阿部「犬ってバック(後ろ歩き)できないんだってな」

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15fusianasan
http://set.bbspink.com/test/read.cgi/eromog2/1211207331/791
After days

ぽつんぽつんと足元が濡れて、空を見上げた途端に、叩きつけるような雨が降ってきた。
「チクショー、雨が降るとか聞いてねーぞ」
思いっきりぼやきながら、阿部君が部室に駆けこんでゆく。視界が曇るほどの強い雨足に、オレも無言で阿部君の後に続いた。
「いきなり、降ってきた、ね」
「ったく、天気予報も当てにならねーな。あいつら皆帰ってやがるし」
部室の中にはオレ達二人以外、誰もいなかった。
練習が終わった後モモカンに呼びだされて、バッテリーミーティングをやってる内に、すっかり遅くなった。やっと部室に戻って来たと思ったら、もう誰もいない。
「三橋、ちゃんと拭いとけよ。身体、冷やさないようにな」
そう言って阿部君が、タオルを投げてきた。のろのろ突っ立ってたオレをよそに、とっくに身体を拭き終えた阿部君は、もう着替えに入っていた。
ユニフォームを脱いだ阿部君の、筋肉質の背中があらわになる。オレは慌てて目をそらした。
「まいったな。オレ、傘持ってきてねーよ。三橋は?」
「オレも、持って ナイ。あとでお母さんに、電話しない と」
阿部君と二人きりだと思ったら、急に緊張してきた。
「着替えてる間に止めばいいけど、そういう訳にもいかなさそうだしな…おい」
窓を見ていた阿部君が急に振り向いて、険しい顔つきでこっちにやって来る。
「お前なあ、ちゃんと身体拭けって言っただろ。人の話聞いてねーのかよ。ほら、貸せ」
言うなりオレの手からタオルを奪うと、ぐしゃぐしゃとオレの髪を拭き始めた。乱暴だけど、手つきは優しい。
…あれ? オレ、前にも、誰かにこういう風にされたことがあるような気が、する。
「ほらよ、ったくお前っていつまでたっても子供みたいだな」
オレの顔を見て、おかしくてしょうがないというように阿部君が笑った。
この笑顔。オレは以前にも見たような気がする。…どこでだろう。
「早く着替えろよ、風邪引くだろ」
そう言って阿部君がオレのユニフォームに手をかけようとした時、はっと我に返った。
「じ、自分で出来る、よっ。オレ、子供じゃ ない」
「あっ、そっか…わりーな」
ちょっとひるんだように、阿部君が手を引っこめた。オレ、何言ってんだ。オレがいつまでもノロノロしてるから、阿部君が手伝ってくれようとしているのに。
「う、ううん。ごめん ね。阿部君はあっちで、座ってて。疲れてる、でしょ」
着替えたらこれ羽織っとけよ、そう言いながらオレに自分のジャンパーを渡すと、阿部君は机の前の長イスにどっかと座った。
わざわざ替え用の新しいのを渡してくれたんだ。ちょっとしたところで、阿部君は優しい。オレを気遣ってくれる。