阿部「三橋!豆まきするぞ!」

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506LOVE SONG 【戦火】
>>495※ここまで。おやすみはしー。
中隊長から許可が出たので、オレ達はしばしの間、食事休憩をとることになった。
とはいえ、集落もない荒地では現地調達など出来る由もなく、携帯口糧といえば乾パンと氷砂糖くらいしかない。
オレはこの乾パンのパサつく食感が苦手で、いつも少し食べては気分が悪くなるのが悩みの種だった。

「おい、ボンボン、お前もこっち来いよ」

班長に呼ばれてみんなが集まっている方へ行くと、缶詰のようなものが4,5缶ほど地面に転がっているのが見えた。
「こ、これ…」
「106師団の知り合いに回してもらった牛缶だ。お前にも少しやるよ」
「え、あ あ あり…」
「お前体ちっこいから少しでいいだろ、ホラよ」
「あ、あ、あのっ…あの人 は…?」
そう言ってオレは少し離れた木陰で一人食事をとっている人物を指さす。
オレと同じ年の入隊だということは知っていたが、あまり喋ったことはない少し怖い感じのする人だ。
名前は確か…

「ああ、アイツはいいよ。俺嫌いだし」
「俺も俺も。態度がいけすかねェんだよな、人を見下したような感じでさ」
「で、でも…」
「お前もあんなんと親しくしねェで俺らの側にいろよ」
「そうそう、お前って結構…役に立ちそうだしな。いろいろと」

その時腰に回された腕の意味もわからずに、オレはただ単に仲間に優しくされたということに浮かれていた。

    ◇

あとから聞いた話だけど、その時のオレは無防備で危なっかしくって見ていられなかったそうだ。
そんなこと言ってもやっぱり見ていたんだから変なのって言ったら怒られて、そっぽを向かれてしまった。
いつも迷惑そうな顔で追い払うくせに、どんな気持ちでオレのことを見守ってくれていたのかなんて、考えるだけで胸が痛む。
ただ居心地がいいから側にいるようになって、それが当たり前になって、当然のように向けられる優しさにオレは甘えていたんだ。
その意味に早く気づいていたなら、オレ達はもっと違った結末を迎えることができたのかもしれないのに。