阿部「三橋!今日こそ結婚すんぞ!」

このエントリーをはてなブックマークに追加
696fusianasan
>>627
三橋の目元が赤くなっている。少し無理をさせてしまったかもしれない。
あどけなく眠るその顔にうっすら浮かぶ涙が相俟って痛ましい。
狭い部屋に邪魔にならないくらいの大きさの布団は俺と三橋の二人が寝るには小さすぎていつもどちらかがはみ出してしまう。
大抵は俺が三橋に蹴り出されるが。今が真冬じゃない事が唯一の救いだ。
頭が冴えてしまっていた。
穏やかな寝息をたてる三橋を起こさない様にそっと布団を抜け出す。
衣擦れの音がやけに大きく感じて何度も三橋の顔を窺ってしまう。
その度にその瞳が硬く閉じられている事に安堵しつつ、俺は部屋の片隅に鎮座しているカレンダーへと手を伸ばした。
今日は10月8日。
三橋が俺と一緒に暮らしてからもう384日が経つ。
俺と三橋は出会い、惹かれ、想いを伝え、体を重ねた。
俺はいつでもその光景を鮮明に思い出す事ができる。しかし三橋は…
布団から少しだけはみ出している真っ白な脚。
電気もネオンの光も僅かにしか届かないこの部屋にぼんやりと浮かぶその姿はいつ消えてもおかしくないように思えた。
何度体を重ねても両手で真っ赤な顔を覆い隠して声を殺すその姿。
俺の指に動きに合わせて跳ねる細くて白い肢体。瞳から零れる大粒の涙。
風鈴よりも高くて俺の頭に響く甘い嬌声。ふわふわの髪から滴る汗。
俺の唇から生まれた赤い印。俺の唾液でぬらりと光る両胸の突起。
俺が与える快感に徐々に勃ち上がっていく性器。そして俺の欲望を飲み込みきれずに白濁液を滴らせる小さな穴。
応えるように交じり合う精液と熱。
どれも確かな現実だ。俺の中で色褪せる事のない三橋の姿。

『オレ、夢を みたん だ。』

三橋の言葉が蘇る。
生き生きとしたその声はその夢を求めているようにしか見えなかった。
俺と暮らすこの部屋で三橋が見た夢。
それは夢でしかないんだ
再び夢の中にいるだろう三橋の姿をじっと見つめる。この想いが届くように。
開け放たれたままの窓から吹き込む夜風が、この狭い部屋に篭った濁った熱を奪っていった。