1 :
名無しさん@ピンキー :
04/05/17 17:44 ID:4FzsII+7 テレビドラマや映画、舞台演劇など、実在の人物の演じるストーリーのSSを書くスレ。 海外のものも当然OK。 特撮ものは微妙なので個人の判断で。
2 :
名無しさん@ピンキー :04/05/17 17:46 ID:4FzsII+7
3 :
名無しさん@ピンキー :04/05/17 17:47 ID:4FzsII+7
4 :
名無しさん@ピンキー :04/05/17 17:47 ID:4FzsII+7
*スレ的お約束その1* 「実在する人物の姿態を必要としない作品のエロ妄想・パロディ専門板です。」 板のルールに従って中の人萌えは禁止。 あくまで対象は役柄であって、役者そのものにハァハァするのはダメ
5 :
名無しさん@ピンキー :04/05/17 17:48 ID:4FzsII+7
*スレ的お約束その2* 原作の話は程々に。 原作にしか登場しないキャラやエピソードを組み込んだSSもOKですが控え目に。 投下前にはその旨を注記しましょう。
6 :
名無しさん@ピンキー :04/05/17 17:48 ID:4FzsII+7
*スレ的お約束その3* グロ・スカ・女体化など、読み手を選ぶような内容の場合は投下前に注記を厳守。 NGワード指定しやすいように名前欄に書くのもお勧め。
7 :
名無しさん@ピンキー :04/05/17 17:48 ID:4FzsII+7
*スレ的お約束その4* SS投下の際には元ネタ名・カップリング等を書くのが親切。 簡単な元ネタ解説もあれば嬉しい。
なるほど
もっともだ
せっかくだから落ち防止カキコ。
11 :
名無しさん@ピンキー :04/05/18 00:03 ID:/kGtGRQU
書き手さんこないかな
このスレができる以前から 子犬のワルツ、ノッティー×セイカを書くつもりでいた。 不良×お嬢…めっさ萌えてた… …なのに今週 ウワ――――――――
>>12 その悔しさ、悲しさを文章に…
閉ざされてしまった未来図を、再び己の手で…
14 :
12 :04/05/18 06:45 ID:QCmclgK2
子犬のワルツ、 ノッティー×セイカがだめになっちゃったから 光×三男でも書こうかなぁ。需要ある? 本当はウタノが一番好きなんだけど相手がいない… あと古いけど「僕らの勇気未満都市」とか好きだ。 ユーリでエロが読みたい。 保守age
>>14 書いて下さい! 読みたいです。
でも、先週までの展開でのノッティー×セイカもif物として読みたいんだけど
17 :
名無しさん@ピンキー :04/05/19 01:30 ID:9Gn9UumA
18 :
名無しさん@ピンキー :04/05/19 21:43 ID:OrGq+Sik
待つ!
19 :
名無しさん@ピンキー :04/05/20 00:03 ID:OJte6a90
保守しとこう
ここ、映画とかいいんですよね? 中国映画なんて、誰も興味ないぽ?
>>20 かもん!
元ネタ知らないかもしれないけどw
「紫陰?!」 暗い洞窟に半ば狂乱気味の声が響いた。 「そう、紫陰は心臓を冒す毒・・・」 恐怖に涙の滲んだ瞳が縋るように嬌龍(イェン)を見つめる。 混乱した頭は真っ白で、何をどうすれば良いのか秀蓮(シューリン)は何も分からなくなっていた。 「毒消しはない・・・・」 無情にも慕白(ムーバイ)自身の声がそう告げる。 「そんなはずは無い!!何にだって対処法は有るわ!!」 有るはずだが、自分は何も知らないことに秀蓮の苛立ちと混乱が募る。 いち早くその混乱から立ち直ったのは、元凶とも言える嬌龍だった。 「有るわ・・・師匠から教わってあるの・・・・・」 秀蓮の疑がわしい視線が嬌龍に痛い位付き刺さる。だがそれも当然の報いだと自分に聞かせる。 「嘘じゃない!!本当よ! ・・・でも・・・・それが手に入るか・・・・・」 「何なの?!それは!言いなさい!」 「・・・・・・・それは・・・・・・その・・・」 秀蓮の追求にも嬌龍は言い難そうに口篭る。だが、ためらっている間に慕白の時間が減っていく。 「・・・毒消しは・・・初潮を・・・・迎えた後の・・・・処女の愛液よ!」 余りに突拍子もない言葉に誰もが戸惑いをみせた。
「本当なのよ!・・・師匠はいつも、女好きの南鶴のそばには 処女は一人も居なかったと言っていたわ・・・。だから誰も助けられなかったんだってね・・・・・ でも・・私も・・・・違うのよ・・・・」 今だ戸惑いの続く空気の中、秀蓮の凛とした声がその場を切り裂いた。 「私は・・・処女よ!」 恐ろしいほど意志に溢れた瞳が嬌龍を射る。嬌龍は驚きと安堵に何も言えなかった。 目の前にいる中年にさしかった女性は、男の好む清楚な美しさと聡明さを可ね揃えている。 引く手あま多だろうに、未だにその純潔をしっかりと守り通していた。 武當はそれほど退廃した所ではないのかもしれない、今更ながらに自分の考えの狭さが、 押しつけられた物だと知り愕然とした。 「だ・・だったら話は早いわ・・・その・・・・飲ませれば良いだけだから・・・」 そう言われて秀蓮は、うって変わって困った様に眉を寄せる。やはり真の純潔では無いのだろうか。 「・・・・・・・あの・・・よく分からないのよ・・・どうすればいいのか・・・」 言いながら、不安そうに慕白に視線をやる。慕白は一度目を落とし、考え込んでから言う。 「火をおこしてくれ、それからお前はこれを始末してくれ」 最後は秦保に向けて、自分を苦境へ追いやった者の骸を指した。 つまりは出ていくようにと言う訳だ。
用意が整うと、慕白はやや苦しそうに腰を落ち着けた。早くも額には脂汗が滲んでいる。 とにかく急いだほうが良い。嬌龍は未だ困惑気味の秀蓮の腰帯をさっと解いた。 簡単に畳んで次に上着の紐を解くのを手伝う。三度目にやっと最後の着衣が現れた。 気後れする彼女を無視して、下履きの紐も解く。 自重で落ちてゆくそれが無くなると、身に付けた物は腕の包帯のみとなった。 それすらも自分で解くと、生まれたままの姿で身を清めに向かう。 雨はいつの間にか止み、岩場の空気は芯から冷えきっている。瓶に貯めた水もまた刃の切っ先の様に冷たかった。 息を止め肩から水をかぶる。先程雨に濡れた身体は、追い討ちを掛けるようにさらに冷たく青ざめてゆく。 とうとう指先が動かなくなり、桶が滑り落ちるのを見て嬌龍は秀蓮の肩を乾いた布でくるみ、 火の側、慕白の向かいへと連れていった。 「真っ青だわ・・・先に暖まった方がいい!」 「私の事はいいのよ、早く慕白を助けなければ!どうすれば良いの?!」 「どうすれば・・って・・・自分でしたこともないの?」 「何を?」 驚きを隠せない嬌龍に対し、秀蓮はそれの何が不思議なのか解らない。 「・・・・・・・・・・・だったら、こうすれば良いのよ・・そらっ」 掛け声と共に秀蓮の身に巻きつけた布を素早く取り去り、彼女は一瞬のうちに一糸まとわん姿となった。
目の前の慕白が息を飲む音が聞こえると、羞恥で秀蓮の頬は朱に染まる。 「ほら・・・慕白があなたを見ているわ」 嬌龍は言いながら、秀蓮の腕を後ろ手に拘束する。 そうすることによって、さらに慕白に胸を付き出す格好となった。 彼の手は今や何時でも乳房に這わす事が出来る位置に有る。 秀蓮は早くも寒さなど感じなくなっていた。 「ね・・ねぇ・・・嬌龍、手を離して・・・」 「駄目よ、だって離したら隠すでしょ?姐姐」 耳元で唇が触れるくらいの距離で囁く。秀蓮の身体は寒さ以外でガクガクと震えた。 「隠さないでくれ、秀蓮・・・君の身体はとても綺麗で幻想的だ」 炎に照らされた身体はオレンジに光り、着衣のままでは分かるはずも無いほどに引き締まっていた。 未だ張りの有る乳房は、質感を余り感じさせないながらも十分な膨らみを備え、 その頂には小さく固まった枸杞の実のような乳首があった。 続く腹は驚くほど細く、慕白の手が回りそうな程だ。 立てに切りこみを入れたような臍と、形が分かりそうな筋肉が、さらにその魅力を増している。 臀部も又、その腹と同じくらいにしなやかな筋肉が顔を覗かせていた。
「私が想像していた通りの身体だよ」 「・・・・・・」 今までも慕白が、そんな対照で自分を見ていたと言う事実になかなか馴染めない。 だが、彼が囁く度に自分の体温が、一度上昇するのが秀蓮には分かった。 今までに感じたことの無い熱が、体の中心から湧いてくるのを感じる。 月経中の数日間のように腹の奥が熱く重たい。 慕白の大きな手がゆっくりと前に伸びる。探し求めた聖杯をようやく手に入れたかの様に、 確かめるように、慈しむように、優しくその手が素肌に触れた。 手は鎖骨に軽く触れ、そのまま感触を確かめるように、乳房の回りをなぞって肋骨に落ちていった。 その感覚に秀蓮は思わず目を閉じた。 手を握られたときのようにその動揺をご魔化すことは出来なかった。 「秀蓮、目をを開けて。君を抱きしめて口付けさせてくれ・・・」 動揺の色を隠せない瞳が、恐る恐る開く。目の前には慕白の自分を焼き付けようとする瞳がある。 嬌龍は秀蓮を彼の方に押しやりながら、ようやく手の拘束を解いた。バランスを失って、 慕白の元に倒れてゆく秀蓮の身体を、彼は力強く抱きしめた。驚くほど強く、嬌龍に切られた傷が痛むくらいに。 慕白は目を閉じて、己に触れる全てのものが、幻では無いことを確認した。
「・・・君を手放したりしない!・・・手に触れられる君が全てだ!」 「・・・慕白・・・・」 回した手が確かめるように、秀蓮の素肌をなぞっていく。 安静にしてなければならない慕白の心臓が大きな鼓動をたてて秀蓮に響いてくる。 それこそが思いの丈の全てだった。秀蓮の見開いた大きな瞳から、沸きあがるように涙が澪れてゆく。 それを掬い取るようにして長い口付けが始まった。 目許から頬をなぞり、緊張のため硬く強張った唇を舌でなぞる。 それを柔らかくほぐすようについばんで、味わったことの無い薄い舌を捕らえた。 「・・・っ・・ん・・・」 秀蓮の口腔は涙の塩気で良い梅塩に感じる、彼女の唾液を全部さらえようと少々躍起になった。 「・・・・ぅ・・・むぅ・・・駄目よっ!・・そんなに激しくては・・・毒が早く回ってしまう」 「もう、我慢出来ない・・・君が目の前にあって、押さえられるものではないよ」 慕白の唇は口元を外れ、秀蓮の細く優美な顎を伝ってさらに降下してゆく。 微かに震える喉をねぶり、鎖骨の窪みに舌を埋める。舌が這い回るたび、秀蓮の喉の奥で声にならない音がする。 全て覆ってしまえるほど大きな手が、彼女の乳房に優しく触れる。彼女の喉が大きくうねった。 「見た目よりも柔らかい・・・」 少し力を入れると、ぐにゃりと指が乳房に埋もれていく。
「・・・・ん・・んん・・」 「君の甘い声が聞きたい、我慢しなくていい」 そう言われても、秀蓮にはそれはとても不道徳な事に思える。女は慎み深くないといけない、 昔からそう教えられてきたのだ。だが、彼の唇がおもむろに乳首を捕らえると、 不意を突かれたように我慢していた声が漏れた。 「あぁっ!・・・止め・・あぁ・・・」 慕白の舌先が何度も小山を往復する。小さな先端が首を持たげ、 あっと言う間に硬い木の実のようになった。彼はさらに、それを傷つけないよう優しく歯を立てた。 「んんぅ!・・・・あぁうっ・・」 一度喉を通り過ぎた声は、次から次へと湧き出てくる。 胸の先に刺激が走る度、はしたない声が辺りに響き、同時に股の付け根が焼けただれた様に痛んだ。 尚も胸への愛撫を繰り返しながら、慕白の指先はそっと脚の間の柔毛を捕らえた。 毛に触れられるだけで、ぞろりとした感覚が下腹から全身に広がる。 焼け付くように熱い部分を触って欲しい、秀蓮はそう思った。
「秀蓮・・・君は見かけによらず情熱的だ・・・ほら・・」 慕白は言いながら、茂みの上を往復していた手を差し出した。 こすり合わせてから広げた親指と人差し指の間には、粘度のある透明の糸が2〜3本引いている。 秀蓮は己が身の浅ましさに、消えてしまいたい程の羞恥を感じた。 しかし、これで彼は助かるのだ、思いなおして歯を食い縛った。 「さぁ・・・慕白・・・早く」 震える膝で何とか立ち上がると、慕白の前でわずかに脚を開けてみせる。 「・・・あぁ・・・では、頂くよ」 薄闇の中、炎に揺らめく肢体がほのかに輝く。慕白は半ば半信半疑だが、嘘だとしても悪くないと、 秀蓮に悟られないよう心の中で密かに思った。そして、目の前に広がる叢をそっと掻きわけ、 蜜に濡れた裂け目を、親指で両側に押し広げた。 「っ・ひっ・・・!!・・」 普段は匿われている秘部が空気に触れる。しかも目の前で慕白がそこをじっと見ているのだ。 自身でも、ましてや人になど一度も見られた事の無い場所が、自分の師である慕白の手によって晒されている。 恐怖と高揚感が一つになり、秀蓮は心の臓が止まりそうなほどの息苦しさを覚えた。
慕白の心臓も今にも止まりそうだった。毒の影響に加えて、夢にまで見た秀蓮の裸身に触れ、 今まさに味わんとしている。誰も知らない彼女のそこは、蜜を侍らせ果実のように輝いている。 包皮に包まれた真珠は小さく、遊ばれた形跡すら見られなかった。 慕白は頭を下げ、肉の壁に閉ざされ、未だ開く事の無い秘裂の奥に、余すことなく舌を這わせた。 「ひぃぃっ・・・ぁぁあああっっ・・・・!!」 嬌声と共に秀蓮の膝から力が抜け、全体重が慕白に掛かる。 肩で支えながら、蜜を吸い出すように唇を動かす。 微かな塩味が舌の上に広がり、とろりと消えて無くなる。 後には醗酵した秀蓮の香りが残り、それも消えてしまうと、またそれが欲しくなった。 「美味しいよ」 本心を口にしながら、硬くなった真珠を優しく舐めあげる。 甘美な美酒に酔いしれるように、慕白は溢れる蜜をすすり続けた。
あれからどれほど経っただろうか、洞窟内には薪のはぜる音と静かな寝息しか聞こえなくなった。 先程まで聞こえていた秀蓮の咽び泣くようなあえぎ声も止み、静寂が慕白の無事を語っている。 急に力尽きるように倒れた慕白は、恥ずかしさに涙を流す秀蓮に微笑みかけると、 そっと腕に包み込みそのまま寝息を立て始めた。 秀蓮は慕白の心臓が打ち続けているか、確かめずには居られなく、一刻以上もそれを聞き続けた。 弱かった音は力強さを取り戻し、一定の感覚をゆっくりと打ち続けている。 慕白の体温は温かく、等間隔で伝わってくる鼓動もいつしか秀蓮を睡夢へ誘ってゆく。 彼女が温いまどろみに落ちてゆくのと入れ替わりに、慕白は幾らか正気を取り戻してきた。 息の詰まるような胸苦しさは消え、まだいくらか身体はだるかったが、それでも調子が戻ってきたのは事実なようだ。 嬌龍を信じて居なかった訳ではないが、いささか驚いている。 腕の中の秀蓮は疲れ果てたのか静かな寝息を立て始めた。 乱れて解けつつある髪が、自分の腕や秀蓮の薄い頬に散らばっている。 何も身に着けていない身体が冷めないように、慕白はそっと自分の体でくるむ。 だが秀蓮の熱が自分の身に伝わって来ると共に、自分の中からも得体の知れない熱が湧いてくるのが分かった。
頭の中に、さきほどの彼女の声が甦る。けして高くない声が、快感に咽び泣く。 初めて聞いた声だった、思い返すだけで全身から熱が湧く。優しくゆっくりと秀蓮の艶の有る肩を撫でた。 「・・ん・・・。・・ぃやだ・・私寝てしまったのね?」 「あぁ、起すつもりはなかったんだ、まだ寝ていてもかまわない」 「いいえ、いいのよ・・慕白・・・あなたもう大丈夫なの?」 「お陰様で助かったようだ・・・秀蓮、君のお陰だよ・・・」 秀蓮はその言葉で思いだしたのか、恥ずかしそうに顔を臥せた。 慕白はその表情の一つ一つを愛しむように見つめる。 戸惑ったように視線を動かす彼女はようやく慕白を見つめる。 困ったように口を開き、やっとの思いで声に乗せた。 「・・・ねぇ・・慕白、その・・腕を離してちょうだい・・・私、服を着てないから・・・」 「どうして着る必要があるんだ?秀蓮、私はまだ君を手に入れていない!」 「・・・・・・・・・ ・・・・」 着させてちょうだい、と言いたい彼女の思いを、慕白は打ち消す。今まで何年もの永い時を無駄に してきたのだ、もう一刻だって無駄にしたくはなかった。
「私は自分に正直でいたい、秀蓮君を愛してる、ずっとだ、もう何も我慢したくない」 「っで・・でも・・・・ここで急には・・・思昭(スージョウ)に許しを乞えないわ・・・」 「・・・・思昭は・・・私を恨むだろうか・・・」 若さみなぎる慕白の親友で、義理の弟だった思昭。記憶に有る彼は今の自分よりずっと若い。 親の決めた相手だったが、少女の頃より彼に嫁ぐのだと聞かされていた。 実際の思昭と過ごした期間は極僅かで、沢山の思い出が有るわけでもない。 だが、私は思昭の物で、彼の為に敵きを打つのが当たり前だと言い聞かしてきた。 慕白と共に永きを過ごし、当然のように惹かれあったとしても、既に私は思昭の物なのだと・・・。 私がそうと思わなくとも、世間はそうだと言うだろう。 お前は思昭の物だと。 「今、また君を諦めたら・・・死んでも後悔するだろう・・・思昭に恨まれるほうが万倍ましだ」 「・・・私は思昭の物・・・世間ではそうなる・・。・・・・でも・・でも・・・ 私はずっと・・あなたを思ってきた。何も言えなかったけど、慕白あなたが好きだった!・・・今もよ」 秀蓮の鼻が赤らみ、瞳からは涙が澪れ落ちた。自分を抑えることには慣れてきたはずなのに、 口にしてしまうと今までの自分が、馬鹿馬鹿しく思える。涙は止まらなかった。
「君は意外と泣き虫だ・・・そんなに泣いては枯れてしまう」 ちゃかした様に微笑んで、慕白は秀蓮に唇を重ねる。 先程よりももっと優しく甘く、丹念に彼女を味わう。泣き濡れて震える唇をあやすようについばむ。 しゃっくりあげる秀蓮の背中を優しく擦りながら彼女の体温を全身に感じた。 洞窟の中の空気は乾燥していたが、そばで焚いている火のお陰で二人とも寒さは余り感じなかった。 慕白は藁の上に起きあがると、膝の上に秀蓮を抱き起した。 「解くのを手伝ってくれるかい?」 慕白は自身の着物の結び目を解きながら、秀蓮にもそれを促す。 そうすることが自分自身のふんぎりになるのだと、秀蓮は慕白の襟元に手を伸ばした。 節が目立つものの明らかに細い指が自分の喉元で繊細に動いている。 今からその手も含めて、秀蓮を形造るもの全てが自分のものになるのだ。 心だけでもなく、体だけでもない、そう思うと慕白の気は自然と急いた。 いつしか彼の着物も解け、日に焼けた肌が見えはじめる。 慕白は重ねた着物を同時に脱ぎ去り、藁の上に敷き重ねた。
服の上からでも分かる彼の体格の良さが、今はさらに際立って見える。 秀蓮は臥せた顔を上げる事も出来ず、耳までも赤くしてしまった。 慕白はそんな耳元に手を持っていき、いつも彼女の首筋を彩る一筋の後れ毛に指を絡ませる。 いつも彼女の髪に触れてみたいと思っていた。 固く結われた髪型は彼女の気持ちそのもののようで、落とした一筋の房が感情の現れのように思える。 それも今限り。慕白は秀蓮の後頭部に手を回すと、彼女の最後の装身具、櫛と簪を引き抜いた。 すると重力に屈するようにゆっくりと、髪は広がりながら解け落ちた。 「綺麗だ・・・ただ君そのものだけが美しい」 陶酔するような眼差しで秀蓮を見つめながら、所々で赤銅のように輝く髪を愛撫する。 「君の髪は変わってる・・・黒くないし真っ直でもない・・・」 「・・・慕白・・・やめて頂戴・・恥ずかしいわ」 彼の一言一言が秀蓮の頬を焼く、自分の人生には有りえなかった感情に翻弄され、 彼女の心は麻痺を起しそうだった。触れる肌と肌どうしが熱を増幅するのが分かる。 既にあれだけの事をしたのだ今更何を恥ずかしがる事が有るのかと思うが、その奥ゆかしさが秀蓮の最大の魅力なのだ。
慕白は髪の隙間から秀蓮の素肌を捕らえる。 手は短い背中を軽く擦すり上げると、自分のほうに彼女を引き寄せ、そっと首筋にかじり付く。 目を閉じ喉を上下させる秀蓮を弄ぶように、普段は隠された白い喉元にねっとりと舌を絡ませた。 慕白はもう中断させるつもりは無かった。両手を彼女の身体中に這わせながら、唇を首筋に上下させる。 彼は頬の脇、耳のすぐ下辺りに懸命に吸い付く。 立て襟からでも十分に見える位置に鬱血の後を残していった。 「あぁ、慕白・・・駄目よそんなところに!」 「私は何も恐くない、世間に向って叫びたいくらいだ『秀蓮は私のものだ!!』ってね」 「・・・ん・・あぁっ!」 言いながら慕白は再び秀蓮に舌を這わす。 そうすれば彼女の口が塞げるとばかりに、愛撫に熱を込めてゆく。 脇腹を擦すりながら唇を落としてゆくと、彼女の口からは吐息が漏れ始めた。 唇は張り出た鎖骨を愛撫しながら更に下に下がってゆく。慕白はそのまま彼女の乳房に頬を寄せると、 先程は余裕がなかったとばかりに、大きく深呼吸して秀蓮の肌の香りを吸い込んだ。 薄く張りの有る肌からは、彼女の家からする香の匂いがした。 柔らかな乳房に頬を挟まれていると、赤ん坊に戻ったような安心感が有るが、 それ以上に自分の中の欲望が、急きたてるように次を望んだ。
慕白は自分の欲望に忠実に、秀蓮の頂に舌を絡ます。 既に硬くなっていた先端が自分の舌先に心地よい刺激を与えた。 震える秀蓮の声に気を良くして、慕白は両手で乳房を揉みながら先端を唇で扱いてやる。 秀蓮は再び体の中心が熱くなる感覚を覚えた。 慕白の愛撫は激しくなるばかりで、先程覚えたばかりの疼きが下腹部から沸きあがる。 胸の先をねぶられる度に、その感覚が子宮に伝わるのが分かった。 今まで味わった事の無い感覚だが、自分の体が女として成熟しきっていると言う事なのだろう。 秀蓮の手が慕白の手に捕らえられ、力強く握りしめられると、彼の肩に回すよう促してきた。 自から慕白に触れる事に戸惑いを見せたが、温かく厚みの有る肩に一度触れてしまえば、 それに両腕を回し掻き抱くまでに長くはかからなかった。 無心に舌で胸を愛撫しながら、手は回ってしまいそうに細い腰を撫でまわす。 続く臀部の肉も引き締まってはいたが、強く揉むと慕白の手の中で形を変えた。 「ん・・んっ・・・」 慕白の手が双丘の中心を割り開くように動くと、秀蓮の口から抗議の息が漏れる。 だがその中心は思いのほか熱く、引っ張られる感覚に彼女も何時しか酔いしれていた。
彼の膝に座って掌による愛撫に全身を委ねながら、秀蓮は阿片でも吸わされたかのように朦朧とする。 それでも慕白の身体のある一部分が、敏感に変化しているのに気付かなくは無かった。 彼はまだ下履きを身に着けていたが、布越しに熱い塊が自分の脚に当たっているのが分かった。 「身体は正直だ」 慕白はとっさに秀蓮の戸惑いを見ぬいてそう言った。 大きく幌を張った下履きはその下に何かとてつもない物を隠しているように見える。 慕白はお構い無しに愛撫を続け、秀蓮を地面に敷いた自分の服の上に寝かせると、そのまま覆い被さってきた。 彼女は為されるがままに横たえられ、適度に掛かる慕白の体重の下で瞬きすら出来ないでいる。 「秀蓮・・・緊張しすぎだ・・もっと君の声が聞きたい、私以外誰も聞いていない」 慕白の優しい微笑みと口付けに、秀蓮は詰めていた息をなんとか吐き出した。 「・・!っひ!!あっ・・・」 彼はその瞬間を逃さなかった。微笑みを悪戯っぽく変えて、急に秀蓮の秘裂に指を滑らしたのだ。 彼女の腰が持ちあがり大きく跳ねたが、一往復だけそこをこすると彼の手は再び離れてしまう。 「・・・あっ・・・・」 思わず物足りない声が出てしまう。 慕白は意地悪く微笑んで、その指にたっぷりと付いた秀蓮の甘い蜜を、音を立ててしゃぶりながら、 少し体をずらして彼女の雌鹿のような脚を捕らえた。
「だめよっ・・」 すっと起きあがり、あっという間に足先にしゃぶり付く。 足をばたつかせて藻掻く秀蓮になど、相変わらずお構い無しに、指の間にねっとりとした舌を絡ませてくる。 「んぁぁ・・・駄目よぉ慕白・・・足なんか見ないで頂戴!お願いよ」 「何故?」 「・・・・だって・・・・大きくて不格好だから・・・・」 「どうして?天上の蓮もその華は雅だが、根はたくましい」 「・・・・・・・・」 「私は君の全てを味わいたいんだ、醜いものなど無い」 緊張のせいで冷えた足先を自分の頬に当て、慕白はその感触を存分に味わった。 そうして再び口に含む、温かく滑りのある舌が、指を一本一本丁寧に舐め上げる。 手は筋を辿って上に伸び、筋肉の付き方を確かめるように、全体をま探った。 いつしか唇は指を離れ、足首に有る腱に甘く噛みつく。 両膝は慕白の肩に担ぎ上げられ、その唇が内腿沿いに上がってくる頃には、 炎に照らされた愛液で、尻のすぼみまで光っているのが分かった。 慕白は愛撫に敏感に反応する秀蓮の身体が嬉しかった。 脚の付け根に何度も舌を這わせながら、細い毛を撫で上げる。
「ぁあん・・・」 序々にでは有るが、秀蓮の喉から小さなあえぎ声が漏れ始める。 その濡れ光った割れ目には触れず、叢だけを撫で続けた。 そうしていると、割れ目の奥で秀蓮の媚肉が収縮し、絶え間無く蜜を吐きだし続ける。 散々嬲り続けた後、我慢が効かなくなったのは慕白の方で、赤く震える肉のひだを割って、再びその味を堪能した。 「・・あぁぁぁ・・・・んん」 逃れようと浮き上がる彼女の腰を抑えつけて、舌先で丹念に掃き清めていく。 指で陰唇を捲ると、中から薄桃色の膣口が見えた。 人差し指でその入り口を撫でてみると、秀蓮から抑えきれない声が漏れる。 しばらく揉みほぐすように愛撫し、その間も舌は小粒の真珠を舐めまわす。 いつしか秀蓮も声を堪えることを忘れ、慕白にされるがままに感じ入るようになっていた。 だが、突然見えない穴の中に無理やり指が侵入し、秀蓮を現実に引き戻した。
「ぐあ゛あ゛っっ!!」 「秀蓮!力を抜いて。大丈夫だ、指が一本入っただけだ」 余りの秀蓮の激し様に慕白も驚きはしたが、入れた指を抜こうとはせず、 そのまま上体を起して秀蓮の方に向き直った。もう片方の手で、乱れて額に掛かった髪を優しく撫で付けてくれる。 「大丈夫だ・・・秀蓮、大丈夫だ・・」 落ち着かせるようにゆっくりと、何度も大きな手でその額と頬を撫でた。 「御免なさい・・・初めてだったから・・・」 緊張が解けると涙腺が緩む質なのか、秀蓮は身体の力を抜くと共に、大きな目を潤ませた。 「深呼吸して、私に任せるんだ」 言ってみたものの、秀蓮の不安さはとてつもないものだろう。 この年まで武侠に身を起き、女を捨てやってきた彼女は、この手の情交に全く持って疎い。 少しでもその不安を軽くしてはやれないかと、慕白は愛情篭めて接してやった。 寝かした秀蓮を起こし、再び自分の膝に収める。 彼女を横抱きにだき抱え、片方の脚を自分の胡座に引っ掛けて開かせ、その上体が倒れないよう、片腕で支えた。 少しでも密着し、自分を感じられる方が安心するだろうとの思いだった。 「この方が良い。私も君の顔が良く見える」 安心感を与える柔らかい笑みを浮かべながら、秀蓮に口付けする。 彼女の顔にようやく笑顔が戻った。
「さぁ、集中して私の指を感じるんだ・・・君の中で動いているだろう?」 慕白は指先に集中して、秀蓮を傷つけないよう細心の注意を払いながら、その中で指を動かした。 彼女の中は熱く、柔らかく、とても窮屈だ。たっぷりと濡れているせいで、指は動かせるが、 それ以上の余裕は感じない。中をまさぐるように動かしてみると、秀蓮の口から溜息が漏れる。 そこは何層にもひだが重なり合っている部分で、柔らかい肉の感触の中に違う刺激があった。 「んん・・・ぁ」 慕白は優しく揉みほぐすように、そこを広げてゆく。時に他の指で豆粒に触れてやったりしながら、 熱い蜜の出る泉を隅なくかき混ぜてやった。 「・・・秀蓮・・・もう一本いいかな?」 秀蓮の頭が縦にこくんと動く。慕白の教えに従って、深く呼吸をしながら体中の力を抜いた。 指は水音を響かせながら一度抜かれ、秀蓮の口元に運ばれる。淫媚に濡れた人差し指で、 彼女の唇をなぞった。驚きで軽く開いた口の中に、今度は中指を侵入させる。 熱い口中に指を躍らせ、秀蓮が自ら舌を絡めてくるまで慕白は待った。 「・・・んぁ・・・」 秀蓮は促されるまま慕白の指に、舌を絡めるように動かしていった。 先程唇に付けられた自らの愛液が、唾液に混ざって流れ込んでくる。 味よりも、何とも言えないような匂いが口中に広がる。 慕白にとっては、この味が五感を刺激するのだと思うと、何だか自分までがその気になってきた。 しばらく秀蓮の舌の感触を、想像力を働かせて楽しんでいた慕白は、彼女の腰の下辺りで、 脈打つほどに膨らんだ陽物に急きたてられる様に、その口から指を引き抜いた。 その中指を彼女の割れ目に滑らせる。何度か刺激してからゆっくりと挿入した。
今度は少し声を洩らしただけで、指はなんとか飲み込まれていった。 入り口の辺りで引っ張るように動かしていく、少しでも慣れるように慕白は気を使いながら愛撫する。 のけ反る秀蓮の背中を支えながら、背を屈めて胸に口付け、舌で先端を愛撫し始めた。 「・・ん・・ぃい・・ぁあ・・」 唇で挟みながら、舌先で何度も転がす。 そうしている間に、人差し指は中指に添えるようにして再び侵入を試みる。 きつい入り口をほぐす様に、ゆっくり、ゆっくりと二本目が入ってくる。 秀蓮の口から苦痛の声が漏れ始めたが、何とか挿入を果たす事ができた。 「ほあ、はいっは」 胸への愛撫は止めずに言う。入ったものの動かすには至らず、静止したまま親指で回りを愛撫する 「あんっ・・・」 敏感な陰核を弄ばれ、思わず大きな声が漏れた。 残りの指は、溢れ出た愛液の溜まり場となった菊門の皺をなぞり始める。 「ひっ!ああぁっ!・・・・何をするの慕白・・・・ん・・ぃやぁあ・・ん」 「そんなに嫌がっている声には聞こえないな」 味わった事のない感覚に体中が粟立つ。 慕白がゆっくりと中の二本を動かしている事に秀蓮は最後まで気付かなかった。 終りに大きくかき混ぜて、二本の指は音を発てて抜けた。 「・・・ ・・・・ ・・・」
何事か悟ったような秀蓮が、色の見えない瞳で慕白を見つめる。黙って見つめ返す慕白は、 静かに肯いて秀蓮の細い身体を力一杯抱きしめ、耳元でそっと もう我慢出来ない と囁いた。 秀蓮の身体は再び服の上に横たわる。慕白は意を固めて、最後の着物に手を掛けた。 横たわったままの秀蓮には、立ち上がった慕白の身長はとても大きく見えた。引き締まった身体、 大きく厚い胸板、精悍な顔立ち、どこから見ても男らしく、全てに至って彼より優れた武侠など 見たことが無い。自分は大した取り柄など無いが、慕白が見ていてくれたから少しの自信が持てたのだ。 彼が嬌龍に興味を示した時、自分自身の価値が崩れていく気さえした。 自分を愛してくれる慕白が居なければ、きっと生きては行けないだろう、今までも、これからも。 「慕白・・来て頂戴・・・私を愛して」 そっと隣に横たわる。もう二人とも何も身に着けていない。しばらくもつれ合って、 お互いの肌の感触を存分に楽しんだ。だが、秀蓮にも分かっていた。 自分の肌を突く慕白の怒張が限界に達していると言う事に。 それは焼けそうに熱く、秀蓮の肌に粘液の跡を残した。 「・・・・・慕白、いいのよ」 「・・・・・秀蓮・・・・」
慕白はいよいよ起き上がり、秀蓮の膝を割った。大きく開かせた脚の間に入り込み、 彼女の腰に先程脱いだ自分の下履きを丸めて差し込んだ。秀蓮の可憐な花びらに自分の怒張を置いてみた。 ぴったりと吸いつくように、陰唇が慕白を包み込む。 少し動かしただけで、天にも昇りそうな気分になる。 一度秀蓮に口付けを落としてから、片手で槍先を膣口にあてがった。 秀蓮は一度息を詰めて、身体を強張らせたが、慕白の教えを思いだし深呼吸始めた。 「・・・秀蓮、帰ったら結婚しよう、すぐにでも・・・」 それはとても真摯な眼差しだった。 「ひっ!!あああぁぁっっ!!!」 慕白の腰がすいっと降りた瞬間、洞窟内に秀蓮の絶叫が木霊した。 秀蓮は無我夢中で、手近に有った慕白の辮髪を掴む。肉の千切れる音が聞こえそうな程の痛みだった。 慕白は取り乱す彼女を優しく慰めてやる。 今や慕白は、秀蓮の中深くに入り込み、十何年思い続けてようやく一つになれた。
「済まない、秀蓮・・・・痛いだろうが我慢してくれ」 痛みの余り澪れた涙を舌で拭いながら、慕白は愛しい人の身体をきつく抱きしめた。 「・・あぁ・・・慕白、愛しているわ」 「あぁ、私もだ。愛してるよ」 慕白の体重の下であえぎながら、秀蓮は何とか彼に腕を回し、その身体が離れないよう、 固くしがみ付いた。下半身は焼き小手を当てられたような痛みだが、 それでも慕白が自分の中に入って来たのだと思うと、この痛みには大きな価値が有ると秀蓮は思った。 暫くじっとしていた慕白だったが、秀蓮が落ち着くのを見計らって、気遣う様にゆっくりと動き出した。 中は思ったように狭く、一部の隙間無く慕白に絡みついている。 奥まで差し込めば、こりこりとした子宮口に先端がぶつかり、手前に引けば、幾重にも重なった天井が竿を引っ掻いた。 「・・・あぁ・・・」 慕白は思わず声が漏れた。背筋から快感が昇ってくる。 秀蓮に負担を掛けないよう、それでも腰を動かさずには居れなかった。 味わった事の無い、狭窄感が慕白を襲う。それが秀蓮なのだと思うだけで、 今まで感じたことの無い至福の境地に到達した。
慕白が出入りする度に、激しい痛みに歯を食い縛る。 だが、彼の陶酔した表情を見ていると、痛みすら和らぐ気がする。 しばらくその表情を見ていると、太く凛々しい眉が歪められ、中で慕白が大きく震えた。 「っ・・秀蓮っ!」 自分の奥に何か熱いものが広がるのが分かった。一瞬のち慕白の目が開き、瞳がかちあう。 薄く微笑んだかと思うと、その全体重が秀蓮に被さってきた。耳元に彼の熱く荒い息が掛かる。 大きく肩で息をして、ゆっくり秀蓮の上から降りた。 慕白が抜け落ち、中から逆流した彼自身の欲望の証が溢れてくる、秀蓮は慣れない感覚にぞくりと身を震わせた。 慕白はようやく起き上がり、すぐさま秀蓮の傷を確認する。 思った通り、白濁液に混じって幾筋もの赤い線が、彼女から垂れている。 腰に当てた下履きを外すと、彼女の尻の下は血に濡れてべったりとしていた。 「御免なさい、慕白・・・あなたの着物を汚してしまったんじゃない?」 「ん?・・・あぁ、そんなこと気にしなくていい」 言いながら慕白は、さらに汚れが広がるのも気にせず、秀蓮の股を優しく拭う。 それでも滲んでくる血を見て、携帯用の血止めを応急処置に使った。 「・・・ありがとう」 夜明けまでそう長くは無い。二人は再び一塊となって短い眠りに着いた。
「お嬢様!!あぁ、何て事・・・秀蓮お嬢様!」 みるみる間に血の気の引いた呉姥(ウーヤ)を見て、慕白は急いで秀蓮の無事を告げた。 「疲れただのだろう、少し休ませてやれば元気になる。部屋まで運ぼう」 呉姥はそう聞いて、突如元気を取り戻し、慌てて秀蓮の部屋へと案内する。 事の次第はこうだ。翌朝馬を駆って屋敷まで戻った二人だったが、余りに目まぐるしい一日に、 家まで戻った安心感からか、秀蓮は門のところで倒れてしまった。 何事も無かったように馬を止め、秀蓮はいつものように、舞うかの如く馬から降りた。 慕白もそれに習おうとした瞬間、彼女は足元から崩れるように、その場に倒れてしまったのだ。 慌てて秀蓮を掬い上げて、院子に入っていった慕白を、心配しながら待っていた呉姥が見つけたと言う訳だ。 あちらこちらに血の跡を着けた慕白が、青白く表情のない秀蓮を抱いて、朝早く戻ってきたのだ。 呉姥は心臓の止まる思いをした。 「もぅ、私ゃすっかりあの小娘か碧眼狐にやられたのかと思いましたよ。さ、こっちです」 二階に上がると、思昭の位牌が目に入る。毎日線香をあげているのだろう、 積もった灰の厚さが秀蓮の、彼への精一杯の愛なのだと思えた。 それはこれからも変わらないだろう、腕の中で眠る小さな愛人は、そういう人柄なのだ。 今も昔も。そっと寝台に降ろし頬に掛かった髪を撫でてやった。 「着替えを頼むよ、後は少し脱水症状を起こしているかもしれない」 愛おしそうに秀蓮の頬に触れながら、慕白は呉姥に告げる。呉姥はそんな慕白は見た事がなかった。 いつも二人の間に見られる微妙な距離感が、今日は全く見られない。 不思議に思いながらも、女中たちにお湯の用意をするように言いつけた。 「私も着替えてくるよ、お湯を借りてもいいかな?呉姥」 「えーえー、構いませんとも。ゆっくりしていって下さいねぇ」 女中たちがお湯を持って入って来るのと入れ替わりに、慕白は秀蓮の部屋を辞した。
「そこに置いといてちょうだい。後は私がしますからね」 桶を置いて皆が出ていくのを確認すると、呉姥は寝台に腰かけて、ゆっくりと秀蓮を眺めた。 今見てみると、思ったより顔色も悪くない。先程よりはずっと穏やかな表情で眠りについている。 子供の頃に寝かした秀蓮を、よくこうやって眺めたものだった。呉姥には子供がいない。 秀蓮が生まれる少し前に、死産してしまったのだ。 彼女が生まれて乳母の役目を仰せ遣った時は、本当に嬉しかった。 この子こそは天の遣わした贈り物なのだと思った。 呉姥は桶に入った手ぬぐいを固く絞り、秀蓮の額をそっと拭ってやる。 頬に首筋と順に拭きながら呉姥は秀蓮の首に、見なれないあざを見つけた。 ぱっと花が咲いたように紅く、何か変わった病気に罹ったのではないかと、突如心配になりだした。 すると、秀蓮の目が二三度瞬き、ようやく呉姥に視点が合う。 目を醒ました秀蓮に、大きな喜びを露わにする呉姥。だが秀蓮の瞳は一瞬の間戸惑いを見せた。 「・・・・・・・ ・・・・・・」 今、全ての事に合点が入った。呉姥は心の中で大きく肯いた。 いったい全体、どうしてこの一日でこんな事になったのか検討もつかないが、 二人の中が大きく進展したのは確かなようだ。 呉姥が何時も心から願っていた秀蓮の幸せが、ようやく実ったのだ。 「あぁ、お嬢様。ご無事で何よりですよ・・・体を拭いて服を着替えたら、もう少しお休みなさいまし」 呉姥は涙がこぼれそうになるのを我慢して、せっせと秀蓮の身体を拭いた。
日は天中に昇り、外は寒いながらもうららかな日差しが人々を暖めている。 秀蓮も掌にそんな暖さを感じながら再び目を醒ました。先程よりも頭がすっきりと明晰になっている。 横を向くと、自分に大きな影を作る人がいるのが見えた。 寝台に腰かけ、自分の手を握ったままうたた寝しているのは慕白だ。 彼を起こさないよう、手は握ったままそっと上体を起こす。 柱に頭をもたせ、薄い絹の天幕の向こうから手だけこちらに出している。 一体どんな夢を見てるのだろう、薄絹の向こうの顔は満足そうな微笑を口元にたたえている。 秀蓮までもが幸せな気持ちになれるような柔らかな笑みだ。温かい掌から気が満ち満ちて来るのが分かる。 秀蓮は何の杞憂もない、清々しい一日の始まりを、十数年ぶりに感じていた。 「慕白・・・そんな所で寝ていては風邪を引くわ」 そっと慕白を呼びながら、天幕を捲り上げる。 呼びかけに目を醒ました慕白は、秀蓮の調子が元に戻ったのを見て、安心したように優しく抱き寄せた。 「元気になって良かったよ」 「あなたこそ」 部屋には誰も居ない。横目で辺りを確認して、秀蓮はそっと目を閉じる。温かい慕白の唇が重なり、 その温度が互いに伝わるまでゆっくりと重ねあう。 「さぁ、まず手始めに・・・思昭に報告しよう。私たちの結婚のことを・・・」 慕白を見つめる瞳が縦に揺れた。秀蓮は穏やかな笑みを浮かべ、自ら立ちあがる。 二人は数歩の距離を、共に歩む人生の最初の道を踏み出す。 十数年の距離を歩いた道のりは、今ようやく一つになった。 完
52 :
22 :04/05/20 03:12 ID:aqxb3UkX
需要も無い上、無駄に長くてスマソン・・・ エロだけも何なので、前後が余分に付いちゃいますた。 多分、誤字とか出てくるかもしれないけど、見過ごしてちょw
グリデス小説、一気に読みました。
『女好きの南鶴の傍には処女が居なかったから助けられなかった。』
この設定、本編の「師匠は女を抱くだけで〜」に繋がってて(・∀・)イイ!!
ムーバイとシューリン(ファ様と姐さん)の萌えシーンが読めて本当に
ヨカータ。
>>22 さん、ありがとん。
大作お疲れさまでした。 正直、元ネタを知らなかったので紹介されたサイトで泥縄の知識を得てからでしたが充分楽しめました。 甘い科白や初々しい反応がツボにはまりました。 最後の呉姥も良い味を出して物語を締めてましたし。 欲を言えばアクションシーンも欲しかったけど。 さて、第一弾のSSが投下されて上々の滑り出しになりました。 これで”子犬のワルツ”の人やQ&Aスレの海外特撮の人も来てくれたら賑やかになりそうです。 古今東西の色々な作品のSSが集まるスレになって欲しいです。
55 :
SS保管人 :04/05/20 22:29 ID:AQDPv6VY
>>52 =22
文才のある方ですね。
エロ以外の部分の表現も、とても良かったです。
王様×アンナも激しくキボンいたします。
57 :
名無しさん@ピンキー :04/05/21 22:02 ID:NE9xLpxI
>>52 GJでした。
この手のSSが読めるスレはなかったから新作も期待したいな
>>52 さらに後日談で、
・慕白によって開発されていく秀蓮
・嬌龍と浮気してしまう慕白
などもお願いしたいでつ。
ストイックに見えたムーバイが、意外とやり手で萌えますた。
60 :
22 :04/05/22 04:36 ID:aHcmizpc
皆さん感想ありがd がんがって良かったでつ♪ 自分はシューリン激萌えなので、 後何作かはこのカップリングで書きたい・・・ また気が向いたら載せさせてください。
そんなすぐに
>>22 タンの次の作品がうpされるはずはないと
わかってるのに、頻繁にスレを覗きにきてしまう。w
笑われるかもしれないけど、
>>50 の
>今、全ての事に合点が入った。呉姥は心の中で大きく肯いた。
以降の呉姥の心情部分でウルウルしてしまった。
エロパロ読んでウルウルするなんてはじめてだ。w
64 :
22 :04/05/25 03:35 ID:ojR5JVky
>>55 お返事遅くなって済みません。
私の書いたものに関しては収蔵して頂いて構いません。
どうぞ、宜しくお願いします。
65 :
名無しさん@ピンキー :04/05/29 21:53 ID:Lp50Xqrb
仔犬のワルツの人まだ〜〜? 海外特撮の人まだ〜〜?
シューリンの新作も待ってますー。
仔犬のワルツ書いていいカシラ? カップリングは決めてないけど、葉音で書きたい 相手は誰がいいか意見キボンヌ
子犬キボンage!! 葉音…なら歌乃とかw …自分も子犬書く気でいるんですがちと今別の書いてて; 早めに切り上げて書くぞ〜!
69 :
名無しさん@ピンキー :04/05/30 14:21 ID:cQ49+ry5
仔犬、いいですよねー。 今週の見て、光→ノッティー→歌乃→聖華の関係に萌えてしまった。
第四話の「聞いてあげなさい」からの ノッティー→聖香萌えの自分としては、めっちゃ複雑だった… しかも聖香だけ他の四人への心情がないしw ……でも、ノッティー×聖香はあきらめないけどな〜 不良とお嬢、 マザコンにしっかり者、 と言うのは自分の萌えの王道なんだよぉ…
あ、
>>70 =
>>68 です。
今書いてるの終わったら絶対書くよ!!
……だからそれまでは語りだけで…
(´-`)。о0(同時に別ジャンル書ける器用さが欲しいなぁ…)
応援age
74 :
名無しさん@ピンキー :04/06/04 18:09 ID:pptbt6yS
エルム街の淫夢でホラーちっくに犯しまくりのきぼん!
ちゃんと見てるよ!応援sage
映画版『CASSHEN』ルナ陵辱モノが書きたいとふと思ったが 相手を誰にしようか考え中。(でも鉄也はナシ)
77 :
名無しさん@ピンキー :04/06/07 12:21 ID:Ayf0OsV3
>>76 イイ!ぜひ書いてください!
期待してます
78 :
名無しさん@ピンキー :04/06/07 17:38 ID:qvwcLW9x
>>76 今のところ隆辱モノは兵士しか思い当たらん
新造人間はそんなことしそうにないし・・・
チャーリーズエンジェルの凌辱ものが読みたいです
80 :
名無しさん@ピンキー :04/06/08 20:46 ID:J7xRlzm0
81 :
名無しさん@ピンキー :04/06/08 21:03 ID:uIMFZSB1
>>79 当然、サブリナ・ダンカン、ジル・マンロー、ケリー・ギャレットだよな。
クリス・マンロー、ティファニー・ウエルズでもいいぞ。
82 :
名無しさん@ピンキー :04/06/09 20:29 ID:byzAEJQ3
>>78 確かに新造人間は人間には性的な興味はなさそうだな
ローマの休日でエロきぼん! 無菌培養でHのことを何も知らない王女に…
王女をうやうやしくベッドに移す記者が萌えだったなぁ。 マイ・フェア・レディもいいな。レディとしてのたしなみだけでなく、愛を教えてくれるヒギンズ教授〜♪
85 :
名無しさん@ピンキー :04/06/15 19:47 ID:RA7Wl3+x
サウンド・オブ・ミュージックでナチスに捕まって性的拷問を受けるのを…
86 :
名無しさん@ピンキー :04/06/16 20:29 ID:uNlwPkV8
>>86 自治厨が何をあほなことを…
例えリクの書き込みでもなんでもいいから書き込め。
誰も見てる者がいなさそうなスレに誰が書きたいと思う?
もっと他所のスレ、特に総合系のスレをROMってきたら?
多種多様な作品のファンが同居しているスレの在り方を勉強したら?
月曜ミステリー「探偵・左文字進」の左文字×史子の短編エロSSを構想中です。
test
ここってもう終わったドラマでもOK? いや、あまりにも前のドラマ(十年とか)だったら 逆に記憶に残ってそうだけど、 ニ、三年くらい前のドラマとかでもいいのかと思って。
>>90 OK!
できれば簡単な説明があれば嬉しいな
ありでしょ!
ほしゅ
94 :
名無しさん@ピンキー :04/07/06 00:13 ID:BbnqTP5G
hosyu
牡丹と薔薇スレ立っていたのですが すぐに落ちてしまったので、ここに書きます。 香世×牡丹で香世が攻めで牡丹が受け 時折、香世が牡丹に甘える感じも出してください。 ドラマ本編の通り、SM・レズ・言葉責め系のものでお願いします。 でも、あまりエロ描写をグロめにしないで下さい。 エロというよりも、精神面の愛を大事にするみたいな感じで。 長めだと嬉しいです。 以上、注文ばかりしてすみません。 できる限り、答えていただけると幸いです。
ドラマ本編終了7年後の話です。 「うわ〜遅刻しちゃう!!お母さんお母さん、お弁当〜〜!!」 どたどたと足を踏み鳴らして階段を駆け下り、制服のタイを結びながら、進藤仁美は台所 にいる美和子に怒鳴る。人生十八年。今まで遅刻を全くしてこなかったのが、仁美のささや かな自慢だった。それなのに。 「…今日しちゃうなんてありえない…!お母さん!」 もう一度己を強く呼ぶ声に、美和子はふうとため息をつく。足をその場で踏み鳴らして自分を 待っている娘に、ピンク色の花模様の巾着に包んだ弁当箱を差し出した。 「…あ、仁美。いって…」 らっしゃい、と居間で新聞を読んでいた父親の勘一が言い終わる前に、仁美は差し出された 弁当箱をひったくって「いってきます」と言い捨て、慌ただしく家を出て行く。数秒後、自転車の 甲高いブレーキ音と隣に住んでいる溝口氏の悲鳴が聞こえ、交通事故は起こさないでね、と 美和子が再びため息をついた。 「…いつになったら女の子らしくなってくれるのかしらねえ…」 「うーん…ま、まあ、あれも仁美のいいところ…かな…?」 娘を思って呟かれた言葉は、青々とした夏の高い空に空しく消えていった。 足の力の全てを自転車のペダルに集中させて漕いで、タイヤの回転を早くする。運動熱の所為 で体温が上昇し、涼やかだった朝の空気が一気に蒸し暑く感じられた。背中を伝って流れる 汗の不快感に、一瞬眉をひそめるが、何とか学校に間に合いそうなのでよしとしようと思う。
ふと横に目を向けると、田園風景と青い空が目の前に流れた。 そういえば、と思う。あの人たちも、今のあたしみたいにいつも自転車を全速で走らせていた。 青々とした空を背に、稲穂を揺らすように、早いスピードで。まるでその先に何かが――自分 達の求めるものがあるかのように。短い夏を、全力で駆け抜けていった。 仁美は目を細める。 一生忘れることができない夏だった。 あの五人が、とても眩しかった。七年も前の事なのに、色あせずに笑っているのを今でも思い 浮かべることができる。その中の、よく喋る口元に人のいい笑顔を浮かべている少年の姿を思 い出して、仁美の胸がちくりと痛んだ。 十一歳で子供だったけど、と思う。あたしは本気で好きだった。彼が妹みたいにしか見てなか った事も、あたしだけが切なかったのも知っていたけど。――相変わらず疼く胸に、まだふっき れていなかったのか、と内心苦笑する。彼がこの町を離れると知って、一日中泣いて目を腫 らして。この気持ちを忘れようと思ったはずなのに。 胸にたまった苦しさを吐き出すように、大きくため息をつく。 「…タテノリ…」 小さく名前を呟いてみると、ナマイキ娘、とあのお気楽な声が聞こえてくる気がする。あの頃は しなかった、唇を歪めるだけの笑みを浮かべて自嘲した。
「…おお〜い、ナッマイッキむすめ〜〜〜!」 ――まだ幻聴がする。笑みを止め、唇を引き結ぶ。そんなに感傷的な性格だったか、あたしは。 ペダルをこぐ足はそのままで、仁美はううむと考え込んだ。しかしそんな仁美の考えを邪魔する様 に、相変わらず彼が自分を呼ぶ幻聴がする。その上車のクラクションの音が加わり、更に仁美の 神経を逆撫でした。お世辞にも気が長いとはいえない仁美は、ひたすら続く騒音に段々眉根の 皺を深めていく。明らかに意図されて間抜けに鳴らされているクラクションに、とうとう――切れた。 「…うるっさいっつーの!!」 一喝し、騒音の原因となっている車の方を向いた。 瞬間。 「……は、」 大きく開けられた口からは、間抜けな吐息しか出なかった。――だって、開いた車の窓から少し乗り 出し、こちらを見て悪戯っぽく微笑んでいた男性は。 あの頃のように真っ黒に日焼けしていないけれど。顔の輪郭がシャープになって、精悍になったような 気がするけれど。 「…タ…テノリ…?」 渇いた喉から何とか声を絞り出して名前を呼ぶと、立松憲男は笑みを深めた。
「よお、ナマイキ娘。やっと気づいたな」 仁美はぱちぱちと瞬きを繰り返し、立松を見つめることしかできない。その様子に、そんなに吃驚する ことかい、と立松は苦笑するが、仁美の自転車の前方に広がっている水田の水路が目に止まり、笑 みを強張らせた。 「ひ、仁美!!今すぐ止まれ!前!!」 いきなり立松が叫んだので、一瞬仁美は何のことか分からず、きょとんとしたままである。記憶にある 仁美とは違い、おそろしく鈍い反応に――こんな反応なのは、立松がいきなり目の前に現れた所為 なのだが――立松は焦ったように眦を垂らさせ、それでも必死に「前だって!」と叫び続ける。 その声にようやく仁美は反応して、視線を前に向けた。が、如何せん遅すぎていて。 ――まずいと思った瞬間にはもう、水路に突っ込んだ後だった。 続きます。
俺もボタバラのSSみたいから、
>>95 が書いたようなのでも、何でもいいから
神よ!どうか書いてくだされ。
>>99 文章が読みやすくていいね。
続きをお願いするよ
ひとみたん×タテノリキター 放映当時この二人に萌えてた身としてはすごく嬉しい。
ヤヴァイ。 綾瀬はるかマジ可愛い。 でも役者萌えだめなのか(´・ω・`)
映画でもいいんだよな? ドラマはあんま見ないから書けないし…
107 :
22 :04/07/13 18:23 ID:dnzn5pP0
また書いちゃいました。 またもやグリーンでムーバイ×シューリンです。 今度はエロのみで、前回のお話とはまた別バージョンです。 字幕のムード(私は字幕の方がムーバイが高圧的な気がする) で書いたつもりです。
北京市内に大きく構える屋敷で、秀蓮が火消しを蝋燭に被せた時は夜もだいぶと更けた後だった。 足元に注意しながら寝台に上り、実に久し振りに軽くて暖かい布団に包まり、赤ん坊の様に寛いだ気分になった。 安徽から北京までは長い旅だった。慕白と二人で鐵氏に頼まれた仕事を終え、ようやく北京に戻って来る事が出来た。 温かく綺麗な風呂に入り、ゆっくり休めるのが、秀蓮は嬉しくてしかたがなかった。 間もなくして気持ちの良い眠りがやってくる。現と夢の間をさまよい、眠りに吸い込まれる。が 「・・・・!!?」 心地よい気分は一瞬にして吹き飛び、心臓が激しく鳴る。闇の中から伸びた大きな手が、秀蓮の 口をきつく塞ぎ、息も出来ないくらいに押さえこむ。冷静な判断もままならない内に、大きな身体が 寝台の上にあがり込んできた。 「しっ・・・私だ」 尚も心臓は狂ったように鳴り響いている。その手が慕白の物だと分かった今でも、恐怖と驚きに息も出来なかった。 そのまま鼓動が止まり、意識が薄れそうになる。大きく見開いたままの瞳は、瞬きもせずに空虚を見つめていた。 慕白は気にする様もなく、秀蓮が叫ばないか確認してその手を離した。 大きな体躯でのしかかり、おもむろに彼女の唇を間探りながら、寝具の下に手を差し込む。 「・・・ん・・・っ・・む・・慕白・・何を・・するの・・・」 震えて乱れる息で何とか言葉を紡ぐ。 「決まっている」 「・・・・なっ・・何を考えているの!・・ここは鐵様の屋敷よ」 秀蓮は顰めた声で、それでも語気は荒く慕白に抵抗した。
「解っているさ。でもお前が欲しい」 「駄目よっ!・・もしこの事が知られでもしたら・・・私たち!・・・」 話している間にも、慕白は身体全体を押しつけるようにして秀蓮を味わう。 「ならこうしよう。これならいざと言う時、私一人が打ち首だ」 言うなり秀蓮の手首を捻り、側に有った腰紐で強固に縛り上げた。 「何をするの?!慕白っ!」 「犯されたと言えば良い」 更にその手を寝台の枠に括り付け、あっという間に秀蓮の動きを封じてしまった。 「そんな駄目よ慕白!」 世間には言うことの出来ない間柄になってからというもの、常に辺りに気を配りその関係を周到に隠してきた。 この屋敷の主人は二人が一方ならぬ世話になった人物であり、この事が見つかってしまえば、裏切りに匹敵すると秀蓮は考えていた。 亡き婚約者を裏切り、その上に己の師匠と不貞を働くなどと。 そんな秀蓮の考えなど知らぬふりをして、慕白は温かな首筋に唇を寄せる。 しばらく振りの秀蓮の香が、鼻腔と下半身をくすぐるのを感じて、先を急ぐように上着の留めを解いていく。 露わになる肌を楽しみながら、開ききった上着を袖に通したまま、下着だけを更に取り去る。 縛られた秀蓮は抵抗も出来ず、とうとう慕白の目にその胸を晒してしまう。 彼の大きな手がそれを一撫でするだけで、秀蓮の身体には漣のように鳥肌がたった。 「・・あぁ・・」 何とかして手を解こうと思えども、慕白の力で結ばれた紐は、秀蓮の力ではびくともしない。 それどころか、胸に愛撫を加えられるたび、体から力が抜けて、されるがままとなってしまう。
「・・やぁ・・・やめて頂戴・・」 「・・・本当に?」 指は敏感になってきた乳首を掠め、肋骨をなぞり臍の窪みに降りてゆく。 素肌を愛撫されるたび秀蓮の腰は浮き、身体は続きをねだるように疼く。早くも股の付け根が火照りだした。 闇に慣れてきた目は、暗がりにいつもの聖者のような笑みを浮かべた慕白の姿を捕らえる。 整った目鼻立ちに、一文字の眉が精悍さに拍車をかけている。緩めた口元が少し風変わりな形だといつも思う。 秀蓮はこの数年で、夜その顔を浮かべる慕白は、いつも聖者とは真反対の男になる事を学んだ。 そして自分がそれにあらがえない事実も学んだ。慕白は尚も己の極めた剣術のように、軽やかで柔軟に指を滑らせる。 大きな体から想像もつかない、羽のように微妙な愛撫を施した。 「あぁ・・・ぁ・・」 秀蓮の唇から歓喜の溜息が漏れる。抑えようにも抑えのようのない快感が、全身をゆったり漂う。 「随分といやらしい身体になったものだ。縛られた上に愛撫をされて、お前の乳首はこんなにも固く尖っている」 言いながら人差し指で弾くように刺激を加えると、秀蓮の突端は更に強度を増した。 「あうっ・・」 慕白は薄闇の中、恥辱と快感に震える秀蓮がとてつもなく愛おしかった。 寝台に括り付けられた身体は細く引き締まり、腰から着たままのゆったりした履物が、ことさら彼女を華奢に見せていた。 緩く編まれた長い髪は肩口に散らばり、張りの有る膨らみが鍛えた胸板にちょこんと載っている。 普段は義侠心も厚く、男よりも優れた剣士などという事は、瞳の奥にしまい込み、 自分の手によって一人の女に生まれ変わる彼女が、可愛くて仕方が無かった。 早く秀蓮の美しさや可憐さを、世間に隠さずに口に出来る身分になりたいと思う。 昔から、彼女ほど優れた女性を見た事がない。 思昭から聞かなくても解っていた、彼女が如何につつましく、優しさと知性を備え、その上に強く、美しいかを。 いつも全てを自分の物にしたいと思っていた。 それが武當の修行の道から外れた考えだと解っていても、秀蓮を諦めきる事は出来なかった。 今この瞬間にも、やはり間違っているのかもしれないと思う。 慕白はそんな考えを頭から吹き飛ばすように、秀蓮の固くなった乳頭に柔らかな舌を這わせた。
「はぁ・・・ん・・・」 慕白の舌がやらしく、優しく、絡みつくたびに、秀蓮の思考から抵抗の文字が抜けてゆく。 大きな手のひらで力強く揉んだかと思えば、生温かい舌が這いまわる。 欲深い自分の身体が次を求めてうねるのが分かった。 秀蓮の熱い息を頭の上に感じながら、慕白は小さな乳首を吸い続ける。 強弱を付け、手や口はおろか自らの束ねた髪の先までも使って、ひたすらに胸への愛撫を続けた。 秀蓮の声は囁くような溜息から、徐々に抑えられない嬌声へと変わってきた。 時たま我慢出来ずに喉から大きな音を発しては、唇を噛んで堪えようとしている。 後もう一押しで降参の声が掛かるだろうと、慕白は意地悪く考えながら微笑んだ。 最後に歯で軽く噛みながら、舌でなぶるように攻め立てると、切れ切れな声の合間に降参がかかった。 「・・ぁ・・・ぁ・・・・むっ・・慕白・・お願いよ、許して・・・声が聞こえてしまう。私の手を解いて・・・」 「だったら・・・口を塞いでしまえばいい」 それでも構わないと秀蓮が瞳で訴えかけると、慕白はおもむろに自分の寝巻きを脱ぎ捨て、秀蓮の胸元をまたぐように陣取った。 「な・・・何?」 「塞いでやるから口を開けるんだ、秀蓮・・さぁ」 意外と厚みのある唇が、戸惑いながら薄く開く。 慕白が下履を割って、己の一物を取りだすと、さっと頬を紅焦させて顔をそむけてしまった。 「そ・・んな・・・嫌よ・・・」 「ならそのままだ」 慕白は何事も無かったように、手を自分の後ろに回し、再び敏感な秀蓮の乳房を探った。 「んんっ・・・!・・・あぁ」 またもや漏れた声に唇を噛んで、再び口を開けるとき秀蓮は、二つと無い手段を受け入れた。 「いい子だ・・・」
まだ半分しか変化していないそれは、秀蓮の口の中で微妙な感触を醸し出す。 柔らかすぎず硬すぎず、何とも気持ちの良い感触だと思った。 風呂上がりなのか、いつもの濃い慕白の臭いが薄まり、変わりに薬湯の香が少しする。 幹全体に舌を絡ませ、口中で転がすように愛撫する。いつの間にかこの作業にも慣れたものだった。 最初は鼻についたこれの臭いすら、今では何とも感じない。 それどころか、たまにどうした事か自らこの臭いを欲する時が有る。なんと浅ましい女だろう。 今だって本当は待っていたのかもしれない、慕白がこうして差し出してくれるのを。 でなければ、こんなにも美味しいと感じるだろうか? 今や慕白の分身は、口の中で大きなえらを広げ、秀蓮はその先から出る愛液を吸いだそうと、必死に舌と唇を動かした。 「はは・・必死だね秀蓮」 そう言われて、眉根を寄せてこちらを覗き見たものの、やはり秀蓮は必死になって頬張り続ける。 きつくすぼめた唇で亀頭冠を扱き、舌は先端を中心に泳がすように動かす。 手の使えないもどかしさに、やきもきしながらも、秀蓮は以前教わった通り、舌と唇で慕白を導こうと躍起になった。 喉の奥まで一気に導き入れ、また一気に絞りながら先端まで吐き出す。 それを繰り返すうち、限界まで強張った慕白の肉柱は、予告も無しに痙攣を起こし爆発した。
「・・んあっ・・!」 驚いた拍子に口から反れた陰茎は、秀蓮の頬や口元に飛沫を残し、再び口内に戻った。 何度も震える肉柱を又放してしまわないように、秀蓮は残らず精液を吸い出す。 独特の臭いを放つそれを、事もなげに飲み込んで、ようやく、まだ小さくならない慕白を開放した。 上気した顔に乳白色の粘液が散らばり、蕩けた視線でこちらを見ている秀蓮は、この上なく淫らで美しい。 「・・・秀蓮、お前ほど覚えの良い弟子はない。どこか他で修行を積んでいるんじゃないのか?」 「・・あ・・彼方が私をこんなにしたんじゃない・・」 「ふふ、冗談だ・・。さぁこれもやろう」 そう言って飛び散った残滓を指で拭い、秀蓮の口元まで運んでやる。 薄い頬の肉の感触を楽しみながら、丁寧に拭っていく。 すると開いた唇から薄い舌が伸び、真っ赤に色づいたそれが、慕白の指から残り物を拭い去っていった。 「美味しかったか?・・・さて私も頂こうかな・・」 その言葉を聞いて秀蓮の身体は敏感に反応する。 既にどろどろに蕩けきっていると思われる女芯がさらに熱を帯びる。 慕白の舌がそこに這わされる事を想像するだけで、身体は絶頂を向えそうだった。 「ん?どうした秀蓮、また乳首が尖ってきている・・・ほら、痛いだろう」 「あぁっ!」 天にそそり立つ小さな尖りを、指の間に挟んで揺するように愛撫する。秀蓮の体の電気信号は、 素早くその刺激を陰部に送り続けた。
しばらく遊んで、ようやく腰紐を解く。下履きの裾を引っ張るとそれはすっと両足から抜けてしまう。 薄い下着一枚だけを着けた秀蓮に、ねっとりとした視線で犯すような眼を向ける。 慕白のその行為が秀蓮の烈情を煽るのだ。 「秀蓮、君は自分がどれほど男を虜にする身体を持っているか解っているのか? お前は魔性の女だ、この私ですら耐えうることが出来ない・・・ その淫らな体を見てみろ役立たずな下着もだ。濡れて向こうが透けて見える」 「・・・・ぅ・・・・・・・」 淫猥な女、実際にそう言われ言葉でなぶられる度に、己の中で何かが昂ぶる。 そう言って慕白はさらに私の淫らな部分を晒け出そうとしている。 ほんの少し前までは自分にこんな一面が潜んでいるなど思いもしなかった。 彼にいい様にされる度、どんどん自分の中でも何かが変わってきた。こんな女ではなかった。 こんなにも浅ましい自分に嫌気がしながらも、それを止めることなど出来もしない。 秀蓮の目尻から滴が溢れだす。抑えた咽ぶ声と共に、慕白に施される愛撫からも声が漏れる。 大きな手が引き締まった脚を登って来る度、どんどん声も大きくなっていった。 「あぁっ・・・やぁ・・」 慕白は今や全く役に立たず、秀蓮の陰部に貼り付いた白い布きれを撫で上げる。 染み出た愛液で指は滑り、秀蓮の開いた裂け目を下着の上から何度もこすってやった。 「やぁ・・・っん・・駄目・・・ぃ・・ぃ」 そこに触り始めたばかりだと言うのに、秀蓮の身体は小刻みに震え、今にも達してしまいそうだった。 「ん?もう我慢出来ないのか?」 そう言って慕白は、素早い手つきで下着の縁から手を滑り込ませた。 指はあっと言う間にぬかるむ肉びらに吸い込まれるように潜っていく。 「!!っ」
同時にもう一方の手で口を塞ぎ、さすがに大きくなる秀蓮の声を封じた。 手も口も封じられ、慕白にされるがままになりながらも、秀蓮は激しい快感にうめきながら身をよじった。 中と外からの同時の攻め立てによって、秀蓮の生き物のようにうごめく膣壁が細かな痙攣を繰り返し、 彼女自身も発作に見舞われたかのように四肢を突っ張り硬直する。 目は虚ろで、頬には僅かな微笑さえ湛え、次の瞬間には体中の筋肉が大きくうねるように収縮した。 中も二本の指を絞めつける程の圧迫感で大きな収縮が襲う。 慕白はにわかに自分の我慢が利かなくなってきたのを感じた。 「秀蓮、まだ終った訳ではないぞ」 慕白は力が抜けて、重たくなった秀蓮の足を掴み、いとも簡単に下着を取り去る。 それを丸めて秀蓮の口の中に詰め込むと、緩慢な表情でこちらを見ているうちに足の間に入り込み、 裂け目の中に一気に己を埋没させた。 「うううっっつ!!」 秀蓮は急な慕白の侵入で大きな瞳を見開いて覚醒した。 激しい絶頂に達した身体は驚くほど敏感になっており、慕白の巨木のような一物を迎え入れる余裕は秀蓮には無かった。 「思った通りの絞まりだな・・・ん?中はまだ震えているのか・・」 しばらくその痙攣を味わうようにじっとしていたかと思うと、急に両足首を掴んで、 膝が肩にくっつくまでに秀蓮の下半身をひっくり返した。
「!うあっ・・・」 「ほら秀蓮、見えるだろう・・お前のあそこは今だにヒクついている。」 「・・ぁあ・・・」 強すぎる刺激に目眩を覚えながら、秀蓮は言われるままに視線を落とす。 そこは真っ赤に腫れ、たっぷりの粘液のせいで酷く光って見える。 自分の粘膜がぴくぴく動き、そこに杭のように刺さった慕白の物を小刻みに絞めつけているのが解った。 「動かさなくてもいきそうだ」 そう言いながらも慕白はゆっくりと腰を引く。 秀蓮は目の前で赤黒く光る肉棒が、自分の襞の間から這い出てくるのが見えた。 悪憎ましいほどの太さを備え、張り出したえらの部分が見えそうなくらいまで引きだし、また一気に最奥まで突き降ろす。 喉に詰まった布の隙間から秀蓮の叫び声らしき物が聞こえる。 それを聞いた慕白は嬉しそうに鼻で笑って、また同じようにそれを繰り返した。 「・・がぁっ!あ゛あ゛ぁっっ!」 喉の奥から漏れる悲鳴と共に、目尻からは苦しげな涙がこぼれ落ちる。 相変わらず秀蓮の乳首は硬く尖り、蜜壷は周期的な痙攣と収縮を繰り返していた。 「・・・・おい、まさかイキ続けてるのか?」 もちろん返事など無い。秀蓮は慕白が何を言っても、既に解らなくなっていた。 杭が出入りするたび雷に打たれたような痺れが全身を襲い、膣も子宮も陰核さえ、 打ち上げられた魚のようにぴくぴくと痙攣している、それだけが解った。 慕白は自分の力が無限大に膨らんでいく錯覚を覚えた。 今や秀蓮は完全に自我を失い、身体だけが快楽に震えている。 慕白は伸け反った細い首に、引き寄せられるように片手を伸ばす。 それだけでも回りそうなほどの細い首は、少し力を篭めるだけで容易に折れてしまいそうだった。 加減をしながら指に力を入れていくと、自分の下で秀蓮がむずがるように体を動かす。 それは慕白にとって新たな快感を生んだ。底無しの欲求が不意に首をもたげる。 慕白はもう少しだけ力を足した。
「・・・う・・・・ぐっ・・・」 他人の動作によってもたらされる快感は慕白をどんどん限界に追い詰める。 視界は白く濁り、下半身の感覚だけが鋭く脳に突き刺さる。陰茎がどくどく脈打っているのが自分でも解った。 もう少し。もう少しだけ。 「・・うぐぅ・・・・・う゛っ・・・ぅぅ・・」 徐々に秀蓮の顔が鬱血してくる。彼女は訳も解らずに只々藻掻いた。 「あぁ・・・イキそうだっ・・」 収縮した袋は秀蓮の尻に揉まれ、竿は彼女が藻掻くたび、きつく絞められ激しくこすられた。 激しい彼女への愛がこみ上げてき、次元の彼方に魂を解き放つように、慕白は一気に己を開放した。 秀蓮の中におびただしい量の種が蒔かれ、同時に秀蓮の割れ目からは、勢い良く熱い噴水が上った。 完全に意識を失った彼女から慕白はようやくその手を放した。 慕白の意識は徐々に、霧が晴るようにはっきりとして来る。 下半身はまだしびれるような感覚を残してはいるが、久々に爽快な気分だった。 慕白は生りを顰めた己の一物が秀蓮から抜け落ちると、その脚を丁寧に寝台の上に揃えてやった。 今夜の内にする事はまだ多く、晩餐の後片付けの手始めに、頬にかかる乱れた辮髪を直した。 作業の間秀蓮は一度も目を醒ます事はなかった。 新しい下着に替えてやり、寝巻を着せ直し、更にはそっと部屋を抜け出し、隣の自分の部屋の寝台に寝かした。 荷物を全て入れ替え、汚した布団に更に茶をこぼして誤魔化し、そうしてやっと一息吐ける思いになれた。 本当は朝まで秀蓮を愛でていたい、だがそれが叶うのは、遠い旅路の途中で誰も二人を知らない土地でだけ。 まさか、ここの使用人が起しに来た時、無様に見つかる訳にはいかない。 にわかに一人の寒さを感じながら、慕白は布団を肩まで引き上げた。 朝になればまた秀蓮に逢える、そう思いながら慕白は静かに目を閉じた。
「どうぞ」 秀蓮が返事をすると共に開いた扉の向こうには、慕白が立っていた。 「・・・誰も起してくれなかったのね・・」 食事の載った盆を見て、秀蓮は少し拗ねたようにそう言う。 今の時間はどちらかと言えば昼に近く、客人として招かれた家で、こんな時間まで惰眠の中でまどろんでいたのだ。 秀蓮は心の中でだらしの無い自分を恥じた。 「私が起さないよう頼んだんだ、誰も君を責める人など無い」 「・・・・・・ねぇ・・・・・・私・・・この部屋だったかしら・・?」 秀蓮は先ほど目醒めた時の事を思いだす。 布団の中でゆっくりと絹の温かさを楽しみ、徐々に頭がはっきりしてくると、部屋に見覚えが無い事に気付いた。 くるりと部屋を見回して見る、自分の荷物はきちんとそこに有る。 「なんだか、頭がはっきりしないのよ・・・昨日は夢を見た気がするわ・・・」 そう言いながら秀蓮は、いつの間にか手首に出きた擦過傷をこすった。 この仕事をしていると、気付かない内にいろんな怪我をしている。 さっき久し振りに覗いた鏡には首に何箇所か赤黒いあざが出来ていた。 今日はそれが見えないよう、襟の高い服を着ざるを得なかった。 「・・・きっと疲れているんだろう・・・今回の旅は長かったからな」 慕白は驚きと同時に、わずかな欲望を感じた。だが、今はまずい。 「さぁ、朝食を持ってきたんだ。熱いうちに食べなさい」 机の上に載った粥は美味しそうに湯気を立てている。秀蓮は慕白に微笑むと朝食に手を着けた。 慕白は、美味しそうに粥を食べる秀蓮を黙って見守る。 そうしながら胸の隙間にしまったある物をそっと撫でた。 それは昨晩の名残。後で秀蓮は気付くかもしれない、自分の下着が一枚行方不明になってることに。 慕白は乾いて固くなった下着を服の上から楽しんだ。 秀蓮が目を上げると、そこには聖者のような微笑みを浮かべた慕白が、優しく自分を見守っていた。 完
誰か牡丹と薔薇のSS書いてぇよぉ〜〜
>119 そう思うなら、萌え話でも振ってみれば? ポイントの一致する書き手さんがいれば、乗ってくれる可能性もあるかもよ。 (あくまでも、これは可能性であって必ずとはいえませんが。) あと、マナーは守ったほうがいいよ。自治くさくてスマソ。
121 :
119 :04/07/14 10:28 ID:i8AHgHPw
>>120 さん、すみませんでした。以後気をつけます。
萌え話?かどうかはわかりませんが
>>95 みたいな感じのがいいです。
122 :
120 :04/07/14 11:55 ID:CIytsQ3Y
関係ないことに口出ししてスマソ。以降はロムって頭を冷やすよ。
>>グリデス作者さま 乙です! 前にも増してエロくてイイ! good job!!
>>118 お疲れさまです。楽しませてもらいました。
文章がお上手なのも勿論ですが、原作との違和感が全く無いのも素晴らしいと思います。
次回作も待ってます。
> グリーン・デスティニー(慕白×秀蓮) いいっすね。よく知らないんだけど映画も観てみたくなったよ。
126 :
名無しさん@ピンキー :04/07/31 01:18 ID:cdFJdGnz
ホシュ
グリーンディステニー の作者様 他韓国映画(武士や英雄)で書く予定等はないでしょうか…??
保守age
>>127 英雄は好きです。
書くとなれば難しいでしょうが・・・
後・・・グリデスと英雄は中華映画っす♪
130 :
127 :04/08/10 11:44 ID:nMbk7irj
ギャー!! 凄まじく恥ずかしい間違いを……!! 英雄とグリディスは中華映画でしたね_| ̄|〇 韓国映画は武士のみでした……逝ってきます
イェンからテクを教わり、ムーバイに逆襲するシューリンキボンヌ。(*´Д`*) もっとムーバイを喘がせてホスイです。
>>130 逝かないでw
戻ってきて何か書いてください
133 :
名無しさん@ピンキー :04/08/29 02:41 ID:cdEppqAD
ホシュ
ウォーターボーイ図の続き待ってます
自分も待ってる。 それにしてもウォーターボーイ図2のティンパニ叩いてる 女の子って可愛いね。 えろくはないけど。
グリデスもお待ちしてます。
バイオハザード(映画)はどう? Uも出るし時期的にちょうどいいのでは
>137 それはバイオスレのほうに行っちゃってるのでは
>138 あちらはゲーム専用らしい
今日の愛情イッポン!で、文也×巴に萌え。 15歳文也と23歳巴とか、誰か同士いない?
142 :
名無しさん@ピンキー :04/09/12 23:07:09 ID:Oc4HABzf
落とすのもったいないので一旦ほしゅ。誰か・・・・・
143 :
名無しさん@ピンキー :04/09/14 21:52:19 ID:6x2Tbq7c
>141 嘘だと思うのならそのスレに行ってみろ、否定している奴がいる
パクリ騒動が出たときにあのスレ見てたけど、 映画の話題も出てたよ。 特に否定されてたわけではなかったような。
しかしどうも映画の事はSSにならない。 それにここは映画もOKなんだからここでいいのでは?
147 :
名無しさん@ピンキー :04/09/19 21:16:34 ID:srFZLcs7
ミラジョヴォヴィッチ美人だしな
>>146 それ以前の問題で、あのスレは空気が悪い。
難癖つけることが当然の権利と思ってる奴が居座ってる。
ここでもスレ違いじゃないんだしOKだよね
では アリス×ジル ゾンビ×アリス(輪姦) マット×アリス などどれでもキボン やはり映画版なのだからアリスは必然だろう
150 :
名無しさん@ピンキー :04/09/21 19:03:46 ID:HgSiIMn+
いよいよバイオ来るか? てことであげ
>>149 最後のは1だよね? マットもいないし(ある意味いるけど) でも漏れも楽しみにしている
ゾンビ×アリスは2でもありえるだろ いくら強くても大勢のゾンビに囲まれたらさすがに無理なのでは?
153 :
名無しさん@ピンキー :04/09/23 21:10:05 ID:AM6pf8Y9
カルロス×アリスは?
154 :
名無しさん@ピンキー :04/09/27 20:57:11 ID:QjJdB1m8
どうして誰も来ないんだ? アリスもSSにすれば結構萌えると思うのだが 漏れの希望は ジル×アリス あえてジルが攻めで希望
155 :
名無しさん@ピンキー :04/10/05 18:22:03 ID:DctjRUST
ホシュ
グリデス職人様、シューリンの逆襲キボンです。
157 :
名無しさん@ピンキー :04/10/10 19:45:22 ID:hY/a0sJ0
>>157 (*´Д`*)ハァハァしつつお待ちしております。
159 :
名無しさん@ピンキー :04/10/16 15:00:37 ID:eMH3vY2Z
ターミネーター3の小説考案中 希望があったら何でもいってください
「銀狼怪奇ファイル」で書いてみてもよろしいでしょうか? 余りに古すぎるだろうか…。
>>160 シラネーヨ
162 :
名無しさん@ピンキー :04/10/18 00:19:57 ID:40i/g7qa
てーんしーのよーなー あーくまーのえーがおー
>160 懐かしい。 原作もドラマも好きだった。 あの頃の宝生舞は可愛かった…
知ってる人いましたか。良かった。 不朽の名作だけど、再放送しないですからね…。 一応元ネタ紹介。 「銀狼怪奇ファイル〜二つの頭脳を持つ少年〜」(1996) 不破耕助は幼少時に親と死別、小早川家に引き取られ、2歳年上の冴子と姉弟のように 育つ。耕助が高校に入学すると、学内で次々と怪事件が起こり始める。ある日、耕助は 交通事故で意識を失うが、それをきっかけにもう一つの人格、銀狼が覚醒する。 銀狼は並外れた頭脳で怪事件の謎に挑む。 実は父親による遺伝子操作実験で、耕助には二つの脳が……(後略) キャストも略しますが、皆さん初々しい。 ではいきます。
『……さえ…こ……』 遠くで名前を呼ばれた気がして、冴子は目を開けた。 しばらく耳を済ますが、もう何も聞こえない。 夢……?空耳……?それとも、耕ちゃんが寝ぼけたのかな。 「…耕ちゃん……?」 小さな声で、襖の向こうの弟に声をかける。 「耕ちゃん…、起きてるの……?」 答えはない。 「寝てるぜ、あいつなら」 足元から声がした。 「………?!」 冴子はがば、と身を起こす。 「なっ…、何であんたがここにいるのよ!」 薄闇の中の黒い人影は、弟の姿をしていた。 おやすみを言った時と同じ、ブルーのパジャマ。 「どうして俺が出てきているかってことか?…ふん、大方、悪夢でも見たんだろう。 寝ている時まで俺を頼りやがって、弱虫が」 「やめて、そんな言い方!」 冴子は相手を睨みつけた。 「それより、何であたしの部屋にいるわけ?!」
相手は黙ったまま、ゆっくりと冴子に近づいてくる。 「な、何…よ……」 冴子は身構えた。 「……ちょっとした実験さ」 「…実…験?」 と、目の前に拳が伸び、しゅう、と音が聞こえた。 気体が鼻に吹き付けられ、冴子は軽く咳き込む。 「何すんの!」 「…お前って女は、気が強くて凶暴だからな。少しおとなしくしてろ」 「………っ…」 体が痺れ、力が抜ける。怒鳴り付けようとしても囁き声しか出ない。 「な…にを…する気……。…銀…狼……」 「言っただろうが。実験だよ」 体を起こしていられなくなって、冴子はぐらりと倒れた。 真上から、青い瞳が見下ろす。 この顔も、この体も、耕ちゃんなのに。 どうしてこいつは、耕ちゃんと全然違うんだろう。 気持ちだけでも負けまいと、冴子は目を逸らさなかった。 銀狼はふっ、と鼻で笑う。 「噛み付きそうな目だな。いい根性だぜ」 冴子の胸元に指が伸びた。 シャツドレスのボタンが一つずつ外されてゆく。
「……や…、なに……」 慌てた冴子はのろのろと手をかけて、狼藉を阻もうとする。 が、銀狼が軽く手首を返すと、その手はあっさりとはね飛ばされた。 「…やめて…よ…。どういう、つもり……」 ボタンは臍の下まで外され、深いV字に白い肌が覗いた。 「バ…カッ…!……やめ…ろ!」 蹴飛ばしてやる。 冴子は腰をよじって脚を蹴り出そうとした。 しかし脚が動く前に、銀狼が冴子の膝の上に跨がる。 「無駄だよ。無理すんな」 そう言って、シャツの前を広げた。 薄く肋骨の浮かぶ胸が、あらわになる。 小ぶりの乳房は空気に触れて粟立ち、先端が薔薇色に尖った。 「……い…や…」 上下する胸の丸みを、銀狼の手が包むように押さえる。 冴子はびくんと体を震わせた。 全体を強く揉まれ、乳首を指先で撫でられる。 「あ…っ……!…や…っ、やだ……」 苦しそうに目を閉じ、冴子は切れ切れの声を上げた。 銀狼の頭が下がり、乳首を口に含む。 「…ゃ……!……ん…っ…」 柔らかく温かな唇に吸われ、乳首はますます固くなる。
「バカ……、いや…ぁ……」 冴子は銀狼の肩に手を当てて押し退けようとしたが、何の意味もなさなかった。 熱い舌が乳首を舐めるたび、下腹部が奇妙に疼く。 「…あ、ぁ…っ…、や…め…」 ちゅっと音を立てて、唇が乳首を放した。 「んっ…」 銀狼は冴子のシャツドレスの前をつかむと、左右に大きく広げた。 かかっていたボタンが弾け飛ぶ。 「………!」 冴子は驚いて身をすくませた。 袖に包まれた腕以外の、全身がさらけ出される。 銀狼は冴子の上から退いて、ショーツを腰骨から剥がす。 足先まで下げて脱がせてしまうと、冴子の脚の間に割って入り、淡い茂みの奥に 指を当てた。 「……ぅ…っ!」 腰がぴくんと揺れる。 「…ここまでは順当な反応だな」 透明な粘液で濡れた指を見ながら、銀狼はつぶやいた。 冴子は悔しそうな顔をして銀狼を睨む。 「……あんた…あたし…が嫌い、でしょ…。なのに、どうして、…こんなこと…」 「…好き嫌いなんか関係ねえ」 銀狼は冷たく答えた。 「これは実験さ。一番手近で都合のいい女が、お前だっただけだ」 「…どういう、こと…」
「俺の欲しい実験道具は、試験管の中より、人間の腹の中でうまく出来るんでね」 「……何、言ってるの…。意味…わかんない……」 「いい歳してカマトトぶってんじゃねえよ。生物は履修したんだろ」 冴子はやっと理解し、青ざめた。 「い…や…。あんたと……なんて、死ん…だ方が…、まし…よ!……悪魔!」 青い瞳が闇の中で光る。 「お前は動けない。観念するんだな」 「あんた、なんか…、大っ嫌い!動ける…ようになったら……、殺してやる…!」 銀狼は凄艶な顔をして笑う。 「この体は耕助の体だ。お前にあいつが殺せるのか?」 冴子は言葉に詰まった。 「…そんなに嫌なら、弟とやってると思え。弱虫で泣き虫の耕助とな」 低く吠えるように吐き捨てると、銀狼は耕助のパジャマを脱いだ。 少年期を脱しつつある、精悍な体躯が闇に浮かぶ。 銀狼の体は、耕ちゃんの体…。耕ちゃんも、こんな……? でも、耕ちゃんとなんて考えられない。だって、耕ちゃんは…弟だもの。 抵抗を諦め、冴子は銀狼を見上げた。 無表情に冴子を見返した銀狼は、おもむろに膣に指を差し込んだ。 「……う……っ…」 異物の侵入に冴子はのけぞる。 あふれた粘液のおかげで、指はやすやすと奥まで入った。 膣壁をなぞりながら、深く浅く、指が動く。 「…ん……!……んっ…、…あ……ぁ……」 華奢な裸身が淡いピンク色に染まる。 少女のような体は、指がもたらす奇妙な快感に鋭く反応する。
その事に、冴子自身が戸惑っていた。 耕ちゃんの指……。耕ちゃんの指で、あたし、こんな……。 なんで?!ダメだよ…!そんなこと、許されない。 ううん、違う。ここにいるのは、銀狼……。耕ちゃんじゃない。 「……銀…狼……」 弱々しい囁きが、喘ぎと共に唇から漏れる。 「…どうした。痛いのか」 銀狼が問うと、冴子は首を振った。 長い髪が波打ち、頬にかかる。 「もっと…痛くたって、いい……。…やりなさいよ、…早く……」 このまま弟の体に、快感に溺れていくのが恐かった。 「…冴子…」 無力なはずの体が、誘うように、挑むように、自分を待っている。 悩ましげな表情は妖しくさえ映り、銀狼は息を飲んだ。 「……ああ。望み通りにしてやる」 指を抜き、代わりに猛った硬いペニスをあてがう。 細い脚を折り曲げて広げ、その間にゆっくりと体を沈めた。 「……あ、…ぁ…!」 がくんと震えた冴子の背が、大きく弓なりに反る。 ペニスはぬるぬるとぬかるみの中に潜り込み、止まる。 銀狼は大きく呼吸をすると、更に奥へ、体を押し込んだ。 「……――っ!!」 かすれた悲鳴。 冴子は腕を縮めて胸を押さえ、拳を握りしめる。 目を閉じ、子供のような仕草で痛みに耐えた。
「……ふ…ぅっ…」 息をついて、銀狼は体の下の少女を見つめる。 今の反応と、狭い膣内を強引に通り抜けた感覚で、彼女が傷付いたのが分かった。 獰猛に暴れ回りたい衝動と、優しく抱き締めたい思いとが、体の中で交錯する。 銀狼は冴子の両手首を片方ずつ引き離すと、顔の両脇で押さえ付けた。 冴子の体が緊張して、体内のペニスをきつく締め上げる。 「……うぅ…」 銀狼は歯を食いしばって熱い息を漏らす。 濡れた粘膜にまとわりつかれる快感が、衝動を後押しした。 「あぁ…、…うっ……!」 ベッドの上に磔にされ、体を貫かれて、冴子は呻き声を上げる。 下腹部を焦がし、内蔵をえぐる、野獣のような激しい動き。 呼吸をし過ぎたせいだろうか、意識が薄れてくる。 「さえ…こ……」 銀狼は冴子の名前を呼んだ。 最高潮に達した興奮を味わうように、緩慢な抽送を繰り返す。 はあっ、はあっ、と荒い息をしていた銀狼が、突然低く唸る。 「……ぁ」 冴子の体内でペニスがどくん、と脈打った。 生き物のように小さく震えながら、とめどなく射精し続ける。 「……く…、…う…っ……」 銀狼は体を固くし、苦しげな顔をして呻く。 やがてゆっくりと冴子に体を重ね、細い首筋に唇を当てた。 体の重みを受けとめて、冴子は天井を見つめる。
…熱い体……。耕ちゃんと…、同じ匂い……。 どうしてこいつは耕ちゃんなんだろう。他の男だったら、まだ良かった。 かわいそうな耕ちゃん。こんな事になっちゃって、ごめんね…。 冴子の目から涙がこぼれた。 「死にたい。あたしを殺して、銀狼」 静かな呼吸に戻っていた銀狼の体が、ぴくりと動く。 顔を上げて冴子を見た。 「…断る。耕助が俺を道連れに死ぬだろうからな」 「……今夜のこと、絶対誰にも言わないで」 「言わねえよ。バレたら、お前の親父に殺される」 銀狼はベッドから下りると、下着をつけ、パジャマのズボンをはいた。 「どうであれ、死ぬ運命には変わりないか……」 くくっと笑って、パジャマの上着を拾う。 「銀狼…」 「そうだ、お前も俺を殺すんだったな、冴子」 上着を着て、障子を開ける。 「……どこ行くのよ…」 「うるせえ」 背を向けたまま答え、銀狼は消えた。 冴子はゆっくり体を起こす。 「…う……」 腹部に力を入れた途端、膣から熱いものがとろりと溢れ出る。 生理が始まったのかと思ったが、シャツドレスに染みているのは白い液体だった。 「シャ…ワー…浴びなきゃ…」 足をふらつかせて立ち上がり、冴子も部屋を出た。
ぼすぼすぼす、と襖を叩く音。 「姉ちゃん…、姉ちゃん!……起きろよ。そろそろ時間、ヤバいよ」 ぐっすり眠っていた冴子は、その声に跳ね起きた。 「……耕…ちゃん…?!」 銀狼が消えて、耕助に戻っている。 「……お、おはよ!…大丈夫、起きた。今行くから」 「『おはよう』じゃ、ないんですけどねえ……」 からかうような声が遠ざかっていく。 「おはよう、お父さん……」 髪を結い、制服を着て、冴子は食堂に入ってきた。 「はいはい、いいから、早くしなさい」 「姉ちゃん、すっごい眠そう。どしたのさ?」 無邪気な笑顔。 冴子は胸がひしがれる気がした。 「ん、なんか……変な夢見ちゃって。…耕ちゃんは?良く眠れた?」 「ぐっすりだよ。夢も見なかったぜ」 ……そうだよね。深く、深く…、眠ってたんだもんね。 泣き出したい気持ちを抑えて、冴子は笑顔を作る。 耕助の顔を見るのは辛かったが、この場にいるのが銀狼でないことは救いだった。 「――冴子…。どうした、喉のところ……」 「……え?」 「あ、ほんとだ。ぽつって赤くなってるよ、姉ちゃん」 耕助が、触れそうなくらいに顔を近付ける。 銀狼と同じ匂いがした。
あいつだ。 冴子は喉を押さえた。 最後に、抱き合った時…。あいつ……わざと付けたんだ。 「薬、塗っとくか?」 「ううん、だいじょぶ…。――いただきまあす」 「え!姉ちゃん、これから食べる気?……遅刻するよ?!」 「もうちょっと待ってて!」 冴子はサラダを頬張り、ばりばりと音を立てて食べた。 あいつ、あたしの心を先読みしたんだ。 悪い夢だって思いたかったのに、キスの跡なんてあったら…。 自分がいない時まで、思い知らせてくれるってわけ? ……本当に、悪魔みたいなやつ! 3日経って、赤い痣は消えた。 冴子は寝床で本を読んでいる。 目は字面を追うものの、考えているのはあの夜のことだった。 ふと、銀狼の言葉が頭をよぎる。 「これは実験さ――」 心臓がどきどきし始め、腹部に手を当てる。 できちゃったらどうしよう。 ううん、まさか、一度きりで……。
不安と怒りがふつふつとわいて、冴子は歯噛みした。 「畜生っ、なんであたしがこんな…!」 思わず叫んでから、慌てて口をふさぐ。 隣の部屋の弟に聞こえてはいないだろうか。 耳をすませ、様子をうかがう。 起きている気配はない。 良かった。冴子はほっと息をつく。 「…あ、……うぁっ、…あぁ…あ…っ…!」 突然、苦しそうな叫びが聞こえ、静かになる。 「…耕ちゃん……?!…耕ちゃん!…どうしたの、…大丈夫……?」 「あ……。…姉…ちゃん……?…夢か……。夢、見たんだ。恐かったよ……」 半べそをかいた、悲しそうな声。 「大丈夫、もう、大丈夫だよ…。手、握ってあげようか」 「うん……。そっち、行っていい…?」 「いいよ。おいで」 襖が開いて、パジャマ姿の弟が入って来る。 くすん、と鼻を鳴らし、手で目を隠した。 「まぶしい……」 「ごめん、消すね」 冴子は読みかけの本を置くと、読書灯を消した。 「ほら、座って」 耕助の手を引いて、一緒にベッドに腰掛けた。 手をつないで、ぎゅっと握ってやる。 「どんな夢、見たの……?」 「よくわかんないけど、誰かが死んじゃうんだ…。あれは……僕かな…」
不安げな声に、冴子は胸が締めつけられる。 耕助の体に手を回して、強く抱いた。 「ただの夢だよ。大丈夫、姉ちゃんが守ってあげる」 「……うん……」 「姉ちゃんが、ずっと一緒にいるからね…」 「うん…。ありがと、姉ちゃん」 耕助は冴子の長い髪に鼻を近づけた。 「……姉ちゃんの髪…、…いいにおい……」 そのまま鼻先を潜らせて、冴子の耳の後ろにキスをする。 「……ぁっ…。やだ、耕ちゃん…、くすぐったいよ…」 体の芯がむずむずする。 くすっと笑った耕助の息が耳にかかって、冴子は体を震わせた。 「……耕…ちゃん、な…に…」 耕助は耳たぶを舐め、頬に唇を当て、最後に冴子の唇をふさいだ。 「……ん……」 冴子は信じられないといった顔のまま、耕助に唇を吸われる。 ちゅっ、という音が繰り返し響いた。 「ん…ん……、……ちょっ……」 耕助を抱いていたはずが、いつの間にか耕助に抱かれている。 冴子はパジャマの腕にすがりついた。 耕助の舌がちろちろと動いて、冴子の唇を、歯の裏を、上顎を舐める。 「…ん…ふっ…、……ぁ…ん……」 快感に体が痺れ、目が眩む。
甘い声を上げた自分に驚いて、冴子は無理に唇を離した。 「…ちょっと、待…ちなさいっ。ふざけないでよ、耕ちゃん」 耕助の胸に手を当て、突っ張る。 「ふざけてないよ。姉ちゃんが、好きだ……」 耕助は冴子を抱きすくめると、そのままベッドに押し倒した。 冴子の首筋に唇を押し付け、シャツドレスの上から胸を揉む。 「………っ!だ、だめ…だよ…。あたしたち、姉弟…でしょ……」 体の間に腕を入れて、抵抗を試みる。 「血はつながってないだろ?……僕、姉ちゃんのことは、姉ちゃんで、母さんで、 恋人だと思ってる…。ダメかい?」 「…耕…ちゃん……。――あ…っ」 パジャマごしの勃起したペニスが、冴子の太腿に固く触れた。 銀狼と、同じ……。耕ちゃんは、銀狼と同じ体なんだ…。 ほんの数日前、あたしを無理矢理抱いたやつと、同じ……。 耕ちゃんも…、あんなふうに、あたしを抱く…つもりなの…? 冴子は頭がおかしくなりそうだった。 耕助はシャツドレスのボタンを外し、できた隙間に唇を這わせていく。 ぴくん、と反応しながら、冴子は声を絞り出した。 「や…、やめさいってば……。…子供の…くせに…」 弱々しく、パジャマの肩を叩く。 「もう子供じゃないよ、僕も、姉ちゃんも……」 耕助はくすくす笑って、シャツドレスの裾をたくしあげると、冴子のショーツに 手を滑り込ませた。 「…あ……、ば…かっ!」 襞の間に、ぬるん、と指が入る。 「ほら…ね。待ってんだろ、僕のこと……」
この前と同じ指。同じ感覚。 ――まさか。 いやな予感が閃き、冴子は弟の顔を凝視した。 「まさ…か……、あんた、……銀狼?!」 くくくっ、と肩を震わせて笑うと、弟は起き上がって長い前髪をかきあげた。 青い瞳が光る。 「ああ、俺だよ。…似てたか、耕助ぶりっこは。我ながら相当キモかったけどな」 「……な…っ…」 すぐには言葉が出ず、冴子は腕をついて上体を起こす。 「なんで……耕ちゃんのふりなんか…」 銀狼は氷のような笑みを浮かべた。 「試したんだよ、耕助でお前がその気になるのか。…無防備だな、あいつには」 「……や…めて…」 冴子は震えた声を出す。 「生物学的には弟でも何でもないんだ。やったって問題ねえよ」 「やめてよ…っ。ちが…、違う……」 冴子は激しく頭を振った。 涙の粒がぽたりと落ちる。 「あたし…、耕ちゃんのこと、そんな目で見てない。耕ちゃんは大切な弟だもの。 あんたが悪いのよ……。あんたが耕ちゃんの体を使って、あんなことしたから、 あたしの体が…変になったんじゃない…。元のあたしに…戻してよ……」 冴子は顔を歪めた。
「気が狂いそう……!あたしの体を、あたしの心を、もてあそんでそんなに 面白いの……?!やっぱり、あんたは悪魔だわ…!…バカ野郎……!!」 ぼろぼろと涙をこぼし、うなだれる。 「……元に…戻して…」 シャツドレスが滑り落ち、細い肩が剥き出しになる。 銀狼は微かに苦い顔をした。 「…耕助の体じゃなきゃ良かったのか。……だが、俺にはこの体しかねえ…」 冴子ははっと顔を上げる。 耕ちゃんも、銀狼も…、好きでこんな風に生まれたわけじゃない。 一つの体に二つの心なんて。 どうして神様は、こんな残酷なことをするんだろう……。 冴子は濡れた瞳で銀狼を見つめた。 自分のためではない涙がひとすじ、頬を伝い落ちる。 目を細めた銀狼の、青い瞳が切なく翳った。 冴子は手を伸ばし、銀狼のパジャマの襟を握りしめる。 ゆっくり体を近づけると、銀狼の肩に顔を伏せ、静かに泣いた。 耕助と銀狼が不憫でならなかった。 「…冴…子……」 銀狼は冴子の裸の背に腕を回す。 つややかな長い髪に頬を埋めて、目を閉じる。 それからそっと、冴子の耳の後ろに唇を当てた。 温かく、優しい感触。 不思議と嫌悪は感じない。
さっきと同じように、耳から頬へキスが移動する。 冴子が少し顔を傾けると、唇が重なった。 唇の隙間から入ってきた舌を、冴子はためらいながら舐める。 「……ぅ…、ん……」 反対にその舌を強く舐められ、体をよじった。 「…ぁ…ぁん…、んん…っ…、…ん…ふ……」 舌を絡めて、食むようなキス。 体の芯が熱を帯び、息苦しいほどに高まってくる。 「やっ…。あたし、どうかしてる……」 冴子は銀狼の胸に手をついて体を離し、首を振った。 銀狼は冴子の体を強く抱き寄せ、はだけたシャツドレスを下ろしていく。 「…だ…め、やめて……」 弱々しく呟くものの、冴子は抗うことができなかった。 裸の体を抱かれ、再びベッドに横たえられる。 シャツドレスとショーツが足先から抜けていった。 手で胸を隠し、目を伏せて横を向く。 ほんのり上気した肌。華奢な手足。薄闇に青白く浮かぶ、頼りなげな細い裸身。 横たわった冴子を見下ろして、銀狼はパジャマを脱ぐ。 全裸になると、すらりとした脚の間に入り、膝を立てさせた。 この前の手酷い挿入を思い出し、冴子は目を閉じて身を硬くする。 「……――っ…!」
触れたのは唇だった。 薄い陰毛の上から、紅い尖りを柔らかく挟む。 「…ゃ…っ…」 ひくんと動いて、冴子はそこに手を伸ばした。 銀狼の手が冴子の細い指を払いのける。 唇の隙間から舌がのぞいて、硬くなった尖りを軽く撫でた。 「…ん……!……あ、ぁ……」 開いた脚が小刻みに震える。 甘い潤いが膣からとろりとあふれ、会陰に伝い、滴り落ちた。 銀狼は頭を上げ、襞の間に指を差し入れる。 「…あ、…ぅ…」 ぽってりと充血した襞の内側が、温かく指に吸い付いてくる。 そのまま中に滑らせると、蜜の絡んだ指を膣壁がぎゅっと押し包む。 少なくとも冴子の体は銀狼を受け入れようとしている。 指を抜き、すくいとった潤いを尖りに塗り付けると、それは指の下でひくんと動いた。 銀狼は唇を平らな腹部へ這わせる。 臍を通り、みぞおちを上がり、胸の間から乳首の先をかすめ、鎖骨にキス。 「……は…ぁ…、…んっ……」 冴子の真上に体を重ねると、濡れた襞の間にペニスを押し当てた。 「………あ、……あぁぁ……!!」 ゆっくりと入ってきたそれは大きく、冴子は銀狼の肩に手を当ててのけぞる。 逃げようとする体を押さえ、銀狼は腰を進めた。 「……う…ぅ…」 奥まで一杯に挿入すると、低く息を吐く。
冴子は目を閉じ、切ない表情をして、小さく息をしている。 「……冴…子…?」 辛いのだろうか。そっと名前を呼ぶ。 途端に、冴子の体の奥が、熱くきゅんと締まった。 「…ぅ…あっ」 不意の快感に銀狼は声を漏らす。 冴子は当惑していた。 銀狼なのに。こいつは銀狼なのに。 汗ばんだ肌の匂いも、熱い手のひらも、声の振動も、耕ちゃんと一緒…。 だからこんなに…心地いいの?…やっぱりあたし、おかしい。どうかしてる……。 銀狼が緩やかに腰を前後させ始める。 硬いペニスが腟壁を押し広げて摩擦を加える。 「……あっ、あ…ぁ!」 下腹部が痺れ、全身が熱く蕩ける。 潤いはますますあふれ出し、ペニスは滑らかに奥深くまで潜り込む。 ペニスの先端が腟の最奥を突くたびに、冴子の細い体がせり上がった。 「…あ…、ぁ、あ、…ぁ…っ…」 耕助も知らないであろう冴子の声に、銀狼の昂りは倍加した。 本能のままの荒削りな情熱が冴子の体内を穿つ。 低く抑えた荒い息遣いは牡の獣を思わせた。 冴子は朦朧としながら目を開ける。 眉をひそめて射精の衝動に耐えている、苦しげな少年の顔。 それでも透明な、青い瞳。
耕ちゃんと同じ顔。でも、耕ちゃんであって、耕ちゃんじゃない。 銀狼…、あんたは誰……。あたしに罪を犯させて、地獄に連れていく悪魔…? …でも、悪いのはあたし。罪だと知っていながら、こんな……。 冴子はさらに脚を曲げると、銀狼の腰を挟み込んだ。 熱い背中に手を回し、ぎゅっと体を引き寄せる。 ペニスが、突き抜けるほど深く入る。 引き裂かれるような痛みは甘美でさえあり、冴子は渾身の力で銀狼を抱き締めた。 「ぅっ、んー…っ……!」 「……あぁ…っ…」 次の瞬間、ペニスはぐぐ、と膨張し、大きく震えた。 断続的な痙攣を繰り返して、熱い精液を絞り出す。 息を詰め体を震わせていた銀狼は、はあっ、はあっ、と激しく喘ぎ、やがて冴子に 体を預けた。 体内から伝わってくる脈動。胸の上に感じる荒い呼吸。 弟よりも、近く、深く。 重なり合った体の温もりが、泣きたいほど心地良かった。 銀狼が体を離し、隣に横たわってからも、冴子はしばらく放心していた。 二人の静かな息の音だけがして、時が過ぎる。 銀狼は寄り添ったまま黙っている。 何を考えているのか、どんな顔をしているのか。 まじまじと見るわけにもいかず、冴子は横を向いていた。 大体、なんでいつまでもくっついてんのよ……? なんか、なんかすごく……恥ずかしいじゃない…。
少しずつ冷静になってくると、この状況はかなり照れくさかった。 沈黙がどうにも気まずくて、冴子は自分から口を開く。 「…地獄に堕ちるのは、この際覚悟するわ。でも神様だって、あんたと耕ちゃんに 結構ひどい事してるよね……。文句言わないと、気がすまないな」 ふふん、と小さく鼻で笑う声が聞こえた。 「んなもん信じてるのか。おめでたい女だぜ」 いつも通りの毒舌に、冴子は振り向く。 「…なによ。だって、恨み言の一つも言いたくなるじゃない」 「それが俺達の現実だ。向き合うしかねえ」 冴子は銀狼の横顔を見た。 強がっているのか、諦めているのか。 だが、もとより銀狼が弱味を見せるはずはない。 「現実か…。あたしは逃げたい。これから、耕ちゃんとどんな顔して…」 「普通にしてりゃいい。耕助とだって時間の問題だろ」 「やめてよ。耕ちゃんは弟なんだから」 銀狼は横目で冴子を見た。 「お前はあいつしか眼中にねえ。あいつもお前しか見ちゃいねえ。当然の帰結だ」 「……え……」 耕ちゃんしか眼中にない……?…言われてみればそうかも知れない。 冴子は口をつぐむ。 「…鈍くさいあの馬鹿も、いずれ自分の気持ちに気づくだろう。その時、つまんねえ 理由でお前が拒否したら、あいつは…」 「銀…狼……」 「――ま、俺には関係ないけどな」
宙を見つめた青い瞳は、孤高を気取りながらも寂しげだった。 なぜか耕助と銀狼が重なる気がして、冴子は思わず尋ねた。 「…ま…さか……あんたも、あたしの…こと……?」 銀狼はぎろりと冴子を睨む。 「馬鹿言ってんじゃねえ。ふざけるな…!」 体を起こして、冴子に背を向けた。 「じゃあ……どうして、あたしと…したのよ……」 「…実験だって言ったろうが」 パジャマを拾って上着をはおる。 「実験って……」 上体を起こした冴子は、危急の現実を思い出した。 「――ね、銀狼。もしあたしが、あの…、妊娠…したら」 「するかよ」 「……え?」 銀狼は下着をつけ、ズボンを穿く。 「お前、明日あたり始まるんだろ、生理」 「…えっ…。……うん…」 冴子は口ごもって答えた。 こいつ、なんてこと言い出すんだろう。 悔しいが、顔が赤くなる。 「排卵はとうに終わってる。たとえ受精したところで、着床する場所がなくなるんだ、 受胎はしねえ。安心しな」 「………ちょっと。……あんた…、なんでそんなこと知ってんの?」 冴子は、険しい顔で銀狼に迫った。 「お前こそ何で知らねえんだよ、女のくせに」 「違うわよっ!あたしの、よ…、予定日……!」
銀狼は表情を変えずに上着のボタンをかけている。 「カレンダーに書いてあったぜ」 「…カレンダー……?って、手帳のこと?!……まさか……、見たの?!!」 「見なきゃ分からねえだろ」 冴子は真っ赤になった。 「何よ、それ?!!信じらんない!!出てけ、バカッ!この、悪魔…っ!!」 髪を逆立てて怒鳴り散らす。 ちょうどパジャマを着終えた銀狼は、立ち上がって障子を開けた。 「でかい声出してると、親父さんが飛んで来るぜ」 まだ裸でいた冴子は、慌てて口をふさぐ。 「じゃあな、姉ちゃん」 にやりと笑って、銀狼は廊下に消えた。 『大っ嫌い!絶対許さないっ!殺してやる!!バカバカバカーーーーッ!!!』 冴子は般若の形相で、声を出さずに怒鳴り続けた。 急いでシャツドレスをはおる。 ふと気になって体を鏡で見たが、キスの跡はなかった。 実験の意味は聞かずじまいだった。
それからしばらくして、あいつはいなくなった。 「…冴子…。お前の耕助、返してやるよ…。俺からの…、最初で最後の、誕生日 プレゼントだ……」 限界に来ていた人格交代。もう耕ちゃんには、二度と会えないと思ってたのに。 あんたはなぜか最後に耕ちゃんと代わった。 まさかあんたにバースデープレゼントをもらうなんてね。 でも、あたしにとっては、最高のプレゼントだった…。 「なに、姉ちゃん、そんなじっと見てさ」 冴子の視線に気付いた耕助が尋ねる。 「……え?…ううん、何でもないよ……」 「ふーん……」 「なっ…、なあに」 耕助は含み笑いをして冴子の顔を見つめる。 「姉ちゃん……、ちょっと、大人っぽくなったね」 「えっ…」 胸がどきっと音を立てた。 まぶしそうな目で、穏やかに微笑んでいる弟。 耕ちゃんも、すごく…大人になったよ。 銀狼と一緒に運命に立ち向かって、一回り強く、大きくなったみたい。 もう泣き虫の耕ちゃんはいないんだね……。 様々な思いが入り混じって、冴子は声を詰まらせる。 「……こ、耕ちゃんだって…」 「あれ!……もしかして姉ちゃん、マジ照れ?」 耕助がにっと笑った。
「社交辞令って知ってるよね?もう大学生だもんね?」 「…………」 冴子は眉を寄せて耕助を睨みつけ、どす、と腹部に拳を見舞う。 「姉ちゃんをからかうなんて百年早いよ!」 「……手…加減しろよ、姉ちゃん…」 耕助は咳き込んで呻いた。 耕ちゃんはまだまだ弟だけど…、…でも、お互い予感はしてる…。 ……その日が遠くないことも分かる。悔しいけど、あんたの言った通りね。 まったくあんたって、悪魔みたいに……。 冷然とした顔の、孤独な青い瞳。 銀狼の実験というのは、冴子の記憶に自らを刻みこむことだったのかも知れない。 そんなふうに冴子は思った。 あんたの中には耕ちゃんがいて、耕ちゃんの中にあんたがいるような気がするの。 だから、あんたのことは忘れない。 銀狼……。あんたのくれたプレゼント、あたし、一生大切にするわ。 〈完〉
以上です。書かせて頂き、ありがとうございました。
萌えました。まさかこの二人の絡みが読めるなどとは思いませんでした。 神様、ありがとう!
>>190 ビデオ見直したよ。なるほど確かにきわどい姉弟関係だな。
まさか当時はそんなこと思ってなかったが。
とにかく乙ッ!
乙です! ところでバイオハザードU、だれか小説化してもらえませんか? シチュは アンデットはTウイルスに感染しているアリスには食欲がなく襲ってこないので 性欲目当てに襲い掛かってくるなんてのはどうでしょうか 結構最近の映画なので知ってる人多いと思うんだけどなぁ・・・
194 :
名無しさん@ピンキー :04/10/29 21:49:07 ID:2jzkhUAa
ホシュ
ホシュ 職人様方、お待ちしております。
きんぱっつぁんで何か読みたいー
197 :
193 :04/11/11 22:12:49 ID:Bz27tN7v
結局流されるのか・・・TT
書いてくれと言うからにはシチュを書くとか導入を書くとか そういう努力をしてホスィ。 あと書き手っていうのは自分で読みたいものを書いている内に 力がついてきて書き手になるのがほとんど。 そんな泣き事言うなら自分で書いて下さい。
グリデスの職人さん、新作お待ちしてます。 お暇ができればよろしく。
>>199 半分ほど書けますた、もうちょっと待ってね。
連投スマソ
自分も
>>198 タンの言うとおり、自家発電しているうちにここまでこれました。
皆さんも駄目だと思う前に書いてくださいYO!
ってか、誰か他の人の書いたグリデスが読みたいけど・・・きっと一生無理ポ
>>199 タン、一生のお願いw
グリデス書いて☆
202 :
199 :04/11/17 23:51:38 ID:xbcf84dE
>>200 はい。待ってます。
せかしたみたいでスマソ
>>201 書こうとしたのよ。
でも、エロ部分しか浮かんでこなくて、そこにいきつくまでのストーリーが
全然だめぽ・・・(´Д`;)
>>202 エロパロ板なんだからエロでいいじゃないかぁっ!!!
エロ上等、エロカモン!
204 :
名無しさん@ピンキー :04/11/25 03:18:35 ID:htckMCYf
捕手
誰か投下してくれないかな
>>199 タソ
出来ますた!
かなりギコチナイ秀蓮攻めですw
いやはや逆さまは難しい・・・。
「っあん!・・・ねぇ・・駄目っ・・こんな日の高い内に・・!」 熱を持った慕白の唇が、部屋で用事をしていた秀蓮を襲う。 夫婦の契りを結び、晴れて一緒になれた二人だったが、秀蓮は慕白の節操のなさにいささか困惑していた。 昼も夜もなしに求められ、けして悪い気はしないのだが、物には節度が有る。 「ねぇっ・・・お願いよ・・・・んっ・・・・」 あくまで夫の顔を立て甘い声で懇願してみる。 だが、そうこうしているうちに、秀蓮の服はしどけなく乱されていた。 「君を見てるとすぐに欲しくなる」 立ったまま後ろから抱きしめられ、耳元で囁かれると、秀蓮の抵抗の意思はどんどん弱くなる。 結局はいつも慕白の言いなり、好きなようにされてしまうのだ。 秀蓮は自分のお尻に押しつけられる硬い感触に、抵抗するのを諦めざるを得なくなる。 慕白は乱れた袍(パオ)の隙間から剥き出しの肌を楽しみ、 邪魔な下着を引き下げると、尖った胸も露わになった。 厚みのある慕白の左手が、優しく乳首を撫でさする。 反対の左手は、先ほどからずっと下履きの中で割れ目を探り、今や溢れ出た蜜でびっしょりだった。 「ねぇ・・・・立ってられないわ・・」 今にも泣きだしそうな声音で秀蓮が囁く。 「ちょっと待っていなさい」 そう言って慕白は、秀蓮の下履きを下着ごと脱がせ、自分もそれに倣う。 長袍の裾をまくり上げると、茶卓の脇にあった椅子にゆっくりと腰かけた。 「さぁ、おいで」 そう言う慕白の脚の間で、天を仰ぐ一物が秀蓮を威嚇している。 彼女の筋肉質なのに頼りないほど細く見える脚が、明らかに困惑していた。 慕白は気にする様子もなく、秀蓮の腕を引っ張ると、後ろ向きのまま自分の上に座らせる。 もちろんその怒張は、濡れそぼった秀蓮の蜜壷の中に有無を言わさず潜り込んでいった。 「あぁあぁっ!・・」 熱く火照った中心を引き裂かれるような快感に、秀蓮は早くも流されてゆく。 慕白が開け放った扉の向こうを見ていることに、気付きもしなかった。
「もっと気持ち良くしてあげよう」 そう言って秀蓮の両足を、子どもに小用をさせるような感じで抱え上げると、すくっと立ち上がった。 「あんっ!」 軽々と秀蓮を持ち上げたまま、慕白は下から腰を突き上げる。 秀蓮はふわっと持ち上がったと思ったら、自分の重みで突き刺さるような快感に 何も考えられなくなっていた。 だが、慕白が薄暗い部屋から中庭の見える廊下にでると、日差しの眩しさにようやっと我に帰った。 「何をするの?!・・・早く部屋に戻って頂戴」 ここからだと誰に見られるか分からない。 そんなことになれば、この家での面目は丸潰れだ。 だが慕白は秀蓮の言う事を聞く訳もなく、欄干に彼女の脚を引っ掛けると、猛烈に突き上げてきた。 「誰もきやしないさ」 「でもっ」 「見られて減るものでもない」 秀蓮は『威厳が減るわよ』と思ったが、体の快楽が今にも理性を凌駕しようとしていた。 ――――ぎぃーーーーーーーーー と、その時、二人の耳には残り少ない理性でもよく分かる、扉の軋む音が聞こえた。 見たくない、はっきり言って何も見たくない。 だがそんな訳にもいかず、秀蓮は一寸一寸視線を下げ、そこに誰も居ない事を確認しようとした。 「・・・・姐姐・・・・」 しかし世は無情、そこには口をぽかんと開け放ち、瞬き一つも忘れ去った嬌龍が立っていた。 庭先から嬌龍は見つめる。 敬愛する姐姐の痛そうなほどに立ち上がった小さな乳首や、 たくましい怒張をくわえ込み、溢れだした蜜で滑り輝く陰唇を。 剥き出しの陰部なのに、揺れる脚の先には靴と靴下だけは、きっちりと履かされていた。
「姐姐・・・ねぇ、気にしないで。誰にも言いはしないわよ」 嬌龍は先ほどから茶卓につっぷしたままぴくりとも動かない秀蓮に、とにかく声を掛け続けていた。 慕白はほとぼりが醒めるまでどこかへ消えてしまったようで、姿どころか影すら見えない。 「もう夫婦なんだし、私が裏口から来たのがいけなかったのよ」 未だになんとなく裏口から入ってしまう。 嬌龍は、今度こそは絶対に玄関から入ろうと心に誓った。 しかし清廉そうなこの二人が、あんな破廉恥な性行為に及ぶとは思いもしなかった。 武侠だなんだって言っても、一皮剥けば同じ人間なのかもしれない。 「それに・・・姐姐が外でしたいって言った訳じゃないんでしょ?」 「・・・・」 「彼に無理やり連れていかれたの?」 黙ってうつむく秀蓮の肩がぴくっと動く。 「もしかして・・・言いなりになってない?」 再びぴくっと動いて、秀蓮の頭が少しだけ持ち上がった。 「別に・・・・言いなりになるつもりはないのよ・・・・只少し・・・さからえないだけ」 嬌龍は、それを言いなりって言うのよ、と反論してやりたかったが、 そう言う事に関しては極控えめな義姐の性格を考慮して止めた。 「でも嫌な事は言わなければ・・」 「・・・言うわ・・・でも・・その・・・どうでもいいような気にさせられてしまうの・・」 あの男、武術の腕前は天下無双と詠われても、以前から危ない目をしていると思っていたのよね。 変な輝きと言うか、何と言うか、嬌龍は腹の底で秀蓮に気取られぬよう考えを巡らせる。
「ねぇ・・・悔しくない?姐姐」 「え?・・」 「いつも自分ばかり思うがままにされて悔しくない?」 秀蓮はここへきてようやく嬌龍と目を合わせた。 「そりぁ・・悔しいような気もするわ」 嬌龍の瞳がきらりと輝く。 「だったらし返ししてやりましょ!」 「でも・・・」 「弱気になっては駄目よ!私が方法を教えてあげるから、姐姐は心配しないで」 「え・・えぇ」 嬌龍は半ば強引に秀蓮の承諾を取りつけた。 どちらかと言うと、この際だから慕白を一度ぎゃふんと言わせたいのは嬌龍のようだ。 高名な剣士で、嬌龍自身も一時は憧れたこともあったのだが、同時に未だに超えられない壁でもある。 若い心に渦巻く憧憬と嫌悪は、いささか変な方向性へ向いつつあった。 「ところで姐姐・・・一体いつもどんな事されてるの?」 好奇心剥きだしの瞳で秀蓮を見つめる。 「どっ・・どんな事って・・・そんな話しは婦女のすることでは無いわ」 「何よ、今更。さっきはあんな凄い・・・!」 嬌龍は言ってから慌てて口を塞いだが、秀蓮は既に再び茶卓に臥せていた。
「ねぇ、上手くいくかしら?・・そもそもこんなことをして何になるのか・・・」 「今更何を言っているの!たまには逆の立場になりたいのでしょ?」 慕白の部屋のいくらか手前で、盆に酒を乗せた女二人は、声を顰めて最後の会議を開く。 嬌龍は酒と杯の乗った盆を秀蓮の手に押しつけると、彼女の重い腰を押した。 「作戦通りにするのよ!」 秀蓮は早くも落ち着かない気分になったが、言われた通り慕白の部屋に入っていった。 「やぁ秀蓮・・どうしたんだい?」 夜着に上着を羽織っただけの秀蓮が盆を持ってつっ立っている。 慕白もすでに寝巻に着替え、何やら読んでいた書物から顔を上げた。 「え、えぇ・・月が綺麗だったから、その・・一杯飲まないかしらと思って」 「ん、いいね」 今にもしどろもどろになりそうだった秀蓮は、慕白が誘いに乗ったのでほっと胸を撫で下ろす。 卓に盆を置くなり、予定通りに酒を注ぎ、手前側に置いてあった杯をそっと慕白に差し出した。 自分の杯にも酒を満たすと、乾杯の仕草をして一気に飲み干す。 そんな秀蓮を見ながら慕白も杯を空にする。 甘い味の酒が喉をとろりと流れていった。 もう一杯注いで開いた窓から月を眺める。 慕白の杯には予め薬が塗ってある。 嬌龍が調合した眠り薬で、慕白はすぐに眠りに落ちるはずだ。 秀蓮は自分の心臓がどきどき言ってるのを感じた。
「秀蓮」 「!・・はい?」 急に声をかけられ、一瞬薬がばれたのかと思った。 「こっちへおいで。月も美しいが、君はもっと美しい」 二杯目を飲み干した慕白が、寝台でこっちへ手招きしている。 嬌龍が言っていた通り慕白の誘いを受け、秀蓮はしばらく相手をすることにした。 慕白の隣へ腰かけると、彼の大きな掌が結いの崩れかかった髪を撫でる。 秀蓮はあれだけ逸った鼓動が、これだけで落ち着いていくのを感じた。 慕白に愛されるのは気持ちがいい行為だ。 結局いつも逆らえないのは、自分も心の底ではそれを望んでいるのかもしれない。 慕白の手が秀蓮の肩の上で止まっている。 秀蓮はどんどん自分に掛かってくる慕白の体重で、彼が眠りに落ちたことが分かった。 重い体をそっと横たえさすと、秀蓮はちょっと戸惑いながらも、嬌龍を呼びに部屋を出た。 一分もしないうちに二人は部屋に戻る。 寝台で熊のように眠っている慕白を見て、嬌龍はにやりとほくそ微笑んだ。 「さぁ、起きない内にさっさと終わらせましょ」 嬌龍の調合した薬は、効き目は早いが切れるのも早い。 嬌龍は早速持参した縄で、慕白の手を縛りだした。 「姐姐は足をお願いね」 自分のしている事に疑問を抱きながらも、秀蓮は言われるままに慕白の足を寝台の柱に縛りつけていく。 中を見ないようにしながら、邪魔になるであろう下履きも脱がせた。 「さぁ、これで動けないわ。姐姐昨日教えたこと覚えてるわよね」 覚えてはいるが自信はない。 嬌龍は一体どこであんな事を覚えたのだろうか?秀蓮は昨日からの疑問にまた頭を悩ませた。 とにかく、大切なのは今日こそ慕白の立場になって、お互いの気持ちを理解する。 何事にも真面目な秀蓮は、嬌龍とはまた違った考えで、決意を新たにした。 「じゃ、頑張ってね」 そう言い残して嬌龍は部屋を去ってゆく。 だが実際は、隣の部屋から外回廊伝いに覗くつもりで出ていったのだった。
「ふぅ」 秀蓮は大きく息を吐いて、昨日の教えを振りかえる。 最初はゆっくりと回りくどく、相手をじらすように愛撫する、からだ。 無心に眠る慕白の脇に座り、取りあえずは寝巻の留を外してみる。 嬌龍に言われた通り明かりは消さずに着けてある。 明るい炎が部屋を染め、肌蹴た慕白の肉体を見るだけで、秀蓮は気恥ずかしい思いをした。 足の方に目をやると、先ほど自分が括り付けた裸足の足が見える。 そっと手を伸ばし、足の甲を掌で撫で上げてみる。 ぴくりと足が動き、秀蓮はどっきりとした。 慕白は眠っている。 だが、足をさすれば反射のようにぴくりと動く。 自分は足を触られると快感が漣のように全身に広がってゆく。 秀蓮はそれを思いだすように、慕白がいつも自分にしてくるような加減で、彼の足を愛撫した。 「・・・ん・・」 唇を寄せ指の先をチロリと舐める。 「・・んぁ・・」 慕白はむず痒い感覚に低くうめいて、足先を動かそうとして目が醒めた。 先ほどと何も変わらない。 秀蓮が足元に腰かけて、こちらをじっと見つめている。 愛撫の途中で眠るなどと失礼なことをしてしまった。 「済まない、寝てしまって・・」
慕白は起き上がろうと身をよじり、初めて異変に気が付く。 ピンと張った縄が自分の手足に巻きついていた。 「・・・・秀蓮」 呼ばれた秀蓮は、慕白と目を合さないよう再び頭を下げる。 何を言われるか恐ろしかったので、嬌龍に言われた通り只ひたすら慕白を愛撫しようと思った。 慕白の動かせない足を脛まで逆撫でると、産毛を撫でるようなくすぐったい愛撫に全身が粟立つ。 さらに縄の噛んだくるぶしに、秀蓮の柔らかな唇が吸い付いてきた。 「・・あぁ・・・」 戸惑いながらも秀蓮の愛撫が、慕白の神経を過敏にしていく。 昨日のし返しだろうか?嬌龍にでも吹き込まれたか、積極的な秀蓮も悪くない。 慕白は今はまだ感じていられる余裕でもって、この状況を楽しむ事にした。 秀蓮は温かい舌を指にからませ、時折歯を立ててかかとにかじり付く。 ピクンと跳ねる慕白の足がなんだか嬉しくて、秀蓮は愛撫を上に広げて行った。 形良く盛り上がった足の筋肉を辿るように、秀蓮は舌をゆっくり這わしてゆく。 慕白はゆったりとした快感に身を委ねて、気持ち良さそうに溜息を吐いた。
もう少し聞きてみたい。 秀蓮は心の奥底に僅かな欲望が湧き上がるのを感じた。 寝台の上に上がり、先ほど肌蹴させた厚い胸板に両手を添えると、少し冷えた手に、温かい肌のぬくもりが伝わる。 広くなだらかな胸に二点の突起を見つけると、秀蓮は人差し指で一段濃い乳輪をなぞった。 「・・・んっ」 慕白から低く艶の有る声が漏れる。 優しくさすり続けると、自分と同じように突起が固く尖ってゆくのが分かる。 「あなたも感じるのね」 いつもと違う秀蓮の瞳が、本人も気付かない淫らな輝きを湛えながら慕白を見つめた。 「あぁ、君と同じようにね」 そう言われて頬を染めながらも、片方の突起に向って舌を伸ばす。 熱く柔らかな舌が、凝り固まったものをほぐすように絡まりつき、冷たい掌が全体を愛撫するように前後する。 「・・ん・・ぅ」 鼻息なのか、声なのか、判別し難い音が慕白から漏れてくる。 秀蓮は段々と緊張がほぐれ、気分が良くなってくるのを感じた。 「気持ち良いよ」 やや強がりとも取れる台詞に、秀蓮は胸への愛撫を激しくさせてゆく。 慕白は拘束された手足をもどかしく動かしながら、乳首を襲う鋭い感覚に耐えた。 長い寝巻に隠されてはいるが、この下は既に脱がされている。 緩く勃ち始めた陽物に寝巻が持ち上がるのも遠くはない。 冷たかった秀蓮の手は早くも火照り、頬も熱を持って紅に染まりだした。 「なんだか暑いわ」 上着を払い落とし、夜着の留を解いてゆく。 襟元が大きく開くと、中から朱に染まる肌と、白絹の下着が顔をだした。 「真っ赤だ、酒にでも酔ったのかい?」 酒は先ほど飲んだ二杯だけだが、秀蓮は自分でも得体の知れないほど、身体の奥が熱かった。
立ちあがると一旦慕白をまたいで、彼の腹筋の上に腰を降ろす。 見上げると、結い上げた髪から一筋の後れ毛が揺れ、その向こうで紅い唇が微笑んでいる。 触りたくても触れない鼈甲のような肌が、慕白をほんの目の前で誘っていた。 慕白は無意識の内に乾いた唇を舌で湿らす。 ゆっくりと降りてきた秀蓮の後れ毛が、敏感な首筋をくすぐり、 開いた口から覗く舌が、慕白の一風変わった形の唇をちろりと舐めた。 瞬間背筋の寒くなるような快感が脳から走る。 秀蓮の舌は唇を一周し、開いた口中に軽く攻め入る。 慕白は応戦しようと自らの舌を秀蓮の口腔に侵入させたが、 それを優しく吸い上げられると、不覚にも陽物の熱さが一段増した。 段々と動けない事へのもどかしさが込み上げて来る。 思う様秀蓮を陵辱してやりたい。 滑らかな肌に赤い跡を残し、神秘の幽谷に水を湧かせたい。 自由を奪われた慕白の内側に、叶わぬ欲望だけがどんどん膨れ上がっていった。 「・・・秀蓮・・暑いのなら全部脱いでしまえばいい」 彼女の体はまるで、骨の上に薄い筋肉の膜と、皮膚の被ったようだ。 力強くも華奢な身体を見ていたい。 それが自分にとってさらなる苦痛を呼ぶことになるのは分かっていたが、 慕白はそれでもその欲望を我慢出来なかった。 「いいの?」 正体の掴めない雰囲気を醸しだす秀蓮の瞳は、じっと慕白を見つめながら不意に瞬きしてみせる。 秀蓮は不思議な高揚感に包まれていた。 何時もなら相手に裸体を晒すのも羞恥を感じるが、今は反対に見せつけてやりたい感すらある。 慕白の上に腰かけたまま、秀蓮は残った脇の紐に手を掛け、脱ぎかけていた夜着を袖から払い落とした。
さらに下着の紐を引っ張り、上半身を被う布をゆっくり引き剥がしてゆく。 ごくりと音がし、慕白の喉が上下する。 その布が寝台の脇に落とされると、しなやかな張の有る、小さな林檎程の乳房が現れた。 だが、秀蓮の行動はまだ終わらない。 立ち上がり腰紐を解くと、緩んだ下履きがずれ落ち、平らな下腹部に薄い茂みが顔を出す。 「・・あぁ・・」 思わず溜息の出るような見事な艶めかしさで、誘うように片足づつ抜きさった。 手を伸ばせば届きそうな位置に、まっすぐに切れ目の入った陰部が見える。 陰毛が薄いせいで割れ目がくっきりと映り、微かに垂れだした蜜が光って見えた。 「おいで、秀蓮・・・」 秀蓮の頬が緩慢に微笑む。 「駄目よ・・あなたの言う事は聞かない」 魅惑的な部位が視界から遠ざかると、慕白は腿に熱い疼きを感じた。 「あ・・っ・・はぁ」 見ると秀蓮の頭がそこに有り、ほんの舌先で慕白の内腿を這い上がっている。 秀蓮は普段何もしない。 と言うよりは慕白自身がその隙を与えないので、このような微妙な愛撫を受けるのは初めてだった。 休むことなく熱を持った手と舌が、慕白の鼠径部を優しく愛撫してまわる。 慕白は慣れない行為に、丹田に溜まった熱を放出できず、既にその陽峰をそびえ立つ程にしていた。 秀蓮は目の前に立ちはだかる物に変な愛着を感じた。 普段は言われるままに口に入れるだけで、後は勝手に慕白が動くだけだったが、 今は自分の意思でこれを好きなように出きるのだと思うと、いつもの嫌な気分はなかった。 手始めにぼってりと垂れ下がる袋をそっと掌で撫でてみると、 慕白の四肢がびくっと震え、一緒に陰茎までが跳ねる。 重たい陰嚢を掌に乗せながら、唇でついばむように刺激すると、 我慢しきれずに慕白の口から、吐息と艶の有る声が漏れた。 いつもの彼からは考えられないような声に、秀蓮は昂ぶる心を抑えられない。 ふにゃりと気持ちの良い感触のするそれを舌全体で舐め回した。
「んあぁぁ・・・」 一体全体どう言う事だ?慕白は今の状況を分析する余地もなく、秀蓮に翻弄されていた。 玉から広がる快感は直に男を刺激する。 このまま愛撫を続けられるとそう遠くないうちに情けなく終りを向えそうだった。 「くっ・・・そ・・こは・・・あぁ」 勢い付いた秀蓮の舌は、袋の裏側から会陰を往復する。 快感が増幅され、陽峰の先から我慢出来ずに溢れだした愛液が亀頭を濡らす。 慕白の抑えきれないあえぎ声が、どんどん秀蓮の頭を朦朧とさていった。 「なんだか貴方の気持ちが分かる気がする」 秀蓮はそう言って、普段なら考えも付かないような場所に舌を伸ばした。 「くぅ・・はあっ!」 秀蓮の薄い舌先が慕白の肛門をやらしく穿る。 ちろちろと焦らすように、貞淑な彼女が、慕白にとって高潔な女神のよな存在が、 自分の最も汚い部分を舐めずっているのだと思うと、もういつもの自分では居られなかった。 「あぁ・・んっ・・・秀蓮・・・」 「凄いわ・・慕白・・・こんなに一杯出して」 うっとりと陶酔したように溢れだした蜜を亀頭から掬い、自分の口へと運んでゆく。 苦いような、甘いような、なんとも言えない慕白の味が、秀蓮の喉をとろりと流れていった。 その味がもっと欲しくて、そのまま垂れ流れている幹に舌を這わす。 熱くたぎって脈打つのがわかるくらいに膨らんだそれを、秀蓮は美味しそうにしゃぶる。 しかし、唇は幹を往復するばかりで、肝心な部分には一向に触れようとしなかった。 「し・・ゅう・・蓮・・・頼む・・・もっと・・」 秀蓮は一度首をあげ、頭を傾げて慕白を見る。 「もっと・・・なに?」 慕白は黙ってしまって何も言わない。 「いいわ、もっと舐めてほしいのでしょ?」 口元にはにかんだような微笑を浮かべると、次の瞬間それは大きく開き、 事もなげに慕白のはちきれそうな亀頭を飲み込んだ。 「んあぁぁっ!!」
悲鳴にも近い歓喜の声が慕白の喉奥から迸る。 秀蓮は大きな物を口一杯に頬張りながら、嬌龍に習った通り、舌を巻きつけるように舐め回した。 「あぁ・・あぁ・・」 今にも丹田に溜まった熱が弾け飛びそうになっている。 慕白は来たるべき快楽の頂点に早くも心を躍らせていた。 出る。 そう思った次の瞬間、秀蓮の指が素早く点穴を突く。 慕白は一瞬何が起こったのか分からなかったが、しびれるように疼く肉柱から精液は漏れない。 腰の辺りが重だるく、どうにも動かすことが出来なかった。 「しゅ・・・りん・・おい、穴道を塞いだのか?」 「まだ出しては長く楽しめないわ」 秀蓮はそう言って再び肉柱にしゃぶりつく。 唇できつく幹を締めつけながら、舌を鈴口に往復させる。 「くぅっ・・・あぁ」 陽物は怒ったようにそそり立ち、硬くはちきれんばかりになっている。 今にも射精しそうなのに、気持ちばかりがそそられて、精液は一向に漏らせなかった。 慕白の中に苦しみに似た快楽が大波のように押し寄せる。 いかしてから尚も突き上げると、いつも秀蓮が苦痛と快楽に涙を浮かべて許しを乞うていた。 今、まさにそれと同じ状況だった。 「あっ・・お・・願いだ・んぅ・・許してくれ・・・気が狂いそうだ」 切れ切れのあえぎ声の合間に許しを乞う。 秀蓮は一度顔を上げ、慕白を見やった。 天下に名を馳せる武侠の面影はどこにも無い。 額に玉の汗を浮かべ、艶のある苦しそうな瞳でこちらをじっと見つめている。 そんな目で見つめられると、秀蓮は居ても立ってもいられなくなり、 恥ずかしさも忘れて、自ら慕白の上に乗りかかった。
しとどに濡れた小さな割れ目が、真っ赤に腫れた大きな亀頭にぴったりと被せられる。 二人から同時に嘆息が漏れ、それが飲み込まれる度、歓喜に喉を震わす。 秀蓮は充血し、膨らんだ膣を腰を揺すらせて慕白の陰茎になすり付ける。 限界まで張りつめた陰茎には少しの刺激でも絶大な快感をもたらす。 なのに少しも精をやることが出来ないのだ。 悲痛とも快感とも取れないあえぎ声を発しながら、腰をくねらせてそれから逃れようとする。 そんな姿が秀蓮にも異様な興奮をもたらす。 彼女も快感に唇を震わせ、両の乳首は凝り固まって千切れそうなほどだった。 愛おしい思いに駆られて、秀蓮は馬乗りのまま上体を倒し、慕白の頭を引き寄せ口付ける。 甘い唾液を交換しながら、出しては突く出しては突く、と自分の調子で腰を使い続けた。 慕白は今にも白目を剥きそうな刺激に、もう耐えられそうにもなかった。 今までこんな積極的な秀蓮は見たこともない。 「あぁ・・・いぃわ・・・慕白・・・もう少し我慢して頂戴ね」 大きな杭が自分の中で暴れまわる度、秀蓮の快感は否応無しに高まって行った。 秀蓮はぐっと大きく背を反らせたかと思うと、さっと手を伸ばし慕白に施した点穴を解いた。 「んあぁぁっ!」 慕白の大きな声が響いた次の瞬間、震えの走る秀蓮の子宮口に噴水の如くの勢いで 溜まりに溜まった大量の子胤が吹きだす。 熱く迸るような射精で膣内を満たされ、秀蓮は激しく全身を痙攣させた。 くず折れるように慕白の上に倒れ、息が整うまでそのままでいる。
一体どれほど経ったのだろうか、秀蓮はうつらうつらとし始めていた自分に気付き、慌てて身を起す。 いつもはこのまま寝入ってしまっても慕白が布団を掛けてくれる。 が、今日はそうはいかない。 それこそ慕白の方が手足を戒められたまま、既に寝息を発てていた。 秀蓮は立ち上がり、布でお互いの性器を拭うと、眠い目をこすって慕白の縄を解いた。 身体と下腹がだるく重たい。 何をするのも面倒くさそうにもぞもぞと寝台に上がると、絹の布団を掛けながらそっと慕白の腕に頭を倒した。 暫くすると大きな息の合間に細い寝息が聞こえてくる。 結局どちらが攻めようとも互いの愛情に偽りはない、秀蓮はどんな慕白でも愛していた。 へっくしゅん 「まさか姐姐の杯に盛った淫剤があんなに効くとは思わなかったわ」 扉の外から一仕切を眺めた嬌龍は、くしゃみをしながらもニヤニヤと股間を押えて部屋へ戻った。 慕白は『ぎゃふん』とは言わなかったが、翌日の慕白を見る嬌龍の目は、 自信と威厳に満ち、言うまでもなく勝ち誇っていた。 後日多大な災禍が自分の身に降りかかるとは思いもしなかった。 完
なんか続きを予感させるような終わり方で楽しみが増えそうw
グリデス職人様、ありがとう。 結婚後のムーバイ、エロすぎでイイ!
>>222 も、もしかして、3Pに突入とか・・・?w
225 :
名無しさん@ピンキー :04/12/20 23:14:54 ID:2LixE/jF
揚げ
ドラマのDr.コトーの彩佳×茉莉子 レズでキボン と言ってもぶっちゃけどちらがが攻めでも構わないですがw
専用スレにあるよ。コトーで検索汁。
228 :
名無しさん@ピンキー :05/01/16 00:04:36 ID:qfss++s0
何かいいネタないかな
229 :
名無しさん@ピンキー :05/01/16 15:12:52 ID:yZwRVmXy
ごくせんスレってあったけ?
230 :
名無しさん@ピンキー :05/01/23 16:47:53 ID:ETW6MRGO
新選組!の山南×明里・・・読みたいズー。
「誰も知らない」ってどう?
232 :
名無しさん@ピンキー :05/02/03 20:22:58 ID:a/0rEqkS
ごくせんの仲間・松潤ジャナクヤンクミ・沢田でお願いします。
オペラ座の怪人スレに誘導あったから来てみたんだけど…… この話題、ないのね。 エロかったんだけどなぁ映画。
234 :
名無しさん@ピンキー :05/02/11 19:04:21 ID:kl/IMEu9
四季のは見たけど、映画はまだ見てないなぁ。 個人的にはマダム・ジリーのキャラが好きなんだが。 誰かおばさんで書いてw
オペラ座見のクリスチーヌ読みたい。相手は怪人でもラウルでもいい。キボンヌ! 今さらだけどムーランルージュのも見てみたいw
ムーランルージュ見たい!
>>235 オペラ座の怪人スレに一本置いたあったよ<ファンクリ
238 :
名無しさん@ピンキー :05/03/14 01:55:52 ID:2GgozRRY
今更ですがドラマ「南くんの恋人」のSS書いてくださいませんか?
239 :
名無しさん@ピンキー :2005/03/27(日) 01:01:31 ID:gPj8kkZY
俺もごくせんネタ読みたい。 慎×久美子、沢田×久美子、小田切×久美子、テツ×久美子 教頭との不倫ネタでもいいぞ!w
ナースのお仕事の高杉×朝倉が好き。
グリデス職人さま、気が向けば、また書いてくださいまし。
>>241 どぞ、即興で書いてみますた。前の続きもまた何れ。
何気ない喧噪に耳を傾けながら、ゆっくりと時間を過ごすのはどれくらい振りだろうか?
階下で茶を喫していた慕白は最後の一口を啜ると、そのまま立ち上がり店の脇の階段を登る。
長らくを砂漠の旅に費やし、だがなお目的は達成されずに戻ってきた。
師匠と思昭の仇である碧眼狐狸は見つからず、徒労感だけが重く圧し掛かる。
早く事に蹴りを着けたいと焦る一方で、この旅を永遠に続けたいとも思う。
秀蓮と二人、西の果てから帰らずに、皆の前から姿を晦ますのはどうだろう?
否、義理堅い秀蓮がそんな事を承知するわけがない。
だから永遠に続く砂漠を越えて、ようやく人の住めるこの地方まで戻ってきたのだ。
久々の野宿ではない清潔な宿屋、盗賊の襲来を恐れて代わる代わる起きていることも今晩はない。
慕白は軋む階段を登り終え、自分のために主人が用意してくれた部屋に帰ろうと角を曲がった。
疲れた目のすみに白っぽい物が写りこむ。
視線を下げた先には、やはり生成りの布きれが落ちていた。
腰を屈め拾い上げると、それは縁に牡丹の刺繍をあしらった絹のはんかちだった。
明らかに見覚えのあるそれは、綺麗に畳まれ慕白の手の中で持ち主に返されるのを待っている。
慕白は自分の部屋を通り越し、秀蓮のいる部屋の戸を静かに叩いた。
中から反応はない。
先ほど残りの旅に必要な物資を揃えに町に買い物に出た彼女はまだ帰ってはいないらしい。
慕白は仕方なくそれを握ったまま自分の部屋に引き返した。
寝台に腰掛け何気なくはんかちを開いてみる。 彼女のお気に入りなのだろうか?よくこれを使っているのを目にする。 綺麗に折られてはいたが、今もそれは洗いたてではなく、そこはかとした使用感があった。 彼女はいつもこれで流れる汗を拭い、汚れた手を拭く。 これは秀蓮の肌身を離れず、彼女の温もりをいつも感じているのだろうか? 慕白は自分の手のひらに乗るはんかちを、瞬きもせずに見つめ続ける。 美しい縁取りは彼女のために呉姥が刺繍したのだろう。 慕白はおもむろにそれを目線の高さに掲げ、しげしげと眺めた。 目と鼻の先にそれは有る。今にも自分に触れんばかりの位置に。 慕白は不意に頭の中に警鐘が響くのを聞いた。低く高く鐘の音が頭の中に響く。 それは音叉のように脳内に反響し、疲れた思考を更に鈍く痺れさせてゆく。 時は夕暮れで、開いた窓からは乾いた空気と活気ある人々の生活音が流れ込んでくる。 しかしそれも慕白の耳には届かず、鳴り響く警鐘を無視して、はんかちをそっと鼻に押し当てた。 一旦息を止め目を瞑ってから、静かにゆっくりと息をを吸う。 部屋の空気に混じって秀蓮の匂いが鼻くういっぱいに吸い込まれていく。 秀蓮の使う香に、汗と皮脂の溶け込んだ甘く温かい匂い。 はんかちが秀蓮そのものにすら思える。 直ぐ其処にあり、永遠に手に入らないかも知れない女性を思い、慕白の心は締め付けられるように痛んだ。 自分が手にすることが出来るのはこれくらいなのだろうか?
しばらくもしない内に慕白は自分自身の変化に気が付いた。 無視しようとしてもどうにもならない身体的変化、長い間抑えていた性欲は秀蓮を思い出すだけで溢れ出てくる。 慕白は片手ではんかちを握り締めたまま、もう片方の手を硬い勃起に沿わせた。 武侠として何時も剣を握る右手、人々が恐れと畏敬をなす剣術を繰り出す右手。 多くの人間が自分のことを鑑にし、義侠心に溢れる優れた人物だと人物だと思っている。 真実は俗世間を捨てられぬ、汚れた恥ずべき人間なのに。 慕白の日に焼けた精悍な顔は、苦渋と快感の狭間に揺れ、苦しそうに歪められる。 我慢出来ずに下穿きに差し込まれた手を動かし、己の衝動に急き立てられ流されてゆく。 呼吸するたび感じられる秀蓮の匂いに、旅の間に感じた色々な欲望が一気に思い返される。 真っ暗な闇に灯った炎に照らされ、傍らで眠る秀蓮を犯してやろうかと思ったのも、一度や二度ではない。 前を歩く彼女の細い首筋に噛み付き、柔らかく膨らんだ乳房を千切れるほどに揉みしだきたいとも思った。 だが、全ては叶わぬ夢。彼女はいつでも絵に描いた餅のようなものだ。 だから、それを眺めて涎を垂らす。 見たことのない裸体を夢想し、想像の中で蹂躙する。 秀蓮の肌を舐め、乳首を噛み、剛直を肉襞に擦り付ける。 早まる自身の手の動きに、慕白は早い終わりを悟った。 欲望のままはんかちを勃起に押し当て、数珠のように迸る精液をそれで受け止める。 おびただしい量が秀蓮のはんかちに蒔かれ、それが慕白の頭をさらに痺れさせた。 一陣の風が窓から吹き込む。 そろそろ彼女が戻ってくるかもしれない。 慕白は大きく息を吐き、抜き取ったはんかちを自分の荷物に紛れ込ました。 秀蓮は失くしたはんかちに気付くだろうか・・・? 終り
>>242 おお!早速アリガトン!!
こんなことまでしていたのか、エロムーバイ…
246 :
名無しさん@ピンキー :2005/05/05(木) 02:56:23 ID:kZpzma+U
コンスタンティンでネタ無いでしょうか?
ウォタボの続き待ち。 当時どこ探してもヤオイサイトばっかりでショボーンだったので嬉しい!
>247 自分も待ってる。 TV本編の生意気娘→タテノリが可愛かったもんで 未だにこの二人にハァハァしている。
逃走中のラブホテルで、ジェイン×チョコレート、で第一弾。 記憶が戻り復活した賭神コウ×ジェイン、で第二弾。 という構想で書こうかなと思ってるんですが、需要ありますか? 当方、グリデス職人さんのように文才は無いですが・・・
ワォ!ゴットギャンブラーですか?!
ここはグリーンディスティニーのエロパロになりました。
252 :
名無しさん@ピンキー :2005/05/26(木) 18:41:39 ID:RCbOK5w3
>249 需要ありますー
こんなスレあったんだー。
>>246 今日見てきた。主人公×ヒロインより、×天使様に萌えてしまった…
>>253 同志よ。
しかし、ほんとに
>>251 が皮肉に見えるぐらいグリーンディスティニーのエロばっかだな
マイナーなドラマのエロはあるけど
だったら皆も何か書いておくれよ〜〜〜。
凹むじゃないのよさorz
自分のネタはグリデス以外はさらにマイナーばっかりでして・・・。
>>249 タソ賭神待ってます!
ひそかに恋おちネタ希望
>256 自分も恋おちキボン 高柳×七海萌え
島男と香織…はないんだろうな。 やっぱつよ○んはエロさがたりなひのね…。
離婚弁護士に萌えるな
保守。
261 :
名無しさん@ピンキー :2005/07/17(日) 22:58:33 ID:BlT807ld
賭神マダーーーー?(AA略
262 :
名無しさん@ピンキー :2005/07/25(月) 01:11:09 ID:qdYxbxKa
ダニー・ザ・ドッグのダニーとビクトリアなんて誰も書いてくれないかな・・・
263 :
名無しさん@ピンキー :2005/08/09(火) 23:14:03 ID:/Di+Vons
がんばっていきまっしょいキボン コーチ夫婦とk(ry)
コーチ夫婦いいね〜。 仲直りの後はさぞや燃えたことでしょう。
265 :
名無しさん@ピンキー :2005/08/17(水) 08:21:26 ID:UspIPX+M
ドラゴン桜のサエコ(役名ワカンネ)関連需要ある? あのおっきいおっぱいをユサユサ揺らしたい><
266 :
名無しさん@ピンキー :2005/08/23(火) 16:10:44 ID:NN91Hh4t
トゥルーコーリングでキャリー×デイビスとか 海外ドラマは×?
267 :
名無しさん@ピンキー :2005/08/23(火) 17:19:54 ID:PLzvyZd2
268 :
名無しさん@ピンキー :2005/08/23(火) 21:45:01 ID:4wFS2kyw
269 :
名無しさん@ピンキー :2005/08/24(水) 11:13:16 ID:FwAKoCy2
新キッズウォーのエロパロをお願いします いじめをやめさせる大月先生(大河内奈々子)が 小学生たちにレイープされてしまう感動ストーリーで
270 :
名無しさん@ピンキー :2005/08/27(土) 20:28:19 ID:KxSdhamc
電車男のエロパロをお願いしますm(__)m
271 :
名無しさん@ピンキー :2005/09/01(木) 21:56:13 ID:qEqLKHVf
「幸せになりたい!」洋二×ひかりキボヌ
テラモエス
>>265 兆キボン
自分としては麻紀の相手は英喜がイイ・・・。ヘァヘァ
272 :
名無しさん@ピンキー :2005/09/02(金) 23:11:48 ID:us169ORk
>>271 いやいや特進クラス+ハセキョー(役名失念)の乱交が一番ハァハァするって(´Д`)
274 :
名無しさん@そうだ選挙に行こう :2005/09/11(日) 05:23:23 ID:ubbnDWCf
あげ
275 :
名無しさん@ピンキー :2005/09/18(日) 20:34:28 ID:GHDh9wxv
ドラゴン桜終わったねぇ・・・。 エロパロが読みたいお〜(つД`)
277 :
名無しさん@ピンキー :2005/10/02(日) 01:51:06 ID:v3q+zvFG
あげ
278 :
名無しさん@ピンキー :2005/10/08(土) 19:55:08 ID:uG4leCvD
チョコレート工場のエロパロをお願いします。
悪魔のいけにえ(女体化)
http://www.texaschainsawmassacre.net/ 「みんな、お夕飯の時間よ!早く集まりなさい!」
お母さんの一声で、レザーは目を覚ましベッドから跳ね起きて階段を駆け降りた。
白のフリルシャツ、真っ赤なスカートを揺らせて一直線に食卓へ向かう。濃厚な香りがだんだん強くなる。
今日はお母さんの特製ビーフシチューだ。レザーはたまった唾をごくりと飲み込んで、ドアノブに手をかける。
とろけるような柔らかいお肉――舌で崩れる甘いたまねぎ――思わず顔がにやけてしまう。
「おかさん、来たよぉ!」
しかし扉を開けた瞬間、レザーはあっと声を出して、立ち尽くすしかなかった。
大きな食卓の向かい側、ボーイフレンドのロスが猿轡をされたまま、椅子にくくりつけられて、もがいていたからだ。
招かれざる客。ここに連れて来られた者達の末路は、幼いレザーでも知っている。
縄で縛られ、拷問され、レイプされ、散々嬲られたあげく、家畜のようにハンマーで殴り殺されたあと
真っ赤なチェーンソーで細切れになるまで解体され――今まさに目の前の食卓に置かれてあるシチューになるのだ。
ロスはやっと自分の知人が現れたことで安堵の表情を見せ、すぐに助けを求める目をレザーに向けた。
いつも自信満々で、何処から見てもテキサス代表の優等生。いじめっこからレザーを助けてくれたロスの姿はそこにない。
丁寧にカットされたブラウンの髪は汗と脂でべとべとになり、ジェルを手にして掻き毟ったようにねじけている。
殴られたのか、右の頬は青く腫れあがり、にきび一つ見当たらない整った顔に、恐怖によって刻まれた皺の跡が見えた。
「ろ、ろすぅ!」
「へえ。知ってるの?その子」
あたふたしながらロスに駆け寄るレザーの背後から、やけに高くて厭らしい声がした。
レザーが顎を引いて恐る恐る振り返ると、赤いサンダルが目に入った。ところどころ破けたジーンズ、長い足。
扉にもたれかかって長いストレートの黒髪を揺らせたお姉ちゃんが腕を組んでレザーをねめつけている。
攻撃的な猫目、小さく尖ったキュートな鼻に、卑猥な厚ぼったい唇――お姉ちゃんはそれらを一気に崩して、はあ、と大きく欠伸した。
だらんと伸びた無地のシャツから、ツンと上を向いた乳首が浮いている。
シャツの首の部分が垂れ下がり、席へ歩みを進める度に、隙間から小ぶりな乳房が見え隠れした。
「おねちゃん……」 「私、言ったわよね。勝手に他所の男の子としちゃいけないって」 お姉ちゃんは席について、なんでも知っているかのような口ぶりで続けた。 「いつからお姉ちゃんにはむかうようになっちゃったのかしらね」 鋭い視線がレザーの心臓を鷲づかみにした。 レザーはこの場を取り繕ろうと必死だった。そうしなければ、ロスの命が危ない。 「れっ、レザー、して、ないもん……」 「ふうん」 お姉ちゃんはにやにや笑っている。 「ほ、ほんとだよ……」 レザーの弁解は無視された。いつもクラスメイトにされているように。 お姉ちゃんが頬杖をついて、指でスプーンをノックしていると、お母さんが台所からエプロン姿でやってきた。 いつものように微笑んではいなかった。 「お、おかさん……」 「なんでこうなったか、分かってるの?レザー」 レザーは何も答えられなかった。事態を飲み込むのにまだ時間がかかった。 どうしてここにロスがいるんだろう?お母さんとお姉ちゃんは――どこまで知っているのだろう? 「まだ私達なしで男の子に手を出すのは早いって言ったでしょう」 お母さんがわざといつもより低い声を使った。レザーはうつむいて、両手をこすり合わせて、黙り込むしかなかった。 「お姉ちゃんに聞いたら、あなた、この子のこと好きなんですって?」 「…………」 レザーがこくんとうなずく。ロスは黙って、祈るような気持ちでそれを見ていた。 「そう……で、もうしちゃったのかしら?どうなの?」 ふるふる、とレザーは首を横に振る。ロスがほっとして、猿轡越しに息を吐いて、目を閉じた。 「ふう。安心した。勝手に他所の男の子と寝て、勢い余って下手を打ったらどうしようかと思ったわ」 「ダイジョーブ。そこまでバカじゃないでしょ」 意外にもお姉ちゃんがフォローしてくれた。レザーは胸を撫で下ろす。心の中でお姉ちゃんに感謝した。 そんなレザーを、どういうわけか、お姉ちゃんは片目でちらと流し見て、唇の端を引きつらせるように持ち上げた。 お姉ちゃんがよからぬことを企む時に見せる笑顔だった。ひょっとして――レザーはまた不安になった。それも、さっきよりもっと。
「そう?私、この子のこと時々心配になっちゃうのよね」 「安心しなよ。レザーはこう見えてもグランマにも負けない才能があるんだから。でもね……」 でも?でも、って、なんだろう?もしかして……レザーはどぎまぎして、いても立ってもいられない。 「私、見ちゃったんだよねー。レザーがその子とやってるとこ」 レザーの目の前が真っ暗になった。お母さんの顔がみるみる歪んでいく。 お姉ちゃんは口笛を吹きながらその様子を楽しそうに眺めている。 バレちゃった……バレちゃった……レザーの頭の中をぐるぐる同じ言葉が巡る。 「レザー!どういうこと!説明なさい!」 「お、おかさん、ごめなさい!ごめなさい!ごめなさい!」 レザーはおかさんに一部始終を説明した。丁寧に、包み隠さず、その時の気持ちをできるだけ詳しく伝えた。 ロスと帰り道の納屋で初めてセックスしたこと。 とても気持ちよかったこと。 いつも教えられていた風にすると、ロスはとても喜んでくれたこと……。 お母さんは厳しい顔つきで話を聞いていたけれど、なんだか時々嬉しそうな笑みも見せるのだった。 「分かりました。ばらしていないのなら、そのことはお咎めなし、よ」 お母さんのお許しにレザーは目に涙をためて喜ぶ。感謝の中に、ロスを助けてくれるかもしれない、という希望も混じりだした。 もう普通の生活はできない――もちろん。でも、お母さんに認められれば、ずっとここにいられるかもしれない。 炊事、洗濯、庭の芝刈り、日曜大工、家畜の世話、小麦畑の手入れ、 それから……でも――いや、できないことは何だってない。命がかかっていれば。 レザーはロスのためなら何でもしようと思った。自分の分のごはんをいくらだってあげるから、ロスには生きていて欲しかった。 だって、初めて好きになった男の子だから……。 レザーは精一杯申し訳なさそうな顔を作って見せた。それが今しなければならない全てだった。 お母さんはいつものように優しく微笑んでいる。この調子なら――レザーがお願いしようとして、お母さんが口を開いた。 「秘密を守ってくれたのは、おかさん、嬉しいわよ。でも……」 「?」 「二人して私達に嘘をついた罰は受けなきゃならないわねえ」 お姉ちゃんのかん高い笑い声が響き渡った。レザーの顔からすっと血の気が引いていった。
汗や唾液が口を覆う布に染みを浮かび上がらせる。ロスは首を左右に振って快楽から逃れようと躍起になっている。 しかし、怒張するペニスはロスの意志に逆らって、さらなる刺激を追い求める。 お姉ちゃんはシチューをどかして、机の上に足を組んで座り、芋虫のように蠢くロスを見下ろしている。 余分な肉が省かれた綺麗な長い右足が机の上から伸びて、真正面からぐっとペニスを押さえつけていた。 「んんー。年の割にはなかなか立派なもの持ってんじゃん」 さっきから、足の親指と中指でカリ首の下を挟んで、すり合わせるようにして責めている。 まだ小手調べと言ったところ、足の指をほぐすためのウォーミングアップに過ぎない。 「よっと」 人差し指で裏筋をなぞると、野太いペニスは大きく脈打った。幹の部分に太い血管のすじが走っている。 レザーはロスの方を向く形で、同じように椅子にくくりつけられていた。 本当は見たくない。本当は。でもどうしても声が耳に入り、我慢できなくなって、見てしまう。 お姉ちゃんの足でロスのペニスが歓喜の悲鳴を挙げているのが分かる。 「どう?この子よりよっぽどいいでしょ?」 ロスは何も言わない。答えられる余裕はもうなくなっていたのだ。 責め苦は続く。お姉ちゃんの足は男を尋常でないほど虜にする。 ロスがイキそうになるとやめ、ぺ二スがしなびてくると、また足でもてあそぶ。 その繰り返しで、ロスは頭がおかしくなりそうだった。もう何を捨ててもいい気がした。 いったい何度目か、ロスのペニスがまた射精間近になった時、お姉ちゃんは親指と人差し指でペニスの根元をギュッと掴んだ。 そうすることで精液が登ってくるのを防いでいる――嬲れるだけ嬲る。いつものように。 レザーはイケないロスのことを可哀想だと思った。できることなら私がイカせてあげたいと思ったが、 邪魔をするとお姉ちゃんはひどく怒るし、ロスがもっとひどいめに合わされるのは目に見えている。 「さて、ロスくん。これは何でしょう?」 改まった声で、お姉ちゃんはジーンズのポケットから長い紐を取り出した。ロスは息も絶え絶えにお姉ちゃんの右手へ目をやる。 赤い紐、両端がわっかになってねじれていて、手製のアクセサリーだろうか、 中心に、何か――でこぼこした、四角い、白い物が連なって取りつけられている。 繰り返される快感の波の満ち引きで視界が霞んでしまってよく分からない。じっと見つめる。 理解した瞬間、ロスの顔が恐怖でいっぱいになった。 狂っている。こいつは正真正銘のきちがいだ――ロスは身体の震えを抑えられない。 ああ神様――だって、だって、あれはどう見ても……人間の――人間の……奥歯!
「分かんない?これねえ、こうやって使うのよ」 ペニスの根元を足で押さえたまま、お姉ちゃんは身を乗り出して、亀頭の割れ目に右手の人差し指と親指を添えた。 そのまま下へぐっと力を加えると尿道口が押し開かれた。いったい全体、ぱっくり裂けてしまうのではないだろうか。 使い込まれた女の膣口くらい開いている。ロスは猿轡ごしに低い呻き声を挙げた。それは屠殺される牛の鳴き声にも似ていた。 お母さんはそれを聴いてとても嬉しそうに笑う。 お姉ちゃんはすばやく右手の紐を近づけ、白い塊を丁寧に尿道に埋めていく。 あんなものが入ってしまうのか、レザーは男の子の身体の神秘に心を奪われたが、ペニスに激痛が走るロスはそれどころではない。 椅子をガタガタ揺らして、歯を食いしばって、ついには、縛った紐が切れてしまうのではないかと思うほど暴れだした。 「五月蝿い」 お姉ちゃんは歯をまとめて一気に尿道に押し込んだ。ずぼっと嫌な音が響いた。 「ペニスストッパー、ていうの。覚えときなさい。分かった?」 全部入ってしまった時、ロスはペニスを勃起させたまま、首をだらんと下げていた。 瞼や、縛られた手や、広い背中や――とにかく、色んな部位がそれぞれ痙攣している。 「おーい、まだ早いぞー。これからがいいところ……」 お姉ちゃんはペニスから足を離し、傍にあったスプーンでまだ湯気を立てているシチューをすくい 「なっんっだっかっらっ」 一語発するリズムに乗せて、ロスのペニスへ振りかけた。あつあつのシチューを亀頭にかけられたロスはびっくりして跳ね起きる。 汗まみれの身体をぶるぶる震わせながら、言葉にならない声を猿轡越しに叫ぶ。 熱のショックでペニスがしぼみ始める。 尿道に入った歯は収縮するペニスにまけまいと抵抗し、さらなる痛みがロスの身体を襲った。 お母さんが合の手を入れる。「食べ物を粗末にしちゃいけないわねえ。せっかく作ったんだから」 「分かってるわよ」 お姉ちゃんの厚ぼったい唇が、ロスの亀頭に覆いかぶさった。ずずず、と音が出るくらい一気に吸うと、みるみるペニスが生き返った。 根元まで垂れたシチューをすすろうと、一気に喉の奥までペニスを押し入れる。亀頭まで戻す。繰り返す。 ロスの恍惚と苦痛の入り混じった顔を見て、レザーは自分のパンティがじわりと湿っているのに気がついた。 お姉ちゃんは本当に美味しそうにペニスを頬張る。外から見れば美しいが、中では犬のように長い舌がカリの裏を嘗め回している。 舌先は細くざらざらしていて、その感触はロスが今まで味わったことのないものだった。 レザーには納屋でフェラをしてもらった。しかしレザーの拙い動きとは比べ物にならない。 お姉ちゃんの舌はまるでうねうねと蠢く一匹の生き物だ。 巻きついて、精液を搾り取ろうとする、快楽を与えるためだけに作られたような地獄の蛇だ。 尿道に入った異物が下腹部まで刺すような痛みを伝える。精液が押し留められているのが分かる。 出したい、今すぐ精子をぶちまけたい、もうそれしか考えられない。
「そろそろ外してあげましょうか」 お母さんが救いの言葉を差し伸べた。ああ、天使の囁き――! ロスの目に希望の光が宿ったが、それはすぐに失望の闇へと変化した。外されたのは猿轡だった。 「外までは届かないから、叫んだって無駄よ。うるさいの嫌だからつけといたの」 ロスは息を荒げて、ごくりと唾を飲み込む。相変わらずお姉ちゃんは美味しそうにペニスをなめ回している。 「何か言いたいことある?ロスくん?」 お母さんが耳に唇を近づけてキスするみたいにそっとつぶやく。言い終わらないうちに、ロスはもう叫んでいた。 「出させてください!お願いします!出させて!何でもします!出させて!」 お姉ちゃんの、上目遣いになった鋭い猫目が、三日月のように緩んだ。 哀願により、ロスは誇りを失った。ガールフレンドの前で取り返しのつかない醜態をさらした。 のみならず言ってしまった後で気づいて反省する余裕も既になかった。したがって、レザーのうつむいた顔すら目に入っていなかった。 しかしお姉ちゃんはロスが叫んだ瞬間にレザーが哀しそうに目をそらしたのを見逃さなかった。 ずっぽり音を立て口からペニスを吐き出して、指に髪をかけ、冷たい視線でロスとレザーを見下ろして、鼻をふんと鳴らした。 「そんなに出させて欲しいんだったら、正直に言いなさいね」 「い、言います!」 「レザーのと、私のと、どっちがよかった?納屋でしてもらったあの子のフェラと、今の私のフェラ」 その言葉でロスは見てしまった。レザーのつぶらな瞳から大粒の涙がぼろぼろこぼれているのを。 可愛らしいベビーフェイスをくしゃくしゃにして、なんてことをしてしまったのだろう、 虐められた時にも見せなかったような顔で、レザーが泣いている。 嗚咽に混じって、蚊の泣くような声で、何かつぶやいている。 ロスは耳を澄ませた。途切れ途切れに、自分の名前が聴こえてきた。 胸がしめつけられるように痛んだ。しかしもうどうしようもなかった。だってレザーとは比べ物にならない快楽を知ってしまったのだ。 (かわいそうなレザー)、お母さんは屈辱に耐えるレザーに憐憫の情をもってつぶやいた。
「あ、あの、レザあっ!!」 レザーに声をかけようとしたロスが予期せぬ悲鳴を挙げる。 お姉ちゃんは机の上で胡坐(あぐら)をかくような格好で、両の足をペニスに伸ばしていた。 包み込むように両脇から挟んでゆっくり動かす。初めは、ゆっくり。繰り返されるグラインド。 今までのものとは違う、単純動作と複雑な指の絡みが織り成す、得たいの知れない快楽。 小指を除いた八本指がまるで獲物に襲い掛かる女郎蜘蛛のようにそれぞれ絡みついた。 お姉ちゃんの必殺技だ。 レザーは涙でぼやけた視界で、お姉ちゃんが幾人もの男の人をあれで文字通り狂わせて来たのを思い出した。 あれを続けられると、いくらだって射精できるし、最後には発狂してしまうのだ。 ロスにも、たちまち、射精感がこみ上げてきた。 「どっち、って訊いてるんだけど?」 「あ……あっ……うっ……うあッッ!」 さらに小指が加わる。十本の指がいっしょくたになって高速で亀頭をしごきあげる。 ロスが首を上下に激しく振り乱す。この指はペニスに触れると同時に、脳をまさぐっている。脳の皺を犯している。 「あ、あなた、の」 「聞こえない」 まとわりつく指はさらに加速する。 「あ、あ、お、お、お姉様のですっ!お姉さま!お姉さまの方が気持ちいいですっ!!」 「聞こえない。もう一度」 「お、お姉さま、お姉さまです!お姉さまに比べたらレザーのフェラなんて間抜けな牛!牛がなめてるみたいです!お姉さまァッッ!」 レザーがわっと泣き出した。お母さんが駆け寄る。レザーの頭をそっと抱く。優しく撫でる。しかし、その眼は笑っている。 「ふーん、ま、そこまで言え、とは言ってないんだけどねえ」 他人(ひと)事みたいにおねえちゃんは言い放つ。 「オーケー、イカせてあげる。……ただし、この子がね」 そう言ってお姉ちゃんはレザーを縛りつけているロープを、ポケットにしまってあったナイフでぷっつりと切った。
レザーは半ば放心状態で、切られたロープを手に取り、うなだれたロスを虚ろな目で眺めていた。 初めて契りを交わしたのは――枯れ草が散らばった納屋。 テキサスの熱気と家畜の糞尿がいっしょくたになって、むせ返るような匂いが立ち込めていた。 レザーはそこで得たロスとの関係を信じていた。 男の人が捕らえられると、ハンマーで殴られて殺される前に、お母さんとお姉ちゃんに、時にはお婆ちゃんに必ず扱い方を教えられた。 お婆ちゃんは昔一時間で百人の男を相手にしたんだって、聞かされた。 そんなすごいお婆ちゃんに教わっているのだから、自分も男の人を悦ばせることができるのだ、レザーはそう思っていた。 でもそれはひどい自惚れだったのだ。 レザーは初めて虐められた惨めさでもなく、怒られた恐怖や反省でもなく、自分への失望で涙を流した。 お姉ちゃんの性戯に比べれば、自分がロスに口でしてあげたことなんて、お話にならない、ただの子供だましだった。 確かにロスは感謝した。いいよ、と言ってくれた。けれど、あんなにうめかなかった。 レザーは思い出す。変な声で鳴いたりしなかった。 「ほら、やってみなさいな」 お母さんが催促する。レザーは気が進まない。自分にできることなんて何があるだろうか? お姉ちゃんの絶技が披露されてしまった今となっては―― しかし、同時に可愛らしい絹のパンティはもうじっとり湿って、べたべたになっている。 お姉ちゃんがロスを虐めているときからそうだったのだ。 おもちゃにされた大きなペニス、跳ね回り、自分の中に入ったら、いったい、どんなに気持ちいいだろうか。 きっとあの時よりも凄い快感が味わえるに違いない。目の前であんなものを見せつけられると、淫らな想像は止まらなかった。 レザーの肩が震える。揺れがどんどん大きくなっていく。 ロスをめちゃくちゃにしてやりたい――レザーの中で恐ろしい何かが目覚めつつあった。 自分を馬鹿にして、牛みたいだと罵ったロスを、おもいっきりイカせてやりたい。 実際、レザーはその歳にしては大柄で牛とは言わずとも豊満な身体を有していた。 胸は家族の中で一番大きかった。もちろん同い年の女の子ではレザーの発達した胸にかなう子なんていなかった。 殴りつけるふりをしてレザーの胸を触ってくる男の子もいたくらいだ。 どうして、男の子達は胸を触ったのだろう、とレザーはゆっくり考え出した。しばらくして答えは見つかった。 では、その逆もできないことは――レザーのベイビー・フェイスが艶っぽく輝きだした。 お母さんとお姉ちゃんはにこにこ笑っている。まるでそれを待っていたかのように。
「ろすぅ……みて……」 まだ涙が残る小さな声で、レザーはスカートをまくりあげ背伸びして湿ったパンティをロスの顔に近づけた。 ロスのペニスは多少の休息があったにも関わらず、まだギンギンに勃起している。 「ごめん……本当に、悪かった、許してくれ、あんなこと言って……レザッ!?」 レザーが無言で椅子の足をひっぱった。ロスは背もたれごしに頭を打ち、小さくうめいた。 レザーは向き直り、頭側からロスを見下ろし、そのまま排泄するようなポーズをとって、股をロスの口に押し付けた。 乱暴なペニスがちょうどレザーの胸の真ん中にあたり、シャツ越しに柔らかい感触が伝えられた。 「ぬれてるよ……わたし」 ロスは呼吸が苦しくなってレザーの愛液を匂いをもろに嗅いだ。 脳裏に浮かんだのは学校の外れにひっそり建っているチーズ工場だった。 くたびれ熟した牝の匂いが、納屋での行為を思い出させてペニスをさらに硬くさせた。 お姉ちゃんが後ろから忍び寄ってきた。ナイフを右の腰の真ん中に滑り込ませて引っ張ると絹のパンティがさっくり切れた。 左の腰の真ん中にもひっかけて同じように切断した。つまんで引き抜くとそれはするするお姉ちゃんの手に収まった。 対称的に引き裂かれたパンティは、中心部にかけて真っ直ぐ染みを垂らして、まるで快感の長さを測った砂時計のように見えた。 大きなお尻に隠されたレザーの性器があらわになった。まだ使い慣れていない。 花びらは小さく、入り口は閉じられている。幼い割りに、こんもりと繁った陰毛、高い恥丘。 「ナメな」 お姉ちゃんはロスの額にナイフを押し当てた。ロスの目は一瞬恐怖で歪んだが、すぐに力強い光を宿した。 狭いクレバスから、ねばっこい愛液が垂れている。ロスは生きるために、贖罪のために舌を這わせた。 レザーの閉じた入り口をこじあけるように舌先をねじ込む。濃厚な味が広がる。 「ふぅあぅ」 言葉にならない声がレザーの口から自然に漏れた。クリトリスは皮をかぶって見えない。 剥いてやりたいが――舌でつつくと、レザーの全身がびくっと震えた。 レザーはシャツを脱いだ。ブラはしていない。ボタンを外すと大きな胸が勢いよく飛び出した。 白乳(しらぢち)を両手で持ち上げてペニスに押しつけて挟んだ。上下させる。 ロスの荒い息がレザーの秘肉にふきつけられた。 ロスが気持ちよくなっている。愉しんでいる。その確信がレザーの乳首をさらに大きく固くする。 負けられない。ロスは隠れたつぼみを強く吸う。 首をいっぱいに伸ばして秘所にむさぼりつく様は、まるで餌に群がる豚だ。
「やっ……ぅん……」 レザーの目がとろんと垂れてきた。ロスは吸引を続ける。レザーの鼻息が荒くなる。 口が半開きになって涎が垂れる。乳房を動かす手が止まりかけている。 「あらあら、しっかりやらなきゃだめよ」 お母さんの言葉に我に返り、レザーは肘をきゅっとしめて胸にペニスを挟んだまま、 両指で自分の乳首をつまんで、深いカリに押し当てる。 そのまま外からもみしだくと、カリの裏に沿ってルーレットのように両の乳首が転がった。 「うあっ……レザー!」 予想外の責めにロスは呻いた。まさか、いつもは大人しいレザーがこんなことをするなんて。 「なかなかやるわねえ。おかさん、そんなやり方教えてなかったのに」 「淫乱!」 お母さんとお姉ちゃんの笑い声に混じってペニスを擦る音が響いた。 ぐるぐる、ぐるぐる――止まらない乳首。 行って戻ってまた行って。ロスはもう舌を動かせない。身体に力が入らない。 頭に浮かぶのは納屋で吸ったレザーの乳首、乳首、乳首!完全に主導権を奪われた。 ぼうっとしてくる。きつい愛液の香り――あの時、そう、とっても臭いと思ったけれど、今ではそれで興奮する。 もっと嗅ぎたい、とロスは心から思った。ペニスが弾ける。爆発してしまう。もう――。 「ダメだ、出る……お願い」 「……ゆるさないから」 レザーがいたずらっ子のような笑みを浮かべ、摩擦を続けながら、亀頭にそろり口を近づけた。 紐を唇で挟んで僅かにひっぱった時、あっという叫びとともに、ロスのペニスがびくんと跳ねた。 尿道から伸びた紐がわななく。透明な粘り気のある液体が亀頭の割れめから少し溢れた。 「まぁだだよ」 一瞬ロスのペニスは柔らかくなったが、レザーが胸でごしごし擦ると、すぐに固さを取り戻した。
ロスは床に転がってペニスに栓をされたまま、立て続けに胸で四回、口で三回、指で三回、絶頂を強制された。 途中何度も「もうやめてくれ、お願いだ」「愛してる、だから」とレザーに哀願したが、 レザーは「わたしはうしだもん」「ろすは、わたしのおくちなんて、きもちよくないんでしょ」と一向に聞き入れない。 ついに言葉を発する気力も失せて、虚ろな目で唇の端から舌をだらんと垂らしていた時には、 既に衣服はお姉ちゃんのナイフで切り裂かれ、上半身まですっかり裸になっていた。 健康的な張りのある肌は傷だらけ、 赤いボールペンでむちゃくちゃに落書きされたようになって、右の乳首の下からはまだ薄っすらと血が流れている。 ペニスに埋め込まれた歯は、もはや痛みを伝える枷ではなかった。痛みはあったが、痛みそれ自体が快楽に変わっていた。 レザーも、もう何もつけていない。レザーは癖っ毛でとても愛くるしい顔をしていたが、自分の顔にも裸にも自信がなかった。 お母さんは歳をとった今でも若い頃の体型を維持して、近所のおばさん達には羨ましがられるくらいの美人だし (しかし、なかには、お母さんのことを売女、と呼ぶ人もいた。お母さんは昔、男の人と寝るのがおしごとだったらしい) お姉ちゃんはお姉ちゃんで、きりっとした猫目が印象的な、はっきりした顔立ちに、長身でスレンダーな体型、 きりんのような長く綺麗な足で、すれ違う男の眼を釘付けにするプロモーションの持ち主だ。 もっともお姉ちゃんは家ではとてもだらしない格好をしているのだけれど、それはさておき、 レザーは同級生の女の子にのろまなデブと虐められていたので卑屈になるのも無理はなかった。 しかしレザーは勘違いしている。 虐められる本当の理由――、一つは、推測どおり、レザーの頭が周りの子より少しばかり鈍いこと、 もう一つは発達途上の年齢にも関わらず素晴らしいオンナの身体を持ってしまったレザーへの嫉妬心。 それに気づいていたのは家族以外ではロスだけだった。レザーは不当な扱いを受けている。レザーは美しい。 しかし、自分の魅力に気づきもしないレザーは、お家に連れられて殺された女で特に綺麗な人がいると、 いつからか、顔と頭の皮をはぐようになった。ニスを塗って日干しにして乾かした皮を保管して、眺めるのが楽しかった。 だんだん眺めるだけでは飽き足らず、この人達のようになれたらいいな、と思うようになった。 ちゃんとしたかつらの作り方はお母さんに教えてもらった。初めはなかなか上手く行かず、 切り取る途中で頭と顔をつなぐ部分がちぎれてしまうこともしょっちゅうだったが、慣れた今ではお母さんよりも上手く作れる。 レザーの唯一の自慢だった。それをかぶると、自分が美しいオンナに生まれ変わった気がして、天にものぼる気持ちを味わえる。 満月の夜は、真っ白なシャツと葬式用の黒のスーツで豊満な自分の身体を引き締め (綺麗な女の人は厳粛な男装も似合うのだ、とレザーは信じていた) お気に入りのかつらをかぶって、おなかの底から声を出して、月明かりを浴びて畑中をくるくると踊り狂うのだ。 踊っている間、お母さんはとびっきりの優しい笑顔を見せてくれるし、 お姉ちゃんも、やれ!やれ!と歓声を飛ばしながら、拳を振り上げ足を踏み鳴らして盛り上げてくれる。 愛されている実感がレザーには何より嬉しかった。 おどってやる――レザーは決めた。ロスの上で踊ってやる。自分が女になれるんだって、ロスに分からせてやる。
レザーは大きく股を開いて、ロスの顔の上に立ちはだかった。水平に伸びたペニスを掴んで、クレバスにあてがう。 ロスは自分のペニスとレザーのクレバスが重なり合おうとするのを、猿が初めて道具を手に取ったような顔で眺めていた。 小さな入り口に先っぽを押し付けて、レザーが腰を勢いよくバックさせると、つるん、とペニスは飲み込まれた。 「ふはあああぁぁぁ……」 深いため息がもれる。たちまち腰がくだけそうになった。男の人のものを飲み込む瞬間がたまらなく好きなのだ。 レザーの中は熱く、ぐじょぐじょに濡れそぼっている。細かく震える襞の一つ一つがペニスに絡みつく。 そのまま後退する。太いペニスはずぶずぶ沈んでいく。ついに一番奥までたどりつく。 前後にゆっくり腰を動かす。亀頭が膣奥をノックする。 電気が走ったような快感が身体の中心から脳に直接響いてくる。 突き出た紐の感触が、とても気持ちいい。 あう、あ、あう、あ、とロスが小さな声を挙げる。 ぎゅうぎゅうに、はちきれそうになったレザーの入り口が、腹をすかせた食虫植物のように伸縮を繰りかえしている。 「うんっ!あっ!ひゃあっ!ふあぁ!」 ダンスを踊るように、肘を締めて、豊かな胸をぶるんぶるんと震わせて、レザーは腰をシェイクさせる。 リズムに乗ってQのスペルを書くような滑らかな動きを高速で繰り返す。詰まった水道管に汚水が通るような、卑猥な音が響き渡る。 膣口から白く粘っこい液体が溢れ出す。ペニスが一度びくんと跳ねる。 もう絶頂は休息を与えない。ペニスの強度を維持したままロスはイキ続ける。女のオルガスムスのようにたて続けにイク。 レザーは時折膣を激しく締めつける。白いジュースと汗がいっしょくたになって床に飛び散る。 乳臭い体臭とチーズのような愛液の臭いがそこら中にばらまかれる。 「あはっ!ひぃ!あんっ!ひゃあっ!いいっ!」 知ってか知らずか幸い今日は満月だった。外はもうすっかり暗くなっている。 窓の外に広がる小麦の穂が、きっとレザーを祝福するように風にそよいでいる。 お姉ちゃんが妹を慈しんで部屋の灯りを消した。お母さんが頷いて、嬉しそうにリズムを取って肩を揺らす。 真っ暗な部屋に救いの手をさしのべるように、月光が窓から差し込んで、レザーの豊満な女体を蒼く彩る。 美しかった。やはり、レザーは美しかった。気が触れたような眼、ひくひく動く小鼻、飛び散る涎、全身を覆う汗、メスの臭い! 「いいよぉ!きもちいい!おねちゃん!きもちいいよぉ!」 お姉ちゃんも興奮している。あの時のように拳をぐっと握り締め、振り回しながらはやし立てる。 「ヤア牝犬!ビッチ!綺麗だよ!レザー・ビッチ!」 「びっち!びっち!れざぁーは、びっちだよおぉ!」 お母さんは眼を閉じて昔の思い出に浸っている。そう――まだ彼女らを産む前、駆け出しの娼婦だった頃、 お婆さんに未熟な性戯をなじられて、泣き出して家を飛びだし、月明かりの下、行きずりの男と内緒でまぐわったあの日のことを。 記憶の中で自分は何度も果てている。今そのようにして、目の前で娘も果てようとしている。 「イキそう……イキそうなのね!レザー!」 「うん、いくよ!れざぁー、いく!いくぅ!」 「ハイヨー・レザー!」 お姉ちゃんが口笛のリズムに乗って足を踏み鳴らす。タップダンスは速度を上げる。 レザーの腰もそれに合わせて速度を上げて、小刻みに回転を繰り返す。大きな尻がふりふり揺れる。 「いくっ!いくっ!いぐぅぅぅうう!!」 タップダンスが最高潮に達した時、レザーの背中が限界まで反り返り、ぶるぶる震えた。 膣全体がぎゅうっと締まって、ロスのペニスは十九回目の絶頂を迎えた。レザーは舌を突き出し、肩から床に崩れ落ちた。 尻から腰にかけては震えが収まらず、びくっ、びくっ、と痙攣を続けている。 目を閉じたまま激しく肩で息をする。ロスはペニスをおったてたままへらへら笑っている。 ひひ、ひひひ、うひひひ、と笑い声を挙げて、眼球をぎょろぎょろあてどなく動かしている。 狂気のダンスが終わりを告げた。皆、一息、一休み。しばらく経って、灯りを点けたお母さんが口を開いた。
「さて、そろそろ、いいかしらね」 お姉ちゃんの手からナイフを奪って、ロスを縛りつけてある縄を切った。 長時間椅子に座っていたので、筋肉がすっかり硬直してしまったのか、 ロスは姿勢を崩さないまま、まるで胎内にいる赤ん坊のような格好で、床にごろんと転がった。 自分が自由になったことに気づいていないようだった。 お母さんは、ロスのペニスをぎゅっと握って、紐のわっかを人差し指にひっかけて、一気に引っ張り出した。 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁっ!?」 ロスの悲鳴とともに、精液でべとべとになった奥歯が順に七つ飛びだしてきた。 「あーあ、これ洗ってこなきゃ」 お姉ちゃんが鼻をつまんで不気味な人体加工道具を受け取った。 台所へ向かおうとして、何かを思い出して、振りかえる。 「そうだ、あれ、いる?」 「お願いするわ」 お姉ちゃんが流し台まで走って行き、少し経って、水が勢いよく流れる音が聞こえてきた。 その音が、かろうじて恍惚の世界に浸るレザーの意識をつなぎとめていた。 「ロスくん。聞こえてるかしら?」 ロスはきょとんとした眼で、しかし鼻から下は笑みを作ったままで、お母さんの顔を見つめていた。 「そこにねっころがってるレザーを、あなたの好きにしていいのよ」 お母さんの言葉は、水が流れる音に遮られ、レザーにはよく聞き取れなかった。レザーはまだ余韻に身をゆだねている。 「あう、ううううう、ひぃぃ、ひぃぃぃ」 「出していいって言ってんのよ。好きなだけ出しなさい」 言語を認識する力がロスに残っていたかは定かではない。 ロスはいまや、一匹の獣であった。 お母さんがロスの顎をつかんで、お尻を突き出してつっぷしているレザーへ向けると、ロスの目はらんらんと輝きを取り戻した。 「があっ!」 叫び声とともに、ロスはレザーの大きなお尻に爪を立て、かぶりついた。 レザーは痛みではっと我に返った。後ろを向くと、ロスが悪鬼のような形相で自分に覆いかぶさろうとしている。 「ろす!いやあ!ろすう!」 「ひひひひ!ひゃああああ!ひぃぃぃぃ!」 ロスはペニスをやたらめったらレザーの尻につきたてて、無謀な直進を繰り返す。 レザーはいやいやして逃げようとしたが、ロスは加減をしらない力で、レザーを後ろから抱きかかえ、押さえつける。 偶然、ロスの先端がレザーのひくひくと怯えるアナルに当たった。 不幸なことに、さっきの行為の愛液が、まだ乾かずにアナルにまとわりついていた。 行き場をなくした欲望を埋めてくれる場所を見つけたロスは、腰をぐっと突き出す。 ぷっくりとふくらんだ、可愛らしいアナルが抵抗する。こじ開けようと、ロスは押し出す力を強める。 ぷつり。
「あがぁっ!」 入れた瞬間、ロスは射精していた。レザーの悲鳴にふさわしいだけの大量の精液が腸内に注ぎ込まれた。 「ひゃはあ!」 一度の射精で満足せず、ロスは狂ったように――実際、狂いながら腰を動かし続ける。 「やっ、いやあ!ろすぅ、ちがうよ、そこ、ちがうぅ!」 レザーの言葉など意も介さずロスは突きまくる。獣の交尾を見せつける。 「いい機会だわ。経験しておきなさい。ア、ナ、ル」 レザーは初めておしりで受け入れた今までとは違う男の凶暴さに涙を浮かべていた。 単純に恐ろしかった。それも、あの優しかったロスが、自分のアナルをめちゃくちゃに犯しているのだ。 しかし、恐怖とは違った感覚もレザーの身体は受け入れ始めていた。 また子宮の奥がじんとする。愛液がわいてくる。アナルはぎゅっとロスのペニスをしめつけ、奥へ奥へと導いている。 「ちがうよぉ……ろすぅ……だめだよぉ……」 言葉に反して、レザーのお尻がせりあがってくる。ペニスが腸内にとどめられている塊に触れた。 「あっ……それ……いやぁ……」 男の子に自分の排泄物を触られている恥ずかしさで、レザーのクレバスはひくひく痙攣した。 ロスが二度目の射精を迎えた。まだ、欲望は消え去らない。さらに激しく腰をつきあげる。 レザーの眼がとろんと降りてきた。たっぷりの潤滑油を得てスムーズに動くようになったペニスは、もう痛みを感じさせなかった。 二人の荒い吐息が漏れる。レザーはお尻の悦びを知った。ペニスが自分のお腹をいっぱいにしている充実感。 引き抜かれると排泄時のようなどろんと落ちる感覚が届き、一転突かれるならば身体を串刺しにされたような衝撃が走る。 腸壁を擦られる刺激と、少しはなれた膣への振動が心地よかった。 「よくなってきたみたいねえ」 お母さんは、納得したような口ぶりで、絡み合う二人に忍び寄り、 右手の人差し指をロスのアナルへ、左手をレザーの秘所へ伸ばす。そして、同時に進入させた。 「ぐおおう!」 「ひぃぁっっっ!」 二人の悲鳴が同時に部屋に響き渡る。お母さんの右手の人差し指は、いち早くロスの前立腺を探り当てていた。 左手は、親指の腹をレザーのクリトリスに添えて、中指はざらざらしたGスポットに触れている。 おかさんの指は、お姉ちゃんも適わないほどのタイミングと、巧みさを併せ持っている。 その器用な指先で、美味しいシチューや、様々な人体家具を作り出すのだ。レザーはそれを知っていた。 タイミングなのよ、とお母さんはレザーに口すっぱくして教えている。 いい、レザー、男の人がいちばん感じる時に、感じる強さで、指を使ってあげるの。 そうすれば、レザーだって簡単に男の人を悦ばせることができるのよ。男の人だけじゃないわ。望むなら、女の子もね。 今それが自分に向けられている。
「イキなさいな」 お母さんが両の指に力を込めた。信じられないほどの快楽が二人の身体を突き抜けた。 「ぐおおおおおおおぉぉッッ!?」 「やっ、やっ、いやあああああああぁぁッッ!!」 ロスは三度目の射精を迎えた。いや、今度の射精は止まらなかった。 水鉄砲を絶え間なく撃ち尽くすように精液が発射される。レザーの腸内はもう真っ白に染まっている。 レザーは自分ですら知らなかった、最も気持ちいい部分を教えられた。 隠れていたつぼみが自ら皮を脱いで顔を出した。親指の腹でひとこすりされるたびに、イッた。 身体が痙攣を続ける。痙攣が止まらない。さらに中の刺激はたまらなかった。ざらざらした部分を最適の強さで擦られ続けて、 レザーのクレバスはキャベツを齧るハムスターの口のように蠕動し、ついには透明な液体を勢いよく噴出した。 もう二人とも息もできない。口をぱくぱく動かせるだけの人形だ。 お母さんの指の動きが二十秒ほど続いた時、ロスが大きく身体をそらせた。条件反射か、どうしようもない動きだった。 「が!」一声叫んでアナルから抜かれたペニスを震わせて、 精液――血液が混ざってイチゴミルクのようになった訳の分からない体液――を壁や床や、挙句の果てには電球まで飛び散らせた。 最後まで出し尽くすと、ばったり崩れ落ちてレザーに身体を預けた。 レザーは既に白目をむいて失神していた。薄赤い光を浴びて、潰れた蛙のようなはしたない格好で床に愛液の湖を造っていた。 さらに脱力したクレバスから尿が断続的に流れ出し、川となって湖を潤した。 小さなインコが出入りできるくらい大きく開いたアナルからは、精液と腸液が一緒くたになって涎のように垂れている。 クリトリスはレザーの可愛らしい小指ほどの大きさまで膨張している。 「なーんだ、もう終わってるじゃん」 洗浄を終えたお姉ちゃんが、台所からバケツを抱えて戻ってきた。 「そうなのよ。まだまだねえ、レザーも。もっと鍛えないといけないわねえ」 「だらしねえよなあ」 言い終わると、お姉ちゃんはバケツの中からハンマーを取り出し、気絶しているロスの頭めがけて力いっぱい振り下ろした。 レザーが部屋のベッドで目を覚まして、台所へ向かった時、お母さんは冷めたシチューを暖めていた。 ロスの姿はどこにもなかった。何処に行ったのか、聞くのが恐ろしくなったので、レザーは黙っていた。 シチューの他には、流し台に野菜が置かれていて、隣のコンロでは、鉄板の上で厚切りの肉がじゅうじゅう音を立てている。 お母さんが鍋の中のシチューを味見をして、うなずいた。 「おはようレザー。ごはんが遅くなっちゃったわね」 レザーはどきどきしてお母さんの後姿を見つめることしかできない。 「お……おかさん……」 「やあね、元気のない声ださないの」 「…………」 「そうそう、おかずを一品増やしたから、許してくれる?もうすぐ焼けるから。美味しいわよ」 お母さんが、向き直って天使のように微笑んだ。 (おしまい)
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名無しさん@ピンキー :2005/10/10(月) 01:40:50 ID:F9fHwZgY
支持age. 今更ハルとナツビデオに撮り貯めたの観て拓也×ハル萌え。。。 降臨キボンヌ〜他力本願ゴメソ
−Prologue− 私は、最近、嫌な夢を見る。同じような夢を何度も見ている。 夢が夢で終わればいいのだけど、どうやらアレは違うのかもしれない。不安が頭の片隅にまとわりついて消えない。 今まで悪夢を見ることは何度かあった。 強風に煽られた植木鉢が自分の頭めがけて落ちてきたり、グレンに「他に好きな子ができた」と別れを告げられたり、 ディナーの最中にママが突然暴れだして、ファナティックのような毛むくじゃらのモンスターに変わってしまったり……etc。 そんな悪夢は、いったんベッドから跳ね起きてしまえば、呼吸をゆっくり整えたあとで、今ある現実に感謝することもできる類のものだ。 でも、違う。アレは違うのだ。 夢から覚めるとき、必ず自分のショーツは汗と……もう一つの分泌液でべとべとになっている。あの女のせいで。 私の身体の一部が、現実と夢を往復している。夢の世界から証拠を持ち帰った気分だ。 エレメンタリー・スクールに通ってた頃、男の子は夢精するのだと保健の時間で習った。 夢の中で気持ちよくなって、射精してしまうらしい。同じことが自分の身体にも起こっているのかもしれない。初めはそう考えた。 夢が何か私のコンプレックスから来る、或いは現実の抑圧を転化させたものであるならば。 しかし、考えてみれば、確かにグレンとはまだしてない――正直に告白すれば、お互いの性器を触りあっただけで、 そのことについて特に不満はない――少なくとも私は、だし、ぎくしゃくしたこともない。 グレンは少し真面目過ぎる(ロッドは以前『ハイスクールにジョークの評定がないのが残念だ』と言っていた)ところはあるけれど、 物事を単純に捉えていつも明るく前向きなところが大好きだし、あれこれ考える癖がある私は憧れてしまう。 私には世間一般でアブノーマルと呼ばれる特殊な性癖もない、はずだ。 私は淫乱。 私はビッチ。 私は一匹の牝犬。 あの夢を見たあと、厭らしい言葉が浮かんで、卑屈になる。 なかよしグループのブレーキ役、読書が趣味の地味な女の子で通っているナンシーは、 本当はとてもエッチな女の子だったのだ、アーメン。まるで安っぽいポルノじゃない。
でも、その日見た夢を思い出して、身体の熱が収まらないことはたびたびあった。 そんな時は決まって、気を静めるため、日記をつけながら、街灯の明かりと月の光が入り混じる夜に、お隣のグレンの家を眺める。 二階の私の部屋の窓から、ちょうど正面にグレンの部屋が見える。 グレンはフットボール・クラブのヒーローで、学校の成績も悪くはない。 悪くないどころか、見せてもらった成績表は、ほとんどがAで、場違いでごめんなさいと言わんばかりにぽつんとB+があるくらい。 それでも、なんでもっとできなかったのかな、次はがんばるよ、 なんてさらりと言ってしまうくらい、グレンは物事を斜に構えて見ることがない真っ直ぐな性格だ。両親が真面目なのだ。 グレンも時々窓から乗り出して私の部屋を眺めている。 なんだかおかしくて、気づかないフリをしてあげるのだけど、稀に目があってどきっとする。 届かない距離、小さなグレンがいとおしく見える。初めて好きになった男の子。初めての……ボーイフレンド。 グレンはにっこり笑って『ナンシー!気づいてるのに、無視するなんてひどいじゃないか!』 と口をぱくぱくさせて答えてくれる。 日記を書くのは、一日の流れを追っていくと、自分が何処にでもいる女子高生なのだと気づかされて、少しは気が紛れるからだ。 私の傍にはグレンがいるのだ、と安心することもできる。でも、それでも、自分の感情をコントロールできない時はあった。 今日は、ティナと国語の授業で一緒だった。シェイクスピアの『ハムレット』について、アービン先生が語っていた。 『ハムレット』はどうやらエディプス・コンプレックスと関係があるらしい。 男の子が、自分の父親に対して、母を奪われたといらざる感情を持つことだ。 そんな面白くも何ともない事柄をわざと選んで書いていても、自分の……が、むずがゆくなって、自然と手が伸びてしまう。 私は、こんなに、dam……発情……してるのに、グレンは何をしているのかしら?と考える。
ちなみに、そう、ちなみに……今もそうだ。 だから、私は、この日記を、書きながら、自分のpuss……女……女の子のいちばん大事な部分に、左手を伸ばしている。 慰めている。グレンが屋根をつたって現れて、今すぐ私を後ろから抱きかかえて、fuc……抱いてくれればいいのに、と思ってる。 ああ、ついに書いてしまった。グレン、早く来て。私のアソコに、あなたのdic……モノをthr……入れて欲しい。 指を入れるだけじゃ、もの足りない。独りでイクのは嫌。でも動かせば、蜜があふれてくる。 もうショーツの下まで流れてる。私の乳首は石みたいに硬くなってる。 私のアソコはびしょびしょ。ぐちゅぐちゅ叫び声を挙げてる。指が自分のものじゃないみたい。 動いてる。私のアソコが震えてる。ひくひくしてる。クリトリスが大きくなってる。私のクリが悦んでる。 グレンきつくつまんで きゅっとして そう いい すごいいい 入ってきて そう 大きい めちゃくちゃにして グレン もっとついて わた私のしょ女まくをやぶって おくのおくまで あなたのでっかいのをうごかして わたしのプッ シー プッシーを あな あなたの チ ンポ で こわし て ぶ っ こわし て え も っ と もっと そ う もっと い い そ う よ はや く もっとはや くく だ め も う だ め い い く いっち や う いくいくいくいくいくいくいくい
「ナンシー、ナンシー?起きてるの?ナンシー!」 扉をノックする音はさっきから響いていた。今はそれにノブを回す音まで混じっている。 ナンシーは我に返り、すばやく日記帳を閉じて、ショーツを上にひっぱりあげた。立ち上がって辺りをぐるぐる見回す。 「ママどうしたの!?今開けるわ!」 引き出しを音を立てないようにそっと開いて、日記帳をしまい、 長椅子にこぼれている恥ずかしい染みをティッシュでふきとって、ゴミ箱へ放り込む。 呼吸を大急ぎで整えて、机の上の鏡を見ておかしなところがないかチェックする。 軽くパーマをあてた黒髪に、ふっくらしたほっぺた、太めの眉、少し横広きした鼻がつんと上を向いている。 しとやかな眼は少女の純真さを顕している。まだ女じゃない。心の中で繰り返す。私はまだ女になってない。 ナンシーは鍵を外して扉を開けた。白のナイトガウンをはおったマージが心配そうな顔で立っている。 「どうかしたの?私、もう眠りかけてたところだったんだけど」 マージは怪訝(けげん)な表情で、扉の隙間から顔を突っ込んで部屋を見渡した。特に変わったところはない。いつもの娘の部屋だ。 「そうなの?部屋の電気がついてるから、まだ起きてると思ったのよ。こんなに遅くまで何してるのかと思って」 ナンシーは枕の脇に置いてある目覚まし時計に目をやった。 それは赤と白の水玉が散りばめられて、崩れたトーストのような奇妙な形状をしているけれど、 何を隠そう十三歳の誕生日に、グレンがプレゼントしてくれたものだ。 本を読むのに夢中になって、寝坊してしまうとぼやいたのは確かだけど、 まさか、目覚まし時計なんて――でも、グレンの贈り物ならナンシーは何だって嬉しかった。針は午前二時を回っている。
「ごめんなさい。疲れてて。たまに、つけたまま寝ちゃうことあるわね。気をつけなきゃ」 「頼むわね。まさか、その歳になってお化けが怖いってこともないでしょう?」 冗談を言ったつもりだったのだが、ナンシーは笑わなかった。 娘の顔がひどく紅潮して、熱っぽくなっている。疲れているみたいだし、念のため風邪薬を下から持ってこようかしら。 マージが口を開きかけて、ナンシーがさえぎった。 「ママも早く寝た方がいいわ。心配かけてごめんなさい」 まったく、ママの方がよほど疲れてるわ、とナンシーは思った。ここ数年でママはめっきり老けてしまった。 こんなに夜遅くまで起きてるのだって、いつものように眠れなくてお酒を飲んでいたのだろう。 そんなママが少しだけ羨ましく思えるのは、きっと夢のせいだ。 「起こして悪かったわね。明日も学校あるんだから、もう寝なさい」 「そうね。寝るわ」 「おやすみ、ナンシー」 「おやすみなさい」 マージが階段を下りていったのを見届けてから、ナンシーは扉を閉めた。 もたれかかって一息ついて、ふと冷静になると、どうしてあんなバカなことを書いたのかしら、と恥ずかしくなってきた。 右手の人差し指と中指とぴったり閉じて、鼻へ近づけて、そっと匂いをかいでみる。 愛液はすっかり乾いているが、独特の臭みは残っている。 ナンシーはパジャマの裾でもう一度指をこすって、首を傾げて頬を膨らませた。 あれじゃ、本当に、私はビッチじゃないの。今のグレンとの関係に不満がないなんて嘘。あんな夢を見るのも当然。どうかしてたわ。 ナンシーは机の引き出しを開いて、日記帳を取り出し、さっき書いたページだけを裂いて、 力任せに細かく何度も破ったあと、ぐちゃぐちゃに丸めてゴミ箱へ放り込んだ。 そして部屋の電気を消して、ベッドにもぐりこんで、いびつな目覚まし時計の呼び鈴を八時にセットして、 仰向けの姿勢で胸の上に手を組み、目をぴったり閉じた。 どうか神様、今夜はゆっくり眠れますように。
−Tina_Grey− ティナは真夜中の裏路地をパジャマ姿で歩いていた。どうしてこんなところにいるのか分からない。 煉瓦塀で仕切られた道がどこまでも入り組んでいて、出口を求めてさまよい続ける内に霧が濃く立ち込めてきた。 冷たいアスファルトのせいで足の裏が麻痺しそうになる。街灯はない。あたりは真っ暗だ。 下請け工場らしきのっぺりした屋根が2mほどある高い壁からところどころ頭を出している。 従業員から忘れさられてしまったかのように、錆びた鉄の臭いだけを残してひっそりと佇んでいる。 空を見ると、鈍重な雲が敷き詰められ、完全に月を隠し、星すら見えない。 どこからか歌声がする。複数の、甲高く細い少女の声が、冷風が吹きすさぶ彼方から響いている。 歌は単純で同じメロディを繰り返している。童謡だろうか、こんな人っ子一人いないような寂れた場所に。 (One Two fxxxxxxx coming for you……) 真ん中の部分だけ、よく聴き取れなかった。 何と言ったのだろう?いったい、何が来るのだろう? (Three Four bxxxer xxxx yoxx door……) 気味が悪くなって来たので、ティナは駆け足気味に道を進む。 ガラスの破片や錆びた釘などが落っこちていないか足元に注意しながら、角を左に曲がった。 曲がった先は、パルプ工場の工用道路らしかった。 塀を隔てた建物から伸びている三本の巨大な煙突と、辺りに散らばった板切れや縦に割られた丸太などが、ティナにそう思わせた。 ちょうど大型トラック一台半分の広さだが、腐った木材の破片が塀のあちらこちらにたてかけられて、道の1/3を両脇から塞いでいる。 すぐ傍の塀から錆びた配管がにゅっと突き出し、口の先から緑色の汚水が糸を引いて垂れている。ひどい臭いだ。 ドブネズミが排水溝の縁をかけぬけ、何者かから逃げるように走り去った。 嫌な予感がする。大事なことを忘れているような気がして、それが何だったか思い出そうとするが、何も浮かんでこない。
少し進むと、カラースプレーで落書きされた横長のトラッシュボックスが左手に置かれていた。 蝿がたかっている。どこかの馬鹿がハメを外したのだろう「PUSSY!(おまんこ!)」卑猥な言葉だ。 投げ入れ口二つとも、ぱんぱんに膨らんだ黒のビニール袋がつめこまれていて、大きく歪んで落っこちそうなくらいはみ出している。 生ゴミの腐臭がぷうんと鼻をつく。なるべく見ないようにして通り過ぎる。 ティナの歩みと同調するように、幾重にも重なり合った雲がゆっくりと裂けた。 モーゼが大海原を切り開いたように、天の始まりから天の果てまで空に道が創られた。 その真ん中に、薄紅色に輝く満月が鎮座し、高みから気狂い染みた赤光を下々に与え、ティナの顔も照らした。 視界が広がった。道は50mほど先で突き当たりになっていて、右と左に別れている。 赤く塗られた木切れが、お前に他の選択肢はない、お前は道を進むしかないのだ、と急き立てる。 ティナはふっと空を見上げ、赤光を正面から浴びながら愛する男と親友達の顔を思い浮かべた。 ロッド、ナンシー、グレン、今彼らに逢えたらどんなにか心強いだろう。 歩みを進めるたびに、足の親指の感覚がなくなってくる。 いつまで歩けばいいのか、入った時より道は綺麗になったけれど、本当に出口があるのか疑わしくなってくる。 帰りたい、早く皆のいる場所へ。パパとママが待つ家へ。ロッドの腕の中へ。ナンシーとグレンに会える自分の街へ。 風が一陣吹いた。煽られ、首筋に寒気を感じて、ティナがくしゅんと顔を傾けた時、 キィィイイイイイィィィ――金属と金属がこすれあうような嫌な音が、背後から響いた。さっき通り過ぎたトラッシュボックスの近くだ。 振り返ると、あの女がいた。右頬が焼け爛れて、ケロイド状の皮膚をむき出しにして。 ティナの記憶がよみがえる。 160cmほど、薔薇の茎のようなか細い身体。 ぴったりあった茶色の中折帽、金髪のおかっぱで、帽子の隙間から不規則に髪がはみ出している。 ブルーの鋭い切れ長の目で、右手に皮をなめしたグローブをはめて、人差し指から小指まで三日月形に曲がった鋭い鉤爪を光らせて、 キィイイイイイイ――今、それで、トラッシュボックスの角を引っかいている。 黒のホットパンツから伸びた細く長い足は、厭らしいガーター・ストッキングに守られて、気が狂うくらい倒錯的だ。 赤と緑の縞模様のぴっちりした古臭いセーターを着て、胸の部分だけがほんの少し膨らんで、細い腕が余計に長く見える。 真っ赤な唇、大きな口を閉じたまま、含み笑いをして、こっちを見ている。 記憶が完全に再生されたと同時に、ティナは向き直って、走り出した。 あいつだ。また、あいつがやってきた。どうしていつも会うまで気づかないのだろう。 自分は死にそうな目に何度もあってるってのに!ここは、いてはならない場所だったのだ。 まただ。あの鉤爪の女に、犯される。アソコをむちゃくちゃにされる!そして、逃げ切れなければ、殺される!
女性にとって、最も忌むべき、二つの危険。 それが動力源になって、ティナの足を回転させる。 走れ。全てを捨てて走れ。逃げなきゃ、もっと速く!もっと遠く!ロッド、助けて! 「テぃぃぃぃぃナぁぁぁぁぁあ」 両脇を走るレンガ塀に映った火傷女の腕の影が、疾走するティナに届かんとする勢いで、にゅうと伸びてきた。 幾倍にも拡大した鉤爪のモノトーンが目に入る。ティナは距離を測ろうと振り返った。 火傷女は、左足を傾けて、茶色いブーツの踵を立てたまま、元いた場所から一歩も動いていない。 それどころか、セーターに包まれた腕を組んだまま、指さえ動かしちゃいなかった。 なのに、影だけが両脇から少女の身体を掴まんと、あと少しのところまで来ている。どうして、そんなことが起こりうる? 火傷女が笑う。ゆっくりと大きく腕を広げて、にじり寄ってくる。 今度は本当に、びっくり箱から飛び出したピエロのように、人間の身体に不釣合いな長さで、腕が伸びている。 「キャッ――――――――――ハハハハハハァ!!!!!」 火傷女のハスキーな笑い声だ。真っ赤な口をぱっくり開けて、なんて下品な声だろう。 地獄の底から蘇った悪魔だ。人間があんな声を笑えるだろうか。火傷女は悪魔だ。 もう見ている余裕はない。ティナは突き当たりに向かって一心不乱に飛ぶように走った。 逃げ切ってやる。走れるところまで、路地の奥へ、真っ直ぐ行って、一番奥、その角を右に曲がって、まいてやる。 命をかけて逃げ切ってやる。どうか、行き止まりじゃありませんように! 時々木切れを踏みつける。足の裏の痛みなんか気にしていられない。ひたすら腿を持ち上げ降ろす。 ゴールが見えてきた。突き当たり、ちょうど右と左へ、一本道が伸びている。 右、右、あいつは左に曲がる。左に曲がる。 祈りながら、突き当たりまでもう少しかというその時、 「ヒャァア!」 その右の角から、火傷女が現れた。 踵を返し、全速力で元来た道を戻る。振り回される爪先がブロンドの後ろ髪をかすめ、切られた毛がぱらぱら落ちる。 ティナは感じた。にゅっと伸びてきた、細く冷たい、五本指。女の手。 捕まった。 腕を回す。足を蹴り上げる。 火傷女は、あっという間に後ろから羽交い絞めにして、四肢をばたつかせるティナを持ち上げている。 暴れるティナをものともしない、細い身体にどうして、こんなに力が秘められているのだろう。 「やあやあ、元気なお嬢さん、暴れるのはおよし!ヒャハッ!」 火傷女の挑発はティナに届かない。全身の力でティナは腕で作られたリングをやぶろうと躍起になる。 ビルから落下する自殺者のように、両手両足をばたばたともがかせて、抵抗する。 火傷女がにやにや笑いながら、ティナの身体を解き放った。ティナの足は地面につかなかった。 浮いたまま彼女は暴れまわる。何が起こっているのか分からず余計に手足をばたつかせる。 しかしそれは、標本にされる昆虫がピンで固定されてもがくかのごとき、無駄な抵抗だった。
「ヒヒッ、ティナあ、今日はどんなことして、楽しませてくれんのかしら?」 「ひっ」 気丈なティナの眼から希望の光が失われかけている。恐怖でいっぱいだ。 身体の震えを止められない。顔がくしゃくしゃになるのを押しとどめられない。 「ハァッ!」 火傷女が空を抉り取るように鉤爪をなぎ払うと、ティナの腕が横水平にぴんと伸びた。 パジャマのボタンが独りでにプツンプツンと外れていき、雪のように白く、ささやかにふくらんだ乳房の半分が露になった。 返す刀でもう一払いすると、ズボンがパンティごと下にずりおちる。 金色の陰毛は薄く、恥丘がほとんど見えている。きゅっと締まった小さなお尻がむきだしになる。 鉤爪をカチャカチャ鳴らせながら、厭らしい笑みを浮かべて、火傷女が向かってきた。 「いや……いやあっ!」 「さんざろくでなしにブチ込まれてんのに、いまさら恥ずかしがってんじゃないよッ!」 火傷女が一喝する。音が周囲を攻撃する。煉瓦に当たって反響する。 ティナはもう何もできないでいる。怯えて身体を震わせるだけの、赤ん坊だ。 空中に30cmほど浮いたまま、十字架にかけられたキリストのような格好で、 うつむいて、心の中で必死にロッドに助けを求めていた。 お願いよ。助けに来てよ。いつも私を守ってくれるって、言ったじゃない。お願い……。 火傷女が、くん、と中指の爪を立てる。ティナの股が何かにひっぱられて開いていく。 「や……やめてよ……」 まるで屈強な大男にレイプされているようだ。それほど大きな力がかかっている。 下っ腹に力を入れて、膝をすり合わせるように抵抗するが、股は徐々に開いていく。 「やめてよ、ねえ、やめてったら、バカッ!」 中指の爪がさらに上へ突き上げられた。 「いや……やぁああッッ!」 浮いた姿勢でティナの股はきっかりM字に開かれた。 Mの字の中心にはヴァギナとアナルが存在を主張している。 成長した肉体が、おむつを交換してもらう赤子のような格好になっているのは卑猥であり滑稽だった。 火傷女は舌なめずりして、ティナの秘所を覗き込む。ティナのヴァギナはお世辞にも美しいとは言えなかった。 頂上にはピンクの肉芽が厚い皮から少し顔を出していて、 色素が沈殿した小陰唇は盛り上がったぶよぶよの大陰唇の内側に沿って、尾びれのように2cmほども突き出ている。 秘肉はその存在を隠そうともせず、ピンクとグレイを混ぜたような色で、 下部の膣口が呼吸をするように、開いたり閉じたりを繰り返している。
「ずいぶん使い込んでるねえ。なに、このビラビラ?真っ黒!」 「……!」 自分のヴァギナは確かにコンプレックスだった。 豊満とは言わずとも形の良い胸は密かな自慢だったし、身体のラインはチェシャ猫のようにしなやかで、 ハイスクールに入ってすぐの時期に、チアリーダー・クラブにスカウトされたこともある。 顔立ちは、柔らかい眉のラインに、少年のような瞳、少し下がった目尻、 すっと通った小鼻、アヒルのように婉曲した唇がおそらく最大のチャームポイントだった。 それらがブロンドのショートカットとマッチして、キュートかつボーイッシュな魅力を讃えている。 中性的な美形だが、決して近寄り難い感じはせず、どこか人懐こい印象を与える。 ティナは「私のアソコはセックスで悪くなったのではなく、元々こうなのだ」と言いたかった。 メンスが始まる年頃になって、一度、自分のアソコを鏡で視た。想像していたよりもグロテスクで目を背けてしまった。 自分の他のパーツより明らかに劣っていた。醜かった。自分のモノではないと思いたかった。 知ってからは、必ず、セックスの時は相手に明かりを消すことを守らせたし、クンニリングスは許さなかったのだ。 今それを、最も知られたくなかった部分を視姦されている。まざまざと矚(み)られている。 火傷女は左手の人差し指と親指を伸ばし、飛び出した小陰部をつまみ、横にひっぱりあげた。 ティナのヴァギナが非対称に歪む。 「くうっ!」 限界まで小陰部を伸ばされた痛みに、ティナは思わず声を漏らした。 「すっぱり切っちまうか。汚らしい肉」 「!」 火傷女が爪を振りかざした。ブンと空を切る音が耳に届く前に、ティナは全身の筋肉を硬直させ、目を閉じていた。 痛みはなかった。案外、切断される瞬間はそんなものかもしれない。 しかし――血が流れている感触もない。 目を開ける。自分の大事な部分に傷がついていないのを確認すると、安堵で腰の力が一気に力が緩んだ。 「はっ、はっ、はああああああ」 弛緩し、負荷を失った下半身は、同時にヴァギナとアナルをも脱力させる。 小さな尿道口からぴっと音が立ち、黄色い液体が孤を描いて勢いよく流れ出した。 火傷女はすっと横を向いて、肉の水鉄砲をかわす。 そのまま鉤爪でおいでおいでの動きをすると、ティナの身体が上下に回転を始めた。 「牝豚のまんぐりがえしでござあい!マングラー!」 回転はちょうど尿が顔面にかかる高さでぴたり止まった。ティナの人間としてのプライドは、もはやめちゃくちゃに損なわれていた。 自分の尿を顔面に浴びたティナは計り知れない恥辱に眉を八の字にして耐えている。 ぐっと閉じた唇が、はからずも美しさを際立たせる。鼻筋をつたって、尿が鼻腔に流れ込む。 アンモニアの香りがいっぱいに広がって、温かい感触が喉まで伝わると、我慢できなくなりたまらず口を開いた。
「ヒャハッ!きったないねえ……小便女!」 「ぶぶッ!ばっ!」 一刻も早く尿を止めたいのだが、既に腰が抜けていて、力が入らない。 呼吸が苦しく、息をするたびに、ティナは自分のおしっこの味を堪能することになった。 喉まで通さないように顎を動かそうとしたが、頭が下になっているので、上手くできない。 いくらかは飲んでしまう。無理に吐き出そうとして、激しく咳き込んだ。 「特製カクテル、しっかり味わいな!」 「あぶうっ!べっ!ゲェッ!」 「キャッ――――ハハハハッ!!!」 「ゲホッ!ゲッ!ブハッ!」 涙と鼻水と涎と尿が一緒くたになってティナのボーイッシュな顔を陵辱する。 アヒルのような唇が咳き込むたびにぱくぱく動く。息をするのも苦しいのに、身体の芯がじんと熱くなり始めていた。 ティナ自身も不思議に感じた。尿と違ったもう一つの液体がアソコから垂れてきていることを。 排尿が終わった。こめかみを伝って、アスファルトに排泄物の雫が落ちる。 繰り返される滴音が、陵辱の記憶を消させない。肩を震わせ息をするティナへ火傷女が追い討ちをかける。 恐るべき女強姦魔は、その天才的な嗅覚で、ティナが恥辱の悦びに目覚め始めていることを見逃さなかったのだ。 「ヒヒヒッ!とびっきりの牝豚だね!こんな格好で濡らしてやがる!」 ティナの頬が紅潮する。羞恥心がさらにヴァギナを熱くする。 ティナにとって新しい発見だった。恋人のロッドに対してもベッドの上ではいつであれ主導権を渡さなかった。 ロッドに限らずこれまで経験した三人の男とのセックスもティナが常にリードしていた。 初めての時でさえ、腰の据わったティナは相手の大きなペニスにも怯えなかった。 こっそり手に入れたポルノ雑誌で知識は得ていたし、ただ破瓜の痛みを心配していて、どうスムーズに終えようか、と考えていた。 ティナは好奇心旺盛でリアリストという矛盾を兼ねあわせた性格だった。 未知の世界に冒険心を膨らませつつ、リアリスト特有のペシミスティックな諦観も有していた。 だから時々、とても寂しくなる。自分の未来には何もないような気がしてくる。 ティナの隠された矛盾が、少々無鉄砲でも困難に立ち向かっていく男を捜した。 たとえそれが悪ぶりであったしても、ティナには必要なのだ。 また、ティナは自分の性格を多少は自覚していた。努めて隠していたのだが、ナンシーだけが見破った。 ナンシーだけは、ティナの性格を理解し、そして認めてくれたのだ。「羨ましいわ」そうナンシーは言ってくれた。 「あなたのような勇気と判断力がもてたらと思う。本当よ」 ティナは少し救われた気がした。
「お前は、一見、気取っちゃいるけどね。一皮むけば、虐められるのがだぁい好きな、マゾ女さ!」 「ち……がう……」 ティナは抵抗する。理性が残っている内は悪魔に屈してなるものか。 決意を込めた眼差しが語る。私はナンシーを信じる。ロッドを信じる。ナンシーに愛されているグレンを信じる。 しかし、ヴァギナは大口を開け、真逆の言葉を発している。嬉しい。もっと言って。汚い言葉で罵って。もっと私を熱くさせて。 「豚のおまんこがまたヒクヒク言ってるよ。そんなに欲しいのかい?」 「ち……が……」 言葉とは裏腹に、ティナのオシッコと牝の臭いが、辺りに漂う汚臭に対してささやかなアクセントを加えている。 「お前のきったない、醜い、クサレマンコ!」 「…………」 「そのグロテスクなビラビラを、ナンシーが見たら驚くだろうね」 火傷女は両手を胸の前で握って、小さなお尻をふりふりさせて、ぶりっ子のポーズをとって、ナンシーの声色で呼びかける。 「まあ、ティナったら。会うたびロッドとハメてるからそうなるのよ」 「……うっ」 似せているのではなく、ナンシーの声と瓜二つ、いや、同一人物の声としか思えない。 ナンシーだ、ナンシーに見られている――ティナのヴァギナがひくついて止まらない。 「どれだけやったら、そんな風になれるの?」 「う、うう、ううう」 「私、見損なったわ。虐められて、自分のオマンコ、びしょびしょにしてるなんて!」 「うあああああああああああああああああ!」 余りの言葉責めに堪えきれなくなって、ティナは世界の果てまで届くような大声で泣き出した。 冷たいアスファルトに、ティナの大粒の涙と洪水のように溢れ出した愛液がぼたぼた落ちた。 火傷女は、長い舌で爪先を舐めながら、目を裏返して艶笑する。 焼け爛れた顔の皮膚が、ぴくっぴくっと痙攣している。恍惚の瞬間だ。 ティナの号泣はまだ収まらない。恐怖だろうか、哀しさだろうか。 恥辱、屈辱、被虐だろうか、おそらく全てがいっしょくたになって、ティナは泣き続ける。 火傷女は、何を思うか、自分の人差し指と中指をすぱん、すぱん、と切り落とした。 根元から血が噴水のように飛びだす。赤い光を受けて輝くアスファルトをさらに濃く染める。 落ちた指は、ティナのヴァギナに向かって一直線に飛んでいき、ぱくり開いた膣口にねじこまれた。 突然の刺激に括約筋が硬直する。味わったことのない、自分以外の女の指の感触を、ティナは自ら受け入れる。 きゅぅううとアナルが引っ込んだ。
「あはッ!」 「ありがたく思いな。牝豚に指をくれてやる」 二本の指は、血を流しながら、レバーが上げ下げされるように交互に動き、 ずりゅ!ずりゅ!と膣壁を押し広げている。既に穴はいっぱいに開いていた。 今、ティナの心がぽっきりと折れた。 ティナは、ぐしゃぐしゃの顔で、自分のヴァギナに二本の切り取られた指が動いている様を目に焼けつけた。 怖くなんかない。自分のアソコがぐちゃぐちゃになってもいい。もっとしてほしい、虐めてほしい。 苛めて、苛めて、苛め抜いてほしい! 「……うっ……ひぇぐっ……あっ……」 涙の入り混じった喘ぎ声が漏れる。 「どうだい?自分がマゾで、ビッチで、どうしようもない牝豚だって、認めたかい?」 ティナは力いっぱい頷く。そうだ、私は牝豚だ。虐められたい。もっと。 「ご褒美だ」 弓なりにしなった金属の鉤爪。人差し指の長い兇器の先端が、充血した肉芽にちょこんと触れる。 「かッ!?」 冷たく尖った感触、ティナは一気に絶頂に導かれた。 「かッ、かぁはぁっ」 最後の声は、かすれて搾り出された。ティナは口を金魚のようにぱくぱくさせて、酸素を取り入れるのに必死だった。 今まで経験した中で最も強いオーガズムだった。すぐさま全身の痙攣運動が始まった。 騒音。赤い目覚まし時計が速く正確に小刻みに振動し、けたたましく喚いて主人に起床を促している。 ティナが目を覚ました時、まだ身体は多少の痙攣と絶頂の余韻を残していた。 ベッドの中は尿の匂いでいっぱいだった。火照りが収まった時、自分の受けた恥辱全てが夢であることをティナは悟った。 動きたくなかった。まだそんな気力はわいてこない。夢で犯されたって、犯されたことには変わりないのだから。 自分の最も隠しておきたかった部分を見られてしまったことは事実なのだ。助けてほしい。だけど、誰が信じてくれるだろう? ナンシー?ロッド?グレン?パパ?ママ? 笑われるに決まってる。それに、こんなこと誰にも言えない。 問題は、これで終わりそうにないという予感だった。今やっと気づいた。 これはただの夢じゃない。 あいつはきっと、またやってくる。そして今度こそ――ティナは眼をぎゅっと瞑った、私を殺すだろう。 逃げ場はない。対抗する方法もない。どうしようもないのだ。 絶望が身体全体を襲い、ティナは大声で泣き出した。 いつまでも鳴り続ける目覚まし時計。娘を起こすため、母親が階段を登ってくる。 ティナの部屋のドアを二回ノックしたあと、ノブを回してそっと中へ入り、 毛布をはぎとった時、一階で食事をしている父親まで、ヒステリックな悲鳴が響き渡った。
−The Last Supper− ティナは四日間学校を休んだ。グレンがティナの担任の教師に訊けば、病欠としか教えてくれなかったらしい。 ナンシーはロッドに「まさか、変なことしたんじゃないでしょうね」と疑惑の眼を向けたが、 当の本人は広い胸板を反らせて、ぱりぱりのジーンズのポケットに手を突っ込みながら「知らねえよ」と否定する。 「本当だ。俺だってティナが心配だからな……家まで会いに行ったさ。だけどあいつ、顔も見せやがらねえ」 ロッドはワックスできっちりオールバックに固めた頭を下げて、耳の裏を一かきし、下から覗き込むようにしてナンシーに訊ねた。 「ナンシーこそ、ティナから何か聞いてないか」 「ごめんなさい。私も心当たりがないの。特に、変なそぶりは見せてなかったし……」 「一度、三人で行ってみないか?お見舞い」 グレンが提案したが、ナンシーは「そっとしておいた方がいいんじゃないかしら」と消極的だ。結局ロッドの案が採用された。 「一週間経って音沙汰なかったらグレンのケツに乗っからせてもらう」 週が明けて月曜日、ティナは遅れて学校に来た。 一時間目、同じ授業を受けているナンシーは、ティナが教室のドアを開けて入ってくるのを見て、 初めは安心したのだが、すぐに異様な空気を感じ取って、眉をひそめた。 久しぶりに見るティナの顔は青ざめていて、目の下にはクマをつくり、心持ちやつれたようにも見える。 「ティナ」 ナンシーは小声で呼びかけて手を振ったが、気づいたティナは一瞬怯えたような素振りを見せ、小さく手を振り返すのがやっとだった。 終業のチャイムがなり、次の授業のために皆が移動を開始した。 全員が出きらない内に、厚手のポロシャツを着たグレンが、まだ眠いのか、GIカットの頭をかきながら、いちばん乗りでやってくる。 ティナを見つけると、端整な顔をみるみる緩ませて、ナンシーの席まで駆け寄ってきた。 「ティナおはよう!もうよくなったの……って、どうしたの、寝不足?」 「うん……怖い……夢をみて」 「へー。俺なんかもう朝起きたら目ぱっちり開いちゃってビンビンでさあ!」 聞きなれた軽い声に、皆が振り返ると、ロッドが黒皮のジャンパーを揺らせて、いつのまにか後ろに立っていた。 「俺様、感動しちゃってね」 ロッドはうつむき加減のティナにそっと近づいて、へらへらしながら肩をぽんと叩く。 「オー神よ……、今日も今日とて、爽やかな目覚めをお与えくださり感謝いたします。 つきまてはその印といたしまして……息子にお前の名前書いちゃった」 ティナの肩が震えだす。顔をきっと上げてロッドを睨みつける。 「……あんたのアレに……私の名前書けるスペースなんてないでしょ!」 ティナが今日初めて、強い口調で言葉を発した。 「ぷっ」 グレンが笑った。ナンシーもつられて笑う。 「なんだよ、ブルドーザー並みの威力知ってんだろ?」 「バーカ」 ますます笑い声が大きくなって、ロッドは拗ねた顔で舌打ちをした。いつものパターンだ。ロッドはティナにやりこめられてしまう。
しばらく喋ったあと、皆の顔を見回して、ティナが切り出した。 「明日の朝から、パパとママが旅行に行くの」 「そりゃいいね。お前ん家まで三本足で走ってっちゃう」 ティナは無視して話を続けた。これもまた、いつものことだ。 「それで、いきなりこんなこと言い出して悪いんだけど…… 明日の夜、みんなに私の家に来て欲しいかな……って思ってる。都合どう?」 「私はたぶんオーケーよ。でもティナ、身体の具合は?」 ナンシーの声で、ティナの眉がぴくりと震えた。 「心配しないで……それより、独りでいたくなくて。寝る場所は来客用のがあるから……」 「ティナの快気祝いってとこかな」 グレンはフットボールで鍛えられた腕を突き出して、ロッドとハイタッチする。 「ったく健康優良児よお」 「どうも」 二人のやりとりを見て、ナンシーはいつかのティナの言葉を思い出す。 (プロムの時は気をつけなきゃダメよ。グレン狙ってる子、けっこう多いんだから) 「グレンのお母さん、許すかしら」 グレンの母親はグループ内では「教育ママ」の見識で一致していた。 おそろしくマナーに厳しく(彼女の前ではロッドでさえ丁寧な言葉遣いになる。もっともロッドはなるべく避けているのだが) グレンの帰宅が門限より少しでも遅れると、箒を抱えたまま庭に立って夜中になってもずっと待っている。 不思議の国のアリスのトランプ兵士みたい、ナンシーは自分の部屋の窓から幾度かその光景を眺めてそう思った。 「その件は俺に任しとけ」 ロッドが両手の人差し指でグレンを指して言った。 「とっておきの秘密兵器がある」 ナンシーがあきれたように、ふう、と息を吐いた。 「また変なことたくらんでるわね。ほんとにもう」 次のチャイムがなるまで、四人はパーティーの内容を話し合った。 ロッドが大の苦手な数学の授業をエスケープするために窓から抜け出して、 ティナとナンシーは歴史の授業を受けに教室を出た。 廊下はもう人がまばらになっていて、ハイスクール特有のごったがえした喧騒が収まりつつある。 「まったく……バカでやんなるわ、あいつ」 ティナはうつむきながら歩いているが、その表情には薄っすら笑みが浮かんでいるようにも見えた。 「あなたに夢中なのよ」 ティナがいくぶん元気になったように思えて、ナンシーは嬉しかった。
次の日、学校が終わってから、ロッドが四人乗りの赤いオープンカーで皆を拾っていった。 愛車のクリスティだ(どうやら、購入時に既にそういう名前がついていたらしい。ロッド談)。 「68年型、赤のプリマス。ちょっとばか古いが、まだちゃんと走るし、なかなかイカした車だ」 ロッドは左手でバタフライ・ナイフをくるくる回しながら、ずっと片手ハンドルで運転していて、信号待ちで 「もう。危ない」 後ろに座っているナンシーにナイフを取り上げられた。 ナンシーの横に座っているグレンがナイフを受け取り、刃を一度出して、しげしげと眺める。 ロッドがいつも持っている青い鎖柄のナイフとは違うものだった。新調したのだろうか。 刃を閉じて前から手を伸ばしているロッドに返すと、ナイフは黒いジャンパーの内ポケットにすばやく滑り込んだ。 「ナイフなんか持ち歩くなっての」 「へえへえ、お坊ちゃん」 「ロッド」 ティナがたしなめる。 グレンは気を取り直して、後ろから身を乗り出して、お気に入りのラジオ番組にチューナーを合わせる。 『ファンキ―――!ミュージック!1043!』 ヒュ――! ロッドが口笛を鳴らした。 ショッピング・モールで一度停まって、ティナとナンシーが今日の分の食料やお菓子と、ティナの四日分の貯えを買いに行った。 「すぐ戻るから」 男二人が車に取り残され何処を見るともなくぼうっとしている様は哀愁以外に形容のしようがない。 地方ラジオの人気DJ――ヴァニータ・ストレッチ二十七歳が、カーステレオを通して、ふぬけた野郎共を励ますように喋っている。 『ファンキー、ミュージック。さあ今日もハガキをどんどん紹介しちゃいましょう。 えーそれではさっそく。ロニー・タウン、ペンネーム、トミーくん。十歳、えー、いつも綺麗なストレッチさんこんにちは。 まあませてる。てか、見たのか。このやろう。なんちゃって、僕はママとおねえちゃんとゴードン、あ、犬ね。 わんちゃんの絵が描かれてます。かわいー。えーと、一緒に住んでいます。 僕がテレビ・ゲームにはまっていると、ママは勉強しなさいっていつもうるさいです。ねー、私も勉強苦手だったのよ、うん。 特に算数が全然できなくって、どうでもいいか。トミーくんは勉強しなさい。お母さんの言うことが正しいです。 はは、自分のことを棚にあげて何を言うか。えー、僕はメイクにはちょっと自信があります……って、お化粧するの? え?あはっ、今ビルが持ってきてくれたんだけど、ほんと凄いわ、凄い凄い。 みんな分かんないよねー、ごめんなさい、いやお見せできないのが本当に残念、 今ね、私の目の前、マイクの横に置かれてるんだけどー、なにかな、これ?どうやらトミーくんが作ったマスクのようです、 リアルですよー、ほんと映画で使われてるみたいなの、狼男かな?がおー。ハロウインで重宝しそうですね。 マイケル・マイヤーズが泣いて喜んじゃうよ。まだ小さいのに大したもんだ。 トミーくん、マイケル・マイヤーズ、知ってるかな?怖いぞー、ブギーマンだぞー、 チャチャチャチャチャチャーンチャーンチャーン、失礼。えー、家の近くはキャンプ場になっています、へー珍しいね。 時々かっこいい女の子達が遊びにきて湖で泳いでいます、ほうほう、私も休みがもらえたら行ってみようかしら、 えー、なになに、その時、カーステレオから流れてた曲なんですけど、 お姉ちゃんに頼んでアルバムを買ってきてもらって、毎日家で聴いています。 どうかその曲を流してください、いつも綺麗なストレッチさん、だから見たのかよ。二回目かよ。 でもちょっと嬉しかったりして、おねえさん、そこまで言われちゃしょうがない。 トミーくんのリクエスト、「Iron Maiden」「Flash Of The Blade」』
エッジの利いたギターソロがカーステレオから流れて、車内を飛び越えて霧散した。 ロッドは彫の深い顔を歪めて、一つ大きくあくびした。グレンには、まるでハスキー犬が吠えているように見えた。 「暇だ。暇で死にそうだ。何か面白いこと言って」 グレンは考えた。面白いこと……面白いこと……。言われてみると思いつかない。 腕を組んで、真剣に記憶をさらってみる。頭がだんだん下がってくる。面白いこと……面白いこと……。 「あーいい。お前に期待した俺が間違いだった」 ロッドはジーンズのポケットに手をやり、黒光りするサイフを取り出して中を色々と確かめ始めた。 指で押し広げて、どこにも探し物が見つからないと分かると、車のキーを抜いた。疾走するギター・サウンドが急停止した。 「おいおい、止めるなよ。いいとこだったのに」 ロッドは無視して車を降りて、グレンに手招きしながら後ろ向きに歩いた。 「なんだよ」 「いいから来なさい」 グレンは車から降りて、ロッドに着いていった。 モールは四階建てになっており、中にいるのは夕食の材料を揃えに来た主婦がほとんどだったが、 今ロッドが通り過ぎたカフェテリアで談笑しているハイスクール・ガールや、 カジュアルな格好でショッピングを楽しんでいるカップル達も余暇を楽しんでいる。 ロッドは足早に進んでいき、エスカレーターに乗った。 グレンが下を眺めていると、買い物かごを手に提げたナンシーとティナが目に入った。 なんだか――買い物してるナンシーは不思議だ。結婚したらこんな風になるのかな、と、なんとなしにグレンは思った。 声をかけようとして、ロッドが口をふさぐ。彼なりの気遣いであった。 二階へ到着、ロッドがずんずん先へ進んで、たどり着いたのは薬局だった。 縦長の箱を掴みとり、レジへ持っていって、購入、8ドル50セント也。 エスカレーターまで戻ったところで、グレンがなんだと聞くと、ロッドが人差し指を折り曲げて笑った。 もどかしくなって、袋から出して手に取り眺めると一ダースのコンドーム。グレンはばつが悪そうな顔をした。 「避妊はしましょう」 「……ああ」 ロッドはおもむろに箱を開いて、連なったコンドームを三つ、グレンに渡した。 「ガツンと決めろ。ナンシーも待ってるぜ」 「余計なお世話だ」 グレンは三つともチノパンの後ろのポケットに詰め込んで、ロッドにお礼を言った。
今日という日になくてはならないものを手に入れた二人は、いち早く車に戻ってそれを使う対象者が帰ってくるのを待った。 ロッドは中身を全て取り出した後、運転席から無用の長物となった空箱を網目状のトラッシュ・ボックスへ投げた。 グレンの心の中で審判員がタッチ・ダウンを宣告したと同時に、回転扉をくぐって二人が出てきた。 紙袋を抱えたナンシーとティナが、何やらぎこちなさそうに会話を交わしながら、クリスティに帰還した。 「ただいま。けっこう時間かかっちゃった」 グレンがそわそわしてナンシーを迎え入れた。 「おつかれさま」 「おう、じゃあ行くか」 ロッドがキーをひねると、再びカーステレオからラジオが流れた。ハンドルを握ったロッドをティナがまじまじと見つめて 「さっきさあ、お店の中……いなかった?」 首をかしげて尋ねる。ロッドが目を閉じて首を振る。 「存じません」 グレンも目をつぶり、同じように首を振る。 「右に同じ」 「え?なに?いたの?」 ナンシーが驚いてグレンを見て、左目をそっと開けたグレンは無意識に顔を逸らした。ティナが低い声でロッドに問いかける。 「なに買ったの」 「黙秘します」 「右に同じ」 「ふーん、私に隠し事するなんていい度胸してるわね。まあだいたい想像はつくけど」 グレンはどきっとして、ティナを見た。 ティナは、ふうん、ま、好きにしてくれればいいけど?という風に、気だるそうな眼でグレンを見ている。 やっぱりティナは何でもお見通しだな、とグレンは思った。ナンシーはきょとんとしている。 ティナがロッドのほっぺたをつねってぐいぐい引っ張った。いへえ、ロッドは目を瞑ったまま情けない声を出している。 「え?なに?全然分かんない」 ナンシーがティナに問いかけるのを見て、グレンが慌てて口を開く。 「ナンシー、チキン買った?ほら、昨日言ってたよね。ローストチキン作るって」 「うん、買ったけど」 「僕が作るよ。たぶん上手くできると思う……」 「ねえ、話題逸らそうとしてない?」 ナンシーが真っ直ぐな瞳でグレンの眼を覗き込む。グレンはこの眼に弱い。 「気のせいだよ」 き、の一音だけやけに高かった。 「みひぃにおなひ」 ロッドが頬を引っ張られながら後押しした。 ティナはもう全てを察しているので、ナンシーとグレンのために何も言わないつもりだった。 ティナだってつきあいの長い二人が肉体的に結ばれることは心から喜ばしいことだと思っているのだ。 だいいち他人の恋路を邪魔するふとどき者は犬に噛まれて死ぬべきだ、という格言もあるし、ティナは割合この格言を気に入っている。 (理由は『犬に噛まれて』の部分が何とも言えず良いからだった) しかし、グレンはティナが悪戯心を起こして自分のささやかな計画をばらしてしまわないか不安だった。ティナにはそういうところがある。 三者三様の思惑が交錯する中、ナンシーが溜息をついた。 「まあいいわ。でも、いたんだったら手伝ってくれればよかったのに」 グレンが胸をなでおろし「そうだね」と力なく答えると同時に車が走り出した。
『うーん、そうかあ……、なるほど、続いてのおたよりは、あ、またロニー・タウンだ。 なんという偶然、えー、メイガンちゃん、八歳、スタジオはお子さまミュージックフェアと化しております。 ストレッチさんこんにちは。いつも楽しく聴いてます。ありがとー。えー、わたしのパパはおまわりさんです。 厳しそうですね。マイ・ダディもテキサスで牛さん飼ってるんですけど、こわかったですよー、 女の子だからもっとおしとやかにしなさい、なんてお尻ぺんぺん。 えー、このまえ、パパがねてるときにいたずらして、うわー、そりゃだめだ。 マジックでかおにねずみのヒゲをかいちゃいました。パパにすごーくおこられました。 ぱとろーるに行けないじゃないかーって。うーん、確かに迫力にかけます、マジックでネズミのヒゲかいてるおまわりさん。 でも駐車禁止のキップ切られても許せちゃいそうですね、そういう問題じゃないか。 えーと、でもでも、ごめんなさいっていっしょうけんめいあやまったら、ゆるしてくれました。 メイガンはパパがだい、だい、大好きです。あーいい話ですね。うん、ほほえましい。胸がじーんとします。 私も結婚したら、女の子がいいなあ。今、外のベンがいやらしい眼で見てきたんですが、気のせいでしょうか。 あ、ベンが怒っております。嘘をつくなとガラス戸を叩いております。あはははは。 彼の名誉のために見間違いということにしておきましょうか。こりゃ曲流してる間にお説教かなー? さて、そんなほほえましいエピソードを送ってくれたメイガンちゃんのリクエスト、 ポップでロックなメロディ、彼女のイメージにぴったりだ。 私もこのバンドのアルバムを最近買ってですね、家で一人寂しく聴いております。 彼氏募集中。「ASIA」「The Smile Ha Sleft Your Eyes(偽りの微笑み)」』 ナンシーはモール内をうろついている間にも、ティナの様子が気にかかっていた。 正確には、ティナが昨日、学校に来た時からずっと、或疑問が頭の隅にひっかかっていた。 確かにティナは昨日よりは見違えるようによくなっている。 それはいいことだけど、やっぱり、自分の呼びかけに怯えるように応対する節がある。 なにか、悪いことでもいったかしら。まだ身体の具合が悪いのかもしれないけれど……。 ただ、一つだけ、ナンシーは確信している。 ティナは何かを隠している。 生暖かい風が顔にふきつけられ、曲が終わりに近づいて、ティナの家が見えてきた。
宴は長く続いた。ティナとナンシーが生地の上にさっとデコレーションして自作のケーキを作り、 男共はそれをつまみぐいしながら、NFLバッファローズを応援する。 グレンは卓越した料理の腕前をみんなの前で披露することになった。 「ほんとに女顔負けね」 ティナがローストチキンをぱくつきながら言った。 「まあ、ほとんど、できあいさ」 グレンは照れ笑いして応える。 以前自分で作ったものより美味しかったので、ナンシーは溜息をついた。グレンは本当に何でもできてしまうのだ。 食後の運動、客室のビリヤード台で、ペアになって対決した。 結果はロッド・ティナ、一歩及ばず敗北。 ジェンガ、オセロ、モノポリー、家に存在するありとあらゆるゲームをやって、くたくたになり、ついに、秘密兵器が登場した。 「空港の近くの従兄弟の家に泊まるのはオッケー。既に従兄弟に話はつけてある」 グレンが受話器を握り、コードを肩に巻いて通して、不敵に笑う。 「あとは俺の秘密兵器でこの通り」 ロッドはジャンパーのポケットからテープを取り出してティナにひらひら見せ、 テーブルに置かれたカセットデッキに押し込み、スイッチを入れた。 グレンは大急ぎでダイヤルをプッシュしている。 しばらくすると、ぐぅううううん、空に穴を掘るような効果音がスピーカーから繰り返された。 ジャンボジェットが離陸する音だ。 「あ?ママ。うん、元気だよ。マーク?うん、いるよ。風呂に入ってる」 「手間のかかることするわね」 ティナはあきれている。 「何か用事があったら少し経ってからかけてね。うん、今?い!?」 突然、スピーカーから、大勢の男達が叫び声と共に走り来る音が聴こえてきた。グレンは顔をしかめる。 「ディ、ディナーおわったとこ。うん、大丈夫だよ」 『FIRE!』 ぱらららららら、ぱらら、ぱらららら、マシンガンの銃声と悲鳴が交錯する銃撃戦が始まった。 「あ、いや、違うよ。うん、あれ?あ、近くの不良が喧嘩してるみたい。だ、だいじょうぶ、だいじょうぶだって!」 ナンシーとティナはソファの左右の肘掛けにもたれかかり、既にお腹を抱えて笑い転げている。 「わ、わかった!警察に電話する、警察に電話するから、う、うん!心配しないで!」 『GO AWAY!』 糸を引くような、落下音――――。 1t爆弾!? 「あっ、危ない!飛行機が落ちそう!落ちる!」 全てが失われるような、テーブルを揺るがす轟音が、部屋中に鳴り響いた。 「だ、だいじょうぶ!落ちたのは向こうだ!ホント、ママ!切るよ!電話!」 ガチャン。 「ロッド!」 ロッドはにやにやしながらカセットデッキのスイッチを切り、グレンに敬礼した。 「戦場にかける橋、名作だ」 グレンとロッドは顔を見合わせてどっと笑う。四人で涙が出るまで笑ってしまった。 余韻もさめやらぬ中、ロッドとグレンが悪乗りして、ティナの父親が大事に取っていたジョニー・ウォーカーを空けた。 しばらくして、二人は仲良くトイレに駆け込んだ。
「ねえ、もう夢なんか怖くないでしょう?」 ナンシーは二人がいない隙を見計らって、自分の不安を打ち消したいがために、さりげなくティナに訊ねた。 ティナの異変は夢と自分がキーワードになっている。 それがどうつながりあっているかは分からないけれど、 おそらくティナが隠していることもその二つに関連性があるのだろう、長いパーティーの間に、そうナンシーは推論していた。 「…………」 ティナは何かを諦めたような顔で首を横に振った。 「……ナンシー、夢で起こったことが現実になるって、信じる?」 ナンシーはティナの手を握った。自分を慰めていた、ゴミ箱に捨てたはずの日記が思い出される。 「ねえ、ティナ、あなたらしくないわ。そんなこと、あるわけ」 「鉤爪の女に襲われる夢を見るの。ナンシーは……怖い夢、見る?」 鉤爪の女! ナンシーは背後から金槌で頭を殴られたような気がした。 自分が受けた恥辱の――或時は耐え難い快楽の記憶が鮮明によみがえってくる。 初めは裸にされる程度のものだった。でも、それらは、だんだんと激しい責めになってきていて……。 「私も……それ……鉤爪の女……見る」 ティナの虚ろな瞳と恥ずべき記憶に引き込まれて、ナンシーは独りでに告白していた。 「それってどんな」「それってどんな」 二人同時に声を出して、お互いの顔を見て、下を向く。 考えることは同じだった。 まさか、 (ティナも)(ナンシーも) あんなことを?
しばらく沈黙が支配していた。 静謐の檻の中で、ナンシーは現実の世界にいるような気がしなかった。 ひょっとしてこれも夢じゃないかしら、と思って、すぐに突拍子もない考えを打ち消した。 「……ここしばらく来てないけど、あいつはまたやってくる」 ティナが首を持ち上げ、前を向いて、沈黙を破った。 「それも、近いうちに。もし……」 ナンシーは舌下に溜まった唾をごくりと飲み込んだ。 「もし、私が死んだら、あいつよ」 ティナのはっきりした口調には、何者にも侵されない決意の光が込められていた。 ナンシーが今まで見たティナで、最も力強い目をしていた。 「な、なに言ってるのよ、ね!疲れてるのよ。ティナ!」 「ナンシー、今日はありがとう」 ティナが突然、ナンシーに抱きついた。ナンシーはティナが少し震えているのに気づいた。 スポーティーな柑橘系の香水のかおり。綺麗なブロンド。締まった腕。柔らかい頬の感触。 ナンシーもティナの背中をぎゅっと抱いた。ティナがこれ以上怖がらないように。 ナンシーはティナがふっと笑ったような気がした。そして、ティナがもう帰ることのない旅に出るような、 自分達が決して届くことのないどこか遠い場所へ行ってしまいそうな気がして、さらに強く抱きしめた。 ティナは眼を瞑ったまま、身体を預けてゆっくりと口を開いた。 「あなたに……ロッドに、グレンに……逢えてよかった」 どたどたとけたたましい音が、廊下の向こうから迫ってきた。 ナンシーがふいと目をやると、まだ酔いが抜け切っていないロッドがトイレから駆け足で戻ってきたのだった。 ロッドは口を尖らせてティナの後ろから抱きついた。 「よおおお、レズってんなら俺も入れてくれえ!……ヤローだけど」 ティナがナンシーから勢いよく離れ、ロッドの肩に平手打ちを喰らわせる。 「なんだよ」 「もう、大事な話してたんだから!デリカシーないのよ、あんたって男は」 「どうしたの?」 グレンもトイレから戻ってきた。よれよれになったポロシャツを直して、ガムを噛んでいる。 ロッドはティナの背後に回り、もう一度抱きついて、後ろから顔を寄せて口づけした。 ティナの口内にきついブルーベリーの香りが広がる。 唇を離すと、膝の裏に手をやって、ティナをお姫様のように抱きかかえる。 きゃっ、ティナが驚いて、ロッドの胸を拳で叩いた。 「じゃあ、俺達そろそろ、あっち行くわ」 「二人とも、帰っちゃだめよ、この変態に何されるか分かんないんだから」 ティナはロッドの首に腕をかけて笑っている。さっきまでのティナが嘘のようだ。ナンシーは余計不安になった。 「お前らもよろしくやってくれ、じゃな」 ロッドがウインクする。ナンシーとグレンは目を合わせて、ぎこちない笑いをかわした。
ロッドとティナが、ティナの部屋にしけこんで、もう三十分になる。 その間、二人はソファの上で寄り添って、今日のパーティーについて感想を述べた。 話すこともなくなり、だんだん会話のリズムが落ちてくると、グレンがナンシーの手を引いて、髪を撫でた。 ナンシーは心ここにあらずだった。 ビリヤードの劇的な勝利について喋っていても、あのおかしな電話工作のことを振り返っていても。 そして今、グレンの大きな手の平をぎゅっと握っていても、頭の中ではずっとティナのことを考えていた。 なんだか、ティナにもう会えない気がする。それに、鉤爪の女……。 「ナンシー」 我に返ると、すぐそばにグレンの唇が近づいていた。グレンのすっと締まった唇が押し当てられる。 ナンシーは急なキスに驚いて、舌を引っ込めて、歯を閉じてうめいた。 強引に過ぎたか、反省して、グレンは一度撤退し、ナンシーの肩に手を回し、抱き寄せて、下唇を吸った。 フットボールの激しい練習でくたくたになったあと、更衣室で着替える男共のむさくるしい汗の匂い、 それと対極に位置する、ナンシーのささやかな女の肌の香りが、グレンをさらに興奮させた。 愛撫によって、ナンシーが自ら扉を開いた。 グレンはもう一度ナンシーの口に入り込み、舌先で小さな歯の裏をゆっくりと舐める。 そのまま続けて、ナンシーのウェーブがかった髪を頬に優しく当てて、耳の後ろに手をやり親指で太めの眉をそっとこすった。 二人の荒い鼻息と唾液が混ざり合う。ナンシーも自らグレンの舌を求めた。 息が激しくなるにつれ、グレンが身体を寄せてくる。厚い胸板が頬に触れる。 うなじからコロンの香りがした。その裏には男の体臭が息づいていた。 ナンシーはグレンの匂いをもっと嗅ぎたいと思った。太股に、チノパン越しに固いペニスの感触が伝わった。 ナンシーは思い出す――自分の部屋で、ベッドに寝そべって、お互いの性器に触れ合ったあの日。 三ヶ月ほど前、まだ鉤爪の女に遭遇していない幸せの時、初めて見た勃起した男の性器に、ナンシーは面食らってしまった。 男の人のモノは、こんなにも大きく、硬くなるのだ。本に書いてあるようなことは、嘘じゃなかったのだと。 ベッドの上で二人寝そべって、おそるおそるグレンの股間から伸びているモノに触れると、 それはまるでグレンと離別した一個の生き物のように反応して、指が上下するたびに、びくびく動いていた。 大きい。とても――ナンシーは心底驚いた。いったい全体、こんなに大きくなるものなの? 指なんて比べ物にならない。あれが、中に入ることになるなんて、信じられない。だから、性交は拒否した。 ナンシーは、モノを見るまでは、このまま最後まで行ってしまっても……と考えていたが、 グレンのペニスは予想していた15cm定規なんか比べ物にならないほどで、 そんな驚異的なものが指一本でさえ窮屈な自分のアソコに収まるとは想像もできなかったし、むしろ裂けてしまうのではないかと恐怖した。 だから、必死にキスを重ねて、どうか、グレンが入れたいって、我慢できないって、いいませんように、 祈りながら、慣れない手つきで、巨大なペニスをこすって、気をやらせた。 グレンのペニスが不規則な速度で刺激を受けて、赤みを帯びた亀頭がはちきれんばかりに膨らんで大量の精液を発射させた時、 ナンシーはびっくりしてペニスから手を離した。 暴れ狂うペニスは二度三度、精液を女の匂いが染みついたシーツやナンシーの胸から腰までぶちまけた。 まさか、あんなに勢いよく出るなんて――親指と中指で作った円よりも大きい亀頭の割れ目から、 ややクリームがかった白色のどろっとした液体が、熱情の強さを示すように胸まで飛び散った。 顔を下に近づけると、形容しがたい匂いがナンシーの鼻腔を襲った。 グレンのものでなければ、顔を背けてしまったかもしれない。ただ一つ言えることは、とても臭かった。 しかし、その臭みが、ナンシーのヴァギナを悦ばせた。どうして入れてくれなかったのと嘆かせた。
放出したあと、ティッシュで拭き取ろうともせずに、グレンはヴァギナをいじっていた。 人差し指と薬指で、肉の境目にそって、下から上へ優しくなでていた。 ナンシーは自由になる自分の指とは異なる制御不可能な興奮を感じた。 のみならず、初めは幼馴染という関係だったグレンが 自分のアソコをまさぐっている――その事実だけで、頭が飛んでいきそうで、くらくらした。 中指が時々、一番感じる部分に触れた。 薄い皮の上から、グレンの指の腹が、ヴァギナの頂点に隠された大きめの豆を潰すようにして丸い円をかいた。 皮をかむったままでも、刺激が強すぎて、ナンシーは思わず腰を引いてしまった。 「ナンシー、怖がらないで」グレンは言った。 そして中指がナンシーの中に侵入した。ナンシーはグレンのごつごつした指を、内部器官で直接感じた。 指一本を受け入れるのがやっとだった。ゆっくり抜き差しされると、身体がこわばって、グレンに全力で抱きついてしまった。 初めて触られた相手がグレンであることにナンシーは少なからず幸福を感じていた。 でも、本当は――言ってみたかったのだ。 指を中に入れないで、自分がいつもしているみたいに、続けて、感じる部分をいじって欲しかったと。 皮をむいて、中指の横の腹で、もう少し抑えた力で、ペットの猫にするように、何度もなぜて欲しかったと。 ナンシーは唇と唇を合わせながら、このまま最後まで行くべきなのかどうか、自問自答を始めた。 本当に最後までしてしまっていいのだろうか。頭の中にはティナがいた。なぜティナはあんなことを言ったのだろうか、 ティナと抱き合っている時、どうしてあんなに儚い気持ちになったのだろうか、 今こうしてティナのことを考えながら、浮ついた気持ちでグレンと寝てもいいのだろうか。 「グレン」 待った、の声だったが、グレンは気づかなかった。 「ナンシー、好きだ。愛してる」 愛してる、ナンシーは嬉しかった。今すぐ言いたかった。自分もグレンを愛しているのだと。 しかし、やはりティナの言葉が頭から離れない。「鉤爪の女に襲われる」ティナは本当に、鉤爪の女をみたのだろうか? 鉤爪の女は自分を裸にして、口にするのもはばかられる厭らしいことをした。それと同じことをティナもされていたのだろうか。 「違う」 ナンシーの声を無視して、グレンの手がナンシーのシャツに忍び込んで、ブラジャーの下へと侵入した。 バレンシア・オレンジのような豊満な柔肉を大きな手の平が包み込んだ。 乳首が勃っているのを確認すると、左の胸をぎゅっと力を入れて揉む。 ナンシーの唇から、ううっ、と声が漏れた。少し、痛かった。 グレンは力を緩めて、ナンシーの乳首を親指で下から掻いて、ぴんと弾いた。 ナンシーはアソコが湿って来ているのを感じた。これ以上されたら、行くところまで行ってしまうだろう。 自分がそれを望んでいるのをはっきりと自覚できた。だってもう濡れている。 初めてのセックスがどういうものか知りたい、そんな好奇心ではない。 愛する人が望んでいるのだから、気は乗らないけれどさせてあげたい、そんな奉仕精神でも断じてない。 ただ一つになりたいという気持ちが湧き上がってくるのを感じている。 でも、それは今なのだろうか? もう一度問うてみる。答えはノーだ。 ティナのこと、鉤爪の女が自分にしたこと――グレンにはまだ味合わされていないのに、 いや自分以外、他の誰にだってそんなことされなかったのに、 つまり、鉤爪の女の愛撫で絶頂へと導かれてしまったこと――が頭から離れない。 ナンシーはそんな状態で、グレンとするのは不本意だった。最後まで行く時は、グレンのことだけを考えていたかった。
「違うの!やめて!」 ナンシーは両手を使って、密着した肩を力いっぱい押し返した。 グレンは突然の拒絶にきょとんとした顔で 「痛かった?」 とナンシーから手を離した。 「……そうじゃないの」 「じゃあ、部屋に行く?」 「違うの。どうしてもティナのことが気になって」 グレンはほっとして、ナンシーを再び抱き寄せる。 「心配いらないよ、ロッドがついてる」 そう言って、唇をふさごうとしたが、ナンシーは口づけすら拒否した。 「やめて」 グレンはたじろいだ。ナンシーの眼が、自分を、まるで、強姦者のように、見ている。 「今日はティナのために来たのよ」 傍から表情を見ればとてもそうは思えないだろうが、ナンシーは心の中でグレンに精一杯謝っていた。 申し訳ない気持ちでいっぱいだった。自分が至らないからこういうことになったのだと。 全て自分の責任なのだ、そう認識すると同時に、おあづけ食わす嫌な女なんて思わないでほしい、 自分を嫌いにならないで欲しい、哀願に近い感情も混ざりだした。 一つ分かっているのは、ここで弱くなったら、まず間違いなく押し倒されてしまう、最後まで行ってしまうだろうということだ。 だから、一歩も引いてはいけない。グレンにはひどいことをしているのだけど、黙って拒絶を受け入れて欲しかった。 「冗談だろ」 グレンはあきれてナンシーを見た。まったく、どうして、ナンシー、信じられない。 目を白黒させて、うろたえた。ティナの家についてからの記憶が、 千五百ピースのジグソーパズルを一気に床にひっくり返したように、ごちゃまぜになってグレンを襲った。 パーティーは楽しかった。それに間違いはない。ティナは元気になった。それも正しい。 昨日見た時は言葉を発するのもやっとだったのに笑顔をたくさん見せてくれた。 そして、今頃、ティナは、もちろんロッドもだろうが、何も着ちゃいないだろう。 そうすると、スタートが問題だったのだろうか。そんなに強引だっただろうか? グレンの混乱は止まらない。 確かにキスをしたとき、ナンシーは口を閉じていて、急ぎすぎたかなという感はある。 しかし、無理やりにしたわけじゃない。嫌がるナンシーを押し倒すなんてことはしたくない。 ナンシーは感じてる。間違いない。自分のアレはもうヘルメットのように硬くなってる。 入れたくてたまらない。バカ、性欲に身をまかせたいんじゃない。 「グレン」 ナンシーの声はグレンには届かなかった。グレンは完全に思索の森に迷い込んでいた。 ただやりたい、そんなのは最低だ。ナンシーでなくたっていいじゃないか。 あくまでも優しく抱きあって、ナンシーを安心させて、自分も安心して、どれだけ好きかをお互い確認しあう、 そのために、ナンシーの中に入り込んで、ナンシーの感触を味わえるだけ味わって、ゴムはつけるにしても、たっぷり精液を吐き出す。 そしてその資格ももちろんある。自分達は、本当に、お互いに愛し合ってるんだから。 オーケーだ。なのに、なんで、そんなこと言うんだ?
「どうして……」 グレンは自分が意図せず声を発しているのに気がついて、なんて情けないことを言っているのだろう、と自戒した。 或意味でこれがグレンの初めての挫折だった。 「ごめんなさい。最後まで、したくないってわけじゃないのよ。 それだけは信じて。あなたとするのが嫌なわけじゃないの。でも、今日は、ダメ」 グレンはナンシーの目をじっと見つめた。ナンシーは気丈というよりも攻撃的な目でグレンを見ていた。 ストイックで純真な瞳が、時々変わるのをグレンは知っている。 一度目は昔、クラスメイトの女の子がガキ大将に虐められていた時だ。 ナンシーがよってたかって罵声を浴びせられているのを見つけた時は、急いで止めに入ろうとしたが、その必要はなかった。 彼女がガンとして引かず、今みたいな目で、ボスはおろか取り巻きの十数人までも一気に黙らせたからだ。 二度目はロッドが怪我をしたときだ。ロッドが喧嘩に巻き込まれて、警察沙汰になった。 しばらくして留置所から出てきたロッドは仕返しに行くと息巻いた。その時もナンシーは掴みかかって止めた。 三度目は……。 もういい、ナンシーは本気だ。グレンの顔がだんだん失望の色に染まっていく。 だってそうだ、彼女の心を溶かすのにどんな方法があるだろう? ことこの状況に至ってはどんな折衷案だって存在しえないし、一度こうなったナンシーは誰だって止めることはできないのだ。 ちくしょう! グレンは頭を壁にぶつけてそのまま死んでしまいたい気持ちにかられた。 自分はとんだヘマをやったのだ。どうしてそんなことをしてしまったのか、グレンに後悔の念が押し寄せる。 いつものようにすんなり切り替えるわけにはいかない。 だって相手は七つや八つの頃から好きで好きでたまらないナンシーで、しかもこれから初めてのセックスをするつもりだったのだ。 そんな大試合を前にして、恋人達が抱き合うにはもってこいの夜に、 ベースボールで例えるならば打ってから三塁方向へ走るようなド素人級の失態をおかしたのだ。 おそらくそれがナンシーの心を閉ざしてしまった。お前は下手糞だ――グレンはそう言われている気がした。 グレンの脳裏にフットボールのコーチの顔が浮かんだ。 グレン、貴様、目ん玉ついてんのか!貴様のミスでチームが死んだぞ!全てを台無しにしやがって! 「分かったよ、悪かった」 グレンはナンシーの身体から完全に離れた。 肩にかけられた指の感触がなくなった時、ナンシーはグレンを正視できなかったし、 それに合わせてナンシーの腕がだらんと下がった時、グレンはナンシーを正視できなかった。 それからはお互い一言も会話をかわさなかった。こんな風になったのは初めてだった。 喧嘩をしたことはあるにはあるが、すぐに仲直りできていたし、何より今まで感じたことのない異常な後味の悪さが残っている。 二人はずっと黙り込んで、ソファの上で、広がった扇のようにそっぽを向いて座っていた。 しばらくして、グレンが無言で立ち上がり、リビングの階段へ向かった。 ティナの部屋の隣、二人がそこで初めての契りを結ぶはずだった客室用の寝室へ消えていった。 ナンシーはそれでも、ティナの告白を思い出していた。夢の中で遭った鉤爪の女。 火傷にまみれて赤々とした皮膚の粘膜と、厭らしい切れ長のオンナの視線が、べったり自分の背中に張りついているような気がした。
−Sweet Emotion− 次に鉤爪の女が出てきた時、いや、おそらく次に眠る時――、私は、存在の全てをめちゃめちゃにされて、死ぬ。 あの女の気配がする。今だけじゃなく、あの夢をみてからずっと、視線を感じる。 一昨日より昨日、昨日よりさらに今日、近くで見られている気がする。 私は、だから、皆を家に呼んだ。取り返しがつかなくなる前に。 ナンシーの夢にも現れる鉤爪の女。あいつはいったい何者なのだろう。 夢から夢へ軽業師のように飛び移り、淫猥と狂騒に満ちた恐怖をばらまいているのだろうか。 何のためにそんなことをするのか、調べる術もない。きっと理由なんてないのだろう。 夢について私なりに頭をフル回転させて考えてみた。結論から言うと、夢は自分を映し出すもう一つの鏡。 あまり本は読まないし、退屈になってすぐに寝てしまうのだけど、 ナンシーから貸してもらった怪奇小説に次の言葉が書かれていたのは覚えている。 −恐怖とは、鏡に映った歪んだ自分自身を見ることに他ならない− なるほどそうだ、と納得してしまった。だって私は、初めて自分のアソコを鏡で見た時、実際に恐怖したのだから。 そして、私は夢で、鏡で見るよりもずっと鮮明に自分の歪みを思い知らされた。 しかし夢それ自体が意志を持ってしまったとすれば? 仕えるべき存在である人間に対して反逆を始めたとすれば? 話は少し入り組んでくる。 ロッドの両腕に抱きかかえられながら、私はそんなことを考える。 だっこされた瞬間、泣きそうになってしまって、笑顔を作るのに必死だった。 上手くできたか自信はないけれど、だって、最期のお別れくらい笑って済ませたいものね。 でも、私の頭の上で、ロッドが相変わらず下らないジョークを飛ばしている。 これを聞くことももうないのかな、と思うと、やっぱり泣きたくなった。
リビングルームから階段を登って、突き当たりにティナの部屋がある。 扉は開いていて、こざっぱりと片付いた女の部屋で、身体を密着させる二人がいた。 「おうおうおう、娘っ子さんや。そんなに泣いて、どうなすったか」 ティナが泣いたのを見るのは初めてだったから、いつものように軽いジョークは飛ばせない。 いつか見た、古い喜劇役者の声色で、ちゃかしてみる他なかったのだ。 「だまっててよぉ……」 参ったな、とロッドは思う。かなり長い間、抱き上げているので、流石に腕が疲れてきた。 ロッドは腰を降ろし、ティナに身体を貸したまま、左腕を壁に這わせてスイッチを探り当て明かりを点けた。 部屋を見渡す。壁紙は薄いクリーム色、ぴっしり閉まった窓、 鍵がかかっていて……念入りだな、以前はなかったはずだ、新しい鍵が一つ増えている。 外で、シナノキがばたばた揺れている。 部屋の右側には、真っ白でぱりぱりのシーツを敷いた優に二人は眠れる大きなベッドがあり、 左側にクローゼットや化粧台が置かれている。化粧台の鏡の真ん中に、20cmほどある大きな十字架が立てかけられている。 さて、ティナは相当キテいるな。ロッドは顔をしかめる。ティナは神にすがるような性格ではない。 「ロッド、神様っていると思う?」 いつだったかティナはそう言った。考える振りをして、難しいことは分からねえな、と返した記憶がある。 「私は信じない」 「……全部、神様のおかげって思うのはバカげてるわ。何かあれば神様に感謝して、植物みたいに退屈な生活を送るなんて」 十字架にかけられたキリストは、茨の冠を右下に傾けて、掌から鉄の血を流している。 おい、なんとか言えよ、そこの髭もじゃ野郎、とロッドは思った。 もし、お前が神さんで奇跡を起こせるのなら――ティナを笑わせてくれよ、いつものように。 どういうわけか、こんなに怯えてるんだ。理由がさっぱり分からない。俺はただ、胸を貸すことしかできないみたいだから。
ロッドは壁にもたれて何も言わず待った。泣き声は聴こえなくなったが、まだティナは胸に顔を寄せたままだ。 「落ちついたか」 声をかけると、ティナがゆっくりかぶりを上げた。目は兎のように赤く、まぶたが腫れている。 きめの細かい白い肌をしているので、余計に目周りが赤く見える。 ボーイッシュな泣き顔は美しくもあった。ロッドは右手でそっと狭いおでこに触れて、ティナの前髪をこめかみへ分けた。 「……ゆめっ、こわいゆめ」 記憶の端にひっかかっていた、昨日の朝の会合。ロッドは舌打ちした。 「夢が……どうかしたのか?」 「こわいゆめっ……ろっど、ろっどは……みる?」 「おう。俺だって夢くらい見るさ。……誰だってな」 ティナは額をロッドの胸に押しつけて、嗚咽混じりの声を絞り出す。 「かぎづめの……おんなっ……むちゃ、むちゃくちゃに……ころされそうにっ……なった」 「俺も……イヤ、だな、そんな夢は」 みたことがある、と言いそうになった。 これ以上ティナの不安を増やしたくない、すんでの気遣いでなんとか踏みとどまったが、背中には冷たい汗が流れている。 鉤爪の女。もっとも、ロッドは一度しか遭遇していない。 スラム街とおぼしき廃墟に放り込まれて、ごろつき共との喧嘩などとは違う、正真正銘の恐怖をロッドは味わった。 愛用のバタフライ・ナイフが根元から錆びて、砂のように崩れて世界から失われた。 あらゆるものを引き裂きそうな四本の鋼鉄の爪から、ゲエゲエ息を吐いて必死で逃げた。 やがて配管が網の目のように張り巡らされた異様な世界へ迷い込む。進むしかない、と決めた。 なるべく音を立てないように、姿勢を低くして奥へ奥へと歩くと、小さなボイラー室に行き当たった。 爪でパイプをひっかいているのだろう、金属と金属が擦れ合う音が、背後からひっきりなしに聴こえてくる。 奴は、そう遠くない。殴りつける以前に人間と戦う気さえしない、豹や虎へ戦いを挑むのと同じ意味合いに位置する、 いやそれよりももっと凶悪な恐るべき敵が迫っている。 プライドをかなぐり捨てて、不良のレゾンテートルも忘れて、ロッドは実験用のマウスのように、うずくまって震えていた。 突如、すすけたボイラーにぼうっと火がついた。厚いガラスを突き破って、炎が飛び出してくる。 信じられない、炎が意志を持っている。ガソリンをぶっかけたように燃え盛り、蛇が鎌首をもたげるように向かってくる。 悲鳴を挙げて、目をひんむいて、尻もちをついたまま後ずさりした。手の平が、つるつるした物体に触れた。 そのつるつるした何かが、くにゃりと潰れて、五本の細い足の指の感触が伝わる。思わず、後ろ向きに見上げる。 鉤爪の女が、にたりと笑って、自分を見下ろ――殺される。奇怪な叫び声と共に、振り下ろされる鉤爪。 目を開くと、飼い犬のチャットが自分の胸に乗りかかり、右腕をかんでひっぱっていた。
「……怖がるな。ただの夢さ」 「ちがうのよ、ちがうの!ぜんぜん!」 「おい!」 ロッドがティナの肩を掴んで、一度自分の身体から引き剥がし、そっと涙の痕がついた頬に手を当てた。 顔を近づける。額と額が触れあいそうな距離まで。 「いいか。いいか――ティナ。よく聞け」 「…………」 「怖いなら、俺が横についててやる。お前がゆっくり眠れるようにな。それでもし、くそったれ鉤爪女がでてきたら――」 できるか、俺に?ロッドはバカバカしいと思いながらも、真剣に考えてしまった。 奴に勝てるだろうか?俺はティナを守れるだろうか?答えは求めないことにした。ティナの夢と自分の夢の奇妙な符合についても。 「俺がお前の夢に入って、ブチのめしてやる。お前を守る」 「……本当に?」 嘘だ。ティナは理解していた。できっこない。あいつは恐怖を餌にする悪魔なのだ。人間が悪魔にかなうだろうか? しかし、ロッドの声からはタカをくくった響きは感じられなかった。 「ああ、守る」 ロッドの眼は精悍な白狼のようだった。ティナは厳しさと優しさを内包した強い瞳に見入った。 引き込まれて、胸の芯から来る震えが徐々に収まってきたのを感じた。 心臓の鼓動が、恐怖とは全く別の種類の、優しさの波に包まれていく。 ティナは笑った。少年が日常のささやかな喜びを見つけてはにかんだように。 今日初めて、本物の笑顔を見せることができた。ロッドも不器用に笑った。 嬉しい――ロッドはいつも自分の背中を押してくれる。 真実が問題じゃない。守れるか守れないかは構わない。無理なのは分かってる。 それでも、皆に会えたこと、今の言葉で、自分は死を迎えても、ずっと幸せだろう。ティナはそう思った。 眼を閉じて、ロッドの胸の中でぽつりとつぶやいた。 「ありがとう」 二人は口づけを交わした。唇と唇がそっと触れあうだけの、敬虔な聖職者が内緒で交わすようなキスだった。 時間が止まってくれればいいのに、とティナは思った。今この瞬間が、ずっと続いてくれればいいのに。 何度も繰り返したはずのキスが、まるで初めてした時のように新鮮だった。 ロッドが立ち上がり部屋の明かりを消そうとして、ティナがさえぎった。
「そのままでして」 ベッドに腰掛けて、ゆっくりと、交互に服を一枚ずつ剥いでいく。先にロッドが丸裸になって、ティナをゆっくり押し倒した。 正円を描く乳房が胸におしつけられてにゅっと潰れた。小さな乳輪の中心にあるピンク色のそれが、ロッドにこそばゆい感覚を伝えた。 ついに最後の一枚に手が伸びる。指が端にかけられた時、ティナは冷静に今までのセックスを振り返っていた。 眼を閉じて、胸の鼓動だけを聴いて、そして気づいた。 自分がセックスで常にリードを取っていたのは、醜いアソコを相手の自由にされたくなかったからなのだと。 幻滅されるんじゃないかって、恐れていた――水色のパンティが、名画にかけられた被せ布を剥ぐように一気に引き下ろされた。 ティナは眼を開いた。秘所を両手で隠しながら後ろに下がって、三角座りの姿勢をとってから、手のガードを外した。 そして少し躊躇したあと、自分の股をゆっくりと、しかし大きく開いた。 「……私のここ、見て」 実際に口に出してみると、とても恥ずかしい。自分から大股を開いて、最も醜い部分を晒すのだ。 しかし、ティナは、ロッドにだけは見て欲しかった。それが自分のコンプレックスに向き合うために必要な儀式に思えた。 ヴァギナは既に湿り気を帯びている。恥ずかしくてたまらない。でも、それで、濡れてしまう。身体が熱くなる。どきどきする。 ロッドはただ黙って目の前のヴァギナを見据える。今まで、主に指で、偶に腿や腕で触れたりはあった。 もちろん性器の接触もあった。一瞥できたこともあった。しかし、ここまで間近にじっくりと視るのは初めてだった。 指で愛撫するとき、他の女と違ってずいぶん特徴的な形をしているな、とロッドは前から思っていたし、 だから見られるのが嫌なのだろうな、と感づいてもいたので、 目の前に広がるいびつな花びらよりも、むしろティナが自ら視姦を要求したのが意外だった。 しかし、やはり――醜い。いや「醜い」は適切でないな、とロッドは思い直す。とても「いやらしい」だ。 「どんな……感じ?」 「ああ……」 ロッドは少し考える。ただ性器の形状を述べるだけでは面白くない。悪くない。こういうやり方も。 「すげえ……いい臭いがするな。いつもの臭いだ」 「ばかぁ……」 ティナが顔を両手で覆った。 ひくっと膣口が動き、ヴァギナ全体が収縮したのをロッドは見逃さなかった。感じているのか。俺に見られて。 「私のアソコ、汚い?」 「……いいや。汚くはねえな。ただ……」 さて、どう言うべきか。黙考の末、ロッドは正直に伝えることにした。 「すげえ、いやらしい、すけべな……マンコだ」 すけべ、の言葉でまた膣口がきゅんと閉じて、マンコ、で大きくぱくりと開く。 大きく開いた淫らな穴からは、蜜があふれだしていた。ヴァギナ全体の蠕動がさっきよりも長く続いている。
「そこ……キス……して」 ロッドは舌技にはちょいと自信があった。ペニスの太さは申し分ないのだが、長さは12cmと小ぶりの部類に入る。 別段劣等感があるわけではないのだが、あまり長持ちしないこともあって、自然と前戯に時間をかけるようになっていた。 しかし、ティナとはその機会がなかった。口淫が許されたのは胸までだった。何度クンニリングスを要求しても、拒否されてしまう。 ロッドは我慢した。ここまで入れ込んだ女はティナが初めてだ。 これまでつきあったような、マリファナを吸いながら二三度セックスして後腐れなくさよならする女とは根本的に違うのだ。 自分にとってなくてはならない女であり、一生大切にすると強く決めた人なのだ。 しかし、だからこそ、いつか、とは思っていた。ついにその時が来た。 両手を広げ、尻を捕まえる。顔を秘所に寄せていく。 まずは両の大陰部を、犬がするように交互に下から上へ何度も舐める。 十分舌で刺激を加えると、唇で揉みほぐすようにして、大きなぶよぶよを弄ぶ。 「ぅん……」 黒い花びらを唇で挟む。そのままこすり合わせて、ゆっくりと味わい、吸う。 舌の腹を使って、内側から広げるように舐めあげていく。たっぷり唾液を垂らすと、指で広げて、時々、歯を滑らせる。 「……いい、よ……」 ぞくぞくっと背中が強張る。初めてのクンニリングス。 固い指よりも、柔らかい唇と舌の感触が、ソフトで確かな快感を与え、たまらない。 その上、相手の顔が自分のアソコに密着している。アップで見られている。好きなように弄ばれている。 淫恥の極みに、ティナのヴァギナはまたひくひく嬉しがった。 しばらく続けて、びらびらが唇で刺激を与えずとも震えるのを見て、大分感じているな、とロッドは直感した。 しかしここまではウォーミングアップなのだ。ここからが本番――人差し指でクリトリスをやさしく剥いて全てを曝け出させる。 米粒状の可愛らしいクリトリスを指で左右から軽くノックしたあと、剥いた皮が戻らないように、 上唇で包皮を固定して、周囲全体を包み込むように、下唇を開いて柔らかく吸いつく。 「ぅぅうん」 すっぽりとクリトリス周りを唇で包まれて、その包容力に、ティナは自然に声を漏らしていた。 さあ行くぜ、舌が動かなくなるまで。ロッドは覚悟を決める。 舌先を歯の裏にほんの少しかけて、舌の腹を押し出し、ゆっくりとクリトリスを左右に刺激する。 振動が伝わる。パンチングボールのように揺れる。 「はあッ!あッ!」 大きな声が出る。思わず腰を引く。 逃がさないように、ロッドはティナの両腕を握り、肩を一度ぐっと下げて、太股を乗せたあと、押し上げる。 足は背中にかかり、ティナは自分の性器を舐められている様を目の当たりにした。 さらに、クリトリスは逃げ場を失い、分厚い舌に蹂躙されるがままになる。 いつもああしてこうしてと指示している自分が、ロッドを喘がせている自分が、いい様にされている。
「あッ、あッ、ふぅあッ」 頭がぼうっとしてきた。快感がじりっとじりっと忍び寄る。確実に近づいてくる。 相手の思うままに、好きにされるのは、信頼できる相手に全てを委ねるのは、なんて気持ちいいのだろう。 「す、すごい……すごいぃい」 ティナは、ロッドの腕をきつく握って、顔を快楽に歪ませるだけ、激しい声を挙げるだけの、極上の牝に変わった。 舌の動きに完全に集中して、より快楽を受け入れるために、自ら腰を突き出して、肉の接触を求める。 「ふぅ!ふぅう!うう!ぅううう!」 ティナの白く締まった下腹に、腹筋の線がうっすら浮かびあがる。細いウエストがうねり、腰骨が小さな楕円運動を繰り返す。 「うぅ!うぅうん!ふううぅうッッ!」 だんだん腰の押しつけが強くなってきた。絶頂が近い証拠だ。ロッドは刺激を少し強くしていく。 リズムを変えないように注意して、ただ頂へ導く手助けをする。声がどんどん大きくなる。汗が滲んでくる。 臨界点が見えてくる。すぐ傍にある。突き抜けて―― 「ぅうあああッッ!!」 ティナは全身でオルガスムスを受け入れた。肩に乗せられた足が伸びきって、指の一本一本が歓喜のわななきを歌っている。 ロッドはヴァギナが一度大きく収縮するのを顎で確認して、絶頂を確信する。 しかし、まだ終わらせるつもりはない。舌は一定の速度でクリトリスを捕らえたままだ。 「またっ……またっ……ぅんッ!」 絶頂の余韻に上乗せされた快楽。積み重ねたセックスの記憶と、ロッドの情念が、舌で行われる性戯をより洗練させていた。 休息など許さない。積もり積もった想いを受け取ってもらう。 「いった!いったのっ……いやあッ」 元より一度の絶頂で許すつもりはないのだ。ロッドはティナの哀願を眼で黙らせた。 わざと冷たい視線で、じっと見据える。俺は、お前をまだ解放するつもりはないぞ、と。 不良共に相対する時の眼だ。ティナは一瞬その目にぞくっとして、アナルをきゅっと締めた。 ロッドは横運動を続ける舌を、今度は縦に使い、クリトリスから離れないように上下させる。 「うあッ……うぅんッ……」 下から上への快感は、横よりも大きく激しい。下の口から上の口まで快感が一直線に突き抜けていく。 ぐうん、ぐうん、と空へ連れて行かれるような、飛び上がる気持ちになるような快楽だ。これではすぐに果ててしまう。 「やばいッ……やばいぃいい!」 今度はしっかり眼を開いて、ロッドの顔を見た。ちら、と眼があった。 自分のイキそうな顔を見られるのは、恥ずかしい。唇を真一文字にひきつらせて、鼻腔が開いている。 痴態に納得したロッドの眼。感じているんだな、と囁きかけてくる。もうだめだ。一気に登りつめる。 だって、またイキそうなくらい感じてるって、全部ばれてる!乱れてるのを分かられてる!
「やばっ……いっ、いっぐぅっ!」 ティナは二度目のオルガスムスを迎えた。また足が痙攣を繰り返す。 くはぁっと大きく息を吐き、目をとろんと降ろして、余韻に身をゆだねる。二度目の絶頂を確認して、ロッドは一度舌を休める。 「いっ、いった……二回も、ロッド……二回もいった……」 ロッドはどうしたんだ?と目でわざとらしく合図して、身体の痙攣がほぼ止まるのを待ってから、クリトリスを強く、断続的に吸った。 じゅっ、じゅっ、じゅっ、と一定のリズムで、スープをすするように。愛液と唾液の卑猥な協奏曲が流れる。 「えっ……まだ?まだなのっ」 まだだ、とロッドは目で威嚇する。そして吸うリズムを変則的に変えていく。 「うんッ!うあッ……!ああッ!あっ……!」 肥大化したクリトリスは、強い愛撫も快楽に昇華できる状態に進化していた。 強い吸引による感覚は、身体の芯を引っこ抜かれるような、ヴァギナから子宮を引っ張り出されそうな、すさまじい快楽をもたらす。 「これっ……きつ、きついぃ!だめッ!だめえッ!」 無視して吸引は続けられる。ティナの唇から強張った舌が見え隠れする。自分が知っている種類とは別の快楽だ。 涎が垂れる。身体が熱い霧で包まれたようになる。信じられない。こんな、こんなことって、あるの! 「また、また、くるっ!」 突然、ロッドが吸引をやめた。目はまだ、ティナをじっと威嚇したままだ。 急に刺激が弱まって 「えっ?」 とティナが声を挙げた瞬間、ロッドは、全力で、一気にじゅうううう、とヴァギナ全体をすすった。 「ああ―――ッッ!」 ティナはもう何も考えられない。甲高い叫びが部屋中に響き渡る。ロッドは吸っている範囲をだんだん狭めていく。 クリトリスが終着駅だ。吸引の範囲がどんどん狭まって、もっとも快楽を得られる或一点へ向かっていくスリル。 「あッ!アッ―――――――!!」 最期の声は一段と高く艶かしかった。ティナは三度目の絶頂を迎えた。 身体が強張り、緩んだあとは、全ての力が抜けてしまい、ぐったりして、首の力すら失い、頭を支えられずに後ろにぐるんと落としていた。 「ゆ、許してぇ……」 ティナは、ベッドの上で初めて敗北の言葉を口にした。赤く腫らした眼が再び潤んできた。快感による恍惚の涙だ。 一度目より二度目、二度目より三度目。ひと舐めの快楽がだんだんと大きくなってきている。 着実に、階段を一歩ずつ登るように。ロッドは再び舌を動かし始める。四度目の絶頂は、すぐにやってきた。
四十分の間、クリトリスを愛撫され続けて、ティナは快感をたっぷり溜め込んだ。 五回目の波が来ようかというところで、ロッドは握っていた手を離し、ペニスにゴムを装着しようとした。 ティナは眉根を寄せて、眼を閉じて、荒い息で乳房を上下させている。既に腰はくだけて、たたない。 亀頭にゴムをまきつけたところで、ティナが上から手をかぶせた。 よろめきながら、ロッドの胸に頭をくっつけ、それでも視線はペニスに向かっていた。 余った精液溜まりの部分を引っ張っると、すぽんとペニスからゴムが抜けた。 「……いらない」 向き直り、ティナは四つんばいになって、くだけた腰をどうにかして持ち上げようと、 渾身の力で小さな尻を限界まで上に向かって突き出し、絶叫した。さながら、人を狂わせる満月に吠える牝豹だった。 「入れてぇっ!」 ティナの腰をがしりと掴んで、ナイフを突き立てるようにねじ込む。 入り口を開き、侵入を待ちわびていたヴァギナが、ペニスを一気に飲み込んだ。 「ふはぁっ」 やはり、ロッドのペニスはあまり長くない。しかし、ぎりぎり奥に届くか届かないかの長さをティナは気に入っていた。 せいいっぱい腰を押しつけて、膣奥をこつんとノックされる充実感。 「おッ、おッ、うあッ、すげえ、ティナッ!」 肉壁がうねり、ペニスに絡みつく。絡んで包み込んでくる。敏感な肉と肉とがこすれあい、さらなる快楽を呼び込む。 抜き差しするたびに、浅黒い花びらがすれて陰茎に刺激を与える。 「うおッ!」 生で挿入する刺激に耐え切れず、ロッドはたった三分ほどでイってしまった。 すっかり開いてほぐれてしまったヴァギナがペニスへの快楽を今までになく強いものにしていた。 ティナは奥に流れ込む精液の感覚を愉しんだ。それは子宮口まで届いてたっぷり満たされた。 ペニスが萎んでいく。だめだ、こんなに早くは終わらせない。もうロッドを離したくない。 腰を引いて、抜いて、向きなおって、がっつくように、股間にしゃぶりつく。 攻守交替だ。アヒルのように少し開けた唇はフェラチオをするのに適していた。 右手で陰のうを胡桃を回すように揉みほぐし、左手でアナルを撫でる。みるみる内にロッドのペニスは生き返ってゆく。 「うあッ、またでちまうっ」 ティナは、ロッドの言葉を無視して、一心不乱にロッドのものをほうばる。 舌で裏筋を上下に刺激する。カリの間に滑り込ませて裏側から亀頭を舐める。 割れ目にちろちろ先を這わせる。唇合わせてこすり上げる。 「ぐぅ……ぅあッ!」 イク前になると発する独特のよがり声。 絶頂の予兆を感じ取ったティナは、舌の動きを止め、顔を股間に叩きつける勢いで、激しいグラインドを繰り返す。
「ティナッ!」 陰茎が大きく脈動し、喉の奥に向かって、白い欲望の塊が打ち抜かれた。ティナは亀頭を強く吸って、一滴でも多く搾り取ろうとする。 一度ごくんと飲み込んで、口を開き、亀頭の上に舌をのせ、ロッドに残された精液を見せつける。 潤んだ眼差し、少し垂れた目尻が、ひどく淫靡に激しい性交を訴えている。もう一度飲み込んで見せると、ペニスはまた大きくなった。 首に抱きついて、腰をまたいで、ヴァギナをペニスに押しつけて上下させる。 繰り返すたび、秘肉から溢れた愛液がペニスにまとわりつく。陰茎が花びらに挟まれて蠢く。亀頭がクリトリスと抱き合う。 素股を続けて、自分のじらしに耐え切れなくなると、ペニスを中ににゅるりと飲み込ませて、今度は、ティナが積極的に腰を動かす。 さっきの精液をまだ奥に残したままで、丸く円をかきながら腰を沈ませる。 カリが見えるまで一気に引き抜いて、それからまた腰を押しつける。抜き差しされるたび、白濁液が少しずつ漏れていく。 「いい……ぜッ!うっ!ぐっ!」 「んぅうん!私も……んぅん……いいっ!」 続けられて、ロッドは三度目の射精を迎えた。ティナは再び訪れた膣内射精で歓びの顔をロッドに晒す。 まだ足りない。何を捨てても愛してるって、もっと証明して欲しい。獣に変わって忘れさせて欲しい。 暖かみで満たして欲しい。最期になるから。これで、終わりだから。出しつくせるだけ出して欲しかった。 「もっと……いっぱいにして」 つながったまま、体面座位の姿勢で、今度はゆっくりと律動を開始する。 ペニスは硬さを保ったまま、やんわりとした刺激を長時間受けることができる。 ティナはロッドの首に腕を回し、唇を求めた。ロッドは手を伸ばし、ぴんと勃った両の乳首を責めつつ、唇淫を続ける。 執拗な前戯が、膣内の感覚をより鋭敏なものにしていた。ティナはいつまでも中の快感を持続できそうな気がした。 寝後背位で六回目の性交を終えて、汗と唾液と愛液まみれで身体を反らせた二人は、同時に上半身を倒した。 ロッドがゆっくり蜜壷からペニスを引き抜く。ぬちゃ、と卑猥な音を立て、ペニスは肉の拘束から自由になった。 そのまま右へ転がり、仰向けになる。天井がかすんで見える。肩で息をする。 「ベースボールなら、はあっ、今……、七回の……、裏ってとこか」 ティナはうつぶせのまま、自分の背中に投げ捨てられてだらんと転がったロッドの腕を引き寄せ、 手に手をかぶせ、男の指と女の指で、ヴァギナをまさぐり始めた。 精液と愛液が混濁した、ねばっこいジュースが、膣口から涎のように垂れている。 「じゅう……はっかい、まで……行くか……」 再び重なり合って、体力の続く限り、お互いの性器の感覚が失われるまで抱き合った。 何度絶頂を迎えたろうか、ロッドがラスト一滴を搾り出し、ティナが激しいアクメを迎え、この世界から意識を完全に断ち切った。 脱力と疲労に抱かれて、後始末もしないまま、二人は明かりの点いた部屋で暗闇の世界へいざなわれた。
(ぁぁ……ぅ……)(ぃぃ!……ぅぅん) ティナとロッドが十回表のプレイコールを迎えた時、 グレンは二十一回目の寝返りを打ちながら、眠れない自分に産まれて初めて腹立たしさを感じていた。 二段ベッドにぴったり面した壁の向こうから、もう三時間も二人の喘ぎ声は響きっぱなしだ。 自分の部屋なら話は簡単、テレビのスイッチをオンにして「KSSV」「ULFV」発信、お気に入りの深夜番組でも観るか、 ヘッドホンをかぶって「Heartbeat City」や「Born In The U.S.A.」を大音量でかけるなりして、その内寝入ってしまえばいいのだけど。 ついに我慢できなくなって下を覗くと、シーツにくるまったナンシーが、横向きになり膝を抱えた姿勢で、 暗がりでも分かるくらい頬を真っ赤にさせて、焦点が定まらない目であらぬ方向を見つめている。 「ナンシー」 逆さまのグレンに気づくと、ナンシーはびくっと身体を震わせて額までシーツをかぶった。 まるで、体毛も生え揃わないカンガルーの子供が、母親のおなかに下げられた育児袋に隠れるように。 何かの本に書いてあったな、グレンはふいに思い出す。 『カンガルーはしばしば一年中発情期になります』 グレンがもう一度呼びかけて、右手をいっぱいに伸ばして、突っぱったシーツからはみ出している指に触れると、 すかさずナンシーの左手が飛び出してきて、ぴしゃりと跳ね除けられ、グレンのささやかな野望は脆くも崩れ去った。 「もう、ダメったら、ダメなの!」 グレンは未練がましく撤退し、再び仰向けになって目を閉じ、ナンシーの柔らかい唇と胸の感触を思い出した。 (っぁ……ゃぁ……ぅ)(ぃぃ……はぁっっ……ぁアッ!) 相変わらず、壁を通して二人の情痴のハーモニーが奏でられている。 「いーかげんにしてくれよ」 ため息をつきながら、グレンは二十二回目の寝返りを打った。
−Body Snatcher− 曲線美を讃える裸体を惜しげもなくさらしたまま、右の頬に傾きを感じて、ティナは意識を取り戻した。 とくん、とくん、心臓の鼓動が聞こえる。馴染みの匂いがする。 ロッドの肌の感触だ。まだ信じられなかった。目を開きたくない。自分が無事に夜を乗り越えたなんて。 あの夢から、ついにおかしくなって、学校に行くまで、部屋から一歩も出なかった。 ママが扉をノックするだけで、心臓がばくんとドラムを叩いたようになって、額から汗が滲みでてくるような状態だった。 ベッドにもぐりこんで、髪の毛をかきむしり、暗い森に潜む魔女のような病的な顔で、何度も「私は狂ってない」と繰り返した。 ママにお願いして、倉庫に閉まってあった十字架を持ってきてもらった。 祖母が死んだ時、片付けたものだ。 祖母は風邪をこじらせたあげく喘息の発作を併発して亡くなったが、 死ぬ間際に祖父の形見の時計だけを棺に入れるように、ママの手を握って咳き込みながら叫んでいた。 死は皆に等しくやってくる。ただ受け入れて、神の御意志に任せなさい。祖母の遺訓だった。 祖母は信心深い人だった。 デリーへ旅行中、大型トレーラーに撥ねられて死に別れた祖父は本当に神の世界へ旅立ったと信じていた。 教会への礼拝はかかさず、週に一度の集会にも必ず出席した。 まだしっかり歩けていた時は、嫌がる自分の手を引いて連れて行こうとした。 足が悪くなってからは、安楽椅子に腰掛け膝に薄い毛布を敷いて、丸眼鏡をかけて細めた目で古い小説を読んでいた。 休憩する時は独自に調合した特製のハーブティーを淹れて、時々自分達にもそれを勧めた。 チェーホフを愛し、中でも「ワーニャ伯父さん」がお気に入りだった。 チェーホフには神の哀れみがあり、苦労や痛み、悲しみを共にする精神がある、と祖母は言った。 祖母は友人が少なく、近所づきあいもあまりしないため、年寄り同士で旅行に行くこともなかったようだ。 寝て、起きて、本を読み、お祈りする。毎日同じような生活をしている祖母に疑問を持たざるをえなかった。 明らかに自分の嫌う倦怠がそこにあった。
家族としての視線を捨てて、一度女の視点で祖母を眺めた。大好きな人と死に別れるのはどんな気持ちなのだろう。 女として、愛する男の温もりを失って、どうやって生きてきたのだろう。 聞いてはいけないことだと思ったが、口にせずにはいられなかったのだ。 風の強い日だった。十月に台風が来て、パパは食料と防災用具を買いに行き、ママは庭に出て植木が倒れないように紐で縛っていた。 祖母はそんな時にも本を読んでいた。もう何十回目にもなろうかという「ワーニャ伯父さん」。 同じ小説を繰り返し読む。その行為に嫌悪を感じていなかったと言えば嘘になるだろう。 「おばあちゃん、おじいちゃんのこと、思い出したりする?……寂しくない?」 なんてひどいことを言ったのだろう、と今では思う。 祖母は「ワーニャ伯父さん」から目を離し、かぶりを上げて、鹿のような目で、遠くを見ていた。 質問が聴こえているのか疑わしかったが、もう一度言うわけにもいかない。 風が一度、うなりをあげた。外の街路樹がばさんと大きく揺れる音が、部屋の中まで聴こえてきた。 「さみしい」 突然、祖母が口を開いた。低音の重い響きがする声だった。 どきっとして、足の裏がぴんと強張った。そして、後悔した。 好奇心から祖母の気持ちを無闇に傷つけた気がした。しかし、心の底から湧いて来るもっと大きな疑問がある。 祖母はもしかして、神様を憎んではいやしないだろうか。 固い信仰の陰に、神を疑う気持ちを隠しているのではないか。 信仰の見返りに、神様が、いったい、何をしてくれたというのか。 もう一度口を開いて、祖母に訊ねた。 「おじいちゃんが事故に遭ったのも、神様がそうされたの?」 「そうよ。ティナ」 それだけ言うと、祖母はまた本を開いて、続きを読み始めた。 十字架を持ってきてほしい、と言ったのはなぜだろう。 銀貨三十枚で裏切られた男が御大層に磔にされて、 メッキが剥がれてむき出しになった部分が赤茶けている、錆びた鉄の塊にしか過ぎないものだと思っていた。 それでも夜が来るとぎゅっと握って抱いて眠った。信仰など持ち合わせていない自分がよくもあんなことをしたものだ。 キリストにすがっていたのではなく、祖母に守ってもらいたかったのかもしれない。 もっと言えば、祖母に謝りたかったのだ。十字架を胸に抱くと、少しだけ落ち着いた。 しかし起きている時は最悪だった。気分はナチの特高警察に怯えるアンネ・フランクだ。 パパとママに「怖い夢を見た」と言っても真面目に聞いてくれはしなかった。 複雑な青年期の精神がもたらす悪戯と考えていたようだった。当然だ。 もっとも、初めはオシッコ塗れのベッドと自分が泣き叫ぶ姿を見て、事態を深刻に考えたのか、学校を休んでも何も言わなかった。 今朝「まだ調子が悪いのなら、しばらく休んでもいいんだよ」パパはそう言って、おでこにキスして、ママと一緒に旅行へ出かけた。 しばらく?しばらくですって?何を言ってるのよ。そう叫びたかった。 全くなんにも分かってないのね。私はずっと休まなければならなくなるんだから。神父が黒縁の棺桶に向かってこう言うのよ。 「土は土に、灰は灰に、塵は塵に。ティナ・グレイにとこしえの安らぎを」 パパとママは冷たくなった棺の中の自分を想像して泣き咽ぶ。私は親不孝者になるんだから、そう言いたかった。 でも、そんなバカげた妄想もこれで終わり。結局、あれはただの夢だったのだ。 青年期の心の悪戯、その点ではパパとママは正しかったのかもしれない。
ティナは自分を馬鹿にするようにくすりと笑った。 あの嫌な視線はもう感じない。代わりに感じるのは、ロッドの心音、自分の小さな息使い。 目を閉じたまま、温かい人肌に触れていたい気持ち。 真っ先に頭に浮かぶのは、激しいセックスの記憶よりも、唇をそっと合わせるだけのキス。 あれは、紛れもない奇跡だったのだ。Honestyとはこういうことを言うのだろう。 ハイスクールの女の子がはしゃぎ回って、やれこの人が好き、あの人がいい、 彼氏のここが気に入らない、ここが素晴らしい、そんなお喋りとはどこか別の次元に位置する人と人とのつながりだった。 一生の内で真実のキスを交わせる人間が世界に何人いるだろうか? ティナはようやく目を開いた。自分の部屋、見慣れた風景。 いつのまにか部屋の電気は消えている。月明かりが窓から差し込んで、ベッドの上に陰影のオーロラを形作っている。 部屋にかけられた時計を顎を上向けて眺めると、午前三時にさしかかろうか、というところ。 ほんの少ししか寝ていないはずなのに、もう、ちっとも眠くなんかなかった。 「起きたのか……」 もぞもぞと動くティナに、気づいて、目を覚ましたのだろう。だらしない、ロッドの寝起きの声だ。 「今……なんて言ったらいいのか、分からない気持ちなの」 ティナは脇の下からロッドの首に腕を回して、安堵に包まれた表情で、頬ずりする。 「ぐっすり寝てたぜ。あれで、終わりさ」 「うん」 ティナは自分からロッドを求めた。 唇と唇を近づけて、あのキスの名残を味わうために。 そっと触れ合うだけのキス。堪能すると、目を閉じたまま、胸から下へ手を滑らせていく。 また、ロッドのモノが欲しくなった。 凹んだみぞおち、割れた腹筋、臍、陰毛。 可愛らしい、ロッドの……? ない。 あるべきものが、 ない。 頬に伝わる感触が、ざらざらした毛糸に変わる。 小さなふくらみ。 縮まっていく身体。 自分の肩を抱いているのは、固い……革……。 カチャリ、音がなる。 左肩にひんやり、感触が伝わる。 四本の細い何かが触れている。 ……まさか。 そんな。 まさか。 薄っすら目を開く。 「いっ……」 夢 もしかして これは 夢 「おはよう、ティイ、な」 火傷女がにやにや笑いながら、ティナの肩を抱き寄せている。 「いやああぁッッ――――!」
身をひるがえすと、左肩に爪が食い込んだ。爪先がティナの柔肌をつぷりと刺す。 痛みなどものともせず、火傷女の抱擁から逃れようと、赤と緑の縞模様のセーターを殴りつける。 「なーかなか見せつけてくれんじゃないの、え?」 どういうわけか、火傷女は簡単にティナを解放し、ベッドから降りた。 金髪を爪で掻き分けて振り返る。切れ長のブルーの瞳で、ティナをねめつける。 唇の端を上げて、腹を空かせた蜘蛛のように、頭の中は捕らえた獲物をじわじわと嬲る狂想でいっぱいになっているのだろう。 ティナはベッドの上で尻餅をついて、後ずさりして逃げようとするが、 火傷女の顔を間近に見たショックで、腰が抜けてしまい、ベッドの端に手をかけて、自分の下半身をひっぱってもがいている。 「こらこら」 火傷女がグローブを一握りしてばっと開くと、ティナの身体にまた見えない圧力がかかり、ベッドに戻される。 ベッドの中心で大の字に手足が開かれていき、身体がすうっと浮いて、30cmほどの高さで固定される。 「ヒャハッ!お前の惚れてるろくでなし、グッドガイ人形の指みたいなチンポだね。ワタシの方が良かったんじゃない?」 火傷女は左手の小指を立てて、耳元でひらひらさせる。 「ああ〜ん、ロッドぉ、私のぐろいマンコに入れてぇ〜ん」 ティナの声色を使い、口腔に小指を突っ込んで、フェラをするように、すぼめて前後に動かす。 引き抜いて、唾で濡れた小指をティナに向けて、御辞儀させるように何度も折り曲げて、今度はロッドの声色で、陽気にはしゃぐ。 「ハーイ!ボク、ロッド!ヤサシクダイテヨ!ヤサシクダイテヨ!」 ティナは火傷女をにらみつけ、わざと聞こえるように、鼻で笑った。 「う、自惚れてんじゃないの?」 そして、自分を見下ろす火傷女に、めいいっぱいツバをはきかけた。 「あんたみたいなクズに比べりゃ、ロッドの方が何倍もよかったわよ!」 赤く爛れた皮膚にティナの唾がぺたりと染み付いて、火傷女の眉がぴくりと痙攣する。 唇を引きつらせて、目がつりあがる。 火傷女は真っ赤な口を裂けそうなくらい開き、舌を伸ばした。 ねとねとの唾液につつまれた舌はどこまでも垂れ下がり、1mもあろうかというほどだ。
「ひっ……」 ヴァッ!舌がティナに向かって飛んでくる。右腕に絡まり、そのままベッドの端に結ばれる。 抜け出そうとしたが、巨大なガムのようにへばりついて、できない。第二の舌が伸びる。 今度は左腕に飛んでくる。空中で足をばたばたさせていると、両足まで封じられた。 身体を四方から引っ張られて、ティナは苦痛に顔を歪ませる。 このまま四つ裂きにされるのではないかと思うくらい、ぴんと身体を伸ばされて、身をよじらせるだけが精一杯だ。 「あっ、あんたなんか、怖くないんだから!」 殺すなら殺せ、とティナは思った。もういい。火傷女、お前に命をくれてやる。 でもロッドやみんなの想いだけは墓の中まで持っていく。 火傷女は無言で近づいて、 自分の頭にかぶさっている茶色の中折帽を爪でつまんで上へ持ち上げ、大道芸人のような慇懃無礼な礼をして見せた。 「ああ、ワタシの愛するFedora……」 帽子をずぼりとティナの頭にかぶせ押し込む。ちょうど目の下までかぶらせて、ティナは何も見えなくなる。 光を奪われた恐怖にティナは首を振って帽子を落とそうとするが、中折帽はぴっちりはまってびくともしない。 火傷女は頬を肩にこすりつけ、反吐をふき取って、帽子のツバへそっと顔を近づけた。 「ワタシがいない間にイイ気になってたみたいだから」 左耳にぎりぎりまで唇を近づけて、囁く。 「教えてやろうかしら、もう一度牝豚に」 火傷女はそっと離れ、放射される禍々しい気配を消した。 チーターが姿勢を低くして草むらに隠れてじっと捕食に供えるように獲物を襲う機会を待つ。 ティナは何も見えない、何も感じられなくなって、火傷女が部屋から出て行ったのかと思ったが、 そんなはずはない、と考えを改める。獲物を目の前にして、奴がすごすごと手を引くはずはない。
シュッ。 火傷女が中指の爪でごく弱く、ティナのわき腹をひっかいた。 ティナの腹筋がぴんと張る。やはり来た。冷たい感触、切られた? 「つっ!」 痛みが追いかけてきた。 火傷女は少し間を置く。 今度は左頬だ。すっと線が入り、切り口から薄っすら血が滲む。 皮一枚を裂くように弱い切り方だった。しかし、切られた痛みはあり、 どの程度切られているのか分からないティナは恐怖に身をよじらせる。 「ひ、ひとおもいにやったらどう?」 火傷女は答えない。今度は右のふくらはぎの裏に爪が当てられる。 シュッ。 少し強い。血が滲んで、ぽたりと落ちた。 次は左肩、次は右の乳房の下、次は左足裏……だんだん力の加減が分かって来る。 それがどの程度の傷であるかも。火傷女は致命傷を与えるほどの力ではひっかいていない。 少なくとも今のところは。しかし、それよりも……ティナはひっかきの間隔が一定であることに気づく。 十五秒ごとに、爪が来る。たぶん、そのくらいだ。 シュッ。 左の手の平が切られた。 ティナは数える。一、二、三、……十四、 シュッ。 右の二の腕が切られる。 やっぱりそうだ、一定の間隔。次に来るのは十五秒後……数えたくなくても数えてしまう。 必ず迫り来る私刑にティナは恐怖した。次は何が来るのか、ひっかかれるのは何処なのか。全身が強張る。 シュッ。 神経の密集度が高い耳の裏だった。 「いっ!」 今までで一番強い痛みだ。次はどこに来る、どこに……もしかして、あそこ? シュッ。 お尻だった。ほっとする。しかし、すぐに次の切り傷が迫っている。 しかも、どれだけの強さで行われるか、保証はない。突然、全力で身体をえぐられるかもしれないのだ。 想像すると恐ろしくなってきた。殺されてもいいと覚悟を決めていたのに、 何時殺られるか分からないだけで、心がこうも揺らいでしまうものか。
シュッ。 腰骨から太股にかけて、血の線が走る。次は……次は、どこ? 次の十五カウントは、ひっかきではなかった。 火傷女は、爪の腹で、乳首をそっとこすった。 感覚を研ぎ澄ませて、今か今かと身構えていたティナは、突然の愛撫に声を挙げる。 「ぁん」 明らかにひっかきとは違う快楽の属する刺激だった。火傷女は笑う。十五秒。 シュッ。 今度は強く、みぞおちの下辺りから縦に臍へ向かってひっかかれた。つつつと滑らされて、爪先が小さなクレーターに刺さる。 「いたいっ!」 十五秒。今度は愛撫だった。アナルを爪の腹でそっと撫でられた。 皺と皺の間を細い爪先でくすぐるようにして、ひどくこそばゆい。 アナルは主人の意思などお構いなしだ。一度大きく盛り上がって、引っ込んだ。 きゃっ、と声が漏れる。そうして幾度か、爪の洗礼と愛撫が交互に行われた。 次は……ひっかかれる。次は……愛撫。 ティナは頭の中で予測を立て、刺激に耐える心構えをする。 快楽に耐える心構えと痛覚に耐える心構えはまったく違うのだ。次は……、 ひっかき! 頭の中の数が十五に達して、ティナは身構える。 違った。快楽だった。小陰部を爪の裏でつつつと撫でられた。冷たい、心地よい刺激。 最後にぺろんと弾かれて、予想とは正反対の刺激を受けて、ティナは快楽を全身で受け止めるはめになった。 「アはッ」と声が漏れる。 ここからはランダムだった。 続けてひっかかれることもあれば、愛撫が来ることもあり、初めのようにひっかきと愛撫が交互に来ることもあった。 またその強弱も様々だ。膣に指を入れられたり、背中の筋をやんわり撫でられるだけのごく弱い愛撫であったり、 また傷もつかないほどのひっかきであったり、逆に切れた瞬間、血がぽたぽた落ちるような深めの傷であったり。 もう全く予想できない。そしていつまで続くのかも分からない。ずっとずっと、続くのかもしれない。 ねぶられ、いたぶられ、ティナの身体に異変が起こり始める。 自分でも不思議だった。爪でひっかかれる時にも、感じている。だんだん気持ちよくなってくる。 それも、きつくひっかかれるほど。
シュッ。 乳輪をまたいで、乳房に切り傷がつけられた。 「ぅん!」 あの時の声が漏れる。傷は少し深く、血がとろりと流れる。 どうして?ティナは自分でも不思議に思った。 痛いことをされてるのに、どうして気持ちよくなるの? 「あら。ひっかかれて感じるの。牝豚ちゃん」 頃合と見たか、火傷女はひっかき中に初めて口を開く。 「うるさ」 クリトリスを爪でちょんとつつかれる。 「ぃあ」 火傷女の悪趣味なお遊びはいつまでも続く。ティナの神経はすりへってぺちゃんこになりつつあった。 十五秒ごとの輪舞。 五十二枚積んだトランプから一枚ずつカードを引いて、束がどんどん薄くなっていくように、自分が消耗しているのが分かった。 感じてはいけない、屈してはいけない、抑制がティナの脳神経を磨耗させつつある。 しかし、皮肉なものだ、これが悪魔の魔術なのか、大の字になったティナの白雪のような肌に描かれた無数の赤い痕線、 まだ爪に侵されていない股の間、どどめ色の蜜壷からつうと垂れる透明の愛液は、 人間の身体をカンバスにしたアートと言っても差し支えないほどに、耽美で猟奇的な世界を構築していたのである。 やがて、火傷女が筆を休める。ティナは疲れ果てて、もうカウントする余力も残されていなかった。 「さあて」 火傷女はブーツを脱いで、ホットパンツのボタンを外して、するする降ろす。 抱きしめるとぽっきり折れてしまいそうな細いウエストに、黒皮のバンドがくるんと巻きつけられて、 正面と背面の両端から、ストッキングを釣る二本の皮が太股に伸びている。しかし、肝心な部分には何も着けていない。 火傷女はベッドに登り、ティナの腰をまたぐ。贅肉が一切ない、締まった太股をストッキングで隠しておきながら、アソコは丸見えだ。 火傷女のヴァギナは禍々しい容貌とはかけ離れた、まだ少女のものかと見紛うほど可愛らしいものだった。 恥丘は急カーブを描くことなく自然な傾きを見せ、金色の陰毛はきちんと処理されているのか、 縮れず、もつれることもなく、風になびいた稲穂のように縦に行儀よく並んでいる。 閉じられた入り口。不必要に盛り上がっていない大陰唇。割れ目に沿って、綺麗にカーブを描くラビア。肉芽は完全に皮に隠れている。 火傷女は自分のヴァギナに左手の人差し指と中指を近づける。ヴァギナが逆Vの字にぱくりと開いて、薄い桃色の肉が姿を現す。 火傷女の悪魔のような顔が女になる瞬間だった。目を切なげに自分のヴァギナに向けて、眉を八の字に寄せている。
「ん……」 小さな割れ目から、透明な液体がぴゅっと飛びだし、ティナの胸に降りかかる。 火傷女は鉤爪を自分の股間に降ろし、隠すようにして、左手で局部を上に広げている。 爪に当たった淫水が、四方八方に飛び散り、ティナの無数についた痕に降りかかる。 さらさらした液体は、匂いは尿であっても、尿とは違う何かだ。湯気がもうもうとたっている。 ぐつぐつ煮えたぎる熱湯と変わらぬ温度の液体が、ひっかき傷に浴びせられる。 「い、いたいッ!いたいッッ――!!」 火傷女が舌なめずりをして、腰を激しく前後に振った。 顔に似合わず控えめなアソコから溢れる液体が、ティナの顔から足まで飛び散る。 ティナは喉の奥から動物のような声を絞り出す。ぎぃああああ、の後は文字に書き表すのが難しい、新言語の叫びだ。 「キャッ――――――――ハハッ!」 火傷女が得意の雄たけびを挙げる。ティナは身をくねらせて頭を振って耐える。 余りの痛みに意識が失われるかというところで、やっとヴァギナから淫水が止まった。 ティナはくまなく恥辱の雨でずぶ濡れになってしまった。それでもどういうわけか、身体が火照る。 火傷女の淫水の不思議な魔力で、ティナの体躯は一個の大きな性感帯へと変貌を遂げていたのだ。 金色に光る体毛の一本一本が、膣の肉襞のように快楽を伝える凶器となっていた。身体全体が燃えるように熱い。 火傷女が上からふっとティナの胸に息を吹きかける。 「アッ」 刺激にびくんと震える。たった一息吹きかけられただけで、べろべろなめまわされているような刺激が響く。 ティナをまたいだまま、火傷女は上から呼びかける。 「欲しくなったら、おねだりしな」 「……だ、だれがっ!」
火傷女はまた厭らしい笑みを浮かべ、セーターの裾から手品師のように煙草を一本取り出し、くわえる。 その姿は女ガンマンかと言わんばかりにたくましく、スタイリッシュであった。 愛煙、ゴロワーズ・ブリュンヌ。パチン、と指をならすと、人差し指から、すっと炎が立った。 煙草に火をつけると、大きく吸って、煙をティナのヴァギナに吹きかける。 「あはぁっ」 煙の風圧だけで、頭がくらくらする。火傷女はまだ赤くなっている煙草の先を指でぴんと弾いて落とした。 ティナの腹に転がった赤い塊は、身体にふりかけられた液体で、 じゅっと音を立ててすぐに崩れてしまったが、その熱は一瞬ながらも柔肌に伝わっている。 「ひぃッ!」 痛みではない、快楽だった。 熱せられた周辺、蚯蚓腫れした切り傷がうねうねと蠢いて、身体の中へずぶずぶ侵入してくるような芯まで響く快感。 肉体が外部から来た何者かに浸食されてしまう危機感。もう一度同じことをされたら、耐えられるか分からない。 「ヒャハッ!淫乱牝豚のお前は、必ず望む」 もうティナはノックダウン寸前だった。身体は熱く煮えたぎり、それでも絶頂まではなぜか届かない。 オーガズム一歩手前で、扉を閉められて、何処にも行けないような状態だ。 火傷女は、再びティナの耳元に近寄る。帽子に隠された顔の半分が、喘ぎ声を挙げまいと必死に抵抗している。 めくれ上がった上唇、顎がかくかく震えている。電気椅子にかけられた死刑囚のようにも見える。 「これからワタシは何もしないよ。もしイカせて欲しいのなら言いな。 だが、一言でもワタシに哀願するなら、お前はあいつらの記憶を裏切ることになる」 ティナは首を横に振る。まだ拒絶の意志は残っている。 「なんたって、ひっかかれて感じて、ションベンぶっかけられて、それでもおねだりするんだ」 ティナの目から涙がこぼれ、帽子を内から濡らす。犬のように息吐き舌を出さざるをえない。 内から湧き上がる快感をせき止めようと、全神経を集中している。 「もう一度言うよ。欲しいのならいつでも言いな。だがその瞬間、お前は淫欲のためなら仲間を裏切る牝豚と証明される」 その一言で、ティナは歯をくいしばった。耐えてやる。誰が貴様の言いなりになんて、なるものか。快楽を押さえ込んでやる。 火傷女はベッドから降り、脇に腰掛け、帽子の縁でそっと煙草を捻り消すと、 セーターの裾からゴロワーズ・ブリュンヌをもう一本出して、ゆっくり一服した。 黒い網目から覗く肌、ストッキングに包まれた長い足を組んで、 交差する太股の中心に、ジャノメエリカのような可愛らしい女陰を隠しながら。
−Gore Gore Girl− 奥歯が砕けそうなくらい、かみ締める、瀬戸物の食器をたたき合わせるような音だ。 負けられない、火傷女が出した裏切りという言葉が、ティナの抵抗の原動力となっていた。 並みの女であればとっくに降参して、悪魔に救いを求めているに違いない。 ティナは歯と歯を鳴らし、前歯を擦り合わせ、息だけを吐いた。 しばらく歯軋りが続き、口に力が入らなくなって、縦に開ききった時、ティナは覚悟を決めた。 死んでやる。火傷女に屈服するくらいなら死んだ方がマシだ。 それほど快楽が脳を支配しつつあった。 絶頂のためなら全てを捨ててもいい、浅ましき淫婦の考えが、絶えず頭を駆け巡り、 今、発起したばかりの決意すら蜃気楼のように歪んでいる。 めちゃくちゃにして、と言ってしまえたらどんなにか楽だろう。 一言、イカせて、と叫べば、どんなにか極上のオーガズムを味わうことができるだろう。 誘惑に負ける前にコトを終える必要があった。自分が自分である内に。 鼻から息をいっぱいに吸い込む。 やってやる――勢いをつけ、舌の真中を噛み切ろうとした――が、口が上手く動かない。 ずいぶん前から思うようにならなかったが、自在に動かすどころか、下の歯が持ち上がりすらしない。 顎が、外れていた。 歯軋り、噛み潰し、上下運動を咬咬と繰り返し、己の限界を超えた力がかかったために、 肉体がこれ以上は無理だと、自ら役割を放棄したのである。 前歯に舌先を乗せて、上ではさみ潰すようにやってみたが、 下顎が押されて力なく下がり、徒に舌の表面を傷つけただけで、とても噛み切るまではいかない。 元々、とろけるような快感を長時間味あわされて、咬合力がすっかり衰えていた。 もう自死もままならない。皆の想いを胸に抱いて、満足な死を選ぶことも許されない。 だらしなく開かれた大口の両端から、涎がだらだら垂れて、耳たぶまで流れている。
「ごろぜぇっ!」 火傷女は無視して、ぼんやりした目つきで、斜め上にふうと煙を吐き出す。 その表情に、もちろん憐憫はない。そうなることが分かっていたかのような落ち着きぶりだ。 メルシィ。 衆目がいるならば、必ず口にするであろうお慈悲を与える気持ちなど、火傷女にはさらさらない。 ベッドの上で磔にされたあげく命と引き換えに誇りを求める決死の訴えですら、 1.5m四方の極狭い飼育小屋で一頭の豚が鳴き喚くのと何ら変わりはないのだ。 豚が仮に人間の言語を発し、もう飯はいらぬ、糞尿塗れで寝るのもおっくうな生活はたくさんだ、 今すぐ貴様の両手に握られたブラシで脳天を勝ち割り殴り殺してみろ、 そうタンカを切ったところで、人間様にとって殺すべき時でなければ殺さぬ。用となるまで生かしておく。 「ろぜぇっ!……やぐ、ごろぜぇ……」 火傷女は依然、煙草を吸いながら、あたかもここは自分の部屋で、他に誰もいないという風に、くつろいでいる。 ティナは諦めると同時に喘ぎ声を挙げた。感じているのを知らせまいと、 喉を強張らせ声帯を押さえていた力が、大きな声を出したことによって、緩んでしまったのだ。 ティナの発する喘ぎは情痴のそれというよりは、人間の声であるかすら疑わしく、動物の鳴き声と言った方が近い。 アシカの腹に焼きゴテを押し当てると、暴れ狂ってのた打ち回ってこんな声を出すのではないだろうか。 或いはじめじめした地下室に何百年も放置して、 腐ってしまったコントラバスをむちゃくちゃに弾き鳴らすと、このような音を奏でるのではないだろうか。 ひとたび我慢の紐を解いてしまうと、再び締め直すのは不可能だ。 涙はすっかり帽子を侵食し、縁のダムをやぶって、頬を濡らしている。 火傷女は、意を得たか、にたりと笑い、新しい煙草に火を点ける。
ティナはちぎれそうな正気を保とうと、懸命に自分が生きた証を辿っていく。 グリーン・フォレストへ家族旅行でキャンプに行った時、はしゃぎまわってモミの木に登って落っこちた。 泣き喚く自分の頭を、パパが優しく撫でてくれた。 子供の頃、夏が過ぎ秋が来ると、ママはセーターを編んで、それを自分にも教えた。 いつか好きな人ができたら、あなたも作ってあげなさいな、ママはそう言った。結局途中で飽きて投げ出してしまったけれど。 祖母から聞いたワーニャ伯父さんのあらすじ。エレーナはなんて言ってったっけ。 人間というものは、何もかも美しくなくてはいけません。顔も、衣装も、心も、考えも。 自分も女としてそうありたいと思った。 ナンシーと初めて逢ったのは、十歳の夏。 教室に入ると、クラス中が大騒ぎになっていて、その中心にナンシーがいた。 どうやら、虐められっ子のキャリーを守っていたらしい。 そのせいで、キャリーと一緒に取り囲まれて、四方八方から罵声を浴びせられている。 余計なことに首を突っ込む奴もいるもんだ、こわごわ遠巻きに眺めていると、 ナンシーが突然、ボス格のシシーに一発張り手を入れた。みなが一斉に静まり返った。 ナンシーは、狼みたいな眼で、周囲を黙らせたまま、「卑怯者!あんた達、恥ずかしくないの!」って言ってのけた。 すごい、真面目な顔して、なんてタフな女なんだろう、と思った。 ナンシーはその時から自分の中の密かなヒーロー。 今でも普段は引っ込み思案だけど、やる時はやるんだ、と思っている。 グレンと初めて逢ったのはナンシーと遊んでいた時だ。グレンはお母さんに手を引かれて歩いていた。 その年にしては背が高くて、大きな身体をして、おまけにかなりハンサムなのに、 ママに付き添われて、きっちりした服装をしてるのがおかしかった。 歯に矯正器をはめていて、ナンシーが呼びかけると、にこっと笑った時にそれが見えて、またおかしくなった。 でもその時からグレンの笑顔は大好きだ。二人は私が知る大分前から既に馴染みの仲だった。お隣さんらしい。 別れる時、グレンがナンシーにまたね!と大きく手を振って、その時、ナンシーの目が切なげに変わるのが分かった。 ははん、まったく、ナンシーったら。あとで冷やかして、突っついてみるとあっさり白状したんだっけ。 ロッドと初めて逢ったのは高校に入ってから。入学式が終わり、三人で喋っていると、輪の中にロッドが突然割り込んできた。 ジョークが面白くって、みんなあいつの話に聞き入ってた。 そしたら、いきなり、手を握ってきて、大真面目な顔して、好きだ、なんて言ってくる。 その時はボーイフレンドのニックがいたから「あんたみたいな勘違い野郎はお断りよ!」って言ってやった。 そしたらあいつ、世界の終わりみたいにしょぼんとして、ふらふら歩いて、上級生にぶつかって、六対一で殴り合いの喧嘩を始めた。 ボコボコにされちゃって、顔に青タンを作って、死んだんじゃないかって心配してかけよると、 もう一度私の手を握って、殴られて頭がおかしくなったのか、ティナ、愛してる――。友達からね、と言っておいた。 そうやって今の四人組は形作られた。何があっても、いつまでも、分かつことなく、続くものだって……。
火傷女の淫水はインクのようにティナの白肌に染み渡り、既に表面から消えてしまったが、代わりに大粒の汗がにじみ出ている。 雫が赤い痕にそって流れ、時にぎりぎりの刺激を加える。 胸から恥丘にかけて作られた無数の痕は、いびつな赤い木のように描かれ、 上に下に斜めにとまっすぐ枝を伸ばし、そこになった透明の実が背や尻をぐるんと駆け抜けて落ちる。 限界に達しつつあるのをティナ自身が悟った。 既に愛液はアナルをもぐじゅぐじゅに濡らし、ベッドの上に大きな丸い染みを作っている。 快楽の波を押しとどめるために、思い浮かべた記憶の数々が、ぐるぐる巡って熱したバターのように溶けていく。 ママの記憶が消え、パパの記憶が消え、祖母の記憶が消え、グレンの記憶が消え、 ナンシーの記憶が消え、ロッドの記憶が消え――いや、最後にキスの記憶だけが残る。 なぜキスが残ったか、誰の意志かはティナ自身にも分からない。 ティナは奇跡のキスを反芻する。何度も何度も、あの時の感触を思い出し、淫欲とは全く別の、人間がもたらす温かみにすがる。 ティナは恐るべき悪魔に対し、たった一度のキスのために戦い続けた。 人間が私利私欲のためでなく、何か別の素晴らしいもののために戦えるのであれば、今まさに、ティナはそれを実行していた。 しかしやはり無謀な戦いであったのか、消耗した体力に加え、出口の見えぬ絶望と絶頂への執着が、ティナの精神を徐々に蝕んでいった。 長く続いた戦いはとうとう終わりを告げ、淫欲の波が完全にティナの身体を征服した。 「……もヴ、だ……べ……」 火傷女の小さな耳がぴくっと動く。 「んだってぇ?」 わざと大きな声で、ティナに呼びかける。 「……い……が……ぜ……で……」 やれやれ、小さく首を振り、おかっぱのブロンドを揺らせて、火傷女は腰を上げる。 待ち焦がれた様子はない。ただ自然に立ち上がる。満身創痍のティナに、まだ余力があると考えているようだ。 「まったく、近頃のクソガキは口の利き方もしらないねぇ」 言い終わると、煙草を投げ捨て、あくびをしながら、爪を丸めて背伸びして、そっとティナの耳元に顔を寄せる。 「いいかい?こう、言いな」 「お・ね・が・い・し・ま・す。わ・た・し・は・ど・う・し・よ・う・も・な・い・め・す・ぶ・た・で・す。イ・カ・せ・て・く・だ・さ・い」 お手本は、ゆっくりと、正確に、染み入るように発音された。 ティナは螺子の外れた首振り人形のようにかくかく頷く。 あわれ、仲間の絆を胸に抱き、誇りある死を望んだ一人の少女が、唾棄すべき悪魔に屈服した。 火傷女は再びティナの傍から離れる。壁にもたれかかり、腕を組んで、二の腕を爪でノックしながら、哀願の言葉を待ち受ける。 ティナは下顎を野放しにして、唾液塗れの口を動かし、切ない声を搾り出した。 「……おねっ……おねぇっ……がぁあいぃ……じまっ……ずぅ……わだ……わだぁじぃ……ばぁっ……」 「どっ……どっ……じょおお……もなぁいっ……めず……めずっ」 牝豚の一語が効いたのか、ティナのヴァギナから、ぷしゃあ、と愛液が飛び散り、火傷女のセーターにも降りかかった。 「うわっ、潮噴きやがった。このマゾ牝豚」 「……めずっぶだぁでぇっ……ず……」 「いっ……いガっ……ぜっ……でぇ……ぐだ……ざぁ……い……」 火傷女が爪を裏返し手の平に叩きつける。かちゃ、かちゃ、かちゃ、拍手のつもりであろう。
「よくできました。ティナ」 言うが早いか、火傷女の眼が悪鬼のごとくつりあがる。禍々しいオーラを放ち、ゆっくりとティナの身体へと向かう。 全身の毛が逆立ち、ちりちりと焦げるような圧迫感が、ティナの身体を襲う。 それだけで、オーガズムの扉はもう半分ほど開かれていた。 あとは火傷女が指一本でも触れさえすれば、なんのことはなく昇天してしまうだろう。 火傷女の左手がティナのヴァギナへじりじり伸びていく。 尖った赤いマニュキュアの先は膣口まであと1cmもないであろう、 救いの手がもう少しで届きそうな距離にあるのが、ティナにも伝わった。 ティナは一声大きく鳴いた。待ち焦がれた絶頂がついに叶う。全てを捨てて牝となる瞬間が迫っている。 が、何を思ったか、火傷女はさっと気配を消して、左手を引くと、ティナの耳元に唇を寄せた。 「い、や、だ。ヒャハッ!」 ティナが絶叫した。おうおう唸った。全てを捨てて望んだものすら却下され、あらん限りの力で喉を震わせ、慟哭した。 パチン、火傷女が指をはじいた。どういう仕掛けか、ティナの身体を襲う快感が徐々に引いていく。 引き換えに、磨り減った記憶の数々がまざまざと甦ってくる。 手足を舌で縛られて、牝の歓びすら失われ、仲間の記憶を裏切ったティナにいったい何が残っているのだろう。 快楽の波が過ぎ去ると、湧いてくるのは後悔の念。ただ自分が牝豚であると認めざるをえない弱い心の数々。 守り通すと心に誓った決意が崩れ去り、悪魔の言いなりになり、堕ちてしまった屈辱感。 火傷女が、この機を逃すはずもない。ティナの声色を使い、自分の肩を嬉しそうにめいっぱい抱いてパフォーマンスを開始する。 「あなたに・・・・・・ロッドに、グレンに・・・・・・逢えてよかった。ヒャハッ!」 びくん、ティナの身体が震える。心の中でもう一人の自分が声を挙げる。 そうだ、私は、あんなことを言ったのだ。本当に、あの時は、そう思っていたのだ。 心から思っていたのに。みんなに逢えてよかった、ずっとずっと同じ時を過ごせればいいって、思っていたのに。 「う、そ、さ。お前の言葉は全部うそ。お前の気持ちも全部うそ」 その通りだ。私はみんなを裏切った。 あんなに優しい気持ちをくれたロッドを裏切った。ナンシーを裏切った。グレンも裏切った。どうしようもない牝豚なのだ。 「一本ブチ込まれるためなら」 そう一本ブチ込まれるためなら全てを捨ててしまう。淫欲を糧に生きるだけ。人間ですらないのだ。 生きている価値などない。心を持つことすら許されない。 裏切り者。自分が決めた決意すら守れない半端者。口だけの一時の性欲に流される不埒者。 「嘘」 嘘。神様はいない。祖母はきちがいだ。ワーニャ伯父さんと再婚したきちがいだ。 その祖母が大事にしてた十字架を握ってた自分はもっときちがいだ。 「うそ」 うそ。あのキスは真実でも何でもなかった。奇跡なんて起こらない。ただの一時の気の迷いだった。 自分が勝手に感激して舞い上がっていただけ。ロッドはただ駄々をこねる私を黙らせたかっただけ。 私は救いようのないバカだ。こんな不埒な頭のおかしい女にキスするロッドも大バカだ。 「ウソ」 ウソ。何もない。信じる人は誰もいない。これまで生きてきた記憶全てがうそ。 パパに頭を撫でられた記憶うそ。ママに編み物を教えてもらった記憶うそ。 ナンシーに抱きしめられた記憶うそ。グレンが見せてくれたまっすぐな笑顔うそ。 「ウ、ソ!」 ウ、ソ! 私が、信じた、愛する人、うそ。 うそ。 ウソ。 ウソ。 ウソ。 ウソ。 うそうそうそ……。
突然、ティナの全身が固まった。肉体が全ての機能を停止したかのように見えた。 息もしない。瞬きもしない。帽子をかけられた、よくできたマネキンのようにぴくりとも動かない。 火傷女も動きを止めた。まるで一枚の絵のように、世界の全てが凍りついた。 しばらくして、ティナを見つめる火傷女の切れ長の眼だけが、恍惚の悦びに緩んでいく。 呪われた絵画、夜中になると絵の中の男の眼が動く、そんな風に――世界で動いているのは、火傷女の眼だけであった。 目尻が下がり、綺麗な楕円を形作り、止まったところで、ティナが突然口を開いた。 「あばっ……あばあっ、ばっばっばっ」 世界が動き出した。奇怪な声はなんであろう、他ならぬ笑い声だった。 唾液が舌下に残り、上手く発声できないでいるため、溺れた阿呆と何ら変わりはない。 よりどころを失ったティナの精神は崩壊した。ただ貪欲に快楽を求めるだけの畜生と化した。文字通りの牝豚となった。 「あばっ、あばっ、びぃ、ひびぃっ、ぎゃばっ」 堪えきれぬ笑いが、唾を飛び散らせ、喉まで通し、鼻へ逆流する。ティナはげほげほと咳き込んで、唾液を上に撒き散らす。 「キャッ――――ハハハハ―――ッッ!!!」 火傷女の勝利の雄たけびだ。 ティナは全てを空に吐き出し、いくらかを顔を浴び、口の中の邪魔者を追い出すと、ようやく人間の声で、絶えることなく笑いだす。 「キャハッ、キャハッ、ヒャヒャ、ヒヒィィ、ヒィッ――ヒヒッ」 もうどちらが狂っているのか見分けもつかない。 二人の痴女がただ笑い転げる様は精神病患者の戯れに見えてもおかしくはない。 事実、二人とも狂っているのだから、そう言い表すのが適切であろう。 火傷女は、ティナの光を奪っていた中折帽をはぎ取った。 明るさを取り戻したティナの瞳には何が映っているのだろう。理性を失い、ただの畜生と成り果てたその眼には。 「ヴァッ!ヴァッ!ヴァッ!」 奪われた帽子を取り返そうと、ティナは外れた顎を上下させ、鋭い爪に食いかかった。 火傷女は面白がって手をひらひらさせ、振り乱れるティナの頭を飼い犬にするように優しく撫でてあやしている。 「とても綺麗よ。いい子ね、ティナ」 火傷女はヒヒッと含み笑いしながら帽子をかぶる。 頭にぴったり収めると、両足を大きく広げてベッドに登り、狂人に女陰を晒したまま一人ごつ。 「惚れた野郎の思い出なんざ、不味くて食えたもんじゃないからねぇ」 にたりと笑い、右手のグローブをいっぱいに広げて、上段に構え、ティナの白いおなかへ投げつけるように振り下ろした。
ロッドは悪寒を感じて、うつぶせの姿勢で、目を覚ました。枕が目に入った。 シーツが、漏らしたみたいに、ぐじょぐじょに濡れている。汗?にしてはおかしい。 部屋の電気が、いつのまにか消えている。ティナが一度起きて、消したのだろうか。 疲れて、身体に力が入らない。腰が痛い。顔を左に向けて、手を這わせる。 「ティナ」 ティナは横にいなかった。ベッドに寝ているのは自分一人。トイレにでも行ったのだろうか。 仰向けに転がる。探し人は、自分の頭上に、浮いていた。 ロッドは朦朧とした意識の中で、昔見た怪奇映画――神父が女の子を取り囲んで、 聖水をぶっかけて、ベッドがガタガタ揺れて、を思い出していた。 あれ?こんなシーン見たことあるぞ? と、首をかしげて、すぐに映画でないことに気づく。 ティナが、手を後ろ向きに下げて、足をぴんと伸ばして、身体が真っ赤に腫れて……いや、無数の切り傷だ。 「なっ……」 突然、部屋のドアが強風に煽られたかのようにばたんと閉まり、独りでに鍵がかかった。 仰向けになったティナは空中浮遊・マジックショーのようにどんどん浮き上がっていく。 いや、ショーなんかじゃない、これは。 ロッドは何かとんでもないことが起こりそうな気がした。心臓が走っている。血液が全力で駆けている。 ティナが天井につこうかという瞬間、ロッドは立ち上がり、だらりと下がった手を引こうとした。 すると、ティナの身体がくるんとひるがえった。 「ティ……ナ?」 ズジャッ。腹に斜めに四本の深い切り傷が入る。 血が吹き出して、ロッドの顔を濡らした。 ロッドの視界が真っ赤に、フィルターをかけたように変わる。思わず顔を歪める。膝をつく。 「ティナッ!」 ズジャッ。 左胸をえぐるように四本の深い切り傷が入る。 腕で血を拭い、見上げる。乳首が縦に裂けた。 「や……」 ズジャッ。 太股に炸裂した。肉の切れ目から白い骨が見えている。 「やめろォッ!」 ズジャッ。 左手の人差し指、中指、薬指がいっせいに三本とも吹き飛んだ。 「やめてくれえッ!」 ティナが突然かっと目を開いた。 顔をまっすぐ向けて、ブルーの瞳をゆっくり左右に動かして、何が起こっているのかわからない、と言った風に。 目を降ろして、下で血まみれになっているロッドを見つける。 彼を見た瞬間、ティナはほんのコンマ何秒か自分を取り戻した。愛する人の名を呼ぼうと声を絞り出そうとした瞬間、 ズジャッ。 喉が切り裂かれる。 「ろっぼ」 ごぼっという音ともに、喉の切れ目と口から血がぼたぼた落ちる。 ロッドの顔はもう真っ赤に染まっていた。
ロッドの悲鳴でグレンは虚ろな意識から立ち返った。ナンシーは既に起きていて、グレンのベッドの脇に立っている。 「ねえ、おかしく……ない?」 グレンは頷いて、ベッドから飛び降り、ナンシーの手を引いて部屋を出た。 廊下にでると、隣のティナの部屋のドアを通して、悲鳴が相変わらず響いている。グレンは部屋をノックする。 「ロッド!どうした、開けろ!」 悲鳴以外の応答はない。それも驚いたなんて様子じゃない。正真正銘の恐怖の悲鳴だ。 ロッドが、こんな声を出すなんて、今までなかったことだ。よっぽどのことだ、グレンの脳裏に嫌な予感が走る。 「ロッド、ねえ!開けて!なにしてるの!」 ナンシーの頭の中をティナの言葉がぐるぐる駆け巡る。 「もし、私が死んだら」「もし、私が死んだら」「もし、私が死んだら」 そんなことはあるはずがない、そんなことはあるはずがない、 ティナが死ぬなんてあるはずがない、念じて、不安を押さえ込もうとする。 しかし、ノックする力がだんだん強くなっていく。もう殴打に近い。 悲鳴はまだ止まらない。来たばかりの頃は叫び声だったが、だんだんと弱々しくなっていく。 泣き声に混ざって懺悔するように、ロッドがティナの名前を繰り返している。 「ナンシー、どいて!」 ナンシーが両手を上げて横に避けると、グレンは扉に向かって肩でタックルを開始する。 フットボールで鍛えられた鋼の肉体が、全力で扉にブチ当たるが、びくともしない。
室内は既に地獄絵図と化していた。無残――悪漢に徹宵(てっしょう)嬲(なぶ)られたとて、こうはなるまい。 ティナは脈管五臓を切り裂かれ、火傷女の狂気によって彩られた芸術作品と化した。 頬骨が見え、ビューティー・ダックの唇は、左側が耳たぶにかかるまで、右側は外れて垂れ下がる顎の下まで縦に切り裂かれ、 なんと、美しき少女の唇はいまや墓から甦り死体を貪る食屍鬼のそれではないか。 下唇が斜めに開いて、ピンクの歯肉と規則正しく整列した白い歯が見え、二つに裂けた舌先が前歯にひっかかっている。 鼻腔から二本の爪を突っ込まれて引っ張り上げられたか、可愛らしい小鼻は三叉に裂けてしまった。 右の眉から頬まで入った斜めの切り傷、横に潰れたブルーの眼球が、瞼が切れて開いた眼窩から飛びだしている。 幾重に裂けた胸腔(きょうこう)、ハイスクールの女の子達が羨んでいた、形の良い胸はもはやそこにない。 萎んだ高熱気球のごとく、老婆の乳房と変わり果て、裂け目から橙色の脂肪をぼたぼた落とし、肋骨が姿を現している。 乳首は縦に横にと傷つけられ、最後には根元から切られ、砕けたボタンのようにはじけ飛び、シーツの上に転がっている。 窓から差し込む蒼い月光が、だらり下がった四肢を照らし、累々滴る紅と混ざりあい、薄紫に色を添える。 横一文字に大きく切り裂かれた腹部は、あふれ出んとする臓腑を漏らすまいと、はちきれんばかりに膨らみ、 隙間から覗く大蚯蚓の大群が、今か今かと顔を出そうと押しくらまんじゅうを開始する。 背面とて無事ではなく、肩の裏から差し込まれた刃が、腰に向かって何度も移動を繰り返したのだろう、 開いた穴から肺胞に溜まった空気が漏れて、しゅうしゅう血を泡立てている。 局部は恥丘から肛門までをごっそりこそぎ取られて、開けてしまった膣道と直腸を晒している。 少し経ち、黄土と赤のまだらになった一匹の大蚯蚓が、広がった裂け目から脱走に成功してだらんと垂れ下がり、 全体が逆さに釣られたキィ・ホルダアのごとき様相を呈した。 金の毛色、蒼い月光、黄土の腸、交差する紫、真紅の血液、 これら五色が絶妙の配合を見せ、雲で月が隠れるたびに、さわさわと色彩を変え、屍を艶やかに演出する。 斬痕の一つ一つから血が断続的に飛び散り、小さな花火の粉を降らせ、 ベッドの上で両手を顔に寄せて泣き崩れる哀れな男が、頭から血の雨をぱちゃぱちゃ浴びている。 爪の乱舞が終わりを告げて、最後の仕上げが行われた。物言わぬ骸は、ぐるりと回転し、 部屋の奥、天井の角へと突進していく。 角に頭を激突させて、首の骨がねじ切れる嫌な音が響いた。 百八十度捻れた首のおかげで、骸は薄気味悪い背面人間と化し、腹から臓腑を一気に吐き出しながら、 四人の写真が立てかけてある棚と卵型の蛍光灯の間に、押し込まれるように、どすんと落ちた。 全てが終わった時、グレンのタックルで扉が開いた。駆け込んだ二人を、蒸れた鉄の臭いが襲う。 血だらけの部屋――惨状に、二人とも声も出ない。 グレンは見た。赤達磨と化した男の顔を。ナンシーは見た。暗がりの中、溢れる脾臓小腸を。 ロッドがグレンに眼を向ける。涙が顔の血を拭い、頬に線を作っている。震える唇。「ティ……ティナ……が」
「死んだ?ええ、めちゃくちゃですよ。最悪の事件です」 午前四時、ドナルド・トンプソン警部補は、アレックス刑事から報告を受け、張り込み先から市警へ直行した。 駐車場に車を停めて、紫煙をくゆらせて、歪んだ右目を細める。 眦に深い皺が寄る。腹を空かせたハイエナのように痩せた頬。前髪が後退した頭には、薄っすら黒髪が残っている。 まったく、この街もすっかりろくでなしが蔓延る掃き溜めになりつつある――トンプソンはまだ平の巡査だった頃を思い出す。 十五年前、この街最大のくそったれを葬った。平和になると思ったが、まったくの誤りだ。 麻薬、強盗、殺人……件数は増加の一途。自分が退職する頃にはもっとひどくなっているだろう。 クズがクズを産み、クズがクズを育てる。いつまでも続くクズの連鎖。 厄介事を撒き散らしそうなろくでなしをリストアップして、一列に並べて右から順に射殺したい気分にかられる。 トンプソンは車から降り、警察署の入り口の階段に駆け足で向かった。 今日も最悪な事件が起こった。特に自分にとっては、間違いなく、人生で二番目に最悪な事件だ。 「ああ、警部補殿、お休みのところ、ご苦労様です」 「構わん。張り込み中だったからな。ジョーイ、頼む」 横に若い刑事がぴったり張りついて歩調を合わせ、手にした用紙の束をめくってトンプソンに詳細を伝える。 「被害者はティナ・グレイ、十七歳。プレイサーヴィル・ハイスクールに通っています。 進学クラスですね。両親は健在で、ベガスに旅行中とのことです。今連絡を取っているところです」 「急がせろ。なるべく、穏便にな」 ジョーイは頷いて、トンプソンを見た。 「……親の立場としては気が気じゃないですな。私も娘が」 ジョーイの言葉が止まる。トンプソンが冷たい視線で自分を睨みつけていたからだ。 長年の経験でつちかわれた刑事の眼光は、並みの暴漢にナイフを向けられるより恐ろしい。 「す、すいません」 「続けろ」 「犯行現場は被害者の自宅、被害者の部屋ですね。証言によると、犯行直後、中から鍵がかかっていたようです。 密室ですね。見たところ、刃渡り15cmほどの刃物に拠る裂傷。 直接的死因は、おそらく出血多量によるショック死。ひどい……めった切りです。 被害者には性交の跡があります。詳しいことは司法解剖が終わってからになりますが」
トンプソンは署内に入り、中を見渡した。 アレックスがデスクにかじりついて、一週間前に市街外れのウッズボローで起こったプレスコット殺害事件を処理している。 亭主に内緒で売春を繰り返した子持ちの女が、モーテルで激しいレイプを――あれはプレイではないだろう、 受けた後、何者かに刺し殺された。容疑者はプレスコットを買ったコットン・ウェアリー、 現場に指紋つきの凶器とレザーコートが投げ捨てられていた。目撃証言もある。その線でまとまり、現在捜索中、だったか。 「ご苦労様です。警部補殿」 アレックスの挨拶に、トンプソンはうなずいて、カウンターを横切り、奥に伸びる通路を進む。足取りが徐々に重くなる。 「目星はついてるのか?」 「ロッド・レーン、同じく十七歳。被害者の交際相手です。プレイサーヴィル・ハイスクールに通っています。 こちらは就職クラスですか。片親ですね、父親と二人で生活しています。 兄妹は成人した姉が一人……いますね。今はシカゴに住んでいるようです。 父親とは連絡がとれて、今、こちらに向かっています。自宅はデューイが張り込んでますが……大丈夫ですかね、あいつで」 一つ目の角を右に曲がる。デューイ、あのホモみたいにへらへらしてる新米の腰抜けか。 「相手はガキで、銃も持ってないんだろ?だいいち、心配しなくても、すぐに帰ってくるほどバカじゃないだろう。 通報されたことはホシも承知してるんだろ?」 「まあだから行かせたんですけどね」 ジョーイがにやりと笑う。 「……ええと、証言によると、この野郎は、事件が起こる直前まで、被害者とよろしくやってたようですね。 犯行現場に独り、血だらけでいたそうです」 まったく、まだ二十歳も超えぬしょんべんたれが、夜中に男を引き入れて乱交か。殺されても文句はいえんな。 トンプソンは溜息をついた。刑事として多くの事件を見てきた弊害、厳格に過ぎる男であった。 もし自分の娘が下らん男と夜遅くまでドラッグとセックスに耽ろうものなら、 我を忘れてこっぴどく折檻したあとで、相手の男を一方的に撃ち殺してもおかしくない。
「前歴はあるのか?」 「ええと、暴行容疑で二回、捕まってますね。去年と一昨年ですね。不良同士の喧嘩ですな。 小競り合いといったところでしょう。死亡者や重傷者は出ていません。あとマリファナ所持で一回。 他には特に……ありませんね。駐車禁止やスピード違反、その程度です。 犯行時にバタフライ・ナイフを所持していたようです。それにしては傷が深すぎますが」 トイレの脇を通り過ぎる。この時間でもまだ残っている者は多い。手を洗う音が聴こえている。 勤務時間をとうに過ぎているのに、片付いていない事件が山ほどあって家族の待つ我が家にも帰れない。 「動機は?」 「まだよく分かってませんが、クスリきめて喧嘩でもしたんじゃないでしょうかね。 最近、悪質なドラッグが出回ってますから、ほら、あのヴィデオ……なんとかっていう。 拳銃振り回して、新人類よ――永遠なれ」 「使った形跡はあるのか?」 「いえ、それは」 「ないなら言うな。分からんならいい。状況は、変わらずか」 ようやく目的地に到着した。表札もなく、ただ白のペンキを塗られた扉。窓にブラインドがかかっていて中は見えない。 「逃走中です。車を持ってますが、犯行後に使った形跡はありません。 付近住居の庭のホースを借用して、血を洗い流したようです。まだ近くにいますね。どこかその辺に隠れているんでしょう」 トンプソンは目の前の扉を、ノックもせずに開けた。 殺風景な部屋に、黒髪の少女と、栗色の髪の中年女性が丸椅子に腰掛けて座っている。 少女はうつむいて、膝と膝の間に手をやり、泣いているようだった。 中年の女が、少女の肩に手をやって慰めの言葉をかけている。 「分かった。続けて現場付近を捜索しろ。夜が明けても、見つからなければ、手を、考える……何をしている!」 「すっ、すぐに、逃走経路を特定……」 「お前じゃない。ナンシーだよ。ナンシー!お前はいったい、そんなところで何をしていたんだ!」
−Rod_Lane− 小麦畑に囲まれた平屋建ての木造家屋に、巨大な竜巻がうなりをあげてじりじり接近する。 屋根をはじき飛ばされ、窓ガラスを粉々に割られ、丸裸になった家が洗濯機にかけられた蝿のように飲み込まれていく。 マイクを握ったレポーターが、厚手のコートをはためかせ、コメントするのも忘れ、背中を丸めて突風に耐えている。 そんなニュース番組を見ているような顔をして、ジョーイが部屋から退散した。 「あなた、大きな声出さないで」 部屋に入ってくるなり娘を一喝した父親。 マージはナンシーが負ったであろう多大なる精神的損傷を危惧していた。三人とは面識があったからだ。 グレンはお隣さんの大切な一人息子で(しかしあの夫婦は堅物過ぎて、どうにも好きになれない) ナンシーにとってただの友達ではないことも知っている。 成績優秀、健康的ながっしり締まった身体つきで、返事もはきはきしていて、 にこっと笑った時は四十の大台を越える自分がどきっとしてしまうくらいの美青年だ。 正直、娘のボーイフレンドとしては申し分がないどころか、こちらが恐縮してしまう。 ティナ――ずいぶん前からナンシーがよく家に連れて来て一緒に遊んでいたから、もう見知った間柄だった。 溌剌として、妙にこなれていて、自分の娘にもこれくらい愛嬌があればいいのに、と思わせていた少女は、 ハイスクールに入った頃からめっきり女らしくなった。まさかあの子が殺されるなんて――マージは顔をしかめる。 ロッド――チェーンやバッジつきのごつごつした黒皮のジャンパーを着て、リーバイスのカットジーンズを履いて、 髪はきっちりオールバックの典型的な不良だけれど、根は悪い子ではないな、と感じていた。 フロントラインが大層なデザインの真っ赤な車にティナとグレンを乗せて、映画を観に行くって (「FRIDAY THE 13th」のPART2だったか3だか、どっちだったか。今学校でも流行ってて、凄く怖いのよ、とナンシーが言っていた) 家に迎えに来た時、ナンシーがまだシャワーを浴びていたので、待っている間にアップルパイを食べさせてあげた。 がっつくように全部平らげてしまって、「美味しかった?」と訊いた時のはにかんだ笑顔が忘れられない。 人殺しなんて、する子ではないと思っていたのに。 マージはトンプソンをじっとり見つめる。ろくに家に帰ってこない夫はそんなことすら知らないのだ。 休日だって、とりかかっている事件や同僚とのつきあいで潰れることが多く、一緒に過ごすことは少ない。 そのくせたまに早く帰ってくれば、ディナーに冷凍物のミートローフを使ったり、 ダイニングルームのテーブルに昨日の新聞が置かれていたりで、声をはりあげる。夜の生活もここ二年ほどない。 夫が変わったのは、やはりあの事件からだ、とマージは回想する。あれはエルム街全体を巻き込んだ悪い夢だった。 だった? まだ完全に覚めてはいない。十五年経ったのに、夫も自分も、ベッドから跳ね起きて、 半信半疑のまま、大きく息を吸い込んで、吐いているところなのかもしれない。
「母さん、こりゃいったいどういうことなんだ!説明しなさい!」 マージの眼が恐怖で引きつるのを見て、ナンシーが口を開く。自分のせいでママが怒られるのは不公平だと思った。 しかしそれとは別に両親に対する不信感がないと言えば嘘になる。 どうしてパパはそんなモノの言い方しかできないのだろう、ナンシーは不満に思っている。 一度言ってやりたい。ママはここ最近、夜だけじゃなく、昼間っからお酒を飲むこともあるって。 時にはぐでんぐでんに酔っ払って、自分が学校から帰ってくると、ソファの上で寝てるんだって。 でも言ってしまえば、パパはママを殴りつけるかもしれない。最悪、いやたぶん離婚だ。 ママはパパに逆らえない。言いなりだ。これ以上、ママをめちゃくちゃにしてほしくない。 「ティナの家に泊まる予定だったの」 トンプソンがふん、と鼻を鳴らすのを聞いて、ナンシーは申し訳なさそうに続けた。 「ティナ、身体悪くして、学校休んでて……久しぶりに来て、みんなで、ティナの家でパーティーしようって」 「それでこんな時間までランチキ騒ぎか、え!?まったく、考えなきゃならんな!」 トンプソンがナンシーの言葉をさえぎってがなりたて、言い終わった後で、愛すべき妻を睨みつけた。 マージは慕うべき夫の顔を見ることができない。ただ黙って、顔を下にやるだけだ。 ランチキ騒ぎ――ナンシーの頭に楽しかったパーティーのあれやこれやが浮かぶ。 ロッドに抱きかかえられたティナの最後の笑顔が思い出される。ナンシーの目からまた涙がこぼれた。 「ごめんなさい……」 蚊の鳴くような声で娘が謝っているというのに、トンプソンの目は依然として厳しく光っている。 被害者には性交の跡があります――ジョーイの言葉がまだ耳の裏にべっとり張りついている。 パーティ?パーティと来たか。それは未成年が酒をかっくらって、白い粉を鼻から吸って、 俺がポンコツのシボレー・カプリスで駈けずり回っている深夜に、馬鹿面さらしてろくでもない野郎と動物のように貪りあうことを云うのか。
「まったく、あんなイカれた、ろくでなし共と!」 「ロッドはろくでなしじゃないわ!」 ナンシーが大声を挙げた。トンプソンの顔が強張って、眉間がぐっと開いた。 とっさに、頭の中に、娘がまだ小さかった頃、寝る前にキスをして頭を撫でていた頃の無邪気な笑顔が浮かぶ。 それが、目の前の、腫らした目で自分を睨みつけている成長した娘と重なり合い、がらがら崩れていく。 娘の口ごたえはそうあることではなかった。もちろんあれば、こっぴどく叱って分からせてやったのだ。 なのに、この期に及んで、殺人者を庇うとは、善悪の区別もつかなくなったか。 腹の底から怒りが湧いて来る。それもこれもクズ共とつきあったからだと自分に言い聞かせる。 夫の肩が震えているのを見て、マージが間に入って止めた。 「ナンシー」 マージは諭すように、名前を呼んだ。これ以上、続けられてはたまらない。怒鳴りつけるだけじゃ済まなくなる。 「ろくでなしだなんて……大したことじゃないわ」 「人殺しが大したことじゃないっていうの?」 夫が拳を振り回し娘の顔を殴りつけるシーンを想像して、マージは頬の筋肉を硬直させた。 娘は現実が見えていない。無理からぬことだが、許されることと許されないことの違いは教えておかなければ。 受け入れてもらわなければ。マージはナンシーの目を覗き込んだ。 「違うわ!私が言っているのは、喧嘩のことよ……」 マージはきつい視線で、これ以上言わないで、とナンシーに無言の圧力をかける。 ナンシーは諦めるような顔をして、また、声を挙げて、泣き始めた。涙が止まらない。 血だらけの部屋。ティナの捻れた首。「もし、私が死んだら」切り裂かれた全て。 ティナの笑顔。光景がフラッシュバックするたびに、涙が次から次へ溢れてくる。 「信じられんな」 トンプソンは吐き捨てて、娘と妻に帰宅するように伝え、部屋を出た。
エルム街の外れの農地、ティナの家からわずか5、6kmほど西に行ったところに、セルフィッシュ・リバーが流れている。 ブロックが敷き詰められた脇の土手に、大人の男が、かがんですっぽり入れるくらいの大きな排水管が伸びている。 もう使われていないもので、水はほとんど流れていない。中心部に線を作り、濁った汚水を僅かに垂らしているだけだ。 ロッドはそこにいた。入り口から見えないように、入ってすぐの突き当たりを少し右に行ったところで、うずくまって身を潜めていた。 ロッドがまだ幼い頃、親が二人いた頃、まだそんなに屈まなくてもすんなり入れた頃に使っていた秘密の隠れ家だった。 黒皮のジャンバーの左胸の内ポケットには、やはり銀色のバタフライ・ナイフ、そして、錆びた十字架が入っている。 ティナの部屋から持ってきたものだ。それで、グレンに殴りかかったのだ。 ロッドの父と母が離婚したのは、ロッドがまだ十歳にもならない頃だ。 ロッドは遅くにできた子供だが可愛がられたわけではなかった。 父は薄給の工員で、飲んだくれで、折檻という口実で突然蹴りを入れてくることは何度もあったし、 一度、ロッドは頭を引っ張られて、机の角に血が出るまでぶつけられたこともある。 もっとも、今から三年前、ロッドが十四歳になった頃から、父は手を出さなくなった。 一方的な勝利を収めるためには、ロッドの身体は大きくなりすぎていたのだ。 殴られるたびに、ロッドは父を心底クズ野郎だと思っていたが、母が受けた仕打ちに比べればマシだった。 父は母を何か少しでも気に入らないことがあるとどなりつけ、殴りつけた。 母はほとんどいつも顔に青痣を作り、奥歯だって二本折ってなくしていた。頬骨を骨折したこともある。 母はよく耐えた、とロッドは思うが、結局は音をあげて、母が親権を捨てて一方的に出て行く形となった。 そしてエルム街を出て行った後、隣街の印刷会社で働いて、幸運な再婚を果たした。 相手は取引先の重役で、お互いに四十代中盤という年齢で、離婚経験者だった。一度だけ見たことがある。 ロッドが父に内緒で、母方の親戚、叔母に頼んで、母が借りているアパートへ連れて行ってもらった時のこと。 母は突然訪ねてきた姉とロッドを見て、驚いて、部屋に招き入れた。 叔母が買い物に行くために部屋を出て、ロッドと母がしばらく喋っていると、 ノックもなしで、高級そうなスーツを着て、茶色のネクタイを締めた、ふとっちょの男が、部屋に入ってきた。 「やあ、この子は?」 ロッドは挨拶した。男は一瞬神妙な面持ちになって、すぐに笑顔を作って、ロッドの頭を撫でた。 母の新しい恋人は、ロッドにはいけすかない野郎に見えていた。何か腹に一物溜め込んでいそうな奴だと。 しかし、母はその男を見て、家では見せたことのないような顔をして笑った。 母の笑顔はロッドにとっては嬉しくもあり寂しくもあった。 そして、寂しい気持ちの方が正しかったのだと、ロッドは後に知ることになる。 再婚して一年たつと、母はロッドのことを忘れてしまったのか、 それからはクリスマスやロッドの誕生日ですら連絡の一つもよこさなくなった。
ロッドは意識的にジョークの腕を磨くようになった。笑わなければやっていられない。 だいいち、現実の生活がもはや喜劇だ。 そうして、十四、五という年齢で、街に繰り出して女の子を笑わせては、デートして、時には寝たりした。 身体が大きく、彫の深い顔をしているので、みんなロッドのことを高校生くらいだろうと思っていた。 年の離れた姉はハイスクールを卒業すると、逃げるように家を出て行った。 ロッド家において、姉は落ち着いて思慮分別のある人間だったから、余計に居心地が悪かったのだ。 父は息子をろくでなしと思っていて、息子は父をろくでなしと思っていた。 姉は少し離れたところに自分を置いて、遠くの火事を見るような感覚で、二人のことを、やはりろくでなしと思っていた。 父のいんねんのつけ方を見て、ロッドは子供ながらに、よくもまあ、そんな下らないことで怒れるもんだな、と思っていたが、 どうやら、自分にもその傾向、つまり、雨がいつまでもやまないとか、贔屓チームの四番打者がデッドボールを当てられたとか、 そんなことで怒っているのに、度々気づかされた。そして、おい、あの野郎と俺は同じじゃないか、と胸糞が悪くなった。 意識して、男は下らないことでは怒らない、と自分に言い聞かせてきたが、 時にかんしゃくを起こして、殴り合いの喧嘩になることがある。カッと来ると止まらない。 しかし、ロッドは女にだけは暴力を振るうまいと思っていて、それだけはこれまで固く心に誓って守り抜いてきた。 父が母を殴っていたからだ。どうして、女を殴れるんだ?とロッドは不思議に思う。 その腕は何のために使う?拳は? 女を殴るためか? いけすかないクズを殴ってやるのは多少すかっとするけれど、女を殴ったって胸糞が悪くなるだけだ。 だから、「鉤爪の女をブチのめす」と言った時も、実は少し抵抗があったのだが、 鉤爪の女がティナを苦しめたという怒りと、夢の中の出来事というわけで、はっきり言えたのだ。 ロッドはハイスクールを出たら、エルム街にあるアークグレイ自動車工場で働こうと決めていた。 車の整備に関してはそれなりに知識があるし、資格も取るつもりでいる。 知り合いのメリルもそこで働いていて、なんなら口を利いてやるという次第だ。 ティナは市内のアーベントン女子大学に行き(以前、ティナからそう聞いた)、自分は就職、 それで何の問題もないと思っていたし、ティナと、そう――所帯!を持つためには、いくらだって働くつもりだった。 ただ、ティナが心変わりするのは怖かった。ティナへの愛が覚めることはありえないが、 彼女が大学に行っていい歳になれば、自分ごとき薄給工員をあっさり捨ててしまうかもしれない。 時々、強迫観念に近い形で、ロッドはそんな思いに囚われ、悪夢を見ることもあった。 夢の中では決まってロッドはうらぶれて、父そっくりの顔になって、ティナは母を奪ったいけすかない男と結婚している。 ティナはドブねずみを見るような眼で、声をかけたロッドに向かってこう言う。「あなた、誰?」 そこで目が覚める。うん――連絡もよこさなくなるかもしれない。なんたって、母親がそうだったのだから。 しかし、まだ始まってもいないことをあれやこれやと心配するのは男らしくない、とロッドは自分に言い聞かせた。 母親とティナは違うし、自分も父親とは違う。 色々と将来の計画も考えていたのだが、ついにティナには話せずじまいだった。ティナは冷たい骸となった。
ロッドは胸ポケットからバタフライ・ナイフを取り出し、パチンと刃を出して、ぼうっと眺めた。 ナイフを使って人を刺したことは、これまで一度もない。 うざったい不良社会で面倒くさいいざこざを早めに切り上げるための脅しの道具であって、実用としては林檎の皮を剥く程度が関の山だ。 刃の先は暗闇の中で、薄っすら光を放っている。 ロッドは不思議な光に魅せられて、これで首根っこをすぱんとやればどのくらいの血が出るのかな、と考えたりした。 そして、ティナはもっと苦しんだ、もっと痛かった、それに比べれば、頚動脈を切るくらいどうということはない、とも思った。 だいいち、自分が既におたずね者で、仮に捕まって「冤罪だ、俺はやってない」と言ったって、通じるはずがないのは、分かりきっている。 浮いたんだ、身体が、なんだっけ、ほら……エクソシスト、みたいに。 それで斬られたんだ、むちゃくちゃに……、キャベツをちぎるみたいに……、ジョークにしても最低の部類だ。 しかしジョークではない。ティナは死んだ。死んだのは、自分が守れなかったからだ。 ロッドの頭の中は、今は自責の念でいっぱいだった。 ロッドは刃を自分の首筋、ちょうど顎の下辺り、に斜めに添えた。 目を閉じて、深呼吸して、親指と人差し指に力を入れてざくりとやれば、すぐに死ねる。 唾を飲み込む。死んでしまえばあとは野となれ山となれだ。あの世があるなら、ティナにもそこで逢えるかもしれない。 刃が強く当たり、首の皮を一枚裂こうかというところで、 今ここにナンシーがいれば、きっとあの時みたいに止めるだろうな、とロッドは思った。 いつものごとく下らない喧嘩が原因で、父親が来るまで留置所にぶちこまれた。 学校で噂を聞きつけたのか、心配して三人もやってきた。 父親は手続きだけ済まし、注意を受けた後、さっさと一人で帰ってしまった。二回目だったから、慣れたものだ。 勝った負けたはどうでもいいが、相手のやり方が気に食わなかった。 最初に大勢で襲い掛かっておいて、あとで散らばって、わざとやられて、ポリを呼びやがる。 それにティナやグレンやナンシーを馬鹿にされた。それでカッとなって殴ってしまった。落とし前はつけるつもりでいた。 汚い言葉で、三人に奴らがどれだけクソかをがなり立て「これからあいつらをブチのめしに行く」と喚いた。 グレンがいつもの正論を吐いた。「落ち着け。そんなことしても何の意味もない」至極もっともだったのでいらついた。 ティナもグレンに賛同した。「グレンの言う通りだと思う。冷静になって」ナンシーは黙っていた。 ティナがグレンの肩を持つのに、さらにいらついて、何を言ったか忘れたが、 とにかく二人に汚い言葉を使って――ティナの眼に涙が浮かんで、しまったと思った時、ナンシーの右ストレートが飛んできた。 尻もちをついて、まだ目の前がちかちかしているのに、両手で胸を掴まれて、 ねじり上げられて、やわな野郎ならびびって逃げ出すような強い眼をして 「馬鹿じゃないの?ティナに謝りなさいよ!」 それで目が覚めた。
ロッドは首から刃を離し、ナイフをぱちんと閉じて、足元に置いた。 「馬鹿じゃないの?そんなことして死んだティナが喜ぶと思ってるの!」 今の自分を見れば、そうナンシーは言うだろう。 あの時、グレンは自分を疑っていた――ロッドは暗い気持ちになった。まったく、日頃の行いが悪いからだ。 ナンシーがティナの元にかけよって、悲鳴を挙げた。グレンも悲鳴を挙げたが、 すぐにナンシーを守るように抱きかかえて、きょろきょろ辺りを見回して、「まだいるのか?」と訊いてきた。 そして、クローゼットの中をおそるおそる覗いて、窓に鍵がかかっているのを確認した時、 グレンがぽかんとした顔で――ロッドはあの顔を思い出して、泣き笑いする。まったく、冗談きついぜ。 「お前」グレンはそう言った。だから、起こったことを片言で説明した時、グレンが飛びかかってきた。 顔をくしゃくしゃにして泣きやがって、なんで、ああ、なんで、お前、 グレンはそんな風に叫びながら、手加減を知らない力で三発殴ってきた。 ベッドの上から吹っ飛ばされて、化粧台にぶつかって、十字架が背中に当たった。 殴られた痛みで、カッと来て、その時手にした十字架で殴り返そうとしたが、かわされて、腹にきついのをもらった。 ナンシーが泣き叫びながら、割って入って止めた。三人とも血だらけになった。 ナンシーが「まず服を着て、それから説明して」と言うので、 ティナの部屋のタンスに入っていたタオルで一通り血をふき取って、服を着た。ティナの匂いがしてまた泣きたくなった。 全部着終わったあとで、自分の今ある状況が頭に刷り込まれた。殺人事件の容疑者。 「俺はやってない」と言い残して――ティナの形見だ、十字架を胸に忍ばせて、部屋のドアに向かって走った。 追いかけてくると思ったが、こなかった。 外に出て、まずは血を洗い流すために、水道管つきの庭を探した。 明かりも消えているし、まさかこんな時間に庭の水音くらいで起きてこないだろう、 それで残った血を洗って、跡をつけないように、途中、林や植え込みに入ったり出たりして、ここに来た。 ロッドは右のジーンズのポケットに手をやった。何も入れていないつもりだったのだが、しけたマッチ箱がでてきた。 マッチを一生懸命擦って、リンの臭いを嗅ぎながら、三本折ったところで、ようやく小さな明かりを手にした。 右手を中心にぼうっと光が広がって、半径50cm付近を円状にぼんやり照らしている。 右側は入ってきた穴からうっすら月明かりが差し込んでいるが、左側は光が届いていなかった。 足をよたよたロボットのように動かして旋回し、完全に左側を向く。 先をじっと見つめていると、黒い絵の具を塗りたくったようで、どこまで続いているような気がした。 突然、闇が笑った。 何もないはずの空に、薄い膜のような線が入り、唇の形になって、にぃ、と笑った。 そこでマッチが消えた。 ロッドはやけに冷静だった。へえ、おかしなこともあるもんだ。 もう一度、箱からマッチを取り出して、今度は一本目で点けることができた。 左手で目をこすって、マッチを持っている右手を突き出して、また闇を眺めた。 心なしか、さっきよりマッチの光の範囲が狭くなっている。正円が前方から徐々に押し潰され、半円に近い形になっていく。 黒い波が寄せるようにじわじわとこちらに向かってくる。手の形になる。 明かりが何者かに握りつぶされるように小さくなる。あ、一声挙げると、とうとうマッチの炎はかき消えた。 ロッドは逃げなかった。もうどうでもいいような気がした。 ティナの家から出た時から、既に心はすっかり闇に包まれていて、これから身体がどうなろうと、些細な問題に思えた。 身体が暗闇に溶けていく。 足の感覚がなくなる。侵食された部分から感覚がなくなっていく。 下半身がやられる。 胸まで闇がせりあがってくる。 最後に首から上までを一気に飲み込まれた時、ロッドは意識を失った。
暗闇を旅してどれほどの時間が経ったろうか、背中に弾むような、柔らかい感触が伝わり、ロッドは意識を取り戻した。 誰かが自分の肩をゆすっている……誰だ?放っておいてくれ。心の中でつぶやく。 肩に触れているのは小さな手の平、細い指先、この感触――ティナ? 「……ッド」 ティナの声だ。ティナが自分を呼んでいる。 「…………きてロッド」 ティナの匂い。 「………………ろ!ったくもう……」 ティナの、ティナの……。 「起きろっ!このっ、チャドッ!」 ロッドはがばりと跳ね起きて、ティナの名前を叫んで、目の前の小さな身体を力いっぱい抱いた。 「な、なによっ、ちょっ、ちょっと」 力を緩めなどしない。頭を抱いて、腕を腰にぐるりと回して、何度も叫ぶ。ティナ!ティナ!ティナッ! 「い、いたいって、いたい!わ、わかった、チャドは言い過ぎた!ごめん、悪かったってば」 背中を叩かれて、一度離して、肩に手を置く。 「ティナ、お前、どこも、怪我、して……いや、俺……」 目の前のティナ、あきれた顔をして自分を見ている。どこにも傷はない。 少し涙で目を腫らした跡は残っているが、それ以外はいつものティナそのものだ。 「まーた寝ぼけて。夢でもみてたんじゃないの?ずっーと、さ……ほら」 夢?あの惨劇の全てが夢だって?まだ信じられない。夢とは思えないほどリアルだった。ロッドは何度も瞬きして、辺りを見回す。 ティナの部屋、朝、窓から光が差し込んでいる。クローゼット、化粧台、鏡。光が反射して眩しい。 ぴっちりした黄色のTシャツを着て、青と白の縞模様のパンティを履いたティナ、 ベッドにうずもれる小さな尻、足は鏡に入りきらずに、横に伸びている。 寝起きでぼさぼさになったショートカットの金髪、それを鏡を通して、気の抜けた顔で見ている、自分の顔が映っている。 服を着て、ベッドの中に、ティナと一緒に……、おかしいところがあるか。 昨日、激しく抱き合って、それから一度眠りに落ちた。寝る直前はどうだったか、思い出せない。 ベッドの上で、足を崩して座っているティナが、下から覗き込むようにして、恥ずかしそうに自分の顔を見つめている。 「えっと……あの……ほら……」 ロッドが逆にティナの顔をまじまじと見つめ返すと、どういうわけかティナは目を逸らし、 目元を緩ませて、ブルーの瞳を細めて、嬉しそうな顔で天井に目をやった。 「名前……ね?うわごとで……ティナ、ティナッー、って」 ロッドがきょとんとしていると、ティナは座ったままぴょんと回転して、背を向けて、両手をにぎって、上にぐっと身体を伸ばした。 「いっぱい……さ、呼んでたんだけど……どんな夢、見てたの?」 ロッドは目を下に落とし、ティナに心の中で告白した。 そう、呼んだ。お前の血を全身に浴びながら。泣き崩れて、鼻水垂れ流して、お前の名を叫んだ。 力を振り絞って、お前が答えようとした瞬間、安物のビーンズの袋を破くみたいに簡単に喉が裂けた。 しかも零れてきたのは乾いた塩漬けの豆ではなくて、厭らしいほど生温かい血液だった。 「いや、あまり、いい夢じゃ、ねえ、な」 「なによそれ」 急に低い声になってティナの張り手が頭に飛んできて、そうだ、いつもの、この感じ。これで、はっきりした。 今、目の前にティナがいる。ティナの手が頭に触れている。この感触が嘘だとは思えない。 夢をみていたのだ。まるで一本のドキュメンタリー・タッチの映画のように、長く、リアルで、最悪な夢を。 ロッドは深くため息をついた。たった何時間しか経っていないのに、もう何日分も疲れた気がする。 休息を求めて眠りに落ちるのに、起きてみれば寝る前よりも肩がこって、顔がだるくて、背中が張っている。 人間の身体とは不思議なものだ。
いったん落ち着くと、全身の力がすっと抜けた。 例えて言うならば、ロングウォークに参加して三回警告をもらってへとへとになったところで 「もう歩けません、限界です、やめたいんです」とリタイアを訴えて 「はい、分かりました。こちらへどうぞ」と受理されたような気分だろうか。 実際、夢の中では、林を抜けたり、道を走ったり、かなりの距離を移動したのだが、おかしくって、笑いがこみ上げてくる。 ロッドはもう一度ベッドにねっころがって、頭を枕に乗せた。どこからか、奇妙な声が聴こえてくる。 (いいっ!すごいっ!すごいいい!)(きれいだ、すごく……愛してる!ナンシー!) どうして今まで気づかなかったのだろう。耳を澄まさなくても、はっきりと聴こえる愛のさえずり。 何気なしにティナを見上げると、ティナがぶすっと頬を膨らませて、壁に目をやっている。 「これ、あいつらだよな?」 「凄いのよ、もう。私もそれで目、覚めちゃって。一晩中ヤリまくってたんじゃない。もう朝の八時だってのに」 ぽりぽり頭をかいて時計を眺める。午前八時七分。学校サボッて一日中やりまくるつもりか。 だいいち、昨日、グレンに渡したのはたった三つぽっち。ぽっち?十分だ。自分に落ち度はない。あいつらがやり過ぎだ。 まずったな、ロッドは舌打ちした。初めてだろうに、燃え上がってとことんまで行っちまって、デキちまったら、どうするつもりだ。 そう言えば、自分も昨日、ゴムをつけずに……。 ロッドは頭の後ろに手をやって、目を閉じて、前にしたのはいつだったかな? ティナのことだから、危ない日に我を忘れて、なんてことはないと思うが、昨日は特別な日だったからな、と考えたりした。 二人の声がますます大きくなって行く。がたん、大きな音が隣の部屋から響いて、喘ぎ声が止まった。その音で、突然、ロッドは、 そうだ――! ぱっちり目を開いた。 今、ティナに自分の想いを打ち明けよう。 ハイスクールを出てから、自動車整備工になって、いつか結婚したいって、思ってること。 いてもたってもいられないくらい、お前が好きなんだってこと。 これから死ぬまでお前と一生過ごして行きたいって、そう、二度とあんな辛い思いはしたくない、 三人は自分のくそったれ人生の中で、ただ一つの光で、中でもティナ・グレイは、すばらしく輝いているってこと。 ティナを失うのは、自分にとって、全ての可能性を奪われるのと同じなんだってことを。 「ティナ」 (はあっ!ああっ!あああっ!)(うわっ、すごいよ、ナンシー!) 「なに?」 (もうっ、もうっ、だめえ)(僕も、もう……うあっ) 「……いや、なんでもねえ」 二人の情痴の歌がまた響いてきて、萎えてしまった。 冷静になって考えれば、悪夢から覚めたばかりの寝起きの状態で、友人の喘ぎ声をバックにして、言うべきことではない。 しかし、いつか、近いうちに、きっと。
「……ああ、そうだ。なあ、昨日、つけてなかっただろ」 ティナは首をかしげ、何を言ってるの?こいつと言う風に不思議そうにロッドを見たが、 すぐに気づいたようで、ああ、ああ、と首を小刻みに振った。 「大丈夫、ちゃんと飲んでたから」 「わりぃな」 「いいのよ、私がいらないって言ったんだから」 ほっと一息つくと、いつもは二人に心配されている自分が、逆に心配しているのに気づいておかしくなった。 しかし、あの二人なら、ないとは言えないところが怖い。ああいう性格の二人だからこそ、行く時はとことんまで行く。 「ちょっとだけ、観に……いこっか?お隣さん」 ロッドは耳を疑った。 「なに?」 「ほら、ちょっと、ほんのちょっと、見てみるだけ」 人差し指で耳の穴をほじくっていると、ティナが手を引いて、もう既に足を床につけている。 「おい」 ロッドが手を逆にひっぱり返すと、ティナがくるんと振りむいて、大きく息を吸い込んで、口を開いた。 「いいじゃない、今後の研究のためよ。私なんかあんたが起きるずうぅっ―――と前から あんあんうんうんいいだのだめだのすごいだのいっちゃうだの独りで気が狂うほど長い ことエッチなBGM聴かされてんのよもうスティーブンキングのイットだかシットだか糞長 い小説じゃあるまいしそりゃあ私だって二人の仲がいいのは嬉しいけどいいかげんいつ までやってんのよって公害よホントあんなの聴かされたら近所の野良猫だっていっぺん に目覚ましてニャーギャーニャーギャー腰振り回してサカるわよスリープウォーカーが ニャーギャーニャーギャーあれあれ目ん玉ばちんとひんむいてベッドから素っ裸で飛び 出してサカってるにゃんこに顔噛みつかれてニャーギャーニャーギャーひっかかれて 『助けてえーマーマー』『痛いよーマーマー』『あらまーかわいそーなぼうやー』なんて もうバカじゃないの?安らかな眠りを侵害されたんだからこっちにだってそれくらいの 権利あるでしょ?違う!?ねえ?」 連装機銃を全弾撃ち尽くすような勢いでまくしたてられて、ロッドは圧倒されてしまった。ティナの眼が据わっている。 「行くの?行かないの?」
足をしのばせ、部屋から出ると、隣の扉は開いていた。 二人でそっと陰によって、顔を隙間からほんの少し出して中を確かめる。 ティナは四つんばいになって、ロッドは中腰になって、こそどろの凸凹コンビと言った様子だ。 グレンとナンシーはベッドの上にはいなかった。 二段ベッドの上の縁にナンシーが後ろ向きに手をかけて大またを開き、 グレンの筋骨隆々とした腕が膝の裏にかかり、太股を持ち上げている。 上のベッドに上るための梯子が外れて、床に転がって、グレンが四角の枠をまたいで、立っている。 20cmを優に超えるかという巨大なペニスが、ナンシーのクレバスをいっぱいに押し開いて、中身を抉り取るように抜き差しされている。 カリまで引き抜かれるたび、ナンシーの穴から少しだけ、中がめくれて現れる。 刺激を弱める避妊具などいっさらつけていなかった。ロッドは舌打ちしようとして、気づかれるのを危惧して止めた。 ナンシーの狭そうなヴァギナ、もっとも今は開かれているが――に侵入し巨大なペニスが暴れまわる様は、 ウイスキーのボトルの口に、とても入らなさそうな大ウナギが無理やり身体を突っ込んでいるようにも見える。 「おい、すげえな」 ロッドがティナの耳元で、ぼそっと囁くと、ティナはこくこく頷いた。 「でっ……でかすぎ……」 ロッドは唾をごくりと飲み込んだ。なんだよ、あいつら、チェリーボーイとバージンじゃなかったのかよ。 グレンは、もう何百回も経験してるみたいに、相手の感じるところが分かってるみたいに、責めている。 腰の動きだって、滑らかで、リズミカルだ。流れるように動いて、ナンシーの喘ぎ声が、それと同調している。 ロッドは目をぱちぱち瞬きさせた。それにしても……でかい。今まで見た中でも、超ド級のビッグ・サイズだ。 悪友に貸してもらったいかがわしいビデオを思い出す。 巨根を謳い文句にした物で――なんだったっか、そう……『何でジェーンはオナったか?』 いや、違う……、あれは頭のイカれた女が色んな道具を使ってオナニーする奴だった……、ええと……『ラットマンコ』、 でも……ないな……あれは、ひどい出来で、監督の頭をメガホンでぶん殴りたくなる代物だった。 ちくしょう、なんだ、『裸のウンチ』、違う。意味不明でおまけに酷いスカトロものだった。ビデオをバットで叩き割って返してやった。 『フェラ皆』……でもない……しかしあれは女優は可愛かった……まあティナほどじゃないが。ああ、そうだ、思い出したぞ、 『ジェイコブス・マラー』! 分かったところでどうと言うのだ、阿呆らしい。 しかし、あれより、大きいかもしれない。百人に一人、千人に一人、いや一万人に一人の逸材だ。 ロッドは、なんだか、卑屈になってきた。 自分は就職クラスのおちこぼれで、喧嘩はするわ、留置所にぶちこまれるわの12cm、 いっぽうグレンは進学クラスで成績優秀、フットボールクラブのエースで、アレはジェイソン・ボーヒーズ級と来てる。
「何落ち込んでんのよっ、でかいのって意外と大変なんだから、自信持ちなさいよ」 「うるせえ」 突然、二人が動きを止めた。ロッドは、ティナの腰をつかんで、後ろにさっと引っ込む。 扉の向こうから、グレンとナンシーの声が聴こえてくる。 「今っ誰……かいなかった?」 「そんなこと、気にしないで、ナンシー」 「うんご……め、あッ!待……ってっ!……ああッ!」 ティナが行って!という風に指さして、ロッドはまたそっと扉に顔を近づける。 二人はまた、セックスの虜となっている。 ロッドが後ろを向いてOKサインを出すと、ティナが再び四つんばいになってそろそろ寄って来た。 「グレン、すごい!あなたのチンポ、まだ、こんなに、すごい!おっきい!」 「ナンシーのも、すごくいいよ。……きつくて、あったかくて、ぬるぬるしてて!」 「壊して、私のまんこ!私のおまんこぶっ壊してぇ!」 ロッドは股間を隆起させながら、目を瞠った。親友の痴態を覗くのは、おかしい。 真面目一徹のナンシーが、あんな卑猥な言葉を使って、乱れるなんて。 しかし、まるでアダルトビデオだ。カメラで撮っている奴はいないのか?俺達がその役回りか?タイトルは何にする? 「ナンシー、僕、もう、出すよ、出すよっ!」 「うん!来て!出してっ!あなたの精子で、私をイカせてっ!」 ロッドはティナに目をやった。 既にティナは物欲しそうに目を垂らして二人の痴態を見つめていて、アヒルのような唇に人差し指を滑らせている。 「しよっか?」 その一言で、ロッドは、自分の下で四つん這いになっているティナを、そのまま後ろから抱いた。 ティナが、きゃっ、と声を出す前に、すばやく唇で口をふさぐ。 シャツの上から左手で胸を揉みしだいて、右手をおなかに這わせ、パンティの中に滑り込ませる。 陰毛に指が届いたところで、ロッドは我に返る。声が、まったく、しない。 気づかれた――? 顔を出して部屋を覗くと、グレンとナンシーは大きなクマとウサギのぬいぐるみになっていた。 ちょうど、背丈は同じくらいで、ピンクのウサギが短い足をいっぱいに広げて、茶色のクマが無言で腹を押しつけている。 何も喋らず、当然だ、ぬいぐるみなのだから――しかし、もこもこの身体だけは、 快感を得ているように震わせて、いったい、なんだ、これは……? 二匹がぐるりと首を回した。 ぬいぐるみ特有の無機質な顔そのままで、ロッドをじっと見つめた。相変わらず、腰は動いている。 ロッドの力が抜けて、恥丘に這わせた指がずるっと下がる。真ん中の指三本が、秘所までたどり着く。 違う。 小さい。 これは、ティナのじゃ、ない。 身体をひっこめると、帽子、金髪、赤と緑の毛糸のセーターの背中……こいつは……こいつは……! 後ろから抱いた身体がくるんと仰向けになる。ブルーの瞳、顔の半分が、ケロイド状に爛れている。 火傷女は、グラブをはめた右手の中指を立て、ファックポーズを作り、不敵に笑う。 「ヒャハッ!やっぱりあんたの小さいのじゃ、やぁだね!」 言い終わると、中指の爪をロッドの左胸に突きたてた。爪先はジャンバーの皮を難なく貫いて、ガキン、と音を鳴らした。
ふおっと大きく息を吸った拍子に、後頭部がコンクリートの壁にぶつかった。水が流れる音。 ロッドは目を覚ました。 目の前に広がるのは、ただのコンクリートの壁、右を見れば、排水管が出口まで伸びている。 服の上から胸の辺りをさすってみると、左胸のちょうど心臓がある辺りに、小さな穴が空いていた。 その穴に指を突っ込むと、凸凹の硬い何かが触れた。 十字架――胸に忍ばせておかなければ、今頃は、心臓を抉り取られていただろう。 ポケットから取り出して、まざまざと眺めると、ちょうど真ん中の、キリストの胸の辺りに、かけた跡があった。 はは、ロッドの口から笑い声が漏れる。 やはり、これが現実なのだ。 ロッドは、ティナが夢の中で火傷女に殺されたのだと悟った。夢で起こったことが現実になったのだ。 こんなばかげた話が嘘ならばいいが、真実なのだから、こんなにおかしいことはない。 ロッドは追われる身なのも忘れて、声が枯れるまで、涙を流して笑い続けた。 そしてまた水の音だけになると、口をぴったり閉じて、息を止め、真剣な顔で闇を見つめた。 ロッドの不良としてのポリシー、喧嘩はびびった時点で負け。 殴りあう前、相対する時は必ず呼吸を乱さない。怯えるということは、呼吸が乱れることだと考える。 だから、ここ一番では、息を止めて、目の中心に光を宿す。息をしなければ、呼吸もクソもない。 小説家が自分に合ったスタイルはこれだと、やたらと傍線を使用したり、濁点で恐ろしい位に区切ったり、 三点リーダーの数を増やしたり減らしたり、それと同じようなもので、ロッドに中における大切な決め事であった。 闇はもう笑いはしない。ただ静かに佇むのみである。
ロッドは足元に手を這わせて、ナイフを見つけ、拾った。 上着を脱いで、シャツを肩までめくり上げ、刃を出すと、自分の右上腕に押し当てる。 力を込めた。ぷつりと皮が裂けて、痛みが走る。ロッドは初めて人間の肉を斬った。 汗をかきながら、手を震わせながら、しかし呼吸だけは乱れていない。 息を整えろ、自分にいい聞かせ、ゆっくり刃を動かしていく。 全てが終わって刃が閉じられた時、ロッドの右上腕には T I N A の文字が刻まれていた。Tの両端やAの下部からは血が垂れて、存在しえない文字になっているが、 一度乾けば、しっかりその名を浮かび上がらせるに違いない。 再び黒皮のジャンバーを身にまとい、一つ大きく深呼吸する。確かに傷は痛みを与えている。 ロッドは自分に言い聞かせる。この傷が、この痛みが、ティナが死んだ証拠なのだと。 鉤爪の女は人間の身体を切り刻み、壊すことはあっても、治せはしない。 なぜなら奴は、神でも人間でも女でもなく、一匹の悪魔だからだ。もう二度と同じ手は食わない。 奴の甘い誘惑に乗って、弱きに流れることなどあってはならない。 夢であろうが、現実であろうが、ティナはもうどこにも、いない――。 ロッドは涙で顔をぐじゃぐじゃにして、乱れそうな呼吸を胸に手を当てることでなんとかして保ち、はっきりと、発音した。 「ティナは、死んだ」 (呼吸を乱すな!) 「ティナは、死んだ」 (バカっ、少し速いぞ!) 「ティナは、死んだ」 (くそっ、根性なしが、堪えろよ!) 「ティナは、もう、どこにも、いない!」 儀式を終えると、ナイフを閉じて、左側へ力いっぱい放り投げた。 遠くの方で、カツンと音が鳴る前に、ロッドはもう四つん這いになって、入り口に向かって歩いている。 頭の中ではどうやってあいつを倒すか?と考えている。 ナイフでは奴に勝てない。 勝つにはもっと別の力がいる――そう、もっと強く、もっと確かで、全てを省みない、何者も恐れない、ホンモノの、力がいる。 穴から首を出したところで、顔をごしごし擦って、唾を吐いた。 今度ばかりはナンシーが止めようが、誰に邪魔をされようが、落とし前をつけさせてやる。 ティナを殺したあいつに。自分の目の前でむちゃくちゃに切り刻んだあいつに。 さて、どうすべきか。ロッドは完全に排水溝から出て、浅瀬に降り立った。 辺りを見回す。もう空が白やんでいる。幸い、近くに誰かがいる気配はない。 ロッドは昨日の記憶を掘り起こす。ふっとナンシーの顔が浮かんだ。 ナンシーなら話を聞いてくれるかもしれない、 あの時、殺人犯と決め付けられても仕方がないのに、ナンシーは一度も自分を疑うような素振りを見せなかった。 それよりも、こうなることを知っていたようだった……。 それに、パーティーが終わる頃、二人はソファの上で、異様な雰囲気で、抱きしめ合っていた。 ナンシーはティナの死について、何か知っている。 そこに奴を知る鍵があるかもしれない。まずは、ナンシーに会いに行かなければ。 ロッドは朝日を頭から浴びて、しっかりした足取りで、土手を登った。
−Nancy_Thompson− ナンシーは一睡もできなかった。 アレックスがパトカーで二人を自宅に送り届けている間もずっと泣き続けて、涙が枯れるという表現は真実なのだと知った。 家に帰ると、ベッドにもぐりこんで、今ある現実を忘れたかったが、 感情の昂ぶりがそれを許さず、また、眠りについて考えると、ティナの告白――鉤爪の女が思い出された。 ティナは本当に鉤爪の女に殺されたのだろうか? 鉤爪の女と初めて遭ったのは、いつだったか。今は十月の半ばで、ちょうど一ヶ月ほど前になる。 追い掛け回され、不思議な力で服を脱がされ裸にされた。二回目、三回目も裸にされて、汚い言葉を浴びせられて目が覚めた。 ナンシーは回想を続ける。記憶が正しければ、四回目から変わってきた。 同様に裸にされた後、爪をちらつかされ、自慰を強要された。 五回目、六回目も同じく。鉤爪の女に見られながら、自慰を続けて、六回目は絶頂に達したところで目が覚めた。 七回目、思い出したくないが、鉤爪の女に、指で愛撫され、恥ずべきことに、強いオーガズムを迎えてしまった。 今まで、自分の指で、迎えていたものよりも。 四回目までは夢の中にいることに気づかなかったが、五回目からは、鉤爪の女を見た時、まただ、と分かっていた。 夢の中で、これは夢なのだ、と自覚することもできた。 問題は――ナンシーは虚ろな眼で溜息をついた。内容がエスカレートしていることだ。まるで、ポルノ小説のように。 ナンシーはベッドから本棚を眺めて、並んでいる小説の何冊かのタイトルを黙読して、机の引き出しに目をやった。 ナンシーの本の趣味は、もっぱらクラシックスだ。 ルイス・キャロル、シェイクスピア、ヘッセ、スタンダール、モリエール……etc。 ハーレークイーンを何冊か読んだけれど、どうも甘ったる過ぎて、自分には合わないと感じていた。 新刊はファンタジー、怪奇小説がお気に入り。 お小遣いを溜めて買ったジョージ・R・R・マーティン(これはティナにも一冊貸した)や スティーブン・キング、ミヒャエル・エンデ、ディーン・R・クーンツ……etc、と言ったところ。 ポルノを読んでみようと思ったきっかけは、ロレンスの「チャタレイ夫人の恋人」である。 性描写は殊更取り立てて言うこともないけれど、淡々と描かれたラブ・ストーリーが、或種奇妙な感動を与えた。 もっとも、主人公のコンスタンスが戦争で不随となった夫を捨てて、 性欲を満たされない寂しさから不倫を続けたのは、ナンシーにとっていささか不満だった。 物語としてはあまり好きになれなかったのだが、中性的な文体に縁った透明感が印象に残る不思議な小説だった。 なんだか宇宙人みたいな人だ、ロレンスにさらなる興味を抱き、随筆「ポルノと猥褻」にも一応目を通した。 そして、ポルノ小説の実態を、どっぷり浸からないにしても、扉の隙間からちょっとばかり覗いてみたくなった。
学校の帰り、ティナと別れた後、馴染みの本屋を通り過ぎ、商店街の裏路地にひっそり建っている二階建ての古本屋に入った。 重い扉を押した途端に、じめじめした空気が肌にまとわりついて、黴の臭いがぷうんと鼻をついた。 薄暗い店内を奥へ進むと、椅子に座ったアジア系の禿げ頭の店主がカウンターに肘をついて読書に耽っている。 彼はナンシーを一瞥して、また本に目を落とした。 大丈夫かしら、首を傾げつつ、部屋を三つに区切っている歪んだ本棚に沿って一周ぐるりと回った。 どうやら自分以外、他に誰もいないようだ。少し戻って、隅の階段を登ると、狭い部屋に出た。 ピンクや黄色や紫や、一階とは百八十度異なった、なんともけばけばしい光景が広がる。 いぶかしんで壁を覗き込むと、十五センチ四方の無修正のヌード写真――金髪のドイツ人と思しき女が 紫色の背景にガーターベルトをつけて悩ましげなポーズをとっているものや、 アジア系の長い黒髪の女が真っ赤な紐で全身を奇妙な結びによって縛られているものなどが全面埋め尽くすように張られていた。 物言わぬ彼女らの視線があちらこちらに飛び交い、その一つとナンシーの目が合った。 階段をかけ降りたナンシーを、店主がまた一瞥して、にやりと笑った。 二階にはまだナンシーがその存在を知らないバイブレーターやピンクローターやボンテージ、 その他もっとアブノーマルなものが、ガラス張りの棚に置かれていたのだが、それらを確認する余裕がナンシーにあるはずもない。 早く買って帰ろう、そう自分に言い聞かせ「サドマニア」だの「ブラッディ・タンポン」だの それらしきタイトルが並んでいる棚から、二冊みつくろってカウンターに持って行った。 「五冊で一ドル値引きするよ」 会話を交わしたくなかったので、あと三冊をタイトルも見ずに引っ張り出して、カウンターの上に重ねた。 手下げ鞄に詰め込んで家に帰ってから、これは恥ずかしいことではない、 ただの実験であり知的好奇心なのだ、呪文のように言い聞かせて、 夜通しページをめくったのだが、その内の四冊はひどく期待外れだった。 まるでスイッチを押せば簡単に股を開いて喘ぎ声や卑猥な言葉を口走ってくれる――マッドサイエンティストが造った 性欲ロボットみたいな女の子が出てきて、お決まりの展開が延々と続く、退屈極まりない代物だった。 そしてふつふつと怒りが湧いてきた。性認識の誤り、消費されて行くキャラクターに対する義憤のようなものだ。 誰がこんな血の通っていない女を書いているのかしら。こんなの読んで男の子はマスターベーションするのかしら。 女を自分の好きにしたいと思っていて、自己満足にひたって、 もっと大切なことに目を向けないで、想像力が欠如してるんじゃないかしら。 グレンはそんな風に歪んだ視線で私を見ていないはずよ、と信じていたが、二段ベッドの上から呼びかけられた時、 ナンシーはグレンも男の子なのだと否応なしに知ることになり、グレンは97%の男から95%の男になった。 しかし、現在のナンシーにとって、いくらかの不満はあるにせよ、グレンが100%に近い男なのは事実だ。
半年ほど前のことだ。クラスメイトのトリッシュら四、五人が集まって、ナンシーの脇で、ぺちゃくちゃやっていた。 「彼氏の前じゃ、大好きなんて、言うけど、みんな妥協してんのよ。自分が想像する100%の男なんていないんだもの」 「そうかなあ、私は妥協なんてしたくないけど」 「でもって、たどり着く先はプロムで一緒に踊る相手もいないのよ」 「あら、私は今彼氏いるから。お生憎さま」 「志が低いのよ」 「まあまあ」 「もっとこうならいいのに……とは思うよね」 分かる分かる、と声が挙がった。 「この人でもいいかあって、なっちゃうのよね」 ふうん、とナンシーは思った。確かにそうかもしれない。ロッドと一緒にいる時にグレンがどこか朴念仁に見えたことはある。 でも、妥協なんて考えたこともなかったし、グレン以外の男の子を好きになったこともないから、イマイチぴんと来なかった。 ナンシーはティナとランチをぱくついた昼下がりに訊いてみた。 ハイスクールの中央広場は四方の入り口を除いて植え込みにぐるりと囲まれていて、 二人は煉瓦作りの花壇を背にしてベンチに腰掛けていた。 「ロッドのこと、もっとこうだったらいいのにって、思ったことある?」 ティナはアップル・ジュース、70%果汁、200mlの小さなパックを左手に持って、右手の人差し指でちょんちょんとストローを刺しながら言った。 「なんでまた」 「うーん、ちょっと、聞いてみたくなって」 ティナは少し首を後ろに倒し、ストローを唇で挟んで、ふいと目を上向けて――女のナンシーから見ても、 ティナの稀に見せるそういった仕草は100%に可愛かった。 男の子はこれでティナの虜になっちゃうんだろうな、と思った――ジュースをゆっくり吸い始めた。 初め、ティナは、なんとなしに考えているように見えた。ストローを濃い乳色の液体がゆっくり登っていき、喉が持ち上がって沈んだ。 しかし、次第に唇がぎゅっと締まり、パックを握った手が震え、肩の筋肉が盛り上がり、何処を見ているのか分からないような眼になって、 眉間に皺を寄せ始めてはどんどん深くなり、しまいには国語の教科書に掲載されている文豪マーク・トウェインのような苦虫顔になった。 ナンシーは、何だかティナ・グレイという一個の複雑な小宇宙において 銀河系規模の壮大な戦いが繰り広げられているような気がして、邪魔するまいと黙っていた。 全部飲み干して、ぺらぺらにへこんだパックを左手で握り潰したところで、ティナは唇をストローから離した。 「んなことしょっちゅうよ。慣れ、慣れ。こいつ一生治んないわって思えば、なんだって大丈夫よ」 ふうん、とナンシーは思った。ナンシーの少し呆けた顔を見て、ティナは笑った。 「ナンシーこそ、グレンを見て、思ったりしない?ないか。彼、スーパーマンだしね」 「そうかしら。私にとってはグレンって凄く身近な存在よ。子供の頃から一緒だったんだもん」 「『身近な存在よ。一緒だったんだもん』はー、いいなあ、グレンに聞かせてやりたいわね。 『そうだよ。僕にとってもナンシーは身近な存在だよ』って真顔でいいそうな気がするけど」 「もう、からかわないで」 ナンシーはティナがあまり羨ましがっているように思えなかった。 さらにはティナとロッドが性的な部分のみならず精神的な部分でも自分達より先を行っているように思えた。 「でも、ナンシー。グレン・ランツって言ったら今やプレイ・サーヴィルのヒーローなのよ。 そこんとこ分かってる?他の子に取られないように注意しなきゃ」 「またそれ?グレンは浮気なんてしないわ」 「さあどうだか。聖人君子のグレンくんだって男なんだから。ったく、ほんとに、男ってのはね。あ、やっぱやめとく」
成長期を迎えた少年少女の何人かが、さなぎを捨てて蝶に生まれ変わるかのごとく 劇的な変化を遂げるように、ナンシーはここ何年かで急速に成長した。 太めのはっきりした黒眉、少し横に大きかった鼻が、年月を経て落ち着きと強さを顕すようになった眼によって、 しっとりした意志の強さと純真な少女らしさを複合させた、素晴らしいチャームポイントとなった。 細過ぎた頬は適度な肉を得てふっくらと膨らみ、やや厚くなった唇は艶を増した。 申し訳程度だった胸が月を追うごとに大きくなっていき、今では93cm、適度な張りと固みを供えた美しい乳房を持つに至っている。 乳首は少し赤みを帯びて、勃っていない状態であっても、つんと上を向いて大きい。 着痩せするタイプな上に、いまいち冒険できなくて、自らの成長をそっと隠しておきたくて、 身体のラインを強調させる服を選ばないので、外から見ては数字ほど目立たないが、 実際に両手で持ち上げてみるとずっしりと重みを味わうことができた。 ナンシーは鏡の前で裸になり、自分の胸を両脇から挟んで、持ち上げたり、横に動かしたり、 時々乳首を摘んで伸ばしたりして、何か未知の物体を調査するように色々と確かめてみたが、 そうしている内に、今でもかなりボリューム豊かな胸がまだ大きくなってくるような気がして、不安になった。 もう十分なのに、これ以上大きくなって牛みたいに垂れてきちゃったらどうしよう? 貧乳でバストアップに四苦八苦している女性から見れば非常に贅沢な悩みではあるが、ナンシーは本当にそう思っている。 子供の頃は女の子に見えないくらいのいかり肩で、オトコ女みたいな体型になるんじゃないかしらと心配していたのに、 肉体が勝手に意志を持って「おいナンシー、1、2、3で行くぞ。1、2、3、ゴー!」全速力で走り出し、彼女を置き去りにしている。 当の本人は「3の次で行くの?3と同時なの?」とどぎまぎしているのに、もう大分離れている。 お尻はすっかり大きくなって丸みを帯び、 鏡の前で後ろ向きにショーツを降ろして振り返って見れば、皮を剥いた湯で卵のようにつるんとしている。 ウエストの中心部はしっかりくびれているけれど、臍の下の部分を摘んでみると、少しだけ肉が余っていて、母性を感じさせる。 そして、もちろん可愛らしかった女の子のモノはペニスを受け入れるためのヴァギナに変化を遂げた。 ティナがきゅっと締まったしなやかな猫のような身体と言い表せるならば、 ナンシーは豊満でありながら鈍重な印象を与えないギリシア彫刻のような身体である。 パーツの一つ一つに生きとし生けるものの鼓動を感じる、自然的な美だ。 背中にそっと手を回して、生命が創りたもうた奇跡に感謝しながら、正面から包み込むように、調和を乱さないように注意して抱くと、 ふわふわして、素晴らしいくらい柔らかくって、ずっとその身体に触れていたい、と思わせるくらいのものだ。
きっとグレンにも同じことが起こっているのだろう、とナンシーは推測した。 目鼻立ちがはっきりしているのにも関わらず、くどさを感じさせない端整な顔立ちは、 少年の面影を残したまま、フットボールの試合で鍛えられて、たくましさを備えたものに進化しつつある。 きちんとシェービングで剃り跡がつかないように処理しているけれど、髭は以前より濃く生えてきている。 大きいけれど女の子と変わらないくらい綺麗だった指は、ごつごつしてきて、今ではすっかり男の指だ。 小さい頃から手を握っていたからよく分かる。 木漏れ日の下、二人で手をつないで遊歩道を歩いていると、 グレンの身体はこんなにも成長したんだ――時々、母親のような気持ちになる。 冒険という言葉が似合う男の子の体臭は、胸に顔をこすりつけたくなってしまうほど、ナンシーにとって不思議な香りに変わっている。 ナンシーは、特に用事がなく、時間が取れる時は、ベンチに腰掛けてフットボールの練習風景を眺めている。 「グレぇーン!がんばってぇー!」 「マーク行けぇっ!あっ、おっしぃ」 歓声を送る同級生から距離を置いて、終わりの笛がなるまで待っている。 グレンが全速力でシャワーを浴びて、更衣室からピースフルな笑顔で出てきて、 辺りをきょろきょろ見回して、手を振っているナンシーに駆け寄って、 どちらともなく腕に腕を絡めた時、男の人の匂いってどうしてあんなに不思議なのかしら?とナンシーは思う。 決して洗練された鼻腔を刺激するものじゃないのに、じんわり身体に染みて、ずっとこの匂いに包まれていたくなる。 ティナの言う通り、やはりグレンは男であり、私は女で、変えようがなく、それ自体は素晴らしいことだ、とナンシーは思っている。 しかし、いつかはグレンの気持ちに応えなければならない時が来て、 いや、自分自身が決断してグレンの最も成長したであろう大きなモノを受け入れる時が来て、 その時までに肉体の急速な発達に伴う混乱が上手く収まってくれればいいけれど――混乱? ナンシーは少なからず混乱している。 急激に成長した身体が、処女から女になることを急かして、ほら、もう準備はできているんだから――と、 あとはお互いの気持ちを確認して、抱き合うだけなのだと主張している。 もし応えられなければ、グレンの肉体が一人歩きして、おい、俺はもう待てないんだぜ。宝の持ち腐れってもんさ。 こいつをなんとかしてくれよ。がるるるるるるる。 ぎくしゃくしたあげく、ジャック・トランスのように凶暴になって、押し倒されてしまうこともありえる。 そんなのは最悪だ。もしくは、外から提供者が現れれば――引く手あまたのグレンのことだ、 すぐに相手が見つかって、あっさり乗り換えてしまうかもしれない。もっと最悪だ。そんな不安がなくはない。
「確かに、私はグレンに見合うような、スーパーガールじゃないし、 グレンなら他にもっと、ティナみたいに女らしくて可愛くて……綺麗な子とつきあえると思うけど……」 ティナがナンシーのおでこを人差し指でつんと叩いた。 「なになに、そんなこと気にしてるの?らしくないわねえ。いいのよ、ナンシーはナンシーで」 そう言うとティナはナンシーの顔を覗き込んで、さらりと笑って続けた。 「それにね、私から見たってナンシーは凄く綺麗。自分じゃそう思ってないかもしれないけど。 ホント、おせじじゃなくてね。時々、ナンシーみたいなのだったらいいのにって思うことあるんだから」 「なんだか、ティナにそんなこと言われると、照れる」 「そりゃどうも。まあ、グレンが浮気したら、私が懲らしめてやるから、安心しなさい。 あ、ナンシーが先にボコボコにしちゃうかもしれないけど。あいつ、効いたってさ。いいパンチだって」 「ごっ、ごめんなさい……」 「いいのよ。逆にお礼言いたいくらいよ。ほんとあのバカは、いっぺん頭切り開いて脳味噌取り出して一日氷嚢に漬けときゃいいのよ。 それくらいでちょうどよくなるわ、言うにことかいて、グレンと私にあんなこと」 ナンシーは笑った。ふう、ティナが溜息をついた。 「まあ我らのグレンちゃんも、たまーに抜けてるところがご愛嬌、かな?あとマザコン」 「マザコンじゃないってば、もう」 ナンシーは歓談のさなか、グレンは自分にとっての100%なのかしら、同時に自分はグレンにとっての100%なのかしら、と考えたりした。 答えはでなかった。ただ、90%は絶対にクリアしているわ、と思い出を根拠に信じることはできた。自分にとっても、相手にとっても。 そして、私、ナンシー・トンプソンは、グレン・ランツと100%の関係になるために、 全力で努力することを誓います――そんな具合にやっていきたかった。しかし、実際はなかなか上手くいかないでいる。
ともかく、四冊目まではダメだった。 ところがナンシーは自分のクロプシー並みの運のなさと一度開いた未読本は最後まで読まないと気が済まない徹底さを呪うことになる。 諦め顔でしぶしぶ手に取った最後のポルノ小説はそれほど素晴らしかった。 残りの四冊は今頃その隠語塗れのページの何%かをざらついた再生紙へと輪廻転生させているのだろうが、 これだけは机の引き出しの一番奥に隠してあって、たまに読み返してしまう。 カバーすら剥ぎ取られ、角がめくれ上がり、ところどころ黄ばんでいる状態の悪い文庫本だが、 どこか真に迫った人間の息遣いを感じたのである。 タイトルは「黒い家の少女」。 黒屋根の大邸宅に父親と住んでいる一人の少女の告白物だった。 全編少女の独白形式になっていて、性的描写は至ってライト、露骨に、というより、絡んでいるシーンは一切ない。 少女は冒頭でこう語った。 「母を失い、父すら信じられなかった私にとって、優しい笑顔を投げかけてくれる庭師のマリオがただ一つの支えでした」 少女は庭師を思い浮かべ、亡き母が使っていたベッドの上や、学校の四階のトイレや、パンジーが繁る庭、大理石のバスタブ、 或時には仲間達と遊泳を楽しんだ後の夜の砂浜など――ありとあらゆるところで自慰に耽った。 とうとう最後まで性交が適うことなく、庭師は書斎の引き出しから金を盗んだのが発覚し、解雇されてしまうのだが、 その時ですら、少女は一人部屋に耽って、笑って警察に曳かれていった庭師を想い、秘所に細々とした指を這わせたのを告白していた。 ナンシーは夢中で読み進め、いつのまにか自分の秘所にも手が伸びているのに気がついた。 ナンシーはその歳の少女にしては、いや十七歳の処女だからこそ、類稀なる想像力を有している。 文章がもたらす魔力を享受し、活用できる。それは今この時のみ与えられた処女の特権だ。 十四歳から十八歳までに我を忘れて聴いたロック・ミュージックがその人にとって特別な感動をもたらすのと同じで、 一度過ぎ去ってしまえばそれらは決して戻らない。皆そのように生きている。 三十歳で聴くT-REXは如何? 四十歳で聴くJimi Hendrixは如何? 五十歳で聴くJim Morrisonは如何? 瞼を下ろした後、ナンシーのScreenにはグレン・ランツそれ自体を超えた一人の男が映っている。
I could never understand the wind at all もっと私の傍に 寄って来て あなたは 私を 抱きしめる いつものような 100%の笑顔で 私を 見つめる ブラウンの髪 小さな耳 あなたの 眼の中心 私は 吸い込まれて もう全てを捨てて いい気になる Was like a ball of love あなたの 人差し指 今 私の 唇に触れた そっと 優しい 私の クリ ぴん と 起きて ゆっくり あなたは 私の 口に 侵入する 唇 と 唇 あなたの 舌 ねっとり あたたかい I could never never see the cosmic sea あなたの 唾液 美味しくて 息が わたしの 鼻の下 きつく あたって きつく 吸って ずっと 私の 口の 中 めちゃくちゃに 嘗めまわす ぼうっとして 今 歯の裏を こするように してくれた 震える Was like a bumblebee 触らないで まだ 私の あそこ そっとしておいて あなたは 髪をなぜて 背中に 手を 回す まだ 離さないで ずっと してて ああ どうして あなたの 唇 離れて あまった 唾液が すっと 床に 落ちる And when I'm sad 全部 脱いでから そう 言うのに あなたは 待てない いきなり 私のシャツの下 手を 滑らせて 入ってきた ついに おへそ から まっすぐ 手が 登ってくる あ いきなり 乳首 ああ 転がして I slide 世界 まがってく I have never never kissed a car before それ 今は あなたの もの だから もっと ぎゅうって つまんで うん 擦って かりかり 親指で 乳首 して It's like a door とても いい どうして 私 それ されると いいって なんで 分かるの 私の こと 何でも 分かるの? あなた 私の 100%の人 I have always always grown my own before 今 太股に あなたの モノ なんて 大きいの 無理よ こんなの あ ジッパー を 降ろして にゅう 出てきた 大きい 直に あなたの 硬いもの 私の 太股に 押しつけて
All schools are strange 少し 太股 滑らせて あなたが 気持ちいいって 顔 した 嬉しい もっと 気持ちよく なって そのまま 乳首 虐めてて ずっと もう あそこ 濡れてるんだから いいわ 手で さすって 私の あそこ And when I'm sad うん 私のヘア 上から 下へ 撫ぜて 初めは そっとよ そうっと 触れて 横から 遠くから 人差し指 中指 そのまま うん そう お肉 持ちあげて えっ だんだん 近づいてくる 近づいて I slide 世界 まがってく I have never never nailed a nose before はあ すごい 私の肉 触れて 凄く 巧い そんな クリも 一緒に されると うん そんな できるの クリも 知ってるの そこ いちばん 感じるって 感じすぎるって あなた 凄い いい いい That's how the garden grows 笑って 綺麗だって やめてよ 私 の あそこ もう だめ クリ されると でも 緩めないで クリ 虐めて うん あああ もう 凄い あなたの 視線 そんなに 見ないで じっと 私の あそこ I could never understand The wind at all すぐ 傍に あなたが いる 私が いきそう だって 訊いてくる そんなの 訊かないで 分かってる でしょ 私 こく こく うなづくと また いっぱい でてきた was like a ball of love イキそうな 顔 イキそうな 息 ぐしょぐしょ それだけ あなたが 好きなの And when I'm sad えっ 乳首 離して えっ そこ だめよ ちがう ほんとに 入れちゃうの ほんとに 怖い でも あなたなら うん 優しく あ ああ 凄い 身体 力 抜けちゃう クリで 登って どろんと 落ちて I slide 世界 まがってく Watch now 穴に 入って やばい 私の 穴 2つ とも あなたの 指 で いっぱい もうだめ イクの ほんとよ イク あなたに イカされる イク 愛してる 大好き イク イク イ I'm gonna slide
ナンシーは引き出しから目を切った。 心臓を鷲づかみにされたように、息をするのも苦しくなるが、ティナの死について、考えてみる。 部屋に入った時は、ティナが死んでしまったショックで何も考えられなかった。 ティナの死体を直に見た時、ティナの告白が頭の中でぐるぐる巡った。 だから鉤爪の女がやったのだと信じ込んでいた。いなくなったロッド。グレンはロッドがやったと思っている。 「あいつ以外に誰かいてほしかった」 ぽつりと言って、グレンは涙をなんとかしてこぼさないように、見せないように堪えながら、でも大粒の涙を落としていた。 グレンが顔を崩して泣いているところを見たのは初めてだった。 今にして思えばなんとかして慰めるべきだったが、自分にそんな余裕はなかったし、言葉も見つからなかっただろう。 確かにあの時、内から鍵がかかっていて、自分達が部屋に入った時、ロッドの他には誰もいなかった。 ティナの言うことが本当なら、ティナは夢の中で鉤爪の女に殺されて、現実でも殺されたのだろうか。 正夢の類?それなら、ロッドがやったということになる。でも、ロッドがやったとはどうしても思えない。 まさか、夢で殺されると、現実でも殺される。 つまり、夢とこちらの世界がリンクしていて、ティナは夢の中で切り刻まれている時、 現実の身体も同じように、自動的に切り刻まれていた。 しかし、それは本当に頭の中身を疑われかねない発想だ。狂人のたわごとだと誰もが思うだろう。 自分のショーツが濡れているのとは訳が違う。結局、ロッドが逃げたのが全てなのだろうか。 ロッドがティナを殺して捕まるのを恐れて逃げた――いや、ロッドに限って、そんな。 ナンシーは思考の渦に巻き込まれ、朝を迎えた。七時、部屋の窓から父の車が走り去っていくのが見えた。 ずいぶんと早いのね、それ以外に何も感じなかった。 ナンシーは階段を下りて、リビングのソファにもたれかかり、テレビをつけた。 地元のニュース番組――昨夜の事件をアナウンサーが事務的な口調で伝えている。 回転する赤色灯に照らされた救急隊員達が、濃いグレーの死体袋に詰められたティナを機械的にタンカで運び救急車に乗せている。 警察は現場にいたと思われる少年、ロッド・レーンを重要参考人として……そこでテレビを切った。 八時頃、マージが起きてきて、朝食を作ったが、食べる気にはならなかった。 マージは家でゆっくり休みなさい、と娘を気遣ったが、ナンシーは拒否した。 家は父と母のどちらかがいる限り、もはや休息の場所ではなかったし、 ティナのことを思い出すだけで、どうにかなってしまう。学校に行った方が忘れられる。 グレンはきっと来ないだろう。今頃あの家では驚天動地の大騒ぎになっているのに違いない。 可愛い完璧な一人息子が、殺人事件の現場にいたのだから。
八時半頃、ナンシーは家を出た。心配する母に何度も大丈夫と言って、しかし足取りは重く、下を向いたままとぼとぼと歩いた。 空は雲ひとつなかったが、世界の全てが色を失い、早朝の鳥達のささやかな囀りにすら耳をふさぎたくなった。 もう四人が深くつながりあっていた日々は二度と戻ってこない。 ハイスクールまでは歩くと二十分から二十五分ほどかかるので、 普段は自転車やロッドの車で通っていたのだが、今日は歩いて行きたかった。 身体に疲労を与えると、少しは忘れられるかもしれない。 昨日から一睡もしていない(ティナとロッドの喘ぎ声は本当に凄かった)のに、まだ全然眠くない。 サビーニ通りを抜けると、ナンシーの背丈くらいある植え込みが左右に繁っている散歩道に出る。 まっすぐ行って左に曲がり、商店街を横切って、街の中心へ向かうと、プレイサーヴィル・ハイスクールがある。 ちょうど家が見えなくなるところまで歩いて、突然、ナンシーは誰かの視線を感じた。 鉤爪の女? 両手で頭をかきむしる。確実に自分はおかしくなっていると感じながら。 少し歩く速度を上げる。まだ視線を感じる。立ち止まって、感覚を研ぎ澄ますと、夢で感じた火傷女の厭らしい視線とは違っていた。 背中にべっとり張りついて離れないような気持ち悪さとは違って、道行く人が実は透明人間になっていて、ちら、ちら、と見てくるような感じだ。 ナンシーは歩みを進めるふりをして、ふいに振り返ってみた。後ろの木陰、植え込みに隠された芝生に誰かがいたような気がしたからだ。 誰もいない。 またしばらく歩く。植え込みに沿って、左に曲がるまであと少しというところだ。 対面も植え込みがずっと続いていて、右手に小さな抜け道があった。 見ないように、そこを通り過ぎようとした時、後ろから、ナンシーの身体を男の手が捕らえた。 全身が硬直する。右手で口を塞がれ、左手を身体に巻いて押さえつけられ、そのまま植え込みの陰へ引っ張られる。 うそ? 一瞬思ったあと、ナンシーは必死で暴れた。強姦される、強姦される、抵抗しなきゃ、頭の中はそれでいっぱいだった。 手足を振り回し後ろの男を殴りつける。男が何か言っている。気にしている余裕はない。 力いっぱい殴りつけ、蹴る。口を押さえている指が少し開いた。助けて!そう叫ぼうとした時、 「ナンシー、俺だ。話を聞いてくれ、ナンシー」 見知った声、しかし、殺気だって、興奮した身体は止まらない。親友の声を聞いても、ナンシーはまだ暴れている。 「聞いてくれ、やったのは、俺じゃないんだ」 男はゆっくり力を緩めてナンシーを離した。ナンシーは振り返って、驚いた。 正真正銘、逃亡犯のロッドだ。「ロッド……!」
ロッドは逃げないように肩を抑えて、真剣な顔でナンシーを見ている。 ナンシーは何かを哀願するような目で叫んだ。言いたいことや聞きたいことがたくさんあった。 「なんで、なんで逃げたのよ!」 ロッドの眼が少し哀しげに色を変えた。しかし、すぐにまた光を取り戻し、ナンシーに正面から向き合った。 「あのままいたら捕まってたんだ。疑われてもしょうがない状況だったからな」 ロッドは息を乱さず、ナンシーをまっすぐ見据えて、言った。 なんだか以前のロッドと違う。異様な凄みを感じて、ナンシーは少し怖くなった。 「どうして、そんなの……説明してよ!」 ロッドは口元に人差し指を立てて、小声でしゃべった。 「ティナは夢を見てた。夢で殺されたんだ」 ナンシーの眼がぐっと開いた。ベッドの中の推理がロッドの口からも出てきた。そんなバカな――。 「いいか、落ち着いて、聞いてくれ。昨日、お前らと別れてすぐ、ティナは言ってたんだ。 夢の中で鉤爪の女に殺されそうになった、ってな。その通りに……なった。 ティナはおそらく夢の中で切り刻まれて、現実でも同じようになった。信じられないか?俺のこと、頭のおかしいイカれた殺人者と思うか?」 ナンシーは首を横に振った。ロッドは力強くうなづく。 「鉤爪の女は、右手のグローブに四本の爪をはめて、趣味の悪い赤と緑のセーターを着てる。 頬に火傷の跡がある化け物だ。昨日、ベッドで俺が目を覚ました時、ティナは天井に届くくらい浮いてたんだ。 それで、四本爪でひっかかれたような傷が入って、ティナはああなった。嘘じゃない。本当だ」 「そんな……そんなの」 「待て、これ……」 ロッドは黒皮のジャンバーの前を引っ張って、左胸に開けられた穴をナンシーに見せた。 「あいつにやられた。俺も鉤爪の女に遭ったよ。夢の中でな。もう少しで殺されるところだった。ティナ……ティナの十字架が守ってくれた」 ナンシーはまだ半信半疑だった。ジャンバーの穴なんて鉛筆でだって作れる。 しかし、そんなことよりも、心の中で、ロッドの告白が正しくあって欲しいという気持ちと、どうか嘘でありますようにという気持ちが戦っていた。 ロッドが殺人犯じゃないのはいい。でも、鉤爪の女に殺されたなんて、じゃあ、私もロッドもいつか、と身体が震えた。
「どうした、ナンシー」 「……知ってるのよ、そいつ。私もそいつの夢、見るのよ」 「ナンシーも見るのか?」 ロッドは驚いて声が少し大きくなった。言ってから辺りを見回す。 ナンシーは思っていることを全部ロッドにぶちまけようと思った。 「そうよ、あなたが聞いたこと、ティナからも聞いた。ティナは言ってたの。もし私が死んだら、それは鉤爪の女がやったんだって」 「なに?」 「ティナ、知ってたのよ。まるでそんな感じだった。自分がこれから死ぬって、殺されるって知ってるみたいだった」 ロッドが舌打ちした。 「ティナ、私をいきなり抱きしめて言ったわ。私達に逢えてよかったって。その時思ったのよ。 変なことが起こるんじゃないかって。何かとんでもないこと、 ティナの言ってることが真実でもうティナに会えなくなるんじゃないかって、だから私もティナをぎゅっと抱いたの!」 ナンシーは自分でも何を言っているのか分からなかった。ただ錯綜する気持ちをまくしたてた。 ロッドの拳が強く握り締められた。ぶるぶる震えて、地面に叩きつけられた。 「俺は、あの悪魔を、殺す。ナンシー、力を貸して欲しい。夢でどんな」 背後から独特の音――それだけで或行為を想起させる音が鳴った。 二人同時に振り向くと、トンプソンがロッドから五メートルほど後ろで銃を構えていた。 「両手を挙げろ」 ロッドはまた前を向き、トンプソンに背を向けたまま、そろりと両手を挙げた。 「パパ!」 トンプソンは無視して続けた。 「そのまま、ゆっくり、腹ばいになれ」 ロッドは観念したかに見えた。両手を上に突き出したまま、ゆっくりと腰を降ろしていく。 しかし、膝をつこうかと動きを止めたところで、一呼吸置いて、植え込みに向かって走り出した。 「止まれ!」 銃口が天に向けられ弾丸が発射された。乾いた音がはじけてナンシーは耳をふさぐ。 ロッドは一度身体をびくりと震わせて頭をぐっと下げてまた走った。 目の前に広がる植え込みを突き抜けようと両手を突っ込んで枝を掻き分け身体を茂みの中に沈ませる。 おい、これはチャンスだ――。トンプソンの頭に何者かが囁きかけた。トンプソンはロッドの背中の中心に狙いを定める。 相手が子供であっても許す気などさらさらない。いや、子供だからこそ、今、殺しておけ――。 撃つ口実ができたというものだ。人質を取ろうとして、失敗して逃走、 ナイフを振り回し――心配するな、奴は持ってる、危険と判断し、射殺。 過剰防衛?判断ミス?職権乱用?捏造?私刑?殺人?バカな、あとでどうとでもできる。そう、あの時のように。 なかなか向こうへ抜け出せないロッドを見て、トンプソンの右頬がせり上がってくる。 くたばれ、クズが――引き金を1/3ほど押し込んだ時、
「だめえっ!」 ロッドの背中を隠すように、ナンシーが両手を広げて立ちはだかった。 黒光りする銃身、向けられた者にはブラックホールのように見える銃口が、ちょうどナンシーの鼻梁の中心を指している。 緊張でトンプソンの指が引きつり、引き金をさらに沈ませる。 トンプソンがぐうっと呻いた。 止まれ、と脳が命令を下すのが、あと少しでも遅れていたら、娘の脳味噌を草むらに撒き散らすところであった。 大きく息を吐いて、マスターピース・リボルバーを上に向け、指を離した。 「どういうつもりだ!」 ロッドは右眉の上を枝で切って、ようやく道へ出た。左右を見ると左側から男が二人、こちらに走り寄って来る。 後ろではパトカーが警報を鳴らしている。右と正面は開かれている。正面は――来やがった、だめだ。 右に向かって全速力で走ったが、たちまち二台のパトカーが脇から現れて道をふさいだ。 振り返ると、後ろの二人の刑事が、もう手を伸ばせば届くところまで迫っている。 ロッドは二台のパトカーに向かって全速力で駆ける。 勢いをつけて飛び上がって、フロントガラスに着地し、いけるか、と思ったところで、 脇から現れた刑事に警棒でアゴを殴られもんどりうって倒れる。 後頭部をしこたま打って、意識が混濁している間にたちまち取り押さえられてしまった。 ロッドは獣のような雄叫びを挙げて、後ろ手にかけられた手錠を揺らし、懸命にもがいている。 こんなところで捕まるわけにはいかないのだ。 ティナの敵を討つために、鉤爪の女を殺すために、ナンシーに聞きたいことがまだある。
いつもより早く仕事に行ったはずの父が突然、植え込みの陰から現れた。 アスファルトに這いつくばっているロッド、彼を取り囲む数人の警官、前と後ろに三台のパトカー。 ナンシーは全てを理解した。 「私をおとりに使ったのね」 トンプソンは否定できなかった。ただ娘から目を切って、銃をホルダーに収めた。仕方がないのだ、心の中で繰り返しながら。 容疑者は車を捨てて逃走している。遠くへは行けない。 付近住民には既に通達を終えているので、警戒はするだろうし、大都市とは違って、人口も少ない。 したがって、新たに盗んだのであれば、型番からすぐに足がつく。 刑が重くなるから、むしろそうしてくれた方がありがたい。 市外へ出られないように、昨日の夜から主要道路には人員を割いて検問を行っている。 父親、教師、知人、親戚の証言から、容疑者と親しい関係の人間を割り出した。 その内の誰かにかくまってくれと頼みに来る確率が高い。 追い詰められた人間の心理、後ろ盾を持たぬガキの考えることだ。グレン宅とナンシー宅も、もちろん対象だった。 それぞれの持ち場で待機し、網にかかるのを待つ。 気づかせないように、あくまで本人には知らせず、両者のいずれかが出てくれば、泳がせて、おとりに使う。 本来、身内が関わるケースでは別の刑事を担当に回すのだが、本事件最高責任者の立場を利用して自宅付近に張り込んだ。 娘を狂わせた糞ガキをこの手で叩き潰してやるためだ。それは惜しくも適わなかったが、殺人者を速やかに逮捕した。 汚い蝿から娘を、ひいては善良な市民を守った。それの、何が、悪い――。トンプソンの脳髄を怒りが支配する。 「だいたい……だいたいお前、なんでこんな日に学校に行くんだ!今日は休みなさい!」 ナンシーは驚愕して、唇がぶるぶる震えた。 さんざん利用しておいて、この期に及んで、まだ隠そうとして、挙句の果てには父親面するのだ。 「家にいるよりずっとマシよ!」 ナンシーは父親の制止を振りきり、走り出した。 処女の背中に、父の怒号と、パトカーの警報と、ロッドの雄叫びが、いっしょくたになって浴びせられた。 混沌の場から、ナンシーは一刻でも早く離れたかった。
−Squeeze− ナンシーはロッドの安否も忘れて走った。 商店街を駆け抜けて、立ち止まり、とぼとぼ歩いて、そこで初めてロッドの言葉を思い出した。「ナンシー、力を貸してほしい」 ナンシーは前も見ずに歩きながら、ロッドの告白について思推を重ねた。 ロッドは本気で、ティナを殺したのは鉤爪の女だと思っている。本気でなければ危険を冒してわざわざ自分に会いに来るだろうか? ロッドが殺人犯ならば、自分に会いに来るメリットなどないし、人質に取ろうなんて気はまったく感じられなかった。 それに理屈ではない。ロッドと向かい合った時、どっぷり悪に浸かった狂気とは違った、善の側にいるものの強い力が感じ取れた。 だから気圧されたのだ。以前、喧嘩で捕まった時のロッドとは別人だった。 あの時の方が口調は激しかったけれど、面食らったりなんかしなかった。ただ、そんなことでムキになるロッドが可哀想に思えて、 そう思う自分がロッドを上から見下ろしているのではないかと恥ずかしい気持ちになって、苛立って黙り込むしかなかった。 ティナを泣かせたので、張り飛ばしてしまったのだけど、それはとっさにやってしまったことだ。 さっきロッドのことを怖く感じたのは、向けられたのが覚悟を決めた者の眼だったからだ。 やはり鉤爪の女がティナを殺したのだ、ナンシーは、今はそう信じることにした。 狂人と罵られても構わない。深くつながりあった仲間の言葉を信じたかった。 しかし、力を貸してほしいと言われたって、何ができるだろうか。 相手が暴漢の類であれば対策の講じようもあるが、夢に現れる不可思議な力を持った怪物にどう対処すればよいのだろう。 まして、ロッドは捕まってしまった。これから警察署でみっちり取り調べを受けて、留置所に放り込まれた後で、 圧倒的不利な裁判を闘って、二十年三十年単位の懲役刑、悪くすれば終身刑や極刑に処されるのではないか。 なるほど眠れば鉤爪の女に遭えるだろうが、警察署に拘束されたままでは準備も何もしようがない。 それ以前に、何を準備すればいいのかも分からない。 ただ一つできることは、そう――できるだけ眠らないことだ。重度の不眠症患者になればいい。 一部の脳内物質を異常に分泌させて、夜も夕も昼もなく屍肉を貪るゾンビのように、何ヶ月に渡って起き続けるしか道はない。 或日突然、ふらりと夢に入り込んできた鉤爪の女は逆もしかりで夢に出てこなくなるかもしれない。 そこまで考えて、ナンシーは大きく息を吐いた。下らない考えだ。まったく馬鹿馬鹿しかった。 できもしないことをただつらつらと並び立てただけで、何の解決にもなっていない。 プレイ・サーヴィルに着いた時、校舎にかけられた時計は八時五十五分を指していた。 一時間目の授業が始まるまであと五分というところだ。 遅刻を恐れた数人の生徒がナンシーの後ろから走って来て脇目も振らずに通り過ぎた。 あとの何人かはナンシー同様別段遅れても構わないという風に歩いていた。 正門をくぐり、校舎の中に入って、一階の教室へ向かった。まだ始業のチャイムは鳴らされていなかった。 教室に入った時、どうやらティナの死は周知となっていたらしく、クラスメイトがちらちら流し目でナンシーを見てきた。 そして、対象者には決して聞かれてはならない会話を始めた。 ナンシーが眼を向けると、視線の先にいる者は次々に眼を逸らした。なんだか自分が悪いことをしているような気分になった。
一時間目はラテン語だった。終業のチャイムがなり、三階へ移動して二時間目、また一階に戻ってきて三時間目が終わったあと、 売店で一人、サンドイッチを買って、中央広場を通り過ぎ、裏手へ回って、誰もいないのを確かめてから、校舎の壁にもたれて座った。 やはり家でじっとしていた方がよかったかもしれない、とナンシーは思った。 教室へ移動する度に皆の視線が気になって仕方ない。授業を抜け出して自習室や図書室に篭ろうかと思ったが、 そうするのは自分に降りかかった不当な出来事に対して敗北を認めたような気がして嫌だった。 ナンシーは、プレイ・サーヴィルにおいて、黄色い歓声を浴びるグレンや、男の子達の視線を集めるティナや、 ユーモアセンス溢れる不良ロッドとは、異なるカテゴリイに属している。 教室でもグラウンドでも学校の外でも目立たない、かと言って影が薄すぎるというほどでもない。 平たく言えば一般的なイメージを持たれている。 何もハイスクールに入学してからの話ではなく、物心ついてからずっとだ。 だから、ごく稀にナンシーが激昂すると、周囲はぎょっとするはめになる。 ナンシーは自分のことを地味な女だと思っていたし、その分析は服装に関して正しかった。 春から夏はポロシャツにジーンズ、秋から冬は胸が目立たないようにセーターを好み、時にはスタジャンを着たりした。 ハイヒールやキャミソールなど手にしたことは一度だってなかった。 十月も半ばにさしかかろうかという今日は、シャツの上に薄いピンクのセーターを羽織って、 下はベージュのチノパンを太めの黒いベルトでしっかり締めて、スポーツ少年が好んで選ぶような大きなスニーカーを履いていた。 色を除いて男に着せても特に違和感がない取り合わせだ。 こんな風だったから、ナンシーは大勢の他者に視線に慣れていなかった。 にもかかわらず、朝、家を出てからずっと誰かに視られていた。 父を含む張り込み中の警察官、ロッド、そしてクラスメイトや教員達。 したがって彼らから解放されるや否や、強烈な睡魔が彼女を襲った。 昨日から一睡もしていないのだから当然なのだが、やはり眠るわけにはいかなかった。 自分に、いや自分達に漠然とした生命の危機が迫っているのが、はっきりと感じられたからだ。 今は眠らないことだけを考えよう、そう言い聞かせて、無理やりサンドイッチを腹に詰め込もうとしたが叶わず、 もう一度売店へ戻ってブラック・コーヒーを一缶買った。 蓋を開けて黒い液体を一気に胃に流し込んで、午後の国語の授業に出た。
国語の授業では一番後ろの席だったので、それまでよりはクラスメイトの視線を気にせずに済んだ。 ただ、ぽっかり空いた一つの席はどうやっても目に入った。ティナが座っていなければならない場所だった。 昨日の夜のように胸が苦しくなった。 チャイムが鳴り、アービン先生がいつものように上品にドアを開けて教室に入ってきた。 教卓に『現代国語の総覧』を広げ、以前進んだところまでのページを指定した。 アービン先生は不測の事態においてこそ平静を努めるべきだと考えていたので、 困惑や憐憫に満ちた眼でナンシーを見なかったし、席に座っている以上は特別扱いするつもりもなかった。 ナンシーにとってそれはいつもの授業風景と何一つ変わりがなかった。ティナがいない以外は。 アービン・ドネルは新任の頃からプレイ・サーヴィルにもう三十年も居座っている未婚の女性教員で、 今席についている子供達の父や母にも虚構の世界を愛する素晴らしさを説いたベテランだった。 髪を後ろに束ねていて、何本かの白髪がメッシュを入れたように目立って見える。 昔はどうだったかナンシーは知らないが、今のアービン先生は見事な中年太りで縁なしの細長い眼鏡をかけている。 墓石を削ってできたような縦長の輪郭、粘土で作ったような鼻が中心に添えられて、 おまけにおでこが不必要に広かったので、生徒達は彼女を陰でフランケンと呼んでいた。 無骨な容姿にも関わらず振る舞いは英国貴族のように上品なので、そのミスマッチが時に生徒達の話題の種となった。 学習の平和を守るために注意する時、彼女は表情を変えずに顔をぐっと寄せて象のような眼をして、 一言二言発するだけなのだが、あの顔で迫られてしまうと、誰でも気後れしてしまう。 そういうわけで、国語の授業が行われている時には、例え就職クラスの教室であっても常に静寂が保たれていた。 アービン先生は指定したページを眺めて、前回の授業で何処まで進んだかを、 先頭の最も教卓から近い席に座っているジョシュに尋ねた。 確認するや頷いて、農夫のような厚みのある手を二回ぱんぱんと叩いた。 授業の内容は、ここ一週間取り掛かっているシェイクスピアの作家としての態度に対する考察だった。 源流を探ると言い換えてもよかった。 アービン先生は縦四列横八列に並んだ机と机の間をねり歩きながら、諭すような口調で説明を始めた。 「眼に見えるものが、常に真実とは限りません。シェイクスピアによれば――人間を動かすもの。 それは人間そのものの中にある邪悪なもの。シェイクスピアはそれを『悪の種』と呼んでいます。 ハムレットもこれに動かされて、母親の偽りの言葉の奥にあるものを探り出し、掘り起こします。 ちょうど墓掘り人が、地面の下を掘り起こそうとするように。ジュリアス・シーザーにおいても同じことが言えます」 そこまで言うと、アービン先生は教室の真ん中まで歩いて、立ち止まった。 「それではジョシュ、続きを読んで」 ジョシュが下を向いたまま席を立って、教卓の前まで歩いて「現代国語の総覧」を広げた。 「あー……ローマの輝かしい最盛期。偉大なシーザーが斃(たお)れる少し前。 多くの墓は荒れ……起き上がった屍は街のあちこちで大声で喚き散らし……」 ナンシーは眠くてたまらなかった。小説を読むのは好きだが、国語の授業は退屈でしかたない。 周囲が常に静かであることや、アービン先生の女性にしては恐ろしいほど低い声にも原因があった。 ナンシーは右手で口を覆って、一つ大きく欠伸をした。 コーヒーがもたらしたカフェインの刺激も、徹夜明けで疲れ果てた身体のシンプルな欲求の前ではささやかな抵抗に過ぎなかった。 「……炎の尾を引く星や、血のように赤い露など、不吉な前兆が表れ……海神(ネプチューン)の帝國が立ち現れた」 瞼がゆっくりと降りていく。 「神よ。私は小さな殻の中にいて、なお無限の空間の王となれる。それは」 ジョシュの声はナンシーへ途切れ途切れに届いていた。殻の中?王?いったい殻と王に何のつながりがあるの? 「私の見た」 頬を支える手がずりずりとこめかみまで上がっていく。 「『悪夢』だったのかもしれない……」 ――悪夢?
ナンシーは、はっと目を開いた。そうだ、決して眠ってはいけないのだ。自分の置かれた状況を再認識する。 頬杖を崩して右に顔を倒したままの姿勢で、意識的に大きく瞬きしていると、 どういうわけかジョシュの声が止まっていて、隣の席のカークが関わり合いになりたくないぞ、という風に眉をひそめている。 正面を見上げると、アービン先生の面長な顔がすぐ近くに迫っていた。 ナンシーはあっと声が出そうになるのを堪えて、頭を下げた。 「お目覚め?」 「すいません……」 教室のところどころでくすりと笑いが起こって、国語の授業では珍しいひそひそ話が始まった。 それはすぐに「静かに」と場を諌めたアービン先生のみならず、失意のナンシーを苛立たせるのに十分な行為だった。 ナンシーには、ティナの死を前にして何故笑うなんてことができるのか理解できなかった。 言いたいことをはっきり言わない性分にも腹が立った。 想像力が足りない愚者や密談を続ける卑怯者を今すぐ殴りつけてやりたかった。 アービン先生が向き直り、教卓へ歩き始めた。 「ジョシュ、ありがとう。それでは、次は……ミランダ、読んで」 ジョシュが自分の席に戻ったあと、その後ろにいるミランダが、 ロボットのように腰から下だけを動かして立ち、九十度の旋回を繰り返して教卓の前へ移動した。 ミランダはまるで社会主義国家の役人が声明文を読み上げるように、 両手を真っ直ぐ伸ばして、裏返るくらい教科書を押し広げた。なぜか、表情がなかった。 「自然と手が伸びてしまう。私は、こんなに……ディー、エイ、エム。先生、この部分がよく分かりません」 しまう、まで聞いたところで、ナンシーは声を挙げそうになった。 ちょっと貸してごらんなさい、とばかりにアービン先生が教科書を引っ張り上げ、ミランダがそれに合わせて人形のように傾いた。 「これはdampです。湿っている。どんより。暗いイメージ。水蒸気のように湯気が立っている状態を想像してください。 本来dampは意気消沈するという意味でも使われます。 humidでも、wetでも、moistでもなく、著者はなぜ、dampを選んだのでしょう。分かる人」 damp、damp、damp。頭の中で同じ単語が幾度も繰り返される。 ナンシーは首を左右に振って周囲に眼をやった。異様な光景だった。 存在するものは普段の授業と変わりはないのだが、座っているクラスメイト達が皆同じ姿勢で、 それもやけにかしこまった座高を測る時のような姿勢で、真正面を見据えている。 それはまるで戦没者の共同墓地のように思えた。4×8−2の狂気であった。 30人が一斉に手を挙げた。ハイル・ヒットラー! 「では……、ランディ」 ちょうどナンシーの斜め前に座っているランディがミランダと同じように機械的に立ち上がった。 「はい。本文には『特に不満はない』とありますが、著者は実際のところ、満足しているとは言い難い状況にあると思います。 後述にオナニーしながら『独りでイクのは嫌』とありますし、冒頭に『少なくとも私は』と記したのは、 グレンはどう思っているか分からない、深読みすれば、グレンは今の関係に満足していないだろうから、 いずれ先へ進むことになるだろう、そうなって欲しい、と考えていた。 はっきり言って、著者の勝手な思い込みではないでしょうか。僕はこんな自意識過剰で妄想の激しい…… オナニーしながら『私のクリが悦んでる』なんて書く淫乱女とやりたくありません。 それはいいとして、著者は二つの矛盾した概念を抱えています。 すなわち、グレンに抱かれたいという気持ちと、ペニスを受け入れたくないという気持ちです。 矛盾を抱えて悩み、よどんだイメージを表現するために、dampを使ったのだと思います」
「冗長ですが、童貞の割りにいい答えです。座って」 「童貞は余計です」 ランディが座った。あは、あは、あは。ランディとティナとナンシーを除いた29人が同じリズムで途切れ途切れに笑った。 「静かに。重要なポイントですよ。ランディの意見に一つ付け加えるならば…… 著者が処女、という点にも言及しなければならないでしょう。 dampは本来、否定的な意味で使われる言葉ですから、その点からも著者のセックスに対する抵抗が読み取れます。 後で説明します。今は、皆さん、アソコから湯気が出ているように、濡れそぼっている状態をイメージしてください。 本文では、途中までしか書かれていないので、分かりにくいですね。 先を進めましょう、ミランダ、ディー、エイ、エム、で結構ですよ」 「ええと、ディー、エイ、エム。発情……してるのに、グレンは何をしているのかしら?と考える。」 ナンシーの頬はもう真っ赤だった。未だに何が起こっているのか理解できないが、 圧倒的な羞恥だけが認識とは無関係に身体を襲っていた。 顔は自分が丸めてくしゃくしゃにした日記の一ページのようになっている。 机の上に開かれた教科書に目を向ける。真っ白な背景が一面どぎついピンク色に変わっている。 指で端を持ち上げると、耐水加工を施したつるつるの表紙は安物のペーパーブックのようなざらざらの厚手の紙に変わっている。 一度勢いよく閉じる。紫色の表紙、上に特徴的な太文字で、現代中高生の乱れる性の実態――中央に写真が掲載されている。 ティナがロッドに後ろから両手を掴まれて、背後からぴったり腰を尻に押しつけられている。 ティナは背中をそらせて小ぶりな、しかし幾何学的な形の良い胸を突き出し、 ピンク色の乳首を勃起させて、大口を開けて涎を垂らしている。眼を逸らす。教科書を風がするようにばらばらめくる。 さっきまで開かれていた――折り目がついているページで止まる。 おそるおそる目をやる。ピンクの紙にタイピングされた黒文字がやけに際立って見える。 最も目につく部分、左上、花柄のレース調に装飾された可愛らしい太文字のタイトル―― 『十七歳女子高生ナンシー・トンプソンのあからかな告白』そんな、バカな! 「ちなみに、そう、ちなみに……今もそうだ。」 上から目を滑らせるように読んでみると、確かに自分があの時書いた恥ずかしい文章が一語違わず記載されている。 どうして?もう一ページめくると、文末から余ったスペースに挿絵が添えられている。 それはアメリカン・コミック調のなるたけ写実的にディフォルメされた絵柄で―― 見覚えのある学習机に座っている少女は眉が毛虫みたいに太く、 控えめにパーマをあてたはずの髪が爆発したように逆立っている。 前のめりになって、巨大な乳房が机に押しつけられて左の乳輪から先がはみ出している。 べろを出して、顔を歪ませて――ナンシーは認めたくなかったが、認めざるをえなかった。 眼球が戯画の一部一部を知覚して脳に情報を伝達し、脳神経が送られてきた情報を一瞬にしてそれぞれの棚に振り分けた。 これは、私だ――絵のナンシーは必死に秘所に手を伸ばして、 ショーツの間から化学反応を起こしたようにもやもやの湯気を立てている。 背もたれの隙間から女尻の肉がはみ出し、隠されたアナルに向かって大きな矢印が伸びていて、 根元に書かれた言葉は――カマトト! その文字からそう遠くない場所に、今度はサウス・パークのようなタッチで描かれた三頭身の裸のグレン。 一心不乱に自慰に耽るナンシーを、人差し指をくわえて眺めている。 野太いペニスを頭の上まで勃起させて、砲身がナンシーの尻に向かっている。 つぶらな瞳から円錐形の涙を一定の間隔で流して、吹き出しに……やらずぶったくり!
「だから、私はこの日記を書きながら、自分のピー、ユー、エス、エス……」 「プッシー!」 教室のどこからか声が起こった。ナンシーを除く全員が笑った。あは、あは、あは。 「よくできました。pussyは子猫やネコヤナギなどの花、 またcatを省略して可愛らしい女の子という用法もありますが、ここでは女性器と考えるのが最適でしょう。 下品に発音するのがコツですよ。唾を飛ばすくらいでちょうどいいのです」 何人かが小声で発音した。わざとらしく唾を飛ばした。 「それでは、みなさん、やってみましょう。プッシー!」 プッシー! 「プッシー!」 プッシー! 「ナンシー、どうしたの。声が出てないわよ」 アービン先生が歩いてきて、また象のような眼をしてナンシーに顔を近づけた。 「あっ……え……」 「それではみなさんもう一度、今度は一緒に繰り返してください。プッシー!プッシー!プッシィッ―――!」 プッシー!プッシー!プッシー!男も女も一緒になって、皆が笑って大合唱だ。 アービン先生まで細長い眼鏡の奥でにたにた笑って――ナンシーは初めてアービン先生の笑顔を見た。 それは笑顔と形容するにはふさわしくない邪悪な精神の発露であった。 直座していたクラスメイト達が一斉に振り返った。全員が無表情だった。 彼らは光を失った眼で最後尾に座るナンシーを見つめた。60の眼球の牢がナンシーを閉じ込めた。 口だけが動いている。プッシー!プッシー!プッシィッ―――! ナンシーは金切り声を挙げた。目を瞑って、耳を押さえて、机に顔を擦りつけた。 これは夢だ。悪い夢だ。 夢? 急に辺りが静まり返った。ナンシーは目を開けられない。 静寂を取り戻した教室に、何が起こっているのか知りたくもない。 何処か離れた別の世界に逃げ出したい、それだけを考えて、あらゆる情報を遮断しようと躍起になっている。 手の平と耳のかすかな隙間から音が伝わる。初めはそれが何だか理解できなかったが、しばらくして笑い声だと認識できた。 ハスキーで、下品で、とてつもなく厭らしい含み笑い――ナンシーは顔を上げた。 教室には誰一人いなかった。ジョシュもミランダもランディもアービン先生も霧のように掻き消えていた。 一度ぐるりと見渡すが、やはり誰もいない。しかし、奇怪な笑い声だけは相変わらず響いている。 ナンシーは声がする先を探した。正面――黒板には何も書かれていない。 目を凝らすと、四角いチョーク入れの下、水平に置かれた教卓の後ろから、 茶色の平べったい物体が、湖に浮かんだカヌーのようにひょっこり飛び出していた。 ナンシーが、あっ、と声を挙げると同時に、騙し絵のようにするすると火傷女が姿を現した。 火傷女はアービン先生がしているような細長い眼鏡を――もっとも縁なしではなく、赤縁の派手な眼鏡をかけている。 いつもの赤と緑のセーターに黒のホットパンツといういでたちではなく、臙脂色のスーツを身にまとっていた。 下は何も着けていないのか、両のラペルの間から真っ白い肌が見えている。なんて、サディスティック!
火傷女は帽子を脱いで教卓の上に置き、おかっぱの髪を揺らせて、含み笑いを止めた。 「さ、フレッド・クルーガー先生のとっときの授業が始まるよ」 フレッド・クルーガー? ナンシーは火傷女の名前を知った。 そんなことをしている場合ではないのに、脳が勝手に記憶を探り出し、該当者を探した。見つからない。 すぐに我に返って、席を立ち机を掻き分け後ろのドアに向かって一直線に走った。 刷りガラスの窓の縁に手をかけて、渾身の力をもって引っ張る。 扉はびくともしない。鍵はかかっていない。ただ圧倒的な力で外側から閉められている。 なんで、どうして、おかしい、そんな言葉を口走りながら、ナンシーは拳を作って扉を叩く。 フレディは教卓に横手をついて、外の景色を眺めながら、奇妙なメロディの口笛を吹いている。 それに合わせて、どこからか複数の少女達の歌声が聴こえた。 ……One Two Freddy's coming for you…… 1、2、フレディが来るぞ。 ……Three Four better lock your door…… 3、4、ドアに鍵かけろ。 ……Five Six grab your crucifix…… 5、6、十字架にすがれ。 ……Seven Eight gonna stay up late…… 7、8、遅くまで寝るな。 ……Nine Ten never sleep again. 9、10、眠っちゃだめよ。 歌が終わった時、ナンシーはもう扉を叩いていなかった。諦めて、扉にもたれかかるようにして崩れ落ちた。 フレディが眼鏡を爪で持ち上げて、得意のにやにや笑いを浮かべて寄ってくる。 ナンシーは振り返って傍に転がっていた椅子を投げつけた。顔面に見事に命中したが、敵はびくともしなかった。 固く巨大な壁にぶつかったかのように椅子だけが跳ね返った。 フレディが両手を大きく広げると、机や椅子が風に押されたように吹き飛んだ。 教科書やシャープペンシルや消しゴムがぱらぱら舞った。フレディが四本爪で手招きした。 空いたスペースを通って、ナンシーの身体がずりずりと悪魔の足元へ引きずられていく。 ナンシーは首を振って、やめて、お願い、助けて、とお決まりの言葉を叫ぶ他なかった。 「授業内容を変更して……四時間目は……保健!ヒャハッ!」 ナンシーの両腕両脚がぴんと伸ばされた。床に押さえつけられる格好になった。 「ナンシー、学習には段階ってもんがあるのさ」 ナンシーは目を瞑ったまま、何も言わない。ただ、早く夢が覚めることだけを祈っている。 「前は何処まで進んだか覚えてるかい?」 フレディの爪がナンシーの耳元に突き立てられ、髪を切り裂き、床に刺さった。 いやあっ、届くことのない叫び声がガラガラの教室に響く。 「何処まで進んだかって訊いてるんだよ?」 ナンシーは口を閉ざした。がたがた震えながら、息を吐くのが精一杯だった。
「ゆび、ゆびい」 第三者の声だった。ナンシーが顔を傾けると、黒いローブを羽織ったティナが、背を向けて立っていた。 背を向けて?顔だけはナンシーを見下ろしている。隙間から絞った雑巾のように捻れた首が見えた。 右の眼窩から潰れた眼球がずり落ちている。ローブを浮き上がらせる尻のラインが一層不自然で面妖だった。 ティナは一語を発するたびに、切り裂かれた喉から空気が漏れるような音を出し、千切れた唇から血液をだらだら落とした。 「ゆびいいい」 フレディが拍手する。「正解」ナンシーの顔は真っ青になっていた。 「ティナ、今、どんな気分だい?」 「どでも、ぎもぢい」 ティナの口から赤黒いぬるぬるした塊がごぼっと落ちた。 「どでもじあわぜ」 頬まで垂れ下がったブルー・アイが眼筋を引き連れて床に落ち、フレディがそれを踏み潰した。 ティナが捻れた首を傾けて、空洞化した眼窩を晒して、困ったように微笑んだ。 ナンシーはそこにかつて羨望を抱いた可愛らしい仕草の名残を感じた。 ナンシーの眼が怒りで満ちた。親友を殺され、また利用されたことに対する純粋な怒りだった。 「なんじいも、ごっちにぎで。ごわがらないで」 ナンシーはティナに大声で呼びかけた。死者であることも忘れて、ティナに自分を取り戻してと、何度も呼びかけた。 「えいえんのがいらぐを、あじわえるのよおおおお!」 最後の言葉は絶叫に近かった。 言い終わると、ティナは積み木を崩すように、ローブの隙間から内臓と血液を飛び散らせながら、バラバラになった。 積み上げられた破片の頂上に頭が乗っかって、口がぱくぱく動いていたが、声は出ていなかった。 ナンシーはショックで気を失いそうになった。あ、あ、と声を出すのが精一杯だった。 フレディが笑って、スーツを脱ぎ始めた。 「さて、ナンシー、今日は……」 今日は?ナンシーがその先に想いを巡らす頃には、 フレディは既に上着を脱いでいて、申し訳なさそうに膨らんだ乳房を剥き出しにしていた。 フレディは小さな肩をすくめて、スカートの真ん中に爪を差し込み、一直線に下へ滑らせた。 「おまんこに入れてみましょう!」 ナンシーの顔が引きつった。フレディの股の中心、黒いパンツからピンク色でゴム状のペニスの形をしたモノが伸びている。 それは15cmほどでグレンのものよりも小さかったが、もちろんナンシーの指よりも太く、破瓜を成し遂げるには十分な代物だった。 ナンシーは手足をばたつかせようとしたが、これまた身体が動かなかった。眼に絶望の色を宿すことしかできなかった。 ベルトが独りでに外れ、チノパンのボタンがはじけ飛び、すぐさま残るはショーツだけとなった。 ナンシーは失禁しかかっていた。あと少しでも恐怖を与えられると、漏らしてしまいそうだった。 真っ白なショーツに手がかかった。フレディは爪で切らずに、恋人がするように優しくショーツを下ろした。 くるぶしまで下ろしたところで、空に爪をなぎ払う。ナンシーの足が持ちあがり、膝が腹についた。
成長したヴァギナが露になった。 陰毛は濃く、大陰唇の周りまで茂り、縮れた毛のいくらかがまとまってほつれ、浮浪者の髭のようだ。 クリトリスはほとんど皮に隠されている。 控えめな小陰唇に囲まれた、赤みがかった秘肉が産まれたばかりの赤ん坊を思わせた。 全体的にのっぺりとした印象を与えるヴァギナだった。 「ナンシー、これは罰さ」 とフレディは言った。何の罰なのかナンシーに考える余裕はなかった。 「お前は女であることを隠そうとしている。いや、否定していると言ってもいいね。ダサい格好してやがる」 フレディの言葉がナンシーの耳をすり抜けて消えていった。 それの何が悪いの?と言い返す余力も、もちろん残されていなかった。 「いいかい?男にとって、女とはおまんこでしかない。お前は男の性処理もできない役立たずさ。 素直にちんぽこ突っ込まれて肉便器になりゃいいものを、愚かなくらい頭でっかちで、 100%だの、相手のことだけを考えていたいだの、どこの紙くずから拝借した浅知恵か知らないが、 自分だけが正しいと心の底で思ってる。糞女、ああ可哀想。あのマザコンおぼっちゃんもそう思ってる。 なんたって、見たかい?あの時の顔!ベッドからぶら下がって、ありゃ性欲に脳を焼かれたオスの顔さ」 「グレンは……そんな……」 フレディはグレンの声色を使って、叫んだ。 「なんで入れさせてくれなかったんだよおおおおお!お高くとまりやがってええええ!」 ナンシーは違う、と心の中で繰り返した。グレンはそんな風に、自分を道具のようには見ていない。 絶対に、絶対に、絶対に。見透かしたように、フレディが口を開く。 「違うもんかい。現にお前は拒否したのに、おぼっちゃんはまだ諦めてなかったじゃないか。 お前の気持ちなんかお構いなし。おまんこ!おまんこ!おまんこ!おまんこがあればいいってこと。 だから、少しでも使えるまんこにしてやるために、お前みたいな勘違い糞アマをワタシがオンナにしてやるのさ」 まあ、とフレディはつけ加えた。 「お前に選択権はない」
フレディはナンシーの秘肉に顔を近づけて、鼻を動かして、わざとらしく匂いを嗅いだ。 ヴァギナが涼しかった。 「くせえ。正真正銘、処女のまんこだ。ちゃんと洗ってんのかい?」 「いや……」 フレディは止める気などさらさらなかった。 もっとも、ナンシーのヴァギナはそれほど強烈な悪臭を放っているわけではなかった。 性病持ちのそれとは異なり、アンモニアと僅かに洗い残した恥垢が混ざり合ったメスの臭い―― 好きモノならば、より興奮するであろう淫靡な香りであった。しかし、女性器がどれほどの臭いを発するものか、 自分がどれほどの位置にいるのか、ナンシーは分かりかねていた。 自慰のあとで、指に付着した愛液の匂いを嗅いだことはたびたびあったが、鼻が曲がるほどの匂いではなかった。 しかし、一般的に見れば、やはり臭いのかもしれない、そう思うこともないではなかった。 「何食ったらこんな臭いになるんだい?家畜小屋の方がもっとマシな臭いがするよ」 「やめて……」 「そんなことも分からないで、あのおぼっちゃんに寝るだの寝ないだのやってたのかい? まったく、何様のつもりなんだろうね?自分が抱かれる価値のある女だと思ってやがる。 こんな恥垢だらけの糞まんこ晒しやがって」 ナンシーの頬を涙がつたった。心の中ではグレンのことを考えていた。 グレンが自分のあそこを撫でた時も、同じように、臭いって思っていたのだろうか? 指で二度と触りたくないって、思っていたのだろうか? あんなに優しくさすってくれたのは、ただペニスを挿入するための、便宜的な行為でしかなかったのだろうか? 「しゃぶりな」 張形が目の前に迫っていた。ナンシーは口を閉じていやいやをした。拳銃の前に立ちはだかった時より遥かに恐ろしかった。 「じゃあ、そのままブチ込んでやるけど、いいんだね?」 ナンシーはわんわん泣いた。誰も止められそうになかった。 フレディは無言でナンシーの大きな尻を持ち上げ、膣口に張形の先をあてがった。ヴァギナは砂漠のように乾いていた。
「やめてぇ……お願い……」 哀願を聞いたフレディは一瞬、切なげに表情を変えた。女が失われた過去を振り返る眼だった。 ナンシーは、今まで自分を襲っていた悪魔の意外な一面を見た気がして、はっとした。 泣きやみ、硬直させた身体を緩める他なかった。 悪魔の姦計だった。 意表をついたフレディは、一転禍々しいオーラを発散させ、張形を沈ませた。 ブチ、と嫌な音が響くのをナンシー自身が聴いた。ぎぃああああ!ナンシーの喉が、勝手に声を絞り出した。 贋物のペニスが乾いた肉の抵抗をあざ笑うように突き進み、奥まで届いて、フレディがさらに腰を突き上げた。 ナンシーは再び叫んだ。聖水を全身に浴びた吸血鬼のような、とても少女とは思えない顔をして。 股の中心から発せられた激しい痛みが腰の芯まで染み渡り、身体がバラバラになってしまいそうだった。 フレディは血液を潤滑油にして三度突いた。まるで原始人が追い詰めた猪に槍で止めを刺すようなやり方だった。 最後に腰をねじり回して、ぐりぐりと子宮口を責めた。フレディは眼を裏返し、唇から歓喜の涎を垂らした。 ナンシーはさらに顔を歪ませて、人間が出せるであろう最大限の悲鳴を放った。 「ナンシー!ナンシー!しっかりなさい!」 ナンシーは頬に張り手を入れられ、ショックであっと呻いた。目の前にはアービン先生の巨大な顔があった。 アービン先生は間違いなくうろたえていた。青ざめた顔で、今しがたナンシーを殴った手の平を震わせていた。 クラスメイト達が気の毒そうな眼でナンシーを見ていた。ナンシーは自分の大事な部分を隠すように、とっさに身体を押さえた。 手がピンク色のセーターと、ベージュのチノパンに触れている。服は脱がされていなかった。 「大丈夫なの?」 何も答えないどころか、自分の方を見さえしないナンシーに、アービン先生は強く殴りすぎたかしら、と不安になった。 「今日はもう、帰った方がいいわ。早退届を出して……」 ナンシーが大粒の涙を落としているのに、アービン先生は気づいた。しかしそれが何のために流された涙かは分からなかった。 ナンシーはナンシーで自分が泣いていることにすら気づいていなかった。 パニック障害、PTSD、トラウマ――アービン先生の頭に雑誌でちらと見ただけの単語が次々浮かび上がって消えた。 アービン先生はたくましい手でナンシーの肩をむんずと掴んで、大きく揺さぶった。 かいあって、ナンシーは泣き止んだが、まだ放心状態で、目が宙を彷徨っている。 クラスメイトの誰かが「ヒステリーだ」ぽつんと呟いて、それがナンシーを現実の世界へ立ち戻らせた。 グレンに似た声だった。 「か……かえります……」 ナンシーは手提げ鞄の中へ机の上のものを全て掻き込むと、失礼しますの一言もなしに教室を出た。 廊下を走って、途中、女生徒とぶつかって、相手は倒れて鼻血を出したが、気にせずまた走った。 外まで出て、歩道を駆けて、息があがって路肩に座り込んだ時、股の中心から、破瓜の証明が流れているのに気づいた。 認識と同時に刺すような痛みが容赦なく襲ってきた。ナンシーは血液をチノパンに滲ませながら激しく嘔吐した。 下に向かってゆっくりと流れる黒味がかった反吐が陽光を受け輝いてオンナとなった少女を祝った。 全てを出し尽くしたあとで、ナンシーはまた号泣した。 (to be continued→)
394 :
エロム街の悪夢(ナンシー×グレン) :2005/10/14(金) 07:51:45 ID:b6EkksD6
−Prizon− ロッド・レーンは薄暗い個室で、机の上に頭から突っ伏していた。 古い木造、ニスで加工していないものなので、頬に小さな木の破片がいくらか刺さった。 顔を上げるのも一苦労、早朝パトカーで市警に移送され、それからずっとこの具合だ。 「どこに隠した?」 ジャックマンがロッドの髪をひっつかんで持ち上げた。ロッドは腹の中のローストチキンを吐き出しそうになった。 「待ってくれ。うん、思い出しそうだ……」 パイプ椅子が軋んだ。取調べ室は日めくりカレンダー一つ掛っていない情報を根こそぎ奪い取られた空間だった。 ブルー・シャツを着た彼らが持ってくるもの、調書、ペン、テープレコーダー、証拠品、時には隠し球、以外は何もない。 彼らはそこで情報と言うに値すべきものを大豆から豆乳を精製するようにみっちり搾り取って、また持ち場へ帰って行く。 ジャックマンが離した手を尻にやって付着した汗を拭った。 「どこだ」 ロッドは椅子にもたれかかり、ゆっくり息を整えたあと、にっと笑った。来るべき衝撃に備え、腹に力を込めて言った。 「てめえのワイフのアス・ホール(ケツの穴)」 右フックがわき腹に命中した。これが裁きの打擲(ちょうちゃく)だと言わんばかりに。 腹筋を固めていたので少しはマシになったろうが、やはりロッドは大きく咳き込んでいる。 いやはや、加減ってものを知らねえな、セノバイトにでもなっちまうか、奴ら痛みを快楽に変える、 そうすりゃこんな糞ったれた尋問だって、もっとやってと哀願するだろうさ。 しかしありがてえ、まだ眠るわけにはいかない、痛みが手助けしてくれる――そんなことを考えながら、生暖かい唾液を机の上に垂らした。 トンプソンは眉一つ動かさず、それを見ていた。 砲丸のような拳が下腹へ向かって三発打ち下ろされ、部下が息を切らせたところで、ようやく静止の言葉をかけた。 「その辺にしておけ」 本当は肝臓を破裂させるまで続けろと言いたかったが立場上そういうわけにもいかない。 トンプソンは部下を呼び寄せ、いったん取り調べ室を出た。予想に反して相手は粘る。 彼はいつにもまして疲れていた。取調べにおいて、未成年、しかも重罪の初犯――軽犯罪は除いて、ほどやりやすいものはない。 少々脅かしてやれば、奴らはすぐに怯えた表情で後悔する。仲間がいれば十年来の親友であろうが親の敵のように罵って汚い唾を飛ばす。 こちらのやり口も知らないので、検察に口を利いてやるだのと甘い言葉を囁けば、吾身可愛さに洗いざらい喋る。 世情を知らぬ子供が無知の意地を張り通すなどとんでもない。あんなものは大人も子供も関係なく、ただ喋った後のことがあるだけだ。 刑罰の軽重もあるが、もっと大切なことは、つまり、自分達はまだ挽回できる――輝かしきとは行かずとも、 出所後に人並みの将来は築けるかもしれない、やりなおせるかもしれない、と勘違いしていやがるのだ。臆面もなく。 もちろん諦めているものもいるが――どちらにせよ、クズが自らの欺瞞に気づくことは一生ないだろう。 運悪く仮釈放で出てこようものなら、すぐに戻って来てまた同じことの繰り返しだ。刑務所は自主性を奪う。 クズが一生クズなままなのは累積する再犯の罪状を見ればすぐに分かる。 このケースではどう考えたって、単独犯、動機からして単純、痴情のもつれ以外に何がある? 被害者は十七歳にして異性交遊を重ねたあばずれだ。 何が起こったかと言えば、計画などまったくない、杜撰で無秩序的な殺戮劇に他ならない。 アメとムチを使い分けるベテランの刑事にとっては、たやすい取調べとなるはずだった。
「しぶといですね」 トンプソンは一瞬、誤認逮捕かもしれないと考え、すぐに自嘲して首を振った。 状況証拠が揃い過ぎている。あとは凶器さえ見つかればおしまいだ。 それだって、奴の右腕に刻まれた斬痕(糞ったれが、チャールズ・マンソン気取りか)を見れば、刃物を持っていたのは明白だ。 きちがいだと話は別だが――まったく、なぜきちがいを殺しちゃいけないんだ? 多重人格だの何だのと、人権だの何だのと、自分の家族が恐怖に晒されたことがないものの戯言だ。 安全地帯の遠吠え、手を汚さずに訳知り顔で糞食らえだ――あの痕を見た時はそう思ったが、どうにも奴は落ち着いている。 錯乱した様子は感じられない。分裂病にかかった精神薄弱者であれば脅しに乗ってすぐに吐くケースが多いし、 そうでなければ精神科医の出番となるわけだ。 もちろん脅かすのにしたってやり過ぎると弁護士がうるさいので方法は慎重に選ばないといけない。 よって初日に腹を殴れ、ケツを蹴飛ばせだ。拘留期間はまだたっぷり残されている。 問題はないが――トンプソンは親指と人差し指で右の耳たぶを挟んで、親指を上からなぜるように何度も動かした。 それは停滞を意味する。捜査が進展を見せない時についやってしまう癖だった。 仕事をこなす上で盛りの年代に入った刑事が囚われていたのは、その積み重ねた経験から来る奇妙なずれであった。 ちょっくらショッピングモールに出かけて安物の組み立て椅子を買ってくる。 説明書を前にしてああでもないこうでもないとやり終えれば目の前には当然既に完成された椅子があり、 スタインブレイナーよろしく座ってふんぞり返ったって特に問題はない、 しかし、手の中に使い忘れた螺子が余っている、いったい何処にそれがぴったりはまるのか、いつか崩れてしまわないだろうか。 その不安が何処から来るのかトンプソンは考え、眦に皺を寄せる。 長年凶悪犯罪の捜査に触れると、容疑者をカテゴライズしてしまう。いや、カテゴライズするために餌を撒くと言った方が正しい。 犯行現場や聞き込み調査で得た情報が語ってくれる。こうやれ、ああやれ、そうやって追い詰めろ、と。取調べにおいても基本は同じだ。 目の動き、頬の緩み、どの言葉に反応するか――怒りを感じるのか。黙り込むタイプか、焼夷弾のように嘘をばらまくタイプか。 ロッド・レーンにはそれがなかった。何も見当たらなかった。遠い昔に警察学校で受けた取調べの仮想訓練を思い出す。 ようするにお遊びだ。トンプソンはもう一度、今度はいくぶん強く、耳たぶを擦った。 俺が抱いている不安――奴はやっていないことを前提にして臨んでいやがる。 もう一つあるぞ、これはただの勘だが――何かを待っている。期待している。絶望的な状況下にありながら。 ロッドが信じて待っているもの、それが自分の娘だとは流石にトンプソンでも思いつかなかった。 自らおとりに使っておきながら彼にとって娘とは自分を含めた(もっともそこに彼自身が気づいているかは定かではないが) 掃き溜めの外で暮らすべき人間であった。ロッドが逮捕された時点で永遠につながりは切断されたものと認識していた。
「このまま続けても埒があかんな」 「そう思います。長期戦で行きますか」 「奴は、犯行後の行動については吐いたな。セルフィッシュ・リバーの……農地……小麦畑……」 ジャックマンがポケットから簡易地図を取り出して、トンプソンの前で広げた。 「そう……ここ、被害者、奴の自宅から、近くもないし、そう離れてもいない。ありえる範囲内だ。 一番近いところだと黒人夫婦が住んでる。教会の近くだったか、川べり」 「信じるんですか?あとは何を聞いても、やってないの一点張りですよ。たまに口を開けば汚ねえ糞を……失礼しました」 ジャックマンがそういうのも無理はない、とトンプソンは思った。犯行後の行動を吐かせるのが最も難しい。 裁判まで持ち越されることがほとんどだ。幾重にも敷き詰められた嘘を暴いて、その先にあるものは下らない現実だ。 それを奴はさらりと喋った。その時は観念したかに見えた。なのに、凶器の隠し場所についてはのらりくらりと交わしやがる。 考えられるのは時間稼ぎだ。犯行後に凶器を隠したのであるから(被害者宅、現場からは証言で出たナイフは何も発見できなかった) その場所が知られたくなければ、足取りについても、もちろん真実を言うはずはない。 こちらが探し終えたあとで、今度は浮浪者に混じって糞垂れてましたとでも言うつもりか。ならば調べても意味はないが……。 「ダメで元々だ。何かあるかもしれない。デューイに周辺の聞き込みをするように伝えてくれ。 場合によっちゃドブさらいをしにゃならん。何かあれば、私も後から行く」 「分かりました」 「いったん休憩だ。奴をハコに放りこんでおけ」 「はい、警部捕、ランチは?」 「まだだ」 「ご一緒しますよ。殴ってると、思ったより腹が空くんですよ」 「ああ……」 デューイが無線で連絡を受け、マイク夫妻の扉をノックして形式上の聞き込み調査を終え パトカーの窓からセルフィッシュ・リバーをなんとなしに眺めている時、ナンシーは公衆便所で痕を確かめていた。 むりやりねじ込まれたためか、膣道のみならず、膣口付近の肉にも擦り傷がついていた。 鞄に入れておいた生理用のナプキンを敷いて、滴り落ちる血液は受け止めることができたが、 誰も強姦された心までは受け止めることができない。公衆便所の壁が四方から倒れてくるような気がした。どこにも行きたくなかった。 犯された記憶と一緒に自分の存在を消してしまいたかった。いっそ殺して欲しかったと思った。 そして本の中で――どんなタイトルか忘れてしまったけれど――レイプ描写があったものを思い出した。 キャンピングカーに乗った女性二人が、テネシー州の叢林(そうりん)を前にして駐車中、暴漢に襲われ、二人ともレイプされた。 一人は茫然自失として立ち上がることすらできなかった。もう一人はさっさと服を着てこう言った。「命があっただけマシよ」 ナンシーは心の中で呟いた。そんな風に割り切れない。あれは嘘だ。
洋式便座にどれくらい座っていただろうか、時々入ってくる足音で冷や汗が流れた。外の世界が恐ろしかった。 しかし、いつまでもここにいるわけにはいかないと思い、公園の噴水でぐしゃぐしゃになった顔を洗った。 水面に映された自分の顔を見て、まずは後悔と怒りが湧いてきた。どうして、うつらうつらとしてしまったのだろう。 こうなることは或程度分かっていたのに、あとほんの少しでも心を強く持って、眠りさえしなければ防げたのに――。 眠りさえ、しなければ――そして、許せない、鉤爪の女、ティナを殺して、弄んで、その上――しかしその感情もすぐに消えてしまった。 迫って来たのは圧倒的な狭窄だった。心を絞って引きちぎられ、暗闇へ閉じ込められた。 視界が狭まっていった。大気が濃縮されているように感じた。存在する全てが自分を押し込めてくる。 消えろと脅迫してくる。その通り、自分の身体が砂でできたように感じる。崩れていく。 なのに、心臓だけが破裂しそうになっている。ふと、目の前を体格のいい男が通りかかった。 周りに人気はなく、男はグリーンの長シャツに赤いレザーパンツを履いて、立派な犬を連れていた。 その瞬間、ナンシーは心臓が本当に爆発するのではないかと思った。男の服が透けてその下に禍々しいペニスが見えたような気がした。 この男は犯そうと思えば今すぐにでも自分を犯すことができるのだ、と恐怖した。何処に行っても自分の安全な場所はないと信じた。 時計を見るともう午後の六時を過ぎていた。居残り補修を受ける生徒達が帰宅する時間だ。こんな姿を見られたくなかった。 早く穢れた身体を洗い流したい、それだけ考えて家に帰った。 ナプキンを敷いたものの、腿まで広がって乾いた血が歩くたびにざらざら擦れて、犯されたのだ、お前は傷物だと叫んでいる。 このままだと狂ってしまう。いや、狂ってこの事実を忘れられた方が――玄関をくぐる時、見たくはなかったが、 グレンの家の二階の窓に目が行った。カーテンがほとんど閉まっていて、隙間から明かりの消えた部屋が見えた。 グレンがいなくて、ナンシーはほっとしている自分に気づいた。一瞬、自分はグレンともう終わってしまうのだろうか?と考えた。 ただいまも言わずに家に入ると、マージがキッチンの収納棚の奥へラムのボトルを閉まって、リビングからよたよた歩きでやってきた。 既にハイスクールから連絡を受けていて、帰りが遅いので心配のあまり酒を飲んで、ちょうど酔いが覚め始めたところだった。 連絡を受けて二時間経ち、いつものようにラムのボトルの蓋をひねった時、どうして自分の家ばかりこんな風なのだろう、とマージは思った。 グラスに引かれた線が上昇するにしたがってその想いは一層強くなった。結婚した時は何の悩みもなかった。 それどころか今よりもずっと明るい未来が広がっている気がした。夫は正義感に溢れ、仕事熱心で有能だった。 いや、それは今も変わってはいない。父親としても素晴らしい人になるだろうと思っていた。 やはりあの事件――悪夢が全てを変えてしまった。そしてまた同じことが起ころうとしている。今度は娘を変えようとしている。 水で割って氷をぶち込み、ぐいと一口やってみたが、ラムはいつものように忘れさせてはくれなかった。 もう一度唇に近づけて、最後まで飲み干した。空になったグラスを眺めたあとで、娘だけは、自分達のようにならないで欲しい、と思った。 そう思うことはここ三年の間でかなりあった。マージは溜息をついてまたグラスにラムを注いだ。 マージにとってそれは遊園地のチケットのようなものだった。暗澹たる現実からたやすくネバーランドへ連れて行ってくれる。 もちろんチケットを手に入れるためにはそれなりの対価を要求される。金は大した問題ではない。 意識がはっきりすると、飲む以前よりも最悪な気分になっているのがそれだ。 倍化した惨めさがまたそれを口にさせ、マージは優秀なリピーターとなる。 三杯目を注いだ。もはや割らなかったし氷も入れなかった。それを一気に飲み干して、こう思った。 もう自分と夫はつぎはぎだ――つぎはぎ、つぎはぎ――頭がかき混ぜられたようになる。 やっと来てくれたこの感触。待ちわびた混濁。何もいらなくなる。夫も娘も帰って来るなと思う。しかし、帰って来る。 だからほどほどでやめておかないといけない。ほどほどで。また繕えるように。全てを切り裂いてはいけない。
「なあに、してたの」 ナンシーは無視して、バスルームへ向かった。 「こらあ、返事、しなさい。もっと早く……」 マージの身体を急に吐き気が襲ってきた。堪えてゲップが出た。 「どこほっつき歩いてたの」 ナンシーは背を向けたまま、ぼそぼそと喋った。マージには何を言っているのか分からなかった。 難聴の老婆に問いかけるようにした。「ほら、どうしたってのよ!」 「アレが……急に始まっちゃったの。持ってなくて……だから、シャワー、浴びたい……」 マージは納得して、それから先は何も言わなかった。 そして一時間後に頭の裏に遅効性の毒を塗られたような痛みを抱えたまま後悔して薄っすら涙を流した。 ナンシーはいつもより温度を高く設定して、頭からシャワーを浴びた。熱くて痛いくらいだった。 でもその痛みが股の傷を、犯された記憶を忘れさせてくれる気がした。 彼女の身体は零歳児の肌のように赤らみ始めた。熟れた桃のようになった。 熱で真っ赤になった肌を見て、母の赤ら顔が浮かんできた。母と同じだと思って温度を下げた。 ナンシーは自分の胸を平手でぺしんと打った。こんな胸なんていらなかった、と思いながら。 「なんで!」バスルームのタイルを平手で何度も打って、ナンシーは泣いた。自分が消えてなくなりそうだ。 身体が萎んで行くような感覚。また世界がどんどん狭くなっていく。冷たい檻の中に閉じ込められている。 誰も助け出してくれない。助けて!叫びたい。鉤爪の女はこう言った。 100%だの、相手のことだけを考えていたいだの――確かにグレンにとって100%の女になれると信じかけていた。 それがあの夜から少しずつ、ずれていった。最後には全てを否定された。一生消えない痕が残った。 幻聴か、ナンシーに何者かが呼びかける。お前は0%だ。ゴミクズだ。破瓜をレイプで迎えた汚れた女だ。 グレンは失望するぞ。なあに元々信じられる話じゃない、夢で犯されましたなんて、浮気したと思われるのがオチさ。 だから消えろ。消えてなくなれ。ぬいぐるみになれ。動かなくなれ。死んでしまえ! 性器に挿入された時の感覚がよみがえってきた。一番奥を捻りまわされた痛み、じくじく、じくじく。 ナンシーはまた嘔吐した。今度は胃液しか出なかった。出し終わった後、狂気にかられたように、 痕を少しでも消そうとアソコをタオルでごしごし擦った。痛かったが、手は緩めなかった。 タオルを絞ると、血と石鹸の混じった赤白い液体が逃げ出すように排水口へ流れた。 血を見ることによって、ナンシーは、確実に迫っている死の足音を学校にいた時もより切実に感じた。 恐怖で自分の肩を抱いて、震えた。ロッドも殺されるだろう、とナンシーは思った。 そしてグレンは――グレンは鉤爪の女を知っているのだろうか? その疑問に答えなどなかった。どうか、グレンは鉤爪の女の標的でありませんようにと願った。 シャワーを浴びたあと、パジャマに着替えて、ナンシーはずっと自分の部屋に閉じこもった。 マージに食欲がないと伝えて、降りてくることも拒否した。 悪夢を思い出し、ゴミ箱をひっくり返して漁ったが、捨てた日記のページはどうしても見つからなかった。 犯された日でも冷酷に時は刻まれいつものように夜がやってきた。部屋は死体置き場のようにしんとしていた。 本を手に取った。アンナ・カレリーナ。バカ、こんなもの嘘っぱちだ、そう思ってベッドの上から床へ投げつけた。 枕を抱いて、顔を擦りつけ、これからさらに嬲られ最後には切り刻まれる自分を想像した。 ティナの死体がまた浮かんだ。いずれ、自分もああなるのだ。内臓を撒き散らせて死ぬのだ。 そして鉤爪の女の道具に使われる。仮に天国があったとしてもそこに行けない。 永遠に囚われたまま夢をさまよう?――いやだ、いやだ、いやだ――片っ端から本を開いて、床へ投げ捨てた。 それまでナンシーを愉しませてくれた本は、どれもこれも色褪せて見えた。 今のナンシーにとって、まだずきずき痛む性器がただ一つの真実だった。
深夜零時、部屋の窓ががたがた揺れた。ナンシーはちらと見たが、風がしたのだろうと思い、すぐにうつぶせになって、耳を塞いだ。 そうすると、揺れがノックに変わった。もう一度見る。まさか、これも夢の中ではないかと怯えながら。 やめて、と心の中で叫んでいる。しかしノックは止まらない。五分間ほど放っておいたが、まだ止まらない。 止んだかと思うと、また始まる。もうどうにでもなれ、ナンシーはベッドから起きて、そろりと窓へ近寄った。 グレンの部屋が見えた。縦長の窓が開いて、カーテンが風になびいていた。 相変わらず、明かりは消えている。もう寝てしまったのだろう、と思った。眠れるグレンが羨ましかった。そして、腹が立った。 自分がこんなに苦しんでいるのに――めちゃくちゃにされたのに――ぐうぐう寝てるなんて! 拳を握り締めて、なんて自分勝手な浅ましい考えだろうとすぐに自戒した。 端に手をかけて、横に首を振ってみるが誰もいない。下に目をやる。 ラガーシャツとジーンズを着たグレンが中腰でうずくまっていた。 あっと声が出る。驚いて後ずさる。怖かった。グレンはへりに手をかけて、笑顔で、ナンシーに呼びかけた。 大げさな口の動きが「こんばんは」と示していた。 ナンシーは何もいえなかった。何を言えばいいのか分からなかった。 以前は望んでいたこと。今は、ただ恐ろしい。口を開けば「近づかないで」と言ってしまいそうだ。 グレンは窓の鍵を指差した。ナンシーは鍵を外して窓を上に引っ張り上げたあと、また離れた。 「入って、いいかな……というか……足がしびれて、落っこちそうだ」 二階建てのナンシー宅の屋根は、傾斜がそれほど急ではないが、落ち着いてくつろげるほどのスペースはない。 グレンは家の右側の倉庫――ナンシーが小学生の頃買ってもらった補助輪つきの自転車やら、 お絵かきに使ったクレヨン、画用紙、読まなくなった本などが置かれている――から欄干に手をかけて、 懸垂の要領で一気に屋根に上り、両足を並べて少し余るくらいの広さの道をそろりそろりとここまでやってきた。 昔、同じようにしてグレンが自分の部屋を訪ねて来たのをナンシーは知っていた。 グレンの母の息子に対する異常な執着のせいで、そうでもしないと会えないこともままあったのだ。 初めてグレンが窓からやってきた時、二人は十四歳だった。 そしてお互いの気持ちを知ることになった。知った後で初めてのキスを交わした。 ナンシーにその時の記憶がよみがえった。第一声は三年前と同じだった。 「なに……してるの」
グレンは身を乗り出して、窓から上半身を出している。両手でしっかり身体を固定して、まずは一休みだ。 こういうやり方はあまり好きではないが、そうでもしないと、ナンシーには会えない。 家では登校以外三日間の外出禁止を申し渡されていた。学校へ行くのだって一苦労だった。 警察に呼び出されたグレンの母、ダリア・ランツはまるで自分の息子が殺人をおかしたような剣幕でがなりたて、 若い頃は美しかったであろう顔をくしゃくしゃにした。 落ち着くようにと肩を抱いた夫の手を跳ね除けて、グレンの頭を平手で二度ぶってから、抱きしめた。 ああ、グレン、あなた、そんなところでなにしてたの?あんな子達と付き合うのはやめなさいって、ママ、前にも言ったでしょう! こういうことは一度や二度ではない。道で転んで膝をすりむいただけでも、ダリアは骨折したように大騒ぎする。 フットボールがしたいんだ、とグレンが告げた時の顔と言ったら、マスクなしのハロウインパーティーと言ったところだ。 落ち着かせるためにいくつかの手はある。口で語ろうとしてはいけない。表情で語るのが最も有効な方法だ。 言葉を発するのはこれという時でなければいけない。 グレンは長い経験で何パターンかの脱出法を見出していて、逃れるのは手馴れたものだったが、今回は自らも混乱していた。 事実を受け入れるのに時間がかかる。だから、母の恩着せがましいお叱りを黙って聞いている他なかった。 口を開けば、溜まりたまった鬱憤が吐き出されるかもしれない。どうしてティナが死ななければならないのか。 なぜロッドが――自分が通報したのだ。容疑者と見られるのは当然だが――ティナを殺さなければならないのか。 少し前まで気が狂うほど抱き合っていたであろう二人に何が起こったのか。 今、警察に保護されて、待機部屋で、父と母が当惑している。ロッドはいなくなった。なるほどこれは現実だ。 しかし、現実と真実は似て非なるものだ。イコールではない。そこにはちょいとしたズレがある。 父は諦めて溜息をついている。まあ、仕方がないな、と思う。父は疲れている。 口では「私達が騒いでも始まらんではないか」と母に言うけれど、それは現実であって真実ではない。 真実はこうだ――「事件に直接関与していないことが分かったので、早く切り上げて帰りたい」 そのズレにいち早く気づいた人間が勝利する、とグレンは学んだ。そしてそれを勉学やスポーツに活かした。 ズレを知ることは全てにおいて能率の向上につながる。しなければならないことが見えてくる。 天才でもない限り、能率の差異が成果を決定づける。さて、真実は何処にある? 分かるはずもなかった。グレンは諦めて、母が安定するまで、自分の身体を貸してあげようと思った。
ああ、神様――なんてことでしょう!ダリアは相変わらず喋り倒している。長いブラウンの髪がグレンの首に巻きつきかかっている。 血の臭い!血の臭いがする!早く帰ってあったかいシャワーを浴びましょう、ああ痛かったでしょう、 ぶってごめんなさいね、ママあなたが悪いだなんてこれっぽっちも思ってないのよ、分かるでしょう、 いいのよ、あなたは何も心配しなくていいのよ、忘れていいのよ、忘れなさい、今日あったことはみんな忘れてしま―― しかし、忘れてはならないことが一つある。それは息をすることだった。 ダリアがひきつけを起こしたところで、ジョーイと名乗った刑事が呼びかけた。 「奥さん、どうか、落ち着いてください。これから調書を取らないといけないのでして。お子さんを少しばかりお借りします」 ダリアは大きく息を吸って叫んだ。今度はもっと長いこと喋ってやるぞと思いながら。 調書!調書ですって!ああ――この子は本当にいい子なんです、こんなことに巻き込まれる子ではないんです、 学校ではずっとクラスで一番だったのよ、ねえ、本当ですの、フットボールでも表彰されたのよ、 いずれ卒業生総代になって――そこでグレンが母の頬をすっと撫でた。精一杯の笑顔を作った。 いつものような自然に出る笑顔ではなく、目はこうしろ、口はこうしろ、命令によって顔の筋肉が総動員された笑顔だった。 しかしそれでもグレンの笑顔は一級品だった。ダリアはその顔を待っていた。完璧な息子が自分のためだけに作った最高の贈り物。 やはり彼女は惚れ惚れした。彼女のみならず世の女性のほとんどが――白人、黒人、黄色人、 全世界何人であろうと頬を緩めて抱きつきたくなってしまうに違いなかった。差別を許さぬ笑顔だった。 ダリアはいてもたってもいられなくなる。街中に息子の素晴らしさを説きたい気持ちでいっぱいになる。 それが息子の足を引っ張ることに気づいていても、我慢できなくなる。 「ママ、心配かけてごめん。でも、僕なら大丈夫さ。協力できることがあれば、しなきゃならない。 そうすることが正しいことだと思うから。だから、落ち着いて」 グレンの締まった唇がダリアの頬に触れた。「ね?」ダリアは目を閉じて、胸を押さえた。 自分がどれだけ感動しているかを確かめて、グレンをきつく抱きしめて、頬に何度もキスをした。 ややもすると、ダリアのそう言った阿鼻叫喚の数々はこの行為を望んだがために行われているのかもしれなかった。 完璧な息子による完璧な愛撫を。また完璧な息子に母の立場を超えて愛撫することを。
さて、家に帰ってからは、ゆっくりシャワーを浴びる暇などもらえずに、電話工作のことで再びダリアのヒステリーに晒されたわけだが、 そこからはグレンもいくぶん落ち着いて来たので、いつものようにやり込めて、たっぷり湯の入ったユニットバスに身をひたすことができた。 朝になり――やはり一睡もできなかったのだが――朝食を取ったあと、部屋に篭った。 ダリアは悪徳看守のごとき形相で、今日は一歩も外から出てはいけません、と扉の前に立ちはだかった。 グレンは自分の部屋でニュースをまじまじと見つめた。彼は論理的思考を得意としていたので、その怖さも知っていた。 つまりできるだけ仮説を打ち立て、信頼性と妥当性を頭の中で繰り返し検証することも忘れなかった。 そして自らが作り出した仮説のどれもがロッドが犯人であることを示していた。 グレンは珍しくいらいらして、無理やり真犯人がいる仮説を探した。犯人が存在しない事故の可能性も探った。 それらは非現実的な妄想と呼べるものにしか過ぎなかった。彼はついに最終的な結論を下した。 ロッドは何らかの理由――おそらくドラッグを用いたか、もしくは他の理由で、ティナをナイフで刺し殺した。 工作のために、鍵をかけて、あたかも他に誰かいるような素振りで叫んだ。最後に隙を見て逃げだした。Q.E.D その時、グレンの頬を一筋の涙がつたった。なあ、どうしてこんなことになったんだ?どうして――。 グレンは初めてあの三人が自分にとっていかに大きなものであったか気づかされた。 彼らの前では自然体でいることができた。妬みややっかみ、憧れや尊望、それらの眼を意識することはほとんどなかった。 現実、真実、その間のずれ?どうでもよかった。頭を空っぽにして話し合うことができた。正直につき合うことができた。 それが失われてしまった。永遠に。 CDラックから「Devid Bowie」の「Ziggy Stardust」を取り出してヘッドホンを被ってベッドで仰向けになった。 「Five Years」「Soul Love」「Moonage Daydream」「Starman」「It Ain't Easy」 そして「Lady Stardust」が流れる頃には、涙が乾いていた。グレンは火星から降りてきた蜘蛛を思い浮かべた。 時々――何かの拍子に、彼は周りの人間がそう見えることがある。おかしいぞ、こいつら、と思う。 いやおかしいのは自分かもしれないと考え直して、小さな箱の中に閉じ込められているような気持ちになる。 Oddeyeの詐欺師Ziggyが言うように彼ら――それら、はブギーしている。下らないことで一生懸命になっている。 人生を磨耗させている。それは常に母から始まる。なぜ母は自分のことであんなにも一生懸命になれるのだろう? それが母性なのだろうか?いや――大まかな答えは出ているのだが、その答えに疑問を投げかけたくなる。 「Devid Bowie」は「Lady Stardust」の流暢で感傷的なメロディに乗せて And he was all right.My friends are all together、と歌っていた。 グレンは笑った。はは、いったい何がall rightだよ。何がall togetherだ。 そうして、曲が終わると、いつものように彼はいきり立つ母親を説き伏せて学校へ向かった。 ナンシーが悪夢から覚めて、教室を飛び出すちょうど一時間前のことであった。彼はもう前向きに切り替えていた。 今しなければいけないこと――それはナンシーを守ること。ナンシーと話合うこと。ナンシーまで失わないこと。
「なにって、会いたくなったんだ、おっ」 グレンは足を滑らせて、窓のへりに顎をぶつけた。落ちる!と思ったナンシーがとっさに駆け寄って、 腕に触れて、男だ、と思った瞬間に、また手を離してベッドまで逃げた。 「どうしたの?」 グレンが笑った。ナンシーは一瞬気が緩んだが、すぐにその安らぎが痛みにとって変わった。 そんな眼で見ないで、と言いそうになった。自分は汚れているのだから。 「おじゃまします」 グレンがようやく部屋に入った。一度ぐるりと見渡して息を飲んだ。空き巣が入ったようにいたるところに本が散乱していた。 これは予想していたよりもひどいことになっているな、と彼は思った。 もちろん彼の予想とはティナとロッドの事件によってもたらされた精神的外傷だった。 さて、失敗は許されない――あの夜のようなことは二度とあってはならない。 「それ以上……こないで」 「何もしないよ。誓って」 その通りだった。何も夜這いに来たわけじゃない。話し合うために来たのだ。しかし、こないで、とは? 「いいからじっとしてて」 状況が圧倒的不利にあることをグレンは認識した。開いた窓に腰掛けて、はっきり言った。 「分かった。それ以上行かない」 「……通り挟んで家が向かいだと便利なものね」 ナンシーは本当はそんな風に言いたくなかった。でも発せられるのは憎まれ口だ。 彼女にとって、グレンは今、もっとも会いたい人であり、同時にもっとも会いたくない人でもあった。 その矛盾を解消するのに彼女自身どんな手立ても見つけられなかった。 「今、親父さん、いるの?お母さんは大丈夫?」 「分かんないわよ、そんなこと」 ふう、とグレンは溜息をついて、ベッドに向かおうとした。「こないでって言ったでしょ!」 グレンは歩みを止めた。「聴こえるぜ、下に」言ったあとで、何だか本当に強姦魔みたいなこと言ってるな、と思った。 しかし、尋常じゃない。どうしてそこまで怯える必要がある?考えられるのはただ一つ、二段ベッドからぶら下がった醜態だ。 「前のこと……悪かったと思ってる」 ナンシーは眼を哀しげに逸らした。違う、私は犯されたのだと言いたかった。 あなたの100%じゃなくなってしまった、触れられるのが怖い、 あなたの笑顔が怖い、あなたのペニスが怖い、今だって、震えているのだと。
「違うの」 「何が?」 「とにかく、違うの。それで言ってるんじゃないの」 「説明してくれないと分からな」 「うるさい!」 ナンシーはベッドの上でうずくまって、顔を下に向け隠した。何も聞きたくなかった。 グレンが歩みを進め、ベッドに座った。気づいたナンシーが後ずさりして、ベッドから落っこちそうになった。 「そこ、どいてよ。大声出すわよ」 もう出してる、と思いながらグレンは素直に立ち上がり、ぐるりと回って、ナンシーの学習机に腰掛けた。 「本は?片づけるの手伝うけど」 「帰って」 さあ、ここで引いてはいけない、とグレンは思った。ここで帰って何になる? 次に会う時は事態がもっと悪くなっているに違いない。教訓だ。目を閉じるな。背けるな。向き合って一つ一つ片づけていけ。 今、部屋に散らばっている本を一冊一冊本棚へ収めるように。 「聞いたよ。午後から学校に行ったんだ。探したんだけど、クラスの奴らに訊いたら……早退したって。 アービン先生にも聞きにいった。凄く、動揺してた。あのミス」 フランケンが、と言おうとして、止めた。 「アービン先生が、おろおろしちゃって、逆に色々聞かれたよ。何か知ってることないかって。 まあ、だから来たわけじゃない。それはどうでもいい。でも、うなされたんだって?」 ナンシーはわざとグレンに背を向けて、何処か遠くの方を見るような眼をして、言った。 「あなたの家はどうもなかったの?」 さあ、一つ目の扉が開いたぞ、とグレンは思った。少なくとも今すぐ出て行って欲しくはないらしい。 「どうもこうも。大変だね。ママは一日中騒いでる。午後から学校に行くのだって一苦労さ。午前中はさぼってテレビ見てたよ。 でも、面白いものなんて何もないね。通信販売だの、美味しい手料理の作り方だの、我慢できなくなって、学校へ行ったよ。 終わってから練習にも出た。コーチは相変わらずだね。海軍の教官だってもっとマシだと思うよ。 おら走れ走れ走れ走れ走れ走れっ――!そうそう、マークがまた尻ひっぱたかれて……」 「そんな、気の使い方、しなくていい……」 「ごめん」 ナンシーは自分が迷惑をかけているのだな、と思った。生真面目な彼女には耐えられないことだった。 お互いに少し黙った。グレンはまたやってしまったな、と思った。どうもナンシーの前では上手くできない。 ナンシーは考え始めた。初めの波を乗り越えたおかげで、少しは恐怖心も薄らいで、頭が働くようになっていた。 そして色々と考えたあげくに――自分はどうせ死ぬのだから、グレンを巻き込むつもりはないが、 真実を伝えておくべきではないか?と思った。もちろん夢だ何だの言うつもりはない。 ただ、グレンの中で、ロッドがティナを殺したことになっているのは、いたたまれなかった。 「ねえ、ティナをああしたのは」 グレンが右手を前にしてさえぎった。 「やったのは」 間延びした声だった。 「ロッドだ。その話はやめにしよう」
また沈黙が降りてきた。ナンシーはそのことについては諦めることにした。 やはり知れば――グレンのことだから、信じられないだろうし、また理由を聞いてくるに違いない、と思った。 部屋は相変わらずしんとしていた。死体が二つに増えただけで、目覚まし時計の針だけが律儀に歩みを進めていた。 ナンシーは耳を塞いで、誰も彼もいなくなってしまえ、と念じた。 いったんそう思うと、脳がふわふわと浮かんでいくような感覚に襲われた。 眼を閉じて、瞼の裏側で、ナンシーは海を見ていた。透き通るような海、三角座りの姿勢で、身体がゆっくり沈みこんでいく。 そして溶けていく。やがて青黒い海底に辿りついた時は、脳液がじっとり染み出ている。何も考えられなくなる。 深海魚になる。光が届くこともない。しかしそれを望んでいる。もう終わりだ、と思った。 「もう、会わない方がいいかもしれない……」 ナンシーの呟きが沈黙を破った。グレンは眼を見開いた。なんだって? 「……どうして?」 「だって、私は――」 レイプされた。夢の中で、前からずっとされていた。それに眼を背けて取り返しのつかない傷を負った。 「我侭で、鬱陶しくて、今だってあなたを拒絶するどうしようもない女だから。あなたにふさわしくないから」 「…………」 「自分が嫌で嫌でしょうがないから。誰にも会いたくないから。薄暗い牢獄にいたいから。そうあるべき女だから」 そこまで聞いて、グレンは自分の中から湧き上がるものを感じた。抑え切れなかった。 上手くやれとか下手だとか、どうでもよくなってきた。 「……やめてくれよ」 押しつぶされそうな声だった。ナンシーははっとしてグレンを見た。苦悩に満ちた表情だった。 「僕は、そんな風に思ったこと、一度だってない。だから、そんな心配するのは間違ってる。 我侭とか、鬱陶しいとか――全然逆だよ。僕は」 僕は?グレンは少し混乱していた。僕はいったい……何者だろうか? 「僕は、君がいるから頑張れるんだ。これまで頑張ってこれた。辛いことがあった時、しんどいなって思った時、 君の顔を思い浮かべて、君にふさわしい男になろうって思って、だったらくよくよしてちゃいけないって、 こんなことでへこたれてちゃいけないと思って、元気がわいてくる。 僕は――嫌味に聞こえるかもしれないけれど、今まで自分でも上手くやってきたとは思う。 でも、足りないものがまだまだある。それを君は、確かに、持ってる。 一生かけても僕が絶対に手に入れられないだろうなと思う何か。絶対に失いたくない何か。 上手く言えないけれど、君といると、僕はどこまでも――世界の果てだって行けそうな気がする。 時々100kmだって走れそうな気持ちになる。走って、叫びたくなる。でも何て言えばいいのか分からない。 好きだとか愛してるとか月並みな表現しかできない。言葉が見つからない。でも愛してる。必要としてる」 「……うそ」
ナンシーは泣いていた。意識せずとも両の眼から涙がこぼれた。 そして、やはり頼れる人はグレンしかいないのだと思った。 この震えを止めてくれる相手は。恐怖から救ってくれる相手は。だけどまだ信じられない。 「うそ!うそよ!そんなの絶対うそよ!」 「嘘じゃないよ!僕は君がずっと好きだった。僕がここに越してきてからずっと。 初めて会った時、まだ七つだったと思うけれど、その時からずっと。 でも言い出せなくて、十四になるまで――本当に長いな、七年って――」 「知ってるわよ、そんなの!十四の時に聞いたもの」 「そうだね」 風がふっと窓から入り込んできた。転がる本のページをぱらぱらめくった。ナンシーの中で、何かがよみがえりつつあった。 薄っすらと光が当たり始めた。ナンシーは手を握って開いた。自分がそこにいることを確かめるために。 海底から浮上するために。自分を取り囲む牢を破るために。 「私が何て言ったか覚えてる?」 「覚えてる。『私はあなたを嫌いにならないけど、あなたが私を嫌いになるのが怖い』」 「私は嘘つきね」 「僕のこと、嫌いなのか?」 ナンシーは顔を上げた。水面から顔を出して、真っ直ぐグレンを見た。 「……いいえ」 「じゃあ、嘘じゃない。それに僕は言った。一生君を嫌いになんてならない。何があっても。どうなっても」 そう、嘘じゃない。今でも私はグレンが好きだ、とナンシーは思った。 その瞬間、世界が広がった。空気が変わる。息ができる。周りが見える。 グレンにこの震えを止めてもらいたくなる――。 「ねえ、グレン、お願いがあるの」 「なに?」 「そっと……抱いてて、私が眠る間。私の横にいて。でも、何もしないで」 「何もしないよ。誓う」 「この前、私もしたかったのよ。したくてたまらなかったの。でも、そうするわけにはいかなかったのよ。 本当よ、嘘だと思わないでね。あの時、あなたのことだけ、考えていたかったから、できなかったの。 それで、あなたはしたいって思ってたのに、私はどうして――」 ティナみたいに、と言いそうになって、止めた。 死者の名はその者が死んでから短ければ短いほどできるだけ葬り去られるべきものだ。 「終わったことだよ。僕も間違えた。だから気にするのはやめよう」 「……こっち、来て。狭いかもしれないけど」 「十分さ。前もそう言った。でも」 「でも、なに?」 「学校で、怖い夢……見たの?」 ナンシーは首を振った。「何も聞かないで、お願い」 「分かった」
二人は電気を消して、部屋と窓の鍵を閉めて、ベッドにもぐりこんだ。毛布は被らなかった。体温だけを求めた。 お互い向き合う形で、ナンシーは自分の胸に手をやって、胎児のような格好でグレンの胸に頭をつけた。 グレンはそんな彼女を包み込むようにして抱いた。柔らかかった。 首から背に置いた手が圧縮した雲の上に置かれているようだった。ナンシーは相変わらず良い匂いがした。 次第にグレンのペニスが勃起し始めた。水に溶かした若布のように本来の大きさを取り戻していく。 バカ、こんな時に、とグレンは思った。おいおい、ここまで来て、また同じことの繰り返しなのか――。 ナンシーはもちろんそれに気づいていた。太股に触れる感触。やはり身体が震えた。 とっさにフレディの顔が頭に浮かんだ。より縮こまって、まずはその顔を追い出そうとした。 それから、グレンの顔をいっぱい思い浮かべた。男の匂いを嗅いだ。 あいつとグレンは違う、と何度も心の中で繰り返した。 「ごめん、なんとか、落ち着かせる」 その言葉を聞いて、ナンシーは確信した。やはり自分達が正しいのだと。 鉤爪の女の狙いは自分の精神を少しずつ追い詰めていくことにあるのだと。 ならば、あいつの思い通りになってはいけない。克服しなくてはいけない。 「ねえ、そういうのって、我慢しようとして、できるものなの?」 「難しいけど、やってみる」 「そういうことじゃないの。意志とは無関係に、そうなっちゃうの?」 「ああ」 グレンはどうして、そんなことを聞くのかな、と思った。 そして、女の身体に触れながら欲情を沈めるという最も難しい行為にチャレンジした。 まずは呼吸を整えて、鼓動をゆっくり、どきどきする気持ち、そう、落ち着いて、冷静に。 「苦しくないの?」 ナンシーは率直に聞いた。ジーンズにペニスの跡が浮き上がっている。墨をつけて拓を取れそうなくらいに。 「苦しいよ。でもしょうがない」 「ちょっと、待ってて」 ナンシーはベッドから降りて、机の脇においてあるティッシュ・ペーパーの箱を持ってきた。 四五枚抜き取って左手に添えると、またグレンと向かい合った。 「あなたが苦しんでるのは嫌なの、だから」 ナンシーはグレンのジーンズのジッパーを降ろした。 ピンク色のペニスはもう、トランクスの上まではみ出すくらい勃起していた。 それを見て、空元気に近い感じで言い聞かせた。 何よ、あいつのものなんて、グレンのに比べたら大したことないじゃないの。
「自分で、ボタン外してくれる?」 「いいの?」 「早くしないと気が変わっちゃう」 グレンは急いでボタンを外してトランクスを膝まで下ろした。 巨大なペニスが勢いよく飛び出して、ぶらんぶらんと上下した。 「変なこと聞いていい?」 「いいよ」 「初めて見た時も思ったんだけど……これって大きい方なのかしら?」 「だと思う。クラブの連中はお前の半分くらいしかないって言う奴もいる。実際、そんなもんだった」 「じゃあ、余計苦しくなっちゃうね」 そう言って、ナンシーは右手を伸ばした。やはりまだ怖かった。手が小刻みに震えた。 一度眼を閉じて深呼吸して、心の中で唱えた。 触れること――それで、乗り越えられる、グレンをまた信じられる、あいつに抵抗できる。 まずは人差し指でそっと触れた。「上手くできないかもしれないけど」 右手で包み込むように握る。 「やってみる、前みたいに」 ゆっくりグラインドを始めた。その時、グレンの顔を見た。何処で感じるのか調べるために。 時々、カリの部分を人差し指と親指でこね回すようにすると、眼を閉じて息が荒くなるのが分かった。 尿道の部分をたまに人差し指の腹で撫でると、むむ、と我慢したゆえの声が漏れた。 前はそんな余裕はなかった。自分のことだけ考えていた――指を動かしながら、ナンシーは思った。 今、グレンのペニスに触るという行為はグレンのためだけじゃない、自分のためでもある。 そうすることによって、震えが止まるかもしれない、なんだかそんな確信めいたものがあった。 そしてグレンの気持ちが知りたかった。今触れているペニス以外に、もっとたくさんのことを。 「自分ですることもあるのよね」 グレンは少し躊躇して、荒げた息で答えた。 「あるよ」 「それって毎日?」 「毎日しないよ。三日にいっぺんくらい」 自分と同じだ、とナンシーは少し安心した。
「自分でする時って、何考えてるの?」 ペニスを握られた童貞の男に、どう言おうか、と考える余裕は残されてない。 頭の中はナンシーで埋め尽くされていた。細い女の指がもたらす爆発的な妄想でいっぱいだった。 「きみ……のこと」 「本当に?」 「ほん……と」 「あなたの頭の中で、私はどうなってるの?」 「裸に……なってる」 「綺麗?」 「うん……」 「裸の私も好き?」 「好き……」 もし私が処女じゃなくても?犯された女だって知っても?それだけは言えなかった。 それはグレンをのっぴきならない災難に巻き込むことを意味している。 しかし、きっと、受け入れてくれるに違いない、とナンシーは信じた。 「そのまま、ずっと想像してて」 やがてグレンは射精した。四回ペニスが脈動した。 ナンシーは左手でティッシュを構えていたが、一発目は上手く受け止めることができなかった。 勢いが強すぎて、飛んでいった精液はサン・テグ・ジュペリの星の王子様が毒蛇に噛まれるページへ降りかかった。 二発目は上手く亀頭にティッシュをかぶせることができた。出せるだけ出させてあげよう、とナンシーは思った。 だから、出している間も手を放さずに、ずっとペニスをしごいていた。 全てが終わると、ペニスは放電しつくした電気ウナギのようにぐったりしていた。 「すっきりした?」 「ああ、でも約束」 「破ってないわよ。私が勝手にしたんだから」 「そういう考え方もあるね」 「そうよ」 ナンシーは笑った。それはグレンが今までに見たことのない女の顔だった。艶っぽかった。 ナンシーはグレンの腕に抱かれて、まどろみながら思った。やはり、戦わなくてはいけない。 このまま死ぬのを待っていても何にもならない。勝算などまったくない。 しかし、あがいてやる。できるだけやってやる。 ティナは死してなお、あの悪魔に囚われている。助けたい。 そのためには、ロッドに会いにいかなくてはならない。ロッドの無実を晴らしてやる。 今は戦いの前の休息だ。ゆっくり休むことが必要だ。大丈夫、グレンが傍にいてくれる。 グレンの温もりが自分を守ってくれる。眠ったって、あいつは出てこない。 ナンシーが女になった夜はそうやって更けていった。 幸い、マージはまだ昼の酒が残っていて、早々に寝てしまっていた。父は帰ってこなかったし、夢は見なかった。 (to be continued→)
−Cheese Cake− 二十七歳の女は、二歳になった娘をようやく寝かしつけ、栗色のロングヘアを椅子の背に垂らしながら夫を待っていた。 彼女はリビングの壁に掛けられた古時計を眺めている。二時二十七分。針が狂っているような気がしてくる。 進んでいるのか遅れているのか分からない。程度も分からない。五分か、一時間か、十時間か――しかし、とにかく、狂っている。 やがて、チャイムがなる。長い残業を終えた夫は、疲れているだろうに、ちっともそんな素振りを見せずに、ただいまと言う。 彼は子供部屋へ入って、娘の無事を確かめたあと、一服してから、シャワーを浴びる。 そしてタオルも腰に巻かずに、全てのしがらみを捨て去った姿でやってくる。眼が光っている。 毛深い腕が伸びてくる。尻をテーブルの上へ持ち上げられ、待って、と言うのに、そのまま身体をまさぐられる。 その時には彼女はもう裸になっている。乳房が張っている。下からすくい上げるように揉みしだかれる。 何も考えずに煙草に手をやるように、人差し指と中指でそっと乳首を挟まれる。 節の部分で摺りあわされて、回されて、弾かれて、赤く膨れて棗(なつめ)のようになる。 母乳は止まってしまったのに、唇でねぶられる。舌で転がされる。音が出るくらい吸われる。 うなじに手の平が触れる。暖かい。唇が迫ってくる。べったり張りつく。 舌と舌がねっとり抱き合う。口の中で溶けてゆく。身体に力が入らなくなる。 アケビの実のような性器へ手が伸びてくる。薄灰色のアナルに近い場所から、上へ、恥丘の辺りまで撫ぜられる。 指が一本入ってくる。彼女が望む速さで抜き差しされる。そうして、と思うタイミングで、肉を擦ってくれる。 息が荒くなる。口から湯気が出ているようになる。喋れない。でも声は出る。呻く。 ソファの上、窓の傍、床に手をつき、持ち上げられ、押さえつけられ、優しくされ、激しくされ、何度も責められる。 様々な体位で。あらゆる角度で。 どこまでも幽邃(ゆうすい)な世界で、意識が紫色の泥濘に沈んでゆく。その中で、ゆっくり、ゆすがれている。 彼女は何度も夫の名を呼ぶ。しかし、返事はない。何一つ言ってくれない。叫ぶ。どうして、どうして!? その言葉を無言の突きが解体してゆく。 アクメが無条件に彼女を捕まえに来る。思考と呼べるものを根こそぎ奪い取る。 最後には寝室にいる。柔軟体操をするように裸身をくねらせて、湿った瞳で瞬きしている。そして、もう気づきかけている。 気づきかけている。 突然、電話が鳴る。夫がベッドから降りる。その時には、もう分かっている。 分かっている。 取らないで!と叫ぶ。ここにいて!お願い! しかし彼には何も届かない。マジックミラーで空間がしっかり隔絶されているように。 受話器を耳に押し当て、顔面蒼白となり、何も言わずに、妻を残して、部屋から出て行く。 何処に行くのか、彼女は何故か知っている。 知っている。 何が起こるのか、結末までちゃんと、理解している。 理解している。 待って!と叫ぶ頃には額や目尻に深い皺が入り、プラチナの結婚指輪が指に食い込んでいる。 頬に染みが浮かんでいる。アルコールに姦(や)られた眼をしている。 乳房が垂れている。髪が短くなり乾いている。歯の裏に磨き残したヤニがこびりついている。 もう愛する夫は消え失せている。一原子すら存在しない。永遠に帰ってこない気がする。 それでも彼女は手を伸ばす。しかしその先には十七歳になった娘が立っている。 若き日の彼女よりも遥かに男を扇情するであろう裸体を晒して、蔑んだ眼で、 「醜い」 マージは悲鳴を挙げる。眼を開くと、寝室に一人、夢と同じように手を伸ばしている。 四十台の身体が汗ばんでいる。処理を忘れた陰毛がくたっている。 あの夜、彼女も結局は追いかけた。そして何かが決定的に歪んだ。歪みは性生活にダイレクトに影響した。 回数が徐々に減っていき、週に二回が一回になり、それが一月に二回になり、 何か特別な日でないとなあ、そうか独立記念日だったな、とでも言わんばかりに、数ヶ月に一回になった。 挿入を待ちくたびれて、すっかりたるんだ性器が、スコールが通り過ぎた跡のようになっている。 悪夢と気づいて脱力する間もなく、孤独が全身を覆いつくした。ただ、惨めだった。
マージが悲鳴を挙げる少し前、ナンシーは目を覚ました。肩から背中にかけて重みを感じる。 乗っかっている物が男の腕だと気づくのに時間はかからなかった。微かな寝息がばらけた髪に伝わる。 見上げると、グレンの顔がある。余分な力がどこにもかかっていない自然体の極致とも言えるその表情は、 無心を表現しているのか、幸福を表現しているのか、人間の素晴らしさを表現しているのか、あるいはそれら全てかもしれない。 寝惚け眼をこすって、上目遣いで眺めてみる。見ているだけでなんだかいいことがありそうな気がしてくる。 グレンは口を閉じたまま語りかけてくる。大丈夫、君が決めたことなら、必ず、できる。 ナンシーはゆっくり頷いたあと、ほとほと呆れてしまう。あなたってどうしてこんな風なのかしら? あんまり完成されているので、そっと右手を伸ばして、締まった下唇を人差し指でぺろんとめくってみる。 幼年期に装着していた歯列矯正器の賜物だろうか、一列横隊――止まれ、敬礼!真っ白い歯が見える。 高い鼻先をそっとつついて、ついには横からつまんでみたりする。 当然呼吸が億劫になり、眉間が狭まる。しかしその皺すらも何処か洗練されている。 むっとして、両の目尻に指を当ててやんわり押し広げてみる。自分以外、誰も知らないのだろう、グレンのこんな面白い顔。 悪戯を終えて、こっそり微笑む。「ごめんなさいね」つぶやいて、ベッドから出た。 散乱している文庫本やハードカバーを拾い集め(心の中でサン・テグ・ジュペリに謝りながら) 作家別にきちんと片付け終わると、グレンが目を覚まし、横向きの姿勢で大きく欠伸をしながら背伸びしている。 伸ばした手が、こつんと当たり、それが自ら贈ったセンス抜群の目覚まし時計だと気づくと、なにやら難しい顔をして、うーん、と唸った。 「やばい」 「どうしたの?」 「戻らないと。だいたいいつも七時半には起きてるんだけど、降りてこないと八時にママが起こしに来る」 「ふうん」空々しい声になった。「今……七時五十七分。もう間に合わないわよ」 「一応、部屋に鍵はかけてあるけど、かけてあるだけでも怒るし、あの分だと壊しかねないな」 「いいじゃない。鍵の一つや二つ壊れたって」 「そういう問題じゃない」 グレンがすばやくキスしたあと、ナンシーはまだ身体の調子が悪いし、他の人の目が気になるから、学校を休む、と伝えた。 これまたすばやく頷いて、彼は窓から撤退を開始した。足元がおぼつかないのに、手を振ることも忘れなかった。 躊躇せず、屋根から猫のように庭の芝生へ飛び降りて、タッチダウンを決める時のように全速力で道路を横切って、 ロッククライミングをするように屋根の端にぶら下がって――ナンシーは溜息をついて、ぽつりと毒づいた。「マザコン」 瞬く間にがらんとしてしまった部屋が、休息の終わりを告げていた。ナンシーは頬を両手でぱんぱんと叩いた。
リビングへ降りて、マージに学校を休むと伝えた。そう、返事はそれだけだった。 九時頃、二人で少し遅めの朝食を取っている間、父が帰ってきたか、何か言ってなかったかを訊ねた。 やはり父がまだ警察署にいるならば、担当官である以上ロッドに会うのは至難の業に思えた。 もちろん面会する権利はある。だけどそんなものは父の前ではホロコーストに収容されたユダヤ人の人権と同程度の価値しかない。 ナンシーは少し考えて、マージに事件の内容について父が何か話していなかったか、と訊いてみた。 母はロッドと面識があるし、そう悪い印象を抱いているとは思えなかったので、こちらの心情も理解してくれるはずだと踏んだ。 しかし、もちろんトンプソンがおいそれと捜査内容を喋るはずもなく、手がかりは得られなかった。 いっそ電話をかけて確かめてみようかと思ったが、昨日の今日なので、もしいれば、何を言われるか分かったものではない。 必ず口論で始まり口論で終わるだろうし、こう言った企みだけは、一言、二言、質問を投げかけるだけで、父は瞬時に見抜く。 八方ふさがりだ。 十時頃、電話が鳴った。マージは朝食を取ったあと、着替えもせずに、ソファにねっころがっていた。 何を考えているのか分からない眼をしている。そのままの眼で、ふらふら歩いて受話器を取った。 ナンシーはその様子を遠目に見ていたが、一言二言の会話を待たずに父からの電話だと理解できた。 第一声を聴いたであろう時の反応で分かる。疲れ切った表情になって、声がやけに重たい。 受話器が元の位置に戻されたあと、分かりきっていることをわざと訊ねた。「パパから?」 そうよ、とマージが答えて、昼の間は警察署を出ているから、何かあったら署にいるアレックスに頼む、 とトンプソンが言い残したことを告げた。今しかない――ナンシーは部屋に戻って大急ぎで支度を始めた。 十一時頃には、あらかた、と言ってもそんなに量はないけれど、伝えるべきことを整理できていた。 今習っている学科の本を借りに図書館へ行くと告げて、ナンシーは家を出た。 お願いだから行かないで、というマージの制止を振り切って。 泣きそうになっているのを見て、ナンシーは心底母を軽蔑した。父の赦しがないと何もできないのだと。 警察署と家はそう離れたところにはない。学校より少し遠いくらいで、自転車で十分もあればついてしまう。 まだ股の傷が痛むかもしれない、と思ったが、負けてたまるかという克己心と、計画上必要だったので乗っていくことにした。 フーパー通りを抜けて「ヴァーバのかつら屋」を右へ曲がり、道なりに蛇行しながら漕ぎ続ける。車はほとんど通っていない。 道を歩いている人も少ない。人口で言えばそれほど過疎な街ではないのだが、エルムの中流住宅地に限ってはいつもこんな風だ。 一戸建てに変わりばえしない庭が並び、普段から住人同士の横のつながりが希薄でひっそりしている。 かと思えば聖誕祭やハロウインなどでは、商店街が人でごった返すし、馬鹿騒ぎや、時には強盗傷害事件が起こる。 ランニングシャツを汗でべたつかせた痩せ型の男を追い越していく。すうすう、はっはっ、息遣いが聴こえる。 通り過ぎる瞬間に、男の汗の匂いを嗅いで、身体がびくっと震えたが、すぐにそれが何だと自分を奮いたたせる。 警察署が見えてきた。エルム市警は地下一階が留置所となっており、 何重にも鉄柵で囲まれた小さな窓が八つ、芝生の上から顔を出している。自転車を停めて、まずは屈んで、探してみる。 左側から順に見ていって、一番最後の窓から、広い肩幅、黒皮のジャンバーを着た男がベッドに腰掛けているのが見えた。 背を向けているので顔は判別できないが、十分だ。ついてる、ナンシーは心の中でつぶやいた。
署内へ入り、アレックスを探した。子供の頃から、たまに出入りしているのでナンシーを知っている職員も多い。 その中でも、あの日、自ら申し出てパトカーで送ってくれたアレックスはナンシーに好意的だった。 彼はナンシーが五歳の頃、ロニータウンの交通課からエルム市警の刑事課に異動を申し渡され、それからトンプソンと親交があった。 トンプソンが自宅に招待する数少ない男だった。言葉遣いが丁寧で、折り目正しい雰囲気を備えている。 歳はトンプソンより四つ上だが、年齢差よりもずっと老けているように見える。 これまでずっと独り者らしく、弟はサイゴンで戦死して、父が脳溢血で斃れた後、母はガンで若くして亡くなったらしい。 バーボンをやりながら、二人が時々神妙な顔つきで話し合っているのをナンシーは幼心に覚えている。 決まって物陰からこっそり見ているだけだったが、それが終わると、彼はときどき興味深い話を聴かせてくれた。 完全な自作なのか元があるのか定かではないが、とにかく彼は優秀なストーリーテラーだった。 落ち着いた雰囲気と柔らかい物腰は子供の警戒心を解くのに十分なものだったし、話の内容は二転三転して工夫がなされていた。 簡単な言葉を使いながら、独特の語り口調で、じんわり後に残るものがあった。 まだ幼いナンシーが「アレックスがテレビに出てお話してくれたら、私それずっと見ちゃうわよ」と言った時、 彼は一度大きく笑ったものだ。そして次に来た時は、テレビを題材にして面白い話をした。 祖父から貰い受けた蔵書が既にあったとは言え、そういった話がナンシーを本の世界へ導くことになったのは否定しようがない。 初めの内はそうやって二ヶ月に一度くらいは会うことができたのだが、時は流れ、 トンプソンが捜査手腕を評価され、明晰な頭脳から昇進を重ねていく中、彼はずっと巡査のままで、 部下の手前、特定の人物と慣れなれしくするわけにもいくまいと、自宅へ招待する回数は減っていったが、 それでも彼はナンシーを忘れることはなく、たまに道端でばったり会えば、きちんと笑顔で挨拶した。 父が彼に心を許したのは、歳が或程度近いということもあったろうが、 彼の人間性に負うところが大きかったのではないか、とナンシーは推察していた。 ナンシーは中をぐるりと見回した。ちょうど入って近いところ、 アレックスはデスクに向かってなにやらコンピューターらしきものをいじくっている。 とても眠そうだ。元々眼が細い方だが、今は閉じているのか開いているのか分からない。ナンシーは彼の前まで回って、手を振ってみた。 アレックスがおやと首をかしげ、データを保存した上で、立ち上がってやってきた。どっこらしょ、という立ち上がり方だった。
「お仕事中にごめんなさい」 「警部補ならおりませんよ。今出てます。しかしお嬢さん、学校は?」 「具合悪くて、休んでるの」 「確かにあんなことがあった後です。無理もないですが、ならお家でゆっくり休んでいないと。それで、どうかしたんです?」 ナンシーは率直に言うことにした。それでまず反応を確かめてやろう。 「面会したいの。ロッド・レーンに」 アレックスは下を向き、眼をぱちぱちさせた。 「警部補に怒られちゃいますよ。いや別に止められちゃいませんけどね」 「じゃあいいじゃない」 「いやね、あなたが会いにくることなんて、想像もしてないと思いますよ。ずっと怒ってましたよ、あれから」 「どんな風に?」 「あの野郎、娘に何かしてやがったらただじゃおかんぞと。ぶつぶつ言ってましたから。 皆こわごわですね。いつもは冷静なんですけどねえ、あの人――いや、失礼、警部補も」 ナンシーはロッドがひどいことをされているのではないかと心配になった。骨の一つや二つ、はずみで折ったっておかしくない。 「パパならいいって言ってた」 「あーあーあー、嘘はついちゃいけません。嘘をついたせいで」 「マッケインは、全てを失い、さめざめ泣いた」 「そう、よく覚えてる」 「昔、家に来た時、話してくれた。嘘をつくと――」 「嘘を守るために嘘を重ねる。積み重なった嘘が自分をすり減らす。周りを傷つける。だから嘘はいけません。 嘘をつくのも人間だけ。ねずみのクーピーは嘘をつきません」 「……その通りだと思う」 ナンシーの頭にグレンの顔が浮かんだ。いつかは話さなければならない。自分が犯されたこと。 「どうか、しましたか」 「ううん、ごめんなさい」 「実を言いますとね。昨日凄く機嫌悪かったのでね。いやもうここ最近ずっとですね。 お家の方では大丈夫ですか?私ごときが心配するのも何ですけれど」 ナンシーは怒っている父を思い浮かべた。そうするのは簡単だった。だいたいいつもかりかりしているのだから。 はっきり言って、昨日のことはまだ許してはいない。警察官という職業柄、仕方ないとは分かっているけれど、 それにしたって言い様がある。昔のように、アレックスが家に来てくれた時のようになってくれたらどんなにいいだろう。 あの時は厳格ではあったが、優しかった。気遣いがあった。ナンシーは久しぶりにアレックスと会うといつもそんな気分になる。
「怒ってたんだ。年甲斐もなく」 「取調べ室からでてきて、もう凄かったですよ。いらいらしてると」 「耳たぶを触る。ひっかく。それでも収まらない時はひっぱる」 「ひっぱってましたよ。耳が伸びて象みたいになっちゃうんじゃないかと思いましたよ。あ、言わないでくださいね」 「言わないわよ、でもその代わり」 「だめです」 「じゃあ言っちゃうわよ。アレックスがパパのこと頭の禿げたダンボみたいだって言ってたって」 「脅迫罪です。それに言ってないことまで増えてます」 「面会する権利を奪うのは何罪って言うの?」 アレックスは眼をしぱしぱさせて言った。「なるほど」 「どうしても、会いたいんですね?傷つくことになるかもしれません。お嬢さんはどうもそう考えてらっしゃらないように見えますが、 彼は列記とした容疑者です。それも殺人事件の。担当官ではありませんで、よくは知りませんが、状況は圧倒的不利です。 つまりもうやったとみなされている。私もそう思っています。拒否するのは、警部補がよく思わないというのももちろんあります。 でも、あなたが傷つくことの方がいけない。だから勧めない」 「事実は受けとめてるつもりよ」 「捕まった時点でたいていの者は錯乱しています。出られる保証がない限りね。 もしくは諦めているか。取調べを受けると、こんなこと言いたくありませんが、実際あれは人を惨めにさせます。 そうするようにできているんです。人が変わったようになることもありますから――」 「それでも、会いたいの。自分の眼で確かめたいことがあるから。彼に言っておきたいことも。そうしないと一生後悔するような気がする」 ナンシーは真剣な眼差しでアレックスの顔を覗き込んだ。アレックスは腕組みして、それを受け止め、しばらくたって顔を緩めた。 「私が通したことは、内緒にしておいてくださいね」ナンシーの顔がほころんでいく。 「当然よ。嘘はつかないでやるわ。黙秘する権利だってあるもの。好きよ、アレックス」 「まあ、仕方ないですね。でも、本当に大丈夫なんですか?あの時――」 「あなたの前でいっぱい泣いちゃったわね」 「いえ、すいません」 「ううん、ありがとう。あなた、あんなに夜遅くて、ずっと残って仕事してたのに送ってくれた。 頑張れば歩いて帰れない距離でもなかったのに。それに、ずっと何も言わないでいてくれたわ。 車だってゆっくり運転して、全然揺れなかった」 「ええ、何だかそうした方がいいような気がしましたから」 「今思うと、それが凄く嬉しかった」 「どうも。正直、なんだか、とても懐かしく感じます。こうやって喋るのが」 アレックスが「こっちです」と言って、カウンターから出て、通路を歩いていき、ナンシーはそれに着いていった。 階段を降りて進むと、面会用の手続きをする場所に出た。アレックスが受付けに事情を説明した。 話が通ったらしく、ナンシーは用紙に名前を記入、貴重品を預け、ボディチェックを受ける。 差し入れの品を見せると、面会担当官は余りいい顔をしなかったが、警部補の娘ということで、大目に見てもらえた。 長い通路の両側にそれぞれ扉があり、その奥に牢が控えている。一番奥の扉を開けて、担当官が言った。 「十五分後にまた来ます。早く終わるか、何かあれば扉をノックしてください。 一応、監視カメラがついてますから、異常が認められれば、すぐに駆けつけます」
ナンシーは扉をくぐった。コンクリートの壁は雨で腐蝕しており、上からつららのようにグレイの細い線が入っている。 左側には茶色い糟がこびりついた洋式のトイレが据えつけられ、汚臭が外にいるナンシーまで伝わってきた。 トイレの横には、やたら平べったい組み立て式のベッドが置かれていて、 それに腰掛けていたロッド・レーンがナンシーを見るや否や口笛を鳴らした。来ることを信じていたのだろう、特に表情は変わらなかった。 「よお、遅いぜ。眠っちまうとこだったよ」 ロッドは横っ腹を押さえながら立ち上がった。 顔に疲労の色は見えるが、手負いの狼と言ったところで、まだ力は失われていない。 ナンシーは、やっぱりやる気なのだ、と改めて思った。 「ねえ、大丈夫なの?」 「あんまり大丈夫じゃねえな。何回入っても慣れやしねえ」 「慣れたら困るわよ」 「違いない」 「そうよ。ねえ、ロッド、本当に、あなた、やる気なのね。そんな途方もないこと」 「そのためにずっと起きてる。奴と刺し違えたっていい。ティナの仇を討つ。あのくそったれを殺す。もう俺にはそれしかない」 力強い口調だった。 「やめてよ、そんな言い方」 「だけどな、俺に先はねえ。ここに来てすぐ賭けに出たが、どうやら今のところ成功してるみたいだ。 親父さん、ハードだぜ。ひやひやもんだな。バレちゃねえだろうかって。時々、凄い眼でこっちをじっと見てくる。 刺すような視線ってのは、ああいうのを言うんだろうな。額に拳銃突きつけられてるみたいだ。ありゃ相当修羅場くぐってる。 腹はたくさん殴られたが、なんてことねえ。だが、親父さんの眼はおめえの右ストレートくらい痛い」 「やめて。似てない。私とパパは似てるところなんか一つもないの」 「まあ、俺もあのクソ親父に似てるって言われるのは我慢ならねえ。しかし遅かれ早かれ凶器は見つかる。 見つからなくても検察に送られて裁判が始まって有罪が確定する。無理だ、状況が状況だからな。 法廷に立ったとして、頑張れば裁判官が木槌叩いて笑い転げてくれるかもしれねえけどよ、それすら自信ねえ。 仮に真面目に釈明して雁首並べた陪審員が話を聞いてくれたってな、ぶっ叩くのがコンクリートの壁かウレタンの壁かの違いだけだ。 そのことについては諦めてる。しょうがない。むしろ……先の生活なんか興味はない」 「よく……ないわよ」 「正直、まだ空いてる。なんだか、ぽっかり、胸を殴られて、その部分がなくなってしまったみたいに。 いや、やめよう。こんなこっちゃ、奴に勝てない。 まあ俺がムショに送られたらジェイミー・リー・カーチスのポスターと安物の金槌でも差し入れてくれや」 「待って、私も証言するわ。あなたが犯人じゃないって。諦めたらダメ、きっと、証明する方法は……」 「ない。だろ?いいんだ。そんなことで頭を悩ませてる暇はない。 そんなことはベッドの横にトイレがない場所で寝られる奴が考えればいい。 ナンシーは情報をくれ。俺が眠って奴を叩き潰す。勝算はあまりないがな、一発かましてやる」
「どうすんのよ、何かあるの?何にもなしで立ち向かっていったって死ぬだけよ」 「死んだらその時だ。死ぬことはもう怖くない」 ごく自然な口ぶりだった。ナンシーは哀しげな顔をした。 やはり、ロッドは死ぬ気なのだ。生き残ることよりも、言ったとおり刺し違えることを望んでいるのかもしれない。 そう思うと、いたたまれなかった。なんでそんな考え方しかできないのだろう。 張り飛ばした時と同じような感情か、ナンシーの胸に湧き上がって来た。 「いや、いや……いや!もう、馬鹿じゃないの!いっつもいい加減なくせしてこんな時だけかっこつけちゃって、なによ、 刺し違えるとか、死んだら、とか、ほんと、ティナの言う通りね。 馬鹿!単細胞!あんたなんか頭切り開いて脳味噌取り出して一日氷嚢に漬けときゃいいのよ!」 ロッドは何も言わなかった。少しの間黙って、つぶやいた。「まったくひでえ」 ナンシーは牢に手をかけ、父親譲りの強い視線でロッドを見据えた。 「私は、誰も欠けるのは嫌。私も死なないし、あなたも死なない。それに、あなたがそんなこと言ってもティナは喜ばない」 ロッドは強く頷く。 「ああ、そうだ。だが、やる」 「……私もやるわ。これは私の問題でもあるから。あいつの恐ろしさが分かったから。 あなたに会ったあと、あれから……学校で、居眠りしてて、出てきた。あいつが」 「無事だったのか?怪我は?」 ナンシーは何も言えなかった。フレディの顔を思い出して、怖気づいているところに、ロッドがまた話しかけた。 「ナンシー、時間が惜しい。あのくそったれについて分かることがあれば教えてくれ」 そう、そのために来たのだ。ナンシーは気を取り直して、最後の夢の記憶を辿っていく。 家で整理した情報をもう一度、呼び覚ましてみる。知っていることは限りなく少ない。まずは…… 「あいつの名前は……フレッド・クルーガー。自分で言ってたの。夢の中で。 嘘か本当か分からない、男みたいな名前だけど、あいつはそう言ってた」 ロッドの眉がぴくりと動いた。 「フレッド、クルーガー」とロッドは教科書に書かれた人名を読み上げるようにつぶやいた。 「知ってるの?」 「いいや……だが、何処かで聞いたことがあるような、気がする」 「思い出せる?」
ロッドは何度も頭の中で名前を繰り返してみる。フレッド・クルーガー、フレッド・クルーガー、フレッド・クルーガー。 確かに何処かで聞いたことがある。それも最近ではない。大分昔のことだ。今はそこまでしか分からなかった。 「……いや、先に情報が欲しい。他には?」 「そう――襲われた時――歌が聴こえたわ。女の子が歌ってるの。確か……1、2、フレディが来るぞ。 3、4、ドアに鍵かけろ。5、6、十字架にすがれ。そこから先はよく覚えてない。眠るな、とかそんな意味だったと思う」 「十字架にすがれ、か」 ジャンバーの内ポケットに手をやる。もう十字架は入っていない。押収されてしまった。 「それだって、夢の中だから、根拠なんてないのよ、でも、分かることはそれくらい。ねえ、あなたは夢の中で、どうなったの」 「追っかけまわされた。暗い廃墟だ。その中であっちこっち迷ってた。いったいどこだが分からんが、やたらリアルだったな。 地下室は配管だらけで、最後はボイラー室のところまで逃げて――もう少しで殺されそうになって」 「十字架が守ってくれた」 「いや、違う。その時は犬だ。俺の名犬チャットくんだ。ああそうだ、あいつをひきとってくれないか? クソ親父に任せたって、どうせ腹いせに使われるか、捨てられて保健所送りだ。あの野郎犬だって殴りやがるからな」 「なんとか……してみる」 「頼んだぜ、まあ、とにかく、それが奴との一度目の出会いだった。 二度目は……ナンシー、嫌な気分になるかもしれないが、いいか?分かっていることは全部言っておきたい」 「ええ」 「二度目はあの夜。逃げたあとだ。夢の中でまたあの部屋へ戻ってきてた。 ティナに会ったよ。かすり傷一つ負ってなかった。俺はバカだった。逆に夢の方を信じてしまった。 これが現実で、ティナが殺されたのが夢なんだってな。それで、その、隣の部屋、 お前達が寝るはずだった部屋、そこで、お前とグレンが……その、よろしくやってた。声が聴こえた」 ナンシーが言葉通り嫌そうな顔をしてロッドを見た。ロッドはぽりぽり耳を掻く。 「うん、悪い。でも夢だ。しょうがない。俺とティナはそれを見に行って」 「何してんのよ!」 「大きな声出すなって。見られてんだから。来るぜ、あいつら」 そう言って、扉の外を指差す。幸い、誰も来る気配はないが、ナンシーは信じられない、という顔でロッドを見ている。 「まあ、それが、奴の罠だった。ティナなんかじゃなかった。鉤爪の女が化けてた。 爪をつきたてられて、十字架がなければ殺されてた。ナンシーは?」 「私――私は――」 ナンシーの顔が微妙に変化する。ロッドはそれを見逃さなかった。 「私は、もっと遭ってる。あいつに。これで、八回目」 「そんなに?よく無事でいられたな」 「自分でもそう思う。それで……」 「それで?」 「ずっとされてたの。あいつに、あなたが見たような……いやらしいこと」 ロッドは唖然として、それから鉄柵をぎゅっと握り締めた。ナンシーがされているのならば、ティナもされていたのだろう。 怒りで鼓動が早まる。なんとか抑えて、目を伏せているナンシーを気遣った。「悪かった、もういい」
「いいえ、言わせて。グレンにはこんなこと言えない。あなたしかいないの。言える人」 「……分かった」 「それまで、ずっと、裸にされたりとか、指でされたりとかだったの。だからただの夢だと思ってたのよ。 誰にも言えなかった。自分がそんな女だと思われたくなかったから。それが、バカだった。 何処かで、いつか終わるものだって気持ちがあった。でも、どんどんひどくなって、 学校であいつに襲われた時、捕まって……怖かった。汚い言葉で罵られて……最後まで犯された」 ロッドはナンシーを見れなかった。ただ、耳を傾けて聞いてやることしかできない。言葉が見つからなかった。 「ねえ、ロッド、私とグレン、してたと思う?」 「いいや」 「なんで分かるの?」 「さあな、勘だ」 「私はもうバージンじゃない。あいつに犯されたから。とても怖かった。夢から覚めた時、殺して欲しかったと思った。 でも今は、生きたい。あいつが殺してやりたいくらい憎い」 「…………」 「今でも、はっきりあの時の感じが分かる。あいつの顔が浮かぶ。昨日、もっとひどかったのよ。 誰にも会えないような状態だった。グレンに、その震えを止めてもらったの。でも、効き目が切れてしまわないかって不安になる」 「あいつは……見るのかな」 「たぶん、まだあってないと思う……分かんないけど。でも話してしまえば巻き込んじゃうと思って、何も言えなかったの」 「ああ、あいつはこういうことには向かない。死体を……増やすこともない。だけど、あいつは、大真面目野郎だが、 お前には100%惚れてる。忘れるなよ、そのこと。だから、その、上手く言えねえが、心配はするな」 「うん、分かってる」 「なあ、ナンシー、俺はティナを守れなかった。あいつが切り刻まれてる間、ただ泣き叫んでいるしかなかった。 お前らにはそうなって欲しくない」 「そのためにあいつと戦うのよ。それに――それに、ティナは囚われてる」 「なんだって?」 「最後の夢でティナに会ったの。ティナはあいつに利用されてる。魂なんてものがあるのか分からないけど、ずっと捕まってるのよ。 闇の中にいる。その中で苦しんでいるような、そんな気がした。だから、私はティナを助けたい」 「くそったれが――」 ロッドの顔がみるみる赤く染まった。壁を思い切り蹴り上げる。ナンシーが名前を呼ぶが、耳には届いていない。 「くそっ!くそっ!くそぉっ!許さねえ、なあ、これが許せるか?ナンシー、ちくしょう、ティナ、囚われてるだって? まだ苦しんでるのかティナは。死んじまったのに、まだ苦しまなきゃならないってのかよ!殺してやる。 ブチ殺してやる!あいつがやったみたいに切り刻んでティナよりもっと苦しませてやる!あいつを――」 「落ち着いて!落ち着いてよ!私だって……そうやってやりたいわよ……」 ロッドは我に返った。今辛いのはやはり犯されたナンシーなのだ。熱が引いていく。「すまねえ」
「ねえ、それで、私、考えたんだけど、作戦があるの」 「どんな?」 「夢と現実がリンクしてるってとこがポイントだと思う。あいつに切られると、現実でも切られる。 あなたのジャンバーに穴が空いているように」 「ああ」 「ユングって知ってる?」 「知らねえ。速球は80マイルで変化球がよく曲がりそうな名前だな。ルーキーか?」 「こういう時でも冗談言わないと気がすまないのね」 「あんまり気の利いたもんじゃねえけどな」 「いいわ。怒ってるよりそっちの方があなたらしくて」 「ああ、それで?」 「カール・グスタフ・ユング。精神分析で夢を研究した有名な学者なの。 現在ではその説は正しいとも間違ってるとも証明されていないけど――普遍的無意識って、知らないわよね。 ユングは人類はみんな共通の無意識を持つって説を唱えた。精神病患者の妄言や妄想を基にそれらはつくられた。 夢がそれを現すこともあるって。同じシンボルを見たり、同じ情景を見たり。 もちろん全てじゃないわよ。個人的無意識ってのもあるの。でも人間の無意識はどこかでつながりあっている」 「凄え妄想ヤローだな」 「ええ、でも、もしユングの説が正しければ、同じ時に眠って、夢を見たら、それはつながり合ってるんじゃないかしら」 「しかし――」 「そう、夢を見るとは限らない。同じ夢を見る可能性も低い。 そもそもその説が正しいのかも分からないし、正しいとしてもさらに飛躍して捉えた考え方よ」 「でも、かけてみるしかない」 「そうよ」 「確かに二人でいればメリットはあるな。片方が何らかの衝撃を加えれば、強制的に眼を覚ますこともできるかもしれない。 俺は少なくとも、夢で与えられたショックで眼が覚めてる。 あいつの弱点も何も分からない今、一人で寝てもやられるだけだと思えば……」 「持ってきたわ、これ」 ナンシーはプラスチック製のデジタル腕時計をロッドに渡した。 「これ、アラーム付きの奴。私は家に目覚まし時計があるから大丈夫。それで十二時に決行よ。 寝る時間を合わせるのは難しいけど、何とか努力して。一時にアラームをセットする。 そうすれば眠った一時間後には危なくなっても眼が覚める。何とか粘ることができたら、情報を持ちかえれるかもしれない。 もし夢を見ても、見るまでのタイムラグがあるから、実際に夢の中をさまよう時間はもっと短い。 だから死ぬ確率はちょっぴり減らせる。明日またなんとかして来るから、お互い無事だったら、その時にまた話合いましょう。 でも、パパが見張ってたら来れないかもしれない。明日、私が昼までに来なかったら、一日置いて、また同じことを繰り返す。 明日来れなくても明後日には来れるかもしれないから、その時に作戦の立てようもある」 「凄いな。予想以上だよ」 「私も本気なのよ。あんな奴に好きにさせるわけにはいかない」 「ああ、分かってる」 「これから図書館で調べてくるわ。あなたの記憶にその名前があるとするなら、街の記録を調べれば何か出てくるかもしれない。 フレッド・クルーガーって女が何者か分かるかもしれない。期待通り、夢で遭えたら成果を話せるかもね。ねえ、もし」 「うん?」 「もし、出られたら、どうしようか?」 ロッドは少し考え込んで、顔を上げた。口元には照れたような笑みの欠片が残っていた。 「そうだな……まずはナンシーの家でチーズケーキが食べてえな。あったかい。柔らかい。 ずっと前――まだ俺がお前らに逢ってそんなに経ってない時、四人で映画観に行ったよな? 待ってる間、お袋さん、アップルパイ、食べさせてくれたんだけどさ。ありゃ最高だった。 でも俺が一番好きなのはチーズケーキなんでね。それが食いたい」 「そう、正直言って、チーズケーキはもっといいのよね。何なら私も作ってあげる。作り方……一緒だし」 「ありがてえ」 担当官がやってきて、扉を二回、強く叩いた。「十五分です」 「死なないで」 「ナンシーも、絶対に、死ぬな」
ナンシーはその後、アレックスにお礼を言って、図書館へ向かった。 夢に関する学術研究書を何冊か借りてから、フレッド・クルーガーなるものの手がかりをあらゆるところから探そうとした。 まずは街の犯罪記録――ロッドの記憶に残っているのならば、伝承、もしくは実在の人物であった可能性が高い。 どういう仕組みで夢に出てくるのか知らないが、少なくとも全うに社会生活を営めるタイプではない。気狂い女だ。 もし昔の人物――オカルトじみたことだが、死者であるならば、相当前の記録も漁らなければならない。 新聞の切り抜き、犯罪史を洗っていく。どこにもフレッド・クルーガーなる名前は見当たらなかった。 夕方になり、一度公衆電話を使い、帰りが遅くなることを伝えようとしたが、 やはりマージは泥酔していて、電話に出ることはできなかった。やがて閉館となり、 ナンシーは夢について少し詳しくなった以外は、何の手がかりも得られないまま家へ帰った。 午後九時、ロッドはまた取り調べを受けた。内容は相変わらずだったが気持ちの張りが全く違った。 次に眠れば仇に遭える、ナンシーと別れてから不穏な気配が感じられ、そんな気がしたからだ。 これに耐えさえすれば、奴に遭える、その感情がロッドの眼をさらに強くして、トンプソンをいらだたせた。 のらりくらりと交わす中で、ロッドは一度、気まぐれでただ何となしにその名を口にした。「俺はやってない。やったのは」 「フレッド・クルーガーだ」 腹に力を込めていたが、パンチは飛んでこなかった。ジャックマンとトンプソンは慄然たる表情でロッドを見ていた。 「貴様ァッ!」トンプソンが叫んで、ロッドの頬を力いっぱい殴りつけた。頬骨が折れたかもしれなかった。 椅子ごとひっくりかえって頭を床に打ちつけ、薄れゆく意識の中ロッドは思った。こいつら――知っていやがる――。 なぜ?と思考を巡らす頃には、床に横たえた顔に一発、今度は固い靴の感触が伝わった。 さらに一発蹴り上げられ、もう一発はジャックマンが羽交い絞めにして防いだが、ロッドは三発目で、十二時を待たずして意識を失った。 (to be continued→)
422 :
名無しさん@ピンキー :
2005/10/18(火) 23:06:39 ID:1fBaqh0v そろそろ次スレお願いします 建てらんないんで