阿部「三橋!俺の子を生んでくれ!」

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※色々捏造注意

http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/eromog2/1192356077/754

カタリ、という小さな物音が、少年の耳に届いた。
ギギィ。重そうな音を響かせて、分厚い扉が開かれていく。
少年は抱いた膝を更に胸へと引き寄せながら、茜色を背にこの空間へと足を踏み入れる人物を見やった。
ぷぅん、と香る夕餉の匂い。反射的にきゅう、と小さく腹が鳴く。
後ろ手に扉を閉め、からくり式の内鍵を閉めた男は振り返り、少年に「夕飯だよ」と声を掛ける。
その手に載せられている膳の中身よりも、廉にとってはこの男の来訪こそが待ち遠しかった。
「今日は豪勢だぞ。鯛に平目の舞踊りだ」
ひたひたと、わずかな土間を経て一段高くなっている畳敷きの少年の寝床へと、男は膳を掲げてやってくる。
「若旦那が帝大の先輩とやらを連れてきたんだよ」
見上げた少年の意を何事もなく汲み取る男は、聞けばこの家の下働きらしい。廉の世話はこの男に任せられているようで、
食事、着替えは勿論、読み書きまでもを教わった。
「腹、減っただろ。食いな」
少年の目の前に膳が置かれる。中身は先程この男が言った通り豪勢なもので、平目の刺身に鯛の切り身が入った吸い物、
小鉢の数も普段の倍で、廉は再び、腹がきゅるりと鳴るのを感じた。
ゆるりと、膝小僧を抱いていた腕を緩めながら目前の男へと視線を戻す。男と呼ぶには幾分早いかもしれない、
少年と青年の中間あたりの背格好をした下働きは、廉にとって自分と外界とを繋ぐ唯一の存在だ。
廉の持つ数少ない知識――明かりの差し込んでくる四角い穴を窓と呼ぶことさえも――それを与えてくれたのも全てこの男。
物心ついた頃から男はこうして、食事の他にも言葉や概念、ひとつひとつを与え、少年に人並みの思考というものを持たせてくれた。
「食えよ」
見上げていた傍から男に言われ、廉はおずおずと膝を整え、膳に向かって手を合わせる。
「…い いただき、ます」
小さく呟いた言葉も、この男から教わった。今や廉の世界を構築するのはこの下働きの男に他ならず、卑下た笑い声に満ち満ちた
おぞましい饗宴に耐えるのも、必然としてこの男の為、己からこの男を奪われぬ為、いつの間にかそう思うようになっていた。



風呂に入る。改行読みにくかったらスマン