阿部「三橋君、ちょっとさ、履いてみない?」

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96碧い鎖 ◆r2YHExa9lY
ホラー注意
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【7】
土曜日の朝、三橋と田島も7時には目が覚め、部員達とメールのやり取りをした。
結局全員が病院に集合する形になり、百枝とも水谷の病室前で会った。
深夜の救急指定だったため、水谷は自宅に最も近い総合病院ではなく、花井や泉と同じこの病院にそのまま入院している。
花井と泉は同じ部屋に移されており、少しだけ入ることを許された。付き添いの身内は席を外しているか、まだ来ていない様子だ。
昨夜の水谷の件を聞き、皆で泉の耳の後ろを確認しようと思ったものの、病人に触れるのを誰もが躊躇う。
「右だっけか?これで、いっそ起きてくれたらいいんだけどな」
巣山がそう言って、泉の頭の右側を確かめた。それに倣い、反対側にいた阿部らがもう片方から覗き込む。
念のため左右両方見たが、どちらにも青色はまったく見られなかった。
想像していた結果だったので、驚きはない。ただ、呪術の類であることがより明確になり、神妙な顔で頷き合う。
泉がこそばいと怒って起き出すことは、やはりなかった。

「西広、お前やっぱこの傷ないのか」
阿部は指を開いて、西広の前にかざした。
13時のミーティングを前に、一同はコンビニへ寄っている。
「俺は…あの時田島から逃げてとっさに言ったけど、多分ゼロとかじゃなくて、ホントにないんだと思う」
「かもな、九つとか書いて、わざわざ名前9個印刷してやがる」
「ていうか、あいつ三橋のストーカーで他はまとめて敵って感じだったよね。俺のこととか、野球部全体の人数が何人かなんて、多分意識してないよ」
スコアボードに名前のない選手は、試合中にコールされることもない。
しかし、もしこのたった一人の控え選手がおらず、夏の最後の試合が自分の退場とともに即ゲームセットになっていたらと思うとぞっとする。
阿部は言葉に詰まった。お前ならレギュラーになれるさなどという言葉は寒くて吐けない。自分の話術は繊細とは程遠いのだ。
だが西広は、とくに卑屈になる様子でもなく会話を続けた。
「九つの生贄、お前は最後に殺す、九に意味があるのかとも考えて調べてるけど、何にしてもふざけてる」
「ああ、三橋を精神的に追いつめてるとしか思えねーよ」
泉が倒れてから、西広は懸命に呪術について調査していた。大型図書館に行きたいところだが、時間の都合上、情報は主にネットになる。
呪いの解除の手段はないか、似通った術式がないか、出所など問わずとにかくあさったが、どれも怪談やファンタジーの域を出なかった。
被害者が倒れ、体の傷が消える。事実ばかりが先行し、誰しも頭が追いつかない。だが、何をやっているにしろ、術者を捕まえてやめさせるしかないのは同じだった。
ミーティングでは、百枝に青い痣や三橋の机に入れられていた紙について皆で話すつもりだ。
志賀がいれば、浜田とは別ルートで退学した例の男子生徒の消息も調査依頼したい。