心を痛めていることも。無理をして笑い、ヴィータがそれを心配しているのであろうことも。
どうしていいのかわからず、彼女が足の向くまま、フェイトの病室にきたのであろうことだって。
「……心配しないで」
「なの、は……?」
「フェイトちゃんは必ず、助けるから。はやてちゃんも笑ってくれるようになるから」
「……?」
思わずその幼い顔で見上げてきたヴィータを、なのははやさしく撫でる。
安請け合いなんかじゃない。
必ず、なんとかするから。その意思をこめて。
「……だから、行ってくるよ」
あの、場所へ。
理解の追いついていないヴィータを残し、なのはは、向かう。
フェイトの生まれた場所。
フェイトが自分を始めた場所。
時の庭園へ。
はい、お待たせしました。
640でございます。お休みもらえたようひゃっほい。
前スレのぶんは割愛させていただきますが、皆様GJです。
>>4の422氏
新スレ立て、乙でございます。
>>176氏
父親べったりなシグナムさんはよいですね。え?もっと
見るとこあるだろって?・・・胸とか?(紫電一閃
>>18 ちょっと切なくなって涙ぐんだのはひみつです。
なのはって燃えや萌えが強調されるけど、ハッピーエンドで切ない物語な希ガス
こんな時間ですがこんばんは396です。書いてるところが燃え展開ということで筆がガンガン進むので
ちょっと早いですが続きを投下します。やっぱり「こういう展開にしたい」と妄想していた部分まで来ると
スピードが変わりますね。そこまでが長かったんですが…。それでは第十話いきます。
魔法少女リリカルなのはA's++
第十話 「心の枷」
「…ユーノ、終わったよ」
「…………」
大小様々な箱が散らばる部屋の中、何もない空間から二つの人影が姿を現した。
空間に溶け込む迷彩を発生させる魔法、ミラージュハイドを解除しながらエリオはユーノを見たが、ユーノは始終無言だった。
最近のユーノはめっきり口数が減った。普段の仕事の疲れに加え、アースラを奪うための下準備、
そして何より裏切りによる良心の呵責で精神的に疲労しきっていたからだ。
先ほどもアースラ内の12箇所に、転移魔法を発動させるための補助装置を設置してきたばかりだ。
計画で使用する魔法はかなり巨大である上に生体反応のみを感知させる必要があり、12個のインターフェースが
発動範囲などの情報を送り、送られてきた情報をグランディアのコンピュータで処理しながら発動させる仕組みにしてある。
補助装置1個の大きさ一辺10センチの黒い立方体で、ユーノ達が自分で持ち込むことも十分可能だったが
少しでも疑われることを恐れたユーノは今回別の方法で持ち込むことにした。
それはユーノ達が今アースラにいる理由にも関係がある。
今日は月に一度のデバイスのメンテナンスの日であり、普段は本局で行うのだがフェイトの任務が重なったために
アースラで行うことになっていた。そのためいつも一緒にメンテナンスしているなのはとマリーもともにアースラにいる。
交換する部品はある程度決まっていたので、ユーノがその発注を行い、
送られてくる荷物に目的の装置をあらかじめ忍ばせたのである。
そのため発注先を一族を人質にしている運送会社を利用する製品工場にした。
そうしてなんなく装置を持ち込んだユーノはメンテナンスが始まる前にアースラ内に設置したというわけだ。
「メンテナンスが始まって15分経ってるね。マリーさんには僕から遅れると伝えてあるから大丈夫だけど」
「ああ。ありがとう」
少しぼんやりとしていたユーノはエリオの言葉に気付いたように返事をした。
エリオは秘書としてスケジュール管理の面でユーノのしっかりサポートしていた。
具体的な計画の全容を聞かされていなかったが、これから行う内容はユーノから聞いていた。
「やっぱり僕だけでやろうか?ユーノは少し休んでいた方が…」
「いや、大丈夫だよ」
エリオの申し出にユーノは首を振った。
約束の期限まで残り半月。ユーノ自身休みたい気持ちは大いにあったが、秘書という肩書きのエリオに
なのはとフェイトのデバイスのメンテナンスをやらせるわけにはいかなかった。
それに今回はメンテナンスだけではない。レイジングハートにある処理を施さなければならない。
デバイスの知識に長けたエリオなら可能かもしれないが、マリーに怪しまれる可能性がある。
「そういえばエリオは今デバイスは持ってるの?」
「これは肌身離さず持ってるよ」
ふと思ったことを尋ねるユーノに、エリオは右の袖をまくって青い宝玉のついたリングを見せながら言った。
エリオと再会を果たしてユーノが一番驚いたこと、それはエリオがデバイス、
しかもインテリジェントデバイスを持っていたことだった。
ユーノは万が一の場合はエリオにも戦闘に協力してもらうつもりだったので、使える魔法やデバイスの能力、
魔力資質についてもきちんと聞いていた。
リングは後から装飾用につけたようで、そのデバイスのスタンバイモードはレイジングハートと色違いの形状をしていた。
一族が所持していたレイジングハートを子供のときに見て、そのまま外面を模したらしい。
もちろんデバイスモードは持ち主のイメージで形成されるのでなのはのレイジングハートとは全く違うものだった。
母親が残した資産が思った以上に多くその全てをはたいて自作したそうで、エリオはそのデバイスを形見と言っていた。
自作が難しく敷居が高いと言われているインテリジェントデバイスをそれでも選んだのは寂しさもあるのかもしれない。
今のところ戦うのはユーノ一人の予定だが、エリオにはそのデバイスでなるべく戦ってほしくない、とユーノは思った。
「それじゃあ、行くよ」
「うん」
部屋に散らばった箱をしまい、交換する部品を荷台載せてユーノ達はメンテナンスルームへと向かった。
*
「フェイトちゃん夏休みの宿題どこまでやった?」
「数学は全部終わったけど国語と社会があとちょっと残ってるかな」
メンテナンスルームでなのはとフェイトは立ち話をしていた。
今はマリーがレイジングハートとバルディッシュのメンテナンスのための初期設定をしていて、
なのは達は特にすることもなかった。
交換する部品は遅れてユーノが届けに来るようでそれを待っている状態だ。といっても、メンテナンス自体はいつもと変わりなく
なのは達のすることは自分のデバイスの状態を確認することだけなので、ほとんどマリーとユーノにまかせるだけでよかった。
「それにしてもユーノ君のお友達ってどんな人だろうね?」
「…一族の人らしいし、きっといい人だよ」
なのはとフェイトはユーノが秘書を雇ったということをメールで聞かされていた。
まだ会ったことはないので今日が初対面となる。なのはは自分が知らない昔のユーノを知る人物と会えることがとても
楽しみだった。違う時代のユーノの幼馴染。きっと仲良くなれるだろう。
一方フェイトは先ほどからたった一つのことが頭の中を支配していた。
ポケットに手を入れて二枚の紙切れをぎゅっと握る。
今日は前から計画していたことを実行する決戦の日だ。ユーノとの仲を誤解されてからずるずると時間ばかりが流れ
なのはもはやてもあまりそのことを気にしなくなったが、フェイトは気がかりでしょうがなかった。
女の子というのはどんなに親しい間柄であっても恋愛に関してはいつも分かり合えるわけではない。
そういう話に疎いフェイトでもそれぐらいは理解していた。情報源はドラマと漫画だけだが。
そしてフェイトは誤解を解きつつ、なおかつなのはとユーノの距離を縮める作戦を考えたのだ。
「あ、あのね、なのは」
「?」
急にかしこまったように話しかけてくるフェイトになのはは不思議そうに首を傾げた。
「えっと、この前ね、雑誌の懸賞に応募したら、その、当たったんだ…」
「へぇ!おめでとうフェイトちゃん!…でもそれってなんの懸賞?」
「これ…」
フェイトはポケットから二枚の紙を取り出しなのはに見せた。
「これって…最近出来たテーマパーク?しかもペアチケットだね」
「うん」
なのははしげしげとチケットを見つめた。近頃、海鳴市から少し離れた都心に近いところに大きなテーマパークができ
話題を呼んでいた。一日で全てを周ることも難しいほど巨大で、完成したばかりということもありチケットの入手は困難と
言われている。アリサ達ともいつかみんなで行ければいいねと話していた場所だ。
そのペアチケットをフェイトが当てたらしい。
ペアということは二人で行くということだ。フェイトの場合アルフだろうか。それとも…
「フェイトちゃん、もしかしてユ」
「でね!私は仕事が忙しいし、アルフも手が離せないみたいだから、これ、なのはにあげようと思うの」
「えぇ!?」
予想外のフェイトの申し出になのはは素っ頓狂な声をあげた。
デバイスに目を向けていたマリーが振り返って不思議そうになのは達を見た。
「そんな!せっかくフェイトちゃんが当てたんだし、悪いよ」
なのはは両手をぶんぶん振って断ったが、フェイトは首を振ってなのはの手にチケットを握らせた。
「うぅん。いいの。これはね、なのはにもらってほしい」
「フェイトちゃん…」
フェイトの真剣な眼差しについなのはも押し黙ってしまった。
「そしてユーノと一緒に行ってほしいの」
「………はぃ?」
雰囲気に呑まれかけたなのはもあまりの飛躍した話に我に返った。
「えぇっと…どうしてそういう話に?」
なのはは困惑の表情でフェイトを見た。
「なのはの気持ちは分かってる。それになのはには私の気持ちを知ってほしくって…。」
そういうとフェイトはなのはに握らせたチケットから一枚を取って言った。
「大丈夫、ユーノには私の方から言っておくから」
「ちょ、ちょっとフェイトちゃん?」
話が飲み込めなかったなのはがフェイトに尋ねようとした瞬間、メンテナンスルームの扉が開いた。
「ごめん、みんな。ちょっと遅れちゃって」
そう言いながら荷台を押してユーノと青髪の少年が入ってきた。
「いいえ、今部品交換に入れるところまで調整が進んだので丁度良かったです」
マリーがユーノの代わりに荷台を押してデバイスに取り付ける準備を始めた。
その様子をぼんやりと見つめながらなのはは先ほどのフェイトとのやり取りを思い出した。
フェイトの気持ちとは一体何なんだろうか。ユーノに対して特別な感情を持っているのではないか、という程度には
思っていたけれど、さっきの様子では自分とユーノをくっつけようとしているようにしか見えない。
というか絶対そうだ。それが遠慮からくる諦めなのか単に元からなんとも思っていなかったのかなのはにはわからなかった。
(でも…)
なのはは半ば強制的に受け取らされたチケットを握った。
(本当にわからないのは…自分の気持ち…)
つい最近まで恋愛について深く考えたことはなかった。今でもそうだと言えるかもしれない。
ユーノは大切な幼馴染だ。異性であれば友達以上の関係になることもありえる。
自分と恋人になったことを想像するとむず痒いような照れくさいような不思議な気持ちになる。
それが恋なのかはまだわからなかった。どちらにしろ人から押し付けられるようなことではないとは思った。
けれど、かと言ってフェイトの好意も無駄にしたくない。
ユーノと二人で遊園地に行けばきっと楽しいだろう。恋愛感情を抜きにしても十分魅力的だ。
仕事も学校も充実している今は、それで十分なのかもしれない。
ここはフェイトの希望通りユーノを誘おう、と思った。もちろん自分の口から。
お互いの休みが合えばだけど…と思った矢先、気付くと自分の目の前にユーノの顔があった。
「なのは?」
「はぅ!ユ、ユーノ君!?」
びくっとしてなのはが距離を取った。
フェイトと青髪の少年も不思議そうな顔をしている。
「大丈夫?ぼーっとしてたけど」
心配そうにユーノがなのはを見た。
「あ、うん。大丈夫。ごめんね」
そう言って微笑むとユーノも少し微笑んだ。ユーノのその顔が無性につらそうに見えたのは気のせいだろうか。
なのはが違和感に考えを巡らす間もなくユーノが話し始めた。
「二人は会うのは初めてだよね?彼はエリオ・スクライア。6歳まで一緒に過ごしてた僕の幼馴染」
「はじめまして」
ユーノの隣の少年がぺこりと頭を下げた。緊張しているのか動きは堅かった。
背はなのはより少し低いくらいで、大人しい印象を受ける。
「私は高町なのは。よろしくね」
「フェイト・T・ハラオウンです」
なのはとフェイトも自己紹介をしてそれぞれエリオと握手をした。
「それじゃあ僕はメンテナンスに入るから」
エリオの紹介を終えるとユーノはすぐにデバイスの方へと行ってしまった。
いつものユーノなら久しぶりの会話を楽しむはずなのだが、今日はずいぶんとあっさりしている。
なのははちょっと寂しさを覚えつつユーノの背中を見ていると、エリオがなのは達に話しかけてきた。
「あ、あの、お二人ともかなり優秀な魔導師とか。高町さんが教導官でハラオウンさんが執務官ですよね」
「うん。あと、私のことはなのはでいいよ」
「私もフェイトでいいです」
エリオの問いになのはとフェイトは微笑みながら答えた。
エリオはそれを見て顔が熱くなるのを感じた。同年代の女の人と話すのは久しぶりのことだったし、
何よりとても可愛い。
ユーノはずいぶんと幸せ者だな、と思った。
(いや、それももうすぐ終わりか…)
部屋の奥でメンテナンスを続けるユーノの背中を見ながらエリオが考え直した。
ユーノは今日高町なのはのレイジングハートにあるしかけを施す。
詳しい話をエリオは聞かされていなかったが、うまくいけばマスターでなくてもある一つの魔法を
デバイスを通して発動させることができる、とユーノは言っていた。
そのコマンドにある処理をして、レイジングハートの自己診断プログラムの穴に忍ばせるらしい。
たった一つの魔法が使えるだけで致命的な欠陥になりうるのかエリオにはわからなかったが、
ユーノはこれを切り札に高町なのはに勝つつもりらしい。
ちらっとユーノの方を見ると部品交換でマリーの気を取らせている間にカードを差込みプログラムをインプットしているのが
なんとなくわかった。
こちらも二人の気を引かなければ、と思いエリオはなのはとフェイトに視線を移した。
すると視線の合ったなのはが話しかけてきた。
「昔のユーノ君ってどんな子供だった?」
「あんまり今と変わらないかな」
なのはの疑問にエリオは素直に答えた。
「大人びているわけじゃなかったけど、考えていることはいつも大人顔負けだったし、一族から期待もされてたよ。
遊んでいるときくらいかな。本当に子供らしいって言えたのは」
小さいときの記憶なので覚えていることが少ないが、ユーノの聡明さは小さいながらもエリオはわかっていた。
「子供らしさが見えないって点じゃなのはさんやフェイトさんにも言えることだけどね」
「そ、そうかな」
エリオの言葉になのはとフェイトは顔を見合わせて苦笑した。
「二人とも管理局のトップエリートとして大人と肩を並べているんだから。僕はユーノの後について回ることしかできない」
「エリオ君も十分頑張ってるよ」
なのはは笑顔でエリオに言ったがフェイトは先ほどのエリオの言葉に違和感を覚え、ただ何も言わずにエリオを見ていた。
少し嫌味を言われたような気がしたからだ。執務官をやっていると色んな人間と出会い、その悪意に敏感になる。
フェイトは目の前の少年からはその時と同じ感覚を覚えていた。
(考えすぎ…かな)
初対面の人に対してこのような感覚を持つのは初めてのことだったのでフェイトは思い直した。
「メンテナンス終わったよ。はい、なのは。フェイト」
するとユーノが三人に近づいてきて、なのはとフェイトにそれぞれデバイスを渡した。
「システムには特に異常はなかったし、いつもの通り消耗してる部品を一部交換したよ」
「うん、ありがとう」
「マリーもお疲れ様」
「あ、はい」
フェイトの労いの言葉にマリーは書類を胸に抱き軽く頭を下げた。
マリーはこれから報告書の作成に入るらしく、荷台を押して先にメンテナンスルームを後にした。
「じゃあ、僕達も行こうか」
「うん」
「あ!ちょっと待って!」
後に続くようにユーノとエリオが部屋を出ようとしたのでフェイトが慌てて呼び止めた。
「なに?」
「あ、えっとね。その…」
「ユーノ君、次のお休みにでも、私と一緒に遊園地に行かない?」
口ごもるフェイトになのはが続けるように言った。
積極的に話すなのはにフェイトは目を見開いたが、なのはの意を読み取って安心したように二人の様子を見守った。
「え!?もしかして二人でってこと?」
「…うん」
恥ずかしさからかなのはは照れたように俯いた。
「えっと…ちょっと仕事が…」
ユーノは突然の申し出に咄嗟に否定しようとした。
「無理…かな?」
「い、いや、無理ってわけじゃ…ないけど」
少し寂しそうに見上げるなのはにユーノは戸惑った。受け取るわけにはいかない。
頭ではそうわかっているのにユーノはどうしても断れずにいた。エリオもユーノのその様子に眉間にしわを寄せている。
これから先無駄な予定を入れることは行動の制限に繋がる。ユーノもそのことは分かっていた。
一方すんなり受け取ると思っていたフェイトはユーノの予想外の反応にハラハラした。
しばらく沈黙が続いたが、ユーノは一度頷いてから答えた。
「…うん、そうだね。一応受け取っておくよ。期限はまだ先みたいだし」
「よかった」
ようやく受け取ったユーノになのはは笑顔になり、フェイトは胸を撫で下ろした。
そのユーノの答えにエリオは誰にもわからないほど小さくため息をついた。
フェイトにはなぜユーノが素直に受け取らなかったのかわからなかった。
仕事が忙しいといっても全く休みが取れないなんてことは有り得ない。これではまるでなのはを避けているかのようだ。
なのははそうは思っていないようだが、ユーノらしくない、と思った。
フェイトが眉をひそめていると、なのはがユーノの顔を見て気付いたように言った。
「ユーノ君、疲れてる?」
「そ、そうかな…」
覗き込むように見つめてくるなのはに、ユーノは頬をかきながら顔を逸らしてごまかした。
「ちゃんと休まなきゃ駄目だよ?」
「…うん。そうだね。心配してくれてありがとう、なのは」
なのはの言葉に肩の力が抜け、ユーノは本当の笑顔でなのはに答えることが出来た。
「それじゃあ僕はもう行くから」
「うん。またね」
歩いていくユーノ達をなのはは笑顔で見送り、フェイトはいぶかしげに見つめた。
「どうして受け取ったんだよ」
歩きながらエリオがユーノに尋ねた。たとえ受け取ってもチケットの期限までに事件を解決できる可能性は低い。
今はそれどころではないことはユーノが一番理解しているはずだ。
「分からない…」
ユーノが嘆くように呟いた。
「僕にも…分からない…」
それからユーノは一言もしゃべることはなかった。
次回へ続く
約束の期限まで残り一週間。ユーノは二つの武器を作り上げる。
自分の大切な絆を切り裂くことになるその刃に、ユーノは何を思うのか。
そして一方クラナガンではある事件が発生していた。
第十一話 「狂い始めた歯車」
前作を含めてなぜか一番容量がでかかった(15KB)十話終了です。
今回は起承転結でいう承の終わりです。次回から一気に転へと繋がります。
ようやく折り返し地点まで来た…と思います。二十話超えそうですが。
完結させるように死ぬ気で頑張ります…。
>>1スレ立て乙です
>>176氏
本当がどうかはわかりませんがベルカの世界の中世っぽいイメージが浮かんできました。
>>640 アリサ来た!個人的にずっと待っていた!…はしゃぎすぎですねすいません。
31 :
名無しさん@ピンキー:2006/11/09(木) 16:55:41 ID:99Zg81LT
>>13-17(640氏)
>第七話 僕が希望になるから
とありますが、八話では?
戦闘中にはやてが狙われたときとか
シグナムはとっさにはやてことをどうよぶんだろう
やっぱり「はやて」かな
「主」
ではないでしょうか?
>>31氏
>八話では?
・・・・あ。(石化)
はい、ごめんなさい八話ですorz
こういうミスをよくやるから俺という人間は困るorz
職人の方々へ
小説を非常に楽しく読ませていただいてます。
自分には文才がないのでネタだけ投下しようと思うのですが
果たして良いものかどうか・・・
そういうのは本スレでやったほうが食いつきいいと思うけど
37 :
35:2006/11/12(日) 20:08:18 ID:uksKckIj
個人的にはやめて欲しいかな。
ネタだけ投下することの是非そのものをどうこう言うつもりはないが、
一人がネタのみ投下をしたら、それに便乗して俺もこんなの考えてたよー、ってネタ妄想開陳祭りになるは勘弁。
39 :
35:2006/11/12(日) 20:25:49 ID:uksKckIj
わかりました。投下しないようにします。
もう少し自分で考えてみます。
アドバイスありがとうございました。
第9話 小さなきっかけ それが事件の始まりなの!?
喫茶店「翠屋」は今日も繁盛している。
周囲にこのようなゆったりとした喫茶店がないおかげか、はたまたパティシエの腕のおかげか、店内は女子学生たちの黄色い声で溢れている。
こういう時に男はなんとなく居づらいというのが本音なのだが
「恭也ー、ケーキセットおねが〜い」
「ああ、任せて母さん」
ウェイターとして働く身、そんなことを言った日には首が飛ぶのは請け合いだ。
「おまたせしましたケーキセットです」
小さいころからずっと手伝いでやって来たおかげで手つきなんて高級レストランのそれぐらいには鍛錬されている。密かな俺の自慢だ。
テーブルの上に並べられたケーキ、紅茶に目を輝かせるお客様達。なのはの学校と同じ聖祥大付属の子。学校帰りの寄り道としていつも贔屓にさせてもらっているお得意様だ。
「ではごゆっくり」
俺が身を翻すとすぐに小さな歓声が背中に当たる。
「やっぱりかっこいい」とか「素敵」とか、男としてはそれなりに嬉しい褒め言葉をチップに貰ってすぐに次の注文へ。
一応それなりの席を確保している店内だというのに、時間帯もあって満席。
外を見ればオープンカフェも――やはり満席。
「ごめんね恭也。毎日毎日、重労働させちゃって」
「気にすることないよ母さん。俺が好きでやってるんだから」
「そうだぞ桃子。こんなの日々の鍛錬に比べれば鍛えにも入らないからな」
「ああ、だからこき使って構わないよ」
キッチンから顔を出した母さんに笑顔で答え、カウンターでコーヒーを入れる父さんにからかわれ。
慌しくも実に平和な一日だ。
「平和……か」
もう一度外を見やる。
お茶に立ち寄った我が妹はいつもの仲良しトリオを組んでなにかの話に夢中になっている模様。
無理をしていた顔はもう何処へやら。
もう少しあの顔でいたら理由を問いただそうとしていたのだが、どうやら自分で何とか解決できたらしい。
妹の成長に頷く一方で、やはり少しは自分を、家族を頼りにしてほしい気持ちもあるにはあるのだが。
「穏やかなのが一番だもんな」
それに限る。
「ねぇ恭也、なのはたちの所にこれ持っていってくれない?」
母さんの声に振り向くとなにやら見慣れない形のシュークリームとケーキが載せられたお盆。
ずいぶんとご機嫌な笑顔で母さんが立っていた。
「別にいいけど……なのはこんなの頼んだのか?」
「サービスよ、サービス」
「身内だからってあまり甘やかさないほうがいいと思うけどな」
そうは言ってもちゃんと受け取ってしまうのはウェイターとしての性なのだろう。
「大丈夫よ。身内だからこそできるサービスなんだから」
「え?」
「おい桃子、まさかなのはに毒見でもさせる気か?」
「失礼ね、新商品のモニターよ。モニター」
なるほど、そういうことか。
つまるところこのシュークリームとケーキは母さんの最新作で、その味のモニターにされたわけか。
どうりで見たことのない形と色というわけだ。
「大丈夫よ、ちゃ〜んとおいしくしていますから」
「ほんとか? まあ、あのシュークリームなら美味いからな」
「あなたはシュークリームだったらなんでも美味しいって言うからモニターにならないの」
「そりゃあ美味いんだからしょうがないんだ」
そうは言うけど父さん、母さんの作るものはなんだって美味いって言ってるだろ。
その度に惚気を見せ付けられて、まったくこの夫婦は一体いつまで新婚でいる気なのか。
仲良いことはいいんだけどな。
「もうあなたったらぁ〜」
「はぁ……じゃあ持っていく」
甘いのは苦手だ。
味覚として雰囲気として。
少し早足に店内を出て、一路目的の場所へ。
「よぉ、仲良しトリオ。母さんからの差し入れだ」
「お母さんから?」
「ああ、条件付きだけどな」
「……モニターさん?」
無言で頷いてやる。
「父さんが言うには美味しいらしいからな、大丈夫だろう」
「じゃあいただきます」
「ありがとうございます恭也さん」
「いやいや、お構いなく」
ぺこりと頭を下げるすずかちゃんに笑顔で返し、手際よく品を全員の手前に並べていく。
「手馴れてますよね恭也さん。なんだか一流レストランのウェイターみたい」
「自分でもそう思ってる」
目の前のケーキに目を輝かせているアリサに軽い冗談を一つしながら今度は既に平らげられたケーキ皿やティーカップを片付けて。
「これだけ食べると太りそうだな」
「あっ、大丈夫だよ。ちゃんと運動はしてるから」
「びゅんびゅん飛び回ってるし、十分カロリーは消費してるしね」
「びゅんびゅん……?」
「あ、アリサちゃん!」
はて、何か新しい遊びがそんな風な動きをするのだろうか。
近頃の小学生の間で何が流行しているのか全く知らないが、まぁ一種の比喩表現なんだろう。
慌てふためいているすずかちゃんを隣にアリサはしまったと言わんばかりに口を押さえていたりするが。
「元気になのはいいことだが……怪我だけはしないように」
「はーい」
一応もしもの時が訪れないよう釘を刺して。三人はもちろんといった感じで返事を返して。
「じゃあ俺は店に戻るから」
「お手伝い頑張ってねお兄ちゃん」
「ああ」
無論ぬかりはない。最近の店の手伝いは俺にとってそれなりに意味のあることなのだから。
「さてと……まだまだこれからだな」
意気込み店内へ。
その矢先
「ん?」
エプロンのポケットをこそばゆい振動が揺らしていることに気づいた。
仕事中は電源を切っておくのが普通なのだが今日は不覚にも忘れていたらしい。
(この時間帯……忍か?)
このまま放っておくのも失礼だ。
厨房の母さんに一声かけて俺は奥の休憩所へ向かい携帯を引っ張り出した。
案の定、液晶には月村の二文字。
「忍か? どうした?」
* * *
「あっ恭也」
耳に届いた凛々しい声。やっぱり大好きな人の声は電話越しでも嬉しい。
『何か用か?』
「用ってほどじゃないんだけどね……」
ただ声が聞きたかっただけってのは恋人ならではの免罪符だと思う。
私にも今は恭也が翠屋で働いていることを知っている。電話越しにでも微かにお店の喧騒が聞こえているのだから。
『それなら今忙しいんだ。悪いけど切るぞ』
「あ……うん、じゃあまた後でね」
ぷつっとそれきり。
ツーツーと無機質な音が聞こえるだけの携帯を私はすぐにたたんで、半ば投げ捨てるように後ろへ放り投げた。
ぽすっと軽い音。どうやらベッドに上手く着地できたらしい。別に壊れても修理はできるから失敗してもいいんだけどね。
「もう……」
寄りかかってただけのベッドに思い切り体を逸らして上体を預ける。
……本当に暇だ。
ここの所、恭也はずっと翠屋で手伝いをしている。
いつもなら時々の手伝いなのに、最近は毎日遅くまで。
おかげで携帯でもまともに話せない。
「ほんとに……」
私なんて大学で講義が重なった時ぐらいしか会えてない。
どこか行こうって誘っても恭也はいつも「悪い」とか「すまん」とか、それで二言目には翠屋の手伝い。
いつからそんな真面目な勤労者になってのか聞きたいくらい。
「恭也の……」
デートのお誘いだって意外かもしれないけど私より恭也の方が多いのに今は完全に私の一人よがり状態。やってて馬鹿らしくなるくらいに。
私たち付き合ってるのに……。
恋人なのに……。
「……バカ」
ほんとにバカ。バカバカバカバカバカ…………。
好きな子を放っておくくらいにお店が楽しいの?
立派な浮気なんだから……それ。
「頭にきちゃうんだからね」
このままじゃどうにかなりそうだった。
どうせ怒った所でどうにもならないんだしここは
「気分転換気分転換」
とはいっても今あるゲームは殆どやり尽くしてあるからあんまり気分は変えられないし。
「続き読んじゃおっかな〜」
取りあえず、今の私の流行は読書である。
ズラリと並んだ本はその総てが工学関連の専門書。自分でも良く集めたし、よく読んだものだと感心してしまう。
「たまにはこういう本も読まなきゃね」
そんな本棚の片隅に極小規模ながらも陣地を持つことを許された本の一団がある。もちろん目的の品はそこだ。
「三角はーと3はっと……あった」
結構買いだめしたのが煩雑に押し込まれてるあたりそろそろ整理の必要有りか。もしくは領土の拡大かしら。
まっ、そんなことしてたら日が暮れてしまうわけで。
ベッドに寝そべって早速本を広げて
「なんとなくだけど似てるのよね……これ」
巷でそこそこ面白がられてるこの小説。ジャンルとしては恋愛ものなんだけど、意外とSFチックだったりファンタジー的な要素が絡んで来たりでこれがなかなか面白い。
物語としては寡黙で真面目な主人公が一巻ごとにいろんなヒロインと恋をするオムニバス的で私はその中でこの三巻が一番お気に入り。
理由を問われるなら、なんとなくだけどこのヒロインが私に似てるような気がしたから。
「この主人公もある意味恭也っぽいしね」
流石にここまで硬い性格じゃないけど剣術だってやってるし。流石に盆栽弄りは趣味ではなさそうだけど。
「あと少しだし……全部読もうかな」
先延ばしにしてたっていいことないし。人間思い切りも必要。
そういうことにして私は本の世界へと意識を溶け込ませていった。
* * *
結局、夢中になって読んだけど読み終えたのは日付が変わるだろう時刻。
流石に晩御飯の後にうたた寝はまずかったな……。
でもこうやって読み終えたことは喜ばしい。なかなかにおもしろかったし。
――それにしても
「……結構ぶっ飛んでたわよね」
劇中に出てくるヒロインの秘密。
その子曰く「夜の一族」と言われる種族は腕が千切れてもくっつけるくらい回復能力が高く、身体能力も常人より上。さらに加えて類まれなる科学力。
「血が必要って吸血鬼みたい」
いろいろ制約はあるみたいだけどともかくすごい存在なのだ。
メイドさんはアンドロイドでロケットパンチだし。
「お金持ちで……メイドさんがいて……いざこざに巻き込まれて……」
出会いのきっかけからだってそっくり……というわけでもないが似ているのだ。
私の場合は相手方があんな危なっかしい人形で攻めて来たことはなかったけど。
「やっぱりますます似てるわ」
思い込みも入ってるのは否めないけど。
「ただ、少し演出的には課題ありってところなのよね」
あんまり最後は主人公君活躍しなかったし、メイドさんばかり大暴れしてたし。
メカ好きとしてはしびれる展開だったんだけど。
「それに夜の一族もあんまり意味がないというか……」
もっと目を見た相手を洗脳したり魅了したり。爪を振るえば大地が抉れ、空気は引き裂け。
蝙蝠になって空を飛べとは言わないけど、もう少し一ひねりが欲しい。
贅沢な悩みって奴だ。
「けどこの二人っていいなぁ……」
正直、ここまで愛し愛される二人が羨まし。
「血の契約とか……ずっとそばにいるとか」
二人の絆の深さを見ているとなんだか悲しくなってきた。
比較ばっかりして、自分たちの中がなんだかずれ始めてることを思い知るような気がして。
「私……恭也に嫌われちゃったのかな?」
考えてみてもそれは無いと思う。
「そうよ、失礼なのは恭也の方よ」
恋人をおざなりにしてバイトに精を出す神経が信じられない。もっと言うと構ってくれないなんて信じられない。
「嫌いなら嫌いって言ってよ……バカっ!」
枕がドアに当たってすり落ちた。
このままだと寝覚めも悪そう。
「夜風にあたろっかな」
窓から見える月は満月。まんまるお月様。
思わず綺麗って言いそうになるくらいに煌々としていて、このまま額縁に入れて飾りたい。
今宵の夜のお散歩はきっと楽しいだろう。
あとはねこと遊んで、遊び疲れて眠る。うん、完璧なプラン。
「あ〜あ……いっそ空でも飛べればなぁ」
むしろ空飛びたい。
「……時間遅いし……いこっ!」
有限実行。ドアを開けて私は外へと繰り出した。
本当は隣に恭也がいてくれればもっと最高なのに。
コメントは明日にでも・・・。
こんばんは396です。
いきなりですが続きを投下します。
魔法少女リリカルなのはA's++
第十一話 「狂い始めた歯車」
滑らかな片刃のエッジ。幾何模様をあしらったグリップ。
柄と刃の間には小さな装置が取り付けられ、グリップに沿ってレバーが伸びている。
ユーノはそのナイフを持つと斜めに空を切った。自分の手の型を取ったそのグリップはしっくりと手になじみ、
夜空に輝く星の光に反射してエッジがキラリと光った。
試しに足元に落ちていたコブシ大の石を拾い空中に放り投げ、切り裂く。
石は音もなく真っ二つに割れ、ぼとぼとと地に落ちた。通常の切れ味に問題はない。
次にユーノは暗闇に沈む岩場を飛び越え、その辺りで最も空に近い平地となっている岩場の頂上へ降り立った。
そこにはいくつかの巨大な岩石が大きな影を作っていた。
ユーノはその中で一つの岩石の前に立つと深い息を吐いて右手に持ったナイフを逆手に持ち変えた。
上体を低くし、右腕を岩石の反対方向へと下げてレバーに人差し指と中指をかける。
「はぁ!!」
レバーを軽く引き、刀身から緑色の大きな刃が形成されるとともにナイフを思い切り振りぬく。
一瞬の間の後に、斜めに切り裂かれた巨大な岩石は大きな音とともに崩れ落ちた。
レバーから指を離すと、緑色の刃は空気中に溶けるように消えていく。
威力を確認したユーノはじっとナイフを見つめる。満天の星空をバックに自分の顔が映っているのが見えた。
その顔は苦痛の表情を浮かべているように見える。
ユーノは気を取り直すかのように腰の後ろに付けた鞘にナイフをしまった。
すると後ろからパチパチと拍手が聞こえ、ユーノは振り向いた。
「すごいね。それがユーノの武器?」
振り向いた先には岩に腰をかけたエリオがいた。
スクライア一族のバリアジャケットのマントが風でたなびいている。
「…うん。うまくできたみたいだ」
そう言いながらユーノは鞘に収めたナイフの柄をそっと触れた。
アースラ奪取の計画前になのはと戦うために作った武器の一つ。
これはデバイスではなくただの出力装置つきの武器だ。柄の幾何学模様は持つ者の魔力を吸い取る魔術式で、
柄から吸い上げられた魔力は小型の魔力圧縮コンバータを通り、レバーを引くことで高密度の魔力として放出される。
最大射程は3メートルと短くユーノの魔力量では常時維持することはできないが、
その瞬間的な威力はフェイトのザンバーにも引けを取らない。
それでも、一瞬とは言えユーノの魔力はかなり消費された。なのは達との魔力の差がいかに開いているかを実感する。
これがあれば大抵のシールドは切り裂くことはできるだろう。
しかし、今回の相手はカートリッジシステムを組み込んだレイジングハートとあのなのはだ。
そのためにもう一つ準備したものがあった。
「性能を確認したいから、ちょっと協力してほしいんだけど」
「うん。いいよ」
ユーノの頼みにエリオは岩から飛び降りた。ふわっと浮きながら静かに着地する。
「それで?僕は何をすればいいの?」
「攻撃魔法を撃ってくれない?あまり強力なやつじゃなくて」
そう言いながらユーノは先ほどのナイフとは逆の、腰の左側に付けた鞘からダガーを取り出した。
この両刃の短剣の中央には真っ直ぐ細長い液晶のようなものがはめこまれていた。
『Please Select the Mode』(モードを選んでください)
ユーノがそのダガーを握ると機械的な音声が流れる。
「ディフェンス」
『Mode:MAIN GAUCHE』(マインゴーシュモード)
ユーノが呟くと、ダガーの液晶部分が青紫色に輝き[ MAIN GAUCHE ]の大文字が現れる。
「それじゃあ、四方向から僕に攻撃してみて」
「わかった」
エリオが右手をかざすと、手首のリングに付いた青い宝玉が光る。
すると藍色の四つの魔力弾が現れ、ユーノの周りを取り囲みゆっくりと公転を始めた。
「いくよ?」
「いつでもいいよ」
エリオがユーノに確認を取り、ユーノは目を閉じダガーを強く握った。失敗すれば大怪我の可能性もある。
自分で作ったものだからきちんと動作する自信はあったがやはり緊張した。
「シュートッ!!」
エリオがかざした手を横に振ると、四つの光の玉は真っ直ぐユーノに向かい、着弾する。
もくもくと煙が上がり、ユーノの姿は見えなくなった。
しばらく煙がたちこめたが、高所特有の気まぐれの強い風がそれを吹き飛ばす。
煙の晴れた中心には緑色の球に包まれたユーノが左手に短剣を持ったまま立っていた。
「オートガードのスフィアプロテクションか…。ってことはずいぶんと防御特化なデバイスだね。それ」
エリオが感心したようにユーノのダガーを見ながら言った。
「これの役目の一つは障壁支援。あと一つはこれから確認するよ。…オフェンス」
『Mode:OBELISK』(オベリスクモード)
ユーノの声に応じて液晶の文字が[ OBELISK ]に変わる。
「エリオ、ちょっとシールド張ってくれない?」
「え?いいけど…」
目の前まで来たユーノに、エリオは手をかざして防御魔法を生成する。
キィンッという音と共に藍色の魔法陣が現れる。
ユーノは魔法陣に歩いて近づくと、思い切りダガーを突き立てた。
突き立てられたダガーに魔法陣が斥力を生じさせ、金属と魔力の衝突に火花が散る。
『Break in』(侵入開始)
ダガーから機械的な音声が発せられると、突き立てられた剣先から広がるように藍色の魔法陣の色が薄まる。
そしてパリンッという音とともに魔法陣はその形を保てずに崩れるように消えていった。
バリアブレイク支援。それがこのダガーのもう一つの特性だった。
それぞれのモードでただ一つの魔法を行使するストレージデバイス。短い期間で作れる精一杯の物だ。
結果に満足したユーノは軽く息を吐いてダガーを腰の鞘に戻した。
その様子を見ながらエリオは腕を組みながらユーノに尋ねた。
「さっきの高出力のナイフといい今のダガーも確かに良い出来だけど、これだけでエースに勝てるの?」
計画まで残り一週間。それまでにエースと戦って勝たなければならない。
サイオンから聞かされるユーノ達の監視状況は正確で、打ち合わせをする余裕などないことは明白だった。
二人がかりでも勝てないだろう相手にユーノはたった一人で挑む。
エリオにはこの二つの武器だけでは決定的な戦力差はうまらないように思えた。
「もう布石は打ってあるからね。あとは事がうまく運ぶかどうかだけど」
そう言いながらユーノは腰の二つの鞘を外し、岩場の影に置いておいたバッグに入れた。
切り裂く刃ジャックナイフと守りの刃セイクリッドスコア。
本来ならその性能を一本にまとめることも可能だったがいかんせん時間がなかった。
どちらも急ごしらえなため単純かつ比較的安価な代物だ。それでも、ユーノの想定する戦闘では十分すぎるほどの役目を果たす。
もはや自己嫌悪に浸る余裕もない。計画は最終段階に入っているが、準備はまだ終わっていないものもあった。
これから本局に帰って残った仕事も済ませなければならない。軽く眩暈も覚えたが、どう足掻いても残り一週間。
一族の命がかかっている以上絶対にやり遂げなければならない。
「それはそうと、そろそろどうやって一族を助けるか教えてよ」
本局に戻ろうとしていたユーノにエリオが尋ねた。
今まで責任を一手に引き受けようと何も伝えてこなかったユーノだが、エリオだってすでに共犯に近い。
少なくともこれから行われることの全てを知っておきたかった。
「…そうだね。もし僕に何かあったら、エリオに実行してもらわなきゃならないかもしれないし」
ユーノは少し考えた後、エリオに計画の全容を話すことを決めた。
「まず、人質は全員で28名いて計画立案で5名が解放されたから今は23名。
アースラ内の下準備はそろそろ終わるからそれでさらに5名解放されて残りは18名。
エースを一人倒せば5名、計画実行直後に10名が解放される。そうなれば、最終的に残る人質は3名。ここまではいい?」
「…うん」
エリオがサイオンが提示した条件を頭に思い浮かべながら頷いた。
「アースラとグランディアの搭乗員を交換する魔法を発動するとき、スクライア一族は全員グランディアに残ってもらう。
そうなれば、サイオンは計画実行後に解放する予定だった10名とアースラに連れて行くはずだった3名の計13名の首輪を
遠隔で爆破する可能性がある」
「そうだね」
「それを防ぐことが出来る人が僕の知り合いにいる。名前はシャマルさんって言うんだけど、いちおうエリオも知ってるよね?」
目線を上げてしばらく思い出す仕草をしたエリオは「ああ、あの人ね」と手を打った。
会ったことはなかったがユーノの秘書としてエリオはユーノの知人の資料は一通り目を通していた。
八神はやての守護騎士ヴォルケンリッターの一人、湖の騎士シャマル。サポート専門の騎士だ。
「首輪のシステムについてしばらく考えてみたんだけど、あれはサイオンと相互に情報を伝達してる
いわば遠隔操作型のデバイスみたいなものだと思うんだ。
ただそうなると、複数のデバイスを管理する高性能の管制デバイスをサイオンは必ず持っていることになる」
「インテリジェントデバイス…?」
ユーノの説明に自分で納得するかのようにエリオが付け加えた。
「うん。それも通信専門のね。そしてそこからの強力な通信を100%遮断することができるのが彼女のデバイス、クラールヴィント。
通信妨害は念話・思念通話から電波・無線にいたるまでかなり広範囲なんだ。それで遠隔操作の一切を遮断する。
効果範囲の関係上シャマルさんがアースラに乗っているときに計画を実行することになる」
エリオは頷きながら頭の中で整理した。
たしかに事前に連絡を取り合わなくても通信妨害くらいならこちらが直前に言えばすぐできるだろう。
それでも一つだけ疑問があったエリオは腕を組みながら言った。
「それじゃあアースラはあげちゃうわけ?」
「人質解放が最優先だからね。それに人質のいない彼らが逃げ切れるわけないよ」
ユーノがバッグを背負いながら答えた。
たった三週間でこれだけの準備と計画を一人でこなしたユーノにエリオは心底すごいと思った。
計画の内容を聞いたが、どうやら自分に出番はなさそうだ。今までそれを伝えなかったのは、本当にユーノはエリオに
罪も着させないつもりだったらしい。
エリオはユーノにわからないように歯軋りした。
「あと少しでハッキングプログラムも完成するし、早く帰ろう」
「あ、うん…」
ユーノの作り出した緑色の魔法陣が夜の闇に輝き、エリオは急いでその中へと入った。
(もうすぐか…)
消えゆく景色の中、エリオは右腕のリングを触りながら心の中で呟いた。
*
高層建築物が立ち並ぶクラナガンの狭い路地。黒い二つの影が疾走していた。
全身を黒いマントで覆い、顔にも覆面をしている。手には銃器を持っていた。
二つの影は建築物の間をすり抜けるように駆けて行く。上を見上げると、自分達を探すサーチライトが薄暗い空を照らしていた。
けたたましいサイレンの中、雷が雲の中で鳴り響いている。
かなりの距離を走ったことで二人とも息が切れていた。あと少し、あと少しで脱出用の高速艇にたどりつく。
しかし路地の中央に立ち塞がる人影に二人は足を止めた。
「もう逃げられねーんだから投降しろって。はっきり言って時間の無駄だし」
その影、身長は低くゴスロリ調の赤い服をまとった少女が二人に向かってぶっきらぼうに言った。
「くっ!!」
黒マントの一人が銃器をかまえ、引き金を引いた。
ガガガガッという音とともに少女の数メートル手前の壁に穴が開く。
少女は一応シールドを展開していたが溜息を吐きながら言った。
「当てる気ないなら最初から諦めろよ。ま、ベルカの騎士はそんなもんじゃ引かねーけど、な!」
「うわっ!?」
少女の放った鉄球が銃器にヒットし銃身が破壊される。
それを見たもう一人が、武器を破壊されて呆然とした仲間の手を引いて、今来た路地を走って戻ろうとした。
しかし、振り返った瞬間足を止める。
二人の目の前には剣を持った長身の女性が立ち塞がっていた。
「お前達の高速艇はすでに我らが主によって回収されている。これ以上の抵抗は無駄だ」
剣を水平に構えながら鋭い眼つきで女性が言い放った。
細い路地で挟まれ、黒マントの二人組みは完全に逃げ場を失った。
するとそれを悟った一人が懐から袋を放り投げ叫んだ。
「た…頼む!盗んだものは返す!!だから今だけ見逃してくれ!!!」
袋から宝石がいくつか路上に転がる。この二人の追われている理由、それは宝石強盗だった。
哀願するように必死に叫ぶ様子を見て、真後ろの少女がハンマーのようなデバイスを肩にかけながら哀れむように言った。
「それで済むならあたしらはいらねーんですよ」
「く…くそっ!!」
それを聞いて武器をまだ隠し持っていた一人が銃器を構える。
その瞬間、地面から生える様に白い鎖が現れ、黒マントの二人を絡めた。
「あっ!?」
その拍子に一人は銃器を落とした。
「良いタイミングだ。ザフィーラ」
「ああ。打ち合わせ通りだな」
シグナムが路地の真上を見上げながら言った。
上ではがっしりとした長身の男、ザフィーラが手をかざしながら浮かんでいた。
鎖に捕らえられた二人は、それでも諦めずにもがいていた。
『三人ともグッジョブ!!』
『これでひとまず終了やな』
するとその場の三人に女性の声の通信が入る。一人は通信士のエイミィ、
もう一人はその場から少し離れた場所にいる八神はやてだ。
『なーはやてー。ほんとにこいつらが例の強盗犯なのか?なんかあっけなく捕まえちまったけど…』
ヴィータが眉を八の字にしながら尋ねた。本来休暇中の身だっただけに機嫌はすぐれない。
『あーどうなんやろな』
「それは尋問してみなければ分からないことだ」
答えあぐねるはやての代わりに、念話を聞いていたシグナムがはっきりと答えた。
魔法陣に画像出力する空間モニターにエイミィの顔が映った。夜の路地がほのかに明るく光る。
『そういうのはこっちでやるからヴィータちゃん達は拘束した二人を転送して。
はやてちゃんはシャマルさんと協力して回収した高速艇の転送をお願い』
『了解しました』
『それじゃあわたしらは引き続き残党がいないか確認した後、被害状況を調査します』
『うん。お願いね』
そして空間モニターが消え、あたりに暗さが戻った。
「あーあ。じごしょりってやつが一番めんどくせーんだよなー。せっかくの休日だったってのに」
頭の後ろに両手を組みながらヴィータが愚痴った。
「ヴィータ、我々は罪を償っているということを忘れるな。
それに今回は戦わずに済んだんだ。雑務で済むならいくらでもやろうではないか」
シグナムがレヴァンティンを鞘に戻しながら言った。
「それはそうと、早く転送の準備をしてくれないか?」
拘束魔法の鋼の軛(くびき)を使用中のザフィーラが手をかざしながら言った。
「ああ、そうだな。済まない。…いや、ちょっと待ってくれ」
そう言いながらシグナムは拘束中の二人に近づいた。二人はもがくことはやめていたが、どうもまだ逃げることを諦めていないらしい。
報告に聞いていた連続強盗集団の一味かどうかはわからなかったが、その必死な様子にどんな人間か顔を見たくなった。
鎖に縛られる一人の覆面をとろうと掴む。顔を見られまいとしているのかいっそう黒マントは暴れたが、シグナムは気にせず
引っ張り上げた。
「や、やめろ!」
「…ん?」
顎まで覆面を上げたとき、赤い光がシグナムの視界に入る。
その者の首には黒い首輪はめられ、まるで生きているかのように動く赤い瞳のレンズがシグナムを見つめていた。
次回へ続く
強盗事件はユーノに決断を迫り、事態を新たな局面へと向かわせる。
次回 第十二話 「始動」
2つの武器のコンセプトは某ホラー漫画のタイトルです。右が攻撃、左が防御。
右のナイフはフェイトのザンバーを燃費を良くして近距離用にした感じの一品、
左のダガーはなのは達のデバイスをPCとするならiPodみたいなもんです。汎用性はあまりありません。
名称の理由に関してはまた今度。それでは。
>>396氏
最新話お疲れ様でした
相変わらずのGJぶり
しかし、エリオが怪しく見えて仕方ない…
58 :
名無しさん@ピンキー:2006/11/14(火) 20:34:38 ID:hq4Vt1D+
>>396氏
なんかエリオがラスボスになりそうな予感が…
それとナイフを使った戦いですがライスピのZXみたいにユーノ得意のチェー
ンで拘束して切り裂くやり方もありとか?
59 :
K:2006/11/15(水) 20:39:19 ID:q5Xg43eM
Kです。遅れながら、新スレ立てお疲れ様です。
クロフェだけどクロフェじゃないSS『風に舞う花』、行きます。どうにも進行が遅いですが…。
60 :
K:2006/11/15(水) 20:41:02 ID:q5Xg43eM
自分は今どんな顔をしているのだろう。覆いかぶさるように見下ろして来るクロノの顔を見上げて、フェイトは思う。
なかなか想像出来なかった。初めての行為に不安そうにしているのか、初恋の人に初めてを捧げる事に期待しているのか。
実際には後者だった。
フェイトは物欲しそうで悩ましげな表情をしていた。
下腹部の辺りで震えている彼の熱い肉の棒に期待を膨らませている。
初めて絶頂を迎えた下の口――粘膜の綺麗な割れ目は、桜色に色づいてピクピクと震えている。それはフェイトの心の切望の現われでもある。今日まで開かれる事の無かった秘所は、中が僅かに覗けてしまうような小さな肉穴を作り、今か今かと愛しい人を待ち望んでいるのだ。
ただ、クロノはなかなか来てくれなかった。フェイトは切なそうに身じろぎをして、恐れを抱きながら催促をする。
「……くろの、はやく……」
すると、彼は気まずそうに目線を外した。
「……避妊は、大丈夫か?」
避妊という言葉に、フェイトは不意に悲しさを覚えてしまう。
もう子供が出来る身体は出来ている。月に一度の苦しみにも最近は慣れた。日によっては寝込んでしまうような酷い時もあったが、いつもそういう訳でもない。
クロノとこれからする行為は、愛し合う恋人同士がお互いを確かめ合うという行為でもある。だが、本質的には子供を作り、次世代を育てる為に必要な生物的な行為だ。
クロノの確認は、ある意味で宣言とも言えるだろう。
恋人同士――彼ならばエイミィ――でも、そういう確認は普通は取るものだ。でも、今クロノの口から出た確認の問いは違う。
「……今日は大丈夫。安全日だから……」
結ばれるけど、この一回だけ。だから、避妊はしっかりされているかどうか。そういう問いだった。
エイミィにはしたのだろうか。彼はこれが二回目と言っていたが、彼女にはしたのだろうか――。
「……一応、付けるぞ」
付けるというのは、俗に言うコンドームの事だろう。男性用の避妊道具としては最も一般的なものだ。その辺りのコンビニエンスストアでも販売されている。
軽く驚いた。クロノがそういうものを自室に保管していたのは意外だ。やはりエイミィの時には付けたのか。
クロノが離れようとする。ベッドを降りて裸のまま机に近付く。
その背中に、フェイトは抱き着いた。
「付けないで。そんなの要らない」
「……フェイト」
「要らないったら要らない」
聞き分けの無い子供のように『要らない』を繰り返す。
「駄目だ。こればかりはさすがに聞いてやれない。もし嫌って言うなら、これで終わりにするぞ……?」
フェイトを気遣うような優しい声だった。
跳ねるように少女の肩が震える。
先程まで甘い嬌声が響いていた個室が静寂になる。
「……最初で、最後だから……」
指が食い込んでしまうぐらい強くクロノの肩を掴み、背骨に額を押し当てる。
「我侭も……これで最後にするから……だから……」
61 :
K:2006/11/15(水) 20:45:36 ID:q5Xg43eM
懇願だった。
クロノがゆっくり振り返る。フェイトは彼が頷いてくれるのを期待して見上げた。そして静かに息を呑み、僅かに瞳を見開く。
彼は悲しそうに首を横に振った。
「これ以上、僕はエイミィを裏切れないから」
「―――」
「今更かもしれないけど……ごめん」
つまり、付けずに行為に及ぶのは彼女だけという事か。
考えれば当然だ。この行為そのものがエイミィへの明らかな裏切りなのだ。それはフェイトが一番理解している事だし、クロノも最後には折れてくれたものの、きっと罪の意識に苛まれている。
恐らく、そういう道具を用いるか否かが、彼が敷いた最後の防波堤なのだろう。
でも、本当に今更だった。最後の最後、フェイトが一番望んだ行為を目前にしてだ。
彼の言葉は分かった。きっと葛藤があったはずだ。それでも自分の我侭を許してくれて、付き合ってくれた。結婚を決めた異性を裏切る行為をしてまでだ。
これ以上望むのは酷というものだろう。
でも――!
「……ごめん、クロノ」
我慢なんて――出来るはずがない――!
即座に拘束魔法の術式を構築する。呼吸をするようにも簡単に、クロノが反応するよりも早く、フェイトは編み上げた術式を一気に制御解放した。
「フェ――!?」
クロノの驚く声がリングバインドの発動音に掻き消された。金色に輝くリング状の基礎級拘束魔法がクロノの両手と両脚を虚空に磔にする。下着すら身に付けていないので、些か間の抜けた姿ではあった。
「フェイト!」
「……クロノは、これ以上エイミィを裏切らないよ。裏切るのは、私だけでいい」
最初で最後という言葉は、何をしてもいいという訳ではない。その言葉に甘えて好き勝手に振舞って良い訳ではない。
フェイトはぼんやりとした頭でリングバインドを操作する。クロノは磔の姿のまま、ゆっくりと冷たい床板の上に寝かせられた。
何をしようとしているのか、自分が何を言っているのか、自覚はもちろんあった。でも、思考は霧に覆われたかのように緩慢で、物の分別がほとんど付かなくなっていた。
膝を下ろして、人差し指と中指でクロノの下腹部をなぞる。そのまま、滑稽な程にギンギンに自己主張をしている堂々とした男根に触れた。
片手がひんやりとした床に付いている為、その見事な流線型のフォルムを満たしている熱さが顕著に分かった。
ビクンビクンと震える大きな亀頭の鈴口には、フェイトの股の間にも勝るとも劣らない粘着いた汁液が溢れている。
これが自分の膣に入って来ると思うと、否応無しに胸が高鳴った。
唾は何度飲み込んでも溢れて来るし、太股を股で擦り付ければ、陰部が粘度のある液体を捏ね回すような淫らな音がした。
「ごめんね、こんなやらしい子で」
「……フェイト……」
「私に襲われたって事にしておけばいいの。クロノも嫌々されたって思えばいいでしょ?」
「良いもんか! 早くバインドを解け!」
「……バインドブレイク、クロノ得意だったよね。でも、思い切り魔力使ってるから、いくらクロノでも簡単には解けないよ」
それでも時間を掛けられれば解かれてしまうだろう。だから、解かれる前にしてしまわなければいけない。
もう準備は整っている。フェイトの訓練で鍛えられた細身の身体は指も満足に入らないように見えるが、糸を引いて露になった陰部は初恋の人の猛々しい剛直ペニスを待ち望み、健気に肉穴を押し広げようとしている。
自分の指で様子を確かめれば、潤滑油の役割を持っている愛液がヌメリとした感触を寄越して来て、疼くような快感が情欲を高めて行く。
フェイトはゆっくりとクロノの下半身に跨り、彼の固くて熱い竿に指をそっと添える。改めて見詰めれば、本当に大きい。
これが自分にちゃんと入るかどうか、今になって不安になって来た。幾ら濡れて柔らかくなっているとは言え、処女は痛いとも言う。最初にクロノもそう言っていた。
いや、入れるのだ。喩え痛くても。腰の奥の疼きも我慢出来ない。すぐそこまで迫っている想い人のペニスに溶かされてしまいそうだ。
62 :
K:2006/11/15(水) 20:46:37 ID:q5Xg43eM
「くろの、入れるね……?」
「ば、ばか……!」
腰を落とすのに躊躇は無かった。
「はぁぁぁぁ……! く、るよぉ……! くる! くろののおっきいの……はいって……!」
処女膜が儚い抵抗をしたが、一秒と保たなかった。濡れに濡れ、湯気すらくゆらせる程の潤滑さを得ていた割れ目は予想していたよりも順調に剛直ペニスを受け入れて行く。
熱かった。それこそ火傷してしまいそうな程に熱い。手に握ってしごいたり、口に咥えて唾液まみれにした時よりも、ずっとずっと熱い。灼熱の熱さが言葉に出来ない快楽と共に脳天を貫き、背骨を蹂躙し、十五歳の少女の顔をはしたない恍惚とした悩ましい表情に変えた。
自分の膣は大した抵抗をしなかった。それが凄く嬉しかった。破爪の痛みは確かにあるが、下半身を包んでいる未知の快楽の前には大きな問題にはならなかった。
ペニスの付け根辺りまで、フェイトの卑猥な秘所はぐっぽりと飲み込んでしまった。
フェイトの熱壷に包まれた逞しい肉棒は肉の圧迫感に打ち震え、ピクピクと身震いをしている。膣を通してそれを感じ取ったフェイトは、口許に唾液を垂らしながら笑った。
「くろの、きもちいい……?」
手足の自由が利かないクロノは、明後日の方を向くばかりだ。そんな彼に代わって、震えている腰とペニスが返事をしてくれる。
「きもち、いい……んだね……?」
「………」
「うごく、よ? いい?」
「………」
「……うご……く、から、ね?」
痛みはやはり薄い。頭の裏がピリピリとしていて、挿しているだけなのに、今にも達してしまいそうだった。
ごくりと生々しい音を鳴らして、フェイトはゆっくりと腰を浮かし、そして落とした。
後二回くらいで終わらせたいと思いますが…終わるかな。
実は危険日、というオチしか思いうかばない。
まあ危険日なんだろね。
あとは、危険日でヒットしてこのフェイトにとって若干の希望が残る
形になるか、それともヒットせずに完全サッドエンドか…
こういうものの様式的には残る焦点はその辺かな。
そういえば緊急時には女性は排卵しやすい、らしい…
危険日じゃなくてもそんな罠v
というか初体験もまだの女の子が安全日を知ってるって異常じゃあるまいか?
>>62 GJ!
あっちの更新も楽しみにしているぞー!
触手スレになのはSS置いてきました
耐性のない方はご注意下さい
物音ひとつしない廃墟へと、少女は降り立った。
純白の衣に身を包み、手には愛機。
彼女をこの場に送り届けた転送装置の魔力の残滓が、空気中に散らばっていく。
「また、ここに来るなんて……ね」
親友が生まれ育ち、また自分を知った場所。
三年前も少女は、ここにいた。
一人の女性の身勝手を、止めるために。
そんな自分が今度は逆に、勝手をするためにこの場所にいる。
大した立場の変化に、少女は自嘲を大分に含んだ笑みを漏らす。
(でも、わたしは違う。誰も巻き込まない。誰にも迷惑はかけない)
これは、私の願い。私の勝手。だから一人でやる。やらなければならない。
わたしは、あの人とは違う。
決意を胸に、少女は足を踏み出す。
踏み出した先に何があろうとも、止まるという選択肢はない。
魔法少女リリカルなのはA’s −the day−
第九話 明日を落としても
「最近ね、夢をみるんだ」
ぽつりとつぶやいたフェイトの言葉に、はやての手にした包丁が止まる。
三分の二ほど皮の剥き終わった林檎は固く、程よくみずみずしい。
「……え?」
「夢。アリシアと……生みの親、プレシア母さんの夢」
眉を顰め彼女のほうを向いたはやてへと、
フェイトは目を細める。
細身を増した、ミルクのように白い左腕が、点滴のためシーツの上に露出していた。
「なにか、言いたいことがあるのかな。よく、夢に二人が出てくるようになったんだ」
「ん、そか。そうかもしれんな」
穏やかに言うフェイトに生返事に近い返事を返し、
はやては再び手元へと目を落とす。
アリシア・テスタロッサとプレシア・テスタロッサ。この二人の人物を、はやてはよくは知らない。
ここ数日のうちで彼女自身や家族達から聞き知った程度のことだけだ。
それでも、彼女にとってその二人が重要な位置を占めている存在であることは想像に難くない。
フェイトの、今は亡き血を分けた家族。
このような事態でなければ、その存在はただうすぼんやりと認識されるだけのものでしかなかったろう。
彼女達はあくまで、過去の人間。フェイトには今は別の家族がいて、
はやてにとってはそちらこそが彼女の家族であるという意識のほうが強いのだから。
まるで過去の亡霊が彼女を連れて行ってしまうように思えて、
はやてはフェイトの微笑と告白を歓迎することができなかった。
「……なのはは?仕事?」
「せやね。色々武装隊は立て込んどるらしくて。あとクロノくんたちも」
「そっか。はやてのほうは大丈夫?」
「こっちは平気や。気にせんでええ」
加えて、ついた嘘が表情を強張らせる。
このところ、こんな役目ばかりで自分が嫌になってくる。
自然、顔をあげることができない。
「……そう」
気付かれてはいないだろうか、と疑心暗鬼になってしまう己を、嫌悪する。
本当は、なのはもクロノも、仕事などでいないのではない。
(シグナム……クロノくん、頼むで)
有休をとったなのはが、フェイトを助けるべくなにかを企んでいる。
おそらくは、管理局の定めた規則に触れるようなことを。
ユーノから連絡を受け、クロノはシグナムと共に、そんな彼女を止めるべく動いている。
なのはが、はやまったことをしでかす前に。
事情はかいつまんでしか聞くことが出来なかったが、
友人思いで責任感の強いなのはならばやりかねないことだ。
(なのはちゃん……変な風に思いつめたら、あかんで)
自分ことで、なのはに何かがあったら。
フェイトは自分の身に起こりつつある終焉よりも深く悲しみ、嘆くことだろう。
「はやて?その、林檎」
「へ?わわ、ごめん」
考えながら作業をしていると、とうの昔に赤い皮はなくなり、
林檎の黄色い果実の部分に包丁が進んでいた。
幸いそこまで形が歪になったり、小さくなったりすることはない程度でフェイトが気付いてくれた。
「どうしたの?」
「んん。別に、ちぃとぼけっとしとっただけ」
林檎のことはいい。
だが、なのはのことは気付かれるわけにはいかない。
そのために自分がこの場に残ったのだ。
なのはと、それを追うクロノのことを誤魔化し、勘ぐられないためにも。
今は彼女にはただ、心穏やかであってほしいから。
「さ、できたで」
透明なガラスの皿に、切りそろえられた林檎が並ぶ。
その形は料理の得意なはやてにしては珍しく、わずかながら不揃いなものであった。
* * *
「───おそかったな」
庭園内には、予想だにしない二人の先客がいた。
隠し通せると、思っていた。大丈夫だと、思っていた。
一人でやり遂げて、何事もなく平穏な明日がやってくる。そう思っていた。
なのに。
彼らは、いた。
「っな」
「こんなことを、隠し通せるとでも思っていたのか?僕らや局を甘く見るな」
漆黒の戦闘服に、白銀の杖。長身に黒髪の青年は、『彼女』の兄。
「クロノ……くん……」
時空管理局提督、クロノ・ハラオウン。
そして、彼の側で目を伏せる緋色の女騎士、それは───……、
「シグナムさん……」
「……」
同じく時空管理局所属、通称『烈火の将』・シグナム。
なのはにとっても帰りを待つフェイトにとっても旧知、親しい間柄である
一組の男女が、彼女の行く手を阻むがごとく、立ち塞がっていた。
「どうして……?」
「ユーノが気付いてくれてな。それでこっちに連絡がきた」
「そんな」
「あれであいつはよく君のことを見ている。君だって知っているだろう?」
彼は自身の肩を二度ほどデュランダルで叩くと、下ろした。
「止めに……来たの?」
「あたりまえだ。この場所へは立ち入りは禁じられているはずだ。服務規程に反するぞ」
「……そう。知ってます」
言わずもがな。
質問したなのは自身、それはわかりきった答えだった。
「今なら僕らの間だけで済ませることもできる。君の経歴に傷をつけたくはない。戻れ」
「……」
「フェイトが、待ってる。あの子を悲しませるな」
きつい目で、クロノははっきりといった。
隣のシグナムはこの間、一切口を開くことはなかった。
ただ、やりきれない面持ちで目を閉じているだけ。
「さあ、来るんだ」
「……」
また、なのはも応えなかった。彼のほうがきっと正しいのだろう。
けれど意志は既に、決まっているから。今更、変えることなどできはしない。
「……なのは」
「……ごめん、クロノくん」
こんなところで、立ち止まっていられない。
たとえ相手が、クロノやシグナムであっても。
時間がないのだ。その要求は、聞けない。
なのはは左手のレイジングハートをかかげ、クロノへと頭を振った。
交渉は決裂。はじめからわかっていた結果だ。
「そこを、通して。わたしはいかなくちゃいけない」
「馬鹿を言え。たかだか一週間勉強して得た知識で、何をする?
停止はしているが、ここの動力炉はまだ生きているんだ。動かして暴走すれば何が起こるか」
「わかってる、よ。そのくらい」
「だったらなおさらだ。刺激を与えるべきではないだろう。
君のような高出力の魔導師の魔力なんて、もってのほかだ」
いつ、暴走するかもしれない。
クロノの冷たい声──ついぞ、そのように思ったことのない感想をなのはは持った──が廃墟に響き、
なのはに帰順を促す。彼だって、無駄だとわかっているはずなのに。
「それでも、行く。行かせて。終わったらちゃんと責任はとるから」
「だめだ……と言うぞ、無論僕は」
「なら、力ずくでも通る」
「よせ。同程度の実力の魔導師と騎士、二対一だぞ。それに君の戦術を僕らはよく知っている」
説得は、ここに至っては無意味。
「……レイジングハート、エクセリオンモード」
「なのは、やめろ」
それ以上は、水掛け論でしかなかった。
なのはは、時の庭園内部に向かいたい。
クロノたちは彼女を連れ戻したい。
望みが正反対である以上、対立を避けることは不可能であった。
なのはは話を打ち切り、レイジングハートのフルドライブを起動させる。
「わたし……フェイトちゃんを助けたい……!!そのためにも、いかなくちゃならないの……!!」
「よせと言っているだろう。それに君がここで何かしたとして、フェイトが助かるわけじゃ……」
「でも!!信じたいの!!たとえ少しでも、可能性があるなら!!」
この場所なら、あるいは。
フェイトの生まれ故郷たるこの場所ならば、代わりのリンカーコアを生成できるかもしれない。
「誰にも迷惑かけないよ!!だから邪魔しないで!!」
「そういう問題じゃない!!君は……」
たとえそれが、ほんのわずかな、儚いものであったとしても。
助けると、決めたのだ。そのためなら、なんだってすると。
「……シグナムさん」
「……高町」
デュランダルを構え警戒を強めるクロノとは対照的に、
シグナムはレヴァンティンの起動すらせずに、無言で立っていた。
彼女の好敵手たる女性に、なのははわずかに目尻を潤ませながら目を遣り、言葉を投げかける。
「今なら、少しシグナムさんたちの気持ち、わかります」
「……え」
「だれかを、どんなことをしてでも助けたいっていう気持ち。はじめて会った頃の
シグナムさんやヴィータちゃんもきっと、こんな気持ちだったんだろう、って」
「……」
はやてを助けたいと願い、幾度となくぶつかりあったあの日々。
かつての彼女達の想いも、今なら前よりも深く理解できる。
「だから」
長槍の持つ、黄金の穂先を対峙する男女へと向ける。
相手が誰であろうとかまわない。自分はただ、この想いを貫き通すだけ。
「だから……押し通ります。あなたや、クロノくんが相手であっても」
自分がどうなろうとまかり通る、ただそれだけ。
止めるならば、実力行使で。
黄金の槍に桜色の翼が生えるに至り、彼女もそのことを認識したらしい。
「……わかった」
「はい」
「ならば、私もあの子のためにお前を止めよう。全力で───」
覇気のなかったシグナムの雰囲気が変わる。
横にいるクロノの殺気、魔力に飲み込まれようとしていた存在感が一気に増し、
二人はほぼ同じ大きさの気配を発散しはじめる。彼女の意識が戦闘へと切り替わった証拠だ。
「───あの子から託された力で……お前を止める。高町なのは」
フェイトを救うため。
あるいは、フェイトを悲しませないため。
互いは、大切な一人の少女のために、ぶつかりあう。
その覚悟を、なのはも、シグナムも。クロノも、固めていた。
「今私があの子にしてやれるのは、これくらいだから……な」
想う対象は、三人とも同じであるはずなのに。
三人は、戦わざるをえなかった。
今回は九話でいいんだよね?(超不安)
she&meの改稿が全然進まないっていうか時間がないorz
>>396氏
未だにエリオが掴みきれない……。
腹に一物あるんだろうなぁ、としか。
>>176氏
・・・シュークリーム分が切れました。買ってきます。
>>K氏
うん、ひらがなで「くろの」はいつ見ても破壊力高いよね(ぉ
フェイトってば淫乱さんで素敵すぎますww
あちらのほうの更新もお疲れ様です。
>>640氏
GJです。そんな展開が待っていたとは…
続きが楽しみです。
フェイトには生きて欲しい!!
こんばんは396です。今宵も続きを投下します。
全二十話かと思いきやどんどん伸びて今では全二十六話予定に…。
前回はアニメで言う1クール分を意図的に目指したつもりだったんですが今回の2クールは予想外です。
これでもやりたい話をだいぶ削ってるんですが…。今年中に書ききらないと色々とやばい…。
魔法少女リリカルなのはA's++
第十二話 「始動」
「なんてことしてくれたんだ!これじゃあ計画が…」
『こっちは情報が漏れる前に始末するだけだ。お前が手を打つつもりがないならな』
「そ、そんな……」
『それだけなら切るぞ』
「わ、わかった!だからちょっと待って!!5分後にまたかける」
ユーノは携帯端末の電源を切ると、下唇を噛んで眉間にしわを寄せた。本局で普段の職務をしながらアースラの通信を
傍受していたユーノはほんの数分前に驚愕の事実を知った。
それはミッドチルダで強盗を行った二人組みが逮捕され、その二人には黒い首輪がはめられているというものだった。
サイオンに確認すると、案の定捕らえたスクライア一族を利用したと言われた。
それを聞いた瞬間怒りと憎しみでユーノは携帯を壊しそうになった。
あまつさえ魔法を使えない状態にしている自分の家族を犯罪行為に加担させたのだ。
しかし同時に、取引をしていることで彼らと対等になっていると少しでも気を緩めた自分にも責任がある、とユーノは思った。
人質の身の安全は保障されると言う安易な考えが生んだミスだ。
ユーノに計画を立てさせておいてそれを破綻させるようなことをするサイオンの理不尽さには頭にきたが
結局ユーノに残された選択肢は一つ、二人をアースラから脱出させることだった。
「どうするんだよ。怪しまれないでアースラから逃がすなんてはっきり言って無理だよ」
エリオが司書長室のソファに腰をかけたまま言った。
ユーノは頭をフル回転させてこれからのことを考えた。エリオの言うとおり、ユーノ達がアースラに侵入することは容易だが
脱走の手引きをすればユーノ達の裏切りはすぐに明るみに出る。
今のアースラにはなのはとフェイトも乗っていて逃げ切ること自体難しいだろう。
たとえ逃げ切ってもクロノ達のことだ。全力でユーノを追いかけてくる。
サイオン達の存在も知られ、一族の身に危険が及ぶかもしれない。
(いや…危険な賭けだけど、逆にそれでいくか…)
突然ユーノにある考えがひらめいた。計画発動が一週間後の予定だったため準備が不十分な点もあったが、
今はこれしかできそうにない。
「エリオ!」
ユーノはソファに座っているエリオの前に立った。
「な…なに?」
切羽詰ったユーノの声にエリオはびくっとした。
「君の力を借りたい」
ユーノは真剣な目でエリオを見つめた。6年ぶりにあった幼馴染。不幸な再会を果たし、
お互いいっぱいいっぱいで昔を懐かしむことすら出来ていない。
今のエリオは昔とは違い多少精神的に強くなっているような気がしたが、ユーノはこの事件には極力関わらせたくなかった。
しかし、今の状況を打破するにはどうしてもエリオの力が必要だった。
自分の無力さにユーノはこぶしを握り締めた。
「そう言ってくれるのを、僕は待ってたんだけどな」
ソファから立ち上がりながらエリオは言った。
「それで、何をするつもり?」
青い瞳がユーノをじっと見つめた。その意志を感じ取ったユーノはゆっくりと頷く。
「…全ての計画を前倒しにする。まずはあいつに連絡し直さなきゃならないから、内容も含めてよく聞いておいて」
ユーノはそう言うと携帯のボタンを押した。
*
「それじゃあエイミィ、まずは事件の経緯の確認から始めてくれ」
クロノが艦長席から指示を下し、艦内の局員も資料を片手にモニターを見た。
「了解。ミッドチルダ時間午後6時12分45秒、クラナガン北西地区の宝石店にて強盗事件が発生。
都警が事件にあたるも武装集団の射撃に近寄ることができず、逃走を許す。
犯行集団の人数は10人。逃走には最大時速1050キロをマークする二人乗りの高速艇SH-3000を6台を使用。
5台の高速艇を取り逃がすも偶然ミッドチルダに居合わせた八神はやてとヴォルケンリッターが逃走中の一台を中破。
その後北西地区を逃走する2人を捕獲。残りの8人は現在も逃走中。予備と思われる高速艇一台は回収済み」
そこまで言いながらもエイミィは手をすばやく動かしながらデータをモニターに表示していく。
「逃走中の方は捕まえられそうか?」
「武装局員の追跡は全て振り切られ、衛星カメラと追尾魔法のどちらも追いきれませんでした」
ランディが衛星カメラの映像を映し出す。
クロノが腕を組んでやれやれと溜息をついた。
「おそらくすでに転移されただろうな。最新兵器を使う手口といい僕達が追っているやつらと見て
間違いはなさそうだ」
「はい。クラナガンの周囲200キロの転移ポートを確認したところ、事件発生から20分後に
南西170キロ地点にて半径3キロの転移ポートの出現を確認。UNKNOWNのL級船と思われます」
「やっぱり私たちも出た方がよかったのかな…」
「そうだね」
アレックスの報告を聞いたなのはが小さく嘆き、隣にいたフェイトも頷いた。
「いや、君達でも捕まえられたかどうか。相手は逃げ足だけは一級品だからな」
クロノが少し落ち込む二人を見て言った。今回はたまたまはやて達が事件発生地点近くの不動産屋にいたことで
なんとか2名捕らえることができたが、もしいなかったら十中八九逃げられていただろう。
管理局側でもっと早いマシンを用意したいところだったが、最新のものは非常に高い。
今追っているやつらはそれらをどこかしらで入手し、惜しげもなく犯罪に使っていた。
盗品との話も出ているがまだ事実確認はできていなかった。
過去の犯行のどれもが高価な最新機種や兵器を使っているので、もしかしたら金銭目的ではないのでは、
というのがクロノの見方だ。今回は犯行メンバーを拘束したとあって、事件解決も時間の問題のように感じる。
「被害状況はどうだ?」
「死者、負傷者ともにゼロ。店内と高速艇の不時着で街に多少の損壊はあったものの、大した被害にはなってないみたい」
「今回は過去の事例と比べて一番被害が小さいとの報告も来ています。魔法の行使がなかったこと、
兵器の使用が最小限であり全て威嚇であったことが要因のようです」
アレックスの報告に艦内の局員から驚きや賞賛、安堵の声が漏れた。
今までミッドチルダ内の警察が手も足もでなかった強盗集団のメンバーを捕まえた上、被害を最小限にしたのだ。
今回の件でアースラの評価はかなり上がるだろう。
皆の顔が明るむ中、クロノだけは渋い顔をしていた。
(何故今回だけは魔法を使わなかったんだ?使う必要が全くなかった…ということも考えられるか)
どんな些細なことでも気にかけるようにしているクロノにはどうもそのことが気になった。
執務官としての長年の経験からか違和感を覚える。
「それで、捕らえた二人はどうしてる?」
どうも心に引っかかるものを感じたクロノはエイミィに尋ねた。
そういえばシグナムが転送前に首輪がどうとか言っていた気がする。
「ついさっき転送されてきて尋問室に移したとこ。なんか変な首輪をしてるけどスキャン結果じゃ危険物反応は出なかったみたい。
一応外させるように指示は出しておいたよ。尋問は30分後」
「そうか。尋問には僕も立ち会うと言っておいてくれ」
「え?あ、了解」
普通は艦長がわざわざ立ち会う必要もないことなのでエイミィは少し驚いたが、事件の大きさを考えると
クロノが自ら事件の一番近い場所に立ちたいと思うのも当然かと思い一人納得した。
(なにか嫌な予感がするな…)
クロノは眉をひそめてモニターのデータを見つめた。
―――同時刻、アースラ艦内尋問室
尋問室は尋問を行う部屋と、それを監視する部屋に分かれていて、その二つはマジックミラーで区切られている。
監視する側からだけ尋問される人間が見えるようになっていた。
「これはどうやって取るんだ?」
尋問を行う部屋の中で、局員が拘束具つきの椅子に座らされていた二人の男に尋ねた。
部屋の外には同僚が一人監視役として待機している。
拘束されている二人には黒い首輪がはめられており、赤いレンズがギョロギョロと周りを見ていた。
艦内に入るための転移装置にはスキャン機能がついているので危険物は入ってこないようにはなっているが、
なんともおぞましい首輪に局員は嫌な気分になった。
「そもそもなんなんだこれは」
「…………」
局員の質問に二人は顔を俯かせるだけだった。諦めているのは捕まったからなのだろうが、
その顔は全てに絶望しているかのようにも見えた。
局員は無言を続ける二人に溜息を吐いて、机の上においてあった箱を開けた。
「まぁ命令が出ているし、多少強引にでも外させてもらう」
「うわあああああああ!!来るな!!や、やめろ!!!!」
工具を取り出し近づいてきた局員に気付き、男の一人はガチャガチャと手や足をじたばたさせ首を振って抵抗した。
あまりの激しさに拘束具で肉が切れ、手首から血が流れた。
「な、なんなんだよ…」
異様なその様子に局員はさすがにたじろいだ。
危険物じゃないはずなのに、この取り乱しよう。
何かヤバイと思った瞬間、部屋に備え付けられているスピーカーから声が聞こえてきた。
『首輪はいいからひとまず部屋を出ろ』
「え?」
突然の同僚の指示に局員は首をひねらせた。マジックミラーがあるので姿は見えないがたしかに仲間の声だ。
『いいから早く!』
「あ、ああ…」
なにか新しい指示が上から出たのかもしれない。
30分後には尋問が始まるが、焦る気持ちを抑え局員は暗証番号を入力して部屋の外に出た。
「あ…」
部屋を出て同僚に声をかけようとした瞬間、息を呑んだ。
黒服で、目出し帽をかぶった男が同僚の首元にナイフを突きつけていたのだ。
「動くな。後ろを向いて手を頭の上に回せ」
ボイスチェンジャー特有の耳に残る声で黒服の男が指示してきた。
突然のことで思考が停止したが、怯える表情の同僚と目が合い、言うことを聞かなければならないことだけは理解した。
言うとおりにすると、陰に潜んでいたもう一人の男に手錠をかけられ、近くの格子に繋がれた。
「暗証番号を言え」
「な…752199」
それを聞くと手錠をかけた男は部屋の中へと入り、捕らえられていた二人を連れ出した。
「お前達は…?」
助けられた二人は黒い覆面の男に聞いた。自分達は捨て駒であり仲間が助けに来るはずなどないと思っていたからだ。
そもそも本当の仲間は捕虜の身であり、自由に動くことすら出来ない。
「詳しいことはあとで話します。今はここを出ることだけを考えましょう」
黒服の男はそこだけ耳元で本来の声で話しかけてきた。聞いた事のある声。
一族では知らないものはいないほど優秀と有名だったあの少年の声だ。
男は一時は死も覚悟していたが、管理局を裏切ってまで助けようとしてくれるその少年の行動に涙が出そうになった。
「これからどうする気だ。この艦からは逃げられないぞ」
ナイフを突きつけられている局員が黒服の男に言った。
「回収した高速艇の場所を教えろ。嘘はなしだ」
グッとナイフが首元に押し付けられる。もちろん刃がないほうであったが、そのひんやりとした感触は
局員に大きな恐怖を与えた。
「…この部屋を出て右に進み突き当りを左に曲がれば正面に格納庫がある。そこだ」
「ごめんなさい」
優しい声が聞こえた瞬間、布で口を塞がれ局員は気を失った。布には催眠効果のある薬剤がしみこませてあった。
手錠でつながれた方の局員にも同じように口を塞がれる。
「よし、早くここから出よう!」
一族の男の一人が黒服の二人に促した。
「ちょっと待ってください」
そう言うと黒服の一人がポケットから端末を取り出し、いくつかの入力を行う。
そのディスプレイ上には文字列が高速でスクロールしていたが、中央の枠の中でカウントダウンが行われていた。
「残り120秒」
覆面の二人がお互いを見て頷いた。
*
尋問が始まる15分前、エイミィ達は今回の事件のデータ整理に当たっていた。
「犯人は特定できた?」
手を動かしつつもエイミィがランディに聞いた。
「過去に犯罪暦のある人間に該当者はいませんね。多次元の人間まで洗うとなると本局にアクセスする必要があります」
「あ、そっか。あたしの権限が必要だもんね。ちょっと待ってて」
エイミィがコンソールを操作して、ランディのモニターに通信準備の画面を出す。
「ミッドチルダの一般民にも検索をかけますか?」
「そうね。念のためにお願い」
「了解」
アレックスはエイミィの指示通りに検索を開始する。
そうして他の局員も情報系統の作業を続け、数分の沈黙が降りた。
「…あれ?」
ふいにランディが眉をしかめて声を出した。
「なんかあった?ランディ」
それを聞いたエイミィが作業を中断してランディに尋ねる。
「あ、その、本局との通信がつながら…」
そう言った瞬間、
ウィーー!!ウィーー!!
アースラ艦内にけたたましいサイレンが鳴り響く。作業していた人間が一斉に顔を上げた。
「何事だ!!」
突然のエマージェンシーコールに艦長席からクロノが降りてきた。
「ちょっと!なんか変なことした?」
「な、なにもしてませんって!!」
高速でタイピングして状況を確認しながら叫ぶエイミィにランディは慌てて弁解した。
「え…なによこれ…」
画面を開いたエイミィは絶句した。アースラのシステムに通常ではあり得ないほどの負荷がかかっている。
「な…これは…!!!」
コマンドを打ち込みアクセス状況を閲覧したアレックスが叫んだ。
「艦長!アースラのシステムがハッキングを受けています!!!」
「なんだって!?」
クロノはその報告を聞いて驚いた。航行中の艦がハッキングを受けるなど聞いた事がない。
電波の通信なら遮断することが容易だし、元々制限は厳しい。
「どこからだ!」
クロノがそう言った瞬間モニターにリンク状況が映し出される。
中央のメインシステムに、赤いラインが何十本も繋げられていた。
「艦内すべてのコンピュータからです!」
「!?」
アレックスの報告にクロノは目を見開いた。
次回へ続く
変更を余儀なくされつつもついに始まったユーノの計画。
相次ぐ混乱の中、少女達が目にするものとは…?
次回 第十三話 「運命の対峙」
前回の武器の名称について少し。
ジャックナイフは切り裂きジャックとハイジャックをかけれて面白いかなーと思い元からよくある名前ですけど使ってみました。
セイクリッドスコアは訳すと「聖なる傷跡」です。聖なるってのが防御っぽいイメージで、傷跡がバリアブレイクに該当します。
マインゴーシュは防御用ダガーの意(フランス語ですが)、オベリスクとは†←これ(短剣標)です。
注釈のための印≒傷跡と解釈してください。無理矢理ですね。
武器に名前をつける予定はなかったんですが、考えてるうちに片方がデバイス化したことで付けることにしました。
これからは波乱の連続です。書きたかった部分なので気合も入ってます。それでは。
触手スレになのはSS来てる
>>85 相も変らずはらはらさせてくれる展開GJです!
次回はいよいよ対決でしょうか…楽しみにしてます
>>83 396氏乙!
なんかオラすっげぇワクワクしてきたぞ!
90 :
名無しさん@ピンキー:2006/11/18(土) 11:53:19 ID:rvYi2sSb
なぁ、クロノ・ハラオウン……。
執務官がこんなことしていいのか?
いやいや、相手は恋人だ、きっと合法だ。
それでもまずいんじゃないか……これ?
でもこんな機会一生にこれだけなのだろうし――
「ええと……クロノ君?」
そうさ、いざとなったらもみ消してやる。
ビバ! 執務官権限。
「そういうわけだ」
――いただきます。
リバースYou&I
第一話 執務官+ちっちゃい補佐官
どうしてこんなことになったんだ。
以前にも同じよ〜な後悔の仕方をしていたような気もしないでもないが、ともかく目の前の現実に思考の照準を合わせることが先決である。
「母さん……本格的に教育の仕方を間違えたのかしら」
指定席にて涙を浮かべながらコーヒーに角砂糖を入れ続ける母親に
「…………」
口をパクパク、未だ現実に戻って来れない妹。
「今日って仮装パーティーなんてあったっけ?」
隣の使い魔も呆然としている。
「僕は……何もしていないからな」
非難の視線を体中に浴びながら今日クロノがブリッジで最初に搾り出せた言葉である。
一体どういう経緯で彼が非難の的になってしまったのか。それは単に発端となった彼女が彼と最も親しい――親しいというか恋人同士だ――間柄ゆえ。
「え……えぇっとね……」
愛想笑いで場を取り繕うとするあどけなさの残る、というかあどけない表情の少女。
どう見てもサイズ違いな管理局の制服を着て、補佐官が座るべき特等席を堂々と占領するこの幼子は一体誰であろうか。
「これもいろいろ訳がありまして……」
一応職務を全うしようとした名残だろうか、何度も折って捲った袖が涙を誘う。
あの寝癖もどきの跳ねっ毛はこんな時も相変わらず自己主張。皮肉にも彼女が彼女だと証明する唯一の手がかりだ。
「その……なんだ。……エイミィ」
「なに? クロノ君」
舌足らずとまではいかないもの本来より少しだけオクターブの高い声。彼は彼女が最愛の人だと確信する。
そうでなくとも一目見ればわかってしまう。だから彼の問いかけに疑問符はなかった。
「僕に対しての悪戯なら今すぐ戻れ……でなければ理由を説明してくれ」
真っ直ぐ見つめるその先で、エイミィがおずおずと頷いた。頷きついでにクロノの顔色を窺う視線は小動物がごとく不安を含んで揺れていた。
「クロノ君……怒らない?」
上目遣いに、機嫌を損ねないように、言葉を探して。
いつもよりもずっと高い位置から見下ろしてくるクロノの視線はなんだか少し怖い。
落ち度といえば落ち度なのだ。だけどその過程に至るまでに他でもないクロノが一枚噛んでいるのは間違いない。
自分なりに考えた結論は、果たしてクロノに認められるのだろうか。執務官補佐という立場なら当然クロノだって聞き入れてくれるはずなのに、だ。
「僕だって子供じゃないんだから」
エイミィにとってこれほど緊張しているのはかれこれいつ以来か。
物怖じしない性格はいつだって勇気をくれるのになぜか今はそれが無い。
「…………」
もじもじ、いじいじ。
俯いたり見上げたり、何度か繰り返して覚悟は決まったか。
遥か上から見下ろしてくるクロノの視線に負けないように、エイミィも少しだけ顔に力をこめて。
「ロストロギアをさ……ちょっとだけタイマーの代わりにしちゃって……多分それで」
だって見た目砂時計なのだからしたくなるのは人間の性だろう。彼女の中だけそうだとしても。
「ほ、ほらクロノ君なるべく早く分析しろって急かすから」
両腕を振って必死にクロノにも責任があることを訴えかける。
実際、お咎めで済まされない自体だということは百も承知。でもそこはご愛嬌というということで済まして欲しい正直な気持ち。
それが無駄な足掻きというのはクロノの暗雲に覆われていく表情でわかりきっていても。
「ほう……インスタントでも食べていたのか……?」
「そうなのよ! あんまり急かされるからカップ麺で済まそうと思って」
「それでタイマー代わりか」
「丁度サイズも3分くらいだったし」
ちなみにアースラ内で飲食が許されているのは食堂と自室だけである。
エイミィがロストロギアを分析していた部屋にだってそれは適用される。取り分けデバイスの調製や種々の分析を行うのだ。
精密機械は当然、技術の粋を集めたあらゆる機器が存在する場所。煩雑とは行かないまでも足元にはケーブルや電気コードが放り出されている。
「君は計器をおじゃんにしたらどうしてくれるんだ」
「だ、大丈夫よー。ちゃんと部屋の隅っこでさびしーく食べてたんだから」
下手をすれば汁一滴で時価ウン百万が天に召されるかもしれないのに。
いやいやいや、実際に焦点とするのはそこでは無い。
私用で、しかも相手はロストロギア。そんなものをタイマーにしたと言っているのだ。
「エイミィ……僕はそんなに急かしていたように見えたか?」
「さっさと終わらせてデートしようって言ったのは誰だっけ?」
質問には質問を。エイミィの切ったカードにクロノの顔が戦慄に凍った。
「……最低執務官」
「ご、誤解だフェイト!!」
ぼそりと毒を吐くフェイトにお決まりの言葉で弁解。時すでに遅し。
兄の威厳がぐーんと下がった。
「エイミィ! 僕はそんな直接的なこと一言も言ってないぞ!」
三割増、鋭く尖った職員たちの視線がぐさぐさ突き刺す中でクロノの執務官としての威厳は情け容赦なく削り取られて。
後ろで母親が息子の昇進は当分させないだろうと心に決めていたり。
「きっと大丈夫だって。分析の結果じゃ効力は三日くらいだから」
ロストロギアといってもガラクタの類。僅かに残っていた魔力が偶然にも成し得た悪戯みたいでもう本体に魔力は欠片もないのだ。
自分の身に大変なことが起こったって肝心な所はやってみせる。
小さくなったってプライドまで小さくなりませんよ。
「そういうわけで業務に支障ないように頑張るから。ね、クロノ君」
ずり落ちてきたもう一度捲り上げてウィンクして。
十歳になった執務官補佐にクロノはただただ
「頑張ってくれ……」
もう……言葉が見つからなかった。
後に管理局に提出された書類にはこう記されていた。
――時の揺り篭。
砂時計の外観を有する小型ロストロギア。
反転させることで効力を発動し、使用者の年齢をランダムに巻き戻す。
効力の持続時間は砂が落ちきるまでに限定される。砂の流速は巻き戻す年齢と同様その時々に変わる模様。
何の目的に誰がこんなものを作ったのか。若かりしころの自分を取り戻したいと願った人間の執念が生んだのか、それともそういう趣味のためか。
その他に関して危険な要素は無いためロストロギアとしての危険度は低いと判断される。
以上がアースラにてこのロストロギアを解析した結果である。
ある意味それは、12時まで夢を見させてくれたシンデレラの魔法使いのように。
こうして年上の彼女が年下となった夢の時間が始まりを告げたのだった。
三日間というえらく奮発されたシンデレラの時間が。
>コメントは明日にでも
私にとっての明日ってこれぐらい長いんです!
……ごめんなさい。
Stepはいよいよ恭也と忍が騒動に巻き込まれる話に。
とらは3をやってなくてもやってても、うまくお話に出来るように精進。
実際本編じゃ身の回りの人が巻き込まれるってそうそうなかったですしね。
だから日常をやりたかった。後悔はしていない。
問題はどこまでとらは3を混ぜるか。考えてはあるんですけどね。今になってまた線引きに
頭を悩ましています。
違いますからねぇ。士郎さん生きているだけでみんな性格の格子が違ってきているわけですし。
でもこういうのって人気ないのかなぁ……。やっぱりバトル重視ですか世の中。
それでこっちはクロノがひょんなことで小さくなったエイミィに欲情するお話です。
相手が十歳でも構わず突っ込む、それが彼のS2Uクオリティ。
>>K氏
フェイトって初めて……?
場慣れ過ぎている感が否めない。それとも妄想でここまで鍛えたのか。
エロすぎるぜ。
>>640氏
勝てないよ流石にこれは
これは3ターン経過後ユーノが援軍に登場するな
>>396氏
これでなのはとくんずほぐれつ(ジュ
エリオが裏切るのではないかとハラハラしたり
流れぶった切ってスマソが
シグナムの騎士服は、もっとエロいのが良かったな。
もっと生地が小さくて薄くて、男共を欲情させるようなやつ
特に乳の辺りは、破れやすくて、乳首が浮き立ってたりw
戦闘の最中、強敵から騎士服を徐々に破られていき
大歓声を上げる観衆から視姦されまくるシグナム・・ハアハア・・
公衆の面前で乳や尻を晒してしまった
シグナムが、どんな反応を示すのか知りたいなあw
>>96 憤怒の表情でその場の敵たち全員を皆殺しにする般若なシグナムさんが思い浮かんだ。
騎士服ははやてが作ってくれたものだから、服を破られて怒るのは当然だけど。
A's1話のヴィータってそれで怒ったんだよな。
だからシグナムも服を破られたら本気で怒ると思う。
>>97 5話でバルアサルトにおぱーい付近切られてない?
>>97 俺としては、騎士服をビリビリに破られて
ほぼ全裸にひん剥かれたシグナムが、
そのまま敵たちに輪姦されちゃう、という
展開が見たい。すげー見たいw
シグナムの肢体を、心ゆくまで蹂躙・欲情し味わう敵たち・・・
純愛スキーの俺にはさっぱりわからん。
とりあえず君がシグナムが好きなのはよくわかる。鬼畜的な意味で。
見たければ自分で書けばいいのさ
>>99のも見てみたいが
でもどっちかっつーと、俺はシャマルが犯されるとこが見たい
ところで、フェイトちゃんのオマンコフォーム画像ってのは
続きはないんだろうか
>>96 シグナムは百戦錬磨のツワモノだから、戦闘が終るまで表情一つ変えないよ
捕虜になっても、はやてがいれば生き返るから、生きて虜囚の辱めはうけないよ
ボルケンズの命は安いなぁ…
まあ、実際シグナムにそんなイメージがあんまわかないが
はやしたてられたら、おもいっきり動揺しそうだな…リーダーとしていいのかという気が
まあ、戦闘のプロっぽいキャラもあんまいないのだが
何せ15歳のなのは達が、しかも学校生活を送りながらでエースになれるんだから、
優秀なバックアップのたわものなのか、広報の日々の努力の成果なのか、管理局がボンクラぞろいなのか
>優秀なバックアップのたわものなのか、広報の日々の努力の成果なのか、管理局がボンクラぞろいなのか
10代のクロノとエイミィがエリートコースで、20歳越えてそうな大人連中がヒラやってるし
何よりユーノが1人で探索(リーゼ姉妹もいたけど)出来る無限書庫を調査隊組ませるような組織だ
ボンクラがどうこう以前に人材が足り無さ過ぎる
大半がデスクワークのお役所なんだよ。クライド助けられなかったし
はやてごと闇の書封印しようとしてたし
アースラの人にいい人が多いだけで大半は冷淡なんじゃないか?
>はやてごと闇の書封印しようとしてた
これは普通だろ。
数ある次元世界のひとつでしかない宇宙の辺境にある星のそのまた辺境の町の人間一人なんかに時間かける方がおかしいよ。
俺らが、地球の裏側で今でも人が死に続けてるんだよとかいわれても( ´_ゝ`)フーンだろ。それと同じ。
>はやてごと闇の書封印しようとしてた
つ「某ミラーワールドを閉じようとしてた教授」
多くの人々を救うために一つを犠牲にする勇気…
>はやてごと闇の書封印しようとしてた
グレアムの独断じゃなかったけ?
考察なら本スレでやれよ。いい加減語りつくされた話題だがな。
ということで何事も無かったかのように以下ヨロ↓
108 :
さばかん:2006/11/21(火) 00:03:19 ID:ZC3ua4dA
お久しぶりです。
今回は暴力的表現が多いので苦手な人はスルーして下さい。
暖かい目で見て下さいね。
前回までのあらすじ。
僕の名前はユーノ。ある日養子になる。
そこの主人グレアムさんが突然の自殺。
あらすじ、以上。
人が欠けると言う重みを、人は小さな所で知る。
家事、その作業は僕が思った想像以上に厳しいもので、
毎日なんてとてもやってられないものだった。
それを一人でこなしていたグレアムに感心したかったが、
僕の愛しい人フェイトとアリシアを殺した罪がそれを邪魔する。
僕らは相談した結果家事当番を交代してやっていくことになった。
僥倖にも僕は料理ならそこそこできた。チャーハン位しかつくれないけど。
彼の死は易々と埋まる。人のレゾンデトールってなんだ?
それからの日々、僕の苦痛が強くなる。
フェイトはクロノにべたべたしっぱなしで、僕には時々しか、喋ってくれない。
今更実感したが、彼女は人間ではなく、都合のいい道具。
道具は所有者のもので、所有者は占有する当然の権利があり、排他的に
使用。
所有者でない僕には触らせてもくれないのか?クロノ!!
そんな怒りがね、毎日緩慢に続いちゃったから、あいつ、
殺しちゃった☆
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
凶器は椅子だったが、厳密に言うならほっぺにちゅ〜☆がそれだ。
離れの図書館で寝たいたクロノはフェイトにほっぺにちゅ〜されて
それからトイレに向かった。それだけ、本当に、それだけ。
激しいセックスの現場を見た訳でもないし、愛の言葉を聞いた訳でもない。
それは別に愛してなくてもできる。
でも、道具で、一方的に使われる彼女は、愛なんて芽生える筈が無い。
そう思っていたのに、あの、歩くように自然な口付けはなんだったんだろう?
それを考えてすぐだった。
憎悪、憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪。
僕の世界にべっとりと蔓延、時に進退、時に停滞、時に加速。
喉が渇く、でも、そこは飽食、これ以上満たせない筈なのに餓えてうえて。
足りている、表面張力まで上昇、流れる川を眺める、平静。
そこに流れた船。
それが、僕だったらと思った、思ったおもった。
べっとり。
静寂だけの空間に染み入る赤。どんどん広がり、鉄の臭いが彼を殺したのだと
実感させる。
僕が殺したんだよね?
何を今更。
「はは・・・ははははははははは!!!!!!!!!!!!!
ざまぁみろーざまぁみろーこのくずくず!!
僕の欲しい『もの』を奪いやがって、報いだ!むくいむくいむくいー!!!
はははははははは、は」
何故だ。言い足りないはずが、もう終わってしまう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
まるで射精みたい。汚らしいものを撒き散らしてすっきり。
でも、何故、つたう涙が、止まらないのか。
フェイトが来るまでに、僕は涙を止めようと努力した。
「え・・・クロノ、クロノ・・・なんだよ、ね?」
「うん、そうだよ」
僕はその場に相応しくない笑顔をフェイトに向ける。
「うわああああああああああああああああああああああん!!!!!!!!!!」
泣きじゃくるフェイトの二の腕を掴んで僕は言う。
「フェイト、僕とセックスをしよう」
「え・・・?」
泣きじゃくったフェイトは余りの唐突さに、僕の方を向く。
「せ、セックスって・・・」
その顔に超至近距離で近付き言った。
「君の主は死に、魔力の供給が止まった。と言う事はだ、
君はもうじき、消える」
「え・・・・・・え?」
後退するフェイトは困惑した顔を暫くしたが、確かな
意思で答える。
「私は、クロノが死んだら、死ぬって約束しただから・・・」
「黙れ!!!!!!!!!!!!!!」
腕を掴み、クロノに触れさせる。
「つ、冷た・・・」
フェイトは人ならざる冷たさに恐怖し手を引っ込める。
だが、手についた血はべっとりと、触った証を赤々と残す。
「ひっ・・・!」
「君は、こんな風になりたいのか!?ただの肉の塊で、血を撒き散らす、
それだけ、それだけなんだぞ!人の形もしていない、ただの冷たい、肉。
何も痛まない、何も感じない、何も無い!
想像できるか?何も無いんだぞ。この世にそんな世界があるか?
無いね!あらゆる場所には何かが必ずある。
死ぬって言うのは、君が思っている程安楽的では無い。
確かに、命を賭すると言うのは魅惑の果実。
だが、一度きりの味に全てを賭するのは愚の骨頂!!!!」
フェイトは停止したように僕に耳を傾け、その言葉が少しまた
少しと浸透して震える。
そして、クロノを見て。フェイトは何かを思い出す。
それは恐らく、自分が言った余りにも軽過ぎた台詞。
「心配しなくても、クロノが死んだら私も死んであげる!!」
決壊した思いが、涙に変わる頃、彼女は僕の使い魔になった。
「ア・・・あ、あ、あ、ああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああ
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
や、ややややややーーーーーーーーーーーー
やだ、なんで、な、んで、私、死にたくない。死にたくない。
こ、こんな風になりた、く、ない!美味しい御飯が食べたい。もっと
楽しいことがしたい。いっぱい漫画を読みたい。テレビも見たい。
何も無いなんて、やだよぅ・・・!」
「だったら、僕の使い魔になって、僕とセックスをするんだ」
これは取引なんて平等さでは無い、ただの強迫。
「え・・・」
「この場で、だ」
椅子に座り足を広げ、パンツごとズボンを下ろす。
既にいきり立った自身をピクンと動かし、フェイトを驚かす。
「あ・・・」
思わず目をそらすフェイト。
「嘗めて」
近くによるフェイトはおそるおそる僕の竿に触れ、
その裏っかわを初めは触れるように、しだいに大胆に
舌で擦る。
「うっ」
初めての感触に思わず声が漏れる。
刺激が強く、気持ち良いというよりは痛みに近い
掻痒感がする。
だが、それより強い刺激を求めずには要られなかった。
「フェイト!」
「うわっ!!」
びりっと音をたててフェイトの服を破き、フェイトを裸にする。
夢で何度も見た裸だっただけにその感動もひとしお。
見るだけでは我慢できず、フェイトの秘所に指を滑らす。
「ぐっ、思ったより、狭い」
くちゃくちゃと出し入れした指は段々と濡れ、魅惑の蜜に包まれる。
「ん・・・あっ!」
その感触を指で味わい、もう、我慢の限界だった。
「フェイト、いれるよ」
フェイトの秘所に亀頭を擦らせじらす。
「無理・・・だって、こんなの、はいるはずが、」
「何度もクロノに抱かれたくせに、何を今更!!」
ぶち抜く。ような強さでフェイトの中に進む。
「ぐっあっ・・・いた、いたいっ・・・!!」
そんな言葉を無視して、所謂(いわゆる)ビストン運動をする。
しかし、クロノが慣らしていたものだからもっと緩いと思っていたのだが・・・狭い。
それでも構わず腰を振る。
「いたい、いたいよぅ・・・クロノ、クロノー!」
「うるさいっ!!!!」
ドン。
フェイトの髪を乱暴に掴み、床に頭を叩きつける。
「五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い
五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い!!!!」
ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン。
それきりフェイトは黙ってしまう。
「はっはっはっはっはっはっ。くっ!」
それからもう暫く、暫くかは自分では分からないが、使い魔の儀式と言う名の
強姦をユーノは只管(ひたすら)楽しんだ。
蜜月はただのエゴ。
フェイトを飼いならす日々がはじまった。
「んっ、ちゅっくっ・・・」
「はっ、ん・・・」
これは朝食。フェイトは僕の口移しで大好きな玉子焼きをごくりと飲み込む。
これはルールだ。
あらゆる飲み食いは僕の口移しでないと無理。
最初の頃はあまり守らなかったが、折檻を加えるとあら不思議。
今では従順。叩けば直るなんてまるでテレビみたいだとフェイトに嘲笑した
事もある。
その2
常に首輪を付ける。
勿論鎖付。着替える時も風呂に入る時もトイレの時も・・・僕達はずっと、一緒。
その3、これが最も重要。
毎日セックス。
これが想像以上に辛かった。作業と化した性行為は、快楽よりは疲れの方を
強く感じるのだ。
それでもする。それは、性欲なのでは無く、ただの、独占欲だった。
こんなにも僕はフェイトを愛していた。なのに、何で君はあの忌わしい名ばかり言う。
「クロノ、クロノーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
ガン。
壁に何度も打ち付けて黙らせる。
それが毎日だ。僕の目的は、次第にクロノを忘れさせる事に集中していった。
だが、僕は使い魔については何にも習っていない。書物も、秘密保持目的で
残っていない。
だから、手段はおのずと一つになる。
記憶を、壊しちゃえ。
様々な暴力と性行為。それを混ぜても、中々彼女はクロノを忘れてくれない。
だが、効果は確実にフェイトに現れていた。
これは決定打の話。
ザアアアアアアアァ。冷たい雨の中。僕は縁側に座り、その光景を眺めている。
「う・・・・・・・・・・・・ううっ」
フェイトは今、裸で木に縛られ、何時間も雨に打たれていた。
夏だったから余裕だと思っていたフェイトだが、雨は体温を確実に奪い取り、
体は極寒となっていた。
感覚は敏感となり、木のざらついた感触が刺すように痛い。
傘をさしたユーノがフェイトに向かってくる。
解放してくれるのかと思ったフェイトだったが、予想外の言葉に困惑する事となる。
「フェイト、暖まりたいかい?」
「うん!!うん!!」
もう必死だった。極寒の大地に太陽が輝いて手が届くのなら、死ぬと分かっていても
飛び込むだろう。
結果として、命の次の次位に大切なものを失った。
ボウと燃える大きな炎にフェイトは一瞬だけその暖かさに喜んだ。
だが、そこまで大きな炎だ一体何を燃やして。
「あっ・・・ああ!!!」
それは、クロノのお気に入りの場所、離れの図書館だった。
「はは、ははははははははははは!!!!!!!!」
「ああああああああああああああああ!!!くっクロノクロノがー!!!!」
燃える、大切な思い出が、大切な、場所が、燃える。
心の支えだった。
ユーノの度重なる様々な暴力に、耐えられたのは死んだクロノの場所がたしかに残って
いたからだ。
だが、その支えはぼきりと折れて、無形と化す。
その衝撃が大きかったのか、フェイトは意識を失った。
フェイトは思い出す。まだ私が二人だった頃を。
母さんは仕事の事情から離婚し、そして、
離婚してから、私達がお腹にいる事が分かったらしい。
しかも双子。母さんは仕事のストレスと子育てのストレスから
私達を虐待する。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何それ?
なんて救いの無い、暴力の包む世界。
こんな世界、いらない。
ぷつり。
彼女の何かが、そこで途切れた。
つづく
こんばんはEnterキーの押しすぎで小指が腫れた396です。
アホですね。自宅以外はLinuxなんで地獄です。
では続きを投下します。
魔法少女リリカルなのはA's++
第十三話 「運命の対峙」
「サブバンクのパスが解析されています!9桁…12桁…駄目です!侵入されました!!」
「第4制御層に多重アクセスを確認!!レベルUの権限を奪われました!」
「艦内の非常用防壁が降りていきます!!87%の個室がロックされました!!」
「リンクを切断して!!」
「プロテクトがかかっています!アドレスも暗号化により解読できません!!」
慌しく局員達がコンソールを動かし、モニターにはいくつものウィンドウが映し出されていく。
「クロノ君!どうしたの!?」
なのはとフェイトがクロノの元に駆けてきた。
「見ての通りだ。艦内からアースラのメインシステムにアタックをしかけているやつがいる」
「艦内ってことは…身内?」
「可能性は高い」
フェイトにクロノは腕を組みながら渋い顔で答える。敵に侵入を許すほどアースラのセキュリティは甘くない。
それに今の状態はシステムの上層部にログインする権限があってはじめてできる芸当だ。
「外部への通信はされてるか?」
「双方向の通信が遮断されてるからそれは大丈夫!」
クロノが尋ねると全く手を休めることなくエイミィが答えた。
ハッキングの相手が艦内のどこにいるかは置いておくとして外部に情報が漏れていることはないようだ。
システム上アースラが乗っ取られることはあり得ない。
(そうなると相手の狙いは……まずい!!)
このタイミング。目的は混乱にまぎれた逃走ほう助に違いない。
クロノはランディに叫ぶように言った。
「尋問室の様子は!!」
その声に急いでランディはモニターに映像を映すが、カメラになにか被せられているようでなにも見えない。
おそらくすでに尋問室には捕らえた二人はいないだろう。
逃げ道を予想したクロノは歯軋りをした。
(このための防壁か!!)
艦内の見取り図では尋問室から格納庫までの通路以外に隔壁が降りている。
これでは確保に向かうことができない。
しかし、一つだけクロノに有利に進むことがあった。
「高速艇の燃料は抜いてあるな?」
「はい。40分前に完了しています」
ランディがはっきりと答えた。回収した際にクロノが事前に指示していたのだ。
「格納庫のハッチが開きます!!」
局員が叫ぶと、アースラから二つの熱源が出て行くのが映し出される。
「移動速度から格納庫のマシンが奪われたと推測されます」
モニターにそのマシンの映像とスペックが表示される。
水上オートバイのような形状の2人乗りのマシンで内臓魔力で飛行しスピードも速い。
しかし、やつらから回収した高速艇には遠く及ばない。
「二機はそれぞれ北東、南西の方向に移動中!北東の一機はスピードが落ちているようです」
(マシントラブルか…?なら都合がいいな)
局員の報告にクロノはなのはとフェイトの方を向いた。
「北東の方をなのは、南西の方をフェイトが追ってくれ」
「うん!」
「わかった」
クロノの命令になのはとフェイトは頷いた。
「私達のサポートは今はできそうにないけど大丈夫?」
「大丈夫!エイミィさんも頑張ってね」
「彼らは重要な手がかりだ。必ず捕まえてくれ」
「うん。まかせて」
心配そうに見るクロノとエイミィになのはとフェイトが元気に答え、お互いを見て頷いてから転移装置へと駆け出した。
装置に入ると、二人は淡い光の中へと消えていった。
「さて、エイミィ。この状況、どう見る?」
二人がいなくなった後も騒がしく作業する局員をよそにクロノが静かに尋ねた。
「まだ詳しくはわからないけど、たぶんこれは自動プログラムね」
エイミィが顎に手を添えて言った。
「自動?じゃあ動かしている人間はいないのか?」
「捕まる覚悟ならともかくこの程度の混乱のために艦内にとどまるとは思えないわ。
それにハックの仕方に多少の柔軟性はあるものの、機械的な判断を感じる」
情報のスペシャリストのエイミィだからこそわかることだった。
クロノはモニターに目を移した。どうやらデータが大量にコピーされているようだ。
機密ではないが持ち出し厳禁なデータだ。システムの制御も一部奪われたままだ。
「30分以内にはなんとかなりそうか?」
クロノがエイミィの椅子に手をかけて尋ねる。なのは達のことだからサポートする必要はなさそうだが、
帰還した後もこの状態だと示しがつかない。往復と戦闘時間を考えれば30分がいい所だった。
「クロノ君、誰に向かって言ってるのかな〜?」
ポキポキと指の骨を鳴らし、にやりと笑ってエイミィが言った。
「10分で十分よ」
*
暗雲が立ち込めるクラナガン郊外の森の上空。
転移を済ませたフェイトは魔力反応に向かって高速飛行していた。
相手が奪ったマシンは魔力で動く装置だったので感知することができる。
それに飛行速度はフェイトの方が上だった。
(いた…!!)
しばらく飛ぶと視界に動く移動物体が目に入る。
フェイトは飛行魔法に魔力を込めスピードをさらに上げた。
『止まりなさい!!さもなければ攻撃します!』
50メートルくらいまで近寄り念話を飛ばす。それでも相手は制止する様子もなくスピードを上げた。
マシンに乗っているのは黒服の二人組みで、顔を確認することはできなかった。
(一人じゃないってことは片方は手引きをしたほう…?)
アースラがハッキングされたということは捕らえた二人以外に仲間がいたということだ。
先ほどのクロノとの会話を思い出す。
身内…手引きした人間はアースラクルーである可能性が高いのだ。
仲間を裏切る行為は許されない。昔アルフの他に信頼できる人などいなかったフェイトはなのは達によって救われた。
そして仲間が増え、家族さえもできた。そんなフェイトは人一倍仲間を大切にしたいという気持ちが強かった。
だからこそ、一緒に働いた仲間として、黒服の男が許せなかった。
『もう一度言います!止まりなさい!!』
フェイトの念話を聞く様子もなく男達はアクセルを回した。
それを見てフェイトはぎゅっと杖を握る。
「バルディッシュ!!」
『Yes, sir.』
その声に応じてバルディッシュの黄色い宝玉が輝いた。
『Photon lancer Full auto fire』
そしてフォトンスフィアから槍のような魔力弾がマシンの後部に向けて発射される。
着弾するかに見えた瞬間、後部座席に乗っていた男が手をかざすと藍色の魔方陣が現われ、フォトンランサーを弾いた。
さらにマシンから飛び降り、フェイトに向かって魔力弾を数発打ち込んできた。
「!?」
『Defenser』
相対速度で避け切れなかった魔力弾をオートでバルディッシュが後方へと逸らす。
その間にマシンに乗った一人が高速で飛び去って行った。
体勢を立て直しフェイトが男の方を見る。男はただ静かに空中に浮かんでいた。
暗雲の中ではゴロゴロと雷が鳴った。
「実行犯か逃走を手助けした方かはわかりませんが、あなたを逮捕します。大人しく投降してください」
バルディッシュを構えてフェイトが静かに言った。
二兎追うものは一兎をも得ずということわざ通り、目の前の一人に絞ることにしたのだ。
沈黙に、木々の葉がそよぐ音だけが辺りを包んだ。
「フェイト・テスタロッサ」
「!?」
ふいに男がそう口にし、フェイトは驚いた。突然自分の名前を、しかも古いほうの名前で呼ばれたからだ。
「フェイト…いい名前だね」
「な、なにを言っているんですか」
ボイスチェンジャー特有の声がフェイトの不快感を大きくした。杖を構える手に力が入る。
「“運命”…そう、特に悲劇的な運命をフェイトと言う。プロジェクトF.A.T.Eがその始まりなのかな」
男の言葉にフェイトは歯軋りをした。忘れることができない自分の傷。
どこで調べたのかは知らないがそれをえぐってくる男に怒りが沸いた。
「あなたの戯言に付き合っている暇はありません」
『Haken Form』
フェイトの怒りに答えるかのようにバルディッシュが鎌の形へと姿を変える。
「いいや、戯言なんかじゃあない。君が解放されたと思い込んでいる呪縛は、決して君を逃がさない」
「!?」
男が目出し帽をとると、見たことのある顔がフェイトの目に映った。
衝撃の事実に目を見開く。青い髪、青い瞳。
「あなた…ユーノの幼馴染の…」
目の前にいる人物はこの前ユーノから紹介された男の子、エリオ・スクライアだった。
「教えてあげるよ。何人たりともその運命から逃れることはできないってことを」
黒服が一瞬にしてスクライア一族のバリアジャケットへと変わる。
エリオが右手を掲げると手首に青い宝玉のついたリングが見え、まばゆい光が放たれる。
(あれは……レイジングハート!?)
「闇は水に、光は音に、運命(さだめ)の調べにその身を紡ぎ、迷いし者の導き手となれ」
レイジングハートに少し似た起動用パスワードにさらにフェイトの鼓動は高鳴る。
「フォーチューン、セットアップ」
『stand by ready. set up』
次の瞬間、一つの杖が組み上げられる。
金色のリングの中心に青い宝玉、そのリングにもいくつかの小さな輪が連なっていた。
その形はさながら錫杖(しゃくじょう)のようだ。
シャンッと音を立ててエリオが杖を構える。
「彼女にいざないの旋律を」
『Yes, my conductor』
青い瞳がフェイトを真っ直ぐ貫くように見た。
*
なのははひたすら北東の方向へ飛行を続けていた。
マシントラブルのおかげで相手のマシンは速度が落ちているのでぎりぎり追いつける。
魔力反応も近いように感じた。そろそろ目視できる、と思った瞬間レイジングハートが言った。
『there are targets in the direction of two o'clock.』(2時の方向にターゲットがいます)
その音声にしたがい目を凝らすと黒い物体が飛行しているのが目に入った。
上体を傾け旋回する。
それに気付いた黒服の男達はスピードを上げた。
「え!?」
トラブルがあったとは思えない予想外のスピード上昇になのはは驚いた。
このままでは逃げられる。そう思ったなのはは空中で急ブレーキをかけた。
「レイジングハート!」
『Buster mode. Drive ignition』
なのはの呼びかけにレイジングハートがシューティングモードへとその姿を変える。
『Load cartridge』
そして続けざまに二発カートリッジをロードする。
なのはは杖を水平に構え、長距離射撃にレイジングハートが精密照準を行う。
円の中心に黒い飛行物体が収まる。
「シュート!」
『Divine buster. Extension』
レイジングハートの先端に現われた三つの光点から光が収束し放たれる。
桜色の帯がぐんぐんと伸び、黒いマシンに直撃する。そう思われた瞬間、光の帯は緑色のシールドに阻まれ分散した。
「!?」
その衝撃になのはは目を見開いた。
光が消えた後には黒服の男がシールドを作ったまま一人浮かんでおり、その後方をマシンが飛び去って行った。
男がかざした手を降ろすと緑色の魔法陣が消えていった。
(まさか……そんな…でも…!!)
なのはは焦る気持ちを抑え男に向かって飛んだ。
見間違いかもしれない。けれど、なのははそれを何度も見てきた。
そう、あの光は、自分のよく知る少年のものと同じ…。
男の数メートル手前で停止しその瞳を見る。近くで見ても、やはり予想が確信へ近づくだけだった。
なのはの表情を見て男は軽く息を吐いて言った。
「やっぱりわかっちゃうか…」
ボイスチェンジャー機能を切った生の声。それは、聞き間違えるはずもない、あの少年の声だった。
「違う!!」
なのはの叫びに男はびくっとする。
「あなた…何者!?正体を現して!!!」
『Master…』
どうしてだろう。心の中ではチガウと思っていても、なのはの目には不思議と涙がたまる。
レイジングハートはわかっていた。デバイスは持ち主の魔力を認識し判断する。
自分のシステムが、目の前の男を前の主だと認識している。
たぶん今の主もわかっている。わかっていても、知りたくないのだと。
「変身魔法でも魔力光を誤魔化すことは出来ない。なのはもわかっているはずだよね?」
男が首元に手をかけ、目出し帽を引き上げる。
「やめて…お願い…」
なのはは震える声で言った。
それでも男は動作をやめず、素顔をさらす。黒い帽子が吸い込まれるように森の闇へと落ちていった。
長い髪が風に流れ、エメラルド色の瞳がなのはを映した。
「なのは、僕はここで……君を撃つ」
次回へ続く
ユーノとなのは、エリオとフェイト。
望む望まぬに関わらず、絶対不可避の戦いが今始まる。
次回 第十四話 「覚めない夢」
エリオのデバイスの綴りは「FORTUNE」。単語を分解するとFor-tune(旋律のために)となり気に入っています。
今回のタイトル「運命の対峙」とはプロローグのなのは対ユーノは運命であったことと、フォーチューンとフェイトという
運命の名前も対峙していることの2つをかけています。
次回、プロローグ部分がようやく出てくるので照らし合わせながら読むと面白いかもしれません。それでは。
てっきり、慣れ親しんだ彼女の相棒が引き抜かれるものと思っていた。
「……え?」
炎の魔剣、レヴァンティン。
その銘を持つ難敵が、自分達の前に立ちはだかるものとばかり。
───しかし。
『zamber form』
烈火の将が手にしたのは、閃光の大剣。
彼女の帰りを待つ友が愛用する、漆黒の柄を持つ剣だった。
「……バルディッシュ」
その刀身は本来の雷色ではなく、ルビーのごとき真紅に染まり。
手に取った緋色の女性そのものに呼応するがごとく、端々から炎を吹き上げる。
シグナムの戦闘スタイルに合わせてか、本来の使用者によるものにくらべ、
刃は若干細く、短く調節されていた。
「……そう、あなたも立ち塞がるんだね」
『please,return』(主のもとへ戻ってください)
閃光の戦斧が、なのはへと語りかける。
フェイトを最もよく知る彼の、短くも深き説得の言葉になのはの心はうずく。
けれど。
「だめだよ。わたしはフェイトちゃんを助ける。あなたの主を」
聞くことはできても、呑むことはできない。
「……いくぞ、バルディッシュ。お前の主を……悲しませぬために」
『……yes,sir』
シグナムが構えると同時に───、大剣の刀身に纏った炎が強く、激しく燃え盛った。
魔法少女リリカルなのはA’s −the day−
第十話 時を削る部屋で(前編)
スティンガースナイプ。クロノの持つ得意技のひとつ。
なのはが目尻にその光芒を捉えたときには、不規則な軌道が即座に視界から消え、背後に回る。
通路から広間に場所を移したとはいえ、急角度、至近距離で迫るそれを避けるには間に合わない。
「戻れ、なのは!!」
「やだっ!!誰が……っ!!」
振り向きもせず、アクセルシューターをぶつけて相殺する。
一発。二発。デュランダルの性能によって組成を変化し、強化されたスティンガー弾は
カートリッジを使用したなのはのアクセルシューターと、完全に互角であった。
計三発の弾をそれぞれ失ったところに、息つく間もなく刃の雨が降り注ぐ。
『Stinger Blade,Blizzard sift』
ただ、魔法で生み出された刃ではない。
触れるもの全てを凍てつかせる氷の刃が、その名の通り吹雪のように荒々しく撃ち放たれる。
「この……っ!!」
シールドや、プロテクションではだめだ。張ったまま凍りついてしまう。
そう判断したなのはは防御にまわることなく、残っていたアクセルシューターの弾全てを
ひび割れた瓦礫の床へと殺到させ、爆発させる。
非殺傷設定を、瞬間的に解除。
無数の光弾に打ち穿たれた床面は大小、様々な大きさに砕け散り、
多くの破片となって宙に舞う。
まるで、なのはと氷の刃とを隔てる壁のように。
「いくよっ!!」
『Divine buster. Extension』
次々と着弾した氷の刃によってそれらは凍り、網目状の氷の壁が形成されていく。
それを貫き吹き飛ばして、なのはの主砲が放たれた。
「は、あああああっ!!」
「!!」
側面に、回られた。
最上段から振り下ろされる炎熱の大剣を、黄金の槍の穂先から出力した
光刃・ストライクフレームが受け止め、火花を散らす。
「矛を収めろ、高町っ!!テスタロッサがこんなことで……!!」
「言ったでしょ、押し通るって!!あなたも止めるって言ったじゃないですかっ!!」
両腕に魔力をまわし、肉体強化。
更には右腕拳にプロテクションを、ピンポイント発生。
片腕一本でシグナムの斬撃を支えつつ、固く握りしめた右拳を彼女に向け打ち出す。
「ちっ……!!」
瞬間、シグナムは左足裏でそれを受け止め、勢いのまま空中で一回転し着地。
横一文字に薙ぎ払われたバルディッシュを、なのははスウェーしてかわした。
「わたしだって……武装隊で鍛えてるんです!!そう簡単に止まるわけにはいかない!!」
「……」
フェイトや、シグナムたちのようにはいかないが。
なのはの近接戦闘の実力も以前に比べ、格段にあがっている。
自ら積極的に前に出るほどではないが、迎撃するくらいであればある程度は対応できる。
『Diffusion buster』
「!?」
そして火を噴いたのは、シグナムが目にしたことのない魔法だった。
なのはの予測どおり、彼女はわずかに動揺している。
「な!?」
「これ、効くんですよ……っ!!相手が近接主体の場合、特に!!」
発射されたバスターは、通常のものとは違い。
シグナムへと到達するより前に弾け、拡散する。
本来のディバインバスターがただの砲弾とするならば、これは散弾。あるいは炸裂弾とでもいうべき代物だ。
分裂したとはいえ、カートリッジを使用した膨大ななのはの魔力は強力で。
一発一発が相手の動きを遮り、時として撃破する。
一対多の戦闘や、近接主体の敵との戦いにおいての、なのはの隠し玉のひとつであった。
『Accel Shooter』
拡散する魔力弾によって身動きの碌にとれぬ相手を狙うのは、
なのは得意の誘導弾。
前方にシールドを張り耐えるシグナムの周囲を、無数のシューター弾が包囲する。
「少し、眠っててもらいますっ!!」
「ちいぃっ!!」
普段通りのレヴァンティンを用いた戦闘ならともかく。
破壊力に優れる分、大型のバルディッシュでは対応しきれまい。
いくら彼女の腕がよかろうと、フェイトのように扱いを熟知しているわけもない。
その読みがなのはにはあった。
(これで、あとは……!!)
「そう、あとは僕もいるんだがな」
「!!」
全てが直撃していれば、さしものシグナムとはいえダメージはまぬがれなかっただろう。
しかしその桜色の流星群は動くことはなく。
『Blaze Cannon』
「っく!?きゃああぁっ!?」
オートで起動したプロテクションで威力を殺しながら、
側面からの砲撃を受けたなのはは壁へとめがけ吹き飛ばされる。
朽ちかかっていた石壁は崩壊し、激突したなのはの肉体は悲鳴をあげた。
「っか、……く、ろの……くん……!!」
痛みを堪え、彼女は立ち上がる。
ブレイズキャノンを浴び、壁に激突した背中は予想以上にダメージが大きい。
砲撃を放った、自分が助けるべき少女の兄を睨みつける。
冷酷な、敵対する者を見る目で彼はこちらを見下ろしていた。
当然といえば当然だ。
彼は今、行く手に立ちはだかる敵でしかないのだから。
遠慮なくクロノが自分を撃ったように、自分も彼を撃つ。
「レイジングハート……フォースバースト、いける……?」
『Of course』
「やめておけ」
やはり、彼らと二対一ではどうあがいても限界がある。
ここは大技、エクセリオンバスターかそれ以上でなければ。
そう思い、なのはは再度レイジングハートを構えた。
背中の痛みを堪える彼女に、クロノが諭すように言う。
「この場所でそんな大技使ってみろ。庭園そのものが甚大な被害を受けるぞ」
「わかって……るよ」
「投降する気になったか?」
「まさか。……どうせ、庭園に影響が出ないように結界でも張ってあるんでしょ?」
クロノたちは庭園の暴走を懸念している。
この場で戦闘をするというのならば、そのくらいの準備はしているはずだ。
周到な彼のことを知っているからこそ、なのはは吐き捨てた。
結界を維持しているのであろう、先程から殆ど動き回る様子を見せないクロノは、
イエスともノーとも言わない。
「大丈夫、スターライトブレイカーは使わない……。レイジングハート!!」
「ち……シグナム」
「……ああ」
エクセリオンバスターの発射準備に入るなのはを見たクロノが、シグナムに目を向けた。
それに呼応して、彼女は炎熱の閃光剣を頭上高く翳す。
カートリッジで増幅された魔力には、やはり同じように強大な魔力が必要だ。
そのセオリーに則って。
『Excellion Buster』
『Flame Zamber』
かつてぶつかりあい、轡を並べた魔導のデバイスたちが発声する。
「灼熱……」
「ブレイク……」
一人の少女を想う、二人の女がつぶやき、そして───咆哮する!!
「一閃ッ!!!」
「シューーート!!」
四条の光の中心を、桜色の噴流が洪水となって解き放たれる。
振り下ろされた大剣の斬撃が豪炎を纏い、一筋に伸びていく。
なのはとシグナム、二人の想いを乗せて。
* * *
「っあ……う、く」
───がらん。
石畳の上に両膝を折り。
ヒビと破損に塗れたレイジングハートが、石の床にすべり落ちる。
なのはもレイジングハートも、満身創痍だった。
この広い広間を、随分後ろまで吹き飛ばされた。
本来の持ち主でないシグナムがあれほどまでに、バルディッシュの性能を引き出すとは。
魔力も予備のカートリッジが僅かにあるだけで、ほぼ使い果たしてしまった。
有休中ということで持ち合わせのカートリッジそのものが少ないのも痛い。
予想以上に、魔力を食ってしまった。
「大丈夫……?レイジングハート」
『Yes.It is possible to operate』(はい、稼動に支障はありません)
幸い、レイジングハートのコアに深い損傷はないようだ。
だましだましにはなるが、まだやれる。
無論あれだけでシグナムを倒せるとは思っていない。
だが、あちらも随分魔力を消費し、バルディッシュにダメージを与えられたはずだ。
それくらいの手ごたえはあった。
とすれば残るは、結界の維持にリソースの大半をとられているクロノ。
デュランダル本来の性能を出せる状態にない彼にならば、勝ち目もある。
上着がほぼ右半分くらいしか残っていないバリアジャケットで、
なのはは床に転がる相棒へと微笑んだ。
(あと、少しなんだ。あと少しで)
視界を覆うこの土埃が晴れる前に、戦闘態勢を整えねば。
擦り切れたグローブの左腕を杖に伸ばしたなのはの耳に、聞き慣れた電子音声が響く。
『Bogenform』
「───ッ!?」
薄らいでゆく土煙の中に、彼女は影を見る。
そう、だった。
まだあの人には『彼』が残っていたのだ。
煤まみれの顔を、なのはは自身の迂闊さに呆然と、ぎこちなく持ち上げる。
『Sturmfalken』
排莢の、余剰魔力の蒸気が煙を吹き飛ばしていく。
大剣を振るっていた彼女は、魔弾の射手へと姿を変えていた。
ボロボロの騎士甲冑、なのはと同じく煤だらけの顔で、
眼光鋭く少女の眉間へと弓の狙いを定めている。
「なのは……もう、終わりだ。僕らと一緒に、帰ろう」
彼女の背後に控える青年が、低く、静かに宣告した。
なのはは二人のほうを、息を呑んで見つめ返すしかできない。
「フェイトのところに」
「高町、今のお前ではファルケンは防げないだろう……頼む」
「……」
これで、終わりなのだろうか。
諦めたくない。
諦めたくないけれど、どう考えてもこの状況は「詰み」でしかない。
目を落とし、思考する。
なにか、手はないのだろうか。
せめて、もう一人仲間がいれば。
誰も巻き込まないと決めてやってきた手前、ないものねだりではあるのだけれど。
一人で、この消耗した身ひとつでこの場を打開する方法が見つからない。
「っう……」
涙が、零れた。
友を助け、そのためにはクロノたちを打ち倒すことすら厭わないと決めたのに。
今の自分にはそれを遂行するだけの力が無い。
情けなくて、悔しくて、悲しくて。
汚れた頬を涙が伝う。
「高町……」
「シグナム」
そんな彼女の様子に、シグナムが弓を下ろす。
クロノと目をあわせ、二人はなのはの身柄を確保すべく動き出そうとする。
「ちょいと待ちな」
ぽろぽろと涙を零すなのはの背後から、人影が差した。
閉じた瞼が黒く染まり、幼い声と、現れた影とに、嗚咽していたなのはは目を見開く。
「あきらめんじゃねーよ、このバカ」
「え……」
同時に、上空のクロノとシグナムの表情が困惑したものとなる。
「そんなんじゃ、はやて笑わせらんねーだろーが。何が大丈夫だよ」
「っ……」
「派手にやってんなー、ったく」
馬鹿にしたような言い方で、少女の声は独り言のように呟いていた。
「あたしもちょっくら、混ぜてもらえねーかな?」
「ヴィータ、ちゃん……」
───ほらよ。
紅の騎士甲冑に身を包んだ少女は、応える代わりに。
カートリッジを満載したマガジンをなのはの前へと差し出した。
ああ、投下してから表現がおかしいところに気付く私
訂正する気力もないやahaha・・・orz
>>396氏
ユーノ、なのはに勝てるの?
スキル「淫獣」発動でそっち方面の攻撃をすればあるいは(ぉ
>>96>>99>>101各氏
・・・よし、それだ(何が?という質問は受け付けません)
>>176氏
つまりエロノがロリノに進化したわけですね?
さらっと毒吐くフェイト萌え。
>>さばかん氏
お久しぶりです。
あいかわらず独特のワールドが全開でwww
どうみても出待ちで様子見のあと颯爽と登場!!です、本当に(ry
コレは続きが楽しみです。
所で、どこかのHPに
なのはのSSで
・地球と管理局で戦争になる可能性
・クロノが開発予定だった新型の情報が流出
・フェイトとシグナムが公開試合
・幽霊みたいな敵
たしかこんな設定のSSを掲載していた場所があったと思うのですが
どなたかご存知ではないでしょうか?
>>640氏
うおう、なんて燃える展開なんだ!
聖痕さんとこのグラーフアイゼンを振るうシグナムといい、こういうシチュは大好きです
でも、三期でフェイトの意志を継いでバルディッシュを振るうなのはさんとかやられたら困る
>>132 ミスった
○・クロノが開発予定だった新型のデバイスの情報が流出
135 :
名無しさん@ピンキー:2006/11/23(木) 03:42:57 ID:n7pfJf2P
>>132氏
それは「ファラオの墳墓」と言うサイトで連載されている長編小説ではないでしょうか?
公開試合は短編の方だったと思いますが。
>>135 ありがとうございました。
ようやく続きが読めます。
流れを切ってすみませんが
おっぱい騎士娘・シグナムが生贄にされちゃう
エロ小説を書かせていただこうかと思っています。
よろしいでしょうか?
カートリッジフルロードして待つ
140 :
137:2006/11/25(土) 03:04:09 ID:4dnBftm7
タイトル: 公開陵辱!〜宴の生贄は、剣の騎士の少女〜
ー午前2時。眠りの夜。
荒涼とした砂漠の世界を、二つの影が目にも止まらぬ速さで飛び回っていた。
一つは、全身をすっぽりと覆うコートのようなもので身を纏い、顔も見えない。
若いのか年寄りなのか、男か女かさえもわからない。
もう一つはー女性である。まだ若く、「女」というより「少女」
と言っていい。背は高めで、テレビゲームに出てくるような
鎧・・ピンク色の騎士服を纏っている。髪は、サラサラで長く美しい
ピンク色で、ポニーテールにしている。
少女の顔を見てみるとー
はっ、とするほど美しく凛としたその顔立ちは、そんじょそこらの男など
足元にも及ばないほど強い意志と責任感に満ちており、「騎士」
と呼ぶに相応しいものであった。また、視線を少女の肢体に
移すとーー騎士服の上からでもはっきりとわかるほど
スタイルが良く、乳房も尻も、挑発的ともいえるほど
美しく育っており、男の肉欲をたまらなくそそる「芸術品」であった。
少女が身に纏う騎士服は、かなり生地が薄いものであるらしく
扇情的なまでに肢体のラインを浮き上がらせていた。
特に、形の良い双乳や双臀にぴったりと生地が張り付いており、形が
まるわかりである。目を凝らせば、乳首がうっすらと浮いているのすらわかる。
その上、スラリと美しい生足が惜しげもなく外気に晒されていた。
たいていの男は、この少女の顔やカラダの美しさにのぼせあがり
ナンパ目的で声をかけようとするだろう。だが、次の瞬間、この少女の
ただならぬ気迫に圧倒されて、逃げ出すはずだ。
愚かな男なら、肉欲に目がくらみ、力づくでこの少女を犯そうとするだろう。
そして、逆に叩きのめされるだろう。当然の結果である。
だが、そこで勘の鋭い男なら気づくはずだ。この強く美しい少女の
心の奥には・・普通の女の子となんら変わらない弱さや脆さが
存在するという事に。
少女の名はシグナム。守護騎士ヴォルケンリッターの将・剣の騎士である。
シグナムは、他の守護騎士達3人と共に、主・八神はやての下で
時空管理局の一員として、とある事件を追っていた。その事件の犯人らしき
人物を追跡中、この砂漠の世界にたどり着いたのである。
そして。
追跡の果てに、シグナムは、自分が追ってきた影に向かって叫んだ。
「もう逃げられんぞ! おとなしく投降するがいい! さすれば、殺しはしない!」
同時に、シグナムは空中で急停止した。その勢いで、騎士の衣に
包まれた巨乳が重たげにぷるるんと揺れた。 美しい太ももがむき出しになる。
健康な男がこれを見ていれば、たちまち欲情していたであろう、
ウレシイ光景であった。
しかしA's公式のシグナムのキャラクター説明みると
騎士甲冑にかなり胸カートリッジがロードされt……
胸がしぼんだ。
お久しぶりです。
なかなか書く時間が取れませんorz
しかも今回色々と大変です。
以下注意書き
似非(えせ)クトゥルフ神話注意
オリジナル魔法注意
微グロ注意
長いです。
クロノ「平穏だった時空管理局が遭遇した
史上最大の大事件」
グレアム「現れたのは古の文明、意思の疎通さえありえない敵
灯った戦火は劫火となって戦士達を飲み込んでいく、」
ユーノ「多大な犠牲を出しながらも遂にルルイエ内部に到達した人間達、」
グレアム「そして、激戦の中でこそ紡がれる数々の物語、」
クロノ 「魔法少女リリカルなのはACF、始まります。」
第6話『歪んだ空、壊す力なの』
歪んだ空が引き裂かれた。そこから露出するのはおよそ秩序立ったとは言いがたい次元空間だ。
その裂け目から幾つもの艦艇が進入してくる。次元世界連合のルルイエ先発突入師団である。
内部には予想通り、大量の敵が居た。異形の群れである。
直ぐに砲撃が始まり、魔導師達が飛び出してくる。
砲撃が飛び交い、爪やデバイスが火花を散らし、辺りは戦火の喧騒に包まれる。
それを遠方から見つる者がいた。その者、真実の幽霊はしばらくして空間に溶け込む様に消え去った。
それに気付いた者は誰も居ない、人間は愚か、異形さえ気付かなかったのだ。
ただ、遠い次元空間の向こうで、何かが、確実に、動き始めていた。
ミッドチルダの辺境は俄かに騒がしくなったいた。
周囲には数多の機材が運び込まれ、フローターフィールドが空高くまで積み重なっている。
その中央には発信塔と大型魔力駆動炉を一体化させたようなのような巨大な建造物が今まさに組み立てられようとしていた。
そしてその周囲は無数のモニタが空中に表示され、現在の工事の進行状況を表示している。
その片隅で作業員達が話している。
「ついに突入したらしいぜ、」
「ああ、俺達は何のためにやってるんだ?結局間に合わないじゃないか、」
後ろから声がかかる。
「馬鹿野郎!なにサボってやがる!」
見るとチームリーダーが顔を真っ赤にして怒鳴っていた。
「いいか、この戦いには間に合わん、だがな、もう一つ有るんだぞ、
それに間に合わさんといかんだろう!!」
へいへいと作業員達も立ち上がる。確かに、この戦いにこの装置は間に合わない、だが、
次の戦いにはきっと間に合うだろう、同じような発信塔はミッドチルダだけで、一万以上作られている。
もっとも、大型駆動炉から作るのはココとあと2箇所、時空管理局と直接繋がるシステムだけだ。
このような大規模な魔力送信システムは全次元世界で作られており、それら全てを合わせると、
ロスを大きめに計算しても<旧支配者>達と十分に渡り合える魔力が一箇所に集まる筈である。
問題は、それを誰が使うのかと言う事だが……
若い作業員は無言で自分達が築いている尖塔を見上げ、太陽の光に目を細めた。
(親父……あんたが作った……中央を追われたシステムはこうして役に立っている
……あんたは無駄じゃなかったんだよ……)
この駆動炉に使用される燃料は、大気中の酸素を消費して魔力を生み出すタイプの物で極めて危険な為、
現在では殆ど使用されていない、この燃料を使った初の大型駆動炉であるヒュウドラは暴走事故を起こし
何人もの人が亡くなり、肩書きだけで実権のなかった“主任”と彼女のシンパであった“共謀者”は
ミッドチルダ中央を追われ主犯である“主任補佐”と“上層部”は罪にすら問われずいた。
だから“共謀者”であった彼の父にいつも「何をやっても無駄だった。」と聞かされて育った。
だが、その親父を切った企業は6年ぐらい前に、突然時空管理局に目を付けられて、
重箱の隅を突付くような厳しい取調べを受けた。結果、株価が暴落、倒産し、企業はばらばらに解体され
別の企業に吸収された。
そう言えば、その辺りに時空管理局を名乗る少女が突然訊ねてきた事があった。それから父は少し明るくなった気がした。
「なにボサットしてやがる!!」
チームリーダーの声に彼は我に返って駆け出した。
あの少女も今戦っているのだろうか?遠い次元空間の向こうで
砲撃が絶え間無く飛んでいく、そしてその間を人間と異形が舞い踊る。はっきり言って人間の方が劣勢である。
流石に先発師団だけでは。異形の方が数が多い、そして異形の方が単体での戦闘能力が高い、
すでに先発突入艦隊は多くの艦を失っていた。
「くっ!」
フェイトの一撃が異形を2体纏めてなぎ払う、その直ぐ横を誰かの砲撃が飛んでいった。
横ではアルフが異形の頭を粉砕している。だが、この数相手にその程度の戦果が何の助けになると言うのか
「はっ!」
なのはが砲撃に叩き込んだ異形が蒸発する。確認する間も置かずに、
アクセルシューターで別の異形をなぎ払うと直ぐにフラッシュインパクトの為にその場を離れていた。
その彼女の先で目の前の船が爆発四散する。爆発した中央から飛び出してきたのは人間サイズの異形である。
だが、その力は圧倒的だ。
その異形は次の犠牲者としてアースラを選び突っ込んでくる。その異形に彼女は側面から突っ込んだ。
フラッシュインパクトが綺麗に側面に決まるさらに其処に強壮砲撃が直撃する。
そこで、その異形は動きを止めた。だが、
「嘘……」
その異形には傷一つ付いていなかった。悠々と彼女を見据え構え、まるで、騎士のように一礼する。
『なのは!聞こえるか!?そいつはオトゥームだ!!』
クロノの通信に一瞬凍りついた。クトゥルフ直衛のはずの異形の騎士、ソレが其処にいた。
迷わずカートリッジをロードする。ハッキリ言って勝ち目が無い、だが、遣るしかなかった。
オトゥームの背後に突然人影が現れる。フェイトだ。彼女は音より速くバルデッシュの刃をオトゥームの首に
突き立てる。しかし、
「!?」
魔力の刃をオトゥームは掴んでいた。それもなのはの方を向いたまま、
そのまま腕を振るうとフェイトはバルデッシュごと投げ飛ばされる。その間にも動く影があった。
なのはの部下の遊撃班が誘導弾を連続で打ち込む、バリアを張られるのは承知の上だ。
魔力を削れば其れで良い、他のフェイトの隊の一部も攻撃に回る。それを意に関せずと言った素振りで
オトゥームは踏み出した。その時にはなのはの魔法も準備が完了していた。
「Divine buster」「行けーー!!」
気合の掛け声と共に、カートリッジ12発を使い切った砲撃が飛んでいく、だが、それをオトゥームはワンステップで
回避、砲撃は砲台に襲い掛かろうとしていた異形を3体纏めて蒸発させただけだった。
(避けた!?ってことは行ける。ダメージが入る!)
ワンアクションで弾倉を二つとも取り替える。オトゥームはすでに眼前に迫っていた。
瞬時になのはとオトゥームの位置関係が入れ替わる。トランスポートによる強制転移、遊撃班の魔導師が
なのはをオトゥームの背後に飛ばしたのだ。自分自身は黄緑と紫のカードを同時に展開、
防御結界と不可視の甲冑、それに自前のバリアの三重の防御でオトゥームを迎え撃つ、
破られるのは承知の上だ。目的は相手を一瞬制止させる事、ただそれだけ、彼は死を覚悟して目を瞑る。
同時に衝撃と鈍い痛みが走り……それだけだった。目を開けるとパンツァーガイストに魔力刃を食い込ませ
オトゥームが止まっている。防御結界とバリアは貫通されていた。反射的にスフィアを生成、
それを拳で眼前のオトゥームに叩きつける。爆風にのって上に飛び、その場を離れた。
それと、なのはが渾身のデバインバスターを叩き込むのはほぼ同時だった。
その時になって初めて彼は自分が助かった理由を知った。狼の使い間、たしかアルフと言ったが、
オトゥームと自分の間にバリアを張ったままの異形を叩きこんだのだ。
御陰で、それを潰して攻撃が途切れたと言うわけだ。その彼の横を黄色い砲撃が飛んでいく、
もっどて来たフェイトがプラズマスマッシャーを叩き込んでいた。しかし、それすらまともにダメージが入っていない、
オトゥームはスフィアを展開、それを超高速誘導でなのはに襲い掛からせる。その一瞬の隙を突いて、フェイトが
飛び込んだ。全力を持ってバルデッシュの魔力刃を突き立てる。その横で同じ隊の魔導師2人が同時に突撃する。
時間差で襲う3連の攻撃、そこに無数の誘導弾が炸裂する。だが、フェイトが見にしたのは、オトゥームの誘導弾に
バリアを貫通され吹き飛ばされたなのはと、自分の眼前に迫り来る。混沌としか形容しようの無い色の砲撃だった。
成すすべもなくフェイトは吹き飛ばされる。
「フェイト!」
怒りに任せてアルフがフォトンランサーを生成した時、オトゥームは突然魔力の爪を何も無い虚空に突き立てる。
その瞬間、空間から滲み出る様に、この場に居る筈の無い、黒衣の魔導師が現れる。それもその爪を避けた形で、
彼は己のデバイスをオトゥームに触れさせていた。彼、クロノのデバイスが魔法の発動を告げる。
「Break Impulse」
無機質な声と共にオトゥームの体内で爆発が起こった。
「やった!」
歓声を上げた魔導師が次の瞬間肉片になり飛び散った。やったのはさっき爆発したはずのオトゥームだ。
オトゥームはまだ動いていた。動きは鈍くなったものの魔力は十分らしく、魔方陣を展開する。
周囲に生まれるは視界を覆わんばかりの混沌の剣(つるぎ)、だが、その魔法の行使を阻む者が居た。
桜色の弾丸と化したなのはが突っ込んで行く、狙いはエクセリオンバスターA.C.S
それと丁度対角線上で金色の風が吹いた。先に混沌の剣(つるぎ)を掻い潜ったファイトの刃が襲う、
だが、それはあっさりバリアで弾かれる。だが、それで良い、これはバリアを消費させる囮に過ぎない
その背後から剣(つるぎ)を砕いて突っ込んできた渾身の突撃方が炸裂する。迎え撃つのは
オトゥームが急遽展開した混沌のシールド、桜色の刃が混沌の盾に突き刺さる。
快音
変化は一瞬だった。行き成り混沌の盾が砕けた。
なのはの魔力に耐えられなかった分けではない、自ら砕けたのだ。混沌の破片が刃の濁流となって彼女を襲う、
彼女はなすすべも無く破片の洗礼を受ける。咄嗟に張ったプロテクションは無いも同然に消し飛び
鮮血が真紅の霧となって空間を朱に染め上げ、激痛に流石の彼女も声になら無い叫びを……
上げられなかった。喉に突き刺さった破片が声帯を切り裂いていた。
破片は体中を切り裂き、一部は完全に貫通、それでも彼女は意識を保っていた。否、
正確にはその激痛こそが彼女の意識を繋ぎとめていた。余りの痛みに意識は飛んでは、その痛みに引き戻されるを繰り返す。
視界は霞み、三半規管は位置を見失い、風を感じる皮膚は激痛しか返さない、
混濁した意識の中で、半分しか繋がっていない腕の、二本の指を失った手で必死にレイジングハートを握り締め、
それが導くままに後方に下がる。だが次の一撃が来る心配は無かった。何故なら彼女は
己の役割を完全に全うしていたのだから、
「Break Impulse」
再び戦場に無機質な声が響く、フェイトとなのはを囮に近づいたクロノが2度目のブレイクインパルスを叩き込んだのだ。
周囲の剣(つるぎ)が消えた。魔力を失ったのだ。だが、それでもオトゥームの戦闘能力は失われていなかった。
魔力の篭った爪の一撃をクロノに見まう、彼はそれをデュランダルで受け、その衝撃を利用して上昇する。
そして……
「Break Impulse」
三たたび無機質な声が響き、オトゥームが3度目の爆発を起こす。クロノが上空に居るにも係らずだ。
声の主はバルデッシュ、義妹として過ごした7年の歳月はフェイトが必殺の魔法を学ぶのには十分であった。
デュランダルから送信された固体振動数を使用し、最短でソレを叩き込んだ彼女は結果を確認するより早く
魔力刃を更に突き立てる。流石に三度も喰らうともう魔力が付きて居るのかあっさりバリアを貫通、
オトゥームに刃が突き刺さった。そこに上空より飛んできたクロノのスティンガーブレードが立て続けに突き刺さる。
それでもオトゥームは動いた。戦線から離脱しようと加速する。だが、それを見逃す魔導師は居ない、
突然甲板から伸びてきた白い楔がオトゥームを貫き固定する。遊撃班の一人がザフィーラのカードを使用したのだ。
集中攻撃で動かなくなったオトゥームは、4度目のブレイクインパルスで爆散し、強壮砲撃で蒸発した。
流石にもう復活はしないだろう、なのは安堵して治療用の結界の中からアクセルシューターを発射する。
バリアジャケットは真っ赤に染まったままだが傷口は大分ふさがっている。眩暈がするのは出血多量による貧血のためだが、
ここに居ればそれも直ぐに回復するだろう。指も直ぐに生えて来る筈だ。
オトゥームを倒す為だけに緊急出撃したで有ろうクロノにアクセルシューターを操りながら敬礼する。
彼はそれに敬礼で返し帰艦していった。そして……その前方でまた一隻船が沈んで行く……
左翼後方支援師団のドッグ船、そこにスッポリと包まれた巡航L級艦の艦橋にグレアムは居た。
艦長と今後の事を軽く話し合う、
「思ったより被害が軽微だな、これなら補給終了と同時に出撃できそうだ。」
彼の言葉に艦長は頷く、ルルイエの外の戦況は予想されていたものより幾分良かった。
先発突入師団が打ち込んだ楔が確実に異形の戦線を掻き乱し、崩壊へと導いている。
御陰で、各支援師団も一部を残して上昇しており、随分と早く補給を受ける事が出来た。
今、こうしている間にも輸送船団がこの艦隊まで補給物資を運んできているはずだ。
(……しかし……)
グレアムは被害状況が表示された空中モニタに目を走らせる。そこに有る項目で一つだけ極端に少ない物があった。
(確かに彼の言う通りだったな……)
その欄は異形と接触した事による精神汚染、すなわち狂気に走った者の数である。
作戦会議中、大きな不安要素として取り上げられたのが、この狂気である。多くの書物が示す通りならば
多くの兵が戦わずして脱落する。それをはっきりと否定したのが会議に資料を提出したユーノであった。
曰く、異形による精神汚染はどんなに多くても誤差範囲とどまり、考える必要な無い、
曰く、例外が考えられるとすればクトゥルフの活動開始時においてであるが、頭痛が短期間する程度である。
曰く、但し、上記のことは“理解しようとする者”には当てはまらない、
彼の発言を纏めるとこうなった。彼によると異形との接触による発狂は、文明の衝突におけるヒステリーと本質的に
同じであり、自分とは異なる者への恐怖である。神話の時代ならいざ知らず、
散歩感覚で異なる次元世界を渡れるようになり、さらに彼らの武器であった魔法さえも解き明かし使用する今の時代の人間には、
<旧支配者>の力に対する畏怖はあれど異質に対する畏怖は無い、これが彼の結論である。
これは人類が、かつて<旧支配者>が支配していた時代に比べ彼等に近づいている事を示している。
そして彼は最後に付け加えた。
ただし、これは自ら進んで内面に踏み込まなかった場合だと、
人間と彼等がもつ内面の異質さには未だに大きな隔たりがあり、
それが恐怖となって精神を蝕むのだと、
だから彼等を理解しようとしてはいけない、
したが最後、狂気に陥いり二度と社会復帰が出来なくなると
今の所、彼の警告は守られており、御陰で精神の変調により脱落するのは各艦隊に一人居るか居ないかだ。
正確な情報ほどありがたい物は無い、だが……それをグレアムは疑念に思う、余りにも正確すぎる。
(まるで……いや、まさかな。)
無限書庫の司書達が不眠不休でサルベージした資料の塊を彼自身が纏め上げたモノである。それぐらいは当然だろう、
慎重な人間は、完璧で有れば有るほど、上手く行けば行くほど、不安になる。おそらく自分もその症状が出たのだ。
そう考え直して紅茶を飲み干す。艦長の方を見ると師団長から命令が来たらしく、モニタの前で話し込んでいる。
彼がサンドイッチを食べ終えた所で艦長が向き直った。
「もう出撃です。どうも嫌な連中が戦場に来たそうで、」
「嫌な連中?」
彼は大きく頷いた。
「クトゥルフ教団の武装艦隊です。どうも相当な数の大艦隊だそうで、この艦隊に討伐命令がなされました。」
ふむ、とグレアムが頷く、どうも理解しようとしてしまった連中がやってきたようだ。
「司書長の資料によると旧式の戦艦が数隻、後は違法改造した商用船らしい、」
「司書長の?」
見るとモニタには確かに無限書庫司書長ユーノ・スクライアの署名がある。
そしてそれは詳細なクトゥルフ教団艦隊の情報であった。確かに大艦隊であるが大した事は無い、
「……」
「どうしました?」
艦長の声に彼はハッとしたように答える。
「いや、何でもない、側面を突かれると貧弱な兵装でも脅威となる。とっとと片付けた方が良いだろう。」
彼の言葉を待たずして、すでに周囲は慌しく動き出し、出撃に向けて動き始めていた。
「突入準備完了しました。」
「よし!ミッドチルダ第295艦隊、突入せよ!!」
提督の号令と共に、ミッドチルダ第295艦がルルイエ内部に転移する。最も突入したのは彼等だけではない、
そばに艦隊単位で大量と言っても差し支えの無い量の艦艇が犇いている。
右翼師団が残存兵力掃討様の艦隊を残してルルイエに突入したのだ。
天を埋め尽くし、次元空間おも覆う艦艇は、これでも本隊、中央師団に比べると
見劣りする量の艦艇しか存在しない、そして、
これが、この数こそが、今の次元世界の、今の人類の力である。
最もルルイエは超大規模を通り過ぎた世界、そしてそこの住人が全員戦闘員と来ているのだが……
彼等は師団の切り込み部隊として陣形の最外縁部に陣取っていた。
周囲に敵影は無い、その事に気付き艦橋でポーズを決めていた彼は嫌な予感がした。
何かがおかしい……瞬時に知識を思考がまとめ上げ、直感と言う形で彼に答えを告げる。
「おい!先発師団の反応は有るか!!」
「……不明で……ん!」
「どうした!?」
「10時の方向で異常魔力反応!!」
彼は破顔した。そこには先発突入艦隊が居る筈である。そして彼等は今通信が出来る状況に無い、
また、ルルイエの主、クトゥルフは完全には目覚めていない、敵は完全な統制が取れていない、
つまり……敵さえ居れば其処に群がる可能性がある……
「師団長に繋げ!急げ!」
「はっはい、」
直ぐに通信が繋がった。彼は無礼を承知で相手の返答を待たずして叫ぶ、
「師団長!!先発師団の救出に行かせてください!!彼等まだ戦闘を続行しています!」
血相を変える彼に師団長は半ば呆れながらも答える
「落ち着きたまえ、今こちらも通信が来ない事と戦闘が続行されている事を確認した。」
師団長の目が細くなる。何かを考えている目だ。
「よし!右翼師団全艦隊に命令!!全軍、10時の方向に進撃!先ずは先発突入師団と合流する!!」
「……師団長、」
師団長は少しだけ肩を竦めると、とぼけた口調で命令してきた。
「何をしている?速く動かないか、切り込み艦隊が動かなければ他の艦隊が動けん、」
「了解!全艦進撃せよ!」
彼の号令でミッドチルダ第295艦隊が、そして後続の艦隊が進撃を開始する。
脳裏にアースラの姿と其れを率いる若い提督、そして次元間兆弾爆砕を成功させた二人のエースの姿が浮かぶ、
(生きているんだろうな、あいつ等……)
ただそれだけが心配だった。
グレアムが所属する艦隊はすでに臨戦態勢を取っていた。敵の艦艇の数は自軍の5倍強、普通なら撤退するか
援軍を要請する数である。しかし、彼等の表情は寧ろ落ち着居ていた。笑みさえ見せる物も居る。
提督が敵旗艦に通信を入れる。
「貴君等に勝ち目は無い、よって降伏勧告を行う、貴君等が速やかに武装解除に応じれば、
貴君等は捕虜として名誉ある扱いを受ける事が可能だ。しかし、
もし、万が一その程度の兵力で我々に刃向かうので有るならば、貴君等はテロリストとして
この世から抹殺される事となる。」
一拍も待たずしてクトゥルフ教団の指導者は返答をよこす。
『だから如何した!?世界の真理も見つけられぬ、愚か者どもが、我々は<大いなる>クトゥルフの尖兵
に過ぎん、我々が此処で戦えば我々の勝ちだ!』
理論事態が破綻している返答に、提督は大げさ気味にため息を付いた。
「言っている意味は分からないが……降伏の意思が無いことは分かった。」
通信が切れた。同時に敵の砲撃が開始される。だが、それは散発的なものだ。旧式戦艦と武装だけ辛うじて
最新式の物を取り付けられた武装商用船が撃ってくるに過ぎない、だが、敵も承知で全力で突撃してくる。
対してグレアム達は反撃の砲撃を開始した。最新式の艦艇はそのクトゥルフ教団艦隊全てを射程に治めている。
前方に配置されていた艦隊は瞬時に火達磨になり爆発四散した。
狂信者の意地かそれでも突っ込んで来るクトゥルフ教団艦隊の一部で変化があった。
旧式戦艦が行き成り爆発したのだ。
「なに!?」
教団の艦長は横で何が起きたのか分からなかった。そして、自分の船の甲板に一人の老人が立っている事に気がついた。
「このタイプの戦艦は実は旧式戦艦としては申し分無い装甲と兵装を持っている。
搭載量、機動力、動力炉出力、航行距離ete,eteどれを取っても今現役で動いている戦艦と引けを取らない、
なら、何故旧式になり払い下げられたのか、」
分かるかね?とグレアムは誰にでも無く問いかける。当然返事は返って来るはずが無い、其処には彼しか居ないのだ。
だから彼は落ち着いて己のデバイスで甲板を突いた。一瞬の静寂、
爆音
彼の足元で戦艦が爆発した。シールドを足元に展開して爆風に乗り上空へと飛び上がる。
「こういう事だ。燃費を追求したまでは良かったが、その結果、知っている者なら誰でも駆動炉を
爆破出来る様になった。それも、ほんの少しの魔力で、」
発覚したのは生産が開始されてからだが、と彼は付け加える。そして6発ほどの
スティンガーブレイドを作り出す。それらは一瞬で目視不可能なレベルに加速して、
全てが武装商船の燃料タンクを炎上させる。燃料タンクの爆発に武装商船は成すすべも無く爆発四散した。
「もろい!!
やっぱり商用船は商用船だな
商用船の安価さに目を付けたのはいいアイデアだが
これでは!!
<旧支配者>の眷属には程遠い。」
圧倒的な強さを持つ彼にクトゥルフ教徒が身じろぎする。周囲を取り囲みながら手を出す事すら
叶わない者達を彼は一瞥した。
「小便はすませたか?」
一歩前に出た。
「クトゥルフへのお祈りは?」
魔方陣が展開された。
「世界の隅でガタガタふるえて 」
周囲に数百本のスティンガーブレイドが出現した。
「命乞いをする心の準備は 」
それらは一斉に向きを変え……
「OK?」
挑発とも死刑宣告ともとれるその言葉が終わると同時に破壊と絶望を撒き散らす。
それを後方から見て苦笑いする少女達が居た。
「お父様楽しそう……」
「なんか、昔に戻った感じねー。」
何時もと違う姿に少し不安(主にぎっくり腰)になりながらも二人は最愛の主の援護に全力で駆け出した。
戦闘開始から僅か10分、すでにクトゥルフ教団の戦団は瓦解を始めていた。
先発師団は壊滅の危機に曝されていた。いや、正確には既に壊滅していると取って差し支えの無い状況だった。
もはや残存する艦艇は2隻、旗艦とアースラを残すのみとなっていた。
その2隻もすでにバリアを展開するのがやっとの状況だ。撤退する余力は無い、
機会なら有った。オトゥームを撃退した時もそうだったし、ズールーが3体纏めて襲ってきた時もそうだ。
だが、平和が長く続いた事が仇になった。大規模な軍事行動の経験不足から来る
些細な判断ミスが致命的な事態を招いた。それが皮肉にも異形の軍団を引き付ける事になり、
他の師団の突入を助けた事を彼等は知らない、知る余裕も無い、
『すまないな、こんな事に付き合わせてしまうとは、』
クロノの前にモニタが映し出される。相手は先発師団の師団長だ。映し出される艦橋にクロノは息を飲む。
そこには彼しか居なかったのだ。
「師団長!?」
クロノの呼びかけとほぼ同時に、旗艦の一部で爆発が起こった。旗艦のバリアが消えていた。
モニタにノイズが走る。
『見ての通りだ。私はこの年だ……アースラには辿り着けん、だからだ……この瞬間より……
先発師団の全権を……君に預ける。分かったな……』
クロノはアースラのメインモニタを見る。今まで旗艦を守っていた。ほぼ全ての魔導師が
異形の囲みを何とか突破してアースラに辿り着こうとしているのが見えた。
『若い君達には……もうし分けない事をした……本当……』
モニタは何も移さなくなった。旗艦が更に爆発する。その旗艦が動いた。瓦解しながらも
目の前の敵、ペシュ=トレンに吸い寄せられて行き、爆発した。恐らく手動で残った全ての燃料に
引火させたのだ。傷つていたペシュ=トレンはそれで活動を停止した。
爆発の直前に辛くも脱出した彼はその様子に満足げに頷くと、向かってくる異形に向き直る。
単体でアースラに辿り着けるなどとは思っていない、だが、
アースラに辿り着こうとする者の援護は出来る筈だ。だから彼は声を張り上げる。
「こい異形ども!!ココに大物が居るぞ!しかも一人で!」
叫びながら有りっ丈の魔力でスフィアを展開、己の体が傷つくのにも構わずに発射した。
「くっ」
クロノは戦況を確認する。旗艦から向かってくる者達を助ける事が出来る戦力は残されていない、
それでもアースラは一応持っていた。駆動炉の出力は低下しているが、バリアは間だ展開できている。
そして既存の戦力に加え、すでに撃沈された艦艇の魔導師達も一緒になって戦っていた。
すでに守るべき船はアースラしか存在しないのだ。最もアースラまで辿り着けた魔導師と
既存の戦力を合わせても、出撃時の戦力と大差が無いのだが、
勢い良くアクセルシューターが飛んでいく、今の激戦区は甲板に張られた治療用の結界周辺である。
なのはその一つから少し離れた所に陣取り、多数の敵を引き付けていた。
魔力の消費を最小限に抑える為に殆ど動かずに、
動かなくなった砲台を盾代わりにして、異形の死骸を囮に使い、仲間の亡骸からカートリッジや
カードを奪って(もらって)休む間も無く魔法を打ち続ける。
フェイトもアルフもここ暫く見ていない、戦場で便りが無いのは危険な証拠だ。
だが探しに行く余裕は無い、
アクセルシューターの一つが背後に降り立った異形の頭部を打ち砕いた。
疲労で狙いが甘くなって居る。頼りはレイジングハートの補正機能と、
疲労を誤魔化す一種の合法ドラックだ。もっともドッラクの方は気休めにしかならないが、
もしかしたら中毒になっているかも知れない、時間の感覚も無くなって来ている。
「しまった!」
一体の異形を打ち漏らした。異形の放った10発の誘導弾が弧を描いて襲い掛かる。
だが、その異形の喉元に一本の槍が突き刺さった。その槍は貫通して飛んで行き
主を失った誘導弾は消滅する。
「無事ですか?」
槍の主は砲撃班だった一人である。敵の猛攻にメンバーを失い、班として機能していない班を解体
再編成して二人から三人一組で行動させている。もっともすでに片割れを失った者も多い
彼もその一人だ。彼は彼女と並んで己が得意な魔法の槍をカートリッジが無くなるまで連射する。
それらは全て異形に命中、貫通した。中には3体同時に仕留めた物もある。
そして慣れた手つきでレイジングハートと同じ規格の弾倉を取り替えた。
その後自分の教官に弾倉が入った袋を渡す。
「コレが最後です。アースラに積んだこの規格の弾倉はもう有りません、」
一瞬袋に目を落すが、直ぐに顔を上げアクセルシューターを補充する。
「分かってる。他の連中には?」
彼も槍を発射する。
「はい、全員に配ってきた所です。」
そうか、と彼女は頷き、念話を飛ばした。
『高町中隊はたった今より、自分の魔力を攻撃、防御に使用する事を許可する!以上!!』
今までは緊急回避以外認め居なかった魔力の使用が解禁された。つまり、もう後が無くなった。
その事実に顔を顰めながら彼女はある事に気がついた。
「お前は何故此処を動かない?」
「隊長を一人にしておけません、」
言い切った彼に対して彼女はため息を付いた。
「此処は一人で十分よ、」
そう言って弾倉を取り外し、バラになっているカートリッジを一つねじ込んだ。一応コレでも機能する
「そのカートリッジは?」
疑問に思った彼に彼女はデバインバスターを放ちながら砲台の影を指差した。
「!?」
そこには流れ着いた魔導師の衣服が落ちていた。胴体だけは残ったままだった。
「彼等の遺物、大切に使う事、決して無駄にしたらだめ、分かった?」
「は、はい、」
「返事は了解、」
「了解!」
彼の泣きそうな顔を見て胸が痛んだ。死体を漁れと言ったも同然である。少し残酷だったかなとも思う、
だが、こうでもしないと死んでしまうのだ。生きている以上はきっと助けが来る。
根拠は何も無かったが信じるしかなかった。今はただ仲間の無事を祈って……
編隊から逸れた異形が一瞬で絶命した。此処は元々先発師団の艦隊があった場所である。
今その船は全て破壊され残骸のみが漂っている。そこにフェイトは居た。
さっき異形を襲ったのもフェイトである。彼女はもう一体異形を仕留めると
艦隊の残骸に身を潜めて異形の群れをやり過ごす。アルフは連れてきていない、
彼女の使い間は今治療用結界の防衛に行かせている。だが、此処に居たのは彼女だけでは無かった。
彼女は元々一人部屋だった所に開いた小さな穴から、持ってきた備品を掘り込んだ。
その辺を漂っていた友軍の亡骸から取った物だ。
そして合図をして中に入る。
そこには一人の男が横たわっていた。パッと身30歳ぐらいだろうか、
見つけた時は虫の息だったが今は治療用のカードで大分回復している。
「大丈夫ですか?」
「ああ、有難う」
彼はそう言うと身体を起こす。彼女はそこに近づいって回復魔法が込められたカードを渡した。
その後バルデッシュに見つけたカートリッジを込めて行く、
一番最後に規格が有っていない小型のカートリッジをセットして、それを最初にロードするように
リボルバーを合わせた。こうするとまずジャムる心配は無い、
「君は……何時まで此処に居る気だい?」
彼の問いに彼女は答える。
「……分かりません、帰艦出来なくなったっと言った方が良いかもしれません、」
そう言って見つけてきた携帯食を食べ始める。
「……さっきアルフから連絡がありました。旗艦が落ちたそうです。」
「なに!?」
彼は彼女の目を見るが嘘を言っているようには見えない、
「私は間だこの艦隊が健在の時に、他の隊員と一緒に援軍に来ました。
連絡要因としてアルフをアースラに残して……
しかし、この艦隊、及び私のいた部隊は全滅です……」
言葉を濁すが彼女が何を言おうとしているのか彼には分かった。つまりは
旗艦が沈んだ今、アースラに敵が集中、単身帰艦するのは自殺行為と言うことだろう、
「……今は生き残る術を探して潜むのがやっとです。」
そう言って床に置かれていた箱を覗いた。そこには色とりどりのカードが入っている。
これでも見つかったカードは全てではない、効果が薄いカードは床に散乱してたり、
直ぐに使ってしまったりしている。さっき渡した治療用魔法のカードも発動が遅くて
戦場での使用に耐えれる物ではない、恐らく艦内の医療スタッフが用意していた物だろう。
「でも……」
彼女の目に微かな光が灯った。
「これだけ物資が見つかったのなら貴方が回復ししだい帰艦を試みるつもりです。」
「どうやってだ?」
彼はそこまで言って思考を停止した。彼女が自分を指差していたからだ。
「貴方は確か整備員でしたね、」
「ああ、そうだが、」
「囮兼トラップに使えそうなものが色々健在なんです、燃料タンクとか、脱出用の小船とか、
……別の船に行く必要が有りますけど、」
彼はようやく納得した。治療用のカードをもう一枚使い起き上がり、
手渡された食料を口に運ぶ、
「そう言うことなら案内してくれ、即席で何所まで出来るかはわからないが
起爆装置ぐらい作れるだろう、」
そう言って笑ってみせる。二人は直ぐに荷物の整理をし始めた。
アースラの物資は欠乏している。一部の規格の弾倉は尽きたとアルフから報があった。
一刻も早く帰艦する必要がある。
艦橋に警報が鳴り響く、もう当たり前の事のはずだが今回の警報は少し違っていた。
「この警報は!?」
間違いない、索敵範囲に何か来たと言う事だ。それも大量に、敵ならば生還不可能が確定する。
エイミィが瞬間でセンサーに目を走らせる。
「4時の方角から大多数の未確認物体、こっこれは……」
「何だ!?」
そう叫んだクロノはエイミィの瞳に力が戻って居る事に気がついた。
「友軍です!右翼師団が突入して来ました!」
ざわついた艦橋を彼が制する
「落ち着け!まだ距離が遠い、居ないものとして考えろ!
各隊長には私が指示を出しておく!
エイミィ、通信は無理か?」
無言で首を振る彼女にため息を付く、通信の為のアンテナが一部破壊されている。
よほどの近距離にならないと通信は不可能だ。そう分かっていても辛い物がある。
クロノが凝視するモニタの片隅で右翼師団に複数のズールーが群がって行く様子が映し出されていた……
希望の光を消すかの如く……
アクセルシューターで近づいた雑魚をなぎ払ったなのはは、一枚のカードを使用、
防御結界を展開して敵の攻撃をやり過ごした。このカードもその辺の遺体から拝借した物だ。
横には彼女の部下の一人がバラのカートリッジを弾倉の挿入口に直接詰め込んでいた。
本来なら危険なやり方だがこの際仕方が無い、少し離れて存在する治療用の結界は間だ持っているようだ。
その事に安堵し、彼女は初めてカードが張った結界に疲労回復の付加効果がある事に気が付いた。
少しだけだが調子が良くなる。結界の内部からアクセルシューターを追加で発射する。
「あの、アレは何か分かりますか?」
行き成り言われて一瞬何か分からなかったが。見渡す必要は無かった。直ぐに異変に気付いたからだ。
空域の一部、艦艇の残骸が漂っている一部で連続した爆発が発生していた。
「……分からないわ、でも気を付けた方が良さそうね、」
そう言いながらも彼女は近づく異形に狙いを定めて呪文を発射する。
一応部下に注意を促す。少し前にクロノから各指揮官に右翼師団が近づいて来ていると
連絡が入った。伝えるタイミングは向こうで指示するからそれまで現場の各指揮官が士気を持たせろと、
だからこそ彼女はあの爆発が気にかかる。あと少しなのだ。それまでに予想外の事、
すでに起こっているが、それ以上の事が起こってしまえば……
フェイトは少し遠くで起こっている爆発を尻目に、脱出用の小船の後部座席から
バルデッシュを構えて居た。今の所周囲に敵は居ない、全て後ろの爆発か前方のアースラに集中している。
後ろの爆発は全て彼女達の作った即席の起爆装置が起こしたものだ。少々時間がかかったが、
自爆装置が生きていた艦艇と合わせてそれなりの数が用意できた。その爆発を担当した人物は今、
小船の操縦桿を握り全力でアースラに向かって飛ばしている。他の小船でオート操縦できる物は
全て適当な位置に突撃させている。こちらはフェイトが仕込んだ物だ。形式的にしか学んでいなくても
案外何とかなる物だ。そしてフェイトの今の仕事は小船に近づきて来た異形を始末する事である。
なんせこの小船は脱出用、スピードこそある程度出るもののそれ以外は必要最小限の物しか無い、
幸い、今の所、異形の攻撃は無い、だがフェイトは既に一部の異形が小船に狙いを
付けている事に気が付いた。自分もプラズマランサーを作り出し、前方の異形に狙いを付ける。
フェイトの帰艦作戦はアルフ経由でクロノに伝えらていた。
今、サブモニタの一つにはフェイト達が乗った小船が写っている。かなり被弾しているが
辛うじてエンジンへの被弾は免れている。小船のエンジンはそのまま出力を兼ねるシステムの為
そこさえ無事なら何とか動く筈だ。だが、アースラまでもう少しと言う所で遂にエンジンに被弾、
コントロールを失いアースラに激突する。助けに行ける者は居ない、
「くそっ!」
やはり帰艦は止めるべきだった。そうすれば援軍が来るまで生き延びられたものを……
だが、彼女は大量のカードと共に帰艦する事を望んだ。物資が殆ど底を突いている
アースラにとってはそれは何にも変えがたいものだった。かさ張らないカードは
彼女達が持って帰れるだけでも十分な物資を齎すのだ。だから彼は帰艦を命じた。
だが、結果はこれだ。拳を握り締めた時、念話が唐突に繋がった。
『クロノ!今、第2医療結界の中に居るの!非戦闘員を届けたいけどどこか開いてない?』
『!、生きてたのか!?』
『転送用のカードが間に合ったの、そんな事より、』
少し待てと言って彼はエイミィに指示を出し、帰ってきた答えをそのまま伝える。
『カードはどうなっている?』
『身に付けている分は全部持ってきたけど、それ以外は船の中、それでも箱に入れて多分だけで
200枚位有ると思う、あとさっき言ってた彼も同じぐらいあるわ、』
予想以上の量を集めていたようだ。彼の持っている分は一旦アースラに入れて、
フェイトの持っている分は適当に配るように指示を出す。
すでにルルイエ内部には左翼師団、中央師団も突入していた。戦況は此処を除き次元世界連合の側に
大きく傾いている。さらに右翼師団で大きな動きが起こった。
「右翼師団、敵防衛ラインを突破しました!」
「そうか、なら今が出所だろう、」
そう言って彼はデュランダルを起動させた。敵が突入してきた各師団にバラけて大物が来なくなったとは言え、
アースラは何時沈んでも不思議で無い状態なのだ。最後の予備戦力を投入するのも良いだろう、
早足で内部からの転送用ハッチに向かい、
「エイミィ、後は任せた。」
それだけ言って出撃した。
一瞬の眩暈が終わるとそこは既に敵陣の真っ只中だった。スティンガースナイプで敵を一気になぎ払う
そのまま新たにスティンガースナイプを作り出すと、彼は全力で念話を飛ばした。
『総員に告ぐ!
今、右翼師団が戦線を突破
全力で我等の艦を目指している!』
なのは、アクセルシューターを放ちながらその声を聞いた
横では彼女の部下が魔法の槍を飛ばしていた。
『救いはそこまで来ている!
戦況は直ぐに覆る!
なら我々が成すべき事は何だ!?』
アルフは治療用結界周囲の敵を砕きながらその声に耳を傾ける。
問いの答えは分かっていた。
『諦めない事だ!
屈しないことだ!!
ここを死地と思わないことだ!!
生き残る事だ!!』
フェイトは義理の兄の叫び頼りにプラズマランサーを連射し、
今は見えない親友と使い間の無事を祈る。
『分かったなら気合を入れろ!
消えた闘志に火をつけろ!
古いだけの支配者に
人間の……
今の支配者の底力を見せ付けてやれ!!!』
返事は無い、する余裕が無いからだ。そう考えていた彼の予想を覆す声が上がった。
正確には念話が繋がった。
『了解!』
なのはの声だ。そしてそれを追うように次々と念話が帰ってくる。
予想外の事に少し驚きながらも、今度はスティンガーレイを立て続けに放って異形を葬りさる。
敵陣のど真ん中で激しく動き回る彼の背後からこぼれる物があった。カートリッジだ。
一度出撃した際に持って行った物をそのまま艦橋に戻って来てしまっていたのだ。
だが、今の彼にとってその判断ミスは大きな助けとなった。カートリッジはすでに
敵陣にほぼ全てが舞っている。それを確認すると前の出撃用に用意していた魔法を発動させた。
轟音
次の瞬間、カートリッジ全てが連鎖的に爆発し、異形を敵陣ごと吹き飛ばしていた。
その中心に佇み一息を入れる。これで退路が確保できた。しかし、その安堵を吹き飛ばす通信が入る。
『クロノ……前見て!』
言われた通りに前を見て絶句する。漆黒の触手と赤い目を持つ巨大な塊、ペシュ=トレンが近づいてきていた。
さらにその影から何かか高速で飛び出してくる。間違い無い、オトゥームだ
彼は無言で息を呑んだ。自分がやるしかない……
なのはある事に気付き、最後の弾倉を手に取った。それとは別にバラのカートリッジを挿入、
自分の腕には疲労を紛らわせる為にドラックを注入し、最後にいくつかのカードをポケットに仕舞う、そして、
「お前の任務はココの死守だ。」
「何処へ!?」
「地獄……」
短いやり取りの後、飛び出した。一瞬で異形を振り切り、その後頭部を蹴って加速する。自分がすれ違った異形が
魔法の槍に串刺しにされ、その槍はさらに後ろの異形に突き刺さった。自分擦れ擦れを飛ぶ槍に彼女は頬を緩める。
(迷いが無い、狙いも正確、判断も良い、もう立派なAsね……。)
恐らく自分は死ぬだろう、だが、その前に一人前のAsを育てる事が出来た。教導官として此れほど嬉しい事は無い、
餞別として魔力が切れかけた槍の一つを一寸レイジングハートで突いてやる。
軌道を逸れた槍は軌道に居ない異形を貫いて止まった。そして彼女は加速する。
すでにアースラを超えていた。そこで一人の男が死のうとしている。だから彼女は先に来た死を弾き飛ばす。
オトゥームは、そこで初めて彼女が戦闘に値する敵であると気が付いた。前面に立っても動かない男より
後から来た女を優先する。オトゥーム特有の行動なのだろうか、彼女に向かって騎士の様に一礼した。
何を思ったか彼女もそれに返礼する。気が付くと周囲には二人の他に異形さえ居なくなっていた。
クロノはそれを苦々しい思いで見ていた。一応援護にスティンガーブレイドを打ち込むも
利いた様子が無い、それに彼の敵は今、眼前に迫っているペシュ=トレンなのだ。
普通なら艦砲射撃の連続で倒すべき相手である。だか、頼みのアースラはすでにバリアを張るのも苦しい状況だ。
ふと横に気配を感じる。この感じは敵では無い、
「誰だ?」
「援軍、クロノ一人じゃ無理だもの、」
「!?」
そこに義妹が立っていた。少し焦げたバリアジャケットに返り血で汚れた長い髪、
バルデッシュにはカートリッジも満足には入って居ないだろう、だが、その目には強い決意を宿している。
だから彼は頷いた。
「助かる……近づかせればアースラが落ちる。打って出る。」
「任せて!」
二人はどちらが合図する事も無く飛び出した。二人の周囲を旋回スティンガースナイプは異形達を寄せ付けない
二人は最短距離でペシュ=トレンに取り付いて、最初の一撃を叩き込む、
直ぐに眼下、触手の海が一面の魔方陣で覆われる。生まれれるのは誘導弾の津波、
その密度はすでに液体と言っても差し支えなく、傍から見ると間欠泉やプロミネスの様である。
そして異形達はその間を縫うように二人に襲い掛かる。
「フェイト!分かっているな!」
「うん、任せて、」
ペシュ=トレンの誘導弾の精度は低く、人間相手にそうそう当たる物ではない、危険なのはそれに気を取られている
内に来る異形である。誘導弾の海は大きく二人を包囲し、追いすがる異形ごと押しつぶそうとする。
しかし二人は別方向に動き、その包囲を脱出、異形だけを効率よく潰してく、今の狙いはペシュ=トレンの
魔力の消耗だ。何時になるか分からないがこんな量の誘導弾を操り続けることは不可能なはず、
用はそれまで逃げ切れば勝機はある。上空を誘導弾の天蓋で覆われた二人は気が付かなかったが、この時、
実はすでに勝負は付いてた。
クロノに変わって指揮を執るエイミィは二つの戦闘をサブモニタに映しながら唇をかみ締める。
そこに映るのは誘導弾の群に隠れて見えない最愛の夫とその義妹、そして敵を引き付ける事がやっとのなのはだ。
3人の援護に向える戦力は無い、精々なのはの方に散発的な誘導弾が向う程度である。
船を預かった者として、この船は守り抜かねばならないと言う気持ちは強い、だが、
艦砲は愚か動くことすら間々ならない船と枯渇した物資、足りない人員でどうやって守れと言うのか、
預かった相手さえ帰って来るとは限らないと言うのに、
船の魔力燃料に目を走らせる。旗艦沈黙から急速に減りだしたそれはもはやレッドゾーンに突入している。
動いている時にそれを見るのは初めてだ。余裕が無くなって死ぬよりはと迫り来る最悪の事態に備えて
支持を飛ばそうとし、艦内放送の通信を開こうとした時にそれは起こった。
雑音
魔道レーダーに強烈なノイズが走る。それと同時にアンテナがやられているはずの艦外通信システムもノイズを拾う、
彼女はこの現象に心当たりがあった。
強行転送、
それもこの反応は相当な規模である。
「何が!?」
答えは直ぐに出た。異形の群の向こう、アースラを取り囲む異形をさらに取り囲んで無数の艦艇が出現した。
右翼師団が危険地帯への転送を強行したのだ。直ぐにペシュ=トレンへの砲撃が始まり魔導師が飛び出してくる。
歓声が上がりそうな艦橋にエイミィの叫びが響く
「アルフに連絡を!二人を撤退させて!!急いで!砲撃に巻き込まれる!!」
その叫びに再び艦橋が騒がしく動き出す。程なくしてノイズ交じりの通信が繋がった。
現れたのは前に見た右翼師団師団長である。
『無事かね、ハオラン提督?』
その声にエイミィは苦笑する。
「師団長代理は今、ペシュ=トレンと交戦中です。同様に交戦している
フェイト・T・ハオラン執務官の使い間アルフを通じて連絡が行っておりますので、直ぐに帰艦すると思います。」
その返答は予想外だったのか、少々驚いた顔をする彼を映すモニタの横にもう一つモニタが開く
『エイミィ、そちらはどうだ?』
「え、クロノ君、今どこ?」
思わず素に帰って返す彼女に彼は事も無げに答える
『通信アンテナの前だ、ココなら通じる。』
「そっそう?それなら、通信変わるね、」
それだけ言って二つのモニタを直接リンクさせる。そして残ったもう一つの戦闘を注視する。
こちらは未だ終わっていなかった。
飛び掛っていった右翼師団の魔導師が弾き飛ばされる。その首が不自然に曲がっているのを見て
なのはは唇を噛む、オトゥームは基本的に彼女狙い、他人の心配をしている余裕など無いはずだが、
一度覚悟を決めたから不思議と精神的な余裕がある。もっともカートリッジは後一発、
カードは使い切ってしまった。オトゥームの攻撃を巧みに避けながら現状を整理する。
右翼師団の到達でアースラ周辺の敵は駆逐されようとしている。但し、中央にアースラがあるため
右翼師団も迂闊な攻撃が出来ずに魔導師を使うより他が無い、他のAAAクラス以上の魔導師達は
右翼師団の外から来る敵の迎撃に回っている。そこまで整理して、なのは覚悟を決めた。やはり
この敵は自分の敵なのだ。直ぐに周囲を確認する。そして、見覚えのある船に気が付いた。
レイジングハートを介して念話を繋ぐ相手はミッドチルダ第295艦隊の旗艦である。
通信は直ぐに繋がった。
『大丈夫か!戦乙女(ヴァルキリー)!!』
急降下した頭擦れ擦れをオトゥームの高速弾が駆け抜けていった。
なのは迷わず前に出ると急上昇して残りの高速弾を回避する。
流れ弾が出るがそこまで気を使う余裕は無い、
『ルルイエ先発突入師団、アースラ艦隊、巡航L級8番艦アースラ所属、高町中隊隊長、高町なのはです!』
そう抗議し、眼前にシールドを展開、誘導弾がそれを砕くが、その一瞬の減速を利用、側面から叩いて
別の誘導弾にぶつけて破壊する。
『そう怒るな、援軍だな、俺が行ってやる。』
そう帰ってきてこけそうに成る。確かに若くして提督になるような人物のほぼ全てが
本人がその船の切り札(ジョーカー)に成る様な人物であるのは知っている。つまり最大戦力を投入してくれる
と言いたいのだろう、だが、
『戦力に余裕が在る内から!指揮官が出て如何するんですか!
それより!』
なのはは手短に用件を伝えて通信を遮断した。
「全艦準備に入りました。」
オペレーターの一言に彼、ミッドチルダ第295艦隊の提督は頷いた。
さっき通信していた戦乙女(ヴァルキリー)こと時空管理局の教導官高町なのはの要求は
艦艇5隻分の主砲を指定した位置に集中させてほしいと言う物であった。場所はアースラの上空で、
結構細かい位置指定まで来た。補給の為下がっていた彼の艦隊なら確かに丁度良い位置にある。
一応前方の艦隊に注意を促し、疑問に思う、用はオトゥームにその主砲をぶち当てるつもりだろう、
だが、どうやって?それ以外の要求は直前の目くらまし(誘導弾限定の集中攻撃)だけである。
それでも要求に応じたのは、彼女に対する恩義である。聴くところによると自分の艦隊が
追い詰められた時、次元間広域攻撃の儀式を執り行った一人が彼女らしい、だから
今度助けるのは自分達だと言う思いが強い、
「準備完了しました。」
見ると、この船を始め、周辺の船の主砲のチャージが完了、余剰エネルギーを放出している状態になっていた。
「よし、彼女に通信を入れろ、」
なのはは、準備完了の通信を受けて、現状を確認、直ぐに返答する。
『今から6秒後に目くらまし、9秒後に主砲発射お願いします!
1!』
その言葉と共に旋回、鈎爪を回避する。続いてデバインシューターを生成、それをほり投げると
無視しして迫り来るオトゥームの顔面に漂わせる。
『4!』
周囲で誘導弾が生成された事を気配で感じ取る。
『5!』
約束の時間に合わせる為に誘導弾が発射される。それに合せるように彼女杖が変形を始めた。
最後のカートリッジを消費してエクセリオンモードを起動する。
『6!』
誘導弾が着弾する。それに合せて彼女は突撃、A.C.Sが展開され3対の桜色の翼が出現する。
誘導弾の目くらましは前回のアレを防ぐためである。魔力の刃がオトゥームの腹を捕らえたのを感じた。
作戦は成功だ、だから彼女は加速する。もう数字のカウントを止めていた。
カートリッジが無い為その魔力の全ては彼女持ちだ。急速に魔力を失うのを感じながらもオトゥームと共に
目標地点にたどり着く、それはカウントを始めてから丁度9秒目の事だった。
「あの馬鹿!!」
モニタ越しにその様子を眺めていた295艦隊の提督は彼女の狙いが分かり絶句する。
彼女が目指すのは砲撃が収束する場所で間違いない、自分ごとオトゥームを葬る気だ。
「砲撃止めろ!」
慌てて叫ぶ彼にヒステリックな声が返って来る。
「もう無理です!」
次の瞬間、5隻の主砲が二人に目掛けて発射された。
閃光
轟音
「馬鹿が……」
誰かが履き捨てる声が聞こえた。彼は艦橋からモニタを見据える。着弾地点は余剰魔力の煙で良く見えない、
確かに、彼女の判断は正しかった。指揮官か出撃するなど非常事態以外許されるものでは無い、
高いクラスの魔導師を待っていては流れ弾でアースラが沈む可能性が出てくる。
AAAクラスの魔導師を失うのは痛いが、それがオトゥームと交換となると
話は別だ。戦力的に考えて割りの良い交換である。だが、それは理屈に過ぎない
握り閉めた拳から血が出そうになった時、モニタが晴れる。
「な……」
その光景に全員が凍りついた。生きていたのだ。二人とも……但し、発射前と違う所が一つだけあった。
モニタに背を向けたオトゥームの背中から桜色の魔力刃が貫通している。そしてオトゥームは痙攣を
繰り返すだけだ。そこで彼は彼女がオトゥームを盾にして砲撃をやり過ごし、さらにその圧力で
刃を貫通させた事に気が付いた。最早オトゥームは虫の息だ。そこで更に魔力刃が輝く、すると
オトゥームの内部で爆発が発生、満足なバリアを張る余裕さえ無くなっていたオトゥーム砕け散った。
なのはは砕け散ったオトゥームが再生しない事を見届けるとふと力を失った。フライアーフィンが消えている。
レイジングハートも自然とアクセルモードにもっどていた。緊張の糸が切れたのか、それとも魔力が尽きたのか
真っ直ぐアースラに目掛けて落ちていく、そこに突っ込んでくる影があった。
高速移動に特化した異形が生き残っていたのだ。抵抗できない彼女を葬ろうと魔力刃で出来た爪を伸ばす。
しかし、彼女は少し笑っただけだった。
鈍い音がする。真下から放たれた魔力の槍がその異形を貫いたのだ。その槍は彼女が異形とすれ違った後、爆発し
貫いた異形を吹き飛ばした。
そして、何者かが甲板に落ちてきた彼女を抱きかかえる。
「ただいま、留守番お疲れ、」
ここは彼女が部下の一人と共に守っていた砲台だった。自分の教官をお姫様抱っこで抱える羽目になった彼女の部下は、
どっと疲れた表情で機能していない砲台に腰を下ろす。
「どうしてあんな無茶をするんですか!?」
思わず強い調子になってしまった事を後悔したが、一仕事終えた彼女は笑って答える。
「全て計算の内だ、だから無事だった、」
口調は普段接している教導官のソレだが、表情が力の抜け切った笑みでは迫力が無い、彼は少々面食らいながらも
この一帯はすでに安全な場所なのだと実感する。
「終わってから異形に襲われたら意味ないですよ……」
それでもなお力の無い抗議をする彼の頭を、やはり力の篭らない拳で小突く、
「言ったっぞ全部って、お前の判断力、命中精度、発射時間、そして位置、
全部頭に入っているから実行に移した。何も問題は無い、」
そして一息、
「でも計算違いが二つ、」
そこまで言って彼女は彼を指差した。心当たりの無い彼はただ戸惑うばかり、
「槍を爆発させて流れ弾になるのを防いだな、上出来だ。お前は一瞬とは言え私の読みを超えたぞ、
誇って言い、」
褒められて素直に喜ぶ彼に、少しだけ苦笑すると自分の足を指す。
「もう一つは自力での帰艦が出来なくなった事だ。」
「え!?」
みると彼女の左足の足首から下が無くなっていた。血が出ないのは重度の火傷の為だ。
「オトゥームのバリアからはみ出してしまってな、これでは歩け無いし、魔力が無い以上飛ぶことも出来無い、」
誰がどう見ても重傷だが、彼女の顔には余裕があった。もしかしたら完全に麻痺しているのかも知れない、
傷など無いかのように顔を覗き込む
「そしてお前の魔力は私を抱えて飛ぶほど残っていない、」
図星を突かれて口ごもる彼にクスリと笑い天を仰ぐ
「幸いここには敵が居ない、お前は帰艦しろ、私は誰かに拾われるのを待つとしよう、」
「しかし!」
食い下がる彼に彼女は目を向ける。その表情に彼は息を呑む、今までの力が抜けた笑みではない、
自分達をしごき倒していた鬼教官のそれである。
「私の命令が聞けないのか?」
「と言うより聞く必要が無い、」
突然、背後から声がして慌てて振り向いた。立っていたのは黒衣の魔導師、この船の艦長にして
提督、そして現在では先発突入師団の全権を預かる男である。驚いた彼は横目で自分の教官を盗み見る。
彼女は苦笑していた。気付いてはいたが割り込まれるとは思わなかった、そう言う顔である。
「必要な燃料の補給が終わった。一度ルルイエを脱出し状況の整理とアースラの修理を行う、
総員アースラに撤収だ。もっとも、残っているのは私達だけだがな、」
その言葉と共にデュランダルから魔力が溢れ、レイジングハートに吸い込まれていった。
魔力の供給を受けたなのはが浮かび上がり、二人がそれに続く、右翼師団はまだ激しい戦闘を続けていたが
その戦線は休む事無く上昇を続け、すでにアースラ周辺は後方になりつつあった。
はやて「あれ?ここで終わりか?」
シャマル「出番が在るって聞いてたけど……?」
ユーノ「本当はルルイエ戦最後までやるつもりだったらしいね、
でも長引きすぎたんで一旦切るらしいんだ、」
副司書長「おかげで前回の次回予告が謎な事になてしまいました。」
ヴィータ「GONGと嵐の英雄(ヒーロー)と限界バトルをエンドレスでかけるからこうなるんだ。
吸血鬼退治やってる奴も居るし、」
シグナム「それで出番が無かった組が言い訳に使用されている訳か……」
リンディ「そう言うことね……で、言い訳ついでに今まで無限書庫で出たネタを整理しようと思うのよ、
良いからしら?」
ユーノ「本当は終わってからやる予定でしたが、良仕方が無いね、では先ずは一つ目
第2話登場のデモンベイン……説明不要かも知れませんねこれは、
科学と魔導技術によって繁栄の極みにある都市アーカムシティから始まる物語です。
作者が未プレイなので細かい解説は控えます。」
副司書長「次は第3話の高橋葉介、夢幻紳士や漫画版帝都物語で知られている漫画家です。
彼の作品にはクトゥルー神話由来の単語がたまに登場しますね、作者が見つけたのは
ユゴスだけですが、」
ユーノ「最後が第5話の魔導物語、一番分けが分からないと思うかも知れません、
なんせコンパイルのアルルやシェゾが漫才やるアレです。
実はSS(セガサターン)版の敵はヨグス(とその分身ヨグ)と呼ばれる目玉の怪物です。
モデルは<外なる神>ヨグ=ソトースで間違いありません……以上かな?今出ているのは」
ザフィーラ「なるほど、まあ大御所が多いから分かりやすい方か、次で6話が終わる事を祈る。」
はやて「その前に書く時間あるんかいな……」
……と言う訳ですみません、6話はまだしばらく続きますがひと段落したので投下しますorz
無駄に長い上に戦闘が単調だ……変化を付けねば……orz
グレアムさんとかクロノの演説とか蛇足もいい所だし…orz
反省点多すぎ……
>>396氏
遂に激突!なんかもう一つぐらい想定外の事が起こりそうな気がしてなりません、
グレアムさん暗躍中で仮面の男乱入とか(マテ
>>640氏
ヴィータ乱入で第2ラウンド突入
戦闘シーンが見易くて羨ましい
>>137氏
一応書き終わったら後書きか何かを入れたほうが良いですよ、
そこで終わりと示す物が欲しいです。
>>6スレ480
>無駄に長い上に戦闘が単調だ
や、なかなか燃えますた。なのはさんカコイイ。次も待ってまつ。
グレアムさんぎっくり腰w
すげえかっこいい。そしてユーノの精神がどうなってるのか心配(汗
なのはの部下の名前が知りたいです。
なぜなら彼もまた、Asだからです。(ヴェルタースオリジナル風に)
あの雲のように
第一章 第四幕
「…………」
目覚めは早かった。
別れの朝――孤独へと戻る時間。
だというのになぜこの部屋は暗いのか。
今日は雨か、はたまた曇りか。寝足りないような体を起こして窓の外を窺う。
曇天でない澄み切った空。窓を開ければよく冷えた風が頬を撫で半分落ちていた意識を少しずつ覚醒させてゆく。
星は瞬き、月光は煌々と漆黒の大地を、森を照らしていた。
「ふぅ……寝付けないだけか」
早起き過ぎた所で三文が増えるわけもない。大体、得になった覚えなどない。
二度、頭を振り天を仰いで一息。白く染まった吐息はすぐに消えた。もう秋も半ば、冬の到来が近い。
冷えぬ内にさっさと寝るに限る。経験論は嘘をつかない。
窓を閉めようと手を伸ばした。
「……ん?」
少し身を乗り出したおかげか、ふと動かした視線の先にシグナムは茜を見つけた。
「夜明けか……何を考えている、あれは――」
悪寒にも似た懐かしい感覚が全身に走った。筋肉は硬直し、鼓動が段々と早くなる。
西から昇った太陽――否、それは業火の光。戦乱の欠片。
遠目に見つけたそれはつい数日前に自分が通り過ぎた街に。距離、方角、なにより天高く聳えていた時計塔がトーチになって否応に非情な事実を教えてくれた。
「東の賊か……」
握った拳が小刻みに震え始める。
弱者を蹂躙し罪なき命を根絶やしにする所業。占領などと半端に生かしはしない。
奴らの強いる選択は二つに一つ。生か死、勝利か敗北か。蛮族にしか出来ない明快な考えだ。
だがその行い、揺ぎ無い正義感を持つ者なら誰しも憤怒する。
「それが……どうした。私には関係ない……っ」
沸騰寸前の激情を押し殺しシグナムは目を背けた。騎士ではない、もう西国に忠誠を誓っていた人間ではない。浪人風情が関わることではない。
無駄なことをして命を落とすくらいなら携えし剣を抜く必要などどこにもない。力があっても命あっての物種。
これまで三度そうやって来た。今更手の平を返してなんになる。
おそらくシグナムにとってこの瞬間だけはどんなに時が過ぎても消すことのできない葛藤だった。騎士として彼女はあまりに真っ直ぐに、馬鹿正直に生きてきてしまった故に。
「関係ないのだ……」
関係ないのに……今もそう割り切れたはずなのに。
「関係ないというのに……」
彼女の覚悟は所詮、自分を偽るための言い訳でしかなかった。
「お前という奴は――!」
初めからシグナムに目を背けることなど出来はしない。何かの拍子に容易く崩れてしまう危うすぎる決意。
彼女の人間はそこまで柔軟に、奔放に振舞えなどないのだ。
「この大馬鹿がっ!!」
彼女はその感情をぶつけていた。
嫉妬にも似た、怒りそのものをもう主のいないベッドに向けて。
小奇麗に整えられ最初からシグナム以外泊まっていなかったのではと錯覚するくらい整然としたベッドへ向けて。
あのお節介は碌な力もないくせに行ってしまったのだ。
何か出来ることがある。黙って、目を逸らすなんて出来ないと意気込み勝手に一人争いに包まれた街へ行ったのだ。
確証のない憶測。しかしシグナムの確信は彼女の意思に寸分違わず合致していた。
「化けて出てこられるなど堪ったものでは……ない――!」
立てかけてあった剣を腰に。薄汚れた銀甲冑に身を包み、彼女は目覚める。
「まともな飛行魔法……破門以来か」
開け放たれた窓に足をかけ、夜風に身を馴染ませる。
微かに鼻につく焦げた匂いは心なしか血の匂いが混じっている気がした。
そう思い込める辺り、まだまだシグナムの中の騎士は訛っていないようだ。
「飛べるな……レヴァンティン」
内心、不躾な問いだと彼女は思った。
彼を受け継いでからまともな言葉はかわしたことはない。ただ目的のために振るうだけの力。便利な護身道具。
そんな彼の力をシグナムは心から欲している。忘れかけ、燻っていた己をもう一度燃え上がらせるために。
『Jawohl』
彼に否定の意思は――ない。
彼はこの瞬間を待ちわびて、待ちきれなかった。静かに、暗闇を震わす響きでも彼の中の炎は轟々と渦巻いている。
彼女の中で今まさに燃え上がろうとする炎が剣の体を心地よいほどに疼かせる。先代にはまだまだ遠く及ばないだろうがそんなのどうでも良い。
「捨てることなど……逃げることなど……出来ない私を許してくれ」
『Sorgen sie sich nicht』
彼女がどんな騎士か、先代から常々聞かされている。彼女の手に渡る前夜は特に饒舌――もっとも宴の後で相当酔っていたのだが――であった。
新たな主は自分と相成って真面目一徹。母親譲りか、男共に囲まれて育ったせいか。
騎士として実力は申し分ないが女としてはもう少し色を磨いた方がいい。
今のままでもいいが多少なりとも女としての度胸を持った方がいいとか。たわわな果実なのだからとかなんとか。
子を思う親の気持ちというものは自分の概念からすると正直良くわからない。人ならざる機械仕掛けの存在だからこそ当然ともいえるが。
それでも不思議と伝わってくるのが苦楽を共にした相棒だから。心が喜んでいることは自分にとっても喜びだ。
「ふっ、そうだな。お前を託された意味……それなりにわかった」
相棒は騎士としての彼女を高く買っていた。そこに親の情などというぬるま湯の情は存在しない。
彼が認めた、その事実だけで彼女の剣になるに値する。
握り締め、柄の感触を痛いくらいに確かめるシグナムは以前のような陰気振りまく憮然とした顔ではない。最も彼に目はないのだが少なくとも感じてはいる。
「まったくあいつの言う通りだから困るものだ」
空っぽの心と彼女はシグナムを比喩した。尤も彼女にしては別意味を含んだ言葉でもあるのだが。
「……空か」
何が一端の騎士だ。
目の前にぶら下げられた餌に夢中で何一人自分で道を見つけられない。親のおかげで道を歩ける。
――子供だ。どうしようもないくらい、一人では満足に歩けない幼子同然だ。
父を追うことが己の道。がむしゃらに走り続けた自分がその道を走破したとき何が残る?
きっとそこに佇んでいるシグナムは父を真似ただけの騎士の形をした空っぽの子供に違いない。
そうして迷うのだ。道を失って、けれど目の前に新たな道がぶら下がってないのだから。
「中身を詰めろ……なんてあなたらしい。分かり易過ぎですよ父上」
本当に必要なことはたった一つ。
他人で己を磨くことなく、己で己を磨き続ける。
行く先のある目先の道ではなく、果てすら見えぬ道標すらない自分だけが歩いていく道を見つけること。
「今までの無礼……許してくれますか?」
父の言葉を反芻し、父の想いを心で感じ、父の偉大さを今一度胸に刻んだ。
互いに鼓舞する心。シグナムは剣の中の炎を感じ、剣もまたシグナムの中の炎を感じた。
シグナムの心に差し込む光明は光と呼ぶにはあまりに熱く、眩い。
剣は相棒の最後の言葉を思い出す。
――道を探す彼女の支えとなれ、道を進む彼女の灯火となれ、と。
「頼むぞ、我が剣……レヴァンティン――!」
放浪は随分と長い寄り道であった。それでもつりが来るほど価値のあるものをシグナムは見つけた。
まだ入り口に足を踏み入れただけ、どんな道かは分からないけど、一つのたびが終わり新たな旅が始まったことに変わりはない。
「全てが終わったら少し説教してやらないとな、無茶好きの馬鹿に」
悪戯っぽい目つきに口元を吊り上げて、彼女にしては珍しい表情を滲ませて足が窓枠を蹴り上げた。
月夜に騎士が舞う。紫苑の髪をなびかせて天高く昇っていく。
シグナムは刃を抜く。抜かれる傍から炎を吹き上げレヴァンティンもこの上なく上機嫌。
人の言葉で訳すなら彼女はヤル気になった。そのヤル気が格別の燃料だ。
町は炎に包まれている。我が心はそれ以上に炎上している。
眼下に捕らえしは無数の黒竜。闇を固着させたかのように鱗はどす黒く、血よりもくすんだ赤眼が炎に染まる悲劇を映し出す。
腕を振り上げ、その先に逃げ惑う無力な人々。女と子供、おそらくは親子。
振るわれるだろう斬撃は簡単にあの者たちを死へと誘うだろう。
「そうはさせん! いくぞレヴァンティン!!」
『Jahoooole!!』
魔の剣吼え、焔と化す――!
「我は誇り高きベルカの騎士……ゾンネファルケン唯一の騎士にして――!」
父の爆炎にはまだ程遠い。
だがもう追い続けはしない。
私は私の道を行く。私なりの炎になって見せよう。
その炎の名は
「烈火の将! シグナム!!」
名のごとく荒ぶる赤が全てを焼き尽くす。
「受けよっ!」
ただ我が行く道の名前はよくわからない。本当は分かってるのだけれど分かりたくはなかった。
それはきっとこの戦いが終わった時、あの大馬鹿者の前で言ってやりたいから。誇らしげに胸を張って、ざまあみろと言わんばかりに笑い飛ばしたやりたいから。
連れて行くなら私も連れて行けと思い知らさせてやる。
迷いは――
「紫電! 一閃!!!」
――断つ!
次で第一章は終了、二章はヴィータで
三作並行作業で首を絞める私
>>396氏
いよいよ対決ですか
なのはもフェイトも相当苦労しそうで
>>640氏
ユーノじゃなくてヴィータでしたぁぁ!
なんかすぐにやられそうな不憫臭が
>>6スレ480氏
大規模戦闘、乙です
でもこれもうなのは・・・? 頭の中じゃ舞乙の頭領が暴れてる始末です
こんばんは396です。忙しくて2chすら見れませんでした…。
久しぶりにスレを覗くと他の職人さんの投下ラッシュで嬉しい限り。
読んでばかりもいられないので続きを投下します。
魔法少女リリカルなのはA's++
第十四話 「覚めない夢」
暗雲が大地を覆い、木々は吹き荒れる。それはまるで今のなのはの心を表したかのようだった。
自分の背中を守ってくれていた少年が、自分を撃つと言っている。
見ている全てを疑いたくなる。仲間であり、幼馴染であり、大切な人…。
その人が今、自分の前に立ちはだかっているのだ。
少年は黒服をバリアジャケットに変える。その姿もまた、見たことのあるものだった。
間違いであってほしいともがく自分と、現実を受け入れないといけないと叱咤する自分。
そのアンビヴァレンスがなのはの心を苦しめる。
喉の奥から搾り出すようになのはは声を上げた。
「お願い!理由を聞かせて!!」
その声を聞いてもユーノは無表情になのはを見つめていた。
管理局を裏切った理由が、戦わなくてもいい選択肢があるはずだ。
なのははユーノの次の言葉を待った。きっと考え直してくれる。そんな淡い期待を込めて。
しかし、返ってきた言葉はその全てを否定するものだった。
「杖をかまえて…」
なのはは目を見開いた。ユーノの決意は固い。
ぽつぽつと雨が降り始め、だんだんと雨脚は激しくなってくる。
まるで餌を前に猛獣が喉を鳴らしているかのように暗雲の中で雷が蠢く。
なのはは悟った。たぶんこのまま戦いは回避できない。ユーノがそれを強く望んでいる。
それがわかったら涙が溢れてきた。しかし、その涙も頬に当たる雨で流される。
「僕と戦うんだ」
「なんで!?そんなのできない…できないよ!!!」
腰の後ろから短剣を取り出したユーノになのはは必死に叫んだ。
ユーノが両手に持つその刃はそれぞれ違う形状をしていた。
明確な敵意。武器を向けることがそれを如実に表している。
ユーノのその迷いのない瞳がなのはを怯えさせた。
つい数週間前には遊園地に行く約束をしたはずなのに。何が彼をここまで突き動かすのだろうか。
「引けないんだ。それに、引かせるわけにもいかない。だから…」
夢なら覚めてほしい。そんな子供のような願いすら、なのはは願わずにいられなかった。
(ユーノ君…どうして…?)
震える手でレイジングハートを握り締める。そしてユーノは武器を構え、叫んだ。
「だから、僕と戦え!!!」
稲光りとともにユーノは高速で向かってきた。それになのはは反応し杖を構えるが、動けない。
その瞬間レイジングハートがキラリと光った。
『Axelfin』
その声になのははハッとし瞬時に魔力を込め、上空へと急上昇する。ユーノはその高速移動にナイフを空振りした。
無意識の行動にぼんやりとしながらもなのはは上空からユーノを見下ろした。
ユーノもこちらを見上げているようだが暗闇でその表情はよく見えない。
『Be steady, master』(しっかりしてください、マスター)
いまだに現状に困惑しているなのはにレイジングハートははっきりと言った。
『He has the possibility to be brainwashed』(彼は洗脳されている可能性があります)
「えぇ!?」
自信満々に(?)そう言い放ったレイジングハートになのはは驚きの声を上げた。
たしかにユーノにあるまじき行動だし、その理由はいまだにわからない。
可能性がないこともない。それでも、はっきりとした意志と普段のユーノの雰囲気がなのはを惑わせる。
もしかしたらこの発言はレイジングハートなりの励ましなのかもしれない。
『We will make him wake up』(目を覚まさせてやりましょう)
その強気な言葉になのはは苦笑した。そうだ。相手が言うことを聞いてくれない時は、戦ってでも理由を聞く。
今までだってそうしてきたのだ。荒っぽいかもしれないが、相手もそれで満足するならやむを得ない。
考えていても、迷っていてもしかたがない。
「うん!そうだね。ゴメンね、心配かけて」
『All right』(かまいません)
ぐっとレイジンハートを握りしめ、なのははユーノをしっかりと見据えた。
彼が間違いを犯しているなら、それを自分が止めなければならない。止める力、変える力こそ、彼との出会いで得た力。
「絶対負けないから、お話聞かせてね!」
『Ignition』
レイジングハートがエクセリオンモードに形を変える。なのはが本気の証だ。
それを見てユーノは微笑んだ。
(そう、それでいいんだ)
ユーノも左手のダガーを握り締め命令する。
「ディフェンス」
『Mode:MAIN GAUCHE』
無機質な声とともにダガーの液晶が青紫色に光る。
「シュート!!」
『Accel Shooter』
レイジングハートから6発の光弾が飛び出す。それを見た瞬間、ユーノはなのはに向かって高速で飛び出した。
そして迎撃するために飛んでくる光弾を次々とかわす。
(ごめん!!)
なのはが意識を集中すると、ユーノの死角の真後ろから2つの光弾が飛び出す。
しかし、着弾するかと思われた瞬間ユーノの周りに緑色の光の球が姿を現し光弾を逸らした。
「!?」
スフィアプロテクションがユーノを常時包んでいるようだ。
「はあああ!!!」
数メートル手前まで来たユーノが右腕を振り上げる。
なのははアクセルシューターの制御を中断し回避行動をとる。
『flash move』
「遅いよ!!」
ユーノがレバーを引くとナイフから緑色の魔力光があふれ、魔力の刃が形成される。
「なっ!?」
避けきれない!そう思ったなのははとっさに一番近くにあったアクセルシューターの一つを自分にぶつける。
その強い衝撃とともになのは弾き出され、ユーノは煙に包まれる。
弾き飛ばされ天地が逆さになりながらも、なのはは叫んだ。
「カートリッジロード!」
『Load cartridge』
ガシュッとカートリッジがロードされる。
「ブレイクシュート!!」
『Barrel shot』
体勢を立て直すと同時にエクセリオンバスターを煙に向かって発射する。
煙を晴らしながら緑色の魔法陣があらわれ、完全にバスターを弾く。
放出しながらなのはは思考を巡らした。ユーノの方がわずかながらスピードが上。
距離を置くと盾を貫けない。スターライトブレイカーを撃つ余裕はない。
この攻撃が終われば必ず射程内に入ってくるだろう。ユーノは魔力が切れる前にカタをつけるつもりだ。
…ならばこちらも取る手段は一つ。
ユーノはシールドを展開しながらなのはを見た。おそらく今の数回の接触でこちらの武器の性能はだいたいわかってしまっただろう。
だとするとなおさら次で決着をつける必要がある。スフィアプロテクションも展開するごとにユーノの魔力を奪っていっている。
この距離なら逃げられる前にクロスレンジ(接近戦距離)に入ることができる。今度は避けさせない。
なのはとユーノの目が合う。
お互いを知り尽くしているからこそ、次の行動がわかった。
桜色の魔力の帯が消えると同時にユーノは飛び出した。
激しい雨を弾きながら突進してくるユーノになのはは杖を構える。
『Protection Powered』
カートリッジがロードされ、杖の前に波状のシールドが形成される。
「オフェンス!!」
『Mode:OBELISK』
ユーノの叫びと同時に左手のダガーの表示が変わる。
ダガーを突き立てると、激しい火花が散った。
『Barrier Burst』
シールドに波紋が生じ、爆発を起こそうとする。
『Break in』
レイジングハートのバリアバーストを瞬時にセイクリッドスコアがキャンセルする。
しかしカートリッジによる強化で、バリアブレイクプログラムはプロテクションパワードを消し去れない。
ユーノはジャックナイフを握り締めた。なのはの強固なシールドを破るために作った2本の刃。
二種類のバリア破壊連撃による防御魔法絶対突破。それがこの二つの武器の真の特性だ。
弱められたプロテクションパワードを見て、なのははカートリッジを続けて二発ロードした。
『A. C. S., standby』
『Mode:MAIN GAUCHE』
それに反応するかのように、再びユーノはスフィアプロテクションに包まれる。
なのはが魔法陣を展開すると、杖の先端にストライクフレームが形成される。
二人の考えていることは同じだった。
(シールドごと切り裂く!!)
(バリアごと撃ち抜く!!)
ユーノは右腕を後方へと下げ、なのはが杖をユーノに向けた。
「フルエミッション!!」
ユーノがナイフのレバーを限界まで引き絞り右腕に全ての魔力を込める。
「エクセリオン!!」
なのはが高速で突撃するため構える。
「スラッシュ!!!!」「バスターーー!!!!」
そして、二人は桜色と緑色の光に包まれた。
*
「サンダーフォール!!」
「うわっ!」
巨大な落雷がエリオの真上に落ちるが、シールドがそれを阻んだ。
完全に防ぎきっているのだが、シールドを展開しているエリオ本人はフェイトの魔法の威力に完全に気後れしている。
(やっぱり挑発したのがいけなかったのかな…)
こちらを鋭い瞳で見てくるフェイトを見てエリオは心の中で後悔した。
ユーノにはなるべく会話をして時間を稼いでほしいと言われていたがつい格好をつけてしまった。
言ってみれば調子に乗ったのである。
恐ろしいほどの魔力攻撃を受けているエリオはたじたじだった。なにしろ実践は初めてに近い。
(これがホントの戦いなんだ…)
自分を狙ってくる衝撃と轟音。
想像していたのとは全く違うその緊迫した雰囲気に、エリオは完全に飲まれてしまっていた。
その様子を観察しながらフェイトは考えていた。
相手は弱い。それは手合わせしてすぐわかった。なにより攻撃を受ける瞬間目をつぶっているのだ。
しかし、フェイトの攻撃はことごとく回避、または防御されていた。
ランクの高い魔法を繰り出しているにもかかわらずだ。
だがその謎も先ほどのサンダーフォールで全て解けた。
攻撃を受けた後をよく見るとエリオのシールドに雷撃が吸収されている。
そしてフェイトはある結論に至った。
(エリオ・スクライアの魔力変換資質は……水)
変換の資質の中でも「炎」「電気」資質は比較的多い。フェイトは初めて水の資質の持ち主と出会った。
フェイトの魔法は電気に変換するものが多く、エリオはそれらを水に帯電させることで衝撃を半分以下にしているようだ。
意識してやっているのか無意識にやっているのかはわからなかったが、自分との相性は最悪だ。
(でも…)
フェイトは杖を握り締める。
「バルディッシュ、ザンバーフォーム」
『Yes, sir. Zamber form』
カートリッジをロードしたバルディッシュがその形を大剣へと変える。いつまでも時間をかけていられない。
相性を魔力差でカバーし、全てを切り崩す斬撃でケリをつける。
エリオは大剣を構えたフェイトを目を見開いて見ていた。
(あれが…エースの力…)
力強い、畏怖とともに魅了をも覚えさせる神々しさをもった金色の剣。
あれがその残酷な運命すらも切り開いたフェイト・テスタロッサ、いや、フェイト・T・ハラオウンの力だ。
(あれくらいの力が僕にもあれば…!)
エリオはそれを見ながら歯軋りした。生まれ持った才能が、自分との差を見せつけてくる。
『Let's do now as he said』(今は彼の言った通りにしましょう)
するとフォーチューンが声をかけてきた。ユーノも無理はしないでと何度も言っていたが、
エリオはエースくらいなんとかなると思っていた。しかし、今その圧倒的な力の差を見せ付けられ、その考えは消えうせた。
ユーノから言われた作戦通りにするしかない。思ったより時間は稼げたことだし、もう十分だろう。
「しょうがないか…」
溜息を吐きながらフェイトに杖を向ける。これから一矢でも報いることが出来るのだからそれはそれで喜ぶべきことかもしれない。
杖を向けられたフェイトはバルディッシュを腰の脇に構える。
『Sonic Move』
次の瞬間、エリオの視界からフェイトが消えた。
「大気の精エアリエルの名の下に、我が調べを万物の魂に刻め」
それでもエリオは全く動揺せず詠唱した。
(今だ!!!)
エリオの真後ろに姿を現したフェイトが大きくバルディッシュを振りかぶる。
終わりだ、そう思った瞬間、エリオに真下に藍色の魔法陣が出現する。
「テンペスト」
『tune the harmonic』
「!?」
そして耳障りな超高音がフェイトの脳を刺激する。
あまりの激痛にフェイトはバルディッシュを落としそうになった。
「ああああっ!?くぅっ!!」
耳を押さえて苦しむフェイト。集中できずに魔法を維持できない。ザンバーフォームの光の刃が消えた。
かろうじて飛行魔法を続けるものの、ふらふらと漂うのが限界だった。思考すらも遮るほどの高音が頭に響き続ける。
「耳を押さえたって無駄だよ……って言っても聞こえないだろうけど」
エリオはすいっとフェイトから離れる。エリオの魔法、テンペスト。
魔力で何千倍にも増幅した念話を飛ばすことで生き物全ての行動を一定時間不能にする魔法。
空気中と生体の水分を媒介に対象の脳へと到達するため回避は不可能だ。
この魔法の欠点は、無差別なこと。自分以外の半径3キロメートルにいる全てにその効力を発揮する。
森の中でも木の上にいる小動物がぼとぼとと落下し、大型の猛獣も丸くなって苦しんでいた。
今日は雨で湿度は100%。なおさらよく響いているだろう。
「一曲5分、まあ楽しんでいってよ」
目を閉じ、まるでタクトのようにフォーチューンを振るエリオを、フェイトは苦しそうに見つめた。
*
激しい雨が降り続き、遠くで増水した川の流れが聞こえた。
闇の中で、赤い光と薄い緑色がぼんやりと光っていた。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
「…………」
ユーノは右腕をがっくりと下げながら荒い息を吐き、なのははその姿を痛々しげに見つめていた。
ユーノの右手にはナイフは無く、ダガーを持った左手で肩を押さえていた。どうやら衝撃で脱臼したようだ。
「もうやめよう…」
なのはが言った。ユーノのその姿を見ていることがなによりつらかった。
これがエースとの差。レイジングハートの宝玉に大きな傷がついたが、なのはは全くの無傷であった。
なのはの魔力はまだまだ余力があるが、ユーノの魔力は限りなく少ない。
ユーノのスフィアプロテクションは貫かれて穴が開き、今はかろうじて薄っすらと点滅を繰り返していた。
とにかくなのはは、ユーノがなぜここまでするのか知りたかった。
「私の…勝ちだよね」
杖を降ろし、なのはが静かに続ける。勝ったら理由を教えてくれる。
少なくとも聞く権利が自分にはある。するとユーノの口が小さく開いた。
話を聞けると思った矢先、ユーノから返ってきたのは驚くべき言葉だった。
「……いや、僕の勝ちだ」
顔を上げてそう言うユーノの瞳は、勝利の確信に満ち溢れていた。
次回へ続く
ユーノの裏切りにクロノは…。
次回 第十五話 「決心」
プロローグはユーノ視点、今回はなのは視点で始まっています。
ユーノとなのはを真正面から戦わせたいという妄想から始まったこの小説。
どうしてもその状況に持っていくのが難しくこんなに話数を要してしまいました。
今後もなるべく飽きさせないように展開させていくつもりなのでできればお付き合いください。
他の職人さんの小説も非常に楽しく読ませてもらってます。それでは。
Gjtです。
ってか続きが気になるー orz
こんだけの職人さんスプラッシュ。
カルマがこない…
カルマはきっとくるんだ…
184 :
137:2006/11/28(火) 06:28:44 ID:8kg29wu1
公開陵辱!〜宴の生贄は、剣の騎士の少女〜 そのA
「投降しろ」というシグナムの呼びかけを受け入れたのか
影の人物が、ゆっくりと振り返った。
「・・・・・」だが、影の方からは何の答えも無い。
シグナムは、ほんのわずかな間、思案した。
ーー主はやてに連絡するか?
自分を初めとする守護騎士達は、この犯人を捕獲するために
バラバラになってそれぞれ単独で捜索を続けていたのだ。
ここで自分が奴を捕まえればそれで事件は解決する。
だが、守護騎士の一人でしかない自分より、れっきとした
魔導師である主はやてが捕まえれば、主はやての将来にとっても
多少なりとも確実にプラスになるはず・・・・
この時、シグナムは、明らかに油断していた。敵を甘く見ていた。
シグナムの中では、この事件は解決したも同然だったのである。
この事件自体は「管理局局員が突然行方不明になった」という
だけのものであり、日頃からヒラ局員を「剣を交えるまでも無い
ぬるい連中」と軽視・・いや軽蔑していたシグナムにとって、大した価値は
無かった。それが、シグナムに決定的な隙を作らせたのだ。
そして、これからその事をシグナムは、激しく後悔する事になる。
陰湿かつ淫虐な陵辱・蹂躙の中で。
ほんのわずかな思案の間、シグナムの意識が、前方の影から それた。
次の瞬間。シグナムの後頭部に、鈍い痛みが走った。
「−−っ!?」
狼狽するシグナムの背後には、別の影が、いた。
仲間が、いたのだ。犯人は、単独では、無かったのだ。
その意識を最後に、シグナムの意識は途切れた。
意識を失い、崩れ落ちたシグナムを、背後の影の人物が
抱きかかえた。お姫様抱っこというやつである。
もう一つの影が、接近する。 接近した影は、フードを取り、素顔をあらわにした。
見ると、まだ若く年の程は二十歳そこそこだろう。
背は、シグナムよりは一回り高く、やや高めといったところだ。
意外にも、好青年といった感じの爽やかで端正な感じの男である。
男は、仲間に抱きかかえられている、剣の騎士の少女シグナムの
美しい顔を見つめた。その視線には、憎悪、怨恨、
最高に美しい獲物の捕獲に成功した歓喜、そして肉欲・・さまざまな想いが
渦巻いていた。男はシグナムの胸に視線を移す。
男を欲情させ、肉欲を満たすために存在しているとしか
思えないほどいやらしいシグナムの肢体・・特に
そのおっぱいは、騎士服の薄い生地ではとても隠しきれないほど
その存在をめいっぱい主張しており、よく見ると乳首まで浮いていた。
突然、男は手を伸ばし、シグナムの乳房を騎士服の上から鷲掴みにした。
もにゅ、ぷにゅ、もにゅもにゅ。
男の手の中で、シグナムのおっぱいが揺れて自在に形を変えた。気を失っているシグナムが、
わずかに、色っぽい吐息を漏らした。「んっ・・・」
それを見て、男はニヤリ、と笑った。そして言った。
「この女を『闘技場』に連れて行け。ギャラリーの皆さんがお待ちかねだ。」
シグナムを抱きかかえた影がうなずく。男は思った。
ーー闘技場というよりは、「檻」といった方が適切かもしれんがな。
まあ、そんなことはどうでもいい。さあ、宴の始まりだ。待ちに待った、「お楽しみ」だぜ。
自分を待ち受けている、羞恥と陵辱に満ちた運命も知らずに
剣の騎士シグナムは眠り続ける。その安らかな寝顔は
意外なほどあどけなく、可憐な「少女」そのものであった。
185 :
137:2006/11/28(火) 06:37:28 ID:8kg29wu1
間が空いてしまいましたが、
「シグナムが生贄にされてエロエロな目に遭わされちゃう」
エロ小説の続きです。小説は初めてなので見苦しいところも
多々あると思いますが、もしよろしければご覧ください。
できれば感想などもお願いします。
生真面目なおっぱい騎士娘・シグナムが大好きです。こういう娘ほど
エッチな目に遭わせて慌てさせて泣かせてよがらせたいw、という欲望があるのですが
どうも僕みたいな「シグナム好き」の人は少数派みたいで・・・
>>185 大きな声で言える人が少ないだけで、きっと君の同志はたくさんいるはずだよ!
諦めないで!
シグナムがこんなあっさり
油断したり警戒怠るもんかね?
負けるシグナムなんて見たくないな
負けはかまわんが、そこに至るまでがやっつけ臭ぷんぷん
>>185 GJです。
これからの更なるレベルアップにwktk
191 :
137:2006/11/28(火) 19:12:47 ID:8kg29wu1
公開陵辱!〜宴の生贄は、剣の騎士の少女〜 そのB
どのくらい時間が経ったのか。
シグナムが目を覚ました時、辺りは暗闇に包まれていた。
「ん・・・」シグナムは状況を把握しようとする。
「これは・・・」シグナムは、自分の両腕が横に大きく広げられ
両手首が鎖のようなもので拘束されている事に気がついた。両足首も
同様に拘束されている。それは、はたから見るとー
磔であった。シグナムは、処刑される重罪人のように磔にされているのである。
そして、当然だが、相棒・「炎の魔剣」レヴァンティンもない。
−−なんだ、これは!?
シグナムは、焦りつつも、しかしまだ冷静に、鎖を解こうとした。
がちゃがちゃ。がちゃがちゃがちゃ。必死に力をこめる。
−−解けない。
普通の鎖なら、シグナムは素手でも簡単に引きちぎる事が出来る。
しかし、この鎖はどうやら特殊なものー相手を拘束する魔法・バインドに似たものであるらしく
どうやってもビクともしない。シグナムは舌打ちした。
自分が敵の手によって気絶させられた時のことを思い返す。
−−百戦錬磨・一騎当千の強さを誇るヴォルケンリッター・将である自分が
敵に遅れをとった上に、こんな様を・・・
自分らしくないミスの連続に、シグナムは歯噛みした。そして、自分が追っていたあの影の人物。
「奴は一体、何者なんだ・・・?」
そうシグナムが呟いた時、辺りを覆っていた暗闇が突然、光へと変わった。
「−−−っ!?」目がなれずに、シグナムは顔をしかめた。
次の瞬間、大音量がシグナムの耳をつきぬけた。
「オオオオオオオオオオッ!」シグナムにはそう聞こえた。
それは・・大歓声だった。怒号だった。下卑た冷やかしだった。
辺りを見回す。自分の姿を見回す。
−−高くそびえ立つ十字架に、自分が磔にされている。そして
自分を、少しはなれた所・・「観客席」でぐるりと無数の人間が取り囲んでいる。
百人・・五百人・・いや、千人・・もしくはそれ以上。
その光景は、さながら娯楽のために大勢の観衆が集まった処刑場。
あるいは、哀れな生贄が猛獣に喰われる様を見たくて無数の人々が
ひしめき合う闘技場そのものであった。
剣の騎士・シグナムは悟った。
ここは闘技場だ。今、自分を取り囲んでいる連中は観客だ。
そして、中央で磔にされている自分は・・・餌だ。
連中の不満を解消し、好奇心と嗜虐心と肉欲を満たすための餌だ。
自分のなりを見回す。はやてにもらった騎士服は無事だ。
脱がされてもいないし、破かれてもいない。
後頭部に喰らった一撃を除いて、ダメージもない。
だが、念話が通じなかった。予想はしていた。シャマルの結界のように
この闘技場も、そういう仕組みなのだろう。当然といえる。
192 :
137:2006/11/28(火) 19:38:17 ID:8kg29wu1
−−今の私では、この状況を脱することは難しい。だが、隙を見て・・
自分に向かってぶちまけられる大歓声を無視し、シグナムは冷静に思考を巡らせる。
今頃は、念話も通じず、行方もわからなくなってしまったシグナムを
はやてと他のヴォルケンリッター、そして時空管理局が探しているだろう。
−−申し訳ありません、主はやて。 すまない、シャマル、ヴィータ、ザフィーラ。
−−今の私を見たら、お前は何と言うだろうな、テスタロッサ?
心の中で、シグナムは詫びる。だが、同時に決意を新たにする。
私はこのまま屈しはしない。このような下衆な真似をする連中になど
決して、負けない。
剣の騎士の少女・シグナムは、きっと前を見据えた。
下卑た歓声をあげる目の前の観衆を睨み付けた。見ると、観衆の多くは
男で、若い男もいれば中年のオヤジ、また老人もいた。彼らは、
一様にシグナムを視姦していた。シグナムの豊かな双乳、太もも、双臀を
嘗め回すように眺め回していた。明らかに、股間をふくらませている男もいる。
今、彼らの頭の中では、シグナムはぐちゃぐちゃに犯されマワされ汚されているのだろう。
男達の肉欲のはけ口にされているという淫らな現実をつきつけられ
シグナムの体が、心が、わずかに震えた。だが、シグナムは
決然と前を見据えた。
−−はやてが闇の書に侵蝕され、命が危ういと知り、他の守護騎士達と共に
闇の書の完成させるための戦いに初めて出撃した、あの夜のように。
主はやて。私は決して負けません。私は、あなたの守護騎士ですから。
だが、シグナムを取り囲む観衆、そしてこの淫らな宴の主催者は
剣の騎士の少女の、そんな健気な決意をあざ笑うかのように、
これからのお楽しみに胸を躍らせていた。
そう、餌は彼らの手中にあるのだ。
>>172 396氏
飽きさせないようにもなにも毎回、続きが気になって仕方ないのデスガー。
最近、投下速度早いんで満足してますがw
人質の命がかかってるんで、なんかすっかり計画成功を祈ってる自分がいるんですが
サイオンを出し抜けないまま成功しても、それはそれで人質死んじゃうんですよね。
なんかエリオ、内通してそうだからそっちが心配だ…。
−時空管理局本局内・医療区画、シャマルの執務室−
『知りませんよ!!あの女が作ったクローンのことなんて!!』
「ちょ……そんな言い方……!!」
『もう連絡してこないで下さい!!こっちも忙しいんですから!!失礼しますよ!!』
「あ……!!ちょっと!?テスタロッサさん!?」
がちゃん、と乱暴な音を立てて通話が途絶える。
音のしなくなった通信端末を片手に、シャマルは呆然と立ち尽くしていた。
通信していた相手は、ようやくのことで探し出した、フェイトの遺伝子上の父。
故プレシア・テスタロッサの離婚した夫、レクサス・テスタロッサであった。
「もうこれくらいしか……手がないっていうのに……!!」
フェイトに残された時間と体力は、少ない。
リンカーコアそのものの問題を解決するには、足りないほどに。
採れる選択肢が限られる中、シャマルが思いついたそれはリンカーコアの移植。
フェイトの消えゆくリンカーコアに正常なものを移植し、活性化を試みるというものだった。
だが、それには同じ遺伝子を持つ者、
非常に近い魔力パターンを持つ者のリンカーコアでなくてはならない。
家族であっても血のつながりのないクロノやリンディ、純正のリンカーコアでない使い魔のアルフではだめなのだ。
プレシアもアリシアも死している今、可能性が残されているのは唯一、父親のリンカーコアだけであったのだが。
けれど藁にもすがる思いで居場所をつきとめた彼は、
危険を伴う手術や、研究への支障から、シャマルの申し出を拒絶し。
一方的に通信を切ったのである。
「時間も……あの子の体力も……これ以上は……!!」
手術を成功させる自信はあった。
これでも局内においては、リンカーコア関連の治療のエキスパートとして通っているシャマルだ。
たとえ前例のない試みではあっても、やるだけの価値はあると思っている。
しかし悲しいかな、肝心のリンカーコアがないのであれば手も足も出ないではないか。
「………はい、医療局」
手に持ちっぱなしだった通話機が電子音を発し、シャマルは沈んだ気持ちのまま、応対する。
「ああ、マリーさん。どうしたの?え?」
声だけの通話。眼鏡の少女を連想したシャマルは、内線の向こうの彼女の言葉に、
通話機を取り落としそうになった。
「ヴィータちゃんが……いなくなった?」
魔法少女リリカルなのはA’s −the day−
第十一話 時を削る部屋で(後編)
真紅と、緋色。二つの閃光が交差し、激しくぶつかりあう。
「どーせ元々、あちこち気に入らなかったんだ!!手加減しねーぞ、シグナムッ!!」
「何故お前まで出てくる!!無意味だとどうしてわからない!!」
紅き少女は、鉄槌を手に。
煤けたボロボロの騎士甲冑の緋を纏う女性は、剣を手に。
打ち合い、叫ぶ。
「無意味なんかじゃねー!!テスタロッサのやつ助けて、はやてに笑ってもらうんだっ!!」
「相変わらずの短絡思考……いい加減にしろ!!ヴィータ!!」
烈火の将は強い。
なのはとの激突のダメージを残してなお、万全の状態のヴィータと互角に渡り合う。
「アイゼン!!ラケーテンハンマー!!」
『Explosion』
カートリッジ・ロード。変形した機体を振り回し、ヴィータはシグナムに向かっていく。
『sir』
「いや……お前はいい。よくやった、休んでいろ。……いくぞ、レヴァンティン」
『Jawohl!!』
紫電一閃。炎を纏った剣が、迎撃する。
懐に忍ばせた、傷ついた閃光の戦斧が見守る中。
* * *
「エイミィ。結界のコントロールをそちらに移す。いいな」
『了解。……クロノくん』
「大丈夫だ、さっさとこのわがまま娘二人を連れて帰る」
二人の騎士が激しい戦闘を繰り広げる下では、なのはとクロノが対峙していた。
言って、クロノは掌中のデュランダルを地面へと突きたてる。
これが結界の、中継装置ということになるのだろう。
そして代わりに懐から、鋼色をした一枚のカードを取り出す。
即座に杖へと変化したそれは、往年の彼の愛機・S2U。
「……いいの?デュランダルが使えなくて」
「見くびるな。たかがだだっこ一人ねじ伏せて連れ戻すのに、デュランダルを使う必要もない」
なのはの問いに、彼はこともなげに答えた。
その冷静であっさりとした態度が、なのはの癇に障る。
「……言ってくれるね。甘く見ないでよ」
「事実を言ったまでだ。今のきみは客観性も冷静さも失っている───」
黙れ、と言わんばかりに。
クロノの足元に、一発の光弾が炸裂した。
放った当の本人、なのはは顔を俯かせ、指令を下した左腕を戦慄かせ。
肩を怒らせて硬直している。
周囲には更に十数個のアクセルシューター形成。
いつでもクロノのことが狙い撃てる、臨戦態勢が整う。
「───図星をつかれて、怒ったか?きみも子供だな、まだまだ」
「……どう、してっ……!!」
挑発的な物言いに、なのはが激昂した叫びをあげる。
レイジングハートの切っ先を彼に向け、戦闘で汚れ乱れた髪を一層振り乱して。
「どうしてそんなに、落ち着いてられるの!?クロノくんはフェイトちゃんの、お兄ちゃんでしょう!?」
「ああ、そうだが」
落ち着き、冷たさすら漂わせるクロノと、激するなのは。
二人の感情も、姿も。あまりに対照的だ。
「なんで!?どうして!?クロノくんはフェイトちゃんがいなくなって、平気なの!?」
「……」
「クロノくんはフェイトちゃんのこと、心配じゃないの!?フェイトちゃんがっ……」
「心配してないわけ、ないだろうっ!!」
「っ」
クロノの無言に、なのはの苛立ちは募り。
それを吐き出そうとする彼女を、青年の怒鳴りつけるような声が律した。
「助けられるものなら……たすけてやりたいさ。それこそ、どんな手を使ってでも」
「ならっ……」
「だが、それをあの子が望むのか?本当にあの子のためになるのか?遮二無二、こんなことをすれば」
「クロノくん……?」
「教えてくれ、なのは」
問いかける青年の杖の先端に、蒼い光が宿る。
『スティンガースナイプ』
「フェイトがきみに頼んだのか?何をしても助けてくれ、と」
「それは」
いつの間にか、立場は逆転していた。
こんどはクロノが責め、問いただす番。
沈黙を強いられるのは、なのはのほうであった。
「違うだろう」
蒼き流星は、いつでも発射が可能な状態となっていた。
魔力の主が少女へと杖を振るうのを、今か今かと待っている。
「僕はあの子を……フェイトに、悲しい思いをさせたくない。ただそれだけだ」
『フリージングバインド』
「!?」
『master!!』
言い終わるがはやいか。
きっと発射されるであろうと踏んでいたなのはの予想と裏腹に、スティンガー弾は空中に霧散し、掻き消え。
かわりに、電子音声とともに何重もの魔法陣が彼女の周囲へと展開されていく。
愛機の警告の声に身を翻すなのはであったが、その数はあまりに多く、
抜け出すには至らない。
「っぐ……そんな、いつの間に……!?」
飛翔する右足に巻きついた氷の鎖が、彼女の身体を魔法陣の発生圏内へとひきずり戻し。
連鎖的に発動し生成される同じ半透明の鎖がなのはの体から自由を奪っていく。
「……本来の君なら気付いていたはずだがな。やはり、短絡思考は目を曇らせる」
「く、う……クロノ、くん……!!」
クロノがちらりと地面にささったままのデュランダルに目を流した。
やられた。はじめから、S2Uとスティンガースナイプは囮にすぎなかったのだ。
はじめから、デュランダルで組んでいた術式で、彼はなのはを捕らえるつもりだった。
S2Uはそのトリガーを引いただけ。
だが今となってはもう、あとの祭り。
凍てついた氷河によって作り出された鎖は、なのはの身体から自由以外にも、
損傷したバリアジャケット越しに体温を著しく奪っていく。
身体の芯から凍えるように、ひどく冷たい。
右腕のレイジングハートさえもが、わずかに表面の空気を結露させるほどだ。
「なのはっ!!」
「余所見をしていて、いいのか?……ヴィータッ!!」
「っが!?」
「ヴィータちゃん!!」
なのはを気遣い、ヴィータが振り向いたところにシグナムの強烈な蹴りが叩き込まれる。
派手な音を立てて壁を粉砕、激突し落下するヴィータに、
なのはは歯の根が硬直し合わなくなりつつある口で叫ぶ。
地面に落ちてくるところを、クロノがストラグルバインドで捕獲。
あっという間に二人目の虜囚が出来上がった。
捕らえられたヴィータが必死にもがこうとも、その鎖はけっして外れることはない。
「ひど……い……」
骨の髄まで凍らせるような寒さに襲われながら、なのはは呟いた。
体温が奪われすぎたせいか、意識も視界も、ひどくぼんやりしてきている。
「全部……時間を稼ぐ、ための。バインド……気付かれないための……」
「それは違う」
「……え……」
「それは違う、なのは。僕が言ったのは全て……僕が本心から思い口にしたことだ」
酩酊と、筋肉の収縮で殆ど呂律の回らなくなりつつあるなのはに、クロノは頭を振って弁明した。
はっきりと、自分の答えを。
「あの子に兄としてしてやれること。あの子が聞いて悲しむようなことは、やめさせたいと思った」
「……の、くん……」
「それしか僕に出来ることがないのなら」
万が一局のほうが動けば、なのははそれ相応の罰を受けることになる。
そうなる前に、自分が。全く局に報告しないわけにもいかないが、いくぶん軽くはなる。
言ったクロノは、ふっと軽く笑う。
それはその程度しか妹にしてやれぬ自分への、自嘲の笑み。
その自虐的な笑みに、もがき暴れていたヴィータさえもが、思わず見入っていた。
「あ……ぁ」
「───さあ、帰るぞ。なのは、ヴィータ」
俯くヴィータに、ぼんやりと焦点の合わぬ目線を虚空に漂わすなのは。
シグナムもようやく終わった、と疲労した様子で、着地した瞬間壁に体重を預け息をつく。
先程までの戦闘が嘘のように、静かであった。
『クロノくん!!大変!!』
そしてそれは、エイミィの切迫した声によって、短く儚くも砕け散る。
「どうした、エイミィ。こちらは……」
『大変なの!!すぐ戻って!!フェイトちゃんが───』
いや。切迫した声というよりは、それはもう既に殆ど、泣き声のようであった。
恋人の悲鳴に近いような涙声に、クロノの右手からS2Uがこぼれ落ちる。
『フェイトちゃんの容態が……急変したって……!!』
メガミを買って新キャラの名前に噴き出しそうになった640です。
このスレの住人の皆さんならわかると思うけど。
あの人のあのキャラとおんなじだよもん。
>>137氏
ひょっとして、直接打ち込みながら投下してます?そのBの
投下時間を見るに。一度メモ帳かなにかに書いたものをコピペして投下することを
お勧めします。個人的にシグナム姐さんは大好きですよ。
>>6スレ480氏
壮絶だ・・・。お疲れ様です、続きを期待してます。
クトゥルフ神話はかじった程度ですが十分たのしめます、ほんと
>>176氏
ちょっぴりファザコン気味なシグナム姐さんハァハァ(;´Д`)
シグナムより強いお父上、どんだけ強いのさ・・・。
名前をクルマで統一の恐怖w
あれにはビックリしました。
本気で
>名前をクルマで統一
…レイアース?
こんばんは396です。最近アニメ見てなくて自分の小説も
シリアスばっかりで脳に萌え分が不足気味に…。糖分より重要だというのに。
甘くてとろけるような話が見たい書きたいなぁ。という愚痴はさておき続きを投下します。
魔法少女リリカルなのはA's++
第十五話 「決心」
「僕の勝ちだ」
ユーノがそう口にした時、レイジングハートが輝いた。
宝玉についた傷を直す自動修復が行われる…そう思われた瞬間、レイジングハートが発したトリガーは驚くべきものだった。
『Divide Energy』
「えっ!?」
なのはが驚きの声を上げるとともに、桜色の光がユーノに向かって流れ込んだ。
全魔力の供給。一瞬での膨大な魔力の喪失になのははまるでゼンマイの切れた人形のように気を失い落下した。
ユーノはすかさずなのはの下に回りこみダガーをしまった左腕で抱き上げる。
しかし片腕では思うように支えられず魔力の調整もうまくいかない。みるみるうちに高度が下がっていった。
「くっ!!」
眼前に広がる木々。ユーノは咄嗟に自分を下にしてなのはの頭を抱える。
枝の折れる音と葉のすれる音に包まれながらも二人は落下を続け、森の闇へと消えていった。
*
(なんとか……しなくちゃ…!!)
フェイトは頭を抱えながらエリオを見つめた。
激痛で飛行を維持するのが精一杯だが、現状を打破しなければ反撃に出ることが出来ない。
相手の念話は全周波数に飛んでいる上に強制的に遮断ができない。防ぐ手段が皆無だった。
ただ一つ幸運なことは、この魔法を発動中はエリオはほぼ何も出来ない状態にあることだった。
おそらくこれほどの強力な念話を広範囲に飛ばし続ければすぐに魔力が切れる。
魔法を解除した瞬間が狙い目だ。
エリオは薄目を開けると目の前では反撃のチャンスを待ち続けるようにフェイトが睨んでいた。
(うわ…あれ絶対怒ってるだろうなぁ…)
加虐の趣味があるわけではないが、自分よりもいくつもランクが上の魔導師を屈服させている感覚に酔いしれていたエリオは
それを見てすぐに現実に引き戻された。
自分の魔力も残り少ない。転移魔法の分は残しておく必要がある。
逃げ切れなかったことを想像してエリオは身震いした。
「それじゃあそろそろ引き上げますか」
『Fine』(フィーネ)
曲の終わりの合図とともにフォーチューンの宝玉の輝きが消える。
すかさずエリオは転移魔法陣を展開した。
(逃が…さない!!!くっ!?)
フェイトはその行動を見て杖を構えたが頭の激痛と高音が今もなお響き続けている。
(どうして!?)
エリオの魔法はすでに消えているはずである。フェイトは歯軋りしながら必死で魔法を使おうとしたが集中できない。
その様子を見ながらエリオは魔法陣の中から笑顔で手を振った。すでに転移魔法陣は完成している。
「行か…せるかぁ!!!」
精神力と根性を振り絞りフェイトは魔力弾を飛ばす。しかし、あと一歩というところでエリオの姿は空間から消えうせた。
「もうっ!!」
『…………』
フェイトには珍しく声に出して悔しさをあらわにし、バルディッシュは自分の不甲斐なさに沈黙を続けた。
インテリジェントデバイスには自動防御と自動修復の機能はあっても自動攻撃機能はない。
そもそも主人の魔力を機械の意志で奪うことは危険性を伴うのだ。
しばらくすると脳を刺激していた高音が徐々に小さくなり、辺りは激しい雨の音だけが支配した。
フェイトはぎゅっとバルディッシュを握り締めた。
「帰ろう…」
『Yes, sir』
マントをひるがえし、フェイトはアースラへと飛んで行った。
(はぁ…危なかったぁ…)
エリオは空間転移を続けながらほっと胸を撫で下ろした。最後の魔力弾は本当に当たるかと思った。
まさかディミヌエンド中に攻撃をしかけてくる人がいるとは思わなかった。
エリオのテンペストは術終了後もだんだん効果を弱めながらしばらく対象に影響を与え続ける。
これをエリオはディミヌエンドと呼んでいた。フォーチューンは
『This is “echo”』(これはエコーですよ)
と言っていたが名前はカッコいい方が良いに決まっている。
(もっといい名前があるかも…)
エリオはそんなことに頭を捻りながら転移を続けた。
*
ガサガサと葉を掻き分けながらユーノは一本の木に近づいた。森の中は上空ほど雨が激しくなかったが、
葉に溜まった大粒の雨水がぼたぼたとユーノに降り注いでいた。地面はぬかるみ靴の中は水浸しで気持ちが悪い。
背中から地面に叩きつけられたことでユーノは激しく体を痛めていた。しかしなのはが無傷であったのでそれで十分だった。
「ぐ!あぁっ!!」
木に思い切り右肩をぶつけて関節を入れ直す。その衝撃に激痛が走った。
それでも指がじんわりと熱くなるような感覚を覚え、動かすことができた。指を開いたり閉じたりして少し慣らす。
葉の上に寝かせていたなのはを背負いユーノはある物を探した。
魔力反応を頼りにしばらく散策すると、ある巨木の根にたどり着いた。
「見つけた…」
その近くに落ちていた淡い緑色を放っているナイフを拾い上げる。
内部にわずかばかり蓄積されていた魔力がユーノにその場所を知らせていたのだ。
なのはとの戦いを終えた今その役割は終えていたが、この先使うことがあるかもしれない。
そう思ったユーノは回収を決めたのだった。
「!?」
なのはを落とさないように気をつけながら拾い上げた瞬間、後ろで何か生き物の気配がした。
急いで振り向き身構える。といってもなのはを背負っているので片腕しか使えない。
「安心しろ。獣じゃねえ」
声とともに暗闇の中から黒マントの影が現われる。
顔ははっきり見えなかったが、ユーノはその人影が何なのかをすぐ理解した。
「ばっちり記録できたぜ」
男はそう言うと大きなレンズの付いた装置を懐から取り出した。
ユーノがアースラをハッキングで混乱に陥れる前にサイオンに連絡したこと。
それはエースとの戦闘データを記録する人間を一人よこしてほしい、ということだった。
暗い森の中でぼんやりと見えたその男は20代半ばくらいの比較的若い男だった。
「それにしてもどうやったんだ?大逆転劇だったじゃねーか」
男はじろじろとユーノを見ながら言った。ユーノは気分がすぐれなかったが、
サイオンの遣いには報告義務があるので答えることにした。
「インテリジェントデバイスには自動で主の魔力を奪いコマンドを実行するオートガードとリカバリーの機能があります。
そして彼女は過去に自分の魔力の半分を他人に与えるコマンドを使ったことがある。
僕はただ、そのコマンドをリカバリーと交換しループ処理を施し、自動再起させただけです」
二分の一の二分の一の二分の一…それを繰り返せば極限値は0だ。
発動高速化のためインテリジェントデバイスに蓄積されている過去の呪文とはいえ、
誤魔化せるのは前の主の権限を使っても一回きり。しかし、その一回で十分だった。
今のユーノにはなのはの残存魔力の全てが受け継がれている。退避場所として一時的にリンカーコア以外の肉体に
魔力を貯め、腰のポシェットにあるカートリッジに魔力を込めながら負荷を軽減しているが、少しずつなのはの魔力は
ユーノのリンカーコアへと定着し始めていた。このままではユーノのリンカーコアはその膨大な魔力に耐え切れずに
崩壊するだろう。早く次の予定に移らなければならない。
「なんだ。つまんねーの」
男はふんっと鼻を鳴らしてユーノに言った。てっきり新しい魔法を使って倒したと思っていたからだ。
「それでも、勝ちは勝ちです」
ユーノはなのはを一度背負い直しながら男を見て言った。
サイオンの条件は満たしているし、そのことを伝えてもらわなければならない。しかし、その前にこの男にはやってもらうことがある。
「一つ頼みたいことがあるんですが、いいですか?」
「あぁ?」
ユーノの突然の申し出に男は顎を上げた。
「この子を、この場所に連れて行ってほしいんです。このままでは風邪を引いてしまう」
ユーノが取り出した端末の画面には三角印である場所が示されていた。
「…ま、いいもん見せてもらったし、帰るついでに行ってやるよ」
男は少し考えたが了承した。魔力の空になった魔導師は無力に等しい。危険性がないことは理解できた。
そして男はユーノから少女を受け取り抱えた。
(なんだよ…めちゃくちゃ可愛いじゃねーか)
男は自分の腕の中で気を失っている少女の顔をまじまじと見た。
戦っている姿を見ていたときは遠目でよくわからなかったが、こんな可愛らしい少女だったとは思わなかった。
グランディア船内には女性はいない。この男にとって久しぶりの異性との接触だった。
(こりゃあ役得かもしれねーぞ)
腕の感覚に集中すると、女性特有の柔らかさを感じた。
改めて自分の腕の中にいる少女を見る。濡れた姿もまたそそるものがあった。
わざわざこんな雨の中、寒い思いをしてビデオ撮影に来たのだ。多少の甘露があってもバチは当たらないだろう。
風邪を引かないように服を脱がして…そこまで妄想した時、少年が声をかけてきた。
「その子に何かしてみろ……」
男は顔を上げその少年を見た。エメラルド色の鋭い瞳と目が合う。
―――――お前を殺す
少年の言葉に何が続くのか、男は瞬時に理解した。ふいに少年の手の中にあるナイフが目に入る。
エッジから雨水が垂れ、まるで血がしたたっているかのように見えた。足が震え、背筋が寒くなる。
体は完全に目の前の少年に恐怖を覚えていた。
「な…何もしねーよ…」
震える声を押し隠すように男は言った。
この少年を船内で見かけた時の第一印象は、痩せっぽちで覇気が無く、誰にでも敬語で話す情けない少年、というものだった。
人質を取ればなんでも言うことを聞き、どんな任務にも文句すら言えない優男。
しかし、今はどうだろう。男は首元にナイフを押し付けられている感覚に陥っていた。
たぶんこの少女に何かしたら、こいつは次元の果てだろうと追いかけてくる。
その瞳に宿る意志は、男が今までに見た誰よりも強く、恐ろしかった。
『優しい人間を怒らせてはいけない』
男は生まれて初めてそのことを実感した。
「それじゃあ、僕はアースラにやり残したことがあるので後はお願いします」
少年は変身魔法を使い姿を変える。男は呆然とした表情でそれを見ていた。
お尋ね者の身でまた戦艦に乗り込むとはなんとも大胆だが、その変身した姿を見て少年の度胸に感心した。
そして少年が飛び去った後、男も指定された場所に少女を運ぶために転移魔法を展開した。
(あいつは…早く切り捨てないとやばい)
転移中、男は眉間にしわを寄せながら思った。自分達のリーダーであるサイオンはあの少年を最大限利用するつもりのようだが、
早く始末をつけなければ、必ず何かをしでかす。それも、全てをひっくり返すような何かを。
男はサイオンへの進言を堅く心に誓った。
*
『システムオールグリーン』
機械的な音声とともに赤く点滅を続けていたアースラのメインモニターが正常に戻る。
艦内の局員達から安堵の声が漏れるが、その表情は曇っていた。
「被害状況の確認を」
クロノは無表情にエイミィに言った。
「通信装置、AMF発生装置が物理的に破壊された以外は特にシステム面での問題はないわ。
ただ、AMF発生装置の方は艦内で直すことは不可能ね。本局に戻って入れ替えないと」
モニターには、綺麗に両断された装置が映し出された。
「あれ、たっかいのにねぇ……」
エイミィがぼそりと愚痴った。様々な高性能機器を積んでいるアースラの中でも、イレギュラーな魔法を自動でキャンセルする
AMF発生装置の値段は小さな船が買えるほどだ。
「なぜ警報が鳴らなかった」
クロノは腕を組んだまま尋ねた。それらの機材が壊されていたのはアースラがハッキングされる数分前だったからだ。
「それは、まず最初にハッキングされたのが警報装置及びその機能だったからよ。つまり、ハッキングを知らせる警報自体が
プログラムによって任意に動作してたってこと」
エイミィがコンソールを操作すると、プログラムの文字列が画面いっぱいに映し出された。
「ハッキングプログラム自体は、自己診断を繰り返しながら艦内のコンピュータ内を移動し、全てのコンピュータを擬似的に並列化
することで自立思考し命令を下す、人工知能の初期理論を応用したものだったわ。
コンピュータ同士を環状に繋ぐことで単純化して処理を早め、表と裏の二つのリンクで繋ぐことで遮断を防いでいたみたい。
リポジトリ内の実行ファイル名からその名前は“メビウス”のようね」
エイミィが作った簡易の概念図に局員達が見入った。
「…犯人の名前を言うんだ」
クロノは搾り出すように言った。もうすでに特定はできていた。事件発生前にアースラに乗り込み、現在いない者。
アースラのシステムにはそのログが残っていた。しかし、全ての局員にそのことを知らせなければならない。
エイミィはしばらく手を止め逡巡したが、コンソールのボタンを押した。
「…ハッキング及び逃走ほう助の犯人はユーノ・スクライアとエリオ・スクライアの両名。
戦闘中のモニターは結界とハッキングでできなかったもののフェイトちゃんの証言から
エリオ・スクライアが加担していたことは確定済み」
フェイトは苦々しげにモニターのエリオの画像を見ていた。
みすみす逃がしたのは自分の責任。そしてなにより重要な手がかりを失ってしまったのだ。
そしてユーノ。彼が裏切ったことは衝撃だったが、何か理由があるのは明白だったので今あるのは友人としての怒りだけだ。
(なのはを悲しませるなんて、許せない)
フェイトがそう思っていると、桜色の魔法陣が現われ、なのはが姿を現した。
「なのは!!」
フェイトが駆け寄ると、なのはは疲れたようにうなだれていた。
ユーノと戦って逃げられた、というなのはからの知らせを聞いていたフェイトは、なのはの心中を察して胸が苦しくなっていた。
「なのはちゃん、魔力値が不安定だけど、大丈夫?」
「…大丈夫です」
エイミィが心配そうに声をかけると、なのはが元気なさげに答えた。
「本当に、ユーノ君だった?」
「……はい」
エイミィの質問に言いにくそうになのはは答えた。しょうがないことだ、とエイミィは思った。
あのユーノ君が管理局を裏切り、なのはちゃんに刃を向けた。
理由があるにしろ、それが今わかっている事実なのだ。
「捕まえていた2人の身元が判明しました。どちらもスクライア一族のようです」
ランディがモニターに映像を出す。
「首輪は枷、ということか…」
クロノが口元に手を乗せ考えた。スクライア一族が何者かに脅され強盗し、ユーノが捕らえられた2人を逃がした。
そこまではすぐに推理できた。しかし…
「それにしては、準備が良すぎるな」
あれだけのプログラムが一朝一夕でできるとも考えにくい。少なくとも計画的な犯行であることは確かだ。
「そんなことより!」
珍しくフェイトが声を荒げた。
「早くユーノ達を追いかけよう」
フェイトがクロノに言った。フェイトはユーノを信頼していないわけではないが、現にこうして何も言わずになのはに刃を向けたのだ。
一言言ってやりたくてしょうがなかった。しかし、クロノはその進言に渋い顔をしたまま黙っていた。
このまま本局に報告しアースラで追えば、ユーノは世界中から指名手配される。
たとえ理由があるにしろ、管理局全体から追われることになるのだ。
事件の早期解決のために、時空管理局では解決方法は各艦の裁量に任せられている。
きっと自分が関われない部分も出てくるに違いない。ユーノは大切な友人だ。からかったり文句を言ったり、
仲が良くないと思っている人間もいるが、クロノが唯一心を許せる同性の友達なのだ。
何も言わずに逃げたと言うことは、それ相応の理由があるはずだ。
クロノは閉じていた目を開いて叫んだ。
「今回の一件の本局への報告及び他言の一切を禁じる!アースラはこのまま待機だ!」
「!?」
フェイトは義兄のそのあり得ない決定に目を見開いた。
次回へ続く
クロノの決定に揺れるアースラ。
そしてはやて達もアースラに合流する。
次回 第十六話 「信じる心、疑う心」
今後また出すか未定なのでオリジナル魔法について補足しておきます。
テンペスト(Tempest)
・厚さのある無機質の遮蔽物は通過できない(隠れる場所がないところでは避けることは不可能)。
・湿度10%以下でその効果は著しく減少する。
・全魔力を使用しての最大持続時間は5分56秒。
・音源(術者)から離れれば離れるほどその効果は弱まる(音源400メートル以内では激痛で魔力行使不可。
1キロメートル以内でも高度な魔法は使えない)。
・魔力資質がない者にも影響を与える。
十二話のフォーチューンの起動キーの通り、エリオのコンセプトは水と音です。
諸々の名称の元ネタはベートーベンから。「テンペスト」はベートーベンの曲です(運命はいわずもがな)。
詠唱文のエアリエルとは曲のタイトル元であるシェークスピア「テンペスト」の登場人物である空気の精の名前。
ディミヌエンドとはデクレッシェンドと同じだんだん弱くという意味です。ちなみにFine(フィーネ)は曲の終わり。
演奏記号はほとんどがイタリア語読みで、なのはの世界には新しい感じがしたので取り入れてみました。
さて、そろそろエリオがどんなやつかわかってきたと思います。書いてて楽しいようなむず痒いような変な気分です。
性格を理解した上で今までの情報をまとめれば目的もわかる…かもしれません。
この先彼がどうなるかを楽しみにしてもらえれば、創作者として嬉しい限りです。それでは。
212 :
さばかん:2006/12/03(日) 16:52:57 ID:tw/c//dw
こんにちは、さばかんです。
今回はバトル中心、エロ無しです。よろしくお願いします。
人生ではじめての大きな敗北。
それを味わった。
大鎌で切られた鮮やかな感触。
体に刻まれた確かな負け。
その芸術までの域の勝利にもかかわらず彼女はとても悲しそうな
顔だった。
どうしてそんなに悲しそうな目をしているの?
何度も何度も、なのはは考えた。
そんなに辛そうな顔をして、どんな不幸な事があったのだろうか。
幸いにも、なのはは幸福だった。
正確に言えば、そう「思っている」。
だから今も笑顔で真っ直ぐに生きている。
だから彼女のその表情の理由が分からなかった。
考えは直に纏まった。
彼女と話す方法。話す手段は、何も言葉だけではない。
人間は思考に特化した人間だ。だからこそ、その行動の意味を理解する
事が可能である。
ジュエルシードを求める二人。取り合うという事は争う事。
そう、戦う事だった。
だから修行したし、彼女は戦闘という意味における強さを身に付けた。
最強を目指すのでは無く、会話の手段。
なのははそれを理解している。
だからこそ、彼女は強いのだ。
「なのはちゃ〜ん・・・じゃーん!!!!!!」
放課後トイレへ向かうはやてちゃんと私。
はやてちゃんは何か掌に容易く収まる銀の塊を
私に見せ付ける。
「えっと、ジッポ?」
「ただのジッポやない。『らしんばん』で売ってた『すずなジッポ』8000円
のところ・・・な、なんと2000円に値切ったんやー」
値切り過ぎじゃない?値切れるの?
いや、それよりも。
「はやてちゃん駄目じゃない!ジッポは学校に持ってきちゃ駄目なんだから!」
はやてちゃんを目を大きくぱちくりさせる。
「え?え、え、え、え、え〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!
そ、そんなの知らんよ!!」
「いや、仕様が無いんじゃない?」
「預けた。聖上、某は厠へ向かいます!!」
だだだだだだだだだだだだだーーーーーーーーーーーーーー。
はやてちゃんは「すずなジッポ」を私に渡して何処かに逃げていった。
「・・・・・・ぷっ」
あまりにも真っ直ぐな行動で思わず噴出してしまう。
実にはやてちゃんらしい。
今やトラブルの元凶は私にとっての日常となっていた。
私の力でそんな日常を守れたのなら、それはどんなに素晴らしいだろう。
それは世界平和なんて大事では無く、ただのエゴイスト。
それでもいいと思える日常が、私を囲んでいる。
夕方のビル街、ドミノ倒しをやったら綺麗な紋様ができそうだと思う。
ジュエルシードを探す事が本来の目的だったが、昨今では、ただの遊び場と
化していた。美味しいデザートを食べつつ、ジュエルシード、ジュエルシード。
それが日常だったのだが、今日は微妙に毛色が違っていた。
確かな気配が辺りを彷徨い、沈殿している。
私達は分かれてジュエルシードを探す事にする。
ふと見上げた空はねずみ色、雨が降りそうな、そんな上空だった。
広い街を回っていると辺りはすっかり暗くなってしまった。
「気のせいなはずはないんやけどなぁ・・・」
イライラする頭を冷やすように雨が振る。
ぽた、ぽた、ざざざざざざー。
「うわ〜っ・・・デパートに、退却〜あてっ!」
降る雨に混ざって、何かが私の頭を直撃した。
跳ねたそれを手に取る。硬い・・・ひし形・・・これは。
「ジュエルシード!!!ラッキー」
思わずピョンピョン跳ねる私は、魔力の波動を感知する。
結界魔法。特定の土地を囲むことによって様々な効果を発動させる魔術。
私の前から人々が消えていく事を見ると、どうやら、特定の人間を残すもの
のようだ。
ここで間違い無く言える事はただ一つ、何かしらの戦いが、これから始まるのだ。
何も言わず、左側面にシールドをはり、飛び掛る光弾を防ぐ。
基本魔法ごときで私を仕留められると思われたのが、妙な侮辱だった。
「やぁ、こんばんは、八神はやてさん」
この寒い雨の中、暖かい笑顔を浮かべながら、一人の少年が急ぎもせず
私の方へ向かい、一定の距離で止まった。
「こんばんは、ユーノくん。今ちょっと忙しいから、用なら後にして欲しいなぁ」
「それをくれると言うなら、そうするよ」
嘘だ。
だったらさっきの攻撃はなんだろうか。あんな魔法程度でも、ケガ位はする。
それが敵意無しとは、抑止力とはとても思えない。
この子はここで、私を、確実に、今日、殺すだろう。
「私の体なら、もうあの子のもんやから」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
舌打ち。
明らかないらつきの表情に変わる。こう言った会話の勝負に慣れていないみたいだ。
「あの子を呼ぶんか?」
その話題になるとユーノくんは突然強気になる。前の戦闘経験としては当然の反応だろう。
「そうさ。フェイトは最強だ。呼んだら確実に君達の首は吹き飛びだろうね」
「最強?」
噴出し、続ける。
「この世界に最強なんて存在は有り得ない。仮に99%勝つ人間がいたとして、戦闘を
100回もやれば負ける時も来る。1%にクワレル。
その程度の存在が最強?可笑しいなぁ。
それに、フェイトちゃんが最強なんて事、それこそ、無理無理無理。
彼女は最強どころか、強く無くなった存在。どんなに硬い素材でも、
弱い攻撃を受け続ければ瓦解する。
人間はそうならん為に休んだり、悩んだり、愛し合ったり。
それが出来ていない、いや、させてもらえん人間は『強く』は無い!!!」
「うるさいうるさいうるさいうるさい・・・煩いんだよ!!!お前のMYてつがくなんて聞きたくも無い!!
さぁ、愛しいフェイト、この白雉(はくち)女を屠(ほふ)ってしまえ!!!!!」
転送魔法から呼び出される美しき少女フェイトは、不釣合いな大鎌を構え、私が呼び出した
なのはちゃんを捉える。
再戦開始の合図は、雨の音で消された。
雨の中構え合う二人の少女。
それはどちらも動くことなく、ただ睨み合う。
本当にそれだけの場面。
(強くなった・・・)
フェイトは感心していた。
沈黙の挑発にも乗らず、なのはは右腕を少し突き出し、
利き手である左手を顔より少し後ろに引いていた。
なのはが考えた適当な構えだが、不思議な事に隙が無い。
(ならば!)
最初に向かったのはフェイト。
軽い体を跳躍させ、ロケットの如き速さでなのはに突撃する。
レンジを生かし、袈裟に大きく振る。
フェイトにとって、それは互いの様子見にしか過ぎない攻撃を、しかしなのはは
全力で立ち向かう。
袈裟が振り切る前になのはが素早く大鎌の刃を前に出てかわし、フェイトの間合いに
入る。
突然の事にも動じず、大鎌の刃を頭上に戻し、柄を盾代わりにしようとする。
その柄があまりにも正確に拳の軌道に入るが、それを体勢を崩してその軌道を変更して
フェイトの鎖骨付近に炸裂する。
ぐきりと変な音がしたが、それを気にせず、後方に跳び、縦に大鎌を振る。
それをかわしたなのはだが、それ以上の流れで攻撃はできない。
フェイトの有利なレンジになったからだ。
「はぁ!」
小さく振られる大鎌の連撃。
なのはは腕に魔力を集中し、それをかわし、防御する。
その流れるような連撃は徐々に速度を増し、なのはでも見えない攻撃
が増えてくる。
速さだけではない、攻撃の苛烈さ、技術がどんどん高度になり、かわせない
攻撃が増える。これが問題だ。
この二つが合わさった結果、なのはの傷は徐々に増える。
これがフェイトの常套手段だ。手数を増やし、相手の力量をはかり、倒す。
一見有利に見えるフェイトだが、内心焦っている。
攻撃は決定打にはなっていない。いや、このまま攻撃を繰り返しても
倒せないのではないか?
(違う!)
その一瞬がいけなかった。さっきまで隙が見られなかったフェイトの連撃が
大きく縦に振られる一撃に変わる。
後ろに下がり、大鎌の柄を踏み台にしてフェイトの顔面にとび蹴りを見舞う。
やってしまったミスに動じる事無く、呆気なくしゃがんでかわす。
その蹴りは囮(おとり)。本当のねらいは・・・その、髪!
「ぐっ・・・しまっ、」
長いツインテールの一束を掴み引っ張り、軌道を修正した跳び蹴りを再び
見舞う。フェイトもとっさの反応で顔面の直撃をさけたが、胸元にもろに入る。
「がぁっ!」
大鎌を落すのを確認したなのはは、フェイトのツインテールを彼女の左腕に絡ませて
動きを封じる。更に左足を踏み付け、動けなくする。
互いが動かせるのは片手片足。その超至近距離戦、なのはの狙いでもある。
「だあぁあぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!!!!!!!!!」
炸裂する拳と蹴り。フェイトも片腕で防御するが、とても防げるものではない。
無手の戦闘に慣れていないフェイトが、圧倒的に不利だ。
遠くなりそうな意識を 、
「フェイト!!!」
ユーノの一声が連れ戻す。
落ちた大鎌を蹴り上げ、なのはに無骨な刃が降りかかる。
その刃に恐怖して失敗した。よりによって、後ろに下がってしまったのだ!
「あ、やっちゃった・・・」
あんな大鎌、拳で弾いてしまえば、勝てた。
・・・未だに残る恐怖。まだ払拭できていなかったのだ。
「フェイト!!!もう手加減はいい!!!さっさと殺せー」
「はぁはぁはぁはぁ・・・はっ!」
しまった!の声がフェイトの心を満たす。
ボロボロになった体をどうにか立たせ、構えを取り直す。
(くっ、このままじゃ、駄目だ!全力を持って確実に、今直ぐにこの子を倒す!)
フェイトの中に湧く焦りを、彼女は必至に抑える。
息を整えて、自分をクールダウンさせる。
(落ち着け、このままでは、あの子の思う壺)
そう、なのはの狙いはそれだった。
どんなに過酷な修行をして強くなったからと言って、急造であることには変わらない。
その技量はフェイトの方が圧倒的だ。だが、今の強さで言えば、そうではない。
強さは変動する。健康状態、精神状態、知識。それらは、増したり、減ったり。
それがフェイトの場合、かなり減っている。
様々な疲労、ストレス、睡眠不足から来る、脳運動の低下。
それが分かっているフェイトが焦りで戦闘能力を低下させるはずが無く、自分を
落ち着かせる事に専念する。
(大丈夫、大丈夫!)
「はぁ!」
冷静を取り戻したフェイトは再び横に一薙ぎ。
しかし、今度は少し遅く振る。
その柄を掴んだなのははそれを奪おうと引っ張る。
それがフェイトの狙い、大鎌の柄に小さな光が横に入ると、それを引き抜き、
小刀が姿を現す。
本来はそんなものは仕込まれていない。フェイトが急きょそういうものにしたのだ。
それで胸を一刺しすれば終わり、フェイトはそう思っていたらしい。
だが、刺したのは空であり、刺さったのはなのはの蹴り。
顔面に炸裂した蹴りがフェイトをアウトレンジに吹き飛ばす。
この流れは確実になのはが勝つ。4人の誰もがそう思っているかに見えた。だが、
「フェイト!何をやっている!!さっさとその女を殺せよ!!!!」
押されている原因は彼にある。
フェイトは戦闘に不向きだと言って髪を短くしようと思った事があった。
しかし、ユーノがそれを止めた。
フェイトは冷静を取り戻していてその実なんら冷静ではない。
彼の叱咤、彼の存在それが全て彼女を弱くしている。
「ぐっ・・・」
立ち上がるフェイトはフラフラでとても戦える状態ではない。
それでも立ち上がるのは・・・愛の力だった。
彼女の強さも弱さも全て彼から出来ていた。
雨に濡れて顔にくっつく髪がうざったい。
髪をはがしながら、口が切れてできた血を拭う。
「もう終わりや・・・残念ながら、フェイトちゃんの負、」
「違う!!!!!!!!!!!!!
まだ・・・まだなんだ、まだ終わっていない!!!!!!!」
祈った、自分が有利になるような状況になれば、戦闘経験があまりない
この子を倒せるはず。
例えるなら、
すると突然、辺りに大きな力の干渉を感じた。
無駄と思われた祈り。しかし、この世界には偶然にもその願いの大きさに
反応するものが確かに存在した。
ロストロギア、ジュエルシードの事である。
漆黒の闇が全てを覆った。
ただの停電かと思われたそれだが、その闇には魔力の波動が感じられる。
「ジュエルシード!?そんな、それなら確かにこの手の中にある・・・あれっ?」
ない。いざこざで落としてしまったのかもしれない。
「ああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!
ごめん〜なのはちゃん!!!!!」
そう言って逃げていくはやて。
「ど、何処へ行くこんな雨の中〜!!!」
はやては逃げ出した。
だが、今最も警戒すべき事はただ一つ、フェイトの事である。
この暗闇、辺りが見えず、音も雨によって遮断されている。
まさに暗闇。
慎重になるであろうと思ったなのはだが、しかし、マントを翻す音が、なのは
の後から響く。
「くっ!」
する音の方へ拳を打つが手ごたえが無い。
その変わり、フェイトの横一閃がなのはの胴を切り裂く。
マントの音は、囮か。全くの逆方向に一瞬フェイトの刃が光ったのだ。
(何故、私の場所が分かる?魔力は発動させていないはず)
傷は決して浅く無い。もっとまずいのはこの状況だと、なのはは
少しは理解している。
フェイトは特殊な訓練で夜目がそうとうきく。
それだけでも不利なのに、雨によって遠くの足音は消される。
至近距離にもなればさっきのマントの音にまどわされる。
けっかとしてなのはは傷だらけになる。
雨の冷たさのせいで感覚が敏感になり、相当痛い。
そしてまた、フェイトのマントを翻す音。
今度は下手に挑発に乗ることをやめ、感覚を研ぎ澄ませて、
最初の一撃を読む。
フェイトの狙いは、足首。
足首の皮が切れる感覚・・・今だ!
「はぁ!!」
痛みが走る足を片足で蹴ってバランスを崩し、わざと転ぶ。
どすん。
泥水が全身にかかるものの、どうにか、かわせた。
だが、かわしかたが下手だったなのはの片足は結構切れていて、
行動するには限界が出てきた。
不味い。足がこうなってしまっては、もう、少しの行動しか無理になってくる。
もう駄目か・・・そう思ったなのはの前に何かが落ちていた。
「これは・・・いける!!」
なのはの戦闘思考が再び燃え上がった。
フェイトは再び次の一撃の為になのはの元へ駆けて行く。
(足首を深く切った、いつ動けるかも時間の問題だ。)
彼女もそれは分かっているだろう。だから、その行動の意味が分からなかった。
彼女、詰まりなのははフェイトから背をむけて逃げていたのだ。
(無駄だ、逃げ切れない)
なのはに向かって走り直に追いつく、マントのフェイントを幾つも仕掛け、もう
終わり。フェイトはそう思っていたが、矢張りここでも、戦いの冷静さを欠いていた
フェイトは気付いていなかった。なのはの罠に。
それは情熱の炎のように炎をともした。フェイトの美しい金髪が、炎光を反射して
キラキラ光る。
フェイトは久方ぶりの光に一瞬戸惑う。そして、なのはの持っているものを大きく開く眼光で
ひたすらながめた。
(すずなジッポ?なんでこの子がそんなものを!!!)
もう遅い。姿が見えて強みが無くなり、あたたかな光に魅入ってしまったフェイトは隙がありすぎた。
頬になのはの拳がめり込む。
ふら付くフェイトの両耳の穴を掌で叩く。
次いで、ありったけの魔力を込めて心臓あたりにそれをぶちかます。
「がはぁっ・・・」
後に吹っ飛ばされるフェイトに、なのはは最強の魔法を打つ
「はあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」
拳に魔力を集中させ、それを一気に光弾にして打つ、光の拳。
「ディバインーーーーーーーーーーーバスターーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
それを打った瞬間、突然光がもどり、視界が良くなる。
だが、それでもディバインバスターは止まらず、フェイトに向かう。
光の拳が直撃して、ビルを幾つかを吹き飛ばす。
大量の煙の中、一人の男の子が、ボロボロになり、フェイトの前にたっていた。
「は、あぁ」
ユーノは視界が戻った後フェイトを庇ったのだ。
(やられた。急造のシールドとは言え、片腕をやられるとは・・・)
(このままでは、勝てない)
フェイトはすっかり気絶してしまっている。
心臓あたりに大きな一撃。下手をしたら心室細動(しんしつさいどう)を起こしているかもしれない。
医学の心得が無い僕でも、使い魔の体は容易く直せる。
「ちっ、今日はお前らに譲ろう」
転送魔法で二人はいなくなる。
「なのはちゃん、無事かー。ジュエルシードを封印したよ」
「ア・・・うん・・・よか、」
倒れる。
「なのはちゃん、しっかり・・・って、何故に私のすずなジッポが泥だらけに!?」
手を広げて、ジッポを見せる。
「ああ・・・ごめんね」
ここで怒るのは野暮だろう。今は怒りを我慢しとく。
「なのはちゃん・・・ご苦労様」
なのはを抱きかかえて、はやては笑顔でなのはの勝利を祝福した。
つづく
220 :
暗愚丸:2006/12/05(火) 11:13:00 ID:OkwE2WB6
えと、一応初めまして。
以前幾度か名無しで投下した者です。
エロのみの長編なんて言うネタを思いついたので、今回からコテ付きで書かせて頂きます。
えと、最初に。
触手陵辱ふたなりロリショタSM獣姦寝取り、とまぁこういう方向なので、苦手な方はご注意を。
ついでに言うと三期verっぽいしろものです。
そう言うのでも構わないという方は、しばらくの間、おつきあい下さい。
221 :
序章:2006/12/05(火) 11:15:02 ID:OkwE2WB6
「いらっしゃい、なのは」
なのはは久しぶりにフェイトの家に遊びに来ていた。
玄関を開けたフェイトが嬉しそうな笑顔を浮かべてくれて、久しぶりに見ることができたその笑顔が嬉しかった。
「フェイトちゃん、こんにちは」
普段着姿のフェイト、その出で立ちに何か変な感じがして小首をかしげる。
「それじゃ、早く上がって。みんな私の部屋にいるから」
「うん」
笑顔を浮かべながら中に入れてくれたフェイトを見て、その変な感じが消え失せた。
単なる気のせいなんだと思いこんだから、胸の奥で何かがざわついていることになのはは気づけない。
「さ、入って」
フェイトが戸を開けて、応じるように中に入るなのは。
入る前には見えなかったのに、入った瞬間に視界を埋めた光景に、なのはは凍り付いた。
「はぁはぁ……もっと、もっと〜〜」
「ま、待って、アルフ。こんなのダメだよ……、ボクにはなのはが…………」
「やだ……知らない…………もっと気持ちいいことしてぇ」
ぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てながら、アルフがユーノの上で腰を激しく振り回していた。
「あはは、おっきくなったぁ〜〜。気持ちいいでしょ? アタシも気持ちいいよ?」
その幼い外見とは裏腹に妖艶な微笑みを浮かべるアルフ。
同時に、六年前のような子供の姿になっているユーノが、よだれをこぼしながら必死で首を左右に振るのが見えた。
「でも、ボクには、なのはが…………だから……やめ……」
「やだ、もっとするの」
さらに動きを激しくしながら、アルフがのけぞりながら手をユーノの股間に伸ばすのが見えて。
「や、ダメ、そこはダメっ!」
……その手が菊座をいじっていることに気づいて、なのはは訳もわからずただつばを飲み込んだ。
「……ふふっ、やっぱシグナムのおっぱいはえーなー」
「あ、主っ! そのようにっ! な、舐めるのは……っっ!? 噛まないで下さいっ!!」
「いいなぁ、オッパイ大きくて」
「こ、こらリィン! 胸を揉むな!」
少し視線を動かせば、床に仰向けになっているシグナムの胸に、しゃぶりついているはやてと、その小さな手のひらで揉みしだいているリィンフォースUの姿が目に入った。
「そんなこと言ぅて、ここはべちょべちょのどろどろやん、シグナムかてホントは気持ちえーんやろ?」
「主っ! そこは、そこはっ」
髪を振り乱して、必死に耐えようとするシグナム。その口の端からこぼれ落ちる唾液に、とても気持ちよいのだと、理解できてしまった。
「んー、はやてちゃんもとろとろです。舐め舐めします」
シグナムの胸から離れたリィンフォースUがはやての後ろに回って、その両足を大きく割り広げる。
そのままそこに口を付けるのが見えて、心が凍り付いた。そんな汚いところに舌を付けるなんて、不潔だと感じた。
「ふぁっっ! いいよ、すずか、いいよぉぉっっ!!」
「こう、こうですか! アリサちゃんのスケベ、変態! 女の子に犯されて喜ぶなんて、最低よ!」
その声につられて視線を動かした。
……何をしているのか、理解できなかった。
床に寝そべって大きく足を割り開かれたアリサが、目に涙を浮かべながら身もだえていた。
その足の間に体を押し込んだすずかが大きく腰を動かしていく。
その度に大きな叫び声をあげるアリサ。
「ふっ、あはははっっ! こんなにきゅうきゅう締め付けて、そんなに罵られるのが気持ちいいなんて、最低のマゾじゃない!」
「ちが、違う、違うっっふぁぁぁっっっ!!」
「何が違うのよ! 後ろ手に縛られて、ボンデージスーツに締め付けられて喜んでるくせに!!」
「ひゃふっふひっっひぐっっ!!」
激しく腰を動かすすずかが、体を倒して、アリサと口づけを交わす。
それを見た瞬間、なのはの心が悲鳴を上げた。
どうして、女の子同士なのにあんな事をしているのか、あんな事をしたがるのか理解できなくて。
「あはっ、アリサちゃんみたいなスケベで最低で変態で淫乱なマゾは私の奴隷にしてあげるから」
「いや、奴隷いやぁ……」
アリサが、足をすずかの腰に絡めて、なお激しく動かしていく。
それをただ見るだけで、胸が痛くなってくる。
222 :
序章:2006/12/05(火) 11:17:48 ID:OkwE2WB6
「っっ! ザフィーラ、もっと! もっと激しく!」
その言葉に、背筋が粟だった。
慌ててその声の方に目を向けて、呆然としてしまった。
普段の子犬モードではない、大型犬状態のザフィーラが激しく前後に動いていた。
その青灰色に組み敷かれて見える、真っ白な肌。
「っ! そう、そこ! そこもっと!」
体を地面に落としておしりだけを高く掲げた格好でザフィーラを受け入れているシャマルがいた。
「奥までずんずん来てるの! ほら、ザフィーラも気持ちいいでしょ! もっと、もっと強く!」
いつもは理知的で優しいシャマル。
舌を突き出しながらよだれをこぼすその姿に、泣きたくなってくる。
「お○んこもっと、もっとチ○ポでついて! 奥までえぐって、もっともっとぉ」
耳をふさぎたくなるような卑猥な言葉に、思わず吐き気がおそってくる。
だから視線をそらして、ヴィータの姿に気づいた。
「はぁ、はぁ……はやて、はやてぇ」
壁のそばにいるヴィータ。その姿の異様さに声も出せなかった。
両手は後ろ手に縛られているみたいで、身をよじっても前には出てこない。
両足首には細い縄がかけられていて、後ろの壁に向かってVの字を描くように大きく引っ張られている。
全裸のヴィータの薄い胸の先端はクリップのようなもので挟まれて、それに付いている鈴がちりんちりんと音を立てた。
……それ以上にショックだったのは。
グラーフアイゼンの柄が股間に刺さっている事だった。
「はあはぁ……はやて、はやてぇぇ、いぢめて、アタシのこともっといぢめてぇ」
自由のきかない体で腰を振り乱すヴィータ。
そのとろけた瞳は何も映していなくて、ただグラーフアイゼンが微妙に振動するたびに大きく見開かれる。
「ひぎっ! おしりやだ! やだやだおしりのなか、暴れる暴れてる! ぶつかってぶつかり合って、ひぎゃっっ!」
…………よく見れば、その後ろ側。
おしりから四〜五本のコードがのびているのが見えた。
びくんびくんっと、浜に打ち上げあられた魚のように暴れるヴィータ。
その全ての光景の意味ができなかった。
みんなが何をしているか理解できない。……理解したくない。
「フェイトちゃんっ! 一体これっ…………て」
慌てて振り返ったなのはの目に、異様なものが映った。
いつの間に脱いだのか、一糸まとわぬ姿のフェイトが、こちらを向いてほほえんでいた。
大きな胸、くびれた腰、綺麗なラインを描く太股。
普通なら全部綺麗だと言えるものなのに、その体に似合わない醜悪なものが、股間に隆々とそびえ立っていた。
さぁっと血の気が引く音が聞こえた。
「ふぇ……い……と…………ちゃ……ん?」
股間から男性のシンボルをはやしている彼女が、
……いびつなまでに楽しげな笑みを浮かべて近寄ってくる彼女が、
…………欲情に潤み熱情に焦がれ恋慕を浮かべる瞳で見つめてくる彼女が、
なのはの知るフェイトと同一人物とは思えなかった。
「なのは」
とろけるように甘い声音で呼びかけられて、全身に怖気が奔った。
思わず逃げ出そうとレイジングハートに手を伸ばすなのは。
だが、それ以上に、フェイトが抱きついてくるのが早かった。
強く、非常に強く抱きしめられてしまう。
そのまま、抵抗する事もできず唇を重ねられた。
ぬるりと舌が入り込んできて、激しく舐められてしまう。
頭の中で響く卑猥な音、舌から送られる甘い味、飲み込んだ唾液から伝わってくる熱さ。
惚けた頭で、ただフェイトを見つめることしかできなくなってしまう。
「ぷはっ…………、なのは、愛してる。愛してる……」
その砂糖菓子の様に甘くサソリの一撃の様に毒のある言葉に、なのはは飲み込まれてしまった。
223 :
序章:2006/12/05(火) 11:19:03 ID:OkwE2WB6
これは、一人の少女が壊れた記録。
これは、一人の少女が壊した記憶。
これは、一人の少女が作った誤謬。
……フェイト・T・ハラオウン。
彼女が壊れ行くまでの軌跡をここに残す。
『FATE in The Dark Fate』
ただ壊れ行く少女の悲しい記憶を……。
224 :
一章:2006/12/05(火) 11:20:45 ID:OkwE2WB6
それは、とある任務から始まった。
『フェイト、観察結果の報告を頼む』
不意にクロノの思念が届いて、応える前にフェイトは周囲を見渡した。
鬱蒼とした森の中。
時折得体のしれない生物の鳴き声が聞こえるものの、基本的には探査するほどの価値があるとも思えない世界。
「……知的生命体の存在確率は0%。今後、現れるとしても数万年以降だと思われます。それに稀少元素も少なく、魔力も特筆するほどの状態ではありません。この世界は次元封鎖を行なっても、問題はありません」
淡々とした口調で説明しながら、内心で深いため息を吐いた。
最近、ミッドチルダ内である薬が売られ始めていた。
性的快感を幾数倍にも高める効果をもつそれには、非常に高い習慣性と精神に対する深いダメージがあったのだ。
それゆえ、時空法によって禁止薬物に指定され、それが採集される世界の探査が急務とされ、結果としてアースラがそれに関わることになったのだ。
『そうか、じゃあもうそろそろ上がってくれ。結果を上層部に連絡しないといけないから』
「はい、もう少しだけ見回ってから、帰還します」
クロノにそう言葉を返して、通信を切る。
正直に言えば、こんなところには一秒たりともいたくなかった。
空気が澱み微かな異臭を放つ空間。
ただそこにいるだけだというのに、周囲から異様な圧力を感じてしまう。
早く帰りたかったが、それでも次元封鎖が行われる以上、間違っても残留者が出ないよう確認するのは当然の義務。
次元封鎖がされた世界は――時空管理局の執務官クラスの人間でない限り――次元間移動が許されなくなるのだ。
たとえば、なにがしかの理由による次元漂流の結果たどり着いたとしても、よほど特殊な事情でもない限り救出されることはあり得ない。
だから、念には念を入れて探査をすべきだと解っていた。
『Sir. Let's come back early(サー、早く戻りましょう)』
バルディッシュの声に思わず頷きそうになって、フェイトは深い溜息を吐いた。
どんなに気が進まなくても任務は任務。
だから飛び上がろうとした瞬間、いきなり背後から何かが飛びかかって来た。
「っ!?」
それが真っ先に、バルディッシュに絡みつく。
赤紫色をした鞭の様な触手だと、かろうじて見て取れた。
次の瞬間、フェイトの腕や足に巻きついてくる。
腕が締め付けられる痛みに、思わずフェイトはバルディッシュを取り落としてしまった。
『Sir!?』
凄まじい勢いで地面に叩きつけられバルディッシュの声が響く。
ソレを聞きながらも身動きできないフェイトを嘲笑うかのように、触手が拘束を強めてくる。
ぎりぎりと締め上げられ抵抗できないほどの強い力で、万歳するように両手を引き上げられて大きく股を開かされた。
屈辱に顔を赤らめるフェイト。
締め付けられる足や腕から来る痛みに、思考が千々に乱れる
バルディッシュを奪われた事実が、あまりにも痛恨だった。
執務官足る者、デバイス無しでもBクラス程度の魔法は行使出来なければ話しにならないが、それには呪文の詠唱と精神集中が最低条件となる。
だが先ほどから突き付けられている痛みで、攻撃魔法を使えるほどの集中は出来そうにない。
無論、フェイトとて手をこまねいていた訳ではない。
即座に念話で助けを呼ぼうとはしたのだ。
念話くらいなら現状でも使うことは可能だったから。
『兄さん! 兄さん、聞こえたら返事して!』
225 :
一章:2006/12/05(火) 11:21:41 ID:OkwE2WB6
フェイトの必死の叫びに応えは返ってこない。
届いているかどうかすら定かではない状況に、フェイトの背筋に冷たい汗が流れた。
『誰か! 誰でもいいから聞こえたら答えて!』
顔色を変えて必死で思念を送り出すフェイト。
フェイトの普段の冷静さを知る者なら、目を丸くするであろう狼狽ぶりにも理由があった。
木陰から何本もの触手がゆっくりと現れたのだ。
半分かそこらは、いま手足にまとわりついているそれと、さほど変わらないカタチ。
残りの触手は、先端が歪に膨れ上がった……いわゆる男根を模したカタチをしていた。
そのカタチの意味がフェイトに理解できた。……出来てしまったのだ。
『お願い。誰か、誰でもいいから、気付いて……』
フェイトの顔に恐れが浮かんだ。
それは当然の事。この状況で平静を保てる女性などいるはずがない。
しかも、フェイトにはその手の経験すらないのだ。
その嫌悪感は、筆舌に尽くしがたいものがあった。
……フェイトの思念が届いた様子がないことも、恐怖を倍増させている。
「イヤ……」
フェイトの口から、呟きがもれた。
身をよじり、怯えた表情を浮かべるフェイトに、二本の触手が近づいてくる。
「イヤ……イヤ、イヤァッッ!!」
フェイトの悲鳴が木霊するのと同時。迫ってきた触手が、フェイトの年齢不相応の豊かな乳房に絡みついた。
「っ……ぅくっ…………う!!」
フェイトはその感触に必死で耐えていた。
張りのある乳房の付け根から乳首まで螺旋状に絡みついた触手が、付け根から先端へとフェイトの胸を絞り上げる。
触手になぶられていると思うだけで、悔しくて悲しくて涙が勝手に溢れ出す。
こんな得体の知れないモノに汚されている自分が、ただ悲しかった。
……なのに、痛みを感じる寸前の強さで胸を絞られるたび、奇妙な熱さが身体の中に生まれた。
「はふっ……」
思わず漏らした吐息は異常に熱っぽくて、慌てて唇を噛み締めるフェイト。
こんなモノで感じているなど認めたくなかったから。
……だが、フェイトの意思とは裏腹に、バリアジャケット越しですら乳首がプックリと膨らんでいるのが見てとれた。
乳房を責めたてる二本の触手の先端が、蛇の様に鎌首をもたげる。
そして、十字状の切れ込みが走ったかと思うと、くぱぁ……と四つに割り開かれた。
乳房を絞る動きはそのままに、フェイトの眼前まで伸びてきた先端部。
目を反らす余裕もなく、それを見てしまったフェイトの目が恐怖のあまり、大きく開かれた。
四つに分かれた入り口の裏側は、細かい凹凸と繊毛でびっしり埋め尽されている。
しかも、それらが激しく複雑に蠢いていたのだ。
ただ乳房を絞られているだけでも非常に辛いのに、それが乳首に吸い付くことを想像するだけで、フェイトの心は折れそうになる。
そんなフェイトの思考を読み取ったように、先端がゆっくりと乳首に近づいていく。
「っ……」
唇を噛んで、ただおびえた表情でソレを見つめることしかできないフェイト。
あと少しでくっつく寸前でぴたりと動きを止めた。
恐怖を煽るためだと理解した瞬間、
「ふぁぁあああっっっ!!」
ぺたりと乳首に吸い付かれて、同時にフェイトは絶頂に達した。
それがれっきとした打撃なら、バリアジャケットで防ぐことは、十分に出来ただろう。
だが、それは単に触れていただけのこと。
その快感はフェイトの身体が自然にみせた反応でしかなかった。
226 :
一章:2006/12/05(火) 11:22:30 ID:OkwE2WB6
「ひぅっ!」
一瞬でとんだ意識は、乳房と乳首へのダブルアタックで無理矢理引き戻された。
そのまま啼泣を上げそうになったフェイトは、だが血がにじむほど強く唇を噛んだ。
なぜなら、いつの間にか目の前に男根状の触手がそびえたっていたから。
先端の割れ目から、とろりとした液体をこぼす触手。
嫌悪感と吐き気を覚えて視線を反らした瞬間、ビクンッとフェイトの身体が大きく震えた。
乳房と乳首から異常なまでの熱が頭と股間に叩き込まれてきたのだ。
フェイト自身気付いていないのだが、腰が前後左右に激しくかつ艶めかしく蠢いていた。
バリアジャケットでわからないが、股間も小水を漏らしたようにどろどろに濡れそぼっている。
それでも、フェイトは唇を閉ざしたまま、男根状触手を拒否しつづけていた。
すりっと、それが頬にすりよってくる。
抵抗することが出来ないフェイトを嘲るように、頬だけでなく鼻や瞼にまで液体をぬちゃりと塗り込んできた。
肌に唾をつけた際の異臭を数百倍にも濃縮した臭いか襲ってきて、フェイトの目に新たな涙がにじんだ。
同時に、背筋にしびれがはしる。言うまでもなく、乳房と乳首が蹂躙されているからだ。
その快楽が声となって飛び出しそうになるのを、フェイトは全力で抑える。
口を開けば顔に絡んでくる触手が入ってくることをフェイトが理解しているから。
だが、その抵抗も儚いものでしかなかった。 また新たな触手が姿を表したのだ。
指くらいの細さの触手が二本、フェイトの顔めがけて、空を走った。
強く目を閉ざしたフェイトは、次に来た感覚にショックを受けた。
……細い触手達がフェイトの鼻の穴へ入って来たのだ。
「んーっ!?」
唇は閉ざしたままで、フェイトは悲鳴を上げた。
鼻の穴をこそげる様に動く触手。それがわずかに気持ち良いと感じてしまったのだ。
それを気持ちいいと思うなど、まるで変態。
そんな風に感じる心と、快楽として受け取る身体。
乳房への責めも変わらず続き、気持ち頭がおかしくなりそうだった。
それ以上に、息が出来ないことが苦しい。顔を這いずりまわる触手が虎視眈々と狙っているのだ。
この状況で口を開ければ、どうなるかくらいフェイトだってわかっている。
それでも、胸から来る快感と息苦しさに負けてしまった。
「ぷはっ! はぁはぁ、んぶっ!!」
耐えきれず口を開けた次の瞬間、顔の前にいた触手が一息に飛び込んで来た。
「んー、んぅー―!!」
思わず、フェイトは悲鳴を上げる。まともに息をする暇もなく、また口を塞がれたのだ。
空気を求めてパニックに陥ってしまうのも詮無いこと。
その瞬間だけは、乳房と乳首への愛撫も口腔内の蹂躙も、脳裏から消えさった。
「んっっん……んーー!!」
今はただ空気が欲しい。そのことしか、フェイトは考えられない。
肺がむずがゆさに似た痛みを訴える。
だから呼吸を確保しようと、必死で鼻に力を込めて息を吹き出してみせる。
本当はその程度でそれが外れる筈がないとわかっていた。
だから、鼻の穴を塞ぐ触手の先端が開いて気体が送り込まれた時、矢も盾もたまらずフェイトはそれを胸一杯に吸い込んだ。
非常に強い異臭さえ、今は全く気にならない。
人心地ついた瞬間、乳房から送られる熱が身体を灼く。
それだけではなく、口中を占める触手の熱さもフェイトの身体に染み込んできた。
顎が辛くなるほどに太い触手。その先から溢れ出す液体が口一杯にたまっていく。
苦しょっぱい液体はただ不快感を煽り、だが塞がれた口のせいで吐き出すこともできなかった。
さらに、口を犯す触手が激しく暴れだし、フェイトの心を追い詰めてくる。
口腔内で響く卑猥な粘着音に耐えきれず、フェイトはたまった液体を嚥下してしまった。
同時、熱が奔った。
頭にというより脳髄の奥深くに
股間ではなく最奥の子宮自体に
いきなり焼け溶けた鉄を流し込まれた。そう感じるほどの熱さが湧いたのだ。
あっと思う間もなくフェイトは意識が朦朧となっていくのを感じた。
227 :
一章:2006/12/05(火) 11:23:07 ID:OkwE2WB6
気がつけば、自ら身体を震わせて乳房を揺らし、触手の動きに変化をつけて愉悦に浸っている己がいた。
我に帰れば、口中の熱塊を舐めしゃぶり、極上のジュースに感じられる先走りを啜りあげる自分がいた。
鼻の穴を擦られることさえ気持ち良くて、送り込まれる気体を肺の隅々まで吸い込んだ。 熱かった。
ただ無性に熱かった。
この熱さが治まるなら、どんなことでもするつもりだった。
せめて手が自由だったなら、思う存分股間を擦りたてていたはず。
もっと気持ち良くして欲しいから、触手に必死で奉仕した。
ゾクリと背筋が粟立った。
口の触手、その先端がブワッと膨らんだのだ。
乳房の触手が限界まで絞りあげてきた。
世界が真っ白にそまり
ドクンッッ、と口腔に精液が注ぎ込まれる。
その熱が、フェイトを頂きに押し上げた。
「んっっ! ん―――――――!!」
その瞬間、バリアジャケットが金光を振り撒きながら、消失した。
……熱く火照った股間を涼やかな風が撫でる感覚に、フェイトの意識が覚醒する。
未だ口には剛直がはまったままで、鼻も塞がれている。
それでも、先ほどよりはましな理由は、乳房を責めていた触手が消えていたから。
そこまでみてとったフェイトは、喉が微妙にいがらっぽいことに気付く。
口中に放たれた液体を我知らず嚥下したのだろう。そう気付いて恥ずかしさと悔しさで涙をこぼす。
不意に腕を釣り上げていた触手の力が緩む。
がくんと、上半身が前に倒れた。
そのまま、上体がうつ伏せになったところでまた触手が腕を釣り上げる。
尻を突きだしたような体勢をとらされたフェイトは、少し首を下にまげた。
同時に、その光景が心を焼いた。
いつの間にか全裸になっている自分の姿がまず視界に入って、左右の内股を白く濁った愛液が足首まで垂れているのが見えた。
否、それだけではない。
フェイトが見ているそばから、ぽたりぽたりと愛液が澪れていくのだ。
それを理解した瞬間、身体が異常に疼いた。
成り成りて成り足らぬ身体の空虚な部分を、どんなものでも良いから埋めて欲しい。
そんな風に思う己に、フェイトは恐怖を覚えた。
まるで自分が淫乱になってしまったかのように感じたから。
だが、ソレよりもなお大きい恐怖が形を持ってせり上がってきた。
……男性の太股ほどはありそうな太い触手が二本。
フェイトの胸のすぐしたにまで伸びてきてぴたりと止まる。
その先端に十字の切れ込みが入った。
ぐぱりっと割れ広がる触手。
それはフェイトの豊かな乳房を余すところなく覆い尽くすであろうサイズで、その内側にあるのは幾万となく生えている繊毛と幾千となくある小さな吸盤、そして、その奥からちろちろと蛇の舌のようにうごめく細い触手。
「っ!?」
一瞬、のどの奥で悲鳴を漏らした。
ソレが自分の胸を包み込んだとき、襲いかかってくる快楽がどれほどのものになるのか、理解してしまったから。
開いた状態で徐々に胸へと近づいてくる触手。
ただおびえることしかできないフェイトは、予想外の場所から襲いかかってきた衝撃に全身を硬直させた。
べちゃりと、左右の尻たぶがなま暖かい感触に包み込まれたのだ。
ぎゅぅっと吸い込まれながらむにむにと揉み込まれ、無数の小さないぼにこすりあげられる。
尻から送られてくる感覚だけで、フェイトの心は悲鳴を上げた。
228 :
一章:2006/12/05(火) 11:23:53 ID:OkwE2WB6
それほど気持ちよかったのだ。
そして、ぬちゃりと乳房にも触手が吸い付いた。
「っっっっ〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
悲鳴を上げた。
ぎゅにぎゅにと前後左右余すところなく包み込まれた乳房を激しく揉みあげられる。
そのたびに表面を優しく無数の繊毛がなでさすり、きゅぅっと幾千もの吸盤が吸い付いてくる。
限界までしこった乳首には、乳房へのものと基本的に同一で数万倍も繊細な刺激が与えられていた。
ちかちかと視界が白く明滅する。
壊れそうなほどに気持ちいい状態に、フェイトは喜悦の涙をボロボロとこぼしていた。
大事な物が壊れていく。
オンナではなくメスであるのだと突き付けられる。
ニンゲンではなくドウブツなのだと教え込まれる。
それが、吐き気を呼びそうなほどに心地よかった。
不意にそれまで静まっていた口腔の触手が動き始めた。
奥へ、更に奥へと。
えづきそうなほどに深く入り込んできたその触手に、フェイトは必死で舌を絡めていた。
のど輪を締めて先端を狂おしいほど激しく刺激する。
コレが、コレらが与えてくれる快楽が愛おしい。
そう感じているのだ。
止めることなど出来るわけがない。
胸と尻たぶに加わる圧力が増した。
激しく痙攣させながらも、フェイトは身をくねらせてその攻撃に身を任せる。
執務官の誇りも、時空管理局の意向も、親友との語らいも、何もかもが意味を失っていく。
「んっっ、ん〜〜」
今はただ欲しかった。
股間を……膣腔をイヤと言うほど犯して欲しかった。
堅く熱い剛直でえぐり抜いて欲しかった。
全身どこでも良いから触れて欲しかった。
早く絶頂に達したかった。
そんな思いを汲んだわけでもないだろうが、更に幾本もの触手がフェイトの体にすり寄ってくる。
まるで舌の様な形状をした触手がフェイトの脇腹から脇の下までつつっと舐めあげる。
同様のカタチをした触手が、背中やへそ、足や手の指の間を丹念にしゃぶってくる。
更に異様な触手が、フェイトの耳朶に吸い付いた。
耳をすっぽりと覆い尽くしたソレはまるで耳を性器に見立てているかのように、内側から伸ばした細い触手を耳の穴に向けて挿抜し始めたのだ。
ぐちゃぐちゃと耳全体から伝わる音。
それが乳房や尻たぶを責めている音の様に聞こえて、全身を舐め真さわれている音のように感じて、口の中を激しくうごめいている触手の音との同期をとって、フェイトの心を責め立てた。
早く欲しい。
ぷしゃっぷしゃっと激しく汐を吹きながら、フェイトは泣き叫んでいた。
無論、声は出せないけれど、それでも涙をボロボロとおとし続けていた。
心臓の鼓動が、今まで感じたこともないほど早く動いている。
鼻を蹂躙する触手から送り込まれる気体だけでは、息が苦しい。
そんなフェイトの視界に、やっと待望の触手が姿を現した。
ゆっくりと股間に近づいてくるのは、先端の一番太いところが350ミリ缶ほどの太さを持つ男根状の触手。
やっと埋めてもらえる。その気持ちが強すぎて、自分が初めてだと言うことも、あの太さで収まるはずがないと言うことも、フェイトの脳裏をちらりともかすめなかった。
だが、ここでもまた予想外のショックがフェイトの体を貫いた。
「〜〜〜〜っっっ!!」
菊座に、ずぷんっと別の触手が入ってきたのだ。
229 :
一章:2006/12/05(火) 11:25:07 ID:OkwE2WB6
ゴルフボールをいくつも連ねたような触手、その一個一個が入ってくるたびにフェイトの体が不規則に揺れた。
フェイト自身信じられなかった。
ほぐされていたわけでもないのに受け入れられた自分が。
そして、その感触があまりにも気持ちよかったから。
最奥まで入り込んできた、そう思った瞬間、今度はすさまじい勢いで全部が引き抜かれた。
ぶぷぷぷぷっとまるで大便を漏らしたような感覚に、それが僅かに残った羞恥心を煽りながらも快感としてフェイトの心を焼いた。
脳が熱泥と化したような錯覚。
普段ならとっくに達しているほどの快楽。
なのに、まだ足りなかった。
僅かに視線を下向けて股間に迫っていた触手がべとべとに濡れそぼっていることに気づく。
それが、フェイトの漏らした愛液のせいだと気づいた瞬間。
その触手がするすると一気に伸び上がってきた。
そして、菊座にはまった触手と同期した勢いでフェイトの膣内を一気に貫いた。
途端、視界が完全に真っ白に染まった。
ごりっと最奥まで一息に突き入れられたせいで、やっと絶頂に達したのだ。
だが、休む暇など与えられない。
ごしゅごしゅと菊座と膣腔を責める触手が激しく動き出す。
先端の大きく張り出したエラが膣壁をこすりあげるたび、竿が人間にはあり得ない方向に動きを見せるたび、フェイトは絶頂に達していた。
「〜〜〜〜〜〜〜!!」
口の中の触手も激しく動き、胸と尻を揉みしゃぶる触手が強さを増し、脇やへそや背筋を舐める触手が優しく愛撫してくる。
そのたびに絶頂に達した。
壊れそうな程の気持ちよさが全身を襲う。
不意に、どぷんっと口の中の触手が精液を吐き出す。
その苦みのある味も生臭ささえも、今は天上の美酒もかくやと思わせるほど、フェイトを酔わせてくれた。
必死でそれを飲み下す。
何もかもがフェイトの中から消えようとしていた。
今はただ、胎を直腸を口腔を犯される心地よさに浸っていたい。
僅かに残ったフェイトの意識さえ消し去るような、強烈な衝撃が襲いかかってきた。
クリトリスが強烈な勢いで吸い上げられたのだ。
「っっっっっっっ!! っっっっっっっっ!!!!」
死ぬ、本気でそう思った。
一番敏感な部分を責められながら全身がぐちゃぐちゃのどろどろに犯されている。
「っっっっ〜〜〜〜〜っっっっっっ〜〜!!」
フェイトの目がうつろになっていく。
自分が単なる快楽を貪るだけの肉に変わっていくのを、心の奥底で感じながらフェイトは笑みを浮かべていた。
もう、耐えきれない。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!」
びくんっと体を震わせた瞬間、熱い液体が胎と直腸、のどに噴射された。
…………ゆさゆさと、フェイトの体が揺れていた。
目はうつろで全身至る所に白濁液を纏うフェイト。
その下腹部が、妊婦のように膨れあがっていた。
それだけ大量の精液が収まっているのだ。
「――」
触手が動くたび、ぴくりと小さく身を震わせて、それ以上の反応は見せないフェイト。
あともう一度、あの激しい責めが来れば、フェイトの心臓は耐えきれず破裂する。
そこまで衰弱していた。
それに気づいているのかどうか、膣に収まっている触手がゆっくりとした様子でフェイトの最奥に達した。
230 :
一章:2006/12/05(火) 11:25:51 ID:OkwE2WB6
その触手の先端から更に細い幾本もの触手が伸び出して、フェイトの子宮口に挟まっていく。
普通なら痛みさえ感じる行為に、それでもフェイトは反応を見せようとしない。
通常の倍以上の大きさに開いた子宮口に、触手の中から吐き出された種が送り込まれた。
同時、子宮口が元に戻り種が子宮の内側に閉じこめられた。
ゆっくりとフェイトの体が地面に下ろされる。
「――――」
一気にフェイトの体から抜け出す触手の群れ。
ぶじゅぶびゅっと糞尿と樹液を下から垂れ流し、よだれと涙と鼻水をこぼすフェイト。
うつろな視線で空を眺め惚けたように口を開けたまま、微動だにしないフェイト。
ほんの僅か、上下に震える胸がまだフェイトが芯ではいないことを証していた。
ぽたりと、そんなフェイトの頬に水滴がかかる。
雨……ではない。
僅かに見えた空は蒼いままで、だというのに、その水滴は徐々に量と強さを増していった。
まるでシャワーの様にフェイトの体に降り注ぐ水滴。
フェイトの体を覆っていた汚泥や、フェイト自身が吐き出した汚物があり得ない勢いで消失していく。
こくんと、口の中にたまっていた液体を飲み下すフェイト。
体の勝手な反応が、引き金になったかのように、フェイトの目に光がともった。
もう一度、更にもう一度、口中にたまった液体を嚥下するたび、フェイトの目に強さが増した。
「……っ、かはっかはっっ!!」
むせながらゆっくりと上半身を起こすフェイト。
「……私…………」
どこか惚けた表情のまま、フェイトはゆっくりと体を起こす。
全身に残っていた陵辱の証が全て消え去り、同時に雨がやんだ。
そのことにも気づかずに、フェイトは地面に叩き付けられて機能を停止しているバルディッシュを静かに持ち上げた。
そのまま、バリアジャケットを展開する。
「……バルディッシュ、大丈夫?」
フェイトの声にバルディッシュは応えない。
早く戻らないといけない。
ここであったことを告げないといけない。
そう思いながらも自分がされたことを、フェイトは誰にも言う気にはなれなかった。
…………種が脈動を始めたことを、フェイトは気づけなかった。
231 :
暗愚丸:2006/12/05(火) 11:29:34 ID:OkwE2WB6
と言うことで、一回目触手編お送りしました。
全編通して実用性重視のエロ系になる予定です。
次回は……次スレかもしれませんが、早めにお送りできるといいなと思ってます。
それでは、失礼。
233 :
名無しさん@ピンキー:2006/12/05(火) 22:18:09 ID:0xx+3bgE
234 :
名無しさん@ピンキー:2006/12/08(金) 12:50:04 ID:DKwr2jxy
触手まつりだ
ハァハァ(*´д`*)━( *´д )━( *´)━( )━(゚ )━(Д゚ )━( ゚Д゚ )ハァ?。
完全に独り言だが、保管庫の管理人さんは無事なのだろうか……
気にさわったらごめんなさい。
触手の展開が王道っぽい、だがそれがいい(違
凌辱も良いねぇ
おおぅっ、GJ!!!
触手スレで紹介されていたので見に来てみれば…!
この後冒頭部分の乱交になるのかと思うと… ハァハァ
GJ!!
続きに期待
やっぱり魔法少女といえば触手、触手といえば魔法少女
何この?過疎…
>>240 職人さんだってリアルがあり、仕事がある
年末のこの月は基本的に総決算だの何だのと忙しくなるもの
気長に待つのが読み手の器
なのはのクラスってセミ、ロングヘア-多いな。
職人さん師走も頑張れ。
そうかスレも年末進行か、みんなもあまり無理しないように体壊したら意味ないからな
部屋のドアが、無機的な軽い音を立てて開く。
振り向き、注がれる視線は数多かった。
「……なのは」
なにかを言いかけて歩み出ようとしたはやてがシャマルに肩を抱かれ制され、
眼鏡の少年だけが入室してきた者たちのほうへと進み出る。
少女は、シグナムとクロノに付き添われ、隣のヴィータに心配げな目を向けられながら
憔悴した表情で俯いていた。
その手には、鋼でできた手錠がはめられている。
「……」
当然といえば、当然の処置だった。
局の定めた規律に背き、同僚に矛を向け。
一歩間違えば次元世界に危機を及ぼすかもしれない行動を、彼女はとったのだ。
「フェイトが、待ってるよ」
だが、なのはを迎えた彼らの態度は、罪人を迎えるそれではない。
すずかと両手を握り合うアリサが、若干の非難めいた視線を送るだけだ。
「……?」
クロノが、彼女の手をとる。
僅かに視線と顔をあげたなのはの、手首の手錠に設けられたスリット部分に、
待機状態のデュランダルが滑り、噛まされる。
彼女の両腕を束縛していた金属輪が、直後に床へと落ちた。
魔法少女リリカルなのはA’s −the day−
第十二話 会いにきたよ
フェイトの体の状態は、なんとか安定を取り戻し小康を保っていた。
ユーノに寄り添われ、肩を押されるようにしてなのはは彼女のベッドの側に立つ。
人工呼吸器や、生命維持装置の類。点滴のチューブなどが密集するベッド上の少女は
あまりに痛々しく、半ば思考することを放棄したがっているなのはの今の頭では、
眠る彼女になんといって声をかけていいのか、出てこない。
自分は、彼女を助けられなかった。
こうして誓いも果たせず、舞い戻ってきた。
そんな自分に一体、何が言える?
「……ぅ」
微かな呻きが、呼吸器の透明なマスクに覆われたフェイトの口元から漏れる。
瞼が数度動き、ゆっくり開いていく。
「フェイトちゃん……」
「なのは」
ぼんやりとした目だった。
なのはが辛うじてかけた声にも彼女のほうを向くことはなく、虚空を視線が彷徨っている。
「……なのは?どこ?」
「───え?」
それだけならば、よかった。
よかったのに。
「なのは?お兄ちゃん?どこ?母さん?」
酸素を供給するマスクで自由にならない首のかわりに、目だけをきょろきょろと動かして、
彼女はすぐそばにいるなのは達を探す。見えない位置では、ないはずなのに。
点滴のチューブの刺されていない右腕は虚空をかき混ぜるように掴んでいた。
「暗い……みんな、どこ?ねえ?」
「失礼。フェイトちゃん?」
彼女の奇妙な動きに気付いたシャマルが、フェイトの手をとり話しかける。
「フェイトちゃん?私よ、わかる?」
「シャマルさん?あれ、どうして……」
「ちょっとごめんなさい」
なのはに彼女の手を握らせ、自分は医療用のペンライトでフェイトの目を照らす。
上下の瞼を押さえ広げて、丹念に。
二言三言、フェイトに問診を交わしながら。
しばらくその診察を続けて、シャマルはライトの光を落とす。
「───」
胸ポケットにライトをしまった彼女がだまって首を振ったのをみて、一同は理解する。
リンカーコアの損耗・消失の進行に伴って、フェイトの視力はもう、失われているのだと。
声もなくすずかとアリサ、そしてはやてが肩を寄せ合ったまま崩れ落ちた。
他も一様に愕然と、その事実を受け入れざるをえなかった。
「───みんな、ここにいるよ」
そんな中口を開いたのは、なのはだけだった。
握った彼女の手を、強く抱きしめて。
愛おしむように胸元に引き寄せながら、語りかける。
「眠ってる邪魔になったら、いけないと思ったから。もう少し眠ってて、いいんだよ」
「なのは?」
「もう……いいの……ゆっくり……っ」
「なのは」
ユーノが、なのはの頭を抱く。
嗚咽を、悟られてはいけない。
彼のやさしさと気配りにも、涙が出た。
あとからあとから、溢れ出てきた。
* * *
本当に、何も見えなくて。
真っ暗で。
だけど、なのはがこの手を握ってくれている。
彼女の胸に、抱いてくれている。
それだけは、ぬくもりが、鼓動が教えてくれる。
───同時に、彼女の震えが伝わってくる。
泣いているのかな。
だとしたらそれは、きっと自分のせいだ。
自分は悪い子だな、と思う。
友達や、家族や。
大切な人たちに、いっぱい悲しい思いをさせているのだから。
みんなを悲しませるなんて、悪い子だ。
(……ごめんなさい)
だから、みんなに謝った。
(……ありがとう)
そして、みんなに感謝した。
謝罪よりも、強く、強く。
こんな自分に対し、こんなにも思いを向けてくれる人たち、みんなに。
「母さん、お兄ちゃん。いる?」
「……ええ、ここに」
「ちゃんと……いるよ。なんだ?」
みんなが向けてくれた、その思いだけで。
「私、ね」
自分には、十分すぎるくらいだとフェイトは思った。
「私……ここにいられて、よかった」
思いながら次第に彼女の意識は、闇に沈んでいった。
言いたかったことが、言えたと思った。
兄と母に、自分の率直な思いを伝えて。応じた二人の声が涙に濡れていないことに、密かに安堵しながら。
もとから見えなかった視界だけでなく、全てが黒く塗りつぶされていくような、
そんな感覚の中へと。
なぜだかその闇を怖いとは、思わなかった。
ごくごく自然に、身体がそれを受容した。
『───フェイト。会いにきたよ』
それはきっと、意識を失う直前。
大好きなあの子の声が、聞こえてきたから。
だから安らかに、フェイトはその闇を受け入れた。
* * *
「どいて!!シグナムは看護師さんたちを!!」
「あ、ああ!!」
彼女は、再び昏睡に陥っていた。
身体にとりつけられたいくつもの生命維持装置の類が警告音を発し、
なのはを押しのけたシャマルがせわしなく動き回る。
こうなると医学の知識のない、その場の殆どの人間にできることはない。
ベッドサイドからユーノ共々はじきだされたなのはと同様に、
急変した事態を見守ることだけしか、できない。
「そんな……はやすぎる……っ!!」
耳障りな発信音は、とめどなく鳴り響き続ける。
「フェイトちゃん……っ戻って、きなさい……っ!!」
懸命に、処置を続けるシャマル。
まだ、時間はあったはずなのに。その思いが、焦りの表情からにじみ出ている。
病状の進行が、急激過ぎる。
額に汗を浮かべ彼女の行う処置も空しく、計器に表示される数値が次第に低いものへと変化をしていく。
「シャマル!!今看護師の応援が───」
「急いで!!」
振り向きもせず、怒鳴る。
怒鳴る間も、手は動きを止めず、薬品の入った注射器をフェイトの腕に突き刺し、
投与し、彼女の胸元にマッサージを施していく。
助かれ。
助かってくれ。
その行う動き、ひとつひとつに皆の思いをこめて。
「ダメ……フェイトちゃん……っ!!」
どたどたと騒がしい音を立てて、複数人の看護師、白衣の医師たちが室内へと踏み込んでくる。
急激に低下していく、フェイトの生命活動の数値。
それらはなにひとつ、踏み込んできた医療スタッフの手を借りても食い止めることが敵わない。
「ダメ、ダメよ……あがって、あがってっ!!」
いつしかなのはは、膝を折っていた。
シャマルの悲痛な叫びが、耳から耳へと抜けていく。
三人の親友達も、きっと同じなのだということを心のどこかで、理解して。
彼女の肩をユーノが支えていた。涙するエイミィの肩は、クロノが。
ヴィータは肩を震わせてシグナムの身体へと顔を埋め、体重を預かったシグナムは天を仰ぎ。
フェイトの母親たるリンディは、気丈にも引き結んだ表情で、娘へと群がる医療スタッフたちを見つめている。
みんなが、見守っていた。
下がっていく数値と、けたたましい警告音を響かせる生命維持の機械に囲まれた一人の少女を。
みんなが見守る中。
全ての数値が遂に、ゼロを指し示した。
機械たちの発する電子音が、空虚で単調なものへと、変化した。
ご無沙汰いたしました。
ノロウイルスでやられておりました、640です。
ひとまずこの話も予定としてはあと二話ほどの予定ですので、はい。
年内に終われればいいな、と思っております。無理な可能性が大ですが。
ちと期間があいたので個別レスは割愛させていただきますが、
他の職人様がた、本当に乙でございます。
年末進行大変ですが、がんばりましょう(お前ががんばれよ
ではでは。
250 :
さばかん:2006/12/16(土) 00:26:35 ID:ehZVTezh
こんばんは、今回もエロなしのバトルものです。
最近ノロなんちゃらとか言う奴が流行ってますが皆さんお気をつけて。
私はバカなんで病気にはなりませんが・・・
関係無いけど、まさお君のご冥福をお祈りします。
怠惰な生活にも慣れた。
あの日、なのはとかいう女の子にフェイトが負けた日から、ジュエルシードの
探索は止めている。それは、自分が冷静になったからだ。
フェイトは疲れている。
そう、色んな事象が重なった為だ。
その原因は・・・僕にある。
ろくに休ませなかった、ろくに眠らせなかった。
負けたのは、負けたのは当然の事由だったのだ。
今は高層アパートでポテチを食べて適当なテレビを見ている。
「・・・・・・」
コンソメ味美味い。
色んなポテチをここ最近食べたが、これが一番美味しい。
いや、そんなことより。フェイト、フェイトが心配だった。
「私、料理つくるよ」
そんな事を言っていたのだが、そもそも、彼女はここら辺の地理に
詳しくない。それなのに・・・ああ、なんて無茶な奴。
「ま、そんなところも好きなんだけどね」
フェイトは優しい子だから、彼女の方が疲れていると言うのに、落ち込んだ
僕を励まそうとしてくれている。
時に強く。時にカッコ良く。時に優しい。
それが、僕の好きなフェイト。
「・・・そっか、マサオ君死んじゃったんだ・・・ううっ・・・」
あんだけ食わせてりゃ、そりゃあ、早死にもするだろうと
心の中で思いつつも、悲しい気持ちも確かにある。
いや、それより。ポチタマが終わっても帰ってこないって・・・フェイト、
「どこにいったんだ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
ユーノが騒いでいる何時間か前。
「困った。道に迷った。」
初めて歩く街で、いや、正確に言えば初めてでは無いけど良く知らない道。
スーパーを探している途中、迷った。
黒のカッターシャツに短パン、それがいけなかった。
今は冬だから、寒いに決まっている。
どうせ早く帰ってこれるだろうと思った私は部屋着のまま外に出てしまった。
寒い。
「ううっ・・・寒い」
困りつつ辺りを見渡す。
すると、どこかで見かけた相手を見つける。
それは私と同じ位の背丈の男の子で、記憶に無い。だが、知っている。
彼の何かが、私を引き付けた。
彼の肩を叩き、声をかける。
「こんにちは」
彼は何も言わず、歩行経路を変え、私と並んで歩く。
進む先には緑が多く茂った自然公園がある。
さっきここで迷ったから知っていた。
「・・・・・・」
ゴクリ。唾を飲む音が大きい。
私が声をかけたのは知っているかもしれない人だったと言う事もある。
でも本当は違う。この少年からは感じる。
私よりの世界に生きる人の匂いが・・・!
「目でワカった」
名も知らぬ少年がはじめて喋る。その声は聞いた覚えがあるが
そんな事はどうでも良いと思えるだけの気迫が彼にはあった。
「ビリビリきたよ」
「アンタ僕に惚れてる」
その、一言に私はにやっとした。
そう、私は彼女に負けて以来戦いに餓えていた。
もっと強くなりたい。その為には。
戦って、戦って・・・勝つ!
「スマない・・・・・・・・・・・・すぐに声を掛けてもらって・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「どこでおっ始めようか」
「すぐに着く」
そこは時計が見える広場、辺りに人は、偶然にもいない。
大丈夫だろうか、この公園。
「私は得物を使うけど、いいかな?」
「隠し武器を使おうが、堂々と素手でやろうが自由だ。バクヤクもね」
いや、使わないよ。さっきから変なテンションな人だ。
私はただ、手合わせをお願いしただけなのに・・・
私は持っていた折り畳みの棒を取り出して、組み立てる。
鍛錬の時は殆どこれを使用している。私よりも長い棒。
「もし、僕にまいったって言わせたら、良いものをあげるよ」
「すずなじっぽ?」
沈黙する二人。
「・・・・・・さあ、はじめようか・・・」
見知らぬ少年は隙のない構えで私を迎えた。
先に打ち出したのはフェイトだった。
素早いフェイトの突き。
点にしか見えないフェイトのそれを、しかし、少年は
事もなげに体を横にしてかわす。
フェイトはさほど驚かず、横に振るう。
しかし、それも後に下がりかわす。・・・まるで、中空を舞う埃。
掴もうとするとするりと掌から抜ける。
(かわされる・・・ならば!)
フェイトは突きの連打に持ち込もうとする。幾ら動体視力、反射神経に
優れていようと、体制的にかわす事が不可能な技もある。
彼女はそう言った手数で押す事を得意としている。
再び突きを繰り出す。が、彼はさっきと違い思いっきり後ろに跳び、フェイトの
得意とするレンジから外れる。
(真坂(まさか)読まれている?いや、そんな筈は・・・)
再び飛び出し、縦にふる動きから連続突きの流れ。
だが、3回目の突きを手の甲で軌道をそらされ、フェイトの体ががら空きになる。
「はっ!」
フェイトの懐に飛び込む少年。
だが、フェイトは後に残した柄を少年に炸裂させようとするもとっさの反応で
地面に転がりまたもやかわされる。
冷たい汗がじっくりと全身に這う。
あれを凌いでいなければどうなっていたことか・・・
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
だが、彼女は前回の戦いの時と状況が違う。
体力はすっかり戻り、睡眠もちゃんととれていた。
そのお陰で今の状況をしっかりと把握できていた。
おかしい。
(かわし方が上手過ぎる。幾らかわす事に特化していたとしても・・・)
フェイトは冷静に考える。
さっきの突きの連打の時の間合いの取り方の早さ、そして突きの連打の時、
一番隙のある突きだけを狙っていた・・・幾ら鍛錬したからと言ってそこまでできるものだろうか。
(ヒント・・・ヒントを手に入れる為には、)
「攻める!!!」
今度は渾身の一撃を見舞う。速く、鋭く、強い一撃。
それをあっけなくかわす少年だが・・・どうにもかわすのが少し早い。
優秀な反射神経を持つ彼ならばもっとギリギリにまでよせつけても余裕なはず。
しかし、フェイトはそのかわし方が妙に正しいと思っていた。
しっくり来るのだ。何故か。
続いて、後ろの柄を振り降ろす。だが、今度はギリギリにかわせている。
(・・・なんだ、この違いは。)
フェイトはさっきのかわされた時の距離間に自分のイメージをくっつける。
武器、最も長い付き合いの武器・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・鎌!
その距離に寸分狂いなく埋まる大鎌の刃のイメージ。
後の柄をギリギリでかわしていたのにも納得がいく、そこに刃は無いからだ。
だが、疑問が浮かぶ、何故大鎌なのか?
浮かぶ疑問が埋まる前に少年が間合いを詰める。
「甘い!!!」
少年の拳がフェイトの鳩尾(みぞおち)に4発炸裂する!
「がっ!」
力強く鋭い拳のしめと言わんばかりの肘が勢いを殺さず新鮮な味を持って
フェイトを吹き飛ばす。
「ふぅ・・・やりすぎたか?」
しかし、フェイトはまだ立っている。
「へぇ・・・随分と丈夫だ」
そんな少年の笑みにフェイトは笑う。
「次だ・・・次の攻撃がきかなかったら、敗北を、認めるよ」
「良い表情だ・・・・・・さぁ来い!」
「はあああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」
流れるような連撃。彼はやはり大鎌を連想したような距離を取る
かわし方しかしない。
(その想像が君のアダとなる!)
後の柄。それを袈裟に一薙ぎする。
それは、フェイトがこの戦闘ではじめて放つ一薙ぎだった。
(確かに後の柄は流れからして速く、かわし辛い。だが、)
ドス。
フェイトの攻撃がはじめて中った。
(嘘だ!確か、この位のタイミングでかわせば後の流れはあたらな、)
中った鎖骨につきささった棒はL字形に曲がっていた。
(しまった!)
そう、彼は今までの戦闘、なのはとフェイトとの戦いを見て、フェイトの動きを覚えていたのだ。
どのようにして見ていたのかは不明だが。
フェイトの得物が変わってもなんとか刃をイメージして応用していた。
だが、所詮それはイメージ。真坂後の柄を曲げて、それを崩そうとは!
後の柄にあるはずの無い大鎌がイメージを打ち破ったのだ。
ひるむ少年の懐に飛び込むと両腕で片腕に組み付き、少年をぶん投げる。
背の低いものの体を最大限に活用する柔道の技、一本背負い!
フェイトの一本背負いは敵を倒す事を目的としていて、わざと後頭部を打つように腕を
引く。
とっさの技で顎を引き忘れた少年は後頭部に衝撃がもろにくらう!
「がぁっ!!!」
全身に走る衝撃で上手く呼吸が出来ない。が、フェイトの目的は・・・寝技だった。
エロい意味では、ありませんよ。
右手に組み付き、体を反らし、十字固めを決める。
「はああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
柔道の有名な技の一つ十字固め。この威力は説明するまでも無い。
何故なら、日本男児の殆どと言ってもいい人数が、この技の餌食となっているからだ。
お手軽かつ決まれば、打撃技なぞよりも致命傷となる!痛いぞい。
「あだだだだだだだだだだ!!!!!ギブギブギブーーーーーーーーーーーー!!!!!」
「?ギブって何?」
「ギブアップギブアップだーーーーーーーーーーー!!!!!」
「まいったって言わないなら、この腕を、折る」
フェイトはギブアップの意味を知らない。彼女に一切悪気は無い。
「まいったまいったまいったまいったまいったまいったまいったまいったまいったーーーーーーーーーーーー」
「ふぅ・・・強いな君は」
少年は体を木に預け、ゆっくり休む。
「君だってみぞおちに熱いのをぶちこんで・・・痛いよ」
「ははは・・・ほれ、約束のいいものだ」
すずなじっぽかと思ったが、差し出されたそれはヒラヒラの紙が2枚。
それはチケットでこう書かれていた。
「『東京デスバレー2(に)ランド』フリーパス2日分アンドホテル2泊3日券。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・略してデスニーランドってどう見てもパクリだよねディ、」
「だあああああああああああああ!!!!その名前を言うな!!!あいつらは金食い虫なんだよ」
なんか止められた。
「コホン。それでゆっくり休め」
少年はそう言い終わると立ち去ろうとする。
「聞いていいかな?」
「ん?」
「私、髪の毛切った方がいいのかなぁ?」
前回の戦闘で髪の毛がアダになったのを思い出しての意見だ。
少年は笑って答える。
「女の子はね、女の子であるから強いんだ。おしゃれはした方が良い」
少年はそう言ってつかつかと歩き出す。
その台詞・・・やっぱり君は、
「クロノ!!!!!!!!!!」
クロノ(?)は振り向き、静かに答える。
「残念、合ってるのは名前だけ」
そう言って彼は去っていった。
「そうか・・・・・・・・・・・・・・・・・それは、残念」
悪足掻きだった。もう彼は死んだと言うのに。
しかし、どうも、なんか。
「みすてりあすな人だ」
んで、フェイトのおうち。
「フェイト!!!!!!!!!どこにいってたんだ。
まさお君が死んじゃったり、君がいなくなるし一体なんて非難だ(日なんだ)」
「ユーノ!明日一緒にデスニーランドに行こう!!!」
「いや、どうせ行くなら平日にしよう。じゃなくて・・・何を突然?」
「行こう!チケット貰ったから」
「あ・・・うん」
ユーノは困った顔をしてOKした。
「ところでフェイト、ご飯は?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「私を食べて☆」
「ごまかすな」
つづく
256 :
名無しさん@ピンキー:2006/12/18(月) 02:12:30 ID:jk6njht6
ユーノ×フェイト
ってどこかにありましたかね。参考にしたいのですが。
マイナーか、
あー、エロですよ。エロじゃないのはここにもあるわけで…。
連続で失礼。
なんか、いいネタ無いかなぁ…。
別にお前の書きたいネタなんてどうでもいいよ
少なくともここはネタ探しの場ではない
お前が仕切る場でもないな
桜色の光が、ゆっくりと落ちていく。
少しずつ、少しずつ。
暗い空虚な世界を切り裂き落ちていく光は、
次第にその明りを弱めながらも、確かに輝き続ける。
落着点を、目指して。
暖かな光は、どんなに掠れようとも、けっして消えはしない。
それはまさに、希望の光であった。
魔法少女リリカルなのはA’s −the day−
第十三話 the day −約束の日−
真っ暗だった闇は、いつしか何も無い、真っ白な世界へと変わっていた。
どれくらい、そうしているのだろう。
いつからか、フェイトは雪原にも似たその世界に、一人立っていた。
───どこだろう、ここは。
声を出してみようとして、自分の声が聞えなくなっていることにフェイトは気付く。
更には、この光景が視覚によって捉えられたものではないということも。
彼女の視覚には、なにも映ってはいなかった。
この白い風景は、自分の意識がそう認識している、知覚によるものだ。
首を振って辺りを見回したつもりでも、その感覚が無い。
見えなければおかしいはずの自分の身体すら、なにも見えない。
それらのことを理解するに至り、ようやく。
(ここは……みんなは……?)
当然、誰もいるはずもない。
世界はどこまでも果てしなく白く、そして空虚だった。
なのに不思議と、孤独感は感じない。
ひどく満たされた気持ちで、不安はまったくといっていいほどない。
その感覚が奇妙で戸惑うフェイトの知覚に、
少女の声が響き渡る。
<<───フェイト。ようやく、みつけた───>>
忘れようもない、懐かしい声だった。
(……え?)
だが、フェイトは疑問をより深くする。
何故、彼女の声が?夢の中以外で会ったこともない彼女の声が、どうして?
次の瞬間。
彼女の問いに、答えるかのように世界が砕けた。
そして、辺り一面に記憶からけして消えることのない、あの緑の世界が広がった───……。
* * *
時を同じくして。
まるで残り火のごとく小さく、儚いものとなった桜色の光が、
到達すべき場所へと落着した。
偶然か。あるいは奇跡か。
結界の、小さな小さな綻びから漏れ出した魔力の光は、限りなく力を弱めながらも、
確かにその光を保っていた。
光沢すら消える、この冷たい世界にあっても。
桜色の出会った水色の宝石は、音もなくそれを、内部へと取り込んだ。
* * *
「……んな……ト……ちゃ……」
少女たちが泣き崩れる病室内で。
ユーノの腕の中から漏れてくるなのはの声を、クロノは虚空を見つめながら聞いていた。
───まるで、なにもかもが抜け落ちたようだ。
ほんの数分前に失われた家族が、自分の中に占めていた割合の大きさを、実感する。
これほどまでにあの子の存在は、大きかったのだと。
自分の胸のなかに、恋人の嗚咽を受け止めつつも。
クロノ自身もまた、自失としていた。
* * *
その子は、気付けばそこにいた。
「久しぶりだね、フェイト」
「───え?」
現れた少女に対し驚き、自分の声が出るようになっているのに驚く。
見れば、なくなっていたはずの全身の感覚も、姿かたちも。
いつの間にか戻ってきていた。
「会いにきたよ、って言ったのに。さっさと行っちゃうんだもん」
「アリ……シア?」
「うん?」
まったくもう、と肩を竦める少女におずおずと尋ねるフェイト。
訊かれた当の本人は、何?といった感じで、フェイトが何を訊きたかったのかも気付いていない。
「ここは、どこ?」
「どこって……うーん?どこだろ?名前まではわかんないなぁ」
嘘をついているとは思えなかった。
少女は───姉は。無邪気に首を捻って、真剣に悩んでいる。
アリシア・テスタロッサは。
かつて夢で出会った幼い姉、そのものと何ら変わりはしなかった。
「アリシア……君がいるってことは、その」
ここは、私は。
認めたくないことを、フェイトは自ら口にする。
「私は……死んだの?」
彼女の言葉に、小さな姉は首を捻るのをやめ。
しばし、黙りこくって───やがて、頷いた。
* * *
ロストロギア。ジュエルシード。
かつてそうよばれていた「それ」は、魔力を得て蘇った。
その魔力に込められた、深い願いを受けて。
また、即座に外部環境が己の稼動に適さない、
虚数空間であることを判断した。
よって、「それ」は。
本来、外部に起動させるべき力を。
自身の内部、外殻に護られた己が内に、発動させた。
発動の鍵となった魔力の持ち主たる、少女の強い想いを受けて。
* * *
「……そう」
「肉体的には、ね。もうリンカーコアが、限界だった」
もしかしたら。
そんな儚い願いは、崩れ去った。
もうきっと、あの場所には。みんなのところには、戻れない。
「ごめん、フェイト。きっと私のせいなんだ」
「ううん」
私の代わりに生み出されたり、しなければ。
俯くアリシアに、フェイトは首を横に振った。
「そんなことない。私、十分幸せだったよ」
近寄り、随分身長に差のできた姉を抱き寄せる。
「みんなと会えて。新しい家族とも暮らせて。それも全部、アリシアがいてくれたから。
でなければ、私は生まれてくることはなかったんだから。少しもアリシアが気にすることなんてない」
「フェイト」
アリシアがいてくれたから、自分は一人にならなかった。
なのはやクロノ、リンディ母さんやはやて。みんなと出会うことができた。
そして今も、アリシアがいてくれるから一人じゃない。
「……ありがと。でも……」
「アリシア。三年前のこと、憶えてる?」
「三年……前?」
「そう。闇の書の中で過ごした日のこと」
憶えていなくても、当然かもしれない。
なにしろ、あれは闇の書がフェイトに見せた、夢に過ぎないのだから。
あの夢で出会ったアリシアが、今目の前にいるアリシア本人とは限らない。
「……忘れるわけ、ないじゃない。ほんとうに、嬉しかったんだから。妹に会えて、私」
だがしかし、彼女は憶えていた。
わずかながらも、共に過ごした時間を。
それが今、フェイトにはたまらなく愛おしい。
「あのとき、言ってたよね。『現実でも、こうしていたかった』って」
「……」
「今なら、アリシアのその気持ちに、応えられる。ずっと側にいられる」
あの日はきっと、このときのための約束だったのだとフェイトは思う。
雨の中、交わした言葉。あれは二人の今日この日のために結ばれた誓いだった。
二人のための、約束の日。
「だから、ね、私。怖くないよ」
「フェイト……」
「私もやっと……一緒にいけるんだから。アリシアや、リニス……それに母さんのところへ」
* * *
起動した蒼い宝石が、暗い廃墟の中へと浮び上がる。
二条の光が放たれ、現れるのは二つの影。
同時に、完全に死んでいた機器系統に火が入り、
重厚な音を立てて稼動が始まる。
黒衣と、白衣。
二人の女性の指が、キーボードの上をなぞっていく。
いとし子の燻る命の炎を、再度燃え上がらせるために。
* * *
「……私だ」
胸元のデュランダルが着信を告げ、クロノは渋々応答した。
無力感と虚脱感に、今は何もしたくないというのに。
『艦長、大変です!!』
「……どうした?」
受け答えも自然、投げやりなものとなる。
今は放っておいてほしかった。
『時の庭園の動力炉が……稼動しています!!』
「なんだと?」
エイミィを抱いたまま壁のほうを向き、報告に耳を傾ける。
そんな彼の背後で、事後処理を進めていた医師たちの一人が素っ頓狂な声をあげた。
「バイタルが……復活しました!!」
* * *
「───ごめん」
しかし。フェイトの思いとは裏腹に。
アリシアは困ったように眉根を寄せて首を振ると、
そっとフェイトから身を離した。
「アリシア……?」
「ごめん。だめ、なんだ」
「アリシア?」
繰り返し、横に振られるアリシアの首に、フェイトは戸惑いを隠せない。
「言ったでしょ、『会いにきた』って」
「え?」
「フェイトは、戻らないと。待ってくれてる人たちのところへ」
「でも……!!」
「大丈夫。リンカーコアさえ正常になれば、フェイトは助かるんだ」
「そうじゃなくてっ」
せっかく、会えたのに。
これからずっと一緒にいられると思ったのに。
かつてとは、立場が逆になっていた。
泣きそうな顔で見下ろす妹を、アリシアは見上げ微笑む。
「フェイトには、私が母様にさせた思いを他の誰かに、させて欲しくないんだ。だから」
「……」
「だから、お願い。言うことを聞いて?」
涙が、零れ落ちそうだった。
アリシアが手を伸ばし、目尻に溜まった雫を拭き取ってくれる。
「こん、なのって……!!」
「うん……ごめんね。二度もこんな辛い思いさせて」
悪いお姉ちゃんで、ごめんね。
「そんな、ことっ……!!」
「ありがと、フェイト」
「私……わた、し!!」
「いい子だから聞き分けて……お願い」
再び。今度はアリシアのほうから抱きしめてくる。
やさしく、強く。
フェイトは堪えきれない嗚咽を漏らし、涙を零しながらも、
繰り返し頷く。もう、それしかできないというほど、激しく。
「ん。いい子だ」
「アリ、シア……っ」
顔を上げて笑いかけてきた彼女も、少し泣いていた。
私のキャラじゃないね、なんて笑いながら。
「ねえ……最後にひとつだけお願い、いいかな?」
「何?」
「一回。一回でいいから。お姉ちゃん、って呼んでくれない?」
一回だなんて。
そんな空しいこと、言わないで。
フェイトは彼女の身体をきつく抱きしめ、言った。
「お姉……ちゃん……」
「うん……」
「お姉ちゃん……お姉ちゃん……っ!!」
「ありがと……嬉しい」
何度も連呼する彼女を見上げるアリシアの目は、紛れもなく「姉」の目だった。
姉の瞳を見つめ、拭っても拭っても溢れ出てくる涙を、フェイトはひどく熱く感じる。
「元気でね、フェイト」
「う、ん……お姉ちゃん、も……」
アリシアが、離れていく。
フェイトも、自分の身体が光に溶けていくのがわかる。
「いつか……また」
「またね」
「母さんたちに……よろしく」
「うん、任せて」
姉の姿が、見えなくなる。
彼女のほうからも、こちらはもう見えなくなっていることだろう。
「さよなら……またね、お姉ちゃん……」
手を振る姉の様子を、脳内に幾度も反芻して。
別れを惜しみ、彼女は姉の暖かさの残る自身の体を。
強く、抱きしめた。
自分の身体に、少しでも彼女の感触を刻むように。
イブはお休みもらえなかったよヒャッホウ!!
・・・なわけで今日休みの640ですorz
他にすることないんか俺。
次回で最終話です。全14話。なんだかんだで本編(ドラマcdが14話ってことで)と
同じに収まるもんだ。
>>さばかん氏
まさお君・・・orz
投下お疲れ様です。
>>257 ユーノ×フェイト書くの?
書くんだったら頑張ってくれ
こんばんは396です。気付いたら前回投下してから20日も経ってる…。
めちゃめちゃ忙しいというのもあったんですが実は5話分のデータが消えて
しばらく放心状態になってました。ストックなんてしないで投下しておけばよかったといっても後の祭り。
とりあえず書き直した続きを投下します。
魔法少女リリカルなのはA's++
第十六話 「信じる心、疑う心」
クロノの命令に局員達はざわめいた。目の前で起こった事件に即時対処しない。
クロノが言ったことはそういうことである。法を遵守すべき管理局の対応としてはあるまじき行為だ。
「戸惑う気持ちもわかる。…だが」
皆の注目が集まる中、クロノは言葉を切った。
そして、
「少しだけ時間をくれないか。……頼む」
そう言ってクロノは深く頭を下げた。そして艦内はしんと静まり返った。
ユーノの裏切りと失踪。それが何を意味しているのか艦内にいる全ての人間には理解できた。
管理局の人間ならば少なからずユーノの名前を知っている。無限書庫の資料は多岐に渡ってその恩恵をもたらしているのだ。
情報部の中では足を向けて寝られない、とまで思っている者もいた。
そしてアースラクルーはユーノとはジュエルシードの一件からの付き合いだ。クロノとユーノの関係もよく知っていた。
しかし、艦長の立場でありながら懇願とも取れるクロノのその行為に、普段からの厳格な性格を知る局員達は戸惑った。
どう反応してよいかわからずしばしの沈黙が続いたが、ふいにエイミィが片手を挙げて立ち上がった。
「賛成っ!!」
その元気の良い声に局員達は目を丸くした。局員達のその様子を見てエイミィは両手を腰に当てながら言った。
「だぁってどこに行ったかもまだわかんないし、本局に言ったってなにかしらの情報が得られるとも思えないもん。
まぁ報告義務をちょーっと怠ってるかもしれないけど、通信装置がなっかなか直らないのよねーこれが」
エイミィのウィンクにランディとアレックスが思い出したように続けた。
「あ、あー、そういえば部品が足りないような足りるような…。これは時間がかかりますね」
「さ、さっきのハッキングの処理中に指を攣ってしまって…しばらく休憩させてください!」
そのわざとらしいエイミィ達の様子に局員達は呆然と見入った。
しばらくの沈黙の後、局員の一人が言った。
「お、俺も他に仕事が!」
それに続けるように局員達が次々と口を開いた。
「私もデータ整理しなくちゃ!」
「あー今日も比較的平和だったな」
「さぁて、メンテの続き続き」
そしてわざとらしく声に出しながら局員達は仕事を始めた。
「君達……」
それを見ていたクロノは呟いた。
「本当に、ありがとう」
自分は本当に良い部下を持った。心からそう思った。
結果、アースラは表向きは強盗事件の処理のみを行い、その実、ユーノの探索を続けるという方針をとることになった。
ユーノを信じる心が、みんなを一つにしたのだ。
しかし、その艦内の様子をいぶかしげに見つめる者がいた。
(信じられない…)
フェイト・T・ハラオウン。クロノの義理の妹にしてアースラの執務官だ。
(裏切ったのは、事実なのに…)
フェイトはクロノを睨みつけるように見ていた。フェイトは執務官として、魔導師として、クロノのことを心から尊敬していた。
クロノのその、法を守りながらも最善を尽くす姿はフェイトの目指す理想だった。
家族になり、尊敬する人と距離が近づいたことが嬉しかった。
しかし、その義兄が友情を優先し、部下を懐柔し、義務を真っ当しない決断を下したのだ。
確かにユーノは兄の友達であるし、自分にとっても大切な幼馴染だ。きっとなにか理由があるに決まっている。
それでも、守らなければならないものがある。それを疎(おろそ)かにしては、管理局という存在の根底が揺らぐ。
艦のみんなもクロノに従った以上、いまさら自分一人が声を上げても無意味なことはわかっていた。
(私がなんとかしなくちゃ)
フェイトはぐっとこぶしを握り締めた。
(なのはのためにも…)
そう思ったときふと気付いた。
「あれ…?なのは……?」
フェイトが辺りを見回してもなのはの姿はその場にはなかった。
局員達が作業を続ける中、アースラの転送装置が輝き三角形の魔法陣が現われた。
赤い光の中で数人の人影が構成されていく。
「なんやえらいことになってしもたな」
「あいつも案外度胸あんだな」
魔法陣から出るやいなやモニターを見つめながらはやてが言い、ヴィータが感心するように呟いた。
クラナガンでの事後処理が終わり、エイミィから緊急の連絡を受けはやてと騎士達はアースラの乗り込んだのだ。
アースラで起こった事件の全容はエイミィから聞いていた。
「みんな今でも混乱しっぱなしなんだけどね」
エイミィが苦笑しながらはやてに言った。
「まさかあのユーノが我らに刃を向けるとは…。信じられませんね」
「でもスクライア一族も関係してるんでしょう?一族はユーノ君にとっての家族みたいなものだって聞いてたけど」
シグナムがモニターを凝視しながらはやてに言い、シャマルが腕を組みながらシグナムに言った。
するとクロノがはやて達に近づいてきた。
「君達まで僕の決定に従う必要はないんだぞ」
クロノははやてにカード型のデータ蓄積器を手渡しながら言った。
その中には伝えきれなかった事件の詳細情報が入っている。
「君達は本局おかかえの特別捜査官でアースラクルーじゃない。今すぐに本格的な捜査に乗り出しても、僕に文句を言う権利はない」
クロノがそう言うとはやては笑顔で答えた。
「なに水臭いこと言っとんのや。役職なんて関係あらへん。私は全力でクロノ君を支持します」
『はやてちゃんの決定は私達の決定です!』
はやてに続くように言ったリィンフォースの言葉に、騎士達が顔を見合わせて頷いた。
「それにクロノ君のことや。どうせ友情からってだけやないんやろ?」
いたずらっぽく見上げてくるはやてにクロノは薄く笑った。さすがははやて、と言ったところか。
指揮官能力が高いと評価されるだけはある。おそらく今回の件の違和感にも気付いているだろう。
クロノがそのことに関して少しだけ触れようとした時、はやては突然何かに呼ばれたかのように辺りを見回した。
「どうしたんですか?主」
その様子に気付いたシグナムが尋ねた。
「あーちょっと用事思い出したからみんなはここにおって」
そう言って急にはやてはその場から駆け出した。
「あ、はやてぇ」
少し寂しそうにヴィータが呼び止めようとしたがはやてはさっさといなくなってしまった。
「はやてのやつ、どうしたんだ?」
「さぁ…」
ヴィータが眉を八の字にして他の騎士達を見上げたが、彼女達も首を傾げるしかなかった。
*
自動ドアが静かに開くと、部屋の中は真っ暗だった。
「なのは…ちゃん?」
はやては目を凝らして部屋の中を見回したが、その暗さにすぐには目が慣れなかった。
部屋の中に入ると扉がしまり、外から入っていた光が消えた。普通なら人を感知して自動で電気が点くはずだが、何故か点かない。
手動になっていることに気付き、はやては部屋の壁を手探りで触れスイッチを探した。
スイッチが押され、部屋の中がパッと明るくなる。
そして部屋の中央を見たはやては目を見開いた。
「なのはちゃん!?」
急いではやてはなのはに駆け寄る。部屋の真ん中ではなのはがバリアジャケットのまま横向きに倒れていた。
「なのはちゃん?大丈夫?は、はよ医務室に…」
『ひゃ、119番!?あ、ここは違いますです!』
なのはを抱きかかえながらはやては尋ね、リィンフォースはキョロキョロと慌てふためいた。
すると突然はやての腕をぐっと強い力でなのはが掴んだ。
「駄目だ!!」
その強い口調にはやてがなのはを見た瞬間、淡い光になのはが包まれる。
「!?」
光が消えたはやての腕の中にいたのは、苦しそうに胸を押さえながらも腕を掴むユーノだった。
「ユ、ユーノ君!?」
『ほぇええ!?』
はやてが驚き、リィンフォースが素っ頓狂な声を上げた。
「ぐっ…!!」
ユーノが胸を押さえていたこぶしを開くと、キンキンッとカートリッジが床に落ち跳ねた。
「しゅ…蒐集を…」
そしてユーノが呻くように声を上げた。
「僕に…蒐集を…早く……!」
脂汗を流しながら倒れこむユーノを見てはやてはすぐに行動に移した。
「リィンフォース!!」
『はいです!』
はやての正面にリィンフォースが浮かぶ。
「『ユニゾン・イン!!』」
はやてがバリアジャケットに身を包み、髪が白く変わる。
リィンフォースが蒼天の書をユーノに向けて広げた。
『蒐集!!』
びくんっとユーノが浮き上がり、胸からリンカーコアが露出する。
緑色の光とともに淡い桜色の光が蒼天の書へと流れ込んでいく。
(さっきの変な感じの正体はこれやったんか…!)
その様子を見ながらはやては思った。クロノ達と話している最中突然聞こえたなのはからの念話。
部屋に一人で来てほしいという内容だったが、どうも魔力がなのはとは違うような、おかしな感じがあった。
情緒不安定からくる魔力の不安定かと思っていたが、ユーノの魔力が混じっていた、いや、ユーノの魔力になのはの魔力が
上書きされていた状態だったようだ。
『は、はやてちゃん!!このままじゃ蒼天の書の許容量をオーバーしちゃいます!!』
リィンフォースがつらそうに叫んだ。ページが埋まった状態の夜天の魔導書を流用したストレージデバイスである
蒼天の書には魔力保持量に限界がある。なのはの膨大な魔力がそれを超えようとしていた。
「そんなら!!」
はやては目を閉じ内なる魔力を操作した。
「ん?」
シグナムが両手を広げて自分の体を見た。光が内から溢れ、体が少し熱く感じた。
「なにかあったのかしら」
溢れてくる魔力にシャマルが不思議そうに眉をひそめた。
「これから戦いでもあんのか?」
「かもしれんな」
ヴィータが足元のザフィーラに尋ね、狼形態のザフィーラが静かに答えた。
「はぁ…はぁ…」
「はー、なんとかなったみたいやな…」
『あ、危なかったです…』
三人は膝を付いて部屋の中で荒い息を吐いた。はやてが咄嗟の機転で騎士達に魔力を配分することで
なのはの魔力は使い切ることが出来た。ユーノもようやく胸の苦しみから解放されて気分が楽になった。
計画変更前は、なのはから奪った魔力はエリオに流しながらエリオに「テンペスト」の魔法を使わせる予定だった。
そうすればユーノはその効果で苦しむことになるが、燃費の悪い魔法ですぐに魔力を正常値に戻すことが出来たのだ。
しかし今回はエリオと別行動を取るしか選択肢がなかったため、急遽はやてに蒐集を頼みに赴くはめになった。
「それで…お話聞かせてくれるんやろ?てか、なのはちゃんは?」
はやてがスカートの裾を直しながら立ち上がって言った。
いまや指名手配寸前、しかも事件の真っ只中にいると思われるユーノが姿を現したのだ。
聞きたいことがたくさんあった。
「ごめん…答えたいのは山々なんだけど、僕には時間がないんだ」
そう言ってユーノはポケットからディスクを取り出した。
「ここになのはの居場所を含めた今回のことの全てが入ってる。もちろんこれから起こるであろうことも。
今は敵も味方も欺いてる状態だから、早く戻らないと怪しまれる」
ユーノが計画変更で得た最初で最後のチャンス。怪しまれない上に、監視が“絶対にいない”と言いきれる瞬間。
それが今だった。いつか渡せるときが来るかもしれないと、この3週間少しずつこっそりと書き溜めた旧型のデータ蓄積媒体。
そのディスクには、ユーノが、そしてスクライア一族が陥っている状況の全てが入っていた。
まさかサイオンの不手際から生じた状況で渡せることになるとはユーノ自身思っていなかったが。
「そか…。なのはちゃんとユーノ君が無事ならひとまず安心やな」
ほっと胸を撫で下ろしはやてが言った。
ユーノは転移魔法陣を組みながらリィンフォースに尋ねた。
「リィンフォースは空のリンカーコアをいくつまで保持できる?」
『え!?えっとぉ…空でしたら15個くらいまでなら…』
突然の質問に人差し指を口元に当て、上を見上げながらリィンフォースは答えた。
それを聞いてユーノは安心したように魔術式を組み上げていく。
どうやら自分の予想通りのようだ。リィンフォースUの製作に携わっていたので確信はあったが、
改めて聞いて自分の計画が正しく機能することを悟った。
「なんでそんなこと聞くん?」
「それもディスクを見ればわかるよ」
ユーノは少し微笑んで言った。
「大丈夫。みんなは僕が守るから。…命を賭けてでも」
光が溢れる魔法陣の上で、ユーノは静かに言った。その表情を見て、はやては胸にくるものがあった。
儚い、けれど優しさに満ち溢れたその言葉に、はやては自然に体が動いていた。
「!?」
そっとユーノの頬にはやての唇が触れる。リィンフォースがそれを見て顔を真っ赤にした。
「おまじないや。ユーノ君が無事に帰ってこれるように」
はやては照れながらも数歩下がって魔法陣から離れる。ユーノは頬を押さえて一瞬ぼーっとしたが、
光の中で微笑んで言った。
「ありがとう…」
そしてユーノは部屋から姿を消した。
『だだだ大胆です!はやてちゃん!!』
部屋から出ようとするはやてにリィンフォースが腕を振りながら言った。
キスした時は融合していたので実は感触はリィンフォースにも伝わっていた。
「ち、ちゃうねん。あーいうおまじないが日本にはあんねん。リィンはまだ生まれたばっかやから知らんのや」
頬を赤らめながらはやては弁解した。それをジト目でリィンフォースが見つめた。
『はやてちゃん、誤魔化すときはいっつもリィンの目を見ないです』
「んな!?」
初めてリィンフォースに図星を突かれてはやては驚いた。さすが自分の半身。いつも一緒にいるだけによく見ている。
シュッと部屋の扉が閉まり、はやてとリィンフォースは言い合いながらも通路を歩いて行った。
静まり返ったその部屋の扉が再び開く。
影は周りに誰もいなくなったことを確認すると、暗闇の中に溶け込むように部屋に入っていった。
そして部屋の中央で手をかざし、魔法陣を展開する。
(話は聞こえなかったけど、確かにいた…)
部屋の中に漂う魔力の残滓を辿り、その影は術式を組み上げていく。
さきほどまでこの部屋にいた人物がどこに転移したかが徐々に明らかになっていった。
(逃がさない)
そして、その影も転移魔法陣を作り出し、光の中へと消えていった。
次回へ続く
次回 第十七話 「繋がり」
小説を書くときはWikiで設定をこまめに確認しているんですが
自分が見たときにはまだ更新がされていなかったらしくようやく
>>199-200の意味を理解しました。
( ゚д゚) <エリオ・モンディアル
_(__つ/ ̄ ̄ ̄/_
\/ /
 ̄ ̄ ̄
( ゚д゚ )
_(__つ/ ̄ ̄ ̄/_
\/ /
 ̄ ̄ ̄
リアクションが約一ヶ月ごしですいません。
車名である以上全く予期できないとは言わないまでもまさかかぶるとは…。
まぁ所詮二次創作ということで大目に見てください。それでは。
396さん
いつも楽しみにしていたので、何かあったのかと心配してました。
が、無事(?じゃないかな…)でなによりです!
はやていいですねー\(^O^)/
ユーノの方も、これから秘密が明らかになっていくと思いますが、まだまだ先が読めません!!
続きも楽しみにしています。
保管庫ってどうなったの?
攻撃力のほとんどないシャマルに新しいデバイスが渡されました
それは六角形の平べったい金属片
使うときは掛け声を掛けるそうです
シャマル「臓物をブチ撒けろ!!」
シャマル「脳漿をブチ撒けろ!!」
(たまたま通りかかった)なのは「あ…」
そしてメガミマガジンの回想へ
>>270 396氏
A's++キター!!
もうしばらくユーノと管理局サイドの、味方としての会話は
無いんだろうなぁと思ってたんで、この展開は意外でした。
クロノ達は局内にスパイがいる可能性とか考えて、この結論を出したんだろうけど…
フェイトの単独行動が、悪い方向に働きそうで怖いなぁ…。
エリオはどっちもフェイト関連キャラだったもんだから吹いたw
お久しぶりです
クリスマスと言う事でクリスマス話をと考え
普段埋め立てに使っているアレを
今回はスレの途中に出すことにしました。
ACF6話の続きはまた後でと言うことで
で、注意です
・リプレイ形式注意
・タイトルを見て察して下さい
クロノ(独白)
ミッドチルダは相変わらず平常だが
地球は今日クリスマスとか言う祭りらしい
由来などは良く分からないが
町中馬鹿騒ぎで盛り上がってる
僕はと言うと
珍しく暇なのに話す相手も無く
一人で遠方の街を彷徨っている
と、ここでは珍しい奴と
鉢合わせした
クロノ「ユーノ!?どうしたんだ、こんな所で?」
ユーノ「あ、クロノ、暇だったんでね、地球の様子でもってね」
クロノ「お前も暇なのか、少し話さないか?」
ユーノ「いいね、どうせ暇だし」
クロノ(独白)
二人で手時かな喫茶店に入る
店の中ではお約束のように
クリスマスソングが流れていた
窓には雪の装飾とトナカイの絵
でも珍しく悪趣味は感じ無い
唯一つ
受付のこの一言を除いては
受付「本日はクリスマス特別カップル割引サービスを
行っております。利用なされますか?」
クロノ「え?」
クロノ(独白)
凍りつく
確かにこんな時間にペアで居るのは
カップルぐらいのものだろう
それにユーノは女に見えなくも無い
どちらかと言えば
可愛い部類にも入るかもしれない
だが、それは無理して見た場合だ
激しく動揺していると
受付の目が笑っているのに気が付いた
こいつ、分かってて言いやがった
さらに
動けない僕に追い討ちをかける
一言は横から来た
ユーノ「それじゃあ、それでお願いします」
受付・クロノ「へ!?」
クロノ(独白)
二人で軽食を食べながら
窓から外の景色を眺める
言葉も少なく道行く人を見ていると
ユーノが話しを振って来た
ユーノ「もしかして怒ってる?」
クロノ「少しな」
ユーノ「良いじゃない別に、こっちは財布に余り入れて無かったし」
クロノ「そう言う問題じゃ無いだろう」
ユーノ「こんな所に知り合いも居ないよ」
クロノ(独白)
そう言う問題でもない
わびの一つでも入れるのかと思えば
別に良いだろと来たもんだ
僕は少し怒ってユーノを睨み付けた
するとユーノが目を合わせてきた
その瞳は真っ直ぐで
僕は少し気恥ずかしくなって
直ぐに目を逸らす
僕の頬は少し熱くなっていた
ユーノの考えが分からない
ユーノ「ごめん、嫌だった?」
クロノ(独白)
行き成り不安げに謝られて
僕は言葉に詰る
意味は分かる
ユーノと恋人と見られるのは嫌か
そう言う意味だ、そして
嫌じゃない
今僕はようやく
そう自覚する
クロノ「嫌って分けじゃ無いけど、同意ぐらいは欲しかったな」
ユーノ「え……それはつまり」
クロノ(独白)
ユーノが言葉を終える前に
僕は立ち上がり
ユーノに向けて身を乗り出す
小さいテーブルだからそれで十分だ
ユーノの唇を僕の同じ物で
無理やり塞ぐ
ユーノ「ちょ、クロノ!」
クロノ「仕返しだ、人もどうせ見ていない」
ユーノ「そう言う問題じゃ……」
クロノ「嫌だったか?」
ユーノ「そう言うわけじゃあ……」
クロノ(独白)
最後は小さくて聞き取れなかった
ただ、ユーノの顔ま真っ赤で
プイと窓を眺める
つられて窓を見ると
雪が舞っていた
「綺麗だね」
クロノ(独白)
その言葉を
果たしてどちらが言ったのか
ただ二人で雪を眺め
在り来たりなクリスマスソングに
耳を傾ける
異世界の僕等は
今日の意味を知らない
それでも
恋人達が街に溢れる理由が
良く分かった
そしてふと目を合わせる
2度目のキスは
少し甘い味がした
クロノ「エイミィ、これは何だ?」
エイミィ「えっえ〜と、ほら今日クリスマスイブだし」
クロノ「時間設定の話じゃないんだが、それにコレで何回……
って逃げるなー!!」
エイミィ「外で反省してきまーす!!」
“ガチャ”
ユーノ「こんばんわ、エイミィさんが走っていったけど
どうしたの?」
クロノ「何時も奴だ」
ユーノ「懲りないね……」
クロノ「まったくだ」
ユーノ「まあ今日は目を瞑ろう」
クロノ「そうだな、御馳走を先に食べてしまうぐらいで
許してやるか」
ユーノ「それじゃあクロノ」
クロノ「ああ」
二人「乾杯!!」
Merry X'mas
と言うわけで
埋め立てじゃないクロノ×ユーノ
でした
しかしACFは書いているとどんどん伸びる気がするな
どこかでバッサリ切らないと……
>>640氏
助かった……のかな?
>>396 三人のイレギュラー、フェイト、エリオと前回の男の
動きが気になりますねこれからどう動くのか
ああ氏を忘れた!!
>>396氏
もしわけありませんm(_ _)m
わずかに開けた目に、光が差し込んでくる。
それと同時に聞えてくる、大切な人たちの歓喜の声。
ゆっくりと視線を向けると、自分のことを待っていてくれた人たちがいた。
なのは。はやて。
母に、兄、エイミィ。
アリサと、すずか。
シグナムをはじめとする、ヴォルケンリッターの面々。
先に目覚めたのだろう、アルフもいる。
───ああ、帰ってきたんだな。アリシアが、言ってた通りだ。
この場所に。
みんながいる世界に、帰ってきたんだ。
そう思うと、不思議な感慨が湧いてくる。
「……ぁ……ぅ……」
まだ、ちょっと声は出せそうになかった。
自分のものでないかのような唇の重たさが、可笑しい。
それでも、いつの間にか頬を伝っていた涙と。
兄のひどく珍しい、潤んだ瞳が、彼女に己が生きていることを教えてくれた。
ただいま。
心の中でそっと、世界に向かい彼女は言った。
自分の背中を押してくれた、姉と。今は亡き者たちへの感謝も、けっして忘れることなく。
魔法少女リリカルなのはA’s −the day−
最終話 そして、彼女は帰ってきた
−一ヶ月後−
黄金の刃が、少女の手には握られていた。
「────ふっ!!」
広い訓練場に木霊するのは、振られた刃が空を切り裂く音と、少女の凛々しい声。
それらは、どこまでも力強かった。
見守る人々も、物音一つ立てはしない。
そんな無粋な真似、するものか。
それぞれに微笑を浮かべ、少女の振るう太刀筋を、じっと傍観している。
「はああっ!!」
渾身で振り下ろされた大剣が、岩盤へと組成を組みかえられた床を穿つ。
立ち昇った土煙が晴れると、少女は肩の力を抜いた。
「……ふう」
小さく、息をつく。
真剣そのものだった彼女は、親友がタオル片手に駆け寄ってくるのを見て、表情を崩す。
「お疲れ様っ!!」
「ありがとう、なのは」
「リハビリは順調なようだな」
「ええ、まあ。はやく復帰したいですし」
なのはの後ろに歩いてきたシグナムの言葉に、フェイトは頷いた。
命を一時は失うほどの事態から、早一ヶ月。
無事退院したフェイトは、執務官任務への早期復帰を目指すべく、こうしてリハビリに励んでいる。
もっとも本人としてはもうどこにも悪いところはないつもりだし、
検査等でも魔力やリンカーコアは入院前と同等、いやそれ以上の高い数値を示しているのだけれど。
シャマルからのドクターストップと、家族からの願いもあり、ゆっくりと勘を戻すのに専念している状態だ。
どちらも心配性の域を出ないものであったが、フェイトは従った。
「どうだ?今日は軽く手合わせでもしてみるか?」
「うーんと……そうですね───……」
受け取ったタオルで首周りの汗を拭きながら、上目遣いに思案する。
一応、許可はとったほうがいいかもしれない。
なのはに目を遣ると、彼女は笑って頷いた。任せておけ、と。
「……やりますか」
* * *
シャマルやユーノが言うには、今こうしてフェイトが無事に生きているのは、
いくつもの偶然が重なり合って生まれた、奇跡のようなものらしい。
あの日、あの時。庭園のあの場所で、クロノとなのはが戦ったこと。
(そのためなのはは、数ヶ月の限俸処分を受けたそうだ。ヴィータはなのはが最後まで庇い、特にお咎めはなし)
なのはのエクセリオンバスターとシグナムのフレイムザンバーとのぶつかりあいで、
クロノの張った結界に一部破損が生じ、微量ながら彼女らの魔力が漏れ出していたこと。
その魔力がカートリッジシステムを使用した高密度のもので、
虚数空間内に散らばりながらも、完全に消滅しきることなく
最下層に眠るジュエルシードへと届いたこと。
(後の調査で、機能を停止し庭園中枢部に転がるものが発見された)
他にも、外部ではなくジュエルシード内部で魔力が作用したことや、
そのタイミング。数え上げれば、きりがないとのことだ。
けれどフェイトは、きっとアリシアや生みの親であるプレシア。
かつての師であるリニスが助けてくれたのだと思っている。
「ふうっ」
なのはへとタオルを返し、頷いてみせた。ありがとう、と。
親友は、以前大怪我で心配をかけたお返しだとばかりに、入院中も退院後も、
以前以上になにくれとなくフェイトの世話を焼いてくれている。
「がんばってね」
「うん、ありがと。なのは」
だって、奇跡だと思うよりも、今は亡き母と姉が。彼女達の魂が。
なのは達との消えかけた絆を結びなおしてくれたと思うほうが、ずっとやさしい気持ちになれるから。
傲慢で勝手な考えかもしれないけれど、フェイトはそれでいいと考えている。
なにより、単なる偶然がそれほど繰り返し続くほど、この世はうまくいくものだろうか。
「おー、やっとるなーフェイトちゃん。調子はどうやー?」
「はやて」
「新しいバリアジャケット、似合うとるやん」
入ってきたはやては、退院祝いに母や兄、エイミィから贈られたデザインの防護服を見て素直に褒め称えた。
今までとは少し趣の違う、クロノの戦闘服にも似た落ち着いた感じの着衣の上に、白マントを羽織るといういでたち。
スピードを重視していた以前のものに比べ、防御にも満遍なくバランスがとられている。
口に出して賞賛されて、フェイトとしては少し気恥かしかったけれど、
やっぱり家族からの贈り物を親友に褒められているのだから、嬉しく思う。
そして。
『フェイトさん、かっこいいですー!!』
「ありがと、リインフォース」
はやての肩口から顔を出した掌サイズの少女が目を輝かせているのを見て、
自然に頬が緩む。
リインフォース。
会いたかったと思ったはやての新しいデバイスと、ちゃんとこうして彼女は話をしている。
今、フェイトが生きているから。
新たな命が、リインフォースが生まれてきたから。
「なんや、これから二人とも模擬戦か?」
「ええ、軽くですが」
「シャマルさんに一応許可とらないとね」
「あー、ええって。あとでわたしが言うとくから」
───アリシアが。母さんたちがくれた命で、私は生きている。
その命は、何にも代えがたいものだと思う。
シグナムがこちらに頷き、フェイトも準備完了の旨を頷き返す。
なのはやはやて達が、邪魔にならないよう下がったのを見届けて、互いに武器を構える。
「安心しろ。病み上がりにいきなり本気を出すような無粋な真似はせん」
「そうですか?まだ完全じゃないと思って甘くみてると、痛い目に遭いますよ」
目の前には、好敵手がいて。
見守っているのは親友で。
新しい命とも出会うことができる。
帰りを待つ家族や、笑いあえる友もいる。
アルフも、死なせずに済んだ。
それは、なにげない日常。
だけれど、喪われた者たちがフェイトに与えてくれた、戻ってきた時間。
喪われた者たちとは、まだ会うことはできない。
だが、彼女達の与えてくれたこの時間を、フェイトは大切に生きようと思っている。
この命を、全力で。精一杯全うしよう。
「いきなりプラズマザンバーか?そこまでやらなくてもいいんだぞ?」
「あなたこそ……。ファルケンなんて。全力でくる気、まんまんじゃないですか」
そう、この大切な日々を。
大剣を振りかぶった少女と、弓矢を向ける女性。
二人は可笑しそうに吹き出し、笑いあう。
認め合う者同士だからこそ、できるコミュニケーションだ。
「結局」
「こうなるってことやね」
『マイスター、防御フィールド構築終わりましたー』
訓練場の隅で、はやてとなのはがさっさと防護服を展開し衝撃に備えていた。
「いくよ、バルディッシュ」
『yes,sir』
彼女の言葉に応じる黄金の大剣も、心なしか嬉しそうだ。
「雷光、一閃」
カートリッジ、ロード。
「プラズマザンバーッ!!」
轟く、雷鳴。同時に放たれる、一閃の矢。
ぶつかり合う二つの衝撃。
その衝撃こそが、生の確かな実感だった。
フェイトは今、生きている。
アリシアたちと再会するのは、もう少し先のことになりそうだった。
今はまだ、大切な人たちとの日々が、目の前にあるから。
それを与えてくれたのは、取り戻してくれたのは、彼女達なのだから。
ひとまず、それを精一杯生きることにしよう。
───完
というわけで、完結いたしました。
露出が減ってうーん?でもありますが
フェイトの新バリアジャケット、けっこう好きだったりします。
だって半脱ぎ状態にさせるとエロそうj(ry
>>396氏
一ヶ月ごしのリアクションありがとうw
まあ、書いてたものが吹っ飛ぶと死にたくなりますよねorz
>>6スレ480氏
どうもです。ACF、がんばってくださいねー。
第9話 b part
「吸血鬼ぃ!!?」
海鳴の外れにある一軒家。そのリビング一杯にアリサちゃんの声が甲高く響き渡った。
あんまりな驚きように回りに座っていたわたしたちはもちろん、原因を言ってしまったユーノくんも顔をしかめている。
「そ、そう、こっちの文献と照らし合わせてみたから間違いないと思うよ」
「被害者全員に共通した痕跡とか目撃情報とか裏は取れてるしね」
エイミィさんがリモコンを押すとテーブルの上に大きな空間モニターが形成された。
襲われた人たちの写真にその横にはいくつかの共通点を示す写真が映し出されている。
「大体ねぇ、このご時世にそんな時代遅れなモンスターなんていないでしょ」
「あれって確か外国のお話だよね」
証拠を見てもなんとなく納得しっくりこない。わたしもアリサちゃんに頷きながら紅茶を一口。
「もうアリサちゃんもなのはちゃんもこういう所は鈍いんだから」
「なによすずか、あんたはいるとでも思ってるの?」
「私だって思ってないよ。でもジュエルシードなら何でもありでしょ?」
「あっ、確かにジュエルシードなら……」
すずかちゃんに言われてはっと気づく。
願い事をなんでも叶えられるジュエルシードなら吸血鬼とか幽霊とか、それこそなにが出てきたっておかしくない。
「……恐るべしね、ジュエルシード」
「でもしょうがないと思うよ。こういう形でジュエルシードが発動することって珍しいから」
「なら最初からジュエルシードの仕業って言っときなさい! マネージャー失格!」
「こ、今度から気をつける」
……。
ユーノくん、マネージャーは否定しないんだ……。
「それでユーノ、相手はどんな相手かどれくらいわかってるの?」
「ああ、それは」
「この私に任せなさい!」
胸を張ってエイミィさんが立ち上がった。
モニターを横に手早くリモコンを操作していくと今度は町の見取り図が画面いっぱいに映し出された。
こほん、と咳払いをするとわたしたちの顔を一度見回してからエイミィさんは喋り始める。
「最初に事件が起きたのは5月27日、22時38分。被害者は大学生、帰宅途中に襲われたと見て間違いないわ」
「はい! エイミィさん」
「なに? なのはちゃん」
「どんな風に襲われたんでしょうか? 写真だけじゃよくわからなくって」
「そうね、被害者全員共通した襲われ方はしてると思う。私の勝手な推理でよければ……いい?」
「お願いします」
うん、とエイミィさんが頷くとモニターの中にあった最初の被害者の写真が拡大される。
鮮明になる画像に思わず息を呑んでしまった。
「おそらく犯人は無理強いに相手を襲ってはないと思うの。この傷跡をつけるにはどう見て後ろから、なんてできないし」
被害者全員に刻まれた共通の印。エイミィさんの言う通り多分この人たちはみんな同じ方法で犯人に襲われているはずだ。
右の首筋にぽつんと二つ。映画で見るように本当に牙が突き刺さったみたいな後がどの写真にも同じように写っている。
「じゃあどうやって襲ったんですか?」
「まさか頼み込んで血を吸わせてもらったとか?」
二人と同じ疑問はわたしにもある。
写真はこれだけでモニターに書いてある事を見ても他に怪我は一切してないって書いてあるし。
「それはきっとチャームだね」
「チャーム? ユーノくん知ってるの?」
「うん、魔導師ならみんな知ってる」
チャームってよく綺麗な女の人が男の人を見つめてメロメロにしちゃうあれのことかな?
「目が合うとかかるんだっけ?」
「正解だよ、なのは」
やった、当たった。
でもそうすると犯人は魔導師……?
「けど言葉とか仕草とか、方法は様々なんだ。目を合わせるだけなら動物とかでもできる」
「それじゃ犯人はコウモリよ! 吸血鬼のお供といえばこれに決まってるじゃない」
「でも動物ならこんなに規則正しくしないと思うけど……」
すずかちゃんの言う通りもし本当にコウモリならこんな風に首ばかり狙ったりするのかな?
これじゃまるで誰かが吸血鬼だってことを証明するみたいに事件を起こしている感じがする。
「そうね、だからこれは多分人為的犯行。その証拠がもう一つあってね」
「もう一つ?」
「実は本日6月2日までの被害者5人全員に血液を吸引された形跡がないの」
「ってそれ吸血鬼じゃないじゃないですか!」
アリサちゃんが勢いよく突っ込んだ。
エイミィさんが言ったことが本当だったら犯人がただ噛み付いているだけってことになって……。
なんだかわけがわからなくなってきたんですけど……。
そうやってわたしが戸惑っている間に今度は隣のすずかちゃんが口を開く。
「エイミィさん、ジュエルシードって人間に取り付くことってあるんですか?」
「もちろん。以前のケースの中に人の願いを核にした発動体が出現したって聞いてるし」
エイミィさんがわたしを方を見る。
確かにわたしは以前ジュエルシードに取り込まれた男の子と女の子を助けたことがある。
男の子一人の願いが町中を大変なことにして、わたしが自分の意思でジュエルシードを集めようと決めた事件だ。
「誰かがジュエルシードに取り込まれて吸血鬼まがいの犯行を行っている。そう考えるのがベストだね」
「じゃあさっさと捕まえましょう!」
「焦らないアリサちゃん。相手の正体がわからない以上無駄に動くのは厳禁よ」
「でもこれ以上被害者は増やせませんよエイミィさん。わたしたち大丈夫です」
一人じゃない。今は二人がいるから絶対大丈夫。
それに動物や植物が巨大化するよりかは小さい分てこずる事だってないと思う。
「そうだね……なんてたって三人はストライカーズだもんね」
「そうです! アタシたちは魔法少女戦隊リリカル・ストライカーズなんですよ!」
息巻きながら両手を胸の前で拳にするアリサちゃんに続いてわたしもすずかちゃんも一緒に立ち上がる。
三人分の視線を浴びては流石のエイミィさんもちょっと困った顔でたじたじ。
もちろん先に折れるのは――
「……わかった、お姉さんの負け。実の所そろそろ本格的に動き出さなきゃちょっちまずいかなって思ってたとこだしね」
少し呆れられてるけどエイミィさんも協力してくれることを約束してくれた。これでほんとに怖いもの無しだ。
隣ではアリサちゃんが得意げな顔をして、すずかちゃんがうんうんと頷いて、二人ともクッキーを口の中へ放り込む。わたしも一緒に放り込んで紅茶を飲み干した。
「じゃあ早速今夜にでも作戦開始と行こっか。どうせみんなやる気満々でしょ」
「あったりまえです!」
「作戦はいつも通りでも大丈夫ですよね?」
いつも通りの作戦はすずかちゃんが魔力探知で町中を探して、わたしとアリサちゃんで一気に叩く。今のところ打ち破られたことの無い完璧な作戦だ。
「それじゃあ私は夜に備えていろいろと手配しておくから」
「はい、お願いします」
きっとすぐに終わる。
絶対大丈夫だってこのときのわたしは――多分アリサちゃんやすずかちゃんも思っていたけど。
まさかあんなことになるなんて思いもしなかったのです。
* * *
「ありがとうございました」
今日最後のお客が店を出て行く。
設えた鐘が扉の閉まりに合わせて何度か揺れて鳴り止んで、俺は外に出て「Closed」と丸文字で描かれた木札を扉に下げた。
「さて……」
一息つく間もない。外に出していたテーブルや椅子を次は店の中へ仕舞いこむ。
いつもは松尾さんやバイトがするものだが、とかく言う前に俺も今はバイトの身。当然の義務だ。
店内では床の清掃に、明日の仕込みに、おのおのが紛争している。
最近では見慣れた風景でもこの年でこの喧騒に包まれたのはもう何年ぶりか。
「……あのころも大変だったな」
父さんが大怪我を負って入院して、翠屋の人手が足りなくなって。
あの時の母さんに後からになろうと大人たちと一緒に翠屋の中を駆け回っていた。時には、というかほとんど終わりまで店を手伝っていた。
母さんは遠慮していたが厨房だけでなくフロアの仕事まで掛け持ちしていたら――縁起でもないが母さんまで病院送りだ。
美由希は父さんにつきっきりだったしなのははまだ小さかった。家族を支えるのは自分しかいないって我ながらよく頑張っていたと思う。
「鍛錬より体に堪えたよな」
父さんがいなくても鍛錬だってやらなきゃいけないって息巻いておきながら、気がつけば朝だったなんてことはざらだ。
普段使わないような筋肉を酷使したせいなのか流石に苦笑するしかない。
「さてこれで全部か」
力仕事は男の仕事だ。手際よく全部店の中に納めて後残っている仕事は厨房の中か。
次々に帰宅するバイトの子達に労いの言葉をかけて俺は携帯の電源を入れた。
てっきり忍からメールがあるかと思ったが受信しても来るのはクラスの友人だけで他には何もなし。
「…………」
着信も何もない液晶を見つめながら携帯を閉じた。
たまにはこういう日もあるのだろう。それとも俺の態度に呆れられたか……。
「大丈夫か……忍のことだしな」
彼女を驚かすためとはいえ忍を最近は邪険にしすぎたかもしれない。
けど目的の額にはまだ微妙に足りないのが現実だ。もう少しバイトに専念しないといけないだろう。
少しくらい嫌われることは覚悟しなくちゃならないみたいだ。それでも俺が何のためにこんなことをしていたか知ればすぐに帳消しのはず。
抑圧するのは忍びないが、その分受ける喜びも大きいのは誰だって同じなはずだ。
「そんなに気にしてるならデートにでも誘ったら?」
「母さん……」
「いくら恋人でも放って置かれるのは母さん辛いと思うけどな」
いつの間にかカウンターに顔を出していた母さん。
明日の仕込みは終わったのか、それともまた父さんに押し付けているのか……。諭すような柔らかな笑みはなにか企んでいると思うのは邪推というものなのだが。
「仕方ないさ、あれがなくなったら元も子もないし」
「そんなに欲しいものなら予約しておけばいいじゃない?」
「それじゃあフェアじゃないだろ。買うまでは俺だけのものじゃない」
「変なとこで拘るのね恭也」
「俺の好きだろ。母さんこそ何か用なのか?」
俺の問いに母さんは口を開かず、代わりにエプロンのポケットに手を突っ込む。
「ん〜、恋に悩める我が息子にすこし手助けを……なんて思ってね」
「手助けも何も恋には悩んでないよ」
「母さんお節介はありがたく受け取りなさ。……はい!」
手渡されたのは長方形の紙切れ二枚。
見れば遊園地のチケットで母さんのお節介がなんなのかすぐに読めた。
「行く暇があったら働いた方が」
「その分の給料と労働時間は保障してあげるから。女の子はね、構ってあげないとすぐに拗ねちゃうものなんだから」
確かに忍なら尚更そうなりかねないかもしれない。いや、多分今頃ベッドに寝転がりながら拗ねている予感がした。
給料の保証がつくなら……大丈夫か。
「わかった……今度の日曜日にでも忍を誘う」
「うむ、よろしい」
「まったく、こんなことしなくたって俺は」
「はいはい、無駄口叩く暇があったら電話する」
急かされて、俺は再び携帯を広げる羽目になる。こういう時の母さんには高町家の男はどんな手を使っても敵わないのだ。父さんの苦労が身に沁みる。
「じゃあ、私は明日の仕込みと。士郎さんばかりに押し付けちゃ今度はあの人が拗ねちゃうからね」
笑みを浮かべて厨房へ舞い戻っていく母さんを尻目に、既に俺の携帯は忍の家に向けて電波を飛ばしている真っ最中だ。
電話をかける先が忍の携帯なのであっちの事情をそれほど気にする必要がないのは、世の中便利なものになったものだ。
しみじみ思っていると聞きなれた声が耳に届く。
「あっ、忍か」
『恭也……どうしたの?』
「突然だけど今度の日曜空いてるか?」
『日曜? なぁに、デートのお誘い?」
「ん、まぁな」
早速見透かされている俺の――母さんのともいうが――考え。
「遊園地なんだが……いいだろ?」
『ん〜、遊園地ねぇ……』
「忍?」
やけに間延びして聞こえてくる声。寝ていたのか忍の声はどこか気だるい感じがした。
それから返事が来たのは結構後の方だった。てっきりまた寝てしまったのかと思うくらいに。
『ムリなお願いね……』
「そうか……」
忍のことだからてっきりOKの返事が貰えるかと思ったが結果は違った。
『以前の私なら喜んで行くつもりだったんだけどね。一足遅かった……って感じかしら』
相変わらずの調子で続ける。言葉から察するに何か予定が入ったのだろう。
それなら無理には誘えないな。
「そうか、なら構わないさ。それじゃあいつなら空いてる?」
一応、他に日取りがあるか聞いておく。
後ろに母さんがついている以上、その好意は粗末には出来ない。
『生憎だけどね、もう私恭也と遊ぶつもりないの』
「は?」
『実はね夢中になれることを見つけたの。だからもうあなたと遊んでる暇なんてないのよ』
不覚ながら自分の中の時間が一瞬止まった。
「い、いきなり何言ってるんだ忍。いや、確かに俺が悪かっ――」
『時間だから、じゃあねバイバイ』
「お、おい忍!」
プツ――と電話は切れた。後には虚しくツーツーと単調な音が続くばかり。
今までにない忍の一面。気がつけばうろたえながら棒立ちする俺が一人残される結果となった。
「なんだよ……一体」
そんなに放っておかれたのが嫌だったのか? それなら言ってくれればいいのに……。
怒っているわけでもなく、呆れているわけでもない。例えるなら本当に新しいおもちゃを貰ったかのような弾んだ声。
「恭也〜忍ちゃん誘えた?」
「ん、あ、ああバッチリだってさ」
一方的に電話切った忍に少しの苛立ちと戸惑いを覚えながら、俺は母さんに悟られぬようわざと口を緩ませながら携帯を閉まった。
やはりいけないのは俺なのだろうか。
だが今更引き返すことなんて出来るか。目標まで後一歩なんだ、忍にはもう少しだけ我慢してもらう。夢中になれることがあるならそっちで暇を潰せばいい。
俺は忍の恋人だ。あいつのことは俺が一番良くわかってる。
だからきっと大丈夫さ。
本当に遅れまして申し訳ありませんorz
一体最後に投下したのはいつだったのか……?
年末もあるのですがまぁいろいろありまして。
ノロとかいろいろありまして。
何たる職務怠慢です。
こんなの待ってねぇよ、と言われたほうがまだ気が楽です。
というか言って、罵って! 愚か者の僕を罵ってぇ!!
そういうわけでこれから急ピッチでがんばりますので。
ちょっとこれから出かけねばなりませんのでレス返しは割愛。
皆さんよい作品グッジョブですー!
>>176氏
とらハ1のあのキャラ登場か? …と思ったけど血は吸われてないんですよね
これからどうなるか楽しみです。
フェイト助かってヨカター
はらはらしてたし、なんとかしたいと思ってたけど、フルドライブ振り回せるよーになってヨカッタヨカッタ
おぉ!久しぶりにきてみればたくさんの作品が投下されてるじゃまいか(・∀・)
とりあえずここまでの作品を書いてくれた職人の皆さん、乙。続きも期待してまつ
「はっ!こ、これはいったい!?
こんな可愛い子供ほっといて、お父さんは何処に行っちゃったんだろうねぇ?
等と近所で噂される俺、盾の守護獣ザフィーラが目覚めてみれば、手かせ足かせをつけられて、
まったく身動きできない状態に!?いったい誰が?何のために?
そして何処に行ったも何も、目の前にいる子犬がそうですよマダム、と言うわけにもいかない
俺は、ご近所に流れる噂をどう払拭すればいいのやら?」
「ふっふっふっ、いっそ逆にバンバン子供を作ってはどうかなザフィーラ?
できるかどうか知らないが」
「お、お前は謎の勇者王、もとい謎の仮面戦士!しかしてその正体は」
「そう、時空管理局に咲いた一輪の花、リーゼロッテよ〜ん♪」
「花?菊か?」
「あら、お尻が好み、以外とマニアック…それとも」
「いや、葬式の花という皮肉だったのだが」
「言葉の暴力で私を興奮させるつもり?
私どっちかっていうとSなんだけど…ふふ、いいわよたまにはMでも」
「いや、ちゃんと会話をしろ」
「言葉は無用!肉体言語にて仕ると言いつつそのマッスルタワーをいただきマンモス!」
「………」
「そ、そんな!どうして?どうしてエレクチオンしないのぉぉぉ!」
「惚れてないからさ」
「小池一夫!?」
「俺には心に決めた者がいるゆえ…」
「な、それはいったい何処のどなた様?」
「まてぇぇぇぇぇぇい!」
「だ、誰!?」
「西の空にあけの明星が輝く頃、1つの光が宇宙へ飛んでいく…人それをセブンという」
「名を、名を名乗りなさい!」
「貴様らに名乗る名など無い!」
「あ、貴方は時空管理局執務官、そして私のかっての弟子、シスコン大帝クロノ・ハラオウン!」
「シスコン大帝は余計だメスネコ師匠。今日こそふらちな(ピー)三昧の生活を改めてもらうぞ!」
「おお!クロノ・ハラオウン」
「な!?ザフィーラのブヨンがメタリック軍曹に!」
「パワーダウンしたようにも聞こえるな」
「まさか、まさか貴方が好きなのは…」
「ザフィーラ………(ぽっ)」
「そんな…クロノまで」
「クロノ…」
「ザフィーラ…」
「って、ちょっと待った!なんか変な方向に話が流れてない!?」
リーゼロッテがクロノに変身したシャマルと、ザフィーラに変身したリーゼアリアに叫ぶ。
「えー、これはこれで良いと思うけど。ねぇ、アリア」
「そうね、これはこれでアリね」
「私にはわかんないなー」
変身をとくシャマルとアリアに微妙な視線を向ける。
「まぁ、それは置いといて…つまり今回はあの犬っころには、誰か好きな人がいるから
私達に身体を許さないんじゃないかなぁ、そんな事を話し合おうって」
「寸劇をやる意味がいまいちわからないんだけど」
最もな疑問を二人にぶつけるシャマル。
「「おもしろいからよ!!」」
ここは時空管理局の会議室の一つ、例によって例の如く、様々な方面に顔が利くリーゼ姉妹の
手によって、占拠されたこの一室において、第2回ザフィーラ陥落会議が行われようとしていた。
「ザフィーラの好きな人…ねぇ」
「ねぇねぇ、誰か思いあたる人っていないの?」
思案するシャマルをロッテがせかす。
「と言われてもねぇ、今までザフィーラに好意を持った娘もいるにはいたけど、全然相手に
しなかったのよね…そもそもその事に気付いてるんだか気付いてないんだか」
「そうよねぇ、シャマルがザフィーラを想って夜な夜な一人遊びに」
「だーかーらーして無いってそんな事!」
否定する姿を楽しんでいるとわかってはいても、ついつい反応してしまうシャマルであった。
「はぁ…だいたい、そういうのならアルフちゃんとかどうなの?同じ狼同士だし」
「やーねー、同じ種類の生き物だからって惚れてたら、私なんて子供が3桁を超えてるわよ」
「それにまだあの子、色気より食い気って感じじゃない?」
「…それはいいとして。どうやって確認するつもりなの?」
「ふっふっふっ、そこでコレの出番よ!」
満を持してリーゼ姉妹が、机の下から水晶玉のようなものを取り出す。
「何、これ?占いでもするつも…え、これって」
水晶玉を手に取ったシャマルの顔が変わる。
「この魔力…ただの水晶じゃない、ひょっとして」
「そう、ロストロギア」
「ちょっと!」
こともなげに答えたロッテに詰め寄るシャマル。
「大丈夫なの?流石にばれたら…」
「大丈夫よ、かなり昔に回収されたもので危険度は最低ランクだし、研究もとうの昔におわってるし、
倉庫の片隅で埃を被ってたぐらいなのよ」
「まあ、それならいいけど」
その程度なら、最悪二人に責任を擦り付ければよいだろう。そう考えて気持ちを切り替える。
「で、どんな代物なの、ソレ」
水晶、ロストロギアを指差し、問いかけるシャマルにアリアが答える。
「これはね。『パック』って言って、夢を見せるの」
「夢?」
「そう、この端末の上に対象をおいて」
何処からともなく黒い板をとりだすロッテ。
「そしてコレに条件を入力して…」
アリアが魔力を込めた手で水晶玉にふれる、すると表面に光る魔術文字が現れた。
「そして対象を眠らせると」
「うっ!」
さりげなくシャマルの背後に回ったロッテが、その無防備な首筋に手刀を叩き込んだ。
「「良い夢をー」」
座っている椅子の下に、既に端末が置かれているとは夢にも思わなかったシャマルであった。
「シャマル、しっかりしろ!」
「う、う〜ん…はぇ?ザフィーラって寒!」
シャマルの目の前に、ザフィーラの心配そうな顔がある。
「起きたか」
上半身を起こして辺りを見回すと、何処かの洞穴中で寝かされていた事に気付く。
「な、何この寒さ…それに私どうしてこんな所に」
まさに身を切るような寒さと言うか、焚き火の前で毛布に包まってはいるが、それでもまだ冷える。
「しっかりしろ、そんな事では救助がくるまで持たんぞ」
「救助って…」
「ロストロギアの暴走だ、この山、いや効果範囲はもっと広いかもしれん。吹雪が吹き荒れ、
通信、いや魔法自体の使用が困難な状況だ」
「ええー!!」
「あ、お帰りなさい」
「すまん…これだけしかない」
僅かばかりを薪を手に持ちザフィーラがシャマルの横に腰を下ろす。
「しょうがないわよ。これだけの吹雪なんですもの…それより大丈夫?」
「何がだ?」
「何がだ…じゃないでしょ。そんな格好で」
流石に狼の姿では薪を拾う事は出来ないので、ザフィーラは人の姿で外に出ている。
焚き火の前で暖をとっていても、これだけ冷えるのだ。外を出歩いたザフィーラは言うまでもない。
「心配ない、お前は体力を温存する事を考えろ」
「でも」
「身体に異常があれば教える」
こうなったら反論しても無駄である。ため息を一つついて大人しく横になる。
「そういえばこういう時、裸になって肌と肌で暖かめあうって、よくある話よね。やってみる?」
「………そうだな」
「なーんちゃっ…え?」
い、今『そうだな』って言わなかった?
「あ、アハハハ、冗談よ冗談!」
「いや、このままではお前が持たない可能性がある。脱げ、シャマル」
真剣な顔でザフィーラが迫ってくる。
「じょ、冗談よねってきゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
「暴れるな、体力を消耗する」
「あ、暴れるに決まってるじゃひゃん!そこ触っちゃ駄目!」
「む、すまん。気をつけるから暴れないでくれ」
「だーかーらー!」
「大丈夫かシャマル?」
「だ、大丈夫!」
なわけないじゃない!
結局、ザフィーラの腕力に適うわけはなく、裸の状態で一つの毛布に包まる事になった。
「へ、変な気なんておこさないでね?」
「何がだ?」
「………」
「どうした?」
「いや、これはこれでショックかなって…」
「…何故だ?」
「な、何でって…えーと、私って魅力ない?」
「いや」
「だったらこう、欲望に耐えられずに本能のままに…ごめん、忘れて」
「………」
押し黙るザフィーラ。
「え、え〜と…怒った?」
「シャマル」
「な、何!?」
「俺はそんなことはしない」
「わ、わかってるって、ただ」
「愛する相手ならなおさらだ」
「普通はもう少…え、愛するって?」
「………」
お、落ち着くのよシャマル
3択・一つだけ選びなさい
@ザフィーラは、シャマルの事を一人の女性として愛している
Aザフィーラは、シャマルの事を家族として愛している
Bただの冗談。現実は非情である
私が○をつけたいのは@だけど…って違うって。
大体冗談の場合、なんで現実は非情って事になるのよ!
でもAってのもさっきの言い方からは考えられないし。
そりゃ、ザフィーラの事は悪くないなぁって…
ああん、もう!あの二人がいっつもあんな事言うから、変な気になってきたじゃない!
「シャマル?」
「え?あ、大丈夫。ザフィーラが冗談なんていうから」
「シャマル、俺は別にお前が答えてくれるとは思っていない」
「へ?」
「俺が勝手にそう感じているだけだ。すまん、こんな時に迷惑だったな…」
「迷惑だなんて、そんな!」
「気にするな。俺のような無骨な男は嫌だろう?」
「そ、そんな事無いって!その…私、危ない目に会ってもザフィーラが助けに来てくれるって、
そう思っただけでいつも」
「それが俺の使命だからな」
「そうかもしれないけど…それでも私!」
「シャマル…」
気付けば互いの瞳に、自分の姿が確認できるほど顔が近づいていた。
「ザフィーラ…」
シャマルが目を閉じる。
「シャマル」
再びザフィーラがシャマルの名前を呼び、シャマルを抱きしめる。
そしてシャマルはその唇にザフィーラの吐息を
「はーいそれまでー!」
「ターイムアップ!」
「え?え?え?」
リーゼ姉妹の声で目覚めるシャマル。
「あれ?ざ、ザフィーラは?」
「ざーんねーん」
「夢でしたー」
「あ、あ…」
次第に頭がはっきりし、今までのことを思い出して、どんどん顔が赤くなるシャマル。
「な、な、なんて夢見せるのよ!!」
「えーまんざらでもなかったじゃん」
「私、ザフィーラが助けに来てくれるって思っただけで!」
「シャマル…好きだ!」
「私もよ!」
「好きだ!」
「私もよ!」
「すきだーー!!」
「私もよーー!!」
「うがー!」
「「いやーん、シャマルが怒ったー♪」」
次回予告
それは…何時も通りの日常のはずでした
「ザフィーラさんって、お父さんに似てると思わない?」
「なのはの?う〜ん声は似てるような…」
「あ、でも言われてみれば似てるかも…フェイトちゃんはどう思う?」
「え〜と、似てるような似てないような」
「でしょ!フェイトちゃんもそう思うよね?」
「うん!!」
「なのはちゃんのお父さん、昔ボディーガードやったって言うし。そういう雰囲気が似てるんかも。
まぁ、ザフィーラはなのはちゃんのお父さんとちゃって、加齢臭漂わせてへんけどな!」
…それはただの冗談だったのです。
「…そうだね、うちのお父さんはザフィーラさんと違って獣臭くないもんね!」
それがあんな事になるなんて…
「…ザフィーラは飲みすぎて、朝からお酒臭いなんて事無いしな!」
「…お父さんはザフィーラさんみたいに、家に居る時は寝てばっかりじゃないしね!」
「うふふふふふふ、なのはちゃん、おもろい事言うね」
「うふふふふふふ、はやてちゃんこそ。さすが関西人だよね」
(((こ…こわひ…)))
少女の家族への重いが、二人の男を戦いへとかり立たせた!
「お父さん、頑張って!」
「はっはっはっ、お父さんに任せなさい!」
「ザフィーラ!負けたら承知せぇへんで!」
「………」
果たして少女の友情はどうなってしまうのか!?
「いくぞ、ザフィーラ君!」
「参りました」
『へ?』
「申し訳ありません我が主。負けてしまいました」
「え、あ…うん」
そして
「なんていうか…大人だよねザフィーラさん」
「美由希、そんな言い方じゃ父さんがまるで大人げ…ないなぁ」
(ま、まずい!これではやる気満々で出てきた俺の立場が!)
次回「すもう」
はたして父の威厳は取り戻せるのか!?
皆さんお久しぶり、人間のクズです!
もとい92です!
隣の…いや、今回はピンクなシャ○さんです。
本当はもっとピンクな場面があったのですが…最初の部分と、夢の部分が
どんどん長くなるという不可思議な現象が起こり前後編に…
世の中は不思議なことばかりですね。
というか、最初の部分が我ながらやりすぎと思わないでもないです。
で、では皆さん&職人さん、また会う日まで〜
第9話 c part
もう子供は寝る時間――多分私たちの歳とするなら――だ。
六月の梅雨の所為か夜空はどんよりとした暗雲が敷き詰められ月や星の光も届かない。
光源がなくなったせいか、心なし街から活気がなくなっている気がする。
尤も市街地の方はまだいろんな光で溢れて賑やかだけど……。
「みんな揃ったね」
「はぁ、もう鮫島の目を盗むの大変だったんだから」
「わたしも……みんな起きてるから窓から抜け出す羽目になっちゃった」
初の夜間作業は二人とも苦労しているみたい。
私もファリンが時々部屋に来るから勉強中だからって入ってこないように釘を刺してきたりして。
「やっぱり封印するのは昼間が一番だよね」
「だからって貴重なランチタイムを割くのはどうかと思うんだけど」
「ゆっくりお弁当食べられないもんね」
苦笑いのなのはちゃんの意見には私も同感。お昼ご飯はみんなでゆっくりと食べたいよね。
でも今だけは我慢。ジュエルシードを全部封印しないといろんな人に迷惑が掛かってしまう。だからそれが出来る私たちが頑張らないといけない。
「三人とも話はそれくらいにして、夜更かしだってできないよ」
「もちろんそんなのこれっぽっちも思ってないんだから。ね、なのは、すずか」
「うん!」
「そうだよユーノくん、私たちが力を合わせれば怖いものなんてないんだから」
こんな時でもなのはちゃんの笑顔は星の光みたいに私たちを照らしてくれる。その笑顔を見るだけで気づかれなんてどこかに行ってしまう。
「じゃあすずか、魔力探知お願い」
「まかせて。シルフ探知お願い」
『Obey,my mistress.Wide area search』
いつものように杖の先端から青い光が生まれる。光はすぐに空高く舞い上がり、ある程度の高さで円を描く。
「広域探査……対象魔力波形セット」
『Start up』
小さな円が街全体を包み込むように大きく広がっていく。サーチするのは被害者から検出された魔力残滓の波形パターン。
共通して検出されたことからこれが犯人の物だってエイミィさんは言っていた。私から見ても間違いなくそうだと思える。
「…………」
目を閉じ精神を集中させる。
暗闇に一人佇む私。その中を私の魔法が広がっていく。波紋のように、それは闇の中に隠された輝きを一つ一つ見つけ出していく。
「どう? すずか」
アリサちゃんの声。私は頷きを返す。
いつもなら町中のジュエルシードを調べているから浮かんでくる輝きは大小様々でたくさんある。だけど今夜はたった一つの魔力を感知しなければならない。
見つけるのは得意だと思ったけどやっぱり難しい。
「だめ……まだ見つからない」
「落ち着いてすずか。集中すればきっと出来る」
「うん、ありがとうユーノ君」
『You are possible surely』
二人の励ましにもう一度、私は強く強く念じる。
ジュエルシードじゃない、でもジュエルシードに似た魔力の波動。この町のどこかで息吹いている魔法の力。
――私にしか出来ないこと。
「見つけて……無垢なる輝き――!」
――私だから出来ること。
暗闇の海、ポツンと光が生まれた。
「見つけた! ここから南東2キロ!」
「よし! なのは、アリサ!」
「言われなくても――!」
「――行こう!」
その光はすごく小くて――そういうよりはわざと小さく見せているような紫色の星。ジュエルシードの魔力とは微妙に違う、何かが複雑に混じりこんでいる感じがした。
なぜかどこかで感じたことのあるような……。
「気をつけてみんな、ジュエルシードは移動してる。結構早いよ!」
飛んでいる軌道じゃない。跳ねるようにそれは町の中を飛び回っている。
「大丈夫よ、アタシの瞬発力に掛かれば」
空中で一回転しながらぐいっと膝を曲げる。
「あっという間に!」
『Boost』
透明な壁を蹴り上げるようにアリサちゃんの両足が空中を捉え
「追いついてあげるわ!!」
『Jump!』
爆発音。真っ直ぐに伸びたアリサちゃんはそれこそミサイルみたいに、あっという間に見えなくなっていった。
まるで水泳のターン。
「私たちも急ごう」
『All right』
「もうアリサちゃん急ぎすぎなんだから……」
『Remort flier』
猪突猛進なアリサちゃんにちょっと呆然としながら私となのはちゃんに加速魔法展開!
スラリと伸びて鋭角的なフォルムを見せる青い翼。
魔法の翼に航空力学が通じるのか微妙な所だけど戦闘機を模したこの翼は私たちに十分な速さを提供してくれる。
「レイジングハート!」
『Flier fin』
「シルフ!」
『Air saucer』
二重の飛行魔法。ぐん、と景色が加速する。
空を切る。体中に風を感じて、鳥よりも早く、鋭く私たちは空を翔ける。
「ってもう始めてる!?」
なのはちゃんの口から驚きが飛び出した。
真っ直ぐ先の家の屋根。一瞬だけ赤い光が灯って消えた。
「ああもう! まだ封時結界張ってないのに!」
フェレット姿のユーノ君が慌てて周囲との時間信号をずらす結界を発動させた。
最近こうやって私が補助魔法をかけるとき無駄に魔力を消耗させないためにユーノ君はいつもフェレット姿でなのはちゃんの肩にしがみついている。
一人減るだけでも私としては制御に負担が掛からなくてすごく楽になる。こういうところの気遣いはユーノ君は上手い。
そうして変わる世界の中、また赤い光が瞬く。
ようやくその時になって私の目も犯人の姿を捉えることができた。
屋根を足場に踊るようにステップを踏んで飛び回る影。この空模様のせいではっきりとした姿はわからないけどなんだか黒い霧みたいな塊が動いているように見える。
「なのはは後方援護! すずかはチャンスがあったら僕と拘束!」
元の姿に戻りながらユーノ君が次々に指示を飛ばす。
私はすぐに拘束魔法ウィールバインドの準備に、なのはちゃんはいつものようにディバインシューターを発動させた。
「アリサ! 何とか人気のない場所へ誘導して。そこじゃ民家に被害が出る!」
声を張り上げ、空中で三発目の魔法の準備に取り掛かっていたアリサちゃんに一旦攻撃を制止して。
「ちょ! いきなりそんなこと言われてもどうしろっていうのよ!」
「僕となのはで追い込む! 合図したら攻撃して!」
前へ飛び出すユーノ君に続けといわんばかりになのはちゃんが後を追う。予め打ち合わせていたみたいにその動きは滑らか。きっと念話を使っているんだと思う。
(ユーノ君、私は?)
(すずかは念のため防御の方も準備お願い。攻撃してくるかもしれない)
(うん、まかせて)
すぐに発動できる状態にまで詠唱を進め私は呪文を次々に並列、制御していく。
今私が手元で同時制御できる魔法は魔力の量によるけど最低でも六つは同時に展開できる。シルフがこういうことに関してはとても得意だからできる技だ。
「アリサちゃん離れて! シューーート!!」
それぞれが別々の軌道を描きながらなのはちゃんお得意の誘導弾が全部で五つ、影に向かって飛んでいく。
影もすぐに気づいたみたい。屋根を足場に空中高く舞い上がって弾を避けようと試みる。
「チェーンバインド!!」
でもその背後にユーノ君。
回りこんで放つは三本の鎖。すぐさまそれは影に巻きつき動きを封じ込めた。
「今だアリサ!」
「スプラッシュ!!」
待ち兼ねていたアリサちゃんの魔力弾が闇に赤い軌跡を残して飛んでいく。
唸りを上げて、夜を焦がして、吸い込まれるように灼熱の光球が命中、そして――
「バーーストッ!!」
爆発――!
完全ゼロ距離からの炸裂。障壁も何もない状態からこの攻撃を受ければ相手はやられたも同然。それだけアリサちゃんの高密度魔力弾は威力が半端じゃない。
「どう!? さぁ、なのは、すずか封印準備!」
デバイスを掲げながらアリサちゃんのバーサーカーは早くも封印シークエンスに入ろうとしている。
遅れちゃいけない――そう思って私もシルフをセーバースタイルへ変形させようと
(――えっ?)
そんなの駄目!
「っ! アリサ!!」
二番目に反応したのはユーノ君。もうその時には立ち込めた煙幕を真っ赤な五つの刃が蹴散らしていた。
「嘘っ!?」
「アリサちゃん!」
横目になのはちゃんがデバイスを構えるのが見える。きっと砲撃で打ち落とそうとしているんだと思う。
だけど間に合わない。あの刃はそれよりも早くアリサちゃんに届く――!
「シルフ、スリーセット!」
『Obey,open』
六つのうち三つ目に待機させておいた魔法を最高速の中で発動させる。
「ブロープロテクション!!」
体中を覆う青く輝く殻。
そのままの勢いで私はアリサちゃんに襲い掛かる脅威を力任せに弾き飛ばした。
ガキン! 魔法とは思えない音を残して刃二つがプロテクションに突き刺さった。
「大丈夫、アリサちゃん」
「ありがとすずか。……油断したわ」
ばつの悪そうな表情をしながらアリサちゃんは悔しそうに唇を噛んだ。
展開位置を常時ずらすことで移動能力を付加したプロテクション。これがなければ今の奇襲は防ぎきれなかった。
アースラで見たアークセイバーによく似た三日月型の赤刃は今も消滅しないでプロテクションに穴を開けている。生半可なプロテクションじゃ貫通されていたと思う。
これが放たれる瞬間、着弾点からものすごい大きな魔力を感じ取れたことが本当に幸いだった。
「っ! 逃がさないから!」
桜色が私たちの傍を駆け抜けていく。
遥か先、いつの間にか空中を舞っていた影目掛けてなのはちゃんが砲撃したのだ。
――悟れなかった。魔力の反応もさっきのが嘘のように静かに小さいものになっている。
でもなのはちゃんの一発も当たらない。影はありえないような動きで砲撃を掻い潜ってまた屋根伝いに逃げようと飛び跳ねていく。
「三人とも後を追うわよ!」
号令に私たちは全速力で影を追う。
相手はきっと飛行魔法を持ってない。その代わりに物凄い身体能力を持ち合わせている。
(それに……)
もしかしたらあの影が纏っている黒い霧は――。
「ねぇユーノ君、自分の魔力を隠すことが出来る魔法ってあるの?」
「えっ? うん、あるけど……すずか? ――まさかあいつが!?」
きっとそうなんだ。あの影はエリアサーチで見つけらにくいくらいの小さな魔力しか持っているんじゃなくて、最初から強い魔力を隠しているだけなんだ。
「もしかしたらあれ……L・ジュエルじゃないかな」
もしもの不安が口から出る。あの攻撃の瞬間魔力はどう見ても普通のジュエルシードのものじゃない。そもそも最初から、被害者から検出された魔力だってジュエルシードのものじゃない!
「で、でもわたしたちだもん、絶対大丈夫! 今までだって大丈夫だったんだから!」
「うん、なのはたちなら出来るよ……きっと」
「そんなの当たり前でしょ!」
なのはちゃんの励ましみたいな言葉に私たちは心を包もうとした不安を吹き飛ばす。
そうだよ……私たちは絶対に大丈夫。
何が出てきても、何が起きても――。
「……あいつ、止まった!?」
「ほんとだ……でもあそこって」
「わ、私の家!」
影が降り立った場所は普通の家よりもずっと高くて、あそこからだと見晴らしもすごくいいのかなって想像できそうな場所で。
その場所は月村邸。つまり私の家で……。
「とにかくチャンスよ! 今のうちにみんなでバーッと!!」
「だ、駄目だよアリサちゃん! あそこはすずかちゃんのお家なんだよ!」
「そ、そうだってアリサ。なのはの砲撃にアリサの爆弾じゃすずかの家が吹き飛ぶよ!」
「わ、わたしちゃんと手加減できるよ!!」
「アタシだって!! ……あんまり自信ないけど」
一応、壊れても後で職員の人たちが修復してくれる手はずになってるんだけど……。
二人が全力出したらほんとに半壊しそうでちょっと不安。
「でもチャンスなんだから一気に決める! それしかないでしょ!」
「その意見には賛成だけど……」
「四の五の言わない! 男でしょ! バシッと決める!!」
「は、はい!」
なんていうか押しに弱いユーノ君。こういう肝心なところを率いるのはやっぱりアリサちゃんだった。
「いい? なのは、すずかは後ろから、アタシは正面から三人がかりの同時封印で行くわよ!」
「僕は……?」
「見物!」
がくっとうなだれるユーノ君が合図になって私たちは影を囲むように散開する。
右にはなのはちゃん、左には私、そして正面にアリサちゃんが降り立つ。うえから見れば丁度三角形の中に相手を閉じ込めた格好だ。
ここで一気に終わらせる――きっと私たちみんなそう考えていたと思う。
「いくよシルフ! セーバースタイル!」
これでこの町を騒がせた物騒な事件も終わらせられる。
もう誰も夜に怯えることはない。
「さ〜て、そう簡単にうまく行くかしら?」
――!?
「でもまっ、驚いちゃった。まさか三人がこんな夜中にこんな遊びをしているなんてね」
なんでここにいるはずのない声が聞こえたのかな……?
だってその人は絶対こんなところにいない。きっと部屋でゲームをしたり本を読んだり、時には恋人と電話を通して語り合ったりしているはずなのに。
「アリサちゃんも酷いわ、いきなり攻撃するなんて。それになのはちゃん、あんな砲撃はないんじゃない?」
からかうように聞き慣れた、聞き慣れすぎた声が頭の中に響いていく。
「けど大体二人の戦闘スタイルはわかったし、後はすずかと傍の……女の子? まぁいっか」
多分受け止めなきゃいけない事実が目の前にあるんだと思う。雲の切れ間、うっすら覗いた月が僅かな月明かりをこの場所に注いだ。
「今度はこっちの番……でいいしょ? いい加減飽きてきたのよね、毎日町を飛びまわってるだけってのも」
黒い霧がゆっくりと晴れていく。その下にある真実を徐々にあらわにしていく。
すらりと伸びたモデルみたいな綺麗な体。鮮やかな紫色に染まる髪は私と違って真っ直ぐなびいていて。
子供みたいに笑みを浮かべる口元が見えたとき、私の大好きな人は右腕で残った霧を振り払った。
「ね、遊びましょ、手加減はしてあげるから。あっ、でも四対一なら全力でもいいかしら?」
「嘘……」
「そんなのって……あり?」
二人の言葉は私の言葉。心を揺さぶる衝撃は……おかしくなるくらいに大き過ぎて。
可能性はいくらでもあったんだと思う。この町に住む誰もあのジュエルシードに選ばれる資格はあるのだから。
「嘘だよね……お姉ちゃん」
「嘘じゃないわよ、すずか。私だってあなたがそんな格好していること信じられないもの」
あの時感じた魔力を知っている気がしたのはこういうことだから。血を分けた姉妹なんだから当たり前だ。
そう、今私の目の前にいるのは私のお姉ちゃん。
――月村忍。
「ああ、でも今は私あなたのお姉ちゃんじゃないわね。今の私は――」
一歩、前に踏み出てお姉ちゃんは言った。
いつも通りの優しい笑みじゃなくて、どこか冷たくて、綺麗で妖しい笑みを添えながら。
「――夜の一族……なんだから」
なんでだろう……お姉ちゃんがすごく遠く見えた。
これが今年最後の投下になるのか、はたまたもう少し書けるのか
ついに登場忍さん、夜の一族はとらはをやっている人ならおなじみで
ただ、オリジナルとは大分設定が違いますが
できるだけとらはの超常要素は含めないように、あくまで世界はリリカルなのはで
明日はコミケ、私はいけるかわからない
ああ、だだ甘のなの×ユーあるかしら……
>>92氏
シャマルさんのピンク脳はほんま五臓六腑に染み渡るでぇ
巧みに私の脳内ではシャマ×ザフィです
>>313 久しぶりのシャマルさんシリーズGJです
前編ってことは後編もあるんですね?
期待してます
二度、三度。
鳴らしたチャイムに、応答する者はいなかった。
「……あれ?」
アリサ、すずか。
それに、なのはにはやて。
四人の友を後ろに従えたフェイトは、返事の無いインターホンに首を傾げる。
───おかしいな。
家にいるはずの母の顔を思い浮かべつつもう一度ボタンを押してみるが、
やはり応える者はない。
世間一般の中学生には、避けては通れぬものがある。
中間、期末といったいわゆる定期テストの類がそれだ。
その試練は、皆に平等にやってくる。
時空管理局の局員として忙しく働くなのはやフェイトたちもその例に漏れることなく、
近づいた期末試験に向けて、アリサの提案でハラオウン家にて、
溜まった管理局組三人の宿題の処理を兼ねた勉強会を行うことと相成ったのであるが。
「買い物でも行ってるんじゃないの?」
「……かも」
に、しても。
アルフくらいは留守番しているはずなのだが、どうしたのだろう。
兄やエイミィは朝から仕事だとしても。
「ま、いいか」
怪訝に思いながらもフェイトは鞄から鍵をとりだし、
オートロックになっているマンションのホール玄関の扉へと差し込んだ。
魔法少女リリカルなのは A’s to the strikers
−ママは中学一年生−
第一話 息子(?)、来訪す
ピンポーン。
家の前まで来て、チャイムを鳴らしてみてもやはり、応答はなかった。
急な呼び出しでも、本局のほうからかかったのかも知れない。
今は後方任務の母やアルフとはいえ、ごくたまにそういうこともある。
一応、アルフに念話してみたけれど通じないことだし。
二人ともあれで、時空管理局の提督と、執務官付きで登録された使い魔なのだから。
だからさして、心配などはせず、深く考えずに先程と同じキーホルダーから、
今度は自宅の鍵を見繕って鍵穴に挿し、回す。
ほんの少しだけドアを細く開けてみると、案の定チェーンはかかっていなかった。
やはり、出かけているようだ。
「なんか、みんな出かけちゃってるみたいだけど───」
「あー!!フェイトママ、おかえりなさいー!!」
「───は?」
ただ、こればかりは案の定ではなかった。
数センチにも満たない、ドアの隙間から聞こえてきた幼い声。
さあ開こうかという扉の向こう側からなにやらどたどたと駆けてくる、乱暴な足音。
それらは予想だにしたものではない。
「え?」
「フェ?」
「イト?」
「ママですってえっ!?」
───今、なんとおっしゃいました?
思わずフェイトは、扉にかけた手を離す。
聞き捨てならない言葉、単語を耳にしたなのは達、そしてフェイト本人が動揺する中。
閉まりきっていなかったドアが勢いよく押し開かれ、一つの小さな影が飛び出してきて
フェイトへと飛びついた。
「わわっ!?」
さほど、重くはない。
むしろ小さく、軽い。
奇襲に近かったとはいえ、フェイトは軽くよたついただけで済んだ。
ぶつかるように飛び込んできた影は、しっかりとキャッチしている。
「……エリオ!?」
そしてそんな彼女の腕の中にあったのは、一人の幼い少年、子どもの姿であった。
開け放たれたドアの向こうには、子犬姿でへとへとになって床にへばる、アルフの惨状があった。
* * *
「で?父親はだれなの」
「だから違うったら……。信じてよ、アリサ、はやて……」
わずかに時を置いて、ハラオウン家のリビング。
なのはとすずかが少年の相手をしている側で、正座をさせられたフェイトが
はやてとアリサからの尋問(?)を受けていた。
「───孤児?」
「うん、この間担当した事件で……」
少年───というにもあまりにも幼い子ではあるが、
彼の名は、エリオ・モンディアルといった。
年齢は、四歳。先日フェイトが担当、解決した事件に巻き込まれていた子らしい。
「研究施設で、色々あったみたいで」
「さよかー……。でも」
事件を無事にフェイトが解決した後、彼女の手で保護しレティ提督の伝手で紹介された、
馴染みの孤児院へと引き取られた、ということなのだが。
「おもいっきり遊びにきとるなあ、ええんかあれ?」
「……うん」
勝手に抜け出してきた、とかじゃないといいんだけど。
今はなのはの膝の上でけらけら笑う彼を見て、
フェイトともども、はやても頭を抱える。
「───で、『ママ』ってのは何よ、一体」
一方で、疲れきった様子のアルフがソファでダウンしているのを横目で見ながら、
アリサが気になっていたことを繰り返し尋ねる。
「保護したくらいで『ママ』はないでしょ、『ママ』は」
アレは相当、あのエリオって子にもみくちゃにされて遊ばれたな。
不憫に思い予想しつつも、やっぱりそこが一番気になる。
「ああ、うん。『ママ』っていうのはやめなさい、って言ってるんだけど」
せめて「フェイトさん」くらいにしなさい、って。
微妙にずれた答えが返ってきたが、フェイトも承知の上でまずそれを答えたようで。
「そうじゃなくて」
「わかってるったら。で、それは」
「ふんふん」
「私が保護者って事になってるから」
「───は?」
保護者?
なんでもないことのように言われた言葉に、アリサとはやての目が点になる。
エリオと遊んでやりつつも聞いていたなのはとすずかも、顔を見合わせた。
二人ほどではないにしろ、彼女達も驚いている。
「法的には、うちの母さんが後見人になってはいるんだけど」
「ほ、保護者ってあんた……」
「アースラで保護して、しばらく相手してるうちに随分懐かれちゃって。だから」
「フェ、フェイトちゃん……それはつまり、まさか」
ぱくぱくと金魚のように口を開閉し、わなわなと身体を震わせる二人に気付くことなく、
その時のことを懐かしむように目を細め笑顔を浮かべるフェイト。
「事件に臨むだけじゃなくて、これからはこういう子たちの面倒もみていきたいな、って思ったんだ」
だがしかし、アリサたちの表情はとても、納得や同意を含んだものではなく。
「「その歳で、一児の母ってこと(なんか)っ!?」」
心からの笑みを向ける彼女に、遂に二人は叫んだ。
当然、彼女の吐いた言葉など、聞いてはいなかった。
シュベルトクロイツの中で寝ていたリインフォースが、飛び起きた。
顔に唾が飛びそうな距離で言い放たれた大声に、フェイトはきょとんとし。
彼女たちの言わんとするところのことを理解できぬまま、やや間を置いて。
「えっと。……うん、そうなるね」
こくりと小さく頷いた。半ば、首を傾げるようにしつつ。
後になってこのことを思い出し、言葉と驚きの意味を理解してフェイトは密かに思った。
既に一児どころか五人の家族の大黒柱であるはやてにだけは言われたくない、と。
* * *
「それじゃ、ちゃんと外泊許可はもらった上でのことなんですね」
さすがにこれでは宿題もやりようがないだろうと、なのはたちが帰宅した後。
入れ替わるように、フェイトが制服から着替え終わったタイミングでリンディが帰宅した。
開口一番エリオのことについて問い質したフェイトに、彼女の答えは明瞭であった。
「当たり前でしょう?きちんと孤児院の係の方が送ってきて下さったし」
「そっか、よかった」
「やあねえ、いくらなんでも魔法の使い方も知らないあんな歳の子が、一人でここまでこれるわけないじゃない」
「そ、そうですね」
ハンガーを片手にリンディから上着を受け取り、安堵の溜息をつく。
大袈裟な娘の様子に、母は呆れたように笑った。
「二泊三日の予定だって聞いてるわ。まあ、出がけに書き置きくらい残しておくべきだったかもしれないけれど」
「ああ、いえ。そんなことはないです、母さん」
事務方のリンディが急に呼び出されたのは、戦技教導隊のなのはと、フェイトが共同で立ち上げた
とあるプロジェクトに関する折衝、改善案などについての緊急会議によるものである。
申し訳なくこそ思えど、不満やああしろこうしろなどと母親であっても言えるものではない。
なにしろ計画を立ち上げた二人が事件で飛び回っていることが多いのだ。
その分、後方の事務にかける迷惑や負担は大きい。
そういった点はフェイトも、重々承知している。
「えー!?あと三日もあいついるのか!?」
「アルフ」
「ほらほら、そういうこと言わないの」
リンディとフェイトの留守中、相手をさせられへとへとになるまでもみくちゃにされた
アルフが不満の声をあげると、リンディがたしなめる。
更には主であるフェイトにも眉を吊り上げられ、しゅんとなる。
フェイトやリンディの仕事を考えると、家にいることの多い彼女が必然的にエリオの相手をすることが多くなる。
子守りの大変さを今日身をもって痛感したアルフとしては、抗議の声をあげたくもなるだろう。
むしろ子守りというより、一方的な被害者にしか傍目には見えなかったわけだし。
「でもー……」
「でも、じゃないよ。いくらなんでも学校や仕事にはエリオを連れていけないでしょ」
そんなにこねくりまわされるのが嫌なら、子供や子犬の姿ではなく
以前の大人モードを使えばいいのではないかと思うのだが、「フェイトの負担を減らすため」に
この姿をとっている以上、彼女としてはそれはNGらしい。
子守りの負担を減らすために魔力の負担を増やしたら本末転倒だ、とかなんとか。
別に戦闘にでもならないかぎり魔力消費はそこまで大したものにはならないし、
フェイトはどちらでもかまわないのだが。
「……わかった」
「ありがと、アルフ」
渋々頷くアルフの頭を撫でてやる。
フェイトが執務官になった頃からだろうか。二人の身長の差が、逆転したのは。
フェイトは、大きく、たくましく変わっていき。
アルフは彼女の邪魔にならぬように自身を変えていった。
「さ、それじゃ夕飯の支度しましょ。幸い今日はクロノもエイミィも定時で帰れると聞いているし」
「よかった、それなら」
「エリオくんが来ているんだものね。ごちそうにしましょう」
「はいっ」
本当に孫の顔を見るのは、もう少し先だろうけれど。
予行演習みたいなものかしらね。
強く頷いたフェイトは、煮え切らない息子とその恋人に思いを馳せた母の心情に気付きもしなかった。
気付いたところでどうせ、一緒になって溜息をつくだけにしかならないのは目に見えているが。
ソファで、かけられた毛布の中すやすやと眠る幼子を背に、
母と子は晩餐の支度を始めたのであった。
……つづく
先月のメガミでぼんやり浮かんできて、
今月のメガミで思いついてプロット起こした話を投下する馬鹿が1人。
大晦日にすいません、640です。
今回は5話くらいの話になる・・・はず。
エリオについての新情報もこの話との矛盾もバッチコイ。
>>176氏
んー、三人とも連携よきかな。
忍の夜の一族設定がきましたか、ここはすずかも覚醒して淫乱がっせ(シルフで撲殺
>>92氏
毎回大変なのはザフィーラですな、しかしww
Step Bonus Stage
我ら海鳴魔法少女隊「リリカル・ストライカーズ」
――これは多分もう少し先にある平和になったとある夏の日のお話。
ミーンミーン……。
ジージー……。
この夏の風物詩は毎年毎年なぜこんなにも律儀に暑さを盛り立てようとしているのか。
そりゃあ6年か7年土の中にいれば鬱憤も溜まるだろう。それをぶつけようとしているのか、ぶつけるのに必死になって寿命1週間ならもっと有意義にこの夏を楽しめばいいのに。
だからといって夏のビーチにセミがパラソル並べて寝転がられても――。
その……すごくシュール。
「バリアジャケットって温度対策バッチリじゃなかったわけ〜?」
ぐったりと、そりゃもう溶けてしまっているようにテーブルの上に突っ伏してアリサはかすれ声で呟いた。
ちなみに彼女の脳裏では今度はセミがビーチバレーに勤しんでいる光景が映し出されている。
なぜか人間並みに巨大でやけにリアルな姿なのが不気味というか――。
やはり……シュール。
「ちゃんと術者を守るために標準装備されてるはずなんだけど……」
額に汗の玉を浮かべてフェイトが申し訳なさそうに答える。
テーブルに並べられたコップには翠屋特製のアイスティー。ユーノが気を利かせて転送魔法で――アリサに命令されたという前口上はあえて言わない――運んできたのだ。
さすがマネージャー。
けど悲しいかな。そのアイスティーは半分以上を残してそれはそれは綺麗に二層に分離していた。少女たちは別のもの夢中であった。
「なんていうか気分の問題かも」
既に半身が無くなっているソーダアイスを頬張りながらなのはは苦笑い。ゴミ箱の中にはもう9本の木の棒が煩雑に積み重なっている。
この部屋にいるのは五人。なのは、フェイト、アリサ、すずか、マネージャーもといユーノ。
計算上なのはがこれを食べ終われば全員が二本、アイスを平らげたことになる。コンビニで買ってきた箱入りアイスはものの十五分で完売御礼だ。
「もう勉強って状態じゃないよね」
純白のマントもジャケットも外して、珍しくアンダーのみで絨毯に正座するすずか。やはりお嬢様は礼儀作法に完璧だ。
ひょんなことからバリアジャケットに耐熱耐寒と温度対策が成されているという話が持ち上がったことから、この灼熱地獄を克服するためバリアジャケットを着込んでいる四人。
だがそれでもこの日本の夏はそんな魔法防御をあざ笑うように彼女たちに試練を与えた。
ああ、科学の力はやはり大自然の前では無力に等しいのか。
誰ともなくそんなことを思う。
「しょうがないよ……この次元もいろいろあったから」
転がっていた長細い毛の塊が身動き一つせず弱々しく鳴いた。
彼だけはジャケットではなく毛皮。十八番の変身魔法なのはいろいろ理由があるから。
「きっと魔法にもいろいろ影響が出てるんだよ……。ところで元の姿に」
「却下」
「うう……」
少しでも人口密度を減らせば暑さだって和らぐだろう。提案したのはアリサであって、産生したのは全員。
フェレットに夏の暑さは大敵なんです。といっても中身は人間、そんな訴えも四人の前には無力。
尻に敷かれる……最近はそんな暮らしにも慣れました。
「ごめんね、エアコン壊れちゃってて」
「なのはのせいじゃないんだから……気にしなくていいわよ」
「そうだよ、こういう体験も貴重だと思うよ」
「私は日本の夏って始めてだし」
フェイトの国語力を高めるために夏休みを利用した勉強会。たまには趣向を変えてなのはの家で、ということになったまでは良かったのだが。
急に機嫌を損ねたエアコンは風すら出さず壁にかかる白い箱。窓開ければ天然のエアコン――温風しか出ない。
「翠屋はお客でいっぱい……今更他の家にはいけないし……」
他に冷房の効いたうってつけの場所は無いだろうか。
生憎候補はどこにもない。まさか海やプールで勉強会は開けまい。それにまた裸体で戦う羽目になるのはごめん被りたい。
特になのはに至っては……。あえて聞くな。
「ああもう! 今日は勉強終わり! こんな環境下じゃ九九だって覚えられないわよ!」
まずアリサがさじを投げた。
「そうだね、アリサの言う通りだ。私も……限界」
珍しくフェイトが脱落。ミッドチルダ出身にこの暑さは厳しいようだ。
「わたしも駄目かも」
「なのはちゃんに同じで」
残りも連鎖的に脱落していった。
「…………」
すでに物言わぬ小動物は脱落していたり。
むしろ危険ではないか?
「ねぇ、アースラはどうかな?」
そんな中、ふとフェイトが口を開いた。
その発言に、三人の顔が彼女へ向けられる。聞きたい、ぜひ聞きたい、そんな彼女たちの意思を酌んでさらに続ける。
「でも私用で使うとやっぱり母さんや兄さんに怒られるかな……」
――日和見発言。
どっちつかずの返答に彼女たちの首はがっくりと垂れた。
だがただでは垂れない少女がこの中にはいた。
四人の中でただ一人、暑さに熱暴走しかけた頭脳の回した一人の頭に飛びっきりのインスピレーションを閃かせたのだ。
彼女は心中ほくそ笑んだ。これなら私用じゃない、立派な、アースラの協力者としての立派なお仕事だ。
「諦めるのはまだ早いわ……。フェイト、あなたの生み出してくれた希望は無駄にしない」
リーダーとして、まとめ役として。アリサ・バニングスは今ここに宣言する。
「この暑さに……反逆してあげる」
彼女の目には眩く、熱く、炎が渦巻いていた。
それは夏の太陽を遥かに凌駕していた――。
* * *
「プロモーション……?」
このアースラとはおそらくかなりかけ離れたフレーズにリンディは首をかしげた。
手元のアイスティーの底には真っ白な地層が堆積している。そこまで入れるのか……誰もが突っ込みたかったけど今はそれどころでは無い。
「はい、ご存知の通りアタシたち四人プラス一人で今まで頑張ってきました。多分、これから先も何か事件があればお手伝いすることもあるんです」
「それで?」
「これからもチームとして一つ団結力を高めるための特訓をしたいんです。そのためには今回のプロモーション製作がとても重要なことなんです」
さすが会社令嬢。交渉の仕方は様になっている。
「それでアースラの設備を借りたい……という訳かしら」
話が分かる相手だ。と、アリサは内心ガッツポーズ。
向こうだって提督なのだ。そのくらいすぐに察しがつくのだろう。
「ん〜、いいんじゃないかしら? 確かにみんな頑張ってきたんだし記念代わりにそういうのを作っても」
「駄目だ、魔法訓練ならまだしもそんな芸能活動じみたこと」
淡々と、話は上手く進まなかった。
そう、この堅物がいた。この仕事馬鹿の執務官が。
クロノ・ハラオウンが。
「もしも緊急のことがあったとき誰が責任を取るんだ? 確かに君たちは今回の事件にコウ両者であり感謝すべき存在だがそれとこれとは――」
くどくどくど……。小姑のごとくお説教が幕を開けた。
こんなものを聞くためにアースラにわざわざ来たわけではないというのに。こんな耳の毒を聞かされてはせっかくキンキンに効いた冷房で涼んだからだがまた温まってしまいそうだ。
すでに3℃、彼女たちの体感温度が上がった。
(フェイト……一思いにやっちゃいなさい)
(うん、全力でかかるね)
そっちがそっちならこっちもリーサルウェポン投入。
「あの、どうしても駄目かな……兄さん」
「フェイト……妹の頼みでも」
「お願い……お兄ちゃん」
ぜんまいが切れた。
突如クロノの動きが停止した。続いて紅潮する頬。
「い、いやだから……」
「記念ぐらい、いいよね?」
キラキラと星でも出そうな潤んだ瞳で、クロノを見つめる無垢な少女。
弱いのだ、その視線にクロノは。最大の弱点なのだ。
すでに彼の中で何か大切なものが崩れた。
「しょ、しょうがないな。た、但しあまり長くは使うなよ……」
心の中で全員がハイタッチを交わした。気分で言うならまさにそれ。
「ありがと……お兄ちゃん」
とどめの一撃! こういうところは普段のフェイト同様、手は抜かない。
クロノはクロノで
「ん……」
真っ赤な顔で軽く手を上げた。
これでしばらくアースラで涼める。アリサの一計は完膚なきにアースラを、クロノを屈服させたのである。
* * *
どこかの次元のどこかの平原。
整然と、しかしある種の貫禄を漂わせて少女たちが杖を構えて佇んでいる。
監督役のエイミィは通信音声最大で彼女たちに呼びかけた。
「はーい! じゃあみんな準備はいいかな?」
『バッチリです! エイミィさん!』
モニターの中でなのははこの上なく上機嫌で
『綺麗取ってくださいね! 一応、アタシたちのデビュー作品ですから』
「はいはい」
アリサはくるりとデバイスを片手で一回転
『え、えとエイミィ……つき合わせちゃってごめんなさい』
「いいのいいの! 細かいこと気にしない!」
遠慮がちなフェイトの背中を押して
「じゃあ最高画質でお願いします」
『もち! 容量はたっぷりあるからね!』
どんな注文にも答えて見せよう。
コンソールを目まぐるしく叩きながらエイミィは暇な日常に振ってきた思わぬ娯楽にノリノリであった。
「えと……いいのかな僕が中央で」
ずらりと並んだ少女たちの只中、ちょう真ん中に配置されたユーノは恐る恐る尋ねた。ちなみにちゃんとした人間形態。
「色合いよりもバランスなのよね。そりゃあもう一人魔法少女がいるなら別だけど」
「あっ、やっぱりそうか」
つまり穴埋めですね。
端に男が一人で決めてもそれはそれでなにか釣り合いが取れないし。
「大丈夫、かっこよく取ってくれるから、胸張ってユーノくん」
「なのは……」
「いつも頼りにさせてもらってるし」
「うん」
これは役得なのだろう。
思いを寄せる少女の一言にどうでもよくなった。
『では、みんなオッケー!?』
「「「「「はい!!」」」」」
それではポチッとスイッチオン!!
押されるエンターキー。流れ始めるBGM。
一昔前の特撮を思わせるような、レトロチック音楽が鼓膜を震わせ、その中で少女たちが高らかに叫ぶ。
「気分はいつも全力全開! リリカルなのは!」
どこまでも真っ直ぐで
「輝く心は不屈の証! ライトニングフェイト!」
誰よりも気高き心を持って
「任務は全部一撃必殺! バーニングアリサ!」
希望をかざす少女たち
「溢れる勇気で頑張ります! ノーブルすずか!」
その名は――
(えっ!? 僕台詞なし!?)
「「「「魔法少女戦隊!! リリカル!!」」」」
風を切る相棒は光放って
「「「「ストライカーズ!!!」」」」
ズドォォォォォォォォォォォォン!!!!!
五人の背後から爆炎が咆哮した。
「うわあああああ!!!」
そして男が一人、爆炎に空を舞った。
「あっ、ユーノくんが!!」
「あれ、火薬の量間違えたしら……」
ちなみに火薬とは名ばかり。本当はアリサの高圧縮魔力弾頭だ。
「やっぱり……僕ってこんな扱いなんだ」
遥か地平線まで吹っ飛ぶ勢いで空を翔ける少年は思う。
炎はすごく熱くて、涼みに来たことが嘘みたいだ。
でも、四人の笑顔を見てるとやっぱりどうでもよくなって。これがいつまでも続けばいいと、素直に思った。
「じゃあエイミィさん、今のでお願いしますね」
『はいはーい! ばっちりいい絵が取れたし、永久保存版にするよ!』
て、おい。
「艦長、どのくらい製造しましょうか?」
「そうねぇ、手始めに10000枚くらいかしら」
何勝手にあなたちは話を進めているんですか。
「儲けは全部アースラ持ちで!」
「当然じゃない」
もう、頭の中では次のイベントの計画案が進行中。
目指せ、100万人コンサート!
「ユーノ……お前も大変だな」
ただ一人、男は涙した。
こうしてとある夏の日は笑顔と共に――。
ひゃほーい!
年越し記念投下完了!!
来年もいい年になりますように!
時間が無いのでレス返しは来年に。
レス返しが一年たってからなんて……
というわけで生き抜きな話、年越す前にというわけで
若干突貫工事なお話でした
しかも季節感ねぇ!
まぁ、描き始めて大分たちましたね
今年もよい年になりますよう、よろしくお願いします
で、次で10話になりますね(進んでねぇ
区切りも良さそうなのでここであの二人のデバイスについて
アリサのバーサーカー
彼はどちらかというと主人とは彼女を見ていません。やはり『Buddy』というように
相棒です。主従関係というより兄妹に近いものがあったり。
バリアジャケットは簡単に言うならパワパフZの臍だしスカートなしな感じです。
すずかのシルフ
彼女はすずかが評したとおりメイドです。自分的に『mistress』は『お嬢様』で
『Obey』は『仰せのままに』な具合に受け取ってもらえれば。
バリアジャケットはなのはの上半身にはやての下半身、それに白マントを取り付けた感じです。
イメージと違っていたら私の力不足です。ごめんなさい。
でも、コミケ行ってもなの×ユーは一つしかないし、アリサやすずかも……少なかったなぁ
>>640氏
さっそくエリオ登場ですか
ああ、一時の母親かぁ(遠い眼差し
さっそく性教育を(サンダースマッシャー
あけおめ!
ヴォルケンリッターやアダルトなのは&フェイトのシーツ買ってきちゃった
あけましておめでたう!
メガミの漫画でエリオを溺愛してるフェイトが見れたので新年早々色々と妄想が膨らむ俺だぜ
あけました!!(・∀・)ノ
今年はリリなの3期の放送が決まって喜びまくりの自分がいますwW
まぁそんなこんなでこのスレも皆さんで盛り上げていきまっしょい ←古っっ
>>176氏乙。
つかユーノ哀れすぎ、まぁこういう扱いもユーノぽいしGJ!
>>640氏も乙です
いい話キター(・∀・)
今のところは情報少ないですが、実際もこんな感じかも。
でみんなあけおめ(`・ω・´)です
後は保管庫の管理人さんが復活してくれればなぁ……
342 :
さばかん:2007/01/01(月) 17:18:32 ID:sc2isCOJ
どうもー久しぶりです。
今回のはエロなしのごちゃごちゃものです。暖かい目で見てくださいね。
前回までのお話。
謎の少年からもらったチケットでユーノとフェイトの二人は
『東京デスバレー2(に)ランド』略してデスニーランドへと遊びに行く事にした。
「ユーノ、何に乗ろうか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
無視しているわけではなく、もう選択の余地さえ残っていない。
来て乗り物をある程度見渡す事を提案したのは僕が絶叫モノが苦手だからだ。
過去一度だけ乗った事があるのだが・・・もう乗りたくない。
フェイトは乗ったことが無いように思われたが、実は乗った事が
あるらしく、あまつさえ、絶叫モノLOVEらしい・・・なんだよもぅ。
えーと・・・諦めた、このデスニーランドとやらは観覧車以外絶叫モノオンリィ。
「ユーノ?ゆーのゆーのゆーのゆーの〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
「もう、どんとこい超常現象!!!!!!!!!」
テンションが変。
何度も逝った気分になった。
初っ端からジェットコースターにはまったフェイトは平日の空きをおおいに利用して
連続8回乗りと言う前代未聞をこなし、バイキングを3回、フリスピーを12回乗った。
「ふぅ・・・フェイトお待たせ」
トイレで上からも下からも散々吐いて楽になった僕は不思議と笑顔で彼女に駆け寄った。
「ふぅ・・・流石に疲れたね」
ぶちん。
ちょっと切れそうになった。僕はフェイトのことを思って付き合って、こんなにも大ダメージを受けて
いると言うのに、いや、それも苦手と言わなかった僕が悪いんだけどね。
彼女の持つ三半規管はバケモノか。
「フェイト、今度は僕のリクエスト・・・いいかい?」
「え?うん・・・」
ついた場所はデスバレーゲームランドと言ってミニゲームに挑戦すると言うものだった。
数種類あるもののどれも難しそうだ。
「よし!あのミニボウリングにしよう!」
「いいねー」
そのミニボウリングとやらの傍にいる、変な帽子を被ったおっさんにお金を渡す。
「200以上取れたらいいものあげるよー」
まるで、リストラされたおっさんみたいにやる気の無い声を響かせるオッサン。
「200だって。ユーノ、最高点はどれ位?」
「72」
「・・・・・・やめたら?」
「大丈夫大丈夫。なんせ、みに!!!ボウリングなんだから」
「うんそうだね」
何故棒読みなんだ、フェイトよ。
「信用してないようだね。それにね、その点数は3年も前のなんだよ。
今の僕ならば・・・200なんて軽い!!!」
そう言いながら、第一球。ガン。ガーター。
「ユーノ、どんまい」
励ますフェイト。
「駄目じゃん。手首がさ、曲がってんだよ。だから途中で曲がっちゃうんだよね。
俺が手本見せてやるからよ」
オッサンが転がってくるボールを取り、ブン投げる。
がっっしゃーん。パワーボールで見事なスペア。
「お見事!!」
パチパチと拍手するフェイト。
「凄い・・・じゃなくて、何勝手に投げてるんですか!?一応金払ってるんだよ。第一さっきの
なれなれしいアドバイスは何だったの?貴方は子供に必死に教えてる休日、
パチスロ店で格別熱いイベントが無いからたまには家族サービスしなくちゃなって感じの
センスの無いお父さんかー!!!」
「甘い!俺は独身だ!!!」
「参りました」
年をとると、人は逞しくなるんだ。
「おーい、ユーノ。やるの、やらないの?」
いやらしい意味に一瞬聞こえた。
「まぁ・・・やるさ、ミニボウリングだから簡単だからね」
そう言っていたが、200超えるのに4ゲームかかった。
「おめでとうユーノ。そら、持ってけ!」
渡されたのは微妙な人形でとても可愛いとは言えなかった。
「・・・・・・・・・・・フェイト、いる?」
ふるふる。
「おっさんにあげるよ」
全員微妙な顔をした事は言うまでも無かった。
微妙なものにがっかりした僕達二人はいいものは無いかと、
辺りを見渡すと空クジ無しのスピードくじを発見する。
特賞は二つあり一つは、幻し(らしんばんという店では
こういう表記)と言っても過言ではなく、店頭で見かける事さえ
ありえない商業本「DANDY:LION」、そしてもう一つは、
「すずなじっぽ!!」
「うおっ!!」
フェイトの目がキラキラ輝いている。
「やろう、ユーノ!!」
エロイ意味ではない。
「あ、うん」
「1回500円だよー」
またもやおっさん、さっきとは別人。
「早速引こう!」
円形のプラスチックを舞う紙を気合をこめて取る。
「5等」
がっかりするフェイトにさらに追い討ちが。
「はい、この中から好きなものを取ってってー」
それは、空気で膨らましたバットのようなものだった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ううっ」
「次は、僕だね」
「5等」
「ううっ・・・うううううううううっ・・・・・・・・・・・・・・」
膝を折り、泣いてしまうフェイト。
僕とフェイトは顔を向き合わせて、互いに頷き合う。
向かったのはミニボウリングのオッサンのところ。
「「あげる」」
さっきのバットを渡す。
「てってめえ!おっさんに何もかも押し付けやがって!!いつかおまえらに
年金の負担のみを押し付けてやるからな!!!見てろよ、糞ッたれ!!!!」
不安な未来。
微妙な昼食を食べ終わった僕達はパンフレットを取るとフェイトと一緒に見て、
どこに乗ろうか会話していた。
すると、
「待ちな!!!」
「「?」」
正面を見れば、海賊の船長の格好をした人が堂々と立っていた。
「おめぇら何パンフ勝手に持っててんだよ」
「え?だって自由にお持ち下さいと書いてあったから」
「あんたはなんで○鑑定団をみたことがあるか?」
「二人で毎週見てますけど」
「それでよくあるだろ。『お譲りしますよ』って。それで結局は
金はらってんじゃん。何、日本語曖昧じゃん、みたいな。だから日本は気にくわねぇんだよぉ!!!
後、NOT FOR SALE とか言いながららしんばんで売ってんじゃん!!!!」
たまにそう思うけど、ご自由にって意味はその名の通りの意味だと思う。
ちなみに。
※譲る(ゆずる)@自分のものを他人に与える。Aへりくだる
曖昧ですねぇ・・・
※自由(じゆう)@他から束縛されない事A思いのまま
一方こっちは、ユーノきゅんの主張が正しいような気がします。
「ぐちゃぐちゃ言ってねぇで・・・たまぁとらせろ!」
「はぁ!!!」
ゲシ!ナイフごとフェイトが顎を蹴り上げてコスプレの男を
一撃で倒す。
「フェイト、有難う」
「本でね、こう言ってた」
「『でも・・・そうね。あなたが望むのなら紳士にだってなれるわ』って」
「は、ははは・・・」
セクト。しかも2。18禁。そう書かれていないけど。
妙にずれたフェイトの感覚だが、詰まり守ってくれると言う事だ。嬉しい。
「我(わが)、愚弟ファック船長を一撃で倒すとは、少女よ、やるなぁ」
「ありがとうございます」
「なんかまた出た!」
それは覆面を被ってネズミ耳をつけたとんでもない筋肉を持つ、長身の
大男だった。
しかし、
「怒らないんですね」
「何故怒るんだい?少年。ここはそもそも私と戦う事を目的としながらもアトラクションで
楽しく遊ぶと言う新感覚のサンクチュアリだせ?」
「そう言えば」
平日で少ないとは言え、来ている人は悉(ことごと)くいい体をしていて、その闘志は
今更気付かされたが、とても熱いものがある。
「さぁ、このバラを胸に付けてくれ」
「・・・何の意味があるんですか?」
「そのバラが散った方が負けさ」
どこの少女革命だよ。
パクリのパクリだし・・・
と、その大男は突然そのバラを握りつぶし辺りに散らした。
「だが、俺達の間にこんなものはいらない・・・そう思わないか?」
「はい!」
「我名はデスニー・・・参る!!!!」
じゃあ何故渡したんだろう。
そう思った次の瞬間。
ありえない光景が僕を奪った。
ごがっ!!!!
一撃の美学があるとしたならば、これが見本と言うべきか、フェイトの体が地面に倒れ
動かなくなっていた。
「そうか・・・私、負けたんだ」
「うん、あの人、ふざけた格好してたけど相当強かった」
フェイトが倒れた後、宿泊先のホテルに連れて行った僕はとりあえず、
おかしなところが無いかどうか確認して異常が無いと分かった途端安心した少し後に
目を開けた。
彼女に混乱した様子は無く、敗北という現実をちゃんと受け入れていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
無言が続く中、テレビと空気だけが、この空気を唯一繋げていた。
「私、負けちゃった・・・」
「え、別にそんな事を気にしなくてもい、」
「あの子に負けた、負けた負けた負けた負けた負けた!!!!
もう負けないって、負けないって思ってもやっぱり負けた!!!!!!!!!」
「フェイト・・・」
泣きじゃくり俯くフェイト。
そうか・・・彼女は女の子なんだ、一つの事にくよくよするのもまた女の子。
だが、彼女が泣いているのはそれだけでは無い。
それは、「きっかけ」に過ぎない。
勿論その原因の一つには「僕と彼女の事」というのが殆どだろう。
この数日、僕は冷静になれた。彼女も考えたと思う。
彼女は守るべきものを考えた。
正確に言えば、僕は守るに値する存在なのか、という事。
しかし彼女は僕の使い魔なのであって、どんな意思だったとしても行使するの
には問題無い。
だって、使い魔は人間の都合の良い道具なのだから。
これからの付き合い。心を通わせた暖かいものとなるのか、それとも・・・
はっきりしなくてはいけない事だろう、いつか、いや、
今か。
夕食を食べ終えた私は温泉に入る事にした。
体を洗いながら考えた。
私達はこの何年かは駆け足だった。
だから、その道の走り方なんて、見る暇さえ無かったんだね。
ゴシゴシと肌を滑るタオルをボーっと眺める。
私はずっとユーノを騙している。
ユーノはクロノから私を奪い取りたくてクロノを殺し、私を自分のもの
にしようとした。
でも、クロノクロノと叫んでばかりいた私に激怒したユーノはトラウマを追わせる事により
記憶という曖昧にして重要な世界の繋がりを失わせようと幾度と虐待を加え、結果として
私は記憶を失った。
と言う設定にしている。
確かに記憶は無くした。ただそれは一時的に過ぎず、体は記憶と言う糸を勝手に、しゅるしゅると
世界に繋げ直した。
無くしたふりをしたくなったのはユーノがとても穏やかな顔になったからだ。
ユーノは前よりもずっと穏やかになった。と言っても、それは前よりはで、穏やかとはとても言えない。
でも、それでも、彼のそんな顔がもっと見たいと思った。
それは彼の使い魔になったからか、それとも・・・愛?
分からない。私が好きなのはクロノなのかユーノなのか。
バシャンと湯をかぶりすっきりすると初の温泉に浸かる。
「ふりゅぅううぅぅうううぅ〜〜〜〜〜〜〜」
全身から疲れが取れる〜〜〜〜〜〜〜。
「ほんまやな〜」
「ええ、そうですね」
温泉とは共同風呂、人が入ってるのは当然だと言う事は知っている。
しかし・・・この声はどこかで聞いた事があるような・・・
「あ、フェイトちゃん!」
「あ、ああ!!!」
思わず指差し。彼女は確かなのはの主人である。
「八神・・・はやて」
「ん」
はやては横から杯を取り出すと、持っていたビンの中身を注ぎ飲む。
「フェイトちゃんも一献どうや?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
この状況から判断すると邂逅(かいこう)らしい。一時休戦と言う事か。
「いただきます」
「どぞどぞ☆」
ごくごく。冷たい液体が喉を通る。
「美味しい・・・変わったお水ですね、なんて水ですか?」
「魔王」
あれ?それどっかで聞いた事がある。たしかそれって・・・
「お、お酒!!!」
「そうや。たまには奮発しようと思ってな〜」
「ま・・・まぁいいけど」
お酒を飲むのは初めてでも無いし、でも、これを飲んだ後は必ずユーノと・・・
「本来お風呂でな、お酒は飲んじゃいかんのよ」
「ん・・・なんか、酔って」
「酔いが回るのがはやくなるからな〜☆」
「あ・・・はやて、なんか目がギラギラしてる」
「ぐへへへへへへへ〜フェイトちゃ〜んお肌が桃色でとっても美味しそう」
「ひ〜〜〜〜〜!!!」
温泉から出て、脱衣場まで行くも、酔いが回るのがはやく、私の動きは
想像以上に遅い。
私は脱衣所で裸で押し倒されていた。
掴まれた両腕は酒のせいで、上手く力がはいらない。それともはやての
性欲パワーだろうか。
「とりあえず頬擦り〜」
「うわぅわー!!」
すりすり。
「そして、ちゅ〜!!!」
「!!!!!!!!!ユーノ、助けて〜!!!!!!!!!!!!」
ピタッ。
目を開けるとはやては私の体から離れていた。
「フェイトちゃん、それが答えや。君が好きなのは、確かに、ユーノくん」
「え?」
「君のピンチを救ってくれるのは彼なんやろ?だったら、間違い無く大好きやで」
「なんで・・・?」
「かーんたん。ピンチの時に助けてくれる人はとっても、とってもカッコイイ!!!!」
「あ・・・」
不思議とさっきの悩みがバカバカしく思えて来る。
この世に偽りの愛はある。でも、愛だと思ったら、それはきっと
あい!!!!!!!!
分かり辛い。詰まり・・・私の中で整理するなら。
彼をどうしようも無い位、愛しているという事だ!!!!!!!!!!!!
私には彼が必要、使い魔としてでもいい、なら、好き。好きにならない理由が無い。
愛している。この私が。
私のテンションが、可笑しな事になっている、何故?
「あ〜酔っとる」
「しかし、はやて、なんで私の悩みを知ってるの?」
「いや〜全部喋ってたよ」
「あ」
喋ってたのか・・・長ったらしいあれ。
「で、はやて。本気で食おうとしてたでしょ」
「うん!」
部屋に戻った私はユーノに言った。
「私、記憶喪失してないんだ」
ユーノはその話かといいたそうな目で私を悲しそうに見た。
「知ってる。あの頃の僕はどうかしていた。記憶なんてそう簡単には無くならない」
「うん。宝物だから」
窓の外を見るユーノは景色の一部みたいで儚い。
ユーノは何かを覚悟したような声色で確かに言った。
「フェイト。君が僕の事を好きになってくれなくても構わない。君は道具で僕は腕。
だからクロノを好きでも僕は別に構わ、」
その後姿を捕まえた。
「ユーノは嘘吐きだね。じゃあ簡単な問題を一つ。好きの反対は?それが私の気持ち」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・それは、嫌いって事?」
振り向いた僕にフェイトは静かに・・・口付けをしていた。
「好きの反対はキスに決まってるじゃないか」
「あ・・・フェイト!!!」
フェイトをめいっぱい抱き締め僕はもう一度唇を重ねていた。
「好き」
その夜、体を摺り寄せ唇を重ねる事で僕達の夜は過ぎていった。
つづく
一、プロローグで止めずに書け
一、前書きや後書きでの言い訳はほどほどにして書け
一、言いたいことがあるなら全て作品に詰め込んで書け
一、他人が楽しめる作品を書け
一、限界を越えて書け
一、ネタがあれば書け
一、ネタがなくても書け
一、何でもいいから書け
一、地の文を書け
一、夢を見て書け
一、プロットを作って書け
一、てにをはを間違えず書け
一、逃げずに書け
一、間が空いても書け
一、自信をもって書け
一、日本語で書け
一、覚悟完了して書け
一、くじけずに書け
一、思い切って書け
一、既に十訓ではないがまぁ書け
一、他人のフンドシを借りてでも書け
一、萌えキャラを書こうとするな。キャラが萌える行動をする様子を書け
一、喰うのを忘れて書け
一、いいから続きを書け
一、2chに入れなくても書け
一、パソコンがなくても書け
一、ネット喫茶すらなくても書け
一、よく寝てから書け
一、地雷でもいいから書け
一、でもできれば面白いのを書け
一、推敲しながら書け
一、考えてから書け
一、考えて書け
一、考えながら書け
一、考え直して書け
一、明日も書け
一、忘れられていても書け
一、人に読んでもらいながら書け
一、ヴィータを猪突猛進バカに書くな
一、「ハラオウン」を「ハラウオン」と間違えるな
一、ユーノが淫獣キチガイなネタはそろそろ飽きた
一、時間があれば書け
一、時間がなくても書け
一、最後まで書け
一、「最も」と「尤も」は区別して書け
一、辞書を引きつつ書け
一、文章でクソたれる前と後に「サー」と言ってから書け
一、とにかく書け
一、失敗したら新しいのを書け
一、なんか多いが、細かいことは気にせずに書け
4日目ですが一応挨拶を
明けましておめでとう御座います。
で、今回は6話の後半、前回長すぎて見送った部分です。
つまりこれと前回の
>>144-161(+
>>162)と今回の分を足して一話です。
では何時もの注意書き
似非(えせ)クトゥルフ神話注意
長いです。
シャマル「さて、いよいよ6話も後半戦ね、でも……」
ヴィータ「言いたい事もあるんだけど……取り合えずはおさらいか」
シグナム「アースラが辛うじて助かった所からだな……」
ザフィーラ「それよりもだ……」
はやて「そやな、みんなの言いたい事は良く分かる。せーので行くで」
5人「出番ってこれだけかいーーー!!(怒)」
三人が、格納庫に入った時にはすでに慌ただしく多くの人が動いていた。
ここまで出てきた医療スタッフも居れば、ここまで入り込んだ異形の死骸を放り出す者も居る。
血のこびり付いた壁面と破壊された機材はここも激しい戦火に曝された事を意味する。
そんな生々しい戦場の跡地でなのは先ずフェイトと再開を果たした。彼女は右腕が無かった。
「フェイトちゃん!どうしたのその腕?」
フェイトは少し恥ずかしそうに笑った。
「ペシュ=トレンから離れるときヘマやっちゃって……なのはの足は?」
なのはは今、魔力を節約するためにレイジングハートを松葉杖代わりに立っていた。
「私も似たようなものかな、バリアの範囲の計算を間違っちゃて……」
そう言って自由な手で頬を掻く、二人の状態と場所さえ考え無ければ放課後の帰り道にでもしていそうな会話である。
緊張感の無い会話にため息をつきつつ、クロノは格納庫から艦橋経由で、
どの後方支援師団のどの艦隊に行けば良いのかを本隊と話し合っていた。通信アンテナは応急処置で何とかなったらしい、
医療スタッフの一人がなのはに駆けつける。
「遅れて失礼します。直ぐに手当てをしますので腰を下ろしてください」
彼を一瞥しただけでなのはは答える。
「私は大丈夫、緊急を要する人にお願い」
「もう貴方が一番重症です。足が炭化してるじゃないですか、さあ分かったら座ってください、
魔力の関係で再生までは出来ませんが火傷だけも治しておきます」
なのはは苦笑いをして椅子代わりの残骸に腰を下ろす。
「それじゃあお願い」
治療をしてもらう傍ら、残った魔力で念話を飛ばし、自分の部下に招集を掛ける。
僅かな魔力の消費で意識を失いそうになる。頭を軽くふる隣でクロノがエイミィに指示を出していた。
「ルルイエ脱出の為の転送はどのくらいかかる?」
『う〜ん、メイン駆動炉が焼け付いて、補助駆動炉もいま応急処置の最中だから……
あと12分位かな、9分過ぎたあたりで一端バリアを切って、全出力を転送にまわすわ、』
クロノは少し考え、直ぐに結論を出す。
「分かった、なら転送後に艦橋に戻る」
全館通信を入れ声を張り上げる。
「これより生存者の確認を行う、各隊の現代表者は生存者の報告を行うように、
アースラ艦隊の他艦又は他艦隊から来た者は所属も明言すること、以上!」
格納庫がにわかに騒がしくある。なのはも集まってきた部下を前に立ち上がった。
足が再生しているわけではないが、火傷は納まり、脛から濃い桃色の肉と薄い桜色の骨が除いている。
消毒も包帯も無いが、後方で治療魔法一つ貰えばいい話だ。
本当は魔力の方が欲しかったのだが、それでこそ贅沢と言う物だ。レイジングハートを杖代わりに使い、
生き残った部下を見渡し、号令を掛ける。
「整列!番号!」
突入までは居た見知った顔が居ない、突入前まで、奇跡的に、一人も欠けずに来たと言うのに、
誰もが帰るべき場所と待っている人が居た。誰もが夢と希望を胸に抱いていた。
誰もが世界を守る使命に燃え武装隊に入れた事を誇りにしていた。
だから心に誓ったはずだ。己の身を犠牲にしても生き残らせると、
だか現実はどうだ?
指揮官の心の乱れは容易に部隊を全滅に追い込む、悔しさとやるせなさを隠すために唇を噛むと、
「そうか、ずいぶん減ったな」
本心を悟られないように、素っ気無く言い捨てクロノの方を向く、背後の空気が激化した。
「それだけか!」
生き残りの一人が殴りかかろうとして拳を構える。目を合わせると泣きそうになる。
だから、それを肩越しに一瞥しただけで無視しする。
「てめぇ……」
彼が踏み出すそうとしたとき、その拳を止めるものがいた。彼女と同じ砲台を守っていた隊員だ。
彼は一歩踏み出すとある一点を凝視し口を開く
「あの手……」
言われた本人を含め、高町中隊の視線が彼女の自由な手に集中する。
「あ……」
彼女は初めて自分が握りしめた拳から血が流れていることに気が付いた。
反射的に手を隠し、少し急ぎ気味にクロノの元へ向う、
その背後では隊員が静かに見守っていた。彼女の行動に憤る者は誰も居ない、
フェイトは手短に報告を済ますと、兄より先に艦橋に向っていた。
右腕は相変わらず欠けたままだ。利き手が欠けるのは不便ではあるが、
それももう少しの辛抱だ。後方支援師団にたどり着けば腕ぐらいいくらでも生やす事が出来る。
報告は簡単だった。自分とアルフ以外はズールーとの戦いで全滅したのだ。
自分だって、吹き飛ばされたときに別の船の陰に入らなければ死んでいた。
即席で組んだ隊だとは言え、死線を共に潜った仲である。やるせない事に変わりは無かった。
そう言う意味では、出向いた艦隊で出会った技術士官が生きていたのは救いだった。
彼ともう少し話しがしたかったが、自分は艦橋での仕事もある。
手短に別れを済ませて主の減った居住区を進む、
艦橋にたどり着くと、すでに転送のカウントダウンが始まっていた。
『総員対衝撃用意、出力の関係で時間がかかるぞ、気を付けろ!』
慌てて自分の定位置に付くと、目眩がした。進入した時は一瞬だったが今回は長い、
応急処置をすませたばかりの補助駆動炉が悲鳴を上げていることが艦橋のモニタで分かった。
だがエイミィを始め、艦橋のクルーはその様子を悲観しては居ない、全員ピクリとも動かないでモニタを凝視する。
目眩が止まり、モニタが晴れた。其処には懐かしささえ感じられる次元空間が移っている。
そこに多くの船があった。その殆どが右翼後方支援師団の船だ。幾つかの船から小船が発進してきた。
それらは二本の列を成し、それが道となって支援師団の旗艦となる時空管理局の超大型ドック船に続いていた。
歓声
帰ってきた。その喜びを噛み締め、皆が声を挙げる。それは格納庫でも同じだった。空中に表示されたモニタを
皆、身を乗り出して眺め、思い思いに声を挙げる。クロノもエイミィも今回ばかりは止めなかった。
クロノは落ち着いた足取りで艦橋に向う、ああ言うパホーマンスが出来ると言う事はこの辺に敵は居ないだけでなく、
戦況も非常に良いと言うことだ。いくらあの人でもそうでないならこんな事はしないだろう……
支援師団の旗艦から通信が入る。
『ルルイエ先発突入師団の皆さん、お帰りなさい、』
その声にクロノは苦笑をもらす。モニタに映っているのは彼の母親だった。
「ただいま、あのドッグで良いんだね」
『ええ、直ぐに分かると思うけど、それで、一度全員退艦してくれない?
この船内の部屋は着いた時に送るから、』
どうもその場でオーバーホールかそれに近い大掛かりな修理をしてしまうらしい、
アースラの現状から考えるとスクラップの方が妥当な気もするが、実はフレームだけは死守出来ていたのだ。
何か秘策があるのかもしれない、
「了解」
『それと、各国の方から生き残りに対する指令が来ているわ』
先発突入師団は解体され、アースラ自体はたの大幅に戦力を消失した艦隊とあわせて、予備艦隊として
右翼師団に再度編入される事になっている。
「それはこちらで伝えておこう」
通信を切りドッグの中に入っていく、ふらついて居る船が綺麗にドックに収まると周囲から感嘆の声が上がった。
早速整備員が取り付いて、状況を調べ始める。ハッチの前まで階段代わりのフローターフィールドが伸びてきた。
その階段を下りていく生き残りを見ながら現状を確認する。
「固定されたか?」
「ええ、もう大丈夫です」
彼はその答えに頷くと最後の指示を出した。
「よし!全システム終了、全駆動炉止めろ!」
程なくして艦内の証明が切れ、非常灯が灯る。
「全システム、正常に終了しました」
そこで初めて彼は肩の力を抜き、安堵のため息を漏らした。
なのはは足の再生と同時進行でさまざまな検査を受けていた。彼女が横たわるベットはいくつもの環状魔方陣を潜っており、
その環状魔方陣は全てが激しく明滅している。横では部下が形式的な検査を受けていた。
皆、疲労が酷いので四肢を失うなどといった大怪我をしていない限りは、精密検査は一度休んでからと言うことになったのだ。
行動に影響を与える割合を考えてか、足の欠損は優先順位が神経中枢、内臓の次に高かった。
「足は治りましたよ、ちょっと動かしてみてください」
その声に彼女は目を開ける。目に映ったのは生えたばかりの新しい足だ。動かしてみるとちゃんと動いた。痛みも無い、
起き上がろうとすると待ったをかけられる。
「貴方には戦場で使ったドラッグの中毒症状に陽性が出ています。このまま完全に抜いてしまいますので
しばらく寝ていてください、あ、最新の医療魔法を使って後遺症は一切残しませんのでご心配なく」
やっぱりなっていた。そう思うと少し悲しくなった。だが、医療魔法を使うと後遺症も一切残らずに消し去ることも知っている。
ドラックに対するタブーは時空管理局は地球に比べると驚くほど低い、彼女の悲しいという感情も地球基準の物だ、
だが、理解していても少し不安になる。
「私の部下は大丈夫でしたか?」
この状態でも部下を思う彼女に医療スタッフは頬を緩める。
「危険のある人は簡単な治療魔法で禁断症を先送りにしていますので、一休みしてからですね彼らは」
そうですか、とだけ答えて再び目を閉じる。疲労が激しい、少しは寝てしまっても良いだろう、
再生治療の順番待ちをしているフェイトはあの整備員と話込んでいた。
「君は管理外世界に住んでいるのか……珍しいと言っていいのかな?」
彼はそう行って首をひねる。
「かなり珍しいと思います。長期的な滞在は管理局でもめったにありませんから」
彼はそれを聞くと天を仰ぐ
「なるほどねえ、俺の息子ももう直ぐ9歳になるが……とてもそんな大仕事は無理だな、あのボンクラは」
「そんな事無いと思いますよ、私は人より特殊な環境で……チャンスが他の人の10倍ぐらい有りましたから」
そう言って自分も天を仰ぐ、思い出すのは今もあの世界で暮らす友人の事だ。
「失礼します」
通路の向こうから声がかかる。見ると管理局以外の制服を着た二人の男が立っていた。
「貴方を迎えに来ました」
それは彼女はでは無く、整備員に向けられたものだ。そこで初めて二人の男の制服と整備員の着ている制服が
同じものである事に気が付いた。
「私は今後どうなるのです?」
少しめんどくさそうに尋ねる彼に彼等は答えた。
「貴方は我々の補給艦隊で精密検査を受けていただいた後、本国での勤務になります。
道中は全て我々が護送しますのでご安心ください」
「護送とはまた大げさな……」
そう言って彼の目が留まる。彼等が懐から一通の封筒を取り出したからだ。
「それと、おめでとうございます。貴方はこの場で昇進後、
本国に帰ったあと更に、もう一階級昇進の通知と同時に2重深緑勲章が贈呈される事が決定しています。
本来は2階級特進としたいのですが、何分我が国の法律で戦死者以外に認められませんのでこの様な形になることを
ご了承ください」
だか、当の本人は浮かない顔をしている。
「私はそんな働きをした覚えはありませんよ」
彼の返答に彼等は苦笑した。
「今や貴方は我が国一の英雄なのですよ」
今度は彼は苦笑する番だ。
「英雄?そんなものはこんな所を探しても居ませんよ」
そう言ってフェイトをチラッと見る彼女は頷くと当たり前のように続けた。
「本当の英雄と言うのは死んだ英雄を指すのです。生還した時点でただの兵士ですよ」
そう言って二人に目を向ける。隻腕で小柄な少女の眼光に二人の男は思わずたじろぎ後づさる。
「この方は?」
「私を助けてくださった方です。本来は執務官をしているそうで」
男の紹介に合わせて彼女は自己紹介をすます。
「始めまして、時空管理局でアースラ勤務の執務官をやっておりますフェイト・T・ハラオウンと申します。」
「ハラオウン……」
二人が息を飲む音が聞こえた。ああ、こんな所でも有名なんだと思うと少しその家の一員である自分が誇らしい、
だが、人を家柄で判断するのはどうか、そう考えていると今度は自分に声がかかる。
「フェイトさん、次は貴方の番です」
治療の順番が来たようだ。3人に別れを告げて医務室に向う、部屋に入る前に二人の言葉が少しだけ聞こえた。
「それでも国民は望ん……」
なのはが自分に充てられた部屋に入ると、沢山の荷物が置いてあった。
「?」
幾つか荷物には見覚えがある。一緒に添えられたメモを見ると、戦死した自分の部下の遺品を
クロノが持ってきてくれたらしい、本来は自分がするべき事だが足の状態が状態なために出来なかったのだ。
遺品を家族に送るのは隊長の役目だ。ここから送る事は無理なので、とりあえず人ごとに分けて倉庫に預ける必要がある。
そう思って、手にとると不意に涙が溢れて来た。
(だめ……まだする事が残っているのに……)
荷物は少し落ち着いてからにしてベットに倒れこむと、その場に有った情報端末から今後の予定を取り出す。
疲労で今すぐにでも眠りたかったが、それまでにする事は沢山有った。
今の部隊にもっとも適した変性に班を組み直す必要があるし、それを説明するミーティングの予定も合わせる必要がある。
彼女は直ぐに生還した隊員の状態を調べ始める。
クロノはドックでエイミィと一緒にアースラを眺めていた。改めてよくもまあ持ったものだと思う、
それほどアースラはボロボロだった。技術仕官達の話を盗み聞いても、奇跡だとか無茶苦茶だとかそんな話ばっかりだ。
しかし、解せないのが修理方である。メイン駆動炉が焼け付いているのにどうやって修理するのか、
気になる事と言えば一部装甲が殆ど剥がされた場所があると言う事か、すると技術仕官の一人が近づいてきた。
「よう師団長代理」
クロノは苦笑する。
「その呼び方はやめてくれ、それで、どうしたんだ?邪魔なら引っ込むが」
そう言って思い出すのは本当の師団長の壮絶な最後である。彼がその場に留まり魔法を放ち続けたおかげで
旗艦の魔導師の一部がアースラに辿り着く事が出来た。心の中で今亡き師団長に敬礼し相手の一言を待つ、
「じゃあ旦那、メイン駆動炉をどうするか知りたいんだろ?」
ここまで出向いた核心を突かれて思わず頷いた。すると彼は二ィと笑ってドックの奥を指差す。
そこには信じがたい物があった。エイミィも多少こけかけている。
「あれは……駆動炉?」
しかも大型の、恐らくアースラのメイン駆動炉と同じ規格の物だ。これでどうやって修理する気なのかが、
ようやっと理解できた。
「丸ごと取り替える気か?」
「そう言うことだ。」
船スクラップにして作り直すより、駆動炉だけ運んだ方が安上がりだからな、と付け加えられて、もう何て言って良いのか
分からなかった。とりあえず、今後の予定を確かめるために自分の母の居る司令官室に向う事にする。
「それでね、後一つの部隊が言い難いんだけど……」
クロノの母で有り、右翼支援師団の師団長でもあるリンディは顔を曇らせた。今話すことは
アースラへの補充人員の事である。予備艦隊の編成やアースラがその旗艦になる事などでは無かった反応に
クロノは眉を顰める。だが、直ぐにある事に思い当たった。
「新人部隊、しかも後方支援要因だったはずの部隊だな……」
彼女は無言で頷いた。
「なのはちゃんの部隊と違って前線に出る事を前提に訓練されていないし、
この艦隊を離れるのも初めての部隊なのよ」
リンディはそう言ってため息を付いた。高町中隊の生存率は50%と言う突入師団に置いては驚異的な数値を誇っている。
これは、彼女の部隊が素質が高いと判断された者を集めて作られた部隊であることに加え、
格班毎の徹底的なユニット化と徹底してマニュアル化されたカーリッジの使用、教導官自身のコネによる講師との
殺傷指定まで使用した実戦さながらの訓練、そして何よりも大きな幸運によって成し遂げれたものだ。
決して他の新人部隊が同じことが出来るわけではない、その他の新人部隊、
特に後方支援を前提に訓練を受けてきた部隊に、同じことをさせると5分も待たずに敗走するだろう
その前に全滅するかも知れない、嫌な妄想を振り払うとはっきりと口に出す。
「まあ使い道は幾らでもあるから、全員生還させて見せるさ、
とりあえずミーティングしたいから共通時間次の9:00だって連絡を補充部隊の方に」
その顔を見て彼女はにっこりと笑う
「あら心強い、じゃあそう連絡しとくわ、どうせ補充艦隊の他の船も補充部隊とのミーティングがあるし
旗艦のアースラもメイン駆動炉の調整が終わるまで動けないし、
艦長同士のミーティングは共通時間の12:00だって連絡入れとくわ」
「お願いする。」
彼はそう言って時計を見た。今はまだ18:00時である。寝坊する時間も有りそうだ。
そう思って部屋割りを確認してある事に気が付いた。
「……リンディ師団長……いや、母さん……」
半眼で見上げる母の顔は、笑いを無理やり堪えているのが丸分かりだった。
「あら、何かしら?」
「なのはは一人部屋、フェイトもアルフと同室なだけなのだが……」
「それは当然でしょ、仕官待遇なんだから」
「なら、何故僕とエイミィは相部屋何だ? しかも周囲一部屋が例外無く空いているようだけど?」
「大丈夫よ、夜更かしする時間は沢山あるんだから」
なんの誤魔化しも無い直球ストレートな返答に、怒る気力も無くなり、ぐったりとして部屋を後にした。
空いている食堂は、その利用者のほぼ全てが遅めの夕食を食べるアースラの乗員でしめられていた。
皆満ち足りた顔をしているが、疲労のためか口数は少ない、
そして大抵の皿にはその重度の疲労にもかかわらず大量の食べ物が盛られていた。
不眠不休不食で戦い続けた分を取り戻そうと、医学的な判断を無視して食料を胃に詰め込んでいく、
その一角を占領して色々と話している集団が居た。その中心の少女はハンバーグを頬張りながら
空中にモニタを展開している。
「以上が、前の戦闘の問題点、次こんな状況があるとは思えないけど、万が一の為に
覚えておく事」
そう言ってその少女、なのはは生き残った部下を見渡した。みな食事中の為、まともな返事が出来ない、
だから全員が理解しているかどうかを表情で判断する。彼女はモニタを切り替えた。
「で、これが新しい班の編成、ただし、あくまで仮決定ね、明日の検査の結果によっては変わるから
そのつもりで」
そう言って今度はサラダを食べ始めた。さすがに食べ盛りの男性局員には劣るが相当な食べっぷりである。
食事中にこんな事をしているのは、単に偶然全員が揃ったからだ。ただ、
考えてみれば、食事に行く時間など、大抵決まっているので、そう珍しくは無いのかもしれない、
みな寝ていたら空腹で目を覚ましたと言った所なんだろう、
少し奥の方を見ると、リンディを除くハラオウン一家がにこやかに食事をしていた。
ただ話しの内容はどうも部隊の運用や他の船との折り合いなどが主なようだ。
サラダを食べ終わると、今度はご飯を食べ始める。
「そうそう、今までの戦いで全員の撃墜数が規定上のエースを超えた。あの戦場なら当たり前だけど……
昇給するかもね」
軽い話題で場を盛り上げようとするが、あの地獄を思い出したのか、全員が苦笑を返しただけだった。
苦笑いのまま部下の一人が声を挙げる。
「確かに……もう俺達何が出ても怖く有りませんよ」
その言葉に自身ありげに頷く他の隊員を見て、今度はなのはが苦笑する。
「そうか、なら今度はお前達の肉親を人質にしてみようか?
それとも、時限爆弾が仕掛けられた建物内部ででも交戦するか?」
いきなり言われて凍りつく隊員に彼女は笑い声を上げた。
「そう言うこと、お前達が経験したのは防衛線だけだ。攻める事に関しては素人と変わらないわ
まあ、この短期間でこんな事まで言及するんだがからたいしたものよ」
そう言って片手を手を上げる。隊員達が何事かと振り返ると、一つの集団が食堂に入って来た所だった。
アースラに乗っていた舞台では無い、この船に居た部隊だろう、皆、疲れている様子だった。
服装や貫禄の無さから新人部隊だと予測出来た。彼等を指揮する教官が、彼女の手を見つけて歩いてくる。
その新人部隊も彼に付いて来た。
「お久しぶりです。如何ですか? 調子は?」
彼は苦笑いをして彼女達を見渡した。彼女とあるのはとても新人部隊とは思えない貫禄を纏った連中である。
「行き成り前線に送られると聞いて、さっき甲板上の戦闘を前提にした戦闘訓練をしていた所だ。
寝耳に水とはこういう事を言うんだろうな」
と言っても、と、彼は付け加える。
「まあ、お前に言っても情けない泣き言にしか聞えないんだろうな、ほぼ全滅した先発師団から
半分も生還させた奴に言っても」
言われて彼女は大げさに首を振った。
「そんな事ありませんよ、私の隊員は最初っから特別性でしたし」
「へえ、言うじゃねえか」
そこまで言って彼の目が僅かに細くなる。彼女の表情の変化に気付いたのだ。
「それに、自分の動きも反省点が多すぎて、うまく立ち回れば、もう一と……二人ぐらい……」
「お前……」
遮るように彼女は顔を挙げる。そこには直でに何時もの笑みがあった。
「とりあえず、何か持ってきたらどうですか?」
そう言って自分も立ち上がる。その手には食べ放題のサラダ用の皿が握られていた。
「と言う訳ですよ」
そう言ってなのははモニタを示す。食堂では相変わらず食事が進行中だ。その中で前の戦闘の分析など
ある意味異様な光景では有るが、何故か妙にあっていた。
「なるほどな、確かに、魔力切れを意識している割には効率が悪いな」
言われた彼はそう言って考え込む、一応同意したのは良いものの、果たして自分が同じ状況に追い込まれたときに
彼女が言った最も効率が良い動きを取れるかどうかと言えばNOだ。結局は第3者がじっくり考えられる状況で
考えているに過ぎない、
「で、これが、突入前の戦闘データです。こっちが突入直後、今度私達が全滅しかけたら
本気で戦争終わってますから、ノイズになるので省略しますね」
欲しかった物が表示されたモニタを見る。そこには刻々と変化する二つの戦場が映し出されていた。
その様子を見て思わず顔を顰める。想定以上に敵が多い、端から前線に出ることを前提に鍛えられていた彼女部隊ならまだしも
自分の部隊ではあっと言う間に崩壊するだろう、彼女の部隊を見ると……成る程、強壮バリアや強壮防護結界で陣を作り
そこから強壮砲撃や強壮高速弾を放つ、攻めると言う考え方を排除した防衛線一辺倒な戦法を取っている。
一応前進する事も有るが、その進軍速度は非常に遅い、そしてその機動性の無い部隊を支えるのが遊撃班と言うわけか、
守りと言う側面だけで見るとこの方法は非常に効果的である。実際アースラに近づく敵を殲滅しながら被害を始めて出したのが
ルルイエ突入後、いくつもの艦隊が全滅してからである。そして、そこで彼女が初めて間違いを犯した。
砲撃班と防衛班を解体し、それぞれコンビを組ませたのだ。モニタの隅には彼女が書き込んだであろう、
反省点が書き連ねてある。確かにこれは失策だったとしか言いようが無い、彼女のとるべき判断は
人員を失った班を砲撃班は砲撃班同士、防衛班は防衛班同士融合する事だったのだ。彼女が最も悔やんでいるのはそこだった。
攻撃能力に長ける者と防御に長けるサポートの組み合わせ、確かに最小単位では最強の組み合わせだろう、
実際彼女はまだ管理局に入る前にそれで敵の群を抜けた事があるらしい(一説では相方はあの司書長だったという話しだ)、
しかし、アグレッシブルに攻める必要が無い限りは数を揃えて強壮した方が生存率が上がる事は目に見えている。
普段攻める事が多い彼女らしいミスだ。横目で彼女を盗み見ると、やはり表情が暗い、
一方彼女の部下は気にしない“振り”をしている。
(ああ、信頼されているんだな……)
その事が羨ましいと正直にそう思った。そして、頭を自分の問題に切り替える。当面はどうするかだ。
はっきり言って彼女の部隊のレベルは高い、人質や威力制限なのど特殊な状況以外だと一般の部隊と大して変わらない、
いや、今回のような限定的な目的ならむしろ強いかもしれない、
士気が高いだけでなく、連携も取れている。自分の部隊ではまだ無理な話だ。
もう一度彼女の部隊を見てみると、そこには既に新人部隊の危なっかしさを感じない、一人前の武装隊の姿があった。
彼等は皆、彼女が表示したモニタを食い入るように見ながら、彼女と同じように自分の動きを確認している。
たまに話し合っては、しばらく押し黙る。自分のデバイスを取り出して、そのデーターをダウンロードする者も居た。
きっと後で彼女にどやされるの承知で、彼等なりに動きを研究し、彼等の結論を出す気だろう、
一方自分の部隊は緊張感の無い新人部隊その物だ。彼女のモニタを興味本位だけで見ているのはまだ良い方で、
そんな物には興味が無いと食事に集中する者さえいる。きっと戦場に出ると言う事にまだ実感が持てないのだろう、
ついでに、最前線が非常に好調だと言うのも緊張感が無い理由になっている。
この辺は出撃時に如何転ぶか分からなかった彼女の部隊と大きく違う所だ。
心ので中で大きくため息を付くと陣形などを頭の中で練り直す。取りあえず、
今の状況で出来る事を全てしてしまう必要がある。
クロノはその様子を眺めていた。周囲を見ると少なくない者が同様にその様子を観察している。
皆気なるのだ。今度自分達と肩を並べて戦うのがどんな連中なのか、
なのはの部隊は最初こそお荷物扱いされていたが、直ぐに一部以上の場所の防衛を任せられるようになり、
ベテランの部隊が攻撃に上がる足がかりを作って見せた。犠牲者が出てからは新兵らしい混乱があったものの
直ぐに持ち返し、そのがむしゃらに必死に戦う姿は年上の兵士達の士気の底上げをした。
こいつ等を置いて死ねないなと言う気を起こさせる程度には十分な働きをしたのだ。
ただ、当然の事ながら彼女の部隊は他の新人部隊明らかに違う特別製と言うに相応しい部隊である。
だから皆も普通の新人部隊どの程度使えるのかを見極めようとしているのだ。
見たところ自分達が若い頃と大して代わらない連中らしい、
恐らく、教導官の言うことも上官だから、怖いから聞いているのだろう、
そう言う者達を駒として使わなくてはいけない事にやるせなさを感じつつ、彼は食堂を後にする。
エイミィと二人でベットに倒れこんだ後、一度瞬きすると日が変っていた。
せっかくの最高のセッティングで用意されたロマンスも、過度の疲労の前には無力だったようだ。
そう冷静に分析し、彼は少しだけ血の涙をながした。
再び最前線に出たミッドチルダ295艦隊は前方に巨大な壁にしか見えない何かを確認した。
それは水だった。遺失世界ルルイエの中央に存在する大銀河団5つ分の質量を持つ水の塊、
その中央に世界と同じ名を持つ寝殿でが在り、そこに<旧支配者>クトゥルフが鎮座しているのだ。
すでに中央師団の艦隊が取り付いて直衛部隊と交戦していた。水の表面が泡立ち右翼師団にも飛び出してくる。
「オトゥームを60体、ペシュ=トレンを43体、ズールー18体を確認!」
オペレータの報告に思わず苦笑いをする。
「随分と大判ぶるまいするじゃねぇか、総員出撃!迎え撃て!!」
直後、水面が不気味に光、大量の砲撃が吐き出された。その砲撃の束は容赦なく295艦隊、
そして、その後方の艦隊を襲う
「被害は!?」
「調査中です!」
そのやり取りにオペレータが割ってはいる。
「あれは……間違い有りません、ダゴンです!」
見ると水面から巨大な何かが競りあがってきていた。
「ついに出やがった……」
戦況を見ると、左翼師団にはやはり巨大な敵、ハイドラが向って来ている。
「って事は……」
嫌な予感と共にそれは来た
クロノは会議室で、格船の艦長と話し合っていた。簡単に編成や配置を確認すると、
議題は自然と次の事柄に移る。と言っても、唯単に自分達が属する事になる右翼師団が
ルルイエ中央に到達したと言う旨を伝えるだけが、
「なっ!?」
突然の頭痛に頭を抑える。見ると他の艦長も同様に苦しんでいる。
「これは……!」
中央師団の真下に渦が出来た。それは瞬く間に巨大になって行く、
「だいじょうぶか、みんな」
はやてはそう言いながらも頭を押さえ、ゲージに持たれている。周囲ではヴォルケンリッターが同様に苦しんでいた。
動けないほどでは無い、しかし、今ゲージを開けると暴走する可能性がある。
安静にしておいたほうが良いだろうと思いつつ、遂に最終戦が始まったのだと悟る。
渦の中央から石造り塔のよ様な物が見え始めた。それらは全て緑色の粘液のような物
で覆われている。
聖祥高等学で頭を抑えるアリサは、遠くで車が衝突する音を聞く、きっと突然襲った頭痛のせいだ。
視界に隅にすずかを納める。彼女の方が酷いのか完全に机に突っ伏してしまっている。
ガスなら外の車まで同時は変だ、細菌ならばなおさらだ、放射能なら他の所も影響があるだろう、
そうなるとこの集団頭痛の原因は一つしか考えられない、
(何が起こっているのよ……次元世界で……)
緑の粘液で覆われた巨大建造物が完全に姿を現す。
苦しむ司書達の真ん中で平然と佇む影が二つ在った。
「おやおや、今更お目覚めですか?」
副司書長が苦笑いする。返すのはユーノだ
「本当にね、永眠してるのかと思ったよ」
そう言って苦笑するとモニタを表示する。
「ルルイエに取り付いたのが予定よりも2時間43分早かった。そして」
「目覚めるのが予定より5時間12分も遅いですね」
二人で、苦笑を普通の笑みに変え
「勝ちですね」
「勝ちだね」
時空管理局の勝利を確信する。だが、直ぐにユーノは顔を曇らせた。疑問を顔に出す副司書長に彼は答える
「ハスターが気になるんだよ、果たして何も無しで終わらせるヤツだろうか……」
その疑問に副司書長は少し天を仰ぐ
「あー確かに、動くかも知れません」
全てが歪んだ寝殿は轟音と共に水面から浮き上がる。
それと同時に頭痛が消える。そして
轟音
寝殿が吹き飛び不気味な影が姿を表した。<旧支配者>クトゥルフその巨体が歪な魔方陣を展開する。
その魔力にその場に居た全ての者が悟った。今まででの戦いは前哨戦に過ぎなかったのだと
連絡を受けて魔導師達がアースラに集まって来た。出迎えるのはフェイトだ。
「ようやくだね」
なのはの声に彼女は頷く、新しくなったアースラのメイン駆動炉の調整が旨く行き
ようやく出撃となったのだ。先ず最初の目的地は右翼師団、そこからは師団の艦隊として行動することになる。
全艦がそろい陣形を組むと、アースラ艦隊全てにクロノは声を飛ばす。
『諸君、アースラ艦隊の諸君
私はこの艦隊の指揮を務めるクロノ・ハラオウンである
すでに戦闘は越境に入り
クトゥルフがその姿を現した
だが、勝負は終わった分けではない
寧ろこれからが本当の戦いなのだ
我々は再び前線に舞い戻り
不屈の二文字を持って
<旧支配者>を叩き潰し勝利をもぎ取る必要がる
その事を胸に刻んでいて欲しい
以上!』
一拍
『アースラ艦隊 発進!!』
その号令に全ての船が動き出す。
「破!」
ロッテの拳をオトゥームのバリアが止める。そのバリアの一部が千切れ高速弾となって至近距離から
ロッテを襲う、彼女はそれを跳躍で回避、次の瞬間オトゥームの周囲にフープバインドが出現締め上げる。
だがオトゥームは一瞬でそれを破壊する。そこにグレアムが放ったスティンガーブレイドが突き刺さる。
グレアムに向き直るオトゥームの動きが痙攣して止まる。オトゥームの胴体から手が生えていた。
その手にはリンカーコアが握られている。魔力を失ったオトゥームはロッテの蹴りの一撃を持って吹き飛んだ。
「5体目!!」
ロッテは叫びと共に、オトゥームの護衛をしていた異形の残りを蹴散らす。もはや並の異形は数に入っていない
<母なる>ハイドラの力は強大で左翼師団は後退を余儀なくされていた。それは<父なる>ダゴンと交戦する右翼師団や
クトゥルフそのモノと戦っている中央師団も同じ事だ。グレアム達は船から少し離れた所で
ハイドラの取り巻きを片っ端から潰していた。中でも高機動で艦艇を狙うオトゥームは危険だ
艦砲が当たりにくく魔導師が相手をするより他が無い、そこで役に立ったのがリンカーコア摘出である。
これが決まればオトゥームも何も怖くは無い、但しそのためには高速移動するオトゥームに忍び寄り
さらに強固なバリアを張らせない必要がある。これは難しいと言うレベルを超えている。
現に長時間戦闘していてまだ5体だ。だが、それでも突出して速いペースで倒している事に変りは無い、
3人は雑魚は別の部隊に回して別のオトゥームに狙いを定め動き出す。
(まさか闇の書に対抗するために用意した技が、こんな所で役立つとはね……)
ダゴンと交戦する右翼師団は後退を続けながらも多くの戦果を上げていた。
特に取り巻きのズールーはほぼ壊滅させる事に成功、これで単体で艦艇を一撃で沈める可能性があるのは
オトゥームとダゴンのみとなる。もっともそのオトゥームが問題なのだが
「打てー!!」
ミッドチルダ295艦隊の旗艦で提督が声を張り上げる。同時に発射された主砲が最後のズールーを貫いた。
魔力を失い崩れ落ちるズールーを尻目に彼はペシュ=トレンに照準を合わせるように指示を出す。
右翼師団が善戦を続けている理由は一重に数の問題だった。先発師団と違い数が十分な右翼師団は
それだけでダゴンの部隊を圧倒するのに十分な力を持っていたのだ。
「ふう、これでズールーはもう終わりですね」
一息付く副官に苦笑を返す。
「お代りが来なければな」
モニタには魔導師に群がられて沈黙するオトゥームが映っていた。そこで戦局を大きく動かす事がおこる。
ノイズ
「……やったか」
モニタに映ったそれは遠く離れた管理局の艦隊がアルカンシェルの攻撃を成功させたと言う事を示していた。
295艦隊の退避必要なかった事からも戦場となっている空域の広さが伺える。
「やはりダゴンは3発では死にませんか」
「だが、打撃は与えている。全艦進撃せよ!余波を喰らった敵が立ち直る前に叩く!」
先ずはダゴンよりも担当空域の敵の殲滅だ。進撃する船の魔導レーダーが何かを捕らえた。
「オトゥーム20体、ペシュ=トレン10体、ズールー3体確認、来ましたよ、お代わり」
「何処からだ?」
「一部はあの水塊ですね、残り7割がたクトゥルフの元直衛です」
試しに中央師団の様子を見てみるが特に悪化したようには見えない、余裕が出来たわけでは無いようだ
「良い感じだな、我々にとっては最悪だが」
もっとも全て一つの艦隊で相手にする必要は無い、さっきのズールーの様に複数の艦隊で袋叩きにすれば良いのだ。
右翼師団旗艦から来た指示に従って他の艦隊との合流を開始する。
同刻、左翼師団がハイドラに第一波のアルカンシェルの発射を慣行、成功させていた。
右翼師団の後方にアースラ艦隊が到着する。
「ありゃ、もうダゴンは終わりっぽいよ」
エイミィの声にクロノがモニタを覗き込む、そこには左翼師団に袋叩きにされるダゴンが映っていた。
ダゴンはまだ激しく抵抗しているものの取り巻きは殆ど居ない、
「思ったより早いな、取り合えず師団の旗艦に連絡を取ってくれ」
「了解」
程なくして通信が繋がった。
「お久しぶりです、アースラ艦隊戻ってまいりました。」
『ああ、君達か、ご苦労だったね、ここは見ての通りだよ、君達は
このまま、前進、水塊から出撃してくる援軍を叩いてくれ』
「了解しました」
通信を切り、位置を確認すると既に複数の艦隊が敵援軍と交戦中だった。彼は指示を出し、艦隊を前進させる。
巨大な本の塊が司書達の手で解体されて行く、本棚に戻されるのは全てクトゥルフ関係の書物で
ハスター関係の物はそのままにされている。そしてそれとは別に新規の塊が出来上がっていた。
その塊の真ん中に陣取ってユーノは情報の整理を続ける。モニタにはすでに整理のし終わった情報が
書き連ねてあった。そこに一人の司書が来る。
「あの、これ、言われている物とは違いますが一応……」
「ん?」
ユーノは司書の持ってきた箱に眉を顰める。一応で受け取ると魔法で中身を除き……暫らくして
箱ごと手時かな本の塊に叩き付けた。
「らしくも無い事を……」
やって来た副司書長相手に振り向くと、副司書長は新しく出来た塊を見上げる。
「これが例のロストロギア起動用の資料ですか?」
ああ、とユーノは頷く
「各国との政治的駆け引きでその国に残されているロストロギア、
正確には“らしい物”だけ、現存する物は全て起動方法が不明だが
無限書庫には存在するはず、もし見つかったのならハスター戦への投入を条件に
封印を解いても良い、もっとも停止方法はこっちが握ったままにするけどね」
そう言って肩を竦める。発見されたロストロギアは別に管理局や教会に全てが存在する分けでは無い、
持ち運びが困難でかつ起動する見込みの無い物の中にはそのまま放置されているのも存在する。
ユーノ達が今調べているのはそれらの正しい起動法である。
幾ら順調に進んでいると言っても次元世界連合の被害は大きく、それらの起動は大きな助けになる。
最も安全に起動運用出来るロストロギア何て物は存在しない、本来ならばはやてが蒐集するのが一番安全なのではあるが、
その為には彼女がわざわざ其処まで出向かなくてはなら無い、時間で見るならそれは大きな損失となる。
副司書長は少し不安げにその塊を見上げる。
「問題は有りませんか?すでに次元間魔力供給システムと、八神捜査官が……」
「無いよ」
ユーノは即答した。
「これはあくまで、万が一の時のためにやってるだけだからね、もし、問題が起こらなければ一言こう言えば良い
『見つかりませんでした』ってね、そうすれば危険な賭けをする必要は無くなる」
そう言って笑ってみせる。
「でも意外だね、君はこういうモノには興味が無いと思っていたよ」
「まさか、こういうモノだからこそ警戒しているのですよ」
そう言って副司書長はため息を付く、だがその顔は直ぐに何時もの笑みに変った。
「所でさっきのアレは何です?」
その一言でユーノは途端に不機嫌になった。
「如何でもよいデータの塊だよ、じゃあ僕は何か食べて来るから」
それだけ言って行ってしまう、副司書長は疑念を浮かべ彼が叩き付けた箱を拾い上た。
中身をスキャンし、程なくして苦笑をもらす。
「少々大人気なさ過ぎやしませんか?」
そう言って“とらいあんぐるハート3 リリカルおもちゃ箱”と書かれたそれを丁寧に塊の一番上に置く、
「さて、私も通常業務に移りましょうか」
そう言って動き出そうとしたところで、動きを止める。
「これは……何故!?このタイミングで!?」
最前線でバルデッシュを振るうフェイトは異形を一刀両断すると
ソニックムーブでラインを突破した敵に回り込む、敵の数が突入師団に居た時と変らない
つまり、こちらが有利だと言うことだ、なんせこちらの方が圧倒的に数が多い
フェイトの後ろではなのはに指揮された新人部隊が甲板の先端近くにまで進んできていた。
もう一方の新人部隊は後方に下げられている。それが出来るのも戦場をこちらが支配しているからだ。
「フェイト、アレ」
アルフにつられて前を見ると水面から更なる敵が浮上し始めていた。中にはオトゥームやペシュ=トレンの姿も見える。
「アルフ……」
「分かってる」
二人は頷くと新たなオトゥームの一体を迎え撃つために移動を開始する。
「さすがにズールーは全滅ですかね……」
敵の援軍を見ていた部下から弾倉を貰うとなのははそれをロード、アクセルシューターを生成する。
「その考えは危険だ。今回出なかっただけの可能性を考えるべきだ」
そう言いながら近づく敵をなぎ払いオトゥームの一体を迎え撃つために飛び立とうとした時
振動
「なんだ!?」
誰かが叫ぶ音がする。それを横目に彼女は予想だにしなかった最悪の事態に表情を強張らせる。
(次元震……なんで!こんな時に!?)
見ると異形達も動きを止めている。
クトゥルフを中心に空間がひび割れクトゥルフが砕け散る。一度発生した次元断層は花が開くように
上に下に、右に左に、前に後ろに伸びて行き、強烈な振動に動けないフェイトに迫る。
「逃げてーー!」
彼女の叫びも虚しくフェイトが虚数空間に飲み込まれる。反射的に手を伸ばす。
「フェイトちゃん!!」
しかし、その手が届くはずも無く彼女は漆黒の空間に消えた。涙か何か光る筋の様な物がなのはの視界を掠める。
「フェイトちゃーーん!!」
もう一度叫んだなのはの叫びが虚数空間に消えつつあるルルイエに響き渡る。
文字通り全方向に広がった次元断層は、蜘蛛の巣で作られた鞠のような模様を作り上げる。
その巨大なジャングルジムの鞠は、触れたモノを文字どうり全て飲みながらルルイエからさえ飛び出した。
そして伸び続ける断層は時空管理局の勢力圏内も到達、無数の世界を飲みこんだ。
後の時空管理局が出した正式発表によると、この次元断層がもたらした被害は
消失した世界
管理下の世界32個
管理外世界59個
無人世界113個
計204個
破損した世界
管理下の世界491個
管理外世界712個
無人世界1141個
計2344個
死者約4兆6632臆人(内管理外世界832億人)
重軽傷者傷者約64兆8278億人(内管理外世界2132億人)
被害総額 不明(多数資料消失のため)
であった。
クロノ「フェイトの死、それは瞬く間に関係者の間を駆け巡る」
ユーノ「だが、彼女の死も、なのはに起こった異変も、戦争の中では些細な出来事に過ぎない」
クロノ「膨大な被害を建て直し、避けられぬ次の戦いへ邁進する次元世界連合」
アリサ「そんな中、私は一人の少年と出会い真実の燐遍を知る事になる」
ユーノ「次回、魔法少女リリカルなのはACF第7話『真実は時の彼方なの?』に、」
3人 「スタンバイ、セットアーップ!!」
アリサ「って私できないじゃん!」
性懲りも無く次回予告を入れました。次は其処までたどり着けるといいな(マテ
実はこれでも、なのはの部隊と他の新人部隊の模擬戦だとか、はやてサイドの掛け合いだとか削ってます。
長さを考えて作らないとこうなるって典型ですね
あ、クロノ曰くのロマンスは元からあの予定でした。
時間が遅いので個別レスは飛ばします
ご了承下さい
369 :
名無しさん@ピンキー:2007/01/04(木) 20:47:47 ID:SD2ZlpL9 BE:849807577-2BP(0)
保守
371 :
名無しさん@ピンキー:2007/01/05(金) 00:17:12 ID:krEcN9+i BE:832464386-2BP(0)
ちょいと短めなので、穴埋めをかねてスレに投下しますよ。
高町家に引き取られれたフェイト6 〜想い、見つけた〜
玄関をくぐると、士郎さんが待っていた。少し顔が怖い。私たちに近づくと、右手を振り上げた。怖くなって思わず目を瞑る。
少しして、こつんという音とこぶしの触れる感覚が頭にあった。ほんのちょっとだけ痛かった。直後、私の右からも同じ音が聞こえた。
「ちゃんと、遅くなるときは連絡くらい入れなさい」 目を開けると、少し困ったような、やさしい目で私たちを見つめる四郎さんの姿が映った。
なのはと二人でごめんなさいと頭を下げ、リビングに向かう。みんな食べずに待ってくれていたらしく、桃子さんが温めなおした料理をテーブルに並べていた。
「さ、いただきましょう」 桃子さんの一言が、私の心に広がっていく。そして、なにかが少しずつ解けていく。そんな感覚を覚えた。
「フェイトちゃん? どうしたの?」 隣でなのはがうろたえている。 どうしたんだろうと不思議に思っていると、床からポツンと言う音が聞こえてきた。
下を向くと、水滴が落ちている。その水滴は上からどんどん落ちて広がっていく。 あれ?私、泣いてる? 目元をごしごしとこすっても、どんどんあふれてくる。
「なのは、おかしいね。勝手に…涙が……あふれてくる……」 すべて言い終わらないうちに言葉がつまり、膝から力が抜けた。
嗚咽を漏らす私の肩を抱いて、そっと頭をなでてくれる、水仕事をしているのにやわらかくて、優しい手。それと、ごつごつしているけれど、とても暖かい手
抱きつきたい衝動に駆られるけど、ぐっとこらえる。
「泣きたいときはね、思いっきり泣けばいいのよ。ね?フェイト」 桃子さんの一言でせき止めていたものが一気にあふれ出した。
桃子さんと士郎さんに抱きつきひとしきり泣いて、少し気持ちが落ち着いてきた。
「フェイト、なのはに何かやられたのか?かわいそうに…」 少しおどけた感じで恭也さんがなのはに言った。
「おにーちゃん!」 なのはがむくれる。そのやり取りを見て、少し頬が緩んだ。ちゃんと笑えたかは自信がないけれど。
遅い目の夕食をとって、一度部屋に戻る。ベッドの上膝を抱えて考え込む。今日は、泣いてばかりの一日だったな…どうしてなんだろう。悲しいことなんてなかったのに。
いや、ひとつ悲しいことはあったけど。
「フェイトちゃん、入っていいかな?」 小気味よいノックの音とともになのはの声が聞こえてきた。
「うん、いいよ」 ドアを開けると、暖かそうな紅茶とクッキーの入ったお皿をトレイに載せたなのはが入ってきた。
ここに来て二日目にもらったケーキのことを思い出して一瞬戦慄した。
「どうしたの?フェイトちゃん」 なのはが首をかしげてしばらく考えるそぶりを見せた後、少しいたずらっ子みたいな笑みを浮かべた。
「今日は別に何も入れてないよ。安心して食べてね」 そういわれて、恐る恐る口に運ぶ。おいしい。さっくりとした歯ざわりなのにふんわりとした舌触りがある。
程よい甘さで口から鼻にミルクのいい香りが抜けていく。
「今度、お店で販売する新作のクッキーなの。 よかったら感想聞かせてね」とウインクをされる。
私は、感想を言おうとしたけど、口から言葉が出てこなかった。よく考えたら、リニスがいなくなってからは、ただ栄養を取るためだけにある味気のない食事しかしたことがなかった。
味の表現とか、すっかり忘れてしまっている。だから、やっとの思いで出てきた言葉が
「……とても、おいしい」 私は、自分を恥じた。きっとなのははこんなことを聞きたかったんじゃないよね。恐る恐るなのはの顔を見る。
「そう、よかった」 たおやかな笑顔がそこにあった。
「ごめん、なのは。私、ちゃんと感想もいえなくて…」 謝る私の口になのはは人差し指をそっとあてがって、
「別に、うまく言えなくてもいいよ。フェイトちゃんの顔に書いてあるから」思わず顔をぬぐった私を見てくすりと笑い、
「たくさんの美辞麗句を並べられるより、たった一言、心から『おいしい』って言ってくれるだけで気持ちは十分伝わるから」 なのはの笑顔を見ていると、なんだか少し照れくさくなった。
なのはに紅茶を入れてもらって、二人で残りのクッキーを食べながらお茶を楽しんだ。
一折歓談していると、士郎さんがお風呂に入るようにといってきたので、なのはが私に先に入るように言って、お菓子のトレイを下げて部屋を出て行った。
脱衣所で、洗面台の鏡と向き合う。夜更かしでできた隈がまだうっすらと残っていた。そういえば、さっきから少し頭が重いな。
浴室に入って掛湯を浴び、湯船に浸かって少しすると、扉のすりガラスに見慣れたシルエットが浮かんできた。
はにかんだ笑みを浮かべたなのはも湯船に浸かる。しばらく向き合ってお互い黙っていた。
「なのは。今日は、ごめんね」 そういった私を不思議そうに見つめ、
「どうしたの? 何か謝られるようなことあったかな?」 と聞いてきた。
「私、今日泣いてばかりだったから…なのはたちにたくさん迷惑かけちゃったね」 うつむきながら話すと、なのはがくすりと笑って、
「迷惑だなんて…誰もそんなこと思ってないよ。むしろ、フェイトちゃんが私たちのことを頼ってくれてるのがわかって、結構うれしかったよ」 体が温まったのか、頬がほんのりと上気したなのはが微笑んだ。
私は少し恥ずかしくなって、体を洗うことを口実に、湯船からあがろうとした。なのはに背を向けたとき、背中にお湯とは違う暖かさを感じた。
「なの…は?」 腰に腕を回して離さないなのはに困惑しつつ、頬の筋肉が緩んでいくのを感じた。
「ねえ、フェイトちゃん。どうしてつらさって分け合うことができないんだろうね。 フェイトちゃんがつらい目にあってるのを見て、何とかしたいと思っても、どうすることもできないなんて、もどかしいよ」
鼻にかかったなのはの声。表情は見えないけど、泣いてるんだろうか。抱きつく腕に力がこもる。
私は頭を振り、できるだけやさしい声でなのはに語りかけた。
「私は、うれしいよ。うまくいえないけれど、なのはがいなかったら、きっと私、壊れてしまっていたのかもしれない。アルフには悪いけど」 腰を締める力が緩む。
「そんなことを言ったら、アルフさんが…」 なのはの言葉を隔たって話を続ける。
「離れてみてわかったんだ。アルフが私のことをどう思って、どれだけ私のためにしてくれていたか。 使い魔とご主人の関係ではなくて、親友、いや大事な家族として。私は、アルフのことを大事だとは思っていても、使い魔としてしか見てなかったのかもしれない」
腕が離れたので、なのはと向き合う。少しつらそうな顔が見えた。その目にうっすらと浮かんだ涙をぬぐってあげる。
そんななのはの優しさがうれしくて、そっと肩を抱いた。
「ありがとう、なのは。そしてこれからもよろしくね。」私の肩で、なのはが頷くのを感じた。
お風呂から上がり、リビングで少しくつろいだあと、私は先に自分の部屋へと戻ることにした。戻り際、なのはに念話を送る。
<<アルフのことなんだけれど、今回の件が終わったら少し探してみようと思うんだ。もし良かったら…なのはに手伝って欲しいんだけど……>>
間髪入れずになのはから返事が返ってきた。
<<もちろんで手伝うよ。でも、フェイトちゃんとアルフさんって、精神リンクでつながってるんだよね?それは使わないの?>>
もっともな話だと思うけど、今回はあえてそうしようと思わなかった。
<<うまく言えないんだけど、そういうものに頼らずに、自分の足で探さないと駄目だって思うんだ。そうじゃないと、自分自身が納得できない気がするから>>
返事は帰ってこなかった。代わりになのはの喜ぶ気持ちが伝わってきた。気のせいかも知れないけれど、返事はそれだけで十分。
探せる範囲でアルフを探して、もし見つからなければ、戻ってくるまでずっと待っていよう。それが、私のアルフに対する私の答え。
その前に、母さんの事をきっちり終わらさなければ。私は、先にアースラへ向かったユーノや情報収集にがんばってくれているアースラの人たちのことを考えながら眠りに落ちた。
373 :
名無しさん@ピンキー:2007/01/05(金) 00:22:04 ID:krEcN9+i BE:104058432-2BP(0)
ID変わっちゃったな……
これで埋まるかな?
とりあえず、一区切りです。
前に落とした"あらすじのようなもの.txt”は単なる試し書きですので話がいろいろと違ってますが
気にしないでください。
逆にあっちの方が洗練されているような気はしますけどもね。
とりあえず、自分のコテを忘れてしまったうっかり屋でした(苦笑
>>373 76氏復活?
A's/StSを考えると続きは書き辛いと思うけどGJ&頑張れ!
復活というかなんというか…
W録画を導入してから、生活の時間がアニメに食われるようになっただけですけども……週22本はちとキツいですね。
まだ1クール丸々見てないものも残ってるし…来期からは見る本数減らしてしまおうかと(苦笑
見ていただける方がいる限りは、細々とやっていきますので、気長にお待ちいただければ光栄に思います。