>>酸性温泉氏、395氏
お二方とも……蝶GJです!
特に酸性温泉氏の作品はトリコロ読者の俺には刺激が強杉ます…
⊃(。Д。)つモエシニマシタ…
395氏の作品も元の作品は知らないですが充分(;´Д`)ハァハァ出来ました!
今後もお願いします!
サクヤトゥルー見たら読ませてもらうが
とりあえず先に言っとく
GJ!
ちょうど元作品をほぼクリアしたところだから萌えた。GJZ!
404 :
403:04/10/26 07:49:48 ID:3iqVUPM7
なんだよGJZって・・・orz
GJね。
406 :
酸性温泉:04/10/27 04:56:07 ID:pwJINpHP
番外編10/12の多汰美さんのセリフ間違えた(;´Д`)
×「うん。好きやね」
○「うん。好きじゃよ」
>395 GJです。桂さんがかわいいですな。
>396−397 スマヌ、ただいまにわ×八重のエロありエンドを作成中。
>401 ありがとうございます。次のもがんがります。…完成させられたらいいなあ。
>395
元ネタはなに? このSS読んで、すっごい興味出た。
キャラが可愛いですね。
409 :
395:04/10/27 21:17:58 ID:hA+74DfQ
>>400-403 >>406-407 元ネタは10月21日に発売したPS2ゲーム「アカイイト」からでした。
主人公が女の子、攻略対象も女の子と個人的には結構オススメです。
伝奇物で、人によっては薀蓄がうざいという意見もあるようですが。
このスレに書くのは初めてのことで色々不手際もありましたが、
読んでもらえて嬉しかったです。どうもありがとうございました。
>395
サンクス&GJ、ぐぐったら一発でした。
サクヤの中の人はでじこの中の人と一緒か。
桂がフルーツバスケットの透っぽいトコとかがツボ。
エロなしで怒っちゃった人もいるようですけど、
微妙な真柄の表現がすっごい上手くて尊敬です。
自分もSS書いてるので、色々と参考にさせて頂きます。
これからの作品も楽しみにしてますよ。
408のスレ見てみた
>564 名前:名無しくん、、、好きです。。。 投稿日:04/10/24 23:03:39 ID:Dw11OzYC
>このスレ見て、買おうか少し悩んでて今特集サイトとか回ってみたけど
>某所でエロエロユメケイとサクヤ烏月桂の混浴シーン見かけたから買うことにするよ。
>570 名前:名無しくん、、、好きです。。。 投稿日:04/10/24 23:30:38 ID:Cvpykc+b
>
>>564 >ぶっちゃけ、このゲームに「混浴シーン」なんてものは存在しないけどな
>571 名前:名無しくん、、、好きです。。。 投稿日:04/10/24 23:32:20 ID:eA8Ar7NL
>Σ(゚д゚)ソーイエバソウダ
正直ワロタ
412 :
らい(♂):04/10/28 18:06:45 ID:ItflzkEY
>酸性温泉氏
ちょっと目を放した隙に、いつの間にやらハイエナ×マキちーがーーーーっ!Σ(w0; )ノ
個人的には真紀子攻め思考だが、多汰美攻めもイイ(;´Д`)ハァハァ
にわ×八重もだが、ハイエナ×マキちーのエロ有りエンドもこっそり期待してみるw
どーでもいいが、関西風おでんを関東炊き(かんとだき)とゆーのはウチの地方だけなんだろうか……。
にしても、今回は伸びがよさげ……余裕があればまた百合投下したいなぁ……。
413 :
酸性温泉:04/10/28 20:33:17 ID:6MNwUJt+
>412 らい様、ありがとうございます。あんな展開なんですけど一応エロガッパ×ハイエナ
なんです(w やおいで言うところの誘い受け。
とうとう誘惑に負けてにわ×八重のエロありを書いてしまいました。その3になります。
これまでの話は
>>325-336と
>>351-364、時期の設定は番外編
>>373-384よりちょっと前です。
<プロローグ>
私の好きな人は、寂しがり屋だ。
初めて私に話しかけてきたときの彼女は他人を寄せ付けないような雰囲気の人だった。けれど、
付き合っていくうちに、その雰囲気とは寂しがり屋を外から守る殻から発せられたものだと私は
気が付いた。私は外の世界は怖くないのだと彼女に伝えたかった。
夜は怖い。だけど、一歩踏み出せば昼のお日様があなたを待っている、と。
《ふたりの子供は夢を見る》
きっかけは、アルバムだった。
ある秋の日の夕方、七瀬八重と潦景子は、八重の部屋でアルバムを見ていた。七瀬家の同居人、
青野真紀子と由崎多汰美が引っ越してきたときに家の整理をしていて出てきた八重のアルバム
だ。景子が誕生のページから繰りながら言う。
「七瀬って、あんまり変わってないわね」
「……よく言われます」
へこんだ八重を見て景子はしまった、と思う。八重は高校二年生だが、体は小柄で童顔、面識の
薄い人から中学生かと訊かれる事が多いのをコンプレックスに思っている。慌てて景子はとり
なすように真意を伝える。
「あ、いや、そういう意味じゃないの。どの写真を見ても嬉しそうに笑ってるじゃない? 今の
七瀬もいつも嬉しそうに笑っているから。ね?」
まだ少し拗ねた表情の八重を横目に見つつ、景子はページを繰る。父親と遊ぶ八重、幼稚園の
お遊戯会で歌っている八重、家の前で小学校の制服に身を包み両親と一緒に写っている八重。
皆自分の知らない八重だが、幸せそうな姿には好ましさを覚える。だが、ページが進むに連れて
景子の表情は曇る。そこに写る小学校高学年と思われる八重は確かに笑っている。だが、どこか
違和感を感じる。撮った場所が悪いのか、どこか表情に陰が見える。不思議に思った景子は、
ページを行ったり来たりしながら、違和感の元を探る。そして気が付く。
「……七瀬は、お父さんが好きだったんだね」
八重は景子の言葉を受けて、微かにうなずいた。
八重の父親は小学生の時、亡くなった。中学生頃までの写真にどこか表情に憂いが透けて見える
のはそのせいだったのだ。普通、子供にいて当たり前の親がいないというのは寂しいものだ。
両親が共働きで留守がちの景子にはそれがよく分かる。八重達と初めて話すようになったとき、
景子の気持ちを最初に見抜いたのが八重だったのは偶然ではなく、必然だったのかもしれない。
父親を亡くした八重を包んだのは、新しい家族の真紀子と多汰美だった。ならば、寂しかった
景子を包むのはいったい誰だろう?
今度は景子が物思いに沈み、黙ってしまう。
「にわちゃん?」
八重に袖を引かれ、景子は我に返る。
「あ、ごめんね。ボーッとしてた。アルバム返すね。ありがとう」
景子はアルバムを閉じると立ち上がって窓に近付き、外を眺める。北の方を見遣ると、自分の
住んでいるマンションが見える。
自分にとって八重はどんな存在なのだろう。友達と言うには想いが強すぎる。七瀬家は自分に
家族の温かさを与えてくれるが、八重と自分は家族ではない。恋人と言うにも、何か確証が足り
ない気がする。八重も自分のことが好きだと言ってくれたし、自分も八重が好きだ。では、何が
足らないのだろう。
「八重ちゃん、にわ、ちょっとええかー?」
景子がしばらく考え事をしていると、襖を開ける音が聞こえた。真紀子と多汰美だ。
「八重ちゃん、にわちゃん、新聞屋さんから遊園地の招待券を二枚貰ったんじゃけど、一緒に
行ってきたら?」
多汰美が招待券を見せて、八重と景子に一枚ずつ渡す。
「あ、ありがとうございます。でも、お金を足して四人で行ったほうが良くないですか?」
「そうよ、由崎。あんたこういう所、好きそうじゃない」
八重と景子が一緒に行こうと誘うと、多汰美が説明する。
「夏休みのときに会った東香ちゃんって子に、また会いに行くって約束したんよ。このあいだ
またマキちーと一緒に遊びに来てくれって葉書が来たけえね。な、マキちー?」
「せや。…まあ、会いに行くのはええんやけどな」
「どうしたのよ、青野。変な顔して」
頬を掻きながらうつろな視線であさってを見る真紀子を気にして、景子が話しかける。
「あ、マキちーの犬嫌い克服も兼ねとるんよ。最近東香ちゃんのところのくろ、前より居ついて
くれるようになったらしいけえね」
「東香ちゃんのところ行かんでも、ちゃんと犬嫌いは克服しようとは思うとるんやで」
「12年計画のどこが『ちゃんと』なんよ!」
多汰美が少し呆れつつ真紀子をたしなめる。
「で、私ら今度の土曜日に行くけえ、二人で遊園地に行ってらっしゃい」
八重と景子に手を振って、不本意そうな真紀子を引きずりながら多汰美は部屋を出て行く。
二人が出て行ったのを見計らって、八重は景子の耳元で内緒話をする。
「じゃ、今度の土曜日デートしましょう。二人で」
次の土曜日。
幸い天気は晴れて、絶好のデート日和だ。気温も最近は涼しくなったので過ごしやすい。折角
だからデートらしいことをしようと二人で考え、大園駅の前で待ち合わせをすることにした。
十時の約束だったが、景子は九時四十分に着いた。待ち合わせに指定したモニュメント近くの
ベンチに腰掛け、鞄から招待券を取り出す。
(『長織ゆうえんち』…か。)
招待券を眺めながら、景子は予感を感じる。先日からの疑問――八重と自分との関係――の答え
が出るのではないかと。何か確証が得られる、そんな期待をしながら再び券を鞄にしまいこむ。
十五分ほど経って、パタパタと人が駆けてくる音が耳に届く。八重だ。
「はあ、はあ。ごめんなさい。待たせましたか?」
「な、七瀬、落ち着いて。まだ十時前なんだから。私が早く着きすぎたのよ」
「私ももっと早く来たかったんですけど、お昼を作ってきたものですから」
息せき切って話す八重の背中をさすりながら、八重の荷物を見る。小さな布のバッグに、やや
大きめのバスケット。おそらくお弁当が入っているのだろう。ああ、今日は八重との初めての
デートなんだなあ、と景子はしみじみ実感する。
「はあ、にわちゃん、もう大丈夫です。それじゃ、行きましょうか」
「うん」
景子はバスケットを持ち、息がやっと整った八重の手を引いて駅の構内へと歩いていく。
『長織ゆうえんち前、長織ゆうえんち前、到着です』
私電で四駅ほど離れたところに遊園地はあった。二人は電車を降りて、遊園地に向かう。
「はあ、遊園地なんて久しぶりですねえ。……にわちゃん?」
八重が景子を見てみると、景子は入場門をぼんやりと眺めている。不思議なものを見るような、
忘れ物を思い出したかのような顔だ。
「ああ、ごめんね。ちょっと考え事をしていたものだから」
「最近、考え事が多くないですか? 何か悩みでも…」
「ううん、大したことじゃないのよ。行こうか、せっかく遊びに来たんだし」
景子は八重を促して、園内へと歩いてゆく。
遊園地は面白い。絶叫マシンの類を嫌がる八重を引っ張ってジェットコースターに乗り、次に
メリーゴーランドに連れて行く。メリーゴーランドでいくらか機嫌を直した八重を景子がホラー
ハウスの前に連れて行くと、入る前から絶叫される。
「そういえば七瀬は怪談とかそういったのが苦手だったわね」
ちょっと意地悪く笑う景子に、半泣きの八重が懇願する。
「知ってるんだったら、やめましょうよ! にわちゃんの意地悪っ」
「青野や由崎が一緒でも、きっとこうなるんだから」
結局八重は強引に押し切られてホラーハウスに連れ込まれ、景子にさんざんしがみついて悲鳴を
上げたのだった。
十二時を過ぎ、お昼の時間。八重は持ってきたバスケットからお弁当を取り出す。
「わあ、すごい。私の好きな物ばかりじゃない」
景子が包みを取ろうとすると、八重がにっこり笑ってお弁当をひらりと上に上げる。
「午前中はさんざん私の苦手なところばっかり連れて行かされましたから、にわちゃんの分は
ないです」
形勢が逆転し、今度は景子がお願いする番になった。笑って自分に意地悪なことを言うときの
八重は難物だ。とにかく機嫌を直してもらうしかない。八重に手を合わせて謝るのだ。
「七瀬、ごめんなさい! お昼からは七瀬の好きなところに行けばいいから。だから、お弁当
食べさせて」
「本当ですか? 騙したら嫌ですよ」
「本当! このとおり」
景子から言質を取るとやっと八重は機嫌を直し、お弁当を下ろしてくれた。内容は景子の好物で
占められている。サンドイッチはツナ入りとチキン入り。サラダはポテトサラダ。デザートは
マロンのタルトレット。上機嫌でツナサンドを口に運ぶ景子を八重は微笑んで見守っている。
「でも七瀬、大変じゃなかった? 朝からこんなにお弁当作るの」
「サンドイッチもサラダも昨日の夜に下ごしらえしましたし、タルトは売っている生地を使い
ましたから。そんなに大変じゃないですよ。…それに、せっかくのデートですから」
八重の言葉に二人ともすっかり顔を赤くし、うつむいて食事を口に運ぶ。
「な、七瀬、ありがと」
聞こえるか聞こえないかの景子の声が、秋の涼風の中に消えた。
昼食を終え、約束どおり八重のリクエストに従った行動をとる。びっくりハウスに入って目を
回した後は、一緒にゴーカートに乗ろうと言って広場に連れて行く。八重がハンドルを握ると
巧みなハンドル捌きを見せ、景子を驚かす。結構こういうものの操縦は好きなのだと得意げに
語る八重を景子はかわいいと思いながら見つめている。何度か休憩を挟み、いろいろなアトラク
ションを巡った後、景子は最後はあれがいい、と指差した。その先には大きな観覧車があった。
「こ、怖くないですか? 結構高いし、揺れたりとかしませんか」
「大丈夫…だと思う。でも、遊園地に来て観覧車に乗らないっていうのはないんじゃない?」
八重は景子の言うことも尤もだと思う。いくら景子が許したわがままとは言え、長い時間好きな
所を回らせてもらったのだ。最後くらい景子の望む観覧車に乗ったっていいではないか。
「それじゃあ、最後は一緒に観覧車に乗りましょう」
「うん。」
二人は手をつないで観覧車の乗り場へ行く。運良く自分たち以外のお客さんはまばらで、すぐに
乗ることができた。タラップを上る途中、景子の袖にしがみついて八重が頼む。
「にわちゃん、揺れたら嫌ですから、隣に座っていいですか?」
「いいわよ。でも七瀬、そんなに怖がらなくても…」
「と、隣がいいんです!」
ゴンドラに乗り込むと八重は袖にしがみついたまま、景子の隣に陣取った。ゴンドラは時計回り
にゆっくりと上がってゆく。最初は怖がっていた八重も次第に慣れ、景色を楽しむ余裕が出て
きた。
「あ、あっちに学校が見えますよ。結構遠くまで見えるんですねえ。ねえ、にわちゃ…」
はしゃいだ八重が左にいる景子を見ると、頬に涙がつたっていた。
「にわちゃん?」
「あは…ごめん。ごめんね、七瀬、ごめん…」
八重はバッグからハンカチを取り出して景子に差し出し、慰めるように抱きしめる。
「…最近、考え事が多かったですよね? それと関係あるんですか」
「分かったの、私、七瀬が好きだって…」
「それは誕生日のときにも言ってくれましたよね」
「うん、だけど、だけど……っ」
それきり景子は言葉を失って泣きじゃくる。八重はあやすように景子の背中を撫で続ける。
「夕日が…綺麗ですね」
八重はなんと言葉を掛けて良いか分からず、外を眺めてぽつりと呟いた。
二人は遊園地を後にして、電車に乗り帰路に着く。景子は泣きやんだものの、口が重い。二人は
無言のまま電車に揺られ、駅に着くのを待つ。
当初は、駅に着いたら別れる予定だった。しかし、このままの景子を放って帰る事など八重に
出来るはずもない。電車を降りてから、八重は携帯電話を取り出し、家に電話を掛ける。
「あ、お母さん?うん、私。今日、にわちゃん体調が悪いって言うから、泊まってついててあげ
てもいい? …うん。じゃ、一度家に寄ってから、…うん。じゃ、また後でね」
「…七瀬?」
「さっきのこと、はっきりさせてくれないと、今日はとても一人で帰れませんよ。私」
「…ごめん」
「私は一度家に帰って荷物を取ってきますから。家で待っててくれますか」
「…うん」
一旦二人は駅で別れてそれぞれの家に帰ることにした。
一時間ほどして、八重が泊まる準備を整えて潦家を訪れる。景子はさっきよりも落ち着いている
が、あまり元気がないのには変わりがない。八重が心配して尋ねる。
「…もう、話を聴いてもいいですか」
二人は景子の部屋のベッドに並んで腰掛ける。景子は組んだ手を見つめながら、ぽつりぽつりと
話し始める。
「ずっと悩んでいたの。私、七瀬が好きなのって、どういう気持ちで好きなんだろうって。最初
は友達だって思ってたけど、それとも違う。好きだって思うのも、七瀬がやさしいから、まるで
お母さんかお姉さんみたいに思って甘えているだけなんじゃないかって考え始めて…」
八重は黙ってうなずきながら景子の話に耳を傾ける。
「『長織ゆうえんち』って、いつも忙しいお父さんとお母さんが一度だけ、私を遊びに連れて
行ってくれたところなの。……楽しかっ…た…」
再び泣き崩れる景子を八重は黙って包むように抱きしめる。寂しさで景子が消えてしまわない
ように。
「遊園地に行けば何か分かると思った。あの時も最後に乗ったのは、観覧車だったから。七瀬が
隣にいてくれて……わたしっ…私…う、れしかった…」
「―――私は、」
八重が穏やかな声で景子に語る。
「にわちゃんに『好き』って言われる前、思ったんです。にわちゃんを伊鈴さんに取られたく
ないって。友達を取られるっていうのではなくって…。もし真紀子さんや多汰美さんに恋人が
出来たとしても、あんな気持ちにならないと思います。だから、私『好き』って言ってもらった
とき嬉しかった…」
「な、なせ…」
「あの時、『自分だけ見てほしい』って言ってましたよね。でも、私が真紀子さんや多汰美さん
のことを大事に思っていることも、にわちゃんは認めてくれました。私は、その言葉のほうが
嬉しかったんです」
八重は力をこめて景子を抱きすくめる。
「私は、どんな形でもいいんです。友達でも、家族でも、恋人でも、あなたのそばにいられるの
なら。にわちゃんが私の全てを認めてくれることに変わりはないんですから。私もにわちゃんの
ことを全て認めたいんです。…それではいけませんか?」
「……うん。私も七瀬のそばにいたい…ずっと。観覧車に乗ったとき、分かったの。私にとって
七瀬は誰の代わりでもないし、誰も七瀬の代わりになれないって。もう私、迷わなくてもいい
……ありがとう、七瀬…」
二人は抱き合ってさめざめと泣いた。涙で体が溶けてひとつになれたらどんなにいいだろうと
思いながら。
泣いてからしばらく後のことは二人ともよく憶えていない。何も口に入れないのは良くないと、
二人で八重の母、幸江が用意してくれたおにぎりを食べ、順番にお風呂に入って今日の垢を洗い
落としたことだけぼんやりと記憶に残っている。
その後、パジャマに着替えて、二人はベッドの上で寄り添い合うように座る。
「七瀬」
景子は八重の名前を呼ぶ。静かに腕を伸ばして左側にいる八重をそっと抱き寄せる。
「『好き』とか『愛してる』よりももっと強い言葉があるなら、いま言いたい」
「…にわちゃん」
八重も景子の気持ちに応えるように、景子の背中に手を回す。二人は自然に目を閉じて唇を重ね
合わせる。長いキスは八重の誕生日にベッドで交わして以来だ。景子は舌で八重の唇をゆっくり
舐め上げその柔らかい感触を味わう。八重は口に走る心地よい刺激に体を任せ、もっと景子に
近づきたいと強く体を抱きしめる。景子の舌はやがて口内に侵入し、八重の舌を求めてゆっくり
と動き回る。八重は最初どうすれば良いかと戸惑っていたが、景子に応えたいと思う気持ちが
勝ち、己が舌を景子のものにおずおずと絡ませる。そして二人の舌は互いをむさぼるように求め
合う。何度も唇を重ね合わせては離し、深いキスを繰り返す。
「…はぁ…っ、七瀬、七瀬…」
景子は何度も八重の名前を呼び続け、頬や首筋に吸い付くようなキスをする。最初は腕に力が
入っていたが、やがて景子から与えられた熱に飲まれ、抱き寄せる力も抵抗する力も八重から
失われていった。
(私、どうしたらいいんだろう…。胸がドキドキして体が浮いていくみたい…。)
景子の唇から与えられる熱は予想以上に熱い。八重は心臓が早鐘のように脈打ち、体の中心が
熱をうつされて焼け付くような錯覚を感じながら、景子の接吻を受け止める。
次第に景子の熱は自身の体をも焦がすように包む。耐えられなくなった景子は乱暴に服を脱ぎ
捨て、下着だけになって八重の体にしがみつくように抱きついた。
「に、にわちゃん、私も…あつい……」
「七瀬…」
やがて八重の熱さへの我慢も限界に達する。訴えを聞いて景子は両手で一つずつ八重のパジャマ
のボタンを外していく。すべて外し終えると、八重は協力するように上半身を浮かせ、景子は
八重の腕から袖を抜いて服を投げ落とす。次いで浮いた上半身を右腕で支えつつ左手でズボンも
脱がせて投げ落とす。そのあとブラのホックを外して奪い、八重の白くて小ぶりな乳房を露に
させた。
「…にわちゃん、恥ずかしい」
「どうして?」
「だって私、多汰美さんみたいにスタイル良くな…んぅっ!」
恥ずかしがる八重の抗議を唇で塞ぎ、景子は左手をそろりとわき腹から胸へと這わせる。下から
やさしく持ち上げるように包み、じっくりと刺激する。最初は触れられるのに抵抗していた八重
も景子の手が与える刺激の前に陥落し、溺れきってしまわないようにと景子の体にむしゃぶり
つく。景子は八重が嫌がってはいないことを察すると、唇を離し、首筋から鎖骨をゆっくりと
舐めながら舌を降下させる。ついに舌は胸まで達し、景子の舌は八重のピンク色の突起をざらり
と舐めあげる。
「や…っ! にっ…にわ…ちゃ…」
八重が上げる喘ぎ声に景子の情欲はますます掻きたてられ、景子はそのまま舌先でつついたり
なぞったりを繰り返す。最後には、幼子が母親の乳を求めるように八重の固く尖りきった突起を
吸い上げる。景子の唇から発せられる八重を欲する衝動を全て受け止めてやりたいと、八重は
景子の後頭部をくしけずるように何度も何度も撫で続ける。
「な、七瀬」
少し息苦しくなった景子は八重の胸から唇と手を離し、八重の体を起こして掻き抱く。
「どうすればいいのか、もう私、分からない。…もっと七瀬が欲しいの」
「…うん」
哀願するように八重にしがみつく景子を八重はやさしく抱き返し、頬にキスをする。
「だったら、にわちゃん、ずっと私のそばにいてくれる?」
「…ずっと、いる。もう迷わない。離れない」
景子はそう断言すると、再び八重に口づける。八重は自分を包むための右手を約束してくれた。
自分に足りなかった確証とは、そんな八重を形に惑わされずに愛し続ける覚悟だと判ったのだ
から、そう八重に誓うのだ。
景子は八重を静かに押し倒し、下腹部に右手を滑らせる。もっと八重に近づきたいと左手で自分
の上下の下着を外して脱ぎ捨て、八重の体全体に覆いかぶさる。右手でいたわるように下腹部を
撫で、次いで指を内股へと滑らせる。下着に指を押し当てると、じわりと湿っている。そこを
もっと潤すべく、景子は布の上から花弁の外側をそっと中指でなぞる。
「あっ…、そんなとこ……や…だっ」
切なげに声を上げる八重の首筋にキスをしながら、景子は人差し指を下着の内側へと挿しいれ
る。八重は侵入してきた指に驚いてびくりと震え、景子の頭にしがみつく。
「七瀬、力…抜いて。無理にしないから」
景子は緊張する八重をなだめつつ、侵入させた指を花弁の内側にゆっくりと這わせる。何度か
指を花弁の中央をくすぐるように上下させた後、挿しいれた親指と人差し指で一番敏感なところ
を探り当てそっとつまむ。
「にわ…ちゃんっ…私…おかしくなりそ…っ」
景子の指の責めに耐えかねて、八重は脚を内側にきつくしならせる。溢れ出てきて指を濡らす
ぬめりと八重が抱きしめる腕の力の強さが、景子に八重の限界が近いことを知らせる。
(七瀬を楽にさせてあげないと…)
景子は自分を抱きしめる八重の腕を解き、右手を下着の中から抜き取って、最後の下着を脱が
せる。左手で八重の脚を開いて押さえつけ、景子は唇を八重の入口に寄せ、接吻した後ゆっくり
と舐め上げる。
「やっ、やだっ! に…にわ…ちゃ…」
八重は口で与えられた刺激に感電したように反応する。景子はぬめりを何度も舐め取り、その
合間に陰核を指でつついて刺激を加える。八重は下腹部の奥から湧いてくる強い波に意識をさら
われて、シーツを持った手を爪が食い込むほどに強く握り締める。八重の口から漏れる泣き声が
混じったような喘ぎ声を聞きながら、景子は溢れてくるぬめりを舌で掬い取り続け、陰核を吸い
上げた。
「も、もう…だ、め…っ! やあ…っ!」
八重は一際高く声を上げて達すると脚を一度内側にびくりと痙攣させ、シーツを掴んでいた手を
解きベッドに体を沈ませた。
「な、七瀬、大丈夫!?」
景子が慌てて八重を抱き上げると、八重は力なく笑って答える。
「だ、大丈夫…です。力…入らなく…なっちゃって」
「痛くなかった? 無理しなくていいから」
「大丈夫。…心配しないで。」
放心状態の八重をそっと横にし、景子は添い寝をして抱き寄せた。
しばらく経って意識が現実に戻ってきた八重は、隣で寝ている景子の手をとって言う。
「……あのね、私」
少し息をついてから、
「にわちゃんがそばにいるって感じられたから…私、嬉しかったし、良かったです」
景子は八重の手を握り返し、右手で八重の長い髪を撫でながら答える。
「…私も、七瀬に近づけたと思ったから…良かった」
二人は静かに唇を重ねたあと、そのまま眠りの世界へと落ちていった。
――――寂しかったふたりの子供は、今宵どんな夢を見るのだろうか。
<エピローグ>
朝起きたときに好きな人が隣にいてくれたら、どんなに幸せだろう。
私の好きな人は、陽だまりのような暖かさでいつも私を包んでくれる。そして、私にこう話し
かけながら、起こしてくれるのだ。
「にわちゃん、朝ごはん出来ましたよ。一緒に食べましょう」
朝は再生の時間だという。私は暗闇の世界から彼女のいる美しい世界に戻り、こう言うのだ。
「おはよう、七瀬」
おしまい。
431 :
酸性温泉:04/10/28 21:00:24 ID:6MNwUJt+
エロありも書いたから にわ×八重もひとまず終了です。ありがとうございました。
今回は力の抜きどころが少ないので、書いててきつかったです。にわ×八重が好きだからここまで
書けたのだとしみじみ思います。東香ちゃんとくろ、サドVer.八重もなんとか出せました。
…ところでエロってこんな感じでよろしいんでしょうか?_| ̄|○<エロナンテハジメテカイタカラワカンナイノ(嬢)
てめーはシネ
>>431 GJエロー!
エロがなくても好きでした。次回作楽しみにしてます。
>>432 おまいが氏ね
>>酸性温泉氏
貴方は俺を頃す気ですか?(褒め言葉)
何はともあれ蝶グッジョブです!
>>433 池沼は相手にするなw
>>431 最後の一文はいただけないな。
エロ書くのを楽しめないなら、他の場所に投稿したほうがいいよ。
436 :
酸性温泉:04/10/29 18:25:59 ID:Y+74v1fz
>435 読み返すと、確かに読んだ方を不快にさせてもおかしくない不適切な言い方でした。
申し訳ありません。
>433-434 ありがとうございます。難産でしたが、二人の気持ちの行方にけりをつけられたので
自分としては満足しております。
このスレでは俺の書くような百合コントなど、とても許されないだろうな……。
>437
カモォーンナッ!!恐れるな、飛び込めっ!
……や、ぜひとも投下していただきたく。
自分にために描きたまえ
百合コントってどんなものなんだろう
441 :
酸性温泉:04/10/30 21:51:16 ID:Yg3YENp/
>>414-430のおまけ。もうこれで完全にネタ切れましたのでフェイドアウトします。
皆様、ありがとうございました。
※東香ちゃんのところに行く電車の中の真紀子さんと多汰美さん。
真:あの二人だけで遊園地に行かせて大丈夫やろか?
多:あ、八重ちゃんの身長制限気にしとるん? 大丈夫、130cm超えてたら大概の乗り物に
乗れるけえ。
真:違う! 観覧車の中で二人っきりにさせたら、にわが間違い起こさんかと…
多:遊園地ネタで真っ先にそれが浮かぶって、さすがエロガッパじゃねえ、マキちー。
真:やかましい!!
>百合コント
甘々バカップルなネタでしょうか?
トリコロ乙。
ノーマルが次第に百合に引かれてくのは実に美味しゅうございます。
保守
444 :
酸性温泉:04/11/03 14:43:05 ID:ochgTYZo
本日の保守。
エロなしの三作を
>>1に記載されている百合ちゃんねる様に投稿しました。一部
書き直しと修正を加えています。
一気読みしたい方、改行の失敗が気になる方は是非どうぞ。
18禁版は今のところ投稿する予定はなし。書き直ししたらきりがなさそうなので。
445 :
名無しさん@ピンキー:04/11/05 13:19:27 ID:/7zDD77u
どうも。初めてですけど大丈夫ですかね。
最近クリアしたばっかりのアカイイトから。
出てくるのは桂ちゃんと葛ちゃん。
非常に疲労困憊なので、
「日本語下手だよ!!」「キャラ、全然違うじゃんか!!」
「長すぎ!!」「クリームでそんな漢字絶対書けないよ!!」
とかいっていじめるのはお手柔らかに頼む。
「恐怖日記」
446 :
名無しさん@ピンキー:04/11/05 13:21:15 ID:/7zDD77u
――葛の日記帳:2004年12月25〜26日より――
「うう〜遅くなってしまいました〜」
今日はクリスマス。もう夜中だというのに町は活気であふれている。
すれちがう人はみんな幸せそうな顔をしている。
そんな中、私はプレゼントを片手に期待と不安半々で桂お姉さんのアパートに急ぐ。
桂お姉さんに会うのは、あの夏の終わりの日以来のことだ。
―――本当は、あの日は桂お姉さんを近くで見るためだけだったのだけれど。
鬼切りの頭となれば、一般の人に軽率に会いに行くことは出来なくなる。
そのことはよくわかっていた。
最後に桂お姉さんにだけは…。もうお姉さんは私のことを覚えてないけれど…。
それでもいい。私の一番大好きな人――桂お姉さんの姿を心に焼き付けておくんだ。
そう思って会いに行ったのに。
―――お姉さんの記憶は、私が確かに消したはずだ。
それなのに、桂お姉さんは私の顔を見るなり「葛ちゃ〜〜ん!!」と叫んで
ぎゅ〜〜と抱きしめてくれたのだ。
なんで?という疑問は浮かばなかった。私はただただうれしくてたまらなかった。
447 :
名無しさん@ピンキー:04/11/05 13:23:09 ID:/7zDD77u
「ふえぇぇーーーん!!け、桂お姉さぁぁん!!私のこと、誰だかわかるんですか!?
う…う、うえぇ〜〜ん!!うれしいよう!!」
私は周りの目も気にせず叫びながら抱き返した。
私のことをさらにぎゅっとしてくれるお姉ちゃん。
「ごめんね、葛ちゃん。私、顔を見るまで葛ちゃんのこと思い出せなかったよ。
…本当にごめんね?」
そんなことはどうでもよかった。大好きなお姉ちゃんが私の名前を呼んでくれて、ぎゅっとするとぎゅっと抱き返してくれる。それだけで私は十分すぎるほど幸せだった。
―――私は今でも、自分の罪の意識に押しつぶされそうになったり、
…夜一人で寝るのが怖くなったりすることがある。
そんなときにはあのぎゅっという感触を思い出し「桂お姉さぁぁん…」と
小声でつぶやきながら丸めた布団に抱きつくと、とても気分が良くなるのだ。
―――この秘密は一生誰にもしゃべることはないだろう。…というかこんな事を
誰かに知られてしまったら私は恥ずかしさのあまり死んでしまう…
448 :
名無しさん@ピンキー:04/11/05 13:24:07 ID:/7zDD77u
話が脱線してしまった。私のぐずり泣きが収まったあと、私たちは今後のことについて話し合うことにした。私はそのとき
「もう二度と桂お姉ちゃんに会えないなら私もう生きていけないです!!」
とか何とかしゃべった気がする。今思い出すと悶え死にしてしまいそうだ。
しかし、桂お姉さんも
「私も生きていけないよ、葛ちゃん。悲しくって死んじゃうよ。」
と言ってくれた。私はうれしくてうれしくてまた泣き出してしまった。
泣きやむまでまたしばらく待ってもらった後、いつ会うことができるか話し合った。
私は何とか頑張れば年に1〜2日は自由行動が取れると言った。
…まぁ、それもあちこちに頭を下げてやっと取れるかどうかなんだけれど。
そして話し合いの結果、私たちは今度のクリスマスの夜はお姉さんのアパートで
いっしょに過ごすことに決めたのだった。
私はたとえ死にかけていたとしても這ってでも行きますからとかそんな馬鹿なことを
口走っていた気がする…。はぅ…。
449 :
名無しさん@ピンキー:04/11/05 13:25:12 ID:/7zDD77u
―――今日はそんな大切な日なのに…。私は遅刻をしてしまった。
まあ、仕方ないと言えば仕方なかったんだけれど。
こんな日に急の仕事が入るとは思ってもみなかった。
うぅ、これでも全速力で終わらせて最低限の身だしなみだけ整えて
飛び出してきたんだけどなぁ。
―――桂お姉さん怒ってないよねぇ?
私の仕事の大変さはよくわかってくれていると思うし…。うーん…でも…。
…それ以前に、いつのまにかお姉さんに恋人ができていて、
私との約束のことなんかとうの昔に忘れてたなんて事があったら…。
うっうっ…。
そんな不吉なことを考えているうちにアパートが見えてきた。
エレベーターに乗って四階へ。
401、402・・・あった、403―羽藤 桂―。ドキドキ…。
―――よかった、明かりはまだついているみたいだ。
そしてふと足下のミニクリスマスツリーが目に入る。そこには
―――メリークリスマス!!葛ちゃん!!―――
と書かれた手作りのカードがぶら下がっていた。
450 :
名無しさん@ピンキー:04/11/05 13:25:56 ID:/7zDD77u
私の不安は一瞬で吹き飛んでしまった。桂お姉さん…。
気分が一気に軽くなってチャイムを押そうとしたが、やめた。
ふふふ、驚かせちゃおうかな。
ノブを回してみる。どうやら開いているようだ。
ガチャッ!!
「メリークリスマスです、桂お姉さ…はぅ!!」
扉を開けた瞬間、何か柔らかい物が顔を直撃した。
…うーん、いったい何事だろうか。
状況が把握できないうちに、また何かが顔に当たった。
いったい何事かと目をこらすと…。いた。桂お姉さんだ。
ソファーに座りながらこっちをじ〜〜っと見ている。
どうやら投げてきたのはお姉さんのぬいぐるみコレクションの一部らしい。
私は呆然と立ちすくんでいた。
ぬいぐるみを新たに二個手に持ってお姉さんはぼそっと言う。
「…時計」
え?よく聞き取れなかった。
「…時計、見て」
私は自分の腕時計を覗いた。12時40分…。
あ…もしかして…。
451 :
名無しさん@ピンキー:04/11/05 13:26:50 ID:/7zDD77u
今は何月何日の何時何分ですかぁ〜?」
うう…やっぱり。
「12月…26日の0時40分ですぅ…。」
「バカぁ!!!葛ちゃんのバカぁぁ!!!」
第三、第四のぬいぐるみが私めがけて飛んでくる。
「もうクリスマスは終わっちゃったじゃない!!!
葛ちゃんが約束やぶったぁぁ!!!うううっ!!」
…。わたしはちょっとむっとして言った。
「あのですねぇ、桂お姉さん、遅れてしまったのはホントにごめんなさい。
しかしですねぇ…」
そういっている間にもぬいぐるみはぼんぼん飛んできた。
「…私も自分の立場上…」
がすがすっ。もう玄関はぬいぐるみで一杯だ。
「…私たち、約束したんだよね?『クリスマスの夜に』二人で会うって!!
あんなに固く約束したのにぃぃ!!葛ちゃんのばか!!嘘つき!!
おたんこなす!!」
最後にソファーのクッションを投げながらお姉さんは言った。
452 :
名無しさん@ピンキー:04/11/05 13:27:45 ID:/7zDD77u
…と、私はそこで気づいた。怒っているにしてもあんまりにもお姉さんの顔が
真っ赤なこと。それにこの匂いは。
「…桂お姉さん、もしかしてお酒飲んでます?」
「…う、うえぇぇーーん!!葛ちゃんが約束破ったよぅ!!
ひどいひどい、あんまりだよぉぉ!!!」
今度は突然泣き出してしまった。間違いない、アルコールだ。
「…桂お姉さん…もちろん私だってお姉さんと一緒にクリスマスの夜を
過ごしたかったですよ。でもですね…」
「葛ちゃんは私の事なんてどうでもいいんだ!!私のこと大っ嫌いになったんだ!!
うわぁぁーーん!!」
そういってお姉ちゃんはだだっ子のように手足をばたつかせている。
…これ以上何を言っても無駄なようだ。
私はお姉さんに背を向けて押入をあけて、布団を一枚出して引いた。
そしてお姉さんをやっとのことで布団まで運んであげた。
すると泣き叫ぶのはすすり泣くのに変わり、すすり泣きは聞き取れない
独り言に変わった。もうじき眠ってくれることだろう。
一応コップに水を入れておいておこうか。
…しかし、疲れたなぁ…。
453 :
名無しさん@ピンキー:04/11/05 13:28:53 ID:/7zDD77u
私は携帯電話を取り出した。気分が重い…。ピポパ。
「…あの…葛ですけど…」
「…なんでしょうか、葛様」
「…今日の午後までには必ず帰ります…。はう、だから心配しないでください」
「…了解しました。楽しいお時間を」
組織にも頭の柔らかい人がいてすごく助かるんだけど…。迷惑かけっぱなしだなぁ…。
ちょっと後ろめたい。
でも、このまま桂お姉さんと別れるのは後味が悪すぎる。
――ちゃんと仲直りしないと。
私はとりあえず玄関に散らばったぬいぐるみを片づけることにした。
――あ、このびんは…。桂お姉さんが飲んだお酒だな。
確かにジュースに似ているけれど、普通は気づくよね…お姉さんらしいなぁ。
しかし、桂お姉さんの酒癖があそこまで悪いとは思わなかった…。
大人になっても桂お姉さんと飲みに行くのはやめておこう…。
びんを捨てに台所にはいると、テーブルの上のたくさんの料理が目に入った。
うわぁ、桂お姉さんの手作りだな。シチューに、サラダに、七面鳥。
そして、テーブルの真ん中にはチョコレートケーキ。
そこにはクリームでこう書いてあった。
454 :
名無しさん@ピンキー:04/11/05 13:30:06 ID:/7zDD77u
―――メリークリスマス葛ちゃん!!
―――愛を込めて from桂
「うう、桂お姉さん…」
私、ひどいことしちゃったかな…。料理がさっぱりな桂お姉ちゃんがここまで
頑張って準備してくれたんだよね…。
…よし、朝になったら一緒にこのお手製料理を食べて仲直りしよう。
朝からこのメニューはちょっと重いかもしれないけど、どんなにまずくても
「おいしいです〜!!」と言ってあげるんだ。
それで機嫌なおしてくれるといいなぁ。
私はラップをかけて料理を冷蔵庫にしまいはじめた。
…試しにシチューを指で取ってなめてみる。う…こ、これは…。
…不安だ…。
桂お姉さんはどうやら寝てくれたらしい。物音たてずにしーんとしている。
私はおねえさんの隣に布団をもう一枚引いた。
そうだ、押入の中にあった浴衣を貸してもらうことにしよう。
私は浴衣に着替えながら目の前の問題について考えていた。
…ちゃんと「おいしい」って言えるかな…。
455 :
名無しさん@ピンキー:04/11/05 13:31:01 ID:/7zDD77u
とにかく今はもう寝ることにしよう。
私は浴衣に着替え終わると、自分の布団にもぐり込んだ。
…しばらくすると、桂お姉さんが私の布団にすべりこんできた。
―――まだ、起きてたんだ。
振り向く間もなく、桂お姉さんが言った。
「つーづらちゃーーん?」
「は、はい?」
「わたし、すっごく、すっごぉく怒ってるんだからね」
「はい…すみませんです…」
「…ホントに反省してる?」
「…わたくし、とっても、とっても反省しております…」
「…じゃあ、私のお願い聞いてくれたら許してあげるかも」
―――えっ!?
「な、何ですかそのお願いって!?私に出来ることなら…」
「…しっぽ…」
「えっ!?」
なにか非常に嫌〜な予感が…。
「しっぽ…さわらせて…」
―――予感は的中した。
456 :
名無しさん@ピンキー:04/11/05 13:31:52 ID:/7zDD77u
…確かにしっぽの出し入れはコントロールできる〜と言うより「力」を使おうと
すると長耳と一緒に勝手に出てくるのだ。
…でもあれをお姉ちゃんに触られると変な気分になるんだよね…。
私が躊躇していると桂お姉さんが叫んだ。
「ねえ、だめなの葛ちゃぁん!?わたしの頼み、きいてくれないの!?」
…断るとまた暴れそうだしなぁ…うう…。仕方ない。
「わかりました、ちょっと待っていてください…」
私はしぶしぶ布団を抜け出して、構えを取り、気を高めた。
すぅ…「ハッ!!乾!!」
私の周りに光が飛び散る。
そして私の頭から耳が飛び出し、浴衣からしっぽがはみ出た。
―――お姉さんはらんらんと光る目でこっちを見ている。
泣きじゃくったせいで真っ赤になった目といい、危なそうな笑顔といい…。
まるでノゾミちゃんみたいな顔だよ…。
どうやら酔いはさらに悪い方へ向かっているらしい。うう、大丈夫かなぁ…。
私はおそるおそる布団に入り込んだ。
「さぁどうぞ…好きなだけ触って…はう!!」
お姉さんは言い終わらないうちに私にすり寄ってきてしっぽをつかんだ。
――ふにぃ、ふにぃ、さすさす。
あぅぅ…。な、なんだかずいぶんいやらしい手つきなんじゃないかな…。
457 :
名無しさん@ピンキー:04/11/05 13:32:36 ID:/7zDD77u
―――またあの変な気分になる…。全身の力が抜けて、お腹の下の方がちくちくする
妙な感覚がやってくる。
「ふぅぅ…」
私は唇をかんで声を押し殺した。
「ねぇ…。葛ちゃん?」――すりすり、すりすり…
「ひぁ!!あぅぅ…」
――ぎにぃ、ぎにぃ、さすさす…
普段のお姉さんからは想像できないような鋭い動き。
そんな指使い、いったいどこで覚えたんでしょうか…。
――ぎゅっぎゅっ、するする…
「つーづらちゃーーん?」
いつもの桂お姉さんらしくない、艶めかしく色っぽい声だ。
「う…はぅ?」
「私ね、すごく、すっごく心配してたんだよ。もしかして、葛ちゃん私との約束なんて
忘れてしまったんじゃないかって…」
――すりすり、こすりこすり…
「…私以外に好きな人ができたんじゃないかって…」
――長耳に桂お姉さんの息が当たってむずがゆい。
「…また自分一人で何もかも背負って…私をおいてけぼりにして
どこかに行ってしまったんじゃないかって…葛ちゃん?聞いてる?」
458 :
名無しさん@ピンキー:04/11/05 13:34:17 ID:/7zDD77u
そこまで言って、桂お姉さんは私の顔をまじまじと見つめた。
「ねぇ、葛ちゃん約束して…。もう私にこんな寂しい思いをさせないって…。
葛ちゃんが12時になっても来なかった時、わたし…
本当に寂しくって死んじゃいそうだったんだよ…」
「…桂お姉さん…」
後ろを振り向くと、桂お姉さんはいまにも泣き出しそうな顔をしてこちらを見ていた。
…うう、なんてかわいい顔なんだろう。
私ははっきりと宣言した。
「…わかりました。約束します。私、もう何があろうともぜぇぇったい桂お姉さんを
悲しませたりしません。…だから、もう泣かないでください…」
私は桂お姉さんを正面からぎゅうっと抱きしめた。
「…葛ちゃん。私、すっごくうれしい!!うれしくって死んじゃいそうだよ!!」
そういってお姉さんも私の背中を強くつかんでくれた。
―――そうして二人で抱き合っていて、しばらくすると。
459 :
名無しさん@ピンキー:04/11/05 13:34:58 ID:/7zDD77u
桂お姉さんが私の長耳に口を近づけて言った。
「…葛ちゃん?私幸せすぎてもう…我慢できないよ…。
…ねぇ、もっと先に行ってもいい?」
「…先?それはいったい…ふあぅ!!!」
桂お姉さんはいつのまにかまた私のしっぽをつかんでいた。
「…ねぇ?いいでしょ?ねぇ?」
――すりすりすり――
――どうやら私に選択権は全くないようだ…。
「は…はいですぅ…」
桂お姉さんは右手でしっぽをつかんだまま背後に回り、私を座らせた。
開いている左手で私の髪をいじっている。
「葛ちゃん、髪伸ばしてるんだ…ふふふ、こっちの方が似合ってるよ。
もう、かわいくてかわいくて…私…」
そして、お姉さんの左手は私の浴衣の襟へと伸びた。
シュルシュルという衣擦れの感覚。
ほてった肌に夜風があたって気持ちいい。
「…今は葛ちゃんは私だけのものだよ。ふふふ…」
――私はいったいこれから何をされてしまうんだろう…。
ぼんやりとそんなことを考えていた。
460 :
名無しさん@ピンキー:04/11/05 14:09:12 ID:/7zDD77u
――桂お姉さんの顔が肩に乗る。
そしてお姉さんは、かわいらしい舌を出して私の鎖骨のくぼみをなめはじめた。
――ちろり、ちろり。
「あっ!!ふぅぅ!!」
体全体に電流が走る。
そ、そんなところ…。
思わずのけぞってしまう私の体を、お姉さんは左手をのどに回し、
肩にあごをかけて強く押さえてくる。
「大丈夫だよ、葛ちゃん。安心して…力を抜いて…」
右手のしっぽいじりを続けながらお姉さんがつぶやく。
――その後も桂お姉さんは執拗に私の鎖骨をなめ続けた。
意地悪く緩急や強弱をつけて私を攻める。
「はぁっはぁっ…ふぁぅ…」
しっぽをさする動きも止まる気配はない。
「くはぁ!!ひゃおぅぅ!!」
…私はほとんど失神寸前だった。
「うっふふふ…葛ちゃん。いい声だよ。ね?もっと…」
お姉さんの声が遙か遠くから聞こえる。
そして、お姉さんは鎖骨なめとしっぽふにふにのスピードをさらに上げた。
――チロチロチロ――ふにふにふに――
――体ががくがくする。絶叫が押さえられない。
私はなにかの恐ろしい予兆を強く感じていた。
「 葛ちゃん…私も…もう…」
――桂お姉さんのしっぽをつかむ手に強く力が込められる。
「ふ、ふぁぁぁ!!!くひゃぅぅぅ!!!!!」
――その瞬間、私の精神はどこかへ遠くへ飛んでいった。
461 :
名無しさん@ピンキー:04/11/05 14:09:26 ID:/7zDD77u
――桂お姉さんの顔が肩に乗る。
そしてお姉さんは、かわいらしい舌を出して私の鎖骨のくぼみをなめはじめた。
――ちろり、ちろり。
「あっ!!ふぅぅ!!」
体全体に電流が走る。
そ、そんなところ…。
思わずのけぞってしまう私の体を、お姉さんは左手をのどに回し、
肩にあごをかけて強く押さえてくる。
「大丈夫だよ、葛ちゃん。安心して…力を抜いて…」
右手のしっぽいじりを続けながらお姉さんがつぶやく。
――その後も桂お姉さんは執拗に私の鎖骨をなめ続けた。
意地悪く緩急や強弱をつけて私を攻める。
「はぁっはぁっ…ふぁぅ…」
しっぽをさする動きも止まる気配はない。
「くはぁ!!ひゃおぅぅ!!」
…私はほとんど失神寸前だった。
「うっふふふ…葛ちゃん。いい声だよ。ね?もっと…」
お姉さんの声が遙か遠くから聞こえる。
そして、お姉さんは鎖骨なめとしっぽふにふにのスピードをさらに上げた。
――チロチロチロ――ふにふにふに――
――体ががくがくする。絶叫が押さえられない。
私はなにかの恐ろしい予兆を強く感じていた。
「 葛ちゃん…私も…もう…」
――桂お姉さんのしっぽをつかむ手に強く力が込められる。
「ふ、ふぁぁぁ!!!くひゃぅぅぅ!!!!!」
――その瞬間、私の精神はどこかへ遠くへ飛んでいった。
462 :
名無しさん@ピンキー:04/11/05 14:32:48 ID:/7zDD77u
↑大失敗。申し訳ない。
「…ちゃん?起きてる?」
う〜ん、何だろう?聞き覚えのある声が聞こえる。
…ここは、いったいどこだろう。いつもの寝室じゃないことは確かだ。
「葛ちゃん、目、さめた?」
ああ、この声は。私がずっと聞きたいと思っていた声。
――桂お姉さんの声だ。
頭を上げて、目をごしごしこするとすぐ近くに桂お姉さんの顔が見えた。
「おはよう、葛ちゃん」
…そうだ、思い出した。昨日はクリスマスで、私はずっと前から約束していた
パーティーのために桂お姉さんのアパートを訪ねて…それで…
……ぼっ!!!
私の顔から火が出た。
昨夜の出来事が頭に浮かぶ。
――あの後お姉さんにい、いったい何をされてしまったのだろうか…。
――そもそも…き、気持ちよくされて気絶してしまうとは…。
――それに、あの声…あんな破廉恥なな声で叫んで…。お姉ちゃんに全部聞かれた…。
はぅっ…。思い出すだけで耳まで真っ赤になる。は、恥っずかしぃぃ!!!
穴があったら入ってそのまま埋まってしまいたい…。
463 :
名無しさん@ピンキー:04/11/05 14:43:32 ID:/7zDD77u
「…葛ちゃん、大丈夫?」
桂お姉さんが私の顔をのぞき込んでくる。
うう、顔をまともに見られないよう。
私はかけ布団で顔をすっぽり包む。
「…葛ちゃん、…聞いてほしいことがあるの」
…桂お姉さんらしくないずいぶん真剣な声だ。
わたしはかぶっていた布団を降ろし、お姉さんの顔を見た。
桂お姉さんは何とも言えない表情で私を見つめている。
とりあえず酔いは引いたみたいだ。
そして、桂お姉さんは私の布団に入り込んできた。
わたしはお姉さんの方を振り向いた。
「…まずね、遅れちゃったけど…メリークリスマス、葛ちゃん」
「…メリークリスマスです、桂お姉さん」
「…昨夜は、ホントにごめんね。…何度謝っても、謝り足りないぐらいなんだけど。
わ、私…下らない屁理屈を言って、無理してまできてくれた葛ちゃんに
ひどいこと言ったり…。赤ん坊みたいに大暴れしたりして…。」
ありゃ、桂お姉さん、あれだけ酔っぱらっていたのに覚えてるんだ。
半分泣きながら言葉を続けるお姉さん。
464 :
名無しさん@ピンキー:04/11/05 14:49:21 ID:/7zDD77u
「…私だってもう子どもじゃないんだから、うっうっ、葛ちゃんのお仕事の
大変さはよくわかってるつもりだったのに…。それなのに葛ちゃんを
傷つけるようなひどいことをずいぶん言ってしまって…。
…私、あのときよくわからないけど妙に興奮してたの。
しかも、しばらくすると逆に心がずーんと沈んだりして…何でだったのかなぁ」
もしかして…この人は自分がお酒を飲んでいたことに気づいていないのかな…。
「それで…私…心ないことをみんな葛ちゃんにぶつけて…。
…葛ちゃんだって好きで遅れたわけじゃないのに…」
桂お姉さんの目が潤んでいる。
「ごめんね、ごめんね、葛ちゃん。うっうっ…
このとおり、手をついて謝りますぅ…。
それで、その、…厚かましいんだけど…私のこと、
許してくれないかな…」
お姉さんの目から涙が一筋こぼれる。
私はお姉さんの涙を指で拭いて言った。
「大丈夫ですよ…私、ぜんぜん怒ってなんかいませんよ、桂お姉さん…。むしろ、
お姉さんが私と一緒に過ごすことをどれだけ待ち望んでくれていたか
よーくわかって、うれしかったぐらいですよ。」
「…葛ちゃん…」
桂お姉さんは信じられないといった顔でこちらを見ている。
465 :
名無しさん@ピンキー:04/11/05 14:54:30 ID:/7zDD77u
「だから、もうそんなに自分を責めないでいいですよ…」
私はお姉さんの頭をなでなでしてあげる。
――うう、お姉さんかわいいなぁ
その時、わたしのいたずら心がちょっとうずいた。
桂お姉さんの耳につぶやく。
「…それにですね…だだっ子みたいな桂お姉さんも…
なかなかかわいらしかったですよ…ふっふっふ」
桂お姉さんの顔がゆでだこみたいに真っ赤になる。
「…もう!!葛ちゃん!!」
お姉さんぷいっとそっぽを向いてしまった。
ホントにかわいい人だなぁ…。
――ちょっと経ってから桂お姉さんはこっちに向き直った。
「葛ちゃん、ちょっと後ろを向いて…」
???わたしは反対向きに転がった。
「こっちを見ちゃ、だめだからね…」
私は後ろを見ないで頷いた。
「それでね、その、あの…」
「…どうしたんですか、桂お姉さん…」
お姉さんの方を振り向こうとすると、強い力で押し返された。
「こっち見ちゃだめだってば!!」
466 :
名無しさん@ピンキー:04/11/05 14:59:28 ID:/7zDD77u
「それでね…あのう…」
「どうしたんですか、はっきり言ってください」
「……ゆうべ、私が葛ちゃんの布団に入っていった後…
わ、わたし、なにかもっと馬鹿なこと…というか…とんでもないことを
な、何度も言っていたでしょう…?」
――桂お姉さんの顔の熱がこっちまで伝わってきた。
――私も思い出して耳たぶまで真っ赤になる。
「きれいさっぱり忘れてくれって言うのは無茶だけれど…
…あのとき私が口走ったことを誰かにしゃべったりしちゃ絶対だめだからね!!!
…そんなことされたら、私、もう顔を出して街を歩けないよう!!!」
467 :
名無しさん@ピンキー:04/11/05 15:17:39 ID:/7zDD77u
…桂お姉さんは私があんな事を誰かに打ち明けるかもしれないと
本気で思っているのだろうか…。
そんなことするわけ…いや、できるわけないじゃないですか…。
「…桂お姉さん、それはいらない心配ですよ…。
絶対誰かに漏らしたりしませんから。安心してください。」
「葛ちゃん…」
振り向いてまた頭をなでてあげようと思ったら、また押し返された。
「…待って、葛ちゃん。もう一つあるの」
お姉さんは私に近づいて小声でつぶやいた。
「葛ちゃん…昨夜私がしたこと…嫌じゃなかった?
その…葛ちゃんが嫌だったなら私もう絶対やらないから…。
…もうやめてほしいなら一回、…また、してもいいなら二回頷いて…」
――私はこくこくと二回頷いた。
468 :
名無しさん@ピンキー:04/11/05 15:21:09 ID:/7zDD77u
「葛ちゃん!!」
――本当は断られるんじゃないかと心配でたまらなかったのだろう。
桂お姉さんは私を振り向かせて唇に思いっ切りキスをしてきた。
私も夢中で唇を押しつけ返す。
――しばらくして、桂お姉さんはわたしから唇を離した。
「うう…葛ちゃん…別れたくないよう…。」
笑ったり泣いたり忙しい人だ。
「…私もそうですよ、桂お姉さん…でも…そろそろ時間が…」
「うん、分かってる…」
「…そんな顔をされるとよけい別れづらくなるじゃないですか…」
…そうだ、と私は布団を飛び出した。
ゆうべ脱いだ服の所をごそごそ探る。
あ、あった。私はプレゼントをつかんでお姉さんの所に戻った。
「はい、クリスマスプレゼントです!!桂お姉さん!!」
私は小さな包みをお姉さんに渡した。
「うわぁ、いったい何だろう。」
お姉さんは包みを破いた。
469 :
名無しさん@ピンキー:04/11/05 15:25:00 ID:/7zDD77u
出てきたのは小さな十字架のネックレス。
お姉さんは早速それを身につけて鏡をのぞき込んだ。
「…気に入ってくれましたか?」
「…うん、すっごいいいよ!!ありがとう、絶対大切にするからね!!」
お姉さんは最高の笑顔を見せてくれた。
――と、突然桂お姉さんの顔が曇った。
「…ど、どうしたんですか桂お姉さん!!やっぱりそのプレゼント、
気に入らないんですか?」
「うぅ、私、日本一のドジ娘だよ。まさか、肝心のプレゼントを買い忘れるだなんて。
うっうっ…」
「ちょ、ちょっと…お姉さん…」
――お姉さんらしいといえばお姉さんらしい。
470 :
名無しさん@ピンキー:04/11/05 15:29:27 ID:/7zDD77u
「私はお姉さんの笑顔が久しぶりに見れただけでもう大満足ですから。
そんなに気になさらず…」
「それじゃあ不公平だよ。…ああ!私のドジは死ななきゃ直らないのかな…」
「…。あ、そうだ、私、プレゼントの代わりに桂お姉さん手作りの料理を
全部もらって帰りますよ。タッパーか何かに入れて…」
「…それでもまだだめだよ…。そうだ、葛ちゃん、この家にある物で、
何かほしい物ってある?あったら何でも言ってね?プレゼントしちゃうよ」
「…うーん…分かりました…」
私は部屋を見渡した。うーん、私が特別ほしい物はこれといって見つからない。
ふと、桂お姉さんに目がとまる。
――そうだ、あれはどうだろう。
471 :
名無しさん@ピンキー:04/11/05 15:32:50 ID:/7zDD77u
「…じゃあ、私、桂お姉さんが今付けているリボンが欲しいんですけど…
いいですか?」
「もちろんいいよ!!…本当にこんな物でいいの?私てっきり、
『それなら桂お姉さんをもらっていくですぅ!!』
とか言われるんじゃないかと思ってて…えへへ」
――自分で言っておいて赤くなる桂お姉さん。
こっちまで恥ずかしくなってくるよ…。
「…わかった。ちょっと待っててね。今切って持ってくるから…」
立ち上がろうとするお姉ちゃんの服をぎゅっと引っ張る。
「…葛ちゃん?」
「わたしは、桂お姉さんが『今』付けているリボンがほしいんです…」
ぽけぇ〜と私のことを見ている桂お姉さん。
472 :
名無しさん@ピンキー:04/11/05 15:36:46 ID:/7zDD77u
――やっと言葉の意味が分かったらしく、お姉さんはにんまりと笑った。
「もぅ、ホントにしょうがないなあ葛ちゃんはぁ〜♪」
――あんまり桂お姉さんには言われたくない…。
桂お姉さんは自分のリボンをはずして、私の髪に着けてくれた。
かすかにお姉さんの髪の匂ひがする。
「どうかな、葛ちゃん。私は、すっごく似合っていると思うよ」
「うぅ…。うれしいですう…。」
「…大事にしてよね、葛ちゃん。私も、あのネックレス一生の宝物に
するからね…」
「はいです…」
473 :
名無しさん@ピンキー:04/11/05 15:39:27 ID:/7zDD77u
そうこうしているうちに時間はもうほとんどなくなっていた。
急いで桂お姉さんの料理をタッパーに詰める。
――全部もらっていく、なんて思わず言ってしまったのを今更になって後悔する。
これを誰かにちょっとお裾分けする、なんてできないしなぁ…。
でも、残すわけにはいかない。頑張って完食しよう。
…帰りに胃薬を買うのを忘れないようにしよう…。
「ごめんね、葛ちゃん。今度会う時にはプレゼント、大奮発するからね」
「いえいえ、気にしないでください。…私、このピンクのリボン、
すっごく気に入ってるんですから」
「そう―?それならよかったんだけれど…」
474 :
名無しさん@ピンキー:04/11/05 15:41:37 ID:/7zDD77u
私たちは次に会うのはいつにするか手短に話し合った。
その結果、次の再会の日は7月7日に決定した。
何でも桂お姉さんの家の近くですっごくきれいな七夕祭りがあるそうなので、
それを二人で眺めたいのだそうだ。
お姉さんと一緒に祭りを眺めるの、すっごく面白そうだなぁ。
…それに、毎日会いたくてたまらないのに会えない私と桂お姉さんは、
まるで織姫と彦星みたいで…。ぽっ。
こんなこと言っている自分が恥ずかしくてたまらない…。
しかし、あと半年以上もお姉ちゃんに会えないかと思うと寂しくてたまらない。
475 :
名無しさん@ピンキー:04/11/05 15:48:21 ID:/7zDD77u
「…それじゃあ、葛ちゃん、またね!!7月7日だよっ!!
忘れちゃだめだからね」
「うう、まだずいぶん先のことですけどねぇ…」
「うっうっ、寂しいよぉ…」
「…、もうそろそろ行かないと…」
「…それじゃあね、葛ちゃん。7月7日、楽しみに待ってるからね!!」
「私もですぅ!!おねえちゃぁぁん!!」
――私たちはもう一度長いキスをして、さよならをした。
476 :
名無しさん@ピンキー:04/11/05 15:50:56 ID:/7zDD77u
…冷静になって日記のこの部分を読み返してみる。…桂お姉さんが以前に
言っていた。「もう顔を出して街を歩けない!!!」とかなんとか。
大げさな…。とあの時は思っていたが、今思うとまんざらそうでもない…。
…この日記は厳重に隠すことにする。
私の一番の隠し場所、ベットのマットレスの下だ。
ここなら多分見つかる心配はないだろう。
――それでも、もしこの日記にのぞき見された痕跡が見つかったりしたら。
ーーそれは私のすべての尊厳の崩壊を意味する。
私はどんな手段を用いてでも犯人を見つけ出す。
そして非常に残念なことだが、全身全霊をかけてその人をこの世から
『抹殺』
させてもらう。――言っておく、私は本気だ。
私はそんな悲しいことが起きなければいいとただただ願うばかりである…。
―完―
MAXグッジョブ!!!!!
やっぱツヅケイはいいなー
出来れば続編なんかも読みたい。
あるいは俺内でツヅケイと並び双璧たるユメケイなぞを…
478 :
名無しさん@ピンキー:04/11/05 17:23:03 ID:/7zDD77u
477どうもどうも
書いている途中で葛ちゃんは別人ですが。
ユメケイ:
それ以前にユメイさんのルートが見つかりませんぜ…。
ケイツヅキター(・∀・)!!
ケイツヅ(;´Д`)ハァハァ
>>445氏GJ!!
おやおやなんですかこの破壊力は。
>>445氏果てしなくGJッッッ!!
>>445 GJ!
もっとアカイの増えるといいなぁ。
>>455氏(;゚∀゚)=3ハァハァw
七夕デートも気になる…葛可愛いなぁチクショウ
485 :
名無しさん@ピンキー:04/11/07 00:51:48 ID:fMXuwzZe
sageてね
>>445 くあーーーー!!
禿しくGJGJ!!いいものをありがとう!!!
新刊でたばっかの遠征王キボン
489 :
酸性温泉:04/11/08 22:13:28 ID:57MZniD/
続編が書きたくなって戻って参りました。
トリコロの真紀子×多汰美
>>373-384の続きです。
<プロローグ>
またCDでも借りようかと思い、学校帰りに市立図書館に寄った。
新着図書コーナーを眺めていたら、とあるベスト盤が目に入り、思わず手に取った。あの曲が
入っているだろうと思ったから。裏面を見てみると、案の定、収録されている。私は貸し出し
用のカードを財布から取り出し、CDケースを持ってカウンターへと足を向けた。
頭の中では、彼女たちの歌声が響いていた。
《DON'T LOSE A CHANCE!》
多汰美が風邪を引いた。
昨日は少し熱があったようだが、今日は幸い回復したようで私は安心した。本人も大した事は
ない、少しのどが痛いだけ、と言っていたが、八重から「また風邪がぶり返したらどうするん
ですか」と心配されたので、まだ布団に横になっている。今日は日曜なので、午前中は私が
多汰美のそばについてやることにした。
「…マキちー」
「なんや?」
「八重ちゃんとおばさんはどこ行ったん?」
「おばさんは町内会の清掃。八重ちゃんは、にわのところにおでんの作り方教えに行った」
「ふーん。八重ちゃんはデートか」
「ちょう待て。料理を教えに行くのが、なんでデートになる?」
「二人で過ごすことや出かけることを広島では『デート』言うんよ」
「…やったら多汰美、このあいだ私らが東香ちゃんのところに行ったのも、デートか?」
「うん。そう」
「大阪じゃ、それはデートとは言わん」
私はついと顔を後ろに向けて外を見遣る。相変わらず多汰美は人を食ったような言動が多い。
だが、先週のキスといい、今の物言いといい、最近その行動が妙に恋愛めいた方向に引きずら
れがちなのは気のせいか。なんだか間が持たないような気がして、私は別の話を振る。
「そういえばな、金曜に図書館に行ったら、CDあったで。キャンディーズの」
「そうなん?」
「『やさしい悪魔』も入っとった。このあいだ、歌っとったやろ。風邪が治ったらあのプレー
ヤーで聴かせたるから。…あ、もしかして別に好きやないか?」
「好きじゃよ。でもあの曲、私も好きなんじゃけど、母さんがいちばん好きなんよ」
「ふーん。ああ、77年の曲やからな。母さんらが私らくらいの頃、流行ったんやろ」
「私の母さんと、マキちーのお母さん。それとおばさんの三人でよく歌ってたって。キャン
ディーズも三人じゃろ?」
「せやな」
私は若い頃の母さんたち三人を思い浮かべる。三人揃っていつもどんな話に花を咲かせていた
のだろう。テレビの話だろうか。ファッションの話だろうか。おばさんは将棋に忙しくてそう
いったことには疎かったかもしれないが、アイドルには興味があったのだろうか。ぼんやりと
私は空想にふける。
*
最近寒くなってきたせいか、風邪を引いてしまった。
薬を飲んで眠っている間に昔の夢を見た。普段私はあまり夢を見ないものだから、やけに
鮮明に覚えている。
夢の中で今よりも若い母が台所でキャベツを刻んでいる。今日も機嫌がいいらしい。鼻歌は
いつもの『やさしい悪魔』だ。
「おかあさん、その歌好きじゃね」
私は夢の中では幼稚園児だった。
「そう。お母さん、よく友達とこの歌を歌っとったんよ。楽しかったなあ、あの頃」
「ふうん。おかあさん、お友達と仲良かったんじゃね」
「うん。多汰美にもあんな友達ができたらいいなって、お母さん思うんよ」
そう言って母は幼い私の頭を撫でる。
「おかあさんのお友達ってどんな人?」
「一人は幸江って言ってね、将棋を指すのがお仕事の人。いつも着物ばっかり着ていたもの
だから、一度もう一人の友達と無理やり短いスカートをはかせたのよ。あの時はほんと、おか
しかったわ」
そういって母は、心から愉快そうに思い出し笑いをする。
「もう一人のお友達は?」
「もう一人の友達はね――――」
そこで夢から覚めた。おそらく夢の中の母が言いたかったのは真紀子の母のことだろう。私の
母も私と八重、そして真紀子のような関係だったのだろうか。楽しかったんだろうな、と思う
と私の顔はいつの間にかほころんでいた。なんだか久しぶりに笑った気がした。そう感じた
のは、近頃うまく笑えていなかったような気がするから。
――――どうして私は、真紀子のことが好きなんだろう。
この想いを自覚してから、表情を出すのが少しずつ下手になってきた気がする。
友情ではなく、恋愛感情として真紀子のことが好きな自分。真紀子は八重に気のある素振りを
見せる景子には鋭く反応するくせに、自分のこととなるととんと鈍感だ。その鈍感さに今の
自分は助けられているのだけれど、と私は苦笑する。
『八重ちゃん、真紀子ちゃんといい友達になってほしいんよ』
そう母は言っていた。私も真紀子と友達になりたかったし、友達でいつづけたかった。
だから、先週のキスはやり過ぎたかなとちょっと反省している。でも、嬉しかったから。私の
ためではないと分かっていても、真紀子が私の一番好きな料理を作ってくれたのはとても嬉し
かった。
同性の友達を好きになるにしても、その相手が景子だったらこれほど悩まなくても良かった
だろう。彼女が相手ならば母の言葉に固執する必要はない。仮に告白したとしても見事に玉砕
する別の結末が待っているだけで。
八重を好きになったらどうだったのだろう。これはあり得ない話だ、と一蹴できる。自分に
とって八重は、友達以前に大切にしたい妹だから。口に出して言うと「妹扱いはやめてくだ
さいよ」と拗ねるだろうけど。
結局、最後は同じところに疑問は帰り着く。
――――どうして私は、真紀子のことが好きなんだろう。
――――どうして真紀子でないといけないのだろう。
*
私がぼんやりと空想にふけっている間に、多汰美は襖のほうを向いて横になっている。何か
話しかけたほうがいいのだろうか。
「多汰美。」
「……んー?」
「眠たいんやったら、私、部屋から出てこうか?」
「……マキちー、行かんといて」
やはり病気になると人は心細くなるのだろうか。あまり気弱な所を見せたことがない多汰美が
『行くな』と言うとは思わなかった。
「寂しいんか?」
「分からないんよ」
「分からんって……どういうことや?」
心細い、というのとは違うらしい。何かがおかしい。なんだか暗い雲がかかったような気持ち
になる。どうして? 何が『分からない』のか? それに、私に『行くな』というくせに私の
顔もろくに見ようとしないのはどういうことだ。いつも私の顔を見て快活に話す多汰美が。
風邪のせいと言うにはあまりにもおかしすぎではないか。
「多汰美。悩みでもあるんやったら言うてみ。いま、誰もおらんから。私しかおらん。八重
ちゃんやにわに聞かれたくないことで、私が聞けることやったらなんでも聞くから。な?」
私はなだめるように多汰美に言って聞かせる。だが、多汰美は窓側の私と目を合わせようとは
せず、じっと襖のほうを見つめている。何を言えばいいのか、何も言わないほうがいいのか。
多汰美が『行くな』と言ったのだから、私は動けない。多汰美が何か反応するまで、私は黙っ
て待つことにした。
*
『悩みがあるのか』――――おおありだ。
『八重や景子に聞かれたくないのか』――――それは聞かれたくないに決まっている。景子
ならば、もしかしたら私の気持ちを分かってくれるかもしれないが。
『真紀子にしか聞けないこと』――――きっと、そうなのだろう。だけど、正直に言えるもの
か。困らせるに決まっているではないか。「あなたのことが好きだ」なんて。
昨日一人で考える時間が多かったせいだろう。今日は妙に真紀子を意識してしまう。顔を合わ
せて、どう話をすればよいのか分からなくなってきた。
恋をする前は、好きな人がいれば楽しいものだと思っていた。それもすぐ近くにいるのなら、
なおさら。まさか、こんな気持ちになるだなんて思わなかった。どうしたらいいのだろう。
……分からない。そばにいてほしい。でも、このままでは胸が締め付けられたままだ。もう
軽口で誤魔化すこともできない。自分の中から何かがとめどなく溢れ出そうで。
「マキちーは、好きな人っている?」
「……私か。恋愛対象って意味なら、おらんで」
「先週マキちーが急におでん作るって言うから、誰か好きな人に食べさせたいのかと思った
んよ」
「それはこのあいだも言うた。あれは料理が上手になりたいから挑戦しただけで。別に、好き
な人がどうとかやない」
「…うん」
「多汰美は、誰か好きな人がおるんか?」
言える訳がない。すぐ後ろにいる人がそうだなんて。だから、こう答える。
「おらんよ」
*
ますます訳が分からない。
悩みがあるのか、と聞いてみたら『好きな人はいるのか?』と返してくる。だから恋愛関係の
悩みかと思って話を振ってみれば、答えは『好きな人はいない』。
深いぬかるみに両足を突っ込んだような気分だ。はっきりとしない。
そこで、はたと気が付いた。きっと多汰美は好きな人がいるのだろうが、嘘をついているのか
自分の気持ちがはっきりしなくて迷っているのだ、と。だから思わせぶりに聞こえる言い方を
してしまうのだ。嘘にしろ迷いにしろ、すっぱりと言えないのはきっと辛かろう。どうしたら
そんな多汰美の気持ちを楽にさせてやれるだろうか。いつも私たちににこにこと笑ってくれる
多汰美。けれど、いまの目の前にいる多汰美は何かのせいで顔も見せてくれない。うつむいて
動かない、そんな彼女を見続けるのは、私も辛い。私がなんとかしなければ。
「……あのな、」
「うん」
「おでんの話に戻るけど。最初はな、にわに負けたくなかったから挑戦したんや。正直に言う
と。でも、作っとるうちに気持ちが変わったんや」
「…そうなん?」
多汰美は相変わらず私と目を合わせようとしない。それでも私は続ける。
「八重ちゃんが言うとった。『ごはんが美味しければ、誰だって嬉しい』って。せやな、料
理って結局、食べてくれる人がおってこそ、作り甲斐があるってもんや。だから、多汰美の
言う事もある意味、正しい。」
「…そう」
「思うたんやけど、さっき、私は『好きな人はおらん』言うたな。でも、もしかしたらそれは
嘘になるかもしれんな」
「…どうして?」
私は視線を一度天井にやり、深呼吸をした。あせらずに、少しずつ話を続けよう。
「いまは、作ってあげたいって思える相手が出来たからな。そういう人の事を『好きな人』と
言うなら、私にも好きな人がおるって言われてもおかしくはない」
ここまで言ってしまって、多汰美を見る。喉が痛いせいか、相槌も打ってくれない。てっきり
それは誰なのかと張り切って訊いてくるかと思ったが。
*
真紀子と目を合わせられない。
さっきは話の継ぎ穂がないのに困って、思わず『好きな人はいるか』と直截な言い方で訊いて
しまった。「いる」と言われれば諦められるかもしれないと思った。「いない」と言われたら
どうしようかと思った。チャンスはあるのかもしれないが、真紀子が誰かに目を向けるまでの
間、自分の気持ちを言えないままずっと苦しむことになるかもしれない、と。
真紀子の答えは『YESかもしれない』だった。これはどう解釈すればよいのか。
いや、それよりも『YES』の相手は誰なのだろう。怖くてそんなこと、とても質せない。
ついさっき「諦められるかも」なんて思ったのはとんでもない大嘘だった。真紀子の好きな
人はやはり知りたい。
相手は学校の誰かなのか、実家のある大阪にいる誰かなのか、それとも――――?
「多汰美。」
真紀子が私の名を呼ぶ。
「好きな人がおるって、どんな気持ちなんやろうな。にわは、恋愛じゃないかもしれんけど、
変わったな。初めて八重ちゃんに話しかけてきたときは、どこの不良かと思うたけど。いまの
あいつ、幸せそうや」
真紀子は穏やかな声でゆっくり私に話しかける。私はなんと返せば良いのか分からず、布団の
端をじっと見る。
「私はな、あんなに分かりやすく変われんけど、これでもちょっとは変わった思うんや。他の
人から見たらでかい変化じゃないかもしれん。でも、私にとっては大きいんや」
私も変わりたい。でも、どうしたら私の胸をきつく縛るものから逃れられるのだろう。
「前はな、誰かのために何かを作ってみたいなんて、思いつかなんだ。あ、八重ちゃんは別や
で。あの子だけは、特別や。多汰美もそうやろ?」
私は小さくうなずく。布団が少し動いたから、真紀子にも多分伝わっただろう。
「好きな人ができたら、ドキドキしたりするかと思うたけど、違うたな。ああ、違う意味で
ドキドキするけどな、次はどんなことをやらかすかと思うと」
そう言って真紀子はくすくす忍び笑いをする。誰のことだろう。
「人を食うのが趣味のようなやつやからな。でもな、多汰美、なんでも食うたらあかんで。
食中りを起こす」
そう言って真紀子は、かすかにスカートから衣擦れのような音をさせて立ち上がる。
「下行って、薬を取ってくるから。どこにも行かんで。心配するな。…それとな、私は言うた
からな。多汰美も、好きな人のこと、言いたくなったら言えばいい」
真紀子は膝を軽くついて、私の肩のあるあたりに手を置いて言う。
「辛そうな顔せんと笑うてくれ。多汰美にそんな切ない顔されるのが、私には一等つらい。
……こう思うのも、変化のうちかもしれんな」
真紀子は私の顔をじっと見つめ、再び立ち上がると襖を開けて、私の部屋を出て行った。階段
が人の重みできしむ音を聞きながら、私は安心して目を閉じる。
眼鏡越しの真紀子の目が教えてくれたから。もう、何も不安に思わなくても良いのだと。
*
居間の薬箱から私は風邪薬の入った袋を取り出す。
私の話を聞いて多汰美はどう思っただろう。部屋を出る前に顔を見たら、放心したような顔を
していたけれど、苦しそうではなかった。私の推測が当たっているなら、もうつらい顔を見ず
に済むだろう。外れていたとしても、それは構わない。どちらにしろ、あのとき多汰美は私に
微笑んでくれたのだから、私としてはそれで十分だ。
台所を見てみると、私の昼食と多汰美用のお粥が用意してある。八重が景子の家に行く前に
用意してくれたらしい。メモには『お母さんは町内会の人とお弁当を食べるそうなので、二人
で召し上がってください』とあった。時計を見ると、十二時を過ぎている。
冷蔵庫からお茶を取り出し、コップ二つに注いで薬袋と一緒に二階へ持って上がる。多汰美の
部屋に入ってみると、話し疲れたからか静かに寝息を立てて眠っている。
「起こしたら悪いかもしれんけど……、しゃあないな。もう十二時済んだし、ご飯食べさせて
薬飲まさな。多汰美。起きやて!」
*
いつの間にか眠ってしまっていたらしい。真紀子に揺さぶられて、私はゆるりと目を覚ます。
もう大丈夫。私は笑えるよ、マキちー。
「吐き気とかはないか? もう昼食の時間やから。食べな治らんで。いまご飯持ってくるから
な。食べるやろ?」
「うん。食べるよ」
私がそう答えると、真紀子は台所に行って食事を持ってきてくれた。真紀子の昼食は塩昆布
入りと梅干入りのおにぎりが一つずつに、豆腐のお味噌汁。私のご飯は卵入りのお粥。二人で
テーブルについて熱いお粥と味噌汁を覚ましながら口に運ぶ。
「マキちー、美味しいね」
「食べ物がうまいって思えるんなら、もう明日学校行っても大丈夫やな。…明日だけ、特別に
予習のノート貸してやるから。今日はゆっくり休むんやで」
「ありがとう」
「せや。そうして笑っとれ、多汰美」
そう言って真紀子は髪をくしゃくしゃにしながら私の頭を撫でる。二人とも、互いの顔が自然
とほころびるのを見てますます可笑しくなる。母さんが望んだ形とはちょっと違ったけれど、
これが私たち二人が選んだ二人の形だ。私は、自分を縛っていた見えない鎖が溶けて消える
のを感じた。