俺ら「ダサイタマ乙」

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693四畳半のウサギ 3
http://set.bbspink.com/test/read.cgi/eromog2/1210168080/722
※エロなし注意

(一行改行)
「遅いわよ、阿部さん…」
途方に暮れたような表情の大家さんは、俺を見てぽつりと言った。
「ど、どうかしたんですか?」
嫌な予感に俺の心臓がドクドクと騒ぎだす。
「…あっという間だったわ。三橋さん、行っちゃったのよ…」
「………なんで?」
そんな間抜けな一言しか言えない俺は、本当に阿呆みたいな面をしていたと思う。
「なんでって、こっちが聞きたいわよ。…なんかね、トラックが来たと思ったら男の人が
 2人降りてきて三橋さんの荷物さっさと積んで……あの子何にも持ってなかったのね…
 それから下宿代の清算して下さいって言われて、光熱費とかもあるからそんなに急には
 できないって言ったんだけどね…」
「それでどうしたんですか!?」
「どうしても今日引っ越さなければならないからって、その男の人たちがお札の入った分
 厚い封筒渡してきたの。なんだか三橋さんの知り合いっぽかったわね。三橋さんも『ご
 めんなさい、お願いします』って頭下げてね……しょうがないからお金の残りは振り込
 みで返すことにして預かっちゃったの。でね、三橋さんに阿部さんもう少しで帰ってく
 るからそれまで待ってたらどうって聞いたら『阿部君には言ってあるから…』ですって。
 なんで阿部さん早く教えてくれなかったの?」
「嘘です!俺は何も聞いてない!」
いきなり大きな声を出した俺に大家さんは目を丸くしたが、ハア…とため息をついた。
「まあ、そんなことだろうとは思ったのよね…それはそうと阿部さん」
俺は三橋がいなくなったことが信じられず、何かを言いかけた大家さんに悪いと思いなが
らも下宿の階段を踏み抜く勢いで駆け上がった。
肩で息をしながら三橋の部屋の前に立って、ぐっと拳を握る。
ストッパーで止められていたドアを開くと、四畳半がやけに広々として見えた。
三橋の住んでいた痕跡は何も残っていなかった。