「そういうもんか……」
「そういうものだよ。自分の正直な気持ちをぶつけてやれば、きっとアイツも――」
そこまで言って、声が止まった。
ああ、やっぱり。あたしはアトリと元鞘になるのをあまり歓迎してない。
……嫉妬か。嫌な女になったな、あたしも。
俯き加減で言葉に出せない自己嫌悪をひしひしと感じている最中、ハセヲが前かがみになって顔を覗きこんできた。
「な、なんだよ」
「こっちが聞きたいっつーの。何へこんでんだ、お前」
「……何でもな」
「何でもなくねーだろうが。自分の事を話したがらないとか説教しといて、お前も同じじゃねえか」
人の言葉を遮って、今度は逆に説教するハセヲ。
そこで、全く話と関係ない事ではあったが、非常に重要な事に気がつく。
さっきから聞こえる、うめき声というか……何かを我慢しているような声。
「その話は後にするとして、ハセヲ。お前、どうしたんだ?」
「……あ?」
間違いなく、ハセヲ自身が発している声。
あの戦闘の後、まだダメージを引き摺っているのかと思ったのだが。
「ああ……ちょっとな、身体が痛いだけだ」
「身体が、って……リアルでか!?」
「……どうだっていいだろ」
「どうでもよくないだろ! 何時からだ!」
「それは――」
これからハセヲが話した事実は、揺光やG.U.チームにとっても、重大な事実だった。
身体の痛みはエンデュランスとの戦いで、アバター戦に突入する前から。
そして、もう一つ。小さな痛みであればゲートの前で揺光にビンタされた時も。だ。
そういえば、ハセヲは叩かれた時『痛い』と漏らしていた気がする。
つまりハセヲは今現実と感覚が完全にではないが、リンクしてしまっている。
俄かには信じられないことだけど、そう考えるのが一番自然だ。
そして原因は恐らく――
「あの時のAIDAか……!」
そんな身体で、エンデュランスと戦ってよく無事で居れたものだ。
下手をすれば普通の攻撃でPCが戦闘不能になっただけでも、相当なダメージになるだろう。
「そんな状況で、何て無茶してんだよ……! 何回あたしに馬鹿って言わせる気だ!」
「……無事だったんだからいいだろ」
「あたしがよくないんだよ!!! ……ッ」
言ってしまった。
勢いとはいえ、真っ向から真っ直ぐな言葉を。
自分の言葉に驚きすぐ視線を逸らして、喉に餅でも詰まらせたみたいに欠片の言葉も出せなくなって。
「……」
お互いに無言の時間が続く。お互いに視線を合わせないように。
何分、経ったんだろうか。分からない。心臓の鼓動だけはやけに大きく聴こえる。
なんとかこの空気を繕いたいところだったが、生憎二人共それほど器用な性格ではなくて。
ちらりとハセヲの顔を見れば、夕焼けに染められているのか肌の色にほのかに朱が混じっていた。
「あ――あの、さ」
「……ああ」
「……かっ……勘違いするな! 別に、お前が好きだとかそういうわけではなくただその……うん」
どう見ても墓穴です。本当にありがとうございました。
昔ネットで流行ったというフレーズを頭の中に即座に思い浮かべる。
ああ、もうだめだ。全然フォローになってない。
ハセヲの声を聴く度意識が遠くなっていくような気さえする。
これがギャグ漫画だったなら、放心状態のあたしの口から魂が半分以上出てきてるだろう。
このままPCの電源を無理矢理引っこ抜いてやりたい衝動すらも湧いてきている。
その上で窓からポイで証拠隠滅。……完璧、いやいやいやいや。
今この場でこうして喋って、こうしてパニックに陥って真に理解した。
最早ハセヲはあたしにとって『剣になりたい』程度の存在ではない。
さっき思ったようにPCを窓から投げ捨てようが、恐らく即日新しいPCを買いに行くなりしてしまうだろう。
「……ごめん」
きちんと、頭を下げて謝っているハセヲの姿。
きっとあたしはまだ混乱してたのだろう。何の事を言われたのか分からずうろたえるしかなかった。
「は、え? あんた、何で謝って――」
「だから……今度から無茶しないようにする」
ああ、そういうことか。
落ち着け、落ち着け。そう、落ち着くんだ。素数を数えて落ち着くんだ。
素数は1と自分の数でしか割れない孤独な数字……あたしに勇気を与えてくれる。
ええと、1、2、3、4、5…………だああ! 何数普通に数え
「……おい、揺光?」
て……?
顔を抑えて悶えていたらしいあたしの手を掴み、怪訝そうな表情を浮かべながら覗き込んでくる。
だめだ、だめだだめだだめだ。
顔の直視すら出来なくなってきている。
意識すればするほど。何も起きなくとも――
いや、何も起きないからこそ、それが一分一秒単位であっても思いは強くなっていく。
そのココロの大半を占めた思いに任せ、言葉の豪雨で濡らすのもいいかもしれない。
身体を拭いて傘を差すのか、濡れたままあたしを抱きしめてくれるのかは分からないが。
強い葛藤の中、うってつけの状況を『世界』が作り出そうとしているのではないか。
そう勘ぐりたくなるようなタイミングで夜になる。
先ほどまで二人を染めていた朱は、いつの間にか闇へと変わっていた。
遠くに映えるマク・アヌの夜景が、余計な事を考えさせないようにしているようにも思える。
心臓の音は相変わらず高鳴っているが、無用なパニックはいつの間にか消え失せていた。
「……悪かったよ、言い直す」
「え……?」
一握りの覚悟を。一握りの勇気を。そして――
「あたしは、アンタに惚れてる」
一握り、嫌。足りない。その程度じゃ足りないんだ。
抱えきれないくらいの、愛を。
「アンタが、どういう思いでAIDAを追ってるのかは、あたしも知ってる。
あたしみたいなのにかまけてる暇なんて、ほんとはないと思う。けど――」
一度言葉を飲み込む。深呼吸、吸って……吐いて。
「それでもあたしは、アンタの――ハセヲの傍に居たいよ」
ううむ、女性の心情書くのむっずかしー('A`)
取り敢えず今回はここまでで。
遅筆ですまんです。もちっと早く書けるようがんがります。
告白キターーーーー!!
超GJですよ、ええ。
遅筆なんて気にならないほどGJGJGJ
ここからの展開が楽しみです!
第二部も予告で今日指定だった(?)から、wktk
どう見ても墓穴です。本当にありがとうございました。
とか素数数えたりとかアホ毛吹いた
>>743 自分の中の揺光を存分に吐き出せ
747 :
名無しさん@ピンキー:2006/07/18(火) 01:48:37 ID:sqXTdNA0
がんば
748 :
名無しさん@ピンキー:2006/07/18(火) 23:30:33 ID:9lKuKW6q
あれ?パロディモードは?
>>748 今回作る暇がなかった。
そのうち投下するかもしれないが、
一応スレ違いだからどうしようかと悩んだりもする。
まあ投下するにしても本編と一緒にするんじゃね('A`)
と思ったけど何となく思いついたネタを書いてたら出来てしまった。
スレ違いだと思ったとか書いときつつ普通に投下してしまう俺ガイル。
反省はしてない。
― パロディモード ―
※ネタ要素が強いというかヒドイです。特に今回分かり難いネタがたくさんです。
普通の話が好きな方は見ないことをお勧めします。
「あたしがよくないんだよ!!! ……ッ」
言ってしまった。
勢いとはいえ、真っ向から真っ直ぐな言葉を。
自分の言葉に驚きすぐ視線を逸らして、喉に餅でも詰まらせたみたいに欠片の言葉も出せなくなって。
「……」
お互いに無言の時間が続く。お互いに視線を合わせないように。
何分、経ったんだろうか。分からない。心臓の鼓動だけはやけに大きく聴こえる。
なんとかこの空気を繕いたいところだったが、生憎二人共それほど器用な性格ではなくて。
ちらりとハセヲの顔を見れば、夕焼けに染められているのか肌の色にほのかに朱が混じっていた。
「あ――あの、さ」
「……ああ」
「……かっ……勘違いするな! 別に、お前が好きだとかそういうわけではなくただその……」
「えっ、営業だ!!」
「営業――!?」
ガビーンという擬音が、うすた京介フォントで空中に現れる。それはすぐ消えた。
「今月のノルマがあと一人なんだよ! 締めは三日後だし……ピンチなんだよ!」
こんな情けない状況を言ってしまった自分を恥じているのか、揺光の顔はやはり紅い。
ハセヲはハセヲで先ほどまでの熱は冷め、あきれ果ててはいるが取り敢えず質問してみる。
「つーか、何を俺に売りつけようとしてるわけ……」
「壷に決まってるだろ!!」
「詐欺の代名詞じゃねえかよ!!」
買う奴いねえよそんなもん。買う馬鹿の顔が見てみたいぜ。
「それでも売れたぞ、黄色いのに」
クーン……だから誰彼構わず手を出すなと忠告したのに。合掌。
「あとメガネのおばさんにも売れたぞ!」
何のんきに買ってんだよパイ。騙されてるぞ。
「踊るインド人にも売れた。『これはいいものだ』とか言ってたぞ」
八咫お前もか。多分パイが買った理由は『八咫がいいと言ったから』だな。把握した。
つか、レイヴンのメンバー俺以外全員騙されてやがる。
買う馬鹿の顔を見たいって、全員知り合いとか幾らなんでもひどすぎやしないか。
「この壷を買うとだな、アフラマズダの加護が抽選で受けられるんだ」
「もれなくですらねえし……」
第一アフラマズダって何よ。何様よ。喰い殺すぞ。スケェェェイスで。
「どうだ、光の戦士プリーシア・ディキアン・ミズホもお勧めの一品だぞ」
「ソイツあっさり死ななかったか? (……なんで知ってんだ俺)
ほら、お前元だけど宮皇なんだしそれ活かしてルミナ・クロスの常連に頼めばいいじゃん。奥様ご乱心とか」
「その発想はなかったな……あれの夫はやたら気が弱かったし片方落とせば大丈夫そうだな!
良いアドバイスをくれて助かったよハセヲ! 今度絵でも買ってくれ!」
意気揚々と走って去っていった。
別に実際に買わされたわけではないが、精神的に詐欺にあった気分だ。今度買ってくれとか言われたし。
因みにその後、揺光は奥様ご乱心に売り込みに行ったはいいが跳ね除けられ、
仕方なくアユ夫さんに無理矢理売り付けノルマを確保。
それによって奥様の夫へのPK行為は一週間ほどの間今までにない激しさを見せた。
アユ夫さんが好きで書いた。反省はしない。好きなのって、いじり倒したくなるよね。
連載第一回。
期待のレスを下さった皆様、ありがとうございます。
あと、いつまでもナンバーのままでは格好が付かないのでコテハンをつけました。
改めて今後ともよろしくお願いします。
「ねえ、ハセヲ」
何?
「言ってみただけ。何でもない」
そう言って、志乃が笑った。
ファンタジックな遺跡を望む周囲の風景と彼女の桃色の髪から、ここがTHE WORLDだという事がわかった。
「なんだか、楽しいね」
唐突に言ったその言葉に、ハセヲは無言で頷いた。
今思えば、志乃と一緒にいるのはいつだって楽しかった。
陽光の中で彼女が伸びをし、その拍子に背中から伸びた飾り布が揺れた。
付き合うようになった日から、彼女はPCを服を黒に変えていた。
ハセヲは以前の白い衣装の方が似合っている気がして好きだったが、結局それを言い出す事は出来なかった。
「やあ」
突然、男の声がする。
いつインしたのか、オーヴァンが立っていた。
どうしたんだ?
「二人にお祝いを言おうと思ってね。これは、プレゼントだ」
そう言って、オーヴァンは観葉植物の鉢を取り出した。
幸福の樹、ドラセナ・マッサンゲアナ。
志乃が以前、旅団の@HOMEに置いていた物だ。
俺には何もないのかよ。
「ふっ、拗ねるな。ちゃんと用意してあるよ」
拗ねるハセヲを鼻で笑って、オーヴァンは懐から巨大な鎌を取り出した。
どうでもいいが、彼の姿は国民的キッズアニメに登場するネコ型ロボットに泣きつく役割の少年に似ている。
―――俺、錬装士(マルチウェポン)なんだけど。
「3rdフォームになれば使えるだろう?」
それだけ言って、オーヴァンはハセヲに大鎌を押し付けた。
アイテムはしっかりカスタマイズと錬成が施された立派なものだったが、どうも嬉しくない。
もしかしてこの人は、俺と志乃が付き合いだしたのが嫌なのだろうか。
「強くなれ、ハセヲ」
そんなハセヲの邪推を無視して、オーヴァンは何時もの言葉を口にした。
悔しいが、彼のそんな言葉はハセヲの心を奮い立たせる。
「そうだよ。私の男なんだから、せめてLV133ぐらいにはなってもらわないとね」
満面の笑みで鉢を眺めていた志乃が、茶々を入れる。
わかったよ、強くなってやるよ。
あんた達のためにも、そして、俺自身のためにも。
オーヴァンが、薄く口元を歪めた。
サングラス越しに覗く瞳は、意外に優しい。
同時に志乃が、満足げに笑う。
その笑顔が本当に素敵で、ハセヲは世界の全てを許せてしまいそうな気がした。
hack//Apocrypha EPISODE2:Halfboiled Devil
A part:summer wind only knows―――夏の風の中で
2006,Puck PRESENTS.
目が覚めた。
耳元ではアラームの無粋な電子音が、眠りの終わりを告げている。
まだ重いまぶたを擦りながら体を起こすと、
あの日から開くことの少なくなったカーテンの隙間から差し込む朝日が目を刺した。
夏用の薄い布団を払いベッドから起き出し、ハセヲは部屋のドアを開いた。
洗面所で顔を洗ってから食堂に行くと、
両親は既に出勤したらしくラップをかけられた朝食がテーブルの上に置かれていた。
電子レンジで暖めなおすのも面倒なので冷たいまま白米と味噌汁、
そして骨と皮を残して鮭を片付け、冷蔵庫から取り出した梅ジュースを飲み干す。
手早く朝食を終えると、ハセヲは部屋に戻って制服に着替えた。
廊下からまっすぐ玄関をくぐり抜け庭に出ると、光が溢れる。
蝉の声が聞こえる夏の景色は、去年と同じで悲しいぐらいに明るかった。
車輪から伝わる振動が、吊り革に支えられた体を揺らす。
仄かに湿った冷房の風を受けながら、ハセヲは今朝の夢を振り返った。
別に内容自体はたいしたものではない。
知り合いが出てきて、無駄話をしただけだ。
問題なのは、その知り合い。
志乃、そしてオーヴァン。
自分にとって掛け値なしに大切だといえる、そしてもう会えない――二人の夢。
彼らと出会ったのは、三ヶ月前。
気まぐれに始めたネットゲームの中でだった。
騙された挙句PKという最悪の状況から救ってくれた、オーヴァン。
その時彼が呟いた言葉は、今でも忘れられない。
「Welcome to The World―――」
そして、その後また襲われた時に場を収めてくれたのが志乃だった。
間にエンダーとか言う口と態度と性格の悪い女と出会ったのも妙に印象的だったが、まあ、これはどうでもいい。
まったく、「あんたなんか、PKする価値もない」だと?
きっとリアルでは仕事中毒でスーツばかり着ていて、
飼い猫とドライブするぐらいしか休日の過ごし方を知らない惨めなオバサンに違いない。
意識が逸れた。
最初の頃、志乃の存在はあまり大きなものではなかった。
多くのPCがハセヲに接触してきたが、
それは全てオーヴァンによるものであり、ハセヲ自身もオーヴァンの事で頭がいっぱいだった。
何故かオーヴァンの隣にいる、静かで少し説教くさい、空気みたいな女。
ただ、それだけだった。
それが変わったのは、オーヴァンが姿を消してからだった。
オーヴァンが消え、旅団が解散した事でThe Worldをプレイする理由を失いかけていたハセヲを、
志乃は頻繁にゲームに誘ってきた。
少し鬱陶しくもあったがむげに断る事も出来ず、
二人だけで過ごす時間が増えていくうちにハセヲはゲームそのものに楽しみを見出すようになり、
やがて―――彼女に恋をしていた。
情けない事に自分でも気づくまで時間がかかったが、それからは最高だった。
自分の幼い想いを志乃は受け止め、そして答えてくれたのだ。
思いを告げ、心と体を重ねたあの三日間はこれからどれだけ生きたとしても忘れる事はないだろう。
そして、その直後の悪夢のような出来事も。
忘れもしない、月曜日の夜。
茜色の日が差す大聖堂の中で、彼女が消えた。
電話が通じなくなって、まだ九時だったから心配して部屋に行ったら―――
それから先は、思い出したくもない。
断片的で、陰鬱な痛みの記憶。それだけが残っていた。
以来、THE WORLDはプレイしていない。
ハセヲにとって、THE WORLDはオーヴァンと志乃そのものだった。
彼らがいないのなら、続ける理由はない。
メンバーアドレスを交換した僅かな仲間たちには悪いが、こればかりはどうしようもない。
大切なものはもう、何もないのだ。
「間もなく日吉、日吉です。元住吉にお越しのお客様は、お乗換えです……」
哀しみと言う名の湖に沈んでいた意識を、無機質な案内音声が引き上げた。
気が付けば、高校の最寄り駅に近づいている。
足元の鞄を持って席を立つ。横浜駅から二十分。
その間ずっと自分が志乃とオーヴァンの記憶に沈んでいたことに気付き、ハセヲは笑おうとした。
何で俺、こんな思いをしているんだろう。たかが、ゲームだぜ?
夏休み期間に突入した高校の校舎は静かで、普段の騒がしさがそれこそ嘘のようだった。
甲高い生徒たちの嬌声はなく、部活動や応援団の練習の音だけが遠雷の様に響く。
その光景が高校では部活動に入ってなかったハセヲには新鮮で、
補習で重くなっていた気持ちが少しだけ軽くなった。
古語辞典を詰め込んだ鞄までは、さすがに軽くならなかったが。
教室棟に入り指定された教室に行くと、一人の女子がちょうど真ん中の席で何故か頭を抱えていた。
女子が引き戸の開く音に反応して頭を上げ、ハセヲの方を向いた。
見覚えのない顔だったので、他のクラスの生徒だという事を理解する。
夏季補習は人数にもよるが学年単位、ひとつの教室で行われるのが原則だった。
「ね、ねぇ」
ハセヲが適当に決めた席で筆記用具やノート、辞書などを広げていると、少女がおもむろに話しかけてきた。
「何?」
自然と無愛想な調子で、ハセヲは答える。
ネットでもリアルでも、初対面の人間に愛想を振りまけるほどハセヲは社交的ではない。
その声音に怯えてか、少女が卑屈そうに俯いた。
「あの・・・・・・シャーペン二本持ってたりしない?」
高めの、少女らしい声。
どこかで聞いた事があるような気がしたが、思い出せない。
「あるけど」
先程の対応を反省して、ハセヲは少しだけ声を丸くして答えた。
「あの、良かったら貸してもらえない?筆箱忘れちゃって、今日購買部お休みだし……」
おどおどと耳で聞こえてしまいそうな空気をまとって、少女が説明を続ける。
自分とはタイプが違うが、この少女も人見知りするのだろうか。
そう考えると少しだけ親近感が沸いて、ハセヲは自分でも驚くほど素直にシャーペンと消しゴムを差し出していた。
「いいよ、持ってって」
本当は笑顔も作りたかったのだが、
自分が意識的に笑おうとすると顔面神経痛の発作にしか見えない事が多いのでそれは止めた。
「あ、ありがとう!」
シャーペンを受け取った少女が、無邪気に笑う。
それだけで地球の滅亡が回避されたと言わんばかりの切り替えの早さに、ハセヲもつられて笑ってしまった。
猫のように軽い足取りで少女が席に戻ると同時に、教室の引き戸が再び開いた。
禿頭の古文教師が姿を現し、補習の開始を告げる。
どうやら補習の参加者は自分たち二人だけのようだ。
試験後友人たちから聞いた話からすれば、順当だろう。
問題は課題文の意味さえとれれば解って当然のものばかりで、その課題文自体も平易なものだった。
今振り返れば、間抜けな話である。
勉強熱心でこそないが、ハセヲの学力は決して低くはない。
その時は志乃と仲違い(というか、自分が一方的にふて腐れていただけだったが)していて気分が沈んでいたので、
そもそも課題文を読むのを放棄してしまったのだ。
とはいえ、補習を受けるのは面倒ではあったが嫌ではない。
最近は一人でいると気分が塞ぎこんでしまうし、かといって能動的に何かをする気力もない。
終業式から補習が始まるまでの数日間は酷いものだった。
だから、どんなに面倒でくだらないことでもやることがあるのは有難かった。
ふと視線を教卓から隣に移し、少女の表情を盗み見る。
もちろん、補習の前置きのつもりか赤点を取ったことに対して説教を続ける教師には気づかれないように。
彼女は無表情なハセヲとは対照的に、説教を真に受けているようで少し沈んだ表情をしていた。
真面目なんだな、と少し感心しながらハセヲは少女の横顔をしばらく眺めた。
以上、次回は7月25日。
地理的な関係からハセヲの通ってる高校(のモデル)がわかった人もいるでしょうが、
イメージで決めたので実際とは全然違うと思います。
ですのでここにもし卒業生の方がいらっしゃっても突っ込みはご容赦願います。
あくまでフィクションと言うことで。申し訳ありません。
GJ
続きも、楽しみにしてます!
キタ━━━(゚∀゚)━━━!!!!
少女はやっぱり、あのキャラですよね。
飼い猫とドライブワロスww
>>750 パロディGJ!!うすた京介フォントが容易に想像できた自分に呆れ(ry
>>762GJ
その高校友達がいってるとこかも
てか家近い
GJ
最高だよあんた
あれ、ここ年齢制限(r
高校生の友人を持つ大学生とか、そんなに珍しい事でもあるまい。
あんまり意味なさそうだけど俺も鳥つけときます('A`)
今回は何時もより短いです。普段から短いけどな!(まさに外道
先ほどまで全く見れなかったハセヲの目。マク・アヌの薄い光に照らされる真紅の瞳。
しっかり見て、そしてはにかみながら精一杯笑う。
「揺光……あの、さ。ひでえ事言っちまうかもしれねえけど……俺達会って間もないし、
第一これネットゲームだろ? 実際に会ったわけじゃねえ。それでも、俺と一緒がいいってのか?」
「……冗談でこんな事言うわけないだろ?」
本気だ。と、リアルで目を見たわけではなかったが、ハセヲもやっと理解する。
「せめて、リアルで会ってから決めても遅くないんじゃないのか?」
「それは、ダメだ」
一転して、揺光はつらそうな表情になる。
ハセヲには意味が理解出来なかったけど、すぐに揺光はその理由を口に出した。
「リアルでハセヲに会ったら……あたし、絶対諦められなくなる。
今だって、あたしより先にハセヲと知り合ったアトリやパイに、嫉妬してないわけじゃない……!
それに、志乃にだって――」
ここから先の言葉は、また詰まってしまったようで、揺光は俯いたまま何も言わなくなってしまった。
確かにハセヲは、普通の友人達へ向けるものとは違う思いを志乃に抱いていた。
志乃を的確に表現するには、オーヴァンに心酔していた強い女性、という言葉が一番近いと思う。
そう考えれば、ある種の横恋慕のようなものにも思える。
しかしよく分からない男ではあったが、オーヴァンにもそれに近い感情を抱いていた。
ハセヲと志乃と、オーヴァン。形容するなら、ひどくいびつでそのわりに丈夫な絆で結ばれた『家族』ではなかったか。
「……志乃は、そういうのとはまた違う」
「こんな事言って、わがままだってことも分かる。
けど、あたしにそうやって期待をさせないでくれ……!」
吐き捨てるように、自分への嫌悪を露にして。
ただただ強く在ろうとしていた揺光は、こうして誰かを好きになったことはなかった。
そして恋愛という初めての体験をした時、今まで見えなかった自分自身の醜い部分が際立ってしまった。
愛される資格はない。ならばせめて――
「揺光……」
「今、ハセヲが『違う』って言って、あたしはどこかで喜んでたんだ。
嬉しいんだ、でもそれが凄く嫌なんだ……自分が嫌な奴だって思い知らされるんだ!」
いつも自信に満ち溢れ、高圧的とも言える態度の揺光。
だが、今テラスの柱に身体を預けている彼女は、自分の肩を引き千切ってしまいそうな程強く掴んでいる。
「やめろ……揺光」
その自身の肩を掴む手を無理矢理引き剥がす。
「ハセヲ……あたしは、さっきも言った通り傍に居たいと思ってる。
けど『そこまで』でいいんだ。だから、あたしに優しくする必要は」
「これは、俺がやりたかったからやるんだからな」
言葉を遮られ、呆気にとられている揺光。
その口を、ハセヲの唇が強引に塞ぐ。その瞬間、揺光の身体がびくんと跳ねる。
「んぅっ!?」
何かが入ってくる感覚に驚きの声も口を塞がれていて中途半端にしか出なかった。
舌が口内へと侵入し、奥に引っ込んでいる舌に触れる。
滴る唾液、滑らかな舌、柔らかな唇――全てが脳を痺れさせた。
彼女の瞳を染めていた自虐という色は既に溶け、今の行為へと陶酔する。
引っ込んでいた舌もやがて伸び、彼の舌へと進んで絡み合って行く。
一時それを繰り返し、息が苦しくなってきた頃唇を離す。
か細い糸のような唾液が舌と舌を繋いでいたが、やがてぽつんと床に落ちる。
彼も彼女も、また一時の間互いの荒い呼吸を感じていた。
「……」
「悪かったな」
「……っ」
急に今までの気恥ずかしさが襲ってきたのか、薄暗い中でも分かるくらい顔を真っ赤にしたまま、
挨拶をする事すらも忘れ揺光はログアウトしてしまった。
「やっぱ、やり過ぎちまったかな……」
今度会ったときは、もう少し優しく出来るよう努力しよう。
そう考えながらハセヲもそのままログアウトした。
皆帰った、と伝えに来たカナードの二人を置いてきぼりにして。
ログアウトした揺光だったが、改めて考える。異常な出来事だった事に。
ハセヲだったら……まあ、おかしくはない。AIDAの影響を受けているということならば。
でも、何故揺光にまでハセヲの体温や唇の柔らかさまで感じ取ることが出来たのか?
赤飯でも炊こうかというくらい嬉しい出来事ではある。
好きな男に触れて、好きな男を感じて、それで嬉しくないはずがない。
「AIDAのお陰で、ハセヲ『本人』とキス出来た……」
もしかするとあのときの異物感が、AIDAだったのか?
AIDAは排除するべきバグだと思っていたけど、これではAIDAに助けられてるみたいじゃないか。
……とはいえ、ただ敵にやられるだけでも死ぬ可能性が伴うようになってしまったのも、また事実だけど。
いつの間にか、時計は午前一時を回っていた。
そろそろ寝ようかと思っていた時だ。
――未読メールが一件あります
「ハセヲからか」
メールを開く前、件名だけが目に入る。
この時点で、揺光は苦笑してしまっていた。
件名:ごめん。
本文:昨日の事は、言った通り俺が勝手にやった事だ。
嫌がる事しちまって、ごめん。
あと、嫉妬とかそういうのって誰でもしちまうもんなんじゃねえの?
気にすんな、ってこういうと気にしちまうのかもしれねえけど(苦笑)
落ち着いたらまた連絡くれよ。
「ハセヲの奴……」
多分、あたしがアイツに言った事を気にしてるんだろう。
気にするな、という方が男にとっては無理なのかもしれないが。
正直な話、ハセヲは志乃を好きなのだと思っていた。
ただその『好き』という感情が、考えていた感情とだいぶ違っていたらしい。
……勝手に勘違いして、勝手に自己嫌悪して、その癖ハセヲの言葉に救われて。
全く、みっともない話だと自分でも思う。
それでも、宮皇だった時――プライドの塊だった頃の自分に比べれば、今の自分は好きかもしれない。
ワガママな自分の性格は変わってないが、自分の気持ちに素直になれている。
ハセヲや、ハセヲの友人達と関わり始めてからだ。
一番大きいのは、やはり庇われた事なのだろうと思う。
ハセヲは別にあたしが相手だから庇ったわけじゃないってことは分かる。
そしてだからこそ、役に立ちたいと考えた。
実際のところさっぱり役に立ってないのが辛いところだが。
「どうしたら、ハセヲの役に立てるんだろうな」
好きだ嫌いだ言う前に、そこから始めるべきだ。
AIDAからも助けてもらって、情けないところを見せてしまって。
これじゃハセヲに寄りかかってるだけじゃないか。
ふと、自分の考えだけじゃ解決しないのではないかと思い至る。
ある人物に向けて、メールを送信して――
― パロディモード ―
※ネタ要素が強いというかヒドイです。
普通の話が好きな方は見ないことをお勧めします。
――未読メールが一件あります
「ハセヲからか」
メールを開く前、件名だけが目に入る。
……ハセヲからなのは分かるが、妙な件名だった。
件名:このメールを見て
本文:うしろをふり向いた時 おまえは
死ぬ
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
ディスプレイには何も映っていない……
誰か居る気配もない……当たり前だが……
ハセヲのPCがウィルスか何かにかかったのだろうか。
「いったいなんだこれは……!! 急にザ・ワールドへのログイン画面……バカな……認証もしてないのにキャラが……!!」
「あ、揺光さん……こんにちは」
後ろから声を掛けられる。この声は……アトリだ。
「ああ、こん」
「そぉぉぉおおおい!!!」
ガキン!!!
金属音と共に揺光のアホ毛が折られ、そのまま意識が遠くなっていった。
「ふふっ……外し方……間違っちゃいましたね……♪」
最期に見たアトリの顔は、仮面のように無機質な笑いを浮かべていた。
以上。一週間以内には続きを投下できる、といいなぁ('A`)
おつ、ぐっじょぶ。
アトリKoeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeee!!
ま た う す た かwwwwww
遥光可愛い〜
淫光めっさ可愛いすぎて顔がにやける。
折れるんだ・・・
アホ毛=取れる
はもう世界の常識になりつつある
気がしなくもない
>780
さりげない誤字(?)に気付かなかった。
似てるけどエロエロなんだな?
容量やばくない?
タビーともふもふしたい
786 :
名無しさん@ピンキー:2006/07/24(月) 00:51:12 ID:ChjiHDaZ
GUラジオ生できいた
なんかAIDAについてネタばれっぽいこと行ってた
あと、11KBくらいでちみっちょく残ってんだよね…。