阿部「10種類の三橋専用ソース発売決定!」

このエントリーをはてなブックマークに追加
63fusianasan
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/eromog2/1191793984/696

翌朝の三橋の様子は明らかに不自然だった。
俺が話しかけてもただ頷くだけで、窓の外を見つめてぼんやりとしている。
外は灰色の雲に覆われた空が広がっていて、何処からか陰鬱な鳩の鳴き声が響いている。
雨でも降りそうな天気だ。
三橋は全裸のまま窓の外を見つめている。窓には網戸が霧のようにその先の視界を遮っていた。
俺にはその瞳の先にあるものが分からなかった。分かりたくなかった。
三橋は夢を見たんだろう。昨日話してくれた夢を。

「オレ、でっかいニンジンが、好き、なんだ…。」
朝食の最中に三橋がポツリと漏らした。目の前には千切りにされたニンジンとキャベツの漬物。
俺が自分で漬けたものだ。
「そうだったか?」
「うん…。」
それきりまた三橋は黙り込んでしまった。
‘いつも’と変わらない小さなちゃぶ台に所狭しと乗った小鉢や小皿。豪華とは程遠いけれど栄養バランスは考えているつもりだ。
三橋はそれを‘いつも’おいしいおいしいと大袈裟に褒めてくれた。
‘いつも’ならすぐに「おかわり」の声がかかる食卓も今日は咀嚼の音だけが響いている。
階下から聞こえる近所のおばさん達の快活な笑い声が酷く場違いだった。

「ごちそう、さま。」
三橋が空の食器を持って台所へと歩いていく。結局炊飯器の中には白米がぎっしりと残ってしまっていた。
さっきからずっと俺の顔をまともに見てくれない。俺が大好きなあの少し上擦った声も聞こえない。
代わりにもならない風鈴の音だけがこの狭い部屋に満ちている。
ここはこんな部屋だったか?
俺と三橋の部屋はこんなにも暗くて狭い部屋だったのか?
また鳩の鳴き声が聞こえた。

カエリタイ

そう聞こえると昔誰かが言っていた様な気がする。