【Without a Trace】ダニー・テイラー萌え【小説】Vol.9
Super!Drama TVでシーズン1を放映中
NHK BS-2でシーズン2を放映中の海外ドラマ「FBI失踪者を追え」
ダウンタウン出身ダニー・テイラーを元にしたエロネタ小説のスレ
現在、書き手1と書き手2にて創作中。
新しい書き手の参加も大歓迎です。
ダニー・テイラー役、Enrique Murciano HP
http://www.imdb.com/name/nm0006663/ [約束]
・荒らしと叩きは相手にしないようにしてください
・アンチを見つけてもスルーしてください
・このドラマの他の関連板に感想などを書くのは控えてください
・このスレッドのURLをこのドラマの他の関連板に書くのは控えてください
[注意書き]
同性愛的要素、過激な描写を多く含みますので、不快を示す方は閲覧をお控え下さいますようお願いします。
これらを理解してストーリーを楽しんで下さる方のみ閲覧お願いします。
注意事項を守らず不快な思いをされてもこちらは一切責任を負いません。
あくまでも自己責任・自己判断でお願いします。
ダニーはPCのモニター越しにマーティンを観察した。 普段と変わらず働いているが、ジョシュとのことが気になって仕方ない。 「ダニー、これ書庫に戻してきてくれる?」 サマンサが足元のバンカーボックスを指差した。 「ええよ。重たっ!あかんわ、マーティンも手伝え」 「ん、いいよ」 二人は一つずつバンカーボックスを抱えると、書類保管室に向かった。
6 :
書き手2 :2006/08/26(土) 00:34:10
バンカーボックスを元の場所に戻した後、ダニーはマーティンを壁に押し付けた。 キスをしながら膝で股間をなぞる。 「ねぇ、やばいよ。誰か来たらどうするのさ?」 「来ても鍵かかってるがな。お前もほんまは欲しいんやろ?」 「こんなとこでやだよ・・・」 ダニーは執拗に股間をぐりぐりした。ペニスはすっかり勃起している。
7 :
書き手2 :2006/08/26(土) 00:34:44
ダニーがパンツとトランクスを一緒に下ろすと、すでに先っぽはぬるぬるになっていた。 「見てみ、すごい濡れ様や」 「・・バカ」 トランクスの染みを指差してからかうと、マーティンのペニスを口に含んだ。 「んんっ・・ぁぁ」 「じっとしとき、もっと気持ちよくしたるから」 ダニーは一生懸命舌を這わせた。口の中がじゅぷじゅぷ音を立てている。
8 :
書き手2 :2006/08/26(土) 00:35:37
マーティンはダニーがいつもより熱心にフェラチオしているのを見て興奮した。 ダニーはわざと上目遣いでマーティンを見つめながらペニスを上下させている。 「あぁっ、ダニー!やっ、僕、だめっ!」 ダニーは腰を掴むと精液を口の中に受け止めた。 いつもより薄い気がしたが、何も言わずに飲みこんだ。
9 :
書き手2 :2006/08/26(土) 00:36:19
マーティンは壁に寄りかかって呆然としている。 「どうした?」 「ダニーがエッチなことするからだよ」 ダニーはくくっと笑うとそっとキスをした。マーティンは甘えて肩に頭を乗せる。 とても浮気したとは思えないが、精液が薄いのも事実だ。 「お前ジョシュのこと好きか?」 「わかんない。よく知らないもん。昨日だってバーで会ったかどうかすら覚えてないんだよ」 「そっか。よし、そろそろ戻ろう。怪しまれるわ」 ダニーはマーティンの服をチェックするとオフィスに戻った。
10 :
書き手2 :2006/08/26(土) 00:36:58
昼休み、ダニーはジョシュの名刺を取り出すと電話してみた。 「はい、ローランドです」 「ジョシュか?ダニーやけど」 「ダニー!電話くれると思ってたよ。マーティンに聞いたの?」 「お前、マーティンになんかしたやろ。正直に言うてみ」 「バレた?ちょっといたずらしたら射精しちゃって・・。あっ、挿入はしてないよ」 「いたずらって何やねん?」 「咥えたらイッちゃったんだよね。楽しむ間もなかったよ。本人も気づいてなかったし」 ジョシュは屈託なく笑うが、ダニーには笑い事ではない。
11 :
書き手2 :2006/08/26(土) 00:37:36
「ほんまにそれだけか?」 「うん、神に誓ってそれだけ」 「二度とあいつに近づくな!わかったな!」 「わかった、もうしないって約束する」 「それと、オレと寝たことは絶対に言うなよな」 「はい、わかってます」 ジョシュとの電話を切った後、ダニーはとんでもない相手と寝たことを後悔した。
ダニーが聞き込みを終えて支局に戻ると、アランからメールが届いていた。 添付ファイルつきだ。 何やろ?ファイルを開けて、驚いた。 あのハンプトンの別荘の権利書のPDFファイルだ。 名義が「ダニー・テイラー」になっている。 「これで済むとは思っていないが、参照頼む。会いたい」 今までのアランのメールにない切迫した雰囲気がする。 ダニーはかたかた返信を打った。 「今日、貴宅訪問希望」 アランから矢のような返信メールが届いた。「了解。ありがとう」
13 :
書き手1 :2006/08/27(日) 00:08:59
ダニーが元気がないので、マーティンが気にして近寄ってくる。 「調子悪いの?お腹でも壊したの?」 思わず苦笑するダニー。 「お前やあるまいし、そんなんやない。ちょっとあってな」 「ふぅん」 ダニーがそれ以上口を開かないので、訝りながらマーティンは席についた。 定時になり、マーティンはダニーを夕食に誘った。 ダニーはそれをやんわり断り、ゆっくり帰り支度をすると、ブルー・バーに寄った。
14 :
書き手1 :2006/08/27(日) 00:09:48
エリックがカウンターの中から笑顔で迎える。 「テキーラ頼むわ」 「今日も荒れておられるので?」 「いや、一杯飲んだら帰る」 エリックはテキーラのショットとスティック野菜を出すと、ダニーから離れた。 あいつに、また借りを作ってしもうた。最低やん、俺。 ダニーはテキーラで気持ちをしゃっきりさせると、チェックを済ませて、 アランの待つアッパーウェストサイドにタクシーで上がった。
15 :
書き手1 :2006/08/27(日) 00:10:51
合鍵で入るのに躊躇し、インターフォンを鳴らす。 「はい?」 「俺」 ガチャっとセキュリティーが解除される。 エレベータホールに着くと、アランが部屋から出て待っていた。 「おかえり」 「・・・」 「さあ、入ってくれ」 驚いたことに、ソファーにトムが座っていた。憔悴しきってみる影もない。 「トム、お前!」 思わず殴りかかりそうになるダニー。 「ダニー、待ってくれ!」 アランが後ろからはがい締めにして、ダニーを止めた。
16 :
書き手1 :2006/08/27(日) 00:12:09
「トムは医療過誤で訴えられている。見るに見かねて抱いてしまった僕の責任だ」 アランがトムをかばうように言うのすら腹が立つ。 「そやかて、もう寝てヘんて言うてたやんか!俺、信じてたのに!」 「親友の危機にだまっていられなかった」 トムがやっと重い口を開く。 「済まない。親友に甘えた俺が悪かった。もうこんな事は金輪際ないよ。アランは悪くない。 俺が一方的にお願いしただけだ」 ダニーはトムの隣りにどさっと腰掛けた。
17 :
書き手1 :2006/08/27(日) 00:13:01
「俺、混乱してて、まだ答えが出せへん」 「いいんだよ、時間を取って考えてくれ。僕はお前一筋なんだ、それを信じて欲しい」 「今日の書類はそれの証拠?」 「あぁ、そう取ってもらって構わない。お前とずっと過ごしていきたいんだ」 トムが席を立つ。「俺はもう不要だな、帰る」 ダニーはトムをずっと睨みつけていた。 「二人とも幸せにな。俺は退散するよ」 去っていくトムの後姿が妙に小さく見えた。
18 :
書き手1 :2006/08/27(日) 00:13:50
ダニーも腰を上げた。 「帰るのか?」アランが尋ねる。 「うん、家でゆっくり考えたい、やっぱり今のままじゃ、俺、後戻りできへんわ」 ダニーも去ったアランのアパート。 アランは深いため息を漏らしながら、ブランデーを取り出し、飲み始めた。
ダニーがブルックリンに帰ると、アパートの階段にスタニックが座っていた。 膝を抱えたままぼんやりと通りを眺めている。 「スタニック?」 「あっ、ダニー!」 スタニックはダニーを見上げてほっとした表情を浮かべた。 「どうしたん?」 「ごめん、急に来たりして・・・」 「いや、それはいいんやけど。とにかく中に入ろう、暑かったやろ」 ダニーはスタニックを連れて中に入った。
20 :
書き手2 :2006/08/27(日) 23:09:52
「咽喉渇いたやろ、これ飲み」 ダニーはアイスティーを勧めると、暑い暑いと言いながらジャケットを脱いだ。 「いつから待ってたん?」 「大体二時間ぐらい」 「二時間も!お前、またいじめられたんか?」 「ううん、何もない。何もないけど・・」 スタニックはグラスをテーブルに置くとうつむいた。
21 :
書き手2 :2006/08/27(日) 23:10:29
ダニーはやれやれと思いながら隣に座ると、やさしく肩を抱き寄せた。 「お前、オレに会いとうて待ってたんやろ。ちゃう?」 スタニックは黙って頷いた。 「しゃあないやっちゃなぁ」 ダニーは苦笑しながらおでこにキスをした。 「今日は休みか?」 「うん、そう」 「わかった、ちょっと待っとき」
22 :
書き手2 :2006/08/27(日) 23:11:03
ダニーはベッドルームへ行くと、マーティンの携帯に電話した。 「あ、オレや。今日はスタニックと飲みに行くから」 「またフランス人か・・ダニーのお気に入りだね、あいつ」 「何言うてんねん、ただの連れや」 「ふ〜ん、連れねぇ。僕だってダニーと飲みに行きたいのに」 マーティンの棘のある言い方に、浮気を感づかれたのかと思ってドキドキする。 冷たい汗が背中を伝った。
23 :
書き手2 :2006/08/27(日) 23:11:36
「わかったよ。じゃあ僕も今日は出かけようかな」 「へー、お前はどこ行くん?」 「わかんないけど、スカッシュとかゴルフの練習とかさ」 「そっか、まあ頑張れ。ほな、また明日な」 「待って、僕のこと愛してるって言ってよ」 「愛してる!これでええやろ?」 「バカ!」 「・・マーティン、愛してるで」 マーティンと電話を切ったダニーは、服を着替えるとリビングへ戻った。
24 :
書き手2 :2006/08/27(日) 23:12:09
二人はえびすで食事した後、コヨーテ・アグリーへ行った。 どうしてもスタニックをこのままゲイにはさせたくない。女と触れる機会を作ってやりたかった。 スタニックはセクシーなバーテンダーに釘付けになっている。 ダニーは少し安心しながらテキーラを飲んだ。 「ダニー!」 振り向くとテリーが立っていた。スタニックにも色目を使っている。 濡れたような官能的な唇が今日もラメでキラキラしていてセクシーだ。 ダニーは一瞬見とれたが、適当に言葉を交わすと追い払った。
25 :
書き手2 :2006/08/27(日) 23:12:46
「今の人、すごくきれい。いいの?」 スタニックが申し訳なさそうに尋ねたが、ダニーはかぶりを振った。 「ええねん、あいつ男やったんや」 「ウソ!あんなにきれいなのに!」 まじまじと凝視するスタニックに、テリーはウィンクを返して見せた。 「あんなんやめとけ。病気もらうで」 ダニーはまだこっちを見ているテリーに手を振るとバーを出た。
26 :
書き手2 :2006/08/27(日) 23:13:20
「よかった、まだお前が女に興味あって」 「・・あるのかなぁ?」 「あるある、十分や。テリーに食指が動いたんやから間違いない!」 ダニーは断言するとスタニックの肩をばしっと叩いた。 「ねぇ、ダニーはテリーと寝た?」 「寝るか!チンチン見つけた時点で萎えたわ。なんぼオレでもおかまはあかんわ」 ダニーの渋い表情を見て、スタニックはげらげら笑っている。 「あほ、そんなに笑うことないやろ!」 と言いながらも、思い出すと可笑しくてダニーも笑い崩れた。
PCで権利書のファイルを開きながら、ダニーはため息をついた。 マーティンが後ろから覗く。 「うわー、これってあの別荘の権利書じゃない!」 「しーっ、大声出すな」ダニーが制する。 「どうしたの?プレゼントなの?」 「うーん、話すと長うなる」 「すごいね、アラン、本気なんだ」 マーティンは、完全に敗北したと思った。 こんな事、僕の財力じゃ出来ないよ!金にモノを言わせるなんてずるいや! すごすごと自分の席に戻ると、マーティンもため息をついた。
28 :
書き手1 :2006/08/28(月) 00:04:00
ダニーがさらにため息をついていると、サマンサが寄ってきた。 「どうしたの?二人とも。書類整理してたら、ため息ばっかり聞こえてくるんだもん。ほら、やる気出す!」 肩をバシン、バシンと叩かれて、二人は思わず苦笑した。 ダニーが帰り支度をしていると、マーティンが寄ってきた。 「今日、夕飯食べない?」 「ええけど」 二人でチャイナタウンの「ジョーズ・シャンハイ」に出かけた。
29 :
書き手1 :2006/08/28(月) 00:05:08
チンタオビールで喉を潤し、カニの小籠包とエビチリソース、海鮮おこげを食べる。 「このところ、ダニー、元気ないけど、何かあったんだね?」 「うーん」 ダニーは迷ったが、正直に話すことにした。 「アランがな、トムと浮気してんねん」 「はぁ?」 「トムは前からアランに本気でな、俺たちが別れるのを待っとる」 「でもさ、別荘の権利書くれたってことは、アラン、許してもらいたがってるんでしょう?」 「あぁ」 「で、どうするのさ?」 「分からん。相手は20年越しやで。これからもあるかと思うと、俺、いてもったってもいられへんのや」
30 :
書き手1 :2006/08/28(月) 00:06:05
マーティンは傷ついた顔をした。 「ダニーも本気なんだね」 「分からん。どうしたらいいかも分からん」 「許してあげなよ」 「うん?」 「あの別荘、ざっと見積もっても500万ドル以上はするよ。ダニーの事ないがしろにする人じゃないよ。 アラン、本気なんだよ、ダニーの事」 「お前・・・」 「僕はいいの!」 マーティンの瞳に涙が浮かんでいた。 「お前を泣かせるなんて。話すんやなかった。帰ろ」
31 :
書き手1 :2006/08/28(月) 00:07:02
ダニーはチェックを締めると、べそをかいているマーティンの肩を抱いて、タクシーを拾った。 「ブルックリンまで」 「ダニィ・・」 「もう話すな、ええから」 アパートに着くと、ダニーはゆっくりマーティンの服を脱がせた。 「一緒にシャワー浴びような」 「ん・・」 ダニーはシャワーの栓を開けると、髪の毛が濡れるのも構わず、マーティンを壁に押し付けてキスをした。 「ダニィ・・好きだよ」 「あぁ、知ってる。俺もや。マーティン」
32 :
書き手1 :2006/08/28(月) 00:07:52
マーティンが必死にダニーの舌に舌をからめてくる。 立ち上がったペニスがこすれあう。 「あぁぁ」 「ベッド行こか」 マーティンはこくんと頷いた。 ベッドに倒れこむと、マーティンはすぐさまダニーのペニスを口に咥えた。 丹念なフェラチオにダニーが思わず唸る。 「お前、そんなんすると、出てまうで」 マーティンは上目使いにダニーを見つめると、ベッドサイドのローションを手に取り、自分のアヌスに塗りこんだ。
33 :
書き手1 :2006/08/28(月) 00:08:48
ダニーがもだえている間に、ダニーの上に跨る。 ダニーの上で腰を上下させて、摩擦を多くするマーティン。 泣きながら腰を振っている。ダニーも下からマーティンを突き上げる。 「あぁ、ダニー、すごいよ、もうだめ!」 「俺もや、もう出る、うううぅ!」 ダニーが下で身体を痙攣させると、ペニスの振動がマーティンに伝わった。 マーティンもダニーの腹めがけて思いっきり射精した。 そのままダニーの上に倒れこむマーティン。
34 :
書き手1 :2006/08/28(月) 00:09:46
荒い息を二人は整えた。 マーティンの汗で額にくっついた前髪に触りながら、ダニーは「ごめんな」とつぶやいた。 「謝る必要なんてないよ。僕が望んだことだし」 「俺、お前に申し訳ないことしてる」 「いいんだよ、ダニーが僕との時間を作ってくれるだけで」 「お前、たまらなく可愛い」 「ダニー、大好きだよ」 「俺もや、マーティン」 マーティンはダニーの胸に顔をこすりつけた。
ダニーとスタニックがアパートに帰ると、マーティンがポテトチップスを食べながらTVを見ていた。 「おかえり!あっ、こんばんは」 マーティンはわざとらしくスタニックに挨拶した。 「こんばんは、お邪魔してます」 スタニックは挨拶するといつものように軽く会釈した。 はらはらしたダニーだったが、スタニックがきちんと応対したのでほっとする。
36 :
書き手2 :2006/08/28(月) 23:28:28
「どこで飲んできたの?」 マーティンはダニーではなくスタニックに問いかけた。 「コヨーテ・アグリーだよ」 「マジ?コヨーテ・アグリーって本当にあるの?」 「うん、イースト・ヴィレッジに」 「へー、そうなんだ。僕も行きたかったな」 マーティンはじとっとダニーを見た。
37 :
書き手2 :2006/08/28(月) 23:29:00
「お前も今度一緒に行こな」 ダニーはそれだけ言うとソファに座った。 「ダニー、ボタン」 「ああ、そうやった」 ダニーはカーゴパンツを脱ぐとスタニックに渡した。マーティンが訝しそうにしている。 「さっき買物してたらボタンがカゴに引っかかってとれたんや。オレ、裁縫はあかんから」 ダニーは説明しながらキャビネットを開けると、ソーイングセットを取り出してスタニックに渡した。 スタニックは針に糸を通すと、器用にボタン付けをしている。
38 :
書き手2 :2006/08/28(月) 23:29:40
「はい、これで大丈夫。他にもあったらつけとくけど?」 「いや、他はないわ。ありがとう、助かった」 「いいんだよ、これぐらい。マーティンは?よかったらつけようか?」 「僕もない」 マーティンは素っ気なく言うとグラスを持って席を立った。 「ちょっとごめんな」 ダニーはスタニックに詫びると、マーティンの後を追ってキッチンに行った。
39 :
書き手2 :2006/08/28(月) 23:30:17
「マーティン、何怒ってるんや?」 「別に」 「そんな怒んなや。ただのボタン付けやないか」 「ボタンなんてどうだっていいんだよ!コヨーテ・アグリーっていやらしい店じゃない」 「いやらしくなんかないって。お前ストリップと勘違いしてるんちゃうか?」 「・・・・・・」 「ストリップちゃうで、誰も脱いでへん」 ダニーは必死に説明するが、マーティンはまだ疑っているようだ。
40 :
書き手2 :2006/08/28(月) 23:30:49
「ねぇ、フランス人は今日も泊まるの?」 「いいや、お前が泊まるんやったらあいつ送ってくるわ」 「いいよ、僕はソファで寝るから」 マーティンは乱暴にオレンジジュースを注ぐと行ってしまった。 えらいこっちゃ、どうしよう・・・・ ダニーはコントレックスのボトルを二本取り出すと、渋々リビングへ戻った。
41 :
書き手2 :2006/08/28(月) 23:31:23
「僕はTV見るからさ、バスルーム先に使いなよ」 「え、あ、でも・・」 マーティンに言われたスタニックは戸惑ってダニーを見つめた。 「あ、タオルはこっちや」 ダニーはスタニックを手招きしてバスルームへ案内した。 「どうなってるの?」 「あいつ、お前が泊まるって思てんねん。嫌やろ?送っていくわ」 「・・オレ泊まりたい」 「えっ!」 ダニーの困った顔を見て、スタニックはやっぱり帰るとぽつんと言った。
42 :
書き手2 :2006/08/28(月) 23:31:55
ダニーはすぐ戻ると言うと、スタニックをアパートまで送っていった。 キスをして帰ろうとしたものの、スタニックは体を離そうとしない。 「なぁ、オレ、明日の昼休みにまた来るから。12時間、いやもうちょっとか、待っててくれ」 「本当?本当に来る?」 「ああ、約束や。だから今日はごめんな」 ダニーは目を閉じるとゆっくりディープキスした。
ダニーのため息まじりの毎日はその後も続いた。 権利書を目の前にして、どうしようか迷っている。 マーティンが「早く決めなよ」と通りざまに声をかけて、 コーヒーを取りに行った。 「ダニー、何悩んでるの?」 あまりのため息の多さに見かねて、サマンサも声をかけた。
「あーっと、恋の悩みや」 「このーモテ男、またあれ?」 サマンサは二股の事だと思って、Vサインを出した。 「いや、それやない」 「じゃあ、今日はドクター・スペードが話を聞いてあげる」 定時に終わった二人は、グランド・セントラル駅のオイスター・バーに繰り出した。 シャブリとオイスター・シューターを頼む。 レモンの絞り汁だけで食べるダニーと違って、 カクテルソースをたっぷりかけるサマンサに半ば呆れながら、ダニーが話し始めた。
「なぁ、サム、法外なプレゼントを受け取ったことないか?」 「うん?そうねぇ、ティファニーのオープンハートの一番大きいペンダントをもらったことはあるわね。 2000ドル位だったかな?ダニーは何もらったの?」 「まぁ、同じような額のもんや」 ダニーははぐらかした。まさか500万ドルとは言えるわけがない。
「彼がピッツバーグに転勤になっちゃって、長距離恋愛してたんだけど、続かなかったな。 そういえば、あのペンダント、どこに行ったんだろう?」 ペロっと舌を出すサマンサ。 「返したら、相手は傷つくやろか?」 「さぁね、返した事ないから分からないけど。ダニーの気持ちが治まらないなら、返したら?」 「そやな。それが一番ええんやろな。俺には似合わへんもんなぁ」
47 :
書き手1 :2006/08/29(火) 00:01:23
サマンサがワインを飲みながら、ダニーに聞いた。 「どれだけ真剣なの?その人と?」 「まぁ、家族同然っちゅうか・・・」 「へぇ、あのダニー・テイラーも年貢の納め時か。結婚式の招待状待ってるわね」 サムが興味津々の顔をした。 「そんな仲やないよ」ダニーは照れた。 「やだ、照れてる!顔が真っ赤よ!ご馳走様!」 サムは勘定書きをダニーにばしっと渡した。
48 :
書き手1 :2006/08/29(火) 00:02:28
もう一軒行こうというサムを振り切って、ダニーはブルックリンに戻った。 留守電を見たが伝言はない。あの日以来、1週間以上が過ぎたが、アランからは何の連絡もなかった。 その代わり、マーティンと4回もベッドを共にしてしまった。 どっちつかずの自分が情けなかった。 携帯が震えた。飛びつくダニー。
49 :
書き手1 :2006/08/29(火) 00:03:30
「テイラー!」 「ダニー、僕」マーティンだった。 「どうした?」 「これから、家に来ない?」 時計を見るとまだ10時だ。 「そやな、行こか」 マスタングでマーティンのアパートに出かける。 ドアを開けると、マーティンが飛びついてきた。 「おいおい!」 「会いたかった!」 「昼間だって会うてるやん」 「違うでしょ!」
50 :
書き手1 :2006/08/29(火) 00:04:23
少しアルコールの匂いがする。 「お前、飲んだな!」 「ちょっとだけだよ、ねぇ、ベッドに行こうよ!」 ダニーは引きずられるようにベッドルームに入った。 マーティンが体格にモノを言わせて、ダニーを押し倒した。 Tシャツを脱がせて、乳首に吸い付く。 両方を愛撫されて、ダニーは思わず唸った。 「ここ、こんなになってるよ」 ダニーのパンツの前を指差すマーティン。
51 :
書き手1 :2006/08/29(火) 00:05:18
「早く脱がして、咥えてくれ」 「うん!」 マーティンは、パンツとトランクスを上手に脱がすと、ペニスを口にぐわっと咥えた。 突然奥まで咥えられ、先端までちろちろ舐められたダニーはたまらない。 「うぅん、ん、お前、すごいな」 「ダニーの、大好きだから」 マーティンは口に咥えながら、ダニーの後ろに手を伸ばした。 アヌスの中に指を入れる。
52 :
書き手1 :2006/08/29(火) 00:06:12
「お、おい!」 「優しくするから」 1本指を入れてほぐすと、ローションを手に取り、指を2本に増やした。 「ダニーの中、熱いよ」 「お前を待ってるんや」 「それじゃ、行くね」 マーティンは自分のペニスにも十分にローションを塗ると、ダニーを後ろ向きにし、ペニスを進めた。 ひっかかりの後、ずぶっと中に入る。 「あぁ、いい気持ちや。もっと動いてくれ!」
53 :
書き手1 :2006/08/29(火) 00:07:05
マーティンは言われるままに腰を前後に振り始めた。 大きくグラインドさせて摩擦を多くする。 「すごい!ヒクヒクしてる!」 「俺、もうだめや、俺のに触って!」 マーティンはダニーのペニスに手を添えると、前後させた。 すぐにダニーが射精する。 「僕ももう、出る!あぁぁ」 マーティンはダニーの中に存分に精を吐き出した。
54 :
fusianasan :2006/08/29(火) 03:42:17
書き手1さん 書き手2さん 本スレから来ました。お二人のストーリーテリングに魅せられています。 本国にありがちなヤルだけのストーリーと違って、各キャラが生きているのが 魅力です。逆風も吹くことがあるでしょうが、応援していますので、 このまま連載を続けてください。お願いします。
ダニーはドーナツを買ってからアパートへ帰った。 ただいまと声を掛けたが、リビングにマーティンの姿はない。 ドリトスの欠片がいくつも床に落ちているのを見つけて思わず舌打ちした。 ガキか、あいつは!誰がそうじするって思てんねん! 忌々しく思いながらベッドルームに行くと、マーティンがベッドの上で塞ぎこんでいた。 「ただいま、マーティン」 「ん、おかえり」 「ドーナツ食べるか?」 「・・いらない」 「え、いらんの?お前が喜ぶ思て買うてきたのに」 ダニーは隣に座ると顔を覗き込んだ。
56 :
書き手2 :2006/08/30(水) 00:17:35
「ダニーにはやっぱり女が必要なんだよね」 マーティンは自分に言い聞かせるようにつぶやくとそっぽを向いた。 もしかしてこいつ、オレがコヨーテ・アグリーで浮気したって思てる? ダニーは一瞬躊躇したが、マーティンの頬に両手を添えると自分のほうを向かせた。 「オレ、浮気なんかしてないで。ほんまや、信じてくれ」 マーティンはしばらくじっと見ていたが、ぷいっと目を逸らしてしまった。
57 :
書き手2 :2006/08/30(水) 00:18:21
「何でやねん、信じろや!」 ダニーはぐいっと顔を向けさせると、目を見つめたままキスをした。 マーティンはすぐさま目を逸らした。一切視線を合わせようとしない。 ダニーは一方的に舌を絡めながらシャツのボタンを外した。 乳首を指でなぞるとすぐに硬くなる。それでも無関心を装うマーティン。 ダニーは乱暴にベッドに押し倒すと愛撫し始めた。
58 :
書き手2 :2006/08/30(水) 00:18:59
うなじや肩、胸に舌を這わせながらトランクスの中に手を入れると、 マーティンのペニスは完全に勃起していた。 服を脱がされる間もマーティンは人形のように動かない。 ダニーは自分も服を脱ぐと、マーティンを腕枕して後ろから愛撫を続けた。 ローションを手にとってアナルをほぐすと、マーティンの体がびくんと仰け反った。 喘ぎ声をもらさないように必死に堪えている。
59 :
書き手2 :2006/08/30(水) 00:19:32
「お前のケツ、いやらしいな。物欲しそうにひくついてるで」 ダニーは耳を甘噛みしながらささやくと、アナルの内壁を弄くった。 「うっ・ぁぁっ!」 「うわっ、オレの指を締めつけよった。いやらしい〜」 真っ赤になったマーティンは慌てて首を振った。 「違うって言うてもなぁ、ここが欲しがってるで」 ダニーはペニスにコンドームを被せるとローションを塗り、マーティンのアナルを擦り始めた。
60 :
書き手2 :2006/08/30(水) 00:20:07
「ひっ・うっ・・・やっ、やだ、やめてよ」 「やめへん」 ダニーは先っぽだけ挿入すると、何度か小刻みに動かして奥まで入れた。 「あぁっ!」 「気持ちええやろ?オレもや」 ダニーはマーティンを四つんばいにすると、腰を掴んでペニスを打ちつけた。 結合部分が動くたびにくちゅくちゅと音をたてる。
61 :
書き手2 :2006/08/30(水) 00:20:40
「んっ・・あっあぁっ!ダ、ダニィ!」 マーティンがイキそうなのに気づいたダニーは、体位を正常位に変えた。 キスをして抱きしめたまま腰を動かす。 「僕もうだめっ!イクっ!」 マーティンはダニーにしがみつくと射精した。全身がガクガクしている。 アナルにきゅっと締めつけられ、ダニーもそろそろ限界だ。 マーティンの肩を掴むと激しく腰を振って射精した。
62 :
書き手2 :2006/08/30(水) 00:21:13
イッた後、ダニーはコンドームを外してマーティンに見せた。 「ほらな、浮気なんかしてないやろ。めっちゃ濃いで」 「・・・ごめん。だってさ、ネットで調べたらコヨーテ・アグリーってエッチな店みたいだったんだもん」 「あほやな、お前。まあええ、今度連れて行ったるわ」 「いいよ、僕は」 「なんでやねん、自分の目で確かめたらええやん。 そや、行くのが嫌やったらトロイに聞いてみ。あいつは詳しいで」 ダニーはコンドームをティッシュに丸めて捨てると、マーティンを抱き寄せた。
63 :
書き手2 :2006/08/30(水) 00:27:39
>>54 はじめまして、ご感想ありがとうございます。
こんな稚拙な文章ですが、読んでいただけてうれしいです。
逆風といいますか、個人的には他のスレにURLや文章の転載などをご遠慮いただけると助かります。
宣伝などは一切必要ありませんのでご理解ください。
アランはトムと待ち合わせをして、トンプソンホテルのラウンジにいた。 トムが疲れた顔で現れる。 「どうだい、訴訟の方は?」 「幸い、病院のシニアスタッフが全員俺の手技に手落ちはないと証言してくれた。 告訴は取り下げの方向で調停中だ」 「それは、よかったな」 「お前こそ、どうだ、その、ダニーとの仲は?」 「あれ以来連絡を取っていない」 「取れよ!お前らしくない」 「今度は何故か臆してしまってな」 ドライマティーニをすすりながら、アランは苦笑した。
65 :
書き手1 :2006/08/30(水) 00:37:17
ジントニックを頼んだトムはアランの顔をじっと見つめる。 「何だよ?」 「お前がこんなに悩む姿、初めて見たよ、あのガキには本気なんだな」 「あぁ、自分でも信じられない位だ。前に痛い目にあってるというのに、あの子の事は100%信じられるんだよ」 「ご馳走様、まったく俺の前で、恋敵をこうも持ち上げるかねぇ」 トムはジントニックを煽った。
66 :
書き手1 :2006/08/30(水) 00:38:26
「お前の気持ちに応えられなくて済まないと思ってるさ、分かってくれるか?」 「もう、言うなよ。俺も若いツバメでも探すさ」 「これからも親友だよな」おずおずとアランが尋ねた。 「もちろん、俺たちの20年は誰にも消せないぜ」 トムはにんまり笑った。二人はカクテル2杯で別れた。
67 :
書き手1 :2006/08/30(水) 00:41:38
ダニー恋しさで思わずジャガーをブルックリンに向けそうになるアラン。 死ぬ思いで我慢して、自分のアパートに帰った。留守電はない。 肩を落として、シャワーを浴びにバスルームに消えた。
68 :
書き手1 :2006/08/30(水) 00:42:53
ダニーは、マーティンとベッドの中にいた。 マーティンに請われて二回もマーティンの中で射精したので、眠くてたまらない。 「ねぇ、ダニィ、僕らも別荘買おうよ」 「そんなの無理やで、ふぁ〜」 ダニーは寝息を立て始めた。 やっぱり僕じゃ役不足なのかな。 マーティンは浮かんでくる涙を腕でぬぐい、ダニーにぴったりと寄り添った。
69 :
書き手1 :2006/08/30(水) 00:44:16
朝になり、ダニーが先に目を覚ました。 暑いのに、マーティンがぴたっとダニーにくっついていた。 「おい、起きろ!シャワーするで」 「うーん、もうちょっと寝てたいよ」 「遅刻寸前や、急ぎ」 ダニーはマーティンを置いてシャワーを浴びた。 すれ違いでマーティンが入ってくる。 「コーヒー入れる暇あらへんからな、支度しろよ」 「うん、わかったよ」
70 :
書き手1 :2006/08/30(水) 00:45:19
二人はあたふたとフェデラルプラザに着き、スタバで朝食のサンドウィッチとコーヒーを買った。 デスクでがっついていると、ボスからお呼びがかかった。 「今日は二人で、ブロンクスの売春宿の聞き込みだ。マーティン出来るか?」 「はい、大丈夫です」 「ダニー、指導してやってくれ」 「了解っす!」 FBIの車で出かける。 「お前、初めてやろ、売春宿なんて」 「うん・・でも大丈夫だよ」 ダニーは訳知り顔で、駐車スペースに車を停めると、モーテルをあたり始めた。
71 :
書き手1 :2006/08/30(水) 00:46:38
今回の失踪者は薬中のティーンエイジャー。 薬欲しさに売春しているというのが捜査の根拠だ。 「へぇ〜、こんなにあるんだ」 ずらっと並ぶ薄汚いモーテルにマーティンは目を丸くする。 昼間から立ちんぼうの娼婦が、これみよがしに肌を見せて、客引きをしていた。 マーティンはおぞましさに鳥肌を立てながら、ダニーの後をついて歩いていた。
72 :
書き手1 :2006/08/30(水) 00:48:01
「お前にゃ関係ないとこやからな」 「ダニーには関係あるの?」 「あるわけないやろ!」 ダニーは冷や汗が出た。前はたまに利用していた場所だ。 顔見知りの売春婦と会わないとも限らない。 聞き込みの結果、失踪者はアビーという偽名で客を取っていることが判明した。 ダニーが囮になって、ポン引きにアビーを指名する。 見事、失踪者を保護出来た。 「こんなに簡単な解決はたまらんわなぁ!」 ダニーは鼻高々だった。
73 :
書き手1 :2006/08/30(水) 00:49:25
マーティンにとっては、自分がゲイで世間知らずな事を思い知らされた一日になった。 得意げに夕食に誘うダニーを断って、マーティンはアパートに戻った。 僕って、すべてがダニーより劣ってる。こんなんじゃ、捨てられちゃうよ。 マーティンは、デリバリー・ピザを頼んで、ビールで流し込むと、シャワーも浴びずにベッドに入った。
74 :
書き手1 :2006/08/30(水) 00:50:59
>>54 さん
感想ありがとうございます。
本国のファンフィクも読んでおられるとはすごいですね。
こちらは、ここでひっそりとやっております。
逆風についての考え方は、書き手2さんと同じです。
これからもよろしくお願いします。
ダニーは思いがけない来訪客を迎えた。トムだ。応接室に通す。 「トム、どないしたん?」 きわめて冷静に振舞おうとするダニー。 トムは「本当に済まない。謝るよ。もう、アランとは金輪際、何もないから安心してくれ。 俺も吹っ切らなければいけない時期が来たと悟った。 それもこれも、アランのお前に対する気持ちが真剣だからだ。」と息せききって話した。 「はぁ?」
76 :
書き手1 :2006/08/31(木) 00:45:31
「お前、知ってるか、この一週間、アランは患者をキャンセルして、アパートにこもってるんだぜ。 また薬物中毒にならないか、俺は心配でならない。なぁ、あいつを助けてやってくれよ」 「え、アランがそんなんなってるんか?」 「前より深刻だよ。あいつもああ見えて寂しがり屋なんだよ。親御さんからちゃんとした愛情を受けてこなかったからな。 会ってやって欲しい。俺が言いたいのはそれだけだ」 トムは立ち上がった。 「なぁ、トム、トムはそれでええの?」 「仕方がないじゃないか。俺も若いツバメでも探すさ」 ふっと皮肉っぽい笑みを浮かべると、応接室から出て行った。
77 :
書き手1 :2006/08/31(木) 00:46:38
マーティンとすれ違う。 「元気か?マーティン?」 「はい、おかげさまで」 「もうつまらない理由でERに来るなよ」 「あ、はい」マーティンは思わず小さくなった。 サマンサが「ねぇ、あの人って誰?」と聞いてくる。 「市立病院のERドクターだよ」マーティンが答える。 「私、今度負傷したら、あの人に担当してもらいたいな」 サムの相変わらずのいい男チェックにマーティンは苦笑した。
78 :
書き手1 :2006/08/31(木) 00:47:28
ダニーは席に着いてしばらく考えていたが、やおらPCに向かってメールを打ち始めた。 「アラン、今晩貴宅訪問希望」すぐさま返信が届く。 「了解。待ってる」 ダニーは定時にオフィスを飛び出すと地下鉄に飛び乗った。 アランのアパートのインターフォンを押す。 「俺」ガチャ。セキュリティーの解除の音。 アランのアパートに着くと、キッチンからいい香りがした。
79 :
書き手1 :2006/08/31(木) 00:48:27
「よく来てくれたね」 「うん」 言葉少ない二人。アランはダイニングに料理を並べる。 いさきのカルパッチョにラムチョップに温野菜。グリーンサラダに、ドン・ペリニオンにシャトー・ラトゥールだ。 「すごいご馳走や」 「お前が来てくれるから奮発したよ」 アランの目の下にはクマが浮かんでいる。 「なぁ、アラン、ちゃんと寝てた?」 「愚問だな。眠れるわけないじゃないか」 ダニーはマーティンとのセックスに惑溺していた自分を反省した。
80 :
書き手1 :2006/08/31(木) 00:49:38
食事が始まる。 「なぁ、俺な、あの権利書はやっぱり受け取れん。身に余るプレゼントや。アランに悪い」 「そう言うだろうと思って、共同名義にしたよ。お前は気にする必要はないよ、ごめんな。 僕はああいう方法しか、愛情を示す術を知らないんだ」 「よく分からんけど、びっくりした。あと、アランが俺の事本気なんだって改めて感じた。 こんな俺でほんまにええの?」 「あぁ、何度も言っただろう。お前と生涯を過ごしたいんだ。命を賭けてもいい」 「そんな・・」
81 :
書き手1 :2006/08/31(木) 00:50:26
「トムの事、許してくれるか?」 「うーん、まだくすぶってるけど、アランを信じる気持ちがまた生まれてきた。一緒にいてもええの?」 「もちろんだとも。それじゃ、今日は乾杯だな!」 二人はシャンパンと赤ワインを空けて、ソファーに移動した。 どちらからともなくディープキスを始める。 「あぁ、アランの匂いや」 「バスに行こうか?」 「このままベッドがいい」 二人は手をつないでベッドルームに消えた。
ダニーは時計を見ながら焦っていた。 スタニックとの約束が気になるが、仕事が押していて抜けられそうにない。 二時前になったとき、とうとう携帯が鳴った。 「テイラー」 「ダニー、昨日の約束忘れてる?」 「いいや、忘れてないで。仕事が詰まっててな、あと30分ぐらいでなんとかなりそうや」 「忙しいならいいよ。無理しないで」 「ちゃうちゃう、絶対行くから。もうちょっとだけ待っといて」 電話を切ったダニーは小さく息を吐いた。
83 :
書き手2 :2006/08/31(木) 23:25:10
「なによ、やさしいこと言っちゃって!」 「何言うてんねん、そんなんちゃうわ」 サマンサにからかわれて即座に否定したが、背中に感じるマーティンの視線が痛い。 「仕事の合間にランチデートなんていいわねぇ。絶対行くから待っといてだって。相手はどんな子なの?」 「違うって言うてるやろ!連れに会うだけや」 ダニーは急いで報告書を仕上げると、ジャケットを手に席を立った。
84 :
書き手2 :2006/08/31(木) 23:25:50
マーティンが来るのを見越してトイレで待っていると、案の定少し遅れて入ってきた。 「さっきの誰さ?」 「スタニックや。昼メシの約束してたから」 「本当に?僕を騙してるんじゃないの?」 「騙すか!それやったらこうしよう、あいつとメシ食うときお前に電話する。どうや?」 「いいよ、そんなの。早く行けば?」 「お前は?」 「僕は一人で食べるからいい」 マーティンはぶすっとしたまま手を洗っている。ダニーはごめんなと言い残し、トイレを後にした。 何だよ、ダニーのバカ!・・・マーティンはダニーが出て行ったあとのドアをじっと見据えた。
85 :
書き手2 :2006/08/31(木) 23:26:25
スタニックのアパートへ行くと、ランチが用意されていた。 てっきりSEXを期待されていると思い込んでいたダニーは拍子抜けしてしまった。 ポケットの中のコンドームがきまり悪い。 「ごめんな、遅なってしもって」 「ううん、来てくれただけでいい。お腹空いたでしょ。さ、食べて」 ダニーは食事を勧められて、早速シーフードサラダにがっついた。 「おいしい?」 「うん、うまい。お前も食べ、待ってて腹減ったやろ」 スタニックは嬉しそうに頷くと、焼けたばかりのラザニアを取り分けた。
86 :
書き手2 :2006/08/31(木) 23:27:09
先に食べ終えたダニーはグリッシーニを手に取ると、スタニックの口に入れた。 はにかみながらかじっているのがかわいい。思わず抱き寄せるとキスしていた。 スタニックはダニーの体にしがみついていて、このまま離れたくない気持ちがひしひしと伝わってくる。 二人はキスを交わしたまましばらく抱き合った。 ダニーは時計をちらっと見た。いつまでもこうしているわけにはいかない。仕事だ。 「ごめんな、そろそろ行かなあかん」 「・・うん」 スタニックは名残惜しそうにダニーの体から手を離した。薄い体がいつもより頼りなく見える。
87 :
書き手2 :2006/08/31(木) 23:27:43
「ちょっと手貸してみ」 「何?」 ダニーはポケットからコンドームを取り出すと、手のひらに乗せた。 「これって・・・」 「オレのお気に入りのコンドームや。今日は時間ないから今度使おう。お前が持っててな」 ダニーはギュッと抱きしめると、ほっぺや首筋にキスした。 くすぐったがるスタニックを喜ばせるために所構わずキスをする。 「ちょっ、ダニー、ダニーってば!遅れるよ」 「いいや、まだあかん」 ダニーはさらにキスをしてからアパートを出た。
88 :
書き手2 :2006/08/31(木) 23:28:17
支局に戻ると、マーティンがデリのカートンを片付けていた。 「お前、こんなとこで食べんとカフェで食べればええのに」 「僕がどこで何を食べようとダニーには関係ないじゃない」 不機嫌なマーティンはカートンをどさっとゴミ箱に落とした。 「なぁ、帰りにバターミルクワッフル食べよか?フライドチキンといっしょに」 ダニーは返事を期待したが、マーティンは黙ったままだ。
89 :
書き手2 :2006/08/31(木) 23:28:50
あきらめて自分の席に戻ろうとすると、マーティンがもごもごと何か言った。 「うん?何?」 「・・・チキンはさっき食べた」 「そうか、ほなバターミルクワッフルだけにしよ。帰りに寄ろな」 「ん」 こくんと頷くマーティンを見ながら、ダニーは自分のしていることが不倫夫のように思えた。
ダニーが目を覚ますと、もうアランは起きた後だった。 ベッドルームから出ると、コーヒーのいい香りがする。 「おはよう、ハニー」 「おはよう、アラン」 二人ともはにかむ。 ダニーがキッチンに立つアランの首筋にキスをして、大きなキスマークをつけた。 「おい、こら!」 「俺のんやって印やもん」 「じゃあ、これはどうだ!」 アランがダニーの右手首の傷の上にキスマークをつけた。 「わ、見えそうや」 「ぎりぎりなのが、スリルあるだろう?」
91 :
書き手1 :2006/08/31(木) 23:53:26
ダニーは急いでシャワーを浴びて、スーツに着替えた。 アランが作ったサーモンとクリームチーズのベーグルサンドをソフトアタッシュの中にしまう。 コーヒーをぐいっと飲むと「ほな、行ってくる」と別れを告げた。 アランは、コーヒーをマグに注ぐと、キャンセルした患者たち一人ひとりにメールを打ち始めた。 「今週より診療を再開いたします。ご予約は・・・」
92 :
書き手1 :2006/08/31(木) 23:54:59
さっぱりした顔で出勤してきたダニーを見て、マーティンは何が起こったかを悟った。 あぁ、またダニーは遠いところに行っちゃった。 がさごそアタッシュからベーグルサンドを出すダニーを見たサマンサがにっこりして、 「ほらね、ドクター・スペードの言う事に間違いはないでしょ?また奢ってよね!」と ダニーの肩をバシンと叩いた。 「はいはい、おおせの通りに」ダニーも嬉しそうに応対している。
93 :
書き手1 :2006/08/31(木) 23:56:04
マーティンの孤独感が募った。 いても立ってもいられず、廊下に出ると、エドに電話をかけた。 「マーティン、どうしたの?」 「ねぇ、今日、会えない?」 「ごめん、出張で今、LAなんだよ。あさってには戻る」 「そうなんだ、分かった」 「ねぇ、大丈夫?」 「うん、平気。それじゃ、あさってまた電話する」 「うん、待ってるね」
94 :
書き手1 :2006/08/31(木) 23:56:55
続けてニックに電話をかけた。 「うぅん、ホロウェイ」寝起きのようだ。 「僕、マーティン」 「おう、お姫様、朝からどうした?」 「ねぇ、今日、会えない?」 「すまない、今日は新しいエージェントとの打ち合わせがあるんだよ、明日でもいいか?」 「分かったよ、また電話する」 マーティンは肩を落とすと、席に戻った。
95 :
書き手1 :2006/08/31(木) 23:58:12
ダニーが寄ってくる。「お前、どうした?大丈夫か?」 「うん、へーき。ダニーこそ元気そうだね」 「まあな。今日も張り切って仕事しようや!」 マーティンは無理やり頷いてPCに向かった。 定時になってすっ飛んで帰るダニーを横目で見ながら、マーティンはのろのろと帰り支度をした。 まっすぐ帰る気にとてもなれない。 マーティンは、ふらふらと街をさ迷ううち、イースト・ヴィレッジの路地にいた。
96 :
書き手1 :2006/09/01(金) 00:00:31
ごちゃごちゃした店並みの中でも小奇麗なビストロに入る。 一人で座ってメニューを選んでいると、声をかけられた。 「一人?」 「そう」 「僕もなんだ、一緒に食べてもいいかな?」 店は混んできていて、空いているテーブルがない。 迷惑とも言うわけにいかず、マーティンは承諾した。 ホワイトカラー然とした男だ。着ているスーツも高級ブランドらしい。 二人は、意気投合し、ワインを2本空けて、スペアリブとシーフードサラダとパスタ2種類をシェアした。 マーティンは、ちょうど良い気分転換だと少し嬉しく思った。
97 :
書き手1 :2006/09/01(金) 00:01:35
「仕事は何してるの?」 「公認会計士だよ」マーティンはウソをついた。 「へぇ、僕は広告代理店のディレクター。デレクだ」 「マーティン」 「よろしくマーティン」 マーティンは、気疲れからから、足元がふらついた。 「大丈夫?」 「家まで送っていくよ」 「大丈夫」 またぐらっとくるマーティン。 デレクは、チェックを締めると、マーティンをかついで、自分のミッドタウンのアパートに連れ帰った。
98 :
書き手1 :2006/09/01(金) 00:03:13
マーティンはすっかりぐったりしている。 ふふ、薬が良く効いてる。可愛い顔してるな。 デレクは誘惑に負けて、マーティンにキスをした。 「うぅん、ダニィ」 キスを返してくるマーティン。 デレクはこのままご馳走になることに決め、マーティンの服を脱がせた。
99 :
書き手1 :2006/09/01(金) 00:04:18
FBIのバッジを見つけてうろたえる。 え、こいつフェッツなの? 拳銃をテーブルに置いて、ベッドに連れて行った。 まだマーティンは意識が目覚めない。 デレクは、マーティンのトランクスを脱がせると、ペニスを口に含んだ。 見る見るうちに反応して、大きくなる。 デレクはオイルをマーティンのアヌスに塗布すると、 自分の大きくなったペニスにコンドームをかぶせて挿入した。 はっと気がつくマーティン。
「うわ〜、何してるんだよ!」 「君の望んでることだよ」 デレクはマーティンに構わず、腰を強く打ち付ける。 デレクの腹にペニスが当たって、マーティンもイク寸前だ。 「あぁ、イク、出ちゃう!」 「僕もだ、すごいよ、マーティン!」 マーティンの体ががくがく震えた。二人でベッドに横たわる。 「僕、こんなの望んでなかった・・・」 天井を見つめながらマーティンがつぶやいた。
「ねえ、ダニーって君の恋人?君みたいな美味しい奴を一人にする方が悪いんだよ。 今日はありがと。僕の名刺はジャケットのポケットに入れたから、また電話して。FBIさん」 マーティンはのろのろ立ち上がると、服を身に着けた。 拳銃とバッジを丁寧にしまいこむ。 「もう逢う事もないよ、それじゃ、さよなら」 マーティンはデレクのアパートを出た。 僕って、もう最低だ! タクシーの中で、マーティンはすすり泣いた。
二人は帰りにバターミルク・ワッフルと、食べ放題の寿司屋で食事を済ませた。 二人とも食べ過ぎてお腹が苦しい。帰るなり服を脱ぎ捨てソファにひっくり返った。 「お前なぁ、なんぼ食べ放題でもあんなに食べるなや。店のオヤジが嫌そうにしてたで」 「どうして?食べ放題なんだからいいじゃない」 「恥ずかしいやろ」 「全然。だって、ちゃんとお金払ってるもん」 「そらそうやけど・・。お前、金持ちのくせに細かいなぁ」 「はぁ?たくさん食べられるのが嫌なら食べ放題なんてしなきゃいいんだ」 マーティンは心外だと言わんばかりに口を尖らせた。
「ねー、タルト食べる?」 「いや、もう無理。お前まだ食べるん?」 「ん、食べる。一個だけ」 ダニーは呆気に取られたが、マーティンはベリータルトを取り出して食べ始めた。 「おいしいよ。本当に食べないの?一口だけでもどう?」 「いらんいらん、ほんまに無理や。お前はバケモンやな」 ダニーはマーティンのお腹に後ろから手を回すと、おもしろがりながら撫でた。 ちょうどTVでペット・セメタリーをやっていて、怖いついでにくっついたまま見る。
途中で眠くなったダニーは、マーティンから手を離すと立ち上がった。 「どこ行くの?」 「風呂。このままやったら寝てまうから」 「待って!置いてかないで!」 マーティンは慌ててTVを消すと自分も立ち上がった。 「一人で見といたらええのに。もうすぐ終わるで」 「いいよ、一人じゃ怖いから。僕も一緒に入る」 マーティンはしっかりと手を握った。ダニーは一人でゆっくり入りたかったが仕方ない。 手を引かれるままバスルームへ向かった。
深夜、マーティンは気分が悪くなって目が覚めた。 寒気がするくらいお腹が痛い。急いでトイレに駆け込んだ。 ダニーはベッドが大きく揺れて目が覚めた。ふと隣を見るとマーティンがいない。 「マーティン?」 「ダニー!あっあのっ、向こう行ってて」 「どうしたん?」 「いいから!」 なんや、あいつ、腹でも壊したんか? ダニーは訝りながらベッドに戻ったが、マーティンがなかなか戻ってこないので、もう一度様子を見に行った。
「おい、大丈夫か?」 「何でもない、何でもないから。痛っ!」 「お前、下痢でもしたんか?」 「・・・そう。恥ずかしいからあっち行ってて」 「わかった」 あんなに恥ずかしがることないのに・・・ ダニーはふふっと忍び笑いしながらベッドに戻った。
しばらくして青ざめたマーティンが戻ってきた。ぐっしょりと冷や汗をかいている。 「・・ダニィ、お腹痛い」 「だからやめとけって言うたのに。お前は食べすぎやねん」 ダニーは汗を拭ってやり、新しいパジャマを着せた。 「ちょっと横になり、顔色悪いで」 「ん、そうする・・・」 布団にしっかりとくるまったマーティンは横になると目を閉じたが、トイレ通いは朝まで続いた。
「なぁ、トロイに診てもらう?」 何度目かのトイレ通いの後、ダニーが訊ねた。 「ううん、全部出ちゃって大分マシになったからいい」 「そやな、たぶん消化不良やしな。ほら、これ飲み」 ダニーは温めたりんごジュースを渡した。マーティンは少しだけ飲んで様子を見ている。 「ごめんね、ダニーまで眠れなかったよね」 「オレはええねん、徹夜ぐらい平気やから。今日は休んで寝とき」 ダニーは冷や汗で湿った髪をくしゅっとすると、おでこにそっとキスをした。
ダニーは目を腫らして出勤してきたマーティンに目を留めた。 「どうしたん?眠れなかったのか?」 「ほっといてよ」にべもない。 ダニーは仕方なくマーティンの分のコーヒーをマグに注いで机に置いた。 一日、落ち込んでいるマーティンから目が離せない。 「今日、飯食わへんか?」 サマンサに聞こえるようにわざと大声でたずねる。 断れないじゃないか! 「良いけど」 「じゃあ、場所決めとき」 定時になって、のろのろ用意するマーティンをせかして、ダニーは二人で支局を出た。
「そんで、どこに行く?」 「ジャクソン・ホール」 マーティンの好きなバーガーを出す店だ。 クアーズ・ライトを頼み、店自慢のチーズバーガーとオニオンリングを頼んだ。 「なぁ、お前、今日どうしたん?嫌な事でもあったか?またニックか?」 「違うよ、ダニーだよ、アランとより戻したんでしょ」 「え?」 「言わなくても分かるよ」 「ごめんな。言葉もないわ。でもな別荘は共同名義になったで」 「それってこれからも二人でいるって証拠じゃん」
マーティンはビールをぐいっとあおった。 「そんなん分からんで」 「ウソつかなくてもいいんだよ。僕じゃ役不足なんだ。ダニーは大人がいいんだよね」 「おいおい、決め付けるなよ、さぁ、ポテト冷めるで、早く食べ」 「ごまかさないでよ」 ダニーはやれやれと思った。今日の機嫌はちょっとやそっとじゃ治らない。 ダニーはまたベッドでの奉仕を考えていた。また二回か・・。
「今日、お前と一緒に帰ろ。二人でゆっくり過ごそうや」 「まだ、僕と一緒にいてくれるの?」 「当たり前やないか、お前は俺の親友やで」 恋人じゃないんだ・・・マーティンはまた落ち込んだ。 ビールを次々と頼むマーティン。ダニーはそのままにしておいた。 ボンも頑固やから一度決めると、なかなか意見を変えへんからな。 ビールの飲みすぎでへべれけになったマーティンを支えて、 店を出るとタクシーを拾った。
マーティンのアパートに着き、スーツを脱がせる。 マーティンが腕を首に絡めてくる。 「ダニィ、抱いてよ」 「その前に水飲み」 マーティンは手渡されたコントレックスをがぶ飲みすると、またダニーに抱きついた。 「分かったから、もうベッドに行こうな」 マーティンを支えてベッドルームに入り、ベッドに寝かしつけた。 すぐに寝息をたて始めるマーティン。 こいつ、ほんまに寂しいんや。エドやニックじゃだめなんか? 俺はずっと二股か?
ダニーは、ソファーでコントレックスを飲みながら頭をかかえた。 携帯が鳴る。アランだ。 「ハニー、今どこだい?」 「大虎のマーティンを送ってアパートや」 「今日は来るか?」 「ごめん、今日はこいつと一緒にいるわ」 「そうか。ダニー、愛してるよ」 「俺も」 ダニーは、ソファーから立ち上がると、ベッドサイドにテイレノールとコントレックスのボトルを置いた。 スーツを脱いでトランクス一枚になると、マーティンの体に寄り添うように身を横たえた。
ダニーはシャワーを浴びると着替え始めた。 マーティンはベッドに寝転んだまま、着替えるダニーを眺めている。 「どうした、ボン?」 ネクタイを結んでいて気づいたダニーが鏡越しに尋ねる。 「ん、あのさ、やっぱり僕も行こうかな」 「やめとき。寝てないし、まだ顔色悪いで。また倒れたらどうするんや。それに、途中で下痢もらされても困るしな」 「もらすもんか!ひどいよ、バカ!」 マーティンはすっかり拗ねてしまった。恥ずかしいのか顔が赤くなっている。
「ごめんな。本気にすんなや、な?」 ダニーはほっぺに手を添えるとやさしくキスした。 じとっと見上げるマーティンはまだ顔が赤い。 「ほな、オレは行くから。トースト焼いて食べたらええわ。バターもジャムも禁止や。わかったな?」 「ねー、ピーナッツバターは?」 「そんなもん、あかんに決まってるやろ。下痢なんやから」 マーティンは渋々頷くとベッドに寝転んだ。
マーティンが眠っていると、ベッドが重みでへこんだ。 「ダニィ?」 「いいや、オレ」 驚いたマーティンはがばっと体を起こした。 「スチュー?何やってんの?」 「テイラーに頼まれて様子を見に来たんだ。鍵もあいつから預かった」 スチュワートはマーティンを寝かしつけると布団をかぶせた。
「下痢は?」 「なんとか治まったみたい」 「そっか。じゃあさ、パジャマ脱いで。薬を塗ってやるから」 「薬?」 「抗生物質と痛み止めの軟膏持ってきたんだ。ケツがヒリヒリして痛いだろ?心配ない」 「いいよ、お尻は痛くないから。それにさっきシャワー浴びたし」 本当は痛かったが、お尻に塗ると聞かされ、マーティンは慌てて断わった。
「いいから脱げ。オレは医者だぞ」 スチュワートは強引に脱がせると、足を大きく広げた。 アナルをじっくりと観察されて、マーティンは気が気でない。 「痛くないなんてウソつくなよ、かなり痛そうじゃないか。オレがイッた後みたいに赤くなってる。なんか卑猥だな」 にんまりしながらいやらしい感想まで言われ、羞恥で生きた心地がしない。 「いいから!塗るなら早くしてよ」 「わかった。力抜いて、そう、いい子だ」
「んっ!」 ひんやりした指がアナルに薬を塗りこんだ。思わず体が反応してしまう。 「マーティン、これは薬なんだぜ?オレの指を締めつけてどうするんだ?」 「ちっ、違うよ!スチューの指が冷たかったから・・・」 「そうか?こっちも勃起しそうなんだけどな」 マーティンの心とは裏腹に、ペニスが反応してしまう。
スチュワートは軟膏を足すと奥まで指を入れて前立腺をなぞった。 「あぅっ!んっ・は・・ぅ・・・嫌だ・・やめ・・・」 やさしく中を弄られ、マーティンのペニスは完全に勃起してしまった。 「やめようか?」 スチュワートは先走りの垂れた先端を左手で弄びながら尋ねた。 「んっ・あっあぁっ・・」 「やめなくてもいいのか?中がひくついてるぞ」 「だめっ!触んないで・・っ・くっ・・あぁー!」 アナルとペニスを同時に攻められ、マーティンは限界を感じたと同時に果てた。
荒い息を吐きながらぐったりしていたマーティンは、かちゃかちゃとベルトを外す音に気づいた。 「スチュー?」 「ごめん、我慢できないんだ」 スチュワートはいきり立ったペニスを取り出すと、マーティンの精液を塗りたくって扱きだした。 ペニスに塗られた精液が摩擦で白くなっている。ぬちゃぬちゃと音が響く。 「っ・・くっ・・うぅっ!」 スチュワートは苦しそうに呻くと射精した。 「はぁっはぁっ・・テイラーに怒られるな」 マーティンを抱きしめたスチュワートは照れくさそうにキスをした。
ダニーは背部に違和感を感じて目が覚めた。 マーティンがダニーに挿入していた。 「お、おい、お前!」 「だまって、いい気持ちにさせてあげるから」 スプーンポジションでダニーの半立ちのペニスに触ってくる。 すぐさまペニスは立ち上がった。 「うぅん、はぁ、ん、俺、もう出そうや」 「待ってて、僕もイクから」 マーティンは背後からゆっくりダニーの腰を持って前後動を繰り返すと、 スピードを速め、ため息をついた。
身体が小刻みに震えている。 「どうしたん?」 「ダニーが恋しいよ」マーティンは泣いていた。 「俺も同じやで、マーティン。誤解するなよ」 「信じていいの?」 「ああ、お前は大切な奴やから」 ダニーは恥ずかしがってピローに顔をうずめた。 マーティンは有頂天になった。 僕、捨てられないんだ!一緒にいられるんだ! 「早くシャワーに行こうよ!」 「今日は休みやないか、もっとゆっくりしよ」 「あ、忘れてた」 二人はまた眠りをむさぼった。
ランチになり、ダニーは手早くペンネ・アマトリチャーナとトスサラダを作った。 「野菜いらない」 嫌がるマーティンに無理やり食べさせる。 「お前、ちゃんと栄養バランス考えろよ」 「肉があればいいよ」 「それじゃあかんねん。すぐに、成人病になるで」 「はいはい、分かりました」 二人は爆笑する。以前の二人のようだ。
「今日、これからどうする?」 「俺、秋物買いたいからアルマーニ・エクスチェンジとオールド・ネイヴィーに行きたいわ」 「僕も一緒にいっていい?」 「ああ、ええで」 二人はカジュアルな服装で買い物に出かけた。 A/Xの店で「あら、二人おそろいで!」と声をかけられた。サマンサだ。 「サムも買い物?」 「うん、夏物のバーゲンやってるから。ねぇ、これから食事しない?私の友達も来るんだ」
二人は顔を見合わせた。 「そやな、予定もないし、行こか?」 「う、うん」 ダニーは臆しているマーティンの尻をつねった。 ダニーは、トライベッカの「ランドマーク」を予約した。 鍋いっぱいに供されるムール貝が有名なビストロだ。 サムと一緒に現れた友達はエディターのサリーだった。 「まぁ、お二人さん!お顔は何度かパーティーでお見かけしてるけど」 快活なサリーはしゃべりまくった。
「私の同僚のダニーとマーティン 」初めましてと改めて挨拶をする二人。 フォアグラのテリーヌにタコとトマトのカルパッチョ、ムール貝のワイン蒸しに シーフードリゾットと生ハムとルッコラのピザを頼む。 「それで、3人は毎日世間の悪と戦ってるわけだ」 エディターらしく質問が大好きそうなサリー。 「いや、俺ら、凶悪犯罪ユニットやないからな」 こくりとマーティンが頷く。会話は完全にダニーとサリーが舵取りしていた。
そこで女性二人がトイレに立つ。 「ねぇ、サリー、あの二人、どう思う?」 「仲よさそうね。年も同じ位?」 「ダニーの方が少し上」 「私、ダニーが気に入ったな」サリーが言った。 「私は前からマーティン狙いなんだ」 「それじゃ、タクシー作戦行く?」 「了解!」 化粧直しも終わって二人が戻ってきた。
「すっかり酔っ払っちゃった。今日は送ってくれる?ダニー?」 サリーがダニーにもたれかかるように尋ねた。 「あぁ、ええで。サリーはどこに住んでるん?」 「私、ミッドタウン」 「それじゃ、俺の帰り道やな、マーティン、サムを送ってき」 「うん、わかった」不安そうなマーティン。 二組は店の前で別れた。 タクシーの中でサリーはダニーの太ももに手を乗せると、キスをしかけてきた。 「おいおい、それはよしてくれ。俺には決まった相手がいるんや」 「たった一晩でもダメなわけ?」 「済まない。家までは送るから」 ダニーはサリーをタクシーから下ろすとやれやれと息をつき、マーティンに電話した。
「ダニィ、またサムが大虎になっちゃったよ」 「今、どこや?」 「さっきの店のワンブロック東のバーだよ」 「すぐ行くから待っとき」 ダニーはタクシーの運転手に行き先変更を告げて、トライベッカに戻った。 バーの前に着くと、道端でサムがげーげー吐いていた。 そばで水のボトルを持って立ち尽くすマーティン。 「ダニー!最悪だよ、動けないって」 「そやかてここに放り出すわけにはいかんやろ、家に送ろ」 吐き気が少し収まったところで、サムをタクシーに乗せる。
アパートに着くと、サムがまた道端で吐き始めた。 「何があったん?」 「何もないよ、サムが自分の事どう思うって聞くからさ、いい同僚だと思ってるって言ったら、 アルコールの量が増えちゃって」 「サム、お前に気があるからな」 「え。うそでしょ?」 「そんなん、お前が赴任してきたときからばればれやねん。お前、鈍感な」 「知らなかった・・」落ち込むマーティン。 「とにかく部屋に運ぼう」
バッグの中から鍵を見つけると、二人はサマンサをかついで部屋に連れ帰った。 ベッドに寝かせる。 「うぅ、気持ち悪い」 「まだ吐きたいか?」 「少し」 「マーティン、バケツかなんか持って来い」 マーティンはプラスティックのゴミ箱を持ってきた。 「これ、かかえ。今水持ってくるからな」 「うーん、眠りたい」 そう言うとサマンサは、静かになった。
「あーしんど。やれやれやな」 「僕の事、サマンサがそんな風に思ってたなんて知らなかった」 「お前は何しろヴィクター・フィッツジェラルドの息子やからな、 他にも狙ってる職員は多いで」 「え、信じられない!」 「まぁ、お前が女は無理なのは分かってるから、俺は安心やけどさ、さ、帰ろ。 お前んち泊まってもええか?」 「もちろん!」 二人は、流しのタクシーをやっと拾うと、アッパーイーストエンドに向かった。
ダニーがクリニックへ行くと、ジェニファーが受付で雑誌を読んでいた。 驚かそうと思ってこっそり近づくダニー。 「ジェニファーもサボるんやな」 「きゃあっ!」 ジェニファーは驚いて読んでいた雑誌を落としてしまった。 「あー、びっくりした。テイラー捜査官は心臓に悪いわね」 「ごめんごめん。はい、これ」 ダニーは雑誌を拾って渡した。
「トロイは診察中?」 「ううん、二時ごろに出て行ってそれっきり。今日は戻らないって」 「ふうん。ジェニファーは帰らへんの?」 「私は五時まで予約の受付しなきゃならないから。それで時間潰してたの」 「そっか。けど、もう五時過ぎてるで」 ダニーに言われて時計を見たジェニファーは雑誌をぱたんと閉じた。 「さてと、私も戸締りして帰ろう」 「あ、オレ手伝うわ」 ダニーはジェニファーと一緒に戸締りを確認してクリニックを出た。
「ほな、またな」 ダニーが地下鉄の駅のほうへ歩き出そうとすると、ジェニファーが引き止めた。 「乗らないの?」 「え?でも、オレ・・」 「大丈夫、ちゃんと場所は覚えてるから」 「いや、ジェニファーんちと方向がちゃうんちゃう?」 「いいのいいの、うちはトライベッカだから近いわ」 ダニーは礼を言って車に乗った。一緒に帰れるのが嬉しい。
ほんまにべっぴんやわ。今日もキスしたいな、したら怒るやろか・・・ ダニーは運転するジェニファーをじっと見つめた。今すぐ手をつなぎたい。 「なあに?」 「何でもない。きれいから見とれてるだけや」 「やめてよ、気が散るでしょう」 ジェニファーはダニーを見てくすくす笑うとまた前を向いた。 ダニーの左手は行き場をなくしてシートベルトをなぞっている。
「オレンジのフロッシュ、気に入っちゃった。いいの教えてくれてありがとう」 「ああ、うん。手にもやさしいからな。オレとおそろいやし」 どさくさに紛れてダニーはジェニファーの手を握った。 しっとりした手は一瞬逃げる素振りを見せたが、今もダニーの手の中に収まっている。 ダニーはドキドキしてきた。手のひらが汗ばんできたのが気になる。 汚いって思われたらどうしよう、そんなことばかり考えてしまう。
「何か買うならチェルシーマーケットに寄るけど?」 ずっと黙っていたジェニファーが不意に口を開いた。 「あ、いや、ジェニファーが行くなら・・・」 「それじゃ、ナスを買おうかな。今夜はムサカにしよう」 「じゃあオレも!」 「テイラー捜査官はムサカ作れるの?」 ダニーが頷くと、ジェニファーは賞賛の眼差しを向けた。 「今度ごちそうするわ、食べてくれる?」 すかさず誘うダニーだが、もちろん本気だ。ジェニファーは困ったように笑うだけだった。
カートを押すジェニファーにくっついて買物していると、なんだか本当に付き合っているような気分だ。 「ジェニファー」 「うん?」 「これいる?」 ダニーはナスとトマトとズッキーニをカゴに入れた。ジェニファーも同じものを買っている。 二人で肉を選んでいると、ヴィヴィアンが横に立っていた。 「ダニー、彼女と買物?」 「わっ、ヴィヴ!」 「仲良くお買物なんていいわね。私、急ぐからまた明日ね」 ヴィヴィアンは言いながら肉のパックをどさっとカゴに入れると行ってしまった。 ジェニファーは愛想良く手を振られて会釈を返している。
「私たち、恋人同士にみえたのかな」 「ごめんな、なんか勘違いしたみたい」 ダニーは謝りながら、朝一で口止めすることを考えていた。 買物を終えて車に戻ると、ダニーはもう一度手をつないだ。 「テイラー捜査官?」 「アパートまでの間だけ手つなぎたい。あかんか?」 「仕方ないわね、今日だけよ」 「ありがとう」 ダニーは嬉々として手の甲にキスをするとしっかりと手をつないだ。
アパートに着くと、降り際に思い切ってキスした。 殴られるのを覚悟で恐る恐る舌を入れたが、ジェニファーはじっとしている。 ゆっくり唇を離すと、目をじっと見つめ続けた。 ダニーが顔を近づけると、ジェニファーが目を閉じた。もう一度ゆっくりキスする。 なんか今日はチャンスみたいや。このままいけるかも・・・ ダニーは部屋に誘おうとしてマーティンが中にいるのを思い出した。 くそっ!あいつがいてるの忘れてた! ダニーは唇を離すと、送ってもらった礼を言って車を降りた。ジェニファーは黙って頷くだけだ。 車が見えなくなっても、ダニーはそのまま佇んでいた。
マーティンは、出勤すると愛想のいい女性職員が挨拶してくる度に、思わず身構えた。 僕、ゲイなんですってカミングアウトしたい位だ。 これまで全然気がつかなかったのに、ダニーのおかげで意識しちゃうじゃないか! そのダニーはサマンサと談笑をしていた。 「あ、マーティン、昨日はありがとね。お陰で助かった」 サマンサはまだ顔色が良くない。つらそうだ。
「サム、あまり飲まない方がいいよ」 「分かったわよ、じゃ仕事始めるから」 ぷいっと横を向くとサムがかたかたPCを操作し始めた。 女ってよく分からないよ!サム、なんか怖い! マーティンは、釈然としないまま席に座り、チョコクロワッサンをがっつき始めた。 ぽろぽろかけらが机や服やフロアに落ちる。 「また清掃係に言われるわよ」 「うん、ごめん」 ダニーは二人の会話をうつむきながら聞いていた。 まるで姉と弟やな。サムももうちょっかい出さんやろし。あいつ、バイかヘテロになれるやろか?まっさかな。 ダニーはなんとなく安心してPCに向かった。
午後になり、二日酔いがひどいサマンサは早退した。 「あれから、そんなに飲んだんか?」 「あぁ。バーでカクテル5杯」 「そりゃああなるわな。お前も止めんと」 「だって僕の言うことなんて聞かないんだもん」 「お前がすげない答えをしたんやろ」 「正直に言っただけだよ」 「そか、お前らしいわ。今日はデリでよければ、一緒に飯食うか?」 「うん!」マーティンの瞳が輝いた。 単純な奴っちゃなぁ、そこがめちゃ可愛いねんけど。
ダニーは先にオフィスを出て、ディーン&デルーカでローストチキンとかぼちゃの冷製スープ、 ビーフのトルティーヤとグリーンサラダを買い求めた。 「おかえりダニー!」 飛びついてくるマーティン。 「おい、料理がこぼれるで」 「ごめん!」 マーティンはデリの袋を受け取ると、キッチンで皿に取り分け始めた。 ワインはアランがお勧めのピュエリー・モンラッシェだ。 「こんな高いもん、ええの?」 「父から送られてきたからいいよ」 相変わらずの二人の生活の違いを実感せざるを得ないダニー。
「お前、俺みたいなどこの馬の骨とも分からん奴でもええんか?」 「だって両親が持ってくる見合い写真なんて興味ないしさ。ダニーが一番好きだもん」 耳まで赤くなってマーティンは答えた。 「お前、可愛いな」 「照れるよ!」 二人でソファーに移動し、「パイレーツ・オヴ・カリビアン」の第二作を見る。 「お前、これどうしたの?」 「違法サイトからダウンロードした」 「そりゃ、あかんわ。俺ら法の番人やで」 「だって、面白いんだもん。ダニーがXメンに連れて行ってくれないからさ」
あちゃー、すっかり忘れてたわ。 マーティンは画面に釘付けで気にしている風ではない。ダニーはほっとした。 ラストシーンになり二人とも怒り始めた。 「これじゃ、もやもやするやん!ジャック・スパロウは生きてるよな」 「当たり前だよ、主役だもん」 「お前は、ジョニー・デップとオーランド・ブルームどっちが好き?」 「うん?ジョニー・デップ。ダニーは?」 「キーラ・ナイトレー」 マーティンにクッションでばしばし叩かれる。
「痛い!早くシャワー浴びへんか?」 「うん!!」 二人は一緒にシャワーを浴びる。マーティンが唇を求めてくる。 ダニーは完全に受身だ。二人の立ち上がったペニスがこすれあう。 「あぁ、いい気持ちだよ、ダニィ」 「お前をもっといい気持ちにさせたる」 二人は濡れたままベッドに直行した。 ダニーはチャイナタウンで仕入れた軟膏をマーティンのアヌスに塗った。 「何これ?体の中が熱いよ」 「だまっとき。もっといい気持ちにさせたるで」
ダニーは正常位でマーティンは足を持ち上げ担ぐと、腰を押し進めた。 「あぁ、もっと奥まで!」 ダニーは渾身の力をこめて中に進めた。 「もう内臓飛び出しそうだよ、僕、イク」 「俺もや!お前が狭すぎて、もう我慢できへん!」 二人は前後して、射精すると、寝転び、顔を見合わせてにんまり笑うと、目を閉じた。
ダニーは気を取り直してインターフォンを押した。何度鳴らしても誰も出ない。 おかしいなぁ、マーティン寝てるんかな?オレの鍵はトロイが持ってるのに・・・ 訝りながらマーティンの携帯に電話してみた。 「・・・はい、フィッツジェラルド」 「オレや。お前どこにいてんの?」 「ダニーのベッドルーム」 「なんや、それやったら早よ下の鍵開けてくれ。ずっとインターフォン鳴らしてるやろ」 「ごめん、すぐ開けるね」 待っているとエントランスのロックが開錠され、ようやくアパートに入れた。
ドアを開けると、寝癖で頭くしゃくしゃのマーティンがだるそうに壁にもたれていた。 「おかえり」 「ただいま。具合はどうや?トロイは診てくれたか?」 「ん、なんとかへーき。もう体の中がからっぽだよ」 とは言うものの、マーティンの顔色は少し青ざめている。 ダニーは体を支えてやるとソファに座らせた。
「なんか食べるか?」 ダニーはチェルシーマーケットの紙袋をごそごそ漁ってリンゴを取り出した。 「ううん、さっきトースト食べたから」 「そうか。オレ、今日はもう寝るわな」 ダニーはジェニファーとのチャンスをパーにしたことがショックで、まだ引きずっている。 買ってきた食材を冷蔵庫にしまうと、シャワーはパスして歯磨きを済ませた。
ベッドに入ろうとするとスチュワートがタオルケットに丸まって眠っていた。 床に脱ぎ捨てた服が散らばっていてだらしない。 こいつ・・・・ ダニーは乱暴にスチュワートを押し退けると横になった。 目を閉じたもののなかなか眠れそうにない。 ジェニファーは今頃ムサカ食べてるんかな?くそっ、ほんまやったらオレと寝てたかもしれん・・・ やるせない気持ちで悶々とするうちに、いつのまにかうとうとしていた。
朝早くダニーが目を覚ますと、マーティンがぴったりとくっついたまま眠っていた。 反対側にはスチュワートが静かに眠っている。 二人を起こさないようにベッドから出て、キッチンで水を飲んだ。 夕食を食べずに寝てしまったのでお腹がペコペコだ。 ズッキーニのオムレツを焼いていると、スチュワートが起きてきた。 「おはよう、テイラー」 トランクス一枚のせいか、気まずそうにしている。 ダニーはおはようだけ言うと、フォカッチャにオムレツを挟んで食べ始めた。
「あれ?オレのは?」 「知らん」 ダニーは素っ気ない。知らん顔して食べ続ける。 「そんなに怒るなよ。な?」 黙っていると耳を舐められた。くすぐったくてフォカッチャが咽喉に詰まりそうになる。 「やめろや、こそばいやろ!」 「お前って耳が性感帯だったよな。気持ちいいだろ?」 スチュワートはにんまりしながらダニーのフォカッチャを一口かじった。 「あっ!勝手に食うなや。これはオレのんや」
二人がフォカッチャの取り合いをしていると、マーティンが起きてきた。 キッチンで争う二人を見て目を丸くしている。 「ねぇ、何やってるの?」 「お前の取り合い」 「え?何それ?」 「何もない。朝メシ作るから待っとき。トロイも向こう行け」 「サンキュ、テイラー。オレのはズッキーニ多めだぞ」 「ああ、わかったから、早よ行け」 ダニーは二人をキッチンから追い出すと、オムレツに取り掛かった。
ダニーは支局に着くと、廊下でヴィヴィアンが来るのを待った。 「おはよう、ダニー」 「おはよう。昨日のことやけど、マーティンやサムには内緒にしてくれへん?」 「それはかまわないけど。あの子、きれいな子だね。もう付き合って長いの?」 「いや、そんなには・・」 「お似合いだったわよ。今度会ったらきちんと紹介してね」 「ああ、うん。とにかくみんなには内緒にしてな」 「はいはい、誰にも言わないから安心して」 ヴィヴィアンは笑いながらオフィスに入っていった。 出くわしたんがヴィヴでよかった・・・ほっとしたダニーは大きく息を吐くと自分もオフィスに戻った。
ダニーの二重生活が始まった。 どうしてもマーティンがAAミーティングに行く日を心待ちにしてしまう。 マーティン、ごめんな。 定時に机を片付けるマーティンを見ながら、ダニーは心の中で謝った。 今日は久しぶりにアランと外食だ。 ダニーがプラダのスーツを着てきたのを気にしていたのか、マーティンが声をかける。
「今日は外食?」 「あぁ、そや」 「アランと?」 「そや」 「ふうん」 「お前かてエドと食事やろ。楽しみ」 「うーん」 マーティンは暗い顔をして出て行った。 やれやれや。ボンは世話が焼ける。 フェデラルプラザを出ると、グリーンのジャガーが停まっていた。 「ありがと、待たせてごめん」 「いいさ、今日は「ノブ」に予約を取ったから」 「え、あんな高いとこ」 「久しぶりの外食じゃないか。いいだろ、ハニー」 ダニーは頷くしかなかった。
バーコーナーでドン・ペリニオンを開ける。ほどなくテーブルに通される。 回りはアランのようなハイクラスのビジネスマンばかりだ。 ダニーは自分がパトロンに連れて来られたガキになったような居心地の悪さを感じた。 オイスターシューターと刺身の盛り合わせ、銀だらの西京焼き、季節野菜の天麩羅とマツタケの釜飯を頼む。
シャンパンを飲み終え、二人は日本酒に変えた。 「今日は特別に東京の地酒がございます」 ソムリエが裏メニューを説明してくれる。 「それにしよう」 「トウキョウでも酒造ってるん?」 「そうらしいな、楽しみだ」 二人は喜正という地酒を楽しんだ。ヘンな雑味がなくすっきり飲める。 結局、二合トックリを3本お代わりして、すっかりいい気持ちになった。 グレープフルーツシャーベットで口をすっきりさせて、「ノブ」を後にした。
「今日は、ブルックリンに帰るかい?」 「帰るわけないやん!」 ダニーはアランに寄りかかった。 家に帰って、コントレックスをごくごく飲む二人。 「あぁ、もうシャワーだるい、俺、パス!」 「僕もだ、ベッドに行こう」 二人はぱっぱとスーツを脱ぐと裸でベッドに入った。 いつの間にか69の姿勢をとっていた。 ちゅぱちゅぱという湿った音がベッドルームにこだまする。
「あぁ、俺、もう、もたへん、口の中でイっていい?」 「あぁ、おいで」 ダニーはアランの口の中に存分に精をぶちまけた。 ごくりと音をたてて飲むアラン。 「俺にも来て!」 「もうすぐだ、んん」 アランはダニーの頭をかかえると喉の奥底までペニスを入れては出すを繰り返した。 「うぅ、んん、もうイク」 アランも射精した。飲み下すダニー。二人は、ディープキスをした。 「うわ、俺らのザーメンが混じった味がするわ」 けらけらダニーが笑っている。
その笑顔を見ながら、アランも幸せそうな笑みを浮かべた。 このままこの子と一生を遂げたい。そんな気持ちが日増しに強くなる。 ダニーがふと静かになった。寝息が聞こえる。 見ると子供のようなあどけない寝顔でダニーが胸を上下させていた。 アランは、冷蔵庫からコントレックスを取り出して、ベッドサイドに置いた。 この幸せがどうか続きますように。アランも目を閉じた。
167 :
fusianasan :2006/09/05(火) 12:38:16
感想掲示板って他にあるんですか?
>>167 さん
感想については、皆さんここに書き込んで下さっています。
感想掲示板は特に設けていません。
本スレ・関連スレへの感想書き込みはご遠慮頂いています。
よろしくお願いします。
今日は久しぶりにマーティンは外回りを言いつけられた。 パートナーはサマンサだ。マーティンに緊張が走る。 サマンサが「私が運転するから」とキーを受け取り、運転席に乗った。 「サマンサ、あのさ・・」 「もうこの間のことは忘れて!お酒の上での出来事だから。さぁ、今日も張り切って行くわよ!」 以前と変わらない態度で接してくれるサムがありがたかった。 マーティンは少し気が楽になり、サマンサの運転に任せた。
ランチになり、マーティンがホットドッグを買ってくる。 車の中で食べる二人。 「ねぇ、ダニーに恋人がいるって知ってた?」 「え?」 「サリーがね、この間タクシーの中で迫ったらしいんだけど、見事に玉砕したって。 キスも許してくれなかったって」 「そうなんだ」マーティンは何となく誇らしく思った。 「ダニーって、ちゃらんぽらんしているように見えて、私生活は謎のままよね。 幼少時代の苦労は知ってるけど、それでもロースクールまで出てFBIに入局したんだから、すごいわよね」 サマンサは真剣に感心している。 僕みたいにコネで失踪班に異動してきた奴とは違うんだ。
「ダニーはすごいよ。僕、とても追いつけない」 「がんばんなさい!副長官の息子でしょ!」 それを言われて余計に傷ついたマーティンだった。 僕には常にその肩書きがついて回るんだ。早く独り立ちしたいのに。 聞き込みは空振りに終わり、二人は夕方、オフィスに戻った。 ダニーが珍しく報告書を書いている。 「おう、どうやった?」 「収穫ゼロ、今回は難航するかも」 サムがだるそうに髪の毛をかきあげた。思わずドキッとするダニー。 サムも女っぽいな。いかん、いかん、俺には決まった人がいるって設定や。
マーティンが、カンティーンで買ってきたシュガードーナッツをがっついている。 「マーティン、粉砂糖がこぼれてる!」「本当だ!」 騒いでいる二人を尻目に、ダニーは報告書の仕上げにかかっていた。 皆が帰宅した後、やっと仕上がり、ボスのオフィスに提出する。 席に戻ると、マーティンがコーヒーをマグに注いで、渡してくれた。
「お、サンクス、気が利くやん」 「まあね」 「スーツに蟻んこたからんようにせいよ」 「聞いてたの?」 「あんな大騒ぎ、聞かんようにしようと思っても無理や」 「ねえ、今日、ご飯食べようよ」 「あぁ、ええで、疲れたから外食な」「うん」 二人はアッパーイーストサイドの「ハイデルベルグ」に出かけた。 マーティンの好きなドイツソーセージがたんまり食べられる店だ。
盛り合わせソーセージにアイスバイン、ザワークラウトを頼み、ピルスナーで乾杯する。 「お前さ、ほんまアル中治ってよかったな。俺なんて7年以上かかったで」 「ダニーとエドのおかげだよ」 「そんで、うまくいってんのか?エドと?」 「うん、まぁね。LAの企業と業務提携したんだってさ」 「まったく世の中は不公平やな、成功者はどんどん上に上りつめられる。俺なんかまだ底辺や」
「ダニーはFBIにずっといるつもり?」 「あぁ、ゆくゆくはボスみたいに管理職になってチームを率いたいな」 「ダニーがボスなんてかっこいいね。僕、部下になるよ!」 「バカ言え、その頃、お前はもうDC本部でとっくの昔に管理職になってるで」 「そうかなぁ。ねぇ、もし、それでもずっとこのままの関係続けていけるよね?」 「長距離か?難しいんちゃう?」 ドライに言い切るダニーにマーティンは傷ついた。
「じゃあ、僕、ずっとNYに残る。っていうかダニーが異動するところに着いていく!」 「副長官が何て言うか、考えるのも恐ろしいわ」 ダニーはピルスナーを飲みながら考えていた。 俺に異動辞令が出ることもあるんやろうな。アランと別れるのは絶対に避けたいのに。 ダニーは目の前のマーティンそっちのけで、アランに思いをはせた。
177 :
fusianasan :2006/09/06(水) 11:11:07
書き手1さん、書き手2さん、 この小説が始まってもう1年が過ぎましたね。毎日の書き込みお疲れ様です。私は 本スレに書き手1さんが小説を書き始めた頃からのファンでこちらに移動してじっ くり小説を読める事を喜んだ一人です。ドラマと違う展開に感動しながら楽しく毎 日読んで、時には拙い感想を書いては書き手さん達のお返事を貰って喜んでいます。 これからも是非続けて行って欲しいと願っています。
ダニーはべろんべろんに悪酔いしたマーティンをアパートに送り、アランのアパートに戻った。 アランは、ジム・ノペディーを聴きながら、ブランデーを飲んでいた。 「おかえり、ハニー」 「あぁ、疲れたわ」 「今日もマーティンかい?」 「あぁ、あいつヘンな事ばっかり言うねん、ほんま疲れるで」 ソファーに座っているアランにもたれかかるダニー。
「なぁ、アラン、俺がもしNYから異動になったらどないする?」 「当たり前だろ、着いていくさ」 即座の答えにダニーは嬉しさが隠せない。 「アラスカでも?」くすくす笑いながらダニーが尋ねる。 「あぁ、アラスカだろうがワルシャワだろうが北京だろうが、どこでも行くよ」 「アラン、大好きや!」 「ばかだな、そんな心配してるのか?」 「うん」 「可愛い子だ。今日は一緒にバブルバスに入ろう」
二人はベルガモットのバブルバスにゆっくりつかり、お互いの体を洗いっこした。 段々、手の動きが愛撫に変わっていく。 「ベッドに行こうか?」 「うん、でも俺、今日疲れた」 「僕もだ。今日は静かに眠ろうな」 「うん」 二人はベッドに全裸で入り、お互いの体に触れ合っていたが、そのうち、どちらも寝息を立て始めた。
朝になり、ダニーが目を覚ますと、アランが先に起きていた。 キッチンからいい香りがする。 「おはよう、ハニー、シャワー浴びなさい」 「おはよ、うん」シャワー後、ダイニングに着く。 フレンチトーストとコーヒーが並んでいた。 フレンチトーストの上にはクランベリーとクリームも載っている。 「メープルシロップかけるだろ?」 「うん、たっぷり」 アランのフレンチトーストは絶品だ。
ダニーはスーツに着替えて、「ほな行ってくる」と出て行った。 アランは昨晩の会話を考えていた。 自分は本当に今のNYでの生活を捨てて、ダニーの赴任地に越せるだろうか。 これは一つの踏み絵だな。 コーヒーをすすりながら、新聞に目を落とすアランだった。
支局につくと、マーティンが近寄ってきた。紙袋を持っている。 「昨日、迷惑かけたら、これレーズンマフィン」 「ありがとな、気にせんといいのに」 「でも悪いから」 ダニーはフレンチトーストで満腹だったが、マーティンに気を遣って、マフィンを食べ始めた。
ダニーはランチをスキップし、「タレコミ屋に会う」という名目でオフィスを出た。 夏の暑さの中にもそよ風が秋の訪れを感じさせる。 一通り、タレコミ屋をあたり、新しい情報がないか探るが、収穫はなかった。 ミッド・タウンのスターバックスで一休みしていると、肩をたたかれた。エリックだ。 「一休み?」 「あぁ、お前は?」 「これから仕事。ねぇ、今日は早番なんだけど、この間の借り、返してくれない?」 エリックの事だ、マーティンやアランに何を言うか分からない。 「あぁ、分かった。お前が上がる頃、ブルー・バーに行くわ」 「やったぁ!それじゃ、後でね!」ダニーは頭をかかえた。 俺って不運な奴。
仕事帰り、ブルー・バーに行くとすでに私服に着替えたエリックが待っていた。 「早いな?」 「今日は早退だよ、だってダニーと過ごせるんだもん」 エリックのミッドタウンのアパートに行く。 とびきりのモヒートを作ってくれたので、それを飲みながら、落ち着かないダニー。 「お前、俺の体が欲しいんやろ、早くせいよ」 「ロマンチックじゃないなぁ、ちゃんと前戯から入ろうよ」 エリックがダニーのジャケットを脱がせ、シャツに手をかける。
はだけると、乳首にキスを施す。すぐに硬くなる乳首。 「感じてるんでしょ、ほら、こんなになってる」 ダニーのパンツの前に触れ、ふくらみに満足そうな笑顔を見せるエリック。 「もうええやろ、ベッドに行こう!」 ダニーはぱっぱと服を脱ぐと、ベッドに横たわった。完全にまぐろ状態だ。 エリックはそんなダニーのペニスを口に含むと十分な硬さになったのを確かめ、 ローションを自分に塗って跨った。
「あぁ、ダニー、すごい力強いよ!こんなのないよ!もっと突いて!」 ダニーは早く終わらせようと、下から猛烈な勢いで突きまくった。 「あぁ、んん、すごい、イク!」 ダニーの腹にエリックの精液がかかる。 うわ、止めてくれ! ダニーはエリックの体を押しのけると、シャワールームにこもった。 自分の屹立したペニスに手をやり、無理やり射精する。
シャワーから上がると、エリックが傷ついた顔をしていた。 「そんなに俺のこと、嫌い?」 「そんなんやない、俺には決まった人がいてるから」 「その人が羨ましい。あの赤毛っぽい人?」 「お前には関係ないやろ」 「じゃあ、ダークブロンドの人?」 「お前、よう見てるなぁ」 「人間観察が仕事だからね、きっとダークブロンドの人なんだ。幸せだね、あの人」 「あぁ、俺も幸せや。なぁ、絶対にこの事言うなよ」 「うん、プロだからその辺は安心してくれていいよ、ダニーはいいお客さんだし」 「じゃ、俺帰るわ」 「また、寝てくれる?」 「考えとくわ」 ダニーはアパートを出て、タクシーを拾い、ブルックリンに戻った。
>>177 さん
本当に長い時間が経ちました。毎日のぞいて頂いていてありがとうございます。
本放送は来週で一区切りですけれど、こちらは出来るだけ続けていければと思います。
これからもよろしくお願い致します。
ダニーはフルートのカウンターでドライ・マンハッタンを飲んでいた。 誰かが入ってくるたびに、ジェニファーではないかと入り口を見てしまう。 あほや、オレ・・・ 自嘲気味に酒を啜りながらため息をつく。 また誰かが入ってきたが、ダニーは意識してそっちを見るのをやめた。
「ダニー!よかった、ここにいたんだ」 マーティンがうれしそうに隣に座った。早速ダイキリをオーダーする。 「もしかしたらと思って寄ってみたんだ。会えてよかった」 「ああ、うん」 ダニーは気のない返事を返すとお代わりを頼んだ。
「ねぇ、僕、何か怒らすようなことした?」 不安げにじっと見つめるマーティン。 ダニーはかぶりを振ると差し出されたドライ・マンハッタンを煽った。 「本当に?」 「ああ、ちょっと酔うてんねん。ただそれだけや」 ダニーの言葉に安心したのか、マーティンは大きく頷くとグラスを手にした。
アパートに帰ると、ダニーは玄関のドアを閉めるなりマーティンを壁に押しつけて唇を貪った。 「なっ、何?どうしたのさ?」 「ええから黙っとけ!」 荒々しく服を脱がせながら、自分のベルトを外して圧し掛かる。 ダニーが少し触れただけで、マーティンのペニスは勃起した。
「嫌だよ、ダニー」 「そんなん嘘や。お前も欲しいんやろ?」 触られながら指摘され、マーティンは慌てて勃起したペニスを手で隠した。 ダニーは後ろを向かせて挿入しようとしたが、マーティンが痛がって入らない。 「ごめんな、今日はやめよか」 「ううん、したいんでしょ?してもいいよ」 マーティンは甘えるように抱きついた。
二人はベッドに移動した。ローションを塗って少しずつ挿入する。 ダニーはさっきとは打って変わってやさしく腰を進めた。 「ああっ・・・あぅっ・・ふっ・・」 マーティンのよがり声を聞きながら、焦らすように嬲るうちに自分も興奮してきた。 昂ぶった気持ちをぶつけるように突き上げると、マーティンが足を絡めてくる。 「ああっ、ダニー!僕出ちゃう!」 マーティンは背中を仰け反らすと射精した。
「気持ちよかったか?」 こくんと頷くマーティンの頬をなでると、ダニーは両膝を掴んで腰を振った。 目を見つめたまま何度も挿入をくり返し、うっと呻いて中に射精した。 荒い息をしながら隣に横たわる。 ふと見るとマーティンが心配そうに見つめているのに気がついた。 口を開こうとするのを制してキスすると、腕枕をして髪をくしゃっとした。 マーティンはおとなしく腕の中にいて、胸に顔を埋めている。 ダニーは心の中で謝りながらぎゅっと抱きしめた。
>>177 いつのまにか一年が過ぎてたんですね。
毎日読んでいただいてるなんて感謝です。感想もとても励みになってます。
これからもよろしくお願いいたします。
ダニーはマーティンと組んで、聞き込みをすることになった。 「このところ、解決率が低いと上から強く言われている。気を引き締めてかかれ」 ボスのキツイ言葉に二人とも身を硬くする。 「ボスもつらいねんな、俺らがんばらにゃ」 ダニーが車に乗るなりマーティンに話しかける。 「うん、ダニーがここのボスになるためにもがんばらなくちゃね」 皮肉交じりにマーティンが返す。 この間の会話から、二人はかみ合っていなかった。
「なぁ、お前、何怒ってるんや、俺さっぱり分からん」 「ダニーのばか!鈍感!僕の気持ちなんて全然考えてないでしょ!」 「そんな事ないで、お前は大事な奴やから」 「本当?」 「お前、それより今は捜査や、ボスにどやされたくないやろ」 ダニーはやれやれと思った。ダニーには理由は分かっていた。 だが、自分にも優先順位がある。残念ながら今はマーティンが最優先ではないのだ。
聞き込みをするうち、失踪者が多額の負債をかかえてサラ金から追いかけられていたのが分かった。 「自殺かな?」 「可能性は高いな、嫌な予感がするわ」 ダニーがヴィヴに電話する。病院かモルグに該当がないか再度調査を頼む。 1時間後、ヴィヴから連絡が入った。 ダニーの予感通り、失踪者は睡眠薬自殺死体としてモルグに届けられていた。
「気持ちが凹むね」 「あぁ、とりあえず帰ろう」 ボスへの報告書はヴィヴが上げてくれていた。 二人は手持ち無沙汰でオフィスをうろうろしていた。 ボスが見かねて、「もうお前たちは帰れ」と言ってくれた。まだ陽は高い。 「これから、どうする?お前?」 「アイスクリームが食べたい」 「はぁ?」 マーティンに請われて二人はバスキン・ロビンスに入った。
女学生たちがぎょっとして二人を見上げている。 ダニーはチーズ&ラズベリー、マーティンはチョコチップバニラを頼んで席につく。 「ねぇ、ダニーのも食べさせて」 「あぁ?ほら」 二人はカップを交換した。女学生たちが二人を見てくすくす笑っている。 「まるでこれじゃ、ゲイのカップルやな」 ダニーはわざと大声で笑った。マーティンは複雑な顔をした。 だって僕、ゲイだもん。いいじゃん、ゲイのカップルだって!
「何や、マーティン?」 「何でもない」 また機嫌損ねたわ。こいつ段々難しくなってくな。 ダニーは次の手を考えた。 「今日は俺が飯作ろうか?」 「本当?」 「あぁ、久しぶりやろ、俺の飯」 「うん!」 マーティンが目の色を変えた。 イーライズで食材を物色するダニー。マーティンはカートを押して嬉しそうだ。 「ステーキにしよか?」 「最高!」
ダニーはリブロース肉2枚と茄子、ズッキーニ、ジャガイモ、アンディーブとセロリをカートに放り込んだ。 マーティンはワインセラーでワインを選んでいた。 マーティンのアパートに着くと、ダニーは早速準備に取り掛かる。 リブロース肉をオリーブオイルに漬けている間に茄子、ズッキーニ、ジャガイモを蒸して温野菜を作った。 アンディーブとセロリでサラダを作り、ワインヴィネガーとブラックペッパーのドレッシングも用意した。
突然、ぴとっと背中に張り付くマーティン。 「どないしたん?」 「だって、何にもしゃべってくれないんだもん、寂しいじゃん」 「あほ、準備に集中してたんや、ほな肉焼くで」 マーティンは少し離れてダニーの手元を見ていた。 「やっぱりあのレストラン・プロジェクト、考えなおそうかな?」 また夢見る王子の始まりや!
ダニーは「そやな」と軽く返事をして、肉に赤ワインを振りかけた。 「さて、出来たで」 マーティンはコッポラのロッソを用意していた。 「それじゃ、かんぱーい!」 今日一日の不機嫌がウソのように直ったのを見届け、 ダニーはほっとして、赤ワインに口をつけた。
朝起きると、マーティンがじっと覗き込んでいた。 「ん・・おはよう。いつ起きたん?」 「ついさっき」 「そんなに顔ひっつけんな、気色悪い」 「何だよ・・バカ」 「ウソウソ、お前、オレの寝顔に見とれてたんやろ」 ダニーはあくびしながら寝癖でくしゃくしゃの頭に手を乗せた。 茶色い髪に指を絡ませながら頬に手をやると、マーティンが手を重ねてきた。
「ダニィのこと好き、本当だよ」 「わかってる、オレもや」 「本当に?」 マーティンは目が合うと不安そうな視線を返してくる。 「ああ。お前のことが大切やねん、ほんまやで」 ダニーはマーティンの手にキスしてから口にもキスした。 「さあ、用意しよ。遅れるで」 「ん」 二人はもう一度キスを交わすとベッドから出た。
ダニーが仕事中に視線を感じて振り向くと、マーティンが慌てて書類に視線を落とした。 あかんわ、あいつオレのこと怪しんでるみたいや・・・ ダニーは普段どおりに見えるように自分を偽った。凹んだ表情なんて見せられない。 チョコバーをかじっているマーティンにちょっかいを出すと、うれしそうにけたけた笑い出した。 思ったとおりの反応が返ってきたことにほっとしながらも、罪悪感は全然消えない。 それどころか、さらに騙しているようで気が引けた。
仕事を終えたダニーは、一度はフルートに行きかけたものの、行くのをやめてジムに行った。 ばしゃばしゃ泳いでいると何もかも忘れられそうな気がする。 雑念を振り切りたい一心でがむしゃらに泳いだ。 へとへとになってジュースバーでバナナミルクを飲んでいると、アーロンが隣に座った。 「やあ、ダニー。さっきはあんまりにも真剣だったから声をかけそびれちゃった」 「そうなん?自分では適当なつもりなんやけどなぁ」 「すごいじゃない、無意識なのに真剣なんてさ。僕も見習わないとね」 アーロンは屈託なく笑うと一気にジュースを飲んだ。 なんとなくだが、プロテイン入りに違いないとダニーは思った。
「今夜さ、シャイニング見ない?ほかにも友達からいろいろ借りたんだ。夏ももう終わりだし」 「そやな。死ぬほど怖いのもええかもしれん」 ダニーはぼそっとつぶやいた。 「え?そこまで怖いのはないかも」 「いや、ええねん。よっしゃ、行こか」 ダニーは勢いよく立ち上がるとカップをゴミ箱に捨てた。
アーロンはアパートに着くとマーティンを呼ぼうと言ったが、ダニーは残業だと嘘をついてごまかした。 今日はこれ以上気を遣いたくない。ただ気楽にホラー映画を見たかった。 スナックを食べながら並んで見ていると、アーロンが時々顔を手で覆って怯えていた。 こいつ、筋肉バカやのに怖がりて笑える・・・ ダニーは怖さよりも可笑しさがこみ上げてきた。 「大丈夫か?手、繋いでもええよ」 「あ、ありがとう、助かるよ」 アーロンはダニーの手をしっかり握り締めると体をぴったり寄せた。 必要以上にくっつかれて戸惑ったが、ダニーは何も言わずに見続けた。
ベッドで請われて2回も射精したダニーは、だるい身体を引きずるように、セントラルパークを横切った。 合鍵でアランのアパートに入る。書斎から光が漏れていた。 「ただいまぁ」 メガネ姿のアランが現れた。 「遅かったな」 「捜査で残業や、飯食った」 「僕も済ませたよ」 「アランは論文?」 「いや、ドクター・フリーの掲示板だ」 まだ相談掲示板やってたんや。
「アラン、働きすぎやで」 「お前こそ。まだしばらくかかるから、先に寝てるといい」 「うん、そうする」 アランに済まない気持ち一杯になりながら、シャワーでマーティンの匂いを消す。 ベッドに入るなり、ダニーはすぐ眠りについた
毎度の事ながら、アランが先に起きて、朝食の準備をしてくれている。 「今日はオフィスで食べるかい?」 「あぁ、そうするわ」 ジップロックに入ったバゲットサンドを渡され、ソフトアタッシュに入れる。 「ほな、行ってくる」 「あぁ、気をつけて」
ランチタイムの休憩中、アランの携帯が震えた。見覚えのない番号だ。 「はい、ショア」 「ドクター・ショア?FBIのジャック・マローンです」 「はい」 「実は、テイラー捜査官が撃たれまして、今、市立病院のERにいます。 あなたに連絡するように言われましたので」 「え?重度は?」 「右腕ですが貫通しています」 「すぐに病院に行きます」 アランは午後の患者全員に連絡を取り、キャンセルの詫びを入れると、ジャガーを飛ばした。
ERに行くとトムが待っていた。 「来る頃だろうと思ったよ。ダニーは無事だよ。貫通していたし、動脈から逸れていたから、出血も少なかった。腱にも損傷はない」 「会えるか?」 「あぁ、寝てるがね」 治療室に入ると、マーティンが座っていた。目が真っ赤だ。 ダニーは麻酔でぐっすり眠っていた。
「あ、アラン」 「どうしてこんな事に・・」 「誘拐犯との銃撃戦に巻き込まれた。僕が代わればよかったんだ・・・」 「君は悪くないだろう、さぁもう僕が来たから仕事に戻ったらどうだ?」 「でも・・」 「ダニーが目を覚ましたら、君もいた事を話しておくよ」 「はい・・」 なすすべもなく、治療室から出てきたマーティン。 あふれる涙を袖でぬぐって、病院を後にした。
夕方になり、ダニーが目を覚ました。ベッドの隣りの椅子でアランが居眠りをしている。 「あ、アラン」 「わぁ、ハニー、目を覚ましたんだね、気分はどうだ」 「ぼーっとする」 「幸い傷は大したことはないよ。といってもお前の利き手だから不自由はするだろうが」 「いつ来たん?」 「昼ごろかな」 「プラクティスは?」 「全部キャンセルしたよ」 「そんなん、俺、平気やのに」 「バカ!お前が撃たれたと聞いたら、生きた心地がしなかった」
二人が話していたら、ボスが見舞いにやってきた。 「ダニー、大丈夫か?」 「ご心配おかけして、すんません」 「大事に至らないでよかった。ドクター・ショア、付き添いありがとうございます?」 「親代わりですから」 二人の目線が交錯する。 「無理しないで、十分に養生してくれ。ドクター・ショア、お願いしてもいいですか? 奴は一人暮らしなもので」 「それはもう。ご安心ください」 「それじゃ、私は帰るよ」 「ボス、すんません」 「お前に落ち度はない」 ボスは去っていった。
「じゃあ、しばらく我が家で養生だな」 「ええの?」 「そんな手じゃ着替えも満足に出来ないだろう?家にしばらくいなさい」 「うん」ダニーは安心したようにまた目を閉じた。トムが入ってくる。 「抗生物質の点滴が終わったら退院だ。どうせお前の家なんだろう?」 「ああ、悪いな」 「安心だよ、寂しいけどな」 アランは点滴が終わるのを待って、ダニーをアパートに連れ帰った。
「明日、ベッドをレンタルするから今日は一緒のベッドでいいか?」 「うん」 「お前の命に何かあったら、僕も命を絶つよ」 「そんな、アラン・・」 「本気だよ、ハニー」 アランはダニーにパジャマを着せると、額にキスをした。 「眠りなさい。鎮痛剤と睡眠薬だ。ほら飲んで」 ごくんと飲み下すダニー。やがてダニーは目を閉じた。
「アーロンは誰かと付き合ってへんの?」 二人で次のDVDを選びながら、ダニーはふとたずねた。 「うん、今はね。でも好きな人はいるんだ」 「そうなん。相手もゲイ?」 「ううん、バイ。何度か寝たけどなかなか心を開いてくれなくて・・」 アーロンは寂しそうに笑った。端正な顔が切なそうに曇っている。 「片思いってほんま辛いよな」 ダニーはジェニファーを想いながらつぶやいた。
「ダニーは?誰かと付き合ってるの?」 「オレ?オレは一年ぐらい付き合うてる相手がいてる」 「へー、その人と結婚するの?」 「いや、わからんけど。たぶんそれはないと思う」 ―相手言うても、マーティンは男やねんから結婚は無理やわ・・・ 疲れたダニーは断ってソファに寝転んだ。 二人はそれっきり黙ったままミザリーを見たが、頭の中はそれぞれ別のことを考えていた。
ミザリーが終わるころには、ダニーはすっかり眠くなってしまった。まぶたが重い。 「ダニー、こんなところで寝たら腰にくるよ。今夜は泊まっていきなよ」 「ほな、悪いけど泊めてもらうわ」 アーロンはダニーをゲストルームに案内してくれた。きちんとしていていかにも清潔そうだ。 ダニーが早速ベッドに横たわると、アーロンがもうひとつのベッドに座った。 「ダニーが嫌じゃなきゃ、僕もこの部屋で寝てもいいかな?」 「ええよ。あー、わかった!怖いんやろ?」 「まあね」 アーロンは照れくさそうに笑っている。ダニーはおやすみと言うと背を向けて目を閉じた。
翌朝、ダニーがマーティンのアパートまで歩いていると、前からマーティンが走ってきた。 腕時計を見ていて、まだダニーには気づいていない。 「ボン、おはよう。ジョギングか」 「ダニー!こんなとこで何やってんのさ!」 「昨夜ジムでアーロンに会うてな、遅くなったから泊めてもうたんや。」 へらへら笑うダニーをマーティンはじとっと見つめた。
「・・ねぇ、あいつに何かされたんじゃないの?」 「されるか!オレはヘテロの男やで。何もないって」 マーティンはまだ疑うように見つめたままだ。 「何もないって言うてるやろ。あいつもな、好きな人がいてるんやて。オレ、先に帰 るわ。お前はまだ走るんやろ?」 「ううん、それじゃ僕も帰る」 マーティンはタオルで汗を拭うと、ダニーと一緒に歩き出した。
二人でシャワーを浴びていると、マーティンがいきなりダニーのペニスを口に含んだ。 「あっ、おい、マーティン!」 引き離そうとする手を押さえつけたまま、マーティンは亀頭に舌を這わせた。 「んっ・・は・っ!」 ここまで来るとダニーは抵抗しないのを知っている。 何度も頭を上下させて扱くと、ダニーの足がガクガクしてきた。 「んんっ・・あぁっ・・イク!」 ダニーはマーティンの口内に大量に射精すると荒い息を吐きながら壁にもたれた。
マーティンはうれしそうに精液を飲み込むと、ダニーに抱きついた。 「ダニィ」 「お前って心配性やな。アーロンとなんか寝るわけないやろ」 髪をくしゃっとしながら呆れたように言われても、マーティンはしがみついたままだ。 ダニーは苦笑しながらキスをして抱きしめたが、それだけじゃ足りない気がして耳を噛んだ。 「痛いよ」 「あ、ごめん」 「でももっとして」 「・・あほ」 ダニーはさっきより強く耳を噛むと、愛してるとささやいた。
二人がスターバックスに行くと、入り口でアーロンと一緒になった。 「やあ!昨日は楽しかったね。今度は三人で見ようよ」 アーロンはマーティンににっこりと笑いかけた。マーティンは仏頂面のまま返事もしない。 「そやな、今度は三人で見よか」 ダニーは取り成すように答えた。マーティンとの約束を破ったのできまりが悪い。 「アーロンはカフェラテやろ?ボンはカプチーノやんな?オレが買ってくるから待っといて」 ダニーは二人を残して列に並んだ。
「ねぇ、ボンって呼ばれてるのってかわいいね。どうして?」 「お前には関係ないだろ!僕に話しかけんな!」 マーティンはそっぽを向いたが、アーロンが何かと話しかけてくる。 「うるさいな!お前には好きな相手がいるんだろ?そいつと話してろ!」 アーロンはしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。
「・・君だよ。僕が好きなのは君だ」 「え・・・」 驚いたマーティンはアーロンを見つめた。 物憂げな表情で見つめ返され、どきっとする。 ― 何なんだよ・・・どうなってんの、こいつ? マーティンはちらっとアーロンを見て目をそらした。
「お待たせ、朝は混むからかなわんな。はい、アーロン。ボンも」 ダニーは二人にコーヒーを渡すと、自分のダブルエスプレッソを啜った。 「あっ、お金」 「ええって、そんなん。昨日のお礼や。ほなボン、行こか」 ダニーはぼけっと突っ立っているマーティンを促した。 「う、うん・・」 マーティンがドアのところで振り返ると、アーロンが軽く手を上げた。 見なかったことにして無視すると、そのままダニーの後に続いて店を出た。
「ねぇ、あいつの好きな人の話ってどんなの?」 気になったマーティンは聞かずにいられない。ダニーに知られたらおしまいだ。 「バイで何回か寝たんやて。相手が心開けへんってしょげてたわ」 「そうなんだ・・」 「あいつ、ヴォーンみたいでかっこええのにな。あの顔はもてるで。 でも何回も寝てるんやから、相手もまんざらでないかもしれんな」 ダニーは想像したのか、卑猥な笑みを浮かべている。 ―僕は好きで寝たんじゃないよ、ダニーのバカ・・・ マーティンはにやけるダニーと適当に話しながら、心の中でつぶやいた。
アランの家での養生生活が始まった。早速マーティンが見舞いに来た。 アランは歓迎して、一緒にディナーを食べることになった。 「ダニーは何食べてます?」 「普通の食事だよ、右手が使えないから、スプーンで食べられる食事だけどね」 「アランが口に運んでいるとか?」 「あぁ、仕方がないじゃないか。妬けるかい?」 「はい、すごく」 アランはからからと笑った。 「君は本当に正直者だね。だからダニーが君に惹かれるんだろう」 マーティンはダニーとの仲も容認した上で付き合っているような、アランの発言にショックを受けた。
「アランはいいんですか?僕が、その、ダニーと親しくしても」 「二人は親友だろう?僕にも20年来の親友がいるから、そのあたりは理解しているつもりだ」 「そうですか・・・」 こんな大人には太刀打ちできないよ。 マーティンは打ちひしがれた。 いっそのこと、まだ寝てるって告白してやろうか。でもそんなことしたら、ダニーに嫌われるだけだ。 マーティンの心は逡巡した。
するとダニーが起きてきた。寝癖で髪がぴんぴん立っている。 「どうした、ハニー?痛むのか?」 「ううん、おう、マーティン、来てたん?アラン、俺、小便」 「分かった、マーティン、すまないね」 一緒にバスルームに入る二人。もうマーティンは見ていられなくなった。 涙があふれ始めた。 「あのー、僕、帰ります!」 バスルームに声をかけると、そのままアパートを出た。
ふらふらとアッパーウェストサイドを歩く。 僕、すごく寂しいよ。 思わずエドに電話をかける。 「マーティン!今、どこ?」 「ウェストサイドの方。これから行ってもいい?」 「うん、もちろん!待ってるね!」 エドがはにかんだ笑顔で迎えてくれる。 マーティンはほっとしたように部屋に入った。
「また、仕事してたの?」 「まぁね、他にやる事ないし」 エドはテーブルに広げた書類を片付けると、クアーズライトの瓶を持ってきた。 「どうしたの、しょげてるね」 エドがマーティンの様子に気がついて尋ねた。 「うん、あのさぁ、ダニーが腕を撃たれてね、見舞いに行ったとこ」 「え?大丈夫なの?」 「傷は大したことないって。でも利き腕だからさ、今、アランと一緒に住んでるよ」 エドはマーティンが凹んでいる理由が分かり、マーティンの肩を抱いた。
「寂しいんじゃない?」 「そんなことないよ」 「隠さなくてもいいよ、僕にはウソつかないでよ」 エドがいつになく真剣な様相で言うので、マーティンはひるんだ。 「ごめん、ウソついた。寂しいよ」 「僕が忘れさせてあげる、ね、マーティン」 エドがマーティンの顔を自分の方へ向けると優しくキスを施した。 マーティンの方から舌を絡めてディープキスに変える。
二人はお互いの衣服を脱がせ合って、ソファーで身体を重ねた。 ペニスがこすれあって立ち上がり始める。 「ねぇ、ベッドに行こう」 「うん」 エドは、マーティンの身体を横たえると、ペニスを口に含んだ。 いつもよりねっとりした愛撫に、思わずマーティンが唸る。 「ん、はぁ、いい・・」 玉も丹念に舐め、裏筋から先端までをついばむように舐め上げる。 「あぁ、もう、出そう」 「待って。僕に入れてよ」
エドは、自分でクリームを後ろに塗ると、四つんばいになった。 マーティンがエドのアヌスにぐいっと挿入する。 ダニーと違ってスムーズに入る。 いけない!比べちゃってるよ、僕! マーティンはむしゃぶりつくようにエドの腰に手を添えると、前後に動かし始めた。 「あぁ、マーティン、すごい!僕、イク!」 エドが背伸びして身体を震わせた。 ぐったりしたエドの身体をなおも前後させ、マーティンも射精し、エドの身体に重なって倒れた。
ダニーがオフィスに復帰した。肩から吊った三角巾が痛々しい。 早速、ボスのオフィスに呼ばれる。 「しばらくは内勤だな」 「俺、大丈夫っす」 「そんな無理言うな、運転もできないくせに」 ボスが苦笑する。 「足は丈夫っすから」 「とにかく内勤だ」 ダニーはすごすごと席についた。
ランチタイムになり、ダニーはアランに持たされたタッパーウェアを取り出した。 コーヒーコーナーにある電子レンジで温めていると、サマンサがやってきた。 「うわ、手作りランチだ!ダニーの彼女って尽くすタイプなのね」 「照れるやん」 「中身は何?」 「さて、何やろな」 開けてみるとトマトソースのペンネが入っていた。 「すごく食べやすそう。いい彼女ね、ご馳走様!」
ダニーが席に戻ってパスタを食べ始めると、マーティンがじっと見ていた。 「何、お前も食いたい?」 「いや、僕、外に行ってくる」 急いでマーティンは席を立った。 毎日、あんなの見せられたらたまらないよ! カフェでフォカッチャサンドをがっついていると、「よう、FBI君」と声をかけられた。 見上げるとデレクがにやにや笑っていた。 「何だよ」 「ご挨拶だなぁ。そうかフェデラルプラザ近いもんな、このへんが島なのか」 「うるさいよ」 「僕のオフィスも近いんでね、また会うかもな」
最悪だ。あんな奴に会うなんて! マーティンは、残りのフォカッチャをテイクアウトにしてもらうと、早々にオフィスに戻った。 席につくと、ダニーがもたもたしているのが見えた。 タッパーがアタッシュに入らないらしい。 「入れてあげるよ」 「お、サンキュ」 「ねぇ、おしっこ大丈夫?」耳元でそっと尋ねる。 「それがな、練習したら片手で出来るようになったで。お前も試してみい」 屈託なく笑うダニーの笑顔がまぶしい。 「そのうちにね」 マーティンは席に戻って、残りのフォカッチャにがっついた。
定時になり、マーティンはダニーを食事に誘った。 「ごめんな、今日、初日やから保護者が迎えにきてんねん」 「あぁ、そうなんだ」 「じゃあ、また明日な」 「うん、明日」 マーティンが下に降りると、ちょうどグリーンのジャガーにダニーが乗り込む姿が見えた。 マーティンはアパートに帰り、デリバリーピザをビールで流し込んだ。 すべてが虚しく思えて、自然と泣けてくる。 こんなにダニーの事が好きなのに、どうして神様は僕の思い通りに人生を動かして下さらないんだろう。
ベランダで嘆いているマーティンの視線の先には、アランのアパートがあった。 ダイニングで、アランにダニーはパエリアを食べさせてもらっていた。 「ほら、あーんして」 「照れるで、これ」 「じゃあ左手で食べるかい?またこぼすよ」 「いや、食べさせて」 ダニーは口をあーんと開けた。
「今日は何のパエリア?」 「鳥のミンチとズッキーニを白ワインで蒸し煮にしたんだ、どうだい?」 「すごく美味い!」 「良かった。ハニーのその顔で僕は満腹になりそうだ」 「なぁ、まだシャワーしちゃあかんのん?」 「あぁ、今日も身体を拭いてあげるよ」 「うん」ダニーはにやにやした。 「何にやけてるんだ?」 「俺がガキの頃、風邪ひいておかんに拭いてもらってたのを思い出した」 「そうか、いいお母さんだな。家は乳母にまかせっきりだった」 「おかん、どうして自分で拭かへんの?」 「さぁな、ほら、あーん」
アランは話題を変えた。 両親から愛情を注がれた記憶がないのだから仕方がない。 そばにはいつも姉のジャネットがいてくれた。 覚えているのはそれだけだ。 「明日のランチは、これをリゾットに作りなおしたのでもいいかな?」 「うん、サムがな、俺の彼女は尽くすタイプなのねって言ってた」 「はは、彼女か。迷惑かい?」 「ううん、アラン、大好きやもん」 ダニーはアランにもたれかけて、胸に顔をこすりつけた。
二人がカフェでランチを食べていると、マーティンの携帯が鳴った。 「あっ、スチューだ。ちょっとごめんね」 マーティンは断りを入れると話し始めた。 ダニーは何気に聞き耳を立てる。 マーティンはあいまいな返事を返して電話を切った後でダニーを見た。 「何や?」 「ん、今夜からニュージャージーに行こうって」 「行ったらいいやん。オレはかまへんで」 マーティンは居心地が悪そうにもじもじしている。
「あのさ、ダニーも行かない?」 「はぁ?それってデートやろ?オレが行ってどうすんねん」 ダニーは一笑に付すとパニーニをかじった。 「だってさ、ダニーはこんなの嫌でしょ?僕は自分がフェアじゃないから気になるよ・・」 「なんでやねん。黙ってたら卑怯やけど、トロイとのことはオレも知ってるんやから問題ないやん」 そう言われても、マーティンはまだ申し訳なさそうにしている。 「ええから行ってき。お土産頼むわ。あ、ヘンなんはいらんで」 マーティンはようやくこくんと頷くと、スチュワートに電話して行くと伝えた。
定時になり、マーティンとスチュワートを送り出したダニーは 携帯を取り出すと大きく深呼吸してから電話をかけた。 「はい、パリセイドメディカルクリニックです」 いつものようにジェニファーが電話に出た。ダニーの心拍数は一気に跳ね上がる。 「あ、あのFBIのテイラーですけど・・」 「こんにちは、テイラー捜査官。診察のご予約ですか?」 「いえ、あっ、はい・・いや、違う」 ジェニファーはおかしそうにくすっと笑った。
「どうしたの?いつもと違う人みたい」 「いや・・今日会われへんかな?」 ダニーは思い切って誘った。ジェニファーが微かに息を呑んだのが聞こえる。 「ええ」 「ほんま?オレ、今から行くから待っててな」 よっしゃー!!! ダニーは人目も憚らずガッツポーズすると、ブリーフケースを引っ掴んで走り出した。
クリニックに着くと、ジェニファーが待っていた。 「はぁっはぁっ・・お待たせ・・」 「大丈夫?そんなに慌てなくてもいいのに」 呆れながら背中を擦られ、ダニーは顔が赤くなった。 ―オレ、なにやってねん!ガキみたいや・・ 恥ずかしくて言葉もない。 ジェニファーはハンカチを取り出すと、ダニーの顔の汗を拭った。ますます赤くなるダニー。
「はい、これ飲んで」 ジェニファーは自販機でミネラルウォーターを買うと渡してくれた。 「・・ありがとう」 ダニーはキャップを外すと、一気に半分ぐらい飲み干した。 冷たい水のおかげでようやく落ち着く。
「なぁ、ごはん食べに行こか?」 ジェニファーは少し躊躇したものの頷いた。 「どこか行きたいとこある?何でもええで」 「そうね、トライベッカとその周辺以外ならどこでも」 「わかった」 地域を限定される煩わしさも二人だけの秘密を共有するようで、今のダニーにとってはひたすら楽しく思えた。
ダニーの三角巾が取れた。 厚い包帯がまだ痛々しいが、右手が自由に使えるようになり、ダニーは早速ボスに直訴した。 「もう、外回りしてもええでしょ?」 「本当にいいのか?」 「はい!」 「じゃあ、内勤を解く」 「ありがとうございます!」 席に意気揚々と戻るダニーにヴィヴィアンが声をかけた。 「いよいよ完全復帰だね!」 「そうや、これからが俺の出番やで、ヴィヴァリーナ!」 ふふふと笑ってヴィヴィアンは去っていった。
マーティンがマグにコーヒーを注いで運んでくる。 「はい、復帰おめでとう、ダニー」 「お、気が利くやん、サンキュ」 「今日は一緒に夕飯食べない?」 「あぁ、ええな」 「それじゃ、場所決めとくね」 マーティンは嬉しそうに自分の席に戻っていった。 廊下に出てダニーはアランに電話をかけた。 「今日は職場で夕飯食うことになった。早めに帰る」 サマンサがくすくす笑っている。 「もうすっかり新婚気取りなんだから、ダニーったら」 「そんなんじゃあらへん」思わず顔が赤くなる。 「いつ彼女を紹介してくれるの?」 「今度な」 ダニーは急いでトイレに入った。
やばい、やばい、サムの事や、絶対に覚えてるで。どないしよ。 用を足して席に戻ると、マーティンから地図のメールが届いていた。 アッパーウェストサイドの「ローザ・メキシカーノ」だ。 アランと何度も行ったことがあるが、そんな事は言えない。 ダニーはマーティンの肩に手をかけると「ありがとな」と告げた。 嬉しそうな顔をするマーティン。 こいつ、どうしてこうも素直なんや、俺、他の男と一緒に住んでるんやで。 ダニーはうしろめたい、複雑な気持ちになった。
定時に仕事が終わり、二人でタクシーに乗る。 「まだ痛いんでしょ?」 マーティンが右腕にそっと触れる。 「もう、それほどでもないで。アルコールも解禁や」 マーティンはそのまま手を下ろすとダニーの手をぎゅっと握った。 「もう撃たれないでね」 「あぁ、こんなん不便なのはごめんやで」 「僕、生きた心地がしなかったんだから」 「世話かけたな、ありがとう」
レストランに着き、名物のざくろのマルガリータで乾杯する。 山盛りのワカモレディップとチップスをつまみながら、マーティンがさくさくとオーダーを決めた。 ダニーにはシーフードのファヒータがありがたかった。 こいつ、いつもがっつり肉ばかりやもん。 ソフトタコス、チーズエンチラーダスと食べ終え、シーフードファヒータの番だ。
「ダニー、切ってあげるね」 「おう、ごめんな」 烏賊や海老やサーモンを小さく切って皿に盛ってもらう。 マーティンは嬉しかった。 僕、役に立ってるよ! ワインを1本空けて、二人ともいい気持ちだ。 マーティンがダニーをアパートに誘おうとすると、ダニーの携帯が震えた。
「ごめん、はい、テイラー。うん、大丈夫、近所やから歩いて帰る」 ダニーは済まなさそうな顔をして電話を切った。 「保護者からや」 「分かってる。送り届けるよ」 「歩いて帰れるから大丈夫やて」 「僕の責任だもん」 マーティンはダニーのソフトアタッシュを片手に持ち、自分のバックパックを背負うと歩き始めた。 アパートのブザーを押す。 「マーティンです」 セキュリティーが解除され、二人で中に入った。
「もうここでええよ」 「いや、部屋まで行くよ!」 固辞するマーティンの勢いに押されて、ダニーはだまってエレベーターに乗った。 アパートのドアを開けてアランが待っていた。 「やぁ、マーティン、ありがとう。寄っていくかい?」 「いえ、結構です」 二人の視線が交錯する。 「ありがとな、マーティン」 「また明日ね、ダニー」 マーティンは毅然ときびすを返し、エレベーターに乗った。 僕だってダニーを大切に思ってるんだ!絶対に負けないぞ!
ダニーはマーティンと外回りを始めた。 マーティンの運転に、ダニーはどきどきしながら乗っていた。 「お前、右に寄りすぎやで!」 「そうかな」 「ほんまに大丈夫か?俺のがええんと違う?」 「だめだよ、まだ痛いんでしょ?」 失踪した自動車修理工の勤めていた工場を訪れる。 「うわ、なんか不法就労者みたいなのばっかり」 マーティンがひるんだ。
ダニーが車を降り、流暢なスペイン語で次々に皆に話しかける。 マーティンも慌てて車を降りて後を追った。 「ビザのブローカーとトラブル起こしてたみたいやで」 マーティンは嫌な思い出が蘇った。 メキシコ移民の子供の耳を削いだ犯人を射殺した一件だ。 「お前、大丈夫?」 「うん、平気。じゃ、ブローカーを当たろう」 教えてもらった住所にいるはずがない。 見張りをしている下っ端を脅して、居場所を吐かせる。
「どうする、突入するか?」 「ダニー、大丈夫?」 「あぁ、平気やで」 二人はボスの指示を仰いだ。突入だ。小汚い倉庫街の一室がアジトらしい。 ダニーは正面、マーティンは背後に回った。 「FBI!出て来い!」 二人が同時に飛び込む。部屋の真ん中には椅子にくくりつけられた失踪者が気絶していた。 ブローカーの姿はない。二人は倉庫の中を見て回った。 「クリア!」 ダニーがボスに連絡する。 「失踪者無事に確保!」 救急車を呼び、やってきた職員と交代する。
「やれやれやな」 「解決できて良かったね」 「俺は複雑やねん。あそこのブローカー、キューバ移民専門や、俺の故郷やもん。あいつを逮捕したかった」 「そうか・・ごめんね。軽はずみなこと言って」 「お前のせいやないで」 ダニーは車に乗り込むとマーティンの前髪をクシャっとした。 「それより、行こか?」 「え、どこに?」 「モーテルに決まってるやん」 「ダニィ」 「お前も欲しいんやろ、俺もや」
マーティンは、前に二人で来たモーテルに車を停めた。 無愛想な主人が鍵を渡してくれる。 部屋に入るなり、ダニーは、マーティンを壁に押し付けてキスをした。 膝でペニスを触るとすでにびんびんに立っている。 「お前のここ、嫌らしいなぁ」 「ダニィのせいだよ・・」 マーティンはダニーの服を注意深く脱がせると、ベッドに寝かせ、自分も服を脱いだ。
マーティンは、すぐにダニーのペニスに飛びついた。 「あぁ、んんん、お前の口が嫌らしくてたまらんわ、はぁん」 「行っちゃやだよ!僕の中に来てね」 「もう我慢できへんわ、お前乗って」 マーティンはダニーの上に跨った。ロデオのように前後左右に身体を揺らす。 「あぁあ、マーティン、すごいで、こんなん初めてや、俺、もう出る・・」 ダニーは身体をのけぞらすと痙攣しながら射精した。 マーティンは満足そうな顔を浮かべて、ダニーの目を見つめながら、自分のペニスに手を添えて、 満足げに射精した。
「さ、シャワーや、急ぎ」 二人はあたふたとシャワーを浴びた。 「ねぇ、これからも、こんなに急いでするのばかりなの?」 車に乗り込むなり、マーティンが尋ねた。少し傷ついた顔をしている。 「腕が治ったら、もっとゆっくりしような。前みたいに」 「本当だね?」 「あぁ、本当や」 「分かった」 マーティンは鼻歌を歌いながら、車を発進させた。 ダニーはやれやれと思った。 アランとマーティンか、俺、身体持つんかいな。
いつも楽しみに読んでいます。 書き手2さんへ、スチュワート萌えなのでもっと出番を増やして下さい。
チャイナタウンもリトルイタリーもソーホーもやばい。 二人は結局いつものフルート@ミッドタウンに行った。 金曜日なので店内は混雑していて、順番待ちの列までできている。 「今日はあかんな、出よう」 ダニーはさりげなくジェニファーの手を引いてバーを出た。
車の中で次の店を相談したものの、なかなか思い浮かばない。 「難しいな、こういうの慣れてへんから」 困ったダニーが言うとジェニファーも頷いた。 「なぁ、うちで何か食べよか?その・・嫌じゃなかったらの話やけど・・」 「テイラー捜査官のお手製ムサカとか?」 ジェニファーはいたずらっぽく笑った。 「それじゃチェルシーマーケットね?」 「そやな」 二人は顔を見合わせて笑うと、どちらからともなく手をつないだ。
チェルシーマーケットでのダニーは、自分でも恥ずかしいぐらい舞い上がっていた。 カートを押すジェニファーとただ並んで歩いているだけなのに嬉しくてたまらない。 ジェニファーが手に取ったものは何でもカートに入れたい気分だ。 トークショーでのろけてソファに飛び跳ねたトム・クルーズをバカにはできない。むしろ共感すら覚える。 ―マーティンがトロイと出かけててよかった・・・ ジェニファーの横顔を見てにんまりしながら、ダニーはスチュワートに心底感謝した。
「さあ、どうぞ。汚いとこやけど入って」 ダニーはドキドキしながらジェニファーを部屋に案内した。 ジェニファーは物珍しそうに室内を見ている。 「あら、きれいにしてるのね。テイラー捜査官が掃除するの?」 「まあ、一応」 「男なのにえらいなぁ。あっ、これ、かわいい!集めてるの?」 ジェニファーはキャビネットの上の飛行機を手に取るとおかしそうにダニーを見た。 「うん。欲しかったらあげるで」 ジェニファーはもらっても飾れないからと、元の場所に戻した。 なんとなく視線が交錯してお互いに気まずい雰囲気になる。微妙な空気だ。 ダニーは気まずさを払拭するために、国内線の副機長のジョークを言った。 ジェニファーはダニーの二の腕をぺちぺち叩きながら爆笑している。
一通り室内を見学した後で、ダニーはムサカ、ジェニファーはクラムチャウダーに取り掛かった。 並んで料理していると、ジェニファーが手際の良さを褒めてくれた。 抑えようとしても照れ笑いが出てしまうのが情けない。 ダニーはムサカをオーブンに入れると、料理しているジェニファーをじっと眺めた。 「・・ん?なに?」 「いや、ジェニファーがいてるやなんて夢見てるみたいやなって思って」 「バカね。味見してくれる?」 ジェニファーがスプーンを差し出したが、ダニーは受け取らずに口を開ける。
ジェニファーは仕方ないというようにクラムチャウダーを食べさせてくれた。 「どう?」 「まずっ!」 「えーっ!まずい??!」 「ウソでしたー!めっちゃおいしい」 「もうっ、テイラー捜査官たら!どうしようって本気で焦ったじゃない」 ジェニファーはそれでも恐る恐る味見をしている。心配そうな表情が新鮮だ。 見ているダニーのペニスは既に半分勃起してしまっていた。気づかれないかひやひやする。 「ねぇ、これ本当においしいって思う?口に合わないんじゃないの?」 「いいや、ほんまにおいしいで。ごめんな、オレがしょーもないこと言うたばっかりに」 ダニーは謝るといそいそとスープボウルを渡した。チャウダーを入れてもらうと早速テーブルに運ぶ。
丁度ムサカもこんがりと焼け、二人はテーブルに着いた。 「いただきます」 ダニーはチャウダーを、ジェニファーはムサカをまず口に運んだ。 一口食べた二人は顔を見合わせた。同時においしいと言ったのが可笑しくて吹き出す。 「ちゃんと作れるって言うたやろ。信じてなかった?」 「ごめんね、冗談だと思ってた」 「オレって信用ないねんな」 苦笑いするダニーに、ジェニファーはチコリのサラダを食べさせた。 ダニーはおとなしく食べたが、本当はチコリは大嫌いだ。
食事を終えた二人は、ライトを消すとアイスティーを手にベランダに出た。 「きれいね、リバーカフェみたい」 ジェニファーは夜景を見ながらうっとりしている。 ダニーはそっと肩を抱くとゆっくりと顔を近づけてキスした。 遠慮がちに舌を挿しいれるとおずおずとした反応が返ってくる。 ぎこちないディープキスを交わしていると、ジェニファーの携帯が鳴り響いた。
「ごめんね、出なきゃ」 ジェニファーは室内に戻ると携帯に出た。ダニーはベランダ越しに様子を見守る。 「はい・・・うん、今リッツォーリにいるの。・・・うん、そう・・・」 ―なんや、ダンナか・・・あんな風に話すんや・・・・ 聞いていて辛くなったダニーは後ろを向いた。わかっていたはずなのに胸が痛い。 夜景が急に色褪せて見えた。
>>273 ご感想ありがとうございます。
また考えてみますね。
オフィス・ミーティングの途中、マーティンの携帯が震えた。 「ちょっと失礼」 席を立つマーティン。ダニーがそれとなく様子を伺っていると、マーティンが微笑んで話している。 エドか、ニックやな。 ミーティングが終わり、ダニーはマーティンをちょいちょいと指で呼び出すと、トイレに入った。 「そんで、エドか、ニックか?」 ダニーは単刀直入に切り出した。
「うん、ニック。会わせたい人がいるんだってさ」 「またひどい目に遭わされるやないんか?」 「もうそういうのはなしだよ、大丈夫」 マーティンは用を足して、出て行った。 俺の心配は何や!全く、ボンの奴! ダニーはドアを左手でバンと叩いてトイレから出た。
定時になり、待ち合わせ場所の「ザ・モダン」に行くと、ニックがボーイッシュな女性と座っていた。 思わずマーティンは身を硬くした。 「やぁ、お姫様、来てくれてありがとな、こちらアリソン・パーカー。俺の新しいエージェント」 「初めまして、アリソンです。あなたが匿名:MFさんなのね。お会いできて光栄です」 マーティンは思わず顔を赤くした。
「とりあえず乾杯しようぜ」 ニックはドン・ペリニオンを頼んでいた。 一体、何のつもりだよ! マーティンは訝った。 「アリソンはニューヨーク大で美術史を専攻して、ホイットニー美術館のキュレーターをしてたんだ。 俺の作品を気に入ってくれて、引き受けてくれたんだよ」 「ニックの作品には、その人の内に秘められた秘密や過去や苦悩、喜怒哀楽が瞬間凍結されたみたいに収められてるから、 気に入ったの」 「ふうん、そうですか」 三人でグラスを合わせる。
「お前に俺が言いたかったのはな、アリソンは、その、お前の仲間だってことだ」 「うん?どういうこと?」 「私、ゲイなの。ニックは素晴らしい男性だけれど、そういう意味では関心がないってこと」 「へ?そうなんだ」 マーティンは拍子抜けした。 「安心したろ、お前が気に入ってくれないと、これから困るからさ」 「あらためて、よろしくお願いします。マーティン」 「こちらこそ、アリソン」 マーティンはやっと手を差し出した。アリソンとおずおずと握手をする。
プリフィックスメニューを食べ終えて、アリソンは「それじゃ、後はお二人でごゆっくり。 ニック、ベルリンの個展の話進めるから、また連絡するわ」とタクシーで去っていった。 「誰に会うのかと思ってどきどきしちゃったよ」 マーティンはほっとため息をついた。 「アリソンならいいだろ?仕事ぶりは言うことなしだ。俺もナタリーで懲りたよ」 「そうだよね。いい人っぽい感じがする」 「それよりも、お前、今日は家に来るだろ?」 ニックのムスクの香りがマーティンの気持ちを刺激する。 「うん、寄る」 マーティンは断ることが出来なかった。
二人はフェラーリでニックのステューディオに戻った。 「お前を抱きたかったよ!」 ニックはスーツを剥ぎ取るように脱がせていく。 「僕、汗臭いよ」 「なんだよ、そんなの気にするかよ」 ニックは首筋に噛み付くと、マーティンをベッドルームに連れて行った。 「なぁ、今日は、俺に入れてくれないか?」 「え、ニック、いいの?」 「あぁ、お前の全部が知りたい」
ニックはマーティンのペニスに手を添えると、前後に動かして硬くした。 先走りの液がねちゃねちゃ音を立てる。 「お前のここ、でかいな」 「ねぇ、ローション貸して」 マーティンは、いつになく攻撃的に自分のペニスとニックのアヌスにローションを塗布すると、 乱暴にニックをうつぶせにした。 「いつものお前じゃないみたいだ」 ニックが甘いため息をつく。
四つんばいにさせると、前戯もなくずぶっと挿入した。 「うわ、痛て!」 「大丈夫?」 「あぁ、優しくしてくれよ、お姫様」 マーティンはゆっくり抜き差しを繰り返し始めた。 ニックが「あぁん、うぅ、んん」とよがる声が響く。 その声に興奮したマーティンは、速度を速めてニックの奥まで突っついた。
「あぁ、出る!」 ニックが身体を震わせた。 マーティンは、ニックがイったのを確認してやっと自分も射精した。 ニックの身体も最高だ、こんなに気持ちがいいなんて。それに、僕の事、気にかけてくれてる。 マーティンは荒い息を整えながら思った。 僕、三股かけてるよ。どうすればいいんだろう。
「帰るん?」 「ううん、もう少しいる」 ダニーは何も言わずにただぎゅっと抱きしめた。 「テイラー捜査官?」 「テイラー捜査官なんて嫌や。ダニーでええねん」 「だめよ、そんなことしたら本気になっちゃう」 「本気になってくれ」 ダニーはがばっと抱きしめると激しく唇を重ねた。もう自分を抑えられない。
ダニーは、そのままジェニファーを抱きかかえるとベッドまで運んだ。 キスしながら服の上から胸に手をやると、ジェニファーが目を閉じて身を委ねた。 ダニーはどきどきしながら順番に服を脱がせていった。意外に小さな胸をしている。 ジェニファーが胸を隠そうとする手をつないで押さえつけると、夢中で愛撫する。 興奮しきったペニスはこれ以上ないぐらいに勃起していて痛いぐらいだ。 最後に本気で女を抱いたのはいつだったかも思い出せない。 ダニーは壊れ物を扱うようにやさしく労わるように抱いた。
果てた後も離れるのが嫌で、そのまま抱きしめ続けた。 何度もキスしてからようやくペニスを抜く。 コンドームを始末して隣に横たわると、ダニーは恐る恐る手をつないだ。 「・・ごめんな」 「どうして謝るの?お互いさまでしょう?」 ジェニファーはダニーの体にもたれかかると、胸に手を置いた。 「すごいドキドキしてる」 「だって、ジェニファーが触ってるんやもん。嫌でもドキドキするわ」
ダニーは自分もジェニファーの胸に手を置いた。 「ジェニファーもドキドキしてるで。オレらおそろいやな」 「ねえ、胸が小さいからがっかりしたんじゃない?」 「全然。そんなん気にせんとき」 ダニーは甘えるように乳首を口に含んだ。くすぐったがるのがおもしろくて、赤ん坊のように吸いつく。 観念したジェニファーはダニーの頭をやさしくなでた。
「テイラー捜査官」 「テイラー捜査官じゃなくて、ダニー!」 「それじゃあ、ダニー、そろそろ帰らなくちゃ」 「そんなん嫌や」 「困らせないの!」 ジェニファーはつないだ手を離すと身支度をし始めた。ダニーはぼんやりとそれを見つめる。
「ジェニファー」 「ん?」 「また会える?」 「いい子にしてたらね」 「オレ、子供やないで」 二人はふふっと笑うとキスを交わした。
マーティンは日中、ぼけっとしていてボスの叱責を浴びた。 「お前、どうしたん?」 ダニーが心配して寄ってくる。 「ちょっと考え事。大丈夫だから」 それでも浮かない顔のマーティンが心配でならなかった。 定時になり、荷物を片付けているマーティンに声をかける。 「ボン、飯でも食わへん?」 「あぁ、いいね」 二人は、コリアンBBQに出かけた。ダニーが気を遣っての計らいだ。
「上カルビと、上ロースと、はらみと牛タン塩を頼みます。あとサンチュも」 ダニーが適当に頼むが、マーティンは関心がないようだった。 「どうした?今日は肉がっつりやで!」 「うん、ありがと」 ビールを飲み始めても、マーティンの元気が回復しない。
「お前、ヘンやで、どないしたん」 「・・あのさ、ニックが新しいエージェント雇ったんだよね」 「また女か」 「うん、でも今度は大丈夫なんだよ、レズビアンなんだって」 「へぇ、じゃ、心配ないやん」 「だってさ、あのニックがだよ、僕の事考えてそこまでするなんてさ」 「あぁ、お前、もしかして、後ろめたいんや」 「うん」 「仕方ないやん、エドもニックも必要なんやろ、そのままにしい」 僕が一番必要なのは、ダニーなんだよ! マーティンは心の中で叫んだ。
「ニックもええとこあるなぁ。ちゃらんぽらんかと思ってたけど、見直したわ」 ダニーは肉を焼きながら感嘆した。 感心しないでよ、僕はダニーが一番なのに。 「ねぇ、ダニーは僕が他の男と寝てても平気なの?」 直球の質問にダニーはひるんだ。 「そりゃ、気にかかるけど、仕方ないやん。状況が状況やし」 「そうなんだ、僕はダニーがアランと寝るのは嫌だ」 「また、その話か。俺は話したくない。さ、肉食お」 ダニーにはぐらかされ、マーティンはさらに傷ついた。
傷が治りきっていないので、トングがうまく使えないダニーは、「ボン、焼いてくれへん?」と頼んだ。 「わかったよ、焼けばいいんでしょ!」 「お前、すねるなよ、なぁ、今日は一緒に帰ろ」 「本当に?」 「あぁ、お前んとこに泊まるわ、俺」 「分かった、じゃあ沢山食べなくちゃね!」 マーティンは俄然元気になって、カルビをがっつき始めた。 現金な奴っちゃな、こいつ。そこが可愛いねんけどな。
ダニーが思わずにやけていると、マーティンが気がついてテーブルの下で足を蹴った。 「痛て!何やのん?」 「ダニィのエッチ!」 「誤解やて、そんなん考えてへんわ!」 二人は含み笑いをもらした。 肉を平らげ、タクシーを拾う。 マーティンはダニーの手をずっと握ったきりだ。 「おい、俺はどこにも行かへんで」 「うん、でも不安なんだ」
アパートに着くなり、マーティンはダニーに抱きついた。 「今日はゆっくりしてね」 「あぁ、泊まるって言うたやん」 「そうだったよね!」 マーティンは舞い上がってしまっている。 ダニーのスーツを優しく脱がせると、自分はぱっぱと脱いで、二人で全裸でベッドルームに駆け込んだ。 「俺、まだ正常位無理やねん」 「いいよ、どんなんでも」 ダニーのペニスを口に含むと、性急に前後させた。
「おい、急がんでもええやん、ゆっくりしよ」 「あぁ、そうだった」 マーティンは急に動きを緩め、玉をころがしながら、竿をゆっくり噛むように愛撫した。 「うぅ、たまらんわ、お前、どんどん上手くなるな」 「そんなころらいお」 口の中がペニスで一杯なので、もごもごしゃべっている。 「あぁ、それ以上すると口の中でイクで」 「いやだ!待っててよ!」
マーティンは急いでローションを自分のアヌスに塗りこむと、ダニーに跨った。 騎乗位は、ダニーが最も弱い体位だ。 「おれ、もうもたへんわ、イってもええか?」 「もう少し!お願い!」 ダニーは頭の中で数を数え始めた。 「あぁ、もうだめ!イク!」 ダニーが腰を突き上げ、そのままマーティンの中に思う存分射精した。
マーティンは満足な顔をすると、ダニーの胸めがけて精をぶちまけた。 マーティンはそのままダニーの上に身体を重ねた。 「僕のこと好き?」 「あぁ、好きや」 「僕もダニーが大好き」 二人はタオルで精液をふき取ると、抱き合いながら目を閉じた。
ダニーの右腕の傷はほとんど治り、包帯も取れた。 小さな絆創膏だけが銃撃に合った証拠となった。 ボスがダニーをオフィスに呼んだ。 「一応、銃撃にあった捜査官は、精神科医のカウンセリングを受けるのが決まりなんだが」 「俺、間に合ってます。ドクター・ショアの世話になっていますんで」 「まぁ、そう言うと思っていたよ。ドクター・ショアに報告書を依頼するが構わないだろう?」 「ええ、お願いします」
ボスのオフィスから出ると、ダニーはアランに連絡した。 留守電になっているので折り返しの電話をお願いした。 ランチタイムにマーティンとカフェでサンドウィッチをかじっていると、電話がかかってきた。 「ごめんな、テイラー」 ダニーは席から離れて話をする。 「・・うん、ボスから電話があるから、手間かけてごめん、埋め合わせするから。うん、今日は帰る」 マーティンがじとっと見ていた。 「アラン?」 「そやけど、何や?」 「仲がいいね」 「ええやん、そんなん。お前かて大事なんやからさぁ」 ダニーはそれ以上の会話をさえぎった。 マーティンは何か言いたそうな顔をしたが、口をつぐんで、ツナサンドにがっついた。
オフィスに戻っても、マーティンとダニーはぎくしゃくしていた。 アランとこに帰るたびに、マーティンの機嫌を取るなんてたまらんなぁ。 ダニーは髪をくしゃくしゃっとすると、PCに向かった。 定時になり、帰り支度をしていると、マーティンがこそっと寄ってきた。 「ねぇ、今度はいつ会える?」 「今日以外な、それじゃまた明日」 ダニーは逃げるようにオフィスを出た。
アッパー・ウェストに向かう地下鉄の中で、幸せそうに肩を寄せ合うゲイの恋人を見た。 あんなに堂々としていられたら・・あかんわ、俺、カミングアウトを考えるなんて。 俺、ゲイやなくてバイやし。 ダニーはしばらく抱いていない女性の身体の曲線を思い描いていた。 そういえば、アランもバイや。アランは女を抱きたくないんかな。 駅を降り損ねそうになり、ドアが閉まる寸前に降りた。
アランのアパートに戻ると、ドアの前で見覚えのある女に出会った。 前にアランが雇ったコールガールのレイチェルだ。 「あっ!」驚くダニー。 「ハイ、ダニー、お元気そうね。ふふふ」 意味深な笑みを浮かべてレイチェルはエレベーターで降りていった。 「ただいま!」 「ハニー、おかえり、今日は早かったな」アランはいつもの通りだ。 「今、レイチェルとすれ違ったで」
「あぁ、インターンシップの相談だ。彼女、コロンビア大のメディカルスクールの学生なんだよ」 「はぁ?なんであんな商売やってるんか?」 「学費稼ぎだそうだ」 「俺、嫌やな、アランが仕事の時間外に人の相談に乗るの・・」 思わず口にしたダニーは、自分で驚いた。 俺、猛烈に嫉妬してる!
「すまない、ハニーの気持ちまで考えなかったよ。これからは仕事の時間内に会おう」 「もう会わんといて、くれへん?」 「あぁ?そんなに嫌なのか?」 「うん、俺、自分が抑えられへん」 ダニーはアランに抱きついた。 ダニーの頭をアランは優しく撫でて、キスを交わした。
「さぁ、ディナーにしよう。早く着替えておいで」 「うん・・・」 ダニーはやっと落ち着いて、クローゼットに入っていった。 アディダスの上下に着替えて、ダイニングに着いた。 「今日はベビーポークのスペアリブとローストパイナップル、ルッコラとマッシュルームのサラダだ」 「美味そう!」 メルローのワインを開けて、二人は乾杯する。
「ローストパイナップルはブラックペッパーで味付けしてみたんだ。 スペアリブは一度煮込んでからグリルしたから柔らかいだろう」 「すごい!美味すぎやん、これ!」 二人は食事を終え、サンデーフットボールの録画を見た。 「そろそろシャワーしようか」 「うん」 二人で身体を洗い合う。
「こそばい!アラン!」 「子供みたいな事を言うな」 「もうベッドに行きたい」 「そうしようか」 二人は全裸のままベッドに入った。 ほんの少しだけ愛撫をしたが、アランがそのうち寝息を立て始めた。 もしかしてレイチェルと浮気? ダニーは訝りながら、勃起したペニスを事務的に処理して、目を閉じた。
日曜の夜、ダニーがニュースを見ていると、ただいまと声がしてマーティンとスチュワートが入ってきた。 「おかえり、ニュージャージーは楽しかったか?」 「ん、メイン州にも行ってきた」 マーティンは元気いっぱいだが、スチュワートは顔色が冴えない。 「どうしたん?よれよれやん」 「少し疲れただけだ。マーティンが代わってくれないから、オレがメイン州から10時間も運転したんだぜ」 「だって、僕は運転が下手だもん。それに支局のならまだしも、スチューの車は特に乗りにくいよ」 マーティンは口を尖らせる。 「悪いけどとにかく休ませてくれ。30分だけ寝たら帰るから」 スチュワートは重い足取りでベッドルームに消えた。
「お前、一回も運転代わらず?」 「うん」 悪びれずに頷く様子にダニーは呆れた。 「メイン州まで行ったのに?お前って最悪やな。トロイも悲惨やで」 「・・ごめん」 「オレに謝ってもしゃあないやろ」 ダニーはデコピンするとくくっと笑った。
「はい、お土産。開けてみて」 ダニーが箱を開けると、中にネクタイが入っていた。元素周期表の変わった柄だ。 「え・・・・」 「プリンストンで買ったんだ」 「ありがとう。ハロウィンに使うわ」 「なんで?明日からでも使えるよ」 マーティンは楽しそうに話している。 ―よかった、オレがおらんでもマーティンが楽しい思いしてて・・ ダニーの浮気の罪悪感は急激に薄れていった。
「あっ!ロブスター!」 マーティンが急に大きな声を上げた。 「何や、どうした?」 「ロブスターが車の中だ。僕、取ってくる」 「ええわ、オレが取ってくるから」 ダニーが車のキーを取るためにベッドルームに行くと、スチュワートのいびきが聞こえた。 床に脱ぎ捨ててあるパンツのポケットから静かにキーを取り出すと、 起こさないようにそっとベッドルームのドアを閉めた。
地下ガレージまで降りると、TVRが少し斜めに停めてあった。 ドアを開けるとマクドの紙袋にゴミが溢れんばかりに入っていて、 まるで子供がいる家庭の車内のようだ。スナックの欠片も落ちている。 ―あいつのいてるとこって、掃除機かけたら絶対ジャリジャリいうねん・・・ 苦笑いしたダニーは、発泡スチロールとゴミを取り出すと部屋に戻った。
発泡スチロールを開けると、氷詰めのロブスターが入っていた。 「うわー、でかいなぁ!」 「でしょ?僕が選んだんだよ。まだ生きてる」 得意げなマーティンはロブスターを突っついた。 「蒸すとおいしいよ。ねー、これも見て」 ダニーが顔を上げると、ロブスター柄のTシャツを見せられた。 こうなるともう笑うしかない。キスしてさらにデコピンすると、ロブスターを蒸すためキッチンに立った。
ダニーが料理している間も、マーティンはまとわりついて離れない。 「わかったわかった、蒸せたから向こう行こう」 真っ赤になったロブスターに苦戦していると、マーティンがばきっと頭を外した。 「はい、ダニー」 「おー、サンキュ」 ダニーはロブスターにがっついた。濃厚な味がしてうまい。マーティン物欲しそうに見ている。 「あ、お前も食べるか?」 マーティンは恥ずかしそうに頷くと手を伸ばした。
「スチュー、起きないね」 マーティンがふと時計を見て言った。あれから二時間近く経っている。 「そら無理やろ。起こすのもかわいそうやし。オレはソファで寝るから、お前はベッドな」 「え?いつも三人で寝てるじゃない」 「あほか、狭かったらトロイがゆっくり寝られへんやん」 「じゃあ僕もソファで寝る」 「余計に狭いわ。お前もそれ食べたら早よ寝ろ」 ダニーは言い聞かせると、ベタベタの手を洗うために席を立った。
FBIのオフィスにアランが現れた。マーティンがすぐに見つけて、身体を硬くした。 電話をしているダニーは気がつかない。 ボスがオフィスから出てきて、アランを招きいれた。 なんでアランが来るんだよ! サマンサも気がつき、ポストイットに「アランが来てる」と書いて電話中のダニーの目の前に貼った。 急にきょろきょろするダニー。 そんな姿を見るのが嫌で、マーティンはトイレに立った。
ボスと談笑しながらオフィスから出てきたアランを見て、ダニーは電話を切った。 さりげなく立ち上がり、ボスの目の前で「この間までは、お世話になりました」と握手した。 「何を言うんだい、保護者のつもりなんだから、いつでも甘えてくれ」 アランも笑って応対する。 「ダニーは、いい友人を持ったな」 ボスがダニーの肩をぽんぽんと叩いた。 「それでは、ドクター・ショア。うちのセラピストの職に興味がおありなら、いつでも大歓迎ですよ」 ボスとアランは握手をして、別れた。
ダニーが席につくと、サマンサが寄ってきた。 「ねぇ、アランって彼女と別れてないの?」 「あぁ?、まだ熱々やで」 「そうなんだ、また空振りか〜」 サマンサはちっと舌打ちして席に戻った。 マーティンが席に戻ってくる。 ダニーが「ボン、腹でもこわしたか?」と声をかけたが、無視された。 またあいつ、つむじ曲げてるわ。どないしょ。 ダニーはやれやれと思った。
「ボン、ランチ行くで」 無理やり外に連れ出す。 トラットリアに入ってダニーはポルチーニ茸のリゾット、マーティンはパスタ・ボロネーゼを頼む。 「お前、オフィスでつんけんすんの止めてくれへん?仕事にならんわ。サムもヴィヴも勘が鋭いんやから」 「・・だって、アランが来たら、きょろきょろするんだもん、ダニーだってバレバレだよ」 「さよか?そいつはごめんな」
「なんでアランが来たのさ?」 「俺の精神鑑定報告書をボスを渡しに来たんと思う」 「あ、局のセラピー受けなかったの?」 「そんなん面倒臭いやん」 「そうか、まぁいいや」 マーティンは納得したのか、パスタをがっつき始めた。 「ねぇ、今日、どっかに食べに行こうよ。包帯も取れたんだしさぁ」 上目遣いでマーティンがダニーを見つめた。 「そやな、そうしよか?」 「じゃ、場所探しとくね」 ダニーはマーティンに押し切られた。
ミッドタウンの「寿司田」のカウンターをマーティンは予約していた。 季節の魚の天ぷらとおまかせ握りをお願いする。 日本酒も入って、マーティンはすっかりご機嫌だ。 ダニーは、天ぷらをつまみながら、レイチェルとアランのことを考えていた。 「ねぇ、ダニー、聞いてる?」 「あぁ、ごめん、何やて?」 「もう!上の空なんだから!今日は僕の家に泊まり決定ね!」 もうどうとでもなれ! ダニーは「そうしよか」とだけ答えた。
タクシーの中でも、マーティンはダニーに寄りかかってきて、手をぎゅっと握った。 ダニーは運転手に気がつかれないようにそっと身体を引き離し、手だけを握っていた。 ドアマンのジョンが「今日もお揃いで」と迎えてくれる。 「うん、そうなんだよ、ジョン」 ご機嫌のマーティンは「おやすみ」と言うと、ダニーを引っ張ってエレベーターに乗った。 ずっと手は握ったままだ。 「お前、セキュリティーカメラが見てるで」 「いいんだよ、そんなの」
マーティンの部屋に入ると、マーティンは身体をぶつけてきた。 思わずダニーはよろめいた。 「お前の方が体格ええんやから、考えてくれよ」 「ごめん!だって、嬉しくてさぁ」 マーティンはダニーのスーツを脱がせにかかる。 「シャワーせいへんの?」 「いいの、ダニーの匂いが好きなんだから!」 ダニーはトランクス姿でベッドルームに入った。
マーティンが全裸で、ダニーを押し倒す。 すぐにトランクスを剥ぎ取られ、ペニスを咥えられた。 俺、こいつの技に弱いねん。すぐ立っちまう。 マーティンは硬度と角度に満足がいったのか、ローションを自分のアヌスに塗りこみ、 あおむけで足を大きく開いた。 「ねぇ、もう腕治ったからこの体位で来て」 ダニーは体位を指定されるのに不快感を感じたが、仕方なく足の間に身体を進めた。
スムーズに挿入し、抜き差しを始める。マーティンが大げさに悶え始めた。 こいつ、演技がかってるで。 ダニーはさーっと気持ちが冷めるのを感じた。 ええいままよ! スピードを速めて、「うぅ!」と唸るとすぐに射精した。
「ああん、早すぎるよ」 マーティンが不満の声を上げた。 「お前の身体が良すぎるからや」 ダニーはウソをつくと、マーティンのペニスを握り締め、前後に動かした。 「あぁん、いいよ、ねぇ、口でして」 ダニーはマーティンのペニスを咥えると、猛烈な勢いで舌を動かした。 「あぁ、いい、イク!」 ダニーの口の中にマーティンは大爆発した。飲み下すダニー。 今まで感じたことのない、冷めた気持ちだけが残った。
ソファで目覚めたダニーは、熱めのシャワーを浴びてから二人を起こしに行った。 二人ともぐっすりと眠りこけている。起こすのに気が引けるぐらいだ。 「マーティン、朝やで。トロイも早よ起き」 「ん・・もう少し」 「あかんて!遅れるがな」 ダニーが揺さぶると、ようやくマーティンが目を開けた。 「おはよう・・」 「おはよう。オレ、こいつ起こすからシャワー浴びてこい」 マーティンは目を擦るとベッドから出た。
「さてと・・トロイ、お前も早よ起きろ」 「・・休む」 「休む?あほ、何言うてんねん!」 ダニーはスチュワートがくるまっていたタオルケットを無理やりはいだ。 「ほら、さっさと起きるんや!」 「・・いいから、オレのジャケットから携帯取ってくれ」 スチュワートは起きようとしない。ダニーは仕方なく携帯を渡した。
「ジェニファーに電話するから静かにしててくれよ」 スチュワートは携帯をいじると電話をかけ始めた。ダニーはソックスを履きながら耳を澄ませる。 「あ、オレだ。なんか風邪引いたみたいでさ、今日は休むから」 ジェニファーが「ええーっ」と言うのが聞こえ、ダニーは思わず笑いそうになった。 「そんなに騒ぐなよ、今日は航空身体検査の予約しか入ってなかったろ。マーキンソ ンに連絡しといてくれ。頼んだぞ」 スチュワートは一方的に電話を切ると、またタオルケットをかぶって目を閉じた。
ダニーが着替えていると、マーティンがバスルームから戻ってきた。 「あ、トロイは休むんやて」 ダニーはスチュワートを起こそうとする前にマーティンを止めた。 「そうなの?いいな、僕も休みたいよ」 マーティンは自分も着替えようとして、ダニーのしているネクタイに目をやった。 「ねえ、どうして僕のあげたの着けないの?」 「どうしてって・・あのな、オレが化学の先生やったらあの柄はええと思う。 けど、残寝ながらオレはそうやない。捜査官らしくないやろ?」 ダニーはもっともらしく答えてごまかそうとしたが、マーティンは納得しない。
「いいよ、どうせハロウィンに着けて僕を笑いものにする気なんだ!」 「ちゃうって!」 「違わない!」 騒いでいるとスチュワートがむくっと起き上がった。 「あー、うるさい!お前らヘルシンキの空港みたいに静かにできないのか」 「こいつがオレに元素周期表ぶらさげろって言うねんもん。オレは嫌やって言うてんのに」 「いいじゃないか、それぐらい着けてやれよ。どれ、オレが結んでやろう」 スチュワートはダニーのネクタイをほどくと、元素周期表ネクタイを手早く結んだ。 「ほら、似合ってるぞ。な、マーティン?」 マーティンも満足そうに頷いている。ダニーが渋々鏡でチェックすると、確かにそんなにおかしくはない。
「テイラー先生、今日は元素記号のテストなので?」 スチュワートはくすくす笑っている。 「うるさい、明日は絶対お前に着けさせるからな!」 ダニーは頭からタオルケットをかぶせると、上から押さえつけた。 「・・そんなに嫌ならしなくてもいいよ。捨てればいいんだ」 マーティンがぼそっとつぶやいた。こてんぱんに傷ついた表情をしている。
「あのなぁ、オレは嫌やって言うてるんやないで。仕事には相応しくないって言うてるんや。 めっちゃ気に入ったんはほんまやで」 ダニーは必死になだめた。知らん顔するマーティンを抱きしめるとおでこにキスする。 「本当に気に入った?」 「もちろんや。さ、トロイはほっといて行こ行こ」 ダニーはマーティンの背中を押して促すと、スチュワートに蹴りを入れてから後に続いた。
休日、ダニーは昼過ぎからアランのアパートでごろごろしていた。 アランはドクター・フリーの掲示板のメンテをしている。 スタンウェイに久しぶりに座って、Coldplay の「Fix you」やDaniel Powter の「Bad Day」を 弾き語りしたり、インプロビゼーションで適当にメロディーを奏でていた。
「ハニー、夕飯はどこかに行こうか?」 「いや、俺、暇やから作るわ。イーライズに行ってくるから、ジャガー貸して」 キーを借りて、ダニーは買い物に出かけた。 ハマグリとムール貝、チキンのロースト、野菜をたんまり買い込んだ。 カートを押していると肩をぽんと叩かれた。エドだった。 「よう、久しぶりやん、元気か?」 「おかげさまで。今日は自炊?」 「おう、お前も?」 「うん、マーティンが来るんだ」 嬉しそうにエドが目を細める。 「そうなん、よろしく伝えて」 「うん、またね」 今日はエドと寝るんやな、あいつ。 ダニーは何故か、不思議な安堵感を覚えた。まるで子守りを交代したような気分だ。
アランのアパートに戻り、白ワインと山盛りガーリックでハマグリとムール貝を蒸す。 チキンのローストの付け合せはブロッコリーとカリフラワーとマッシュドポテトだ。 そこへ電話が来た。マーティンからだ。 「おう、どうしたん?」 「今日、アランのとこでご飯なんでしょ?」 「そやけど?」 「エドが作ったもの持ってくから、パーティーしない?」 「はぁ?ちょっと待って、アランに聞くわ」 ダニーは電話を待ち受け音にしてアランに尋ねた。
「エドとマーティンが夕食に家に来たいんやて」 「いいじゃないか、賑やかで」 アランは気にしていない。 「マーティン、ほなら、ええで。7時ごろ来いや」 「うん、じゃあ行くね!」 7時になり二人がやってきた。 エドは、ビーフのカルパッチョとスズキのポアレ、グリーンサラダを持ってきた。 4人で食事が始まった。 アランがヴーヴ・クリコを開け、次にエドが持ってきたシャルドネ、アランのメルローとどんどんワインが空いていく。 結局4人で6本を空け、全員ぐったりとなった。
アランがベランダで葉巻を吸っていると、エドが後ろから声をかけた。 「僕の前の恋人も同じ銘柄の葉巻が好きでした」 アランの背中によりかかる。 「おい、二人がいるんだぞ、エド、君は酔ってるんだ」 「分かってます。でもあなたといると、僕、どうにかなりそう」
ダニーとマーティンは、DVDで「ミス・デンジャラス2」を見ていた。 「このFBI捜査官って間抜けだよね〜。恋人の浮気に気がつかないなんてさ!」 マーティンは、けたけた笑いながら話しかける。 「そやな」 ダニーはベランダの二人が気になってしかたがない。 エドが傷ついたような顔で戻ってきた。 「エド!面白いから一緒に見ようよ!」 マーティンがエドを誘う。ソファーに3人腰掛けて、サンドラ・ブロックが事件を解決する様を見終える。 「なんか、うちのサマンサみたいだね」 「あぁ、べっぴんで勝気やしな」
マーティンがふわぁーとあくびをした。 「マーティン、もう帰ろうか?」 エドが気にして尋ねる。 「帰るのが面倒臭くなっちゃった。ここに泊まっちゃだめ?」 「ソファーベッドしかないで」 「いいよね、エド」 「マーティンがそう言うなら」 ダニーはベランダのアランに声をかけた。 「二人が泊まりたいんやて」 「じゃあソファーベッドを用意しよう」
ダニーとアランがブランケットを用意している間、エドとマーティンはシャワーを浴びていた。 エドがマーティンにキスを要求する。 二人で遊んでいるうちにペニスが立ってしまった。 「うはー、まずいね」 「ここでしちゃう?」 二人はお互いのペニスを口で含んで性急にイカせると、何事もなかったように、シャワーから出た。 ダニーとアランはだるがってシャワーをパスして、ベッドルームに去った。 ソファーベッドの二人は、お互いに違う気持ちを抱きながら、なかなか寝付くことが出来なかった。
支局に着くと、エレベーターでボスと一緒になった。 「ボス、おはようございます」 「おはよう。ダニー、いいネクタイだな」 「そうっすか?どうも」 マーティンは人目も憚らず嬉しそうににんまりした。 ボスが怪訝な顔をしたがお構いなしだ。こっちの方がヒヤヒヤする。 ダニーはボスの嫌味だと思っていたが、マーティンがくれたネクタイは意外にもみんなの受けがよかった。 褒められるたびにマーティンは誇らしげな表情を浮かべる。 ―こいつ、かわいいやん。でも、このセンスはオレにはわからん・・ そんなことを思いながらダニーは笑いを堪えた。
トイレに行くとマーティンが少し遅れて入ってきた。 マーティンは得意そうにダニーを見上げる。 「ごめんな、嫌がったりして」 ダニーは謝りながら髪をくしゃっとした。 「わかればいいんだよ、わかればね」 「あほ、調子に乗るな!今回はたまたまや」 マーティンはデコピンされても嬉しそうにしている。無邪気でかわいい。 そのまま個室に連れ込むと、壁に押し付けて何度もキスした。
抱きしめていると勃起したマーティンのペニスが体に当たった。 服の上からでもくっきりわかるぐらいもっこりしている。 「お前な、オレのことそんなに好きなん?」 マーティンは真っ赤な顔でこくんと頷いた。 「・・ダニーは?」 「オレもお前とおんなじやで」 ダニーは唇をこじ開けると舌を絡ませた。マーティンはうっとりして体をくっつけてくる。 「続きは帰ってからな」 そう言うと、ダニーはほっぺにキスして先にトイレから出た。
思いがけず一人でランチを食べることになり、ダニーはデリで適当に二人分買うとクリニックへ急いだ。 クリニックに着くと、ジェニファーが受付で熱心にペーパーバックを読んでいた。 「ジェニファー、何読んでるん?」 ダニーに気づいたジェニファーはにっこりした。 「忘れ物のグースバンプス。おもしろいわよ。テイラー捜査官はどうしたの?」 「オレ?オレは・・その、トロイに会いに来ただけや」 「せっかくだけど、ドクター・バートンなら今日は休んでるわ」 ダニーは知ってるとうっかり言いかけるがそのまま流す。 「何や、トロイは休みか。ここでランチ食べようと思って買うてきたのにな」 ダニーはわざとらしく紙袋を掲げた。やんちゃな顔でジェニファーをじっと見つめる。
「ほんまはな、ジェニファーに会いに来たんや。二人分あるから一緒に食べよう」 「いいけど、私は自分のがあるから」 二人は待合室のソファに並んで座ると紙袋を開いた。 「オレはフィッシュサンドやけど、そっちは何?」 「アボカドシュリンプサンド。ドクター・バートンが休むって言うから急いで作ったのよ」 「作ったん?交換しよ!」 ダニーは交換してもらうとジェニファーのサンドイッチにがっついた。
「テイラー捜査官たら、慌てるから口にマヨネーズついてる」 ジェニファーはくすくす笑いながらダニーの口元をハンカチで拭った。 「はい、これでよし」 ダニーは何も言わずに肩を抱き寄せるとそっとキスした。 「オレはダニーや」 「・・わかってる」 二人はもう一度キスを交わすと、おしゃべりしながらサンドイッチに戻った。
実質30分ほどだったが、デートのようなランチを過ごして支局に戻ると、 マーティンがデスクでチーズバーガーにがっついていた。 思わず顔が強張るが、なんとか平静を装って席に着く。 今日はキスだけしかしてないのに、罪悪感で押しつぶされそうだ。 「あれ、お前検察に呼ばれてたやろ?」 「ん、やっぱりヴィヴだけでいいってさ」 「そうなん。腹減ったやろ、ま、ゆっくり食べ」 「ねえ、スチューも何か食べたかな?」 「わからんけど、あいつのことやからまだ寝てるんちゃう?」 サマンサが戻ってきたので二人は話をやめたが、ダニーは正直ほっとしていた。
ダニーが支局に出勤すると、マーティンががさごそとジップロックを開けているところだった。 ははーん、エドお手製の朝ごはんかいな。 「ボン、ご馳走さん!」ダニーはにやにやしながら席についた。 「ダニーだってでしょ?」 「ブブーっ!俺は今日はスタバのマフィンや。日曜日何してた?」 「ハンプトンに行ったんだ。夏みたいな賑わいはなかったけど、静かで逆にゆっくり出来たよ」 「ふうん、そんなら俺らも行こうかな」 思わず口にしてダニーはしまったと思った。 マーティンがじとっとした目で見つめている。 サマンサが来たので二人は椅子ごと移動して離れた。
たまらなく一人になりたくて、ダニーはランチタイムに一人で出かけた。 行きつけのカフェでロブスタービスクとバゲットの食事をしていると、マーティンが道端で男と言い争いをしているのが見えた。 誰やろあれ? マーティンが怒った顔をして、カフェに入ってくる。 男も後を追って入ってきた。マーティンがダニーを見つけて驚いた顔をした。 「ボン、一緒に食おか?」 「うん、そうしてくれる?」 男は、マーティンがダニーの席に座ったのを見ると、あきらめて出て行った。
「何か、もめ事か?」 「ううん、何でもない」 マーティンが口を硬く閉ざすので、ダニーはそれ以上聞かなかった。 寡黙にチキンサンドにがっつくマーティンを、ダニーはずっと見つめていた。 目をそらすマーティン。 訳ありやな、こいつ、今度は何した?駄目や、やっぱり心配で目が離せられへんわ。 「今日、晩飯食うか?」 「本当?」 マーティンの青い目がまっすぐダニーを見つめた。 「あぁ、どっか安くて美味い店に行こう」 「ダニー決めて」 「分かった」
ダニーが選んだのは、イースト・ヴィレッジの「タジ・マハール」だ。 タクシーでイースト・ヴィレッジに向かうと、マーティンが身を硬くするのが分かった。 「どうした、具合悪いんか?」 「ううん、平気」 店に入って、ハイネケンで落ち着くと、ダニーはサグ・マトンカレーとチキンのカヒという煮込み料理、 サラダ、ラッシー、ナンとサフランライスをオーダーした。
「お前さ、何かあったんなら話してみ、楽になるで、昼間のあの男、一体何者や?」 「あのね、僕ね、あいつにレイプされたんだ」 「はぁ!?また、何で?」ダニーは怒りで顔を赤くした。 「ダニーがアランに会ってる日にさ、ニックもエドも忙しくて。一人でこの辺うろついてたら、ヘンな店に入っちゃって。 一緒に酒飲んだんだよね、気がついたら、奴のアパートでレイプされてた」 「それって犯罪やん!」 「でも、あいつ、僕がFBIって知ってるんだよ。公に出来ないよ」 「それで、今度は何やて?」 「FBIに匿名メール送られたくなければ、また寝ろって」
「今度、呼び出されたりしたら、俺も行くわ、めちゃくちゃどついたる!」 「ごめんね、僕がしっかりしてないばっかりに」 ダニーは、マーティンの寂しさの一遍を知り、申し訳なくなった。 「ごめんな、俺がいつも一緒にいられへんからやな」 「仕方がないって、心の中では分かってるんだよ、でもどこかが無理なんだよ、僕、誘惑に弱いんだ」 マーティンはナンをかじりながら、落ち込んだ顔をした。 「今日は、ブルックリンに帰ろか、一緒に」 「本当?」 「あぁ、昔の俺らに戻ろう」 「ダニー、優しいね」 マーティンは涙を溜めた。
「おいおい、今は泣くな、あとで泣き」 「・・うん」 マーティンは鼻をすするとカレーに手を伸ばした。 とりあえず食欲回復やな、ええ印や。 ダニーもチキンの煮込みを皿に取った。 「もっと食べ」 「ありがと」 食事を終えると、二人は急いで流しのタクシーを拾い、ブルックリンに戻った。 クラブソーダの瓶をマーティンに渡すと、一気に半分位飲み干した。
「風呂入れるから、待っててな」 二人は静かにバブルバスに浸かった。 愛撫することなく静かにダニーは後ろからマーティンを抱きしめた。 マーティンもじっとしている。 二人はTシャツとトランクスでベッドに入った。 ダニーが腕枕をしようとすると、マーティンがダニーの胸に顔をうずめてきた。 ダニーはそのままマーティンの頭をしばらく抱きしめていた。 そのうちマーティンの寝息が聞こえてきた。 ダニーは静かに手を離し、目を閉じた。
二人がアパートへ帰ると、室内は真っ暗で静まり返っていた。 リビングのテーブルに、食べた後のチャイニーズカートンが無造作に放置されていて 手つかずのおみくじクッキーがまとめて置いてある。 「あいつ、一応メシは食ったんやな」 足音を立てないように静かにベッドルームへ見に行くと、 スチュワートがいびきを掻きながらぐっすり眠っていた。 「起こそうか?」 「いや、あかんわ。めっちゃ寝てる。向こう行こ」 ダニーはドアをそっと閉めるとリビングに戻った。
「マーティン、続きしよう」 ダニーはジャケットを脱ぐと、ネクタイをほどいてシャツのボタンを外した。 ぼやぼやしているマーティンのネクタイもほどいて順番に脱がせる。 股間に手をやると、マーティンは既に勃起していた。 ダニーはにやにやしながら亀頭に触れる。 「・・僕、恥ずかしいよ」 「ええから、ええから」 ぎゅっと抱きしめてソファに押し倒すと、自分のペニスと重ね合わせて擦りつけた。
マーティンのペニスはとろとろの先走りで濡れていて、ダニーのペニスと当たるたびに甘く疼く。 「んぁ・・んぅっ・・ふっ・・」 「マーティン・・」 ダニーは口を塞ぐようにキスして舌を絡ませた。 マーティンは我慢できずに腰を浮かせている。 「欲しいか?」 聞かれて目を伏せたマーティンの顔に手をやると、じっと目を見つめる。 「欲しいって言わな入れたらへん」 ダニーはわざと意地悪した。
「・・ダニィのが欲しい」 マーティンが真っ赤な顔で言った。耳まで赤くなっている。 ダニーはソファに座りなおすと、ペニスにローションを塗ってマーティンに跨らせた。 キスしたまま下から突き上げると、マーティンがしがみついてくる。 「ああっ・・んぅっ・い・いいっ!」 ダニーは背中に手を回すと体を固定させて腰を振った。 イキそうになったマーティンは自分からも腰を擦りつける。 「もうだめ、出ちゃう・・んんっ・・あぁっ・イク!」 「くっ・あぁっ・・オレもや」 ダニーも激しく腰を振ると中に射精して抱きしめた。
マーティンは荒い息を吐きながら甘えて、ダニーの肩を舐めた。 汗のせいかしょっぱい味がする。 「辛いやろ?」 「ん。僕もしょっぱいかな?」 ダニーはマーティンの肩から首筋まで舌を這わせた。 「お前も辛いわ。シャワー浴びてピザ頼もう」 ダニーはペニスを抜くとマーティンを連れてバスルームに行った。
バスルームから出ても、スチュワートはまだ眠っていた。起きる気配すらない。 ダニーはマーティンに合図すると、押さえつけて脇の下を思いっきりくすぐった。 「うわーっ!やっ、やめろよ!!」 二人はけたけた笑いながらくすぐり続ける。大暴れしているのがおもしろくてやめられない。 「やめろ、バカ!本気で怒るぞ!」 スチュワートはダニーの腕を掴むと体を入れ替えて馬乗りになった。 「どうだ、テイラー?」 「く、苦しい・・息できひん」 「当たり前だ、鳩尾を押さえてるんだから」 スチュワートはマーティンを見つめてにんまりした。 「マーティンもやられたいか?」 マーティンは慌ててぶんぶん首を振る。スチュワートはダニーを解放するとベッドに寝転んだ。
「あー、苦しかった!オレを殺す気か」 「さっさと手を離さないからだ。ガキみたいなことしやがって」 スチュワートはマーティンの手を引っ張ると隣に寝転ばせた。 「おかえり、疲れたろ」 「ただいま。ずっと寝てたの?」 「いいや、寝たり起きたりさ。人んちっておもしろいな。な、テイラー?」 「どういう意味やねん」 「別に」 スチュワートはにやにやしながら「シェルフ」「DVD」、続いて「犬」と言った。
「獣姦!」 二人は同時に叫んだ。スチュワートは驚いてマーティンを見る。 「嘘だろ、マーティンも獣姦なんて見るのかよ!」 「まさか!僕は偶然ダニーが見てるのを見つけただけだよ」 「そうだよな、マーティンがあんなの見てたら世も末だ」 スチュワートはマーティンにキスするとダニーの肩を軽く叩いた。 「変態!」 「うるさい!ピザはお前のおごりやからな!」 決まりが悪いダニーはピザを頼むためにベッドから出た。
マーティンが目を覚ますと、驚くほど近くにダニーの顔があった。 思わずキスしてしまう。 ダニーは「うぅん」と唸ると向こう側と向いてしまった。 まだ朝の5時だ。ブルックリンじゃジョギングも出来ないな。 マーティンはダニーの背中にぴとっと貼りつくと、また眠りをむさぼった。
「ボン、起き!遅刻するで!」 「ふぁい、おはよー」 「気分はどうだ?」 「ずいぶん落ち着いた。ダニー、ありがとう」 「そんなん、ええで、さ、コーヒー飲み。朝ごはんはスタバや」 「うん、分かった」 マーティンは昨日のスーツを着て、出勤した。 スタバのツナサンドをかじっていると、サマンサが「ははーん、また二人で合コンしたわけね?」と言った。
「違うよ、疲れたからダニーの家に泊まっただけ」 「まぁ、いいわ。でもダニーには相手がいるんでしょ、あんまり付き合わせるのって良くないわよ」 「うん、そうだね」 サマンサに図星をつかれて、マーティンは落ち込んだ。 ダニーにはアランがいるのに、僕が足手まといになってる。 どうしたらいいんだよ!
ランチタイムになり、二人はいつものカフェに入った。 ダニーは根菜が山盛り入ったチキンスープとバゲット、マーティンはバジルフォカッチャだ。 「お前からその男に連絡できないんか?」 「名刺捨てちゃったんもん、でもこの近くにある広告代理店のディレクターなんだってさ」 「それなら、絞り込めるやん。やっつけよか?」 「ううん、次に来たら、ダニー、立ち会ってもらえる?」 「ああ、もちろん、立ち会うで」 「本当にごめんなさい、僕のために」 「気にすんな、俺とお前の仲やんか」 マーティンは涙ぐんだ。
二人はぺちゃくちゃしゃべりながら席に戻った。 ボスがダニーを呼んでいる。 「はい、ボス」 「またDCから捜査協力の依頼が来た。ドゲット捜査官だ。お前とは馬が合うようだな」 「それで、ボスの考えは?」 「お前もDCで顔を売るといい。将来を考えてな」 「それじゃ、行けと?」 「すぐ飛んでくれ」 「了解っす」 ダニーは、急いで支度に家に戻った。アランに留守電を入れて出張の旨を伝える。
DC空港にドゲット捜査官が迎えに来ていた。 「すんません、一人でも本局に行けますよって、お気使いなく」 「君は俺にとって特別な相棒だから、そんなすげない歓迎はできないよ」 ドゲットがにやりと笑った。 横顔がセクシーで、ついダニーはドキっとする。
「今度の事件は何で?」 「子供が宇宙人に誘拐されたと証言している。君の勘で背景を探って欲しい」 「じゃあ、もう失踪者は発見されてるので?」 「あぁ、このところ、宇宙人誘拐を装った誘拐が増えているんだ。見つかった子供が口を開いてくれない限り、 俺の手にも負えない」 ダニーは戻ってきた失踪者の少年に話を聞いた。 ヒスパニック系だったので、優しくスペイン語で話しかけていくうち、 やっとぽつりぽつりと少年が話し始めた。
明るい光が見えて、気がつくとベッドにくくりつけられていたそうだ。 そして性的陵辱を受けている。明らかに幼児性愛者の犯行だ。 「今、失踪中は何人なので?」 「3人」 「可愛そうに」 ダニーは痛ましそうに少年を見た。 UFOオタクの中からアダプションに特に興味を持っている人物をデータベースから洗い出す。 幼児性愛者とクロスマッチさせると5人の容疑者が浮かんだ。
「よし、もぐらたたきだ」 ドゲットとダニーは車で一軒一軒尋ねる。 すると一軒の家の中から、子供が泣き叫ぶ声が聞こえた。 「FBIだ!」二人が銃を向けると犯人は、あきらめて投降した。 「もうNYに戻るのは遅いな」 「はい、そのようです」 「美味いシーフードでも食いにいくか?」 「喜んで!」 もう会うこともないと思っていた憧れの捜査官にまた会えたのだ。 ダニーは舞い上がっていた。
シーフードプラターとなまずのソテーにシャブリでいい気持ちになった二人は、 ダニーのホテルに戻った。別れようとダニーが手を差し伸べると、ドゲットが近寄ってきた。 「なぁ、テイラー捜査官。あれは過去だと封じ込めたんだが、俺は我慢できそうにない」 ドゲットが照れ笑いのような笑みを浮かべる。 「俺もです、ドゲット捜査官」 二人はダニーの部屋に入った。 ミネラルウォーターで喉をうるおすと、ドゲットがダニーに近寄り、キスを始めた。 閉じた唇をこじあけ、舌をからめる。
「あぁあ、ドゲット捜査官・・」 「ジョンと呼んでくれ」 「ジョン、俺、もう我慢できません」 「ベッドに行こう」 ダニーは自分からスーツを脱ぐと全裸でベッドに横たわった。 見下ろしながら、ドゲットもスーツを脱ぐ。 相変わらず引き締まった体躯が圧倒的だ。 ダニーは手を広げて、ドゲットの身体を受け入れた。 ドゲットがおずおずと身体を進める。 ダニーはアヌスが裂けるのを感じたが、快感がおしよせて痛みを消した。
ドゲットが規則正しいストロークでダニーを攻める。 「あぁ、んん、俺、もうだめっす。イってもいい?」 「あぁ、俺も行く!」 二人はほぼ同時に射精した。 「ジョン、あなたってヘテロですよね」 ダニーがはにかみながら尋ねる。 「ああ、君に会うまではな。信じてくれよ、男は君だけだ」 「俺、うれしいです」 ダニーはドゲットのたくましい胸に顔をうずめた。
「それじゃ、俺は帰るよ。朝8時に迎えに来る。空港に送ろう」 「はい、ありがとうございます、ジョン・・」 ドゲットはシャワーをすると部屋を去った。 俺、なんかめちゃ幸せや。尊敬してる先輩と結ばれてる! ダニーはアランに電話するのも忘れて、シャワーを浴びにバスルームに入った。
ダニーはピザを食べている間もからかわれた。 あのDVDはボスので、自分のではない。理不尽に思いながら聞き流す。 「うん?」 口を拭ったティッシュを捨てようとしていたダニーがふと手を止めた。 ゴミ箱の匂いをかぐと、チェシャ猫のようなにやにや笑いが一瞬にして広がった。 「ダニー、どうしたのさ?」 「オレ、すごいもん見っけた。トロイの分身がゴミ箱に入ってるわ!」 スチュワートはたちまち顔が赤くなった。ダニーはさらに追い討ちをかける。 「オレのこと変態呼ばわりしたくせに、お前もしっかり抜いてるやん!」
「あんなの初めて見たからさ、つい・・・」 「あほ!初めて見たなんて信用するわけないやろ!特にお前みたいなドスケベが!」 「本当に初めてだったんだよ。獣姦なんか普通は見ないぜ。マーティンもそう思うだろ?」 マーティンはうんうん頷き、スチュワートは少し安心した表情を浮かべた。 「ほらな、異常はお前だけ」 「ちょっと待て、こいつはな、エロビデオやDVD見たことないようなヤツやねん。対象外やろ」 ダニーはマーティンのほっぺをぺちぺち叩いた。
「僕だってゲイビデオぐらい見たことあるよ!」 マーティンが反論したが、ダニーは疑わしそうに見つめる。 「嘘じゃない、ハイスクールの時に見たよ」 「へー、誰と見たん?」 「・・・・・・・」 「やっぱ嘘か?今考えてるんちゃうやろな?」 「違う、ガイダンスカウンセラーとだよ」 ダニーはスチュワートと顔を見合わせた。二人とも怪訝そうだ。
「なんでそんなヤツと見るねん?普通は連れと見るやろ」 「あっ、もしかして、そいつが初めての相手なんじゃないのか?」 マーティンはしまったというような顔でうつむいた。 「ガイダンスカウンセラーと!それ、虐待やん!」 「違うってば!僕にとっては恩人なんだ」 ダニーに言われたマーティンは慌てて否定した。
「僕が女がダメなの知ってるでしょ?先生は悩んでる僕を助けてくれたんだ」 「じゃあ、やっぱり初体験の相手なんだ?」 「・・ん、そう。いい人だった。先生がいなかったら絶対性的不能者になってたよ」 「そっか、よかったな。相手がいい人で」 スチュワートはやさしくマーティンの肩を抱いた。ダニーも黙って肩をポンと叩く。 「よし、ボンのガイダンスカウンセラーに乾杯や」 「いいよ、そんなの」 「ええから早よボトル持て」 三人はハイネケンのボトルをカチンと合わせると乾杯した。
「それで、テイラーの最初の男って誰だよ?」 スチュワートがダニーに尋ねた。 「オレはマーティンや。こいつが真夜中にいきなり尋ねてきてレイプされたんや」 「すげーな、レイプかよ!よっぽどテイラーが好きだったんだな」 酔ったダニーはハイネケンのボトルをマイク代わりにして詳細を話し始めた。 「・・ごめん、本当にごめんね」 マーティンは自分のしたことが申し訳なくてダニーに謝った。 酔いまで醒めそうなぐらい反省している。 「ええって、気にすんな。次はトロイの番や、聞かせてもらおか」 三人は酔いにまかせて初体験の打ち明け話を始めた。
スチュワートが風呂に入っている間、二人は先にベッドに入った。 ダニーはマーティンをぎゅっと抱きしめるとおでこに唇を押し当てる。 マーティンがきょとんとしているが、かまわず抱きしめ続けた。 「よかった、オレの最初の相手がお前で」 「それ本気なの?」 「ああ、本気や。お前のこと愛してる」 「ダニィ!」 マーティンはうっかり泣きそうになった。たとえ酔った勢いでの言葉だとしてもうれしい。 ダニーの胸に顔を埋めると、鼓動を聞きながら涙を堪えた。
DCから戻り、まっすぐ支局に出勤すると、すぐボスに呼ばれた。 「ドゲット捜査官から報告があった。またお手柄だそうだな。 お前、Xファイル課の方が向いているんじゃないのか?」 「そんな、ご冗談を!俺を追い出さんといてください」 「冗談だよ!とにかくよくやった」 ボスに褒められ、ダニーは意気揚々と席に戻った。
マーティンがまたじとっとこっちを見ている。 「何や、俺の顔に何かついてるか?」 「ご機嫌ってしるしがついてるよ」 ヴィヴィアンが笑いながら答えた。 「さよか!さぁ、ニューヨークでも一暴れしたる、事件は?」 「今日は書類の更新日!」 サマンサが肩を叩きながら、ファイルの束をダニーの机の上に置いた。 「はぁ、そりゃどうも」 ダニーは、ウォーターマンの万年筆を取り出して、ファイルを開き始めた。
定時になったが、ダニーはまだファイル2冊を残していた。 「お先に!」 サマンサとヴィヴィアンが次々に帰っていく中、ダニーは一人でうんうん唸っていた。 「1冊手伝うよ」 マーティンが助け舟を出した。 「お、ほんま?サンキュ、助かるわ」 「おとといのお礼」 マーティンは静かにPCを操作し始めた。 30分ほどで、二人とも仕事が終わった。 「なぁ、飯食わへん?」 「うん!それを待ってた!」
二人はカッツ・デリカテッセンに出かけた。 パストラミサンドとオニオンリング、山盛りポテトにビールで乾杯だ。 「ねぇ、DCどうだった?」 「うん?誘拐事件の捜査や。3人助けたで」 「そうじゃなくって、ドゲット捜査官だよ」 ダニーはどきっとした。 こいつ、たまにめちゃ勘がええねんな。
「いつものドゲット捜査官と同じやで。真面目で捜査にひたむき。FBIのお手本やな」 「すっかり心酔してるわけだ」 「まぁな。俺はあの人、好きやで、そのヘンな意味やなくて」 「ふうん。何でいつもダニーをDCに呼ぶんだろうね」 「そんなん知らん、さ、食わんと冷めるで」 ダニーは何とかごまかした。
食べ終わり、チェックを済ませた二人はデリの外に出た。 「これからどないする?」 ダニーが気を遣って尋ねた。 「ダニー、疲れてるでしょ?今日はこのまま帰ろうよ」 「さよか、ほな地下鉄の駅まで一緒に行こ」 やれやれや。 ダニーはブルックリンまで電車に揺られながら、ぼんやりドゲットの事を考えていた。 夕べのセックスを思い描いていたら、思わず体が反応し始めた。一人で顔を赤く染める。 俺、まるで恋してるみたいやないか。
ダニーは首をぶるんぶるん振って、しゃきっとした。 家に戻ると、留守電が点滅していた。 再生するとアランの声が入っていた。 「DCからは戻ったのかい?戻っていたら電話をくれ。ハニー、愛してる」 ダニーは電話に飛びついた。 「もしもし、あ、俺、うん、戻った。解決したで。ほな明日行くわ、おやすみ。愛してる」 愛してる・・この一言を言うのに、胸がちくちく痛んだ。 俺って悪い奴や。アランを騙してる。アラン、勘弁な。 ダニーはマンハッタンの方向に向かって、投げキスをした。
ダニーは仕事を終えると、一目散でアッパーウェストに向かった。 久しぶりにアランを訪ねる日だ。 ドゲットの事を思うと、胸がかっと熱くなるが、やっぱりアランに会えるのは嬉しい。 「ただいま!」 「やぁ、ハニー、早かったね」 「うん、飛んできた」 アランは、ダニーをぎゅっと抱きしめて、優しくキスをした。 エゴイストの香りが、ダニーに家に戻った事を告げている。
着替えを済ませてダイニングにつき、食事が始まる。 コーンスープにミートローフと温野菜、それに今日は焼きたてのパンがあった。 「このパン、ほかほかや!」 「ちょっと時間があったんでね、焼いてみたんだ」 「すごいな、アランて。何でも出来るんや」 「これ以上は何にもないよ」 アランは微笑みながら、ダニーがぱくぱく食べる姿を見つめていた。 「DCはどうだった?電話をくれるかと思ったんだが」 ダニーはどきっとした。 何でみんな勘が鋭いんやろ?
「ごめん、DCの先輩捜査官のおともで、疲れきって、ホテルに戻ったらバタンきゅーやった」 「そうか、可愛がってもらったか?」 いちいちドキドキするような質問だ。 「あぁ、俺、気に入られてんねん」 「良かったな、ハニーは人当たりがいいから、さぞかし可愛い後輩なんだろう」 「照れるで」 ダニーはワインを口にした。ごくりという音が部屋に響いたような気がする。
食事を終え、ダニーがメジャーリーグの試合を見るでもなく眺めていると、 アランがソファーの後ろから腕を回して、ダニーの頭を抱きしめた。 「何?」 見上げると「ハニーは本当に可愛いよ、恥ずかしながら、その先輩捜査官とやらに嫉妬してしまったようだ」と アランが困ったような顔をして言った。 「なぁ、ベッドに行かないか?」 「うん、行く」 ダニーは内心焦った。まだアヌスの傷が癒えていないはずだ。 医者の目で見れば何があったのか分かってしまう。
ベッドルームに入ると、アランがダニーのTシャツを脱がせ、ベッドに身を横たえさせた。 アランが静かに身を重ねる。 ダニーの勃起したペニスをトランクスごしに触りながら、乳首にキスを繰り返す。 「あぁ、トランクス脱がせて」 ダニーが甘え声で頼む。 トランクスを脱がせると元気のいいペニスが顔を覗かせた。
「なぁ、今日は俺が入れてもいい?」 「あぁ、いいよ」 ほっとダニーは胸を撫で下ろした。これで局部を見られないで済む。 アランはローションを手に取ってダニーに渡した。 ダニーがアランのアヌスに丁寧に塗りこむと、アランは甘い息を漏らした。 「ほな、入れるで」 ダニーはゆっくり挿入し、優しく抜き差しを繰り返した。
アランの悶える声がダニーの嗜虐心に火をつけた。 アランの体を後ろ向きにし、今度は後背位で一気に突っ込んだ。 アランはずっと悶えたままだ。ダニーはそのままずんずん腰を進めた。 「うぅは、はぁ、アラン、俺、もう出る!」 ダニーは身体を痙攣させて射精すると、アランの上に突っ伏した。 そのとたん、アランが身体の位置を変え、自分の先走りの液を塗ったペニスをダニーに突き刺した。
「うわー!」ダニーは切り裂かれる痛みに叫んだ。 アランはそのまま速度を速めて、身体を震わせ、中に射精した。 精液に血が混じっているのに気がつき、アランが済まなそうな声をかけた。 「ハニー、いきなりでやりすぎたかな」 「ううん、そんなことないで。気持ちよかった」 「ごめん、傷の手当をしよう」 救急箱を取りにいくアランの後姿を、ダニーは申し訳ない気持ちで見送った。 と同時に、ほっと息をついて、目を閉じた。
ダニーはアランのベッドで昼過ぎまで眠っていた。 アランが優しく額にキスをし、ダニーを揺り動かす。 「ハニー、お腹すかないかい?」 「うぅん、今、何時?」 「もうすぐ2時だよ」 「うはー、俺すごい寝坊やな」 寝癖でぴんぴんに立った髪の毛が可愛らしい。 「うん、腹減った」 「じゃあ、起きておいで」
シャワーを浴びて、部屋着に着替え、ダイニングにつくと、ゴルゴンゾーラのパスタにルッコラと生ハムのピザが載っていた。 「ん?ピザ、焼いたん?」 「あぁ、お前ががーごー寝ている間にね」 アランは嬉しそうに目を細めた。 「ごめん、疲れてたんやなぁ。俺のいびきうるさくなかった?」 「いや、僕もすぐに寝たから。昨日はすまない、まだ痛むか?」 「もう大丈夫や、気にせんといて」 「今日、秋物の内覧会があるけど、興味あるかい?」 「うん、アランが行きたいならついてく」 「ありがとう」
二人は遅めのランチを終えて、バーニーズ・ニューヨークに向かった。 招待客だけを招いての内覧会は2度目だが、ダニーはまだ雰囲気に慣れない。 入り口でシャンパンを渡されて、中を案内される。 「今日からショア様とテイラー様のお世話をさせて頂きます、コンシェルジュのジョージです」 ジェレミー・フォックスをもっとハンサムにしたような若い黒人が握手の手を伸ばしてきた。 「お二人のご趣味はきちんと引き継いでおりますので、どうぞ」
ダニーにはアルマーニの秋物のスーツとYシャツ、アランにはヒューゴ・ボスのカジュアルジャケットとパンツが試着室にかけてあった。 パンツの採寸をしてもらうのに、ジョージの手がダニーのペニスに触れたのをダニーは見逃さなかった。 こいつゲイなん? アランが気にしていないようなので、ダニーも無視することにした。 結局、アランのエメラルドカードでまた買い物してしまった。 済まなさが頭をかすめる。 FBIの給与じゃとうてい手が届かんスーツばかりや。オフィスの皆どう思ってるんやろ。
ダニーのYシャツを入れた袋を持って店から出ると、エドに出くわした。 「あ、お二人でショッピングですか?」 「君もかい?」 「ええ、これからです」何となく元気がない。 「エド、何かあったんか?」 「いえ、何もないですよ」 力なく笑うと「それじゃ買い物しますから」と店の中に入っていった。 「何かヘンじゃないか?」アランも訝っている。 「マーティンに電話してみるわ」 ダニーは携帯をかけた。留守電になっている。 「俺や、お前、エドと喧嘩でもしたか?電話欲しい。よろしく」
二人が、グリニッジ・ヴィレッジの「バボ」で食事をしていると、電話がかかってきた。 「おう、どないしたん?喧嘩してないって?今日エドに会ったらな、元気なかったで。電話でもしてやり。 今、食事中やねん、それじゃ、またな」 「マーティン、何だって?」 「今、ニックといてるんやて。あいつ二股かけまくりやな。エドは何か感じて寂しがってんのとちゃう?」
アランはこの間のベランダでの会話を思い出していた。 えてして恋人や配偶者と死別した場合、思い出が昇華されるから美しくなるものだ。 エドはそんな幻想を描いて、自分にアプローチしているに違いない。 「アラン、どないしたん?」 「あ、ごめん、マーティンもしょうがないなぁ。あいつの心の穴は大きいからな」 ダニーはどきりとしたが、静かにペスカトーレをぱくついた。
ワインを飲み干し、デザートにダニーの大好きなヴァニラアイスのカプチーノかけを頼む。 「沢山食った!運動せんと太るな」 「お前には関係ないよ、もっと太りなさい。問題は僕だ」 「じゃあ、家帰って運動しよか?」 ダニーが上目遣いでアランを見ると、アランは嬉しそうに微笑んだ。
マーティンがイーライズで買い物していると、アーロンと出会った。 「やあ、君も今帰り?」 「・・・・・・」 マーティンは知らん顔してタンドールチキンのカートンを手に取った。 「また無視か・・仕方ないよね、あんな酷いことばかりしたんだから」 アーロンは「それじゃ」と言ってマーティンから離れた。 ―なんだ、あいつ? マーティンはアーロンがあっさりいなくなったのに拍子抜けしたが、 同時にほっとしながら買い物を続けた。
焼きたてのライ麦パンも買えて、ほくほくしながらアパートまで急いだ。 ダニーはここのライ麦パンが好きだ。来るかはわからないけど食べさせたい。 そんなことを思いながら通りを歩く。 アパートに入ろうとしたとき、呼び止められてギクッとした。 間違いなくアーロンの声だ。 びくびくしながら振り向くとアーロンが立っていた。
「ここか、君のアパートは。ねえ、何階に住んでるの?」 マーティンはそれには答えず睨みつけた。 「僕の後をつけたのか?」 「まさか、そんなことしないよ。偶然さ」 アーロンはいつものように人の良さそうな笑みを浮かべたが、その含み笑いが気に入らない。 「ふざけんな!」 マーティンはいきなり飛び掛かった。ヘラヘラした顔面を思いっきり殴りつける。
三発殴ったところで、後ろから誰かに羽交い絞めにされた。 「誰だよ!邪魔するな!」 マーティンはいやいやをするように振り解こうとしたが、相手は体を離さない。 「マーティン!止さないか!」 ハッとして振り向くと、ボスが険しい顔で腕を掴んでいた。 周囲には野次馬が集まり始めている。 「大丈夫ですか?息子がとんでもないことを・・本当に申し訳ありません」 ボスはアーロンの体を立たせると、平謝りに謝った。 アーロンの頬は赤く腫れていて、唇が切れて血が出ている。
「申し訳ありません。何とお詫びすればいいのやら・・・」 アーロンはハンカチで口元を拭うと痛みに少し顔を歪めた。 「そんな、もういいですから。僕も悪かったんです。どうかお気になさらずに」 ボスはぼさっと突っ立ったままのマーティンに気づくと、一緒に頭を下げさせた。 ―なんで僕が謝らなきゃいけないんだよ!・・・ マーティンは口惜しくて唇を噛みしめた。こいつの前では泣くまいと涙をぐっと堪える。 アーロンが恐縮してもういいと言っても、ボスはそれからもさらに数回頭を下げ、ようやく顔を上げた。
アーロンを見送った後、二人はアパートに入った。部屋に戻る間、お互いに一言も口を利かない。 「バカもの!路上で騒ぎを起こすなんて、一体何を考えてるんだ!」 ソファに座るなり、ボスの叱責が飛んだ。 「こんなことがヴィクターに知れたらどうするんだ!」 「・・・・・・」 「黙ってないで何とか言え!私がいなかったら今頃NYPDに連行されてたぞ!」 ボスは勝手に冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出すと、グラスも使わずに飲んだ。 ボトルをマーティンに押しつけると小言はまだまだ続く。 とても飲む気になれずボトルを弄んでいると、とうとうサミール事件やレイズ射殺の不始末まで持ち出してきた。
「・・ごめんなさい」 マーティンは謝ったが、殴ったことは後悔してない。 ただ早く小言から解放されたくて謝っただけだ。 ボスはマーティンが反省したと思ったらしく何度も頷いた。 「もう厄介ごとはごめんだぞ、いいな?」 こくんと頷くと、ボスはマーティンの肩を軽く叩いた。 「さ、メシでも食え。それともどこかに食べに行くか?」 「・・ううん、いい。これがあるから」 そうは言ったものの、ぐしゃぐしゃになったデリの紙袋を開ける気にもなれず、ただ握り締めていた。
見かねたボスは紙袋を奪うとカートンを取り出して並べた。 フォークを握らせ食べるよう促す。 マーティンは渋々ラビオリを口に運んだが、味もよくわからない。 ボスは適当にチキンやサラダを食べていたが、ライ麦パンを取ろうとすると、マーティンが慌ててパンを遠ざけた。 「これはだめ!ダニーのだから」 そう言うとライ麦パンを大切そうに紙袋にしまった。 ボスは呆れて目を見開いたが、肩を竦めるとまたチキンにがっついた。
翌朝、ダニーはアランより早く目を覚ました。 今日は俺がブランチ作ったろ! こっそりベッドから抜け出し、シャワーを浴びると、アランの冷蔵庫を引っかきまわした。 メニューは決まった。アスパラガスとチーズのキッシュ、ルッコラとアンディーブのサラダ、 オレンジといちじくのスライス、それにフレッシュアップルジュースとコーヒーだ。 アランが焼いたパンも冷凍庫に入っていた。
献立がほとんど出来た頃、アランが起きてきた。 眼鏡をかけていて超セクシーだ。 「おはよう、ハニー、何作ってくれてるんだい?」 「お楽しみやで、早うシャワー浴びてきて」 ダニーはアランに抱きつくとそっと唇にキスをした。 部屋着に着替えてアランがダイニングについた。 「うわ〜、こいつはすごいな。大変だったろう」 「いつもアランに作ってもろてるから、お返しや」
二人は見つめあいながら、ブランチを済ませた。 「そんな目で見つめられると、またベッドに戻りたくなるわ」 ダニーが恥ずかしそうに言った。 「ははは、さすがにおじさんはそんな元気はないよ、今日は何をしようか?」 「俺、CDショップに行きたいねん、それからちょっとブルックリンに戻って家事するわ」 「なぁ、またここに住んでもいいんだよ」 「うん、俺も考えてる、それで、アランはええの?」 「もちろんさ、僕がお前と添い遂げたいと思っている気持ちには変わりはないんだから」 アランのまっすぐな瞳にダニーは射抜かれた。
「わかった、じゃあ、また荷物持ってくる。今日は家でディナーしよ」 「あぁ、用意するよ」 ダニーはタワーレコードに寄るとJavier GarciaのCDを買い求め、ブルックリンに戻った。 郵便物の中から請求書を取り出して、小切手を切り始める。 それが終わると、ガーメントケースにスーツ3着にYシャツ5枚を入れて、マスタングを発進させた。 合鍵で、アランのアパートに入ると、ガーリックのいい香りがした。 アランがエプロンをつけて、キッチンに立っている。
「ただいま!」 「おかえり、ハニー」 「俺、荷物整理するわ」 ダニーは整頓されたアランのウォーキングクローゼットに入った。 ちゃんと自分の場所が確保されている。幸せにダニーはにんまりした。 「今日のディナーは何?」 「季節野菜のコンソメ煮と、黒むつのアクアパッツア、それにチーズリゾットだ、いいかな?」 「最高やん!」 ダニーは早速買ってきたCDをかけ始めた。 ラテンのリズムの中にアイルランドの旋律が入る不思議な楽曲だ。 ダニーはリビングで一人、踊りながら、料理が出来上がるのを待った。
「さぁ、出来たよ!」 二人のディナーが始まる。どれも甲乙つけがたい料理で、ダニーは舌を巻いた。 「やっぱりアランにはかなわんなぁ。俺、弟子入りする!」 「いつでもどうぞ」 二人でワインを空けて、リビングでいちゃいちゃしていると、インターフォンが鳴った。 「はい?」 「アラン?僕です、エドです」 「入っておいで」 アランはエドを招き入れた。ダニーは思わず書斎に隠れた。 何となく、いずらい雰囲気がしたのだ。
エドは入ってくるなりアランに抱きついた。 何!これ、何やねん! 「アラン、僕、どうしたらいいのか、あなたに抱いて欲しい!」 「おいおい、酔ってるだろう、エド、今、水を持ってくるから、ソファーに座りなさい」 エドは言うとおりにした。コントレックスをぐいっと飲む。 「今日が恋人の命日なんです。僕、向こうの家族に許されてないから、お墓参りにも行けなくて・・」 「そうか、辛いな。でも、君は間違っているよ。僕はその人の身代わりではない。 ましてや、僕にはダニーがいる。分かるだろう?」
「でも、あなたを見ていると、こみ上げてくる気持ちが我慢できない!」 エドはまたアランに抱きついた。 これ以上、我慢しきれなくなり、ダニーは書斎から飛び出した。 「エド、ええ加減にせいよ!アランは俺の大切な恋人や!お前なんかに渡されへんわ!」 エドはワーっと泣き出した。 「ハニー、ここは僕に任せて、シャワーでも浴びなさい」 「でも・・・」 「いいから」 アランのきつい言葉にダニーは従った。 シャワーを終えてリビングに戻ると、エドはもういなかった。
「どういうこと?」ダニーがアランに尋ねた。 「彼の亡くなった恋人が、僕に似ているんだそうだ。僕といると思い出すらしい」 「じゃあ、エドと会わなければええやん!」 ダニーはぶりぶり怒っていた。 「そうだな、ハニーの言うことに一理ある。二人で会うことはないだろう」 「俺、めちゃ不安やねん。エドみたいなボンボンで学歴もすごい奴がいつかアランをさらっていくちゃうかなぁとか思うと、 眠られへん」 「ばかだなぁ、そんな事あるわけないだろう。僕はお前に夢中なんだから」 アランが近寄ってダニーの額に優しくキスをした。 「僕もシャワーして、ベッドに行くよ」 「うん、待ってる」 ダニーはベッドに横たわり、天井をずっと睨んでいた。
バスルームから出たダニーが水を飲みながらリビングへ行くと マーティンが沈んだ顔をしてソファに座っていた。 「わっ、マーティン!来てたんか!ん?どうしたん?」 ダニーは頭をごしごし拭きながら隣に座った。 「・・別にどうもしないよ」 「そうか?なんか泣きそうやん」 マーティンは黙って首を振るとダニーにもたれかかった。
「なぁ、また副長官か?」 「ううん、違う」 マーティンはもたれかかったままぼんやりしている。 ―まさか、オレとジェニファーのことに気づいたんちゃうやろな? ダニーは急いで部屋を見回した。ジェニファーの痕跡は消したはずだが気が気でない。 焦ったせいで体がじっとり汗ばんだ。
「あ、これ、イーライズのライ麦パン」 マーティンはテーブルの上のぐしゃぐしゃの紙袋を指差した。 「サンキュ、明日の朝食べるわ。しかしこの袋、えらいことになってるな」 ダニーは一応中のパンを覗いてから、丁寧に袋の口を折りなおした。 「それでと、ほんまは何があったんや?」 凹んでいる理由を聞いてもマーティンは何も言わない。 「言いたくないんやったらええわ。お前も風呂入ってき」 ダニーはマーティンのネクタイをほどいてベルトを外すと、バスルームへと追いやった。
マーティンが風呂に入っている間、もう一度室内を念入りにチェックする。 コンドームもきちんと始末したし、ベッドも整然としている。 キャビネットの上の飛行機がひとつ減っていることに気づかないとは思うが、それ以外はほぼ完璧だ。 「へっ、へくしょんっ!んがー」 ダニーは派手なくしゃみをして、自分がまだバスローブ姿だったことに気づいた。 やれやれと思いながら鼻をかみ、体が冷えたついでにバスルームへ様子を見に行った。
ダニーが入っていくと、マーティンがバスタブの中で顔を覆っていた。 ―えっ、こいつもしかして泣いてる?どうしよ、オレ・・・ 「な、なぁ、マーティン?」 ダニーはおろおろしながら声をかけた。 どうしていいかわからず自分もバスタブに浸かると、とりあえずマーティンの手を顔から剥がす。 マーティンは泣き顔を見られるのが嫌で、お湯の中に顔をつけた。
息が苦しくなって顔を上げると、心配そうなダニーと目が合った。 「オレのことで泣いてんの?」 「ううん、ダニーは悪くない。悪いのは・・」 ダニーに問いかけられても本当のことを言う勇気はない。 レイプされたなんて言えやしない。それも一度だけじゃない、何度もだ。 マーティンはまた顔を手で覆った。 「・・オレ、のぼせそうやから先に出るな」 気を遣ったダニーは、マーティンの髪をくしゃっとすると、体を洗い流して出た。
ベッドに寝転んでいると、マーティンが静かに入ってきた。 ダニーはとっさに狸寝入りをした。しばらく見られている気配がする。 マーティンはクローゼットからパジャマを取り出して着替えると、ベッドにもぐりこんできた。 「ダニィ、僕、起きてるの知ってるよ」 「あちゃー、バレたか・・」 ダニーは照れ笑いしながら手をつなぐと抱き寄せた。 マーティンはおとなしく胸に抱かれている。
「僕、しばらくここから通ってもいい?」 「ええけど、なんで?」 「・・・・・・・」 「まただんまりか、しゃあないなぁ。わかった、当分の間だけやで」 「ん、ありがと」 ダニーはぎゅっとしがみつくマーティンのほっぺにキスをした。 ついでにペニスにも手を伸ばすと、マーティンが手を掴んだ。 「ん?」 「今日はしたくないんだ。ごめんね」 「なんかお前らしくないな。オレ、心配やわ」 「へーき、少し疲れてるだけだから。ごめんね、おやすみ」 マーティンはそう言うと背を向けて目を閉じた。 いつもと違う様子に困惑したダニーは、心配で背中から目が離せない。
携帯が鳴り響き、ダニーは慌てて電話に出た。着信表示はボスだ。 「はい、テイラー」 「ああ、私だ。マーティンはどうだ?もう寝たか?」 「ええ、寝ましたけど、なんか様子がおかしいみたいで心配ですわ」 「そうか、よく面倒を見てやってくれ」 「ボスが何かしたので?」 「ああ、少しやりすぎた。後は頼んだぞ」 ボスは一方的に電話を切ってしまった。ダニーはくさくさしながら携帯を閉じる。 ―かわいそうに、また変態のおもちゃにされて・・・ ダニーはマーティンに添い寝すると、やさしく髪をなでて目を閉じた。
ダニーは支局に出勤しても、昨日のエドの事が気になって、ぼんやりしていた。 マーティインが「ダニー、どっか具合悪いの?」と声をかけてきた。 そうや、こいつがエドを繋ぎとめておかないのが、いけないんや! 「おぉ、お前に話がある。ランチ行こか」 「何か怖いなぁ、ダニー」 マーティンは訳も分からず、ダニーの後を追った。
いつものカフェに寄って、ダニーはツナのパニーニ、マーティンはチキンフォカッチャを頼んだ。 「なぁ、お前さぁ、もっとエドを構ってやり」 「え?何だよ、ダニー、僕が邪魔なの?」 「そやないねん、あいつさ、アランに抱いてくれって迫ったんやで」 「え、うそ・・」 明らかにマーティンはショックを受けた顔をした。 「アランがあいつの亡くなった恋人に似てるって知ってたか?」 「ううん、初耳」 「アランといると、思い出すんやて」
「じゃあ、一緒にいなけりゃいいじゃん」 「そやねんけどな、俺ら4人で食事とかするやんか、それもまずいらしいで」 「え、じゃあ、僕もダニーと会えなくなっちゃうの?」 「それとこれとは別や。とにかくな、ニックもええけど、エドを救ってやり。 あいつ亡霊にまだ恋してんねんで。可愛そうやと思わへん?」 「ショックだ」マーティンは頭を抱えた。 「あいつにアル中の泥沼から救ってもらったんやから、恩返ししてやり、分かったな」 ダニーはそれだけ言うと、さっさとバゲットサンドを食べ終え、 「じゃあ、先に帰るわ」と席を立った。
半分以上フォカッチャが残っているマーティンは一人取り残された。 エドの事もショックだが、エドともっといてやれとダニーに言われた方がもっとショックだった。 その上、アランに自分の大切にしている人たちが次々にさらわれてしまう。 アランには一生勝てないんだと思い知らされて、さらに落ち込んだ。 マーティンはフォカッチャをテイクアウトにしてもらうと、支局に戻った。
デスクでがさごそ残りを食べていると、サマンサがコーヒーを持ってきてくれた。 「マーティンが珍しいわね、食欲ないの?」 「ちょっと考え事してたから」 「ははぁん、ひょっとして恋の悩みかな〜、ドクター・スペードなら今晩は空いてるわよ」 「そんなんじゃないよ、でもありがと、サム」 マーティンは廊下に出て、エドの携帯に電話をかけた。本人が出る。 「あ、エド、僕だけど、今日、食事しない?場所は決めてメールするね。じゃあ後で」 ダニーがそんなマーティンの様子を見てVサインを送っていた。 ばかダニー、僕の気持ちも知らないで!
マーティンは、エドとグラマシーの「クラフト」で待ち合わせをした。 素材と調理方法を自分で選ぶレストランだ。 アンティパストの盛り合わせと名物のビーツのサラダを頼み、 マーティンは牛のリブロースのガーリックステーキ、エドは真鯛の香草焼きを選んだ。 ワインで口が滑らかになってきた頃、マーティンが切り出した。 「ダニーから聞いたんだ。エド、そんなに寂しかったの?ごめんね、僕、気がつかなかった」
エドはとたんに傷ついた顔になった。 「知られちゃったんだ。僕の秘密。もう4年も前の事なのに命日になると思い出すんだよね。 病院で彼を見取った事とか。アランにさえ会わなければ、マーティンとやっていけると思ってた」 「まだ間に合うって思わない?僕ら、まだ会って数ヶ月だよ」 「マーティン、こんな僕でもいいの?」 「似たもの同士だもん。僕をアル中のどん底から引き上げてくれたのは、紛れもないエドだし」
「ありがとう、僕ももう吹っ切ろうって昨日決めたんだ。本当にありがとう」 エドは目に涙を溜めていた。 「ちょ、ちょっと、ここで泣かないでよ、僕が泣かしたみたいじゃん」 「ごめん、ごめんね、トイレに行ってくる」 マーティンは席を立ったエドの後姿を見つめていた。 これでいいんだよね、ダニー。これがダニーの望みなんだよね。
マーティンは、あの日以来、暇を見つけてはエドと会っているようだった。 勧めた手前、今さら何も言えないダニーだったが、心中穏やかではなかった。 俺、あほか!恋敵と一緒にもっといろなんて、何で言っちまったんやろ!
今日は久しぶりに二人で聞き込みを命ぜられた。 車に乗った瞬間、マーティンがダニーにキスをした。 「お、おい!まだ支局の駐車場やで!」 「いいの!キスしたかったんだから」 「お前なぁ」 「さ、早く聞き込み行こうよ!」 いつになくマーティンが張り切っている。 ダニーは車のエンジンをかけた。
聞き込みは空振りに終わった。 「やれやれやなぁ。そうは簡単にネタは取れないと」 ダニーが頭の後ろをぽんぽんと叩いていると、「ねぇ、ダニィ、行かない?」とマーティンが甘ったれ声を出した。 「うん?」 「ね、行こうよ!」 「しゃあないなぁ、じゃあ行くか?」 いつものクイーンズのモーテルにチェックインする。
ドアを閉めるやいなや、マーティンがダニーを壁に押し付けて、キスをしてきた。 手はすでにダニーのパンツのホックをはずしている。 「早く、脱いで!」 ダニーは急がされてあたふたとスーツを脱いだ。 マーティンはいち早くベッドに横たわっている。 ダニーは携帯のローションを取り出すと、中身を見せた。 きゃっきゃと喜ぶマーティン。 子供みたいな奴。 ダニーは半ば呆れながら、ローションのふたを取り、マーティンのアヌスに塗布した。
中がひくひくといやらしく動いている。 「お前のここ、別の生き物みたいや」 「ダニーのことが欲しい動物だよ」 ダニーは自分のペニスを扱きたてると、ローションを塗り、前戯もなく、ずぶっとマーティンの中に入った。 「お前、締め付けるなよ、そんなんされると俺、もたへん」 「いいよ、僕の中に来て!僕もダニーの中にいきたい」 ダニーは身体を震わせるとマーティンの中に射精した。
マーティンはダニーの身体を後ろ向きにすると、ローションを塗りたくって挿入した。 「あぁ、ダニィ、すごいよ、僕もいくね!」 マーティンはスピードを速めると、とたんにぐったりした。 「お前大丈夫か?」 「うん、へーきだよ」 「さぁ、シャワーして支局へ帰るで」 「うん」 「ソープ使うなよ」 「分かってるってば」 二人は、鍵を返すとモーテルを後にした。
「お前、無理すんなや」 ダニーは疲れた顔をしているマーティンに声をかけた。 「だって、ダニーとの時間は特別だもん」 「ごめんな、俺、そのさ、お前に悪い事したと思うてる」 「もう、いいんだよ」 ダニーはほっとした。 「エドはどうしてる?」 「落ち着いてるよ。もうアランの事はあきらめたってさ」 「さよか」 「やっぱ、嬉しい?」 「そりゃ、浮気されるよか、なんぼか嬉しいで」 「僕が他の男と寝ててもいいの?」 「それとこれとは別や。お前は俺にとって大切な奴なんやから、俺を信じろや」 ダニーはマーティンの髪をくしゃっとした。 「うん・・分かったよ」 一体どこが別なんだよ! マーティンは全く理解できなかった。
二人は支局までの間、無言で車に乗っていた。 ボスに聞き込みが空振りだった旨を報告する。 マーティンはお腹がすいたのか、カンティーンでピザを買ってきた。 「ダニーも食べる?」 「俺はええわ、お前よく食うな」 「お腹すくことしたからね」 「へぇ〜、聞き込みでお腹すいたの?」 サマンサが突っ込んだ。むせるマーティン。 「あぁ、こいつ走り回ったからな」 ダニーが助け舟を出した。
今日はそのまま事件の進展がなく、チームは三々五々、帰り始めた。 「ねぇ、ダニー、何か食べに行こうよ」 「すまん、俺、今日は家で飯やから」 アタッシュを持って帰るダニーを見送るマーティン。 やっぱり、またダニーが遠くに行っちゃった気がするよ。
マーティンは空腹で目が覚めた。 ダニーの腕にしっかり抱かれていて、守られているようでうれしい。 ぽつぽつ伸びたヒゲを指でなぞってそっとキスすると、腕をそっと持ち上げて這い出した。 冷蔵庫を開けると、チェルシーマーケットのガトーショコラが半分残っていた。 ダニーがこんなにたくさん甘いものを食べるなんてめずらしい。 不思議に思いながらラップを外して食べ始めた。
「ボン、おはよう」 眠そうなダニーが起きてきた。ほとんど目が開いてない。頭も寝癖でぐしゃぐしゃだ。 「おはよう。これ食べてるけどいい?」 ダニーはマーティンがガトーショコラを食べているのを見てギクッとした。一気に目が覚める。 「あ、ああ、ええよ、食べ。ミルク入れたるわ」 どぎまぎしながらミルクをグラスに注いでテーブルに置く。 「ダニーが半分も食べてるなんてめずらしいよね。でもさ、すっごくおいしいよ、これ」 屈託なく笑う顔を見るのが後ろめたい。そうやろと言いながら話をすり替えた。
ベーコンエッグを焼いていると、マーティンが後ろから抱きついてきた。 「なんやなんや、卵が焦げるやんか。焦げたん食べたいんか?」 「やだ!」 マーティンはそれでもくっついたままだ。ダニーは左手を重ねると、そのまま料理を続けた。 「ねえ、僕の持ってきたライ麦パン食べるの?」 「決まってるやん、昨日から楽しみにしてたんやで。もう腹ペコや」 ダニーにキスされて照れくさいマーティンは、にっこりすると背中に顔を押し当てた。
マーティンは大切そうに置かれているキッチンクロスを見つけた。 広げると黒には蜘蛛の巣の柄が刺繍されていて、オレンジには蜘蛛が刺繍されている。 「ねえ、これどうしたの?」 突然聞かれて、ダニーは心臓が止まるかと思った。 ―ジェニファー、オレンジのん忘れてるやん・・・ 「あっ、それな、クレート&バレルのハロウィンコーナーで見つけたんや」 ダニーは何でもないふりをして答えたものの、気が気でない。 「ふうん、そうなんだ。いいね」 マーティンは元の場所に戻すと、ハロウィンが楽しみだと言って抱きついた。
朝食を食べている間も、ダニーは罪悪感でいっぱいだ。 自分はバイなのだからと、自身を納得させながら食事を続ける。 最後にはバレなければいいんやと、自分自身を言いくるめた。 事実、それ以外にどうしようない。 食事の後で一緒にシャワーを浴びながら、ダニーはマーティンの体にボディーソープを塗りたくると、全身を泡まみれにした。 お尻にペニスを押しつけながら、誘うように腰をくねらせる。
「ダニィ、くすぐったいよ!」 「気持ちいいやろ」 身を捩じらせるマーティンのペニスを扱きながらさらに腰を動かし、 先っぽだけ挿入すると、ダニーはキスして激しく舌を絡ませた。 マーティンの荒い息遣いが伝わってきてゾクゾクする。 後ろを向かせて奥まで一気に突き進めると、体を押さえつけて挿入をくり返した。 「あうっ・・んぅ・・」 腰を動かすたびに、マーティンが必死に指を絡ませてくる。手が痛いぐらいだ。 「ひ・ぁうっ・・い、イク!」 マーティンは背中を大きく仰け反らせると射精した。
ダニーもそのまま射精しようとしたが、何故か小さくなってしまった。 ―おかしいな、イキそうやったのに・・けど、このままやったら怪しまれる・・ ダニーはイッたふりをすると、やさしくキスした。 マーティンは何も気づかず身をゆだねている。 ダニーの心の中はまた罪悪感でいっぱいだ。青い瞳をまっすぐ見るのが怖い。 それでも浮気はやめられそうになかった。
あげます
仕事を終えて、ダニーは久しぶりにブルー・バーに立ち寄った。 エリックは休みなのか、姿が見えなかった。 カウンターに座り、ドライ・マティーニを飲んでいると、肩をぽんと叩かれた。 振り向くと、バーニーズ・ニューヨークのジョージが微笑んでいた。
「奇遇ですね、テイラー様」 「テイラー様はよしてくれ、ダニーでええよ」 「ダニー、この間はどうも」 「こちらこそ、ありがとな」 「一緒にいいですか?」 「ああ、もちろんや」 バーテンダーが小エビのフライと生ハムを持ってきた。
「サンキュ」 「ここの常連なので?」 「あぁ、俺と同じ故郷のバーテンダーがおんねん。そんなんで寄ってる」 「故郷ってどこです?」 「マイアミや」 「ふうん、僕はボルティモアです。ねぇ、ショア様って素敵ですよね、 すごく成熟した大人の雰囲気で」 「あぁ、アランはな、すごい奴や」 こいつ、何を話そうとしてんねん? ダニーは訝った。
「アランか、僕もいつかあんな恋人が欲しいですよ」 「うん?ジョージ、ゲイなん?」 「はい、洋服が大好きで、モデルのバイトもしています。ありがちでしょ?」 「そんなもんかなぁ。俺、他の仕事の事、あまり知らないねん」 「ダニーはどんな仕事?」 「政府の役人」 「うわ〜、お堅いんですね。憧れちゃうな。ダニーが選ぶスーツ、 いつもコンサバだったから、もしやとは思ってたんですけどね」
「モデルで名を上げたいん?」 「本当は俳優志願なんだけど、山ほどいるでしょ。モデルでもいいかと」 「お前、いくつ?」 「29歳です」 「これからやん、がんばり」 「ありがとう、それじゃ乾杯!」 その後もダニーはジョージとよもやま話をしながら、カクテルを重ねた。 そろそろ潮時や。 ダニーは「じゃ、帰るわ」と立ち上がった。 「僕も」ジョージも立ち上がる。
二人でタクシー乗り場に行く途中、ジョージが「ダニー」と声をかけた。 ジョージの方を向いた瞬間、ダニーはジョージの唇が触れたのを感じた。 「え?」 「ごめんなさい、ダニーの横顔がすごく素敵だから。僕、歩いて帰ります」
ダニーはアッパーウェストに向かうタクシーの中、ジョージのキスの意味を探っていた。 さすがのダニーも黒人との経験はない。 ガキの頃、ヒスパニックと黒人の仲は最悪だったし、 女性ともそんな気になった事はなかった。しかしダニーは嫌な気がしていなかった。ジョージの肉感的な唇の感触がまだ残っている。
やばい、俺、もやもやした気持ちになってる。 俺にはアランとマーティンがいてる。それにドゲット捜査官も。 それで十分やないか。これ以上人生を複雑にしてどないする。 ダニーはしっかり前を向いて、迫ってくるセントラルパークを見つめた。
いつものモーテルを出ると、外は夕暮れだった。 「陽が短くなったなぁ、もう秋なんやな」 「なんかセンチメンタルになっちゃうよね」 「お前、前髪ちゃんとせいよ」 ダニーがマーティンの髪の毛を直してやる。 マーティンは照れた顔で嬉しそうに笑った。
こんな形の逢瀬が何回続いているだろう。 これじゃまるで不倫カップルみたいだ。 マーティンは嫌じゃないのだろうか。 笑っているマーティンを見ながらダニーは訝った。 しかしそれぞれに相手がいる今、どうすることも出来なくなっている。 「さて、支局に戻るで」 「うん、分かった」
二人が戻ると、ボスが待っていた。 「ずいぶんゆっくりだったな」 「あ、聞き込みの後、タレコミ屋も当たりましてん」 ダニーがすらすらとウソをつく。 「まぁいい、成果を上げてくれよ、成果だ」 ボスはオフィスに入っていった。肩を竦める二人。 席に戻ると、サムが寄ってきた。 「ボス、低気圧でしょ、さっき、副長官がみえたのよ」 「え、父が?」 「随分長い間話し込んでたわよ」 マーティンは表情を硬くした。
ウワサをすれば影、当の副長官がフロアに姿を見せた。 「やぁ、マーティン、元気にしているか。たまにはかあさんに連絡しろよ。心配している」 「はい、すみません」 「そうだ、急な話だが、お前の友達とディナーでもどうかな?お前がNYでどんな友達を持っているか知りたくなってね」 「え、今日ですか?」マーティンは逡巡した。 「分かりました、連絡してみます」 「頼んだぞ、場所はジャン・ジョルジュにしよう。時間は7時フラットだ」 「はい」 副長官は上の階に上がっていった。ふぅっとマーティンはため息をついた。
「お前も大変やな。俺、行こか?」 「ダニーにはいつも付き合ってもらってるから、今日はエドを誘ってみる」 「さよか、エドがだめやったら呼んでくれ、決してニックを連れて行くなよ」 「分かってますって」 マーティンはエドに電話をした。 「え、お父さんと食事なの?」エドも驚いていた。 「ごめんね、迷惑だと思うんだけどさ、お願い!」 「分かった、ジャン・ジョルジュだね、行くよ」 「ありがと、エド」 「どういたしまして」
7時になり、副長官は、ボスと座って待っていた。 マーティンがエドと一緒に席につく。 「初めまして、エドワード・シュローダーです」 「どこかでお名前を伺ったことがあるようだが?」副長官が質問する。 「エドは起業家で、フォーブスの富豪ランキングの常連ですよ、父さん」 「ほぅ、そうか。だからお名前に聞き覚えがあったのか。若いのに素晴らしいな、乾杯をしよう」 ドン・ペリニオンの栓が開く。 「乾杯!」
エドは控えめながら、自分の事業の全貌や今年の業績見込みをすらすらと説明していた。 マーティンは舌を巻いた。 これがエドの底力なんだ。すごいな。 副長官はいたく感じ入ったようで上機嫌だ。 「息子がFBIをくびになったら、君の会社にポストはないかな?この子もCPAの資格を持っているし」 「副長官、うちの大切なメンバーに転職を勧めないでくださいよ」 ボスが思わず口をはさんだ。
フォアグラのソテー・オレンジソースが終わって、極上のステーキが並んだ。 副長官はエドの人柄を心から気に入ったようだった。 エドがトイレに立った時、マーティンに言った。 「いい子じゃないか。お前の交友関係を知って安心したよ」 「僕だって友達は選んでますよ、ご心配なく」 エドが戻ってくると、デザートタイムだ。 エドはフルーツのシャーベットを、ボスはティラミス、 フィッツジェラルド親子は相変わらずチョコレートケーキをおそろいで頼んだ。
食事を終え、ボスが副長官をフォーシーズンズに送ると言ってタクシーに乗り込んだ。 「ごめんね、堅苦しかったでしょ?家の父さん、押し付けがましいし、いつもああなんだ。」 マーティンが済まなそうに告げる。 「家の父も同じようなもんだよ。慣れてるから平気」 「父さん、エドの事気に入ったみたいだね」 「よかった!マーティンの役に立てたのが一番嬉しいけどね」 「今日どうする?」 「僕の家にこない?」エドが誘った。 「うん、リラックスしたいや」 「じゃあ、家に帰ろう」 マーティンとエドは一緒にタクシーに乗り込んだ。
一方、アランの家でマーティンの電話を待っていたダニーは、空振りに終わった。 「仕事の連絡待ちかい?」 「ああ、そうやねん、もう今日はなさそやな」 ダニーはパジャマに着替えてベッドに入った。 アランも続いて入ってくる。 優しくキスしあうと、ひしと抱き合ったまま目を閉じた。
デスクで仕事をしていると、ダニーの携帯が鳴った。 「はい、テイラー」 「ダニー、今話せる?」 ジェニファーの声に、ダニーはきょろきょろと周囲を見回した。 幸いマーティンもサマンサも席を外している。ヴィヴィアンも他の電話に出ていた。 「ええよ、いきなり切るかもしれへんけど」 「ごめんね、忙しいのに。私、キッチンクロス忘れてなかった?」 「忘れてたがな。ショックやわ、オレとおそろいやのに。ジェンって忘れっぽいんやな」 言いながらも、ダニーの頬は自然ににやけている。
「でもいいんや、これでまた会えるやん」 「ねえ、わざと忘れたって思ってるでしょう?」 「うん、そう。そういうことにしときたい」 二人は同時にくすくす笑った。 何気なく廊下に目をやると、訝しそうなボスと目が合った。そろそろやばい。 「あちゃー、ボスがこっち見てる。ごめんな、もう切るわ」 ダニーは携帯をしまうと、書類に戻った。
―そや、ころっと忘れてたけど、当分マーティンがいてるんやった。 どうしよ、ジェンに会われへんやん・・・ ダニーは無意識にふーっと大きくため息をついた。 「どうしたの?ため息なんかついて」 いきなりヴィヴィアンに尋ねられ、ダニーは苦笑した。 「あ、いや・・オレは書類仕事より外のほうが好きやから」 「そうね、でもこれも大事な仕事よ」 ヴィヴィアンはダニーの肩をポンとたたくと、マグを手に行ってしまった。
ダニーは気持ちを入れ替えて書類を仕上げると、ボスのオフィスに行った。 「ボス、書類に目を通していただけますか?」 「ああ」 ボスは妙に愛想がいい。かえって不気味だ。 「何かいいことでもあったので?」 「まあな。昨日はマーティンの面倒を見てやったか?」 「ええ。まあ、大したことはしてませんけどね。あいつを虐めるのはやめてくださいよ」 「そうだな、お前の大切な坊ちゃまだから大切にしないとな」 ボスはくくっと笑うと書類を返した。もう行っていいというように手を振ると、部屋から追い出す。
「よかったな、マーティン。ダニーもお前を気にかけてるぞ」 ボスはデスクの下にもぐっているマーティンに声をかけた。 マーティンはペニスを咥えたまま悔しそうに睨みつける。 「なんならダニーを呼び戻そうか?」 ボスはのらりくらり言いながら電話に手を伸ばした。本当に呼び戻そうとしている。 慌てたマーティンは出ようとして、デスクに頭をぶつけた。 「痛っ!」 「何やってんだ、バカ。まだ終わってないぞ」 ボスは非情に言い放つと、フェラチオの続きをさせた。
ダニーはマーティンがボスのオフィスから出てくるのを目撃した。 戻ってきてもぼんやりと座ったまま左手で後頭部をなでている。 「おい、お前いつからボスのオフィスにいてたん?」 「えっ、つ、ついさっきかな」 「そうなん。晩メシピザにしよか?」 「ん、ダニーに任せる」 マーティンは力なく笑うと帰り支度を始めた。ダニーもそれに倣う。
「なんか元気ないやん。カラオケでも行くか」 「やだよ、そんなとこ行ったら立ち直れないよ、僕」 「よし、ほな飲みに行こう。ピザはやめや。今日はオレが奢るわ」 ダニーはブリーフケースを持って勢いよく立ち上がった。 「どこにしようかな?お前の行きたいとこでええで。言うてみ」 「それじゃまっすぐ家に帰りたい。帰ってよしよしってしてもらう」 ダニーは吹き出したが、マーティンは大真面目だ。 「嘘やろ?嘘やんな?」 「ううん、本当に帰りたいんだ」 「しゃあないな、よしよしってしたるわ」 ダニーは笑いを堪えながら言うと、マーティンを連れてオフィスを出た。
マーティンが席でPCを操作していると、携帯が震えた。 見覚えのない番号だ。 「はい、フィッツジェラルド」 「あ、マーティン、私、アリソンです。ニックのエージェントの」 「あ、こんにちは」 「今、話してもいい?」 「大丈夫ですよ」
「ニックに至急会ってあげて欲しいの。とにかくあなたの力が必要なの、お願いします」 「どうかしたんですか?」 「会えば分かるわ。とにかくよろしくお願いします」 アリソンは済まなさそうな声で何度も頼んだ後、プチっと電話を切った。 ニックがどうしたんだろう?そういえば今頃、ベルリンの個展の準備をしているはずだ。
マーティンは廊下に出て、ニックの携帯に電話をかけた。 ベルは鳴っているが応答がない。家の電話に切り替えた。 こちらも同じだ。マーティンは、仕事の後、家を訪ねることにした。 ミート・パッキング・エリアにタクシーを飛ばす。 インターフォンを何度も鳴らすが応答がない。 留守なのか? 万が一と思いドアノブをひねると、ドアが開いた。
その瞬間、忘れもしないアルコールのすえた匂いがむっと鼻についた。 「ニック!」 Tシャツにジーンズの姿で、ニックがソファーにのびていた。 「どうしたの、ニック!」 「うん、あぁ、お姫様か、俺が夢にまで見たお姫様・・」 語尾がごにょごにょはっきりしない。 マーティンは冷蔵庫の中からミネラルウォーターを探し出し、ニックに飲ませた。
「ねぇ、どうしたの?」 「俺の才能が枯渇したんだ、もう写真が撮れない、ははは、ニック・ホロウェイ、つかのまのスポットライトの終焉さ」 「そんな事ないよ、ニックはすごいフォトグラファーだよ、僕が一番知ってるよ」 「お姫様、そうだ、お前だ!お前の写真を最後の写真にしよう」 ニックはのろのろと立ち上がると、スタジオの照明をつけ始めた。 「えっ、今から撮るの?」 「あぁ、俺を救いに来てくれたんだろ?お姫様、それなら救ってくれよ、頼む」
マーティンはニックのただならない様子に、気持ちを決めて、スーツを脱いだ。 全裸になってスタジオの中央に立つ。 それからの2時間、マーティンはニックの言うままにポーズを取った。 顔だけは全部どうにか覆うようにして、100カットほどを撮影し、セッションを終えた。
「ふぅ〜、アルコールもぶっとんだぜ、お前は最高のモデルだよ、マーティン!」 さっきまでの鬼気迫る様子から、急に温和になったニックがいた。 マーティンは急いで服を身に着ける。ニックはまた水を口にした。 「ねぇ、いつからこんな調子だったの?」 「あぁ?ベルリンの準備始めた2週間前からだ、完全スランプになった。 新しいモデルが来ても、シャッターが押せなくてね」 「じゃあ、ちゃんと食べてないんじゃない?」 「アルコールで十分だったのさ、今は猛烈に腹が減ってる」 「じゃあ、食べに行こうよ、ジャケット着て!早く!」
マーティンは、ニックを連れ出し、イタリアンの「バブート」に出かけた。 ニックの顔を見て、フロアマネージャーが奥のテーブルに案内する。 「ちっ、しまった、サングラス忘れた」 「いいよ、見られてもさ」 どうやらフロアマネージャーはLOSTのソーヤーが入店したと勘違いしたらしい。 いずれにしても奥の席はありがたかった。
しめ鯖のカルパッチョと季節野菜のサラダに、五穀米のリゾットと渡り蟹のパスタを頼んだ。 アルコールは抜きで、サン・ペリグリーノの大瓶をオーダーした。 「どう、気分は良くなった?」 「あぁ、お姫様のお陰で、どうにかな、また仕事が出来そうな気になってきたぜ」 「良かった!弱気なニックなんてニックじゃないよ、僕は、そんなニック嫌いだ」 「分かったよ、お姫様、今日はありがとな、でも何で急に来たんだ?」
「あ、アリソンが電話くれたから・・」 「そうか、あいつにも迷惑かけたな」 「いいエージェントさんでよかったね」 「あぁ、俺にはもったいないな」 食事が終わり、歩いて二人はニックのステューディオに戻った。 「僕、泊まるよ、ニックが心配だ」 「いいよ、もう大丈夫だから」 ニックはえくぼを見せ、照れた顔をした。 「泊まりたいんだ」 マーティンはニックを見上げた。 「分かったよ、お姫様、それじゃシャワー浴びるか」 二人は、ぱっぱと服を脱いで、バスルームに入っていった。
マーティンが昨日と同じスーツで出勤すると、サマンサが「ふん、全く男って」と言いながら通り過ぎた。 ダニーもちらっと見たが、すぐに書類に目を落とした。 しょうがないじゃん、帰る暇がなかったんだから。 マーティンはコーヒーを取りにコーナーへ行った。
ボスがオフィスから顔を出し、マーティンを呼んだ。 「はい、ボス」マグを片手にオフィスに入る。 「昨日と同じスーツだが、何かあったか?女か?」 突然の質問にマーティンは驚いた。 「まさか、違いますよ、病気の友達を見舞っただけです」 「それならいいんだが。ヴィクターからお前の私生活をモニターするように言われてな」 「え、父さんがそんなことを?」
「ダニーにも言ったはずだ」 「ひどい、プライバシーの侵害だ」 「だからお前に伝えたんだ。あまり目立った事はするなよ」 「はい、ボス」マーティンは打ちひしがれて、席についた。 コーヒーもすでに冷めてしまっている。 ひどいや、父さん、僕が信じられないの?
ランチタイムになり、ダニーは見るに見かねて、マーティンを外へ誘い出した。 いつものカフェでダニーはロブスタービスクとバゲット、マーティンはプロシュートのサンドウィッチをオーダーする。 「お前、副長官の話で凹んでるんやろ」 「ダニー、分かった?」 「あぁ、俺を誰やと思ってる、お前の一番の親友やねんで」 「僕、そんなに信用ないのかなぁ」
「親父さん、心配してはったで。お前が見合い写真を全部送り返してくるから、 ヘンな女がくっついてるんやないかって」 「そんな理由で、ボスとダニーに僕の私生活を見張れって言ったの?最悪だよ、うちの父さん」 「まぁ、そう言わんと。カモフラージュでもええから、1回くらい見合いやったらええやん」 「嫌だ、絶対に嫌だ!」 マーティンはサンドウィッチをがっつき始めた。
こいつ、頑固やからもうだめやな。 ダニーもあきらめてそれ以上は言わず、スープを静かに飲み始めた。 「お前、昨日はエドんとこ?」さりげなくダニーが尋ねる。 「ううん、ニック。エージェントのアリソンに頼まれて、会ってきた」 「どうやったん?」 「もう、アル中寸前だよ、仕事のスランプだって」 マーティンは写真撮影の事はだまっていた。怒られるに決まっているからだ。 「あいつって、危なっかしいわな、あれでも人の親なんやから不思議やわ」
「本当だよね。ねぇ、今日さ、食事しない?」 「うん?お前疲れてへんの?」 「大丈夫だよ、イタリアン以外なら何でもいいや」 「ほなら、久しぶりにヤキトリに行こか?」 「うん!楽しみにしてるね」 二人は定時に仕事を終えて、ミッドタウンの「酒蔵」に出かけた。 元気が出たのか、マーティンがすごいスピードでヤキトリを食べている。
ダニーはちびちび、日本酒を飲みながら食べるので、マーティンの半分もいかない。 「お前、何串食った?」 山盛りの串の皿から律儀に一本ずつ数えるマーティン。 「今26本、まだ食べたいよ」 「俺、12本、もうそろそろ無理やで」 「そんなんだからダニーは太らないんだよ」 マーティンは追加でさらに10本オーダーした。 「ダニーも食べてね」 結局、マーティンが34本、ダニーが14本平らげて、茶そばを頼んだ。
「これ、何?」マーティンは初めてのようだ。 「日本のカッペリーニや。うまいで」 「ふうん、よく知ってるね」 マーティンがじとっとダニーを見た。 ダニーは気がつかないふりをして、茶そばをすすった。 マーティンもまねをして食べる。 「音たててもいいの?」 「それが流儀なんやて」 「ふうん」 二人は腹をさすりながら「酒蔵」を後にした。
「お前んとこ行こか?」 「今日はいいよ、アランのとこに帰りなよ」 「え、お前知ってんの?」ダニーは驚愕した。 「この間、ブルックリンに行ってみたんだ」 マーティンは寂しそうに答えた。二人でタクシーに乗るが会話がなくなった。 「俺な・・」 「言わなくていいよ、僕、大丈夫だから」 ダニーはアッパーイーストでマーティンを降ろし、ウェストに向かった。 ほんま、あいつ大丈夫なんかな。 大丈夫であってほしいが、自分を必要としてもらいたい。 そんな気持ちが交差するダニーだった。
マーティンが転がり込んで一週間、今日も勤務が終わると一緒に地下鉄の駅まで歩く。 ダニーは歩きながらふと熱帯魚のことを思い出した。 「なぁ、お前、長いこと魚にエサやってないんちゃう?」 「あっ!すっかり忘れてた!」 「あほやなぁ、みんな死んでしもて浮いてるんちゃうやろか」 「どうしよ、僕・・・」 「とりあえずアパートに見に行こう。共食いでもして何匹かは生きてるかもしれんし」 「・・ん、そうする」 二人は急いでアップタウン行きの地下鉄に乗った。
アパートに帰って真っ先に水槽のところへ行くと、みんな元気に泳いでいた。 「よかったー、死んでないよ。あれ?エサが減ってるみたいだ」 「そっか、メイドがエサやってくれたんやわ。よかったな」 「うん。ごめんね、みんな。たくさん食べて」 マーティンは熱帯魚に話しかけながらエサを振り入れた。 ―こいつ、ボスみたいになってきてる。頭やばいで・・・ ダニーは後ろで苦笑しながら見守った。
「ねぇ、なんで笑うのさ?」 振り向いたマーティンはふくれっつらをしている。 「いや、別に・・」 ダニーは慌ててごまかしたが、マーティンは納得しない。 「僕のこと、おかしいって思ってるんだ」 「そんなん思てへんて。な、機嫌直し」 ダニーは、そっぽを向いたマーティンを後ろから抱きしめると、ほっぺにキスした。 耳を甘噛みしながら手をシャツの中にもぐりこませる。 体を触っているとマーティンのお腹がぐーぐー鳴り響いた。 恥ずかしそうにお腹を擦るマーティン。 「お前なぁ・・・まあ、ええわ、腹減ったし、何か食べにいこう。続きは帰ってからや」 二人はブリーフケースを置くと、部屋を出た。
食事を終えて通りを歩いていると、スチュワートがTSEから出てきた。 たくさんの紙袋を甲斐甲斐しく持ちながら、年配の女性と楽しそうに話している。 ダニーはやばいと思ってマーティンの様子を窺ったが、 こっちに気づいたスチュワートは二人のところに寄ってきた。ダニーは気が気でない。 「やあ、二人とも今帰りか?」 「ん、そうだよ。こんばんは、バートンさん。お久しぶりです」 「マーティン、お元気そうでよかったわ。心配してたのよ。またいつでも遊びにいらっしゃいね」 「はい」 マーティンはどぎまぎして照れ笑いを浮かべた。
「テイラーは初めてだよな?えっと、オレの母。母さん、マーティンの同僚のテイラー捜査官」 スチュワートはダニーに自分の母親を紹介した。 「こんばんは。トロイ・・ドクター・バートンにはいつもお世話になってます」 「はじめまして、テイラー捜査官。私のレシピはお気に召したかしら?」 ダニーは驚いてスチュワートを見たが、スチュワートは気づかないふりをしている。 「ええ、すごく気に入りました。とてもおいしかったので、自分でも作ってみたくて」 「よかった、スチューがレシピなんて聞くの初めてだから驚いたのよ。結婚する気に なったのかと思ってね」 スチュワートの母は可笑しそうに笑った。
「母さん、余計なことを言わないでくれよ」 スチュワートは真っ赤な顔で遮った。 「はいはい、もう何も言いません」 親子のやり取りを聞いていた二人は顔を見合わせると吹きだした。 いつものスチュワートと全く違うのが笑える。子供みたいだ。 「わがままな息子だけど、これからも仲良くしてやってくださいね」 「もういいってば!それじゃまだ買うものがあるから。またな」 慌てたスチュワートは母親を車に押し込むと行ってしまった。
「何あれ?あいつ、マザコンやなぁ。あんなに図体がでかいのに笑えるで」 ダニーは遠ざかるTVRを眺めながらげらげら笑った。 「でも羨ましいよ、スチューのママって僕にも優しいもん」 マーティンはぽつんと言うとTVRが去った方向を眺めた。横顔が寂しそうだ。 「さ、行くで。お前にはオレがいてるやんか」 マーティンはこくんと頷くとダニーを見上げた。 「・・今日もよしよしってしてくれる?」 「おう、まかしとき。さっきの続きもしたいしな」 ダニーは肩に軽くパンチするとアパートに向かって歩き出した。
ダニーとマーティンがいつものカフェでランチを食べていると、道の向こうからデレクがやって来るのが見えた。 「ダニィ、デレクが来た」 「誰やったっけ?」 「ほら、広告代理店のディレクターだよ」 「おう、あいつか!話ししよか?」 「入ってきたらね」 予想通り、デレクがカフェに入ってきた。 マーティンの顔を見つけて、にやりとして近寄ってきた。
「デレク、紹介するよ、こっちが同僚のダニー・テイラー捜査官」 「この度は、俺の同僚がずいぶん、お世話になったようで」 デレクは顔色を変えた。 「もうこれ以上は構わんといてくれません?そうでないと、あんたの会社にも匿名メールが飛んだりしまっせ」 ささやき声でダニーがデレクに耳打ちした。 「何だか、邪魔しちゃったようですね、失礼します」 デレクは飛ぶようにカフェから出て行った。
「ダニー、ありがと」 「またお前に迫ってきたら、俺に言い。今度はこれにモノを言わせて、あいつをだまらせたるわ」 ダニーは握りこぶしを見せた。 「もう大丈夫と思う」 二人はランチを終えて、支局に戻った。 マーティンは心底安心したような顔をしている。 ダニーも気持ちが良かった。 あいつを守ったった。俺がいいへんと、こいつだめなんや。 ダニーは途端にいい気分になり、午後の仕事にも身が入った。
ところが二日後、思いがけない事件が持ち上がった。 「今回の失踪者は、デレク・マッコイ、広告代理店の役員だ」 ボスの言葉にマーティンがはっと息を呑んで、ダニーを見つめる。 「おとといの昼、仕事場に戻って来ず、そのまま自宅にも戻っていない。 ダニーとマーティンは仕事場へ、サマンサは通話記録、ヴィヴは金の流れを追ってくれ」 「はい!」「了解っす!」
マーティンはダニーと1階に向かうまでの間、きっと唇を結んでいた。 「おい、緊張するなや」 「でも・・」 道に出てもマーティンの緊張は解けなかった。 「僕らが脅したから失踪したのかな」 「そんな玉やないやろ?とにかくいつもと変わらず捜査するで」 「うん」 仕事場に出向き、オフィスに案内してもらう。 デスクの引き出しを探っていると、気になるマッチがいくつか出てきた。
「あ、これ僕が行ったビストロだ」 マーティンが一つを取り上げてダニーに告げた。 「お前、こんなん行ったんか?ここゲイのナンパ場で有名な場所やで」 「え、そうなの?」 「まぁ、ええわ、このマッチの場所に行こ」 イーストヴィレッジのビストロとバーで聞き込み調査をする。 すると、デレクがブロンドの男ともめていたとの目撃証言があった。
「そのブロンド男もここの常連で?」 ダニーが尋ねる。 「あぁ、いつもいるよ」 バーテンダーの証言から、二人で張り込むことにした。 その晩、バーテンダーがダニーに男が来たことを告げた。 マーティンと振り返ると、ハンサムな男が笑みを振りまきながら入ってきたところだった。 二人で取り囲む。 「デレク・マッコイの事で話がある。FBIだ」 男はすぐに吐いた。レイプされたお返しに、男たちを雇って、仕返しをしたという。
ミート・パッキング・エリアの倉庫街に二人は向かった。 「FBI!」 ドアを蹴破ると、マットレスの上にのびた全裸のデレクが見つかった。 局部から大量の出血をしている。 「マーティン、救急班を!」 「はい!」 ボスに失踪者発見の報告を行う。デレクが意識を取り戻した。 「礼はいいからな、俺たちの事は絶対に言うな」 ダニーが冷たく言い放つ。デレクは涙を流しながら何度も頷いた。
「痛っ!」 ダニーがギターを弾いていた時、突然叫んだ。 「ハニー、どうした?」 アランが心配顔で寄ってくる。 「爪が折れそうや、半分まで亀裂がはいった」 「本当だ」 「バンドエイド貼って」 甘えるダニーにアランが言った。
「それより、きちんと補強した方がいい、ネイルサロンへ行こう」 「え、ネイルサロン?!そんなん嫌や、女みたいやん!」 「今時は、男も行くんだよ、ハニー。バーニーズに入っていたと思うから、ジョージに予約を頼もう」 ジョージの名前を聞いて、ダニーは心臓がドキドキするのを感じた。 肉感的な唇の感触が思い出される。
「ほら、出かけるぞ」 ダニーはアランに急がされ、バーニーズ・ニューヨークに出かけた。 入り口でジョージが待っていた。 「テイラー様、お爪が大変なことだそうで」 くすっとジョージが笑った。 「あぁ、早くネイルなんとかに連れてってくれ」 前のお客の対応が遅れていて、ダニーはソファーで待たされた。 アランは持ってきた医学雑誌に目を落としている。
「テイラー様、どうぞ」 ネイリストに名前を呼ばれ、ダニーは席についた。 周り中、女だらけだ。ダニーの顔が赤らんだ。 「まぁ、どうなさったので?」 「ギター弾いていたらこのざまや」 「それでは、衝撃に強い形に整えましょう。スクウェアーとスクウェアーオフとどちらがよろしいですか?」 「はい?」 「初めてでいらっしゃいます?」 「うん・・・」 ダニーは小さな声で答えた。
「スクウェアーは角が引っかかりやすいですが、衝撃に強いです。スクウェアーオフは角を少し丸くした形ですけど」 「そのオフとやらにして」 「はい、じゃあ、力を抜いてください。まずアクリルを塗布して傷を補強しますから」 ネイリストは慣れた手つきで、アクリルの粉を溶液で溶かすとダニーの親指に乗せた。 「お客様、力を抜いてくださいよ」 くすくすと笑われ、ダニーはまた赤くなった。 意識すればするほど、手に力が入ってしまう。
親指の補強が終わり、やすりで形を整える段に移った。アランが後ろから覗く。 「綺麗じゃないか」 「うん・・」 「カラーはどうなさいます?」 「はい?」 「色はおつけになりますか?」 ダニーはぷるぷると首を横に振った。 「とんでもない!職場にいけなくなるわ」 「それでは、オイルと塗布して終わりです」 ネイリストが念入りに一本ずつマッサージしてくれる。 ダニーはまた顔が赤くなった。 結構ええ気持ちやな、これ。
アランが支払いを済ませてくれた。 50ドルやて! ダニーは驚いた。だが、補強された親指の爪が綺麗で、気がつくと見つめてしまっていた。 「ハニー、気に入ったかい?」 「なぁ、アランもネイルとかやるん?」 「今はやらないが、一時期はね」 ふふっとアランは思い出し笑いをした。 嫌な感じだ。 昔の恋人との思い出やろか? ダニーは訝った。
ジョージが出口で待っていた。 「テイラー様、いかがで?」 「ほら、この通りや!」 ダニーは自慢げに見せた。 「10本ともお美しくなられて、よろしゅうございました」 ジョージはまたくすっと笑ってドアを開けてくれた。 俺、バカにされてんのかな? その日は、トラットリアポモドーロで食事をして二人は帰った。
翌日、支局に出勤したダニーは、コーヒーコーナーで早速サマンサに見つかった。 「何〜、ダニー、ネイルサロンに行ったの〜!!可笑しい〜!」 「爪が折れそうになったからや」 「だって、全部の指が綺麗にスクウェアーオフになってる〜!お腹が痛い〜」 ダニーは、自分の両手を見つめながら、そんなに可笑しいかなと考えていた。
マーティンと一緒にランチに出かけると、マーティンがダニーの両手をじっと見つめているのに気がついた。 「何や、おかしいか?」 「だって女子職員がみんな噂してるんだもん、テイラー捜査官が彼女と一緒にネイルサロンに行ったって」 「何やて?それ、ほんま?」 「一体、どうしたの?」 「ギター弾いてたら、爪に亀裂が入ったんや。それを直してもらてたら、こうなった」
「そんなの、断ればいいじゃん!」 「あっと言う間の出来事だったんや」 「ダニーも案外間抜けだね」ダニーは思わずふくれた。 せっかく綺麗に直してもらたのに、散々や。 「でも結構、ネイルサロンもええとこやで、指のマッサージが気持ちよくてな」 「起った?」 「ああ、ちょっとな」 「ダニーなんか嫌いだよ!」 「うそや、そんなんで起つつわけないやろ、あほ!」 二人はサンドウィッチにがっついた。
二人がオフィスに戻ると事件が待っていた。 ヒスパニックの子供が行方不明になっていた。 また不法移民か? マーティンの顔が曇った。前回は思わず怒りにかられてブローカーを射殺してしまったのだ。 「お前、大丈夫?」 「うん、大丈夫」 「じゃ、聞き込みいくで」 「了解」
両親に会いに行く。ブロンクスの汚いアパートの一室だ。 廊下をねずみが走っており、マーティンは思わず、足を上げた。 「サントスさん!FBIです!開けてください!」 マーティンが叫ぶが応答がない。 次に、ダニーがスペイン語で優しく話しかけた。 中の鍵があき、疲れ果てた母親らしき女性が出てきた。
部屋の中は乱雑で、ごきぶりがはい回っている。 「ちょっと話を聞けませんかね」 スペイン語で話し続けると「英語でも平気です」と答えが来た。 「坊やのチコはいつからいないので?」 「二日前。家の人が連れて行ったんです、どこかに」 「ご主人はどこへ?」 「昨日戻ってきました。こんなお金を持って」 クッキーの缶を開けると、ざっと2000ドルほどが入っていた。
「これ、どうしたんですか?」 「あぁ、恐ろしい。このあたりで、子供の臓器が売られてるってウワサがあるんです」 それだけ言うと、母親は泣き崩れた。マーティンは息を飲んだ。 「ご主人は今どちらですか?」 「角のボディーショップで働いています」 二人はボディーショップに急いだ。 「サントスさんはどこでしょう?」 するとさっさと逃げ出す男がいた。マーティンが追いかけ、捕まえる。
「サントスさん、息子さんをどうしたんです!」 「お前、息子を売ったな、早く話さないと、息子の命が危ないで」 サントスはダニーに首を強く押さえつけられ、近くのストリートアドレスをやっと吐いた。 「お前、これから陰惨な場所に行くと思うけど、大丈夫か?」 「うん、平気だよ」 マーティンは顔がすでに青い。
ストリートアドレスのビルに行くと、4階に医療施設が入っている。 「FBI!手を上げろ!」 二人が見たのは、不衛生な手術台に寝ている8歳ほどの子供と、メスを手に持った男だった。 「逮捕する!」 ダニーが男に拳銃をつきつけ、メスを置かせると、手錠をかけた。 マーティンが子供の拘束を解く。 「もう大丈夫だからね」 子供は麻酔で眠っていた。
ノンライセンスの医師とサントスの供述の結果、大規模な臓器売買組織の存在が明らかになった。 チコは今にも腎臓を摘出される寸前だったのだ。アジアの金持ちのために。 ボスは捜査ファイルを凶悪犯罪班に渡した。 「ご苦労だったな、マーティン大丈夫か?」 「はい、平気です」 「今日はよく休め」 「はい、ボス」 「お疲れ!」 サマンサとヴィヴィアンがねぎらってくれる。 ダニーもほぅっとため息をついた。
「飲みにでも行くか」 「あぁ、そうだね」 二人は、ブルー・バーに寄った。 エリックが会釈してカウンターの席を勧めた。 二人とも強い酒が飲みたくて、テキーラを飲み始めた。 エリックがチキンウィングと野菜のスティックを持ってきた。 「いつも、ありがとな」 「今日はお疲れですね」 「そやねん」 「お疲れ様です」 エリックはすっと奥に下がった。
「お前みたいな山の手育ちにとっちゃ、一つ一つが驚きなんやろうけど、 これが現実やで、マーティン。お前も慣れていかんとな」 「まだどうしても現実感がないんだよ。こんな悲惨な現実が起こっているなんて」 「お前、凹んでる?」 「うん、かなり」 「じゃ、今日は一緒に帰ろ」 「本当?」 「あぁ、ほんまや。朝まで一緒やで」 「ありがと、ダニー」 マーティンはやっと微笑んだ。
ベッドに入るとマーティンがぴとっと体をくっつけてきた。 ダニーはいつものように髪をなでながら、おでこに唇を押し当てる。 「やっぱり自分のベッドで寝るのって落ち着くやろ?」 「んーとね、僕はダニーがいればどこだっていいよ」 マーティンの答えに思わず苦笑するダニー。 「オレのこと、そんなに好きなん?」 マーティンは恥ずかしそうにこくんと頷くと、ますますぴったりくっついた。
「ダニーは?僕がいなくてもへーきなの?」 あまりに真剣な表情に、ダニーははっとして言葉に詰まった。 もちろん平気じゃないが、平気だと答えたらこのまま死んでしまいそうな目をしている。 「あほ!オレがお前のこと大切にしてるの知ってるやろ!しょーもないこと聞くな!」 ダニーは乱暴に体を組み敷くと、無理やりキスして愛撫しはじめた。 いつもと違う強引な愛撫に驚いていたマーティンも、体が反応するにしたがって甘い吐息を漏らしている。
ダニーはアナルにローションを塗ると、ペニスを押し当ててゆっくり挿入した。 根元まで入れると、そのままじっと動かさずに唇を吸う。 「んんっ・・んぅふ・ぅ・」 しつこく舌を絡められたマーティンの息は上がっていて、頬が紅潮している。 胸の鼓動がドキドキしているのも伝わってきた。 アナルがぐいぐい締め付けてきて腰を振りたくなるが、ダニーはそれでもキスをやめない。
マーティンはダニーの背中に腕を回すと、しっかりとしがみついた。 おなかにペニスの先端が触れて快感に体がびくんとする。 ダニーは唇を離すとマーティンの目を見つめ、ほんの少しくすっと笑うとゆっくり腰を振った。 自分からも腰を揺らしながら喘ぐマーティンを抱きしめて、またキスで口を塞ぐ。 二人は荒い息を吐きながら、お互いの体を絡めた。 静かなベッドルームに局部が摩擦する卑猥な音とキスの音が響く。 とうとうイキそうになったダニーはキスをやめると、肩を押さえつけて何度も突き上げた。 「ああっ・・ダ、ダニー!出ちゃう!んんっ・・あっイク!」 「イッてええで・・オレもや・出すで・んっ!」 射精したダニーは、マーティンの上にぐったりと重なった。
ダニーはキスをしてからペニスを抜くと、隣にどさっと寝転んだ。 「あかんわ、もうちょっとで足が攣りよった」 照れくさそうに笑いながら太腿を擦ると、マーティンが太腿にそっとキスした。 「だって、あんなに焦らすんだもん。そりゃ足も攣るよ」 マーティンは呆れたように言いながら足をマッサージしはじめた。 「あ、それ気持ちええわ。もう少し内側もして、そう、そこ」 ダニーはマッサージされるうちに眠ってしまった。 マーティンは一通り揉むと自分も横たわって目を閉じた。
ダニーの寝返りで目が覚めたマーティンは、ベランダに出ると夜明け前の静かな街を見渡した。 少し寒いが空気が澄んでいて清々しい。 あと一時間もすれば街はまた人であふれはじめるだろう。 ―僕がダニーを好きなぐらい、ダニーも僕が好きでありますように・・・ 青白く白みかけた空を見るとはなしに見上げながら、マーティンは心の中で祈った。
マーティンの家に戻り、ダニーはピザをオーダーした。 ズッキーニと生ハムのピザとサーモンとホタテのピザだ。 マーティンにクアーズの瓶を勧め、ソファーに一緒に座った。 「お前、今日、よくがんばったな」 ダニーが頭をよしよしとしてやると、マーティンが身体を押し付けてきた。
「時々FBIにいるのが嫌になるよ。どうしたらあんな現実を受け入られるようになるだろうって思うとさ」 「嫌な言い方やけど慣れやで、お前まだ失踪班にきて2年やろ、企業犯罪とは全然違うわ」 「僕、出遅れてるよね」 「そんな事ないで、お前のPC捜査の腕前はすごいやん」 「本当?」
ピザボーイが配達に来た。ダニーが受け取り、皿に分ける。 「さあ、食おうや」 「うん、お腹すいたよ」 やっとマーティンは元気が出てきたようで、ぱくぱくピザを食べ始めた。 ダニーは安心して、そんなマーティンの様子を見ていた。 「今日、泊まってくれるんだね?」 「うん、そや、一本電話さしてくれる?」
ダニーはベランダでアランに電話をかけた。 マーティンが凹んでいるので泊まってやりたいと言うと、 アランは仕方がないという雰囲気でこう答えた。 「一緒にいてやるといい。明日は帰ってきてくれよ、お休み。愛してる」 「俺もや、アラン」 マーティンはバスを入れていた。 「ダニーの好きなラベンダーのバブルバスにしたよ」 「サンキュ、覚えててくれたんやな」 「忘れるわけないじゃない」 マーティンは照れたように笑った。
二人はバブルバスに浸かった。マーティンが身体を寄せてくる。 思わずダニーのペニスが反応する。 手を前に伸ばしてマーティンのペニスに触ると、もう腹につきそうになっていた。 「ベッドへ行こか」 「うん」 二人は手をからませながら、ベッドルームに入った。
ダニーが横になると、マーティンがすぐさまダニーのペニスを口に咥えた。 竿から裏を通って玉を口に含む。 「うぅぅん、ええ気持ちや」 「本当?」 「こんな時にうそつくもんか、あほ!」 マーティンは丹念にダニーのペニスに愛撫を加える。 「もう、俺、出そうや、入れてええか」 「うん」 マーティンはローションを手にとって自分の局部に塗りいれた。 「さあ、来て!早く!」 四つんばいになって、アヌスを晒す。
ダニーは腰に手をかけると、ゆっくり挿入した。 「あぁぁん、もっと奥まで来てよ!」 ダニーはじらしてなかなか奥に進まず入り口付近を出し入れしていた。 「もうだめだ、我慢できないよ!」 マーティンが自ら腰を振り、根元まで挿入した。 「そんなに締めるなよ、俺、でてまう」 「来て!ダニーの熱いのが欲しいんだ!すべてを忘れさせてよ!」 ダニーは身体を震わせると、マーティンの身体の中に精を存分に放った。
マーティンもダニーの痙攣を受けて、「うぅぅ」と唸ると、シーツに射精した。 「ふぅ〜」 息をつくダニーの横で、マーティンは身体を小刻みに震わせながら泣いていた。 「おい、どうした?」 「ダニーがいてくれないと、僕どうにかなっちゃいそうだよ」 「そう言うなや、お前と一緒にいられなくてほんまに堪忍な」 「仕方がないのは分かってるんだよ、でも寂しいよ」 そう言うとマーティンはダニーに背を向けてしまった。 ダニーは静かにマーティンの身体を後ろから抱きしめて目を閉じた。
翌朝、ダニーは先に目を覚ました。 マーティンの腕が身体に巻きついている。 泣いた後がまだ頬に残っていた。 静かに唇で涙の後をぬぐってやり、マーティンを起こさないようにベッドから這い出た。 冷蔵庫を探るとオレンジと卵とチーズが見つかった。 ジューサーでオレンジジュースを作る間、コーヒーを入れ、卵とチーズでオムレツの準備をした。
「おはよー」マーティンが起きてきた。 「早くシャワーしてき」 「うん」 まぶたが腫れている。ダニーは冷たいタオルを用意した。 シャワーから上がってきたマーティンにタオルを渡し 「目の上に乗っけとけ。サムに泣いたのがばれるで」と言った。 自分もシャワーを浴びて出てくると、マーティンがトーストを焼いていた。 ダニーがオムレツを器用に焼く。二人で静かに朝食を共にした。
「今日、出勤できるよな?」 ダニーが念を押すと、マーティンはこくりと頷いた。 スーツに着替えて出勤する。 マーティンのまぶたもどうにか目立たない状態に戻った。 出勤すると、ボスがダニーをオフィスに呼んだ。 「なんです、ボス?」 「昨日の報告書な、凶悪犯罪班のシニアの目に止まって、お前を異動させて欲しいと言ってきた。断るがいいか?」 「もちろんっす。俺、ボスと一緒に働きたいんで」 「ありがとう。そう言ってくれて嬉しいよ」
ボスのオフィスから出てきたダニーの気持ちは複雑だった。 自分が管理職になるには、まずヴィヴィアンの次だ。それにサマンサもいる。 どちらが評価されているんやろ。 それより他の部署に行った方が出世が近いんちゃうかな。 心が揺れた。しかしもう断ってしまった話だ。 ダニーは気持ちを切り替えて、仕事に向かった。
定時に仕事を終え、帰り支度をしていると、マーティンが寄ってきた。 「昨日のお礼がしたいんだけど」 「ごめんな、今日はだめやねん」 「あぁ、そうだよね」 マーティンは途端に寂しそうな顔をした。 「また今度な、ゆっくりしような」 「うん」 アッパーウェストサイドまでの地下鉄の中、ダニーはマーティンの事ばかり考えていた。 またあいつ、ヴィレッジのへんな店に行くんちゃうかな。 あーややこしい、どうすればええねん!
地下鉄の駅から上がり、マーティンの携帯に電話をかけた。 「ダニー、どうしたの?」 「今、お前どこや?」 「家の近くの地下鉄の駅だよ」 「それならええんや、ごめんな、今日は」 「いいんだよ、昨日は本当にありがとう」 「じゃまた明日な」 「うん、おやすみ」
アランのアパートに帰ると、キッチンからいい香りがしていた。 「ただいま!」 「おかえり、ハニー、寂しかったよ」 アランがダニーの頬にキスをする。 「着替えてくるわ」 「あぁ」 二人のいつものディナーが始まった。 献立はアイスバインの入ったポトフとクレソンのサラダ。 ポトフをあとで雑炊にしてくれるという。 ピノ・ノワールを飲みながらため息をつくダニーにアランが尋ねた。
「マーティンは大丈夫か?」 「あぁ、昨日はな、臓器売買事件やったんで、あいつにはショックが大きすぎたようやった」 「移民相手の商売か?まだはびこっているとはな」 「どうにかならへんの?」 「買い手がいる限り、闇のブローカーはぼろ儲けだよ。医療界の暗部だ」 「世知辛いな」 「全くだ」
「そうだ、ハニーに見せたいものがある」 アランはリビングの隅からギターケースを持ってきた。 「どうしたん、それ?」 「開けてごらん?」 「うわ、ギブソンのレス・ポールや!」 「今週末のエリック・クラプトンのチケットをもらったんだね。もちろんバックステージパスつきだ。 それにサインをもらうといい」 「ええ!そんなん信じられへんわ!」
「NYの治安を守ってくれているお礼だよ」 アランは額にチュっとキスをした。ダニーは夢心地になれた。 俺、アランに一生かけてお礼せいへんと、ばちが当たるわ。 ダニーはアランの唇にキスを返しながらそう思った。
ダニーが支局に出勤すると、マーティンがきびきびとファイルを整理している姿が見えた。 一安心やな。 「おはよ、ボン」 「あ、おはよう、ダニー」 ちょっと照れた笑みを浮かべている。 こういう顔されると弱いねん。 ダニーは苦笑した。 「コーヒー入れよか?」 「ありがと」 コーナーでFBIマグ二つにコーヒーを入れて、運ぶ。
「今日は朝から忙しそうやな」 「うん、不法移民の失踪者のファイルをピックアップしたんだ」 この間の事件に鼓舞されたのか。 弱みを克服しようとしているマーティンの姿はすがすがしかった。 「ねぇ、ダニー、どのヘンにあたりをつけたらいいか教えて欲しいんだけど」 午後になり、マーティンが尋ねてきた。 「よっしゃ、一回りしようか」
ダニーは自分が使っているタレコミ屋をマーティンに会わせた。 「こいつにも恩売っとくとええことあるで」 タレコミ屋はにやりとして、金を受け取った。 今日のところは空振りだったが、マーティンに少しでも土地勘を持って欲しかった。 「ありがと、NYのプロのガイドみたいだね、ダニーって」 「住んで長いからな」 「ふうん」 ダニーはあまり過去を話したがらない。 マーティンもあえて聞く気はなかった。
支局に帰って、ファイルの整理をしていると、定時になった。 「今日は夕食いいでしょ?」 マーティンに誘われ、ダニーは同行することにした。 「ジャクソン・ホール」でマーティンの大好きな特大バーガーとオニオンリング、 山盛りポテトにビールで乾杯だ。 「お前、偉いねんな」 「え、何で?」 バーガーをほおばりながら、マーティンが尋ねる。 「ちゃんと前向きやんか」
「だって、僕も優秀な捜査官になりたいもん。ダニーが凶悪犯罪班からの引き抜きに合いそうだったって話聞いたよ」 「え?ずいぶん早耳やな」 「サムが教えてくれた」 「そうか」 「断ったんだって?」 「俺には失踪班が合うてるからな」 「僕と一緒にいたいんでしょ?」 笑いながらマーティンが尋ねる。 「ああ、そうや、お前と一緒にいたいねん、だから断った」 ダニーも笑いながら返す。
「こうしてると昔に戻ったみたいだね」 マーティンがふとつぶやいた。 まだこいつ寂しいねんな。 ダニーは済まない気持ちで胸がはちきれそうになった。 「お前、エドとの仲はどやねん?」 「前とおんなじだよ。食事してお互いの家に行って泊まったりしてる」 「ニックとは?」 「もっと刹那的だな。ニックが気分屋だからね。今はベルリンの個展の準備に夢中だよ」 「さよか、お前忙しいな」 「それほどでもないよ」 目を伏せるマーティン。 僕がダニーから聞きたいのはそんな言葉じゃないのに。
「お前さぁ、疲れない?」 「え?」 「そんな付き合い、俺なら出来へんわ。身がもたへん」 ダニーは苦笑した。 「僕は、誘惑に弱いからさ」 マーティンはふっと皮肉っぽい笑顔を向けた。 前はこんな顔せいへんかったのに。 ダニーは、次第に心配になってきた。 マーティンの心の中が荒涼たる砂漠のように見えた。
「今日も一緒に帰ろか?」 「え?どうして?」 「お前と一緒にいとうなった」 「本当?」 マーティンは満面の笑顔を浮かべた。 二人でタクシーに乗っている間も、ダニーの手をぎゅっと握って離さない。 ダニーは苦笑した。
アパートに着くと、マーティンはドアを閉めた途端、ダニーに抱きついた。 「おいおい!」 「会いたかったよ」 「おとといも会うてるやん」 「でも会いたかった!」 ダニーのスーツをどんどん脱がせるマーティン。 「シャワーせいへん?俺、汗臭いわ」 「うん」二人はシャワーブースに入った。
マーティンがダニーの局部にローションを塗る。 「え?」 「ここで入れさせて」 マーティンがダニーを壁の方に向かせると、ぐいっと挿入してきた。 「うわ!」 「ごめん、痛かった?」 そういいながら、ぐいぐい突っ込んでくる。 まるで身体に傷跡を残したいかのように。 「あぁ、ダニー、好きだ、もうイクね!」 マーティンはダニーのペニスに手を添えると前後させ、自分も射精した。 ダニーもすぐに後を追う。
二人ともずぶぬれのままバスローブを着て、ベッドに入った。 消耗しているダニーの身体にぴたっと張り付くマーティン。 あぁ、アランに電話せいへんかった。 ダニーは天井を見ながら、アランの事を考えていた。
今日は待ちに待ったエリック・クラプトンのライブだ。 マディソン・スクウェアー・ガーデンに着くと、ジュリアンが手を振っていた。 可愛いブロンドの男の子と一緒だ。 「アラン、ダニー、こっちは僕のアシスタントのデイヴィッド」 「初めまして」 会釈する姿が初々しい。 「NY大学卒業したての新人なんだよ」 ジュリアンはメロメロのようだった。アランとダニーは思わず微笑んだ。
クラプトンのライブはアコースティック、エレクトリックの組み合わせで素晴らしいものだった。 早速終わった後、楽屋に赴く。ダニーはもちろんレス・ポール持参だ。 ジュリアンがダニーを紹介する。 「ほぅ、レス・ポールか、君も弾くのかい?」 「は、はい、少しは」 ダニーは声が震えた。 「弾いてみてくれよ」 「え?」 ダニーはギターケースから取り出すと「愛しのレイラ」のアコースティックヴァージョンを爪弾いた。
「なかなかやるね」 「はぁ、すみません、サイン頂けますか?」 「もちろん、名前はダニーだね?何やってるの?」 「それがFBIの捜査官なんです」 クラプトンが笑い出した。 「フェッツがこんなにギター上手とはねぇ。驚いた、よろしくダニー」 手を差し伸べられて、ダニーは天国にも上る気持ちだった。 アランが目を細めて様子を見ている。 アランもCDにサインをもらい、二人は会場を後にした。
「夢みたいや。あのギターの神様と握手した!」 「良かったな、僕もCDにサインがもらえて大満足だ」 二人は高揚した気持ちのまま、ディナーを食べに「華寿司」に寄った。 「オマカセクダサイ」いつものアランのお好みだ。 主人はにこっと笑って今日の入荷の中から新鮮なネタばかりを握り始めた。 「日本酒飲むかい?」 「うん、何でもこいや!」 二人は出羽桜の吟醸酒を飲みながら、寿司をつまんだ。
大トロとサンマとイナダが抜群に美味しい。 ハマチ、ホタテやいくら、ウニを食べて、二人は鉄火巻きで締めた。 「今日は最高の夜やった」 ダニーが夜空を見ながらつぶやく。 「これから、もっと最高の夜を過ごそう」 「アランといると全部実現できそうで、俺、怖い」 「怖がる必要はないよ。お前はその価値があるんだから」 アランはダニーの肩を抱いて、タクシースタンドに並んだ。
ダニーは大切そうにギターを抱えた。 「俺の宝物がまた増えた」 「よかったな」 タクシーの中にもかかわらず、アランはダニーの額にキスをした。 「お前が幸せなら、僕はそれで幸せだ」 「そんな、俺もアランに幸せになってほしい」 「嬉しいね、本気かい?」 「うん、めちゃ本気や」 「ハニー、お前に会えて僕はラッキーな男だ」 「それは俺のせりふやで、サンキュ、アラン。 俺、こんな幸せが待ってるなんて、20代の頃は思いもしなかった」 「人生は自分で切り開くものだよ」 アランはあははと笑った。
ダニーが帰り支度をしていると、マーティンがさりげなくそばに寄ってきた。 「ねえ、帰りにイースト・ヴィレッジでお蕎麦食べようよ」 「ごめんな。オレ今日はジム行くねん。肩が凝ってパンパンやから泳いでくるわ」 「あっ、じゃあさ、僕が揉んであげるよ。ダニーの凝りが取れるまで」 「いや、うれしいけどもうそんなレベルやないねん。頭まで痛いから」 ダニーは首をごきごき回すと痛みに顔をしかめた。 「だから先に帰り。それか、お前も来るか?アーロンがいてるかもしれんけど」 アーロンと聞くなり、マーティンは眉根をきゅっと寄せた。 「嫌やろ?今日は先に帰り。終わったらお前のアパートに行くから」 マーティンはわかったと言うと、ブリーフケースを掴んだ。
ダニーはマーティンと地下鉄の駅まで歩いて別れた。その足でフルートまで急ぐ。 バーの前に路駐してあるシルバーのサーフが目に留まり、ダニーの心は逸った。 中に入ると、ダニーを見つけたジェニファーが軽く手を挙げた。 「ごめんな、お待たせ」 「ううん、私もさっき来たとこだから。これ食べる?」 ダニーは差し出されたグリッシーニを一口かじり、スプマンテと生春巻きをオーダーした。
食事を終えた二人はバーを出た。 ジェニファーは車のキーをさりげなくダニーに渡す。 ダニーは恭しくドアを開けてジェニファーを乗せると車を出した。 手をつないだままブルックリンのアパートまでドライブし、お互いにいろんな話をする。 しばらく会っていなかった分だけ二人の話は弾む。 特にスチュワートがマザコンだという話で二人は盛り上がった。 スチュワートの母親が毎年クリスマスにブランデーたっぷりのフルーツケーキを送ってくると聞いて、ダニーは少し羨ましくなった。 ―オレのおかんも生きてたらカシミアのショールぐらい買うてやれたのに・・・ 「ダニー?どうかしたの?」 「いや、何でもない。あ、アパートはもうすぐやで」 ダニーはジェニファーの手にキスをして、頭から母親のことを追い払った。
セックスの後で二人は寝転んだまま満月を見上げた。 月の光で陰影がくっきりしていて、お互いの表情が手に取るようにわかる。 ダニーはジェニファーの少し乱れた髪をかき上げるしぐさが好きだ。 「ジェン・・」 ダニーはそっとキスをして抱きしめた。このまま朝まで過ごしたい。 これを言ったら困らせるだけだとわかっている。 独り善がりだと思いながらも、それでも言ってしまった。 案の定、ジェニファーは困ったように笑うとダニーの頬をなでてごめんねと言った。 ダニーは子供っぽい自分が情けなかった。
「ジェニファー、オレのこと怒ってる?」 ダニーはブラのホックを留めながらジェニファーの顔を覗き込んだ。 「ううん、怒ってない」 「ほんまに?」 「本当に怒ってないから。でもね、いい子にしてないと会えなくなっちゃう」 「そやな、気をつけます」 ジェニファーが帰った後、ダニーはベッドの中で自己嫌悪に陥った。 満月を見上げているうちにいつの間にか眠ってしまった。
ダニーはアランの腕の中で目を覚ました。 静かに腕をどけ、ベッドを抜け出す。 アランは寝返りを打って向こうを向いた。 シャワーを浴び、昨晩アランがつけた胸のキスマークを見つめる。 俺が誰かと一緒にいるっちゅう印や。 何だか誇らしい気持ちがした。
キッチンに立ち、冷蔵庫を覗く。 ズッキーニとチーズがあったので、オムレツに決めた。 コーヒー豆をグラインドし、コーヒーメーカーにセットする。 オレンジとリンゴでミックスジュースを作っていると、アランが起きてきた。 「ハニー、おはよう」 「起こした?ごめん」 「いや、おじさんは朝が早いんだよ」 アランが照れ笑いを浮かべる。 「早う、シャワーしてきて、朝食作るから」 「うん」
ダニーはクラプトンのライブCDをかけながら、オムレツを焼いた。 アランがバスローブ姿で現れた。二人でダイニングに着く。 「昨日は最高やった」 ダニーが夢見るようにつぶやいた。 「クラプトンがだろ?」 アランがいたずらっ子のような顔をして尋ねる。 「その後のアランも最高やったで」 ダニーが恥ずかしそうに答えた。二人は微笑みあいながら、朝食を終えた。
「今日は何する?」 「家でゴロゴロじゃだめ?」 ダニーが甘える。 「いいよ、僕は少しネット相談をやるから、ゴロゴロしてなさい」 「うん!」 ダニーは次から次へとCDをかけながら、レス・ポールを爪弾いていた。 するとダニーの携帯が震えた。マーティンからだ。
「おぉ、どうしてる?」 「ねぇ、今日さ、エドの家でディナー食べない?」 「ええの?」 「うん、アランと一緒に来てよ」 「待っててな」保留にしてアランに尋ねる。 「今日、エドの家でディナーどうかって電話なんやけど」 「いいんじゃないか?」 「ええってさ。じゃ7時に寄るわ」 二人は軽くサンドウィッチとスープでランチを済ませると、じゃれあいながら昼寝をして過ごした。
7時少し前になり、ジャガーでアッパーイーストに移動する。 部屋に入ると、ガーリックのいい香りがしていた。 「いらっしゃい!」 マーティンもエプロンをしてキッチンに立ってる。ダニーが爆笑した。 「お前、何やってんの?」 「アシスタントだよ。アイアンシェフのね」 エドがはにかみながらこちらを向いた。 「まずエスカルゴが出ますので、席にお座りください」 二人はダイニングに着いた。
熱々のエスカルゴの後、季節野菜のコンソメ煮が続く。マーティンも席に着いた。 「僕の野菜嫌い克服のメニューなんだ」 嬉しそうなマーティンの顔にダニーが安心する。 「今日は真鯛のプロヴァンスソースです。トマトとケパースとガーリックで味付けました」 「美味そうやな〜」 「本当だ」 その後、ゴルゴンゾーラのペンネが続き、ディナーが終わった。 相変わらずワインが進み、また6本を空けた。
「デザートはマンゴーシャーベットですけど、どうですか?」 「いいね」アランもダニーも頷いた。 ソファーに席を移して、フットボールの録画を見ながら、デザートを食べる。 「マーティン、エドとレストランプロジェクトやってみたらええんやない?」 ダニーが思いつきで言った。 「何?レストランプロジェクトって?」 エドがマーティンに尋ねる。
「あのさ、いつまでもFBIやってられないでしょ、転職するならレストランがいいと思ってさ」 「ここにアイアンシェフがいるからな」アランも頷く。 「でもエドは会社があるじゃん」 「僕もそろそろくたびれてきたんだよね」 「進めてみーな」 ダニーは酒の勢いで話を進める。 マーティンは心底傷ついていた。 あれは僕とダニーの将来計画なんだ。他の誰も代わりにはなれないんだよ!
支局に出勤すると、マーティンが席でチーズバーガーをがっついていた。 「おはよ、ボン、朝からバーガーか?」 ふんとダニーを無視してマーティンはチーズバーガーに向かっていた。 何怒ってんのやろ? 昼になってもマーティンは、ダニーと言葉さえ交わさない。 仕方なく、ダニーがマーティンを誘って、いつものカフェに出かけた。
「お前さぁ、何怒ってんのか知らんけど、仕事場に持ち込まんでくれへん?」 「僕の気持ちなんか知らないんだよね、ダニーは、いい身分だよ。俺はアランと一緒に幸せになりますでしょ?」 「何や、からむなよ」 「僕のレストランプロジェクトは僕とダニーのもんなんだ。エドに話すなんて最悪だよ」 「あぁそれか、すまん。つい軽口叩いてしもうたわ。許してくれへん?」 「今晩、ご飯と家に泊まってくれたら許してもいい」 「さよか、じゃあ、それで手を打ってくれ」 二人は気まずい雰囲気のままオフィスに戻った。
定時になり、マーティンがさっさと帰り支度をしている。 ダニーも勢いに押されて、ソフトアタッシュに書類をしまいこんだ。 二人で地下鉄に乗る。マーティンはだまりこくったままだ。 こいつ相当怒ってんのやな。どないしよ。 ダニーはマーティンのアパートに着くと、チャイニーズのデリバリーを頼んだ。 春巻きと酢豚とチキンとカシューの炒めに海鮮チャーハンだ。
ビールをマーティンに渡すと乾杯もせずに飲み始めた。 「なぁ、もう機嫌直してくれへん?飯がまずくなるわ」 デリバリーボーイがやってきた。 ダニーが受け取ると、マーティンが奪うように手にして、カートンから食べ始めた。 「おい、お前そんなに怒ってるんか?謝ったやんか。俺かて終いには怒るで。 お前がそんなにわからずやとは思わへんかったわ」 ダニーもカートンから春巻きを出して、ばりばり食べた。 マーティンはまだだまったままだ。
「分かったわ、俺、今日は帰る。お前も約束守れよ。俺が食事して泊まるいうたら許すって言うてたやん。 全然そんな感じがせえへんわ」 ダニーはアタッシュを手にすると、マーティンの部屋のドアをばたんと閉めて出て行った。 マーティンは、自分の意固地さに嫌気がさした。 たかだがアルコールの上の失言なのに、何で許せなかったんだろう。 ダニーを怒らせてしまった。どうしたらいいんだろう。
ダニーの携帯に電話をかける。電源が切られていた。 最悪だ、僕って本当にとんでもないばか野郎だ! マーティンの青い瞳にみるみるうちに涙がたまった。 今頃泣いたって遅いのに。ダニー、ごめんなさい、帰ってきて! マーティンはソファーに寝転んで、しばらく泣いていた。
アランのアパートに戻っても、ダニーの怒りは収まらなかった。 「ハニー、どうしたんだい?」アランが気がつき尋ねる。 「マーティンや、あいつ、ほんまに分からず屋やで」 「喧嘩か。今頃マーティン、泣いてるんじゃないか?」 「ええねん、ほっとく。俺、シャワーするわ」 ダニーはすたすたとバスルームに入っていった。 全く、この子供たちはいつになったら落ち着くんだろう。 アランは呆れた。
「夕飯は食べたのかい?」 バスルームにアランは叫んだ。 「腹減ってる。何かある?」ダニーの返事だ。 アランは、急いで、ペンネアラビアータを作った。 ダニーが頭から湯気を上げて出てきた。 愛らしい姿にアランが思わず微笑む。 「何?」 「いや、パスタを作ったから食べなさい」 「お、サンキュ!」
ダニーはバスローブのまま席に座り、パスタを食べ始めた。 アランはブランデーを出して、ダニーが食べる姿を見守った。 「美味かった!やっぱりアランの食事は最高やで」 ダニーはミネラルウォーターを飲みながら腹をさすった。 「今晩もネット相談をするから、先に寝るといい」 アランがダニーの気持ちを慮ってそういうと、 「じゃあ、そうするわ。俺、めちゃ疲れた」といってダニーがベッドルームに去った。
やれやれ、いちいち喧嘩されてもたまらないなぁ。 アランは頭をかきながら、書斎にこもった。 2時間、ネット相談をして、ベッドルームに入ると、 ダニーがベッドの真ん中で大の字になって眠っていた。 アランは片隅から入ると、ダニーの手をのけた。 「ぅぅうん、俺が悪かった、すまん」 やけにはっきりした寝言が聞こえた。アランは思わずくすっと笑い、目を閉じた。
翌朝、ダニーはベッドの真ん中にいるまま目が覚めた。 アランがベッドから落ちそうになって眠っている。 うひゃ〜、俺、ガキみたい! 「アラン、起きて」 「ん?何だ、朝か?」 「まだ早い。もっと真ん中来て寝て」 ダニーはアランの身体を自分の方に引き寄せ、抱きしめた。 アランがまたすぅーっと寝息を立てる。 アランの匂いを吸い込みながら、ダニーも安心して眠った。
目覚ましで目を覚ますと、アランの姿はなかった。 起きるとキッチンでコーヒーを入れている。 「ハニー、おはよう、機嫌はどうだい?」 「ん?普通やけど?」 「お前、寝言でマーティンに謝ってたぞ。今日会ったら、何でもいいから謝りなさい」 「・・・」 「お前の潜在意識が謝りたがっているんだよ、言う事聞きなさい」 「はい、わかりました!」 ダニーはシャワーを済ますと、スーツに着替え、 アランから朝食のサンドウィッチ入りのジップロックを受け取り、出勤した。
マーティンは定時ぎりぎりに駆け込んできた。まぶたが腫れている。 こいつ泣いたんや。ダニーはやっぱり謝ろうと思った。メールを打ってみる。 「ランチミーティング希望」 マーティンがはっと声を出した。すぐに返事が来る。 「了解@カフェにて」 二人はいつものカフェに出かけた。いわし雲が広がる秋の空だ。 テラス席でダニーはパニーニ、マーティンはパスタ・ペスカトーレを頼んだ。
ダニーが言いにくそうに口を開く。 「俺な、ごめん。ほんまにごめんな。お前の気持ちも考えんで、エドに話したし、昨日も帰っちまって」 「・・・」 「許してくれへん?今日こそはお前んとこ泊まるわ。その前にどっかうまいもん食いに行こ」 「僕こそ、ごめんなさい。ダニーにとってお荷物だって分かってるんだ」 マーティンはうつむきながら、つぶやいた。 「そんなことないで、お前は俺の親友やし、大切な存在やもん。そんなん言うなや。 とにかく今日は仕切りなおしや」 「うん、わかった」 マーティンはやっと目を上げて、ダニーをまっすぐに見つめた。 青い目がダニーを射るようだった。
ダニーはマーティンを「ローザ・メキシカーナ」に連れて行った。 この前マーティンに連れてきてもらった場所だ。 すでにダニーは常連だが、マーティンに気を遣って 「ここ、この前来てめちゃ気に入ったわ。ありがとな」と言った。 嬉しそうに笑うマーティン。 この笑顔や。今日ずっと見ていたい。
フレッシュワカモレを摘みながら、チーズエンチラーダスとビーフ&チキンファヒータをオーダーした。 テカテビールで乾杯だ。 「乾杯!」 今日は二人でグラスを合わせる事が出来た。 「お前さ、俺のこと許せへんと思うたやろ、ごめんな。ほんま思慮のない発言してお前を傷つけた。 あれは俺とお前の夢だったんねんな」 「もういいよ。どうせエドだって本気にしないと思うしさ」
「お前ほんまにあの夢捨ててへんの?」 「うん、いつになるか分からないけど、サンフランシスコで店をやりたいんだ」 「そうか・・お前、FBIで上に行きたいと思わへん?」 「どうせ、上にいったところで、父のお陰って陰口立たれるのがオチだもん。 自分で人生を切り開いていきたいんだよ」
「さよか。俺はな、FBIで上に行きたいと思うてる。 これは入局してからずっと思うてた夢やねん。 それが無理なら考えてもええけど・・・」 「そうなんだ・・・それじゃ僕もずっとFBIにいることにする」 「お前、夢を捨てるんか?」 「ダニーが一緒じゃなきゃ意味ないよ」 マーティンは目を伏せた。 「ごめんな、お前の思うようにならない事ばかりやな、俺。」
二人は料理を次から次へと平らげて、店を後にした。 「さて、お前の家に行こか?」 「え、アランはいいの?」 「あぁ。それよりお前や」 ダニーはマーティンの肩に手をかけて二人で歩き出した。 アパートに着き、どちらからともなくキスを交わす。 服を脱がせあい、バスルームに入った。
シャワーをしながら愛撫を加えると、二人のペニスは途端に腹につきそうに勃起した。 「ベッド行こか」 「うん」 ベッドではダニーが主導権を握った。 ローションを手に取ると、マーティンのアヌスの中に塗りこむ。 ぬめぬめと中が動いていた。
「お前の中、すごい」 「ダニーが欲しいんだもん」 ダニーは自分のペニスにローションを塗ると、一気に貫いた。 「わぁーすごいよ、ダニー。大きくて熱い!」 「お前が締めるからや、動かすで」 ダニーは腰をグラインドさせながら、抜き差しを繰り返した。 マーティンが苦しそうな悩ましい顔をしてダニーを見上げる。 ダニーの腹でこすれたペニスが痙攣した。
マーティンが熱い液をダニーの身体にほとばらした。 ダニーはそれを確認すると、さらに抜き差しを繰り返し、スピードを上げた。 「もう、僕、だめ、きて!」 「あぁ、俺もや、イク!」 ダニーも身体を痙攣させて、マーティンの中に射精した。 二人で荒い息を整える。
「水、飲む?」 マーティンがキッチンに向かった。 ダニーはトイレに行くふりをして携帯で、アランに電話をかけた。 「今日は残業で徹夜や。帰れへん、ごめん」 「気をつけて、ダニー、愛してる」 「俺も」 ダニーはアランにもマーティンにも後ろめたい気持ちで一杯になっていた。 どっちつかずの俺、このままどこまで行くんやろう。
ダニーは携帯の音で目を覚ました。時計を見ると23時を少し過ぎたばかりだ。 「はい・・テイラー」 「あ、僕だけど。どこにいるのさ?」 「へ?オレのアパートやけど」 「・・・・・・」 「どうしたん?」 「・・ねえ、嘘なんじゃないの?」 マーティンの声からは疑っているのがありありと伝わってくる。
「嘘やない。そうや、家の電話にかけてみ、オレが出るから」 マーティンはしばらく黙っていたが、やがて家の電話が鳴った。 「オレや。ほらな?嘘やないやろ?」 ダニーは携帯を切ると子機を持ったままブランケットにくるまった。 「ん、ごめんなさい。疑ったのは謝るよ。ジムの帰りに来てくれるって言ってたでしょ? 覚えてない?僕、ずっと待ってたんだよ」 「あー、そうやったな。ごめん、疲れたから家に帰ったんや。ほんまにごめんな」 ダニーは約束をすっぽかしたことを思い出して謝った。
「今から行こか?」 「いいよ、疲れてるならゆっくり寝なよ」 「お前は平気なん?」 「ん、へーき、ダニーの声か聞けたから。もしかしたら浮気してるんじゃないかって思ってたんだ、僕。 ほんと、すっげーバカだよね。じゃあ、おやすみなさい」 「お、おう、おやすみ」 無邪気にあっけらかんと言われ、ダニーの心は痛んだ。 ―くそっ、オレって最低や・・・ 電話を切ったダニーはため息をついてベッドから出ると、服を着てアパートを出た。
マーティンのアパートに行くと、マーティンがベランダで熱心に月を眺めていた。 空を見上げるのに夢中で、ダニーが入ってきたのにも気づいていない。 ダニーは隣に立つとただいまを言って肩を抱いた。驚いたマーティンは一瞬固まる。 「ダニー来てくれたんだ!あ、でも、無理して来なくてもよかったのに」 「あほ、そんなんちゃう。お前に会いたくなっただけや」 「・・本当はね、僕、ダニーと一緒に月が見たかったんだ」 ダニーにキスされたマーティンは、満足そうににっこりすると頭を肩にもたせかけた。
ベッドに入ると、ダニーはしっかりと手をつないだ。さっき浮気したばかりで今夜はセックスできない。 甘えてきたマーティンにペニスを触られそうになり、疲れているからと言い訳して抱きしめた。 マーティンはおとなしく胸に顔を埋めている。 「なぁ、オレを待ってる間、何してたん?」 「ん?インファナル・アフェアを見ながらピザ食べた」 「行儀悪いな。またカートン抱えて食べたんやろ?」 「だって一人だったんだもん」 「そやな、一人やったらしゃあないな。おやすみ、マーティン」 ダニーはほっぺにキスをすると、マーティンが眠るまで背中をなでてやった。
翌朝、マーティンはジョギングに行くのをやめ、眠るダニーの肩をマッサージした。 軽く揉んだり、ぐっと強く指圧すると、ダニーの口から微かに声が漏れる。 悩ましい声に興奮しながらマッサージを続けた。声が聞きたくて凝った箇所を強く押す。 「んぁ・ぁぁ・・ぅぅん・」 ドキドキしながらふと見ると、ダニーの口からよだれが垂れていた。 ―だめだ、こんなのエッチすぎるよ・・・ マーティンは我慢できずにダニーの背中に腰を擦りつけた。 肩を揉みながら腰を振ってペニスを刺激する。
「はぁ・・んんっ・・はぁ・・・ぅぅっ!」 ダニーは背中に違和感を感じて目を覚ました。熱くて重い。 「マーティン?」 「あぁっ、ダニー!このまま入れてもいい?」 「え?な、何?何や?」 マーティンは返事も聞かずローションのボトルを掴むと、ダニーのアナルに塗りこんだ。 ペニスの先だけを挿入してアナルを押し広げる。 ダニーの体を傷つけないようにやさしく奥まで挿入すると、ゆっくりと動きはじめた。
「んぁっ・・マ、マーティン」 「痛くない?へーき?」 「ああっ・・」 マーティンがダニーのペニスに手を伸ばすと、すっかり勃起していていやらしい雫がとろとろと溢れていた。 安心したマーティンは背中にしがみつくと腰を打ちつけた。 ダニーのアナルに締めつけられ腰の動きが早まる。 「あかんっ、イクで!あうっうっ!」 ダニーが先に射精した。中がひくひくと蠢いている。マーティンも射精すると、ぐったりして隣に倒れこんだ。
マーティンがPCに向かって仕事をしていると、携帯が震えた。 アリソンからだ。 「はい、フィッツジェラルド」 「あ、マーティン、アリソンです。相談したい事が合って。今日会えませんか?」 「はい、いいですが」 「それでは、8時にブルー・バーでは?」 「はい分かりました」
何だろう、またニックに問題か? マーティンは8時前にブルー・バーに出かけた。 すでにアリソンがカウンターに座っていた。 女性と待ち合わせるなんて初めてのことだ。マーティンは緊張した。 エリックが珍しそうな顔をして、「いつもので?」と言った。 「うん、頼む」
「ここ、よく来るの?」 「職場に近いしね。それで今日はどんな用で?」 「あなたを撮った作品見ました。どれもセクシーでスリリング、素晴らしかった。 まるでカメラを介して二人がセックスしているみたい。 あれ、ベルリンの個展に出してはいけないかしら?」 「え?困ります、それは」 「顔はすべて覆ってあるし、誰も貴方だとは分からないはずよ。それにベルリンだし」 「ニックは何って?」 「あれ以来、精力的にモデルを撮ってるけど、貴方以上の作品はないの。 ねぇ、ニックを大切に思ってるのでしょう?彼を助けると思って、ね、お願い!」
マーティンはアリソンの熱意に押されて、しぶしぶ承諾した。 翌日、マーティンはニックを尋ねた。 先日と打って変わって、仕事モードだ。 汗で前髪が額について、すごくセクシーだった。 「ねぇ、ニック、僕の写真、また出すの?」 「あぁ、アリソンの奴、お前に会いに出かけたんだって?ごめんな」
「お前のお陰で俺はフェニックスのように蘇れた。ベルリンの手ごたえを感じてるんだ」 ニックはマーティンをぎゅっと抱きしめた。えくぼの笑顔が美しい。 「いつから行くの?」 「今月末からだ」 「じゃあ、一緒にハロウィン遊べないね」 「お前、ガキだな!そこがたまらなく可愛いんだけどな」 ニックは熱いキスをマーティンに施した。
「飯、食いに行こうか?」 「うん!」 二人は「ジョーズ・シャンハイ」に出かけた。 カニ肉入り小籠包と大根もち、豚足に鶏のとさかの煮物、 それにヘビのスープとチャーハンを食べる。 「精力ががんがんつくぜ!」 ニックがウィンクした。 マーティンはニックの変幻自在な表情の変化が好きだ。 ダニーも表情豊かだが、ニックの方がフェロモンがにおい立ってくるようなのだ。
二人はニックのフェラーリで家に戻った。 「今日は僕、明日早いからもう帰るね」 「それじゃ送るよ」 「え、いいの?」 フェラーリがアップタウンに向かう。 「ねぇ、ニック、僕の事好き?」 「真面目に聞かれると照れるな。これだけは言っとく。俺、お前以外とは寝てないからさ」 「そうなんだ」 マーティンは神妙な顔で聞いていた。 「こんな俺、自分でも信じられないぜ、全く」
マーティンのアパートに着いた。 「ねぇ、寄ってく?」 「いいのか?」 「うん、僕の生活も見て欲しいんだ」 マーティンはニックをアパートに招き入れた。 バスを入れ始めるマーティン。 ニックはDVDやCDを見ながらうろうろしていた。 「ビール飲むけどいいか?」 「どうぞ」
二人はバスの中で、熱烈に愛し合った。 ニックは入れるだけでなく、積極的にマーティンを求めた。 二人はお互いの身体の中に精を放ちあい、抱き合った。 「あぁ、お姫様、お前って最高な、もう離れられそうにないよ」 ニックがキスをしながらマーティンにささやいた。 「ありがと、ニック。何だか僕、幸せだよ」 マーティンは、そう答えながら、ニックとの関係とダニーとの関係の事を秤にかけていた。
スチュワートが診察室から出てくると、ジェニファーがくすくす笑いながら花についていたカードを眺めていた。 カルテを置きながら何気なく斜め後ろから覗き込む。 「これからはいい子になる?何だ、それ?」 「やだちょっと!盗み見なんて最低!やめてくださいよ!」 ジェニファーは慌ててカードをしまった。 「覗いてない、偶然見えたんだ。けどさ、カードにいい子になるだなんてきっと変なヤツだぜ。大丈夫かよ?」 「いいから!早くランチに行ってください。午後から予約がたくさん入ってるんですからね」 「あー、うるさい。そうガミガミ言われなくてもわかってるよ」 スチュワートは白衣をジェニファーに押し付けると、伸びをしながら外に出た。
通りを歩いていると、前からマーティンが上司と歩いてくるのが見えた。 マーティンは神妙な顔でいちいち頷いている。上司の方は歩きにくそうによたよたしていた。 ―へー、仕事中のマーティンか。ん?あのオヤジ、腰が悪いんじゃないかな・・・ こっちに気づいた二人は軽く会釈を交わし、上司と別れたマーティンが寄ってきた。 「ランチ?」 「ああ。マーティンは?」 「ボスが僕も食べてから戻れって」 「じゃ、一緒に食べよう」 二人はカフェに入ると、テラス席を選んで座った。
「さっきはえらく神妙な顔してたな。あんな顔、初めて見たよ」 スチュワートはマッシュルームのサラダを口に運びながらにんまりした。 「あー、あれね、あれは叱られてたんだよ」 「どうして?」 「僕は感情的になりすぎるって・・その、父さんのことを言われるとだめなんだよね」 「誰だってそうさ、気にするな。オレもそういうとこあるからさ、君だけじゃない」 「・・ん、ありがと」 マーティンはほんの少し笑顔になった。 「なんかさ、焼き鳥食べたいな」 「いいよ。また行こう」 優しい眼差しで見つめられ、マーティンは恥ずかしくてチーズバーガーにがっついた。
二人がカフェを出て歩いていると、雨が降り出した。 慌てて雨宿りしたもの、ぱらぱらではなくどしゃ降りの雨だ。 「まいったな、しばらく止みそうにないや」 マーティンは恨めしそうに鈍色のどんよりした空を見上げた。 「あと2ブロックでクリニックだからさ、オレが支局まで送ってやるよ。走るぞ、競争だ」 「えっ?ちょっ、スチュー!」 マーティンは慌ててスチュワートを追いかけた。 たったの2ブロックでも冷たい雨が容赦なく降り注ぐ。
びしょ濡れの二人を見て、ジェニファーは呆れながらタオルを持ってきてくれた。 「フィッツジェラルドさん、もっとしっかり拭かないと風邪引きますよ」 「あ、はい・・」 ジェニファーが苦手なマーティンは、体を拭くのもぎこちなくなってしまう。 「そんなんじゃだめよ。貸して」 見かねたジェニファーは、マーティンのタオルを取り上げると髪をごしごし拭いた。 マーティンは生きた心地がせずに固まった。その間もジェニファーはてきぱき体を拭く。
おもしろそうに眺めていたスチュワートは、使ったタオルをジェニファーに押し付けた。 「それじゃオレはマーティンを送ってくるから。患者にはうまく言っといてくれ。20分で戻る」 「えっ、そんな!嘘でしょ!」 ジェニファーが憮然とした表情を浮かべたが、スチュワートは相手にしない。 「いいや、頼んだぞ。戻ったら"いい子"とやらになるから」 スチュワートは断るマーティンを無理やり連れ出すと、車に乗せて走り出した。
「ねえ、いいの?患者さんを待たせるなんて悪いじゃない」 「いいんだ、マーティンに風邪を引かせるわけにいかないから」 「けどさ、20分じゃ帰れっこないよ。病気の人を待たせられないよ」 「オレは内科医だけど、専門は予防医学だって知ってるだろ。こっちのほうが大事なんだ。オレのマーティンが最優先だからな」 スチュワートはマーティンの目を見つめるとつないだ手に力をこめた。 二人があれこれと話をしているうちに支局に着いた。 「このままさぼってどこかに行きたいな。オレのベッドとかさ。そうだ、すぐそこのホテルでもいいな」 「バカ、そんなことしたらジェニファーがキレちゃう」 「わかってるよ。いい子にしないとな」 スチュワートはけたけた笑いながら帰っていった。
ダニーは、アランの腕の中で目を覚ました。 この生活に慣れ切ってしまった自分が恐ろしい。 そろっとベッドから這い出て、シャワーを浴びる。 俺、このままアランと一生一緒に過ごすんかな。 現実感が湧かない。でも、今が幸せであるのは確かだ。 シャワーから出ると、アランがコーヒーを入れていた。
「おはよう、ハニー、良く眠れたかい?」 「あぁ、ぐっすりや」 「僕もだ」 アランがシャワーに入った。 ダニーはニューヨーク・タイムズのスポーツ欄を見ながら、コーヒーを飲んだ。 典型的な休日の朝だ。 ダニーは、スクランブルドエッグを作って、熱々のトーストの上に乗せた。 冷蔵庫からプチトマトとクレソンを出して添える。 「ありがとう、美味そうだ」 アランが席について食べ始める。
「今日は何する?」 アランが尋ねる。 「うーん、ちょっとブルックリンに戻って家事してくるわ。しばらく行ってないから」 「そうか、じゃあ、僕はネット相談かな」 ダニーは朝食を食べると、マスタングに乗って、ブルックリン橋を渡った。 そのままブルックリンを通り過ぎて、ロングアイランドまで走らせる。 路駐して、目抜き通りのカフェでパスタランチを食べる。 ワインを一杯だけすすりながら、道行く人を眺めた。
アランと暮らし始める前の休みの日は、こうしてあてのないドライブによく出かけたものだ。 ふと思い立って、ハンプトンまで行ってみることにした。夏以来、出かけていない。 街は静けさを取り戻していた。夏の喧騒がウソのようだ。 ダニーは別荘に入り、ベッドルームでしばらく昼寝をした。 携帯の音で目が覚める。
「ふぁい、テイラー」 「ハニー、今どこだい?家に電話したら出ないし」 アランだった。 「買い物中や、ごめん」 「そうか、今日は何時頃戻る?」 「今、何時?」 「4時だが」 「わかった。7時に戻る」 「そうか、今日はギルとケンが来るよ」 「さよか、わかった」 ダニーの一人ぼっちの休日は終わった。 俺、失踪したくなったわ。ダニーは苦笑交じりにひとりごちた。
別荘の戸締りをして、ブルックリンに戻る。 請求書の整理と支払小切手の振り出しを済まし、マンハッタンに向かった。 アパートに入ると、キッチンからガーリックのいい香りがした。 「ただいま!」 「お帰り、心配したよ」 アランはダニーの頬にチュッと軽くキスをした。
「ごめん、色々やる事があってん。今日は何?」 「季節野菜のバーニャカウダと真鯛のソテー・ガーリックソースだ。あとリゾットを用意した」 「完璧やん」 「お前、デザート作ってくれないか?」 「うん、わかった」 ダニーは手を洗い、エプロンをすると、オレンジとイチジクを剥き始めた。 カスタードクリームを取り出し、果実をクリームに浸した。 「フルーツのグラタンでええ?」 「ああ、素晴らしいな」
8時になり、ギルとケンがやってきた。二人の雲行きが怪しい。 アランがシャンパンのグラスを渡すと、ギルはソファーに、ケンはベランダに出て、飲み始めた。 「どうしたん?あの二人?」 ダニーがひそひそ声でアランに尋ねる。 「ケンが浮気したらしい」 「はぁ?何やそれ?」
ダニーはベランダにいるケンのそばに寄った。 「お前、浮気したんか?」 「うん、ちょっとね」 「どこのどいつと?」 「ほら、ブルー・バーのさ、バーテンダーでかっこいい奴いるでしょ?」 「もしかしてエリックか?」 「うん、ダニーと同じ人種だし、ついふらふらーっと」 「お前、あいつ遊び人で有名なんやで、ちゃんとゴムしたか?」 「あんまり覚えてない」 「ギルに謝ったか?」 「うん、平謝りだよ。でも許してくれないんだ」 ダニーも心がチクと痛んだ。自分もエリックと寝ている身だ。
「とにかく謝りや、それしかないで」 「わかったよ、そうする」 部屋の中を見ると、アランがギルの隣りに座って話しかけていた。 ギルが何度か頷いている。 うまくいきそうかな。 ダニーは「さぁ、中に入ろ」とケンの背中を押しながら、中に戻った。
ベッドの中で、ダニーは天井を見つめて考え事をしていた。 アランが傍らに入ってくる。 「どうした?」 「ギル、ケンを許せるんかな?」 「あいつもいい大人だし、ケンにぞっこんだからな、うまくいくだろう」 「アラン、俺が浮気したら許せる?」 「度合いにもよるが、僕はお前を待っているよ」 ダニーはアランの広い胸に顔をうずめた。
「ありがと、何か俺、涙が出そうや」 「こら、明日目が腫れるぞ、さぁ、寝よう」 二人は向き合って静かにキスを繰り返し、そのうちアランが寝息を立て始めた。 こんなに愛されているのは初めてなダニーだ。 それなのに、ハンプトンまで行って孤独の時間を楽しんでいた自分。 俺って、結婚生活に向いてへんちゃうかな。 ダニーはしばらくねがえりをばたんばたんしていたが、そのうち眠りについた。
朝起きると、アランの姿がなかった。 リビングを覗くと、コーヒーを飲みながらファイナンシャル・タイムズを読んでいる。 「ハニー、おはよう。もっとゆっくり寝てるといい」 「ううん、朝食まだやったら俺、作るわ」 ダニーはシャワーを浴びて、キッチンに立った。
久しぶりにフレンチトーストに決めた。 焼きながら、トッピングのクランベリーとブルーベリー、ホイップクリームとメープルシロップを用意する。 「美味そうな匂いだ」 「アランのには負けるけどな」 二人は、ダイニングで静かに食べ始めた。 「そうだ、今日はバーニーズのスーツが出来てくるから、取りにいこう」 「そやね」
二人はランチがてら、バーニーズ・ニューヨークに出かけた。 ジョージがうやうやしくガーメントバッグを持ってくる。 「これでおそろいでございます。ご試着は?」 「しようか」 アランとダニーはそれぞれ試着スペースに入っていった。 ジョージがダニーの試着室に入ってきた。 すぐさまするっと抱きしめられ、股間をまさぐられる。 「ちょっと、ジョージ!」 「テイラー様、よくお似合いでいらっしゃいます」
ジョージはアランの試着室に入っていった。 まさかアランにも同じ事してるんやないか? ダニーは訝った。しかし、アランの態度には何の変わりもない。 俺だけ?なんか甘くみられてるんかな? ジョージは丁寧にガーメントバッグにスーツをしまって、二人に渡した。 「またのご来店をお待ち申し上げております」
アランが言った。 「今度のコンシェルジェは気が利くなあ」 「そうなん?」 「あぁ、奴は優秀だよ、それにルックスもいい」 「アラン、惹かれてる?」 「ばかだなぁ、そんなわけないだろう?」 二人はバーニーズのカフェに寄りこみ、 チキンサラダとチーズラビオリとシーフード・リゾットをシェアした。
アパートに戻って、アランはネット相談、ダニーはCDにあわせてレス・ポールの練習をしていた。 すると携帯が鳴った。 「お、マーティン、どうしたん?」 「今日ね、ニックの壮行会をやるんだよ。ベルリンの個展の、ねぇ、アランと来ない?」 「へぇ、珍しいな、何時にどこ?」 「7時にスパイスマーケット」 「ちょっと待ってな」
ダニーはアランに尋ねた。 「今日、ニックの壮行会やるねんて、行く?」 「そうだな、行ってみようか。二人の様子も見たいしな」 アランは一瞬プロの顔をした。 「行くってアランも言ってるわ、じゃ現地で」 7時にミートパッキングエリアのレストランに着く。
「ニック・ホロウェイのパーティーは?」 アランがフロアマネージャーに尋ねると、急に腰が低くなった彼は奥のスペースに案内した。 ニックとマーティンは既に到着しており、シンハービールを飲んでいた。 エージェントのアリソンも一緒だ。 すぐにシャンパンが届いた。5人で乾杯する。
アランは博識のアリソンに魅せられたようにアートの話をしていた。 マーティンはニックが肩に手を置いて、抱きかかえるようにされていた。 マーティンもまんざらではない顔つきだ。 俺、一人やん。マーティンのヤツ、あんな顔して、全く、何や! ダニーは、シャンパンをどんどんぐいぐい飲んだ。
ディナーも終わりになり、アリソンは「じゃあ、ここで失礼します。ドクター・ショア、とても楽しかったです。ダニー、ごきげんよう」 と愛想を振りまいて、去っていった。 「さてこれからどうする、お姫様?」 ニックはマーティンの首に手を回して今にもキスをしそうだった。
「俺たちは帰るから、お二人はどこでもどうぞ」 ダニーは、アランの手を取って、駐車場に急いだ。 「お、おい、ダニー、どうしたんだ!」 もう少しでニックを殴るとこやった。 ダニーは、胸の動悸を落ち着かせようと深呼吸を繰り返した。
地下鉄を降りた二人は、デリに向かって歩いていた。二人ともおなかがぺこぺこだ。 「もうイーライズでいいやん。遠いわ」 「だめ!がんばって歩こうよ」 「イーライズやったら帰り道やのに・・・」 ダニーは足を止めると、恨めしそうに後ろを振り返った。 「ダニー、早く。先に行くよ」 アーロンを殴ってから、マーティンはイーライズへ行くのをやめた。 不便だがアッパーウエストサイドのデリまで買い物に行くしかない。 さすがに続くとダニーが訝ったが、こっちのほうがおいしいからと言ってごまかした。
セントラル・パークを横切ってフェアウェイに着くと、二人は早速買物を始めた。 マーティンはダニーが買うものを物珍しそうにチェックしながらカートを押す。 自分一人だとデリコーナーのテイクアウトだけだが、ダニーはきちんと食材を買うので見ていて楽しい。 「ねえ、このイカはどうするの?僕はイカリングがいいな」 「絶対に嫌や、死ぬほどはねるやん。食べたかったらそこで買うてき」 ダニーはデリコーナーを指差した。 「ううん、いい」 「よし、ほな行こ」 二人はチェックを済ませると、一つずつ紙袋を抱えてアパートまで歩き出した。
ついでにパヤードにタルトを買いに行くと、ジョシュがいた。 パティシエと親しそうに話していたが、二人に気づいて手を振っている。 「やあ、二人とも久しぶりだね」 「ああ。お前もデザート買いに来たん?」 「ううん、明日お得意様のところにご挨拶に行くからケーキの予約をしに来たんだ。 ここのはおいしいよね」 ジョシュは屈託なくマーティンに笑いかけた。マーティンもつられてにっこりしている。
「オレはこれにするわ。お前はどれにする?早よ決め」 ダニーは遮るようにマーティンを促した。マーティンは熱心にデザートを選んでいる。 ジョシュはダニーと目が合うと意味ありげににやりとした。 何か企んでいるような小悪魔的な笑みだ。 ダニーは気づかないふりをして、マーティンがタルトを選ぶのを眺めていた。 カートンを受け取ると、三人は一緒に店を出た。 ジョシュは積極的にマーティンに話しかけている。 マーティンが嬉しそうに答えているのが気に入らないダニーは、カーライルホテルとは違う方向へ曲がろうとした。 「あ、僕はこっちだから。それじゃ、またね」 狙いどおりジョシュが去っていくのをほくそ笑みながら見送り、アパートまで帰った。
「ねえ、ジョシュも夕食に誘ってあげればよかったね」 タルトのカートンを冷蔵庫にしまっていたマーティンが顔を上げた。 「ずっと一人だから寂しいんじゃないかな?」 「平気、平気。ああいうヤツはどこ行ってもうまいことやっていける人種やねん」 「どうしてさ?」 「どうしてって、あいつは人騙してなんぼやで?図太い神経してるから、どこでもへっちゃらや」 「そうかなぁ?」 「また騙されて。誰彼かまわず信用すんな。人見たら泥棒やって思うぐらい疑え」 ダニーにいくら言われてもマーティンはまだピンと来ない。 友達ができたと喜んでいたのだら仕方がないのかもしれない。 ダニーはやれやれと肩を竦めた。
すっかりしょげているマーティンのためにイカリングフライを作りかけたが、 いざ油を前にしてみると、はねるのが怖くてできない。 ―あちゃー、どうしよう・・パン粉までつけたのにな・・・ 考えた末、オリーブオイルをかけてオーブンで焼くことにした。 焼けたものは色こそ淡いものの、ほとんどイカリングフライだ。 ダニーはわざと無造作にお皿にいれてテーブルまで運んだ。 「ボン、出来たで。メシにしよう」
「わー、イカリングだ!」 ベランダから戻ってきたマーティンは、手も洗わずにイカリングをつまみ食いした。 「いける?」 「ん、おいしい。舌火傷しちゃった」 べーっと舌を出すのがおかしくて、ダニーは吹き出した。 「あほやなぁ、がっつくからや。早よ手洗ってこい」 豆腐のラザニアを取り分けていると、マーティンが戻ってきた。 一口食べてきょとんとしている。
「どうしたん?」 「これ、いつものと違うね。この白いの何?」 「トーフや。まずい?」 「ううん、おいしいよ。でも僕はいつものほうがいいな」 「これもダイエットや!お前の腹、最近プニプニやで。上に乗られたら重たいねん」 「そんなことないよー」 マーティンはお腹を触られて身を捩じらせた。くすぐったくてたまらない。 「じゃあさ、後で試してみようよ。僕が上になるからね」 「うわっ、エロ!お前エロイわ」 ダニーはからかいながら抱き寄せると、舌をこじ入れてディープキスした。
ダニーが支局へ着くと、マーティンがお手製らしいサンドウィッチをがっついていた。 こいつ、おとといがニックで昨日がエドかよ! ダニーは面白くない。 「ダニー、おはよ!」 そんなダニーの気も知らないで、マーティンが愛想よく話しかけてくる。 「お前、忙しくて何よりやな」 ダニーは毒舌を吐くと、コーヒーを取りに席を離れた。 ダニーもアランが作ってくれたカマンベールと生ハムのサンドウィッチを食べ始める。
サマンサが出勤してきた。 「やだ〜、二人ともお手製のサンドウィッチ食べちゃって、全く」 ダニーに彼女がいると思っているが、マーティンがお手製サンドを食べていたのがショックだったのか、 サマンサは、すぐに席をはずしてしまった。 「お前、彼女いるって事にしないと、あとあとうるさいで」 「え〜?そんなの無理だよ〜」 マーティンはすぐさま困った顔をした。
サマンサはその日一日不機嫌だった。 やっぱりマーティンを諦めきれていなかったのだろう。 ダニーはサマンサを慮って気の毒に思った。 あいつゲイやねん、サムがいくらええ女だからって無理なんや。 帰り際、マーティンが遠慮がちにダニーに声をかけた。 「ダニー、僕の事怒ってる?」 「そんなことないで」 「それならいいんだけど」 「一緒に飯でも食うか?」 「うん!」 マーティンははにかんだ笑みを浮かべて、身支度を始めた。
二人でカッツ・デリカテッセンに寄りこむ。 パストラミサンドとシーザーズサラダに山盛りポテトを頼み、クアーズで乾杯した。 「サムな、お前の事諦めてへんようやな、どないする?」 「僕、この間で、諦めてくれたんだと思ってたんだよね」 「お前は生え抜きのサラブレッドやからな、チャンスあればって思ってるんやないの?」 「困っちゃうよね。もう僕、女が全然だめなこと、カミングアウトしたいよ」
「よせや!FBI人生が終わるで」 ダニーは真剣な顔をしているマーティンに呆れた。 「お前、サンフランシスコ支局でカミングアウトした捜査官がどうなったか、知ってるか?」 「え、そんな事あったの?」 「すぐさまウィスコンシンの暇な支局に左遷やで、気をつけ」 「そうなんだ・・わかったよ」 全くの作り話だったが、マーティンはすっかり信じたようだ。
ダニーは安心した。だいたいカミングアウトする捜査官などいるものか。 すぐ人を信じてしまうマーティンが心配にもなった。 「お前、それでさ、ニックとエド、どないすんねん」 「だって、二人とも友達だもん」 「そうは言っても、寝てんのやろ」 「でも友達だから、僕には貴重なんだ!」 マーティンはクアーズのグラスを割りそうに力強く握っている。
「わかった、わかった。ごめんな、ヘンな事聞いて」 「ダニーはどうなのさ?アランと一生住むの?」 ダニーはその答え如何によってマーティンがどんなに傷つくか察しがついていた。 「そんなわけないやん。俺、まだ35やで、これからも色々あるわな」 マーティンは安心したようにため息をついた。 「そうだよね、まだ色々あるよね!」 マーティンはポテトフライを口いっぱいに突っ込んで、むせて顔を赤くした。
「わかった、わかった。ごめんな、ヘンな事聞いて」 「ダニーはどうなのさ?アランと一生住むの?」 ダニーはその答え如何によってマーティンがどんなに傷つくか察しがついていた。 「そんなわけないやん。俺、まだ35やで、これからも色々あるわな」 マーティンは安心したようにため息をついた。 「そうだよね、まだ色々あるよね!」 マーティンはポテトフライを口いっぱいに突っ込んで、むせて顔を赤くした。
「おいおい、気をつけ」 「げほ、げほ!、ごめん・・げほん!!」 「お前可愛いねんな」 「嫌だよ、僕だって33の男だよ。もう子ども扱いは止めてよ」 「わかった、わかった」 「今日、家に来てくれる?」 「そやな、行こか?」 「わーい!」 「やっぱりガキやねんか!」 ふくれたマーティンを置いて、ダニーはチェックを済ませた。
ふくれたマーティンをそのままにして、ダニーは笑いながらチェックを済ませた。 二人でタクシーでマーティンのアパートに戻る。 マーティンはずっとダニーの手を握っていた。 「今日、泊まれる?」 「それは、勘弁な、俺も微妙やねん」 「そうだよね、無理だよね」 二人はお互いのスーツを脱がせあうと、バスルームへ消えた。
ダニーが帰り支度をしていると、サマンサが話しかけてきた。 「ダニー、ちょっとお願いがあるんだけど・・」 「何?」 「今朝急いでてね、洗面の排水口にピアスを落としちゃったの。悪いけど取ってくれない?」 「オレが?なんで?」 「だって配管工って変なのが多いじゃない。家に入れるの怖くて。もちろんタダとは言わないわよ、夕食おごるから」 サマンサは両手を拝むように合わせて懇願した。 「お願い!このとおり!」 「あー、もうしゃあないな。ええよ、パイプ外すだけやし」 「ありがとう!先にごはん食べてからでいいわよね?ここで待ってて」 サマンサは勝手に決めるとダニーの肩を軽く叩いて姿を消した。
「ほんま台風みたいな女やな。負けるわ」 ダニーはマーティンと顔を見合わせた。 「だってサムだもん、あの勢いにはかなわないよ」 マーティンも呆れてサムが去った方に目をやった。 「あーあ、早よ済まして帰ろ。お前はトロイとスカッシュやろ。また明日な」 「ん、ごめんね」 「そんなんええって、謝るなや」 ダニーはさりげなくマーティンの手に手を重ねると送り出した。
イーストヴィレッジの蕎麦屋で夕食を食べた後、トライベッカのサマンサのアパートへ行った。 「ごめん、散らかってるけど気にしないで」 サマンサはソファに脱ぎ捨てたままの衣類を慌てて後ろに隠した。 「それ、もしかしてパンツ?」 「違うわよ!」 「絶対パンツや、オレ見えたもん。心配いらん、誰にも言わへんがな」 ダニーはからかいながらジャケットを脱いでシャツの腕をまくった。 「ほな始めよか。工具箱とゴム手袋とバケツ貸して」 サマンサは「あーっ!待って、ここにいて」と言うと、急いでバスルームへ走っていった。 見られたくないものを隠しているに違いない。 ダニーは散らかっているリビングを見回して苦笑した。
排水パイプを慎重に外してトラップを探ると、中からピアスが三つ出てきた。 「サム、なんかいっぱいあるんやけど・・・」 「あら、これもここにあったんだ〜。ダニー、ありがとう」 サマンサは受け取ったピアスを見て喜んだ。 「自分、落としすぎやん。落としたんならせめて気ぃつけよ」 「毎日忙しくて、どこで失くしたのかもわからなかったのよね。あー、よかったー」 「よかったな。たまにはパイプのそうじもしたほうがええで、すごいヘドロや」 ダニーが配水管を元通りに締めていると、サマンサが横から洗剤を手渡した。
「え?」 「ついでにお願い」 「あほか!なんでオレがそこまでしやなあかんねん!」 ダニーはゴム手袋を外すとサマンサに握らせ、自分はさっさと手を洗った。 「ほなオレは帰るから」 「待って、ピザ食べない?」 「は?さっき食べたとこやん!」 「そうなんだけど、蕎麦ってダメね、お腹が空いてきた。ダニーも一緒に食べましょうよ」 サマンサは無理やり引き止めると勝手にピザを頼んでしまった。
飲んでいてすっかり遅くなったダニーは、タクシーを探して路上に目を凝らした。 なかなかタクシーがつかまらずにいらついていると、見覚えのあるシルバーのサーブが近づいてきた。 ナンバーを見るとジェニファーの車だが、運転しているのは見知らぬ男だ。 おそらくあの男が夫なのだろう。落ち着いた雰囲気が一瞬で見て取れた。 前を通り過ぎる瞬間、ダニーはジェニファーと確かに目が合った。 しばらく闇を見つめたまま動けなかったが、なんとかタクシーを拾うと呆然としたまま乗り込んだ。
ダニーはそっとアランのアパートに入った。書斎から光が漏れている。 まだ仕事してんねんな。 「ただいま!」ダニーはわざと大声で挨拶した。 メガネ姿のアランが現れた。 「遅かったね」 「今日も残業や。食事済ませてきた。ごめん」 「いいんだよ、今日はデリで済ませたから」 アランはダニーに近寄って軽くキスをした。
「いい匂いがするね?」 しまった!アロマオイル使ってしもうたわ! 「支局でシャワー浴びてきたから」 「そうか、何か飲むかい?」 「水でいい」 アランは自分にはブランデーを、ダニーにはコントレックスを持ってきた。
「毎晩残業で大変だな。マローン捜査官に抗議しようか」 アランが笑いながら言った。 「止めてーな。残業代だって立派な収入源やから」 「そんなの気にしなくてもいいのに」 アランにとってはFBIの残業代などすずめの涙ほどだろうが、ダニーにとっては大切な収入だ。 そのあたりのくい違いが、まだ二人の中にはあった。
「僕もそろそろ眠るよ。お前も着替えておいで」 「うん、めちゃ眠いわ」 ダニーはパジャマに着替えると、ベッドに入った。 今日はマーティンと2戦交えた手前、セックスは出来ない。 アランがダニーの身体を自分の方に向けて、ペニスを擦り付けてくる。 「ごめん、俺、今日、めっちゃ疲れてんねん」 「そうか、それじゃ、静かに眠ろう」 アランがすぐに諦めてくれたので、助かった。 二人は腕を絡めあいながら、眠りについた。
翌日、アランの作ったツナサンドを持って出勤すると、サマンサが近寄ってきた。 「ねぇ、ダニー、マーティンにも彼女が出来たのか知ってる?」 「よくは知らんけど、頻繁に会ってる人はいるらしいで」 「あーあ、そうなんだ。これでジ・エンドだわね」 「サム、マーティンにまだ気が合ったんか?」 「だって、ヴィクターの息子だもの、一応ね。でももう諦めたわ」 サムは寂しそうに笑うと、自分の席に戻っていった。 サマンサも寂しいねんな。ボスも何とかしてやりゃあええのにな。
ダニーはPCを立ち上げ、仕事に向かった。 定時ぎりぎりにマーティンがやってくる。 「どうした、ボン?」 「寝坊しちゃった」 全くガキや、こいつ。 仕事は書類整理にあけくれた。 ダニーはすっかり飽きてしまい、「ちょっと出てきます」と言って外に出た。
いつものカフェでランチを取っていると、ブルー・バーのエリックが道を歩いてくるのが見えた。 「おい、エリック、ちょっと来いな」 「こんにちは、何?ダニー?」 「お前、ケンと寝たやろ」 「ケン?あぁ、あのアジアン・ビューティーか。すごかったよ、あいつ」 「もう近寄るな、あいつにはステディーがいるねん」 「そうなの?なんだ、残念だな。それじゃ仕事があるから、またね」 エリックはウィンクをすると去っていった。 あいつも寂しいねんな。誰かと真剣に付き合うた事あるんやろか? ダニーはそんな事を考えながら、スープとバゲットを食べ終わった。
午後の仕事も平穏に終わり、ダニーはアランのアパートに戻った。 ドアを開けると、アランが点滴のスタンドを用意しているところだった。 ソファーに誰かが寝ている。女だ。 「アラン、どうしたん!」 「マヤだよ、家のドアの前でひっくり返っていた」 「ER行った方がええんちゃう?」 「一応、彼女も医師だからな、原因がわからなくては。医師免許剥奪もあり得るし」 ダニーは「さよか」と言って、着替えに向かった。 腹の中は煮えくり返っている。 マヤのやつ、まだアランに未練があるんか!アランは俺のもんや!!
「ダニー、悪いがピザでも取ってくれ」 「わかった」 ダニーはピザ・ボーイに電話をして、マルゲリータと生ハムとルッコラのピザを頼んだ。 ダニーはベッドで眠れなかった。アランはまだマヤのところから戻ってこない。 ベッドルームのドアが開いた。 「どうした?」 「急性アル中だ。今、吐かせたからもう大丈夫だろう」 「何で、家の前で倒れてたん?」 「本人に聞かなければわからないよ、もうお前は寝なさい」 「アランは?」ダニーは不安そうに尋ねた。 「僕もすぐに寝るよ。心配するな」
ダニーはなかなか眠りにつけず、うつらうつらしていた。 マヤとアランが話す声が聞こえてきた。マヤが叫んでいる。 ダニーは飛び起きてリビングルームに行った。 「この子さえいなければ、私はアランとヨリが戻せたのに!どっかに消えて!」 罵声を浴びせられてダニーは驚いた。 「アランは俺のもんや。お前には渡せへん」 ソレだけ言うと、ダニーはベッドに戻った。
腹わたが煮えくり返る思いだが、そのうち眠りが襲ってきた。 朝になり、ダニーが目を覚ますと、隣りでアランが眠っていた。 静かにリビングルームに入る。マヤがすやすや眠っていた。 人騒がせな女や。こんな修羅場、金輪際ごめんやで。 ダニーは水を一杯飲むと、またベッドに戻った。 次に目覚まし時計で目が覚めた。アランの姿がない。 冷蔵庫にポストイットは貼ってあった。 「マヤを送っていく。心配するな。愛してる。A」
ダニーはスタバでスコーンとカフェラテを買って、支局に出勤した。 「へぇ、珍しい、彼女と喧嘩でもしたの?」 サマンサがすかさず声をかける。 「ちゃうねん」 それだけ言うと、急いでスコーンにかじりついた。 ジャケットの胸ポケットにしまった携帯が鳴るのをただただ待った。
チーム・ミーティングが始まっても、ダニーの心は上の空だった。 「ダニー、聞いてるのか!」 ボスの叱咤が飛ぶ。 「すんません、もう一度」 あかんわ、俺、しっかりせにゃ。 ダニーはミーティングに集中した。 アランから電話があったのは夕方近くだった。すぐに廊下に出て話を始める。
「どうして、こんなに時間がかかってん?」 「すまない。とにかくもう終わったから、今日は帰ってきてくれるね?」 「もちろんや、俺、他に行くとこないもん」 そこへマーティンがやってきた。すれ違う。 やば、聞かれたかも? 「ダニー、聞いてるかい?」 「あぁ、もう仕事やから切るで、ほな後で」 トイレにマーティンを追いかける。
マーティンは顔を洗っていた。 「マーティン・・」 「喧嘩するほど仲がいいって言うもんね」 冷たい一瞥をくれて、マーティンは出て行った。 「お、おい、マーティン・・」 普段なら、マーティンのご機嫌取りに夕食に誘うところだが、今日はそうは行かない。 ぜがひでも帰らなければという思いが、ダニーの頭を乗っ取っていた。
定時になり、ぱっと席を飛び出すダニー。マーティンは、その背中を寂しそうに見送った。 「ただいま!」 ダニーは、目をつむってドアを開けた。 マヤが寝ている姿が脳裏に焼きついている。 「おかえり、ハニー、心配かけたね」 アランが優しくダニーを抱きしめた。
ダニーがしっかりアランを抱きしめ返す。 「俺、寂しかった」小さい声でダニーがつぶやいた。 「何だって?」 「アラン、俺、寂しかった!」 ダニーはそれだけ言うと、アランの唇の間に舌をねじ込んだ。 「本当に悪かった、寂しい思いをさせたね」 アランは背中を大切そうにさすった。 やっとダニーは身体から手を離した。
「マヤは?」 「アパートに送って食事をさせたよ」 「ふうん、何であんなんなったん?」 「男に騙されたらしい。完全な悪酔いだ」 「何でアランとこ来た?」 「他に知り合いがいないからだろう、もうとにかくこんなことはないから。さぁ、食事にしよう」 アランは、カンパチのカルパッチョにローストビーフを用意していた。 ワインはオーパス・ワンだ。 「すんげー、どないしたん?」 「いやぁ、ハニーに心配かけた罪滅ぼしさ」 アランは照れくさそうに笑った。
その後、二人はベッドで激しく愛し合った。 ダニーは自分の身体の中に放たれた精液で、アランが浮気をしていなかったのを確かめた。 何で、俺、こんなに疑心暗鬼なんやろ。アランを信じられへんのか! ダニーの身体の上にアランは倒れこみ、荒い息を整えていた。
翌日、ダニーは思いがけない来訪客を迎えた。マヤだ。 応接室に通す。マーティンも女性が尋ねてきたとサマンサから聞いて、気が気ではなかった。 「それで、マヤさん、どんなご用件で」 「あなた、ゲイでよくFBIにいられるわね」 「はぁ?俺を脅しに来たんで?そんな事してもアランはあんたの元には戻りませんで」 「わかってるわよ。でも、私はアランを諦めない。一旦結婚しかけた男だもの。 彼だって心が残っているはずよ」
彼女はやおら上質のシルクニットのカーディガンの腕をまくった。 赤々とついているキスマーク。 「これがアランがくれた印。今日は宣戦布告に来たの」 そう言うと、マヤは立ち上がった。 「私がFBIに素性をバラさない事に恩義を感じなさい」 マヤはドアから静かに出て行った。 ダニーが顔をしかめて応接室から出てくるのを、マーティンは見逃さなかった。
「捜査会議希望」マーティンはメールを出した。 ダニーから「了承@貴宅にて」と返事がきた。 家に帰り、イーライズで買ったデリを皿に並べていると、ダニーがやってきた。 「ダニー、ご飯食べるでしょ」 「あぁ、サンキュ」 ダニーは明らかに元気がない。 「どうしたの?今日来た東洋系の女の人が原因?」 「お前よう見てるな、そやねん」 「あの人誰?」 「アランの元フィアンセや」
「へぇ〜、アランって婚約してたんだ」 「ずっと昔にな、それが亡霊みたいに現れよった」 「ダニー、大丈夫?」 「正直、めちゃ凹んでる。俺、弱いな」 ダニーは皮肉交じりの顔をして笑った。 「アランだったら大丈夫だよ、ダニーを大事にしてくれてるじゃん」 「そやな、それを信じるしかないな」 ダニーはマーティンのそばにより、頭を肩にもたれかせた。
「やめてよ、抱きたくなっちゃうじゃん」 「ごめん、飯食おう」 二人は静かにバーベキューチキンとラビオリサラダをつまみ、白ワインを飲んだ。 「ありがとな」 「元気出して!ダニーらしくないよ」 俺がボンに励まされるとはな・・・ダニーは苦笑した。 そして食事を終えると、夜のセントラルパークを横切った。
早朝、ダニーは軽快な天気予報のキャスターの声で目が覚めた。 バーボンを飲んでいるうちにそのままつけっぱなしで眠っていたらしい。 NYは今日も一日晴れるでしょうとまくし立てているのがうざったくて、 けたたましいTVを消すとカチカチに凝り固まっていた首を回した。 鏡を見るとすっかり顔が浮腫んでいる。頭も少し痛い。 大きなため息をつきながらシャワーを浴びた。
支局に着くと、サマンサがデスクの上でうつぶせになっていた。 ダニーがブリーフケースを置くと、気づいたサマンサが顔を上げた。こっちも酷い顔だ。 「おはよう」 「おはよう。昨日はありがとね」 「おう、別にええねん。二日酔いか?」 「そう、あれからも飲んじゃって。でも楽しかった。また一緒に飲もう」 サマンサは無理に笑顔を作ると、バッグからタイレノールを取り出した。 「オレにもくれ」 「ダニーも?どうぞ、ご遠慮なく」 二人はお互いに苦笑すると、タイレノールを水で流し込んだ。
「やあ、おはよう!」 出勤してきたマーティンは、紙袋をガサガサさせると特大のチーズバーガーを取り出して勢いよくがっついた。 朝とは思えないような見事な食べっぷりに、ダニーもサマンサも思わず呻き声を上げた。 「ん?どうかした?」 「朝からよくそんなに食べられるわねぇ。考えられない。新鮮な空気吸ってこようっと」 「オレも。ちょっと席はずすわ」 ダニーも立ち上がるとトイレに顔を洗いに行くことにした。
ダニーの食欲は昼休みになってもまだ回復しなかった。 カフェでアイスティーとレモンシャーベットだけオーダーした。 「ねえ、具合でも悪いの?」 マーティンが心配そうにするが、二日酔いやからとだけ言ってシャーベットを口に運んだ。 コアントローの風味が体にしみこむ気がしてすっきりする。少しだけ体がしゃきんとした。 遠慮がちにペスカトーレを食べるマーティンを眺めながら、ダニーはアイスティーを啜った。 「少し食べない?」 「いや、いらん。ええからゆっくり食べ」 マーティンは曖昧に頷くとあきらめて食事を続け、ダニーはなんだか申し訳なくて、サラダのきゅうりだけもらってかじった。
仕事を終えた二人は支局の下で別れた。 マーティンが一緒に帰りたそうにしていたが、疲れているからと断った。 20mぐらい歩いてから振り向くと、まだこっちを見ている。 ―あいつ、しゃあないなぁ・・・ ダニーは渋々マーティンを手招きした。嬉しそうに走ってくるのが笑える。 「いいの?」 「ああ。今日は静かに過ごす、何にもなしや。わかったな?」 「ん、わかった!約束する!」 マーティンは指をクロスさせて大きく頷いた。二人は並んで駅まで歩き出した。
地下鉄を待っていると、ダニーの携帯が鳴り出した。ジェニファーからだ。 マーティンが隣にいるので出たくないが、出ないのも怪しまれる。 「はい、テイラー」 「ダニー、今話せる?」 「いや、まだ仕事中やねん。明日また電話するわ」 「・・わかったわ、待ってるから」 ダニーは電話を切ると携帯をポケットにしまった。不意にマーティンと目が合う。 「誰から?」 「スタニックから飲み会の誘いや。今日はやめとかんと体に悪いからな」 マーティンはダニーがスタニックの誘いを断ったのが嬉しくてたまらない。 自分のほうが大切にされていると再認識できて頬が自然と緩んだ。
アパートに帰るなり、マーティンがぴとっとくっついてきた。 首に腕を回してしがみつきながら甘えてくる。 「ダニィ、ありがと」 「へ?オレ、お前に何かしたっけ?」 ダニーはわけがわからないまま抱擁を返す。 「フランス人の誘いを断ってくれたじゃない。僕はそれが嬉しかったの」 「何や、そんなことか」 マーティンは本当に嬉しそうな顔をしていて、ダニーは気が咎めた。罪悪感で胸の中がぞわぞわする。 本当のことを言うわけにもいかず、心の中で謝りながら抱きしめた。
ダニーはマヤがオフィスに来たのをアランに言えないままでいた。 あのキスマークが気になってしかたがなかったのだ。 アランがつけてたら・・ 最悪の思いばかりが浮かぶ。 「ねぇ、ダニー」マーティンが声をかけた。 「な、何や?」 「聞き込みに行こうよ」 マーティンが照れくさそうな顔をして誘った。 「そやな」 二人はヴィヴィアンに外出の旨を告げて、外に出た。
「ダニー、元気出しなよ。これからいいところ行こう!」 マーティンはいつものクイーンズのモーテルに車を停めた。 部屋に入るなり、マーティンはダニーを壁に張り付けにし、唇をむさぼった。舌をこじ入れる。 「お前、う、ふん、うぅ」 ダニーは唸った。ペニスが途端に反応する。 「ダニー、こんなになってるじゃん、僕は騙されないよ」
マーティンは膝頭で、ダニーのペニスを探って満足そうな顔をした。 みるみるうちに、マーティンにスーツを脱がされる。 「ベッドに寝て」 マーティンはダニーに命令すると、自分もスーツを脱いだ。 ダニーはマーティンが身体の上を覆うのに耐えた。 鍛えているマーティンの身体は圧倒的だ。 ダニーには覆すことが出来ない。
マーティンは「ねぇ、持ってるでしょ、ローション」とダニーを煽る。 ダニーがスーツの上着から取り出すと、マーティンは、にやっと笑って、ダニーのアヌスに塗りこんだ。 「ダニーのここ、動いてるよ」 言葉でさらに感情を煽る。 「早く、入れて・・」ダニーはついに口に出した。 もう耐えられへん、早く入れて欲しい! 「そんなに欲しいんだ・・」 マーティンはいきり立ったペニスをダニーの入り口に押し当てると、ぐいっと中に突っ込んだ。
「あぁ、うぅううん」ダニーは思わず唸った。 マーティンはダニーの脚を大きく広げると、さらに奥に腰を進めた。 「あぁん、あぁあ」ダニーはさらに唸る。 「ねぇ、僕の身体がいいって言ってよ、ダニー」 「あぁぁ、お前の身体はすごい」 「もっと」 「お前はすごい、もう俺、だめや」 「まだだよ!ダニー、許さないからね」 マーティンはダニーのペニスの根元をぎゅっとつかんだ。 「あぁ、マーティン、俺、もうほんまにダメ・・」 ダニーはマーティンの手を払うと、自分でペニスをしごいてそのまま果てた。
「まったく、ダニーは我慢強くないんだから」 マーティンはそう言うと、スピードを出して腰を前後させ、ダニーの中に精を放った。 「あぁ〜、ダニー、最高!」 二人はしばらくぼっとしていたが、ダニーが「そや、支局に帰らにゃ」と言う声に合わせ、立ち上がった。 シャワーを浴びて、急いでスーツに着替える。
帰り道、ダニーが運転しながらマーティンに言った。 「お願いだから、俺が弱ってるときにつけこむなよ」 マーティンは、はっと息を飲んだ。 「ごめん・・」 「そんなお前、俺は嫌いやで」 「ごめん、ダニー。許してよ」 そのまま二人は車を飛ばした。 支局にもどってもぎくしゃくしている二人だった。
マーティンが意を決してメールを出す。 「捜査会議希望」 ダニーもすぐに応じる。 「了承@拙宅」 二人は、ブルックリンのダニーのアパートに向かった。 帰り道にインド料理のデリに寄り、サモサにレンズ豆のカレーとサグマトン、 ナンとサフランライスを買って帰る。
「お前、これ」 ダニーがクアーズの瓶をマーティンに渡した。 「ありがと」 ぐっと飲むマーティン。 「ダニー、ごめんね、昼間のこと」 「俺もお前に辛いこと言うたな、ごめんな」 「ダニーが辛いの分かってるから、忘れて欲しかったんだよ」 「もう分かったから言うなて」 ダニーはマーティンの口を自分の唇で封じた。 「ダニー、好きだ」 「俺もや、マーティン」 二人は、ソファーにそのまま横たわった。
ダニーがソファでくつろいでいると、マーティンがくつ下を脱がせて足の甲に口づけた。 上目遣いにダニーを見ながら愛おしそうに足を噛んでいる。 「おい、やめろや。汚いで」 「へーき、ダニーのだから汚くない」 マーティンはそう言うと、向こう脛のあたりまでじょじょに舌を這わせる。 嫌がるダニーにおかまいなしに舐め続け、時折噛んだりもした。 「お前は犬か!」 マーティンはほっぺをぺちぺちされてもやめなかったが、突然うっと呻くと口を離した。
「何や急に?」 「すね毛が・・口ん中に・・」 マーティンはゴミ箱にペッペッと唾を吐くと戻ってきた。 「へへっ、もう少しで飲んじゃうとこだった。ダニーの足、毛が濃いんだもん」 「あほが!いらんことするからや」 ダニーは素っ気なく言いながらも、隣に座ったマーティンを抱き寄せ、 目を閉じるマーティンの頬に手を添えるとやさしくキスした。 マーティンはうっとりしながらキスに浸っている。
「はい、おしまい!」 ダニーはキスをやめると、マーティンの体勢を立て直した。 マーティンは肩に頭をもたせかけてすっかり甘えている。 「お前はあほやなぁ。オレといてるだけでこんなに安心してしもて」 うっかり自嘲気味た言い方になってしまい、マーティンがえっというように顔を見上げた。 「・・安心しちゃいけないの?」 「いや、あかんことはないけど・・」 返事に困ったダニーはしどろもどろになってしまい、ごまかすためにペリエのグラスに口をつけた。 マーティンはまだ考え込んでいる。ダニーは指を一本ずつ絡めて手をつなぎ強く握った。
風呂上りにベランダで空を見上げていたマーティンは、後ろからぎゅっと抱きしめられた。 「わっ!」 「何やってんねん、風邪引くで」 ダニーは寒い寒いといいながら、マーティンにブランケットをかけて巻きつけた。 「ん、ちょっと考え事してた」 「さっきのことか?あんなん、からかっただけや、気にすんな」 ダニーは有無を言わせずマーティンを部屋に連れ戻すと、窓を閉めてブラインドを下ろした。
冷たいのを我慢して冷え切った体を抱きしめると、マーティンが胸に顔を埋めてきた。鼻の先まで冷たい。 「ダニーの体ってあったかいね」 「まあ風呂上りやからな」 ダニーはマーティンの背中を温めるように擦ってやった。 そのうち体温が上がったのか、マーティンは大きなあくびをした。目もとろんとしている。 「おやすみ、ボン」 「おやすみ」 マーティンはもう一度あくびをすると目を閉じた。もう規則正しい寝息が聞こえる。
ダニーは静かにベッドを抜け出すと、今夜もバーボンに手を伸ばした。 一杯だけのつもりが、二杯、三杯になった。それでも酔えずにいる。 このままではボトルを空にしても酔えそうにない。 脳裏に浮かぶのはさっきのマーティンの不安そうに怯えた表情だ。 同時にジェニファーと過ごした時間も頭をよぎる。 ―そろそろ潮時かもな・・・・ ダニーはバーボンを飲み干すと、深いため息をついた。 自分はもっと器用な男だと思っていた。恋愛ぐらい軽くこなせると・・・
マーティンはダニーの腕の中で目を覚ました。 ダニーがすやすや眠っている顔を見るのは久しぶりだ。 このまま時が止まればいい。 マーティンはダニーの頬に優しくキスをして、また目を閉じた。 次は身体を揺り動かされて目を覚ました。 「んん、何?」 「お前、遅刻するで!」 「わ、大変だ!」 二人はあたふたとシャワーを浴びて、スーツに着替えた。
マーティンは昨日と同じスーツだ。 「またサムに何か言われちゃうね」 照れたような顔で話すマーティンが可愛くて、思わずダニーは唇にキスをした。 「もう、誘惑しないでよ!」 怒るマーティンが愛しくてさらにキスをするダニー。 「あかん、もう完全に遅刻やわ!」 「わー、ボスに怒られちゃうよ!」
二人が支局に着くと、ヴィヴィアンが待っていた。 「全く、ボスがいないからって、二人ともたるんでるよ!」 ボスがクワンティコで講師をやる週だったのをすっかり忘れていた。 「すんません」 「反省してます」 二人はヴィヴィアンに謝って席についた。 サマンサが「本当に外泊で遅刻なんて最低!」とマーティンに皮肉を投げかけると コーヒーを取りに行ってしまった。
ランチでいつものカフェに出かけた二人は思わず、笑いころげた。 「俺たち、お互いに彼女ありって事になってんのやな!」 「うん、傑作だよね!」 二人はフォカッチャを食べながら大笑いした。 仕事は書類整理に追われる一日になった。 何となく離れがたい気持ちがして、ダニーがマーティンを飲みに誘った。
二人でブルー・バーに行く。 エリックがにっこりと会釈をして「いつもので?」と聞いてきた。 「あぁ」と答えるダニー。 ビーフのカルパッチョのピンチョスが出てきた。 早速マーティンがぱくつく。 「お前ってさ、どんな事があっても食欲だけは落ちへんのな」 ダニーが呆れて言うと、「そんな事ないよ、僕だって食欲不振の時くらいある」と答えが返ってきた。
「へぇ、どんな時や、言うてみ?」 ダニーの事を思って泣いてる時だよなんて言えやしない。 「秘密!」 マーティンはごまかしてさらにピンチョスを摘んだ。 ドライマンハッタンを3杯ほど飲んで、二人はバーを後にした。 「それじゃ、また明日な」 「うん、明日」 「あほやな、俺たち、ここで別れることないやん、タクシー乗ろ!」 ダニーはタクシーを拾った。
「アッパーイースト行ってからウェストに回ってください」 マーティンは、その言葉で、ダニーがアランと一緒にいるのだと改めて思い知らされた。 「そんじゃ、明日な!おやすみ、マーティン!」 「おやすみ、ダニー・・」 去っていくタクシーの姿をいつまでも見つめているマーティンだった。
ダニーは例によってアランお手製のバゲットサンド持参でオフィスに現れた。 サマンサが「ふん!」と言って通り過ぎる。 定時ぎりぎりにマーティンが現れた。髪の毛がぼさぼさだ。 「ボン、お前、髪の毛とかし」 「え?そんなにひどい?」 「トイレに行って見てみいな」 マーティンはトイレにすっ飛んで行った。 マーティンが水で髪の毛を整えて現れた。 Yシャツの襟が濡れている。ダニーは思わずくすくす笑った。
午前中は失踪中のレストラン・オーナーの通話記録や金の流れを追う机上捜査が中心になった。 ダニーは、外に出たくてたまらない。 「ヴィヴ、レストランに聞き込みに行ってもええか?」 「もう昨日、サムと行ったから必要ないでしょ」 にべもない。 「さよか」 ダニーはウォーターマンの万年筆で机をドラミングし始めた。 「もう、分かったよ、マーティンと行ってきて!」 「了解っす!」 二人はにやりと笑うと、レストランのあるトライベッカに出かけた。
バーコーナーも併設している大規模なレストランだった。 ダニーはバーテンダー、マーティンは厨房スタッフに話を聞く。 バーテンダーからオーナーにたびたびマフィア風の来客が来ていたのを聞き出すと、ヴィヴに報告する。 マーティンは、厨房裏のゴミ箱近くでオーナーのエプロンを見つけたという証言を得た。
「こりゃ、マフィアがらみの誘拐やな」 サマンサから連絡が入る。 使途不明金がある人物に定期的に振り込まれていたが、この3ヶ月それがぴたっと止んだという。 「しょば代ケチって誘拐されてんのやな。殺されはしないやろ」 ダニーとマーティンはとりあえずオフィスに戻った。 「マフィアがらみとなると、ダウンタウン・テイラーの出番だね」 ヴィヴィアンに肩を叩かれて、ダニーは発奮した。 「おぅ、助け出してやるからな、デルアミコのだんな!」
マーティンと共に使途不明金の振込先の人物のアパートに出かける。 「FBI!」 ダニーがドアを蹴破り、マーティンが中に入る。 「クリア!」 バスルームから唸り声が聞こえる。 ドアを開けると、バスタブに裸の小太りの男が猿ぐつわをされ、身体を縛られて横たわっていた。 小便の匂いが充満している。 「デルアミコやな?」 「んーんー!」 「今助けたるからな」
マーティンはちょうど戻ってきた男と格闘になり、顔を何発か殴られたが、相手をKOした。 「ようやったな、ボン。口から血が出てるで」 マーティンはダニーからハンカチを受け取ると口を覆った。 デルアミコにとりあえず、ありあわせの服を着せて、支局に連れ帰る。 誘拐犯は同行の捜査官に引き渡した。 「本当にありがとうございました!」 イタリア語訛りのレストラン・オーナーはダニーとマーティンに深々と頭を下げた。 「仕事やから」 「今度、うちのレストランに食べに来てください!命の恩人ですから」 デルアミコはオフィスで待っていた妻と娘と共に出ていった。
「今日はお手柄だったね!お疲れ!」 ヴィヴィアンに褒められて、二人ともすっかり気をよくした。 「マーティン、顔が腫れてるわよ、医務室に行ったら?」 サマンサに言われて、マーティンは席をはずした。 ダニーの携帯が震えた。アランからだった。 「ハニー、今日は帰ってくるね?」 「あぁ、今日は帰るから」 サマンサが「まったくぅ、おのろけご馳走様!」と言って席を離れた。 あー、ボンに聞かれなくて良かったわ。 ダニーはほっと胸を撫で下ろすと、今日の報告書作成に取り掛かった。
ダニーは悪夢にうなされて目を覚ました。 アランとマヤが手をつなぎながら、バイバイと手を振って去っていく夢だ。 そばを見ると、アランがすやすや眠っている。 俺、どうかしてるわ。アランはこんなにそばにいてるのに。 汗びっしょりなので、シャワーを浴びる。
ベッドルームに戻るとアランが目を覚ましていた。 「ハニー、眠れないのかい?」 「悪い夢見たからシャワー浴びた」 「こっちにおいで」 手を広げるアランの胸の中にくるりと納まる。 「もう悪い夢なんか見ないように!」 アランが額に優しくキスしてくれる。 おかんみたいや。 ダニーは嬉しくなって目を閉じた。
次に目を覚ますとアランはすでにベッドにいなかった。 リビングから話し声がしている。 そっとドアを開けると、アランが電話で声を荒げているのが見えた。 「何度言ったらわかるんだ!君の元には帰らない。無理言うなよ。じゃあ切るよ!」 ダニーは聞こえなかったふりをして、リビングルームに入った。
「おはよ、アラン」 アランがぎくっと体を硬直させた。 「やぁ、ハニー、後はよく眠れたようだね」 「うん、ぐっすりや」 「朝食が出来てるから、シャワーしておいで」 「うん」 アラン、多分マヤと話してたんや、あの女!往生際が悪すぎやで! ダニーはシャカシャカ歯を磨くと、さっとシャワーを浴びた。
バスローブを羽織って、ダイニングに着く。 エッグ・ベネディクトとイングリッシュマフィンにパパイヤのスライスが皿に乗っていた。 「うわ〜、うまそ〜!」 アランの朝食はまるで一流ホテルのそれのようだ。 ダニーの自己流の料理とは訳が違う。格が違うのだ。
ダニーは何に関してもかなわない男として、アランを尊敬していた。 これって恋愛とはちゃうんやないか? 最近、時々そんな考えが頭の中によぎる事がある。 世話になればなるほど対等でなくなる。 このアンバランスがダニーの心にいつも引っかかっていた。 その点、マーティンとだったら、いつでも対等でいられる。 むしろ奴の世話をしているのが自分だ。 優位に立っている分、正直気持ちが良かった。
「ハニー、考え事かい?」 「あぁ、解決した事件の事思い出してた」 「今週も忙しかったな。帰れない日もあったし」 マーティンと泊まった日の事だ。 「それでも残業代に上限があるんやで」 アランは、はははと笑った。 「だから心配するなって」 「なぁ、アラン、今度俺にも何かプレゼントさせてくれへん?」 「あぁ、嬉しいね」 「約束な!」 「あぁ、楽しみだ」 ダニーは少し気持ちが楽になった。
朝食の後、アランは医学雑誌から依頼された原稿書きで書斎にこもった。 「アラン、俺、ブルックリンに行くわ。夕方帰るから」と言って、アパートを出た。 アランのジャガーの隣りに停めているマスタングのエンジンをふかす。 周りはBMWやキャデラック、メルセデスなどの高級車ばかりだ。 ダニーは少し引け目に感じながら駐車場を後にした。
ブルックリンのアパートに戻り、請求書のチェックと小切手の振り出しを終えると、ベッドに横になった。 生活費の世話になっていないだけましか。 そんな事を思っているうちに眠ってしまった。空腹で目が覚める。もう6時だった。 しまった!電話電話! 急いでアランの家に電話をすると留守電になっていた。 携帯に電話をしても留守電だ。
ダニーはひたすら急いでマンハッタンを目指した。 アパートの駐車場に入ると、アランのジャガーが停まっている。 ボンネットを触ると熱かった。 出かけた?まさかマヤと会ってた? アパートに入ると、アランがイーライズの紙袋から食材を出している最中だった。 「おかえり、ハニー」 優しくハグされキスをされる。 思い過ごしか。 ダニーは心の中で、一抹の不安をかかえながら、アランを抱きしめ返した。
ダニーは右腕につけている腕時計を眺めながら迷っていた。 あと5分で18時になる。 ジェニファーの携帯に電話できるのは18時まで。 これが二人で決めたルールだ。 このまま何もせずに5分間過ごせば、今日は話すことも会うこともない。 約束をすっぽかすことになるのが気がかりだが、今の自分にはこうするよりほかない。 こちこち動く秒針を目で追いながらひたすら18時になるのを待った。 長い5分間が過ぎ、18時になった。 いざ18時になってみると残念さが入り混じり、ふーっと一息吐いて立ち上がる。 支局を出ると足早に歩き出した。まっすぐ帰ろうとしたものの、なぜか駅に足が向かない。 もしかしたらという下心も手伝って、自然とフルートへ行っていた。
思ったとおり、シルバーのサーブが路上に停めてあった。 急いで中に入ると、ジェニファーがガリガリの全身入れ墨男に言い寄られて困っていた。 ―くそったれのポン中め!オレのジェンに何すんねん! 「ごめんな、お待たせ」 ダニーはつかつか近寄ると話しかけた。入れ墨男に胡散臭そうに見られているが相手にしない。 「ダニー!」 ジェニファーが助かったというようにダニーを見上げた。 「さあ、行こう。遅れるわ」 手早く20ドルをカウンターに置くと、引きとめようとする入れ墨男を無視してジェニファーを連れ出した。
今にも入れ墨男が追いかけてきそうで、二人は速やかに車を出した。 「大丈夫か?」 「何とか・・助けてくれてありがとう。あー、怖かった・・」 ジェニファーはよほど怖かったのか、ダニーの手を握りしめて離さない。 「もう大丈夫や、オレがついてるから」 ダニーはしっかりと力をこめて手を握った。 「・・この前はごめんね。そのティムのこと・・嫌な思いしたでしょう?」 「あ・・いや・・」 ストレートに謝られても返す言葉が見つからない。大体謝られるようなことをされたわけではないのだから。 二人ともぎこちなくて、なんとなく気まずい雰囲気に包まれた。
「さっきのヤツ、エスコバルに似てたな。知らん?Nip/Tuckの入れ墨男なんやけど」 ジェニファーは一瞬唖然としていたが、意味がわかってくすくす笑い出した。 「確かに似てる」 「やろ?」 ダニーは赤信号で停止すると、ふふっと笑うジェニファーを抱き寄せてキスした。 「ちょっ、ダニー!」 「ごめん、見とれてたらキスしたくなったんや」 「・・信号、青」 ジェニファーはそれだけ言うと顔を伏せた。
ジェニファーと別れようとしていたダニーの決意は、あっけなく崩れ去った。 ベッドにそっと押し倒すと夢中で体を抱く。ダニーは時間をかけて愛撫するのが好きだ。 いつまでもこうしていたくて、挿入してからも腰を動かさずにじっとしていた。 挿入したままお互いに目を合わせて唇を貪る。 髪を掻き分けて首筋を愛撫していると、不意にジェニファーが声を上げてしがみついた。 「ごめん、イッちゃった」 頬を上気させたジェニファーが息をはずませながら恥ずかしそうに告げた。 「わかってる。中がひくひく収縮してるもん」 ダニーはキスするとゆっくりと動いた。柔らかな粘膜がからみつくのが心地よい。 何度か動いて静かに果てると抱きしめた。我慢していたせいか、ペニスが何度もドクドク脈動している。
ジェニファーといるとほっとする。解放感で満たされて安らげる。 ダニーはジェニファーの髪にそっと顔をうずめた。 「会いたかった」 そうくり返すダニーの頭を、ジェニファーは黙ってやさしくなでてくれた。 もう少しこのままでいたかったが、ゆっくりペニスを抜くとコンドームを始末して隣に寝転んだ。 コンドームを外す瞬間がいつももどかしいと思う。即座に現実に引き戻される気がする。 下半身がくすぐったくて我に返ると、ジェニファーがペニスを口に含んで舐めていた。 「ジェン?」 「味見。ダニーの味ってよく知らないんだもの」 ジェニファーはすっかり精液を舐めとるとなんともいえない顔をした。 ダニーは可笑しくて力まかせに抱きしめた。
途中まで送るというダニーの申し出を断って、ジェニファーは帰っていった。 部屋に戻ったダニーは、体液でぐっしょり濡れたシーツを引っぱがして洗濯機に放り込み、新しいシーツを敷いた。 パリッとしたシーツの上に大の字に寝転び、さっきの出来事を反芻する。 不思議な女だ。 見た目やセックスだけじゃなく、どことなく惹かれる。 二つしか違わないのに子ども扱いされるのも気に入っている。 絶対に手に入らないとわかっているからこそ、本気になれるのかもしれない。
ダニーは翌朝も悪夢で目が覚めた。 今度はアランも眠そうな目をこすりながら、ダニーの顔を見ている。 「また悪夢かい?」 「うん、でも平気や」 「一度話を聞こうか」 「そんなん、平気やて」 ダニーはアランに背中を向けて寝たふりをした。 マヤとアランが手をつないで自分にバイバイしている夢にうなされているなんて知られたくない。
ダニーはアランより先に目を覚まし、シャワーを済ませると、フレンチトーストの用意をした。 クランベリーとクリームチーズをミキサーにかけてソースを作る。 それにカナダ産のメイプルシロップを用意した。 コーヒーを入れていると、アランが起きてきた。 「今日は出遅れたな」 アランが照れくさそうな顔をして笑っている。 俺、やっぱりこの男が好きや! ダニーはアランの笑顔が嬉しくて、つい近寄って抱きついた。
「おいおい、どうしたんだい?」 「俺のアラン、大好きや」 頬に軽くキスをすると「シャワーしてきて、フレンチトースト焼くから」とだけ言った。 忙しい二人にとって休日のブランチは貴重な時間だ。 それぞれの仕事の話が一区切りすると、アランはついにダニーの悪夢の話をし始めた。 「正直に言いなさい、何を見てるんだ」 アランの専門家の目がダニーを射る。
「あのな、笑わんといてくれる?」 「あぁ」 「アランがな、マヤと手つないで、俺にバイバイする夢や」 アランは声を上げて笑った。 「お前もオバカさんだなぁ!そんな事起こるはずがないじゃないか!」 「ほんまに?」 「あぁ、約束する。僕はお前を裏切らない。金輪際だ」 ダニーは胸がちくりと痛んだ。自分にはマーティンがいる。 たまにエリックとも寝てしまう。
「ごめん。脅迫観念なのかも知れん」 「もっと僕を信じて欲しいね、ハニー。お前にぞっこんなんだから」 アランが立ち上がってダニーにキスをする。 ダニーは安心して、フレンチトーストの残りを食べた。 「今日も原稿書き?」 「あぁすまない。締め切りが近いんだ」 「じゃ、俺、適当に外で時間つぶしてくる」 「家にいないのかい?」 「天気もええしな、ドライブしてくるわ」
ダニーはマスタングのキーを握ると、駐車場から出て、ワンブロック下がった路地でに駐車した。 アランのジャガーが出てこないか張り込みだ。 1時間して、ジャガーが走り出したのが見えた。こっそり後をつける。 行き先はミッドタウンの「ベンジャミン」だった。 キッチネット付きで長期滞在者に人気のホテルだ。
ロビーに入ってラウンジで様子を伺う。アランが女と会っている。マヤだった。 やっぱり!俺、だまされてたんや! ダニーは泣きそうになった。 マヤはアランの腕に腕をからめて、メインダイニングに入っていった。 ダニーは、待っている間、ドライマンハッタンを5杯もお代わりをした。
二人が出てきた。もめているようだ。 腕を放そうとしないマヤを振り切って、アランはホテルの外に出て行った。 マヤは傷ついた顔をして、エレベータで上階に上っていった。 とりあえずエッチはなしなんや。でもあの二人、何なんやろ。 あぁ、尾行していたなんて口が裂けても言えへんしな〜。 ダニーはロワー・マンハッタンをぐるっと回って、アランのアパートに戻った。
アランは何事もなかったように、書斎からメガネをかけて出てきた。 「ドライブ、どうだった?」 「コニー・アイランドに行ってきた。シーフードのランチ食った」 「そうか、じゃあ今日は肉料理だな」 アランはエプロンをつけて「今日はポークとキャベツのホットポットにしよう」と 早速下ごしらえを始めた。 俺はアランを信じてええんやろか。 酒のせいもあり、ダニーの頭の中は混乱していた。
ダニーは、真夜中に目を覚まして、ベッドを抜け出した。 服を着替えて、マスタングに乗る。 俺、何してるんやろ。 思わずマーティンに電話をかけていた。 「ふぁい、フィッツジェラルロ」 「マーティン、俺や」 「ダニー!どうしたの?」 「今から行ってもええか?」 「夜中の2時だよ?」 「あぁ、分かってる」 「いいよ、おいでよ」
ダニーはアッパーイーストサイド側に渡った。 マーティンがアパートのエントランスで待っていた。 「どうしたの?」 「何も聞かんと入れてくれ」 「分かったよ」 マーティンは迎え入れた。 アパートに入ると、ダニーはマーティンを抱き締めた。 「ちょ、ちょっとダニー!」 「シー!」
ダニーはマーティンのパジャマの中に手を入れ、乳首を愛撫し始めた。 「あぁん、だめだよ」 「さ、ベッドに行こ」 ダニーはベッドルームに入り、服をぱっぱと脱ぎ始めた。 唖然とするマーティンが立ち尽くしている。 「マーティン、俺を抱いてくれへん?」 「いいの?」 「あぁ」 マーティンはパジャマを脱ぐと、ダニーの体の上に覆いかぶさった。
二人のペニスがこすれ、たちまち大きくなっていく。 マーティンがダニーの唇を舌で割り、中にこじ入れた。 「ん、はぁ、はぁ」 「俺に入れてくれへんか、お前を」 「ダニー・・」 マーティンは、サイドテーブルの引き出しからローションを取り出すと、 ダニーのアヌスに塗りこんだ。自分のペニスにも塗布し、ダニーの体を後ろ向きにした。
「じゃあ、いくよ」 「あぁ」 マーティンはダニーの腰に自分を打ちつけた。ペニスがずぶっと中に飲み込まれていく。 「あぁ、マーティン・・」 マーティンはただただ無我夢中で腰を振った。 そのうち、さらに気持ちが高まってきてスピードが速くなる。 「ダニー、もう僕イっちゃうよ」 「あぁ、俺ももうダメや、出る!」 二人は同時に体を震わせた。ダニーの背中にマーティンはつっぷした。
ダニーの体が小刻みに震えている。 「ダニー、泣いてるの?」 「そんなんやない」 ダニーは枕で顔を隠した。 マーティンはバスルームからフェイスタオルを取ってきて、そっとダニーの顔の近くに置いた。 「シャワーしてくるからね」 マーティンはベッドルームから外に出た。
ダニーは、しばらく泣いていたが、気持ちを切り替えて、シャワールームにマーティンを追った。 ぼうーっとシャワーを浴びているマーティンの背中から抱き締める。 マーティンが向きを変え、正面を向いてダニーの体を抱き締め返した。 静かにスポンジを取り、ボディーソープで体を洗う。 ダニーはされるがままになっていた。
シャワーから出て、体を拭いてもらうダニー。 「帰った方がいいよ」 「え?」 「アランのとこに帰った方がいいよ。こんなの良くないよ、おかしいよ、ダニー」 マーティンの青い目が射るようだった。 「わかった、帰るわ」 ダニーは脱ぎ捨てた服を身に着けると、マーティンのアパートから外に出た。
セントラルパークを横切って、ウェストサイドに着く。 アランのアパートに入る。中は静かだ。 ダニーはパジャマに着替えて、そろっとベッドに入った。 「ハニー、出かけていたのか?」 アランの声にダニーの体は硬直した。 「そやない、ベランダに出てただけや」 「そうか、おやすみ」 「おやすみ、アラン」 ダニーは目を閉じた。アランは目を見開いて、ダニーの背中を見つめていた。
ダニーは、昼休みにオフィスを抜け出して、バーニーズ・ニューヨークに出かけた。 ジョージに電話をしておいたので、入り口で迎えられた。 「急ぎなんや、頼まれてくれる?」 「はい、何でもおおせの通りに」 クスっと笑うとジョージは、うやうやしく頭を下げた。
「アランにプレゼントしたいんやけど、俺、選ぶのヘタなんや。アランの趣味あうの探して?」 「ご予算はいかほどで?」 「そやな〜、300ドル位」 「それなら、ネクタイはいかがでしょう?ちょうど可愛いのがありますよ」 ジョージはダニーをソファーに座らせると、ネクタイを何本かトレイに乗せて戻ってきた。 どれもハローウィンにちなんだ柄だ。 パンプキンもあれば、お化けもいるし蜘蛛もある。
ダニーはパンプキン柄を選んだ。遠めに見ると、茶色地にオレンジのドット柄に見える。 「さすがのお見立てですね。フランスのエルメス社製です」 「これにするわ、ラッピングしてくれる?」 「はい、喜んで」 ダニーは、ジョージにクレジットカードを渡すと少し待った。 綺麗にラッピングされ、大きなリボンをつけた箱を持ったジョージが現れる。
「これでは?」 「最高や、ありがとな」 「いえ、貴方様のキス一つでもっとサービスできますよ」 「え?」 「冗談です」 ジョージはにっこり笑うと、箱を黒い袋に入れた。 ダニーは、オフィス近くのホットドッグスタンドでスパイシーオニオンドッグを買い、 買い物袋を汚さないように気をつけながら、席に戻った。
机の下に袋をそっと置いたが、すぐにサマンサに見つかった。 「へぇ、バーニーズで買い物?プレゼントなんだ〜」 「もう、ええやろ!」 ダニーはホットドッグをぱくついた。 帰り道、買い物袋を持ったダニーは、マーティンに呼び止められた。 「ダニー、元気?」 「あぁ、昨日はごめんな」 「いいんだよ、またいつでも来てよ、待ってるから」 「あぁ、すまん、ほんまにすまん」 ダニーはそれしか言えなかった。地下鉄の駅で二人は別れた。
ダニーはまっすぐアランの待つアパートに戻った。 「おかえり、ハニー」 いつもと変わらないアランだ。エプロンをして料理の最中のようだ。 「アラン、ちょっとこっちに来て」 「何だい?」 「これ、俺から」 「へぇ、ありがとう、開けてもいいかな?」 「うん」 恥ずかしそうにダニーが答える。 「こりゃ、傑作だ。エルメスじゃないか!どうもありがとう、ハニー。 31日にはこれを着けて外出だな!」 アランがダニーを抱き締めて、優しくキスをした。
「早く着替えておいで」 「うん」 週末の外出の事を心の中にしまって、今はアランを信じようと決めたダニーだ。 その決意の印が今日のプレゼントだった。 夕食のメニューは、牡蠣のロックフェラーにアマダイの香草焼きとクレソンのサラダだ。 シャブリを開け、二人で乾杯する。
「ハローウィンか、懐かしいな」 「アランもトリック・オア・トリートやったん?」 「あぁ、ジャネットに連れられてね。家の近所は、門から玄関までずいぶん歩く家ばかりだったから、 3軒くらいしか回れなくて、あまりキャンディーはもらえなかったな」 「俺は、やったことがない」 アランははっとした。この子には、子供が本来体験しているべきものが欠如しているのだ。 「じゃあ今年、やろうか?」 「よせやい!」 ダニーは照れくさそうに笑った。
「31日は美味いものを食べに出かけよう」 「そやね、楽しみや」 二人は微笑みあった。 食事の後、アランがネット相談をしている間、 ダニーはベランダに出て、マーティンに電話をかけた。
「ダニー、どうしたの?」 心配声のマーティンが出た。 「いや、今日、ちゃんとお前にお礼言えなかったから。明日の晩、デルアミコのおっさんの店に行かへんか? うんとサービスしてもらお」 「嬉しいな、分かった、それじゃ明日ね」 「あぁ、明日、おやすみ、マーティン」 「おやすみダニー、大好きだよ」 携帯を耳からはずしたので、最後の言葉はダニーの耳に届かなかった。
―こんなはずじゃなかった・・・ マーティンはダイキリを飲み干すとカウンターに頬杖をついてため息をついた。 グラスを磨いていたスタニックと目が合う。 「おかわり」 本当はこれ以上飲みたくないが、何もせずに座っているのも苦痛だ。 モンキーバーでボスと食事をしていたら、ボスが偶然知り合いの女性と出会い、二人でどこかへ行ってしまった。 あれから二時間、おそらく上のホテルの部屋でお楽しみ中に違いない。 ―勝手に帰ったら叱られるかな・・・ ボスの携帯に電話するわけにもいかず、形ばかりにグラスに口をつけてまたため息をついた。
「ねえ、ここって何時までだっけ?」 「本日は2時までの営業となっております」 「・・そう」 まだ閉店まで4時間もある。帰るに帰れない状況にうんざりした。 キャンドルを弄ぶぐらいしかすることがないのに、4時間もどうすればいい? ふと顔を上げるとスタニックと視線が交錯した。 「僕、帰ってもいいと思う?」 突然聞かれたスタニックは困ったように肩をすくめただけだ。ボスとの一部始終を見ていたせいか、気の毒そうな表情を浮かべている。 「いいんだ、気にしないで」 マーティンは携帯を取り出してしばらく眺め、ボスの携帯に電話しかけたものの思いとどまってダニーに電話した。
「はい、テイラー」 「あ、僕。・・あのね、ボスと食事に来たんだけど、ボスが途中で女の人といなくなっちゃって・・」 「いつ?」 「二時間ちょっと前。帰ってもいいのかな?」 「別にええやろ。あほやなぁ、二時間も待つことないのに」 「勝手に帰ったって叱られない?」 「大丈夫や、もう帰り。オレが迎えに行ったろか?」 「ううん、いい。タクシーで帰るから。ありがと」 マーティンは電話を切るとチェックを頼んだ。早く帰りたい。 結局ボスの分までチェックを済ませることになったが、そんなことより帰れるのが嬉しかった。
アパートに帰ってTVをつけると、バック・トゥ・ザ・フューチャーをやっていた。 何度も見た映画だが、アイスクリームを食べながらぼんやり眺める。 もしもあの女に虐待されなかったら・・もしそうなら、僕はゲイじゃなかったかもしれない。 知らず知らず、過去へ向かう主人公に自分を重ね合わせていた。 あの時、無理強いされたことを思い出そうとしただけで肌がすぐさま粟立つ。 体を触られて、嫌なのに気持ちよくなって何度も射精してしまった自分が今でも許せない。 ―TVなんか見るんじゃなかった・・・ 今さら後悔しても、一度思い出した記憶はそうすぐには頭から追い払えない。 過去は捨てたはずだと自分に言い聞かせても何の効果もなかった。
物思いに耽っていると、玄関でカチャリと音がしてダニーが入ってきた。 「ただいま、マーティン」 「ダニー!来てくれたんだ!」 マーティンはダニーに抱きついた。しっかりと抱きしめられて泣きそうになる。 「ああ、ちょっと気になったからな。またこれか、よう飽きひんなぁ」 ダニーはマーティンの髪をくしゃっとすると隣に座った。画面を見るなりデロリアンがどうとか言っている。 マーティンはダニーの口にアイスを入れて、自分も一口食べた。 ダニーは「ついてるで」と言いながら、口の端についたアイスをそっと舐めてくれた。 ダニーにやさしくされると、もう過去のことなんてどうでもよくなってしまう。 「お前、また太るで。オレが食べたるわ」 ダニーはマーティンのアイスを取り上げて食べ始めた。時々マーティンの口にも入れてくれる。 ハーゲンダッツのパイントカップはみるみるうちに空になった。
マーティンはわくわくしながら、オフィスに出勤した。 今日はダニーと夕食の日なのだ。 思わず新調したブルックス・ブラザーズのスーツを着てしまった。 「マーティン、今日はデート?」 ヴィヴィアンにからかわれ、マーティンは曖昧な微笑みを返した。
ダニーが遅刻すれすれで出勤してきた。荒い息を整えている。 マーティンは、たまらずメールした。 「本日の捜査会議、問題なしや?」 ダニーが焦りながら、即座に返す。 「問題なし。7時に約束の場所にて待つ」 マーティンは心の中で、ガッツポーズを作って、仕事に向かった。 ダニーはデルアミコに電話をして席の予約をした。 コースはおまかせだと言って聞かないので、デルアミコに任せることにした。
7時になり、ダニーがトライベッカのレストランに着くと、デルアミコがエントランスで迎えてくれた。 「私の命の恩人、今日は楽しんでください」 「ありがとな」 「フィッツジェラルド捜査官はすでにみえてますよ」 マーティンがにこにこ笑いながら、奥の席で立ち上がっていた。 目立つっちゅうのに! ダニーは苦笑しながら、席に着いた。
「早かったな、お前」 「だって、ダニーと食事、久しぶりじゃん!」 デルアミコは、店のプレミアムワインを持ってきてくれる。 ポルチーニ茸とマツタケのソテー、ニシンとキャベツのマリネーを前菜に、 ホロホロ鳥のパスタ・ボロネーズ、花鯛の香草焼き、Tボーンステーキと続く。 「わぁ、もう俺食えへんわ」 「え、ここ、デザートが有名みたいだよ」 マーティンは食べる気満々だった。
デルアミコがうやうやしくデザートの皿を持ってきた。 マスカルポーネチーズのテリーヌの上に「To my heroes, Danny and Martin」と チョコソースで書いてあった。 「皆さん!ここにお座りの紳士二人は、私の命を救ってくださったFBI捜査官です。盛大な拍手を!」 デルアミコのアナウンスに、店中の客が拍手をする。 ダニーもマーティンもあまりのことに慌てたが、ダニーに引きずられて、 マーティンも立ち上がり、二人で店中に向かってお辞儀をした。
まだ拍手が続く。 「なんだか、すごいね」 マーティンが驚いた顔でダニーに言う。 「トライベッカじゃ、潜入捜査は無理やな」 ダニーは作り笑いを浮かべながらつぶやいた。 二人は、デザートの後、デルアミコとグラッパで乾杯をし、すっかり酔っ払って、タクシーに乗った。
「俺、もう眠いわ」 ダニーが音を上げた。 「ねぇ、どっちの家に帰る?」 「俺、寝る」 ダニーはぐーすか眠ってしまった。 マーティンは、タクシーを停め、ダニーを軽々とかつぐと、自分の部屋に連れ戻った。
マーティンは迷ったが、アランに電話をかけた。 「はい、ショア」 「アラン、僕、マーティンです。ダニーが酔いつぶれてしまったので、今晩は泊めてもいいですか?」 「迎えにいこうか?」 「もう、すっかり寝てますから、後は僕が面倒見ます」 「それじゃ、頼むよ、すまないな」 「いいんです、それじゃ」 マーティンは電話を切ってから自己嫌悪に陥った。 ライバルに何、了承得てんだよ、僕はバカものだ!
マーティンは、ダニーのスーツを脱がせて、Tシャツとトランクスの姿にした。 キスするが、いびきをかいて寝ているダニーは気がつかない。 マーティンは、ダニーをかつぐと、ベッドに連れて行って、寝かしつけた。 自分は、シャワーを浴びて、コントレックスを飲み、歯を磨いてベッドに入った。 ダニーの顔が近くにある。思わず、キスをすると、「アラン、んー」という寝言が聞こえた。 マーティンは、思わずあふれ出てきた涙を拭きもせずに、ダニーに背中を向けると、目を閉じた。
二人がオフィスに着くとサマンサが待ち構えていた。 「おはよう。ちょっと聞いてくれる?」 サマンサは昨日デートした男について、辛口の批評をまくし立てた。 ダニーは適当に相槌を打ちながら聞き流す。よく動く口だと思いながら。 「ねえ、私の話聞いてる?」 「え、あっああ、聞いてるで。なあ、マーティン」 マーティンも慌てて頷いた。サマンサは満足そうに話を続ける。 ヴィヴィアンがおはようと言いながら席に着き、サマンサの辛口批評はひとまず終了した。
そろそろ仕事が始まる時間なのにボスの姿がない。 ミーティング用デスクに集まって待っていると、ボスが遅刻ぎりぎりにはいってきた。 髪は乱れていてスーツも昨日と同じだ。髭すら剃っていない。 サマンサがわざとらしく咳払いをする。 ヴィヴィアンは含み笑いを浮かべ、ダニーとマーティンも顔を見合わせた。 「待たせてすまない。それじゃ、始めようか」 ボスはきまり悪そうに書類に目を落とした。
マーティンがトイレに行くと、ボスが顔を洗っていた。 「おー、マーティンか。昨日は悪かったな」 「あ・・いえ」 マーティンが用を足していると、ボスがポケットに紙幣を何枚かねじこんだ。 「昨日の分だ。とっとけ」 「こんなに?一枚多いですよ」 マーティンが100ドルを返そうとしたが、ボスは受け取らない。
「お前、ずいぶん待ってたんだってな。バーテンダーに聞いたよ。そんなに私に抱かれたかったのか?」 ボスはマーティンの股間を軽くなでた。 「やっ、やめて!」 「そうか?ここはそうは言ってないがなぁ」 ボスはさらにねちっこい手つきで股間を弄った。ペニスは意に反して勃起しかけている。 「お前はかわいいな。いい子だ、マーティン」 ボスはマーティンのほっぺをぺちぺち叩くと出て行った。
ボスと入れ替わりにダニーが入ってきた。 「あかん、漏れそうや。やっぱコーヒー二杯は実力あるな」 ダニーがジッパーを下ろすなり、尿がほとばしり出た。 「すごいね、我慢してたの?」 「ああ、もうちょっとで漏れよった。昨日待ってなくてよかったやろ。おっさん、お泊りデートやん」 ダニーはペニスをしっかり振るとトランクスの中にしまった。 「ん?お前の顔、赤くない?」 「そうかな?暑いからだよ、きっと」 ごまかしたマーティンはそそくさと手を洗った。怪しんだダニーはマーティンの股間に手をやる。 「もしかして、オレがおしっこするとこ見て興奮したとか?」 「ちっ、違うよ!」 「変態やなぁ、お前。まあええわ、こっちに来い」
ダニーはマーティンを身障者用トイレに連れ込むと、乱暴にペニスを取り出した。 マーティンのペニスは、ぎゅっと握られてすでに硬く勃起している。 慌てて手で隠すが、ダニーは手を払いのけて口に含んだ。上目遣いでにやにやしながら舌を這わす。 亀頭を集中的に吸われ、先走りがとろとろ溢れ出した。 意地悪するダニーのもどかしい動きにたまらず腰が動く。 「もうダメだよ、ねぇ」 ダニーは頷くと一転して激しく動かしはじめた。 「あぁっ・んっうぅっ!・はぁっはぁっ・・」 マーティンはダニーの口内に射精して腰をびくびくさせた。 「エロいな、こんなにいっぱい出して。これにも利尿作用ってあるんかな?」 「バカ!」 ダニーは、口をとがらすマーティンをくすくす笑いながら抱きしめると、キスをして先にトイレから出ていった。
ダニーはどおんという衝撃で目が覚めた。 腹の上に筋肉質の腕が乗っている。 「アラン、これ・・れ、マーティン?」 マーティンが傍らでぐーぐー寝ているのにダニーは驚いた。 タクシーに乗ったところから記憶がない。 頭をふると、がぁんと頭痛がした。 「飲み過ぎや・・」
静かに起きると、マーティンの洗面台でタイレノールを探して飲んだ。 こんなんじゃ効かへんわ。痛〜。 ベッドに戻ると、マーティンがいびきをかいて眠っていた。 結局、ダニーは明け方の4時から眠れず、目覚まし時計の音でいやいや身体を起こした。 マーティンはまだ寝ている。
「お前、遅刻するで!」 身体をゆするとやっと目を覚ました。顔が腫れている。 「お前も飲み過ぎか」 「ダニーのがすごかったんだよ、調子に乗って、デルアミコさんとグラッパの競争するんだもん」 マーティンはぼさぼさの髪をかきながら、シャワーに行った。 ダニーも焦って後を追う。二人で静かにシャワーを浴びる。 二人とも頭痛がひどいのだ。
二人はさえない様相で支局に出勤した。 ボスがクワンティコから戻ってきていた。 「あ、ボス、新人研修はどうでした?」 ダニーは気軽に尋ねた。 「今度の新人は骨のある奴が多いぞ。お前たちも追い越されないようにがんばれ」 ボスは真顔で檄を飛ばしてきた。 お愛想で言ったのにこれやからボスは・・・ ダニーはくさくさしながら、PCを立ち上げた。
アランからメールが入っている。 水と薬の瓶が描かれているカードつきだ。 ダニーは思わずくすくす笑った。 「いや〜だ、ダニーったら朝からメールあけて、笑ってる」 サマンサにちゃちゃを入れられ、ダニーはやっと仕事を始めた。
昼になっても食欲が湧かない。 いつものカフェにマーティンと出かけると、 マーティンは、チキンのピタサンドを頼んで、がしがし食べている。 「ダニー、食べないの?」 「俺、このサラダだけでええわ」 目の前のガーデンサラダのトマトとセロリを嫌々ながら口に入れた。
「お前、よう食えるな」 「うん、何だか胃拡張みたいなんだよね」 「胃に穴あけたり大きくしたり、忙しい奴」 「いいじゃん、僕の身体だもん。昨日のレストラン、良かったね」 「あぁ、料理は絶品やったな」 「常連になってもいい感じだよね」 マーティンはすっかり気に入ったようだ。
ダニーも31日、アランと出かける候補にしていた。 まさか鉢合わせはないわなぁ。 ダニーは今日にも予約を入れようと決めた。 「お前、ハロウィーン何すんの?」 思わずダニーはマーティンに尋ねた。 「あのね、エドに招待されてるんだ」 「さよか」 「怒った?」 「怒ってへんよ」 「ダニーは?」 「アランと食事や」 「そうなんだ・・」 「気悪くしたか?」 「ううん、お互い様じゃん、へーきだよ」 マーティンは無理やり笑って、ナプキンで口を拭いた。
午後も平穏な一日だった。 チームは順繰りにボス不在の間の捜査の報告を行った。 ダニーもデルアミコ事件の顛末の報告書を提出した。 「ほぅ、マーティンが殴られても、相手をKOしたのか。あいつもタフになってきたな」 「はい、そのようで」 「お前を見習っているんだろう、しっかりした先輩でいろよ」 「了解っす」
定時で仕事が終わり、ダニーは席を立って、アランのアパートに急いだ。 昨日の外泊のお詫びのしるしに、わざわざソーホーの「バルサザール」まで出向いて、 レモンスフレタルトとアップルタルトを土産にした。 許してくれるかな〜。アラン。 ダニーは、それでも鼻歌を歌いながら、アッパーウェストまで上っていった。
マーティンがドアを開けると、クラシカルな格好をしたスチュワートが立っていた。 「わっ!何その格好!買ったの?」 「ああ。これ、スリーピー・ホロウの衣装。似合うだろ。ハロウィンが楽しみだ」 スチュワートは得意そうににんまりした。長身と黒髪によく似合っている。 「なぁ、そんなもん着てどうするねん?菓子配りか?」 「別にどうもしないさ。クリニックに来た子供が喜ぶだろ」 「あほ!なんやかんや言いながら、一番喜んでるのお前やろ」 ダニーはまじまじと見ながらからかった。 「お前らの衣装は?まだならハロウィン・アドベンチャーで一緒に選んでやるよ」 「いらんいらん。オレらはええかっこしいのお前とは違うんや」 「バカ、ハロウィンなんだぞ。さ、行こう」 スチュワートは衣装を脱いで着替えると、困惑する二人を連れ出した。
下に降りると、路上にハマーが停めてあった。このためにわざわざマーキンソンと車を交換したのだろう。 「なんかお前ってとことんやるなぁ。呆れるわ」 「オレはニューヨーカーだからハロウィンは特別なんだ。ほら、テイラーが運転するんだろ」 ダニーは投げられたキーをキャッチして、運転席に乗り込んだ。 マーティンは助手席に、スチュワートは後ろに乗り込む。 「ハロウィン・パレードに行くんだから、仮装はしっかりやらないとな」 「えっ、僕らも参加するの?」 「いいや、見るだけさ。いつもはその後クラブで遊ぶんだけど、クラブにはもう行かない」 「そうなんだ。ねぇ、スチューもコヨーテ・アグリーに行ったりとかするの?」
マーティンの質問にダニーは思わず苦笑した。まだ疑ってたのかと舌打ちしたい気分だ。 「行くわけないだろ。なるほど、テイラーはコヨーテ・アグリーの常連か」 スチュワートはダニーの頭をぺちぺち叩いた。 「たまたま行っただけやんか。しつこいなぁ」 「あのさ、そこってエッチな店なの?」 「いいや、それはない。あそこはイカレた女しかいないから」 マーティンは安心したのか小さく息を吐いた。
「そういえばさ、イカボッドもFBIじゃなかったっけ?あれ、NYPDだったかな」 「どっちでもいいよ」 マーティンはスチュワートが真剣に考え込んでいるのが可笑しくて、けたけた笑った。 「スリーピー・ホロウって実在する村なんだぜ。ここから車で一時間ぐらいかな」 「ほんと?」 「ああ、今度連れて行ってやるよ。約束だ。三人で行こうな」 スチュワートは後ろから二人の肩に手を置いた。
ハロウィン・アドベンチャーに着くと、中はかなり混雑していた。 いろんな種類のコスチュームが飾ってあって、見ているだけでもおもしろい。 ダニーはウィリー・ウォンカの衣装を試着している男に笑いそうになった。おかまみたいだ。 「お前もここで買ったん?」 「いいや、オレのはソーホーのショップ。ここは仮装専門店だから品質が違う」 「つまり安いってことやな」 ダニーはサタデー・ナイト・フィーバーのジョン・トラボルタ風衣装を手に取った。 $69.99さらに20%OFF、確かに安い。だが、品質もそれなりだ。
マーティンはファンタスティック4のDr. Doomの衣装を見つけた。 「これ見て。どうかな?」 「だめだめ、顔が見えないのは却下。他のにしろよ」 ダニーは早々とドラキュラの衣装に決めた。マトリックスと迷ったが両方試着してみてこっちにする。 「オレ、似合う?」 マントを颯爽と翻すダニーはすっかりその気になっている。 「いいな、それ。ちゃんと牙も買えよ。よし、あとはマーティンだ」
二人はオースティンパワーズの衣装を着て出てきたマーティンに爆笑した。笑いすぎてお腹が痛い。 「ひどいよ、そんなに笑わないで。ミニ・ミーよりマシでしょ。んー、ジャック・スパロウはどうかな?」 「今年はみんな海賊だと思うぞ。ゾロもいいけど・・あ、これこれ、テイラーが持ってたやつ」 スチュワートはジョン・トラボルタセットを勧めた。試着してみたものの、違和感はないがつまらない。 他にも次々試着をしたが、どれもピンとこない。 「ヴァン・ヘルシングより、さっきのオースティンパワーズがええわ」 「そうだな、髪の毛をくしゃくしゃにしたらもっと良くなるさ」 マーティンはもう一度オースティンパワーズの衣装を試着してみた。ダニーが髪をくしゃくしゃにするとさっきよりよくなった。 衣装も決まり、ダニーの牙を物色していると、マーティンがイカボッドのヘンテコメガネを見つけたのでそれも買う。 三人はひととおり店内をぶらついてから店を後にした。
ダニーは31日のディナーについて「俺に任して」とアランに告げた。 「ほぅ、楽しみだ」 アランはにっこり笑った。機嫌よく支局に出勤すると、来客があった。 マヤだ。ダニーはわざと取調室に通した。
「今日はどんな御用で?」 「あなた、アランの事、100%信じてるの?」 「信じてなかったら一緒に住まわへんでしょ」 「ご気楽さんね。せいぜいそのままでアランを信じるといいわ」 「マヤさん、あんたが何を言おうとな、俺はアランを信じてる。 そんな煽動作戦、プロのFBI捜査官に通じると思います?」 ダニーはにやにや笑いながら答えた。 「今に泣きっ面するのはあなたの方よ」 マヤは急に立ち上がると、部屋から出て行った。
まったくヘビ女みたいな奴や。 一方でダニーはマヤが気の毒にもなった。 アランを奪略するなら、とっくの昔にやっているだろう。 焦りが彼女をここに来させるのだ。 ダニーはアランの自分に対する愛情を31日に確かめようと思っていた。 デルアミコには予約済みだ。 裏切られていたらと考えると、いても立ってもいられない。
サマンサがマグにコーヒーを入れてくれた。 「ねぇ、今日も来てた東洋人の人がダニーの彼女?ずいぶん綺麗な人ね。ペネロペ・クルスみたい」 「ちゃうねん、彼女やない」 ダニーはコーヒーを受け取りながら答えた。 「ふぅん、違うんだ」 サマンサは急に興味を失ったようで席に戻った。
マーティンが心配そうに寄ってきた。 「ダニー、大丈夫?顔が赤いよ」 「あぁ、ちょっと気が立ってしもうた。もう平気や」 無理やり笑みを浮かべると、ダニーは仕事に専念しようとPCに向かった。 仕事を終えたが、まっすぐ家に帰る気になれない。 ダニーの足は自然とブルー・バーに向かっていた。
「あ!ダニー!」 カウンターから声がかかった。バーニーズのジョージが笑って手を振っている。 お前と待ち合わせちゃうんやけどな。 ダニーは困った顔をしたが、ジョージのそばに座った。 「この間のプレゼントどうでした?」 「あぁ、ありがとな、気に入ってもらえたわ」 「よかった!アランは目が肥えてるから、どうかと思って心配していたんです」
エリックが「いらっしゃいませ」と間を割って入ってきた。 「エリック、こっちはジョージ」 二人は会釈をした。 エリックは静かにドライ・マンハッタンをダニーの前に置いた。 「お前、何飲んでるの?」 「僕はモヒートです」 「なんや、俺の故郷の酒やん」 「へぇ、ダニーってキューバ系なんだ?」 「僕もそうなんですよ」 エリックが小エビのカナッペを運びながら口を挟んだ。小さな緊張が走る。
「サンキュな、エリック」 ダニーが何とかとりなして、エリックは奥に下がっていった。 「僕、何か悪いこと言ったかなぁ」 ジョージが首をかしげている。 エリック、もっとプロらしくせいや! ダニーは困った顔をした。 「あ、もしかして、ダニー、あの人と関係あるの?」 「そんなの、あらへんがな!」 ダニーは猛然と否定した。 ジョージがクスっと笑う。
「ダニーって見てて面白い人ですね。ますます興味が湧いてきちゃった」 「俺なんぞに手出すと、後が大変やで」 「どういう風に?」 「マフィアがお前の命狙うとかさ」 ジョージは今度は声を出してからから笑った。 「だから、ダニーって面白い人なんだ。実はここに来るとまた会えるかと思って、通っちゃった」 ジョージが照れた笑顔を浮かべた。
「さよか」 ダニーは困った顔をするが、ジョージは気にしない。 「ねぇ、黒人とヤった事あります?」 「はぁ?」 「ただ聞いただけ」 「ノーコメントや」 「ふふふ、結構いいと思うんだけどな、僕」 ジョージは伝票をつかむとエリックにチェックを頼み、去っていった。
ダニーは、マヤの事が気になって仕方が無かった。 今、自分が仕事している最中でも、アランがマヤと会っていたら? そんな思いばかりが頭を交錯した。 テレフォン・セクレタリーサービスに連絡を取る。 「今日、ドクター・ショアは?」 「夕方6時まで予約がいっぱいです」 「それなら結構です」 仕事してるんや、アラン。 疑って悪かったとダニーは反省しながら、仕事に集中することにした。
失踪者は薬中のティーンエイジャーの女の子だった。 どうせ薬代稼ぎに売春しているのだろう。 マーティンがサマンサと聞き込みに出かける。 マーティンも慣れてきたなとダニーは感慨深げに見送った。
ヴィヴィアンが「ダニー、外に出たかったんじゃない?」と声をかけた。 「いや、マーティンにも経験が必要やから」 「マーティンも慣れてきたね。最初はどうなるかと思ったけど」 「あいつももういっちょ前のNYの捜査官やね」 ダニーはにこっと笑うと、またPCに向かった。
ブロンクスのATMの数箇所で、失踪者エミリーの画像が取れた。 「ヴィヴ、この子のしまはブロンクスや」 「サムに知らせるわ」 外回りの二人が、エミリーのポン引きをつきとめた。 あとは簡単だ。囮捜査すればいい。
サムとマーティンが戻ってきた。 「今日の囮捜査、お前、やれよ」 ダニーがマーティンに勧めた。 「え、僕が?」 「何事も経験やで」 「分かった」 マーティンはポン引きにエミリーを指名して、 ブロンクスのモーテルを案内された。
「ほな、保護に行こか?」 「うん・・」 マーティンは緊張しているようだった。 モーテルに着き、指定の部屋でエミリーを待つ。エミリーがやってきた。 隣りの部屋で待機していたダニーも部屋に押し入り、「FBI!」と声をかける。 エミリーはショックで泣き始めた。 「エミリー、泣かないで。ご両親から失踪届けが出てるんだ。一緒に家に帰ろう」 マーティンが優しく声をかける。 「薬のことなら、リハビリ施設を紹介するよって、心配せんといてな。 若いんや、まだ人生やりなおせるで」 ダニーが付け加えた。
一件落着だ。二人は誇らしげにオフィスに戻った。 「二人とも、よくやった。マーティンも慣れてきたな」 ボスからお褒めの言葉をもらう。 二人とも、まっすぐ帰る気になれず、ブルー・バーに寄った。
エリックがしらじらしく声をかける。 「今日はあの黒人の方とご一緒じゃないので?」 いらん事いうな〜。 マーティンがすぐさま眉を上げて「黒人って誰さ?」と詰問を始めた。 「いやな、バーニーズの担当の奴やねん。ここでたまたま2回ほど会って一緒に飲んだだけや」 「本当?」 「お前に嘘つく必要ないやろ?」 「わかったよ」
エリックはにんまりしながら、ほたて貝のソテーをカナッペにして持ってきた。 マーティンはまだぶすくれている。 「お前、なぁ、ほたて食って、機嫌直し」 「ダニーはもてるから、僕、信じられない」 「俺かてもうええ年やねん、遊んでなんかいられへんわ」 「本当?」 「そうや」 「分かったよ」 二人はやっと乾杯をした。
事件が解決したというのに、なんと言う後味の悪さだ。 ダニーは自分に非がないので、今回は胸を張って反論できる。 ジョージに少し興味があるのは事実だが、まだ未遂ではないか。 「マーティン、お前、邪推しすぎやで。 お前の方が、俺、ニック、エドって相手がおるやん、胸に手を当ててよーく考えてみ」
「うーん、そうなんだけどさ、ダニーには女の人もいるから」 「何や、あの日本人か?あいつはアランの元フィアンセやって言うたやろ、そんなんに手出せると思う?」 「思わない・・・」 「そやろ?俺のこともっと信用して欲しいわ」 エリックがコースターを変えに来て、思わずくすっと笑った。 ダニーはめっという顔をしてエリックを睨んだ。 エリックは微笑みながら奥に去っていった。
アパートに帰った三人は、買ってきた衣装をもう一度試着してみた。 牙をつけたダニーは、歯を剥き出しにしたりして、マーティンの首筋に噛みつく真似をした。 「やめてよ、ダニィ」 「ほんまは嬉しいんやろ?」 ダニーはマーティンのシャツに手を入れた。 「なぁマーティン、その胸元のひらひらってやばくない?おかまっぽいで」 「それ以上言わないで。僕もそう思ってたとこなんだから」 マーティンは顔を曇らせた。
「でもさ、その太腿のあたりとか妙にそそらないか?」 スチュワートはマーティンの太腿をいやらしい手つきでなでた。次第に下腹部に手が伸びる。 「ほんまや、なんかエロいわ。誘ってるみたいや」 ダニーは首筋をかぷっと噛むと、シャツに手を入れて胸を愛撫しはじめた。 「やだっ!ちょっ、二人ともやめっ・ぁぁっ・んっ・」 マーティンは抵抗したものの軽々とベッドに運ばれ、服を脱がされてしまった。
ダニーに散々いじられた乳首は赤くなっていて、少し触れられただけでも敏感に反応してしまう。 足は恥ずかしいぐらいに大きく開かれ、アナルにはスチュワートの冷たい指が出入りしている。 ダニーのペニスをフェラチオしながら、声を出すのをなんとか我慢していた。 ダニーはペニスを口から抜くと、マーティンの足をぐいっと引っ張って抱えあげた。 ひくつくアナルが指を飲み込んでいるのがよく見える。 「ひっ・っ・あぁっ!やだっ、やだよっ!」 二人にアナルを凝視され、マーティンは真っ赤になった。恥ずかしくてたまらない。 ダニーは騒ぐマーティンの口に再びペニスを押し込んだ。
スチュワートはアナルにペニスをあてがうと、ゆっくり腰を進めた。 ダニーは足を抱えたまま結合部分を眺め続ける。 マーティンのペニスから垂れている先走りを亀頭に塗りたくって嬲ると、びくびくアナルが締まった。 「うわっ、きついな・・大丈夫だから、もう少し力を抜いて」 スチュワートは落ち着かせるように体を擦ったが、マーティンはさらに締めつけた。 「だって・んぅっ・見、見られてるから・・」 ダニーは抱えていた足から手を離すと、ペニスを抜いて隣に横たわった。 やさしく抱かれているマーティンをじっと眺める。 「ああっ・・んんっぁっ・いっイク!」 マーティンは大きく喘ぐと何度も仰け反って射精した。
マーティンの息が整うのを待ちながら、スチュワートはゆっくりと腰を揺らした。 いたわるように抱いているのが傍目にも伝わってくる。 ―トロイ、マーティンのこと本気なんや・・・ ダニーはスチュワートに畏敬の念を抱いた。同時に浮気ばかりしている自分を恥じた。 マーティンのことを愛している、それでも浮気はやめられそうにない。 情けなくなったダニーはマーティンにペニスを扱かせて果てると、先にシャワーを浴びにいった。
シャワーを浴びて出てくると、スチュワートが冷蔵庫を漁っていた。 ダニーにコントレックスのボトルを投げてよこす。 「悪かったな、テイラー。オレが独り占めしちゃって」 「別にええよ、そんなん気にすんな。あいつは?」 「すっかり寝てる」 「そっか。お前もシャワー浴びてき」 ダニーは水を飲みながらマーティンの様子を見に行った。 眠る頬に静かにキスをして髪をくしゃっとする。しばらく眺めた後、愛してると呟いてドアを閉めた、
ダニーはまた悪夢を見た。同じ夢だ。 アランとマヤが手をつないで自分に背を向ける夢。 気持ちが悪い汗をかいたので、シャワーを浴びる。 戻ってくるとアランが起きていた。 「また眠れないのかい?」 「ううん、例の悪夢や」 「こりゃ、エクソシストでも必要かな」 アランが真顔で言ったので、ダニーは笑った。 「もう眠れそうや」 「おやすみ」 「おやすみアラン」
ダニーは昼近くまで眠っていた。起きると、キッチンからガーリックのいい香りがした。 「おはよう、ペペロンチーノのランチだがいいかな」 「サンキュ、もちろんや」 ダニーはシャワーを浴び、部屋着に着替えて出てきた。 パスタがすでに茹で上がり、ダイニングに並んでいた。
「すごい腹減った」 「ワインを開けようか」 二人はソアヴェ・クラシコを飲みながら、パスタとルッコラのサラダを平らげた。 医学雑誌の締め切りから開放されたアランとダニーはベッドに戻り、 二人でお互いを愛撫しながら、昼寝をした。幸せな休日の昼下がりだ。
夕方に目を覚まし、二人でフェアウェイに買い物に出る。 アランが魚中心の食材を買い込んでいるんで、 ダニーはシャブリ・グラン・クリュを奮発した。 「ほぅ、いいじゃないか?」 褒められてダニーは子供のように喜んだ。
家に戻って、夕飯の支度をする。 ダニーはホタテとムール貝の白ワイン蒸し、アランは太刀魚の香草焼きを準備した。 アンディーブとルッコラのサラダにバルサミコソースを合わせた。 二人の夕食が始まる。 「今週はどうだった?」 「薬中の女の子を救い出したで。薬代稼ぎに売春しとったわ」 「まったくドラッグ中毒は後を絶たないな」 「アランの方は?」 「また朝のTVに出たよ」
「え、ほんま!俺も見たかった!」 「お前が出勤した後の時間の番組だからなぁ。録画するほどナルシストじゃないんでね」 アランは薄く笑った。 「もうレギュラーみたいやん」 「あぁ、なぜか評判がいいらしくてね。でも忙しいからなぁ」 「アランが有名になるのって、俺、嬉しいわ」 「そうかい?」 「うん、何か誇らしい」 「ハニーがそういうなら考えてみようかな、レギュラー出演の話」 アランもまんざらではないようだった。
食事を終えて、片付けを終えると、ダニーはギターを爪弾き、 アランは葉巻を吸っていた。典型的な週末の夜だ。 そのうち、どちらかがバスを入れ始め、二人で入り、ベッドに入る。 愛し合う時もあれば、そのまま寝る時もある。二人はそれで満足していた。
今晩はお互いの身体を触りあっていたが、セックスをしないで眠りについた。 アランの寝息がすぐ近くから聞こえてくる。 アランの顔を見ていると、彼が裏切っているとは到底思えない。 ダニーは、マヤの言葉を頭から消し去るように首をぷるぷる振ると、自分も目を閉じた
「ふぁ〜!」 オフィスでサマンサが大きなあくびをした。 「サム、昨日は夜遊び?」 ダニーがからかうような顔で尋ねた。 「うん、いい人と出会ってね、デートしたの!」 心なしか頬が紅潮している。 「へぇ〜、どんな相手?」 「あのね、プライス・ウォーターハウス・クーパーズの公認会計士なの」
「へぇ〜大手やん、ええ奴?」 「うん、すごく紳士よ、ハーバード卒だし、家はアッパーウェストサイドなのよ」 やば〜、近所やったらどないしよ。 ダニーは一瞬焦ったが「良かったな」とサマンサに答えた。 ボスがゴホンっと咳払いをした。ミーティングの始まりだ。 ダニーとサマンサも急いでミーティング・テーブルの席についた。
「今日は、人事査定結果を配布する。みんな心して内容を読んでくれ。 質問があったら個別に私まで来るように」 A4の封筒に入った書類を手渡される。 皆、自分の席に戻って、中身を吟味した。 ランチになり、ダニーはマーティンを誘っていつものカフェに出かけた。 何となくマーティンの元気がない。
「お前、どうした?人事考課か?」 「うん、まだ経験不足なのかなぁ、芳しくないんだよね」 「まだ来て2年やろ、すぐにはベテランになれんて」 「ダニーはどうだったの?」 ダニーの方は、2度のDC出張や凶悪犯罪班からの引き抜き話もあり、査定は満足のいくものだった。 「俺も、まだまだや。上には上がいるってこっちゃな」 ダニーはマーティンを傷つけないようにウソをつき、ピタサンドをかじった。 マーティンは、落ち込んではいるものの、特大チーズバーガーにポテト付きで食欲を満たしたようだ。
午後は書類整理や経費精算の作業に追われた。 定時に仕事が終わったが、ダニーは何となく家にまっすぐ帰る気になれず、 またブルー・バーに寄りこんでしまった。 「いらっしゃい!」 一人のダニーを見つけて、エリックが笑みを浮かべて近寄ってきた。
「お前なぁ、しゃべりすぎやて」 ダニーはエリックに苦言を呈した。 「すみません、ふふ。今日は何を?」 「スプマンテや、グラスで頼む」 「はい」エリックはシャンパングラスを恭しく持ってきた。 生ハムとキャビアのカナッペが出てくる。 「おいおい、これはすごいサービスやな」 「ダニーがスプマンテなんて珍しいですから、良い事でもあったのかと思って」 さすが、人商売やな〜、よう見てるわ。 ダニーは感嘆した。
「あぁ、仕事がうまく行ってな」 「それは、おめでとうございます」 さらにホットナチョスが出てきた。 ダニーは飲み物をテキーラに変えて、ショットで4杯お代わりした。 そろそろ帰らにゃ。足元がちょっとおぼつかない。 エリックが「大丈夫で?」と声をかけた。 「あぁ、平気や、チェックして」ダニーは100ドル札を出した。
タクシーの中でも頭がくらくらした。 あかん、飲みすぎた。 アランのアパートに着く頃は、気分が悪くなっていた。 「アラン、ただいま」 「ハニー、遅かったな」 「もう、だめや、我慢できない!」 ダニーはアパートの入り口でげっと吐いた。 「おい!大丈夫か?」 「気持ち悪い・・」 「まだ吐きたいか?」 「うん・・」 「トイレに行こう」 アランが身体を支えてトイレに連れて行く。
ダニーはしばらく便器をかかえて吐いていた。 終わって出てくる頃、アランは玄関を綺麗に掃除した後だった。 「ごめん、アラン」 「いいんだよ、一体どうした?」 「今日な、人事査定が戻ってきたんやけど、すごく良かったから、ちょっと飲んでしもた」 「それは、めでたいな。だが夕食は食べられないだろう。水と薬をあげるから、ベッドに横になりなさい」 「うん・・」 ダニーは怒られた子供のように小さくなって、パジャマに着替えると、 ベッドに横たわり、アランが薬を持ってきてくれるのを静かに待った。
いよいよ今日はハロウィン当日。ダニーとマーティンは、勤務が終わるとクリニックへ行った。 受付にはナイトメアー・ビフォア・クリスマスのサリーの仮装をしたジェニファーが座っていた。 青白く塗られた顔に縫い目まで書いてあって笑える。 ダニーはマーティンにわからないようにこっそりウィンクした。 「やあ、ジェニファー。トロイいてる?」 「ええ。まだ診察中だから、ロッカールームで着替えるようにとのことです。そちらへどうぞ」 二人は礼を言うと、ロッカールームへ行って着替え始めた。 「僕、ジェニファーに見られるの嫌だな。こんなの着てたらますます変な人だって思われちゃう」 「ハロウィンやからかまへんやん。オレ、先に出とくわ」 ダニーはさっさと着替えて牙を装着すると受付に戻った。
ジェニファーはダニーの仮装を見てにっこりした。 「サリーか・・オレ、ジャックにしたらよかったな。惜しいことしたわ」 「いいじゃない、よく似合ってるわよ。すごくキュートだもの」 「そうか?ジェンはパレードに行かへんの?」 「行きたいけど、私は家でお菓子を配らないとね。アパートの子供が楽しみにしてるから」 「そうなんや・・そや、オレの顔を紫にしたら何になると思う?」 ダニーは流し目で誘うように見つめた。 「紫ねぇ・・紫、紫・・あっ、カウント伯爵!」 「正解!」 二人は周囲を見回すとすばやくキスしてさっと離れた。
二人が離れた直後、スチュワートが出てきた。イカボッドの衣装に白衣がばっちりきまっている。 「よう、テイラー。腹が減ってるならパンプキンパイがあるぞ。ん?マーティンは?」 「まだ着替えてる。あいつ、恥ずかしいんちゃうかな。それよりちょっと写真撮って」 ダニーはデジカメを渡すと、ジェニファーを連れ出して隣に並んだ。 「ちゃんと撮ってや。ジェニファー、もっとこっちこっち」 ダニーは疑われないように、今度はスチュワートと並んで写真を撮った。
撮影会をしていると、マーティンがおどおどしながら出てきた。 「あれ?髪の毛、もっとふわふわにしやなあかんやん」 「ん、そうなんだけど難しくてさ。ワックスってよくわからないんだよ」 「貸してみ、オレがしたるわ」 ダニーが髪をいじるとさらにぐしゃぐしゃになってしまった。 「おかしいなぁ、なんでやねん・・」 「テイラー捜査官、ワックス貸して。フィッツジェラルドさん、動かないでね」 ジェニファーは毛先にワックスをつけると、器用に髪をくしゅくしゅにした。 「・・ありがと」 「おー、いいじゃないか。ジェニファー、よくやった」 スチュワートは嬉しそうに頷き、マーティンと並ぶと写真を撮らせた。 「次はテイラー捜査官もご一緒にどうぞ」 ジェニファーは三人一緒の写真も撮ってくれた。
「それじゃ、また明日な。あ、これ、いつもの」 スチュワートが紙袋を渡し、ジェニファーは中を覗いてくすっと笑うと礼を言って帰っていった。 「はい、マーティン。テイラーにも」 スチュワートは二人にもパンプキンの容器を一つずつくれた。 オレンジの容器はずっしりと重くて、振るとガサガサ音がする。 「何これ?」 「お菓子さ。キャンディーとかいろいろ入ってる。・・その、うちの母から」 最後の母からというのを恥ずかしそうに付け足すのがおかしくて、ダニーは笑いを堪えた。 マーティンがフタを開けると、中にぎっしりとお菓子が詰まっていた。 「わー、ありがと」 マーティンは早速チョコレートの包み紙をはがして口に入れた。
「あ、あんまり食べるなよ。気分が悪くなっても知らないぞ」 マーティンがチョコレートやキャンディーを次々と口に放り込むのを見て、スチュワートは慌てて止めた。 「へーき、へーき。僕はチョコぐらいなんでもないよ」 「バカ。明日はオレのとこに食べすぎたバカがわんさか来るんだ。そうなっても診てやらないからな」 「そやそや、オレらもハロウィンの次の日は失踪者激増やねん。ぼんやりしてたらボスがまた怒りよるで」 「わかったよ、毎日少しずつ食べる」 マーティンは渋々ふたを閉め、今度はパンプキンパイにがっついた。
「なぁ、レーズンしかくれないケチな家ってなかったか?」 「あー、あったあった。あとグラノーラバーとかな。そんなんいらんねん、鳥やないんやから」 「それもあったな。健康のためなんだろうけどさ、ガキには通じないよな」 「あのさ、僕んちはマーガレットがレーズン配ってて、学校でからかわれたよ」 「あちゃー、お前んちあかんなぁ。金持ちやのに思いっきりハズレやわ」 ダニーは気の毒そうにデコピンした。 「・・もしかしたらNYのガキはレーズンでも喜んだかも」 「慰めてくれなくてもいいよ、さっきスチューも嫌がってたじゃない」 マーティンは口をとがらせるとスチュワートにデコピンした。
「そろそろ出かけよう。7時からパレードが始まるから」 ピザを食べ終えた三人は、クリニックを出て歩き出した。 スプリングストリートへ向かう間も、すれ違う人々はみんな仮装をしていて楽しい。 悪魔や怪物、魔女など見ていて飽きない。マーベルコミックのキャラもたくさんいる。 ゾンビになりきっている人からは本当に死臭がしそうなぐらいだ。 「すっげー、僕より変な人もたくさんいるよ」 「あっ、お前の仲間発見!あれミニ・ミーとドクター・イーブルやん。あとあの脂肪のヤツもいてる」 「ファット・バスタードだろ。脂肪って・・」 「おわっ、何やあれ、溶けたチョコアイスか?馬糞みたいや」 「ダニー、ちょっと黙ってて。おなか痛いよ」 ダニーがいちいち解説するので、二人は笑いが止まらない。 しゃべり疲れたダニーがようやく黙るころには、パレードも終わりかけていた。
運よくタクシーをつかまえた三人は、グラマシーのアパートへ帰った。 シャワーを浴びた後、ビールを飲みながら屋上のデッキチェアで夜風に吹かれる。 スチュワートが作ったパンプキンのランタンがいくつも灯りを投げかけていて、幻想的な風景を醸しだしている。 「スチュー、ありがとう。すっげー楽しかった。ダニーもいてくれたし、僕・・あーだめ、泣きそう」 マーティンは乱暴に目を擦ると二人の手を握った。目が涙で光っている。 「お前なぁ、何も泣くことないやろ」 ダニーは体を起こすとぷっくりした頬に触れて抱きしめた。 「もう遅いけどハーゲンダッツ食べようか。今日は特別だから」 気を遣ったスチュワートはアイスを取ってくると言い残して席を立とうとしたが、ダニーが腕を引っ張った。 「あかんて。どこにも行くな」 「・・わかった」 三人は黙ったまま下弦の月を眺め続けたが、心の中はそれぞれ満たされていた。
ついにハロウィンの日がやってきた。 ダニーはグッチのスーツとネクタイで出勤した。 マーティンは先日着ていたブルックス・ブラザーズを着ている。 「何なの?今日は合コン?」 サマンサが訝った顔で見ている。 「えやないか」 「そうそう!」 二人は鼻歌まじりに仕事を始めた。
ダニーは夕べ良く寝たお陰もあって、すっかり体調が回復していた。 午前中の仕事を難なくこなすと、マーティンとランチを食べる。 ダニーはデルアミコのビッグ・ディナーを想定して、サラダだけを頼んだ。 マーティンはサーモンのクリームパスタをぱくぱく食べている。
「お前、今日、ご招待なんやろ?そんなに食って平気か?」 「うん、最近さ、すごくお腹がすくんだよね」 「ほんま、お前、胃拡張やで。今度、トムに見てもらい」 「そんな〜、大丈夫だよ」 「生活習慣病のFBIなんてかっこ悪いで!」 「それじゃ、ボスなんて全くそうじゃん!」 二人はげらげら笑った。
午後も事件がなく、時間がなかなか経たなかった。 二人ともイライラしながら腕時計とにらめっこをしていた。 定時になり、二人して飛び出す。 「きっとパーティーかなんかだよ、今日はハロウィンだからね」 ヴィヴィアンが呆れて言った。
午後も事件がなく、時間がなかなか経たなかった。 二人ともイライラしながら腕時計とにらめっこをしていた。 定時になり、二人して飛び出す。 「きっとパーティーかなんかだよ、今日はハロウィンだからね」 ヴィヴィアンが呆れて言った。
アランの家に戻り、二人でジャガーで出かけた。 アランは例のパンプキンネクタイに、 ヒューゴ・ボスの茶系のジャケットとピンクのシャツを合わせていた。 うわ、めちゃかっこええ! ダニーは嬉しくなった。 デルアミコのヴァレー・パーキングに車を止め、中に入ると、 デルアミコが「テイラー捜査官!あー、ドクター・ハート!!」とアランの顔を見て驚いている。
「ドクター・ハート?」 ダニーが驚くと「僕のTVコーナーのタイトルだよ」とアランが答える。 「あなたを存じ上げてますか?」とアランがデルアミコに尋ねる。 「先週のウツ病の娘の電話相談、覚えておいでですか?」 「ええ」 「私なんですよ、ありがとうございました!おかげさまで薬物治療で毎日学校に通えるようになりました」 「それは良かった!」 「今日は命の恩人がまた二人来店だ。早速シェフに伝えてきますよ」 デルアミコは厨房に下がった。
「偶然ってあるもんやな」 「お前は何で命の恩人なんだ?」 「おっさんがごろつきに誘拐されたのを助けた」 「それは正真正銘の命の恩人だな」 二人は奥の席に通された。 メニューは、パンプキンの冷製スープにカンパチのカルパッチョ、 4種類のチーズのペンネと続き、バーニャカウダと真鯛の塩釜焼きだった。
デルアミコがミニチュアのとんかちを持って、塩に覆われた真鯛を叩く。 塩がパカっと割れ、中から湯気をたてた真鯛の蒸し焼きが出てきた。 「香草が入ってますのでご一緒にどうぞ」 「これは美味そうだ」 アランもデルアミコの料理に感服したようだ。 ダニーは連れてきて良かったと思った。 「気に入った?」 「ベストチョイスだな。これから通おう」 「うん」
「そうだ、ダニー、聞いて欲しいことがあるんだ」 アランが鯛を食べる手を止めて、話し始めた。 マヤが情緒不安定になり、開業できないので、金銭的な援助をしていると。 「えぇ〜!」 「誤解するな、彼女はもうすぐ日本に帰国する。それまでの期間だから」 「それで終わりになる?」 「あぁ、なるさ」 「ほんま?」 「あぁ、信用してくれ」 ダニーは、アランの砂色の目をまっすぐ見た。アランも見返す。 信用できる!直感した。
デザートになり、大皿にビッグなパンプキンパイが出てきた。 チョコクリームで、「Our family’s life savers, Dr. Heart and Danny」と書かれていた。 二人は半分ほど食べて残りをドギーバッグにしてもらうと、 お互いの膨れた腹をさすって大笑いした。 デルアミコがにこにこしながら、グラッパの瓶を持ってくる。
「オーナー、今日は止めてくれ、俺、ひどい二日酔いになったから」 ダニーは固辞したが、デルアミコは聞かない。 結局、3人で看板になるまでグラッパ飲み競争をした。 「アラン、運転できる?」 「あぁ、大丈夫さ」 ジャガーはよろよろしながら、アッパーウェストに戻った。 二人は、ひたすら可笑しくて、夜中まで気分良く、くだらないジョークを言いながら笑い続け、 疲れ果てて、Yシャツにパンツのままベッドに横になった。
ダニーは再びひどい二日酔いで朝を迎えた。 アランも隣りで頭をかかえている。 「こいつは、やっちまったな」 アランが二日酔いなのが珍しく、ダニーはタイレノールとコントレックスをベッドサイドに置いた。 「アラン、今日、診療できる?」 「あぁ、もちろん。患者が大声あげないといいんだが」 薄く笑って薬を飲み下す。
「お前は、出勤できるか?」 「あぁ、行かなきゃあかんもん」 ダニーはよろよろとシャワールームに入り、しゃきっとさせた。 アランがオレンジ・ジュースを出して待っていてくれた。 「ほな、行ってくる」 「あぁ、愛してる」 「俺も」 二人は軽くキスすると微笑みあった。
支局に出勤すると、珍しい客が来ていた。ケンだった。 マーティンが、「ケンがずっと待ってたよ」と耳打ちした。 「何やろな?」 ダニーは応接室に入り、ケンに挨拶した。 「今日はICPOの用事か?」 「それが、違うんだ。聞いてくれる?」 「ふん、何や?」
「ギルが僕を抱いてくれなくなった」 「はぁ?!お前、そんなん相談するのに、インターポールのIDで来たのか?」 「だって、深刻なんだもん」 「お前の浮気のせいやないの?」 「鶏と卵だよ。抱いてくれないから、浮気するんじゃん」 「何や、よう分からん理屈やけど、浮気はようない!絶対するな!」
「だって寝たい時あるでしょ?」 「そりゃあるけど・・」 「アランとはうまく行ってるの?」 「ばっちりやけど?」 「いいなぁ、ギルとアラン、同い年なのに。どうして違うんだろう」 「まぁ、お前が悩むのも分かったけど、俺、仕事あるから、もう席に戻るで」 「そんなぁ、冷たいな」
「仕方ないやろ。俺がギルにケンと寝てやってくださいって頼んだら済むか?」 「・・済まない」 「そやろ?そういうこっちゃ。とにかく仲良うしてろ、果報は寝て待てや」 「何だ、ダニーなら「そいつは気の毒や、俺が抱いたろ」とか言ってくれると思ったのに」 「俺の物まねなんかすんな。もうお前と話してると脳みそが腐りそうや」 「それじゃ帰るよ」 ケンは応接室から出ると、マーティンやサマンサに笑顔を振りまきながら帰っていった。
ランチタイムにマーティンがケンの事を聞きたがったので、仕方なくダニーは話をした。 「そうなんだ、恋人に抱いてもらえないのって辛いよね」 マーティンは遠い目をして答えた。 こいつ、誰を想像してんのやろ、ニック?エド?それとも俺?
「それよりさ、昨日のハロウィンでね、エドにアッパーイーストの会員制クラブに連れてってもらったんだよ」 「へぇ、お前の家の近所やん」 「それがさ、男だけが入れるんだ。僕、すごくリラックスしちゃってさ、ずいぶん飲んじゃった」 「それにしちゃ、食欲落ちへんな」 チリバーガーに山盛りポテトフライを食べているマーティンに感心する。 ダニーは例によってチキンサラダを少しずつかじっているだけだ。
「エドは元気か?」 「うん、事業も好調なんだってさ。エドってさ、真面目人間だよね、クラブ行ってもあんまり騒がないし」 「お前とよう似てるわ」 「うーん、そうかも。ダニーはどうしてた?」 「またデルアミコに行った。そしたらな」 アランがデルアミコの電話相談を解決したのを話した。 「へぇ、アランってTVに出てるんだ」 「そやねん。セレブや」 ダニーは思わず自慢げな口調になった。
「そうやって、僕もダニーが自慢してくれるような捜査官になりたいな」 ポツンとマーティンがつぶやいた。ダニーは慌てた。 「お前かて、ようやってるで。偉いわ。 俺、2年目の時はぽかばっかりして、ボスに叱られてたから」 「へぇ〜」 ダニーが過去を話すのは珍しい。マーティンは少し嬉しくなった。 ランチタイムが終わり、二人はうららかな秋空の下、オフィスに戻った。
ダニーの頭の中から悪夢が消えた。 まるでアランのハロウィンの時の言葉がまじないのようだ。 人を信じられへんかった自分の過去が悲しい。今は信じられる人がいてる! ダニーは嬉しくて、歯を磨きながら鼻歌を歌っていた。 「ご機嫌じゃないか?」 アランがシャワーを浴びにやってきた。 「そやねん、俺、絶好調!」
ダニーはアランと一緒にシャワーを浴びた。 悪ふざけが過ぎて思わずセックスしそうになる。 「だめだぞ、遅刻するだろ」 アランに言われてダニーは、アランのペニスを含んだ口を離した。 あたふたと髪の毛を乾かし、スーツに着替えてダニーは出かけていった。
ダニーはオフィス近くのスタバでマフィンとカフェラテを買い、オフィスに駆け込んだ。 マーティンが朝からチーズバーガーを食べている。ダニーは思わず失笑した。 「何だよ、ダニー?」 マーティンがふくれた。 「今日も健康な胃袋でよかったな」 「ほっといてよ」 マーティンはさらにバーガーをがっついた。
昼になって二人でいつものカフェに行く。 ダニーはチキンバルサミコのピタサンド、マーティンはパスタ・ペスカトーレを食べている。 「お前、ほんまによう食うな」 「だってすごくお腹がすくんだよ」 二人してぶらぶらしながら、オフィスに戻る。
フロアに着く頃、マーティンの様子がおかしくなった。 「どうした?」 「吐き気がする」 「食べすぎやて」 「だめだー!」 マーティンはトイレに駆け込んだ。ダニーも後を追う。 マーティンがげーげーやっている音が聞こえる。
「大丈夫か?」 「・・胃がすごく痛いよ、ダニィ・・」 「お前、これから病院行き。送ってやるから」 ダニーはボスにマーティンの不調を訴えて、市立病院のERに向かった。 たまたまトムが医局にいてくれた。 「おう、今度は何だい?」 「こいつ、胃が痛いって。かなり吐いた」 マーティンは顔面蒼白だ。
「食あたりかな。X線と超音波を取ろう」 処置室に入ってしばらくすると、トムが出てきた。 「典型的な胃拡張だ。ガスもたまってる。胃洗浄するから時間がかかるぞ。 ダニーはオフィスに戻った方がいい」 「終わったら又、来るわ」 「あぁ、そうしてくれ、今日は当直なんで、マーティンを送れない」
ダニーはアランに電話をし、事のあらましを伝えた。 「それじゃ、今日はマーティンのそばにいてやれよ」 「ええの?」 「そういう時の親友だろ?」 「そうやけど・・」 ダニーは仕事を終えて、マーティンを迎えにいった。 顔色がかなり良くなっている。 「これからは消化にいい食べ物を適量取ることだ」 「はい」 マーティンが小さくなってトムのアドバイスを聞いている。
スーツに着替えてマーティンが出てきた。 「あ、ダニー!」嬉しそうだ。 「お前、ほんまにあほやな。自分の胃袋をいたわれや」 「ごめんなさい」 「さ、家に帰ろ!」 「一緒に帰ってくれるの?」 「当たり前やろ」 ダニーは支局の車を借りる許可を取っていた。
マーティンのアパートにつき、早速、チキンとレタスと卵のスープを作る。 「これなら胃に負担かからんやろ」 「ダニーは?」 「俺はこれにライスいれて、リゾットにするわ」 「僕もそっちの方がいいな」 「あほ!今日、胃洗浄したんやで、大事にせいや」 「・・うん、わかった」 マーティンは食べ終わると、さっさとベッドルームに入っていった。
ダニーはシャワーを浴びて、ベッドに入る。 マーティンが起きていて、ダニーを見つめていた。 「お前、どないした?」 「ダニー、ありがと」 「そんなん、ええって」 「僕、すっごく嬉しかったよ」 「早く寝。明日も早いで」 「うん」 マーティンはダニーの胸に顔をこすりつけると、眠りに入った。
ダニーはマーティンより早く起きて、シャワーを浴び、自分用にコーヒーを、マーティン用にホットミルクの用意をした。 マーティンが眠そうな目をこすりながら起きてきた。 「おはよー、ダニー」 「気分はどうや?」 「うん、お腹がすいた」 「まだ、だめやて。今日はホットミルクや」 「え〜!」 「文句言わんと、シャワーしてき」
マーティンはほかほかになって現れた。 ホットミルクを渡されてぐびぐび飲む。 「今日から少し節制せいよ。また胃洗浄は辛いやろ」 「うん、あれは辛かった」 「さ、用意しよ」 二人は仲良く出勤した。 マーティンは人に気がつかれないようにダニーの手をぎゅっと握った。 「おい!」 「本当にありがと」 「ええんや、気にするな」
ところがオフィスに出勤すると、マーティンはすぐさまカンティーンに行って、 ピザを買ってきた。ダニーが思わず睨む。 マーティンは無視してぱくぱくがっついた。 ダニーは廊下に出てエドに電話をかけた。 「あ、俺や。ダニー。久しぶり。あのな・・」
マーティンが胃拡張で胃洗浄した経緯を話した。 「え、そんな事になってたなんて。そういえば随分、食欲あるなって思ってました」 「お前も気いつけてくれへん?あいつ油ぎらぎらの食事が好きやろ?」 「分かりました。食事療法やりましょうか?それじゃ会議があるんで」 一応エドに伝えておけば安心だ。 ニックは確か個展でベルリンに行っているはずだ。後で連絡を取ろう。
定時になり、帰り支度をする。 「ねぇ、今日、食事できる?」 おずおずとマーティンが尋ねる。 「ああ、ええで。出かけよか」 ダニーは寿司を選んだ。 回転寿司だとマーティンの歯止めが利かなくなるので、 「花寿司」でセットメニューをオーダーする。 マーティンは不満そうだったが、セットメニューを食べ終え、 ダニーはチェックした。
「すぐには胃は小さくならへんと思うけど、気をつけな」 「うん・・・わかったよ」 「わかってへんよ、俺がどれだけお前を心配してるか」 「そうなの?」 マーティンは嬉しそうな笑みを浮かべた。 二人してタクシーに同乗した。マーティンのアパートが先だ。 「ダニー、降りない?」 「そうやな、降りよか?」 ダニーもなぜか今晩は離れがたかった。
アパートに入るなり、マーティンがダニーに抱きつく。 「おいおい!」 「ダニー、嬉しかったよ、ありがと」 マーティンは忙しくダニーのパンツのフックをはずすと、 膝まずいてダニーのペニスを口に咥えた。 「う、ふぅん、お前、うますぎやで」 マーティンは満足そうに上目使いにダニーの顔を見た。
「ベッドに行かへんか?」 「うん!行こう!」 マーティンはダニーの手をとって、ベッドルームに誘った。 「ねぇ、今日は僕に入れて」 「あぁ、分かった。お前に入れたる」 ダニーは半立ちのペニスを自分の手でしごくと、ペニスはピンと腹に触れそうなまでに立ち上がった。 マーティンは自分でローションを手に取り、自分のアヌスに塗りこんだ。
ダニーがマーティンのペニスに触ると、先走りの液がトロトロ流れていた。 「お前、エロい奴!」 「言わないでよ!」 マーティンはダニーのペニスを手に取ると、自分のアヌスの入り口に持っていった。 「ねぇ、早く突いて!」 ダニーは腰を前に進めた。 ちょっとしたひっかかりの後、ペニスはずぶっと奥に飲み込まれた。
「お前の中がすごく熱い」 「ダニーのは硬くて大きいよ、ね、動いて!」 ダニーはリズムを取りながら腰を動かし始めた。 「はぁ、ああ、はぁ、うぅん」 マーティンが悶える。 「あぁ、そんなに締められると、俺、もうダメや」 「来て!僕の中に」 ダニーは身体を痙攣させると、マーティンの中に精をどくどくと放った。 マーティンも「あぁ!」と言うと身体を振るわせた。 二人は荒い息を整えながら、キスを繰り返した。
二人はアパートに帰る途中でフラワーショップに立ち寄った。 スチュワートの母にお礼の花を贈るためだ。 ガラスケースを眺めていたダニーは、淡い黄色のバラとリンドウを合わせ、ユーカリとミモザを足すように頼んだ。 「う〜ん、ちょっと地味かな。あと何かええのない?」 「それでしたら、こちらはいかがでしょう?」 店員はグリーンのペロペロネをバケツから取り出して少し付け加えた。 「ええな、それ。お前はどう思う?」 「ん、いいんじゃない。なんかさ、ダニーって花買うの慣れてるね」 マーティンはじとっとダニーを見上げた。 「そうか?・・ほなあとは頼むわ。オレは住所知らへんから」 ダニーはマーティンを促してごまかした。
なんとなく引き寄せられるように、二人はフラワーショップと併設するカフェに入った。 さっきからどことなくマーティンの様子がおかしい。オーダーした後は黙ったまま塞ぎこんでいる。 「どうしたん?さっきの花が気にいらなんだか?」 「ううん・・ダニーが今までああやって女の人に花を贈ってたのかなと思ってさ」 マーティンはそう言うと目をそらした。 「ちゃうちゃう、オレそんなんしてへん。適当に選んだだけや」 ダニーは慌てて否定した。マーティンはちらっとこっちを見たものの、またすぐに目をそらしてしまう。 「そんなの嘘だよ。だって、すごく慣れてたじゃない。無理して嘘つかなくてもいいよ」 「わかった、正直に言うわ。マイアミにいてた時に何回か花贈ったことはある。でもな、ただそれだけや。ほんまやで」 ダニーの説明に、マーティンは小さくわかったとだけ答えた。
ダニーはダイキリを啜りながら、マーティンの様子を窺った。 マーティンは黙ってターキーサンドをかじっている。 ―ただの花だけでもこんな大騒ぎやのに、ジェンのこと知られたらどうなるんやろ・・・ 会話の糸口もつかめず、静かにグラスを置いて店の奥を見やった後、ダニーはポコンとテーブルの下でマーティンの足を蹴った。 「痛っ!」 マーティンが驚いて顔を上げる。ダニーはにやりと笑うともう一度蹴飛ばした。 「痛いよ、ダニー」 「知ってる。オレ、お前のその顔好き。めっちゃ可愛いもん」 マーティンはたちまち困ったようなはにかんだ表情を浮かべた。 「それもええな」 「・・バカダニィ」 マーティンの呟きに満足したダニーは、にっこりしながらオリーブを口に入れた。
アパートまで歩いていると、ジョシュが反対側の通りから渡ってきた。 「やあ、今帰り?これからクラブに行くんだけど、一緒にどう?」 ジョシュは誘うようにマーティンに笑いかけた。 「いや、僕はいいよ。その、踊れないから・・」 「踊れなくても楽しいって!ね、ダニー?」 「今日はパス。オレら疲れてんねん」 素っ気なく断るダニーに、ジョシュはあからさまに肩を落としてみせた。 ―こいつ、また演技しよるわ・・・ 「また今度な。お前もあんまり羽目外すなよ」 「ご忠告どうも。次は絶対行こう、約束忘れないでよ」 「ああ。マーティン帰ろ」 ダニーはマーティンの腕を掴むと歩き出した。
「せっかく誘ってくれたのに悪いことしちゃったね」 マーティンは立ち止まると、歩いていくジョシュを振り返りながら言った。 「へーきへーき、どうもないって。あいつにはクラブで誰か友達ができるから」 「それならいいけど・・」 「クラブか、長いこと行ってない気がする」 「踊りたい?」 「まあな」 「・・ダニーがクラブに行かないのは僕のせいだよね。僕って足手まといだから」 マーティンは謝るとうつむいた。 「気にすんなや。そや、社交ダンスは踊れるんやろ?ワルツとか」 「ん、それなら踊れるよ」 「よし、ほな帰って踊ろう」 マーティンは慌てて断ったが、ダニーは勝手に決めてしまった。
アパートに帰った二人は音楽をかけて向き合った。面と向き合うとなんだか照れくさい。 お互いの背中に右手を回そうとして二人は笑ってしまった。 「どっちかが女の役やらんと。オレのほうが背高いからお前が女な」 「えっ!できないよ、そんなの。頭がこんがらがっちゃう」 「しゃあないな、オレが女役か」 ダニーはマーティンの肩に左手を置いた。しっかりと手をつないで見つめ合う。 二人はくすくす笑いながらマーティンのリードでワルツを踊った。 「やっぱお坊ちゃまはちゃうな。上手いやん」 ダニーの唇の位置はちょうどマーティンのおでこだ。そっと唇を押し当てる。 「ねえ、おでこだけじゃやだよ」 ワルツも悪くないな、ダニーはそう思いながら目を閉じたマーティンにキスした。
夜中に帰るのは、どうしても後ろめたい。 ダニーは静かに鍵を回すとアランのアパートに入った。 3時だというのに、まだ書斎から明かりが漏れている。 ダニーはこっそりと、書斎のドアを開けた。 PCをつけっぱなしにしたまま、アランが机に突っ伏して眠っていた。
「アラン、ただいま」そっと揺り動かす。 「ん?おかえり、あぁ、眠ってしまったのか」 アランが寝ぼけ顔でダニーを見つめた。 「遅かったな」 「うん、マーティンがまだ具合が悪くてな」 ウソが一層後ろめたさを増幅させる。 「シャワーしておいで、眠ろう」 「うん」
ダニーは、マーティンのところでもシャワーしたが、 ボディーソープの匂いを消すためにアロマの強いソープを使って体をごしごしと洗った。 ベッドルームに入ると、アランはすでに眠っていた。 ごめん、アラン。俺、悪い男や。 ダニーはアランの額に優しくキスをすると、自分も身を横たえた。
翌朝、二人ともすっかり寝坊した。はっと焦って起きるダニー。 よかった!今日は休みやん! アランが隣りですやすや眠っているので、ダニーもまた目を閉じた。 次に起きた時にはアランはすでにいなかった。 リビングを覗くと、コーヒーを飲みながら、ニューヨーク・タイムズを読んでいるアランがいた。
「おはよ、アラン」 「あぁ、おはよう。ブランチ作ろうか」 「うん、腹へったわ」 ダニーはシャワーを浴びに行った。 ダイニングにつくと、イングリッシュマフィンに乗ったエッグ・ベネディクトとアスパラガスのソテーがあった。 「すんげー美味そう」 「お前はいつもそうやって喜んでくれるから嬉しいな」 アランが目を細めてダニーを見つめた。
ぱくぱく食べるダニーの様子が嬉しい。するとアランの携帯が震えた。 「ちょっとごめん」ベランダで話すアラン。 誰やろ?患者やろか? 電話を切ったアランがやって来た。 「ハニー、今日のディナー、マヤと一緒でも構わないだろうか?」 「え、何で?」 「彼女、明日が帰国日なんだよ。今日が最後のNYの夜なんだ」 ダニーの気持ちは複雑だった。しかしもう信じると決めた以上、心は揺らがない。
「ええで、ただし、外食にせえへん?」 「そうだな、デルアミコは席が取れるだろうか?」 「おっさんに電話してみるわ」 ダニーが電話すると、当日だというのにデルアミコは快諾してくれた。 7時になり、ジャガーでマヤの泊まっている「ベンジャミン」に迎えにいった。 マヤがロビーで待っていた。見違える程ドレス・アップしている。 ダニーはそれが痛々しく見えた。
挨拶した後、ジャガーの中は会話がなかった。 トライベッカに到着する。デルアミコがエントランスで迎えてくれた。 マヤを見て思わず、手を取り甲にキスをした。 「今日はお美しいマドンナもご一緒で。厨房に知らせてきます」 デルアミコは奥に下がった。 アランは最上級のスプマンテをオーダーすると、まず乾杯した。
「マヤのこれからの幸せを祈って、乾杯!」 心なしかマヤの瞳が濡れているようだった。 今日のメニューは、ムール貝とホタテの白ワイン蒸しに牛肉のカルパッチョ、 ポルチーニ茸のリゾットとチーズのリングイネに鹿肉のステーキだ。 アランはさらに、シャトー・ラトゥールを頼んだ。
「ジビエが美味しい季節になったのね」 マヤがぽつんと口を開いた。 「あぁ、もう秋だからな」 アランが答える。 「日本だとなかなか食べられないわ」 「日本には何年ぶりで?」 ダニーが思わず尋ねた。 「かれこれ8年帰ってないわ。随分変わったでしょうね」 ふっとマヤが皮肉っぽい笑い顔を浮かべた。 あぁ、帰りたくないんや。 ダニーは直感した。
アランがトイレに立った時、マヤは突然ダニーの手を握った。 「な、何?」 「ダニー、あなたに酷い事ばかり言ってごめんなさい。 あのキスマークね、私が自分でつけたものなの。アランと私にはもう何もないわ」 「そうですか」 ダニーは、それしか言葉を返せなかった。 愛して欲しい人に愛されない苦しみを、ダニーも知っているからだ。
アランが戻ってきて、デザートタイムになった。 今晩はティラミスとココナッツムースの盛り合わせだ。 「ご主人、今日はグラッパはなしやで!」 「はい、テイラー捜査官」 デルアミコはマヤにウィンクをして去っていた。 マヤ、こんなに魅力的やのに、幸せになれへんなんて。 ダニーはどんどんマヤに同情する気持ちが芽生えていった。
ディナーが終わり、ジャガーは「ベンジャミン」に着いた。 アランが降りて、マヤの側のドアを開ける。 マヤは降りるなり、アランに抱きつき、熱烈なキスをした。 アランが慌てているのが分かった。 ダニーは通りの反対側を見た。 やっぱり見たくない。
「それじゃ、元気で」 「アランもね、お幸せに」 二人はやっと身体を離した。 アランは静かにジャガーに乗った。 ん?アランの瞳が濡れてる? ダニーは訝ったが、尋ねることはしなかった。
昼前にアランがばたばた起きたので、ダニーも目が覚めた。 「どうしたん、アラン?」 「やっぱり、マヤをJFKに送っていくよ」 「そうなん・・」 「心配するな、これが最後だから」 ダニーは一緒に行きたい気持ちが高まったが、 婚約していた二人の最後の別れを二人だけで過ごさせようと、我慢した。
「それじゃ、俺、今日の食事当番やるわ」 「助かるな。午後3時位には戻れると思うから、外食でもいいぞ」 「ううん、俺の手料理をアランに食べさせたい」 「了解。楽しみにしてるよ」 アランは、朝食も食べずにアパートを去った。
寂しさを紛らわせようと、ダニーはお気に入りのキューバ音楽のCDをかけながら、 クローゼットの整理をすると、ブルックリンの家に戻った。 請求書の整理や、ワードローブの入れ替えをしているうちに昼になった。 近くのインド料理のデリで、サグマトンカレーとナンを買って、クアーズと一緒に流し込んだ。 アランとマヤの事が、脳裏に浮かんでは消える。
とりあえず家事を終えて、ダニーは「フェア・ウェイ」で買い物をしに出かけた。 「あら、ダニー!」サマンサだ。 あちゃー、見つかってしもうた! ダニーは渋い顔をしたが、サマンサが男連れなので、作り笑いに変えた。 ブロンドのひょろっとした男だ。 「グレッグ、こっちはダニー、私の同僚。ダニー、グレッグ」 「初めまして」 「こちらこそ」
「今日はどうしたの?アップタウンで買い物なんて珍しい」 「あぁ、今日、友達んちでホームパーティーがあるんでな」 「そうか」 サマンサは合点がいった顔をして、「それじゃ、アランによろしく!」と去っていった。 ばればれやん!グレッグって奴、俺をゲイだと思ったんちゃうか。 ダニーは気を取り直して、買い物を続け、 豚のすね肉とハーブ、粒入りマスタードやザワークラウトの瓶詰めを買い求めた。 ドイツのリースリングのワインもカートの中に加えた。
アランの家に戻り、豚のすね肉をなべで煮始める。 ハーブと香味野菜をたんまり入れて、ポトフ風にした。 ビールとワインをぎんぎんに冷やし、サラダを作り始めた。 ルッコラとアンディーブのサラダだ。 5時近くになりアランが戻ってきた。 予定時間より遅いが、あえて尋ねなかった。
「マヤ、無事に帰った?」 「あぁ、もう彼女に会うことはないだろう」 ダニーは思わず、アランに抱きついた。 「どうした?」 「俺、不安やった。アランが取られるかと思った」 「バカだな、お前は。いい加減に僕を信じろよ」 「信じる!」 二人はソファーに崩れ落ちた。
ダニーがアランにディープキスを始める。 「ベッドに行こうか?」アランが誘う。 「うん」 二人は、ベッドで2時間ほどたっぷり愛し合った。 久しぶりということもあり、身体が離れがたい。 「そろそろ、食事にしようよ」 アランが声をかけた。 アランの胸に顔をすりつけていたダニーも顔を上げ、頷いた。
シャワーを浴び、二人でキッチンに立つ。 「アラン、黒パン切ってくれへん?」 「了解」 ダニーはサラダボールと、アイスバインの大なべをダイニングに乗せた。 「ほぉ、今日はドイツ料理か?」 「うまく出来たかわからへん」 「お前の料理の腕はたいしたもんだよ」 ダニーは嬉しくなってビールを開けた。乾杯する。
アイスバインは、ほどよく柔らかく煮えていた。 肉がほろほろと骨から剥がれ落ちる。 ザワークラウトとマスタードをつけて、二人して、大きなスネ肉一本を平らげた。 ワインもちょうど空いたところだ。 「ああ、満腹」 「僕らも胃拡張に気をつけないといけないな」 「ほんまやね」 二人はげらげら笑った。
「ねぇ、ダニー、エドに何か言ったの?」 月曜日に席に着くなりダニーはマーティンから質問された。 「何のこと?」 「その・・僕の食事についてさ」 マーティンが恥ずかしそうな顔をする。 「あぁ、お前と一緒に食べる事が多いだろうから、忠告したけど」 「大きなお世話だよ、僕だって反省してるんだから」 マーティンはぷんっとしてPCに向かってしまった。 あーこいつ、またヘソ曲げたわ。ダニーはやれやれと思った。
ランチに一緒に出かける。 相変わらずマーティンはチリバーガーに山盛りのポテトを頼んでいる。 ダニーはロブスタービスクにバゲットだ。 「お前、反省してる?」 「それなりに」 「何か怪しいな」 「本当だよ。ピザだって残すようにしてるよ」 「ほんま?」 「うん」 「わかったわ、信用しよう、もう無理は禁物やで。またトムの世話になりたいか?」 「もういい」 「そやろ?節制することや」 二人はオフィスに戻った。
席につくと、ボスがマーティンをオフィスに呼んだ。 「はい、ボス、何でしょう?」 「お前、この間の人事査定の結果をどう思った?」 「ボスが僕を評価されていないのが分かりましたが、納得しています」 「副長官から電話があった」 「え、父から?」 「結果がお気に召さないそうだ。だが、私は内容を変えようとは思わない。それでいいな?」 「はい、十分です。ありがとうございます」
マーティンがオフィスを出ると、ボスはフィッツジェラルド副長官に電話をかけた。 「本人はあれで納得をしていますので、私は覆しませんよ」 電話の奥からがみがみと嫌味が聞こえるが、ボスは受話器を遠く離し「それでは、忙しいので失礼します」と電話を切った。 全く、お預かりのお坊ちゃまがいると大変だ。 ボスはふーっとため息をついた。
ダニーは、ボスのオフィスから戻ってからマーティンの元気がないのが気になった。 「今晩、捜査会議?」メールを打つ。 「了解@拙宅」返事がすぐに来た。 定時になり、二人は時差を置いてオフィスを出て、地下鉄の駅で待ち合わせる。 「お前、大丈夫か?」 「うーん、そうでもない」 「話聞いたるから、もうちょい待ってろ」
ゼイバースでタイ風チキンBBQやジャンバラヤ、エビのソテーにラビオリサラダを選ぶダニーに離れて、 マーティンはコッポラのビアンコを選んでいた。 マーティンの家に着き、ダニーが皿にきれいにデリを盛り合わせる。 マーティンは静かにワインを開けて、バカラのグラスに注ぐと、ぐいっと一人で飲み始めた。
「おい、乾杯まだやのに」ダニーがおどけるが、マーティンは笑わない。 こいつ、相当落ち込んでるわ。 ダニーも自分のグラスにワインを注いで、一口飲んだ。ダイニングに着く。 「それで、どないした?」 「あのさ、この間の人事査定あったでしょ?」 「あぁ」 「父がさ、ボスに情実査定しろって圧力かけたんだよ」 「はぁ?オヤジさんもようやるな、ボスはどうした?」
「当然断ってくれた。僕、自分の父親が恥ずかしいよ、ダニー」 ダニーは言葉に窮したが「お前の事が可愛いんや。だから・・・」とだけ言った。 「でも僕は僕の道を行きたいのに。成績悪いのだって反省してるのに」 マーティンの青い瞳から涙があふれ出た。 ダニーが急いで駆け寄って、ハンカチを渡す。 マーティンはダニーのウェストに腕を回すと、しくしく泣いた。
ダニーはマーティンの頭を抱き締め、しばらくそっと立っていた。 「ありがと、ダニィ、僕みたいな後輩、迷惑だよね?」 「そんなんないで。それにお前は後輩やない。同僚や、大切な奴や」 「本当?」 「あぁ、それに、お前を愛してる」 ダニーは思わず口に出して言った。 「本当?」 「あぁ、俺がウソつくと思うか?」 マーティンはぶるんぶるんと首を横にふった。
「さぁ、冷めるで、早く食おう」 「うん」 マーティンは俄然、スピードを出してフォークを動かし始めた。 あぁ、今日も帰れそうにあらへんな。 ダニーはぼんやり考えながら、チキンBBQにかじりついた。
980 :
fusianasan :
2007/01/23(火) 21:08:49