続きを早く頼みます!ミン・ジョンホかっこよすぎ!
468 :
漢拏山7:2006/07/14(金) 19:30:44 ID:XkGQJ0Z6
チャングムがチョンホの体を抱きしめると、氷の様に冷たくなっていたチョンホの体は、少しずつ温もりを取り戻していった。
最初はチョンホの体の冷たさを我慢していたが、チョンホの体に温もりが伝わっている事が解り、チャングムは安心した。
(良かった!体が温もりを取り戻しているわ!もう少し……もう少し、このままでいれば……)
チャングムは、あと少しだけチョンホに温もりを与えるつもりだったが、緊張から開放されたチャングムは、疲れからなのか?
知らず知らずのうちに眠りに落ちていった――――。
「う…うぅ……」―――肩に痛みを感じる……やはり、あの男にやられてしまったのだな……それにしても、温かい……
永い夢から覚めた様に、少しだけ熱の引いたミン・ジョンホは目を開いた。
(ん、、ん、、うぅん、、あ、あ、、アア――ッ!!こ、、これは?チャングムさんーーーっ!!!)
ミン・ジョンホは、辛うじて声を抑えた……自分の体の上にいる半裸のチャングムに驚きはしたが……
目を覚ましたチョンホは、自分が雨に打たれて発熱している事が解った。
そして、この岩屋へ来た時、耐えられない程の寒さを感じていた事も思い出した
(そうか……私を温める為に、自分の体を……それじゃ、、、まさか、、、薬を飲んだ時も?)
あの柔らかい感触……それは、紛れも無くチャングムの唇だったのだろうか?
嬉しい……いや、申し訳ない事してしまった……そう思って、視線を自分の胸元にいるチャングムに向けた。
自分の胸にピタリと重ねられた、チャングムの豊かな乳房……そして、白く透き通る様な肌……艶やかな髪……
美しい横顔を見せたまま、チャングムはぐっすりと眠っていた。
ミン・ジョンホにとっては、どれもこれも総てが、勿論嬉しくはあるが、かなり目のやり場に困るものだった。
ふと……両方の腕をチャングムの背中に回してみたくなる―――いや…そんな事をすれば、チャングムが目を覚ますかもしれない。
目を覚ませば、きっと恥ずかしい思いをするだろう……そう思ったチョンホは、チャングムの背中に手を回す事は諦め、
代わりに、自分の掌に触れている土と石とを握り締めてしまった。
それでも、心のどこかで諦めきれずに、自分の唇をそっとチャングムの髪の毛に寄せ、口づけた……
ただ、それだけの動作だったのだが、チャングムの髪に触れただけで、当然の『反応』が己自身の下半身で起こった事を感じた。
(しまった!!―――私とした事が……こんな事がチャングムさんに知れたら……恥知らずな男だと思われてしまう!!!)
チョンホは、チャングムを起こさない様に注意して、下半身を少しずつチャングムの体からずらしていった。
流石に、早鐘を打つ様な心臓の音は抑えられなかったが――――
(眠ろう、、、とにかく、、、チャングムさんに気づかれたらおしまいだ!!)
眠る事を試みたが……ミン・ジョンホは、全く眠る事が出来なかった。
469 :
漢拏山8:2006/07/14(金) 19:31:47 ID:XkGQJ0Z6
(やはり、眠れない……無理だ……とても……)
ミン・ジョンホは眠る事を諦め、そのまま、体の上にいるチャングムを見つめていた。
それは、永い……永い、時間だった―――(これほど近くにいる機会など、もう無いだろう……)
愛しさは募り、チャングムの肌を直に感じながらも、自分の指一本さえ触れさせる事に躊躇う……
チョンホにとって、チャングムは『聖域』の様な存在だった。
軽々しく、邪(よこしま)な気持ちで触れる事は絶対に出来ない―――自分の気持ちが許さない。
だが、辛い……無防備なチャングムの寝顔を、壊す様な振る舞いをしそうになる……白い肌に……柔らかな乳房に惑いそうになる……
今の辛さに比べれば、先程の倭寇達との事など、些細な出来事の様に感じられる。
ミン・ジョンホは、静かに目を閉じ、心を空白にし、自分の感覚の総てを閉じ込める事にした――チャングムの為に。
「ん、、うーぅん、、いつの間に眠ってしまったのかしら……」
(チャングムさん……目を……)チャングムが目を覚ました事を知ったミン・ジョンホは、慌てて瞼を閉じた。
「チョンホ様?……良かった!まだ、眠っていらっしゃる。熱は下がったのかしら?」
チャングムは半裸のまま、ゴソゴソとチョンホの額めがけて体を移動させた。額にそっと手を当ててみる―――
(熱は下がっている様だわ……それにしても、チョンホ様は、何故こんなおかしな格好で眠っているの?)
真直ぐに寝ていた筈のチョンホの姿勢は、何故か腰の辺りで、ひどく不自然に曲がっている。
(私の寝相が悪かったのかしら?……)
チャングムは自分の額に手を当てている様だが――――何をしているのだろう?
そう思って、チョンホは薄っすらと目を開いて見た・・・・そして、見てしまった・・・
(ああぁーーーっ!!!なんだこれわあぁぁーーー!!!)
自分の目の前に広がっているのは、チャングムの白い豊かな乳房――――
(な、、なぜ?、、、私が寝ていると思ってるのか?チャングムさんわあぁぁ〜〜)
チョンホは、慌てて固く目を閉じた!
(なぜ、この人は、こうも無防備なんだ?、、、せっかく心を静めても、、、これじゃ、、同じ事、、、こんな事が続けば、、、
間違いを犯さぬ内に、、、私はこの場で死ぬしかない!!!)
熱は下がっている……心音はどうかしら?―――チャングムは、脈診をせずにチョンホの胸に耳を当てた。
(変だわ……心音は正常だったはず……なぜ、こうも早鐘を打つ様な音がしているのかしら?)
(離れてくれ!、、、頼むから、、、チャングムさあぁぁん!!、、、)
(熱は下がっているから、心の臓が早いのは、何か理由があるのかしら?)
「ん、、ゴホッ、、んんん」―――なかなか離れてくれないチャングムに、チョンホは、わざとらしい咳をしてみせた。
(いけない!!目を覚ましそう!!早く、服を着なければ!!!)
チャングムはチョンホに背中を向けると、急いで衣を身につけた。
チャングムが服を着たかどうかを確かめる為に、チョンホは、再び薄っすらと目を開けた。
チョンホの目の前に広がるのは―――チャングムの白い滑らかな背中だけだった……
(もうダメだ!、、、余りに強い刺激だ、、、私はこのまま死ぬだろう、、、)
当然、ミン・ジョンホが、チャングムを残して死ぬ事などありえない・・・・
470 :
漢拏山9:2006/07/14(金) 19:33:38 ID:AIZagjeD
チャングムは衣を身に着けると、チョンホの方を振り向いた。
チャングムが衣を身に着けた様だと思ったチョンホは、今初めて気づいたかのごとく、ゆっくりと目を開けた。
「チョンホ様?気がつきました?」「チャングムさん……私は?……」
「雨に打たれて、お熱が……もう、大丈夫でございますか?」
「え、、ええ、、もう、大丈夫です。心配をおかけしました、チャングムさん。ありがとう……」
「いいえ、お礼を言わなければならないのは、私の方でございます。チョンホ様をこんな目に遭わせてしまって……」
「そんな……気にしないで下さい。あなたが無事で本当に良かった」
雨は上がり、陽は少しずつ西に傾いていた――――
「雨……上がりましたね……そろそろ戻りましょうか?チャンドクさんが、心配するでしょう」
「そうですね。歩けますか?チョンホ様」
「ええ……熱も随分下がりましたから」―――チョンホは、そう言うと立ち上がった。
「あっ?・・・」「何ですか?私が、何か変ですか?」「チョンホ様。そのお手は、どうなさったのですか?」
「ああっ!!」―――チャングムの背中に手を回す事を諦めた時に、握り締めた土と石……チョンホの両手は黒く汚れていた。
「ああ、、、なんでもありませんよ。きっと戦った時に……」
チョンホは、先程の事を思い出し、妄想を振り払うかの様に両手を拭った。
「行きましょうか?チャングムさん」「ええ、チョンホ様……」―――二人は、岩屋の外へ出た。
先程までの嵐が嘘の様に、森は静かになり、陽射しは木の葉に残る雨粒を照らし、木々は皆輝いている―――
「あっ・・・」―――チョンホは、チャングムの片手を強く握り締めた。そして、チャングムを見つめ、にっこりと微笑んだ。
「急ぎましょう。暗くなる前に……」「そ……そうですね……」
いきなり繋がれた手に、チャングムは戸惑った―――戸惑いながらも、手を離してくれとは言えずにいた。
チャングムは、チョンホの片手を同じ様に握り締め、チョンホの繋ぐ手に導かれてハルラの森を抜けた。
二人は手を繋いだまま、ひと言も言葉を交わす事無く、山道を下って行った。
里の家々が見えて来た時、チャングムは黙って、繋がれていた手を解いた。
「チャングムさん?」「チョンホ様……」「何故、手を離すのです?」
「いけません……チョンホ様……誰かに見られたら……チョンホ様のお立場が……里の人達は、口が軽く……」
チョンホは立ち止まって、チャングムを見つめた――――
「私は構いません……誰に見られても……見られても構わない」
「チョンホ様……お願いです……私の言う事を聞いてください……」
「チャングムさん……」
他人になんと言われようとも構わない―――だが、自分の気持ちを押し通せば、逆にチャングムを苦しめる事になる。
チョンホは、もう何も言わずに黙って歩き続けた。チャングムは来た時と同じ様に、チョンホの僅か後ろに従った。
繋いでいた手は離してしまったが、心はまだ繋がっている―――ミン・ジョンホは、そう信じたかった。
471 :
漢拏山10:2006/07/14(金) 19:34:32 ID:AIZagjeD
「チョンホ様、私はここで……」
「ここで良いのですか?チャンドクさんの所まで、お送りしましょうか?」
「いいえ……すぐ、そこですから。チョンホ様、傷はまだ、痛みますか?熱は?」
「ええ、すっかり……傷は、まだ痛みますが。チャングムさんのおかげです」
「あとで、他のお医者様に診せた方が良いと思います。私はまだ、見習いですから」
「解りました。帰りにウンベク先生の所へ寄って行きます」
「ええ、そうなさって下さい」
二人は向かい合ったまま、うつむいていた……お互いに、何か言葉を伝えようと思ったが、上手く言葉に出来ない。
「チャングムさん……早く戻らなければ、また、チャンドクさんのお叱りを受けますよ」
「そうですね……」
チャングムを引き止めたい―――チョンホは、想いとは裏腹な言葉を口にするしかなかった。
「それじゃ、チャングムさん。また……」「さようなら、チョンホ様……」
チャングムは、立ち止まったまま、ミン・ジョンホの背中を追っていた。
チョンホは、何度もチャングムの方を振り返り……振り返り……そして、チャングムの姿が見えなくなる場所で立ち止まると、
にっこりと微笑んで、片手を軽く上げた。
チョンホの姿が夕日の向こう側に見えなくなると、たった今、別れたばかりのチョンホの笑顔を胸に、チャングムは漸く家路についた。
472 :
漢拏山11:2006/07/14(金) 19:35:25 ID:AIZagjeD
「まあ、チャングム、遅かったのね!何をしていたの?」
「お師匠様、ただいま帰りました。遅くなって、申し訳ありません」
「おまえ!その、服の血はどうしたの?何があったの?」
「あっ・・・」―――チャングムの衣には、ミン・ジョンホと倭寇の血糊が滲んでいた。それはどす黒く変色していた。
(どうりで……すれ違う人達が変な顔をすると思った……血の事は、すっかり忘れていたわ)
「何かあったのね!何があったの?」「お師匠様、実は……」―――チャングムは、一部始終をチャンドクに話した。
「それで……ミン・ジョンホ様は、おまえの所為でお怪我をなさったのね」
「はい……私と別れてから、そのままウンベク先生の所へ向かわれました」
「チャングム……おまえ……私の話しをよく聞いていなかったのね?何故、そんな危険な状況で山へ行ったの!
云いつけたのは私だけど、急を要する患者で無い事は、おまえも知っていたでしょう?
おまえは、ひとりの患者を救おうとして、別の人を危険に晒してしまったのよ!
ミン・ジョンホ様が生きて帰られたから良かったものの、もし、死んでしまったらどうするつもりだったの!」
「お師匠様……申し訳ありません」
「そんな甘い判断しか出来ない様では、医女失格ね。正しい判断も出来ない様では、医女になる事は諦めなさい!」
「申し訳ありません……」――――『医女失格』……返す言葉は、何も無かった。
「もういいわ、、、まったく、おまえときたら、、、それで、ミン・ジョンホ様には、どんな手当てをしたの?」
「えっ!―――」「どんな手当てをしたか、聞いているのよ」
「はい、、、あの、、、止血をして、、頂いた傷薬を塗って、、、それから、お熱を出されたので、、、熱を、、、」
「熱ですって?それで、熱をどうしたの?」
「はい、、、熱を、、、熱を冷まそうと、、、薬草を探して、、、」「それから?」「はい、あのう、、、」
「はっきり言いなさい!」「はい、熱を冷ます薬草を与えて、、、」「それから?どうしたの?」
「お体が雨に濡れて、、、熱はあるのに、、、体は氷の様に冷たく、、、それで、、温めようと、、、」
「体はどうやって温めたの?」「はい、、、はい、、、ですから、、、」
(言えない―――どうやって、温めかなんて……言えるわけが無い……)
「何故、はっきり言わないの?おまえらしくないわね……」「ですから、、、、」
赤い顔をして俯くチャングムを見た時、チャンドクは、チャングムが何やら『特別な治療』をしたらしい事は理解した。
それはきっと、チャングムが赤くなる様な事なのでは―――?
「もういいわ……はっきりしない子ね。まあ、おまえも最近上達したから、その治療に間違いが無かったと信じましょう。
ウンベク先生の所へ行かれたのなら、安心ね。それに、ミン・ジョンホ様には……私やウンベク先生よりも……」
「お師匠様やウンベク先生よりも?何でしょうか?」
チャンドクは、チャングムの顔をじっと見つめると、ニヤリと笑った。
473 :
漢拏山12:2006/07/14(金) 19:36:08 ID:AIZagjeD
「そうね……私やウンベク先生が治療するよりも、おまえの治療の方が良く効きそうだもの。フフフ……」
「お、、お師匠さまぁっ!!!」
チャンドクの言葉を聞いたチャングムは、チャンドクの叱責が、いつの間にか自分への《からかい》に変わっている事に気づいた。
「あの・・・」―――チャングムは、チャンドクに何か言い返そうと思ったが、何かを見透かした様なチャンドクの視線に、
何も言い返す事が出来なかった。
「さあ、じっとしていないで、せっかく命を掛けて採ってきた薬草でしょう。早く、あちらへ持って行きなさい」
「はい……お師匠様」
チャングムは、採ってきた薬草を手に部屋を出て行こうとした。
背中を向けたチャングムに、チャンドクは、再び口を開いた。
「チャングム。患者の事を第一に考える、おまえは正しいわ。でもね、チャングム。よく覚えておくのよ。
他人の命を大事に思う様に、自分の命も大切にしなければ―――命を失ってしまったら、医女にもなれないわよ」
「はい、お師匠様。もう、無茶な事は致しません」
チャングムは、黙って部屋を出て行った。
チャングムが出て行った後―――チャンドクは、もう堪らないといった様子で大笑いした。
「アハハハ、、、アハハハ、、、ああ、可笑しい!!あの子ったら!!」
なんでも完璧に、そして生真面目に遣り遂げるチャングム―――とんだ、弱点があったものだ。
いつものチャングムなら、どんな治療をしたかと問えば、完璧に答えるに違いない……非の打ち所が無い位に。
ミン・ジョンホ様……誰が見たって、チョンホ様のお気持ちは手に取るように解る。
まさか、あの子もそうだとは………まあ、チャングムの事だから、何の間違いも無かったと思うけど。
それにしても、思い出しても可笑しいチャングムのうろたえよう……意地悪しすぎたかしら?
チャンドクは、部屋の前を通る者達が呆れる程に笑い続けた。
チャンドクの笑い声は、珍しい―――部屋の前を通る誰もが、そう思った。
474 :
漢拏山13:2006/07/14(金) 19:37:06 ID:AIZagjeD
=宮中=
チャングムとシンビは、女官の呼び出しを受け、後宮に向っていた。
「まったく……毎日、毎日、病気でも無いのに、こうも呼び出しを受けるなんて……たまらないわ」
シンビの心は沈んでいた―――「これじゃ、せっかく宮中に配属されても意味が無いわ。地方にいた方が、まだマシよ」
「シンビ……」
「チャングム。あなたは平気なの?年下の女官達に、いいように使われて?あなただって、もとは女官でしょ?
あの人達は、私達に意地の悪い難題を突きつける事で、宮仕えの憂さを晴らしているのよ」
「あなたに何と言ったらいいのか、解らないわ……」
「こんな事をやっていても、医女の修行にはならないわ。そうよ、意味は無いわ!
足を揉めだの、肌の手入れをしろだの……私は、耐えられない!」
「シンビ……私も最初は戸惑ったわ。でもね、今は平気よ。耐えられない事じゃないわ」
「あなたは強いわね、チャングム。あなたと一緒で良かった!私ひとりじゃ……とても……」
真面目なシンビが落ち込む気持ちは、よく解る。
それでも、耐えられない程の事じゃ無い――――母やハン尚宮様を失った事に比べれば……
そして、あの人を失いそうになったあの時を思い出せば……。
シンビと一緒に後宮に向うチャングムを、ミン・ジョンホは遠くから見つめていた。
朋輩と一緒にいるチャングムに、声をかけるのは躊躇われる。
このまま、そっとしておいた方がいいだろう………。
ミン・ジョンホは、目の前を横切って行くチャングムを追った。
一瞬、―――チョンホの目に映る、チャングムの美しい横顔と豊かな胸の膨らみ……
医女の服を通して、あの日、岩屋の中で見たチャングムの肌の白さが蘇る様だ――チョンホは、そんな錯覚に陥った。
「あなたを失う事など、とても考えられません」―――チャングムは、あの時、確かにそう言ってくれた。
そして、自分も同じ気持ちだった―――チャングムのいない人生など、とても考えられない。耐える事は出来ない。
チャングムの姿が見えなくなると、ミン・ジョンホは静かに背中を向けて歩き出した。
ハルラ山の山道を下った時、繋いでいた手は離してしまったけれど、チョンホの心の中では、チャングムとの手は繋がれている。
そして、心の中で手を繋いだまま、いつもチャングムを見守っている。
いつまでも、離れる事は無いのだと―――。
終わり
職人さんのじらしプレイに参ったよ (;゚Д゚)=3
そして前半と後半のチョンホのギャップに大笑いだ。
さすがラブ※
うむ。でも、ラブ※ではあるけれど、精神的な絆もキチンと描いてくれたので、後味爽やか。
よかったよ〜。
>>474 焦らしプレイの後はめくるめくエロが展開される
かと思いきやラブ※のリアクションがおもしろくてツボで
パソの前でニヤニヤしてしまいました。GJ!
>>452 ウナギイヌの人ですか!チャングム×ハン尚宮様読みたいです。
もし
>>283のスレじゃないところに投下される場合はご一報ください。
チャングムの誓いで百合萌えのスレは以前揉めたこともあるので
避けたほうがいいと思います。
>>477 >>452の者です。いやはや、そのようなお言葉を頂けるとは光栄です。まだ構想段階ですが、了解しました。
>>474 萌えてしまいましたよ。
えろなしなのに。どうしてくれるんですかこのときめきを。
王崩御後の逃避行編をはげしく希望します。
先程の者です。
悩みましたが、保守代わりにこちらに投下してみます。ていうか面白くなかったら申し訳ありません。
チャングム×ハン尚宮の話ですが、内容は
ノーマル(かなり原作に忠実)
微妙に百合
エロなし※ご自由に皆様各自の妄想で補って下さい
3分割投稿予定
[1]
「鍼を打ちなさい。早く鍼を……」
チャンドクに促され、チャングムは鍼を手にしようとする。目の前には患者が寝ている。
しかし、チャングムの脳裏には、激痛に苦しむチャンドクの叫び声と姿がよみがえる。額からは脂汗がにじみ出る。手の震えが止まらない。
鍼を打たなければ……打たなければ……いや、できない……どうしてもできない……。駄目です、今の私にはできません……。
チャングムは、助けを求めるような顔でチャンドクを見た。
仕方なく、チャンドクが鍼を打った。
済州島に来てから二年が過ぎていた。
チャングムは、鍼の施術に失敗してから、恐怖心のために鍼を打てないでいた。そして、来る日も来る日も、一人で洞窟にこもって修練を続けていた。
チョンホは、やつれていく彼女のことが心配だった。たまらなくなってチャンドクに会いに行き、問い詰めた。
「どうして励ましてやらずに、あんなに厳しく当たるのですか?怖くなって鍼を持てなくなってしまいます」
チャンドクは、冷静に答えた。
「私も経験があるので分かります。チャングムがあの時以来、鍼を持てないのは、私に叱られたからではなく、鍼の打ち方を間違えて私を死なせかけた自分を許せないからです。自らに罰を与える時間が、もっと必要なのです」
「しかし……」
「いつ立ち直るか、それを決めるのは私ではなく、チャングム自身です。それに……」
チャンドクは、少し考えてから言った。
「私はチャングムの医術の師。でも、チャングムの心を導く師は……私ではなく、あの方ですから……」
「やはり、あの方ですか……」
あの方。それは……。
※すみません。題名入れるの忘れていました。
[2]
チャングムは一人、薄暗い洞窟の中で、座って考えていた。
先程、自分がチョンホに言った言葉を思い返していた。
―――志があれば、あきらめなければ、何でもできると思っていました。でも、できないこともあると、初めて知りました。それでもやります、必ずやります―――
さっきはナウリにそう言ったけれど……。でも、本当は、自信をなくしています。いえ、怖いのです。このまま鍼を打てないままになるのではと。そうなると、せっかく見つけた希望が、医女への道が、消えてしまう……。
お母様とハン尚宮様の無念を晴らすという約束が、果たせない……それが何よりも辛い。
予期しなかった障害に阻まれるのならともかく、自分の落ち度で招いた苦難が乗り越えられないなんて!
歯がゆくて、やり切れなくて、たまらない。
この恐怖心、いったい、いつになったら乗り越えられるの?
尚宮様……。やっぱり、志があっても、あきらめなくても、できないことが、この世にはたくさんあるのでしょう?
私は、こんな自分が許せない。医術の道も、王宮に戻る道も、自分のせいで駄目になってしまうなんて……。
だから、尚宮様。私を叱って下さい、もっと私を罰して下さい……。
洞窟の中は静かで、身を切るような寒さが、いっそうそれを際立たせる。
チャングムの頬に、一筋の涙が流れた。
その時、どこからともなく風が吹いてきて……優しくチャングムの髪をなで、涙を拭い去るかのように頬をなでた。その風は、温かい空気となってチャングムを包んだ。
なぜだか少し、自分の体が、束縛されているような気がする。何か、いや、誰かに押さえ込まれているような……。
「……尚宮様?」
姿は見えないけれど……そうなのですか?私は今、尚宮様に抱きしめられているのですか?宮中に戻られたのではなかったのですか?
懐かしくて優しい声が聞こえてきた。
―――チャングム……。苦労しているみたいね。気になって、ここへ来たけど……―――
「尚宮様!まさか……信じられない……。お姿は見えないけれど、また会えるなんて……。でも、私はいつまでも尚宮様に心配ばかりかけてしまう困った子です。お許し下さい」
―――鍼の失敗のことね。お前らしくもないわ。そんな弱音を言うなんて―――
「でも、私のせいなんです。私のせいで、約束が果たせなくなるかもしれないんです……」
―――お前自身が招いてしまった困難なんて、今までに何度もあったわね。お前は、好奇心が強くて、思い込んだら後先考えずにすぐ行動するし、すぐ調子に乗るし……。私は、そんなお前に、何度気を揉んだことか―――
「……そうでしたね。でも、今度は、努力だけではどうにもならないのです。いつ恐怖心を乗り越えられるのか……先が全く見えないのです。不安なのです」 ―――先が見えない不安……味覚を失った時のことを忘れたの?―――
「……!」
そうでした、尚宮様。あの時私は、後先のことを考えずに、朝鮮人参とニクズクの食べ合わせを自分の体で実験して、味覚を失ってしまったんでしたね。
本当に、あの時は、自分で苦難を招いてしまったとしか……。
料理人としての道が断たれる、母の望みが叶えられなくなる……私はやり切れなくなって、やけを起こしました。
でも、尚宮様は、私をお見捨てになりませんでした。私の、味を描く能力を、目覚めさせて下さいましたね。私に、絶対にあきらめない、ということを教えてくださいましたね。
それともう一つ、あの夜のことも思い出しましたよ……。
チャングムは、水刺間時代へ思いを馳せた―――――――――――――――
チャングムが味覚を失ってからしばらくして、宮中の味噌の味が落ちている、という騒ぎが持ち上がった。その原因追究が、ハン尚宮とチェ尚宮の最初の対決課題となった。いわゆる「みそ騒動」である。
ハン尚宮とチャングムは、外出許可を得て、王宮の外で調査を始めた。
しかし、なかなか原因を突き止めることはできず、そうこうしているうちに、日が暮れてしまった。
仕方なく二人は、ある村で宿に泊まることにした。
[つづく]
[4]
次の日の出発時間が早いので、二人は早めに床についた。
チャングムはハン尚宮と、枕を並べて寝ていたが、いろいろ考えてしまって、なかなか寝付けないでいた。
(尚宮様は、私の才能を信じて下さっているけど……。でも、もしこのままずっと味覚が戻らなかったら……)
チャングムは顔を上に向けたまま言った。
「ねぇ、尚宮様。もし、私の味覚が 戻らなかったら、どうされるつもりですか……?味を描けるといっても、味覚を失った人間が水刺間にいるということが、もし他の人たちに知られれば、尚宮様の立場が危なくなるのではありませんか?」
「お前はそんなことを気にしなくていい」
「でも尚宮様……私のために……」
「……お前のためだけではないわ。私自身のためでもあるの」
「え……?」
チャングムは、大きく目を見開いてハン尚宮の方を見た。
「確かにお前は、天賦の料理の才能を持っている。だけど、それだけではない。私はお前の師で、お前を導く立場であるけれども……。
最近思うの。私がお前に導かれているのでは?と」
「尚宮様、何をおっしゃるのですか?私が導くだなんてとんでもない!」
「いいえ……。お前の前向きでひたむきな生き方が、どれほど私を勇気づけてくれたことか。過去にこだわり、今を生きようとしない、臆病な私を、お前が一歩前に踏み出させてくれた」
「………」
「競合に勝つため、志を果たすためだけに、お前が必要なのではないわ。
私自身に、お前が必要なの。お前に側にいて欲しいの……」
チャングムを見つめるハン尚宮の目は、真剣そのものだった。
チャングムは、胸が熱くなった。尚宮様は、そこまで私のことを思って下さっているのかと。
寝返りをうって、体ごとハン尚宮の方を向いて話しかける。
「尚宮様。『お前が必要なの』って言って下さったこと、とてもうれしいです。私も尚宮様が必要です。私、これからも尚宮様を振り回してばかりかもしれないけど、ずっと側にいさせて下さいね。ね?」
「フフ……この子は……」
[5]
沈黙が流れる。
再びチャングムは、寝床の中であれこれ思い巡らしていた。
尚宮様と同じ部屋で寝るのは久しぶりだ。なんだか嬉しい。女官になってから、同じ部屋で寝ることは、今日みたいに外出でもしない限り、まず、ない。
尚宮様のこと、部屋子の時は、ちょっと近寄り難く思えた時もあったけれど、でも、今日はとても親しみを感じる。
「呪いの札事件」の時は、尚宮様はおんぶをして下さった。私はあの時、体が弱り切っていたけど、尚宮様の温もりが背中から伝わってきて……。また、あの温もりを感じたい。
今日を逃したら、今度はいつになるか分からない。でも怒られやしないだろうか……?
意を決して、遠慮がちにハン尚宮に話しかけてみる。
「あの、尚宮様」
「何?」
「あの、その……もっとそちらへ寄ってもよろしいですか?」
「……お前はいったい、いくつになったの?」
あきれたように言われてしまった。でも、あきらめない。
「部屋子の時は、そんなことしたことがありませんでした。でも、なんだか今日は、そうしたいのです。いえ、そうさせて下さい。ね?」
チャングムの、甘えるような声とキラキラ輝く瞳に、ハン尚宮は負けた。
「……好きにしなさい」 「えっ!よろしいのですか?エヘヘヘ」
チャングムは、喜び勇んでハン尚宮の方へ寄った。寄り添うように、体をくっつけるようにした。
「ちょ、ちょっと!何でそんなにくっついてくるの!」
尚宮様は何を焦っているのですか?
「……いけませんか?」
すがるような上目使いでハン尚宮を見る。
「……いけないとは言っていないけど……」
すごく曖昧な言い方ですね。
本当は、尚宮様に抱きつきたいのだけれども、まさか、そこまでするわけにはいかない……。とか思いつつも尚宮様の温もりを楽しむ。
何だか尚宮様は、母と同じ香りがする。とても落ち着く。
「ねぇ。尚宮様。こうしていると、母と一緒に寝ていた頃を思い出します」
「そう……」
[6]
幼い頃は、父と母の三人で寝ていたけど、私はよく母の布団にもぐり込んでいたっけ。そうして私はよく、母の胸を触っていた。小さい頃は触りたくなるものだから……母は怒らなかったけど。
ふと、隣のハン尚宮の姿がチャングムの視界に入る。私は尚宮様のことを母のようにお慕いしているけど……でも、尚宮様は、私のことを娘とまで思って下さっているのだろうか?
ま、まさか、尚宮様にも、母と同じことをするわけにはいくまい。
だって、私はあの頃とは違って、もう子供ではないんだし。それに、そんなことをしたら、怒られるに決まっている。
でも……。ハン尚宮の寝顔を見てみる。
尚宮様は、もう寝ているみたい……。でも、どうしよう。気がつくかもしれないし。どうする?
今日は、私は尚宮様を独り占めできる。この次はいつになるか分からないんだし……。
ええい!気付かれても構わない。今日は特別な日なんだから!
手を延ばし、寝間着の上から、そっと尚宮様の胸に触れてみる。
……尚宮様は気がつかない。それじゃ……。
そっと手の平で、膨らみ全体を包み込むようにしてみる。柔らかい。でも、思ったより小さかった。やっぱり、子供を産んでいなければ、このようなものなのか。それに、尚宮様は細身だし……などと考えていたら、思わず、手に力が入って、胸を強く押してしまった。
うわ……!!ど、どうしよう!と、思った瞬間、チャングムの手は、ハン尚宮に、ぎゅっと掴まれていた。
尚宮様の目が怖い!チャングムは慌てて顔を背けた。
「いったい何なの?」
「いえ……あの、その、これも子供の頃の思い出でして……」
「お前はすぐ調子に乗って!明日は早いんだから、早く寝なさい!」
「はい……」
チャングムの手は、ハン尚宮に払いのけられてしまった。
分かってはいたけれど……。悲鳴を上げて下されば、「尚宮様かわいいです」とか言えたのに。冷静に不機嫌に言われたのでは、どうしようもない……。
再び沈黙が流れる。
尚宮様、怒ってる?顔をこっそり見るが、ただ寝ているのか怒っているのか分からない。
あぁ……尚宮様に抱きしめてもらいたいのに……。
この状況では「ね?」って、おねだりしても駄目だろう。ていうか言えない。ただでさえ叶わぬ想いが、ますます叶わなくなってしまった。
それならせめて……。
チャングムは、ハン尚宮の片方の手を探り当て、そっと握った。
……良かった。今度は何もおっしゃらない。
尚宮様の手は、長年、調味料や水にさらされて、少し潤いはなかったが、温かい。
尚宮様の手から伝わってくる温かさ。わずかに接している尚宮様の体から伝わってくる温かさ。尚宮様の、ぬくもりに包まれて――― 安らぎと心地良さを感じながら、チャングムは眠りに落ちていった。
[つづく]
[7]
チャングムは、夢と現実の境を、うつらうつらとさまよっていたので、気がつかなかったのだが……。
実はハン尚宮は、もう片方の手でチャングムの手を、優しく撫でていたのであった。
ハン尚宮は、今日までのことを思い返していた。
―――ミョンイを失ってから、私は……誰かと心を分かち合いたいとか、誰かを守りたいなどと思ったことはなかった。失うものがない方が強くなれると思っていたし、もう誰かを失う痛みを味わいたくないと思っていた。
ところがどうだ。チャングムと出会ってからの自分は。自分でも驚くくらい、この子のために、心を傾けているではないか。
最近の出来事だけでも、「錦鶏事件」、「呪いの札事件」、そして、今回の味覚消失。どれも、自分は不利益を被るばかりだ。
でも、それでもいい、と思える自分がここにいる。 苦難を乗り越えるたびに、この子との絆が強くなっていくような気がする。そして、私も変わっていく。
この子を守りたいという気持ちが、私を強い人間に変えていく。
いや……守られているのは、私の方かもしれないわね。この子と出会わなかったら、支え合ったり心を分かち合う喜びなんて二度と味わえなかったかもしれない。
私は、お前に救われているのかもしれないわね……。―――
チャングムの寝顔は、幼子のようだ。可愛いというか、愛しいというか……。それを見ていたら、目が熱くなってきた。
ハン尚宮は、チャングムの手を優しく撫でながら、目を潤ませて、しばらく見ていた。
その後。
チャングムの味覚消失は、ウンベクの、蜂の針という画期的な、しかし危険な治療により、ほどなくして完治した。
それまでは、全く見通しが立たなかったのに、思いもよらぬ方法で、道が開けたのであった。
[8]
――――ひと通り、味覚消失の時のことを思い出したチャングムは、懐かしい思い出に微笑んだ。
再びハン尚宮に話しかける。
「あの頃は苦しいことも多かったけれど……今から思えば、尚宮様が側にいて下さって、幸せな時だったのかもしれませんね……。
ねぇ尚宮様。味噌の調査の時、宿に泊まったでしょう?あの時私は、尚宮様と久しぶりに一緒に寝られるのが嬉しくて……。本当は、抱きしめてもらいたかったんですよ。でも、尚宮様は、迷惑そうでしたから……」
―――そんなことはないわ。ただ、あの時は、私の心にまだ余裕がなかったから……。でも、私が最高尚宮になった頃からは、何度も抱きしめてあげたでしょう?―――
「………足りません。もっともっと、抱きしめてもらいたかったです」
―――「…………」―――
「今はもう、私は尚宮様に、触れることさえできないのです」
チャングムは、側にいるはずのハン尚宮に触れようとして手を延ばした。しかし、それは虚しく空を切るだけだった。嘆くように溜め息をついた。
チャングムは静かに話を続けた。
「私は……八つの時、父と母を失いました。私は幼すぎて、父と母に何かをしてあげたという記憶が、あまりありません。
私は、宮中に上がり、尚宮様と出会いました。
私は、尚宮様を振り回してばかりだったけど……でも、母にしてあげられなかったことを、たくさんして差し上げたいと思っていました。
女官は王の女。普通の女としての幸せを手に入れることはできません。
でも、それでもいいと思いました。尚宮様の側にいられたから、幸せでした。
私にとって尚宮様は、師匠であり、母であり、いいえ、それ以上の存在でした。この世で一番好きな人でした。
尚宮様は、私の全てでした。
でも、今はもう、尚宮様は、この世にはおられず……。抱きしめてもらうことも、髪を撫でてもらうことも、手を握ることも……叶いません。
済州島にきてから、ただひたすら、王宮に戻ること、医術を修得することだけを考えてきましたが……。壁に当たったこの頃は、尚宮様がおられない寂しさに襲われるばかりです……」
ハン尚宮は黙っていた。
しばらく沈黙が続いた後、チャングムは、自分を押さえつけている力が強まったのを感じた。自分の体の周りを、温かい空気が、包み込むように、撫でるように、流れるのを感じた。
尚宮様は、私を強く抱きしめて私を撫でて下さっているんですか……?
チャングムは、ハン尚宮に身を委ねた。そして目を閉じた。
脳裏には、ハン尚宮に抱きしめられている時の記憶が、鮮烈によみがえってくる。
母に似た尚宮様の香り。豊かではないが、柔らかな胸。ぬくもり。自分をしっかり抱き寄せる力強い手。
私は、また、尚宮様のぬくもりに包まれている……。私の乾いた心に、尚宮様の優しさが染みてくる。
例え他の誰かに抱かれても、こんなに安らぎを感じることはできないだろう。
できれば、ずっとこうしていたい……。
チャングムは、安らかな眠りに落ちていくかのような錯覚にとらわれていた。
[9]
しばらくして、ハン尚宮は、チャングムを抱きしめたまま、話し始めた。
―――チャングム。よくお聞き。私は、今までもそうだったけれど、これからも、お前の側にいるから―――
チャングムは、ゆっくりと目を開けた。
―――私は、お前の師であったけれど、同時に、お前に導かれ、助けられ、守られてもいた。
けれども、この世を去った今、お前に守られる必要はなくなった。
だから……私はただひたすら、お前を導き、守るわ。お前が私のことを忘れない限り、ずっと……―――
優しく穏やかな尚宮様の声。
こらえきれず、チャングムの目から、涙が溢れ出し、とどまることなく流れた。
―――お前はどうしてすぐ泣くの?泣くのはおよし―――
泣きながらチャングムは言った。
「……ね、尚宮様。これからも、ずっと私の側にいて下さるんですよね?」
―――ええ。ずっと側にいるわ―――
「ずっと、ずーっと側にいて下さいね。ね?」
―――ええ。ずっと、ずーっと側にいるわ―――
「………尚宮様。私、ずーっと尚宮様のこと、絶対に忘れませんから!」
―――フフ……でもどうかしら?お前は皆に好かれるからね。別に、私がいなくてもやっていけるんじゃないかしら?―――
「そんなことをおっしゃらないで下さい!」
―――ちょっとからかってみただけよ―――
「もう!尚宮様の意地悪!」
チャングムは少し笑顔になる。
―――チャングム……。今もそうだけど、きっとこれからも、行き詰まって不安に押し潰されそうになる時が、何度もあるでしょう。
だけど、お前は一人ではないから。自分にできることを一生懸命やりなさい。
そうすれば、必ず道は開かれるでしょう―――
「はい。尚宮様。私、もう迷いません。絶対に、医術も復讐も成し遂げてませます」
―――それを聞いて安心したわ―――
風が再び吹いてきた。
辺りは眩しいくらい明るくなり、光の洪水のようだった。
チャングムは、自分の体を押さえ付けていた、温かい力が次第に弱まっていくのを感じた。
「尚宮様!もう行ってしまわれるのですか?」
―――ええ……。でも忘れないで。私はずっとお前の側にいるから……―――
「尚宮様!」
チャングムは急いで立ち上がって、風を追いかけた。しかし追い付かなかった。
風は、穏やかに洞窟を抜け、空の彼方へと吹き抜けていった。
しばらくチャングムは、呆然と空を見つめていたが、やがて、洞窟に戻った。再び静けさと寒さが襲う。
チャングムはふと、薄暗かったはずの洞窟に、光が幾筋も差し込んでいるのに気がついた。
座り込んで、その光に触れ、光を浴びて、チャングムはむせび泣いた。
[10]
数日後。
チョンホは、牛島に向かう船を護衛するために、済州島を一時的に離れることになった。
そして、チャンドクも、兵士の治療のために同行することになった。
チャンドクが留守をしても、チャングムは大丈夫だろうか……。チョンホは、そのことが気掛かりだった。
「本当によろしいのですか?ソ内人のことは、心配ではないのですか?」
「何度聞いたら気が済むのですか?時には突き放すくらいがちょうどいいのです。それともナウリは、そんなにチャングムを頼りない子だと思っておられるのですか?」
「いえ!そうではありません。ただ……心配で……」
「それに、あの子は一人ではありません」
「ソ内人は、ハン尚宮様と……本当に強い絆で結ばれているのですね……。私の入り込む余地はなさそうです。私は、苦しむ彼女に何もしてあげられない……」
寂しそうに話すチョンホの顔をしばらく見ていたチャンドクだったが、励ますように言った。
「でもナウリ。ナウリは、ナウリにできることを彼女にしてあげたらよろしいのでは?人はそれぞれに、占める場所というものがあります。ナウリには、ナウリの占めるべき場所があるのではないでしょうか?」
「そうですね……。ソ内人にとって、私の占める場所はどのくらいの大きさなのでしょうか……」
チョンホの言葉を聞きながら、チャンドクは思った。(……まあ、これは、私自身にも言い聞かせているんだけどね!)
そうして、二人は牛島に向かった。
チョンホとチャンドクがいない間、済州島は倭寇の襲撃を受けた。
チャングムは、倭寇の大将を治療した際に、ついに恐怖心を乗り越え、鍼を打つことに成功した。
それはもちろん、トックおじさんや、住民の命がかかっていたからであったが、それだけではない。
チャングムは、ハン尚宮と共にいた。チャングムの心は、ハン尚宮に守られていた。
―――志があれば、あきらめなければ、何でもできる――― チャングムは、そう思った。
倭寇は、戻ってきたチョンホの軍隊により征圧された。
再び、済州島に平穏な日々が戻った。
空は青く晴れ渡り、海は太陽の光で反射して、キラキラと輝いている。そんな景色の中で、チャングムは一人たたずんで海を見ていた。
チャングムは、ささやくようにハン尚宮に語りかける。
「尚宮様……。私、また一歩前へ進むことができました。王宮へ戻る日が、また一日近づきました。
尚宮様が側にいて下されば、私、何でもできる気がします」
海風が、チャングムの髪を優しく撫でるようにして、吹き抜けていった。
[完]
どうして女官は隣で寝てる人のおっぱいに触りたがるのですかママニム .。゜(ノД`)゜.+
[6]あたりで萌えました。
ありがとう!
添い寝と胸タッチだけで充分ドキドキしました。
いいカポーだなぁ
ハン尚宮×チャングムは、王道カプですね。
「韓尚宮懐慕」の作者です。未熟な文章でしたが、お読み頂きありがとうございました。
ところで、まだ案はまとまっておらず、書けるかどうかも保証できませんが、
クミョン×チャングムを書いてみようかと思うのですが……。
タブーな組み合わせですが、17話以前のクミョンにとって、チョンホと同じくらいチャングムは心の支えだった……という解釈に基づき、話を展開してみようと思っておりますが、いかがなものでしょうか。
>>495 すっごーーーーく楽しみ!
あの二人、いいカポーだと思うの
シャイであまり人に心を開かないお姉さまと
ズカズカと人の心の中に踏み込んでくるやんちゃな妹って感じで。
>>496-497 熱烈なお言葉ありがとうございます!
クミョンってコンプレックスの塊みたいなものだから、描くのが難しいんだけど(準備時間がかかる)、頑張ってやってみようと思います。
ここは、チャングムの夢はおkだったんですよね?
キャラを本編に持ってきても、良いんでしょうか?
501 :
名無しさん@ピンキー:2006/07/26(水) 19:46:07 ID:IE61/Ngd
チョンホ×チャングムが読みたい
特に逃亡生活あたりを誰か書いて下さい。
>>501 それは、是非書きたいと思ってはいるんですが・・・
自分が書けば、一週間程は必要かと思います。
設定は、純愛がお好みですか?それとも、ラブ※仕様がいいですか?
純愛でお願いします。あ、でも、キスシーンは入れて下さい!
>>503 では、その方向で。
キスシーンは、もちろん入れますが、それ以上も書こうかと思います(一応エロパロ板なので)
但し、ソフトに致しますので、ご了承下さい。
505 :
名無しさん@ピンキー:2006/07/27(木) 09:58:03 ID:Fq47Qqhz
506 :
名無しさん@ピンキー:2006/07/29(土) 22:29:08 ID:S8n5p8i9
チャングム曜日
逃亡編・・・推敲中です。1〜2日、お待ち下さい。
チャングム×チョンホ、逃亡編です。
前回、ハルラ山での続きの話を考えていましたので、逃亡生活とは少々違うかもしれません。
逃亡生活の入り口と言う事でご理解下さい。
(私?……眠っていたの?……ここはどこ?……)
薄暗い岩屋の中で、チャングムは目を覚ました―――しかし、そこには誰の姿も無い。
唯一つ、蝋燭の灯火だけが岩屋の中を照らしている。
(夢を見ていたの?私……チョンホ様はどこへ?)
もうすぐ日が暮れるのに、一緒に逃げた筈のチョンホの姿は何処にも見当たらない。
探しに行こうか?――そう思ってみたが、疲れ切った体が言う事を聞いてくれない。
夕べ王宮を出た時から、水も食べ物も口にしていなかった事を思い出した。
チャングムは膝を抱え、ぼんやりと蝋燭の炎を眺めていた。
村で聞いた『中宗王崩御』の知らせ―――気がかりだった。
(王様……あれからどうなさったのだろう?安らかな御最後だったのかしら……)
「チャングムさん――目が覚めたのですか?」
いつの間にか、岩屋の入り口にミン・ジョンホは戻って来ていた。
「チョンホ様……どちらへ?」
「今の季節、山の中は寒い。薪を探しに行っていたのです」
「そうだったのですか……私を置いて行かれたのかと思いました……」
ぼんやりと目覚めたばかりのチャングムの言葉に、チョンホは戸惑った。
(捨てられたとでも、思っていたのか?……ほんの少し、側を離れただけのつもりだったのに……)
ハァハァ
「置いて行くだなんて……チャングムさん、どうしたのですか?あなたを置いて行く筈がないでしょう。
顔色が悪い……送ってくれた内侍に聞きましたよ。夕べから何も食べていないそうですね」
「ええ……そんな気になれなくて……」
「内侍が、そっと教えてくれました。
連れ出された船の上で、最初あなたは激しく抵抗したが、その後は黙ったまま食べも飲みもして下さらないと……
内侍は弱り果てていましたよ」
「動揺していたのです……余りにも急で」
「王様の事が気になるのですね?」
「ええ……皆の事も、王様の事も……主治医として最後までお役目も果たせずに……苦しまずに逝かれたのだろうかと」
岩屋の中から、チャングムは遠くの空を見つめていた―――その空の先には中宗王がいた都がある。
そんなチャングムの姿を見たチョンホは、目を伏せて淋しそうに少しだけ笑った。
(愚か者だな、私は……この人が王の名を口にする度に、心がこうも落ち着かないとは……)
「何か食べませんか?体に毒ですよ」
「ええ……そうですね」
「私はその間に火を熾します。ゆっくり休んで下さい。疲れたでしょう?」
チャングムは、チョンホから渡された食べ物と水を僅かばかり口にした。
余り食欲は感じ無かったが、それを口にすると、少しばかり気が満ちるのを感じた。
火を熾すチョンホの横顔をチャングムは黙って見つめていた。
チョンホ様は、少し痩せた様だ―――慣れない暮らしの所為なのだろうか?そう、自分の為に、この人を犠牲にしてしまった。
それでも、自分への思い故に耐えていたのだろうか?
じっと見つめるチャングムの瞳に、チョンホは戸惑った。
「どうしたのです?私の顔に何かついていますか?」
「いいえ……チョンホ様……少しお痩せになった様だと……」
自分の身を案じるチャングムの言葉に、チョンホは微笑みながら答えた。
「体は至って元気ですよ。元気で過ごさなければ、医女チャングムに叱られてしまうから」
「まあ!フフフ……そんな事を仰るなんて、私は随分、口うるさい女だと思われているのでしょうか?」
「えっ!いいえ、そんなつもりでは……あなたに再び逢える事を信じない訳ではありませんでしたが、本当に再会出来るとは……。
半ば諦めながらも、望みは捨てずにいました―――もう一度、あなたに逢えたらと………
その時、私が元気でいなければ、きっとあなたを心配させてしまうだろうと……そう、思っていました」
「何もかも忘れた―――そう、仰ったのに……チョンホ様は、本当に私の事を忘れようとなさっているのだと思っていました。
私とは、もう逢って下さらないのだと……私も同じです。それでもあなたを諦めきれなかった。
王宮の何処にいても、あなたを探してしまう……書庫へ入っても、あなたの気配を感じてしまう……いるはずも無いのに
……あなたのいない王宮は淋しく、医女の仕事に打ち込む事だけが総てでした」
チョンホのいない王宮での生活――――
チャングムは、どれほど王の寵愛と信頼を得ても、決して心は満たされる事の無かった年月を思い出していた。
医女の仕事―――それが無ければ、自分は生ける屍と何も変わりは無かっただろう。医術だけが心の支えだった。
「忘れました―――確かにそう言いましたね。あの時は、そう言うしかありませんでした。
だが、忘れられない……忘れてしまえば、楽になれるのか……いや、苦しみは増すばかりでした。
あなたのノリゲを見る度に、あなたはどうしているのだろうかと……そればかりを考え……
時が経つにつれ、あなたを側室にせず主治医とした王様の心も信じられず……あれ程あなたを愛した王様が、今頃、あなたを
後宮に入れてしまったのではないかと疑った事もありました。
そして、中宗王の様な情け深い立派な方に想いを寄せられて、それに抗う女人がいるであろうかと……
あなたの事さえ、疑ってしまったのです―――あなたが王様の事を口にする度に、いつの間にか嫉妬心に捉われている。
私は、救い様の無い愚か者です……私の告げた一言で、あなたが苦しむ事になるとは……許して下さい。
忘れる事も出来ないクセに、あなたを悲しみに沈めてしまった……」
「チョンホ様――あなたを苦しめたのは、私です。許しを請うのは私の方です」
嫉妬心―――そんな心の弱さを見せるミン・ジョンホの姿を初めて目にした……チャングムは、自分を責めずにいられなかった。
(思いやり深く、優しい方……そう思い、いつまでも甘えていたのは私の方ではなかろうか?)
燃え盛る炎を挟んで、二人は俯いたまま、言葉を失っていた。
離れていた時の流れは、余りにも永く二人を引き裂いた。
失われた空白を埋めるには、今少し、時を待たねばならないのだろうか――チョンホは、そう思っていた。
「覚えていますか?前にもこうして過ごした事がありましたね」
「済州島で?同じ岩屋の中でしたね……よく、覚えています。チョンホ様は、私を助けて下さった」
「いいえ、助けられたのは私の方です。あなたがいなければ、今頃こうしてはいなかったかもしれない。
山を下りる時、私は、二度とあなたの手を離すまいと誓っていました。しかし、里が近づくとあなたは手を離してしまった。
私の立場を思ってくれる気持ちは嬉しくもあり、そして、あなたを守りきれない自分に悲しくもありました。
それでも、心の中で私達の手は繋がれていると……そう信じていました」
「チョンホ様……」
「梨浦の渡しで、再びあなたの手を取る事が出来た――あの時は嬉しかった。済州島でのあの日が蘇る様でした。
しかし、あなたは私の手を離れ、私達は宮中に戻る以外に道は無くなってしまった。
そして、今度はあなたが三水に向う私の手を取ろうとしてくれた。なのに、離すまいと誓った手を三度目に離してしまったのは
私だったのです……」
「あの時はそうするしかなかった……それが、あなたの思いやりだったと解っています」
「チャングムさん、私はもう離しません。あなたの手を離す事は決してありません」
「チョンホ様……私もです。あなたの手を離す事は致しません……決して……」
「チャングムさん。一緒に明国へ行っていただけますね?」
「チョンホ様……」
「明国は、この山の下を流れる鴨緑江(アムノクカン)の向こう側にあります」
「チョンホ様、どうしても明国へ行かなければならないのでしょうか?」
「何故です?行くのは嫌なのですか?」
「王様のご命令でも……この国を……朝鮮を捨ててしまわなければならないのでしょうか?皆のいるこの国を……」
「確かに、王様の最後のご命令は、あなたと明国へ逃げる事です。
ですが、王命であっても、王命で無くても、あなたを明にお連れしたい。
明国は、この朝鮮より何倍も広い国です。多くの民族が入り混じり、渡来人も多い。
医術も進んでいる国です。医女を志すあなたには、またと無い修行の場となる事でしょう。
それにこの国に残るには、今はまだ危険すぎます。ほとぼりがさめるまで身を隠した方が安全でしょう。
王様もそう思って、この命令を下されたのでしょう。明へ行く事は、必ずあなたの役に立つと――」
「チョンホ様、解りました。一緒に明国へ参ります」
「そして、また一緒に戻って来ましょう……ここは、私達の生まれた国なのですから」
そこまで話した時、ミン・ジョンホは中宗王の事を想った。
(自分で話してみて、今漸く王様の心が理解出来る―――王様が、どれだけこの人を大事に思っていたのか……
最後の時、どれだけこの人にいて欲しいと思っておられたか……それでも、御一人で逝かれてしまった。
憎い相手であろう私に、この人を託して下さったのだ……)
愚かな嫉妬心を忘れ、チャングムを無事に明国へ連れて行こう―――チョンホは、そう決心した。
「夜が明けたら、明に向かいましょう。手配書が回っているので渡し場は避けた方がいい。
渡し守を雇って鴨緑江を渡れば、誰にも気づかれる事は無い」
「思ったよりも近いのですね。それでも、歩いて渡るには遠いのですか?」
チャングムの質問に、チョンホは微笑みながら答えた。
「歩いて渡りたければ、あなたの父上が母上になさった様に、向こう岸まで『飛び石』でも置きましょうか?」
「飛び石?――チョンホ様が出来ると仰るのなら、反対は致しません」
「えっ!私が言い出した事ですが、それは少々辛いですね……」
「まぁ!辛いのなら、初めからそう仰って下さい。それでは、別の方法をお願い致します」
『別の方法』――そう言われて、チョンホは、チャングムが本当に歩いて川を渡るつもりなのかと思った。
(船を使わずに、行きたいのか?……この人なら、なんでも遣り遂げてしまいそうだ)
「チャングムさん……どんな方法を望んでいるのです?」
チャングムは、少し俯いて微笑んだ。そして、俯いたまま、チョンホの問いに答えた。
「あの時の様に……あの雪の中の様に……手を貸していただけませんか?」
「雪の中?一緒に逃げたあの時の事ですか?」
チャングムは立ち上がり、目を伏せたまま、チョンホの後ろ側に来た。
「あの時の様に、私に背中を貸して下さいますか?」
そう言うと、チョンホの背中にそっと凭れた―――
「あっ――!チャングムさん……」
「こんな事をして、迷惑ですか?チョンホ様」
「いいえ……迷惑などと……ただ……」
「ただ?ただ、何でしょう?」
「ただ……少し、重い……」
「まあっ!耐えられない位に重いですか?私……」
『重いですか?』―――そう心配しながら尋ねるチャングムに、チョンホは笑った。
「ウソですよ……重い筈は無い……あなたを背負っていても、雪の中でも、ちゃんと歩いて行けたでしょう?」
「冗談だったのですか?酷い方です……私は、本当に重いのかと」
「あなたが望むなら、背負ってだって鴨緑江を渡りますよ」
「いいえ……やはり、背負っていただかなくても結構です。今の季節、川の水はとても冷たいですから……
こうして、暫くお背中を貸していて下さい。それ以上の望みはありません」
チョンホと別れてから、チャングムは時々夢を見た―――
雪の中、チョンホが自分を背負い、楽しそうに笑いながら歩いて行く……何処までも続く真っ白い雪の中を
そして目が覚め、チョンホの姿は無いのだと……もう、自分の側にはいないのだと……そう気づくと、決まって涙を零した。
だが、それはもう覚めれば消える夢では無い……チョンホの背中は、ここにある。
チョンホは、自分の背中に広がるチャングムの柔らかい感触に少し戸惑っていた―――
その感触は、あの日雪の中で感じたものと同じだった。
それは、もう蘇る事は無い……一度は忘れようとした感触だった。
無理にでも忘れ様としたそれは、自分の背中いっぱいに広がっている。
チョンホは、首に回されたチャングムの手をゆっくりと解くと、チャングムの体を自分の方へ引き寄せた。
向き合った二人は、暫くお互いを見つめ合い……そして、二人の唇は自然に重なった。
永い口づけが終わり、二人の唇が離れた時に、チョンホはチャングムに訊いた。
「あなたは背中を貸すだけで良いと……それ以上の望みは無いと言う……では、私がそれ以上を望んでも構いませんか?」
「チョンホ様。私は、もう主治医のチャングムではありません。あなただけのものです」
離れて暮らした空白の時間を埋める様に、二人の唇は、再び重なった―――
炎が岩肌を明るく照らし、二つの影が重なった―――
冷たい岩の褥の上にあっても、二人の体は燃え盛る炎よりも熱くお互いを求め合った。
二人は追われる身である事も忘れ、口づけを交わす度に、初めて逢った日から今日までの年月に想いを馳せた。
お互いの気持ちを自覚しながら、幾度もすれ違い、引き裂かれ、叶わぬ想いと諦めた事もあった。
漸く再会した二人は、もうお互いに離れて生きる事など考えられなかった。
チャングムは目を閉じ、チョンホの愛撫に身を任せた。
体の隅々に伝わる柔らかい感触に、チャングムは小さく喘いだ。
初めて感じる甘い感覚に、チャングムの脳裏は、あの雪の日の様に真っ白になっていった。
チョンホの指先は、チャングムの滑らかな肌の上を滑る様に辿り、幾度も夢に思い描いたものを確かめた。
「あっ……」
鈍い痛みを感じた時、チャングムは、チョンホの総てを受け入れた。
岩肌に映る二つの影は、赤く燃え盛る炎と共に大きく揺らいでいた。
自分の意識が何処か遠くへ行こうとしている……体の奥底に、何か熱い物を感じた……
そのまま、チャングムは意識を失ってしまった―――
岩屋の外から吹く冷たい風が、頬を撫でた―――
頬を撫でる風の冷たさに、チャングムは目を覚ました。
頬は冷たくても、体は温もりに包まれている。
「目が覚めましたか?」
チョンホの腕の中で目覚めたチャングムは、まだ夢の中にいた。
「眠ってしまったのですね……私……」
「寒くは無いですか?外の風は冷たい様だ」
「いいえ……少しも……」
チャングムはチョンホの胸に手を当てると、これが夢では無い事を確かめる為に、そっとチョンホの胸元を撫でてみた。
「チョンホ様……やはり、少しお痩せになったみたい……」
「そうですか?あなたが言うのなら、そうなのかな」
「明へ行ったら、何か美味しい物を作りましょうね。何がお好きですか?
ハン尚宮様が教えてくださったチャプチェは、とても美味しいのです。
串焼きを美味しく焼く方法も、ミン尚宮様が教えて下さいました。それから、チャンイが好きだった……」
水刺間での女官達の事を夢中で話すチャングムを見て、チョンホは思った。
(可哀想に……戻りたくて、堪らないのだろう……どれ程、皆に逢いたい事か……)
チョンホは、チャングムを抱きしめると言った。
「水刺間の女官であったあなたに料理を作ってもらえるなんて、とても嬉しい事です。
それでも、私にはあなたがいれば、それで充分幸せなのですよ」
「チョンホ様……」
「うーーん……でも、美味しい物でも食べて、少し太った方が良いのでしょうか?
痩せて頼りない男になると、あなたから見捨てられてしまうのかな?」
「フフフ……また、そんな意地悪を仰るのですね。決して、私から見捨てる事などありません。
チョンホ様も、ずっと私の側にいると、もう一度約束して下さい」
「約束します………十年先も二十年先も百年先も、ずっとあなたの側にいますよ」
二人は、再び唇を重ね、硬く抱き合った。
そのまま、お互いの温もりに包まれ、深い眠りに落ちていく………
岩屋の外の冷たさを、二人は朝まで感じる事は無かった。