ボトボト投下失礼 毎度、嘘終了告知ばっかしてメンゴ
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/eromog2/1197462102/273,627,764,900 紙片を二つに折りたたむと山側から一気に破った。会うことに言い訳も理由も欲しくはない。もうなにもいらない。守られない約束など必要ないし、すがりもしない。
もう大丈夫だったのだ。とっくに自分は解放されていた、昔とは違う人間になっていた。あるいは、なってしまっていた。
二分された紙四枚をさらに破る。八枚を重ねて破る、十六枚を重ねて破る。
ただ会いたいと思ってなにが悪いのか。時間と距離を挟んだ友情には理由はそれしかない。もう大丈夫だ。
手のひらで紙片が山になった。ふと思いつき、そのうちのひとかけらを摘んで舌の上に乗せた。口を閉じて口内で唾に浸す。紙は味気もそっけもなく水気だけを奪った。
口を開き舌に張り付いた紙を剥がす。二本の指でつまんだそれはノリをなめた切手のようだ。あるいは遊技用のカードめいて片側だけがインクの色に染まっていた。
予測の結果を目で見てやっと安心した。たぶんそうなのだろう。ならば、きっと自分は大丈夫だ。これからもずっと大丈夫だ。
紙片を再び舌の上に乗せる。口を閉じ舌を丸め紙を小さく畳みこみ、涎とともに嚥下した。ごくりと喉が鳴り食道を大きくかさばるものが下っていく。
二枚目を手のひらから口へと運ぶ。ごくりと飲み込み三枚目を咀嚼する。五、六、七枚と喉に送り込むとペットボトルのお茶で流し込んだ。
お前の体は川のようだとあの人はいっただろうかと思い出す。けれど自分は霞ではなく固定物を食うし、食道を通って溶かしたものを腸で吸収するので垂れ流しとは違うだろう。
川に流れるもののうち地上に留まるのはどれくらいの割合なのか。川は方々で森林を浸食し田畑に注ぎ人に汲まれ、様々なものを潤していく。けれど大半は大洋に放たれる。
日々を生きていくすべてを手元に残すことは不可能だが、それでも全部がなくなってしまうのではない。人間の細胞は7年でまるまる更新されるとも聞くが、それで別人にはならない。
無味無臭の言葉を飲み込みながらもう一度誓う。オレはもう二度と忘れない。今の気持ちを心に留めておこう。これは大切なものだ。こんなにも思い出せる大切な気持ちだ。
これから先どんなに時間が経っても思い出せるようにしておこう。約束などいらない、たとえ思い出せなかったとしても暖かいものを振り返られるように、大切にする。
また席を立って水場で顔と手を洗ってから戻ってみると携帯電話がメールの受信を知らせていた。気づかなかったが大分前に受信していたようだ。昨日会ったばかりの友人から、内容は婚約確定の通知だった。
次の休みに双方の両親を改めて訪ねるというが、彼らの交際も考えてみれば長いもので顔合わせはとっくに済んでいる。さっさと入籍してしまえばいいのにと他人事ゆえの無責任さで思った。
「おめでとう」と手早く祝福のメールを送ると、思いの外早くに返信があった。昔なじみに先のメールはBccで送信したのだが、お前ともう一人から反応があったと彼は書いている。
昨日、久しぶりに遊んだって教えたら「おれも久しぶりに会いたいな」言ってたよ。
言い訳も理由も動機もいらないが、目の前に無造作に転がってきたチャンスに胸が高鳴り我ながら現金なものだと呆れてしまう。
会いたい。会いたい、会いたい。
電話するには非常識な時間だろうか?ディスプレイを確かめると早朝の時間帯からは抜け出していた。仕事始めの時間がどれくらいかは分からないが、ともかく午前中だ。
携帯を握り込んだ両手が力むあまりに血の気をなくしているのを見て、やっぱり自分は変わっていないのかもしれないと笑う。
あいうえおで順列されるアドレスはいつも頭に彼の名を呼び出す。なくしたことはない。こちらがうっかり返し忘れても、毎年律儀に送られてくる年賀状に書かれた住所まで自分で打ち込んだ。
自分の手が震えているのだと最初は思った。手の中でディスプレイが光を放っている。
中央に表示された名前四文字。嘘みたいなタイミングだなと咄嗟に呟いた。
慌てて車両から飛び出し、ロビーまで出ると通話ボタンを押した。「三橋?」
「あっ、あ、あああ阿部くんっ?!」相変わらずの吃りに電波の向こう側であの人が笑う。
「久しぶり。相変わらず頑張ってるみたいだな」
口に手を当てて必死に声を抑える。もう自分はめったに泣かないのだと、いま言葉で伝えても、それこそ言い訳にしかならない。