俺ら「三橋は超かわいい愛され投手」

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141筒井筒
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スイーツブームときいて

獣のような獰猛さで、廉の華奢な体を組み敷いた瞬間、偶発的に空を掴もうとした廉の手が
叶の手首に結わえられたエゾムラサキの花輪を引きむしった。
幼い頃野山をかけた空と同じ、青色の花弁の絆が、断ち切られたようにバラバラになって宙を舞う。
廉が、生贄になる準備と称して監禁されている間、懸命に編んでくれた親愛の証であった。

「あ……、」
強い衝撃で後頭部を殴られたかのような叶の固まった様子を見ても、邪気も親愛もなく
ただ肉欲だけ求めている廉の目には二人をつなぐエゾムラサキの断片など映りもしなかったのかもしれない。
空虚な死んだ獣のような廉の表情をみて、ふと大蛇の最後の言葉が叶の脳内に反芻された。

―この精神なき贄の体、ぬしに返して進ぜようか。抜け殻でも良いと酔狂を望むなら―

ここで俺がことに及ぶものなら奴の思うがままではないか。
いま目の前にいる廉は、死にたくなるほど悔しくても精神のない抜け殻であって、
そんな廉に手を出してしまったら、俺たちはきっともう二度とあの頃には戻れない。

「くそっ、くそっ!!っつ!!!」
爪が拳に食い込んで血が出るほど強く握った手を地面に叩きつける。
その様子を廉が心底怯えるように身を縮めて後ずさっていたので、叶はなんとか理性を取り戻して
廉の白い潔斎着の崩れを整えて木の葉を含んだふわりとした髪にも手ぐしを入れてやる。

こんな状態の廉を治してやる術はおろか、最低限の寝食を保障してやることも出来ない自分は、なんてガキなんだろうか。
結局村長の長子としての生まれを捨てれば自分には大切な幼馴染一人救う術さえないほどの存在だったのだ。
どれほど説明と説得に時間がかかろうが、廉を連れて村に戻ろう。
そしてもう一度、廉が自分たちの名前を思い出すまで何年かけてでも見守ってやることが、唯一の術なのだろう。

不安そうに叶を窺う廉の顎を寄せて、出来る限り優しく、柔らかく口付けた。
一筋の月明かりに、誰にも愛された経験のない孤児の、精神を壊したはずの虚ろな目がかすかに涙を伝わらせた。