三橋「いくよ!」

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992太陽の黄金の林檎
http://set.bbspink.com/test/read.cgi/eromog2/1210512802/111,149,227,331,633,967

あれって録画してるだけだよな。常時、人が張り付いて監視しているわけはないんだろうが
自分の姿を三橋の家の人に見られていたらと思うとなんとなく嫌だった。
まるでストーカーみたいじゃないか。

プリントアウトした地図を参照しながら、駅までの最短ルートを遡る。
駅前の時計台のもとへは三橋の邸宅からのろのろと歩いても10分かかるくらいだった。
駅舎を突っ切って街の反対側へ出る。
鉄道経営のスーパー、差し向かいに建つコンビニ、メガネ屋、中華系ファミレス、本屋、文具屋兼ハンコ屋、レンタルビデオショップ。
並ぶ商店にはこれといった個性もなく、だからこそ逆に三橋がこの風景にとけ込んでいる様が自然に想像できた。
たぶん今とたいして変わらないような、しかし確かに今とは違った生活を送っていたんだろう。
もう二三ヶ月も放置されているような様子の自転車たちの足下を白い毛をした犬が転がる。
そこから伸びる蛍光グリーンのヒモの先を握った中年の女は、先へと進みたがる白い毛玉を
引き留め抱き上げ金かごに押し込めると、ヒモをぐるぐるとグリップに巻き付け、がきょん、とスタンドを倒した。
きーひーきーひーと自転車のチェーンが枯れた音を立てる。
キーコーヒーの看板を出した喫茶店のガラスには白いレース模様が浮いている。
中古ゲームショップの軒先に立ち並ぶガチャポンの筐体。
数人の小学生がその前に座りこんでいて、原始人が木の実を壊して中の肉を得ようとするかのように
ブラスチックのケースを石畳に擦りつけていた。
しめった窓ガラスの填った洋食店を下り曲がると右手は石階段になっている。
覆い被さるあじさい葉ごと手すりを掴み、そこを上るとまた急な坂が三本、放射線状に広がっていた。
黒いブラスチックにピンクのペンキが禿げたところを赤いマジックインキで補修してある看板。
アルファベット7文字は目当ての一件目だ。
玄関のガラス戸は開きっ放しになっており、近寄ってみると難なく中がのぞけた。
看板と同じものをプリントしたマットレスは心なしか水っぽい、と思って足下を見ると
周りのアスファルトも黒ずんでいた。営業員が水まきでもしたんだろう。
入り口は昼間だからか電気が落とされ、とても暗かった。
その影の中でテカテカと看板と同じブラスチックの案内板が白っぽく光っているのが見えた。
昼に限らず夜もずっとこんな有り様なのかもしれない。
終点では非常出口のランプが緑色の光を垂れ流していた。