阿部「レン!」

このエントリーをはてなブックマークに追加
354LOVE SONG【恋歌】
http://set.bbspink.com/test/read.cgi/eromog2/1202036678/506
「三橋〜、これ阿部から渡せって頼まれたんだけど」
「あ、あり…がとう」

昼休みに水谷君から手渡されたノートには、阿部君が今までこつこつ調べ上げてきたであろう他校のデータがびっしりと記されていた。
データだけじゃない。オレの投球の癖や試合ごとの球数、毎日の体重までもが事細かに書き綴られていて、
一体どれだけの時間をかけてこれを作り上げたんだろうって考えたら、受け取る気なんてなかったのに突き返すことができなくなってしまった。

(これを貰ったら終わってしまうのに…)

込み上げてくるものを堪えながらページをめくると、一番最後に何度も書き直したような走り書きがあるのに気づく。
いろんな単語の消し跡が混在する中で、辛うじて読めたのは『次こそ絶対優勝しろよ』の一言だけだった。

(…『しよう』って いってよ)

思わず溢れる涙を誰にも見られないように指で拭い、オレはそのノートを閉じた。
田島君たちが待ってるのに、早く行かなくちゃいけないのに、全身が石のように固まって動くことができない。
大切なものが今にも消えてしまうかもしれないというのに、何もできない自分が無力で腹立たしかった。

「ねぇねぇこれ見てよ」
「週刊誌?」
「そうそ、こないだの事件載ってたから買ってきた」

ふと横を見ると、噂好きな女子のグループが近くの机で雑誌を広げている。
あまり聞きたくない話題だったから、足早に横を通り過ぎようとした。その時…

「見て、これ、テレビじゃ言ってなかったよね?」
「犯人は鋭利な刃物を使って四肢を切断し…?」
「怖ーい! 正気じゃないよ、こんなの」


―え、…今 なんて?