浜田「チア頼むぞミハシ!」

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432つぎき(めばえ)
※エロ無し
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/eromog2/1197263710/264,266,500,507

更衣室で友人が携帯の着信履歴をチェックする。メール受信の一つは共通の知人からのものだった。
元々組んでいた時間にぴったりだな、と友人はズボンに足を通しながら言う。明らかに先だっての出来事には気づいていない様子であることに、密かに胸をなで下ろす。
大通りを南東に向かって徒歩で移動する。駅へと下る坂道は休日とあって賑やかだった。あるいは平時からこれくらいの人並みであるのかもしれない。
せまい駅前広場の立った地下鉄出入り口の脇に、後輩は立っていた。二人に気づくと飛び上がって両手を大きく振り回す。二人も手を振り替えした。
「久しぶりですねぇ。もう何年ぶりになるんだか」「特にお前らはそうか」
三人で肩をたたき合い再開を祝っていると、後ろからひょっこりと見知らぬ男が顔をのぞかせた。
「こいつ、こっちでの友人なんですよ。呼んでもないのについてきちまって」
初めまして、と男は会釈をし名乗りつつ鞄の手帳から名刺を取り出した。これはどうも、友人は名刺の肩書きを目にしてああ同業の方ですかとなぜか納得したように言った。
はい、分野は少々異なってそうですが、フリーランスでやっています。では私の方からもと友人も懐からケースを取り出し交換する。
続けて名乗ることになり、少々気が引ける。手渡す紙もないのでただ名前を述べると、こいつから何度もお話をうかがっていますよと彼はにこやかに言った。
夕食を取ることになり、味付けよりも量を優先する男たちは暗黙のうちにメニューを焼き肉に決める。
友人らに案内された古びたビルの二階に隠れるようにしてあるプルコギ専門店は、本場韓国の味付けをうたうだけにキムチ類がすこぶる旨く、
肉に野菜に漬け物、サラダ、スープ、米にとめまぐるしく箸が回転した。
OBビールをあおりながら聞くところによると後輩とその知人は大学のゼミで知り合ったらしい。
親が裕福で支援が期待できることもあって定職につくことを避け、自分試しと言い張り様々な職種にチャレンジを続けていた後輩だったが、
類は友を呼ぶのか知人もまた給与の不安定な執筆業で生計を立てていた。
「よくおれに泣きついてくんですよ、飯おごってくれぇえぇぇって」体が丈夫なだけが取り柄だと言いつつ、資格取得が趣味の後輩が笑いながら言う。
「あ、でも今度ですね、創刊される雑誌ではメインライターに組み込まれそうで。うまくいったらですけど」「雑誌」「はい」「なんの?」
遅れて出てきた四人前の骨付きカルビとロースと肉厚で解凍されていた気配はみじんもなく、たった今ビルの屋上で捌いてきたかのように瑞々しい。
トングで持ち上げた端から血がしたたり落ちそうだ。肉を敷き詰めた上にもやしとほうれん草と椎茸をのせ、しばし待つ。
「もしメイン張れたら、取材させてくださいね」「取材?」
あからさまに眉をひそめた表情にも動ぜず、男は軽い口調で続けた。「企画立てますから、よろしくお願いします」
こんな席であるし話半分で聞いていたのは、目の前の肉の立てる匂いや煙やもちろん香りがあまりに魅惑的だったからだ。
「お願いしますね」と再度請われるのにも、ビールをあおりながらうんうんと頷いてしまう。いいのかなぁと横で友人の呟きが酔い心地の中にまぎれた。
腹が十分くちくなったので四人は場所を移すことにする。ビル8階の焼鳥屋がいいいいとてもいいのだと後輩たちがしきりに言うので、財布役させられそうな予感を覚えつつも先輩二人が先に暖簾をくぐった。
その店は焼き鳥もなかなかのものだったが名物の八割そばがまた絶品で、それも注文が入ってから即席で打ちパフォーマンスとしてそれが観られる。
最後に出されたそば湯もまた旨かったものの、胃の中の酒を薄めるのが嫌でみんな口をつけない。
うだうだと昔話やそれぞれの現状やうろんな覚えの政治情勢とその見解、グラビアアイドルの相場に新人批評、なによりもスポーツの話題と肴はどこまでも転がっていった。