【ガイエ】田中芳樹作品エロパロ【ハァハァ伝説】 4
スレ立てました。
職人の皆さん、良作よろしく!
引越し祝い&即死防止で急いで一つ。
やっぱりエロパロの意義ってこれだよねーという内容。
最初は、いわゆる小遣い稼ぎで始めたバイトだった。
付属とはいってもエスカレーターでは無い、祖父の理念どおりちゃんと
実のある生徒のみが進学するよう設けられた内部試験を軽々通過して、
あとは残り授業を消化するのみとなった高校三年の冬休みのことであった。
もう小遣いを貰う歳でもないし、兄の負担を軽くしようとする思いもある。
兄のまだ働かなくてもいいのにという思いやりの言葉については
「使い道を聞かれたくない出費というのもある歳ごろになりましたので」
そう言って謝絶しておいた。
どうせ稼ぐなら効率良くやりたいものだ、と思って選んでいくと夜の世界になる。
しかし己を良く知る身には女性が働く場所では男性客を非常に不快にさせることは
分かりきっていたので、女性客が多くやって来る店、ただし自分は未成年なので
ホストは端から除外、居酒屋はバイト同士の人間関係がややこしいと聞く。
ならば、食事も出すが喧騒とは遠く離れたバー、それも自分の美的センスに合う店、
そうやって絞った先のうちの一軒が、続の勤めているバー“Roost”である。
その女性は続もたまに見かけていた。他の客が猫背でカウンターに肘付くなか
まっすぐに背筋を伸ばした姿勢が続の目を引いた。客の事情であるからどんなに
店で飲んだくれようと続は気にも留めなかったが、その女性が酔いつぶれるのは
一度もみたことは無かった。毎度ショートカクテルを一つ、シングルが一杯で
来店時より険の取れた顔をして綺麗に席を立って静かに帰っていく。
常連の客の中には続からオーダーを取りたがる者が幾人もいたが、それ込みで
オーナーも自分を採用したのだと分かっているので愛想良く応じていたが、
自分からすすんで注文を受けにいくのはその女性一人だけである。
一目惚れではないし、向こうから好意を寄せられていたわけでもない。
オーダー時に交す彼女との会話は、たとえば一段と冷えた日には柚子酒のお湯割りを
勧めたりとか、おまかせであったりとか、一言二言程度のささやかなものだったが
ベッタリとした雰囲気を作りたがる他の客との応接の合間には特に清涼に感ぜられた。
その時はジン・ラム・キュラソーを1・1・1でシェイク、ペルノー一振りしたもの。
「あら、私ってそうかしら?」
「バーテンダーが貴女の印象で作ったそうですよ。私もぴったりだと思いますが」
可憐な名前を持ちながら、ベース酒が二つも入った意外に手強いそのカクテルは
確かに彼女に相応しいと続は思ったのだ。
「ありがとう」
気持ちよくそう言って彼女はグラスを軽く上げ、バーテンダーと続に目礼した。
すいと飲みほした後はいつものようにシングルを頼み、支払いを済ませたのだが
預かったコートをクロークから出して着せ掛けようとして、いまだ彼女の顔が
暗いことに続は気がついた。あのカクテルがキツかったのだろうか。
「水をお持ちしましょうか」
「いいえ、大丈夫よ。仕事上の悩みがなかなか消えてくれなくって」
冗談めかしたように笑って見せるが、かなり深刻そうな気配が伺える。
だがこれ以上立ち入るのは客のプライバシーであるし、実は恋愛の悩みかも知れず、
だから続は彼女をそのまま店の出口まで送るだけにした。
そのことがあって間も空けず、再び彼女は来店してきた。いつも週に一度来るかこないか
のペースなのに、今週はすでに二度になる。彼女が抱える悩みは深いらしい。
その証拠といってはなんだが、次に来たときにはシングルが二杯になり
さらにシングルはダブルになり、その杯は確実に数を増していっている。
彼女のことを意識の端にかけつつも、続はすべての客に平等を心がけた接客を続けた。
姿が見えなくなり、帰ったのだろうと思うが見送れなかったのがいささか心残りである。
グラスを磨くリネンのクロスを切らしたのに気がつき、表に一声かけてストックしてある
それを取りに行く途中、化粧室への通路でうずくまる彼女を発見した。
「帰ったのではなかったんですか?」
「…ん」
慌てて駆け寄り肩を軽く揺すると、彼女はうっすらと目を開けたがその焦点は定まらず、
再び瞼を閉じようとする。狭い通路なのにこれでは他の客の邪魔になる。
そう思って彼女の両足を掬い上げ、従業員部屋にそのまま運んでいった。
マスターに事情を話すと、そのまま面倒を見るように言われ、ライムを搾った冷水と
おしぼりをいくつか用意して彼女が眠るソファーの脇についた。
意識が無いように眠る彼女の息は規則正しく、アルコール中毒では無い様で安心する。
薄暗い照明のバーでも目立っていたその美貌は蛍光灯の下でも色あせることなく
むしろその細部まではっきりと目に映った。化粧っけの薄い肌の色はあくまで白く
眉毛は優美な曲線を持ち、閉じられた目を縁取る睫毛はつややかに長い。
鼻梁はすんなりと高く唇はやや薄いが形はまことに上品で、まるで昔読んだ御伽噺の
眠る森の美女が目の前にいるといった風情である。だが、このお姫様は挿絵にあった
ブロンドではなく腰まで届く碧成す黒髪であったが。
このまま口付ければ目を覚ますだろうか、と思いかけて慌てて頭を振ってその空想を
追い出した。あれは御伽話であって、目の前の人は現代社会の普通の日本女性である。
それも悪い魔法にかかっているのではなく、酒に酔って寝ているだけの。
それでもかなりの至近距離に迫っていたので、彼女が目を覚ました気配に続は慌てて
身を引いた。自分がいる場所がどこなのかを問われ、ここが休憩室であると告げると
彼女は自分の失態を詫びて起き上がった。靴を履くのに続は肩を貸してやったが
酒精がまだかなり残る彼女の体はふらついており、タクシーを呼ぶことを提案した。
「そうね、そうさせていただくわ。今日は本当にご迷惑おかけしてお恥ずかしい限りです」
「こちらこそ、倒れるまでお飲ませしてしまったのはこちらの配慮不足でした」
いつもなら酔う人の自業自得だと冷めた目で見る続であるが、彼女に限っては
相当の事情があってのことなのだろうとなぜか素直に思えたのだ。
コートを着た彼女を待たせ、タクシー会社の電話番号を押していると今日はもう上がれと
マスターに指示された。彼女を自宅まで送って、そのまま帰宅して良いとのことだが、
一度は遠慮した。
「俺も彼女のきれいな飲み方が気に入っているんだよ。また通ってもらいたいからな」
それにお前の働きぶりを見て信用してるから。そう付け加えて財布から一枚お札を
抜くと「釣りは返せよ」そう温厚に笑って差し出した。手に押し込まれてしまっては
それ以上固辞するのもおかしいので、マスターの言葉に甘えて今日は帰ることにした。
後部座席に先に彼女を乗り込ませ、その隣に座る。彼女が告げた先の住所は中野区に
行く途中の場所であった。なんとかマスターから渡された金額の範囲内で済みそうだと
ほっと息をついていると交差点で曲がる遠心力で彼女の頭が自分に凭れ掛かってきた。
鼻に匂いやかな香りが忍び込んでくる。澄んだ甘い香りは薔薇とは違う、スズランか、
いやそれよりもっと華やかな…花の香りなのは判別できるのだが。
触れる肩は細いが骨ぎすではなく女性らしい丸みを感じさせる。このほっそりとした
身体にどれだけの重圧がかかっていたのだろう。
――自らの酒のペースが極端に乱れるほどの、なにかが。
タクシーが速度を落とし停車し、思考は中途で止まった。彼女が中に入るのを見届ける
まではと思って、タクシーはそこで帰させた。自分はどこかで拾えばいいだろう。
彼女が暗証番号を押すが、まだふらつく様子が伺えるので肩を貸し自動ドアをくぐって
玄関まで付き合うことにする。上昇する箱の中、増えていく数字を見ながら彼女が突然
口を開いた。
「以前お世話になった女性が、ビルから飛び降りたの。即死。助からなかったわ」
衝撃の告白に、続は上を見上げたままの姿勢で硬直した。
「私が気付いていれば助けられたかもしれなかったのに、私自分の事ばっかりで…」
あとは堰が切れたように泣きじゃくるばかりの彼女に続はかける言葉も無い。
ややもすると崩れそうになる彼女を立たせて、部屋の鍵を貰ってドアを開けると
彼女の性格そのままのような整然とした、シンプルで趣味の良い空間が現れた。
ただ、今の彼女の内面のように部屋はいくぶん乱れ、荒涼とした気配が漂っている。
コートを脱がせてハンガーにかけていると、シンクから水の音がして、ふちに手をついた
彼女がコップの水を飲んでいるところであった。
「悪いけれど、コーヒーも出せそうに無いわ。冷蔵庫から好きに出してくれていいわ」
そう言われたので、その通りにミネラルウォーターを引き出し氷を取り出し
なみなみとグラスに満たしたそれを彼女の目の前に差し出した。
「こちらの方が冷たいし、おいしいですよ」
「ありがとう。でもお水はもういいの」
「スポーツドリンクでも買ってきましょうか」
「ごめんなさい、いらないわ。それよりも弔い酒つきあってちょうだい」
一時泣いて気が落ち着いたのだろうか、しっかりした口調ではあったが続は制止した。
さきほど店で寝入るほど飲んでいたでしょう、と。
「その代わりといってはなんですが」
台所をお借りします、と続はマスターから教わったカクテルを器用な手つきで作り出した。
冷蔵庫を見ると、自炊しているのか食材は揃っている。だが目当ては冷凍庫の中身。
あった。アイスクリームは何味でも良かったがそこにあったのはバニラアイス。
家でも飲むだろうと思われて軽く探すとウォッカの瓶が見つかった。これでいい。
大振りのグラスにアイスを放り込み、ウォッカをそこに半分ほど満たす。
「ナイトキャップに良いですよ。アイスの乳性分が胃の荒れを防ぎますし」
スプーンで混ぜながら飲んでくださいと渡したそれを一口飲んだ彼女は、泣き笑いの顔を
続に向けて「おいしい」とひっそり微笑んだ。
もうこれで安心して帰れる、と続は思った。だが積極的に帰る気にはなれなかった。
一人がけのソファーに深く座って、冷たいグラスをまるでカイロのように両手で包んで
傷心に耐えている気高くて孤独なこの女性を、ひとり置いて帰るのはいけないことだと
理性ではなく感情が強く続に訴えつづけている。
場数を踏んだ大人の男なら上手く乗り切ることもできるのだろうが、続はまだ17歳だし
女性というものを未だ知らない身だからして、気持ちは彼女に向いているものの
それをどうやって表したらいいものだか皆目見等がつかないでいる。
「ありがとう。たんなる客の一人にここまで親切にしていただいて感謝しきりです。
タクシーなら、ここからすぐ先の大通りに流しが走っているでしょうから」
礼儀正しい言葉には、彼女と続との距離がそのまま表われていた。
ひどく後ろ髪を引かれつつも、続は帰ることに同意した。
短い廊下を見送られ、彼女が板の継ぎ目のわずかな段差に躓いてガタリと音がした。
「おっと!」
身長約180センチの続が彼女を抱きとめると玄関の段差含めて彼女と身長は同じくらい。
お互いの顔を同じ高さで見つめあって、視線を先に伏せたのは彼女の方であった。
「ごめんなさい…あとは私一人で立ち直れますから。優しくしてくれて、ありがとう」
けれど、続は見逃さなかった。彼女の細い肩がまた泣き出す気配に震えているのを。
「帰れません。いいえ、帰りたくありません」
「なぜ…?」
彼女を納得させる、それ以上に自分のこの胸苦しい衝動を説明する言葉が見つからず
続にできるのは、ひたすらに彼女を抱きしめることだけだった。
「何を言ってるのか、自分で分かってるの?」
「…はい」
彼女の言い方は詰問ではなくて、こちらの真剣さを確かめるものなのが分かったから
続は真剣な顔で彼女に頷いて見せた。
「いいわ。靴を脱いで上がって」
部屋に掛かる時計を見ると、まだ深夜零時を過ぎてもいない。
今夜はどうやら長い夜になるだろう、寝室のドアに手をかけながら続はちらと思った。
きょ、今日はここまでデスか……?
気品溢れる文章に期待大! 楽しみに続きを待ってます
うわぁ、すごいよ…なんか情感溢るるってかんじ…
早速の良作&総合の醍醐味に、心からつづきを期待してます!
す、凄え、いきなりの良作…
ところでこの女性、某シリーズのあの人を彷彿とさせるような気が…
つ、続き…続きをお願いします、出来るだけ早く…!!
彷彿、どころか、まず間違いなくあの女性でしょう。
まずは、
>>1 乙です!
これはっ、あのお方ですね?
最近、萌えがスゴすぎて このスレから
目が離せません。
続き楽しみにしております。
>1乙&しょっぱなからGJ>7
女性はどうみても(ryです 本当にありがとうございました
そういえば作中で放映してて年少組が楽しみにしてるアニメ番組だったかドラマが共通だったようなw
いったい、どうしてあんなことを言ったのだろう。
彼女のベッドに腰掛け、膝に肘を付いて続はかたちのいい顎に手をついて考えていた。
あれは彼女と身体を分け合うつもりで言ったのではなかった。どこからくるのか
わからない、胸が締め付けられる思いに押された勢いで言った言葉だった。
心を静め、淡くとらえがたい心の揺らめきを追おうとしたが、水音がそれの邪魔をする。
水音?勢いのいい音は、台所の蛇口からでるそれではありえない…風呂場か!
そういえば彼女は寝室を出たまま、ずいぶんとこの部屋に戻ってきていない。
不吉な映像が続の頭に浮かんだ。酔ったまま湯船に浸かって沈んでやしないか。
続にしてはめずらしく焦って寝室から飛び出しドアを片端から開けていった。
二つ目のドアが洗面所で、バスタオルが畳んで置いてある。浴室には明かりがつき
水音はやはりそこからのものだった。声かけもしたが返事がない。
「大丈夫ですか?」
続の手が曇りガラスが嵌まったドアを横に引き開けた。
「どうしちゃったのかしら私…」
浴室に響く声が耳に入って、無意識に呟いていたことに気付いて一人苦笑した。
贔屓にしているバーに勤めている、女性と見まごうばかりの超がつく美形なウェイター。
だから家に上げたわけではない。今夜は一人でいるのが辛かったからというのもあるし、
それに、あの目を合わせた者の心に熱さを感じさせるほどの強烈な視線。色なら真紅。
私はそれに惹きこまれ、彼のひた向きな思いを受け入れたのだ、それは正直な思い。
彼はいま私の寝室で待っているのだろう。その光景を思った頬はやや赤く染まる。
私がこうしている間に寝てくれてしまえばいい。そんなことも考えていた。
湯船に溜めた湯はもう充分な量だろう。蛇口を締め、冷え防止に肩にかけたタオルを
脇に置いて湯船に足を入れかけたとき、浴室のドアがいきなり横に開かれた。
続の眼前にあったのは、生まれたままの姿の女神像。
女性としては長身の身体はすらりとしたプロポーションで、細い足首から続く脚線美は
見事というしかない。胸のふくらみは大きくは無いが小さくも無い。
そこまで見て取ったところで盛大な水音としぶきが上がった。
いきなりの続の出現にバランスを崩した彼女が湯船に足を滑らせたのだった。
「ほら、だから酔ったまま風呂に入るなんて無茶をするから!」
「だ、だ、大丈夫よ!」
「こういうときはせめてシャワーだけにしておくべきでしょう」
「湯船に入らないと、疲労ってのは取れないものなのよ」
「融通が利かない人ですね!酔ってて溺れでもしたら、どうするんですか?」
滑り込んだ勢いで頭までお湯に沈んだ彼女を急いで引き上げるが、入浴剤が入った湯は
なめらかで掴んだ腕がするりと抜けそうになる。ひと悶着あったあとようやく彼女は
姿勢を立て直して、洗い場に立つ続を下から見上げていた。白い湯で身体は隠れている。
「あの、心配してくれたのはありがたいけれど…いきなりこれはないんじゃないの?」
「気をつけてくださいよ。浴室事故で死亡するお年寄りも多いんですから」
「私はまだ23よ!」
「意外にお若かったんですね」
「…失礼な人ね」
さっきの騒ぎのせいでいつもは入浴時に纏めている髪が身体にまとわり付いている。
一つに束ねながら、彼女は湯面に顔を伏せて笑い出した。
「どうしました?」
「私もたいがいだけど、あなたもずいぶんとずぶ濡れよ」
「この場合仕方ないでしょう」
「案外、あわてんぼうさんなのね」
「誰のせいでこうなったと」
いいさして続もフッと笑い出した。前髪から雫は垂れているし、シャツもすっかり濡れて
下に着たTシャツの色まで分かる。パンツは言うまでもなく、下着も濡れている感覚がある。
「うちには乾燥機があるから入れておいてくれればいいわ」
「着替えがありませんよ」
「だったら身体が冷えるのも良くないし、温まっていく?」
あまりにさりげなく言われたので、そのまま頷いてしまうところだった。
まだ酔っているのかこのひとは。軽く睨むが、すでに全裸を見られている向こうは平然と
その視線をうけながしている。一つ溜息をついて、小さな意地で一言付け加えた。
「酔っ払いを湯船に残していくほど無責任じゃないですからね、僕は」
洗濯機の上に取り付けられた乾燥機に濡れた服を放り込んでスイッチを押した。
モーターがうなり始めドラムが回転し、温風が吹き出す音がする。
もういちど浴室のドアを開けると彼女は髪の毛をピンで上に纏め上げたところだった。
「横向いているから、終ったら声かけてね」
竜堂家で使っている市販のものには無いなんとも高級な泡の香りに包まれ、その趣味の良さに
続は感心していた。シャワーで身体を流して出て行こうとして、彼女のうなじに目がいった。
「終りましたよ」
「そう、じゃあバスタオルが吊り戸棚に重ねて置いてあるから、それを使って」
彼女の口調は落ち着いていて、その落ち着きぶりが続のなにかに引っかかった。
全裸の男女が狭い中にいて、この人は何も感じていないというのか。背中からは何も伺えない。
こっちはその綺麗な襟足に不覚にも鼓動が速くなっているというのに。
無言で足を上げ、湯船に乗り込んだ。いきなり湯面が上昇し、勢いよく溢れ出る湯に驚いた
彼女が再び湯に沈みそうになるのを続は後ろから引き上げた。
一人暮らしのマンションにしてはやや広めの浴槽だが、足を折り曲げねば体が入りきらない。
「な、んで」
「身体の疲れを癒そうと思いまして」
よくまあぬけぬけと、と首だけ振り向いた彼女の目が言っているが気にしないことにした。
少し熱めの湯が知らず冷えていた身体にじんわりと染みていきまことに心地いい。
「名前も知らないうちから一緒にお風呂に入っているだなんて、可笑しいわね」
「僕の名前は続。竜堂続といいます」
「つづく…?変わったお名前ね。私は室町由紀子。よろしく」
なんとも珍妙な場所での自己紹介にしばらく二人で押し黙った。肩が揺れはじめる。
それもじきに治まり、彼女の白かった肌がやけに赤くなっているのに気がついた。
「のぼせたんじゃないですか!?」
立ち上がりかけるのと、由紀子が振り向くのが同時だった。空気が凍りつく。
「き、ゃあああああぁ!」
「…あの、のぼせてそうなんじゃないのが分かって安心しました」
「いったい私をどういう女だと思っているのか聞かせてもらいたいものだわ」
湯船の中で足を抱えて体育座りをして、顔を半分湯に沈めてぶくぶくと文句をつける様子は
眼鏡を外してやや幼くなった顔とあいまって大人の女性というより少女のような雰囲気である。
「あなたのような男性と裸で一緒にいて、何も感じないはずがないでしょう?」
ほう、続はどこか報われた思いでいた。由紀子の肌はあいかわらず赤いままである。
「本当にのぼせてしまう前に上がりましょう」
そうして由紀子を湯船から軽々抱え上げると浴室のドアを開け、バスタオルを由紀子の上に
ふわりとかけて寝室へそのまま運んでいった。
「ずいぶんと力持ちなのね、細身でとてもそんな風には見えないのに」
「意外性があるっていうことで良いでしょう」
「…よく言うわ」
部屋に入ってまだ一時間ぐらいだというのに、風呂の効能か二人の間の無駄な警戒心は解けて
すっかり洗い流されていた。
ガウンを羽織った彼女を化粧台の前のスツールに腰掛けさせ、濡れた髪を乾かすのを手伝う。
室内に暖房が入っているとはいえ、着替えもまだ乾いてない続は腰にバスタオルを巻いて
肩に乾いたタオルをかけただけの姿である。間接照明の柔らかい光だけが寝室を照らす中、
由紀子の話す、自殺した女性との思い出話に続は耳を傾けていた。
「新人のとき配属された先で担当してくれた人なの。私は八人姉妹の末っ子で、父にずいぶんと
期待されていたからそのせいもあって、のんびり市民対応している場合じゃないのになんて
ずいぶんと思い上がっていた私を正してくれたのも、その人よ」
ミス警視庁の候補にもなったぐらい綺麗な人だったわ。思い出したのか懐かしむ口調だった。
「そこまでの人がなんで、自殺なんてっ…!」
続は無言で由紀子をみおろした。由紀子は下ろした手のひらを握り締め、白皙の頬を紅潮させて
目の前の鏡をにらんでいる。自分を必死に抑えているのだと知れた。
由紀子の喉の奥に押し込められた憤りの叫びを聞いた、と続は思った。彼女を自殺へと
追いやった何者かへの怒りが由紀子の瞳に燃え立つのを鏡越しに見ることもできた。
そして、由紀子がそうした感情をほかの誰にも見せないだろうということも。
しっとりとしたつややかな黒髪が続の眼の下で細かく震えている。
続は、無意識の自分にも説明できない衝動にかられ、そっとその髪をなでた。
髪がゆれ、由紀子が顔を仰向けた。生真面目な口調で続に問う。
「私は、いったいどうしたらいい?どうすればいいのかしら」
「ご自分で考えてください。先ほどの話を聞くに、あなたは警察官なのでしょう。
彼女が自殺された原因を突き止めるのも、そいつを逮捕するのがあなたの仕事だし
僕は、あなたを慰められても彼女の無念をはらすことは出来ませんから」
突き放すような言い方だと思うが、これに激昂するような人ではないと信用しているからだ。
はたして、由紀子は顔を赤らめたものの、それは自身を恥じる気持ちからであったようで
続へは「ありがとう」と短く礼を言っただけであった。
そしてふっと黙り込んだ。喉が詰まったようで、唇を動かすもそれは音として聞こえなかった。
鏡越しに二人の視線が合う。秀麗な顔が照明に照らされきらめく瞳が由紀子の顔をまさぐった。
瞬間、心がつながった。顔が火照るように熱くなる。
触れたい。相手に触れたい、肌に、手に、視線でなく直接に触れてもらいたい。
息をするのも苦しくなったころ、続の手が由紀子の肩を抱いていた。立ち上がり、二人の足は
ベッドへと向かった。倒れこみながら目を閉じた由紀子の視界は赤く燃えるようだった。
のたうちまわりそうです。
踊り狂ってます。
ちなみに自分もいまお由紀が旬だ。あと松永くんもw
29 :
名無しさん@ピンキー:2006/06/14(水) 22:13:11 ID:Xb8s8/uH
age
暖色のほのかな明かりに二人の身体は隠すところもなくさらされている。
双方、細身ではあるが出るところは出て締まるところは締まっている、目を惹くに値する裸身に
どちらのものともしれない溜息が洩れた。
由紀子は無言のまま、続の手を自分の胸へと導いた。これが女性の裸の胸か…言葉が止まり、
手を動かしてもいいのだろうかと軽く戸惑う。そんなところに続の緊張ごと包み込むような
小さな笑い声が耳にそっと届いた。
「大丈夫?」
返事の代わりに、軽くキスをした。
そのお返しか由紀子の唇が続の額に押し当てられる。瞼、鼻、頬とすべって再び唇に戻る。
細い腕に深く抱きこまれ、続は直接肌に感じる柔らかさに身震いがした。
気にせず、由紀子は続に深いキスをし始めた。
「ん、ふぅ……」
キスは唇を重ね合わせるものだけではないと知ってはいたが、実際に自分の口に他人の舌が
入ってくるのには軽い抵抗があった。
「あ…んう…」
だがその違和感はすでに通り越して、今は彼女の舌が自分のそれと絡まる感覚がひどく
甘美で心地よかった。互いに感じる舌は熱くぬめっていて、探るように動かすと
身体の中心に熱が急速に集まり、そそり勃っていくのが分かった。
由紀子の開いた目が合い、火花が散る。続の首にしなやかな指を絡めながら濡れた唇が光って
さっきよりも強い刺激が欲しいと合図を送ってくる。
顔を下げ、先ほどは手のひらで触れていた双乳に唇で触れていく。いつも見る端正なスーツの
下にはこんなにもあえかな肌が隠されていたのか。心臓が風のような速さで拍を刻んでいる。
ほっそりとした指が頭をおさえ、さらに胸へと押し付ける。匂い立つ甘い肌の香りに
頭の芯が溶けそうになりながら由紀子の望みにこたえようと頂点を唇で挟んだ。
はじけるように黒髪が揺れた。声があがる。
「っあ、ふ……あぁっ」
眉根を寄せ、悶え苦しんでいる表情のようにも見えるが声は甘く、その顔を見た続の心の内は
驚きより喜びの成分がおおかた占めていた。ついばむようにしていたのを舐め上げる動きに変え
由紀子の反応をうかがうと、身体も連動して跳ね、小さく肌が震えはじめた。
この先は、やはりそこなのだろうか。とは思うものの初めてだから手は由紀子の腰から下に
進まず周辺をさ迷っている。その動きに気付いて、髪に指を差し入れて撫でながら言う。
「大丈夫だから、ここにきて。もっと…触って」
少し大胆かと思うが、これは本心だからかまわないとも思う。
それでもゆっくりとしか動かない手を由紀子は握ると、やや開いた脚の間に導いていった。
湿った音がして続の指はぬるりとした液体に呑み込まれた。切ない響きを帯びた由紀子の声が
「触ってみて」とその先をうながす。指を這わせるとどこも頼りないほどの柔らかさで
ゆっくりと慎重に探っていくと硬い部分に指の腹が触れていた。
「あ!」
小さな悲鳴があがった。知識として知っていたその部分は爪の部分ほどの大きさで、幾度か
そっと往復させると堰を切ったように温かい粘液が溢れ、他の指にまで絡み付いてきた。
「あぁっ!!はっ、あんっ!」
熱に浮かされたような頭でその動きを続けていると
「くぅっ……ああぁっ!」
悲鳴に近い声が響き、由紀子はぐったりと天井を仰いで呼吸を荒げていた。
「すごく、よかった」
消え入りそうな声で告げられた感想に、続は顔に熱が集まるのを感じていた。
いつも余裕綽綽という態度は続を置いてどこかに走り去ってしまったらしく、がらにもなく
照れている自分を持て余していた。
その表情を見ていた由紀子は身体を起こすと、続のほうへ身体を寄せて身を伏せた。
息が掛かるほどの距離になって続は腰を引こうとしたが、あまりにも遅すぎる反応だった。
由紀子の唇がかたちをなぞり、敏感な場所をゆっくりと舐め上げていく。
「う、あっ」
やめてくれとも言えないまま、今度は舌がなめらかに幾度も往復する。
「はっ、あ……く……」
背を伝い、頭まで駆け上がってくる快感に支配されそうになって理性を急いで引き止めた。
「いいのよ…このまま、感じていて」
由紀子が囁き、先端の亀裂をゆるゆると舌が這う。
「だ、だめで…す」
頭を左右に力なく振った。これ以上なにかされたら、本当に限界が来てしまう。
「ゆ、由紀子……さん……」
かろうじてそれだけ言うと、淫靡な唇が股間から離れた。さらさらとした髪の毛の感触が
裸の胸をすべりおりるのを感じていると耳に熱い息が吹き込まれた。
「じゃあ、私の中で…きて」
起き上がった由紀子に両手を引かれ、ベッドに仰向けになった彼女の身体の上に被さった。
「…わかる?」
「ええ、まあ」
広げられた脚の間の淡い陰りの内側に見えるのは傷の裂け目のように赤く、濡れた……
入り口に押し当てるがぬめりで滑り、手を添えて探っているといきなり呑み込まれた。
優しくしないといけなかったのにとほんの少し強ばった顔を、下からのびた手がそっと包んだ。
「…ん。気持ちいいからそのまま、ね」
続に貫かれたままで、由紀子は恥ずかしそうに微笑んだ。…この人はこんなに可愛いひとだったか?
どちらかといえば白皙の美貌とあいまって冷たい印象を受ける由紀子なのだが、微笑むと素顔の
せいもあるのか、奥深い山中の木々から差し込む光の中に凛と咲く一輪の白百合のような、澄んでいて
それでいて可憐な風情がある。
もっと深く身体を沈めていくと「あぁ…」とため息のような声が漏れ、由紀子の腕が続の背中に伸びた。
自分を抱き締める身体は熱くて力強くて、その熱に今夜はそのまま流されたいと思う。
折り重なる二人は手のひらをつなぎ合わせ、視線を絡め、ゆっくりと身体を揺すり始めた。
ぎこちない動きはしだいに馴染んだものになっていき、続の顎から汗がしたたって白い肌に落ちた。
まだ、まだ重なり足りない。由紀子の脚が高く上がって、続の手がそれを抱き上げて両肩に乗せた。
深く身体を沈めると、奥まで貫かれる強烈な感覚に由紀子は悲鳴を上げた。
「ひ、あ、っああ!!つ、つづくくん、ぃやぁっ!」
一段と高くなった声に続は腰を止め、ゆるやかに揺すり始めた。最奥で波打つように揺さぶられ、
由紀子の声は蕩けるほどに甘くなる。
初めてきく、女性の切なく乱れる声に続の理性のたがが外れた。
荒々しく腰を躍らせて由紀子を攻め立てる。充分に燃え上がった由紀子の身体はその動きに堪えた。
欲情で擦れた声で由紀子の名前を幾度も呼ぶ。やがて二人は快楽の頂上へと駆け上がっていった。
ぎゅっと閉じられた由紀子の瞼の裏が真紅の炎に灼かれ、切れ切れの声を上げて意識が飛翔していった。
目に差し込む陽の光に起き上がると、由紀子は二日酔いの気配も無く、いつも見るように
端正なスーツ姿に身を包みコーヒーを手際よく淹れていた。
「どうぞ」
一口飲むまでもなく、嗅ぐだけで軽い疲労が消えていくような香りにハッキリと目が覚める。
サイドテーブルにマグカップを置いて、乾いて畳んである服に気がついた。
洗面所で顔を洗い身支度をしてキッチンに行くと、テーブルにはすでに朝食が用意されていた。
パンとサラダとスクランブルエッグ。味は従妹殿と肩を並べてもいいような出来栄えだった。
「私は先に出るわ。オートロックだからそのままで構わないから」
てきぱき立ち動くさまには、昨夜あれだけ乱れていた形跡はみじんも見当たらない。
同級生の女子との格段の違いを見せ付けられて、さすが働く女性は違うと思ったりする。
あまりにじっと見ていたので、それに気付いた由紀子の頬が染まり、諌める様に睨んだ。
「良かった。僕だけが夢中になったのかと思いましたよ」
「年上をからかうものじゃありません」
そう言って、思い出したように続に年齢を尋ねてきた。
「昨夜、18になりました」
「うそっ!その落ち着きでまだ18?じゃあ昨日まで17だったってことよね…」
「ええ、条例には引っかかっていませんから安心してください」
しらっと言ってのけた続に由紀子の肩がぶるぶると震えている。手が上がりかけて、下りた。
その代わりに続に向けられたのは、威厳を保とうとしてそれに失敗した風の笑顔だった。
「それぐらいの方がいいですよ。昨日のあなたは痛々しくて、見ていられなかった」
「もう大丈夫よ。あなたに助けてもらったことだしね」
それに、と知性のきらめく瞳を続にひたと合わせて生気にあふれた声が耳に飛び込んできた。
「彼女の仇を取るまでは、なにがなんでもやり抜いてみせるわ!」
「頑張って下さい。応援しています」
「ええ、頑張るわ!」
軽く片手を上げて続の声援に応え、由紀子は玄関の扉をあけて朝の光へ歩き出していった。
朝日だけではないまぶしさに目をほそめて、続は食器を軽く片付けてマンションを後にした。
その晩、マスターにタクシー代の釣りを返したのだが、かなり多めのそれにマスターは
目を細めたほかは何も言わなかった。
「まあいい、それでこそ若者だ」
知らぬ顔をする続にマスターは金文字で書かれた店の看板を軽く叩いてこう言った。
「彼女の心を安らげられたんなら、お前も立派なここの店員だ」
宿り木、か。
どちらかといえば彼女にずいぶんと甘えさせてもらったような気がする。けれども
最後に向けられたあの微笑みを思うと、それで良かったのだとやっと心が落ち着いた。
そしてあれから彼女、室町由紀子はこの店にめっきり姿を見せなくなった。
恩人の死因を突き止めるために忙しく立ち回っているのだろう。それは結構なことだが
それにしても残念だ。彼女にいつか披露しようと思ってあのカクテルを作れるように
ひそかに練習していたのに。
いつしかオーナーが替わり、店の雰囲気が変わったのを見て続もそこのバイトを辞めた。
もう彼女と会うあても無くなった。
時おり一人で作って飲むそれは、やはりあの女(ひと)としか思えない味わいである。
よし、これで即死回避。
でもって、都の条例が何年にあって二人が何歳の時施行なのかは
まったく配慮していません。なんたって創竜伝の作中年代がいつなのやら…
そういうことで了承ください。それじゃ。
超GJ!!!!!!
引き込まれるように読んじゃいました。年代とか後書きで言われて気付いた位。
続が珍しく青いのも由紀子が積極的なのも最高です。
こんな美人とが初体験なんて幸せ者だなw
GJ!!!!
リロするのが楽しみでしょうがなかった。
やっぱり、お由紀いい女だよ〜
また、よろしくお願いします。
超乙です。超GJです。
本当に上手いなあ…
この手があったか!!という意味でも感心しつつ。
…いや、クロスオーバーな妄想をしたことはあるんだ。
事件の一報受けてお涼と泉田現場へ→
現場には単に巻き込まれでも容疑者扱いでも良いんだけどデート中の始と茉理が…
みたいなの。
挫折したけどorz
とにかく素晴らしく堪能させて頂きました。
ありがとうございました。
またネタ浮かんだら是非お願いしますね。
素晴らしい!
としか言いようがないです。品のある色気、堪能させて頂きました。
お由紀ってばいい女だなー
GJ、GJ、もひとつGJ!
このカプも話も文章も本気でイイ!
静かに熱い二人の色っぽさがなんかもうすごい綺麗、マーヴェラス!
いつもありがとうです。貰いっぱで恐縮ですが今後ともヨロシク!
お由紀の相手が続なんて想像もしなかったけど超しっくりくるなあ。
ヤラレタ!って感じ。GJ!!
泉田クンにも早よ引導を(*´д`)ハァハァ
GJ!!!
エエモン読ませて頂きましたwww
何度読みかえしても楽しめます〜
>38
その妄想、激しく読みたいw
>>38 ナカーマ。自分も以前その4人で書きかけたことある。そして同じく挫折…w
そこでどうだろう、今こそその時の情熱を思い出してともに再チャレしてみまいか…!
と淋しがりな遅筆野郎が言ってみる。
44 :
38:2006/06/15(木) 18:48:37 ID:LERKrulu
何か無理っぽい(泣
実は結構前に一度だけ投下させて貰ったことがあるんだけど、
(多分前々スレかな)
本当にそれがマグレ当たりだったというか燃え尽きたとでもいうかorz
どなたかお願いします…
妄想もーらい!
しばし待たれよ。
>>45 おー!!期待して待ってるよ。
ガンガレー!
>45
お願いします!!
あああ凄え楽しみだ…
>45
wktkして待ってるー!!
>38
自分も考えた事あるノシ
あと、大昔にどっかの同人サイトか投稿サイトで、お涼泉田+耕平来夢+竜堂兄弟featuringなっちゃんの
クロスオーバー物見かけた記憶があるw
詳しくは覚えてないんだけど、耕平来夢が出かけた先にたまたま竜堂兄弟も来てて、
それを追っかけてなっちゃんが登場して大騒ぎ。
騒ぎの知らせを受けて出動したのがお涼泉田で、お涼がなっちゃんに暴言吐いて一触即発になったりと
ひと悶着あって、最終的に来夢耕平がコソーリアポーツの応用でなっちゃんを飛ばして事態が収束。
お涼は耕平来夢がワケありの身(セラフィン憑き)と気づいたけど何も言わずにスルー…みたいな内容だった。
>>38 ごめんね、泣かせてごめんね
また火が燻り煙が目に染みだしたら教えてね。ネタでも楽しいし
>>45 おぉぅ、奇態して待ってます!
wktkついでに。
始とレオコンって同い年なんだよね…
(まあ単にそれぞれの作中での年齢ってだけですが)
それに、アレで泉田と10才も離れてるってのも凄い。
…並べてみてえ…
51 :
名無しさん@ピンキー:2006/06/17(土) 09:25:44 ID:ZQZb1REz
期待あげ
はいよーコラボ投下。続きはまた書くでよ。
たぶんこの方向であってる、はず。
53 :
竜withお涼:2006/06/17(土) 11:35:38 ID:yd5kOlcW
「ふわぁ」何度目かしらない欠伸を私は口の中でかみ殺していた。
上司のお守りという時間外労働、もちろん給与はつかないそれに私は就いていた。
私の役目は荷物運び。足元にはすでに大きめの紙袋が幾つか置いてある。
あ、兼荷物番でもあったのか。私の肩書きは増える一方である。
平日のデパートなのに、人が多いのは階上で地方物産展をやっているせいだろう。
広いフロアに浮島のようにベンチが並んでいるが、だいたい男性が座っていて、
買い物に蝶のように飛び回る連れを私と同じく待っているのだと容易に想像がついた。
それにしてもこれだけ洋服が並んでいる中、よく自分が欲しいものが選べるものだ。
いや、その逆で女性を迷わせるためにこれだけ大量の服が売られているのかも。
経済新聞のコメントのようなことを考えていると、わずかにクッションが軋んだ。
隣を見ると、私とそう変わらないぐらいの体格の若い男性が腰掛けたところだった。
やあ、ご同輩ご苦労さん。という気持ちで会釈をすると向こうも礼儀正しく返してきた。
そしてすぐに手元の文庫本に視線を落として読み始めた。
若者の歳は20代前半だろう、それなのにあたりをはらう威風堂々といった風格の佇まいで
既に一人立ちした男性のそれだった。容貌も日本人のように平たい顔つきでなく
目元は涼やか、大陸風の美丈夫といった感じのよい顔立ちである。つまり、ハンサム。
手にした文庫本を横目で見ると、映画化にもなった大ベストセラーの小説だった。
そういえばこの近くの映画館でもう封切りされたんだっけな。
54 :
竜withお涼:2006/06/17(土) 11:36:44 ID:yd5kOlcW
今度はぴょんとクッションが跳ねる感覚がして、視線を下げてみると小さな男の子がいた。
「きみも買い物する人を待っているのかい?」
「うん、そう。ママを待ってるんだ」
「そうか。私もずいぶん長いこと相手を待っているんだよ」
「女って買い物長いからイヤなんだよなあ、ねえおじさん」
こらまて、私はまだ33で、おじさんではない。大人げないが自分の歳を言うと
「なんだあ、パパと同い年じゃん。じゃあもうおじさん!」
なるほど。父親と同年輩ならば、そりゃ私はおじさんの範疇に入ってしまうよなあ。
年賀状の写真に子連れのものが増えてきたことを私は思い出していた。
「ごめんなさいね、待たせちゃった」
隣の若者が手をあげたところを見ると、待ち人はこの美少女であったのか。
相手が羨ましい、と私が思うほどの綺麗な子で流行の格好も抜群に似合っている。
どんな感じの美少女かというと、涼子がブランドの広告モデルだとすると、こっちは
ミネラルウォーターのCMに出てきそうな感じといった具合である。
繊細な目鼻立ちが生き生きと動いて、心根もまっすぐないい子そうな感じである。
まだ隙間のあったベンチに座り、手持ちの紙袋を一つにまとめ始めた。
「サイズ直しだけ受け取るつもりだったのに、やっぱりもう一つ追加で買っちゃったわ。
本屋で待っててもらった方が良かったわね。ずいぶん待ったでしょう?」
「いや、こっちも原作読み終われたからちょうど良かったよ」
いいなあ。待たせた相手とのやりとりって普通はこうだよなあ。いいなあ。
55 :
竜withお涼:2006/06/17(土) 11:39:46 ID:yd5kOlcW
「あら、この子は?」
美少女に顔を向けられてその子は上機嫌で答えた。
「ママを待ってるの!ぼく山崎滋、5さい!ほんとうはパパと待ってるはずなんだ。
でもパパ、せっかくタンシンフニンから帰ってきたのに、カイシャからでんわが
あったからって言って、ぼくをここにおいてったんだ」
「じゃあ一人で待ってるんだ。大丈夫?一緒にいてあげようか?」
「うん!でもね、ここはママとよく来てるデパートだから、ぼくだいじょうぶって
一人で待ってることにしたの」
目の前にある時計を指差して
「ママはね、みじかいはりが数字の3になったら、ここに帰ってくるって」
時計を見ると二時五十分。もうすぐ滋君のお母さんはこの子を迎えにくるだろう。
それにしてもいい光景だなあ。優しく子供の相手をする美少女。なんて微笑ましいんだろう。
「こら、君が待っているのはこのあたしでしょうが」
軽く小突かれて、さっきより数が増えた紙袋を持った私の待ち人がようやく戻ってきた。
ああ、なんて涙を誘う光景なのだろうか。がっくりと頭を垂れて私は足元の袋を持ち上げた。
「ほら、行くよ」
待たせたお詫びも無くさっさとハイヒールを鳴らして女王様は先に歩いていってしまったので
私も仕方なく早足で後を追っていった。
「…さっきの人、ものすごいカッコいい美女だったわねぇ。女優さんかしら?」
「それにしてはテレビで見たことないよな。相手の人もわりにハンサムな男だったし」
「マネージャーじゃなかったんだ。じゃあ普通に恋人同士?夫婦には見えなかったし」
「なんていうか、大人の雰囲気といった二人だったよなあ」
私がそこにまだ居たなら半分当たり、半分大はずれと答えていたであろう。
職人さん、乙です!
仕事が早いですな〜。そして、上手い!
これからの展開が楽しみです。
続き、期待してますよ。
57 :
竜withお涼:2006/06/17(土) 14:22:24 ID:yd5kOlcW
小気味のいい音をさせて目の前を歩いていた涼子が急停止して、あやうく衝突する前に
私は無事に立ち止まっていた。ガサガサと音をたてて手に持った紙袋が揺れる。
「水着売り場ね」
「え?ああ、もう夏間近ですからね」
なんともなしに答えると、語気が強まった涼子の声がもう一度繰り返した。
「水着売ってる!」
まったくなんだというんだ、と思っていると横から聞いた声がする。あの美少女が涼子と
同じように水着売り場に目を留めて、ハンサムと二人立ち止まっている。
「あ、水着売り場。そうか、もう夏も近いものね」
「じゃ、今度はプールにでも行ってみるか」
「いいけど、みんなと一緒?それとも二人きりで?」
「まあ、二人のほうが外食代は少なくて済むからそっちのがいいかな」
美少女はすっかり上機嫌で、あれこれと吊り下がった水着を手にとって選んでいる。
「…いいなあ。ちょっと!泉田クン、あなたもアレを見習いなさい」
「見習えって、何をですか」
「あー、もういい。分かった」
まどろっこしいことは嫌いなの。そう言い捨てて涼子は私の腕をとって自分の腕と絡めると
水着売り場の中へ肩で風を切って歩き始めた。
「ちょっと、やめて下さいよ。ここは女性用じゃないですか」
「最近の水着売り場にはね、カップル試着室というものがあるの。流行に疎いのね」
流行りに疎いのは別に今に始まったことじゃない。いったいなんなのだソレは。
涼子の目が素早くラックに走って水着を二つ三つ選び取ってさらに奥へ歩いていく。
体を覆う面積が小さい割りに、洋服と変わらない値段なのは何故なんだろうか。
ややもすると赤面しそうになる顔を抑えながら、俯きがちに歩いていると
涼子の足が止まり、どうやらそのカップル試着室とやらに到着したらしい。
男の声も聞こえるからずいぶんと盛況のようで、私は時代の変わり具合にボーゼンとした。
58 :
竜withお涼:2006/06/17(土) 14:24:08 ID:yd5kOlcW
「これなんかカワイイかなあ?ねえショウくん」
「えー、でも他の男にカワイイ格好のミカちゃんが見られちゃうのは俺やだなぁ」
脳みそが溶けそうなアホらしい会話が聞きたくもないのに耳に侵入してくる。
あちこちで即席水着ファッションショーが繰り広げられている中、涼子は番号札を
受け取って私をカーテンの内側に引っ張り込んだ。
「うわ、ちょっと」
「なに慌ててんの。いくらあたしだってまだ彼氏でもない男の前で脱ぎゃしないわよ」
落ち着いて周りを見渡してみると、二メートル四方の広い空間はカーテンで仕切れる
ようになっており、片方には大きな鏡が取り付けられていた。
あっちで着替えたのち、待っている男側に水着姿を見せるような仕様なようだ。
「それじゃ、着替えるから感想ヨロシク」
シャッとカーテンが引かれて涼子は布一枚向こうに姿を消した。
周囲のざわめきの中、シュルと服を脱いでいるらしい音がする。カーテンがあって
良かったと思うが、その布一枚という頼りない仕切りとその見えなさ加減が
余計にこちらの想像を刺激するというか、たまらない気持ちになってきてしまう。
こんなところに若い男女を放り込んだら風紀上ヨロシクナイのではなかろうか…
さらに余計な煩悩を抱えてしまって頭を抱えているとカーテンがシャッと開かれた。
「これなんて、どーお?」
「…よく、お似合いです」
「それだけ?」
女王様はご機嫌ナナメだが、似合っているのをそれ以上に褒める言葉なんて思いつかない。
「そうですねえ、プールサイドの男全員が悩殺するほどの似合いぶりですよ」
「知らん男を悩殺しても意味無いの。じゃあ、こっちは?」
鮮やかなロイヤルブルーの胸元の切れ込みも眩しいワンピースの水着を召した上司が
差し出したものを見て私は目をむいた。なんていうか…細い布切れにしかみえないソレ。
「水は血の色に染まって、プールサイドには出血多量死の男の屍が大量に転がるでしょうね」
「なんなのよ、その例えは!!」
「似合っているという事実を私なりに精一杯表現しているつもりですが」
むっとふくれっ面をして、私に向かって舌を出すと涼子は勢いよくカーテンを閉めていた。
「じゃあこれで最後にするから、これハンガーに掛けておいて」
隙間から差し出されて受け取ったが、まだぬくもりが残っている感じのそれの扱いに困り
店員を呼ぼうとしてカーテンを開けて通路に足を踏み出した。
また来るよ。
ま、ま、まじっすかっ!!
もう続きが読めるとは…
確かに、期待して待ってたけど。
は、早いよ!すげーよ!
なんてー神業だ。
さらに、WKTKして待ってます。
お〜、筆が速いですな!GJ!
続きwktkしてます
ところで巣箱管理人さん、どうも乙ですー
何つーかもう。
素でドキドキワクワク、ニヤけながら読みましたw
た、楽しい…ありがとうありがとう(泣
続きもwktkでお待ち申し上げております。
読めるのはまだ先だと思ってたから
嬉しいですwww
泉田らしさに声にだして笑ったよ
同じくwktkして待ってます。
いいなあ、いいなあ言う大人たちが良いなぁw
66 :
竜withお涼:2006/06/19(月) 11:35:41 ID:DrFT7JuN
レジに並ぼうと水着を片手に歩く人、こっちに試着にやって来る人で狭い通路は混み合い
かなり歩きづらい。制服の店員になんとか近づいていき、水着を手渡しやっと安心した。
もちろんカップルばかりでなく、親子連れも来ているので子供の声も騒がしい。
ママーと泣いて探しているらしい声もする。合間にカーテンを開ける音と女性の悲鳴やら
だみ声での悲鳴が交互に聞こえる。…やっぱり風紀上ヨロシクナイことが行われていたらしい。
まあ今日は非番だし逮捕するのも馬鹿馬鹿しいので、とりあえず涼子のいる試着室へと戻った。
一枚目のカーテンを開けると、涼子が二枚目のカーテンをちらりと開けて私を手招いている。
「ねえ、ちょっと首ヒモがうまく結べないんだけど、泉田クン手伝ってくれない?」
モノトーンのハイビスカス柄の水着の胸元を押さえ、涼子が企むような笑みを浮かべている。
右手でカーテンを持ち、左手は見事に盛り上がった胸を際どいところで隠して私の反応を
観察するように見つめてくる。た、谷間がすっかり見えてるんですが、なんて指摘もできず
「て、店員を呼んできます!」
私はすっかりウロタエて叫び、上司に勢いよく背を向けていた。
「なんだ、結んでくれないの?ま、これぐらいが限界かしらね」
そこへ私の足元を小さい影が素早くすり抜けて、カーテンを勢いよく開け広げた。
「ママー!」
「うわっ」
涼子の悲鳴に思わず振り返ると、抑えた腕が水着と一緒にするりと滑り落ちて眩しい白肌が
いきなり目に飛び込んできた。あまりの刺激にチカチカと目が眩み、視神経が耐え切れず
瞬時に体をひねって通路の方に向きなおった。あと十秒遅れていたならば、白チョークで
人型の線がこの場に描かれる事態になっていたことであろう。
67 :
竜withお涼:2006/06/19(月) 11:37:14 ID:DrFT7JuN
「こ、こら!ちょっと待ちなさい!」
「うわーんママじゃないー!」
カーテン向こうの騒がしい気配が一段落して、ようやく落ち着いて振り向くことができた。
その子には見覚えがあった。さっき私をおじちゃんと呼んだ、あの元気な男の子だ。
「おや、滋くんじゃないか」
「おじちゃん!あのね、あのね、ママが戻ってこないの!」
一息に言って、また顔をぐしゃぐしゃにゆがめて盛大にえんえんと泣き出した。
「こら、レディーの着替えを覗いておいてゴメンナサイの一言もナシ?」
「この子は迷子なんですから、そんなこと言ってもしょうがないでしょうが」
涼子がことさらイジワルなのではないと思う。着替え最中に飛び込まれたのだから
当然の反応だろう。さすがに泣いている子に涼子もそれ以上言う気は無いらしく
私の方をちらりとみると、滋くんの前に膝をついてハンカチで顔を拭いてやり始めた。
けれども慰め方が涼子らしいというか、なんというか。
「ああ、ほら、もう泣かないの」
「ひいっく、ぐすっ、ううっ。ママが、ママがね、あのね」
「いいこと?泣いてるだけでママが戻ってきたら警察は要らないのよ!」
啖呵はピシリと決まったが、母親を恋うて泣く子にはまったくの逆効果であって、
せっかく止まりかけた涙がまた滋くんの両目から溢れはじめた。
「泣くんじゃないったら!男ならいい加減泣き止みなさいっ」
涼子が狼狽しているという珍しい事態を目の前にして、私も手をどうにも出しかねていると
優しい声が私たちの間に割って入ってきた。
68 :
竜withお涼:2006/06/19(月) 11:38:33 ID:DrFT7JuN
「滋くんじゃない?どうしたの、ママと会えなかったの?」
「お、お姉ちゃあん」
「だいじょうぶだいじょうぶ。ちょっとこっちに来てくれるかな?」
こっくりと肯いて滋くんが声の主のところに歩いていく。あれ、さっきの美少女じゃないか。
脇には爽やかな水玉模様の三角ビキニの水着を持ったハンサムが控えている。
なるほど彼女に良く似合いそうだなぁと感心しかけ、慌てて現実に立ち戻った。
「ママと会えなかったら、約束していたことがあるんじゃないのかな?」
滋くんは一生懸命頭を働かせているらしく、必死の表情でしばし考えていたが顔をパッと上げた。
「お店の人にきいて、まいごセンターで待っててって!」
「そう。ならママもきっとそこに来てくれるわよ。じゃあそこまで一緒に行こうか」
「うん!」
「お、偉いわね。さすが男の子だ」
すっかり泣き止んだ茂くんは片手を差し出した美少女と手をつないで通路を歩いて出て行った。
涼子はあとに残された格好となってペタリと床に座り込んでいる。私は表情を消すのに全神経を
かたむけていたが、涼子の後姿に目がいった瞬間噴き出しそうになった。首ヒモが……たて結び。
「っぶ」
急いで口元を手で覆ったが、異音はしっかり涼子の耳に届いていたようで視線の圧力が私にかかる。
「よくもあたしのことを笑ったわね」
「違いますよ、かわいいところもあるんだなと思いまして」
「そんなセリフに誤魔化されるもんか!なにさっ!」
泣く子よりも怒れる涼子のほうが宥めるのによほど手がかかる。私は大きく溜息を吐き出した。
69 :
竜withお涼:2006/06/19(月) 11:41:31 ID:DrFT7JuN
そして今、デパート内のカフェに座る私の膝上には水着が入った袋が置かれている。
結局、笑ったことについての誤解はとけず「私の水着姿を笑ったからには泉田君だって」
という訳の分からないリクツでもって私も男性用水着を購入するハメになってしまったのである。
競泳選手のようなきわどいビキニは試着こそさせられたものの、そこはなんとか勘弁してもらって
洒落た柄のトランクス型の水着に無事落ち着いたのだった。
おや、またさっきの美少女だ。ハンサムと一緒にテーブル一つ置いた隣に仲良く座っている。
どうやら滋くんは迷子センターにちゃんと連れて行ってもらえたようである。
迷子を知らせるアナウンスが繰り返される。
「〜〜市からお越しの山崎朋子様、滋くんが迷子センターにてお母さんをお待ちしております」
涼子がBLTサンドを片付けながらコーヒーが満たされたカップを手にとって言う。
「これなら警察が出るまでもないわね」
「ええ、すぐに迎えに来てもらえるでしょう」
「これなかなかいけるわよ。お皿交換しようか」
「そう言うけど、要はこっちのケーキが気になるんだろう」
「へへ、お見通しね」
ああ、女の子がカフェで食べるのってああいうケーキだよなあ。飲み物は紅茶で。
私と同じ包みが椅子にかかっているのを見ると、あちらも水着を買上げ済みのようである。
「あちらは青春って感じですね」
「あら、泉田君の春はまだこれからよ。私にくっ付いてさえいればね」
手についたパンくずを払いながら涼子がニッコリと私に笑いかけてくるが、うっかり頷いたら
俺たちに明日はないどころか一寸先は生死不明ぐらいの激しい青春になること疑いない。
「私の青春は20代で終りましたからもう結構です」
「そんなに早く枯れてどうすんの。人生これからが長いのよ泉田君!」
涼子がやけに真剣な目で見つめ、私の手を握り力強く励ましてきた。
「はあ」
「もう、しっかりおし!これから買い物後半戦行くんだから」
「またですか」
部下である私はそれ以上の不平は言えず、しぶしぶ席を立ち涼子の後を付いて行った。
70 :
竜withお涼:2006/06/19(月) 15:18:24 ID:DrFT7JuN
「ねえ始さん。あの子のアナウンスもう三回も流れたわ。お母さんまだ帰ってこないのかしら」
「ん?ああ」
「もーう、そこまで気になるんだったら買っちゃえばいいのに」
「そうしたいのは山々なんだが、この本専門書だから値が張るんだよなあ。終からは小遣いの
値上げをせびられているし、うーん」
「もうボーナスも近いんだし思い切ったら、どう?」
「よし、買うぞ。ちょっと行ってくる」
結局背中を押してもらいたかったのね、とレジに向かう始の広い背中を見ながら茉理は苦笑した。
それにしても気になるのはあの子の様子。あれから一時間以上経っている。いくらなんでも遅い。
迷子センターに送り届けたのだからそれ以上関わる必要もないのだけれど、励ますぐらいは
してあげてもいいのではないか。信頼を全部あずけるようにして自分の手をきゅっと握ってきた
小さく柔らかい手の感覚を茉理は思い出していた。
はたして迷子センターには滋が小さな椅子に腰掛けて、戦隊モノの絵本を読んでいた。
彼の横ではいままさに迎えに来た母親と女の子が抱き合って安心の嬉し涙を流している。
羨ましそうにその様子をちらりちらりと横目で見る我慢強さを見て、茉理は胸が詰まった。
「滋くん!」
「おねえちゃん!」
一人ぼっちでいたところに見知った顔を見つけた嬉しさで滋の顔が輝く。
係りの人にこれまでのいきさつを尋ねると、持っていた迷子札の携帯番号に何度もかけたが
いっこうに繋がらないのだという。
「このデパートは地下もふくめ全館通話可能なのですが…呼び出し音が鳴るだけなんです」
最後に携帯にかけたのは10分前と聞いて、じゃあもう一度掛けてみようという話になった。
71 :
竜withお涼:2006/06/19(月) 15:21:17 ID:DrFT7JuN
プ、プ、と音がして呼び出し音が鳴り始める。今回もダメなのかしら、と思ったその時
女性の声が通話口から流れ出した。急いで受話器を滋に渡し、会話するのを横で見ていた。
「どう?お母さんとお話できた?」
尋ねる茉理に滋は首を縦に振ったが、フクザツな表情をしている。
「今駐車場に居て、用事があるからまだいけないわって」
「なら、こっちからお母さんを迎えにいったらいいじゃないか」
「そうよ、そうしましょうよ滋くん」
茉理と始は滋の手を両側から握り係員に軽く挨拶をし、エレベータで地下駐車場に降りていった。
「すぐお母さんに会えると思うよ、滋くん」
「ありがとう、お兄ちゃん。…でもね、おかしいんだ」
「なんだい?」
「いつもここにはママと電車で来てるんだ。車で来たことなんて一度もないよ。
それにママは車のめんきょ持っていないのに、どうして駐車場なんだろう。へんだよ」
始は茉理と顔を見合わせた。たしかに滋の言うとおり、不自然な話である。
何度もかけても繋がらなかった携帯電話、そしてわが子を迎えにいけないという母親の言葉。
「ちょっと気をつけたほうが良さそうだな、茉理ちゃん」
「…ええ」
階数表示は1を通り過ぎBへと進み、地下3階を示したところでベルの音をさせて停止した。
握っている小さい手が汗ばんでいる。この子なりに緊張しているのか、茉理は安心させるように
その手をもう一度優しく握り直した。
wktkwktk
73 :
竜withお涼:2006/06/19(月) 16:49:27 ID:DrFT7JuN
「これで全部積みおわりましたよ」
「ご苦労。じゃあ今度はあたしの部屋に運ぶまで付き合うのよ」
「はいはい」
ご自慢のジャガーの後部座席に合計12個もの荷物を入れ込んで安堵したのもつかの間、
上司はまだまだ私を解放する気はないらしい。ああもう休みがこれで終わってしまう。
涼子が運転席のドアを開け、ミニタイトから伸びた脚を車内に入れかけたところに
男女の言い争う声が地下駐車場に響いた。
「あら痴話喧嘩。さっきの迷子といい、今日は腕が鳴るような事件が起きないわねえ」
「そうそう非番のたびに事件があってたまりますか。…おや」
声がする方角と反対側のエレベーターから出てきたのは、見覚えのある三人だった。
涼子も私の視線につられて向こうを見やる。争う声はますます激しさを増していく。
「このまま放っておいては事件になりかねないわね。よし出動!!」
言いながらすでに走り出した警視どのを追って騒ぎの元へ駆けつけると、若い男が
若奥様風の楚々とした女性を羽交い絞めにしているところであった。
「なんで俺を呼んでくれなくなっちまったんだよ!!」
「頼んでもないんですから当たり前でしょう?離してください!子供が待っているんです」
かなり切羽詰った雰囲気のところに涼子が一刀両断切り込んだ。
「その手を離しなさい!警察よ!婦女暴行の現行犯で逮捕する!」
「な、なんだお前らは」
いきなり現れた美女の迫力に男がいささかひるんでいると、子供の声がそこにかぶさった。
「あ!たくはいびんのお兄ちゃんだ!こんなところで何してるんだ!ママから手を放せ!」
「うるっせえ!俺は朋子さんとちゃんと話し合いたいだけなんだ」
「あなたと話すことなんて最初から何もありません!滋!!」
74 :
竜withお涼:2006/06/19(月) 16:51:45 ID:DrFT7JuN
なんにせよ相手が嫌がっているのは誰の目にも明らかだ。涼子にいたっては男の態度に戦闘意欲が
そそられたらしく、男の恫喝に一ミクロンも動じずさらに前に進み出た。
「そんな風にシツコイから惚れた女にも嫌われるのよ。いい加減それに気付かないの?
ああ分からないから、そういうゴーインな手段に走れるのよね」
「るっせえ!お前に俺の純愛が分かるかよ!」
「ええ、ええ、惨めに相手に縋って愛情を無理強いする気持ちなんて分かりたくもないわ!
いったいそれのどこが純愛よ?そういうのはね、ストーカーっていうのよ!さっさと自覚おしっ!」
「場を収めるどころか火災現場にガソリン注いでどうするんですか!!」
「あの、あなたがたはいったい…?」
突然の闖入者に目を丸くさせているカップルと滋くんに自分たちが刑事であることを告げた。
「ずいぶん派手な刑事さんもいるんですね」
本屋の包装紙を手にしたハンサムに半ば感心したように言われ、私は恐縮していた。
「ええと、あれは唯一の例外です、警察全体を誤解なきようお願いします」
「ええいお前ら、黙れ!朋子さんと話が出来ないだろ!」
「話ならもう終ってるって相手に言われてるでしょ!これ以上ブザマを晒すのはお止し!」
「黙れ!この女、その生意気な口を閉じろ…これが目に入らないかっ!」
蛍光灯にかざされたナイフの刃が鋭く光る。
「おい、車を出せ」
ナイフのきらめきを見せ付けながら後部ドアを開け、母親の首に腕をからめて乗り込もうとする。
私たちを威嚇するようにエンジンが空ぶかしの音を立てる。
「行かせないぞ!ママ!」
美少女と繋いでいた手を振りほどき、滋くんが車の前に飛び出して両手を大きく広げた。
誰もが目をそちらに向けた瞬間、美少女の脚が鋭く上がり、ドアを思いっきり蹴飛ばしていた。
ドアと車体とに腕を思いっきり挟まれ、苦痛の悲鳴を上げて男がナイフを取り落とす。
手を押さえて呻いている間に続けざまに足が上がる。股間を押さえて前のめりに沈んだ男を尻目に
「こっちへ!」
美少女が今度が腕を伸ばして母親の手をとり安全圏へと引き寄せた。
「ひゅーぅ、やるわねあのお嬢さん」
涼子が軽く口笛を吹いて賞賛する。
いいなぁ、なんか四人ともかわいいよ
wktkです
76 :
竜withお涼:2006/06/19(月) 16:55:08 ID:DrFT7JuN
「五月蝿いガキめ、轢き殺してやる!」と運転席から声がして、タイヤが軋みをあげて急発進する。
危ない!の“あ”を言いかけた私の口がそのまま開きっぱなしになった。
あのハンサムが車体後部をなんなく持ち上げていて、後輪が煙をあげて空中で高速回転している。
「おわふひゃああああ」車内から奇妙な叫び声が聞こえてくる。
「早くあの子を!」
涼子に言われるまでもなく私は車の前に飛び出し、滋くんを脇に抱えて飛び退っていた。
それを見たハンサムは車を下に落とした。高性能のエンジンの動力を存分に発揮して車は
全速力で発進し、狭い駐車場ではそれがアダとなってかなりの速度でコンクリートの柱に激突し
派手な音とともに車がへしゃげた。運転席の男はエアバッグで身動きできなくなっている。
「婦女誘拐、轢き逃げ未遂で二人とも逮捕!潔くお縄につきなさいっ!」
音吐朗々と言い切った声にパチパチと三人から拍手が贈られている。カッコいい!と滋くん。
あああ。片手をあげて優雅に応えている涼子を見て私は少々気恥ずかしい思いでいた。
車が衝突した音で警備員が駆け寄ってきたところに事情を説明して、あのストーカー逮捕に
協力してくれた二人にも同行をお願いしたが
「えーその、ちょっと現場に偶然居合わせただけですから。な、茉理ちゃん」
「ええ、そうです。あ、ほら始さん映画の最終上映時間になっちゃうわ!急ぎましょう」
「それでは!茂くん、良かったな」
行ってしまった。それにしてもアレは火事場の馬鹿力では説明ができない…よな?
「引き止めるのはよしましょう。きっと言えない事情があるのよ。わざわざ正体を暴くことないわ」
「…またあの番組を見てたんですね」
母親と会えたのと、無事助け出せた安心とで泣き出した滋くんと抱き合っているところに
「すみませんが、調書を取らせていただきたいのでもうしばらくお願いします」
気丈にも涙を拭いて、母親、朋子さんは滋くんの手を引いて立ち上がっていた。
77 :
竜withお涼:2006/06/19(月) 16:56:29 ID:DrFT7JuN
デパートの警備員室を間借りして、パトカーを待つ間にあの男とのいきさつを聞いた。
「滋がまだ小さくて出歩けなかったときによく利用していた食品会社の配達の人なんです。
玄関先でお話しするだけで、それ以上のことはありませんでした。それなのに…」
「朋子!滋!」
大きな人影が騒々しく警備員室に飛び込んできて、椅子に座る二人を抱きしめていた。
「あなた?!会社はもういいの?」
「そんなの放り出してこっちにきたさ。パパとママとの間の非常ベルがここに届いたからな」
兼智と名乗った滋くんの父親はそう言ってご自分の胸をトンと叩いてみせた。
「パパ、またそんな恥ずかしいこと言って…」
「何が恥ずかしいもんか。お前たちの命以上に大事なものなんてどこにもない!」
安心したようにご主人の肩に顔を伏せる奥さんの目から涙が零れ落ちた。
「せっかく家族でデパートという普通の日常を満喫していたのに会社に呼びつけられて。
こればかりはサラリーマンの身の上を恨んでしまいますよ。こんなことにならなかったら
上の食堂で夕飯食べて帰ろうと思っていたんだがなあ。茂も、お子様ランチ食べたかったよな」
「もうぼくそんな子供っぽいの食べないよ」
兼智さんはいささかショックを受けた顔をされてあの旗がいいのに…とぼやいておられる。
「とにかく、みんなが無事に会えて本当に良かったな、滋くん」
鼻をまだ赤くさせたまま、滋くんはこっくりとうなずいた。
78 :
竜withお涼:2006/06/19(月) 16:57:40 ID:DrFT7JuN
外はすっかり暗くなって、滋くんは両親に挟まれてパトカーに乗り込んでいった。
「お姉ちゃん!ぼくが大きくなったらお嫁さんにしてあげる!」
「ごめんなさいね。もうお姉ちゃんにはこの人がいるから」
ええ?と心の中で思いっきり叫んでいたが、腕はするりと涼子に抱え込まれていた。
「ちぇー残念!あっちのお姉ちゃんにもさっき断られちゃったんだ。じゃあねえ!」
元気に手を振る滋くん一家を乗せたパトカーは最寄の警察署へと走り去っていった。
「なに、それ」
口を尖らせる涼子の表情にくっくと笑いながら
「まだ私がここにいるじゃないですか」
おや、と眉を上げて涼子の視線が私の顔を撫で回した。
「ちょっとは進化したこと言える様になったじゃないの。でもまだ陸に上がったばかりの
サンショウウオね。早く人並みになりなさい」
哺乳類ばなれした人に両生類扱いされてしまった。
建物の外から再びデパートの中に戻って地下の食品売り場を通りがかった。
「このデパートにはワインセラーまであるんですね」
「分かった。じゃあ一本買ってあたしの家で飲みましょ。チーズも付けてね」
そういうつもりでは無かったと言いかけたが、少し考えてそれを押しとどめた。
「違うの?」
「ワイン一本荷物が増えるぐらい、どうってことないですよ」
「うむ、よろしい。彼らを見習う気になったようね。感心感心」
かくして手当てが付かない超過勤務がさらに数時間、延びたのであった。
終わり。
よし、終われた終われた。
サーバーが壊れたようで大規模な障害発生したそうなんですが
書き込むが消えることなくて一安心。
変なとこで割り込んじゃってすみません…
GJですた!
滋くんいいなぁ。あっちのお姉ちゃんに言ったときも見てみたかったです
乙華麗、ありがとう!
この速さでこのクオリティ? まさに神業じゃないか!
素晴らしいものをありがとうございました!
大体のところはもう言われちゃってるけどw
とにかくGJでした、素晴らし過ぎです!!
また是非お願いします!!
是非いっちょエロいのもおながい
GJ!素晴らしい!
さらに、WKTKして待ってた甲斐がありました。
原作の雰囲気を少しも損なわず、素晴らしい作品ですな〜。
まさに良作と呼ぶしかありません。
また、次の作品も期待しています。
身もだえしながら読みましたwww
上手いこと言えなくて、
我ながらもどかしいよ。
GJ!GJ!!GJ!!!
またよろしくお願いします。
個人的に特に笑ったところ。
>たて結び
>あの番組
>あの旗がいいのに…
ちょい役までキャラ立ち過ぎだw
是非またお願いします。
超GJ!!! あんた神だ!
お涼が可愛いし泉田が不幸だし始と茉理は初々しいしw
ところで脇キャラの滋くん一家って元作品何?
無知で申し訳ない。
作者です。
あの一家の元ネタはあります。ガイエではなく太田忠司氏の読み切り
「3LDK要塞山崎家」から勝手に引っ張ったご一家なり。
ブクオフなどで見掛けたら手にしてみてくだされ。
ややオールドオタクには楽しめる内容と思いますよ。
そっちにも元ネタあったのか!!
太田作品はちょくちょく読んでるけどそれは読んでないので探してみよっと。
90 :
名無しさん@ピンキー:2006/06/21(水) 00:55:17 ID:26vmtCNR
,/ ヽ
/ ,,、-〜_二二,」
,i゙ 〈K) _,、-''"´ ゙ヽ、
|ー〜ヽ、 _,、 ,,、-'" , ,; j'ト、 ヾ;.i ヾ;)
゙ト、__,ニ-ァ"/ ,イ,ク グハハNハ リ i, ソ
/';';';';' ,ノ,ノノイ∠幺ダ 'ェェ=キレ|l;, ;レ゙
| ;;;'' ='イ ''"'〒テ~`' .i 'Tフ` ,!''ソ
ヽ、 ;;''イ `¨´ !: | ト こんばんは。新スレに移行したのでご挨拶に来た
ネ ;;'' ヒ , _. 〉 ,|イ,リ 伊達と酔狂で新スレ建ててチンコも勃てるユリアンです。
| ;;い ,i゙,ナ゙ 【自衛隊のヤン・ウェンリー】
ヾミ iト、 ー''二 ̄ ./ツ
http://society3.2ch.net/test/read.cgi/jsdf/1150468063/ )ぃ,l リ ヽ、 /ト-:、
,, -'^;;ゝ|ヽ `''ー、___,,ノ_」'''ァ ゙i,
.|.n '';;;〈 >'"~>''"ニ=F".:::::,ノ'!:!_
_,、-| |:゙i, ;;l゙Y゙ r'ア{ . |,ィ'|.|:::::::l;_ノ:::::::::`ー
| |::::゙i::|`! ゙( | | リ::::::::::::::::::::::::::::
あっちのお姉ちゃんver.も書きましょう!お待ちあれ。
>>91 待つ待つ! wktkして待つので4649!!
同じくwktk。
本っ当名作が続くなw
えええっ
いいの?
いいの?
すごく嬉しいーーー
wktktktk
…ぃよっしゃあ〜!!
お待ちしてます。wktkです。ありがとうです!
96 :
名無しさん@ピンキー:2006/06/21(水) 19:57:56 ID:smoOkfVf
金曜日にお涼さんの新刊コミックでるぜ!
97 :
名無しさん@ピンキー:2006/06/21(水) 20:29:30 ID:U1qUocMR
ああ、山崎家だったのか。
本編だと息子は生意気だから、素直なころもあったんだなぁとしみじみ思った。
ありがとう!
すごくwktkしてるよ!!
二組とも水着を購入したから
遊びに行っちゃったりするんだろうなww
そうなるとポロリだよな
スミマセン
はしゃぎ過ぎました・・・orz
お待ちしております。
99 :
名無しさん@ピンキー:2006/06/22(木) 00:03:00 ID:26vmtCNR
/ . : : : ::::::::::::::::::::::::::::::::::ミヽ::::ゞ、
i ; ; ;;;;;;;;;::::::::::::::::::::::::::::::::::::lリゞ;;:::ゞ
/;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ノイ,/;;;;/::;;〃i/いリ;;;;;;:::::`、
/;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ノノ,/;;;;/ノ;;/;ノノハノハw;;;:::::';
!;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ノ,ノノイノハノノノイノヽ、ノハ;;;::::!
l;;;;;;;;r'ヽ;;;;! -─ノノ-ノ '´─-ヽ;;:;:;:::/ カイザー・ラインハルトと同じく
ハ;;;;;!リ〉リ' r-rェァ'` ,rェッ !;;;;:ソ 嫁さんが筆おろしだった。
,リ;;;;;;), ヽ l /;:ノ ミラクル・ヤンが、童貞元帥だったなんて
,/)ぃ,l:リ l ,_」 / 後世の歴史家は、なんて言うだろうか?
_,.、-‐! ヾ:!、Y ___ /`ー -、_
_,.、-‐' ̄''ー- 、 l \ ヽ ー /`ー-、_ i`ヽ、_
``ヽ、_,.、-ー-‐'ヾ 〔《l \ \ / \ `ー-,l ';
ヽ、 ヽ r'、 `ー‐',i ,r-‐'゙} l! !
.ヽ、 `、 /.、 \ / 〉\/ / ,}
ヽ ゙l、 ヽ/、;:;:;:゙:、 \_/_,.r' / / ク
`''‐-:、,_ ^:、 ! `ー、;;ヽ、,.ィ':;/ i / イr'゙ \
``''‐-:゙i ,| `!;:;:;:;:〉 ___{_/ィレ'゙ _,.、‐':
ー─- 、___ミi、 ,}:;:;:/,-‐'" ̄ヽ、ヽ ヽ、 ̄ヽ、 \
`ヽ、 _,,..、-一''" ゙i `l `ヽ,.ー-ヽ、
_,.、-‐'" | | ,ノー-、, ヽ
_,、-'"/ | イ'r
30過ぎまで童貞だった私が、新スレを立てたので、挨拶にやってまいりました。
【自衛隊のヤン・ウェンリー】
http://society3.2ch.net/test/read.cgi/jsdf/1150468063/
筆おろし一回で終わったカイザーよりよっぽどマシですよ提督
じゃじゃ丸!ピッコロ!ポ〜ロリっ!!
………すみません、ふざけすぎました…orz
ポロリというと以前投下された始茉理の横浜デートに萌えたなぁ…
あのラブコメ感がすごく可愛いよね
滋が茂に。誤字くらいチェックしろや。
103 :
名無しさん@ピンキー:2006/06/22(木) 02:32:08 ID:Hh5dOqtn
童貞で銀河帝国皇帝に上り詰めたというのは凄いのか・・・?
ラインハルトの難易度
せっくす>銀河制覇
>>102 はい、一気に書き上げてのぼせたまま投下してしまいました。スミマセン
今度は大丈夫。
シートに座る始と茉理の目の前をエンドロールが流れ、ホールは明るさを増していく。
「…うーん」
「原作を読んでいないと伏線が分かりづらいというのは、どうもなあ」
入り口で買っておいたパンフレットを丸めながら小声で感想を言い合った。
最終上映とあって、早々と席を立つ人たちで通路はかなりの混雑を呈している。
その波が引くタイミングを見計らって、ホールの重い扉を開け二人で外に出た。
関連グッズが山と積まれた売店を通り過ぎ、公開予定の映画パンフレットを物色する。
「ハリウッド超大作!」やら「構想20年」やら「総制作費数億ドル」やら、やたら
仰々しい文字が踊る米国産映画のものがラックのかなりの部分を占領しているが、
邦画もその中にあってなかなかの健闘ぶりを見せている。
「最近は邦画も盛りかえしてきているっていうが、どんなものかな」
「ふんふん、大災害に、悲恋モノに、へえー警察アクションですって」
「ああ、都知事が施策よりよほど力を入れてアピールしてるっていうアレの成果かな。
煩雑な撮影許可をスムーズにとかいうけれど、ノーヘルで刑事がバイク乗るシーン、
アレは問題にしなくていいものなのかな」
「あれは横浜のオハナシよ、始さん」
などと世間話をしながら、興味を引かれた二人はパンフレットを一枚抜き取った。
――これから彼が見るのはバラ色の未来か極彩色の悪夢か。
ここは六本木。天才科学者は遺伝子工学で偉大なる成果を手に収めていた。
学会の発表まであと一日。彼の頭脳を狙って暗躍する穀物メジャー。
発明を闇に葬らんと次々に襲い来る危険に立ち向かうのは我が日本警察!
さまざまな困難が襲いくる中、芽生えるロマンス!そこへ伸びる新たなる魔手?!
「…まあ一応押さえておくか」
「下二人が喜びそうな感じの内容だけど…あら、R-21なんだわ」
外に出るとムッとした暑さと湿気が体に纏わりついてくる。この時期を乗り越えれば夏だ。
「遅くなったけど、夕飯に行こうか」
「今日はイタリアンがいいな。パリパリに焼けた皮にモツァレラチーズが溶けてるの!」
走る車のテールランプが赤く滲んで見えるほどの空気の中、肩を並べレストランへ向かう。
カンパリソーダとビールで乾杯をして、渇いた喉に一気に流し込んだ。
空になったグラスをテーブルに置き、二杯目を頼もうとした始に茉理が呼びかける。
「は、じ、め、さん」
「ん?」
「他の男性(ひと)からされたプロポーズ、断ってくれてありがとう」
一瞬考えたのち、始は破顔した。
「なんだ、そのことか。うん、彼の年がもっと上、二十歳ぐらいだったら負けてたかもな」
そう言うが、照れの気持ちからきているものだと判っている茉理はくすくす笑うのみである。
今日デパートで出会った山崎滋くん、五歳。気の毒にも迷子になってしまった彼を
水着売り場で見つけて、迷子センターに連れて行く途中の出来事だった。
フレッシュジュースを買ってあげ、三人で椅子に座って新鮮な果汁を味わっていた。
おいしいねと滋は笑って、茉理も微笑んだ。滋の顔に雷に打たれたような衝撃が走る。
しばらく茉理の顔を見つめ、そして彼は堂々申しこんだ。
「ぼくが大きくなったらお嫁さんになってくれない?」
言われた茉理はもちろん、ライバル宣言された始も最初は子供の言う事と微笑ましくみていたが
滋の目があまりにも真剣なのと、茉理の手を両手で奉げるように大事に握るのを見るにつけ
ややあらたまった態度になった。真っ直ぐな気持ちをぶつけられて茉理は嬉しかったが
このプロポーズをどうやって断ればいいのか正直困っていた。なにしろ人生初のことなので。
「ごめんなさい」
それから先の言葉が見つからず、茉理は気持ちを込めて滋の目を見つめることしか出来ない。
「悪いな、滋くん。もうこの人は相手が決まっているんだよ」
「それって、誰?」
茉理は自分の肩に始の手が回されるのを感じて頬が熱くなった。
「そういうことなの。ごめんね」
滋はすぐに引き下がらなかった。しばらく茉理の手を握ったままだったが、茉理の顔が赤いのは
自分ではなく始のせいなのだとようやく納得したようだった。
「そっか…ざんねん」
「うん。でもね、プロポーズしてくれて嬉しかったのは、本当よ」
「いいよ、もう。幸せになってね。お兄ちゃん、お願いだよ!」
「ああ、もちろん」
子供相手だからこそ、始は真面目に請け負った。茉理はそんな始を誇らしく思った。
「あの、すぐそこだからもういいよ。まいご札もあるし」
傷心の気持ちを隠しきれず、そっけない態度に出てしまう滋のプライドを尊重して、
二人はそこで見送ることにした。――結局またすぐに再会したのだったが。
「バイバイ、元気でね」
「それにしても滋くんは災難だったわね。まさかお母さんがストーカーに捕まってたなんて」
「刑事さんがすぐ側についていたから、あれから無事に家に帰れただろう。大丈夫さ」
テーブルの向こうに座る始の目が優しくなって、茉理の体は熱くなる。カンパリの酔いではない。
いつまでたってもこの動悸には慣れないわ。茉理は騒ぐ胸の手綱をなんとか引き締めて
けれども優雅にエスプレッソのカップを傾けることに神経を集中させていた。
始の方がすこし多めに会計を済ませ、また肩を並べて帰途につく。
茉理の横顔を眺めてるうちに、滋のプロポーズのことを始は思い出していた。
「突然現れるライバルに持ってかれないよう、手を打たないとな」
「どうやって?」
歩道橋の上、わずかに吹く夜風が茉理の髪の毛を揺らす。
「例えば、こういう風に」
手を伸ばして茉理の頬に手を添えて上向かせた。茉理の瞳が一瞬艶めいて、閉じる。
歩道橋の下を流麗なボディーのジャガーが通り過ぎていく。
「青春って感じですよねえ」
「…羨ましがる前に実践しなさいってぇの」
「誰相手にですか?」
「ゼッタイ教えてやらない!!!」
〜終〜
巣箱の方、収容するときは「滋」統一でオネガイシマス。
深夜にキター!待ってました!
さりげなく登場するお涼達に受けたw 超GJ!!!
ぐっじょぶー!!
茉理、カワエエヨ〜
兄貴、やれば出来るじゃないか!
その調子でガンガレ、イケイケ、ヤッチマエw
あ〜やっぱこの2カプ好きだな。
わがまま聞いてくれてありがとう、乙華麗でした!
112 :
38:2006/06/22(木) 06:35:16 ID:LNiAVqqt
これまでは普通に名無しで感想書いてたんですが。
今回だけ。
まさかまさか、自分の愚痴(?)がキッカケになって
こんな素晴らしい作品が生み出されることになるとはー!!
いやもう萌えの嵐で嬉しいやら楽しいやらニヤけっ放しでございますw
幸せです。
本当にありがとうございました。
あの、またアイデア浮かびましたら是非…
それでは名無しに戻りますー。
GJ!!!
爽やかなデートですな
小さな子供にも誠実に答える二人に萌えww
そして、なにげに不憫なお涼にワラタ
大量投下に多謝
GJ!
都知事への皮肉まで混ぜる忠実さに脱帽しました!
オチも良かったです。
115 :
名無しさん@ピンキー:2006/06/23(金) 12:10:52 ID:APpko0x+
いや、本当によかったです!
都知事への皮肉がイイ!!!
ははは。都知事うんぬんは、都知事ネタに拘るガイエこそをネタにしたもので
他に意図はありません。深くつっこんで書く気も起こりませぬ。
次の話はぽちぽちまた考えますー。
117 :
♯紀子:2006/06/24(土) 16:12:16 ID:uZQIhkdO
「泉田君」て結婚しても言うの?
それならマリちゃんこと阿部真理夫と「呂芳春」こと貝塚さとみ巡査の話が良いな。
118 :
名無しさん@ピンキー:2006/06/25(日) 05:39:48 ID:YeWphhle
エカテリーナは後宮をつくるにあたって、納める男の人選は「お手つき
男」にさせたが、涼子もハーレムをつくるときは、泉田に選考委員をさせるのかな?
「薬師寺涼子さまハーレム入宮説明会」→「ハーレム要員選抜会」→「入宮式」
→「研修」→そのあとがこわいー!
もーまたか。いい加減にしろ!
しかもageてるし。そこまで涼子をエカテリーナにしたいのか、ああそうなのか!
じゃあ書いてやろうじゃないか、ああん?だからテメエは表に出ずにすっこんでろ!
このスレを恥ずかしいレスでさらしageるんじゃねえっ!
…数日待っててね〜(ハァト
ツンデレ風味。
ワロタw
楽しみにしてます。
ツンデレ風味w
楽しみに待ってます。
――××小学校 △年度 卒業文集より抜粋
私の尊敬する人
私の家には図書室があります。学校の図書室と同じぐらいの広さです。
父は私が小さいときから本を読み聞かせてくれたとお手伝いさんが教えてくれました。
「本はいいぞ、人は一つの人生を一度しか送れないけれど、本の中に飛び込めば
違った人生を何度でも体験できるからな」そんなことをこの間、私に言いました。
そういう父は、一度の人生を何人分も送っています。お手伝いさんの噂を聞きました。
今は独身だから何の問題はないと姉が言うので、私も心配していません。
夕食から寝るまでの間が私の読書の時間です。外国語はまだ読めないけれど、
外国の本は絵がとてもきれいで、ずっと見ていても飽きません。
日本の妖怪は、破れた傘とか足が無いとか地味なものばかりなのに、外国の人が
考えた怪物の格好はどれも変てこで不気味で、そこがおもしろいと思います。
世界の色んな偉い人のことが書かれた本もたくさん読みました。一番好きな人は
現在のソ連を治めていた、エカテリーナ女帝という女の人です。大帝という肩書きで
呼ばれるのはソ連の歴史の中でたった二人だけで、それだけ特別な人なんだそうです。
なぜ好きなのかというと、格好いいからです。日本の政治家はおじいさんばかりなのに
エカテリーナ女帝はそれよりずっと若い、33才の時に国の頂点に立っていたのです。
まだ日本が鎖国していた時代に、地球を半分するほど広い国の女王様になったなんて
本当に尊敬してしまいます。私も彼女を見習って、日本の一番を目指そうと思います。
いったいどれだけの時間、狐に包まれ、違う、つままれた表情をしていたのだろう。
目の前の和服美人が、わずかに分かる程度に優美に眉をひそめたのを見て私は
あわてて表情を引き締めた。
「せっかくのご招待ですが、私には必要ありません」
「そうでしょうか?いえ、こういうことを申し上げるのも差し出がましいかと
思うのですが、お顔の色がすぐれないように見えてましてよ」
それはあなたの妹君のオカゲです、と言える筈もなく、どう反応すればいいのか
困りつつ、差し出された封筒をそのまま絹子さんに押し返した。
まったく、本来なら涼子の執務室にそのまま案内すればそれで済むことなのに
何故か絹子さんを忌避する涼子は「仕事中につき多忙」の一点張りで部屋から
出ようとせず、仕方なく私がメッセンジャー役を引き受けたのだった。
撫子色の着物を楚々と着こなした、このハイカラな和風美女のいったいどこに
ドラよけお涼が慄くほどの禁忌が在るのだろう。
「泉田さん、本当に妹がご苦労をおかけしているようで、ごめんなさい」
なんていい女性なんだろうか。
じーんと胸を震わせ感激していると絹子さんが書類らしきものが入った紙袋を
涼子に、と手渡してきた。これに目を通しておいてちょうだいとの伝言付きで。
「もう帰った?」
「これを、言付かってきました」
一気にゲンナリした顔になって涼子が私の手から紙袋をいきなり奪いとり
中身も見ずにゴミ箱へ全部放り込んだ。パンパンと手を払い、お見事な脚線美で
げしげしと上からさらに念入りに踏みつける。
あまりのことに呆気に取られていたが、さすがに絹子さんが気の毒に思えて
へしゃげたそれらをゴミ箱から救い出した。
「要らないって何度も念押ししてるのに、まだ諦めてないんだからっ!」
私の手から再度奪い取って床に払い落とすが、その拍子にぱらりと紙がめくれて
これぞ見合いという写真が、元はハンサムであったろう笑顔でイビツに微笑んでいた。
(なるほどね…)
ゴミ箱に戻すついでにそれとなくチェックしてみると日本人だけでなく金髪碧眼やら
アラブ系の精悍な顔立ちやら、バラエティに富んではいるが皆見事な美形ばかりだった。
だった、というのは涼子が踏みつけたせいである。気の毒に眉間に穴が開いた男もいた。
「鎌倉の実家に帰りたがらないのは、コレなんですか?」
「違う!けど違わない!」
どっちなんだ。
「おキヌが待ち構えていると分かってて、すんなり実家に帰れるもんか!」
どうやら涼子が恐れているのはお見合いの話ではなく、絹子さんご本人のことらしい。
「あーもう!おもしろくないっ!真面目に書類片付けようかと思ったけど中止よ中止!」
人のかたちをした活火山が盛んに噴煙をあげているのを見て、飛んでくる火の粉から
身を守ろうと後ろ向きに方向転換しかけ…一瞬遅かった。涼子の手が私の肩にかかる。
「ちょっと泉田クン。今晩すこーしあたしの気晴らしに付き合いなさい」
「…はい」
毎度のこととはいえ、私の苦労を誰か察してほしいものだ。
またしても名作のよかーん!!
続き、wktkでお待ち申し上げております。
翌朝、私は頭に鈍痛を抱え、胃のむかつきを手で押さえながら苦労して起き上がった。
ずいぶんと久しぶりのこの感覚は、あれだ。二日酔い。
それにしても酒に弱くなったものだ、と己を不甲斐なく思いつつ洗面所の鏡を見た。
「うわっ」
酒に弱くなったんじゃなくって歳食って酒の分解能力が衰えたせいなのか。
それほど目の前の男は精気の無いくすんだ顔色で、つやの無いかさついた肌をしていた。
(やっぱり、このご好意に乗ってしまおうかなあ)
口に歯ブラシを突っ込んだまま机の上の封筒に目をやった。絹子さんに返したと
思っていたのに、いつの間にやら私のスーツのポケットに差し込まれていたそれ。
中を開けると「メンズエステ体験チケット」と書いてある。
いわゆる桃色のアレではないことは、流行遅れの私でも区別はついている。
エステといえば女性だけの物のようだが、最近はオヤジ臭さを脱するためとか、
取引先に好印象を与える身だしなみとして男性向けのエステがあるのだそうだ。
たまに買う週刊誌から仕入れた知識だが、だいたいこんなもので正解だろう。
「ふむ、いきなり行ってもダメなんだな」
チケットには予約の電話を入れること、とただし書きがある。気にはなるものの
そこまではまだ敷居が高く思え、一時保留することにした。
熱いシャワーを浴び髭もあたってこれで良しとしたが、さすがワインフルボトル、
しっかり体の芯に澱が居座っていたようで、見舞いの声を早速かけられてしまった。
「ずいぶんとお疲れのようね、泉田警部補」
「いえあの、自己管理不行き届きなだけで。お気遣いは無用です」
「内省せずともいいわ、泉田警部補。あなたの場合、原因は外側にあるのだから」
天敵同士にもかかわらず学生時代からの付き合いだからか、すっかりお見通しである。
由紀子は哀れんだように私を見、肩に掛けた鞄から小さなパッケージを取り出した。
「干し梅。含まれているクエン酸は二日酔いに効果あるわ。水分も取りなさいね」
怜悧な秀才官僚の口から出る“おばあちゃんの知恵”。その微笑ましいギャップと
優しく気遣いされたありがたさに、心的ストレスは体内から速やかに消えていった。
「スポーツドリンクとか、ほうじ茶とか。買ってあげましょうか?」
そこまではと遠慮するが、背後からきた人影が自販機の前の由紀子を強引に押しのけ
割り込んで、さっさと硬貨を放り込みボタンを押していた。
「たった150円で私のドレイを買おうだなんて、セコイわね」
「な、買うって…!」
「日本じゃ人身売買は罪になるのよ」
「知ってるわよ!警察官なんだから。私も、あなたも」
私もですよ、と心の中で付け加えておく。この人身売買罪というのは創設されて新しい。
米国務省の発表する報告書において、日本の風俗産業の人身売買問題が厳しく非難され
ようやく2005年に法改正されたという、なんとも泥縄な感じの刑法である。
犯罪被害者にだいぶ遅れた救いの手だが、政府の取り組みは評価していいだろう。
ところが、この薬師寺涼子の半径五メートルはどうやら治外法権であるらしい。
上司は私をドレイといってはばからず、さらには売り買いまでされかけている。
本当に法治国家なんでしょうか、と警視総監室があるあたりの天井を見上げていると
能天気な声とタンポポ頭の持ち主から声をかけられた。面倒くさいので無視していると
「泉田警部補〜、先輩〜、泉田さ〜ん」
「ええい、おれに寄るなくっつくな纏わり付くな鬱陶しい!」
「そうじゃなくって、お二人もう行っちゃいましたよ」
岸本が指差す方を見ると、廊下の向こうまで口論しながら歩いていった二人が、
おそらくは今回も決着は付かずじまいだったのだろう、同時に背を決然と向け
それぞれの執務室へ去っていく姿が見えた。一つ頭を振って、まだ残る頭痛に唸りながら
歩き出したが、岸本がまだうろちょろ後を引っ付いてくる。
「泉田さーん、ちょっとボク付き合ってもらいたいところがあるんですけどー」
くいくいと袖を引っ張られるのを振り払い、出来うる限り冷たく突き放す。
「オタクのコミケかコスプレ大会か、それともゼンドーレンの集会か?誰が行くかっ」
「違いますよー。興味の無い人を連れて行ってもボクが楽しめませんからね。
これですよ、これ。メンズエステ」
ぴらぴらと目の前で振られた見覚えのあるそれ。エステの名前はサロン・ド・シルク。
あれは絹子さんの所有する店であったのだ。遅まきながらようやくそれに気がついた。
「友人一人まで招待可とあるし、それに一人で行くのってなんだか気恥ずかしくて」
野郎が身をくねらせて恥らうな。気色悪いだけだ。それに友人って誰だ?私は違う。
興味無いと振りきろうとしたが、今朝考えていたこともあって自然と歩く速度が遅くなる。
「実はもう予約の電話入れちゃったんですよー。今日は夜のご予定ないですよね?」
その情報をどこから手に入れたかなんて問い詰める必要も無かった。
今晩は涼子にメイドたちとの用事があって、そのお陰で私の予定は空白なのである。
朝方見た、くたびれた男の顔を私は思い出していた。…このまま流れに乗ってみるか。
「仕方ない、付き合ってやる」
「そうですよー。男のエステはヤングエグゼクティブの常識だっていうし、泉田さんだって
あの絶世の美女の部下なら、是が非でも身なりに気遣うべきです!」
「お前のどこがヤングエグゼクティブだ、寝ぼけたことを言うんじゃないよ」
「やだなあ泉田さん。ボクがキャリアだからといって僻まないで下さいよ」
……やっぱり行くの、止めようかなあ。
前の設定(絹子さんはエステサロンのオーナー)を
そのまま流用させてもらってます。以上注釈終わり。
銀座のビルの中でも一番華やかな、最新ファッションが飾られたショーウィンドーの前に
私と岸本は案山子のように突っ立っていた。どうみても女性しか立ち寄らない場所。
「住所は確かにここですよねえ。あ、看板に書いてあります!行きましょう」
次々ファッショナブルな服装の女性が吸い込まれていく正面入り口を横切って、
扉が鏡面のように光ったエレベータの前で到着を待った。朝よりは大分回復したものの
眼の下にはクマがまだ残っている。
「お前はふくよかな頬をここでピシッと引き締めてもらえ」
「ええ、オタク仲間と最近グルメツアーにはまってるもので、気にしているんですよね。
イギリスのご飯は本当にまずかった。今でもよーく覚えています」
「こら、置いてくぞ」
シミジミと記憶を噛み締めるように佇む岸本をそのままエレベーターに残して階下に
送り返しても良かったが、チケットを持っているのは向こうなので仕方なく呼びかける。
磨りガラスに洒落た字体で彫られた「サロン・ド・シルク」の自動ドアを入ると
フロントが目の前にあった。受付の女性に岸本がチケットを差し出すと
「モニターの方でいらっしゃいますね。こちらはロッカーの鍵です。どうぞ」
案内されたそこはスポーツジムの無骨な物ではない、シックな木製のロッカーで、
床は髪の毛一筋もなくきれいに磨かれており素足に心地よい感触をつたえてくる。
羽織ったガウンは最高級の綿花で織られたのであろう、すばらしい肌触りだ。
とにかく、こういう機会でもなければ一生足を踏み入れることの無い世界である。
振り返ってギョッとした。だがオバサンとみえたその姿は、よく見れば岸本。
ガウンの袖を折り返して頭にターバンを巻いたその格好がやけにハマっている。
ほどなくライトブルーの制服を着た女性がやってきて、私たちに深々と頭を下げた。
「本日はモニターのご協力、ありがとうございます。今日のご案内、館内の誘導と
私がすべて担当しますので、気分が悪くなった場合は遠慮なくお申し付け下さい」
廊下を歩きながら色々聞くうちに、サロン・ド・シルクの男性部門の立ち上げのため
私のようなエステ未体験の男性を対象にリサーチしているということが分かった。
てくてく呑気に歩いている岸本のつむじを見ながら、なにがヤングエグゼクティブだ
浮かれやがってと心のうちで毒づいていると、先導する彼女が口を開いた。
「モニターはすべて薬師寺オーナーが選び出された人なんですが、お二方とも
仕事で立派な業績がおありになるんですね。今日をきっかけに今後ともぜひ
こちらをご贔屓いただけたら、大変に嬉しいのですが」
岸本はそのココチヨイ言葉にすっかり舞い上がったようで肩がうきうきと踊っている。
私のほうは逆に恐縮していた。警視総監賞を渡されるほどの金星を挙げた過去はない。
心当たりがあるにはあるが、あの涼子のお守りという理由ならば少し情けないな。
「まずはスチームルームにお越しいただいて、その後フェイシャルエステです。
フレッシュハーブティーを召し上がられた後はオリジナルソルトの全身マッサージ、
次にフットテラピーです。このリンパドレナージュ、デトックス効果もございます。
お好みのアロマオイルがあればご指定下さいね。スパにお入りいただいて本日は終了です」
聞き慣れない横文字を一挙に聞かされたが、分かったのは最初の部分だけ。
あとはお任せします、とオウヨウに肯いたが自分が実験のモルモットになったような
落ち着かない気分である。
内容の説明は省略する。適当な女性誌を買って読めばよろしい。
人の手で洗われるのは髪の毛ぐらいだった私だが、いい香りに包まれながらすべらかな
オイルでマッサージされる心地は極楽至極、非常に気持ちがよかった。
オカネモチであるならたまには行ってみたいと私が思うほどであるから、女性がエステに
大金を投じるのもむべなるかな。
さて、これで折り返し地点に来たわけだ。タオルが敷かれたベッドに寝そべっていると
おっとりとした声が頭上から降ってきた。
「いかがでしょうか?泉田さん。こちらのサロンはお気に召しまして?」
顔を上げると、上品なサーモンピンクのウェアに身を包んだ絹子さんが微笑んでいた。
こちらは裸で腰にタオルを巻きつけただけの格好なもので焦ってしまうが
絹子さんがまるで気にしていない様子なので、正直な感想を述べることにした。
「ええと、まったくの初体験なのですがエステというのはとても気持ちのよいものですね」
「そうでしょう。外国では男性もエステというのはおかしなことじゃございませんけど、
日本じゃまだまだ女性のものという空気がありますでしょう?ぜひともお知り合いに
ご宣伝のほう、お願いしますわね」
エステに通うような知り合いなぞいないが、私はそのまま肯いていた。
「それでは、これからはオーナーであるあたくしが直接お体に施術いたします。
岸本さんが先ですので、お待ちくださいね。寝てらしていただいて構いませんわよ」
仕切りのカーテンをふわりと開けて、絹子さんの姿が向こうに消えていった。
岸本の感激の声がこっちにまでニギヤカに響いてくる。
「あなたのような美人にしていただけるなんてボク感激だなあ。え?涼子様のお姉サマ!!」
あーうるさい。私は構わず寝る体勢に入った。10秒もせずにうとうとと眠りかけたが…
「それでは、よろしいでしょうか?」
「よ、よろしくお願いしますっ!」
「ええ、こちらこそ」
「うわっ!ちょ、絹子お姉さまっ!」
「大丈夫ですわ。男性の肌は仕事上見慣れていますから。それではちょっと失礼して。
…あらまあ、お若いのに元気がありませんわね。たいていはこれで一発ですわ。えいっ」
「うひょっ?ちょ、いやー助けて、お母さーんっ!!」
「あら、岸本さんはこれが初めてでいらっしゃいますの?」
「は、はひ、そうですうぅぅ」
「怯えることはございませんわ。あたくし、これまで世界のあらゆる一流サロンで経験を
積んでおりますから大船に乗った気分で全身お任せくださいな」
「そ、そんな所まで…あ、はぁ…き、気持ちいいです…」
「褒めていただけて嬉しいですわ。ではここもしてあげますわね」
「き、絹子お姉さま…!?な、何のためにそこを!」
「テスト、ですわ」
「あの、そこは美容にあまり関係ないような?!あっあっ!げ、限界ですーっ!!」
岸本の絶叫がひときわ室内に響いて、ぱたりと静かになった。
やっているのは足つぼマッサージだろうか、アレは痛いと聞くがそれにしても大げさな。
「…手加減した方がよかったのかしら?やはり外国と日本ではそこの違いをよく考えないと
いけませんのね。それにしても岸本さん、涼子の熱烈な信奉者だと聞いてましたのに…
これではいけませんわ。リストから外しておきましょう」
目の前を担架を持った従業員が通り過ぎていき、白目をむいた岸本がその上にのせられて
運ばれていく。ちらりと見たが、気絶した顔は苦悶というより幸福な笑みをたたえている。
岸本だから、まあいいか。
それより絹子さんの言葉が心に引っかかっている。テストとか言ってたな。あとリスト。
たぶん顧客リストに載せるべきかどうかのラインに奴が落っこちたというところだろう。
ざまあみろ。ノンキャリアの暗い笑いを浮かべていると、目の間にすらりとした足があった。
白磁のように白くて滑らかな肌、ほどよく肉付いたふくらはぎ。視線を上げていくと
短いスカートがあってまろやかな腰から細いウエストに続き、ふっくら盛り上がった胸…
「き、絹子さん?!」
「お待たせいたしました、泉田さん。それでは始めさせていただきますわね」
絹子さんはワゴンからオイルを手に取り、私が躊躇する暇もなくマッサージに取り掛かった。
足首から腿に向かってぐいぐいと押し上げられていく。手の動きは意外に力強い。
「地球の重力に引っ張られて停滞したリンパ液の流れを戻していくマッサージですわ」
岸本の絶叫ですっかり引いていた眠気がまたとろとろと私の瞼を押し下げていく。
「足の裏を見せていただきますわね…あら、うーん。ずいぶん同じ靴を履いているのじゃ
ありません?かかとの磨り減った靴で歩かれているのでしょう」
ずばり当てられたのを不思議に思ってそれを尋ねると
「ドイツで専門に勉強してまいりましたから」
額に珠の汗を浮かせて絹子さんは熱心に足の裏を揉んでくださる。背骨までくるような
痛みが時おり走るが、絶叫するほどの痛さはないし、寧ろ効いているのが実感できる。
「新しい靴も必要ですけど、フロントで靴の中敷も販売していますからそれもどうぞ」
薬師寺一族はそろって商売上手である。きっと新規部門も大繁盛であろう。
絹子さんにすっかり身を任せながらも、私はやや落ち着かないでいた。
これはマッサージだと意識しないように努めるが、内腿を撫でるソフトなタッチや
きわどいところまで近づく指に、心臓がそのたび縮まっていた。しかしそれも序の口。
腰のタオルが外されて私は仰天した。続けざまに私の尻を滑らかに手で押し上げる。
「男性も、スーツのズボンを格好よく履くためにはヒップラインが肝心ですのよ」
こ…これはマッサージだ、マッサージ!サロン内の室温は裸でも快適な温度設定だが
上司の姉君に背面だけだが裸を見られ、しかも揉まれているというのはかなりの
恥ずかしさである。体温は一気に上昇し、しかも気まずいところが首をもたげつつある。
うつ伏せで本当に助かった。このままやり過ごせばマッサージ中におさまるはず。
動揺を必死で押し隠して顔面をベッドに押し付けていたが、巧みな手つきと
官能的なオイルの匂いが私をどんどん追い詰めていく。ちょっと休憩、と言おうとして
顔を上げた私の目の前で、サーモンピンクの布がパサリと床に落ちた。
「どこか痛むところでもありまして?泉田さん」
顔を上げられない。上げたら最後、人生最大の恥を晒してしまうことになる。
ま。まさかまさかこんなメニューがエステにはあるというのか?いや絶対にない。
行ったことは無いがこれじゃまるで、ぜんぜんファッションでもないアレではないか!!
「こ、これはエステのモニター体験なんですよ、ね?」
お願いだからそうだと言ってくれ。
「もちろん今日のこれはモニターですわよ」
ああ良かった!
「本当はもう一つ目的がありましてね、実は涼子のための選抜テストも兼ねてますの」
「なんですか、それ」
目の前に差し出されたのは一枚のコピー用紙。卒業文集とタイトルが付いている。
内容を読むに、名前を見なくとも一発で涼子が書いたものと分かった。
「あたくしそれを読みましてね、姉として可愛い妹の望みを叶えてあげようと心に決めましたの」
私は記憶のかなたに遠ざかっていた世界史の授業内容をなんとか手繰り寄せた。
思い出したのは、授業よりも教師の雑談で覚えていた世界の偉人たちの艶聞の数々。
エカテリーナ女帝は広大なロシアの支配者のみならず、寝室でも偉大な征服者だった、と…
「小学生がそんなことまで考えますか!涼子が目指していたのは支配者の椅子であって
エカテリーナの私生活まで真似たいとは、一行も書いてないじゃありませんか?!」
「よく考えてみたら、そうですわね。なるほど、だから涼子さんはこんなの要らないって
評価90点以上の男性揃いのリストも突っ返してくるばかりだったのですね」
早とちりしてしまいましたわ、と絹子さんはコロコロ上品に笑っておられるが、
涼子がなぜあれほど絹子さんを嫌がるのか、その理由が骨身に染みて強烈に理解できた。
「それはそれで置いといて。さ、泉田さんテスト続けてもよろしゅうございますか?」
「よろしくございませんっ!!」
「まあ、そんなつれないことおっしゃらずに。…女性に興味がございませんの?」
「いえそんなことありません。私はノーマルです!」
顔を上げてしまった。や、あのこれはまた結構な…だめだ、目を早く逸らすんだ!
すべすべとした白い肌、着痩せするのか着物の上から想像もしなかった豊満な胸。
あたたかい照明の下にさらけ出された下腹部の淡い茂み。
かっと頭に血が上って理性がもう限界だと警報を鳴らす。タオルを手に取る間も惜しく
夢中で絹子さんの前から逃げ出していた。扉に手をかけようとしたらこちらに勢いよく開き
私は足を滑らせ床に尻もちをついてしまった。
「泉田クンっ!!まだ貞操は無事っ?」
首を扇風機のように左右に振るが、下に座りこんでいる私を見つけられないらしい。
「安心ください。なんとか寸前で逃げ出しましたから」
「良かったぁ」
目をきつくつぶって大きく息を吐き出した涼子は視線を下げ、半瞬の沈黙の後絶叫した。
「なんてカッコウしてんのよ!」
私に背を向けたまま肩をぜいぜい上下させる涼子を見て、私は素っ裸を見られた恥ずかしさも
薄れて静かに笑っていた。
「なに笑ってんの?だって、驚いて当たり前でしょ?」
振り向きかけて慌ててまた向こうを見る涼子の耳は真っ赤に染まっている。
肩にガウンがふわりと掛けられ、後ろを向くとウェアを身につけた絹子さんが立っていた。
「ごめんなさいね、涼子さん。あたくしの早とちりでしたのね」
「判ったでしょ?私にハーレムなんて最初っから必要ないの!オトすのは自分でやるから
もう二度と余計な手出ししないでよッ」
「最初の一人からしてつまづいているから、あたくしが手伝おうと思いましたのに…」
「いいから!もう黙んなさいっ」
まだ気絶していた岸本をたたき起こして連れて帰る道すがら、涼子がフンマンやるかたない
といった表情で絹子さんのおせっかいへの不服を言い立てた。
「だいたいね、評価90点以上とかいうけれどあいつら全員、おキヌのファンなのよ」
「そう断言する理由を教えてください」
「あー、あの、ソレよ。ソレ…をやられた男どもはおキヌにすっかり参っちゃって
あたしのことなんて誰一人目に入っちゃいないんだから。まったく本末転倒よ。
ハーレム持ちなのは、おキヌの方!」
「だったら、絹子さんは結婚相手もその中から選び放題じゃないですか?」
先日見た美男達の写真を思い浮かべて、素直に思ったことを言っただけなのに
涼子が私に向けてきたのは白銀の世界よりも白い白い目であった。
「そんなことしたら第三次世界大戦が始まっちゃうけど、いいの?」
「ええ?!なんだってまたそんな話になるんですか」
薬師寺姉妹の話からいきなり話は世界スケールに広がって、私はとっさに付いて
いけなかった。
そんな私に涼子が指を折ってずらずらと男のプロフィールを読みあげていく。
アラブの石油王の息子に、鉱山所有のインドの大富豪、世界に支社を持つ大企業のJr.
エトセトラエトセトラ。
「ね。だからおキヌは誰も選べないし選んだが最後、血の雨じゃなくって放射能の雨が
地上に降り注ぐこと決定なんだけど、それでいいの泉田クン?」
「よくありません」
絹子さんの底知れなさに完全に打ちのめされて、私は唸るよりほかはなかった。
よろよろとまだ情けない足取りで歩く岸本をタクシーに押し込み、せいせいとした顔になった
涼子がさっそく私に腕を絡めてきた。
「泉田君、お腹すいてない?せっかくエステいって男前になったんだもの。どこか行こう!」
私はいいかげんこの危険な姉妹から開放されたかったが、確かに胃は空腹を訴えている。
「銀座だけど、フトコロに優しいお店があるの。そこでいいわよね」
もちろんそのほうがありがたい。最後の方はともかく、エステのお陰で体調は絶好調だ。
「二軒目も行きましょうか?付き合う体力も気力も充分です」
うなずいた涼子の目は銀座の灯りだけでない輝きで煌いている。本当にこの人は美しい。
すれ違う酔っ払いどもが口惜しそうな目を向けるが、今日の私はいささか自信家である。
できるだけさりげなく涼子の腕を外し、手のひらをしっかりと握り合わせた。
「ではいきますか。日本のトップを目指すのも、まずは腹ごしらえからですよ」
「もちろんよ!目指せ、エカテリーナ!」
私と手をつないだ反対側の手を高らかに天に突き上げ、涼子は極上の微笑みで宣言したのち
店の方角へ颯爽とハイヒールを鳴らして歩き出した。
終。
>>118 だからさ、涼子はエカテリーナの乱倫方面には絶対いかないんだっての。
書いた自分が言うんだから間違いないって!もういい加減、分かったな?
そうか分かったか。ならもう、ageて書くんじゃねえぞ?
…どうしても、男狩りに積極的な涼子は書けんかったとです。orz
GJ! ラストシーンが非常に良いねー
ラストの手繋ぎが良いですね。
いいもん読ませて頂きました。GJ!
>140
GJ!&仕事テラハヤス
講談社の編集がココ見てたら、
「センセーこんなトコで書くヒマあったら執筆に戻って下さい」
ってガイエに特攻かましてもおかしくない出来だw
そして男狩りに行くお涼は書けないのに同意。
めざせエカテリーナな癖に惚れた男にはウブというギャップが
いいんじゃないかヽ(`Д´)ノ
心からのGJを贈ります。
>>143 むしろ140氏のほうに溜まりに溜まったガイエの宿題を
片付けていただきたいかも・・・
GJ!
楽しませていただきました。
>めざせエカテリーナな癖に惚れた男にはウブというギャップがいい
禿同
やっぱり絹子さん大物だww
ぐっじょぶー!
真っ赤んなって背中向けるお涼カワイ-ヨv
いい大人が手繋いで歩くとかウレシハズカシくってときめきます。乙華麗でした!
GJです。超GJです。
本当に、あらゆる意味で素晴らしい。
あの、実はプロの方だったりしませんか?w
実に良い思いさせて頂きました。
幸せですw
もー、一文一句が余すところなく素晴らしく
笑って、感心して、どきどきしました。
>ぜんぜんファッションでもないアレではないか!!
爆笑しました。ありがとう。
149 :
名無しさん@ピンキー:2006/06/27(火) 16:43:57 ID:/zrgjbLL
あげ
ネタ振り雑談しようか。
薬師寺メンバーで映画撮るとしたら誰視点でやる?主役は誰?
涼子はどうせほっといても画面中央に出張ってくるだろうから彼女以外でw
他作品から持って来ても可。
岸本orさとみかなぁ。或いは丸岡さん視点で引きのショートフィルムとか。
出張アリなら松永くん。松永くんて意外と書きやすいことに気付いた。
おっと聞き捨てなりませんなあ
>>151 松永君、警察犬より活躍したりとか?読みたいな〜。
153 :
名無しさん@ピンキー:2006/06/30(金) 00:58:58 ID:uE0Hnb0d
いま銀英伝のDVD借りてきたが、何回見ても名作だな!
確かに銀英伝は名作。近所のTSUTAYAが只今旧作半額中。行かねば!
ところで、外伝を鑑賞するにはベストな順番があるのだろうか?
>>152 …ごめ、自分にゃクロスは無理すぎ…。単純に動かしやすいという意味でした。
紛らわしかったね、スマソ
いろいろググって旅に出たが、泉田×お由紀のエロ有のからみって
前スレのしか見当たらない。他に知ってる人いる?
エロ無しで、涼子に宣戦布告するために眼鏡外してブランド服の艶姿に
着替えるってのならどっかで見かけたけどさ。
157 :
マージョ:2006/07/01(土) 15:44:43 ID:tzy76EqW
涼子は天下無敵
何故なら巴里のアパルトマンにはマリアンヌ・リシェンヌがいるから。
もうメイドズは日本にきて住んでるぞ〜w@夜光曲
>>156 それ、どこにあったのか頑張って思い出してみてくれんか?
頼む!
>159
156じゃないが、お涼シリーズの二次創作サイトの頂き物作品だとオモ。
ここで晒すのは迷惑なので詳細伏せるが
作品名でストレートにぐぐってもヒットするし、
お涼二次やってるサイトからは大抵リンクされてるとこなので
ちょっとぐぐって芋づるたぐればすぐ見つかる
>159
お涼シリーズ二次サイトの頂きもの作品。
このジャンルは二次サイト自体が少数だし、閲覧者からの頂き物コーナーある
サイトは更に少ないので、作品名でぐぐって芋づるにたぐればすぐ見つかる。
がんがってぐぐれノシ
うわ二重ゴメソorz
お涼二次サイトは結構マメにチェックしてる方だが、泉田×お由紀でエロ有は
前スレの神以外では見かけた記憶ナス。
SS捜索サイトでもこのカップリングのSSの捜索願出た事あるけど、
全くレスが付いてなかったので非エロでも皆無に近いんじゃないかと思う。
原作で、お涼抜きで絡むシーンが意外と少ないので、書く側からすると
このカプでは思ったよる書きづらい
涼子のオヤジって、若作りじゃなくて本当にマジ若々しい感じなのか
颯爽としたロマンスグレーのマジハンサムなオジサマなのか
どんな風でっしゃろうな。
お由紀の父親の外見は、涼子オヤジとは逆を行ってるはずw
大学でドイツ語習わせた理由が「フランス語は軟弱だから」
というからに家屋は和風かな。もちろん敷地内には道場設置。
涼子父>岡田真澄
由紀子父>丹波哲郎
それも面白いかも、と思ったが、自分が考えたら
涼子父が丹波さん
由紀子父は宇津井健さん
になったw
なるほど・・・面白いですな
涼子父>中村吉衛門
由紀子父>丹波哲郎
が浮かんだよ
警視総監だったのがお由紀父で、官僚あがりなのが涼子父か。
ふーんw
――やれやれ、今日は一日、無事に終れたな。
ほおっと息をついて、丸岡はデスクワークで凝った肩をトンとたたいて席を立つ。
デスクの上のものをまとめて鞄に入れながら、警察官が閑をありがたがるのも
どうかと思ったが、上司のことを思えばこれぐらいお目こぼしの範囲だろう。
椅子に掛けっぱなしの上着をとってドアに向かう途中、まだ居残っている人物に気がついた。
終業のベルを聞いた皆は席を立って帰っていくのに、この気の毒な年若い同僚はその上司の
アトシマツを押し付けられ、ペンを片手に唸っている。
目を笑う形に動かし、丸岡は手近にあった椅子を引き寄せると背を跨いで腰掛けた。
「何やらかしたんだ」
「いつものことです。ヤの付く自由業の方々を十人ほど保養地に送り込んだんですよ」
やらかしたのは誰かなんて丸岡は聞かなかった。我らが上司、天下無敵のお嬢サマの
辞書には手加減とか情けという項目は残念ながら見当たらない。唯一例外なのがこの男。
だが本人はそのキセキをまったく自覚しておらず、埋まらない赤罫を前に苦闘中である。
「なんだ、まだ名前しか埋まっとらんじゃないか」
「代わりに書いてくれませんか、警部」
「大丈夫だ。数こなせばそのうち、スラスラ書けるようになる」
言外に拒絶を匂わせて、丸岡は上司の始末書を代書するというメイヨをきっぱり辞退した。
「そうですか…」
身長180は越すという長身だというのに、その背中には歳相応でない悲哀が見え隠れする。
「やれやれ」
親子二代に渡って部下に苦労かけるとは、薬師寺という家は因業なものだ、と丸岡は嘆息すると
手近な裏紙を一枚抜き取り、始末書に使える言い回しをサラサラと書きだして渡してやった。
「ほれ、これからもきっと必要になるだろうから」
「ありがとうございます!」
彼の顔は一瞬輝いたがすぐに曇った。“これからも必要”という部分が彼の痛点を直撃したらしい。
「泉田くんには同情するが、くれぐれも腐らんようにな」
「大丈夫ですよ、丸岡警部。こうも毎度振り回されてたら腐るヒマもありません」
「ふふん」
「あれ、何を考えたんですか」
それには答えず、丸岡は椅子から立ち上がるとコーヒーを買いに廊下へ出た。
(同情すると言ったが、本人はこの境遇から逃げ出したいと願っている…ようには見えんよなあ)
軽く首を振って部屋に戻ると、赤罫の空白は順調に埋まりつつあった。
「警部の虎の巻のお陰ですよ」
「そりゃよかった」
自販機ながらそこそこ香り高い液体で満たされた紙コップを机に一つ置くと、丸岡は鞄を手に取った。
慎重に、丁寧に始末書を書き進んでいた彼の手が止まった。
「…帰られてしまうんですか?」
「居残りの小学生の面倒見る先生じゃあるまいし、帰らせてもらうよ」
「お先に」
軽く手を振ると、彼は気持ちのいい敬礼で「お疲れ様」と丸岡を見送ってくれた。
気の毒そうに見えて実はそうでもない男、泉田警部補。
お涼が警視総監に就任するより前に定年を迎える自分は、きっと幸運なのだろうな。
今晩は、ささやかな自分の幸運と彼の未来が明るいものになるよう、一つ乾杯としゃれ込むか。
警視庁から出た丸岡の足は自然と、馴染みの酒場へ向かって歩き始めた。
>或いは丸岡さん視点で引きのショートフィルムとか
やってみました。それじゃまた。
GJ!!
らしくて笑ったw
警視庁から地下鉄一駅分歩いたところにその酒場はあった。酒場とはいっても
今風に改装を終えてあるから、ビストロバーと洒落て呼ぶ方が正しいかもしれない。
だが足は店入り口の階段の数をすっかり覚えていて、七段、危なげなく降りた丸岡は
馴染みの扉を押し開けて店内に入っていった。
「おや、奇遇だねえ」
カウンターのスツールに背を伸ばして腰掛ける妙齢の美女を見て、丸岡は気負いもせず
自然に声をかけていた。上司同士はライバルだがその部下まで憎しという不毛な争いは
涼子と由紀子のどちらにも生じてはおらず、それは部下にとって不幸中の幸いであった。
「あら、丸岡警部」
眼鏡の奥の目が意外そうに見開き、ほっそりとした手が口元に添えられる。
「先ほどまで、そちらの貝塚さんとお話してたんですよ」
「どうだい?いい子だろう。うちの自慢の子でねえ」
目を細める丸岡に同意しながら、由紀子は先ほどまでの光景を思い出していた。
貝塚さとみはカウンターの上に置いた薄型ノートパソコンを自在に操ってメール通信を
していたのだが「ほんとうにニブイんですからねえ」「警視もご苦労ですねえ」などなど
さとみの口からヒトリゴトが洩れている。どうしてもそれが気になってしまった由紀子は
はしたないと思いながらも、ほんの15度ほど体を傾け画面をチラっと覗いてしまったのである。
(相手はあのメイドさんたち、ね…)
どんなやり取りが交わされているのか由紀子にはそれだけですっかり想像がついた。
無言のままポキリと野菜スティックをかじる。
「…美味しいわね」
「でしょう?丸岡警部に連れてきてもらってからすっかり私の定番メニューなんですよお」
年月に磨かれ柔らかく光るカウンターの向こう、店主が自慢げに頷いている。
「開店当時から丸岡さんには懇意にしてもらってますから。もう…30年ほどにはなるかなあ」
「薬師寺警視や室町警視が生まれる前からの常連サンってことなんですねえ」
さとみが何気なくいった苗字に店主が反応してこちらに目を向けた、のだと思ったのだが
新たな客が店内に入ってきたのだと分かると由紀子の意識はそこからそれていった。
「ええ、とても上司思いのいい子ですわ」
誰にとっていい子なのかは意識してぼかしておいた。
電源を落とし、大き目のバッグにノートパソコンを仕舞ったさとみが急いで帰ったのが
丸岡の来る少し前。
「なんでも、贔屓の香港スターが主演する映画がこれからあるとか言って帰りましたわ」
「そうかいそうかい」
彼女が香港フリークなのは涼子の参事官室では周知のことであるから丸岡はそのまま頷いた。
品川行きの電車経路検索をしていたことまで言うこと、ないわよね…。
溶けた氷で薄まったウイスキーの炭酸割りでそれを喉奥に流しこむと、由紀子は軽く笑った。
GJ!
ほんとに丸岡さん話が見れるとは…!
毎度クスです
ちなみに自分の丸岡イメージはでんでん氏ですw
GJ!
丸岡さん視点とは、新鮮でしたww
またよろしくお願いします。
176 :
名無しさん@ピンキー:2006/07/06(木) 02:30:20 ID:kowaPXNm
ヒルダあげ
じゃ漏れは茉理さげ
178 :
名無しさん@ピンキー:2006/07/06(木) 13:49:15 ID:+T3w3hTk
涼子が泉田に「あんた、何で立たないのッ!」と激怒し、泉田が「せがれ」と共に
しょぼんとしてる場面を想像してみよう。
「泉田クン!なんで立たないのよッ」
「しかたないでしょう」
「仕方ないですむと思う?だってこれじゃ、始まらないじゃない」
「…入れ物側が小さすぎるんです」
「何か言った?」
やれやれ、と部屋の中を見渡すも女王様の意に沿うようなモノは転がっていない。
だが立たないのも当たり前だ。こんな急に思い立ったとかで涼子のマンションに
呼びつけられて、有無を言わさずつきあわされ準備もナニもあったもんじゃない。
「そういうおつもりでしたら、最初から説明してくれたら良かったんですよ。
それなりに下準備とか、道具とか持ってきましたのに」
「…だってマリアンヌとリュシエンヌにはナイショにしたかったんだもの」
「そりゃ、そうでしょうけどねえ」
私の不服申し立てに、涼子の裏拳は飛んでこない。
むしろしょげてうな垂れるものだから私は慌ててフォローに回った。
「仕方ない、なんとかしましょう」
まず手をつけるべきなのは、コレか。
「それにしても、どこからこんなに大きなモノ用意したんですか」
「うちのスタッフに調達頼んだのよ。私もソレ見て驚いたけどね」
そのスタッフがどういう顔して車に積んできたのか想像したかったが
今は緊急時、あてどもない空想は頭の中から追い払った。
メイドの二人が帰宅するまでにはあと一時間程度の猶予しかない。
「切りましょう」
「え?切るの!」
「このままでは立ちませんから。ツールボックス置いてありませんか?」
数分して持ってこられた数々の道具たち。
「…どうして一般家庭じゃ見かけないようなモノまであるんですか」
「あたしの趣味…いや違う、そういうのを使用する犯罪者の手口を研究するためよっ」
突っ込むと後々面倒なことになりそうなので、私はとりあえず回転部分を頭部につけた
それを手に取った。
「ゆっくりいきますから、ブレないように手で押さえておいてください」
「…わかったわ」
涼子がめずらしく真剣な表情で私の手元を見つめている。
「でももったいないわね、こんなに大きいのに」
「立たなきゃ使えない、それじゃダメとおっしゃったのは警視でしょう」
「こういうときまで階級で呼ばないで欲しいわね」
「あの、早く始めましょう」
「立ちましたね」
「ええ。」
しかし、これではもちろん全然足りない。コレだけ立っても意味は無いのだ。
「で、あとはどうすればいいの?」
「ええ!考えていなかったんですか?世間では普通、用意してますよ」
「これまで自分でしたことなかったんだから当たり前でしょう」
開き直った涼子以上に無敵なものはない。
「本当にお嬢様だったんですねえ」
それがなに?といった冷然たる視線が私への返事だった。
「はさみが、必要ですね。あと、作り方を知ってる人」
「うそ、知らないの?あれだけ偉そうにあたしに言っておいて?」
「作りたがるのはだいたい女性側でしたし私も器用な方じゃありませんから」
「へー」
涼子が白っぽい目つきを私に向けた。
「私だって過去にそれなりにありましたよ。それより、急がないと二人が帰ってきます」
「二人ともまったくの初心者ってわけか。仕方ないわね、よしヤルか!」
「自分でも言ってたけど、本当に不器用なのね」
からかい交じりの言葉が私の耳に届く。
「こっちは真剣にやってるんですから、茶化さないで下さい」
「だって、ほらこれじゃあ全然」
涼子が私の手を取って、中身をそっと開いていく。確かにこれはあんまりだ。
「なら、自分でしてみてくださいよ」
「無理。」
そんな得意げに胸を張られてもなあ。私一人でなんとかしなければならないのか。
ありったけの過去の経験をかき集めて、なんとか思い出した手順を
手元に再現していく。こうして、こうして交互に、ゆっくり慎重に…
「あ、それそれ。うん、これが欲しかったのよ。でかした泉田」
「どうです」
涼子よりは控えめに胸をはる。自分の面目が立てられてほっともしていたが。
「でも、コレ一つじゃ足りないのよねえ。もっとあるでしょう?ほら」
「テレビで見たことはありますが…私には無理ですよ」
「いいから、手を動かす!やってるうちにひらめくかもしれないでしょ?」
しかし、とうとう時間切れを知らせる足音が私たちの元にやってきた。
二人で顔を見合わせ、がっくりと頭を垂れた。
散らばった残骸を片付ける時間など当然無い。二人の驚く顔が目に浮かぶ。
「仕方ないわね。こうなったら事情をバラしてしまいましょう」
「普通に紹介すればいいじゃないですか、日本のサマーフェスティバル、
七夕という行事だってこと」
フランス生まれの二人のメイドが、珍しそうに半分の長さに切られ、
一番大きい花瓶に立てられた笹竹のまわりをくるくると見て回っている。
そしてちょこんと飾られた私の紙細工。なんとも格好の付かない形だが
「メルシー」
軽やかに踊るような響きでお礼の二重奏が広い部屋に響き、涼子はとても嬉しそうに
二人を抱き寄せて笑ったので、私もまあいいか、と和やかな空気に浸ったのだった。
fin
>>178 おらよッ!これで我慢しとけ。
して、マジそういう場面に遭遇した場合
「よくあるって世間じゃ言うじゃない?いいわよ」
そして優雅にシャワールームに去り、一人真剣に深く落ち込みまくる。
残された泉田も、さすがに帰ってこない涼子を気にしてやってきて…
…あとの展開は説明せんでいいかとw
季節ネタGJ!!
結構ギリギリまでオチが解りませんでしたw
叩かれ覚悟で書くけど。
GJだし文章上手いから面白いんだけどここエロパロ板じゃね?
あまりエロなしのみで続いちゃうのもどうかと。
エロも充分書ける書き手さんぽいしさ。(実際前スレ投下してたよね?)
いやただ単にお前がエロ読みたいだけだろと言われたら全面降伏なんだけどね。
〈 ドモッ、スミマセン....。 〈 スミマセンスミマセン...。 〈 コノトオリデス!
∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
(´Д`;)ヾ (´Д`;) ヾ
∨) (八 ) (´Д`;)、
(( 〈〈 ノノZ乙
>>184 保守がてらの書き込みにgjありがとう。
こちらもエロ萌え神が降臨するのをひたすら待ち中なんだ。
あいつら、どうやったらエロ方向に雪崩れ込むんだろう…orz
GJ!
涼子の用意したツールが気になる。
GJでしたww
クリスマスツリーかと思ってたよ
七夕、すっかり忘れてた・・・orz
エロ方向に向けたくても、泉田は鉄のパンツ履いてるからな
GJ!
お涼ってメイドズにはいい主人だよな
そうそうガイエ作品て書いても書いてもエロに向かわないんだよね…
エロパロにあるとエロな台詞がうまいなぁ
行為だけでなくて、こういう大人向け艶話ジョークっぽいのも
好きなので嬉しいです。
いやぁ、しかし何気ない一言をこう膨らませるとは…
GJGJGJでした!
GJでした!!!
>…あとの展開は説明せんでいいかとw
うん、分かるけど 説明して欲しいかも試練
しかし、早くて巧い文章ですな 羨ましい
ファイルの中に、書きかけ放置していた ダリューンエロハケーン
ヘタすぎる…orz
ちなみにダリューンと絡んでるのは誰っすか?
セリカの女?妓館の名も無き女?それとも仲間うちで?
192 :
名無しさん@ピンキー:2006/07/08(土) 14:54:27 ID:wzUmImF5
ヒルダ♪
>191
セリカの美姫似の技館の名無し女でした。
…何が書きたかったんだろう?
それすごく読みたい。
栄光の都、エクバターナ。
その王都の騒々しい賑わいから道を数本横切った、静かな一画に建つ館。
ハザール・アフサーナ。いわゆる妓館であるが、その中でも一番高級な館。
店名の意味する『千の物語』とは届かないまでも、集めえる限りの美女が
それぞれの部屋で妖艶に咲き誇っている。目の色肌の色もお好み次第とあって
かなりの金額にもなるというのに、かえってそれが妓女の上質ぶりを
保証しているとみえるのか、ますます評判は上がるばかり。
それゆえ、妓女達のプライドと職業意識は高く保たれており、誰が通ってきている
なんてどの妓女たちも絶対に言い回ったりしないし、誰に尋ねられても答えない。
館の造りも、通ってくる男たちが出くわしたりしないようになっている。
なのに、訪れた男たちがまず尋ねてくるのは名高い妓女のことではなく
――ここに来てるんだって?
その姿を見た、現場を見たものは誰も居ないというのに、囁かれる噂。
まことしやかに流れるその噂について、当主は当然承知していたが
下世話な興味からくるその問いに、ずっと沈黙を守り通している。
――やっぱり答えちゃくれねえか。ま、あたりまえか。
尋ねた男どもは軽い失望を浮かべ、けれどもすぐに好色な笑いを口に浮かべ
当主が妓女について述べる口上を聞くうちに、ますます口が緩んでいく。
「今夜は、また一人新しい花が入ったのですよ。どうです?
唇は珊瑚のように紅く、妙なる微笑はアネモネにもたとえられましょう。
なめらかな体のふくよかさはその胸を創造りたまえる神に光栄あれ!
ってなもので…」
「よし、決めた!」
財布の紐をさらに緩ますのは妓女の技量にかかっているのだが、館の当主は
彼女らを信用している。なんせ彼女らを一級品の女にまで磨き上げたのは
この自分だし、さらに訪れる男たちが彼女らの精神を一気に引き上げたのだ。
ただ美しいだけなら、評判の妓女になってもすぐにスレていく。
男の手垢にただ塗れるだけでなく、自分という商品を洗練させていく努力。
それは当主の指導だけで身に付くものではない。一流の男と接してこそ
妓女の内側から芽生えるものなのだから。
そういう意味で、当主は非常に恵まれた運の持ち主といえよう。
恩寵が天から降ってきたのは、酒場で知り合って意気投合した相手が
財布を落としたとかで、もちろん相手を信じて勘定を支払ったその時だった。
館内の異国風な調度品に妓女らが身につけるさまざまな装飾品や香油、
さらには貿易で出向いた先で、極上の素質を持った女をお互いの合意の上
館に紹介までしてくれたのもその男である。
あとでギランの総督代理だと聞いて、あまりに立派な身の上に驚いてしまったが
男は変わらぬ友誼を誓ってくれた。嘘ではなく涙がにじんだ。
――もう、最高!!ジン(魔物)に化かされたかと思ったほどさ!
さっぱりとした顔の男が満面の笑みで当主にチップの銀貨を一枚握らせて
夜風も爽やかな闇の中へと消えていった。
――さすが、王室御用達のところだけあるなー!
これまた当主は沈黙し、穏やかな微笑みで客を見送るだけであった。
一旦終。
たぶん、ナルサスにここで仕入れた他国の情報売ってるんだろう。
奴ならやる。うむ。
>>198 おぉファランギース殿ともあろうお方が、
俺に対してあまりに無理解なお言葉。
乙女の吐息とともに囁かれた言葉に値段をつけることができましょうや。
そういうこと書くかw
言い回しがギーヴそのもので笑った。が、ギーヴは妓館で買うより
口説きに落ちる女は多いからそこのところは不自由なかろう。
グラーゼがナルサスに情報売ってると見たんだが、分かりづらかったかな。
勘違い、失敬失敬。
続きを期待しておりまする。
おお!ついに待望のアル戦エロパロが!!
続きをwktkでお待ちしております。
妻も恋人もいない青年騎士は、妓館で時を過ごすことがある。
今夜もまた、満月のような女と満ちつつある半月を思わせる瑞々しい女を
両手に抱えた片目の男が部屋に篭り、そしてしばらくのこと。
しっとりと汗に艶めいて濡れた肌をしたクッションを両脇に置くという
男として最高に贅沢な状況にありながら、男の心はすでに冷めていた。
「…さて、と」
「あら、もう行かれてしまうのですか?」
「朝まであたくしたちと居てくださる約束だったでしょう?」
「いや、すまん。持ち金が少々、足りんでな」
「貴方ほどの方が、めずらしいこと」
「次にお情け戴くときまでお待ちしますのに」
さきほどまでの濃密な一時で身体を起こすのも気だるそうな妓女たちの手が
艶めかしく、男盛りの体を這って回る。その巧みさにいったんは引いていた残り火が
チロチロとまた燃え上がっていく。
「こういう場所でツケを持ちかけるってえのは嫌いなんだよな」
「貴方のご性分は存じておりますが…幾らでもツケて下さって構いませんわ」
演技でもなく、恥じらった色を頬に浮かべた満月の女が、隻眼の男の逞しい胸板を
人差し指でそっとなぞっていく。
「貴方がここにお越しになった時はいつも、胸が潰れる思いでいますのよ。
今夜も、呼んで下さるのかしらって。お知りでないでしょう?」
「たった今、知った」
「…恥ずかしいわ」
無数の古傷が刻まれた浅黒い肌に、今が熟れ盛りの脂が乗った肌が触れている。
腕を掴めば、骨から肉から外れそうなほどに柔い女の肌は、同じく中の肉も溶けるほど
柔らかいことをそれで思い出した。
「大丈夫だ。いますぐ人に持ってこさせるから。今夜は朝まで抱いてやる」
感激で自分の胸に顔を伏せる満月の女の、闇夜の如く黒い髪を無骨な手で梳いてやる。
ようやく身を起こした半月の若い美女に男は用を言いつけた。
薄物一枚をくるりと巻きつける間に、はや悩ましい声が一室に響き始めている。
この用事を済ませたら、もう下がらせてもらおう。
いつもならこのあともう一人か二人相手をするのだったが、今夜はもう止めだ。
今も階段を下りる足がおぼつかなく、腰にまだ震えが残っている。
ひっそりと目立たないように柱の影に座っている下男を見つけ、女は声をかけた。
妻も恋人もいない青年騎士は、妓館で時を過ごすことがある。
「あの、犬、持ち込まれちゃ困るんですけどね」
「…犬ではないっ!」
低く地に這うような唸り声に、当主は肝が縮み上がった。
「では、こうしましょう。こちらの敷地の内側につないで見ておきますから
部屋に入れるのだけは、どうかご勘弁ください」
「…そちらの言い分も良く分かった。だが、これは私の兄弟といってもいい」
「は、はあ」
透き通るような琥珀色の瞳は真剣に光っており、あまりに予想外の注文に
妓館の当主は冬でもないのに冷たい汗が背中にしたたるのを感じていた。
どうにかその注文を飲んだのは、渡された金貨の重みそれゆえである。
「きゃいんきゃいーん」
「こ、これ大人しく捕まらんかっ!」
半泣きになりながら野良犬のメスと薄暗い路地で格闘していた男がいたと
街中でしばらく奇妙な噂が立ち、そして消えていった…
便乗してみる。
妻も恋人もいないゾット族長代理は、妓館で時を過ごすことがある。
「まあ、いつも申し訳ありません。私などのために…」
糸杉よりもなおも細い肢体の妓女がゆっくりと立ち上がる。
とたんに小さな咳がいくつもこぼれ出て、女はまたよろよろとうずくまった。
不機嫌な顔をした青年は、かがみこんで女の背をさすると
その手に硝子の小瓶を押し付けた。
「いいからはやく飲め」
絹の国の陶器の水差しと小さな杯の乗った銀盆を女に差し出す。
女は小瓶の蓋を開け、杯にきっちり一杯分を量ると
その液体を薄い珊瑚色の唇の間から流し込んだ。
「このお薬のおかげで少し楽になりました。今宵は精一杯おつとめいたします」
「そんなことはしなくていい」
青年は機嫌を損ねたような表情でそっぽを向いた。
「もう少し元気になったら一緒に暮らそう。金の心配はいらん」
「まあ……」
長い絹糸の房ような睫に彩られた瞳から大粒の涙がこぼれ落ちる。
その背にしなだれかかる柔らかな感触に、青年はいっそう唇をひんまげた。
*
「ちょっと舐めてみたらシャルバットを渋くしたような味だったからさ、
茶の出がらしや香辛料を混ぜて作った上澄みとすり替えておいたのさ」
「お前、そんなことをしてその人が死んでしまったらどう責任を取るんだい」
「ああいう女のほうが誰よりも長生きするんだよ。
きっと兄者がまた行くまで、ぴんぴんとなよなよしているに違いないさ」
水色の布を頭に巻いた生気溢れる少女を、小麦色の肌の少年は呆れたように眺めやった――
む。参加ありがたやありがたや。
他の書き手もやってきてくれて翼将全員網羅できたら、いいなあ…
>>206さんグッジョブ。
そうだね案外かよわい女の方が早死にしないよな。
代理には悪いが、さらに金持ちの男に温暖な気候の別荘なんかへ
サクっと身請けされて悠々と暮らしていそうだ、その妓女w
うわっ、何だこの流れ!!
皆GJw
209 :
マージョ:2006/07/11(火) 15:15:20 ID:8166FqNq
薬師寺涼子は無敵
神も悪魔も涼子に敵わないどころか涼子の味方
こういう流れもいいねぇwww
GJ!
調子に乗ってもういっちょ書いた。
妻が三人もいる微妙な年齢の騎士でも、妓館で時を過ごしたいこともある。
「いらっしゃいませ!おお、これは立派な騎士さまで、女もさぞかし喜びましょう」
「……」
「なんと、この金額でございましたら女を三人もつけることができます。さっそく支度をさせましょう。
えっ、なんですって?一人でよい?そのかわり他言は無用と?
ええ、ええ、もちろん他に漏れるようなことはございません。
当館にはさるやんごとなきお方がいらっしゃいますこともございますが、
そのようなお噂がお耳にお入りなったことはございませんでしょう?
はあ。大人しい女がよろしいと。もちろんおりますとも!
朝露のようにはかない様子の若い娘がおりまして。容姿のほうも銀月のよう……」
その時、路地のむこうから数頭の馬による馬蹄が轟き、
館の主は怪訝そうに滑らかな舌の回転を止めた。
「トゥースさま!ここにいらしたのね!私たちという妻がありながら、ひどいわ!!」
入り口から飛び込んできたのは、のびやかな肢体をもつ明るい色の髪の美しい少女だった。
「これ、ユーリン。こんなところまで乗り込むのは野暮だと言っているでしょう。
トゥースさまがお困りでいらっしゃいますよ」
続いてしっとりとした褐色の髪をもつ、これまた美しい娘が入ってくる。
「姉さまはどうしてそういい子ぶるの!こんなことが許されると思っているの?!」
「あなたはまだまだ子供……」
そこへ、茶色の瞳に聡明そうな光をたたえた、またまた美しい娘が割って入った。
「二人とも、喧嘩はおやめなさい。トゥースさま、お見苦しいところをお見せして申しわけございません。
さあ、私と一緒に帰りましょう」
「ちょっとクーラ!あなたはいつもそうやってひとりで抜け駆けしようとするんだから!
いちばん腹黒いのはあなただわ!」
明るい色の髪の娘が叫んだ。褐色の髪の娘も同感といった表情で真ん中の娘を見ている。
結局、女たちはわいわいと騒ぎたてながらとびきりの上客を馬に乗せて去っていってしまった。
館の主人は羨ましいような、そうでもないような、なんとも複雑な気持ちで
呆然とその場に立ち尽くした――
ちなみにトゥースってもっとおっさんだと思ってたんだけど
書こうとして調べてみたら第一部で20代後半だった。
妻も恋人もいない宮廷画家は、妓館で時を過ごすことがある。
しかし予定、という存在なら彼の手の届くところにある。今のところ。
――して。
夜風が忍び込むように寝室に入り込み、静かに紗を揺らしている。
寝台の上、横たわる人影が乳白色の天蓋の中かすかに動いている。
薄物だけ身につけた無防備な肌が薄闇にさらされているが、それを
見るものは新月の夜の星々だけであった。
最初は、愛撫というより自分の体を点検をしているかのようなぎこちない
指の動きだった。首をかしげつつ、どこが気持ちいいんだろうとおずおずと
乳房に触れていく。ゆっくりと、けれども少しずつ中心に近づいていく。
不意に、びくんと身体が跳ねた。探る指が胸の頂点をかすめたのだった。
己の身体をもっと知ろうと、乳首を摘まんだり挟む強さを変えたりするうち
彼女の意識は乳白色の霧に溶け出し、しだいに見えなくなっていく。
彼女にとって、男女の交わりは遠い世界の話ではなかった。
部族の長である父のお気に入りだった彼女の指定席は、父の膝の上だった。
狼藉者は追放という厳しい掟はあったが、やはり酒が入れば淫猥な話が飛び交うのが
当たり前という、猥雑で、そして活気に満ちた部族だった。
そんな中で揉まれて育ったゆえ、そういうことも成熟した肉体になれば普通に
その身に訪れるものと彼女はごく自然に受け入れていた。
寝台に横たわったまま、指はその征服範囲を広げていく。
薄物は太ももの付け根辺りまで捲り上げられており、内股はゆるく震えていた。
閉じていた膝が少し開き、右手が股間をまさぐる。泉が沸く点を押さえるように
指をそろえていたのが、カギ型に曲げられひっかけるような動きになる。
寝台がギッと軋む音をたてる。
考えるな、考えちゃいけないと苦痛に耐えるように目を固くつぶる。
昔、仲間たちが得意げに、誇るように語って聞かせた目が眩むほどだという
そのことを、そして愛しい男の指が妖艶な妓女の股間を触れるその瞬間を。
息遣いが湿ってきた。いっぱいに開いた脚の中心で指先が小さな円を描く。
熱い蜜がとろとろと指を濡らし続ける。ん、と鼻にかかった吐息が漏れる。
空いた片手で乳房を包み込むように手のひらを広げ、ゆっくりと持ち上げて
揉みしだく。迎え入れた指をもっと奥へと誘うように腰が揺れ始める。
だめ、あ、あん、ううっ……ここでは声には出せぬ人の名を胸の中で叫び
それでも指を抜き取ろうとはしない。腕ごと大きく動いてもっと深く、深く。
目を閉じて喘ぐ彼女の視界がぼうっと霞み、それは愛しい人の姿を結んでいた。
「あっあっ、ああっ!!」
泉の小さな蕾をぎゅっと押しつぶし、意識はあいまいな乳白色の中に弾けて
夢と混ざって溶けていった。
仰向けに伸びていた身体がすぼまりゆっくりと、横に転げていく。
――それでも、あたしが好きだから側に居たいんだ。
「まったく、優柔不断なお人だこと。そのまま抱いてやりゃいいじゃございませんか」
怜悧・冷徹・辛辣・非情な宮廷画家であり副宰相である男は妓女の言葉に背を向けた。
「こっちにも失礼ってものだわよ。いい加減にしておくんなまし!」
さすがにきまり悪く男は妓女のそっぽを向いた顔に手を伸ばすが跳ね除けられてしまった。
「まったくねえ。淑女の手慰みを見てみぬ振りしてそっと出てきたのは上出来でござんしたが
その後がよろしくありませんわなあ。そこで押し倒すのが殿方の役目でございましょ?
こちらにお越しいただいたのは嬉しゅうございましたが、ねえ」
でもまあ、この男が彼女の気持ちに反応しないのは、自分の自由を失いたく無いだけのことで
彼女に嫌悪があるわけではなく、ただの阿呆らしい時間稼ぎなだけと妓女はとうに見抜いていた。
いつか自分に言い聞かせるように言っていた「最高の結婚とは、実現しない結婚のことだ」
それはつまり、彼女を妻として“いつかは”迎えようと意識していると宣伝するも同然。
「怖がっているだけじゃあ、男として生きる甲斐などありゃござあませんのに」
何でこんな簡単な事が分からないのかしらねえ、と妓女は独り言を呟くが、
「そんなことはおれも分かりきっているし、こういうおれの気をあれが知らない訳が無い」
「あれまあ、今度は惚気かい。いい気なもんだわねえ」
今度こそ呆れたという顔で妓女に扇を振られ溜息を返され、とうとう男は戦場では使わぬ白旗をあげた。
夜明けもまだというのに、妓館を引き上げ男は自分の館へと帰っていった。
ちょっと切な気味になってしまったなあ…。これエロに入るかね?
えーっと、これで何人書いたっけ?
他の人もカモーン!
>>217 GJ!文章が綺麗だ。妓女の姐さんかっこいい。
16翼将をまとめとくよ。
グラーゼ クバード イスファーン メルレイン トゥース ナルサス アルフリード
↑エロ?済
------------------------------------------------------------------
↓未エロ
ダリューン ギーヴ ファランギース エラム キシュワード ザラーヴァント
ジャスワント ジムサ 不明
アル戦でこんなGJだらけの作品が拝めるとはwww
未エロたちが→済になるのを楽しみにしてる
ごめん 自分は書けないんだ
妻も子供も居る大将軍とて、妓館で時を過ごしたくなる時はある。
「ええ、ええ、もちろん御忍びであること、承知しております」
今夜の御仁はこれからのことをご存知でないようだが、揉めることはないだろう。
「奥の部屋に、すっかり御支度整っておりますゆえ、どうぞごゆるりと…」
表情を隠すためか漆黒の見事な髭を手で撫で回し、いそいそと男は足を運んでいく。
ひさしぶりに女体に触れる期待に浮かれる気持ちと後ろめたさが胸に交錯する。
「…すまぬ。夫である前にやはり自分は男なのだ」
元気な男児に恵まれたのはいいが、それゆえに妻との相寝する機会もぐんと減り、
かといって、大切な相手を無理に己の高ぶりに付きあわせるのも気が引けていた。
しかし彼の剣は男盛りである。
今朝も彼が出仕の支度をする間にも、妻は起きてこなかった。子供の服やおむつが
床にちらばり、元気のいい息子相手に奮闘する妻や使用人の苦労がしのばれた。
ゆえに、模範的軍人と全軍から尊敬される彼も妓館の門をくぐる気になったのだ。
一応、妻への遠慮として支配人には妓女の外見についての注文はつけずにいた。
それは分かっているのだが、この部屋の暗さはいったいどうだろう。
窓のよろい戸も閉められているらしく、この廊下の扉も閉めてしまっては
本当の真暗闇。鼻もつままれても分かるまい。仕方なく、手を体の周りで振りながら
部屋の奥へと進んでいく。
十歩ほど進んだとき、寝台と思われるものに突き当たったので腰を下ろした。
すると、闇の中から突然に柔らかい腕が現われて男を抱きしめていた。
懐かしいような甘い体臭に胸は高鳴り股間は高ぶり、男は強く女を抱き返す。
すっぽりと逞しい腕に抱かれた女の身体はしなやかにくねり、さらに男の欲望を煽る。
視覚が断たれているせいか、残りの感覚がよりいっそう男の心に染みとおっていく。
すでに乱れ始めた女の呼吸と香油をすりこんだ肌から立ち上る官能的な匂い、
男のせわしない手は手早く薄物を剥ぎ取り、つるりとなめらかな肌を執拗に探っている。
よくこねられたパン生地のような肌を撫でるだけではとてもこの渇きは治まらぬ。
男は切羽詰ったように女を寝台に引き倒し、そのあえかな肌に雨のように口づけを降らし
浮いた汗を舐め取るように唇を這いずらせては、きつく肌を吸い上げる。
初めて相手にする妓女だというのに、どうしてこんなにも自分の肌に合うのだろうか。
溶鉱炉に全身放り込まれたような熱気の中、まだ残る理性はその不思議さを思った。
無言のままただ息を乱れさせていく女の声が聞きたくて、男はその指を女の股間に
すべりこませた。
「ああん!いや、そんないっぺんに触っ、ああっ!…ひ、うっ後ろもおッ」
この声、そして二本差しにも抵抗するでもなくすぐに反応する感度の良さ。
「…ナスリーン、おまえ、どうしてここにいる?」
手が止まった男に、妓女、いや男の妻は愛する夫の胸に顔をうずめてこう告げた。
「あたくしもあなたにずっと抱かれたくて仕方ありませんでしたのよ。でも自宅では…」
たしかに、あの子供中心の散らかった部屋ではどうにも気分が出るものではない。
男の端正な顔が優しい笑みに崩れた。
抱かれたい気持ちを隠さず素直に打ち明ける可愛さ、妓館に乗り込むという大胆な勇気。
その両方を合い持った妻がなんとも愛しく思えて、その歓びのまま妻を深く貫いた。
みっしりとした肉の鞘が剛剣をしっかりとくわえ込んできゅうきゅうと締め付ける。
幾度も追い詰められ、そのたびにはぐらかされて妻の身体はますます切なさで狂っていく。
「あ、ああ!もう……してえ!あなた!やあああっ!はあっ!」
溜めた思いを爆発させて男は己自身に全軍突撃を命じた。「ヤシャスィーン!!」
翌朝、夫婦はよりいっそう仲睦まじい様子で馬に二人で乗って妓館を去っていった。
館の主はその光景に目を丸くしたまま、代金がつまった袋の重みを手のひらに感じつつ
大将軍夫妻を見送っていた――主人の頭にひらめくものがあった。
これがパルスの説話に有名な「連れ込み宿が出来たきっかけ」のお話である。
前半で萌えて、後半で爆笑した。
いやはやGJ!!!
この逸話を戯曲にしてギーヴに歌わせたい。
妻も恋人も・・・いてはいけないだろう女神官は、こころならずも妓館にいた。
「では、よろしく頼む」
「はい、お任せくださいませ」
妓館の主人はうやうやしく巻物を押し戴いた。
あの町でこの町で浮名を流している吟遊詩人がエクバターナを旅立つのは問題ないのだが、
次はいつこの都に戻ってくるのか分からない
にも関わらず、持っていかねばならない書簡を、あの浮かれた男は忘れていった。
そんなときに限って、ほかに頼める者がいない
女神官は仕方なく、普段なら足を踏み入れる事の無い場所へ赴いたのだ
様々な女を見慣れている主人にしても、この館には珍しいタイプの女性に最初は驚いていたが
身分を明かさぬ程度に事情を話すと、快く引き受けてくれた。
中身を見られる心配はあったが、しっかりと封をしてある。
たとえ見たとしても構わない。
もともと部外者には分かないように記してあるのだから
普通なら第三者に預けようとは思わないが、
目の前に立つのは、高級妓館の主人に相応しく信用第一、秘密厳守でそれと知られた男である
仕方なく、主人に託したと言う訳である
何より 今、部屋に踏み込むのは野暮の極み
それ以上に嫉妬のあまり踏み込んだと思われては堪らない。
「面倒なことを頼んですまないが、返事を預かってくれんか?取りに参るゆえ」
「承知いたしました」
これで、浮かれ男に書簡がわたったのか確認できる。
主人に軽く頭を下げ、きびすを返した女神官の背中に華やかな声が降り注ぐ
「まぁ もうお帰りになりますの?」
「せっかくいらして下さったのに 寂しいですわ」
「ゆっくりなさって下さいませ」
あっという間に集まってきた妓女たちが女神官の腕にしなだれかかる
同じ女であるが、自分はつけていない白粉の香に包まれた。
「わ、わたしは女だぞ」
「もちろん承知しておりますわ そのへんの殿方なんか比べ物にならないほど凛々しい御方」
うっとりと見上げてくる女の視線には、戯れの成分は欠片もない
辺りを払うような凛々しい立ち姿が、妓女たちの欲を刺激したらしい
抗議の声は笑い声であっさりと払いのけられる。
かつて言葉の力と言うものは、これほど無力であっただろうか?
「遠慮なさらないで、こちらにいらして下さいな」
さあさあと、左右から腕を引かれ、館の奥へ奥へと導かれる
その辺の男どもであれば手荒く振りほどくのだが、
前後左右どちらを向いても、女・女・女・・・
「ご、ご主人!すまぬが 助けてくれぬか」
助けを求めるが、肝心の主人はあさっての方向を向いてなにやら呟いている
「ナルホド、男ばかりが相手ではないな 意外と女人相手も繁盛するかもしれん・・・」
商魂たくましい男である。
「離せっ、離さぬかっ」
美しく飾られた部屋に引きずり込まれた 女神官のその後を知る者はいない。
ファランギースでこれしか考えつかなかった
そもそもエロくないし…orz
>220氏
GJでしたwww
いやいやGJ。
女も虜にするファランギースの美貌がすばらしい。
欲を言うとファランギースの特徴の「〜〜〜じゃ」という言い回しを
もうちょっと使ってほしかったな。
どうするんでしょうねぇw
ファランギースはおそらく女神官の神殿にいたときも
女子高のノリで超モテだったろうから上手く切り抜けるんじゃ
ないかと思われますが。でもどうやって?w
>>223 また書いて!自分はエラムでやってみるよ。
さっきのにギーヴが入るとすると
残りはダリューン、ザラーヴァント、ジャスワント、ジムサ、不明だな。
いや、エピソードというほどのものもないから入れなくていいんでない?
強引にコンプリートを目指すよりも
職人さんが書きたいキャラで書いたものを見たい。
肝心のアルスラーンが抜けてるよ!!
「王室御用達」なんだからさ!!
妻も恋人もいない侍従武官が、ここのところ妓館に通い詰めらしい。
という話が国王の私室にて話題となっていた。
「陛下、こちらには来ておりませぬか」
宮廷画家にしてついで片手間に副宰相をやっているとうそぶく男は愛弟子の姿を
探しここにやってきた。室内にいたのは、国王と芸術を解さぬ彼の悪友、
そして慣れぬ手つきで緑茶を入れる褐色の肌をした侍従武官のみであった。
上着にいくつか絵具を跳ね散らかした宮廷画家に、国王はこともなげに答えた。
「ああ、きっとあそこに行っているのだろう」
「ご存知なのですか?」
クッションに座るようすすめられ、画家は緑茶の杯を手に取った。
「城下から少し離れたところの…ええとハザール・アフサーナといったかな」
その名を国王の口から聞いて、緑茶を吹くもの約一名。
「まったく、そこまで驚くほどのこともあるまいに」
しぶきを迷惑そうに避けながら画家は意味深な笑いを口元に浮かべた。
「陛下は御歳19にあられるぞ。やれやれ、ルーシャン卿の懸念もこれで少しは…」
「う、うむ。それはそうではあるが、しかし、そのなんだな。お前の弟子も
そういう歳になったということか」
ふむ、腕を組み侍童(レータク)から年月を共にしてきた愛弟子の姿を思いやる。
すっかり背も伸びて、歴戦の経験からか引き締まった顔つきはかなりの好男子。
国王と共にお忍びの際は、少なからぬ若い女性から熱い視線を浴びているという。
そう証言したのは、茶のお代わりの支度に一心に取り組んでいるこの侍従武官である。
「どうして陛下がその名を知っておられるのか野暮になるから尋ねませんが、
あれはいったいつからそこへ?」
それを聞くのも野暮じゃなかろうかと思ったが、熱い湯を扱う手元が留守になりかけ
あわてて作業に集中した。もう一人はといえば、身を乗り出して聞く構えになっている。
大陸公路に名を轟かす勇将と思えぬ姿を、大陸一の智将はあきれたように見やった。
一つ大きなくしゃみをして、腕に山のように抱えた荷物を取り落としそうになって
寸前で踏みとどまった。若者の足が行く先は、高級妓館ハザール・アフサーナ。
きれいに刈り込まれた生垣を通り抜け、そのまま館に入らず横の質素な建物に向かう。
小さな裏庭では、歳若い女性が煮立った甕から何かを取り出し、棒で器用に絞り上げていた。
年のころは15、6。彼女の黒い髪は日の光にきらきらと反射して肌には珠の汗が浮いていた。
「ほら、頼まれていたものここに置いとくよ」
「ありがとう!」
振り向かずに礼を言う。ここからは真剣勝負、気を抜けぬ。彼女の手は休まることなく動き、
目は盥から流れ出る水の色を慎重に見やる。三度目でようやく納得のいく色になって
しっかり水気を絞った後に、その糸を別の甕の中に漬け込んだ。そこでようやく
彼女は若者の方へと振り向いた。切れ長の漆黒の目に、親しげな笑いが浮かんでいる。
「これなのだけどね」
「ほう、これは絹の国(セリカ)の品じゃないか」
国王が盆の上からつまみあげた敷布(コースター)を見て関心の声が上がった。
夏らしく藍と白に染め抜かれた爽やかな色合いで、さらに細かな刺繍が施されている。
「知っているのか?」
「ええ、しかもかなりの逸品。この刺繍は大陸公路の端も端にあるという国のものでござろう。
街中には水路が張り巡らされ、聞くところによりますと同じような都市が西方にもあるそうで。
絹の国の豪族たちはこの地で花鳥風月に囲まれ、余生を送ることを理想としておるそうです」
「やけに詳しいのだな。その知識はどこから仕入れた?」
知っているくせに底意地の悪いことを聞くのは旧友の悪癖であるから平然と無視しておいた。
そして国王が話したことは、ルーシャン卿の荷をまったく軽くしない内容であった。
「…そういうことで、足を挫かせてしまった彼女が不便ないよう様子を見に行っている先が」
「その妓館、という訳ですな」
後を引き取って、画家は静かに茶を啜った。
なんでも生まれは絹の国、両親が亡くなって身寄りがないところを隊商(キャラバン)に拾われ
ここ王都で商売のため一月ほど滞在中なのだという。絹の国からの珍しいものを売り、パルスの品を
仕入れた後さらに西方に向かうのだが、彼女には売る品物が無い。よって妓館の小間使いをして
生計を立てているのだが、市場で買い物中災難にあってしまった。そこを助けたのがお忍び中の
我らが国王。人ごみの中悪漢どもと剣を切り結ぶわけにも行かず、狭い路地を逃げて走る中、
彼女が足を挫いてしまった。我の責任と国王はすまながったが頻繁に王宮を抜けるわけにはいかぬ。
「そういうことでしたか」
「けれど、それだけじゃないんじゃないかな」
空の杯を床に置いて、国王は静かに笑った。
「といいますのは?」
「かなり綺麗な子でしたよ。絹の国が生まれだからか目の形が綺麗で、瞳は漆黒の宝玉のようでした」
やや手馴れてきた様子で緑茶の追加を注ぎながら彼女の印象を皆に報告する。
「なるほど、ねえ」
片足をかばいながら椅子に腰掛けた彼女は布に針を刺していく。驚くほど速い手の運びに
若者はすっかり感心して見とれていた。
「驚くことなんてないわ。わたしの国の女の人ならこれぐらい出来て当たり前なのよ。
周りの大人たちが刺繍する様子を見て育って、見よう見まねで針を持つようになって、
5歳ころには簡単な刺繍なら自分で作ってたわ」
見る間に込み入った図柄が布の上に描かれていく。
「これが仕上がったら、上のお姐さんに届けてくれるかしら?それと注文もあるだろうから
それも一緒に聞いてきてもらえたら、とっても助かるんだけどなあ」
「ったく、人使いが荒いんだから」
「諦めてわたしの言うこと聞きなさい。あなたのご主人さま直々のご命令なんだから」
どちらの声も笑いを含んだものであったから、険悪な空気になることはなかった。
あるとき、若者は彼女に頼まれた生成りの糸を受け取るついで寄った店で銀の腕輪を購った。
パルスで過ごした記念になればいいと思ったのだ。はたして彼女は喜び、三日後にお礼だといって
彼女が若者に渡したのは、自らがていねいに染め上げた濃緑の布に金色の美しい刺繍がほどこされた
サッシュだった。両端には飾り紐まで付いている。
徹夜で赤くなった彼女の目に浮かぶのは疲れだけではなかったが、それには気付かないふりをした。
「本当は、フェニキア紫で染めたかったんだけど」
聞きなれぬ響きに、いったいそれはなんであるのか尋ねてみた。
「大陸公路の、果ても果ての国の海で採れる貝で染めた色よ。すっごく貴重な色なのよ。
たった一匙の染料が、その十倍から二十倍の黄金ほどの値段で取引されるものだから
高貴な人しかそれを身に付けられないんですって」
そこまで一気にしゃべって、彼女は息をついた。
「でも、その国に行ってそれで染めた布に故郷で身につけた刺繍をするのがわたしの夢なの。
旅がどんなに大変でも、その夢を叶えるためなら全然辛くないわ!」
目をきらきらと輝かせる彼女を可愛いと思う。だから言えないんだよ、と若者は溜息をついた。
「おや、それはどこで買い求めたものじゃ?」
十六翼将に名を連ねる武将だが、女性の細やかな目は腰のサッシュにいち早く気付いていた。
顔に出ぬよう注意しながら人に貰った物だと話すと美しき女神官は何か思い当たったように微笑んだ。
決して旅の楽士には見せぬ、女神の微笑。
「そのことじゃが、聞いておらぬのか?」
そこへ国王が通りがかり、若者の姿がそこにあることに驚いた顔つきをした。
「隊商の出発は今日だというのに、見送りに行かなくていいのかい?」
「これから重要な軍議がございます。ささやかな私事にかまける暇などありませぬ」
先を歩く若者の背後で視線が行き交った。端正な唇が開き、廊下に美しい声が響く。
「陛下。」
ああ、と心得たように肯いて国王は今日の会議が延期になったことをこの場で表明した。
「軍議なら先延ばしに出来るが、今回の件は急を争う。隊商に頼む品があったのを今思い出したのだ。
悪いがエラム、至急行って伝えてくれないか」
通りすがった書記官から筆記具を借り、さらさらと書き付けた紙を手に握らせた。
「よろしく頼むよ」
小麦色の頬が見て分かるほどに赤くなり、部下でなく友人としての心配りに頭が自然に下がった。
兄弟弟子の背中を見送る国王の内心は複雑だった。青年の階に先に駆け上っていく友が眩しく見え
そして羨ましくもあった。自分の胸の中に住まう相手はいまだ行方も知れぬままだというのに。
だが、友を妬ましく思うような狭量さからは遥かに遠い国王である。すぐ気持ちを立て直した。
「さて、軍議はいつ開くことにしようか」
「とりあえず、今晩中は無理でございましょうな」
からかいを含んだ二人共通の師の声が耳に届き、国王は笑って振り返った。
…案外長くなってしまった。残りは深夜っす。
GJGJ!!
悩めるエラムが可愛い。
残りの投下をwktkで待つよ。
GJ!文章がきれいでガイエらしく仕上がってる。
キャラのセリフの掛け合いも絶妙。
楽しみに待ってるよ。
血相を変えて飛び込んできた若者に詰め寄られ、たじろいだ妓館の主は二三歩退いた。
「彼女は?隊商の出発はまだのはずだろう?」
「いったいどの妓女のことをお尋ねになってるんです?お客さま」
「妓女じゃない!ここのとこそっちに雇われていた小間使いの子、あの子のことだよ!」
「ああ、あの子ならもう荷物を纏めて出てかれましたよ。本当に働き者で、いい子でした」
最後まで聞かず、身を翻して裏の建物に駆けていく。
彼女が間借りしていた部屋はすっかり片付いており、寝台もきちんと整えられていた。
食卓の上にはいつも竹や藤の刺繍枠や、針、糸、はさみが散らばっていたのにそれも無い。
白々しい光だけが満ちる部屋で、エラムは呆然と立ち尽くしていた。
いまさらながら苦い後悔が胸のうちに込み上げる。もったいなどつけるんじゃなかった。
自分で自分を殴りつけたかったが、それより隊商が今どこにいるのか探さなくては。
戸口に引き返そうとして、信じられないものを見たというようにエラムの目が見開いた。
「…びっくりしたわ。どうしたの、エラム?ううん、エラムさまというべきかしら」
もう杖もついておらぬ彼女は小走りで彼に駆け寄ってきた。
「あの、おれは…」
「国王さまに仕えるべき武官が、こんなところに居てどうするの。早く戻っ」
言葉は最後まで続かなかった。好きな人に抱きしめられて嬉しくないわけがなかったが
彼女は腕をつっぱってエラムから身を離そうとする。だが力で敵うわけがない。
「出発は明日よ。隊長が前祝で二日酔いで倒れちゃってね、さっきまで看病しにいってたの。
だから、ねえ、ちょっと離して。苦しいわ」
ようやく解放されて、彼女は大きく息を吸ってエラムをまっすぐ見上げてきた。
「国王さまはよくお忍びをなさるそうね。王都では有名な話らしいけど、わたし知らなくて」
「それは当たり前だよ。きみがパルスに来たのは今度が初めてなんだから」
「そうね。ふふ、いちおう覚えておくわ……またここに戻ってこられたらの話だけどね」
そういう彼女の目はすでに潤んでいた。まだこの時代、隊商の旅は命がけだったのだ。
「行くな、ここにいろ」と言う情熱はあったが、それを実現するには彼はまだ若すぎた。
「…言わないで行こうと思ったのに、どうして、会っちゃうのよ!」
「いったいなにを?」
知ってるくせに、と頬を膨らます可愛い人を今度は優しく抱きしめ、唇を触れ合わせていった。
したい――。
彼女としたい。求めても、いいのだろうか?服の下で鋭く剣が盛り上がる。
何万の敵を相手にする戦場でも感じたことの無い緊張が上から覆いかぶさってくる。
軽く腰を押し付けてみたが、彼女は引かなかった。むしろエラムの唇をより強く吸ってくる。
止まらなかった。止めようとも思わなかった。彼女の足を掬い上げ、寝台の上にそっと降ろした。
「ねえ」
かすかに震えた声がまだ昼間であることを訴えるが、エラムは微笑み混じりに首を横に振った。
襟が立ち上がった絹の国風の上着を腕から抜かせ、胸に巻いた布をするすると解いていく。
きれいだ、とエラムは思う。胸は妓女に比べたらささやかで、腰のくびれもそれほどでもなく
身体はまろやかさより削ぎ落とされたような肉つきだった。それでもどの女より、彼女はきれいだった。
乳房が揺れた。薔薇水の色より可憐でずっと瑞々しい乳首だった。唇をつけるとかすれた声がして
舌でなぞると鼻にかかった吐息が漏れた。
後は夢中で自分の服を脱ぎ、彼女の腰を腕に抱えると脚を割って顔を埋めていた。
初めて見る女の、それであった。
滲んだ蜜でつややかに光る肉の色は血の色に透け、女の濃密なにおいが鼻に染みた。
自分のものはとうに立ち上がっているのに、まだ物足りないというようにさらに熱く、硬くなる。
一つになりたい。この愛しい人と、早く。乱暴にしちゃだめだと頭の中で声がするも
身体が、いや想いが手の付けられぬ馬のように暴走する。彼女を片手で抱きしめた。
もう片手を添えた剣の先が、股間の泉にわずかに差し込まれた。痛みで腰を退き逃げようとする
彼女を身体で押さえつけ、ゆっくりと深みの中へ力を絞り込んでいった。
きつく目をつぶった彼女の眉間に皺が寄っている。
「無理だったら、すぐに言って」
「うん、でも、平気だから…」
胸に顔をうずめるエラムの頭を、彼女は両手で抱きかかえた。
「…好き」
背中に回していた腕をほどき、上体を浮かせると彼女の唇を噛むように吸い上げた。
声にならぬ声が絡む舌から漏れ出でる。おれも、おまえが好きで、好きで、好きで!
「気持ちいい、か?…おれはすごく気持ちいいんだ」
「…ほんと?」
「初めてだ…ああ、こんなに」
腰を振る勢いがついた。愛おしさが高ぶりに変わってエラムの全身を快感が貫いた。
彼女はエラムにしがみ付いた。甲高い啜り泣くような声ががらんとした部屋に響く。
力を加減する余裕も無くなって、ひたむきに剣を突きこんでいく。もう堪えきれない。
目の前がくらくらっと揺れ、熱いものが腰の奥でほとばしった。
彼女ときつく絡み合わせていた指と指が、ゆっくりとほどけていく。
交わっているときには無我夢中で気付かなかったが、彼女の肩は柔らかくて小さくて、華奢な
体つきだった。大陸公路を東から西まで踏破しようと強い精神の持ち主とはとても見えなかった。
どうしよう、旅立たせたくない。けれどそう言ったら彼女はエラムを叱り付けるであろう。
その情景を脳裏にひらめかせてエラムは苦笑したが、なぜかすがすがしい気分を覚えた。
自分の腕前一つで遥か絹の国からやってきた元気な女の子は、おそらくこれからも素晴らしい
刺繍を作り続け、夢を叶える日はきっと彼女に訪れることだろう。
(誰かを好きでいられるって、とっても幸福なことなんだよ)
ああ、そうだな。いつも師をめぐって皮肉を飛ばしあっている女族長の台詞に肯く自分がいた。
翌朝、隊商の泊まる宿に彼女を送り届け、やっと思い出して国王からの手紙を彼女に手渡した。
広げてみた彼女の目が強い光で輝いた。そこにはこう書かれていたのだ。
「あなたの最高のものを」
彼女はふわりとエラムに微笑んだ。牡丹の花が咲くような、艶やかな女の笑みだった。
「これを、あなたに貸しておくわ」
首に巻かれた布をエラムは広げてみた。その色は、深い深い藍色だった。
「藍花、わたしの名前ランファと同じ名前の花で染めたものよ。絶対、取りに帰るからね!」
そして数年後、豪奢な刺繍が施されたそれはそれは見事な紫色をした衣が国王に献上された。
いまもって王室に伝わる衣を作った職人の名は、長い時の中に埋もれ杳として判らない。
終。
エラムのエロパロなんて書く日が自分に来ようとはついぞ思わなんだ…w
じゃあね。
GJ!
初々しくて良かったです。
GJ!超GJ!
言葉もありません。なんていうか、浪漫的なものを感じました。
非常に、乙!!!!!!!!!
超GJ!!!
別れてしまう二人なのに爽やかでよかった。
陛下の老成っぷりもいいなあ。
未経験のくせに百戦錬磨のような落ち着きだ。
やべ、切なさにちょっと涙ぐんだ。青春っていいなあ。gj!!
書いてて気付いた。
田中キャラに 読者が好感持てるような女性 を絡ませようとすると
必ず「元気」な健気キャラになってしまう。
もしくは非常に大人しやかで、清楚な感じ。
いわゆる萌えキャラクター系女の子「ですわぁ♪」「○○さまぁ!」とか
言う感じの女の子とのカップリングが想像できん。
そうだね。ファランギースやアンジェリナのような
正統派絶世の美女もいけるけど
ガイエが先に出しちゃってるからオリキャラでは出せないね。
エラム編GJでした。心が温まったよ。
師弟2代で絹の国大好きってのもイイ。
作者さんたち本当に乙。
読んでると、本当にこういう外伝がパルス世界で起こってておかしくないと思えてくる。
それぐらい自然な設定で、読ませる話だから誰が主役にきても楽しみ。
上手いゆえ、それだけの話捻り出せない自分は書けずに読ませてもらうだけ…orz
そういう読者、自分の他にもいる…よね?(コソッ
自分じゃ書けずにただ楽しませて頂いてる者はここにもいるので安心してくれ。
複数の職人氏が書いてるんだろうに、
出来の良さはともかく文体なんかにも違和感らしい違和感が無い。
本当に凄いや。
自分も貰いっぱの人間ノシ
皆様毎度ありがとうございます。
キャラや舞台だけ借りるんじゃなく、きちんと原作のパロになってるのがほんとにすげぇなぁと思います
申し訳ないけどどうぞこれからもよろしくです
>>246 つ【天使のなっちゃん】
頑張り屋さんで一途でスポーツ万能☆
立派な萌え系ぢゃ!
ちょwwwwwwおまwwwwww
その解釈新機軸すぎwwwww
>>251 その解釈最高だYO!!
おまけに巨乳だしね なっちゃんは☆
というか萌キャラのなっちゃんってつまり
お涼うわまて何をくぁwsでrftgyふじこ
妻も恋人もいない異国の武人も、妓館で時を過ごすことがある。
「おや、またあの女をご所望で。もっと他に器量よしの妓女が控えておりますのに…
いえ!恋の道は恋の数だけありますゆえ。誠に過ぎたことを申し上げてしまいました。
さあ武具をお預かりいたしましょう。はあ?それだけは手放せないと。まあ、ええ、
…分かりました。こちらの部屋でございます」
主人が扉を開けると、歳もやや盛りを越えた妓女が籐椅子に腰掛け煙草をふかしていた。
顔立ちも麗しいというには少しばかり遠く、愛嬌があるといえばいえるような様子である。
「あら、また負けに来たの」
「この間の手合わせは納得いかぬ。いざ、尋常に勝負せい」
男が真剣な顔で申し込んできた勝負事を妓女は笑い混じりに引き受けた。
「では、前と同じ条件で。いいわね」
「ああもちろんだ」
妓女の指は飾り棚の上、青磁の花瓶に贅沢に生けられた花に向けられていた。
「では、こちらが先攻だ」
空気を切り裂く音がして、大輪の花がパッと宙に赤い花びらを散らした。
「…どうだ」
「ふん、ずいぶん腕前を上げてきたものね」
「では、こちらはあの花を落としてみせるわ」
妓女が示した花はさきほど男が落とした花より二周りほども小さい。
「まさか、無理だろう」
男は自分の優位を見せ付けるように胸を張って妓女を見やったが、彼女は怯む様子も無い。
「見くびられちゃ困るわ。これでも足を洗うまでは一流のアサッシン(暗殺者)として
豪族貴族の宴席に呼ばれては要人貴人をディーブ(悪鬼)の元へ送り込んだんだから」
妓女は下穿きを捲り上げると大きく股を広げ、細い筒状のものを股間に差し込んだ。
男がごくりと息を呑む。
「さて。ワーヒド、イスナーン、サラーサ!(1,2,3!)」
小さく、だが鋭い音と共に妓女の指差した花は狙い過たず打ち落とされた。
「ぬ、ぬぬぬぬぬ!」
「はい、やってみる?」
(く…数多く戦場を駆け巡ったといえど、このような技の使い手など見たことないっ!!)
服を整えた妓女は、またぷかりと煙草をふかして男が吹き矢を構えるのを見守っている。
シュッ!
「あら。」
パシュッ!
「まあ。」
シュシュシュシュシュッ!
「あたしは別に勝とうが負けようがいいけどねえ。壁に開けた穴の修理代、よろしくねえ」
男はついにがっくりと頭を垂れて俯いた。
「こんな戯れ事の芸に真剣になってまあ、あんたもしょうもないお馬鹿さんねえ。
それにここは妓館でしょ。いいから、こちらに早くおいでなさいな。楽しませてあげるわよ」
妓女は男を妖艶に手招いて、言葉通り男の矢筒をその巧みな肉壷で揉みしだいたのだった。
これがなんだか分からなかった人は「花電車」でググってね。
こんなの書いていいんかなあ。あっははは。
彼に恨みがあるわけじゃないんだよ?ほんと。
つづけてもういっちょ。
妻も恋人もいない黒衣の騎士は、妓館で時を過ごすことがある
――汗で湿ったシーツが肌にまとわりつく。
香のにおいが室内に満ち、真紅の花をつけた芍薬、紫檀で作られた寝台に異国風の屏風絵。
己の身体の上に金色の巻き毛が流れるさまを、万騎長はしずかな眼で眺めていた。
「このままお越しにならずにいれば、もう忘れられたものと諦めもできましたのに」
濡れた碧い眼をした妓館一の美女はふたたび彼の身体のうえに顔を伏せた。
ちろりと赤い舌をちから満ちる筋肉に這わせながら、ゆっくりと顔が下の方へ下がっていく。
彼の上に妓女は屈みこみ、懸命に奉仕する。それに任せながら男は彼女の細い首筋に手を伸ばし
髪を梳きながら愛撫する。男の息が次第にのぼりつめ、妓女は彼の身体がふるえるのを感じた。
むせるような男のにおいを喉をならし、妓女はすべて飲み下した。
妓女の身体は雪花石膏が夕陽に透けたように薄赤く染まり、快楽に燃え立っている。
青金石(ラピズラズリ)の瞳、金の髪。すべてが造り物のような秀麗な顔立ちをしていた。
男が彼女の頭に手をかけると、妓女は顔を外して唇の滴を舐め取った。
「お会い出来なかった一月ほどのあいだ、わたくしを幾度かは思ってくれましたか」
大きな眼が期待の光に輝いている。
否と答えることもできず、男は無言で妓女を腕の中に引き寄せた。
いとしいと思う気持ちに嘘は無い。事実、妓館にていつも呼ぶのは彼女であったから。
妓女は男の沈黙を責めなかった。それより自分の中の空洞を確かなもので埋めたかった。
男の黒光りする豪剣に手をのばし、溢れるほど潤んだ中へずぶずぶと押し込んでいく。
あえぎながら、男の胸の中でささやいた。
「この館にいるときは、いるときだけは、嘘でも愛してるといってはくれませぬか」
くらむような愉悦に涙をなめらかな頬に零れ落とさせながら、腰を丸く動かす妓女を
あらためて抱えなおし、男は妓女の瞳を見つめた。
だが、どうしてもその一言は口には出せない。
星涼公主と共に過ごした比べるべくもない輝きに満ちた記憶を思うと、彼は言えなかった。
甘い吐息の中に、すすり泣くような震えが男の肌に伝わってくる。
「いいのです…ここにいるときだけは、わたくしだけのひとなのですから」
――夜明け間近、眠る妓女を背中から抱いて寝台に横たわっている。
彼女の肩越しに見えるのは、地平からわずかに昇った下弦の月。
絹の国のあの人は、この月を見ているだろうか。そうであるならどんな思いで…
腕の中の温かな身体に身を寄せ、男は静かな眠りに落ちていった。
タバコは新大陸…まあいいか。面白かったから。
ダリューン相手の妓女がカワイソス。
でも彼は天然だからやりねないな。
妙にリアルでよかった。GJ。
>>259 えーっと、水煙草。あの紙巻のやつじゃなくって。
あ。調べてみたらそれも17世紀初頭にペルシャで誕生だってーorz
うわー失敗した。歴史が浅すぎた。ごめん!
ふいんき、ふいんきw
>>261 まあ、そのなんだ。イキロ。
妓女に醸し出させたかった雰囲気は汲み取れるからさ。
最後の翼将が決まらんなあ。
腕輪三人のうち、あの二人は処女だよねえ。
今ここ読んでる人数って、片手で数えられるだけ?
ちょっと前までは活気があるように感じてたんだが…
え?今も結構イキイキしてない?
そうか。そもそも「エロパロを投下」する板だった。
いつも雑談とか普通にあって一日にレス数個付くスレにも行ってるから
ここの静けさをあれー?過疎ってんの?とか思ってたんだよ。
ここは、感想書き込む人よりロムってる人の方が多いんだな。
ごめん、
自分はしずかに、シトシトと読むのが好きなんだ。
かといって、作品に対する自分の感情を書き散らせるだけの能力もない。
でもGJ!の文字だけで済ませられるほど、大人でもないから。
一番近いのは 「なんかいいなぁ」かも知れないですが、
さすがにそれだけではカキコ出来ないと思っている。
というわけで、レスなくてごめんね。
ちなみに投下の嵐に埋もれちゃった感じになってるけど
キシュワードのがすごく良かった。
また書いてください。
エラムの話は、パルスが東西の文化をつなぐ要所にあるという背景が
うまく練りこまれてて、その設定に唸らされた。
教科書(国語だっけ)に載ってた正倉院の布っ切れの話を思い出した。
あれも遠い国のモチーフが日本にはるばるやってきたという内容だったな。
妻も恋人もいない青年騎士は、妓館で時を過ごすことがある。
二人が眠る部屋の扉を、遠慮がちに叩く音がする。その音で妓女は目を覚ました。
男はまだ、女の身体を抱きしめ眠っている。おかげで女の体はこわばり痛かったが
平和な寝顔に幸せな気分を感じていた。
そろそろと男の腕を外し、寝台を抜け出そうとしたが床に足がついた所で男が目を覚まし
情婦の腕をつかむと自分の胸元へ巻き込んだ。
「もう、仕官に遅れてしまいますわよ」
寝台まで射し込む眩しい光は、早朝とはもう呼べぬ時間であることをしめしている。
おざなりな抵抗に男は低く笑った。
「だめ、やめて、いや、いや」
言葉とは裏腹に女の身体は昨夜の快楽を覚えていて、あっという間に男の指は蜜にまみれた。
「おれひとり居なくとて、どうってことないさ」
「うそ、あなたがそんなこと本気で思うわけありませんわ」
男は強引に肉に分け入った。鞘と剣が淫らな音をたて、激しくこすれ合う。
扉越しに聞こえる、他の客たちが妓館を出て行くせわしげな足音。時間がないという思いが
いっそう二人の快感をきりきりと縛り上げる。いくらも経たぬうち女の身体は弓なりに反った。
終わった後、男は事の余韻にひたる風でもなく寝台から飛び降りて身支度しはじめた。
手伝おうとあわてて身を起こす女を手で制して、さっさと袖に手を通し剣を佩く。
「そなたは寝ておれ。昨夜から何度、おれに付きあったと思っている」
すでに武人の顔つきになった男は、情婦の手を取り真剣な目をしてこう言った。
「この館を出て、おれの邸宅に住まってくれないか」
「そんなこと、陛下が妻帯せぬ間は自分が先んずるわけにはいかぬ、と。つねからそう言って
おいでじゃございませんか」
とたん、男の真面目な顔が酢を飲んだような気まずい顔に変わる。
大丈夫ですよ、と女は微笑んだ。
「ご心配なさらずとも、あなたに付きましてからは他の客は取っておりませぬ。それだけの金子も
あまるほど充分受け取っております」
実際、男は他の男が通う隙もないほど日をおかず妓館に通っていた。
「わたしは、あなたが他の誰にもできない尊い仕事をなさっておられるのを誇りに思うております」
こう言われては、男は扉を開け現場に向かうしかない。名残惜しげに握る手を女から引き剥がした。
「では行ってくる」
「はい、あなた」
花がこぼれるような笑顔で見送られ、偉丈夫の顔がだらしなく溶けた。ひげを頬に生やしているが
こういうときは童顔の素顔が透けて見える。男のそういうところが女は好きだった。
実直で、融通がきかなくて、頼まれると弱いくせにその分、情に篤い大きな体躯をした若い武将。
妓館で粋とされる軽やかな振る舞いからは遥かに遠かったが、男を心から愛する女にとって
それは欠点ではなく、自分だけが知る貴重な宝としか見えなかった。
これだけ男に真心込めて愛されて、幸せでない女など何処にいよう。
香油をつけた櫛で長い髪をすきながら、妓女は目が喜びに潤むのを感じていた。
(あの方はわたしに溢れるほどの愛を注いでくださっているのに、わたしが返せるのはこの心だけ。
お代を遠慮しても、あの方は笑っていつも返されてしまう。いったいどうしたら…)
思い悩む妓女の心を同輩から聞いた話がよぎる。馬鹿なことを考えてしまったと頬が赤らむが
それを知りたい気持ちは止みがたく膨らむ一方である。しばし逡巡し、ようやく妓女は決意した。
「あの…」
「なんだい、あらたまって。身受けの時期についての相談か?貴人に見初められて正妻になった
妓女の話は珍しくもないし、あの方の口と為さることに嘘がないこと、私が保証しよう。
立派な支度で送り出してやるから案ずるな。なに、そのことではないとな?」
妻も恋人もいない侍従武官は、妓館の方から呼びだされ首を傾げつつ馬を走らせやってきた。
「こちらからお呼びたて申し上げて、いやまったく申し訳ございません」
「未払いのものなどありましたか?」
「いいえいいえ、とんでもないことでございます!むしろ今夜はこちらから支払わせて戴きたく」
妓館のあるじは体を深々と折り曲げて、深夜の来客を丁重に部屋まで案内した。
「私も長いことこの道に通じておりますが、なんでも、貴方様の国には偉大なる学問があるそうで?」
「ええ、人生の三要件として古からシンドゥラ人必須の知識とされています。私も、いくらか。
それはダルマ、アルタ、カーマといいまして、それぞれ法、財、愛を指しております。
今夜私が呼ばれたのは、最後の件に関することなのですね」
「は、左様でございます」
話している間に部屋の前に着いていた。
カチャリと鍵が外れる音がして、長い髪をした妓女が緊張した顔で瑪瑙色の瞳の男を中に引き入れた。
「お初にお目にかかります。あの…」
「話はあるじからすでに聞いております。なんでも情人への想いゆえ、私の知恵が必要だとか」
妓女は全身を真っ赤に染め上げて、必死の思いでこくりと頷いた。
「教えるのはかまいませんが、あまりにその学問は奥深く幅広いゆえ、全部は伝え切れません。
要点を言いますと、ラーゲ、つまり体位をいろいろと替えることで気を逸らし、精を放つことを
できるだけ先延ばしするといったことです。ざっと数えて六十四手ございます」
「そんなにも!」
妓女は驚いたが、男が言うことに思い当たることがあるのかいっそう耳をそばだてた。
「これは伝授ですから情人にすまなく思うことはありません。私もそうして教えを受けたのです」
いいですか、と妓女の覚悟を確認すると、男は服を脱いでいく。煮詰めた砂糖色をした肌が現われ、
体はしなやかな黒豹のよう。図らずも妓女の胸は情欲にときめいてしまい、急いでそれを打ち消した。
…そして明けの明星が輝き始める頃、男はうつぶせに伏せる妓女の耳元に最後の教えを囁いた。
「“愛の技、そして力を増幅させることはなんと素晴らしく、また罪深きこと”この原則を軽んじて
この技を乱用してはなりません。けれどあなたなら大丈夫でしょう。思い人と、どうかお幸せに」
あるじに無理やり押し付けられた金子の詰まった袋を持ち、男は果報者の情人について思いを巡らせた。
気立てが良く、美人でそのうえ性格も良し。歌にも舞踊にも通じた彼女はガニカ、つまり妓女として
最高の部類に入るだろう。同じ男としてなんとも羨ましいことよ。
――果報者が華燭の宴を挙げたとき、男の顔が微妙なものだったことに気付いたものは大勢いたが、
その謎を解き明かした書物はついぞ現われることはなかった。
…もうちっと続くのぢゃ。ボーナストラック付き。
がんばれ。wktk
妻も恋人もいない流浪の楽士は、多くの時を妓館で過ごしている。
「貴女に歌を奉げて進ぜよう。その髪は夜の闇のごとく、その顔は歓喜に結びあわされた日の光のよう、
その鼻すじは研ぎすました刃物のごとく、頬は葡萄酒の色、いや血色をしたアネモネにも譬えられよう。
珊瑚の唇は生き生きと輝き、つばきは古酒よりも甘く、その味は地獄の火の苦しみさえも消すほどなり。
その胸は見る人の心を惑わし、象牙のような両の乳房は月も恥らうばかりに冴えかがやき、
想像もおよばぬふくよかさ。可愛らしいお臍、真珠の丸柱のような腿、細いしなやかなふくらはぎは
槍の穂のよう。吹く微風もそなたのめでたい容貌を賞めたたえ、恋するものの心をとらえて離さず。
そなたはじつに魅惑の化身であり、その容姿はしなやかな糸杉のようであり、また薔薇が人に変じたかのよう
おお、そは夢と現の間を自由に行きかう天女か女神の化身か、ラールラー、ルルラルー」
「…いいから。お代を下さいまし。」
「ラフールラフール(恐縮恐縮)」
ちっとも悪びれぬ様子でパルス一の色事師は枕もとの皮袋から金貨を取り出すと妓女に手渡した。
「…ということがあったのですよ。まったく油断も隙もあったものじゃありませぬな」
いまいましげに、葡萄酒の杯を干しながら妓館のあるじは目の前に座る男に愚痴を訴えた。
たくましい海の男は骨付き肉を豪快に食い千切りながら、ある男の顔をすぐ思い浮かべていた。
「格式のある館でそんな振る舞いがあっては堪りませんからね。ほれこのように人相書きも作りました」
目の前に差し出された紙に描かれていた顔が、思った顔そのままであったので男は豪快に笑いだした。
給仕たちが下げる皿をあやうく取り落としそうになるほどの大声で、あるじも肝を潰しかけた。
「ああ、おかしい。だが、あれは自分が遊んだ金を出し渋るような不粋な御仁じゃござらんよ。
あの色事師が本領を発揮するのは、恋愛遊戯の達人と自惚れた財布の重いご婦人を相手にするときだ」
「そうでございますか…。ならこれも必要ないということですな」
そうだ、と筋骨逞しい腕でその人相書きを抜き取り盛大に鼻をかみ、くしゃくしゃに丸めて放り捨てた。
「お互いの商売繁盛を祈って乾杯といこうじゃないか」
「ええ!よろこんで!」
――高級妓館ハザール・アフサーナはさらなる逸話を生み、また多くの秘密をその部屋に仕舞って
パルスの国名が変わったのちもずっと営業し続けた。だが皆の希望もむなしく、数年ほど前ついに
その伝統の灯は絶えたのであった。ここに記したのは、店に刻まれた記憶のほんの一部である。
>>276 GJGJ!!
落ちにギーヴが来たかw
ラストで話がまたグラーゼに戻るところが秀逸でした。
なんかほんとにパルスの歴史書を読んだ気分w
どの十六翼将の話も面白かった。職人さん達ありがとう。
古い廊下が軋む音に、慌てて少年は本を元の場所に突っ込んだ。
「…書庫にはマンガなんて置いてないぞ」
「ああ分かってるさ。その、ちょっと漢和辞典を探しててさ」
「ほう。ようやく学問の奥深さに気付いたか。感心感心」
誤魔化せたか、と安心しかけたがこのままでは兄の講義が廊下で始まってしまう。
「じゃ、もうおれ部屋に戻るわ。さいなら、さいなら〜」
青年は苦笑して、乱れた本棚に目をやった。逆さまにささった本が、そこに一冊。
『パルス秘話・十六翼将艶笑譚』
おれもあれぐらいの歳だったよなあ。活字から入るっていうのが竜堂家の慣わしなのか。
感慨深げに本をまっすぐ入れなおすと、知らず顔にあたたかい笑みが広がった。
(このことは、他の兄弟にはしばらく黙っておこう)
従妹が食事に呼ぶ声に、青年は今行くと答え、書庫の扉をゆっくりと閉じた。
これで本当に、お仕舞い。
けっこう投下しましたが、他の翼将の方々含め、感謝の言葉しかない。
この企画は本当に楽しかった。〆は自分がとっちゃたけど。
出社する行き帰りに話の筋を考えて不気味ににやけていた自分を目撃した人、
ごめんw
実に幸せなオムニバス体験でありました。
しかも二段落ちかよ!!w
結局何名の職人氏が携わっていたのかは解らんが、
その皆様に纏めて感謝。
超GJ。
皆すっげえ〜!超GJ!
セリフに出るのはさておいて、名前を一度も出さずに「あの人だ!」と読み取れる
筆力のレベル高さに大満足〜。これがタダで読めちゃうなんて申し訳ないw
保管庫のタイトル付けは「第一夜」とか、読んでお楽しみ風味なのを希望〜。
ああ…祭りが終わっちゃったorz
皆さん筆力高くて目の保養になりました。
具体的なエロ抜きでも面白く読むことができました。GJ!
次は銀英版で遊廓ものオムニバスを頼みます。
…と提案して去ってみる。
全ての職人さまにGJ!
作品自体はもちろん、職人方が寄りあってオムニバスとして仕上げたことも素晴らしいと思う。なんか文化祭とか的な感動で。
楽しい時間をありがとう!
…ところで竜堂家よ。目覚めるのちょっと遅くないかw
>>283 ああいう家だから、エロに興味持つのも周囲に比べて遅そう。
しかも三男色気より食い気だし。エロよりおやつに小遣いまわしたいだろうしなー。
女子の胸の膨らみに目がいったとしてもハアハアと野獣になる三男…うまく想像できん。
さらにエロ本買うのは、あの環境ではさらにハードル高いだろうてw
でも終君は年上の体育祭実行委員会長なんかに手ほどきをうけて
すでに筆下ろしされてたりするんだよね。
>>285 そうくるか!やっぱお姉さんってのが基本なのかな?
続もあの神クロスが将にって感じだし。余はちょっとどうなるか想像つかんけど…。
でも始だけはやっぱり、茉理ちゃんの成長待ちっぽい?
童貞散らすのは始が一番後になると予想。
案外、終は早いのかなあ。今高校一年だよな。
余は大学入ってからかなー。
弟属性の余よりさらにぽやぽやした妹属性タイプの娘とくっつくのかな。
「はいよー!どいたどいたー!」
活気に満ちた声が共和学院の中庭に反響する。
なにごとかと見やった体育服姿の生徒たちが突進してくる物体を見て
慌てて飛びのき、通り道を広く開けていく。
「あ、終兄さん!それ運ぶの手伝ってあげようか?」
「いんや、それにはおよばねえ。それにもうお前の出る競技だろ?
集合のアナウンスかかってるじゃんか」
「ほんとだ。じゃあ、行ってくるね!」
「おお、しっかり手を抜いて頑張れよ!」
他の人には奇妙に聞こえる激励を弟におくって、終は身長より高く
積みあげた30客の椅子を抱え、校庭へ猛ダッシュしていった。
来賓席と書かれた紙が吊るされたテントを通り過ぎかけ、急停止する。
「ありがと!」
きりっとした顔立ちをした女子生徒が終を労う。背は終より僅かに高い。
すぐさま彼女は委員を呼び集め、てきぱきと指示を出し椅子を並べさせる。
「そこ、五つ並べて三列!そうそう。あと来賓にお茶菓子とお茶もね!」
「よしきた!」
「あんたはダメ!」
食欲魔人にピシリと釘を打ち込んで、彼女はさらなる指示を終に出した。
「綱引きの綱が古くて危ないわ。倉庫から新しいのを二本よろしく!」
「いくらおれが無敵の美少年といえども、ちょっとばかし休みたいなあ」
「学食のパン、1ケース分!」
溌剌とした声がぼやく声の尻を威勢良く叩いた。
「アイアイサー!!」
「時間がないの、急いで!」
声をかける間にあっという間に小さくなっていく終の背中を見やって
「ほんとうに食べ物のこととなると現金なんだから」
呆れたような口調だが、顔には今日の天気のような爽快な笑みを浮かべ、
共和学院体育祭実行委員長は鉢巻きをキュッと締めなおした。
こういうお姉さんですか?わかりません!
>>285
キター!何この萌えキャラ。
普通に終とやいのやいの言いながらいい感じになりそうだな。GJ!!!
GJ!終の軽妙さが出てる。
しばらく原作読んでなかったけど、
じいちゃんの作った学校って共和学院なんて名前だったのか。
今の風潮からだと考えられないなあ。
「なかなか盛り上がってますね」
「ああ」
ポロシャツにジャージという格好なのにどこぞのモデルかというような
高校教師らしからぬ青年と、コットンシャツにチノパンという普段着さえ
ブランド品にみせてしまう青年が、屋上から校庭を見下ろしていた。
「兄さんは、こんなところで油売ってていいんですか?」
「今年は何の係にも当たってないから気楽なもんだよ」
手すりに長身をあずけ、のんびりと赤白の旗がひらめく下界を眺めた。
夢幻的なまでの美貌に笑いがゆらめく。
「終くんが実行委員に入るだなんて、なにかあったんですか?」
「それか。えーっと続は知ってるか?今年の総代やってるあの女史のこと」
「ええ、一学年下のあの子ですよね。高等部中に知られた有名人ですよ」
「その子が今年の体育祭実行委員長なんだ」
「へえ。それと終くんが実行委員やるのと、どういった関係が?」
始は直接それには答えず、迂回した言い方をした。
「ほら、終は一所に収まるような小さい男じゃないだろう?」
兄の苦心の表現を続はばっさり切り捨てた。
「つまり、どの組織からも敬遠されてるってことですよね」
「んー。その通り」
始はあっさり兜を脱いだ。
「風紀委員はもちろんのこと、美化も保健もどこも引き取り手がなくてな、
一年に一度役目を果たせばいい体育祭実行委員にクラスの皆が推薦して
くれたんだそうだ」
「それで?」
「もう実行委員長は彼女に決まってたんだ。だから皆も推薦したんだろう。
そしてその目論見は成功した。彼女は見事に終を使いこなしてるよ」
「天は二物を与えずとかいいますけど、三物を与える場合もあるんですねえ」
彼女のすらりとした長身は陸上部で鍛えられたのびやかな筋肉に包まれ、
肌は健康的に日に灼けている。ショートの髪の中には抜群の頭脳。
裏表のない性格は男女問わず人気があり、中等部にもファンは多いという。
二人が見下ろす今も、敏捷に躍動する彼女の前傾した体がゴールテープを
一番に切っていた。
「終くんをコントロールするコツをご教授願いたいものですね」
なんか好評なんで、このままやってみようw
もちろん続きますが、執筆のため間が開きます(放置はしないぞ!
ぐっじょぶ、ありがとー、お待ちしてやす!
ところで一つ質問、終が高一なら高三の女史は続の2年下では…?
違ってたらスマソ…
294 :
285:2006/07/20(木) 06:57:07 ID:/Sa/ahpG
うぉ、単なる与太で書いたレスにこんな素晴らしい話が!
先生、ありがとう!
>>293 これでいいんです。先に言いますとこの時余は中一の設定。
なぜそうなのかはネタばれになるから言えないw
あぁなるほど。始の台詞で現在かと思ってた。
無粋でごめんね、続き楽しみにしてます!
うあーまた何か楽しいの来てるー!!
wktkwktk
298 :
名無しさん@ピンキー:2006/07/21(金) 21:29:30 ID:J15cnl/G
あげあげ〜
銀英伝あげ〜
涼子父の性格を想像してみると、どうしてもカルパチアのあのw親父になる〜
厳格な性格じゃ絶対ないだろうし、涼子を翻弄するぐらいふてぶてしい根性してるはず。
「あら、それならもう続さん会得済みじゃない」
夏風を思わせるような爽やかな声に、年長の二人は後ろを振り向いた。
そこに居たのは絵本から抜け出してきた白雪姫――の仮装をした従妹殿だった。
「抜群に似合ってますよ、茉理ちゃん」
「ありがとう」
ドレスの裾をつまみ、優雅に膝を折って茉理はあいさつしてみせた。
「今年の仮装行列のテーマはディ○ニーなんですってね。白組は白雪姫で、
赤組は…」
「花木蘭だな」
中国文学に慣れ親しんでる始にはムーランよりも中国名の方が馴染み深い。
「彼女は隋代に活躍した男装の女将軍でな。実際の歴史というより京劇の演目で
有名なんだが、中国史上最大の暴君煬帝の元で活躍したとあって大変人気のある…」
講義が長引きそうな気配を感じ、それよりも先にかけるべき言葉があるでしょうに、と
歯がゆく思う続は兄の横腹を軽く肘でつつくが、始はおかまいなしである。
「ああでこそ始さんなんだもの。いちいち落ち込んでなんかいられないわ」
「その優しさは茉理ちゃんの美点ですが、いつまでも甘やかしてちゃいけませんよ」
わかったわ、と返事をするが、茉理の顔は全部許してしまっている表情である。
続もあきらめ、あらためて茉理に冒頭の内容について尋ねてみた。
「学食に入ってるパン屋さんの名前知ってる?ミチバさん」
「ええ、ぼくも中高と六年間ずいぶんお世話になりました。美味しいですよね」
「それね、漢字だと路地の路と場所の場で、路場さんって書くの」
「あれ?じゃあ…」
「そう。委員長、路場さんちはパン屋なの」
「なるほど、納得しました。食べ物で釣るんですね。確かにぼくもよく使う手です」
破顔一笑して続は再度校庭を見下ろした。終が委員長になにやら言いつけられたらしく、
籠を持ってあちこち走り回っている。
「続さん、そこ危なくない?その辺り手すりが変に歪んで曲がってるわ」
「すぐ直しますから、大丈夫ですよ」
そう言って、続は溶けた飴を曲げるように易々と手すりの歪みを元通りに整えた。
「そういえば。寸劇でやった王子様とのキスシーン、本当にやったんですか?」
「まさか!そんなわけないじゃない。フリよ、フリ」
「…だそうですよ。兄さん」
茉理の視線の先には慌てたように腕を組む始の姿があった。
「……」
「……」
まったく、続にしてみれば天を仰ぐしかない状況である。
そうこうしているうちに、仮装行列は白組の勝ちという放送が流れ始めた。
「じゃあ、ちょっと行って来るわ。賞金付きでないのが残念だわ」
ドレスの裾を優雅に翻し、茉理は階段を駆け下りていった。
ちょっと違う人の話も混ざってしまったw
茉理は高校までが共和で、大学から青蘭女子大になったんだよな?
記憶が不確か…
GJ!一年前ならもしやと思ってたらやはり…。
白雪姫茉理ちゃん…カワユス(´`)〜v
茉理の通ってた学校に関してははっきり書かれてなかったはず。
でも自分も脳内では共和出身としてるよ、妄想に楽しいからw
ということは始と茉理は教師と生徒という禁断の・・・
これはこれでえろい話になりそうだなぁw
ああ何だか色々美味しい…w
続き楽しみにしてます!!
茉理ちゃんの通った高校は、制服がブレザーだったとしか書かれてなかったような。
自分も共和学院→青蘭だと思ってます。
茉理が共和学院の生徒だったということは…
「水曜日は手づくり弁当v」とか「修学旅行、引率は竜堂センセ☆」とか「放課後・図書室・二人きり…」とか妄想してもいいんですか?
何その萌えシチュ。
幾らでもやって下さい。
そしてここに…!!
つむじ風のように校庭を走り回り、ようやく終は弟を見つけだした。
「お!いたいた!余、おまえこれ背負え」
「この籠、なあに?」
おっとり尋ねる間に余は籠を背負わされてしまっていた。
「委員長がこれ持っていけって言うからさ。ところで、お前これから何出るんだ?」
「借り物競争だよ」
「おお!だからか!体育祭の名物が今年も見られるのかぁ。あとで山分けヨロシクな!」
いきなり嬉しげな兄の顔に、おっとりとした態度のまま余は首を傾けた。
「…借りたものは返すんだよ?」
「そのときになりゃ分かるさ。いいか、ニッコリ笑顔が肝心だぞ!」
「うん、分かった。じゃあまたね、終兄さん」
火薬の音が初秋の空に響き、地面に撒かれた封筒目指し選手が飛び出していく。
封筒は赤白それぞれ対抗陣の前に撒かれており、選手は敵から借りなくてはならない。
貸し渋る相手とのやりとりの面白さがこの競技の楽しいところである。
手際よく借り出して一位になるもの、冷たくあしらわれて時間切れになってしまうもの。
ちなみに前者は文科系で、後者は体育部所属が多かったりする。
余の番が回ってきた。封筒を拾って中を見ると「手鏡」。余は白組である。
兄のアドバイスを思い出し意識してニッコリと愛想良く、赤組相手に声を張り上げた。
「手鏡、持っている人いませんか?ぼくに貸してくださーい、お願いします!」
一瞬の沈黙の後、天を衝かんばかりの黄色い悲鳴が校庭の一角に沸き起こった。
雨霰のように手鏡が余に向かって降ってくる。席から飛び出し直接籠に入れてくる女子も。
地面に落ちたものもすべて律儀に拾い集めていたせいで、一位にはなれなかったが
借りる速さなら全校一位。去年までその地位にいた男は、屋上から優雅に見学中である。
「――なおこの競技はブラインドになっております。集計結果は後に合計され…」
競技終了のアナウンスを聞きながら、年長二人は茉理に作ってもらった弁当を広げていた。
醜聞への用心のため、茉理は友人たちと食べることになっている。
「弁当が二人前しかないわけがこれで分かったよ。それにしても大丈夫か?余は」
「終くんが居るんだから大丈夫ですよ」
常日頃の小言とは正反対のことを話しながら、手は休まず口と弁当箱を行き来する。
競技が終わった余は、終に付き添われ手鏡を返しに向かった。
それなのに籠の中身は減っていかない。むしろ増えて籠から溢れそうになっている。
というのも、手鏡を返した女子にお握りやらパンやら次々渡されているからである。
終はホクホク顔をして、余に並ぶ行列を手際よく捌いている。
「終兄さん、そろそろ本部に戻らなくっていいの?」
「これが終ったらな。ああ、並ぶ女子たちが全員女神様に見える!」
ようやく最後の一人に手鏡を返し終え、マネージャー料だと貢物の半分貰い受けると、
終は急いで体育祭本部である一階教室に向かって走っていった。
「こら、遅い!」
戻るなり一喝されて終は頭を下げた。だが反抗する気はまったく起こらない。
「お昼食べながら午後の部の打ち合わせするって、さっき言っておいたでしょ?
本当にあんたっていう子は!みんなお腹すかせて待ってたんだからね!」
叱った後は引きずらない。その湿度の低さたるやモンゴルの草原のごとし。
だから、終を始め皆も委員長が指示することに気持ちよく従えるのである。
終の首を掴んでミーティングの輪の中に放り込むと、委員長は皆をぐるりと見回した。
「食べながらでいいから聞いてね。午前の部は事故も無く終ることができました。
この調子で最後まで頑張りましょう。得点の計算はゆっくりでいいから慎重にね。
午後一の競技は教員対抗リレーだから、誘導係は10分前にここに集合!」
「はーい!」
「よし、いい返事!お陰で私も楽できるってものよ」
今日一番駆けずり回っている委員長の冗談に、和やかな笑いが教室に広がった。
>>306 いいですなあ〜。
そんなシチュがあっても自分が書く始は鉄のトランクス着用なんで、無理w
続ききてたー!
この委員長好きだ
306みたいなことかいといてなんだけど、自分もこの男をエロにするのは無理w
一番好きなカプなんだけどな…
期待したのにw
でも確かに難しいんだよなあ…良い雰囲気には持ってけても、
壊滅的に進まないorz(一応経験者の一人だったりする)
「良い雰囲気」止まり。
自分も一番好きなんだがなー。
あと、「ウェディングドレス〜」の淳司と雅香もかなり好きだったりするんだけど、
この二人は始と茉理以上に色恋沙汰に持ってけない。
こっちは作品中で更に匂わせる描写に乏しいからなあw
「ウエディングドレス〜」は老荘思想のドラキュラ小説だからね。
本家だったら「呪われた運命」だとか「永久に闇に生きる宿命」とか
いって終りなき人生をグチグチ嘆いたりするんだろうけど、
淳司も雅香も「なっちまったもんはしょうがないわな」といって
仙人みたいに悟っちゃってるもんね。
仙人に色恋沙汰は似合いません。
エロなし、小咄程度ですが。
放課後の図書室の妄想を投下させて頂きます。
暇つぶしになれば幸い。
共和学院高等部。
放課後の図書室。
女子生徒が一人、棚の側に佇んでいた。
セミロングの髪を結い上げているが、ウェーブした後れ毛が落ちて、卵形の顔を飾っている。
少女は手に取った本を開いていたが、その目はページに向けられてはいなかった。
他にもまだ生徒が何人かいて、本を棚から出し入れする音や、遠慮がちな話し声が聞こえている。
少女の目線の先には、窓側の自習用席に座っている青年がいた。
スーツに素通しの眼鏡という姿の青年は、この学院の教師だった。
椅子ではなく、机に軽く腰掛けた格好で厚みのある本を読んでいるように見える。
その姿をこっそりと見つめる少女は気づかなかったが、彼の目もこの数分、活字を追ってはいなかった――彼にとっては非常に珍しいことに。
離れた場所で青年を見つめる少女、少女の視線が気になる青年。
何を言えばいいのかわからなかった。
少女にとって好きな人は大好きな従兄で。
彼は生徒に人気の先生で。
学内で親しげにしていると面倒なことになりかねない。
去年の今頃は、彼はまだ学生で。
夕食を作りに行く約束さえも学内で堂々と出来たというのに。
話しかけることのないままそっと、本を棚に戻した。
立ち去る前にもう一度、彼の姿を見て、ようやく気づく。
彼の指が先程から全くページをめくっていないことに。
密かに、しかし花が開くように微笑んで、周りがこちらを見ていないのをさりげなく確認してから、本棚の一つに軽くキスをした。
夕日が投げかけた、彼の影に。
少女が走り去る軽い足音を聞いて、青年が顔を上げた。
窓の外を見下ろす。
しばらくして、彼の従妹が駆けていく姿が見えた。
マフラーが風になびく。
その姿が見えなくなってから誰にともなく呟く。
「来月で卒業だな」
********** fin
投下時に短く纏めたのですが、マジ短っ!
暇つぶしにもならなくて申し訳ない…
現在の話の下地なので許してやってください。
リアルターイム!
なにこの甘酸っぱさ!センセイこれが青春ですか?
妄想書き込んでよかったよ。ほんとありがとう!
悶えまくりました…!!
読みながらニヤけちゃったよ。
どうもありがとうありがとう。
もっとやってw
つうか名作の連続。
凄すぎ。
何なんですかこのマスカットキャンディかレモンスカッシュのような甘酸っぱさは!
なんつうか生々しくはないけど充分エロいよ!
卒業しても指一本触れないのはわかってるけどでもエロいよ!
>320
>卒業しても指一本触れないのはわかってるけど
たぶんケコーンしたら怒濤の勢いで取り返すんだろ。
教育上およろしくないので若夫婦は別居。
ちょっと待て。それでは残り三人の文化的生活が維持できないから、
余が家を出てくまで同居だろう。あの二人なら生々しさは振りまくことないだろうし。
我思考、結婚後なぜか下三人が帰宅時間を若夫婦に律義に言ってから
出かけるようになるw
出来のいい弟たちだ。
で、長兄は制限時間いっぱいまで怒涛の勢いで追い上げるわけだなw
我思考、深夜いっしょうけんめい声を抑えようとする若妻は堪らなく可愛い。
結婚したらぜひキッチンで…とか妄想してしまう自分は変態ですかね?
ところでこの二人、図書室は似合っても保健室は似合わないな…
保健室だとエロなしでもちょっとエロいのに。
325 :
名無しさん@ピンキー:2006/07/24(月) 15:15:32 ID:TwtD7TcN
さてと、皆様のご期待に一方的にお答えして堂々の投下!!!
さあ、下々の民達よ転げまわれ!我を神と讃えよ!!
ああ!しまったサゲ忘れた。ものすっご恥ずかしい!!!!
もうさっきの強気発言忘れてください。ああもう消えてしまいたい。すまんすまん。
気を取り直して投下。↓↓↓
カチャカチャと食卓に食器が並べられていく。その光景は何年も見ているはずなのに
毎朝見るたび始の心は新鮮な驚きに満たされる。
フリルも付いてないシンプルなエプロン姿なのに、なお可愛らしく見えるその姿。
「おはよう始さん。今日はいい天気よ。洗濯日和って辞書の説明そのままって感じ」
それだけの会話さえ、彼女が 自 分 の 奥さん なのだと思うとなにもかもが
違うように感じる始は新婚ボケ患者と認定してよいだろう。しかも重度の。
しかも自覚してないぶん、彼の兄弟は気を使うことたびたびである。
「いただきます!」
一斉に箸が食卓の上を飛び回る。
「夏だからといって、冷たいものだけじゃ体が冷えちゃうから」
さっぱりと生姜の風味が効いたつみれ汁をよそって皆に渡していく。
「昨日残ったお刺身の流用で悪いけど、味は保証するわ」
「そんなこといまさらじゃないですか。とても美味しいですよ」
「やりくりの天才でもあるよな!まったく、安月給で申し訳ない」
始は最初の言葉には黙って肯いていたが、次の発言者は拳骨で軽く撫でておいた。
「いってえええ!お嫁さん貰ってもぜんぜん前と変わらないなんて、そりゃないぜ」
「ううん、そんなの気にしてないわ。最初っから覚悟していたことだし」
「フォローになってないよ、茉理ちゃん」
すっかり青年らしくなっているが、生来のおっとりさはそのままの末弟が笑い出した。
そういうやりとりも、茉理の苗字が彼らと同じになる前から寸分変わりないのに
籍を入れてまだ三ヶ月、やはり粉砂糖が薄くまぶされたようなほの甘い雰囲気がある。
「さて、今日のみんなの予定は?夕ご飯作る手立てこれで決めなきゃならないから」
三人は目配せあって、それぞれの予定を述べていく。
「今日は…夜食事の予定がありますから必要ありません。帰りは夜10時ぐらいですかね」
「ぼくも夏合宿の打ち合わせ兼飲み会で食べてくるよ。帰りは続兄さんと同じくらいかな」
言い終えた二人は食堂から居間のほうへ視線を向けた。こころなしでも気のせいでもなく
ソファーに腰掛け新聞を読む兄の肩の辺りからなにやら氣が揺らめき立つのが見て取れる。
ちなみに、食事中に新聞を読むのは茉理によって全面禁止とされている。
「…続兄さん」
「ええ、帰宅時間は 絶 対 に守りましょうね」
「ちょっとぐらい遅れても大丈夫よ?私がとりなしてあげるから」
「そうじゃないんですよ」
微妙な笑顔で義姉に返事して、いまだ茶碗を手放さない弟に水を向けた。
「ほら終くんも、帰宅時間言っておかないと」
「おれ?えーっといつもと変わらないけど、今金欠でさ。お昼は食べに帰ろうか…
と思ったけど、やっぱり学食で食べてくる!あそこ安いしな。すぐ帰って夕ご飯…
もいいかなって思ったけど、そういえば同僚とラーメン食いに行く約束があった!
これから約束するんだけどそれは置いといて。帰るのはみんなと同じぐらいになる」
それぞれの空白時に何があったのかというと、一度目は余に野口英世を握らされ、
二度目は続に樋口一葉を握らされていたのであった。
「これは貸しておくだけですからね。いいですか?終くん」
ものすごい殺気が新聞の内側に引っ込んだのを見て、冷や汗を拭った続は終に釘を刺す。
「それは始兄貴に請求しておくれよ」
「そんな気の毒なこと出来ますかっ!!」
「へいへい。給料日まで待っててちょーだい」
「共和学院の偏差値が落ちないのは現代の奇跡中の奇跡ですよ、まったく」
「でも人気あるんだよ終兄さんの授業って。なんたって筆記試験がないんだから」
続は黙って麦茶のグラスを手に取った。
そして兄弟はそれぞれ出かけていった。続は勤め先へ、終は体育教師、余は大学生として
共和学院へ。専業主婦の茉理と受け持ちの授業がない始は家に居ることになる。
――翌日、茉理からさりげなく細長い紙に描かれた肖像画を続と余それぞれ渡されかけたが
二人は丁寧に謝絶しておいた。
「さすが一族のなかで最大の傑物と評されるだけあります」
「心強いよね、続兄さん!」
「おれ等も早く独立してやらないとな。始兄貴、このままじゃ気の毒だぜ」
「ええ、特に終くんがね。このままじゃぼくら二人は破産してしまいます。なんなら今日からでも」
「その前に続兄貴だろ?結婚相手まだ見つかんないのかよ」
「余計なお世話です。フフ」
「ちぇ、涼しい顔しやがって」
終がぼやき、続がすました顔をして、それを余がにこにこ笑って二人の漫才を眺めている。
始が結婚しようが茉理が人妻になろうが、竜堂家は相変わらず竜堂家なのであった。
うあああ。すいません。ひっそりとまた地底人の世界へ戻らせて頂きます…
GJ! 全然変わってない終ワロスwww
余が続似に成長したのがなんだからしいね。
後始の幸せっぷりが微笑ましかった。お疲れ様!
ちょっと、何なのここんところの名作ラッシュ。
萌え死にさせるお積りかっ…!!
GJを幾つ並べても足りませんよ。
>>331 (・∀・)つ「必要は発明の母」 …ちょっと違うかな?
読みたければ書く。エロパロの家訓wに従っているだけです。
>>332 GJ!萌え転がりましたよ。
す、素晴らしい家訓だ!
是非これからもその家訓を遵守してくだされ!
誰かっ!また萌えネタを差し上げて!
自分は読むの専門で無理ですので…なにとぞ、よろしくorz
334 :
名無しさん@ピンキー:2006/07/24(月) 17:34:20 ID:We7CR5Sa
銀英伝は?
布団で読んでて転げ回った結果、電気スタンドが倒れてきました。
萌え死ぬついでに燃え死ぬとこでした。
神よ、これも貴方の愛なのですね…GJ!
>>324 そうそう、自分も最初保健室と書きかけて図書室に変更したんだ…健全だなぁもう。
で、キッチンいいよねキッチン
そろそろお涼さまを…
キッチンっつっても皆が生活する場でアレやらコレやらは始には無理(断言
それでも、落しどころがあるんじゃないかと探してます…
>336
>182さんのシチュで思いついたの書いてるとこなんで気長に待っててノシ
お涼の方は常時「カモーン」な状態なのに
泉田が鉄のパンツ穿いてるんでなかなか進まないorz
進まない
>335
燃えなくて良かったよ…。
やっぱりこの2人に保健室は難しいな;
茉理が怪我をしても自分で手当てしそうだし…。
キッチンではいちゃつくのが精一杯かな?
「私の旦那は良いドラゴン、目元涼しく〜♪」
開け放した窓から薫風香るような歌声が聞こえてくる。
机を前にしているが原稿はとっくに行き詰っていて、それを切っ掛けに始はペンを机の上に投げ出すと
窓際に立ち庭を見下ろした。色とりどりの洗濯物が万国旗のように景気良く風にはためいている。
茉理はTシャツにジーンズという格好で、洗いあがった洗濯物を竿に手際よくつぎつぎ掛けていた。
あらかた干し終わり、最後に大物であるシーツを持ち上げかけたところで茉理は上からの視線に気付き、
満面の笑顔で始に手を振った。
始もつられて手を振るが、
「もーう、違うわよ!これ干すの一緒に手伝って欲しいんだけどな」
「ああ、そりゃすまなかった。いま行くよ」
ほんの少し恥じ入って、始は出来る限り急いで階段を降りて、サンダルを履いて庭に出た。
「こっちを持ってるから、端を持ってシワをつくらないように引っ張って。はい洗濯バサミ」
「お安い御用です、奥様」
うやうやしくシーツの端を奉げ持ち、ついと顔を上げると茉理の赤らんだ顔に出くわした。
「あ、あのね、そりゃ今更って自分でも思うのよ。もちろん嬉しいんだけどなんか、ね?」
ここは笑い飛ばした方がいいのかもしれないが、始はそこまで器用な人間ではなかった。
茉理の緊張が移ったように、始の挙措がとたんにぎこちなくなる。
「実を言うと、おれも言った後に少しばかり照れた。ハハッ」
二人してシーツの端を握ったまま赤面しあい、その熱が有効利用できるならシーツも速攻乾くほどで
あろう。残念ながらそのような科学はまだ発明されていないので、シーツは重く垂れ下がり
洗剤の清涼な香りがほんのりと二人の間に漂っている。
「ずいぶん従兄妹同士のままで待たせちゃったからなあ。おれもいい加減慣れないとな。
だから、その」
シーツから手を離し、茉理を抱き寄せると始は顔を寄せてキスをした。最初は軽く、徐々に深く。
するり、と茉理の手からシーツが抜け落ちる。
もう一度洗濯し直さなきゃダメね、それよりシーツのストックどこにしまっておいたかしら。
そんな主婦としての使命感も、夫の熱心な求めに夏場の氷のように溶かされてしまい、
義弟のうちの不運な一人が居間のソファーで一夜過ごすハメになることが決まったのであった。
今度は、電気スタンドで燃えないよう落ち着いてお読みくださいw
ちょwww
電気スタンドの人とおなじ態勢で読んでたら、転がった勢いで
足元に寝てたぬこ様蹴っちゃって報復されたwwww
神は我々を萌え殺すおつもりかwwww
えええええまた新作?!
マジで死ぬよ萌え死ぬよ悶え死ぬよ…!!
…でもまだやって下さるなら心臓ブッ壊れても勿論付いて行きますともw
それにしても、ネタをSSに昇華出来る人は本当に憧れる。
本気で尊敬するw
てゆーか、竜堂家の若旦那&若奥様!
開け放した窓からお隣のご夫人が一部始終、観察記録をとってますわよ!
電気スタンドを遠ざけて、布団に潜りながら身もだえました。
シーツが胸に絡まり息が詰まりました。
神よ、これが愛の苦しみなのですね…GJ!
晴天のある日、街中へ一人買い物に出かけた茉理はなつかしい顔を人ごみの中に見出した。
向こうも同時に茉理を見つけ出したようで、伸び上がって手を振りかえしてきた。
「鳥羽さん!ひっさしぶりー!あなたの結婚式以来よね?っと。もう竜堂さんよね」
「あなたも変わりないわね。二人目なんだって?」
「私は高校卒業してすぐ結婚したからね。一人目は家で旦那に見てもらってるわ」
目立ち始めたお腹を幸せそうに同窓生は撫で、快活な笑みを顔いっぱいにひろげている。
高校時代と変わらぬ友人のふるまいに、茉理の気持ちも一気に数年前に引き戻された。
「それで?結婚生活はどう?まだ一年立ってないから新婚でしょう。でもあなたの場合…」
「下宿屋の若女将になったご感想は?って続くんでしょう。大丈夫、ちゃんと楽しいわよ」
「籍が入った以外、実態はどこも変わんないんだものね。でも、ほら何かあるでしょうが。
私と茉理の仲じゃない、白状するまで家には帰さないわよ?」
「そんな、言うほどのことなんて…」
茉理はそう言うが、表情はセリフを裏切っている。
「コブ達っていうにはずいぶん大きいけど、そこのところは上手くやれてるの?つまり夜のそれ」
「そこのところっていうか、その。えーっとね、昼間からする話でもないでしょ」
「ごめん、子供相手にしているとすっかり図太くなっちゃって。野暮なこと聞いちゃったわ」
さらりと話を切り上げるところも、彼女の気性は昔と変わらなかった。
「買い物の途中だったんでしょ?なになに、食料だったら車で来てるから家まで送るわよ。
あなたの家族は全員大食らいなんだから」
「食料買出しなら、皆が引き受けてくれるから大丈夫なの。今日は、私のお買い物」
クーラーの効いた店内に汗はあっという間に引いていき、二人はとあるコーナーに向かった。
「これと、これと、あ!これなんかさっぱりしそう」
「…入浴剤?へえこんなにいろんな種類があるんだぁ、これなんか…楽しめそうねぇ」
「さっきの話だけどね、たしかに二人っきりで新婚生活も良かったかな、って思う時もあるけど
普通のマンションとかじゃ小さいのよね」
「何が?」
「お風呂。ほら、だって始さん日本人離れした体格だし、小さいお風呂じゃ気の毒だわ」
うっかり聞き流してしまうところだったが、茉理と並ぶ才女であった彼女にはピンときた。
「それにしては、ずいぶん良い香りのばかり選んでいるじゃない?あ、説明しなくていいわよ」
「あっ」と小さく驚きの声を漏らし、茉理の顔は見る見る薔薇のように赤らんでいく。
「まあ、私も子供が出来るまでは?いろいろ楽しい新婚生活送ってましたし?一緒よ、一緒!
それにしても、ふーん、あの、うーむ。竜堂先生がねえ」
「だっ!あの!なんか!みんなが外泊して一晩二人っきりになった時そんな流れになって、
そしたら…その…決まりごとじゃないけど二人のときはお風呂って…なってて…」
聞いてるほうが恥ずかしさで店内を走り回りたくなる茉理の告白に彼女は頑張って耐え抜いた。
「あのさ、この後ケーキ食べに誘おうかと思ったけど甘いものはもうたくさん。これ、惚気を
聞かせてくれたお礼。竜堂家の皆によろしくいっておいてね」
「そちらこそ、二人目生まれたらお邪魔させていただくわ。お体お大事に」
「ありがとう。じゃあね!」
早めの二人きりの夕食を済まし、食器を茉理が洗っていると、いつのまにやら暗黙の了解と
なっているお風呂の支度に始は取り掛かった。脱衣所の棚の上にいくつか紙袋が増えている。
「今日はどれがあるのかなっと。む!こ、これは…!」
どういった訳だろうと茉理に訊ねたくもあるが、これで茉理に恥ずかしがられてしまっては
彼にとって 貴 重 な時間が立ち消えかねない。それにこれを買ってきたのは茉理である。
「よし、じゃ今日はこれで」
一人力強く頷いて、始はその入浴剤を手に取ると広い湯船の中へ振り込んでいた。
そして数分後。
汗を軽く流して先に湯に浸かり目を閉じていた始の耳にカラリと戸が開く音が届いた。
シャワーの音がしばらくして、するりとしなやかな身体が始の隣に入り込んできた。
目を開けて、愛しい妻の肩に手を回す。
「…なんだか今日はお湯の感触がぬるぬるしてるような気がするんだけど?」
「自分で買ってきておいて忘れたのかい?ほら、これ見てごらん」
始が手を伸ばして洗い場から拾い上げた空の小袋には
『あんかけ湯〜杏仁豆腐の香り〜 肌触りトロリ』
「ええ??」
叫んで茉理は昼間の出来事を思い出していた。
「あの時のだわ!やだ、ちょっとそれ違うの!あの…、始さん?」
「違うって言われてもなあ。お湯を入れ替えるのも勿体無いし、それにちょっとこれは」
「あん!その、や、ああっ!始さんったら、手を止めてぇ!」
「それは難しい相談だな」
あっさり妻の頼みを無視して、もともと滑らかな肌をさらに滑り良くなった手で撫で回す。
なんとか離れたくて仰け反った茉理の胸の先を始の指がかすめ、首元には唇が押し当てられる。
その感触にびくりと震える茉理を足の間に抱え込むと今度は強くうなじに吸い付いた。
そろりと始の唇が動く。小高い胸のすそ野の辺りを、行きつ戻りつしていた指が焦れるほどの
ゆっくりさで茉理の下腹部に降りていく。溝をなぞる指に背筋が震え、茉理は目を閉じた。
「んっ!」
もう片方の指先が跳ねるように茉理の乳首を弾き、声が浴室の中にこだました。その恥ずかしさに
茉理の肌色がいっそう染まっていく。入浴剤のぬめりではない、茉理の蜜が溢れてくるのを
始は指先に感じ取っていた。胸を撫でていた指を茉理の口元に持っていく。
「声出すのが恥ずかしいんだったら、おれの指噛んでて」
噛めるわけないじゃない、と茉理は始の指を舌先でなぞった。
その艶めかしさに始は茉理を軽く抱え上げ、反り返っているそれをゆっくりと押し込んでいく。
熱い強張りを中に受け入れた茉理が苦しげに息を吐く。
「はっ……ん!」
始も低い呻き声をあげた。
「茉理、ちゃん…」
押し殺した声で耳元に囁かれ、茉理は切なさに泣きそうになった。
「も、始さっ…だめ…イっちゃ……そう…」
まさかここでそうなるだなんてと混乱と、どうしようもない快感に煽られて、茉理は体を揺らし
始の厚い胸板に全身を預けた。ここまで来たらもう、どちらも同じ気持ちだから、ねえ。
突き上げる衝撃に茉理の全身がわなないた。
「ああん!」
仰け反った拍子にまた手はぬるりと茉理の肌を滑り、唇からは喘ぎが漏れる。
声が響くとか気にする気力はとうに茉理から消えうせ、突き上げられるまま素直に声を上げる。
体中に走っている快感が二人が触れ合っている一点に集中していく。深く二、三度貫かれた。
それを最後に、びくびくと引き攣るように茉理は始を締め付けていく。
「ああっ…もう、ダメぇ!やぁ、はじ、め…始さんっ!!!」
絡みついた柔襞に隙間なく膨らんだ始の欲望がついに弾けた。そして同時に脱力感が襲って来る。
二人は熱くほてる裸のまま、湯船にゆったりもたれかかっていた。
「いまごろお風呂洗いだなんて、茉理ちゃんもうっかりすることがあるんですね」
「ああ、ちょっとな」
視線を湯船に向けたまま、始は力を入れてタイルをこすっていく。
「なかなか、ぬめりが落ちないな」
「うん?もうお風呂に入ったんですか」
「えー、ああ、そうだ」
「茉理ちゃんはのぼせて先にお寝み中…分かりました」
「なんだ?」
「…いいえ、なんでもありません」
本当は皆で九時ごろには家の前に帰ってきていたのだが、余の直感がなにか予感したらしく
しばらくファミレスで時間をつぶしていたのであった。その行動が正解だったことを知った
皆全員、あとでほっと胸を撫で下ろしたのであった。
家の中で起こり得るエロシチュのなかで一番実現度が高そうで
なおかつエロいものを書いてみましたw
これぐらいなら、いくら堅物の始だってやってのけてくれるでしょう。
お猫様と、絡まるシーツにお気をつけてww
神よ、あなたは一体何処まで行かれるのですか!!w
GJでございます。
もう他に云いようがございませんw
寝て読むから罰が下るのだと思い、きちんと正座をして読むことにしました。
めろめろになって体を崩した瞬間、踵が脚の付け根の間に潜り込みました。
…神よ、貴方の愛がちょっとわかりはじめました……GJ!
余の直感ワロスw
つまり
>>353 は、自分で自分のおケツにストンピングをかましてしまった、と?
それはさておき、神職人ゴッジョブ( ゜∀ ゜)!!
またしてもGJ!
最近ここを覗くのが日課になってきたw
こんなことを現時点で始にやれっつっても無理だよねえ。
>>321サンの見抜いた通り、彼は結婚してから取りかえす律儀な性格なんだと
書いてて思い知らされましたw
「一緒にお風呂なんて恥ずかしいんだけど始さんが楽しみにしてるのが
分かるからどうにかその希望を叶える方向に頑張る茉理ちゃん」
を合わせて想像していただければ、さらに萌え。
始がこんなに萌えるキャラに変身するとは・・・
職人さん超GJ!!
きっかけを作ってくれた>321もGJ!
もう素敵すぎて
PCの前で1人スタンディングオベーションです。
拍手が鳴り止みません。
360 :
321:2006/07/27(木) 00:57:16 ID:rq8NV7nP
神が…神が、オレの萌えを叶えて下さった…。
もう天国に逝ってもいい。
天使のな(ryに迎えに来てもらってもいい…。
いや、幾ら何でもそれは止めとこうよ!!w>三行目
そういうこと書くとだな、天国の使者がやってきますよ?
>>360 つるりと茉理特製の麻婆豆腐を啜りこみ、始は口を開きかけまた閉じた。これでもう3度目。
その様子に気付いた茉理は箸の手を止め、これまた3度目の問いをする。
「おかわり?いいわよ、今日は競争相手もいないことだし。さ、遠慮しないでお皿貸して?」
「ん…あの、茉理ちゃんのご飯はとても美味しいんだけど」
「あら、なにか味が足りなかったかしら?」
「や、そうじゃない。だったら何度もお代わりなんてしてないさ」
「そう言ってもらえて本当に嬉しい!だって始さんの言うことにお世辞はないものね」
結局、茉理には打ち明けられず、始の皿には4杯目の麻婆豆腐が盛られていた。
お世辞が言えないのは褒め言葉でも、自分の妻を色っぽいことに誘えぬ夫は果たして…?
あまり愉快ではない結論が導きだされる前に、始は目の前の食事に集中することにした。
「ごちそうさま」
「じゃあ、原稿の続きあるから」
食器を流しに軽く片付け、始は食堂を出るとき茉理の方をちらっと見た。茉理は構わず手際よく
食卓の上をかたしていく。
「あとで、書斎にお茶持っていくから」
うなずいて、始は己の不甲斐なさを呪いながら階段を昇っていった。
椅子を軋ませ、数行書いた後進まない原稿を前に始は思いっきりしかめっ面をしていた。
「…ずいぶん難航してるようね。眉間にシワが寄ってるわよ?」
思いがけなく現れた茉理の姿に始は動揺を隠そうとして顔をこする。
畳一畳ほどある広いデスクに中国茶と果物が置かれ、温かい声が始の耳をくすぐった。
「ね、ちょっと休憩しなさい。煮詰まっている頭で文章なんか書けやしないわ」
始が考えていることを、茉理は知らない。
知られたからといって二人の仲が気まずくなる心配など始は全くしていなかったが、
それでもそれなりに、こういうことは露骨にではなくスマートに切り出したかった。
思えば、新婚旅行から帰ってこのかた、半日以上家に二人っきりという機会は皆無だった。
それが今日になっていきなり、丸一日の二人きり。一月半過ぎてようやくという幸運の神様の
大盤振る舞いにもかかわらずついにここまで、幸運の残高をムダに始は減らしてしまっていた。
夕飯も終ってしまった。もう後がない。ぐずぐずしてたらあっという間に夜明けになってしまう。
言い方なんてものに構ってられるか!そうだ、おれらしく言えばいいんだ。ほら言うんだ!
「お風呂に入りたいんだ」
――単刀直入に頼んでいた。
それを聞いた茉理の目がしばたいた。その反応に断られたかと始は思ったが、そうではなく
茉理は快くその言葉に頷いてくれたのだった。
「いいわよ。お風呂にお湯ためてくるから、用意できたら呼びにくるわね」
茉理の落ち着いた答えに、始の胸にほのぼのと暖かいものが満ちてくる。
「ふう。さっきからずっと言えなかったんだ。ああ、緊張した」
「何言ってるの。私と始さんの仲じゃない」
ここまで会話が進んで始は気が付いた。ちょっとまて?焦りながらもう一度たずねる。
「あの、茉理ちゃんと」
「だからお風呂でしょ?」
茉理は眉根を寄せて始の顔を見つめた。熱がこもった始の視線が、茉理の疑問を爆ぜさせた。
「……ええええ!!お風呂?!って、そんな、」
すかさず始は畳み込む。ここで挫けては東海青竜王の名折れ、というわけでもあるまいが
こういう方面へ踏み出すのに並々ならぬ勇気を奮い立たせ、再度始は希望を押し出した。
「旅行から帰ってきてから二人だけの時間がなかったし、いやそれでも充分幸せなんだが
その、おれも男だし。はっ!そういうことをいつも考えてるわけでもないんだが、いや今
すでに考えているんだが…。もちろん、茉理ちゃん相手にしかそんな気分にならないから」
これじゃまるで怪しい勧誘じゃないかと思うが、これ以上自分の心情を上手く伝える術もない。
だが、始の情熱と誠意は正しく報われた。茉理の首がかすかに、だが確かに上下に振られたのだ。
「そうよね、世間的には新婚と呼ばれる時期なんだものね、私たち。そういうこともあって
いちおうしかるべきよね。…どうしたのよ始さん、急に笑い出して」
「いや、おれたち似たもの夫婦なんだなって思ってさ」
椅子から立ち上がり、始は茉理に近づいた。軽々と茉理を抱え上げた始の頬に軽いキスの感触。
続いて笑い声が口移しに流れ込んでくる。今度は、始も緊張しなかった。
なにを私は徹夜してまで、こんなこと書き散らしているんだろう…orz
転げまわる皆さんの姿を思い浮かべつつ寝ることにします。
あま〜い ゴロゴロゴロ
ヨダレでてきた。
幸せすぎたり萌えまくったり美味しいもの食べたりすると出てこない? ヨダレ。
甘い。甘すぎて虫歯になりそうだ…
なんかね、もう幸せ…
神よ、ありがとうございます
>>367 ノシ
朝食食べながら読んでたんでカフェオレたれた。
甘っ!!w
あー何かやっぱりこのカプが一番好きみたいだ。
自分では書けない身としてはひたすらありがたいことです。
これまで神なぞ信じたことなど無かった身ではありますが、
あなたには何処までも付いて行きますw
そうだ、言い忘れた!
結婚しても女房をちゃんづけで呼ぶ亭主に萌えです。
>>372 なにせまだ新婚さんだからねw
でも、何年経っても二人きりのときは言ってるかも。
>>365 いつもながら、GJ!です。
この甘さに脳内が溶けてしまいそう……
甘い!甘い!甘すぎる!と悶え苦しんで下さっている皆さん方。
この二人は「真面目に」こういうやりとりをしてるんであって
ダーリン♪ハニー♪と脳内にお花が咲いているわけではありません。
このどうしようもない生真面目さぶりがこのペアのツボであり(そうだよね?
かつ、見守る側に尋常でない衝撃を与える所以であるのですが。
口から砂吐きながらも、皆の転げぶりに書いて良かったと思いましたw
ベッドの上で
「もう奥さんなんだから、茉莉って呼んで」
とお願いする茉莉ちゃんも見てみたい。
甘すぎて口からなんか出た
声の高さは(成人したと仮定して)
続>岸本>余>終>コーヘイ>始>泉田って感じかなぁ、現代人は
377 :
名無しさん@ピンキー:2006/07/28(金) 11:12:24 ID:f+Ib7LHW
え、続が一番高いの?
瑶姫-終
玉扈-余
かなあ。続は女っ気ないね…。
他の兄弟が↑の風呂シチュで誘う台詞を想像してみたw
【続の場合】「……一緒に、入りませんか?」(妖艶な笑み)
【終の場合】「せっかくだから一緒に風呂、入ろうぜー!」(直球勝負)
【余の場合】「一緒にお風呂、入らない?」(にっこり)
……神職人様の【始の場合】が、一番萌えるとです…
他の兄弟が↑の風呂シチュで誘う台詞を想像してみたw
【続の場合】「……一緒に、入りませんか?」(妖艶な笑み)
【終の場合】「せっかくだから一緒に風呂、入ろうぜー!」(直球勝負)
【余の場合】「一緒にお風呂、入らない?」(にっこり)
……神職人様の【始の場合】が、一番萌えるとです…
二重カキコ、スマソorz
逝ってくる……
丼米!
神のお力もだが、やっぱ始は茉理とのバランスに萌える。
生真面目バカップル最高だw
連載の続きに思いを馳せてhosyu
384 :
名無しさん@ピンキー:2006/08/01(火) 21:35:20 ID:bBPWoWBh
銀英伝あげ
タイタニア読み返したら萌えが再燃した。
バルとリディアで書いてくれる神はおらんかのー。
原作そのままの年齢だと犯罪くさいから、ふたりとも成長させて。
15・6歳のリディアに迫られてうろたえるバルアミーとか見てみたいです神様。
バルとリディアいいよな〜。
禿お得意の7才差カップルだしw
自分は年の差のあるカプが好きなんで
ジュスラン×リディアが見てみたい。
九月上旬、まだ残暑は厳しいが抜けるような紺碧の空の下、赤組白組それぞれ一丸となって
最後まで攻めの姿勢を崩さず、勝利を目指し競技を繰り広げている。
蜩の声が聞こえるころになって、スピーカーからアナウンスが流れはじめた。
――これにて、体育祭における全競技が終了いたしました。これより閉会式に移ります。
各種競技の総合点は、閉会式にて発表いたします。繰り返します、これより――
「いまんところ赤が683点で白が702点か。なかなかいいあんばいじゃないか、うん。」
「こら。その状況を作った張本人がなに偉そうに言ってるんだか。わたしたち赤組なのよ?」
「いやあこれもおれのシナリオ通り。仕込みは上々、あとは結果発表がお楽しみってとこだよな」
一仕事成し遂げた風の晴れやかな顔をした終とは正反対の顔で委員長が首を横に振る。
「馬鹿なこと言ってないで、早くみんなに集合かけてきなさい!それにね、そんな小器用な真似
あんたに出来る訳ないでしょ?本気でやってこの結果なんだから、別に怒っちゃいないわ」
言っていくうちに思い出したのか、笑いをかみ殺すような表情が委員長の顔に浮かんでくる。
「リレーじゃ腕回しすぎてバトン落すわ、仮装行列じゃわたしの剣を全部本気で受けるわ、
あれ倒れてくれなくっちゃダメだったのよ?しまいにゃ審査時間切れになっちゃうし」
「それは、おれが本気出しちまうほど委員長の剣さばきが迫力あって凄かったってことさ」
「迫力あった?…まさかそれ、褒め言葉のつもりじゃないでしょうね」
「あれ、違うの?」
間髪おかず委員長の掌底が終の後頭部に炸裂した。
「痛てっ!なんでだよっ」
そんな仲の良い姉弟のような二人のやり取りを皆見て笑っている。
体育祭実行委員会が本格始動して三ヶ月、このどつき漫才もすっかり見慣れた光景となったが
残念ながらこのコンビ、今週中には解散の運命である。
「さて、個人競技の表彰の準備は済んでるわね。これ?ありがとう、上手にできてるわ!
あと赤白それぞれの総合点だけど、ブラインドを入れての集計結果はもう出た?」
「あの、それが委員長、ダメなんです」
「ダメって、ちょっと待って?閉会式まであと15分なのよ!」
ここまで順調にやってきたのにという委員長の自負心が声に苛立ちを含ませてしまう。
そこへおずおずと小さく、気の毒なほど震えた女子の声があがった。中等部の一年だ。
「ご…ごめ…ごめんなさい。仮装行列の得点表、ヒック、無く、無くしてしまいました」
本部中に盛大な非難の声が沸きおこる。尖った大勢の声に一年生は顔を覆って泣き出した。
「泣けばすむってもんじゃねーぞ、どうすんだ?!」
「誰か覚えてない、ねえ!ちょっと」
「ええっ!!白組の白雪姫の方が勝ったのは覚えてるけど、点数までは」
騒ぎはどんどん伝染していき、教室中が焦りと怒号で飽和状態になりつつある。
委員長はボロボロ泣いている一年生をなんとか宥めすかして聞き出そうと試みるが
一年生はこの雰囲気にすっかり萎縮してしまい、自分を責めて泣くばかりだし
皆を冷静にさせようにも委員長の手に負えないほど皆のボルテージは上がり切っている。
「あ…。」
どうしようか、必死に頭をフル回転させ委員長はこの事態の解決策を考え続けていた。
これを省けば合計点では赤が逆転勝ち。しかし閉会式直前までは白が有利。
仮装行列において審査員10人が持ち点の10点をそれぞれどれだけ振り分けたのか、
それが判明しない限りどちらが優勝するのか分からずじまいである。
「なんてこと…!」
天を仰いでも、天井の無機質な石膏ボードが見えるだけで何のヒントも見つからない。
タイムマシンが無い限り審査結果は…結果?その前にたしか集計方法は…そうだ!
「投票箱は終わった後どこに運んでった?誰か、知ってる人!!」
「体育倉庫です!」
「わたしが行って取ってくるわ!ほかに誰か!」
委員長が言う間に目の前を突風がすり抜け、開いた窓からそのまま外に飛び出していった。
「終くん!」
すぐさま終の後を追って委員長は俊足を飛ばし校庭を突っ切り、渡り廊下をこえる。
あとは体育倉庫まで一直線…だが急に立ち止まり、あわてて渡り廊下の柱の陰に身を隠した。
走った所為だけではなく心臓が胸の中で跳ね回っている。
体育倉庫の方からこっちに歩いてくる多少服の乱れた男女の一組。片方は彼女が良く知る人…
「委員長?こんなところで何してんすか?ほら投票箱。急ぐんだろ?投票用紙も中に入ってるぜ」
「あ、ありがとう…あの、体育倉庫に誰かいた?」
見事なほどに終の顔が赤くなっていく。
「あー、なにかお取り込み中だったみたいで、その、なんと申し上げたらよいのやら」
「もういい、分かった。さあ急いで戻るわよ!!」
大きく息を吸い込んで彼女は終の背中を叩くと、何かを振り切るように走り出していった。
二人が戻っても本部内は異様な雰囲気のままだった。泣く一年生を他の女子が宥めている。
「おまえら、いい加減五月蝿い!」
まだ騒ぎ立てている一団を裂帛の気合で一喝して、終は泣くばかりの一年生の顔を上向かせた。
「お前の仕事だぜ、責任持って集計しろよ。まだ時間あるから最後まで、頑張れ!」
投票箱を一年生に渡しながら、終はおどけて片目をつぶって見せた。
「は、はいぃっ!」
皆が息をつめて見守る中、鉛筆の音だけが教室内に響く。
「できましたっ!」
「よくやった!でかした!えーっと、それで最終得点はいくつになったんだ?」
「このお馬鹿っ!早くその紙を寄越しなさいっ!!」
委員長が終の脳天に手刀を振り下ろし、それをきっかけに本部内の空気がスムーズに流れ出す。
「賞状、トロフィー、優勝旗、放送席に全部運びこみました!」
「よし!屋上で待ってる得点ボード係と連絡とれた?」
返事の代わりに悲鳴が返ってきた。
「トランシーバーが不調みたいで、あれ?こら、うわああ!」
パニックになった担当者から受信機を取り上げるが、雑音が流れ出るだけである。
「ええい!こうなりゃ最後までとことんやってやろうじゃないの!!」
最終得点が書き込まれた用紙を掴むと、またもや委員長は教室を飛び出していく。
階段を数段飛ばしで駆け上がっていくが、二階から三階への踊り場で足を滑らせてしまった。
(や、ばっ!落ちるっ!!)
一瞬後に襲ってくるだろう激痛に備えて身体を丸めかけたが、その前に軽い衝撃が体中に走る。
(…あれ。痛く、ない)
薄目を開けた委員長の目の前をかなりの勢いで風景が下方へ飛んでいく。視線を上に向けると
「終、くん…?」
「いいから黙ってなって。舌噛んじまうぜ」
その通り、抱きかかえられた身体はかなり乱暴に上下に揺さぶられ委員長は悲鳴を上げた。
「いつもそれぐらい可愛いけりゃ最高の委員長なんだけどな」
「な!生意気言うんじゃないっ!ちょっと、もっと丁寧に扱いなさっ!きゃああぁあ」
委員長はこの時、少しばかり不正直だった。
(ついさっきショックな場面を見たばかりなのにな。どうしてわたしってこうなんだろ)
意外に筋肉の付いた腕に囲われ胸をどきどきさせながら、しかし振り落とされないよう
終の首に腕をしっかりと巻きつけた。
「ちょ、それ絞めてる、絞めてるって!」
酸欠になる前にどうにか最上段まで辿り着き、終は屋上へ続く重い鉄扉を軽々押し開けた。
礼を言いかける委員長の背中を、今度は終が軽く叩く。
「ほら、得点係がすっかりお待ちかねだ!おれに構ってるヒマなんて」
「そうよ無いのよ思い出したわ。もちろん後でこの礼はするわよ、形あるものでね!」
ヒャッホーと天まで届こう雄たけびを後ろに聞きながら委員長は猛然とラストスパートをかけた。
ひゃっほぉー!
続きお待ちしてました!
キター!続きwktk!
西海白竜王に掌底炸裂キター!ww
つ、続き…続きをっ…!!
結局、勝利したのは白組だった。
しかし負けた側も清々としたものでお互いの健闘を讃え、多少のハプニングはあったものの
体育祭は無事に終了し、実行委員の一員として終も面目を充分に保ったのであった。
本格的な片付けは明日以降なので、終は委員長の言う形あるお礼とやらをもらうために
家とは正反対の道を彼女と肩を並べ下校していた。
「やっぱり負けちまったか。ま、おれんなかじゃ今日の最優秀選手は委員長で決まりだけど」
「あらありがとう。でも残念、これ以上お礼は増やせないのよ」
「いいっていいって。焼きたてパン食べ放題ってんだろ?それで十分、ああ楽しみだなあ」
「あんたの能天気な顔を見てると、昼間のショックも薄れていくような気が…全くしないわね。
あ、やだ、また落ち込んできた」
「昼間のって、アレ?」
「ええ、ソレのことよ。もういいか。いいえ良くないけど、いつまでも“元彼”のことなんて
引きずってもいられないしね。こうなったら新しい恋に生きてやるっ!」
「へ、へえ」
色気より食い気、男女間のことについてはまったくの理解範疇外の終には生返事しかできない。
「この際もう終くんでいいわ。わたしのこと好き?少なくとも嫌ってはないでしょ?」
「“この際”とか“でいいわ”ってなんなんだよ委員長。いくらなんでもそりゃないぜ」
「もう体育祭は終ったんだから委員長じゃないわ。せめて名前、ううん麻子先輩って呼んで」
委員長がふざけてることは分かっていたが、絡んできた腕を終は振りほどこうとは思わなかった。
腕ごしに彼女の沈んだ気持ちが伝わってきたからだ。路場ベーカリーの看板が見えてきて、
「どうもありがと」
委員長はするりと腕を抜くとふふっと大人っぽく笑った。
「至さーん、試食係連れてきたわよ。あとよろしくね」
「板さん?」
委員長が呼ぶ声に、一人の男性が店奥から姿を現した。
「いたる、だよ。ここの親方の絶品フランスパンに惚れこんで、弟子入りしてもう五年目だ」
その太い腕に抱えられたトレイには、さまざまな惣菜パンが山盛りになっている。
それを見つめる終の目は感激と感動の光でキラキラと輝き、口からは涎が落ちる寸前。
「あの、これ全部食べていいの?」
「もちろんさ。ただし、感想はちゃんと聞かせてもらうよ」
カツサンドを口に放り込み、片手にはアイスティー。終は全身で感動に浸っていた。
「う…うまいっ!!ああ、おれ体育祭実行委員になって本っ当に良かったああ!」
「体育祭でなにかあったのかい?麻子お嬢さん、珍しく沈んだ様子だったから気になってな」
「うーん、それはおれの口から話していいものやら」
付き合ってる彼氏の浮気現場を見てしまったなんて不名誉なことだよな、と終は躊躇ったが
「この新作も食べてみないかい?評判良ければこれも売店に出そうかと思ってるんだが」
「…そうか。これで三度目になるかなあ。どうしてだ、あんな可愛い子はいないってのに」
「ふぁわひい?(可愛い?)」
至の、わずかに引きつった目元といたわるような声に終はピンと来た。
それに、あの勝気で口も手も同時に出る委員長を可愛いって真剣に言い切るってことは
(委員ちょ、っと麻子先輩のこと、好きなんだろな)
言えばいいのに、という終の視線の意味が分かったのか、今度ははっきりと至の顔が赤くなる。
「その、俺お嬢さんより一回り近く年上だし。それに親方の腕にはまだまだ及ばないし」
なんだかなーと再びの終の視線に「俺から言うつもりない」きっぱりと至はこの話題を打ち切った。
委員長は店奥と一続きの自宅に入ったきり、終が帰るときも店に顔を出さずじまいだった。
急かしちゃいけないって解ってるんだ。
本当は書いてくれるだけで充分嬉しいんだ。
でも…っ!!w
wktkで待ってます。
もちろんwktkで待ってます。
無理なく神様のペースでどぞ
しかし自分もやっぱりwktkですw
402 :
名無しさん@ピンキー:2006/08/06(日) 01:10:29 ID:CA9XImLi
ラインハルトまだ?
この委員長いいなぁ…。
待ってた甲斐がありました。
ひき続きwktkでお待ちしてます。
体育祭の翌日は後片付けに充てられている。いっそのこと休校にして欲しかったとクラスメイトは
愚痴をこぼすが、終にしてみれば授業が丸一日潰れるだけで御の字だ。
障害物競走で使った大道具を腕に抱え体育倉庫を目指す。建物が視界に入るや、終の脳裏には
昨日のあられもない男女の現場がまざまざと脳裏に蘇った。赤くなったり身悶えたりして
危うく網に絡みそうになって地味にひとりで慌てていると、なにやら焦ったような男の声と
それをたしなめる女性の声が終の耳に飛び込んできた。
「だから、言い訳はいいから相手の子を大事にしてやんなさい。体育倉庫なんて埃臭いところで
我慢しちゃうなんて、あの子あなたのことよほど好きなのね。…こら、そこで嬉しがるな!
まったくもう…申し込んできたのはそっちなのにさ。憎む前にそのバカ正直さにまず呆れるわ」
「うん、本当にごめん。麻子のそういう強いところ好きになったんだけど…本当に、ごめん」
「もういいわ。こっちこそありがとう。これで終わりよね、さよなら」
足音が近づいてきて、身を隠すところもなく仕方なく終は顔を荷物で隠して歩き出したが
あっけなく相手に正体を気付かれてしまった。ひょいと終の顔を覗き込んだ顔は…笑っていた。
「そういうことだから、終くん。あとはあんたの返事待ちってところかな。待ってるわよ!」
「えーっ?!ちょっとそれってつまり、どういうこと?」
「そういうこと!」
終の疑問にはっきりと答えを返さず、委員長は高等部の校舎へ足早に向かっていく。
「来週末、最後の委員会があるから忘れちゃだめよ。忘れたらおやつ抜きよ?いいわね!」
「…なんなんだよ。もう」
土ぼこりにまみれた大道具を抱えたまま、終は高い青空とコントラストの利いた白い雲を
途方に暮れた気分で見上げていた。
はたして、最後の委員会があることを終はしっかり忘れていた。靴に履き替え、下駄箱にきた
クラスメイトに肩を叩かれた時点でようやく思い出したという体たらくである。
大急ぎで中等部の校舎を走りぬけ、高等部まで辿り着き、階段をほとんど数歩で昇りきると
突き当たりの教室の扉を終は威勢良く横に引き開けた。
「遅れてしまってすいませんっ!」
終を出迎えたのは委員長の溜息、そして他の委員の盛大な笑い声だった。
「あんたのクラスに伝令飛ばしといて良かったわ。約束通り、あんたはおやつ抜き!」
「そ、そんな殺生なああああ!」
あまりに情けない終の嘆き声に皆の笑いは一層大きくなる。委員長はにやりと笑うと机を軽く叩いた。
「はい、みんな静粛に。配った資料と会計報告には目を通したわね。そのまま生徒会に提出するけど
意見のある人は?居ないわね。じゃあこれに承認する人、挙手をお願いします」
全員の手が挙げられた。遅刻者一名は挙手もできず、肩身が狭い思いで直立するのみである。
「さて、退屈な会議はこれで終了!今年は例年になく盛り上がった体育祭だったと好評だったのも
ここにいる全員がそれぞれのベストを尽くして頑張ってくれたお陰です。本当にありがとう。
ちょっとした失敗もあったけど、終わりよければすべてよし!ほらほら、泣くのはまだ早いわよ」
鼻をぐすぐすと言わせているのは集計表を無くしたあの一年生だ。
「皆には感謝してもしきれないわ。けど礼だけで済まそうなんてケチなこと思っちゃいないわよ。
余分にみて取っていた予算がみんなの努力の結果、使うことなく無事余りました。この使い道は
すでに生徒会から了解とってるから、安心してどうぞ召し上がれ!」
委員長が合図をすると、幾人かの生徒が教室の片隅にあったダンボールを広げ、皆に手渡していく。
教室中に、弾む気分と喜びの声が充満した。その光景を見てひたすら気を揉む少年が、一人。
「あの、おれの分…は?」
どうしようかなあ、と委員長は意地悪っぽく笑うと皆の方を振り返って言い放った。
「どう?遅刻はしたけど、この子も打ち上げに参加して構わないでしょ?」
もちろん!とか、いいぞ!やら皆の返事が終の心にこの上なく温かく染み入った。
「あんたって皆に愛される、ほんとうに得な性格してるわよねえ」
溜息交じりの委員長のセリフに、もちろん終はこう言い返した。
「当ったり前だろ。そうじゃなきゃ竜堂家の三男坊なんて務めてらんないぜ!!」
体育祭という大きな行事をやり抜いた達成感と、終わりの解放感と相まって皆の手は進み
差し入れはあらかた食べつくされた。最後にもう一度委員長の挨拶があり、体育祭実行委員会は
今日の午後をもって正式に解散となった。だが、帰りかけた終の襟首を掴む腕がある。
「あんたは残んなさい、竜堂終。書類にちゃんと目を通して、それと、遅刻した罰で後片付け!」
文句あるの?という委員長の目に終が逆らえるはずなどない。神妙にこくりと頷いていた。
流れが自然に見えたら狙い通り…だが。連載待っててくれる人たちサンクス。
おかえりなさい!
連載だからこそ区切りのある流れにGJ
いうなればスライド映画みたいな感じ
委員長の女っぷりが素敵っす。
もう毎日wktkです
自然ですよ充分!
上手いなあホント。
何とかのひとつ覚えで悪いけど、続きwktkでお待ち申し上げます。
あ、いや、勿論ご自分のペースでやって下さいね。
本当にここんところ名作続きで嬉しいったら…
流れをぶったぎる上に
このスレで聞くのもなんなんだが
薬師寺涼子シリーズってキルヒアイスが我侭な女ラインハルトに
振り回される話だよね?。
「秋の日はつるべ落とし、とは昔の人はよく言ったもんだなあ」
終が感嘆する通り、教室から見える景色は赤色から薄墨色に染まり換わっていく。
「つるべってなんだか知ってるの?」
「井戸から水を汲む桶のことだろ。まさか漫才師とか答えるんじゃないかと疑ってたわけ?」
「まさか。だって終くん、本当は頭いいってわたし思ってるもの」
思いもよらなかった言葉に、ほんの一瞬、終はぽかんと言葉を失った。
空き缶を一つにまとめ終えた委員長が袋の口を縛りながらその先を続ける。
「いっつもあんたには呆れたり怒ってばっかりで、一度も言う機会はなかったけど、でも」
頬を赤らめつつ、そして声には自然な暖かさを籠めその先を続けた。
「竜堂終、わたし一人の男としてあなたを意識してる。それもかっこ良くて、素敵な。」
「い、いつから…?」
珍しく終の声は小さく、そして自信無げである。
「気がついたら、そう思ってた」
告白されたことは実は初めてではないが、憎からず思っていた相手から言われるのは初めてで、
飛び上がって嬉しがってもよかったが、なぜかそういう気分にはならなかった。
「おれ、委員長…っと麻子先輩にそう言ってもらえて、すごく嬉しいんだけど、でもにわかには
とても信じられないっていうか、もちろん、こういう事でからかう人じゃないって知ってるけど」
校庭の部活のざわめきが遠く聞こえる教室の中、秋風だけが窓から廊下へ吹きぬけていく。
終が戸惑うのは、たぶん自分が委員長を嫌いではないということなのだ。尊敬はもちろん、
きれいな人だとも思う。初めての委員会で顔合わせをしたとき、従兄妹以外にもこんな美人が
学院にいたのかと驚いたほどだった。彼女のさっぱりした強気な性格も気に入っている。
ショートの髪から伸びるうなじの白さや、制服の腰の細さにドキッとすることもあった。
しかし、セックスを視野に入れての「好き」という気持ちは、まだ終の中に生まれていなかった。
「おれ、麻子先輩と冗談言いあってるときは本当に楽しかったし、体育祭も終っちゃったから
校舎も別々だしもう会えなくなるなあって、それこそ今、さみしくなってるぐらいだし」
「ほんとにそう思ってくれてる?」
だいぶ暗くなった教室の中、委員長の顔の中で瞳がきらめいた。しなやかな手がのばされ、
気が付いたら二人の唇は触れ合っていた。というのは終側のささやかな言い訳であって、
そのたった一回のキスが終の中枢と下半身を接続してしまっていた。
(…正直いって、こんなに気持ちのいいものとは知らなかった)
キスしたから好きなのか、好きだからキスを受けたのか終は自分の気持ちがよくわからない。
古ぼけた教室の窓に寄りかかりながら委員長の身体の重みを受け止めて、両腕を相手の腰に
巻きつけてキスを繰り返す。髭も生えていない終の頬はすべらかで、唇はやわらかい。
触れ合う濡れた舌。いつのまにやら制服のシャツは二人とも脱いでいて、互いの熱が
皮膚の内側にまで浸透してゆくかのようだった。
ようやく顔を離したとき、終は呆然としていた。
「…ウソだろ」
ふふっと委員長が笑った。スカートのホックを外し床に落すと、終のベルトに手をかける。
「いまの、なんだったんだ?」
委員長は答えず、ズボンの前を緩めると終の内側に手をするりと忍び込ませてきた。
あわてて身を起こそうとした終を、やわらかく押し戻して委員長は微笑した。
淫蕩な笑いというより、水晶がきらめくような澄んだ笑いを口元に浮かべて終に囁く。
「一人でした経験はあるんでしょ」
「そりゃ、まあ」
ごくりと生唾をのみ、シャンプーと甘酸っぱい匂いが入り混じった女の体臭に鳥肌が立った。
「おれ、これまでグラビア以外でしたことないんだけど」
「そりゃそうでしょうね」
喉をくすぐるような声で委員長が笑った。さらに身体がおしつけられ膨らみが終の胸で潰れる。
「…緊張してる?」
「ああ、」
下半身へ向かう手に、続けようとした言葉も遠いどこかへ吸い取られていく。
しなやかな指、張り詰めた先端を探る細やかな動き。集中するとたちまち果ててしまいそうだ。
委員長の身体が終から離れ、椅子を引きずる音が薄暮の空気を震わせた。
胸を軽く押され、ずりおちたズボンに足が絡んだ終はそのまま椅子に裸の尻をおろした。
教室でこんなことなんてマズイよな、と思う。思うのだが、やめようという気にはならない。
委員長を抱きよせて、つやつやした髪を指に滑らせていく。彼女を膝の上に抱いて鼻先に触れる
柔らかな膨らみを唇でたどっていくと、体育祭までのできごとが、走馬灯のように終の中を
走り過ぎていった。
手で触れられるところはすべて触り合った後、お互い期待しているのはひとつだけ、ということも
交わす視線から、探る指の濡れた音から、とっくに分かりあっていた。
委員長の腕が床に落ちたスカートを引き寄せ、小さな包みを取り出すと手早く終に装着した。
「大人の女なら当然のタシナミよ」
あらためて二人は抱き合った。暗がりの中で委員長の大きな眼が濡れて光っている。
気の強い彼女がずいぶん可憐に見えた。急に終は切なくなった。自分からキスしてしまうほど。
形が無いほど溶けた入り口に触れ、あとは驚くほどのあっけなさで終は中に入っていった。
委員長の唇から長い溜息がこぼれ落ちた。二人が深く繋がったところからじんじんする感触が
全身にひろがり、灼熱が終の喉を焼く。頭の中が白く発光し、いきなりブレーキが壊れた。
しばしの沈黙のあと、まじまじと委員長に見つめられて終は赤面した。
「大丈夫よね。だってほら、まだこんなに固い…」
身体を離して手早く始末をすると、ふたたび委員長は終の上にゆっくりと腰を落としていく。
「思ったほどにはきれいなもんじゃないでしょう?セックスって」
自分を埋めこんだ肉の周りを終は指でなぞる。いままで「あれ」としか呼べなかったもの。
それが「これ」になった。
「うん、確かにかっこつけてするもんじゃないよな」
さっきのように暴発しないよう、そろそろと腰を動かしはじめる。
二人の吐息はしだいに濃くなって、声はかすれがちになっていく。
あん、と鼻にかかった女の声が委員長の口から漏れた。十分勃起しきってるはずなのに、
それでも足りないというふうに、終の分身はさらに熱く固くなる。
「わたしの腰を持って、好きに動かして」
小ぶりで引き締まった肉の感触を手のひらに感じながら、終は行為に没頭した。
持ち上げて、落とす。引き付けて、離す。淫らな音をたて、溢れる蜜を垂らすまま擦り合せる。
やがて二人の接点が溶け合っていくような感覚に陥り、閉じた目の奥で光がいくつも弾けた。
気づけは外はまったくの暗闇で、教室の明かりが点きっぱなしだったら大変な事になったろう。
「このままじゃ風邪、ひいちゃう」
委員長がはずれたブラを後ろ手にとめながら立ち上がった。終も下着とズボンを手に掴む。
野球部だけはまだ練習しているらしく、グランドの照明をたよりに二人は身じまいを済ませた。
外灯がポツポツ灯る道を歩きながら二人は終始無言だった。終のほうが先に口を開いた。
「あの…」
「ストップ!謝りの言葉なんか聞きたくないわ。合意の上でのことだったし」
「そうじゃなくってさ、麻子先輩のこと大事に思ってるヤツって、おれだけじゃないよ」
「そんなの、居るわけ無いじゃない」
委員長の口調になんとなく引っかかるものを終は感じた。
「待ってくれよ、そんな自分を卑下するようなこと言うなよ、先輩らしくないって」
黙って終を見つめ返す委員長の眼がしだいに濡れてきた。上向いたのは涙をこぼさないように
しているからだろうか。
「麻子先輩の店にいる至さんとか。おれ、あの人なら」
「なに、身を引いてもいいとか言うわけ?」
「そうじゃない!ただ、やっぱり麻子先輩はおれにとって尊敬できる人ってことなんだ。
ヤった後も、やっぱりそうとしか思えなかったんだ。麻子先輩が言ってくれた好きと、
おれが同じ気持ちかっていうと…ごめん、なんて言えばいいのか、分からない。ごめん!」
長い長い沈黙が、ゆうに数分は続いたであろうか。
委員長が軽く一歩終のほうに踏み出した。彼女の手が閃いて打たれることを一瞬覚悟したが
その手は終の手をとって、優しく握りこんでいた。
「そう…そうなんだ。正直に言ってくれて、よかった」
ふう、と委員長は溜息を漏らした。
「けどやっぱり傷ついた。男の方から振られたなんて、わたし初めてよ」
細い指が目尻を拭うのを、終は黙って見ているしかできない。安易な慰めはさらに彼女を
傷つけるだけだと直感が告げていた。
「でも、許す。終くんだから、わたしも恨まないで済みそうだわ」
なんていう笑顔だろう。ほぼ毎日彼女を見ていたのに、ハンマーで殴られたような衝撃がきた。
やっぱり好きだと口走りそうになって、慌てて終は眼をそらした。
「ほんとうに、至さんはわたしのことが好きって?だってわたしより10も年上なのよ」
半信半疑の表情で、終に尋ね返してきた委員長のおでこを終は軽く指ではじいてやった。
「おれはウソは言わないよ。なんだったら、帰ったあと本人に直接聞いてみなって」
痛っいわねえ、と委員長は額を押さえて文句を言うが、それでも終と肩をならべて歩き続けた。
いつかのように、店の看板が見えてきたところで二人は別れた。
「じゃあ、ここで」
「ああ」
「さよなら」
終を一瞬だけ振り返ると、彼女は鳥のように軽やかに身を翻し店の方へ駆け出していった。
家に帰ったあと、終はすぐ二階にあがり、その晩は部屋から一歩も出なかった。
兄弟の記憶にある限り、夕飯がカレーだというのに終が食べなかったのはこの日限りである。
二人が再会したのはそれより半年後、卒業式の日であった。
終の姿を見つけた委員長の方から声をかけてきて、そして体育館の裏庭で向かい合っている。
「結婚、するんだって?茉理ちゃんから聞いたんだ。大学の陸上部が惜しがってるって聞いてる」
強い風が早咲きの桜の花を吹き散らし、委員長の肩まで伸びた髪をさらさらと吹き流してゆく。
「いいの。だって私の方が四年後まで待てないんだもの」
「ちっ、見せ付けてくれらあ」
嬉しいような、惜しいようななんとも複雑な気持ち。終の心の中にも春の嵐が吹いているようだ。
「やっぱり、いいなあ。」
「え?」
柔らかな笑顔のまま、委員長は足を踏み出し終にぐんと近づいてきた。
「少し見ないうちに背を伸ばしちゃうんだからなあ。成長期の男の子ってさ」
ほら追い越されちゃった、と委員長の伸ばした手の先がひらひらと終の頭上で揺れている。
本当に嬉しそうに微笑む委員長の言葉に、じわり、と終の胸が締め付けられる。
それは、彼女がずっと自分を気にかけてくれていたということだから。
「あ、その……おれ、」
なにか言わなきゃと思って終は焦るが、こういう時に限って上手く言葉が出てこない。
兄弟とやりあうときの闊達な口調はどこへやらといった風である。
一体何をいうべきか判らない自分の未熟さに歯がみしながら言葉を探す終の肩を、
委員長はポンと叩いて蓮の花が弾けて開くように笑った。
緊張で固まっていた全身の筋肉があっという間にほどけていく。
この桜舞い散る空の下でなら、何を言っても恥ずかしくないかもしれない。
「そ…あの、ありがとう!おれも、おれの初めてが麻子先輩で本当によかった。嬉しかった!
先輩もどうか、幸せになってください」
我ながら格好付けた返事だと照れくさく思いながら、でも、きっと間違いじゃないと信じて
終はそう答えを投げ返した。
「ありがとう」
この世で黄河の砂粒よりも使い尽くされ、いいかげんありふれたその言葉。
けれどそこに大切な気持ちがこめられた時、その言葉は全宇宙でただ一つの輝きに煌めく。
珠よりもなお貴重な輝きを放つ委員長の言葉を、終はその笑顔と共に大事に胸にしまいこんだ。
「さようなら。これからもどうかお元気で!」
卒業式でも浮かべなかったそれを目の端から零れ落とさせながら委員長が頭を下げた。
くるりと背を向け、そのまま桜吹雪の中走っていく――と思われたがこちらに戻ってきた。
「わたしの最後の命令!拒否は許さないわ。終くん、あんた当然茉理さんを応援してるのよね?」
「もちろんさ!」
二人はまだ付き合い始めてもいないが、終の脳内では将来二人が一緒になるのは決定済みである。
だから、委員長のその質問に思いっきり首を上下に振っていた。
その様子を満足そうに眺めていた委員長は、やおら終の手を取ると、満面の笑顔でこう言った。
「わたしも二人に早く一緒になって欲しいけど、大学卒業までは避妊に気をつけてあげてねって
竜堂先生に伝えておいてちょうだい!」
勢いに押されて終はコクンと頷いてしまった。
「あ、はい」
「がんばってね、終くん!」
終の返事を待たず、今度はバシンと肩を威勢良く叩いて委員長は桜吹雪の向こうへ消えて行った。
最後の命令をどうやってこなせばいいんだ!!と心の底から悩みに悩みながら中等部の教室に
方向転換した終の背中にさらなる声がかぶさってきた。
「終じゃないか。どうした、下級生に第二ボタンでもねだられてたか?」
「はっ始兄貴!なんでここに!」
「なんでって言われても、これから体育館の椅子片付けだからさ。手伝いに来るか?」
「これから教室戻らなきゃいけないからそれはカンベン。あさ…委員長と話してたんだよ」
「ああ、そういえばさっき渡り廊下で彼女とすれ違ったなあ」
気を取り直して記念写真など撮りあいしてるだろう教室の方へと歩きかけた終の袖口を軽く掴んで
始が小声で問い掛けてきた。
「彼女に最後、なに言われてたんだ?」
「言われてない言われてない」
言える訳ねえよっ!というか、頼まれるそれ以前の段階で足踏みしているこの二人に何を言えと。
そんな終の煩悶など知ったこっちゃないというように、花びらは春風に軽やかに舞い続けている。
「また後でな。茉理ちゃんが卒業祝いでご馳走作って家に届けてくれるってさ」
「最っ高!じゃあな、始兄貴!」
喜びに飛び上がる終を見てまだまだ子供だな、と始は呟き体育館へ足を向け歩きだす。
――今は三月、花散る季節。
来月から通る高等部の廊下を、終は同級生より一足先に駆け抜けていった。
かーなーり長編になってしまった。
でもこのことがあったからこそ創竜伝一p55の10行目の冷静なセリフが
終から出るわけなんだなw(=「春先からようやるよ」)
ってことで、これで撤収。じゃ。
GJGJGJ!!
こんなにすぐ続き読ませて下さるとはw
オリキャラが相手なのに不自然でないのも凄いのだけど、
切なさに、しっかり笑いも盛り込んで下さる辺り本当にお見事。
しかも原作とそんなところでリンクしてるなんてw
いやあ本当に嬉しい。
素晴らしいものをありがとうございました。
また何か降って来ることがあったら、その時も是非お願いしますね。
GJ!腹式呼吸でGJです!!
爽やかさと楽しさと真っ直ぐな切なさに、なるほど終の話だなと感じました。
どうもありがとう、連載乙でした。
ぜひともまた来てほしいです。ネタフリならいくらでもさせてもらいますからw
さわやかで良かった!ありがとうございます。
野暮を承知で一つだけ。鶴瓶さんは落語家です。
GJ!
エロパロなのに爽やかなあたり、やっぱり終って感じでした。
言われてみればあのセリフ、経験ありとしか思えないぐらい冷静ですねw
>>285さん、自分は…自分はやりましたよ!ww
そして
>>424さん指摘ありがとう、そしてすまぬ。
最後におまけ。路場さん=ロバのパン屋から持ってきたというネタ。
>>346 の彼女は委員長なのだろうかとモンモンモンモン
自分内設定で委員長を出しただけなんで、さらり流しておいて
>>427 さて、次のネタは何書こう。発酵するまでしばしサヨナラサヨナラ。
今月末に涼子出るってね。来月になる可能性もある…のか?
428じゃないけど、
>429
今月25日に発売予定になってるよ
同じく月末(28日あたり)に発売予定の
イラスト集にショートストーリーが掲載されるとかいう話で
買おうか迷ってる
きっとどっちも買ってしまうであろう自分…
合わせて3000円くらい見ときゃ良いかな。
色々嵩むなあ今月orz
創竜伝14巻はいつになるやらw
432 :
名無しさん@ピンキー:2006/08/11(金) 11:57:16 ID:CAHxgbAg
銀英伝はいつかな・・・
幻の外伝のこと?んなの知るか。つうか、ここで聞くなw
パロを読みたいのなら、自分でレッツトライ!
もしくは話が膨らみそうな妄想を、ここにぜひとも落としてちょーだい。
水着を買っていた、お涼ペアと竜堂家が海かプールではちあわせしたら、
面白いだろうなー。
やっぱりさ、国王陛下がチェリーのままで王妃(これは処女だろうが)
を迎えるのって、そりゃないんじゃないかなあとか思うわけ。
ガイエ的にはそれもありなんだろうが、歴史上そういう人物ってアリエナス。
皆は童貞でいてくれ、いや何かあって当然でしょ、どちら派?
ファランギースが逆レイプ!陛下泣き寝入り!
>435
マリーアントワネットの旦那(ルイ16世だったっけか)は違うっけ?
遠藤周作のアントワネット記(一応小説だがかなりの部分史実ベース)では
確かそうなってた。まあ真実は歴史の中だけど。
>>435 タイタニアだと、それなりの地位にいる人は
17才(18才だったか?)になると、専門の人に筆降ろししてもらってたなw
現実的に考えると、その方がありそうな気ガス。
でも姫は処女。これだけは譲れん。
ええ!そんなおいしい設定なんて何巻の何ページにあった?
チェックしなくちゃもうwww
ごめん、ザーリッシュ限定かもしれん。
エニックス版しか手元にないけど1巻のp140に書いてある。
5章の割と最初の方。
黒、茶、赤、金色の髪の女性を一人ずつ取り揃えているとか
そのために30名の婦人兵が付き添っているとか
その長を務めているのがザーリッシュの初体験の相手とか
色々妄想のしがいがあっていいもんですよw>タイタニア
読んでみた。ザーリッシュって戦をしては女を抱きってヤツですな。
でも陛下はああいうタイプではないなあ。しかしっいやしかし!
国王陛下が王妃を迎えるまで全く女を知らないというのも、なあ。
ナニかがあったと想像してもおかしくはないよな?w
17歳の夏w
とりあえず言えるのはこれだけ!
443 :
名無しさん@ピンキー:2006/08/12(土) 23:10:11 ID:crg1iFVT
期待あげ☆
444 :
名無しさん@ピンキー:2006/08/13(日) 00:50:53 ID:TEhiZR78
期待あげ〜w
445 :
名無しさん@ピンキー:2006/08/13(日) 03:22:23 ID:S64w+xgq
まずは普通にサゲ、そして落ち着け
>>443>>444 神の筆が進むようひたすら祈るのだ。
相手がファランギースでなくてもエステルでもなくていいから
アダルトな陛下を一度は見てみたいw
って自分がアゲてどうすんねん!!!!!!!!orz
ドンマイ!
春指南役×陛下とか書いてほしいけど難しいだろうね…
オリキャラ作んなきゃだし…
ファランギースが筆おろし役でもおkじゃね? と思っている俺ガイル。
――彼女に出会ったことは誰にも言うまい、と何故か心に決めていた。
なんともがっかりした、残念そうな表情を顔に載せて王宮を歩く者が、ひとり。
半月の時期はすでに過ぎ満月に近づきつつある彼は、もはや少年ではなく若者といっていいだろう。
明日から盛夏四旬節(フローラムチェッレ)。街は賑わい、歩いて回ればさぞ楽しかろう。
しかし、このところの微行の多さに気付かれてしまい、宰相の眉を跳ね上げさせたばかりである。
おかげで王宮から抜け出そうという浮いた気はすっかり失せていた。
だからこうして仕方なく王宮内を散歩しているのだが、周りの様子が変わったことにふと気付いた。
壁の色彩が鮮やかなのは、埋め込まれたモザイクで華やかな模様が施されているからだ。
執務室がある建物とは違う典雅な雰囲気に、彼は歩を止めしばし立ち止まった。
「こんなところへ、どうなされたのです」
その人は白い縁取りがされたゆったりとした黒い長衣を身に纏い、静かに佇んでいた。
張りのある、澄んだ響きのいい声だった。
ほっそりした柱が立ち並ぶ回廊に差し込む陽の光が、彼女の花のような顔を引き立てている。
小さな卵形の輪郭に、整った目鼻が行儀よく並んでいた。黒目がちの双眸に、まっすぐな鼻梁。
薔薇のはなびらに似た唇。後ろに一つに編んで纏めた髪型は、彼に優しかった乳母を思い出させた。
光をあびた彼女の左目は透き通り、右の目は夜の海のように暗く沈んでいる。
彼女の視線が自分に向けられていると意識したとたん、彼の心臓は倍の速さで打ち始めた。
まっすぐに見続けることができず、彼は視線を逸らした。
ああ、私はどうしたのだろうか。声の震えを気取られないよう、彼は彼女の問いに応えた。
「外には出かけられないから、気晴らしに中を歩き回ってみようかと思って」
「ここが、どこと知っていらっしゃってのことですか?」
今度は、ちゃんと彼女の顔を見ることができた。彼女は、普通の女性だった。
きらきらしく身を飾りたててるわけでもない、質素な身なりをした歳若い女官。
歳若い、といったが今王宮につとめている女官はほとんどすべて戦死した将兵の遺族であり、
小母さんやお婆さんばかりであるから、その中にあっては若いということである。
身長は彼よりも頭一つ分低く、歳は20後半になるかならぬやといった風に見える。
「女主人が居ないとはいえ、ここは後宮ですよ。みだりに殿方が立ち入るものではございませぬ」
彼女は手に持っている桶から水を庭に流し捨てながら彼にちらっと目をやり、茶目っ気たっぷりに
こう付け加えた。
「でもあなた様なら、いくらでもご自由に」
彼女のおかしそうに笑う声が彼の耳に届く。
「微行を宰相様に諌められたのですね。仕方ありません、ご自分の立場を考えなされませ」
彼女が微笑うと固い印象がくずれて、人を惹きつけるような目元の柔らかさが引き立った。
女神官の凄みがあるほどの絶世の美貌はないが、とても魅力的な女性だと彼は思う。
「いつまでもあなた様を立たせていては申し訳ありません。冷えた薔薇水(ルリシーサ)が
部屋にありますからどうぞ、こちらへ」
「え?ああ」
促されるまま彼女のあとをついて歩く。中庭に射す光は赤く、日暮れ近いことを彼は知った。
彼女が半身を部屋の内側に入れ、やさしく手招きする。
「ここがわたくしの仕事場です」
彼はそっと頭をさげて彼女のいう『仕事場』に入った。細かく仕切られた棚は天井にまで届き、
中身の詰まったガラス瓶が隙間なく並べられている。部屋一杯に溢れる、さまざまな匂い。
その一番奥には床まで届く窓がとられ、そこから中庭に掘られた人工池の涼しげな水面が見えた。
水面は雲母をはりつけたようにきらきら照りかえり、今日最後の光を天井に揺らめかせている。
窓のそばに広い作業台があり、そこにはさまざまな草や生花が並べ置かれていた。
「これは?」
「わたくしの大事なものです。知らぬ人には枯れた草にしか見えないでしょうが」
彼女はどこからか椅子を持ってくると作業台の横に置いた。室内を興味深げに眺めやっている
彼を座らせ、こまめに動いて透き通った桃色の薔薇水をグラスに注いでいく。
「薔薇の中でもこれはクセのある香りなので、好き嫌いがあるやもしれません。このままでは少し
濃いので、冷水で割ってあります」
鮮やかな色とともに、芳醇な果実のように濃厚で甘い香りが彼の鼻腔を快くくすぐった。
「いい香りだ。けど、それだけじゃなく爽やかな感じもあるな」
「よくおわかりで」
一口飲んだ感想を述べる彼に、彼女は出来のいい生徒を褒める教師の笑顔を向けた。
「リムン(レモン)を絞り入れてございます」
絞り終えた皮を手にした彼女は油を満たしたガラス瓶にそれを漬け込み、カチリと蓋を閉めた。
「それは何に使うんだい?」
「治療に使います。特に、女性のさまざまなことについて」
そして彼女は作業の続きに取り掛かり、それぞれ何であるのかつぎつぎ彼に指し示した。
「このリムンは入浴時に湯に混ぜ込んだり、足をこの油で揉み解すとすっきりいたします。
ただし、肌に付けたまま陽射しを浴びると毒になりますので少し注意が必要です」
「そしてこれはシンドゥラ国で数千年に渡り、チューマナ・ブルーという名で親しまれています。
かの国の人々はスープに浮かべ食したり、茶を淹れたりします。消化を促す働きがあるのです。
リムンに似ていますが、それよりも強く深い香りがいたします」
「それはシャンタール。様々な皮膚病を治す効果があります。肌の乾燥する人に特にようございます。
この香りは心を鎮静させ、絹の国ではこれを白檀または沈香と呼んで、寺院での儀式に使うそうです」
彼が机から摘み上げたものに気付き、流れるような彼女の説明が一旦とまった。
「ああ、それはあなた様には必要ないものです。「細くなる」という名をもつ薬草茶です。
甘さと刺激のある香りが食欲を抑えます。これを漬けた油には、立ち仕事で疲れた足を
癒す効果もございます」
あとで取りにくる人がきますから、と彼女は彼の手を押さえると包みを机の上に戻させた。
温かい肌が触れ合い、なめらかな指と骨ばった長い指が絡み合う。
彼の鼓動は、ふたたび速まる。
彼の瞳をじっと見つめながら、彼女は息をつめるように囁いた。
「これから人がやって来ます。そこのカーテンを開けて目の前の階段をお上がりください」
さあ、と促され彼は椅子から立ち上がり、薔薇水の礼を言うとカーテンを引き開けた。
細い石造りの階段をぐるぐると昇り、目の前の扉を押すと、そこは彼の寝室だった。
よく見ると、扉の継ぎ目は壁の装飾にうまく紛れるように作られている。
彼は靴を脱ぎ捨てると一人では広すぎる寝台に身を投げ出した。
彼女の指が触れた部分に唇を押し当て、彼はじっと先刻出会ったばかりの彼女のことを考えた。
ゲフ!また神が!
一夜明け、パルスの暦は盛夏四旬節(フローラムチェッレ)に入った。
彼は多忙だった。部下が処理してくれる分もあるが、案件は次々彼の元に押し寄せる。
とはいっても、夕刻になればそれも締め切られる。ほっとしたように襟元をくつろげ、
冷えた緑茶を召使から受け取ると、彼はそのまま窓辺に歩いていき外を眺めやった。
黄昏れのほのかな光の中を響き渡っていくのは、一日の終わりを知らせる鐘の音だろう。
耳を澄ますと、路地ではしゃぎまわる子供たちの歌声まで聞こえてくるような気がする。
実に平和な、物憂いほどの夕暮れだった。
いつもなら執務後には宰相が彼のもとへ来て、ぜひ王妃をやら世継ぎをやらと説得にくるのだが
今日はそれもない。つい先日彼の微行を諌めたばかりであるし、遠慮したのであろう。
豪華でもないが質素でもない夕食を行儀よく食べ終えると、彼は自室に引き上げた。
いままでは気にもしなかった壁の切れ込みがいやに目にくっきり浮かび上がって見える。
この扉を開ければ、と思ったが彼は自分の心を押さえつけた。このまま流されてしまうより、
距離を開けておいたほうがいいような気がしたのだ。自分は地上にただひとりの身の上だが
彼女の方がよほど物を知っている。彼女の知性に溢れる瞳を彼は思い出していた。
自分は、守り立ててくれる仲間達あってこその存在であり、自惚れる気になどなれなかった。
その日はなかなか寝付けなかった。彼女のことを思うとよけいに頭が冴えてしまうように感じる。
奇妙に熱っぽく、蒸し暑い夜のせいだと思い、彼は寝返りを打って寝台の反対側の冷えた部分に
移動すると無理やりに目を閉じた。
そしてそのまま一週間、彼は寝室の壁の扉を頭の片隅に置きつつ熱心に職務に励んだ。
その根の詰めようは、日頃は神経過敏な宰相が護衛付きでなら、と外出を仄めかしたほどである。
後で笑い話として皆に話してやろうと、彼は苦笑しながら黙ってそれを聞きながしていた。
今日の昼食を彼と囲んだのは、彼の師と、彼の兄弟子の二人だった。
先ほどの話を彼がしてみせると、当然のことながら食卓に笑いが溢れた。いきおい、そのまま
午後は休んではどうか、という話になった。好意からくる勧めに、彼はようよう縦に首を振る。
執務室を出て自室に帰る彼の心に自然と浮かんだのは、彼女のことだった。
これまでの葛藤があっけないように、少し押すだけで扉はすんなり開いた。
目が回るような螺旋をしばらく下りて、ようやく彼女の仕事部屋にたどり着く。
見回すが、彼女の姿は無い。机の上には草花やなにかに使うらしい道具が広げられたままである。
じきに戻ってくるだろう、そう見当をつけた彼は簡素な寝台に腰掛け待つことにした。
手に触れるそのシーツの優しい肌触りに、そのまま彼は手足を伸ばして寝転がった。
見上げる天井には、水面からの照り返しの光が波のようにさざめいている。
その繰り返しを眺めるうち、室内に満ちる芳しい香りに誘われるように彼は眠りに落ちていった。
「陛下、陛下!起きてくださいまし」
声をかけられ体をそっと揺さぶられ、彼は薄く目を開けた。
「もうじき日が暮れてしまいます。部屋に戻らなくてよろしいのですか?」
「…帰ってきていたのなら、起こしてくれたって私はかまわなかったのに」
起き上がりながらそんなことを言う彼の顔はねむたげで、優しかった。少し長く伸びた髪が、
目の上にふりかかっている。彼女は手を伸ばし、そっとその髪をはらった。
「あんまり気持ち良さそうに眠ってらっしゃるので、起こし損ねてしまいました」
目だけで彼女は微笑んだ。
「夢を、見ていたよ。他国と争うことが無くなり、地上すべての人々が平穏に暮らしている、
そんな“夢”さ。途方もない夢物語だという事は、もちろん身に染みて分かっている」
差し出された熱い薄荷茶を椀からすすりつつ、彼は自分の甘さを恥じるようにひとりごちた。
鼻に抜ける香りにはっきりと彼の目が覚めていく。
彼女は微笑んだまま小さくかぶりをふって、彼の手を励ますように軽く握った。
「ルシタニア国は弱体化した。もうパルスの敵ではないだろう。だが、イアルダボード教が
無くなったわけではない。おそらくイアルダボード教徒のものたちが難民としてパルスに
流れ込んでくることもあるだろう。だが…」
「虐殺した側と、された側と、両者が憎しみあうことについて考えておられるのですね」
「ああ。」
彼は頷き、私にはとても難しい問題に思える、と胸中をあっさり打ち明けてみせた。
無名の女官相手にも心を隔てぬ彼のありように、彼女は清涼な空気を吸い込んだ心地になった。
「両者が融和する方法というか、考え方は教えてさし上げられるかもしれません。
明日になったらまたいらして下さい。向こうの廊下からこの部屋の扉が見えますでしょう?
入り口に薔薇が挿してあるときは、この部屋にわたくしが居るという合図ですから」
陽はすっかり傾いて、灯りはじめた王宮の灯りが中庭の池に金のかけらを幾つも落としている。
彼はその言葉にひとつ頷いて、長い螺旋を今度は逆に上りはじめた。
あとこの三倍は長くなるみたい…完結までしばらくお待ちあれ。
アダルトな陛下もちゃんとあるので、お楽しみに。
イアルダボー「ト」じゃないかっ!!あああ…orz
次から気をつけます。
>アダルトな陛下
全身をテッカテカに光らせつつお待ちしてます。
これから先の展開も期待大です!wktk〜
wktkしてます
次の日も彼は真面目に政務に取り組んだ。次々捌くうちに時間はあっという間に過ぎ夕刻となる。
いささかへばった頭を抱えながら視線を中庭に向けると、扉に薔薇が挿してあることに気が付いた。
来てほしいというのは向こうなのだから、そのまま廊下を歩いて後宮に向かってもよさそうなのに
人に見られたらなんて言い訳すればいいのか気後れがして、結局、隠し扉から彼女の部屋に向かった。
カーテンをかき分けた向こうでは、彼女が独楽を器用に操って糸を紡いでいる最中だった。
「すまない、仕事の途中だったのか。ここでしばらく待っているよ」
「いえ、これが昨日の答えですわ。どうぞこちらにお寄りくださいませ」
呼ばれて彼は向かいの椅子に腰掛けた。彼女を近いところで見て、気付いたことがある。
彼女の耳に光るのは本物の翡翠。それも、女官の給料では容易に買えないだろうほどの品。
「さあ、陛下。こちらの糸を両端から持って引っ張っていただけますか」
ごつごつした太い糸で丈夫そうに見えたが、軽く力を入れただけでそれはすぐ引き千切れた。
「今度はこちらを」
先ほどの糸の半分にも無い細さだったが、今度は指先の色が変わるほど引っ張っても切れなかった。
「これは一体?」
答えず、彼女は手に持っていた独楽ごと彼に手渡した。紡がれる前のそれは白くふわふわしている。
「これは綿糸だな」
「二本目はミスルの麻糸でございます。そして最初のものは、そのまま二つ捩り合わせただけの糸」
自分の考えをまとめるように、彼女はゆっくり言葉を紡いでいく。
「それぞれ個性の異なる素材を、無理に一本に捩り合わせても弱い糸になるだけです。
さらに、自然のものですから同じ素材で紡いでも、全部が同じ太さ・色の糸にはなりませぬ。
もう一つ言うならば、綿と麻と、どちらが糸として上か下かという評価もありません。
けれど、これを一枚布に織り上げることは機織りの腕がある者なら容易に出来ましょう」
これがそうです、と彼女が広げたものは手巾ほどの大きさの布切れだった。
「それぞれの糸の癖を大ざっぱにつかみながら、糸調子を確かめつつ丁寧に織り上げました」
「ほう。綿だけ、麻だけで織ったものより、なんとも言えない奥行きというか、風合いがあるな」
「それがわたくしの考える、昨日の問題についての答えです」
彼の晴れ渡った夜空の色の瞳に理解のきらめきが走り抜けた。
「二つの糸の個性をよく見ていくことが、丈夫な一枚布に織り上げるコツなのか。
さらに織り手である者の手加減がなにより肝心である、と。そういうことなのだな……。
それにしてもあなたはすごい。薬草の知識だけではなく、織物の腕もたいしたものだ」
「私の故郷はパルス絨毯の産地ですから。それで、自然と身に付いただけですわ」
「謙遜せずともよい。ああ、それに絨毯というものは一人で織り上げるのではなく、数人がかりで
仕上げていくものだと聞いたことがある」
「さようでございます。小さなものでしたら一人で十分ですが、部屋全部に広げるほど大きいものは
たくさんの人手にたくさんの時間を掛けねば、とうてい仕上がるものではありません」
立ち上がって窓辺のそばに寄り、人工池を見つめ小さく溜息をつく。
「“望ましの楽土”という広大な絨毯を織り上げるのに近道はないということか」
「ええ、そして陛下が織り上げるのを手伝いたい者は大勢おります。わたくしもおよばずながら」
「私一人で国を治めているわけじゃない。それを思い出させてくれてありがとう、感謝している」
彼女は感激に胸を震わせながら、彼に寄り添うように傍らに立った。
うるわしの都、エクバターナの夏。ありふれた一日がゆっくりと暮れていく。
水上をすべるように吹く風に冷たさが増したのに気付いて、彼は自分の寝室へ戻っていった。
素晴らしい…美しい!
凄く素敵だ。
続きも楽しみにしてます。
しかし何なのこのスレ。
神ばっかだよ!
贅沢で幸せ過ぎるよ!
楽しませて頂くばかりで本当に申し訳無いったら…
あだるてぃ陛下にwktk
自分も恩返しがしたいけど、どうにもエロ有が書けない…orz
神さま方、なんか秘訣ってないっすか?
WOWOWOで銀英伝見た人が書いてくれると嬉しいな〜
467 :
名無しさん@ピンキー:2006/08/17(木) 03:00:12 ID:ftd1NXBk
そうだWOWOWOで銀英伝やってるぞ!
漏れはみれないがw
銀英でさえスレや作品が盛り上がるのは珍しいのに、銀英以外のガイエ作品が盛り上がるのはもっと珍しいからしばらくは横槍いれないで見守っていよう。
・・・・・と思っていたのだが確かにそろそろ銀英見たいかも(´Д`;)ま、来るときは来るだろう。色んな作品が盛り上がって今の流れも楽しいし
469 :
名無しさん@ピンキー:2006/08/18(金) 04:20:52 ID:aarkh2UX
確かに銀英伝しか知らないもんな〜
とりあえずあだるてぃ陛下にwktk
銀英しか読んだことない人はアル戦も読んでみてよ。面白いよ。
(ただし第二部は劣化しているので第一部だけ読んだほうが精神上よろしいかと思う。)
――エクバターナ市街。
熱気をはらんだ陽射しの中、彼女はゆっくりと大通りを見て歩いていた。
探していた店にようやくたどり着き、ふところの中の皮袋から金貨を幾つか手の中に移す。
その金貨で目的のものを手に入れると、彼女は建物が立ち並ぶ細い路地へ入っていった。
深夜、彼女の部屋に訪れた人物から渡された金貨は、まだ十分に残っている。
にぎわう大通りにはスリがいるやもしれぬ。気をつけなければいけない。
服の上からそっと皮袋を押さえ、彼女は薄暗いその路を足早に歩いていく。
(うまく、やれるのだろうか)
こころに渦巻くのはその畏れだけである。昨夜のやりとりを彼女は思い出していた。
自分を恥辱の沼から救い出してくれたその人物は、低くかすかな声で彼女に訊ねた。
「……どうだろう。首尾は、果たせそうか?」
彼女はさらに静かな声でこたえた。
「ええ、順調かと」
その言を胸の中で繰り返すように、その人は頷いた。
「必要なものについてはこれを。追加はもちろん、必要なものがあれば遠慮なく言いなさい」
部屋の中に金貨の触れ合う澄んだ音が響く。
「いえ、これだけあれば十分ですわ」
わかった、というようにその影は一つ手をふると、周囲に目を配りながら部屋から出ていった。
考えながら歩いていたせいで、不穏な気配が後をつけているのに彼女は気付かなかった。
ふいに、腕が強い力で掴まれる。
「……!!」
正午過ぎのうだるように暑いときだというのに、声も出せず彼女はその場に凍りついた。
腕を掴んだまま、男は薄情そうな薄い唇を吊り上げ暗く笑った。
「俺のことを覚えているな?」
「なんのことでしょう。あなたのことなど知りません」
「いや、俺は忘れちゃいない。お前、あいつらの奴隷だった女だろう」
男の目がぎらぎら光りはじめたのを見て、彼女はこれ以上白を切っても無駄と悟った。
「そういう時もあったような気がしますが、わたくしはもう奴隷の身ではありません。
解放王アルスラーン陛下のおかげです。我らの国王のなんと度量の広いこと!
あなたが信じる神や、それに仕える神官らにはとうてい…んうっ!」
「ずいぶん賢しい口をきくようになったじゃないか、ええ?」
男の汚れた指がヒルのように喉に吸い付いて離れない。
「あいつら、聖堂騎士団相手にはずいぶんとしおらしかったそうじゃないか」
軍からはぐれ国にも帰れず、この国にも容れられず、物乞いに落ちぶれ果てた目の前の男に
彼女はうっすら笑いかけた。
「あなた、そう…わたくしを踏みにじったあいつらが羨ましくてたまらなかったのね。
異教徒の女を寝台に引きずりこむなんて、聖職者にあるまじき罪だというのに!」
「もちろん、あいつらは神のお怒りをうけた。そうであろう?」
男は凄まじい目つきでにらみつけたが、彼女が冷笑を浮かべているのに気付き逆上した。
小鳥のような細い喉を掴んで男は激しく責め立てる。
「俺は神の命ずるままひたすらに戦っただけだ!それなのに、今のこの俺はどうだ?!
お前だ、俺には分かっているんだ。お前が、堕落の淵に俺たちを引きずり込んだんだ!
そうじゃなければ、神が、神が俺をこんな目にあわせたもうはずがっ」
彼女はもがいたが喉に食い込む指は緩む気配もなかった。気管がつぶれ、ひどい頭痛がする。
まぶたの裏に赤黒い蛇がのたうつのが見えた。
殺される。
空気を鋭く切る音が顔のすぐそばでしたかと思うと、彼女は地面に投げ出された。
とっさに転がり男から離れる。激しく咳き込み、苦しさから涙がぼろぼろこぼれ落ちる。
死神の手は、彼女を捕らえ損ねた。
「俺の邪魔をするのか!!」
「…それ以外のなんに見えるのじゃ」
呆れた表情を向け、男の腕を正確に射抜いた馬上の人は視線を地面に下ろした。
体重の無いもののような身ごなしで馬からひらりと飛び降りると彼女を引き起こす。
「危ない目にあわせてしまってまことにすまなんだの」
彼女は首を振るしかできない。
ようやく息が整い、彼女は眼を上げ女神と見まごう相手の絶世の美貌をじっと見つめた。
心を見透かすような緑玉の瞳のなか、気遣わしげな光が揺れている。
「あなたは、だれなのですか…?」
「おぬしを護ること、――から命じられておる」
それは母親から形見として翡翠を渡されたとき聞かされた名であった。
いつの間にあらわれたのか、兵士が数人狭い路地をふさいでおり男は退路を失った。
とっさに腰に手を伸ばし短剣を引き抜いたが、それより先に褐色の肌をした精悍な男が
するどく剣をひるがえしていた。乾いた地面に血が吸い込まれていく。
「気の毒なことじゃ。どこにも根を張ることもできない浮草は、哀れよの」
「わたくしもまかり間違えれば、ああなっておりました。運が良かったとしか思えませぬ」
王都の城門が開け放たれたあの時、逃げ出す敵兵にそのまま連れ去られてしまっていたら。
わたくしはあの方に報いたい。言い聞かせて、彼女は男の死体から目をそらした。
「あとはよろしくたのむ。わたしはこの女性を王宮まで送り届けるゆえ」
兵士たちが手際よく処理する物音を後ろに聞きながら、彼女は路地から出ていった。
なんのために王宮に帰るのかについて彼女は話さなかった。また女神官も問わなかった。
ただ、彼女が抱える包みから立ち上る香りに気付いただけだ。
「…賭けじゃな。陛下がまことの王者として一人立ちできる器かどうか、これではっきりする」
彼女は視線を落としたまま、大人しく馬に揺られている。
「今夜、か?」
「それは、まだ分かりません」
儚げに微笑む彼女を裏門の手前で馬からおろすと、女神官は頭を下げた。
「陛下を、よろしく頼む。こればかりは軍師どのも教えることはできぬ学問ゆえ」
艶やかに光る黒髪をひるがえし、白く日に灼けた石畳を女神官は駆けぬけていった。
ファランギース様のゲスト出演キタコレ。
続きもワクテカしてます。
彼女は部屋に入ると紙包みをほどき、中身を籠に移しかえると小脇に抱えて立ち上がった。
向かった先は洗い場で、そこは浴室も兼ねた広い大理石造りの空間だった。
野卑な兵どもが叩き壊したのか、浴槽のいくつかはヒビが入り使えなくなってしまっている。
籠を下ろし、ポンプの取っ手を掴んで水をくみ上げ、溜めたところに籠ごとつけると
彼女は市場で買ってきた生花の土ぼこりを洗い流した。
細長い花弁は淡い緑と黄色に咲いており、濃厚な甘い香りが馥郁と匂い立つ。
シンドゥラよりもさらに南の国から木ごと海路で運んできた、薔薇より貴重な南国の花。
現地語で「花の中の花」という意味をもつ花、イランアラン。
(全部生花のままで使うわけではないし、蒸留器の用意をしなくては)
籠を水から引き上げ素早く手を拭くと、彼女は籠を抱え再び作業部屋に戻っていった。
同じころ、王宮の中にやっかいな訴訟が持ち込まれていた。
総督のところで収まらず国王の法廷にまで持ち込まれたのは、当事者が王都で手広く商売を営む
富豪であることに加え、複雑な事情をその内に抱えていたからだ。
あらましを書いた書状に目を通し終わると、彼は“解放王の裁き”を待ち望む両者どちらにも
目を向けず、父親とルシタニア人である夫の間をひたすら右往左往する若い女性に歩み寄った。
「あなたを一人の人間とみこんで話をしたい。父娘二人きり、仲が良いのは大変よろしいが
しかし、あなたは夫と家庭を持ったのだ。ご実家から出て夫と二人で暮らしてはいかがか。
一頭の馬を二人で乗りこなすことが出来ないのと同じく、家に主人は二人も要らぬ。
裕福な家を出れば不便なこともあるだろうが、これが皆にとって一番良い方法に思えるのだ」
考えてみて欲しい、と地上にただひとりの国王に頭を下げられ、女性は口を開けたまま頷いていた。
舅である父親にいたってはあまりの恐れ多さに後ろにひっくり返って気絶してしまったほどである。
「新居については手ごろなところを探させよう。彼女をどうか、幸せにしてやってほしい」
異国の娘と恋に落ち、すでに教義を捨てていた彼であったが、はじめて目にするパルス国王、
それもじきじきとあって卒倒しかけたが妻の前に男意地を見せ、堂々と国王の頼みを引き受けた。
沈黙が座に満ちた。
「聖賢王ジャムシードの叡知に誉れあれ!王者の審判は下された」
そう宣告したのは副宰相も兼ねている宮廷画家だった。その場にいた皆がひとしく頷く。
「なにをこの男はやに下がっておるか、気色悪い」
そう言われても、黒衣の男は満面の笑みを崩そうとはしなかった。
「いや、陛下のジャムシードの鏡は三年前と変わらずいささかも曇っておらぬ」
「おのれの芸術に対して曇った心眼こそ磨いたらどうだ」
「そんなもの、曇ったままで一向に俺は困らんさ」
宮廷画家はやれやれといったように肩をすくめると、彼のほうへ改めて向き直った。
「困った男は混迷の野に捨て置くとしましょう。それにしても見事なお裁きでした、陛下」
率直な褒めように、彼はいささか気恥ずかしかった。
「パルスとルシタニアとの間に起こったことを絡めず、事の本質を見るようにしただけだ。
舅が娘婿を憎んでいたのは彼がルシタニア人だからではなく、一人娘を攫った男だったからで、
婿が舅を疎ましく思っていたのも、その逆ということ。そういうことじゃないかな」
師は手を叩いて弟子を褒めた。
「それだけの洞察力をいつの間に身に付けられたのやら。出来の良い主君に仕える機会を
得られましたこと、まっこと光栄にございます」
「へぼ画家に仕えられる陛下のご心労については考えてやらんのか」
「なにやら雑音が聞こえますがお耳に入れませんよう。環境がいささか悪うございますゆえ、
ここは一つ場所を変えて休憩なさいませんか。冷えた緑茶を用意させましょう」
本当は、ここで一旦抜け出して考えの指針を与えてくれた彼女に礼を言いに行きたかったが
その思いは胸のうちに納め、口に出してはこう言った。
「休憩の後はあの二人の新居を探してやらねばな。副宰相の仕事を増やしてすまないが」
「どんどん増やしてやってください、陛下。やつが絵筆をとる暇など無いほどに」
ずっと沈黙していたもう一人の弟子がくすくす笑い出すのをきっかけに、皆は隣の広間に移り
あらためて国王の判断について感心し、口々に誉めそやしたのだった。
「こらこら、お前を褒めているわけじゃないぞ。そんなにそっくり返るな」
悪友が皮肉るのを無視して、麦酒も飲んでおらぬに黒衣の男はますます相好を崩していた。
ここでやっと半分だ…SSというより外伝の分量になってるなあ…
ガイエチックな文章でエロを書くという目標設定に自爆しかけてますが
ラストは出来てますんで、放置はしません。
全然オッケーです。
楽しませて頂いてます。
続きも楽しみに待たせて頂きます。
キャラもしっかり特徴を表現できてるし
原作にないパルス語(ペルシャ語)も調べられているようで
原作への深い愛を感じます。
続きを楽しみに待ってますよー。
むう、俺はいつまで裸で待っていればいいんだ…。
前フリがきちんとしてればしてる程、待たされれば待たされる程、いざエロって時に萌えるんじゃないか。
風邪ひかないように人事を尽くして天命を待とうぜ。
483 :
名無しさん@ピンキー:2006/08/20(日) 02:57:12 ID:IwkdV6nq
ヴァレダって何の作品?
タイトル教えてちょ。
それは最後まで読めば明かされると思うぞ。
ちなみにそのタイトルの田中作品はない。あとな、sageるのを覚えて欲しいのだが…
485 :
名無しさん@ピンキー:2006/08/20(日) 09:44:53 ID:IwkdV6nq
age
……やっとこれだけ。
手ぬぐいで首につたう汗を拭いながら、彼女は蒸留器の火を止めた。
そこから伸びるガラス管もかなりの熱を帯びており、これも気をつけて取り外す。
仕組みはそう複雑ではない。陶製の深い鍋の上に冷水を入れた蓋がかぶされていて、
炉にかければ下の鍋から蒸気が昇り、網状の中皿に並べた花を蒸しあげていく。
その蒸気は上蓋の裏面で冷やされ結露し、一方にある口から香気成分を含んだ水滴が
滴り落ちるのだ。その水に浮かぶ油分――ほんの僅かな――が『アタール(芳香)』である。
このままでは成分が強すぎて肌に塗れないので、動植物どちらでもよいが油脂に混ぜ合わす。
これで、ようやく香油の出来上がりとなる。
昼間から夕方までずっと蒸留器を焚きつづけ、やっと薬匙半分ほどの油が取り出せただけ。
濃厚な匂いをずっと嗅いでいたせいで軽い目眩がする。女官服は汗に塗れ肌に張り付いている。
葡萄の種を圧搾して作られた油にアタールを混ぜ合わせガラス壜にすっかり流し込むと、
彼女は立ち上がり湯殿へ向かった。汗でべたつく肌を洗い流すため――そして、今夜のために。
今日の裁判の内容と下された審判について、彼女は昼間のうちにすでに聞き知っていた。
きっと、彼は来る。
彼が訪れるのはいつもなら執務が終わった後、夕食前の時間なのだが、今日は城砦からの
定期報告を兼ねた夕食会がある。そのあとは宴席が設けられているにきまっているから、
彼が部屋に降りてくるのは夜更け過ぎになるだろう。
そこまで考えて、彼女は自分の身体を点検するように見おろした。
湯の中に揺らめいてみえる素足は白く、しなやかだった。母そっくりの白い肌、細い指。
歳を重ねていくごとに、鏡の中の彼女の顔は母に近づく。
王都の妓館で一番の妓女だったという母。家の借金を一年で返し終えると母は故郷に戻った。
母と二人、故郷の薔薇農園で暮らしていた頃は日が暮れるのも忘れ野を駆けて遊びまわった。
おてんばだった自分を押さえて、もつれた髪に櫛をとおして編み直してくれた優しかった母。
彼女はいつだって母のようになりたかった。美しく優雅に。薬草の知識も母から教わった。
(……もうだいぶ、あなたに近づけたかしら?)
そう訊ねたくとも、その母は薔薇生い茂る墓の下に眠っている。
母が亡くなり、身寄りがなくなった彼女を領主は女官として召し上げようとしたが、断った。
領主が彼女に期待したのは家事雑務の技能ではない。それが分からぬほど彼女は愚かではなく、
むしろかなり賢かった。母が世話になった妓館の主の招きもあり、彼女は王都に暮らしはじめた。
すでに恋も幾つか知り生娘ではなかったが、彼女が勤めたのは妓館ではなく王立図書館だった。
書物を集め管理するだけが図書館の仕事ではない。学者の為した研究成果を収集し整理し、
誰でも利用できるものにまとめ上げるというのも大事な仕事だった。彼女に命じられたのは
それぞれの学者達が個別に調べ上げた薬草についての資料を一続きの事典に編纂するという
やりがいのある事業だった。すでに彼女は美しく成長していたが、それを自覚することもなく
書物に埋もれペンを走らせる毎日で、王立図書館長がもったいないと苦笑したものだった。
そして、王都陥落という災厄が暗い焔を引き連れ、彼女の希望も何もかもを焼き尽くした――
「ただいま、宴席がお開きになりました」
女官が知らせる声に彼女はもの思いから醒めた。この女官は王宮に長いこと勤めており、
彼女の事情も十分飲み込んでいる信用の置ける相手である。湯から上がった彼女の身体を
柔らかい布で拭き、薔薇とさきほどの精油を調合した香油を丁寧に身体に擦りこんでいく。
「陛下は宴席中、たいへん機嫌よう見えてらっしゃいました」
「そうですか」
短い返事のうちに、すでに彼女は覚悟を固めていた。
女官服ではなく蜻蛉の羽のように薄く光る夜着をするりと肌にまとうと、腰の紐を緩めに結ぶ。
これから、自分はあの陛下の手を引いてまだ彼が知らぬ花園へ連れて行くのだ。
だが、不安はなかった。
最初出会ったときから今日までまだ十日ぐらいしか経っていないが、きっと彼なら大丈夫。
母の形見の耳飾に手を触れる。そしてさっと背中を立てると彼女は後宮へ静かに戻っていった。
国王の寝室と隠し通路で結ばれた、正妃に知られたくない秘密の愛妾を置く部屋に。
「おう、あれはまたずいぶんと佳い女じゃないか!あんな美人が女官の中にいたとはなあ。
見落としていたとはまた不覚。彼女が歩くのは…おや後宮じゃないか。ふーむ、気になるなあ」
男の歎声に、女神官の足がぴたりと止まる。
「しらふのままでおなごの幻を見るとは、とうとうおぬしもやきが回ったか」
「いやいや、とっくにおれは酔うてござる。銀月のごとく美しい絶世のその美貌、見るだけで
上等の葡萄酒を一本空けたほどに素晴らしい酔い心地。ほれこのとおり、目が回る」
どさくさに紛れて戯れかかる男を冷たく肘鉄で追い払い、歩き出しながら肩越しに振り向いた。
「おや。そんなに酒が弱いのでは、わたしの酒に付き合わせるわけにはいかぬな」
「そういう言いかたはつれなかろう、それに美しい女性が一人酒なんて危なすぎる行為に思うが」
慌てて後を追って来る様子を見て、女神官は男に見えぬところで小さく安堵の息をついた。
まだ幾人か残っている宴席の場に腰を下ろし、数刻のうちに男を甘い恋の海にではなく
酒の海に沈め終えると、女神官は優雅な足取りのまま広間を出て行ったのだった。
ギーヴの歯の浮くセリフktkr
ネット上でこんないい外伝が読めるなんて幸せ。
王宮の灯りがひとつずつ、消されていく。やがて上から下まですっかり静かになる。
彼女に会いに行く決心をつけるのに、しばらく時間がかかった。
宴席はもう一刻も前に終わったというのに、彼は寝台に腰掛け考え込んでいたのだ。
時は少し遡る。
楽の音がながれるなか、賑やかな声が広間に響き渡る。ペシャワール城塞からの一団だ。
甲冑姿ではないが一目で軍人と分かる男たちに、官吏たち。
「わが国は、非凡ではないがああいった質朴な彼らによって支えられておる」
美髯を撫でて、大将軍は葡萄酒の杯を口に運んだ。
「末席に料理は足りているか?持っていっておやり」
そう召使に命じた彼の耳に、王宮側の廷臣たちのささやき声が聞こえてきた。
「美女ぞろいの舞姫たちを見て指も動かさぬとは、まこと陛下は真面目よの」
「単に好みの女性が居なかっただけと違うか?」
「何を言う。ギラン一だと総督代理お墨付きの娘たちを呼び寄せたのだぞ」
「もしかして、陛下は男女のことについて暗いのではないだろうか」
「まさか、それはないだろう。男女が共寝するのは子を為すためだけじゃないことぐらい、」
「うわさ話もそこまでにしておけよ」
重々しい声と気配を背後に感じた廷臣たちはびくりと身を竦ませ、すぐに口を閉じた。
「そんなに彼らを怯えさせるな。そのことなら心配要らないよ」
当の本人に聞かれていたかと恐縮しきりの廷臣たちは、国王が黒衣の騎士に話しかける隙に
ほうほうの体で宴から退席してしまっていた。逃げられた男は腹立ち紛れに麦酒をあおった。
一口飲んで気が落ち着くと「どういうことだ?」男がその意味することに気付いたとき、
国王は自ら兵士たちを労うため葡萄酒の瓶を手に持って向こうに行ってしまっていた。
男は尋ね返すこともできず、麦酒の杯を十何杯も干して気を紛らわすしかなくなった。
まあそういうわけで、彼は男女の営みについてまったくの無知ではなかったのだ。
王太子時代、ギランに王太子府を開いた時に出会った豪放磊落な海の男の法螺話に混じって
聞かされた、男女の睦み事にまつわる数々の笑い話。
長い長い船旅の間、男がどのように気を静めるのかについても手振りまじりで話すものだから
いたって謹直な性格の少年はその時は頬を赤らめるだけだったが、それも歳を経るにつけ
すでに彼に馴染んだ習慣になっていた。
微行のときも、男女が街中ですれ違いに交わすまなざしの奥にある欲望にも気づくように
なっていた。彼自身がそのような目を向けられたこともあるし、女性の夏物の薄い布地が
風にひるがえるのを目の端で追うことも、たまにあったりする。
それを見てみぬふりをしてやるのが思いやり、とは彼の微行に付き従う異国の武将の言である。
彼はまだ扉を開けられないでいる。今度は寝台に寝そべって考えていた。
街の暗がりで遊女に腕を引かれかけ、慌てて手を払いのけたのはいつのことだったか。
腕と心の底に走ったなまなましい感触が甦って彼は頭を振った。彼女は、あれとは違う。
色気も無い女官服で、髪も垂らさず後ろに一つに纏めていて、でも、いつもいい香りがしていた。
「当たり前か」
それが仕事だと彼女は言ってたじゃないか。一笑して彼は寝台から跳ね起きると、扉に手をかけた。
彼女の部屋に向かって階段を降りるにつれ、濃厚な香りが鼻腔に満ちてきた。
彼は知らないが、これは原産国では新婚の寝台に撒かれるというあの花の香りであった。
つまり“そういう効果”がある。頭の中がしだいに酔った様な熱で満たされていく。
不思議な高揚感に包まれたまま彼は最後の段を踏むと、カーテンをそっと引き開けた。
「今晩はいらっしゃると思っておりました。さあ、こちらへおこしになって」
一瞬、誰かと思った。目の前の美女は艶やかな栗色の髪を胸下まで豊かに波打たせており、
白く光る薄物に包まれた肢体は成熟しながら可憐であり、豊かでなお頼りなげなかった。
「どうかしましたか?」
その声と、耳に光る翡翠で、地味な官女と彼女が同じ人だという事がようやく飲み込めた。
色白の肌も翡翠色の瞳も、王都にあっては珍しいものではない。それに美しい女は幾らでも
彼は目にしてきたし、もっときれいな顔かたちをした女にだって出会ったことがある。
だが、いま目の前に居る彼女は美しいだけの女ではなかった。顔が整っただけの平凡な女には
決して持ち得ない、きらめき立つような輝きを彼女は放っていた。
喩えるなら、それは他の石に激しく擦られることで光り始めるような宝玉のような輝き。
「寝る前でしたのでこのような格好で、申し訳ありません」
「あ、いや。いいんだ。遅い時間に押しかけたこっちのほうが悪いのだし」
彼女はいつかのように冷えた薔薇水をグラスに満たすと彼に手渡した。
口をつけると、ほどよく冷えた爽やかな酸味が喉をくだり、後れて食道を熱く焼いていった。
「あとは寝るだけですから蜂蜜酒を入れましたが、お気に召しませんでしたか?」
「大丈夫、とてもおいしいよ。けど、二杯は飲めないな」
二人は寝台に腰掛けているのだが、彼女が片足を引き上げたので彼の顔は赤くなる。
夜着の裾が大きく割れ、白い肌がきわどくのぞいてしまっている。
そのまま彼のほうへ膝を立てたまま向かい合ったので、どうにも気まずく彼は再びグラスを
かたむけ蜂蜜酒入りの薔薇水を一口すすった。
それも干してしまうと、彼は何のために彼女のもとへ降りてきたのか思い出せなくなってきた。
彼女はその様子を見ながら、簡素な寝台に散らした花を一つ取ると唇に押し当てた。
女性が手を広げて迎え入れるように、細い花弁が四方に開いている。花は掌ほどの大きさ。
「ええっと、これは、何の花なのかな」
だが彼女は黙って微笑むのみ。逆に彼に質問をぶつけてきた。
「花はどうして咲くのか、陛下は存じてらっしゃいますか?」
おぼろな眉が目の鋭さを和らげているが、切れ上がった大きい目には真摯な光があふれており、
彼は僅かにたじろいだ。
「それは、季節がきたら咲くのだろう。いずれ実を結ぶために」
「さようでございます」
そういって、彼女は手で花をバラバラにほぐした。そして紐状のものを摘まみあげる。
「これが雄芯でこれが雌芯。雄芯の花粉を受け、雌芯は実を結びます。知っておいでですね」
彼は頭に酔いが回ったまま素直にうなずいていた。
「人の男女も同じです。共寝をすると子が授かるのは、男性の種が女性に入るからです」
「そのことも、知っている。子が親に似るのはそれゆえだ」
「なら、話は早うございます。陛下、あなたはおんなというものを知らねばなりません」
次の瞬間、寝台に押し倒され柔らかいものに圧し掛かられて、彼は驚きの声をあげた。
「だって、その、もうあなたは寝るのだろう?!」
「ええ、これから寝るのですわ」
ことさら寝るという単語を強めて彼女が歌うように彼のせりふを繰り返す。
彼は白い夜着にゆるやかな絹のガウンをはおっただけという寛いだ姿だったから、
彼女が手を数回動かすだけで、あっというまに上半身は裸に剥かれてしまっていた。
彼女の白い顔が、月のように暗がりに浮かんでいる。彼の目の前で赤い唇が動いた。
「わたくしとこうすることがお嫌なら、そうおっしゃってください」
部屋に籠もった花の匂いに頭がくらくらする。腰から下の感覚も無いようで立ち上がれない。
そむけた顔が首まで紅潮していることを、おぼろげな燭台のあかりに彼女は見て取っていた。
「いまなら、まだ退きかえせますよ」
さらに一押しすると、彼の首がかすかに横に振られた。
彼女はさらに彼を抱きしめると、彼の口元へゆっくりと唇を寄せていった。
うわああああ…
何かもう。
続きwktkで待ってます。
何故かSS保管庫が見れないんだが( ;´・ω・`)
本当だ。
どうしたんだろう。
きっと一時的なもんだよ…
>495
ご心配させたようですみません。
保管庫だけでなく、昨晩からyellow.ribbon.to内のサイト全体に繋がらない状態です。
どうも鯖自体が落ちているようので、ご迷惑をおかけしますが
暫らくはこのまま様子見をお願いします
では失礼ノシ
ご苦労様です。
直ってますね、良かった。
顔を近づけても彼は逃げなかった。目を見開いたまま、口をわずかに震わせている。
「……陛下?」
呼びかけ、しばらく沈黙があり、彼女は溜息をついた。
「ここにいらっしゃる前にどれだけお酒を召されたんです?」
「最初に麦酒、次に部下たち全員から葡萄酒の返杯を受けて、それが二度、いや三度か」
指折り数えだすのを見て、彼女は慌てて彼の手を引いて起こした。
「全部吐いておしまいなさい!でないと人を呼ぶことになりますよ」
窓辺に連れていき前かがみに座らせると、彼女は自分の指を彼の喉に差し込んだ。
そのとたん、酒精のかたまりが喉を突きあげ彼は吐いた。ひとしきり吐くと彼女は水を
大量に飲ませ、さらに吐かせる。地味な女官服に彼女が着替えて戻ってくる頃には、
彼は人心地がついたような顔に戻っていた。
呆れ顔で彼女は教え諭す。
「部下の返杯を全部律儀に受けたのですって?!なんて無茶なことなさるんですかっ!
お酒も過ぎれば毒になるんですよ!まあ、わたくしも飲ませてしまったのですが」
「…すまない」
「謝らなくていいですから。立てますか?」
冷水で絞った手拭を顔に押し当て、窓にもたれたまま彼はゆっくりうなずいた。
「今日は、もう部屋に帰るよ」
「それがいいですわ。でもお一人じゃ無理です。部屋までお送りします」
「ありがとう」
足がふらつく。倒れる前に彼女が腕を支えた。
「こういう状況で、男の人が何もせず部屋に帰るだなんて初めてです」
すでに髪を一つに纏めた彼女は白い歯を見せおかしそうに笑った。
「あなたは、いったい何者なんだ?」
「…なにって、わたくしはここの王宮づとめの、ただの女官です」
彼女はなんのことかわからない、という表情をして、穏やかに彼の質問に答えた。
階段の途中で幾度も休憩して立ち止まりながら、彼はようやく自分の部屋にたどりつき
寝台に倒れこんだ。夏用の麻のシーツが冷たく頬に触れ、すぐにも眠りたかったが
彼女が強くいうので仕方無しに寝台の上に起き上がる。
「さっきとずいぶん態度が違うじゃないか」
「これが仕事ですからね。さあこの薬を飲んでください。明日の朝、水牛の群の地響きで
起こされても構わないのなら、どうぞそのまま寝ていてくださいませ」
うらめしげに彼女の渡すグラスを受け取って、彼は黄色い粉薬をいっきに喉に流し込んだ。
「ここに水差し、置いていきますから」
自分の正体を明かすなら今だろうかと思ったが、彼女は何も言わず寝台から離れた。
隠し扉をくぐろうとして声をかけられ、彼女は振り向いた。
「ありがとう」
いえ、と短く首を振り、彼女は出ていった。
(うーん、これが宿酔というものか……)
のん気な感慨に彼がひたって寝ている間にも、宰相が張り上げる声が室内に響いている。
宰相は堂々たる体格の持ち主だが、相対するのはさらに体の厚みも背も上回る大男である。
ひるまず、宰相は目の前の男に向かって指を突きつけた。
穏健で中正で思慮分別に富むと知られた人なのだが、今朝ばかりは例外のようである。
「国王の仕事に差し支えが出るほどお飲ませするとは、それで国境を預かる万騎長かあっ!」
「と、いわれましても。俺があのぐらいには酒樽呑んで平気だったんだがなあ」
「樽一本も呑んだら普通はあの世いきだ!ほらを吹くのもいい加減にせんかっ!」
怒鳴られた隻眼の男はあさっての方角を見ながら、ぽりぽりと頬をかいたものだった。
「そう大声を出されるな、宰相どの。陛下が頭を抱えていらっしゃる」
淡々とした口調で、副宰相が宰相の怒りの矛を収めさせた。
「そうは言うが、まあ、うむ。王宮側も今日は仕事にならん奴が多勢いることだしな。
陛下には今日一日、お休みいただくことにしよう」
「それがよろしいかと」
頭を振った宰相が現ペシャワール城守を追いたてながら出ていくと、広い寝室には国王と、
副宰相いや宮廷画家のみが残された。
「いろいろ、皆に迷惑をかけてしまったなあ」
「宴席の翌日ですし、これも予測のうち。宿酔も一つの経験ですよ、陛下」
「…からかっているのだな」
「さよう。これからは葡萄酒は果汁で割って召し上がったほうがよろしいでしょうな」
宮廷画家は微笑んで、自分の主君を見つめた。知的な顔立ちの中、全てを見透かすような両目が
するどい光を放っている。
「それにしても、あまりひどい具合でない様子で安心いたしました。薬湯でも飲まれましたか」
「まあ、寝る前に勧められて」
あいまいな感じで彼は肯く。
宮廷画家の目がおもしろがるようにきらめいたのを見て、彼は薄い毛布を顔まで引き上げた。
「今日は誰も寝所に近寄らせませんから、用がありましたら鈴を振って召使をお呼びください」
「わかった」
彼女のことを相談しようと思いつつ、とうとう彼はしなかった。
相手が臣下だからというのではない、むしろ王太子時代から彼にとって信頼できる師である。
だからこそ、なのかもしれないが――。
彼女がくれた薬のお陰でひどい吐き気はないが、それでも起き上がろうとすると頭が痛む。
枕もとの小さい卓から水差しを取り上げ冷水を飲み干すと、彼は再び寝台に体を横たえた。
午前中は寝て過ごしたが、軽い昼食を済ませたころには体調はすっかり元通りになった。
湯殿に行き、熱い湯を浴びて酒精の残滓を洗い流すと、後はすっかり暇を持て余した。
日頃から真面目に政務に打ち込む性格ゆえ、こういう時間は何をしていいのか困るのである。
誰か伴って微行にいこうかとも思ったが、彼は今日一日部屋で休んでいることになっている。
しかし一人で出かけるというのは、さすがに自重せねばならないという思いがあって
実行に移せない。
しかたない、誰かに本でも持ってきてもらおうと卓上の鈴に手を伸ばしかけたところで、
隠し扉が音もなく開き、彼女が姿をあらわした。
「そろそろ退屈なさるころだろうと思いまして。陛下、街中に出かけてみませんか?」
「それは楽しそうな話だが。だけどあなたは剣が使えぬだろう?」
彼女は顔をほころばせた。
「実は、秘密の相談がまとまっておりまして。護衛付ですが、目立たぬようにするとのこと」
「そんな話の分かる人なんて王宮にいたかなあ?」
「陛下の翼を持つ友人の、ご主人でいらっしゃる方です」
彼は微行を黙認してくれている大将軍のことを思い起こしていた。
「なら、さっそく出かけるとしようか」
「ええ!」
秘密の通路を降りて、彼女の部屋から使用人の通用門を抜けて王宮を出る。
広い通りは大勢の人で溢れかえり、露天の客引きの口上が彼の耳を楽しませた。
「夏至前からこうも暑くては、今年の夏は思いやられますわね」
そういって、彼女は彼にハンカチを手渡した。
「どこかの茶店に入って涼みましょう」
「わたしはそういったところにあまり詳しくないのだが」
彼女は伸び上がってあたりを見回し、細葦で編まれた庇をかけた茶店があるのを見つけると
さあ、と戸惑う彼の手を引いて歩き出した。
大通りを歩く男女たちが二人を見ておや、という顔ですれ違っていく。仲のいい姉弟、と
思われているのだろう。彼女は店の主人にふたり、と告げて風の通る座席に腰を下ろした。
「やっぱり、街はいいなあ」
運ばれてきた冷たく甘い茶を啜りながら、しみじみそんなことを言う彼に彼女は笑い出した。
「王宮に住まうべき本人がそんなことを言うだなんて、変なことですわね」
「なにしろ王宮に居ると宰相が暑苦しくて敵わない。涼しい街の風に当たりたくもなる」
下手な冗談をいう彼に、彼女は真面目な顔で返した。
「宰相様は、心配してらっしゃるだけですわ」
「結婚なんてまだまだ遠い話としか思えないのだが」
「そうじゃないんです。陛下が、おんなを知らないことについて心配してらっしゃるのです」
そう前置きをして、彼女は卓の上で軽く手を組み彼に向かって語り始めた。
「この国の、とある諸侯の話です。その男は非常に真面目で周りにも人望の厚い由緒ある貴族で、
妻も居てすでに子もおりました。あるとき、誘われて男は妓館に足を向けました。
そこにいたのは薔薇が人の身に変じたかのような麗しい妓女。たちまち男は夢中になりました。
絹の国の高価な宝玉を連ねた首飾りを贈り、さらには女を愛妾ではなく正妻に迎えたいと
言い出して、周りのものはすっかり慌ててしまいました。けれど押しとどめられれば
一層燃え上がるのが恋の炎というもの。最後には当主の座を捨てて女の故郷へ行くとまで
言い出しました。真面目な男ほど恋に血迷ったら大事になるという、実際にあった話です。
王宮に長く勤める女官たちなら誰もが知ってる、古い話です」
彼は反応に迷って視線を白木の卓に落とした。木肌には丸く、水滴の跡がついている。
「その男の希望は叶わなかったんだろう?」
「ご想像通りです。さらに、せめて愛妾にという男の希望も通りませんでした。といいますのも、
彼女は自分で自分の身を売った奴隷でしたし、それにその時は、男に息子がいませんでしたから」
「じゃあ、その二人は別れたのか」
「男の嘆きようといったらなかったそうですよ。女の方は、貢がれた首飾りを売って金に換えると
さっさと自分の故郷に引っ込んだとか、他の男と逃げたとか」
容赦の無い彼女の言いように彼は首をすくめた。
「おんなを読みはかるのは、かように難しいのでございます。まして、惚れた相手とあっては」
彼女は薄く笑うと、椅子を引いて立ち上がった。
「正式に妃を迎えるのはまだ先でいいと宰相様はお考えですが、ご結婚適齢期となったときに
おんなを見誤っては、ひいてはパルス国を傾けることになってしまう。考えすぎじゃないかと
女官達はそう噂し合っておりますが、ご参考までに」
茶店を出た彼女は迷いもせず、さっさと先を歩いていく。彼が追ってくるのを疑わない足取り。
人ごみを抜けると、あたりは閑静な建物が立ち並ぶ静かな区画に変わっていた。
そこで彼女はようやく立ち止まると、手にしていた手かごから包みを取り出し館に入っていった。
看板には流麗なパルス文字で「ハザール・アフサーナ」とあるが、何の店とは彼には分からない。
あ、あれ?筆が滑りに滑ってえらい延々と書く羽目になっているんだが……
ごごご、ごめん。銀英ネタある人も他の職人さんも遠慮なくぶった切って
投下して構いませんので、長い話になってること平にご容赦ください。
二人を出迎えたのは初老の男だった。彼女を見る主の眼差しが、とても温かいことに彼は気付いた。
「はい、今回出来上がりました香油ですわ」
「どうも、頂こう。この香りのお陰で館の評判が保たれているようなものだから、いやありがたい」
「まあ。お世辞をおっしゃって」
「とんでもない!こんな一級品、ギランの港にも入ってきませんよ。どうだろう、ここを贔屓にしている
商人にぜひ、この香油を紹介したいのだが」
「だめです。品質を落とせばたくさん量は作れますが、そんなこと亡くなった母が許しませんわ」
「そうか、そうだな。…それにしても、ますますあなたは母君に似てきていらっしゃる」
さりげなく二人の間に割って入ると、彼は彼女とどういう知り合いなのか主に尋ねた。
「ふむ、そうだな。あれを見てもらうとするか。それが一番手っ取り早い」
通された部屋で二人が待っていると、主は手に抱えるほどの大きさの額縁を持って入ってきた。
「ほら、これが彼女の母君だ。彼女そっくりだろう」
「当たり前です。親子なんですから」
「それでもこれだけそっくりに育つとはな。あの男も目を丸くして驚いておったわ」
絵の中の彼女、いや母親はなるほど彼女そっくりだった。首には緑色に輝く首飾りが巻かれ、
その姿は薄物を肩から羽織っただけという、色気が絵から滲み出すような艶やかさだった。
「さきほどの話の、男がほれ込んだ女というのはあなたの母君だったのか…!」
頬を染め、恥ずかしそうに彼女は肯いた。そしてここが妓館だということも彼は察していた。
熱心に目の前の絵と彼女を見比べる彼に主はごく軽い酒を勧め、この絵の女性について話し始めた。
「もう20年以上は前になりますかな。この絵の女性、つまり彼女の母君は夫君と死に別れたあとも
薔薇農園で働いていたんだが、そこの領主が好色でな。いくらいってもなびかぬと知った領主は
卑怯な手段で彼女を手に入れようとした。
話は少しそれるが、薔薇から取れる香油はとても貴重でしてな、小さじいっぱいの量を得るのに
なんと約三千個もの花を摘まねばならぬのだ。それだけのもの、壷一つがどれだけ高価なものか
お分かりいただけますな?話をもどしましょう。
それはいったん領主の敷地内に集められるのだが、それを母君が割るように領主が仕向けたのだ。
誰もが事故だと同情したが、領主は許さなかった」
彼の椀にさりげなく酒を注ぎ足しながら主は話を続けた。
「領主は母君に払えないほどの賠償金を吹っ掛けた。さもなければ自分のものになれ、とな。
ところがびっくり、母君は賠償金の方を選んだ。そして、彼女の身を買い上げたのがこのわたしだ。
母君の美貌はもちろん、その心意気を買ったのだよ。そして、訪れた客の中にあの男がいた。
あとはもう、あなたが聞いて存じてらっしゃる通り」
自分の椀に酒を注ぐと、主は笑って飲み干した。
「そしてこの彼女も偉かった。王都がルシタニアめに陥落させられたときも、」
「やめてください!」
身を固くして叫んだ彼女を見て、主は急いで話を打ち切った。慌しく器を片付け席を立つ。
「わたしが不用意だった。辛いことを思い出させてしまって本当に、すまない」
「いいんです。同じような目に私たちが二度と遭わぬよう、国王は努力してらっしゃるのですから」
主は、詫びる目をして二人を部屋に残して出ていった。
目をつぶれば、いまでも彼女が同輩を助けるため身を投げ出した、薄暗い部屋の内部が思い出せる。
鉄格子の入った汚れて煤けたガラスの窓、一度も掃除されることもなく汚れたままの絨毯。
カビた臭いのする寝台で、動物質の体臭をした重い体に押しつぶされた凄まじいばかりの闇の記憶。
彼女が自死しても、次の犠牲者がこの部屋につながれるだけだった。
王都の城門が国王の軍に開かれるまでの十ヶ月は、長かったのか、短かったのか。
「あなたは……」
彼は黙って彼女の髪を撫でていた。
どんな過酷な目に彼女が遭わされたのか、彼は具体的に聞きたいとも思わなかった。
それより分かったことがあった。二人が一番近づいたあの夜、彼女があんなにも美しく見えたのは
顔かたちが優れている、それだけではなかった。痛みに裏打ちされた強さと優しさ、それこそが
彼女を内側から輝かせ美しく光らせていたのだったのだ。
「あなたを、もっと知りたくなった。こんなときにこんなことを言うなんて、怒られるだろうけど」
鼻をすすりながら、彼女はかぶりを振った。その拍子に髪がほどけ、彼女の背中をなめらかに滑り落ちる。
「教えてほしいんだ、あなたのこと。なんでもいいから」
客もほとんど訪れない昼間の妓館は、しんと静まり返っている。
肩に優しくかけられた手に彼女は自分の手を重ね、大きな濡れた瞳で彼の瞳をじっと見つめた。
「全部、陛下に教えてさし上げます。わたくしのすべてを」
彼は静かに頷いて、彼女に回した腕に力をこめると寝台の方に体を傾けた。
長さなぞお気になさらず。
wktkwktk
毎回、見せがあるので長さは感じませんよ。wktkしてます
しかしヴァレダの神が気にしてはあれなんで、ほかの神々もよければどんどこ投下なさって下さい
以前銀英で何個か投下した事あるし今もちょっと考えてるのがあるが、書き上げる暇がなくてね…。
まあ仕上がったら投下しますよ。私も長文の人ですが。
いつの間にかお涼新刊出てたんだな。
ラノベ板見たら少ない上にいい感想がいっこもないw
キャラ自体は魅力的なんだが(傍若無人なウブなネンネとかいい年した鉄のパンツとか)
作者もうダメなんかなー。ここの2次職人さんのがよっぽど凄えよ。
しなやかな若木のような彼の体に彼女は顔を寄せる。汗と青い果実が混ざり合った、熱い匂い。
そのままの体勢で二人は寝台に横たわっていたが、ふいに、彼の手が彼女のあごを軽くつかんだ。
「…いいかい?」
「ここまできて、女にそんなこと訊かないでください」
拗ねたような顔がかわいらしくて、彼は彼女の染まった頬の上にそっと唇を落とした。
そして、彼女の唇に。
二人が触れ合っているのは唇だけなのに、全身の輪郭が溶け合うような感覚。
あっという間に彼はその感触に溺れた。彼女も同じように感じているらしく、彼の肩にかけた手が
ゆるく震えている。
二人の顔が離れたのは息継ぎをするためで、乱れた呼吸を整えるとまたあの感覚に深く沈んでいった。
その息継ぎごとに二人は服を脱ぎ、舌が触れ合う頃には裸の肌を重ね合わせていた。
むき出しの肌に、さらりと冷えたシーツが快い。
二人の裸体はまさに似合いの一対だった。彼の全身には筋肉が無駄なくつき、腹はナイフで削いだように
平らだったし、彼女はもう息を呑むほど魅力的な身体だった。濡れてきらきらした眼と、豊かな丸い乳房、
乳白色に輝く裸身の均整のとれた曲線に彼は見惚れきった。
彼女は寝台に仰向けに横たわり長い足を伸ばしていた。両足の間に淡淡とした陰が見えている。
「ここに、さわって……」
彼女は彼の手首を引いて、自分の乳房をさわらせた。あまりの柔らかさに彼の指がかすかに震え、
加減も分からず強く掴んでしまっていた。
彼女は一瞬顔をしかめ、だめです、と軽く彼の手首を掴んだ。
「もっと優しく、手に掬い上げるように下からそっと……そう」
言われたとおりに、手を動かした。彼女は満足そうに微笑んで上手ですよ、と言った。
「その先も……そう、そこも優しく……引っ張らないように摘まんだり、とか……んっ。ああ……」
彼の剣はまっすぐに屹立、いや、もっと下腹に張り付きそうなほど鋭い角度で勃っていた。
「今度は、ここを……」
彼女は膝を立て、左右に大きく開いた。彼の目の前に谷間が、女の玉門がある。生える陰りは薄い。
「よく見て覚えてください……割れ目の上の方、ふくらみがあるでしょう?そこがいちばん、女の
感じるところで……その下が、男を受け入れるところ……大丈夫ですから、さわってみて……」
彼女の声に導かれるように、彼の息づかいが荒くなっていく。
「…これはどうして?」
「気持ちよくなると、こうして濡れてくるのです。そのまま、ゆっくりなぞるように……んんっ!」
ひっかかりもざらつきも感じない、なめらかで、やわらかで、ふくよかで、包み込んでくるような
温かさだった。その中心に彼の指が滑っていく。自ら探っていったというより、潤みのほうから
指を導かれていったような、そんな感じだった。
ひときわ濃密になった女のにおいが鼻にのぼってくる。甘酸っぱさが混じった、生きた女の匂い。
玉門からは泉がいくらでも沸きあがってくる。いままで話からでしか想像できなかった女のそこは
ぽっかり開いた穴ではなく、指で触れれば溶けそうな柔肉が花びらのように重なりあう形をしていた。
顔を埋めた。考えてそうしたのではなく、蝶が本能として蜜を吸うように、自然と泉に口をつけていた。
たまらなくなって、彼女はあられもない声をあげはじめた。慌てて腰をひねって逃げようとしたが、
足が抱え込まれていて身動きが取れない。彼の顔を身体の中心から外そうとして、しかし、彼の舌は
いっこうに止まず、彼女は身体をぶるぶると震わせはじめた。
「これから、どうすればいい?」
「……お願いですから、もう、これ以上……」
「止めたらいいのか?」
唇の動きが止まった。彼はあごを拭い、股の間から彼女の顔を見上げてくる。
彼女は身を起こし、半ば本気で彼を睨みつけた。
「陛下がそんなにお人が悪いとは、ついぞ知りませんでした」
「そうか?周りの者たちに比べればずいぶん大人しいと自分では思っているのだが」
澄まし顔でとぼける彼が小憎らしい。彼女は思い切り体重をかけて彼の上に馬乗りになった。
「まだ合格点を上げるわけにはまいりません。教えることはまだたくさん残ってますから」
不敵に笑った彼女の唇が、そのまま彼の耳の下の敏感な皮膚をすべり落ちていく。
そしてするりと彼の下腹に手を滑らせ、直接、彼の剣をつかんだ。
「なかなかこの先生は厳しいな……あっ」
愉悦の火花がめくるめくように全身に飛び散った。食いしばった歯の間からうめき声が漏れる。
彼女はその唇を吸って、かるく噛む。奥深く侵入させた舌が彼のそれを絡めとって淫靡に蠢く。
指の中の彼の先端はすでに濡れそぼっていた。相手の未熟な反応の一つ一つが新鮮で、
それが彼女の奥に燃え立つ炎をさらに高まらせる。肌が汗ばんで吸い付くような感触を帯びてきた。
頃良しとみて、そっと身体をずらせた。若木のような身体をまたぎ、熱い一点を触れ合わせると
ゆっくりと彼女は腰を下ろしていった。
意識が一点に絞られていく。閉じた瞼の裏が違う色になり、最後の自制心が噴き飛んだ。
彼のほうは、苦しいのか気持ちいいのかさっぱり分からず、ひたすらに彼女の腰に両手を回し
集中しているうちに限界がいきなりきた。甘い余韻とはほど遠く、野を全力で走った後みたいに
胸が上下に忙しく動いている。濡れたシーツに並んで身体を伸ばし、二人でくすくす笑った。
「どうでしたか?」
彼は困ったように首をかしげ、彼女を抱き寄せると汗ばみもつれた髪の中に自分の鼻先を埋めた。
「どうって……わたしはこれが初めてだし」
胸の中で小さく笑う声がして、そっと耳を引き寄せられて囁かれた。
「ではもう一度」
「もう一度、何?」
「今度はもっとゆっくり時間をかけていたしましょう。授業の成果、みてあげます」
二人が妓館を出たのは、もう街中がすっかり朱に染まりきったころだった。
雑踏の空気を吸い込みながら、二人で歩いていく。西の空は雲ひとつなく見事な夕焼け空で、
明日も暑くなるのだろう。昨日の今日で、こうなったことが彼にはなんだか信じられなかった。
手をつないで、あちこち寄り道しながら王宮へ向かう。少しの間人ごみにはぐれてしまって
かなり焦った一瞬もあったが、二人は無事に通用門をすり抜けて彼女の部屋まで戻ってきた。
「冷たい水を一杯差し上げたいところですが、もう召使が夕食に呼びにくる時分ですわ。
早く、部屋にお戻りください」
階段の入り口まで送ったとき、彼は「これを貰ってくれないか」と紙包みを彼女に手渡した。
「なんでしょう?」
「あとで、開けてみてくれ」
包みの中に入っていたのは女物の皮のサンダルだった。小粒の真珠が飾りに縫い付けられている。
「さっきはぐれたと思ったら、こんなものを買ってらしたのね」
彼女は彼の無自覚の誑しぶりに内心舌を巻き、胸に包みを抱えたまましばらく一人で笑っていた。
改行の限界に挑戦…じゃなくってw
…書いてて恥ずかしくて本当に死にそうだった。
書く体力戻るまでちょっと待ってて。
転げ回りそうです。
勿論お待ち申し上げますとも。
銀河英雄伝説では、キルヒアイスがお気に入りキャラですが…
キルヒアイスが童貞のまま死んでしまっている疑惑が拭えません。
新無憂宮の貴族令嬢から小間使いの少女まで人気あったらしいし、ヴェストパーレ男爵夫人に目を付けられていたし、その気になればやりたい放題だった?
まあ、
そんなキルヒアイスは好きじゃないですが
ヴァレダの神が書くものの内容は勿論GJなれど、
自分の書いたものに恥ずかしさを感じ頬を赤らめている(多分)、まるで乙女のようなヴァレダの神自身にも萌えた。
>>515 私もキルヒアイスはドテーイだったんじゃないかと思うが可能性があったとしても男爵夫人に食われたり酔った勢いで誰ともわからん女とやったとかそういうのでないと無理だと思う
彼の性格からして後者の場合は責任を感じてしまいそうだしそもそも姉上以外に体が反応するかもまた疑問
そんな疑問を払拭するSSをいっちょやってみては?
>516
同じく神に萌えた
続きwktkで待ってますが、体力が戻るまでゆっくりして下さい
お涼さまの新刊を読みました。
ベッドに泉田さんを縛り上げたあげく
「何で分からないのよ!」
などとお涼さまが上に乗って泣く(勿論泉田さん半分剥いてある)白昼夢を見ました。
……お涼様。ユルシテクダサイ、ゴメンナサイー(脱兎)
ワロタw
それにしても新刊、何だかんだで結局結構楽しめてしまったので、
何となく本スレには書き込み難い…w
>520
ノシ
2chでのお涼の感想はどの作品でもあんなもんかとw
釣り要素(都知事批判とかメリケン叩きとか)にタダでさえ食いつかれるのに加え
他の放置シリーズを差し置いてアレだけがハイペースで新刊が出てるからか
(本編のみなら平均一年半/冊,漫画とかの関連本入れたら9ヶ月/冊)
「こんなん書いてる間があったらアルスラーンのつづk(ry」みたいな感じで
内容と関係ない部分で余計に叩かれてるって面もあるような。
お涼様写真集のSSは「うはww今どき同人でもやらねーよw」ってなベタなパラレルだったけど
イラストと相まって不覚にも萌えた。つか寸止めヒドスw
522 :
ヴァレダの下で:2006/08/28(月) 14:09:34 ID:flk6QXzP
既に陽は沈んだ。赤く焼けた空に、急速に「黒い巨大な翼」(シャブカーミル)がおりてくる。
月光にきらめく中庭の池を見下ろしながら、男は隣に立つ人影に話しかけた。
「今日は陛下の警護、ご苦労だった」
「いえ。外で待つ時間が少しばかり長うございましたが、それ以外は、別に」
「……私は酷なことを強いているのだろうか。特に、あの子にとって」
「気に病まれるな、――どの。ことの後も、彼女は心からの笑みを顔に浮かべてらした。
あの頃と比べたら…というのもなんじゃが、ずいぶん明るい顔つきに戻られておる」
男は顔を背け、かすれ声でこぼした。
「もし、あの頃奴隷解放令があったなら、あの子の人生もきっと……いや、これは詮無いことを。
古傷をすねに持つ身というのはこれだからな。愚痴っぽくなって困る」
「そういう弱気なことをおっしゃるとは、引退のことを考えておられるのか?」
言い当てられて、男は困った顔になった。
「まだまだ、陛下は貴殿をそうさせるお積もりはないように思うぞ。それにあちらも宮廷の権勢には
興味を持たない御仁じゃからな。陛下が正妃を迎えたら直ぐにでも隠居したいと公言しておる」
はっきりした物の言い様に男は苦笑するしかない。
「しかし、気になることがある。尋ねてよろしいか?」
「うむ」
「貴殿が彼女と別れねばならなかった理由、その揉め事が起こる可能性についてじゃ」
「それなら心配は無い。彼女からも既に聞いた。だからこそ、あの子を陛下のお側に上がらせたのだ」
「どういうことじゃ?」
男は硝子の花瓶に活けられた薔薇を一本抜き出し、相手に手渡した。
「あの子は、これと同じなのだ」
「……そうでございましたか」
重い事実を了解し、人影は一礼したのち男の部屋から退出していった。
523 :
ヴァレダの下で:2006/08/28(月) 14:10:24 ID:flk6QXzP
愛してる。大好きよ。
母さんが世界でいっとう大事なのは、あなた――。
こんな故郷から遠く離れた王都の、それも王宮の一室で、どうして母のことを思い出すのだろう。
(あなたもいつか子供を生んだら分かるわよ。本当に可愛いの。どうして?っていうぐらい)
思い出が溢れ出して今にも泣きそうになり、彼女は慌てて寝台から起き上がると窓辺に立った。
あれから、深夜になって彼は彼女の部屋に降りてきて、再び身体を重ね合わせた。
今はもう夜明け間近。だが空は暗く、王宮の尖塔がうっすらと藍色の空に浮かび上がっている。
彼女は目を閉じ、清涼とした空気を胸いっぱいに吸い込んだ。波立った心がようやく静かになる。
背後から呼びかけられ、彼女はゆっくり振り返り微笑した。
乱れたシーツに若獅子のような身体を悠々と横たえた彼。かすかな曙光の中、晴れ渡った夜空の色の瞳が
淡いきらめきを放っている。
「おいで」
彼女は飛び立つ鳥のように窓辺から離れると、彼の開かれた腕の中にもぐり込み身体を押し付けた。
大きな手が背中を撫で上げ、もう片手が彼女の足を割る。まったく、彼は優秀な生徒だった。
「陛下に教えて差し上げることなんて、もうわたくしにはございませんわ」
彼は喉の奥で笑うと彼女を抱きしめた。遊びに飽くことが無い子供のような熱心さで彼女に挑みかかる。
あえぎ、すすり泣く女の声。下半身をこすりあげる肌の境目がどこまでも曖昧に溶け合っていく。
意識して腰を動かすと、竪琴を弾くかのように彼女の声が変化する。どこまでも柔らかい彼女の襞に
突き込み、押し上げ、絞り込む。上りつめて息が上がり、それでもまだ彼は踏みとどまろうとした。
手放したくなかった。抱きしめていたかった。
「ああっ」
最後に叫んだ声はどちらのものだったか。
全身を引っ張っていた何かが一気に彼女の中に弾け飛び、白い光が網膜を灼く。
暖かい感覚が心を満たし、つないだ部分から相手に流れ込むのを感じながら、彼は眠りに落ちた。
それがいけなかった。
危うく寝過ごしそうになり、飛び起きた彼女は急いで彼に身支度させると階段に送り出した。
昇りかけながら彼は振り向くと、彼女に耳打ちした。
「昨日はすっかりあなたに夢中になってゆっくり話せなかった。この埋め合わせは、また今夜」
「陛下っ!」
彼女は生え際まで真っ赤になった。ぱくぱく口を開けている彼女を彼は笑いながら眺めている。
「は、はやく部屋に戻りませんと、寝台が空なのに気付かれてしまいますわよ」
かろうじて年長者らしい台詞を押し出した彼女の口を、今度は軽く塞ぐ。
笑って、彼は彼女から体を離すと小気味いい足音を立てて階段を駆け上がっていった。
床にへたりこんだ彼女を後に残して。
うーわー。サゲをまた入れ忘れたあああああ。orz
sage損なって悶える、そんなヴァレダの神にも萌え。 (*´Д`)=з
投下直後に読めるとは思わなかった〜。
相変わらずイイ文才をお持ちですね、楽しませて頂きました。
訂正一つ。(
>>501の文中)
「夏至前からこうも暑くては、今年の夏は思いやられますわね」
→「夏至前からも暑いですが、今年の夏は思いやられますわね」
絹子さんって誰? と思ったが一冊見落としていたのに気がついた。
機会があったら買ってみるよ!!
相も変わらずGJ!
陛下オットコマエだなぁ
その日は結局、彼女は自分の作業にかかる気になれず、長いこと寝台の中によどんでいた。
彼とこうなるための根回しやら工作やらで、ずいぶん緊張し続けた反動が一気にきたらしい。
眠っている間、たくさん夢を見た。恐ろしいものに足を引きずりこまれる、ひどく苦しい夢。
寝汗で服が湿り気持ち悪かった。湯殿へ行き服を着替えたが、まだ体内に鉛が詰まっているようで
すぐに眠くなる。欠伸をしながらシーツを換え、また寝台に横になった。
そういえば食事をしてなかったわと彼女が思い始めたとき、上の方から軽い足音が降りてきた。
振り向いてみると、案の定、彼だ。果物を盛った盆を片手に乗せている。
寝台の上にいる彼女を見つけると、軽く手を振ってきた。
「話をしにきた」
「扉に薔薇が挿さってないのを見てらっしゃらないんですか?今日はわたくしは、留守です」
「そんな言い訳、聞いたことが無いぞ」
当然のように彼は寝台に腰掛けると、彼女の目の前に美味しそうな果物を差し出した。
国王からの貢物を嫌とはいえぬ。腹が減っていたのもあり、彼女は遠慮なくつまむと口に運んだ。
「今日もまた難しい訴訟が持ち込まれてきてなあ。これは後日に持ちこしとなったのだが」
「わたくしが言うことなど何もないでしょうに」
「どんなことでもいい、あなたが知っていることを聞かせてくれ。良い考えが閃くかもしれない」
まったく不思議なお方だこと。自分のような身分が低いものにも意見を求めるだなんて。
彼女は林檎茶の用意をしながら頬が緩むのを押さえきれなかった。
「そう…ですわね。『医は仁術なり』という言葉、存じてらっしゃいますか?
以前、わたくしが王立図書館に勤めていましたとき、絹の国の書物で読み知りました。
その意味とは、“医は仁愛の徳を施す術である。病人という謂わば弱者の立場にある人を
救うのが医者の道、単なる金儲けの手段となってはいけない”という、医者の道を
戒めるというものです」
心に響くものがあるのか、彼はじっと彼女の言葉に耳を傾けている。
「それと、薬草を用い治療を施すものとして母から教わったことについても。
一つ、診断に関わる治療者のおごりの危険。
二つ、痛みに関する治療者の無関心。
三つ、「ただの気のせいだ」という言葉で切り捨てることがいかに恐ろしい事態を招くか。
そもそも人に苦痛をもたらす病とはなんであるのか。病気を分類して仕分けることより、
起こった症状を症状として受け止め、逃げ出さぬ心こそが肝心、と母は言っておりました。
これで、陛下のご参考になりますかどうか」
彼の目にゆっくりと満足の意が浮かび上がる。
「さきほどまでは茫洋としていた砂漠をさ迷っている気分だったが、とてもよい指針をもらった。
それにしても、あなたは王立図書館にいたことがあったのか。残念ながら、再建の目処は
いまのところ立っていないのだが……もしかしたら以前、すれ違っていたかもしれないな」
「さあ、どうでしょう」
茶を飲み干したのを区切りに彼は腰をあげた。「また夜に来るよ」と。
紅潮した彼の顔を見ながら彼女は内心恐ろしくなった。彼はあまりに素直に心の奥をさらけ出す。
情を交してまだ二日目だったが、二人が急激な流れに落ちるのには十分な時間だったようだ。
彼女はもちろん彼の約束を受け入れたが、自己嫌悪を振り払うのは難しかった。
これからこの二人がどうなるのか、ドキドキハラハラ(´Д`*;)
続きが気になるものを次々に投下されるヴァレダ神はステキ。
これからこの二人がどうなるのか、ドキドキハラハラ(´Д`*;)
続きが気になるものを次々に投下されるヴァレダ神はステキ。
「盛夏四旬節(フローラムチェッレ)も半ば過ぎたが、夏負けする輩がずいぶん増えておるな」
「そりゃあな。おぬしのような頑丈な男、甲冑を着込んで街中を歩いたとしても倒れるまい」
「当たり前だ、そうでなくては陛下をお守り申し上げられぬ」
「ああ、それはもちろんおぬしに任せる。おれは涼しい別荘に引きこもって画布と戯れるとしよう」
「頼むから夏の太陽など描いてくれるなよ。おぬしの筆に宿った魔力が何を引き起こすとも限らぬ」
「……おい、どういう意味だ?!」
いつもならこのあたりで彼が笑い出すのだが、聞いているのかいないのかわからない無関心ぶりに、
憎まれ口を叩きあっていた二人は軽い違和感を覚えた。
国王の私室から出て、王宮の廊下を歩きながら二人は小声で話し合った。
「陛下も夏負けなさっておいでなのかな」
「おれも断言できるわけじゃないが、あれも一つのご病気だな。ただお相手が誰なのか…」
後半部分のつぶやきは友人の怒声によってかき消された。
「なにっ!王宮付の医者はいったい何をしておるのだ?」
「そう気色ばむな。男ならある時期必ず罹るはしかのようなものだ。心配要らぬよ」
「おれは医学の心得はないから心配するしかできぬ。とにかく、陛下は治るのだな?」
「ああ、たぶん夏が終わる頃には。こじれなければの話だが」
「そういうものか。おぬしが言うのなら間違いないのだろう。それなのにどうして絵のことになると」
再び始まりかけた二人の不毛な舌戦を制したのは、背後でやり取りを聞いていたらしい女神官だった。
「陛下なら大丈夫じゃ。私がみておるゆえな。おっと、病が治らずこじれた男がこちらにやってくる。
気付かれぬうちに私は立ち去るとしよう。さらばじゃ」
愛しの君を呼び止め損ねた男は二方向から熱い視線を浴びせかけられ、踵を返し急いで逃げ出した。
後には頭を抱える男たちが残された。
一人は彼の相手がまさか彼女なのかと当惑し、もう一人は彼の病が何であるのか分からずじまいで。
彼は毎日のように、空いた時間を見ては彼女の部屋を訪れた。
そうしないときもあったが、だいたいは床を共にする。
今も、火照った体のまま二人は冷水を満たしたグラスを手に持っていた。
「いっそのこと、わたしの私室の隣に部屋を移さないか?」
いきなり持ちかけられた話に、彼女はグラスの中身を寝台にこぼしかけた。
「まわりの廷臣たちに、なんと説明なさるおつもりですか?」
「それは」
「わたくしは陛下より五つも年上です。しかも身寄りも無い、有力な後ろ盾も持っておりません。
正妃はもちろん、寵妃だって無理です」
彼は黙り込んだ。
近臣のものの中にはうすうす気付いている者もいるらしい。彼は鷹揚な性格だが鈍感ではないので
それぐらいの空気は読み取れる。
「分かっている。あなたと会って一月も経ってないのに自分でも自分が信じられないくらいだ。
この気持ちはいったいなんなのだろう。これが、愛というものなのだろうか」
「まだ二十日ほどですよ。それに陛下はいずれ正妃を迎えなさる御身。わたくしのことは
今年ひと夏のこととして陛下の心に留め置いていただくだけで、充分幸せです」
「女はそなた一人だけでいい」
ささやく瞳に真剣な光があった。
「なりません。陛下は国民(くにたみ)を統治するお役目はもちろんのこと、由緒ある名家から
王妃を迎え、世子をもうけることが重要な義務にございます。わたくしのことは、どうか」
次の瞬間、風のように腕の中に攫われて、そのひた向きな情熱に彼女は胸が詰まった。
もう駄目だ。このままでは、心が折れてしまう。
「わたくしは、子が産めぬ体なのです」
驚きに彼の瞳孔が大きくなる。その瞳に自分の姿を映しながら彼女は言葉を続けた。
「王都が陥落してからのち、わたくしはルシタニア兵に囚われの身となりました。
女が敵兵に囚われたら、どのような目に合うか陛下も存じてらっしゃるでしょう。
命こそ失う羽目にはなりませんでしたが、その時以来、月のものが止まってしまったのです」
彼の腕がゆるんだ。
彼女は寝台から手を伸ばすと、卓の上に飾られた薔薇を一つ毟って真ん中から二つに引き裂いた。
「ほら、この通り。姿形はきれいですがこれは見るだけの花。実を結ぶことはないのです」
「…しかし、あれからもう二年は経っているのに」
かすれた声が、汗に濡れて冷たくなった肌を滑り落ちていく。
「人の体とは不思議なもので、ひどく心が痛むことがあるとそれに連れて体にも不調をきたすことが
ございます。わたくしもこれを治そうと色々文献を当たり、薬草を調合しましたが、ついに今日まで。
たぶんこれからも、この体のまま生きていくのでしょう」
「だから、正妃にも、寵妃にもなれないというのだな」
「はい」
「だめだ、わたしから離れることなど許さぬ」
こらえていた涙がとうとう彼女の目からほとばしった。
「ありがたい言葉、わたくしのようなものにもったいのうございます」
でも、これは彼の本当の愛情じゃない。彼女は激情の中で冷静に真実を見て取っていた。
けれどこの切ないばかりの執着。これはいったい、なんと呼ぶべき感情なのだろう。
分からないまま、体の奥から沸きおこる熱い奔流のような思いにただ突き動かされ、
彼女は彼の広い胸にしがみつくように飛び込んでいった。
なんだかヒキばっかりで済みませんが、キャラに引きずられまくりで
どうやったら話の区切れがつくんだか見当もつきません……
が、楽しみに読んでいてくれてるらしい皆さんの感想に励まされております。
大丈夫、頑張るよ。
最近ここのスレを覗くのが楽しみでA。。 もう陛下が素敵すぎます。
というかヴァレタ神自身が!休みを取りつつ頑張ってください。
神、GJですvv
ありがたく拝読させていただいております。
ご無理なさらず
>519
お仲間かも?
自分は業をにやしたお涼サマが夜這いをかける
白昼夢を…
疲れてるのかな…orz
お涼新刊読み中
アユミで爆笑して手が止まった
538 :
名無しさん@ピンキー:2006/08/31(木) 07:24:30 ID:XC1iP7qH
お涼さんの新刊でてたの?
「霧の訪問者」だったかな?
今月出たよ。
イラスト集も出たよ。
目に刺さるほど眩しい真夏の光が人工池の表面で散らされ、飛び跳ねている。
水面に反射した光が天井を真っ白に照らし、早朝とはもはや呼べぬ時間であることを
二人はとうに承知していた。
――陛下がまだ起きていらっしゃらない?!なに、私室にもおいでにならないだと!
――寝室にもだ!
――どうしておられないんだ!不寝番はずっと控えていたんだろ!すぐにお探し申し上げろっ!
そんな騒ぎが階上で起こっているのを分かっていながら、後宮の一室にずっと籠もっている。
起きなければ、と彼女は思うのだが、背中から回された手を解くのはなぜか躊躇われた。
寝台の上に力なく身体を横たえたまま、再び彼女は目を閉じる。
ほどかれた髪、あどけない寝顔。それらは彼女を歳相応に見せており、彼はそれだけ自分が
年嵩(としかさ)になったような錯覚に陥った。
彼女のむきだしの肩に自分の顔を埋めながら、初めて出会ったときのことを彼は思い出していた。
王宮に勤めていると彼女は言うが、どうしてこれまで見かけることがなかったのだろうとか、
こんなにも彼女が近しく思え、離れがたく感じるのは、一体どういうわけなんだろうとか。
つらつら考えるも正解は今のところ見つかりそうに思えなかったので、腕の中にいる彼女に
集中することに彼は決めた。
「あの、さすがにもうお戻りになりませんと、大変な騒ぎになってしまいますわよ」
「もうなってるさ」
「だったらなおさら、…っ、やぁあんっ!」
昨夜の濃密な修羅場の残り火があっという間にかき立てられ、燃え上がっていく。
喘ぎながら枕にしがみ付くが、彼は彼女を引き起こすと抱きかかえ、膝の上に乗せてしまった。
耐えがたいほど熱いそこに彼の指が潜りこみ、甲高くかすれた女の声が部屋中に響いた。
頭がぐらりと揺れ、彼女が胸を反らしたところを彼の唇が捉える。優しいが、容赦の無い責め。
「……もう、どうにでもして」
理性は陥落し、欲望が高らかに凱歌を歌う。
抵抗を止めたとたん、いきなり快感が押し寄せてきた。溶けた身体中が彼に向かって流れだす。
解けていた膝はさらに割り開かれ、彼女は一息に串刺しにされた。息も絶え絶えになりつつ
目の前の肩に彼女は抱きついた。硬いものを叩くような音がさっきから聞こえているが
気にしていられない。
――もう、このまま死んだっていい。この命、惜しくもなんともない――
一時の自失があり、沈黙があって、狂乱はなりを潜めすみやかに正気が戻ってきた。
聞こえていた音がなんだったのかようやく分かった。この部屋の扉を叩く音だ。
身体にシーツを巻きつけて起き上がった彼女が部屋の外と用心深くやり取りするのを
彼は寝台の上から見守っていた。
「陛下はそこにいらっしゃるのだろう?後はこちらで何とかするから、早くお支度を」
馴染みのある、その音楽的なまでの声を聞いて彼は赤面した。
――どこまで知られているのだろう。
廊下を歩きながら、彼は相手の顔を礼を失しない程度に伺った。
「ご心配なく。このことについて、わたしは最初から事情を承知しておりますゆえ」
あまりの照れ臭さに彼は心のうちで動揺しまくり、歩く向きをくるりとそのまま反対にして
帰ってしまいたくなったが、どうにかそれを乗り越えた。
「あと陛下に近しいもので幾人か。ゆえに、あまり混乱は起きることはないでしょうが
今朝のようなことは、なるべく自重してくださるようお願い申し上げまする」
今朝のこと。言うまでもない。
「“あれ”全部のことか?!」
「立ち聞きの趣味は持っておりませぬ。まあその、半刻ほど時間を潰すのに困りましたが」
「そ、そうか。それはすまなかった」
「ずいぶんと寝不足のような顔をしておられますな。いや大丈夫、その方が都合良ろしい」
国王の部屋の前で重臣たちが不安と不審でざわめいている。それを押しのけ割ってはいる者がひとり。
その姿より薫香でそれが誰なのかいち早く気付いた男が、馴れ馴れしい態度でその人物に声をかけた。
「陛下がご不在だというのに、どこに行ってらしたのだ。朝の沐浴でもしておられたのか?ふふふふ」
「気色の悪い声を出すな!わたしは陛下のご衣裳を取りにここに参っただけだ。それよりおぬし、
まだ朝のうちだというによくこの場に居合わせたものだな」
「なに、朝帰りがけになにやら騒いでいるようなので立ち寄ったというだけ、っと何を言わせるのだ」
「勝手に墓穴を掘っておいて何を。このままおぬしを地に埋める道具が手元に無いのがまことに残念じゃ」
「それより、向こうに立っているのは…陛下!なんだおれと同じ、朝帰りでらっしゃるのか?」
「お前と一緒にするなっ!」
女神官よりも先に黒衣の騎士が拳を握り締め、伊達男をぎらりと睨みつけていた。
「……当たらずとも遠からずじゃな」
「なんだって!!」
驚きの二重唱ならぬ三重唱、いや男声合唱団の驚嘆の声が廊下に溢れかえる。
「昨晩はわたしの部屋に陛下をお泊めしたのじゃ」
「な、な、」
「何をそんなに驚くことがあるのじゃ。わたしが女神官であること、皆も知っておろう」
「それと陛下の朝帰りと、一体何の関係がおありにあると?か、関係って。まさか関係なんて、ねえ?」
否定して欲しい気持ち満載で国王を振り返るが、彼は依然として沈黙し続けている。
そういう約束をしていたし、女神官がきっとこの場を納めてくれることを信じているからである。
「そ、そんな!非道い、おれを裏切ったな!」
「裏切るも何も、おぬしとは何の約束も、かけらさえも結んでおらぬ。言いがかりは止してもらおう」
「恋に惨敗した男などそのまま捨てておけ。それより一体、どういうことなのだ?」
「うむ。おれも知りたい」
女神官は左右の男たちの視線から彼を庇うようにさりげなく前に一歩踏み出すと、冷静に話し始めた。
「このところ、陛下の夢の園に夜ごと現れる夢魔がありましてな。なかなかに寝付けぬというので
わたしが王宮内に賜った部屋を陛下にお貸ししたのじゃ。もちろんわたしは違う部屋で休んだのじゃが
そのまま、陛下を起こすのを忘れておったのじゃ。皆を騒がせる結果になってしまい、申し訳なかった」
即座に生気の戻った顔になった男が興味深げに女神官の表情を観察したが、白い端麗な横顔には髪一筋の
動揺も見られず、なるほど本当のことなのだろうとすっかり安心して胸を撫で下ろした。
黒衣の騎士も、女神官の落ち着いた言いようにすっかり納得した表情で頷いていた。
宮廷画家は腕を組んでしばし考えていたが、これ以上つついても何も出てこないと判断したようで、
心配して集結した皆に解散を言い渡し、一刻後に執務を開始することを国王に告げて立ち去った。
「今朝はたいへんでしたね」
愛弟子の入れてくれた緑茶の湯気をあごに当てながら、宮廷画家は口を微妙にゆがませた。
たぶん自分の推測は当たっているだろう。だが、かといってこの先どうなるのかまでは読めぬ。
不確定な要素が多すぎる……なにより、あの力について読みきれる人間など、地上には誰もおらぬ。
おれにだって、分かるものか。
「大陸公路一の軍師にも分からないこととは、一体何でございますか?」
どうやら最後の方は口に出してしまってたらしい。
「おまえも、いずれ年頃になったら分からぬことが分かるだろうよ」
「分からないことが、分かる?まるで謎掛けですね」
「もしそれを解き明かすことが出来たら歴史に名が残ること間違いないな。どうだ、挑戦してみるか?」
とんでもないというように首を振る若者に、宮廷画家は笑いかけて空の椀を差し出した。
「おまえにその時が来たら祝杯をあげるとしよう。だが今は、茶のお代わりをくれないか」
「はいっ」
両手に盆を持った若者と廊下ですれ違い、彼女は目的の部屋の扉を開け静かに体を滑り込ませた。
しばらく彼女の話を聞いたあと、その男は髭を撫でながら呟いた。
「潮時かもしれんな」
彼女も同じことを考えていたが、あらためて口に出されるとこの先のことが思いやられ膝が震えた。
「どうしましょう、嫌いになったと心変わりを訴えればよいのでしょうか」
「いや、それでは熱した硝子をいきなり水に浸けるのと同じ。よけいにまずかろう」
しばし頬を指で叩きながら、男は長いこと考え込んでいた。
「では、手をまわしてみよう」
このようなことにも口が堅い、頼りになる大将軍の名をその男は挙げた。
「大丈夫、陛下が女色に溺れきるような人ではないこと、そなたもようくご存知であろう」
彼女は自信を持って深く頷いた。
その両耳に光る飾りを男は目を細めてみやった。その視線に気がついて彼女が耳に手をやる。
「母の身を救ったあの首飾りの珠です。どうしても全部は売れなくてこうして手元に残した、と」
「それを聞けただけで、もう十分わたしは報われた。辛い役目を背負わせて、本当にすまなかった」
「いいえ。身も朽ちる思いでいたところに、これ以上ない光栄なお役目を与えてくださいました。
これ以上望むことなんて、なにもございません」
「本当に、そうか?」
「はい」
どこか残念そうな顔をして、男は彼女の肩を父親が娘にするように優しく抱きかかえた。
「あとは、わたしにまかせなさい」
その日の夜更け、二人は身体を寝台に並べて静かに語り合っていた。
一時の熱狂は峠を越したようで、今は二人だけの時間と空間を分け合い、会話するという事に
彼は深い充実を感じ始めていた。
「王立図書館に勤めていたといってたな。忌むべきあの焚書の時、あなたはそれを見ていたのか?」
「いいえ。その時はもう聖堂騎士団たちに捕らえられ、部屋に閉じ込められていましたから。
本当に、あの教皇さえ居なかったら焚書はきっと免れていただろうと思うと、今でも口惜しいです」
「今、なんと言った?」
「王都の門が突き破られ、最初に王立図書館に踏み込んできたのは、甲冑を纏った老年の騎士でした。
ルシタニアでは王立図書館長をつとめていたとかで、図書館の職員を無傷のまま退出させました。
図書館長、あとわたくしを含め数人が蔵書の説明のために残され、彼と少しばかり話しました」
**********
「ほう、女の身で書を読み字を書くとは。パルスは文明国と聞いておったが、まことじゃな」
「ええそうですが、なにか?」
「そう睨みなさるな。美人が台無しじゃぞ。まったく、跳ね返り具合はあの子といい勝負じゃわい」
重そうなまぶたの下に笑いがにじむのを、彼女は意外な思いで見つめていた。
おそるおそる図書館長がルシタニアの騎士に話しかける。
「イアルダボート教は、異国の書物は全部“邪悪な異教の書”として扱うものと聞いておったが」
「いかにも。しかし、これほどの書物を研究もせぬまま火中に投じるのは愚の骨頂というものじゃ。
さりとて聖典に反することを書かれたものを残すわけにはいかぬ。しばらく職員を貸して頂きたい」
書の貴重さを理解しあうもの同士、すぐに話はまとまった。彼女も図書館に残ることになった。
「はて、あなたはとてもいい香りをさせておるが、いったい何を使っておるのじゃ」
「わたくしの故郷は薔薇の産地でして、ニームルーズの山嶺のふもとにございます。その薔薇から
採りました香油をつけております」
「もう少し、詳しく聞かせてくれんかの」
「ふむ。あなたの故郷は、わしの故郷の気候とずいぶん似通ったところがあるようじゃ。
春から初夏にかけての恵みの雨、湿った空気を逃さぬ厚い雲。そして昼夜の寒暖差と。
土地の水はけも、問題ない。ただ土地が痩せてるだけとも言うがな。ははっ」
「いちおう、学究のため薔薇の苗を持ってきて、ここで育てておりますが……」
「頼む。それをわしに、いや我が国に分けてはくれないか。もし薔薇の栽培が上手くいって精油も
取れるようになれば、貧しい産業しかない我が国も外貨で潤うじゃろうて。そうしたら、
他国の富を略奪しにわざわざ軍が遠征することも、…オホン。これはここだけの話じゃからな」
彼女はまばたきをして黙り込んだままであったが、この老人は武将としての能力はともかく、
人間としては尊敬に値する相手であることは分かっていたから、最後には頷いていた。
「分かりました、どうぞ持っていって下さい。薔薇水の製法も一緒にお教えしておきましょう。
敵地の産物を略奪して自国の富にする。これもひとつの立派な武勲ですわね」
「パルスにしてみれば大変、迷惑な話じゃろう」
「はい、とっても」
薔薇の苗と一冊の書物が老年の騎士の故郷に早馬で送られたその数日後、教皇が書物の管理権を
強引に奪い取り、おだやかな目をしたルシタニアの老人騎士はパルス辺境の城塞の守備につけられ、
彼女は虜の身に堕とされた。
**********
「そのようなことで、ルシタニアにはパルスと同じ薔薇がきっと根付いているやもしれません」
彼女は彼のほうに向き直ると、片手で頬を支えて微笑んだ。燭台の細い光を受けて、彼女の肌は
絹のような光沢で光っている。喉は象牙細工のように白く、とてもきれいだった。
「聖堂騎士団が教皇を抱え逃げ出した後も、わたくしは獄の中でかの騎士のことを案じてましたが、
塔から身を投げて亡くなられたと伝え聞きました。戦の中で死ぬなんて似合わぬお人でしたのに」
「なんということだ……わたしはその騎士に、きっと出会った事がある」
「そんな偶然が、まさか!?」
慌しくお互いの知るところが聞き交わされ、二人は寝台の上で抱き合ったまま呆然としていた。
彼は彼女の頭を肩に乗せ、彼女は彼の体に腕を回して、そうすることで少しでもお互いの哀しみを
吸い取れるのではないかと思っていた。
「わたしは明日から軍の演習で五日ほど王宮を留守にするが」
「ええ、王宮の女官たちも軍のことは詳しくありませんが、用意に色々走り回っておりますわ」
「だから、その……」
言いよどむ彼に、彼女はくすくす笑ってなめらかな逞しい胸に顔を埋めた。
「大丈夫、陛下が帰ってくるまでどこにも行ったりしません。ここでお帰りをお待ちしてます」
「よかった」
耳たぶをくすぐる彼の優しい唇の動きを感じながら、彼女は自分の内側に一つの強い決意が浮かんで
くるのを感じていた。一時は死ぬことばかり考えていたのに、彼の側にいてこうして話していると
心の蓋が軽くなり、生きていたいという気力がこんこんと湧き上がってくるのだった。
ああ、今なら母の気持ちが分かる。相手を愛しているからこそ、離れるという場合もあるのだと。
理屈ではない、実感として得たその気持ちを大事に胸の奥に仕舞いこむと、彼女は彼に支度をさせ
階上に送り出したのだった。
さ、やっと終わりが見えてきたな…っと。
ヴァレダ神キタ:*:・( ゜∀ ゜)・:*:!!!
まだ終わってないというのに、切ない予感に早くも胸が締め付けられ始めております……
今日もGJ!
堂々としたファランギース様に惚れ直しました。
ヴァレダ神、LOVE!
感嘆の思いとワクテカに毎晩身を焦がしておりまする。
二次創作と呼ぶには禿しく端正ですなぁ…本当にGJです。
ヴァレダ神GJ!!!
あだるてぃな陛下を堪能させて頂いております。
>521のイラスト集の寸止めコメにうっかり購入
…思いがけず萌えてしまったorz
朝の冷気がまだ残るうちに、パルス軍はシャフリスターンの野を目指して駆けた。
午前のうちは熱波の攻撃はまだ弱く過ごし易いかのように思えたが、暦はまだ七月半ば。
やはり午後には起伏に富んだ野から陽炎が揺らめき立ち、歩兵には辛い訓練となってしまった。
その中にあり目立って動きが良かったのが、トゥラーンの将から国王の臣下になった男、
統制官(ミフラーン)の軽装騎兵部隊である。
「これは見事に仕上げたものだな」
広大な土地を見下ろす台座に座り感嘆する国王を横で見守るのは彼の師である。
「わが軍は大軍と言えるほど、まだ回復しておりませぬからな。小回りの効く精鋭の小部隊を
自在に動かせるようにしておく。一時の措置と考えておりましたが、これは改めましょう。
トゥラーン古来の騎馬戦術は、柔軟な編成と運用とに実に向いておりますな。ふむ。」
宮廷画家の脳内の画布には新たな線が描き足された模様である。
その様子は国王の向こう側に立つ男の稚気を刺激したらしい。
「これがどうして、手に絵筆を持つとなると不可思議な事態になるんだろうなあ」
今日は黒衣ではなく黒色の甲冑を着込んだ男の聞かせるつもりでこぼされたに違いない独語に、
演習中は軍師である宮廷画家は手を伸ばし相手を殴ろうとして、思いとどまった。
そのかわり悪鬼(ディーブ)の方がまだ善良に思えるほどの笑顔を浮かべ、宮廷画家は絵筆ならぬ
軍師の証である乗馬の鞭を黒衣の騎士に突きつけ、こう宣言したのだった。
「ほう。ならば王都に帰ったらおぬしの肖像画を試みに描いてみるとしよう。不可思議な事態とは
何なのか、おれにはさっぱり分からぬが興味はある。その体験とやら、おれに教えてくれないか」
一気に青ざめた黒衣の騎士を見て宮廷画家は余裕の笑みをひらめかせたが、それも一瞬だった。
「わたしもそれを聞きたいな」
真面目な顔で言うものだから、はたしてそれが本気なのか冗談なのか区別がつかない。
どちらなのか確かめる前に大将軍に呼ばれ彼は向こうに行ってしまったので、智将と雄将は毒舌を
口内におとなしく畳むよりほかなかった。
天上の神が天幕を引き降ろした。あちこちで兵士たちの夕餉の煙があがり、彼らの頭上には
金貨銀貨を撒き散らしたような夜空が頭上いっぱいに広がり涼しい夜風が吹き抜けていく。
久しぶりに王宮の外で夜を過ごすことに、国王はすっかり寛いだ風でクッションに腰掛けて
他愛なく相弟子と笑いあっている。そんな彼を見て、黒衣の騎士も嬉しそうだった。
「やはり、陛下の気鬱はあれだったか。原因から遠ざかったのが宜しかったのでしょうな」
「おぬしもようやく気付いたか。鈍い奴だと思っていたが案外、気が付く男なのだな」
「ああ。さすがに陛下のご結婚について熱心な宰相閣下といえどもここまで“お話”には
来ようはずもない。でもまあ、帰ったらまた始まるんだろうがな」
「おぬしというやつは……やっぱり、分かってなかったのか」
期待が外れて首を振る宮廷画家の様子を横目で見て、国王はこっそり肩をすくめていた。
(まったく、人の心を読むことについては本当に敏いのだな)
同時に、黒衣の騎士の的外れではあったがその言葉に彼は気付かされるものがあった。
そういえば彼女と出会ってから……いや、このことを確かめるのは後にしよう。
彼女は待っていると確かに約束してくれたのだ。今は、演習に集中しよう。
パルスにいつまた危機が襲い掛かるかもしれないのだから、自分もしっかりしなくては。
そう彼が意気込むまでもなく、パルス兵士たちは期待に良く応え、迅速かつ整然たる陣形を
広野に繰り返し再現し訓練に励んだ。三日間に渡る演習中、酷暑に倒れる者は幾人かいたが、
いつかのように突発的な戦闘も起こることもなく、パルス軍は野営の跡を片し隊列を整えると
沈む陽を追うように王都へ駆け戻っていった。
ともすれば走りだしそうになる足を押さえ、彼は王宮の回廊を歩いていく。
すでに薔薇の目印は確かめてある。だから焦らなくてもいいのだが、勝手に足が速まるのだ。
(まったくなんなんだろう、これは)
いまだ掴めぬそれは、彼の心を前へ前へと引きずっていく。
私室に戻り、上着を寝台の上に放り投げると彼は一息つく間もなく階段を降りていった。
「わたしだが」
カーテンをかきわけながら彼女の部屋に入ると、そこはがらんとした光景に変わっていた。
天上にまであった棚は引き払われ、元の部屋の模様であったらしい優美なタイル模様の壁が
彼の目に入った。
「あなたは、ここから居なくなるつもりなのか」
「はい」
相変わらず地味な格好で、それなのに透き通るような肌をして紅も差さぬのに赤らんだ唇と、
彼女は驚くほど美しく変貌していた。離れていた時間がそう思わせているのかもしれないが。
「帰ってくるまで、と申し上げたはずですわ。お忘れですか?」
「そんなことはない!」
大きな声を上げかけて、彼は自分を取り戻し落ち着いた口調で彼女に尋ねた。
「いったい、何処へ行こうというのだ。わたしがいるのに?」
口からこぼれ落ちた言葉に彼自身が驚いた。そうか、自分は彼女にずっと居てもらいたい、
そのように思っていたのか。
「絹の国へ行こうと」
彼の足元を見つめたまま、彼女は震える声を喉から押し出した。
目を伏せたままなのは、そうしないと彼と目が合った瞬間泣いてしまうだろうことが
分かっていたからで、彼女の本音は、もちろんここに居て彼とずっと暮らせたらと
思っているのである。しかし、彼女のうちに芽生えた望みはそれだけでは済まなくなっていた。
無言のままの彼に、彼女はゆっくり順を追って自分の心中を話していった。
「陛下と近しくなって、お話していくうちに自然と思うようになったのです。いまさら
決意を翻すつもりはございません。今秋の絹の国への使節団、それの留学生候補に
応募しようと思っているのです」
「薬草や香草の研究なら、この国でも続けられるだろう?」
彼女は下を向いたまま小さく首を横にふった。
「できないのか?」
数歩近づいて、彼は彼女を抱きしめた。彼女がいったい誰の手引きで自分に引き合わされたのか
彼は薄々察していたが、それは今聞くことではないと感じていた。
「絹の国には『漢方』という、こちらとは違った系統の、さらに長い年月を重ねた薬草学が
あるそうで、それを学べばきっと、わたくしの願いも叶えることができましょう」
彼女は一呼吸して、今度は顔を上げて彼の目をしっかりと見つめた。
「体を治しに行くのです。いずれ、我が子を産み自分の手に抱けるように」
「子ども?」
彼の目に驚きの色が現れ、すぐに理解の暖かい表情に取って代わった。
「たしかに、今の我が国の状態ではあなたの希望を叶えることはできない……そうか、行くのか」
彼女の望みを自分の勝手な気持ちで捻じ曲げてはいけない、と頭ではそう思い理解しているのだが
感情はまた違った動きをするようで、その晴れ渡った夜空の色の瞳には不思議な揺らめきが
湛えられていた。
「出発は二月も先ですが、まずは留学生候補になるために論文を書かねばなりませんので、
ここを引き払うことに決めました。王宮での女官の仕事も辞める事になります」
感情をぶらさぬよう、彼女はあえて淡々とした声で彼に話しかけた。
彼と離れていた数日間、眠れぬままに考え続け、たどり着いた答なのだ。
もう迷いはない。
「あの妓館の一部屋に下宿することになっています。なにかの折には遠慮なくお訪ねください。
陛下のお好みの茶でお持て成しさせていただきますわ」
「国王に妓館通いをせよとあなたは言うのか」
「なにをおっしゃいますのやら。そもそもここは愛妾を置く部屋。ご存知なかったのですか?」
そう言われてやっと彼は隠し通路の意味に気付き、赤面して唇をほころばせたのだった。
おっぴろげた風呂敷がなんとか畳めそうでヨカッタヨカッタ。
あと少しなんで、完結までしばしお待ちください。
ヴァレダ神キターー(AA略
ドキドキwktkしつつ正座でお待ち申し上げまする。
お願い、早く畳んで…
あ、ううん、待って。まだもうちょっと…もうちょっと畳まないで…
でも、でもやっぱり早く畳んでほしい……あぁもう私どうしたらいいの…!
複雑な想いの中でwktkしております。
毎度ながらGJ!
>>557 ちょw 焦らしプレイになってるww
まあ気持ちはわかるが。
ヴァレダ神、続きをお待ちしてます。
なんかいいなあ、アル戦
自分もナルサスとアルフリードでやりたくなってきたw
是非ともどうぞ!
>>559 wktk!
思う存分投下しておくれ!!
暦は八月に入った。
王都内に建つ王立学院の一室で、絹の国への留学生審査の会議が数日に渡って行われている。
パルス国内が平定された後も使節団を遠国まで送り出す余裕はなく、今回が再開の第一陣である。
大国、絹の国に恥じぬパルスの有望な才幹を選び出すこと。老若、身分、男女の別は問わない。
それにしても大量にきたものだ、と師の補佐をする弟子は目の前の小山に溜息をついた。
机の上には書類やら論文やらの巻物がうず高く積み重ねられ、雪崩れ落ちる寸前だ。
だが、これでも当初よりはずいぶん減っているのである。
「これも駄目。これはもう問題外!そっちの山は審査済みのだから、持っていってくれ」
弟子はもう一つ、今度は小さく溜息をつき、師を遠慮がちにたしなめた。
「ずいぶん厳しくありませんか?これでは派遣する人が居なくなってしまいます」
「これぐらいでいいんだ。優秀な人材を気前良く国外に送り出せるほど我が国力が回復したことを
あちらの国に知らしめる、その為でもあるんだから」
ふん、と鼻息も荒く師は大人げなく書類を机の上に叩き付けた。
「まったく、陛下が王立学院の者に限らずと留学希望者への門戸を広くされたのはよろしいが、
物見遊山気分で送ってきたやつが多くて困る!これは国費でやるんだぞ。貴族の坊っちゃん方の
箔付けのためにするんじゃない。パルスの将来のために学びたい、もしくは己の研究を高めたい、
そういう本当に実のある人を留学させてやりたいのだ。陛下もそう望んでおられる」
至極真っ当な事をしかめ面しく言うが、弟子には師の心のうちは読めていた。
(厳しくなられるのも仕方ない。ご自分こそ絹の国に行くことを熱烈に望んでらっしゃるのだから)
だがそれを賢しげに指摘するのは生意気に思われたので、弟子は師の目前に置かれた空の椀を取り、
連日の審査続きでくたびれた顔つきの学者たちの間も小まめに動き回ると盆を手にして出て行った。
それと入れ替わりに入ってきた姿をみとめ、師の顔は和らいだ。
「どうだ?絹の国に派遣する留学生は人数分、決まっただろうか」
国王の問いに、彼の師は不合格者の書類を丸めたもので合格者のそれを指し示した。
「こちらにあるのが、そうです」
十指に満たぬそれを見て国王は眉をひそめた。
「ずいぶん少ないな。厳正かつ公平な審査の上で、この結果なのだろうとは分かるのだが……
将来の可能性も含めて、見込みのありそうな者を再選してやってはもらえぬだろうか」
名君といってよい発言に、師は莞爾と微笑んだ。
「わかりました。陛下のご期待に応えるとしましょう。しかし連日の審査と議論続きで
ここの皆もだいぶ疲れておりますし、腹も減っております」
「分かった、夕食を用意しよう。それと夜食も。自宅が遠いものは王宮に泊まっていくがよい。
すまないが皆、もう少し頑張ってくれ」
国王の気前のよさはもちろん、学問にも心篤いところをみせられた学者たちはたいそう喜んだ。
わずかな合格者の書類を見ていくうちに、彼は見覚えのある字をその中に発見した。
上機嫌で部屋から出ていく学者のうちの一人をつかまえ、彼はその人物について確かめてみた。
(やはり、彼女であったか)
驚きはなかった。彼女ほど優秀な人なら審査も無事、通過するだろうと予想していたのだが、
それでも内心こたえるものがある。八月の終わりには、彼女は王都から居なくなる。
――分かってはいるつもりだ。
彼女は己の未来のため、絹の国へ行くことを望んでいるのだ。自分が引き止めてなんになろう。
しかし彼女を手放すには、彼の内にはあと少し勇気が足りないでいた。
「んっ?」
目が覚めた彼女が最初に気付いたのは、自分の上に掛けられた薄い毛織物だった。
部屋の中は夕暮れのあかい色にすっかり染めあげられている。
涼しい夜間に起き論文を書くという、昼夜逆転した生活をしばらく送っていて、それも論文提出と
ともに終ったはずだが、その習慣をいまだ引きずってしまっているらしい。
妓館の主は遠慮するなと言ってくれているが、灯代ぐらいは返さないといけないだろう。
そう思って彼女は練り香水を作り、それを店に卸して売っていたのだがそれが評判となってしまい、
今日の昼間はずっとその作業にかかりっきりだったのだ。
小鍋で溶かした蜜蝋と植物油を、可愛らしい石花石膏(アラバスター)の小瓶に詰めて、
王宮にいたころ作り溜めていた精油を数滴落として冷やす。作業は簡単だが、それが大量である。
(そりゃ疲れもするわよね……)
自分で自分を慰めて、寝台の横に立つすらりとした人影にはっと気がついた。
ほどほどに身分の高げな装いに、つばのない白い帽子を頭に載せのんびりとした表情をした若者。
慌てて彼女は寝台の上に起き上がり身ずまいをただした。
「へ、陛下!まさか本当に妓館などへいらっしゃるとは……」
「そっちが遠慮なくというから来て見れば、当の相手は気持ち良さそうに寝ているんだからなあ」
「すみません」
彼は冗談のつもりだったが、彼女が本気で落ち込むのを見て慌ててとりなした。
「あのっ、知らせもせずに突然来たわたしの方がいけなかったのだし、そう下を向かないでくれ。
それにあなたに、良い知らせを持ってきたのだ」
芯から困惑して一生懸命な彼の様子に彼女はぷっ、とちいさな笑いをもらした。
「陛下が良い知らせとおっしゃるということは……わたくしは留学生に選ばれたんですね?」
「ああ、その通りだ。あと口頭での試問が残っているが、あなたならまず大丈夫だろう」
朗報を聞いて明るく輝いた彼女の笑顔につられ、彼も笑顔になる。
「でも、なぜ陛下御自ら?合否の通知なら、王宮から使いの者が来ることになっていますよね?」
「それは……うーん」
言葉に詰まっている彼の様子で彼女はぴんときた。笑いを堪え、体がかすかに震えている。
「何もおっしゃらないで。わたくしも、陛下とおなじ」
いたずらっぽく笑う彼女に、彼の胸は締め付けられた。
「あなたに会いたかった」
おおきな手のひらが、彼女の服の下に差し込まれ、潜りこんだ。むずがゆく広がる甘美な感覚。
するりと服を脱いで床に投げていく。忍びやかに笑いながら、二人は寝台に倒れこんだ。
久しぶりに肌を合わせたせいか、すぐ夢中になった。舌を絡め、むつびあう身体は熱く溶けて
美酒を干したように互いを酔わせた。熱い。衝動が背筋を駆け上がり意識が弾け飛ぶ。
突き上げる腰の動きが次第に緩くなり、止まった。
終わったあと、彼女を抱いて寝ながら彼はなにげない口ぶりで言い出した。
「ああ、わたしも玉座なんか誰かにやって、四方に派遣した臣下から話を聞くだけではなく、
未だ見ぬ国を旅し、色々なものを直に見てみたい。王宮に居座り続けで生涯を終えるなんて……」
「もう、困ったことを」
もちろん本気ではなく、ただぼやいているだけなのだと彼女は彼の気持ちをよく理解しているが、
共感の気持ちを表に出すことはしなかった。
「うん、わかっている。言ってみただけだよ。国王は国内の情勢を安定させ、大陸公路の安全を保つ。
そうせねば、あなたを含め大勢のものが困るからな」
真面目くさった彼の言いように彼女は微笑した。
「はい。陛下はパルスになくてはならぬ御方ですわ」
言ってすっきりしたのか、彼は彼女の肩をもう一度引き寄せた。猫みたいに彼女が脇の下に頭を
こすりつける。彼女のあたたかさを体の半分に感じながらそのまま転寝(うたたね)しかけ、
――思い出した。
彼は寝台からすべりでると、裸のまま下に落ちた服を探り、なにか取り出した。
彼女の目の前に差し出された絹布からつややかな光の連なりがこぼれ落ち、燭台の灯りに煌めいた。
「これをあなたに」
そうつぶやき、彼女の手のひらにそれを落とした。
それは真珠の二連の首飾りで、最高級とされる“四月の雨に打たれた”パルス産の真珠だった。
連なりのところどころに、精緻な透かし彫りを施された黄金の珠が輝いている。
「気に入らなかったか?」
「とんでもない!あまりに見事な首飾りで、その……これを、わたくしに?」
彼女が遠慮する前に、彼は首飾りを手にすると彼女の後ろに回り、うなじにかかる髪をかき分け
さっさと首に巻いてしまっていた。
「そのつもりだ。もう少し時間があれば全部を真珠にできたのだが、足りない長さは金細工に
させてもらった。でもこれで良かったな。あなたにとても、良く似合っている」
いかに国王といえども、これだけ色も粒も揃った真珠を集め、金細工の珠まで誂えた首飾りなど
昨日今日用意できるものではない。彼女と離れる日が分かった時から、彼自身が彼女のため、
女神官と相談して職人に命じ作らせた逸品であった。
「かように高価な品、とても……」
「きっとあなたの母君も、相手の男に、そう言ったのであろうな」
困惑する彼女に目を合わせ、彼は一息置くと軽やかに笑った。
「うちの宰相に」
思わず首に下がる真珠を握り締めた。
「へ、いか……何時からそれを、ご存知で……」
震える声と細い肩を、彼はそっと抱きかかえた。
「最初はまったく気付かなかったよ。それよりあなたと会うことばかり気にしていたから。
それが、あの朝のあと軍の演習が急に決まったりとか、それに、あなたと会った時から
毎日のようにやってきていた宰相の“お話”がぴたりと止んだからな。さすがに分かるさ」
「まあ」
彼女は謝ったほうがいいのかどうか迷っていたが、結局、笑ってしまっていた。
屈託のない、明るい笑い声だった。
ああ、フィナーレへの序曲が聞こえる…
薄物を纏ってM字開脚で待ってます。
妓館から出てきた彼を出迎えたのは、闇に溶け込む肌色をしたシンドゥラ人の武将だった。
「お迎えにあがりました」
これも事情を知っている相手であるから、彼も悪びれず肩を並べ夜道を歩き出した。
「アイヤールは元気であったか?」
「そりゃあもう。何度もお馬遊びをせがまれまして、断ると大声で泣くものですからちょっと腰が、
あいててて」
「これではこの口実はそう何度も使えないな」
「いえ、大丈夫です!陛下のお頼みとあれば何度でも」
うれしそうな声を背中に受け、二人は王宮に帰ってきた。
翌朝、すっきりした気分で目覚めた彼はいつも通り、政務漬けの一日を終え私室に戻ってきた。
ようやく試問も終わって、留学生全員選び出せましたと寝所の前に座る側近から報告を受け、
彼は広々とした寝台に手足を伸ばし、しばらく目をつむっていた。
と、小さな押し問答があって寝室の扉が開かれた。
「陛下、お話が」
「なんだ、今度からは宰相じゃなく、副宰相が“お話”にやってくるようになったのか」
拙劣な冗談を押しのけて、やけに真剣な視線を若い国王に注いでくる。
「あの女性を絹の国に行かせてしまって、よろしいのですか」
「もちろんだ。優秀な成績だと聞いているし、留学の目的も立派なものだ。いまだ地位が男性に
比べ高くない女性のため、簡易な家庭医学についてより研究を深めたいと。国費を使って
留学させるに実に相応しいと思うが」
「それはそうなんですが、その、彼女は……陛下にとって大事な人なのではないかと思いまして」
「どうして、そう思うのだ?」
どこか愉しそうに国王は副宰相を見返した。
「試問のとき、彼女の耳に飾られた翡翠を見ました。あれほどの品を一女官が買えるわけもなし、
そこで思い出したのが二昔前にあったという、あの悲恋です。彼女の年齢とも丁度合っております。
宰相の意を受け陛下に近づくなど、よほどあの御仁と近しい間柄のはず。あとは十分な観察と、ここ」
そう言って副宰相は自分の頭を指差してみせた。
「うん。きっと分かられてしまっているだろうと思っていたよ。けど、いいんだ」
畳み掛けるように副宰相が彼に問う。
「彼女が宰相の娘御(むすめご)だからですか?結婚話がまとまってしまうから、彼女を絹の国へ」
「先走るのだな。それはない。わたしも彼女自身からすでに聞いている。母親は妓女であったから、
父親は誰だか分からないのだと。宰相の策を引き受けたのも、それは母君の恩人だからだそうだ」
彼女が体内に抱えた秘密については言わなかった。
「それにとても残念なことだが、今のわたしに彼女を引き止めるほどの器量はない」
「と、言いますのは?」
「彼女に聞いてみたのだ。わたしが手を回し、審査に落とすだろう事は考えなかったのか?と」
――まさか。陛下は将来のパルスを背負って立つような優秀な人材を野に捨て置いて、むざむざ
腐らせるようなことをなさる御方じゃありませんもの。
――む。たしかにそうだが。
――教えて差し上げます。そういうのを人は貧乏性、とよぶのです。
一連の会話を聞かされ、副宰相は腹を抱えて笑い出した。
「や、これは傑作傑作!確かに、それほどの女性を引き止めるのは国家の損失と言うべきでしょうな」
「そういうことだ」
すまして答える彼の顔に、憂鬱の色はもう見えなかった。
開け放した窓から涼気を十分含んだ風が二人の間を吹きぬけていく。
「ああ…そうか。盛夏四旬節(フローラムチェッレ)を、もう通り過ぎていたのだな」
「そのようですな」
前に副宰相が予言したとおりだった。
盛夏四旬節(フローラムチェッレ)の終りと時を同じくして、国王の熱病は快癒した。
八月半ば。
謁見の間で、国王は絹の国への使節団にはなむけの言葉を贈っていた。
「皆が絹の国で学んで持ち帰る成果を楽しみに待っている。だがそれも、旅の無事があってこそ。
なにかあれば、ペシャワールから保護に駆けつけるから、皆安心するように。旅が平安であること、
わたしもここで祈っている」
そして国王自ら、彼らの前に出向いて激励の握手を交わしていく。
彼女の番になった。彼女は強い意志を体内に満たし、怖じることなく国王の前に向かい立っている。
一瞬、彼女の翡翠色の瞳に今年の夏に似た熱い想いが光ったように見えたが、すぐに消えていった。
「陛下のお役に立てるよう、向こうで力を尽くしてまいります」
これからの長旅のため長い髪を短く切り、彼に微笑みかけた彼女は限りなく清らかで美しかった。
甘い残り香だけを彼に残し、彼女は使節団の輪の中へと歩き出していく。
次第に離れゆく二人を遠くから眺めながら語り合う人影が、ふたつ。
「それにしても宰相どの。陛下に女性の良さを知ってもらおうと策を練り、それはそれは見事に
成し遂げられたが、陛下にご結婚を決意させることについては大失敗と見えますな」
「……そうか?」
「あれだけの女性と最初に出会ってしまったら、生半(なまなか)な相手じゃ陛下もとうてい、
ご結婚する気にはならないでしょうからなあ」
十六翼将で唯一の妻帯者にそう言われ、男はハッとしたように顔を上げ額をぴしゃりと手で叩いた。
「それはしまった!!」
「宰相を引退するには、まだまだ先が長うございますな」
こういう場合には、笑うしかない。
ということで、愉快そうな笑い声の二重唱が謁見の間の一角にしばらく響いていたのだった。
季節は過ぎ、国王は九月に十八になった。
その翌年の初夏、絹の国から大量の荷物が届き、それらは彼を非常に喜ばせた。
「なんと、これだけの大量の書物。それにこれらの包みは……絹の国の紙か!非常にありがたい」
絹の国の紙の製法は秘中の秘とされており、国外にそれが知られることは一切なかった。
紙の製法がパルスに渡り、西方へ伝わっていくのはずっとずっと後のことである。
「これと同じものが、荷馬車にあと数十台分控えております」
花も恥じらう十八歳などととぼけたことを言っているが、男の言った数量に相違はなかった。
黒衣の騎士の姿がないことを残念がっていたが、錬兵とかで王宮に不在だったのでこれは仕方ない。
「たいそうな美人からこちらを届けるよう頼まれてまいりました。なんでも、去年の冬ごろ
パルスからやってきた留学生ということでしたが……」
国王の傍らに控えていた宰相がつい高い声で男に訊ねた。
「もしかして、その女性は翡翠の耳飾をしていなかったか」
「おお、たしかに。それと手首には見事な“金細工の珠を連ねた腕飾り”もつけていらした」
静かな衝撃が彼の体の中を貫いていった。同じ感情を目に浮かべた宰相と同時に目が合う。
二人にしか通じぬ目の会話に首を傾げながら、男は懐中から一通の手紙を取り出すと
国王に差し出した。
読みすすめるうちに、彼の晴れ渡った夜空の色の瞳に喜びのかがやきが沸き立ってくる。
――絹の国へ来て一月経ちましたが、自分が幾ら勉強してもとうてい膨大な知識の海に
追いつかぬこと、つくづく思い知らされました。いまパルスでいちばん必要なのは
万人に開かれた図書館と、それを書き写し広める大量の紙でしょう。些少ですが、
これを王立図書館の再建に役立てていただきたく存じます――
そして手紙からはらりと舞い落ちた匂い紙。鼻に近づけると、彼女の香りがした。
去年の夏、彼の中を吹き抜けていった目眩がするほど熱い、一陣の風。
胸の痛みは小さく、懐かしさの溶けた感慨のほうが強く心に溢れ出た。
「あの母君にしてあの娘あり、といったところかな」
「わたしは一人の女性しか救えませんでしたが、陛下のなさったことは、より大勢の人々を
救うことになりましたな」
遠路をはるばるやってきた男に、希望通り四月の雨に打たれた真珠を与えることを約束すると、
彼は謁見の間を出て王宮の廊下をゆっくりと歩きだしていった。
中庭の噴水を見下ろす窓からは、あの扉がよく見える。
彼女が居た扉を飾ったあの薔薇の意味も、手紙の最後に書き添えられていた。
パルスよりはるか西方の国の神話が由来だというそれは、
『一輪の薔薇(ヴァレダ)の下で語りあった話は、必ず秘密にするという約束』
彼はもう扉を振り向かない。足も止めない。ただ回廊を歩き続ける。瞬くと明るい日差しが
目に射し込んだ。風にあおられた噴水の滴が虹色にきらめいて飛び散っていく。
胸を張って、空を見上げた。雲のほとんどない、きれいな青空だった。
――また、パルスに夏が来る。
おわったーーーーーーーーーーーーーーーー。
メモ帳で文章書いてるんだが、なんと見たら94KB。
これまで書いた中で一番長かった!
最後までこちらの脳内補完物語に付き合ってくれた皆様方、お疲れっす!!
見捨てず読んでくれただけで有難や有難や。
しかし……疲れたなぁw
ヴァレダ神、本当にありがとうございました。
今、目頭が熱いです。
このスレに来てて良かった…
名作に感謝です。
お疲れ様でした、ヴァレダ神!
エロと愉しさと感動をありがとう。
書物と紙が届き、贈り物が金細工珠の腕飾りに…ってのがかなりきました。いい女だ。
誠にGJ、どうもありがとう!
ああ、とうとう…
素晴らしい読み応え、そして素晴らしく幸せな時間を頂きました。
自分の語彙の足りなさがもどかしく歯痒いです。
本当にお疲れ様でした。本当に素晴らしかった。
名作をありがとうございました。
お疲れさまでした!! そして本当にありがとう!神のおかげで萌えに飢えず
に済みました(笑 何かこの一月ずっとハラAしっぱなしでした。。私文才が
皆無なんでお礼しか言えないのがもどかしい・・
ていうかもうこのスレ最高!!!
超GJでした!
色んなキャラがゲスト出演したのも良かった!
爽やかな読後感がたまらんです。
神!!!!!GJ!!!!!!
伏線がすべて繋がり、爽快な読後感がたまりません。
>『一輪の薔薇(ヴァレダ)の下で語りあった話は、必ず秘密にするという約束』
この一文sugeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeee!!!!!
今まで読んだSSの中で最高です!神、ありがとおおおおおおお!!!!
「どうせ嘘をつくなら、もっともらしい嘘の方が面白い」
なんてどっかの禿が書いてたような、そんなうろ覚えの記憶がありますが
どうも、紙です。エラムに続き陛下までやっちまいました。
なんだか今回はマジで文章の神が脳内に御降臨されたような。
奇跡よもう一度来たれ。
往生際悪くあとがき。
架空世界だというのに「医は仁術」とか登場人物に言わせてるし
(でもこういう思想はあっちの世界にもあったと思いたい)
「漢」国の薬草学だから漢方というのに漢方とか出しちゃってるし
(しかし、他の言い方が出てこなかった)
けど、アルスラーン戦記の7巻と8巻の間にこういう事があったかもと
作品世界のファンとして空想を膨らませるのは楽しい一時でした。
また投下の日まで、サヨウナラ。
ヴァレダ神、お疲れ様、そして素敵な作品をありがとうございました。
毎日のリロが楽しみな作品でした。
萌えに不自由しない日々って素敵だ…。
マジお疲れ様でした。
エロもそれ以外のパートも読み応えたっぷりだし
別れたのに清涼感溢れる終わり方でもう最高。
更新が待ち遠しいなんて体験初めてで嬉しかったです。ありがとう。
楽しんで頑張って下さい。次回も期待してます。
このままアル戦熱が続くのか、次のジャンルに移るのか。
どちらでも大歓迎っ!また神待ち〜マターリマターリのんびりお待ちしています。
にしても、陛下は恋した相手にはこうなるんだろうなーという筆運びが実に自然。
陛下は優しいけど、軟弱じゃないんだよねえ。怒るときは怒るし、
毒舌だって必要な時とあらばしっかり叩けてるし。
また
変な所で切れた。
またエステルと再会して通じた場合も、これで安心だね陛下w
やはり禿は二人をくっつけるつもりなのかなあ?エステル記から、
名前を採用したのだとすれば。
これだけ質の高い神レベルの作品の後だから
アルスラーンが続くもいいが、中国物か、銀英伝で重厚かつ
格調高い作品が来てもいいな。
少しでも恥を知っていたら、このタイミングでうすっぺらな
安直SSなぞ投下できない。
>>581 それは言い過ぎじゃないか?
そんなこと言ってると過疎るぞ。
人間いろいろ。
逆に、重厚な話の後だからこそ、軽くてあっさりとしたノリのが
読みてえっていう奴だっているよ。
というわけで、職人さん気にせずカモーン
まあ…長文の後だし、やりにくくはなってるがねw
585 :
名無しさん@ピンキー:2006/09/12(火) 02:28:11 ID:tfDvfiDM
お涼さんは?
ナルサスとアルフリードはまだ、なんだよなあ…
「魂で結び付いてる」と言うからには、生身では結び付いていないとそういうことだよな。
蛇王とレイラが婚姻結んじゃったら遺児たちみんな非処女になるのに、アルフリードだけ…。
美少女三姉妹の三女さえ…。
589 :
名無しさん@ピンキー:2006/09/14(木) 17:57:09 ID:ETSW+OhP
あれ、やっぱり三女ともやっちゃてるの?15歳だよねあの子。トゥース・・・
ナルサスとアルフリードは肉体的には結ばれないまま、ナルサスが死にそう。
だいたいナルサスってはっきりしないよね。
特にこれといった事情もないのにその二人が結ばれちゃったら
ガイエ作品じゃなくなるからなあ。
エロパロでは読みたいけど。いや、読ませてください。
寸止めwでよければやってみせましょう
>>590 (自分は
>>559さんじゃないです)
>>589 それはあれでしょう、ナルサスを殺るとするなら跡継ぎを残して
っていうガイエ王道のパターンになるんじゃ…
死ぬ前にナニかはきっとある、はず?
wktk
また浮かんだので、投下。
なぜかじじいが出張ってますが、原作中ではすっかり「じいや」扱いの(しかも説教臭い)
彼がなんだか気になり色々やってみた。前回の話も少しばかり混ざってます……
王都は盛夏四旬節(フローラムチェッレ)のさなか、暑熱の日々が続いている。
老年にさしかかった男が一人、夕暮れの光で金色にけむった街中を歩いてゆく。
国の典礼儀式を一手に取り仕切り、宮廷においては最高の地位にあるというのに、
その男は供も連れず、そのまま路地を歩いて一軒の館へ入っていった。
知る人が見れば驚いたかも知れぬ、あの真面目なお方がなんとまあ、と。
男は勝手知ったる館内をすたすた歩き、幾度か折れ曲がると奥の扉を開けた。
出迎えたのは、同じ齢ほどの物腰穏やかな男であった。この館の主人である。
だいぶ髪が後退した額を汗に照からせながら椅子を引いて男に座るよう勧め、
使用人を呼んで冷えた麦酒を持ってこさせた。
「まあ、ひとつ」
酌を受け、男は一息に飲み干した。
「ここはちっとも変わらぬの」
「いえ、大分変わりました。……いやなに、それがしの頭のことですわ」
それを見やった男は一笑し、今度は相手の杯に麦酒を注いでやる。
「あの子はどうだろうか、不自由なくやっているか?」
「……つい先週も会ってるでしょうに。本当に、あの子を大事に思ってるんですな」
苦笑交じりの笑顔につりこまれ、男のまなじりも優しく下がった。
「そりゃあ、な」
旧知の仲ゆえ、相手もそれ以上詮索することはない。黙って麦酒を飲み干した。
そのうち二人が「あの子」と呼ぶ、若い女の数奇な巡り合せについて話は深まっていく。
王都解放のあの日、館の主人の恩人である海の男は荷車の上に雄雄しく立ち、餓えかつえた
民衆たちに食料が詰まった荷を放り投げてやっていた。
あちこちで歓喜の声が上がり、ときおり、突き倒されでもしたのか悲鳴も聞こえてくる。
混乱の中、ふと目を向けた先で一人の女性が地面に倒れるのが見え、走り助け起こした。
頬はこけて身なりはみすぼらしかったが、耳に光る最高級の翡翠とそれに相応しい顔立ち。
男はしばし考え、知り合いの所にその女性を預けることに決めた。
引き合わされた相手――この館の主人であるが、女の姿形を一目見たとたん絶句。
一も二もなく女を引き受けると言いだし、恩人の更なる恩に頭を下げて感謝した。
もちろん、客を取らせるためではない。彼女に会わせたい相手が主人の頭の中にあった。
王都の秩序、そして機構が整うまで対面はかなわなかったが、彼女はその間に順調に回復し、
主人の店の手伝いをこまごまと助けるようになっていた。そしてようやくの対面の時。
気を利かせて主人は部屋から出て行ったから、どんな会話が二人の間に交わされたかは知らぬ。
それから二人の交流はひっそりと続いていたようだったが、ある日彼女は王宮に召しだされ、
この館、高級妓館ハザール・アフサーナから出て行った。
そして彼女は再びここにいる。今度は、彼女の人生の第二幕を上げ大きく羽ばたかんがために。
会話が一段落したところで、館の主人の方から男を呼び出した件について切り出した。
「本来ならあの方に相談するのが良いのでしょうが、海の上に出てしまわれて」
「そうか。人生の三分の一は海の上だと豪語するだけのことはある」
ええ、と主人は頷いたあと、ふと思い出し男に尋ねた。
「そうそう、ここにいらっしゃるときしつこい呼び込みに遭われませんでしたかな?」
「あったあった。ずいぶん強引に袖を引いてきたが、振り切ってきた」
「やはり。うちと同じ、いやそれ以上の美女揃いと声高に触れ回る妓館が道の向いに
最近できましてな。しかも花代が安いと評判も広まって、だいぶ客が流れてしまいました」
「それはまことか?」
「ひそかに人を遣ってみたところ、たしかに妓女は折り紙付きの美女ぞろいでした。しかし、
どうやらパルス美女ではなく、諸外国から女を集めてきた様子。こういう事ですから、
言葉が通じなくったって客は構やしないのでしょうが、風情も何もあったもんじゃない。
長い目で見れば、新興の妓館など目新しいうちが花。いずれ飽きた客が戻ってくるだろうと、
これまでと同じく心篤いもてなしを心がけてきましたが……」
その先をうながすように、男は主人の杯に麦酒を注ぎ足した。
「それが、次から次へと新しい妓女を出してくるのですわ。客もそれに引っ張られてしまう。
うちの妓館も青息吐息、商売あがったりですわ」
「そうか? 戦時であっても廃れぬ商売と、ここの妓女たちを野卑な酔客から庇いながら
切り抜けてきたおぬしが、ずいぶん弱気なことを言う」
「やあ、それでもずいぶん彼奴らに踏み倒されっぱなしのまま帰られてしまいましたわ。
代金を要求しようにも、何千ファルサングも彼方じゃあ、請求書も届きますまい」
そう言って主人は嘆いてみせた。だがもう殆んど吹っ切れているようである。
「あちらも、払える余裕は逆立ちになったって出てこないだろうしな」
「我らが軍師がこてんぱんに奴らをやっつけてくれましたからな。それで良し、としましょう」
それを聞いて今度は男が顔を曇らせた。
「あれも、もう三十になるというのにまだ独り者だ。お陰で陛下もその気になられず
困ったものよ。相手はもう決まっていて、ずっとあやつを待っておるというのに、
やれ結婚は自由の枷だとか、いかにも悟った風なことを言っておる、が……」
「まだまだ、青くてらっしゃいますな」
「そう。真の悟りは妻を得てこそ開けるものだ」
と男は真剣な顔で言ったあと、大きく溜息をついた。
「お互いに困っているもの同士、ということですな」
「……ああ。残念なことだ」
ちょうどそのころ、女神官は夜道を駆け妓館に向かっていた。
今日の仕事は終っていたが、王国会計総監が至急の件で宰相を王宮に呼び戻す必要があり、
宰相の行き先を唯一知る彼女がそれを引き受けたのであった。
狭い道に入り、馬から一度降りたところ、転げるように走ってきた女がすがるように
女神官の後ろに回りこんできた。すぐ目の前には追っ手の男の鋭い刃の光。
慌てることなく女神官は白刃を一閃させ、男をあっさり地に倒していた。
「峰打ちじゃ。安心せい」
後半は女に向けてかけた言葉である。と、振り向いた女神官の目が驚きに見開いた。
裸でこそないが、素裸以上に扇情的な薄物だけを見につけた姿に、まったくの素足。
転びでもしたのか膝には血がにじんでいる。泥汚れを払ってやると、これが結構な美女。
女の素性はこれで知れたが、どういった事情を背負っているのかまでは聞けなかった。
というのも、その女はパルス語を喋れなかったのである。外見からして絹の国の女だろうか。
女神官は指先で顎をつまみ、女を馬に乗せるとそのまま妓館へ急ぎ向かった。
――深刻な会話は続く。
「それに、あの店はあまりいい評判を聞かんのです」
「客が言っているのか?」
「いいえ、楽屋裏の話ですよ。うちの妓女も引き抜きにあいかけましたが、それを聞くと
ずいぶん怪しいのです。うちより数倍の高給を気前良く言ってきたそうなんですが、
客が払う花代を考えたら、店はずいぶん赤字についてしまう」
「そうだろうな、妓女への給金だけでなく、店の維持もせねばならないからな」
「その通り。もし花代が安くても妓女が凄腕ならば、客から金品も巻き上げられましょうが
パルス語が解らないのではそれも駄目。はて、どんな面妖な手を使っているのやら……?」
首を傾げる主人に、軋む扉の音と風が来客の存在を告げた。続いて室内に響く美声。
「それならば、きっとこの女人が知っておろうぞ」
男たちが振り向けば、マントを着せかけられた若い女性とそれに付き添う二対の人影。
「ファランギースどの、それに……」
彼らのうちで最初に話題にされていた女性の方が、逃げてきた女の肩を優しく抱いて
椅子に腰掛けさせた。
「わたしたちはすでに彼女から事情を聞いております。ご主人様の懸念に関係することと
思ったものですからお話中にも関わらず連れて参りましたが、お聞きになりますか?」
「あ、ああ!もちろんだ、聞かせてくれ」
椅子から立ち上がりかけた主人を女神官が手で押さえた。
「彼女はパルス語が話せぬのじゃ。ここはそのままお座りになって、耳を傾けられよ」
翡翠の珠を耳に光らせた彼女は目に凛とした光をたたえて男たちを見つめた。
「留学のため勉強しておりましたが、話に不明なところがありましてもご容赦ください」
「うまり、その女人は絹の国の人なのだな?」
「ええ。では、話してよろしいでしょうか」
男二人は同時に頷いた。
「――ということでございます」
問題の妓館から逃げ出してきた女の話に嘘はないように思われた。言葉は通じずとも、
女の必死な目つきからそれは皆にも伝わっていた。
「ふーむ、そうか。……やはり、な」
「やけに安い花代、パルス語が分からぬ女人たち、そして屈強な男の用心棒」
女神官のしなやかな指がみっつ、順に立てられた。
「この三題話からなにが窺えましょう、宰相様?」
「うちの軍師に相談するまでもあるまいよ。仲介人に騙されたのか、かどわかされたのかは
不明だが、この逃げ出してきた女人を含め、あの妓館はかなりえげつない商いをしている、
そうみて間違いないだろう」
「まったく!じつに!けしからんことですな!!」
この道一筋、誠実にやってきた主人は額から湯気が立つほど憤慨した。
「これはすぐに罪を問わねばなりませんよ!さあ、宰相どの!」
「まあ待たれよ、ご主人」
「止めてくれるなっ。こうなったら、私一人でも乗り込んで」
「ですからご主人様、この女人の証言だけで調査に持ち込むことはさすがに無理ですわ」
二人の美女に両脇からたしなめられ、主人もやっと椅子に腰を下ろした。
「あの妓館での非道な行いは明らかなれど、客が騙されているというわけではありません。
王都の兵を動かすに足りるもの、つまりあそこにいる妓女たちが無理に働かされている、
その証拠を手に入れねばならないでしょう」
「とはいうが、そんなものなんて在るのか?」
あります、ときっぱり言い切る翡翠の双眸に揺らぎはない。
「聞いたところ、この女人もギランで酌婦として働いていたところ、あの妓館の者から
話を持ちかけられたのだと。以前いた店の支配人は両国語に通じていたそうですから、
この女人が解るパルス語はほんの少し。それでもいいと向こうが言うので……」
そこまで話したところで、逃げ出してきた女が手振りを交え何やら言い出し、顔を覆って
さめざめと泣き出した。女神官はすぐ手をのばし、女の髪を撫でなだめてやった。
「妓館の一室で、たくさんの金貨を机の上に積み上げ『うちではこれぐらいすぐに稼げる』と
言うので、彼女はそのまま、目の前に差し出された紙に自分の名を記したのだそうです。
何かパルス語らしい字が細かく書いてあったけれども、たしかに決められた時間と給金が
そこに書かれていたので、信用してしまったのだと」
「つまり、その契約書の実物を見てみぬことにはなんともいえぬのじゃ」
ようやく落ち着いた様子の女に水を差し出してやりながら、緑玉の瞳をきらりと光らせた。
「普通に立ち入れば、向こうも知っててやってることだから即座に証拠隠滅するだろうな」
思案深げな顔で髭を撫でさする。
「やはりここはっ!」
「だから、待てというにご主人」
「もう、どうしろっていうんですかっ!なにより王都の花と愛でるべき可愛い女たちが、
今だって気の毒な目に遭い続けてるんですよ?!助けてやりたいじゃあないですか」
義憤に燃える主人に向けて好意の視線が集まった。
「これですからね。私の母がこの妓館に入ることを決めただけありますわ」
「思い出話は止してくれ、照れるでの。……じゃあ、これならどうでしょう?」
主人の突飛な提案を聞いて、一同の眼はすっかり丸くなった。
「……それは、そのう、ずいぶん罰当たりな気が、するのだが……」
「わたしは構わぬが?こういう事情ならアシ女神もお赦し下さるであろう」
「わたくしも賛成いたしかねます」
「おや?では、おぬしの思うところを聞かせてもらおう」
「では言わせて貰います。いいですか?女神官様は、お綺麗過ぎるのです」
「ああ!」
男二人は合点がいったように頷いた。
「確かに。これではあちらの店のほうが怪しんでしまうな」
「うちの方が大金積んで支度させてもらいたい。その気があるなら、もう今からだって」
「もう、ご主人様っ!!」
「あいや尻をつねるな、冗談じゃよ、冗談」
「いや。この男、目が本気だった。商魂たくましいこと、王都一じゃな」
一気に部屋中が喧しくなった。
だが全員いい大人なのですぐにその騒動も静まり、女は別室に休ませることにした。
「うむ。そういうわけで主人の提案はそのままに、改めてこの任に相応しい者を決めようか」
「まず若くて、綺麗な女でないといけませんな」
「それに問題の契約書を店から持ち出せる腕が必要ですわ」
「さらに、用心棒の剣を相手できるほどの技量の持ち主であることが必須じゃの」
「……となると、我らの手駒のうちにはあの者しかおらぬな」
「そうじゃな。いささか色香という部分では不足しておるが、美しさでは十分に合格じゃ」
頷きあう王宮側の二人に、妓館側の不思議そうな二対の視線が絡まった。
さらに細かい話を詰めていき、宰相は残りの二人に振り返った。
「こちらの算段は決まった。おぬしらに頼むことはただ一つ、これから連れて来る女性を
変装させ、さらに美しく磨きたててほしい。あとは、こちらにまかせてくれ」
「おお、もちろん!うちには美容と化粧の専門家がいるからな。いつでもこい!」
今後の連絡は密にすること、そして非常時の合図を決め、これで非公式の会議は終了した。
前回より短めにしますんで、今投下もヨロシク。
よろしくGJ!
実はこっそり妓館の主人に萌えてますw
うおぉぉぉーーー神再臨か!
こんなに早い復活とは望外の喜び。
前回とはまたガラッと変わった雰囲気で禿しくGJです。
クールな女神官ハァハァww
ありゃ投下が途切れた隙を突いて銀英ネタ落とそうかと思って書いてたけど、神がまた御降臨か。
また見守ろう。
おぉ、神再降臨!
マイペースで結構ですが、期待してます!
しかも、降臨待ちの神まで?
暫くwktkが続きそう。
皆さんGJです!
またしても見事な作品が…!
今回もwktkで続きお待ち申し上げます。
>>602 そういう風に書くと今投下して下さってる方が気にしてしまうんでは?
投下しちゃって良いのでは。
こちらも一気に投下しないので、合間にどうぞ銀英投下して下さい。
もしくはあと数回でこれも終わりますので、推敲などごゆっくりどうぞ。
>>602
「それで?事情はファランギースから聞いてる。あたしは、何をすればいいんだい?」
体つきは成人した女性のものでありながら闊達な口調の若い女は、至極真面目な顔で
自分の役目を問いかけた。
「こう見えても、並みの男より剣も弓も使えるよ。さあ、なんでも言っておくれよ」
「なんでも?」
「もちろんさ!」
威勢のいい返事に笑いをこらえる表情で、妓館の専任美容師は扉の外を指差した。
「では、まず湯浴みしてきてもらいましょう」
「は、あ?」
「なんでも、と言われましたよね?」
「ああ言ったよ。ゾット族に二言はないさ。けど、なんだってあたしが湯を使うわけ?」
どこか会話が噛みあわないのは、この若い女は女神官から話を前半分聞いただけで
飛び出してきてしまったからである。それを知った翡翠の瞳の女性は後半分を説明した。
「ええーっ!そんな?!だいいちあたし、そんながらじゃないしっ」
棒立ちになった若い女に、四方から無数の妓女たちの手がのびてきた。捕らえられ、身動きが
とれなくなったところを妓女たちは抱え上げると、歓声をあげて湯殿の中に運び込んでいった。
化粧道具などの用意をすませ、美容師が部屋で待ちかまえていると
「お待たせいたしました」
若い女の手を引き、この妓館の女中頭が柔らかな足取りで部屋に戻ってきた。
「冷水とお湯に交互に浸からせまして、腕と足の毛もきれいに剃り上げ、肌も擦りました。
髪の毛は薔薇の花を浮かべた水ですすいであります」
「ありがとう。はい、お疲れさま」
相手の女を女中頭から引き取ると背もたれのない椅子に座らせ、美容師は手に香油をのばし
肌に擦りこみ始めた。それが終わると毛抜きを手に取って、目の前に立ちはだかる。
「あ痛っ!もーう、なにするんだいっ!」
「眉の流れを整えているのです。しばし辛抱なさいませっ」
やっとチクチクした痛みが終わって安堵の溜息をついていると、美容師は金づちを取り出し
おもむろに振り上げた。うわっ、と眼をつぶったが、それは頭骨を叩いて形を整えるため
――ではもちろんなく、パレットに載せられた孔雀石の小石を砕くためであった。
「平素とは正反対の姿になる、それが変装のコツです。あなたはこの国では馴染みのある
美形ですから、ミスル風の化粧なんて、いかがかしら?」
「……なんだっていい」
さきほどの長風呂の時点でくたくたに疲れた模様である。
「あら、まだ半分も終わっておりませんわよ。しゃんと気張ってくださいな!」
ぴしりと叱られ背筋を伸ばしかけたが、また体を縮こませてしまった。
「ちょっともう、突き刺したりなんかしませんから、目は軽く閉じるだけ!」
「勘弁しとくれよぉ」
象牙の細い棒で薄い瞼を幾度もなぞって目元の影を深くする。眉は消し炭でさらに濃く。
その間にも、手伝いの妓女が指甲花の葉を粉末にしたもので爪をオレンジ色に染めている。
後ろに回った方は鬘をかぶせるため、頭の形に沿うように髪を細かく編みこんでいた。
「鬘を持ってまいりました」
黒色の、真っ直ぐつややかに流れ落ちる人毛の束がふさりと載せられた。
「こうして、落ちないようにピンで留めてっと、はいはい」
「ねえ、もうこれで、終わりかい?」
「そうですよ。化粧の方は、これでおしまい」
容赦のない宣告を聞いて、とうとう勢い良く立ち上がりかけたが、妓女たちに強く肩を押され
椅子にしっかり座らされてしまう。
その様子を見ながら、前途多難ねぇ、と美容師は腕を組んで溜息をついていた。
「急に動きますと鬘がずれますから気をつけて。次は、女らしい仕草をしっかり身につけて
いただきます。頑張ればそれだけ早く終わりますから、ね?」
「もう!引き受けるんじゃなかったなぁ!」
本当は逃げ出したかったのだが「ゾット族の族長とあろう人が、もう弱音を言われるのですか?」
と先に言われてしまっては、一族の誇りを思うとそれは絶対に出来なかった。
「だいじょうぶ、最初から完璧な女なんてどこにも居ませんから。普段より少し、ゆっくり
動くように心がけるだけ」
苦笑をこらえて美容師がさとし、すっかりミスル美女に変装した姿のまま、若い女は深く深く
肩を落としていたのだった。
夕方になり、なんとか女らしさの型がついたようなので、妓館の二人はこの“ミスル美女”を
『糸杉の姫(ルーダーベ)』へと連れて行った。
「ここの支配人と話はついておる。そなたはそれ、この葡萄酒の壷を持ってそこらをゆっくり
歩いていればよい。声を掛けられたら杯に注いでやって、ここに印を付けるんだぞ」
「うん、まかしといて!」
「ほら、そこはおっとり小首をかしげて“はい”と返事なさい」
「はぁい」
ぎこちなく体を半分ねじって、作り笑顔を貼り付ける。
「ゼムゼム(よしよし)。磨けば光ると思うとったが、これまた見事な美女ぶりだわい。
どうだ、この任が終わったらうちに来ないかね?」
「ご主人様っ!」
どこかであったようなやり取りの後、二人は彼女から離れて様子を見守ることにした。
空の食卓に二人がつくと、店の給仕が飛んできた。まずは冷えた麦酒を頼むことにする。
「食事はどうなさいますか?」
「うむ。そちらにまかせよう」
少しばかり待っただけで、食卓には酒と料理が並べ始められた。
「これは、ここいらでは見かけぬ料理だな」
「ルシタニア国の料理でございます。最初は無理やりの注文で作らされましたが、すっかり
うちの品書きの中で人気のものになりました」
作るほうも食べる方も、まったく庶民というものはいつの世でも逞しい。
「美味ければかつての敵国の料理さえ自家薬籠中の物にするとはな……しかし、美味いな」
「これは?」
「テレシュカ・カヴァルマ・ヴ・ヒリャブ。おおきなパンの中にシチューが入ってます」
「へーえ」
給仕が盆を下げた後、二人はこれからのことを相談し始めた。もともと大声で密談するための
店と言われているのだから、声をひそめる必要もない。
「あの店の者らが贔屓にしているということだから、やつらは騙せそうな女と見てとったら、
すぐに声をかけるだろうよ。そうして妓女として店に入らせる、というのが今夜の狙い」
「それではわたくしたち、ここに居る必要もないのでは?」
「いや、せっかくの囮が他の者に攫われないよう見張ってないといかん。それに、ほれ、
夕食の時間だろう。ここはわたしの奢りだ。なんでも遠慮なく頼むがいい」
「じゃあ、お言葉に甘えまして」
ずいぶん歳の離れた男女二人はにこやかに笑い合い、そして乾杯した。
「ああん!もう忙しいったら目が回っちまうよ!じゃなくて……目が回りますわっ!」
先立って夕立があり涼しい夜風が吹くようになっていたから、麦酒よりも葡萄酒のほうが
売れているらしい。しかし、それにしても今夜は飛ぶような売れ行きだった。
というのも、新顔の売り子が非常に美しいので、男たちが次々声を掛けるのである。
王都ではあまり見かけぬ黒々として真っ直ぐな髪は、肩のところできちんと切り揃えられ、
振り返るたびにさらさらと揺れる。異国風の化粧をほどこされた目元は不思議な色に輝き、
まともに目が合った男などは手から杯を滑り落とすという始末。
ゆったりとした長袴で足の線は隠されているが、大きく開いた背中からははっとするような
清潔な色気が立ちのぼり、先を争うように声がかかるのも、当然といえば当然だった。
「おお、ハザール・アフサーナのご主人ですか?」
「どうも、今夜は無理を聞いてくださってありがとう」
横幅が太いと細いの違いはあるが、同じ齢ほどの男たちは堂々と手を組み交わした。
「で、あの子ですが引き続き、うちで働いてもらうわけにはいきませんかな?」
静かな火花が男二人の間に飛び交うのを、呆れた色を翡翠の瞳に浮かべ見つめていた。
(商売人というもの、こうでなくてはという良い見本だけど……いけないっ!)
一人の男が踊るような足取りで“ミスル美女”に近づくのが見え、彼女は連れの袖を
さりげなく、けれども急いで引っ張っていた。
すらりとした長身に濃く深い赤紫色の髪、いつも微笑んでいるような甘い口元。
気付いた妓館の主もその光景を見て焦りに焦る。
「いかん!ま、待て、その女は違うっ!」
「ほっほ、御二方はここでお待ちあれ。わたしが行ってきましょうに」
ゆうゆうと巨体をゆすって、支配人は椅子を腹で押し除けながら二人に近づいていった。
「おお、これはなんという麗しさ。おそらく、ミスル国の方と存じ申し上げまする。
噂でもいいからわたしのことは、聞き知っておいでかな?」
うん、と頷きかけ、大急ぎで首を横に振っていた。揺れる黒髪からふわり、と薔薇の匂い。
男はうっとりと目を閉じる。大げさで演技じみたその素振りに、美女は危うく吹きだしかけ
壷を顔の前にさっと抱え上げた。
「さてはさては、純情な。口も聞けぬほどとは、ほんとにまあ可愛らしい」
作戦だからパルス語を口にしないだけなのだが、男は自分に都合よく解釈したらしい。
「そう身構えなさるな、別にとって喰おうというわけではない」
(ウソだ、頭っから喰うつもりのくせに)
壷の陰から睨むも目の縁取りが抜群の効果となって、色っぽい流し目と男には映ったようだ。
「なあに、パルスの外交も復活したが、ミスル国とはいまいち開かれた間柄とは言えぬ。
せめて我らだけでも温かい友情を交そうじゃないか。これが平和へ通ずる道というもの。
きっとパルスの神も嘉したもう。さあ、どうかその、美しく彩られた愛らしい指先を
わたくしめに預けていただけないだろうか?」
そう熱心に口説かれても顔の前の壷はどけられぬ。相手の顔を見たら笑いが止まらなくなると
分かっていたから、すでに震え出した手で壷を抱えるだけが彼女の精一杯だった。
「ああ!そう震えるでない。きっと優しくしてやるから案ずるな」
なおも口説く男に、そこから一歩も動けぬ美女。
周囲はこの成り行きを興味津々で見守っている。ある卓では賭けまで始まっていた。
「おおい、そこの新入り!もうその壷は空じゃろう。早く厨房に戻ってこおい!」
(助かったあ!)
短く首を振るだけの返事をして、ミスル美女はなおも食い下がる男から逃げるように走り去った。
「やあもう、ありがとうありがとう!」
頭を下げる主人に、支配人は余裕の笑いを向けてきた。
「いえいえ、これで貸し一つ、ですよ」
「む。仕方ないかなぁ」
「いえなに、そちらの仕出しにうちの店のを使ってもらえれば」
「それならお安いご用。して、取り分は幾らずつがお望みかな?」
あっという間に契約は成立し、すでに二人は商談に入っている。彼女は溜息をつき席を立った。
商談に自分は関係ないし、なにより囮を見張ってなくてはならないからだ。
こっそり後をつけ見ていると、厨房の脇の大きな樽から葡萄酒を壷に移しているところへ
近づく影がある。そして美女の手を引き、さらに物陰へと連れて行って何事か話しかけ始めた。
最初は何語で話しかけられているか分からなくて引きつった笑みを浮かべていたが、機転をきかせ
「ちょとだけなら、パルス語、解りまス」
と片言で話してみた。向こうも安心したようにほっと息をつく。男の方もミスル語にはいまいち
自信がなかったのである。
安心させるつもりなのだろうが、じつに胡散臭い親切そうな笑みをたたえ、その男は美女に
ゆっくり言葉をならべ、もっと稼げる話があるとしきりに勧誘をし掛けていた。
狙い通り囮に喰いついた男の特徴をしっかり頭に叩き込むと、ミスル美女に向けて小さく合図した。
翡翠と黒色の宝玉の瞳が宙で結び合う。
(これで、第一段階は成功ね)
そのころ、複数の男たちが卓の上に突っ伏し頭をかきむしっていた。
「ち、まったく!おぬしは酒に強いだけじゃなく、賭けにも強いのだな」
王宮詰めの将軍たちが一斉に机の上に投げ出した銀貨の山を上品に手元に寄せながら、
銀月のような涼しげな笑みをひらめかせ、浮かれ男が自分を見つけぬうちに席を立って
店から抜け出すことにする。ここから先は、女神官が囮の警護をすることになっているのだ。
(この銀貨は、これからの作戦に役立てさせてもらうとするかの。皆のもの、感謝じゃ)
そんなこととは知らぬ将軍たちは、自棄になったように酒を頼み憂さ晴らしをすることにした。
この晩の売り上げは、支配人の笑いがしばらく止まらなかったほど、ということである。
ちょwギーヴwwwなにやってんだよw
後で絶対ファランギースにからかわれるんだろうな、これw
おっと肝心のことを書き忘れた
>イアンナの魔法
GJ!!
そして銀英伝ネタの神もカモーン!
過去スレでも長編連載が入り乱れて嬉しい悲鳴を上げたことがあったが
別に混乱は起こらなかったと記憶している
そういうわけで是非投下希望
>>602
GJ!めっさ吹いたw
602銀英神もその他の神々もどうぞ投下して下さい。お待ちしてます。
613 :
名無しさん@ピンキー:2006/09/18(月) 20:14:35 ID:RjpkUL/f
お涼さんは?
>613
いいかげんageるのやめれ。
ageが分らないなら半年ROMれ
男に連れられミスル美女が着いた先は、やはりあの問題の妓館であった。
女の気が変わらぬうちに美辞麗句を尽くし、机の上に広げられた羊皮紙に名前を書かせようと
奮闘する様が、裏事情を知ってるだけに、なんとも片腹痛かった。
(これが“あの”契約書かあ)
そう思ってさりげなく文面を見ると、妓館に属する約束の期限は一年間。それでもって、
年季明けに支払われる金額は金貨二百枚だという。騎兵の二年分の俸給以上である。
糸杉の姫に出かけてくる前に、妓館の相場を聞いていたから、ずいぶんな大盤振る舞いである。
普通なら一夜に銀貨は十枚足らず。一日抱えるなら金貨一枚。上等な妓女ならその二倍から三倍。
高級妓館ハザール・アフサーナに居るのと同じだけの美女が、この妓館ではなんと銀貨数枚で
相手にできるというのだから、大繁盛するわけである。
しかし中身はパルス人であるから、隅に豆のような字で書かれた一文にすぐ気がついていた。
『年季明け前に辞めてしまった場合は、違約金が発生します』
さらに細々した但し書きが後に続いているようである。
これを持ち出せないかと部屋の中を見渡すが、窓は無く扉が一つだけ。さらに契約書は一枚きり。
懐に突っ込むのはわけないが、それではすぐに取り上げられてしまう。
うーん、と考え込んでいると手の中にペンを握り込まされ、名前を書かされそうになっていた。
「お前の名は?」
(そんなの、偽名なんて考えてなかったよ!)
冷たい汗が脇の下に流れるのを感じたが、教わったことを思い出して男に微笑みかけた。
「ん?なんだ、お前は字か書けないのか。だったらな、こうして、ほれこうだ!」
男は彼女の手を握ると指先にインクを付けて、指定の箇所にペタリとそれを押させてしまった。
「ほうら、これでお前さんもここのお姐さんだ。あとはあそこに立ってる女に聞いてくんな!」
男は上機嫌で羊皮紙を丸め懐に入れると、手のひらを返したような乱暴さで彼女を立ち上がらせ、
扉の横に控えていた小山のように肥えた中年女に向かって突き飛ばした。いきなりだったので
敏捷さでは並ぶものもない彼女も足がもつれ、床にへたり込んでしまっていた。
男の冷酷な目が瑞々しい肢体を舐め上げるようにすみずみまで見て回っていく。
その不気味さに肌は粟立ち、神経の上を小さな蛇が這いまわるような不快感が襲ってくる。
「お前はまだ処女なのか、珍しい。どこぞの金持ちにうんと高く売りつけてやるわ」
耳に不愉快な高笑いを一しきりすると、男は扉を閉めどこかにいってしまった。
おそらく契約書を仕舞いにいったのだろう。
見張り用の椅子にどっしりと腰をおろし、陰気な声で中年女は話しかけてきた。
「いいかい。紙一枚のこととはいえ、契約は契約だよ。もし、お役人に訴え出ようとしても
こっちにはちゃーんと取決めの証拠があるんだ。それに逃げたらもっと、大変なことになるよ」
それはきっと違約金のことだろうと思ったが、彼女は賢明に口を閉じていた。自分をミスル人だと
思わせておいたほうが、のちのち都合がいい。分からぬふりをして館内を見て歩けるだろうし、
いざとなったら変装を解いて別人と思わせたらいいのだから。
(せいぜい顔を覆って泣くふりぐらいしておいてやるか)
彼女は若くして歴戦といってよい強者だったから、これ程度ではちっとも怖くなかった。
次いで、中年女に妓女たちが寝泊りしている部屋に連れて行かれたが、表通りの看板やら壁は
綺麗なつくりだったのに、裏に回ればじめじめとした安普請だった。灯火もけちっているのか
廊下はうす暗く、彼女は板の継ぎ目に何度も足をとられかけた。
中年女はじゃらりと腰から鍵束を取り出すと錠前に突っ込み、わずかに隙間を空けると彼女を
内側に押し込んだ。
「水場と厠はそっちの中にあるからそれを使いな。それに売っ妓になれば個室に上げてやる。
せいぜい、稼いでおくれ」
鉄格子の向こうに遠ざかる巨体を見ながら、彼女はふんっと軽蔑のしるしとして思い切り舌を出し、
顔の前で指を鳴らしてやった。
「だーれがナルサス以外の男に花の操を奉げるもんかっ。まっぴらごめんだね!」
(さ、取り急ぎこの内側だけでも探っておかなくっちゃね。陰気臭いここの任務なんかさっさと
終わらしちまおう。なんたって「あたしのナルサス」に手柄話を聞いてもらわなくっちゃ
ならないんだから!)
抜け穴はないだろうと踏んでいたが、とりあえず四方の出入り口と部屋の数、閉じ込められた
女たちを数えると厠の方へ足を向けた。厠まで窓を塗り込めている、なんてことはないだろう。
思ったとおり、かなり高い位置ではあるが通気口として四角く夜空が切り取られていたので、
帯から細く切った竹を抜き出し、丈夫な絹糸をその両端に巻き付けて簡単な弓を作った。
さらに服の中から簡易な筆記具を取り出し薄紙に連絡事項を書き付けると、竹ひごに結んで
小さな窓に狙いを定め、外へ飛ばしてやった。弓は解いてまた元通りに身に付ける。
外に待ち受けている女神官がそれを拾い上げる手筈になっている。これで今日は一先ず終り。
さらなる指令は、妓館の客に扮してやってくる味方から聞くことになっている。
「まったく、どんな男がやってくるんだろうね。王都警備隊長のザラーヴァントあたりかな?」
日頃はもう寝ている時間に動き回っていたものだから、もうだいぶ眠くなってきている。
大きなあくびをして、一部屋に八人もの妓女が詰めこまれた部屋におとなしく戻ることにした。
狭い寝台に体を横たえると、すぐに彼女は眠りに落ちていった。
わくわくドキドキするなぁ
618 :
602:2006/09/19(火) 07:15:47 ID:rUGBI6D4
ゑ?俺、いつの間にかに髪扱い?
現状の投下のお邪魔するのも何ですので、暢気に神の作品を堪能させて頂きつつこちらも仕上げに入るとします。
中編程度の長さなので一挙に投下か、多くて4日間程度に分けて投下するかになると思います。
ちなみにカプ(なのかはちょっと謎)は疾風と伯爵令嬢と言う少々特殊仕様ですので、投下時には鳥つけます。
公式カプ以外は受け付けない方はNGワード登録なりで回避よろ。
エロパロの範疇には入ると思いますがエロらしいエロはないです。ギャグ落ちっぽいです。
投下はまだですが、特殊仕様なので前もって御連絡。
>>602 ありがとうございます。では遠慮なく投下続けさせてもらいます。
深夜、いつの間にやら作戦本部となった妓館の一室に例の男女四人が集まっている。
集中する視線の熱さは、薄い紙片が燃え上がらないのが不思議なほどであった。
「囚われている妓女たちは四十人ほど、という見積もりじゃ」
「……先日の女人の話では、新顔が毎日一人は入ってきていたという。店が出来て三ヶ月。
妓女を用意せずに店開きなぞありえないから、もう百人以上は店に控えているはずだが」
「店に今夜出ている妓女を入れても、まったく人数が合いませんわね」
「売っ妓には個室があるというが、うちと同じ広さの店だからせいぜいが五部屋だろう」
ある一文に差し掛かると、宰相は眼を上げ、信頼する者たちの顔を見た。
「違約金とあるが、それはおそらく、罰金とか軽いものではないのだろうな」
「さきほどの話に戻るが、あの女人が決死の思いで逃げ出したのも、この件なんだな」
主人の視線が紙片から離れ、翡翠の瞳に向けられた。
「はい。連日の過酷な勤めで身体を壊してしまい、もう辞めたいと訴えると契約書を持ち出し
恐ろしいほどの剣幕で怒鳴られたのだそうです。ひたすら震え上がり、客に付いた隙をみて
逃げ出してきたということです」
「違約金を払え、と迫ったという事じゃな。もし払えぬといったならば、」
「みなまで言うな、ファランギース。これはとんでもない事になってきおったぞ」
「少ない花代でどうしているのかと思っていたが、女の生き血を啜った儲けだったとはな!」
女神官が持ち帰ってきた紙片から浮かび上がってきたのは、酸鼻極まりない事実だった。
「その前に逃げ出せて、あの女人は本当に運が良かったんだな」
「ええ。きっと消えた妓女たちは……」
「パルスでは人身売買を固く禁じておるというのに、なんと外道な男じゃ!」
「国王御自ら敷いた法を破るという、それだけの危険を冒すからにはそれなりの対策も
とっているはず。互いに密告が無いよう、どこかに台帳を保管してあるに違いない」
売り飛ばされた妓女たちがどうなったかについては、誰も口にしようとはしなかった。
重く圧し掛かる空気を切り替えようと、宰相にかねてから思っていた疑問をぶつけてみた。
「あちらへの連絡役には誰をお選びになったのじゃ?」
「いまさら聞くまでもないだろう。それはもちろん、あの男だ。それ以外に誰が居る?」
老齢の男がまるで悪童の顔つきで言うものだから、女神官は失笑してしまっていた。
それを見ていたもう一組の男女はあとでこう話したものだった。
「あの男は一石二鳥を狙ってるな。罪人を捕らえるのと、例の男の結婚と」
「あら一石三鳥ですわ。なにより宰相さまが一番望んでらっしゃるのは陛下のご結婚」
「そう、上手く事が運ぶかな?」
「ふふふ。神々の御心は人知のおよばぬところですから、どうでしょうね」
今のところパルス存亡の危機もないので、宮廷画家は俗世間のことは部下に任せ、
身の回りの細々とした用事は使用人に世話してもらって、自宅で絵と酒の日々を
優雅に送っている。今朝までは、その二つだけが宮廷画家の日課だったのだが……
「朝早くから王宮に呼びたててしまって、すまないの」
「いえ、お構いなく。ただ、宰相の椅子を譲るという話なら慎んでご辞退申し上げる所存」
「ん?そうではない。今すぐ向かってもらいたい先があるのだ。おぬしにしか頼めぬ」
「そこまでおっしゃるのなら、お引き受けいたしましょう。一体どこへ?」
「今から妓館に行き女を買ってほしいのだ。王宮公認だぞ、嬉しかろう?花代も用意してある」
「なっ……!?」
大陸公路一の智将を絶句させるという偉業を成し遂げたのは、これで二人目である。
一人目は言うまでもない。
満足げな表情を浮かべ、宰相は男の背をもう一押しする。
「ほれ、早く行かぬか。急がぬと目当ての妓女に他の客が付いてしまう」
「そんなことだったら、なにも私でなくとも別の者に行かせればいいじゃないですかっ?」
「アルフリードのことを気にしておるのか?」
思わぬところから攻撃を繰り出され、宮廷画家は大きくよろめいた。
「いや、彼女はこの件とは関係ありませんし、だいたいなんで気兼ねする必要があるのか」
「卿は暑がりなのか?まだ朝の涼しい時分というのにそんなに汗をかいてしまって」
「う……」
「これが例の妓女に渡してほしい通信文と、必要経費と屋敷の見取り図だ。おぬしはそうだな、
香料問屋の若旦那という触れ込みでよかろう。処女(おとめ)が希望であると必ず指定のこと。
ああ、もしその娘とどうこうなっても一向に構わぬ。役得という事で収めておけ」
「そんなこと、で、出来ませんよっ!」
「気兼ねする相手は居なかったのじゃないのかな?」
「それはそうなんですが、いや、居ないと言えないこともないというか、その、」
ここまで優柔不断ぶりを見せつけられるといっそのこと天晴れと言いたくなるが、
それは心の内に納めてこう言った。
「まあよい。ぬかるなよ」
「……では、行ってまいります」
額ににじんだ脂汗をぬぐって、どうにか動揺から立ち直った宮廷画家は宰相に一礼した。
次に顔を上げた時には、もう涼しげな表情を取り戻している。
扉を開けかけたところで、試しに宰相は一声投げてみた。
「案ずるな。アルフリードは一族の様子を見てくるとかで、いまは王都には居らぬ」
廊下で誰ぞ派手に転んだような音が、閉じた扉の向こうから聞こえてきた。
――こうして、宮廷画家の絵と酒の日々に「女」という項目が加わった。
男なら誰もが羨む境遇なのに、なぜか本人はいっこうに嬉しい顔をしなかったという。
wktk
何て云ったら良いんだろう。
結構大変な話なのに何だか物凄く楽しいw
続きwktkで待ってます。
妓女を外に遣る娼家もあるが、屋敷に客を招き入れる場合の流れとしては、夜に客を入れ、
朝に送り出すというものである。
ところがこの妓館の場合は、夕方どころか朝から開けて客をどんどん入れている。
大変なのは妓女である。日に数回、身体を洗い流すため、あっという間に肌はがさがさ。
睡眠も満足に取れないから、よほど頑丈でないかぎり三月も経てば床につくという始末。
数日、奥で休んで体力が回復すればまだ良いが、寝付いたままになると、いつの間にやら
妓館から姿は消えて、そのまま二度と戻ることはなかった。
粋狂な客に気に入られて、一日買い上げともなればまだ少しは休めるだろうが、異国語しか
話せぬ妓女にいったいどんな贔屓客がつくというのだろう。
ところが、その粋狂な客が現れた。
「処女を」と望む相手に、男はさっそく昨日入れたばかりのミスル美女をあてがうことにした。
金貨五枚と吹っ掛けたのだが、香料問屋の若旦那と名乗る見目良い風貌の男は、なんと倍額を
目の前で支払ったのだ。欲に目が眩んだ男は裏になにやら事情があるのではと疑うこともなく、
妓女を一番良い個室に入れると、手を擦り合わせながら男を部屋へと招き入れた。
一番いい部屋だけあって風通しもよく、目の前には樹木の緑が美しく照り映えている。
右手には広い寝台、左には簡素な卓と椅子。朝湯をつかって化粧もどうにか整えた
例の“ミスル美女”はつややかな黒髪をさらりと頬に流し、客に扮した味方に向かって
深々と頭を下げ、ゆっくり三つ数えて面を上げた。
一瞬の空白。
猫のように寝台の上に飛び乗って壁に張り付いた妓女に向かい、香料問屋の若旦那、
もとい宮廷画家は怪しいものではないというように感じよく笑いかけた。
「おぬしも聞いておるだろうが、おれは王宮側の人間だ。安心しろ」
妓女は驚きのあまり内で飛び跳ねる胸のあたりをぎゅっと掴み、じっと相手の様子を伺った。
「おぬし、パルス語は喋れるか?」
自分の正体が見抜かれなかったことに心の底から安心して、今度は落ち着いて向き直った。
「はい、もちろんです」
「それでは用件を済ませるとするか。これがこの屋敷の見取り図で、昨夜の手紙の返信と、
あとは、今日一日おぬしを買い切りにする代金だ」
「一日中ここに居らっしゃるおつもりなんですか?」
「いや、これは買い切りだ。おぬしが他の客を取らなくていいようにするための代金だから
これが終わったら帰るとするさ。おぬしだって、その方が気が楽だろう?」
「でも、こんなに早く上がられたら怪しまれてしまいますわ」
「それもそうだな。ここは居心地もいいし、もう少しゆっくりしていくか。で、いったい何が
この妓館に起こってるんだ?どうせ乗りかかった船だ。助けになれることもあるだろう」
「優しいんですのね」
「そんなに買い被ってくれるな。知らずに人に使われるなんてのは癪に思う性質なだけさ」
「それなら、きっとこの返信を読めば分かります。どうぞ」
読みすすんでいくうちに宮廷画家の顔はみるみる険しくなっていく。
「法を逆手にとって悪用するとは、断じて赦せぬ」
妓女の方もあまりに重い事実を知って青ざめて震えていたが、気を失ったりはしなかった。
いや、本気で怒っている。その表情は驚くほど生気にみちて美しく、宮廷画家はその顔を
どこかで見たような気がしていた。
頃合いとみて宮廷画家は立ち上がった。上着に手を通すのを妓女は後ろから手伝ってやる。
「きっと、この妓館にいる全員を助けてやろう。何か言付けはないか」
「ではおねだりしても、よろしいでしょうか?」
「おれは香料問屋の若旦那だからな。なんだって言ってくれ」
「具合が悪くて寝ているお姐さんたちへの薬と、清潔な布をたくさんと、肌荒れ用の軟膏」
自分のことは何一つ要求しないミスル美女の純な微笑みに、心が傾きそうになる。
愛想のいい男の声に送られ、午前の内に妓館を出た。
(いかんいかんっ!こんなことが知れたら、周りの者になんと言われるか!)
宮廷画家は歩きながら、頭を振って唸っていた。
一週間ほど、同じような妓館通いが続いていた。
部屋の中にあるのは寝台だけなのだから、なにやら色めいた事になってもよさそうなのに、
どちらもその方面に進もうとはせず、おかげで宰相はずっと気を揉みっ放しである。
「うぬ、あれだけの美女を前にして手を出さぬとは!まったく稀にみる優柔不断ぶりだの」
「お褒めになっておいでなので?」
「めずらしい、といったのだ」
差入れの薬を袋に詰める手が止まり、軽やかな笑い声が作戦本部に響いた。
「恐れ入りました」
「なんとかならぬものかなぁ」
真剣に頭を悩ましている宰相の様子に、妓館の主は一つの小瓶を取り出した。
「これなんかどうです?近ごろ街中で大評判だというこの練り香水。なんでも使えば
意中の男が必ず振り向いてくれるという。いつ誰が言い始めたのかは知らないが、
“イアンナの魔法”。作った者の名前をとって、皆はそう呼んでおる」
「いやだ、お恥ずかしい」
「よし」
宰相の手はそれを掴むと袋の中に早速入れ込んだ。
その光景を見て、今夜の通信文を手にしたまま女神官は思わず呟いていた。
「宰相どのがああまで必死になられるとは……優柔不断もここに極まれり、じゃな」
――凶悪犯罪を叩き潰さんとパルス王宮の高官達が日夜走り回っている頃。
「なに、パルス国の宰相、副宰相がそろって連日、妓館通いをしていると?!」
パルス国内に放った間者からその情報を聞いた“陽気な陰謀家”は玉座から飛び上がった。
「待ってくだされ、これはこちらを混乱させるための軍師めの罠かもしれませぬぞ!」
「ふむ。その可能性はあるかもな」
あっさり国王が引き下がってくれたことに、居並ぶ将軍たちは安堵の溜息をついていた。
「純情なあの王様も、それぐらいの男気があってほしいものよの、わははは」
国王とのつきあいが長い将軍は、つつましく沈黙を守っていた。
「……決行は?」
「今日の夜。」
「すり替える書類は?」
「ここに。」
「見せてもらっていいだろうか」
妓女は肯くと、この一週間の間、囚われの妓女たちに銀貨を握らせながら回って集めた
契約書の束を宮廷画家に手渡した。これはきちんと取り決めのされた真っ当な契約書である。
文面は宰相と副宰相とが考えた。
そしてもう一つの束、人身売買の証拠となる台帳もすでに偽物を用意済みである。
香油をここの妓館に卸させてほしいと商談にかこつけ、支配人室に入り込んだ若旦那、
もとい、宮廷画家が本物を盗み見てあらかじめ作らせておいたものである。
朝の陽の光に黒髪がきらきらと反射して繊細な目鼻立ちを引き立ている。
その髪をかき上げ、妓女はじっと宮廷画家の手元をのぞきこんだ。
「夜中になったら窓から木を伝って地上に降りて、支配人室に火をつけた眠り薬を――」
今夜の計画を説明されるも、すぐ隣からただよってくる甘い匂いに気が取られてどうにも
集中できない。薔薇色の肌をしているのは、朝湯をつかったばかりなのだろうか。
触れてみたい。
唇が妓女の髪に触れかけたとき、体の芯がずくりと動いた。
「あの」
黒い宝石のように煌く瞳とまともに向き合ってしまって、宮廷画家は慌てて顔をそむけた。
(こんなときになに考えてるんだ、おれは!)
「なにか、計画に不安なことでも?」
妓女は口ごもり、顔をぐっと近づけて宮廷画家を見つめた。途方に暮れたような目をしていた。
なにか言いかけては黙り、口元がゆらゆらする。
「ん?どうした」
「わたくしが、まだ処女であることが使用人の女に見抜かれてしまいました」
「さすがにこれ以上引っ張るのは難しいか」
「けれど、ナルサスさまはわたくしと寝るおつもりはないのでしょう?」
「任務の最中だしな。それに、このことをあまり耳に入れさせたくない相手が居てな」
「その相手とは、どんなお方なのですか?」
そんなことは言う必要ない、と突っぱねてもいいのに真面目に考え込むあたりが、
(ナルサスらしくって、いい)
と妓女には嬉しかった。
「も、もちろん、妻ではないし、それに情人……でもない。何もないんだからな、ああ。
なんと言ったらいいのか、知り合ってからずいぶん長いし、ともに馬を並べて戦場を駆けた
そういう間柄ではあるのだが。そのう、友人というにはもう少し何かある、よう、な。
ああ!いくら口で説明したところで、現実にその相手を目の前にしなければ分からぬっ!」
歯切れの悪すぎる返答を聞いていられなくて、妓女はそっぽを向いてしまっていた。
そのように宮廷画家は思ったのだが、果たしてこの推測は当たっていたのか。
「それより、こうも怪しまれ見張られたままでは、書類のすり替えもままなりません。
どうかお願いです。睦み事の真似だけでいいですから、していただけませんか?
今だってあの使用人の女が、扉の向こうで聞き耳を立てているんです。
ねえ、どうしたらいいのでしょう?」
妓女の体臭と混ざり合ったえもいわれぬ匂いが強力な誘惑を男の本能に仕掛けてくる。
抱きつかれ、一瞬、突き上げるような欲望に目が眩んだ。
肢体がみずみずしくしなやかなことは、服越しにも生々しく伝わってくる。
「ナルサスさま?」
妓女が小首をかしげると黒髪がさらりと流れた。手を伸ばせば触ることが出来る。
ふれて、口付けをして、それから。
大きな影が落ちてきた。手首をとられ、もう片手で形のいいあごをつかまれて
唇を優しく吸われるのを女は感じていた。薔薇とジャスミンと、あと何かの香り。
眩暈がするほど甘い香りが密着した肌から立ちのぼり、二人の脳裏を赤く染めあげた。
「やり方は知ってるけどさ、どこから始めたらいいんだろう?」
すでに女言葉を使う余裕もなくなったアルフリードだったが、それに気付く冷静さは
ナルサスからもとっくになくなっていた。
「じゃあ、まねごとだから最後まではせぬぞ。それでいいか?」
「うん」
そのままナルサスはアルフリードの細い身体を巻き取るように抱き寄せ、柔らかな胸に
手をのばしていく。
「あっ、だめ」
押しのけようとする腕をナルサスはつかみ、細い手首を一まとめに上げさせる。
その間にも、大きな手はアルフリードの足のつけねに向かっている。中心がほころぶように
開きはじめていく。
(ナルサスって、なんだかすごく……、)
次々おそってくる初めての快感に翻弄されっぱなしだったが、ナルサスが手馴れていることは
なんとなくアルフリードにも感じられた。
「……先にあれと出会ってなければ、分からなかったかもな」
かすれた囁きが、アルフリードの心を溶かす。
「んっ!くぅ」
いつの間にか上も脱がされていて、ナルサスの唇が胸の頂点をとらえていた。
アルフリードはくらくらしながら目の前の広い肩にすがりつく。
汗が流れ、なぜか眼からあふれる涙と混じり合って白いシーツに濡れた痕をつけた。
喘ぎながら身体をよじるも、手はそこに吸い付いたように離れない。
「ふっ……は、あ、あっ、ああ、……あああああああああああぁぁっ!!」
ナルサスのはだけた胸が背中に重なってきて、ぴたりと貼りついてきた。
このまま溶けてくっついてしまいそうだ、とアルフリードは思った。
「……これぐらいで、いいか?」
「でも、ナルサスはまだ…だろ」
「そう言ってくれるのはありがたいが、最後までしないという約束だったろう」
「あの、ここのお姐さんたちに教わったんだ。こういう方法があるんだって」
「おおっ?!」
アルフリードは足を合わせて、滑らかな腿でナルサスの先端をきゅっと挟み込んでいた。
みっちりと締め上げられる柔らかな感触と、直接に触れる熱くて濡れた肉の感触に
腰が自然と前後に揺れてくる。もう、止められない。
最後に誰かの名を呼んだような気がしたが、声に出してはいなかったのかもしれない。
扉の向こうの気配は、すでに消えていた。
「どうやら、普通の妓女と客同士だと向こうに思わせられたようですわ」
今日は、見張りつきではあったが妓女は玄関の外まで見送りに出てきたのだった。
「ナルサスさまとこうしてお会いするのも、これで最後と思います」
「そうか。本当に今晩は一人で、大丈夫なのか?」
「こう見えても、弓も剣も並みの男より使えますから大丈夫です」
生真面目に答えて、目の前の妓女はくすりと笑った。
「……あ」
なにか思い出せそうな気がして思わず声を掛けていたが、その前に妓女は黒髪をなびかせ
あっという間に妓館の中へと戻っていってしまっていた。
後は、作戦本部の立てた台本通りに事は運んだ。
王都警備隊が突入したときも、妓館一味は契約書のことがあったのか余裕をみせていたが、
「新しい契約書を国王の前で胸を張って掲げてみせたあとの、あの慌てぶりといったら!」
「それに、人身売買の組織も芋づる式に一網打尽にできたのじゃから、めでたいの」
「わたくしも、心置きなく絹の国へ留学できますわ」
「あたしも変装できて楽しかったぁ!」
唯一宰相だけが、浮かぬ顔だった。
「権謀術数の限りを尽くしたというのに、それもとうとう潰えてしまったわ。
わたしの望みなど、ほんのささやかなものだというのになあ。
『副宰相を結婚させ、国王に結婚を決意させ、自分は宰相の座から引退する』
そう、たったこれだけの願いだというのに!……ああ」
「宰相どのが肩を落とすのも無理はない。強敵と争って敗れたというならともかく」
「ナルサスの優柔不断さに敗れたとあっちゃね!手柄話が出来ないのが残念だよ」
「……おぬしは、まったく辛抱づよいのう」
「まあね。男を見る目がありすぎるってのも困りもんだよね」
「わたくしも同感です、ふふふ。この練り香水そのまま差し上げますわ」
「ほんと?ありがとう!」
「気付いたときのあの男の顔が見たいものじゃの」
「わたしは、諦めんぞーっ!!」
今回の作戦部隊一同、祝杯をあげに『糸杉の姫』へ向かって意気揚々と歩き出していった。
―終―
なんかもう、アル戦燃え(萌え)尽きた……
ようやく大本命のナルサス×アルフリードが書ききれて大満足。
でも、寸止めw(それは原作ではしていないからだ)
きっと次の投下は次スレになると思います。それじゃ一旦さようなら。
相変わらずGJです!
ほとんどリアルタイムで読ませて頂きました。
続きが楽しみでつい何度もリロしてしまいましたw
アルフリード可愛すぎで萌え死にそうです。
乙&GJ!
寸止めカワイソスだけどアルフリード可愛いよアルフリード
そしてお隣の国の陽気な王様バロスwww
……薔薇の神、すてきだ。
速まる鼓動と腹の奥に広がる暖かい気持ち…。
誰だ、おれにイアンナの魔法をかけたのはっ??
ヴァレダ神、住人たちに素敵な魔法をありがとう。GJですた!
乙&GJ!
銀英神の投下も楽しみです。
前スレで名乗り上げてた疾風×ヒルダの人?待ってたよ。
筆力スゴー情景描写スゴー
何者ですか神よ
本人だったりしてな・・・というのは冗談だがw
原作読んだこと無いけど何だか読みたくなってきちゃったよ。
神様テラスゴス
どうも。紙です。訂正一つ。
>>624の文中。
睡眠も満足に取れないから、よほど頑丈でないかぎり「一月」も経てば床につくという始末。
それと、色んな感想いただけて非常に嬉しいのですが、それなのに!!
投下するとき一段落飛ばしてしまいました…… orz orz orz
無くても大丈夫な部分かもしれませんが、追加させてください。
>>625の次に↓この段落入れて下さい。
「――っと。じゃあ、それをこっちに寄越しておくれ」
熱病に倒れた異国の女は、寝台に横たわったまま弱々しく羊皮紙を差し出した。
それを受け取りながら、額に浮かぶ汗をそっと拭ってやる。
「だいじょうぶ。今に助けがきて、あんたは故郷に帰れるさ」
「……どうしてそんなに優しくしてくれるの?わたしは奴隷同様の卑しい女なのに」
「そうやって自分を蔑むのはおよしよ。あんたは悪い奴に騙された、ただそれだけのことさ」
ミスル風の装いをした美女は、茶目っ気のある表情で人差し指をふってみせた。
「それに、名前を書いてくれた“これ”が、きっとあんたを助けてくれるよ」
励ますように妓女の痩せた手を握ると、彼女はすっくと立ち上がった。
これで、囚われた妓女全員の分を集めることができた。
いつでも決行可能なことを薄紙に書きこむと、厠に行って矢文を飛ばした。
部屋に戻る途中、あの中年女に行き会った。探るようなきつい眼をこちらに向けてきた。
「……あの若旦那は高い金を払ってここに何しに来てるんだい?お前は未通女(おぼこ)の
体つきのままじゃないか。ずいぶんおかしなことも、あるもんだねえ?」
中年女は彼女の耳元に顔をよせると低い声で囁いた。
「なにやらちょろちょろ動き回っているようだが、いったいどういうつもりだえ?」
「わたくしは新入りだから、その……みんなと仲良くしようと思って」
「ふん。若旦那の趣味がどうあれ、お前がいい金蔓であることに変わりはないからな」
鋭い一瞥を投げて中年女は行過ぎていく。巨体が闇に呑みこまれていき、ふいに消えた。
――夜半すぎて雨となった。朝になり勢いは弱まったが、まだ降り続いている。
だいぶ手馴れた化粧をすませ、彼女は白い天蓋のかかった寝台の上で考え続けていた。
くつろいでいるように見えるが、内心の緊張は解いてはいない。
扉が開き、一人の男が中に入ってきた。
「まあ!ずいぶんと雨に濡れてしまわれて」
かいがいしく湿った髪を拭いてやり、絹のやわらかな寝着を差し出し着替えさせた。
帯を軽く結んだだけのくつろいだ姿で、男は妓女が寝そべる寝台に腰を下ろした。
ここは妓館。男女が交わる、ただそのことだけを目的とした快楽の館である。
だというのに、寝台の上で交される言葉は以下のような色気のないものだった。
>637
おつかれさん。
ひとつだけ書かせてもらうと、会話シーンとかで誰が誰か分からない事がある。
次は、そのあたりにも気を使ってもらうと、ますますGJ!なんだが。
乙であります神様。
アルスラーンは中断してから待つのに疲れて処分しちゃったんだけど、
図書館で新刊共々読み直してみようかなと思いました。
で、>618で述べた奴を投下しようと思います。
改めて注意ですが、カフ(と言っていいのかは謎)゚は疾風と伯爵令嬢です。
一応エロパロ的オチはつけますが、エロらしいエロはありません。
ちょいと長いので数日に分けて分割投下しますが、皆さん好きにやって下さい。
疾風が嫁さん以外に萌えるのが許せない人や
令嬢が金髪さん以外に萌え(ry 人は鳥つけてるのでNGワード登録で回避して下さい。
つーか疾風、全然嫁に惚れてます。
12日間行われたバーミリオン会戦自体の勝敗は明らかではないが、少なくとも帝国軍の別働隊が同盟の首都星ハイネセンを陥れ、それにより同盟が無条件停戦を申し入れた。
そのために帝国軍はハイネセンに降り立ち、伴った行政官を中心として今後の支配体制について議論が持たれていた。
その結果「講和を受け容れたがこのまま同盟を併呑するのは時期尚早」との結論に達し、5月25日に同盟との間に「バーラトの和約」が成立する。軍事的・経済的に同盟の国力を殺ぐ事には変わりはないが、同盟の完全併呑は数年、或いは数十年先に延期される運びとなる。
和約が締結された以上、帝国軍本体はハイネセンに居残る必要性はない。新たに任命する高等弁務官と駐留司令官に統治を委託し、同盟市民の抵抗が形になる前に首都星を去る事となった。
帝国側にも今後の予定――新帝国建設とそれに伴う実務――が山積しているからである。
ヒルデガルド・フォン・マリーンドルフ、通称フロイライン・マリーンドルフは自由惑星同盟の最高評議会ビルの廊下を歩いていた。
彼女は帝国宰相ローエングラム公の秘書官であり、今回のラグナロック作戦においては中佐待遇で帝国軍旗艦ブリュンヒルトに同乗していた。
その後は行政官と共にバーラトの和約に関する議論に参加している。それも一段落し、後は帝都星オーディンに帰還するばかりとなっていた。
「――フロイライン・マリーンドルフ」
「ミッターマイヤー提督、お疲れ様です」
その日、ヒルダは廊下で小柄な高級将官と出会い、挨拶を交わした。
ウォルフガング・ミッターマイヤーは上級大将であり、その地位と武勲は帝国軍最高司令官であるローエングラム公に次ぐものである。もっともそれは彼が独占している訳ではなく、僚友かつ親友であるオスカー・フォン・ロイエンタール上級大将と共有している栄誉であった。
銀で彩られた黒の軍服に身を包んだミッターマイヤーは、ヒルダに対して挨拶と共に敬礼を行う。それに対し、伯爵令嬢は微笑んだ。
「私などよりも…会戦が終結し事が行政に至りましたから、フロイラインも色々とお疲れでしょう」
「いえ、提督方は銀河帝国正当政府に関する事項でお忙しかった御様子ですから…」
「これは、お気遣い頂きまして…」
ミッターマイヤーは苦笑した。彼とロイエンタールはハイネセン降下後、同盟に匿われている格好になっていた銀河帝国正統政府への捜索と弾圧に従事していた。
結果として彼らの働きによって亡命政権ははかなく消失する事となったが、正統政府が擁立した幼帝の確保には至らなかったのだ。
ローエングラム公は幼帝を取り逃がした事をそれ程気にしていない様子ではあったが、それでも両提督にとっては自分達の失態にはいささか恐縮せざるを得ない。
ふと、ミッターマイヤーは気付いたような顔をする。敬礼していた手を下ろし、ヒルダに話しかけた。
「そうだ。フロイライン、明日は休日と伺っておりますが」
「ええ、そうですけれど。――確か両提督もそうでしたわね」
今廊下で話しているこのふたりは宰相の秘書官と軍の最高幹部であり、それぞれローエングラム公の近しい場所に立つ以上、互いの公式日程はそれなりに把握しているものである。だからこの会話自体をヒルダは不思議なものだとは思わなかった。
しかし、ミッターマイヤーは髪に手を当てながら、苦笑気味にこう切り出した。
「他に御予定がないのでしたら、日中に小官とお付き合い頂けないでしょうか?」
この申し出にはヒルダは少しばかり驚いてしまう。胸元に手を添え、訝しげに提督を見上げた。
「…私が、ですか?」
「ええ…折角ハイネセンに来たものですから、市街を少しは見ておきたくて」
――それで、どうして私と一緒に?
ヒルダはそんな疑問を抱かざるを得ない。戸惑いがちにミッターマイヤーを見上げる。いくら目の前の提督が軍人としては規格外に小柄とは言え、戦闘員でもない一般的な女性であるヒルダよりは上背があった。
その視線の意味に気付いたミッターマイヤーは軽く笑う。
「実は、私の妻に何か土産を買って行きたいのですよ」
「奥様にですか?」
「ええ。軍人となって以来最前線に身を置く事が多いので、遠征してもあまりまともな土産を持って帰った事がないのです。
しかし今回ばかりは…敵国の首都星ですからな。帝国側では見られない珍しいものもあるのではないかと思いまして。しかも、今後この惑星を再訪問出来るとも限りませんから」
「それで、私と?」
「はい。折角ですから、女性であるフロイラインの助言を頂きたく」
ヒルダはミッターマイヤーの説明を理解した。
実戦部隊統括の第一人者であるミッターマイヤーがこのハイネセンを再訪問するとなれば、それはすなわち同盟の首都陥落を意味するだろう。
いくら和約が成立したからとは言え、そんな事態が近年中に勃発するとは思えない。そのためにこの貴重なチャンスを生かしておきたい。そしてこのチャンスを完全に生かすために、普段は得られないであろう女性の同伴者からの助言を得たい――そう言う事なのだと。
しかしヒルダの心中には、新たな疑問点が沸きあがってくる。彼女は、顎に手を当て考え込む仕草を見せた。
「ロイエンタール提督は、そのような事にもお詳しいのでは?」
彼女の口からこんな問いがなされた。ミッターマイヤーはロイエンタールは「双璧」と称される帝国軍を代表する高級将官である。そのふたりが親しい事は、帝国の一臣民レベルにも知れ渡っている事実である。
更にロイエンタール提督は、「漁色家」と言う輝かしい呼称が与えられる程に女性関係が凄まじい事になっていた。
そんなロイエンタールと買い物に行けば、特に面倒もないだろうとヒルダは思ったのだ。何せロイエンタールも明日は同じく休日なのであるのだから。
すると、ミッターマイヤーは何やら微妙な成分が含まれている微笑を浮かべた。蜂蜜色の髪に手をやりつつ言う。
「いや…彼は案外、こういう事に不得手なのですよ」
「…そうなのですか?」
「ええ、彼はあれでいて、付き合っている女性に贈り物などを全くしない男でして」
「はあ…」
帝国随一の知力を誇るヒルダにも理解できない事は存在する。ロイエンタールは漁色家と言う称号を欲しいままにしているだけあり、女性の扱いには慣れていると彼女は考えていた。
だからこそ、ミッターマイヤーへのこの手の助言も可能かと思っていたが、どうやらそもそも「贈り物を渡す事を経験していない」らしい。漁色とは言っても彼は自分から労力は使わない人種なのだと、彼女はようやく知った。
顎に手を当てたままであるヒルダを見やり、ミッターマイヤーは慌てた風になる。考え込んでいる姿を見て、自分の誘いに対して難色を示しているものだと言う解釈をしたのだろう。両手を上げて胸の前で軽く振った。眉を寄せてヒルダに言う。
「――御都合が悪いのでしたら、無理にとは申しません。私の都合ですから」
この慌て振りにヒルダは視線を上げた。手を顎から外す。困った風でいて相手を気遣うような相手の表情に、彼女は好感を覚えた。
と同時にこれを放置していてはいけないとも思う。何せ彼女は目の前の人物の提案に対して難色を示している訳ではないのだから。彼女はそれを行動に表した。胸に片手を当て、提督を微笑んで見上げた。
「…いえ、そうではありませんわ、提督。私もハイネセン市街を歩いてみたいです」
「そうですか。それは良かった!」
回答を得たミッターマイヤーは、両手を広げて喜びを見せた。その爽やかな笑顔は誰もに好感を抱かせるもので、それは現在のヒルダに対しても同じであった。
目的に対して同意が得られたため、その後の会話は短いものとなる。場所が廊下なので長々と話し込む訳にもいかなかった。
明日の昼前からならば日中の予定はありません、と言うヒルダの申し入れにミッターマイヤーは頷いた。それならば、と彼が昼頃にヒルダに与えられた官舎を訪問する事となった。
別れ際に再び彼はヒルダに対して敬礼し、恭しい一礼を行う。そして顔を上げた後には微笑みを浮かべ、彼女の前から立ち去った。その背中をヒルダは見送る。
ちなみにロイエンタールに関するミッターマイヤーの発言には嘘は含まれておらず、それによって引き出されたヒルダの推論も真実を言い当てている。
しかし蜂蜜色の髪を持つこの提督は、親友の所業を全て伯爵令嬢に告発した訳ではない。
実は、彼の妻であるエヴァンゼリンへ――と言う触れ込みで、ロイエンタールから贈り物を渡された事は数度存在した。
しかしそれらは、例えばワインに催淫剤を仕込んでいたとか、妻に渡す前に念のために包みの中身を訊いてみたら微笑みと共にバイブレーターだと告白されたとか――瞬間に鉄拳制裁してしまう事例ばかりだったのである。
始末の悪い事に、これらの趣味の悪い贈り物は本気でミッターマイヤー夫妻に対する完全なる好意の元に選ばれていると言う事実があった。
そのために何故怒られ殴られるのかを金銀妖瞳の漁色家は理解出来ない様子で、そんな彼の様子が更にミッターマイヤーをげんなりさせるのが常だったのだ。
これらの経験が数度重なると、流石にミッターマイヤーは妻への贈り物に関しては親友を頼る気を完全になくしていた。彼が今回ロイエンタールではなくヒルダに相談を持ちかけたのは、この事情のためである。
ヤバイ…神二連発キターーー!!!!1!!!
禿しくGJです!
wktkしすぎて、遅まきながら入手したアル戦11巻を紐解く時間がないww
銀英キタコレ。
続き楽しみにしています!
ちょw
何気にロイがとんでもないことしてるじゃないかwww
ロイエンタールひでぇw まだ若いのにする事が親父だ…www
銀英続き滅茶wktkしてます。GJ!
しかもそんなサイテーなプレゼント攻撃が何度もwって!
他には何を渡したんだろうか?
>>602 あっ!!催淫剤入りのワインて、もしや以前「やたら積極的なエヴァたん」をお書きになった
神ですか!?
「――今日は本当に助かりました、フロイライン」
「いえ、私こそハイネセンを歩き回る事が出来てとても興味深いですわ、提督」
春の終わり、初夏の暖かい天気の下で、銀河帝国軍上級大将ウォルフガング・ミッターマイヤーと帝国宰相付の首席秘書官ヒルデガルド・フォン・マリーンドルフは、自由惑星同盟の首都星であるハイネセンの繁華街にてこのような会話を交わしていた。
とは言え彼らはいつものような軍服などの姿ではない。
通称ヒルダ――或いは帝国軍幹部からはフロイライン・マリーンドルフと呼ばれる娘は、普段の秘書官としての少年じみたパンツスーツではなく、デニム地のロングスカートにジャケットを合わせている。
開いた首元には細いチェーンのネックレスを合わせ、いつものようにブローチで止めたスカーフで隠す事もしていない。耳元のピアスもネックレスと合わせて小さめの宝石のアクセントである。
化粧はいつものように薄いものであったが、唇に差した薄紅色は普段よりは若干色濃い。足元はそれ程ヒールが高くないショートブーツで纏めている。ハイネセン在住の大学生と言った印象を醸し出しており、年齢相応の「お嬢さん」に見えた。
その隣に歩くミッターマイヤーはあっさりとしたもので、黒のストレートパンツに白のシャツであり、軍服と合わせても違和感がないような黒い革靴を履いている。
ヒルダが大学生ならば彼は院生のような感じである。まとまりがない蜂蜜色の髪はそのままであり、軍服を着ていない彼は元々の童顔も相まって更に若く見えた。
ミッターマイヤーは微笑みながら、腕の中の手提げ鞄を軽く叩いて示す。
「フロイラインのお見立てで、良い品物を買う事が出来ました」
ミッターマイヤーが持つ手提げ鞄の中に、先程買った妻への土産が入っている。その皮製の鞄は質素であり、彼自身の院生めいた雰囲気を更に増していた。
通行人が彼を気に留めたなら、その鞄の中身は書籍や小型端末かと言う印象を持つだろう。現状の彼はハイネセンの街路から浮き立つ事はない。余計な注目を集めるような事はなかった。
それは隣を歩く「大学生のお嬢さん」も同様である。こちらはそれなりのブランド品であるハンドバックの紐を肩に掛けて歩いている。
彼女にとってスカートはあまり履き慣れないせいか、妙に足にまとわりついてくるような感触がしていた。代わりに初夏の空気が直に足に触れるような気もして、それはそれで心地が良い。
「奥様が喜んで下さるといいのですが」
「大丈夫です、きっと」
ちなみにここでの彼らの会話は帝国公用語ではなく、同盟公用語を使っている。服装をハイネセンに溶け込むようにそれなりに気を遣っているのに、交わす会話が帝国公用語であっては意味がないと両者が思ったからである。
ヒルダは帝国随一の才女であり乱世における情報分析に長けているために、それを裏付けるだけの言語力を持ち合わせていた。ミッターマイヤーは長年最前線に身を置いてきた軍人であり、敵国語を理解出来るに越した事はない状況に常日頃置かれていた。
そのため、この両者は日常会話レベルの同盟公用語を使いこなす事が可能だった。
それでもこの時点においても、ヒルダはミッターマイヤーの事を「提督」と呼び、ミッターマイヤーに至っては結局ヒルダの事を訳しようもなく「フロイライン」と呼ぶ他なかった。
周囲に溶け込むために完璧を期すならば、例えば互いを名前で呼び合うとかそんな事もやりようがあったのだが、そこまで近しい距離を演じるのは彼らには気恥ずかしかったのだった。
石畳で舗装されている歩道に革靴の音を僅かに響かせつつ、ミッターマイヤーはヒルダを見た。グレーの瞳を細め、話し掛ける。
「――折角市街に出たのです。何処か行きたい場所はありますか?」
水を向けられたヒルダは顔を上げた。小柄な提督を僅かに見上げる。そしてこちらもブルーグリーンの瞳を細め、笑顔を作った。口紅によって僅かに色付いた形の良い唇が綻ぶ。
「特にはありません。このまま歩き回るだけで充分です」
これは遠慮ではなかった。実際、ヒルダはハイネセンの街並を眺めているだけで楽しかったのだ。
建築物や服装が帝国首都星であるオーディンとはまるで趣が違う。若干フェザーンの雰囲気と似ているが、更に洗練されている印象を彼女は感じた。
門閥貴族が支配するままの帝国であっても、大貴族である彼女はもしかしたらフェザーン程度は訪問する機会はあったかもしれない。
しかしハイネセンを直に見る事は絶対に叶わなかっただろう。
そしてこのローエングラム公独裁体制であっても、次のハイネセン訪問は果たして何十年後の事となるか――そう考えると、彼女は限られた滞在時間のうちに新しい世界をこの身で感じていたかった。
ミッターマイヤーもそんな彼女の考えを、何となくだが理解していた。この女性は即物的な事で知的好奇心を満たすような人物ではないのだろう――。
彼は特にヒルダと近しい関係ではないが、このハイネセンを陥落させる際の同行で、フロイライン・マリーンドルフと言う人物を推し量る事が出来たような気がしていた。
歩道は混み合っては居ないが、繁華街傍の通りであるためか人通りはそれなりにある。それでもふたり並んで歩いていても、他人の邪魔になるような状況ではなかった。
傍の車道を走る車は一般車両が圧倒的に多く、その流れはスムーズだった。実質上の敗戦を迎えた国家の首都の割に、少なくとも表向きは穏やかに平常な日常が流れていっている。
特に目的もなく大通りを歩いていく彼らの耳に歓声が届く。それは大歓声ではなくまばらなものだった。ふたりはどちらからともなく、その歓声がする方に視線を寄越す。
通りに沿って公園とも広場ともつかないそれ程大きくはないスペースが広がっていて、そこで10数人程度の人間が輪を描くようにして何かを囲んでいる。
その中心ではジャグリングをしている人物が居た。
そのジャグラーは数個の色とりどりのボールを操っているが、その動作はあまり滑らかではない。風貌は道化めいた服装ではあるがメイクは控え目である。
もっとも戦時下なのだから、きちんとした格好をするには物資が足りないのかもしれなかった。
「これは…大道芸、ですか?」
ヒルダは足を止め、観客の輪の向こう側からジャグラーを見やった。ちらりと芸人に一瞥をくれていたミッターマイヤーも合わせて足を止め、ヒルダに応対する。
「そうですね。帝国でもこう言った広場では似たような事をしている人間も居ますし…単純な娯楽とは何処の国でも変わらないものですな」
言いつつ、彼は脳内で子供の頃の記憶を手繰り寄せていた。
貴族中心の帝国社会において、平民には娯楽は少ない。そして彼の両親は造園業を自営していた。
そのために生活レベルは中流を保っていたが、故に両親はそれなりに忙しかったために休日であってもなかなか一緒に過ごせないのが常だった。
だから子供時代にはこう言った広場でたまに出現する、練習する芸人見習いを友人共々良く見物しに行った覚えがあった。本格的なカーニバルやサーカスには行かなくとも、子供心にはそれだけで満足だったのだ。
更には、士官学校から暇を見付けて帰省してきた時に「遠縁の少女」の手を引いて歩き回った際にも、立ち寄った広場で相変わらず芸人見習い達が練習に明け暮れていた。それを遠目に見つつどれだけ少女と他愛のない会話を費やしてきただろうと彼は思う。
そして今、別の国であっても似たような光景が目の前に広がっている。これには若干の懐かしさを覚え、彼は口元に笑みを浮かべる。
「――そうなのですか…」
ところがヒルダはこのハイネセンで見掛けた他の事柄と同じような反応をもって、そのジャグラーを見つめていた。興味深そうな瞳で、ジャグラーの少々危なっかしい手元を眺めている。
その手つきからして本格的なカーニバルなどに参加するには腕が足りない芸人なのかもしれない。が、投げたボールを逸する程ではないので、危なっかしいのは演技なのかもしれない。
しかしヒルダの若干熱っぽい視線は、そんな芸人のレベルを問題にしたり分析をしているような印象ではなかった。
ミッターマイヤーは意外そうに、そんなヒルダを見やる。瞳に子供っぽい熱を煌めかせて危なっかしい手つきのジャグラーを見つめる――そんな彼女の行動は、彼が抱いていたフロイライン・マリーンドルフと言う人物像からは少しばかり遠ざかっている代物だったからだ。
何がどのように食い違っているのか。そもそも彼女はどうしてここまでジャグラーを熱心に見つめるのか。まるで子供のようではないか――ミッターマイヤーは思考を巡らせ始める。
自らの体験と、ヒルダ自身が体験するであろう出来事を想像して並べてみる。――と、大きな相違点が容易く彼の脳裏をよぎった。
「――もしかして」
ミッターマイヤーは、自分より更に下の位置にあるくすんた金髪の頭を見やりつつ、口を開いた。その頭の持ち主の視線は前方に固定されている。彼女の頬が僅かに高潮しているのは化粧の印象のみではなかったろう。
ミッターマイヤーは掛けた声を一旦切ったが、彼女からそれに対する反応は一切ない。余程ジャグリングに熱中しているのかとミッターマイヤーは微笑ましい気分になるが、一方で躊躇いがちに台詞を続けた。
「…フロイラインには、帝国ではこう言ったものを御覧になる機会がございませんでしたか?」
その言葉に、ようやくヒルダは顔を上げる。ゆっくりと顔を持ち上げ、内心の興奮に多少色づいた頬をそのままに、蜂蜜色の髪を持つ提督の顔を見上げた。
それからブルーグリーンの瞳を数回瞬かせ、細める。そして恥ずかしそうにはにかんで笑いつつ、ミッターマイヤーに答えた。
「私は帝国では、それ程自由に歩き回った事がないものですから」
それが、彼女の事実だった。
確かにヒルダは帝国の門閥貴族の中では進歩的な考えの持ち主であり、父であるマリーンドルフ伯フランツも彼女の進歩性を損なうような教育は行わなかった。
しかしそれでも彼女は貴族であり、帝国の一臣民である。自由に出来たのは自分の領地内のみであり、それも他の大貴族と呼ばれる一族に較べたら微々たる領域であった。
それに自分の領地内とは言え平民や農奴と過度な関わり合いを持つ事は、互いにとって迷惑を招く可能性が高い。
貴族の良識や誇りとやらを馬鹿馬鹿しいと思っていても、それがその当時の帝国の枠組みであった以上、ヒルダはそれをないがしろに出来る人間ではなかった。
そして貴族の財力と地位と、第一に彼女自身の能力によって銀河帝国首都星オーディンの大学に通う事になり領地を離れた。
より深い見聞を広める機会を掴んだ格好になるが、長年戦争が続いていた故に首都星であっても治安が悪い区画が相当数存在する。だから我が身を守るためには無用心に出歩く事は少なかったし、何よりマリーンドルフ領から派遣されてきた家令がそんな行動を許さなかったのだ。
以上の事情により、ヒルダは帝国の市井をあまり出歩いた事はなかった。少なくとも、平民のようにおおっぴらには。
ミッターマイヤーはそんな彼女の事情を口に出して説明された訳ではない。彼の脳内で彼女の事情を類推した結果を、言葉を選んで問いかけただけだった。しかし彼女の短い返答とその表情から、自身の推測は当たっているのだろうと彼は踏んだ。
彼女は貴族と言う身分であり伯爵令嬢である。そして自分は平民出身の軍人だった。立ち位置が既に違うが故に、同じ国の出身だからと言って同じ景色を見て育った訳がない。
帝国の富を独占してきた貴族だからと言って、帝国の全てを自由に出来る訳ではない。
全てを自由にしようとして暴虐の限りを尽くした挙句に滅んだ旧門閥貴族はともかくとして、矜持を持ち弁えを知っていた貴族は旧体制下においても存在し、彼らの一部はこの戦乱の世の中でも生き残ってきている。
そんな彼らは貴族としての責任を知るが故に、平民のある種の「自由さ」「身軽さ」に憧れを感じていたのかもしれない。しかしその憧れは無責任な代物であるとも気付いているだろう。
だから、平民と過分な交流は持てなかったのだろうし、おそらくはこれからの世の中であってもそうだろう――。
そう言ったごく一部の貴族達に対しては、ミッターマイヤーは「美徳」を見出す事を認めざるを得なかった。そしてその美徳は、今目の前ではにかんでいる伯爵令嬢にも感じ取っている。
――それにしてもな。
ミッターマイヤーにとって、子供のように目を輝かせて大道芸を見ているヒルダの姿は、普段の彼女からは想像もつかないものだった。オーベルシュタイン総参謀長に匹敵する程に冷徹さが勝っている訳ではないが、その頭脳は鋭利でありその視点は感情を排している。
帝国宰相にして帝国軍三長官を兼ねるローエングラム公を政務と軍事の両方から補佐してきている人物であるはずだった。その彼女が今では子供のような…――。
そこまで考えて、ミッターマイヤーは目の前の女性の年齢を思い出した。
フロイライン・マリーンドルフは、彼が主君と仰ぐローエングラム公よりも更に1歳年下だと訊いていた。そしてローエングラム公は彼より8歳年少であった。と言う事は――と、単純な計算で求められる結果がそこにある。
22歳の伯爵令嬢は、楽しそうな顔をして芸人や、その他広場を見回している。
その印象が、一瞬彼には自らの妻と被った。彼が愛する、クリーム色の癖の強い長髪と、春の野原に咲くすみれ色の瞳を持つ女性。
ミッターマイヤーとその妻エヴァンゼリンには5歳の歳の差がある。そして彼が未来の妻に出会ったのは士官学校在学中の頃のため、エヴァンゼリンは幼い少女であった。
そのために当初は妹のように彼女を扱っていた。
後に思い返せば、出会った当初から既に彼は5歳年下の少女に恋心を抱いていたに違いないし、または周りの両親達もそれを見抜いていたのだろうが、当時の彼にはそんな自分の心境を分析出来てはいなかった。
とにかく彼女と一緒に過ごしたいだけだけであり、その衝動の原因が果たして何であるのか全く判っていなかった。
ともかく、彼がそんな恋愛の真似事に過ぎないような逢瀬しか重ねていなかったあの当時、エヴァンゼリンは10代半ばだった。
オーディンの公園だの広場だので地道な練習を重ねる大道芸人を眺めて楽しそうに笑っていた少女の姿が、現在の彼の脳裏に浮かぶ。士官学校で潤いが全くない生活を送っていた彼にとって、それがどれほどの癒しになった事か。
おそらくはあの時間は、オーディンのエヴァンゼリンにとっても癒しだったのだろうと彼は思う。彼女は遠縁の少女であり、引き取られたからと言ってもその家族に対して遠慮があるだろう。
確かにミッターマイヤー家はエヴァンゼリンに対して愛情を持って面倒を看ていたが、実の家族でない以上互いに僅かに遠慮が生じるのは仕方のない事だろう。
だから、エヴァンゼリンは学校への通学以外の時間はあくまでもミッターマイヤー家の手伝いに終始し、自分の趣味で出歩く事は殆どなかったはずだった。
――ウォルフ様と一緒に居るのはとても楽しいです。
通りで営業するスタンドで買える安い軽食を手にして、只あちこち歩き回ったりベンチに座って話したりするだけだったあの気恥ずかしい日々を、ミッターマイヤーは思い出す。
可愛らしい笑顔を浮かべて、彼女は勇猛果敢であるはずの士官学校生を見上げてそう告げる。当の士官学校生は何だか照れ臭くなって、癖と化している自らの髪を掻き回す行為で気を紛らわす――。
…と言う光景を何故今、フロイライン・マリーンドルフを見て思い起こしてしまうのか。そう思い、ミッターマイヤーは軽く首を傾げる。
エヴァンゼリンもヒルダも彼にとっては年少ではあるが、その歳の差は4歳とそれなりに開いている。特にこの年頃の女性の1年は大きいだろう。
確かにエヴァンゼリンは10代の頃から殆ど変わらない容姿を保っているし、普段のヒルダの冷静沈着さには年齢差を感じない。しかしやはり年上の女性にイメージを重ねるとすれば、伯爵令嬢にとっては失礼な話だろうと彼は思う。
それとも、実際にこんな光景を見ていた時代のエヴァンゼリンと今のヒルダを重ねているとすれば、全く逆の話になる。10代半ばの少女と20歳を回った女性を重ねるのは、やはり失礼な話だろう――。
「――提督」
そんなミッターマイヤーの思考は、彼を呼ぶ声によって打ち切られた。彼は声がした方に視線を落とす――つまり、隣に立っている頭ひとつ分背が低い女性の方を見た。
ヒルダはブルーグリーンの瞳を鮮やかに輝かせていた。その瞳に踊る光の成分は喜びや興奮であるようにミッターマイヤーには思われた。
先程から表情に表れていた感情ではあったが、どうもそれは時が経つに従って落ち着く事はなく却って増幅してきている。
ミッターマイヤーの視線を受け、ヒルダは楽しげに微笑んだ。胸の前で両手を重ね合わせ、組む。まるで子供がお願い事をするかのような仕草である。そして、彼女は口を開いた。
「提督、もっと近くで見て来てもいいでしょうか?」
今、帝国随一の才女が口にしたのは、主語と目的語を排した台詞である。普段の彼女ならば考えられないような台詞であり、その事実にミッターマイヤーは一瞬面食らった。そのために一拍の間が空く。
しかしすぐに彼は元来の人好きのする微笑を浮かべる。断る理由は何もなかった。
「…ええ、構いませんとも」
「ありがとうございます!」
思わず、答える声が大きくなる。ヒルダは同行者の許しに対し、飛び上がらんばかりに喜んでいた。実際、その場で軽くステップを踏む程度には喜びの心情が表れている。
そしてそのまま彼女は早足で広場に向かって歩いていった。むしろ、段々と駆け足になっていく。その歩みに合わせ、ショートブーツの薄い靴裏が小さいながらも小気味良い音を立てていった。
その軽快な足取りを、ミッターマイヤーは少々の戸惑いと驚きをもって見送った。口を若干開き気味にしていた程である。
長いデニム地のスカートが彼女の細い足の動きに纏わりつくようにしてひらひらとはためく。後ろ手に持ったハンドバッグが、ベルトに吊られて揺らめいた。
バッグの開口部の留め金が、初夏の陽光を弾く。微かな風が広場の周りに立ち並ぶ木立を揺らし、それらの葉が作り出す細かな陰がヒルダに被さった。
――ああ、やはり、何だか昔、こんな風景を見た記憶がある。ミッターマイヤーは視界の中に居る女性の陽光と陰のコントラストに目を細めながら、そんな事を思う。
「――提督!」
不意に、ミッターマイヤーの耳に、大きな声が届いた。叫び声ではないが、少々距離を取ったふたりの間隔においても、きちんと通る大きさの声である。
当然、広場に居た他の人間達の一部が、広場の入り口の方に目をやる。「提督」と言う、この場に相応しいとは思えない単語に反応しているのだろう。
自分の発言が目立っている事に気付いていないのか。ヒルダは楽しそうに笑いながら、ミッターマイヤーの方を体ごと振り向いていた。
両手は後ろ手に回し、上体を前に突き出した格好で、ミッターマイヤーを見やる。心地良い太陽の香りを含んだ風がさわさわと彼女の頬を掠めていく。
その風が通り過ぎていった時、彼女は再び口を開いた。
「提督もこちらにいらっしゃいませんか?」
それは綺麗な同盟公用語であるが、そぐわない単語を含んでいる事で、広場の幾人かがその台詞の行き先に視線を向ける。そこには少し小柄な蜂蜜色の髪を持つ男性が立っていた。
彼は少しばかり面食らっている様子で、呼びかけられた女性の顔を見やっていた。
この女性は確かに彼を「提督」と呼んだような気がしたが、彼は私服であるからその真偽は判らない。それに、彼はどう見ても大学院生程度の年齢にしか見えず、「提督」などと言う地位に就いているとも思えない――大体、著名なヤン・ウェンリーでもあるまいに。
そんな共通認識が、会話もないままに、この場に居合わせた同盟市民の間に固まりつつあったその時、どよめきが起こる。これは彼らふたりに気を止めていなかった側の観客が発した声であった。
彼らが見物していたジャグラーが、手元の数個のボールを派手に妙な方向に投げてしまったのである。今までの予定調和のようなボールの動きから逸脱した行動であり、ミスと思える動作だった。
これは失敗したかと観客達は思ったのだが、ジャグラーは小走りで動き回り、そのボール全てを落とす事無く次の動作へを持って行ったのだ。どよめきは、このファインプレーに対する感嘆の声だった。
それにより、このジャグラーは一時は別の方向へ向いていた観客達の興味を繋ぎ止める事に成功した。
これは怪我の功名なのか、それとも妙な会話を始めたふたりを把握し自分の演技を引き締めに掛かったのか――観客達にはどちらともつかない。それほどまでに自然でコミカルな動作だった。
ともあれ、観客達はジャグラーの方を向いて歓声と喝采を送る。その中には、先程まで一部の注目を集めていたくすんだ金髪の娘の姿もあった。彼女は掌を合わせて喜んでいる。口元を綻ばせ、歯は大きく見せないまでも僅かに声を発して笑っていた。
その観客集団から数歩分の間隔を置き、完全に注目の的から外れた蜂蜜色の髪を持つ「提督」は、そんな光景を眩しそうに見やっていた。彼が眩しさを覚えるのは、もう太陽の光のせいばかりではなかった。
――フロイラインにも…こんな顔が出来たのだなあ…――。
彼の脳裏にそんな思いがよぎっていた。
帝国軍上級大将たる彼のイメージの中に住んでいたフロイライン・マリーンドルフは智謀の人であった。
確かに女性ではあるし普段の態度も女性を捨て去ったような代物ではないのだが、過剰に女の印象を与えるような人物でもない。冷たい美貌を誇っていた訳でもないが、年齢から考えると不相応な落ち着きを見せる美しさだった。
その彼女が、今日はまるで少女のように楽しそうに笑っている。それがミッターマイヤーにはとても意外に感じられていた。しかし普段のイメージが崩れたからと言って、厭な気分ではない。
むしろ新たな一面を垣間見る事が出来て、嬉しかった。ローエングラム公へ仕える同僚である以上、色々な顔を知っておきたかったし、色々な顔を見せてくれる間柄である事はいい事なのだろうと思っていた。
そして彼は記憶の彼方に在る、エヴァンゼリンという名の少女の姿を思い出す。今では彼の妻となった身だが、その容貌はあまり変化していない。考えても見れば、「神々の黄昏」作戦開始後から今まで、彼は妻と全く会えていない。その期間は半年をゆうに超えていた。
彼は軍人を長年やってきている以上、1年は帰宅出来ない事も多い。長期間妻と会えない事も珍しい事ではない。しかしいよいよ帰宅の日程が現実味を帯びてきており、何より今日はその妻のために土産を買いに出かけたのである。
ふとした事で望郷の念にも似た妻への思いや思い出が沸いて来てもおかしくはないのだろう。それが、今日たまたま意外な行動に出てきたフロイライン・マリーンドルフと重なったとしても――。
そう結論付け、ミッターマイヤーはグレーの瞳を細めた。柔和な笑みを浮かべ、ゆっくりと観客の中へと合流していく。
彼自身は気付いていないが、当の彼が浮かべた表情もまた、普段の「帝国軍上級大将」として振舞っている彼からはかけ離れた印象を誰もに与える代物である。
そして彼は部下や同僚からも親しみを持たれている好青年ではあるが、ここまで優しげで柔和な笑顔を見せる相手は片手で数えられる程しか存在していなかった。
とりあえず投下は後1回の予定です。なるべく早くやります。
ずれた親切大きなお世話を地で行く色目さんですが、ここまで想ってくれるなら良い親友だと思います。
妙な気遣いを喰らう度に殴る蹴るどつくを繰り返しているであろう疾風さんでしょうが、まあ頑張れエヴァたんをセクハラの餌食にしないよう水際で食い止めろ。
>648
はい同一人物です。アレを記憶に留めていただけたのなら嬉しい限りです。
わーーーGJ!ヒルダ様可愛いよ!なんだかんだでまだ22歳なんだもんな。
大道芸見たり、ウィンドーショッピングしたい年頃なんだろうね。
情景描写が細かくて、話に引き込まれるよ!次回投下楽しみにしてる!
GJ! GJ! 連日ワクテカです。
作者は遅筆なのに、ここの神々の筆は惜しみも無く
華麗に舞い踊っておられる。
GJ!蜜太の夢見加減がいいですなw
前作のエヴァたんも萌えました。wktkしてます
長年待ち続けたアル戦のエロパロもとうとう出たし、あと読みたい作品とか
カプの話なんかいろいろネタだしてみようぜ。次スレで神が落としてくれるやも。
実を言うとオーベルシュタイン絡みで何か読んでみたいんだが、相手ヒルダで考えたりしてた。
前に神が落としてくれた愛のキューピットな軍務尚書とかすっげ好きだったなぁ。
実はずっと「夏の魔術」の耕平と来夢を待っている
「春の魔術」で出てきた二人で逃げ回っているアナザーな未来ものとか
寧ろエロを堪える岡惚れ話が読みたい。
相手が幸せなのが解ってるから我慢するしかないっていうような、あれだ、逆説のエロ話。
エロというよか色気のある話がよみたい
ガイエのキャラは性欲なさすぎ
仕方ないよみんな妖精か魔法使いだもん
まあ、夜な夜なエロ画像を集めて一人励むヤンとか
四兄弟を日替わりでおいしくいただくマツリタンとか
スク水半脱ぎ状態で男にまたがるライムタンとか
あんまり見たくもないわな。この板的にどうなんだ。
バルアミーにまたがる5年後のリディアたんが読みたいです。
>>663 夏の魔術シリーズはガイエで一番好きだったりするから考えてはみたいんだが、
あのふたりってジュブナイル的関係だから恋愛とか一切入らない「特別」っぽくて…。
むしろ亜弓が耕平にいらん事仕掛けたりする話の方がしっくり来るのだろうか。
あーでも「春の魔術」じゃすっかりガイエお得意の「戦友」ポジションについちゃったもんなあ…。
雑談になるのはしゃーないけど、500KB近いから
疾風&令嬢の神が投下できる位の容量は残しとこうな。
>665
つなっちゃん
お涼も風呂場で挑発とかタマゴ発言とか
やる気だけならあるがターゲットがアレなのでイマイチ報われナス
ユリアンがオルタンスに筆おろしをされる話を読んでみたいです><
次スレに投下予定有り鱒。
なんの作品かは各自予想してくれい。色気がある話、になったかなあ?
チラ裏に書けば?
まーまー。
すげー掘り出し物にめぐりあえるかも知れんのだし、
温かく見守ってやろうや。
神出現の瞬間に立ち会えるかも知れないぞ。
あれ…672氏は新しい職人なの?
また次スレにって言ってたヴァレダ神かと思ってたけど…?
ここは神ばかりなのだから、黙って正座して待ってろ
了解!
あとがきとか前置き(not注意書き)とかのSS以外の部分で
書き手が喋りすぎるのは、作品がどれだけ良くても火種になることがあるから
たまには水を撒いとくのもアリかと思う。
ここのスレは読む方も大人だからか、本スレの煽り合い&殺伐さが
嘘のようなマターリさなのはありがたいw
同感。ここって空気いいよな。
というわけでマターリ正座で神々お待ちしてます。
680 :
マージョ:2006/10/03(火) 16:12:06 ID:7Z5L7xOe
「泉田くん、GJよ。」
全裸で正座して待っているのだが、大雨が降って寒いからパンツと靴下は履いた。
神様〜!
682 :
名無しさん@ピンキー:2006/10/11(水) 22:35:13 ID:9XRhyCYo
24歳のバルアミーと17歳になったリディア姫の話を書きたいんですが
需要ありますか?エロなし純愛物で。
sage忘れ失礼!平にご容赦を!!
>683
需要ならここにノシ
ただ、ここもう残り容量が少なくて他の神の完結待ちなので
次スレ立ってから即死防止を兼ねて投下キボン。
>>683 需要ならここにもありまくりですよ
wktkで投下待ちしてます
686 :
682:2006/10/11(水) 23:24:22 ID:9XRhyCYo
>684
承知しました。次スレに向けて準備しますノシ
_ ∩
( ゚∀゚)彡 需要!需要!
⊂彡
疾風と令嬢ネタを投下中の人です。
すんません、あれから仕事が激烈に忙しくなってしまってテキストエディタを開いて眺めてる暇もない。
完結分投下は早くても今週末か月曜になってしまうので、既に投下町の人がいるならさっさと次スレに行っちゃってくれて構いません。
次スレは自力で追いますから。
分割投下するにしてもある程度書き上げてからやるべきでした。以前は割といいペースで書けたので過信してしまった。
お察しします。労働者であれば集中して書く時間をひねり出すのもまた一苦労ですからね。
しかしてマターリ待つ人は多いようなので、なにせ作者に骨髄まで染まさせましたからなあwww。
次スレ立てるかは、ヒルダミッタ神が投下予定の文が残りバイト数超えるかどうかで決まりますかね?
お疲れ様です、疾風令嬢の神。
のっくりマターリお待ちしてるんで、どうぞお仕事にガイエんでください。
自分はこっちは消費して次スレにいっちゃってもいいかと思うんだけど、どうだろね。
691 :
名無しさん@ピンキー:2006/10/12(木) 20:27:02 ID:7WmTgu9/
ヒルダはラインハルトがいい!
うん。わかったから(苦笑)
ちゃんと作者はトリップ付けて、注意促がしてくれてるんだから、
そこらへんは自分でなんとか回避しような?「大人」なんだから
>>691
どうしましょうか。次スレ立てます?
>693
残り少ないとは言っても12,3KB位のSSならまだ投下できる容量はあるので、
この状況で次スレ立てたらdat落ちまで時間かかる。
今焦って立てなくてももうちょい消費してから移ればいいんじゃないかと思う。
>>694 そうだな。まだちょっと早いかも
次スレは490KB超えてからで大丈夫だろう
残りバイトをちょうど埋めるネタが思いつかないから逃げの一手で。
〜怒涛の惣カツ変、訂正、総括篇〜
「というわけで、今回も21歳未満読者閲覧禁止のスレを見てくださっている皆様、
まことにありがとうございます」
「おや、18歳じゃなかったか?」
「ま、どちらにせよ下二人は年齢以下ですからね。そういうことで彼らはこの部屋には
やってきませんよ。安心してください。あ、茉理ちゃんはもう条件満たしていますが、
ここに呼びますか?」
「……ごほん。」
「なら止めて置きましょうね」(優雅な微笑)
「あ、……うむ。しかし、茶の一つでも欲しい所ではあるな。カステラだけじゃどうも」
「ではちょっと人を呼びましょうか」
(続、卓上のベルを振る)
「はい、お呼びですかナルサスさま?……ってなんだ!!この部屋はっ?!」
「どうもこんにちは、エラム君。はじめましてと言うべきでしょうか」
「え?ええ、その、どうもはじめまして」
「続、これはいったいどうなってるんだ?」
「これ?異次元同士をを直接繋げるドアですよ(キッパリ)」
(そんな安易な設定でいいのかなー、という目の始の前に差し出されるお茶)
「お!どうもありがとう、エラム君。これは緑茶だね?まだ紅茶も発明されていない
古き時代の茶葉かあ。なんだか、(以下感慨にどっぷり浸って帰ってこない始)」
「だ、大丈夫ですか?!」
「これで普通ですから気にしないで下さい。古代の茶は押し固めて、固形にしたものを
湯に削りいれて茶を淹れていたのですよね」
「は、さようでございます。あの、お名前伺ってよろしいですか?」
「(始、夢想から帰還)おれは竜堂始、こっちが俺の弟で、続だ」
「分かりました。こちらこそよろしくお願いいたします」
(礼儀正しく頭を下げあう三人)
「で、エラム君。そちらの方は順調に作者の筆が進んでいるようで良かったですね」
「いえ恐縮でございます。せっかくの先巻でも見せ場がほとんどありませんで」
「そんなに畏まらずとも。エラム君のこと、次巻では陛下と共に活躍されることでしょう。
期待してますよ」
「いやあ、そんな風にいってもらえると……」
(面映そうなエラムを見ながら、人を殺せそうなほどの鋭い眼光を閃かせる)
「……まったく、こっちはいったい何年待たされてると思ってるんだか!」
「こらこら続、声に出してるぞ」
「ああ!これは失礼いたしました(超絶美の笑み)」
(こ、この人、すっげ怖えええ……とガクブルしているエラム)
こんな座談会形式とかw
笑ったw
「おーいエラム!どこにいるんだ?ちょっと筆記を手伝ってく……っておおっ!?」
「あっ、ナルサスさま。まさかこちらにおいでになられるとは」
「ふーむ。この男が“作者世界における優柔不断三巨頭”のうちの一人。なるほどねえ」
「む!ナルサスさまを悪く言わないでくれますか?いいですか、この人はパルスが
大陸公路に誇る知性と軍才の持ち主で、そのー画才には、大きく欠けるところが
おありになりますが、それにあの“お荷物”をキッパリ切れないという、かなりな
優柔不断なところもありますが、けれど、わたしの尊敬する師なんですから!!」
「そ、それ以上はカンベンしてくれないかエラム……(両目から滝涙)」
「これはまた、贔屓の引き倒しといういい見本だなあ、ハハハ」
「巨頭の内の一人だというのに何を言ってるんでしょうかねえ兄さんは、フフフ」
「……それっておれの事か?」
「誰のことだと思うんです?」
「え”。例えばほら、副官として長年側に置いていながら、の人とか」
「あの人なら、お相手の女性にしっかりプロポーズしましたから除外です」
「ぐっ……分かった!超絶美人の女刑事さんと組んでいるあの鈍感な男のことか!」
「大正解です。これで二人、そして兄さんを合わせて三巨頭」
「おおー、そういえばなんとなく親近感がわいてきたような気がしますぞ」
「いや、失礼ですがナルサスどの、あなたと同じレベルと断言されたくはありません。
というのはおれは、茉理ちゃんと将来も一緒にいることに確信を持ってますから」
「な!それを言うならこっちだってアルフリードが私を見限ってゾット族に戻るなど
考えたことは一度もないぞ!」
「ナルサスさま!やっぱりあのお荷物のことが好きなんですか!」
「好き?あれとは愛してるとかそんなんじゃない!」
「じゃあなんなんですか!」
「えーっと……………(表情が微妙に変化する)」
「別にお互いをどう評価しようが構いませんが、お二人とも、はっきりとしたプロポーズは
もうお相手の女性にされているんですか?」
「……まだだ。牛種との対決が終わらないうちは、ちょっとなあ」
「…………国事が片付くまでは、その、たぶんまだ三年ほどぐらい、いやもう少しか、」
「ほらみなさい」
(がっくり意気消沈するいい年の男二人)
「あの!ナルサスさまに、あと…始さま!お二人とも肩を落とされないで下さい!
まだ下がいます!最後の一人はまだ相手に想われてることにさえ気付いていない有様、
それに比べれば、お二人は遥かにマシですよ!」
(エラムの励まし?にいっきに生気を取り戻す二人)
「ずいぶん低レベルな争いもあったものですが、それでもまだ気を抜かないで下さいよ?
今、作者の筆が一番早いのは、あのシリーズなんです。こちらが終わらないうちに、
あっちのシリーズの二人の仲が進展する可能性の方が高いように思われますが」
「「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」
(異次元ドアに飛びつくいい年の男二人)
「おいっ続!このドアを作者の部屋につなげるようには出来ないのか!?」
「それはどうでしょう?どうやらランダムに繋がるようですから繰り返せば、いずれは」
「おーいここはどこなんだ?なんだか軍服の若者が小さいお嬢さんに頭を下げているが」
「それは私たち以上に無残な放置をされている異次元の彼方ですよ。さっさとお戻りなさい」
「こんなにムキになるなら、相手にさっさと告白すればいいでしょうに」
「まったくその通りです、エラム君。男は女性を抱きとめてこそ、ですよ」
(自分のことを思い出して頬が赤らむエラム)
「お酒はいけますか?エラム君」
「ええ、少しは」
「わたしのとっときのカクテルを用意しましょう。ホワイトリリーというのです」
「続さまのご経験は素晴らしく色っぽかったですよねえ」
「いえいえ、それほどでも。エラム君の恋愛も若者らしく情熱的で」
年少の二人が互いの恋愛話に思い出酒を傾けている傍らで、いい年をした男二人は
ひたすらドアを開け閉めして作者(おとーさん)の書斎部屋を探し続けていた。
だから、そんなことしているヒマがあったら始は茉理ちゃんに、ナルサスはアルフリードに
サクサク求婚しろっつうに!!さらにこの二人以下の泉田準一郎もいいかげん涼子の気持ちに
気づけ!まずはそこからだっ!!
……という外部の突っ込みは二人(あともう一人)には永遠に届かないのであった。
!!!!!!劇終!!!!!!!
異次元扉ネタ……ほかにありましたら、どうぞ使ってやってください。
それこそ、異次元漂流して早××年というあのシリーズだとか。
GJ
そのままanywhere扉でお相手の寝室inお着替え中とかに繋がって、ラブコメ的展開で既成事実とか作っちゃえ!
とかオモタ
GJ!
低レベルな争いワロタww
ヤンがノーカンなのに噴いた。確かにくっついてるから除外だよなあ。
GJ!
無残な放置っぷりの異次元ワロスww
優柔不断三巨頭の最下位に関しては
マガジンZ誌上での作者(おとーさん)と絵師さんとの対談で
「あのもどかしい距離感がいいので(二人が)くっついてそれが無くなっちゃうのは寂しい」
「多分永遠に近づけないんじゃないかと…(ニガワラ」
ってな会話が交わされてたので二人ともそう焦る必要ないぞwww
「……という事で作者にはお二人の仲を進展させるつもりは当分ないようじゃな(´・ω・)カワイソス」
「…作者がこんなんじゃあたしとナルサスの進展も当分無理?(´・ω・`)ショボーン」
「あんまりだわ!!ちょっと作者(オヤジ)んとこ行って直談判してくる!!ヽ(`Д´)ノ
泉田クン捕獲して既成事実さえ作っちゃえばオヤジが何言おうがこっちのものよ!ヽ(`Д´)ノ」
「お涼ちゃん、その甲冑とチェーンソーはだめえええ!いくら準ちゃんでもドン引きよおぉ!」
「ごめんなさい泉田警部補…あのお涼はわたしにも止められない…orz」
そしてドアを開け閉めする始とナルサスは、何故か作者と泉田クンを探してる
小早川奈津子にたびたび出くわしてガクブルだったとか何とかw
ええっ!「天使のなっちゃん」なの?wwwwwwww
>>704 甲冑着こんだ涼子、じゃなくって……
涼子が着込んでるせいでなっちゃんにしか見えなかったんじゃない?
ドアの向こうから見てる訳だから遠くて別人だと気付かなかっただけで。
しかし涼子の甲冑となっちゃんの甲冑のサイズはえらい差があるよな…
何はともあれハゲワロタw GJ!
異次元wについて書いてくれる職人さん(バル×姫)は次スレ待ちでらっしゃるのかな…
異次元ネタ書きあがったんだけど(バルアミーと姫ではない)、
10K軽〜く超えてるんで、次スレ立つまでのんびり推敲中です(・ω・)。
いつもはROMってるんだがそろそろ次スレが
立ちそうなんで、心から感謝&祈念カキコ
このスレから覗かせてもらってるんだが、
即落ち防止のクロスオーバーなSSから始まって、
次々と現れる神々に、もう萌えまくりの日々ですた……。
月並みだけど、このスレにおられる全ての神々よ、
素晴らしい作品を本当にありがとう!
巣箱は見に行きました?
凄いですよ。素晴らしいですよ。
>>710 ありがとう、ここ見つけた際に速攻行きますた >巣箱
良作ばっかで凄すぎる……
初めてこのスレ覗いたのは確か始&茉理の風呂ネタの頃で、
もう萌え転がりまくったですよ…w
ここはスレ住民もまったりしてて、本当に居心地がいいよ…
ありがとう
それでは次スレでも神々の筆が冴え渡らんことを祈念して
ROM専に戻ります。 長々とスマソ
新作楽しみ。しかし残りバイト埋めるほどの話が書けないROM者なんでこうして神に
応援レスするぐらいしか出来まへん。orz
せめて萌えネタをば投下。
近々ハロウィンですからそれとか使えませんかね?
わーい、燃料の補給キター。
714 :
10月31日:2006/10/23(月) 15:28:12 ID:9IRvsAk8
「trick or treat! 泉田クン、こ・ん・ば・ん・は!」
私が寝起きする独身寮のドアを叩く音がして、開けてみたらいきなりこれだ。
ドアを押さえる涼子の手には、なぜか紙袋が握られている。極上の笑みを浮かべたまま
涼子がさっきのセリフをもう一度繰り返す。今度は分かりやすくカタカナ英語で。
「トリック・オア・トリート!」
「薬師寺警視……では、おやすみなさい」
「ちょっ、待ちなさいよッ!」
ドアを閉めようとした私の手を掴み、慌てたように涼子が言う。
「あまり大声で騒がないで下さい!うるさいオバサンの耳に入ったら翌朝何て言われるか」
「分かったわよ、静かにしてあげる。あいつでしょ?ダンナの地位を自分のものだと
なぜか勘違いしちゃってる官舎のボス猿。いや違った、メス猿か」
「そんな訂正、いちいちしないでいいです」
片手で湯上りの髪をかき上げて溜息をつく。ちなみに、涼子の格好はいつもの脚線美を
誇るかのような黒のミニドレス。しかし、頭にかぶっているのは黒い先が尖った三角帽子。
さらにマントの肩にはご丁寧に黒猫のヌイグルミが載っかっている。
(なんだ? これじゃまるで……魔女のような)
「いったいなんなんですか、こんな夜遅く」
「だって、今日はハロウィーンじゃん」
「はあ?!」
「やあだ、あんなにオレンジ&ブラックが街中に溢れているってのにさ、見てないの?
その目は節穴か? ん?」
そう言われてやっと私も涼子の扮装の意味が分かった。そういえば、帰りがけに寄った
スーパーにはやたらカボチャやらお菓子やらが高く積み上げられていた。それで私も珍しく
カボチャプリンなんぞ買って、あとで食べようと思って冷蔵庫に入れてあるんだっけ。
715 :
10月31日:2006/10/23(月) 15:29:51 ID:9IRvsAk8
「ほら泉田。いいから早く寄越しなさいよ」
もう一度溜息をついて、突然の夜更けの訪問について私は抗議を試みた。
「あのですねえ、男の独り住まいに、こんな時間に淑女(レディー)が一人で訪問する
ものじゃありませんよ」
「一人じゃないもん。うちの二人も一緒に連れて来てるし」
涼子が手招きをして呼び寄せたのは、もちろんあのメイドさんたちだ。
彼女たちも同じくハロウィンらしい仮装姿(コスプレ)で、白い骨がプリントされた黒い
ミニドレスがマリエンヌ、オレンジ色のミニドレスに緑の葉っぱの帽子をかぶっているのが
リュシエンヌ、とこれまた可憐な格好。岸本がこれを見たら感激のあまりに卒倒するか、
いやいやその前にご自慢のデジカメで撮影をおっ始めることだろうな。
「そうじゃなくって、ほら、他に言う事あるでしょうが」
魔女王(ウィッチ・クイーン))涼子は依然、胸をそらして私の前に仁王立ちのままだ。
「ほかに言う事? ええありますよ。前にアメリカで、やっぱりハロウィンで日本の留学生が
家を間違えて誤射された痛ましい事件があったでしょう。そんな危険だってあるんですから」
「どーもご親切に。でもここは銃所持ご法度の日本よ。そんなこと、そうねえ、ヤクザ屋さんの
事務所に行ったらあるかもしれないけど。そんな阿呆、いるわけないしねえ」
「は、はあ。ヤクザにお菓子貰いにいこうなんて誰も思いませんよね」
そのまま白旗をあげそうになった私だったが、心を鬼にしてドアノブに手をかける。
「メイドのお二人と一緒なら、私がお送りしなくても大丈夫ですね、おやすみなさい」
鍵を内側から閉めて、さあ一安心。ビールを片手に海外ミステリーでも……
ガチャリ。
「ガチャリ? ――はっ!!」
私は自分の完全なる敗北を悟った。そう、あのメイドさんの特技といえば……。
「ハーイ♪」
これも仮装なのか、長い爪を艶やかに光らせた手を顔の横で振りながら、涼子が玄関の中に
ずいっと踏み込んできた。
「さ・て・と。さあ、泉田君? trick or treat?」
……誰か助けて。
キターwktk
717 :
10月31日:2006/10/24(火) 00:38:35 ID:g9V92Y8u
「あら、悪戯される方をお望み? もう仕方ないわねぇ」
どう見たって仕方なくなんかない満面の笑みを美貌の顔に浮かべて涼子が指を鳴らす。
「ウィ! ミレディ」
うら若き女性三人にいきなり部屋の中に踏み込まれて私ははげしく狼狽した。
いちおう、見苦しくない程度に部屋は片付けているが、私は許可していないのだから
これは不法侵入なんじゃないか? ゴホンと軽く咳払いをしてみせるが、私の目の前に
涼子が突きつけたのは「警察手帳」。
「そ、それはそういう風に使うものではありません!」
「いいじゃなーい。あたしと泉田君の仲でしょ? それともなに?カノジョでも
連れ込んでいるのか・し・ら?」
「そんな、連れ込むだなんて、そもそも彼女なんて今現在の私には居ませんっ!」
涼子は嬉しそうな顔をしたが、一瞬考えこんだ後にムッとふくれっ面になった。
「あら、そう!」
かなりのご機嫌斜めっぷりの涼子をどう扱えばいいのかわからなくて、とりあえず
私室兼寝室の居間までは通さずに、狭いダイニングキッチンの椅子に座らせた。
「ええと、まあそのお茶でもいかがですか?」
「あ、大丈夫。この子達にやってもらうからお気遣いなく」
涼子が流暢なフランス語でメイドたちに指示すると、お湯が沸く間に支度が整えられ
その三分後には豊かな香気漂わせる紅茶が四つテーブルの上にしつらえられていた。
二つは緑茶の湯飲みであったのだが、男の一人暮らしだ、これは仕方ない。
「残りは泉田君にあげる。本式は茶葉だけど、ティーバッグの方がお手軽だし」
「どうも、そこまで気を回してもらってありがとうございます」
「いーのいーの」
鷹揚に微笑む魔女王サマだが、深夜の訪問の非礼についての配慮は欠落しているようだ。
718 :
10月31日:2006/10/24(火) 00:40:08 ID:g9V92Y8u
「では、冷めないうちに頂きます」
一口啜って、その美味しさに私は目を見張る。
「美味しいでしょ? そういう時間をたまには持ったほうがいいわよ、泉田君」
「それはそれは」
返事にもなんにもなっていない相槌を曖昧にうって、私は再度涼子に向き直る。
「いきなり何のことやら、びっくりしましたよ。それに“トリック・オア・トリート”
なんて実際言って回る人に、今まで生きてきて初めて遭遇しました」
「ま、ね。私もこれをやるのは初めてよ。正月やらクリスマスやらコミケやら、
宗教関係なくお祭り騒ぎが好きな日本にしては、珍しく定着してない風習よね」
なにやら聞きなれない単語もあったようだが、私もとりあえず肯いた。
「とくに昨今の状況をかんがみても、日本には見知らぬ訪問客を受け入れるという
習慣はないですからねえ。そういえば、そもそもハロウィンってなんなんですか?」
「あたしもハロウィンのことを知ったのは小学生ぐらいのときだったからなあ。
お菓子が貰えるなんて、なんてステキなイベントなんだ! と思ったのを覚えてるわ。
ねえねえ、銀行でカボチャの被り物をして“トリック・オア・トリート!”って
言ってみたらどうなるかしら?」
「だめですっ!!」
一瞬でも面白そう、と思ってしまったのは朱に交わった結果だ、そうだよな?
「えーと、何の話してたんだっけ」
「ハロウィンの由来ですよ」
ああそうだった、と涼子は帽子をとるとテーブルの上に置く。甘い香りがふわりと漂った。
「ハロウィンはキリスト教の行事の一つで、11月1日の万聖節、つまりすべてのキリスト教の
聖人を礼拝する日の前夜祭のこと。ハロー(HALLOW)っていうのが聖人の意味、ハロウィン
とはすべての聖人をたたえる前夜のことを意味しているの。まあ、すっかりアメリカの
商業主義に乗ったお祭り、って感じになってるけどねえ」
「お菓子を貰って回るというから子供限定のお祭りだと思ってたんですが」
言ってる途中でギクリとして涼子の様子を伺うが、気付いていないようで私はホッとした。
719 :
10月31日:2006/10/24(火) 01:01:11 ID:g9V92Y8u
「もともとは、古代ケルト人の収穫のお祭りなの。だからカソリックじゃ、逆にハロウィンは
馴染みがないそうよ。一年を夏と冬の二つに分けたケルト族の暦では10月31日が大晦日で、
夏と冬の神が支配交代する前夜にあたるわけ。夏の神は豊穣をつかさどる大地の女神デメテル、
冬の神が死者の世界である冥界をつかさどるハデス。夏の間に収穫をもたらしてくれた地母神
デメテルに別れを告げ、ハデスを迎える夜。すべての霊が集まると考えられて祖先を祭った
夜でもあるわ」
「じゃあ、カボチャのランタンにはいったい何の意味があるんでしょうか」
「子供たちが悪霊に連れて行かれないようによ。ランタンを作って灯すのは、炎は良い霊を迎えて
悪霊を払うと考えられていたから」
ほら、と涼子が私の目の前に置いたのは、カボチャをくり貫いて作ったお化けランタンの実物。
メイドたちが作ったのかな? 涼子は不器用だし。
「じゃあ灯してみよっか」
蝋燭に火がつけられ、蛍光灯も消すと暖かい光が狭い室内をぽうっと照らしだす。
涼子の肌も艶めかしい色に浮かび上がって、私は不覚にもドギマギしてしまう。
「なんだかこう、不信心者の私でも不思議な気分になってきますね」
いきなりそんなことを言いだした私を涼子は笑いはしなかった。かわりに唇に浮かべたのは
私が初めて見るような可愛らしい、少女のような笑顔だった。
「そりゃそうよ。なんたって今日は現と幻の境の日、超自然の力が一番強くなる夜なのよ。
だから、今日ぐらいはそんな気分になって当たり前。べつに変じゃないわ」
二人のメイドの姿はなく、どうやら涼子を置いて帰ってしまったようだ。私は大きく息を吸い込む。
「だというならば、これもハロウィンのせいということで、よろしいですか?」
ゆっくりと私は涼子に顔を近づけていく。
お化けカボチャのランタンだけが、奇跡の瞬間の唯一の目撃者であった。
終。
ごめん。新スレうちのホストじゃ立てらんない。誰か頼む。
ごめんみんな。ごめん……
GJ&乙です
新スレ挑戦してみます
ktkr!!
神様ありがとうありがとう。
内容の楽しさは云うまでも無く、
蘊蓄の入り具合も自然だし、もう素晴らしいです。
で、新スレ。
自分も立てられんのでした…ごめんなさい。