http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/eromog2/1197294660/432,449 途中投下エロ無し
「もーっ、センパイ走るの速いですよぉー。しかも全然、気づいてくれないんだもんなぁ!」
めばえちゃんはおれに追いつくと、両肩とぺったんこの胸と突きつけた指先を上げ下げしせつつ抗議してきた。
彼女はハルヒカラーのバニーさんコスを身にまとってはいるものの、全体の印象は長門と鶴屋さんを足して二分割した感じの女の子なんだけど、仕草自体も京アニっぽい、というかオタクっぽい。
頭がおれの胸の位置にあるので上から俯瞰すると、あるかなしかの胸の谷間がうっすらとした影として関知できた。テカテカした布が奇跡のようにぴったりと寄り添い張り付いている。
まさに奇跡だ。なんで剥がれないんだ、この水着みたいの。糊付けしてあんのか。
見てるだけでドキドキというかハラハラしてくる。ムッシュムラムラする以前に危なっかしすぎる。手で押さえておきたい。とりあえず走るんじゃねえ!
「って話きーてますかぁ?」めばえちゃんはすでに地団駄を踏み出しそうな勢いだったので、おれは慌てて顔の前で手を振った。
「聞いてる、聞いてる。ごめん、ちょっと考え事してた」
「んもー、考え事ってなんですよ」
あーーーーー、とおれは言いよどんだ。変に口を動かすと隠しておきたい本当のことが全部飛び出てきそうだった。
「……なんで、なにかもみんな全部は、うまく行かないんだろうなぁって」
きゅっとめばえちゃんの口元が閉まる。「なんかあったの?」
下から見上げてくる瞳はいつもみたいにガラス越しじゃなく、ライブ用のカラーコンタクトで黒目の縁が淡いブラウンに彩られて外国産のお人形のみたいだ。
なんか知らない人と話しているようでドキドキする。
「わ〜かった、昨日、相談事持ちかけてきたって人のことでしょう」
あーたーりー。グーサインを出したらばっちこーん!とウィンクを返してくる、この娘のノリの良さが好きだ。
「そりゃあ、どれもこれもがプラス方向にばっか動いていたら、どっかで採算が合わなくなるってもんですよ」
「それはそうだけどさ、それでもめでたしめでたしってなりたいってさ、思うこともあるよ」
なんでうまくいかねぇんだろうなぁ、いい奴らなのになー。グチグチとため息をついた拍子に頭がガックンと落ち込んだ。
「マイナス成長へのブレがあってこそのバイオリズムですよー」めばえちゃんは慰め方はよく分からん。
顔が下向きになってきたら重力で水が目の表面に垂れてきて、情けねぇなあと思いながらおれは鼻をほじくるフリをして目頭をつまんだ。
「センパイ、センパイ、泣かないでー」めばえちゃんはお見通し、というかおれの演技がなっちゃいなかったのだろうが、もう一本の指先をきゅっとつままれた。
「センパイ泣いたら、あたし困ります」お前の都合かよ!なんてことは駄々をこねる幼稚園児みたいに口をとがらせて、こっちを見上げるめばえちゃんの目を見たら言えやしない。
本気で心配そうにしてくれているんだと思うと、もうかわいくてかわいくて、「きっと大丈夫ですよ」と必死で訴えてくるのにもおれの心が真っ赤に萌えるすぎていてうまく返事ができない。
天元突破してしまった萌え心により、おれは頭の質量を重力に委ねた。完璧にじゃなかったので、歯と歯が激突はしませんでした。めばえちゃんがメガネ外してて良かったなあ。
「ぅえっおうぁあああっ?!!」めばえちゃんは三橋みたいなすっとんきょうな叫びを上げたが、幸いにもバカなくらい小さな音量だったのでおれにしか聞こえなかった。
二人して周囲をクルクル見回したが、要するに他人のことなんて気にする暇人はそんなに多くないらしい。
細っこいを手を繋ぐのはやっぱり恥ずかしくて、いつこれが薄れてしまうんだろうと思う。「大丈夫。今までだってなんだかんだで生きてきたんだもん。きっと大丈夫ですよ、センパイ」
三橋が言ってた「神様ありがとう」ってきっとこういう気分なんだろうな。
できればおれの周りの奴らもみんな幸せでありますようにって願うけど、そうでなくても幸せじゃなくても、なんとかやって生きていく。みんな。