阿部「三橋、首を切り落として処刑する道具は?」

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169擬似恋愛
>>161 ※ピョア注意 ここまで

「三橋、手ェ貸せよ」
「…手?」
「寒いだろ? ホラ」
そう言って、三橋の右手を自分のコートのポケットに入れさせ、自分の左手をその上から被せる。
「どうだ? あったかいか?」
「…は、い」
「なに畏まってんだよ? もっと図々しくなっていいぞ。恋人同士なんだから」
「う…は うん」
恥ずかしがって頬でも染めるかと思ったがそうでもなく、三橋はどこか明後日の方を向いたまま白い息を吐いた。
「何考えてるんだ?」
「な、なんでもない よ!」
「…そうか」
想像してたよりも甘くない恋人との会話はやっぱりどこか噛みあわなかったが、どうせまた晩飯のことでも考えていたんだろうと思うとあまりにも前と変わらなさ過ぎて笑えてきた。
オレがくくっと笑うと三橋は最初ぎょっとして、少し青ざめながらオレの様子を伺い、なんともないと分かるとつられてフヒヒと笑う。
いつもならイラつくそのしぐさもたいして気にならなかったのは、恋人同士という視点で見ているからだろうか。
「それじゃな、三橋」
「う、うん」
「目ェ閉じて」
「…へ?」
言う通りにするのを待たずにオレは三橋の唇にそっと口づけした。三橋はびっくりして目を見開いてしまったが、そんなことはどうでもよかった。
オレたちは恋人同士だから、別れ際にはキスするのが普通だ。普通のことを普通だと、分からせるまでしてやろうとオレは決めた。
「おやすみ、三橋」
まだ目を丸くしたまま口をぱくぱくしている三橋に軽く手を振り、その日は別れた。

帰り道、別れ際に振った手が震えていたのに気づき、オレはそいつを爪が食い込むほど強く握った。
(…やっぱ慣れねェよな、こんなの)