http://set.bbspink.com/test/read.cgi/eromog2/1219495162/804 ※阿部獣化注意
「あ、阿部君、怒ってるよね…」
「いや…、怒ってねえよ」
言葉だけではなく、実際俺は怒りを感じてはいなかった。
三橋が電話に出られなかったのは多分俺のせいだってのもあるし、おばさんとの攻防で腹が立
った場面もあるにはあったが、それは一時のことで俺が不機嫌に見えるとしたら別の理由から
だ。
最初からわかっていた俺たちの間にある埋めがたい隔たり ── 所詮三橋は人間で俺は人間に
擬態している違う種族だという事実を思い知って、寂寥感に浸っていたという方が正しい。
三橋は俺と別れても家族なり友人なり帰ることのできる場所、所属できる世界がちゃんとある
のに俺には何もない。
三橋との関係をなかったものとして父親に頭を下げれば肩身の狭い思いをしなくてもよくなる
だろうが、どうあっても俺はこいつを手放したくないのだ。
会話はそれきり続かず、俺は三橋から目を逸らして風呂に入りに行った。
三橋が入ってくるのをちょっとだけ期待していたけど何事も起こらず、自分で断っておいてが
っかりするのも変な話だと自嘲する。
風呂から出ると三橋の姿がなかった。
冷えたポカリを飲みながらニュースを見ていると風呂の方で物音がしたので、ああいたんだな
とホッとした。
関心のない振りを装いつつ俺は三橋の一挙一動に神経を擦り減らしている。
そろそろ俺が考えていることを言葉にして伝えなければならないのはわかっているのだが、ど
う話したらいいのか見当がつかない。