不意に楓が立ち上がり、帆船の模型を置いた俺の机に歩み寄る。
そこにあるのは………カッターナイフ。
「私は…もう自分を抑えられません。このままじゃ稟君のご迷惑になっちゃいます」
楓はカッターの刃を少しずつ出していく。
その顔は笑っていた。
笑っていたが、俺には泣いているように見えた。
「稟君…亜沙先輩とお幸せに」
カッターの刃を自分に向ける。
「そして…愛しています。これからも私はずっと……稟君を愛し続けます…」
「かえ…!!」
駆け出した時にはもう、楓は腹部にカッターを突き刺していた。
倒れていく楓を受け止める。
「馬鹿!なんで…こんな……」
楓の体から血が滴り床に広がっていく。
「私……駄目…なんです……今も…昔も……稟君や亜沙…先輩………大切な…人を…傷付けて……いなく…なった方が…」
「何言ってんだよ!お前、俺の大切な家族なんだぞ!」
血まみれの楓を抱いたまま、俺はただ叫び続ける。
「父さんも母さんも死んで…それでも俺がやってこれたのは楓がいたからなんだ。楓が…」
「稟…く……」
「もう俺は…大切な家族を…失いたくないんだ」
俺は子供の様に泣きじゃくっていた。
そんな俺の頬に楓が手を添える。
血の匂いがする。でも、温かい。
「稟君……大…好…き……」
そう囁いて楓は目を閉じた。
807 :
757:2007/02/25(日) 05:14:52 ID:EdOlHHxx
以上です。
後半は三、四日後には完成すると思います。
少し予告しておくと、亜沙を登場させる予定です。
>>807 GJ!
でも楓の死亡ENDだけはやめてくれよ…
>>807 GJ!亜沙が楓を助けるのかと予想
最近ニュースで連敗競争馬シャッフルの名を聞く度にドキッとする
とくに女子アナが言うとシャッフル!と聞こえて…
期待してますぞー
これから歪みの国のアリスばりに楓が自虐と妄想の果てに作り上げた世界で稟との未来を掴んでいくんだぜ。
そして最後は半泣きの稟が傍らで手を握ってくれているベッドで目覚める。
桜…白ウサギ
亜沙…ハートの女王
プリムラ…ぶかぶか衣装のトランプの兵士
812 :
星屑:2007/02/27(火) 20:52:28 ID:nnuMOksY
流れを無視して、続きうpをする(レギュラー調で)
背中の軽い痛みと、挿入しているという快感がゴチャまぜになって、俺を襲ってきた。
桜さん、正直辛抱たまりません・・・
動かしてすらいないと言うのに、すさまじいまでの快感が俺の背筋を駈け上がってくる。
「さく、ら・・!」
「っく、あっ!ん、り、稟く、あっ!」
桜はやはり痛みが強いようで両目をギュッと閉じ、必死で痛みを耐えていた。
少しでも痛みが早く終われば、そう思った俺はピストン運動を開始した。
「ひっ!?ああぁっ!」
「痛いか?少し、づつな・・・」
正直長くなんか持ちそうにない。
俺はこみ上げる射精感をこらえながら、桜にキスをした。
「ん、む・・・」
「ん、んあっ!んんんんっ!」
セックスの際にキスをしたりして顎を持ち上げたりすると、膣内の括約筋が緩むと聞いたことがある。
何となく今、分かった気がした。
少しづつ桜の声にも矯声が混じり始めていた。
「う、あっ!り、んくぅん!」
「桜っ!俺、もっ、もう」
「う、ん。稟く、んの私に・・下さい。」
813 :
星屑:2007/02/27(火) 21:35:58 ID:nnuMOksY
俺は自分自身を引き抜こうとして、桜の足が腰に絡んでいる事に気が付く。
「さっ、桜!?」
「今日は、大丈夫な、日だから・・」
あ、単純にやばい!!
「う、あっ!!」
「ああっ!!り、稟君のが!中に・・」
やっちまった・・・
終わった・・確実にまずい。
これでデキようものならリアルに14歳の母だ。
「バカ!オギノ式だか基礎体温だかは知らないが、確実な安全日は存在しないんだぞ!?小さなストレスやなんかで周期は変わるんだからさ!!」
「うん。でも・・」
「デキちまったら、桜の夢も実現出来なくなるかもしれないだろ?」
「片方は叶うけどね。・・そうだね。軽率だったかも。反省です。」
桜はテヘッと自分の頭を叩きそう言った。
・・・確信犯か? ま、いいか。
「帰ろうぜ」「帰ろっか」
だからある程度書き溜めて投下しろと。
なぜ投下に30分以上あくのかと
激しくGJ
プリムラ作品を書いてもらいたいとせつに願う
なんでコテって自分勝手なバカが多いのだろうか
817 :
星屑:2007/02/28(水) 19:28:52 ID:VSyx8S5D
PSPからの投下ですから。入力に異常な時間掛かっちゃって(汗)
815さん、需要があれば書きますよ?ただしだだっ遅いUPになりますが・・・
PCは無いのかと思った俺。
ていうかPSPなぞから投下するなよと。
819 :
星屑:2007/02/28(水) 21:46:23 ID:VSyx8S5D
無い事は無いんですが、大抵親父が寝るまで占拠してますからねぇ。
当然自分用もありません。
書いていただけるならいつまでも待ちます
821 :
星屑:2007/02/28(水) 22:00:12 ID:VSyx8S5D
ラジャー、ただ
個人的な好みから、感情ありなプリムラになってしまうことでしょう。
その辺ご容赦を・・・
では、また後日、構想がまとまったらUPします。
822 :
保:2007/02/28(水) 22:55:53 ID:mEQaAwPx
「ごめんなさい。」
「…僕のこと、嫌いになった…のかな」
「…亜沙先輩は、素敵な人です。俺が落ち込んだり、迷ったりしているとき、何度も、何度も励ましてくれて…。俺、亜沙先輩の笑顔に、すごく支えてもらってました。」
「はは、なんか…ちょっと照れるよ」
「…でも、俺気付いたんです。大事な、俺にとって本当に大切な人が、もっと側にいたこと。」
「…そっか」
「そいつは無器用で…。料理とか勉強とか、そつなくこなせるくせに…自分の想いを口にするのが下手で…そのせいで、苦しんで…」
「…うん」
「あいつの…、他の誰を悲しませることになっても、あいつの悲しむ顔だけは見たくないんです。俺が、これからのあいつを支えていきたい。」
「…そう…か」
「だから…ごめんなさい。亜沙先輩とは、もう付き合えません。」
824 :
星屑:2007/03/01(木) 04:30:01 ID:CUv2fJR8
これでも大学4年生っすよ?
バイト代なんかゲーム、携帯、雑貨でほとんどおから。
同情してくれる人はお金下さい(←アホ
>>824 文句たれる奴は無視して、自分語りはやめたほうがいいですよ。
余計叩かれるから。
SS自体は好きだが作者がこうもガキだと読む気もなくすわw
今の時期に大学4年というのがますます怪しい
書いてくれる事に感謝するのは良い事だけど、
書いてくれるからネ申、なんでも許されるというのは大きな間違いでしょ。
文句にしても指摘にしても全てが叩きではなく建設的な意見もあるのだから。
>>824 これからも投下する気なら、とりあえずコテは外しておけ
きみ自身が叩きの的になることを良しとしていても、そのことで荒れるため周りが迷惑する
コテ外した方がいいと助言してくれている人もいるのに、完全無視とかしてるから余計に
叩かれるハメになることを自覚してくれ
来るものは拒まず、去るものは追わず、の精神だ。
まぁまったり行こう。
828、その他の俺に忠告をくれた人の親切さに気づかなかった俺は恥ずかしい野郎だな・・・
了解だ、コテは外しとくよ。
>>830 あとはPSPなんぞよりも携帯で投下した方がいいんじゃないか?
書きためてまとめて投下できるし
でも何故このスレはコテ拒否なんだ?
他スレにはいくらでもコテ職人がいるわけだが。
どうせ投下の時は、作品名なりつけるのだから同じでは?
もちろんコテつけて雑談するのは論外だけど。
> どうせ投下の時は、作品名なりつけるのだから同じでは?
作品名は毎回同じというわけではないだろ
別の作品になれば作品名も変わる、そうなると同一特定はされにくい
コテは作品名を同じと考えるのは無理があるぞ
> もちろんコテつけて雑談するのは論外だけど。
それをやって叩かれるような余計な事したから今回叩かれてるんだろ
全部のレスに反応しろなんて言わないが、意見聞いておきながら書き込まれた意見に全く反応せず
コテ外したほうがいいのではと言われても無視ではさすがに擁護できない
せめてスルーせずに何かしたらの納得のいく返答をしていれば良かったんだが
つ 旦~~
まぁ・・・今回は仕方ないか
836 :
名無しさん@ピンキー:2007/03/05(月) 18:15:28 ID:oI2QupHX
下がり気味かな?ならあげよう・・・
あと、楓系の小説を期待します(笑)
最近はキキョウちゃんもいいな〜なんて・・・・
837 :
757:2007/03/05(月) 18:58:12 ID:dEKPOqJz
>>836 以前書いていた楓メインのアニメ版アレンジの後編がもう少しで完成しますから良ければれば読んでください。
たぶん今夜か明日の昼までには投下できます
839 :
727:2007/03/05(月) 21:14:30 ID:NC0XBWgl
>>836 自分も、もう少ししたら投下できます。ちょっとリアがたてこんで書けなかった・・・。
ごめんなさいとして、短編投下。紅女史ですけど。
840 :
727:2007/03/05(月) 21:18:42 ID:NC0XBWgl
静かに扉が閉められ、極力音を立てないようにしているらしい二つ、足音が遠ざかっていく。
足音が完全に聞こえなくなってようやく、撫子は一息ついた。
「全く・・・。授業中だからといって、誰にも気づかれないと思ったのか?」
ぐったりとしつつ、撫子は呟いた。
――数十分ほど前――
撫子は午後から必要な幾つかの資料を取りに、資料室に向かっていた。
(・・・・・・ん?)
資料室の扉にかけた手が、ピタリと止まった。
資料室の中から微かな声が聞こえた気がしたからだ。
眉を潜め、そっと資料室に入り、物音のする方に様子を伺った。
サボりなら気づかれると逃げられるかも、と用心したからである。
見つけたら現行犯で捕まえて指導だ、と思っていると。
「・・・・・・?」
入った瞬間、何とも言えない匂いが鼻についた。
(この匂いどこかで・・・)
訝しげに思いつつ、とりあえず気配のする方へ向かった瞬間、
「ひあぁぁっ!そ、そこはダメですっ。」
女性の嬌声が聞こえてきた。
(!!・・・この声、芙蓉か?!)
明らかに、性的な意味を考えてしまうその声色に撫子は焦った。
楓が襲われている可能性がある。
焦って急いで飛び出そうとし
「ん?どうしてだ?」
(んなっ、この声は・・・!)
男の方の声を聞いて硬直し、咄嗟に物陰に隠れた。
「か、感じすぎちゃ・・・ひゃっ!」
「楓、可愛いよ。」
「うう・・・。り、稟くんズルいです。普段なら絶対そんなこと言ってくれないのに・・・。」
841 :
727:2007/03/05(月) 21:19:33 ID:NC0XBWgl
(・・・・・・はぁ。)
一気に緊張感が薄れ、どっと脱力感が襲ってきた。
何のことはない、つっち〜が相手らしい。
彼が相手であるなら、この行為はほぼ間違いなく、両者の合意の上であると思っていい。
(ったく、何も学園で授業サボってまで・・・。)
彼らの担任としては頭を抱えたくなる事態だ。
行為に及んでいる人物が分かってしまうと、今度は逆に踏み込むのを躊躇ってしまう。
「ふぁ、あぁっ、あっ、あふぅ、はっ・・・!」
くちゅくちゅっずちゅっ
二人はこちらに全く気づいていないらしい。
楓の喘ぎ声と湿った音に加え、時折稟が何やら囁いているらしい声まで聞こえだした。
(・・・・・・うぅ。)
そのあまりに生々しい声に、自身の顔が火照って来るのを感じた。
この二人が授業をサボっている事は事実であり、教師としては注意しなければならないのは、撫子自身分かっている。
だが、他人の情事に踏み込むのは流石にどうだろうか。
ましてその二人は、毎日顔を合わせる自分の生徒なのだ。
そんな撫子の葛藤を知らない二人の行為は、どんどんエスカレートしていく。
「あ、あああっ!っふぐっ・・・んんんんっ!!」
楓が一際大きな声を上げた。どうやらイッたらしい。
「・・・うぅ。」
・・・気になる。
普段は大人しい楓が、ここまで声を上げているのだ。
(覗くだけ、覗くだけなら・・・。)
物陰から、そっと様子を伺う。
(・・・!)
予想通り、楓と稟がいた。お互いに激しく唇を押し付け合い、舌を絡めている。
と、同時に楓の姿も目に飛び込んできた。
資料棚に背を預け、足を大きく開き、稟にショーツの中に手を入れられた姿が。
(!!?!?)
慌てて首を引っ込めた。
今の自分は、今までに無いくらい顔を真っ赤にしているだろう。
同姓の撫子から見ても、今見た楓の姿は色々と危険すぎた。
(芙蓉が、あんな格好をしているとは・・・。)
自分の下腹部が、熱くなっているのを感じる。
(あ、アソコをつっち〜に撫でられ、かき回されて・・・。)
考えているだけで、吐息がどんどんと艶を帯びていく。
842 :
727:2007/03/05(月) 21:20:56 ID:NC0XBWgl
「・・・ひゃううううう!!」
「ぐ、きつい・・・。」
楓の嬌声が響く。挿入したらしい。
我知らず、撫子は下着をずらして自身の秘裂に指を這わせていた。
ちゅくっ
「・・・・・・っ!」
突然の快楽に、撫子は身体を震わせた。
(そ・・・んな・・・)
我知らず秘部に―それも直接―触っていたこと、そして何より濡れていることに、撫子は愕然とした。
「・・・っ!っふぁ・・・っ!」
頭では分かっている。ここは学園で、しかも自分は教師だ。
教え子の情事で欲情するなど、あってはならないことだ。
「・・・はぁっ、・・・・んっ・・・んふっ!」
しかし、一度始めてしまうと止まらない。先ほどの楓の姿が、脳裏から離れない。
(私は・・・何を・・・)
楓の喘ぎ声と愛液をかき混ぜる音、腰を打ちつける音が聞こえる。
それらの音が快楽に侵されつつある頭に響く。
音に釣られてなのか、それとももう一度見たいという単純な欲求なのだろうか。
撫子は我慢できず、二人の情事を再び覗く。
「・・・ぁ・・・っぅ!」
楓を棚に押し付け、その身体を肉棒で穿っている稟の姿が目に入った。
「ふぁ!あ、あっ、んっ、はっ!」
「・・・っ。」
「あんっ!ふっ、あ・・・ぁっ、はぁっ!」
楓の声が大きく、どんどん艶を帯びていく。
「ふぁっ・・・!はぁっ・・・ぁっ・・・っ!あぁ・・・!」
撫子も、秘裂に入れた指を、思いっきりかき回していた。
いつ、指を入れたのか。全く記憶に無い。
843 :
727:2007/03/05(月) 21:21:35 ID:NC0XBWgl
「りん、くんっ・・・!りんくっ、ん、あんっ!」
「うっ、そろそろ・・・いくぞ、楓。」
「ふあ、きて、きてくださ、い、りんっ、くん!・・・なか、なかに・・・!」
二人の声に合わせ、撫子自身も指を3本に増やし、激しくかき回す。
「っ・・・んっ・・・ふぁっ・・・あ・・・!」
快感で頭が痺れて、既に何も考えられない。
ぐちゅぐちゅ、と音がする自らの秘部を、思いっきりかき回す。
そして、そのまま指を秘部に押し込み、Gスポットを擦り上げる。
「!!!ひあっ、ああああ!!」
「で、出る!」
「・・・っっ稟、くんっ!!」
「・・・っっっはぁぁぁっ!!」
稟が楓の中で果てたのとほぼ同時に、撫子は絶頂を迎えた。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
「やれやれ、らしくもない事をした。」
気分が落ち着き、改めて自分がやったことを思い出して深いため息を吐いた。
覗きまがいのことをするだけでなく、それを見て自慰までしてしまうとは・・・。
「全く、私も欲求不満かね・・・。」
しかも生徒の情事に刺激され、だ。
(しかし・・・。)
意図していたわけではないといえ、結果的に、あの二人の情事を覗いてしまったことになる。
まぁ、公共の場所であのような行為を及んだ時点で、あの二人に過失があるのは否めないのだが・・・。
なんにせよ、悪いことをした。
「はぁ・・・。しょうがない。
あの二人には、昼休みまで「用事」を頼んでおくか。」
聡い二人だ、この「用事」が何を示すか、よく分かるだろう。
あの二人は着替えに戻ったようだ。
「自分の手伝いをさせていた」と言えば、キツいペナルティは無いだろう。
(ちょっと甘かったかな。)
そんなことを考えつつ、ようやく火照りの収まった身体を起こし、周りを見回した。
「・・・・・・床、拭かないとな。」
844 :
727:2007/03/05(月) 21:25:46 ID:NC0XBWgl
以上です。一応、午前の裏話の「幕間」ってことで。
退屈凌ぎになれば、と思っていたり。
駄文失礼しました。
さて、急いで午後編仕上げないと。 三 (;´Д`)
>>844 GJ!
続きwktkしながら待ってます!
いま確認したら470KBまで進んでいたから、そろそろ次スレ作った方がよさそうです。
まだ問題ない、極端に過疎ってる状況で早く立てすぎるのは良くない
500KBまでは書き込めるしSSが投下されてもせいぜい5KBだし
849 :
757:2007/03/07(水) 10:32:40 ID:Rtj/xaef
すみません遅れました。
書いているうちに話が膨らんできて結構な分量になりそうです。
とりあえず後編と言っていましたがまだ終わらなそうなので『中編』を投下します
「楓……おい!楓!」
俺は何度も名前を読んだ。
しかし楓は目を覚まさない。
出血は止まらない。
不意にあの日のことが脳裏に浮かんだ。
父さんが死んだ。
母さんも死んだ。
紅葉おばさんも死んでしまった。
そして今、楓が…。
――死なせない。
あの日決めたんだ。
例え自分がどんなに辛い目に遭おうが、守ると決めた。
楓に生きて欲しかった。
楓までいなくなったら自分はもう頑張れない。そう思ったから。
今も変わらない。
楓がいない生活なんて俺には考えられない。
俺はすぐに救急車を呼んだ。
救急車が来るまでの間、応急処置を行う。
「死ぬなよ楓」
俺は楓に囁く。
「それが何なのかはまだ分からない。だけど伝えなくちゃいけないことがあるんだ」
少ししてから救急車が到着した。
車内で俺はずっと楓の手を握っていた。
「……さん!」
(声が聞こえる)
「…さん!」
(うるさいな)
「…見さん!」
(楓が大変なんだよ。黙っていてくれ)
「土見さん!」
「え…」
気がつくと目の前に白衣の男がいた。
その後ろでは『手術室』と書かれたドアが半開きになっていて、俺は廊下で椅子に座っていた。
(ああ、そうか。楓が倒れて、救急車が来て、病院について、すぐに手術が……)
そこまで考えて、ようやく頭がはっきりしてきた。
「…そうだ。先生、楓は!楓はどうなったんですか!?」
医者はどこか申し訳なさそうにして
「落ち着いて聞いてください。正直…かなり危険な状態です。果たして一晩もつかどうか……」
その言葉に動揺を隠せない俺をよそに、さらに続ける。
「傷がかなり深い上に出血も酷い。出来るだけのことはしましたが……せめて強力な回復魔法を使える者がいれば…それこそ神王様に匹敵するほどの…」
医者が全て言い終わる前に俺はシアの家に電話をかけていた。
だが、
『…ツー…ツー…』
「くそっ!なんで繋がらないんだよ!」
ネリネの家にも同様に連絡がとれない。
「くそ!このままじゃ楓が…」
俺にはベッドの上で眠り続ける楓の横でうなだれる事しかできなかった。
「稟ちゃん…」
声のする方に振り向くと、パジャマ姿の亜沙先輩がいた。
そうか。ここは先輩が入院してる病院だったんだ。
ゆっくりと先輩が近づいてきて俺の隣に座る。
ベッドの上の楓に目をやりながら俺に尋ねた。
「ねえ稟ちゃん…。一体楓に何があったの?」
俺はその問いに答えることなく黙っている。
「稟ちゃんが楓を傷つけるはずがないし、これは楓が自分でやったのよね?」
俺は黙り続ける。
「楓の様子がおかしいのはあの時から知ってた。だって普段の楓ならあんな事、絶対に言わないじゃない」
俺は黙り続ける。
「あの時の目は…本気でボクを憎んでいた。『私の大切な人を返して』ってね」
俺は黙り続ける。
「やっぱり今回の事もボクのせいな…」
「違います!」
思わず声を荒げて先輩の言葉を遮る。
そして一度深呼吸して落ち着いてから
「…先輩は悪くありません。俺が…俺が楓の想いを無視して、逃げていたから……楓を追い詰めてしまった」
「稟ちゃん…」
「八年前、交通事故で楓の母親が死にました。そのせいで生きる気力を失った楓に俺はこう言ったんです」
亜沙先輩は真っ直ぐに俺を見つめながら聞いていてくれた。
「『楓の親が死んだのは俺のせいなんだ』って…。そうやって楓に俺を恨ませることで生きる目的を作ろうとしたんです」
自分自身への憤りを感じてか、俺の拳は膝の上で強く握られていた。
「後先を何も考えていない、くだらない嘘でした。その嘘がずっと楓を縛りつけて、嘘に気づいた今もまだ楓を苦しめている…」
全く吐き気がする。浅はかな考えで大切な幼馴染みを…俺は……
「そっか…。それで楓は稟ちゃんのことが大好きなのに、素直になれないで一歩ひいちゃうんだね…」
そう言うと先輩は右手を大きく振りかぶった。
見覚えがある。
遊園地のデートで頬を打たれた時も同じ構えだった。
先輩の手が動き出すと、俺は思わず目を瞑った。
頬に何か触れた。
手だ。
先輩の温かい手。
恐る恐る目を開くと先輩はとても、とても優しく俺に微笑みかけていた。
「でもね、素直になれていないのは稟ちゃんも同じ」
先輩は俺の頬をゆっくり撫でながら続ける。
「稟ちゃんが本当に隣にいてほしい人は誰?
稟ちゃんが本当に守りたい人は誰?
稟ちゃんの本当に大切な人は誰なの?」
先輩の問いかけが頭の中で何度も何度も響く。
「俺は…」
「この前のデートみたいに周りに流されちゃ駄目。稟ちゃん自身の想いを答えて」
先輩が一層真剣な表情で俺の答えを待つ。
「俺は、楓を失いたくない。ずっと一緒にいたい」
「うん!」
先輩は満足そうにとびっきりの笑顔で応えてくれた。
「でも…もう楓は……」
「強力な回復魔法だったら楓を救えるんだよね?」
「はい。でもここには術者が…」
「人工生命体ならどう?」
「魔力は文句なしでしょうが…プリムラは魔法が…」
「一応使い方は知ってるんだ」
先輩が何を言っているのか理解できない。
そんな俺を他所に先輩は手の平を楓に向けた。
「大切な人を…稟ちゃんと楓を守るため…。これでボクはお母さんに近づけるかな…」
そう言うと、先輩の体が淡く光り始めた。
「人間の体でこんなに強力な魔法を使ったら、ボクはどうなるかわからない。でも、それだけの価値がある事だよね」
「亜沙先ぱ…」
言い切る前に病室が強い光に包まれ、俺は意識を失ってしまった。
薄れていく意識の中、涙を浮かべながら微笑む亜沙先輩が見えた…気がした。
854 :
757:2007/03/07(水) 10:40:12 ID:Rtj/xaef
以上です。楓メインの話は内容が深く重くなりがちで書くのが難しいですorz
まあその分書いてて面白いですけどね。
では感想お待ちしてます
アニメ版の糞緑と違ってこっちの亜沙先輩はいい人だなぁ。