ガンダムキャラに萌えるスレ

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634Outer Space 第1章
 その夜も、いつもと同じだった。部屋の中にやや荒めの息遣いと水の漏れるような微かな音が響き、くぐもった声の後で一瞬の静寂が訪れる。
 ややあって身を起こした男は後始末をすませると、先に自分の手で脱がせた寝衣と下着を、部屋の主であるベラ・ロナの傍にそっと置いた。
 背を向け身支度をしようとした男――世話役のザビーネ・シャル――を引きとめたのは何故なのか、ベラ自身にもはっきりとは分からなかった。分かっていたのはただ、もう少し二人で居たいと願う心だけ。


 過去の自分と決別するためのきっかけとして、ザビーネに抱かれることを望み口にした時、彼は一日待って欲しいと答えた。ベラ様の気持ちが変わるかもしれませんから、と。
 そして翌日、気持ちが変わらなかったことを確認した後は、与えられた任務を果たすかのような生真面目さで事にあたった。
 挿入する直前に許しを得る言葉を発した以外、ずっと無言ではあったけれど、初めての身体への思いやりが感じられる穏やかな抱き方は、居たたまれない想いと孤独感に苛まれていた心をほんの一時(ひととき)温めてくれた。

 当初望んだのは、後戻りできぬ刻印を自分の身体に押してもらうこと、それだけだった。一度きりで終わりにする筈だった夜を幾夜も重ねてしまったのは、自分の弱さに他ならない。
 肉欲に溺れたのではなく――溺れるほどのことをザビーネはしてくれてはいない――人肌のぬくもりが欲しかった。束の間であっても、その間だけは孤独感が薄れ、自分のせいで死んでいった人間の顔を忘れることができるのだから。
635Outer Space 第1章:03/10/15 21:56 ID:QELxuF0J
 相手にザビーネを選んだのは、彼の細やかな心遣いに誠実さを感じたからだ。
 シーブックの生死を確かめるために立ち戻ったあの場所で、最初は早く立ち去りましょうと促していたのに、泣き出してからは静かに見守っていてくれた。誰の死を悼んでいるのか、その相手とはどういう関係ないのかと、一言も問うことなく。
 それに、誰かに抱かれるなら、シーブックの命を想って流した涙を知っている人間にしたかった。勝手な言い草なのは分かっているけれど……

 その後も、誘えば否とは言わず無言のまま淡々と自分を抱き、終わると静かに部屋を出てゆくザビーネ。彼にとってはこれも任務の一環であり、義務でしかないのかもしれない。そのことに、物足りなさを感じるようになってきた自分がいる。
 それに、触れ合う肌から伝わってくるものがある。掴もうとしても僅かなところで手を擦り抜けていってしまう何か、その存在に気付いてからは微かな希望を感じている何か――それが何なのか確かめるためにも、もう少し一緒にいる時間が欲しかった。

 とはいえ、いざ引きとめようとすると、腕を掴んで引っ張ることしかできない。物慣れない自分を情けなく思う。振り返ったザビーネの顔に怪訝そうな表情が浮かんでいるのを見て、言葉もなく俯いた。
 この気持ちをどう伝えればよいのだろう? 潔癖なザビーネは、これ以上の職務逸脱を嫌うのではないだろうか。私の任務にはそこまで入っていませんが、と冷たく返されたら!?
636Outer Space 第1章:03/10/15 21:57 ID:QELxuF0J
 落とす視線の先を見慣れぬものが横切っていった。ザビーネが振り向いたことで、視野に入ってきた彼の分身。何度か抱かれていたとはいえ、面と向かって見たのは初めてで、我知らず眼が釘付けになってしまう。
 視線に気付いたザビーネが慌てて身をよじって隠そうとしたが、既に後の祭りだった。薄暗い部屋の中でもはっきり分かるほど屹立していたそれは、眼に鮮やかな残像となって焼き付いてしまったのだから。


「……もう一度、と…?」
 沈黙の後でベラが問う。
「いえ、私は――」
 言いかけて口をつぐむ。今さら何の言い訳ができるというのか。一度抱いただけでは収まらない欲望を、一番知られたくない相手に知られてしまった。
「不様なものをお見せして、失礼しました」
 肉欲を制御できていないのは恥ずべきことでしかなかったし、ベラが自分に求めていることとも違うと分かっていた。
「……」

 もうこの部屋に呼ばれることはないだろうと考え、今度こそ身支度をしようとしたザビーネの背に、柔らかいものが触れた。伝わってくる鼓動と、そこだけ違う温かさ――ベラが裸の胸で抱きついてきたのだ。
「ベラ……様!?」
「私も望んでいると言ったら、はしたなく思いますか?」
 耳を掠める声。顔を見ることはできなかったけれど、身体の前へおずおずと回された両手が小さく震えていることが、ベラの真情を痛いほど伝えていた。
637Outer Space 第1章:03/10/15 21:59 ID:QELxuF0J
「いいえ、嬉しく思うだけです」
 意を決して再度振り向いたザビーネの顔を、ベラの真摯な眼差しが見返す。抱き寄せるより一瞬早く、自分から胸の中に飛び込んできた。ザビーネを見上げた姿勢で眼を閉じる。
「よいのですか?」
 初めて抱き合った夜、口付けしようとした時に首を横に振られて以来、二人の間でそれはタブーとなっていた。今、ベラはその縛めを自らの手で解こうとする。眼を閉じたまま小さく頷いて、ザビーネを待った。

 ふわふわとした柔らかい唇。初めは軽く触れ、二度目は下唇だけをやや深く吸う。
「あぁ……」
 離れた瞬間のベラの吐息がザビーネを三度目へと誘(いざな)う。手を後頭部に回し、舌で唇をこじ開けて中へ入ってゆく。
「んんっっ」
 初めての動作に戸惑うベラ。歯茎をなぞり舌に絡んでくるザビーネの舌に刺激されて、頬に赤味がさす。

 そのさまを至近距離で見守りながら、ザビーネはベラの手を自分の手で包み込んだ。小さな掌に微笑み、口元へ運んで手の甲に口付ける。
「あっ」
 唇を滑らせ、指の間に舌を差し入れる。
「ああっっ!」
638Outer Space 第1章:03/10/15 22:00 ID:QELxuF0J
 喘ぎ声がザビーネの中の男を駆り立てる。片手で身体を抱きしめながら、指の一本一本を丹念に舐め上げ、その度に上がる嬌声を耳にする。隻眼が嬉しそうに細められ、頬が僅かに上がる。
 中指に差しかかった頃には、ベラは手だけでなく全身を震わせていた。

 震えがザビーネにも伝染し、欲望を抑えきれなくなってくる。
「任務以上のことを、してもよいでしょうか?」
「してください……いいえ、任務では厭! ザビーネの心が欲しい」
 潤んだ瞳でザビーネを見つめ、哀しげに首を振る。
「私の心?」
「義務で抱いてくれているのは分かっています。それでも私は――」

 ベラの頬を零れ落ちる涙に、胸が絞めつけられる。慣れぬ感情に戸惑うザビーネ。
「ベラ様……」
「二人きりの時はベラと呼んで」
「……ベラ、義務ではありません」
「ザビーネ、本当に!?」
「ええ。なんと言ったらいいのか、このような感情は初めてで……でも、義務ではないのです」
「あぁ、ザビーネ!」
639Outer Space 第1章:03/10/15 22:01 ID:QELxuF0J
 ザビーネはベラ眼の縁に唇を当てて、残りの涙をそっと吸い込んだ。いつになく優しい仕草に、ベラが嬉しそうな笑みを返す。清楚な中に艶やかさを含んだその微笑みが、ザビーネの心を直撃した。
 抑えていた心が奔流のように荒れ狂い、二人を押し流していった。狂ったような口付けの後でベラをベッドに押し倒し、情熱的な愛撫を加えるザビーネ。首筋に、乳首に、脇腹に、太腿に、そして花芯に、激しくも細やかな刺激を加え、快感を高まらせてゆく。

 ベラは溺れていた。声を抑えるのが精一杯で、それさえも次第に怪しくなってきてしまう。
「っあーーーっ!」
 高らかな喘ぎ声がザビーネをさらに駆り立てる。膝を立てた状態で脚を開かせ、愛液にまみれている花芯を舌で攻め始めた。
「ザビーネっ!」
 慌てて起き上がろうとするベラを腕の力で抑え込み、有無を言わさず続行する。弾力性に富む太腿は手にしっとりと馴染んでいる。

「こんな……あぁんっ!」
 花蕾がぷるんと揺れ、泉が涌き出る。繊細さを秘めた極上の味を、舌で余すところなく味わう。
「あん、あふんっ! あぁぁーーーっ!!!」
 初めて迎える絶頂に呑み込まれるベラ。咽喉を大きく仰け反らせ、快感に身を委ねている。快楽のさなかにも崩れることのない、きりっとした美貌と肌がほのぼの上気するさまが、ザビーネの眼を楽しませた。


 ベラの息遣いが少し落ち着くのを待って、彼女の内部にいつもの錠剤を差し入れる。上半身を起こした姿勢で自分の身体を固定して、ベラを膝の上に抱き上げた。
 何度目かの口付けを交わした後で一旦腰を浮かさせ、ベラが頬を染めて見守る中、はちきれそうな分身を蜜で溢れた入り口へと侵入させてゆく。
640Outer Space 第1章:03/10/15 22:03 ID:QELxuF0J
「あぁっ!」
「くぅっ、いい……」
「いい!? 私が?」
 息を荒くしながらベラが問う。抱き合っている時にザビーネがそのようなことを言うのは初めてで、それだけでも心が弾んだ。

「吸い込まれるような、ううっ……それでいて…きついのです……」
「ザビーネ、嬉しい……ああぁんっ!」
 根元まで挿入したザビーネが、ベラの腰を片手で抱えてさらに深く貫く。もう片方の手は乳房を鷲づかみにし、力強い愛撫を加えている。
「はぁぁぁんっっ……ザビーネ…がこんなに凄い……なんて……」

 繋がったまま口付けを繰り返すザビーネ。舌を絡ませるコツを覚えてきたベラに頬が緩む。
「ベラがさせているのですよ。うぅぅっ…私を誘って……いらっしゃる」
「そんな……」
「今までも、抑えるのに……んぁっ……どれだけ苦労したか」
 いつも冷静で、抱き合っている時ですら表情ひとつ変えなかったザビーネの、眉間に寄った皺がベラを喜ばせる。

「我慢して、いた…の?」
 弾む気持ちが声に出てしまう。知らず知らずのうちに内奥を絞め、ザビーネの皺をさらに増やす。
「ええ。だからもっと…誘っ……てください。奥深いとこ…ろへ私を……もう我慢したく、ない」
「ザビーネ、ザビーネ、来て!」
 背中に回した手を強め、さらに深く結びつこうとする。内部で存在を主張している分身が、眼の前にいる男と同じぐらい愛しかった。
641Outer Space 第1章:03/10/15 22:04 ID:QELxuF0J
 情動に突き動かされて、ザビーネは挿入したままのベラを抱きかかえると、ベッドの上に組み敷いた。脚を高く上げて自分の肩に乗せさせ、さらに奥を目指す。
「あぁぁんっっっ!」
 先端が最奥に当たり、初めて知る刺激をベラの脳髄にもたらした。それは理屈を越えた快感だった。さらなる快感を求め、無理な姿勢からザビーネの背に手を回す。

「ベラこそ、くぅぅっ……良過ぎます。いって、しまいそう…だ……」
 きつく締め上げる内奥に、自制心が吹っ飛んでしまいそうになる。これほど女の身体に感じたのは初めてだった。身体の相性がいいのか? いや、それだけではなく――
「ザビー……ネ、ザビーネ!」
 名前を呼ばれることが、こんなに嬉しいと感じたことは無かった。この気持ちは何なのか。

 激しく腰を動かしながら、手を花芯に這わせ、固くなっている蕾を揉みしだく。
「一緒に……あぁっ、いくっっっ!」
「ザビーネっっ!」
 二度目とは思えないほどの飛沫が噴出する。一瞬遅れてベラも達した。
 ただでさえきつい内奥が大きく収縮し、分身はいいように翻弄される。ザビーネは腰を動かすのも忘れ、最奥まで挿入した姿勢で内部の蠢きに身を任せていた。

 ベラの身体が奏でる絶妙な調べ――透明感を持つその音楽はザビーネに新たな活力を与え、闇の中の演奏会が再び幕をあげる……
642名無しさん@ピンキー:03/10/15 22:06 ID:QELxuF0J
第1章はこれで終わりです。
F91しか見たことがなくて、小説や続編の漫画は直接読んだ事がないので、
解釈その他に甘いところが多いかもしれません。

今回はザビーネの心情があまり出てきませんでしたが、次の第2章で触れて
いてシーブックも登場します(と言っても、登場するだけという感じですが)。
ほぼ完成していますので、近いうちにUPできるかと思います。

それから、ベラが抱かれることを望み関係を続けたことへの動機づけとしては、
原作の展開や状況から考えるとFekiaさんの書かれたものに凄く説得力が
あると思ったので、近い形のものを使わせていただきました。
オリジナリティがなくて申し訳ありませんです(汗

最後になってしまいましたが、触発かつOKくださったFekiaさんと
温かいレスをくださった方たちに、心からの感謝を。ありがとうございました。
643名無しさん@ピンキー:03/10/16 19:18 ID:iQmPw3Fu
>633様
 こういう二人もいいですね。キャラの行動や台詞が、切なく優しい雰囲気を出し
ていて良いと感じます。特に、>638の指攻めや二人の会話が、グッと来ました。
間接的な表現も、SSの雰囲気に合っていると思いました。
 ただ、強制的な改行を、入れられた方が良いでしょうね。今のままでは横長過
ぎて読みにくいので、30〜40文字で(段落変更を示す一文字分のスペースを入
れずに)一度改行された方が、よろしいかと。
 第二章、頑張って下さい。FekiaさんのSSと絡み合って、セシリー(ベラと呼ぶ
べきか)とザビーネの光と影を、照らす事が出来るのではと期待しています。

追記
 F91の続編であるクロスボーン・ガンダムは、少し前に普及版が出たばかりです。
B6版・カバー無しで、厚めの漫画誌の様な感じです。コンビニエンスストア等に
置かれているので、購入してぜひ読んでみて下さい。面白いですよ。
644名無しさん@ピンキー:03/10/16 21:06 ID:hMNcH9KJ
Fekia様も610様もそれぞれキャラがたっていて面白かったです!!
エロの点でも満足。良質なセシリーの話が2つも読めて嬉しいですねえ。
どちらも続きたのしみにしてます。
645名無しさん@ピンキー:03/10/16 22:28 ID:pqjZq7gK
>>633
乙です。ピュアですなー
Fekiaさんとは全然違う世界を描いてて、ここに来る楽しみが増えた

>>643(632と同じ人だよね)
活字文化とネット文化は違うから職人さんの好き好きでイインジャネーノ
ニュアンスを出すためにわざと「・・・」を使うのはネットではよくある手法だし、
改行もまたしかり。読みにくきゃ、自分のブラウザの幅を変えればいいんだしさ
646名無しさん@ピンキー:03/10/16 22:51 ID:3CLXpX1S
>645
>読みにくきゃ、自分のブラウザの幅を変えればいいんだしさ

 そうか、その手があった。何て抜けてるんだ、自分は。
647名無しさん@ピンキー:03/10/16 22:58 ID:TXdddDbv
キタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━!! 
久しぶりに覗いてみたらこんなことに!!

長年セシリーのエロを待ち望んでた自分としても
いきなり2つもセシリー物が読めて感涙してます!!
自分としては610氏の萌え萌えなザビ×ベラは非常にツボなので
長年待っててよかった。・゚・(ノ∀`*)・゚・。 
そのうえFekia氏の容赦のないストーリーやエロ描写に
初めてSSに本気でハァハァしてしまいました

Fekia氏、610氏頑張ってください
続きがホント楽しみです
648『孤独の果て』の人 ◆HcwCZnpTzw :03/10/16 23:07 ID:iQmPw3Fu
 以前、オデロとエリシャの話をこのスレッドに書き込んだ、『孤独の果て』の人と
名乗る者です。旧シャア板の『ウッソたんハァハァ6〜男性専用〜』の776の書込
みを元ネタにしたSSが書けましたので、投下させて下さい。
 全36回。ウッソを18歳にしてます。マーベットとやります。無駄に長いです。前振
りが長いです。後始末も長いです。俺設定バリバリ入ってます。
 そういうのが嫌な方は、読み飛ばして下さい。いっぺんに沢山レスを消費して、
どうも済みません。では、行きます。
 狸に化けた十八歳のウッソ・エヴィンが、妖しい光を浴びながら、深紅のソファー
に座っている。目の前にある低いテーブルの上から、冷たい水の入ったグラスを
持ち上げた。そのグラスを持つ手には、オレンジ色の毛が伸びている。
(全く……。誰だよ、こんな事思い付いたの)
 そう思いながら、上に大きな耳を生やした顔の方に、グラスを持って行く。むき
出しの口にそそがれる冷たい水は、未だに飲み慣れない酒で火照ったウッソの
白い頬を、少しだけ冷やしてくれた。
(ふぅ、あと半月か)
 狸から人に戻る日を待ち遠しく思いながら、ウッソはグラスを空にして行った。

 去年の暮れ、ウッソは一生懸命ハムやソーセージを作っていた。ラゲーン基地
の居住区にある店の、売れ筋商品だからだ。
 今は地球連邦軍が使っているラゲーン基地の居住区に、去年の夏、自分達で
作った野菜や畜産品などを売る小さな店を、カサレリアの住民達は開いた。かつ
てムバラク将軍の部下だったという人が、今のラゲーン基地の司令官で、その人
の厚意による物である。
 それまでは、ウーイッグの市場で露店を開いて商売をしていたが、本格的に店
を構えるのは今回が初めてだ。カサレリアで作った食べ物がどれだけ売れるか
心配だったが、そんな事は杞憂に終わる。無農薬の野菜や手作りの畜産品が、
味・品質が良い割りに安いとあって、飛ぶ様に売れて行った。
 特に、ウッソが中心になって作った羊肉のソーセージは、軍人達に、
「精が付く」
 と評判だった。余計な加工をせずに、肉質と作る時の手間隙だけで勝負をした
味が、受けているのだろう。食べ応えのある大きさも、評判が良かった。
 それなりの規模の農場・牧場になったカサレリアで、肉製品作りを担当している
ウッソには、それがとても嬉しい。だからウッソは、秋の農繁期が終わると、ハム
やソーセージ作りの毎日で忙しかった。そう、クリスマスが近い事を忘れる程。
 シャクティがクリスマスに腕時計を贈ってくれたというのに、ウッソはプレゼントを
用意する事すら、忘れていたのだ。羊や豚の肉の相手が、忙しかったあまりに。
「ウッソは、私よりもハムやソーセージの方が好きなのね」
 そう言って頬を膨らませる風邪をひいたシャクティに、ウッソは必死になって謝っ
た。お陰でシャクティは機嫌を治してくれたが、その彼女が年末、肺炎で倒れる。
この冬流行っているタチの悪い風邪を、こじらせてしまったのだ。
 早目にウーイッグの病院に入院させたので、それ程酷くはならなかったが、ウッ
ソには二つの事が心配だった。シャクティの健康と、治療費である。
 早く元気になってもらおうと思って、一流だと評判の病院にシャクティを入れたの
だが、その入院費が高い。蓄えがあるとは言え、次の秋からウーイッグの小学校
に通わせるカルルマンの学費も、残しておかなければならない。
 農場の責任者であるマーベットは、お金を貸してくれると言ったが、いつも仕事
で大変な彼女にウッソは迷惑を掛けたくない。それに、シャクティにお詫びもしたい。
 だからこうして、狸の格好をしている。
 ウーイッグの歓楽街にある、『おさわりクラブ こだぬき』。ここが、昼間ハムや
ソーセージを作った後の、ウッソの職場となる。夜の街なら、手っ取り早く金が稼
げると思ったからだ。
 最初は単なるホストクラブにでも行こうかと思ったが、ウッソは派手なスーツなど
持ってはいない。死んだ筈の父ハンゲルグが残した四着のスーツしか、ウッソの
家には紳士用スーツが無いのだ。
 しかもそれらは全て、質素なデザインと色をした、地味なシングルのスーツだ。
自分の体にピッタリだからと、十八歳になったウッソはそれらを不満に思う事無く
着ていたが、そんなスーツはホストが着る服では無い。だが、言葉と雰囲気で女
を酔わせる夜の男になる為に、高くて派手なスーツを買って蓄えを減らしては、
本末転倒だ。
 だから、自分で服を用意しなくてもいい店を、ウッソは選んだ。狸の着ぐるみを
身にまとう恥ずかしさなど、大切なシャクティやカルルマンの為なら、どうという事
は無い。それに『おさわりクラブ こだぬき』は、給料の方も満足行く額だ。
 可愛らしさの中に所々精悍さが差す十八歳のウッソの顔を、店のマスターは一
目で気に入ってくれた。即日採用で、年明けから三ヶ月程、働く事に決まる。
 ウッソの体に合うサイズの、オレンジ色の狸の着ぐるみを、マスターはすぐに用
意してくれた。だが、その着ぐるみに細工がしてある事など、ウッソは思いも寄ら
なかった。
 まず、生地が薄い。着ぐるみの上からでも、それにお触りしている相手の指の体
温が、はっきりと分かる程だ。その上、狸の耳と尻尾に、妙な仕掛けがしてある。
左右の狸の耳を触るとそれぞれの胸に、尻尾を触ると股間の前後に刺激が走る
様に、店の着ぐるみは出来ていた。そんな物を、素っ裸の上から直接着なくては
いけないのだ。
 着ぐるみ越しの間接的な愛撫を客にさせて、ウッソはお金を稼ぐ事になった。恥
ずかしくて仕方が無いが、シャクティやカルルマンの為だ。それに、すぐ店を辞め
ては、折角採用してくれたマスターにも悪い。そう思う、ウッソは。
 一月から働き始めて、二ヶ月半。退院したシャクティの具合も、ほとんど良くなっ
ている。それだけ時間が経ったというのに、ウッソは未だに接客の度に上がって
しまって、頬が赤く染まるのだ。
 この二ヶ月半、どぎまぎしながら、客の話相手をしたり酒を勧めたりしている毎日
だ。下手っぴな接客だと、ウッソ自身は思っている。だが、そんなウブな態度で、
白い頬を赤らめながら一生懸命サービスをしてくれる子狸ウッソが、店に来る女性
客に受けているらしいのだ。皮肉な物である。嫌がるウッソを、何とか店外デート
に連れ出そうと企む客も多い。
 今もウッソは、贔屓にしてくれている金持ちの女性客の一人に、オレンジ色の体
を撫で回され、狸の耳や尻尾をいじくり回されたばかりだ。お陰でその女性客は、
ウッソの甘い喘ぎ声と可愛く歪む顔を楽しみながら、高い酒の瓶を空にしてくれた。

(昼でも夜でも、働くっていうのは大変だよ)
 そう思いながら、冷水を飲んで火照った体を冷やすウッソに、次の客がやって来
た。
「マ、マ、マーベットさん!」
 カサレリアにいる筈の褐色の背の高い女性が、焦るウッソの視線の先に立って
いた。薄墨色のロングコートと、乳白色の冬物のスカートスーツという、まだまだ
寒い三月の夜には不釣合いな明るさを、マーベットは着ている。だがその明るさが、
褐色の肌を持つマーベット・イノエの美しさを、逆に際立たせていた。
「うふ、こんばんは、こだぬきさん」
 マーベットはそう言って、オレンジ色の可愛い狸に微笑みを向ける。他のホスト
に薄墨色のコートを預けた後、真珠の指輪を嵌めた左手にハンドバッグを持って、
ウッソの左隣にある深紅のスペースに腰掛けた。そしてすぐに、水割りを楽しむ
為のセットが、ウッソとマーベットがいるテーブルに運ばれて来る。
「似合ってるわね。可愛いわよ、ウッソ」
 深紅のソファーに座ったマーベットはそう言って、オレンジ色の狸に肩を寄せる。
着ぐるみの薄い生地を通して感じる、彼女の肩の温もりが、ウッソの心をさらに戸
惑わせた。
「似合ってるって……。からかわないで下さいよぉ。大体、何でマーベットさんが
お店に……」
 そう言いながら、ウッソは氷を入れたグラスに水割りを作る。少し不満気に、しか
し丁寧に作ったそれを、マーベットの方に廻した。オレンジ色の、狸の手で。
「あっらぁ、お客さんに向かって、何て事言うのかしら。こだぬきさんは」
 あと一時間で仕事が終わるという時に現れた思わぬ客は、そう言って、狸の左
耳を左手で摘まんだ。ウッソの左胸に、胸パッドから生まれた電気仕掛けの快感
が走る。
「や、やめて下さいよぉ」
 微かに切なくなった声で、ウッソは嘆願する。頬を赤らめて顔を歪めるウッソを
見たマーベットは、摘まんだ左手を放すどころか、その力をさらに強めた。時々
それをやめて、指先で撫でたりもしてみる。
「ほ、ほんとに、やめて下さい……」
 耳に加えられる力に呼応して強まる、胸からの快感の為に、ウッソの声は切なさ
を増した。赤い頬を隠す様に、少しうつむくウッソの顔。マーベットが指先を摘まん
だり擦ったりする度、狸の耳を生やしたウッソの顔が、白から赤へと変わって行く。
 氷と酒の入ったグラスがテーブルに置かれた後、それを持っていたマーベットの
右手が、ウッソの頭の後ろを通って、オレンジ色の狸の右耳へと向かった。
「あは、いい感じね。こっちも、摘まんじゃおっと」
 うつむくウッソの顔が、さらに傾く。他の女性客なら我慢出来る快感だが、顔見
知り、しかもかつて憧れのお姉さんだった人の生む快感だと思うと、我慢が出来
ない。ウッソはとても恥ずかしくて、マーベットの方に顔を向ける事が不可能だった。
「や、やめて。ほんとに、やめて……。マーベット……さん」
 そんなウッソの声がした後、マーベットの両手が狸の耳から離れる。満足気な
表情で、グラスに残った水割りを飲み干すマーベット。ウッソの胸に快楽を生んだ
手が、狸の方に空のグラスを向けた。
「はい、おかわり頼むわね」
「そんなに早いペースで飲んだら、悪酔いしちゃいますよ」
 酔った明かりがほのかに灯った頬を見ながら、ウッソはマーベットに声を掛けた。
お酒、強いのかな、マーベットさん。
「いいから。おかわりよ、こだぬきさん」
「その、『こだぬきさん』っていうの、やめて下さいよぉ」
 再び不満気に、再び丁寧に水割りを作るウッソ。それを見るマーベットの顔付き
が、次の楽しみの為に変わった。
「わがままばっかり言ってる悪いたぬきさんに、お仕置きよ。えいっ」
 マーベットの右手が、彼女の方に突き出た狸の尻尾を強く握る。ウッソの股間の
前に、衝撃が走った。そのまま被せる様に言われている、着ぐるみの股間の前に
付いた電動ラブホールに、スイッチが入ったからだ。不自然で不思議な人工の弾
力から生まれる快楽の振動の為に、グラスの中で回るマドラーの動きが止まった。
マドラーの代わりに、喘ぎ声を放つウッソの口が回る。
 その動きを見たマーベットは、握る右手の力を弱めた。ウッソの股間の前にある
振動が、止まる。マーベットは悪戯っぽく微笑んだ後、右手で軽く掴んだままの狸
の尻尾を、引っ張ってみた。
「ぅあっ……。マーベットさん、駄目……、駄目っ!」
 尻尾を引かれた為に、ウッソの後ろにある電動のアナルプラグが、振れ始める。
前にあるラブホールの締め付けが終わったというのに、ウッソは別の快感に襲わ
れた。もぉ、我慢するの大変なんだよぉ、マーベットさぁん……。
「あ〜ら、ほんとに面白いわねぇ。じゃ、今度は……」
 マーベットはそう言うと、水割りを作り終えた狸の尻尾に、左手も伸ばして来る。
そして狸の尻尾を、両手で強く握りながら引っ張ってみた。ウッソの前と後ろに、
同時に強い電動の衝撃が走る。耐えられなかった。
「あぅっ! マーベットさぁーん!!」
 ウッソは、着ぐるみの中に二つの快楽を振動させる女性の名を叫びながら、ロー
ションの精液割りを、ラブホールの中に作ってしまった。狸の頭巾の中から見える
部分が、全て真っ赤に染まっている。マーベットの意思で、射精をさせられた事で。
マーベットにその時の顔を、見られた事で。
 頭巾の中から見えるウッソの両目から、涙が流れた。
「あ……。ご、ごめんなさい、ウッソ。やり過ぎちゃったかしら……」
 戸惑うマーベットに、ウッソが狸の顔を向ける。真っ赤な頬に涙が流れているが、
マーベットを責めている表情では無かった。
「いえ、気にしないで下さい、マーベットさん……。ラウンジでいっちゃうの、初めて
だから……」
 着ぐるみを換えなきゃ。ウッソはそう思って、深紅のソファーから立ち上がろうと
する。そんなオレンジ色の可愛い狸を、マーベットの両手が止めた。褐色の両手
がオレンジ色に絡み付いて、狸をソファーに押さえ付ける。
「明日から、お休みよね」
 酒を飲みながら、ウッソの二日間の休日を確認するマーベット。時間を掛けて
飲み後えると、彼女は嬉しそうな笑顔で、マスターに向かって大きな声で言った。
「マスター、この子の店外デートのオプション、お願いね」

 薄墨色のコートを再び着たマーベットが、狸を脱いだウッソと一緒に、部屋の中
へと入る。その部屋の中は、妖しい光に包まれていた。
「どうしたの、きょろきょろして? まだ、お酒が抜けてないの?」
 ウッソの行動に疑問を持ったマーベットが、酔いの抜け切っていない頭を働かせ
て、疑問を示した。
「い、いえ、ラブホテルなんて入るの、初めてで……」
 そっか、シャクティとは、こんな所に来なくても出来るわよね。マーベットはそう
思いながら、脱いだコートを洋服掛けに渡す。
「私は、昔オリファーと何度か来た事があるわよ。リガ・ミリティアのアジトや工場
じゃあ、遠慮無く抱き合うのは、難しかったからね」
 あの戦争の途中でいなくなった夫の名前を、マーベットは口にした。懐かしそう
に。酔いが少し残っているせいか、不思議な程口が軽い。酒の助けを借りて発せ
られた彼女の言葉を聞いて、ウッソの顔付きが変わる。
「やっぱり、やめましょうよ……。オリファーさんに悪いですよ、こんな事」
 自分を抱きたいというマーベットの願いを、ウッソは否定した。少しとは言え、酒
に酔っている女性を抱くのは、どこか卑怯な気がするからだ。
 人の温もりが欲しい時、マーベットはウッソを抱く。ウッソを貸してと彼女がシャク
ティに頼む度、いつもウッソは戸惑いながら、先程と同じ台詞を口にするのだ。ま
た言ったわね、ほんとにもう……。
「いいから。シャクティにも、ちゃんと許可は取ってるわ。『病気の私の代わりに、
ウッソを可愛がってあげて下さい』って言ってたわよ、あの子。
 それとも、こんなおばさんが相手じゃ嫌かしら、こだぬきさん?」
 スカートスーツの右ポケットに入れた手を出しながら、マーベットはそう言った。
満足そうに微笑む彼女の顔には、シャクティへの焼き餅が、少し混ざっていた。
「そ、そんな事言わないで下さいよ。まだ若いじゃないですか、マーベットさんは」
「そーよ。まだ若いのよ、私は。だからこうして、人生の楽しみ、色々味わいたいん
じゃない」
 からかう様にそう言いながら、左手の薬指に輝く真珠の指輪を、マーベットは外
した。乳白色のスカートスーツのポケットから出しだハンカチで、真珠の指輪を丁
寧に包む。そしてそのハンカチを、大きなベッドの横にある低い棚の上に置いた。
その後、ウッソの手が持っている自分のハンドバッグも、その棚に置いてもらう。
「おやすみなさい、オリファー。やきもち焼かないでね」
 マーベットはそう言って、棚の上にあるランプの灯を消した。そのマーベットの行
動を、ウッソが不思議そうに見ている。
「どうしたの、ウッソ?」
「い、いえ、『オリファー』さんって……」
 二人でベッドに座った後、マーベットは、悲しみがほんの少し混じった微笑みを、
ウッソに向ける。僅かに酒の火照りが残る彼女が、話し始めた。
 マーベットが左手の薬指に嵌めていた真珠の指輪は、オリファーがくれた物だ。
不機嫌だったマーベットに。
 ウッソとシャクティと出会う前のクリスマス、マーベットはオリファーと宇宙にいた。
恋人が素敵な贈り物をくれると期待して、彼女はクリスマスを迎えたのだが、オリ
ファーは何と、プレゼントを用意していなかったのだ。
「地球に降りる為の準備と、降りた後の活動への用意で、とても忙しかった」
 そう言い訳をしながら、オリファーは必死にマーベットに向かって謝った。いつか
必ず埋め合わせをするからと、何度も何度も言いながら。そうやって必死に謝罪
し続ける恋人の姿が、マーベットにはとても可愛らしく見えた。
「でね、私がカミオンのお爺さん達と合流する為、オリファーと地球に降りる時、彼
があの指輪をくれたの。
 でも、傑作だったわよ。『僕の人魚姫を泣かせてしまったから』なんてキザな台詞、
どこで覚えたのかしら、あの人」
 そう言って微笑むマーベットの笑顔は、マケドニアコロニーの捕虜収容所で行な
われた、二人の結婚式の時に見せた笑顔と同じだった。だが、マーベットの幸せの
笑顔に、悲しみの陰が現れる。
「泡になって消えちゃったのは、人魚姫じゃなくて、王子様だったけどね……」
 オリファーが恋人から夫になってすぐ、この世からいなくなった事を、マーベットは
思い出した。指輪を嵌めていない左手で、目から溢れた涙を拭う。どうやって彼女
を慰めていいのか、ウッソには分からなかった。
「ごめんなさい、ウッソ……。こんな所でする話じゃ、なかったわね。酔ってるのか
な、私……」
 微かに悲しみが混じる声で、マーベットはウッソに謝る。やっぱり、やめましょうよ、
マーベットさん……。
「……僕、出来ませんよ。酒に酔ってるマーベットさんを、抱くなんて。……オリファー
さん、悲しみますよ」
 そう言うウッソの胸に、隣に座るマーベットの泣き顔が伏せた。そこから、大きな
泣き声が聞こえる。ウッソは泣き声の後ろに掌を回し、マーベットの頭を撫でてあげ
た。彼女を優しく、癒す様に。
 泣き疲れたマーベットが、ウッソの胸から顔を上げた。何かを求める様な瞳を、ウッ
ソの澄んだ瞳に向ける。お酒じゃ消えないのよ、寂しさは……。
「嫌よ……。私を抱いて、ウッソ。人の温もりが欲しいのよ、私……。
 ウッソが欲しいから、戦争中にずっと着ていたツナギと同じ色のコートを、今日着
て来たのよ。あなたにオリファーをやって欲しいから、ウェディングドレス代わりの
白いスーツを、今日着て来たのよ。
 だから……、お願いウッソ、私を思いっ切り抱き締めて。私を一番に愛して。今だ
けでいいから……」
 酒と涙で潤むマーベットの瞳を見たウッソは、彼女を胸に強く抱いた。

 お湯を張った大きな湯船に、二つの裸が入っている。酒の赤味が消えたウッソと、
酔いから醒めたマーベットだ。
「お風呂が立派な部屋を選んで、良かったわね」
 マーベットはそう言って、ウッソの澄んだ瞳を見た。澄んだ瞳の視線が、お湯の
上に浮いている自分の胸の方に、向いている事に気付く。
「何、ウッソ? 私はもう、おっぱい出ないわよ」
「そそ、そんなんじゃないですよ。大きな胸だなって、見とれてて……」
 恥ずかし気に白い頬を赤く染めるウッソの顔に、マーベットは両手で、お湯を掬っ
て掛けた。慌てるウッソ。微笑むマーベット。
「うふふ、相変わらずお世辞が上手いわね、あなた。だからお姉さん達は、みんな
ウッソを好きになったのよ」
 風呂の湯で濡れたウッソの顔が、さっきよりもさらに赤くなった。そう言えば、ジュ
ンコさんやマヘリアさんも、おっきな胸だったよなぁ……。
「あっらぁ〜。今、ジュンコ達の事、考えてたでしょ」
 ウッソの瞳の光が濁ったのを見て、マーベットは責める様に優しく言った。そして
もう一度、お湯を掬ってウッソに掛ける。
「ご、ごめんなさい、マーベットさん。失礼な事して」
「分かればよろしい、こだぬきさん。
 ……ん〜、そーねぇ。じゃ、今日は自慢のおっきなバストで、ウッソの温もりを感
じますか」
 マーベットは嬉しそうな声でそう言った後、大きなエアーマットの上にうつぶせに
寝る様、ウッソにお願いした。その通りにするウッソ。どうするんだろ……。
 マーベットの温もりが、いつまで経っても近付いて来ない。ウッソは不思議に思っ
て、下を向く顔を動かす。マーベットの胸に咲いたボティソープの泡の花園を、視
線の先が発見した。
「な、何するんですか?」
「えへへ〜、い・い・こ・と。動いちゃ駄目よ、ウッソ」
 褐色の胸に咲いた白い泡の花園が、マーベットの笑顔と共に、ウッソの背中へ
近付く。こわばった二つの乳首の感触を感じた後、二つの柔らかい乳房の感触が、
ウッソの背中を包んだ。こわばった小さな感触と、柔らかい大きな感触が、背中
の上を往復する。
「あっ、いぃ……。な、何ですか、これ……」
 微妙な快楽を乗せた声を、ウッソが洩らす。その声を聞いたマーベットは、体の
動きをさらに大きくした。
「マットプレイとか、言うらしいわね。初めてやるけど、気持ちいい?」
「は、初めてって……。オリファーさんとした事、無いんですか!?」
「うん。やってあげる前に、あの人はいなくなっちゃったから……。
 しっかしねぇ……。今そんな事に、気を回さなくってもいいでしょ、ウッソ。もっと
デリカシーって物を、持ちなさい。今の私は、あなただけを愛しているんだから」
 そう言いながらマーベットは、ウッソの背中で円を描く。その動きが、くすぐったく
て気持ち良かった。初めて味わう心地良さで、ウッソは切ない吐息を生む。マー
ベットがさらに胸を押し付け円を描くと、広いバスルームに甘い声が響いた。
「っあっ、マーベットさぁん……」
「あら、相変わらず敏感ね。ニュータイプだからって、感じ過ぎよ。今度はお腹を
洗ってあげるから、仰向けになって」
 泡の花園を背中から離したマーベットが、再びウッソにお願いした。素直に仰向
けになる、ウッソ。その澄んだ瞳には、マーベットの言葉への疑問と、これからの
体験へ期待があった。ニュータイプって、体も感じ過ぎるのかな?
 ボディソープを再び塗って、マーベットはもう一度自分の胸に、白い泡の花園を
咲かせる。その花園を、ウッソの胸へと近付けた。マーベットの乳首と、ウッソの
乳首がキスをする。その感覚に、ウッソは思わず声を洩らした。
「だからぁ〜、感じ過ぎだって言ってるでしょ〜。もっといい事してあげたら、オリ
ファーの所に行っちゃうんじゃないかしら、あなた」
 ウッソの感度が良過ぎる事を、冗談っぽく咎めながら、マーベットは胸の柔らか
さを動かし始めた。彼女の潰れた胸が動く度に、白い花園がウッソの胸とお腹に、
白い綿帽子を飛ばす。
 マーベットの吸い付く様な柔らかい胸の感触が、ウッソの胸やお腹の上を、何
度も何度も往復する。そして時々円を描いた、二つの大きな柔らかさが。
 押し付けられる胸の圧力が、強くなったり弱くなったりする。それに合わせて、
ウッソの中の快楽も、強くなったり弱くなったりした。だが、マーベットの大きな胸
から伝わる幸せは、ウッソの中で強まる一方だ。
 充分に綿帽子を飛ばせたマーベットの胸が、ウッソから離れた。胸に残った泡
の花園を、シャワーで念入りに洗い流す。そして彼女は、ボディソープとは別の
容器を手に取った。
 マーベットはその容器から出るぬめりを、自分の深い胸の谷間に、たっぷりと
塗り付ける。彼女の胸はぬめりの為に、今まで以上に輝いていた。
「ウッソのおちんちんは、ローションで洗ってあげるわね」
 何で? 疑問に思うウッソ。
「さっきの泡じゃあ、駄目なんですか?」
「うん。石鹸とかは、蛋白質を溶かしちゃうから。ボディソープでもいいけど、ウッソ
が痛いんじゃないかと思って」
「……ありがとうございます、マーベットさん。そりゃあ僕だって、痛く無い方がいい
ですよ」
 そう言った顔にある瞳を、ウッソの膝の間で体を折ったマーベットの瞳が見詰め
る。そんな彼女の瞳に、疑問の光が生まれた。
「もしかして、シャクティはしてくれないの、バストで?」
「ええ……。何かされるより、色々してあげる事の方が多くて……」
 それを聞いたマーベットの顔に、微笑みが咲いた。嬉しそうな褐色の笑顔を、い
きり立つウッソの股間に向ける。
「うふふ、可愛そうなウッソのおちんちん、私が慰めてあげますからね〜」
 マーベットはそう言った後、可愛そうな可愛らしいウッソを、まじまじと見詰めた。
「ん〜。……長さも太さも、同じなのね」
「何がですか?」
「あなたが作ってるソーセージが、ウッソのおちんちんと同じ大きさなのよ」
 いつも作っている羊肉のソーセージが、自分の股間から生えているとは、思い
も寄らなかった、ウッソは。とっても恥ずかしい。
「えぇーっ!? そ、そんな事言わないで下さいよぉ〜。一杯作って、沢山の人が食
べてくれるんだからぁ〜」
 戸惑いと恥ずかしさで顔を真っ赤に染めるウッソが、そうマーベットに抗議した。
あまりに恥ずかしいので、作るソーセージの大きさを変えると、言い出す始末だ。
「駄目よぉ、大きさ変えちゃあ。売り上げ落ちたら、どうするのよ?
 基地の軍人さん達、精が付くからって言って、あのソーセージを食べてるのよ。
みんながウッソのおちんちん、食べたがってるんじゃない、もぉ〜」
 マーベットの言葉で、ウッソの顔がこれ以上無いという程、赤く染まる。そんな
自分の顔を見られたくないかの様に、ウッソは両の掌を顔に押さえ付け、頭を左
右に振り続けた。
 それを見たマーベットは、自慢の胸で、ウッソのソーセージを食べ始める。ウッ
ソの口から洩れる声の表情が、恥ずかしさから甘さに変わった。
「何よぉ。挟んだだけで、そんな声上げちゃって。もっと我慢しなさいっ。今から
ウッソのソーセージを、私のバストが食べるんだからぁ」
 ウッソを優しく叱るマーベットの大きな胸が、ぬめりの中を動き始める。彼女の
歪んだ谷間にウッソが現れる度に、甘い声がバスルームの中に響いた。声の甘
味を増やす為、マーベットの胸がウッソのソーセージを柔らかく噛む。
 前後に、上下に、左右に。時に優しく、時に強く。褐色の谷間を歪ませる度、ウッ
ソから生まれる響きが、望み通りに甘味を増す。それが嬉しい、マーベットには。
(そろそろかな?)
 響きの甘味が増えなくなったので、マーベットは、胸を咀嚼するピッチを上げた。
手の動きを回転させて、ウッソのソーセージを良く噛んでみる。美味しいわね〜、
ウッソのおちんちん。
 甘い声が自分の名を叫んだ時、ウッソの精が、黒いショートカットの前髪に飛ん
で来た。マーベットの胸が、ウッソのソーセージを食べ終わった合図だ。
「やっだぁ、もぉ〜。出すんなら出すって、ちゃんと言ってよねぇ。髪に付いちゃった
じゃない」
 自分の黒髪に降ったウッソの白い精を、マーベットはそう言いながら、右手で
拭った。その右手を洗った後、脱衣所へのドアを、少しだけ横に開く。脱衣所の
床に置いていた殺精子ゼリーの箱を、褐色の手が取った。そして箱を開け、愛す
る我が子がこの世に生まれ出て来た場所に、ゼリーを注入する。
 マーベットはその後、リンス入りシャンプーの容器を手にした。ウッソの白い精
が降ったショートカットの黒髪を、洗って綺麗にする為だ。
 洗髪をするマーベットの姿を見ながら、ウッソは疑問に思っていた事を、尋ねて
みた。
「何で、僕が働いてる店の場所、知ってたんです? お店の名前も場所も、教え
てなかったでしょ。仕事の内容を聞かれた時も、曖昧に答えたのに」
 ショートカットの黒髪の上に、シャンプーの白い花園を咲かせながら、マーベット
は答えた。
 今はラゲーン基地で管制官をしているネスが、以前から何度も、あの狸の巣に
マーベットを連れて行ったのだという。ラゲーン基地の居住区には、あんな遊びが
出来る店は無い。だからネスはストレスが溜まった時、休暇を使って狸達の所へ
遊びに行く。そして、酒でへべれけになった自分をラゲーンまで送って行く役を、
マーベットに任せていたのだ、ネスは。
「二年前にネスが結婚してから、行く事は無くなったけど、お店の名前と場所は、
忘れなかったわよ。着ぐるみなんか着せるお店は、ウーイッグでも、あそこしか無
いんだから」
 マーベットはそう言って、自分の黒髪に咲いた白い花園を、シャワーで洗い流し
た。綺麗になった髪をタオルで拭った後、まだまだ若い自分の人生を、ウッソと楽
しむ事にした。
「さてと、こだぬきさん、二人で巣に帰りましょっか」
 そう言うマーベットは、バスルームのドアを開けようとするウッソを見付ける。殺
精子ゼリーの隣に置いていたコンドームの包みを、ウッソは取るつもりなのだ。
「あら、付けるの? 今日は生で、やらせてあげようと思ったのにな〜」
「え? マーベットさん、ゼリー入れてたじゃないですか」
「ま、一応ね。どっちも持って来たのは、私なんだし。
 ……実は、安全日になる今日まで、ウッソのお店に行くのを我慢してたのよ、私」
 マーベットが、ちょっと恥ずかしそうな表情で、そう告げる。ウッソの顔が、また
赤くなった。
「でで、でも、やっぱり付けないと。マーベットさんに、僕の子供を生んでもらうわけ
には行かないから……」
「あら、いいわよ、ウッソと私の子供が出来ても。あなたと私が、結婚すればいい
だけの話じゃない」
 冗談とも本気とも取れる表情の声でそんな事を言って、目を細めるマーベット。
ウッソの顔がさらに赤くなるのを、その細い目が確認した。
「だぁーっ!! そんな冗談、言わないで下さいよぉー」
「結構本気よ、私。あなた、オリファーに似て来たし。
 ……ま、許してあげますか。ウッソには、シャクティがいるからね。お似合いよ、
あなた達」
 その声の後、マーベットの褐色の体が、エアーマットの上に掌と膝を付いて四
つん這いになった。ウッソとの快楽を、狸の様に後背位で楽しみたいらしい。そん
なマーベットを見て、脱衣所の床からコンドームを取った後のウッソは、戸惑って
いる。不思議に思うマーベットは、ウッソに向けて疑問の声を放った。
「どうしたの? バックは嫌い?」
「い、いえ、そんな格好でした事、あんまり無いから……」
 ウッソの話によると、シャクティは、四つん這いになる後背位が嫌いらしい。ウッ
ソの温もりを遠く感じるからと言って、シャクティはそんな体位を嫌がるのだという。
「あはは、可愛いわね、シャクティは。
 でも、人生は色んな事があるのよ。色々やって、色々楽しまなきゃ。二人で色ん
な事をするから、愛し合う者同士の絆が、強くなるのよ。そう思うわ、私」
 マーベットは首を回して後ろを向き、コンドームを付けようとするウッソに、そう
言った。だがウッソは、自分を包もうとぜす、暗い顔になってうつむく。寂し気な声
で、マーベットに謝り始めた。
「ごめんなさい、そんな事言わせて……。オリファーさんの事……」
 ウッソの謝罪を聞いた後、マーベットは後ろにある暗い顔から、目を背ける。澄
んだ瞳が無い自分の前の方に視線を向けた後、彼女はウッソに声だけを向けて、
話し始めた。
「いいのよ、ウッソ。あなたとシャクティにも私にも、未来はあるんだから。
 でも、カサレリアの時より、もっと早くあなたに会いたかったわ。V1のコアファイ
ターの後ろに体が入るなんて、私、知らなかったもの。オリファーと宇宙にいる頃
知っていれば、あの人と一緒にヴィクトリーに乗って、星達の中をデート出来た
かも知れないわね」
 ごめんなさいね、オリファー……。少しだけ、あなたの代わりをウッソにして貰う
わ……。
「じゃ、私達の未来の為に、始めましょっか。ウッソご自慢のソーセージ、私の下
のお口に食べさせてね。思いっ切り、味わってあげるから」
 再びウッソの瞳の方に視線を向け、お尻を少し持ち上げながら、マーベットは
そう言った。コンドームを着せ終わったウッソは、元気になった彼女の声を聞いて、
頷いた。
 そして自分のソーセージを、涎を垂らして待ち構えるマーベットの下の口に、食
べさせる。よく味わって食べて欲しいからと、ウッソは腰を前後に動かし始めた。
下の口から食べ残しが零れて欲しくないから、ウッソは両手でマーベットの腰を
掴む。大きい上半身と小さい下半身を、立てたまま。
 マーベットが快楽の消化不良にならない様に、何度も何度も腰を動かす。強く
激しく動かした後は、優しくゆっくり動いてみる。その度に、彼女の下の口が自分
を味わってくれる感触が、ウッソの中に快楽を生んだ。美味しいですか、マーベット
さん……。
 前後の動きだけでは味気無いので、円を描いてみる事にした。もっともっと、自
分を食べてもらいたいから。白い泡の花園を咲かせた時の、マーベットの大きくて
柔らかい胸の動きを思い出して、ウッソは腰を回してみた。
「あっ……。いいわ、上手よウッソ。ピストン運動も、忘れないでね……」
 再び、腰を前後に動かす。少しして、また円を描いた。起こしている体を僅かに
ひねって、角度を変えて往復運動をしたりする。そんな事をする度に、マーベット
の下の口が、涎を垂らしてねだるのだ。もっともっと、可愛いウッソを食べたいと。
とっても美味しいわよ、こだぬきさんのソーセージ……。
 ウッソの股間のソーセージを、マーベットの下の口が、甘い涎を垂らしながら食
べ続ける。とても美味しいウッソからの快楽を、さらに味わいたい。そう願うマーベッ
トは、下の口の頬に力を入れた。
 それに呼応する様に、マーベットの上の口も動く。そこから幾度も、甘さに満ちた
喘ぎ声と、美味しいソーセージの持ち主の名が、生まれた。
「ウッソ、ちょっと……待って」
 甘い声で、マーベットは快楽の食事が運ばれるのを止めた。ウッソにはそれが、
少し意外だった。大いに不満だった。それが分かるマーベットは、次に食べたいメ
ニューを呼んだ。
「わたしばっかり食べてちゃ、悪いわ……。こだぬきさんの両手にも、私の自慢の
バストを、食べさせてあげる。
 私の背中に、ウッソの胸を寄せてみて。後は、分かるでしょ……」
 ウッソは言われた通りに、立てている上半身を傾けてみる。マーベットの背中に、
自分を乗せた。そして両の掌が、マーベット自慢の大きくて柔らかい胸を、食べ始
めた。
 柔らかい、とても柔らかい。余りに柔らかくて、逆に自分の指がマーベットの胸に
食べられてしまうのではないかとさえ、ウッソには思えた。本当に、とろける様な胸
だ。はね返す様な弾力を持つシャクティの胸とは違う感触を、ウッソは何度も何度
も味わう。いくら食べても飽きない。
 しかも大きいから、食べ応えがある。食べても食べても、減りはしない。それどこ
ろか、胸のボリュームがさらに大盛りになって行く様な錯覚すら、ウッソは覚えた。
美味しい、美味しいよ、マーベットさんの胸……。
 ウッソは乳首に、指先を伸ばす。そこだけは、硬くこわばっていた。その緊張を
解きほぐそうと、指先で撫でたり、摘まんだりしてみる。自分が狸だった時に、マー
ベットが耳を弄んだ様な手付きで。だが、マーベットの乳首は、硬くこわばる事を
続けるばかりだ。
「どお、食べ応えあるでしょ。わたしご自慢のバストは」
「はい! とっても、とっても美味しいです、マーベットさんの胸。マーベットさんが
作ってくれるプリンみたいに、柔らかくて大きくて、とっても甘くて美味しいです!」
 それを聞いたマーベットは、満足気な笑みを浮かべ、ウッソに教える。
「全く、私のプリンを食べる事に夢中で、気が付いてないみたいねぇ。
 こういうバックなら、シャクティの背中とバストに、ウッソの温もりが伝わるでしょ。
あの子が元気になったら、してあげなさい。喜ぶわよ、きっと」
「……そっか。ありがとうございます、マーベットさん!」
 ウッソの感謝の声を聞いたマーベットは、左手をエアーマットから離し、薬指の付
け根に、手の甲の方から唇に寄せる。真珠の指輪を嵌めていた左手を口に当てた
まま、マーベットは小さく笑いながら、ウッソに話し始めた。
「やっだぁ。もしかして、こんな簡単な事、気付いてなかったの? こだぬきさんは。
 ……ほんっと、あなた達って似てるわねぇ」
 似てるって、誰と?
「あなたの妙に抜けた所、本当にオリファーそっくりよ」
 言われてみれば、そうかもしれない。ウッソは素直に、そう思った。
「さてと、こだぬきさん。お互い、代わりになりましょうね。
 ウッソは私を、病気が治ったシャクティだと思って、予行練習をして。私は、あな
たの事をオリファーだと思うから」
 マーベットの背中に乗るウッソが、不満気に頬を膨らせながら、彼女の顔に自分
の顔を寄せる。今夜だけは、マーベットを一番に愛したいから。ごめんね、シャク
ティ……。
「嫌ですよ、マーベットさん。二人でベッドに座ってる時、『私を一番に愛して』って、
言ってくれたじゃないですか。だから今は、マーベットさんを一番好きになりたい
ですよ」
 それを聞いたマーベットは、また幸せで笑い出した。
「うふふ、そういう変な所で義理堅いのも、ほんとオリファーにそっくり……。
 じゃあ、今夜は二人の結婚式ね。お互い一番好きになって、新婚旅行に行きま
しょっか」
「はい!」
「夫婦になるのは、今夜だけよ。私を食べ残さないでね、こだぬきさん」
「はい!」
 ウッソは二度、元気な返事をして、マーベットとの快楽の食事を再開させた。
 腰を前後に振って、マーベットの下の口に、自分のソーセージを食べさせ続ける。
その味だけでは飽きるだろうから、今度は腰を回してみた。そして、二つの味をミッ
クスさせて、彼女に快楽を食べさせる。そんな事をする度に、マーベットはウッソ
の名前を呼んでくれた。
 マーベットの下の口は、シャクティのそれとは違っていた。シャクティの場合、
ウッソの全てを逃がしたくないと、抱き締められる様な感じがする。だがマーベット
の下の口は、褐色の体の奥に飲み込まれて行くみたいな感じだと、ウッソには思
えた。どちらも好きだが、今はマーベットだけを愛したい。
 マーベットに飲み込まれる感覚に夢中になって、腰を動かし続けるウッソ。自分
を良く噛んで味わってくれる彼女に、ウッソは感謝したくなった。
「今日は、ありがとう……ございます、マーベットさん……。僕に、色んな事をして
……くれて」
「どう……いたしまして、こだぬきさん。慰めて欲しくて……あなたを誘ったのに、
何か……変よね。ま、こんな……結婚式もいっか、ウッ……ソ」
 甘い喘ぎ声を所々挟みながら、マーベットの上の口は、そう返事をした。ウッソを
食べる下の口は、垂らす涎と湿った咀嚼音で、淫らな返事をする。その下の口に、
ウッソは左手を伸ばした。マーベットの、甘くて柔らかい胸のプリンを味わう事を、
やめさせて。
「マーベットさん、……結婚指輪の交換、しま……しょうよ」
 そう言ってウッソは、マーベットの下の口にある突起に、左手の薬指を這わせた。
思わず声を上げるマーベット。指輪って……。
「ここにある……マーベットさんの真珠、今夜の……結婚式の指輪に、させて下
さい。いいでしょ、マーベット……さん」
 今度は、親指と薬指で、マーベットの真珠を弄んでみる。軽く摘まんでみたり、
優しく擦ったりしてみた。その度にマーベットの下の口が、咀嚼を強め、涎を垂ら
す。ウッソのソーセージを、早く飲み込みたいと言って。
「いいわ、ウッソ……。もっと、もっと……して。あなたを食べて、飲み込みたいか
ら……」
「食いしん坊です……ね、マーベットさんの……下のお口は」
 そう言った後ウッソは、マーベットの真珠を挟む薬指の力を強めてみた。彼女の
上の口が、切な過ぎる甘い声を、大きく奏でる。指輪の交換に、満足した合図だ。
それに合わせ、掌と膝を付く褐色の上半身が、肘からエアーマットに埋まって行く。
 そんな彼女に付き添う様に、ウッソも体を傾けた。そして、マーベットの大きなプ
リンを、左手に咥えて食べさせる。食べにくいので、褐色のプリンを手で食べながら、
マーベットの上半身を持ち上げてみた。
「ぁうっ! 新婚旅行は、どこが……いいかしら、……ウッソ」
「どこでも……いいですよ。マーベットさんが傍にいて、一緒に……ご飯を食べて
くれ……たら」
 真珠の指輪に満足したウッソが、そう答える。二つのプリンを食べる動きと、自分
のソーセージを食べさせる動きを、もっともっと激しくしてみた。マーベットさん、僕、
僕……。
「美味しいウッソを、食べ終え……そうよ……。お先に……行っていい……かしら、
新婚旅行……に」
「僕も、一緒に行きます……よ。花嫁さんを一人に……しちゃあ、悪い……で……
しょ、マー……ベットさん」
「一緒に、一緒に……行きましょ、ウッソ……。気持ちいい、新婚……旅行に。
 ……っぁ、ぃいっ……、ぃあっ……、ああぁぁぁっっ!!」
 マーベットは、上の口を開いて大きな声を上げ、下の口を締め付けながら、ウッ
ソを食べ終えた。食べた物を飲み込もうと、下の口の頬が何度もすぼまる。その
力に、ウッソは精を放ちながら、飲み込まれた。

 起きたウッソの目の前に、顔があった。自分の唇にキスをしているマーベットの
顔から、大声を出しながら離れる。び、びっくりした……。
「お早う、ウッソ。いくら声を掛けても目を覚まさないから、ちょっとイタズラしちゃっ
た。誓いのキスを、昨夜はしてなかったからね。
 そろそろ、カサレリアに帰りましょ。早く服を着なさい」
 置時計の方を見る。朝七時半だ。
 ウッソとマーベットはあの後、お互い裸で抱き合いながら眠った。だが、ベッドの
傍に立っているマーベットは、薄墨色のコートを羽織ればいいだけの状態になって
いる。ハンドバッグとコートを抱える左手の薬指には、真珠の指輪がきらめいていた。
 ウッソがいつものジャンパーとGパンを着終えると、マーベットは乳白色のスカー
トスーツの右ポケットから、小さな箱を取り出した。それを、大切そうにウッソへ渡
す。
「いつも頑張ってるウッソに、私からのプレゼント。開けてごらんなさい」
 箱を開くと、そこには真珠の指輪があった。これって……。
「ウッソと私の、結婚指輪よ」
 えぇ〜!!
「うふふ、冗談よ。シャクティに指輪を買ってあげたかったから、夜の仕事、頑張っ
てたんでしょ、ウッソは」
 何故それを知っているのかを、マーベットは話し始めた。
 マーベットは今月の初め、カサレリアの小型焼却炉の前で、ウッソと出会った。
家から出たゴミを燃やす為の焼却炉の前に、シャクティではなくウッソがいる。
「珍しいわね。シャクティはまだ、元気に動けないの?」
 燃えるゴミを捨てに来たマーベットが、そう声を掛ける。彼女に気付いたウッソは、
戸惑い焦りながら、そこから走って去って行った。
 白い紙が投入口の蓋に挟まっているので、マーベットはそれを外す。見てみると、
指輪の写真が印刷してある紙だった。宝石店のサイトの画像をプリントアウトした
その紙には、隅に「Shahkti」とペンで書いてある。火の点いていない焼却炉の中
を覗くと、白い紙が何枚も入っていた。
(なるほどね)
 クリスマスプレゼントを用意していなくて、ひたすらシャクティに謝っていたウッソ
の姿を思い出しながら、マーベットはそう思った。
「全く……。あなたって、ほんとにオリファーそっくりよ。おんなじ事を、あの人もして
たんだから」
 昔、リガ・ミリティアの工場にあるゴミ箱の前で、マーベットはオリファーの姿を見
た。彼女の顔を見て、焦ってそこから去って行くオリファー。ゴミ箱の奥には、アク
セサリーのパンフレットが、束になって入っていた。マーベットが不機嫌になった
クリスマスの、翌月の出来事である。
「で、その後貰った指輪が、これ。オリファーとの結婚指輪に、なっちゃったけどね」
 左手の甲を、ウッソに向けた。薬指が、輝いている。
「さてと、お喋りはここまでよ。一夜の新婚生活もお開きね、こだぬきさん」
 マーベットはそう言った後、感謝で何度も頭を下げるウッソを連れて、一夜の新
婚生活を過ごした部屋から、立ち去った。

「だ〜か〜ら嫌なのよぉ、あの男はぁ。聞いてるぅ、ウッソぉ」
 ろれつが回らないネスが、オレンジ色の狸になったウッソに向かって、酒臭い息
を吐いている。まさか最後の日に、こんな難物がやって来るとは。
 ウッソは明日から、狸をやめる。約束の三ヶ月が、終わるからだ。店のマスター
から、
「金持ちの固定客が二人も付いてるから、辞めないでくれ」
 と、先週から何度も頼まれていたが、ウッソは断った。
 妖しい光を浴びながら夜の街で働くより、太陽の光を浴びながらカサレリアで土
や羊達の相手をしている方が、自分には合っている。そう思う、ウッソは。
 最後の日だから、今まで以上に頑張ろうかと思っていたウッソに、この三ヶ月で
一番の災厄が降り掛かった。目の前でクダを巻いている、ネスである。
 夫婦喧嘩をしたストレスを晴らそうと店に来たネスは、狸姿のウッソをすぐさま
見付けて、捕まえたのだ。その後二時間、お触りをする事も無く、夫や仕事やそ
の他諸々の愚痴を、酒を飲みながらウッソに向かって吐き続けている。この調子
では、自分の勤務時間が終わる一時間後まで、ずっと付き合わされそうだ。
「んもぉ〜、モビルスーツの部品はちゃ〜んと分けてるのにぃ、な〜んでゴミの分
別くらい出来ないのかねぇ〜、クッフはぁ」
 今はラゲーン基地で整備兵をやっている夫クッフ・サロモンの名前を、不満気に
口にするネス。夫がゴミの分別をきちんとしない事が発端となって、大喧嘩をした
のだという。
 夫婦って、こんな物なの? そんな疑問を浮かべるウッソに、酒で曲がった笑顔
を、二年前はネス・ハッシャーという名前だった酔っ払いは、向けた。
「でもぉ、久しぶりに来てホント良かったわぁ。二人のウッソがぁ、可愛い狸になっ
てるんだも〜ん」
 二人って……。
「アハハ、三人になったぁ〜」
 駄目だ、完全に酔ってる……。焦点の合っていないネスの瞳を見て、ウッソは
そう思うしか無かった。
「もうやめましょうよ、ネスさん。二日酔いしちゃいますよ」
「なぁによぉ、二日酔いってぇ。あんまり飲まないんだから、アタシはぁ」
 大して飲んでもいないのに、ベロベロになっているネスが続ける。
「酒癖悪いって、よく言われるけどねぇ〜。へへへ〜」
 悪過ぎですよ! 彼女に二時間もクダを巻かれた狸姿のウッソは、ネスの口に
酒が入るのを止めようとする。だがネスは拒否して、グラスを少し傾けた。
「通りのおっきなラブホテルにぃ、友達と二人で部屋取ってまでぇ、遊びに来てん
のよぉ。あしたっから休みなんだからぁ、もっと飲ませなさいよぉ」
 そ、そこって、この前マーベットさんと……。
「ほら、帰りましょう、ネスさん。お友達、待ってますよ」
「大丈夫、大丈夫ぅ。あの女も、馴染みの店でパ〜っとやってるんだろうからさぁ〜」
 ウッソはネスの体に手を掛け、無理矢理彼女を立たせた。酒臭い息を吐く顔を
見ながら、ふら付いた足取りのネスの体を抱え、店の出口へと彼女を導く。
「アハハ、ウッソの抱っこ、気持ちい〜ぃ」
 そんな事を言うネスに代金を払わせ、店の出口へ向かおうとするウッソ。こりゃ、
ホテルの部屋まで連れて行かないと、駄目かもしれない。ウッソはそんな事を思
いながら、彼女の腕をオレンジ色の首に回し、背中を抱いてネスを支える。嬉し
そうに、支えてくれるウッソに体を寄せるネス。目の前にある店のドアが、開いた。
「……楽しそうね、ウッソ」
 ドアの向こうに現れたシャクティ・カリンは、引きつった褐色の笑顔を浮かべなが
ら、困惑するウッソに向かって、意地悪くそう言い放った。そんな彼女は、白い厚
手のブラウスの上に、フード付きのジャケットコートと、白い手編みの毛糸マフラー
を身に着けている。その隣に、面白そうな成り行きの為に顔を綻ばせているマー
ベットが、立っていた。
「ヤッホ〜、マーベット〜、シャクティちゃ〜ん、元気ぃ〜。
 なぁによぉウッソぉ、いつまでアタシに抱き付いてんのよ、もぉ〜。シャクティが
いるってのにぃ〜」
 逆でしょーが! 心の中でそう突っ込むウッソから体を外したネスが、店のドア
から出て行く。
「二人で一緒にぃ、狸のウッソを可愛がってあげてねぇ〜。おやすみぃ〜。
 い〜くつ〜ものあい〜、かっさぁねぇあ〜わせて、っとくらぁ。アハハぁ〜」
 陽気に歌いながら千鳥足でホテルへ向かうネスを見届けた後、ウッソは傍にいる
二人の褐色の女性の方へ、視線を向ける。シャクティとマーベットは、いつもの優
しい笑顔に戻っていた。
「今日が最後の日だっていうから、また来ちゃった。シャクティの快気祝いも兼ねて、
色々楽しませてもらうわよ、こ・だ・ぬ・き・さん」
 マーベットが、嬉しそうに言う。今日は浅葱色のハーフコートと花柄のスカーフを
身にまとっているが、コートの中にある衣服は、半月前の夜に着ていたあの乳白
色のスカートスーツである。
 ウッソはコートを脱いだ二人を、とりあえずラウンジへと案内する。右をシャクティ、
左をマーベットに挟まれて、ウッソは深紅のソファーに座った。白い頬が、早速赤く
染まる。
「でも、シャクティをこんな店に連れて来ちゃぁ……。まだ十六歳なのに」
 飲酒が出来るのは十八歳からというのが、この時代の決まりだ。もちろん二人
とも、知っている筈なのに。シャクティの歳が店にバレると、マズいんじゃない?
「心配しないの。お酒を飲みに来たんじゃ無いんだから。……えいっ」
 マーベットのその声の後、ウッソの左胸に刺激が走る。彼女の左手が、狸の左
耳を摘まんだのだ。思わず声を上げるウッソ。ウッソの乳首に刺激をもたらした
左手は、薬指に真珠の指輪を嵌めている。
「ね、面白いでしょシャクティ。やってみて、あなたも」
「はい!」
 元気な返事をした後、シャクティは左手で狸の右耳を摘まむ。その左手の薬指
にも、真珠の指輪の輝きがあった。
「や、やめてよ二人共……。あぁっ……」
 両胸を間接的に攻められるウッソは、思わず甘く喘いでしまった。ウッソの隣に
いる二人は、それを聞いて満足そうに微笑む。
「今度は、尻尾を握ってみて、シャクティ」
「こう、ですか?」
 シャクティは左手を狸の耳から離した後、両手でウッソの尻尾を強く握る。狸の
反応が面白いので、今度は引っ張ってみた。シャクティの名前を何度も呼びなが
ら、ウッソは股間の前後の刺激の為に、喘ぎ続ける。シャクティの両手が、尻尾に
加える力と動きを変化させる度、ウッソも喘ぎ声を変化させて行った。
「あんまりやっちゃ、駄目よ。この後、ウッソに頑張ってもらうんだから」
 どういう意味なのかと、ウッソはマーベットに尋ねる。狸の耳に伸ばした左手の
指先を擦って、ウッソに甘い吐息を吐かせながら、マーベットは答えた。
「ウッソがこだぬきさんじゃ無くなった後、またあのホテルで、結婚式を挙げましょ。
今夜は花嫁さんが、二人いるけどね」
 えーっ!! ネスがあのホテルに泊まっている事と、二人の花嫁さんの意味に、
ウッソの頭は混乱した。ウッソは混乱を解きほぐし、あのホテルにネスが泊まって
いる事を、二人に説明した。
「あら、いいじゃない。立会人になってもらいましょうか? ネスに。指輪を付けてる
シャクティと私を、祝福してくれるんじゃないかしら?」
 マーベットは、狸の体から離した左手の甲を、ウッソに見せ付ける。シャクティ
も、同じ事をした。オリファーからマーベットへ贈られた真珠と、ウッソからシャク
ティへ贈られた真珠。二つの薬指の輝きが、ウッソの中に戸惑いを生んだ。
「うふふ、冗談よ。でも、三人の結婚式だけは、ちゃんと挙げてもらうわよ。その為
に、ウェディングドレス代わりの白い服を、着てるんだから。シャクティも私も」
 マーベットとシャクティが、同時に微笑み、同時にウッソの赤い頬に笑顔を向ける。
二人共、今のウッソを可愛く思い、今夜のウッソに期待しているのだ。ニュータイプ
であるウッソの心は、その事を、感じ過ぎる程理解した。どうなっちゃうの、僕……。
「今夜も頑張って、新婚旅行に連れて行ってね、私達の花婿さん」
 マーベットの声の後、狸の頭巾から出ているウッソの左右の頬に、二人が同時
にキスをする。ウッソの顔が、この三ヶ月で一番真っ赤になった。

−完−
685名無しさん@ピンキー:03/10/17 17:13 ID:SOdV17a1
すげー、すげぇ超大作だ!
作者さん乙ですた!
686名無しさん@ピンキー:03/10/17 20:16 ID:7Xig2q5u
Fekia氏、小説とっても興奮しました!!!
セシリーの相手に映画でも彼女を狙っていたザビーネをもってきたのが
上手いですね。エッチでも彼女の高貴な美しさが表現されているし、
凄く乱れていても全然下品さを感じなかったのが素晴らしいです。
唯一物足りなかったのは3章の最後でセシリーのセリフともう少しの
描写で激しくイって欲しかったことでしょうか。
それにしてもセシリー、ザビーネの絡みは凄いのでこれで終わりなのが
残念です。回想などでもっとやって欲しいです。座位とか騎上位が見たいw
これからストーリーがどう展開するかも楽しみです。頑張ってください!!

610氏、これまた上手い文章で驚きました。今までセシリーの小説なんて
まずなかったのに嬉しいです!!
繊細な文なのにエッチも濃くて良かったです!!
こちらのセシリー、ザビーネはハッピーになって欲しいようなw
続き楽しみです。
687610:03/10/17 22:34 ID:abGWVWLi
>>643-645 >>647 >>686
まとめレスで申し訳ありません。丁寧で温かい感想をありがとうございました。
凄く不安だったので、とても嬉しかったです。

>>643
迷ったんですが、「クロスボーン・ガンダム」と小説はこの作品を書き終える
までは敢えて読まないことにしようと思っています。今自分の中に降りて来て
いる世界を大切にしたいのと、読む時を楽しみに、それまで頑張ろうかと(w
それから改行は、考えるところがあってわざとこうしています。我侭で申し訳
ありませんが、ブラウザの方で調節していただけないでしょうか。

>>645 フォローありがとうございました。

>>646 お手数をおかけしますです。

それでは、以下11レスほどお借りして第2章をUPします。
688Outer Space 第2章:03/10/17 22:36 ID:abGWVWLi
 フロンティアIVの迎賓館の中にある豪奢な一室で、ベラは一人、鏡の前に立っていた。薄紫色の部屋着は身体の線を顕わに映し、ほんの数日前とは違う、女としての実りを誇らかに告げている。
「一人では生きられないし、覚悟もつかないし……」
 そう呟くと、髪を後ろ手に束ねて鋏で短く切り始める。

 自分に関わったせいで死んでしまったシーブックを思うと、他の相手と幸せな日々を送ることは許されない気がする。でも、一人で生きてゆくのは寂しく辛い。
 ザビーネと情熱的に過ごした一昨夜の記憶は、心と身体にはっきりと残っている。そして昨夜の甘い記憶も。惹かれる気持ちは強まる一方だったし、彼の真心を信じることもできた。けれど、このまま関係を続けていっていいのだろうか、それが許される自分なのか。

 祖父・マイッツアーとコスモ貴族主義の話をした時、幼い頃から何度となく聞かされたことを思い出し、昔が無性に懐かしくなった。笑顔の母と素顔のままの父がいて、自分と兄はよく、祖父の膝を巡って争ったものだった。
 自らの血を流すことを恐れない高貴な者・貴族が人類と世界を治めるべきだというコスモ貴族主義――志の高さに惹かれつつも、自分には到底無理だと思えてしまう。その主義を嫌って逃げた、貴族の落ちこぼれである母の娘なのだから。
 主義を形にするコスモ・バビロニアの建設が終わるまでの間、自分に大衆のアイドルとして女王をやって欲しいと望んでいる祖父。慈しんでくれる気持ちに応えたくはあるけれど、一人で成すにはあまりに重い責務で、覚悟は簡単には決まらない。


 鏡に、扉から部屋の中を覗く何者かの姿が映った。ザビーネとは違う気配に、身体が一気に緊張する。覗いていた人間は、廊下で騒ぐ女官の声をよそに、扉を閉めて部屋の中まで入ってきた。
 この顔は……そんな馬鹿な! これは、夢……!?
「やはり、セシリー!」
 「夢」が口をきいた。
689Outer Space 第2章:03/10/17 22:37 ID:abGWVWLi
「シーブック! あなた、生きていたのね!?」
 死んでしまったと思っていた少年の名を叫ぶ。
「みんなが心配している。迎えにきたんだよ」
「迎えって……!?」
 廊下の声に警護官の声が混ざり始めた。この部屋に入ってくるのも時間の問題だろう。
「何で今ごろ来たの!? もう遅いのよっ!」
 そう、もう遅い。自分はザビーネに抱かれ、彼と心を通い合わせもした。シーブックを眼の前にしてはっきりと分かった。自分の心には今、ザビーネだけが棲んでいる。

「遅いって……!?」「曲者だと!?」
 怪訝そうなシーブックの声に被さるように聞こえてきたのはザビーネの声だった。慌てて視線を翻すと、体当たりして扉を開け、右手で銃を構える姿が見えた。
 シーブックを突き飛ばし、銃口から逃れさせる。ザビーネのところに駆け寄って、銃を邪魔するような位置に身を置き、シーブックを撃てないようにした。

 ベラの行動に驚いて、構えていた銃を外すザビーネ。その隙にシーブックは全身で窓ガラスを割り、危ういところで銃をかわして、そのまま下へと落ちていった。
 悲鳴を上げながらも、なんとか土の上に着地する。途端に炸裂する銃声。ぎりぎりでそれを避け、一目散に走り出した。
690Outer Space 第2章:03/10/17 22:39 ID:abGWVWLi

 ベラは窓際で銃を撃ったザビーネに眼をやった。素早い身のこなしと的確な判断力は、彼が優れた軍人であることを告げている。必要とあれば、人を殺傷することも厭わない軍人であることを――
「どういう手合いか!?」
 ザビーネがシーブックの逃げた方向を眺めながら呟く。振り返ってベラに眼を当て、部屋の中央に戻ってくる。
「……助かりました」
「お切りになったか?」
 すぐ傍で立ち止まり、顔と髪をじっと見つめて言う。
「はい」

 誰よりも気付いて欲しかった相手……この瞬間、ベラの心は決まった。
 ザビーネに向かう心に歯止めをかけていたのは、シーブックが死んだことへの負い目だった。コクピットに残った血が残酷な事実として迫ってきて、迷いをより深いものにしていた。
 けれど、無事な姿を確認できた今、もう何の迷いもなくザビーネを想うことができる。そのことが嬉しくて堪らない自分。

 最初に引き合わされた時は、祖父に一礼する兄の後ろから射るような視線を当てられて、そちらに眼を奪われてしまったほどだった。右眼を覆い隠す大きな眼帯に驚かされ、滅多に表情を変えない態度が尊大にも見えて、第一印象はあまり良くなかった。
 精鋭と名高いモビールスーツ部隊「黒の戦隊」の指揮官であり、若くしてその才能を祖父に見出された男。両親を早くに亡くして自力でハイスクールに通い、地球連邦軍の士官学校を優秀な成績で卒業した努力家だと聞いている。
 整い過ぎた容貌と冷静沈着な行動から時に冷酷さを感じることもあるけれど、それだけの男ではないことを、身体の奥深いところがずっと伝えてきていた。今、自分のその感覚に賭けてみようと思う。
691Outer Space 第2章:03/10/17 22:41 ID:abGWVWLi

 騒ぎを心配して、マイッツアーが部屋にやってきた。
「無事で良かった……どうした、その髪は!?」
「はい、ロナ家の者に徹するにはまだ修行が必要と思い、髪を切りました――」
 マイッツアーに礼儀正しく一礼し、顔を伏せたままベラの左横に控えるザビーネ。自分の立ち位置を決めた後は顔を上げ、ベラの横顔を食い入るように見つめていた。

 その視線の強さが、迷っていた決意をついに述べさせる。ベラはマイッツアーを真っ直ぐに見返して続けた。
「そして、これが伸びた暁には、コスモ・バビロニアを継ぐ身でありたいと思います」
「そうか、その決意の折に暴漢か……」
「物取りかと……だからこそ、連邦の政治を正さなければならないと思い知りました」
「そうか、新時代のアイドルとなってくれるか!」


 ザビーネは、髪を切って一層凛とした表情になったベラから、眼を離すことができなかった。気丈に振舞うその姿こそが、どんな高価な宝石よりも美しく、彼女を輝かせていた。
 自分がついていながら暴漢に踏み込まれ、ベラに不安を与えてしまったことに、歯噛みするほどの怒りを感じる。彼女の挙動には少し訝しいところもあったが、そのことへの疑いよりも衝撃の強さの方が思いやられた。この美しい女主人に、それほどまでにも囚われている。
692Outer Space 第2章:03/10/17 22:42 ID:abGWVWLi
 女を抱いた経験が無い訳ではない。肉欲に溺れるのをよしとしない性分から、豊富な経験があるとは言いかねたが、つい最近までは割り切った仲の相手もいた。けれど他の女とベラとでは、何かが違っていた。
 最初に抱いた時は、義務感といくばくかの同情心でしかなかった。仕える主人が求めているなら、それも任務のうちだと思ったし、それぞれの思惑を抱えた血縁に取り囲まれて心細そうにしている姿を知っていたから、少しばかり同情もした。

 物堅い性格と見ていたので、その後も誘いがあったは意外だったが、肉欲を求めてのことでないのはすぐに分かった。だから、最初の時と同じように淡々と抱き続けたのだ。その程度のことが苦になるほど、好み外の女ではなかったから。
 いや本当は、好みそのものだった。気品を伴うきりっとした美貌と、それとはアンバランスな男好きのする肢体――ベラの部屋から自室に戻った後で、身体から漂う彼女の匂いに堪え切れなくなり、自らを慰めたこともある。挙句にあんなところを見られてしまった。

 いつの間にか、ベラに魅了されていた。同情が愛情に変わるほど柔な性格でないことは、自分が一番よく知っている。そうではなく、彼女には何か人の心を惹き付けるものがあるのだ。
 女王にすることを望んでいるマイッツァーを孫娘可愛さの身贔屓と見てきたが、確かにベラには資質があった。気高い気性と、相手に真摯に迫ろうとする生真面目さ。気の強さと聡明さ。そして時に見せる儚さ。
 闇の中で生きてきた自分は、彼女の持つ清浄感が眩しいのかもしれない。

 他の女を抱く気が失せて、続いてきた相手とは別れ、かといってベラに向ける心が何なのかも分からないままに過ごした日々。
 思いもかけない経緯で心を打ち明け合う仕儀となったが、そのことを悔いてはいない。自分が一人の女に想いを寄せられる人間だったことが、どこか興味深くもある。ベラと歩んでみる人生も面白そうだ。マイッツァーも、それを望んで世話役に命じたのだろうから……
693Outer Space 第2章:03/10/17 22:43 ID:abGWVWLi

 一方のベラは、決意を述べ終えた高揚感の中で考えていた。
 ザビーネが私を凝視しているのは、先ほどの行動を疑っているからだろうか。「曲者」を庇う動きをしてみせたことを。もしそうなら、どんなことをしても誤解を解こう。彼に誤解されるのだけは耐えられない。

 シーブックが迎えに来てくれたことは、純粋に嬉しかった。クロスボーン・バンガードが侵攻してくるまでは、ほんの数回しか口をきいたことのない同窓生。時に図々しく、困らせられたこともあった。戦火に巻き込まれなければ、ずっと誤解していたかもしれない。
 でも養父・シオに銃を向けられていたあの時、彼は危険も顧みず私を助けようとしてくれた。そのせいで殺されてしまったと思っていたから、無事を確認できたことは大きな喜びだった。良かった、本当に……本当に!
 さっきのことで、また怪我をしていないだろうか。それだけが心配だ。無茶をする人だから……

 みんなが心配している、とも言っていた。ふとした巡り合わせで一緒に逃げることになった仲間たちは、元気でいるのだろうか。一人一人の顔が浮かぶ。いつか敵味方になってしまうのかもしれない。戦場で会った時どうすればいいのか、確かな答えは見出せないでいる。
 それでも私は、コスモ・バビロニアの女王となる道を選ぶ。ザビーネの居る場所こそが私の居場所。
 ザビーネ、そんなに強い眼差しで見つめられたら、頬が溶けてしまうわ。いいえ頬だけではない、心が身体があなたの情熱に溶かされてゆく。あなたがいてくれたら、私はどんなことでもできるかもしれない……
694Outer Space 第2章:03/10/17 22:45 ID:abGWVWLi

 ベラの決意に安堵して部屋を出て行くマイッツアーと、彼に従おうとするザビーネ。本当はベラのところに忍んでゆく途中で騒ぎに出くわし、そのお蔭で誰よりも早く部屋に踏み込むことができたのだが、これ幸いと残る訳にはいかなかった。
 ベラはザビーネを呼びとめた。まだ話があるから、と。彼が疑っているなら、きちんと説明をしておきたかった。
 ザビーネは血縁の祖父、それも盟主でもあるマイッツアーが退室しようというのに自分が残ることが憚られて、扉の傍で躊躇していた。

 しかし、彼を孫娘の将来の配偶者とも考えていたマイッツアーは、そういう展開をむしろ希望していた。自分に遠慮せずに残るようザビーネに告げ、そればかりか、これからも二人が親しい時間を過ごすことを望んでいることまで仄めかして、一人部屋を出ていった。
 祖父がそのようなことを考えいたと初めて知り、ベラは驚く。眼の前の出来事に気を奪われ、ザビーネを世話役につけてくれた意味まで考えていなかった。胸のときめきを押し隠し、やっとのことで祖父を見送る。


 女官たちも部屋を去り、広い室内に二人だけが残される。見詰め合う眼と眼。
「『物取り』を庇うための決意ではないと、信じてよろしいのでしょうか?」
 落ち着いた声でザビーネが問う。やはり気が付いていたのだ。
「私の決意はそんなものではありません。でもこの決断をするためには、あの『物取り』が必要でした」
「そういうことですか……」
「私にはもう帰る家がないのです。そういう道を選びました。だから――」
695Outer Space 第2章:03/10/17 22:46 ID:abGWVWLi
 ベラの言葉を遮って、力強い声が部屋の中に響く渡る。
「それ以上、おっしゃいますな。決意が揺るがないのなら、それで充分です。私があなたの帰る家にも、眠る場所にもなりましょう。命を賭けてお守りします」
 一番欲しかった言葉を得て、ベラは高ぶる気持ちをそのまま声に乗せて答えた。
「ザビーネ、信じてください。この決意も、あなたへの想いも、どちらも掛け替えのない私の真実です!」
 誰よりも私を愛し、守ってくれる男と共に、今日から私は生きてゆく……

 広い胸板に身を投げる。少しも動ぜずに、力強く受けとめてくれる腕が嬉しい。熱い口付けの後で甘えたような声で囁く。
「お祖父さまや女官たちは、気が付いたかもしれないわ。私たちがこういう関係だと」
 周りに知られてしまうことが、恥ずかしくも嬉しい。
「なぜ、そのようなことを?」
「こんな薄物一枚の姿なのに、ザビーネに対して全然恥らっていなかったから。ふふっ」
 胸や腰の線がはっきり分かる部屋着姿は、若い男の前に出るにはあまりに扇情的だった。

「それは困りましたな」
 少しも困っていない口調でザビーネが答える。囁くような低音が、ベラの全身を包んでゆく。
「ザビーネもいけないのよ、平然としているんですもの。見慣れていると言わんばかりだわ」
「平然とはしていませんよ。眼の毒だと思いながら見ていました。いけないことをしたくなる……」
「どんなこと!?」
 悪戯っぽく笑って顔を覗き込む。
 ザビーネは唇の端を少しだけ上げると、ベラの身体を横抱きに抱き上げ、軽く口付けて寝室の方へと歩いていった。
 首に手を回し、恋しい男の顔を惚れ惚れと見つめるベラ。見返す視線の強さと腕に込めた力とが、これから過ごす時間の激しさを予告している――
696Outer Space 第2章:03/10/17 22:47 ID:abGWVWLi

 そして無言の予告通り、その夜のザビーネは今までにも増して激しかった。巧みな愛撫でベラを燃え上がらせ、何度も何度も絶頂へと導く。
 大きな掌で翻弄され、形をさまざまに変える乳房。立ち上がったまま固定してしまった乳首。最初からその色だったとしか思えないほど赤く色付いた肌。太腿を伝うだけでは足らず、シーツをも浸している愛液。そして沸騰し、ザビーネの訪れを待つだけになっている花芯。

「もう駄目。ザビーネ…お願い、来て……」
 掠れてしまった咽喉でベラが囁いた。愛らしい嬌声を聞き続け頬が緩みっぱなしだったザビーネは、最後の仕上げとばかりにベラの手を掴み、屹立する分身に触らせた。
「欲しいのですか? これが……」
 触ったものの熱さと固さに驚きながらも、手を離すことができない。握り締めているだけで、身体の中から新たな泉が湧き出してくるのが分かる。

「ザビーネ、私……」
「動かしても構いませんよ。私に仕返しをするには、いいかもしれませんな、フフフ」
 誘うような言葉に突き動かされ、握った手をゆっくりと上下に動かしてみる。肉塊が手の中で更に大きく膨らみ、熱を一段と高めた。
「あぁ……」
 ザビーネから吐息のような声が上がった。手はベラの頭に置き、切ったばかりの髪を愛しげに撫でている。
697Outer Space 第2章:03/10/17 22:49 ID:abGWVWLi
「もっと力を入れても大丈夫。固くなって感覚が鈍くなっているから、強めの刺激の方がいいのです」
「こう?」
 教わった通りに力を強め、上下運動を繰り返す。下の方にある袋にも興味を持ち、反対側の手でそっと撫でてみた。
「あぁっっ!」
 思わずうめいてしまうザビーネ。色白な頬にさっと朱が差す。慣れぬ手つきさえも、欲望をかきたてずにはいられない。先端から液が迸ってしまいそうな感覚に抗しきれず、ベラの上に覆い被さって手早く錠剤を入れる。

 待ちかねた瞬間に眼を輝かせて喜ぶベラ。ザビーネの分身が一気に奥まで達し、大きな喘ぎ声を上げる。何度か突かれた後で、繋がった状態で抱き上げられ、横たわったザビーネの身体の上に乗る姿勢を取らされる。
「こんな……恥ずかしいわ」
「美しい身体をもっとよく見たいのです。いいでしょう?」
 お世辞を言わぬ男の誉め言葉に心が痺れる。うっとりと自分を見つめる視線に心からの賛美を感じ、全身が燃え立つような快感に襲われた。

「でも、どうしたらいいのか……」
「感じるままに身体を動かせばいいのですよ」
 下から手を伸ばし、二つの宝玉をそれぞれの手で包み込みながら言う。
「はぁぁんっっ!」
 快感に身を震わせると、内部で分身が一層膨らんだ。その感覚に導かれ、腰をゆっくり前後に動す。
「そう、その調子です。あぁ…いい……」
 自分の身体を静止させ、ベラの動きを全身で感じ取ろうとするザビーネ。腹部から乳房にかけての神々しいラインが蠢くさまを眼を細めて見つめる。
698Outer Space 第2章:03/10/17 22:51 ID:abGWVWLi
 ベラは腰を少し持ち上げ、手で愛撫した時と同じ上下の動きをしてみた。腰を落とした瞬間に分身が奥深いところに当たり、さらに快感が増す。両手で掴まれている乳房からも大きな波が押し寄せ、勢いを増す愛液が恥ずかしいほどの音と共に滴り落ちる。
「あぁっっっ、ザビーネ、ザビーネっ!」
「ベラ、最高です。くぅっっ……」
 いつの間にか花芯に回っていたザビーネの手が、蕾を探し当てて刺激し始めた。あっという間に訪れる絶頂。
「あはぁぁん、あぁぁぁーーー!」
 身体を支えきれず、広い胸の上に身を伏せる。ザビーネの体臭がベラの全身を包み込み、官能をさらにかきたてた。

 ザビーネも限界に近付きつつあった。絶頂を迎えて激しく収縮する内奥に勝てる筈もない。ベラの引き締まった腰を両手で掴み、下から激しく突き上げる。鍛え上げた腹筋と背筋はバネのようなしなやかさで、最奥に迫る強い動力を分身に送り続けた。
「あぁっ、またっっ!」
 ベラが挿入だけでいくのは初めてで、そのことがザビーネを喜ばせ、新たな活力を与えた。二度目の収縮に耐え、最後の一撃を加える。
「あああーーーーーっっっ!!!」
「うぅぅっっっ!」

 放出の後の空白を、熱い想いが埋めてゆく。ザビーネは分からなかった感情に、やっと名前を見つけることができた。
 これが「恋」というものなのかもしれない。自分の行為がベラを傷つけてしまうのではないかと心配なのに、その一方で、放った直後から二度目を考えてしまう。何度抱いてもベラに飢えている。今もまた……
699610:03/10/17 22:52 ID:abGWVWLi
第2章はこれで終わりです。
シーブックが当て馬みたいになっていますが、原作のセリフや展開に沿いつつ
ザビーネ×ベラになることを目指しているので、今のところはこうなります。

それと、私の中では「君を見つめて」がこの作品の主題歌なので、歌詞の冒頭の
部分を二人の会話のところで使ってみました(変えすぎてて分からないかも/苦笑)。
この後も、たまに使う予定でいます(w

第3章もほぼ完成していますので、明後日ぐらいにはUPできるかと。
その時はまた、(スルーも含めて)よろしくお願いします。
700名無しさん@ピンキー:03/10/18 04:58 ID:/2W4TgOo
>>699ガンガン書いて。期待してるよ
701名無しさん@ピンキー:03/10/18 08:30 ID:4bhrGXqD
>>610
原作通りの展開なのに見事にザビ×ベラになってて圧倒されました。
つかザビ×ベラであったほうが、シーブックの誘いを断ったり女王になると急に言い出した、
この時のセシリーがよく理解できる。
もう自分の中ではこのSSが公式設定です。いいものを読ませてもらいました。ありがとう。
明日の?続きが楽しみです。
702名無しさん@ピンキー :03/10/18 16:50 ID:A855O6if
703名無しさん@ピンキー:03/10/19 18:18 ID:h6HOzX4j
セシリーの小説は2作ともすばらしくレベルが高いね。
続きが待ち遠しい!
704610:03/10/19 23:36 ID:3A3WOOYj
>>700-701 >>703
ありがとうございます。
まだこちらの板に慣れていなくて手探り状態なので、凄く励みになります。

それでは、以下11レスほどお借りして第3章をUPします。
嫌いな方はスルーをよろしくお願いします。
705Outer Space 第3章:03/10/19 23:37 ID:3A3WOOYj
 人々を前に、鉄仮面ことカロッゾの演説が始まる。フロンティアIVにおけるコスモ・バビロニア宣言。
 大切な儀式の最中に、ベラは警護官を呼び寄せ、聴衆の中にいるだろうシーブックを自分の元に連れてくるようにと伝える。昨夜はあんなことになってしまったが、できれば一度ゆっくり話したかった。

 昨夜居合わせてシーブックの顔を見知っていた警護官が彼を見つけ、掴まえようとしたが、車で現れた父親にさらわれてしまった。モビールスーツ部隊も動員し、二人を掴まえようとする。
 狙撃され車は壊れてしまったものの、シーブックたちはモビールスーツ・F91ガンダムのところまで辿りつくことができた。怪我をした父親に応急手当をしてコクピットに乗せ、妹・リィズの待つフロンティアIへと向かう――

 シーブックの父親が、その時の傷が元で死んでしまったこと、演説の最中にシーブックが漏らした言葉をベラは知らない。
「セシリー、軍事力を持って出てきた者は武力制圧しか考えないということを、なぜ分からないんだ!?」


 シーブックとの再会につぐ、もうひとつの再会も衝撃的だった。ベラをシオの元に残して行方不明になっていた母・ナディアが、娘を連れ戻しにロナ家までやって来たのだ。
「セシリー、家に帰りましょう!」
 必死に呼びかけるナディアの声も、ベラには苛立たしいものにしか聞こえない。どこに帰る家があるというのか!? 自分の家はザビーネの胸の中だと告げたら、この女はどんな顔をするのだろう?

 言い争いを始めるカロッゾとナディア。話を振られたマイッツアーは冷たく答えた。
「ベラの未来はベラ自身に選ばせれば良い」
「まだそういう歳ではないでしょう!」
 ヒステリックに喚くナディア。
706Outer Space 第3章:03/10/19 23:38 ID:3A3WOOYj
「お母さま、作戦終了後に、ゆっくりお話し合いをさせてください」
 堪りかねてベラが言った。フロンティアI制圧作戦を間近に控えたこの時期、落ち着いて話している余裕はない。自分も出撃する予定なのだ。せっかちに話を進める癖は何年経っても変わらないようで、溜息しか出てこない。
「セシリー、おまえは『ベラ・ロナ』ではない」
「いいえ私はビギナ・ギナのパイロット、ベラ・ロナです。お母さまのおっしゃる自由は、逃げるための口実にしか聞こえません」
 そう言い切ると、ベラはナディアに背を向けて歩き出した。否定する声が聞こえてきても、振り向く気にはなれなかった。

 ベラの心は、怒りでたぎっていた。
 お母さまはいつもそう。お前はまだ駄目、オマエハマダダメ、おまえはまだだめ……
 自由にしていいと物分りのいいことを口にした時でさえ、一つの答えしか許してくれない人だった。私の決断を一度でも手放しで認めてくれたことがあったかしら!? 幼い頃から何度も同じことをされ、その度に戸惑い苦しんだ。
 今なら分かる。何を言われようと聞き流し、自分で決めるのが一番なのだ。だから私はそれをした。今度も認めてはもらえなかったけれど、私はそれでも構わない。あなたの許可がないと何もできなかった幼子の私は、もうどこにもいないのです!

 仮面を被って世直しを唱えるカロッゾにも腹が立つ。お母さまをシオに寝取られた打撃から、自らの肉体・精神・エゴを強化したというけれど、なんて情けない男なの! どうしてお母さまは、あんな男と結婚したのだろう!?
 お祖父さまが娶わせたのかと思っていたら、あれでも恋愛結婚だという。そして次の相手がシオだ。私をロナ家に売り渡した男。男を見る眼がなさすぎる。私はカロッゾやシオのような男は絶対に選ばない……絶対に!
 ドレルお兄さまは、父たちよりは何倍もまし。でも、ザビーネへのライバル意識だけはいただけない。ザビーネは大人だから、うまく受け流しているけれど……
707Outer Space 第3章:03/10/19 23:40 ID:3A3WOOYj

 フロンティアI制圧作戦が開始された。旗艦ザムス・ガルから出撃予定の偵察隊のメンバーを見送るザビーネ。
「ザビーネ様!?」
 偵察戦隊長のアンナマリーが姿を見せ、彼の姿に驚いて声をかけた。褐色の肌につぶらな瞳を持つ、愛らしい容姿の少女。
「アンナマリー! 思った以上の敵の数のようだ。偵察隊はくれぐれも気を付けてな」
 二人は以前、割り切った付き合いをしていた仲だった。別れたとはいえ、ザビーネが心配してくれることが嬉しくて、アンナマリーは小さく微笑む。

「ザビーネ様こそ、先鋒でいらっしゃって――」
 言いかけて彼の右手にある花束に気付き、首を傾げる。その白い百合の花束はザビーネの黒いパイロットスーツと素敵なコントラストを成していたし、金髪でクールな容貌の彼によく似合っていたけれど、出撃前に持つような品物とは思えなかった。
 戸惑うアンナマリーの下の方から誰かの手が伸びてきて、それに気付いたザビーネが自分の手を差し出して上に引っ張り上げた。現れたのはベラ・ロナ。ロナ家の直系にして、二人が別れるきっかけとなった女だった。

 こんなところでベラに会うとは思っていなかったため、アンナマリーは驚いた。しかしもっと驚いたのは、ザビーネがベラの耳元で何かを囁き、手にあった花束を渡したことだった。女性に花を贈る姿など初めて見た。自分は白昼夢でも見ているのか!?
「ベラ・ロナ様も出撃なさるのですか?」
 見まいとしてもベラの身体に眼がいってしまう。オレンジ色のパイロットスーツが描く優美な曲線は、女の眼にも眩しかった。
「足手まといかもしれませんが、ザビーネが面倒をみてくれると言いますので」

 穏やかな笑顔で答えるベラ。彼女が現れてからというもの、嬉しそうにずっとその顔を見つめていたザビーネが、一瞬だけアンナマリーの方へ視線を流した。複雑な表情を返すアンナマリー。
「お、お気を付けて。先発いたしますので……」
 敬礼をして、そそくさと立ち去ろうとする。ザビーネの手はベラの手とずっと繋がったままだ。自分の方に流してきた視線も、大切な宝物を誇らしげに紹介する子どものような視線で、これ以上二人の傍に居るのは耐えられなかった。
「頼む、水先案内人」
 ザビーネの呑気な声を背に、アンナマリーは底知れぬ敗北感と深い憤りを感じていた。
708Outer Space 第3章:03/10/19 23:42 ID:3A3WOOYj

 アンナマリーはずっと、ザビーネはベラに――ひいてはロナ家に――擦り寄ろうとしていると考えていた。ベラの世話役になったのと前後して自分との関係を終わらせたのが、何よりの証拠だと。
 けれど、今日二人が一緒にいるところを見て、自分の考えが間違っていたことを思い知らされた。
 彼女は直感的に悟ったのだ。ザビーネとベラは肉体関係を持っている。しかもそれは、権力に媚びを売ろうという下心や肉欲による結びつきとは違う、もっと純粋な気持ち。はっきり言えば、恋情ゆえの関係なのだと。

 身体だけの関係の相手にザビーネがどういう態度を取るかは、厭というほど知っていた。ベッドの中でさえ、心や身体をさらけ出すことのなかった男。翌日顔を合わせた時、前夜を伺わせるような雰囲気は皆無だった。
 それが、今はどうだ。恋していることを隠そうともしない、あの眼差し。愛する相手と夜を共にした者だけが持つ独特の甘い雰囲気を、惜しげもなく振り撒いている。女に花束を贈る行為も、以前のザビーネからは考えられなかった。戦闘の最中だというのに。
 そしてベラも、ザビーネを頼りきり甘えきっているオーラを全身から発散させていた。自分には許されなかったオーラを!

 ザビーネとの関係を、それで良しと思っていた訳ではない。本当は愛情に満ちた関係を持ちたかった。彼の求めているものが分かっていたから、割り切った付き合いのできる大人の女の振りをしていただけ。
 そんな哀しい関係の僅かな拠り所は、もてる割りに物堅く他人と距離を置きたがるザビーネが、抱き合うという一歩踏み込んだ関係を自分とだけは持ってくれたということ。でもそれさえも、今となっては空しい。
 ほんの10日くらい前、モビールスーツの操縦訓練を始めた頃のベラは、あんな身体ではなかった。あれはザビーネが……
709Outer Space 第3章:03/10/19 23:43 ID:3A3WOOYj
 ザビーネがロナ家に野心を持っていたのなら、まだ良かった。家の名に負けただけで女としての勝負に負けたのではないと、自分を納得させることができたから。肉欲だけの関係も同じだ。高貴な家柄を誇るロナ家の女が庶民の女に身体で勝っても、何の自慢にもなるまい。
 けれど、そうではないと思い知らされて、自尊心が音を立てて崩れてゆく。なぜ自分ではなく、あの女なのか!?
 愛情なら、誰よりも強く持っていた。偵察戦隊長として、仕事で役に立ってきた自負もある。乾いた夜ばかりとはいえ、二人だけの時間を過ごしてきた歴史もある。それなのに!

 ザビーネの振舞いにも、深く傷つけられた。すまなそうにするでもなく、ベラに過去の関係が知れるのではないかとビクビクするのでもなく、それどころか、いちゃついてさえみせたのだ。
 あれでは、自分たちは最初から何の関係も無かったようではないか! ベラに気付かれないようにという下心で堂々と振舞っていたのではない。路傍の石と同じ位にしか自分のことを見ていなかった。いや、ベラを自慢できるだけ、石よりましと思っていたかもしれない。
 自分で思いついた皮肉に、さらに心を傷つけられるアンナマリー。闇が心を覆い尽くす。この憤りを、どこへぶつけよう!?


 ザビーネとベラの二人は、出撃まで待機するために通路を移動していた。
 胸に抱えた百合の香りを嗅ぎながら、幸せそうに微笑むベラ。ロナ家の紋章・ライオンと百合にちなむ美しい百合の花束を、ザビーネは初陣の飾りにとプレゼントしてくれた。この花の気高さはベラそのものだから、という胸をうつ言葉とともに。
 その心遣いが嬉しくて、花束をコーティングして自分の機体に取りつけようと、心が逸る。この花があれば、ザビーネと離れて戦っていても、いつも彼に守られていると感じられるに違いない。
710Outer Space 第3章:03/10/19 23:45 ID:3A3WOOYj
 人影の少ない通路に差し掛かった時、ベラは気になっていることを聞いてみた。
「でも妙ですね。あなたほどの人が、このザムス・ガルの全てを知らないとは」
「艦長だって知りはしません。そういうものです」
 ザビーネはあっさりと答える。組織というのはそういうものだと。
「そう……この船をフロンティアIの隕石側に接岸させて橋頭堡にする――今回の作戦、それだけのものですか!?」
「はぁ!?」
 ベラの顔を見返すザビーネ。何を言いたいのだ!?

「父とは言え、カロッゾはどこか信頼が置けないのです。何か別のことを考えているように思えて……」
 考え深そうに話すベラ。その姿をじっと見つめていたザビーネは、独り言のように呟いた。
「……ジレは鉄仮面寄りですから、彼の言動に気をつけていれば、『バグ』のような暗号の意味もわかりましょうな……」
 聡明なベラのことだ、これで充分だろう。しかし、よい勘をしている。鉄仮面の動きに疑問を持ち、人知れず調べているのは自分も同じだった。
 ニュータイプは物事の本質を掴む力があるというが、ベラもそうなのだろうか? ビギナ・ギナを乗りこなす姿に、その萌芽を感じる。いや、血縁ならではの勘かもしれない。ニュータイプというのは存在自体が疑問視されることもある、あやふやな概念なのだから。

「『バグ』!?」
 曖昧な言い方にむっとして、ベラは不機嫌そうな顔でザビーネを睨む。
「……組織のすべてを知ることは難しい、という例えですよ」
 誤魔化すザビーネ。人目の多い戦艦の中で、これ以上の話をする訳にはいかない。それに、ベラに全てを打ち明けることは避けたいと考えていた。鉄仮面とジレが「バグ」という暗号名で何かを企んでいる――危険な匂いのする領域に、彼女を巻き込みたくなかった。
711Outer Space 第3章:03/10/19 23:46 ID:3A3WOOYj
 本心とは裏腹の試すような微笑を浮かべた顔を、ベラがきつい眼で見返す。こういう気の強さも魅力的なのだな、などと内心にやけていたザビーネに、遠慮会釈のない言葉で突っ込んできた。
「ロナ家のことを、軽蔑しているのでしょう!?」
 二人きりの時間にマイッツアーやカロッゾのことを話題にする時、彼の顔にほんの一瞬だけ走る感情には、とうに気付いていた。右手でザビーネの左肘を掴み、自分の方へ引っ張る。

 いつになく子どもっぽい仕草に、ザビーネはベラが自分より遥かに年下であることを思い出す。引っ張られた腕をそのまま流し、なだめるように彼女の肩に手を置いた。
 本当は、ザビーネの腕に触れずにはいられないベラだった。返って来る答えには予想がついていたけれど、ロナ家の一員である身で、愛する男からそれを言われるのは哀しい。
 人目を気にして身を避けるのではないかと思っていたザビーネが、肩に手を置いてくれたことで、少しだけ安堵する。触れた手から、彼の愛情が伝わってくるような気がした。

 観念して答えるザビーネ。
「……自分はクロスボーンの建軍には協力しました。マイッツァー・鉄仮面両氏が、私情と理念をごっちゃにすることがないのは知っていますし――」
 一瞬、視線を逸らす。一途な眼を見続けるのは辛かった。
「自分もそうであります」
 二人きりに時に、ここまで軍人口調で話したのは初めてだった。自分なりの真実を告げたつもりだが、分かってもらえたかどうか。
 不安が胸を過ってゆく。感情を処理できていないのだ。ベラといると、いつもこうなる。7歳も年下の少女に心を掻き乱され、冷静ではいられなくなる自分。
 今も肩に置いた手を強め、もっと近くに抱き寄せたいと考えている。出撃を控え、待機していなければならない身だというのに……
712Outer Space 第3章:03/10/19 23:48 ID:3A3WOOYj

 ベラはザビーネがふいに進路を変え、見慣れぬ通路を辿り出したことに驚いた。連れていかれたのは倉庫のような場所。中に引き込まれ、強く抱きすくめられる。
「ザビーネ……?」
「お静かに」
 ザビーネの唇が下りてくる。激しく熱く繰り返される口付け。いつもキリッと結ばれた唇のどこに、これだけの情熱が隠されているのだろう。ベラは何も考えられなくなってきた。

 ベラの恍惚とした表情と、パイロットスーツごしでも充分に分かる柔らかい身体に、ザビーネの最後の理性が打ち負かされる。
「ベラ、あなたを今、抱きたい」
「えっ!?」
 責任感が強く折り目正しいザビーネがそんなことを言い出すとは、考えてもいなかった。出撃前の慌しい時間、しかも大勢の人がいる戦艦の中で……
「厭だと言っても駄目です。もう我慢できない……」
 一瞬の迷いの後で小さく頷く。恋しい男からここまで言われては、断れる筈もなかった。

 パイロットスーツの前を開け、瑞々しい乳房を愛撫し始めるザビーネ。溶けてしまいそうなほど柔らかかった宝玉が、手の中であっという間に固くなる。屈んで乳首に唇を当て、舌でそっと転がした。
「んっんんっ……あ…はんっ」
 立ったままの姿勢と誰かが来るかもしれないという緊張感、そして出撃に際して高ぶる気持ちが、ベラの感度を普段の何倍にも高めていた。
 パイロットスーツを太腿まで下げ、ザビーネが花芯に手を這わせてくる。既に潤っていたそこは、しなやかな指を迎えて歓喜の涙を増す。大きな波が訪れ、ザビーネの腕に支えられながら全身を震わせた。
713Outer Space 第3章:03/10/19 23:49 ID:3A3WOOYj
 懸命に声を抑えている姿が可愛くて、ザビーネは何もかも滅茶苦茶にしたい気分になる。
 下腹部がきつく感じられてならない自分のパイロットスーツも引き下し、ひとつになるために動き出したその時、初めて思い出した。いつもの錠剤を持ってきていなかったことを。
 フロンティアIVに戻った後で薬剤を使う方法もあったが、ベラの身体への負担や、出撃中に万が一のことがあって計画通りにいかなくなる可能性を考えると、そういう気にはなれない。

「ここまで、に…しましょう……」
 突き進んでしまいそうな自分を、懸命に抑えながら言う。無理な抑制に、身体が大きく震えた。
「どうして!? そんなの厭よ!」
 火のついた身体は、もう止まらないところまできている。ここで終わりにされるなど、ベラには生殺しとしか思えなかった。
「しかし、あなたを妊娠させる訳にはいきませんから」

 ザビーネの真意が分かってホッとするベラ。誠実さが胸を打つ。自分の中から吹き上げてくる強い感情に力を得て、キッパリと答えた。
「構いません。ザビーネの子なら、むしろ欲しいぐらいです」
 ザビーネが野心しか持っていないなら、自分を妊娠させて手っ取り早くロナ家の婿に収まる道を選ぶ筈だ。マイッツアーも最初は驚くかもしれないが、元々二人の結びつきを望んでいたのだから、反対はしないだろう。それなのにザビーネは、律儀に避妊を考えていてくれる。

 成り行きや思いつきではなく、心底子どもが欲しいと思った。信じられる家族が欲しい。子どもを持てば、ザビーネとの間にも今以上の絆ができる。
 自分は母とは違う母親になってみせる。駆け落ちした男に連れられて、元の夫の前にいけしゃあしゃあと姿を見せ、あまつさえ捨てた娘をヒステリックに連れ戻そうとする――あんな女には絶対にならない!
 愛し合う両親の間ですくすくと育つ子ども。自分には許されなかった幸せの光景を、この手で作り出すのだ。
714Outer Space 第3章:03/10/19 23:51 ID:3A3WOOYj

「そこまで言ってもらえるのは、男冥利というものです」
 ザビーネはベラを抱きしめた。一瞬おいて、右眼の眼帯を静かに外す。酔い心地だったベラの眼が大きく見開かれた。
 死角を感じさせない操縦術を持つザビーネだったから、眼帯は伊達なのではないかという噂もあった。けれど閉ざされた瞼を生々しく横切る大きな傷跡は、あの操縦術が努力の賜物であったことを告げている。
 頬の上半分まで覆い隠す大きな眼帯を常々不思議に思ってきたけれど、傷の大きさを知ればそれも当然と頷けた。家の紋章に太陽を持ち、それに似合いの華やかな容姿も持っているザビーネに、こんな暗黒面があろうとは!

「これを見たことがあるのは、亡くなった母親だけです。父親が実の息子に憎しみと共につけた傷――そんな傷を持つ者と知ってなお、私の子どもを望んでくれますか?」
 ザビーネの隻眼が光を強め、痛いほどの眼差しでベラの瞳を覗き込む。潰された右眼さえもが、自分を見つめている気がする。義眼を入れず、傷跡を整形することさえしないのは、それだけ父親への憎しみが深いからなのだろうか。
 安易な言葉を返すことができず、無言で傷跡に口付けた。あなたのものであるのなら、傷跡さえも愛しましょう。その痛みを分かちあい……

 感動するザビーネ。
「他人(ひと)をこれほど愛しいと想ったのは初めてです」
 顔中に歓喜の口付けをし、最愛の女の中へ自分の分身を挿入してゆく。立ったままの姿勢でベラの身体を壁に押し当て、上げさせた片足を自分の腰に巻きつけるように抱きかかえながら。
「ザ……ビーネっ!」
 押し殺した声でベラが叫ぶ。最奥まで達したそれは、内部でさらに容積を増やそうとしていた。
715Outer Space 第3章:03/10/19 23:52 ID:3A3WOOYj
「ベラ……くぅっっ!」
 愛液が太腿を伝わり落ちてゆく。本当ならゆっくり楽しみたいところだが、そこまでの時間の余裕は無かった。いや何よりも、ベラのきつい締め付けが、そんなことを許してはくれなかった。
「すぐ……に、いってしまい…あぁっ! ……そうです。許し…てください……」
「いいわ、ザビーネ、来て!」

 これ以上声を漏らさぬように舌を捕え、ザビーネは動き始めた。冷ややかな倉庫の気温が二人の身体から発する熱で上昇し、物静かな中に激しい水音だけが鳴り響く。
「んんっっん……」
 感じやすい最奥を集中的に攻められて、ベラの身体が大きく揺れる。もう自力で立っていることができず、ザビーネの肩に置いた手で漸く身を支えていた。
「いくっ! ううぅっっっ!」
 最後の瞬間、ザビーネは最奥まで深く貫き、子宮口の近くで全てを放出させた。びくんびくんと大きく波打つ分身から、大量の精液が注ぎ込まれる。愛の結晶、生命(いのち)の源――

 床に崩れ落ちそうになるベラ。意識を半ば手放しながらも、腰を強く絡みつけている姿に、ザビーネは小さく微笑む。子どもが欲しいと言ったのは本当だったのだ。
 コスモ・バビロニアの女王となるベラと、妻を誇らしげに見守る自分。そして左手は、ベラによく似た可愛らしい女の子の、もみじのような右手と繋がっている。幸せな未来図に、今までの人生には無かった安らぎと、強い愛着を覚えるザビーネだった……
716610:03/10/19 23:55 ID:3A3WOOYj
第3章はこれで終わりです。 なんとか今日中にUPできて一安心・・・
アンナマリーの前でザビーネとベラが手を繋ぎっぱなしだった、というのは
原作通りにしてあります。映像だとちょっと分かりにくいのですが。

それから、第4章・第5章(終章)はエロなしになりそうです。
エロパロ板でありながら、大変申し訳ありません(平謝り
せめてものお詫びに、この2つの章をUPする間に、番外編のザビーネ×
ベラのいちゃいちゃHを書いてUPしようと考えていますので、大目に見て
いただけると助かりますです(といっても大したものは書けないでしょうが)。
第4章は火曜か水曜頃にUPできるかと思います。立て続けで申し訳ないです。
717名無しさん@ピンキー:03/10/20 00:30 ID:MeygUCl3
>610様
 す、凄い……。原作の裏側を、見事に描き切っている。こりゃ、自分も下手なSS
が投下出来ない。
 いやもう、第4章・第5章がエロ無しでも、全く問題無いですよ。706や713のセシ
リーの心理描写とかを読んでると、素直にそう思えます。
 しかし、Fekiaさんの話もそうだけど、アンナマリーに救いが無さ過ぎる展開です
よ。お二人のどちらの展開でも、彼女が連邦に寝返った理由が良く分かります。
なのにセシリーも連邦軍に投降するのだから、益々アンナマリーに救いが無い。
ある意味シーブック以上の被害者と言えそうです、彼女は。
 何はともあれ、第4章も頑張って下さい。
718名無しさん@ピンキー:03/10/20 00:46 ID:P8DLkDaz
610様、3章も素晴らしかったです!!
セシリーがイメージ通りなので興奮も高まりますね。
番外編を書いて頂けるのもとても嬉しいです。4、5章共々楽しみに
してます。
Fekia様の続きも楽しみだしこのスレ見てて良かったなぁ。
719名無しさん@ピンキー:03/10/20 03:23 ID:TwtgqvhP
610様
巧いですし面白いですが・・・・・が私はと言うのが精一杯ですね。
この物語だとやはりシーブックの存在が軽すぎる様な気が・・・・
このセシリーだとシーブック殺しちゃいそうですね。
頑張って完結させてください。
720名無しさん@ピンキー:03/10/20 11:52 ID:PfCj41Sz
>>719
ザビベラSSにシーブックの重さを求めるのは、魚屋に行って肉をくれと言うようなものだと思うが。
つか軽すぎはしないだろ。1-2章ではシーブックのことでずっと心を痛めてる。>セシリー
721名無しさん@ピンキー:03/10/20 13:14 ID:nBTI3PI0
>>ザビベラSSにシーブックの重さを求めるのは、魚屋に行って肉をくれと言うようなものだと思うが
同意。

感想は人それぞれなのだから、まぁいいではないか。

>>610
ザビベラなんてありえなくて完全に創作なものを見事に上手くまとめてますね。
次回楽しみです。
722名無しさん@ピンキー:03/10/20 23:05 ID:RED8JNSc
マターリ作家さんの作品待ってます。
723名無しさん@ピンキー:03/10/21 02:16 ID:2LmCATdj
お二人のSSのクロボン編が読みたい・・・。
キンケドゥの知らない知らないところで調教されるベラ艦長ハァハァ
724名無しさん@ピンキー:03/10/21 06:21 ID:k+X5xcM+
今日Fekia様は来てくださるだろうか?
ワクワクドキドキ
725名無しさん@ピンキー:03/10/21 07:00 ID:UY6mb82x
漏れもドキドキ。

あとは挿し絵が貼り付けられれば、完璧っす。
726名無しさん@ピンキー:03/10/21 07:57 ID:9p0rpSno
朝からドキドキ仲間が二人もいたw
610氏も今日か明日に続きをと書いていたから
うまくいくと二つとも読めてウマー
いい時代になったもんだ

ここだけで読んでるの勿体無い気がするんだけど
南極さんにウプしてもらうというのはどうだろ?
F91のSSが少なくて寂しいんだよね
Fekia氏と610氏のが並んでウプされたら壮観だと
思うんだがご本人たちはOKしてくださるかなぁ
727名無しさん@ピンキー:03/10/21 12:19 ID:aXJZHv7O
>>726
Fekiaさんのはウプされてるよ。漏れは南北さんに絵を描いてホスィと陸しようかと
オモットッタ。
728名無しさん@ピンキー:03/10/21 12:20 ID:aXJZHv7O
スマソ610氏のもウプされてる。見落としてた_| ̄|○
729名無しさん@ピンキー:03/10/21 12:50 ID:9p0rpSno
>>727-728
見てきた
今日の更新でウプされたんだね
管理人さん、ここ見てるのかな?
F91の目次のところがまだ変わってないから
気が付かなかった。教えてくれてありがとう

個人的には610氏のラブラブな二人の挿絵が
見たくて堪らないんだけど、なるべく原作の絵に
近いのを描いてくださる人がいいなぁ
やっぱり南北さんだろうか?
730名無しさん@ピンキー:03/10/21 13:47 ID:Sqv73ZOT
誰か頼んできてくれ。
俺も続くから。
誰にたのもかー。
731名無しさん@ピンキー:03/10/21 14:45 ID:qkI2wHO8
前にばじぃさんが花束持ってるザビーネを描いてたよ。
確か801の7259。
どうかな。ちょっと少女漫画っぽいかな。
732名無しさん@ピンキー:03/10/21 15:21 ID:g/VzXXqX
個人的にはあちゃさん、南北さん

Fekia氏のは濃いエロ系で
610氏のはラブラブなのが似合うと思います
733名無しさん@ピンキー:03/10/21 16:01 ID:qkI2wHO8
名前が挙がった中ではこんな感じ?
あちゃさん・・・ハッキリ系・・・Fekia氏?
南北さん・・・ほのぼの系・・・601氏?
ばじぃさん・・・少女漫画系・・・601氏?

漢5986に新井二十子さんがセシリーや
シーブックたちを描いてるね。
可愛い絵柄だから610氏のSSに合いそう。
734名無しさん@ピンキー:03/10/21 19:13 ID:4ZrNnFaI
漏れはFekia氏に一言言いたい!!

昨日はモビルスーツのコクピットの中で、行為に及んだ。無論その中のことは、外からではわか
らないが、ザビーネは全天周モニターをオンにして、コクピットの中からは外の様子が見えるよう
にした。着々と作業を進めるクルーたちを眺めながら、自分たちはこんなところで肉欲に耽ってい
るという思いが、セシリーをいつも以上に、乱れに乱れさせた。

このシチュを詳しく書いてほしかったYO!!
コクピット内での秘密の授業を体で学ぶセシリー・・・
個人的にはメチャクチャハァハァできるんですけど・・・

Fekia氏どうかお願いします!!
もうザビセシは無いとのことですがいつまでも待ちますんで
このあたりをどうか番外編で・・・
勝手ではありますがよろしくお願いします!!
ところで・・・






4章の投下は今日なのですか?
735名無しさん@ピンキー:03/10/21 19:51 ID:wSFgU0WZ
>>734
激しく同意ですねw 私もそこがあっさり終わっちゃったのが残念でした。
狭いところでヤルという点でも、羞恥心を煽るという点でも秀逸だったから。
私も番外編希望です。
736名無しさん@ピンキー:03/10/21 21:22 ID:4ZrNnFaI
>>732 >>733
あちゃ氏のパイズリ絵は絶品です
自分はしのさんの妖艶なカラミ絵キボンヌ・・・って
ここでリクしてもしょうがないか
737名無しさん@ピンキー:03/10/21 22:00 ID:ypH3mTHJ
よし陸しましょう。
738名無しさん@ピンキー:03/10/21 23:04 ID:/+ty6eR/
Fekia氏、いつもならUPしてる時間なのにまだだね。
今週はお休みなのかな。
漢板にセイラを描いてる○デ氏の絵もFekia氏のSSに合いそうに思った。
柔らかそうなオパーイハァハァ。
739名無しさん@ピンキー:03/10/22 11:55 ID:H228TzzP
12時間以上経っても誰もリクしてないし・・・・
740名無しさん@ピンキー:03/10/22 14:04 ID:rkGxQUcB
>>739
ごめん、やり方がよく判らない。
判ってる人で、この絵師さんと思う人が
いたらやってきていいんじゃないかな?
幾人か候補も出ていたことだし。
741名無しさん@ピンキー:03/10/22 16:11 ID:jwhyjxk7
>>740
まず挿絵依頼掲示板へ行きましょう。
そして題名に絵師さんの名前を入れ、SSのタイトルと挿絵にして欲しい場面を本文に書き、送信。これでOKです。

本文の例)
ゲドラフとギャン、背徳の夜。
http://red.sakura.ne.jp/~nankyoku/○○○.html
----------------------------------------
ゲドラフのアインラッドがギャンのシールドを蹂躙していく。
「止めて! ゲドラフさんそれは主人の形見……」
「ふふふ、ギャンさん、そう言っている割にあんたのスカートからはオイルが垂れ流れているじゃないか」
ゲドラフは厭らしくマニュピレーターを蠢かし、ギャンのコックピットに挿入した。
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○○さんお願いいたします。
742名無しさん@ピンキー:03/10/22 16:19 ID:jwhyjxk7
うが!しまった!直リンしてもーた!
743610:03/10/22 16:21 ID:jMW5wFZw
感想などのレスをくださった方たち、ありがとうございます。
私はF91を初めて見たのが1ヵ月前という人間なので、以前からの
ファンの方に誉めていただけると凄く嬉しいです。
南極条約さんにも収録していただいて、とても励みになりました。
挿絵というお話もあるようで光栄です。どうぞよろしくお願いします。

>>719
>>699に書いたように、原作のセリフや展開に沿って話を進めていきますので、
シーブックを殺すような話にはなりようがありません。
第4章以降は、シーブックの存在が次第に大きくなってきます。
ただそれが、719さんのお好みに合う形かどうかは分かりませんが・・・(汗

>>720 フォローありがとうございました。
744610:03/10/22 16:23 ID:jMW5wFZw
>>721
個人的には、原作の推論としてのザビベラは充分あり得ると思っています。
そう考えた方が理解でき、納得できるセリフや絵コンテなどが多いので。
とはいえ私が書いている作品そのものは、推論以外にも妄想を山盛りにして
いますから、フィクションもいいところですが(苦笑

>>723
クロボンを元にした続編も考えていて、大まかな構想はしてます。
調教は私などよりFekiaさんので拝見してみたいです(w

長レスですみません。
それでは、以下10レスほどお借りして第4章をUPします。
今回のはエロがない上、シリアスで暗い話になってきます。好みでない方は、
お手数ですがスルーをよろしくお願いします。
745Outer Space 第4章:03/10/22 16:24 ID:jMW5wFZw
 フロンティアI制圧作戦の出撃を目前に控えて、ベラはビギナ・ギナの左頬に、コーティングした百合の花束を取り付けていた。自分が女王になる決断をした時、ザビーネが熱い視線を向けていた左頬――初陣の飾りをつける場所としては、ここしか考えられなかった。

 搭乗を命じる艦内放送を受けてコクピットに向かおうとした時、ザビーネの姿を見つけて傍に駆け寄る。
「ザビーネ、いろいろ気を遣ってくれてありがとう」
「いえ、このビギナ・ギナがデナンよりも扱い易いとおっしゃるベラ・ロナ様は、真のニュータイプでいらっしゃるようですな」
 ビギナ・ギナは360度対応できるフィン・ノズルを機体背部に8つ装備している。8つを別々に動かすこともできるため、あらゆる方向に向けて高い機動力を発揮できるものの、並みの人間に乗りこなせる機体ではなかった。ベラはこれを軽々と操ってみせたのだ。

「人をおだてて、初陣の私を一人にしないでくださいね」
 コクピットに降り、ザビーネの姿を見上げながら言う。甘えた声になってしまったのは、さっきの倉庫でのことを思い出したからだ。視線が股間の辺りに向いてしまい、自分の大胆さにドギマギする。
「我が黒の戦隊が、周囲からお守りいたします。では!」
 自信に満ちた言葉を返し、ザビーネは自機ベルガ・ギロスの方へ向かって歩いていった。切ない眼差しでそれを見送るベラ。自分と違って平然としている彼が、少しだけ憎らしく思えた。
 一瞬覚えた不安は、初陣への気後れだったのか、未来への予兆だったのか――


「飛べて、しまう……」
 ベラは宇宙空間に出て、呆然とする。ついこの間まで、自分がモビールスーツを操縦して戦場に出てゆくなんて、考えもしなかった……
 先を行くザビーネのベルガ・ギロスが、シャル家の紋章のビームフラッグを出す。
 太陽を表す紋章に見入るベラ。美しいと、心から思った。高潔で誠実なザビーネによく似合う。その旗の元に飛んでゆけば、どんなことでもできてしまいそうだった。
746Outer Space 第4章:03/10/22 16:25 ID:jMW5wFZw
 一方ザビーネは、ベラの腕前に驚いていた。初めての出撃ですぐに編隊が組めるとは、ベテランパイロットも顔負けだ。
 心の中で呟く。あるがままを見ただけで、その物の本質を洞察できるのがニュータイプというが……信じたくなった。やはりコスモ・バビロニアの女王は、ベラしか考えられない。

 同じ頃、シーブックたちの母艦である巡洋艦のスペース・アークは、思いがけない客を迎えて機体の整備やデータの入れ替えに大騒ぎをしていた。クロスボーン・バンガードの偵察戦隊長・アンナマリーが、自機ダギ・イルスを手土産に連邦軍に寝返ってきたのだ。
 ザビーネとベラの姿に衝撃を受けた彼女の、思いきった行動だった。愛らしい容姿を持つ少女に、どこか黒い影を感じるシーブック。戦場に出たことでニュータイプ能力を開花させつつある彼の予感は、やがて不幸な的中の仕方をすることになる――


 連邦軍の艦隊からの一斉掃射が、暗黒の宇宙空間に花火のような美しい光を放つ。戦闘宙域をじっと見つめるベラ。訓練の時とは全く違う緊張感を覚え、酷く不安な気持ちになる。
「ベラ・ロナ様」
 機体へ張られた回線からザビーネの落ち着いた声が聞こえてきた。
「あ、はい」
「ドレル大隊が撃ちもらした敵機を掃除します。ベラ様は気後れてる味方機があれば、叱ってやってください」

 軽い口調で言うザビーネ。ベラを危険な眼に遭わせたくなくて、後衛にいるようにと伝えている。
「勉強させてもらいます、ザビーネ」
 心がすぅっと落ち着く。強くて頼もしい、自分のことを大切に守ってくれる男。身体の中に残るザビーネの情熱の跡が疼く。いつもの周期なら、ちょうど排卵期になっている頃だ。妊娠できたら嬉しいのだけれど……
747Outer Space 第4章:03/10/22 16:26 ID:jMW5wFZw
  *     *     *     *     *     *     *

 アンナマリーは、スペースアークに所属するF91ガンダムのパイロット・シーブックや、ヘビーガンのパイロット・ビルギットと共に出撃することになった。
 ほんの少し前まで所属していたクロスボーン・バンガードと、そして何よりもザビーネと、戦うのだ。
「成り上がりの私がロナ家の女に勝てる訳がない」
 確認するように呟く。そういうことにしておかなかれば、自分がバラバラになってしまいそうだった。家の名前に負けただけで、女としての勝負に負けた訳ではないのだ、と。

 クロスボーンのフロンティアI制圧部隊が、コロニーの中に入ってくる。黒の戦隊の中にベルガ・ギロスを見つけ、アンナマリーは急接近しながら叫ぶ。
「来たな、ザビーネ! のこのことベラ・ロナを連れて……そんなに家の名前が欲しいのかっ!?」
 自分に言い聞かせ続けた「家の名前に負けた」という考えは、今では彼女の真実になっていた。
「! 味方機のコードに惑わされた」

 アンナマリーの裏切りに気付くザビーネ。一瞬だけ普段の余裕をなくすが、すぐに機体の動きを見極めて言った。
「ふっ、ビームサーベルで私を討つことに拘るのか!?」
 ダギ・イルスはクロスボーン軍の機体では唯一、メガ粒子砲を備えている。それを使って遠距離から相手を撃った方が自機を危険に晒さずに戦えるのに、アンナマリーはビームサーベルを構えて接近戦に持ち込もうとしていた。
 戦場で臨機応変に振舞えないパイロットには死あるのみだ。技量の違いも考えず一つの戦法に拘る姿には、失笑しか浮かばなかった。

「アンナマリー、見込んだだけのことはあるが!」
 仕事のできる部下として可愛がり、引き立ててやった日々を思い出しながら叫ぶ。
「一緒に死ねー! でっちあげの名前を頂いて、人類の粛清などと――」
 負けじと叫ぶアンナマリー。幸せそうなあの女の前で、昔の女と無理心中させてやる!
748Outer Space 第4章:03/10/22 16:28 ID:jMW5wFZw
 捨て身の戦法は血路を開くかに見えた。しかしすぐに体勢を立て直したザビーネは、あっという間にアンナマリー機の懐に飛び込んできた。
「共に死ねば、お前の口惜しさは消えるのか!?」
 コクピットにショットランサーを突きつけながら、誘うような声でザビーネが問う。絶体絶命の態勢に焦るアンナマリー。自分の本心を正確に言い当てられたことも、動揺に拍車をかける。

 ザビーネの心を感じ取ったシーブックが叫ぶ。
「アンナマリー、離れろ!」
 だが間に合わなかった。アンナマリーが我に返って機体を離す前に、ザビーネのショットランサーがコクピットを撃ったのだ。
「あーーーっ!」
「感情を処理できん人類はゴミだと教えた筈だがな……」
 落ちてゆく機体を見下ろしながら呟くザビーネ。その顔には冷酷な軽蔑の情だけが浮かんでいた。


 一部始終を見ていたベラは、動揺を押し隠しながら、機体をザビーネのベルガ・ギロスに接触させて問いかけた。
「ザビーネ、どういうことか!?」
「ご覧の通りです。部下の裏切りは自分の汚名であります。お許しください」
 回線ごしにザビーネの冷静な声が聞こえてくる。
「そうなのか……」

 ベラは直感で分かった。なぜアンナマリーが裏切ったのか、なぜザビーネと共に死のうとしたのか。
 ザビーネの口調が、直感の正しさを補強する。ザムス・ガルの通路で、自分の質問に答えにくそうに答えた時も同じだった。ザビーネには、嘘はついていないけれど本当のことも言っていない時、二人きりの会話が軍人口調になる癖があるのだ。
 アンナマリーが偵察に出る直前、自分たちを複雑な表情で見ていたことを思い出す。あの時は作戦のことで頭が一杯で気が付かなかったが、あれは嫉妬の表情だった。妬くだけの関係をザビーネと持っていた、ということだ。共に死ぬことを望むほどの関係を……
749Outer Space 第4章:03/10/22 16:29 ID:jMW5wFZw
 ザビーネほどの男に、自分の前に付き合った女性がいても不思議はない。それに過去はともかく、今の彼が自分のことを誰よりも愛してくれているのは知っていた。共に過ごす時間に感じる深い心を、疑ったことは一度もない。今、この瞬間でさえも。
 けれど、仮にも過去にそういう関係にあった女性を、簡単に殺してしまえるものだろうか!? 機体だけを損傷させて捕えることも充分できたのに、なぜコクピットを撃ったのか!?

 ザビーネへの不信感と強い不安とが心に渦巻き、ベラは少し前までは考えてもいなかった行動を取った。
「後衛は前へ。ザビーネは後ろへ!」
 きっぱりした口調で指示を出し、自らもビギナ・ギナを駆って前衛へと出てゆく。慌てたザビーネが叫ぶ。
「いけません、ベラ・ロナ様! ボブルス、ベラ様から目を離すな!」

 ベラが突然動いた理由が、ザビーネには全く分からなかった。タイミングから考えてアンナマリーの一件が関係しているのは想像がついたが、なぜベラが彼女のことで影響を受けるのかが分からない。昔の関係に気付いて妬いているのだろうか?
 いや、あの落ち着いた命令は、そういうひねた感情の成せる業とは思えない。もっと腰の据わった覚悟のようなものを感じさせる。一体、どんな覚悟を決めたというのか!?


 不安に苛まれながらも、ザビーネはコロニー内から離脱せざるを得なかった。
 鉄仮面とジレが何か行動を起こすなら、モビールスーツが殆ど全て出撃し、連邦軍との戦いに散っている今が最高のタイミングの筈だ。修理と補給が必要だと言ってザムス・ガルに戻り、彼らの動きを見張らなくてはならない。
 実際、アンナマリーとの戦闘でベルガ・ギロスの左腕を損傷していた。このまま戦い続けるのは危険だ。
750Outer Space 第4章:03/10/22 16:30 ID:jMW5wFZw
 ベラも途中まで連れてゆき、安全な場所で待たせておくつもりでいた。けれど、彼女は遥か彼方に行ってしまって、接触回線で話すことができない。敵の領域内で無線を使うのは危険過ぎる。
 ザビーネは苦渋の決断を下した。せめてもの気遣いとしてボブルス以下、部下の殆どを残すことにする。

 本当は自分の手でベラを守りたかった。
 しかし、個人の情に溺れずに行動するのは軍人として大切なことであり、「感情を処理できない人間はゴミ」を信条とする自分にとっても何よりも重要なことだった。信奉するコスモ貴族主義からも、鉄仮面の陰謀を暴く責務を最優先で果たすべきだと判断できる。
 後ろ髪を引かれる思いでザムス・ガルに向かう自分の気持ちを、ベラが分かってくれることを祈るばかりだった。
 もう一度確かめ合いたい、あの幸せの未来図が幻ではないことを。安息(やすらぎ)の時代が来れば、ベラだけを抱きしめられるのだから……

  *     *     *     *     *     *     *

 ザビーネの去った空域で、ベラは自分の機体が軽やかに感じられてならなかった。彼の旗の元だからこそよく動けると思ってきたのに、居なくなった方が余程軽やかに動けるというのは、どういうことなのだろう。ザビーネの存在そのものが重かったということだろうか!?
 彼は恐らく、鉄仮面のことで去ったのだろう。教えてくれたこと以外にも、何かを知っていそうだった。陰謀を止めたい気持ちは自分も同じだ。違うルートから、鉄仮面の元へ辿りつくことになるかもしれない。
 でもその前に、この空域に何か、自分が出会うべきものがある。そういう予感がする。それは何なのか……?


 ベラのビギナ・ギナを先頭に、黒の戦隊はコロニー内に切り込んでいった。しかし、小型で機動力のあるF91ガンダムの活躍や、地上のレジスタンス部隊からの砲撃とスペース・アークのビーム砲により、一機また一機と撃ち落とされてゆく。
 ベラも撃ち落とされそうになる。ボブルスが突っ込んできてくれ、危うく助かったものの、彼はそのまま撃墜。戦闘のさなか、ベラはF91のコクピットに旧知の気配を感じる。
751Outer Space 第4章:03/10/22 16:31 ID:jMW5wFZw
「その息遣い……シーブックでしょ!? シーブックよね、シーブック!」
「セシリー!? セシリー!」
 紛れもなく、シーブックの声だった。迎賓館に忍び込んできた時以来の再会に、ベラは声を弾ませて聞く。
「接触回線、聞こえるわ。シーブック、本当にそれを操縦しているのね!?」
 こんな形で再会することになるとは夢にも思わなかった。あの予感はシーブックのことだったのだ。

「セシリーこそ! その白いモビールスーツを……どうしてさ!? セシリー!」
 コクピットの扉を開け、顔を見せるベラ。
「こうなっちゃったのよ、こうできちゃったのよ……どうしたらいい!?」
 シーブックに会ったことで、それまでの張り詰めていた気持ちがとけ、恐怖感が一気に襲いかかってきた。戦場での恐怖より、ザビーネへの恐怖の方が何倍も強い。彼がアンナマリーにした、あの仕打ち!

 用済みになったり少しでも敵対する素振りを見せたりしたら、自分も同じことをされるのではないかという不安が、心を凍り付かせる。
 やっと見つけたと思った自分の居場所。そこは安住の地では無かったのかもしれない。愛されていること、それはいつまで続く想いなのか……愛されなくなった時、愛されることが今よりも少なくなってきた時は?
 ザビーネの今を信じることはできても、未来まで信じることは、もうできそうにない!

「どうしたらって……セシリーは髪を切って、ロナ家に戻るつもりだったんだろう!?」
 唐突に聞かれて、戸惑いながらも反発するシーブック。連れ帰ろうと忍び込んだのに、もう遅いといって自分の手を拒んだではないか。翌日のコスモ・バビロニア宣言の時も、ロナ家の一員として儀式に臨んでいた。
「違うわ! あなたたちが皆、いなくなったから……他にしようがないって思えたから!」
 ベラの頭の中は殆どパニック状態だった。かすかに残った理性で、嘘をついていることを自覚してはいた。それでも、ザビーネを信じられなくなった彼女にとって、今はシーブックしか頼る相手がいなかったのだ。
752Outer Space 第4章:03/10/22 16:33 ID:jMW5wFZw
「そ……そうだったのか!?」
 人のいいシーブックは、ベラの迫力に負けて言い返すことができない。勢い込んで続ける。
「私はまだ、セシリー・フェアチャイルドよ!」
 そう、自分はもう「ベラ」ではいられない。ザビーネが狂おしく呼んでくれた、「ベラ」という名前では――

  *     *     *     *     *     *     *

 シーブックとビルギットはセシリーのビギナ・ギナと共に、コロニーの太陽側の港へ移動していたスペース・アークに戻った。
 少しだけ気持ちが落ち着いてきた。ずっと黙ったままのシーブックに、自分を非難する想いを感じ取り、俯きながら言う。
「成り行きだけではないことは認めますが、私だってあの家には居られないわ」
 彼の居場所が自分の居場所だと信じられたザビーネを、遠く感じてしまう今、もうあそこに自分の居場所はない。

 どう答えていいのか分からず、無言のままのシーブックに代わって、ビルギットが怒りを爆発させる。
「仕掛けたのはそっちなんだよ! そのためにフロンティアIVでは虐殺が行われた。ここのクルーだってみんな死んじまって、素人が軍艦を動かしているだぞ!」
 クロスボーン・バンガードの行動を甘く見ている連邦政府が、大した援軍を送って寄越さず人員も不足しているため、スペース・アークは民間人の力を借りながらなんとか動いている状態だった。

「そういう体制を……お祖父さまは直したかったのです」
 連邦政府が腐敗していること、そのために何かをしなければならないと考えていること、その点では祖父と意見が一致していた。ザビーネはもちろん、鉄仮面とでさえも。
753Outer Space 第4章:03/10/22 16:34 ID:jMW5wFZw
「今は言いっこなしじゃない!? セシリー。みんな巻き込まれちゃったんだよ」
 アズマが割って入る。最初にクロスボーン・バンガードが侵攻してきた時、一緒に逃げた仲間の一人だった。
「俺だって敵機は落とした。おあいこだよ」
 シーブックも横からフォローしてくれた。余所余所しい態度でいた彼が漸く庇ってくれたことに、少しだけ安堵する。

 尚も言い募ろうとするビルギットを遮って、スペース・アークの艦長代理を務めているレアリーが声をかける。
「あなたに関しては、いろいろ事情が複雑なようね……」
「ですが、本当の敵は何かってことを見て来たつもりです」
 言葉はレアリーに、睨むような視線はビルギットに向けて答える。眼の前のことしか見えず、自分の怒りを誰かにぶつけて晴らすことしかしようとしない男に、どこか既視感を覚える。
 しかし、言葉に嘘は無い。祖父にも内密に、鉄仮面が何か画策している。クロスボーン・バンガードは一枚岩ではないのだ。

 コロニーの外の戦闘を気にするシーブックやビルギット、そして今後のための指示を出すレアリーに、俯くことしかできない。彼らの「敵」は紛れもなく、自分がついさっきまで居て女王になろうとまで決意した、クロスボーン・バンガードなのだ。
「ここはさ、軍艦じゃないんだから、セシリーも居てもいいんだぜ」
 一緒に逃げた仲間の一人・サムが言ってくれた。
「ありがとう」
 仲間たちの温かさに、涙が込み上げてくる。

 話している横で、スペースボートを収容し、係留するための作業が始まった。クルーの誘導するさまが、ザムス・ガルのカタパルト・デッキを思い出させる。最後に見たザビーネの姿が脳裡に浮かび、耐えていることができなくなった。
 肩を震わせて涙を零し始める姿は、後ろに居たシーブックにも伝わり、心配して声をかけてくれる。
「あたし……ああっ!」
 胸に泣きつく。
「いいんだよ。セシリーは、ここに居てもいいんだ」
754Outer Space 第4章:03/10/22 16:35 ID:jMW5wFZw
 その言葉に、蘇ってくるザビーネの声。シーブックの手を振り払って彼を選んだあの夜、ザビーネは言ってくれた。あなたの帰る家にも、眠る場所にもなりましょうと。
 あれはわずか数日前の出来事だったのに、今となっては何十年も昔のことのようだ。涙が止まらない。他の男、しかも敵方の男のことで泣く身勝手さを知りつつも、どうすることもできなかった。

 それに、シーブックに「セシリー」と呼ばれて初めて気が付いた。「ベラ」でいるのが、大きな負担だったということに。「セシリー」に戻りたいと叫び続けている心の声を、ザビーネの圧倒的な存在感が聞こえなくさせていた。
 ベラだけでなく、セシリーも同じように愛して欲しいと言ったら? アンナマリーと同じように、あっさり切り捨てられたことだろう。彼が愛してくれたのはベラであって、セシリーではないのだから。
 ザビーネの冷静さを、かつては頼もしいと思いもした。でも今となっては……

 何よりも求めていたのは、全てを抱擁してくれる温かい胸。実父や母親さえ信じることができず、養父には裏切られた。心に深い空洞を抱えている身には、親のような愛情、親に代わって私自身を肯定してくれる存在がどうしても必要だった。
 それなのにザビーネは、そういう愛情をくれる相手ではなかった。彼がくれたのは、ベラだけの肯定。セシリーでもある私への愛情や、未来を信じられるほどの愛情を、くれはしなかった。

 けれど――
 心に、身体に、ザビーネの体臭がまだむせるほど残っている。最後に抱き合った時の記憶は、私を苦しめ続けることだろう。
 アンナマリーは愛されていないからああいう眼に遭ったのだ、愛されている自分は違う――そう無邪気に信じられる、馬鹿な女でいた方が、幸せになれるのかもしれない。それでも、全てに眼をつぶってしまえるほど、私は寛容な人間ではないのだ。
 もうザビーネとは生きてゆけない。深い絶望が心を引き裂く。嫌いになれたら、憎めたら、どれだけいいか!

 母も、こんな想いをしたのだろうか。あんな父に対しても、愛情を寄せ、私の誕生を喜んだ日々があったのだから。
 いいえ、私は母とは違う。あの女のように簡単に男を乗り換えるなんて、私にはできない。だって、まだザビーネを愛している。こんなにも、こんなにも、愛している!!!
755610:03/10/22 16:37 ID:jMW5wFZw
第4章はこれで終わりです。
MSなどに関してはネットで調べただけなので、あまり自信がありません。
間違っているところがないといいのですが・・・

それから、前回書いた通り、第5章以降をUPする前に番外編でザビーネ
×ベラのいちゃいちゃH話をUPしようと考えています。
金曜日頃になると思いますので、またよろしくお願いします。
(第5章で終える予定でいましたが、シーブック関係のことを書き込んで
いったら長くなってしまったので、第6章まで使うことにしました。
どちらもエロなしですが/汗)

なお、私が立て続けにUPしていることで、他の方が作品をUPしにくい
雰囲気になっているようでしたら、誠に申し訳ありません。
勝手なお願いですが、気にせずUPしてくださいませ。
一読者としてまた新米作家として、他の方の作品もいろいろ読ませて
いただきたいと、心から思っています。
756名無しさん@ピンキー:03/10/22 19:46 ID:sY4KB3sC
>610様
 いやもう、冗談抜きで凄いですよ。彼女が「ベラ」という名を捨て「セシリー」に
戻ろうとするくだりなどは、本当に見事でした。


>なお、私が立て続けにUPしていることで、他の方が作品をUPしにくい
>雰囲気になっているようでしたら、誠に申し訳ありません。
>勝手なお願いですが、気にせずUPしてくださいませ。
>一読者としてまた新米作家として、他の方の作品もいろいろ読ませて
>いただきたいと、心から思っています。

 今は、あなたとFekiaさんのハイレベルなF91のSSの影響で、他の方がSSを書
き込み難い雰囲気になっているのは、確かです。お二人のSSが完結すれば、ま
た他の方がSSを投下する様になるでしょう。
 その時は、自分の話に感想をくれた方へのお礼だと思って、出来るだけ他の方
のSSに、感想を寄せてあげて下さい。自分の書いた話で読み手の心が動かせた
事が分かるのは、やはり嬉しいですから。


 第5章、期待しています。頑張って下さい。
757名無しさん@ピンキー:03/10/22 20:43 ID:cVeShqmo
610様、4章も期待通りでした。金曜日が楽しみです!
あとはFekia様が来週にはアップしてくれたら嬉しい。
今ちょっと心配です。
758名無しさん@ピンキー:03/10/22 23:14 ID:RyG87pUz
610氏
すごいの一言。セシリーのとった行動がよく判る。
原作だけ見てると自分勝手に見えてしまって感情移入しにくいんだけど、
このSSだと判るなー辛いだろうなーなんとかしてやりたいなーと思う。
しかしFekia氏とは別の意味で容赦ないね。
キャラを甘やかさないところがツボですた。
759名無しさん@ピンキー:03/10/23 00:45 ID:oIWoH76p
719です、610さんどうもわざわざお答えくださって
ありがとうございました。
え〜、その前の感想で書き込み不足申し訳ないです。
私が言いたかったのは、もう少しセシリーがシーブックとザビーネ
二人の間で心揺れ動いた方が良かったのでは?と言う事です。
物語そのものに文句を付けているような文を書いてしまい申し訳ないです

760名無しさん@ピンキー:03/10/24 12:30 ID:f38chVfg
>>740たんまだー?
761610:03/10/24 22:21 ID:avResAY3
感想と励ましをありがとうございました。
住人の方たちに育てていただいているのだなと、心から思います。
凄く嬉しいです。

>>756
ハイレベルどころか、ウザいのではないかと(汗
でも、いいアドバイスをありがとうございました。そうですね、頑張ります。
>自分の書いた話で読み手の心が動かせた事が分かるのは、やはり嬉しいですから。
本当にその通りだと思います。今、実感しております。

>>759
そういう意味でしたか。外したレスをしてしまって申し訳ありません。
二人の間で揺れ動く展開も考えたのですが、迎賓館の時点では揺れ動かずに
一気にザビーネにいってしまった方が、私が進めようとしているその後の
展開に都合がいいので、あのようにしました。
揺れ動いてしまうと、その後の言動と辻褄が合わなくなってしまうので。
でも、揺れ動くセシリーは題材としてはとても面白いと思いますし、
どなたか書いてくださるなら是非読みたいです。759さん、どうですか?

それでは「Outer Space」の番外編を。ラブラブ時代のザビーネとベラの
いちゃつき話で、第2章と第3章の間の出来事になります。
以下、7レスほどお借りします。
762Outer Space 番外編1 One Night:03/10/24 22:22 ID:avResAY3
 熱い時間を過ごした後で、ベラは一糸もまとわぬ姿のまま、ザビーネの広い胸板に顔を埋めた。鼓動が頬に直接に響いてきて、立ち昇る汗の匂いが、先ほどの夢のような一時(ひととき)を思い出させる。
 自分のことを眩しそうに見つめるザビーネの眼差しの中に、少しだけ漂う寂しげな影が心を揺らす。満ち足りた時間の後で、ごくたまに見せる表情……

 ザビーネはベラの髪を撫でながら、幸せそうな笑顔を見守っていた。時々、耳や頬に手を這わせ、快感を呼び覚まさせる。その度にザビーネを上眼遣いに睨みつけるベラ。
 その眼差しがとてつもなく色っぽく、また愛らしくもあって、子どものように悪戯に熱中してしまう。いつの間にか、寂しげな影は跡形も無く消えていた。

 思いがけないザビーネの稚気に、呆れながらも許してしまうベラだったが、いつまでもされるがままではない。お返しとばかりに、ザビーネの乳首をペロッと舐める。
「!」
 身体がぴくんと動いたことに気をよくして、反対側にも同じことをする。再び反応するザビーネ。面白くなったベラは、調子にのって鼻も舐めてみた。
「ううぅっ!」
 ザビーネが身体を大きく震わせた。股間のものが一気に膨らみ、そこが弱点であることを雄弁に告げる。

 驚くザビーネ。そんなところに性感帯があるとは、自分でも知らなかった。俊英「黒の戦隊」の隊長の鼻を舐める者など、今までいなかったのだから。ベラがもう一度舐める。さらに膨らむ分身。
「うふふ、もっとしてほしい?」
 今度はザビーネがベラを睨みつける。
「いけない人だ。お仕置きが必要なようですね」
「え!?」
763Outer Space 番外編1 One Night:03/10/24 22:23 ID:avResAY3

 ザビーネはベッドボードの傍にクッションを積み上げると、それに背を預けてベラを背後から抱き寄せた。ウェストに両手を回し、自分の脚の上に座らせる。
 ベラの背中はザビーネの胸に、太腿はザビーネの太腿に、そして頬はザビーネの頬にピッタリとくっついている。ベラの身体が熱くなってくる。下腹部で組まれた手が、なんとも微妙な位置にあり、意識せずにはいられない。

「身体を固くして、どうしました?」
 ザビーネが、からかうように言う。
「お仕置きなんて言うから……」
「フフフ、そのせいだけですか? この辺に緊張が走ったような……?」
 組んだ手を少しだけ動かす。
「! ……気のせいです」
「それならいいんですが」

 身体を密着させているせいで、ちょっとした身じろぎもすぐに伝わり、その度に胸がときめく。
 ザビーネはくっつけていた頬を外し、ベラの頭の後ろに顔を置くと、鼻で髪の毛をかき分けるような仕草をした。小さく反応するベラに微笑みながら呟く。
「ベラの匂いがします……」
 抱きかかえたまま、上半身をゆらゆらと揺らす。その度に、下腹部で組まれていた手が少しずつ上がってくる。
「どんな匂い?」
「フフフ、言わない方がいいでしょう」
 意味ありげな言い方が気になり、振り向いて顔を見ようと身体を動かしたせいで、困った事態が生じた。ベラの尻の下にあったものが跳ねあがり、あの場所に当たるようになったのだ。
764Outer Space 番外編1 One Night:03/10/24 22:24 ID:avResAY3
「ザ、ザビーネ……」
「どうかしましたか?」
 身体の変化に気が付いている筈なのに、いつもと変わらない冷静な声が返ってくる。
「……その、あそこに……」
「ん!? どこです?」
「分かるでしょう!?」
「分かりませんなぁ……」
「ザビーネの意地悪!」
「フフフ、ベラが可愛いから苛めたくなってしまいました」

 耳たぶを唇に含む。
「あんっ」
「そうやって腰を動かされると、誘われているみたいですね」
 当たっているものが質量を増し、自分の存在を強く主張し始める。
「そ、そんなこと、ありません!」
 ザビーネが耳のすぐ傍で話しているため、息や声が耳に直接響き、背中がゾクゾクとする。声が凄くセクシーで、それだけでも感じてしまう。平気な振りをしていようと思うのに、身体が震え出すのを止めることができなかった。

 ザビーネの手が、ついに乳房まで上がってきた。両手で双方の乳房を包み込み、軽く力を入れて大きさを測るような仕草をする。
「人より大きい手なのに、全部入りませんね」
「……」
「固くなると、少しは小振りになりますかな……?」
 独り言のように呟きながら、ゆっくりと手を回す。
「あ……あっ……」
 じわじわと快感が広がってくる。耳に吹きかけられる息も、ベラを官能の世界へと誘(いざな)ってゆく。
765Outer Space 番外編1 One Night:03/10/24 22:26 ID:avResAY3
 片手を下に滑らせるザビーネ。
「足をもう少し広げてください。いいでしょう?」
 太腿の内側をそっと撫でる。
「あぁ……」
 腿の力が抜け、言われるがままに足を広げる。自分の取っているポーズが全部見えるだけに、ベラの羞恥心は増してゆく。ザビーネは秘部を包み込むように手をあて、そのまま静止する。

 見ないようにしようと思う傍から、視線はそこへ向いてしまう。手がいつ動き出すのか、どんな動きをするのか、考えただけで胸が絞めつけられる。
 静寂の時に耐えきれなくなった頃、ザビーネの長い指が恥毛をかき分け花襞をツツツと辿り出した。
「あぁんっ!」
 反対側の手が乳首の上で弧を描くような動きをする。
「うぅん……」
 ザビーネの舌が耳の中に入り込み、ちろちろと舐める。
「はぁん……」
 3箇所を違うリズムでじわじわと攻められ、身悶えするベラ。

「もっと……」
「もっと?」
「焦らさ…ないで……あんっ」
 指が花蕾を軽く押した。ザビーネの指を求めて、腰が動き出す。
766Outer Space 番外編1 One Night:03/10/24 22:27 ID:avResAY3
「待ちきれないのですか?」
「そうじゃないけど……ああっ!」
「これは?」
 花蕾を指で転がす。
「駄目、感じてし……あっ、ああっーーーっ!」
 先ほどの余韻を残している身体は、少しの刺激にも耐えられない。こらえる間もなく達してしまった。全身を震わすベラを密着した身体全体で感じ取り、嬉しそうに微笑むザビーネ。

「こんなに沸いていますよ」
 わざと音の出るような触り方をする。部屋の中に響く淫猥な音が、ベラの羞恥をさらに高める。
「だって、ザビーネが……」
「ベラが望むようにしているだけです。次はどうして欲しいですか?」
 自らの分身で入り口付近を刺激しながら、意地悪く聞く。

「……分かってるくせに……」
「言わないと分かりませんよ」
「……い、れ…て……」
 俯きながら小声で呟く。
「この姿勢でですか?」
「顔が見えないと寂しいわ」
 ザビーネは零れそうな笑顔を浮かべる。恥らうさまも、甘えるさまも、可愛くて堪らない。
「ではこちら向きで」
 ベラを振り向かせ、膝の上に乗せた状態で口付けを繰り返す。
767Outer Space 番外編1 One Night:03/10/24 22:29 ID:avResAY3
 そのまま挿入してもらえるのかと期待するベラを焦らすように、首筋や乳房への愛撫を加え、その後は身体をベッドに横たえさせる。
 錠剤を入れた後で、太腿を閉じ気味にしたまま足を伸ばさせ、膝を少しだけ浮かすように促す。そしてベラの足の外側に膝をつくと、そのまま覆い被さってゆっくりと挿入した。
「あはぁぁんっ!」
 奥まで入れるとそのまま一旦停止し、口付けを繰り返す。
「んんっ……」
 自分の足で外側からベラの足を挟み込み、密着度を高めるザビーネ。

「くぅぅぅっ……凄い締め付けです」
 ベラが足を閉じているため、ただでさえきつい内部の絞め付けが一層きつく感じられる。二度目なら耐えられるだろうと考えてやってみたが、どうやら甘かったようだ。
「あぁぁんっっ!」
 内部で分身が存在感を増す。ザビーネがゆっくりと腰を回し始めた。前後の動きと違って、煮詰められるような感覚が全身を満たしてゆく。上半身はぴったりとくっついているし、膣口周辺もそうだ。今までしてきた中で、密着感が一番強いかもしれない。
「あふぅん……あ、あ、あぁん……」
 間に口付けを挟み、時に奥へ突き刺したりしながら、腰を回すザビーネ。

「いやぁぁぁん……」
「うぅぅっっ」
 喘ぎ声とも息とも分からないものが二人の間で飛び交う。
 ザビーネの分身の少し上の辺りが花蕾に当たり、ベラは微妙な刺激を受け続ける。じわじわとせり上がってくる快感の中で、乳首を舌で刺激された。
「だめぇーーーっっ!」
 一気に沸騰する内奥。のけぞるような姿勢で腰を持ち上げ、貪欲にザビーネを求めながら達する。
「ベラ! あぁっっーー!」
 膣圧と激しい収縮に負け、限界を踏み越えてしまうザビーネ。上半身を反らせ、最奥に全てを注ぎ込む。どくんどくんという大きな音が、部屋中に鳴り響いているような気がする……
768Outer Space 番外編1 One Night:03/10/24 22:31 ID:avResAY3

 ザビーネは、横たわったベラの胸の上に頭を置く。柔らかく大きなその胸はどんな枕よりも心地よく、抱き合った後で胸を枕にして寛ぐのが、最近の習慣だった。
 頬をほんのり上気させたベラが、ザビーネの唇を指で辿りながら聞く。
「ザビーネは真面目そうな顔をして凄くエッチだわ。今までも、こんなことばかりしてきたの?」
 胸がチクリと痛む。過去を独り占めできないのが、少しだけ寂しかった。

「今までなんてありませんよ。ベラが初めてですから」
「嘘ばっかり!」
「嘘ではありません。こんな風にいろいろなことをしたいと思ったのは、ベラが初めてです。喜ばせることなら、なんでもしたい……と」
 ベラと出会うまでは、自分は淡白なのだと思ってきたし、それでいいと考えていた。
 けれど、ここ最近の溺れようは自分でも呆れてしまうほどで、次々に新しい体位を試している。ベラの感じるさまを見ていると、もっと喜ばせてやりたいと思うのだ。内緒にしているが、最近では、端末を使ったその手の情報収集にも余念がないザビーネだった。

 熱い告白に胸を躍らせるベラ。嬉しい半面、照れ臭くてならず、さり気なく話題を変えようとする。
「ねえ、やっぱり聞きたい」
「何をです?」
「私の髪、どんな匂いがして? 言わない方がいいということは、変な匂いなのかしら?」
「いえ、そんなことは……言ってもいいですか?」
「ええ、知りたい」

 ザビーネは起き上がってベラの耳元に口を寄せ、小声で囁いた。
「甘酸っぱくて、優しい……ベラが雫を滴らせる場所の匂いと似ています」
「ザビーネっ!」
 顔を真っ赤に染めて怒るベラ。
「だから、言ってもいいのかと聞いたでしょう!?」
「だって、そんなことを言うとは思わなかったんですもの! なんてこと言うの!? ザビーネの馬鹿っ!」
 クッションが次々に飛んでくる。防戦一方に回りながら、こういう気の強さが良いのだな、などと笑み崩れてしまうザビーネだった……
769610:03/10/24 22:33 ID:avResAY3
番外編1「One Night」はこれで終わりです。
最初は別のネタで書いていたのですが、セシリースレ113番さんの
ネタに萌え、一部路線変更してしまいました。
113番さんにはネタを勝手にいただいてしまった上、相手がザビーネで
(しかもセシリーというかベラですし)、ひたすら申し訳ありません(汗
「しがらみ」という体位のつもりで書きましたが、分かり難かったかも。
エロは難しいですね・・・

次回は第5章(エロなし)で、日曜日にはUPできると思います。
その後は、番外編2(エロ少し+ザビーネVSドレル)→第6章(終章、
エロなし)の順に、1日おきくらいのペースでUPさせていただこうかと。
よろしくお願いしますです。
770名無しさん@ピンキー:03/10/25 12:14 ID:OYt3cjhK
610様待ってましたです。燃える内容でした〜。
番外編2があるとは嬉しい意外さでしたし、しばらく楽しみが
続きます。頑張ってください!
771名無しさん@ピンキー:03/10/25 23:27 ID:EpNKRXlw
競り上がる官能がいいですね
情報収集しているザビーネに笑いました
この幸せそうな2人が本編ではああなのかと思うと切ないです
にしても、胸枕が羨ましいw
772名無しさん@ピンキー:03/10/25 23:48 ID:EpNKRXlw
書き忘れた
南極さんの目次にFekia様と610様のが追加されてましたね
F91の欄が一挙に増えて嬉しい
773名無しさん@ピンキー:03/10/26 09:07 ID:WHFozBqM
age
774610:03/10/26 21:39 ID:L9l1BoRK
感想をありがとうございます。
ちなみに、南極さんに載せていただいたものは、こちらにUPした
ものに少しだけ加筆してあります。第2章の冒頭や、第3章のアンナ
マリーのモノローグ最後の方などで、管理人さんにお願いして
差し替えていただきました(ご面倒をおかけしました>管理人さん)。
更新履歴ではなく目次の方からいけるSSが加筆したものですので、
関心のある方はご覧くださいませ。

では第5章UPのために、以下8レスほどお借りします。
775Outer Space 第5章:03/10/26 21:40 ID:L9l1BoRK
 医務室でもらった検査薬は、妊娠していないことを教えてくれた。少しばかりの安堵と、ザビーネとの唯一の絆が切れてしまったことへの大きな哀しみが、セシリーの心を覆う。もうこれで、ザビーネの元へは絶対に戻れないのだ。
 子どもさえ残せなかったなんて……自分たちの恋は、生産的なものは何ひとつ生まなかった。深い絶望と新たな心の傷を生んだだけ。あんな父と母でさえ、自分という存在を残したというのに。
 もうザビーネとは生きてゆけないと思う心の傍から、ザビーネに会いたくなる自分がいる。虫がいい考えだと分かっていても、会って抱きしめて欲しいと願う。いつものように情熱的に口付けて、そして――


 心を押し隠し、再び出撃するための準備を進める。
 信用できないと言うビルギットに、ビギナ・ギナはまだクロスボーン・バンガードの機体としてコンピュータに登録されているから、援護はできる筈だと話す。
 味方機のふりをして近くまで接近することができるし、相手を油断させることもできる。逆に連邦軍から狙い撃ちにされる可能性があるが、その時は自分一人がやられるだけで済むのだから、と。アンナマリーと同じように、寝返った自分。

 モニカが、あなたまで出ることはないと止める。シーブックの母親で、サイコミュの一種である、バイオ・コンピュータ研究の第一人者。今はスペース・アークの中で、シーブックの乗るF91のコントロール系の整備に携わっている女性だ。
 F91には、脳波に感応するシステムのバイオ・コンピュータが搭載されていた。
「私、この艦(ふね)の方が何も言わずに私を受け入れて下さって、嬉しかったんです」

 精一杯の笑みを浮かべてそう答えると、コクピットに乗り込み、扉を閉める。
 覚悟は決めていた。こんな想いを抱えたまま、生きてゆくのは辛過ぎる。もうロナ家に戻ることはできないけれど、かといって連邦サイドに組して生きていこうとは思わない、どっちつかずのこの身。今でもザビーネに囚われている、この心。
 シーブックたちへのお礼にできる限りのことをして、そのまま死んでゆこう――
776Outer Space 第5章:03/10/26 21:41 ID:L9l1BoRK
 モニカのことを、温かい女性(ひと)だなと思う。仕事は手早く確実なのに、どこかおっとりした、包み込むような雰囲気を持っている。シーブックとよく似た雰囲気を。
 シーブックは子どもの頃から母親と別居して育ったと聞いている。別々に暮らして育っても、これだけ似た雰囲気を漂わせるなんて、親子とは不思議なものだ。

 母親の顔が脳裡を過る。自分もあの人と同じ雰囲気を漂わせているのだろうか。いつも苛々していて神経質そうな雰囲気を……考えただけでぞっとする。でも少女時代の映像はそうではなかった。もっと柔らかな、穏やかな笑顔のものばかりだった。
 何が彼女を変えたのか? 母とモニカは同じ年代に見えるのに、二人の違いはどこからくるのだろう?
 失礼ながら、モニカより母の方がずっと美人で垢抜けしている。けれど向かい合ってみると、モニカは静かな輝きを発しているのだ。欠点ばかりが眼についてしまう母とは違って……

 若いうちはいい。ちやほやしてくれる相手に事欠かないし、自分もその恩恵を受けている自覚はある。では歳を取ってからは? 母の年代になった時、モニカのような女性になるためには、どうしたらいいのか?
 彼女が輝いているのは、今の生活やこれまでの人生に満足しているから、ではないだろうか。全てに満足してはいないにしても、大本の所で後悔していない。自分が満ち足りている人は、他人にも優しくできるものだから。
 死ぬつもりでいるのに、将来のことを考えてしまう自分に、ふっと笑みを漏らす。まだ未練があるのか……生きていることに? それともザビーネに!?


 セシリーの秘めた覚悟を察し、ビルギットに彼女を守り、止めてくれるように頼むモニカ。しかし彼は取り合おうとせず、自機の方へ行ってしまった。後ろからシーブックが声をかける。
「母さんがそんな風に、他人のことを心配するの見たの、初めてだ」
 酷い言われようだが、そう言われても仕方のないモニカだった。一緒に暮らしていた頃は、仕事に戻りたい気持ちや研究仲間に置いていかれる焦りで頭が一杯で、他人のことまで考える余裕が無かった。
777Outer Space 第5章:03/10/26 21:44 ID:L9l1BoRK
「そうかね……いいお嬢さんなんだよ」
「知ってるよ」
 あっさり言うと、シーブックはF91のコクピットに向かった。以前の自分なら、どんなことをしても彼女を出撃させなかった。死ぬ覚悟を知れば余計に。だけど今は……

 いいお嬢さんだと、ずっと前から知っている。だからロナ家に連れて行かれたことを心配して、F91に乗れるようになったのを幸い、単独でフロンティアIVに行って助け出そうとさえした。
 返ってきたのは「もう遅いのよっ!」の言葉。銃から庇ってこそくれたものの、髪を切っていたせいか、ほんの僅か前まで見知っていた彼女とは別人のように感じられてならなかった。
 F91で戦い出してからよく働くようになってきた直感が、その理由を告げようとしているが、聞かないようにしている。「セシリー」に戻りたくなったのも、同じ理由なのかもしれない。

  *     *     *     *     *     *     *

 息子の後ろ姿を見送りながら、モニカは想いを巡らす。
 いいえ、シーブックは、まだ知らない。久しぶりに会って驚くほど大人になっていた。それでも、男であるあの子がセシリーの辛さを本当の意味で理解することは、できはしない。
 セシリーは誰かに恋をしているわ。あの潤んだような、追い詰められたような、それでいて凄絶な艶を含んだ瞳。医務室で妊娠検査薬をもらっていた時、心ならずも立ち聞きするような格好になってしまった……シーブックはもちろん、誰にも言うつもりはないけれど。

 厭というほど見てきた……恋人や夫との間で悩み、上の空になってしまう人、取り憑かれたように仕事をする人。恋人や夫に支配され、自分のやりたいことを見失ったり、諦めたりする人。仕事と家庭との両立に苦しみ、職場を去っていく人。
 私より有能な研究者も大勢いた。女たちの才能を伸ばそうとせず、自分に縛り付けることばかり考える男たちに、どれほど腹を立ててきただろう。本人を前に、そんな男とは別れればいいと言いたくなったことも、何度もあった。愛という名の檻、愛の名の元の奴隷……
 他人(ひと)のことは言えないわね。私もかつて、そういう恋をしたことがあったのだから。
778Outer Space 第5章:03/10/26 21:45 ID:L9l1BoRK
 セシリーの表情には、そういう女性たちと同じ、疲れと諦めの色が見える。あれだけ美人で聡明そうな子を惑わせるぐらいだから、さぞかし魅惑的な男なのでしょうね。
 彼女がこちらに寝返ったのも、何かそのことと関係があるのかもしれない。あちら側に血縁の人もいるというのに、あまりに思い切った行動だから。
 シーブックとは顔見知りという雰囲気で、特別に親しい関係では無さそうに見える。その程度の相手とたまたま戦場で出会っただけで、あんな決断をするなんて、余程のことがあったのだろう。

 逝ってしまった夫・レズリーのことを思い出す。私の才能を心から愛してくれた人だった。自分と違う価値観を持つ相手と折り合ってやっていく術を、あの人はよく知っていた。
 自分は合金の研究が軍に利用されるのを厭がって溶接工になったのに、私がバイオ・コンピュータの研究を続けてたがっていることや、個人レベルではできない研究で軍に所属せざるを得ないことは、きちんと理解してくれた。
 仕事のこともその他のことも、なんでもよく話し合ったわね。興奮して大声を上げ、喧嘩になったことも数え切れないほどあった。
 それでも私たちは、相手に対する尊敬だけは失わないでいられたから、ベストとは言えないまでもベターと思える方法で折り合い、一緒にやっていくことができた。お互いの違いを尊重することもできた。

 セシリーの相手は、恐らくそういう男ではないのね……痛ましいこと。いいえ、決めつけてはいけないわ。彼女の年頃だと、まだ相手とうまくコミュニケーションが取れない可能性もある。
 私もあの年の頃はそうだった。ちょっとしたことで擦れ違い、壊れてしまった恋。レズリーと結婚して良かったと思っているけど、昔を思うと物悲しい気持ちになることもある。あの時、もっと違う態度を取っていれば……と。

 私にも、息子に教えられることが、まだ残っていたのかもしれない。女性の成長を妨げないこと、その存在に才能に敬意を払うこと。レズリーが私にしてくれたことを、シーブックにも伝えなければ。
 あの人の子だから、きっと大丈夫。包容力のある素敵な男性に育ってくれる筈だわ。ふふふ、これも親馬鹿かしら。セシリーのことはとても心配だけれど、シーブックがきっと何とかしてくれる。きっと……
779Outer Space 第5章:03/10/26 21:47 ID:L9l1BoRK
   *     *     *     *     *     *     *

 ザビーネは、ザムス・ガルが発電所の核融合施設を使っているさまを見て首を傾げる。カタパルト・デッキが閉鎖されていて帰艦できないことも、疑惑を募らせた。
 暗号名「バグ」に関係がありそうだと睨み、ブリッジの傍まで行って、接触回線ごしに修理と補給が必要だと伝えて相手の出方を探る。艦長のジレから返ってきた答えは案の定、鉄仮面の指揮で特殊任務を実施中だから補給と修理は別艦で行うように、というものだった。

 修理の間に合わないベルガ・ギロスからデナン・ゲーに乗りかえ、腹心の部下の乗ったデナン・ゾン2機を従えて、再度出撃してゆく。
 ベラのことが心配でならない。帰艦した様子は無かった。黒の戦隊はコロニー内での戦闘で大多数が撃墜、もしくは損傷したらしい。隊長である自分の戦死の噂まであったようだ。
 込み上げてくる不安を押し殺し、今は考えまいと首を振る。真のニュータイプとも見えるベラ、あのビギナ・ギナを手足のように操るベラが、そんなに簡単にやられるとは思えなかった。
 今は自分にできることをしよう。鉄仮面の陰謀を暴くのは、いずれ女王になろうという、彼女のためにもなることなのだから。

   *     *     *     *     *     *     *

 コロニー内に再び出撃したシーブックたちの前に、奇妙な物体が表れた。人間だけを識別し、外側についた刃を回しながら体当たりして自爆する、無作為な殺戮兵器「バグ」。鉄仮面とジレが密かに企み、ザビーネが探りを入れていた秘密計画は、これだったのだ。
 その残忍な殺傷性に怒り、地上に降りて壊そうとするビルギット機の両足をバグが切断する。そのまま飛び続けてバグを蹴散らそうとし、シーブックが援護もしたが、ついに撃破されてしまう。

 シーブックとセシリーは互いの機体を背中合わせにして、バグの攻撃から身を交わしながら接触回線で会話する。
「こいつら!」
「人間を皆殺しにするつもりよ」
「クロスボーンの艦隊が出したモビールスーツ部隊はダミーだったのか!」
 ずっと一緒にやってきたビルギットの死に衝撃を受けながらも、事の本質に気付くシーブック。
780Outer Space 第5章:03/10/26 21:48 ID:L9l1BoRK
「お祖父さまも、艦隊も、ザビーネだって知らないことよ!」
「どういうこと?」
「鉄仮面……」
 セシリーは全てを悟った。これは鉄仮面の実験なのだ。あの男は、地球圏の環境を回復させるためという大義名分を掲げ、バグを使って人類の粛清をしようとしている。

 その考えはすぐさまシーブックに伝わり、勇ましい答えが返ってくる。
「なら、鉄仮面をやるしかない!」
 戦場での緊張感のせいか、お互いへの影響ゆえか、二人のニュータイプ能力は急速に覚醒しつつあった。相手の考えていることを瞬時に察知することができる。この能力と、それを生かすことのできる二つの機体をもってすれば、鉄仮面の陰謀を止めることもできるだろう。

 シーブックには、セシリーが「ザビーネ」という名を口にした時に胸を過った想いも、伝わっていた。誰よりも大切に想っている相手だと。
 聞かないようにしてきた理由を聞かされ、しばし呆然とする。自分たちと離れロナ家に行っていた僅かな間に、彼女の心に棲みついてしまった男……
 胸の痛みを抑え、今はバグと戦うことだけに神経を集中させる。二機で連携し、ビームサーベルを振り回すなどしながらバグを撃破して、フロンティア I から脱出した。

  *     *     *     *     *     *     *

 コロニーの隕石側に接岸していたザムス・ガルは、先端部分ガル・ブラウを分離させていた。そこに秘密裏に搭載していたバグを発電所の電力で起動させ、コロニー内へ送り込んでいたのだ。
 セシリーはその様子を見て、宇宙空間を漂っていたモビールスーツの残骸をガル・ブラウの方へ押しやり、ビーム・ランチャーでエンジン部分を撃った。爆発に巻き込まれて消滅するガル・ブラウ。
781Outer Space 第5章:03/10/26 21:50 ID:L9l1BoRK
 突然のガル・ブラウ消滅に、ジレは調査を命じようとした。
「いや、私が調査しよう。家庭の問題だからな……」
 鉄仮面が言う。精神を強化していた彼は、ニュータイプと同じような直感力を手に入れていた。ベラが絡んでいることは分かっている。私の手で始末してやろう――


 一方ザビーネは、部下の2機と共に物陰に潜み、ザムス・ガルの動きを探っていた。突如現れたベラ機が先端部分を撃ったことに驚く。それに続く爆発をなんとか交わし、部下たちと接触回線で話をする。
「あれが本当にザムス・ガルだったか!?」
 ベラが無事だったことに安堵しつつ、突然の事態に戸惑いを隠せないザビーネ。
 目視していた部下が言う。
「ベラ機が狙撃しました。間違いありません」
 ベラは「バグ」のことで何か嗅ぎつけたのだろうか!? 随分と思い切った行動をしたものだ……

「ベラ機に仕掛けます」
 狙撃を目視した部下が突然言い出す。
「何っ!?」
 眼を剥くザビーネ。何を言い出すのだ、こいつは!?
 もう一人の部下も指摘する。
「ベラ機の行動は妙です」

 眼の前で、ビギナ・ギナが連邦軍の新型モビールスーツと、接触回線で話を始めた。愕然とするザビーネ。
 あれはベラしか乗りこなせない機体だ。彼女が撃ち落され、ビギナ・ギナが連邦軍の手に渡ったとしても、連邦サイドの人間がすぐに乗って自由に扱うことなどできる筈もない。
 あれに乗っているのは間違いなくベラだ。その彼女が、敵方のモビールスーツと手慣れた会話を交わしている――
 部下たちの言葉の方が当たっていた。ベラは、連邦サイドに寝返ったのだ!
782Outer Space 第5章:03/10/26 21:51 ID:L9l1BoRK
「連邦軍の新型……あり得るな。老人が、ベラ・ロナなどに拘るからこれだ!」
 マイッツアーの政治的意図にそうと知りながら乗り、ベラと一緒に出陣したことを心底後悔する。何が婚約の儀式だ。
 しかし拘っていたのは、マイッツアーだけでなく、自分もだった。いやマイッツアーよりも、さらに拘っていた。ただ一人の相手と思い、幸せな未来図まで夢見ていたのだから。
 アンナマリー機を撃ち落した直後、自ら部隊に指示を出して前衛へと機体を進めたベラ。あの時に感じた彼女の覚悟がこれだったのだ。クロスボーン・バンガードから連邦軍へ寝返ること。

「私の見間違いだった。ベラ・ロナ機は謀叛(ぼうはん)した!」
 生まれて初めて愛した女・ベラの裏切り。たったひとつ望んだ未来の夢を、ベラはいとも簡単に打ち砕いてくれた。
 部屋に忍び込んだ「物取り」の姿を思い出す。彼女が咄嗟に庇おうとした相手。全てが分かった気がする。ベラはあの連邦サイドの男と裏で繋がっていて、こちらを油断させるために自分と関係を持ったのだ。
 そんなことに気付かず心を捧げていた愚かな自分を、今は笑うことしかできない。子どもが欲しいなどという戯言に騙されて、眼帯まで取ってみせた……

 連邦軍が新型モビールスーツを開発したことで、向こうに勝機があると踏んだのだろう。女とは、安全な宿木が欲しいだけの生き物なのだ。自分の母親がそうだった。父親の暴力から庇ってくれることもなく、挙句の果てに自分を置き去りにして逃げた。
 ベラと出会ってから見ることのなかった悪夢が、まざまざと蘇ってくる。眼が覚めると暗い部屋の中で、自分だけが一人取り残されている夢。右眼から血を流し、耐えきれぬ痛みに身を引き裂かれそうになりながら……

 激しい怒りがザビーネの全身を包む。顔に浮かぶ冷酷な表情。軽蔑の情がないところだけが、アンナマリーの時とは違っていた――
783610:03/10/26 21:54 ID:L9l1BoRK
第5章はこれで終わりです。暗い話かつエロなしで申し訳ありません。
作中では、宇宙世紀の妊娠検査薬は日を待たずして結果が分かる、
ということにしてあります(現代ではそうもいきませんが)。

次回は番外編2を火曜日にUPさせていただこうと考えています。
ザビーネVSドレルの話で、ザビーネ×ベラのエロも少しあります。
本編終了後にUPするつもりでいたのですが、最終章と絡む部分も
あるので、先にUPした方が良いだろうと思い直しました。

>Fekiaさん
火曜日に作品をUPなさるようでしたら、こちらはその邪魔にならない
時間にUPするようにしますので、お気遣いなくお願いします。
私の方は時間の自由がききますし、ぜひぜひ続きを読みたいので。
784『孤独の果て』の人 ◆HcwCZnpTzw :03/10/27 00:43 ID:eLU1Tzeg
 F91のSSで盛り上がっている所、申し訳ありません。また性懲りも無く、Vガンダ
ムのSSを書いたので、投下させて下さい。
 無茶苦茶長いです。エロシーン少ないです。捏造入れまくりです。
 では、行きます。
785涙の子 1/45 ◆HcwCZnpTzw :03/10/27 00:44 ID:eLU1Tzeg
「クロノクル、この子を殺してはなりません」
 姉が何故そんな事を言うのか、クロノクル・アシャーには分からなかった。
 白い奴の掌の上で両腕を広げ、パイロットの少年を庇うマリアの姿。いくら否定
しようとしても、その姿が頭の中から消えてくれない。むしろ、強くなるばかりだ。
 姉マリアが庇った少年パイロットが逃亡している映像を見ても、それを見てのフォ
ンセ・カガチの話を聞いても、分からない。いや、分かりたくもない、クロノクルは。
 何故だ。大切な姉でありザンスカール帝国の女王であるマリア・ピァ・アーモニ
アは、何故あの少年を庇ったのか。姪のシャクティの友達だからか、それとも――。
(ニュータイプだと……。ふざけるな!)
 東ヨーロッパで、テスト飛行中のモビルスーツ・シャッコーを奪われたのは、自分
のミスだ。あの少年がニュータイプなどである筈が無い、断じて。もしそうだとして
も、ニュータイプだからマリアはあの少年を庇ったというのか。自分の前に立ち塞
がり、自分の邪魔をしようとする、あの少年を。
(あんなのは、リガ・ミリティアのパイロット不足を、証明する存在でしか無い!)
 赤毛の青年将校は、そう自分に言い聞かせながら、カガチや他の将校達がいる
ミーティングルームから、退出した。
786涙の子 2/45 ◆HcwCZnpTzw :03/10/27 00:44 ID:unkvFC15
「大尉」
 退室したクロノクルに、室外で待機していたカテジナ・ルースが、そう言いながら
寄り添う。そんなカテジナは、長い金髪を巻き上げ、ザンスカール軍の軍服を着
ている。もう、地球の一般市民では無い。ザンスカール帝国の兵士なのだ。
 だが、姉の行為と少年の存在を不愉快に思うクロノクルは、彼女の呼び掛けな
ど気にせず、前を向いて通路を歩く。今の彼の心と同じ、歪んだ目付きのまま。
(ニュータイプなら、私の邪魔をして良いというのか! ニュータイプなら、姉さん
を人質にしても良いというのか! ニュータイプなら、ニュータイプなら!)
 そうイラつく彼の前に、不快感の源が現れた。ウッソ・エヴィン。こいつさえいな
ければ――。
「お前達のおかげで、ペギーさんはぁー!」
 何だと! 貴様のせいで、私はっ!
 手錠を掛けたまま突っ込んで来るの不愉快な存在に向けて、クロノクルの拳が
飛ぶ。ウッソの体が、宙に浮いた。
「き、貴様など、リガ・ミリティアの人手不足を補う為に駆り出された、少年兵でし
か無い!」
 うめき声を上げながら通路に倒れているウッソに向かって、クロノクルはそう強
がるのが精一杯だった。
787涙の子 3/45 ◆HcwCZnpTzw :03/10/27 00:45 ID:unkvFC15

 灰色のバスローブをまとい、ベッドに座るクロノクル。自室のシャワーを浴びる間
も、あの少年の存在と、少年を庇う姉マリアの事が、頭から離れなかった。
(あんな少年が私よりも上だというのか、姉さんは!)
 認めたくない。ニュータイプだというだけで、自分よりも上の存在だという少年の
存在を。そんな少年を庇う、姉マリアを。
 姉さんの為に、戦う事を覚えた。姉さんの為に、ザンスカール軍の将校にもなっ
た。姉さんの為に、埃臭い地球にも降りた。姉さんの為に、姉さんの為に、姉さん
の為に――。
 必死になって女王の騎士を演じようと頑張っているのに、何故姉は認めてくれな
いのか、彼には分からない。姉を盾にして逃げようとした少年を、何故そうされた
姉自身が庇うのか、彼には分からない。分からない事が自分の限界だとも知らず、
クロノクルは悩み続けるしか無かった。
 手にしていたコップを口に近付け、中身を少し飲む。酒ではない。ミネラルウォー
ターだ。
 クロノクルは、酒が嫌いだ。酒の酔いが、女王の騎士を演じようとする自分を、ど
こか遠くへ連れて行ってしまう様な気がするからだ。軍人として、女王の弟として、
会食などで多少は酒を飲む事もある。だがプライペートでは、絶対に酒を飲まない。
788涙の子 4/45 ◆HcwCZnpTzw :03/10/27 00:46 ID:unkvFC15
 コロニーの工場で作られた人工のミネラルウォーターを飲むと、少しは落ち着い
た気がした。地球で飲んだ生臭い天然のそれよりも、旨いと感じた。残りを全て、
飲み干す。
 ドアの方にある机の上に、視線を向ける。ブックエンドに挟まれた、何冊かの本。
その内の一冊、濃い藍色の本を見詰めた。
(久しぶりに、読んでみるか)
 ベッドから立ち上がり、空のグラスを机の上に置いた後、ハードカバーの藍色の
本を、手に取る。薄汚れ、手垢にまみれたその本を、クロノクルは懐かしそうに見
ていた。
 昔を懐かしむクロノクルを、通信用スピーカーの声が邪魔をする。
『大尉、カテジナです。よろしいですか?』
 一瞬不愉快になったが、自分を慕ってくれているカテジナ・ルースの声だと分か
ると、いつものクロノクルへと戻る。藍色の本を机の上に置いた後、部屋のロック
を解除し、カテジナの入室を許可した。部屋の電動ドアが、横に開く。
 だがカテジナは、一瞬驚いた後、ドアの向こうで立ち尽くしているだけだった。
「どうした?」
「い、いえ、その格好……」
 クリップボードを胸に抱いたカテジナは、頬を赤らめ、うつむいていた。自分の体
を見る。バスローブ姿でいる事に、クロノクルは気付いた。
789涙の子 5/45 ◆HcwCZnpTzw :03/10/27 00:46 ID:UjEwt3Qc
「あ……。いや、済まない。とにかく、中へ入ってくれ」
 軍服姿のカテジナは、クロノクルの呼び掛けに応じて、うつむいたまま部屋の中
へと入った。ドアが自動で閉まっても、頬を赤らめ続け、クロノクルの方を見ようと
しない。目線を下へそらせたまま部屋の中央へ行き、クリップボードを差し出す。
「あ、明後日の式典の資料です。変更があったそうで……」
 クロノクルに差し出した両手から、クリップボードの感触が消えると、カテジナは
後ろを向いた。机の上にある、藍色の本に気付く。
「……やはりギロチンか、あの二人は」
 立ったままクリップボードに挟まれた書類を見て、クロノクルは溜め息をついた。
公開ギロチンが行なわれる様に変更になったと、書類が教えてくれたからだ。犠
牲者は、捕まったリガ・ミリティアのパイロット二人だろう。
(今度の式典では、人の首が飛ぶのを見なくてもよいと、期待していたのだが……)
 いくら敵とは言え、見せ物の様に人を殺すのは、クロノクルには納得出来ない。
例え、あの不愉快な少年であっても。
「ご苦労だった。今日はもう、休んでいい。
 明後日の式典の警備が、パイロットとしての君の初仕事だ。明日の休暇で充分
休む様に、と言いたいが、夕方は開けておいてくれ。
 仕事が終わった後、私はシャクティの所へ行きたいので、一緒に付いて来て欲
しい。顔見知りが多い方が、シャクティの気も晴れるだろうからな」
「わ、分かりました。……では、失礼させて頂きます」
790涙の子 6/45 ◆HcwCZnpTzw :03/10/27 00:47 ID:unkvFC15
 クロノクルの命令を了承したカテジナは、振り向いて頭を下げた後、部屋のドア
へと向かう。結局は、一度もクロノクルと視線を合わせる事は、無さそうだ。自分
の羞恥心の為なのだが、どこか寂しい。
 空のコップと一緒にある机の上の本が、気になった。『グリム童話・I』と表紙に
書いてある、薄汚れた本だ。カテジナは何も考えず、思わず手に取ろうとする。
「触るな!」
 怒りに満ちたクロノクルの声が、カテジナを背後から襲った。クロノクルのこんな
声を、カテジナは今まで聞いた事が無い。いつも優しかったあの声が、あたしを
嫌っている――。
「い、いや、済まない。急に怒鳴ったりして。
 それは、大切な物なんだ。人に触れて欲しくないので、つい怒鳴ってしまった。
許してくれ、カテジナ」
「あ、あたしの方こそ、そうとは知らず失礼な事をして……」
 二人の間に、気まずい空気が流れる。お互い視線を合わせようとはしない。
 時が、流れた。カテジナが、沈黙の時を破る。
「大尉。……お時間、よろしいでしょうか」
791涙の子 7/45 ◆HcwCZnpTzw :03/10/27 00:48 ID:VHOyUEcf

 ベッドに座っているカテジナは、嬉しかった。自分の左隣に、クロノクルが座って
いる。赤毛の青年が、自分の話を聞いてくれる。だから、嬉しい。
 ミッション系のハイスクールに通っていた事。陸上部に所属し、短距離走の選手
だった事。ウーイッグの代表として州の選手権に参加し、女子110mハードルで三
位を取った事。そんな話を、クロノクルは嬉しそうな笑顔で聞いてくれた。
 ルース商会を大きくする事だけに、気を回す父。外に男を作り、遊び歩く母。家
政婦が作った食事を、一人で食べるのが当たり前だった、幼年期。食べてくれる
人もいないのに、三人分の夕食を一人で作った日のある、少女時代。そんな過去
を、クロノクルは一緒に悲しんでくれた。
 こんなに自分の話を聞いてくれて、我が事の様に思ってくれる。初めてだ、こん
な事は。
 父も母も先生も、リガ・ミリティアの人達も、周りの大人はみんな自分を無視した。
なのに左に座っている赤毛の青年は、自分の話を親身になって聞いてくれる。
嬉しい、とても嬉しい。十七年間生きて来て、これ程嬉しかった事は、カテジナに
は初めてだった。
792涙の子 8/45 ◆HcwCZnpTzw :03/10/27 00:48 ID:unkvFC15
「成り行きとは言え、そんな君を攫って、宇宙まで連れて来てしまった。……申し
訳無く思う」
「いえ、いいんです。もしあの空襲が無くて、ウーイッグの家が無事だったとしても、
孤独な家族生活が続くだけでしたでしょうから……」
 その返事を聞いたクロノクルは、顔付きを変えた。
「そんな事を言う物じゃない。父親も母親も、いつも君の事を心配していた筈だ」
 カテジナも、顔付きを変えた。床を見ていた視線を、クロノクルの瞳へ向ける。
何が分かるっていうの、あなたに――。
「嘘よ! 父さんも母さんも、いつも自分の事しか考えていなかったわ。先生達だっ
て、学校に沢山寄付金を渡す父さんばかりに気を遣って、あたしの話を聞こうとも
しなかったわ。
 だから、だから走ったのよ。走り続けている間は、周りの事が全部忘れられたか
ら、あたしは陸上部に入ったのよ。今みたいに髪を巻き上げて、毎日必死になっ
て走ったのよ。なのに、なのに……。
 選手権で三位を取った日も、父さんは『そうか』って言うだけだったわ。母さんは
男の所に行って、家にもいなかったわ。何で、何であたしを認めてくれないのよ、
みんな……」
793涙の子 9/45 ◆HcwCZnpTzw :03/10/27 00:49 ID:UjEwt3Qc
 涙が出た。とにかく、悲しかった。泣いて泣いて、寂しかった過去を全て洗い流し
たかった。バスローブを着たクロノクルの胸に、顔を伏せる。そこが、自分の巣だ
と思えたから。クロノクルの胸から、優しさが伝わって来る様な気がしたから。
 クロノクルは、泣きじゃくるカテジナに何をすれば良いのか、分からなかった。今
まで人に抱き付いて泣いた事はあるが、それを自分にされるのは、始めてなのだ。
分からない、どうすれはいいか。
 頭を撫でてやれば良いのか。それとも、両腕で抱き締めてやれば良いのか。と
にかく、このままではいけない。視線を宙に漂わせたまま、声を掛ける。それ以外
に、クロノクルは何も出来ない。
「……済まなかった、カテジナ。だが、君に何をしてあげれは良いのか、私は分か
らない。どうすれは、君を認めてあげる事が出来るんだ?」
 カテジナは、泣き顔を上げた。孤独と悲しみしか無い瞳を、クロノクルに向ける。
あたしには、この人しかいないんだから――。
「大尉。あたしを……、抱いて下さい」
794涙の子 10/45 ◆HcwCZnpTzw :03/10/27 00:49 ID:VHOyUEcf

 クロノクルは悩んだ。今シャワーを浴びているカテジナを、本当に抱いて良いの
か。いやそれ以前に、自分は彼女を愛しているのか。カテジナの気持ちは、どうな
のか。成り行きではないのか、このままでは。
(姉以外の女性にも、強い男を演じなければならないのか、私は……)
 ベッドに座ってそう悩むクロノクルは、シャワーを浴び終えたカテジナが近付いて
来た事すら、気付かなかった。
「大尉、どうされました?」
 髪を降ろし、バスタオルを体に巻いただけのカテジナが、問い掛けた。顔を向け
る。初めて出会った頃の様に、金色の長い髪を持つ彼女の顔を、素直に美しいと
思った。だが本当に良いのか、カテジナを抱いて――。
「……色々と、自信が無くてな」
 そう言うとクロノクルは立ち上がって、カテジナと向き合う。カテジナの視線に見
下ろされるのが、つらかったからだ。立ったお陰で、少しだけ落ち着く。
「もしかして、大尉は初めてでいらっしゃるのですか?」
 顔を見上げ、クロノクルの瞳を見詰めるカテジナが、言う。どこか不安そうに。
「いや。商売女なら、何度も抱いた事はある。だが、そうでない普通の女性を抱く
というのは、初めてでな。正直、戸惑っている。
 ……いいのか、カテジナ。こんな情け無い男に抱かれて」
「初めては、大尉の様な優しい人としたいと、思っていました」
 初めて? 私が優しい? カテジナの言葉が、クロノクルの心に二つの戸惑いを
生んだ。
795涙の子 11/45 ◆HcwCZnpTzw :03/10/27 00:51 ID:eLU1Tzeg
 自分がカテジナにした事は、彼女の人生を捻じ曲げた事への罪滅ぼしのつもり
だった。彼女の街を焼き払ったのは、自分達ザンスカール帝国のモビルスーツな
のだから。一緒に食事をしたのも、一時期秘書にしたのも、軍に入れたのも、身
寄りを無くした彼女への贖罪のつもりだった。
 なのにカテジナは、それを優しいと感じている。
 どこかおかしい。何か違う。どんなに怨まれても仕方が無い事を彼女にしたのに、
何故カテジナは、自分の行為を優しいと感じるのか。何故カテジナは、そんな男を
初めての相手にしようとするのか。
 分からない。分からない、クロノクルには。カテジナの視線が痛い。目を逸らす。
「カテジナ。……やはり、やめよう。君をこんな境遇にしたのは、ザンスカール帝国
だ。その国の女王の弟である私が、君を抱く権利など無い。
 それに、もっと良い男と出会った時の為に、処女でいるべきではないのか。売
春婦しか抱いた事のない汚れた男が初めてでは、君の為に……」
 クロノクルの左頬に、カテジナの平手打ちが飛ぶ。そんな彼女の目には、涙が
溢れていた。
796涙の子 12/45 ◆HcwCZnpTzw :03/10/27 00:51 ID:UjEwt3Qc
「何故、その様な事を言われるのですか! ……あたしは、大尉に抱かれたいの
です。大尉まで……、あたしを認めてはくれないのですか!」
 そう……か。居場所が欲しいのだ、カテジナは。いたくもない家から逃げ出した
自分の居場所が、孤独と悲しみしか無い過去から逃げ出した自分の居場所が、
欲しいのだ。左頬の痛みから、クロノクルはそう悟った。
 しかし、彼女の居場所になれるのか、私は――。
「あたしには、大尉しかいないのです……。私の事を想って下さるのなら、強い男
になって下さい。私の巣になって下さい。どうか……」
 立っているクロノクルの胸に、再びカテジナの泣き顔が伏せた。灰色のバスロー
ブの上に、涙の染みが広がるのが分かる。今度はどうすれば良いのか、クロノク
ルには分かる。泣き声を、両腕で抱いた。
「分かった……。強い男になろう。君の巣になろう。そうなれる様に、精一杯努力
しよう。それで、君の心が癒されるのなら」
 嘘か本当か分からない言葉でも、クロノクルはそう吐き出すしか無かった。
797涙の子 13/45 ◆HcwCZnpTzw :03/10/27 00:52 ID:UjEwt3Qc

 ベッドに広がる金髪を、裸のクロノクルの左手が掬い取った。それを少しづつ、
掌から落として行く。
「綺麗だな、髪」
 うつぶせ、彼女の裸を覆っているクロノクルは、そうカテジナを褒める。今の様に
裸でいようと、服を着ていようと、カテジナの金髪の美しさは変わらない。素直にそ
う思う。
 だがカテジナは、クロノクルから顔を背けた。
「私は、この髪が嫌いです。母と同じ色ですから。……でも、大尉がそう言って下
さるのなら、嬉しいです、あたし」
 父は嫌いだ。金と物さえ与えておけば、妻も娘も満足するだろうと思っているか
ら。母も嫌いだ。父を振り向かせる努力もせず、他の男を漁るから。
 ウーイッグの辺りでは名の通った、母の実家の名声を利用する為に、父は母と
結婚した。過去の名声にすがり付くだけで、誇りと貧しさしか無い実家から逃げ出
す為に、母は父と結婚した。そんな偽りの夫婦が、愛の無い男と女の間から生ま
れた自分が、大嫌いだ、カテジナは。
 母と同じ色の髪が嫌なので、髪を伸ばした。肩に届かない長さのパーマという
母の髪型とは、違う髪型にしたい。だから、小さな頃から髪を伸ばし、ストレートの
長髪にしている。
 その髪を、クロノクルは褒めてくれた。嫌だった自分を、体で覆ってくれている男
は認めてくれた。嬉しい、とても。
798涙の子 14/45 ◆HcwCZnpTzw :03/10/27 00:53 ID:VHOyUEcf
 クロノクルが再び、金髪の束を掬った。その先を少し、口に含む。舐めた、金髪
の先を。神経の通っていない筈の髪の先から、クロノクルを感じた。
「カテジナ自身がどんなに嫌いでも、君の髪だ。綺麗だと思う、私は」
 金髪から離れた彼の唇が、自分の唇へと重なる。あぁ、このままでいたい。二人
で永遠に、このままでいたい。そう思うカテジナから、クロノクルの感触が遠ざかっ
て行く。
 それを再び感じたのは、頬と胸だった。左頬を、彼の舌が這う。右頬に、彼の掌
が添えられる。左胸を、彼の右手が愛してくれる。嬉しいが、痛い。胸の痛みで、
微かにうめく。
「あ……、強過ぎたか?」
「いえ、いいんです。大尉の好きな様に、なさって下さい」
 だがクロノクルは、胸に加える力を弱める。優しい人だと、カテジナは思った。
 両方の掌が、体から離れる。背中に回った。彼の優しさで自分が包まれた様に、
カテジナには感じられる。
 優しい両手で抱かれながら、彼の口が自分の左胸を慰めてくれる。孤独と悲し
みしか無い筈の、自分の胸を。乳首を吸ってくれる。乳房を舐めてくれる。こんな
に嬉しい物なのか、人の温もりという物は。
 それが、やんだ。
「まだ、痛いか?」
「気持ち、……いいです。……続けて、下さい」
799涙の子 15/45 ◆HcwCZnpTzw :03/10/27 00:54 ID:unkvFC15
「分かった」
 その言葉の後、カテジナは右の胸に温もりを感じた。左胸の時に負けない程の、
温もりを。快楽と体温と幸福感が、増す。喘いだ、悲しみの無い声で。
 この温もりを、離したくない。両手を、クロノクルの後頭部に重ねる。喘ぐ度に、
思わず力を入れた。
「……あまり大きくない胸で、済みません」
 陸上競技で鍛えたカテジナの体は、女性的な豊かな曲線を描いている場所が
少ない。胸がそれ程大きくない事を申し訳無く思って、クロノクルに謝った。
「いや、大きさはどうでもいい。君の胸だから。むしろ、ちょうど良い大きさだと思う」
 クロノクルの言葉の後、再び左胸に温もりを感じた。それが、カテジナの胸を降
りる。舌が曲線に沿って、胸の麓まで動いた。微かに浮いた肋骨の窪みを、舌で
撫でてくれた。それですら、カテジナは嬉しい。
 背中に回されていたクロノクルの両手が、動く。背中をさする。わき腹を這う。尻
を撫でる。
 胸から腹へと移動したクロノクルの口と、背中や尻を暖める彼の両の掌。カテジ
ナは、暖かい幸福感で挟まれる。その幸福感が、いつも心の底にあった寂しさを、
誤魔化してくれた。
「もっと下に行って、いいか?」
 あたしの女の証を愛したいのだ、大尉は――。
「……どうぞ」
 カテジナの許可を受けて、クロノクルの頭が下へと動く。目の前に広がった、カテ
ジナの女の証が。
800涙の子 16/45 ◆HcwCZnpTzw :03/10/27 00:55 ID:UjEwt3Qc
「毛は、生えていないのだな」
 傷付いた。自分に性の茂みが生えていない事が、大人になり切れない事の証
明の様に、思っているからだ。でも、悪気は無い筈。カテジナには、そう思えた。
「言わないで下さい。……気にしている事ですから」
 いくら悪気の無い言葉だと思っても、そう言わなければ傷付いたままになってし
まう。だから、言った。返事が返って来る。
「……済まない、カテジナ。先程から、君を傷付ける様な事ばかりして」
「いいんです、大尉ですから。……優しいのですね、大尉は」
 カテジナはそう言い終わると、女の快感に驚いた。好意を持っている男が慰めて
くれるだけで、こんなに幸福になろうとは。クロノクルの唇が、舌が、カテジナを愛し
続ける。
 一人の時とは、全く違う。今クロノクルがいる場所の表面に、自分の指を這わせ
て慰めている時は、体の快楽に心が置いて行かれる感じがする。だが、今は違う。
クロノクルが生む体の快楽が、自分の心まで幸福にしてくれる様に、カテジナには
感じられた。
 嬉しかった。あたしは、孤独じゃない――。
 クロノクルの手がカテジナの両脚を抱え、肩に乗せる。その脚で、彼を抱いた。
この嬉しさを、この温もりを、放したくないから。カテジナの思いに応え、クロノクル
の口は彼女を愛し続ける。
 涙が出た。生まれて初めて、嬉し涙が出た。少女を辞めようと努力する目と、少
女のままでいる女の証から、嬉し涙が流れ続けた。初めてだ、こんなに嬉しい涙
を流したのは。
801涙の子 17/45 ◆HcwCZnpTzw :03/10/27 00:56 ID:unkvFC15
「どうした。悲しいのか」
 カテジナを愛した口が、そう問い掛ける。もっと慰めて欲しい、この人に――。
「……いえ、嬉しいんです。大尉の優しさが」
 それを聞いたクロノクルが、再びカテジナの女の証を慰めた。口付けをする。舌
を沿わせる。上にある膨らみを舐める。それを繰り返す度に、悲しみが乗らない声
で、カテジナは喘いだ。喜びしか無い声で、喘ぎ続けた。
「クリトリスがいいのか。なら、もっとしてやる。君への罪滅ぼしだ」
 クロノクルは、口の形を変え続ける。彼の唾液と彼女の性の涙が、カテジナの女
の証を濡らす。クロノクルの口が慰め方を変える度に、カテジナは声を上げた。性
の幸福という物が乗った、喘ぎ声を。
 放したくない、この想いを。両手を動かし、クロノクルの顔を自分へと押さえ付け
る。もっと、もっとあたしを愛して――。
 涙が止まらない。上からも、下からも。クロノクルが慰めてくれる度に、涙が溢れ
て来る。ひたすら口で愛される、カテジナ。飽く事無く愛し続ける、クロノクル。
 喜びの涙を流し続けるカテジナの女の証を、クロノクルは慰め続ける。上から、
下まで。膨らみも、窪みも。彼女をこんな境遇にした事への贖罪の為に、クロノク
ルは唇を、舌を、動かし続けた。持てる限りの優しさを乗せて。
 その優しさが、カテジナに伝わる。もう、何も考えられない。寂しくない、悲しくな
い。ただひたすら、嬉しかった。クロノクル・アシャーという存在が。
802涙の子 18/45 ◆HcwCZnpTzw :03/10/27 00:57 ID:UjEwt3Qc
「んぁっ……。大尉、あたし、あたし……!」
 カテジナの中で、喜びが弾けた。悲しみの無い、大きな声と共に。一人で自分を
慰めている時とは、全てが違う。絶頂に達した後、幸福の余韻に浸りながら、カテ
ジナはそう思った。
 嬉しかった。ただ、嬉しかった。一人ではない事が。他の人が、自分を喜ばせて
くれた事が。彼の温もりと優しさが、自分を包んでくれた事が。
 カテジナは嬉しい、クロノクル・アシャーという存在が。
「いったか。……良かった」
 クロノクルの顔が、カテジナから離れる。そして、体も。幸福の余韻に浸るカテ
ジナに、疑問が生じた。
「大尉……。あの、……お入れにならなくて、よろしいのですか?」
「いいんだ……。君が満足してくれれば」
 急に、悲しくなった。あたしを愛してはくれないの、あたしを認めてはくれないの、
あなたは――。
「して……下さい。私の中に……、入れて下さい、大尉」
「しかし私は……」
「いいんです。大尉の優しさを感じたいのです、体の内側でも……」
 クロノクルの顔付きが、厳しくなる。ベッドから降り、机の引き出しを開けた。軍か
ら支給されたコンドームの小さな箱を、右手で掴む。引き出しを、元通りにした。
 その後再び、カテジナの待つベッドに上がる。箱を持ったまま。
803涙の子 19/45 ◆HcwCZnpTzw :03/10/27 00:58 ID:unkvFC15
「大尉はいつも、お金を使って、女性を抱かれていらっしゃるのですか?」
 クロノクルの手にある小さな箱を見ながら、幸福の余韻に浸るカテジナは、問い
掛けた。例え普段は売春婦を抱いているとしても、クロノクルが初めての人だとい
う事は、嬉しい。でもやはり、カテジナは少し寂しかった。
「いや……。商売女も、最近は抱けなくなった。これは、軍の支給品だ。いらない
からと返すと、変に思われるのでな。
 ……カテジナ。これ以上やると、君の体を、君の心を傷付けてしまいそうだ。そ
れが怖いから、途中でやめたんだ。いいのか、傷付いても?」
「大尉が私を傷付けて下さるのなら、あたし、嬉しいです。消えない傷を、あたしに
付けて下さい。体にも、心にも」
「……分かった。君が望む通りにしよう。痛いだろうが、我慢してくれ」
 そう言って、クロノクルは避妊具の箱を開けた。男の証を、薄い膜で包む。 それ
がカテジナには、不思議だ。何故、人の温もりを直接感じようとしないのか、クロノ
クルは。まさか、あたしを認めてはくれないの――。
「やはり、……付けられるのですか」
「当たり前だ。望まない子供が出来ては、子も親も不幸になる。君をこれ以上、不
幸にはしたくない」
「……優しいのですね、大尉は」
 自分が誤解していた事を反省したカテジナは、思わずそう言う。自分を認めてく
れているから、避妊をするのだ。あたしの不幸を増やさない為に、あえて人の温も
りを遠ざけるのだ、この人は――。
804涙の子 20/45 ◆HcwCZnpTzw :03/10/27 00:59 ID:eLU1Tzeg
 望まない子供。もう、増やしたく無い。
「あなたの子供なんて、生むんじゃ無かったわよ!」
 母が父と罵り合う度に、カテジナが聞いた言葉。物心が付いた頃から、いつもい
つも聞いていた言葉。その母の言葉を聞く度に、彼女の心に傷が付いた。自分が
生まれてはいけなかった存在だと思う度、カテジナは泣いた。
 悲しいから、悔しいから、哀れだから、情け無いから。自分という存在が。自分を
この世に呼び、カテジナという名を授けた父と母が。
 世間体と母の実家の名声の為だけに、夫婦を続ける父。金と自分の生活の為
だけに、離婚をしない母。偽りの家族の中にいる自分は、偽りの存在ではないのか。
 そう思い、カテジナは泣いた。七歳の誕生日の時も、十一歳のクリスマスの時も。
初潮が来たあの日も、110mハードルで三位を取ったあの日も。どこなの、どこな
のよ、あたしの居場所は――。
 家の二階の窓辺じゃ無い。窓に頬杖を付いている姿を盗み撮りした、あの子の
所でも無い。どこ、どこ――。
 見付けた。クロノクル・アシャー。優しい人。
 ここが、あたしの巣――。
 でも、二人の子供が欲しいと思えるのか。二人で生きて行こうと、誓い合う日が
来るのか。分からない、カテジナには。
 だが、自分を見詰める赤毛の青年に、自分を傷付けてもらいたい事だけは、はっ
きりと分かる。消える事の無い傷を、心と体に付けて欲しい。
 だから、受け入れる。上にいる彼を、自分に優しく覆い被さるクロノクルを。認め
てもらえる、偽りの存在では無くなる。そうすれば。
805涙の子 21/45 ◆HcwCZnpTzw :03/10/27 01:00 ID:eLU1Tzeg
「カテジナ、行くぞ」
 頷いた。怖いが、頷いた。
 自分の指で慰めている時は、痛みだけしか感じないので、内側に指を入れる事
は無かった。だが、クロノクルを受け入れる、体の中に。カテジナ自身が、望んだ
事だから。
 近付く、クロノクルが。つながった、二人が。
 痛い。とてつもなく痛い。体の内側から、自分の全てが引き裂かれる様な、鋭く
鈍い痛み。でも、これで傷が付く筈だ、心と体に。クロノクルという、消える事の無
い優しい傷が。
「大丈夫か、カテジナ?」
「っ、続けて……下さい、大尉」
「いいか、動くぞ」
 痛い。痛いが、嬉しい。巣を作る為の、痛みだから。だから、耐える。体を内側
から引き裂く様な、痛みでも。
 女になる為の鮮血の流れと共に、クロノクルという男が自分の巣になる筈だ。
そう思えた。
「やはり痛いか? 血は、出ていない様だが……」
 両拳を握り必死に痛みを耐えるカテジナを、彼の声が裏切った。傷が付かない
のか、体に。
 涙が出た。悲しいから。
806涙の子 22/45 ◆HcwCZnpTzw :03/10/27 01:01 ID:eLU1Tzeg
「……何が、悲しい」
「血が、……流れないからです」
 クロノクルが、動きを止めた。体の痛みが、僅かにやわらぐ。だが、心は痛いま
まだ。
 彼の舌が、悲しみの涙を掬った。
「カテジナ。君は、陸上競技をしていたんだ。激しい運動の為に、自然に処女膜が
破れたのだろう、恐らく。
 ……悲しむ事は無い。私が君の始めての男だという事に、変わりは無いのだか
らな」
 それでも悲しい。
 寂しさを、悲しさを、父と母を忘れる為に走った。その事が、自分の体に傷を付
けた。クロノクルという男に付けて貰いたかった、傷を。涙が止まらない。
 どうして、どうして。小さな頃から何度も流した悲しみの涙が、どうして今流れる
の。嫌、嫌。流したくない、こんな涙。泣きたくない、この人の目の前で――。
 悲しみの涙を、何度も何度も舌で掬い取るクロノクル。彼女の涙を、止めたいか
ら。彼女の悲しみを、少しでも減らしたいから。
 それでも悲しい、カテジナは。
「カテジナ。君が泣きやむまで、傍にいてやる。君の心から悲しみが消えるまで、
傍にいてやる。……だから、笑ってくれ」
 クロノクルの声を聞いて、カテジナは必死に微笑もうとする。目に涙を浮かべた
ままで。痛みを感じたままで。悲しい心のままで。
807涙の子 23/45 ◆HcwCZnpTzw :03/10/27 01:02 ID:eLU1Tzeg
 悲しい笑顔が、カテジナの顔に咲いた。偽りの笑顔でも、クロノクルは満足した。
二人には、それしか出来ない。
「……そうだ、それでいい。どんなに悲しくても笑顔でいれば、いつか幸せになれ
る。私はそう教わった、大切な人から」
 動いた、痛みが。その度に、体と心が引き裂かれる思いがした。悲しみの笑顔
が、痛みで歪む。それでも必死に、カテジナは自分の巣に向かって微笑もうとした。
 両腕を、クロノクルの背中に回す。自分を引き裂く鋭く鈍い痛みが、彼と自分を
引き裂かない様に。カテジナは抱く、腕に力を入れる、必死に。
 クロノクルが動く度に、痛みが増す。痛みが増す度に、心に傷が付く。心に傷が
付く度に、悲しみが消える。
 嬉しかった、心が。
 でも、体は痛い。彼の背中に、爪を立てた。体の痛みに、耐える為に。痛みの爪
痕が、血と腫れの赤い傷が、幾筋も描かれる。クロノクルの背中に。
 それでも赤毛の青年は、動きを止めない。カテジナがそれを望んでいる事が、
分かるから。痛みが彼女の悲しみを塗り潰す事が、分かるから。だから止めない、
クロノクルは。
 痛みが、傷痕が、カテジナの中に広がる。鋭い痛みが、自分を切り裂く。鈍い痛
みが、自分を打ち付ける。
 痛い、耐えられない程痛い。苦しみで歪む声で、うめく。何度も、何度も、何度も、
何度も。
 それでもいい。痛くてもいい。巣を作る為の、痛みだから。
808涙の子 24/45 ◆HcwCZnpTzw :03/10/27 01:02 ID:unkvFC15
 あたしは作る、幸せの巣を。冷たい父さんと汚らわしい母さんのいる、あんな家
とは違う幸せの巣を。大きくなくていい、小さくていい。
 あたしの中にはクロノクルの優しさしか、愛が、温もりが無いの。だから手伝って、
クロノクル。あたしを愛して、心も体も。
 お願い、あなたの温もりを、あたしに分けて。少し、ほんの少しでいいの。私の小
さな巣の中を、満たすだけの量でいいから。だから、あたしに優しくして。あたしに
優しくしてくれた人は、あなたしかいないの。
 父さんも母さんも、あたしに愛をくれなかったわ。自分の事ばかり、考えていた人
達だから。自分だけが、可愛い人達だから。
 一人分しか愛を持たない人達だったから、子供のあたしに愛をくれなかったの。
お金と物しか、あたしにくれなかったの。そうじゃないの、親をやって欲しかっただ
けなのよ。父さんに、母さんに。
 あの子も、あたしに愛をくれなかった。店番をしているあたしを、部屋の窓から外
を見ているあたしを、物陰から覗き見るだけだった。店に来た時に声を掛けても、
あたしを盗み撮りした時に怒っても、付きまとうだけだった。
 何で、何であたしに愛して貰いたいのよ。愛されたいのよ、あたしは。他の人か
ら、温もりを分けて欲しいのよ。なのに、なのに……。
809涙の子 25/45 ◆HcwCZnpTzw :03/10/27 01:03 ID:unkvFC15
 どうして奪おうとするの。あたしの心に残っている、微かな温もりを。あなたには、
あの子がいるでしょう。いつもあなたの傍にいる、あの可愛い女の子が。
 なのにどうして、あたしに好きになってもらいたいのよ。やめて、奪わないで、あ
たしの温もりを。
 あなたの事は、嫌いじゃないわ。可愛い男の子だと、思った事もあるわ。あなた
の澄んだ瞳を、綺麗だと思った事もあるわ。でも、駄目なの、嫌なの、あなたは。
 あたしの温もりを、奪おうとするから。好きでいてくれる人が傍にいるのに、ほん
の少ししか無いあたしの温もりまで、奪おうとするから。贅沢よ、あなたは。何でそ
んなに、あたしの温もりを欲しがるのよ、あなたは。
 守って、クロノクル。あたしの温もりを奪おうとする、あの子から。それが出来る
のは、あなたしかいないの。あたしに優しかったのは、あなたしかいないの。だか
ら、だから……。
 どんなに痛くてもいいの。どんなに悲しくてもいいの。もっと優しくして。あたしの
傍にいて。あたしを守って。お願い、クロノクル。
 あたしを助けて。悲しさから、寂しさから。もう、一人は嫌なの。人の温もりが欲
しいの。父さんと母さんの分の、人の温もりが欲しいの。あの子が少しづつ奪って
行ったあたし温もりを、元に戻したいの。
 だから、お願い。あたしに優しくして。あたしだけに優しくして。あたしの巣になっ
て。クロノクル、クロノクル、クロノクル、クロノクル――。
810涙の子 26/45 ◆HcwCZnpTzw :03/10/27 01:04 ID:eLU1Tzeg
「……カテジナ、もう……少しだ」
「ぃ、痛っ。……大尉、あたしの……中に」
 そうすれば、巣が出来上がるから。
 クロノクルの動きが、激しくなる。痛い、痛い。ひたすら、痛い。全てが引き裂か
れそうな程、痛い。巣を作るという行為が、とてつもなく痛い。
 もうすぐ、もうすぐよ、あたしの巣が出来上がるまで――。
「ぅあっ、出すぞ、カテジナ!」
「ぃ、痛っ……。大尉、痛い、痛いっ……」
 出来なかった、巣は。作れなかった、喜びは。望まない子供を呼ばない為の、
クロノクルの優しさに阻まれて。自分自身の、体の痛みに阻まれて。
 カテジナの中に、痛みと悲しみだけが残った。涙が出た。
811涙の子 27/45 ◆HcwCZnpTzw :03/10/27 01:05 ID:eLU1Tzeg

 カテジナは右肩を下にし、ベッドにうずくまっている。胎児の様な格好で壁を見て
いる彼女の背中に、クロノクルは毛布を掛けた。そうしなければいけない気がした
から、クロノクルは。
「痛かっただろう。……済まなかった」
 背を向けたままの彼女に声を掛けた後、ステンレス製の流し台と小さな冷蔵庫
のある壁の向こうへ、クロノクルは向かう。冷蔵庫を開けた。
「ミネラルウォーターだが、君も飲むか?」
「……いえ、結構です。……済みません」
 その声を聞いたクロノクルは、コップ掛けのコップを、一つだけ上に向けた。冷蔵
庫から取り出した強化プラスチック製の瓶の中身を、コップに注ぐ。視線をカテジ
ナの方へ向けないまま、コップに入った宇宙製のミネラルウォーターを、半分だけ
飲んだ。
「カテジナ。……私の事が好きか、心の底から」
 壁の向こうから聞こえて来る問い掛けが、心に突き刺さる。カテジナは、声の方
に顔を向けなければと思った。だがそれをすれば、自分が壊れてしまうと感じた。
812涙の子 28/45 ◆HcwCZnpTzw :03/10/27 01:05 ID:UjEwt3Qc
 背中の方から聞こえた問いに、カテジナは答えられない。肯定をしても否定をし
ても、彼と自分が壊れてしまう気がするから。話を逸らす。
「……何故、その様な事を聞かれるのですか、大尉は」
 コップの残り半分を飲み干した後、クロノクルは答える。
「私を受け入れている時も、君は私の事を、『クロノクル』と呼んでくれなかったの
でな……」
 目を見開く。だがカテジナの目の前には、部屋の壁があるだけだ。
 視線を動かしたいか、それが出来ない。口を動かしたいが、それも出来ない。
クロノクルが掛けてくれた毛布に包まれた彼女は、胎児の格好をやめる事が出
来ない。声のした方に背を向けたままでいる事しか、今のカテジナには出来ない。
 返事が返って来ないので、クロノクルは空にしたコップを流し台に置いた。ミネラ
ルウォーターの瓶に蓋をし、冷蔵庫の中へそれを戻す。
 クロノクルが、カテジナに告げた。視線を合わせる努力を、しないまま。
「お互い、平和な時代に生まれて、出会いたかったな」
 沈黙の時が過ぎた。シャワー室の方から、多量の水滴が落ちる音が聞こえる。
だがカテジナは、クロノクルが掛けてくれた毛布の中から、動こうとしない。背中
の向こうにあるシャワーの音を、聞きたくないから。
 悲しくなった。涙が出た。クロノクルを受け入れた場所が、痛い。胎児の格好の
まま、カテジナはひたすら泣き続けた。
813涙の子 29/45 ◆HcwCZnpTzw :03/10/27 01:06 ID:VHOyUEcf

 昨日の痛みが、未だに消えない。起きる度に、多少は弱くなっている様に感じは
するが、痛いままだ。
 下着姿のカテジナは、股間の鈍い痛みに耐えながら、ベッドから降りる。トイレか
ら出た後、冷蔵庫から牛乳の瓶と板チョコの包みを取り出した。
 強化プラスチック製の瓶に直接口を付け、牛乳を飲む。板チョコの包装を裂いた
後、割らずにそのまま食べる。地球にいた頃には決してしなかった食べ方で、彼
女は空腹を誤魔化した。
(遠い所まで、来てしまった……)
 チョコレートを食べ終え、牛乳瓶を空にすると、不意にそんな言葉が思い浮かん
だ。明日からザンスカール帝国のパイロットになるというのに、何故自分がこんな
事を繰り返しているのか、分からなかった。
 ベッドに戻った。昼と言うには遅い時間だという事を、ヘッドボードの目覚まし時
計が教えてくれる。だが、カテジナは再び布団の中へ入ると、右肩を下にしてうず
くまった。
 目の前に、壁がある。部屋の間取りと家具の位置が、クロノクルのそれと同じだ
から。赤毛の青年がカテジナへ、特別に一人部屋を与えたから。
814涙の子 30/45 ◆HcwCZnpTzw :03/10/27 01:07 ID:UjEwt3Qc
「頑張って、私の期待に応えてくれ」
 この部屋を用意してくれた時、自分にそう告げたクロノクルの姿を思い出す。自
宅の部屋より狭いとは言え、一人部屋を与えられた事が、その時は嬉しかった。
クロノクルの気遣いが、嬉しかった。赤毛の青年が自分を特別扱いしてくれた事
が、嬉しかった。
 でも、今は悲しい。クロノクルの優しさが。それを欲しがる自分が。
 壁を見ていると、ウッソ・エヴィンの顔が、頭に浮かんだ。自分に付きまとう事を
煩わしく思っていたのに、何故あの少年の顔を思い出すのか。分からない、カテジ
ナには。
 あの少年の澄んだ瞳を、自分に恋をしているというウッソの綺麗な瞳を思い出す
と、何故か無性に悲しくなった。
「カテジナさん」
 ウッソの声が、聞こえた。
 涙が出た。朝から、いや、昨夜クロノクルが部屋まで送ってくれてから、こんな
事を繰り返しているのが、悲しいから。折角の休暇を泣いて過ごすだけの自分が、
悲しいから。今の自分が何を悲しんでいるのが分からないのが、悲しいから。
 ただひたすら、カテジナは泣き続けた。胎児の格好で、泣き続けた。
『カテジナ、いるか。時間だぞ。シャクティの所へ向かおう』
 通信用スピーカーから聞こえる、クロノクルの声。カテジナは必死に涙を拭い、
ベッドから這い出る。いつもの気丈な自分に戻らなければいけないと思うと、カテ
ジナは憂鬱になった。
815涙の子 31/45 ◆HcwCZnpTzw :03/10/27 01:07 ID:unkvFC15

「あの、お気に召しませんか? やはり、肉など用意させた方が……」
 朝食を取る軍服姿のカテジナに、濃い藍色のワンピースを着たマリア・ピァ・アー
モニアが、声を掛けた。未だに残る女になった痛みの為に、顔を歪めた事が、女
王マリアの青い瞳に誤解されたらしい。
「君は明日、女王の朝食に付き合う事になった」
 昨日の夕方、シャクティのいる屋敷から帰る途中、クロノクルからそう知らされた。
 女王マリアが、近衛師団の兵士を朝食に呼ぶ事があるのは、知っている。だが、
まさか新兵の自分が、しかも一日だけ近衛師団の指揮下に入る自分が呼ばれる
とは、カテジナは思ってもいなかった。
 だが昨日から、いや一昨日から、カテジナの心は晴れないままでいる。気は向
かないが、命令だ。今朝起きて身支度を整えた後、仕方無くマリアの控えの間へ
と向かった。
 待っていた女王が椅子に座る時、背もたれに体を預けなかったので、カテジナも
マリアに倣った。だが、背筋に力を入れた為に、彼女の股間に残る鈍い痛みが強
まる。サラダを咀嚼している時に、痛みがさらに強まったので、思わず顔をしかめ
てしまったのだ。
「い、いえ、その様な……。サラダもお茶も、大変美味しいと感じました」
 そう言った後カテジナは、先程も飲んだ紅茶のカップを、口へ運ぶ。濃さも温度
も、丁度良い紅茶だ。自分には真似の出来ない入れ方だと、思った。
「地球生まれの貴方に、スペースコロニーの食材を美味と感じて頂けるのは、大
変嬉しく思います。その紅茶、わたくしが入れたのですよ」
816涙の子 32/45 ◆HcwCZnpTzw :03/10/27 01:08 ID:unkvFC15
 驚いた。女王が自ら紅茶を入れるなど、カテジナには信じられなかった。信じら
れないのは、それだけでは無い。朝食の献立が、想像よりも遥かに質素なのだ。
 斜め切りにされたフランスパン。既製品のプロセスチーズとマーマレード。干し葡
萄の入った生野菜のサラダ。小さなボウルに盛られた、砂糖の入っていないヨー
グルト。そして、女王が自ら入れた紅茶。
 それなりの大きさのテーブルの上に、それらが並んでいる。全て、それぞれ女性
一人分しか用意されていない。
 カテジナが勝手に想像していた豪華な食事とは、程遠い物ばかりだ。美しいレー
スに縁取られている純白のテーブルクロスの上に、小さな食器達が並んでいる物
だから、ことさら朝食の質素さと少なさが目立つ。
「あ、ありがとうございます。何とお礼を申してよろしいのか……。しかし、マリア様
がこの様な質素な食事をしておいでとは、驚きました」
「出来る限り、普通の方と同じ生活をしたいと、思っている物ですから。それに、肉
や魚を口にすると、わたくしの力が衰える様な気がするので、普段は食卓にのぼ
る事は御座いませんのよ」
 女王マリアは、不思議な力を持つという。その様な人が、今日からザンスカール
帝国のパイロットになる自分を、何故朝食に招いたのか。知りたい、カテジナは。
「一つ、お聞かせ下さい。
 何故、あたしの様な者を朝食に招かれたのでしょうか。マリア様の朝食に招かれ
たがっている近衛兵は、沢山います。何故、一日だけ近衛師団の指揮下に入る、
あたしなのでしょうか。それも式典の日の朝という、大切な時に……」
「……貴方達は、席を外して下さい」
 結われた栗色の髪を動かしたマリアが、声を放った。壁際に直立していた二人
の給仕は一礼した後、静かに退室する。それを確認したマリアは、カテジナの目
を見詰めて、話し始めた。
817涙の子 33/45 ◆HcwCZnpTzw :03/10/27 01:09 ID:VHOyUEcf
「『カテジナ』と御呼びして、宜しいでしょうか? ルースさん」
「は、はい」
「カテジナさん。貴方、女になりましたね、クロノクルの手で」
 カテジナは驚いて、手にしていたスプーンを落としそうになった。スプーンをヨー
グルトのボウルに戻した後、頬を赤らめ、うつむく。
「御免なさい、いきなり不躾な事を申して……。でも、わたくしには分かるのです、
そういう事が」
 カテジナの方から一瞬視線を逸らせた後、再び彼女を見て、マリアは続ける。
「カテジナさん、御礼を言わせて下さい。弟が、その様な事が出来るまで成長した
事が、わたくしには嬉しいのです」
「い、いえ。あたしの方こそ、クロノクル大尉に優しくしてもらって……」
 確かに、クロノクルは優しかった。しかし、体を重ねていた時に感じた幸福感が、
何故か嘘だった様に思える。少女から女になった痛みは、残っているというのに。
「痛かったでしょう」
「……はい。今でも、……少し痛いです」
「数をこなす内に、慣れて来ます。不安にならなくても、宜しいですよ」
 またカテジナは驚いた。女王から性的な事を、ましてや「数をこなす」などという
発言を聞こうとは、想像も出来なかったからだ。
 複雑な顔をしたカテジナを見て、マリアも複雑な笑みを浮かべた。だが、マリア
の青い瞳は、笑ってはいない。口を開く。
「カテジナさん。貴方に、わたくしと弟と娘の事を、お話しましょう。少し長くなると、
思いますが」
818涙の子 34/45 ◆HcwCZnpTzw :03/10/27 01:10 ID:unkvFC15

 白い肌と青い瞳を持つマリア・カリンは、宇宙世紀0118年、サイド1のコロニー・
アルバニアンで生まれた。父は、孤児院から巣立った人。だが母の記憶は、ほと
んど無い。母はマリアが四歳の時、夫と娘を捨てて、他の男の所へ走ったのだ。
 宇宙世紀0133年。マリアが十五歳の時、コロニー公社に勤務している父の仕事
の関係で、父子共サイド2のコロニー・ヘラスへ移住。ヘラスに移住して一年後、
新しい母と弟が出来た。
 父の再婚相手は、若い未亡人だった。新しい母の元夫は、木星戦役の時に戦
死した、地球連邦軍のモビルスーツパイロットだという。その新しい母の連れ子が、
一歳のクロノクル。
 だが、クロノクルが三歳の時、父と母が離婚。父はまた、他の男に妻を寝取られ
たのだ。そして、父と新しい母の離婚が正式に決まった日の翌日、マリアの妊娠
が発覚した。二ヶ月前、ヘラスに駐留する連邦軍の兵士達に輪姦され処女を失っ
た時、妊娠したらしい。
 二つの不幸が同時に訪れたマリアの父は、自ら死を望む。コロニー外壁の修理
作業中に、父は自ら空気を断って死んだ。マリアの中絶手術が成功した、三日後
の出来事だった。
 その日から、血のつながらない姉弟の生活は一変する。自殺という事で、コロ
ニー公社は父の保険金を払おうとはしなかった。小綺麗な住宅街に住む程の経
済力を持たないマリアは、三歳のクロノクルを連れて、貧民窟のグレンツェへと逃
げた。
 そこでマリアは、自らの体を金に換える生活を始める。血のつながらない弟を、
養う為に。
819涙の子 35/45 ◆HcwCZnpTzw :03/10/27 01:12 ID:eLU1Tzeg
「何も持たぬ女が金を稼ぐ方法など、一つしか無いでしょう」
 その言葉を聞いたカテジナは、何も言う事が出来ない。ただ、マリアの青い瞳を
見詰め、彼女の話を聞き続けるしか無かった。まさか、自分が生まれた宇宙世紀
0136年に、この様な事があったとは。
 マリアは続ける。
 十八歳のマリアと三歳のクロノクルが辿り着いたアパートの隣に、エントー・シス
メシアという、マリアと同い年の女性が住んでいた。星占い師だという。
 彼女に姉弟の未来を占ってもらうと、
「大きな運命が、待ち受けている。お前は、未来の希望を生む事になるだろう」
 と言われた。
(生む? 何を? 中絶してから、わたしは子供を生めない体になったのよ)
 見知らぬ男の精を、白い体に幾度受け入れても妊娠しないマリアは、エントーの
言葉を信じる事が出来なかった。だが、未来を占って貰った事で、隣に住む星占
い師と懇意になる切っ掛けが出来た。
 宇宙世紀0141年。二十三歳になったマリアの運命が、再び激変する。春から夏
へ移る時、妊娠した事が分かったのだ。
「その子こそ、未来の希望。生まなければならない」
 エントー・シスメシアは、そう言った。しかし、誰の子とも知れない子供を生むとい
う事への不安が、マリアの心を押し潰そうという日々が続く。
 だが、生みたかった。もう二度と、子を孕む事など無いだろうから。
820涙の子 36/45 ◆HcwCZnpTzw :03/10/27 01:12 ID:eLU1Tzeg
 慰みにと、エントーから占いを習い始めた。自分を買う男への、余興にもなるだ
ろうと思った。エントーも、快く教えてくれた。
 それが、不思議な程当たる。特に怪我や病気についての占いは、ほぼ確実に
当たるのだ。自分の未来を占っても、毎回結果が変わって分からないというのに、
他人の事は何故か良く分かる。
 夏のある日、金持ち達の買春パーティに呼ばれた。マリアはサイド1・アルバニア
ンの出身という事で、サイド1にある大手ビル会社を持つ男の相手を、する事になる。
 余興に相手の男を占うと、
「頭部に異変がある」
 という結果が出た。男は笑って相手をしなかったが、それが当たっていた。 
 半月後、相手をした男から連絡があった。精密検査をした所、ごく初期の脳腫
瘍が見付かったというのだ。
 感謝で頭を下げ続ける男はマリアに、自分が持つサイド1のビルで、占い師を
やってみないかと勧めてくれた。移住資金と当面の生活費は、全て男が持つと
いう。マリアは誘いに乗り、弟とお腹の子供を連れて、再び故郷のアルバニアン
へと戻った。
 戻った故郷のコロニーで、『マリアの相談所』と名付けた占いの館を、男の金を
使ってマリアは開く。繁盛した。病気や怪我についての占いが良く当たると、評判
になったからだ。
 自分の健康を知りたいという客が、連日訪れる。弟の為、お腹の子供の為、マ
リアは必死に客の体について占った。あまりに当たるので、マリアを神聖視する
客も増る。しまいには、マリアを崇める宗教的なグループが出来る程だった。
 宇宙世紀0142年。娘が生まれた。自分と違う褐色の肌を持つ、娘が。
 不思議だった。嫌だった。自分の子とは思えなかった。だが、娘の瞳の輝きを
毎日見ている内に、いつしかそんな思いは消えた。
821涙の子 37/45 ◆HcwCZnpTzw :03/10/27 01:13 ID:unkvFC15
「医者は、隔世遺伝ではないかと申しておりました。わたくしの血筋の事は良く分
かりませんが、恐らくそうだろうと思います」
 マリアの言葉を聞くと、カテジナはその子が誰か、すぐに分かった。
 シャクティ・カリン。
 マリアは続ける。
 アリシアと名付けた娘と弟を連れて、マリアは教祖となる。翌年には、マリア主
義と名付けられた自分の教えを、広め始めた。母なるものを大切にするという、
教えを。それは、一時は自分の子だと認めたくなかったアリシアへの、贖罪のつ
もりだった。
 宇宙世紀0144年。その年の春、マリア主義者達は、マリアの言葉をまとめた書
籍とビデオディスクを発行。それを、一般の書店やビデオショップに流通させた。
昔、自分が脳腫瘍を見付けた男を始め、スポンサーになってくれる金持ちが何人
もいたからこそ、それが可能だった。
 『マリアが語る人生 光妙の道』と名付けられた本とビデオは、売れに売れた。
 スペースノイドの自治権確立運動が再燃し、各コロニー間の経済格差や、貿易
不均衡を巡る対立が表面化した、荒んだ時代の空気に合ったのだ。コロニー中心
主義が台頭するその時代の空気を、マリアの本とビデオが、僅かだが癒してくれ
た。
 それが、以外な効果を生む。彼女の本とビデオを見てマリア主義の集団に入っ
たスタッフが、経典という物を作ってくれたのだ。
 その人は、神学校と新興宗教団体に加入していた過去を持っていた。その時
の知識を生かし、マリアの言葉とキリスト教的な教えを重ね合わせて、巧みに経
典を作ったのだ。マリア主義者達はその事によって、マリア・カリンを教祖とする
『マリアの光の教団』の発足をアルバニアン政庁に申請し、認めさせるまでになっ
た。
822涙の子 38/45 ◆HcwCZnpTzw :03/10/27 01:15 ID:VHOyUEcf
 宇宙世紀0145年。マリアが二十七歳、娘アリシアが三歳、弟クロノクルが十二
歳の時、また運命の流転が始まる。サイド2・アメリアに本拠を置くガチ党が、マリ
アに接触。ガチ党の党首フォンセ・カガチは、教団ごとマリアを買うと言って来た
のだ。
「人類はまだ不幸の連続の中にいるからこそ、個々人の刹那の幸せを売って、人
をまやかす。そんな事をやっていては、人が腐ってしまう。貴方なら、分かるでしょ
う」
 左目の機械の義眼を光らせ、カガチはそうマリアに言った。また、こうも言った。
「母なるものを大切にするという貴方の教えを、利用させて頂きたい。この時代に
流れる血の量を少なくする事に、意味があると思いませんかな?」
 マリアは了承した。了承するしか無かった。ガチ党と、カガチが将来作るであろう
国のシンボルになる事を。そうしなければ、娘を、弟を、自分を慕ってくれるマリア
主義者達を、目の前の男の手で殺されてしまうと思えたから。
「十二歳だったクロノクルは、わたくしがカガチの元へ行く事を、強く反対しまして
ね。僕を『マリアの子』にしないでと、わたくしに抱き付きながら泣いてくれました。
 あなたも連れて行くからと何度も言った後、幸せで終わる『マリアの子』を読んで
聞かせてあげて、ようやく納得してくれましたのよ、あの子は」
「『マリアの子』?」
「はい。グリム童話の御話です。御存知ありませんか?」
 あの本だ。あの日、クロノクルの部屋の机の上にあった、あの藍色の本だ。その
中にある、『マリアの子』は。カテジナは、そう直感した。
823涙の子 39/45 ◆HcwCZnpTzw :03/10/27 01:16 ID:VHOyUEcf
 クロノクルの本の事を、マリアに話す。
「……まだ持っていたのですか、クロノクルは。
 あの本はグレンツェへ辿り着いた日、ゴミ捨て場からわたくしが拾って来た物で
す。クロノクルが小さな頃、いつもあの子に、その本を読んで聞かせてあげました。
それを、あの子はまだ……」
 マリアの目に、涙が浮かぶ。それが喜びの涙か、悲しみの涙か、カテジナには
分からない。そんな大切な物を気安く触ろうとした自分への罪悪感と、クロノクル
を傷付けなくて良かったという安心感しか心に無い、今のカテジナには。
 マリアは白い頬に流れる涙の川を、ナプキンで拭う。少し、落ち着いた。
「御免なさい、この様な姿を御見せして……。思い出という物は遠くなってしまう物
だから、宝にもなるというのに……」
 マリアはそう謝罪して、カテジナに向けて話を続けた。
 サイド2・アメリアへの移住が決まると、マリアはすぐにエントー・シスメシアを呼
び出した。褐色の肌を持つアリシアを、彼女へ預ける為に。
 フォンセ・カガチは、マリアに子供がいる事を、快く思ってはいない。売春婦だっ
たマリアの過去を隠す為、娘のアリシアを亡き者にしたいと望んでいる。カガチの
機械の左目にはそんな光があると、マリアには感じられたからだ。
 マリアは、三歳の娘とありったけの金をエントーに預け、二人をどこかへ逃げさ
せた。どうせばれると思い、カガチには素直に話した。エントーの行方はマリア自
身も知らないから、話す事が出来た。
824涙の子 40/45 ◆HcwCZnpTzw :03/10/27 01:17 ID:VHOyUEcf
「我が子を捨てなされたか」
 マリアの話を聞くと、カガチは不愉快そうに、機械の左目を光らせた。
 そんなカガチを見て、マリアは自分の行為が正しかったと思った。カガチなら、
三歳の娘がどうなろうと気にしないだろうから。大の虫を生かす為には、小の虫を
殺す。フォンセ・カガチとは、そういう男だ。
 アメリアへと渡ったマリアが最初にさせられたのは、姓をピァ・アーモニアへと変
える事だった。カリンというのは俗な姓だと言って、カガチが変えさせたのだ。
「本当は、わたくしが体を売っていた過去を、消したかったのでしょうね」
 宇宙で見付かった娘にマリアが会う日の前日、エントー・シスメシアが彼女の元
へ訪れた。あれから地球に降り、東ヨーロッパへと逃げ、ニ年前にサイド2・ヘラス
のグレンツェへと戻って来たという。
「私は姓をカリン、あの子は名をシャクティと変え、地球へと逃げた。地球の自然
の中で育つ事が、お前の好きなひなげしの歌が似合う土地で育つ事が、あの子
の為だと思えたからだ。
 あの子の傍には、大きな魂を持った少年がいる。だから私は、宇宙へ帰った。
何も心配する事は無い」
 エントーは、女王の運命に翻弄されるマリアに、そう告げて去った。
「だから娘は、『シャクティ』と呼ばれていた時間の方が、遥かに長いのです。です
からわたくしは、娘を『アリシア』ではなく『シャクティ』と呼ぶ事にしました。エントー
への感謝の気持ちと、ニ度も否定した娘への謝罪の気持ちを込めて」
「その、『大きな魂を持った少年』というのは……」
「ええ。ウッソ・エヴィン、あの少年です」
825涙の子 41/45 ◆HcwCZnpTzw :03/10/27 01:18 ID:eLU1Tzeg
 カテジナは、魂に衝撃を受けた。マリアに何と答えて良いのか、分からなかった。
あの子が、まさか――。
「わたくしもあの少年と会って、エントーの言葉が理解出来ました。あの少年なら、
この時代が不幸になる事を止められる筈です。ウッソ少年なら、クロノクルには不
可能な事が出来る筈です」
 マリアの言葉が、カテジナには承服出来ない。何故ウッソなのか。何故クロノク
ルでは無いのか。
「大尉では、クロノクル大尉では出来ないのですか! この時代の不幸を止める
事が!」
 カテジナの視線が、マリアを刺す。マリアは目を閉じた。再び目を見開き、青い
瞳をカテジナに向けて、言う。
「クロノクルは、優しい男です。家庭という、人々の小さな希望を作るのであれば、
あれ程良い男は居りますまい。
 しかし弟は、小さな魂しか持たぬ者。いくら頑張っても、いくら背伸びをしても、
ウッソ少年には及ばぬでしょう。未来という、人々の大きな希望を作る運命を背
負っているのですから、あの少年は」
 カテジナは否定したい。自分に優しかった男が、小さな魂しか持たないと言わ
れる事が。それを言うのが、クロノクルの姉だという事が。
826涙の子 42/45 ◆HcwCZnpTzw :03/10/27 01:19 ID:UjEwt3Qc
「大尉は……、大尉は毎日頑張っていらっしゃいます。モビルスーツの模擬戦も、
艦隊指揮のシミュレーションも、常に優秀な成績を収めています。
 地球に降りました。シャクティを見付けました。盾にされたあなたを救いました。
 それもこれも全て、姉であり女王であるマリア様の為にと、頑張っていらっしゃる
のです。そんな大尉の頑張りを、否定されるのですか、あなたは!」
 クロノクルを、私の巣を否定する者は、誰であろうと許さない! 例え、女王マリ
アであろうとも、血のつながっていないクロノクルの姉であろうとも!
 沈黙。マリアの声が、それを砕いた。
「……お気持ちは、良く分かります。
 弟は軍の士官学校に入る時、姓をアシャーと変えました。スペースノイドの英雄、
シャア・アズナブルの様になる為に、彼の名を少し変えて姓にしたと、クロノクルは
申しておりました。あの子なりに、覚悟を決めたかったのでしょうね……。
 しかし人には、出来る事と出来ない事が、あるのですよ」
「では、マリア様のお力で、何とかならないのですか! 大尉は!」
 再びカテジナの視線が、マリアを刺した。再び沈黙の時が、流れる。再びマリア
が、それを砕いた。
「わたくしの力など、微々たる物です。実の娘を守る事さえ、出来なかったのです
から」
「嘘! では、午後の式典は何なのです! あなたの力は、嘘なのですか!」
 先程と同じ沈黙が、流れた。先程と同じ様に、マリアが沈黙を砕いた。
827涙の子 43/45 ◆HcwCZnpTzw :03/10/27 01:20 ID:VHOyUEcf
「……はい。わたくしの力は、他の方の体と未来の事が、ほんの少し分かるだけ
です。その力も、もしかしたらアリシア、いえ、シャクティが授けてくれた物かも、
知れませんね……。
 脚の萎えた者を立たせたり、目の見えぬ者に光を与えたりする事など、わたくし
には出来ないのです。儀式の時に病人が治るのは、全てカガチが仕組んだ芝居
なのですよ。多少は、わたくしも疲れはしますがね……」
 そんな事って、そんな事って――。
「カテジナさん。……ザンスカールがどういう所か、分かったでしょう。今なら、まだ
間に合います。地球へ、ウッソ少年の所へ御戻りなさい」
「嫌、嫌よ……。あたしは、クロノクルの傍にいるのよ。だってクロノクルは、あたし
に優しかったんだもの。あたしの巣なんだもの……」
 カテジナの視界が、涙で潤んだ。カテジナの声が、悲しみで染まった。カテジナ
の金髪が、テーブルに伏せた。カテジナの心が、引き裂かれて行く。
 マリアはそれを、止める事が出来ない。しかし、声を掛けるしか無い。
「……分かりました。
 カテジナさん。……クロノクルと、幸せになって下さい。わたくしは、祝福致しま
すわ。だって、どんなに悲しくても笑顔でいれば、いつか幸せになれますもの」
 クロノクルの相手をした唯一人の売春婦マリア・カリンは、涙を流すカテジナに、
そう言って微笑むしか無かった。クロノクルの魂が、カテジナの目がどうなるのか
分かっていても、彼女にはそんな事しか出来なかった。
828涙の子 44/45 ◆HcwCZnpTzw :03/10/27 01:21 ID:VHOyUEcf

 モビルスーツに乗ったカテジナは、唯一人、コロニー内での式典の警備を任さ
れた。他の近衛師団のパイロットは、連邦軍とリガ・ミリティアの襲撃に備え、コロ
ニーの外にモビルスーツを飛ばせている。
 リグ・シャッコー。彼女が始めて出会ったモビルスーツ・シャッコーを元にしたマシ
ンが、今日のカテジナの乗機だ。シートに座っているカテジナは、開いたコクピット
ハッチから覗く人工の曇り空を見ていると、モビルスーツの操縦訓練をしていた日々
を、思い出した。
「綺麗ですね、マシン」
 カテジナが地球で発したその言葉の後、クロノクルがモビルスーツの操縦法の
習得を、勧めてくれた。
「故郷を失った君の悲しみを、少しでも誤魔化す事が出来ればと、あの時は思った
んだ。今から考えれば、変な話だがな。君の故郷を焼き払ったのは、我が軍のモ
ビルスーツなのに」
 二日前、ベッドの上に二人で座っている時、バスローブ姿のクロノクルはそう言っ
た。その言葉を聞いたカテジナは、嬉しかった。自分を気遣ってくれる、赤毛の青
年の優しさが。
829涙の子 45/45 ◆HcwCZnpTzw :03/10/27 01:21 ID:eLU1Tzeg
 パイロットスーツを着たカテジナの座るシートの脇に、本がある。あの後基地へ
向かう途中、書店で買ったグリム童話の本。その中にある『マリアの子』を、先程
読んだ。童話を読んでくれる人もいなかったカテジナは、『マリアの子』という話が
ある事を、知らなかったからだ。
 嘘をつき続ける女が、その罰として、聖母マリアに子供を取り上げられる話だっ
た。女は嘘をつき続けた事を反省し、彼女を許した聖母マリアから子供を返されて、
物語は終わる。確かに幸せで終わるが、どこか悲しい話だった。
 中央広場の方が、騒がしい。全天周囲モニターの一部を変え、式典のテレビ中
継を映した。展示してあったリガ・ミリティアの二機のモビルスーツが、その中で暴
れている。ウッソがやっているとしか、カテジナには思えなかった。
(あたしはクロノクルを、『マリアの子』になんかさせない。あたしとクロノクルの幸せ
を望んでくれるマリア女王を、不幸になんかさせない。
 あたしの巣は、あたしが守る! ウッソ君、例え相手があなたでも!)
 カテジナ・ルースはそう決意し、ハッチを閉めたリグ・シャッコーを、待機場所か
ら中央広場へ向けて飛ばせる。人工の曇り空へと飛び立つ時の衝撃で、クロノク
ル・アシャーを受け入れたカテジナの女の証が、未だに残る鈍い痛みで疼いた。

−完−
830『孤独の果て』の人 ◆HcwCZnpTzw :03/10/27 01:22 ID:eLU1Tzeg
 「痛い奴」と言われる事は分かっていますが、自分のSSについて、色々と語ら
せて下さい。
 自作SS十本目記念という事で、Vガンダムで一番好きなキャラであるカテジナを、
書いてみました。元ネタは、Vガンダム二十六話『マリアとウッソ』。自分のカテジ
ナ像――泣く事と怒る事でしか感情が表現出来ない女性――が、モロに出てい
ます。
 カテジナのSSというと、女王様物と監禁調教物ばかりが目立ちます。そうじゃな
い話を書こうと思っていたら、こういう話になりました。しかし自分のSSのカテジナっ
て、泣いてばっかり。
 分かっているとは思いますが、それぞれのキャラの過去は、かなり捏造してい
ます。アニメ本編に、小説版Vガンや他の話を混ぜた上、妄想でかき回しました。
嘘八百を並べているので、変な誤解をされない様に。
 なお、本SS中に出てきた『マリアの子』については、ここを参照して下さい。
   ttp://densyo.hp.infoseek.co.jp/maria.htm
 読んで下さって、ありがとうございました。
831名無しさん@ピンキー:03/10/27 02:49 ID:mpbdHO6W
>>783
乙です。南極のやつも読みました。火曜日のupが待ち遠しい!!

けど…ここって500kb越えても平気なのかな?
次スレ立てないと不味いような気も。誰か次スレ立てない?
832名無しさん@ピンキー:03/10/27 09:27 ID:jL6oPDYg
お前、色々なところで指摘されていた意見
読んだ?ロクに読んでないだろ?
自作SS十本目記念?
そんなもん自分でスレでも起こして書け。
ここはお前が言い訳しながらダラダラ
長ったらしいだけの顕示欲丸出しの
くだらん文章を書く場所じゃない。
ここはガンダムキャラに萌えるスレだろ?
お前さ自分の設定や文章に酔っているだけで
キャラ萌えなんか考えてないだろ。
人を引き込めるような文章もテクニックも
持っていない。他板のネタをネタ元にして
全然違うものに捏造したりひとりよがりな
設定ばかり作り出して使って楽しいか?
「エロパロ板」の「ガンダムキャラに萌えるスレ」
なんだからそれらしく見せる努力だけでもしろ。
833名無しさん@ピンキー:03/10/27 14:30 ID:7xwvYKQW
>>830
貴方のSSはスレ違いな気配が...
シャア板で自分でスレッド立てるか?
自分でサイトをこしらえるか?した方がいいと思います。
こうやって既存のスレに趣旨違いのSSを投稿しても、余程面白いモノでも無い限りは
みんなに受け入れてもらえないんじゃないでしょうか?



内容に関して少し触れると
自分が面白いと考えた事が他人も同じように面白いと受け取れる
という事は有り得ないので、もう少し他人に対してのサービス心を入れないと
幾ら書いてる本人が面白がっていても読む人。他人には苦痛なだけなんじゃないかな?
という部分を考えた方がいいとは思いますが。

自分のはけ口や欲求解消に他の人を巻き込むのは止めましょう。
他の人は面白い文章を読みたいからスレに来てるんです。
読む人を想定してない自分さえ良ければ良いといスタンスでは迷惑です。
いまのまま続けるのならば、わざわざ他人の目につくようなやり方
スレに張っていくのは止めて下さい。
公開したかったらどこがで自分のサイトを立ちあげてそこでやって下さい。
それなら人目に触れないから文句はありません。
834名無しさん@ピンキー:03/10/27 15:10 ID:rLtvE55h
>>830
作品の内容以前に、もっと他人に配慮したウプの仕方をしてもらえないだろうか。
他の職人さんは1度のウプを10レス以内位にまとめていて、一人でスレを占領
しないように気配りをしている。反してあなたは前回が36で今回が45レス。
今回の大量ウプのせいで、スレがいきなり容量オーバーに近づいてしまった。
これではコピペ荒らしと変わらないよ。
他の職人さんと同じように何回かに分けてウプするなどの気配りが欲しい。

>>832-833
気持ちは判らないでもないが、そういうレスをつけると他の職人さんまでウプ
しにくくなってしまわないかな?
気に入らない作品の内容への批判レスを書くより、気に入っている作品への
誉めレスを書くことに力を入れたほうが、生産的な気がするんだが。
とはいえ、自分がやってない事を書いても説得力ないな……自治厨でスマソ
835名無しさん@ピンキー:03/10/27 15:11 ID:rLtvE55h
で、気を取り直して新スレなんだが、2にこれを入れてはどうだろう?


◎ガンダム関連スレッド

ガンダムヒロインズ MARKV
http://www2.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1056852515/
ティファ(ガンダムX)です・・・
http://www2.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1039261786/
ガンダムWのエロパロ小説
http://www2.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1065699339/
ガンダムSEEDエロ総合スレ Part5
http://www2.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1065351321/
ガンダムキャラ【なりきりH】PHASE 8
http://www2.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1066483808/


他にもあったらフォローきぼん。あと1の文章も。
スレタイは「ガンダムキャラに萌えるスレ2」でいいのかな?
836名無しさん@ピンキー:03/10/27 15:38 ID:rLtvE55h
自己レス。
1も考えてみた。文才ないから呆れないように。


スレタイ
ガンダムキャラに萌えるスレ2


萌えを語るも、萌えSSを投下するもOK。
自分の萌えと違う時はスルーするか、別の話題をふるが吉。

前スレ ガンダムキャラに萌えるスレ
http://www2.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1009782805/

関連スレッドは>>2のあたり。
500KBを越えると書き込めなくなるので、500近くになったら
新スレをよろしく。
837 ◆HcwCZnpTzw :03/10/27 17:52 ID:eLU1Tzeg
>832,833,834
 ごめんなさい。
838名無しさん@ピンキー:03/10/27 20:42 ID:jL6oPDYg
>>834
悪いね。
だがもうひとつだけ最後に言わせてくれ。

>>830
アリシアなんて人間はVガンの中には存在しない。
思い込みで勘違いしたままだったんだか
こんな致命的なミスに気付かずアップするとは
呆れるより他にない。
839名無しさん@ピンキー:03/10/27 23:24 ID:tyrhEzpl
>>838
お前のレスの方が気分悪いんだけど。

自分は圧倒的に正しいと錯覚した厨ほど手に負えないもんはねーな。
840名無しさん@ピンキー:03/10/27 23:33 ID:7DXWMJjh
>838
アリシアって、シャクティの本名でしょ。
小説版Vガンの。
841名無しさん@ピンキー:03/10/28 00:35 ID:KJSPHhdT
今日はFekia氏と610氏のウプ予定日なんで、独断で新スレ立てといた。
作品ウプがあるまでは、旧スレを500KBoverさせないほうがいいんではないかな。

ガンダムキャラに萌えるスレ2
http://www2.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1067268320/

最初の頃、無駄にageてすまんかった。即死しないようにレスよろしく。
842名無しさん@ピンキー:03/10/28 00:36 ID:8sAno5no
シャクティの本名はアシリア。
843 ◆HcwCZnpTzw :03/10/28 03:11 ID:8eiSqIU5
 色々と叩いて下さって、ありがとうございました。一つだけ、教えて下さい。
 「萌える」って、何ですか? どういう感覚なのですか?
 言葉は知っていますけど、概念というか、意味する物が分からないのです。それ
が分からないので、以前から悩んでいます。変な時間に目が覚めても、すぐにそ
んな疑問が浮かんで来ました。
 どうすれば「萌える」が理解出来るのか、冗談抜きで分かりません。どなたか教
えて下さい。本当にお願いします。
844名無しさん@ピンキー:03/10/28 04:21 ID:v+i/WZ05
>>843
アニメキャラやリアルで誰かを好きになることってないの?
Yahoo!検索で萌えとか概念という言葉ぶち込んで調べてみれば良いんじゃない?
調べたって理解できないかもしれないけど。
845 ◆HcwCZnpTzw :03/10/28 05:15 ID:8eiSqIU5
>844
 こんな時間に付き合って下さって、済みません。
 何度か調べましたし、今も調べましたが、何か違うとしか思えませんでした。好き
な人に対する感情を表現する言葉ではないとしか、思えませんでした。
 シチュエーションがどうとか、コスチュームがどうとか、境遇がどうとか、体形が
どうとか、属性がどうとか……。そんな物は、単なる嗜好にしか思えません。心の
底から大好きなあの人に、そんな理由で恋をしている訳ではありませんから。
 ……ごめんなさい。「萌え」を理解している方に、失礼な事を言ってしまいました。
でもやはり、「萌え」という言葉を好きな人に対して使うのは、自分には不可能です。
846名無しさん@ピンキー:03/10/28 08:36 ID:I4RA7mrB
>萌え
俺は「子猫を見て可愛いなあと感じる心」だと思っている。
エロマインドとは別だな。
847名無しさん@ピンキー:03/10/28 10:12 ID:sPmSOCWJ
>>845
なんでもいいけど次スレには来るなよ。
お前は荒しに等しいんだからさ
その辺、自嘲して欲しい。

お前独りが我慢して口を閉じていれば
それがみんなにとっての幸せになるんだよ。
頼むから分ってくれ。
848名無しさん@ピンキー:03/10/28 10:34 ID:iLFsGBrb
>>843 >>845
突込みどころ満載のレスだな。

>「萌える」って、何ですか? どういう感覚なのですか?
それが判らない人間が「萌えるスレ」に作品をウプする時点で間違ってる。
もっと言うと、二次創作の世界に足を突っ込むのにも無理がある。
二次創作の世界は、多かれ少なかれ萌えを共有することで成り立って
いることが多いから。

>シチュエーションがどうとか、コスチュームがどうとか、境遇がどうとか、体形が
>どうとか、属性がどうとか……。
他人に萌えを説明する時に判りやすいからこういう分類をしているだけであって、
このシチュ・このコスならいつも萌えるということではない。
自分の萌えパターンの最大公約数を語っているだけ。

>「萌え」という言葉を好きな人に対して使うのは、自分には不可能です。
現実世界の恋愛と二次元キャラへの萌えをごちゃ混ぜにしてないか?
恋愛に萌えの要素が皆無ではないが、萌えはどちらかというと二次元世界や
二次創作世界で使われるものだろうに。

つかさ、もっと他の人の作品を読んでみ?
このスレだけでも評価の高い作品はいくつもあるだろ。
例えばS原氏、Fekia氏、610氏。
そういう作品とその作品についた読者の感想とをよく読んで、どういう
ものだと他人に受け入れられるのか、どういうところが好まれているのか、
他人を萌えさせているのか、研究してみればいい。
849 ◆HcwCZnpTzw :03/10/29 00:08 ID:m3GiPHs+
 色々と済みません。お陰様で、これを書いたら自サイトを作ろうと思っていた大
掛かりな話に、取り掛かる踏ん切りが付きました。その話を書く練習にと、書けも
しないエロ話を書き散らして、ご迷惑をお掛けしました。大変申し訳ありません。
 皆さん、ありがとうございました。
850名無しさん@ピンキー:03/10/29 00:46 ID:5hCz0ayP
そろそろ容量いっぱいいっぱいかな?
あとちょっとだけある?
851名無しさん@ピンキー:03/10/29 00:49 ID:eCVRwml/
ここで書く話題でないかもしれんが「ガンダムで目指せ
自分至上最高SS」が落ちてしまったようだが誰も
立てないのかな。


852名無しさん@ピンキー:03/10/29 12:12 ID:OOgVEjeN
>>849はコミュニケーションとろうという気はないんですかね。ひとつ上の
親切なレスすらもスルーなのかな?
◆HcwCZnpTzwは、人には問い掛けるくせに答えてやっても理解できないと
そのままにして突然自分語り始めるよね。そういうところ直せないかな?
>その話を書く練習にと、書けも しないエロ話を書き散らして、
「その話」が何をさすかわからないけ皆が作品を発表している場所で
練習作をアップしていちゃダメでしょう。つか練習だと自ら暴露する神経が
わからないね。
それから間違っても自分のサイト作った後あちこちにurl張らないでください。
自分語りレスもいらないし、次スレにも来ないでくださいね。
853名無しさん@ピンキー:03/10/29 14:16 ID:wPE/7eVr
>>852
>それから間違っても自分のサイト作った後あちこちにurl張らないでください。
>自分語りレスもいらないし

何もそこまで排斥する理由も権利も無いよ。俺らには。
それ位のことを勝手気ままにやる分には個人の自由の範囲内だとは思うが

>次スレにも来ないでくださいね。

同意。この部分だけ守ってくれればこのスレ的には何も文句は無い。
次スレには◆HcwCZnpTzw出入り禁止。せっかくの場を荒らさない欲しい。
次スレに◆HcwCZnpTzwの居場所は無い。
その大層大事にしている大作を書くんなら他所でやってくれ。
854 ◆HcwCZnpTzw
>848
>もっと言うと、二次創作の世界に足を突っ込むのにも無理がある。
>二次創作の世界は、多かれ少なかれ萌えを共有することで成り立って
>いることが多いから。
 萌えを共有する事は分かっていますが、書きたい事と、他人の視点を知りたい
事が、どうしても知りたかったので。済みません。実際叩かれたお陰で、色々と
分かった事も多かったですし。
>現実世界の恋愛と二次元キャラへの萌えをごちゃ混ぜにしてないか?
>恋愛に萌えの要素が皆無ではないが、萌えはどちらかというと二次元世界や
>二次創作世界で使われるものだろうに。
 ごちゃ混ぜにしている気はありません。自分は、架空世界の人間に本気で恋を
しているだけです。「恋」と言うより「心の底から憧れている」と言った方が、正しい
のですが。
 その人に、「萌え」という言葉を使えないと思えたのです。その人の為に死にた
いと思う位本気で好きな人に、「萌え」という言葉は使えませんよ、自分は。
>つかさ、もっと他の人の作品を読んでみ?
>このスレだけでも評価の高い作品はいくつもあるだろ。
 他の方の作品や感想も、以前から色々読んでいます。エロシーンよりも、心理
描写を重視して読んでしまう自分は、他の方と嗜好が違うのでしょうね、色々と。
それでも諦めずに、色々と精進させて頂きます。こういう返事を期待されていない
事は分かっていますが、これしか出来ません。自分なりに、努力します。
 あなたの書き込みを読んだ時、泣いていて上手く書けそうになかったので、感
謝の気持ちを述べる事が、遅れてしまいました。ごめんなさい。色々と気を遣って
下さって、本当に本当にありがとうございました。