>>787 「いや、構わねーよ」
内心の動揺を押し隠して、そう答える。
「何かあったら、すぐ言えよ。無理はすんな」
何でもないような顔をして、オレは三橋に笑顔を作って見せた。そしてすぐに、キャッチャーボックスへ戻る。
…ひょっとして気付かれたんじゃないか。そう思うとヒヤリとした。
今、三橋が慌てて手を引っこめたのは、オレの気持ちが無意識の内に漏れたからじゃないか。
そんな疑念が胸の内に沸きおこってくるのを止められない。
ダメだ。
ミットを構えると、そこに向かって球を投げる三橋と目が合った。
この気持ちを、三橋に知られるわけにはいかない。
やっとオレのことを信頼してくれるようになったのに。少しずつ、笑顔を見せてくれるようになったのに。
その気持ちを裏切るわけにはいかない。
三橋がオレの家にいた、あの三日間。最後の夜のことは、三橋の中には存在しないのだから。
オレは三橋の望みを叶えてやりたい。
そして三橋が望むのは、キャッチャーとしてのオレだ。
もうオレは三橋に自分の気持ちを押し付けるような真似はしない、そう決めたのだから。
ひとまずここまで。仕事にいってくるよ三橋…