ttp://set.bbspink.com/test/read.cgi/eromog2/1240069108/994 ※女装注意
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「何だよ、お前来たのかよ」
“モード喫茶らんまる”の看板を抱えた阿部は田島に一瞥を寄越した。
「阿部は女装なしかよー 残念だなー」
「当たり前だ、畜生!この衣装だって充分イカレている」
阿部は首に張り付いた蝶ネクタイを引っ張って見せたが、案外似合っているんじゃね?と田島は思った。
目つきの悪さ、口の悪さ、白のカッターシャツに黒の細いパンツ、西川口の繁華街の呼び込みで普通にいる感じだ。
「ヤローは女装してるんだろ?女子は男装?しのーかは?」
「あー、一部似合う奴が男装してる しのーかは奥でドリンク作っているよ」
「そっか、残念、揃いで写メ撮ろうと思ったのに」
「表立って撮んなよ、一応撮影禁止だかんな」
「さっき花井にも言われた いるよな、女装2人組」
ああ、そう言い放って素っ気無く背中を見せると阿部はぶっきらぼうに再びチラシを配り始めた。
教室の出入り口には「モード喫茶・らんまる」の文字がベニヤ板の上で踊っている。
なんだ?“モード”ってのは??ま、中にいいる奴に聞けばいいよな。
田島は花井に貰ったクシャクシャのドリンク券をポケットからほじくり出した。
扉を開くとポンポンで飾られたどうともない教室に、机を幾つか組み合わせた上白いビニールクロスで覆ったテーブル。
テーブルの真ん中には各々一輪挿しが飾られていた。
せわしなく動いている給仕は各々が男装、女装であるが
女装している野郎が多いのは飲み物や軽食を作る裏方を女子に任せているからだろう。
取り合えず一番手近な空席に着いた。
何気に席は埋まっていた。が、部外者では無く、殆ど客と給仕とがお互い知り合いで馴れ合っている感じだ。
「あ れー? 来たんだ 一人?」
田島が顔を上げるとラメの入ったTシャツにホットパンツ、黒のニーソを履いた少し大柄な女がお盆を持って立っていた。
アイラインくっきり、付け睫毛ばっちり、グロスがツヤツヤしたケバ目の女を前にして田島はしばし呆然とした。
他の“如何にも野郎が女装しました”ってコスチュームと余りに違いすぎていたからだ。
ぱっと見誰だか分らない。しかし、この声は知っている声だ。
ニヤニヤ田島を眺めている女をまじまじと見返す。7組でこの背の丈で阿部じゃない・・・とすると。
>>534 「ええええ、水谷かよ、お前、うええ それ街中で見てもワカンネーぞ」
「皆に言われてんのよね ま、俺と花井はさー 貸衣装有りーの、メイクを女子がしてくれるってのを知らなくてサー
姉ちゃんの要らない服改造したんだ、コレ あとメイクも使わないの貰ってきた」
んじゃあ、その身体にフィットしたパット入りブラジャーも姉ちゃんのかよ、そう思うも込上げる笑いが言葉を遮った。
「それにしたって、ぶはっ」
「文化祭の最終打ち合わせと秋大が重なっちゃうなんてねー 誰か教えてくれたら良いのにねー 酷いよねー
あ、何飲む? チケットくれるー?」
「えー、コーラでいいや あれ?花井は?」ドリンク券を受け取る指の爪は艶のあるピンクで白い花が散らばっている。
「花井ねー、さっき真っ青な顔して戻ってきてからまだ休んでいるんだよねー
いやさ花井もなんか人気でサー あすこんちの母ちゃんって,いつもテンションMAXじゃん
花井、母ちゃんの手作りメイド服でさー、すんげえ似合ってんの」
「ボウズのメイドかよ」田島はまだ笑いが止らない。
水谷は空の盆で口元を覆い隠して笑いを堪えながら話ている。
なり切りすぎだろう、ま面白れーけどな、田島は胸ポケットの携帯をまさぐる。
「勿論カツラ付きだよぉ ぜってー見た方がいいから メイクなんかも母ちゃんのマニュアルと出来上がり写真付きの超力作」
「メイドのアズサちゃんか!」
「そうそう!あの衣装、ビクトリアン調って言うんだって女子が騒いでた
花井出でてきたら人だかりができるからさぁ 写真取るなら出てきて直ぐがいいよー」
人だかりかよ、何じゃあそりゃ。チケットをカウンターに渡しに行った水谷の背中を目で追う。
「なー、他のクラスもまわったぁ?」カウンターから気の抜けた水谷の声が聞こえてくる。
「行った行った、1組も3組も糞真面目でー 2つまわるのに5分とかかんなかった」
「ふうん、俺も行ってこなくちゃなー」水谷はレモンの刺さったコーラをテーブルに置いた。
「しっかし、このサ店、よく学校の許可取ったなぁ」
「あのねー、一応ねー女性の服飾の変化って事で研究発表なのよ、これでもねー ほらあれ」
水谷の指す方向を見ると、成る程、模造紙に何やら写真を添付したモノと細かな文字がギッシリ書かれてあるのが見える。
今迄気が付かなかったが何体か服を羽織ったトルソーもあった。
>>534-535 「俺のは90年代のチビTね」
「で、花井のは?」
「うーん、昔なのか今なのか、どっちだったかなぁ」
「ひでぇーな、そりゃ」思わず2人とも爆笑する。
「あれでスカートの丈が短けりゃ現代なんだけどネー 床に付く位長いからねー 今風なら絶対領域必須でしょ」
「絶対?はぁ?」
「あー 田島も知らないよねー 俺もわかんねー さっき栄口が来ててそう言っていたんだけど 後で詳しく聞かなきゃ」
「う・・・あんまり踏み込まないほうがよくね?」
「そうか・・・そうかも・・・そうだ、田島も何か着る? サイズが大丈夫なら、教室内に限って試着OKなんだけど」
「へーっ おもしれー」
「大き目の揃えたんだけど、やっぱ女の子の服って小さいんだよねー 着られる奴って限られんの 田島なら色々選べるよ」
「俺、花柄がいいな ねーちゃんもにーちゃんの嫁さんも黒とか紺とかの地味目が多くてサ
女物だったらヤッパ花柄・ヒラヒラ・セクシーだよなっ」
「だよねー」
返事をしながら水谷はカウンターと逆方向の教室の隅を指差した。
「あそこに2つカーテンで囲った所があるよねー 右っかしが衣装が吊るされてるトコ ここで着るもん選んでねー
左っかしが着替える所 背中のファスナーとかヤバかったら呼んでねー メイクが希望だったら着替えてからね」
おうっ と衣装部屋のカーテンを開けた。
部屋と言うよりは一角をカーテンで囲んだだけなので
そのスペースは畳一帖分程だったが吊るしの衣装が所狭しとハンガーに掛かっている。
色とりどりの衣装は、まるで飴玉の包み紙を見ているようだ。特にヒラヒラの付いたスカートに目が行く。
折角のチャンスなんだからスカートにすりゃあ良いのに敢えて短パンって変な奴だよな、水谷も。
アレコレ物色していると隅っこに何やら塊が有った。近づくとそれは膝を抱えて座っている人・・・人間だった。
田島は思わず肩に当たる所をポンポンと叩いた。その人物はゆっくりと顔を上げた。
「なんだ、驚かすなよ」
濃紺のセーラー服に下はモンペという出で立ちで三橋は座っていた。顔は少々焦燥している様にも見えた。
今日はここまで