※ピョア注意
http://set.bbspink.com/test/read.cgi/eromog2/1203177571/169 「なぁ、お返しどうする?」
「困るよな、あんま適当なもんやっても彼女キレるし、かといって金もねぇし」
ある日の昼休み、仮眠をとろうと机に突っ伏しているとどこからかそんな会話が聞こえてきた。
(そう言えば、週末はホワイトデーだっけか)
クリスマスといいバレンタインといい、業者の戦略にまんまと踊らされやがって、などと冷めた目で見ていたのは去年までの話だった。
幼顔をほんのり染めた彼女から手作りチョコを渡されたのが昨日のことのように思える。あの時はまさかこんなことになるなんて夢にも思っていなかった。
他に好きな奴ができたから別れてほしいと告げたときの、あの子の涙が今でも脳裏に焼きついて離れない。
その後すぐにいつもの笑顔に戻ってくれたけれど、それが精一杯の作り笑いだということくらいオレにはすぐ分かった。
「新しい彼女と幸せになってね」それが最後まで優しい彼女の言葉だった。その相手がオレと同じ男だと知っても、それでも彼女は幸せを願ってくれるんだろうか。
「阿部、どうすんの?」
花井に聞かれてオレは返答に詰まった。バレンタインとホワイトデーの間に別れたカップルはその中途半端な貸し借りをどう清算するんだろう。言われてみれば、今までそんなこと考えたこともなかった。
「…どうすればいいんだ?」
「オレに聞くなよ…」
呆れたような顔で呟く花井に、オレは「悪い」と一言謝ってから三橋にメールを打った。
花井が、というかみんながオレたちのことすんなり受け入れてくれたわけじゃないのは分かっていた。仲間内でガチホモカップル誕生なんて常識的に考えて嫌に決まっている。
オレだって第三者の立場にいたなら心底不愉快に思ったはずだ。だけどみんなはオレと違って優しいから、だから気にしないフリをしてくれている。それを忘れてはいけない。
「…なんて送ったんだ?」
「元カノにお返し渡してもいいかって」
「はぁ〜、マメだねぇ」
「そうか?」
三橋が何を考えてオレの告白にOKしたのかは分からないけれど、成り行きでもなんでもそういう関係になったからには、こういうことはきちんとしておきたかった。
アイツがオレに焼き餅なんか妬くはずもないだろうが、周囲からの視線がただでさえ厳しい同性同士の付き合いで、わざわざ余計な波風を立てる必要もないだろう。
「いいよ」とだけ返ってきた三橋のメールにどこか落ち着かない気持ちになったのは、オレ自身にやましい気持ちがあったからかもしれない。
お返しの内容とか元カノにかける言葉とか、そんなことよりもまず三橋に会ったときする言い訳ばかり考えていたオレは、我ながら情けない男だと思う。
◇