>>225 ここまで
大きな荷物も置いたままだったので、田島は自宅には帰らず、そのまま三橋の家に戻った。
「オレさ、水谷が息してなくて、もうめちゃくちゃ、うわーってなって、すっげ怖かった」
「うん、オレ、も。こわかった」
「三橋、すげーな!」
「すっ、すげく、ないよ!」
三橋がベッドから跳ね起き、身を乗り出す。田島もつられて、半身を起こした。
「オ、オレの こと、いちばん…ムカつく、なら」
ベッドから降りて床にぺたりと座り、田島の客用布団をぎゅっと握る。
「オレ だけ、のろえばいい、じゃないかっ…」
涙がこぼれ出て、シーツに落ちた。
嫌がらせなど、中学生の時から慣れっこだった。怖くても我慢していれば、いつか飽きて誰も何もしてこなくなる。
けれど、好きだと言いながら切りつけてきた男にわけがわからなくなった。
助けてくれたり気遣ってくれたチームメイトに、どうやったのか知らないが異様な痣をつけ、呪ってイケニエにすると彼は言う。
スコアボードの紙を見たとき、不気味さに縮こまる心の奥で、危害を加えてくる人間に対し初めて恐怖以外の感情を持った。
そして今夜の事件で決定的になった、酷いやり方。
「ごめ、なさ、田島 くん、ごめんなさい」
こういう時は、謝ってはいけない。自分のせいだと言ってはならない。知っている。だから今まで言わなかった。
お前だけのせいで点入れられたなんて、誰が思ってるかバカって、阿部君に怒られる。
よくできたら褒められて、ダメなら喝入れられて、誰も一人のことをウザがらないのが、普通だ、普通なんだ。
「なんでっ、なんで、オレ だけじゃ、なくて、みんな に、ひどいことする、の…!」
だがいくら自己暗示をかけても、溢れ出した感情が止まらない。
田島は、困って三橋の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「あのさ、三橋のせいじゃなくてアイツのせいじゃん。ボッコボコにしてやめさせる!ムカつく!って言ってみ?」
「う、ひぐっ…ボ、ぼ ボッ」
「そーそー、練習しとけ。明日泉んとこ行って確かめるぞ、耳の後ろの8本消えてっか。そんで、みんなで話し合う!」
あの人が怖い。三人を元気に戻して、みんなの傷を消して、二度と誰にも苦しいことをしないでほしい。憎い、嫌いだ、あんな人。
三橋は、自分が他人に腹を立てていることを自覚した。体が熱かった。