【妖怪】人間以外の女の子とのお話13【幽霊】

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547別の人魚の場合 ◆WmvQVwDatU :2005/08/02(火) 05:20:35 ID:vV8u4ns5
次の満月の晩、またわたしは砂浜までやってきて、そこでまた、あの子どもを見付けた。
今度は彼がそこから立ち去るまで見ていようと思ったけど、いつまで経っても彼はそこから動こうとしない。
結局空が白み始めたところで、わたしは諦めて国に帰った。
明るくなってしまえば、他の人間に見つかってしまう危険が高くなるから、それ以上はそこにいられなかったからだ。

その次の満月の晩も同じことを繰り返した。
その次も、その次も。
自分でもどうしてそこまで彼のことが気にかかるのかわからないまま、それでも満月の度にこの砂浜を訪れることが1年近く続いた。
今にして思えば、わたしは彼の瞳に興味を持っていたんだと思える。
顔のパーツは人間と人魚で違いはそんなにないから、表情は読み取ることができた。
寂しげで、けれどそれを無理矢理押し隠そうと目尻に力を込めたもの。
彼は毎回ではないけど、かなりの確率で砂浜に来ていた。
その内に、彼は満月の晩以外も来ているのだろうかという疑問が湧いてきた。
だけど、わたしが国から出ていいのは、満月の晩だけと決められている。
外には危険がいっぱいで、本来ならそれすらもあまり周囲からいい顔をされていないのだ。
少し悩んで、結局わたしは今から考えれば満月以外の晩に国を出るより、はるかに無茶な行動に出た。
彼の寂しげな瞳が、話に聞いていた野蛮で残酷だという人間像とはどうしても重ならなかったが故の行動。
「……キミ」
砂浜に近づき、慣れない人間の言葉で、その子どもに語りかける。
いつかこんな日が来るかもしれないと、自分でも思っていたのかもしれない。
もちろん人間と話すのなんて初めてだったけど、周囲には内緒で、わたしは人間の言葉を勉強し始めていたのだ。
他の人魚は見向きもしないけど、人魚の国にも一応人間の言葉についての資料は存在している。
まだそこから幾つかの言葉を覚えただけだけど、それでも何かがわかるかもしれないと思った。
548別の人魚の場合 ◆WmvQVwDatU :2005/08/02(火) 05:22:22 ID:vV8u4ns5
「――!?」
突然声をかけられた彼が驚いて周囲を窺っている。
夜だから、人間にはこちらが見えないんだろう。
だからわたしは声でこちらの場所を報せる。
「ココ」
「――――!?」
ようやくわたしを見付けた彼が何かを言ったけど、早口だったせいでうまく聞き取れなかった。
「ユックリ、ハナス。
 ワタシ、ニンゲン、コトバ、ワカラナイ」
「人間の言葉って……」
『人間』と『言葉』という知っている単語だったので、今度は何とか聞き取れたわたしは、自分の正体を明かすために、水面から跳ね上がった。
空中にいたのは一瞬だけど、今日は満月の晩だから、予めわたしの方を見ていれば下半身が見えたはずだ。
「ワタシ、ニンギョ」
「人魚……?」
「ホカノニンゲン、オシエル、ダメ」
「え、あ、うん」
人間は普通人魚の存在を知らないらしいから、さすがに驚いているのか彼は素直に首を縦に振る。
この仕草が人間の中では肯定を意味するものだということも資料にあった。
「えーと、あ、あっち、あっちに、行こう」
彼がある方向を指差しながら、あっちという言葉を繰り返す。
彼の示した方向にある岩壁には、それなりの大きさの洞窟が口を開けていた。
そこには海水も入り込んでいるらしく、そこでなら確かに他の人間には見つかりにくそうだ。
もちろんそこに閉じ込めるつもりかもとは思ったけど、たぶん彼はそんな事しないだろうし、他の人間が潜んでいても人魚の鋭敏な感覚なら見抜けると思った。
だから、わたしはその洞窟に向かって泳ぎ出し、それを見た彼もそこへ移動し始める。
549別の人魚の場合 ◆WmvQVwDatU :2005/08/02(火) 05:24:03 ID:vV8u4ns5
洞窟の奥でわたしと彼は向かい合っていた。
「キミ、イツモ、クル」
「……え?」
「ワタシ、マンゲツ、ヨル、ココ、クル。
 キミ、イツモ、イル」
「見てたんだ……」
「マンゲツ、チガウ、ヨル、イル?」
わたしのたどたどしい質問に、彼は首を縦に振った。
肯定だ。
「ナゼ? キミ、コドモ。
 コドモ、ヨル、イエ、イル」
まだ自分の身が守れない内は、危険の多い夜はあまり出歩くべきではないというのは、人魚も人間も同じだと思った。
「僕は家に――――」
最初の僕や家はわかったけど、続きがわからない。
それを察したのか、彼はもう1度、わかりやすいようにゆっくりと言い直してくれる。
「僕が、家に、いるの、親が、ゆるさないんだ。わかる?」
今度は言葉はわかったけど、その理由がわからなかった。
「オヤ、ユルサナイ、ナゼ?
 オヤ、コドモ、スキ」
人間にはわたし達と違って、父親と母親という2人の親がいるらしいというのは知っていた。
人魚はそれで言うと母親だけで――ある意味では、全ての人魚にとって女王様が人間でいう父親に当たるのかもしれないけど――、
それでも、その辺が違っていても親にとって子どもが大切なのは変わらないはずなのに。
「僕の、親、本当の、親じゃないから」
寂しげに夜の海を見つめていた瞳。
その瞳に宿る寂しさをさらに深くしながら、彼はそう言った。

それからは毎回満月の夜になると、この洞窟で彼と朝まで話すようになった。
お互いの名前も教え合い、1年もするとだいぶ彼の言葉もわかるようになってくる。
550別の人魚の場合 ◆WmvQVwDatU :2005/08/02(火) 05:27:22 ID:vV8u4ns5
今日も洞窟の底で彼が来るのを待つ。
そうしていると、やがて彼の足音が近づいてくるのが聞こえた。
「武志」
「セオ、僕が呼ぶまで出てきちゃいけないって何度も……」
「足音で武志だってわかる。
 他の人間とは間違えない」
そんないつものやりとりを終えて、水辺にお互いが腰掛けるのにちょうどいい石がある場所に行く。
ただ、ああは言ったものの、今日の彼の足音は少しだけ違っていた。
その変化は初めてと言うわけじゃないから、その原因はわかっているけど。
「また、されたの?」
「え? ああ、セオには隠し事できないなぁ。
 でも大丈夫だよ、兄さん達は本気では殴ったりしないから」
彼は今、元々自分の家族じゃなかった人達と暮らしているらしい。
頻繁に夜の砂浜に来ていたのも、理不尽なことで怒られてその罰として家を追い出されていたせいだ。
暴力も振るわれるらしく、今日の彼の足音は痛む部分を庇いながら歩くせいでわずかに乱れていた。
「こんなこと本人達に言ったらまた殴られるけど、家の仕事の手伝いは兄さん達より僕の方が全然手際いいから、僕が動けなくなったりはしないように上手く手加減してくれるんだよ」
彼は笑いながら言うけれど、それはひどくおかしいことだと思う。
人魚は種全体の中で見ても争いごとなんて滅多にしないのに、人間は家族の中ですら暴力を振るうのだ。
彼の場合、本当の家族ではないらしいけど、それでも一緒に暮らしているならやっぱり家族だとわたしには思えた。
それを聞くと、人間は野蛮で残酷だと聞かされていた話が、やっぱり本当なんだと思えてきて少し悲しい。
人間が全部、そんなんじゃないということも、今では知っているけど。
そして、その日もいつものように朝までお喋りして、いつものようにわたし達は別れた。

けれど、次の満月の晩、わたし達はいつものように会うことができなかった。
わたしがあの洞窟に行けなかったから。
人間に会っていることが周囲にばれてしまって、わたしは国から出ることを禁じられた。
551別の人魚の場合 ◆WmvQVwDatU :2005/08/02(火) 05:30:17 ID:vV8u4ns5
ということで、出会い編はここまでです。
次回投下できるのがいつになるかわかりませんが、内容は武志が高校生の頃の話になるかと思います。
552名無しさん@ピンキー:2005/08/02(火) 08:12:50 ID:2OFUTdSz
ちょっと質問。
少年×人狼少女の話はココに落とすんですか?

似たようなスレが多いんで解らないんですけど…orz
553名無しさん@ピンキー:2005/08/02(火) 08:25:40 ID:wGxT2410
極端な話、どこでもいいです。どこでも歓迎されるはず。
貴方が落としたいと思ったところに落とすのがベスト。
554名無しさん@ピンキー:2005/08/02(火) 13:10:33 ID:8SfD8xPs
むしろカモン
555名無しさん@ピンキー:2005/08/02(火) 14:19:18 ID:XZs5JPwC
期待
556名無しさん@ピンキー:2005/08/02(火) 19:11:53 ID:/AO2YFAf
>>552
その少年が人間だったら、ここでいいのでは。
557名無しさん@ピンキー:2005/08/02(火) 21:45:44 ID:lVj4IpEc
今までROMってた俺でもなんか書いてもいいかな?
最近自分で話書く事に興味が出てきたんだ
558名無しさん@ピンキー:2005/08/02(火) 21:47:46 ID:Vc39SHPq
おう、萌えるのを一発頼むぜ!
559名無しさん@ピンキー:2005/08/02(火) 22:18:48 ID:XZs5JPwC
期待
今週は悶えまくりそう
560名無しさん@ピンキー:2005/08/02(火) 22:32:06 ID:lVj4IpEc
>>558-559
でも幸せな話書いたところで( ´_ゝ`)フーンで終わりでしょ?
561名無しさん@ピンキー:2005/08/02(火) 22:34:07 ID:Vc39SHPq
面白ければ感想くらい書くさ
562名無しさん@ピンキー:2005/08/02(火) 22:40:14 ID:XZs5JPwC
萌えられればGJ
これ風水の法則
563名無しさん@ピンキー:2005/08/02(火) 23:01:20 ID:oAresnSf
lVj4IpEcはいつものアレだぞ・・・
564名無しさん@ピンキー:2005/08/02(火) 23:21:04 ID:Vc39SHPq
いつものあれって?
565名無しさん@ピンキー:2005/08/02(火) 23:27:04 ID:XZs5JPwC
夏房
566名無しさん@ピンキー:2005/08/02(火) 23:29:50 ID:f5/zXUYc
幸せな話しか書いた事がない俺様が通りますよ

少なくとも俺はここでGJして貰った事はあっても
( ´_ゝ`)フーンなんて反応された事はないね
ま、難癖付けて書く気がないなら、ずっとROMってなさいってこった
567名無しさん@ピンキー:2005/08/03(水) 00:17:11 ID:PJXDUnzt
このスレに不幸な話ってあまり無いような気がするが
568月下逢瀬:2005/08/03(水) 00:43:21 ID:ddl4jfej
その青年は狩人だった。もう先祖代々百年以上も森の傍でそれを生業にしている。
そして彼、いや彼の家系には宿敵がいた。人狼。そう呼ばれる異形の怪物だった。
森の奥に棲み、時折夜に家畜を襲う。稀には、夜に森の奥くに入り込んだ迂闊な人間を餌食にしたりもする。
彼の先祖は宿命のように代々人狼と戦い、命を落としていた。
人狼も彼と同じく一族を成しているらしく、先祖達によって幾度と無く退治されてきたが、今も姿をあらわす。
毎月一度、満月の夜には両者は死闘を演じる。半ば馴れ合いの様でもあるが、一瞬たりとも気を抜けない、本物の死闘だ。
森の中で、彼は銃を手に人狼を追跡する。もし気を抜けば、反撃させて父の様に命を落とすだろう。
幼い頃から昼の森を遊び場にしてきた彼にとって、夜とは言え森の中は庭も同然だ。それは敵にとっても同様だ。むしろ棲みかである分より熟知しているだろう。
幼い頃友達と登った樹の脇を過ぎ、戦ごっこで城とした岩を乗越え、初恋の少女と出会った泉で水を飲み、一息つく。
やがて東の空が白む、今月も決着がつかぬまま勝負が終った。
あれは森の守護神だ。初恋の少女はそう言っていた。
彼女は森の民だった。街とは殆ど交流を持たず、昔ながらの森の恵を中心真にした自給自足の生活を送る連中だ。
ならば俺の一族は、森の動物という恩恵を受けつつ、神に銃を向ける反逆者なのか。
幼き日にそう尋ねた青年に対して、少女はこう答えた。満月の戦いは神の許諾なのだと。
守護神は、森の獣に代わって狩人に反撃をしているのだと言う。
狩人は森の中で一休みしてから、昼頃に家に向かう。と、無数の斧の音が響いてくる。
村の樵ならば、こんなに沢山はいない。不信に思い、道を外れてそちらの方へ向かった。
そこでは大勢の作業員が樹を切っていた。話を聞いてみると、ここに大規模な製材所を作るのだという。
その晩から惨劇が始まった。人狼が製材所を襲撃し、当直の作業員を虐殺したのだ。おそらくは、大量の伐採を森を汚すものとして裁きを下したのだろう。
以来、製材所の持ち主である富豪は様々な用心棒を雇ったが、その総てが犠牲となった。
かくして、人狼のエキスパートとして青年に白羽の矢がたった。
そして夜、満月の晩でなかったためか人狼の力は弱く、青年の放つ銀の銃弾で易々と撃退できた。
569月下逢瀬:2005/08/03(水) 00:45:04 ID:ddl4jfej
人狼は森の奥の粗末な家に戻った。日が昇り、その姿は全裸の若い娘へと変じる。
はぁっと大きく息を吐き、肩の傷口を押さえた。
彼女は月齢で体調が異なり、満月の夜にそれは最高潮となる。しかし狩人はそんなものに影響されない。満月の夜にようやく互角な相手だから、他の晩では勝てるわけがない。
激痛で気が遠くなりつつも、彼女はその傷口を愛しげに見る。それは狩人の、幼き日に泉で出会った初恋の相手の絆でもあるのだ。
何代にも渡り、互いに殺しあった家系だ。いまさら初恋が成就できるとは思わない。ならば、せめて月に一度死闘を演じることが、彼の心を捉える唯一の手段だなのだ。
そして、いずれはどちらかがもう一方の命を絶つ。この思いはそういう形でしか決着をつける事ができない。
彼女は薬草と包帯で手当てをすませ、次の満月までの半月ひたすら回復に努めた。
しかし次の満月の夜、森の中に彼の姿はなかった。昼間歩きまわった匂いをすらしない。
自分が死んだと思ったのかもしれない。そう考えて、その晩は村の鶏小屋を襲って生きている事を知らしめた。
が、それからも青年は姿をみせなかった。昼間、森の中で狩りをしている気配もない。
まさか青年の身に何かが、そう考えると居ても立ってもいられず、昼間に人の姿で森を出た。
村人と違って製材所の人間は、森の民に余計な偏見を持たずに普通に対応してくれる。そしてそこで知ったのは、愕然とする事実だった。
狩人は、製材所の富豪に気に入られその一人娘と結婚して婿養子となり、街に住んでいるのだという。
娘は狂乱した。
狩人はいずれはどこぞの女と結婚し、子孫を残すだろう、今までと同じく。それは子孫を残すためなのだと割りきって我慢できる。
だが、狩人であることを、満月の夜に自分と二人きりの時間を過ごすことを、やめる事は許せなかった。
互いに愛し合った過去を持ちつつも、歴代の禍根により結ばれぬ宿命にあるならば、その禍根を捨て去る事は許せない。
満月の晩。娘は狼となり、森を出た。既に何日もかけて、昼間のうちに富豪の家は突き止めてある。
煌煌と輝く満月の下、人狼は館に忍びこんだ。すぐに、彼と彼女から彼を奪った泥棒猫の寝室を嗅ぎ当てる。
そっとドアを開けると、二人はぐっすりと眠っている。人狼の気配に気付かぬとは、現役の狩人の頃には信じられぬ腑抜けぶりだ。
まずは、この泥棒猫の始末だ。一気に鉤爪を振り下ろし、その頭を砕く。間違い無く即死だ。
ようやく、彼が目覚めた。隣で寝て居た女の死を知り、半狂乱になってわめく。いいぞ、思う壷だ。
彼女が悠々と館から出るころには、青年は銃を手にした狩人に戻っていた。満月よりもぎらぎらと輝く、殺意に燃えた瞳だ。
これでもう、彼は二度と彼女との死闘を忘れる事はないだろう。
さあ、二人きりの逢瀬の始まりだ。
570名無しさん@ピンキー:2005/08/03(水) 00:48:31 ID:ddl4jfej
二人の愛は殺し愛!
てなわけで、不幸な話です。
元ネタの高橋葉介の漫画まんまなわけですが、人狼を女に変えて愛情ゆえとしてみました。


そーいや一本木蛮のマンガで、満月の夜になると女になる狼男ならぬ娘男ってネタがあったな。
いや、ただの雑談だけど。
571名無しさん@ピンキー:2005/08/03(水) 00:54:04 ID:hkdzvBxB
TWWで見た気がする。
572名無しさん@ピンキー:2005/08/03(水) 00:55:13 ID:JwDKQcN0
>568
うはー
上手いなあ。
もっと長くしたの読みたい。
573名無しさん@ピンキー:2005/08/03(水) 10:58:18 ID:4qAq2Xsc
>568
GJ! 燃えて泣けた。
でも誤字がところどころあるんで、投下する前にいったん落ち着いて推敲した方が……と思う。
574名無しさん@ピンキー:2005/08/03(水) 16:16:47 ID:FdjNqGzd
>568
当然、続きがあるんだよね?
575霜ノ関 ◆EWgLYoRkiM :2005/08/03(水) 19:55:13 ID:4367uVRX
瞼が物凄く重い。意識が覚醒しているのに目を開けることができない。
それというのも、頭の下にある枕の冷たさと柔らかさが心地よすぎるせいだった。
心地よい布団と枕は人間の睡眠欲を呼び覚まし、人間の身体を眠らせるものなのだ。
「……ん…………」
何とか睡魔の追撃を振り切り、瞼をこじ開ける。正面には心配そうに俺を見ているラウラの顔が見えた。
俺を吸い殺したら約束を破ったことになってしまうので、俺が死ぬことによって嘘つきになってしまうのが心配だったのに違いない。
その中に、純粋な意味での心配が混じっているように思えるのは、そうであって欲しいと願う俺の妄想だろうか。
「……おはよう」
寝惚け眼を擦りながら、一応は礼儀として殺人未遂犯に対して挨拶をする。
正面のラウラの顔が天井を背景に見えているということは、俺は仰向けに寝かされているのだろう。
ひんやりと冷たく柔らかい枕は恐らくアイスノンか何かで、ベッドになっているのはソファだろう。
背筋や首筋が湿っている気がするのは、きっと寝汗をかいたせいだろう。
壁にかけてある時計を見れば、もうすぐ日付の変わる時間だ。だいたい、五時間ちょっと寝た計算になる。
「……あ…………目覚めたのか……」
俺の挨拶を聞いたラウラは一瞬だけ目を見開き、溜息を漏らした。
安堵によるものなのか呆れによるものなのかということに関しては、思考と視界に睡魔による靄がかかっている俺にはわからない。
ただ、それが俺の無事を喜んでいるせいで出た溜息だと嬉しい、というくらいのことは思う。
「ああ、うん、起きたけど……」
相手が俺の顔を覗き込むように身を屈めていることにいつまでも甘えているわけにはいかないので、
相変わらず重い瞼を擦りながら身を起こそうとし、予想以上に力が入らないことに気づく。
起き上がりかけて失敗するとラウラに余計な心配をかけるかもしれないので、誤魔化すように動かした手に
引っ掛かったソファの背もたれらしき柔らかいものに手をかけ、一息に身を引き起こそうとした。
「わっ……!」
背もたれに手をかけた瞬間、ラウラが悲鳴を上げて身じろぎした。俺が急に動いたので驚いているのだろう。
なぜか頭の下の枕も一緒に動いているが、俺は特に気にすることもなく力を込めた。
「え……?」
その瞬間、驚愕と恐怖の入り混じった表情を浮かべたラウラが俺に向かって近づいてきた。
それと同時に動き出した枕から頭が滑り落ち、重力が一瞬にして消失したのを感じた。
どうやら、背もたれを掴み損ねたせいでソファから転げ落ちかけているようだ。ラウラが俺に焦ったような顔で
俺に近づいてきているのは、きっと俺を助けようとしてくれているのだ。
枕から滑り落ちてからソファからの転落までの間に、俺はこれだけのことを理解し、推測した。
我ながら、危険が迫ると頭脳が鋭敏になるものだとつくづく思う。
「なぁっ、何をする……!?」
好意を無にしてはいけないと思って全力でラウラに抱きついたら、なぜか彼女は上擦った悲鳴を上げて硬直し、
そのまま俺と一緒に落下した。
最初、俺は咄嗟に身体を捻って受身を取ろうとした。しかし、普通に両肘をついて受身を取ったのでは、
胸に抱き込んでいるラウラを床に叩きつけた挙句に押し潰すことになってしまう。だからといって、今から身体を捻り直すのも
時間的に無理な話だ。考えあぐねた挙句、俺はラウラの後頭部と背中に腕を回してクッション代わりにし、
両脚で彼女の下半身を抱え込んで手と同じく彼女のためのクッションとなることを選んだ。
「ぐぅっ……」
華奢なラウラといえども一人には違いなく、受身を取ることすらできなかった俺は二人分の体重を負ったまま
床に叩きつけられた衝撃が両手足に集中したことにより、目の前が真っ白になるほどの激痛に襲われた。
だが、不幸中の幸いとはまさにこのことで、俺の目論見通り、ラウラには一切の衝撃が及んでいない。
576霜ノ関 ◆EWgLYoRkiM :2005/08/03(水) 19:55:57 ID:4367uVRX
「ラ、ラウラ、だ、大丈夫……?」
全面的に俺が原因となって引き起こされかけた事態とはいえ、腕の中にすっぽりと収まってしまうほど華奢なラウラが
床に叩きつけられるという事態を回避できたことに安堵した俺は柔らかくていい匂いのする身体に未練があったものの上体を起こし、
呆然とした表情で見上げてくるラウラの手触りがいい髪を撫でる。
「……ラ、ラウラ?」
反応がない。
もしかして脳震盪でも起こしたのだろうかと戸惑いながら、今は顔の両脇についている手を頬に当てて軽く揺する。
テーブルとは大分距離もあるし俺の腕でしっかりと衝撃を吸収したはずなので頭をぶつけたなどということはないはずだが、
状況が状況だけに心配にもなる。なかなか反応しないラウラの様子に深刻なものを感じて背筋が寒くなったが、
僅かに顔を動かしたラウラと目が合ったことによって、その悪寒も呆気なく消え去った。
「………な、何だ、意識があるんじゃないか。心配させないでくれよ……」
ほっと一安心して安堵の溜息を漏らしたのだが、どうにもラウラの様子がおかしかった。
ラウラは黙ったまま、じっと俺の顔を見つめ続けている。もともとが非人間的なほど整った顔立ちだけに、
無表情のままじっと見つめられると何とも形容しがたい威圧感がある。
彼女はその表情を維持したまま無言でずりずりと俺の下から這い出し、まだ這い蹲ったままの俺の首近くに顔を寄せてきた。
「………幸助」
ぼそりとラウラが呟く。ラウラの意図を勘違いして危険な目に遭わせてしまったことを責めているのだろう。
この近距離で怒鳴られるとまた耳が痛くなりそうなので、先に謝っておくことにする。
「あ、これは、その……ごめ」
「この、この……この大馬鹿者が!」
遅かった。ラウラの怒声は俺の謝罪を遮って俺の鼓膜を直撃した。耳鳴りがする。
「大馬鹿者! 色魔! 変態! けだもの! いきなり何をするのだ!?」
ラウラは俺の耳元で怒鳴り続ける。綺麗な瞳に涙が浮かんでいることが、彼女の怒りと悲しみを雄弁に物語っている。
「信じて……信じていたのに……! お前が、お前が、いきなりこのようなことをする男だったとは……!」
大粒の涙をぼろぼろと零しながら、ラウラは泣きじゃくる子供がするように俺の身体のあちこちを小さな拳で何度も叩いた。
「もっと、もっと時間をかけて……互いを知って……親しくなって……互いの想いを育んで……それから……!」
吸血鬼の貴族だということが想像もつかないほど弱々しい拳で、ラウラは何度も俺のことを叩いた。
「ラウラ……」
おぼろげながらも、俺はラウラがなぜ怒り、なぜ悲しんでいるのかを今頃になって理解した。
ラウラはほんの一日前に知り合ったばかりの男の言葉を信じてその家にまでついていった結果、一切の承諾もなしに
突然押し倒されるという最悪の形で裏切られたのだった。普通の女性でも貞操の危機を覚える状況なのだから、
お嬢様として大切に育てられてきたらしいラウラならば、なおさら恐怖と怒り、そして嫌悪感を覚えるだろう。
我を忘れて俺を罵倒するほど怒るのも無理はないし、涙を「目にゴミが入った」と誤魔化しそうなほど
プライドの高い彼女が俺の前で涙を流して悲しむのも全くおかしな話ではない。
俺は全く意図することなく寝惚け眼で行動した結果、ラウラが示してくれた信頼を全て裏切ってしまったのだった。
落下の衝撃で完璧に目が覚めた今になって、全てが理解できた。
577霜ノ関 ◆EWgLYoRkiM :2005/08/03(水) 19:56:30 ID:4367uVRX
俺に心地よい眠りを与えてくれていたひんやりとして柔らかい枕というのは俺が意識を失ってからずっと付き添って
くれていたのだろうラウラの膝枕で、俺が起き上がろうとして掴んだソファの背もたれというのはラウラの肩か何かだったのだろう。
ラウラにしてみれば、責任を感じて看病していた相手が目覚めたと思った途端、突然に引き倒された挙句に
がっちりと全身を拘束されて組み敷かれたのだ。相当な恐怖と精神的苦痛を彼女は感じたことだろう。
全く、弁解のしようがない。
「……人間などを信じた、私が愚かだったのだ」
先ほどまでとは打って変わって静かに呟くラウラの目に、怒りの色はもうない。あるのは、悲しみだけだった。
ラウラの様子はあまりにも儚げで、あまりにも危うげで、とても声などかけられはしなかった。
「……………お前のような男、八つ裂きにする価値もない」
人間が無力で愚かな蟻を見るような表情で俺を見たラウラの身体から靄が立ち上り、徐々に輪郭を失っていく。
吸血鬼は霧となって消え去る能力を持つというから、きっとそれなのだろう。ラウラは、俺の前から姿を消すつもりなのだ。
「待っ」
そうと気づいた瞬間、俺は無意味だと半ば知りつつもラウラを引きとめようと手を伸ばしたが、その手が届くことはなかった。
「……触るな、下種……!」
汚いものを見てしまった時のような嫌悪感と不快感に満ちたラウラの表情を見た途端、俺の手は行き場を失った。
そうだ。傷つけてしまった相手が俺の近くから去ろうとしているのを止めるのは、単なる身勝手だ。
身体のほとんどを霧と化したラウラは、最後に一滴の涙を零して俺の前から消え去った。
「……俺は馬鹿だ…どうしようもない馬鹿だ……」
俺はそのままふらふらと床にへたり込んだ。こういう事件が起こった場合、ドラマではすぐに主人公が恋人を
追いかけることになっているが、ドラマの主人公でもなければ彼女の恋人でもない俺に追いかける資格があるはずもない。
俺とラウラは偶然に出会って偶然に別れるという、ただの行きずりの縁しか持っていなかったのだ。
第一、あれほどまでに傷つけてしまった以上、俺の顔を見て、俺の声を聞くだけでも苦痛に違いない。
なおさら、追いかけることなどできようはずもない。
「……俺は、本当に馬鹿だ」
理屈で理解していてもそう簡単に諦めきれるものではない。つまりは、理屈のわからない馬鹿だ。
行動するのに相応しいと思える理屈がなければ行動に移すことができない。つまりは頭でっかちの馬鹿だ。
何か諦めるきっかけがあれば、何か追いかけるのに相応しい理由があれば、俺は選ぶことができる。
「………いきなりだったもんな……どうしようも…………ん?」
自分を納得させるために言った言葉が呼び水となって、行動するに足るある理由が脳裏に浮かんだ。
考えてみれば簡単なことだった。どうしてこのことに真っ先に気づかなかったのか。
俺には追いかける資格など端から存在しない。あるのは、追いかける義務だけだった。
「いきなりで、何も言えなかった。謝ることも、できなかった……俺は謝らなきゃいけない!」
三段論法めいた順序で理論武装した俺は、吸血の影響によってか精神的衝撃によってかで弱った身体に
鞭打って立ち上がり、玄関へと向かった。
ラウラは吸血鬼で、夜は吸血鬼の時間だ。
高い運動能力と併せて霧と化して移動する能力を持つ彼女にただの人間である俺が追いつける道理もないが、
それでも両脚が動く間は彼女を追いかけなければならない。
いや、脚が使えなくなれば手を使って這えばいい。手が駄目になったら転がればいい。
俺の身体に動かせる部分がある限り、俺にはラウラを探す義務があった。
578霜ノ関 ◆EWgLYoRkiM :2005/08/03(水) 19:57:33 ID:4367uVRX
「あ、あの、すみません……! 十四歳くらいの外国人の女の子を見かけませんでしたか!?」
深夜の町を何の当てもなしに走り回り、見ず知らずの通行人達にラウラのことを尋ねる。
「何だね、君はぁ! そんなこと、私達が知っとるわけないだろぉ!」
酔っ払ったサラリーマンの集団に尋ねたら、いかにも迷惑だという素振りで追い払われた。
「ぷっ、何それナンパ? あんたみたいなぱっとしない奴なんてどうでもいいからあっち行って」
俺よりも確実に一学年は下の女子高生に声をかけたら、ナンパと間違われて相手にもされなかった。
「何ぃ、外国人の女の子? おい、君、何かの犯罪に関わっているんじゃないだろうな。
だいたい、未成年だろう。こんな時間に出歩いていいと思って……あ、おい、こら、待て!」
思い切って街を巡回中の警官に話しかけてみたら、雲行きが怪しくなってきたので走って逃げた。
「はぁ!? そんなガキなんて知るかよ。今時のガキは進んでるしよ、どっかでウリでもやってんじゃねえのぉ?」
殴られるかもしれない恐怖を押して同年代のチンピラ風の少年に訊いてみたら、嘲笑された。
「外国人の娘? ああ、それならうちの店にいるよ! ほら、試しに楽しんでってよ!」
風俗店の客引きに呼び止められたので駄目元で訊いてみたらやはり駄目で、強引に店に連れ込まれそうになった。
結局、誰も俺のことなど助けてくれなかった。
いつからこの街の人間はこんなにも不人情になったのだろう。
いつから俺は他の人間が力を貸してくれるのを当然と思うようになっていたのだろう。
誰の力も借りることができないまま当てもなく街を走り回りながら、俺は泣きたくなってきた。
真剣に頼み込んでいるのに聞き入れてくれないばかりか嘲笑すらしてくる街の住人達に。
そして、頼めば力を貸してくれて当然だと思うようになっていた傲慢な自分に対して。
「く、糞、脚が……」
闇雲に走り回ったせいで、両脚が疲労のあまり棒のようになってしまった。堪らず、手近な電柱に寄りかかってへたり込む。
こんな所で立ち止まるわけにはいかないというのに、俺の両脚はなかなか再び動こうとはしてくれない。
焦りと苛立ちが心を支配しかけたその時、座り込んだ俺を見下ろす人影が現れた。
「君かね? 外国人の女の子を探しているという少年は」
その人は長身で痩せ型、そして顔色が悪いということを除けば至って平凡な中年のサラリーマンだった。
だが、その平凡なサラリーマンが俺にとっての救いの神になるかもしれない。俺は勢い込んで立ち上がった。
「は、はい、そうです! 何か、ご存知なんですか!?」
「ああ」
俺の勢いに苦笑しながら、サラリーマンは真っ直ぐに俺がこれから向かおうとしていた先の道を指差した。
「君が探している娘かどうかは知らんがね、向こうの角を曲がった辺りで見かけたよ。今なら、まだいるかもしれんね」
どうやら、俺は人間を嫌いにならなくて済みそうだった。世の中にはいい人もいるのだ。
「あ、ありがとうございます!」
俺は礼を言うのもそこそこに、彼が指し示してくれた方へと全速力で駆け出した。
ラウラに会えるかもしれないというだけで、俺の脚は再び動き出したのだった。
579霜ノ関 ◆EWgLYoRkiM :2005/08/03(水) 19:58:09 ID:4367uVRX

「こ、ここは……まさか……」
サラリーマンの指示に従って向かったその先に広がっていたのは、俺達一家が全員揃っていた最後の場所だった。
先ほどの道からこの場所には出られないはずだったが、そんなことは俺にとって些細な問題に過ぎない。
「あ、ああ……嫌だ……何で、何で、こんな所に……」
流石に俺達の車の残骸は撤去されてはいたが、無残に破壊されたガードレールに、割れ砕けた窓ガラスの破片、
未だにアスファルトにこびりついている血痕などの細かな、しかし確かに存在する事故の痕跡は完全には片付けられておらず、
見る者が見れば一目でそれとわかる事故現場がそこにはあった。
俺はそれを見た瞬間に猛烈な吐き気を感じ、口と腹を押さえて蹲った。
あの日の記憶が、それを拒絶する俺の意思とは無関係に蘇っていく。
事故が起きたあの夜は、仕事仕事と家にいないことが多かった親父が珍しく休暇を取り、家族揃って
近場の海に出かけて思う存分楽しんできた帰りだった。
「久しぶりの家族サービスだ」と笑っていた親父の顔と「幸助ももうすぐ大人ね」と嬉しさと寂しさが
ない交ぜになっていた母さんの顔が自然と思い出される。
事故が起きたあの瞬間のことは、よく憶えている。
あの時、親父はハンドルを握りながら
「お前もあと二年もしたら二十歳か。そうなったら、俺とビールでも飲もう」
と心の底から楽しみにしているのがわかるほどに顔を綻ばせていた。
あの時、母さんはそんな親父の言葉に
「もう、貴方ったら。幸助にお酒の味なんて教えないでくださいな」
と冗談めかして笑いながら応じていた。
俺にはあの時の会話の一言一句が正確な記憶として脳裏に焼きついている。
二人の最期の瞬間も、断片的にではあるが覚えている。
親父が叫び声を上げながらハンドルを切ったのが始まりだった。
見かけに似合わず優しい親父のことだから、野良猫でも避けようとしたのだろう。
その急激な方向転換によって車体は激しくスピンしながらガードレールに突撃し、出来の悪い冗談のようなことが起こった。
運転席と助手席を結ぶ直線にガードレールの延長線が重なった瞬間、一直線にガードレールが車体を貫通したのだった。
その時、回転する車内であちらこちらに身体をぶつけて薄れゆく意識の中で、俺は見た。
ドアを突き破ったガードレールが親父の身体を真横から貫通し、そのまま母さんの身体も引き裂いていくのを。
真っ白なガードレールが一瞬で真っ赤になるのを。恐怖に引き攣っていた二人の顔から表情が消えるのを。
唯一の救いだったのが、二人とも苦痛を感じるだけの間もなく楽に死ねたことだろうか。
「う……うげぇぇ……ぇっ、ぇっ……!」
吐き気を堪えきれず、俺は血痕が染み付いたアスファルトの上に胃の中身を残らずぶちまけた。
一旦吐き始めると、もう止まらない。息が続く限り嘔吐が続き、息切れして息を吸い込んだ直後にまた再開される。
中身がなくなっても、胃液が喉を駆け上ってくる。喉の痛みと口内に残る味と情けなさに、俺は嘔吐しながら嗚咽した。
どれほどの時間、胃の中身をぶちまけ続けただろうか。ふと、誰かが背中をさすってくれていることに気づいた。
小さくて冷たい、優しい手だった。事故現場での記憶が途切れる寸前にも、この手の感触があった。
脊椎反射で誰の手だかわかった。
「ラ……ウ、ラ……」
口の端から胃液を垂らしながら振り向き、俺は背後に佇む少女の名前を呼んだ。
580霜ノ関 ◆EWgLYoRkiM :2005/08/03(水) 19:58:44 ID:4367uVRX
「お前、このような所で何をしている?」
厳しい表情を浮かべて、ラウラは俺を見下ろしている。
「そ、の……言い、たいこと、が、あって……」
まだはっきりと喋れる状態ではないので上手く喋ることができないのがもどかしい。
「……奇遇だな。私も同じだ。私もお前に言いたいことがある。だが、まずはお前からだ」
どこまでも厳しい視線に促され、俺は喉から込み上げる胃液の臭いに噎せ返りながら口を開いた。
「お、俺、は……き、君に、あ、謝り、たいと思って……ここ、まで、来たんだ……」
ラウラは唇を真一文字に引き結んだまま、俺の話を聞いている。
「いきなり、あんなことをして、ごめん………俺には、そ、れ、しか言え、ない……」
遂に言うことができた。遂に言い終えてしまった。
「……言うことは、それだけか?」
黙って頷く。俺にはもうラウラと一緒にいる理由と資格がなくなった。
これ以上一緒にいて、彼女に不愉快な思いをさせるわけにはいかない。
俺は全身全霊を込めて立ち上がり、歩き出そうとした。
「どこへ行く」
「言いたい、ことを……言わなきゃ、なら、な、いことを、言えた、から、俺は、帰る……」
「……私の話を聞かずに帰るつもりか?」
驚くべきことにラウラは俺の前に回り込み、凛とした目で真っ直ぐに俺を見上げてきた。
「私はあれから、考えた。本当に、お前がけだもののような男なのか。
本当に、お前が、その、淫らなことを考えて、あのようなことをしたのか……」
一言一言の意味を自分で確かめるような調子で、ラウラは訥々と語り出した。
「……答えは、否だった。あの時は怒りと動揺に決め付けて飛び出したが、落ち着いた今ならば
わかる。お前は、あの時、私が怪我をしないように、庇ってくれただけなのだろう?」
ラウラは厳しい視線を和らげ、確認するような表情を俺に向けてくる。
俺は真っ直ぐな視線に耐えられず、顔を逸らした。
「……確かに、そうだ。その、つもり、だった。でも……」
「……でも?」
訝しげな表情を浮かべるラウラに促され、俺はあの時に思ったことを包み隠さず語った。
俺を信じてくれたラウラを再び裏切ることになるが、言わないわけにはいかなかった。
「……俺は、あの時、エロいことを考えなかった、わけ、じゃな、いんだ……抱き締めた、時、
少しだけ、エロいこと、考えてた……」
まるで懺悔だった。いや、懺悔よりも酷い。懺悔は許されることが前提だが、これはその逆だ。
心が重く沈みこんでいくのを自覚しながら、俺は俺の言葉を聞いて何かを考え込んでいるらしいラウラが、
口を開いて何かを言ってくれるのを待つ。
ラウラは口の端に僅かな笑みすら浮かべ、言った。
「……ふん、だからどうしたというのだ」
俺は耳を疑った。潔癖そうなラウラなら、ここは笑う所ではなく怒る所だろう。
ラウラは顔を僅かに赤くして俺から目を逸らしながら、一息に言い放った。
「血を吸ってわかったが、お前は実に健康な男だ。健康な男が私のような美しい女に触れて、
全く、その、何も感じないなどということがあるはずもなかろう! ゆえに、特別に不問に処す! 異存はないな!?」
ラウラは俺から目を逸らしつつ、しかし傲然と胸を張って俺に向かって手を差し出してくる。
いきなりなので意味を理解できずにおろおろしていたら、顔を赤くしたラウラに一喝された。
「馬鹿者、何をしている! 女が手を出しているのだ。男がそれを取らなくてどうする!? さっさと私を家まで連れ帰れ!」
恐る恐るその手を取ってみる。ラウラはそれでいいのだという風に満足げな顔で頷いた。
自然と涙交じりの笑みが浮かんでくる。俺はラウラに許して貰えたらしかった。
「じゃ、じゃあ、その、一緒に帰ろうか」
「……うむ。お前と一緒に帰ってやる」
おずおずと手を引いて歩き出した俺に、ラウラは静かに微笑みかけてくれた。
581霜ノ関 ◆EWgLYoRkiM :2005/08/03(水) 19:59:41 ID:4367uVRX
身持ちの堅いお姫様をどう落とすか悩みつつ、次回に続く。
次回かその次辺りで話が一段落する予定だ。
582名無しさん@ピンキー:2005/08/03(水) 22:07:51 ID:u04VuNd9
>霜ノ関 ◆EWgLYoRkiM氏
ナイス、雨降って地固まる。
さて、このまま濡れ場でしょうか。それとも一波乱ありでしょうか。
次回が待ち遠しいです。

個人的予想
サラリーマン=実は敵対するアンデッド、とか
事故の原因=車道に飛び出したラウラを避けようとした、とか
…どうも好みの伝奇バトルや泣き系に走ってしまう。
583名無しさん@ピンキー:2005/08/03(水) 22:12:04 ID:u04VuNd9
>572
設定を練った上で全面書きなおしになりますな。
すいません。現在、放課後の吸血鬼で手一杯なのでムリポ。

>573
すいません。思いつきを2〜3時間でロクに推敲もせずに書きました。

>574
残念ながら続きはありません。
もし続きをするなら全面書きなおしだと思います。

さて、(「シートン動物記 狼王ロボ」を取りだし)
舞台は19世紀から20世紀初頭のアメリカ、森の多い地域の牧場。
青年は牧童(カウボーイ)兼、代々続く狼狩人。
娘は狼をトーテムとするネイティブのシャーマン。
狼狩りは無条件で正義扱いの雰囲気。
娘の一族は白人に土地を奪われ、トーテムの狼を殺されて白人を憎んでいた。
青年と娘は互いに初恋の相手で初体験の相手で、時々逢引している。
青年の父が娘の父(先代シャーマン)を撃ち殺し、代替わりした娘がその仇を討つ。
双方とも親を失った事で、否応も成しに家長となってそれぞれの社会の慣習に流され、疎遠になる。
ヨーロッパの狼男じゃないので満月との関連性が薄れるが、満月の晩には精霊の力が強まるので、
呪術一般が強まり、シャーマンはトーテムに変身する術を使える、という設定にする。
あ、オカルト娘スレ向きになっちゃうな…、まあいいか。
ラストは…致命傷を負った狼が娘の姿に戻って彼の腕の中で死ぬとか、彼氏を殺してその骸を前に泣き崩れる娘とか…、まあ書いてきゃそのうちいいのを思いつくだろう。

さて、今の所書く暇はないんで、一部でも全部でも、使いたい方は御自由にどうぞ。
584名無しさん@ピンキー:2005/08/04(木) 03:33:08 ID:gnJmp7LX
>581
ラウラいいねえ。幸助もよく動いててイイ。
続きが待ち遠しいよ
585名無しさん@ピンキー:2005/08/04(木) 22:28:15 ID:GETyNPIm
>ロボ
家畜を荒らす狼を捕らえてみたら、実は人狼or魔術師or狼に育てられた少女。
主人公の動物学者を自分に勝った勇者として求婚してきたり、
捕らえた荒くれどもに暴行されてるのを助けたら求婚してきたり、
でもって関係を結んじゃうと「狼は一夫一婦制を守る貞淑な動物だ」とか言われる。
586名無しさん@ピンキー:2005/08/04(木) 22:33:40 ID:AZ3q1BKX
>>585
それイイな。
ああくそう、俺に文才があったなら、あったならッ!
587名無しさん@ピンキー:2005/08/04(木) 22:33:56 ID:nOpKfTcw
実はロボだったとか。。。しまった、エロが無ゑ!!
588霜ノ関 ◆EWgLYoRkiM :2005/08/04(木) 22:37:56 ID:iEY/Onxf
>>585
そのネタ貰ってもいいか?
589名無しさん@ピンキー:2005/08/04(木) 23:05:15 ID:GETyNPIm
>588
どうぞ。
こちとら放課後の吸血鬼で手一杯なので、使っていただければ幸いです。
590名無しさん@ピンキー:2005/08/05(金) 10:09:18 ID:8VtT7B5H
>>588
>>568の続でそれのネタを使ってみてはどうでしょうか?
とネ申に意見を申し上げてみる。
では、ガンガってきださい。ワクテカしながらまってます。
591なしれ ◆IIES/YYkzQ :2005/08/05(金) 22:09:08 ID:YFtbtEvi
11-740です。ずっと数字コテというのもアレなんで、コテ&鳥を名乗ってみます。

以下、悪魔ッ娘(姐)もの。いつも以上に煩悩だけで構成されているので、その点はご容赦を。
あと、いわゆるニプルファック(乳にチムポを突っ込むというファンタジィ)ものなので、
そういうのが苦手な方はIDなり鳥なりをNGワードにして下さい。
592召喚(1) ◆IIES/YYkzQ :2005/08/05(金) 22:14:09 ID:YFtbtEvi
「‥‥ISECHIROS ATHANATOS AGLA AMEN‥‥悪魔よ我に力を!!」
 部屋いっぱいに描かれた六芒星と怪しげな文字。その前でやや小柄な少年がおどろおどろしい響きの
呪文を長々と唱え、最後にそう叫んだ。
‥‥沈黙。
‥‥‥‥沈黙。
‥‥‥‥‥‥沈黙。
「だめか‥‥今度こそ本物だと思ったんだけどな‥‥」
 内藤竜司(16)はがっくりと肩を落とした。その手には古色蒼然たる書物。半年前に、家族で中欧へ
旅行に行った時、立ち寄ったプラハの古書店で求めたものだった。数ヶ月かけて最低限必要な箇所を解読し、
こんどこそ悪魔の召喚を成し遂げられると信じていたのだが。
「はぁ‥‥他の箇所も全部読まなきゃならないのかな‥‥。」
 彼はへたり込んだ。高校生らしからぬ童顔には疲労がにじみ、がっくりと落とした肩は失望のほどを
雄弁に語っている。
 悪魔の召喚は彼にとって中学生以来の目標である。
 最初はいいかげんな通俗書のおまじないもどきで満足していたが、執着が昂じて本格的に悪魔召喚を
目指すようになったのだ。必死にラテン語を学び、血のにじむような努力のすえギリシャ語さえ
首っ引きながらもどうにかこうにか読むようになり、ことあるごとに妙な本を買いあさるようになった。
おかげで小遣い・バイト代はもちろん、金持ちの親戚に恵まれたはずの彼のお年玉貯金もとうに底を
尽いている。 実は彼の目的は悪魔の力を借りずともどうにかできるようなことだったのだが――こういう
努力をする暇があるなら。
「ふぅ‥‥片付けなきゃ。――あれ?」
 ふと気がついた。自分の描いた魔法陣と、本に書かれているそれがほんの少し違うことに。
少年が慌てて魔法陣を修正し、再び詠唱にとりかかったのは言うまでもない。

 部屋の照明が突如消え失せ、闇がすべてを包み込んだ。暗がりに魔法陣が蒼白く浮かび上がり、
その中央に闇がわだかまるのが感じられた。少年の足はがくがくと震え、その顔は緊張と喜びで
いびつにひきつる。
 凝集する闇が徐々にはっきりと形をつくりはじめた。うずくまる人間のような形をとったかと思うと、
それはすぅっと立ち上がる。
「‥‥小さきものよ‥‥我を呼びしは汝か‥‥」
 影は低く唸るような声を発した。少年の身体がびくりと震え、だがそれにより彼は自らのなしたことと、
なすべきこととを思い出した。
「あ、悪魔よ、父と、子と、せ、精霊の名において、汝の名を明らかにせよ‥‥!」
「くっくっ‥‥我が名はレギア‥‥昏き快楽と淫欲の使者‥‥」
 悪魔が名乗ると同時に、床の六芒星は青く激しく輝き、その姿をはっきりと映し出した。
 浅黒い肌に漆黒の髪、蝙蝠のような翼。こめかみからは雄牛のような二本の鋭い角が生えている。
瞳に紅い光を宿し、薄ら笑いを浮かべた唇からは鋭い牙が覗き、なめらかな曲線に富んだ肢体は、
レザーのような素材で要所要所が覆われているだけ。
 ――女だった。

「で、では悪魔レギアよ、汝に命――」
「あん? お断りだよ」
「――!?」
 先ほどまで時代がかった口調で声を発していた悪魔は、いきなりそっけなく断った。
 だが本には「悪魔が言うことを聞いてくれない時は、十字架などで脅してみると良い。
ただし必ず成功するとは限らないので自分の責任でどうぞ(訳:内藤竜司)」とあった。
気を取り直し、左手に聖書、右手に十字架を持って少年は強い口調で言う。
「悪魔よ、神の御名において命ずる。我が命に従――」
「お断り、って言ってんだろ‥‥。せっかくこっちの世界に出てこれたんだ、ガキのお守りなんてごめんだよ」
 悪魔は両手を組んで大きく伸びをした。薄い衣装から張りのある肉の双球があふれ出そうになる。
「ぼ、僕の命令を聞け!」
「うるさいな」
 ドンッ!!
 何気なく片手をかざしたかと思うと、召喚者は部屋の壁まで吹き飛ばされていた。
593召喚(2) ◆IIES/YYkzQ :2005/08/05(金) 22:15:17 ID:YFtbtEvi
「‥‥っぐぅ、うう‥‥――ひっ、そ、そんなっ‥‥!!」
 痛みに歪んでいた顔が凍る。悪魔は魔法陣から、その外へ出つつあった。ブーツに覆われた右脚が、
その線から踏み出す。蒼白い光がパリッ、パリッと火花をあげた。脚がその境界を難なく越えると、
全身がするりと魔法陣の外へ出る。電光がバリバリと激しくひらめいたが、彼女はそれを意に介さない。
結界を兼ねた魔法陣が用なしになった瞬間、照明が明るさを取り戻した。
「ふふふ、どうしたの? 結界を破られたのがそんなにショックかい?」
 悪魔は意地の悪い笑みを浮かべる。
「そんな‥‥そんな‥‥一番強力な結界を張ったはずなのに‥‥」
「ああ、そう。どうりで火花が派手なはずだ。だけどこんなのは術者の能力次第なんだよ、坊や。
まぁ坊やが大魔導士だったとしても、あたしを押し込めておけたかどうかは知らないけどね」
 肩をすくめて笑ってみせる。
「ほんとだったら力不足のガキなんて食い殺されても文句は言えないんだよ、そこんとこをわきまえな。
‥‥とにかく、呼び出してくれてありがと。じゃあね」
 くるりときびすを返すと、窓を開け放ち、そこから身を乗り出す。黒い翼を広げ――
「ま、待て! 待って!!」
「あん? 何よ。命令は聞かないと言ったでしょ」
「う‥‥ううっ‥‥」
 悔しさに涙がにじむ。せっかく苦労して召喚したのにこのざまとは。
「‥‥泣かれてもねえ‥‥。ふん、まあいいよ。呼び出してくれたお礼だ、言うだけ言ってみな。
‥‥聞いてやるかどうかは知らないけど」
 口は悪いが案外気の良い悪魔だった。

 一気に元気を取り戻した少年は、派手な容貌の悪魔に自分の望みを語った。
どういうわけか、語れば語るほど女悪魔の顔がゲンナリしたものになってゆく。
「‥‥ってことなんだ。お願い、力を貸して!」
「‥‥はあぁぁぁ‥‥」
 盛大な溜息。
「‥‥やっぱり、だめ、かな‥‥。」
「‥‥いや、その‥‥。ええと、つまり、あんたは、惚れた相手を振り向かせるためにあたしを喚んだ、
‥‥ってこと?」
「‥‥うん」
 やる気のカケラもない顔で問い返すレギアに、真っ赤な顔でうつむく少年。
「で、もう一回聞くけど、その佐々木まほちゃんだかは深窓の令嬢でもなけりゃ、今をときめく
芸能人でもなくて、高校の同じクラスの子、なんだっけ?」
「‥‥‥‥うん」
「竜司」
「はい?」
「このバカ」
「ぐぅっ」
 言われてしまった。内心、こんな努力をするより当たって砕けた方が早いとは気付いていたが、
それでも悪魔がこれほど「人間的」だとは思っていなかったから、自分の臆病さを隠したまま願いを
叶えることができるかと思っていたのだ。彼としては、コンピューターに命令するような気分だった
わけだ。
「‥‥それにしてもこんなガキに、しかも乳臭い恋愛相談でこのレギア様が呼び出されるとはねえ。
欲の強さは力に影響を与えるだろうけど、仮にも高級淫魔のあたしがガキに呼び出されるなんざ初めてだよ」
 悪魔はうんざりした調子でぼやく。
「‥‥え? 淫魔‥‥?」
 少し驚いたように魔導士もどきが顔を上げる。
「――愛の渇望をかなえる悪魔じゃないの?」
「ハァ? 最初に言ったろ、『昏き快楽と淫欲の使者』って。愛なんざ管轄外だよ、あたしは」
「そんな‥‥えぇっ? ――も、もしかしてっ!!」
 あわてて魔導書のページをめくる。‥‥あろうことか虫食いのせいでページがくっついていた。
かぶりつくように「新たなページ」を読むと、そこにはどうしようもないことが書かれていたのだ。
594召喚(3) ◆IIES/YYkzQ :2005/08/05(金) 22:17:20 ID:YFtbtEvi
「ええと‥‥『愛に関するところのものである渇望を、かなえるための悪魔召喚については
以上に書いたところの述べたとおりであるが‥‥』」
「ああもう、まどろっこしい読み方してんじゃないよ。あたしに貸しな――
んー、『‥‥だけど愛ってのは神サマの野郎が管轄してるから悪魔に頼んでも無理っぽい。
だから肉体的に愛をかなえる方法を書いといた。楽しませてもらえよ』だってさ。
‥‥要するにあたしとヤれ、って書いてあるんじゃない?」
 「‥‥な、なんだそれ‥‥」
 竜司は呆然とつぶやいた。
「――ぷっ。っくくく‥‥あっはははははは!! 何やってんのよ坊や。あはははは!!
あんたほんとにバカだねー‥‥あーお腹痛い‥‥くっくっ‥‥」
 レギアはしょげかえる背中をばんばんと叩きながら笑い転げる。
 ――が、突如我に返ったように竜司の目を覗き込み、ささやいた。
「ねぇ竜司。あんたの想いは、愛なの? 欲望なの? ‥‥ふふふ、欲望だよねぇ?
悪魔に頼ってでもモノにしようっていうんだから、それこそ強烈な欲望よねぇ?」
 にやにやと笑いながら、ぶっきらぼうな口調がうってかわって、ねっとりと甘く毒々しい声になる。
「その子をどうしたいと思ってたの? 抱きたかったんでしょう?
あんたのチンポで、その子のマンコをブチ抜いてやりたかったんでしょう? 貫いて、かき回して、
ヒィヒィよがらせて、ドロドロに、めちゃくちゃにしてやりたかったんでしょう?」
「そ、そんな‥‥僕は‥‥!」
 悪魔は獲物を見つけた黒豹のようにじりじりと迫る。竜司は床にへたり込んでずるずると後退するが、
赤くらんらんと燃える瞳が、卑猥な言葉を紡ぐ唇が、竜司の心を追いつめ、絡め取ってゆく。
「おねえさんがその想い、かなえてあげようか? あんたの内に渦巻くどろどろした熱情、
あたしが解放してあげようか?」
「ちがう! そんなんじゃない!」
 大きくかぶりを振る。
「くっふふふ‥‥嘘ばっかり。じゃあどうしてココはこぉんなにカタいのかしらねぇ?」
 しなやかな指先が少年の股間を襲いかかる。悪魔の妖気にあてられたのか、それとも言葉とは裏腹に、
悪魔の言葉と肢体に魅せられたのか、そこは確かに張りつめている。
「っく! ちがう、やめろ‥‥くぅっ!」
 たとえズボン越しであってもうぶな少年が淫魔の指先に勝てようはずもなかったが、早々に声が出る。
「我慢しなくていい‥‥もっと喘いでごらん‥‥。
ほら、あんたの欲望の権化はこんなにふくれあがってるよ‥‥ふふふ‥‥きもちいいだろう?
欲望に溺れるのは最高にきもちいいんだよ‥‥。感じるのは恥ずかしいコトじゃない、
あたしにすべてをゆだねてしまいなさい‥‥」
 優しく、だが決して母性を感じさせない言葉を紡ぎ続ける。濃色の唇は残酷な笑みを浮かべ、
その内には舌が淫らに蠢いているのが見て取れた。
「ああっ、やめろ、やめ‥‥くふあぁっ!」
 涙さえ浮かべて悶える。そして冷たい指先が甘く亀頭をつまんだ瞬間、張りつめてテントを作っていた
肉棒が白い粘液を噴出した。びく、びく、と腰が跳ね上がるたびにズボンのシミが大きくなってゆく。
「ほぉら、イッちゃった。きもちよかったんでしょう?
いやだとか言いながら、ほんとはおねえさんの指に溺れてたんだよねぇ?
‥‥かわいいよ、坊や。食い殺したくなってくる‥‥ふふ、おいしい」
 ズボンの布目からしみ出してくる粘液を指先ですくいとり、それを見せつけるように唇に運ぶ。
強烈な絶頂感からさめやらぬ少年は、悪魔が何を囁いたのかさえ分かっていなかった。だが、焦点の
定まりきらない眼でその卑猥な仕草を見つめていると、再び下腹部に血液が集まり始めているのを感じた。
「あらあら、しょうがないねぇ。もっともっときもちよくなりたい?
ふふふ、じゃあ、生で見せてもらおうかな‥‥」
595召喚(4) ◆IIES/YYkzQ :2005/08/05(金) 22:18:47 ID:YFtbtEvi
 にっ、と笑うとレギアはするすると竜司の衣服をはぎ取ってゆく。
「どれどれ‥‥ふふ、少し皮かぶってる。ま、いいよ‥‥きれいに洗ってるみたいだし。
‥‥んー。だけどどうかなぁ? せっかくだから『ひとつふたつ上の男』とかいうヤツにしてあげようか?」
 まるで男性週刊誌の広告記事のようなことを言う。
「ふふ‥‥安心しなよ。あたしは悪魔‥‥手術なんて野暮なことはしないよ。
見ててごらん‥‥んっ‥‥どう?」
「え?‥‥うあっ! ちょっ‥‥くぅっ!!」
 びちゃ、じゅるっ、じゅるり。
 有無を言わせず、真っ赤な舌が少年のそれを舐め上げる。そしてそれを口内に含み、引き出し、
甘噛みし、吸引する。唇に呑み込まれ、口内で巧みにもてあそばれるたびに、ぬめり、ざらつく熱い感触が
神経を焼く。
「あ、ああ‥‥すごい‥‥――!? なっなにこれ、や、やめ、‥‥うぅっ!」
 竜司は困惑した。熱く激しい刺激に加えて、未知の感覚がそこに沸き起こっている。もちろん口による
愛撫の刺激も初めてだったが、そんなものとは根本的に異なる刺激。快感を受容する部分そのものが
ふくれあがり、熱を帯び、それによってさらに快感が増加してゆく。だが、勃起するのとは断じて
異なる感触。あってはならない感触に、脳が警告を発している。
「んっふ‥‥うんっ‥‥ぷはぁ。くふふ‥‥いい感じになってきたよ‥‥見てごらん」
 快楽の嵐が弱まり、悪魔の声に気付いた竜司はおそるおそる目を開けた。
 ――目を疑った。
 自分の股間を見た。反り返り、びくんびくんと震えて舌の感触を恋しがるそれは、どうあっても
見慣れたものではなかった。勃起時で長さ14センチ、亀頭のカリに皮がかぶっていたそれではなかった。
「な、なんだよこれ!?」
「んふふ。言ったでしょ、あたしが包茎を直してあげたんだよ‥‥喜びなよ、こんな立派なのを
持ってるやつは少ないよ?」
 確かにその通りだろう。赤黒くグロテスクな色になったそれは、もう普通のサイズとは言えなかった。
長さは元の二倍近いだろう。皮は完全にむけ、がちがちになった亀頭が鎌首をもたげている。竿の根元に
あるホクロだけが、かろうじて前と変わらない点だった。
「んふふふ‥‥うれしい? でっかいチンポは思春期の男の子にはあこがれでしょ。
あん、だけどこれじゃ日本の女の相手はできないかな? あはは、ゴメンねぇ。
おねえさんの好みだけでサイズを決めちゃったよ」
 しらじらしい苦笑。何が起こったのか理性で理解しきれていない竜司は茫然自失になってしまい、
レギアの説明にも上の空だ。
「さぁ、チンポもいい感じになったところで、そろそろ本格的にイイコトしてあげようか?」
「‥‥ちが‥‥う、ちがう! 僕はこんなことをして欲しいんじゃない!
僕は佐々木と恋がしたかっただけで‥‥!!」
「‥‥。まだ反抗するの‥‥?」
 悪戯っぽい視線が急に冷めゆく。
「しかたないね。悪魔を呼んで欲望を満たす、ってことがどういうことなのか、じっくり教えてあげるよ。
いい? 泣いてもわめいても、あたしの快楽を味わってもらうよ、坊や。
ふふ‥‥そうだね、小手調べに胸を楽しませてあげる」
 そう言うと、衣装の胸を覆っている部分――というよりも、乳首をなんとか隠している部分――を
左右に押し広げた。ぶるん、と巨大な乳房があふれ出す。それは張りと艶が満ちているにもかかわらず
柔らかさを湛え、しかも圧倒的な重量感を誇っていた。バランスの良い乳輪から、やや大きめの乳首が
ツンと突き出ている。
「ふふ‥‥でっかいでしょ? たっぷり楽しませてあげるよ。‥‥坊や、パイズリって分かる?」
「し、知らない、だからもう――」
 ほとんどうわごとのような反抗はやはり指先で封じられた。
「ふぅん‥‥知らないんだ。ほんとかなぁ? まぁいいや。だったらあたしがほんとのパイズリを
教えてあげる。人間がやるようなままごとじゃなくて、本物をね‥‥」
 くすくすと笑いながら自分の両乳首を人差し指と親指で挟み、ほぐすように捻って刺激する。
596召喚(5) ◆IIES/YYkzQ
「淫魔ならではの芸当なんだから、ありがたく思いなよ? んっ‥‥」
 つぷり。
 レギアの細い人差し指が、それぞれの乳首の先端に食い込む。そして――
「んくっ‥‥ふぅっ。見てごらん‥‥ここ、中に突っ込めるんだよ‥‥」
 指先がめり込んでゆく。第一関節、第二関節、そしてとうとう根元まで乳首に突きささる。
しかし血が出る気配もない。そのまま乳房を両手で揉みながら、さらに中指を乳首にあてがい、
同じように突き挿す。二本の指で乳首を貫き、ぐちっぐちっとかき回す。
「見て‥‥ここに坊やのチンポ、突っ込ませてあげるよ。ふふ、きもちいいんだから‥‥」
 乳首に挿した中指と人差し指を広げ、その穴を見せつける。中は肉色の孔が開いているようだ。
「ほら‥‥中がひくひくしてるの分かる? 入れていいよ、ほぉら」
 淫魔の割に気分に飲まれやすいのか、レギアの顔は心なしか上気している。そしてその孔に目が釘付けに
なっている竜司の股間に手を伸ばし、巨大サイズとなったそれを左の乳首の孔にあてがい――挿し込んだ。
「うわぁっ!‥‥あ、あ、くぅうっ!! な、なんだこれ、ああっ!!」
「んふぅっ‥‥はぁっ。入った‥‥どう? おっぱいの中、すっごくイイでしょ?
ああっ‥‥奥まで挿して‥‥んんっ‥‥」
「うあああっ! す、すごいっ‥‥!! こ、これ‥‥がっ、パイズリ、な、の!?」
 仰け反り、女のように喘ぐ竜司の脳が沸騰する。最初の指による刺激や唇と舌の愛撫など
忘れてしまいそうになるほどの快楽。しかも彼の予備知識では挿入するなどあり得ないはずの所に、
信じがたい大きさになった自分の性器が飲み込まれてゆく。倒錯的でしかも甘美な快感。魂の契約や
魅了の術に頼るまでもなく、彼の心は堕ちつつあった。
「そうだよ‥‥これが‥‥ああっ‥‥ん‥‥ほんとのパイズリ‥‥悪魔のパイズリだよ‥‥。
もっと奥までねじ込んでごらん‥‥そう、根元まで――ああっ!
くぅっ‥‥坊やの、でかいから、あたしもきもちいい‥‥ああ‥‥ぅ」
 吐息を荒くしながら、貫かれた乳房を揉みしだく。肉穴と乳肉との両方が余すところなく竜司の剛直を
刺激する。それだけではなく、まるでその乳房の中が生きているかのように動き、固い肉棒が奥へ奥へと
誘い込まれてゆく。
「はぁ、はぁ‥‥きもちいいでしょ‥‥だけどこのままだと動きにくいね‥‥立ってごらん。
そう、腰をつかって突いて――あはぁっ! そう、ああっ、突いて‥‥うふふ‥‥イイよ‥‥」
 覆い被さるようにして胸を犯させていたレギアは、乳房を貫かせたまま立て膝になり、竜司を立たせて
そのままピストン運動を促した。竜司はそれに応えて夢見心地のまま腰を前後に動かす。乳房の中から
粘液が溢れ、肉棒が前後するたびにそれが乳首から滴り落ちてゆく。挿入されていない方の乳房にも
竜司の指を差し込ませると、何も言わないままにその指先が彼女の乳房の中を犯してゆく。
「あふっ‥‥あ、あ‥‥初めてのわりに、おっぱいの犯しかた、分かってるじゃない‥‥っ。
‥‥そう、かき回して‥‥んっ。‥‥あん、腰をとめないで、突いてよ‥‥ああっ!」
 ぐちっ、じゅくっ。母乳ではない液がさらに分泌され、湿った音を立てる。一方の乳房に巨大なペニスが
肉の誘いに応じて突き刺さり、名残惜しげにまとわりつく乳房から引き抜かれ、次の瞬間には再び奥まで
突き刺さる。もう一方の乳房には竜司の指が三本もねじ込まれ、肉の穴をぐちゅぐちゅとかき回し、
乳房全体を揉みしだく。乳首からは透明な蜜がとろとろと垂れ、竜司の肉棒、指、手のひら、そして
レギア自身の身体を濡らしてゆく。
 しばらくピストンを繰り返すと、今度は少年自身がさっきと反対の乳房に、ぶちゅりという音と共に
逸物を突き入れた。
「あはぁっ! いいよ、調子でてきたじゃない‥‥あ、あ、すごい、奥まで刺さってる‥‥っ!
き、きもち、いい、でしょ? あぅ、だめ、あたしまで感じそう‥‥!
はぁっ、イキたくなったら、中で出しても、い、いいよ――くああっ!!」
突如嬌声を上げて悪魔がのけぞる。挑発的に嗤っていた眼が熱を帯び、熔けたような笑みを浮かべた。
「うあっ、レ、レギアっ‥‥きもちいいの? ここ? ううっ、僕もいいよ‥‥!!」
喘ぎながらも腰を動かし、召喚した悪魔の乳房を丹念に貫く。竜司はレギアの肥大した乳首を
そこに挿入したペニスごと握りしめ、隅々までえぐるように突き上げた。本能のおもむくままに。