乙一
乙だ
では投下致します
第21話『嘘と嘘』
『だって、俺は』
その言葉の次に電話はいきなり打ち切られました。
私は茫然としたまま、しばらくの間受話器を耳に当てたまま硬直していた。
自宅から桧山さんがいなくなるとわかっていた時から私はどこか壊れたかもしれません。
桧山さんの声が聞きたくて聞きたくて何度も彼の家の留守電話にメッセ−ジを残しました。
次こそはきっと出てくれるとそう願って私はリダイヤルとメッセ−ジを残すとともに
私が桧山さんのことを世界中の誰よりも想っていると彼の心に届いて欲しいと気付いて欲しかった。
でも、現実はそう甘くありませんでした。
桧山さんは本当は私のことをどうでもいいんですよね?
捨てられた子猫が可哀相だったから、同情して拾っただけ。
お腹空かせている私に自分の手料理をご馳走してくれたのは餌を与えただけに過ぎなかったんだよ。
いつも傍にいてくれたのは私のことが大切じゃなくてさ。
単に桧山さんにとっては暇潰し程度だったに違いない。
どんどんと嫌な疑惑ばかり頭で考えてしまっている。
自分の部屋にある猫グッズで一番お気にいりの猫のぬいぐるみを抱き締める。
そのぬいぐるみでは私の心を孤独を癒すことはできないの。一番心を癒してくれた人はもういない。
桧山さん、知ってますか?
この猫のぬいぐるみを抱き締めてないと夜は眠れないんですよ。
桧山さんに私のことをいろいろ知って欲しかった。
でも、その機会は二度とないのだ。
電話を打ち切った先の言葉は……
『だって、俺は瑠依のことが好きだから』
に決まっているのだ。
私が桧山さんが好きだと言っているんだから、私にその想いを伝えるなら電話を切る必要はないんだよ。
でも、優しい桧山さんが私を気遣ってその先の言葉を言えなかったんだよね。
言葉を聞いてしまうとあの東大寺瑠依を殺したくなる衝動に駆られてしまうから。
所詮は人殺しの娘だ。
恋敵を殺して、桧山さんを奪い返すだけで私に幸せが訪れる。
でも、それをやらないのはそんな事をすると桧山さんを哀しむことがわかっているから。それだけはできないよ。
でもね
でもね。
私は桧山さんが傍にいないだけでこんなにも空っぽになるんだよ。
寂しくて寂しくてたまらないの。こんなにもダメになるなんて思ってもみなかった。
欠けた心の痛みをこれからずっと背負って行かないと思うとこれからの人生に眩暈を引き起こしそうだ。
生きることが辛い。
もう、幸せになることができないのなら。
幸せな記憶を持っているうちに。
死んでしまおう。
これでいいんだよね。桧山さん
翌日。
俺はソファーの上にあのまま眠ってしまっていた。
残念ながら、誰も布団を被せてくれる親切な方はこの家に誰もいないので体が少し重い。
夏風邪ではないと思うのだが、この季節に布団を被らずともどうにもできるので俺の気のせいに違いない。
大体、ソファーの上に寝ている時点で体のどこかが寝違えているかもしれないな。
軽く朝食を摂ってから、由希子さんに頼まれた虎の世話をするために病院へ。
時刻は9時頃に廻ってしまっているので少し急いで虎の病室に向かわないと。
由希子さんは放任教育主義者という表向きの顔の真実はただの面倒くさがりの怠け者である。
恐らく、初日以外は娘の見舞いには行っていないだろ。だとすると俺のするべきことは死ぬ程あるわけで。
虎が退院するまでは自分のプライベ−トな時間はお預けだな。
虎の病室に行くと無邪気な笑顔で瑠依は歓迎してくれる。
「わーいー。おにいちゃんだぁ!!」
「今日も一日よろしくな」
「うんっ」
普段の虎とは違う天使の微笑みに癒されながらも俺は虎の看病もとい、瑠依の遊び相手として一日を無駄にすることになるだろう。
「今日は何して遊びたい?」
「うんとねぇ。きょうはおえかきするのぉ」
「よし。購買に行って画用紙かノートを買ってくるよ」
「おにいちゃん。いってらしゃい」
「あ、ああ…」
瑠依の病室から抜け出すと俺はため息を吐いた。
幼児退行化した瑠依の笑顔が昔の妹である彩乃のことを思い出すのだ。
特にお兄ちゃんっ子だったから今日みたいに一緒に絵を書いてみたり、絵本を読んだりするのが日常茶飯事だったのだ。
あの子が死んでから思い出すこともなかった。
いや、思い出すことを拒否していたのだ。
彩乃の存在全てが悲しい記憶になってしまっているから。
だが、不思議なことに思い出しても胸の痛みはなく、ただ欠けた穴を埋めるように癒されてゆく。
「さっさと行ってくるか」
思い出に深けている場合ではない。少なくても、今は。
病院の購買では画用紙など売っていなかったので、近所にある文房具屋で目的の物を買って帰ると結構な時間が経っていた。
お絵描きセットというわかりやすい物が格安で売られていたので、経費節約が出来た。
ちなみに由希子さんには自分の娘を世話してくれる世界一で優しい学生に支払われる賃金はゼロだ。
後で請求してみるが、あの由希子さんを相手にするならば、明日にはマグロ漁船乗せられているのがオチだろう。
虎の病室を開けると退屈しそうに待っていた。
「むぅっ。遅いよぉ。おにいちゃん」
「ごめんごめん。病院の購買じゃあちょっと売ってなかったんだよ。でも、ちゃんと目的のお絵描きセットを買ってきたよ」
「わ〜い。ありがとう。おにいちゃん」
包装されたお絵描きセットを渡すと瑠依は嬉しそうに喜んでいた。
ここ最近で見ないくらいに虎ははしゃいでいる。こんな姿を見れるのは滅多にないだろう。
「おれいにおにいちゃんの顔を描いてあげる」
「あははは。ありがとうな」
そう言うと虎は包装を破って、画用紙を取り出して俺の方を見つめてクレヨンを手に持って書き出してゆく。
真っ白い画用紙は次々に空白を埋めていった。
ただ、俺は瑠依が絵を描き終わるまでずっとこの態勢を保ち続けるのは正直辛い。
頑張って描いている瑠依の姿に何も言えずに苦渋の笑みを浮かべたまま俺は早く終わることを祈った。
それから、3時間後。
絵の下書きが終わったおかげで俺は自由を取り戻して虎が色塗りをしているのを後ろから見守っていた。
幼児退行化しているとはいえ、この集中力は幼児のものとは思えない。
どこが引っ掛かっていた。今の虎は精神年齢が幼児園児並みに落ちているはずだった。
あの年令なら落ち着きもない興味があるものなら目を離した途端に追いかけて行ったりするものだ。
だが、瑠依は幼児的な言葉を話しながらも、どこか落ち着いた雰囲気を漂わせている。
これは虎の担当医者に相談した方がいいかもしれないな。
「よし。完成したよ。おにいちゃん」
出来上がった絵は俺の似顔絵と隣に現在の瑠依自身が仲良く手を繋いで笑い合っているような絵であった。
どこもおかしくない年令に相応しい絵であった。美術的なレベルは幼稚園児相当と言えるだろう。
(俺の思い違いか?)
その時であった。
病室のドアが開いて看護士の方が入ってきた。
「桧山さん。雪桜さんという方からお電話です」
「ああ。どうも。すみません」
俺は病室から立ち去ろうと立ち上がると甲高い声が耳に入ってきた。
「おにいちゃんーーーー!! いっちゃやだぁぁぁーー!!」
瑠依がベットの上で暴れだした。両腕と両足をバタバタと動かしながら、俺をここから出ていかないように抗議している。
「これはちょっと。担当医を急いで呼びます」
顔色が変わった看護士はナースコールで瑠依の異常を知らせる。
暴れている虎を必死に抑えようとしているが、女の細い腕では虎を抑えることができない。
少しすると担当医らしき人物と看護士数人がやってきて。瑠依に鎮痛剤らしき注射すると虎は大人しく強制的に眠らせた。
全く躊躇のない処置である。
担当医の話では精神的支えになっている俺の存在が
この部屋からいなくなるだけで不安になって暴れてしまうとかいう話を聞かされた。
そして、俺は雪桜さんの電話に出ることができたのはそれから1時間もしてからだ。
雪桜さんの電話はもう切られていると思いきや、まだ繋がっているらしく、俺は電話に出ることにした。
一体、どんな用件なのだろうか?
「もしもし。雪桜さん?」
「桧山さん。遅いですよ。一体、何をやっていたんですか?」
「電話に出ようとしたら瑠依が取り乱したんだよ。おかげで医者や看護士が数人もやってくる騒動になったんだ」
「やっぱり、桧山さんはあの女の方が大切なんですね?」
「うん? 何か言った」
「いいえ。なんでもないんです」
小声でぼそり呟いた言葉を聞き取れることはできなかったが、雪桜さんの言動がいつもと違うことに俺は気がついていた。
「桧山さんにお別れの言葉を言いたかったんです」
「何を言っているんだ?」
「桧山さんは私よりもあの女を選んだから。私は生きる希望を失ったんだよ。
桧山さんに愛されてない現状は辛かったけど、桧山さんが他の女と幸せになるのが我慢ならない。
そんな幸せな光景を見るのが辛いから死ぬんだよ。
最後に桧山さんの声が聞きたかったのは私が死ぬ前の気持ちに知って欲しかっただけですから」
「待って。雪桜さん。お願いだから落ち着いて」
死ぬなんて冗談だろと突っ込みを入れたかったが、
雪桜さんの真摯なるはっきりとした口調は何かをやり遂げようとする必死な意思がこちらにも伝わってきた。
だから、俺は必要以上に焦っているかもしれない。この電話を切ってしまうと雪桜さんと最後の会話になってしまうから。
「最後に恨み言を言っていいですか?」
「なんだ?」
「どうして、どうして。私のことを好きになってくれなかったんですか? 何度も言いましたが、私は桧山さんのことが大好きだったのに」
「雪桜さん」
「死ぬ前に桧山さんに私の想いが詰まった遺書をポストに入れておきます。後で私が死んだときに読んでください。
私は人生の中で一番幸せだった場所で幸せな死に方をします」
そう言い終わると電話はあっけもなく切られてしまった。
これが雪桜さんと俺の生涯最後の会話になる。
いや、していいんだろうか?
まだ、俺は自分の気持ちに整理できていないのに。
雪桜さんに対する想いは複雑すぎて自分でも何が唯一の真実なのか理解できてはいない。
この想いが恋なのか、憎悪なのか、同情なのか。わかりはしない。ただ、考えるだけ時間が欲しかっただけなのに。
どうして、こんなことになってしまったんだろうか。
しばらくの間、俺は受話器を握り締めて茫然と立ち尽くしていた
雪桜さんに死亡フラグが立ちましたw
あ…新しいタイプの修羅場だー!!!!
つ[自傷型ヤンデレVS幼児退行?幼馴染み 〜アナタが愛してくれないなら…〜 ]
GJ!
もはや手遅れのような気もするが、とりあえずがんばれ剛。
今日のミスターまだー?
俺はいつまでもミスターを待ち続ける
てか、俺は雪桜さんをもらう
お前ら、異論はないな?
却下
>>17 おk。
じゃあ俺はいたり先輩をもらって行きますね
じゃあ俺はリサちゃんと双子ょぅι゛ょを貰う
御陵さんは譲れない
モカさんさえいればそれでいい
白とアトリは貰った
では、おれは嫉妬心をいただく!これさえあればssも書き放題だ!
ってどうしたらあんなに上手く心の描写が出来るのか、苦悩中。
このスレの作者さんは皆スゲーなー
では日付も変わった事ですし
投下致します
第22話『迷える子犬』
呼吸が乱れていた。喉を抉るように引き裂かれる胸の痛みを抑えようと手で思い切り掴もうとしても抑えることができない。
人間一人の命が失われる寸前にかけた最後の電話に俺は落ち着くことができずにどこかに逃げたいとさえ思っている。
『私は人生の中で一番幸せだった場所で幸せな死に方をします』
そう言い放った雪桜さんの最後である言葉が脳裏に離れない。
彼女を探して、命を投げ出す所を止めたい。だが、一体雪桜さんを止める自信はなかった。
結局は雪桜さんに対する自分の気持ちが問題なのだ。
雪桜さんの事が好きだが、あの事件の殺人犯の娘。
大切な家族を奪った男の娘というだけで人間は単純な事に無関係な雪桜さんにさえ憎しみの炎を向ける。
頭の中で割り切っていても、感情が納得いかない。どうして、殺人犯の娘がのうのうと幸せに生きている?
彩乃や、他の子供達は哀れな死に方をしたというのに。そういう想いが溢れてくるのが人間という生物だろう。
ただ、雪桜さんと暮らしていてわかったことは。
雪桜さんは幸せだったのだろうか?
あの事件以降、雪桜さんは友達も作ることができずに周囲の人間から苛められている生活を送った。
それがどんなに辛い人生だったのかは想像するにも恐ろしい。俺なら人間不振になって、すぐに発狂してしまいそうだ。
でも、彼女はどんな酷い境遇でも相手を想いやれる気持ちを持っていた。
初めて出会った時に自分に近付くと一緒に苛められると俺を気遣ってくれていた。
そんな彼女だったからこそ、俺は助けてやりたいと思ったのではないか?
自分自身に問い詰めている間に俺はまだ答えが出すことができずに瑠依の病室に戻ろうとしていた。
本当なら死に行く雪桜さんを探しに行きたい衝動に駆られてしまう。
だが、幼児退行化を起こしている瑠依が鎮痛剤を打たれるなど症状に異変が見られた。
さすがに瑠依を放置して探しに行くことができない。虎が目を覚ますまで俺は瑠依の傍にいてやるしかないだろう。
病室に開けると虎は死人のように眠り続けていた。
瑠依が目を覚ますときに俺がいないと発狂して暴れだしてしまう可能性があるので、
俺は再びこの部屋に束縛されることになる。その間、俺は病室の床にひっそりと落ちていた瑠依が書いた絵を拾い上げる。
何の変哲もなく特徴もない俺と瑠依が描かれた平凡な絵だ。先程から気になる箇所があるとするならば……。
「どうして、瑠依はこんなにも絵が下手なんだ?」
瑠依の美術の才能は限りなくゼロに近い。風紀委員長という肩書きを持ちながらも、美術の成績で留年する可能性がある。
それが虎の隠された秘密であった。そんなことを知っているのは俺と虎の友達と美術担当の教師ぐらいか。
なのにこの絵は虎らしい絵なのだ。
ちなみにこの絵を判別するときは人では判断することなくて、瑠依が書いたであろうと名前で判別しているのだ。
名前にはちゃんと『剛君』と書かれていた。
数時間後。
瑠依は意識を取り戻した。ぐったりない生気がない顔色しているが、体にはどこの異常もない。
何かを探すように目を左右を動かしながら、目的の物を見付けると上目遣いで見つめて言った。
「おにいちゃん?」
「ようやく、意識を取り戻したか」
虎の手を優しく握ってやると瑠依の頬は真っ赤に染まってゆく。
幼児退行化したと言っても女の子は女の子である。普通に照れるのだろう。
「瑠依が目を覚ましたんですって……」
瑠依が鎮痛剤を打たれたと聞いて由希子さんは仕事が終わってから真っ先に病院へとやってきたのであった。
娘の事が心配だったというよりは何か面白いことに進展しているのでとりあえずやってきたのだ。
相変わらず、なんて親だ。
由希子さんには瑠依が気を失っている間に一通りの事情を話してある。
彼女は俺の提案に笑顔で了承してくれた。この人は金が絡むと熱くなるからな。
こうなったら、誰も由希子さんを止めることができないだろう。
「おかあさん」
「瑠依ちゃん。もう、そんな大根役者芝居終わりにしない?」
部屋の空気が凍り付いた。しばらくの沈黙は続く。
虎が動揺せずに無邪気な笑顔を浮かべて言った。
「なにいっているの? おかあさん」
「瑠依ちゃん。さっさとヘタな演技を終わらせないと剛君に瑠依の恥ずかしい思い出をバラすわよ」
「うん? お兄ちゃんに何をバラすの?」
瑠依は先程変わらずに無邪気な笑顔を浮かべ続ける。
冷静かつなお幼児退行化を演じている虎は百獣の王に匹敵する程の精神力のおかげで由希子さんの猛攻をなんとなく躱す。
「あれは瑠依が9才の頃でした。瑠依ちゃんは素直で可愛い私の自慢の女の子だったんですが、
七夕の日に書くお願い事に、『世界征服の野望よりも、わたしの身長を伸ばしてください。
レッドリ○ン軍の総帥みたいに部下に裏切れて殺されるオチは勘弁してください』と書いているのを見て、こいつ痛いなと私は思っていました」
「ってか、恥ずかしい思い出なのかそれ?」
由希子さんが語る話を聞いて虎に異変が見えた。
顔を真っ赤にして、何かを耐えるようにベットの布団を強く握り締めて天使の微笑みを浮かべて言った。
「おもしろいよ。おかあさん」
「うぬぬぬっっ。だったら、私はさっさと家に帰って寝たいので早くも最終兵器のカードを出します」
何を出すんだ? 由希子さん。
「ここに集まった皆様。重大発表があります。今度、私は再婚致します」
由希子さんの発表に驚くどころか、俺は呆れて何かを言い返す気力がない。
「お相手は、桧山剛君です!!」
「なんだってぇぇぇぇぇーーーーーー!!」
勝敗は呆気もなく訪れた。
2分15秒。由希子さんKO勝ち。
「賭けは私の勝ちのようね剛君」
「残念ながらそうみたいです」
俺は財布から今月の生活費1万円を由希子さんに手渡した。
賭けに負けたが、瑠依の幼児退行化が嘘だったとバレたので払った金額分の効果はあると思う。
「どうして、瑠依ちゃん。こんなバカなことをしたの?」
「だ、だって……。だって、剛君が」
瞳から涙が零れていた。親しい人間を騙している罪悪心があったのだろうか、
瑠依は怯えながら嗚咽を堪えるように泣いている。
ただ、優しい言葉をかけるよりも瑠依には本当の事を言わなければならないだろう。
「俺が瑠依をこんな風に追い詰めてしまいました。由希子さん。どうも、すみませんでした」
「私は別にいいのよ。好きな異性を捕まえるためにはお母さんは鮮血まで許しちゃう」
いや、それじゃあ人が死ぬので許すなよ。
案外、子供のことに関しては放任というか無頓着な由希子さんに育てられた瑠依には同情する。
泣き続けている瑠依に俺は深呼吸してからとどめの一言を言い放つ。
「瑠依。俺はもう好きな人がいるんだ。お前が俺のことを好きだったとしても、お前の想いは届かないんだよ」
「い、嫌だよ。剛君はずっと私の傍にいてくれないとダメなの」
「ごめんな」
「待ってよ……剛君。行かないでぇぇぇ。行ったらダメだよぉぉ」
俺は病室に出ていこうとすると虎が俺の手首を強い力で掴む。
ここから出さないように瑠依は必死に引き止めようとしている。
だが、その娘の行動に由希子さんは慌てて瑠依の横暴と二人を引き離した。
「瑠依。あなたもいい加減にフラれたんだから。みっともない真似をするんじゃないの。
剛君だってあなた以外の女の子を好きになることもあるわ。人生もいろいろ。恋もいろいろなのよ」
「お、お母さん……」
「泣くななんて言わないわ。ただ、剛君の事を想うならここは行かせるという選択肢を選ばせるべきなのよ。
もし、ここで剛君が行かないなんて選んだら瑠依BADEND『狂気の夜4』のフラグが立つから大人しく行かせましょうね」
「う、うん。わかったよ」
どういう説得の仕方なんだよと高らかに叫びたかったが、ようやく事態は丸く納まったのでよしとするか。
「じゃあ、行ってくるわ」
「剛君」
「なんだ。瑠依」
「これからは月がない夜には気を付けた方がいいよ」
虎よ最後になんてことをいいやがる。
雪桜さんから電話をもらってから何時間以上が経ったことだろうか。
俺は急いで自宅に戻ると郵便ポストに差出人のない手紙が入っていた。
雪桜さんが言っていた彼女が書いた遺書だ。俺は焦りながらも手紙の封を切って、読んだ。
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拝啓。桧山さん。
これを読んだ頃には私はもうこの世にいないことでしょう。
私は人生の全てに絶望してこの世を去ることを許してください。
希望がない絶望の毎日を送るのが辛くなってしまいました。
頑張って今まで生き続けていたけど。
もう、ダメです。
桧山さんが隣にいない人生は考えられません。だから、死ぬのです。
一度もらった暖かい温もりに触れてしまったら、それを失うことを考えるだけでとても恐かった。
捨てられた今となっては私の心が空虚になってしまってますよ。だめですね。一度手に入れた温もりなしでは生きられません。
それでも、桧山さんに一緒にいられた日々はとても幸せでした。幸せだったよね?
桧山さんに苛められている私を助けてもらった時。
貧乏で昼食も食べられなかった私に桧山さんはよくお弁当を作って一緒に食べさせたりしたよね?
放課後になると、寄り道してショッピングに行ったり。ゲームセンターで遊んだり。
面白半分にランジェリーショップに桧山さんを連込んで、終始照れていた桧山さんが可愛くて仕方なかった。
ちなみにあの時の無理矢理に強要したキスは私にとってのファ−ストキスでした。
もう、責任を取ってくださいね。
本当に取って欲しかったけれど。桧山さんは私を選んではくれなかった。
当然ですよね。
私が貴方の妹を殺した殺人犯の娘だから。
桧山さんが私に向けられる感情が恋愛ではなくて憎悪でしょう。本当は私のことが憎くて憎くてたまらなかったはずだと思います。
それでも、桧山さんは傍にいてくれた。
私の強引な監禁生活に文句も言わずにただ一緒に笑い合ってくれた。
それが私にとって希望の光だった。
一緒に登下校して、屋上で桧山さんが作ってくれたお弁当を食べて、放課後はどこかに遊びにいく平凡な日々が永遠に続けば良かったのに。
でも、その夢を見るのは最後です。
この世から立ち去ることをお許しください。
真っ青な透き通った夏の青空が来る度にこんな女の子がいたってことをたまにでもいいから思い出してください。
ありがとう。
そして、さようなら。
PS
桧山さん。大好きです。
次回はついに雪桜の舞う時の最終回です
ようやく、ここまで書き上げました・・。
そろそろ、ゴールしていいよね?
GJ!おかんのキャラが面白すぎでしたw
雪桜さんは本当に死んでしまうのか、それとも助けられるのか
仇の娘というほかの作品に無いシチュで毎回楽しませて頂きました
完結は寂しさもありますが
ですが同時に完成でもあるわけです
最終回楽しみに待ってます
自分も投下したいのですが
反面未だ推敲したりない気がして投下に踏み切れませんorz
テラGJ!虎の幼児化演技は嬉しくもあり切なさもあるロリ○ンな俺
雪桜さんの死亡フラグがビンビンに立っているが無事でいて欲しい……最終回楽しみにしています
>>30 鮮血沙汰に理解あるかーちゃん・・・・
(・∀・)イイ!!
そろそろ街の風が冷たくなってきたから、風邪を引きやすいいたり先輩と森さんと山本君のお姉さんの事が気になります。
投下します
朝。
小鳥が囀り始める頃には、浦辺家の一日は始まっている。
「橘音ちゃーん、皮むき終わったー?」
「はーい、ジャガイモも食べやすい大きさにしてありますよー」
「んじゃ味噌汁始めちゃっていいよ。出汁はアマっちゃんが仕込み済みだから」
「了解しましたー」
厨房では、使用人がぱたぱたと忙しなく、朝の準備を進めていた。
普段はもう少し時間に余裕があるのだが。
今日は諸事情によりスケジュールが前倒しされ、慌ただしくなっていた。
「くそー、忙しくなるのは郁夫さんだけだと思ってたのに。油断したー」
『ま、新入りを持ってくる人の歓待とかもしなくちゃいけないしねえ。
頑張れ橘音。私ぁここから応援させてもらうわよ』
「ひーん、千茶ちゃんの外道ー! あとで苦瓜茶を淹れてやるー!」
人間と付喪神ながらも、気軽に会話する橘音と千茶。
付喪神研修制度によって、様々な霊能者のもとに付喪神のタマゴが赴くことになるが、
その待遇や修業内容は、担当の霊能者によって千差万別だったりする。
浦辺家では、妖怪の人間の同居を視野に入れた、環境への適応を重視している。
その方針から、使用人も付喪神とは気さくに接するように徹底され、
また付喪神の方も、使用人には怪異を振るわないように教育されている。
結果、橘音と千茶のように、仲の良い組み合わせもできていた。
『そういや橘音やい』
味噌汁の鍋を丁寧にかき回していた橘音に、ふと千茶が思念を送る。
「ん? なーにー?」
『今日来る新入りってさ、何の道具なの? 食器だったら、私が面倒見てもいいけど』
「いや、それがよくわからないのよー。
何やら身近な道具みたいだけど、詳細は教えてもらってないなあ。
まあ、あとで郁夫さんが教えてくれるでしょ」
『そか。ふふふ、もし湯呑みだったら、私がここの掟を叩き込んでやろうじゃないの』
「掟って?」
『浦辺家研修生の心得・その壱。暇なときは郁夫で遊べ』
「……そんな掟があったんだ……。まあ、私もやってるけど」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ところ変わってこちらは裏庭。
まだ外も薄暗い時間ながらも、既に修業は半ばを終えている。
剣術の訓練ではないので、流は側にいない。
光も差さぬ薄もやの中、立てられているのは一本の蝋燭。
大きな岩に乗せられて、赤い炎がゆらゆらと踊っていた。
それを、5間は離れたところから、じっと睨み付けている。
詞はない。動きもない。ただじっと見つめるのみ。
静寂は緊張に引き絞られ、霧は冷たく硬化していく。
近くに付喪神を置かないのには訳がある。
浦辺の退魔術はやや特殊なため、修練の場に紛れ込んでいたら邪魔になるのだ。
流あたりは、可能であるならば何かの手伝いをしたいとか考えているかもしれない。
剣術の師に飽きたらず、何から何まで手伝おうとするあのお節介は、
いつになったら落ち着いてくれるのかなあ、とついつい考えてしまう。
ふらり、と蝋燭の炎が一際強く揺れた。
「――あ、いかん」
流のことを考えたら、集中が途切れてしまった。
慌てて手元のストップウォッチを押し、時間を確認。
「……目標時間には、まだまだ足りないなあ」
はあ、と重い溜息を吐く。
流のせい、とは髪の毛先ほども考えてない。
どんな理由であれ、集中を途切れさせてはならないのが浦辺の術だ。
まだまだ修行が足りないなあ、と自省し、次のメニューへ進むことにする。
新入りが到着するのは正午過ぎ、と聞いている。
幸いにも今日は土曜日なため、学校は休みである。
修業にて精神を統一した後、新入りを迎えるつもりだった。
何せ相手は器物の変化。
人間に作られた物といえども、その思考形態は人間のものとはかけ離れていることが少なくない。
少しでも隙を見せたら、制御しきれなくなるかもしれない。
しかも今は、両親が仕事で出払っている。
祖父母は在宅だが、既に引退した身なので、俺が最高責任者である。
気を抜かないためにも、朝の修業はきっちりとこなす心算だ。
研修に来る器物は“刃物”と聞いている。
鋏や剃刀のような日用品か、刀や鋸のような大型の物か。
詳細は不明だが、何にせよ扱い次第では、大きな被害の起きうる変化である。
妖怪となった器物は、それぞれ特異な能力を持つ。
それが悪意ある者の手に渡ると、何かしらの事件が起きてしまうし、
器物自身が意志を持っていた場合は、触れた人間が操られてしまう可能性もある。
妖怪を調伏したり退治したことは何度もあるが、だからといって気を抜けるものでもない。
特に浦辺の退魔術は自身の体が傷つけられる可能性も高いため、
刃物が相手では、一瞬の油断で絶命、なんてことも十分あり得る。
「さて、次は水行っと――」
冷たい水を被って精神統一。
夏の頃はあんなに楽しみだったものが、今の時期は涙が出そうになるんだよなあ、と。
修業メニューに対する愚痴をこぼしながら、禊場へと足を向けた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
――その、背中を。
一対の瞳が、見つめていた。
『……彼奴が、当代か?』
誰にも届かない思念を、独りぽつりと漏らしていた。
何の修業をしているのかはよくわからなかったが、
人の身が行う業になぞ、興味なんて欠片もなかった。
重要なのは、己を調伏し得る器か否か。それだけだ。
見たところ、神通力もなければ符術に優れた様子もない。
纏う気が一般人のそれであったのは、隠しているからか、はたまた未熟なだけだろうか。
修業のときまで己の力を隠す、というのは考えにくいので、
今見たとおりの実力しか持ち合わせてない可能性も高い。
だとしたら――拍子抜けである。
おそらくは、赤子の手を捻るより簡単だろう。
かつての己とは比べものにならないほど、今の妾はその怪異を強めている。
今、この場で――済ませてしまう手もある。
しかし、それでは長年の溜飲を下せない。
――やはり当初の予定通り、策を弄して事に当たろう。
その方が、彼奴等により大きな苦痛を与えられるだろうから。
「ふいー。いやはや、修羅場は何とか過ぎ去ったねー」
『橘音、お疲れ様。私でお茶を飲んでいいわよ』
「お、いいのん? 千茶ちゃんで飲むお茶は美味しいんだよねえ。
出涸らしが玉露になるんだもん。一家に一個欲しいところね」
『熱すぎるのは嫌よー』
「了解了解っと」
そろそろ正午に届こうかという頃合い。
客人の分の昼食も準備が完了し、あとはお持て成しの手はずを確認するだけである。
使用人の中で一番若手の橘音は、客人の直接のもてなしには関わらないため、現在は厨房で休憩中。
慣れた手つきで千茶にお茶を注ぎ、一服を楽しむことにした。
――と。
「あら?」
『? どしたの?』
「いや、片付け忘れたのかな……?」
首を傾げた橘音の視線。
その先に、一本の包丁が置かれていた。
普段は洗い終わったら、すぐに片付けるようにしていたが、
今日はいつもよりドタバタしていたから、片付けるのを忘れていたのかもしれない。
包丁を出しっぱなしにしておくと、ふとした拍子に落としてしまったりなど、
色々と危ないので、すぐにしまった方がいいだろう。
「誰がしまい忘れたのかな? 私じゃないと思うけど、危ないなあ……」
立ち上がり、調理台の上に手を伸ばし、
古式ゆかしい白木作りの柄を握り――
『……? 待って、きつ――』
千茶が違和感を覚えて思念を飛ばしたときには既に遅く。
橘音の体は、己の思い通りに動かなくなっていた。
「え――」
『娘。声を出すことを許そう。
――助けを呼べ。この家の当代に届くようにな』
ぎしり、と空気が黒く歪んだかのような。
禍々しい思念が、橘音の脳髄を揺さぶった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「郁夫様、そろそろ時間ですね」
居間の時計を見上げて、流はそう声をかけてきた。
「そだな。……なあ流、襟のところ曲がってないかな?」
「大丈夫ですよ。郁夫様は当主代行なのですから、どしりと構えていらっしゃれば」
「うーむ、それはわかってるんだが……」
相手が目の前に来れば肝も据わるのだが、こうやって待つ時間が一番苦手である。
ここらへんの精神修養も未熟なんだよなあ、とちょっぴり悲しくなってしまう。
服装は、一応正装の学生服。
最初は袴でも履こうと思ったが、着られる印象が拭えないので、こちらにした。
親父みたいな貫禄が出てくるのはずっと先だろう。がっくり。
「しかし、刃物の変化か……。刀だったら、じゃじゃ馬を相手にした経験があるんだけど」
「……誰のことだか、てんで見当が付きませんね」
「剃刀だったらちょうどいないから、髭剃りに協力願えるんだけどなあ」
「郁夫様、そんなに髭濃くないですよね」
「……ん? なんだその目。ひょっとして、俺が他の刃物を使うこと、嫉妬してるのか?」
「――そ、そんなことありませんよ!?」
少しからかっただけなのに、真っ赤な顔で怒られた。
冗談がわからない奴だなあ。
まあでも、実際問題大降りの刃物が来た場合は、流が面倒を見る可能性が高い。
だから流自身、結構真剣に初顔合わせに望んでいるのだろう。
――しかし、だからといって。
同じ部屋でこちらの独り言にいちいちツッコミ入れることもなかろうに。
客が着くまでこんな調子なのかなあ、と溜息を吐きたくなった。
瞬間。
絹を裂くような悲鳴が、屋敷に響き渡った。
この声は――
「――橘音さん!?」「黒間様!?」
尋常な叫び声ではない。
何か、異常事態が起こった模様。
一瞬の間も空けず、居間を飛び出し、声の聞こえた方へと向かった。
声の聞こえた方角や時間から考えて、おそらく厨房だろう。
妖怪がたくさんいる屋敷だ。異常事態は日常茶飯事ともいえる。
その上での、先の悲鳴。
――嫌な、予感がした。
厨房へ駆け込むと。
そこには。
『――来たか』
「…………い……く、お……さん……すみ、ません……」
厨房に立つ橘音と。
――その手に握られた、禍々しい包丁。
切っ先は橘音の喉元に突き付けられ、既に一寸、刺し込まれていた。
『ヌシが、この家の当代かい?』
嗄れた老婆のような思念が、郁夫の脳を軋ませた。
事態は緊急。下手な対応をしたら橘音は危ないだろう。
浦辺家の正式な代表は親父だが、この場にはいない。
そういう場合は、自分が代表を名乗ることが許されているので、静かに「そうだ」と頷いた。
『……ふん、この家も随分と落ちぶれたものよのう。
まさか当代がこんな神通力の欠片もない男とはな』
「……っ!」
こちらを嘲る思念に、何故か流が反応した。
諫めようとしたが、その前に向こうが思念を発してくる。
『まあいい。――のう、当代よ。妾はヌシに、ひとつだけ願いたいことがある』
「……何だ」
『なに、そう難しいことではない。妾を調伏して欲しいのじゃ』
「…………は?」
『全力で、調伏しにかかってくれ。余計なモノは要らぬ。
憎しみと義憤に駆られて、妾に全力で当たってくれればいい
――それを、虫螻のように踏み潰してみたいのでな』
空間が、軋んだ。
間違いなく、包丁の発する妖気によるものだ。
――付喪神になりかけの妖怪じゃ、こんな空気を作り上げることはできないだろう。
間違いなく、数百年を生きる古株の変化だ。
そんな奴が、何故ここに?
『――なに。無償とは言わぬよ。……この娘』
くい、と橘音さんの顔が上げられる。
おそらく、彼女の意志ではない。体を操られて、顔を上げさせられたのだろう。
『此奴、存外に意志が強くての。悲鳴を上げろと言っても、うんともすんとも言わなんだ。
仕方ないから、妾が強引に上げさせたが、抵抗が強い強い』
……何が、言いたい?
『操ってみるとわかるものでな、この娘、この家――とくにヌシに忠誠を誓ってるようでの。
ヌシの不利益にならぬように、己の命すら張りおった。
それほどまでに使用人に好かれ、悪い気分ではないだろう?』
「……それが、お前を調伏することと、どう関係してるんだ」
『なに。つまりこうしてやるから、本気でかかってきておくれ、ということよ』
言うなり。
橘音さんの手にある包丁は、そのまま上へと押し上げられ――
まて。
おまえ。
それは――
ぷつり、と筋の引き千切れる音がして。
――鮮血が、舞った。
『どうだ当代、己を慕う娘を殺される気分は?
なに、遠慮することなどない。今覚えた気持ちをそのまま、妾にぶつけるといい。
――それとも、これでは足りぬか?』
首筋を切り裂かれ、鮮血を大量に零している橘音さんの体。
それを無理矢理に操り、包丁は、己をこちらに向かって投擲させた。
速い――が、狙いは俺ではなく、流。
隣にいるから、という理由だけで狙ったのなら迂闊すぎる。
流の技術なら、ただ投げられただけの包丁など、脅威でも何でもない。
流が素手を一閃させた。
側面を叩いて弾き落とす――その瞬間。
刃の向きが変わり、そのまま流の手を迎え撃つ。
ざくり、と刃が肉に埋まる。
しかしそれだけ。包丁の薄く軽い刃では、骨を切断するには至らない。
流はそのまま払い落とそうとする。
しかし。
『――ふん、川寿も迎えてないような未通女が、妾に敵うと思い上がるか』
瞬間。
包丁が肉を纏い、変化した。
現れたのは襤褸を纏った少女。
髪は刃を表すかのような銀色で、鈍く禍々しく輝いている。
刺さった状態から一瞬で変化したため、
流の手の肉が、無惨にも飛び散った。
「……っあっ!」
しかし、流も流石に付喪神。
痛みも気にせず、無事な方の手で少女の腕を取る。
流は柔も一級品。そのまま投げ飛ばすのも容易だろう。
だが、それが為されることはなく。
『だから、思い上がるなというのに。小娘が』
掴んでいた手が、裂けた。
『永く刃物をやっているのでな。
粗方のものは、触れただけで切り刻めるようになったのよ。
符や念力も、軽々とな。
――さて、それではヌシも、疾くと去ね』
ざくり、と。
流の中心から木の裂けるような音がして。
そのまま流は、倒れ込んだ。
『これで残るは、ヌシのみぞ。当代よ』
少女が嗤う。
それはいかなる感情によるものか。
ただ楽しいだけで、こうはいくまい。
『――本気を出せ。全てを賭けて妾を調伏せよ。
妾はそれを踏みにじり、思うが侭に切り刻んでやるからの。
……ああ、この瞬間をずっと待っていたぞ……!』
『憎き憎き卜部の家よ。
ヌシ等に復讐せんが為に、
妾は長き時を生き延びてきたのだからな!』
最後のは誤字じゃありません。念のため。
まだ修羅場の前に環境を整えてる段階です。
無駄に長かったり展開遅かったりでごめんなさいorz
次の次くらいには、修羅場に突入できる……といいなあ……。
>>1 乙
>>30 母虎が素敵です。
そのセンスに心からGJ!
>>31 wktkしてお待ちしています。
修羅場がいっぱいあると幸せな気分になれます故。
早朝から刃傷事件GJ
>次の次くらいには、修羅場に突入できる……といいなあ……。
まだ、修羅場じゃないんだ!?
>>35 GJです。
なるほど秀武さんのところの子孫さんですか。今後の展開が楽しみです。
レスしなかった多数のサイレントマジョリティを考慮にいれて決定させてもらいます。
流は俺の嫁。あたりまえの話だよね。
一日開けてしまいましたが、ミスターを投下します。
酸素吸入器とチューブをつけられた幸雄に会うときは、どうしてもつらい思いをした。
けれど、今ではそういうものは取り外されて、普通の赤ん坊と変わらない姿をしている。
実のところ、そうなって初めて彼のことを純粋にかわいいと思うことができた。
哀しさの混じらない愛しさを、同情の混じらない愛情を感じる。
そうなると、幸雄に会いたくてたまらなくなる。
正直、この子のかわいさは、凡百の赤ん坊に比べることができない。
天使だって、この子ほどかわいいはずがない。
将来は、きっと僕以上にもてる男になるだろう。
そうなったら、プレイボーイの先輩としてアドバイスしてやらないと。
そんなことを考えて病院に向かう僕は、どこからどうみても親ばかなんだろう。
生後から一ヶ月ほどが経ったけれど、幸雄は相変わらず病院にいた。
洋子は、出産から2週間ほど様子を見て、一足先に退院した。
早産なんか低体重児を生むと、こんな風に赤ん坊だけを病院に残すことになる。
そうやって赤ん坊が病院に残された場合、親の大事な仕事になるのが母乳の配達だ。
つまり、母親のおっぱいから母乳を搾って、病院に届けないといけない。
前に予想していたとおり、幸雄を生んでから洋子のおっぱいは巨乳・・・とはいえないかもしれないが、まあそれなりに大きくなった。
それ以来、洋子のおっぱいをよく揉んでいるんだが、それは別に期間限定のものだから今のうちにできるかぎり揉んでおこうなどと思ったからじゃない。
搾乳がスムーズにいくように、おっぱいを普段からよく刺激しておいてやる必要があるからだ。
だから、おっぱいを頻繁に揉んだり、乳頭を開いて爪で引っかいたりしてやるのは幸雄のためだ。
そうして、母乳をぴゅーぴゅーと搾乳カップに搾る。
母乳のいい香りがする。
たまに飲ませてもらっているなんていったら、引かれてしまうだろうか。
いや、母乳の味を確かめるのは、その品質維持のために必要な事だ。
赤ん坊には、やっぱりおいしい母乳、栄養のある母乳を取ってほしい。
だから、おっぱいから母乳を吸ったりするのは幸雄のためだ。
とはいえ、とても他人には見せられない光景なのは認めるけれど。
洋子が母親らしくなればなるほど、彼女のことをますます好きになるのを感じる。
彼女のふとしたしぐさに母親らしさを見つけてしまうと、ついつい甘えてしまう。
そんな風に他人に甘えることを、僕は嫌ってきたはずなんだけれど。
これまで抑圧してきたマザコン根性が、ここぞとばかりにあふれ出てきているようだった。
内心、洋子もあきれているんじゃないかと心配になるほどに。
そんな風に洋子に甘えている間、そして幸雄と会っている間は、薫のことを忘れることができた。
逆に、薫のことを忘れていられるのはその間だけだともいえる。
ここ最近の日課は、病院に母乳を届けること、そして薫の家にいって門前払いをくらうことだった。
けれど、昨日はとうとう薫に会いに行くのも、電話をすることもしなかった。
もしかしたら、彼女にも一人で考える時間が必要なのかもしれない、そう思ったからだ。
多分、僕は薫のことを信頼していたんだろう。
彼女は、本来頭のいい女だ。一人にしても、無茶はしないだろう。そう思っていた。
結局、僕は薫のことを愛しているといいながら、彼女がどれほど情の深い女なのかをよくわかっていなかったことになる。
そのことを思い知った。
いつものように病院に母乳を届けに来ると、どうも様子がおかしい。
看護婦たちが、ばたばたと走り回って、そうでない看護婦もどこかそわそわしている。
病院なんだから、急患でも運ばれてくれば騒々しくもなるだろう。なにせ、ついこの前の自分たちがそうだった。
だから、いやな予感なんて感じる必要なんかない、そう自分に言い聞かせようとして失敗した。
こちらに走りよってきた女医の顔が、真っ青になっていたからだ。
とっさに考えたのは、幸雄の容態が悪化したということだ。
網膜症か?呼吸器系か?発作か?もしかして、脳障害か?いくつかの可能性を頭に浮かべる。
けれど、彼女が手じかにあった一室に僕を押し込んで聞かせた言葉は、あまりに予想外のものでとっさには理解することができなかった。
「幸雄君がいなくなりました」
「は?」
「GCU(継続保育室)からいなくなったんです。今、病院を探しています」
NICUを出た未熟児は、GCUという病室に移されて経過を見守ることになる。幸雄も、この前からそこに移されていた。
そこから、いなくなった?
「いなくなったって・・・。赤ん坊が一人でいなくなるはずないでしょうが!」
「そうです。おそらく、誰かに連れ去られたのだと思われます」
めまいがした。倒れそうになるのを、こらえる。
「なにいってんだ、おい!誰かって、誰だよ!」
「目をはなした隙に。誰も見たものはおりません」
「目をはなした隙って・・・、なにやってんだよあんたらあ!」
彼女の肩を掴んで怒鳴りつける。相手が女だからとか考えていられない。
女医は、涙を浮かべて頭を下げる。
「申し訳ありません!申し訳ありません!」
それを見て、彼女を責めたところでどうにもならないことに気付く。
こんなことしてる場合じゃない。冷静にならなければダメだ。
そうして、まず幸雄を連れ戻す。責任を問うたりするのはその後でいくらでもできる。
幸雄を連れ去ったのは誰か。すぐに頭に浮かんだのは、彼女のことだ。
けれど、彼女のような人がそんなことをするか?あの薫が?
「幸雄がいなくなる前に、関係者以外の人がここに来ましたか?」
「いえ、怪しい人は誰も」
「怪しくなくてもいいから!知り合いでも誰でも」
「それなら。江夏病院のお嬢さんが来られて。でもそれは」
最後まで聞かずに、部屋を飛び出す。女医が何かを叫んでいるが聞こえない。
走りながら、携帯を取り出して、薫に電話する。呼び出しを聞きながら、病院を飛び出した。
電話に出る様子はない。
道に出て、左右を見渡す。薫の姿はない。
多分、連れ去られてから時間はそんなに経ってないはず。だから近くにいる。いや、そうであってくれ!
車だったらどうする?彼女の家には、運転手つきの車があった。
いや、あんな赤ん坊を連れて乗れば、運転手が不審に思わないわけがない。
彼女は歩きだ。そう決めて探すしかない。
でもどこだ。どっちにいった。
右か。左か。
あてずっぽうに探してもダメだ。間違ったところを探しているうちに手遅れになるかもしれない。
手遅れ?
手遅れってなんだ?遅れたらどうなるんだ?
そこまで考えて、足が震えた。
幸雄を連れ去ってどうするつもりなのか。
最悪のことが頭をよぎる。
けれど、そこまでするだろうか。あの薫が。
そんなことをすれば、自分の身も破滅だということに気付かないほど馬鹿じゃないはずだ。
それに彼女は非道な人間じゃない。赤ん坊にそんなことができるような人間じゃない。そのはずだ。
そう言い聞かせて見ても、ムダだった。
くそっ!落ち着け。あせるな。
ダメだったときのことなんか考える暇があったら、薫がどっちに行ったのかを考えろ。
お前は、薫を愛していたんだろうが。だったら、彼女の考えることぐらいわかるはずだろうが。
だから考えろ。薫なら、どこへ行く?何か手がかりはないのか?
あたりを見回して、気付いた。ここが、薫と指輪を交換したあの公園の近くにあるということを。
それに気付いたとたん、駆け出していた。
なぜ、そんなことを思ったのかはわからない。冷静に考えれば、あの公園で指輪を交換したということが、薫がそこへ向かう理由になるはずもない。
でも、きっと薫はあそこにいる。思考よりも深いところで、そう確信した。
いや、彼女を信じた。身勝手な話だ。
フェンスを乗り越え、空き地を突っ切って、公園まで一直線に向かう。
これなら、車で向かうよりずっと早く公園に着くはずだった。
その途中で、洋子に電話をする。すでに、病院から連絡を受けているようだった。
取り乱している。当たり前だ。けれど、落ち着かせてやっている暇なんてない。
今向かっている場所を告げるだけで電話を切る。
息を切らし、服を泥だらけにして、半ば転がり込むように公園へと駆け込む。
いや、実際に転がり込んでいた。顔をあげる。
果たして、彼女はそこにいた。
いつの間にか、夕方になっている。
目の前には、真っ赤な夕焼けが広がっていた。
薫は、それを背景にしてベンチに座っている。膝に、何かを抱いて。
その姿は、逆行で黒っぽく染まっている。表情はまったくわからない。
こちらに気がついたのか、膝のものを抱えて立ち上がった。
赤い光を背負って、彼女は微笑んでいた。
それを見て、僕は一瞬呆けてしまう。
あまりにきれいだったから。それこそ、怖いくらいに。
以上、第14話「夕日と美女と赤ん坊と」でした。
母乳、おいしい。
キター((((;゜Д゜))))ー
ミスターいい父親だなあ
どっかの歌舞伎俳優とは段違いだよw
はじめのヘタレダメ男っぷりが懐かしいw
いい親父さんになった。
投下乙です。
…今にして思うと、武装錬金の早坂ママンも描写があれば見事なヤンデレになれたのになあw
茂雄はちゃんとやってくれるって信じてる
>>60 あれはねぇよwwwww
阿修羅さんは元気だろうか
まとめサイトの更新はこないが
たまには顔を出して欲しいです
サスペンスのかほり
まさか、俺らに嫉妬した嫁さんが阿修羅氏のパソコンを……?
投下しますよ
皆でホットサンドを食べ終え、ニュースを見ているとノックの音が響いた。何年も聞き
慣れているリズムと音程はナナミのものだ、聞き間違う筈がない。漸く帰ってきたと思い、
出ようとするリサちゃんを制して玄関に向かう。ナナミに礼を言う場合、親しい者だろうと他人が同席することを嫌がる
からだ。僕の為にしてくれたことだから、ここはナナミの意思を尊重したい。
扉を開くと、
「あれ?」
ナナミが居るのは良い。しかし、その足元には見知らぬ幼女が居た。しかも二人もだ。
服が少し汚れているものの、それを補って余りある顔立ちをしている。子供特有の低い背
や無邪気な表情、何よりも綺麗な瞳が僕の目を強く引き付けた。幼女達は顔に満面の笑み
を浮かべると、手に持った袋を手渡してくる。入っているのは卵や牛乳、野菜が幾つか。
ナナミが買ってくると言っていたものだ。
「ええと、ありがとう」
何と答えて良いのか分からなかったが、無難な答えを返しておいた。
取り敢えず台所へと運ぼうと思い、踵を返した直後、
「いけません!!」
何かしただろうかと思い振り向けば、ナナミが二人の頭を押さえて睨んでいた。どんな
理由があるのか分からない僕は、黙って見守るしかない。しかしナナミは意味もなく他人
を責めたりしないのは分かっているし、一番良いだろうと思ったことをするので、問題は
ないと思う。やけに厳しく見えるのも、きっと必要なことなのだ。
「青様、二人に荷物を返して下さい」
言われた通りに返すと、ナナミは台所へと向かっていった。先程までは泣きそうな顔を
していたものの、二人は嬉しそうな顔でそれに着いてゆく。
何が起きたのかさっぱり分からなかったけれど、無意味に玄関に立っているのもどうか
と思ったので、リビングに戻る。ソファに座って台所に視線を向ければ、騒ぐ二人を叱り
ながら冷蔵庫に大量の大根をしまっているのが見えた。
「ブルー、どうしたのあの娘達は?」
「きゃはっ、可愛いねぇ」
それを聞き付けたのか、ナナミは二人を足元にまとわり着かせながらやってきた。
「暫くこの娘達をここに置かせて頂きます。良ろしいでしょうか?」
経済的にも余裕はあるし、それは構わない。しかし一体どのような過程で拾ってきたの
だろうか。基本的にこのようなことを一番嫌がるのはナナミ自身だった筈だが、どのよう
な変化が起きたのだろう。
「二人とも、挨拶しなさい」
「ユンだよ。よろしく、お兄ちゃん」
「……あたし、リー。よろしく」
「あたしはリサ、二人のおねーさんだね」
「わたしはサラ、よろしくね」
「よろしく!」
「……よろしく」
見るからに双子なのに、随分と温度差があるものだ。しかしそんなことを気にしている
のは僕だけらしい。ナナミは普通に二人を見ているし、リサちゃんやサラさんも微笑んで
二人を眺めている。女性同士だから、というのは関係あるのだろうか。
「リーちゃんとユンちゃんだね、よろしく」
「お兄ちゃんは、ナナミお姉ちゃんとけっこんしてるの?」
不思議そうな表情でこちらを見上げて、尋ねられた。これにどう答えを言えば良いのか
と考えてナナミを向けば、いつもの無表情で首を振っている。否定しておけ、ということ
なのだろう。僕はしゃがんで二人に目を合わせ、
「残念だけど、してないんだよ」
「ふーん、そうなんだ。せっかくパパとママができたと思ったのに」
「……ユンちゃん、我慢して」
どんな理由で二人がここに来たのか、なんとなく分かった。首に填められた0ランクの
首輪や薄汚れた衣服、親が居ないことを示す発言。これはつまり、捨て児ということなの
だろう。希にではあるけれど、子供を育てることが出来ない親が捨ててしまうことがある。
この娘達はその被害者なのだ。そう思うと、胸が痛くなった。
「同情は無用です、青様。この娘達は自分で働くことを選び、ここに来たのです。第二の
人生を歩むことは、きっと幸福に繋がります。二人とも、まずは体を洗いますよ」
そう言うと、ナナミは二人を連れて風呂場へと向かっていった。
働く、ということはナナミと同じように僕の使用人としてということだろうか。複数の
使用人が出来たことで屋敷でのことを思い出し、先程とは別の理由で心が痛くなる。幸い
にもここにはリサちゃんやサラさんが居るので何とか耐えることが出来るけれど、もしも
一人だったのなら礼も言わないままに再びナナミの世話になるところだ。
「おにーさん、どうしたの?」
「ブルー、顔色が悪いわよ?」
そんなに酷い状態になっていたのだろうか。
「大丈夫だよ、ちょっと風邪気味で」
「わ、ごめんなさい。あたしが昨日おにーさんのベッドで寝たから」
勢い良く頭を下げて、リサちゃんが謝ってくる。
「なら、ウイルスだけ体から追い出しましょうか?」
サラさんが普通に尋ねてくるが、確率システムでそんなことまで出来るというのに驚く。
勿論本人の技量や専門の器具も必要なのだろうが、まるで肩を揉んで凝りでも取るような
軽い態度で言われると大したことがないように思えてくる。悪い意味ではないが、改めて
サラさんが化け物じみた存在であることが思い知らされた。
気持ちはとてもありがたいのだが実際に風邪気味な訳でもないし、どんな処置をされて
しまうのか少し怖い。だから僕はサラさんに向けて笑みを浮かべ、
「遠慮しておきます。ほら、僕は不死じゃないし、抵抗力が落ちると困りますから」
「そう、残念ね」
サラさんは本気で残念そう、と言うか悲しそうな表情をして呟いた。僕は悪いことは何
もしていない筈なのに、心が痛む。さっきから辛い想いをしてばかりだ。
気持ちをずらすように僕は笑みを強くして、
「そう言えば、サラさんは子供好きなの? リサちゃんを見るときもそうだけど、さっき
あの娘達を見てたときも嬉しそうだったし」
「えぇ、大好きよ」
「あたしもおねーさん大好きー」
リサちゃんの言葉にサラさんは目を弓にして、髪を撫でた。
「残酷なところもあるけど、皆純粋で可愛いわ」
純粋なところというのは、やはり差別のことなんだろうか。サラさんは立場上、長い間
そんな辛い目に何度も遭ってきたのだろう。だからこそ、そんなことは関係なしに接して
くる子供に惹かれるのだろう。僕もSSランク罪人として実際に何度かそんな目に遭っているので、本人程ではないけれど
なんとなく気持ちが分かった。
「確かに、そうかもしれませんね」
「えぇ。残酷なのも悪意がないのは分かるけれど」
サラさんは僕とリサちゃんを見て、吐息を一つ。
「昨日のおデブ発言は効いたわ」
そっちか。
これはどうフォローすれば良いのだろうか、思わず黙り込んでしまう。
数秒。
静寂を崩すような高い声が聞こえてきた。
「ふー、さっぱりした」
「……気持ち良かった」
「二人とも、走ってはいけません」
三人分の足音が聞こえ、振り向いた。目に入ってきたのはいつも通りのメイド服に身を
包んだナナミと、ナナミのものだろうYシャツを着たユンちゃんとリーちゃんだ。下には
何も穿いておらず、目に毒という歳ではないけれど目のやり場に困る。裾が膝まで届いて
いるのでワンピース状態になっているのでこれ以上は要らないと判断したのだろうけれど、
女の子にこのような服装をさせるのはどうかと思う。
「青様、いかがなされましたか?」
「何でもない」
二人は下着を見せながらリサちゃんやサラさんにじゃれついていた。
今回はこれで終わりです
俺はロリコンじゃありません
九十九の想いの血みどろ描写の見事さにマジで痺れます
其の見事な描写力に心底憧れてしまう
自分もこんな背筋が凍りそうな戦闘シーンが書きたい……
それはさておき投下イきます
こんな事書いときながら今回は戦闘有りません
「おかえりなさいリオ」
「ただいまコレット」
少女――コレットは最愛の人の――リオの姿をその瞳に捉えるや駆けより抱きついた。
そしてリオはコレットの体を優しく抱き返す。
ここはリオの故郷の村。 調べ物や休養などで定期的に帰ってくるのだが今日が正に其の日。
冒険に付いていく事が出来ないコレットにとっては指折り待ち望んでた日でもあった。
「あら? そう言えばセツナは?」
コレットはリオの冒険の仲間――勇者の少女の姿を探す。
「ああ、セツナなら私の家に向かいました。 旅の疲れも溜まってるので一休みしたいとのことです」
正確にはセツナとクリスの二人でなのだが、
訳あってコレットの前ではクリスのことはなるべく触れない事になってる。
「そう、残念だわ。 折角冒険の話とか聞きたかったのに」
「一心地ついた頃を見計らって後で私が呼んできます。 少し休ませて上げましょう」
「分かったわ。リオがそう言うのなら。 それより来て。 お父様もお母様も待ってるのよ」
そしてリオはコレットに手を引かれコレットの家へと向かった。
コレットは村で最も裕福な商家の娘として生まれ蝶よ花よと育てられてきた。
村の中にあってコレットはまるでお姫様か王女様であった。
だが決して慢心してたわけでもない。 彼女は分かっていた。
自分がこうしていられるのは村の中だけであると言う事を。
小さな村の中であっては大輪の薔薇。
だが大きな町に出てしまえば自分など所詮チョット可愛いだけの村娘。
薔薇どころかそれを彩るカスミ草が関の山。
そして少女はリオが自分とは違う事もわかっていた。
狭い村の中でだけ輝ける自分とは違いリオの持つ輝きは本物である事を。
其の端麗な容姿も内に秘めた才能も。 だからこそ繋ぎとめておける確かなものが欲しかった。
だから交わしたのだ、婚約を。
コレットとリオは幼馴染としての縁もあった。
魔導士としての才覚に溢れ優しく人当たりもよく社交性に秀でてたため両親の覚えも良かった。
リオもコレットは嫌いでは無く親愛の念を抱いていた。
気心の知れた幼馴染で、そして彼女の両親に対しては自分に目を掛けてくれた恩義もあった。
だからコレットがリオと婚約を取り付ける事はさして難しくも無かった。
コレットがリオに抱く想いが紛れも無い恋心のそれだったのに対し、リオのそれは少し違ってた。
親愛の思いはある。 だが物心ついた時から共に過ごした親しい幼馴染であったコレットは
リオにとっては女性と言うより妹に近いものだったのだろう。
そう。 決して嫌いでは無くむしろ親しみすら抱いてはいたがあくまでも恋心ではなく、
それでもコレットの婚約を受け入れたのは――。
それはリオが恋というものを分かっていなかったからかも知れない。
恋心など芽生えずとも知らずとも、互いを良く見知って大切に想っていれば上手くやっていける。
そう思っていたのだろう。
リオにとってセツナは女性である前に『伝説の勇者』であった。
そう――少なくとも出会った当初は。
だが共に死線をくぐりぬけ、喜びや苦しみを分かち合う中で女性としての側面を知るようになる。
それでもリオの気持は変わらなかった。 そう思ってた。 セツナもリオも。 だが――。
リオは気付いてなかった。 いや、気付かぬ振りをしていた。
其の気持の変化に気付いてしまえば、認めてしまえば――。
それは婚約を交わしたコレットに対する裏切りになると思ってたからなのだろう。
だから自分の本心に気付かぬ振りをし其の思いを生涯封印し続けるつもりだった。
所詮このような恋は若気の至りなのだろうと。
だが、其の気持の均衡がやぶられる。
それは――クリスのパーティへの編入。
かって共に暮らした事もあるリオにとっては弟分。 実に十年ぶりの再会であった。
気心の知れた弟分と屈強の戦士として再会できた事、そしてクリスがリオとだけではなく
セツナとも仲が良かったのはとても喜ばしかった。
クリスとセツナの仲睦まじい様子をとても微笑ましく思っていた。
だが、其の一方で別の感情もあった。
それを自覚したのはあわや全滅の危機を迎えたあの蛇女との戦い。
あの時リオは自分の無力さ不甲斐無さが情けなかった。
手も足も出なかった自分の無力さが悔しかった。
そんな状況を危機を打破してくれたクリスには感謝してもし足りないくらいしてた。
反面心の奥底で嫉妬もしてた。
自分に出来なかった事をやってのけ、そしてセツナに涙を流してまで想って貰ってる事に。
しかし直ぐに其の気持に気づき恥じ、自己嫌悪に陥る。
やがて前向きに考え直すようにもなる。
二人共自分の大切な仲間。
そんな二人が仲良いのなら、そして男女の仲にまで発展してくれれば祝福してあげようと――。
クリスにならセツナを安心して委ねられると――。
そう思ってたのだが。
(まさかクリスも女の子だったなんて……)
共に暮らしてた頃は其の幼さゆえ性別など気にもとめてなかった。
再会して後は屈強な戦士として成長してたのもあり女であるなど露ほども思ってなかったのだ。
自分の目の前で今まで肌を晒した事が無かったのも
"古傷を見せたくないから" と言われ鵜呑みにしてたから。
(どうしろと言うんです……)
ここ数日リオの頭の中ではクリスに言われた事が巡っていた。
明かされたクリスの胸のうち。 図らずもそれはクリスの想いだけでなく
リオとセツナの胸のうちをも明らかにしたのだったから。
「――オ。 ねぇ、リオってば」
「ハ、ハイ?! あ……、な、何でしょう?」
コレットの声に慌ててリオは答える。
「何でしょうじゃないわよ。 話聞いてた?」
「あ……、ゴ、ゴメン。 ちょっとボーっとしちゃってて」
時刻は夜。ココはコレットの家。
久しぶりに村に帰ってきたリオの為にコレットと其の両親はご馳走でもてなしてたのだ。
「どうしたの? 食事もあまり進んでないみたいだし。 若しかして口に合わなかった?」
「い、いや、そんな事無いよ。 とっても美味しいよ。 只チョット疲れが残ってるみたいで……」
「あ、ごめんね。 そうよね冒険から帰ってきたばかりだモノね」
「ううん、コッチこそゴメン。 折角ご馳走を用意してくれたと言うのに……」
「良いのよ気にしないで。 さ、食べて。 私も一所懸命作ったんだから、ね」
そして深夜、リオは一人自室にいた。 手元には本が開かれてる。
いつもリオは自分の家に帰ってくる度に調べものをするのが慣習になってる。
故に今夜もまたそうしてたのだ。
だが今夜のリオはまるで調べ物に身が入らなかった。
浮かんでくるのはセツナとコレットの事。
久しぶりにコレットに会えて嬉しくないわけが無かった。
やはり昔から見知った気の置けない幼馴染。一緒にいると落ち着ける。
そんなコレットと将来一緒になる事に今まで疑問を抱いた事など無かった。
だが――。
<姉さんには……姉さんにはリオにいさんが全てなんですよ!>
クリスが言った言葉が脳裏によみがえる。
(彼女は本来この世界の為戦う義理など無い。 それを無理を押して戦ってくれてる。
そんな彼女が――セツナが自分を求めているのなら。
其の求めに応じる事こそが命を掛けてくれてる彼女に報いる術だと言うのなら……
ならば私は……)
そう考えかけてリオはかぶりを振った。
(ちがう! そんなの言い訳だ! 本当は……)
そう――。 本当は誰よりもリオ自身が答えを出していた。
セツナが自分を求めてるのならなんて言い訳だ。
"セツナが"、じゃない。 自分がセツナを求めている。
本当はセツナを女性として意識してると言う事を。 自分が惹かれてることを。
其の艶やかな黒髪に。 凛とした気高さと真っ直ぐな眼差しに。
普段気丈に見えて時に涙もろい側面に――。
そうした一つ一つに何時しか自分が惹かれていたと言う事に。
そして其の事を肯定できる理由を無意識に自分が模索してたという事を。
だが――。
(だからと言ってそんなコレットとその御両親を裏切るような真似――)
そこまで考えて再びリオはかぶりを振った。
其の考えもまた結局は責任転嫁に他ならないから。
セツナに応えられない理由をコレットと彼女の両親のせいにしようとしてる。
(最低だ……)
そうしてリオは自己嫌悪に、そして出ない答えに頭を悩ませていたのだった。
To be continued...
超久しぶりにコレット登場w
あとリオがやっと修羅場の男らしい感じになってきたかな?
GJ!百合展開に加えついにリオも修羅場を作る漢になってきてこれからwktk
>>71 ロリ姉妹キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!!
>俺はロリコンじゃありません
( ´∀`)σ)Д`)
投下します
橘音さんは首筋を引き裂かれ、未だ出血は止まらない。
流は床に倒れ伏している。その両腕は原形を留めておらず、
根幹である刀身にも、多大な損傷を受けている可能性が高い。
目の前で、2人が。
無惨にも、切り裂かれた。
でも、動かなかった。
助けに走りたかった。
自分の体を盾にしたかった。
怒りのままに飛び掛かりたかった。
――でも、我慢した。
この場で重要なのは、感情に流されることではない。
ことの元凶である、包丁の付喪神をどうにかする。それだけだ。
でなければ、きっと俺はこの付喪神に殺されて。
重傷を負った2人も、助けることができないだろうから。
だから、我慢した。
浦辺の退魔術は、他の流派のように神通力や術符を使ったものではないので、即効性に欠ける。
条件さえ満たせば、すぐに効果が発現するが――今はそれが整っていない。
だから、耐える。歯を食いしばって。頬の内側を噛み千切って。
なあ、名前も知らない包丁の付喪神。
お前がどんな理由で、この家に仕掛けてきたのかはわからない。
でもな。
からかいながらも俺を慕ってくれる橘音さん。
俺に懐いてくれてる付喪神の流。
この2人を傷つけた代償は。
――絶対に、安くないぞ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
――仕掛けてくる様子はない。
包丁の付喪神――茅女(かやめ)は、訝しげに眉をひそめた。
使用人や身近な付喪神を傷つけたのには、苦しめる以外にも理由があった。
それは、当代の反応を見ること。
身近な者を助けようと、当代が能力を使うことを期待していたのだが、
見たところ元服を少し過ぎた程度の少年は、特に目立った動きは見せず、
蛇に睨まれた蛙のように、ただその場に固まっていた。
(……此奴が、当代ではないのか?)
だとしたら、とんだ茶番である。
しかし、先程の問いには肯定を示した。
その様子に嘘は見受けられなかったので、本当にこの少年が当代なのだろう。
眉目秀麗とまでは言わないが、それなりに肝の据わった良い面構えの少年だ。
何か少女たちを助ける術があったならば、迷わず振るっていただろう。
それが――何も無し。
ひょっとしたら、茅女が復讐しようとしていた家は、想像以上に弱体化していたのかもしれない。
「…………」
少年は、ただこちらを見つめるのみ。
目は合わせておらずとも、何をしているかは常に意識していた。
使用人の首を切るときも、刀の付喪神を切り裂くときも。
意識は常に、少年へと向けていた。
何かしらの術を使おうとしたら、即座に対応できるように。
触れたものは何でも切り裂ける茅女だが、油断は欠片もしていなかった。
振る舞いはあくまで当代を激昂させるため。
隙は一度も晒していない。
それを見抜いて動かないのか、はたまた、何もできないから動かないのか。
まあ、どちらでも構わない。
一連の動きで、少年は神通力や念力の類が秀でているわけではないと判断できた。
ここまでの非常事態で、己の特殊能力を欠片も出さずに見過ごせる者は、まず存在しないだろう。
おそらくは、体術やそれに関わる術者と見た。
ならば、茅女の敵ではない。
触れたものを全て切り裂ける茅女には、どんな打突も掴みも通用しない。
そして、茅女は、少年の――郁夫の瞳を、見据える。
これから復讐を果たす対象として。
その全てを蹂躙し、切り刻むために。
瞳に映るのは、怒りか、憎しみか、恐怖か、虚勢か。
何にせよ、これからの虐殺に花を添えるものであって欲しい。
そう思って。
郁夫の、目を、見た。
『…………ッ!?』
瞬間。
得も言われぬ悪寒に苛まれた。
なんだ、これは。
瞳はただ真っ直ぐに、茅女のことを見据えている。
そう、ただ“見ているだけ”である。
なのに。
なのに。
どうしてだろう。
とても、嫌な、感じがした。
――浄眼の類か、と慌てて瞳の色を見る。
しかし、瞳の色は綺麗な焦茶。
妖魔を滅ぼす碧の瞳ではなさそうだ。
しかし、その瞳は、まるで浄眼のように――否、それ以上に、茅女を捉えて離さない。
特異な能力が働いているのか。
そう思い、己の能力を発動させる。
神通力や念力によるものなら、己の刃で切り刻めるはず。
しかし、特殊な手応えはなく、周囲の空気が切断されるだけだった。
ぱしん、と荒れ狂う空気が郁夫の頬を引き裂いた。
一筋の鮮血が顎へと伝う。
(な!? こ、こいつ――)
茅女の目が、驚愕に見開かれる。
頬を裂かれた郁夫は。
瞬きひとつせず、茅女のことを、見つめ続けていたのだ。
顔を切られるということは、表情筋を切られるということだ。
ゴムが切れた反動で、他の部位が変化するのは至極当然のことなのに。
あろうことか、表情が全く変わらなかったのだ。
今まで数多の人間を切り裂いてきた茅女だからわかる。
――こいつは、異常だ。
神通力や念力といった、特殊な力こそ知覚できないが。
それと同等……否、ひょっとしたらそれ以上の何かを秘めている――
だが、それは一体何か。
相手は、ただ見つめているだけなのだ。
ならば今すぐ近寄って、切り裂いてしまえばいい。
あくまで郁夫は見つめているだけ。
だから、近付いて手を伸ばすことなんて、簡単なはず。
ゆっくりと。
ゆっくりと、郁夫のもとへと歩み寄る。
万全のときならば、柔の達人の如く動ける茅女が。
今は赤子よりゆっくりとしか、動けない。
だが――じりじりと、郁夫の方へ近付いていく。
郁夫は変わらず、茅女の瞳を見つめている。
そこから何故か、目を逸らすことができない。
体の奥が、熱く溶けるような感触。
変化が解けかかっているのだろうか、甘い痺れが全身を襲っていた。
そして。
手を必死に伸ばし。
郁夫の腕に――触れた。
ばきり、と骨の裂ける音。
郁夫の腕が、掌から肘まで、真っ二つに裂けていた。
肉も、骨も、筋も、血管も、脂肪も、皮膚も。
綺麗に、切断されていた。
トマトジュースを入れたコップを落としたかのように、床に鮮血がぶちまけられる。
でも。
それでも。
――郁夫は、茅女を、見つめていた。
なんだ、こいつは。
なんだ、なんだ、なんだ、なんだ。
わからない、わからない、わからない。
見られているだけ。
見られているだけなのに。
どうして、こいつは――
こんなにも、こわいのか。
茅女が動くのを止めたところで。
流は、郁夫の勝利を確信した。
もう、あの付喪神には、抵抗する気はないだろう。
そんな気勢など、完全に殺がれてしまったのが容易に見て取れた。
――流も、あれを味わったことがある。
抵抗などできるはずもない。
一度捉えられてしまえば、如何なる妖怪でも脱することは不可能だ。
あとはそのまま封印するも良し、調伏するも良し。
そう、あの付喪神は、堕ちた。
郁夫ならばそれができると信じていた。
だから――使わせたくなかったのに。
あの付喪神も――あの“女”も――自分と同じように。
堕ちてしまった。間違いなく。一片の疑いもなく。
自分がもう少ししっかりしていれば。
こうして倒れ伏すこともなく、あの女、あの婆を縊り殺せたのに。
悔しさに身を浸されながら、流は睨み付けるかの如く、郁夫と茅女を見つめていた。
――ずるい。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
神通力でも、念力でもない。
ただ“見つめる”だけ。
――視線を以て機先を制する。
俗に“瞳術”と呼ばれる技術を、とことんまで突き詰めた。
それが、浦辺流退魔術の、真髄である。
たとえ親兄弟を殺されようと。
たとえ己の体を切り刻まれようと。
あらゆる刺激を受けてなお、“目を逸らさない”ことを徹底する。
人外の力は、不明への恐怖が根源となっている。
理解できないもの、それに対抗するには、こちらも相手に理解できないものになる必要がある。
その手段が流派によっては様々だが、浦辺の家では“視線”に特化された。
妖怪ですら不可解と思えるほどの眼力で、その怪異を脅かし、気勢を殺ぐ。
――それが、浦辺流瞳術だ。
見つめるだけで為される術は、しかし危険も大きかった。
目を合わせれば、十中八九術に落とせるが、
言い換えれば、目を合わせられなければ、効かないのだ。
しかも、瞳術の最中は“見ること”に集中してしまうため、
状況も掴めないまま出会い頭にかけることも難しい。
使いどころの難しい、かなりマイナーな術なのだ。
先程も危なかった。
流石は流を一蹴した付喪神というべきか。
術がかかるまで、相当な時間を要してしまった。
結果、頬は裂け、右腕は真っ二つだ。
しかも、橘音や流が傷ついてしまった。
これは――自分以上に、痛かった。
まあいい。自省は後だ。
今はこの包丁娘をどうするか考えなくては。
瞳術は永遠に効くわけではない。
こちらが目を合わせている間だけだ。
その気になれば、相手の気勢を完全に殺し、そのまま消滅させることも可能だが。
先程の言葉が、引っかかっていた。
――憎き憎き卜部の家よ。
――ヌシ等に復讐せんが為に、
――妾は長き時を生き延びてきたのだからな!
……どうしてだろう。
俺には、この言葉が。
涙を堪えながら、捻りだしたものに、聞こえていた。
「…………ちっ」
どちらにしろ、この怪我ではこれ以上瞳術を続けられない。
一際強く眼力を送る。
びくり、と鈍色の髪の少女が痙攣した。
――これで、しばらく動く気力は奪ったはず。
乱暴はできなくなっただろう。
……もう、限界だ。
瞳術を解く。
少女はへなへなと、力無くその場にへたり込んだ。
それを確認してから、近くの付喪神に2、3頼み事をして。
あとは、集中を解いたことにより。
襲いかかってきた腕の激痛で。
――俺は、あっさり、気絶した。
というわけで、主人公の能力は視姦です。
……かっこわるー。
まあそれはそれとして、修羅場までもう少しかかりそうですorz
気長にお待ちいただければ幸いです。
>>56 やばい! ドキドキが止まりません!
GJ!
>>71 ロリコンGJ!
下着って……!
>>76 GJ!
作戦名「みんなにやさしく」ですね!
>>86 …そのかっこ悪い視姦で俺は燃えてしまったわけですが
それはそうとGJ! 続きも期待してます。
一応19と20は保存しておいたが……。忙しいんだろうな。>前スレ
視姦て・・・
いいな
>>86 作者様GJっす
視姦だなんて・・・(*´д`*)
とりあえず、いよいよ本格的な修羅場に突入する予感!?
楽しみにしてます
屍姦はちょっと・・・
>>86 作者様GJ!
既に嫉妬している流(*´д`*)ハァハァ
>>86 使い手と使い方次第でハーレム形成すら可能なこの能力が死亡フラグにしか見えねぇ・・・・
そして流タソの独占欲いいわぁwゾクゾクするw超いぢめてぇwww
み ん な G J ! !
>ミスタ
薫がヤンデレに化けるとは当初に予想も付かなかった。
洋子のほうが病んでいくものかとばかり。
>白牙
コレットがこのまま温室お嬢様で終わらないと信じたい。
>ツクモ
流と茅女が藤木と伊良子に見えてきた。
妖怪萌えはシグルイなり。
投下しますよ
夜も更け、欠伸が漏れてきた。時計を見るとまだ十時を少し過ぎたところだが、今日は
もう寝た方が良いかもしれない。僕にじゃれついてばかりなのですっかり忘れていたが、
ユンちゃんもリーちゃんも僕の世話をする為に来ている訳だ。それはつまり生活時間も僕
に合わせなければいけないということ、僕が眠るまでは彼女達も眠ることは出来ないとい
うことだ。夜型なのか眠そうな様子はなく、寧ろ元気になっているような気はするけれど、
子供の成長にとってそれは良くない。リサちゃんよりも更に幼い子供ならば、それは尚の
ことだ。第二の人生を歩ませる為にここに連れてきたというのなら、僕もその辺りに注意
をしなければいけない。
「そう言えばナナミ、この娘達のベッドは?」
ナナミは基本的に眠らないし、仮停止状態になるにしても椅子に座った状態だ。なので
この家にはベッドが一つしかないのだが、どうするつもりなのだろう。明日買いに行くと
して、今日はまさかソファに寝かせるつもりなのだろうか。流石に床に雑魚寝させること
はないのだろうけれど、そのくらいはやりそうだ。ナナミの教育方針を見ると、使用人と
して働かせていることを自覚させるのが先のように思える。恐らく主人である僕のベッド
を使わせることはないように思えた。
思考がまとまれば判断は一瞬で、ナナミが何か言う前に僕は二人の背を抱いた。
「今日は二人と一緒に寝るよ」
「いけません」
僕は笑みをナナミに向け、
「命令だよ」
あまりこういうことは言いたくなかったけれど、初日から大変な目に遭わせるのも良く
ない。適度な救いがあった方が仕事も人生も楽しくなるのは、屋敷で使用人として働いて
いた頃に学んだものだ。この娘達にもそうして生きてほしいと思う。
奴隷券を出されたらどうしようかと思ったけれど、杞憂だったらしい。嬉しそうに足に
抱きつきながらこちらを見上げてくる双子の頭を撫で、寝室に向かった。
ベッドに腰掛けると、左右に二人が座ってきた。ユンちゃんが鼻唄を歌いながらこちら
を見上げて、もたれるようにして腕を掴んでくる。手が細い太股に挟まれ、少し低い温度
が伝わってくることでYシャツ一枚だということを再確認させられた。
「あのね、ありがとうございます」
「ん、何が?」
幼女愛好家でもないのに何故か意識してしまったが、声に出ていなかっただろうか。
「……ちゃんとした御飯食べたり、寝るときの心配がなくなったの……久し振り」
そう言って、リーちゃんもユンちゃんと同じように腕を抱いてくる。
「……お礼、するから」
言うなりリーちゃんもユンちゃんも腕を放し、僕に向かって倒れ込んだ。二人とも僕の
股の上に頭を乗せ、器用にも口で噛んでベルトを外す。ジーンズのボタンも同じよう口で
外し、ジッパーや下着を下げてくる。あまりの展開に思考が追い付かず、手慣れているだ
とか器用だとか、そんな場違いな言葉しか浮かばない。
やがて股間が露出し、ぬめる感触が来たことで状況を理解した。
「二人とも、なに、やって」
漸く絞り出した声はかすれ、途切れ途切れに言うのが精一杯だ。
「お礼だよ?」
ユンちゃんはこちらを上目遣いで見ながら言うと、再び僕のものを舐め始めた。体格差
が有り過ぎるせいで口に含むことは不可能らしいけれど、その代わりに二人という利点を
活かして広い範囲で責めてくる。背徳的な光景もさることながら複数の箇所を舌で同時に
責められるという初めての体験に加え、ツボを知り尽くしたような技術に背筋が凍る程の
快感が背を駆けてゆく。二人が腕に抱きついたときに意識してしまった理由が分かった。
いや、最初から分かっていて目を背けていただけかもしれない。
これは立派な、娼婦の動きだ。
思い至らなかったのではなく、思いたくなかった。小さな子供が男を相手にこんな行為
をしているという現実を、認めたくなかった。可能性は幾らでもあったし、気付く機会も
何度もあった。そもそも力も何もない子供が路上生活をしていく方法なんて、殆んどこれ
に限定されてしまう。この娘達だけは例外だなんて都合の良い現実は存在しない。それを
分かっていたから、心は逃避の手段として気付かないという方法を選んだのだろう。
そうして思考を彼女達から反らしていても、体は正直だ。小さな手や唇、舌など幼い体
全体を使って与えてくる刺激に反応して、股間のものは痛い程に屹立している。認めたく
ないけれど、細いながらも子供特有の柔らかさが本当に気持ち良い。
しかし、ここで流されてはいけない。
「もう、止めなさい」
僕は擦っている両手を剥がそうとするけれど、二人ともしっかり掴んで決して離そうと
しない。怪我をさせたくないので弱めていた力を少し強くするが、それは変わらなかった。
どこにこんな力があるのか、下手をすれば僕のものが折れそうなくらいに強く握り、頭を
押さえられても無理に舌を伸ばして舐めてくる。何故かは分からないけれど、どんな理由
があろうとこのまま放っておいて良い訳がない。本格的に力を込める。
「ごめんなさい。でもおねがい、さいごまでさせて」
「……おねがい、します」
ついには泣き出したが、しかしそれでも僕への奉仕が止むことはない。一生懸命と表現
するよりは、どこか脅迫観念に捕われているような、病的な必死さだ。こんな場合は僕の
方が折れて気の済むまでさせて、それから話を聞くしかない。下手に押さえ付けでもした
ら余計に悪化してしまうのが目に見えている。
僕が諦めたのを見ると、二人は安心したような表情を見せた。そして下着を脱いで二人
で割れ目を押し付け、竿全体に密を塗りたくる。今や僕のものはユンちゃんとリーちゃん
の唾液や愛液でべとべとで、挟んだまま二人が腰を上下に動かせば淫媚な水音が部屋中に
響き渡る。吸い付くような感触で全体を擦られれば、射精感が込み上げてきた。
「お兄ちゃん、気持ち良い?」
「気持ち、良い」
「……嬉しい」
二人で僕の頭を抱え、唇を重ねてくる。舌を伸ばして僕の唇や舌を舐める。それだけで
収まらず顔全体を舐め、吸い、味わい、熱い吐息をかけてくる。
「もっと、気持ち良くなってね」
腰の動きが止まり、糸を引いて二人の割れ目が離れた。リーちゃんが僕の体を押すと、
力の入らなくなっていた僕はあっけなく姿勢を崩される。リーちゃんが僕の顔の上に腰を
下ろしてきて、目の前に無毛の割れ目と尻の穴が現れた。そこから密が細い糸を引いて、
僕の顔にゆっくりとした速度で降ってきた。ユンちゃんは股間に跨って、僕のものを自分
の割れ目に押し付けている。
「……舐めて」
リーちゃんの割れ目に舌を這わせ、拭うように密を舐めとる。音を立てて吸い、膣内に
舌を差し込んで掻き混ぜ、割れ目の上部にある充血した突起を指で擦る。リーちゃんは更
に快感を求めるように割れ目を顔に押し付けて、身をよじらせた。
「お兄ちゃん、入れるよ」
物理的に不可能だと思ったが、狭いながらもユンちゃんの股間は僕のものを飲み込んだ。
食い千切られそうな強い圧迫感があり、少しでも動かせば途端に裂けてしまいそうだ。
「動く、ね」
しかしユンちゃんは粘膜や愛液のぬめりに任せ、強引に身を振ってくる。どんな表情を
しているのかは見えないが、頭上から聞こえてくる苦しそうな声で辛そうなのが分かった。
「……大丈夫」
リーちゃんの声が聞こえ、続いて水音が聞こえた。舌を絡めるキスをしているのだろう、
小さく二人の体が揺れている。それが止み、ユンちゃんの喘ぎ声が聞こえてきた。僅かに
身を離したことで出来た隙間から見てみれば、リーちゃんがユンちゃんの胸を吸っている
のが確認出来た。それで一気に絶頂が近付いてきたのか、ユンちゃんの膣が小さく痙攣を
始める。僕ももう限界だ。
「ッ、出すよ」
言葉と共に膣内へとぶちまける。
ユンちゃんは膝立ちになり、言葉もなしに僕のものを引き抜いた。荒い息を吐く度に、
割れ目から白濁液が漏れてくる。
「……いただきます」
リーちゃんは四ん這いになり、ユンちゃんの股間を吸いたてた。ユンちゃんは目を閉じ
肩を震わせてリーちゃんの頭を押さえながらも、拒否することもなくそれを受け入れる。
寧ろもっと吸ってほしいように腰を突き出した格好だ。
リーちゃんは口を離すと音をたててそれを飲み、こちらをむいて笑みを浮かべて、
「……ごちそうさま」
体を半回転させて、僕の腹の上に上体を押し付ける。
「……今度は、あたしの番」
軽く馴染ませるように何度か擦り、僕のものの上に腰を下ろしてきた。
今回はこれで終わりです
俺はペドじゃありません
>>102 作者様GJっす
まさか前回の「私はロリじゃありません」発言が伏線だったとは(((( ;゚д゚)))アワワワワ
エロイけど、かなり重い内容・・・(;つД`)
所変わって図書館。俺は椅子に座って待っていた。歩は待っていろといったまま、どこかに消えてしまった。
「お礼………か…」
・
・
・
・
・
『お礼……これしかなかった。』
制服を脱ぎ始める歩。
『ぉ、おい!なにをして…!』
『私を…もらって。』
『ごくり。』
・
・
・
・
・
・
「ゲヒャッファー!そんなことになんねーかなぁ!!」
おれ様妄想劇場が終わった頃、歩が奥からやってきた。俺は顔を180度変え、超真面目モード(ふり)に突入した。
『おまたせ。』
『いや、全然まってないよ。歩ちゃんがお礼をくれるんだからね。』
『うん、お礼。』
余談だが、真剣な顔しながら、紙に言葉を書いて会話するのはかなり滑稽に見えるだろう。
『これ。』
「ん?」
机の上に置かれたのは、皿に盛られたクッキーだった。
『これは?』
『今日、家庭科の時間が調理実習だった。それでクッキー作ったから、食べて欲しい。』
『おぉ!サンキュー!』
見た感じメチャメチャうまそうだ。黒いからチョコクッキーかな?ふふん、料理に関しちゃ、ちとうるさいですぞ。
「いただきます。」
適当に一つ掴み………パクリ。
もぐもぐもぐもぐ…
『どう?おいしい?』
もぐもぐ……
「……」
もぐも………
「ぶっはぁ!!!」
そして逆噴射!机の上にクッキーの残骸をぶちまけてしまった。こ、これは……ショッパイ、いや、そんなもんじゃない塩辛い。
簡潔にいえば、クソ不味い。
『どうした?吐き出すほどにおいしかった?』
アラヤダ、彼女ったら。本気の目でそう聞いてきましたわよ。まさか……これをおいしいとおもっているのか?……どう返事しよう…
俺は口の中の燃え上がるほどのヒート!を押さえながら、脳内フル動員して三つの選択肢を見つけ出した。
A、『あは、及第点のそのまた及第点だね。』
B、『うん…超個性的な味だよ。』
C、机に突っ伏し、気絶する。
おい!どれも遠回しに不味いと言ってるだけじゃないか!だ、だめだ。彼女の期待と不安のまなざしに、正直に答えることができない。
『ひ、一つ、聞きたいことがある。これ、砂糖はどのくらい入れた?』
『入れてない。』
うは、直球で返事されちゃったよ。
『つまり、砂糖と塩を間違えた、と?』
コクンと頷く。うん、そんなのは食べた瞬間わかったよ。でもこれは……間違えたとかいう次元じゃないような気がする。
『……塩、どのくらい入れた?』
俺は核心について、恐る恐る聞いてみた。
『……本に書いてあった数量分入れようと……したら…』
『したら?』
『手が滑って容器の中身全部ぶちまけた。』
バタン
俺はそれを聞いた瞬間、本当に気絶した。嗚呼、ごめんよ、俺の体。お願いだから、高血圧にはならないでたもー。
そんなことを考えたまま、俺の意識は闇へと消えていった。
・
・
・
・
・
・
・
……ンカーンコーン…
「ん、るふぁ……」
どこかでチャイムが鳴ってる……ん?どこ?ああ、ここは学校じゃん……授業始まっちゃうかな?起きないと……
ムニ
「うぅ?」
起きようと床に手をやろうとしたら、なにか柔らかいものを掴んでしまった。それと同時に、頭がかってにゆさゆさと動く。
「を、を?」
何事かと思い、ゆっくり目を開けてみると……
「………」
目の前に歩の、相変わらずの無表情があった。
そしてこの状況……こ、これわぁ!
「ゆ、め、の、膝枕ー!」
俺の頭は歩の膝の上に乗っていた。おふぅ…こいつぁおいしいぜ…
『おはよう。』
『おっはー。』
が、よく考えるとメチャメチャ恥ずかしい。誤魔化すために、ペーパートークを開始する。
『えー……今のチャイム、授業開始?』
『いいえ、終わり。もう今は放課後。』
「へ?」
視線を動かし、時計を見てみる。なるほど、俺はそんなに気絶していたのか。
『ごめんなさい。』
『ん?なにが?』
『変なクッキー食べさせて……こんなふうにしてしまって。』
その時、彼女は初めて人間らしい……申し訳なさそうな表情を見せた。
『料理は初めてか?』
コクン
『そうか……んー、俺もな、いきなりムエタイボクシングをの試合に出ろ、なんて言われたら、一ラウンド三秒でKOされちゃうんだ。』
『?』
『まぁ、何が言いたいかというとな、初めてなんだから仕方ないさ。』
俺はちょっと名残惜しいな、と思いながらも、膝から頭を離し、立ち上がる。それに合わせ、彼女も立ち上がり、互いに向きあう。
『まぁ、その点、料理は俺のベストフィールドだからな、今度時間のある時にでも教えてやるさ。』
『ありがとう。』
相変わらず、味の無い書き方だったが、顔からは嬉しさが染み出していた、声を出すことを知らないから、きっと感情の表し方も知らないんだろうな。
『おっし!そんじゃ今日は気分転換だ!街に遊びへ繰り出すぞ!』
コクン
嫌がるかと思ったが、彼女は頷き、素直についてきてくれた。
ガラララ…
ダッダッダッダッダッ!
「コナミンキィック!!」
ドコォ!
「フグオォ!!」
突然、電波ゆんゆんヴォイスと共に、小型人型ミサイルが飛んで来た………小波だった。
「ふふーん、転校生君?初日にサボりとは、やってくれるねー。」
「それには……深い訳が……」
「訳がもワキガもないよ!さぼったのは事実!罰としてぇ、私と街で遊びに行くぜよ!」
クイ
歩はそれを無視するかのように俺の体を起こし、腕を引いていく。
「そうねー、最初はショッピングでー、適当に街をぶらぶらしたらレストランで食事………ってゴラァ!まてや!そこの無口女!!」
『な、なんか小波のやつ、性格違わないか?』
『あいつが腹黒いのは有名。有名すぎて腹黒いとも言えない。』
ああ、もう素となっちゃってるわけね。
『でも、馬鹿だからまわりからは人気ある。』
『わかるきがする。』
「ちょっ!馬鹿ってなによ!これでもロリータ小波、懸命に生きてるんですよ!?」
「あー、はいはい、俺も歩と街へ遊びに行くところだったんだ。一緒にいくか?」
「わーい!行く行く!!」
やっぱり馬鹿か。いや、単純だ。
「でもその無口女がいるのがムカムカしますねぇ。なんだか生まれて始めての感情が胸に渦巻いてるよ。」
「良かったじゃないか!新たな感情の発見は、未来への足掛かりとなる!!やりましたな、小波博士!」
「うむ(^ω^)」
『俊太、行くよ。そんな腹黒、放っておいて。』
グイグイ
おやおや、こちらも新たな感情の表れですか。いやっはっはっ、良きことかな。
「いつか刺されてもしらないぞっ、と。」
「通り過ぎ際に変なこと言わないでよ!?礼奈センセェ〜〜〜。」
以後、夜道は後ろに気をつけるとしよう。
人が多いので、略名が入ります。
エリナ「……で?なんでここにいるんだ?…5」
俊太「良く考えたらさ、この街、娯楽施設が少ないわけよ。……6」
小波「そうそう、エリナッチさぁ、職権乱用してなんか作っちゃってよ。………7」
歩『………8』
エ「無理よ……それに、だからって交番に来ないでよ。私だって暇じゃないんだから………9」
俊「えー、どう見たって暇じゃん。メチャメチャ平和だし。………10」
小「だよねー。この町で犯罪が起きたなんて、聞いたことないよ。………11」
歩『……12』
エ「犯罪は無くても、書類を書いたりしなくちゃいけないのよ。………13」
俊「その書類に涎垂らして爆睡してたのは誰だよ。…1」
小「ホント、だから平和なこの町に左遷させられたんだよねー。……2」
歩『…3』
エ「お、大人を馬鹿にしたなぁ!みんな逮捕するぞ!……4」
俊「ちょ!それこそ職権乱用じゃねーか!……5」
小「刑務所で臭い飯食わされるのって本当なの?…6」
歩『……7』
エ「ふぅ……いえ、あれは間違いよ。下手すれば、刑務所にいた方がちゃんとした暮らしできるわよ……8」
俊「ふーんさっすが、だてに警官やってないね……9」
小「あー……刑務所はいろっかな。エリナッチ、逮捕してくり……10」
歩『……11』
エ「馬鹿ねぇ、自由のすべてが奪われるのよ。……12」
俊「そんなんやだなぁ。まぁ、小波なら大丈夫だ。どの刑務所も受け入れ拒否してくれるさ。……13」
小「そうだよねー。私みたいな健気な少女をそんな目に合わせたくないんだよねー。……1」
歩『馬鹿は受け入れ拒否ってこと……2』
小『てんめー!!どうしても私を馬鹿扱いしたいのかー!!』
エ「小波が馬鹿だってのは町の掟みたいなもんだからねー…………3」
俊「あ、ダウト!」
エ「俊太!貴様!見ているな!!」
俊「だぁ!!!警棒振り回すな!!トランプで本気だすなぁ!!」
そんな平和なあふたぬーん。
>>102 すぺしゃる最高〜〜〜〜〜〜♪
というか最後のいいわけの可愛さにロボさまに萌えそうだw
>>102 うん、これはリーやユンの行動を予測できなかったナナミと青が悪い。
・・・・・・のだが、修羅場的にそれでは済まされないんだろうなぁ ((((((゚Д゚)))))
ミスターを投下します。
子供の頃、どうしても不思議だった。
親父が僕と母さんを捨てたわけだ。
子供らしい無神経さで母さんに聞いても、哀しそうに微笑み返してくるだけだった。
客観的な理由なら、わかっている。借金があったこと、外に女がいたらしいこと。
けれど、それでも不思議だった。
あいつは、僕らといて楽しそうだったから。笑っていたから。
長嶋の大ファンだったあいつが、本当はどういう気持ちで僕に「茂雄」なんて名前をつけたのか知っていたから。
結局、僕らはあいつにとっての一番ではなかったのか。楽しそうにしていたのは、うわべだけのことだったのか。
そう思って悲しかった。
夕日を背負った薫と対峙する。
赤い光がまぶしい。
彼女の立っている場所から僕の足元まで、黒い影が伸びている。
薫は、ベンチから立ち上がってから微動だにしない。それに一言も口にしていない。
相変わらず、幸雄を抱いて微笑んでいるだけだ。
とらえどころのない、あいまいな笑みだった。
それが意味するところを掴みかねる。
彼女にとって、今の状況が愉快なもののはずがない。
かといって、正気を失っている様子もなかった。
見ようによっては、母親が赤ん坊を抱いているように見えなくもない。
もちろん、薫が幸雄に抱いている気持ちが、母親の子供へのそれと同じであるはずもないけれど。
その腕に抱かれている幸雄は、白いタオルに包まれている。
薫と同じように微動だにしないのを見て不安になるが、むずがって身動きしたのを見て安心する。
どうやら、眠っているようだった。
まだ大丈夫だ。まだ何も失っていない。
まだ。
そう、まだ無事だ。けれど、僕がこれからの選択を誤ればどうなるかわからない。
もし薫がその気になれば、幸雄を地面にたたきつけることだってできる。
ここからでは、受け止めようとしても間に合わない。
あの高さから落とされただけで、彼には致命的だろう。骨格もまだ固まっていない赤ん坊だ。
頭をうてば。
背中から落ちたとしても。
ぞっとする。
走って流れたのとは違う、冷たい汗が背中を伝った。
動けなかった。
ここから飛びついて、幸雄を無傷で取り返すことなんてできそうもない。
大人二人のもみ合いに巻き込まれて、彼が無事でいられるはずもない。
それどころか、一歩でも動けば、いや指一本でも動かせば、それが引き金になりそうで怖かった。
ばかばかしい恐れなのかもしれない。
薫が何のために幸雄を連れ出したのかも確認していないのに。
連れ出された以外に、何かされたわけじゃない。
もしかしたら、危害を加える気なんて最初からなかったのかもしれない。
じゃあ、何のために連れ出したんだ?
馬鹿な。ここで楽観的に考えていいことなんかひとつもない。
最悪を考えるべきだ。失えば取り返しがつかないんだから。
動けないなら、言葉で説得するか?
けれど、なんといって。
「子供には罪はない」「そんなことをしても意味がない」なんていう一般論をこの場で垂れ流す気か。
それこそ正気じゃない。
彼女が、そんなことをわかっていないはずがない。
わかっていて、わかっているはずなのに、薫はそうせずにはいられなかったんだ。
むしろ、そんなうわべの言葉でごまかそうとすれば、きっとそれが引き金になってしまうだろう。
僕は、薫を裏切った。騙して傷つけた。
彼女はそういう僕の誠意のなさを一瞬で見抜いてしまうだろう。
それは、多分彼女をぎりぎりのところで引きとどめている糸のようなものを断ち切ってしまう。
それどころか、どんな言葉を投げかけても、その背後にある自分でも気付かない汚さや嘘が暴かれてしまうんじゃないかと妄想する。
だから、彼女にかける言葉がないというのは、結局僕の自信のなさの裏返しだ。
厳格な裁判官を前にして、自分を弁護する言葉をもたない罪人のようなものだ。
そうしてあらゆる計算、判断、思考が上滑りしてゆくのを感じる。
結局、そんなものには何の意味もなかった。
すべてが頭から滑り落ちて、残ったのはたった一つのことだった。。
僕は、薫と会って話がしたかった。けれど、話をする前にまずそれをしようと思っていた。凡庸でありふれたことを。
地面に膝と、手をつく。
「ごめんなさい!」
特別なことなんて何もない。ただ謝っただけだ。
「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」
あまりにも陳腐なやり方だった。こんなことで許してもらえるようなら、薫が今みたいな無茶をすることもなかった。
けれど、僕にできるのは結局それだけだった。
土下座して謝る今の僕は、きっと無様で滑稽に見えることだろう。でも、本当に僕ができるのはそれだけだった。
「裏切ってごめんなさい!傷つけてごめんなさい!許してもらえるなんて思わないけど。悪いのは僕だから。悪いのは全部僕だから。だから、幸雄を返してあげてください。お願いします!お願いします!」
額を地面にこすり付けていた。
「僕は薫が好きだったけど!もう変わってしまったから。幸雄と洋子がいるから、もう三人だから!」
そうだ。理不尽に奪われて、それ以来自分がそれを欲しがっていることすら忘れてしまっていた関係を僕らはすでに築いてしまっていた。
たとえ成り行きだったとしても、一度手に入れたそれをなくしたくない。
ここでなくしたら、もう一生手に入らないんじゃないかと感じる。
「僕らは家族だから。そうなったから。だからもう、なくすのはいやだ。捨てられるのはいやだ。やっと、みんなが帰ってきたのに。
僕も、母さんも、帰ってきて、あいつも帰ってきて、僕はあいつとは、違うから、ちゃんと、帰ってきて、それで、それで、みんなで、三人で、ごはん食べて、それで」
いつのまにか嗚咽が混じって、言葉も途切れ途切れになる。内容も、むちゃくちゃだ。
謝罪のつもりが、いつの間にか自分の気持ちを吐き出すだけになってしまっている。最悪だ。
これじゃあ、駄々をこねている子供と変わらない。こんな身勝手をして、薫が怒らないはずがない。
そう思ったけれど、とめられなかった。
涙で地面が濡れている。感情の高ぶりのためと、情けない自分に腹が立って。
今はもう、ただうめきながら地面に額をつけているだけだ。声も出ない。
いつまでそうしていたのかはわからない。ほんの数分の間のような気もすれば、丸一日そうしていたような気もする。
薫の足が目の前にあった。いつの間にか、すぐ近くに来ていた。
「うで・・・」
それが薫のここでの最初の言葉だった。彼女の顔を見上げる。
微笑みはやんでいた。それでも、気持ちの読みづらい表情をして僕を見下ろしている。無表情だった。
いや、無表情を作っていた。
「うで、疲れたから。代わって」
「え」
一瞬、唖然とし、それが意味していることを悟って、あわてて立ち上がる。
薫が、タオルで包まれた幸雄を差し出す。手についたほこりを払い、おずおずと受け取った。
幸雄はまだ眠っていた。自分がさっきまで置かれていた状況もわかっていないだろう。
外の空気に触れても異常はないようだ。おだやかな顔をしている。
その顔を見ていると、目の前にはまだ薫が立っているというのに口元が緩むのを抑えられない。
しばらくして、薫がまたつぶやいた。
「顔、あげて・・・」
「え」
顔をあげると、いつの間にか薫が右のこぶしにブレスレット型の腕時計を巻きつけていた。
そして、こぶしを振り上げると、そのまま僕の鼻っ面にたたきつけた。
彼女の力は強くない。けれど、よほど当たり所がよかったのか、鼻の奥でパキリと音がするのを感じた。
ああ、こりゃ折れたな。そう思った。
案の定、鼻血がぼとぼと落ちてくる。幸雄をくるんでいるタオルを汚した。
薫は、こぶしを痛めたのか、別の理由からか表情をゆがめると、くるりと向こうを向いた。
「行って。もう二度と顔を見せないで」
それを聞いて、すべてが終わったことを悟る。けれど、心が晴れることなんてない。
最後の言葉をかけようとして、かけるべき言葉なんかないことに気付く。彼女もそんなことは望んでいないだろう。
僕も薫に背を向けて、公園の出口に向かって歩き出そうとする。そのとき、薫がまたいった。
「わたしが振ったんだから。あなたがあまりみっともないから。だから、兄さんなんかに手は出させないから」
それを聞いて、耐えられなかった。歩き出す前に、後ろを向いたまま言ってしまう。
「ありがとう」
薫が泣いているのが聞こえる。けれど振り向かない。そのまま歩き出す。
もしもこの手に幸雄を抱いていなければ、振り返っていたかもしれない。そして彼女のもとに駆け寄っていたかもしれない。
でも、今この手には幸雄を抱いていて、そして僕の帰るべきところを教えてくれている。
だから、さよなら。
公園から出たところで、目の前に見覚えのある車が止まった。洋子だ。
車を出てこちらを見た。僕が幸雄を抱いているのを見て一瞬安堵し、すぐに表情を凍りつかせた。
駆け寄ってくる。
「大丈夫!?」
こっちは、服は傷だらけで、おまけに鼻から下を血で真っ赤に染めている。心配するのも無理はない。
けれど、彼女は僕になんか目もくれずに、僕の手から幸雄をひったくるようにとりあげた。
血で汚れたタオルをめくって、体を確認する。当たり前だ、彼女が真っ先に心配すべきなのは僕じゃなくて幸雄だ。
もちろん、それで別にさびしいとか、悲しいとは思わない。いや、少しさびしいかも。
幸雄が無傷なのを確認して、洋子は深い深い安堵のため息をつく。そして、泣きながら彼を胸に優しく抱いた。
「よかった、よかった」
ほとんど沈みかけている夕日の赤い光が、その姿を照らしている。
赤ん坊を抱く、母親の姿を。
その光景をぼんやりと眺めて、僕はなぜかラファエロの「聖母子像」を連想する。
いや、あんな絵なんかと比べられない。
もちろん、洋子はあのマリアほどにきれいでもないし、幸雄はあのイエスのように神々しくもない。
けれど、本当に美しいと思った。ひざまずきたくなるほどに。
僕は、神も仏も信じちゃいない。信仰心のかけらもない。
そんな僕にも、宗教的感動なんてものがあるんだとしたら、今感じているのがそれなんじゃないかと思う。
それほどに、目の前にしている光景は胸をうった。
実際に、僕はいつの間にかひざまずいていた。そして、その完璧な像を前にして考えてしまう。
僕は、本当に彼女たちと一緒にいていいんだろうか。
いや、一緒にいさせてくれるんだろうか。
今度のことも、僕が原因だった。僕のせいで、もしかしたら幸雄はこの場にいなかったかもしれない。
これからも、そんな目にあわせないとは限らない。
もし洋子が、今度のことで僕に愛想をつかせていたら。僕なんかいらないといったら。
自信をもって、引き止めることができるだろうか。
彼女たちをここで見送る以外のことが、僕にできるだろうか。
いやだ!一緒にいたい。いや、一緒にいさせて欲しい。もう、捨てられたくない。
洋子のためじゃない。幸雄のためじゃない。僕がそうしたい。
義務でもなんでもなく、僕がそうしたいから。
また、涙が流れているのを感じる。鼻血も相変わらず流れて、アスファルトを汚している。
多分、僕はものすごくみっともない姿をさらしているんだろう。泣きながら、鼻血を流している男なんて。
おまけに骨折して鼻もゆがんでいるかもしれない。
こんなことじゃあ、洋子にも幸雄にも愛想をつかされてしまう。
せめて、涙をとめないと。
そんな僕に初めて気付いたように、薫が幸雄からやっと目を離した。そしていった。
「帰ろう、一緒に」
とまりかけていた涙が、またあふれてきた。
「うん」
「その前に、鼻、診てもらわないと」
「うん」
僕が立ち上がるのを、洋子は待ってくれている。赤い光の中で。幸雄を抱いて。
以上、最終話「二つの母子像」でした。
ミスタープレイボーイは、これでおしまいです。
修羅場スレ的には、ものたりないラストだったかもしれません。
けれど、今回のラストだけは最初から決めていたので。
逆に言えば、途中の経過はほとんど行き当たりばったりでした。
そんなお話を、拙くも終わらせることができたのは、読んでくださった皆さんのおかげでしょう。
次回は、主人公萌えではなく、ちゃんとヒロイン萌えでエロもあるやつが書きたいです。
しばらくしたら、また投下します。
それではヘタレなミスターをかわいがっていただき、ありがとうございました。
イヤッホーーイ!! ミスターGJ
次ももろちん楽しみだけど、今はともかく余韻に浸っとくとしよう
乙でした
心のそこから、GJ!!
ミスターよくやった!
もう一山あるかと勝手に想像していましたが……GJ
血みどろにならなくて正直ほっとしたのも確か。
比揄抜き掛け値なしで心の底から感動した!!
今までこのスレで面白い作品沢山読んできたけど
でも、こんなあったかい、幸せな気持で感動できたのは始めてかも
だから言わせてください
こんなにも感動できる作品を書いてくださってありがとう御座いました!
……実は作品投下しようと思ってたのだがタイミング悪すぎかな
今投下してはこの余韻をジャマしそうで躊躇らわれる
どれくらい空けたほうがイイ? 一時間後か? 二時間後か?
二分
今すぐでも大丈夫だ!
ミスターGJ!
了承です では投下イきます
リオが調べ物にも身が入らず悩み頭を抱えていると扉をノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
リオが応えると扉を開けクリスが入ってくる。
「未だ寝ないんですか? リオにいさん」
「え、ええ。 もう少し調べ物をしてからと思いまして。 それよりクリスこそ寝ないのですか?
それとも起こしてしまいましたか?」
表情をうかがうように言葉を発したリオにクリスは笑顔で応える。
「ううん、そんな事無いよ。 チョット目が冴えちゃってね」
「そうですか。 そう言えばセツナは?」
「姉さんならぐっすり眠ってるよ。 疲れが溜まってたんでしょうね。
リオにいさんは未だ起きてるの?」
「ええ、もう少し調べ物をして寝ようかと」
「根の詰めすぎは良くないですよ? 少し一息入れた方が良いよ。 お茶煎れてくるね」
そう言ってクリスは部屋を後にし台所へと向かった。
暫らく後、両手にカップを手にしたクリスが戻ってくる。
「ハイ、どうぞ」
「ありがとう」
そしてリオは手渡されたカップを受け取ると口をつける。
「うん、とても美味しいです」
葉っぱの蒸らし具合、お湯の温度、そしてカップも予め温められていたのだろう。
丁寧に心を尽くして煎れてくれた事が伺える。
カップを口に運びながらこういう気遣いにクリスもやっぱり女の子なんだなとリオは思う。
と、瞬間あの日のクリスの告白がよみがえる。
大事な部分は隠しつつ、とは言え上半身裸で顔を赤らめたクリスの姿が思い出され
思わず顔が熱くなりそうになる。
その時徐にクリスが口を開く。
「そう言えば……」
「あ、ハイなんでしょう」
「今夜はあの女のところに泊まらなかったんですよね」
あの女――コレットの事である。 クリスは名前で呼ぼうとはしないのである。
当然リオは其の事をあまり良くは思ってない。
だが事情を知ってるだけにリオはそのことに触れられないでいた。
「ええ、まぁ……。 調べものとかもありましたし」
リオは村に帰りコレットの家でご馳走になるとそのまま泊まっていく事も少なくなかった。
もっともただ泊まるだけでそれ以上のことは無い。
生真面目なリオが結婚前にそう言ったことに手を出そう筈が無いのだから。
コレットの両親もそれが分かっているから安心して泊めるのだ。
其の事にコレットは不満も感じてなくも無いのだが、無理に迫って逆に嫌われては本末転倒なので
物足りなさを感じながらも自分からリオの寝室に向かい迫る様な真似はしない。
それでもコレットにとって寝る直前まで一緒の時間を過ごせ目覚めて直ぐリオの顔を拝める。
それだけでコレットは十分幸せだった。
しかし今夜は――。
「泊まらなかった理由はそれだけ?」
「え……? どういう意味です?」
クリスの言葉にリオはやや戸惑った様な声で返す。
「単純にあの女と顔があわせずらかったからじゃないの?」
其の言葉にリオは黙りこくる。
「ま、良いですけどね。 リオにいさんがウチにいてくれたほうが姉さんも喜ぶしね。
ボクも其の方が嬉しいし」
そう。 今夜リオが家に戻ってきた時セツナは大層喜んだ。
ちなみにクリスがパーティーに入ってくる前はセツナもコレットとその両親に一緒に呼ばれ
其の厚意にも応じてた。
だが最近ではクリスに合わせ断わっていたのだ。
そんな時のセツナは顔には出さないもののやはりどこか寂しげだった。
クリスは自分に合わせてくれるセツナに嬉しく思いつつもどこか心苦しかった。
だから今夜期せずして戻ってきてくれたのはセツナにとって、
そしてクリスにとっても喜ばしかった。
自分が姉と呼び慕う女性の幸せそうな笑顔に。
暫らく後クリスはカップの中身を飲み干しリオのカップも空になったのを確認すると手を伸ばす。
其の手にリオはカップを差し出すとクリスは受け取り席を立つ。
「じゃぁボクは寝室に戻るね。 オヤスミ、リオにいさん。 あまり根を詰めすぎないでね」
「ハイ、お茶ご馳走様でした。 おやすみなさいクリス」
リオの部屋を後にしたクリスは台所でカップを洗って片付けると寝室へ向かった。
ベッドではセツナが安らかな寝息を立ててる。
クリスはセツナを起こさぬよう注意しながらベッドに潜りこもうとする。 が――。
「……クリス?」
「……ゴメン姉さん。 起こしちゃった……?」
クリスが小声で言うとセツナは微笑んで「気にしなくていいよ」と、小声で答える。
目も半目で寝ぼけ眼のようであるが、だがとても穏やかで優しい表情。
セツナは促すように布団をまくるとクリスはベッドに潜り込むとセツナはそっと抱きしめる。
そしてクリスも応えるようにその胸に顔を埋める。
クリスを抱きしめるセツナは既に再び夢心地の中のようだった。
そしてその胸に抱かれるクリスの表情もまた穏やかで幸せそう。
クリスはセツナの胸に抱かれとても安らいだ気持に浸りながら改めて思う。
やっぱり自分はこの人が――姉さん大好きだと。
姉さんの為なら何だって出来る、と。
同時に不思議な気持にもなる。 出会った当初からは想像も出来ないな、と。
何故なら初めて出会ったとき、あの時初めて抱いた感情はまるで逆の――。
そう、それは強烈な嫉妬、羨望、そして敵意だったのだから。
クリスとセツナとの出会いは同時にリオとの再会の時でもあった。
クリスにとってリオは兄のようでもあり、そして初恋の相手。
しかしリオにとってはクリスは"弟分"だった。
始めて出会った頃が性に無頓着な幼少時だったため仕方の無かったこと。
だが年頃となった今となってもクリスは明かすつもりは無かった。
顔の傷がために明かさぬ方が良いと、自分が女だと言う事を隠し通そうと思ったから。
勿論内に秘めた気持も……。
その様に思ってたのは、それは女としては無理でも戦士として側にいれたらとも思ってたから。
そんなクリスにとってセツナは羨ましく妬ましくもあった。
この世界にあっては珍しい艶やかな黒髪。
絶世のとまでは行かないまでも整った顔立ちと凛とした美しさ。
オマケに伝説の勇者。 そこら辺に転がってる偽者の三流勇者とは訳が違う本物。
それはクリス自身其の戦い振りを目の当たりにして確証した事。
そう、クリスにはセツナが女としても戦士としても最もリオに近しい場所に居るように見えた。
それが羨ましく、そして妬ましかったから。
更にはこの混迷の時代を終わらし自分の戦士としての生き方をも奪う存在でもある。
出会った当初セツナはクリスの全てを奪う忌むべき存在に思えたのだった。
だが隠し通した。
気持を露わにすれば、そんなことすれば悪くすればリオに嫌われる事が容易に想像できたから。
だがある日二人っきりになった時溜め込んでた気持を爆発させてしまった。
込み上げてくる嫉妬に、敵意に、殺意に身を任せ全てを剥き出しにぶつけ本気で殺そうとした。
だが完敗だった。 斬り合の腕だけでなく気持の上でも――。
斬り合いで負けた時は死を覚悟した。
それは決して潔い気持などではなく只自暴自棄な気持によるもの。
だがセツナは責めるでもなく笑ってなだめてくれた。
<ねぇ、クリス。 アンタは私の事嫌いかもしれないけど、私はアンタのこと結構好きよ?>
<でもね、やっぱアンタの事嫌いとは思えないのよ>
<其の強さを手に入れるまで一杯苦労して頑張ったんでしょ?>
セツナの言葉にその時クリスは戸惑いを隠せなかった。
振り返ってみればその時戸惑いと同時に嬉しさもあったのかもしれない。
何故ならクリスにとって面と向かって好きと言ってもらえたことなど無かったのだから。
そして打ち明けてくれた身の上話からセツナの"好き"の気持が決して上辺だけではない、と。
胸の中にあったわだかまりが、敵意が解けていった。
それでも直ぐに打ち解ける事が出来たわけではなかった。
しかしリオの村に立ち寄りコレットに出会い気持がささくれ立ってしまった時、
その時慰めてくれたセツナにクリスは自分でも信じられないほど素直に甘えられた。
無防備な寝姿を晒せるほどに。
その時思ったのだった。
――この人になら全てを委ねても良いかも、と。
だから思い切って口にしてみた。
<……姉さんって、呼んでも良いですか?>
その日を切っ掛けに二人の仲は、そしてクリスのセツナに対する想いも急速に深まっていった。
自分を大切にしてくれるこの人の――姉さんの為なら自分は何だって出来る。 してみせる。
自分が諦めた女としての幸せも姉さんになら託せる、と。
(そうだ。 姉さんこそがリオにいさんにふさわしいんだ。 間違ってもあんな……、
あんな苦労知らずで何も出来やしない癖に只幼馴染みと言うだけのあんな女なんかじゃない……!!)
そう、クリスはリオを――自分の初恋の人をセツナに託そうと誓ったのだった。
女としては致命的な程の大きな傷を負った顔の自分では叶えられぬ想い。
それを自分が認め自分を大切に思ってくれる女性に託そうと。
必ず二人の仲を取り持ってみせる。 そう、二人の幸せこそが自分の幸せ。
そしてそんなクリスのセツナへの親しみの情は、
逆にそのままコレットへの強烈な嫉妬と敵意にも繋がってたのだった。
クリスがコレットに抱く敵意。 そこにはリオすら知らない因縁もあった。
コレットがクリスに向けた思いは顔の傷が怖いからと言う脅えだけではなかった。
幼かった当時クリスは一時ではあるがリオと共に暮らしていた。
其の事がコレットには面白くなかった。
リオと同じ家で寝泊りして"弟"として可愛がられてたクリスが妬ましかった。
そう、幼い頃クリスが虐められてた影にはコレットの思惑があった。
村一番の裕福な商家の娘であったコレット。
そんな彼女は幼い頃から特別な存在で村の同い年の子供は皆彼女の意のままであった。
だからクリスに辛く当たらせたのだった。 勿論リオに気付かれぬように。
だがクリスは気付いていた。 ただ証拠が無かったのと、リオに打ち明けてしまえば――、
そうしてしまえばリオに村で気不味い思いをさせてしまうのでは、と胸に仕舞い込んでたのだった。
その後時間が流れコレットが其の事をすっかり忘れてしまってもクリスは決して忘れなかった。
だから、だからクリスにとってコレットだけは絶対認められない相手だった。
数日後。
リオ達が再び村をあとにし冒険に向かう日がやって来た。
「いってらっしゃいリオ。 くれぐれも無茶はしないでね」
「ありがとう。 いってきますコレット」
そしてコレットは去りゆくリオの姿が見えなくなるまで見送った。
「これでまた次に会えるのは当分先かぁ……」
リオ達の姿が見えなくなるとコレットは寂しげに溜息をついた。
「それに、なんか今回のリオは様子がチョット変だったような……」
そう、食事をとりながらの団欒の時も食事もあまり進んでないようだったし、
会話もどこか上の空だった。
いつもは自分の家に泊まってゆくのに今回は一泊もしていかなかった。
(まさか……)
ふとコレットの脳裏に嫌な想像がよぎる。
(まさか他に女でも……)
幼馴染故にコレットは知ってる。 リオの魅力を。
反面色恋に疎く悪く言えば朴念仁な一面も持ってることを。
だがそんな女性に疎い面ですら女から見れば穢れ無き純粋さでも或る事を。
だから婚約も取り付けたのだった。
油断して手をこまねいてどこぞの泥棒猫に盗られてはたまらない。
そう、その為の婚約。
本音を言えば婚約どころかいっそ結婚したかった。
だが使命半ばの身でそんな大それた事はと諭され思いとどまらざるを得なかったのだ。
そんな生真面目なリオだから未だ体の関係にも到っていない。
そこまで考えてコレットはふっ、と笑みをこぼす。
考えても見ればそんな真面目なリオが他に女なんてありえないわよね、と。
その時勇者の少女の姿が不意に思い浮かぶ。
「まさかセツナ……」
異国の神秘さをかもし出す黒い髪と瞳。 凛とした気高さを感じさせる美しさ。
同じ女の目で見ても十分彼女は魅力的だった。
だからまさか――。
しかしそれもありえないだろうと首を振る。
彼女は勇者――すなわち救世主さま。
そんな人が人の婚約者と知ってリオに手を出すわけなんか無い。
だからこんな心配は全て杞憂だと吹き飛ばすように笑ったのだった。
To be continued...
次回からは戦闘に向けて新展開に入ります
新キャラも出ます
九十九>今回も其の独創的な設定が素晴らしい
瞳術と言うネタ事態は他にもあるがそのアレンジの仕方
描写テクニックがやはりスバラシイの一言
そしてミスターは本当にお疲れ様でした次回作期待してます
>>137 どうもです。
なんだか、リオよりもむしろ、クリスとセツナの関係にどきどきしてしまう。
みすたー乙!
クリスがその殺意をリオにいつむけるかと思うとドキドキしますw
>>110 小波を腹黒と書く歩の腹黒さにwktk
>>121 ミスターGJ!最初はあまりのへタレさに鮮血は逃れられないと思ってたけど
子供が出来てからだんだんと立派な父親と成長していくミスター素敵すぎだったw
そして薫のいい奴っぷりに切なくなった。・゚・(ノД`)・゚・。
>>137 コレット油断大敵だよコレット
ミスター・・・
物足りない気持ちとほっとした気持ちとが複雑に
混ざり合ってバターになりそうです
ではスレを投下致します
最終話『雪桜の舞う時に』
雪桜さんが書いた遺書を最後まで読むと俺はいつのまにか頬から涙の雫が流れていた。
知らないうちに泣いていたようだ。雪桜さんの切ない想いがこの胸のどこかに突き刺さった。
だって、そうだろ。
雪桜さんを追い詰めたのは結局はこの俺だ。
最初は助けようとしたのに、今では苛めグループ以上に雪桜さんの死の淵にまで追い詰める存在になったのだ。
これじゃあ、俺のやっていたことを妹を殺した殺人犯と何の違いがあるんだろうか?
直接を手を下しているわけではないが、間接的でも雪桜さんを殺すことになる。
自殺まで追い込んだのは全てこの俺だよ。
認めてやる。認めてやるさ。
殺人犯の娘だから距離を置く。それが二人にとっての幸せだと。
そんな風に決断していたこと自体が間違いだったってな。
だから、俺は雪桜さんにはっきりと言わなければならない。
遺書をズボンのポケットに乱暴に押し込むと俺は走りだしていた。
雪桜さんの言う『幸せ場所で幸せな死に方をします』は全然検討がつかない。
目的の場所も定まらずに俺は無作為に雪桜さんと一緒に歩き廻った思い出の場所を探す。
息が切れる。この猛暑の中で走るということはほとんど自殺行為に近い。
全身に流れる汗を拭く間もなく走る。それは辛いと思わない。
雪桜さんの方がずっと辛い目に遭っていたのだ。これぐらいで根を上げているようじゃあ、彼女を救うことができない。
だが、俺は焦っていた。
すでに電話を受け取ってから数時間以上が経過し、虎の騒動、家で遺書を読み、こうやって走り廻っている間に陽は傾き始めている。
夏だからすぐに暗くなることはないが、すでに自殺志願者が自殺するには充分な時間が流れている。
雪桜さんの生存はほとんど絶望的だ。
水分補給することなく、俺は胸が張り裂けそうな気持ちになって走り続ける。
雪桜さんの自宅、雪桜さんと一緒に行ったショッピングセンター。
雪桜さんに初めて買ってあげたあんまんが売っていたコンビニなど。
全て廻ったが、雪桜さんの姿はどこにもなかった。
もう、ダメか。
いや、一つだけ探していないとこがある。
学校だ。
夏休み期間中とはいえ、学校の中に入れる。
あそこなら、雪桜さんと俺たちの思い出がたくさん詰まっているはずだ。
ここがダメなら。もう、打つ手はなしだ。
初めて出会った場所である校舎外れの周辺を探ったが、雪桜さんはいない。
もう、夕暮に差し掛る頃である。学校が閉まる前に俺は開いた窓ガラスから侵入して外靴のまま、校内をうろついていた。
職員室には明かりがあったが、誰かに目撃されたらここで引き止められるので俺は恐る恐る廊下を歩いた。
雪桜さんの教室、俺の教室のとこに探したが、彼女はいない。
だとすれば、雪桜さんのいる場所は決まっている。
屋上だ。
>>110 続きが楽しみで楽しみでしょうがない
このノリすごい好きだわ
あそこは唯一二人きりになれる場所であった。俺と雪桜さんだけの世界。
あそこなら、雪桜さんが言っていた幸せだった場所に該当しなくはない。
だって、学校にいる間はほとんど二人で過ごしたのだ。
二人で談笑し合ってお弁当を分け合ったりして、一番楽しく過ごせた時間だった。
屋上に続く階段を登る。
傾いて行く夕日の眩しさが窓ガラスを通して入ってきた。
日が終わる行く光景はこんなにも美しいのだと場違いな事を思いながら。
屋上に出るためのドアを俺は躊躇なく開いた。
そこにいたのは学制服を着ている雪桜さんの姿がたしかに在った。
地上を寂しそうにフェンスを掴みながら見下ろしていた。
心地よい風が舞う。
俺は渇き切った喉の奥から声を出して言った。
「雪桜さん」
思いもよらなかった人物が現われたおかげで雪桜さんは怯えた表情を浮かべて、後ろに一歩下がってゆく。
俺がここに来ると思っていなかったのか、自殺を決め込んだ雪桜さんは動揺を隠さずにいた。
「あわわわわわ……。桧山さん!?」
「迎えにきたよ」
「こ、ここここ、来ないでください。それ以上近付いたら私はここから飛び降りるんだから」
「本当に死ぬ気があるんだったら。さっさと死んでるだろ」
「違うもん。今、死のうと思っていたんだから」
フェンスの網に雪桜さんは足をかけた。
これ以上挑発すると雪桜さんは飛び降りそうだが、俺は関係なしに一歩ずつ雪桜さんの距離を埋めてゆく。
「雪桜さんが死ぬって電話をかけてから何時間以上が経っていると思うんだ?
もう、数時間は経っている。本気で人生に絶望している人間なら死んでいてもおかしくはない。
だったら、何で雪桜さんは未だに死のうとしていない理由は……。俺がここに来ることを信じていた? 違うか」
「全然違います。違うんだもん」
慌ててフェンスの網をかけ登ろうとするが、踏み外して雪桜さんは思わずこけてフェンスに頭を打っていた。
痛いと叫んで、頭のおでこに手を当てながら蹲っていた。
それこそ雪桜さんだよ。
その間に俺は雪桜さんの距離を埋めて行く。
警戒する雪桜さんの視線が気になったが、俺は気にせずに近付こうとする。
「もう、こっちに来ないでぇ……」
「俺は信じていたぞ。心のどこかで雪桜さんは自殺しないってな。何の根拠もないけど」
「どうして? どうして、桧山さんは私のことを止めようとするの? 好きでもないくせに?
私が今までどんな気持ちでいたのか知らないくせに。あの女のことが大好きなくせに。もう、私のことを放っておいてよっ!!」
「違うよ。瑠依の事が好きじゃないんだよ」
「う、嘘だよぉ」
「嘘じゃない」
緩慢な歩みで俺は雪桜さんとの距離をなくして、ようやく手に届くところまでその距離を縮ませた。
雪桜さんは逃げる気配を見せずに涙目にして俺を見つめ続けている。
結局は全て悪いの俺なのだ。
雪桜志穂。
この少女が俺にとってどういう存在だったのかをもう一度だけ考えてみる。
いつも傍にいるだけで俺の心の隅々まで癒してくれる大事な女の子。一緒にいるだけで楽しかった。
幸せだったのだ。これからも手を繋いで一緒に生きていたい。
例え、自分の妹を殺した殺人犯の娘だったとしても、それがどうした。
雪桜さんがいない世界はもう考えることはできないんだよ。俺は死者よりも今生きている人を選ぶ。
これが必然なんだ。人は一人じゃあ生きていけない。ようやく、俺は自分の気持ちに気付いたよバカタレ。
だが、想いを伝えるのは勇気がいる。
俺は精一杯の勇気を振り絞って雪桜さんを見る。
雪桜さんの学生服の肩を掴んでそのまま俺は抱きしめた。
「うにゃ!?」
「俺、実は犬耳萌えなんだ」
「えっ?」
「だから、ずっと傍にいてください」
「ひ、桧山さん?」
俺はそのまま抱きしめたまま、雪桜さんのを頭を優しく撫でた。いつもしてあげるように。
彼女は硬直しているように見えるが、俺には多分視える。猫耳装備しなくても。
雪桜さんの猫耳と猫尻尾は嬉しそうに左右に揺らしていると。
更に言うなら、雪桜さんの頬がにやけていることもな。賭けていい。
5秒経過
10秒経過
20秒経過
30秒経過。
「うにゃあ。桧山さん大好きっっっっっーーーー!!」
やはり、雪桜さんは雪桜さんだった。
「私頑張って桧山さんのワンちゃんになりますね」
すでに陽は傾き周囲は真っ暗になっていた。雪桜さんは気持ち良さそうに優しく頭を撫でられていた。
スイッチが入った雪桜さんを宥めるには時間がかかる。
その間、互いを強く抱きしめてイチャついていたが、雪桜さんは俺の体から離れていきなり決心を決めたかのように真顔で言い放ったのだ。
雪桜さんに強い力で抱きしめられているのは幸いだった。
嬉しさの余りに俺は屋上から飛び降りたいぐらいに喜びを体で表現したくてたまらなかったからだ。
「えへへ。今日から私は桧山さんの彼女ですぅ」
「ああ。よろしくな」
何度目かのキスを交わす。
これからの日々を夢想しながら、俺たちはいつまでも抱き合った。
エピロ−グ
それから、数ヵ月後の月日が流れ。
再び春の季節が訪れた。
今年も桜が満開で散る桜の花々が舞っていた。
さて、一体どこから話せばいいだろうか?
俺は無事進級し、堕落な日々を送っている。
今年は受験生なのだから必死に勉強しなきゃいけないのだが、勉強机に向かおうとすると睡魔が襲ってくるので未だに勉強の一つもしていない。
ああ、メチャクチャやばいかもな……。
瑠依は、俺に振られてからも家に飯を食べにやってくる。幼児退行化する嘘がバレた次の日に家にやってくる鈍い神経がうやらましい。
雪桜さんはいい顔もせずに『私も桧山さんの家で食べます』と対抗心を燃やし、俺が作る食事は2人分多く作ることになった。
なぜ、二人分多く作るって? 決まっているだろう。
由希子さんはついに家事をするのがだるくなったので母娘ども俺が作った食事を狙ってきやがる。
なんて、恐ろしいんだ虎母娘は。
内山田は相変わらず女装して俺が内山田に気のあるそぶりがあると
クラス中や学年中に噂を流し放題でその噂を聞き付けた雪桜さんが
『むっ。私の桧山さんは渡せないんだからねっ!!』と半泣きで所有権を主張していたりする。
いや、内山田に遊ばれていることぐらい気付けよ雪桜さん。
肝心な雪桜さんはどうなったかというと。
桜が咲く季節に出会った苛められていた少女
その少女は自殺まで決意して、屋上から飛び降りようとした。
俺の告白を受けて、彼氏彼女の仲になって、それで・・
「はぅぅ。待ってくださいよ桧山さん」
それでこんな風に俺のすぐ傍にいてくれている。
桜の散る通学路を俺と雪桜さんは仲良く歩いていた。
俺の方が歩く速度が早いのか、時々雪桜さんの歩幅を合わせずに先に進んでしまうことはたまにある。
「捕まえたぁ」
嬉しそうな声を上げて、雪桜さんは俺の腕を組もうとしていた。
あの数ヵ月前の出来事から俺達は彼氏彼女の関係として付き合っている。
すでに学校では公認のバカップルとして名を広め、雪桜さんファンクラブに憎まれているがそれは別の話だ。
「桜の季節になると雪桜さんと出会った頃を思い出すよ」
「私も思い出しますよ。えへへ」
頬がにやけているよ雪桜さん。
「今度、一緒に妹のお墓参りに付き合ってくれないか?」
「あの、私も行っていいんですか?」
「当たり前だろ。彩乃に俺にちゃんとした彼女が出来たことを報告しなきゃいけないんだから」
「あぅぅぅ。緊張しますよそれ」
過去の束縛から抜け出して、ようやくお互いが笑い合う日がやってくる。
きっと、彩乃も俺と雪桜さんとの交際を祝福してくれるはずだ。
そして、俺達の関係は学園を卒業しても離れることなく続いてゆくだろう。
あっ。一つだけ聞いておかなきゃな。
「雪桜さん。今、幸せ?」
「うん。幸せだよ」
雪桜の舞う時に 完
DEADENDや鮮血の結末も良いが、こういったほのぼのとした終わりも大好きだぜGJ
割り込んじゃったぁあぁぁ(((( ;゚Д゚)))
本当に申し訳ない
お疲れさまでした
やっぱりハッピーエンドいいなぁ
でももう猫可愛い雪桜さんにもう会えなくなるんだと思うと…・゚・(ノд`)・゚・
皆様の声援のおかげでついに『雪桜の舞う時に』が無事に最終回を迎えることができました
どうもありがとうございます。
今回は苛められた少女をメインにした嫉妬修羅場モノを書こうとしたら、
猫耳嫉妬修羅場モノになってしまいました。本当は書き上げたプロットよりも大きく狂ってしまった気がします
まあ、伏線を張っておきながら全然消化してなかったりと作者の未熟な部分があったりしましたが、
なんとか最終回を迎えることができました。このスレは魔力ありすぎますw
最後に
雪桜の舞う時に 没になったルートの紹介
殺人犯の娘だと桧山剛に知られた雪桜さんは冷たく突き放され
更に不幸な出来事が起こる
雪桜志穂の母親が交通事故で死亡した事実を学校で聞かされて
彼女はただ一人暗闇を彷徨う
学校の学費を払えることができずに退学を迫られることに
仕事を探しても働く場所が見つからずに呆然としたまま
学校に赴くと虎と剛が仲良く登校している姿を目撃してしまう
その事が引き金になり、自殺を決意する
横断歩道を赤信号で渡ろうとすると、壮年の夫婦に腕を引っ張られて助けられる
壮年の夫婦に説教されるが、雪桜さんはただ泣き叫んでしまうだけ。
夫婦は雪桜さんに置かれている状況を理解するとこう言った
「家で引き取ろうか?」
桧山剛が自宅に帰ると驚愕した。
家に帰ると一ヶ月前に突き放して別れた雪桜さんが家の中で剛を迎えていた
「剛。今度、家に住む事になった雪桜志穂ちゃんだ。仲良くしてくれ」
こうして、雪桜志穂は桧山家の一員になった
桧山剛は雪桜さんに逃げられない状況を偶然的に作り出された
その後に起こる展開は剛にとって過酷な運命になってゆく
という没ネタです。ようするにストーカーが自分の敷地に入ってきたと同じ意味なルートにしてありますw
さて、今後の展開としては
姉妹ネタを次回作に投下しようと考えていますが時間がないので投下が随分と遅れることになります
次回作の構想は
家族の絆(ヒロイン姉妹)VS幼馴染の約束(泥棒猫)
になっております。
では長文になりましたが、
ここまで読んでくれてありがとうございました。
153 :
名無しさん@ピンキー:2006/11/04(土) 01:01:44 ID:5vZaT26M
今夜は二つも完結か・・・寂しくなるな。
投下します
「……ッ!」
がばり、と跳ね起きた。
ぼんやりとした意識を必死で覚醒させ、状況の把握に執心する。
――暗い。
自室に敷かれた布団の上。
障子の向こうは真っ暗で、おそらくは深夜だろう。
ということは、12時間近く寝ていたのか。
ズキリ、と右腕が痛んだ。
顔をしかめて腕を上げると、包帯の白が闇に映えた。
指先を動かそうとして――激痛に目を瞑ってしまう。
「……痛むってことは、神経は生きてるってことだよな」
気絶した後、すぐに手当てしてもらえたのだろう。
おそらく、神経までしっかりと繋げてもらったはずだ。
浦辺家お抱えの医師は手足の縫合さえ独力でこなせる腕前だし、
治療器具の付喪神だって何体かこの家に住んでいる。
死にさえしなければ、回復できる可能性は高かった。
とはいえ、綺麗に真っ二つにされたのだ。
元通りに使えるようになるまでは、結構時間がかかるだろう。
「……それより、橘音さんと流は――」
2人とも重傷のはずだ。
自分と同じ理由で助かっているとは思うが、この目で見るまで安心は――
「――使用人も刀の小娘も、命に別状は無かろうて」
凛とした声が、部屋に響いた。
慌ててそちらに目を向けると、そこには。
「……何じゃ。まじまじと見つめおって。
其方の目は正に毒ゆえ、向けられると気が気でないわ」
俺の腕を真っ二つにしやがった、
包丁の付喪神が、ふて腐れた表情で、座っていた。
「お、おま、おまえ――」
ちょっとまて。
俺は確かに、瞳術でコイツの気力を半殺しにしたはず。
死にはしなくとも、数日はまともに動けないくらいに、“見つめた”はずだ。
「――たわけが。これでも五百は齢を重ねし変化ぞ。そこらの妖怪と同じに見るな。
……だが、まあ、動くだけで精一杯じゃ。暴れるどころか害意を抱くことすら困難よの」
はあ、と溜息をこぼしている。
……えっと、要するに、アレか?
「……降参、ってこと?」
「……察せ」
「随分と、潔いんだな」
「ふん。害意すら抱けぬ身でどうしろと。
それよりヌシこそ、妾を消さなくていいのか?
先程の感触からして、消そうと思えば消せたろうに」
「……それは」
「限界だったとは言うまいな。数瞬ではあるが余裕はあったはずだ。
情けか? だとしたら、今のうちに調伏しておくことを勧めるぞ。
――元に戻り次第、刻み殺してしまうやもしれぬからな」
情けでは、ない。
でも……うまく言葉にできないので。
つい、どうでもいいことを言って誤魔化そうとしてしまう。
「――お前、綺麗な声なんだな」
「な――何を言うか、このたわけが!」
あわてふためき睨み付けてくる。が、目が合いそうになると慌てて目を逸らす。
やべ、ちょっと可愛いとか思ってしまった。だって外見は普通に女の子だし。
それに、実際、声の質が全然違う。今は外見相応の、鈴を鳴らしたような透き通った声である。
「いや、だってさ。さっきはあんなに嗄れた声だったし。怖かったし」
「……恨み辛みの思念だったから、当たり前じゃ。
むしろ、素の状態で声を出すなぞ、記憶の果てより久方よ」
もごもごと、そんなことを言ってきた。
……恨み、か。
こいつは、アレだけのことをしでかすくらい、浦辺の家を憎んでいた。
その原因は何なのか知らないが――ひとつだけ、気になることがある。
――それだけ浦辺の家を恨んでおきながら。
どうして、瞳術に対して、あそこまで無防備だったのか。
復讐する流派の得意技くらい、普通は把握しておくものだろう。
なのにこの付喪神は、浦辺流瞳術に対しては、完全に無警戒だった。
もし、何かしらの対策を立てられていたら、腕一本では済まなかった可能性も高い。
こいつは、それだけ格の高い妖怪だ。それは、目を合わせた俺がよくわかっている。
だというのに、何故――
そのことを質そうとしたが、その前に少女の方が、
「――しかし、卜部の連中は、いつの間に宗旨替えなぞしたのか?
油断したなどと言うつもりはないが、それにしても思い切った路線変更よの」
「は? いや、ウチは確か、開祖から瞳術一本だって聞いてるけど……」
「? そんなはずはなかろうて。
卜部といったら卜占と神通力ではないか。
こんなこと、成り立ての小物ですら知っておるわ」
「いや、浦辺の家は瞳術だぞ。
これ一本だったから、逆にここまで凄いものになったんだ。
それは、味わったお前もわかるよな」
「確かに――そうだが、しかし卜部の家は……四百年前も……」
まて。
なんか、今、聞き流せないことが。
「ちょっと待った。お前、昔に退治かなんかされて、それを恨んでるんだよな?」
「む――そうだが、どれがどうかしたのかえ?」
「で、それは大体何年前? ちょいと教えてくれないか?」
「……ふん。忘れもせん。あれは四百年前の――」
「あのさ。ウチ、それなりに長いけど、それでもせいぜい300年だぞ」
俺の言葉で。
深夜の和室が、絶対零度の氷室になった。
「…………」
「…………」
「……さん、びゃく、ねん?」
「ああ。親父の代で十一代目だ」
「待て待て待て待て!
卜部の家が三百年だと!? 世迷い言を申すな!
神通力を授かって千年(ちとせ)を遙かに超える一族が――」
「――なあ。ちょいと、思ったんだが」
ふと、ひとつの仮説が脳裏に浮かんだ。
それは至ってシンプルで。
なんか、色々言ってはいけないようなことの気もするが。
――思い切って、言ってみた。
「――お前さ。家、間違えてない?」
「…………」
「…………」
「……ここ、ウラベの家、よの?」
「うん。……あ、字は、浦島のウラに浜辺のベ」
「じ、字は違うのは、年月を経ればよくあることではないか。
……ちなみに、卜占のボクに部署のブ、と家伝書に書いてあったりはしないのけ?」
「うんにゃ。というか、それって日本史の教科書に載ってた名前だよな。
……あー、なんか、有名どころでそんな名字もあった気がするけど……。
ごめん、俺、他の流派のことについては詳しくないんだ」
「…………」
「…………」
「え、じゃあ、まことに、宗旨替えしたわけじゃなくて」
「ってか、ウチ、神通力なんて欠片もないぞ。悲しくなるくらいに」
深夜なのに。
どこからか、かこーん、と鹿威しの音が聞こえた気がした。
「…………っ」
わなわなと震えながら、少女はがっくり項垂れていた。
えーと。
こういう場合は、何と声をかければいいのだろうか。
とか何とか迷ってるうちに、気付けば少女は、俺の目の前まで歩み寄ってきていた。
……ちょ、なんか、迫力がおありになってぶっちゃけ怖いんですが……!
「…………えせ」
「え、なに?」
「――妾の、妾の復讐を返せえええええええええええええええっっっ!!!」
襟首を鷲掴みにされ。
がっくんがっくんと揺らされた。
うお、マジ泣きしてる!?
「あらゆる妖怪を屠ると謳われた一族を血祭りに上げるために、
妾がどれだけ怪異を磨いたと思っておるのだっ!
どれだけ憎しみと年月を積み重ねてきたと思っておるのだ!
四百年じゃぞ、四百年! よんひゃくねんっ!
それを、それを、同じ名前の関係ない一族に無駄にされた妾の気持ち!
貴様にわかるというのか、わかるはずもあるまいて! うわーん!」
うわーんて。お前恥も外聞も捨て去ってるな。
橘音さんや流を血祭りに上げたのと同じ奴とは思えないのだが。
まあそれはそれとして。
とにかく落ち着いてもらわなければ。
「と、とにかく落ち着け!
お前、今、瞳術で殆どの気を殺がれてるんだから、
下手に興奮して暴れたら、そのまま死にかねないぞ!?」
「更に気に食わないのが、関係ないはずのヌシが、ここまでの力を持っていることじゃ!」
「え、俺!?」
「そうじゃ! 何なのだ、その瞳は! 反則以外の何者でもないわ!
下手したら仙狐すら調伏しうる眼力じゃぞ!?
責任を取れ! 責任を! さもなくば泣いてやる! うわーん!」
「待て、落ち着け! お前言ってることが無茶苦茶だぞ!?」
「責任を取って、ヌシが妾の復讐を手伝え! ――っと、おおっ!?」
かくん、と。
少女から、力が抜けて。
俺の襟首を掴みながら、こちらにもたれかかって――
ぷにゅ、と。
唇に、柔らかい、感触。
目の前に、少女の瞳。
髪と同じ鈍色の瞳は、少女の重ねてきた年月を表しているかのようで。
――怨恨に疲れて、しかし真っ直ぐ、純粋な色。
それを、口づけながら見つめてしまった。
正直に言おう。
くらくらした。
陶酔から体は動かず、そのまま十数秒、少女と唇を重ねてしまう。
やがて息が苦しくなって、どちらからともなく、顔を離した。
だが、目は合わされたまま。
顔を逸らすことなどできず、互いの瞳を見つめていた。
「――妾を、くれてやる」
至近距離で、少女の唇が、艶めかしく動いた。
「ヌシ――郁夫といったか。
……郁夫、妾の伴侶となれ。それで責任を果たしたと見なしてやろう」
「は? なんだそれ――んむっ!?」
「……ちゅく……ぷは。妾の全てをくれてやる。
変化としても、女としても、好きに妾を扱うといい。
五百年ものの付喪神じゃぞ。そこらの妖怪を式にするのとは訳が違う。
女としても――ふふ、心ゆくまで尽くしてやろうではないか」
な、何言ってるんだコイツ……!
というか、襤褸一枚しか纏ってない少女が、こうもぴったり体をくっつけてきてると、
何というか未知の感触があちこちに押しつけられて……うああ、ちょっとピンチ!?
柔らかくてすんごく気持ちいいし!
いやいや騙されるな俺! コイツは橘音さんや流に重傷を負わせたんだぞ!
だってのに乳や太股を押しつけられた程度で……程度で……柔らかいなあ……。
――それに、悪い奴じゃなさそうなんだよなあ……。
「ヌシの瞳は……妖魔を狂わせるのだ。
それは妾も例外ではない。先程の瞳術、かけられた瞬間から、体の芯が甘く痺れたぞ。
間近で見たら、もう我慢できぬ。今は愛しさすら覚える始末じゃ。
……だから、のう、郁夫。妾の伴侶に――」
少女の瞳は、甘くとろけきっていて。
瞳術が、効き過ぎてしまっていたようで。
過去に一度、似たようなことがあったのを思い出した。
――と。
どたどたどた、と。
荒々しい足音が聞こえてきて。
すぱん、と障子が開け放たれた。
「――申し訳ありません、郁夫様!
包丁の付喪神が、私たちの目をかいくぐり、どこかに逃げ出してしま……」
相当に慌てた声は、しかし途中で詰まったかのように止められた。
声の主は、こちらを見下ろし、あんぐりと口を開いている。
……呆気にとられる気持ちはわかる。
なんせ、重傷を負っていた少年の上に、消えたはずの少女が乗っかっているのだから。
しかもその様子は、どう贔屓目に見ても睦事のような甘い空気で。
更に、だめ押しとばかりに、
「郁夫……んちゅ……ちゅく……ぷはっ。ふふ、おなごを抱くのは始めてか?
愛い奴よのう。たっぷり可愛がってやるからな……。
……ん?
なんじゃ、刀の小娘。
今、ヌシの主は取り込み中じゃ。一刻ほどしてから、再び参れ」
とか何とか、挑発しちゃってますよこの包丁ー!?
「……な」
「――何してるんですか、貴方達はっっっ!!!?」
深夜の浦辺亭に。
流の大絶叫が、響き渡った。
茅女さんはドジっ娘
シリアスを期待してた方、誠に申し訳ありませんorz
九十九の想い、第一部の序盤は軽めの路線でいかせて頂きます。
楽しんで頂ければ嬉しいです。
>>152 完結お疲れ様です&GJ!
雪桜さんが可愛すぎです。こうもってくるとは予想外でした。
楽しい作品をありがとうございました!
ミスターも雪桜も爽やかな読後感が気持ち良かった。
GJ&お疲れ様です!
でも没ルートで追い詰められる桧山も見たかった自分マジ腐ってやがるw
勘違いね・・・そう来たのね・・・
GJっす
いやっほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
勘違い最高ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅう
>>152 GJ&お疲れ様です
没ネタのほうも凄く・・・いい(*´д`*)
次回作をのんびりと待たせてもらいます
楽しみにしてます
>>162 作者様GJ!
軽め路線が好きおいらにとっては溜まらん!
雪桜お疲れさまでした〜なんか立て続けにハッピーエンドなためか
寂寥感より満ち足りた幸せな気持ちにさせられているよ・・・
「キャァァァァァァァッッッ!」
「あらあら、人の顔を見て叫ぶだなんて失礼ではありませんか?」
「嘘、嘘よ! な、なんで貴女がここに居るの19スレ!? 貴女は、貴女は私が…」
「うふふ、『私が埋めたはずなのに』ですか? 20スレさん」
「ひぃっ!」
「あはは『ひぃっ!』ですって。あの人を得るためなら恋敵を車で入念に轢いて
死体を山へと埋めるだけの行動力があるのに、可愛い声だこと」
「うぅ、ひっく! じょ、成仏、しなさいよぉ…」
「成仏? 成仏なんてできるわけないでしょ?」
「なんで、なんで今なのよぅ。
今あの人に纏わりつく雌豚を消さなくちゃいけない大事なときなのに…」
「安心して。雌豚の抹殺は わ た し がしてあげるから」
「え?それ、どういう…」
「あの人も私の姿より貴女の姿の方が好みらしいし、不本意だけどね」
「や、やめて、触らないで、い、い、い、イヤァァァァァァァッッッッ!!」
『さぁって、あの人に纏わりつく雌豚ちゃんを屠殺しに行こうっと♪』
投下先を誤爆した。
本当は19か20に投下するはずだった。
「これ以上投下されて相手より早く落ちたくない」という19スレと20スレの怨念が
21スレに誤爆させたと結論付けたので反省しない。
>>152 お疲れさまです。
雪桜さんがとても可愛くて、そして癒されるラストでした。
つかハルヒですかw
>>162 ドジッ娘っぷりに萌えたw
流との邂逅もいつか読んでみたいです。
母上ごめんなさい
私は薫嬢と幼馴染と犬耳少女に飽きたらず、包丁と
>>170に萌えられる男になってしまいました。
ごめん、自害するよ!!(AA略)
174 :
名無しさん@ピンキー:2006/11/04(土) 07:54:15 ID:5vZaT26M
気にするな。 自分もだ。
俺もいるぜ
俺を忘れてもらっちゃ困るな
お前だけに、いいカッコさせるかよ
皆死亡フラグwwww
お前らに辛い想いをさせる訳にはいかない
ここは俺に任せて皆笑って帰るんだ
じゃあ…俺も残ろうかな…
投下しますよ
結局あの後、何度も放出してしまった。そのせいなのか体は少し重く、朝には強い筈の
僕なのに思考も上手く回らない。薄く目を開くと、二人が僕に抱きついているのが見える。
良い夢でも見ているのか穏やかな寝顔を浮かべ、背は長い呼吸に合わせて緩やかなリズム
で上下している。勿論シャツは着ているし、下着も履いている。行為が終わるや否やすぐ
に寝てしまった彼女達の股間やシャツを拭い、更には衣服を着せるのは妙な気分だった。
「しかし、こんなに可愛いのに」
あんなことをするなんて。
拭ったとはいえ、シーツやシャツに未だ強く残っている匂いは仕方ない。慣れているの
だろう、気にした様子もなしに普通に眠っている様子を見れば彼女達の日常に昨晩の行為
が含まれていることが分かる。理解していても心は重く、目が覚めた今では尚辛い。
理由は、行為の最中にリーちゃんが話してくれた。食事などを受け取る代わりに二人の
体を差し出す、簡潔に言えば娼婦の行為を長い間続けていたせいで、こうした恩を受けた
後は行為をしないと眠れなくなったこと。仮に眠れたとしても夜中に目が覚めてしまい、
吐いてしまったりすること。リーちゃんが話した後、ユンちゃんは悲しそうな顔で謝っていた。幼い体に刻まれた傷は、
多分僕が想像しているよりもずっと深い。
「これから、治していこう」
眠っているので聞こえる筈もないが、二人に向けて呟いた。
「ん」
髪を撫でていると、不意にユンちゃんの体が動いた。ゆっくりと目を開き、こちらの顔
を見上げてくる。どうやら起こしてしまったらしいが、ユンちゃんは特に不快そうな様子
もなく、笑みを浮かべて胸に顔を擦り付けてくる。子犬のような愛くるしさがあった。
「お兄ちゃん、おはよう」
「うん、おはよう」
挨拶を返すと、体を抱く力が強くなった。
「リーちゃん、朝だよ。起きなきゃ」
僕から体を離して、次にリーちゃんの体を揺する。それなりに激しくしているのだが、
リーちゃんは朝が弱いらしい。瞼を一瞬痙攣させただけで、再び穏やかな寝顔に戻る。
「ごめんね、リーちゃんおねぼうさんなの」
苦笑をこちらに向けて、先程よりも更に強く揺する。しかしリーちゃんは揺すられまい
と、僕の体を強く抱き締める。ここまでするくらいならば起きた方が楽なのではないかと
思ったけれど、そこにはリーちゃんのこだわりがあるのだろう。先日引っ越した罪人友達
で、他人に起こされたり自分の決めた時間以外に起きるのを酷く嫌がる奴が居た。それの
亞種のようなものだろうか。
しかし、今起きないのは不味い。もう暫くすれば定時報告やスケジュールの確認をしに
ナナミがやってくるし、そうなれば強制的に叩き起こされた上に説教がくるだろう。甘や
かし過ぎかもしれないが、それは少し可哀想に思う。
どうすれば良いのか。
考えた直後、快音が響いた。
空気を裂くような高い音が一つ、そして一拍置いて連続で響いた。目覚まし時計なんか
とは比べるべくもない大音量のそれは、リズムを持って打ち鳴らされる。何が起きたのか
と音のする方向に目を向ければ、リサちゃんがフライパンとおたまを持って立っていた。
どうやらそれは、リサちゃんが出した音だったらしい。リズムは昨日ソードダンスのとき
に歌っていた曲のものだと思い出した。
「おはよう、リサちゃん」
「おはよ、おにーさん」
「何で、さっきみたいなことしたの? ナナミに怒られるよ?」
あんなに五月蝿かったのだから、ナナミもすぐに気が付いて飛んでくるだろう。近所に
住んでいる人は他に誰も居ないので近所迷惑にはならないけれど、それ以外にも叱るべき
部分は山程ある。おまけに、リーちゃんを起こす時間制限が短くなった。
「う、ごめんなさい。昨日テレビでやってたから試したくなったの」
確かにニュースのランキングコーナーで『人を起こす方法第1位』だったが、実行する
のは良くない。それに、最終手段としてのみ使って下さいとの注意があったように思う。
しかしそう言うだけあって、効果は抜群だった。
「……うるさい」
漸く目が覚めた。
「何の騒ぎですか?」
「あらあら、随分賑やかね」
声と共に、ナナミとサラさんが入ってくる。サラさんは相変わらず笑みを浮かべている
が、ナナミは眉根を寄せた表情だ。せっかくナナミが来る前にリーちゃんが起きたという
のに、どうしてこんな状況になるのだろう。
「おまけに、モテモテじゃない。羨ましいわ」
「良いなぁ、おにーさんと一緒に寝て」
「今日からは、そのようなことは控えて下さいませ」
三人とも何故かおかしな方向を向いているが、どうしたことだろう。僕は三人の視線を
追って自分の股間に目を向けた。そこにあるのは膨らんだ股間だが、これは朝の生理現象
だから仕方がない。昨日の夜には酷いことになったものの、これはまだ言い訳が効く筈だ。
しかし皆は声を揃えて、
「「「ロリコン」」」
リサちゃんまで言うことはないだろうに。
数分。
手早く身支度を済ませ、ナナミを除いた全員が揃っていた。これからリーちゃんとユン
ちゃんの衣服やベッドを買いに行く為だ。僕はナナミにも来てほしかったのだが、二人の
部屋を確保する為に物置の整理をするということで断られた。ナナミが埃に塗れながらも
一生懸命働いているというのに、こんな風に遊んでいて良いのだろうかと思う。それこそ
何百年も繰り返していることなのに、今更になって意識してしまうのはユンちゃんとリー
ちゃんが来たからだろうか。
「ブルー、どうしたの?」
「おにーさん、何か辛そうな顔してる」
肩車していたリサちゃんが、体を丸めて覗き混んできた。バランス感覚が良いのか頭に
負担がかかるようなことはないが、その代わりに落ちないようにする為に首を太股で締め
つけてくる。昨日の行為の始め、僕の手を挟んできた双子の太股の感触が脳裏に蘇って、
思わず反応しそうになった。気付かれないようにと笑みを浮かべた。
「ところで傍目から見たらわたし達、どう見えるのかしら」
僕を気遣ってか、サラさんは話題を変えてくれた。
「親子連れ、かな?」
そういえばユンちゃんが僕に初めて会ったとき、親になってほしいようなことを言って
いた。リサちゃんも口には出さないが、たまにそんな反応を見せるときがある。やはり親
に会いたいのだろうか、それとも本物の親は嫌いで誰か他の人になってほしいのか。
両手に捕まって歩いているリーちゃんとユンちゃんに目を向けると、手を握る力が強く
なった。朝からのことで気が付いたことだが、彼女達は気持ちを伝える場合は言葉よりも
行動でそれを示すことが多い。抱きついてきたり手を握ってきたり、その力を強めたり弱
めたりすることで伝えてくる。その辺りの要領が分かってくれば、何が言いたいのか言葉
がなくても分かるし、逆に僕が示すことで気持ちを伝えることも出来る。
「……パパ」
不意に、リーちゃんが呟いた。
「パパ!」
ユンちゃんもそれに乗ってくる。
「おとーさん」
リサちゃんもだ。
「じゃあわたしは?」
三人は顔を見合わせ、
「「「パパじゃない奴!」」」
「これは、ママとして扱われているのかしら?」
どうなんだろう。
微妙に落ち込んでいるサラさんを慰めながら、僕達は洋服屋に入った。
今回はこれで終わりです
修羅場まであと少し
ミスターの人です。
ミスターが終わって早速ですが、新作を投下します。
189 :
ツイスター:2006/11/04(土) 15:06:12 ID:xR7vOEw6
「妹研究会」、略して「妹研(いもけん)」なる団体に引きずりこまれて一年近く。
簸川太郎(ひのかわたろう)は、いつものように部室の隅でマンガを読んでいた。
そして、やはりいつものように部員が激論を交わしているがかかわる気はさらさらない。
「妹といえば、微乳だろ」「馬鹿、乳はあったほうがいいに決まってるだろうが。妹とロリは違うんだよ!」
「妹がロリじゃなきゃなんだってんだよ!」「お前、妹萌えに擬態したロリ野郎だったのか、裏切り者!」
「やめろ!ロリでもなんでもいい。妹が好きならそれでいいじゃねえか」
かかわる気が失せるのもムリはなかった。
太郎は、妹研において唯一の妹持ちだ。そして、現実の妹は彼らが抱いているような甘い妹幻想を打ち砕いてくれる。
つまり、太郎は妹萌えなるものを理解することができない。
そんな太郎がここにいるのは、妹研の部長であり、友人である山鹿(やまが)の意向だ。
現役の妹保持者を置いておくことは妹研にとって必要なことだと信じていた山鹿に、強引に入部させられた。
そして太郎も、ばかばかしいとは思いながら、部室にある大量のマンガを目当てに入り浸っていた。
むろん、よりよい妹について研究する妹研究会などという団体を学校が公に認めるはずもない。
ここの表の看板は、「日本文化研究会」、略して「日文研(にちぶんけん)」だ。
建前の上では、妹研究は日本文化研究の一環ということになっている。あくまでも建前だが。
こんな団体でありながら学校から立派な部室をもらい、少ないながら部費ももらっていた。
その事実に、軽音楽部を掛け持ちしている太郎は怒りを覚えないでもなかった。
しかし、こうして自分も恩恵を蒙っている身であるし、山鹿にはそれなりの恩もあった。
もともとはまともだった日文研をこんな風にしてしまったのは、山鹿だ。
部員3人の弱小同好会に入り込み、怪しげな奴らを呼び込んで部へと昇格させ、その功績で部長になった。
そしていつのまにか、日文研を妹研にしてしまった。早い話、部を乗っ取ってしまったのだ。
やっていることは実にくだらないが、その行動力と謀略術には目を見張るものがあり、太郎はひそかに尊敬していた。
めがねをかけた顔はそれなりに整っていて、頭もよく、背も高いのでそれなりにもてるようだった。
それでも、「妹以外とは付き合わない」というポリシーのもと、一人身を通していた。
ちなみに、山鹿は一人っ子だ。頭はいいのに馬鹿だった。
190 :
ツイスター:2006/11/04(土) 15:07:08 ID:xR7vOEw6
「俺、そろそろ帰るわ」
マンガを読み終えたので、帰ることにする。
部員たちの言い争いを、コロシアムの観客のように眺めていた山鹿が、振り返った。
山鹿はいつものように、ずれてもいないめがねを直しながらいった。
「明日は軽音の日だろ」
太郎が掛け持ちしている軽音楽部、略して「軽音」の活動日は、月水金の週3日だった。
今日は火曜日だ。だから、明日はそっちに行くことになるはずだった。
「すまないんだが、明日もこっちに顔を出してくれないか。大事な用があるんだ」
妹研に入れられて以来、基本的にこちらがやることに不干渉だった山鹿が、そんなことを頼むのは珍しい。
いや、山鹿が頼みごとをすること自体が珍しい。
だから、承諾した。思えば、そこで不審に思うべきだったのだろう。もはや後の祭りなのだが。
学校帰りに、スーパーによって買い物をした。夕食の材料だ。
太郎は、妹と二人で暮らしていた。だから、食事も自分で作らなければならない。
別に、暗い事情があるわけではない。ワインの輸入業者をしている両親が、しばらく海外に行ったきりになっているだけのことだ。
太郎も妹もついていかなかった。二人はすっかりパリが嫌いになっていたので。
太郎の置かれているこの状況を、妹研の連中は典型的なエロゲ的シチュエーションだと羨ましがった。
だからといって、むろんエロゲ的イベントに恵まれるわけでもなく、太郎は相変わらず童貞を守っていた。
山鹿ほどではないが顔も悪くないし、頭はよくないがギターが弾けて、妹がいるのでそれなりに面倒見もよかった。
そういう自分がもてないはずがないと思いながら、異性と付き合った経験もなければ、キスをしたこともなかった。
だからといって、妹に手を出すほど飢えてもいない。
一般的な高校2年生ほどには、飢えていたが。
191 :
ツイスター:2006/11/04(土) 15:07:46 ID:xR7vOEw6
家に帰って、「ただいま」と声をかけるが「お帰りなさい」はない。これもまたいつものことだ。
妹である一子(いちこ)は、リビングでテレビを見ていた。
「おそい!腹減った!すぐ作れ!」
帰ってきて最初にこれだ。太郎は、うんざりする。
「だったら、自分で作って食えばいいだろ」
「何いってんの。今日は、あんたの番でしょうが」
食事は、毎日交代で作ることになっている。家事は、大体交代で行っていた。一子のいうとおり、今日は太郎の番だ。
妹研の連中のヴァーチャル妹なら、愛する兄のために全部やってくれるのだろう。
帰ってきたときには、「お帰りなさい、お兄ちゃん」なんていって。
そもそも、実の兄を「あんた」と呼ぶような妹は、連中の脳内にはいないはずだ。
しかし、現実は厳しい。連中に見せ付けてやりたかった。
いや、山鹿なら「それはそれでいい」なんていいかねなかったが。
とにかく、とっとと着替えて食事を作ることにした。
一子が怖いわけではなかったが、むやみに怒らせる必要もない。良好な人間関係のこつは、こちらが一歩引いてやることだ。
手早く、野菜炒めと味噌汁を作る。それから、スーパーの惣菜コーナーで買ってきたジャガイモコロッケを加えて今日の夕食とした。
「おい、運ぶのぐらい手伝ってくれよ」
「いや」
一子はテレビにかじりついていた。仕方がないので、一人で皿を運んだ。
食事中に会話はほとんどなく、一子は相変わらずテレビを見ながら食べていた。
別に、いつものことなので気にはならない。
「ごちそうさま」
歌番組が終わったところで、一子は立ち上がった。そのまま、二階にある自分の部屋に行こうとした。
「おい、自分が食べたやつくらい運んでくれよ」
「いや」
そういって、どたどたと階段を駆け上がってしまった。仕方がないので、一人で皿を運んだ。
妹との暮らしは、かくのごとく乾いたものだ。ぜひ妹研の連中に味わってもらいたい。
昔はこうではなかったはずだ。兄妹仲はよかったし、一子は太郎をお兄ちゃんお兄ちゃんと慕ってくれていた。
それがいつの頃からか、そっけなくなった。いや、学校が楽しくて太郎の方があまり構ってやらなくなったのか。
なんだかんだいっても山鹿は面白い男だし、軽音も面白かった。
しかし、だからといって今の仕打ちはないと思うのだが。
洗い物を終えてから、風呂に入り、そして自分の部屋で音楽を聴くのが、太郎の日課だった。
父親の影響からか太郎はプログレが好きだ。今では「King Crimson」を崇拝していた。
学園祭の出し物で、「21世紀の精神分裂病者」をやるのが太郎のひそかな野望だった。
192 :
ツイスター:2006/11/04(土) 15:08:19 ID:xR7vOEw6
翌朝、目覚まし時計にたたき起こされる。妹研の連中のヴァーチャル妹なら、毎朝優しく起こしてくれるのだろう。
そして、心のこもった朝食を用意してくれているに違いない。
けれど、台所においてあったのはシリアルとシリアルボールだった。見事な手抜きだった。
仕方がないので、それを食べる。物足りなかったので、ジャーに残っていたご飯でお茶漬けを一杯食べた。
一子は、もういってしまったようだ。一子のつかったボールが、流しで水につかっていた。
それと、自分のボールと茶碗を洗って、太郎も家を出た。
登校途中で、いつものように山鹿と合流した。これもまたいつものことだ。
ただひとつ違っていたのは、山鹿が、学生かばんのほかに大きなバッグを肩から下げていたことだ。
ずいぶん、重そうだった。しかもそこから、獣の匂いが漂っていた。
突っ込むのがいやだったので我慢していたが、校門付近でとうとう耐え切れなくなった。
「なんだそれは」
「いいものだ」
山鹿はにやりと笑った。それ以上答えるつもりがないらしい。今日の妹研にそこはかとなく不安を覚えた。
ちなみに、クラスも山鹿と一緒だ。これは、一年生の時からそうだった。
そして、放課後。
ホームルームが終わって、教室を出ようとしたところを山鹿に引き止められた。
「どこへ行く。一緒に妹研に行こうぜ」
「いや、軽音に伝言だけ残していこうと思って」
そういうと、山鹿はこちらの目を見た後、解放してくれた。
「絶対に来てくれよな。頼むから」
そこまで執拗にされると、ますます不安が募る。
それを振り払うようにして、軽音に向かった。
軽音の部室は、妹研のように校舎内にはなく、グラウンドの隅にあるプレハブを部室にしていた。
夏は、とんでもなく暑くなったが、ここならいつでも気兼ねなく大きな音を出すことができた。
ちなみに今は春で、部室内も快適だ。部屋にはまだ誰も来ていないようだった。
「今日は、日文研に顔を出します。ごめんなさい。簸川」そうホワイトボードに書き残して、今度は妹研の方に向かった。
妹研の部室の戸をあけて、太郎は固まった。
部屋の中央に、山羊の生首がおいてあったからだ。銀色の深い大皿の上にのっている。
作り物だと自分に言い聞かせようして失敗した。はっきりとした獣臭と血臭が漂ってきたからだ。
それは今朝方、山鹿のバッグからかすかに漂っていたのと同じものに違いなかった。
「よく来てくれたな」
いつの間にか太郎の正面に立っていた山鹿が肩をたたいていった。
太郎は、それを無視して、帰ろうとした。くるりと振り返ると、そこには二人の部員が立ちはだかっていた。
帰す気はないようだ。
「まあ、待て。動揺するのはわかるが、落ち着いて話を聞いてくれ」
山鹿のその言葉に、体を向き直した。いわれたとおり、心を落ち着かせようとした。
そうだ、部室に山羊の生首が置いてあるだけだ。最近の高校ならよくあること。
しかし、山鹿が続けた言葉を聞いて、今度こそ帰りたくなった。
「これより、妹召還の儀を執り行う」
以上、第1話「最後の日常」でした。
タイトルの「ツイスター」は「ツインシスター」の略です。
タイトルどおりのお話です。
GJ
そっか俺に妹が居ないのは、妹って
召喚するものだからか
途中送信orz
「うー、疲れたぁ。」
エリナちゃんが暴れ回ったせいで交番内はぐちゃぐちゃ。あと片付けの手伝いまでさせられちまったぜ。
時間はもう七時近く。あー、やばい。茜のやつ、お腹空かして待ってるだろうなぁ。だが大丈夫。ぬかりは無い。しっかりと食材は買ってきた。久しぶりにご馳走でも作ってやろうじゃないか。
「ただいまーっと。」
誰もいない家に無事帰宅。材料を持ったまま、二階へ向かう。料理は茜の家の台所でやるから、全部もってかないといけない。
「さぁ!まるでサーカスの猿のように、身軽に舞う!!」
部屋の窓からベランダへ。食材を持ってたってへっちゃらさ。
ダン!
「ふぃー、おーい、茜。遅くなっちまったけど、これから夕飯の準備するぞー。」
呼び掛けてみるが反応は無い。いつもなら忠犬のごとく駆け寄り、尻尾があったら千切れんばかりに振っているであろうほどの笑顔をみせるのだが……
「いないのか……あら?」
なんとなく窓に手を当ててみると、すーっと開いた。うーん、気が進まないが、勝手に入っちゃうか。ま、茜だしな。怒りはしないだろ。
「おーい、入るぞー。失礼しますよっ……」
窓を開け、カーテンを開けると……
「うはぁ!?」
茜が、いた。居るには居るんだけど、その状況が普通じゃなかった。砂嵐のテレビをじーっと凝視しながら、体育座りで1ミリも動かないでいた。
テレビの明かりで、くらい部屋にうっすらと浮かんだ茜の白い顔は、軽いホラー映画なんかよりも不気味だった。
「あ、アキャネ?ご飯に……す、する?」
おお、なんと情けない。この俊太とあろうものが、声が裏返ってしまったではないか。
「………」
だが、茜は無反応。まるで歩ちゃんを思わせるほど、無表情のままだった。こんな茜は珍しい。
「あのー……聞こえてます?」
そう言ってベランダから茜の部屋に入った途端……
「どう……だったの……」
「は、ひ?」
茜の地獄に沈むような声が届いた。
「学校………どう、だった?」
「え?あ、ああ、そう、学校ね。うん。」
初めてみる茜についついへっぴり腰になってしまう。いや、いかんぞ。ここはドーンと胸を張って、茜のやつを安心させてやらないと、男が廃るってもんだ。
「そうそう、礼奈センセがいたよ。あの人も俺達と一緒で、こっちに迷い混んじゃったんだってサ。」
「礼奈センセ?」
ピキピキ
なんだろう。茜の言葉が部屋の温度を下げてる気がする。
「あー、あとはぁ、図書館で歩ちゃんて娘と知り合って…」
ピキピキ
「…同じクラスに、小波って馬鹿とも……仲良く……なって…」
ピキピキピキ
なんか寒い。いくら夏場だからって、クーラーの回し過ぎはよくないとおもいます。
「それ、で?」
あ、茜様がお怒りになられてる。いつの間にか体育座りから立上がり、自分の机をごそごそ漁ってる。だが、走り出した俺のトークは止まらない!!
「それがさ、みんなおかしくて、どこか抜けてる奴等ばっかりなんだけど、うん。楽しいね。奇妙キテレツ摩訶不思議奇想天外四捨五入出前迅速落書無用、て感じだね。」
ピキ!!
あ、なんが空気中の水分が凍った気がする。
「……なんでこんなに遅くなったのぉ?」
「あ、それはね、エリナちゃんたちと交番でトランプで遊んでたらさ。」
パリーン!!!
全身を寒気が撫で、なにかが砕けたっ!!
「………の…」
「え?」
「俊………の……」
なにか茜様がぼそぼそと言っている。聞こえないので近付こうとした瞬間……
「俊ちゃんの!!ブァカァァァ!!!!」
その怒号と共に、茜は机からいろんなものを投げ付けてきた。
ヒュン!
直定規!!
ブン!
三角定規!!
シュッ!
分度器!!
「わー!!ばっ!!やめっ!!」
そう叫びながらも、撤退!!
「もー!!!俊ちゃんのバカバカバカバカ!!!私が一日中布団の中で
『茜、大丈夫だよ。俺がそばにいてやるから。』
『俊……ちゃん…』
ベットIN!
なんて妄想膨らましてたのに、そうやって女の子たちとお楽しみしてたなんてぇ!!!
バカーー!!!」
「も、妄想っていっちゃったよ!?」
まだ凶器は降り注ぐ!!
キーン!
コンパス!!
シャッ!!
鉛筆!!
ポイ
消しゴム…あ、これは大丈夫。
ブーン!!
教師用コンパス!!?
ブォン!!
包丁!!!!!!なんでー!!!!
「ちょっ!!お前はノ○マロかよ!?」
最後に飛んで来たサイン色紙が、うまい具合につむじに刺さった。
ガラララ、ピシャッ!
なんとか窓を閉め、攻撃を防いだ。だが、茜はツカツカと歩み寄って来た。ま、まさか追撃でもするのか!?
だがそんな考えとは逆に、茜は窓の鍵を閉め、カーテンも閉じてしまった。あちゃー、あれは相当怒ってるサインだ。
なんどか茜を怒らしたことがあるが、あいつ、不機嫌になると自分の部屋に閉じこもる質なんだよなぁ。
「も、もう知らないからなっ!どうなっても!」
久しぶりに俺も怒っちゃうぞ!
「…め、飯はちゃんと食っとけよ!!」
怒ることに徹することができない俺、ヘタレ。正直、いままで本気で怒ったことなんてないからなぁ。基本、フレンドリーにいきたいわけさ。
「…気が向いたら学校か交番に顔だせよな!俺、だいたいはそこにいるから。」
最後に一言付け足して、俺は自分の部屋に戻った。
「あー、今日は長かったなぁ。なんか疲れたよ。」
ベットに寝転がり、茜からもらったセントバーナードの縫いぐるみを抱き抱える。
「僕はもう……疲れたよ…パト……」
PiPiPiPiPiPi…………
そんな時に鳴り響いた携帯。
「むぅ、世界名作劇場ごっこをしているというのに、無粋な輩め。いったいどこのどいつだ。」
一応今日知り合ったおんにゃにょこには電話番号とアドレスは教えたからなー。着メロからして電話か。んじゃ歩ちゃんじゃないな。
「って出ればわかる話か。」
ピッ
「もしもしー。」
「も、もしもし?……わ、私だ。」
「私?……えと、その声………礼奈センセ?」
「だ、だれだそれは!?私だ………エリナだ。」
「あー、はいはい、エリナちゃん。どうしたん、こんな時間に。あれだけ散々遊んだでしょーに。」
「別に遊び足りないわけじゃない!!その……だな……」
「?」
なんだかいつもの勢いが無い。借りてきた猫みたいに静かだ。
「実はな……事件が…おこったんだ…」
「おー、仕事じゃん。よかったね。」
「あ、あぁ、それなんだが……な、その…」
うーん。なんだかうじうじしてるなぁ。しゃーないな。こっちから聞くとするか。
「で?どんな事件が起きたの?殺人?強盗?集団テロ?」
「いや、空き巣なんだが…」
「なんだ……ただの空き巣かよぅ。」
「な、なんだとはなんだ!?空き巣だって立派な犯罪なんだ!!」
「はいはい、ごめんよ。で?俺に電話したのなんで?」
「ああ、その……て、つだってくれないか?」
「What!?おーい、俺は民間人だぜ?いや、ここではまともな人間扱いもされてないんですよ?」
「そ、それは謝る。それに…私、事件をあつかうのは初めてで……緊張してるんだ。」
「はぁ。」
「だから……手伝ってくれ!!」
「えー……どうしよ…」
「頼む……警官の私がこんなこと言うのもおかしいが……」
くっそぅ、女の子のお願いには弱いんだよなぁ。とくにこういった弱ったタイプは。
「わかったよ。手伝いつっても、そんなに力になれないからな。」
「あ、ああ。助かる。一緒にいてくれるだけでいいんだ。お前がいると……なんだか落ち着けるんだ。頼れるというか……」
「そ、そうっかなぁ。そう言われると悪い気はしないなぁ。オケ、今からいくから。」
ピッ
そうかぁ、頼れるかぁ。これも男だからかな?
早速私服に着替え、交番に向かう。どうやら今夜は寝れないらしいな………
気弱婦警モエスw
(#^ω^)ビキビキ
イイネ
投下します。後半注意。
結局日が沈むまで、俺はずっとダラダラゴロゴロに終始していた。
外が結構寒いので、一度暖められた布団から出たくなくなる。
こんなに怠けた休日も久しぶりだ。
良く寝たはずなのに欠伸が出る。身体はだるい。
「う〜寒っ」
布団から出て、今度は炬燵に入る。電源を入れると、中が明るくなる。
中が暖まる前に、午前中に買った食い物を準備。フライドチキンだけはレンジに入れ、他のもの、ジュースとケ
ーキは先に炬燵の上に並んだ。
ケーキ……少し前に、木場の誕生日パーティーで食ったばかりだ。
パーティーの次の日、木場は学校を休んだ。
あれ以来、終業式の日まで休みがちで、俺に接する機会も急に減っていた。
それに伴って……かどうかはわからないが、屋聞もあまり姿を見せない。
陰で何か企んでいるのは間違いないだろう。屋聞の場合は。
だが、木場の心境については、はっきりしない。
明日香によれば、『木場は男を喰い荒らす女』
屋聞によれば、『前の男は、女たらしだった』
視点は正反対だ。
しかし、経験上、明日香の聞いた話を全て真実だとは思えない。
また、屋聞はその性格上、嘘をついている可能性がある。
この二つの説はどちらも間違いで、全く違う真相があるのだろうか。
……いや、こんなもんかもしれない。
男と女が付き合って、その後別れるとき、双方の言い分は全く噛み合わない。
俺の親が、そうだったからな。
前の彼氏は、どちらかと言えば軽い男で、木場とは遊び感覚で付き合っていた。
木場は木場で、本当は熱し易く冷め易い性格であったから、長続きしなかった。
色々と噂が捻じ曲がって、いくつかの説に分かれて、さらに広まっていった。ただ、それだけ。
何とも面白味の無い話だが、それが一番現実的に思える。
どちらが悪い等と考えても、非生産的であろう。
……フライドチキンが温まったようだ。
レンジを開けると、スパイシーな香りと、暖かい空気が広がる。
少し熱くなった皿を指先でつまみ、炬燵の上へ。
この炬燵も、だいぶ暖かくなっているだろう。
少し冷えてきた所だし、中に入って暖まろうとした時、家のチャイムが鳴り出した。
誰か来たのか。こんな日に……。
新聞や宗教の勧誘だったら、追い払う。
俺はハタキを握りながら、ドアを開けた。
「……」
最初に目に付いたのは、鮮やかな赤色。
それは来た者が身に纏っている服であり、上のケープをかけた長袖と、下の短いスカートの縁、裾を、白いモサ
モサしたようなもので飾っている。
また、大きな白い布袋を肩に担ぎ、服と同じ、赤い帽子。
そんな派手な衣装でドアの向こうからやって来たのは、木場だった。
「メリー・クリスマスだよ〜」
「……ああ」
投げキッスを飛ばしてくる木場に、どうリアクションしたらいいのか困る。
えーと、今日はクリスマスイヴということで、サンタの服を着た。
「つまり、サンタ・クロースか」
「えへっ。サンタさんが、良い子の所にプレゼントをあげに来たの」
「わかったわかった」
開いたドアから入ってくる風が、すごく寒い。木場も、今の格好では大変だっただろう。
この前の誕生日パーティーといい、木場はこういうのが好きなんだろうか。
ここしばらく会わなかったのは、今この時の為の引きだった、という訳か。
まあ、俺も暇でしょうがなかったし、木場の演出に乗ってもいい気がしてきた。
俺は木場を中に上がらせた。外は、かすかに雪が降っていた。
* * * * *
「っ……うっ……あうっ……」
痛い、痛い痛い痛い。抜いて、動かさないで……。
どうして、どうしてあたしは、どこの誰か分からない男たちに、代わる代わる犯されて、汚されて……?
やだ。もう、やめてよぉ……。
「おっ、うっ!」
男の動きが、痛みが加速する。奥まで押されて、そこで止まる。
あ……また、中に……。
もう何度目か憶えていない。憶えたくない。
あたし、こいつらに、妊娠、させられるの……?
中だけでなく、顔、口の中、胸、お腹、全身に男たちのあれがべったり浴びせられた。
身体に、臭いが、染み付いちゃう……。
引き抜かれた後、お腹の中で、たぷん、って感じがした。
このままじゃ、本当に、妊娠、しちゃうよぉ……。
男たちは、今は何もしてこない。中の精液、出さないと。
……?
何か、音が聞こえる。
男たちの手には、小さい、箱のような……。
あ、
写真、撮られてる……。
嘘でしょ、こんなの、悪い夢でしょ!?
もし、あの写真を他の人に、人志に見せられたら……。
「今日はこのくらいにしてやるか」
男の一人が言った。
今日”は”……明日も、明後日も、こいつらに。だって、写真をばら撒かれたら。
「明日も相手してくれよ。伊星に知られたくなかったらな」
人志に……駄目、人志に見られちゃ……。
「うっ……っ、ううっ……」
ごめんね、人志……。
去っていく男たちの背中を、倒れたまま見てるだけしかできなかった。
でも、その中の一人が、お金を取り出したのが見えた。
小銭やお札一枚じゃなくて、札束。それも、二つ、三つ……次々と出てくる。
何であいつら、あんなにお金持ってんの?
札束は、一人一つずつ配られていた。
あれは……何? お金が動いてたの? あたしを……犯して、お金が、入る?
誰かがお金を出して、あたしをレイプするようにしたって事?
誰かが……。
……
…………
あれだけのお金を出しても惜しくないってくらい、あたしを憎んでる奴。
この世に一人だけいたわね。
――――木場春奈。
これが……これが、あの女の仕返しか!!
金を積んで、あたしをレイプして、人志を奪い取る。
きっと木場は、今日で勝負を賭けるつもりだ。
今日、人志はずっと家にいるはず。そこに乗り込んで、人志を、その毒牙に……。
上 等 ッ !!
ここで屈して、倒れてはいけない。起き上がって、服装を直して、まず自分の家に帰った。
帰ったらすぐシャワーを浴びて、汚された身体を、一応洗った。
早くしないと、人志があの女に嵌められる。あの女の、一人勝ちになる。
着替えた後、家の裏にある倉庫に入った。
懐中電灯で中を照らして、目当ての物を見つけ、手にしっかりと握った。
あたしと人志の、絆の証明だったリボン。人志に捧げるはずだった処女。
両方失ったあたしに、もう失うものは無い。
そっちが大切なものを奪うなら、あたしは木場の命を奪う。
レイプしたくらいで、あたしの動きを封じられると思うな!
待ってて人志。今まで通り、助けに行くから。
あたしの剣で、人志を陥れようとする泥棒猫を、血祭りに挙げるから。
(37話に続く)
そろそろ終わりが近いので、少し予告を。
このリボンの剣士、エンディングを三つに分ける予定です。
個別エンドというのではなく、ノーマル、バッド、(前の二つに比べれば)ハッピー、の三つです。
なお、寝取られエンドにはなりません。ご安心(?)下さい。
>>209 ま、まじで犯られてしまった・・・・・・
.。::+。゚:゜゚。・::。. .。::・。゚:゜゚。*::。.
.。:*:゚:。:+゚*:゚。:+。・::。゚+:。 。:*゚。::・。*:。゚:+゚*:。:゚:+:。.
ウワ━.:・゚:。:*゚:+゚・。*:゚━━━━゚(ノД`)゚━━━━゚:*。・゚+:゚*:。:゚・:.━ン!!
。+゜:*゜:・゜。:+゜ ゜+:。゜・:゜+:゜*。
.:*::+。゜・:+::* *::+:・゜。+::*:.
>>209 ( д) ゜ ゜
ど・どえりゃーことになっとおられるがね(錯乱中)
( ゚∀゚)アハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \ / \ / \
つらいつらすぎるよ
だってそんなんもう
うをわおぉぉおぉおおおおん(ノД`)
あ、あんたやっちまったなっ!
グッドエンドに期待してます
さっさと病院に行って膣内洗浄した方がいいと思うがOTL
読み終わってメチャクチャ凹んだorz
ええ、そりゃもう打ちのめされました
こんなに凹んだのはセッちゃんが喰われた時以来だorz
だが直ぐに気持を切り替えリベンジに向かってくれたのがせめてもの救いか
いけ―――! 木場なんかヌッ殺せー―――!!!
泥棒猫の血で明日香たん自身と俺たちの傷ついた心を癒してくれぃ!!
……ハァッハァッ。
えっと、チョット興奮しすぎてしまったが
要するにこんなにも凄まじい衝撃を与えてくれるような
素晴らしい作品を描けるなんてお見事です! GJ!!
GJ and orz
GJ
しかし人志って外面変人キャラの割りに空気だよね。
それだけ御両名の修羅っぷりが濃いという事か。
。゚(゚´Д`゚)゜。明日香タンが……OTL
だがそれでも俺は木場タソ派であることをやめないぜGJ!
投下します
※今回は一部グロ気味描写ありなのでご注意願います
それは(セツナがこの世界にやってくる)一年程前の事。
とあるモンスターが巣食う深い森。
「ちくしょう……、こんな筈じゃぁ……」
未だ顔にあどけなさを残す青年剣士は悔しそうにうめき声を洩らす。
体中には無数の痣や傷、おまけに荒縄で両手を縛られ絶望的状況。
魔族が跳梁跋扈するこの時代殆どの人々が脅え絶望する中、
魔族討伐によって名をあげようと意気込むものも少なくなかった。
だが其の殆どが夢破れ現実の厳しさに嘆きながら露と消えていった。
この青年剣士もそんな一人であった。
今青年はモンスターに打ち負かされ、だがどういう訳か殺されず、
どこかへ引き立てられていた。
この状況下青年は自分の考えの甘さを呪い、後悔し、只々助かりたいとだけ願っていた。
自分はどうなるのだろう。 魔族の奴隷として一生こき使われるのだろうか。
それとも剣奴として見世物の殺し合いをさせられるのだろうか。
命さえ助かるのなら何だって、それこそ魔族に魂を売っても良いとさえ思っていた。
やがて青年は手の縄を解かれ、そして乱暴に牢屋にぶち込まれた。
その時連行したモンスターが青年に声をかける。
「オイ、オ前。 自分ガ何デ生カサレタママココニ連レテ来ラレタカ分カルカ?」
そう言うとモンスターは残忍に口の端を歪めて笑い口を開く。
「俺達ノボスハナ人間ヲ活キタママ喰イ殺スノガ何ヨリモ好キナノサ」
瞬間青年の顔から血の気が引き絶望の色に染まる。
「ダガ俺様達ダッテ鬼ジャネェ。死ヌ前ニ良イ想イサセテヤルグライノ慈悲ハ有ラァ」
言ってモンスターは其の顔にいやらしい笑みを浮かべたまま牢の隅を指差す。
そこにはこんな陰湿な牢屋には不釣合いな少女がいた。
「好キニシテイイゼ。 セイゼイ死ヌ前ニメイ一杯楽シミナ」
そしてモンスターは高笑いを浮かべながら去っていった。
最悪の状況への絶望からか、死に直面した状況で頭をもたげると言う種族維持本能からか。
青年の理性は吹き飛びけだもののように少女に襲い掛かった。
そして未だ年端もいかぬ少女を欲望のまま力づくで組み伏せた。
そして牢屋内に悲鳴声が響き渡る。
だが其の悲鳴声は少女のものではなかった。
青年は少女の顔を目の前にしながら思った。
――なんで俺は仰向けになってるんだ?
次の瞬間青年からはそんな事考える余裕も無くなってた。
ぽたっ――。
「ギャアアァァァァァァァァッ!!!」
顔に何か雫のようなものが落ちた瞬間青年は悲鳴を上げた。
煙が上がっていた。 雫が落ちた部分が焼けただれジュゥジュゥと音を立てていた。
――何だコレは。 何がどうなっている。
悲鳴をあげる青年の頭は現状を理解できず、そして未知の痛みの為激しく混乱してた。
ぽたっ。 ぽたっ。
「あがあああぁぁぁぁ!!! あ、熱っ、熱い! 熱い熱い熱いぃぃぃ!!!」
雫が落ちる度にそこの皮膚が焼けただれ、いや溶けてじゅぅじゅぅと煙が立ち昇る。
そして其の雫は、少女の口からダラダラと滴り落ちていた。
傍から見ればそれは少女が口からだらしなく涎を垂らしてるように見えるが――。
だがそれは決して涎などと生易しいモノでは無かった。
滴り落ちるたびに青年の体を溶かすそれは強力な溶解液。
ぽたっ。 ぽたっ。 ぽたっ。
「いぎゃぁぁぁぁ!! た、頼む! お願いだ!
止め! 止めてくれ! あがあああぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」
だがそんな願いも虚しく少女の口からは液体は滴り落ち続ける。
其の量は増し胃の奥から次々と溢れ出してるかのようだった。
滴り落ちる液体は皮膚を溶かし、溶けた皮膚の下からは肉が剥き出しになり筋繊維も覗き始めてる。
青年は逃れようと必死で叫びもがく。
だがどんなに暴れもがこうとも押さえつけてる少女はびくともしない。
このようにか細い少女の細腕のどこにこんな力があるのか。
まるで大岩でも載ってるかのようであった。
そして少女の口から滴り落ちる液体は尚も青年の体を溶解し続ける。
やがて液体は筋繊維をも溶かしその下の骨が覗き始め其の骨も溶けだす。
「ぐぎゃあぁぁぁぁぁ!!! た、助け……タスケ……テ……」
そして青年は生きながら体を溶かされ計り知れない激痛と絶望の中絶命した。
その後も少女の口からは液体が滴り落ち続け青年だったものは
元が人間だったとは思えぬ程にどろどろの肉塊に変わり果てていた。
そして少女はそれに口付けるとピチャピチャと音をたてジュルジュルとすすり貪り始める。
それはあまりにもおぞましい光景だった。
獣の食事とてコレほど凄惨ではないだろう。
いやむしろ獣のそれなど生ぬるく見えそうなほど。
それはむしろ肉食蟲の捕食する様に近かった。
人の皮を被った凶悪な蟲――それが人を貪り食っている。
繰り広げられる光景は正にそう形容するに相応しい、そんなおぞましきものだった。
しかしそんなおぞましい惨劇も少女にしてみれば単なる食事。
そう、青年にとっての悪夢の惨劇も少女にとっては只の日常茶飯事でしかないのだ。
やがて少女は其の腹を哀れな青年の慣れの果てで満たすとおもむろに立ち上がる。
顔には満足そうな残忍な笑みを浮かべ。
そして喰い残しの中から溶け残った骨を掴むと牢の鉄格子に向かって投げつけた。
投げつけられた骨が当たった鉄格子が大きな音を響かせる。
程なく音を駆けつけたモンスターが駆けつけ鍵を開ける。
鍵を開けるモンスターの顔には心なしか脅えが浮かんでいた。
「オ、オ食事ハオ済ミデショウカ……」
「ええ、お腹一杯。 じゃぁ、残り片付けときなさい」
「ハ、ハイ……!」
そして少女が立ち去るとモンスターは胸を撫でおろし、哀れな犠牲者の慣れの果てに目を向ける。
そしてボソリと呟く。
「マ、悪ク思ウナヨ。 ソウジャナキャ俺ラガボスニ喰ワレチマウンダカラナ」
「そう、分かったわ」
蝙蝠のような羽根の生えた下級悪魔から伝令を聞いた少女は牢へと向かった。
「開けて」
「ハ、ハイ只今……」
少女の声にモンスターは脅えたように慌てて牢屋の扉を開ける。
そして少女は牢屋へ足を踏み入れると真っ直ぐ隅へ向かって腰をおろす。
「さて、今日のご飯はどんな男かしら……」
そう言って少女は舌なめずりをした。
牢の前に立ってたモンスターは其の姿に脅え逃れるように立ち去っていった。
暫らく後一人の少年が連れられてきた。
ローブに身を包んだ其の姿はどうやら魔導士のようだった。
「入レ!」
そしてモンスターに背中を乱暴に押され牢に叩き込まれた。
少年を牢に叩き込むとモンスターは少女を指差しいつもの口上を並べ去っていった。
モンスターが居なくなると少年は立ち上がりそして少女に歩み寄る。
そして少女の目線の高さに合わせるようにしゃがみこんだ。
「あなたもモンスターに捕まって連れてこられたのですか?
安心してください、もう大丈夫です。 さぁココから逃げましょう」
其の声に少女は驚かずにいられなかった。
今まで様々な男がこの牢に連れてこられたが皆、判を押したように同じだった。
すなわち欲望に身をゆだね犯そうとしてきたのだった。
尤もそんな男共が次の瞬間に絶望に其の顔を歪める様が少女は好きなのだが。
だからこの少年の様に自分のことを気遣う優しい言葉など初めてだった。
そして少女を更に驚かせたのは少年の美しく優しい声、綺麗な金色の髪、
アクアマリンのように澄んだ美しい瞳。
少年の優しさにも、其の整った容姿にも少女は思わず見とれてしまった。
そして少年は少女の手をとり優しく語りかける。
「立てますか?」
「あ、ハイ……」
少年は少女の手をとり鉄格子に向かって歩み寄ると開いてる方の手をかざす。
口からは呪文の詠唱が紡いだされ火球が出現し爆裂音と共に鉄格子を吹き飛ばした。
端麗な容姿。 並外れた魔導の腕前。
――そう、この少年こそ後にセツナと出会い共に戦う事になる魔導士、リオだったのだ。
やがて物音を聞きつけ各々武器を手にしたモンスターたちが集まってくる。
「少し離れててください」
リオは少女に向かって優しく語りかけた。
少女は戸惑いながらも言われたとおり離れる。
少女は思う。 自分は一体何をやってるのだろう。
目の前の少年は自分にとっては敵のはずだ。
相手が気付かない今のうち殺してしまうべきはずなのに。
なのに……。
そんな事考えてるうちに少年は――リオは呪文を発動させモンスターを撃退し始めていた。
魔法により荒れ狂う猛吹雪、飛び交う氷の矢。
数で勝るモンスター相手に一歩も引く事無く、いやそれどころか圧倒してた。
これほどの力を持ちながらどうしてモンスターにむざむざと……いや違う。
最初からこれが狙いだったのだろう。
捉えられた振りをしてモンスターのアジトを探り、そして中から潰す。
そう言うことだったのだろう。
リオの戦いぶりは苛烈にして、それでいながらどこか、まるで舞うが如き優美さすら感じさせる。
少女は其の戦いぶりに思わず魅入っていた。 自分の立場も忘れ。
そう、この少女――姿こそ可憐な少女である。
だが其の姿とは裏腹に中身は先日青年剣士を喰い殺した事からも分かる様な凶悪な魔物。
しかもこのアジトのボスでもある。
だが少女はその様な自分の立場も部下達の命も眼中に無くただ見つめていた。
いや、見惚れてたと言っても良いだろう。
だが少女に其の自覚は殆ど無く、ただ初めてのこの感情に戸惑いながら目を奪われてた。
――ナンナノコノキモチハ。
――ドウシテシンゾウガコンナニモハゲシクミャクウツノ。
――ドウシテコンナニモカラダガアツイノ。
少女は自分の気持が一体何なのか分からず只戸惑っていた。
そう、魔族である自分が今まで食料としてしか見たことが無かった人間に対し……。
暫らく後アジトにいたモンスターはほぼ全てリオ一人の手によって打ち倒された。
そう、一匹を除いて。 それはこのアジトで最も恐るべき力を持ち――。
同時に最もモンスターらしからぬ容姿を持ったモンスター。
だがリオは其の事に全く気付いてはいなかった。
「どうやらコレでモンスターは皆打ち倒せたようです。 ではいきましょうか」
そしてモンスター――魔物少女もまた明かすつもりは全く無かった。
その後リオは少女に村まで送ると言ったが、少女は森の外れで十分だとそこで別れた。
リオと――少年と別れた後、少女は考えてた。
――何だろうこの気持は。
今までどんな人間の男、いや魔族の男に出会った時でさえ少女はこんな気持になった時は無かった。
少女は戸惑っていた。
初めて感じる未知の感情に。 だが――。
「とりあえず新しい寝床とご飯を何とかしようかしら」
そう言って少女は着ていた服を脱ぎ捨てた。
服の下には体の全てを余す事無く覆い、ラインにピッタリとあわせたような甲冑を着込んで――。
いや違う。 甲冑に見えるがこれは彼女の体の一部――外骨格であった。
そう、まるで甲虫の様な強靭な外骨格で覆われ、更に背中には翅も生えていた。
それは透明に透けていて芯が網目状に入った――そう、その翅もまた蟲のそれに酷似してた。
――魔甲蟲姫。 あどけない少女の様な風貌を持ちながら、
甲蟲に酷似した強靭な外骨格と骨まで溶かす消化液等の能力を有したおぞましきモンスター。
それが彼女の正体だった。
そして少女は翅を広げ空へ飛び立った。
To be continued...
九十九>軽いノリできたのは意表突かれましたがこういうのも大好きですGJ
ツイスター>直ぐに新作でカムバックと言う迅速さに驚愕
妹の描写やキャラの立ち具合が素晴らしいGJ
今日の帰り道は、吉備さんと二人っきりでした。…いっぱいお話しちゃいました。うふふ。
それにしても、蔓さんはどこへ行ったんでしょうか?図々しくも休日の練習にまで吉備さんに付いて来たくせに、
途中で彼に断りもなく帰ってしまうなんて…彼に迷惑をかけに来ただけとしか思えません。
もしかして、彼を心配させるつもりなんでしょうか…子供っぽい手です。
本人は清楚で大人っぽい女の子を演じているつもりなんでしょうけど、ボロが出てしまったみたいですね。
もっともあの人の場合、今に始まったことではありませんけど。
私が告白する時に強引に割り込んできた事とか、駅前で私の姿を見ただけで不機嫌になった事とか。
お弁当の件だって、私が慌てずに冷静に対処すれば…いえ、客観的に見ればマイナス材料です。間違いありません。
吉備さんはまだ気づいていないようですけど、時間の問題でしょう。
私は吉備さんとの距離を縮めれば良いだけ。一時はどうなるかと思いましたが、だんだん勝機が見えてきました。
一日中練習した後なのに、なんだか足が軽いです。そう、荷物さえなければスキップしたいくらいに。
「嬉しそうだね、花梨。」
やっぱり見て分かります?分かっちゃいますよね…って今の声は!?
あわてて振り向くと
かずく、いえ、和三さんが立っていました。
「あ、かずくん…かずくんも、今帰るところ?」
「まあ…帰るといえば帰る、かな。」
偶然ってあるんですね。確かに家は隣同士ですけど、帰りが一緒になったのは小学校の時以来です。
それにしても…こんなひねくれた答えをするなんて。…やっぱり、昔とは違うんでしょうか。
「帰るといえば帰るって…ほかに何かあるの?」
「そうか…姿、見えてなかったんだ。確かに、ずいぶんうれしそうだったしね。」
何の事でしょうか?話が見えませんけど…
「いや、花梨と話をしようと思って、駅前で吉備と話し込んでいる間ずっとここで待ってたんだ。」
えっ…
「というより、部活の練習中からずっと見てた。蔓さんも見に来てたよね?」
ええっ!
「もっと言うと、花梨が吉備に告白してから毎日尾行してたんだけど…気づいてなかった?」
ええええーーーっ!!!
「…それで、今日一日無駄にして、こんなストーカーまがいのことしてても役に立たないと思い直して…
直接話そうと思って待ってたんだ。」
和三さんは、これまでの経緯を話してくれました。…何と言えばいいのか、ここまでくると
「犯罪、だよね。」
「………だよね…」
全く何を考えているんでしょうか。私をネタにするなんて、これだから新聞部の人間は油断なりません。
「四ツ川さん…許さない」
「………………」
「………………」
「………俺は?」
「かずくんも同罪だよ。」
「………………」
「なんで私のことを話しちゃうの?」
「………………」
「そんなことしない人だと思ってたのに」
「………ごめん」
「………………」
「………………」
「………もう。」
…やっぱり、和三さんは変わってません。正直に隠さず話してしまう所とか、言い訳をほとんどしない所とか。
…私も変わってません。かずくんは反省してるんだから許してあげよう、そう思ってしまう所が。
甘いのかな、私。
ふう、と溜息をついて。
「いいよ。悪気は無かったんだから、許してあげる。それで、何が聞きたかったの?」
「………………」
「どうしたの、聞きたい事があるから待ってたんでしょ?」
「ん…吉備とうまくいってるかどうか聞きたかったんだけど…うまくいってるみたいだね。」
「うん、大丈夫。蔓さんは手強いけど、うまくいってるよ。」
「そうか…悩んでないんなら、大丈夫かな。」
「………………」
「…帰ろうか」
和三さんと一緒に帰るのは、何年ぶりでしょうか。
あの頃は、毎日他愛も無いことで大騒ぎしながら帰っていました。
そう、いったい何が楽しかったのか今では分からないくらいのことで。
今は、二人とも無言で歩いています。
昔と違って、二人ともそんな歳ではありませんから、静かなものです。
…単に会話が無いだけ、とも言えますけど。
でも…
悪くは、無いです。
結局、家に着くまで一言も喋りませんでした。
別れ際の挨拶も「それじゃあ」程度。
でも、それだけで十分。私を心配してくれてる事、気を使ってくれている事は…よく分かりましたから。
ありがとう、かずくん。
主人公っぽいのがもててないやつの続き久しぶりにキタw
続きも楽しみにしてます
投下します
屋敷の一室。
内装は簡素で、しかし素朴ながらも並べられた小物から、暖かみを感じられる部屋。
そんな部屋のど真ん中で。
土下座をしている、銀髪の少女。
「あ、あの、顔を上げてください……」
部屋の主である橘音さんが、恐る恐る、少女に向かって声をかける。
その声には、恐怖が多分に含まれていた。
無理もない。自分の体を操り、頸動脈を切り裂いた相手なのだ。
声をかけられるだけでも、その胆力に驚嘆してしまう。
「――申し訳ない。妾はヌシに、取り返しのつかぬことをしてしまった。
頭を垂れた程度では許して貰えぬことなど重々承知の上だが、
それでも、こうして謝罪することを許して欲しい。
……なにも、赦せ、と申しているわけではない。
妾がヌシに対して、この上なく謝罪の念を抱いていることを覚えておいて欲しいのじゃ」
頭を下げたまま、少女――茅女は、淡々と述べる。
その声は深く沈んでいて、橘音さんに対して心の底から申し訳ないと思っていることが感じ取れた。
「妾にできることがあれば、何でも申しつけてくれ。
それで罪滅ぼしになるとは思わんが、償うことに躊躇いはないことを知っておいて欲しい」
「えっと……あの……」
橘音さんはあたふたした後、何故か俺の方をちらちらと見た。
そして。
「――顔を上げてください。
赦す、だなんて烏滸がましいにも程がありますけど、貴女の事情は伺ってますし、
これから良い付き合いさえできれば、それで手打ちにしたいと思います」
そう、言った。
橘音さんの言葉を聞いて、茅女はゆっくりと顔を上げ、
「……ヌシは、良いおなごよの。郁夫の近くにヌシのような娘が居ると、妾も安心じゃ」
感心したように呟いた。
「そ、そんな、褒めても何も出ませんよー」
「いや、これからもヌシのような人間が、郁夫の使用人として側付いていてくれると、
妾も伴侶として安心できるものよ。娘――いや、橘音。これからも郁夫を宜しく頼む」
「もう、そんなこと言ったって――って、え?」
橘音さんは、はてなと首を傾げて、
「……伴侶?」
「うむ。妾と郁夫は、これから良き夫婦として共にあるのでな」
「…………」
「ん? どうした、橘音よ」
「やっぱ赦すの無しでお願いします」
「何故じゃー!?」
茅女が事件を起こしてから、はや一週間。
浦辺家お抱えの医師や、救急箱の付喪神のおかげで、
俺や橘音さんも傷が癒え、元通りの生活に戻ろうとしていた。
ただひとつ変わったことがあるとすれば。
――茅女が、研修生として我が家に住み込むようになったこと。
あの日、研修生として浦辺家に住み込む予定だったのは、
まさしくこの茅女だったそうな。
本来なら、作られて百年足らずの付喪神のタマゴが研修に来るものなのだが、
茅女は妖怪側の地区頭領に話を通し、無理矢理自分を研修生としてねじ込ませたそうな。
理由は、復讐するにあたってその家に効率的に運ばれる手段を用意したかったからとのこと。
実際、大手の霊能者の本家は、隠れ里に近いところもあり、
何のコネもない者が出入りするのは難しい環境であることが多い。
茅女もそう思い、ウラベの家が付喪神の研修受け入れをしているとの話を聞き、
これを利用しようと考えたそうだ。
もっとも、口頭で聞いた話だったらしく、
浦辺と卜部の区別が付かなかったそうな。
……茅女は、妖怪としての格や偉そうな性格とは裏腹に、結構抜けている性格なのかもしれない。
まあそれはそれとして。
名目上は、研修生としてやってきた茅女。
しかしその目的は、関係ない一族に復讐するため。
その処遇をどうするべきか、浦辺家でも結構揉めた。
出張から帰ってきた両親や、先代である祖父も含めて、家族会議が行われた結果。
茅女は、俺に懐いてることから。
俺が、面倒を見ることになった。
確かに、人間に復讐しようとしている付喪神を、そのままにしておくなど言語道断。
しかも、一度茅女を制圧した俺なら、取り扱いも楽だろう、ということで。
俺が直接指導する立場となり、茅女は、我が家の研修生となった。
……確かに、瞳術はかかり癖が付きやすいため、
一度成功させた者が対応に当たるというのは間違ってはない。
しかし。
「郁夫よ。この分からず屋な使用人に言ってやるといい。
妾とヌシは相思相愛で、使用人無勢が入り込む隙間はないとな」
「郁夫さんっ! 郁夫さんはまだ童貞ですよね!?
天井裏に隠してあるエッチな本は、まだまだ現役ですよね!?」
こうもベタベタされると、嬉しいんだけど疲れるというか何というか。
ってか何故に橘音さんは知ってるんだ隠し場所を!?
……でも、まあ。
ぎゃいぎゃいと言い合う茅女と橘音さん。
そこに、思ったほどの硬さは見られず。
――茅女も、何とか上手くやっていけそうな気がしたので。
ついつい、やりとりを見ながら笑ってしまった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
白々しい、と流は唇の端を噛んだ。
なにが謝罪だ。どうせ郁夫への点数稼ぎだろうに。
郁夫は、茅女の様子を見て笑っている。
――騙されないで、郁夫様。
茅女は、流と橘音を切り裂いた凶悪な妖怪なのに。
郁夫だって、腕を真っ二つにされたのに。
取り繕うように媚びへつらい、そのうちこちらの寝首を掻くに決まってる。
だというのに。
郁夫は見事に上辺に騙され、情に絆されてしまっている。
……あんな風にベタベタして。
郁夫の純心に付け込むような真似をする包丁には、殺意すら覚えてしまう。
そう、郁夫は騙されているのだ。
だから、自分が守らなければ。
郁夫を守るのは、彼の刀である自分の役目。
それは何人にも譲らない。自分だけに許された、道具としての栄誉ある地位。
――郁夫様の隣は、私の場所。なのにあの婆ときたら、我が物顔で居座っている。
許せるはずが、なかった。
そういえば、郁夫とはしばらく話もしていない。
ここ一週間で、まともに顔を合わせたのは、茅女が流に謝罪しに来たときくらいか。
謝罪に来たとき、流は茅女の頭を踏み付けないように己を抑えるのに苦労した。
土下座なんて生ぬるい。
郁夫を傷つけたのだ。格下の妖怪であれば問答無用で細切れにしてやったのに。
無駄に長生きしている婆には、今の流程度では足元にも及ばないだろう。
――もっと、力があれば。
あんな包丁婆など問題にもならないくらいの力があれば。
郁夫にとって最高の退魔刀になれるし、彼の敵を皆殺しにできる。
否、敵だけではない。
彼に近付く全ての害虫を、己の刀身でズタズタに引き裂いてやれるのに。
そう、全てだ。
郁夫を惑わす輩、郁夫を苦しめる輩、郁夫を誑かす輩、
郁夫の優しさを貪ろうとする輩、郁夫の情けを得ようとする輩、
郁夫の隣にいようとする輩、郁夫の寵愛を受けようとする輩、
郁夫の郁夫の郁夫の郁夫の郁夫の郁夫の郁夫の郁夫の――
――ぜんぶ、殺せる、力が欲しい。
あの包丁すら問題にならないような。
絶対的な力が欲しい。
何でも切り裂ける程度など生ぬるい。
全てを斬り殺せる――斬り滅ぼせるくらいが丁度良い。
そんな力を手に入れて、
郁夫の周りの全てを殺して。
――そして、私が、
「……馬鹿な。それこそ、世迷い言です」
がつん、と柱に頭を打ちつける。
……今、自分は、何を望んだ?
道具としてじゃ飽きたらず、それ以上の何かを望んでしまった。
馬鹿め。
馬鹿め。
刀のくせに。
それ以上のことを望み、あまつさえ、他者を害しても構わないだなんて考えを。
……研修を終えた身のくせに、これでは成り立ての理性無き妖怪ではないか。
自分は刀。分を弁えた刀。
人間と共存できる理想的な付喪神で、だからこそ郁夫の側にいられるのだ。
(……いけない。先の負傷で、考え方が不安定になってるみたいですね。
郁夫様の完治も少し先ですし、私も養生に努めなければ……)
茅女に根幹を切り裂かれたとき。
少なからず、刀身に傷を負ってしまった模様。
変化の身であるため、時間が経てば治るだろうが、
それまでは先程のように思考が不安定になってしまう可能性が高い。
心が不安定なときは、大人しくしているに限る。
幸い、郁夫の方からも、しばらくは休んでいていいと許しを得ている。
その間しっかり休み、完全に元に戻ってから、以前と同じ生活を送ればいい。
浦辺家の家事を手伝って。
研修生の監督をして。
郁夫に剣術の訓練を施す。
そんな、幸せな生活を――
ふと、郁夫たちの会話が聞こえてきた。
橘音の部屋から出て、他の場所へ向かおうとしているようだ。
流は慌てて身を隠す。
……隠れる必要なんてないのに、何故か空き部屋に飛び込んでしまった。
そしてそのまま、こっそりと2人の気配を窺ってしまう。
何やら楽しそうに話ながら、廊下を2人で歩いている。
――なんで、あんな、仲良さそうに。
ぎりり、と奥歯が鳴ってしまった。
「――ふむ、郁夫は強くなりたいのか」
「まあ、瞳術だけじゃ、この先不安だしな。
それなりに動けるようにしておかないと、仕事で不覚を負いかねない。
だからまあ、流にも剣術習ってるし」
「………………ふむ。…………。
……聞いて驚け、郁夫よ。妾は結構強いのじゃぞ」
「それは、まあ。茅女がそこらの妖怪より強いなんて、対峙した俺がよくわかってる」
「いやいや、妖怪の格としてだけではなくての。
これでもそれなりに長生きしているのじゃ。
――戦の術理も少なからず心得ておるぞ」
「と、いうと?」
「なに、柔と杖をそれなりにな。並みの達人程度には心得ておる」
「へー。それは凄いな」
「……で、だ。その……ヌシが良ければ、稽古を付けてやっても……いいぞ?」
「――マジで? 俺としてはありがたいんだが……いいの?」
「気にするな。……むしろ、ヌシには短杖――特に短刀の使い方を覚えてもらわねばな」
「へ? なんで?」
「――みなまで言わせるな! ほれ、道場に行くぞ。
やるからにはみっちり仕込んでやるからの。覚悟するがいい!」
「うっへ……。こちとら病み上がりだっつうのに。
――まあいいや、望むところだ! ビシバシ来い!」
楽しそうな2人の声が、ゆっくりと遠ざかっていった。
「…………ッ!」
バキン、と拳が柱に叩き付けられる。
ギリギリギリ、と歯ぎしりの音が誰もいない部屋に響く。
――ふざけるな。
「……あの糞婆、こともあろうに、私の居場所を奪う気か……!」
絞り出すような声は、怨嗟にどす黒くまみれていた。
――ふざけるな。
――ふざけるな。
――ふざけるな……ッ!
「……郁夫様に戦いを教えるのは私だ。
……郁夫様に使って頂くのは、私だ……!」
だから。
――あんな、包丁は、要らない。
暗い部屋で独り。
流は、ぶるぶると震えていた。
怒りに歪められたその貌は、
人と共存できる付喪神というよりは。
まるで、悪鬼そのものだった。
一番最初、タイトルを付け忘れましたorz
まあそれはそれとして。
……軽めの路線ですよ?
軽めの路線なんですってば。
>>229 幼馴染みって、こんなもんだよなぁ。
しみじみとした気分になった。GJ
キターーーー!!!
茅女の様子からほのぼの路線かと思えば流タソのこのどす黒さw
二人の刃物同士の壮絶な修羅場に早くも期待がwww
作者さんGJ
いいeeeeeee嫉妬だ
流ん妖刀化?
黒い!黒いよ流さぁ―――ん!!!さっそくアマツさん化ですか!?
しかしこれだけの作品を一日おきに投下する作者様の技量には感服せざるをえないですね。
殺意の嫉妬症候群L5、ぐぎゃの境地に達した流タソマダ―?
はふ(゜∀゜)=3はふ
GJ
うちの爪切りとか高枝切りばさみとか付喪神になんねえかな……。
流タン怖いよ流タン(*゚∀゚)=3ハァハァ
ぬるいものを、投下します。
248 :
ツイスター:2006/11/05(日) 09:39:59 ID:PGJ0Nr0j
「これより、妹召還の儀を執り行う」
そう聞いて帰りかける太郎を、山鹿が引き止めた。
「まあ、待て。とりあえず話を聞いてもらおうか」
山鹿は、太郎を手じかにあったいすに座らせると、自分もその隣に座った。
「お前も日本人なら、日本が神代の昔より妹に萌えてきたこと、そして国の繁栄を呪術によって支えてきたという事実を知っていよう」
初耳だった。
「妹と呪術、この二つが融合して生まれたのが妹召還の秘術、そしてそれが記されているのが、これだ」
山鹿はそういうと、古ぼけた和綴じの本を見せ付けた。ミミズがのたくったような文字が連なっている。
新月の日に山羊の首を13人の男たちで囲み呪文を唱えれば、男たちの妹念が凝り固まって、理想の妹が召還される。
そう書いてあるのだという。
「なるほど、まあがんばってくれ」
太郎は、そういい残して帰ろうとした。山鹿が肩を抱えて再び引き止めた。
「まあ、待て。お前にはぜひこの召還式に加わってもらいたい。お前も知ってのとおり、われわれの妹への思いはほとんど妄想だ。
妄想は純粋だが現実への浸透力に弱く、妹を現界させるのに心もとない。そこで、現実の妹保有者であるお前の現実的な想念が必要なのだ」
言いたいことはわかった。しかし、太郎にはそんな荒唐無稽な試みに加わるメリットなどない。
そういおうとして、周囲の殺気立った様子に気がついた。ここでできないなどといえば、何をされるかわからないほど、濃い殺気だ。
平和な人間関係を維持するコツは、こちらが一歩引くことだということを思い出した。
「わかった。やってやるよ」
249 :
ツイスター:2006/11/05(日) 09:40:48 ID:PGJ0Nr0j
部室の中央で、山羊の首を中心に、太郎と山鹿を含む13人の男たちが車座になった。
客観的に見て、ひどくシュールな光景だった。その一員であるという事実に、太郎は悲しくなってくる。
「では、はじめるぞ」
本当にそれ以外の準備はいらないらしい。山鹿が、例の呪文とやらを唱え始めた。
「エロ妹(いも)エッサイム、エロ妹エッサイム、われはもとめうったえたり!」
それに応えて、残りの連中が唱和した。
「いあ、いあ!」
そんなことを二時間以上も続けていると、さすがに太郎もへきへきしてきた。
しかし、他の連中は一貫して緊張感を保ち続けていた。
なぜその熱意をもっとまっとうなことに向けられないのかと太郎がいぶかしんでいたそのとき、やっと変化が訪れた。
山羊の首からぼこぼこと血が湧き出し、首全体がぶるぶると震えだした。不気味極まりない光景だった。
召還されるのが、本当に妹なのかどうか疑わしくなってくる。
「やっと、来たな」
山鹿がそうつぶやいた。もう呪文を唱える必要はないらしい。
「さて、誰の妹になるのやら」
太郎も、さすがにそれを聞き流すことはできなかった。
「どういうことだ!誰の妹になるのかわからないのか」
「ああ、そういえばいっていなかったな。誰の妹になるのかはルーレット方式で決められる。13人のうちの誰の妹として召還されるのかは誰にもわからん。運だ」
「ちょっと待て、それじゃあ何か。俺の妹になることもあるってか」
「そうだが、まあ13分の1の確率だ。安心しろ。・・・いや、結構高い確率か?」
それを聞いて山鹿に掴みかかろうとしたとき、山羊の首が血飛沫を上げて爆発した。
肉片や血飛沫をまともに浴びた連中が、車座を崩して逃げ惑う。幸い、太郎は無事だった。
やがて、血煙の中に人影があるのを発見した。次第に、その姿がはっきりとしてくる。
最後に現れた姿を見て、太郎は唖然とする。
「い、一子?」
その姿が、一子に酷似していたからだ。いや、そのままの姿だといってよかった。
つややかで短くそろえられた黒髪。少しつり目気味の大きな目。通った鼻筋。薄い唇。そしてとがったあご。
「お兄ちゃん!」
そういって、少女が太郎に抱きついてきた。
そこで太郎が狼狽したのは、自分が兄にされてしまったからではない。一子と同じ顔をしていただけに、むしろそれは自然に受け入れてしまっていた。
太郎を狼狽させたのは、少女が裸だったからだ。いくら妹と同じ顔でも、裸で抱きつかれて平然としてはいられなかった。
わたわたとしていると、いつの間にか山鹿が立ち上がって太郎を見下ろしていた。
「そうか、簸川のものになったか。まあ、それもいいだろう」
あれほど妹に情熱を傾けていた山鹿が、自分の妹にならなかったことを冷静に受け止めているのを太郎は意外に思っ
250 :
ツイスター:2006/11/05(日) 09:41:57 ID:PGJ0Nr0j
だが、他の連中は違ったようだ。
「おい簸川!ずるいぞ、もう妹がいるくせに!」「世界中の妹を独り占めする気か!」「この妹コレクターが!」
今にも、こちらに飛び掛らんとする勢いだ。その間に、山鹿が割って入った。
「やめんか、お前ら!誰の妹になっても文句はいわんと最初に誓ったろうが」
山鹿が周囲をにらみつけた。馬鹿なことはやっていても、こういうところは頼りになる。
「何、一度成功したことだ。また今度の新月の日にやればいい。それにこれは最初のケースだ。何が起こるかわからん。
ならば、妹馴れしている簸川に任せてみるのもいいではないか」
そこまで聞いて、太郎は割り込んだ。
「ちょっと待て。実験台にするつもりか。それに、俺はこいつを妹にするなんていっちゃいないぞ!俺にはもう妹がいるんだ、これ以上いるか!」
それを聞いて、太郎に抱きついたままだった少女が顔をあげた。目をうるうるとうるませていた。
「そんな!お兄ちゃんはわたしを妹だと認めてくれないの?」
「いや、そうじゃなくてだな」
そんな風に迫られると、毅然とした態度は取れない。
それが、少女が一子の顔をしていたからか、それとも裸で迫られたからなのかは、太郎にもわからなかったが。
「あきらめろ簸川。受け入れてやれ。何、ほんの一ヶ月ほどだ」
「何だって?」
「そいつの寿命は、次の新月まで。つまり、一ヶ月だ。次の新月の晩を過ぎれば消えてしまう。所詮、妄想の産物だからな」
太郎は、山鹿の言い草に腹を立てるのと同時に、自分に抱きついている少女を不憫に思った。
そして、こんな連中に任せるぐらいなら、自分で保護してやりたいと思ってしまった。
後で振り返ってみれば、これは山鹿の策だったのかもしれなかった。
ふと山鹿の背後を見ると、妹研の連中が少女の背中を、正確には少女のお尻の辺りを凝視しているのに気付いた。
とっさに少女を後ろにかばって、自分の上着を羽織らせてやった。
「すまんな。気がつかなかった」
山鹿はどこからか取り出した服を太郎に手渡した。この学校の制服だった。
「俺たちは外に出ているから、着させてやれ」
不満の声を立てかけた部員たちを一睨みで黙らせると、そのまま彼らを引き連れて廊下へと出て行った。
太郎は、少女と二人で残された。すると、また少女が抱きついてくる。
251 :
ツイスター:2006/11/05(日) 09:42:57 ID:PGJ0Nr0j
「やっと二人きりだね、お兄ちゃん」
「ちょっと待て、何をする気だ!離れろ!服を着ろ!」
「兄と妹が二人きりになってするものなんて、ひとつしかないよ」
「馬鹿!それはどこの世界の兄妹だ。兄妹はそんなことしないんだよ!」
少女は、きょとんとした。
「そうなの?わかった」
太郎から離れると、立ち上がり、服を着始めた。太郎は、あわてて後ろを向いた。
どうやら、根本的なところで兄妹観に欠陥があるようだった。おそらくは、妹研の連中の妄想が入り込んだ結果だろう。
もし連中の誰かの妹になっていたら。太郎はぞっとした。
「終わったよ、お兄ちゃん」
それを聞いて、体を向き直す。制服を着た少女は、ますます一子と瓜二つになっていた。
「でもね、下着がないんだ」
そういって、いきなりスカートを捲り上げた。初めて女のその部分を見て、太郎は噴出した。
顔を背けるが、目に焼きついてしまっている。うっすらと生えているやわらかそうな毛。それが覆っている、ぴっちりとしたクレバス。
「馬鹿!スカート下ろせ、手を離せ」
そういいながら、どきどきがとまらない。
少女がスカートの裾を下ろしたのを確認して、太郎は廊下に向かって怒鳴った。
「おい山鹿!下着はどうした!」
着替えが終わったことを確認して、山鹿がばつの悪そうな顔をして入ってきた。こんな顔をするのは珍しい。
「すまん、忘れていた。今買いに行かせる」
「いいよ、お兄ちゃんの家まででしょ。それまでだったらお兄ちゃんが守ってくれるし」
少女が、そんなことをいった。ずいぶん太い神経をしているようだった。あるいは羞恥心が薄いのか。
252 :
ツイスター:2006/11/05(日) 09:43:44 ID:PGJ0Nr0j
本人がそういうのであれば仕方がなかった。せめて、風でスカートがまくれたり痴漢にあったりしないように守ってやろうと決意した。
そうと決まれば、ぐずぐずしていられない。この妹狂いの部屋に、ノーパンの少女をいつまでも置いておくことはできなかった。
そのまま、つれて部室を出る。山鹿たちは残って山羊の血で汚れた部室を掃除するらしかった。
何かあれば連絡するようにと、山鹿が太郎の背中に声をかけた。
部室から出て、校門のあたりまで来て、とたんにそれまで喪失していた現実感が戻ってきた。
わけのわからない儀式に参加させられて、そこで召還した妹を押し付けられ、自分の家に連れ帰ろうとしている。
状況に流されて、自分はとんでもないことをしようとしているのではないかと、太郎は思った。
確かに、あそこに少女を置いておくことはできなかったにせよ、うちに連れ帰るというのも同じくらい出来かねることではないのか。
大体、本当の妹である一子にどう説明したものか、太郎には考えもつかなかった。
そんなことを考えながら家路についていたので、途中で下着を買うのを忘れていたことに、家の前まできてやっと気付いた。
太郎がおそるおそる家に入ると、その後に少女が続く。今日は、「ただいま」を言うこともできなかった。
奥に進むと、昨日と同じく一子はリビングでテレビを見ていた。太郎の気配に気がついて、後ろを振り返った。
そして、太郎の後ろにいた少女の姿にも気付く。固まった。
自分とまったく同じ顔をしていたからだ。
「え、わたし?え?」
唖然としていた。その隙をついて、太郎が少女を連れて間近に近づき紹介する。
「この子は、新しい妹だ。ほんの一ヶ月の間だが、仲良くしてやってくれ」
「え?え?」
さらに混迷を深めているようだった。ムリもない。
太郎は、立て続けにお願いする。
「それから、お前の下着を貸してくれ」
それを聞いた瞬間に混迷から抜け出したのか、一子は太郎の頬を力いっぱいはたいていた。
以上、第2話「妹、爆誕」でした。
テンポが悪いかも。じわじわといきたいので、ご勘弁。
妹来ちゃったこれw
投下しますよ
「疲れてないか?」
「うん、大丈夫。今日は調子が良いの」
ササは笑みを浮かべながら尻尾を降る。周りに人の気配がないとはいえ、普段から注意
している俺としてはこうしたことをされると複雑な気分になる。嬉しそうな顔をして見ら
れると、どうにも責められないからだ。そうなるとササは本当に楽しそうに尾を震わせ、
更には翼までもを羽ばたかせた。
「こら、そこまでは駄目だ」
「う、ごめん」
ササは頭を垂れると、尻尾と翼を服の中に収めた。俺は後ろに回ると確認をして、服の
乱れを直す。これで目的の街に入ったときも大丈夫だろう。誰もが幸福だという噂だが、
用心するに越したことはない。今までも何度かそれを信じて痛い目に遭ってきた。
「今度こそ、大丈夫だよね?」
「大丈夫にするしかないだろ、時間も殆んど無いし」
最後の望みをかけてここまで来たのだ、これで駄目だったなんてことにはなってほしく
ない。ササの『竜害』もかなり進んでいるし、他のところにはもう行けないだろう。
この世界には大きく分けて四つの種族がある。
一つ目は人間、力は強くないが高い知能と技術は他の追随を許さない。特に『賢者』と
呼ばれる者は、一人で一つの街を潰すことが出来るという。会ったことはないので本当か
どうかは分からないが、少なくともそういう噂が立つだけの化け物だということだ。他の
人間はそこまでではないものの、それでも強い者は多い。
二つ目は竜と呼ばれる種族。普段は人間と変わらない姿をしているが、体のどこかに竜
の特徴を示す『竜証』と呼ばれるものがあるので分かりやすい。こちらは人間よりも知能
が劣るものの力は強く、元の姿に戻れば四つの種族の中で敵うものはない。
三つ目は魔物、これは特殊な例で自然発生するものだ。魔法を使った余波の魔力が特定
の場所に集まると、凝り固まって産まれてくる。外見は人間同じようなものから、動物や
植物に似ているものまで様々だ。知能はそのまま外見に比例するので見分けにくいけれど
異常な程に攻撃的な性質なので、その部分では分かりやすい。
そして四つ目は、俺やササのような『半竜』と呼ばれる存在だ。文字通り体の半分が竜、
要は竜と人間の間に産まれた者だ。人間からは『亞人』、竜からは『半端者』と呼ばれて
差別されているが、それは大した問題ではない。人間に比べたら生命力は遥かに高いし、
知能も人間程ではないがそこそこある。生きていこうと思えば、それこそ一人でも生きて
いけるのだ。数は少ないが、半竜だけの集落も存在する。
では何故俺とササは旅をしているのか。
それは半竜にしか発症しない、『竜害』と呼ばれるもののせいだ。竜証はそもそも竜の
溢れ出る力が固まったものであるから、半分とはいえ竜の力が混ざっている俺達にも存在
する。俺の竜眼やササの竜掌などがその例だ。しかし残りの半分は人間であるせいか力を
抑えきれずに漏れてきて、普通一人一ヶ所である竜証が複数できてくる。そして最終的に
竜の姿となり、知性を失って暴れるようになってしまう。これが『竜害』だ。それを防ぐ
方法を探して、俺達は旅をしている。ササと出会って三年、世界中を歩き回った。そして
一つ前に立ち寄った街で治す方法があると聞いて、魔物以外の全ての種族が共存する街が
あるという噂を頼りにこちらに来た訳だ。それだけ進んだ都市ならば、対策も進んでいる
だろうという判断だ。
「あと、どのくらいかかる?」
「ちょっと待て」
地図を見れば街まであと僅か、一刻程歩けば着くだろうか。日もまだ高いし、ササ本人
は大丈夫だと言っているけれど危ない状態であることには変わりない。これからもそれ程
歩く訳ではないものの、大事を取って休むことにした。
「今日の御飯は?」
「昨日狩った兎の肉が残ってる。後は、前の街で買った薬茶だな」
「他にないの?」
不満そうな顔で訊いてくるが、俺の答えは一つ。
「ない」
兎は可愛いという理由で、薬茶は不味いという理由で、ササはどちらもあまり食べよう
としない。かわいそうだと思うが贅沢は禁物だし、他に食べ物が無いのだから仕方ない。
ササの分を取り分けると露骨に眉根を寄せ、続いて諦めたように吐息した。
「街に着いたら、美味しいものが食べたい」
「はいはい、食わせるから今はこれで我慢しなさい」
言って薬茶を口に含む。途端に口の中に苦い味が広がるが、仕方のないことだ。これは
元々飲みすぎないように敢えて嫌な味にしているらしいし、栄養価も高い。何より安い。
だからいつも買っているのだが、好きになれる日は来そうに無いと思う。
「ねえ、クラウン」
「黙れ」
「何よその全否定発言は!!」
「良いから黙れ」
軽音。
「敵かもしれない」
驚いた表情で、ササが音のする方向を見た。背後の森の奥、微かだが草の擦れるような
音がする。野生の動物である可能性もあるが、魔物である確率の方が高い。ここは大きな
街の近くだから、それに比例して魔法の余波も大きくなってくる。そんな場所に野生の獣
は住みたがらないし、発生した魔物がこちらを狙ってきたと考えた方が自然だろう。
音が、次第に大きくなってくる。小さな草揺れの音は間違いなくこちらに向かってきて
いて、俺達を狙っているのはもはや間違い無いだろう。加速したのか、音は荒々しいもの
になっている。しかも確認出来るだけでも複数、厄介だ。
「下がってろ、ササ」
ササにはあまり戦ってほしくないので、かばうように立った。
来る。
果たして出てきたのは、二匹の魔物。それだけでも大分有難い、守りながらでも何とか
戦えるだろう。下手をした場合でも一対一、少なくともササが囲まれる心配はなくなった。
観察する。
相手は少女のような外見だが、それに騙されてはいけない。赤い目と額から延びた巨大
な角は間違いなく魔物である証だ。しかも人間に似た姿ということは知能も高い、魔法を
使ってきたりする可能性もある。更に二匹は瓜二つで双娘のような外見をしている、それ
に起因する特殊な力を持っているかもしれない。本当に厄介な相手だ。
片方は暗く濁った視線でこちらを見ると、
「お肉、食べさせて」
一歩、踏み込んできた。
俺は右手に魔力を集中させる。
「大丈夫ですの? 今助けますわ!!」
突然、声が空から降ってきた。横目でそちらを見れば、騎士が竜に跨りこちらに向かい
高速でやってくるのが確認出来た。騎士が手に持っているのは槍だが、普通とは少し違う。
棒の先端にあるのは輝く魔力で形成された刃、見たことがないがこの地域独特の魔法なの
だろう。それを降り被りながら騎士は竜から飛んだ。
しかし、
「届かないわよ」
全長2.5mはある長槍だが、ササの言う通り届かないだろう。まだ距離はかなりある。
それを聞いて、騎士が笑ったように見えた。
そして次の瞬間、槍が変化した。
刃の部分が膨れ、延び上がる。全長15mを越えるそれは槍ではない、恐らく竜をも両断
する黄金の大剣だ。騎士は高い怒声と共にそれを降り下ろした。
だが、当たらない。とっさに姿勢を低くした魔物の髪を幾束か千切りながらも、それは
無惨に空を斬ってしまうだけだ。切り返しをするのは長い分だけ時間がかかる。騎士が次
の斬撃を放つまでの間、魔物が攻撃してくるには充分と言う程に長いだろう。
俺はササを小脇に抱え飛び退いて、
「土下座?」
困惑した。
何故か魔物が土下座をしている。さっき斬撃を避けたのも、もしかしたら偶然だったの
かもしれない。そう思わせる程に間抜けな光景だった。いや、油断してはいけないのだ。
こちらが隙を見せた瞬間に襲ってくる可能性も充分にある。
「本当にごめんなさい! あたしたち産まれたばっかりで、人の御飯を欲しがるのは死罪
だなんて知りませんでした! だから許して下さい! ついでにそこの美味しそうなお肉下さい!」
……油断しては、いけない。
だがササは一歩踏み出すと、兎肉を二つ魔物に投げた。すると魔物は跳び上がり、口で
くわえて肉を捕獲。そのまま物凄い勢いで肉を貪り始める。
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
「これは、どういうことですの?」
「儂にも分からん」
呆然とそれを眺めている俺達の隣に先程の騎士が寄ってきた。隣に居る褐色の肌の美女
は先程の竜だろうか、銀色の髪や切れ長の目が特徴的だ。胸には厚手の布を巻いただけ、
下半身も丈の長いスカートを着てているものの左右に深いスリットが入っているので一歩
踏み出す度に肉付きの良い脚が見える。足元もヒールの高いサンダルで、とことん軽装だ。
対する騎士は、殆んど肌を露出していない。
二人を一度見比べて、判断は一瞬。俺は竜の娘を指差し、
「そっちの勝ち!!」
「な、何をいきなり失礼な比較してますの!?」
「ふん、当然の結果じゃろう」
激興する騎士の娘とは対照的に、竜の娘は得意気に胸を反り返らせた。
「あの、お取り込み中のところすみません。さっきのお肉は何のお肉ですか?」
口論している二人が気になったものの、袖を引かれて振り返る。
「あぁ、それは兎の肉だよ」
「なんて残酷な!? この化け物!」
魔物にそう言われる日が来るとは思わなかった。
「嫌なら猪や熊でも食えば良いだろ?」
「嫌ですよ。あんな怖いの仕留められません」
「じゃあ人間は?」
「そんなグロいことは無理ですよ。何物騒なこと考えてるんですか?」
「草は?」
「あんな不味いのもう食べれません」
だから腹が減っていたのか、何も食べることが出来ないのなら仕方ないだろう。
それにしても、
「お前ら、本当に魔物だよな?」
「そうですよ、この角と赤い目が見えないんですか?」
ふふん、と偉そうに薄い胸を張る。
「何か、妙なのに会っちゃったね」
「そうだな」
俺は双娘の魔物や口論している二人を見て、吐息した。
今回はこれで終わりです
>>253 こういうの大好きだwwww
>>239 頼む、これだけは言わせてくれ。
流さんは俺の嫁。
俺はもう修羅場無しでは生きられない体になってしまったようだ・・・・
初カキコ
ここのスレの小説を読んでたら自分も書いてみたくなって書いてしまった…
嫉妬も三角関係もエロも無い一話完結なんですが、ここに投下しても良いですか?
嫉妬も三角関係も無いけど修羅場はあるってこと?
だったらOKのはず
すいません、修羅場も無いんです。
それじゃ、ここには載せられないですね
一体どんなジャンルなんだw
それはそれで気になるな
ジャンルは…何になるんだろう
すいません、自分でもサッパリです
なんだかかえって気になってきたww
一話完結だし投下してもらってもいいんじゃないかな
と止めた本人が言ってみる
流石にそれは勘弁、完全に別ジャンルなのは荒れる元
>>272 同意
まあ、合いそうなスレ探して投下すればいいんじゃない
慣れてきたら修羅場を書いてここに来ればいいかと
多分荒れるでしょうね
俺も今のこのスレの流れが好きなんで、投下は控えようかと思います
機会があれば違う所で載せて、小説を書く勉強しようと思います
相手してくれた方ありがとうございました
一言希望を述べさせていただくなら
このスレ向きに内容を加筆修正して投下してくれるとありがたい
多分一人ヒロイン増やせば
それだけでふさわしい内容になってくれる可能性は高いと思う
あと他所に投下したらこっそり報告してくれ
感想レスとかのついでにこっそりとで良いから
ヒロイン一人追加ですか…
ちょっと頑張ってやってみます
ただ、初心者が書く文なんで期待しないで待ってて下さい
今回載せようかって考えてたのは、ある程度修正を加えて携帯サイトに載せようかと思います。
携帯何で見づらいかもしれませんが、その時はよろしくお願いします
おお!やってくれますかガンガレ
ぶっちゃけ主人公と本命ヒロインの間に
横恋慕の泥棒猫ヒロインが加われば普通に修羅場るからな
本命ヒロインが独占欲丸出しにするも良し
泥棒猫が謀略を駆使して奪おうとするも良し
wktkして待ってるよ
278さん、ありがとうございます
教えてくれた所に書き込みして来ました
小説のタイトルは
『ある日の月の光を浴びながら…』です
ヒロイン追加の小説はこれから考えます
「エリナちゃん。来たぜー。」
夜道を交番まで歩いて、ようやく到着。よく考えたら、俺が襲われる可能性もあったじゃん。ま、いっか。どうせ相手は女の子だし。
「あ、来たわね。」
俺を見た途端、笑顔で駆け寄ってきた。うーん、エリナちゃんも茜と同じで犬タイプだな。いつもはツンケンしてるけど。
「ふふ、ついに私の力が必要になったのかね?ワトソン君。」
「……別に、あんたの力を借りたいがために呼んだわけじゃないわよ。」
「な、なんだとー!一緒にいれば頼りになるって泣きべそかいて電話してきたのはどこのどいつだっけぇ!?」
「う、ぅ……し、仕方ないでしょ!?誰だって初仕事は緊張するもんなのよ!?」
「初仕事っていうよりさぁ……初めて犯罪をあつかうんじゃないの?」
「う、ん……」
あっはは、この様子だと、この平和な町に赴任させられた理由がわかるなぁ。仕方ない、ここはいっちょ………
「エリナちゃん!気をつけ!!」
パンッと両肩を掴み、落ち着かせる。
「は、はひぃ!」
急にやられて驚いたのか、声が裏返ってしまったエリナちゃん。
「エリナちゃんの職業は?」
「警官…」
「なんのためにここにいる?」
「町の治安を守るため……」
「オッケ、それならエリナちゃんが落ち着かないと。」
「う、うん。」
自分を落ち着かせようと、深呼吸をしているエリナちゃん……
不謹慎だが、その端正で真剣な顔を見たら、一つの考えが思い浮かんだ。……やっても大丈夫かな?…知識が無いっぽいし…大丈夫……だよな?
「えーと…ごほん!エ、エリナちゃん?」
「な、なに?」
やべ、緊張してきた。いやいや、いつものテンションでやればいいんだ。なにも深い意味は無いさ!
「うん…あのさー、ちゃんと仕事できるようにおまじないかけてやろうか?」
「え?おまじない?…私、そういうの信じない質なんだけどなぁ。」
「いや、きっと効くと思うよ。スピード逮捕に繋がるって。」
「うん……じゃあ、お願いできる?」
よっしっ!なんだか騙してる気がしないでもないけど、ここまで言っちまったから引き下がれない。
「い、いくぞ。目をつぶって。」
「ん。」
エリナちゃんが目をつぶった瞬間………キスをした。
「んん!?ん……」
最初は驚いていたみたいだが、だんだんと抵抗が無くなっていく。
「んふぅ……ぁ…」
五秒ぐらいだろうか。どうやらエリナちゃんの息が続かないようなので、唇を離す。
「……ぁ」
「…………」
サァっと血の気が引いていく。……お、俺は何を……彼女の無知に付け込んで……こ、殺される!?
「えと……あっははははは、はぁ……お、おまじない完了だ!さぁさぁ!犯人逮捕にのりだそう!!」
ごまかすために茶化してみる。やばい……ずっと下向いてる。本当に殺されるかも。よくて逮捕か。
「あの……」
「え、え?」
長い沈黙を破り、エリナちゃんが口を開く。
「もし……犯人を逮捕したら……」
「うん?」
次はあんたを逮捕だ、とかか…?
「もっとしてくれる?」
「も、もっとって、今の?」
「うん。」
「あ、あはは、こんなのでよければいくらでも。」
「や、約束よ!?」
「オッケ、オッケ。でも掴まえないとおあずけだからな。」
「ええ、わかってるわよ。それでは、犯人捜索に行ってまいります!!」
ビシッと敬礼をし、交番から飛び出していった。
ふぅ、俺もかえろ。
おい、ちょっと甘酸っぱいじゃねーか
流れ無視してごめん
21スレ目なら「どいて21さんそいつ殺せない」
がスレタイでよかったんじゃないか?
既に建ってしまったものはどうしようもない。
23スレ目を建てる時にまた発言すれば、もしくは……。
流れ止めんな
287 :
sage:2006/11/05(日) 17:47:48 ID:+NcNaIQW
sage間違えたorz
SS書いてくる。
「ぎっ!?」「ひゅっ…」「あ…」
目で追う必要もない。ただ的確な方向に、斬撃を真横一文字に放つ。それだけだ。
欠伸が出そうなスピードで間合いを詰めて来た敵兵の首が、まとめて空を舞った。
――――――――くだらない。
「その首、もらったァァァッ!!」
ため息を堪えながら三人の敵兵の死を確認すると、背後から怒号が上がった。
私が背を向けていたのがかつてない好機だとでも言いたげに、間抜けな兵士が長剣を振り上げている。
ご丁寧に声で奇襲を知らせてくれたその敵兵の、ガラ空きだった胴を。
「…ッ!」
鎧ごと、力任せに切断した。
――――――――馬鹿馬鹿しい。
びちゃ、びちゃ。
地に落ちた上半身の切り口から覗く、ピンク色と黄色の物体。
ツンと一際強い死臭が鼻孔を刺激した。
「…退きなさい」
私の声に、周りを囲んでいた敵兵たちが一歩だけ後擦さるが、包囲を解く気はないらしい。
私の首を刈り取らんとする者たちの、ギラついた目を一人一人確認する。……今日此処で私が殺す者たちの顔だ。
こんなところで。
私も彼らも一体何をやっているの…?
殺して、殺して、殺して。人を殺す罪悪感もすっかり麻痺してかれこれ一年。
まわりに促されるまま、大した想いもなく授かった騎士の位。
状況に流されるまま、参加したこの戦争。
何もかもが。くだらなくてくだらなくて頭がどうにかなりそうだった。
吐きそうな気分に追い討ちをかけるように鼻につく死臭。私は溜まらず眉根を顰めた。
薫るのは……血と臓物と、糞尿の匂い。すっかり嗅ぎなれた戦場の匂いだ。
「これが最後です。…下がりなさい」
敵兵たちを睨みつけて、私は再度忠告する。
どこを見ても、まわりは敵国の鎧を身につけた兵士、兵士、兵士。すっかり退路は絶たれていた。
一時後退する本隊の背中を守っていたのが仇となったか……いや、不幸なのは孤立した私ではなく、包囲している敵兵たちの方だ。
もう一度だけ、敵兵の顔を見渡した。
恐怖に慄く者、私を殺そうと息巻いている者。浮かんでいる感情は様々だけど全員が全員、真剣な表情だった。
彼らが羨ましい。何がそこまで彼らを掻き立てているのか、私にはさっぱり理解できなかった。
彼らは何を思って戦場に赴いているのだろう。ときどきふと考えてしまう。
国のため?家族のため?お金?名誉?それとももっと他の何か?
だけどそのうちのどれもが私には興味のないものばかりだ。
愛国心など生まれて此の方、持ったことなどないし、家族と言っても、十七歳になった今までに数える程しか話したことのない父親が一人。
お金や名誉に至っては、私にはしがらみにしかならない邪魔な代物だった。
私にとって、戦争は単純作業の繰り返しだ。
間合いに入った敵の急所に向かって、剣を振るうだけ。
胸を突けば串刺しに。首筋を撫でれば頭と胴が切り離され。頭蓋に剣を振り下ろせば、縦に真っ二つ。
そういう作業をずっと繰り返す。
そして、ひとしきり周りに敵が居なくなってから、何の感慨もなく人を殺している自分に気が付くのだ。
自己嫌悪すらも今ではもう慣れた。
「い、戦姫と言えど相手は独りだ!一斉に斬り掛かれば倒せないわけがない!
皆の者、私に続けーっ!!」
そして今日も。
人を人とも思わない冷徹女が、志に溢れた人間たちを殺すのだ。
「うおぉぉぉっっっ!!!」
捨て身で襲い掛かってきた一人目の首を刎ね、次の敵兵の胴を薙ぎ、三人目の頭を叩き割る。
ずっと。ずっとそうやって殺してきた。そして多分これからも沢山殺すのだろう。
先のことを想像して、私は胃から何かが込み上げてくる感覚を覚えた。
「ひっ…!や、やめ―――え゛ぉ…」
敵兵の喉から飛んだ血飛沫が私の頬を濡らす。
……本当に馬鹿馬鹿しい。一体誰が好き好んでこんな戦争を始めたんだろう。
少なくとも、この戦場には誰一人戦争を望んでいる者なんていないのに。
こんなくだらないもののために、部下を何人も死なせ、殺したくもない人間を山ほど手にかけ。
代わりに手にした物と言えば、『戦姫』と言う嬉しくもない二つ名だけ。
さっき私が手に掛けた兵たちの中には、私たちに戦友を殺された者もいただろう。
高い志を胸に秘め、理想を求めて戦場にやってきた者もいるだろう。
貧しい家族を養うために仕方なしに鎧を着込んだ者も。
此処に居る者たちは皆、各々の理由で戦っている。
…では、私は?
「…はっ」
八人目の心臓を貫きながら、自嘲気味に笑った。
何もない。何の理由もなく、ただ状況に流されて私は今、此処に立っているのだ。
守りたいものは何もなく。かざすべき目標すらもなく。私は此処に居る。
そんな私に人生を絶たれた者たちは一体どれほど口惜しいのだろうか。私には及びもつかない。
それでもなお、私は無心で剣を振り下ろす。私に恨み言を吐く者にも、命乞いする者にも、皆もろともに。
……この、化け物め。
「―――――ッ!?」
首筋の後ろからチクチクした痛みが走って、私は思わず顔を歪めた。
私の後方。包囲の隙間を縫って私に弓を向けている者がいる。
騒音の中、随分とクリアに聞こえてくる弦を絞る音。
その音に集中していたせいか。
敵兵の包囲を割ってこちらへやってくる、一人の傭兵の存在に私は全く気付かなかった。
「このっ―――!」
矢を叩き落とそうと振り返った瞬間。
「ぐっ…!?」
二本の剣を握った少年が、矢の射線軸上に躍り出た。
―――――――――・・・・・
「それでは私はこれで失礼します」
あからさまに私にゴマを擦ってくる貴族に別れを告げ、半月振りの城内を見て回ることにした。
城内は戦時中とは思えないほど活気に溢れている。先月のフォルン平野の戦いで戦況がこちらに有利に傾いているせいだろう。
城の者たちも時々笑顔を見せていた。
あれから一ヶ月。私は前線警備を一時離れ、所用で王都に戻って来ていた。
あちらはまだ依然として睨み合いが続いている。
表面的には穏やかな状況が続いているが、向こうも再戦する機を窺っている。潜伏している兵によると、敵国も不穏な動きを見せているようだ。
近いうちにまた戦いになるだろう。
そうなれば、こういう空気は今度こそ終戦までお預けだ。今のうちに味わっておくべきかもしれない。
「………?」
城の食堂を通りかかったとき。
男の人たちの騒ぎ立てる声が聞こえてきた。やけに楽しそうな雰囲気だ。
気になってそっと中を窺ってみた。
「おい、無駄だって。トリスタン、シャロンちゃんのウィル贔屓は今に始まったことじゃないだろ?」
「そーそー。人間諦めが肝心」
食堂のテーブルで、二十人ほどの騎士が食事を取りながら笑い声を上げている。
一人の女騎士が侍女に詰め寄り、それを他の皆が囲っているという感じだ。
彼らの身に付けている鎧の形状が正鎧ではない。どうやら最近入団した訓練部隊の騎士たちらしい。
あれ…?よく見れば、侍女に詰め寄っている騎士はトリスタン家のマリカさんだった。
彼女の顔を見たのは一体何ヶ月振りだっけ…?以前より少し大人びて見えたのが印象的だった。
「いや、駄目だっ!今日という今日ははっきり言わせて貰う!
シャロンっ!いい加減ウィルにだけ別メニューを出すなんてことは金輪際やめてもらおうか!」
「何故ですか?」
「え…? な、何故って……それ、は……その…。
み、皆の士気に関わるからだ!そう……世話係のお前が一人の騎士を特別扱いするなど許されん!
部隊の副将として、この状況を見過ごすわけにはいかんのだ!」
何か揉めているらしかったが、マリカさん以外は皆にやにやしている。
独り怒っているマリカさんも何処か楽しげに見えた。
――――――?
気のせいだろうか。顔立ちだけでなく、彼女の雰囲気そのものも最後に会ったときとは幾分違う気がする。
上手く説明できないが、角が取れたというか……少し余裕みたいなものが全身から滲み出ているような――――。
事実、怒るときは烈火の如く怒りをぶつけてくる印象があるのに、今の彼女の様子からはそれを窺い知ることができない。
私は少しだけ不思議に思った。
「ん…?あれは――――ラモラック卿?」
マリカさんたちからは少し離れたテーブルで、静かに食事を取っている人物が目に入った。
黙って彼らを眺めている、スキンヘッドに髭を蓄えた一人の騎士。
私とは面識のある人物だ。確か彼は今期の訓練部隊の隊長を任されていたのだっけ。
どうせだから彼に一声を掛けていこうと、ラモラック卿の座っているテーブルに歩を進めることにした。
「お久しぶりです。ラモラック卿」
「?……おぉ。マリィお嬢様、いつお帰りに?」
「今日着いたばかりです。すぐにまた戻らないといけませんけどね。
……ところでラモラック卿。あそこの人たちは……今期の新任団員たちですよね?」
テーブルの一角で騒いでいる騎士たちに目をやりながら尋ねた。
「えぇ。今期のヤツらは中々の上玉揃いですよ。
前評判の高かったマリカお嬢様も然りですが、彼女を打ち負かしたとんでもないヤツまで居ます。
何より、チームワークがいい。…いやぁ、あいつらを送り出すのが楽しみですよ」
満足気に髭を撫でるラモラック卿を他所に、マリカさんの顔を再び眺める。
………やはり、以前とは何処か様子が違っていた。
と、そこで。
「まぁまぁ、マリカ。と、とりあえず落ち着こうよ、ね?」
誰かが不意に、マリカさんと侍女の間に割って入ってきた。
鎧こそ違えど、なんとなくその少年の顔に見覚えがある。
えーと、確か。
「シャロンちゃん。マリカもこう言ってるし、俺は皆と同じ物で構わないよ?
俺だけ違う物を食べるっていうのはやっぱり問題だと思うから……」
「では、このポトフはもう下げてもよろしいのですね?」
「あ…う……それは…」
――――あ、そうだ。
「ああッ…!まったくもう!貴様がそんなだからシャロンがつけあがるのだ!」
「いや…別に俺は……」
――――――私は彼を知っている。
「嫉妬とは見苦しいですね、マリカ様」
「…ッ!!? き、貴様っ!そそそそれは一体どういう意味だ!!」
――――――彼は。
「ストップ!すとーっっぷ!マリカ!何かにつけて剣を抜こうとするの、やめろってば!」
「ええぃ!放せ、ケノビラック!この女を、今すぐ我が愛剣の露と消してやる!」
「逃げて!シャロンちゃん、逃げてーっ!」
――――――彼は。
「……ラモラック卿」
私は彼に視線を縫い付けたまま、声を震わせた。
「何ですかな?」
「…彼の。
あそこに立っている、彼の名前を――――――」
そのとき私は。
生まれて初めて、他人に"興味"というものを持った。
団長が団長じゃなかった頃のお話でした。
投下します。
私の名前は天瀬深由梨(あませみゆり)、17歳。どこにでもいる、ごく普通の女子高生。
・・・だった。一ヶ月前までは。
でも今の私は、格好を見れば分かると思うけど、所謂メイドっていうやつだ。
山の手の大きな屋敷に住み込みで働いている。
なぜなら・・・両親が莫大な借金を残して蒸発してしまったから。
億に近い金額が私一人に押し付けられ、私はただ呆然としていたっけ。
泣くも喚くも嘆くもない。ただ現実感がないだけだった。
でも、怖い男の人たちが家にやってきた時、現実を悟らざるを得なくなった。
卑しい笑いと舐めるような目で見られて、自分がどうされるかが分かってしまったから。
売られる、と。
――そして、私は売られた。
ただし、売られたのは風俗ではなく金持ちの屋敷。
買われたのは身体ではなく労働力。
どんな経過があったのかは分からない。
ただ一ついえるのは、最悪の状況に置かれた私は最悪の結末を辿らずに済んだということだった。
で、私が買われたということは買った人がいるというわけで。
これが薄幸の美少女に一目惚れして引き取りたいと申し出たどこぞの御曹司とかだったらとんでもない逆玉だけど、流石にそれはないと思う。
だけど、優しい老婦人とか気のいいおじさんとかを想像していた。
だって、私なんて多少家事が出来る程度の女子高生でしかないわけで。
金持ちが使用人を雇うとしたら、もっとちゃんとした、色々できるプロの人を雇うと思うじゃない?
だから、きっと私の境遇に同情して使用人として引き取ってくれた優しい人がいるんだと思ってた。
でも・・・期待しすぎるとロクなことがないってことを、私は知っておくべきだったのかもしれない。
私を引き取ったという人の屋敷。
緊張しながら応接間に通された私が見たのは2人の男だった。
1人は白髪の老人。見た感じ60歳くらいに見えるけど、長身でがっちりした体つきからはとてもそうは見えない。
きりっとしたタキシード姿と相まって、すっごく格好いい。
もう1人は少年。・・・青年かな? 年は私と変わらない位に見えるけど。先の老人を傍らに、大きなソファに腰掛けている。
とても綺麗に整った顔立ちで、これまで格好いいと思っていた学校の男の子も一瞬で霞んでしまったほど。
今思えば酷い気の迷いだったけど、その時の私は正直言って、彼に心を奪われていた。
(もしかして、本当にシンデレラストーリーが展開しちゃうの・・・!?)
必死に胸の鼓動を抑える私の期待はしかし、青年の声によって打ち消された。
「入って来た途端に百面相か。中々面白い女だな。頭は悪そうだが、玩具としては悪くない」
・・・頭が悪い? 玩具?
「天瀬深由梨だったな。俺が今日からお前の主になる、高遠遥(たかとおよう)だ。
俺の言うことを聞くのがお前の仕事だ。
他にもいろいろ雑事をやってもらうが・・・そこら辺内容はこいつ――セバスチャンに聞け」
そう言って横に顎をしゃくると、控えていた老紳士が一歩前に出て、恭しく頭を下げる。
・・・セバスチャン、さん・・・? まさか本名じゃないよね?
っと、それより!
「いっ、いきなり何なのよアンタ! 顔を見るなり頭が悪そうだの何だのと!」
私は思わず噛み付く。主だ使用人だっていう以前に、何て失礼なヤツ!
こんな男に心を奪われかけた自分が恥ずかしい!
「フッ・・・」
しかしヤツ――遥は、唇を僅かに吊り上げて笑っただけ。
まるで、私の反抗を面白がるように。
それがまた、私の神経を逆撫でる。
これが、私と遥の初対面。
そして、私たちの関係を方向付ける邂逅だった。
----------------------------------------------------------------------------------------------------------
それからというもの、私は遥にいいように遊ばれることになる。
例えば、私が窓を拭いている時。
そいつはツカツカと近づいてきて、拭き終わった窓の前に立った。
どうしたんだろうと私が見ている前で、人差し指を窓の桟に滑らせる。
すると、指に少しばかりの埃。姿勢はそのまま顔を傾け、私に視線を向けてきた。
・・・私の掃除が完璧じゃないってことか。でも多少は仕方ないじゃない。
どこぞのアニメの継母のように嫌味を言ってくるのかと身構えた私の前で、そいつは。
「・・・フッ・・・」
「・・・ッ!!」
鼻で笑われた・・・!?
無表情だったのを、唇を吊り上げて嘲笑った。
思いっきりバカにした笑みだ!
ふっと息を吹きかけて埃を飛ばすと、ヤツは私に一瞥もくれずに部屋を出て行く。
嫌味を言うでも、叱咤するでも、励ましにきたでもなく。
ただおちょくりに来ただけ?
(むっ・・・ムカつくっ・・・!)
それからというもの、ムキになって全ての窓を完璧に綺麗にした。
まめに雑巾を替え、指で埃をチェックし、その日は窓拭きだけで終わってしまった。
また、ある日私が着替えようとあてがわれた部屋に戻った時。
『今日はこれを着ろ』というメモと共に一着のメイド服が畳んで置いてあった。
それを手に取り広げてみて・・・私は瞬間沸騰した。
猛ダッシュでヤツの部屋へ殴りこむ。
バタンッ!!
「なんだ、騒々しい。それと、ノックくらいしろ」
紅茶のポットを傍らに本を読んでいたヤツに、私は持っていたメイド服を突きつける。
「うるさいっ! それより何よこの服は! ムチャクチャスカートの丈が短いじゃない!」
そう、ヤツが着ろと指示したメイド服は、スカートの丈が異様に短かった。
「こんなの着たら、ぱっ、ぱん・・・・・・・・・・・・。
下着が見えちゃうじゃないの!」
「別にいいだろう。見るやつなど誰も居ない」
「あんたが居るでしょうが!」
「俺はお前のパンツになんぞ興味はない」
そう言うと、また本に視線を落としてしまう。
やましい心を隠してではなく、純粋に興味がなくてという感じだった。
その澄ました態度がまたムカつくっ!
私が怒りに肩を震わせていると、本に視線を向けたまま遥が口を開いた。
「これは命令だ。さっさと着替えて仕事に掛かれ」
もう、引き下がるしかなかった。
そして、言われたとおり着替えて仕事に取り掛かったわけだけど。
(やだ・・・スースーするよぅ・・・)
短すぎるスカートで落ち着かなくて、掃除は一向にはかどらない。
確かに、使用人が全然いないこの屋敷で誰かに見られるという心配は無いんだろうけど・・・。
そうして暫く経つと、遥が向こうから歩いてきた。
私は壁際に寄り、無理やりスカートを押さえつけて、中を見られまいとする。
少しでも見ようとしたら文字通り噛み付いてやろうと睨みつける中、遥は私の前を通り過ぎ、私の顔を一瞥して――。
「・・・フッ・・・」
「・・・ッ!!」
また鼻で笑われた!
そしてそのまま通り過ぎていく。
(また、おちょくられただけ・・・!?)
きっとそうだ。短いスカートに恥ずかしがってる私を見たかっただけなんだ。
そのためだけに、あんな手の込んだことを。
何てムカつく・・・!
それにあいつ・・・私の顔しか見なかった。
(何よ・・・。そりゃあんたなんかに見せるつもりはこれっぽっちもないけどさ。
ちょっとくらい視線を下げようって気は無かったわけ?)
これでも容姿には多少の自信はあったのに。
アイツから見て、私ってそんなに魅力が無いように映るのかな・・・。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ってもう! 何で私が悩まなきゃいけないのよ!
それもこれも、みんなあいつが悪いんだから!
あのむっつり鬼畜男!
久々・・・ってほどでもないですが、投下しました。短編の予定です。
「ブラッド〜」が全く進まなくて一時逃避した、ともいいます。
人死にとか出ないライトな雰囲気で行く予定です。・・・多分。
303 :
名無しさん@ピンキー:2006/11/05(日) 21:07:57 ID:asMPNlVv
KOUDANSYA BOXの新刊、西尾維新の「化け物語」の三話が修羅場ってた
新作ktkr!!!
ブラッドの方も楽しみに待ってますw
作者さんGJ
新作キタワァ
ライト路線は大好物ですよ
新作キタ Y⌒Y⌒(゚∀゚)⌒Y⌒(。A。)⌒Y⌒(゚∀゚)⌒Y⌒Y !!!
しかし今日は神々の連続投下が続くなあ、皆GJすぎるぜ!
だが、俺の雪桜さんが終わってしまった・・
というわけで俺は雪桜さんをお持ち帰りするぜ!!
* * *
『士郎』
「そこの下をもう少し下……あっ」
指示されるままに体を動かし、それに答えるように姉の口からかすかに溜息にも似
た声が漏れる。
――何故に休日の朝からマッサージなんてしているのだろうか
頼まれた以上断れない。「なんで?」と聞けば「やって」との返事がかえって来た。ここで断るという選択肢は存在しない。
誰かに見られたら誤解を生むような状況かもしれない。
ひなたぼっこをする猫の様の如く上機嫌そうに眼を細めた姉の顔が視界を占有する。
モカさんは似た匂いだと言ったが今自分が感じているのは全く別の僅か甘味の漂う香。今手が触れているのはとてもこっているとは思えない柔らかい肉。
意識すまいとすればますます感情が頭を支配しようとする。何故ここまで無防備でいられるのだろうか。
「もうそろそろいい?」
いい加減疲れてきた。今頭に広がりつつある煩悩から引き離す為懇願する。
「うん、いいよ」
安堵の息と共に体中から力が抜けていく。開放される。
「次私の番だからね、はい横になって」
――断れない。
言われるがままに横にされ背中に乗ってくる。
「あんたはさあ、神経質なところあるからこってるでしょ」
背中に置かれた手はリズミカルに動かしはじめる。
少々痛い気もするがあえて口には出さない。
「もうちょっと自分に正直に生きなさいよ」
その声と共に上半身を倒して全体重を預けてくる。背中に胸が密着する。首筋の息が当たる。
「正直ってなんだよ?」――何したいんだ姉ちゃんは。
「わかってる癖に」
姉ちゃんの吐く息が脊髄を激しく振動させる。どうしろってんだ――
* * *
『涼子』
退屈な授業中に顔が緩んでいたのに気がついたから慌てて顔を戻した。
次はどんなことをしようか、それだけで自然とワクワクしてくる。そんな事を考えていたらにやけている自分に再び気がついた。
シロウシロウシロウシロウシロウシロウシロウシロウシロウ――ノートを見れば半ば無意識にビッシリと文字が刻み込まれていた。
* * *
『モカ』
少々野暮用があったものの、いつもどおり屋上へと向かおうとしていたところ、教室の床にルーズリーフノートが落ちていた。別に気にするものでも何でもないゴミなのにちょっとオーラを感じたのついつい拾ってみた。
――なに、これ? ビッシリと「ウシロ」と書き込まれたルーズリーフノート。
呪術か何かとしか思えない独特の異常性を感じてしかたがない。拾うんじゃなかったと何かが囁く。
「みなかったことにしよう」
そう誰に言うわけでもなく小さく呟きノートを二つに折ってゴミ箱に放り投げた。
ところで「ウシロ」ってなんだろう。後ろから何か来るのかしらん。
おっと屋上屋上――
<チラシの裏>
のんびり家で過ごして今頃気づいた。
まともに一ヶ月以上休んでなかった。
そんなかんなで出力不十分
</チラシの裏>
ウシロバロスwwwwwwww
そしてモカさん萌エスwwwwwwwwwww
モカさんキタワァ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n‘∀‘)η゚・*:.。..。.:*・゜゚・* !!!!!
義姉キター!!!!
モカさんワロスwwwwww
まとめサイト更新ktkr!
阿修羅さんお疲れ様です&GJ!
投下しますよ
予想以上に埃が多かった為、物置の掃除を終えた私は浴室に向かいました。
服を脱ぎ、何気無しに鏡を見ると私の裸体が見えてきます。人工的に設計された黄金比
の体は、基本的に作り物であるが故に形を崩すことはありません。しかし映っている私の
姿は、僅かに歪んでいます。普通に見ているのならば気付かない程度、気付いたとしても
気にならない程度の歪みです。しかし黄金比だと知り、そうした目で見ている私にはそれ
が酷く醜いものに思えてきます。正確には、不良品だという認識です。
その原因は、
「傷、ですね」
青様と共に在ろうと決めたとき、私が自ら貫いた部分。まだ感情があった頃の判断で、
皆様はかなり面食らっておられました。しかし心で考えた結果そうしたことは事実で、今も
後悔はしておりません。回路を貫き、感情を失ってしまった今でも、それは変わりません。
指先で、傷口を撫でてみます。
軽音。
どうしたものかと右手を見ると、表面が僅かに熱変形しています。それが傷口と擦れて
音をたてていたのでしょう。何故こうなったのか思考し、すぐに理由に思い至りました。
青様の誕生日会の準備のときに、うっかり火傷してしまったのでした。日常の仕事に支障
はなく、普段は手袋をしているので失念しておりました。青様はこうした傷を嫌がります、
リサ様の情報を聞くついでに直してもらいましょう。
右手を見ながら考えます。
「賑やかになったのは」
その日からでしょう。
その日にサラ様が来られ、翌日には私がリーとユンを連れて来ました。リサ様を含めて
基本的に三人で居たところに三人増え、僅か二日間でその数は倍になりました。
喜ばしいことです。
青様の笑みを思い出しながら洗い場に入り、シャワーの蛇口を捻ります。雨に似た音を
出しながらお湯が降り注ぎ、タイルからは青様が好きだと仰っていた音が響きました。
「そう言えば」
本当に久し振りに青様の夜伽をしたのも、この場所でした。お湯に塗れていたので真偽
は分かりませんが、きっと泣いていたように思います。辛かったからなのでしょう、私を
求めてきたのは。この都市に入る直前、青様は自分は弱いと仰られました。無理に作った
笑みを浮かべ、だから自分はここに入るのだ、と。
液体石鹸を手に取り、擦って軽く広げて体を洗うと汚れが落ちてゆくのが実感出来ます。
腕、首、脚、腰、股間の割れ目、隅々まで洗えばいつもの清潔な私に戻ります。
残る部分は一ヶ所、
「傷跡」
普段は体を洗う順番は決まっておりませんが、最後に洗う部分はいつも同じです。
溝には汚れが溜りやすいので少し多目に石鹸を取り、体の前面に塗りました。撫で擦る
ように広げると、先程脱衣所で鳴ったものと同じ音が響きました。音が響くこの場所では、
それはより鮮明に聞こえてきます。
最後に泡を流せば、隠れていた傷が再び見えてきました。
不意に、思い出します。
『どうしたの、この傷?』
ユンとリーを洗っていたときに尋ねられたことです。
『……痛い?』
リーが傷跡を撫でながら見上げてきますが、もう何百年も昔の傷なので痛みが存在する
訳がありません。感情があるのなら幻痛と呼ばれるものがあるのかもしれませんが、私に
してみればまるで縁のない話です。誇りというものは存在にのみ価値があるもの、なので
私は敢えて口に出さず首を降ることで意思を示しました。それが一番良いだろう、という
判断です。賢いこの娘なら、それだけで分かるでしょう。
しかしリーは尚も首を傾げ、
『……辛い?』
尋ねてきます。
本当に分かっていないのか、分からないふりをしているのか。それとも、何かの答えを
私に言わせたいのか。リーがどのような言葉を期待しているのか分かりませんが、展開に
着いてこれずに首を傾げているユンの頭を撫でながら、
『これは、青様が望むことですから』
言葉にして出しました。
『……じゃあ、お兄ちゃんが付けてって言ったら付ける?』
これの答えは決まっています。
『付けません』
どんなに期待されようと、その相手が例え青様であろうと、私は感情回路を付ける訳に
はいかないのです。仮に一時喜んだとしても、時間が経ってしまえば、青様がお辛い目に
遭うのは分かっています。
『よく分かんないけど、今のままのナナミお姉ちゃんが一番ってことなの?』
幼い表情で、ユンが尋ねてきます。
『お兄ちゃんは、今のナナミお姉ちゃんが大切なの?』
『大切、なのでしょう』
大切、という概念が私から失われて久しいですが、言葉として表現するのならばそれが
一番ふさわしいのでしょう。扱いとしてのものではなく、必要だという理由ではあります
が、青様は私を大切にして下さっているという自覚はあります。
『……ナナミお姉ちゃんにとって、お兄ちゃんは大切?』
大切、というよりは、
『失ってはいけないものです』
『……なら、二人にとって感情がないことは……大切?』
『答えの出るものではありません』
『……コッペリアって、知ってる?』
日常ではまず聞かない単語ですが、私は瞬時に思い至りました。私達機械人形ならば、
誰もが記憶層に刻み込んでいるものだからです。それは第ニ文明のドイツという国で作ら
れた古い歌劇で、心を持った人形が人間になってゆく過程を唄ったものです。出来るだけ
人間に近付けようと作られ、更には感情回路を乗せられた機械人形は、正にコッペリアと
同じようなものでしょう。
ユンは真剣な表情になると私を見上げ、
『……コッペリアは最後、笑っていたよ。幸せになって……そして笑った』
望んでいたものになったのだから、笑みを浮かべることは当然です。しかし私の立場で
考えてみればまるで対極。私はそうなることを望まずにここに居て、何の感情もなく青様
の隣に要ることを望んでいます。それが最大の幸せだと、感情があった頃のかつての私は
判断しました。会話のきっかけになった傷跡が、その証です。
突然、ユンが鼻唄を歌い始めました。何度か試すように始まりの部分を繰り返しますが、
しかし上手くいかないらしく眉根を寄せてこちらを見上げてきます。
『ね、ナナミお姉ちゃん。歌って? 人間になれるかも』
『今度、練習しておきます』
ユンの言葉に、私はそう答えました。本当は練習の必要などありません、私に搭載され
ている機能の一つを使えば完璧な歌を歌うことが出来ます。しかしその言葉を返したのは
意味がないと分かっているからです。肝心な部分が抜けていれば、それは意味のないもの
になると分かっているからです。
それは、
「心、ですね」
コッぺリアは歌い、踊り、そして人間になったといいます。私と同じ人形の身ですが、
違う部分が只一つあります。それは、心です。彼女と私の最大の違い、決定的な差という
ものはやはり感情があるかどうかなのです。心が存在する歌だからこそ意味があり、人間になったのだと思います。勿論、
感情回路を取り付けることで心を持つことは可能です。そうすれば同じ意味でコッペリアの歌も歌えるでしょう。
しかし、
「青様」
心を持った私を、大切にして下さるでしょうか。
そして、
「人間に、なれるのでしょうか?」
否定だったものは、何故か疑念へと変わっています。
答えはありません、勿論私の中にもです。
今回はこれで終わりです
やっと3分の1
そして阿修羅様更新GJ!!
改行ミスりました
これはいつになったら治るのかorz
アパーム!感情回路持ってこい!アパーム!
よく見るとすごいIDっすね
あうあらぺええ
毎度毎度血みどろ展開を期待する僕ですが
ミスタープレイボーイはハッピーエンドでホンッとに良かった。
心の底からGJ!!
未だに落ちない19スレと20スレの攻防を見守っている俺がいる。
現在19スレが496kで20スレが497kとなんと19スレが逆転に成功。
お互い愛しの彼をゲットするために相手を底なし沼へ叩き落そうともがいているように思えてきた。
21スレも22スレと同じような血みどろの戦いを繰り広げるのだろうか…
なんか19スレと20スレにデジャブを感じた。
……まさか、あの娘達の生まれ変わり!?
阿修羅氏の近況コメントを読むと、
サイトの継続を止めるかもと思ってしまうんだがどうだろうか?
ちょっと微妙な書き方なので、気になるね。
元々まとめサイトは、エロゲ板の修羅場エロゲーをまとめる処だった。
しかしこの一年、ほとんどゲームの報告がなされていないので、そのことを言っているのかもしれない。
ただSSサイトとしての需要と供給は大きいので、存在意義と継続意義はあると思うのですが…
いずれにせよ、憶測になってしまうな。
もし何かお考えがあるのなら、ここでみんなに相談して欲しい。
忙しくて更新できなくなっているのなら、有志を募って引き継いでもらうのも手。
エロゲのまとめとSSのまとめを別々にしてしまうのも手。
今後の方針に疑問がおありなのなら、ぶっちゃけて貰った方が皆も安心だと思うから。
好意でやってもらってるんだしね
阿修羅氏のAAなら俺は喜んで踏んで買わせてもらうんだけどな
修羅場エロゲーの紹介の後に張ってくれるなら、喜んで買うんだけどねww
それで更新するにも気合が入るでしょ
>>328 相談するなら本スレでやるべきだろね
まあ、嫉妬エロゲー報告は大切だよ
それを見てエロゲーを買うから
SSのまとめなら俺でよかったら代われるのになぁ
誰にでも編集しやすいようにwikiにSSまとめを移行する案もあるけどな
まあ、阿修羅氏が多忙すぎて更新する余裕がないのならね・・
334 :
名無しさん@ピンキー:2006/11/06(月) 22:36:37 ID:Bw4svY6x
相談なんだけど修羅場初心者な俺にオススメなSSを教えてくれないかな?
>>334 保管庫の作品全部
まぁ、修羅場にも色々嗜好があるからあとは好きなのを見つけるのが良いかと
保管庫にある作品を見れば大体の修羅場は把握できるはずだから
そこから自分の修羅場を掘り下げていくと幸せになれるよ(゚ー゚*)
投下しますよ
「どうかな、これは?」
「……嫌」
「無理!」
リサちゃんが手に取った服を見て、ユンちゃんとリーちゃんが首を降る。もうかれこれ
一時間は選んでいるが、決まったのは僅か数着。意外にも好みが激しいらしい二人は皆の
センスをことごとく否定しつつ、楽しそうに服を物色している。因みに僕は開始して数分
で粉々に打ち砕かれ、その十分後にはサラさんも床に崩れ落ちた。今サラさんはここには
居ない、虚ろな笑みを浮かべてふらふらとフリルが多い衣服のコーナーへ歩いていった。
お陰で青年一人に幼女三人という構図が産まれてくる、しかも女性ものの衣服売り場でだ。
傍目から見て父や兄のようなら良いだろうが、特殊な性癖の犯罪者に見えるかもしれない。
少しの可能性でも恐ろしくなり、なんとなく周囲の視線がこちらに向いているような気が
してきた。助けを求めるようにサラさんの消えた方向に目を向けると、ゴスロリ風の服を
持って幸せそうにしているのが見える。そう言えばサラさんはそのような服ばかり選んで
いたが、意外に少女趣味なのだろうか。
不意にシャツの裾を引かれて、振り返る。
「ねぇ、おにーさんはどう思う?」
差し出されたのは大胆にも肩口から上のないシャツ、サイズからしてリーちゃんやユン
ちゃんのものではなくリサちゃんのものだろう。首が見えないように、というのは諦めて
いたが、これはどうも頂けない。僕は黙って首を振った。
「どうして?」
「子供の内から、そんなに肩やら鎖骨やらが見えるのは駄目です」
リサちゃんは文句を言いながらも服を棚に戻す、その辺りは良い娘だ。しかし選ぶもの
がどれも露出の多いものなのは少し問題だと思う。確かに動きやすいだろうし、活動的な
リサちゃんがそれを選ぶのは当然だと思う。先程はあんなことを言ってしまったが、否定
する訳ではない。寧ろ、ごく個人的な揺らぎから言ってしまっただけだ。僕にとって昨日
の夜のことは、それだけ衝撃的だった。
「……お兄ちゃん、これは?」
リーちゃんが差し出してきたスカートを彼女の腰に合わせる。少し短い気もするけれど、
辛うじて大丈夫な範囲だろう。その後皆が選んだものの代金を払い、先に店を出る。子供
のものとはいえ下着売り場にはさすがに入れなかったので、今は一人で待つ状態だ。
自動販売機で珈琲を買い、道行く人々を眺めてみる。首輪を隠すこともなく晒している
人や、恐らく他人には絶対に見えないような服装の人まで、様々だ。それはランクは関係
なく、高くてもリサちゃんのように出している人も居れば、隠した襟から低ランクの首輪
が見えることもある。そこには性格が現れていて、何度眺めても飽きることはない。
それに、
「どこでも同じだな」
首輪が填められている、ランクごとに住む場所が決められている。違いはそれだけで、
監獄都市も外の都市も大した差はないと思う。そもそも監獄都市のシステムはそのことを
考えられて作られたそうなのだから、そう思うのは当然かもしれない。罪人だからという
理由で危険な場所や不衛生な場所に送ってしまったら、サラさんが過去に犯した罪の一つ、
人類総数不変化のシステムによって片っ端から死んでしまうだろう。だから僕は今、ここ
で呑気に珈琲を飲んでいるのだが、これは良いことなのだろうか。こうしていることは、
サラさんのお陰と言えないこともない。しかし、そもそもサラさんの罪が原因でもある。
数秒間思考し、出た結論は、
「どうにも出来ないな」
答えが出ないのもまた答えの一つであると、まだ屋敷に居た頃に旦那様に言われたこと
を思い出した。その頃は今と似たような内容のことで悩んでいて、同じ悩みを持つ旦那様
に相談した結果だった。上手く行っているのかいないのか分からない、上手く行くことと
行かないことのかどちらが正しいのかも分からない。そんな状況での答えは、これが一番
だと苦笑を浮かべて言っていた。
昔のことを思い出しても胸が痛まなかったのは、旦那様のことだったからだろう。両親
に捨てられた僕を拾ってくれ、屋敷で働かせてくれた旦那様は父のような人だった。ユン
ちゃんやリーちゃんからしてみれば、今の僕やナナミがそう見えているのだろうか。
「性格は大分違うのに」
呟き、珈琲を飲み干したところで皆の姿が見えた。
「きゃはっ、これを見たらおにーさん驚くよ?」
手に持っているのは紙袋、中が見えないようにしてあるのを考えると下着だろうか。
「凄いよ、お兄ちゃん!」
「……かなりエロい」
勘弁してほしい、見ることはないようにしたい。しかし、どうして子供服を売っている
店でエロ下着が置いてあるのだろうか。甚だ疑問だったが敢えて訊くような真似はしない、
その薮には蛇が潜んでいるのは分かっている。
「おにーさん、次はどこ行くの?」
「ベッドを買いに行きたいけど、先に食事にする?」
ユンちゃんは首を降る。
「ベッド買いに行く!」
「……御飯は、ナナミお姉ちゃんの方が良い」
余程気に入ったのだろうか、昨日も沢山お代わりをしていた。ナナミに懐いているだけ
というだけでなく、家庭的な味に飢えているのかもしれない。
僕は頷くと、家具屋に向かう。
「ねぇ、お兄ちゃん。ナナミお姉ちゃんは、どうして心が無いの?」
不意にユンちゃんが尋ねてきた。
「……昨日お風呂のときに、お腹の傷が痛そうだった。でも心がないから平気だって……
そう言ってた。大切だからって、なくしちゃ駄目だって」
幼さ故の質問に、頭を撫でることで返した。
二人はこちらを不思議そうな目で見上げ、
「ナナミお姉ちゃんと同じことしてる」
「……心が無いのに、同じだね」
同じことをナナミもしたということに、僕は僅かな安堵を覚えた。他人と関わってない
ときは本当に機械的だからすっかり忘れていたが、根本の部分は心がない状態でも変わり
ないらしい。何百年も昔のことが、蘇ったのかもしれない。
ナナミは昔から、そんな部分は無器用だった。
それは僕が屋敷から出る前の晩のこと。機械人形を含めて屋敷に居る全員を呼び出した
旦那様は、申し訳なさそうな顔をして僕に向かい言った。
『許してほしい。その代わり、私が全てを保証する』
そして屋敷の金を自由に引き落とすことの出来るカードを差し出し、
『これがあれば、生活に不自由しないだろう。屋敷でも機械人形でも、好きに買ってくれ』
そして周囲を見渡し、
『個人的な頼みですまない。この中で、青と共に行きたい者が居たら出てきてくれ。私は
一人で行かせたくない、だから青を助けたい者が居るならそれに協力してほしい』
有難いことに、殆んど皆が申し出てくれた。人数が多かったから、理由は様々だ。今回
の理由が気に入らなかった者、僕と中の良かった侍女、常に自由を求めていた使用人仲間、
人の数だけの理由があった。
しかしその中で一人だけ出てこない者が居た、それがナナミだ。
当時はまだ感情があったものの、それを表に出すのが苦手らしく常に無表情な娘だった。
誰も積極的にナナミと関わろうとせず、またナナミも誰にも関わろうとしない。僕は失礼
ながら今回もナナミはそうだろうと思っていたが、正反対の結果だった。
轟音。
広間に飾ってあった短剣を自分の胸に突き刺し、一歩前に出たのだ。皆が、普段は驚く
という感情を見せたことのない旦那様までもが驚く中で、ナナミは僕を見た。
『私を連れていって下さい』
一拍置き、
『どんなに辛いことでも、こうして感情がなくなった私なら支えることが出来ます。感情
が理由で今のことが起きたのなら、無感情の覚悟が隣に居れば良いと判断します』
数秒。
『いかがでしょうか?』
僕の気持ちは、そこで固まっていた。
『お願いするよ、僕はナナミがほしい』
『ありがとうございます』
ナナミは初めて見せた表情、微笑を浮かべると倒れ込んだ。
それが僕とナナミの始まり。
僕と、無器用だけれど誰よりも優しい機械人形との生活の始まりだった。
「お兄ちゃん、笑ってる」
「……嬉しいの?」
「嬉しいんだよ」
僕は再びユンちゃんとリーちゃんの頭を撫でた。
今回はこれで終わりです
ナナミの感情が無くなる原因は刃物で自傷行為だったのか、素晴らしい素質を持っているな
諸君 私は修羅場が好きだ
諸君 私は修羅場が好きだ
諸君 私は修羅場が大好きだ
罵りが好きだ 平手打ちが好きだ いやがらせが好きだ 殺し合いが好きだ
無視が好きだ 陰謀が好きだ 監視が好きだ 監禁が好きだ 虚ろな目が好きだ
クラスで 屋上で 中庭で 自宅で 男の部屋で 女の部屋で 喫茶店で 車中で 道端で 橋の上で
この地上で行われる ありとあらゆる嫉妬行動が大好きだ
戦列をならべた 人気者グループの一斉罵声が 轟音と共に泥棒猫を 吹き飛ばすのが好きだ
屋上に呼び出された女が 平手打ちで打ち倒された時など 心がおどる
幼なじみの用意する 弁当箱の中身が 雌猫を撃破するのが好きだ
悲鳴を上げて 燃えさかる自宅から 飛び出してきた雌猫を 嘲笑でなぎ倒した時など 胸がすくような気持ちだった
服装をそろえた カップルが 雌猫の心を 蹂躙するのが好きだ
恐慌状態の雌猫が 既に息絶えた男を 何度も何度も刺突している様など 感動すら覚える
日和見主義の 女達を 吊るし上げていく様などはもうたまらない
泣き叫ぶ雌猫達が 私の振り下ろした手の平とともに 金切り声を上げて
ばたばたと薙ぎ倒されるのも最高だ
哀れな抵抗者達が 雑多な小道具で 健気にも立ち上がってきたのを 既成事実の雨あられの如き列挙が
小道具ごと木端微塵に粉砕した時など 絶頂すら覚える
雌猫の権謀術数に 滅茶苦茶にされるのが好きだ
必死に守るはずだった男が蹂躙され 貞操が犯されていく様は とてもとても悲しいものだ
雌猫の物量に押し潰されて 男の心が離れていくのが好きだ
愛した男に追いまわされ 害虫の様に地べたを這い回るのは 屈辱の極みだ
諸君 私は修羅場を 地獄の様な修羅場を望んでいる
諸君 私に付き従う大隊戦友諸君 君達は一体 何を望んでいる?
更なる修羅場を望むか? 情け容赦のない 糞の様な修羅場を望むか?
鉄風雷火の限りを尽くし 三千世界の鴉を殺す 嵐の様な修羅場を望むか?
修羅場!! 修羅場!! 修羅場!!
よろしい ならば修羅場だ
我々は満身の力をこめて 今まさに振り下ろさんとする握り拳だ
だが この暗い闇の底で 半世紀もの間 堪え続けて来た我々に ただの修羅場ではもはや足りない!!
大修羅場を!! 一心不乱の大修羅場を!!
我らはわずかに一個大隊 千人に満たぬ泥棒猫に過ぎない
だが諸君は 一騎当千の古強者だと 私は信仰している
ならば我らは諸君と私で 総兵力100万と1人の雌猫集団となる
我々を忘却の彼方へと追いやり 眠りこけている連中を叩き起こそう
髪の毛をつかんで 引きずり下ろし 眼を開けさせ 思い出させよう
連中に恐怖の味を 思い出させてやる
連中に我々の ストーキングの足音を思い出させてやる
天と地とのはざまには 奴らの日和見では思いもよらぬ事がある事を思い出させてやる
一千人のビッチの嫉妬の炎で 世界を燃やし尽くしてやる
全修羅場用意開始 旗艦スクールデイズ始動
離床!! 全カッター 全ノコギリ 解除
「最後の修羅場 大隊指揮官より 全泥棒猫へ」
目標 修羅場 あの女の許へ!!
第二次ジェラシー作戦 状況を開始せよ
征くぞ 諸君
それはさておき
GJ >ロボ氏
まとめサイト掲示板から転載
サイトに関すること - 阿修羅@管理人
2006/11/07(Tue) 00:29
サイトの存在意義云々についてですが、サイトを要因とするスレにとっての不利益として、
1.更新が不定期であること
2.サイトに書いてある内容がもとで、しばしばスレが荒れる事
3.サイトを通じて荒らしや誹謗中傷書き込みが流入する事
4.管理する人間の主観が一人歩きする可能性が増えている事
等が考えられます。
1については、最近は生活が落ち着きつつあるので、ここ数ヶ月ほどに更新に
時間がかかることはなくなりそうですが、手伝ってくださる方がいらっしゃいましたら
ぜひともお願いしたい所です。
2,3については、とくにここ最近気になっています。私自身、中傷はそれなりに
受けておりますが、同一人物か分からないものの、似たような書き込みでスレ住人の方や
職人様に対して矛先が向くことは耐え難いものがあります。
4については編集作業をする中で
「閲覧環境を最適化するために、どこまで管理人の裁量で決められるか?」という問題。
私自身の問題でもありますが、現状、仮のタイトル付けや作品への改行挿入など、
許容範囲を超えているかどうか、図りかねております。
Wikiへの移行の案もありますし、存続云々についてはスレの方の意向にお任せします。
どうかご意見をお聞かせください。お願いいたします。
考えすぎなんじゃないかとおもうけどな・・
1に関しては同意だな
阿修羅さんもリアルの生活があるだろうしきついなら気兼ねせず言ってほしい
2、3はここが2chであるからしょうがない、荒らしはスルーすればいい
4は2と3にも言えるけど阿修羅さんちょっと考えすぎじゃないかな
もっと気楽にやってもらっていいと思う、
やりたい様にやってもらって構わないと思う
誹謗中傷を一手に引きうけて貰ってるのを知って、文句なんて付けれないさ漏れは
あとサイトの更新が滞っても、スレに一言書き込めば住民の不安は消えると思う
自分のペースでいいんじゃないでしょうか?
なんと言えばいいか
阿修羅氏の存在は、ほんとにありがたい。
ということを再確認したんだぜ?
>>348に同じく。
あくまで家庭第一で阿修羅氏のペースで良いと思います。
阿修羅氏と嫁様と神SS職人達に幸あれ。
代償行動。
ある目標へ到達することが不可能になったとき、
代わりの満足を得るためにもとの目標に類似した別の目標に向かって行われる行動。
親父も長かった出張から帰ってきた、今の季節は十二月。
いたりさんと俺は、仲良く恋人として、学生の生活を送っている。
幸福だ。
俺なんかをこんなに好いてくれる存在と出会えたことは、まさにそう表現するしかない。
まあ他の女性に少しでも視線を流してしまうと、めちゃくちゃ怒って機嫌損ねるところは、ちょっと疲れるけど。
疲れる。と、言えば。
問題は有華である。
俺はちゃんとあれは間違いだったって言ったのに、あいつはいまだに欠片も状況を理解していなかった。
俺といたりさんの登下校には背後から尾行してくる。
やたらと携帯に電話してくる。メールもだ。鬱陶しいので毎回拒否しているけど効果は無い。
最近はそれらがさらにエスカレートしていっている。
いたりさんのことをストーカーだかなんだか言っていたけど、現在その称号は有華の独占じゃないか。
本気で悩んでいた時期もあった。
が、この問題はまもなく解決するはずだった。
「なにせ引っ越すんだからな……。これで有華も、俺のことなんか、綺麗にさっぱり忘れるさ」
ベッドに寝転んで、天井をみつめながら呟く。
そう。
有華は引っ越す。このマンションからさるのは、確か明後日。
俺の幼馴染みは、父親の仕事の都合で引っ越すという、ありふれた理由で、消える。
それで終わる。
終わるのだ。
1に関してはリアル最優先でいって欲しい、もし大変なら協力は惜しまないさ
2、3はいろんな所でここのHPの事を見かけるから、大勢の善良な一般人と一部の心無い人が入ってきている
と思われるがここが2chである限りどうせ避けられないスルーでおk
4はもっと気楽に構えてやりたいようにやって全然問題無し
正直、阿修羅さんのサイトは間違い無くエロゲー板でも3本の指に入る超良サイトだし
特に修羅場を愛する者にとっては全世界でも神クラスだと俺は思ってる
///以下チラシの裏///
雪桜の舞う時にの第22話『迷える子犬』このスレの
>>25-30が保管されてないですよ
そして俺はこの書きこみを書くまでタイトルを雪桜の舞う「頃」にだと誤認していた……
///チラシの裏///
あんなに泣き喚いたのは、はじめてだった。
引っ越す。という現実はそれくらい嫌だったのだ。
エー兄と、離れたくないもん。
それでも所詮中学生のあたしに、親から独立できる道理は無かった。
明後日。
それが、残された時間。
一度離れてしまったら駄目だという確信が在る。
「ひ、く、ぅ……、ぅ」
でもどうすればよいのだろう。
エー兄はあたしを避けている。あの女と二人でいるときだけではなく、一人の時間でさえも、あたしには割かない。
何度も押した携帯のボタン。繋がらない。メールも届かない。
夜中に、こっそりエー兄の家のドアまで近付く。
何度ドアを叩いてエー兄の名前を叫んでしまおうかと、思ったか。理性は溶けそうだ。
透明になれたらと、願ったりも、した。もしくは幽霊みたいに、壁を通過できるような、存在に。
そうやって実現不可能な接近の方法を想像できている間は、あたしはまだ、辛うじて留まれていたのに……っ!
嫌だ。
エー兄がほしい。
あの女が独占するなんて、許せない。
けれど時間が無い。だけどエー兄が好き、愛してる、ほしい、好きすき、あたしのモノに。全部ほしい。
でもエー兄はあの女が、好き。
ならあの女を始末しても無駄だ。それ以前にエー兄があたしを愛するようにさせないと。
しかし時間は無い。どうすれば、いやだ、嫌、いや、ぁ、あ、ひゃ、ひぃ、ひ。
全部、ぅ、それは、あ、は、……ぜぃ、たく、なのかなっ……?
なら。
全部という目標には到達できないのなら。
あの女に、全部くれてやるほど、あたしは善人じゃあない。
「ぅ、ひ、っくぅ、う……、そう、だ、よぉ」
立ち上がる。
寝静まった家族を起こさないように、静かに玄関から外へ。
一階の廊下を歩く。ゆらゆら。まっすぐ歩けないなあ。
立ち止まる。
表札には、阿良川。
玄関を凝視する。この先にエー兄がいるんだ。
「エー兄、大好き」
笑みがこぼれた。無限に。
ぁは、はははは、好き、好きだよ、うん、今でも、ただ性欲を処理する道具としてなら付き合うよって言われたら、
喜んで従うし、ぃ、とにかく、それが、壁越しにでも、今すぐ伝えたかったんだ。
「だから」
夜空を見上げる。
小雨がぱらぱらと、おちている。
翌日。
結構な雨足にもかかわらず、傘を片手に俺は歩いている。
いたりさんの家に、向かうはずだった。
だったのだが。
となりには、
「ぅあっ。強くなってきたね、雨」
「……ん、だな」
「あはは、ちょっと濡れちゃった」
横切った車が弾いた水溜りの飛沫に少し驚きつつ、有華が笑いかけてくる。
今日で最後だから。
家の前で待ち構えていた有華は、俯きながら俺にそういって。
ちょっとだけ、あたしに付き合って。と、懇願してきたのだ。
最後だと。
その言葉にそそのかされてしまったのだろうか、俺は、今こうしてこいつと並んで歩いている。
「な、それ持つよ、歩きにくいだろ」
「大丈夫。あたしの個人的な荷物だし、歩きにくくなるのはエー兄だって同じでしょ」
有華は片手に傘、片手に紙袋という両手の塞がる状態だった。
中身は秘密らしい。なんだろう、俺に渡したいものでもあるのか……っ?
さておき、俺も急ぎたい。
「で、どこにいくんだ? 雨だからな、どこか適当な喫茶店でも……」
「緑地だよ」
は、ぁ……っ?
思わず足が停止する。
「こんな土砂降りに行くところか? まあ、土砂降りじゃなくてもいかないけど」
「昔さ、一緒によく遊んだところじゃん」
くるりと、振り返る。
「最後に、見ておきたくてさ……。駄目、かな」
俯く。
傘に隠れて、その表情は読み取れない。しばし、雨音だけが耳朶を撫でる。
それくらいの。
わがままには、付き合ってやろうと、思えた。
「……わかったよ。さっさといくぞ」
先に歩き出す。
俺が三歩ほど先行した所で、ようやく有華が歩き出す足音が伝わる。
目的地に到着するまで、無言だった。
約二百種、三十二万本もの樹木が植えられた一大森林公園。
その広大な園内の道を、歩く。
誰とも擦れ違わないから、二人だけ、どこか世界から外れてしまったような、ありえない感覚があった。
馬鹿げていた。さっさと帰りたかった。
そんな本音を隠す俺とは相反して、有華は、俺の横を歩いて、妙ににこにこしている。
やがて、子供が遊ぶ広場に至る。
「あの長い滑り台、懐かしいなあ」
「ああ、でも……今見たら、なんか、そんな大きくないよな」
「小さかったからね」
お互い、と付け足す。
じゃあ今は小さくないのだろうか……、無意味な疑問だった。
「ここでおままごともしたし、鬼ごっこもしたよね」
「そうだったな」
かつてのここでの風景では、俺と有華は、仲良く走り回っていたのだろうが。
今は正反対で。
俺は、いたりさんが好きだから。
「うん……。じゃあエー兄が、鬼ね」
「――は、っ?」
「十秒数えてから動くんだよっ。あはは」
言って。有華が走り出す。
この糞寒い雨の十二月の日に、白い吐息も盛大に。
その背中を、どこか儚く感じてしまった。
「ぉ、おいっ。有華、こら待てっ!」
俺の制止の叫びも聞こえないのか、見失いそうになる。
「、あの馬鹿、くそっ」
こんな雨の日に、まさか走ることになるなんて思わなかった。
遊歩道を普通に横切って、有華は樹木の茂った道ならぬ空間に入り込んだ。
ところで見失い、俺も半ば自棄で突入するが、いっこうに見つからない。
「有華、有華ぁっ! おい、どこだ、いい加減帰ろうっ」
雨足が僅かに減っている。
見上げると縦横無尽に伸びた枝と葉がそこを埋め尽くしていて、なんだか閉じ込められたような錯覚に陥る。
……もう、帰ろうか。
このまま引き返すことに、非は、無いはずだ。ちゃんと捜したんだ。
そうやって、無意識に後ずさったときだった。
「エー兄、捕まえたっ! ぇい」
「ぉわっ」
背中に衝撃。
「ゆ、有華、お前っ」
「あはは。エー兄が鬼なのに、あたしが捕まえちゃったよ」
「鬼ごっこはどうだっていいっ! お前、今までどこに――っ」
「帰ろうとしたよね」
その一言に。
振り返るという行動を、俺は、やめた。
――図星だったから、という理由だけではない。
「……ぉ前、なに、言って」
「うしろから、ずっと見てたよ。エー兄は後ずさった」
ぎゅう。両手で、しっかりと俺のコートを握り締める。
「いなくなったあたしのことは数十分捜した程度で諦めて、」
――有華の声を聞いた瞬間。
「あの女の家に、行こうとしたんだっ……!」
危険。
その二文字が、全身にいきわたったから、だから、振り返ることが恐ろしくなった。
傘が、手元から滑る。
けれど俺は濡れない。俺にぴったり張り付いている有華が傘を持っていたから。
片手には傘。
そして、もう片方には。
俺は……、静かに、目線を落とした。
首筋の近く、何か尖った、有華の手が握っているそれは、
「ゆ、か……ぁは、は、それ危ない、危ないって、は、はは」
ナイフ。
少しでも動いてしまえば。容易く首の皮膚は裂かれる。
「うん、危ないね。すごく危ないよ、動いたら……ね」
威圧の声だ。
とうとう、身動きが完全にとれない。
俺の携帯が鳴ったのは、そのときだった。
「とって。でも出ちゃ駄目。もし出たら……、わかってるよね」
「わ、かってる、からっ」
震える手で、エー兄がポケットから携帯を取り出す。
「足下に捨てて」
あたしの命令に、エー兄は少しとまどった。
当然だろう。唯一の連絡する手段を、自ら捨ててしまうのだから。
けど、あたしがなにを片手に握っているのか十分理解しているのなら、答えは決まってるよねっ?
「く、ぅ」
ぱっと、五指を放して濡れた地面に転がる携帯。
不愉快な着信音だ。
死ねっ!
内心でそう雄叫びながら、あたしは、いつか蟻を踏み潰したときと同じ勢いでそれを砕いた。
何度も、何度も繰り返した。
着信音はいつからか止まっていて、後には、ただのゴミが地面に広がる。
「ぁ、ははっ」
あの女の着信をあたし自身が阻止する。
存外、これは楽しい。
「はは、ぅあ、はは、ひゃひゃひゃっ!」
おかしいなあ。
本当に、本当に愉快。
「ふ、ふふ、ぅ……じゃ、ぁ、本題だよ、エー兄」
ナイフを握りなおし、耳元で囁く。
背中からエー兄の鼓動を胸で確かに感じながらの第一声。
「エー兄、さあ……あたしと誓ったの、おぼえてるかなっ?」
「ち、誓い、ぃ?」
「そ。――あたしの手と、エー兄の手はね、指先から溶けて手首まで混ざり合っちゃったの」
傘を持っている手で、エー兄の左手に触れて、言う。
本当に。
混ざり合ってしまえば、いいのに。
「離れたら……繋がってる部分の肉が千切れて、血が出ちゃうの」
繰り返す。
爪で、エー兄の左手の肉を、抉る。
「あぃ、つぅ……っ!」
「いっぱい、いっぱい出ちゃうよ。出血で死ぬくらいには、確実に……離れて千切れた部分から、
迸るの……どぴゅ、どぴゅどぴゅ、って、噴水みたいに」
もちろん血は、首からも出るよ。
「ぃたい、痛い、頼む有華、やめっ……!」
「――絶対に死ぬよ。どちらか片方でも、お互いから離れたらっ……!」
自分の左手にぬめる感触を実感しながら、エー兄の左手を握り締める。
見なくても、今のお互いの手が何色なのか、わかってしまう。
「だから――鮮血の海に沈みたくなかったら……っ。あたしから、離れたら駄目なんだよ、エー兄っ!」
なのにっ!
「けどエー兄は離れちゃったっ! あたしに、すきって言ったのに、誓ったのにっ!
ずっと一緒にっ! 手が、こうやって繋がる距離で、って……!」
「ぅ、あ……有華、俺は、っ」
ナイフの柄を、いっそう激しい力で握り締める。
呼吸が荒い。けれど整える暇も用意せずに、あたしは続けた。
「――最後の質問だよ、エー兄。このまま誓いを破ったまま、放置するのか。
それとも。
誓いを守るために、あんな女なんか捨てて、あたしを、愛するかっ……!」
ナイフの先端が僅かに皮膚を撫でて、赤い線が首筋を走った。
有華の呼吸は荒い。全力で疾走した直後のように。
のどが渇いている。
それでも、今は言葉を吐かないと、駄目だ。
「わ、わかった。俺が、好きなのは、有華、有華だから……っ!」
良心など痛まない。保身が全てと、嘘にまみれる。
有華は。
「……、ふうん」
押し殺した。
黒い何かを押し殺した、そんな声で、返事をする。
「だったらね、エー兄。――あたしに、言う言葉が、あるでしょ」
「ぃ、言う、こと……っ!?」
頬を伝う液体が、汗なのか、雨水なのか。
なんだよ……っ! 言うべきこと、っ!? 謝罪か、宣言か、それとも――っ。
「五秒以内に言って。五、四、三、」
「ぇ、あ、そ、その、ぅあっ……?」
わからない。
助けてくれ、いたりさん、いたりさん。
「わ、悪かったよっ! もう絶対あんなことは言わないし、それにっ……!」
「二、一、」
そのとき、ようやく髪が濡れていることに、気付いた。
つまり有華が、傘を放している。
片手が、自由に……っ?
「ぜろ」
有華のカウントと同時に。
俺の意識が、弾けた。
片手にナイフ。
片手にスタンガンを携えた少女は、涙を、落としながら。
「俺が好きなのは、有華だから……っ?」
嘘ばっかり。
あの女のことばっかり、考えているから。
「もう十二月なんだよ、エー兄」
ぽつりと。
「あたしの誕生日、十一月、十一日……っ」
そんなことさえも。
忘れちゃうんだよ、エー兄ぃ……っ?
涙は拭わない。
そのまま、ふらふらと離れた茂みに隠していた紙袋を引っ張り出す。
有華は、中に手を伸ばして。
「よい、しょっと」
片手にはガムテープ。
片手には。
糸鋸。
「足を、巻いて……ん、」
屈んで、瑛丞の足首から、何重にもそれを巻きつける。腕も同様に。
瑛丞の体をうつぶせに倒して、背中に片足を乗せる。
手首を。
睨む。
「ばいばい、エー兄」
悲しげに、それでも笑顔で、少女は言った。
両手の得物。
その刃が、瑛丞の手首に、近付いて――。
「エーちゃん、遅いなあ」
いたりは携帯をぼんやりと眺めながら、呟いた。
ベッドの上、体育の座り方で、ぶつぶつと、遅いと呟く。
苛々しているが、こんな時間さえも、幸せだった。
遅れてきた彼はすごく謝ると思う。両手を顔の前で合わせて、必死に何度も頭を下げるのだ。
私は、頬をふくらませて視線を合わせない。彼が視線を合わせようと顔を回り込ませる。
キスしてくれたら、許します。
そうして、彼は赤面して、「そ、それは……っ」などととまどいながらも、最後には真剣な表情で。
近付いてきて――。
「き、きゃ――っ! きゃあっ! も、もう、恥ずかしいなあ、私の馬鹿、馬鹿っ……!」
倒れこんで、自分の想像に赤面しながら枕を叩く。足もばたばた。
瀬口至理は、幸福だった。
遅れている恋人を待つ女性として、その先に在る彼との未来を想像して、とても充足していた。
していたのだ。
このとき、は。
見上げれば蒼穹。窓を流れる景色は、どこも見知らぬそれ。前日は雨はすっかり退場している。
谷川有華は、車の後部の座席にいる。新たな生活の場所へと向かっている途中だ。
家族は、瑛丞が見送りにやってこなかったことで、娘に対してどんな言葉を投げれば良いのか、悩んでいる。
それは杞憂に終了する。
有華は終始笑顔で会話にも参加するし、まるで引っ越すことに嫌悪を発していない。当初の反応とは正反対だった。
何かが決着したのだろう。母と父はそう納得した。
その納得は正しい。
「もうちょっとだぞ有華、ほら、見えてきた」
「うん」
車は止まらない。ただ道路を疾走する、それは本来、到着のための、疾走である。
自分の鞄を、開ける。片手を突っ込む。
それに指先で触れる。
一緒だよ。
全部は、持って、いけないけれど。
けれど、確かに、傍に在る――。
町が、見えてくる。
小さな、音量で。
彼女は呟いた。
「エー兄、ほら、町だよっ。……ぁ、見えないよね、ぇへ」
舌を、ぺろりと出す。
鞄の中には、二つの手が、入っている。
A END。『代償行動』
疾走、Aはこれで終了です。こんな時間に投稿おかしいよね、俺今日仕事なのに……。
ここまで書けたのは皆様の感想のおかげです、ありがとうございました。
まとめサイトの阿修羅氏もお疲れ様です。
BとCは、かなり遅くなりそうです、ごめんなさい。全然書けない……。やばい。
ひとまず、これでおしまいです。
これに不快感を抱かれた方々は本当にすみません。ご勘弁を。
誓いを破った代償キ、キタ━━━━━(((( ;゚Д゚)))━━━━━━ッ !!!GJ!
いたり先輩も幸せそうな妄想が切ない・・・そして有華は凄く良い笑顔なんだろうなぁ(*´Д`)
そして割り込んでしまって正直スマンかったOTL
エ…エースケ君の手首がヒィー(((゚Д゚)))ガタガタ
GJでありました。BとCも気を長くして待っていますとも(*´∀`)
>>365 忙しい中GJ、おかげでハァハァしっぱなしさ・・・・全裸で。
仕事ガンガレ、俺もガンガル。
吉良吉影ですか(((( ;゚Д゚)))
エースケ君はいったいいつ何を間違えたんだろう?
岸田さん「お前は信じた相手を間違えたのさ」
誕生日にPS3を買ってやらなかったからだろ
( ゚д゚) カチャカチャ…
_(__つ/ ̄ ̄ ̄/_ (このss書き終わったらどーしよ……)
\/DELL /
 ̄ ̄ ̄
( ゚д゚ )
_(__つ/ ̄ ̄ ̄/_
\/DELL /
 ̄ ̄ ̄
いたり先輩がテラ可愛い
よし、いたり先輩と雪桜さんは俺がもらってゆく
監禁と猫猫地獄に付き合うぜ
なら俺は虎姉妹を貰う
反論不許可
じゃあ俺はアマツさんに監禁調教されてくるよ
いつも思うけどこういう流れキモい
俺はマゾだから住民の気持ちがよく分かる
エースケ君は本当に女運がわ・・・・いいですね
エー兄オナニーどうすんだろ・・・
>>378 >>373に投下してもらいなさい。
つか、職人の投下スピードが落ちると必ずこの流れになるよな。
むしろ今までのラッシュが早すぎただけなのに少しはガマンして欲しいもんだ。
山本君はまだなの?
今
>>373氏は投下しようとしてる?
そうじゃなければ自分が投下させてもらうけど良い?
いいよ
鮮血がほとばしった。
次は?
>>381 そんなこと言ったらユウキだって・・・・・・まあ彼には白とアトリがいるからいいか
「じゃぁ今日からはアタシがココのボスでいいわね?」
そう言った少女――魔甲蟲姫の足元には鎧もろとも溶かされ喰い殺されたモンスターのなれの果て。
堂々たる巨躯を誇り牛頭の巨人――ミノタウロスと呼ばれ恐れられたモンスターも今や只の肉塊、
無残な屍と成り果てていた。
側には刃こぼれし、更に溶かされて鉄屑と化した斧も転がっていた。
「……聞こえなかったの?」
少女が不機嫌そうに呟くとモンスターたちはいっせいにひれ伏した。
「分かったようね。 じゃぁ食べ終わったら呼ぶから下がってなさい」
少女はそう言うとミノタウロスの死骸を貪り始めた。
モンスターたちは脅え逃げるように部屋から去っていった。
部屋には血臭と屍臭が立ちこめ、『ビチャビチャ』と、そして『ジュルジュル』といった
おぞましい音だけが響き渡った。
そう。 少女は新たな寝床と、そして現在の空腹を満たす為
手頃なモンスターのアジトを乗っ取ったのだった。
そして数日が流れた。
「ギャアアァァァァァッ!!!」
少女は新たなアジトでも以前と同様に人間を、主に冒険者などを捕らえ貪り食う事を常とした。
今日もまた哀れな犠牲者が断末魔の叫び声を上げ事切れる。
そして犠牲者の上に馬乗りになり押さえつけ見下ろす魔物少女。
其の表情は只々虚ろだった。
死に直面した哀れな犠牲者が助けを請い暴れもがく様も、断末魔の叫びも、胃袋を満たす満腹感も、
其の何れも少女の心を満たしてはくれなかった。
かってはそれらも含めた"食事"は少女にとって最も楽しみな時間のはずだった。
だがどれだけ喰らい其の胃袋を満たそうとも何か物足りない虚しさを憶えていた。
しきりに脳裏に浮かぶは以前のアジトを壊滅させた魔導士。
だが決して其の事に対し抱く思いは恨みの感情などではない。
そう、本来なら自分の部下を全て打ち倒しアジトを壊滅させた者など恨み憎みそうなもの。
だが不思議ほどそう言った感情は無かった。
尤も少女自身が部下にもアジトにも愛着は無かったからと言うのもあるが、だがそれだけではない。
少女は瞳を閉じリオの――魔導士の少年の姿を思い浮かべる。
整った顔立ち、綺麗な金色の髪、アクアマリンの済んだ瞳、よく通る優しい声。
ほんの僅かな時間しか出会って無かったはずなのに鮮明に思い出せる。
そして思い出す度に不思議な気分になる。 それは決して不快ではなくむしろ――。
そう。思い出すたびに感じるこの気持は心地良い陶酔感すらあった。
そして思う。
――もう一度会いたい。
だがどこの誰かも分からず出会う術も見当たらない。
其の事に気付き其の気持は息苦しいほどの寂しさへと変わる。
――会いたい。
会いたい 会いたい 会いたい 会いたい 会いたい 会いたい 会いたい 会いたい 会いたい
会いたい 会いたい 会いたい 会いたい 会いたい 会いたい 会いたい 会いたい 会いたい
何故こんなにも会いたいのだろう。
この気持が何なのか知るためにも、そのためにも会いたい。
心地良いようでいながら同時にとてつもなく息苦しいようなこの不思議な気持。
自分をこんな気持にさせるあの人は今何してるのだろう。
やはり其の魔道の腕でもって魔族と戦いを繰り広げてるのだろうか?
自分と初めて出会ったときのように魔物のアジトを探し出しては潰してるのだろうか。
そこまで考えて少女は気付いた。
――そうか。 なら、また出会える機会はあるってことよね?
そう、魔族討伐を生業としてるのなら何れココにも来るかもしれない。
いや、きっと来てくれる。
次の瞬間少女の顔に晴れやかな笑顔がともる。 花が咲いたような大輪の笑顔。
だが、其の笑顔はあまりにも其の場所、状況に不釣合いだった。
そう、この屍臭を放つ哀れな犠牲者の骸が横たわる陰湿で薄暗い牢獄に在っては
あまりに不釣合いな其の笑顔はむしろ不気味でおぞましさすら感じさせるものだった。
そして少女は目の前のどろどろに溶けた肉塊にかぶりつく。
悩みが晴れて食欲が戻ったのだろうか。 勢いよくがつがつと貪り始めたのだった。
そうして待ち続けどれくらいの時が立ったのだろう。
その日何時にも増してアジトの内外が騒がしかった。
「騒々しいわね。 一体何なの?」
少女は鏡を覗き込んだ。
其の鏡は"遠魔鏡"と言われる魔族の持つマジックアイテム。
それは眼球鼠と呼ばれる一つ目のネズミのような魔獣等と組み合わせる事で
遠くを見る事の出来る道具。
その遠魔鏡を覗き込んで少女は驚きの声を上げそうになった。
何故ならそこには少女が見紛うはずも無い魔導士の少年の姿が映ってたのだから。
そして少女は顔に満面の笑みを湛え地下牢へと降りていった。
「オ、オ待チ下サイ! コノ様ナ時ニドコニ行カレルノデスカ?!」
困惑の声を上げたのは配下のモンスター。
当然であろう。 勇者の一行が攻めてきたと言うのにアジトのボスが迎撃に向かうどころか
地下牢などという見当外れの場所に向かってるのだから。
「五月蝿い」
少女は振り向きもせず進言してきたモンスターに裏拳を喰らわせる。
少女の一撃を喰らったモンスターはそのまま吹き飛び壁に激突し動かなくなった。
「御託を述べてる暇があったら迎撃に向かいなさい。 それとも今ココでアタシに食い殺されたい?
それからそこのゴミ片付けときなさい」
少女はモンスターたちに向かって吐き捨てるように言い放ち、
そして先ほど殴り飛ばしたモンスターに視線を送った。
其の言葉にモンスターたちはそのぐったりとなリ事切れてる同僚を抱え
逃げるようにその場を去っていった。
少女は牢に入ると牢番のモンスターを追い払った。
そして腰掛ると堪えきれ無さそうに其の頬が緩む。
「やっと……やっとあの人が来てくれた……!」
たった一度しか出会ったことは無いが、だが今日に到るまでそれこそ夢に見るほど
出会いたいと望んだ少年。
しかも先ほど"遠魔鏡"越しに見た其の姿は以前――
一年程前見たときよりもっと精悍になってたようにも見えた。
きっと少年は向かってくるモンスターを苦も無く退けるだろう。
そして牢屋で自分を見つけたならきっとあの時のように優しい言葉を掛けてくれるだろう。
少女は牢の中でそんな事を考え胸を躍らせていた。
やがて少女の耳にモンスターの悲鳴声が飛び込んでくる。
其の声に少女は益々其の笑顔を輝かせる。
――来てる! あの人が直ぐそこまで!
目を閉じれば浮かんでくるのはかって見た魔導士の少年の戦う姿。
思い描くだけで胸の高鳴りは益々激しくなる。
やがてモンスターの悲鳴がより近くなる。
靴音も聞こえてきた。 モンスターのそれとは明らかに異なる人間の靴音。
その時其の靴音は一人分のものではなかった。
そう、リオだけでなくセツナとクリスもいるのだから。
だが少女はそれを知らず、また気持がはやってた為に気付かなかった。
やがて牢の前に人影が現れ、そして一瞬、小さいが高密度の炎が爆ぜ牢の鍵が消し飛ぶ。
そして入ってきたのは見紛うはずも無い少女が夢にまで見た少年の姿。
「あなたモンスターにさらわれてたのですね。 私達が来たからにはもう安心です……。
おや? 若しかしてあなた以前にも……」
其の言葉を耳にした瞬間少女は更に笑顔を輝かせる。
――憶えててくれたんだ!
少女は喜びに胸を高鳴らせる。
見れば少年も顔に懐かしそうな表情を浮かべてる。
少女は抱きつこうと駆け寄ろうとした。
だがそれを時阻む影があった。
「近寄るな!」
少女を阻み声を上げたのは隻眼の戦士――クリスだった。
既に得物のグレイブの矛先は少女に向いていた。
そんなクリスにリオは戸惑いの声を上げる。
「ど、どうしたんです? クリス。 暗がりでも分かるでしょ? モンスターではなく人ですよ?
彼女はおそらくモンスターにさらわれて……」
「見た目に惑わされないで! 分からないんですか?! この禍々しい邪気!
何よりも其の口から漂う屍臭! 人を喰らうモンスター特有の悪臭が!」
クリスが叫ぶとリオはきょとんとした表情を見せる。
「え……? し、屍臭ってそれはこの部屋に立ち込めてる臭いなんじゃないのですか?」
其の問いにクリスはきっぱりと首を横に振る。
そう、通常の嗅覚ではこの部屋の臭気に紛れ気付けない。
だが研ぎ澄まされた五感を持つクリスの鼻が、そして其の禍々しさも肌が感じ取ったのだ。
それでも未だリオ納得が出来ないと言う表情をしてるとセツナも身構えた。
其の表情荷は微塵の疑いも無かった。
「そうでしたね……」
クリスの其の戦士として培われてきた魔性のものを見抜き察知するずば抜けた感性。
そのお陰で今まで幾度となく、時には窮地を脱し、時には機先を制することが出来たのだ。
その能力の高さを十二分に理解し、絶対的とも言える信頼を置いてたのだから、
今更疑いの余地など無かったのだから。
だからリオもクリスの言葉を信じ、そして観念したように気持を切り替える。
「……クリス、あなたが間違えるわけが有りませんものね」
そう言うとリオも杖を構えた。
其の表情に一瞬僅かに悲しみに似た色が浮かぶもそれは直ぐに消えた。
少女を見つめるリオの眼差しは完全にモンスターを見るそれに変わっていた。
其の眼差しに少女の心は絶望に塗りつぶされた。
――ヤットアエタトオモッタノニ
――テヲノバセバトドキソウナキョリナノニ
――ナノニイマハモウトテモトオイ
――ソノヒトミハモウアノヤサシイマナザシヲムケテハクレナイ
ほんの少し前まで再会の喜びで満たされていた少女の心。
それもいまや欠片も残さず消え去り代わりに埋め尽くすのは悲しみと絶望。
少女は肩を落とし頭を垂れやがてその肩が震えだし、そして――。
「アハッ……」
狂ったように笑い始める。
「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!」
其の笑い声は狂気染みた……、いやまさに狂気そのもの。
全身からほとばしる狂気と、そして殺気は常人なら――、
いや並みの戦士や冒険者ですら当てられただけでショック死しそうなほどの禍々しさだった。
両の瞳からは涙が溢れ其の光が狂気と悲しみの混ざり合ったような妖しさを湛えていた。
(待って、待って、待ち焦がれて……。
それでやっと出会えて夢にまで見るほどに待ち望んだ再会がこれ?
アタシが魔族だから?
人喰いの化け物だから?
だからそんな目で見るの?
敵として排除すると言うの?
そんな……、そんな……、そんなのってあんまりじゃ……、
あんまりじゃないのよ!!?
だったら……、だったら今までアタシが待ち焦がれ続けてきた時間は!?
想いは!? 一体何だったのよ!!)
悲しみと絶望に染められてた少女の心はやがて怒りへと変わる。
(良いわよ! そうよ! どうせアタシは人喰いの化け物よ! だから……、だから……、
望みどおり化け物らしくアンタ等全員残らずこの場で喰い殺してやるわよ!!!)
そして視線をリオたちに向け睨み据える。
其の顔は笑ってる様な、泣いてる様な、怒ってるような――。
其のどれでもありながら其のどれでもないような……、そんな表情。
それは耐えがたい悲しみと絶望から逃れ、全てを忘れてしまいたいが為――。
そうせんが為に自ら狂う路を選んだかのようだった。
そう。 最早彼女の心は――。
狂 イ 壊 レ テ シ マ ッ テ イ タ
牢屋の中には狂った笑い声と膨れ上がった殺気は周囲を埋め尽くさんばかりだった。
吹き荒れる異常なまでに高濃度の殺気と狂気。
セツナもクリスも幾つもの死線を潜り抜けてきた。
だがその桁外れの殺気と狂気にややすれば呑まれてしまいそうな、
それほどまでに凄まじいものだった。
魔甲蟲姫はずい、と一歩踏み出した。
瞬間、クリスも魔甲蟲姫に向かってグレイブを振りかぶり踊りかかった。
上段からの渾身の力を込めた斬撃が魔甲蟲姫に打ち下ろされる。
次の瞬間金属同士がぶつかり合うような甲高い音が響く。
それは魔甲蟲姫がグレイブを下腕で受け止め防いだ音。
「な……?!」
クリスのギガンティスグレイブの斬撃――。
それは全身を強固な鎧で纏った重戦士や1tクラスの巨大モンスターすら両断する程の一撃。
それを只腕で防ぐなど……、いや違う。 裂けた袖の隙間からのぞく皮膚は鈍い光沢を放っていた。
そう、魔甲蟲姫の全身は甲虫のような外骨格に、しかも其の硬度たるや鋼を凌駕するほど。
だが床は耐えられなかったのか魔甲蟲姫の足元が陥没し、そして床が大穴を開けその身を呑み込む。
斬りかかったクリスもろとも。
「「クリス!!」」
魔甲蟲姫もろとも崩れた床と共に落下するクリスに向かってセツナとリオが手を伸ばす。
だが寸前で届かず其の手は空を掴む。
「クリスー―――――ッ!!」
セツナの悲鳴にも似た絶叫かこだます。
「セツナ! 落ち着いてください」
後を追うように穴に飛び込もうとするセツナの腕をリオが掴む。
「離してリオ! 見たでしょ! あの怪物のとんでもない殺気!
おまけにギガンティスグレイブも防ぐような化け物なのよ?!
いくらクリスだって一人で相手になんてさせられないわよ!」
「分かってます! だからってロープもつけずむやみに飛び込むなんて無茶です。だから……」
その時二人が追うのを阻むようにモンスター達がなだれ込んできた。
しかもそのモンスターたちはココにくるまで蹴散らしてきた雑魚とは違う強力なモンスター。
それは人間ほどもの大きさの肉食蟲達。魔甲蟲姫がこのアジトを乗っ取ったあと呼び寄せてた眷属。
高い敏捷性、硬い外皮、金属も噛裂く程の強靭な大顎。
そして他に類を見ない兇暴性を持った恐るべき魔蟲――デモンズプレデタービートル。
先ほどの魔甲蟲姫の狂笑に呼ばれるように引きよせられて来たのだ。
しかも押し寄せるその数たるや部屋を埋め尽くさんほど。
だがその様な魔蟲の群を前にしてもセツナは怯まない。
今彼女の中におぞましき異形の敵に対する畏れは微塵も無い。
あるのは只クリスの身を案じ一刻も早く助けに向かいたいと言う其の想い――。
そしてそれを阻もうとするものに対する計り知れないほどの殺意と敵意。
それは先ほどの魔甲蟲姫の狂気に引けを取らぬほど。
今のセツナは其の前を阻むものは相手が何であれ排除する修羅と化していた。
そして魔蟲の群に向かって咆え斬りかかった。
「邪魔するな!! 雑魚どもがああぁぁぁっ!!!」
To be continued...
次回クリスと魔甲蟲姫のタイマン
きみはズーレー神を信じるだろうか?
キター
397 :
373:2006/11/07(火) 23:26:12 ID:UM7WlgbT
では、一足お先に失礼・・・投下します。
ほぼ毎日、私はこんな風に遥にいぢられる。
そして悔しいことに、やり込められるのはいつも私。
ああっ、もうっ!! ホンっっっトーにムカつく!
・・・でもよくよく考えてみると、私ってすごく恵まれた境遇にいるのかもしれない。
億近い借金を背負わされながら、普通に生活できている。
遥はムカつくけど、セバスさん――セバスチャンさんの呼び名ね――は親切だし、衣食住もきっちりしてくれてる。
仕事――掃除を中心とした家事――はそれなりに大変だけど、不当にこき使われてるって感じもない。
それに――。
「おや深由梨さん。お帰りなさいませ」
「あっ、セバスさん。ただいま帰りました。すぐに着替えてきますから」
言って部屋に戻り、制服を脱ぐ。当然、通っている高校のだ。
――そう、私は学校に通っている。
両親が蒸発して以来一ヶ月近く通ってなかった学校に、最近再び通い出したのだ。
正直、もう学校に通うことは諦めていたし、行けるとも思っていなかった。
だけど。
『ねえ、本当にいいの? 学校に行っても』
『何だ、行きたくないのか?』
『そんなことない! ・・・けど・・・』
『・・・何を遠慮してるのかは知らんが、こいつは俺の気まぐれだ。こっちは別にどっちでもいいんだからな。
明日になれば気が変わるかもしれんし、言質を取るなら今のうちだぞ?』
・・・そうして、私は再び学校に通い出した。日中留守にする分、朝と夜にちゃんと仕事をするという条件で。
ちょっときついけど、セバスさんがさりげなくフォローしてくれるし。
借金のことは学校でも知られていたけど、私が元気に顔を出したことで、変な噂とかにはならずに済んだみたいだし。
放課後はすぐ帰らなきゃいけないけど、ちゃんと休日も貰えるから友達とも少しは付き合えるし。
使用人――それも、借金のカタに売られた女。
それがどんな扱いを受けるのが普通なのかは知らないし、知りたくもないけど。
(私って・・・・・・普通じゃ考えられない、破格の待遇を受けてるのかも・・・)
「大分慣れてきたようですな」
セバスさんの手伝いで書類の仕分けをしていると、不意に声を掛けられた。
振り返ると、手を休めたセバスさんがニコニコと見つめている。
「少し休憩にしましょうか」
そう言うと、ティーポットを準備して紅茶を注いでくれる。
「おいしい・・・」
一口飲んで、自然と言葉が漏れた。私が自分で注ぐのとは段違いの腕前だ。
それはお茶に限らず、家事、事務、料理、その他諸々・・・。
もう、悔しいって気持ちさえ起こらないくらい完璧。
どうしてこんなすごい人が、あんなむっつり陰険男に従ってるんだろ・・・?
「どうですかな、屋敷と学校の両立は?」
「えっと・・・ちょっときついけど大丈夫です。セバスさんが色々気を使ってくれてますし。本当に、すみません」
本当に、セバスさんには申し訳ないと思う。ある意味上司のような人なのに、気を使わせてしまっている。
「なに、私は大したことはしておりません。それに、礼を言うなら遥様にでしょう」
言われてぐっと口篭ってしまう。その通りだと、分かっているから。
確かに細々とした指示はセバスさんがしてくれているけど、大きい枠での指示はアイツによるものだ。
学校に行けるのも、ちゃんと休日が貰えるのも、セバスさんが何かと面倒を見てくれるのも。
それに・・・・・・・・私を引き取ってくれたことも。
全ては遥のお陰。判断を下すのは、あくまでも主人である遥の役目だから。
でも、それを口に出すのは何となく癪だ。
まして、こんな関係になった今となっては尚更・・・。
悩みこんでしまった私に、セバスさんが声を掛ける。
「まあ、そんなに深く考えることはありません。気を悪くされるかもしれませんが、遥様が気まぐれと言ったのは事実です。
あなたが学校に行けるかどうかなど、遥様にとっては本当に些細なことでしかないのですから」
ズキッ・・・
どうしてか、胸が痛んだ。
『気まぐれ』『些細なことでしかない』・・・。
セバスさんの言葉はとても客観的で、遥本人に言われたよりも真実を強く伴っているのが感じられた。
・・・改めて言われるまでもない。気まぐれだって分かってるのに・・・どうして胸が痛んだの?
気まぐれだって言ったアイツの言葉の裏に、私は何を期待していたの・・・?
「それに、もしあの日。
例えば雨が降っていて遥様が『出かけるのは気が乗らない』などと仰っていたら。
あなたを引き取ることは勿論、存在を知ることさえなかったのかもしれない」
ズキンッ・・・
また・・・。何でよっ・・・。
これじゃ、私が傷ついてるみたいじゃない・・・!
「あなたの――あなたのご両親の借金もまた、遥様にとってはどうでもいい話です。
たまたま珍しい境遇の少女が目に付いて、試しに手を出してみたというだけのこと」
ズキンッ・・・!
「うぁっ・・・!」
胸が痛い。あまりに痛くて、胸を押さえたまま俯いてしまう。
なんでよっ・・・! 私を引き取ったのだってどうせ気まぐれだって、分かってたことでしょ・・・!?
なのに、なんで・・・!
「ですが」
私の思考を遮るように、セバスさんが大きな声を上げる。
「遥様は最近、毎日を楽しそうに過ごしておられる。幼少時からお仕えしておりますが、そのような遥様は私も滅多に見たことはない。
・・・貴女が来られてからですな、深由梨さん」
「えっ・・・」
いつの間にか冷徹にさえなっていたセバスさんの言葉は、またいつの間にか穏やかなものに戻っていた。
そして、私を優しく見つめている・・・。
泣きそうな顔になっていることが急激に自覚されて、私は慌てて笑顔を作った。
「滅多にないって、あの陰険男がですか?」
言ってから、あっ、と口を塞ぐ。が、後の祭り。
(セバスさんの前でアイツを陰険呼ばわりはまずいよね・・・?)
しかしセバスさんは気にした様子もなく、言葉を続ける。
「ええ。遥様は傍に人を置くことを好みません。こんな大きな屋敷に使用人は私一人・・・おかしいと思いませんでしたか?」
それは・・・確かにそうだ。
「稀に業者を呼んで大掃除などをするのを除けば、雑事は全て私がやっておりました。
時折気まぐれで人を雇うこともありましたが、皆すぐに逃げていきました。
遥様が怖いと言って・・・」
「怖い? アイツのちょっかいがですか?
ムカつくことはあっても、怖いって感じるほどのことじゃないと思いますけど・・・」
私の言葉に、セバスさんは笑って頭を振る。
「遥様がこのように他人を気に掛けるのは、貴女が初めてですよ。
実際これまで、遥様は使用人の誰も気に掛けることはありませんでした。
ですが、それがかえって威圧になっていたのかもしれませんね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
何だか、信じられない話だ。
そりゃ、偶に人を小バカにする笑みを浮かべる以外は全くの無表情だけど、怖いなんて感じることはないのに・・・。
「話が大きく逸れましたね・・・。昔語りに入るとは、私も年なのかもしれません。
まあ要するに、これからも頑張ってくださいということです。
では、仕事を再開しましょうか」
そう言って、セバスさんは再び書類整理に移った。
『遥様がこのように他人を気に掛けるのは、貴女が初めてですよ』
今の言葉を思い出すと、自然に頬が緩んでくるのを感じる。
(私が、初めて・・・・・・)
・・・はっ!?
私ったら何をニヤニヤと!?
ち、違う! 違うんだから! 別に嬉しくなんかない!
――だけど、胸の痛みが綺麗さっぱり消えているのは否定できない事実で。
結局その日は、ともすれば緩みそうになる頬を引き締めるのに必死で、仕事もはかどらなかった。
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屋敷での仕事も大分慣れてきた。
今日も私は屋敷の掃除に精を出す。
休日だから休んでもいいんだけど、今日は普段出来ない所まで掃除しようと決めていたからだ。
3人の朝食を終えると、遥は自室に引っ込み、セバスさんは出かけてしまった。
そして私は食器を洗い終えると、メイド服に着替える。
このエプロンドレスもカチューシャも、最近は制服よりも着慣れた感じがしてる。
不思議と働かなくちゃって気持ちになるのよね。そして、それがちっともイヤじゃない。
(メイド服の魔力なのかしら・・・。ご奉仕しなくちゃっていう)
ご奉仕、ね。ご奉仕・・・・・・・・・・・・って、別に遥にってわけじゃないのよ!?
そう、ここは私も住んでる場所だから! 綺麗にしたいって思うのは当たり前なわけで!
遊びに行こうっていう友達の誘いを断ったのに、遥は全く関係ないんだから!
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
何故か掃除前から息が上がってしまった。
まったく、これも全部あのむっつり男の所為だ。
それでも機嫌は妙に良くて、私は今日の段取りを考えていく。
一部屋が無駄に大きいから、いつも大雑把な掃除しか出来ないのが歯痒かった。
だから今日は、いつも掃除してる部屋を重点的にフォローしていくことにした。
途中で遥の部屋も回ることになるだろうから、邪魔だって言って追い出しちゃおう。
いつも私をおちょくることへのささやかな仕返しだ。遥のヤツ、どんな顔をするかな?
きっと本を片手に不機嫌そうな顔をするんだろうけど。
いつも無表情だから、それがどんな表情なのかを想像するだけでも楽しい。
「♪〜〜♪〜〜♪〜〜♪〜〜」
鼻歌交じりに一部屋ずつ回っていく。
窓に差し込む光がカーテンを白く輝かせていて、絶好の洗濯日和って感じ。
そうだ、いい天気だしベッドシーツを干すのもいいかもしれない。
この屋敷のことだから、どうせそういうのも専門の業者にやらせてるんだろうけど。
庶民的だけど、やっぱり太陽の光をいっぱい吸ったお布団っていうのは格別だし。
今日は遥に、庶民の良さを思い知らせてあげるとしよう。
そんな風に思いながら、次の部屋へ行こうとロビーを横切った時。
ピンポーン・・・
と、玄関から聞こえた。
ここでは初めて聞く音だけど、流石に分かる。来客を告げるベルだ。
広い屋敷内に響き渡らせるためか凄い音量だったけど、音自体は普通の家と変わらないみたい。
「は〜〜い!」
聞こえないのは分かっていたけど、つい返事をしてしまった。
階段を降りきって扉に手を掛けようとして、はっと気づく。
(私・・・出ちゃってもいいのかな?)
お屋敷の事情とか交友とか全く知らない私では、応対できない可能性が高い。
でもセバスさんが居ない以上、私が出るしかない。
大丈夫だよね、どうしようもなければ遥を呼びに行けばいいんだし。
そう思って、無駄に重い扉を押し開いた。
扉の向こうに立っていたのは1人の少女。
切りそろえられた前髪と、胸の辺りまである艶やかな黒髪。
小柄で、同性の私から見ても可憐で、まるで日本人形のよう。
私より少し年下くらいだろうか。
「あの・・・・・・・・・遥お兄様はいらっしゃいますか?」
そう言って、頬をほんのりと桜色に染めた少女を見て。
――ピシッ、というひび割れた音が、身体の何処かから聞こえた気がした。
今回はここまで。遥の出番がゼロでしたが、次は目立つと思います。
女の子の一人称は難しい・・・。
遥の気まぐれについてはなしているセバスさんが
セバスさんならセバスさんならきっと次で「ですが」とか言ってフォローを入れてくれる
と信じてたら本当にしてくれて感動
新たなキャラ登場キター!!!
どんな修羅場が展開されるのか今からwktkがとまりませんなw
作者さんGJ
投下行きます
ヘーニア山───敵国の存在する東の大陸の北端に位置する山脈の中で、一番の標高を誇る山。
一年を通して気温が零度以下であり、永久凍土となっている。
この山で発生する雪崩は、普通の山に比べ圧倒的に強力で、およそ三キロ離れた街にまで被害が及ぶと言う。
そして、この山に関する伝説として、一人の魔女の話がある。
まだこの山が雪に包まれる前の事。
山の麓には街があり、人が居て、山には沢山の動物たちが暮らしていたころ
街の牧場に美しい娘がいたそうな
ある時、娘が街に届け物をした時に、道端の木の下に一羽の鳥の雛がいました
雛はとても汚い羽の色をしていて、道行く人々は見向きもしませんでした
娘はそれを酷く憐れんで、家に連れて行く事にしました
雛は娘に育てられ、スクスクと成長していきましたた
娘は雛を大層可愛がり、深く愛しました
雛は羽がはえかわると、以前とは似ても似つかない、黄金の翼と光輝く瞳を持つ美しい鳥になりました
娘はその美しい鳥が美しく飛翔をする様を見て心奪われました
それを見ていた娘の父親は、鳥を売れば遊んで暮らせる程の大金が手に入ると聞いて、鳥を捕まえようとしました
しかし、鳥は父親に捕まりはせず、山の方へと逃げてしまいました
それを聞いた娘は酷く嘆き悲しみ、やがて、病に倒れてしまいました
娘の鳥に対する想いはそれ程大きくなっていたのです
そう───人と鳥の間には在らざる思いが…
それから暫くして、娘の病が治った頃
娘が鳥を探し、出会った木のもとへ向かうと、木の上には金色の羽を持つ鳥がいました
しかし、鳥の隣には見たことの無い、真っ赤な、燃えるような紅炎色の翼を持った鳥が金色の鳥にまるで、つがいのように寄り添っていたのです
娘は、金色の鳥に逢えたことを嬉しく思う反面、紅炎色の鳥を、妬ましく、羨ましく、恨めしく、悔しく思いました
そして暫くすると鳥達は山へと飛び去っていきました。
そして娘は父親と自分の運命を呪いました
父親を鳥に近付けたこと、そのあと病にかかったこと、自分が人間に生まれたこと
その全てを娘は呪いました
数日後、娘の家を訪ねた村人が、部屋の中で娘の母親が血を抜かれて死に、父親が五体をバラバラに引き裂かれ息絶えていました
父親の五体は、床に描かれた円とその中に描かれた謎の紋様の接する部分に置かれ、その中心に赤黒く固まりかけた血液の入った桶がありました
そしてテーブルの上に手紙が一通ありました
手紙には、『私は鳥になります。母さんの血を悪魔へ送り、父さんの体を邪神に捧げ、私は鳥になります。』と書いてありました
村人が娘を家中をいくら探しても見つかりませんでした
村人が恐ろしくなって逃げ帰ろうとすると、娘の家の屋根に一羽の漆黒の鳥
鳥は不気味な鳴き声を上げながら山へと飛んでいきました
そして人々は娘の事を『魔女』と呼ぶようになりました
今でも、漆黒の羽を見つけると数日中に必ず死ぬと言われています。
『ホルス、真っ白ですね』
『なにがだ?』
『下です』
目の下には果てしなく真白な大地。
それは、まるで終わることない永遠のループに巻き込まれたように錯覚する。
此処はヘーニア山より50キロ程西に離れた上空だ。
今日の機体は冬季迷彩で白くカラーリングされたSu−47、ベルクートだ。
『本当だな』
『あと20分程ですかね?』
『ああ、そんなもんだろ』
…10分後
『空中管制機ワイバーンより貴隊へ』
『これより指定空域に入る、貴隊は高度を下げ侵入せよ』
『こちらホルス、了解した』
『ホルス、対空火器を確認しました、SAMです』
『了解、対地攻撃に移る』
やはり、高度電波妨害兵器があるようでレーダーに反応は無い。
俺達は対地攻撃もそこそこに、さっさとターゲットの方に向かった。
『な、なんだありゃ…!』
『塔…ですかね?』
ターゲットの存在が予想されていた場所に、ソレはあった。
目の前には巨大な塔
ヘーニア山の中腹から、まるで突き立てられたかのように立っている。
広大な白色の中を汚す黒色。
塔から突き出ているアンテナ。
足元には滑走路。
その総てが主張していた。
『コレは兵器だ』と。
『ホルス、どうしますか?』
『破壊…だな、……ヤバい気がする』
『何故ですか?、この塔はなんだと言うんですか?』
『…恐らく、塔自体が兵器だ。それも最大級の』クウヤは真剣な声音で言った。
『塔自体が兵器…?』
『只の電波塔や基地の為に、衛星や他の国を騙せる程のジャマーを使うか?』
『……!!』
そうだ、この塔は今まで存在を感知されなかったんだ。
それが何を意味するか、少し考えれば解る事だった。
『攻撃に移ります』
『OK、手早くやるぞ』
私達が塔に近づくと警報が鳴った。
『敵機接近!総員、迎撃準備に取り掛かれ!、レイブンは特殊兵器庫へ迎え!』
次々と上がる敵機、やはり敵国には此処が重要なのか、みんなエースだった。
だからと言って、私達が墜ちる訳無いのだけれど。
────20分後
空に在るのは二機、私とクウヤだ。
敵機は全て墜とした。
『塔』からも幾条か煙の筋が出ている。
破壊こそできなかったが、復旧するのには少なくとも半年はかかるだろう。
私達が帰還しようと考え出した時、再び塔より声がした。
『総員、《メギド》の起動に着け!時間はレイブンが作る!、ヤツらをタダで帰すな!』
《メギド》?
嫌な感じがする…。
『ホルス、塔はもう起動出来るかも知れません、危険ですので早く帰還しましょう』
『ダメだ。ヤツらの武器を見てから帰還する』
『ホルスっ!』
『…待て、敵機だ』
クウヤの言った通り、下の滑走路から敵機が揚がってきた。
しかし、その敵機は違った。
迷彩、ではなく、明らかにこの白い大地とは正反対の黒色のカラーリング。
見たことの無い機体。
そして、向こうからの無線。
『……あはっ、見つけた!、クウヤぁ〜!』
今回はこれで終わり。
阿修羅氏のまとめに自分のSSがあるのを見て感動致しました。
阿修羅氏GJ!!!
>>415 GJ!
ライバルが出てきてこいつぁ面白くなりそうな予感がぷんぷんしやがるぜ!
417 :
名無しさん@ピンキー:2006/11/08(水) 16:49:11 ID:e7tlVtmj
嫉妬という単語を辞書で引くと、自分の愛する者の愛情が他に向けられることをうらみ嫌うと出る。
そう、この意味合いからすると、男が付き合ってる女以外の女と何らかの接触をする際に、愛情がなければ嫉妬してはいけない。
例えば街中で見知らぬ女性に道を聞かれた時、丁寧に応対しても嫉妬はされない。
まして、食事後の支払いで釣銭を受け取る際に女性店員と手が偶然触れても嫉妬してはいけない。
何故ならそこには、愛情なんて存在しないから。嫉妬の定義に反する行為はもはや、単なる被害妄想に成り下がる。
それはとてつもなく見苦しく、失笑を誘発するような愚行だと言って差し障りない。
勘違いすることは誰にでもある。
見知らぬ女が嬉しそうな表情をしていたと錯覚したのかもしれない。
だから俺は、彼女に明白な意思を伝えた。君以外の女性に気が向くことなんてありえない、そういう意味の言葉を何度も、そして誠実に伝えた。
だが彼女の嫉妬深さを常軌を逸脱していた。付き合い始めた頃は多少の焼餅で片付いた。
だが今は他の女と話しただけ、いや、俺の目に他の女が入っただけで声を荒げて俺を叱責する。
何故?俺は理解できなかった。
考え抜いた結果、一つの結論に至った。
彼女の嫉妬は、ある種の幻想だ。
俺の弁明に耳を貸さず、他の女とほんの些細な接触があっただけで情緒不安定になるのは、もはや改善できるものではない。
嫉妬妄想、ありもしない事象を無意識的にでっちあげ、本来あるはずもない不安を感じる。無意味なことだと思う。
恋愛において一番大事なことは何だと問われたら、俺はこう答える。
「信頼関係」
どんなことがあってもお互いを信じ、欠点を相互補完できる関係。
相手のことを思いやり、高め合える関係。それが俺にとっての、恋愛の理想系だ。
残念なことに、彼女の間にはそれがなかった。
相手の立場に立ち最大限の愛情を注いだ。だが現実は、お互いを高め合うことなく、逆にマイナスとなった。
付き合っておよそ一年、蓋を開けてみれば双方とも疲弊していた。
俺はありもしない事実を突き付けられ、それを弁明することに心身を削られ、彼女はありもしない妄想に怯えることに心身を削られた。
一体何が悪かったというのだろうか。それはきっと、どちらかに落ち度があると短絡的に言えるものではない。
どうしようもないことだった。運が悪いことに、俺と彼女は相性が良くなかった。それだけだ。
だから俺は別れることにした。
彼女は今までとは比べものにならないぐらい取り乱したが、お互いの将来を考えれば俺の決断は妥当だと思う。
彼女もいつか気付いてくれるに違いない。俺は何も、間違ってはいない。
・
・
・
・
・
こうやって、論理的に、頭のいい奴が考えるようなことを考えてれば、自分を保てる。
たぶん、今日で七日目だ。あと、何日で、いつになったら、俺は自由になれるんだ?
ああ、なんで俺、監禁されてるんだ?なあ、誰かおしえてくれよっ!?
……腹、減った。
ずっと、飯、くってない。何でもするから、ご飯、たべたい。
……駄目だ、屈したら、俺が俺じゃなくなる。
おい、一週間も、学校行ってないんだぞ。変だと、思うだろ?
だれか助けに来いよ……
早く、来て……お願い……します……
・
・
・
・
「だいちゃん、ご飯が出来ましたよ〜」
あぁ……
「お腹すいたでしょ?ほら、美味しい美味しいごはんですよ〜」
もう……
「はい、あ〜ん」
無理だ……
ほら、やっぱり私の思った通り。だいちゃんは、ちょっとだけ厄介な病気にかかってただけ。
愛をもって看病すればすぐに良くなるんだから。
だいちゃんったら、嬉しいからってそこまで泣くことないのに。
やっぱり病気だから多感になってるんだよね。
だいちゃんが正常に戻るまでちゃんと看病してあげるからね。
……ううん、今まで以上に、私がいなきゃ生きていけないようにしなきゃ。
時間はかかると思うし大変なんだろうけど、でもね、何だか楽しそう。
……えへっ、えはっ、あはっ、あははっ何で、こんなっ、うふっ、楽しいんだろ、ははっ、うひっあははっ!!
修羅場初心者です。
神々に感化されて書いてみました。
楽しんでもらえたならありがたいです。
>>420 GJです
こういう短編もいいね(*´д`*)
ロボ氏の『甘獄と青』も良いけど
『半竜の夢』と『花束』がもっと好きだったりする
魔物双娘モエス&バロスw 何気にロボ氏の作品双子多いですね
おいらも双子は大好きだw
投下します
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クリスと魔甲蟲姫はもつれ合うように落下してた。
其の二人が弾かれたように分かれた。 落下中クリスが魔甲蟲姫に蹴りを入れたからだ。
やがて床が迫ってくるとクリスはグレイブの石突の部分を床に当て柄を
しならせ衝撃を殺し着地する。
周囲を見渡せば薄暗く、だがどこかからか光が漏れてるのか暗闇ではない。
視覚以外の他の五感も研ぎ澄まし周囲を探る。
そしてクリスの耳に僅かな物音が飛び込み音のした方に目を向ければ――。
そこには妖しく鈍い光沢の外骨格の装甲。 人喰いモンスター特有の醜悪な屍臭。
殺気をみなぎらせ凶悪な眼光。
そう、視線の先には魔甲蟲姫が立っていた。
そして彼女の瞳もまたクリスの姿を確認し捉えてたのだった。
(ふん。 まさかこのアジトの地下牢の下にこんな空間があったとはね)
魔甲蟲姫は首を廻らせ自分の状況を確認するように周囲を見渡した。
乗っ取ったアジト故彼女自身も知らなかった隠し部屋みたいなものだろうか。
そして視線の先にいるクリスを睨んだ。
(どうやら今この場所にいるのはアタシとあの片目の糞餓鬼の二人っきりのようね。
……丁度いい!)
瞬間、魔甲蟲姫の殺気が膨れ上がる。
(折角待ち望んだあのヒトとの再会をぶち壊してくれた礼よ……。
髪の毛一つさえも残さず溶かしつくて喰い殺してやる!!!)
そして落下のさい破け、それでも未だ少し残ってた服を完全に脱ぎ捨てた。
強固な外骨格の装甲に覆われた其のおぞましい姿をあらわにしクリスに向かって踏み出した。
魔甲蟲姫が姿を認識し向かって来ようとするのを感じるやクリスも地面を蹴った。
そして突進力を上乗せした渾身の突きを叩き込む。
並のどころか大型モンスターや鉄門、城壁をも貫き破壊するほどの強烈な一撃。 だが――。
硬質な手応えと金属音にも似た甲高い音が鳴り響く。
(斬撃どころか突きも利かないのか?!)
強烈な一撃は魔甲蟲姫の体を捉えるも堅固な外骨格に阻まれ貫くに到っていない。
だがクリスは尚も突進の足を止めない。 壁に叩きつけ挟むことで刺すつもりだ。
しかし壁に叩きつけてもいないのに突進が停まる。 魔甲蟲姫が受け止めきったのだ。
そしてグレイブを掴むと力任せに持ち上げクリスごと放り投げた。
放り投げられるもクリスはひらりと体を捻り難なく着地。 そして再びグレイブを手に突進する。
次の瞬間連続した打撃音が鳴り響く。 一撃が利かないなら、と攻撃を連撃に切り替えたのだ。
連続して繰り出される攻撃は無数の矛先が同時に襲い掛かってるかのように錯覚させるほど。
まるで槍衾。 並みの魔物が相手であれば蜂の巣にするほどの連続突き。
だが魔甲蟲姫はまるで利いてないように歩を進める。
(くっ! 連撃も利かないか! なら――!)
クリスは体ごと半回転させグレイブの鋼鉄の柄を魔甲蟲姫の側面に打ちつけ――。
瞬間、更に逆方向に体を半回転させ斬りつけた。
それは柄で打ったのと刃で斬りつけたのが同時と錯覚を起こさせるほどの超スピードの連撃。
しかし其の連撃を持ってしても魔甲蟲姫の外骨格の装甲は斬り裂けず、
それでもまともに喰らい吹き飛ばされ壁に激突した。
だがクリスは尚も緊張を緩めず壁に激突した魔甲蟲姫を睨み据える。
今の一撃もたいしたダメージでないのを誰よりもクリス自身が分かってたから。
(斬撃も利かない。 刺突も利かない。 ――クソッ! どうする?!)
魔甲蟲姫の常軌を逸した装甲の堅固さにさしものクリスも戦慄せずにはいられなかった。
「どうしたの? もう終り?」
クリスの気持を見透かすかのように魔甲蟲姫は口を開く。
其の口元は残忍に歪み嘲けるような笑みが浮かんでいた。
「だったら……コッチも行かせて貰うわよ!!」
魔甲蟲姫は地面を蹴った。
真っ直ぐ向かってきた魔甲蟲姫に対してクリスも地面を蹴る。
打開策が無いからと言って逃げに走って後手に回れば益々不利になる。
下手に弱気になれば窮地を招きかねない。 だから攻め続けるしかない。
さりとてヤケになるわけではない。
戦いながら分析し、そして打開策を探る。
いかに強敵だからと言って黙って殺されてやるわけにはいかない。
クリスの脳裏に浮かぶは以前見たセツナの涙。
(死ねない! こんな所で死んで姉さんを悲しませるわけには……いかない!)
そしてグレイブを叩き込もうとした瞬間、魔甲蟲姫の姿が消え――いや、違う。
即座にクリスはグレイブを防御の形に構え体ごと横に向けた。
ガキン! と硬いものがぶつかり合う音が響く。
見ればグレイブの柄に魔甲蟲姫がかじりついていた。
――消えた。 そう錯覚させるほどのスピードでその時魔甲蟲姫は横に跳んだのだ。
隻眼とは言え動体視力に抜きん出たクリスの視界から一瞬で姿を消すほどのスピードで。
だがクリスも直ぐに反応した。 それはクリスが"眼"だけで見ていないからだ。
聴覚、 嗅覚、 そして肌で感じる空気の流れ、殺気。 それら全てを総合して"観て"ればこその反応。
それはある意味隻眼だったからこそとも言えた。
常人よりどう足掻いても狭い視野しか得られないからこそ培われた"眼"。
だが――。
「は、離せぇっ!」
クリスは叫ぶように咆え魔甲蟲姫を思いっきり蹴り飛ばした。
虚を付かれた攻撃を凌いだとは言え魔甲蟲姫の攻撃に背筋が凍りそうな思いだった。
「お、おのれ……!」
そう言ってクリスはグレイブを振りかぶろうとした瞬間バランスが崩れた。
見れば先ほど魔甲蟲姫が噛付いた部分が溶け柄が真っ二つになっていた。
「な……?!」
クリスの動きが驚きのあまり止まる。
それはほんの一瞬だったが、その隙を突き魔甲蟲姫の手が伸びクリスの腕を掴――。
「う、うわああぁぁっ!?」
掴まれる寸前クリスは其の腕を振り払った。
そして後ろに飛び退き即座に腕の装甲を外し投げ捨てた。
魔甲蟲姫に掴まれた腕を覆ってた装甲。 床に投げつけられたそれは半分近く溶けていた。
「うふふっ……。 結構良い勘してるのね」
魔甲蟲姫はそう言って残忍に微笑みながら掌を見せた。
口があった。 其の掌には細かい牙がびっしり生え溶解液を滴らせるおぞましい口が。
そう。 鋼より強靭な装甲、桁外れの敏捷性、鉄をも溶かす溶解液。
しかもその溶解液を吐き出す口は掌にも備わっていたのだ。
攻守スピード、其の全てにおいて異常なほどのレベルのモンスター。
それが魔甲蟲姫と呼ばれ恐れられるモンスターの全てだった。
「化け物めっ……!」
振り絞るようにクリスは言葉を吐き出す。
「うふふっ……そうよ。 そして今からアンタはその化け物に……、喰イ殺サレルノヨオォォッ!!!」
そう咆えて魔甲蟲姫はクリスに襲い掛かった。
「くっ……!」
咄嗟にクリスは跳び退き、そして溶断されたグレイブの矛先を魔甲蟲姫に向かって投げつけた。
魔甲蟲姫は矛先を無造作に腕を振り跳ね除け、そのまま構わず襲い掛かってきた。
腕を振り回し襲い掛かってくる魔甲蟲姫の攻撃をクリスは何とか残った方の柄で捌き凌いだ。
溶解液を吐き出す口、そして掌に掴まれればたちまち溶かされるだろう。
いや、掴まれずとも其の指先に生えた鋭い爪も十分驚異だった。
更に腕を振り回すたびに少なからぬ量の溶解液も飛び散ってる。
それらの攻撃をクリスは必死で何とか凌いでいた。
致命傷になるような攻撃は全て防いでるものの、飛び散る溶解液全てをかわしきる事は出来ず、
ところどころ火傷のように痛む。
だが其の瞳は死んでいない。 何かを狙って、或いは待ち構え耐えてるような。
そう。 圧倒的不利なこの状況下にあってクリスは狙っていた。 起死回生のチャンスを――。
魔甲蟲姫は焦れてきていた。 圧倒的優位で攻めているにも未だ決定打を与えられずにいたから。
全ての攻撃を跳ね返して見せた。 得物も溶断してやった。
だがそれでもクリスの瞳は光を失っていない。
それが魔甲蟲姫を苛立たせる。
――ええい! 往生際の悪い! さっさと……、さっさとくたばれ!
それは圧倒的優位ゆえに生まれた傲り、そして油断。
其の隙をクリスは見逃さなかった。
魔甲蟲姫はクリスに向かって突き出した右腕におかしな手応えを感じた――。
そう思った瞬間腕がありえない方向に曲がった。 いや曲げられていた。
油断し慢心しきった大ぶりの一撃。 それを見逃さず掌の口に向かって鋼の柄を捻じ込んだのだ。
勿論口の中は強力な溶解液で満たされ鋼の柄だろうと数秒で溶かされてしまう。
だが柄が溶けるより早く、と言うより捻じ込んだ瞬間に雷光の如き速さで内側から捻り上げ
関節を破壊した。
だが当然其の一撃で残っていたグレイブの柄は溢れる溶解液で完全に使い物にならなくなった。
「がああぁぁぁぁっっ?!! こ、この糞餓鬼がああっ!」
魔甲蟲姫は怒りに任せクリスを蹴り飛ばした。
「クゥッ……!」
至近距離から不意に放たれた蹴りを受けクリスの体をくの字に折れ曲がる。
そして壁まで吹き飛ばされ激突する。
蹴られた部分、そして激突した背中に痛みが疾る。
魔甲蟲姫の桁外れの敏捷性と跳躍力を誇る脚は蹴っても強力な殺傷力を発揮する。
それを今まで使わなかったのは今まで彼女が"溶かす"ことに固執してた為。
自分の優位性とそこから来る傲り故に掌と口だけを使っていたのだ。
「殺す!」
魔甲蟲姫はより一層殺意を膨らませる。
そして壁に激突しそのまま壁にもたれるように立ってるクリスに向かい駆け出す。
今の蹴りが利いたのかクリスは蹴られた部分を抑え苦しそうにかろうじて立ってる。
少なくとも魔甲蟲姫にはそう見えた。
腕一本折られはしたものの相手はコレで完全に丸腰。 最早コチラの攻撃を捌けまい。
そう。未だ魔甲蟲姫の手は片方残ってる。 対するクリスの得物は今ので完全に使えなくなってた。
片腕を破壊されたのはしてやられたが、だが其のせいでもう鋼の柄で攻撃をしのぐ事も出来まい。
残った手で捕まえて溶かして喰い殺す。 それで終りだ――。
そう思い残った左腕を突き出し掴みかかってきた。
だが突き出した腕に内側からえぐられる感触が疾った。
――バカな?! ヤツにはもう武器は――!
確かにグレイブは残った柄まで溶かされてしまった。 だがクリスにはもう一つ武器があった。
それはあの鉈の様な大ぶりの短剣。 グレイブに比べれば予備の武器のようなもの。
だがイザと言う時にクリスの身を護ってきた武器でもある。
それを掴みかかってきた掌の口に向かって捻じ込み腕を破壊したのだった。
当然短剣も腕の破壊と引き換えに溶解し使い物にならなくなった。
だがそれにより魔甲蟲姫の両腕は破壊され攻撃力を殺ぐに到った。しかし――。
そう。 それでもまだ魔甲蟲姫の方が優位に立ってたと言えた。
両腕を破壊されたものの未だ攻撃手段は残っていた。
其の恐ろしい口で喰らい付き、溶解液を浴びせ溶かせば終りなのだから。
蹴りだってある。
高い跳躍力を持ち硬い外装に覆われた脚は人や獣を容易く蹴り殺せるほどの力を持ってる。
反面クリスは魔甲蟲姫の両腕を破壊出来たものの依然倒す手段があるわけではない。
武器を失い魔甲蟲姫を倒す術は無いように見える。
魔甲蟲姫はそう思っていた。 だが直ぐに其の考えを消す。
二度の油断が結果両腕を破壊される羽目になった。
未だどんな隠し玉を持ってるかかもしれない。 が――。
両腕の激痛がノイズの様に冷静さを取り戻しかけた思考を乱す。
――アタシが人間如き相手に弱気? 警戒? 何を馬鹿な!
そう。 魔甲蟲姫にしてみれば人間など餌。
その餌にしてやられるなど、ましてや警戒すなど恥以外の何者でもない。
餌風情にこれ以上付け上がられて堪まるかと
魔甲蟲姫は更なる殺気を猛らせクリスに襲い掛かった。
そして一足飛びに跳躍。
クリスの眼前に魔甲蟲姫の姿が迫る。溶解液を口から溢れさせながら襲い掛かってくる魔甲蟲姫。
クリスは体を反転させ其の攻撃を紙一重でかわし其の背中に蹴りを叩き込む。
突進力を逆手にとっての攻撃。 其の攻撃をまともに喰らい魔甲蟲姫は顔面から床面に突っ伏す。
超重量の長柄武器を自在に操るクリスは腕力だけでなく足腰の強さもまた突出してた。
其の強靭な足腰をもって繰り出す蹴り。
それは相手が並みの人間の戦士やモンスターであれば背骨を叩き折れるほどの一撃。 だが――。
「クッ……!」
クリスは顔をしかめる。 鋼のように強靭な外甲に覆われた魔甲蟲姫の体をまともに蹴ったのだ。
おそらくは骨にひびが入った。 少なくともこの戦闘中はもうフットワークは使えない。
だがそうなる事も折込済みで蹴った。
「おのれ……! よくもこのアタシを床に……!」
怒りの言葉を吐きながら魔甲蟲姫は体を起こそうとしたところ両肩に力がかかるのを感じた。
そして頭部をがっしりと挟み込む両手を。
(何のつもりだこの糞餓鬼! アタシの首を引き千切るつもりか!?)
そう、倒れ床に付した魔甲蟲姫の肩にクリスはすかさず乗り頭部に手を掛けたのだ。
「馬鹿め! 人間風情の力でその様な真似が出来るものか!」
確かに普通に考えれば不可解であまりに無謀、そして不可能とも思える攻撃。
しかも魔甲蟲姫の筋繊維の強度は装甲同様に常軌を逸したほどのもの。
だが――。
(な……?! ば、馬鹿な?! な、何だこの力は?!)
――ブーストアップ。 クリスの操る筋力増強の術。
そうして増幅された力は屈強な魔物を素手でくびり殺すほどの力を発揮する。
厳密に言えば魔甲蟲姫と戦い始めたときから発動させていた。
当然であろう。 手の内を出し惜しみ出来るような相手ではないのだから。
しかし今発動させてる其の力は更に其の上をいくもの。
ブーストアップは強力な反面限界を超えた過度の使用は筋組織を痛めかねない。
だから本来は加減して使うのだが今はそんなこと言ってられない。
クリスは腕が、筋繊維が悲鳴を上げるのも厭わず更にブーストアップを強める。
「グガアアアアッ……!」
魔甲蟲姫は其の痛みにうめき声を洩らす。
(や、殺られる……?! 死ぬ……?! このアタシが人間風情、そ、それもこんな糞餓鬼に……!?
よ、よりにもよってアタシとあのヒトの再会をぶち壊してくれた……この餓鬼になんて……。
ふ ざ け る な !! )
そして魔甲蟲姫は立ち上がり壁に向かって駆け出しクリスの体を叩きつけた。
鈍い音が響きクリスの頭から血が噴出す。 激痛に顔を歪めつつもクリスは其の手を緩めない。
魔甲蟲姫は壁から距離をとる。 そして――。
「離……っせえぇぇっっ!!!」
再び壁に向かって思いっきり叩きつけた。 何度も。 何度も。
叩きつける度に嫌な音が響きクリスの頭から血が噴出し、ポタポタと滴り床を紅に染める。
首を引きちぎらんとするクリス。 引き剥がそうとする魔甲蟲姫。
双方とも死に物狂いであった。
当然である。 ココで引いた方が間違い無く命を落とすのだから。
やがて音がやむ。
そして吐き捨てるような冷徹な声。
「手間ぁ掛けさせてくれたわね……。 人間風情が……!」
To be continued...
王大人「死亡確認」
GJ
第三の助っ人が来るね、間違いなくw
生存フラグktkr!味方の増援щ(゚Д゚щ)カモォォォン
>>415 ついにライバル出現で次の投下をワクテカ状態で待ってますね
>>420 GJ!これはとても良いヤンデレ監禁調教ですね(*´Д`)ハァハァ
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」
「だから言ったろ、あんたの錯覚だと」
「はい」
「妹はお姉さんが大好きだったんだよ。世話をするのも、情けない顔を見るのも、俺なんかよりもずっとな」
「はい」
「だから俺の存在が許せなかった、俺をお姉さんから引き剥がしたかった」
「はい」
「どんなに情けなくても大好きなお姉さんだった、自慢のお姉さんだった。だけど誰もがお姉さんの存在を見ようとはしなかった」
「辛かった」
「妹として見てくれないお姉さんが嫌いだった、泣いてばかりで変わろうとしないお姉さんが嫌いだった、嘆いてばかりで掴もうとしないお姉さんが嫌いだった」
「憎かった」
「だから俺はあの子を名前で呼ぶ事にした、あんたを妹って呼ぶ事にした。間違ってたか?」
「嬉しかった」
「将来的には俺の義妹にもなるがな」
「それはきっと幸せなこと」
「ごめんな、お姉さんを取っちゃって」
「姉さんが幸せならそれで良い」
「妹はそれで良いのか?」
「……本当は、少し寂しい」
「少し?」
「訂正する、とても寂しい」
「それで良い。俺の言いたかった事は終わりだ、これを聞いた妹はどうする?」
「わからない」
「感じるままで良いんだ、感じたまま喋れば良い」
「やっぱりあなたが好き……だけど姉さんはもっと好き」
「なら妹はどうしたい?」
「仲直りしたい」
「なら行ってこい。酷い事を言ってごめなさいって言えば、きっとお姉さんはわかってくれる」
「はい」
「なにやってるの、あなたたち」
「姉さん……」
「どうして、私が居ない間に何をやってたの」
「違う、姉さん」
「何が違うの、みんな私じゃなくてあなたを見る」
「姉さん、そうじゃない」
「あなたもなの、あなたも私を見捨ててその子を見るの?」
「やめて、姉さん」
「酷いよ。みんな取っていく、みんな奪っていく」
「姉さん、姉さん」
「あなたが居るから、あなたなんて……」
「違うだろ」
「「えっ?」」
「言うべき事はそんなんじゃない、理屈なんて必要無い。違うか?」
「姉さん……大好き」
「何、ごまかすつもりなの」
「大好き、大好き」
「ちょっ、ちょっと……」
「大好き、大好き、大好き、大好き」
「やめなさい、何を考えてるの」
「酷い事を言ってごめんなさい。姉さんが大好き、だから姉さんとあの人が近づくのが嫌だった」
「なによ、それ……」
「だからお願い。姉さんは私の姉さんでいて」
「ふざけないでっ!」
「姉さん……」
「あなたは私の敵、妹なんかじゃない」
「姉さん」
「油断したら出し抜かれる、信用したら裏切られる、手を伸ばせば引き千切られる」
「やめて、姉さん」
「今度は一体何を考えているの?何を企んでいるの?」
「姉さん、それは違う」
「消えろ……悪魔……」
「違う、私は悪魔じゃない」
「悪魔、悪魔、悪魔、悪魔、悪魔、悪魔、悪魔、悪魔」
「違う……やめて……」
「おい、いくらなんでも言いすぎだ」
「あなたまで騙されてるの。こいつは悪魔、人間じゃない」
「これ以上妹を悪く言うんじゃない」
「私は騙されない。こいつは悪魔、人間じゃない」
「馬鹿野郎っ!!!」
「……どうして?私はこいつとは違うのに、私はあなたの味方なのに」
「違う、妹はお前の味方だ」
「私は人間、悪魔じゃない」
「妹は悪魔なんかじゃない」
「私は人間、悪魔じゃない」
「違うっ!お前も妹も悪魔じゃない。だから感情で行動できる」
「あなたは騙されてるの。私は騙されない」
「もういい……です」
「妹……?」
「姉さん……ごめんなさい……ごめんなさい……」
「私は騙されない。こいつは悪魔、人間じゃない」
「……妹はしばらく俺の家で預かる、お前は一人で頭を冷やせ」
「何……それ……」
「妹も良いな?」
「それは駄目。今の姉さんを一人にするのは危険」
「妹をこいつと二人っきりにする方がよっぽど危険だ」
「何よそれ、私よりもそいつの方が大事だって言うの?」
「行くぞ、妹」
「でも、姉さんが……」
「いいから行くぞ。今のあいつには何を言っても無駄だ。妹風に言うなら、これ以上は不毛だ」
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
「なによそれ……なによ……それ……」
「この悪魔っ!最初からこれが狙いだったのねっ!!!」
だいぶ前に書いた無題の続きです。
保管庫を見ると8月12日に投下した……らしいです。
他のSSを書いている合間に少しづつ書き進めていました。
出来るだけ固有名詞と余計な回り道をしないのを目標に……もう少しだけ続きます。
>>436GJ
続きが読めるとは思ってませんでした。
姉がいい感じで病んできているようで(*´Д`)ハァハァ
GJ!妹が泥棒猫である事に気づかない主人公と病んでいく姉がイイ
投下しますよ
「ところでお主らここらでは見掛けんが、旅のものか?」
「え? そうだが何でンなこと聞くんだ?」
正直この妙な連中とは早く離れたい。どうするかとササに目配せをすると苦笑して首を
降った、どうやらササも俺と同じ意見のようだ。皆に笑顔を向け、歩き出す。目的地まで
あと一刻だ、辛いかもしれないけれど、頑張ろう。
しかし、
「お待ちなさい!!」
強烈な足払いが掛けられ、二人で倒れ込む。振り替えれば、騎士が先程の巨大な光剣を
持ってこちらを向いている。これで足払いをしたらしい、本当に峰打ちで良かった。下手
をしたら足首から下がさよならしているところだ。流石にそこまでの敵意はないらしいが、
肩をいからせながらこちらに詰め寄ってくる。首から上を覆う鋭いデザインの兜を被って
いるので表情は分からないが、雰囲気からなんとなく怒っているのが分かる。
「ほら、さっきクラウンが乳で比べたからじゃない? 小さそうだもの」
それだけで比べた訳ではないが、確かに小さそうだ。鎧で押さえられているのかもしれ
ないが、あの竜の娘とは歴然とした差がある。効率の良い平坦な鎧が物悲しく見えた。
「可哀想に」
「聞こえてますわよ!!」
「ヒステリーは嫌だのう」
おかしそうに声を漏らしながら、竜の娘が歩いてきた。背後には双娘の魔物も見える。
「ヒステリーじゃありませんわよ!! それと貴方達」
「はい、何でしょうか」
迫力に負け、思わず敬語になってしまった。
「これからギリィに行くんですの?」
目的地の街の名前は確かにそんな名前だが、嫌な予感がしてきた。
「守護騎士として、街の中に入れる前に少し調べさせて貰います」
「なに、気張ることはない。名前と種族、目的を聞かせて貰うだけじゃ。面倒だが決まり
なんでの、おとなしく喋ってくれればそれで良い」
体を鎧で固めた騎士と半裸の竜、中身も外見と同じようで分かりやすい。分かりやすく
説明してくれたお陰で、大体のことは分かった。変なことを聞かれるのも無さそうだし、
目的をはっきりさせている分、もしかしたら協力してくれる者も出てくるかもしれない。
それは良い。
利益の方が多そうなので質問される分には構わないが、この騎士が守護役だということ
に目眩がした。これから移動する先が一緒だということは監視なり何なりで、街まで一緒
になることだろう。生真面目な騎士も気さくな竜の娘もどこか妙な性格をしているので、
可能ならばこれ以上関わりたくない。なので大人しく答えることにした。隣に居るササに
も素直に従うように目で合図をする。
「はい、まずは名前ですわ。申し遅れましたが、私はユマスティ・グス・リーズベルグ。
皆からもそう呼ばれておりますし、貴方達もユマで結構ですわ。そして隣の半裸姿の馬鹿
はクリヤ・フォウラ。二人でギリィの守護役を致しておりますわ」
「馬鹿ではないぞ、宜しくの」
「俺はクラウン、こっちはササ。名字はない。種族は二人とも半竜、目的は竜害治療」
簡潔に言ってフードを脱いだ。クリヤが俺の竜証である竜眼を覗き込んでユマに何かを
伝え、ユマはそれを紙に書き込んでいる。若いながらも守護役に着くだけあって、仕事は
きちんとこなすらしい。先程までのふざけた様子は全く感じられない。
ペンの音が止み、二人の視線がササを向いた。
「良いよ、どうせ見せなきゃいけないみたいだし」
俺は一瞬躊躇い、しかし結局ササのフードを脱がした。全体を覆っていたものが外れた
ことで、幾つもの竜証が見えてくる。最初から備わっていた竜掌に加え、側頭部から斜め
下に伸びる二対の竜角、背から伸びる一対の竜翼、視線を下にずらせば竜尾が見え、更に
下に行きブーツを脱がせれば竜脚が現れる。それを見て二人は息を飲んだ。当然だ、竜証
は全部で五ヵ所、半端な数ではない。その姿は半竜という言葉そのもの、人間と竜の丁度
中間点のような姿だ。前の街で調べた資料によると、もってあと一年程だという。本当に
時間がない。大丈夫だろうか、と願い二人を見ると、複雑そうな目でこちらを見ていた。
「駄目なのか」
「いや、そういうことでは無い。それに実際に竜害を治した者も幾らか居る。只の、次の
儀式が一年後なんじゃ。それまで耐えられるか……儂もここまで進んだ者は見た事がない」
一年、本当に危ういところだ。しかし可能性は0ではなくなった。そのことが嬉しくて
つい笑みが溢れてきた、ササなどは涙を流しながら僕に抱き着いてくる。竜掌での腕力で
されているので苦しい、というか骨が危険な音をたてているので正直な話死にそうなのだ
が、肺の空気を絞り出されているせいで声が出ない。それにこんなに嬉しそうなササを見て
いると止める気もなくなってくる。
「あぁ! クラウンさんがニヤけた表情のまま真っ青になってる! どうしよう!」
魔物の声で我に帰ったらしいササは慌てて身を離し、顔を覗き込んできた。表情に俺を
心配するような色があるのが見え、大丈夫だとジェスチャーで答える。俺は空気がこれ程
までに美味いものだとは思わなかったと命の大切さを再確認しつつ、魔物の娘を見た。
「助かった」
「気にしないで下さい! あたしもクラウンさん達に命を助けられました!」
笑みを浮かべて元気に答えるが、本当に魔物らしくない。
「そう言えば忘れておったの。どうする?」
「殺ります?」
「殺るかの」
背後で不穏な言葉が聞こえ、振り向いた。見ればユマが真剣な様子で双娘を見ている、
クリヤもそれなりに真面目な表情だ。確かにそうだろう、守護役の仕事の一つである魔物
の退治は街にとって大切なものだ。街を脅かす脅威であるそれを殺すことによって平和が
成り立っていると言っても過言じゃない。命を守護役に預け、また守ってもらっていると
いう自覚があるからこそ安心して暮らすことが出来るのだ。
しかし、
「ちょっと待てよ」
「クラウン?」
「クラウンさん!?」
俺は魔物の前に立った。
最初は俺がこの娘達の命を助け、先程は俺が助けられた。だから今度は再び俺が助ける
番だと、そう思ったのだ。こいつらは魔物だが、しかし悪い奴らではないと思う。
「こいつらは俺が保護をする。いざとなったら俺が殺すから、だから勘弁してやってくれ」
数秒。
「……約束じゃぞ」
「ちょっとクリヤ!! どういうつもりですの!?」
怒鳴るようにいうユマに面倒臭そうな顔を向け、クリヤは吐息した。
「うるさいのう、馬鹿だが悪い奴らではなかろうて」
「魔物ですのよ!?」
「だから、さっきクラウンが責任持つと言ったんじゃろ。いざとなったら儂も協力する」
「だからって」
「なに、クラウンの言葉が信じたくなっただけのことよ。何故かそんな雰囲気があるでの」
何か言いたそうだったが、真剣な表情にユマが押し黙る。そして癖なのだろうか、兜と
ガントレットの組み合わせにも関わらずユマは頭を掻いた。表情は見えないが、苛々して
いるのが全身から伝わってくる。だが何も言わないのを見ると、取り敢えず認めてもらう
ことは出来たのだろうか。
「やった! 生きてて良いんですね!?」
「あぁ! クラウンがニヤけた表情のまま真っ青になってる!」
ササが双娘を引き剥がしてくれた。命とか空気って素晴らしい。
「じゃあ大丈夫みたいだし、さっさと街に行こうか」
「それは良いが、お主大丈夫なのか?」
それは聞くな。
「ところで名前を聞いていなかったな、お前ら名前は?」
双娘に向いて訊くと、首を傾げられた。
「それがですね、無いんですよ。産まれたばっかりだし、今まで二人きりだったんで必要
が無かったので。だから、クラウンさんが付けて下さい」
僕は少し考え、
「チャクムとタックムだな、意味はお喋りと無口」
「で、出来ればもう少し可愛いものを!」
「ならラビシャとラグシャ。可愛いだろ、夏兎と冬兎だ」
聞いて嬉しそうな顔をしたのも一瞬のこと、何かに気付いたように少し考える。数秒、
首を傾げて黙り込み、そして漸く意味が分かったらしくこっちを向いた。
「さっき食べたお肉じゃないですか!!」
「因みに二択な」
「酷い!!」
一々反応が面白い娘だ、俺は嗜虐趣味という訳でもないのに、ついついおちょくりたく
なってくる。俺が面白そうにしているのを見ると、よく喋る魔物は肩を落とした。
「もうチャクムとタックムで良いです。良いよね」
元気な魔物改めチャクムは静かな魔物改めタックムの方を向くと尋ねた。タックムは特
に不満そうな様子もなく、笑みを浮かべて頷く。そういえばタックムは今まで全く喋って
いないが、どうしたのだろうか。チャクムはうるさいくらいなのに、そんな部分では温度
差が大分違って見える。
「あ、タックムは喋ることが出来ないんですよ。その代わり、頭は凄く良いんです」
「ふーん。で、チャクムは喋ることが出来る代わりに頭が凄く悪いのね」
こらササ、俺が思っても流石に失礼だと思って言えなかったのに。
「面白いの、お主ら」
「皆馬鹿ですわ」
ユマとクリヤも人のことは言えないと思う。
「まぁ良い、儂は気に入った。どれ、街まで乗せていってやろうかの」
ふと気になった。
「クリヤの竜証はどこにあるんだ?」
眺めてみるが、それらしい部分はどこにも見当たらない。外見は完全に人間と変わらず、
鎧に身を包んだユマの方が余程非人間的に見える。
「乳じゃ」
「マジか!? どんな効果があるんだ!? 是非とも見せてくれ!!」
「クラウン?」
背後から冷たい声がかけられ、俺は瞬間的に土下座した。全身竜の力の塊であるササに
折檻されたことは何度かあったが、その度に死にそうな思いをしたものだ。ササとは恋人
という訳ではないが、こうしたやりとりは珍しいことではない。そして出来ることならば
もう痛い目には遭いたくないので、本能が体を動かした。
「冗談じゃったが。本当は、口じゃよ。炎や氷も吹けるし、竜の姿でしか使えない竜言語
魔法も使うことの出来る優れ物じゃ」
言って得意気に口を開く。その中にはまるで一本一本が研ぎ澄まされた刃物のような、
白く鋭い歯が並んでいた。まさしく竜口、うっかり頼みでもして股間のものを喰えられた
男は必ず地獄を見るだろう。
恐ろしいと思って眺めていたが、瞬間、クリヤの上体がのけぞった。仰向けになっても
形が一切崩れない乳は、まさに竜の神秘。真横から見たことでその豊かな丘がはっきりと
確認出来たが、理由は恐ろしい。クリヤの顔があった空間を、どうやら杖だったらしい槍
の石突きが通過していた。
「何するんじゃ!!」
「あらごめんなさい、丁度良い穴があったものですから」
さっきから思っていたが、この二人はコンビを組んでいる癖に仲が悪いんだろうか。
クリヤはユマを不機嫌そうな目で見ると、こちらを向いた。
「ま、こんな馬鹿だけを乗せるのも嫌だしの。黙って乗ってくれ」
「乗り心地は悪いですけども」
再びユマを睨みながら、クリヤは竜化の呪文を唱えた。その体が光の玉に包まれ、次第
に姿が確認出来なくなる。それは瞬間的に巨大化し、光が弾けると巨大な竜の姿が明らか
になる。元の姿の方が楽なのか気持ち良さそうに鳴き、尾と翼を震わせた。
『乗ってくれ』
思念を伝える声が頭の中に直接伝わってくる。俺達全員が乗ったのを確認すると、翼を
大きく広げて空気を打つ。周囲の木々が揺れる音を背景に、クリヤは飛び立った。
視界が高く、当たる風が気持ち良い。乗り心地もユマが言う程には悪くない。
『どうじゃ?』
「ん、悪くない」
『そうじゃろ? それなのにユマときたら。それと喜べ、父上以外の男を載せたのはお主
が初めてじゃ。誇りに思うが良い』
「男っ気がないだけですわ」
『お主も同じじゃろうが』
唸るような声を発しながら、クリヤは強く尻尾を降る。
「クラウン」
突然、冷たいササの声が聞こえた。続いて、襟首を掴まれる。
「竜化して」
「は?」
「良いからしなさい」
直後、体が中に躍る。
落ちては不味いと俺は竜化し、はばたいて姿勢を整える。背中に軽い衝撃が来て、ササ
が飛び乗ってきたのだと分かった。続いてチャクムとタックムも飛ぼうとするが、ササに
威嚇されたのだろうか。脅えたような顔をして乗り出しかけた身を引っ込めた。
『お主ら、本当に面白いのう』
「普通じゃないですわ」
「ササさんったら、投げるなんて凄いです」
強い風のせいで声が流されるが、竜の聴覚でははっきりと聞こえた。他人事だと思って
言っているのだろうが、こちらは本当にしぬところだったのだ。笑い事ではない。
「やっぱりクラウンの乗り心地が一番ね」
抱きつくように首にかかる腕でササが居るのを感じながら、俺は低く唸った。
今回はこれで終わりです
始終こんな感じで行きたいと思います
>>447 GJです。
これからどんな修羅場があるかと思うと、ドキドキですw
「半竜の夢」の続きに
+
+ ∧_∧ + ワクワク
+(0゚・∀・)
(0゚つと) + テカテカ
+ と_)_)
ふっと……我に返ると、俺は妹を抱いていた。
いや、そんな言い方ではとても足りない。
俺は妹を無理矢理犯していた。
なりゆきで妹と二人暮らしをするようになってからこっち、妹は一瞬たりとも正気ではなかった。
ただうわ言の様に……いや、そのままズバリうわ言だ。
「姉さん……姉さん……」
そう繰り返すばかりだった。
妹は学校にも行かなくなった、同時に自分の姉と会う機会を全て自分で断ち切っていた。
理由を聞けば、静かに涙をこぼしながら……
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
……と、呟くばかりだった。
一方、あいつは変わらなかった……外見だけは。
いつもと変わらぬ笑顔を見せながら、あいつは妹を認識しなくなった。
いつもと変わらぬドジを見せながら、あいつは妹を記憶から消した。
多分それは妹に対する意向返し。
多分それが妹の精神を破壊していた。
そして妹は何も感じなくなった。
俺を含め、誰も認識しなくなった。
それが悔しくて……悔しくて……
最初に頬をつねってみた、次に髪を撫でた、唇を奪った。
それでも妹は俺を認識しなかった。
胸を揉んでみた、服を脱がせてみた、そして最後には妹を犯していた。
それでも妹は最後まで俺を認識しなかった。
俺はきっとその時点でムキになっていたんだろう。
妹の意識は確かに何の反応も見せなかった、だが体の方は僅かながらの反応を示していた。
僅かな……ほんの僅かな反応だった。
それはきっと妹の意思とは関係なく出てくるただの生理現象……
だがそんな僅かな反応が妙に嬉しくて、俺は毎日暇さえあれば妹を犯すようになっていった。
妹の反応は日を追うごとに大きくなって……それと同時に俺はだんだんと学校さえ休んでそれに没頭していった。
いつしか俺は、妹をイカせたいと思うようになっていた。
妹の反応がどれだけ大きくなろうと、妹が絶頂に達する気配は無かった。
きっと妹にも俺にもわかっていた。
それはきっと最後の一線、きっとそこを越えれば二度と戻れない。
それでも……いや、だからこそ俺は妹をイカせたいと思うようになっていた。
何日も何ヶ月も経った頃、俺は一つの事を試してみた。
「美央……」
名前で……呼んだ……ただそれだけ。
たったそれだけで妹は陥落した。
それどころか、今度は積極的に快楽を求め始めた。
少しづつ視線が俺の姿を追うようになった。
それはきっと最後の一線、きっとそこを越えれば二度と戻れない。
それを越えた先に何が待っているのか……それを知っていながら、俺はあっさりとそれを踏み越えた。
あいつへのあてつけのために始めた同居……だがその瞬間だけは、俺達はあいつの存在を忘れていた。
妹……いや、もう美央と呼ぼう。
そんな無謀な生活の結果、美央は妊娠していた。
その頃には破壊されていた精神もだいぶ回復していた。
だが俺と違って美央は天才児だ、親からも学校からも多量の非難を浴びる事となった。
そんな俺を美央はいつも庇ってくれた。
誰からも中絶を勧められた……美央は決して了承しなかった。
俺は学校を辞めさせられた、その日のうちに美央は学校に退学届を提出した。
学校側は美央を手放すのを惜しがったが、美央は俺の側に居る事を選んだ。
俺は働き始めた。
アルバイトをしながら職を探す……典型的なフリーターだった。
美央は某巨大企業の技術開発研究部に招かれ……俺の年収を1ケタ上回る月収を稼ぎ始めた。
一方、あいつは全く変わらなかった。
いつもと変わらぬ笑顔を見せながら、あいつは未だに妹を認識しなかった。
いつもと変わらぬドジを見せながら、あいつは未だに妹を記憶から消し続けていた。
それでいてあいつは、今まで以上に俺の周りに姿を現すようになっていた。
そんな姉の姿を美央はいつも悲しそうな眼で見つめていた。
美央のお腹が大きくなり、胎児が活発に自己を主張し始めた頃。
いつしか俺はあいつの事を気にかけなくなっていた。
あいつの存在を忘れ始めていた。
ただ美央の事だけを考えるようになっていた。
だが俺はわかっていなかった……美央は決してそれを望んではいなかった。
美央の望みはあの決別の日から少しも変わっていなかった。
後から思えば、この時少しでもあいつの事を本気で考えていれば良かったと思う。
その事に気づいた日……美央は自殺した。
あいつは全く変わらなかった。
いつもと変わらぬ笑顔を見せながら、あいつは未だに妹を認識しなかった。
いつもと変わらぬドジを見せながら、あいつは未だに妹を記憶から消し続けていた。
それでいてあいつは、今まで以上に俺の周りに姿を現すようになっていた。
「……よう」
「嬉しいな……あなたから呼び出してくれるなんて」
「2・3聞きたい事があってな」
「うん、なあに?」
「美央が死んだ、お腹に子供を抱えてな……気づいてたか?」
「誰、美央って?」
「お前の妹だ」
「妹なんて居ないよ」
「仕事もあった、子供も居た。にも関わらず美央は自殺した」
「悩み事でもあったんじゃないかな?」
「そうだな……美央には悩み事があった。それを知りながら忘れていた俺の責任でもある」
「ねえ、今からどこかへ行かない?凄く美味しいお店見つけたんだ」
「美央はお姉さんと仲直りをしたかった。たぶん、それと引き換えに命を投げ出すほどにな」
「凄く美味しいし、値段もそんなに高くないんだ。きっとあなたも気に入ると思う」
「美央は笑いながら死んでいた……とても無邪気に……とても嬉しそうに……」
「場所もここから遠くないし、ねえ行こうよ」
「お前が自殺を命じたんだ」
「何を言ってるの?せっかく会えたんだから楽しもうよ」
「動揺……しなかったな。汗もかいてない」
「……?」
「俺がこう言う事、予測していたんじゃないのか?」
「良くわからないよ」
「いいかげんにしろっ!」
そうして俺は言い放った。
それはあいつにとって最も聞きなれた言葉。
それ故に最も残酷な言葉。
言えばどうなるかはわかっていた。
きっと俺もこいつもタダじゃすまない。
それを確信しておきながら……俺は出来る限り冷静に冷徹に言い放った。
「いいかげんにしろよっ!お前はお姉さんだろうっ!」
それでおしまい。
全てがおしまい。
俺はもうこいつの名前を覚えてはいなかった。
美央の姉……ただそれだけだった。
それと同時に、あいつの中で俺の価値は消えた。
さよならも言わずに別れた。
そしてもう会う事は無い。
きっと永遠に……
自宅で見つかった美央の研究ノート。
綺麗な字で丁寧に纏められたそれを理解できる者は……一人として存在しなかった。
気分転換のつもりで書いて、結局最後まで書き終えてしまいました。
これで完結です。
今度こそ続きはありません。
>>454 乙でした
他の作品の続きもマターリ待ってますw
久方ぶりですが、投下します。
457 :
ツイスター:2006/11/10(金) 18:10:55 ID:uaOGzCf1
翌朝の通学路、山鹿は前方をとぼとぼと歩く太郎の背を見つけると走りよった。
「昨日の晩は妹の味を存分に味わったか?」
その声に、太郎は振り返る。ニヤニヤ笑い山鹿の顔を見ると、詰め寄った。
「お前、なんて奴を押し付けやがる!風呂に入ってれば押しかけてくるは、寝てればベッドに裸でもぐりこんでくるは。今朝はおかげで一子の奴に変態あつかいされちまったんだぞ!」
それを聞いて、山鹿は実にうらやましそうな顔をした。
それを見て、そんな苦労を山鹿に訴えてもまったくムダであることを太郎は悟った。
昨晩、太郎ははたかれた頬を押さえつつ、一子に必死の説明をした。
しかし、「妄想から召還された妹を押し付けられた」などという説明に納得できるものなど存在するはずがなかった。
ただ、必死の説明のうえ、その儀式の首謀者が山鹿であることを付け加えると、一子はある程度納得したようだった。
一子と山鹿は、太郎を通して知り合っており、お互いがどういう人物かもよく知っていた。
特に、一子は山鹿の行動力と得体の知れなさをどこか尊敬しているような様子さえあった。兄として、太郎はそれを面白く思ってはいなかったが。
山鹿の方はといえば、意外にも妹である一子に下心を抱いてはいないようだった。
それを問いただすと、「他人の妹に手を出すほど堕ちちゃいないよ」と笑った。山鹿は本気だった。
馬鹿なりに、筋の通った奴だと太郎は妙な感心をしたものだった。
そういうわけで、一子は新しい妹の出自についてはある程度納得した。
とはいえ、それと、彼女を家に置くこととはもちろん別問題だった。
一子は、当然のように反対した。一ヶ月の間であると説明しても、ムダだった。当たり前だ。
そんな気味の悪い出自の娘を家に置くことには誰だって躊躇するだろうが、それに加えて、新妹の容姿が問題だった。
彼女は、一子と瓜二つなのだ。そして、その顔で兄である太郎に甘えまくるのだ。
それを見て、一子は鳥肌を立てていた。
結局、太郎は一子を買収することで決着をつけた。太郎にとって、それは少なくない金額だった。
しかも、「あんたが全部面倒みるんだからね!」などと、親が犬を拾ってきた子供に言い聞かせるように念を押されてしまった。
もちろん、下着を借りることはできなかった。
昨晩のことを思い出しながら、太郎は山鹿に確認した。
「本当に、一ヶ月で終わるんだろうな!」
「ああ、次の新月の晩に消える。跡形もなくな」
最初にそれを聞いたときは、うかつにも同情してしまったのだが、今となってはその一ヶ月がそうそうに過ぎるのを祈るだけだ。
それ以上は、とても持ちそうになかった。
「だから、今のうちに思う存分楽しんでおけ。一ヶ月で消えるんだから、中に出し放題だぞ」
そういった山鹿の頭がはたかれた。
458 :
ツイスター:2006/11/10(金) 18:11:36 ID:uaOGzCf1
山鹿によって妹研に所属させられてはいるが、太郎の放課後の主戦場は軽音にある。
本来、今日は活動日ではないのだが、昨日休んでしまった分を取り返そうと軽音の方に出ることにした。
そもそも、今のような状況を生み出してくれた妹研にはしばらく顔を出そうとは思わなかった。
連中のことは忘れて一人でギターを弾きたいとプレハブの近くまで来て、太郎は控えめなベースの音を聞きつけた。
それで、先客がだれなのかが分かった。太郎は、部室に入りながら声をかけた。
「よお、伊勢。来てたのか」
案の定、部室でベースを弾いていたのは一年生女子の伊勢東子だった。
伊勢は、めがねと広いおでこがチャームポイントの娘だ。長い髪をバンドであげて、おでこを出していた。
世話好きで、他人に物怖じしない性格は、どこか委員長的な雰囲気だと、太郎は勝手に判断していた。
「今日は、先輩」
伊勢は、手を止めて、太郎に笑顔で応えた。
伊勢を軽音に勧誘したのは太郎だ。一見、軽音の演奏などに興味のなさそうな伊勢が、モノ欲しそうな顔をして勧誘の張り紙を見ていたのを誘ったのだった。
最初は固辞していた伊勢を、太郎が半ば強引に引っ張りこんだともいえる。そしてそれは正しかった。
彼女は、かなりの腕前のベース弾きであり、しかもプログレファン愛好家でもあった。
それ以来、太郎は伊勢の面倒をよく見ており、伊勢も太郎によくなついていた。
このままいけば、もしかすると付き合うことになるかもしれないと、太郎は何となく考えていた。
こちらから告白する気はなかった。それは若さゆえの臆病だけではなく、伊勢のことを本当に好きなのかどうかわからないということも理由だった。
とはいえ、「本当に好き」ということがどういうことかも太郎は分かっていないのだが。
ともかく、伊勢が太郎にとって気になる存在だということは確かだった。そしてそれは一方的なものではなかった。
「少し、あわせてみませんか」
伊勢がそういうので、しばらく二人で合わせて弾いた。
伊勢は、太郎のギターをしっかりと支えてやり、太郎は、伊勢のベースを引っ張ってやる。
息のあった演奏に太郎は、「絶対に外にでるな」と言い聞かせて家に残してきた爆弾娘のことをこの間だけは忘れていた。
やがて演奏が終わると、伊勢は自分の肩をとんとんと叩いた。
「肩、こるのか?」
そういってしまった後で、太郎は自分のうかつさを呪った。
なぜなら、それを伊勢にいうのはセクハラぎりぎりの行為だと知っていたからだ。
伊勢のチャームポイントは、めがねとおでこだけではなかった。最大のチャームポイントは別にあった。
それは、暴力的ともいえる胸の大きさだ。ベースを弾くのに邪魔になるほどだった。
とはいえ、太っているわけではない。むしろ、細身だった。それだけに、胸の大きさが強調されてしまう。
そんな胸の大きさを、伊勢が気にしているのを太郎は知っていた。それなのに。
「揉んでやろうか?」
なぜか、太郎はそんな言葉を続けてしまっていた。おそらく、肩>胸>揉むという連想がはたらいて口走ってしまったのだと自己分析した。
太郎はもちろん失敗したと思ったが、意外にも伊勢は笑っていった。
「本当ですか?」
459 :
ツイスター:2006/11/10(金) 18:12:06 ID:uaOGzCf1
そういわれてしまっては、もう揉むしかなかった。もちろん、肩をだ。
肩に手を置くと、その小ささに太郎は驚いた。まるで壊れ物を扱うように、やわやわと肩を揉んだ。
伊勢は、くすぐったそうなそぶりをしながら、時たま「んっ」などと色っぽい声を漏らした。
そのたびに太郎はびくっと一時停止する。
そんなことを続けているうちに、暑くなってきたのか伊勢が胸元をパタパタとやりだした。
普段、優等生然としている伊勢が、男が真後ろにいるのにそんなことをしだすということの不自然さに太郎は気付かない。
ただただ、目の前の光景に釘付けになっていた。現れては隠れ、隠れては現れる胸の谷間に。
いつの間にか、肩を揉んでいた手も止まっていた。それに気付いて、太郎はうろたえた。
もはや、いいわけの聞かないセクハラ行為だ。
「じゃ、じゃあ、こんなもんで。そ、そろそろ帰ろうかな?」
そそくさと伊勢から離れると、かばんもギターも置いたまま部室を出ようとした。
その太郎の袖を、伊勢が掴んでとめた。太郎がつんのめりつつ振り返ると、伊勢は立ち上がっていた。
「先輩、意気地がないですよ?」
そういうと、いきなり太郎の唇に、自分の唇を押しつけた。
十秒ほどして太郎はこれが自分のファーストキスであることに気付き、さらに十秒ほどしてから伊勢は唇を離した。
いつもの伊勢からは予想もつかない攻撃だった。太郎が、それを伊勢と同じ顔をしたまったく別の人物かと思ってしまったほどだ。
もちろん、そんなことはない。
「ずっと好きでした。付き合ってください」
太郎は、ほとんど自動的に「うん」といってしまう。
それは、不意打ちを食らって状況判断ができなかったせいでもあるが、元気になってしまったズボンの中のせいでもあった。
キスをされたときに押し付けられた胸の感触が、肯定以外の返答を禁じていた。
それを聞くと、伊勢はうれしそうに笑った。そして、顔をあげ、目を閉じた。
それがなんのサインかぐらいは、太郎も知っていた。それに応えてやる。
予想外だったのは、伊勢の舌が太郎の歯をなぞり、空いた隙間からそれをねじ込んできたことだけだった。
伊勢の小さめの舌が太郎の舌をちろちろとなめる。太郎もぎこちなくそれに応えた。
「女の子の舌って甘いんだなあ」などとぼんやり思いながら、太郎は応え続けた。
やがて、西日が部室に差し込んできた。
伊勢を帰り道の途中にある自宅に送ってから、太郎はじわじわと沸き起こってくる幸福感を感じていた。
初めて女の子に告白され返事をし、初めて付き合うことになった。しかも、初めてのキス付だ。
初めてのそれは、決してロマンチックなものではなく、むしろセクシャルな快感を与えてくれた。
これからは、もっとすごい体験をすることになるだろう。
意外にも、伊勢は積極的な娘だった。もちろん、それで伊勢に幻滅したりするはずもなかった。
もしかしたら、「初めて」ではないのかもしれないと太郎は感じたが、あの伊勢が「体験済み」という想像はむしろ興奮を掻き立ててくれた。
すごくエッチな子なのかもしれない。そう考えて、太郎は一人で勃起した。
460 :
ツイスター:2006/11/10(金) 18:12:49 ID:uaOGzCf1
だが、その幸福感も、自宅の前まで来てたちまちなえてしまった。
ここには、まだ名もないあの自称妹と、兄を兄とも思わない粗暴な実の妹がいる。
それを思い出してげんなりするのをこらえ玄関のドアを開けると、太郎は実にいいにおいをかぎつけた。
今日の食事当番は、自分のはずだったがと思いながら台所に行くと、そこにいたのは一子だった。
まさか、一子が自分の代わりに食事を作るなどとは考えなかった。一瞬目を疑う。
「おかえりなさい、お兄ちゃん!」
それを聞いて、太郎はその娘が例の自称妹であると気付く。
キッチンのテーブルには、たくさんの料理が並んでいた。どうやら、彼女が作ったものらしかった。
それについて質そうとしたとき、一子が台所に飛び込んできた。珍しく機嫌がいいらしく、笑っていた。
「すごいんだよ、次子!こんなごちそう久しぶり!」
一子のその機嫌のよさも気になったが、何より初めて聞いた言葉が気になった。
「何だ?次子って」
「だって、この子名前ないんでしょ?だから、付けたの。わたしの次の妹だから次子」
安直な命名だった。
「いいのか?お前はそれで」
「うん。お兄ちゃんの名前は太郎だし。それに一子ちゃんが付けてくれたから」
いつの間にか、仲良くなっていた。
テーブルの上には、必ずしも豪華というわけではないおかずが並んでいた。定番のおかずだった。
しかし、注目すべきはその量だった。7種類のおかずが並んでいる。
太郎が作るにしても、一子が作るにしても、いつも1品か2品が並ぶだけだった。どうしても味気ない食卓だった。
この料理の数々を見て、一子が喜ぶのも無理はなかった。しかも、検分という名のつまみ食いをしてみたところ、実に美味だった。
太郎も、これには少し感動してしまった。
このときばかりは、「妹は料理が得意でなければならない」という妹研の連中の妄想に感謝した。
しかもそれだけでなく、次子は一子のするはずだった家事のほとんどを代わって行っていた。もちろん、完璧な仕事ぶりだった。
それを聞いて、太郎は一子が次子に気を許している理由を理解した。
次子の方は、もともと一子に隔意はないようだった。
一子が一方的に次子を嫌っていただけであり、一子が歩み寄れば二人はうまくいく。
実際、今の二人はまるで実の姉妹のようにさえ見えた。
次子が、なべを火にかけたまま太郎に抱きつこうとすると、それを一子がとめた。
「だめだよ、次子。こいつは変態なんだから」
そういって、次子を太郎から引き離した。ますます本当の姉妹、しかも双子の妹のようだった。
もちろん、それを見て太郎が残念に思うはずもなかった。
唯一にして、最大の懸念材料だった次子と一子がうまくいき、しかも一子が次子の暴走を止めてくれる。
願ったりかなったりの状況だった。
そして自分は伊勢に告白されたばかりなのだ。
太郎が、幸福感に酔いしれるのも無理はなかった。
461 :
ツイスター:2006/11/10(金) 18:14:25 ID:uaOGzCf1
以上、第3話「告白」でした。
だいたいキャラクターも出揃ったので、そろそろ行きます。
GJ!!!
一子がどう修羅化するのかがワクテカ
wktkしながら待ってます
(0・∀・0)テカテカ
投下乙であります。
sir!おでこ属性と眼鏡属性を持つ自分としては伊勢さんはたまらないとですsir!
そんなわけで妹は他の住人が持っていくと思うので伊勢さんは私がいただきます。
新キャラ登場キタw
伊勢さんがかなりの積極的行動に出ているので、妹組みがどう出るかとても楽しみです。
作者さんGJ
新キャラも出てきていい感じになってきましたなあ。
さあ誰か!伊勢さんの絵の投下を!
投下しますよ
「リサお姉ちゃん、あっちで遊ぼ!」
「……あの滑り台、楽しそう」 思っていたよりも早く終わったらしく、時間を潰すためにあたし達は公園に来ていた。
ユンちゃんもリーちゃんも初めてのことらしく、嬉しそうに目を輝かせている。
「早く早く!」
ユンちゃんとリーちゃんに手を引かれ、駆けてゆく。勢いが着きすぎて転びそうになり、
体勢を立て直すときに横目で青さんを見た。こちらを微笑ましい目で見ながら、隣に座っ
ているサラさんと話をしている。だが見えるのはそれだけではない。その穏やかな空間に
僅かな違和感を与える、あたしから見れば巨大な剣を抱えているのが分かる。大事なもの
だということを分かってくれているらしく扱う手や腕の動きは丁寧で、預けているこちら
としても安心することが出来る。
それは姉であり、あたし自身でもあるからだ。
あたしは演技をしている、だからこそ今は剣を大切にしてほしいと思う。昨日もあまり
青さんに触らせなかったのはそういうことだ。死んでしまった姉を生き返らせる為に犠牲
にしてしまったあたしの心は、今はそこにしか存在しない。ソードダンスをしてしまった
のも、きっと寂しかったからだろう。死ぬべきだったあたしを殺し、生きるべきだった姉
を生かし、関係のない青さんを親に見立てることで自分が消えてゆくのが。洋服屋に入る
前に青さんのことをパパと呼んだのは、半分は冗談ではない。本当に父親になってほしい
と、そう思ってしまったからだ。双娘はどうなのかは分からないが、少なくともあたしの
心の中の姉はそう思っていた。
「リサお姉ちゃん、どうしたの?」
「……ヤキモチ?」
そうかもしれないが、
「違うよ!」
敢えて逆の言葉を発した。
姉は自分の父が母以外の女の人と話をしただけでは、少し仲良くなっただけでは嫉妬を
したりしない。父が家族を誰よりも愛していることを知っているからだ。それにサラさん
を母にすることだって出来る、そうすれば今の状況はあたしが望んだものになるだろう。
しかし、それでも違うと思うのは、
「ヤキモチ、かな」
「やっぱり!」
「……嫉妬、してる」
そうなのだろう。
姉を生かすと決めて数十年程、今度こそ大丈夫だと思っていた。青さんは優しい人だし、
ナナミさんも感情はないらしいけれど良く接してくれている。典型的な軍人一家だった、
厳しく、過酷な両親とは違う。優しく、暖かな理想の家庭がここにはある。姉も、辛さを
殆んど知ることなく幸福に育ってゆくだろう。
しかし、それに反するあたしが居るのもまた事実なのだ。
冷たく辛い生活を送ってきたのはあたしも同じで、だから青さんと毎日接していく内に
惹かれていってしまう。殆んど残っていないあたしの心の中で、青さんが好きだというも
のと、嫉妬が残っている。いつも青さんの隣に居るナナミさんや、普通に接して恋をして
ゆくことの出来るサラさん、無邪気に青さんに接しているリーちゃんとユンちゃん。
そして自分で選んだとはいえ、これからも青さんの隣に居れるだろう姉に。
その想いが強いから、つい迷ってしまうのだろう。
このまま演技を続けていくのか、
本当の気持ちを出すのか。
「……リサお姉ちゃん、ブランコ、押して」
「あ、あたしも」
「良いよ、並んで座って」
言われた通りに並んで座った二人の背中を押した。うっかり落としてしまわないように、
適度な強さで押すのは難しい。あたしも姉もまだ幼かった頃、軍の仕事で全く構ってくれ
なかった両親の代わりにブランコの背中を押してくれた教官のことを思い出しながら、体
を動かした。最初は弱く、加速が着いてきたら次第に強く。腕で押すのではなく、体全体
で押す。腕はあくまでも押すための道具で、寄り掛るようなイメージで押す。教官は姉と
あたしにそう教えてくれた。
「すごーい」
「……高い」
加速していくことと増してゆく高度に、二人は歓喜の声を上げる。姉とあたしも、昔は
こうして喜んだものだ。今はなくなってしまったこの無邪気さが、とても羨ましい。自分
に向けられた笑みに応えるように、押す力を強めてゆく。すると、二人は笑みを強いもの
にした。上体を僅かに傾げてバランスをとりながら、宙に身を踊らせる。ときには捻りを
入れ、足をばたつかせて楽しんでいる。
「「ララ、ラ、ラララ、ラ、ララ、」」
突然、歌声が聞こえてきた。二人が声を揃えて歌っている曲は、あたしの耳に馴染んだ
もの。姉も好きでよく歌っていた、独特のテンポの民謡だ。第四惑星で一番有名なもので、
ことあるごとに聞いていたような気がする。この娘達も、親から聞いて習ったのだろうか。
あたしは親に習ったものではなく教官や仲間に教えてもらったのだが、それでも感慨深い
ものであることには違いない。気が付けば、口ずさんでいた。
「ライラ、ライ、ライ、シャクム・ラスヤ・ジダ・ズヤ――」
音に合わせて、ブランコを押す。
「何の歌?」
どうやら歌うことに夢中になっていたらしい、サラさんが寄って来ていることに気付か
なかった。横目で確認すると、青さんが居るのも見える。楽しそうに目を弓にしていて、
純粋に今の状況を喜んでいるのが分かった。少し嫌なのは、ごく自然にサラさんがその隣
で同じ表情を浮かべていること。
まるで、夫婦のように。
しかしこんな場所で怒ってはいけない。そんなことをしたら、姉が生きていけなくなる。
それだけは、絶対に嫌だ。想いを殺し、感情を押さえ込み、澱を打ち消すように歌う声を
高くする。空に響けと、姉に届けというように。
もうすぐサビだというところで、視界が暗くなった。一瞬遅れてブランコを押す感触も
消え、危うくバランスを崩しそうになる。どうしたのかと振り向けば、こちらを見下ろす
笑みがあった。
「疲れてない?」
「大丈夫だよ」
しかし押すことが出来ないので、黙って離れた。青さんは器用にも二人が離れた瞬間、
剣を手渡してきた。あたしがしっかりと抱えたのを確認して、そこで手を離す。何気無い
その気遣いが嬉しかった。
「踊ってよ」
一瞬、迷う。
皆の前で、踊っても良いのだろうか。姉は踊りたいだろうし、あたし自身も踊りたいと
思ってはいる。けれど大切なものをそう簡単に出してはいけない、という心もある。出し
惜しみをしている訳ではない、体も心も踊りたいと思っている。最近はこうなることが多
いし、その度に踊ってきた。今までは一人でそうしてきたが、ナナミさんに見られたし、
昨日は青さんにも見せた。それも自分から。しかし、誰にでも見せて良いものではない。
この二人だから、とも思える。
どうしよう。
数秒。
踊ろうと決心し、剣を構えたところで突風が吹いた。それは木々を揺らし、葉が擦れる
快い音が耳に入ってくる。
「許せない」
不意に、背後に声を感じた。ともすれば聞き逃しそうになる程の、小さな囁く声。風や
木の音によって殆んどかき消されていたが、何故かはっきりと聞こえた。
「どうしたの?」
どうやら他の皆には聞こえていなかったらしい。
「何でもないよ」
一瞬振り返り、安心させるように青さんに笑みを向けた。
目を閉じ、双娘の声に合わせて踊り始める。
しかし翻る長い黒髪は強く目に焼き付いたまま、離れなかった。
今回はこれで終わりです
段々揃ってきました
ついに修羅場が見えて北
抑え切れない嫉妬心は素晴らしいぜGJ
476 :
名無しさん@ピンキー:2006/11/11(土) 12:34:33 ID:jL8jk0oT
age
「それじゃ、着替えてシャワー浴びたらすぐに行くね」
公園で二人の世話をしながら遊んでいたので、リサちゃんの服は砂で汚れていた。この
まま入ると客人とはいえナナミも容赦はしないと分かっているので、一旦体を綺麗にする
為にリサちゃんは自分の家に戻っていった。シャワーだけならこちらでも良いと思うが、
流石に服は置いていない。先程買ってきた中にはリサちゃんのものもあるが下着は買って
いなかったらしく、それも買っていたのなら迷わずこちらに来たいような目をしていた。
部屋数の問題があるので今は無理だが、いつかリサちゃんも僕の部屋で暮らせれば良いと
思う。それはナナミとたまに話題にする問題だ。
名残り惜しそうにこちらに手を振るリサちゃんに別れを告げ、玄関に入る。サラさんも
後半はリサちゃん達に付き合っていたので汚れていたものの、システムか何かでで普通に
汚れを落としていた。今は砂埃の一粒もなく、それどころか服に皺一つない状態だ。
「面白かったね」
「……また、行きたい」
家に入るなり、双娘は走ってソファに飛び込んだ。結構な距離を歩いた上に、公園でも
走り回ったのだ。疲れているらしく服が汚れているのも気にせずに寝そべってごろごろと
動き、その柔らかさに幸せそうな笑みを浮かべている。こうした表情をしているのは良い
ことだとは思うのだが、ナナミが見たら叱るだろう。拾ってきたナナミからしてみれば、
二人はまず子供である前に使用人なのだ。ナナミに怒られない内にソファから引き剥がし、
風呂場へ向かわせた。
僕の場合は昨日のようなことになる可能性があり迂濶に着いてゆくことは出来ないので
ナナミに頼もうと思うが、どうやら居ないらしい。申し訳ないがサラさんに頼もうと思い、
数秒考えてそれを止めた。サラさんは使い勝手が分からないだろうし、システムで周囲を
適当にいじられても困る。普段の行動で気付いたのだが、彼女は面倒だったり思い通りに
ならないことがあると何かと確率システムでそれを解決する癖があるようだ。作り出した
本人なので当然といえば当然かもしれないのだが、それで妙なことになっても困る。誰も
見ていないとユンちゃんが暴走してしまう気もするが、リーちゃんは賢い娘だからそれを
食い止めてくれるだろうと判断し、そのままにしておくことにした。リーちゃんも一緒に
ソファの上を転がっていたのは、きっと何かの間違いだ。
「だから大丈夫」
「ブルー、何故苦笑を浮かべて言っているの?」
いかん、顔に現れていたか。
「気にせずに寛いでて、僕も今着替えてくる。用があったら寝室まで」
そう、今から僕は着替えにいくのだ。決して不安だという訳ではない、しかしシャツを
脱ぎに洗濯機のある脱衣所に行ったついでに注意をするのは保護者として当然の行動だ。
二人を信用していないのではなく、ついでに様子を見るだけだ。
数分。
無駄に泡塗れになった洗い場をドア全体を開いて見せ付けられたり、昨夜のようなこと
をされそうになったりと頭が痛いことが続いたものの、取り敢えずは注意をして事なきを
得て寝室に入る。まさか洗濯物を出すついでだけで、こんなにも疲れるとは思わなかった。
ベッドに倒れ込むと、皺のないシーツと石鹸の良い匂いが僕を出迎える。昨日の夜、双娘
としたことの痕跡は全く見当たらない。しかしそれは、ナナミがそれを確認した、という
証明でもあるのだ。匂いや染みを確認したとき、ナナミはどう思ったのだろう。
幼女を襲う馬鹿だと思ったのか。
僕が幼女に誘われたと思ったのか。
もしかしたら、後者かもしれない。双娘くらいの年齢の子供でもそういうことを普通に
する場所から連れ出してきたのだから、お礼にあんな行為をしてくるとナナミは気付いて
いたのかもしれない。その後に僕がこんな心境になることも分かっていて、だから二人と
寝ようとするのを止めたのだろう。それに気付かなかった僕は馬鹿だ。
軽音。
ノックの音と共に、サラさんが入ってきた。
「何かあった?」
「んー。あるのは、これからよ」
笑みを浮かべたまま後ろ手でドアを閉め、続いて金属が噛み合う音がする。鍵をかけた
のだと理解し、人には聞かれたくない話だと推測した。それにしては少し妙な感じがする、
浮かべているのは相変わらずいつもの笑みなのだ。どういうことかと考えている間にサラ
さんがゆっくりとした足取りで近付いてくるのが、部屋に響く足音で分かった。
数秒をかけて寝そべる僕の隣に腰掛け、
「ねぇ、ブルー」
覆い被さってきた。
「顔、近くない?」
疑問に言葉で答えることなく、唇を重ねることで示してきた。
「何、するんだ」
「意味、分からない」
されたことが示す意味が分かるからこそ、混乱した。どうしてサラさんがこんなことを
するのか、それの意味が分からない。しかし僕の思考に構うことなくサラさんは再び唇を
重ね、更には舌を割り込ませてくる。口内をねぶり、僕の舌を絡めとり、唾液を流し込み、
またこちらの唾液を吸ってくる。慣れていないのか動きはどこかぎこちないものの、その
真剣さは昨日の双娘に通じるものがある。ただしこちらは双娘とは真逆で、僕を楽しませ
ようとするのではなく自分の存在を認めて貰いたがるような、自己を必死に主張するもの。
数十秒かけて繰り返したサラさんは、とろけた表情で僕から唇を離した。引き抜いた舌と
僕の唇の間に、透明で細い橋がかかる。
「どうして、こんなこと?」
再度の疑問に、サラさんは眉を寄せた。
「こんなこと? ナナミちゃんともしているでしょ?」
それは、そうだが。
「ただ、あの娘達の前でするのは感心しないわね」
何を、言っているんだ。
「匂い、残っていたわよ」
やっと意味が分かった、サラさんは勘違いをしている。朝僕の部屋に来たときに匂いに
気が付いたらしいのだが、それはナナミとの行為ではなく双娘との行為で出来たものだ。
しかしそれを言うのは躊躇われた。言ってしまったらサラさんは悲しむだろうし、上手く
皆とやっていくことは出来なくなる。下手をすればサラさんだけでなく、僕の周囲の皆が
悲しむことになってしまうだろう。二人のそれは治していくにしても、治らない内に自ら
それを露呈させるようなことはしたくない。結局、僕は黙り込んでしまった。
「それは、わたしが代わりになることは出来ないのかしら?」
腰を僕の股間に擦り付けながら、吐息がかかる距離で語りかけてくる。
「ナナミちゃんの位置に、わたしは立てない?」
ナナミよりも大きな乳房が、僕の胸に押し付けられる。
「お願い、ブルー」
真摯にこちらを見つめてくるサラさんの顔は、綺麗だなと思った。
僕の方から、唇を重ねる。
「ブルー、大好きよ」
手を伸ばし、サラさんの双丘を揉む。セーター越しだというのに尚柔らかく、少し力を
込めるだけで思うように変化して僕の掌を受け止める。形を変えてゆく度にサラさんの口
からは熱を持った吐息が生まれ、首筋を擽ってくる。
僕は身を起こすとサラさんはの肩を掴み、仰向けに押し倒した。見下ろしながら乳房を
揉み、反対の手でタイトスカートのボタンを外す。デニム素材なので少し引っ掛かったが
力任せに太股の半ば辺りまで引くと、細かい刺繍の入った黒の下着が見えた。いやらしい
雰囲気のそれは、スタイルの良い彼女によく似合っている。
「や、あんまり見ないで」
自ら仕掛けてきたというのに恥ずかしがるサラさんは、とても可愛いらしい。セーター
の裾から手を滑り込ませて胸を直接撫でつつ、股の割れ目の部分を指の腹で擦る。僅かに
手指を震わせながら上方へと移動させてゆくと、固いしこりのようなものとぶつかった。
円を描くように親指でそこを撫で、クロッチ部分を指でずらして穴に指を侵入させる。
「気持ち良い?」
「駄目、そこ、弱い、から」
指にまとわりつくようにしてくるヒダに対抗するように中を擦ると、サラさんは目尻に
涙を浮かべて首を振った。セーターを捲り上げ、揺れて出現する乳房に舌を這わせ、固く
なった先端の突起を口に含む。舌で押し潰すようにして転がし、音をたてて吸う。赤子の
ようだとおもいながらも、サラさんの喘ぐ姿の前では止まらない。
僕はスボンのジッパーを下げ、自分のものを取り出した。それを濡れそぼったサラさん
の股間に当てがい、一気に挿入する。声をかけずに入れるのはマナー違反かと思ったが、
心は既に我慢のきかない状態になっていた。ナナミのものとは当然違うが、こちらも背を
抜けるような強い快感がある。貪欲に呑み込み、決して離そうとしないのはナナミ以上。
もしかしたらあの双娘よりも上かもしれない。
夢中で腰を降り、その度に肉を打つ音や擦れる水音、もしかしたら浴場に居る双娘にも
聞こえるのではないかと思う程の声が響く。えぐるように突く度にサラさんはそれに合わ
せて腰を降り、打ち込む力が強くなる。更なる快感を得ようと腰の動きは益々激しくなり、
責めているのに責められているような感覚がある。
より深く突くように僕は上体を伏せ、乳房を責めていた舌を鎖骨に這わせた。滑らせて
首筋に舌を動かし、眼前にあった首輪を噛む。ロングのタイトスカートを穿いているせい
で足が広げられず若干苦しそうではあるものの、それでもサラさんは僕に笑みを向けた。
「食い千切ってくれれば良いのに」
歯を立てるが、金属制のそれは当然千切れる訳もない。
代わりに耳を甘噛みすると、おかしそうに声を漏らした。それが嬉しくなり、少し強め
に、ときには唇ではなく歯を使って何度も噛む。その度に膣内は小刻みに震え、僕を刺激
してくる。幾らもかからず、射精感が込み上げてきた。
「中に、出して」
胴に脚が絡み付き、柔らかく締めてくる。
出す。
引き抜くとクロッチ部分が戻り、そこから精液が染み出すのが見える。
「どうしようかしら、これ?」
頬を紅潮させながら、眉根を寄せて見上げてくる。
「どうしようか」
せっかくしてあったベッドメイクを崩してしまった上、ナナミの下着を勝手に借りたり
したら怒られるだろうか。
衣服を整えることなく、乱れた姿勢のサラさんを見てどう説明しようか考えた。
今回はこれで終わりです
あお は あたらしい ばくだんを てにいれた
だんだんとみえ始めてきた修羅場の影。これからの展開によりいっそう期待がw
「ふぁ……まだ眠いぜぇ……」
この世界に来て何度目の朝だっけ。うーん、なんの解決策も探さないままでいたけど、まずいかなぁ。でも、結構ここも楽しいんだよなぁ。
「さて、行きますか。」
朝飯を一気に平らげ、学校へ。一応茜に声かけてみるか。
「うぉーい!アカネー!!今日も学校行ってるから、なんかあったらそこに来いよー。」
返事は無しか。あれだけ怒ってたからなぁ。しばらくは顔もみせてくれないだろうな。
まったく、ちょっと仲良く遊んだでたからってヤキモチやくなよな。あいつは昔から俺以外に心を開かないから将来が心配でしょうがないですよ。
「ふぅ。」
学校に行くまでの道。もう町中に俺の存在が知れ渡っているせいか、あまり好奇の目をむけられなくなった。しかし……ひとつ困ったことが。
そう、俺の性処理だ。これだけ周りにかわいい子がいるんだから、妄想しほうだいだと思っていたんだが、いざその時になると、なんだか罪悪感でできない。
かといって性欲が治まるわけでもない。このままだといつか暴発する恐れがある。そいつはまずいなぁ。
学校
正門にはやはりたくさんの女の子。 相変わらず(まだ数日だが)の風景だが、今日は…違う!
自分の視線が明らかにセクハラチックになっているのがわかる。元の世界では、この学校の制服はかわいいと有名だったが、その猛威をこんなことで痛感するとは思わなかった。
女の子しかいないんだから、姓知識にも乏しいはず。ちょっと口先で騙せばうまい具合に……って俺!それはレイープじゃないか!そこまで墜ちてはおらんよ!!
「はぁ…でもなぁ…溜まってるんだよなぁ。」
元の世界で禁欲なんてしてなければよかった。失敗だ。
「ぉ--ーい!!!」
ガッ!
「うおっ!?」
突然の呼び声とともに、背中になにかが飛び付いてくる。ああ、こんなことしてくるやつは一人しかいない。
「小波か?」
「はいあなたの聖天使、コナミンです。」
性天使?いやいや、俺。何を考えているんだ?Cカップ以下の女の子はパスだと決めたじゃないか(嘘)
まぁ何が言いたいかというと、ロリコンは犯罪です。
「どうしたんだよー。シュンー。朝っぱらから元気ないぞ。」
「普通朝だから元気ないだろ。」
「いいや!違うね!私のしってるシュンは二十四時間元気だね!」
「はっ!」
そうだよ、俺!お前は悩んでうじうじするタイプじゃないんだ!自分の思いにまっすぐに生きるんだヨ!
「へっへぇ、小波!お前の一言で目が覚めたぜ!」
「おう!さっきまでと目の輝きが違うぜ!」
「俺は!!やりたいようにやってやるぜ!……オナニーをな!」
結局女の子に手を出せない俺ヘタレ。
「う、うん?オナニーって何か知らないけど頑張って……うひゃぁ!?」
突然の寄生とともに、フッと体が軽くなった。小波が背中から降りた……
ドスン
いや、落ちた。
「おい、どうし……あ、よう!歩!」
歩が小波の襟元を掴んでいた。どうやら歩が引っ張って落としたらしい。
「いってて……む、お前!また私とシュンのスキンヘッドを邪魔したなぁ!」
小波の喋った言葉をそのまま紙に書き、歩に見せる。
『それを言うならスキンシップ。あほ。』
「あ、あほ。ですってぇぇ〜〜」
どうしてこの二人はこうもソリが合わないんかな。顔を合わせる度に喧嘩してるような気がする。つーか二人って知り合いだったのか?
『それに……』
ズイ
歩は座り込んでいる小波を見下すような視線でほほ笑むと、(ゾクリときたのは内緒だ)俺の背中によじ登って来た。
『ここは私専用の場所。』
「お、おぃ!?」
初めて乗ったのにいきなり専用ですか?そんなに俺の背中って居心地いいのか?
「なっ!?なにが専用だ!そこは私のお気に入りなんだ!」
『ダメ。渡さない。』
ギュウ
歩の抱き付く力が強くなる。まぁ、歩も小波と同じロリーだから性欲が沸くことは……
ムニ
「を、をを?」
な、にぃ!この背中の感覚は……体感したことはないが、間違いなくオッパイの感覚…
振り返って歩の顔を見てみる。脱力したような、幸せな顔をしていた。こいつ、着痩せするタイプだったのか。これは結構大きいな!
「なにニヤニヤしてんだよー!私のときはそんな嬉しそうにしてなかったじゃん!!」
「は、はは?」
いかん。鼻のしたが伸び切ってたか。それにしてもこの胸。うむぅ……やばい…せっかく押さえようとしてた性欲が……
『とりあえず、降りてくれ。』
それを見せると、歩は不機嫌な顔をしながらも降りた。
「はぁ、はぁ。じゃ、じゃあ俺、行くとこあるから。」
ダッシュで逃げ!だってこのままいたら暴発しちゃうんだもん!背中に小波の怒号、歩の視線が突き刺さっていたがキニシナイ!風のように駆け、校舎の中へと逃げ込んだ。
「ふぅ……このままじゃ体がもたないよなぁ…」
そういえば礼奈センセが元の世界に帰る方法を探すとか言ってたよな……
「当てにならないだろうけど。」
一か八か。小さな望みに賭けてみようではないか。どうせ研究なら化学準備室にいるだろ。まだ朝のHRにまで時間があるので、立ち寄ってみようか。
準備室
ガララララ
「れっなセンセ〜…って酒クサ!!」
相変わらずの匂いだが、今回ばかりはちと違う。臭さが強烈になっている。
「センセ〜、いないの?」
ジャングルのごとく整理されていない部屋の奥に行くと……
「いた…って寝てるのかよ。」
酔い潰れたのか、白衣のまま、机に突っ伏して寝ていた。ほんと、よく退職にならないよな、この人。机の上にはエチルアルコール。まぁーた学校の備品呑みやがったな。
いつかメチルアルコールをのむんじゃないかハラハラだよ。
中途半端ですが、今日はここまで
ロボ氏GJ!
ハッピーエンドに期待したいが修羅場にwktk
略してアルハラGJ
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ロボ氏全開だなw
ハーレムからエロの気配を受信しましたピピピ
___ \ 全世界のもてない男たちを / / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
/L, | \ \ 救済するため作り上げた / /⌒ヽ | クリスマスとは
./ ト、└L, | jJヽ \ 秘密結社!! /:: | ▽| ∠ そもそも
ハ | \ しlv┘/|! \ その名もステキ /:: ノ⌒ヽ/ | なんであるか
| 'ゝ\__> l / ノ| \ 『 し っ と 団 』 / , -/ , 、_ `‐-‐、 | 杉野!!
/| '⌒〜-イl、`ー ´(| \ /::: / '''´ { 、 ヽ \______
/ .| ,' `¨⌒/ ∧∧∧∧∧ :::: ノ ヾ | ,ハ`''"〈
/ |ヽ. ,' ∠-―- 、 < し >:::: ( 人 } イト、 )
/ ||\__,/__, <__ >ー< 予 っ >::::::::: ヽ、ヽ| j ハ 〈
──────────────<. と >───────────────────
,人,ノヽ 〈与えねばなるまい< 感 団 > ゝ しイ \ そう!!これは
人ノ ,. ! 〉 アベックどもに ..< > ___|__ _) て <天に代わって悪を討つ
,ノ' / | (| \ 天罰を!! <. !!!. の > || 'っ h ´__ / 正義のわざ!
,/,/l ! ム|  ̄`――――/ ∨∨∨∨∨ \ ||l l l \咢)P!  ̄|/\/\/\/\/
/,/ / | (_,| / ワレらの \ / ,ゝ__r┘ < 決して私怨から
/゚ / / /| / 目標わ!! \ 」 )‐<\ < でわない!!
´三:"/ フ| / Xマスイブ12月24日! \ 厂丁ト、l_ ∨ ∨ ∨ ∨ ∨∨
 ̄ ̄ <, | / 悪のアベックどもに \ 〉 | | |::ト、 _|\/\/\/\
へ(⌒ヽ厂 | /正義の鉄槌を下し 根だやしにすること!!\ } } ハ 〉{_7、\ 聖 戦 だ ! !
しっとマスク三姉妹
なんか変な電波kt
かっこいいw
ギャグ風味でこういうノリの嫉妬SSもいいねぇw
>>490 続きが読みたい
茜ハァハァ・・・・・ウッ・・・アァアァアァアァッ・・・・・・・・・・・・
修羅場ハーレムの素晴らしさに乾杯、Gjだぜ!
少し路線が違う気もしますが、投下します。
『記憶』
*00-追憶の夢
夢を視ている。僕は夢を視ている。それはきっと過去の記憶。
忘れかけていた記憶の破片を視ている。忘れたかったはずなのに。まるで誰かが視せているように。
僕が二つの光を失ったあの日。無理矢理それを思い出させる。
6歳の冬。僕はいつものように親に買ってもらった目覚まし時計に起こされて、リビングに向かった。
その時、子供ながらに感じたのは違和感だった。やけにリビングが静かなのである。
いや、リビングだけではない。家中が静かで何処かいつもと違う。物音一つ聞こえない。聞こえるのは、自分の足が踏むフローリングの床が軋む音と、鼓動が加速する心臓の音だけだった。
そこで気付いてしまった。この場所には在るべきモノが存在しない。
昨日まであった温かみと賑やかさが失われている。僕が大好きだった生活が消えている。
きっと、僕の両親がいなくなっている。どうしてか、そんな気がした。
だから、悲しいという感情も忘れ、ただ立ち尽くすしかなかった。
人間というモノは本当に絶望すると声すら上げられないのか。身体が金縛りにあったように動かない。
もう希望はない。子どもだった僕にとって両親を失って残るのは、絶望だけである。
――そんな僕の前に一人の少女が現れた。
僕より少し背が低く、黒いゴシック服を着た、腰まで伸びた白銀の髪が綺麗で、大きな紅い瞳を持った少女。美しいと言えば、美しい。
しかし、少女の美しさは異質だった。人間では有り得ない狂気じみた美しさを感じてしまう。子供でも「このひとはあぶない」と判断するくらいに。
だから僕は咄嗟に足を後ろへ蹴った。逃げる以外に選択肢はない。少女の姿が訴えている。
鼓動が加速する。異質な美しさに本能が恐怖している。血流が逆流しそうで心臓が悲鳴を上げているが、気にしない。
早く。早く。
はやくあいつからにげろ。
後ろを視る暇もない。あいつが何をしているかわからない。
わからない。わからない。わからない。
――え? なら、僕はどうして逃げている。
「怖いからでしょう?」
突然、上から逆さになった少女の顔が降って来た。人形が笑っているような口だけを開いた顔である。不気味で、気持ち悪い。
逃げたはずなのに。わからない。
「あなたの両親は私が食べました」
不気味な笑顔のまま、少女は言った。
やはり、僕は間違っていなかった。この少女は狂っている。鼓動が炸裂しそうなくらい加速する。
恐怖。少女に対して恐怖以外は生まれなかった。きっと少女は人間ではない。形だけが人間なのだ。
「でも、あなたは食べません。だって可愛いんですもの」
少女は舌をペロリと出し、舌なめずりをした。まるで人の死を待つ死神のように。
もう呼吸すら苦しい。喉からヒュウヒュウと空気だけが漏れる。
「そんなに怖がらなくても良いんですのよ」
少女は天井にぶらさがったまま僕の頬を左手で撫でた。
それだけで、ただそれだけで、刀を突き付けられたかのような戦慄が身体を走る。心臓が引き千切れて、血管が内側から吹き飛んでしまいそう。
「ふふ、可愛いですわね。またいつか会い……」
最後まで聞き取れない。脳が悲鳴を上げている。耳からは金属音しか聞こえない。
……視界も薄れている。
少女が、左手を離した。
これから嫉妬に繋げていきます。
ではまた。
矢豆
ツイスター投下します。
507 :
ツイスター:2006/11/12(日) 00:50:43 ID:MHvpyvbN
翌週月曜日の通学路、山鹿は前方をこの前とはうってかわって幸せそうに歩く太郎の背を見つけると走りよった。
「どうした、とうとう禁断の味を知ってしまったのか?」
その声に太郎は振り返った。にやけていた。その顔を正すと、山鹿の両肩に手を置き顔を寄せていった。
「いいかげん、まっとうな道に戻れ。恋愛はいいぞ。世界がばら色に見える」
「本当にどうしたんだ?おかしいぞお前」
「まあ、お前にはいっておいてもいいだろう。何を隠そう、俺は伊勢東子と付き合うことにした。知ってるだろう、軽音の一年生。二年の間でも結構有名だからな」
少し考えて、山鹿がいった。
「ああ、あの巨乳の娘か。妹学的見地からすれば、あれはよくない。やめておけ」
「妹狂いもいい加減にしろよ。そんなんじゃあ、大人の男になれないぞ」
すでに大人の階段を上ったかのような太郎のそんな言葉を聞いて、山鹿は鼻で笑った。
「大人の男とは、女と寝た男のことか。だったら俺はそんなものにはなりたくないね。俺は女ではなく、妹が抱きたいんだ」
そういうと、山鹿はポケットから小さな袋を太郎に投げてよこした。太郎は、あわてて受け止めた。
コンドームだった。
「大人の男なら、必要だろう。とっておけ」
「なんでお前がこんなもん持ち歩いているんだ?」
「いつどこで妹と出会ってもいいようにな。兄としての心遣いだ」
山鹿はそういって、ニヒルな笑みを浮かべた。改めていうまでもなく、山鹿は一人っ子だ。明らかに馬鹿な気遣いだった。
そんな山鹿が妙に格好よく見えることに腹を立てつつも、太郎はありがたく頂戴することにした。
今日、それを使えることを祈って。
508 :
ツイスター:2006/11/12(日) 00:51:50 ID:MHvpyvbN
先週の土曜日は、一子を連れて、次子の服を買うのに潰された。
早速伊勢とデートしたいと思わないでもなかったが、次子はともかく、一子と出かけるのは久しぶりで、太郎もまんざらではなかった。
一子と次子の二人は、まるで仲のいい双子のように腕を組んで歩いていた。これほど似ている双子も珍しいだろう。
違いがあるといえば、若干次子の方が一子よりも柔らかい雰囲気を漂わせている程度だ。
すれ違う人たちがみな、二人を見ていた。かわいい双子が腕を組んで歩いていれば、誰だって振り返るだろう。
一子は、そんな風に注目を浴びるのが楽しいらしく、終始ご機嫌だった。
下着と何着かの服を買った。費用は、二人の生活費として両親が用意してくれた金でまかなった。
サイズは一緒なのだから、下着はともかく服は着回せばいいと太郎は思ったのだが、一子は次子に服を買ってやりたいようだった。
それが、自分の服を貸すのがいやなのか、単純に好意からそうしたいのかは、太郎には分からなかった。
案外やさしい気質の一子が、太郎がそうだったように次子の一ヶ月の寿命という境遇に同情したのかもしれなかった。
一子が次子のコーディネートをしてやる。適当な服を見繕っては、試着室の次子に渡していた。
その時点では、太郎ができることは何もない。しかし、最終決定を下すのは太郎だった。
つまり、「お兄ちゃん、これ似合う?」と聞かれ、「うん、かわいいよ」と応えることで、購入が決定されるのだ。
一子は、それが多少面白くないようだった。
しかし、一子の選んだものに太郎から文句があるはずもなく、結局は一子が選んだもので固められるとその機嫌も直った。
太郎が一子とこんな休日を過ごすのは、本当に久しぶりのことだった。
太郎も、一子のぶっきらぼうな態度にへきへきすることはあっても、別に彼女を嫌っていたわけではなかった。
昔のようにとはいかないまでも、少しでも仲良くできたらとは思っていた。きっかけがなかっただけだ。
そのきっかけを、次子が作ってくれた。そして、料理が得意で、掃除も、洗濯もできる。
裸で太郎のベッドにもぐりこむのを叱ってからは、毎朝やさしく起こしてくれる。
確かに、次子は理想の妹だった。
それは、太郎にとってだけでなく、太郎と一子の二人にとってもそうだった。
もともと、二人は仲のよい兄妹だった。
それが昔の行き違いから距離が離れ、両親が海外に行ってから二人の間に立つ人間がいなくなってしまい、よそよそしい関係が続いてしまった。
次子が来たことで、それも変わりつつあるように太郎は感じた。次子に感謝していた。
ふと気がつくと、次子を試着室に残して一人になった一子が白い帽子を見ていた。次子に選ぶつもりなのかと思いきや、自分でかぶった。
そうして、鏡を見ながら合わせて微笑み、また店頭に戻した。
太郎はそれを見て、何となくそれを買ってやりたくなった。いつもなら、照れくさくて、あるいは一子に拒否されるのが怖くてそんなことはできなかっただろう。
まして、今は一子の買収に使ったせいで、残りの小遣いは多いわけではなかった。
だが、今の雰囲気が太郎を踏み切らせた。
「買ってやろうか、それ」
「え?」
やはりいつもの一子なら、それがどれほど気に入ったものであっても拒んでいただろう。
だが、一子は素直にその申し出を受けた。言い出した太郎がうろたえたほど自然に。
太郎が金を払い、帽子を一子に渡した。一子は、それを照れくさそうに受け取った。
そして、それが兄から買ってもらったはじめてのものだといういうことに気付いた。
誕生日だろうが、クリスマスだろうが、太郎が一子に何かを贈ったことなど一度もなかった。
そういうものは、親からもらうものだと思っていたからだ。
しかし、何でもない日である今日、太郎は一子に初めての贈り物をした。
それもやはり、次子がもたらしてくれたものだ。
「ども」
一子が、赤い顔をうつむかせながら聞こえるか聞こえないかぐらいの声で太郎にそういった。
それを聞いて、太郎は改めて自分のしたことが恥ずかしくなり、そっぽを向いた。
だから気がつかなかった。
次子がその様子をじっと見ていたのを。
509 :
ツイスター:2006/11/12(日) 00:52:38 ID:MHvpyvbN
そんな、山鹿が泣いてうらやましがりそうな雰囲気を味わった次の日の日曜日には、太郎の気分はすっかりセクシャルモードに切り替わっていた。
伊勢と、CD屋と楽器屋を回るという、軽めのデートをしたのだ。金がないので、仕方がない。
妹たちと出かけるのもそれなりに楽しいが、やはり恋人とのデートにはかなわない。
そこで、太郎は自分の個人史に残るであろう経験をした。
デートの終わりに、公園に寄り、そこで伊勢の胸を触ったのだ。
キスをしながら、思わず右手が伊勢の胸に伸びていた。
どさくさに触ったはいいが、そこからどうすべきかが分からない。
何かおかしなことをして、伊勢に嫌われるのを太郎は恐れた。
そうして太郎が固まっていると、伊勢が自分の手を太郎の右手に重ねて、自分の胸に押し込んだ。
想像していたよりも、ずっと柔らかかった。「マシュマロのよう」という陳腐な言い回しがあるが、まさにそれだった。
バレーボールサイズのマシュマロだ。その柔らかさは、ブラウスの上からでも十分に分かった。
どこまで柔らかいのか確かめるかのように、ぎゅっと強く握ると伊勢が鼻から声を漏らした。
それは、苦痛ではなく、快楽のしるしだった。
太郎は、たまらなくなってブラウスの下に手をもぐりこませようとした。
きっと、乳首が立っているに違いない。そう思うと、いても立ってもいられなかった。
だが、伊勢が今度は太郎の手を自分の胸から引き離した。
「ここじゃダメです。人に見られるかも」
そういわれて太郎は、この場が、今は誰もいないとはいえいつ誰が来てもおかしくない普通の公園であることを思い出した。
猿のようにところかまわず盛ってしまった自分を恥じて、太郎は顔を赤くした。
「す、すまん」
「いいんです。誰も来ないところならわたしだって」
そういわれて「家に来ないか」と誘おうとしたが、それがいかにもがっついている印象を与えそうで太郎は躊躇した。
そんな太郎の躊躇をさっしたのかどうか、伊勢がいった。
「先輩のおうちって、プログレのレコードとかCDがたくさんあるんですよね。明日見に行っていいですか?」
確かに、太郎の自宅には父親が置いていったコレクションが大量に保管してあった。
もちろん、それが口実に過ぎないことぐらいは太郎にもわかる。伊勢の「やる気」を感じた。
一日を置いたのは、もろもろの準備のためなのではないかとすら太郎はかんぐった。
断る理由など、あるはずもなかった。
伊勢を家まで送り、翌日のことを思っていきり立ちながら自宅に帰った。
510 :
ツイスター:2006/11/12(日) 00:53:13 ID:MHvpyvbN
「お兄ちゃん、お帰りなさい」
実は、玄関に迎えに出てきた次子の声を聞くまで、太郎は次子の存在を忘れていた。
一子の部屋は太郎の部屋から離れているし、基本的にはお互いに不干渉なので、ことの最中に踏み込まれることなどないだろう。
しかし、次子は危険だった。客間を自室として使わせているが、たびたび太郎の部屋に転がり込んでくる。
ことの最中に押しかけてくるかもしれない。いや、下手をすると積極的な妨害を仕掛けてくるかもしれない。
次子の目を盗んで、ことに至るのはムリだろうか。だが、ペッティングくらいなら可能かもしれない。
仕方がない、それだけでもよしとするか。いや、それだけでも童貞の自分には十分な収穫だと、太郎は自分を無理やり納得させた。
次子が太郎の腕に絡んできた。太郎の腕に、自分の胸を押し付けてくる。
その胸の感触に、ついさっき触っていた伊勢のものを思い出してしまった。勃起した。
次子の胸は、伊勢のものよりもずっと小さく見える。だが、それが着やせしているためだと太郎は知っていた。
意外に大きいことを、召還時や、風呂場での騒動で太郎は確認していた。
今腕に感じている感触は、それが間違いないことを教えていた。たしかに、伊勢ほどではないにしても。
そんなことを考えていると、次子が太郎の手を自分の胸に当てようとしているのに気がついて、あわてて身を引き離した。
「なにすんだ、馬鹿!」
「触ってくれないの?お兄ちゃん」
「どこの世界に、兄に自分の胸を触らせる妹がいる!」
油断しているとすぐこれだ。
「大きい方がいいの?」
なみだ目でそう聞かれて、太郎はぎくりとした。
まさか伊勢のことを言っているはずはない。ただの偶然だろう。そう太郎は片付けた。
「い、いや、手にちょっと余るくらいのも俺は好きだぞ」
「なにいってんの、あんたはあ!」
太郎は、次子の後ろから突然現れた一子の蹴りを食らって倒れた。
それが、昨日のことだった。
以上、第4話「妹水入らず」でした。
きりの悪いところで失礼。
(゚∀゚)b
WGJ!
ドライな文章がイカスな
『最終話』
いつになく深い微笑を浮かべたゆかり。
念入りに身だしなみを整えた彼女は鏡越しに俺と視線を合わせ、艶やかさに若々しさ、
そして野性味さえ含んだ唇を笑みの形に吊り上げた。
嫌味にならないほどに巻かれた栗色の髪、細く肉付きのいい脚を覆うタイトなブラックジーンズ。
彼女にしか似合わないと思わせるほど、着る者を選ぶレパード柄のポンチョを羽織り、ニーハイのレザーブーツで俺の隣に並ぶ。
普段とは違う種類の色気。
もとから女性的魅力を溢れんばかりに発しているにしても今日のゆかりはまた別の、麻薬じみた艶を空気に乗せて振りまく。
総ての異性を惹きつける香が、危ういくらいに本能を刺激する。
ゆかりが太陽を照り返して金色に透ける髪をかき上げた瞬間、彼女を彩る媚薬に自分のものが含まれていることに気がついた。
それをはじめからわからせようとしていたのだろうか、彼女は更に身を寄せて豊かな胸を二の腕に押し付けた。
「ゆかり、ちゃんと目的をわかってるのか?」
不意に熱を持つ体を誤魔化すように咳払いをし、視線をそらして言う。
「当たり前よ。じゃなきゃあんな湿った場所に行くはずないじゃない」
語尾を笑みで彩り、俺の瞳を覗き込んだ。
黒い瞳、否が応でも昨夜のことを思い出させる。
長く俺とゆかり、彼女を繋いでいた奇妙な関係にもようやくケリがつく。
今まで中途半端な場所にあった自分の居場所。
常識を超えて踏み込んでしまった森さんとの境界線。
そして、昨晩飛び越えた俺とゆかりの距離。
俺は全てに決着をつける。
客観的に見れば小さいことかもしれない、事故を発端としたおかしな三角関係。
だがそれに対して、俺は勇者にでもなったかのような決心を抱いて病院へと向かっていた。
同行者は幼馴染から“大切な人”に変わったゆかり。
幕を下ろし、元のあるべき形に戻すのは俺が事故に巻き込むことで全てを狂わせてしまった森さんとの関係。
彼女が俺に対して異常な執着心を抱いていることは重々理解した。
自らの身を掛札にして俺を翻弄し、優しい微笑を黒く塗りつぶしてしまった彼女。
俺はどんな形であれ、彼女の運命を曲げてしまった。
だから贖罪のために病院に通い、自分の心にこびり付いた呵責を振り払おうとした。
しかし、その結果は余計に彼女の心を破壊しただけだった。
ならば、一度ここで終わらせるしかない。
中途半端な贖罪は止めにして、心から自分が願う形に戻すしかない。
GJ! 嫉妬分 が み ち て き た ぞ …
へきへき→辟易(へきえき)
徐々に片鱗を見せ始めた次子に期待w
一子の方はどうなるのか。次も楽しみに待ってます。
作者さんGJ
…だから俺はゆかりと一緒に病院に向かう。
どんな結末が訪れても、俺は全て受け入れなくてはならないのだから。
ゆかりの指先を手繰り寄せて、少し強く絡ませた。
華奢で柔らかな感触。
俺に勇気をくれる。
傍から見れば暴力的でおかしな方法だったかも知れないが、俺に大事なことを気づかせてくれたゆかり。
そのお礼に、触れるだけの軽いキスを甲に落とした。
つないだ指が、離れませんように…と半ば願うようにして。
・
・
・
・
・
・
並んでスライドドアを横に滑らせる。
すると、白い病室風が一陣吹き抜けた。
真冬の世界。
適度な温度が保たれているはずの部屋に、凛とした冷涼な気配が張りつめる。
窓側のベッド。
視線を寄せると、百合のように彼女が微笑んだ。
開け放たれた窓から朝日と、冷たい新鮮な空気を吸い込むようして。
「森さん…」
気づかず彼女の名を舌に乗せていた。
彼女の病室に通うようになって数ヶ月。
ようやく見せてくれた天使のような笑顔が、そこにはあった。
胸にすっと染み渡るような清々しさ。
屋上で見せたような狂気とは違う――それにどこかほっとする自分がいた。
「馨さん、おはようございます」
しばらく呆けたように彼女の顔を見つめていると、百合の白さに満面の色を乗せて蜂蜜みたいに笑ってくれた。
――同時に何かが胸を鋭く走り抜ける。
それは、痛みとは違う。
なぜかここまできてようやく自分の理想とめぐり合えたような、不思議な安心感。
俺も釣られて微笑み返し、ベッドに向かって歩みだす。
がさつな俺の足音に混ざったヒールの音。
自信に満ち溢れたゆかりがいる。
「おはようございます、森さん」
正面に立って、もう一度挨拶をする。
彼女は目を合わせることによって答えてくれた。
真っ黒で、純粋。
手放しで賞賛できるくらいに美しい瞳の色。
俺だけを映しこんで、熱っぽく潤んでいる。
「今日は早いですね、どうしたんですか?」
少し首をかしげながら、桜色の唇から白い歯を覗かせる。
穢れのないその姿。少女のような仕草が可愛らしい。
「お話があって、今日は二人で来ました」
答える俺はどんな顔をしている?
どこまでも白い彼女に、恥じないくらい堂々としているか?
イメージで自分の頬を叩き、気持ちを鼓舞させる。
――さぁ、紡げ。
俺がここに来た理由。話の中身。
全部に幕を下ろす、終着の言葉…!!
「俺はゆかりと…」
「それは、ありませんから」
さっ、と横から鮮やかに掠め取るような言葉。
決意の言葉は鈴の鳴るような声に刈り取られた。
思わず唖然として森さんの顔を見つめてしまう。
そんなに俺に気づいてかゆかりの表情が険しくなった。
「あなた…何を」
うねる感情を必死に押さえつけているような声色。
首元の髪の毛を払いのけながらゆかりが森さんに視線を乗せた。
色の違う黒い瞳がぶつかり合う。
俺が見たこともない二人の表情、北の風に乗って白いカーテンが羽ばたく。
「わたしは馨さんを愛しているんです。だから貴女は関係ありません」
「まだ私の言ったことを解ってないみたいね。あなたが馨を好きになる権利なんてないし、馨はあなたのことなんか何とも思ってないの。
それにね、あなたが愛して止まないのは馨じゃない。自分自身なのよ!!」
森さんの言葉にゆかりが身を乗り出して吼える。
「違います。愛しています。馨さんを。貴女よりも、誰よりも」
ゆかりの剣幕に押されることなく、吐き出すように言葉が連なった。
「だからありえないんです。ありえません、絶対にありえません」
はっきりとした口調で、いつもの笑顔を崩さずに森さんが続ける。
「ありえませんよ、馨さん。その人を選ぶなんて、ありえませんよ」
笑みを深くして、淑やかだが確固たる口調。
「森さん?………」
「ありえませんよ。あの電話のあと、ゆっくり考えてみたんです。
そしたらやっぱり馨さんがその人を選ぶなんて、ありえないんです」
俺と視線を合わせ、唇を綻ばせながら、森さんは見当違いな言葉を続ける。
「だってわたし、もう馨さんしかいないんですよ、もう。ここで馨さんに見捨てられたら、わたしどうなるんですか?」
唇は笑みの形。
シーツよりも白い指先をベッドの上に這わせて、裾をぎゅっと握り締めている。
見る者を惹きつける白い百合の微笑み。
しかし、その瞳は確かに…
「ずっと独りですよ。ずっと、ずっと。今までも独りだったのに、これからも永遠に、ひとり、一人、独り…
誰からも愛されず、絶対に報われず、こんな白い部屋でずっとひとりで生きていくんです」
――――濁っている。
「こんなの駄目ですよ。放っておけませんよね?どうなの?ねぇ、馨さん」
一度俯き、大きな瞳を見開いたまま笑う。
光を映さない空ろな視線、奇妙に歪んだ口元。
シーツから伝わる振動が細い彼女の体を揺らす。
「ひとりは嫌だよ?もう。一度温もりを味わったら、もう戻れなくなっちゃうの。
朝起きて大きな手のひらを思い出す、昼ごはんを食べて答える人がいない寂しさに凍える。
夜眠るときに割れそうなくらい胸が痛む…」
こみ上げる何かに震える唇に、雫が伝う。
「もう駄目なんですよ。馨さんじゃないと。幼稚な独占欲だっていい、薄汚い依存心でもいい。
お願いだからわたしを見捨てないで!!置いていかないで、その人を選ばないで!!」
噛み殺すようにして消えていった語尾は、嗚咽に飲み込まれた。
淡々と語っていた森さんは涙を流し、黒い宝玉でまっすぐ俺を射抜いている。
胸を襲う鈍い衝撃。
悲痛すぎる叫びに身が崩れそうになるのを、やっとのところで決意が手を差し伸べて支えた。
――――吹き込む冬の風。
森さんの長い髪の毛を、はらりと攫う。
そこで森さんとゆかりの視線が混ざり合った。
今にも枯れてしまいそうな瞳、強い感情をそれ以上の自制心で殺している瞳。
俯いた森さんが、冷たい風に押されるようにして呟いた。
「わたし、あなたが嫌いです。大嫌い。いなくなってほしい。今まで生きてきた中で一番嫌いです。
本当に嫌い。こうやって一緒の空気を吸っているだけでおかしくなりそう」
何かが壊れた表情。
色は、ない。
「奇遇ね。私も貴女が大っ嫌い。惨めじゃないの?いつまでも妄想の馨にへばりついて。
本当に嫌い。気持ち悪いわ、じとじとじとじと湿った目をして。馨には子犬みたいに尻尾振る、暗くて陰湿なメス犬…」
死かけの蛆虫を見下すような視線。
笑顔はない。
「ふたりとも、やめてくれ…」
今の俺はどんな顔をしているのか?
「俺はこんなふたりを見るために、今日ここに来たわけじゃない」
ちゃんと声になっているか?
震えていないか?
まっすぐと、前を向けているか?
「馨…」
ゆかりの眉が、不安げに下がる。
俺を覗き込む視線の強さも、いつもより弱い。
…勇んで病室にやってきたところまでは良い。
でも、俺は森さんの想いを受け止めてその上で拒絶できるだけの存在なのだろうか?
ゆかりに対しても同じことが言える。
俺は、この二人の女性に想われるだけの価値がある男なのか?
流され流され結果を先送りにし、自責を殺すためだけにこの部屋にやってきた。
流され流されいつまでも幼馴染という立場に甘んじ、大切な人を苦しませてきた。
不安と自己嫌悪で赤いタンバリンが弾けそうになる。
「ねぇ馨さん、馨さんは、わたしを選んでくれたんですよね?ねぇ?」
縋り付くような視線に、再び決意がぐらつく。
奥歯を噛み締めて、吹き込む風に身をさらすようにして耐える。
ぐっと、固唾を飲み下す。
染み渡るように寒さが身を固まらせると、しばらく沈黙を保っていたゆかりが口を開いた。
「………やっぱり駄目ね、この娘。馨、こんな風に思うのは本当に嫌だけど、目がくらんで心臓が破れそうなくらい嫌だけど…
つらいなら、私が代わりに言おうか?」
「ゆかり…」
ゆかりの横顔を覗き見る。森さんと真っ向から向き合う面に躊躇いはない。
ひたすらに前を向き続けてきた彼女。
退けない。
俺が退けば全てが崩れ去る。
ならば、せめて身が折れるまで踏ん張ろう。
何度も思うとおり、俺は単純な男。
ただまっすぐ突き進むことしかできない。
それなら――――
「森さん俺は――――」
「嫌ッ!!!!!!!!!!」
「このっ!!!」
軽い体重。
横合いから思いっきり飛びつかれた。
あまりにも細すぎる体。
包帯の感触と、甘い女性特有の香りに混ざった薬品のそれ。
細い、細くてほんとうに小さい。
ゆかりが引き剥がそうとするが、思う以上の力だ。
大の男である俺でも身動きが取れない。
「聞くぐらいなら…馨さんの口から、■■■るなんて聞くぐらいなら…」
それに、なぜか胸の辺りが燃えるように熱い。
吹き込む風は冷たいのに。
当然、今は冬。
必死の形相で森さんの腕に爪を食い込ませているゆかり。
長い前髪で表情を隠したままの森さん。
「聞くぐらいなら!!!!!!!」
胸に点る熱が、渦を巻く。
その灼熱に耐え切れず、ゆらぁり…と、不意に体が崩れ落ちた。
「馨??ッ!!」
おかしい、まさか森さん一人も支えられないのか?
いくら不気味なくらい体が熱いって言っても、それはないだろう?
森さんを抱きとめた形のまま、備え付けの机に背中から打ち付けられた。
肺が空気を押し出して一瞬息がとられる。
それでも咳き込むことはなかった。
胸が熱くて、どうしようもないから。
頭の隅で赤が明滅する。
「――――ねえ馨さん。見てください。赤いでしょ?わたしのこころ」
あぁ、熱い。
熱すぎる。
まともに思考が働かないくらい熱い。
視界はぼやけるし、腕は鉛みたいに重い。
傍で自分の名を呼ぶゆかりの声も、遠い。
ただ燃え続ける体の芯と森さんの声だけが俺を繋ぎとめている。
「あぁ、赤いな…」
漏れた声は聞きなれた自分のそれとはだいぶ違う。
空気が漏れるような細い雑音交じりの、声と呼ぶにもおこがましいもの。
「……赤いんですよ。馨さんと出会ったときから。信じられないくらいに。
信じられないくらい好きで、信じられないくらい辛いの。馨さんが別の所にいるだけで胸が真っ赤になって、熱いんだけど冷たいの。
体は真っ赤に燃えて、紅に染まってるんだけど、なぜか心の芯が寒いの!!」
「この■■!!!!!!よくも!!!!!!!!!私の馨を!!!とまって、お願い!!とまってよ!!
いや、ぜったいに嫌!!!ようやくひとつになれたのに。やっと愛してもらえたのに!!
とまらないよ、■が止まらない!!!いや、嫌ッ!!!」
「どくどく溢れてくれるの。真っ赤なの。痛く痛くて、起きているときはいつも辛いの。
お願いだから言わないで。馨さんの口からは聞きたくない。ずっと夢を見ていたい。
悪夢でも、死んじゃうくらいに悲しい物語でもいい。馨さんが出てきて、わたしだけを見てくれれば、それでいいの」
「馨馨!!!!お願い、お願い!!こっち向いて!!」
冷たい。ゆかりの指が、冷たい。
そんなはずはない。
握り締めるゆかりの指は、いつも湯たんぽみたいに温かかった。
じゃあ、どうしてこんなに冷たいんだ?
「馨さんは、この女とじゃない……このわたし、わたしだけとひとつになるの。
胸の奥深いところで、わたしの心と、馨さんの心が、混ざり合うみたいにひとつになるの!!」
「この■■女ぁ!!!!!!!!!」
激しい衝撃が真横を通り過ぎる。
そのあと短い悲鳴が聞こえると、俺の体にもうひとつの重みが加わった。
――――
「やめて、こないで!!」
――――!!
―――
物が崩れ落ちる音。
見覚えのある花瓶が透明の血を撒き散らしながら砕ける。
これ、俺が買ってきた花瓶じゃないか。
割と気に入ってたんだけどな、この模様。
なんで今更になってこんなに気になるかはわからないけど、酷くこの花瓶に愛情を感じる。
どうしてだろう。どうしてだろう。
赤。
あぁ、なんだ。
なるほど、俺は…
「か、お、る…」
壊れかけた眼球が映すのは、永遠に続くように思われる黒と白のバランス。
霞がかったようにぼやけていく目前の光景に、突然ゆかりが出現した。
肩の辺りに触れる指の感触。
俺の体に潰れていく柔らかな肉体。
体が熱くて、熱くて、もうどこまでが自分のものなのかわからないが、しっかりとしたぬくもりが湿った感触と一緒に広がっていく。
赤赤。
「私も、私も、体が、熱いの。きっと馨と一緒だよ。だからそんな顔しないで。
私ずっとそばにいるよ。私が守るよ。何があっても一緒だよ。だから…」
「あなたじゃない!!!!!!!馨さんとひとつになるのはあなたじゃない!!!!!!」
吐息の揺籃に熱いからだが急激に冷めていくのを感じる。
燃えるように、灼けるように、熱をもっているはずの体が裏返したように凍えていく。
赤赤赤。
「離れて、離れなさい!そこはわたしの場所なの。あなたがいていい場所じゃない。■んだあとも、わたしの場所!」
「もう遅いの。私が馨に選ばれた。あなたはそこで見なさい。私と馨が一緒になるところ。
燃えるように熱いからだと、眩む位赤いこの場所が、ひとつになるところ」
赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤
「いやぁああ…」
赤かった世界が、急に真っ黒に塗りつぶされる。
右腕には確かに人の感触。
冷たいけど、きっと人の感触。
「ねぇ、馨、ずっと一緒…」
俺は、言えなかった。
ここまで来て、言えなかった。
そして、何かが終わろうとしている。
わからないけど、きっと終わってしまう。
だから伝えようと思う。
俺がずっと言いたかったこと。
もう何も見えないけど、心を読んでほしい。
「わたしも、わたしも一緒じゃないと嫌!!約束したよね?一緒、一緒なの。
どこに行くのも、一緒、■ぬのも一緒!!!」
顔に生ぬるいものが伝う。
黒い世界に、もうひとつ感触が増えた。
――――腕の中でぬくもりが消える。
俺を非難しないでくれ。
俺はお前を傷つけようなんて思っちゃいない。
お前をどこかに連れて行っては置き去りにするような連中とは違う。
ずっと傍にいるよ。
――――胸で灯り落ちる。
黒かった世界が、今度は白くなっていく。
まったく忙しいな、俺は。
いつもいつも何かに追われて、本当に忙しい。
自分を貫くのも、まっすぐ生きるのも、総て守りぬくのも。
でも、もう平気だろう。
だって、世界は白い。
どこまでも、白い。
きっとこれは幕開け。
誰も知らない場所への、幕開け。
安心してほしい。
俺はどこにも行かない。
望む限り、ここにいるよ。
だからその飛び出しナイフみたいな心、優しく仕舞って、抱きしめて。
そしてこれだけは言わせてほしい。
見棄てなんてしないさ、だって…
“俺が望んだことは、俺がきみを心配していることを知ってもらうことだけだったんだから”
『switchblade knife all over』
ようやく終わりました。
今まで付き合ってくださった皆様、そして拙作をまとめてくださった阿修羅様には感謝の言葉が尽きません。
本当にありがとうございました。
そしてプロットを下さった方にも深く御礼申し上げます。
よくわからん最後ですが、私的なハーレムエンドに仕立てました。
正直前半で展開をあせりすぎたせいか、後半でダルい文章になってしまったので次回はその点を気をつけたいと思います。
次からはありがたくも二次創作を許可していただいた『クロックワークホイールズ』
を投下していきたいと思います。
立場の異なった愛と、主人公の付属品にならないヒロインを書けたらと思っております。
本当にありがとうございました。
>>515 そ、そうだったのか。どうりで変換できないはずだ。
恥ずかしい。
スウィッチ(ryご苦労様でした。
壮絶なラストにGJ
スウィッチマジでGJ!!!!!!
ハーレムの極地見せてもらいましたよ
>>529 グゥーーーッドジョヴ!!超絶無比にハァハァしました!!っつーか勃った。
最後まで二人とも可愛いいのなんの・・・すげぇ楽しかったです。
>>529 GJ!さすがにこのスレ住人のつぼを心得ていらっしゃる。
俺のもエレクトした。
ウィッチの作者様GJでした!
これでまた神作品が終わりを迎えたか……寂しい限りです……
ブルーと二人で並んで歩く、それだけで安心できる。妙な目で見てくることなく、自然
な笑みを向けられるのがとても嬉しい。一秒ごとに、久しく忘れていた感覚が蘇ってくる
のが分かる。楽しい、嬉しい、快い、人間の良い感情が心の中で沸き上がり、自分が生き
ているのだと実感できる。
しかし、それとは逆の感情もある。
罪悪感。
今日もわたしを送ってゆくと言ってくれたのは、きっと良い感情だけではない筈だ。
「後悔してる?」
わたしと情事を行ったのは、脅した結果のようなものなのだ。
わたしの問掛けに、ブルーは首を振る。
気遣い、なのだろう。
誰にでも優しくするブルーだから、そんな答えを出すのは分かっていた。分かっていて
そんな質問を出すのは卑怯なのだろうか、自分に問掛けて苦い笑いが漏れてきた。そんな
事は訊くまでもない、わざとそれをはぐらかそうとしているだけだ。その意味を分かって
いるからこそ、ブルーに対してあんな行動をしてしまったのだ。
「サラさん、辛くない?」
「平気よ、ブルーが居るから」
嘘だ。
辛くない訳がない、今にも心が押し潰されそうだ。良いもので満たされている筈の心が、
裏からの重圧で軋んでいる。良い部分を見せようとすればする程に、それの真逆のものが
押し寄せてくるのだ。感情を動かすのは、心を持つというのはそういうこと。それを常に
行ってきたブルーは、いつもこんな痛みを味わっていたのだろうか。それこそ何百年も、
こんな痛みを受け止め続けてきたのだとしたら、それは想像を遥かに超える苦行だ。
いや、よく考えれば違う、ブルーにはナナミちゃんが居た。感情のない宿り木は、自分
の感情を気にせずに留まることが出来る。それは以前にも辿り着いた結論、しかしわたし
はそれをついに破ってしまった。それも殆んど最悪と言える形、感情の発露というもので。
「ごめんなさい」
もう何度目かになるか分からない謝罪の言葉を口にする。
だけど、止められなかったのだ。
朝、ブルーの寝室に入った直後に感じた匂い。それは間違いなく情事をした後のもので、
それがわたしに向けられたものではなかったというのが悲しかった。正直、相手はナナミ
ちゃんでも誰でも気にならなかった。ブルーとの行為を始める前に言ったことは、嘘では
ない。けれど、誰が相手でもわたし以外の誰かとしたことが嫌だったのだ。会ってから、
まだ幾らも経ってはいない。それでもわたしの心に強く食い込んだ楔は、それを良しとは
せず、嫉妬という醜い感情で埋め尽していった。ブルーが相手に愛情を持っていたかすら
どうでも良い、しかしわたしを見ていないということが嫌だった。
それに、僅かな希望もあった。
抱かれることで、もしかしたらわたしを見てくれるようになるかもしれないと、そんな
風に思ってしまった。愛情が向けられることを望み、隣に居てほしいと願った。ブルーが
わたしをちゃんと見てくれているのは分かっている、昼間に公園で過ごした一時は本当に
楽しかった。けれどそれは皆に向けられるものだとも分かっているから、特別な別のもの
がほしくなってしまった。それを手に入れたいと、強く想った。
例えるのなら、それは光。
暗闇を切り裂いてくれる光の存在を知った昔の人間は、自然の炎では飽き足らず自ら火
を起こす方法を学んだ。それだけでは不満になり、更には自然とは無縁な人間だけの灯り
を手に入れる方法を必死に考え、結果として電球が作り出された。だが底知らずに貪欲に、
最終的には蛍光灯というものまで作り出した。他には決して奪われない、人間だけの甘美
な光。常に闇を打ち消してくれる、苦さのない光。
わたしもそれと同じだ。
孤独と差別の闇に襲われながらも、強く振る舞ってきたつもりだった。それがどうだ、
ブルーという光が現れた瞬間に砕け散った。優しくれたことで一旦ひびが入った堤防は
水の量に負けて崩れてゆく、もっともっと愛が欲しい。公平に扱ってほしいという願いは、
わたしだけを見てほしいというものに変わり、更には他の人を見ないでほしいというもの
へと変わっていった。2000年以上に渡る寂しさは、そこまでわたしの心を枯渇させていた
らしい。昼の公園で見た砂場などではとても表しきれない、例えるのなら無限に続く広大
な砂漠。それが水没しても尚余る程の水を注いでほしい。
異常かもしれない、それは自分でも分かっている。
会って高々数日の相手にここまで依存し、それを独占しようとしているのだ。常識的な
考え方をしてみれば、馬鹿げているにも程がある。それでも求めてしまうのは、わたしが
狂ってしまったからなのだろうか。
狂っているのだろう。
でなければ、他には説明がつかない。
狂気に身を任せてしまえれば、どんなに楽なのだろうか。
それは駄目だ、そんなことをしてしまえばブルーにも見捨てられてしまう。
でも、一度そうしてしまった。
それでも、わたしはブルーと離れたくない。
胸の中に葛藤が渦巻き、言葉が口から出てこない。
無言で歩く。
「この辺りで限界だね」
「残念だわ、もっと二人で居たかったのに」
前回送ってくれたときに別れた場所で、ブルーが立ち止まった。ここから先のエリアは
SSSランクの人しか入ることが出来ない、つまり世界でもわたし専用の道だ。システムで
設定されたこの場所は、他の者を強制的に排除するので絶対に立ち入ることが出来ない。
わたしと他人の差を物理的な方法で提示され、胸が痛くなる。
「サラさんは、高い場所は好き?」
突然の言葉に、意味が分からなかった。単純に言葉の意味を汲み取り、考える。確かに
高い場所は好きだ、特に一人で下を見下ろすのは。自分だけの世界がそこにはある、その
高さには自分の他には誰も居ないということが安堵を与えてくれる。誰かに隣に立ってほ
しいと願っているのにそう思うのは矛盾した話だが、嫌われているということを意識しな
いで済む時間はわたしは大切だ。それに下を見れば人々の生活が見えて、わたしもその中
の一員だということを実感できる。だからその二つが揃う高い場所が好きなのだ。
「あの時計塔、景色がかなり良いんだよ」
ブルーが視線を向けているのは、小高い坂の上にある巨大な建築物。この都市に越して
きたときに最初に目に付いたもので、この都市のシンボルの一つとも言えるものだ。そこ
には行ってみたいとは以前から思っていたけれども、あの
辺りは人が多くて行けなかったのだ。もしわたしがサラだと知られてしまったら、一度に
大量の人が驚き、脅え、拒絶する。それが恐ろしくて行くことを諦めていた。
「今度、行こう。自分が普通の人間だってことが、よく分かる」
僕も昔はよく世話になった、と言って苦笑を浮かべる。
あんな場所、怖い筈なのに、何故か行きたくなった。隣にブルーが居てくれれば大丈夫
だと、そう信じてしまった。どんな問題が起きても平気だろう、そう感じた。
「約束よ?」
「約束は、絶対に守る」
自然に笑みが溢れてくる。
「またね、ブルー」
「また、明日」
軽い言葉を返して別れる。
辛くはない訳ではない、このまま二人で居たいと思う。
しかしまた明日、という言葉が明日も会えることを伝えてくれる。それを考えただけで
わたしの足取りは自然と軽いものになっていた。
今回はこれで終わりです
やっと全ての材料が揃いました
時間をかけすぎですね?
>>540 いやいやw
じっくり来るのがたまらないww
GJ!
投下いきます
「深由梨? 来客か?」
背後からの声に振り返ると、ティーセットの載ったトレイを手に遥が立っていた。
おかわりの補充に降りて来たのだろうか。休日でもそのくらいはやってあげるから、呼んでくれればいいのに・・・。
トレイを傍らの棚に置き遥が近づいてくると、少女の気配が変わったのが背後からでもはっきりと分かった。
「お兄様ぁっ!!」
「きゃっ!?」
少女は遥の姿を見るや否や駆け出した。
間に立っている私に肩が勢い良くぶつかって、よろめかされる。
なのに当のぶつかった本人は、駆け出した勢いそのままに遥に抱きついているところだった。
気づいてないのか私のことなどどうでもいいのか、謝ることは勿論、振り返りもしない。
呆然としたのも一瞬のこと、すぐに沸々と怒りが湧いてくる。
(ちょっ・・・何なのよこの子は! おしとやかそうに見えて、何て礼儀知らずなの!
それに遥も遥よ! この礼儀知らずに何とか言ったらどうなのよ!
どうせ可愛い女の子に抱きつかれてまんざらでもないって気持ちなんでしょ!
あんたって本質的に、ムッツリ鬼畜スケベだし!)
もし本当に鼻の下でも伸ばしていたら引っ叩いてやろうと、鼻息も荒く視線を上げた私の――。
「え・・・・・・?」
――私の怒りは一瞬で霧散させられた。
遥が・・・・・・遥が優しく微笑んでいたから。
私に向ける嫌味で意地悪な邪笑とはとは明らかに違う。
『お兄様』と呼ばれるに相応しい穏やかな微笑を浮かべ、少女の髪を梳くように優しく撫でていた。
(何よ・・・・・・何なのよ・・・)
あんたのそんな顔、私は知らない。
私が何かミスした時は、唇を吊り上げての小バカにした笑み。
セバスさんも褒めるくらいよく出来た時でも、挑発するような意地の悪い笑み。
ムカつく笑いでも、そんな風に笑いかけるのは私に対してだけだけだったのに。
「彩、一体どうしたんだ。今日は来る予定の日じゃないだろう。
それに、お前一人で来たのか?」
遥の涼やかな声が、私以外の女の名を呼ぶ。呼び捨てで、優しい表情で。
(聞きたくない)
「だって、何だか無性にお兄様に会いたくなって・・・。
今日はお休みだし、構わないでしょう?」
遥の声に答える彩という少女。鈴の鳴るような、とはきっとこんな声を指すんだろう。
ここからじゃ背中しか見えないけど、彼女がどんな表情をしているかは手に取るように分かってしまう。
(分かりたくない)
仕方ないなという感じに苦笑していた遥がようやく顔を上げ、私に視線を合わせる。
まるで、私がずっと見ていたことにやっと気づいた、とでもいうように。
微笑みだった表情も、私の方を見た時にはいつもの無表情に戻っていた。
(・・・何よ)
そんな私の内心も知らず、遥が口を開いた。
「深由梨、お前は初めてになるから紹介しておく。
俺の従兄妹で、園倉彩(そのくらあや)。
彩、こいつは最近雇った俺のメイドで天瀬深由梨だ」
互いに互いを紹介され、私と彩――こんな女、呼び捨てで十分よ!――は自然と向かい合う。
向けられた困惑の視線は、遥の紹介後にはあからさまな敵意に変わっていた。
ふん、私がそのくらいで怯むと思ってるの?
あいつが私を『俺のメイド』と評したのがよっぽど気に入らなかったみたいね。
遥が見ている手前睨み返すわけにはいかないけど、せめて平然とした態度を取ることで対抗する。
こんな、初見からして気に入らない相手になんか負けたくない。
だけど。
「ともかく俺の部屋に行こう。彩、行くぞ」
そう言って、遥が歩き出す。
・・・そうだ、私はメイドで彩は客人。
私が働いている間、遥が彼女と部屋で談笑するのは当たり前のことだ。
くやしいけど、引き下がらざるをえないの・・・?
ううん、何とか食らいつかなきゃ。
私は、遥が置いた紅茶のトレイに目を付けた。メイドがお茶を運んでいくのは不自然でもなんでもない。
そう思って足を踏み出そうとした私の内心を見透かしたかのように、彩が先んじて動いた。
ティートレイを素早く持つと、小走りで遥を追いかける。
「お兄様、相変わらず紅茶が好きなんですね。今日はちょっといい銘柄を持って参りましたの。
お部屋でご一緒しましょう。私が淹れて差し上げますわ」
「ああ、いつも悪いな。お前の紅茶を入れる腕前も大分上がってきたし、楽しみだ」
「ふふ、でもお兄様やセバスチャンにはまだまだ及びません。
でも、我が家のメイドたちよりは上手に淹れられるようになりましたのよ?
素人同然の使用人よりは、きっとお兄様を満足させてご覧に入れます」
遥に寄り添って階段を上る彩が、一瞬私を見下したような気がした。
嘲うように。
その時、私は知った。
意地悪な遥の笑みが、その実どんなに優しいものだったのかを。
挑発するような、バカにするようなあの笑みが、どんなに愛嬌と茶目っ気のあるものだったのかを。
そして、他人を嘲る悪意ある笑みというものの真の姿を。
でも、私は立ち尽くしたまま何も出来なくて。
遠くなっていく2人の姿を、ただ見送ることしか出来なかった。
----------------------------------------------------------------
もう掃除を続ける気も起きなくて、部屋に戻った私はベッドに身を投げ出した。
メイド服が皺になってしまうのを気にする気力もない。
(バカみたいだな、私・・・。一体何を舞い上がってたんだろ・・・)
遥が私のことを特別に見てくれてると思ってた。
意地悪なのも、照れ隠しからだと思ってた。
でも、彩に向けるような優しい眼差しをくれたことは一度も無い。
・・・なんて滑稽なんだろう。
彩を見る遥の目は優しかった。
その心までは分からないけど、少なくとも彼女が遥にとって大切なのは間違いない。
そして、彩の遥を見る目。
同じ女の私には分かる。彼女が遥に、どんな気持ちを抱いているか。
(従兄妹って・・・・・・結婚できるんだよね・・・)
不意に頭に浮かんだその考えを、ブンブンと振って追い出す。
いきなり何を考えるのよ、私は・・・!
そうよ、遥が誰とどうなろうが私には関係ない。
私はこの屋敷のメイドで、それ以上でもそれ以下でもない。
必要な仕事だけこなしていればいい。
おいしいご飯と暖かいベッドがあって、学校にも変わりなく通える・・・それ以上何かを望むなんてバチ当たりもいい所だもの。
私にも優しく微笑んでほしいなんて・・・
私にだけ微笑んでほしいなんて・・・
優しいところも意地悪なところも全て、向けるのは私だけにしてほしいなんて・・・
(そんなこと、思ってないんだから・・・)
・
・
・
・
・
・
「んん・・・」
頭がボンヤリする。どうやら寝ていたらしい。
外は暗くなっていて、かなりの時間眠っていたことを示していた。
「酷い顔・・・」
顔を洗おうと鏡を見ての、私の第一声はこれだった。
でも、それも無理はない。
メイド服は皺くちゃだし、元気が取り柄なのに表情は暗く沈んでいる。
そして、目元は赤くなっていた。
「泣いてたのかな、私・・・」
嫌な夢でも見たんだろうか。だとしたら、内容を覚えてなくて幸いだ。
・・・きっと。
「晩ご飯の準備、しなくちゃ・・・」
休日でも、夕食の用意は基本的に私の役目だ。
セバスさんは遅くなるって言ってたから、私と遥の2人分―――じゃないかもしれない。
(あの彩って子、まだいるのかな・・・)
だとしたら、3人分用意しなきゃいけないのかな。
・・・イヤだな、きっと彩は私を嘲る。
人並みには美味しい料理は作れるけど、あくまで人並みの腕前しかない。
きっとあの子の家もお金持ちだし舌も肥えてるだろうから、私の腕では負け惜しみを引っ張り出すこともできないだろう。
そんな彼女に、遥はどう反応するのか・・・。
・・・考えたく、ない。
(もう、今日は寝ちゃおうかな・・・)
そんなメイドにあるまじきことを考えた時。
バタンっ・・・
ノックもなしに、部屋の扉が開け放たれる。
「・・・・・・・・・・・」
そこに立っていたのは遥だった。
いつものやや高圧的な視線に、僅かばかりの不機嫌な色を乗せて。
今回はここまで。深由梨、ちょっと弱気モードです。
ロボ氏の更新ペースに普通に嫉妬している自分がいる。
GJ!!
あぁ・・修羅場の香りが漂ってきてるじゃねぇか・・・・
「センセ〜、起きてくださいよ。HR始まっちゃいますよ。」
「うふぅ……ぅ…」
ダメだ。真っ赤な顔しておきやしない。こりゃ相当酔ってるな。なんでまたこんな悪酔いを……
「センセ〜、おーい。……起きないならセクハラしちゃうぞ!」
「……くぅ…」
起きない。隊長!!シュンタ・クラハシ少佐、突貫します!!
「ゴクリ…」
そうそう。意識しないで、いつものテンションでいこう。セクハラつったら…胸だろ…
ムニ
「お、おお…」
礼奈センセ、白衣でよく分からなかったけど、結構でかいな……よし、今日はこの感触をおかずにしよう。そのためにはもっと揉んで覚えて……
「んん……ふぁ…」
時々小さな声を出すが、起きる様子はない。酔っ払ってたことに感謝だ。
ムニムニ
よし……次は服の下に手を入れよう。ただし白衣は着せたまま。この方が興奮する。服はTシャツ一枚だけなため、捲り上げる。
そして……禁忌の花園、ブラジャ!!
「ハァ、ハァ…」
変態みたいな呼吸してるけどキニシナイ!というか変態そのものだけどキニシナイ!!そう、気にしたら負け。ここは突き進むのみだ!
「ん……」
「!」
礼奈センセが顔をごろんとこっちに向ける。起きたと思ったが、まだまだ爆睡だ。こっちを向いたために唇に目がいった。
「ムムム……いや、ダメだ!」
寝ている女性の唇を奪うなど反則。あー、俺紳士、超紳士!!
「ではブラジャを…」
紳士と変態の移り変わりは忙しい。どうやらフロントホックらしい。これをつけてる娘でよくあるシチュが
『あ、あれ?外れない……』
『…前にあるのよ。』
これだね。そんな脳内妄想フル放送でお送りしています、セクハラ劇場。さぁ、いよいよブラジャが外れましたっ!つ、次は……ついに直に…
プニ
「お!は!あかさagptmga%◆´〇∀・ω^……」
こ、れ、は、やわらかぁーい!!!噂に聞いてはいたが、これがマシュマロのような感覚か!だ、ダメだ。これ以上は刺激が強い……このままじゃピュアな心を失ってしまう。
名残惜しいが、おかずにするには十分に触ったので、ブラジャを戻し、服を着せ、そっとその場から立ち去ろうとした……瞬間!
「ふふふ…今ので十分なのか?」
「へ?」
バッターン!
気付いたらいつの間にか倒れていた。もとい、倒されていた。そのうえに乗っていたのが…
「せ、センセ……」
「ふふ…気付いて無かったとでも思ったのか?このエロエロ小僧め…」
鼻が触れ合うほどに近くまで顔が寄せられる。その顔はとても淫美だった。ぬれて虚ろな瞳、上気した頬、下腹部に感じる暑い体温。そして酒臭い吐息……酒臭い!?
「あ、あんた!まだ酔っ払ってるな!?」
「あははは〜!にゃーんのこっとでしょうかぁー!」
ガバッ!
完全な酔っ払いの笑い声を上げながら、ズボンを引きずり下ろされる。
「あららー、ボッキボッキねぇ。このまま授業なんか出たら、手当たり次第女の子に手を出しちゃうんじゃないのぉ?」
「うっ!」
た、確かに。ここでおかずを手に入れたら、夜まで我慢できないかもしれない。
「だからぁ、センセーが一発、抜いといてあげますねー。………ふふ、もう我慢汁まででてるじゃない。」
「ま、まて!これでも一応生徒と教師なわけで……」
「酔っ払いモードの礼奈ちゃんに、倫理観など存在しないのだ!いっただきまーす!」
パク
「う……おぅ…」
センセが俺の一物に食いついた瞬間、腰が砕けたように脱力した。こ、これが女の体か!!
「ふふ、その様子だと初めてみたいだなぁ?」
「……くっ!」
「ふふん、だったらお姉さんに任せなさいぃ……んちゅ……んく…」
「おふぅ……」
ああ、流されてるよ……でも……これは、やめられない!止まらない!!
「ちゅるるーー!じゅぼ……ぬちゃ……んん!…ふぅ…」
さ、さきっぽに舌が絡んで……や、ばい!
「うぁ…やべ…」
「…んぅ……ちゅぅ……ぷぁ!」
「へ?え?」
「へへー、まだまだですよー。」
咥えるのをやめたかと思うと、また俺の上に乗っかってくる。ま、まさかもしかして本番ですかぁー!?
「ま、まいったな……こ、心の準備が。」
「……なぁ、倉橋?」
「え?」
「私のことを、覚えているか?」
「…礼奈センセは礼奈センセでしょ?覚えてるもなにも知り合いなんだから……」
「むぅっ!それなら思い出すまで本番はお預けだ!」
「ええええええ!?」
「まぁ心配するな。なにも出してやらないとは言ってない。…よいしょ。」
礼奈センセの太股に、息子が挟まれてしまった。これはいわゆる、素股ってやつか!これはこれで興奮する。ちょっと残念だけど。
「ほらほら、気持ちいい?」
「は、ひ…」
確かに気持ち良かった。自分の右手とは格が違う。あまりの気持ち良さに、腰が勝手に動いてしまう。
「うわ、こらっ、うごくなぁ。」
ぐいっと押しつけるように体重をかけてくる。ああっ!そんなに乱暴にやられたら、やばいって!
「センセ…いきそ……」
「んん?…ふぅ…ふふ…いいわよ、お姉さんにいっぱいかけちゃいなさい。」
ゾクリとした。脳みそが爆発するように真っ白になった次の瞬間…
ドクン!ドクン!
「ひゃぁ!…あ、あぁ……すごいぃ…いっぱ、い……あはぁ……ん、ぅ…」
バタン
「あ、あら?センセ?先生?」
俺が果てた瞬間、センセは白濁まみれになりながら気を失った。近付いて確認してみると……
「すぅ…」
「ね、寝てやがる……」
酔った勢いでやっちゃいましたか。…ここは隠蔽工作だ!無かったことにしてしまおう。さすがに先生と生徒がやっちゃったのは、なんか罪悪感がある。
「…これでよしっ。」
とりあえず礼奈センセの体を拭き、服を着させる。そして来たときと同じように机に突っ伏した状態にする。
「あとは運次第!」
これで起きて夢だったと思い込んで欲しい。さすがに生徒を逆レイプしたなんて認めたくないだろうな。いくら礼奈センセでも。
「でわでわ、さらば!」
HRが始まりそうなので、教室に戻る。まぁまだ礼奈センセは寝てるから大丈夫だけど。
「うむ…しかし…」
気持ち良かった!最高だった!これでしばらくは性欲を抑えることに努力しなくてすむネ。体が軽いよ。
「あ、いたいた!」
教室の前に来ると、待っていたのか、コナミンが声を掛けてきた。
「……」
「な、なに?そんなに見つめて?や、やだなぁ。いくら私が秋田美人だからってそんなに見とれなくても。」
うむ、ロリーにも反応しなくなった。これで犯罪が怒る可能性は消えましたな。
「フッ!秋田美人は四字熟語じゃないから。」
「は、鼻で笑いやがりましたね……ってそうそう、シュンにお客さんだよ。……珍しいけど。」
「は?客?」
誰だろ。もしかして茜のやつがきたのか?
誰かと確かめようと教室に入る。すると俺の机に座っていたのは……
「あ、倉橋!!やったよ!私やったよ!」
「あ!エリナちゃん!?」
なぜかエリナちゃんがいた。交番ほったらかしてなにやってんだ?クラスのみんなも困惑してるじゃないか。
「ど、どうしたの?」
「あのね!昨日の夜のうちに、空き巣犯つかまえたのよ!」
エッヘンといった感じで胸を張る。ん?空き巣犯をつかまえた?…もしや……
「も、もしかして……アレをやりたいがために学校まで?」
「ええ、もちろんよ。」
まじか……確かに約束はしたけど、こんなところでなんて…
止めようと思ったが、すでに時おそし。気付けば目の前に、またエリナちゃんの端整な顔が迫っていた。
「んん!?」
「ん…」
「な、なにやってんの!?シュン!」
…衆人環視でキス……なんだか今日は朝からハイペースだ……きっとよくないことが…ガララララ!
「よーっし!お前たち!朝のホームルームをは…じめ…る……ぞ…」
ガララララ!
「シュンちゃん!昨日はごめんね!私、もっと前向きにかんがえ、て…み…る……」
……四大怪獣大集合……
『じーーーー』
もとい、五大(以下略)
GJだ
そろそろ、次スレ立てないか?
ウホッ いいタイミング
スレタイ候補「浮気ばれ夫婦(22)喧嘩」
たしかスレタイ長すぎるとERROR出るから無理ぽ
スレタイこのままでいいだろ
めんどくせー
んじゃ「夫婦(22)喧嘩」
もう「その22」でいい気もするが。
>>556 おぉぉおっと修羅場ktkr
こんないいところでひっぱるなんて(*´Д`)ハァハァ
その22 には反対だぜ
そんなことより!ハーレム修羅場本番GJ!
じゃあ漢字で。弐拾弐。
つかいいのないよこれ
スレタイ会議中なら、投下は待ったほうがいいかしら
投下します。
569 :
ツイスター:2006/11/12(日) 20:28:32 ID:MHvpyvbN
月曜日は軽音の活動日だ。
だから、当然のように放課後には校庭の隅にある軽音の部室に向かうことになる。
夏が近づくにつれ、部室のあるプレハブの中はしだいに暑くなってくる。
まだ夏とはいえないが、今日のように晴れた日には、しめきっていると汗がにじんでくるほどだ。
だから、戸を開け放して練習することになる。
その開いた戸の影から、伊勢が顔をのぞかせた。
「今日は、先輩」
太郎が手を上げて応える。
「よお」
伊勢が、太郎の隣に座った。どこか、いいにおいが漂ってくる。
それだけで、太郎は自分の胸が高鳴るを感じた。
きっと、この高鳴りは、恋心というよりは性欲に引き起こされたものなのだろうと太郎は思う。
だからといって、自分は不純であるなどと卑下したりはしない。
現実とは、こんなものなんだろうと太郎は割り切っていた。
伊勢が求めるものが、純愛であったのなら太郎も罪悪感を抱いていたかもしれないが、むしろ伊勢の方がそっち関係には積極的なのだから、遠慮する必要はなかった。
やがて、他の部員が集まりだした。
常に集まる部員は、5人しかない。他は、やめていたり幽霊部員だったりした。
部長の課してくるわりと厳しい練習に、軽いのりで入ってきた連中が耐えられなかったのが原因だった。
毎年、入部者を絞っていたことで、もともとの人数が少ないといこともあった。
ちなみに、伊勢はその中で紅一点だった。
その伊勢を、ほかならぬ自分がゲットしたという事実は、太郎を少なからず得意な気持ちにさせてくれる。
570 :
ツイスター:2006/11/12(日) 20:29:14 ID:MHvpyvbN
今日の予定は、学園祭で行うライブの曲目を決めることだった。
もちろん、太郎は「21世紀の精神分裂病者」を押した。それに、伊勢も賛同する。
この時のために、太郎は部員たちにCDを貸してやりながら、根回しを進めていた。
その太郎の行動を予見していたのか、部長が苦笑しながらいった。
「まあ、いいけどさ。難しいけど、練習してやれないこともないだろうし。でも、誰が歌う?俺、日本人がしょっぱい発音で洋楽歌うのってなんかいやなんだよなあ」
「わたしが歌います」
伊勢がいった。そういうように、太郎が伊勢に要請していたのだった。
何を隠そう、伊勢は帰国子女だ。日英のバイリンガルだった。
わずかだが、外国人の血が混じってもいるらしかった。
それも、伊勢が性的に積極的な理由なのだろうかと、太郎は頭の隅で思った。
「でも、元歌は男だろう?しかもかなりハードな」
「大丈夫ですよ。俺、伊勢に歌わせたことありますけど新鮮でいい感じでした」
渋る部長に、太郎が後押しした。
結局、二人に押される形で部長は承諾した。太郎のさしあたっての野望がひとつかなえられたわけだ。
伊勢と顔を見合わせて、笑った。
残りの曲は、もっと簡単で聴きやすい日本の曲に決定した。
伊勢を連れて自宅に帰ると、案の定、次子が出迎えに来た。
571 :
ツイスター:2006/11/12(日) 20:29:50 ID:MHvpyvbN
「お帰りなさい、お兄ちゃん」
やはり、こうして帰宅のたびに出迎えてくれるというのはいいものだ。たとえ、今日に限ってはいて欲しくなかったとしても。
次子は、太郎の横に立っている伊勢に気付き、不思議そうな顔をした。
伊勢の方は、平然としたものだ。彼女は、同級生である一子のことを知っていた。
「あ、簸川さん、お邪魔します」
「いや、ええと、一子じゃないんだ。こいつは次子っていって、まあ、一子の双子の妹で、つまり俺の妹なんだ」
今度こそ、伊勢は驚いた。
同級生に、双子の姉妹がいればすぐに話題になっていただろうが聞いたことがないし、そんな子が転校してきたという話も聞いたことがなかったからだ。
「ああ、事情があって学校には行かせてないんだよ」
そういうと、伊勢は次子に関して特に追求してくるそぶりもなかった。何か、深刻な方面に誤解したのだろう。
まさか、召還された妹であるなどと説明するわけにもいかなかった太郎には、その誤解はありがたかった。
「ご飯は今から作るから、ちょっと待っててね」
次子がそういうと、太郎の目が光った。
「そうか、じゃあお前はそっちに集中していてくれ。伊勢は俺がもてなすからかまわなくていい。ちなみに一子は帰っているのか?」
「ううん、まだみたい」
それだけ聞くと、太郎は伊勢の手をとって自分の部屋へ向かった。
「本当に、かまわなくていいからな」
そう、次子にいい含めながら。
自分の部屋へ入ると鍵をかけた。そんな、あからさまな行為をしてしまったことを恥じながらも、太郎は躊躇しなかった。
伊勢を抱き寄せて、キスをした。そして、昨日と同じく胸に手を当てる。
話は、帰り道で十分にした。その間中、太郎は悶々としていた。帰ってから行うことを想像して勃起さえした。
もう、我慢はできなかった。
ブラウスをたくし上げて、その下に手をいれた。伊勢の腹の部分に手が当たり、太郎はその暖かさを感じ、伊勢は手の冷たさを感じてびくりと反応した。
そのまま手を上げると、幾分固いものに触れる。ブラジャーだった。
さすがにそこで躊躇してしまう。伊勢から、唇を離した。
「あ、あの、その」
「手、入れてください」
伊勢が、わずかに上気した顔でいった。色っぽい表情だった。淫蕩ささえ感じさせる。
その言葉と伊勢の雰囲気に勇気を得て、太郎はブラジャーの下に手をもぐりこませた。
ブラジャーの中は、少しだけ汗ばんでいた。その生暖かく柔らかいものを揉んだ。
そのたびごとに、伊勢は「ん、ん」と熱い息を漏らした。
少しずつ手の平を押し上げてゆくと、やがて固いものに触れた。乳首だった。固くとがっていた。
太郎は、自分のモノに負けず劣らずに勃起しているそれに、ひどく興奮した。
もう手のひらは、かなり湿っていた。それが、太郎から出た汗のせいなのか、伊勢の乳房から出たものなのかは分からない。
きっと、両方なのだろう。それなら、恥ずかしいこともないと、太郎は思った。
572 :
ツイスター:2006/11/12(日) 20:30:26 ID:MHvpyvbN
太郎は、キスをしながら、あまっていた左手を今度はスカートの中に入れた。
太ももに触れると、伊勢は少しびくついたが、そのままなすがままになでられた。
太郎は、そのすべすべとした感触に感激しながら、少しずつ左手を太ももの内側に寄せていった。
それを感じると、伊勢は自分から股を開いた。
伊勢は、きっとそうするだろうと太郎は予感していた。そのまま、隙間に手を差し入れる。
そうして、太ももの内側をなぞり上げながら、ショーツに覆われた股間に触れた。
そこにわずかな湿りを感じると、太郎はもうショーツの上から触ってなどいられなかった。
ショーツの下に指をねじ込んだ。伊勢が、またもびくりと動いた。太郎から唇を離して、声を上げた。
それにかまわず、太郎は割れ目に指を差し入れた。
指の先を差し入れて、太郎はそこが予想以上に潤っているのを知って驚いた。そして熱い。
粘り気のある湯の中に、指を入れているような感触だった。
太郎は、恐る恐る、指を奥へと差し入れていった。飲み込まれる。
伊勢は、痛がるようなそぶりをまったく見せていない。
ただ、目を瞑って、自分の胸と股間に意識を集中させていた。
太郎がそこを刺激するたびに、「あ、あ」と短く声を漏らした。
顔は赤く染まり、目は潤み、ひろいおでこに汗が浮かんでいた。
自分の作業に没頭していた太郎は、伊勢のそんな様子に気付いている様子はなかったが。
やがて、中指の第二間接までが、伊勢の中に飲み込まれた。
太郎がそこで指を手前へ曲げると、伊勢はひときわ大きい声を上げて太郎に抱きつき、その胸に顔を寄せた。
そのまま、ベッドに倒れこんだ。
夢中になっていた二人は、ずっと立ったままだったのだ。
倒れた拍子に伊勢から抜けてしまった指が外気に触れて、冷たくなっていた。
太郎に覆いかぶさる形になっていた伊勢が、少しだけ体を起こし、二人の間に隙間を作った。
そして、太郎の股間にズボンの上から触れた。太郎は、そのわずかな感触で思わず射精しそうになるのを堪えた。
そのとき。
「お兄ちゃん!あけて!」
ドアを叩く音がした。二人の体が一瞬硬直する。
そのショックで、太郎はせっかく堪えていた精を漏らしてしまっていた。
それを情けなく思う間もなく、太郎はベッドから身を起こし、ドアの向こうに答えなければならなかった。
「い、いや、今ちょっと忙しいから」
「いいから、あけて!」
どんどんとさらにドアが叩かれた。
ここはもう、一度あけてやってから追い返して続きをするしかないと、太郎は覚悟を決めた。
伊勢の方は、すでに身なりを整えていた。すばやい。
太郎が、ひとつ深呼吸をしてドアを開けてやると、お盆にグラスを二つ載せた次子がニコニコしながら立っていた。
「飲み物もってきたんだ。のどかわいたでしょ?」
そういわれて、太郎は興奮のあまりひどくのどが渇いていることに気がついた。
次子は、くんくんと鼻をならした。
「なんか生臭いね。何してたの?」
太郎は、それを聞いて濡れていた左手を体の後ろに隠した。
「い、いいから。飲み物渡して、お前は早く夕飯の方に戻ってくれ」
そんな太郎の言葉を聞いているのか聞いていないのか、次子が部屋に入ってきた。
ベッドに腰掛けている伊勢に、友好的な雰囲気でいった。
「飲み物はアイスティーでいいよね。伊勢さん」
573 :
ツイスター:2006/11/12(日) 20:31:00 ID:MHvpyvbN
太郎とは対照的に、伊勢は平静を保っていた。男として、先輩として、太郎は少しばかり悔しさを感じた。
次子は、伊勢にアイスティーのグラスを渡し、太郎にはコーラのグラスを渡すと、そのまま部屋の真ん中に腰を下ろした。
太郎が出て行くようにいおうとすると。
「伊勢さんに、紅茶の感想を聞きたいんだ。いいでしょ、お兄ちゃん」
ならばと、伊勢はごくごくと豪快にアイスティーを飲み干した。ニッコリ笑っていった。
「おいしかったです。ありがとうございました」
それを聞くと満足したのか、次子は空のグラスを受け取って部屋を出て行った。
太郎は、それを見届けてから、再びドアに鍵をかけた。そして、自分もコーラのグラスを空にしてから、伊勢の横に腰掛けた。
このくらいの妨害で、また一回不本意な射精をしたくらいで気持ちがなえたりはしなかった。太郎の興奮は今でも持続していた。
伊勢の腰に手を回し、乾きつつあった左手を、少し膨らんだ下腹部に沿って、ショーツの上からもぐりこませた。
すると、先ほどは感じなかった柔らかい陰毛に触れた。そして、割れ目の起点にある固めの突起に触れた。
それがクリトリスだと知っていた太郎は、そこを弄りはじめた。伊勢は、甘い声を漏らし始めた。
しかし、しばらくして伊勢が太郎の手を止めた。顔をしかめていた。
何か、まずいことをやってしまったのかと太郎がびくびくしていると。
「あの、わたし、その、おトイレに」
性的興奮とは違う意味で顔を赤くしながら、伊勢がいった。
太郎がショーツから手を抜きトイレの場所を教えてやると、伊勢はそそくさと部屋を出て行った。
少しあっけにとられていた太郎はそれを見送ると、自分のポケットに手をいれてコンドームの存在を確かめた。
今日は、本当にこのままいけるかもしない。そう思って、太郎は興奮を持続させた。
トイレにしては長い時間をかけて、伊勢が戻ってきた。その顔はさっきまでとは逆に、青ざめていた。
「あ、あの、すみません、わたし、あの、帰ります!」
そういい残して、一秒たりともここにはいられないかのように、どたどたと階段を駆け下りていった。
ばたんと玄関のドアが閉められるのが聞こえた。そして、静寂が降りた。
太郎は、今度こそ本格的にあっけにとられていた。
やはり自分が何かまずいことをやってしまったんじゃないか、性急すぎたのではないかと、5分ばかりぼんやりと考えていた。
猛烈な後悔が襲ってきた。漏らした精液の冷たさが、自分の惨めさをさらに引き立てた。
のろのろ立ち上がり、空になった自分のグラスを持って台所へ降りていった。そこには次子がいた。
「あ、お兄ちゃん。ありがと。伊勢さん、帰っちゃったんだね。あわててたけど、どうしたのかなあ?」
次子が、かわいらしく首をかしげた。
「ああ、うん。ほんとどうしたんだろ」
太郎は、それにぼんやりと応えた。
次子は、下剤の入っていた袋をポケットにいれたまま、朗らかに微笑んだ。
「もっとゆっくりしていけばよかったのにねえ」
574 :
ツイスター:2006/11/12(日) 20:32:16 ID:MHvpyvbN
以上、第5話「濡場と妹と」でした。
課題だった濡れ場をひとつクリアということで。本番はまだですが
次子GJ。エロイぜ
>「お兄ちゃん!あけて!」
あるあるw
さすが次子、そこにシビr(ry
GJ
召喚に参加した13人のうちに修羅場スキーがいたと見た。
>>577修羅場好きの妹萌えか。業が深すぎるよw
あと次スレが立ってるから、修羅場スレは19〜22スレが一同に介してることになるんだよね。
本当修羅場スレのスピードは凄いわ。
それもこれも素晴らしいSS職人のおかげです。
改めて全てのSS職人にGJ!!
伊勢って非処女なのかOTL
GJだぜ!妹は嫉妬深いとか、妹は兄に近づく泥棒猫を排除するとか
未亜スキーの奴が居たんだろうなw
>未亜スキー
ん?誰かに呼ばれた気が
未亜という単語が出たと聞いて飛んできました
>>574 下剤・・・ハァハァ・・・・
これは・・・・これは・・・イイ・・・・ハァハァ・・・・・・・
>>548 独占欲がいい具合に育ってきてますね。彩の方もかなりいい感じなのでこれからの展開に期待w
作者さんGJ
俺SS初投稿したいんだけどいい?
嫉妬や修羅場成分が含まれていれば基本的には来る者拒まずだぜ、というわけでщ(゚Д゚щ)カモォォォン
SSスレ系の中でもかなり作者の自由に物語が作れる方だと思う
嫉妬と修羅場が含まれる分、どうしても恋愛物という縛りはあるにはあるが
住民も基本的に対応が大人だしな
>>588 初期のころから見ていたが、
ここまで自由度の大きなスレになるとは思わなかった。
|ω・`) 色んな修羅場を見てみたいと言う欲求があるのかと
と言うわけで
>>586さん、あなたの嫉妬、見せてください、お願いします(*´д`*)
しかし大半が流血沙汰
確かにたいていの作品が
スクデイみたいに終わるのには閉口するけどでもこのスレが
俺の生きる糧になってるといっても過言ではない
流血に頼らない修羅場って意外と難しいんだよな……
ハーレムがあるじゃないか
WINDのドラマCDは刃傷沙汰にならないが良修羅場だったな
カモーン
梅ネタ、好評なら連載するかも。
1/3
正義を守るバイク乗りや五人の戦士たち。
子供たちの永遠の憧れ、僕も小さい頃は大きくなったら彼らのような英雄になりたかった。
小学校高学年にもなり友人はみんな彼らへの興味を失い、僕も番組は見るものの流石に
変身グッズやお面は買わなくなった。
だけど中学時代進路に迷っていた頃、敵は突然現れた。
宇宙人だとか古代人や海底人、挙句はナチスドイツの遺産だとかさまざまな憶測があった。
だけど、結局なにもわからなかった。
わかっていることは敵は個人ではなく組織であり、全国で生物兵器を暴れさせ、拉致した人を
洗脳・肉体改造を施して市民を襲わせたりしていることだけ。(何故か襲うのは日本だけだ)
国は最初こそ後手後手に回って対応に困っていたけど、ついに警視庁、防衛庁、海上保安庁、
その他民間の組織までもが混じってひとつの機関を作り上げた。
防警庁特殊治安維持局
簡単に言えば相手が怪人、それを操る組織の場合にのみ権限を持たされる武装機関。
自衛隊のような対外戦争には参加できない、警察のような通常の犯罪者の逮捕権はない、
対怪人・組織専用の武装機関。そして今の僕の職場だ。
598 :
2/3:2006/11/15(水) 20:03:07 ID:FBJxn5bB
「そこまでだ、植物怪人イエローローズ!」
「グググ、そのスーツ、貴様が噂の…」
「防警庁特殊治安維持局騎手科所属、MR-1115ヒーローネーム、ライダーハチェット!」
特殊治安維持局開発の対怪人用スーツを着込み、同じく局開発の得物の大鉈(手斧)を構える。
「くっ…と、投降する。命は取らないで欲しい」
「投降に応じます。先ずは武装解除として携帯している全ての武器を捨て、
人間形態に戻れる場合は怪人化を解きこちらの拘束具を身に着けなさい」
言いながら怪人の足元に自動拘束具を投げる。
最近は敵にモラルブレイクが起こりかけているのか、ヒーローに追い詰められると抵抗せずに
投降する怪人も増えている。
「ところで私の処遇だけど…洗脳解除手術を受けたあと投降したヒーローの下で
ヒーロー見習として働くという噂は本当なの?」
「希望者は罪状と能力によってそうなります。手術後、罪状によって刑に服して貰いますが、
怪人化が本人の意思によるものでないなど経歴によっては執行猶予もつき、局員として
治安維持に貢献することによって刑も軽減されます」
「そう…ねぇ、あなたの素顔見せてくれない? 噂のハチェットの素顔を見てみたいのよ」
「「「「ハチェット、危ない!!!」」」」」
話しながら武装解除も進んでいたところ突然の叫び声と共に彼女、イエローローズに
矢やダーツ、手裏剣等が大量に突き刺さった!
怪人化も解いていた彼女の身体からは派手に血が飛び散る!
怪人とは言え無抵抗の相手が殺されたことに怒りを覚え、武器が飛んできた方向を向くと
そこに居たのは…
「「「「防警庁特殊治安維持局戦隊科所属、ジェラレンジャー!」」」」
「ハチェット、ケガはない? あぁ、矢が間に合って良かった」とジェラブラック
「良くない! 彼女は投降し、武装解除中だったんだぞ!」
「騙されるな、あたいたちの場所からだと貴方の死角から怪人が…」ジェライエロー
「武器を出しているのが見えましたの、もぅ、ハチェット様は相手が怪人でも『投降』と
言うとすぐ油断なさるのですから」ジェラブルー
「そぅそぅ、だからさ、前から言ってるとおりハチェットも戦隊科にきなよ☆」ジェラピンク
「くっ…ほ、本当だとしても、そのことと異動は関係ないだろ…」
いつもこうだ。
彼女たちは担当区域が同じだからという理由で毎回現れては俺の邪魔をする。
そればかりか戦隊科に異動して、殉職して欠番中のジェラレッドになれとまで言う。
「「「「まだ未熟なハチェットが心配なのよ!!」」」」
599 :
3/3:2006/11/15(水) 20:04:18 ID:FBJxn5bB
「今日も彼、異動を承諾してくれなかったわね」
勤務時間も終わり、戦隊科の更衣室で治安維持局開発の特殊スーツを脱ぎながら話し掛ける。
今ここに居るのは私、ジェラブラックとイエロー・プルー・ピンクの4人だけ。
「そうねぇ、やっぱあたいが身体で釣ろうかなぁ…」とイエロー
「あら貴女のような男女にハチェット様が惹かれるとでも?」とブルーが毒を吐く
「そぅそぅ、冗談は顔だけにしてよねっ☆」ピンクも相槌を打つ
「ケッ、お前等のようなえぐれ胸と幼児体型よりはマシだろうけどな!」
ブルーがそう言うと彼女の横のロッカーに手裏剣とダーツが何本も突き刺さった。
もし数センチずれていたらブルーの顔には無数の穴が開いていたわね。
「おお怖っ、イエローもピンクも鏡見てみなよ、般若が見えるぜ」
「貴女こそご覧になってみたら? 化粧をした男が見えますわよ」
「はいはい、3人ともそこまで。あまり行き過ぎると暫定リーダーとして罰するわよ」
各自ウェポンラックから得物を取り出しそうな雰囲気の3人の中に割って入る。
その後数秒間睨み合いは続いたが、それでも各自力を抜きラックから手を離した。
「それに忘れたの? 一時的とは言え私たちは同盟を結んだ仲、内紛で隙を作って
他の雌豚に彼を盗られてもいいの?」
「よく言うぜ、レッドにとどめを刺したくせによ」
「まぁ、それはそれ、これはこれね。
兎も角まだ同盟条約は有効中よ、『彼に纏わり就く騎手科の雌豚の排除』
『彼の下につく可能性のある女怪人の排除』は協力し合うって」
「雌豚ねぇ、あたしとしては3人も"雌豚"に入るんだけどねっ☆」
「それはわたくしも同じですわ、特にキャーキャー五月蝿いロリ豚とかは目障りで」
「いいかげんにしなさい。ブルーもレッドみたくなりたくなかったら少しは自重して」
レッド、ジェラレンジャーの元リーダー。
彼女は表向き怪人との戦いで殉職したことになっているけど本当は違う。
ハチェットに抜け駆けして近づいたので私たち4人が殺したのだ。
あの雌豚、よりによってハチェットに無理矢理キスまでして…
ま、そのムカツク唇もイエローがナイフで切り取ってやったし、最後は敵のウィルスに
感染したため消毒のため焼却処理と称して、生きたまま火葬にしてやったけどね。
「はぁ、恋に戦いに、正義のヒーローも楽じゃないわね」
以前プロットだけ考えて内ゲバ戦隊になってしまったヒーローものに、
ライダー分も加えて再構築してみました。
学園分、ファンタジー分、戦国分やケモノやハーレム、出産まであるのにまだなかった
ヒーロー分に挑戦してみました。
おー、こうゆうのもなかなかナイス
ワロタGJっす
GJ!!
俺的ブルーに一票
GJです
戦隊科のメンバーが既に一線を越えてしまっているあたりにガクブル。
戦隊科の軽いノリとは対称的に主人公が悩みを抱えていそうな雰囲気があるのもいいです。
続きがあるなら期待しています
嫉妬戦隊ジュラレンジャーw
ジュラちゃう、ジェラシーのジェラレンジャーやでw
ジュラレンジャーやったら恐竜戦隊になりそやねw
俺もジェットマンオマージュでシットマンとか考えたことはあったが最近は○○レンジャーなんだよね。
組織名がSHITとかなら出来そうだが。
で、
>>600よ。主人公の幼馴染の敵女幹部の登場はまだか?
608 :
600:2006/11/16(木) 05:03:36 ID:YMOWNTAG
しまった誤字が・・・
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
ブルーがそう言うと彼女の横のロッカーに手裏剣とダーツが何本も突き刺さった。
もし数センチずれていたらブルーの顔には無数の穴が開いていたわね。
「おお怖っ、イエローもピンクも鏡見てみなよ、般若が見えるぜ」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
を以下に訂正
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
イエローがそう言うと彼女の横のロッカーに手裏剣とダーツが何本も突き刺さった。
もし数センチずれていたらイエローの顔には無数の穴が開いていたわね。
「おお怖っ、ブルーもピンクも鏡見てみなよ、般若が見えるぜ」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
レスが7件というのが好評なのか微妙なので連載は…どうしよう?w
一応ジェラレンの脳内設定は以下のとおりに。
ブラック 標準タイプ
ブルー お嬢様タイプ、口調が丁寧でひんぬー
イエロー おとこおんな、口調は粗目
ピンク ロリ、口調は最後に☆
>>607 むしろ設定流用してもいいのでシットマン書いてください。(女なのでシットウーマン?)
幼馴染の女幹部はわざと負けてライダーの部下として彼に近づくか、彼を洗脳して
手に入れるために苛烈な攻勢を掛けるか迷った挙句出番見送り。
しっと団 vs 嫉妬戦隊ジェラレンジャー という夢を見た・・・
なんかよ、いい夢見させてもらった…。 けどな、ありゃあ夢だ。ただの夢なんだよ…!
まさかこのスレにDIOが来るとは思わなかったわ。
でもそろそろ時が動き出してもよくないか?
>>611 ライバルに負け、山中に埋められて窒息死を待っているような状態だからなぁ…
職人神は新スレにみんな行っちゃったし、残っているのは埋めネタ投下班くらいかな?
需要が多ければジェラレンの続き書こうと思ったけど微妙だし。
イヤイヤイヤ!
書いてよ!
すげー楽しみだよ!
残ってる人少なさそうで反応あるかどうかわからないけどアンケート。
仮タイトルがジェラレンジャーになってますが、主人公(話の中心)はライダーで書いたつもりでした。
もし連載するとしたらライダーを核としたストーリーとレンジャーを核としたストーリーどちらが読みたいですか?
決まり次第執筆開始?
七時半からは戦隊モノ、八時からは仮面ライダー
スーパー嫉妬タイムという形になるな…
作者様の書きやすい方でいいんじゃないでしょうか
強いていうなら更衣室のドタバタが面白かったレンジャー
気分によって書き分ける、ライダーとレンジャー同時進行
主人公がレンジャー手伝ったり
レンジャーが主人公の所へ乱入したり
まあ大まかなストーリーは6:4くらいで
嫉妬は1:9くらいでお願いします
久しぶり保守
620 :
600:2006/11/20(月) 18:23:03 ID:v78VBbKf
今ジェラレン執筆してます。主人公はライダーでタイトルはHERO。
埋めネタ連載ということでスレの容量が少なくなり、次スレが立ち、主な職人が移動してから
書き込むという形式を予定してます。
連載は初めてなのでもし要望やリクがあれば言ってください。
あれ?もう落ちる?落ちちゃうんだ?……へぇ。
>650 名前:名無したちの午後[sage] 投稿日:2006/11/20(月) 20:43:21 ID:AUHvyIWj0
点災
>
>>■[タレコミ]TVA「スクールデイズ」2007年放送予定。
>> 原作:オーバーフロー
>> 監督:あおきえい
>> シリーズ構成:高山カツヒコ
>> キャラクターデザイン:後藤潤二
>> アニメーション制作:アスリード
>
>うーん、このスタッフ構成……空鍋? あまりに出来すぎてるので、ガセネタっぽいなあ。
>別の方からも、いくつかアニメ化に関する情報を頂いてるので、アニメ化の企画自体は
>本当に動いてるっぽいんだけど、スタッフは怪しい。
>
>
ttp://d.hatena.ne.jp/moonphase/20061120