【Without a Trace】ダニーテイラー萌え【小説】Vol.4
NHK-BS2で放送された海外ドラマ「FBI失踪者を追え」
ダウンタウン出身ダニー・テイラーを元にしたエロネタ小説のスレ
現在、書き手1と書き手2にて創作中。
新しい書き手の参加も大歓迎です。
ダニー・テイラー役、Enrique Murciano HP
http://www.imdb.com/name/nm0006663/ [約束]
・荒らしと叩きは相手にしないようにしてください
・アンチを見つけてもスルーしてください
・このドラマの他の関連板に感想などを書くのは控えてください
翌朝アランは先に目が覚めた。隣りでダニーが規則的な寝息を立てている。
やれやれ、昨日は大変だった。痛む局部をかばうように起き上がり、
コーヒーメーカーを仕立てる。
冷凍庫を見ると、ベーグルが綺麗に並べられていた。
ダニーらしい。思わずくすくす笑いをするアラン。
6 :
書き手1 :2005/11/21(月) 23:16:25
ダニーが目をこすりながら起きてきた。
おまけにパジャマの局部がテントの状態だ。
「おはよう。ダニー。」「おぉはよー、アラン。コーヒー?」
「僕が入れてるよ、シャワーに行っておいで。」
「ふぁい。」ダニーと入れ替わりにアランがシャワーに入る。
朝立ちは自分で処理したようだ。
7 :
書き手1 :2005/11/21(月) 23:17:44
機能が衰えたわけではないのは明白だ。
アランはダニーの不能の原因を考えながらシャワーを浴びた。
シャワーから出ると、ダニーがベーグルを解凍させ、
サーモン&クリームチーズのサンドを作っていた。
「アラン、コーヒー入ったで。」「ああ、サンキュー。」
マグのコーヒーを受け取る。「俺、ベーグルは支局で食うわ。」
「そうかい。じゃあ僕は頂くよ。」「うん。」
8 :
書き手1 :2005/11/21(月) 23:19:28
「昨日の俺って、どうやった?」
「はっきりしたのは、機能自体の低下ではないって事だ。
心理的に何かがトリガーになって妨げているようだね。」
「また催眠療法で治るやろか。」
「ちょっと時間をくれないか?僕もこの件は初めて扱うから、調べてみるよ。」
「ありがとう、アラン。」ダニーがアランの頬にキスした。
アランがダニーの顔を自分に向けさせ、ディープキスをする。
「モカの味や。」「お互いね。」二人で笑う。
「僕は勝手に出て行くから、先に出勤したらどうだい?」
「ありがと、アラン。また連絡するわ。」「ああ、待ってるよ。」
9 :
書き手1 :2005/11/21(月) 23:21:52
ダニーの心はすでに今晩のケンとマーティンとのディナーに向いていた。
ケンからマーティンを守るにはどうしたらいい?
出勤するとケンからメールが入っていた。「今晩の打ち合わせ予定通り?」
しぶしぶ「予定通り。」とだけ返信した。
さて、あいつと日本酒のがちんこ勝負は無理だから、ドイツ料理にでもいくか。
アッパーイーストサイドの「ハイデルベルグ」に予約を入れて、
地図と時間だけ書いてマーティンとケンに送った。
10 :
書き手1 :2005/11/21(月) 23:23:43
はぁ〜、今日はどうなることやら。
ただでさえ、昨晩のアランとの情事の後で身体がだるい。
今晩はアルコールを控えよう。
定時になり、PCを片付けていると、サマンサが寄って来た。
「ねぇ、あの日本人の子、彼女いるの?」「さぁな、いないと思うけど。」
マーティンも聞いているから嘘がつけない。
「私、アジア系と付き合ったことないのよね。今度、食事とかあったら私も入れてね。」
「ああ、ええで。でもええんか?」
「うん、気にしないで。私も前向きに生きなくちゃ!」
サマンサはそれだけ言うと帰って行った。
11 :
書き手1 :2005/11/21(月) 23:25:18
ダニーはマーティンとタクシーを分乗して「ハイデルベルグ」に向かった。
すでにケンはビールの大ジョッキを片手にウェイトレスと話していた。
「ダニーとマーティン!すごく僕うれしいです。FBIのお二人と食事が出来るなんて。」
「御託並べんと、注文や。」ダニーは素っ気ない。
「今日はアイスバインがお勧めだって。」
「じゃ、アイスバインとソーセージ盛り合わせと、キャベツの酢漬けな。
あと俺たちにも大ジョッキ2つ。」ダニーがぱっぱと注文する。
マーティンはあっけにとられていた。この二人、相当親しそうだ。
12 :
書き手1 :2005/11/21(月) 23:27:07
「ケンはどうしてダニーと知り合ったの?」
マーティンは単刀直入に一番聞きたい事を尋ねた。
「アランをご存知ですか?」「ああ。」
「彼の親友が僕の上司なんです。それで、食事会で知り合って。それ以来の仲です。」
「ああ、ギルバートが上司?」「ご存知なんですか?」「パーティーで何度か話したから。」
「じゃあ話は早いや。僕らサークルみたいなもんですよね。」
「何かお前が言うとインチキなサークルに聞こえるよ。」
ダニーがちゃちゃを入れる。「そうかな。」ケンは首を傾げる。
13 :
書き手1 :2005/11/21(月) 23:28:43
「あ、僕、最初に言っちゃいますけど、女性がだめなんです。」
「えっ君、ゲイなの?」マーティンが驚く。
「はい。中学の時に保健の先生にいたずらされて以来、女性が怖くて。」
「僕も小さい頃看護婦にいたずらされて、それ以来だめなんだよ。」
「マーティン、共通項がまた増えましたね。」
ダニーは二人の会話を聞きながら、ケンの会話の巧みさに恐れ入っていた。
弱みを見せて人の懐へ入っていく。さすがインターポールの捜査官や。
14 :
書き手1 :2005/11/21(月) 23:30:13
「君、ギルによくしてもらってるんだろ。誘われたりしないの?」
にわかにマーティンが興味を持ったようだ。
「ええ、でも年齢が違いますから。」
「君いくつ?アジアの人は分かりにくいんだよね。」
「28歳です。」「じゃ、君が大学1年生の時、僕とダニーは大学4年生だね。」
「先輩、乾杯しましょう!」「おう、いいとも!」
いつになく饒舌なマーティンにダニーは驚いた。
15 :
書き手1 :2005/11/21(月) 23:31:39
料理も運ばれ、皆、腹が膨れるほどドイツ料理を満喫した。
するとダニーの携帯がなった。「失礼。」席を立って応対するダニー。
アランからだった。「今、どこだい?」「同僚とアッパーイーストで食事。」
「帰り寄らないか。分かった事もあるから。」「じゃぁ行くわ。」
席に戻ると、マーティンとケンが大笑いしていた。
あんな屈託のないマーティンの笑い顔を見るのは久しぶりだ。
16 :
書き手1 :2005/11/21(月) 23:33:32
「恋人から呼び出しですか?」ケンが尋ねる。「そんなわけないやろ。」
マーティンがぎろっとダニーを睨む。
「僕ら、今日、もう一軒行くことにしたんですけど、ダニーは?」
「俺は済まない、ここで失礼するわ。」
マーティンの事が気にかかっていたが、ダニーの心は自分の問題の方に向いていた。
「それじゃ、マーティン、またな。」「ああ、ダニー、気をつけて。」
「ダニー、アランによろしく!」「ケン!」「あ、ごめんなさあい!」
二人を残してダニーはレストランを後にした。呆然とするマーティン。
17 :
書き手1 :2005/11/21(月) 23:36:09
「ケン、これからどこに行く?」
「どうでしょう、明日休みでしょ。踊りに行きましょう。」
「僕、ダンスはちょっと。」
「貴方ならどんな動きをしていてもフロアの注目をさらいますよ。さあ。」
ケンはミートパッキングエリアの「パッサーバイ」に案内した。
ギルと何度も来ている場所だ。「VIP席へどうぞ。」
「君も特別待遇なんだね。」
「僕が日本人だから。顔が円マークに見えるんでしょう。それより、ダンス!」
18 :
書き手1 :2005/11/21(月) 23:37:46
ケンの身体は筋肉そのものだった。
ブレークダンスに近いダンスもやってのけ、フロアの皆から喝采を浴びていた。
マーティンも少しずつ、ビートに慣れてきて、身体が自由に動かされるようになっていた。
ケンがマーティンの目の前にやってきた。完全にタンゴモードだ。
マーティンの後ろに立ち、身体の線に沿って、ケンがマーティンとリズムを合わせて踊る。
扇情的な動きで、周りから口笛と歓声が起こる。
19 :
書き手1 :2005/11/21(月) 23:38:48
ケンがマーティンを見上げながら囁く。
「僕らいいカップルになれると思わない?」「ああ、そんな気もするよ。」
ケンはほくそ笑んだ。一丁上がりだよ、ダニー。
マーティンはビールとクラブで飲んだカクテルで酩酊状態になっていたが、
ケンがダニーと寝たかどうか確かめるまで、帰りたくなかった。
20 :
書き手1 :2005/11/21(月) 23:40:03
二人でクラブを出て、ケンのアパートに向かう。
オリエンタルなお香の香りがする部屋だった。
「マーティン、シャワーどうぞ。」「ありがと。」足がよろめいている。
「大丈夫ですか?」「ああ。」
マーティンは冷たいシャワーで頭をはっきりさせると、外へ出た。
バスローブを広げたケンが待っている。目線は局部に釘付けだ。
マーティンは恥ずかしくなり、「見るなよ。」と後ろを向いた。
21 :
書き手1 :2005/11/21(月) 23:41:21
ケンは耳元で「マーティン、可愛い。」と囁くと首筋に舌を這わせる。
「ケン、だめだよ!」「いいじゃない。お互い決まった人いないんでしょ。楽しもうよ。」
「いけないよ!」マーティンはケンを突き飛ばした。ぷぅっと膨れるケン。
「ダニーなんてすぐ寝てくれたのに、随分違うんだね。」
22 :
書き手1 :2005/11/21(月) 23:42:51
「えっ、今何て言った?」「ダニーはすぐに寝てくれたって言ったんだ。」
マーティンはわなわな震え始めた。「マーティン、どうかしたの?」「やっぱりだ!」
「う、うそだろ〜。二人付き合ってるの?ダニーにはアランがいるじゃない?」
アランの事をそう言われ、マーティンは覚悟をしていたのに、ショックで泣き始めた。
またダニーに嘘をつかれ、裏切られた!
23 :
書き手1 :2005/11/21(月) 23:43:55
ただ事ではないと察知したケンは、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出すと、
マーティンに渡した。「いらないよ。」
「僕、ベッドルームにいるから。マーティンの気持ち次第だよ。」
ケンは立ち尽くすマーティンをそのままにして、ベッドルームへ去った。
ケンがベッドの中にいると、隣りにマーティンが入ってくる気配がした。
「マーティン・・・」「何してもいいよ、ケン。」「そういうの不得意だから。」
ケンはマーティンをただ抱きしめるようにして眠りに入った。
ダニーはマーティンと一緒にブルックリンのアパートへ帰った。
マーティンは緊張しているのか、口数が少ない。
「晩メシどうする?」
「何でもいい、あんまりおなか空いてないから」
「お前が?オレ、怒ってへんて言うたやろ?まあ、とにかくメシや」
ダニーは冷蔵庫をあさり、材料を探した。
「ペペロンチーノかペンネアラビアータぐらいやなぁ。どうする?」
「・・・両方」
ダニーは肩をすくめると、湯を沸かし始めた。
25 :
書き手2:2005/11/23(水) 00:14:57
食事の間もマーティンはほとんど話さなかった。
ずっと押し黙ったままマルガリータを飲んでいる。
ダニーは食器を片付けると、マーティンに向き合った。
「昨日、トロイに会って話は聞いた。お前、あいつのこと好きなんか?」
「ごめんなさい。ダニーが怒るのも無理ないよ・・」
「オレよりあいつがええんか?はっきり言うてくれ」
「僕はダニーを愛してるんだ。スチュワートのことは何とも思ってない」
「そうか。それやったらもう忘れよう」
ダニーはマーティンの横に座り、遠慮がちなマーティンを抱き寄せた。
26 :
書き手2:2005/11/23(水) 00:15:30
オーブンのタイマー音がして、ダニーはキッチンへ行った。
焼けたばかりの焼きリンゴにバニラアイスをてんこ盛りにし、シナモンを振る。
「マーティン、食べるで」
ダニーはリビングでうな垂れるマーティンに手渡し、自分も食べ始めた。
「ねぇ、まだある?」食べ終わったマーティンが聞いた。
「あるけど、まだ食べるん?」ダニーは呆れたが、マーティンはすかさず取りに行った。
「おいしいね、これ」言いながらパクパク食べている。いつものマーティンだ。
ダニーはくすっと笑い、マーティンの食べっぷりを眺めた。
27 :
書き手2:2005/11/23(水) 00:16:02
二人はシャワーの後、早めにベッドに入った。ダニーは眠くて目がトロンとしている。
「ダニー、許してくれてありがとう。本当にごめんね」
「もうええって。オレも嫌な思いさせてごめんな」
しっかりと手をつなぎ、寄り添いながら目を閉じた。
マーティンが目を開けると、ダニーはすでに眠っていた。
甘えるように顔を擦りつけ、後ろめたさのない安堵感に包まれていた。
28 :
書き手2:2005/11/23(水) 00:16:57
顔の痣がようやく消えた土曜の朝、スチュワートから久々に電話があった。
「あ、オレだけど。元気だった?」
「うん、スチュワートは?」
「オレも。よかった、名前も忘れられてるかと思った。今からチェルシーピアに行かないか?」
「僕、まだベッドの中なんだよ」
「何だよ、せっかくの休日なのに。早く着替えろ、ゴルフバッグもな」
「あの・・ヘンなことはなしだよ、いい?」
「ああ、約束する。今から行くよ」
29 :
書き手2:2005/11/23(水) 00:17:29
スチュワートはすぐにやって来た。
「早いよ〜、まだ髪も乾いてないよ」マーティンはバスローブ姿のままだ。
「道路が空いてたんだ。待ってるから気にしないで」
マーティンはあたふたと用意している。
「慌てなくてもいいよ。オレ、部屋の中探検してるから」
「ちょっ、スチュワート!」マーティンは大慌てで止め、スチュワートは笑い転げた。
30 :
書き手2:2005/11/23(水) 00:18:02
チェルシーピアでゴルフをしていると、携帯に電話が入った。
父・携帯と表示されている。出ようかどうか迷ったが、出ないわけにはいかない。
「はい、マーティンです」
「今どこにいるんだ、マーティン?」
「チェルシーピアですけど」
「週末は空けておけって言っておいたのを忘れたのか?」
あちゃー、すっかり忘れてたよ・・・。マーティンは青ざめた。
31 :
書き手2:2005/11/23(水) 00:18:55
「すみません、忘れてました」
「忘れてただと?チャイナタウンのアオザイにいる、すぐに来い!」
父の怒りがひしひしと伝わってくる。
「でも、まだ途中で・・・」
「何度も同じ事を言わせるな。わかったか!」
「・・・はい」
「本・当・に・わ・か・っ・た・の・か!」
「はい、明確に」マーティンは冴えない表情で電話を切った。
32 :
書き手2:2005/11/23(水) 00:19:30
「どうしたんだ?」ただ事ではない様子に、スチュワートが気遣った。
「ごめん、すぐに行かないと。父が来るのを忘れてた」
「そうか、じゃあ帰ろう。送ってやるよ」
「そんなの悪いよ。ここもまだ途中だし・・・」
「オレのことなら心配ない。さあ、行くぞ」
スチュワートはさっさと荷物をまとめ、マーティンを促した。
33 :
書き手2:2005/11/23(水) 00:20:05
スチュワートはマーティンを車に乗せた。「どこに行けばいいんだ?」
「チャイナタウンのアオザイ」マーティンは憂鬱で話す気力もない。
「ああ、オレたちが行くベトナム人の店じゃないか。急ごう!」
スチュワートはウエストストリートを飛ばし、アオザイに着いた。
マーティンはなかなか車から降りようとしない。
「ゴルフクラブは後で届けてやるから。さ、もう行けよ」
「行きたくないんだよ。すっぽかそうかな・・・」
スチュワートは事情が呑み込めず困惑した。
34 :
書き手2:2005/11/23(水) 00:20:36
「なぁ、おい?どうしたんだよ?」
「ごめん、もう落ち着いた。僕、行くね」
マーティンは礼を言うと車を降りたが、店の前で深呼吸をして動かない。
スチュワートは訝しげに見つめ、車を降りた。
「本当に大丈夫か?顔色が悪いぞ」
「うん・・・へーき」マーティンはフラフラとアオザイに入っていった。
35 :
書き手2:2005/11/23(水) 00:21:17
店に入ると、父とボスが食事をしていた。
「やっとお出ましのようだな、マーティン」
「申し訳ありません。ゴルフに行ってたものですから」
「私とゴルフとどっちが重要なんだ?」
マーティンはうつむいたまま黙り込んだ。
「もういい、お前も早くオーダーしろ」
「はい」マーティンはメニューを見たが、文字が素通りしていった。
翌朝、ケンは隣りで良く寝ているマーティンの顔を眺めていた。
こんなにハンサムなのに、恋愛が上手く出来ないなんて可愛そうだ。
相手がダニーとは気がつかなかったな。
おでこに静かに唇を当てると、マーティンを起こさないように布団を出た。
37 :
書き手1:2005/11/23(水) 00:44:14
ケンの朝はコーヒーとトーストから始まる。
これは日本にいた時からの習慣だ。
コーヒーメーカーを仕立て、シャワーを浴びる。
破格のオファーで駐在しているので、シャワーブース付きのバスルームだ。
シャワーを出ると、マーティンが眠そうな目をこすりながら、起きてきた。
38 :
書き手1:2005/11/23(水) 00:46:15
「おはよう、ケン。昨日はごめんな。」
「僕こそ、心ない言葉、本当にごめんなさい。シャワー浴びてください。マーティン。」
「ありがとう。」マーティンがシャワーから出る頃、トーストが焼きあがった。
「マーティン、バターとジャムどっちがいいですか?」「できれば両方。」
「了解。」ダイニングにいい焼き色に焦げたトーストとジャム、バター、コーヒーが並んだ。
「簡単でごめんなさい。」ケンが謝る。
「僕なんか、もっと無精だよ。君はNY1ヶ月で良く慣れたね。」
「まだまだ。ギルの助けなければ出来ない事ばかりで、自分の無力さを悟ってる毎日です。」
するすると言葉が出てくるケン。
39 :
書き手1:2005/11/23(水) 00:48:17
「ねぇ、ケン、昨日の事話していいかな。」「どうぞ。」
「誰でも誘うの?」「まさか!僕にも分別はあります。好みに感じた人しか誘いません。」
「じゃあ、僕も君の好みの範疇なんだ。」「うん、ストライクゾーンど真ん中ですよ。」
ケンは無垢な微笑みを浮かべた。
「ふうん。君みたいな子なら、誰もがO.K.するだろうに。」
「だから逆にNYでは遊ばないんです。確かに日本人はもてます。でも怖いでしょう?
だから身元のしっかりした人で僕の好みの人としかしません。」
「それじゃ、アランの友達仲間はぴったりだね。」
「ええ、皆さん、プロフェッショナルで素敵ですしね。」
40 :
書き手1:2005/11/23(水) 00:50:36
マーティンは聞きにくい質問をついに口に出した。「ダニーとは?」
「ダニーが日本酒飲み過ぎてへばってた時に僕が襲いました。
彼は、ほとんど意識が無かったんじゃないかな。」「そうなんだ。」
「だから、ダニーを責めないで下さい。僕がちょっかい出したのがいけないから。」
「君は優しい子だね。」「はぁ?」「ダニーをかばおうとする。」
「僕だってお人よしじゃないですよ。それに、僕、本当は弁護士じゃないんです。」
41 :
書き手1:2005/11/23(水) 00:51:37
「えっ?」ケンは自分の本当のIDを見せた。「インターポール?!」
「潜入調査中です。」「驚いた!」
「ギルの事務所はNYで最大手で、結構怪しいクライアントも多いんですよ。
たまたま僕が選ばれて、ここに来ました。」「そうなんだ・・・。」
42 :
書き手1:2005/11/23(水) 00:53:11
「お互い、同業ですから、仲良くしてもらえませんか?」
「もちろんだとも。君がダニーに手を出さなければね。」
「あいたたた。辛いですね。ダニー、すごくセクシーだし。
それに、バイだって言うじゃないですか?貴方はそれを許せるの?」
「まだ葛藤中。」「アランは?」「主治医だから仕方ないさ。」
「マーティン、人が良すぎるよ。もっと強気で出ないと、ダニーみたいなタイプは逃げていくよ。」
「そうかな。」「そうですって。」
43 :
書き手1:2005/11/23(水) 00:56:51
「僕、周りの人とちょっとズレてるみたいなんだよね。」
「それが個性ですよ。マーティン、可愛いもん。」
「年下から言われるとはなー。情けないよ。」
「卑下することないですよ。マーティン、本当に魅力的だし、
僕、すごく惹かれてます。でも貴方が、いいと思うまで
僕、待ちますよ。貴方との関係はゆきずりじゃない。大事にしたいんだ。」
「ケン・・・・何だか照れくさいな。」「でも、本気だからね。」
44 :
書き手1:2005/11/23(水) 00:59:15
「そうだ、今日、フォーシーズンズのブランチに行きましょうよ。」
「気晴らしになるかな。」「絶対、あそこのブランチ美味しいもん。」
二人でタクシーに乗ってフォーシーズンズに出かける。
席に案内されていると、「マーティン!」「ケン!」と呼び止める声がした。
ダニーとアランだ。
45 :
書き手1:2005/11/23(水) 01:01:57
「来てたんだ!」ケンが嬉しそうな声を上げる。アランがテーブルセッティングを
変えてもらうよう、ウェイターに頼んだ。ダニーはマーティンに一瞥をくれたきり
だまったままだ。「マーティン、オードブル取りに行きましょう!」
ケンに促されて、オードブルのテーブルへ向かう二人。二人の背中をダニーは
ずっと眺めていた。
46 :
書き手1:2005/11/23(水) 01:05:59
「気になるかい?」アランがダニーに尋ねる。「ノーコメント。」
「相当気になってるようだね。ケンとマーティンが寝たかどうか。」
「俺、知らんわ。」ケンが戻ってきて、「この事はギルには内緒にしてくださいね。」と
念を押した。「あぁ、お前のゆるーい貞操観念の話はギルには内緒にしたるわ。」
ダニーが憎憎しげに言う。「いじわるしないでくださいよ。」
マーティンが皿山盛りにオードブルを持って戻ってきた。
ダニーの視線が痛い。
47 :
書き手1:2005/11/23(水) 01:11:27
「ケン、昨日は楽しかったか?」
「ええ、ミートパッキングエリアのクラブで二人ではじけちゃって。」
「ケンはブレイクダンスも出来るんだよ。」マーティンが続ける。
「へぇ〜。おじさんの出る幕はなさそうな話だな。」アランが場を和らげようとする。
「じゃあ、今度、俺とケンでクラブ行こう。アランも監視つきで。」
「どうせなら、ギルも呼んでみんなで行きましょうよ。楽しみだ。」
あくまでシラをきり通すケンも大したものだった。会話は硬直したまま
ブランチ最後まで続いた。「じゃあ、僕ら、お先に。」ケンがマーティンを
連れて、出て行く。その後姿をダニーはずっと睨み続けていた。
48 :
fanですw:2005/11/23(水) 04:10:18
なんかスチュワートもケンも本気出してきてませんか?
ダニーとマーティンが幸せになる日が遠のいたみたいですけど、
すごく面白いです。これからもがんがってください。
応援しています。
マーティンがふと入り口を見ると、スチュワートが入って来た。
「スチュワート!」
「やあ、マーティン」何気ない振りを装うスチュワート。
「マーティン、知り合いか?」気づいた父が訊ねた。
50 :
書き手2:2005/11/24(木) 00:20:14
「あ、あの、僕の主治医のドクター・バートンです。スチュワート、僕の父です」
「はじめまして、ドクター・バートン。息子がいつもお世話になっているようで」
「こちらこそ、はじめまして。スチュワート・バートンです。失礼ですが、フィッツジェラルド副長官ではありませんか?」
「いかにもそのフィッツジェラルドだが」
「やはりそうでしたか。時々CNNニュースで拝見しております。お会いできて光栄に存じます、副長官」
ヴィクターの機嫌は瞬く間に良くなった。
51 :
書き手2:2005/11/24(木) 00:20:55
「ドクターもご一緒にどうぞ、この子の体のこともお聞きしたい」
「でも、お邪魔でしょうし・・・」スチュワートは遠慮した。
「そう仰らずに。どうぞご遠慮なく」
「では、お言葉に甘えて。マーティン、君のお父上が副長官だなんて驚いたよ」
スチュワートはボスにも初対面のように挨拶し、魅力的な笑顔を振りまいた。
マーティンは一瞬不可解な表情を浮かべたが、ハっとしたようにメニューに視線を落とした。
52 :
書き手2:2005/11/24(木) 00:21:28
ボスはスチュワートの挨拶を聞いて再確認した。やはりバートンだ、こいつはトロイではない。
確かマーティンの浮気相手のはずだが・・・。
私とも初対面の振りをするとはなかなかやるな、こいつ。
とにかく今日はダニーがいなくてよかった。やっかいな揉め事はごめんだ。
ボスは心の中でひとりごちた。
53 :
書き手2:2005/11/24(木) 00:22:01
スチュワートはいつもの調子でオーダーし、マーティンも同じものを頼んだ。
マーティンがニョクマムを抜くようにオーダーしているのを聞き、
ボスは笑いそうになったがなんとか堪えた。
「ドクター・バートン、うちの子の健康状態はどうですか?」
「それに関しては守秘義務があるので・・・」スチュワートは言葉を濁した。
「マーティン、聞いても構わないだろう?」
「ええ。どうぞお話ください」従順なマーティン。
「それじゃ、どこにも問題はないですよ。健康そのものです。
ただ、少し胃が荒れてましてね、ストレスは厳禁ですよ。特にプレッシャーはいけませんね」
54 :
書き手2:2005/11/24(木) 00:22:36
「この子は昔から線が細くてね。いいかマーティン、体には気をつけろ」
「はい・・・」
「ストレスは万病の元ですよ。副長官も職務上、ご心労が絶えないでしょう」
「まったくだ。特に昨今はテロの危機でピリピリしてますからな」
「怒りや苛立ちは寿命が縮むんですよ。百害あって一利なしです」
「なるほど。マーティン、お前にもきつくあたらないように注意しよう」
医者に言われたせいか、ヴィクターは神妙な顔をしている。
55 :
書き手2:2005/11/24(木) 00:23:08
料理が運ばれ、食事の間もスチュワートはマーティンを褒めちぎった。
ゴルフはみんなの共通項なので、場は和やかに盛り上がった。
息子を褒められたヴィクターはすっかり相好を崩して喜んでいる。
親バカヴィクター、一丁上がり、ボスは生春巻きを食べながらほくそえんだ。
マーティンを盗み見ると、これまた来た時とは打って変わって嬉しそうだ。
なるほど、マーティンがバートンにのめりこむわけだ。
56 :
書き手2:2005/11/24(木) 00:23:41
食事が終わり、ヴィクターはチェックを済ませた。
「今日は実に有意義な時間を過ごせたよ。ジャック、いつもすまない。
ドクター・バートン、息子を頼みます。仲良くしてやってください。今度のゴルフも楽しみにしてますよ」
「そんな、副長官・・・恐縮です。こちらこそよろしくお願いします。今日はご馳走様でした」
スチュワートは恭しく握手を交わした。
「マーティン、支局以外に友達が出来てよかったな。私も心強いぞ」
「ええ、僕もそう思います」マーティンは調子を合わせた。
ヴィクターをタクシーに乗せて見送ると、マーティンは大きく息を吐いた。
57 :
書き手2:2005/11/24(木) 00:24:13
ボスがマーティンの背中をポンと叩いた。「お前を待っている間、私は針のむしろだったんだぞ」
「すみません。父のことをすっかり忘れてました」
「お前にしてはえらく呑気だな」ボスは呆れた。
「マローン捜査官、先ほどは初対面のフリをしてしまい大変失礼しました。咄嗟に判断したもので・・・」
「いえいえ、助かりましたよ。頭の回転が速いお方だ。それじゃ、ここで解散としよう」
三人は挨拶を交わし別れた。
58 :
書き手2:2005/11/24(木) 00:24:45
ボスが見ていると二人は店の前に停めてあったTVRに乗り込んだ。
マーティンが嬉しそうにバートンに話しかけている。
もう一人のトロイとやらはどんなヤツなんだろう?
ダニーもボヤボヤしてるとマーティンを手放すことになるかもしれん。
まあ、あいつは女好きだから問題ないか。
ボスは自分の車に向かって歩き出した。
59 :
書き手2:2005/11/24(木) 00:25:17
「スチュワートが入ってきたときは心臓が止まりそうだったよ」
「せっかくの会食なのに、邪魔して悪かったな」
「ううん、どうやって逃げようかそればっかり考えてたんだ。ありがとう」
マーティンはそっと手を握った。スチュワートはしっかりと握り返す。
「副長官だなんてすごいなぁ。まったく、オレの飲んだくれ親父とは大違いだぜ」
スチュワートは掛けていたダークオレンジのサングラスを頭に乗せた。
60 :
書き手2:2005/11/24(木) 00:25:51
「どうして僕のことをあんなにも褒めたのさ?」
「息子を褒められて怒るバカはいないだろ?」
「なるほど・・・」
「でも、オレ、嘘はついてないぜ。本心から褒めてる」
グリーンの目に見つめられ、マーティンは恥ずかしくて視線をそらした。
「そんなに照れるなよ、フィッツジェラルド捜査官」
スチュワートはマーティンの手を自分のペニスに押し当てた。
「かわいいから、入れたいってさ」他人事のような言い方に、マーティンはくすくす笑った。
61 :
書き手2:2005/11/24(木) 00:26:24
二人はパヤードでタルトを買った。もう少しでマーティンのアパートだ。
「今夜は一緒に過ごしたい」突然の申し出にマーティンは戸惑った。
「僕、ダニーのこと裏切れないよ。スチュワートも好きだけど、そういうのじゃないんだ」
「わかってる。ヘンなことはしない。約束する!」スチュワートは言い切った。
「わかった、信じるよ・・スチュー」
「スチューはやめろよな。今度呼んだら犯してやる!」
二人はじゃれ合いながらアパートへ入っていった。
62 :
書き手2:2005/11/24(木) 00:26:56
留守電がピコピコ点滅している。父とダニーとダニーとダニーだ。
マーティンはすぐにダニーの携帯に電話した。
ダニーは出ない。マーティンはあきらめて切り、スチュワートとタルトを食べた。
夜が更けるにつれ、マーティンはドキドキしてきた。
シャワーを浴び、あとは寝るだけだ。
寝る前にもう一度掛けたが、ダニーは出なかった。
63 :
書き手2:2005/11/24(木) 00:27:29
「そろそろ寝ようか」スチュワートはTシャツとトランクスでベッドに入った。
マーティンはベッドの端に寝転んだ。
「何もしないって!落っこちても知らないぜ?」
「約束だよ」マーティンは少しだけ近寄った。
心配する必要もなく、スチュワートは何もせずに眠ってしまった。
マーティンも安心して眠れる。
64 :
書き手2:2005/11/24(木) 00:28:01
ダニーは深夜マーティンのアパートに来た。室内は真っ暗で静まり返っている。
まっすぐベッドルームにいくと、そっとマーティンの横にもぐりこみ、ほっぺにキスをした。
ベルガモットのいい香りがする。ダニーは耳を舐めた。
「うぅん・・」マーティンはぐっすり眠っている。
「ただいま、ええ匂いやな」ダニーはささやきながら横に寝転ぶと眠ってしまった。
65 :
書き手2:2005/11/24(木) 00:28:33
スチュワートはマーティンが急にくっついて来たのでその気になったのかと思い、
寝ぼけながらペニスに触れた。しばらく弄んでいるとぬるぬるしてきた。
興奮したスチュワートは自分のペニスを擦りつけた。亀頭が触れ合うとぞくっとした快感が走る。
「うぅ・・イキそうや」寝ぼけて掠れたダニーの声が漏れた。
えっ!テイラー?驚くと同時にダニーの生温かい精液が自分のペニスに飛んだ。
スチュワートは、横にいるのがダニーだと気づくと素早く精液を拭って始末した。
ダニーのトランクスを元通りに直し、帰ろうか迷ったもののそのまま目を閉じた。
月曜日の昼、早速、副長官がDCからお出ましだ。支局全体が緊張する。
「親父さん、みえたで。」「今回は僕に関係ないよ。」
マーティンは平常心で接しようと思っていたが身体が硬直していた。
副長官はボスと話をしている。ダニーは呼ばれる準備をした。
「テイラー捜査官、ちょっと来るように。」
「はい!行ってくるわ。」ダニーはプラダのスーツとタイで決めて来ていた。
67 :
書き手1:2005/11/24(木) 20:38:02
ボスの部屋に入ると、座るよう促される。「そう硬くなるな。」ボスが声をかける。
「はい。」「テイラー捜査官、君に尋ねたいんだが、息子の事だ。」
「はい?フィッツジェラルド捜査官の事ですか?」
「君たちが相当親しいのは分かっている。そこでだ、単刀直入に聞く。マーティンの性癖は普通か?」
うわ〜、えらい直球の質問やな。
68 :
書き手1:2005/11/24(木) 20:38:58
「ええ、そうです。ただ付き合っている女性はいないはずですが。」
「いや、私が見合い話を持ってきても、ことごとく断られるので、つい心配になってな。」
「副長官、ご心配には及びません。もし何かありましたら、私が報告させていただきます。」
「ありがとう。DCに来てくれると思っていたのに残念だったよ。」
「その代わり、ご子息のご報告はお任せください。」「よろしく頼む。」
「はい、了解しました。」「話は以上だ。」
69 :
書き手1:2005/11/24(木) 20:40:57
はぁ〜、緊張した。何かと思えばボンの見張り役かいな。俺、知らん!
ダニーはぶつぶつ言いながら席に戻った。マーティンが心配して、話しかける。
「シリアスな話だったの?」「ああ、超シリアスやで。お前にとってな。」
「え?」「話は後や。仕事しよ。」ダニーはPCに向かって仕事に着手した。
早速マーティンからメールが飛ぶ。
「今晩捜査会議希望。」「了承。19時@自宅」と返信する。
70 :
書き手1:2005/11/24(木) 20:41:58
週末のケンとの経緯が知りたかった。
もしもの場合、自分の怒りを外食の場で抑えられる自信がなかった。
いつものビルの角でタクシーを拾う二人。
タイ料理のデリで、ソムタム、パッタイ、グリーンカレー、レッドカレー、ライスを買って帰る。
二人とも無言でダニーのアパートに入る。
71 :
書き手1:2005/11/24(木) 20:43:02
ダニーがジャケットを脱いで、デリの中身を皿に移している。
「そんな必要ないよ。」「デリのパックからやと味気ないやろ。」
マーティンはダニーのワインセラーを探って、タイ料理に合いそうなシャルドネを見つけた。
ダニーが冷蔵庫からビールを二本出す。ダイニングテーブルに着く二人。
72 :
書き手1:2005/11/24(木) 20:44:47
「それで、父さん、何だって?」「それより前に俺に言う事ないか?」
「あ、ケン・・・」「あいつに誘惑されたやろ。」「僕、寝なかったよ!」
「本当か?」「泊まったけど、寝なかった。信じてもらえるか分からないけど、これが真実。」
「そうか。奴にも分別があるんやな。」
「僕に分別があるって言ってよ。それより、ダニーこそ、ケンと寝たくせに。」
「あいつ、そんなんしゃべったんか?」
「どうなんだよ。」グリーンカレーをつつきながらマーティンが詰問する。
73 :
書き手1:2005/11/24(木) 20:45:47
「日本酒でとろとろになってる時につい出来心で寝てしもうた。」
「ほら、いつもダニーが浮気してるんだよ。僕を責める前に自分を責めなよ。」
今日のマーティンは強行姿勢だった。「ごめんな。」
「ごめんで済めばFBIはいらないよ。」「そやな。」
「アランとも主治医以上の付き合いなんでしょ。」
「それはない!断じてない!」これだけは嘘をつき通さなければならない。
74 :
書き手1:2005/11/24(木) 20:48:33
「そうかな。インターポール君はそうは言ってなかったよ。」
「あいつ正体明かしたんか?」「うんID見せてもらったよ。」
「何やお前の方がケンとえらい親しいやん。」「話すり替えないでよ!」
「だから、ごめんって言うてるやん。それ以上は逆さにふっても何も出んわ。」
「・・・・」「ごめんな、マーティン。俺はお前が大好きや。」
ダニーがマーティンを抱きしめようとした。マーティンが手をほどく。
75 :
書き手1:2005/11/24(木) 20:49:35
「懐柔しようとしたって無駄だよ。ダニー、一人じゃ満足出来ないんでしょ。
僕は一人を愛したいんだ。」
「・・・・じゃあ俺はどうすればええんや。俺のちんちんに赤いリボンでも巻くか?」
「何それ?」「誰とも寝ない印やん。」ぷっとマーティンが吹き出した。
「何やねん?」「だって姿を想像したらおかしくて。ははは。」
「そやな。ははは。」二人は思う存分笑った。わだかまりも溶けていく。
76 :
書き手1:2005/11/24(木) 20:51:26
「さ、冷めないうちに食事しよ。」「うん。タイのカレー美味しいね。」
「インドと違うやろ?お前が好きなんちゃうかなと思って選んだんや。」
「当たりだよ。シャルドネとの相性も最高。」
「お前、ストーンウォールのシャルドネ開けたん?」「うん。」マーティンは首を傾げた。
「あちゃー、もっと特別な時のためのワインやったんやぞ。」「ごめん。」
「まぁええわ。今日、お前が俺を許してくれたし、俺ら、今まで通りいけそうやな。」
あくまで楽天的なダニー。
「う、うん、努力するよ。」マーティンはまだ釈然としていない。
77 :
書き手1:2005/11/24(木) 20:52:35
「それよりか、親父さん、お前の性癖疑ってるぞ。」「うそ!」
「本当や。だから、今日呼ばれてな、お前の事を逐一報告するようにって頼まれた。」
「なんだよ、ボスだけじゃ足りないのか!」マーティンは父親に腹を立てていた。
「それだけお前に期待してるってこっちゃ、辛いな。」
「いっそダニーと付き合ってることをカミングアウトしたいよ。」
「おい、それだけはせんといて。俺の将来もかかってるから。」
「そうだね、ごめん。」
78 :
書き手1:2005/11/24(木) 20:53:59
「お前さぁ、FBIで名を上げたくないんか?」「うーん、どうかな。」マーティンが首を傾げる。
「父ちゃんをギャフンを言わせてDCに凱旋したくないんか?」
「確かに父さんに認められる仕事はしたいけどさ、まだ実力足りないもん。」
「お前って謙虚やな。」「そう?」
「企業犯罪から失踪者ユニットに移ってきて、結構経つやん。お前が手がかりを得て解決したケースもあるやんか。」
「うーん。」「もうちょっと自分に自信持ちな。自信は顔に現れるで。」「わかった。」
79 :
書き手1:2005/11/24(木) 20:54:58
ふぅ〜とため息をついた上で、マーティンが言った。
「今日はもっと、ダニーを怒ろうと思ったのに、父さんの話で、ふっとんじゃった。」
「副長官様様やな。」ダニーが安心したようにつぶやく。
「でも、また浮気したら、話は別だからね!」
「おーこわ。お前、迫力でてきたやん。」
ダニーはちゃかす事でマーティンの怒りをかわそうとした。
ダニーはマーティンに蹴られて目が覚めた。
いつもよりベッドが狭い・・・ん?トロイがオレの横に寝てるやん!
なんでやねん!まさか裸やないやろな?ダニーはそっと布団をめくった。
ダニーの目は前の膨らんだトランクスで留まった。
なにこれ!めっちゃでかいやん・・・・。ついつい自分のと比べてしまう。
マーティン、オレよりトロイのセックスのほうがええかもしれへん・・・。
81 :
書き手2:2005/11/25(金) 00:04:27
ダニーはマーティンの体に触れた。いつもどおりきちんとパジャマを着ている。
そっとパンツを下ろすと、朝立ちしたペニスが現れた。
ダニーはキッチンからオイルを取ってくるといたずらを始めた。
マーティンは眠ったまま体をもぞもぞさせている。
「んっ・・・スチュワートやめてよ・・僕ら、こういうことしない約束だろ」
ようやく目を覚ましたマーティンが手首を掴んだ。
82 :
書き手2:2005/11/25(金) 00:05:09
「オレや、トロイちゃうで」ダニーが足の間から顔を覗かせた。
「ダニー!なにやってんのさ!」
「しー!トロイが起きるやろ。ええから黙っとけって」
ダニーは再びアナルを弄り始めた。マーティンがスチュワートと寝るつもりがないのが嬉しい。
調子に乗って指を這わせた。マーティンの内腿は小刻みに震えている。
そろそろかな、いやまだあかん。ダニーは徹底的に快感を与えたかった。
83 :
書き手2:2005/11/25(金) 00:05:42
マーティンはスチュワートに気づかれないように手で口を塞いでいた。
声が漏れそうになるのを必死に堪える。
ダニーはそれを見てますます責め続けた。
足がガクガクしている。もうええやろ、ダニーは自分のペニスをあてがった。
「んんっ!」マーティンは思わず声を上げた。
ダニーはかまわず膝を掴んで腰を打ちつける。
マーティンの顔は紅潮して汗ばんでいる。抑圧と困惑が快楽に拍車をかけた。
84 :
書き手2:2005/11/25(金) 00:06:13
スチュワートはベッドの振動で目を覚ました。
横を見るとマーティンとダニーがセックスしている。
マーティンの喘ぎ声を漏らすまいと必死に耐える様子に興奮した。
ダニーはスチュワートが見ているのに気づいたが知らん顔で続けた。
マーティンはまだ気づかない。
85 :
書き手2:2005/11/25(金) 00:06:49
スチュワートはニヤリとしながらダニーを見た。
ダニーもじっと見返したままグラインドを続ける。
マーティンはスチュワートに見られているのに気づき、慌てて顔を塞いだ。
すかさずダニーはマーティンの手を押さえつけ、悶える様子をスチュワートに見せつける。
「あぁっ!」マーティンは背中を仰け反らせると射精した。
ダニーはマーティンの体を横向きにすると、結合部が見えるように挿入を繰り返した。
そろそろ限界だ。「出すで、くっ・・・」そのまま中に出すとぐったりともたれた。
86 :
書き手2:2005/11/25(金) 00:07:24
「おはよう、マーティン、テイラー捜査官。朝から元気だな」
スチュワートはにこやかに話しかけた。
「おはよう・・・」マーティンはきまりが悪くて小声になった。
「どうも、ドクター・バートン。こんなところでお会いするとは奇遇っすね」
「まあね。お先にバスルームへどうぞ。汗だくだから風邪を引きますよ」
ダニーの嫌味を受け流し、スチュワートはマーティンの額に張りついた髪をそっと払った。
マーティンはじっとしたまま動かない。
87 :
書き手2:2005/11/25(金) 00:08:03
「固まるなんてかわいいな」
クスクス笑われ、マーティンはますますカチンコチンになった。
ダニーの挑戦的な視線に応えるように、スチュワートはほっぺに触れた。
「マーティン、シャワー浴びよう」ダニーは引き離すように体を起こし促した。
「あ、うん」マーティンはゆっくり起き上がるとバスルームへいった。
「オレ、もう少し寝るから。ごゆっくりどうぞ」
スチュワートはマーティンにウインクすると、ブランケットにくるまった。
88 :
書き手2:2005/11/25(金) 00:08:36
ダニーは晴れやかな顔でヒゲを剃り、マーティンのも剃ってやった。
「ダニー、いつ来たのさ?」
「真夜中。よう寝てたからそっともぐりこんだんや」
「僕、昨日何度も電話したんだよ。どこに行ってたの?」
「買い物。それよりなんであいつがここに?」
「昨日、父さんとの約束をすっかり忘れててさ、ゴルフしてたら呼び出されちゃって・・」
「あー、オレも忘れてた!」
「それでね、スチュワートが送ってくれたんだけど、成り行きで一緒に食事したんだよ」
ダニーはあからさまに嫌な顔をした。
89 :
書き手2:2005/11/25(金) 00:09:10
「親父さん、怒らはったやろ?」
「そりゃあもう!スチュワートがいなかったらどうなってたかわからないよ」
「ふうん、それはよかったな」ダニーは素っ気ない。
「今度みんなでゴルフに行く約束したんだ」マーティンは無邪気に話した。
トロイのヤツ・・・ダニーは唇を噛みしめた。
90 :
書き手2:2005/11/25(金) 00:09:50
二人がバスルームから出ると、スチュワートはまだ眠っていた。
「こいつ、いつまで寝てる気やろ?早よ帰ればええのに」
ダニーは聞こえるように呟いた。
「ダニー、そんな言い方失礼だよ。僕の友達なんだから」
マーティンはダニーの背中を押してベッドルームから出た。
91 :
書き手2:2005/11/25(金) 00:10:35
ダニーの作ったフレンチトーストを食べていると、スチュワートが起きてきた。
「おはよう、スチュワートも一緒に食べようよ。ダニーは料理が得意なんだ」
ダニーはそっぽを向いたまま食べている。
スチュワートはマーティンの横に座り、グラスにミルクを注いだ。
ダニーは黙ってフレンチトーストのお皿を置き、カトラリーを渡した。
「サンキュ、テイラー捜査官!いただきます」スチュワートは遠慮なく食べ始めた。
螺旋状に剥かれたきゅうりに感嘆しながら、すっかり平らげた。
92 :
書き手2:2005/11/25(金) 00:11:10
食事が終わるとスチュワートは帰ると言い出した。
マーティンはガレージまで見送りに行っている。
「厄介払い完了っと!」ダニーは楽しそうに皿洗いをしながら鼻歌を歌った。
「スチュワート、いろいろありがとう。さっきはヘンなとこ見せちゃってごめんね」
「いいよ、気にしてないから。相手がオレじゃなくて残念だ」
スチュワートはいたずらっぽく微笑むと、マーティンを抱き寄せた。
「キスぐらいいいだろう?」返事も聞かずに舌を絡める。
「んっんん・・」マーティンはどきどきしながら離れた。
スチュワートはもう一度おでこにキスすると帰っていった。
スチュワートはデートがキャンセルになり、一人でクリアコートに来た。
マーティンとの勝敗レースは少し分が悪い。
負けず嫌いとしては練習あるのみだ。
ベンチにダニーがいるのを見つけた。マーティンもいるのか?
スチュワートは辺りを見回しながら隣に座った。
94 :
書き手2:2005/11/25(金) 21:49:51
「こんばんは、テイラー捜査官」
「どうも、ドクター・バートン」ダニーはそっけなく答えた。
「この前のフレンチトーストおいしかったよ。ご馳走さま」
「お気に召したようでなによりですわ」
ダニーはセックスを見せつけたことを思い出しニヤッとした。
「マーティンもいっしょなのか?」
「いいや、あいつはまだ居残り中や」
「そうか、大変だな」スチュワートはダニーの持っているボールに目を留めた。
ビギナー用の青いボール?丁度いい、からかってやろう!
95 :
書き手2:2005/11/25(金) 21:50:26
「テイラー捜査官、1ゲームいかがです?」
「え・・・オレと?」ダニーは戸惑ったが、断るのは癪だ。
「いいっすよ、やりましょう」
「お手柔らかに頼みますよ」スチュワートは心の中でほくそえんだ。
スチュワートがコートに入るとギャラリーが集まって来た。
マーティンとするようなゲームを期待しているらしい。
ダニーはプレッシャーに押しつぶされそうになったが、逃げるわけにはいかない。
96 :
書き手2:2005/11/25(金) 21:51:01
スチュワートは遠慮なくボールを打ちつけた。
ダニーは何とか打ち返そうとするが足元にも及ばない。
「どうした?テイラー捜査官」
「別に、続けよう」
ダニーはラケットをかまえたが、自分が打ち終わると即ボールが返ってくる。
しまいにわけがわからないままラケットを振り回していた。
97 :
書き手2:2005/11/25(金) 21:51:34
ギャラリーも期待はずれのゲームに、忍び笑いとともに消えた。
くっそー・・・ダニーは滝のような汗を流しながら悔しさを堪えた。
前後左右に飛んでくるボールに翻弄され、ダニーはパニック寸前だ。
あっけなく負け、ダニーは汗を拭いゲータレードをがぶ飲みした。
「ダニー、あの人とゲームしたって相手になるわけないじゃない」
スーザンが隣に座って呆れたように言った。
98 :
書き手2:2005/11/25(金) 21:52:08
ダニーは黙ったまま汗を拭っている。
「テイラー捜査官、彼女とデートだったのか」スチュワートも水を買うと隣に座った。
「テイラー捜査官?何それ?」スーザンが怪訝な顔で聞き返した。
不穏な空気が流れ、ダニーは言い訳を考えようと頭をフル回転させた。
「あなたIBMのエンジニアじゃなかったの?」
「それは、その・・・」ダニーがもごもご言いかけるが、スーザンは怒って行ってしまった。
99 :
書き手2:2005/11/25(金) 21:52:40
「オレ、何か悪いこと言ったみたいだ。すまない」スチュワートは謝った。
「ええねん、どうせ遊びやから」ダニーは平然とゲータレードを飲んだ。
「君もオレと大差ないってことか」スチュワートはククッと笑った。
「このことマーティンに言うんか?」
「いいや、悲しませたくないからね。ん?この場合は喜ばせることになるのかな」
「黙っててくれへんか?どうせまた次の女が出来るやろから」
スチュワートは黙って頷いた。
「そうや、負けたらディナー奢るんやろ?行こか?」
「ビギナーの君に?そんなわけにはいかない」スチュワートは笑って辞退した。
「いいや、以前ご馳走になった借りもあるし、奢らせてくれ」
ダニーの熱心な申し出に、スチュワートは誘いを受けることにした。
「好き嫌いがないからどこでも大丈夫でしたね」
「ええ、まあ」ダニーは内心焦りながら返事をした。
スチュワートは青パパイヤのサラダが食べたいといい、いつものアオザイへ行った。
ダニーも野菜なら気持ち悪いものなど出ないだろうと安心した。
スチュワートは適当にオーダーを済ませ、ダニーと世間話をしていた。
前菜に青白い卵が出て来た。ダニーは嫌な予感がしたが食べるしかない。
スチュワートはスプーンでコツコツ叩き、ひびを入れている。
ダニーも同じようにし、殻を開けた途端ひっくり返りそうになった。
「ひゃあ!なんやこれ!」中には鳥になる寸前の鳥が入っていた。
「ホビロンですよ。アヒルの孵化直前の卵をゆでたもので、アメリカじゃ貴重なんだ」
スチュワートはおいしそうに食べている。
グロ・・・うぇ・・・ダニーはスプーンを持つ手が震えた。
「食べないんですか?」返事をしようにも、ダニーは声も出ない。
スチュワートは嘴と思われるものを取り出している。
「騙されたと思って一口食べてみてくださいよ。絶対うまいから」
ダニーはスプーンですくってはみたものの、どうしても口に入れることができない。
よくよく見ると羽が生えかけで、目のようなものまである。
「すみません、無理です」ダニーは謝るとスプーンを置いた。
「おいしいのに・・・」スチュワートはダニーの分まで食べた。
その後はダニーでも食べられるものばかりで、食事は円滑に進んだ。
青パパイヤのサラダにニョクマムをかけているとスチュワートが笑い出した。
「どうかされたので?」
「いや、マーティンはニョクマムがダメなんだ。思い出すとおかしくて」
「ああ、この匂いやから」ダニーもくすっと笑った。
「テイラー捜査官、喜びで泣いたことってあるか?」
帰りの車の中で、スチュワートが突然真剣な表情で切り出した。
「いいや、オレはないわ」ダニーはしばらく考えて答えた。
「オレもない。毎日が空虚で無意味にすら思える」
「それはないけど・・・。何でそんなこと聞くんすか?」
「マーティンに出会ってからそんなことばかり思うんだ。君は人を裏切ったからって泣けるか?」
ダニーは黙って首を振った。
「オレはあの時の涙が忘れられない。自分が情けなく思えたほどだ」
こいつ、何が言いたいねん?ダニーは真意を図りかねていた。
「オレは自分だけが大切だ。最低な男だと自分でもわかってる。
でも、近頃は女と遊んでもちっとも楽しくない。なぜか無性に切なくなる」
「それってまさか・・・」ダニーは固唾を飲んだ。
「どうやら本気でマーティンに恋したらしい」スチュワートはきっぱり言った。
翌日はヴィクターを囲んでのディナーだ。
マーティンの他、ボスとダニーが招かれた。
場所はザガットで満点獲得が話題の「ダニエル」だ。
マーティンはダニーをお目付け役につけた事で、父親に怒りを覚えていた。
僕の交友関係にまで踏み入ってくるなんて、やり過ぎだ!
ダニーは、昨日命ぜられた新しいミッションのお陰で、心が重かった。
まさか、俺がマーティンの相手なんて知ったら、副長官どうするやろか。
想像するだに恐ろしかった。
ビューローはおろか、連邦政府の仕事には二度とつけないだろう。
また地方警察に逆戻りなど考えたくもなかった。
「なんだ、皆、葬式じゃないんだから、楽しくやろうじゃないか。」
ヴィクターがシャンパンをオーダーする。
料理は典型的なフレンチのフルコースだ。
フォアグラとマンゴーの前菜の後、空豆のポタージュと続き、
マーティンとボスはメインにうずらの香草グリル、
ヴィクターとダニーは甘鯛のポアレをオーダーした。
「乾杯!」全員がグラスを上げる。
ダニーが口火を切って、最近マーティンの捜査のお陰で解決したケースの話をして盛り上げる。
ヴィクターは小鼻を膨らませて嬉しそうに聞いていた。
「マーティン、お前もコツを覚えてきたようだな。」
「企業犯罪よりもやりがいがあります。人命の尊さを実感するから。」
「ジャック、もっとビシバシ鍛えてやってくれ。
テイラー捜査官、先輩として君もよろしく頼む。」「はい、副長官。」
マーティンはだまって会話を聞いていた。
「おい、マーティン、何か言ったらどうだ。」
「父さんの仰せの通りにしますよ。それでいいでしょう?」
ボスとダニーは息を呑んだ。
またフィッツジェラルド親子の陰険な言い合いが始まるのか。
「マーティン、何をカリカリしている?さぁデザートを頼むか。」
珍しくヴィクターが話題をそらした。
ボスとダニーはアーモンドアイス、親子はチョコレートムースをオーダーする。
必ず、デザートは同じもん頼むんやな、この親子。
親を早く亡くしているダニーには分からない不思議さだった。
俺の父ちゃん生きてたら、どんな関係になったやろか。
俺を虐待していた父ちゃん・・・
ボスに足を蹴られてはっと気がつくダニー。
「テイラー捜査官、君はDCにいつ来てくれるんだね。」ヴィクターの質問だった。
「はい、まだ私も修行中ですので、あと2〜3年はNYでみっちり仕事をしたいと思います。」
「期待しているよ。」ヴィクターは明るく促した。「はい、ありがとうございます。」
期待しているなんて言葉、あんな表情の父さんから聞いたことないや。
マーティンは心の中でひとりごちた。
ディナーを終え、ボスはヴィクターをリッツ・カールトンへ送りに行った。
「やれやれや。」ダニーが思わずストレッチする。
「ごめんね。肩凝ったよね。」
「ほらまた!親父さんの事で、お前が謝る必要ないんやで。別の人格なんやから。」
「そうだったね。ごめん。」「お前、ほんまに苦労性やな。損やで。」
「うーん、そう言われても、変えられないよ。父との関係もさ。」マーティンは顔をしかめて言った。
「ここで立ち話も何やから、もう1軒行こか?」「うん!」
急に目を輝かせるマーティン。こいつ抑圧されてんのやな〜。
ダニーは、ソーホーのスパニッシュバー「エンニャ」にマーティンを案内した。
アランに連れてきてもらったタパス・バーだ。
フルコースの後だというのに、メニューを見たマーティンは大喜びで、
アンチョビのオイル焼きや小エビのフライを頼む。
カウンターの隅でワインを飲んでいると、もう一方の隅の女性2人組が手を振っているのが目に入った。
途端に目をトローンとさせるダニーの足をマーティンが踏む。
「何や!」「もう浮気しないって言ったでしょ!」「見るのもだめなん?」
「見るが終わったら、しゃべる、携帯の番号交換ってコースは決まってるもん。ダメ!」
マーティンがダニーの視線をさえぎった。
女性二人は、マーティンの隣りに移動してきた。
「男二人で飲んでるの?」プラチナブロンドが話しかける。
「あ、ああ。」マーティンが仕方なく応対する。
「私、ドナテラ、こっちはパメラ。」すかさずダニーが答える。
「俺、ダニー、こっちはマーティン。」パメラは燃えるような赤毛だ。
「私たちモデルなの。といってもまだ卵だけどね。」「じゃあ幾つ?」
「21。やっとお酒解禁よ。」やった!犯罪やないやん。ダニーは思わず心の中でガッツポーズ。
マーティンがそわそわしだした。
「明日、仕事が早いから、そろそろ帰ろうよ、ダニー。」
「まだええやろ。」「ダニーはどこ出身?」「マイアミ。」「わー素敵。」
「帰ろうよ。」マーティンが嫌がるダニーを引っ張るように「それじゃ、失礼。」とバーを出て行く。
「お前、潔癖症か!」さすがのダニーもマーティンの頑固さに呆れ返っていた。
「だって、ダニー、すっかり口説きモードに入りそうだったもん。あのドナテラって子に。」
「偽物と分かっててもプラチナブロンドってええなぁ。」
思い出すように話すダニーの耳を引っ張るマーティン。
「もう!僕も髪脱色しようかな。」「チン毛もやれよ。ははは!」
「ダニーのばか!」「じゃ、俺んち帰る?」「うん、帰る。」
二人はタクシーを拾ってブルックリンに向かった。
「ただいまぁ。」マーティンがドアを開ける。
自分用のクロゼットからスーパーマン柄のパジャマを出す。
「お前、クラーク・ケントみたいやな。」ダニーが突然言い出す。
「なんで?」「パジャマ着た後の方が昼間よりすごいやん。」「バカ!」
顔を真っ赤にしてマーティンは着替えた。
ダニーもストライプのパジャマに着替えると、バスにお湯を張りに行く。
「今夜はストレス解消にマージョラムやな。」
アロマオイルとバスジェルを加え、泡だらけにして用意する。
「マーティン、用意できたで〜。」「はーい。」
バスルームでパジャマを脱ぐとすでにマーティンは半分立っていた。
「お前元気やな。」そこまで言ってダニーは気がついた。
30分前にVの薬飲まんと効き目が遅うなる。
「先に入っててな。」「?」
不思議な顔をするマーティンを残し、
ダニーはキッチンの鍋が入っている棚を明けて薬を出した。
マーティンが絶対に明けない棚だ。急いで、ミネラルウォーターで飲み込む。
「いくで〜。」ダニーがマーティンの後を追って、バスに飛び込む。
ざぶーん!泡と水しぶきが飛ぶ。「ダニー、急に元気だね。」
「そうか?さぁ身体洗おう!」ダニーは、久しぶりにマーティンの中に入れられるのが待ちきれない。
シャワーも適当に切り上げ、二人分のパジャマを持って、ベッドルームへと急ぐ。
「ダニー!何急いでるの?」「だってお前もう用意出来てるやん。」
「そうだけど・・」ダニーが先にベッドに入って「マーティン、カモーン!」と呼ぶ。
「ヘンなダニー。」ダニーは急激に元気になった自分の股間にマーティンの手を持っていく。
「ダニー、すごーい!」「そやろ。早うやろう!」
マーティンは急に盛りのついたサルのようになったダニーを訝った。
マリファナでもやってるのかな。匂いしないけど。
もっとすごいドラッグだったらどうしよう。
アランとの浮気の産物かな。マーティンの頭はめまぐるしく回転した。
「何だか、普通じゃないよ、ダニー。嫌だよ。」
「何や。俺としたくないんか?」「そんなんじゃないけど・・・。」
「早う入れさせて!俺もう我慢できへん!」
そう言うとマーティンをうつ伏せにして腰を持ち上げる。
ミントローションを塗る手が嬉しさで武者震いするダニー。「行くで〜!」
「うわ〜!」マーティンは悲鳴を上げた。「痛いよ、ダニー!」
ダニーは聞く耳を持たない。腰をがんがん打ちつけてグラインドさせる。
「はぁっうぅ〜。」マーティンも次第に甘いよがり声を上げ始めた。
「ほら、ええんやろ。俺のがええって言ってみ。」「ダニーのがいい。」
「もっと大きな声で!」「ダニーのがいい!」「あぁ〜マーティン、締まるで〜、もっと!」
「ダニー、やっぱり痛い!」マーティンがダニーを突き飛ばした。
しくしく泣き始める。「そんなに痛かったか。」
「くっくっ・・怖かったんだよ。いつものダニーじゃないみたいなんだもん。」
「ごめんな、怖がらせて。」
ダニーはそう言うと後ろを向いて自分のモノを扱き始めた。
マーティンが唖然とするのも無視してダニーは自らの欲求を満たそうと必死だった。
「うっぅはぁ〜。」射精してベッドに仰向けになるダニー。
「ヘンな薬とかやってない?」マーティンが心配して聞く。
「してへん、してへん。」焦って答えるダニー。「それなら良いけどさ。」
ダニーはまたシャワーを浴びて戻ってきた。マーティンはすでに寝息を立てていた。
ダニーはクロゼットに行って、ジャケットのポケットに入っている「エンニャ」のマッチを取り出した。
ふたを開けるとドナテラの電話番号が書いてあった。
130 :
fanですw:2005/11/26(土) 05:31:37
スチュワートは本気入ってるし、書き手1さんのダニーは浮気しそうだし、
目が離せません。私は女性が間に入るのに抵抗ないので、このまま
続けて頂きたいと思ってます。応援してます。
放心状態のダニーにスチュワートは続けた。
「彼といると、オレもいつかは喜びで泣ける日が来るような気がする」
「お前、この前は遊びやって言うてたやろ!」
「君にはすまないと思っている。だが、これ以上気持ちを抑えきれない」
クリアコートに着き、車を止めたスチュワートは真剣にダニーを見た。
こいつ、本気や。でもオレだって失うわけにいかへん。
「あいつはオレのや、誰にも渡さへん!特にお前にはな!」
ダニーは宣言すると車を降り、荒々しくドアを閉めた。
ダニーはスチュワートの告白を聞き、心が揺れに揺れた。
スチュワートと別れた後も頭が働かない。思考回路が停止したようだ。
しばらく車内でぼんやりしていたが、マーティンの携帯に電話した。
「はい、フィッツジェラルドです」
「オレやけど、まだ終わらへんの?」
「あ、テイラー捜査官。はい、それがまだできてないんですよ。
もう少しで書けると思いますから。それでは」
一方的に切られてしまった。なんや、あの他人行儀な言い方は?誰かいてたんかな?
しばらくするとマーティンが掛け直して来た。
「さっきはごめんね。近くにバン・ドーレンがいてさ、怪しまれるといけないから」
「そやな。もう終わったん?」
「まだかかりそう。持って帰って家でやるよ」
「ほな、いつもの角まで迎えに行くわ。五分ぐらいやから」
「やったー、ありがとう」ダニーは支局に向けて走り出した。
ダニーが待っていると、マーティンが大急ぎで走って来た。
「おいおい、そんな全速力で走らんでもええんやで?」
「ん、待たせると悪いから」
ダニーはマーティンの手をぎゅっと握った。
「あー、疲れた。ダニーが迎えに来てくれてよかった」
マーティンはブリーフケースを足元に置くと、シートにもたれた。
ダニーはアパートに着くまでの間、迷ったもののさっきのスチュワートの質問をぶつけた。
「なぁ、お前、喜びで泣いたことってあるか?」
「うん、あるよ」マーティンはそれがどうしたといわんばかりに平然と答えた。
「マジで?どんな時?」ダニーは驚いてさらに聞いた。
「えっ・・そんなの言うの恥ずかしいよ。内緒!」
「ええやん、後学のためにも教えてくれ」
「そんなこと言われても困るよ。それに僕ってよく泣くから」
ダニーはスチュワートの気持ちが少しわかったような気がした。
アパートに着くと、ダニーはシュリンプグラタンをオーブンに入れ
仕事部屋に手伝いにいった。「これなんて書いてあるん?」
「う〜ん、ちょっと待って・・・捜査継続の必要性かな」
マーティンは自分で書いた字にも苦慮している。
「もうちょっと丁寧に書けや。こんなん読まれへんやん」
「ごめん。そうだ、スチュワートの字ってすっごくきれいなんだよ」
「ふうん、人は見かけによらんなぁ」
「今度きれいに書くコツを教えてもらおう」
「そのままでええやん。さあ、仕事仕事!」
ダニーはスチュワートと接触させるのが嫌で話をすり替えた。
ダニーの手伝いも功を奏し、グラタンが焼けるまでに書類が完成した。
「もうブリーフケースに入れとき。忘れたらあかんから」
「うん、ありがとう」マーティンはにっこりすると書類をしまった。
「グラタンも焼けたし、早よ食べ」ダニーに促され、マーティンは席に着いた。
早速シュリンプグラタンとトマトサラダにがっつく。
「オレ、今日泊まるから」
「うん、今夜は早く寝よう。残業は疲れる・・」マーティンは眠そうに目を擦った。
ベッドに入った後もダニーは眠れなかった。
すやすや眠るマーティンのほっぺにそっと触れ、物思いに耽っていた。
マーティンはオレを裏切ったからって泣いた。それも進んで浮気したわけやないのに。
オレは今まで何度も裏切った。毛虱の時はこいつまでパイパンになったし。
それでもオレは泣くなんてことはない。オレもトロイと同じってことや。
でも・・・あんなヤツに負けるもんか!
ダニーはマーティンの手をしっかりと握りしめ、決意を固めた。
事件続きで日々が流れるように過ぎていった。
遺体で見つかった失踪者が続き、気が滅入っている。
今日は15時現在、まだ失踪者の報告がなく、のんびりしていた。
「今日は何もなくてよかったなぁ。久々に早よ帰れそうや」
「うん、ずっと事件続きだったもんね。くたくただよ」
定時になり、つかの間の休息にチーム全員がホッとしていた。
「今夜どうする?」支局を出るなり、ダニーが聞いた。
「久しぶりにスカッシュでも行こうかな。最近、スチュワートは電話くれないんだ」
「トロイのことやから、他にええ女でもできたんやろ。オレと行こか?」
「え、ダニーと?いいよ、興味ないでしょ」
「あほ、オレも時々練習してるんや」
「ふうん。あっ・・・」不意にマーティンは黙り込んだ。
「どうしたん?」
「あそこ、スーザンも通ってるもんね・・・」
「ああ、あんなんとっくに過去や。嫌われてしもてな」
「またろくでもない嘘でもついて騙したんじゃないの?」
あいたー、ダニーは笑ってごまかすしかなかった。
ダニーはアパートに帰ると、そそくさと支度をしマーティンを迎えに行った。
「おまたせ、行くでー」トランクにラケットとバッグを積んでいるとマーティンが覗き込んだ。
「へえ、本当に始めたんだ。青いボールなんて何年ぶりだろ」
マーティンはくすっと笑うとボールを手に取った。
「うるさいな、オレかなり上達したんやで」
ダニーはボールをひったくると、トランクに放り投げた。
ダニーとマーティンはゲームを始めた。
ダニーも初めてマーティンとプレーしたときよりは上達している。
「ダニー、上手いじゃん」マーティンは手加減しながらボールを打った。
「おう!もっと真剣にやってもええで。そんなに手抜くなよ」
ダニーは得意げにニヤッとしながら、ボールを打ち返した。
あんなこと言ってるよ、見てろダニー!マーティンは本気でプレーを始めた。
ボールはダニーが触れるまもなく、マーティンの元へ戻る。
「どうしたのさ?僕一人でやれって言うの?」
マーティンはケタケタ笑うとボールを打ち続けた。
パコーンパコーンと音がするだけで、ダニーはボールの位置すらつかめない。
「オレが悪かった。手加減してくれ!」ダニーは降参した。
「わかればいいんだよ、バカダニィ!」マーティンは手加減して速度を緩めた。
ゲームを終え、ゲータレードを飲んでいるとスーザンが素通りしていった。
ダニーには目もくれない。
「なっ、言うたとおりやろ?もう終わったっちゅうことや」
マーティンは黙って頷いた。今度はダニーの女の気配に気づきませんように・・・。
せっかく胃の痛みから解放されたのに、これ以上苦悩するのは嫌だった。
エンニャに行った週の週末、ダニーはアランの部屋でごろごろしていた。
「なぁアラン。」言いにくそうに切り出すダニー。「何だい、ハニー。」
アランはタイムを読みながら答える。「俺、女と試したいんやけど。」
「え?」顔を上げるアラン。「女とエッチ試したい。」
「そろそろそう来ると予想していたが、そうはっきり言われると応対に困るな。」
アランは苦笑した。
「アランも一緒にする?」「おいおい、ケンとの3Pの後、急に目覚めたのかい?」
「やー、アランが疎外感持つといけない思ってな。」
「僕は遠慮するよ。女性とは正攻法で付き合うタイプなんでね。」
「ふーん、意外に保守的やね。で、どう思う?」「薬なしで試すんだろ?」
「うーん、そこやねん。出来なかったら恥ずかしいし・・」
「もちろん、後腐れない関係の相手だろう?それなら恥も1回だけだよ。」
ダニーはドナテラの事を考えていた。1回だけじゃ惜しいわ。
「も、もちろんや、俺にはアランがいてるもん。付き合うなんて考えてない、ない。」
「やってみればいいじゃないか。病気だけは気をつけてくれよ。」
「はい、先生!」「そういう時だけいい患者なんだからなぁ。」
アランは立ち上がってダニーの頭を撫でた。ダニーが首に手を伸ばし、
アランにディープキスする。「何だい?承諾のお礼のつもりか?」
「当たり!」
「全くまぁ。そろそろディナーだ。今日は外食しようか。」「うん!腹減ってきたし。」
「じゃあ今日はトライベッカの「ランドマーク」にしよう。」
アランが紹介してくれる店はどこもダニーが行ったことのない所ばかりだった。
外には長蛇の列だが、アランは予約をすでに入れていた。
フォアグラのテリーヌ、オーガニック野菜のサラダ、パスタを取り分け、
ポークと子羊のグリルで食事を楽しむ。
フルボディーのカベルネ・ソーヴィニオンで乾杯だ。
ダニーは、マーティンの父親からマーティンのお目付け役を頼まれた事を手短かに話した。
「マーティンのお父上は、マローン捜査官だけじゃ足りないって事か。
相当溺愛している息子のようだな。」
「それが、そう見えないのが、あの親子の不思議なところで、
コミュニケーションが断絶してる感じでな。面白いで。」
「興味深いね。一度食事をご一緒したい位だな。」
「アランやったら副長官に負けないタヌキやもんな。」「こら!」
アランがダニーの額をこつんとする。嬉しそうなダニー。
父ちゃんと大人になって食事してたらこんなに打ち解けられてたやろか。
「何笑ってるんだい?」「俺にアランがいて、ほんまによかったと思って。」
「何を言い出すかと思ったら、口説き文句かい?今晩のお楽しみにしてくれよ。」
「はあい。」
ディナーが終わり、アランが提案する。
「エンニャのタパスでも摘ままないかい?」
エンニャと聞いて緊張するが、まさか今日もドナテラがいるとは思えない。
「乗った!」ソーホーに車で上がる。
週末とあって、カウンター以外空いていない。
カウンターの隅に陣取り、カヴァのボトルをオーダーする。
摘まみはオリーブとアンチョビのオイル焼きだ。
「やーだ、ダニー!偶然!」声に驚いて振り向くと、ドナテラだった。
「今日はマーティンが一緒じゃないんだ。」「こちら、アラン。」
「初めまして。」「うわ〜超ジェントルマンて感じー!パメラ連れてこよう。」
店の奥で他の男性客と話していたパメラを連れてくるドナテラ。
「どういう知り合いだい?」小声でアランが尋ねる。「逆ナンされたんや。」
「ダニー!まったく君って子は。」
「こっちはパメラ、私はドナテラ。パメラ、こっちはアラン。」
「ダニー、いっつもいい男といるけど、まさかゲイ?」「ちゃうがな。」
「良かったあ!NYでいい男ってたいてい妻帯者かゲイなんだよね。」
「君たちはNYで仕事?」アランが静かに尋ねる。
「私たちモデルの卵。まだ通販のモデルしかやってないけど、
いつかはキャットウォークするステージに立つんだって決めてるの。」
「頑張れよ。」「うん、もう必死。」
「君たちさえよければ、ビル・トレバーに話をしてみようか?」
「えー、あのビル・トレバー?嘘みたい。NYコレクションの常連じゃん!」
二人は小躍りしている。ダニーはアランの見事な話術にいつもながら舌を巻いていた。
「ポートフォリオを僕の住所に送ってくれるかな。」二人に名刺を渡すアラン。
「へえ、精神科医なんだ。」「すごーい。それでダニーは何してる人?」
「俺は、株の仲買人。ウォールストリート族や。」
「ダニーのマイアミ訛り、セクシー。」「僕のボストン訛りはどうだい?」
「アランもすごくかっこいい。」パメラの目はアランを捉えていた。
4人でしこたまカヴァを飲み、ほろ酔い気分で「エンニャ」を出る。
自然とダニーとドナテラ、アランとパメラに分かれていた。
「僕の車があるから、送るよ。」アランが申し出る。
「それより、4人でいい事しない?」
ドナテラがダニーの腕をさすり、腰に手を這わせる。手をどけるダニー。
まだ薬飲んでへんからダメや。「アラン、どうする?」
「それじゃ、僕のアパートに行くか。」アルコールの勢いがアランを後押ししていた。
「アッパーウェストサイドへ出発や!」ダニーも威勢がいい。
アランのアパートに着くと、モデル二人はきゃーきゃー言っていた。
きっと、二人で狭いアパートをシェアでもしているんだろう。
「アラン、シャワー借りてもいい?」パメラが流し目でアランに尋ねる。
「ああ、その右手だから。」「ありがと、ドナテラ行こう!」
「アラン、Vの薬忘れた。」「お前、なしでやるんじゃないのか?」
「ええやん。今日は頂戴!」「しょうがない奴だな。」アランは
カウンセリングルームから錠剤を取ってきた。クラブソーダで飲み下す。
アランも1錠飲み込んだ。「アラン?」「おじさんにも必要そうだ。」
モデル二人はバスタオルを巻いたままの姿で現れた。
何がおかしいのかケタケタ笑っている。
こいつらコカインか?ダニーは薄くなる意識の中で思い至ったが、
今晩は楽しむつもりでいた。
アランが一緒というのが興奮に拍車をかける。
モデル二人がメインベッドルームに入ってくる。
ダニーもアランも薬のせいで息が上がっている。
ドナテラとパメラがキスをし始めた。
お互いの乳房をひとしきり舐めた後、
ドナテラがアラン、パメラがダニーを襲う。
「えっこれって?」ダニーが思わず声を上げる。
「シー、後でドナテラが来るから、それまで私と遊ぼうよ。」
「ちょい待ち、ゴムつけさせて。」アランとダニーが準備する。
アランを見るとすでにドナテラが股間に跨って騎乗位でアランを攻めていた。
アランの顔が上気している。それを見てダニーのペニスに力がみなぎる。
「うわぉ、ダニーってすごいのね。」
パメラはペニスを口に含むと口技でイカせようとする。
が薬のせいでイケないダニー。パメラがドナテラと交代する。
アランとダニーは完全なまぐろ状態だ。
「はぁ、はぁ、君たちすごいよ。」「二人ともすごい強いんだ!素敵!」
モデル二人が腰を思いっきり振って、二人をイカせる。
「うっわ〜。」「くっぅ〜。」ダニーとアランはほぼ同時にイった。
ドナテラをパメラは二人で手をつないで、バスルームへと去っていった。
「ダイナマイト級だったな。」「ああ、でも俺まだイケるで。」
「じゃあ、二人には帰ってもらおう。」アランはバスローブを着て、リビングで二人を待った。
「今日はありがとう。さて、タクシーで帰ってくれ。」
「え、泊まらせてくれないの?」
「申し訳ないが、これからは僕とダニーの時間なんでね。」
「なんだ、二人バイだったの!」「悪かったね。」
「でもポートフォリオ、ビル・トレバーに送ってね。」「約束する。」
「じゃあ、パメラ帰ろうよ。」
二人は急いで服を着て、タクシー代50ドルを受け取り、去っていった。
ダニーがベッドルームから出てくる。「帰った?」
「ああ。これからは僕らの時間だよ。まずシャワーだ。」
二人で汗と精液を流す。ダニーもアランもまだ勃起している。
二人のペニスを合わせると、ダニーは甘いため息をついた。
「女もええけど、俺、アランのがええな。」「お世辞かい?」
「まさか。早うベッドに行こ!」「ああ。」二人はベッドのサイドランプを消した。
二週間近くスチュワートからの電話がない
金曜の帰り道、マーティンは思い切って電話してみた。
「はぁっはぁっ・・はい・・」もしかしてセックスしてる?マーティンは慌てた。
「あ、ごめん。取り込み中みたいだから切るね」
「待って・・はぁっはぁっ・・違・うんだ」
「え、でも・・セックスの最中でしょ?」
「いや・違う。あ、もう落ち着いたから平気だ。驚かせてごめん」
「ねえ、何やってんの?」
「植物を運んでるんだよ。もう寒いから」
「自分で?」
「ああ。メイドは女だからな、こんなの頼めない」
「女性にやさしいんだね。そうだ、僕、手伝うよ」
「え・・・でも、悪いから」
「いいって!待っててね」マーティンはタクシーを拾った。
スチュワートは汗だくで出迎えてくれた。Vネックのシャツが体に張りついている。
「久しぶりだね、スチュワート。元気だった?」
「まあまあかな。君は?」
「僕は元気だったよ。事件続きで気が滅入ってるけどね」
「そっか」スチュワートは心なしか元気がなかった。
マーティンはスチュワートについて屋上に出た。
「しばらく見納めだね。早く暖かくなるといいな」
マーティンは残念そうに葉に触れていた。
「マーティン、少し散歩しないか」不意にスチュワートが誘った。
「ん、いいね」スチュワートは黙ったままそっと手をつないできた。
こんなに口数の少ないスチュワートは見たことがない。マーティンは心配になって来た。
「もしかしてさ、これしまわなきゃならないからしょげてるの?」
スチュワートは怪訝な表情を浮かべた後、はじけるように笑い出した。
「そんなわけないだろ、バカ!そろそろ運ぶぞ」
二人は順番に鉢を抱え、部屋の中に運び始めた。
ぽっかり空いていた部屋が植物で次々と埋まった。
「植物のために空けてる部屋があるなんてすごいね」
「ああ、丸ごと温室なんだ。毎年この作業だけは疲れる。出すのはいいんだけどさ」
一時間かけて全て運び、二人はデッキチェアに座ってハイネケンを飲んだ。
「あぁ暑い〜、ここも植物がないとなんかシュールだよね」
「そうか?」スチュワートはマーティンの顔を見つめた。
「何?どうかした?」マーティンは不思議そうに聞いた。
「いいや、何でもない」目を逸らし、手持ち無沙汰にボトルをいじっている。
「変だよ、スチュワート」マーティンはグリーンの目を覗き込んだ。
スチュワートは目を合わそうとしない。マーティンはどうすればいのかわからなくなった。
「あの・・僕帰ろうか?」マーティンは居たたまれなくなり切り出した。
「いや・・・ごめん、オレなんかヘンだよな。そろそろシャワー浴びよう」
スチュワートはいつものように髪をくしゃっとすると立ち上がった。
「お先にどうぞ」マーティンは促されてバスルームへ。
シャワーを浴びているとスチュワートが入って来た。
愁いを帯びた悲しそうな瞳にマーティンはドキドキした。耐え切れず、さっと洗うと先に出る。
スチュワートがバスルームから出て来た。バスタオルを腰に巻いただけで隣に座る。
マーティンはあたふたと着替え始めた。
「何もしないさ。オレって信用ないんだな・・」苦笑するスチュワート。
「そんなんじゃないよ。寒くなっただけさ」マーティンは慌てて否定した。
「今夜はどうするんだ?帰るのか?」
「うん、もちろん帰るよ」
マーティンが即答するとスチュワートは軽く頷いて目を伏せた。
インターフォンが鳴り、スチュワートはバスタオルを巻いたままの格好で応対した。
「ピザが届いたぜ。食べていけよ」
「ありがと。スチュワート、風邪引くよ。何か着なよ」
「ああ。先に食べてて」
スチュワートはベッドルームに消えた。
マーティンはハイネケンを二本取り出し、スチュワートを待っていた。
「待たなくてもよかったのに」
戻ってきたスチュワートがはにかんだ。
スチュワートはバーボンを開け、少し酔っている。
「マーティン、喜びで泣いたことってあるか?」 スチュワートが話しかけた。
「え、スチュワートもそれ聞くの?ひょっとして流行ってんの?」
「うん?他に誰に聞かれたんだ?」
「ダニーにも同じこと聞かれた」
「あいつが?で、何て答えた?」
「あるよって。でもさ、深く考えると嬉しさとはまた違うってことだよね。微妙だけど本質が全然違う」
マーティンはよく考えながら話した。
「僕はよく泣くけど、喜びで泣いたのは一回だけだ」
「その一回だけの理由が知りたいな」
「だめだめ、誰にも言えないよ。僕にだって恥って概念はあるんだから」
スチュワートはフッと笑ってソファに寝転んだが、閉じた目から静かに涙がこぼれた。
マーティンは驚いて頬に触れた。熱い涙がとめどなく流れている。
「スチュワート?」
「なんでもない。すまない、飲みすぎたようだ」
スチュワートはごしごし涙を拭うと、顔を洗いに席を立った。
マーティンは心配したが、戻ったときにはいつものスチュワートだった。
「もう平気だ。なぁ、ドライブに行かないか?」
「酔ってるから危ないよ。もう寝たほうがいい」
マーティンは強引にベッドに寝かせた。
「いつもと逆だね。スチューが眠るまでそばにいてあげるよ」
「スチュー?お前、オレに犯されたいのか?」スチュワートが手を引っ張った。
二人の距離がぐっと縮まる。スチュワートの真剣な眼差しが怖い。
「ごめん、もう言わないよ」
マーティンは離れようとしたが、スチュワートは手を離さない。
「何もしないから・・・約束する」
スチュワートはそうささやくとマーティンを強く抱きしめた。
ダニーは、ドナテラと連絡を取り、金曜の夜、ミッドタウンのシェラトン・マンハッタンで
情事を続けようとしていた。4P以来、それもVなしの冒険だ。
アランとのセックスがうまく行っていて、ダニーは自信が戻ってきていた。
ドナテラの身体はモデルに似合わず、ジェニファー・ロペスのように、
肉感的だ。
「良う来てくれたな。」
「この間は、白い粉やっちゃったし。
パメラが一緒だと断れないんだよね。今日はクリーン。」
「そうか、やっぱりな。で、俺とアラン、どっちが良かった?」
「アランはすごく優しい愛撫だけどダニーの方がずっと良かった。」
「男にとっちゃうれしい話やなぁ。」
「でも二人ともすごかったー。しばらくパメラとはまりそうだねって話してたとこ。」
「そうなん?」ダニーはナーバスになってきた。
「じゃ、やろうよ、ダニー。」「ああ。」ダニーは思わず固くなる。
「何緊張してんの?シャワーするけど。」「ああ。」
ダニーはサイドテーブルにコンドームを置いて、ドナテラが出てくるのを待っていた。
俺のちんちん、どんな反応示すやろう。ドナテラが頭から湯気を出して出てきた。
ダニーもシャワーを浴びにバスルームに消える。
おい息子、今日はええ仕事してくれるかー。
どうやら息子はストライキを続けているようだ。
あちゃー、これじゃドナテラに失笑されるわ。ダニーは焦った。
しかしどうにもならない。
ダニーはバスタオルを下半身に巻いてシャワーを出た。
「ダニー、ダーリン、早く来て!」ドナテラは、やる気満々だった。
ダニーがドナテラの隣りに静かに身を横たえる。
ドナテラは布団をもぐり、ダニーのペニスを口に含んだ。
反応する気配がない。扱きたてるが、全く反応しない。
布団から出て、ドナテラが困惑の表情を浮かべる。
「どうしたの?」「ごめん、俺、今日はだめみたいや。」
「そうなの?私よりパメラのがいいならそう言って。」
「それとは違うねん。」
「はいはい、言い訳は結構。それじゃ、もう次はないと思うけど、元気でね。ダニー。」
「ドナテラ、待ってえな。」ドナテラは素早くドレスを着ると部屋を出て行った。
俺、女じゃ全然いけへんわ。アラン、どないしよ。
ダニーは夜中だというのにアランの携帯を鳴らした。
「はい、ショア。」寝ぼけ声のアランが出る。
「アラン!俺だめやった!」情けない声でダニーが訴える。
「ダニー?今どこだい?」「ミッドタウン。」「家においで。待ってるよ。」「ありがと。」
ダニーはそそくさとチェックアウトして、アッパーウェストサイドに向かった。
合鍵で入ると、アランがパジャマで葉巻を吸っていた。
「さしずめ、ドナテラとでも試したんだろう。」お見通しのようだった。
「そやねん。俺の息子だめやった。ぐすっくっくっ。」泣き始めるダニー。
「すぐに治るわけじゃないから、二人で頑張ろう。まずは僕と出来るようになる事だ。」
「うん。」うなだれるダニーの肩をたたいて、アランは頬にキスをした。
ダニーはシャワーをして、ほかほかの身体でベッドに入った。
アランは、ダニーのトランクスを下げ、口にペニスを含んだ。
「アラン、何?」「君がどれだけダメージを受けているかのチェックだよ。」
アランはペニスの後ろから全てを含み舐め上げた。
ダニーの中に力がみなぎるのを感じる。
「来てるかい?」「ああ。アラン。」袋を口に含み吸ってみる。
さらにダニーのペニスは力を増した。「ああ、アラン。来てる!はぁ〜!」
「じゃあ、僕に入れてごらん。」
アランはマカデミアナッツオイルを自分の局部に塗りこみ、ダニーを待った。
ダニーは渾身の力をこめて、アランの中に挿入した。「うぅ、くぅ〜。うっ。」
アランが甘いため息をつく。「アラン、ええ気持ちや。俺イケそう。」
「君の思うままに動いて・・。」アランは息も絶え絶えに伝えた。
ダニーはアランの腰を両手でつかむと固定し、自分の腰を思う存分打ちすえた。
「あぁ、うぅー。」アランが悶える声がダニーに火をつけた。
「アラン、イクで。」「ああ、キテくれ。!」
ダニーのため息とともに、アランが絶叫した。「うわ〜!!」
二人、仰向けになって天井を見つめる。
「俺、出来た!」ダニーが喜んでいる。
アランは局部の痛みと戦いながら、ダニーの額にキスをした。
「ほら、克服できてるだろう。」「アランのお陰や。サンキュー。」
ダニーがキスを仕返した。「ちょっと眠らせてくれ。もうギブアップだよ。」
アランはすぐ寝息を立て始めた。額にブロンドの髪が汗でくっついている。
ダニーはアランの前髪を持ち上げ、額にキスを繰り返した。
ダニーはベランダへ出て、クラブソーダを飲みながら歌を歌っていた。
SEALの「CRAZY」だ。俺って自覚している以上にアランにぞっこんなんかなー。
確かに今のダニーにとって、アランは無くてはならない存在になっていた。
ソウルメイト?それじゃあ、マーティンは俺にとってどんな存在なんやろか。
俺って、マーティンの言うとおり1人じゃ我慢できないんやろか。
女とはもう出来ないんやろか。
狂おしい恋心の歌を歌いながら、星空を眺めるダニーだった。
マーティンは抱きしめられたまま途方にくれていた。
スチュワートの心臓がバクバクしているのが伝わってくる。
この人病気?心臓発作とか起こしたらどうしよう?
心肺蘇生の手順を頭の中で考えながら心配そうに見つめた。
もしものとき上手くできるか自信がない。
「1分間に100回だったよね?」
「ん?何の話をしてるんだ?」
「心臓マッサージ。確か垂直に押さなきゃダメなんだよね」
「そうだけど・・・くくっ、何を言い出すのかと思ったら・・」
マーティンの真剣な様子にスチュワートは吹き出した。
マーティンはスチュワートが落ち着いたのを見届けると、少し体を離した。
二人とも天井を見つめたまま言葉を探している。
「またお父さんがお金の催促に来たの?」マーティンは他に思い当たることがなかった。
「いいや、送金してる限り来ないさ」
「じゃあ何で泣いてたの?」
「アズカバンかな」スチュワートは突然がばっと起き上がった。
「さあて、君を送っていこう。この辺りはタクシーなんて通らないからな」
スチュワートはジャケットとキーを手にした。
地下駐車場まで降りると、スチュワートはマーティンにキーを渡し助手席に座った。
「スチュワート?」
「君の運転する車に乗りたい。いいだろ?」
「そんな・・僕には無理だよ」
「FBIのくせに何言ってんだ。早く乗れよ」スチュワートは強引だ。
マーティンはエンジンをかけようとして、ブレーキに足が届かないのに気づき苦笑した。
「シートの位置ずらすけどいいかな?」
「そんなのいいに決まってるだろ。思いっきり飛ばそうぜ」
マーティンは恐る恐る車を走らせ始めた。
おっかなびっくりのマーティンの運転に、スチュワートは笑いっぱなしだった。
「もっとスピードを上げろよ。年寄りでももっと飛ばすぜ?」
「この車、乗りにくいよ。支局のと全然違うんだもん」
「そんなもんと一緒にしないでくれよ。おい、右折して高速に上がれ」
スチュワートは指示するが、マーティンは断固拒否だ。
「もう帰るんだよ。酔っ払い!」
マーティンは必死に運転し、ようやく自分のアパートについた。
「あー、怖かった。もうここでいいよ、ありがとう」
「なんだか気分が悪くなってきた、吐きそうだ」
「えーっ、大丈夫?僕の運転で酔ったのかも。部屋で休みなよ」
マーティンは車を何度も切り返してやっと駐車に成功した。
「ヘタだな、本当にFBIかよ。緊急事態のときはどうするんだ?」
「うるさいな、緊急の際は適当に停めるから関係ないんだよ」
マーティンはスチュワートを支えるようにエレベーターに乗った。
スチュワートは水をもらうとベッドに入った。
「先に休んでて、僕も後で行くから」
マーティンは仕事部屋で書類と郵便物を仕分けしていた。
ふとデスクが薄暗くなり、振り向くとスチュワートが立っていた。
「あれっ?どうしたの?」
「ちょっと興味が湧いたんだ。へー、これが捜査官のデスクか」
スチュワートは部屋の中を見回した。
「あんまり見ないで、恥ずかしいよ」マーティンは慌てて書類を隠した。
「あれ、このメモはオレのじゃないか」スチュワートはボードに張ってあるメモに気づいた。
「字がすごくきれいだから捨てるのが惜しくなっちゃって」
スチュワートはいつものようにニヤッと笑った。
「そうだ、きれいに書くコツを教えてほしいんだ。僕の字は汚くて、みんなに読めないって言われるから」
「丁寧に書けばいいだけだ。練習すればすぐに上手くなるさ」
「こんなのでも?」マーティンはそっと自筆の書類を見せた。
「うひゃー、これはひどいなぁ・・・」スチュワートも呆れ顔だ。
「字が汚いと無教養だと思われるぞ。君は上流階級なのに意外だなぁ」
スチュワートにまじまじと見られ、マーティンは真っ赤になった。
「教えてやろうか?」
「本当?いいの?」
「ああ、ドクター・バートンのすらすら達筆講座に入門しろ。キスしたら教えてやる」
マーティンは散々迷った末、ほっぺに軽くキスした。
「おいおい、それだけかよ?仕方ないなぁ」
スチュワートはほっぺにキスのお返しをした。
二人がダイニングのテーブルで字の練習をしていると玄関で音がした。
「ただいま」無愛想なダニーが入って来た。
「どうも、テイラー捜査官」
「いらっしゃい、ドクター・バートン」不敵な笑みを交わす二人。
お互い一歩も引かない。「ダニー見て!ほら、少しは上手くなったんだよ」
何も知らないマーティンはルーズリーフを見せた。
「ほんまや、よかったな。これならもう練習いらんやん」
ダニーは心にもないことをしゃべりたてた。
「今日はまたえらい変わった車庫入れの仕方してはりましたなぁ」
ダニーの嫌味にスチュワートは笑い出した。
「あれはマーティンだよ、あれでも何回もやり直ししたんだぜ。なぁ?」
「お前かよ!」ダニーはマーティンを抱き寄せデコピンした。
「痛いなぁ、やめてよ」言いながらマーティンもケタケタ笑っている。
ダニーはどうだといわんばかりにスチュワートを見た。
早よ帰れや、トロイ!視線がそう言っているが、スチュワートは臆する様子もない。
またセックスでも見せつけたろか!ダニーは意地悪くニヤリとした。
「マーティン、もう風呂入ったん?」
「うん、シャワー浴びたからダニーだけ入りなよ」
「ええやん、一緒に入ろうな」ダニーは引き離しにかかった。
「う〜ん・・・でも」スチュワートがいるのに・・・マーティンは困惑した。
「いいじゃないか、一緒に入ってこいよ。オレは先に休ませてもらう」
スチュワートは言い残すとベッドルームへ消えた。
ダニーはバスルームで散々マーティンを愛撫しまくった。
イク寸前まで嬲ると、さっさとマーティンを置いてバスルームから出た。
体の火照ったマーティンは慌ててダニーの後を追う。
ダニーは、スチュワートが寝ている横に全裸のまま仰向けになっている。
マーティンと目が合うと、ニヤっとしながらペニスを扱きたてた。
マーティンはダニーを手招きするが、ニヤニヤ笑うだけで埒が明かない。
仕方なくパジャマを着てからベッドに入った。
「あれっ、しやへんの?」ダニーは少しムッとしている。
マーティンは黙って頷いた。
ダニーはパンツを下ろすとかちこちのペニスでアナルをなぞりだした。
「んっ、ちょっとやめてよ」起こさないように小声で抗議するがダニーはやめようとはしない。
それどころかますます執拗になぞり続けた。
「っんふ・・ぁっ・・」ダニーのペニスの浅い挿入にマーティンは息も絶え絶えだ。
マーティンはスチュワートに聞こえないように口を塞ぐが、気づかれてしまった。
スチュワートは横向きになると、マーティンの目をじっと見つめた。
いつものニヤニヤとした様子は微塵もない。ダニーはそこで一気に挿入した。
「ああっ!」マーティンは耐え切れずに声を上げ、羞恥心から目を閉じた。
ダニーは後ろから絶妙なタイミングで突き上げる。
スチュワートは思わずマーティンにキスした。
マーティンの荒い息を飲み込むようにキスをするスチュワート。
気づいたダニーは正常位に体位を変え、自分のキスで口を塞いだ。
マーティンのくぐもったすすり泣くような喘ぎ声がベッドルームに響く。
スチュワートが見つめる中、マーティンは射精した。
ダニーも遠慮なく中で果て、汗だくの二人の体が重なった。
スチュワートはそのまま部屋を出て行った。
翌朝、アランは太腿に固いものが当たるので目が覚めた。
布団を潜ってみると、ダニーの朝の元気の印だった。くすっ。
すっかり元気になって。精神科医冥利に尽きるな、この子といると。
パジャマの中に手を入れて、触っていると、さらにむくむく大きくなった。
「うぅーん。」ダニーは夢心地だった。
先が濡れてきたので、アランは手の動きを止め、オイルを手に取ると、
ダニーの後ろに回って、パジャマごとトランクスを脱がし、オイルをダニーの局部に塗りたくった。
小さく閉じた蕾を押し開け、オイルを中に塗りこむ。「うぅぅ、はぁ〜。」
ダニーがため息と共に目覚めた。「あ、アラン・・」
「シー、だまって。」アランはさらに指を推し進め中を擦った。
「あぁん、あぁ〜。」ダニーが甘いよがり声を上げ始めた。
「ダニー、中にいっていいかい?」アランが優しく話しかける。
「うん、中に入れて、アラン、早う!」ダニーには時が迫っていた。
アランが思い切り押し入る。「うわぁ〜!」ダニーが叫んだ。
「大丈夫?」アランが後ろから聞く。「うん、動いて、アラン!」
アランはダニーの腰に手をかけ、前後動をゆっくり繰り返す。
「あぁん、いい〜。はぁ。」ダニーは蕩ける寸前だった。「ダニー、イクよ。」
「うん。一緒に!」二人は同時に果てた。「はぁ〜。」
アランが大きなため息をつく。「おはよう、アラン。」ダニーがキスを要求してくる。
「おはよう、ダニー。」アランがダニーに応じてキスを返す。
「今日は何する?」「部屋でゴロゴロは?」ダニーが甘えてアランの広い胸に顔をうずめる。
「怠け虫め。そうだ、今晩、COLDPLAYがマジソン・スクウェア・ガーデンでライブやるんだよ。
ジュリアンからチケットをもらったけど、行くかい?バックステージパスももらってるんだが。」
「えーうそ!すごいやん!行く行く!」「じゃあ夕方までゴロゴロを許そう。」
ダニーはアランの乳首を軽く噛んだ。こんなに幸せでいいのだろうか。
アランがシャワーを浴びにバスルームに行った。ダニーは癖で携帯を見た。
着信が3件。マーティン、ドナテラ、マーティンだった。
ドナテラ?あんなに冷たかったのに何か言い忘れたんかいな。
俺のちんちんに対する呪いの言葉かな。
マーティンにかけてみる。「はい、フィッツジェラルド。」眠そうな声。
「起こしたか?悪かったな。」「ダニー?昨日かけたんだよ!」
「ごめんな。昨日はちょっと野暮用があってな。」「どうせ女と一緒にいたんでしょ。」
「朝からカリカリきてんな、お前。カルシウム取れよ。それで、どんな用やったん?」
「週末一緒に過ごそうかと思ってさ。都合が聞きたかったんだよ。」
「あぁ、ごめんな、今日は俺、COLDPLAYのライブに行くんや。明日は掃除洗濯。」
「そうなんだ。僕の入る隙間はなさそうだね。」
「そんなんやないで。お前、たまたまやん。そういう時もあるやろ。」
「そうだね。ダニーにとってはね。じゃあね!」ブツン、一方的に切られた。
アランがシャワーから上がって、コーヒーを入れている。
はぁ〜、一方が上手くいくともう一方が上手くいかへん。
「ハニー!バケットサンドとベーグルどっちにする?」
「バケットにハムとチーズ!」「了解。」
ダニーはシャワーの後、今晩の準備にスタンウェイの前に座ると、
CLOCKS、TROUBLE、IN MY PLACE、YELLOWとCOLDPLAYの曲を連続で弾いてみた。
「いいねえ。気持ちが盛り上がるよ。」
「俺もキャンプに行く前の子供みたいな気分やねん。ジュリアンにお礼言わなきゃな。」
「例のバースデイパーティーのお礼らしいから、それには及ばないよ。」
「そうか。あれ、盛り上がったもんな〜。」
ダニーはアランと付き合い始めてからこの1年間を振り返っていた。
最初は緊縛プレイの連続で、いつかはセックスで殺されると思っていた。
しかしダニーの中でアランを容認する気持ちが出てきた時から、
二人の魂は、急速に近寄った。そして自分のために殺人まで冒したアラン。
今はどうだ。マーティンをおざなりにしてでも、アランと一緒にいたいと思っている自分がいる。
でも、マーティンに別れを告げるなど到底出来ない。
どうすりゃええんや。俺。マーティンのような繊細な心の持ち主に、出会った事がなかった。
俺、ちんぴらやギャングに囲まれて育ったもんな。
ダニーは改めてアランとの関係を主治医と患者の関係として、マーティンを説得するつもりでいた。
ランチをデリバリーのピザで済ませて、ライブに備える二人。
ダニーはクロゼットにこもって、今晩のワードローブを選んでいた。
ロエベの茶のスウェードのジャケットに空色のポロシャツ、カーキのパンツに決めた。
アランは同じくロエベの黒のジャケットにグレーのVネックのTシャツとグレーのパンツにした。
「COLDPLAYのメンバーに会えるなんて感激やな。シャンパンでも差し入れしよか。」
「それより、彼らの推進しているフェア・トレードへの協力姿勢を強調するといいんじゃないか?」
「そうやな。セイブ・ジ・アフリカや!」
二人は34丁目まで地下鉄で降りて、マジソン・スクウェア・ガーデンに出向いた。
ジュリアンが手招きしている。アリーナのかなりいい席だ。
「ダニー!」「サマンサ!」あちゃー、また、サムに会うてしもうたわ。
「アランと来るだろうと思ってたわ。」
「邪推しないようにな。俺たちプラトニックやから。」「はいはい。」
ライブはたっぷり2時間半。観客総立ちの鳥肌が立つような出来だった。
ジュリアンの案内で、ぞろぞろと楽屋へ急ぐ。
簡単にメンバーに紹介してもらう。「へぇFBIの方?」
COLDPLAYのクリス・マーティンに言われて、緊張するダニー。青い目が綺麗だ。
アランは他のメンバーと挨拶している。
「貴方がたの推進されるフェア・トレードに支持しています。」
ダニーが震える声で言うと、「ありがとう。ダニー。」とクリスが肩を叩いてくれる。
持ってきたCDにサインをもらい、すっかり子供のように喜ぶダニー。
ジュリアンが、「じゃあそろそろ。」と云う言葉で我に返ったような具合だ。
楽屋からの帰り道、「俺、今日の事は忘れられないわ。」とジュリアンの頬にキスするダニー。
「わぁお、ダニーからキスもらっちゃった!」ジュリアンが小躍りしている。
アランが、めっとダニーを諌める。「ごめん。」
帰り道、皆でミートパッキングエリアの和食店「オノ」に出かける。
サシミ、テンプラ、すきやきを頼んで、日本酒で盛り上がる。
「今日はマーティン一緒じゃないんだ。」日本酒で顔を真っ赤にしたサマンサがダニーに聞く。
「うん。たまたまな。」「今日の事黙っておいた方がいいの?」またサムが邪推してるがな。
「俺、奴に言ったから、話してもええで。」「アランが一緒ってことも?」
アランはジュリアンと乾杯しながら盛り上がっていた。「それはちょっと。」
「ダニー、三角関係ってさ、誰もが辛いのよ。よく考えてね。」
そういうと、サマンサはジュリアンの話の輪に入っていった。
あちゃー、サムの奴、状況の掴み方が鋭すぎるで。
ダニーは、久保田を呑みながら、途方に暮れていた
ダニーが離れるとマーティンは怒り出した。
「僕はしたくないって言っただろ!見世物じゃない!」
「トロイにキスされてたくせに!」
「そんなことを言ってるんじゃない、僕は人前でセックスなんかしたくない!」
マーティンは怒鳴るとスチュワートを追いかけた。
地下駐車場に降りると、スチュワートが車を出すところだった。
パジャマ姿のマーティンに気づく。
「どうしたんだ?」
「謝りに来た」
「いいのに。テイラーに強引にヤラれてたの知ってるから・・・」
スチュワートは車から降りるとマーティンを抱きしめた。
マーティンは寒くて震えている。
スチュワートはジャケットを脱ぐと、マーティンに着せ車に乗せた。
「まだいてくれてよかった!」
「ああ、シートの位置を直さないと足がつっかえてて・・」二人はくすくす笑った。
「それで・・今日は何かあったの?」
「尋問か・・・オレ、病気みたいなんだ」
「えっ!まさかっHIVとか?」
「いいや、そんなヘマはしない。あ、お迎えが来たぜ」
マーティンが見るとダニーが寒そうに突っ立っていた。
「行けよ」スチュワートは素っ気なく言い、マーティンが降りると行ってしまった。
ダニーはマーティンの腕を取り、部屋に戻った。
「あっ、ジャケット返すの忘れてた!」
「ええやん、またいつでも返せるがな」
ダニーはホットチョコレートを作り、浮かない顔のマーティンに勧めた。
両手でマグを持つ姿がかわいい。ダニーは包みこむように肩を抱いた。
火曜日の朝、サマンサが出勤するなりマーティンのところへ来た。
「おはよう!昨日ドクター・バートンにインフルエンザの予防接種してもらったの!」
「そっか、もうそんな季節になったんだ。予防接種か、嫌だなぁ・・」
「チクッとするだけよ。あの先生、やさしいからますます好きになっちゃった」
「すごく丁寧だよね。かなりの遊び人だけどさ」マーティンは少し釘を刺した。
「そりゃもてるでしょうね、トロイ先生みたいだもん。私、遊ばれようかな・・」
マーティンは慌てた。そんなことをしたらボスに何をされるかわからない。
「一度寝たら捨てるってさ。やめたほうがいいよ」マーティンの説得にサマンサも頷いた。
ダニーは新聞を読むフリをしながら二人の会話を聞いていた。
マーティンのことが気になって仕方ない。
トロイ、あいつの本気ってようわからんけどあなどれん。
うまいこと入り込みよるからなぁ。昨日も字の練習とかしよったし・・・。
オレのぼんやり王子はあいつに夢中や、ここらでガツンと振り切るで!
何の策も浮かばないが、ダニーの手に力が入った。新聞の端はくしゃくしゃだ。
ダニーはマーティンをランチに誘い、いつものカフェに入った。
「なぁ、一緒に予防接種受けに行こか?」
「ん、いいよ。でも、ダニーは自分のかかりつけの病院があるじゃん」
「ええねん、注射ぐらいどこでも一緒や。オレが予約入れとくわ」
「いや、またケンカになるといけないから、僕が電話しとく」
マーティンは携帯を取り出すとクリニックにかけ、18時に予約を入れた。
二人が予診票に記入していると、小さな男の子を肩車したスチュワートが出て来た。
なぜか今日はターコイズブルーの聴診器をしている。
「じゃあ、おだいじに。うがいと手洗いを忘れるなよ」
すごくやさしそうな笑顔にマーティンもダニーも驚いた。いつもと別人のようだ。
「あれ、次は君たちか。今日は血液検査か?」
「ううん、インフルエンザの予防接種をしてもらいたくて」
「ああ、じゃあテイラー捜査官からどうぞ」
スチュワートに促され、ダニーは診察室に入った。
スチュワートは不機嫌そうにワクチンを準備している。
「なんでオレのとこに来たんだ?他所に行けばいいのに」
「別に理由はないっすよ」ダニーは淡々と答える。
「途中で針が折れたりして?」スチュワートはくくっと笑った。
ダニーの笑顔が引きつる。コイツならありえるわ・・・。
「はい、腕を出して」消毒用アルコールでひんやりした上腕に注射針が刺さった。
ダニーはワクチンが注入される間、息をするのも忘れている。
注射後、ダニーはアルコール綿で腕を揉みながら大きく息を吐いた。
「痛かったのか?」
「いいや、何かされるんちゃうかと思って」
「そんなことするわけないだろ。オレはそんなヤツじゃない。
接種後の30分は安静に。それと24時間は飲酒と運動は避けること」
「セックスは?」ダニーは意地悪く聞いた。
「うーん・・やめたほうが賢明だな。何か体調に変化があったら連絡ください」
スチュワートはそれっきり背中を向けた。
入れ替わりにマーティンが診察室に入ってきた。
スチュワートは予診票をチェックしている。
「一人で来ればよかったのに」
「ダニーに誘われたんだ。それに僕らいつでも会えるじゃない」
「いつでもか・・・」スチュワートはぼそっと呟き、額に手を当てた。
「少し熱っぽいから今日は無理だな」
「え、なんともないよ」マーティンは自分でも額に触れた。少し熱い。
「だめだめ、アナフィラキシーショックが起こったら大変だ」
スチュワートにきっぱり言われ、マーティンも納得した。
「あのさ、この前話してた病気ってもう治ったの?」
「いいや、まだだ」
「そっか・・・早く治るといいね」
「そうだな。薬があるといいな・・・」
「え?」マーティンはよく聞こえなかったので聞き返したが、曖昧な笑いでごまかされてしまった。
「今度は予約取らなくてもいいから。携帯に電話くれ、いいな?」
「うん、ありがとう。スチュワートもお大事に」
「ああ、君もな」スチュワートは寂しそうに頷いた。
ダニーが支払いを終えて待っていると、マーティンが出て来た。
「終わったん?」
「僕は熱があるから今度だって」
「熱?」ダニーは訝しそうに額に触れた。ほんの少し熱いが大したことはなさそうだ。
一緒に来たのは見張るためやのに・・・ダニーは思惑が外れがっかりした。
まあええわ、今度もついてこよう。ここの受付もべっぴんやし。
「ほな、帰ろう」ダニーは前向きに気持ちを切り替えた。
日本酒を飲み過ぎた一行は、タクシーで三々五々家へ帰ることになった。
ダニーもしこたま飲み、そのままベッドに倒れこみたい気持ちだった。
アランが酔っ払ってダニーの腰に手を回すのをどけて、タクシーで一人
ブルックリンに戻った。危ないで、アラン。サマンサが見てるんやから。
着替えるのも面倒くさく、ジャケットを脱ぐとベッドに倒れこむ。
ふぎゅ。何や、この感触?「ダニィ・・?」マーティンの声だった。
「ダニー、酒臭い!」「いつからいた?」「夕方から・・」
ダニーの酔いはさーっと冷めていった。
キッチンを見ると、デリバリーピザの食べかすとワイングラスが置いてあった。
こいつワインのボトル空けてるわ。
冷蔵庫からクラブソーダを出すと、ぐいっと飲むダニー。
「俺、シャワーするわ。」ダニーは服を脱ぐとバスに入った。
マーティンがのこのこついてくる。「マーティン?」「匂いのチェックだよ。」
こいつ麻薬犬か!「よし、ダニーの匂いと酒の匂いしかしない。」
「また俺の浮気を疑ってんのか?」「当たり前じゃない。いつもの事だよ。」
「もう浮気せいへんって言うたやろ。」「信じられないね。」
「信じたくなければ信じなくてええんよ。俺に損はないわ。」
「ダニー、抱いてよ。」「お前、おかしいで!」
「この間は盛りのついたサルみたいだったじゃない。やっぱり今日、誰かを抱いてきたんだ。」
「ちゃう!COLDPLAYのライブの後、食事に行っただけやん。」「抱いてくれなきゃ、僕死ぬよ。」
「おいおい。分かった。ベッドで待ってな。」「うん。」
ボンも頑固やから、ここまでこじれると抱くしかなかった。
キッチンでVの錠剤を口に放り込む。
人工的な勃起は嫌だったが、酒の飲み過ぎで自信がなかった。
出来なかったら何を言われるか分かったものではない。
クラブソーダを飲んで、20分経つのを静かに待つ。
ベッドルームに戻ると、マーティンがじっと見つめていた。
「見るなよ。それじゃ、いくで。」「うん。」
マーティンはすでに全裸になり、ペニスを自分で屹立させていた。
「お前、オナったん?」「ダニーの事考えてだよ。」
「それじゃ、用意ええな。」「うん。」
ミントローションを手に取ると、マーティンの後ろに塗りこみ、自分のペニスにも塗りたくった。
前戯もへったくれもないセックスだった。
マーティンの狭いアヌスを突きぬけ、ダニーは乱暴に前後に動いた。
「あぁ、うっうっ!」マーティンがよがり始める。
手を前に廻すと、マーティンのペニスは爆発寸前だった。
「触って!」マーティンが息も絶え絶えに懇願する。
ダニーが手を前後させると、「あぅ〜!」と吼えてマーティンは射精した。
ダニーは、マーティンの腰を持つと横向きになり静かに挿入を繰り返した。
「ダニィ・・僕の事好き?」「ああ。」「愛してる?」「ああ。」
「もう浮気しない?」「しない。」「じゃあ、きて。」「ああ。」
薬が無ければ萎えてしまいそうな会話だった。
ダニーは一気に動きを加速させて、マーティンの中に精を放った。
マーティンが横向きになり、互いに萎えたペニスをこすりつける。
「ダニー、どうしようもなく好きだよ。」「マーティン・・」
「誰かにダニーをとられたら、僕死んじゃうよ!」
そう言うと熱い涙がマーティンの両目から流れ落ちた。
「俺がここにいてるのに何で泣くんや。俺、お前の前にいるんやで。」
「だって、捕まえてないと、どっかに飛んでっちゃいそうなんだもん!」
ダニーの胸板で思う様マーティンは泣いた。
「マーティン。今日はお前、気持ちが高ぶってるで。もう寝ようや。明日も休みやし。」
「うん。」マーティンはまだ鼻をぐすぐすしていたが、そのうちすやすやと寝息が聞こえてきた。
ああ、神様、俺はこいつを一体どうしたらええんでしょうか。
ダニーもそのうち眠りについた。
翌朝、マーティンはダニーが抱きしめるように腕を身体に巻いてくれているのに気がついた。
「ダニィ・・。好きだよ。」ダニーの寝ている唇にキスを繰り返す。
「うぅぅん。」ダニーが目が覚めた。「マーティン、おはようさん。」
マーティンは恥ずかしそうな顔をして胸に顔をうずめる。
「何や。昨日はあんな積極的やったのに。ヘンな奴!シャワーするで。」「はあい。」
二人で身体を洗い合う。半立ちのペニスをくっつけ合い、シャワージェルまみれになる。
マーティンはダニーが入ってきてくれるのを待っていた。
しかし、ダニーはさっとお湯を浴びるとさっさと上がってしまった。
「??」「コーヒー入れようか。それとも近くのダイナーに食いに行くか?」
「ダニーの朝ご飯がいい。」ダニーは手早くスクランブルドエッグとかりかりベーコンを焼き、
こんがりトーストとコーヒーを合わせて、ダイニングに並べる。
「ダニーがいたら、奥さんいらないね。」「お前、結婚する気あんの?」
「ない。全くない。」「でも、いつまでもこんな関係続けるわけにはいかへんのやで。」
「僕らサンフランシスコに引っ越そうよ。」「何?」
「あっちで結婚するんだよ。」「お前、仕事どうする?」
「だからダニーとレストランやるんだ。」
「そんな夢みたいな事ばっか考えて、今の仕事するんやないで。人命がかかってるんやから。」
「はあい。」マーティンはスクランブルドエッグを皿いっぱいに取って、トーストに乗せてがっついた。
「それで今日どうする?」マーティンが尋ねる。
「そやな。俺は掃除洗濯たまってるから片付けたいな。お前は?」
「僕は、何もすることがない。」「ええなぁ、メイドサービスがあって。」
「うん。今日、ダニーのところにいていい?」
「ああ、但し邪魔せんといてな。俺、家事は完璧主義やねんから。」「ああ、邪魔しないよ。」
その通り、マーティンは邪魔しないばかりか、ソファーで熟睡していた。
こいつ昨日、眠らないで俺を夜中まで待ってたんやないかな?
ダニーの携帯に電話、アランからだ。「はい、ダニー。」
「ダニー、誰か一緒なのかい?」「マーティンが来てる。」「そうか、じゃあ、また。」
ヘンなアラン。前は構わず話してくれたのに。
バスとトイレの掃除が終わり、ベッドルームのシーツや布団カバーを洗濯する。次はリビングや。
「マーティン、起きてくれ。」「うん?僕寝てた?」
「ぐっすりや。リビング掃除するからベッドルームに移動してくれへん?」「うん。」
素直に従ってくれた。昨日のような緊張する会話はゴメンだ。
リビングの掃除も終わり、ダニーは一息ついた。もう3時を回っている。
遅いランチを食べようとマーティンに声をかけに行くと、マーティンは良く眠っていた。
口を半開きにして、まるで子供のようだ。
こんなマーティンに別れを告げるなど絶対に出来ない。
自分の将来もかかっている。打算的と思われようが、
心はアランとマーティンの間で二つに裂かれる思いだが、ダニーは
それを良しとした。自分の人生だ。切り抜けなければ。切り抜けられるで、俺!
ダニーは冷凍の海老ピラフを調理し、コーンスープとトマトサラダを作って、
マーティンを起こしにいった。
ディナーは外食する事にして、グッド・ワールドバー&グリルで北欧料理に決めた。
マスタングでロウアー・イーストサイドまで向かう。
テーブルについて、メニューを見る。「ねえ、ダニー、僕ってうざったい?」
「何や藪から棒に。そんな事ないで。」
「前にさアランの家で食事したじゃない?二人って、あんまりしゃべらないんだよね。」
「だって、患者と医者の関係やもん。話すことないわ。」ダニーは慌てて話をそらそうとする。
「それでも二人の間になんだか濃密な時間が流れてるようで、大人だなと思って見てたんだ。
ダニーがああいう付き合いがいいなら、僕も見習おうかと思ってさ。」
「相手によって、ケミストリーが違うがな。一概には言えんわ。
お前はお前の付き合いたいようにやればええやん。」
「でも、もっと前向きに将来の事考えるとさ、ダニーの希望を聞かないと。」
マーティンは真顔で話している。
「随分長期的な視点やな。俺、短視眼やから、そんなに遠くの事考えられへん。それよりオーダーや。」
二人はスモーガズボードの前菜と、北欧風ミートボールを注文した。
ニシンの酢漬け、キャビア、ハム、ビーツサラダなど沢山並んで、マーティンは大喜びだ。
「これ、お前向きやな〜。北欧人って大柄やからな、お前位食ってんやろうな。」
「何だよ、僕が大食漢って言いたいわけ?」「お前、知らなかったん?」
ぷいっと横を見ながらシャブリを飲むマーティン。
そんなマーティンが可愛くてダニーは微笑んだ。
「にやにやして、嫌な奴、ダニー。」「まぁええやん。好きなだけ食えや。」
「ダニーこそもっと食べた方がいいよ。前に一気に痩せた分、取り戻さないと。」
うつ状態の頃を言うてんのやな。
ダニーは右手にはめた腕時計を触りながら、ぼうーっと考えていた。
「ダニー、僕、食べちゃうよ。」見ると、取り皿が山になっていた。思わず笑い出す二人。
ダニーが目を細めてマーティンを見つめながら、シャブリを飲んでいる。
マーティンは、このまま時が止まればいいと思った。女もアランの影もない。
ダニーと二人だけの時間だ。
「マーティン、何ぼーっとしてるんや。またサンフランシスコの夢の続きでも見てるんやないやろな?」
「夢じゃないよ。最後の手段だ。父さんから初めて独立できる気がするから。」
「おい、実力行使に出ないで欲しいわ。お前の自己実現は他のところでやってくれ。
俺はFBIが天職やと思うてるんやからな!」「でも・・ダニーとずっと一緒にいたいよ!」
ミートボールをほおばりながら、マーティンは一歩も引かない。
「何か話がずれとるような気ぃするで。まぁ、ええわ。お前がそう考えたいなら、
考えとき。レストランも事業計画書作ってきたら、見てやるから。」「本当?」
途端にニッコリするマーティン。ほんまに子供あやしてるようなもんや。
ダニーはやれやれとシャブリを口に運んだ。食事が終わり、マーティンを家に送り届ける。
「泊まっていかないの?」マーティンがじとっとダニーを見つめる。
「ああ、何か疲れた。自分んちで寝るわ。」「そう、おやすみ。」
マーティンがダニーを抱きしめキスをする。「おやすみ。」
ダニーは家に戻ると、すぐにアランに電話した。
「やぁ、ダニー、今どこだい?」いつもと変わらぬアランだった。
「家。アラン、昼間何か話があったんやないの?」
「僕のハニーが何してるかと思ってね。昨日は日本酒沢山飲んだから。
まさかマーティンが一緒とは思わなかったよ。」
「ごめん。部屋戻ったら、マーティンがいて寝てたんよ。だからそのまま泊めた。」
思わず説明口調になるダニー。
「そうか・・まぁいい。今日はもう遅いし。それじゃ、愛してるよ、ダニー。」
「俺も愛してる。おやすみ。」「ああ、おやすみ。」
はぁ〜。何だか俺、恋愛詐欺師みたいなことやってんな。
ダニーは頭を抱えて自己嫌悪に陥った。そこへ携帯が鳴った。
ドナテラ?この後に及んで何やろか。「はい、ダニー。」
「どうして電話返してくれないのよ?」
「ご挨拶やな、ドナテラ。俺が役に立たなかったからって、からまんといて。」
「ダニー、また遊ぼうよ。アランとパメラと4人で。」
「アランはもう君たちに興味ないと思うけどな。」
ダニーははっと思い返った。まだ女性と可能かどうかを確かめきれてない事に。
「俺は、君にまだ興味があるねんけど。その、君さえ良ければ」
「そうなの?意外!ほら、この間ああだったじゃない?」
「俺、疲れてると時々ああなるねん。」「じゃあ、今度疲れてない時にもう一回試す?ふふふ!」
ドナテラは嬉しそうだった。「そやな。今度電話してええか?」
「うん、ダニー、待ってる!良かった、電話して。」「じゃおやすみ。」
「おやすみ、今度は前みたいなダイナミック・ダニーに会いたいな。」
ダイナミック・ダニーか、バイオニック・ジェミーみたいやな。
俺も人工ちんちんになりたいわ。また出来へんかったらどないしよ。
そや、今度は錠剤を飲んでドナテラとエッチして男の沽券を回復しよ。
その後はその時や。さて明日は月曜日や、気分を変えて仕事や仕事!
ダニーはバスルームへと消えていった。
マーティンがベッドでうとうとしていると携帯が鳴った。
「ふぁい・・・」
「マーティン、さっきいつでも会えるって言ったよな?」
「ん?・・うん、言ったよ」言いながらマーティンは大きな欠伸をした。
「いますぐ会いたい」
「わかった、いいよ。今、どこにいるの?」
「君のアパートの下」
「じゃあ、上がっておいでよ」マーティンはロックを解除した。
ドアを開けると、さっきの白衣のままのスチュワートがひどく真剣な表情で立っていた。
「その格好どうしたのさ?」マーティンはまた欠伸をしながら出迎えた。
スチュワートは黙ったまま入るとうがいと手洗いを済ませ、ソファに座った。
「その聴診器、ハロウィンみたいだね。ちょっと貸して」
マーティンは自分の胸の鼓動を聞いてみた。ドクンドクンと規則正しい音がする。
続いてスチュワートの胸にも当ててみた。自分のよりも数倍早い。
「大丈夫?よくわからないけどすごく音が早いよ?」
マーティンは急に怖くなって聴診器を返した。
「熱は下がったのか?」
「それが帰ってから測っても平熱だったよ。ヘンだよね」
「まあ平熱ならいいじゃないか。明日にでもまた来ればいい」
「そうだね。本当は注射なんて嫌なんだけどさ」
スチュワートはマーティンの顔をまじまじと見つめた。
「今夜泊まってもいいか?」
「いいよ。今日はダニーも来ないしね」
「ありがとう。バスルーム借りるよ」スチュワートは聴診器を渡すとバスルームへいった。
マーティンはクローゼットから適当に着替えを出し、ベッドに戻った。
マーティンがベッドの中で本を読んでいると、スチュワートがバスローブのまま入って来た。
「着替えならリビングに出してあるよ」
「ああ、サンキュ。あとで着るよ」スチュワートはマーティンの横に座った。
「快楽殺人者の深層心理?ふうん、無意識に殺人を犯すってやつか」
「よく知ってるね。さすがドクター・バートン!」
「そんなの寝る前に読んだら魘されるぞ。灯りが消せなくなるんじゃないのか?」
スチュワートはマーティンをからかった。
いつのまにか全裸のまま、スチュワートはベッドにもぐりこんだ。
何度もふーっと大きく息をついている。
「オレさ、バイだけど後ろは未経験なんだ」
「え?あ、うん・・・」
「だから・・その・・一度も入れさせたことがないんだ」
「うん・・・」マーティンはなんとなく意味がわかってドキドキしてきた。
「あー、もうだめだ・・・はっきり言おう、君を真剣に愛してる」
「ええーっ!スチュワート!」マーティンは驚いて起き上がった。
「もしかして死ぬの?病気が重いとか?」
「違うよ。どうしたらいいのかわからないんだ。こんな風に誰かを好きになったことがないから」
スチュワートの告白にマーティンは固まってしまった。
「あの、それ本気?」
「ああ、君のことばかり考えてるんだ。このオレが・・・オレとしたことが・・」
スチュワートは自分でも信じられないというように呆然としている。
「でも、僕にはダニーがいるから・・・ごめん」マーティンは謝った。
「いいんだ、それはわかってるから。気持ちだけ伝えたかっただけだ」
二人とも目を合わすことも出来ずに戸惑っている。
「一度だけオレと寝てくれないか?」
「でも・・・」
「一度だけでいいんだ。もう二度と言わないから」
マーティンはスチュワートの熱意に頷いた。
マーティンはパジャマを脱ぎ、全裸になった。
「待ってて、僕もシャワーを浴びてくるから」スチュワートは黙って頷いた。
マーティンがバスルームにいる間にベッドを整え、ココナッツオイルをサイドテーブルに置いた。
とうとう言ってしまった、もう後戻りはできない。
スチュワートは気持ちの高ぶりを感じていた。
たった一度の夜だ、マーティンと体を重ねる最後の夜・・・。
マーティンがベッドルームに戻ると、緊張した面持ちのスチュワートが座っていた。
そっと近寄りキスを交わす。満月の月明かりでぼんやりとお互いの顔が見える。
マーティンは首筋をなぞり、順番に愛撫を施した。
スチュワートのペニスも、自分のペニスも最大限に勃起している。
初めてスチュワートのペニスを咥えた。ぬるぬるとしたそれを口いっぱいに頬張る。
「うぅん・・」スチュワートの甘い喘ぎ声は初めてだ。マーティンは興奮して舌を這わせた。
「指を入れるけど、いい?」マーティンの問いかけにスチュワートは頷いた。
オイルを手に取り、アナルにそっと塗りこむ。
「あぁっ!」マーティンの指を拒むように括約筋がギュっと締まった。
徐々に出し入れをくり返し、時間をかけてほぐす。
小刻みに震えるスチュワートに、マーティンはもうイキそうになっていた。
二本の指が馴染んだころ、マーティンはペニスをあてがった。
「本当にいいんだね?入れるよ?」
「ああ、来てくれ」スチュワートは力を抜いた。
マーティンはゆっくりとペニスを挿入した。
「痛い・・・つっ」スチュワートは痛みをこらえている。
きついアナルを慣らすようにゆっくりと律動する。
すごい締め付けにマーティンは限界を感じた。。
「もうだめだ、スチュワート!」マーティンは動きを早めると中に射精した。
マーティンはペニスを抜くと、スチュワートの上に重なった。
「はぁっはぁっ・・ごめん、イッちゃった」
スチュワートはマーティンの体を抱きしめた。
「僕の中にも来て」マーティンはスチュワートの耳を噛みながらささやいた。
スチュワートは体を入れ替えると、マーティンの中にゆっくりと挿入した。
目を見つめたまま確かめるようにグラインドするスチュワート。
マーティンもスチュワートの視線から目が離せない。
「マーティン、愛してる・・・あぁっ」スチュワートのペニスが中でビクンと痙攣した。
荒い息を吐きながら二人は何度も何度もキスをくり返した。
スチュワートはキスをしながら涙が頬を伝うのを感じていた。
マーティンと一つになれたという喜びで心が満ち溢れている。
これが喜びで泣くってことなのか?
スチュワートは少し優しい気持ちになった。
マーティンはスチュワートの涙に気づくと、やさしく舐め取り、
二人は言葉をかわさず抱き合ったまま眠りについた。
281 :
fanですw:2005/12/01(木) 04:30:39
いつもながらにスリリングな展開に目が離せません。
書き手1さん、ダニーは恋愛詐欺師になっちゃうんですか?
書き手2さん、これで、スチュワートの出番は終了ですか?
回答はいりません。毎晩楽しみにしてますから。
感謝祭ウィークを迎え、支局の職員の事務方は半数が休暇を取って、
オフィスは閑散としていた。マーティンも、週末はワシントンに戻るという。「家族か。ええもんやろな。」ぼそっとダニーが呟く。
11歳で家族と死別してから、施設で過ごしてきたダニーにとって、
昔から感謝祭やクリスマスは死語だ。たいてい友達、といってもゴロツキ達と
つるんでは悪さをやる時期でもあった。俺の封印した過去や。
ダニーはPCを眺めながら、ぼぅーっと考えていた。
そんな時、携帯が鳴った。アランからだ。「はい、テイラー。」
「ダニー、金曜日、空けといてくれよ。家で感謝祭ディナーやるからね。」
「ほんま?感謝祭ディナー?」チームの皆が振り返るような大声だった。
サマンサとヴィヴィアンがくすくす笑っている。マーティンは訝ってダニーを見ていた。
電話を切り、皆の様子に気がつくダニー。
恥ずかしそうに席について、「俺かて、用事あるんや。」と宣言する。
「良かったわね、ダニー・ボーイ。一人だったら家に招待しようかと思ってたんだよ。」
ヴィヴィアンが優しく言う。「ありがとな。さぁ仕事や!」
ダニーは、断然、金曜日が楽しみになった。こんなうきうきする感謝祭、初めてや。
さて、当日、書類の整理で遅くなったダニーはタクシーに急いで乗り込み、
アッパーウェストエンドへ上がった。道が混んでいて思うように進まない。
しまった!みんなこれ感謝祭の人出やな。地下鉄の方が良かったかも・・。
30分遅れてアランのアパートに着く。合鍵で入ると、ケンがドアを開けてくれた。
「ケン!」「今日はギルもいますから。」小声で言うと「ダニー到着です!」と振り返った。
ギルの他、ビルとトムも来ていた。「やあ、常連さん。調子はどうだい?」
トムがシャンパンを飲みながら声をかける。「上々や。ドクター!」
「それじゃあ、揃ったので、もう一度乾杯しまあす!」ケンが音頭を取る。
「ニューヨーク・ロンサム・ハンサム・クラブに乾杯!」
NYの孤独なハンサムの会か。テーブルには大きな七面鳥と温野菜、アンティチョークとオリーブのサラダと
山ほどのパン、パンプキンパイが並んでいる。
「すっごいなぁ、これアラン一人で作ったん?」
「市内の患者さんは皆さんご家族に返還させていただいたからね。暇なのさ。」
「うそうそ、アランの感謝祭ディナーって1週間前から準備するのよ、毎年。」
ビルが訳知り顔で話す。
「へぇ。トムもようローテーションから抜けられたな。」
「夜勤だよ、これから、食べ過ぎ、飲み過ぎの患者を何人診ることやら。」
みんな何かしら訳ありでここに来ているだろう。ダニーは心強くなった。
早速ダニーは七面鳥のスライスにグレイビーソースをつけ、付け合せのポテトとブロッコリを取った。
七面鳥のスタッフィングは栗とベーコンスライスが混じっていて美味しそうな香りがした。
「ケン、日本に感謝祭ってあるのか?」トムが尋ねる。
「勤労感謝の日っていうのがあるけど、家族とは過ごさないですね。特に名物料理もないし。
だから、今日はすごく楽しみだったんです。」小たぬきぶりを発揮するケン。
ギルは目を細めて見つめている。相変わらずメロメロだ。
「ビル、そういえばこの間送ったポートフォリオどうだった?」アランが尋ねる。
ダニーはドキっとした。ドナテラとパメラの分だ。
「そうねぇ、プラチナブロンドはあと10キロ減量が必要。赤毛はだめだわ。」
「そうか、残念だ。」「アラン、どんな知り合いだったの?」「患者だよ。」
アランはダニーにウィンクした。アラン、ごめん、俺、ドナテラと切れてない。
アランに対する背信行為を平然と行える自分に、ダニーはまた自己嫌悪に陥った。
食事も佳境を過ぎ、ビルはケンに興味を持ったのか、まとわりついている。
「ケン、あと5cm身長が高ければ、私のメンズに出て欲しいわ。」
「もうこの年になって身長、伸びませんよ。」ケンが大笑いしている。
ギルは満足そうだ。アランがダニーの後ろからシャンパングラスを持って乾杯しようとした。
首筋にアランの唇が当たる。身体に震撼が走るダニー。俺、めちゃ敏感や、今夜。
「ダニー、ピアノ弾いてくれないか。」「そうやね。」
ダニーはスタンウェイを明け、EAGLES、BILLY JOEL、BEN FOLDS、AQUALUNG、
それからスタンダードの曲を幾つか披露した。アランがそばに立って見つめている。
アランは俺の家族や。ダニーは不覚にも涙を流しながら演奏していた。
アランが頬を伝う涙をぬぐってくれる。
アランは、残った七面鳥を綺麗に切り分け、皆の分をジップロックのケースに入れて、
持たせる準備をした。トムがERに戻るため帰っていった。
「そろそろお開きね。今年も楽しかったわ。」ビルも帰って行った。
ギルとケンはいちゃいちゃしていて、なかなか帰ろうとしないが、
アランが促して、帰ってもらう。
アランとダニー二人きりだ。「ハニー、さっきは何で泣いてたんだい?」
「俺・・11歳で、家族いてないやん。感謝祭なんて一生自分には関係ないもんやと思ってた。
それが、今年、現実のものになった。アランのお陰やと思ったら、涙止まらんようになった。」
ぐすっとまた泣き始めるダニー。アランは後ろからダニーを抱きしめ、涙をキスでぬぐった。
「さぁ、バスにでも入ろうか。」「うん。」
ダニーはディナーの後片付けを手伝いながら、バスにお湯を張りに行った。
俺に新しい家族がいてる。ダニーは人生の幸せの一片を理解したような気持ちになっていた。
「アラン、バスの用意が出来たで〜!」「一緒に入ろうか?」アランがわざと聞く。
「当たり前やん。」
ダニーが恥ずかしそうに答えて、アランの手を取り、バスルームへと入る。
衣服を脱ぐのももどかしく、バスタブにつかる二人。
今日はティートゥリーの香りだ。「アラン、俺、すごい幸せ。」
「それを聞いて安心したよ。君はまだマーティンに気持ちがあるんだろうと思ってるから。」
「・・・」
「でもそれでもいつも僕のところに戻ってきてくれる。
だから僕は君をもう束縛しないことにしたんだ。」
「アラン・・」「愛してるよ、ダニー。こんな気持ち初めてだ。」
「俺も家族って感じられるのはアランしかいてへん。」
湯船で二人はキスを繰り返した。「息子、元気になってもうた。」
ダニーが俯きながらつぶやく。「ベッドに行こうか。」
「うん。」二人はバスタオルを巻いて、ベッドに直行する。
ダニーがローションを取って、自分の後ろに塗りたくる。
「今日は、アランの入ってくるのが、欲しい。」「じゃあ、そうしようか。」
アランも自分にローションを塗り、ダニーの締まった蕾にあてがった。「行くよ。」「うん。」
アランがゆっくり進入を図る。「ハァ〜、ああぁん、うっ。」
ダニーが甘い声でよがり始めた。
「動かすよ。」優しいアランの言葉。1年前、関係を始めた時には想像だにしなかった状態だ。
アランがゆっくりと動き始める。「あぁ、アラン、俺、我慢できない。」
ダニーは自分で扱きながらイこうとする。アランが手を添えた。
ダニーが小刻みに震える。「ダニー、イってもいいかい?」「ああ、来て〜!」
二人は同時に射精した。「ふうぅ〜。」アランが大きなため息をついた。
「いつかは、君の要望に応じられない時が来るんだろうな。」ダニーは衝撃を覚えた。
「アラン、それはないで。色々あるやんか。Vの錠剤とか。」
「そうだけれど、君とは一回りも年が違う。実感してるよ。」
アランの独白に困惑するダニー。
「そんな事言わないで、俺とずっといてくれるって言ってえな。」
「そうしたいのは僕の方だよ。君を満足させられるかが不安でね。」
「アラン、杞憂やて。俺、アランにぞっこんやもん。」
「ありがとう、ダニー。君は優しい子だね。」ダニーは焦った。
どこまで、俺の感情を読まれてるんやろう。
不安になりながら、アランの胸にキスマークをつけるダニーだった。
朝、マーティンが目を覚ますと、スチュワートが横で眠っていた。
無防備な寝顔に見とれ、うっすら伸びたヒゲにそっと触れる。
昨日の告白を思い出すと全身がカァっと熱くなる。
「ぅぅん・・・おはよう」スチュワートが目を覚ました。
「おはよう、もう朝だよ」
「ああ、そうみたいだな。昨日はありがとう」
「いいんだ。僕こそありがとう」マーティンはほっぺにそっとキスをした。
スチュワートは恥ずかしそうにはにかんだ。
こんなに素直なスチュワートなんてめずらしい。
「僕、先にシャワー浴びるね」
マーティンも恥ずかしくなりあたふたとベッドルームを出た。
マーティンがバスルームから出ると、スチュワートが携帯で電話していた。
「ジェニファー、マーキンソンに連絡してくれよ。本当に体調が悪いんだ。オレは今日は休む。頼んだぞ!」
一方的に切る様子にマーティンは思わず笑った。「ズル休みだね?」
「ああ、今日は誰にも会いたくない」
「医者がズル休みするなんて聞いたことがないよ」
「オレはまだ動揺してるんだ。こんなんじゃ誤診するかもしれないだろ」
グリーンの目がまっすぐ自分を見つめている。
マーティンは一度袖を通したワイシャツを脱いだ。
「僕も今日は休もう。臨時休業だ」マーティンは支局に病欠の連絡を入れた。
スチュワートはニヤニヤしている。
「そっちこそ連邦捜査官のくせにいいのかよ?」
「僕ってあんまり役に立ってないからね。いてもいなくても変わらないさ」
マーティンはもう一度ベッドにもぐりこんだ。
スチュワートがやさしく自分を見つめている。
マーティンはどうすればいいのかわからないままじっとしていた。
「もう一度寝るのか?」
「そんなに見つめられてちゃ眠れないよ。スチュワートは?」
「このままずっと君を見てる。一日中でもかまわない」
「へぇー、見てるだけなんだ?」
「ああ、約束したからな。君を困らせるようなことはしない」
スチュワートは人差し指と中指をクロスさせた。
「ずいぶん律儀なんだね。意外だよ」
「君には嘘がつけなくて・・・オレも困ってるんだ」
「今のスチュワートなら信じるよ」マーティンも指をクロスさせた。
「何か食べようか?シリアルぐらいしかないけど」
「ああ、オレはシャワー浴びてくる」
マーティンはシリアルとミルクを用意した。
マーティンがシリアルにミルクをかけようとすると、スチュワートが待ったをかけた。
「オレはこっちのほうがいい」冷凍庫からアイスクリームを取り出すとシリアルにのっけた。
「いいな、僕もそれにする」マーティンもミルクをやめた。
ダニーが見たらきっと太るってからかうだろうな、マーティンはふと思った。
「おいしくないのか?」ぼんやりしたマーティンにスチュワートは問いかけた。
「ううん、すっごくおいしい!今度から絶対アイスにするよ」
スチュワートは満足そうに頷いた。
ダニーは支局でマーティンの病欠を聞き、昨日熱っぽかったことを思い出した。
ミーティングが終わるとトイレに行き、こっそり電話をかけた。
「あ、オレや。また熱出したんやて?」
「ダニー!うん、ちょっと・・・」マーティンは思わず声が裏返った。
「そうか・・大丈夫なん?」
「うん、へーき。寝てれば治るよ」
「ゆっくり寝とけよ、またあとでな」
マーティンは仮病がばれなかったことに胸をなで下ろした。
「さてと・・オレは帰るよ。最高の思い出ができた。ありがとな」
ダニーからの電話に遠慮したのか、スチュワートはマーティンを抱きしめ、ほっぺにキスした。
「ヘタでごめんなさい。もっと上手にできればよかったんだけど・・」
「何言ってるんだ。君は十分上手かったぜ」
「あのさ・・僕ら、二度と会わないの?」マーティンは聞きたくても聞けなかったことを聞いた。
「・・・オレはそのつもりだ」スチュワートは目を伏せた。
マーティンはスチュワートの手をギュッと握り締めた。
「あ、病気になったときはオレのところに来てくれ。それは例外だから」
「じゃあ僕はわざと病気になるよ。それでスチュワートに診てもらう」
「マーティン、困らせないでくれよ。本当はオレだって君に会いたいさ。
でも君にはステディな相手がいる。見てると辛いんだ」
スチュワートはマーティンの手をそっと離した。
「スチュワート・・・」
「それじゃ、もう行くよ。うがいと手洗いを忘れるんじゃないぞ!」
スチュワートはもう一度抱きしめ、髪をくしゃっとして出て行った。
一人残されたマーティンは呆然とその場に立ち尽くした。
313 :
fusianasan:2005/12/02(金) 13:40:59
書き手1さん、ダニーとアランがすごくいい関係になっていて、ダニーがとても幸せそうで
読んでいる私も嬉しくなりました。
書き手2さん、マーティンとスチュワートの関係が続くのはいいのですが、ダニーにも良い
相手が見つかって欲しいです。今の状態ではなんだかダニーがかわいそうな感じなので・・
毎日書いていて大変だと思いますが、いつも楽しみに見ていますので、これからも宜しくお
願いします。
>>313 ご意見ありがとうございます。
勧善懲悪もいいのですが、苦しみや迷いも時には必要なんじゃないかと思い、今回の設定にしてみました。
自分自身ダニー萌えなので、お気持ちはよくわかります。御要望に添えなくて申し訳ありません。
ダニーが勤務を終え、マーティンのアパートに着くと
ベッドに放心状態のマーティンがいた。
うつろな視線は漠然と空を彷徨い、ダニーにも気づかない。
「ただいま。どうしたん、ぼんやりして?」
「あ、ダニー・・・なんでもない」
ダニーはマーティンの額にそっと触れた。熱がないどころか体が冷え切っている。
「えらい冷たいで。また風邪引くやん」ダニーは羽毛布団をしっかりと被せた。
マーティンは気づかれないよう布団をそっと撥ね退けた。
どうしても風邪を引きたい。風邪を引いてスチュワートに診てほしい。
邪な気持ちに心が支配されている。
あっ、これがボスの言ってた僕の残酷さなのかも・・・
マーティンはハッとした。
僕にはダニーがいる。これ以上辛い思いをさせちゃいけない。
マーティンは反省して布団を被った。
ダニーはキッチンでロイヤルミルクティーを作っていた。
ゴミ箱にハーゲンダッツのパイントカップが二つ捨ててあるのに気づいた。
あいつ、こんなもん二個も食いやがって・・・。
「おい、あんなにアイス食べたら体調崩すん当たり前やろ。ほんま、あほやなぁ」
ダニーはロイヤルミルクティーを手渡し、呆れたように言った。
「ごめん・・・」マーティンはしおらしく謝った。
「早よ治してインフルエンザの予防接種受けろよ。シーズンに間に合わへんで」
ダニーはクリニックの受付を思い出し、ふと表情が緩んだ。
「今度も一緒に行くからな」
「え、何が?」
「あのクリニックや。付き添いがいるやろ」
「一人でも平気だよ。注射ぐらいで付き添いなんて、僕は子供じゃない!」
マーティンはムッとしてそっぽを向いた。
「ごめんごめん、そんなつもりやないんや」
「一人で行く!」マーティンは布団をすっぽりと被ってしまった。
あちゃー、言い方が悪かったか・・・ダニーは後悔したが後の祭りだ。
単純やからそのうち忘れるやろ。オレは絶対について行く。
トロイのことも見張る必要があるし、あのべっぴんにも会いたい。
「わかったから機嫌直して。オレ、今夜泊まろうか?」
「いい、一人で大丈夫だから。明日は出勤できるよ」
「ほな、もう寝とくんやで。オレは帰るから」
ダニーはマーティンにキスすると帰っていった。
マーティンはダニーが帰るとスチュワートの携帯に電話した。
「僕だけど・・・」緊張して言葉が続かない。
「うん」
「あのさ、明日予防接種してくれる?」
「ああ、もちろんだ。19時なら大丈夫だと思う」
「ありがとう。早く会いたいよ」
マーティンは言ってからしまったと思ったが、一度出た言葉は取り消せない。
「困ったお坊ちゃんだ。それじゃ、明日」スチュワートは苦笑しながら切ってしまった。
明くる日、マーティンは勤務中もそわそわして落ち着かなかった。
ボスに書類の字がマシになったと褒められたのも、早くスチュワートに伝えたい。
時間が過ぎるのを今か今かと待っていた。
ようやく勤務が終わり、マーティンはクリニックへと急いだ。
約束の時間までまだ一時間以上もある。
途中のカフェに入り、飲みたくもないコーヒーを飲んで時間を潰した。
19時が近づき、マーティンはもどかしくチェックを済ませるとクリニックへ行った。
受付には誰もいない。「スチュワート?」マーティンはそっと呼んでみた。
「ああ、こっちだ」診察室からよろよろとスチュワートが出て来た。
「どうしたのさ?」マーティンは慌てて手を貸した。
「ケツが痛くて。オレ、カニみたいな歩き方だって子供に笑われたんだ」
「カニ?」マーティンはおかしくてくすくす笑った。まさにカニそのものだ。
「さてと、それじゃあ予診票に記入してからシャツを脱いでくれるか」
スチュワートはよろよろと予防接種の準備を始めた。
「熱はなしと・・・今日は出来そうだな」
予診票をチェックしているスチュワートにマーティンは後ろから抱きついた。
「な、何だよ、びっくりするだろ!」
「もう会わないなんて言わないで。お願いだから」
マーティンは必死に抱きついた。
「その件は昨日話したじゃないか。わかってくれよ」
「嫌だよ、わからない、わかりたくないよ!」
スチュワートは困ったようにため息をついた。
「とにかく手を離してくれないか。座って話そう」
マーティンは渋々手を離し、二人は向かい合って座った。
スチュワートはマーティンを見た。今にも泣きそうな顔をしている。
「オレだって君に会いたいし、一緒にいたい。それはわかってくれるか?」
マーティンはこくんと頷いた。
「でも、このまま君を想っていても君は他の人のものだ。だからこうするしかないんだ」
「嫌だ!僕だってスチュワートのことが好きだ!」
マーティンはスチュワートにすがりついた。
「でも一番じゃないだろ?君の一番大切な人はテイラー捜査官だ」
「・・・・・・・」
「わかったか?オレはオレだけを見てほしいんだ。誰かの二の次なんて嫌なんだ」
「スチュワートは僕だけを見てくれるの?」
「今も見てるさ。自分でも戸惑ってるけど・・・マーティンを愛してる」
「僕だってスチュワートのこと愛してるよ」
「マーティン・・・そんな無理するな。君がテイラーのことを愛してるのは知ってるから。
さあ、それじゃシャツを脱いで上腕を出して。痛くないからね」
スチュワートはマーティンを促した。
予防接種が終わったあともマーティンは塞ぎこんだままだった。
「オレの注射は痛くなかったろ?はい、今日の診療はおしまい。帰ろうか」
着替えを済ませると何も言わないマーティンを車に乗せた。
「何か言えよ、あ、でかい月が出てる。10時の方向見て」
マーティンはそっぽを向いた。仕方ないなぁ・・・スチュワートは手をつないだ。
「ひゃあっ」スチュワートの冷たい手に思わず声を上げるマーティン。
「すまない、オレの手ってなぜかいつも冷たいんだよなぁ」
スチュワートは手を離そうとしたが、マーティンは力を入れて引っ張った。
アパートに着いても車から降りないマーティンを、スチュワートは部屋まで送っていった。
ドアを開けても、それでもなおマーティンは黙りこくったまま手を離さない。
「遅かったなぁ、あ・・・どうも、こんばんは」
またコイツか!ダニーは嫌々ながらも普通に応対した。
「やあ、テイラー捜査官。さっきワクチンを打ったところだから安静にしてやってくれ」
「ええ、ご心配なく。オレがきちんと見ますから」
ダニーはフッと馬鹿にしたように笑った。
その笑いに触発されたのか、スチュワートはいきなりマーティンの口をふさいだ。
「んんっ!」マーティンは固まり、ダニーは口をあんぐりと開けた。
硬直した身体をスチュワートはさらに抱きしめる。
腕も唇も何もかも、意地でも放さないと言いたげだ。
「あきらめるのはやめだ。オレは君には負ける気がしないね!」
ダニーの目を見ながら言い放ち、濃厚なキスをくり返した。
マーティンは驚いていたが、ペニスはすでに大きく反応していた。
書き手2さん!!
ダニー萌だった私ですが、今はスチュワートにゾッコンです!!
だってダニーたら女との浮気ばっかり考えてるし、マーティンが可哀想なんだもの!!
ダニーとマーティンがラブラブなのが読みたいけど、ぜひスチュワートにも幸せになってもらいたいです!!
一読者の戯言ですが、スチュワートを不幸にしないで〜
マーティンはワシントンから日曜日の昼便で戻ってきた。
窮屈な実家から一刻も早く離れたかった。ダニーの携帯に電話をかける。
留守電だ。「ダニー、僕だけど、電話ください。」
アランの所だとめぼしはついていたが、確かめる勇気がない。
ダニーの言うとおり、純粋に医者と患者の関係だとしても、仲が良すぎる二人が気になってしかたがない。
COLDPLAY、僕だって好きなのに、きっとアランと行ったんだ!
マーティンの伝言にダニーが気がついたのは、夜の9時すぎだった。
アランの家で金曜日からずっと過ごしてきたダニーは、心が満たされていた。
マーティンに急いで電話をかける。「ダニー、おかえりなさい。」
「ああ、お前こそおかえり。早く帰ってきたんやな。」
「だって、父さんと一緒にいたくないもん。ダニーはどんな感謝祭だった?」
「あぁ、七面鳥食って、ピアノ弾いて、酔っ払って・・それだけや。」
「ふぅん。これから会えない?」「もう9時すぎやで。」「家、泊まっていい?」
ダニーはアランとの間に踏み込まれるような違和感を覚えた。
「今日はやめとこ。お前も疲れてるやろ。明日から仕事やしな。」
「そうか。じゃ、おやすみ。」「おやすみ。」
マーティンは携帯をソファーにぶん投げた。
何が、お前も疲れてるやろだ、僕はすぐに会いたかったのに。ダニーのバカ!
翌朝、早めにダニーが出勤すると、マーティンが先に支局に着いていた。
「マーティン、おはよう!」「ああ、おはよう。」素っ気ない。
ダニーは気にしながら、ベーグルとダブルエスプレッソの朝食を始めた。
「おい、お前、何か言いたくない?」「別に。」
マーティンはPCに向かい、メールを忙しく打っている。
サマンサが出勤してきたので、ダニーは、朝食を続けた。
定例ミーティングを終え、ダニーはマーティンにメールした。「捜査会議OK?@自宅」
マーティンがすぐに開封したのが分かったが、返事がなかなか来ない。あいつ、じらす気やろか。
腹が立ってトイレに立つダニー。マーティンはPCを眺めたままだった。
トイレから戻ると返信が来ていた。「承諾。」あいつ何怒ってるんやろ。
感謝祭後の月曜日、事件も無く、淡々と時が過ぎる。定刻になり皆がPCを終い始めた。
マーティンとダニーも帰り支度をする。「マーティン、ちょっとええか?」
「何?」「歩きながら話そうや。」ヴィヴィアンとサマンサは先に帰って行った。
「何だよ?」「お前と帰りたかっただけや。」二人で、ブロックの角まで来てタクシーを拾う。
「家に何もないから、外食しよか?」「珍しいね。週末、買い物するじゃない。」
ダニーはマーティンに探られているような気がして居心地が悪い。「ちょっと体調崩してな。」
「大丈夫?」マーティンが額に手を当てようとする。「よせや。」「外食でいいよ。」
二人はブルックリンの「グリマルディーズ・ピザ」に寄った。
シーザーサラダ、マルゲリータとジェノベーゼのピザ、
キャンティクラシコをオーダーする。
「で、久しぶりのワシントンはどうやった?」
「毎年同じだよ。メイドの作った七面鳥とパンプキンパイ。親子の上っ面だけの会話。ジ・エンド。」
マーティンには珍しく皮肉っぽく言う。
「お前、本当に親父さんとうまくいってないんやな。親父さん、寂しがってると思うで。」
「あの父が?ワシントンから僕が逃げ出した時点で、とっくに見切りつけてると思うよ。」
「それだったら、お前をかばったりするか?例のダーシー事件とか。」
「あれは、父さん自身の保身のためだよ。それよりか、ダニーの事褒めてたよ。」
「そうか?」ダニーはまんざらでもない表情を浮かべた。
マーティンはそれが嫌だった。出来る兄と比較される弟のような気持ちになるからだ。
カインとアベルみたいだ。マーティンはぼんやり考えた。
サラダとピザが来た。早速、マルゲリータにがっつくマーティン。
「お前ってさ、何があっても、食欲無くさないのな。
俺が撃たれて病院に行っても、スナック食ってるだろうな。」
「何か、バカにしてる?ダニーが撃たれたら、何も喉を通らないよ。」
ぷーっと膨れて横を向くマーティン。
もし俺が撃たれたら、アランはどうするやろう。きっと自分で執刀すると言い張ってERを困らせるやろうな。
思わず、くすっと笑うダニー。「何がおかしいの?」「いや、何でもない。」
あわてて、マーティンに集中するダニーだった。「それで、事業計画書の事なんだけどさあ。」
「事業計画書?」「もう忘れたの?僕たちのレストラン・プロジェクトだよ。」「お前、本気にしとったん?」
「本気だよ。公認会計士に頼んで、今、作ってるとこだから、待ってて。」
あちゃー、ぼんを本気にしてもうた!ダニーは慌てた。
「もう名前だけは決めたんだよ。「D&M」って言うんだ、
シンプルで覚えやすいでしょ?サンフランシスコのウォーターフロントで
ダニーのお得意のムール貝のワイン蒸しとか、ブイヤベースが食べられるお店。
僕が客だったら、毎日通うよ。」
情景を思い浮かべて話すマーティンにダニーはあっけにとられていた。
こいつ、やるとなったら頑固やからなぁ。さて、どないしよ。
「俺、FBI続けたいんですけど、だめですか?」
「いつまでも、命を懸けてなんかいられないじゃない?老後の事も考えて、早く引退しようよ。」
こりゃ、だめや、完全にアイディアに酔ってるわ。
「とにかくピザ食って、家に帰ろう。」「今日は泊めてくれる?」
「ああ、ええで。」「良かった!」マーティンは突然、ピザをがっつき始めた。
ゲンキンなやっちゃなぁ。ダニーの家まで歩いて帰る。
マーティンの手が自然とダニーの手を握る。「だめやぞ!ばれる。」振りほどくダニー。
「けち!」マーティンはダニーにレストラン・プロジェクトの話が出来て満足していた。
ダニーだって事業計画書見れば、考え直してくれるかも。
坊ちゃんの典型的な楽天的思考で、マーティンは前向きに捉えていた。
ダニーの家に着き、マーティンは自分のクロゼットからパジャマを取り出す。柄はシマウマだ。キッチンで冷凍庫から
アイスを取り出し、リビングで食べ始める。同じくパジャマに着替えた
ダニーはその様子に驚いていた。「お前、アリー・マクビールかよ!」
「だって、ピザ屋でデザート抜いたじゃない?ダニーも食べようよ。」
「俺はいい。太るで。」「いいんだよ。レストランオーナーらしく恰幅良くしなくちゃね。」
「その前に俺たちFBI捜査官やぞ。太った捜査官なんて、かっこ悪いやん。」
ダニーはシャワーを浴びにバスルームへ入った。夢見る王子は世話焼けるなぁ〜。
はぁ〜とため息が出るダニーだった。
>>313 さん
感謝祭ストーリー、気に入っていただいてありがとうございます。
過去が壮絶だったからこそ、幸せになってもらいたいと私も願ってます。
また、これからもぜひよろしくお願い致します。
>>330 スチュワートのファンが見つかって心強いです。
新しい構想を練りたいと思います。
週末、ダニーはアランのリビングで例のごとく雑誌を読みながら、ごろごろしていた。
アランはキッチンでイータラのグラスを磨いている。
そんなアランの姿が凛々しくて、嬉しくなるダニーだった。
「ハニー、何、にやにやしてるんだい?」アランが不思議そうに尋ねる。
「俺の男を見てただけやん。」そう言ってダニーが恥ずかしがる。
「俺の男か。所有格で呼ばれるのには慣れていないな。」アランが近付いてきて、額にキスする。
「そや、今日のHIV救済チャリティー行くんやろ?」「ああ、ダニーも都合はいいかい?」
「もう前みたいに俺をオモチャにしないでくれるなら、行ってもええで。」
前回は、二人して金持ち老人の慰み者になったのだった。「ああ、約束する。」
「じゃ、行こう!」今回の場所はソーホーの60トンプソンホテルだった。
ダニーはエンポリオ・アルマーニのざくっとした生成りのセーターにライトブルーのパンツ、
それに茶のジャケットを合わせていた。アランはゼニアの黒のジャケットにVネックシャツ、
ダークグレーのパンツだ。
受付を済ませると、財団の人が寄って来た。
「ドクター・ショア、前回は多額なご寄付をありがとうございました。
今日は特等席ですから、ショーをお楽しみください。」「ありがとう。」
ダニーも鼻高々だった。二人で一列目正面のテーブルに付く。
驚いた事に、あの老人と執事も同じテーブルだった。
「これは、これは、妙な偶然だ。」アランは焦らず、老人と握手する。
ダニーは老人の悪臭漂う口でイカされた事を思い出し、ついしかめっ面をしながら握手する。
「ご主人様があの後、同額の寄付をされましたので。」執事の男は静かに対応する。
「ひゃー、ひゃー」老人の舌と歯のない口内から笑い声が漏れた。
チャリティーが始まった。シャンパンを飲みながら、主催者のスピーチを聞く。
そして、例のイベントだ。俄然、会場が熱気を増すのが分かる。
「今回のメイン・イベントです。今夜の夢のデートを勝ち取ってください。
ではまず、赤毛のアイリッシュ君から。」
「1000ドル」「2000!」「3500!」今日は低調なようだ。
「次は東洋の神秘君です。」「ケン!」アランとダニーは二人で大声を上げた。
ケン・ヤマギシがステージから笑みを送っている。「3000ドル!」
「5000」執事が静かに手を上げる。「6000!」「7500」執事がまたもさえぎる。
「アラン、どないする?」「あいつの事だ、自分で乗り切るさ。」
ダニーは自分の弟がステージに上がっているようで胸がドキドキしていた。
ケンがこちらに向かって、投げキッスを送ってきた。
会場のあちこちから嬌声が上がった。
「あいつ、女に落札されたらどうするんやろ。」小声で呟くダニー。
「8000!」「1万」執事の声。
「はい、もうおられませんか?落札です!」
あちゃー、じいさん、ケンを慰み者にする気か。
ダニーは思わず席を立ち、舞台のそでへ向かう。「ハイ、ダニー!」
「おい、お前、あのじいさん、どうするか分かってる?」
「前回、貴方とアランがされた事でしょ?好奇心湧いちゃって。」
「何や!調べ、ついとるんか?」「たまたま裏情報検索してたら、このチャリティーの帳簿に
行き着いて。前回、アランが巨額の寄付をしてるから。
ダニーも一緒に遊ばない?」「俺はもう、ごめんや。」
「そうか、残念。これ、ギルには内緒ですよ。」
「今日は一緒じゃないんか?」「こんなのに出たって知ったら、殺されます。」
ケンはじゃあねっと言うと、財団の人と去っていった。
とんだ鉄砲玉やん。席に戻るダニー。「ケン、どうしてた?」
「単純な好奇心らしい。ギルには内緒やて。」
「全く、ギルをどこまで苦しめるんだろう。」「そうなん?」
「ああ、ギルも年齢を気にしていてね。ケンはあの通り若いだろう。
NYに慣れたら、自分から離れて行きかねないと思っている。」
「正体知らないからやな〜。ギルが気の毒や。」
「その点、僕らにはもう秘密がないから、気が楽だな。」
アランがため息交じりに言う。「う、うん!秘密ないもんな。」俺とドナテラの約束・・。
ダニーはチャリティーディナーのステーキを口に運びながら、ぼーっと考えていた。
「もう少しソースはいかがですか?」聞き覚えのある声が後ろからする。
降り向くとドナテラが給仕係姿で立っていた。
「あ、ドナテラ。」アランも気がついて声に出す。
「あら、ダニーとアラン、お久しぶり!」「元気やったか?」
ダニーはドナテラが何をしゃべるのか気が気でない。
「ええ。すこぶる元気。ビル・トレバーの方は、写真選考で落ちちゃったけどね。」
「それは残念だったねえ。」アランの同情したような声。
「だから、ここでバイトすることにしたんだ。ファッション関係の出入りが多いホテルだから。」
「いい目の付け所だ。」アランが褒める。「まぁね。それじゃ、仕事戻るんで。」
巨乳を突き出しながら、アランの皿にソースをかけて、ドナテラは離れた。
ふぅ〜、ダニーの口からため息がもれた。良かった。
アランが不思議そうに「どうした?」と尋ねる。
「あいつの巨乳、アランの顔につきそうやったもん。」
「それもいいねぇ。」「アラン!」テーブル下で、ダニーはアランを蹴飛ばした。
笑っているアラン。老人が執事とテーブルから離れる。老人がダニーに向かってウィンクした。
うは〜、気色悪〜。ケンに後で連絡取ろう!
ディナーも終わり、皆、メインバーの「トムズ」に移動する。
マンハッタンをオーダーし、カウンターで待っていると、「ダニー?」という声。
「サマンサ!」「いや〜だ、また会っちゃった!」今晩のサマンサはすこぶるご機嫌だ。
「誰かと一緒なん?」「うん、ボスと・・。内緒にしてね。」「問題なし!」「ありがとう。」
見ると、ラウンジチェアーに座って、アランとボスが話をしている。
「私もダニーの事、内緒にするからね。」「だから、誤解やて。」「いいの、いいの!じゃあね。」
サマンサはボスと去っていった。サマンサとは良く会うなぁ。
今日なんかHIVチャリティーなんて、もろやんか。
サマンサにはカミング・アウトすべきなんやろか? マンハッタンをすすりながら、考え事をするダニー。
「ハニー、どうかしたかい?」アランが心配そうに尋ねる。
「あー、サマンサには俺たちの事言った方がええのかなと思って。」
「彼らも彼らの事情でいるんだから、ぼかしとけばいいんじゃないか?
正直すぎる人間は、時には煙たがられるものだよ。」
正直すぎる人間、ダニーはとっさにマーティンの事を考えた。
「そやね。もう1杯、マンハッタン飲むけど、アランは?」「僕にも。」
「それじゃ、取ってくるわ。」「ああ、頼む。」
ダニーはマーティンの無邪気な笑顔を思い出していた。
スチュワートはようやくマーティンの体を解放した。
マーティンは固まったまま呆然としている。
「いつまでくっついてんねん!こっちに来いや!」
ダニーはマーティンの腕を引っ張った。
「それじゃテイラー捜査官、くれぐれも安静にしてやってください。
マーティン、何かあったら夜中でもいいから電話くれよ。おやすみ」
スチュワートは意味ありげにニヤッとすると帰っていった。
ダニーはふくれっ面のまま、マーティンをリビングへ引っ張っていった。
「お前、黙って勝手に行くなや。オレに言うたらええのに!」
ダニーは怒りが収まらない。
「ダニーが嫌な感じの笑い方するからからかったんだよ、きっと」
「は?お前あいつの味方する気なんか!」
「やめようよ。敵も味方もないんだからさ」
マーティンのぼんやりした応対にもムカつくダニーだった。
マーティンはまだドキドキしていた。
うがいをしながらさっきのキスを思い出すと、うっかり水を飲んでしまった。
うへぇ〜、バイキンの水を飲んじゃった・・・。
なんでもないようなことなのに、具合が悪くなるような気がするから不思議だ。
マーティンは念入りにうがいをするとリビングに戻った。
ダニーはカリカリしながらテレビを見ている。
マーティンがそっと横に座るとぐいっと体を抱き寄せ、
無言のままキスすると、ソファに押し倒した。
マーティンは手を伸ばしてダニーの頬に触れた。
ダニーはその手を掴むと手の甲にキスし、軽く歯を立てた。
「ダニィ痛いよ」ダニーはニヤッと笑うとさらに噛んだ。
ネクタイを取り、シャツのボタンを外そうとして、
マーティンが予防接種後だったことを思い出した。
くっそー、せっかくええムードになってるのに・・・。
ダニーはがっかりしながらマーティンの横に寝そべった。
「そうや、晩メシ食べたん?」マーティンは黙って首を振った。
「何か買ってこよか?食べたいもんある?」
「ダニーのグラタンがいいよ。僕のお気に入りだから」
コイツめっちゃかわいい!
ダニーは髪をくしゃっとしてからキッチンへ行き、オーブンにグラタンを入れた。
ついでにベーグルサンドも作ることにし、いそいそと解凍し始めた。
マーティンはすごい勢いでむしゃむしゃ食べている。
ダニーは気まぐれに作ったパンケーキを切る手を止め、しばし見入った。
「何?」
「いや、ものすごい勢いやなぁと思って・・・」
自分のパンケーキまで取られそうやとはさすがに言えない。
ダニーはメープルシロップをかけてやり、自分も食べ始めた。
「このパンケーキ、口どけがいいね。マーガレットのよりおいしいよ」
ダニーは得意気にレシピを説明したが、マーティンにはよくわからなかった。
マーティンはバブルバスは止め、シャワーだけ済ませると先に出た。
ダニーの手前、NIP/TUCKを見るのも気まずい気がして、HDDに録画予約をいれる。
今夜のあれは何だったんだろう?
またスチュワートと会えることになったけど、両方同時には付き合えない。
僕は本当はどっちが好きなんだ?どうすればいい?
もちろんダニーを愛してるけど、スチュワートと会えなくなるのも困る・・・。
マーティンは自問自答をくり返し、混乱していた。
ダニーはベッドに入るとマーティンと手をつないだ。
「明日の帰り、ロックフェラーセンターのツリー見に行こう」
「本当?僕は見るのはじめてなんだ!」
「めっちゃきれいで。すごい人やから迷子になるなよ」
「わかってるよ。ダニーのそばから離れない」
「なんかお前って迷子になりそうや」ダニーは笑いながらデコピンした。
次の日の帰り道、二人はロックフェラーセンターに行った。
マーティンは初めて見る巨大なクリスマスツリーにうっとりしている。
光り輝く幻想的な風景に圧倒され、声も出ない。
その表情に、ダニーは連れてきてよかったと嬉しくなった。
これからもずっと一緒にいられますように、ダニーはツリーに祈った。
ダニーの携帯が鳴った。ケンからだ。「おい、どうした!」
「おじーちゃんが、ダニーに来てもらいたいって言って聞かないんだ。あ、アランも一緒だって。」
「お前、どこにいる?」「このホテルの最上階だよ〜、来てよ〜。」ぶちっと電話が切れた。
「アラン、ケンがヘンな目に遭うてるらしい。俺たちに来て欲しいって。」
「どこだって?」アランの砂色の目が真剣になる。「このホテルの最上階だって。」
「全く、人騒がせな東洋の神秘君だな。」
二人で、最上階行きのエレベーターに乗る。降りると、部屋は1つだけだった。
ドアを執事が開けている。「お待ちしておりました。」「ケンは?」「こちらです。」
執事が案内すると、前回同様、壁一面の鏡、一箇所だけPCの画面を映し出す仕掛けになっていた。
「ケン!」ケンは全裸にされ、手足を4方向に拘束されていた。
「ダニー、アラン、来てくれたんら!」ケンの言葉が曖昧だ。
「当たり前やん!それで、じいさん、何が望みや。」「画面をご覧ください。」
執事が静かに言うと、壁の奥の部屋へ入っていった。「ブラウン、ホワイト、脱ぎなさい。」
今度は音声つきだ。「おいおい、またかよ〜。もうええやろ!」
「ダニー、言うとおりにした方が良さそうだよ。」画面に拳銃のイラストが出てきた。
「こんな事して、許されると思うとるのが、間違いや。」ダニーとアランは静かに服を脱ぎ始めた。
二人のストリップを見て、ケンの股間が勃起する。「ケン!」「ごめんなさい。でも見ちゃったんらも〜ん。」
ケンはすっかり出来上がっていた。「ホワイト、イエローを咥えなさい。」「俺がやる!」ダニーがケンを咥えた。
アランに参加してもらいたくなかった。
「ダニー、それはどうやらダメらしい。」
アランの声に画面を振り返ると、拳銃のイラストがまたも狙っていた。
アランが跪いて、ケンを咥える。「うぅぅん〜。」ケンが甘い声を上げ始めた。
ダニーは思わず、目をそらす。「ブラウン、見なさい。ホワイトの顔が紅潮している様を。」
アランの局部もケンに反応して、立ち上がり始めていた。
「アラン・・。」ダニーは腹が立ってきた。
「俺にも命令をくれよ、じいさん!」「お前は今日は見るのだ。」
気がつくと執事がダニーを椅子に座らせ、手錠と足かせで拘束した。
「じいさん、こんなん卑怯やで!」「ひゃー、ひゃー、ひゃー」
また老人の口から息が漏れた。笑っている。
「ホワイト、イエローの拘束を解き、好きなようにしなさい。」
アランがケンの拘束を解いた。
二人は、ダニーの目の前で、キスをし始める。「アラン・・・。」まるで人形劇のようだ。
ケンがアランのペニスを口に咥え、しごき始めた。
「あっ、うぅ〜。」アランがよがり声を上げる。
ダニーは耳を塞ぎたかった。1分も経たないうちに、アランが痙攣し、ケンの口内に精を放った。
ケンがごくりと飲み込む音が耳をつんざく。「アラン、もう止めて〜!」ダニーが涙声で叫ぶ。
「ブラウン、もっと叫びなさい。」
ケンがアランの後ろに回り、いきり立った自分をアランの蕾に押し当てる。
「準備してないのに、そんなんひどい!」ダニーは目を覆った。
「ブラウン、見るのだ。」執事がダニーの頭を上に上げた。
ケンがアランの身体を揺らしていた。「うわぁ〜!」アランが悲鳴を上げる。
ケンは容赦なく自分を打ち据えて、アランを自分のものにしようとする。
「あぁ〜!」ケンが一声放ち、アランの背中に射精した。
アランの局部からは血が出ている。
「ひ、ひどい!こんなん、ないで〜。俺がやるっていうてたやん!」
「ひぃ〜、ひぃ〜、ひぃ〜」老人がまた笑った。
執事がケンとアランを連れて、バスルームへと去った。
「さぁ、ブラウン、感想は?」「悪魔!鬼!俺の大事なもんをお前は傷つけた!」
「私の聞きたかった「言葉」だ。ありがとう。大事なものがあって良かったな。」
執事が老人の車椅子を運んで、奥に去った。
ケンとアランがバスルームから出てくる。
「ケン、俺の拘束解いて!」ケンはぼんやりしていたが、ダニーの声で我に返ったように動きだした。
ダニーの目はアランに注がれていた。アランはベッドに座っている。
拘束を解かれて、ダニーはアランに駆け寄る。「アラン、大丈夫か?」
アランもぼんやりしていた。瞳孔が開いている。
二人ともドラッグか? ケンもいつもの機敏さがなく緩慢に動いている。
「アラン、痛くなかった?」「うん?ああダニー。大丈夫だよ。」ゆっくりとアランがしゃべっている。
壁から執事が現われた。「今日の寄付分です。ご主人様が貴方にお渡しするようにとおっしゃっています。」
5万ドルの小切手が、ダニーの手に渡された。「二人にドラッグ盛ったのか?」
「ええ、媚薬をたっぷりとケン様の股間に貼付させて頂きました。アラン様もお楽しみかと思われます。それでは。」
ダニーはよろよろと立ち上がり、ケンとアランの服を二人の手元において、二人の薬が切れるのを待つ。
10分ほどすると、アランが頭を振りながら、服を身につけ始めた。
「アラン・・・。」「ハニー・・・。」ケンも服を着始める。
ダニーは壁を睨み返しながら、自分の衣服を身につけた。
3人は無言でエレベーターに乗り込む。
ケンを恨む気持ちすら浮かばないダニーだった。
「ケン、お前を家まで送るわ。」「ありがと、ダニー。」
アランもよろよろしながら、ついて来る。
3人でタクシーに乗り、ミッドタウンのケンのアパートで、ケンを降ろす。
「お前とはちゃんと俺話したいからな。」「はぁい。」ケンは眠そうに降りていった。
「運ちゃん、アッパーウェストサイドお願いな。」そう言うと、ダニーはぼーっとしているアランを抱きながら、
「もうすぐ家やからな。」を繰り返していた。「あぁ。ダニー。」
アパートに着き、ダニーはアランの救急セットを出してきた。
「傷見せて。」「僕なら大丈夫だ、心配かけたね。」
アランの薬の効き目がようやく完全に切れたようだ。
アランは一人でトイレにこもり、処置をしてくる。
「俺、アランを守れんかった。」思い出して、ぐずり出すダニー。
アランはキッチンでブランデーを開け、グラス二つを持ってくる。
「飲もう。」「あぁ。」「今日のは不可抗力だ。ダニーは悪くない。」
「でも、俺、連邦捜査官なのに、あんなに無抵抗に、アランが、アランが・・。」
涙で言葉が続かなかった。そんなダニーを後ろから羽交い絞めで抱きしめるアラン。
「ダニーは決して悪くない。ハニー、キスしてくれるかい?」
ダニーは伏せた目を跪いたアランの砂色の目に合わせた。
ダニーが静かにキスを始めると、アランは舌を絡ませた。
しばらくの間、息もつかず、接吻を繰り返した。
「あぁ〜。」「はぁっ。」二人の吐息が一つに溶ける。
「ベッドに行こうか。」「うん。」ダニーはアランに手を取られ、ベッドに向かった。
ダニーは、冷たい雨の中で一日中失踪者の足取りを追い、くたくたに疲れていた。
全ての人を救えるわけではない、それは自分でもわかっている。
我々の仕事はざるで水を汲むようなものだと、ボスも常々言っている。
とはいえ、次から次へと終わりがない事件の数々に打ちのめされていた。
誰かと言葉を交わす気にもなれず、支局を出るとタクシーに乗った。
今はただ自分のベッドでひたすら眠りたかった。
ダニーは帰ると熱いシャワーを浴び、髪も乾かさずベッドにもぐりこんだ。
窓を叩く雨の音が眠りを誘い、瞬く間に寝てしまう。
マーティンが合鍵で入ったときも、静かな寝息を立てていた。
自分もぬれた服を脱ぐと、ダニーの横にそっと寝そべる。
冷たい体が触れたとき、ダニーはびくっとしたが目は覚まさなかった。
マーティンはしばらく横でまどろんでいたが眠れず、着替えると窓の外を見ていた。
雨の日はなぜかジムノペディを聴きたくなる。
ダニーなら持ってるかもしれないな、マーティンはリビングのキャビネットを漁り始めた。
ダニーはかちゃかちゃという物音で目が覚めた。
何かを物色している音がする。泥棒か?
ダニーは物音を立てないように起き上がり、銃に手を伸ばした。
ベッドルームをそっと出ると、物音は次第に大きくなった。
リビングを物色しているようだ。ダニーは銃を構えると踏み込んだ。
「動くな!」振り返ったマーティンの目が銃に釘付けになる。
「ダニー、僕だよ、僕!」ふぅーっと大きく息をつき、ダニーは銃を下ろした。
「なんや、お前か。泥棒かと思ったで」
「ごめん、CDを探してたんだ。そしたらばらまいちゃって・・・」
「ええっ、きちんとアルファベット順に並べてあるのに」
ダニーは不快そうにマーティンを見た。縮こまるマーティン・・・。
「ちゃんと元通りにするよ、ごめんなさい」
「ええわ、オレがするから置いといてくれ。何探してたん?」
「ジムノペディ」
「下から三段目や。ほら、これやろ?」
「あ、ありがと」マーティンは渡されたジムノペディをかけ、ダニーを手伝った。
今日のダニーは口数が少ない。マーティンは心配になった。
「どうかしたの?」
「何が?」ダニーは鬱陶しそうに聞き返す。
「なんかいつもと違うから」
「疲れただけや。悪いけど今夜は一人で過ごしたいんや。帰ってくれるか?」
ダニーはそれ以上話さず、マーティンから離れた。
「わかったよ。勝手に来てごめん」
マーティンはショックを受けたが、それだけ言い残し部屋を出た。
僕はダニーを怒らせるようなことをしたんだろうか?
CDをばらまいたのが気に入らなかったのかな?
ダニーの態度が理解できず、もやもやしながらアパートへ帰った。
もしかしたらダニーがメッセージを残しているかもと期待していたが、
留守電には何も入っていない。
マーティンはがっかりしながらベッドに入った。
次の日、支局へ行くとダニーがブルーベリーマフィンを食べていた。
マーティンと目が合うと照れくさそうに手招きする。
「おはよう、昨日はごめんな」
「ああ、うん・・・おはよう」
ダニーはマーティンの手をひっぱり、横に座らせるとチョコチップマフィンを渡した。
どうやら仲直りがしたいらしい。マーティンは子供っぽいダニーにくすっと笑った。
マーティンは昼休みに休暇のことを考えていた。DCには帰りたくない。
携帯がなっているが、知らない番号だ。
「はい?」警戒しながら電話に出る。
「あ、オレ。スチュワート」
「あれっ、番号が違うけど?」
「番号を変えたんだ。まだ誰にも教えてない」
「ふうん、わかった。メモリに入れとくよ」
先生、早くしてください!まだ90人も残ってるんですよ!後ろでジェニファーが怒鳴っている。
「うるさいっ、わかったから向こうへ行け!あー、ごめんごめん」
「今日は忙しいんだね」
「ああ。予防接種の日で外来はいないんだけど、何しろすごい人数で」
「痛くないから人気があるんだよ。上手だもんね」
「他の注射もだろ?」マーティンは顔が赤くなった。
「そろそろ行かなきゃ。またジェニファーがキレそうだ。それじゃ!」
病院も忙しそうだ、マーティンは電話を切ると新しい番号を登録した。
ダニーは残業していた。周囲にはもう誰もいない。
ボスは帰ろうとしてダニーがいるのに気づき声を掛けた。
「ダニー、まだ終わらないのか?」
「いえ、あともう少しです」
「そうか、今夜ちょっと付き合え」
ボスはミーティング用の椅子に座り、ダニーを待っていた。
ようやく仕事が終わり、ダニーはボスと支局を出た。
「今日は疲れましたね、ボス」
「まったくだ。上の連中の考えていることはわからん」
「で、今日はどこに行くんすか?」
「ピーター・ルーガーだ」
「ブルックリンの?」
「ああ。今日は朝から決めていたんだ。お前、運がいいぞ」
ダニーは運が良いのか悪いのかよくわからず、曖昧に頷いた。
ダニーは一人前だったが、ボスは二人前平らげ、二人はデザートのストロベリーアイスを食べていた。
「ボス、フォアグラが肥大化しても知りませんよ」
「私は脂肪肝ではないと言っただろう!」
「限りなく怪しいと思うけど・・。それにしてもいつ来てもうまいっすね、ここの肉は」ダニーも大満足だった。
ボスはチェックを済ませ、帰りにダニーのアパートに寄った。
ダニーとボスがアパートに着くと、ソファの上でマーティンが居眠りしていた。
「おい、図体のでかい子供が寝てるぞ」ボスが見つけてダニーを呼んだ。
「マーティン、こんなとこで寝たら風邪ひくやん」
ダニーに起こされ、マーティンは目を覚ました。
「うぅん・・ダニィ遅いよ・・・」目を擦り、ボスがいるのに気づいた。
「あれっ、何でボスがいるの?」
「一緒に食事してきたんや」ダニーはコーヒーを淹れた。
「ボス、僕も呼んでくれればいいのに・・」マーティンは口を尖がらせた。
「わかった、お前は今度な」ボスはマーティンの肩をポンとたたいた。
「マーティン、休暇にはお前を戻すようヴィクターが電話してきたぞ」
「僕は帰りません。もう予定があるんです」マーティンは嘘をついた。
「そうか・・・とにかく自分で連絡しておけ。またうるさいからな」
「はい」マーティンはうなだれた。
「ダニーはどうするんだ?」
「オレもちょっと行くとこがあるんで・・・」ダニーは言葉を濁した。
ボスが帰った後、ダニーはマーティンに詰め寄った。
「それで、予定って?」
「ダニーは?」
「質問に質問で答えるなや。トロイか?」
「違う、本当は何も予定がないんだ。ダニーは?」
「オレはお前と過ごそうと思てる」ダニーはマーティンのほっぺを舐めた。
「本当に?」
「ああ、ほんまや。ずっと二人っきりで過ごす!」
ダニーは言い切ると、マーティンを抱きしめて首筋を噛んだ。
マーティンはダニーに飛びついた。
勢いあまってひっくり返るダニー。
「あ痛たたたー、急にじゃれつくな!犬か、お前は!」
「ごめん、嬉しくてつい・・・」
マーティンはダニーに覆いかぶさるとキスをしまくった。
「わかった、もうわかったから・・・」
ダニーは両手でマーティンの頬を包むと、ゆっくり舌を絡めた。
落ち着いたマーティンのシャツをはだけ、自分のシャツを脱ぎ捨てる。
マーティンはダニーのトランクスを下ろすと、半勃起状態のペニスを口に含んだ。
少し舐めるとみるみるうちに硬度を増すペニスを、愛しそうに咽喉の奥まで吸い上げる。
「ぁぁ・・それ以上はあかんで。今夜は二回する元気ないねんから・・・」
ダニーはマーティンの動きを止めさせ、ベッドに移動した。
ダニーを四つんばいにさせ、アナルと自分のペニスにたっぷりローションを塗る。
「いい?」「ああ、来てくれ」
ゆっくりとミリ単位で挿入し、押し戻される抵抗感を味わいながら奥まで入れる。
馴染んだのを確かめると、ダニーの腰を掴み前後に揺すり始めた。
「あぁー、マーティン!」ダニーはマーティンの動きに合わせて自分も動く。
浅黒い肌がうっすらと汗ばんでいる。
「あぅ・・んっく・・オレやばい・・・」
「んっ・・ダニー、自分で動くんだもん。僕だってやばいよ・・」
マーティンは絶頂が近いのを感じ、一気に動きを早めた。
「あぁっ、マーティン・・・うっあっぁぁー」ダニーは背中を仰け反らせると射精した。
飛ばした精液がチャコールグレーのシーツを汚している。
マーティンは体位を正常位に変えた。「僕がイクとこ見てて」
ダニーは荒い息を吐きながら、苦しそうに喘ぐマーティンを見つめた。
「ダニィッ、僕も・・んんっ、はぁはぁはぁ・・」
マーティンは中出しするとダニーにしがみついた。
バスルームから出ると、二人は寄り添って天井を見上げた。
ダニーは疲れのせいか、とろんとした目をしている。
気怠さと充実感に満たされ、穏やかな時間が過ぎていく。
「クリスマスディナー作るから、食べたいもんがあったら言うてな」
「何でもいいの?」
「まあ、オレが作れるもんなら何でもええで」
「いっぱい言ってもいい?」
「ええけど、責任持って食えよ」
「やったー!」マーティンはにっこりしながら頷いた。
「あとは親父さんが問題やな」
ダニーの言葉に、マーティンの幸せは急速に萎んだ。
「なんとかやってみるよ。いや、やるんだ!」
「あんまり無理すんなよ。あー、オレの口を貸したいぐらいや」
「それいいね。ダニーみたいに何でもかんでもペラペラ言うの」
「ペラペラて・・・とにかく練習したほうがええな」
二人は理由を相談して練習を始めた。
マーティンは勤務が終わると思い切って父に電話した。
何度も何度も練習したメモを持つ手が震える。
「父さん、マーティンです」
「ああ、しばらくだな。元気か?」
「ええ、父さんは?」
「私も母さんも元気だ。クリスマス休暇に会えるのを楽しみにしている」
「その件ですが、僕は帰りません。海外勤務の友人が帰ってくるので、久々に会うんです」
「ずっと一緒に過ごすわけでもあるまい。後でもいいから帰ってきなさい」
マーティンはどうしようかとメモを見たが、想定外の展開に答えはない。
「それがその・・一人だけじゃなくて何人もいますし・・」
自分でも呆れるぐらいわけのわからない答えだ。
「クリスマス休暇は長いんだ、少しぐらいDCに戻ってもいいだろう」
「でも、今回は帰りません。ごめんなさい」
「また妙な女と付き合ってるんじゃないだろうな?どうなんだ?」
「誰とも付き合ってませんよ。ボスに聞いていただいても結構です。失礼します」
マーティンはカチンときて返事も聞かずに切ってしまった。しまった!と思ってももう遅い。
ボスがオフィスから出て来た。マーティンに手招きする。
「父のことですか?」
「そうだ。お前のことを怪しんでたぞ。どうしてもDCに戻らせろとさ」
「嫌です。絶対に帰りません」マーティンは頑なに拒否した。
「お前たち親子にも困ったもんだ。私を巻き込まないでくれよ」
「すみません・・・」
「あの医者と過ごすと言うのはどうだ?ヴィクターのヤツ、あいつのことを随分気に入ってたぞ」
「そんなことをしたらダニーに嫌われちゃう。僕は絶対に帰らない!」マーティンは首を振った。
ボスはやれやれと肩をすくめ、コートとブリーフケースを持つとマーティンを促した。
「また諍いが勃発だな。私は知らんぞ!」
「ボス、僕はもう父の言いなりになる気はないんです」
「そんなことを言ったらあいつが飛んできて大変なことになる。黙ってろよ」
「はい。でも、面と向かっては言いませんが僕はそのつもりです」
マーティンの決意は固かった。
ダニーとマーティンは気晴らしにスカッシュをしにきた。
思い通りにならない苛立ちを思いっきりボールにぶつける。
マーティンはダニーとのゲームでは物足りなかったが、こうして付き合ってくれることに感謝していた。
「これ、もっと跳ねたらええのに。間に合わへんやん」
ダニーが休憩の合間にぼやいた。
「君にはラケットボールのほうが合うんじゃないか?」
聞き覚えのある声に振り向くとスチュワートがいた。
「やあ、君たちも来てたのか」スチュワートはマーティンにウインクした。
「あ、うん。クリニックは忙しいんでしょ?」
「まあね。気晴らしがしたくて来たんだ。予防接種は神経使うから」
「人数もすごいもんね。お疲れ様」
「たまにはオレとゲームしてくれよ。テイラー捜査官、彼をお借りしてもよろしいですか?」
「ええ、どうぞ。マーティン、負けるなよ」
ダニーはおろおろするマーティンの体を押した。
ダニーは二人のゲームを見ながら凹んでいた。
さっきまでのマーティンと別人のような気迫に圧倒されていた。
もうちょっとオレがマシやったらええのに・・・。
ラケットボールやと、ふざけんなトロイ!
ダニーの苛立ちはスチュワートに注がれた。
ダニーの神経を逆なでするように、マーティンも負けてしまった。
「ごめん、負けちゃったよ・・・」
「ええやん、いつも勝ってるんやから気にすんなって!
そうや、今日もメシおごらなあかんの?」
「一応、僕らの取り決めはそうだから。三人で行くしかないね」
「はいはい、そのかわりオレの横に座れよな」
「うん、わかったよ」マーティンはスチュワートに話しにいった。
「三人で行くけどいい?」
「嫌だって言ったらどうするんだ?」
マーティンは困ったようにスチュワートを見つめた。
「嘘だよ、そんなこと言わない。それより電話待ってたんだぞ」
スチュワートは身を屈めるとほっぺにキスした。
「忙しそうだったから・・・」
「君は嘘がヘタだな。けど、オレはそこが好きだ」
困るマーティンの様子を見てクスクス笑いながら着替えた。
翌月曜日に、ケンがダニーを尋ねてきた。「お前、また本物のIDで来たな。」
「ごめんなさい。本当にごめんなさい!」ケンがばったのように身体を折り曲げている。
「何や、そのアクション。こっち来い!」ダニーは取り調べで使う部屋にケンを押し込めた。
「本当にごめんなさい!あんなつもりなかったんだよ。」
「お前がアランを犯すつもりなかったってそういうことか!」
「全部だよ〜。もう許してよ〜。」ケンは本気で謝っていた。
「分かった。今回は許す。でももうあんな無茶せんといて。俺たちいなかったらどうなってた、お前?」
「どうもなってないよ。あのじいさん、ダニーが狙いだもん。」「な、何?」
「ダニーの誇り高さに目をつけたんだよ、あのじいさん。前に何かやってない?」
「覚えていたくもないわ。」「とにかく、あのヒスパニックにはお仕置きをしなければいけないとか何とか言ってたから。」
「そんな。俺の誇り高さのせいで、お前とアランがあんな目に遭うたんか。俺、訳分からへん。」
「とにかく、あのじいさんの事は、僕の方に任せて、もうダニー、忘れてくれる?」
「分かったわ。インターポール絡みじゃ、しゃーないわ。」「良かった。」
「お前、囮捜査する時にはそういう目印つけといてくれへん?」「ははは。」
その時、マーティンがドアを突然開けた。「これは失礼!」
バタンとドアを閉めるマーティン。
「ダニー、今のわざとだよね。僕とダニーが何してるのか、気になってるんだ!」
「お前、本当に暇な奴やな。そんなんしてると、ギルに捨てられるで。」
「そんな事、あり得ません。」「そう言ってるうちが華やがな。」「えっ。」
急いで携帯でギルに電話するケンをやれやれとダニーは見つめていた。
部屋を出ると、サマンサが寄って来た。「サマンサさん!」「ケン、「さん」は余計よ。元気?」
「はい、おかげさまで。感謝祭も楽しかったし、クリスマスも楽しみですよ。」
「随分慣れたんだね。今度、食事でもしない?」「はい?」声が裏返るケン。
「ダニー一緒でもいいわよ。」「はい、喜んで!」「じゃあ、ダニー、セッティングお願い。」
バイバイとサマンサは席に戻っていった。
「もう、お前といると、ロクな目に遭わへん。」
「僕だけのせいじゃないと思うよ。ダニーの日ごろの行いもあるんじゃないのかな〜。ふふふ。」
ケンはそう言いながらエレベータホールへと向かっていった。ダニーが席に戻ると、書類の上にポストイットが張ってあった。
「ケンは何だって?M」いつもながら、殴り書きの汚い字だ。メールでダニーは返答する。
「問題なし。」「了解?」すぐさま返信が届く。
「?」の意味が知りたかったが、仕事後、ダニーは、アランのアパートに直行した。
合鍵で、部屋に入る。トムが来ていた。「あ、トム。」
「ふふふ。ダニー、無茶はほどほどにな。」意味ありげな微笑みを浮かべて、
トムがドクターバッグを片付けている。
「おかえり、ダニー。」アランがベッドから起き上がる。
「じゃあ、アラン、またな。」「おう、またな、トム、ありがとう。」
「どういたしまして。お二人お幸せに!」トムがドアを閉じる。
「アラン、トムにヘンなこと言わへんかった?」
「この傷の理由にね、君との遊びを使わせてもらった。ごめん。」
「そんなとこだろうと思ったで。」「それより、今日、何を食うかい?」
「何か晴れ晴れ出来るもんが食いたい。くさくさ気分一掃や。」「じゃあ、そうしようか。」
二人は、ミッドタウンの「チョーダンゴル」で、チゲ鍋を食べた。
「辛〜、でもこの刺激がたまらんわ!」ダニーは冬ならではの韓国の名物料理を堪能した。
デザートのゆずのアイスクリームまでしっかり頂く。「さて、帰ろうか?」
「うん。身体も心もぽっかぽかやな。」「心もかい?」ダニーが思わず、アランの手を取る。
「おい、ここは君のシマだよ。」「そか。」急に手を引っ込めるダニー。
「ははは。」心からおかしそうに、アランが大笑いする。
ダニーはその声でアランのダメージを推し量った。
大丈夫そうや。安心したダニー。「今日、泊まってええかな?」
「何を言ってるんだか。君の家でもあるんだよ。」「サンキュ、アラン。」
アランの家に着くと、ダニーはふぅっとため息をついて、クロゼットに歩いて行く。
パジャマに着替えて出てみると、アランがベランダで葉巻を吸っていた。「アラン?」
「あぁ、ごめん、着替えたんだね。」「大丈夫か?」
「ああ、いたって元気だよ。葉巻臭いかな。」
「平気。アランも着替えれば?」アランは葉巻の火を消すと、クロゼットに姿を消した。
ダニーはバスに湯を張り、ベルガモットのアロマオイルでバスルームを満たした。
気がつくと、アランが突然、後ろからダニーを羽交い絞めにする。
「アラン?」「ダニー、よく戻ってきてくれたね。僕を軽蔑してるかと思ってたよ。」
「アラン、何言ってるか全然理解できへん。バスに入ろうや。」
ダニーはアランのパジャマを脱がせて、自分も丸裸になる。
アランの手を取り、ダニーは静かにバスに浸かる。
「アランを軽蔑するって何を?」
「ケンの誘惑に乗って、やってしまった自分。」
「何言うてんの?アランは薬盛られてたんやで!」
「それでも、君の目の前で君を裏切ってしまった・・・。」
「ば、ばっかやな〜。アランは薬を盛られてたんやで!自分が汚れたとか思わんといてな。
俺は、今のままのアランが好きなんやから。今回も二人で乗り越えよっ!」
アランの目は溢れる涙とストレスで真っ赤になっていた。
「俺、ここにいてるんやから。」
そういうとダニーはアランの身体を静かに愛撫し始めた。身体を腕で、局部を足で。唇を唇で。
二人の湿った声がバスルームに響き始めた。
三人はトンカチ・シーフードの店に行った。
ダニーはマーティンの横に座り、太腿をぴったりくっつけている。
スチュワートはテーブルクロスで見えないのをいいことに、
長い足を伸ばしてマーティンの股間をグリグリ弄んでいた。
とんでもない状況に置かれ、マーティンは戸惑うしかなかった。
スチュワートはシャブリと、ロブスター、カニ、ムール貝を適当に三人分頼んだ。
マーティンがすかさずクラムチャウダーを追加する。
二人の手慣れた様子にダニーは気が気でない。
「こんな店があるなんて知らへんかったわ」
「僕もこの前連れてきてもらったんだ。おもしろかったよ」
マーティンは足を退けようとするが、スチュワートは知らん顔して足を動かす。
料理が届き、それぞれトンカチを手に食べ始めた。
スチュワートがカニの甲羅を叩くたびに、甘い疼きが股間に走る。
すっかり反応したペニスを入念に弄ぶスチュワート。
ダニーは初めてのトンカチディナーに興奮して気づかない。
マーティンの分まで殻を割り、せっせと勧めていた。
「マーティン、ロックフェラーセンターのツリーは見たか?」
スチュワートが話しかけた。
「うん、見たよ。すごくきれいだった」
トロイ残念でした、オレが先に連れて行ったんやで!
ダニーは得意気にスチュワートを見た。スチュワートは挑戦的な視線を受け流す。
それだけやないで、クリスマスも新年も一緒に過ごすねん。
ダニーは意地悪な表情を浮かべた。
「んっ!」敏感な部分を擦られ、マーティンは声を上げた。
「どうしたん?」ダニーが怪訝な顔をしている。
「カニの殻が残ってただけ・・飲み込むとこだったよ。ちょっと失礼・・」
マーティンは何でもないような振りをしながら席を立った。
スチュワートは無関心な様子で牡蠣にレモンを絞っていたが、
内心は笑いをこらえるのに必死だった。今頃、トイレでオナニーか?
「この前のことやけど、あれ本気か?」
ダニーはあまり話したくなかったが、仕方なしに話しかけた。
「ああ、あれか。もちろん本気だ。オレ、あれから喜びで泣いたんだ。
予想以上に素晴らしい経験だったよ。少しは成長した気がする」
スチュワートは思い出すように真剣に語った。
「マーティン絡みでか?」
「そうだ。オレにはマーティンが必要なんだと再認識したよ」
「お前が?すぐに飽きて捨てるくせに。あいつを混乱させるだけや」
ダニーは苦々しげに言った。
「それはどうかな。オレは今までのオレじゃないって自信がある。君は?」
「オレ?オレは・・・とにかくあいつが大切や」
「でも女も必要なんだろ。いずれマーティンはオレのところに来るさ。賭けようか?」
スチュワートはニヤっと口の端を上げている。勝ったと言わんばかりの傲慢な笑顔だ。
「賭けるも何も賭けが成立してへんやん。あいつはオレだけのものなんやから。
それにお前も女が必要やろ?すぐにスウィンガーに逆戻りや」
ダニーも負けじと言い放ち、流し目でニヤリとした。
「それはどうかな?そうそう、ジェニファーが君に好感を抱いたようだ」
「そんなん全然興味ないわ」ダニーはさらりと受け流す。
「ごめんごめん。二人とも何でそんなににやけてんのさ?怪しいよ」
戻ったマーティンが二人の顔を交互に見た。
「ちょっとお前の話をな・・」
「え、僕の?そういうのって嫌だなぁ」
「君を愛してるって言ってたんだ。いずれはオレのものともね!」
スチュワートはまたもや股間に足を伸ばした。
さっきと違って柔らかい。やっぱりな、意味ありげにマーティンをじっと見つめた。
気づいたマーティンは視線を逸らし、ロブスターに手をつけた。
「酔うてるんや、ほっといたらええ」ダニーはロブスターの頭をとってやった。
ダニーとスチュワートが食べ終わっても、マーティンはまだ食べている。
ダニーは追加で頼んだムール貝を割るのを手伝ってやった。
「ありがと、レモンある?」
「ほら、オレが絞ってやるよ」
「あ、どうも」完全に子ども扱いされ、二人にからかわれている。
「ドクター・バートン、クリスマス休暇は帰省されるので?」ダニーが聞いた。
「いいや、まだ決めてない。家族と会うのは嫌だから」
「僕と同じだ。まだ攻防中だけど帰る気ないから」
「お父さんが苦手だもんな。それで、君はどうするんだ?」スチュワートがダニーに聞いた。
「オレはマーティンと過ごす。二人っきりでな!」特に最後の部分に力を込めた。
「そうか・・・」スチュワートは神妙に頷いた。
マーティンがチェックを済ませると、三人はダニーの車に乗り込んだ。
ダニーがバックミラーを見るとスチュワートが物思いに耽っていた。
ちょっとやり過ぎたかもしれへん・・・でも、手を抜いたら負けや!
後味の悪い思いを打ち消し、ダニーは気にしないようにした。
クリアコートでスチュワートを降ろし、ダニーはマーティンを待っていた。
「マーティン、テイラー捜査官が帰ったら電話くれるか?」
「いいけど・・・もしかしたら泊まるかもしれないし・・」
「それならそれでいい。帰ったら連絡くれよ」
「わかった、ごめんね」
「何も謝ることないさ。今夜はご馳走さま、トイレに立つ君について行きたかったよ」
「もうっ、バカ!僕はそれどころじゃなかったんだよ!」
「すごくよかっただろ?おやすみ、マーティン」
スチュワートは自分の車に向かって歩き出した。
ダニーはマーティンが戻るとさっさと車を走らせた。
「あいつ、普通に付き合うたら案外ええ奴かもな」
「うん?」ダニーの意外な言葉にマーティンは驚いた。
「もっとチャラチャラしてるんかと思てたけど、そうでもないみたいや」
「急にどうしたのさ?」
「お前、友達いいひんて言うてたやろ?あいつが普通の連れやったらよかったのにな・・・」
ダニーはそれっきり黙りこんだ。
マーティンはランチの時間に外出し、ミッドタウンのアーンスト&ヤング公認会計事務所を訪れていた。
「やぁ、マーティン。」「ジョン、それで、試算の結果はどうだった?」「まぁ待てよ。話し合おう。」
ジョンと呼ばれたCPAは会議室にマーティンを招いた。
「君の試算以上に出銭のある計画だ。即刻辞めたほうがいい。」
「そんなぁ〜。」「君のお父上を見返したい気持ちは分かるが、これだと全てを失うよ。」
「ジョン、言いたいのはそれだけ?」毅然とマーティンがジョンに向かう。
あたかも彼がマーティンの取引銀行先であるかのようだ。
「ああ。まぁ、試算結果をよく検討してみてくれ。僕らも赤字案件を引き受けるようなヘマはやらないから。」
僕とダニーの夢が汚された!マーティンは、露店でホットドッグを買いながら、支局へ戻る。
一足早くランチから戻っていたダニーと目が合う。
「食いしん坊、沢山食ったか?」「ああ沢山ね!ほっといてよ!」
「おうおう、何や、生理か?くわばらくわばら!」
ダニーは何も知らずにマーティンのそばから離れた。
僕の気持ちも知らないで!
夕方になってもマーティンの機嫌が一行に直らない。
「マーティン、お前、俺に言いたいことないか?」
PCを片付けているマーティンの背中にダニーが言葉を放った。
「じゃあ、晩御飯一緒にしない?」「ええで。」
二人で寄った先は、アッパーイーストの「ジャクソン・ホール」だった。
名物の7オンスバーガーを待ちながら、ミラーで乾杯する。
「お前さぁ、何か、感じ悪いで。」「そう?」マーティンはふてくされたようにビールを咥えている。
「何があった?」「今日、CPAから返答が来たんだよ。」
「何や、来年のお前の所得申告か?」「違うよ!僕らのプロジェクトだよ!」
「あ、ああ、アレか。」ダニーは身構えた。
「黒字になるには、5年が必要だってさ。その間は身銭を切る職業だそうだよ。最大、100万ドル単位で」
「あちゃー!そりゃ大きいな。」ダニーはほっとした。これで、FBIにいられるわ。
「僕、悔しくてさぁ」マーティンが窓を眺めながら、涙を流した。「マーティン・・。」
「僕、この計画に賭けてたんだよね。それが、あっさりと初期段階でクローズなんて・・。そんなのないよ!」
「まあ、まあ、お前の気持ちは判るんけどな、現実はそう言うてられへんやないか。そういうこっちゃ。
な、今はFBI続ける事を念頭に考えよ?」
「まぁ、そうなんだけどさ。とにかく悔しいよ!」
マーティンはビールをがぶ飲みして、ため息をついた。
夢見る王子がやっと思いとどまってくれたようや。
ダニーは一安心のため息をついた。これで、まだしばらくは、FBIの釜の飯を食っていけるわ。
マーティンはミラーを立て続けに一気飲みし、6本も空けていた。
「お前、飲み過ぎやで。さぁ、バーガー食おう!」
ダニーは席に届けられたばかりのジューシーなハンバーガーをほおばった。
マーティンは、まだ天井を見ながら、ぐすぐす鼻を鳴らしている。
「ほら、ポテト!」熱々のポテトを無理やり食べさせられて、口をもごもごさせるマーティン。
「判ったよ。今回は諦めるよ。また今度チャレンジする。」
「お前、人の人生でゲーム遊びするなて。」
「ゲームじゃないよ!僕は真剣なんだから。どうせ、ダニーは最初から乗る気じゃなかったもんね。」
泣いた後はからみかいな。ええ酒やないな〜。
急いでバーガーを食べ終わると、半分以上残しているマーティンの分をドギーバッグに入れてもらい、
大虎になりつつあるマーティンの手を引っ張る。
「何だよう!」「家に帰るんや!」「まだ食べてないよ!」「家で食うんや!」
ブルックリンにタクシーが着く頃は、マーティンはいびきをかいて寝ていた。
「家ついたで。」身体を揺らすが、一向に起きる気配がない。
「お客さん、勘弁してよ。」タクシーの運転手に睨まれ、ダニーは、マーティンをおぶって、
タクシーを降りる。「ここどこさ。」「俺んち。お前、家帰るか?」
「いや、もう戻らないよ。父さん、僕は。」
完全に夢見る少年やな。部屋へ着いて、マーティンの服を脱がせる。
「エ、エリザベス、や、やめてよ!嫌だよ!」マーティンは泣き始めた。
「おい、マーティン、俺や、ダニーや。」「や、ダニー!ここ、どこ?」
「俺の部屋。服脱げや。今、水持ってくるから。」「うん。」
サン・ペリグリーノを瓶ごと渡すと、一気に半分まで飲むマーティン。
「僕、悪い夢見てたよ。」「そうみたいやったな。」「何か言った?」
「いや。はっきり聞こえんかったけど。」ダニーは嘘をついた。
「さぁ、パジャマに着替えるで。」「うん。」
ダニーがマーティンのクロゼットを開けると、ざぁーっと中の荷物がすべり出てきた。
「何やこれは!」引き出し一杯一杯にものが詰まっていて、スムーズに開かない。
ダニーが力任せに引っ張ると、中身がはじけ出てしまった。
ダニーが静かに畳み仕舞いしていると、マーティンが後ろからダニーを抱きしめた。
「僕って、足手まとい?」「そんな事ないで。ただ、人より、少しぶきっちょなだけや。」
「怒らないんだ。ダニー優しいね。」怒る通り越して呆れたと言いたいダニーだったが、
そこはぐっと我慢して、「まあな。」とだけ切り替えした。
ダニーの背中で寝ようとするマーティンの手を取り、ベッドに連れて行く。
布団をはいで、中に入れると、「父さん、僕は戻りません。」とさっきの寝言の繰り返しを始めた。
ぼん、苦労してんのやな。ダニーは、布団を首元まできちんと整え、またマーティンの引き出し整理に戻った。
翌朝、マーティンはまだ起きない。
ダニーは一人起き出して、コーヒーメーカーを仕立てると、シャワーを浴びた。
今日はマーティン、病欠にするかな。ベッドに行くと、すやすや寝息を立てながら、マーティンは安眠していた。
目の下のクマが切ない。
「お前、どうしてそんなに肩肘張った生き方しかできないんやろな。」
「うぅん。」マーティンが寝返りを打つ。「よし、今日は風邪でお前は休みや。」
ダニーは一人、仕度を済ませ、コーヒーを飲むと、マーティンにメモを残して、部屋を後にした。
「マーティン、支局には連絡済み。今日一日ゆっくり休んで肩の力抜くように。D」
マーティンは昼の電話で目が覚めた。眠気まなこで、電話口に立つ。
「はい、フィッツジェラルド。」「おい、それはないやろ。テイラー言うてな。留守番!」
「ダニー?今、何時?」「昼過ぎやけど。」「僕、さぼり?」
「風邪で寝てますって言うといたで。」「ありがと。僕・・。」
「あと親父さんから電話が何べんかあったわ。お前、またなんかやったん?」
「いや、何も。僕、知らない。」
「そか、今日は残業なさそやから、何か買って帰るわ。待っとき。」
「はい。ごめんなさい。」「謝る必要ないで。じゃあな。」「はい。」
僕は今日はダニーの家の留守番なんだ!マーティンは、役割をあてがわれた子供のように、急に動きだした。
クローゼットの整理するかな。あれ、片付いてるよ。じゃあ、バスルームの掃除。するほど汚れてない。
ダニーの生活点検は、マーティンの審査では、満点だった。何だ、これしかないよ。
コーヒーメーカーのゴミを生ゴミ入れに入れて、1階に捨てに行く。
ついでに、チャイニーズのデリでチャーハンと春巻をランチに買った。
デリの袋から出すのももどかしく、食べ始める。
僕って生活レベル低いかも。どうしてダニーのところはこんなに綺麗なんだろうな。
電話が鳴る。誰だろ。胸がドキドキする。
ダニーの生活を盗み見ている気持ちがした。
「あ、私、ドナテラ。今週、デートしない?この前の続きもしたいなぁ。電話待ってます。」
マーティンは、思わず、ダイニングテーブルを拳固で叩いた。
なんだよ!ダニー、やっぱりドナテラと浮気してたんだ!!
今の伝言を消去すると、マーティンは、急いで服を着替え、自分のアパートに戻った。
「マーティン、ただいま。いてるんやろ、返事しいな!」
ダニーは部屋全体に響く声でマーティンを呼び出した。「??」
ブリーフケースと脱いだスーツがすっぽりと消えている。
「何や?家帰ったんか?」留守電をチェックする。「アランだけど、帰ったら電話欲しい。」
あいつ、これ聞いて、誤解してるんかな。全く。
マーティンの自宅に電話を入れる。「はい、フィッツジェラルド。」
力のないマーティンの声。
「何が、はい、フィッツジェラルドだ。俺が帰るまで家にいろっていうてたやん。どうした?」
「ダニーは待ち人が多すぎて、待っている人の気持ちは判らないんだよ!」「何?」
「知らないよ!おやすみ!!」ダニーは途方に暮れた。
二日酔いのマーティンを看病しただけなのに、何で俺が叱られにゃーあかんの?世の中不条理やわ。
ダニーは訳が判らぬまま、アランにコールバックした。「はい、ショア。」
「ああ、俺やけど。」「あぁ、ハニー、元気だったかい?」「まあまあや。どうしたん?」
「いや、今度のクリスマス休暇はどうするのかと思ってね。」
「何も予定してないけど。帰る家族いてないこと、アランかて知ってるやんか。」
「そうだよな。実は、姉がNYに来る。」アランに兄弟がいたなんて初耳だった。
「それで、君に会いたいと言っている。」「何やて?」
「その・・あぁ話しにくいな。今から家にいってもいいかい?」
「うん。ええけど。」「20分で着くよ。」
言葉通り、20分フラットで、アランが合鍵を使って入ってきた。
ダニーはパジャマにワイングラスで迎えた。
「飲むやろ?」「ああ、頼むよ。」「夕飯食うた?」「いや、まだ。」
「じゃ、俺のデリディナー一緒でええか?」「助かるよ。」
いつになく、アランは慌てている様子だった。ダニーがくくくっと笑っている。
「何だい?」「天下のアラン・ショアがそんなに慌てるほどの相手に早う会うてみたくなったわ。」
「そう言っているうちはいいんだけど。」
ダニーはデリの袋から、タイチキンと付け合せのオクラのカレー煮を出して、皿に移し、アランに渡す。
「あぁ、うまそうだ。」「もち米ライスとグリーンカレーもあるから、言ってな。」
「ありがとう、ハニー。」まず、シャルドネで乾杯する。ふぁ〜っとアランがため息をつく。
「で、お姐さんってべっぴんさん?」「皆に言わせると、僕と一卵性双生児のように似てるらしい。」
「へぇ〜、それってかなりのべっぴんってこっちゃな。どきどきするわ。で、何で俺に会いたいって?」
「それはだ、あぁん。」アランが咳払いしている。
「それは、僕が真剣に思っている相手が出来たと告げたからだよ。」
「えぇ〜!」ダニーは口にふくんだオクラを飲み込みそうになった。
「今のって告白なん?」「何度も言ってるだろう。」
「でも、家族に話すのは、訳違うと思うで。」ダニーは顔がかーっと熱くなるのを感じた。
「つまらない理由なんだよ。前、僕が停職になった事を話していなかったかい?」
ダニーはトムから聞いていたが、「うぅん。」と首を横に振った。
「前に付き合っていた相手がいてね、その、奴に金を騙し取られた事があって。」「うん?」
「その後で、人生終わったように落ち込んで、医者が気が付いたらヤク中さ。笑えるだろう。」
「笑えない。俺だってアル中だったから、わかるもん。辛かったんやろうな。」ダニーがアランのそばに立つ。
アランが腰に手を回して、話を続ける。
「更正施設に親代わりで来たのが、姉のジャネットさ。全部話したよ。」
ダニーもアランの手をぎゅっと上から握り締めた。
「そして、約束した。次に真剣に思う相手が現われたら、私が首実検に行くから、必ず会わせなさいと。」
「それが、このクリスマス。」「ああ、僕がそう言ったから。」
ダニーは、深くため息をついて、始めた。
「アラン、アランは、こんな俺でもええと思ってるんか?そこから知りたいわ。」
「ああ。僕には出来過ぎの相手だと思う。」
「だって、どこの馬の骨ともわからんヒスパニックやで。親はなし、元アル中の不良FBIや。」
「ああ、君の事は君より判っていると思うけれどね。」「アラン・・・。」
「びっくりしただろう。とにかく会うだけ会ってくれないか。」
「会うのは大歓迎や。俺、家族っていうもの知らないで育ってるから、
それを見られるだけでも嬉しい。でも、もし、ジャネットが俺の事気に入らなくて、
別れろとか言ったら?」「そんな事、僕が言わせると思ってるかい?」
「良かった!!ええよ、満足いくまで会うてもらう。身体中の傷を見せてもいい。
俺、気に入られるなら、何でもするで。」
「ダニー、ありがとう。君には不得意な分野だろう。」
「不得意かどうかは判らないやろう?まずは試してみて。」「あぁ、ダニー・・。」
アランは立ち上がり、ダニーの頬を両手ではさむと静かにキッスを始めた。
「ちゃい!続きは後で。まずは飯食おうよ。」
「ああ、ありがとう。やっと食べ物が喉を通るよ。」
「そんなに固くなってたん?いつものアランらしくないやん!」
「まぁジャネットに会った後で言ってくれ。タイ料理、美味いな。」
ダニーは訝しげにそんなアランの様子を見ていた。
食事も終わり、ダニーが皿を洗っていると、アランが電話しているのが聞こえた。
「あ、ジャネット、アランだけど、彼、承諾してくれたから。ああ、おやすみ、愛してる。」
「何?ジャネットやったら、俺も話したかったで。」
「いゃ、お楽しみはこれからだよ。君は今、その切符を手にしたところだからね。」
アランはふふふと笑うと、バスを借りるよとバスルームへ消えた。
皿洗いを終え、ダニーもアランの後を追って、バスルームへ入る。
アランが放心状態で、湯に浸かっていた。「アラン、どないしたん?」
「何でもないよ。」「俺には嘘はよしやで!」「ん、あぁ、思い出してた。少しだけだ。」
「前に付き合ってた相手?」「あぁ。ジャックっていう名前の医学生だ。
君と少しだけ似てるんだ。」「人種とか?」ダニーがわざと鎌をかける。
「まぁそういうものだ。でも、中身は全然違う。」
パシャン、アランが湯を叩いた。「アラン・・。」「中身は全く違う。」
「アラン、俺を見て。そうや、ダニーや。俺のどこが違うかよう判らんけど、
アランが言うならそうなんやろ。そして今、俺がアランの前にこうやっていてるのには意味があるんや。だろ?」
「あぁ、ダニー、そうだね。君が今年のクリスマスはそばにいてくれるんだ。」
「さ、もう湯から上がろう。いい加減、冷たいで。」ダニーは塞ぎこんだアランをベッドに連れて行った。
静かに横たわらせると、アランは横を向いて寝始めた。
目の下にくまが浮かんでいる。
「色が白いから、すぐくまが浮かぶんやな。」
目の下に唇を寄せるダニー。
さて、明日は聞き込みや。ダニーは決心した。
ジャネットの事も、ジャックの事も、出来るだけ多くの情報を集めることを集めるでー。
ダニーはアパートの前でマーティンを降ろすと帰っていった。
疲れた〜・・・気力と体力が消耗していて足が重い。
まったく、なんてディナーだよ・・・。
マーティンはラケットとバッグを玄関にほったらかし、ソファにへたり込んだ。
普通の友達か、本当にそれだけならよかったのに・・・・・。
携帯のメモリを見ながら一人ごちた。
マーティンは約束どおりスチュワートに電話した。
「やあ、待ってたんだ。今夜は楽しかったな」
「そう?僕は疲れてくたくただよ」
「少し刺激が強すぎたか?まさか途中で抜くなんて思わなかった」
「だって、あのままじゃ食事が喉を通らないよ。スチューの変態!」
「あ、今ので一つ借りが出来たぜ。次に会うときが楽しみだ」
「もうっ、すぐにそうやって僕をからかうんだから!」
「約束してただろ。スチューと呼んだら犯すってな」
スチュワートはくすくす笑っている。うう・・・マーティンは唸った。
「言うの忘れてたけど、僕の字がマシになったってボスに褒められたんだ!」
マーティンは嬉しそうに報告した。
「やっぱ講師がいいからだな。そうなると、ほっぺのキスだけじゃ物足りないな」
「いや、今日の悪戯でイーブンだよ」
「どうしようかな?少し考えさせてくれ」スチュワートは勿体をつけた。
「クリスマス休暇はテイラーと過ごすんだろ。その前にオレにも一日だけ付き合ってくれないか?」
「それって一泊ってこと?」
「そうだ。早めのクリスマスを一緒に祝おう」
「ん、わかったよ。休暇はどこかに行くの?」
「メディカルスクールの友人たちとのパーティーぐらいかな。あとは家で一人ぼっちだ」
「女の人とは会わないの?」
「ああ、会わない。携帯変えたから、過去はきれいさっぱり消去だ」
「本当にそれでいいの?後悔してない?」
「いいんだ。後悔なんかするもんか!君に本気なんだから」
マーティンは気が重くなった。僕はスチュワートを選べないのに・・・・。
黙り込んだマーティンにスチュワートは話しかける。
「オレを選んでくれなんて言わない。ずっと待ってるってことだけ覚えててくれ」
「うん、わかったよ。ごめんね・・僕なんてそんな価値ないのにさ・・・」
「バカ、君にはオレにはないものが備わってるって言っただろ。自信を持て!」
「ん、ありがとう。スチュワートと話すとホッとするんだ、僕」
「かわいいこと言うじゃないか、早く会いたいよ」
「あのさ・・恥ずかしいからもう切るね、おやすみ」
「ああ、おやすみ」二人はお互いに照れながら電話を切った。
ダニーがベッドに入りかけると携帯が鳴った。
発信者はフィッツジェラルド副長官だ!
「はい、テイラーです」ダニーは呼吸を整えると、丁寧に電話に出た。
「ヴィクター・フィッツジェラルドだが、夜分遅くにすまないね。今話せるかね?」
「はい、大丈夫です。こんばんは、副長官。ご無沙汰しております」
「実は・・急な話で悪いんだが、君に頼みたいことがあってね」
「はい、何でしょうか?」ダニーは嫌な予感がした。
「今度の休暇のことだが、予定はあるかね?」
「ええ、一応は。それが何か?」
「本来ならジャックに頼むんだが、彼には家庭があるから頼めなくてね・・」
「はい」
「実はマーティンをDCまで連れてきてほしいんだ」
えーっ・・・ダニーは叫びそうになるのをこらえた。
「フィッツジェラルド捜査官は予定があると言っておられましたが?」
「ああ、友達に会うとか言ってたが、一度も帰る気がないなんて言いおって。
今度のパーティーであの子に結婚相手を引き合わす予定なんだよ」
えらいこっちゃ、こんなことあいつが知ったらどないなるねん!
ダニーの心臓は早鐘のような速さでバクバクしている。
「しかし、ご本人が帰らないと仰っているのに無理強いするのは・・・・。
それにフィッツジェラルド捜査官は結婚にはまだ興味がないと聞きましたが?」
「ああ、それは知っている。だが、今回の縁談は双方にとって良い話でね、
無理にとは言わんが、もしかしたらあの子の気が変わるんじゃないかと期待している。
嫌なら断ればいいだけのことだ。どうかね、引き受けてくれないか?」
「そうですか。僕は、その・・・」
「君にも予定があるだろうが、何とかしてもらえないだろうか。
今すぐじゃなくてもいい、明日、返事を聞かせてくれ」
「はい、では明日お返事いたします。失礼します」
「ああ、いい返事を期待しているよ。おやすみ」
ダニーはどうすればいいのか途方にくれていた。
あいつを売るような真似できひん。でも、断ったらオレの心証が・・・・。
ダニーは渋々着替えると、マーティンのアパートへ向かった。
翌朝、ダニーは支局へ着くやいなや、トムに電話し、ランチに約束をした。
「ダニー、済まない、20分しかないんだけど、いいかな。」
病院前のダイナーでトムは待っていた。
「ああ、もちろん。忙しいドクターの手間は取らせないよ。
それで、ジャネットとは会うたことある?」単刀直入に聞いた。
「あ、あぁあ、アランの姉さんか〜。相当な刺激物だな、あれは。」
「そうなん?」
バーガーをぱくつきながらトムが続ける。
「僕が会ったのは、更正施設にアランを入れた後、手続きで会う必要があったからんだが、
かなり恨まれたよ。ああなったのは、貴方のせいね、とかさ。冷静になれば、いい人だと
思えるが、あの時ばかりは鬼婆だと思った。これ、アランにはオフレコだよ。まぁ、
君がここに来たこと自体がオフレコなんだろうが。」「すんません。では、ジャックの事は?」
「え、あいつ、しゃべったのか?」「昨日まではどこの誰だかわからんかったけど。」
「ここの研修生で、コロンビア大学から来てた子だったんだが、アランにゾッコンでね。
アランさえ良ければと思ってそのままにしていたら、ある日、荷物と現金20万ドルとともに消えてたってわけさ。
今頃はどこにいるんだろうな。前に言ったろう?君とエスニシティーが一緒だから、皆が心配したって。
ダニー。アランを立ち直らせてくれて、本当に礼を言うよ。」
「そんな。俺、何もしてへんし。」「その自然体が、強情なアランの心を癒したんだよ。本当にありがとう。」
「照れるで。」「そろそろ、いいかな?手術が待ってるので。」「ありがとう、ドクター、次も俺の命救ってな!」
「無茶するなよ!テイラー捜査官!」事の輪郭はつかめた。鬼婆だろうがアランの実の姉だ。
アラン、俺はジャネットに気に入られるよう頑張るで。早う、日程を教えてえな。
翌日から、ダニーは誰が家に来てもいいように、部屋の掃除レベルを最大に上げて備えていた。
キッチンもバス、トイレもぴかぴかや。気持ちええなぁ。そんな時、電話が鳴る。
「はい?」「ダニー、僕だよ。」マーティンだった。「ああ、お前か、俺、話したいことあってん。」
「僕もだよ、今から行っていい?」「ああ、もちろん」「じゃ、待ってて。」
ものの3分もかからないうちに鍵の開く音がした。
「なんや、下にいてたんか?何してたん?」「様子探ってた。」「何で?」
「ダニーが誰かといないかと思ってさ。」「そんなんないって!!
ほんまに何度言わせたらお前はわかってくれるんやろな〜。」
「じゃ、ドナテラとは何もないって言える?」「も、もちろんや。」
「この間、留守番している時に電話あったんだ。この前の続きもしたいわぁ〜なんてさ。」
ドナテラのまねをして、舌足らずの言い方をする。
「お前、俺の留守電消したな!」「話をそらさないでよ!」
「お前、ドナテラの件は誤解やて!」「怪しすぎるよ、ダニー。週の半分は連絡取れなくなるし。」
「それは・・」「アランのところで治療してるっていうんでしょう?でもどうなんだろうね?」
「そこが、俺の生活をハードにしている理由や。まだPTSDを克服しきれてないんや。
だから、治療生活が長引いてる。」「どうだかね〜。」
「どや。これからデリバリーピザ頼むけど、今ならお前のリクエストを聞いてやってもいい。」
「じゃあ、ぼくマルゲリータ!」「俺はペペロンチーノな、サイドオーダーはいいですか?」
「シーザーサラダとアップルパイ!」「はいはい、そこまで。」宅配を待つ間、白ワインを開けて待つ。
「お前、パジャマに着替えないん?」「何だかね〜。」「まぁええやん、俺は着替えるで。」
そういうとダニーはマーティンの頬を手で優しく撫でた。「あん。」
マーティンは思わず反応した。「ほら、お前も着替えよ。」「うん、判った。」
ダニーは安心した。今日のところは、ぼんやり活火山君も納まってくれそうだ。
「それで、ダニーは何話したかったの?」
「今度のクリスマス休暇さ、お前はどう過ごすのかと思って。」
マルゲリータピザをほおばりながら、マーティンが不思議そうに答える。
「?別に予定はないけど、どうして?」「俺、客が来るから一緒に過ごせないんや。」
「そうなんだ。」明らかに落胆している。
「大事なお客さんなんだね?」「ああ、まぁな。」
「判ったよ。僕も勝手にさせてもらうよ。」「ごめんな、一緒に過ごせなくて。」
「あぁ、気にしないで。今日、ピザ終わったら、僕帰るね。」
「そんな、ええやん。明日、一緒に出勤しよ!」
ダニーがマーティンの頬にキスしようとするが、マーティンがさえぎった。
「やっぱり、だめだ。僕の大好きなダニーがどんどん遠くに行っちゃうよ。
僕、どうしたらいいんだろう。」マーティンの青い瞳から大粒の涙がこぼれ出た。
「マーティン・・・」ダニーは途方に暮れた。先に伝えておけばいいというものでもないのだ。
マーティンは主人を失った迷い犬のようだった。
一緒にいてやれなければ、マーティンこそどこかへ行ってしまいそうだ。
「なぁ、泊まってき。俺はここにいてるから。」マーティンの涙をタオルでそっとぬぐうダニー。
その腕にしがみつくマーティン。
「なぁ、泊まってって欲しいんや。マーティン。ごめんな、不安がらせて。」
「僕こそ、泣いてごめんなさい。」「思い切り泣けばええやん。とにかく俺はここにいてるんやからな。」
「うん、判った。」涙を自分で拭いて、マーティンは残りのピザと格闘し始めた。
ダニーはバスルームへ行き、湯を張った。今日はあいつの好きなミントジェルや。
泡立てていると、後ろから来たマーティンとぶつかった。
「何や!驚いたで!」「また誰かと電話でしゃべってるんじゃないかと思ってさ。」
「そんなん、もうないって。お前、考えすぎ!」
マーティンのダニーを失うという強迫観念にダニーは火をつけてしまったようだ。
「ねぇ、クリスマスさぁ・・一緒にいてよ。」「それは・・・」
「ねぇ、ダメなの?」「ごめん。でも予定がわかったら、知らせるから。」
「僕も一緒に会えないの?」「それは、できへんわ。ごめんな。」
マーティンがまた泣き始めた。
ダニーがくずおれるマーティンを抱き起こすと、マーティンの身体から、ワイン以外のアルコールの匂いがするのを感じた。
「お前、ここにくる前に何か飲んだ?」「ラウンジでジントニックを4杯ほど。」
「すきっ腹で飲んだだろう。」「だって、夕飯はダニーと一緒と思ったから。」
「お前、ほんまに〜。気持ち悪くないか。」
「大丈夫だよー、ダニー、遠くへ行かないでよ〜。」「ああ、判った。いかない。どこにも行かない。」
ダニーは泣き震えるマーティンの身体をベッドルームへ運び、ベッドに横たわらせる。
「ええか、俺はここにいてるんやからな。」「うん。」
そう言うか言わないうちに、寝息を立て始めるマーティン。
マーティンの目の下もくまが色濃く出ている。
マーティンも色白いからなぁ。俺、二人の男に囲まれて、身動き取られへん。
ダニーも泣きたい気持ちになった。
ダニーがマーティンのアパートに入ると、マーティンが歯磨きをしていた。
「あれっ、どうしたのさ?」
歯ブラシを持つ手を止めて不思議そうにしている。
「相談せなあかんことができた」
ダニーの様子からただならぬ気配が漂っている。
「ちょっと待ってて、もう終わるから」
マーティンは急いで続きを終わらせた。
ダニーがマーティンのアパートに入ると、マーティンが歯磨きをしていた。
「あれっ、どうしたのさ?」
歯ブラシを持つ手を止めて不思議そうにしている。
「相談せなあかんことができた」
ダニーの様子からただならぬ気配が漂っている。
「ちょっと待ってて、もう終わるから」
マーティンは急いで続きを終わらせた。
ダニーは深刻な顔でソファに座り、床を見つめている。
「なに?相談したいことって?」
「ああ、うん・・・さっき副長官が電話してきてな・・・」
「父さんが?」
「オレにお前をDCまで連れて来いって言わはったんや」
「それでダニーは何て答えたの?」
「まだ返事してない。親父さんが明日返事くれってさ・・」
「そんなの断ればいいじゃない!」
「それがその・・お前の縁談話があってな、相手と会わせたいんやて。
嫌なら断ったらええって言うてはった」
マーティンは怒りで顔を真っ赤にしながら拳を握り締めている。
「僕と二人っきりで過ごすんだよね?クリスマスディナーも食べるんだよね?」
黙ったままのダニーにマーティンは詰め寄った。
「なぁ、オレも一緒に行くんやから我慢できひんか?」ダニーは恐る恐る尋ねた。
「ダニー!僕を父さんに売るの?」
マーティンはショックと怒りでこめかみに青筋がくっきりと浮いている。
「そんなんとちゃうって。嫌やったら断れるんやから別に困ることもないやんか」
「そういうことを言ってるんじゃない!」
「オレもこんなんしたくない。けど、断ったら副長官の心証が悪くなるやろ。
一日だけ帰ったら済むことやんか。ずっとオレと過ごして最後だけDCは?」
ダニーは怒るマーティンを前に懇願した。
「クリスマスディナーも作るし、一緒にも過ごす。だから一日だけDCに帰ってくれへんか」
マーティンは信じられないというような表情を浮かべ、勢いよく立ち上がった。
「僕は帰らないからね!」
宣言すると、大きな足音を立てながらベッドルームのドアをバタンと閉めた。
ダニーは、副長官に断りの理由を考えたものの何も思い浮かばない。
どうすればええんや・・・両手で顔を覆うとうなだれた。
ダニーがあきらめて帰ろうとすると、マーティンが出て来た。
「わかったよ、一緒に帰る。父さんには引き受けるって連絡すればいい」
マーティンはそっけなく言うとベッドルームに戻った。
ダニーにはなぜ気が変わったのかわからなかったが、とりあえず一安心だ。
断らずに済んだことにホッとしながらブルックリンへ帰った。
翌日、ダニーは引き受ける旨を副長官に連絡した。
副長官の喜びようは大変なもので、ダニーはいささか戸惑いを覚えた。
マーティンのよそよそしい態度が気になったが、とりあえず心証は良くなった。
ダニーは頭を切り替え、仕事に集中した。
マーティンはワシントンに帰る気などさらさらなかった。
昼休みにスチュワートと約束し、仕事が終わるとクリニックへ向かう。
ダニーもボスも支局の人間だ。父が副長官である限り利権がからむのは仕方ない。
わかってはいるが、何もかもどうでもいいような気分だった。
クリニックに着くと、スチュワートが出迎えてくれた。
他にはもう誰もいない。戸締りをするスチュワートの後ろから抱きついた。
「んっ、うれしいことをしてくれるじゃないか。どうせなら正面からがいいな」
スチュワートは腕を回すとマーティンを抱き寄せた。
「何かあったのか?」
やさしく聞かれ、マーティンは黙ったまま抱きついた。
スチュワートは背中をやさしくポンポンとあやした。
「ごめん、びっくりするよね」
次第に落ち着いたマーティンはようやく体を離した。
「いいんだ、気にするな」スチュワートはそっとキスをした。
マーティンは目を閉じてキスに応える。
スチュワートは舌を入れてみたが、マーティンは抵抗せずに受け入れた。
スチュワートは迷ったもののシャツのボタンに手を掛けた。
「いいのか?」
「いいよ、好きにして。今夜はめちゃめちゃにされたいんだ」
マーティンは自分でジャケットを脱ぎ捨て、ネクタイを外した。
「待った、ここじゃ落ち着かないからオレんちへ行こう」
マーティンは黙って頷くと、ジャケットを羽織り、ネクタイをブリーフケースに押し込んだ。
521 :
fanですw:2005/12/09(金) 03:24:52
スーパーチャンネルで予告を始めたので、脳内がこのスレッドと
リンクしてしまいましたよ。
ダニーとマーティン、それぞれ、幸せ探しの旅に出そうで、
これからも、見逃せません。毎晩で大変でしょうが
応援しています。がんがってください。
522 :
fusianasan:2005/12/09(金) 14:11:10
翌朝、まぶたを泣き腫らしたマーティンと一緒に出勤したダニー。
ボスがすかさず、マーティンを呼び出して、個室でお説教している。
あちゃー、ボス、それはないやろ。マーティンが泣きそうになりながら出てくる。
ダニーはちょいちょいと指合図して、マーティンを男子トイレで待つ。
誰もいないのを軽く確認して話し始める。「ボス、どうした?」
「僕のまぶたの理由聞かれた。」「で?」「同僚と喧嘩したって伝えた。」
「それって、俺のことやん。」「ダニーの話も聞きたいってさ。」「おい?」
「もう、僕、隠すのを辞めたんだ。」「お前はそれでいいだろうが、俺は・・・」
「ボスが呼んでるだろうから、行きなよ。」
ダニーがトイレから出ると、サムが小声で「ボスが呼んでたわよ。」と教えてくれる。
「失礼します。」ボスの部屋に入る。この部屋に入る時はロクな話がない。
「昨日、マーティンとケンカしたんだって?」ボスが書類から目をあげて、ダニーを見つめる。
「あ、はい・・。」「前からお前たちがくっついたり離れたりするのを見てきたが、もういい加減にしてくれ。
副長官からも、マーティンの最近の成績が悪い事を指摘されている。」
「・・・」「マーティンとは実り多い関係でいて欲しい。話は以上だ。」
「はい。ボス、ご心配かけてすんません。」「話は以上だ。」
ダニーが出て行くと、ボスは大きなため息をついた。
これだから、ご子息を預かるのは問題だと言ったのに、ヴィクター。
家のチームのエースも調子を崩してしまった。
ダニーは席に戻りながら、精彩を欠いている自分の最近の仕事ぶりに思いをはせた。
俺もがんばらにゃー、いかんわ。尻拭いしてくれる親父もいないことやし。
ダニーが席につくのを心配そうに見ているマーティン。メールが来る。
「捜査会議問題ありやなしや?」「問題なし。」
一応そう答えるが、心は「実り多い関係」とボスが称した関係の事を考えていた。
アランさえ出てこなければ、実り多い関係でいられたはずだ。
だが、アランの殺人教唆の事実や自らの過去など、ダニーがアランと体験した種々の出来事を考えると、
もうアランをいないものにするなど出来ない話だった。アランに相談しよう。
こんな時こそいて欲しい精神分析医がアランだけというのも、皮肉なものだった。
外に出て、プレッツェルを買いながら、ダニーはアランの携帯に電話を入れた。
治療中らしく留守電だ。「アラン、俺やけど、今日会いたい。」
昼休みになって、アランから折り返しの電話があった。
マーティンが耳をそばだてて聞いているのが判る。
ダニーは思わず立ち上がり、廊下で話す。
「ああ、今日、会いにいってもいい?」「もちろんだよ、ハニー。」
「ありがと。じゃあ、仕事終わったら、家に行くわ。」「待ってるよ。」
定刻が終わり、ダニーがPCを片つけていると、マーティンが後ろから声をかける。
「ダニー、今日、飲みにいかない?」「ごめん、今日はやぼ用があってな。」
「そうなんだ。残念。じゃあ、お先に。」サマンサとヴィヴィアンに声をかけるマーティン。
「ダニー、もう少し、可愛がってやりなよ。」思わずヴィヴィアンが声を出す。
「あの子、誰かの後着いて回るのが好きな子犬だよ。」「ああ、判ってる。」
言われなくても判ってるがな、ヴィヴ!ダニーは心の中で叫んだ。
アランの家に着くと、ダニーはサフランと魚介類の香りに気が付いた。
「ただいま!」「ダニー、お帰り。今日はブイヤベースだけれど、いいかな?」
「ああ、もちろん!」美味しそう。これが、家庭の香りや。
ダニーは鼻を動かしながら、キッチンへと向かい、てきぱき仕事しているアランに素早いキスを返す。
「なんだい、テイラー捜査官。」「ははは。」テレながら離れるダニー。
クローゼットでアディダスの上下に着替えるダニー。
ダイニングに着くと、イータラのグラスにストーンウォールのカベルネ・ブランが注がれ、料理が並んだ。
「電話をもらってから、午後ちょっと抜けてね、フィッシュマーケットまで行ってみたんだ。
いいホウボウとムール貝と牡蠣があったから思わず、この献立にしたよ。」
ダニーは早速、生牡蠣にレモンを絞って、カクテルソースをつけて口に入れた。
「美味い!」「よかった。」
薄切りバケットを取ると、アランが上からブイヤベースを注ぎ入れる。
「ええ香りや。」「喜んでもらえてうれしいよ。」
「アラン、クリスマスの予定は決まったん?」
「あぁ、ジャネットの仕事もクリスマスは休みやからね。」
「何しておられるん?」「地方検事だ。」「うは〜、裁きを待つ被告の気分や。」
「まぁまぁ。ああ見えても、僕にとってはいい姉だ。イブにボストンからNYに出てくるよ。
25日に僕らで食事、26日に帰る。」
「どこに泊まるって?」「ミッドタウンのアルゴンキンだ。ディナーはヴィレッジの「イル・ムリノ」にしたけれど、いいかな。」
「もちろん。何か話してまずいことあったら今から教えてくれる?」
「ダニーはいつものダニーで十分だよ。君のチャームが魔法になって、ジャネットの心を溶かしてくれるだろうからね。」
「そんな、俺は魔法使いやないで。」「ははは。」前回会った時より、随分アランらしくなった。
ダニーは不安な気持ちがどんどん無くなっていくのを感じた。
「ダニー、話したいことがあったんじゃないか?」「あぁ、ああ。話ずらいねんけどな。」
ダニーは喉をワインで潤し、始めた。「マーティンの事や。」「やっぱりな。」
「あいつ、俺がいなくなるって強迫観念を持っててな。俺に迫ってくるんよ。」
「何を?」「コミットメントというか、将来の約束というか。」
「で、コミットメントフォビアの君としては、それに面食らっている?」
「あぁ。その通り。俺は俺やん。誰のどうこうでもない。」
アランがくくくっと笑い始めるのをダニーは驚いて見ていた。
「僕はマーティンにいたく同情をするね。ダニー。彼は君との将来こそが、
FBIから、父親の影から離れる未来だと設定していたわけだよ。君がその通りに
彼の青写真に入っていかないから、不安になってるんだろうな。」
「俺、どうすればいい?」
「このままマーティンを蹴散らしたい気持ちもあるが、君の将来が彼の父親にかかっている状況を踏まえると、
マーティンとはぜひうまくやって欲しい。二人で過ごす時間を増やしたらどうだい?」
「?アランはそれでいいん?」「僕は小枝の先の葉っぱを見るより、
大木の幹を見る方でね。大局を見渡せば、その方がいいとわかるさ。」
「アランってやっぱり大人やね。俺なんか葉っぱの先で、泣いてたわ。」
「だてに年とってないぞ。それより冷めるから、ブイヤベースをどうぞ。
アイオリソースを入れると、風味が変わるよ。」「ありがと。」
ダニーは心静かにディナーに専念する。
「ほんま、プロみたいな腕前やな。アランとレストランやったら儲かるで。」
そう言って、ダニーは、お蔵入りになった「D&M」プロジェクトの事を思い出した。
俺とマーティンの将来設計が一つ一つだめになっていっている。
あいつに今、ついていないければ、あいつウツ病になるかもしれん。
「アラン、俺、やる事がわかったで。」「それは良かった。」「まずは食事や。」
ダニーは残さず綺麗にブイヤベースを食べ終え、シャワーするわと言ってシャワーブースへと消えた。
ダイニングを片付けながら、アランは、思いが沈んだ。自分だけ大人ぶって!
本当は一番自分がダニーにいて欲しいくせに。心の中のもう一人がアランを責める。
アランがシャワーブースに着く頃には、ダニーはシャワーを終えていた。
「お先。」「もう一回いいだろう。」ぎゅっと腕を捕まれ、驚くダニー。
「あぁ、ええけど・・・」シャワーブースに入るなり、アランは激しいキスをダニーに施す。
「アラン?」「ダニー、僕もどうにもならないほど君が好きだ。」「・・・」
上から温水が降ってくる。二人で濡れながら、ずっとたたずんでいた。
アランが足元に跪き、ダニーの足の指先にキスする。快楽の痺れが脳天まで貫く。
足の指を終えると、内股を静かに唇が這って上がっていく。「あぁ。」
静かで的確な攻めに、ダニーのペニスは大きく首を持ち上げて、先走りの液を垂らしながら、
次の攻撃を待つ。「くぅっは〜。」
ダニーの甘い吐息といやらしい音がバスルームに響いている。
アランがダニーを咥えて大きく上下させた。「う、うわ〜っ!」
ダニーは叫ぶと同時にアランの喉元へ自分の精を放った。
「はぁはぁはぁ。」大きく息をつくダニー。そんなダニーに湯を当て、
自分の息も整えるアラン。二人は手をつないでベッドルームへ消えた。
マーティンは車の中でも押し黙ったままだ。
ぼんやりと行き交う人々や車を見ていた。
レキシントンアベニューは混雑していてなかなか前に進まない。
「何か食べてくか?」スチュワートの問いにも首を振った。
スチュワートはそれ以上話さず、そっと手をつなぐとそのままアパートに向かった。
アパートに着き、マーティンは促されるまま部屋に入った。
うがいと手洗いを強制的にさせられ、服を脱がされる。
スチュワートはバスタブに湯を張ると、一緒に入った。
「さすがに二人だと狭いな。足が折りたたまれてるみたいだ」
「うん・・・」
「ちょっと足を上げるよ」スチュワートは両足をバスタブに引っ掛けた。
マーティンは足の間でもじもじしている。
「君も上げるか?」
「いや、僕はいいよ」
そんなことをしたら妙な体位になってしまう。マーティンは慌てて断った。
「なんだよ、照れるなよ」
スチュワートは足でマーティンの体を抱き寄せた。
お互いの顔が近づき、どちらからともなくキスをした。
二人はキスをしたままじっと見つめあった。
スチュワートの真剣な眼差しにマーティンは目を逸らす。
「もう出よう」
スチュワートはバスローブを羽織るとベッドに連れて行った。
ベッドに遠慮がちに座るマーティンをそっと押し倒す。
視線を絡めあったままキスを重ねた。
「オレ、フェラチオしたことがないんだ。下手だったら言ってくれ」
スチュワートはマーティンのペニスを咥えた。
ぎこちなく這わせる舌がくすぐったい。マーティンは思わずくすくす笑った。
「そんなに下手か?」
「ううん、くすぐったくて。もう笑わないよ」
一生懸命なスチュワートに、マーティンは興奮した。困惑した表情がそそる。
「なんか妙な味がして来た。感じてる?」
「ん、気持ちいいよ。欲しくなってきた」
スチュワートは嬉しそうにニヤっとするとさらに舌を這わせた。
マーティンの目を見つめたまま、ペニスを上下に吸い上げる。
「んんっ、そこダメッ!出ちゃうよ・・あっぁあー」
マーティンは口の中に射精した。ペニスが何度もビクンと痙攣している。
スチュワートは精液を飲み込み、唇を舐めた。
「あんなに下手だったのに、イッてくれてありがとう。嬉しかったよ」
スチュワートはぐったりしたマーティンの横に寝転んだ。
「僕の味はどうだった?」
「少し苦いかな。おいしくはないな」言いながら湿った髪をくしゃっとする。
「まずくてごめんね」マーティンはお返しにキスをした。
「今ならまだ引き返せるぜ?」
「何が?」
「浮気のことさ。オレは今なら自制できる。君が望まないならこれ以上は手を出さない」
マーティンは返事に困り、黙ってうつむいた。
「なーんてね・・・本当は怖いんだ。また彼の元へ帰ってしまう君を想うのが・・・」
二人は寄り添ったまま動けずにいた。
いつしか眠ってしまったマーティンを、スチュワートは飽きずに眺めていた。
好きにしていいって言われたのに、なぜ手を出すのに躊躇ったのだろう・・・。
見境なしに相手をとっかえひっかえ抱いていたオレなのに・・・。
自分でも理由がわからないまま葛藤していた。
リビングでマーティンの携帯が鳴っている。
スチュワートは起こさないようにベッドから出ると、携帯を見た。
ダニー・テイラーからだ。スチュワートは出ることにした。
「はい」
「あ、あのフィッツジェラルドさんの携帯では?」
「ええ、そうですよ。テイラー捜査官」
「ドクター・バートン?何でマーティンの携帯に?」
「さあね。君は彼に何かしたのか?」
「別に。それよりあいつを呼んでくれ」
「ああ彼なら疲れて眠ってるよ。かわいい寝顔につい犯したくなる」
スチュワートの言い方にダニーはキレた。
「何でもええから早よ代われや!」
「心配しなくても明日の朝には帰すさ。今は起こしたくないんだ」
「まさか、お前!」
「いいや、それはない。おやすみ、テイラー捜査官」
スチュワートは一方的に電話を切り、マナーモードに設定した。
手の中では携帯が早速振動している。
バカなヤツ!スチュワートは携帯をポケットに戻すとベッドに入った。
ダニーは何度も掛け直したが、一向につながらない。
支局に戻り、スチュワートのことを調べ始めた。
ドクター・スチュワート・アーサー・バートン。ジョンズホプキンス大卒。
米国疾病対策管理センター特別研究員。予防医学専攻。著書多数。
パリセイドメディカルクリニック常勤医。
トロイのヤツ、結構な経歴やな。
住所はと・・・グラマシーパークの裏の通りや。
ダニーは場所を確認すると、スチュワートのアパートへ向かった。
ダニーは東20丁目のアパートに着くと、インターフォンを鳴らした。
「はい」
「テイラーです」
「テイラーって?ああ!すっげー、さすがFBIだな。まあ上がって来いよ」
スチュワートは感嘆しながらロックを解除した。
ダニーはすんなり入れてもらえたことに拍子抜けしたが、注意深く上がっていった。
16階にはスチュワートの部屋しかない。
一つしかないドアをノックすると、愛想よくスチュワートが出迎えた。
「君は優秀な捜査官だな。マーティンも捜査したらこんな感じなのか?」
「まあな、伊達や酔狂で捜査官やってへんから。マーティンは?」
「寝てるって言っただろ。何か飲むか?」
「結構。すぐに連れて帰るから」
ダニーはあちこちドアをあけ、ベッドで眠るマーティンを見つけた。
「マーティン、マーティン」
ダニーは体を揺すって起こした。うぅん・・・マーティンが目を擦る。
「ダニー?ああ、夢か」またもや眠ってしまう。
「起きろって!帰るで」ダニーはほっぺをペチペチ叩いた。
「かわいそうじゃないか、オレが送るから寝かせてやれよ」
スチュワートはダニーの腕をつかんだ。
「手、放せや!それより何か着ろ。お前の裸なんか見たくもない」
ダニーは股間を見ないように目を逸らした。
「オレは全然気にならないぜ。見られても困らないからな」
スチュワートはニヤニヤすると全裸のままソファに座った。
マーティンの服が辺りに散乱している。ダニーはトランクスに目を留めた。
「あいつと寝たんか?」
「いいや、お楽しみはこれからだったんだ。君が来なけりゃとっくに寝てたさ」
ダニーはスチュワートを睨みつけた。
「でもまだ寝てないんやろ?あいつがそんなことするわけないっ」
「どうかな。えらく失望してるみたいだったぜ。どうせまた君が裏切ったんだろう?」
ダニーは何も言えない。
「答えがないのが答えだな。さてと、オレはそろそろベッドに戻るよ。
一人だと寒いだろうから。君も家に帰ったらどうだ?」
「眠たいこと言うなや、トロイ!オレはあいつと帰るんや」
ダニーはマーティンの衣類をまとめ始めた。
スチュワートはマーティンを抱き寄せ、首筋をなぞっている。
わざとダニーに見せつけるように愛撫した。
「ううん・・あぁん」眠ったまま甘い喘ぎを漏らすマーティン。
たまらずダニーは強引にマーティンを起こした。
「こんなとこで何やってんねん!オレへのあてつけか!」
「ん?え・・何・・どうなってんの?」マーティンは事情がわからず混乱した。
「こんなとこで、そんな格好で、そいつと何をしてるんやって聞いてるんや!」
ダニーは頭の回転が鈍い人に話すようにゆっくりと詰問した。
「・・・スチュワートに会いたくなったから」
マーティンは、なぜ目の前にダニーがいるのかもわからず答えた。
ムカついたダニーはまとめた衣類を思いっきりぶつけた。
「さっさと服着ろ!帰るぞ!」
「僕は帰らない。ここにいたい」マーティンは布団の中に隠れた。
「今の聞いただろ、君だけ帰れよ」
スチュワートがダニーを促した。
「あほかっ、こんなとこに置いていけるわけないやろ!」
「それじゃ君も泊まればいい。お好きなようにどうぞ」
スチュワートはマーティンの横に寝転んだ。
ダニーは迷ったものの、一人で帰るわけにはいかない。
「マーティン、オレも泊まるからな」
ダニーは宣言するとベッドに入った。
「バスルームは左の奥、自由に使うといい。それとうがいと手洗いをしてくれ」
「はいはい、CDC特別研究員は目に見えへんもんにうるさいなぁ」
「なんだ、そんなことまで調べたのか」
「印税で稼いでることもな。それにしては変わったとこに住んではりますなぁ」
「オレの印税なんて微々たるもんさ。早く手を洗いに行けよ」
ダニーは渋々ベッドから出てバスルームへいった。
マーティンは布団にくるまったままじっとしていた。
「何も心配しなくていい。それより腹ペコなんじゃないのか?」
「ううん、いらない。ダニーも泊まるなんて迷惑だよね。僕、帰ろうか?」
「いいじゃないか、今夜はオレと寝よう」
「僕よりダニーのほうがスチュワートのことをいろいろ知ってるんだね・・・」
「オレの経歴知ったからって、何にもならないじゃないか。バカだな、そんなの知りたきゃ教えてやるよ」
「ん、でもなんか悔しくってさ・・・」
スチュワートは苦笑すると大きな体でマーティンの体を包んだ。
打ち震えるマーティンの体に触れるうちに、スチュワートは欲情して来た。
ペニスがマーティンの太腿に挟まれ、固くそそり立っている。
「マーティン・・・」スチュワートは困ったようにマーティンを見た。
マーティンは布団にもぐるとペニスを咥えた。
亀頭に舌を這わせ、喉の奥まで出し入れする。
「あぁ・・」スチュワートがあまりの気持ちよさに声を上げた。
「今すぐ君の中に入れたい」
マーティンはダニーが戻ってくるのが気になったが、四つんばいになった。
「スチュー、来て」スチュワートはローションを塗ると、ゆっくり挿入した。
腰に手を置き、浅く深く挿入をくりかえす。
ダニーに見られるかもという緊張感が漂い、二人は最高にドキドキしながら交わった。
「んっっイクぞ・・・うっ・・」スチュワートは中で果てた。
マーティンはイカなかったが、気持ちは十分満たされていた。
「はぁっはぁっ・・すごく興奮した」スチュワートはニヤッとした。
「僕も」マーティンはスチュワートにもたれかかった。
「あとでシャワー浴びよう。今はテイラー捜査官が使ってるから」
「うん。なんかお腹すいた」
「運動したからな。よし、ピザにしよう」
スチュワートはデリバリーピザを頼んだ。
マーティンが冷蔵庫を漁っていると、ダニーがバスルームから出て来た。
「起きたん?」
「うん。スチュワートがピザ頼んだって。飲み物なら冷蔵庫にあるから」
マーティンはドクター・ペッパーを二本持つとリビングへ行ってしまった。
何や、あいつ・・・ダニーは寂しさを感じながら冷蔵庫を開けた。
マーティンのアパートと同じようなものしか入っていない。
咳止めシロップみたいなジュース飲むヤツの気持ちなんかわかりたくもないわ。
ダニーはコントレックスのボトルを取り出し、その場で一気に飲み干した。
やがてピザが届き、三人はダイニングで食べ始めた。
「テイラー捜査官、遠慮しないで食べてくれよ」
あまり食べないダニーにスチュワートは声を掛けた。
「いえ、いただいてますから。お気になさらずに」
マーティンはいつものようにぱくぱくがっついている。
こいつと比べたら誰だって食欲なさそうに見えるよなぁ・・・。
ダニーは生ハムとアスパラのピザを食べながら、マーティンを盗み見た。
スチュワートはルッコラのサラダをマーティンに食べさせた。
「うぇー・・・ゴマはあんまり好きじゃないんだよ」
「じゃあトマトサラダを食べろ。野菜を食べろっていつも言ってるだろう」
「わかったよ」マーティンは渋々トマトを口に運んだ。
ダニーが見ているのに気づくと、スチュワートはいつもこうなんだと説明した。
「ふうん」おもしろくなさそうなダニー。
食事が終わるとスチュワートはシャワーを浴びにいった。
ダニーはマーティンと二人っきりになったが、話すきっかけがつかめない。
「ダニー、クリスマスディナーのことだけど」マーティンが急に話し掛けた。
「ん、メニュー決めたんか」
「違う。僕は食べないことにする」
「え?」
「クリスマスを祝いたい気分じゃないから」
「副長官のことで?」
マーティンは返事をせずに植物の部屋へ行ってしまった。
「待てや、どういうことなん?」ダニーがあとを追う。
「なに、この部屋。ケシの栽培か?」
「そんなわけないじゃん。スチュワートならモルヒネやアンフェタミンが簡単に手に入るのに」
「それもそうやな。それより、副長官に断ったらクリスマスディナー食べてくれるか?」
「無理しなくていいよ。もういいんだ、何もかもどうでもいい・・・」
マーティンは涙をこらえている。ダニーは抱きしめようとしたが断られてしまった。
翌日、ダニーは出勤してきたマーティンにメールを送った。
「本日、捜査会議OK?」PCを明けるやいなや、OUTLOOKを立ち上げてメールを読んでいる様子のマーティン。
うぁっという小声が、聞こえ、即座に「OK?何時@どこ?」と性急なメールが帰ってきた。
ダニーも微笑みながら、メールを返す。「19時@どこでも」「19@小宅」
ほぅ、マーティンの家なんて珍しやないか。「承諾。」マーティンが鼻歌を歌うのが聞こえてきた。
思わずくすっとダニーが笑いをもらすと、マーティンが気が付いたようで、歌をやめた。可愛い奴やな、ほんまに。
その日は事件がなく静かなオフィスだ。サマンサなど、うたたねしているほどだ。
がつっと席をキックするとサムが跳ね起きた。「ダニー、いいじゃない?けち。」
平和やな〜。ダニーも思わず目を細めてサマンサを見つめる。
「うぅん!」ヴィヴィアンがそんな中、咳払いをして、皆の注意を引く。
「これからクリスマス休暇にかけては、皆の気が緩みやすい時機だから、気を引き締めて任務に就くこと!」
「了解!」チーム全員が返事をする。
マーティンは、手元の時計を何度も見返しながら、時間が過ぎるのを待っていた。
18時ちょうどになり、「それじゃ、お先します!」と一番に帰っていくマーティン。
何、張り切ってるんやろうなぁ。アッパーイーストサイドのマーティンのアパート。
「これは、テイラー様、お久しぶりで。」「やぁ、ジョン、元気そうやな。」
「おかげさまで。」マーティンの部屋のドアを開けると、キッチンからいい香りがしてきた。
「ダニー、おかえり!」「ああ、ただいま。お前何してんの?」
「料理だよ!ダニーに買ってもらった料理本から、一つずつレシピを練習してるんだ。」
「へぇ〜感心やね。で、何、シチューか?」「当たり!ビーフシチューだよ!早く、着替えてきてよ。冷めちゃうよ。」
「判った、判った。」へぇー、マーティンがシチューか、びっくりするなぁ。
ナイキのジャージに着替えて出てくると、マーティンがワインの栓を開けようとしていた。
「それ位俺がやるで。」「ありがと。」チュっとダニーの頬に優しくキスをするマーティン。
何や、えらい家庭的やん。弱いな〜俺。
クレソンとエンダイブのグリーンサラダの水気をスピナーで取った後、
ボールに盛る手つきも慣れたものだった。「ワインヴィネガーかけるね。」
ペッパーミルで黒胡椒をかけ、ヴィネガーを上から振りまく。
「パンもほかほかだよ。」電子レンジで柔らかく温めたバケットが出てくる。
「驚いた!」「ね、僕だってやれば出来るんだ!」「ああ、ほんまやなぁ。」
ダニーも舌を巻くホストぶりだった。
用意が出来て、二人してダイニングに対面で座る。
「それじゃ、いただきまぁす!」マーティンが元気良く声を出すと、カベルネソーヴィニオンをぐいっと飲む。
「おいおい、俺を置いていくなよ。」「早くぅ、僕の作品を食べてよ!」
「はいはい。」シチューに口をつけるダニー。「う、美味い!上手やないか!いつから用意してた?」
「おととい。」「じゃあ、昨日も・・」「うん、ダニーには振られちゃったけどさ。煮込み料理だから。」
「ありがとな、マーティン。お前って。」「何?恥ずかしいよ。」
「いや、意外と「D&M」プロジェクト、うまくいってたかもしれんと思ってな。」
「でも100万ドルなんて資金集められないよ。」
「そやな。その公認会計士が計算違いってことはないんか?」
「天下のE&Y公認会計事務所だよ。ありえないよ。」
「そか。お前にとっては大切なプロジェクトやったのにな。」
「僕らにとってでしょ。僕、二人の間の子供だと思って大切に育てようと思ってたんだ。」
「マーティン・・マジやったんやな。」「ああ。残念だよ。」肩を落とすマーティン。
こいつ、可愛いやん。ダニーは、しみじみ感じた。ここに自分を頼りにしている弱い魂がいることを。
「サラダも食うてみよ。」水切りもしっかり出来ているし、申し分ない味付けだった。
「ほんま、俺、お前を見直したわ。」
「でしょ。だから支局でも僕をバカにしないでよ。」
「バカになんか、してへんやんか。」
「うそだぁ。皆で半人前とかウワサしてるんじゃないかなぁ。」
「そんなんしてへんって!」
「とにかく、僕はダニーに認められればいいんだ。」
「そんなに人生の目標低くしてええんか?」「うん、なんで?」マーティンは不思議そうな顔で聞く。
「高くするもなにも、僕の人生の目標は一つだけだもん。ダニーと幸せに暮らすことだよ。」
「お前、えらい人生を単純に考えてるようやけど、親父さんとかどうする?」
「父さんの事なんていいよ。今まで、僕の人生を十分に使って、満足を得てきたんだから。
父親のエゴという名の元にさ。」
「そんなもんかな〜?俺、11歳の時から親父いてないやん。よう判らん。その辺の事が。」
「判らない方が苦労がないよ。きっと、ダニーのお父さんは今のダニーを見たら、自慢に思うと思うけどな。」
「そんなもんかな。」だが、ダニーには想像がついた。
あのアル中親父が今の自分から金をせびり取ることはあっても、決して自分の幸せとは思わないだろう事を。
「で、ダニー、クリスマスの予定は決まったの?」
「ああ、知り合いと25日に飯を食う。それだけや。」
「なぁんだ。連休中ずっと用事があるわけじゃないんだね!」
「そや。お前とイヴの夜、一緒に過ごせるで。」
「わ〜、良かった。僕、何も用事がないと、DCに帰らないといけないんだよ。用事が出来た!」
「なんかえらい窮屈な関係やな。」「とにかくイヴは一緒にいられるんだ。」
「ああ。」「じゃあ、どっかレストラン予約しておくよ。二人で過ごす初めてのクリスマスだよ。」
「ほんまやな。お、お前、何かプレゼントとか考えてたら、ダメやで。俺苦手やからな。そんなん。」
「ふぅん。そうか。じゃ、やめとく。」
ダニーはほっとした。マーティンと自分では生活レベルが違う。法外な価格のプレゼントをもらっても返せない。
「ごめんな。マーティンかて、自分の思ったようにクリスマスを過ごしたいんやろね。」
「うん?そうだけど、僕はダニーのそばにいるだけでいいんだ。」「ありがとな。」
ダニーはこの迷える魂にどうぞ救いあれと祈らずにはいられなかった。
ダニーがマーティンをなだめようとしていると、スチュワートがマーティンを呼びに来た。
「バスルーム空いたから入れよ」
「うん、ありがと」マーティンはダニーの体をかわし出ていった。
「どうかしたのか?」
「別に、なんでもないっすよ」
「そのドアは閉めといてくれ。室温が下がってしまう」
「ああ」ダニーは言われたとおりにドアを閉めた。
ダニーが顔を上げるとスチュワートがニヤニヤしていた。
「何がおかしいねん」
「別に」スチュワートは明らかにこの状況を楽しんでいた。
チェックメイトだ、テイラー捜査官!マーティンはもうすぐオレのものだ。
スチュワートはフフンッと嘲笑った。
スチュワートの態度に、ダニーは副長官に断りを入れようと決心した。
マーティンを失いたくない。断らなオレらはおしまいや。
ダニーはバスルームへ行った。
マーティンはバスタブの中でぼんやりしている。
濡れるのもかまわずダニーはマーティンを抱きしめた。
「ちょっダニー・・・」
「オレ、断るから。だからディナー食べへんなんて言わんといてくれ」
ダニーは必死だった。
「ダニー・・・僕さ、最初から一緒に帰る気なんてなかったんだ。空港ですっぽかそうと思ってたから・・」
「ええっ、お前オレを騙す気やったんか?」
「そうさ、だって僕を売ったんだもん。約束してたのにひどいよ」
「どっちにしてもオレは路頭に迷うわけや」
ダニーは頭を抱えた。
「恋人を売るなんてなかなかの玉だな、テイラー捜査官」
二人が振り向くと、スチュワートがニヤニヤしていた。
「お前には関係ないやろ!いろいろ事情があるんや!」
「落ち着けって。簡単な解決法があるのにわからないのか?」
ダニーとマーティンは顔を見合わせた。
「教えてやろうか?」
「お前に教えなんか乞わへん!」
「僕は教えてほしい。帰らずに済むなら何でもするよ」
「君は?」スチュワートはダニーにたたみかけた。
ダニーは唇を噛みしめたまま何も言わない。
「じゃあだめだ。自分でなんとかするんだな」
スチュワートは知らん顔して歯磨きを始めた。
三人はマーティンを真ん中にベッドに入った。大きなベッドなので窮屈さはない。
「おやすみ」
「あの・・ドクター・バートン・・・恐れ入りますが解決法を教えていただけませんか?」
ダニーが態度を改めて尋ねた。
スチュワートは笑いそうになったが何とかこらえ、ダニーを見た。
ダニーもマーティンも真剣に自分を見つめている。
「いいだろう、出発の二日前に連絡して中耳炎になったと言えばいい。
そうすれば飛行機に乗れなくなるからな。これで帰りたくても帰れないってわけさ」
「あっ!」マーティンが声を上げた。どうして気づかなかったんだろう・・・。
「思い出したか?知らないなら航空ライセンス剥奪だぜ」
スチュワートはにっこりすると髪をくしゃっとした。
「ありがとう、さすがドクター・バートンだね!」
マーティンはとびっきりの笑顔で胸をなで下ろした。
ダニーは副長官に断りを入れずに済んだものの、完全に出し抜かれた形だ。
こいつを売って信用失くしてトロイに出し抜かれて・・・オレ、何やってんねん。
クリスマスディナーもパーやし・・・ダニーはドツボにはまっていた。
スチュワートに勝てそうにない自分を認めたくない。
年の差はたったの5つなのにあまりにも自分は未熟な気がした。
だが、このまま立ち去る気にはなれなかった。ダニーはいたたまれず反対側を向いた。
次の日、支局には張り切って仕事に打ち込むマーティンの姿があった。
「あの子どうしたの?」ヴィヴィアンとサマンサが不思議そうに噂している。
ダニーは反対に気が滅入っていた。ポカばかりして何度も書類を書き直した。
一日中冴えないまま、ダニーは支局を出るとロックフェラーセンターへ行った。
幸せそうな人々の中に交じってクリスマスツリーを眺める。
自分自身の野心に足元をすくわれ、やりきれない気持ちで佇んでいた。
クリスマスツリーの灯りが消え、ダニーはふと我に返った。
もう23:30ちゅうことか・・・辺りを見回しても誰もいない。
寒さに身を竦めながら歩き、タクシーを拾う。
一度はアッパーイーストへ行きかけたが、
マーティンに拒絶されるのが怖くてブルックリンへ帰った。
早朝、ダニーは鳥の声で目が覚めた。ここは静かやな〜。ブルックリンと全然違うわ。
マーティンを起こさないようにそっとベッドから抜け出て、冷蔵庫からコントレックスを出すと、
ボトルごと一口飲む。「うぅ〜、さむ!」もう一度ベッドに戻ると、
冷えた両足をマーティンの足の間に入れて、暖を取った。「うぅぅん。」
マーティンがうなって起きそうになる。「いいんや、いいんや、まだ寝とき。」
ダニーがあやすと、またスヤスヤ寝息を立て始めるマーティン。
ダニーはいたずら心から膝でマーティンの股間を撫で始めると、むくむく元気になってくるのが感じられる。
可愛いなぁ、ここも。続けているうちに、ダニーの股間も変化してきた。あやや、ヘンな気持ちになってきたわ。
ダニーは、マーティンの身体を少しうつむき加減にずらし、
臀部に硬くなり始めた自分の股間を押し付けた。「うぅぅん。」
マーティンの谷間にペニスがいきり立つまで擦りつける。
マーティンが自然と腰を浮かせて、迎え入れるポジションを取る。
「マーティン、いいんか?」「ううぅん。」
マーティンは大好きなダニーに後ろから犯されている夢を見ていた。
ダニーは無言をイエスと受け止めて、マーティンのパジャマとトランクスを一気に下に下ろして、
マーティンに自分の先走りの液を塗ると静かに蕾に押し当てた。
「ダ、ダニー?」「ああっ、俺やっ。」ダニーの息は上がっていた。
「やめてよ。」「もうっ、やめられへんっ、うっ。」静かに挿入する。
「うわ、ダニィ。すごいっ!」「そっそうやろっいくでっ。」湿った音が静かな部屋に響いた。
「うっ、うぅっはあー。」ダニーはマーティンの中に思う存分果て、マーティンの身体の上にかぶさった。
「ダニー、重いよ。」マーティンがすっかり目を覚まし、ダニーの重たい身体を横にはずす。
「なぁ、今日、ズル休みしよ。」「ダメだよ、二人で休んだら、ボスが判っちゃうでしょ。」
「ええ考えだと思ったんやけどなぁ。」「ほら、シャワーするよ!」
「お前、先行ってきて。」「ヘンなダニー。」マーティンは下半身裸で、
ペニスを屹立させたまま、シャワールームへと向かった。
ダニーは幸せの狭間でまた転寝を始めた。
マーティンはシャワーを浴びながら、ペニスに手を当て、前後に手を動かすと精を発散させた。
「はぁうー。」カルダモンのソープを泡立て、身体をよく洗う。
準備が万全じゃなかったせいで、局部から出血し、痛みもある。
僕だってズル休みしたいよ。でもクリスマス前にそんなことしたら、ワシントンに帰らなきゃいけなくなっちゃう。
マーティンは意を決してシャワールームから出る。ダニーはまだベッドでまどろんでいた。
「ダニー!起きないと、遅れるよ。」「俺、今日は休むわ。支局に言っといて。」
そう言うと、背中を向けてしまった。「ダニー、何があっても僕知らないよ。」
「うぅん、いってきな・・」マーティンは今朝のセックスに違和感を覚えていた。
僕って欲望を処理するだけの存在なんじゃないかな。
ダニーは昼過ぎまでよく眠っていた。マーティンがサイドテーブルに置いていった携帯電話が震えている。
「はい、テイラー。」「ダニー、何してる!」ボスだ!「はい、ボス。家ですが。」
「今日は大事な会議があるのを忘れていたわけではないだろうな。」「会議?」
そうだ、副長官じきじきにNY支局で挨拶される会議だった。「すんません。すっかり忘れてましたわ。」
「19時から、副長官を囲んでのディナーがある。それだけは来いよ。」「了解っす。」
面倒臭いな、ディナーなんて。
ダニーは熱っぽさとだるさと戦っていた。何やの、俺。熱を計ると38度ある。
「あやや、風邪、インフルエンザ?」にわかにダニーはかったるくなってきた。
マーティンに電話する。「はい、フィッツジェラルド。」「マーティンか。」
「申し訳ありませんが、今、会議中です。コールバックしますので、失礼します。」
冷たいなぁ。副長官と一緒の会議だったっけ?ダニーの意識は高熱で白濁していた。
またベッドに入り、身体を丸める。
次の電話は、18時30分、マーティンからだった。「ダニー。」
「あぁマーティン。俺、熱があるねん。」「大丈夫?」マーティンが心配そうに聞く。
「あぁ。場所どこや。」「マンダリンオリエンタルのメインダイニングだよ。本当に平気?」
「あぁ、すぐそっち行くわ。」ダニーは電話を切ると、だらだらとスーツに着替え、
アッパーイーストサイドからホテルのあるウェストサイドにタクシーで移動した。
入り口でマーティンが待っている。「ダニー、大丈夫?顔色悪いよ。」
「今は大丈夫や。早よ食って家に帰ろう。」「ああ、そうだね。」
ボス、ヴィクターの他、なんとアランが席に座って談笑している。
「なんで、アランがここにいるんだ!」ダニーは声を荒げてマーティンに聞く。
「僕だって知らなかったよ。」「何てことだ。」ダニーは頭を抱えた。
「おい、遅いじゃないか!」「すんません。道が込んでいたもので。」
ダニーとマーティンは対面で腰掛ける。ダニーはボスとアランの側だ。
「ドクター・ショア、もう一度、テイラー捜査官との出会いを話してもらえるかね。」
「はい。僕が勤めていたER歴代患者の中でも、彼とマーティンの怪我は、
特に重篤なもので、今でも語り草ですよ。」「マーティンの怪我の事は報告を受けている。」
「ご子息は素晴らしい捜査官だとお見受けします。副長官。」
アランの言葉に、副社長は小鼻をふくらませて喜んでいる。
「テイラー捜査官、いや、ダニーと呼ばせてもらっていいかな。」
「もちろんです。副長官。」
「ダニーは、囮捜査は好きかね。」「それは、もう。緊張感がありますから。」
「時には数ヶ月も潜る必要があるんだか、出来るかな。」
「もしこれがテストなら、やれる自信がありますとお答えします。」
「ジャック、頼もしいな、次世代は。」「ああ、ごもっとも。」
ジャックは慎重に言葉を選んでいた。ここで、ダニーをワシントン行きにさせてはならない。
ディナーは決められたフルコースだった。オマール海老のカクテル、田舎風パテに始まり、
ライムのシャーベットの後、真鯛のポアレ、ウサギのソテーと続く。
「ふぅ。」ダニーはめまいがするのを押して、食べ続けた。たびたび気が遠くなる。
「で、ダニー、クリスマスはどうするのかね。」
「は、はい、来客がボストンから来るので、食事します。」バカ正直に答えてしまった。
マーティンがじっと見ている。
アランが隣りでくくっと笑いを押し殺している。「マーティン、お前はワシントンに帰ってくるんだよな。」
「僕、僕、今回は、帰れません。」「ほぅ?」ヴィクターが片方の眉を上げて、マーティンを見る。
「父さん、僕にも用事があるんですよ。」「ジャック、今のところ、どうなんだね。」
「はい、今は手持ちの案件がないが、いつ起こっても、私たちはそこにいなければなりませんので。」
「そういう意味では、待機しているERの医者と一緒ですね。」
アランが緊張をほぐすように合いの手を入れる。
「え、ええ。似ていますよ。被害者に多大な思い入れをしないようにするとか。」
「全くだ。一人ひとりに思い入れしていたら、仕事が終わらない。」
ボスとアランが笑いだし、周囲も張り詰めた糸がゆるむのを感じた。
デザートの時間になり、ダニーとアランはココナッツアイスクリーム、ボスはチーズケーキ、
親子はチョコートムースの生クリーム添えをオーダーした。
「来年も、この家族同様の付き合いが出来ればいいなぁ。はっはっはっ。」
ヴィクターは満足そうに周囲を見渡し、皆に笑いを強要した。
「今日はお招きいただきまして、ありがとうございました。」アランが副長官に向かって頭を下げる。
「こちらこそ、うわさのドクター・ショアと会えてうれしかったよ。こいつの母親にも、命の恩人の事を話さないとね。」
そう言うと、マーティンの肩を抱き、ぽんぽんと叩く。マーティンはしかめっ面をした。
「それでは、お開きとしようか。マーティン、私をホテルまで送ってくれ。」
「はい、父さん、フォーシーズンズでしたよね。」「私の定宿をやっと覚えてくれたか。
それでは、皆さんご機嫌よう。」
副長官とマーティンの背中を見送りながら、ダニーはめまいで足元がぐらついていた。
「ダニー、どうした?」気がついてアランがダニーを支える。「アラン、俺、熱が・・」
「本当だ、高熱じゃないか!マローン捜査官、ダニーを送って帰りますが、いいですか?」
「ああ、ダニー、大丈夫か?」「あ、はい。ちょっとめまいが・・」ダニーは気絶した。
マーティンがリムジンを待つ間振り返ると、ダニーがアランに抱きかかえられてるのが
目に入った。ダニー・・・また遠くに行っちゃうの?
「うあ、ここはどこだ?」ダニーは慌てて目を覚ました。
隣りで、アランが静かに寝息を立てている。「ん?アランの家?俺、どうした?」
副長官とディナーをしたところまではおぼろげな記憶があるが、
どうやってここまで帰ったのか、ざっくり記憶が抜けていた。
アランに連れて帰ってもらったんやな。あー恥ずかしい。
副長官は知ってるんやろか。
アランを起こさないように静かにベッドから降り、キッチンの冷蔵庫からサン・ペリグリーノを出して飲む。
「はぁー。」何や熱いなぁ。そや俺、熱があるんだった。キッチンでへばっていると、アランが起きてきた。
「あ、起こした?」「やぁ、ハニー。熱を測ろうな。」
「俺、風邪かな?」「インフルエンザの予防接種はしたかい?」
「いやー、注射嫌いやもん。」「悪い予感がする。」
ぴっと体温計が音を発した。
「39度3分、良くないな。明日、病院で解熱剤の注射をしよう。
僕が付き添うから。」「そんな子供みたいやん。一人で行けるで。」
「何を言うか、マンダリンオリエンタルで気絶したくせに。」
アランがいたずらっこのように告げる。「う、うそ!副長官の目の前で!」
「ああ、君は病人と確定だ。まだ夜中だから、さぁ寝よう。」「うん。」
ダニーの肩を後ろから押しながらアランは二人、ベッドルームへと戻った。
頬に冷たいものが触れる感触で、ダニーは目が冷めた。
頬にオレンジジュースが入ったコップが押し付けられていた。
「あ、おはよう。アラン。」「おはよう、ハニー。ビタミンCを取りなさい。」
「ん。」ぐびぐび喉を鳴らして飲む様子をアランは目を細めて見つめている。
「見ないどいて」「どうしてだい。あのヤンチャがこんなに無防備で僕の腕の中にいるんだ。
またとない光景だよ。」嬉しそうなアラン。
「さぁ、支局に電話の時間だよ。僕がするかい、君がする?」「俺、電話する!」
ガキやあるまいし、親に電話されるみたいで、恥ずかしいやん。
「あ、ヴィヴィアン、ダニーやけど、俺、熱があってん。今日休むわ。」
一丁上がりや。「さて、病院に行こうか?」「本気なん?俺、注射が嫌だって言うたやん。」
「僕の予防接種がてら行くんだよ。ほら、着替えた着替えた!」
無理やり洋服を着せられ、アランと共に市立病院にボルボで乗り付ける。
ERを覗くとトムが眠そうな顔でPCに向かっていた。
「トム!」「やぁ、アラン。今日は何だ。また重篤患者か?」
「うちの子がインフルエンザにかかったようでね。解熱剤を打ってもらいに来たんだ。」
「ついでに、お前も打ってもらえば?」「予防接種だろ?」「違うよ、恋の熱病に効く注射。」
「ばか!」アランが尻をたたくとトムが笑いながらお幸せにと言って仮眠室に去っていった。
内科の待ち合いに戻ると、問診票に一生懸命書き込むダニーの姿があった。
本当に子供みたいだ。アランが隣りに座る。「アラン、俺、寒気する。」
「終わったらすぐに家に戻ろう。」「ん。」いつになくしおらしいダニーがこの上なく可愛らしい。
ダニーの名と続けてアランの名が呼ばれる。
内科の医師も顔見知りだ。「やあ、レイ。お手柔らかに頼むよ。」
「ああ、判ってるよ、ドクター。じゃあ、こっちから、さぁ腕を出して。」
ダニーは目をじっとつむり、注射が終わるのを待った。
「注射慣れしてないみたいだな。」レイがおかしそうに笑う。
「僕にも頼むよ。」「あぁ、でももう感染してるかもしれないぞ。」
「まぁ、気休めになるから。」アランは予防接種を済ませると、
がくがく震えているダニーを連れ、会計を終えて、家に戻った。
「ハニー、ヨーグルト食べるかい?」「ううん、いらない。それより
寝かせて。」ダニーをベッドに入れると、すぐさま寝息を立てる。
アランはそんなダニーの髪の毛を丁寧に手ですいてやりながら、頭を撫でた。
「うぅぅん。」ダニーが座っているアランの腰に頬を摺り寄せる。
まるで子犬のようだな。アランはダニーの頬を撫でると、ベッドを離れ、
午後のアポイントの準備をした。
夜になり、マーティンがアラン宅を訪れた。「ダニー、いるんでしょう。」「ああ、今寝てるよ。」
「会わせてよ。」「インフルエンザ、移るよ。」「僕、予防接種してるから大丈夫。それよりダニーの具合は?」
「昨日より悪い。今日明日が峠だろう。」「これ、差し入れのアイスクリーム。」
「ありがたくもらっておくよ。ベッドルームへどうぞ。」
アランとマーティンはお互い牽制し合いながら、ダニーの寝床へ着く。
「ダニー・・。」マーティンが頬にキスする。「ん?マーティン、お前なん?」
「ああ、僕だよ。大丈夫?」「インフルエンザらしい。」「お医者さんが一緒でよかったね。」
そう言うとアランをきっと睨むマーティン。「ごめんな。心配かけて。」
「ボスもすごく心配してたよ。昨日、気絶したんだって。」「やっぱりそうなんか。」
ダニーはダメ押しのショックを受けた。
「ダニー、副長官はご覧でないから、安心おし。」アランの一言で、ダニーの心配顔がたちまち直る。
マーティンもあわてて「あぁ、父さんと僕と別れた後だったから。」と付け加える。
「そうか。面目は保ったわけや。」そう言うとダニーはまた苦しそうに目を閉じた。
「マーティン、彼を休ませてあげよう。」「そうですね。」ベッドルームから去る二人。
「アラン、ダニーと一緒に寝たの?」マーティンが真剣な眼差しで尋ねる。
「ああ、昨日はダニーをほっぽるわけにはいかなかったからね。」
「今日はどうするの?」「どうもこうも、彼が僕のベッドを占領している限り、同じことだよ。どうして?」
「一緒に寝ないでください。」「えっ?」
「一緒に寝ないでください!」「それは無理な相談だ。」
「どうして?」「それは、それは彼が僕の大事な人だからだよ。」
「やっぱり。」マーティンは拳を固めて、身体を震わしていた。
「少なくとも、僕はそう思っている。」「じゃあ両想いじゃないの?」
「それは彼に聞いてくれないか。」「判りました。じゃ帰ります。」
マーティンは拳を緩めると、アパートから出た。
ダニーの嘘つき!医者と患者の関係なんて嘘っぱちじゃないか!
マーティンは頬から伝わる涙をそのままにして、寒いアッパーウェストサイドの人ごみにまぎれた。
ダニーはマーティンにずっとよそよそしくされ失意のどん底にいた。
仕事もはかどらず、関係の修復で頭がいっぱいだ。
「ダニー、話がある。私のオフィスへ来い」
「はい」ダニーは上の空で返事をした。
「お疲れ」みんなが気の毒そうに声を掛け帰っていく。
ダニーはため息をつくとボスのオフィスへ行った。
「失礼します」
「ああ、座れ。最近のお前は様子がおかしいぞ。どうしたんだ?」
「申し訳ありません。以後、気をつけます」
「私は理由を聞いている。ヴィクターから大役を仰せつかったと聞いたが?」
「ええ、はい」
「お前がマーティンを裏切るとは思わなかったよ。野心を優先するとは意外だった」
ボスの言葉はダニーに追い打ちをかけた。
「とにかく、一度引き受けたなら任務は遂行することだ。仕事にも身を入れろ。以上だ!」
「はい、失礼します」
ダニーは軽く頭を下げ、オフィスを出た。
マーティンに会いたくてたまらない。受け入れてほしい。
ダニーは無意識にマーティンのアパートに来ていた。
合鍵で入るのも気が引け、インターフォンを鳴らす。
「はい」マーティンが出た。
ダニーは何も言えずに立ち尽くしている。
「はい?・・・もうっ何だよ!」
マーティンを怒らせてしまい、ますます気持ちが沈んだ。
もう一度インターフォンを押す勇気もなく、ダニーはとぼとぼ歩き始めた。
歩きつかれたダニーはベメルマンズ・バーに寄った。
ドライマンハッタンを頼むと静かに目を閉じる。
出されたドライマンハッタンをすぐに飲み干し、二杯目を頼んだ。
二杯目も飲み干し、少し酔いが回ったところで携帯を取り出すが
まだマーティンに掛けようかどうか迷っている。
どうすることもできずに、目の前のキャンドルの炎をもてあそんだ。
「ねえ、それさぁ熱くない?」ダニーが顔を上げると若い白人の男が立っていた。
「え?」
「酔ってるから感覚が鈍ってるけど、たぶん熱いと思うよ」
「ああ、そうかもな」ダニーは手を引っ込めた。
「悲しいことがあった?」
「何で?」
「ふふっ、悲しそうに炎を見つめてたから」男は屈託のない笑顔で言った。
ダニーは黙ってキャンドルに目をやった。
「僕はジョシュ。上に泊まってるんだ」
手を差し出され、ダニーは適当に握手した。
ややこしいことにならんうちに帰ろう。飲み過ぎたから何かしでかしたらかなわん。
「ほな、オレはこれで」ダニーはチェックを頼んだ。
「もう帰るの?」残念そうなジョシュに頷き、ダニーは立ち上がった。
タクシーを待つ間、ダニーはもう一度携帯を取り出した。
最後まで迷ったが、結局タクシーに乗り家に帰った。
真っ暗な部屋に戻り、留守電に飛びつくがメッセージはない。
ダニーは不意に寂しさに襲われた。
冷たいベッドに身を横たえると、マーティンの存在がたまらなく恋しかった。
次の日、マーティンに副長官から電話が掛かって来た。
マーティンは楽しそうに応対している。
「ええ、僕もみんなに会えるのを楽しみにしています。それでは失礼します」
マーティンは電話を切るとケタケタ笑い出し、みんなを驚かせた。
ボスが不可解な顔で見つめている。
ダニーと目が合うとどうなってるんだと合図して来た。
ダニーはわからないと手を振り、PCの画面に戻った。
ダニーは思い切ってマーティンをランチに誘った。
マーティンは少し迷ったものの誘いを受け、二人はいつものカフェに行った。
パニーニとターキーサンドを待つ間、お互いに話すこともなく沈黙が流れる。
「あの・・親父さん、電話でなんて?」ダニーは慎重に尋ねた。
「早く僕に会いたいだって。バッカみたい!」
「帰らずに済む理由があってよかったな・・・」
「うん。元々帰る気はなかったけど、理由があるほうが気が楽だしね」
マーティンは運ばれてきたターキーサンドにがっついた。
「ごめんな、嫌な思いさせて・・・」
「もう慣れたよ。僕なんてダニーにとっては所詮その程度なんだよね」
ダニーは違うと言いたかったが、返す言葉もなくうな垂れた。
「食べないの?」
「ん?あっああ、いるか?」
ダニーが差し出したパニーニにマーティンは手を伸ばした。
ダニーはぱくつくマーティンを間近で見られるのが嬉しかった。
仕事を終え、ぞろぞろ支局から出てくるとダークブルーのTVRが止まっていた。
「マーティン!」スチュワートが手を振っている。
サマンサとヴィヴィアンが小さく歓声を上げた。
マーティンはきょとんとしながら駆け寄った。「どうしたの?」
「早く終わったから誘いに来たんだ。やあ、サマンサ。元気?」
スチュワートは寄って来たサマンサにも声を掛けた。
「ええ、とっても。予防接種のおかげみたい」
「それはよかった。送ってあげたいけど、オレの車、二人しか乗れないからごめんね」
「あら、残念〜、また今度乗せてくださいね。マーティン、また明日ね」
「あ、うん」マーティンは足早に歩くダニーを見ていた。
「行こうか、乗れよ」気づいたスチュワートはマーティンを促した。
サマンサは地下鉄の駅でうな垂れるダニーを見つけた。
「どうしたのよ?そんな顔して・・・ねぇ大丈夫?」
「いや、あかんわ。大丈夫やない・・・」
「そうだ、オイスターでも食べてく?」
ダニーが頷くと、二人はオイスターバーに入った。
サマンサはあまり食べないダニーをそっちのけに食べまくり、スチュワートの話をしている。
ここでもトロイか、ダニーはシャブリを飲みながらため息をついた。
「なぁ、信頼の回復ってどないしたらええんやろ?」
「ダニー、何かしたのね?それも最悪レベルと見た」
「ああ、そうや。裏切ってしもた。浮気より悪いかもしれへん」
「あちゃー・・・」サマンサは首を振った。
「とにかく誠実に接するしかないんじゃない?いつかは許してもらえるかも」
「いつかは、か・・・」
「そりゃそうでしょ。はい、わかりましたなんて相手だって言えないじゃない」
「そやな・・・うん、そうするわ。ありがとう」
「ダニーの彼女なんて大変そう。いつも騙されてるみたいな気がする」
ダニーは思い当たることばかりで、思わず苦笑した。
確かにそうかもしれへんな・・・・オレ、マーティンのこと騙しすぎたわ。
「ほらね、図星でしょ。そんなことばかりしてるといつか本当に後悔するわよ」
ダニーは反省して深く頷いた。でもな、もうすでに後悔してるねん・・・。
マーティンは初めて回転寿司を食べた。
おもしろいシステムに興奮し、次から次へと皿を取る。
「おい、妙なのまで取るなよ」
スチュワートも呆れるぐらい何でも食べている。
「うへぇ・・・これダメだ。何だろうね?」
「わからない。けど、こんなのよく食べようと思うよなぁ」
マーティンは意地汚く思われそうで恥ずかしくなった。
「これは何?」興味が湧いたスチュワートが聞いた。
「カニ味噌です」
「ああ、どうも。カニなら平気だな」
スチュワートは口に入れたが、そのまま固まってしまった。
「ね?」
「ああ、ダメだ。もう二度と食べることもないだろうよ」
二人は笑いながらハイネケンで口直しをし、豆腐サラダに手をつけた。
スチュワートはチェックを済ませると、グラマシーへ向かった。
「どうして今夜は誘いに来たの?」
「誘うのに理由が必要なのか?」
「いや・・・」まじまじと見つめられ、マーティンはうつむいた。
「君に会いたくなったのさ。それだけだ」
スチュワートにはダニーのことを考えているのだろうと察しがついたが
気づかないふりでやり過ごした。
マーティンはスチュワートの本棚でアルバムを見つけた。
「これ見てもいい?」
「うわっ、よく見つけたなぁ。もちろん見てもいいよ」
二人は並んでアルバムを開いた。
両親と真面目そうな男の子と年下のやんちゃそうな男の子、おしゃまな女の子が写っている。
「これがスチュワート?」マーティンはやんちゃ少年を指差した。
「当たり。かわいいだろ?」
「なんか悪そう〜・・これはお兄さんと妹?」
「ああ、エドワードとエミリーだ」
「今は何やってるの?」
「エミリーは二人の子持ちで、エドワードはもういない」
「え?」
「事故で死んだんだ。大学を出てすぐ」
「ごめんなさい」マーティンは謝った。
「謝ることないさ。5つ違いだから、オレと君みたいなもんだ。やさしくていいヤツだった」
「うん・・・」
「エドワードが死んでから家がめちゃめちゃになってさ、親父はあの通りの飲んだくれだ」
スチュワートは次のページを開いた。
「ほら、親父も今と全然違うだろ?兄貴に期待してたからな。オレは認めてもらったことがない」
マーティンはスチュワートの過去に驚き、気の毒に思った。
「期待されずに育つのも辛いもんだぜ。オレが金を送るのは半分意地みたいなもんだ」
マーティンは黙ってスチュワートの手を握った。
そのままどんどんページをめくり、友達に囲まれている写真を見た。
「いつも人気者だね。遊んでばっかだ。いつ勉強してたのさ?」
「適当。オレ、頭いいから」スチュワートはニヤリとした。
「そう言えば、ボスも頭の回転が速いって褒めてたもんね」
「まあな。よし、それじゃそろそろ帰るか?」
「まだ!」マーティンはアルバムを元に戻し、スチュワートにもたれかかった。
「・・・泊まるか?」スチュワートはそっとマーティンを覗き込んだ。
マーティンは黙って頷き、スチュワートはバスルームにお湯を張りに行った。
順番にお風呂に入り、マーティンはパジャマを借りた。
スチュワートのパジャマはブカブカで、裾を折ると子供になったような気がする。
ベッドに入り、二人は緊張しながらぎこちなく手をつないだ。
「おやすみ」どちらともなく言い、目を閉じる。
マーティンはドキドキしながらダニーのことを考えていた。
二人が眠っているとマーティンの携帯が鳴りだした。
「マーティン、携帯・・」スチュワートが寝ぼけながら渡した。
「はい、フィッツジェラルド」
「マーティン・・・おぇぇぇー」嘔吐しているようで話も出来ない。
「サム?ちょっ、ねぇどうしたの?」
「どうした?」慌てるマーティンにスチュワートも目を覚ました。
「すごく吐いてるみたい」
「はぁっはぁ・・ドクター・バートンはまだ一緒?」
「ああ、代わるよ。はい、代わってくれって」
「サマンサ、どうしたんだ?」
激しく嘔吐する音が聞こえ、スチュワートは顔をしかめた。
「牡蠣に中ったみたい・・・寝てたら気分が悪くなっ・・おぇぇ」
「牡蠣か、それなら治療法がないんだよ。脱水症状を防ぐぐらいしかできないんだ」
「苦しくて・・・気持ち悪い・・・」
「誰かそばについててくれる人はいる?」
「いない・・・おうぇ・・・」スチュワートは困ったようにマーティンを見た。
「面倒見てくれる人がいないって。どうしよう?」
マーティンは電話を代わった。
「僕が行こうか?」
「本当?お願い・・・おぇぇぇぇ」
「待っててね、すぐに行くから」マーティンは電話を切ると着替え始めた。
「オレも行くよ」すかさずスチュワートも着替える。
二人はクリニックに寄ってから、トライベッカのサマンサのアパートへ向かった。
インターフォンを押すと、よれよれのサマンサが出てきた。
脂汗で髪が張り付き、ひどく苦しそうだ。
「苦しいだろうけど、しばらくすると治まるから」
サマンサは頷くが、すぐさま吐き気に襲われトイレに駆け込む。
「マーティン、ゴミ箱かなんかないかな?それに吐くほうが楽だろう」
サマンサはベッドに座って渡されたゴミ箱を抱えた。
「ノロウィルスにやられたんだ。下痢してないだけまだマシだぜ」
スチュワートは持ってきた電解質輸液の点滴をしまった。
「点滴の必要がなくてよかったな。安静にしてれば治るさ」
「サム、よかったね」サマンサは頷くとまた嘔吐した。
「あっダニーも中ってるかも。一緒に食べたから・・・」
「マーティン、テイラー捜査官に電話してやれ」
スチュワートに促され、マーティンはダニーに電話した。
「マーティン!」嬉しそうなダニーが出た。
「ダニー、体は平気?」サマンサの手前、ヘタなことは言えない。
「ああ、ようわからんけど体は何ともない。何で?」
「サムがさ、牡蠣に中って吐いてるんだ。今、スチュワートが手当てしてる」
「ええー、サムはめちゃめちゃ食べてたからな・・・。大丈夫なん?」
「安静にしてれば治るって。それじゃ切るよ。中らなくてよかったね」
「あっ、あの・・・」
マーティンは電話を切ってしまった。
ダニーは深夜の二時に一緒にいる二人にショックを受けた。
翌日もダニーは高熱の中、昏々と眠っていた。
アランは、アポイントの合間合間に様子を見に行っては、
アイスマスクの交換や、ジュースの差し入れなど、かいがいしく看病を尽くした。
ダニーも、夕方には冷凍庫にあったハーゲンダッツのアイスクリームを見つけて、
口に入れる位に回復した。ダイニングでため息をついていると、アランが見つけて叱りつける。
「寝てなきゃだめだろ、ハニー。」「あ、アラン、俺、すっかり迷惑かけたな。もう家に戻るわ。」
「何を言う、まだふらふらだろう。医者として退院許可は出せないな。しばらくは治っても家から通えばいいじゃないか。」
アランにそう言われてしまうと、行動力も萎えてしまった。
「なんや情けないな。俺、アランと出会う前はもっと強かったんやで。」
「人に甘える事に慣れないといけないよ。人間はそういう風に出来ているんだから。
さあ、患者があと3人あるから、僕は戻るよ。」「うん、がんばりや。」
「ああ、ダニー、ベッドに戻りなさい。」「はぁい。」
ダニーは風邪の時、人とこんな会話を交わしたことがない自分に気がついた。
いつも自分の判断で生きてきた。どうして神様はこの期に及んで俺に人に頼る事を覚えさせようとなさるんだろう。
今まで見捨ててこられたこの俺に、どんな示唆をなさろうとしてるんだろう。
ダニー千路乱れる考えに悩まされた。こんなに人を頼っても許されるものなんやろか。
今までの自分の人生に甘い時間などなかった。
子供の頃はもちろんマイアミ市警で抜群の検挙率をひっさげて、
FBIに入局する前も後も、人につけいる隙を与えず、前を向いてしゃにむに走り続けてきた自分だ。
気がつくとダニーの目が涙であふれていた。
ああ、俺、弱い人間になってしもうたわ。アランのせいやで!
そのうち、意識が混濁し、眠りの沼へ入っていった。
「ダニー、薬の時間だよ。」アランの優しい声が聞こえる。「うぅん。」
「ダニー、ちょっと起きなさい。」「あ、はい。」ダニーが身体を起こすと、アランがチキンスープと水と錠剤をベッドサイドに運んでいた。「俺、寝てた?」「ああ、ぐっすりね、随分、熱も引いたようだ。」
アランが唇でおでこに触れる。「あっ。」ダニーの身体が一瞬うずいた。
「感じたかい?」「あほぅ!」ダニーの身体をささえて、きちんと
座らせると、スープをスプーンで口まで持っていく。
「ほら、口開けて、あーん・・」「自分で飲める。恥ずかしいわ。」
「いいだろう、たまには。ほら、あーん。」ダニーはその通りにした。
「いい子だ。」ダニーはアランのなすがままにスープを飲み終え、薬も口に入れてもらう。
「はい、ごっくん。」「ん。飲めたで。」「ああ、いい子だな。」
「明日は出勤できるやろか。」「まだだなぁ。人に移す可能性があるからなぁ。
もう少し、ゆっくりしたらどうだい?」
「何かこそばゆいで。俺、怪我以外でこんなにゆっくりした事ないよって。」
「何にでも、初めてはあるものだよ。アパートが心配なら、明日、メイドでも頼もうか?」
「それは大丈夫やねん。ただ・・」
「何だい?マーティンの事か?」「マーティン?それは大丈夫と思う・・」
「君がそう思うならいいけど、ほら。」ダニーの携帯電話を見せるアラン。
着信サインが3件。どれもマーティンからだった。
「相手はそう思っていないようだよ。電話するかい?僕は席をはずそう。」
そういうとアランはスープのトレイを持って、出て行った。
「あ、マーティン、俺や。ダニー。うん、心配かけたな。まだ、出られない。
でももう楽になったわ。いや、まだアランの家。しばらくいると思う。マーティン、マーティン!」
マーティンはダニーがアランの家にしばらくいると聞いて、いたたまれなくなり電話を途中で切った。
セントラルパークの先にはダニーがいるのに、なんて遠いんだろう。マーティンは一人すすり泣いた。
「ヘンな奴。」急に電話を切られたダニーは面を食らっていた。
アランがベッドルームに入ってくる。「電話は終わったかい?」
「うん、途中で切られたわ。」「それはそれは。」アランはほくそ笑んだ。
マーティンが昨日の自分の告白を聞いて心おだやかでない事は容易に想像がついた。
人の心など簡単なものだ。築いたと思った絆もすぐに途切れる。
「身体を拭いてあげよう。用意するね。」「アラン、もうええで。
俺、自分で出来るから。」「往生際が悪いな。病人は医者に甘えなさい。」
「うーん。」アランはほかほかタオルを山のように用意していた。
ダニーのパジャマの上を脱がせる。「さぁ、寝転んで。」
首から始まり、耳の後ろ、胸へと静かにタオルの手が下がってくる。
乳首をかするとダニーは我慢できず甘い吐息を吐いた。
もう一度、二度。アランの手が繰り返し乳首をなぶった後、痩せた腹やへそを丹念にこする。
ダニーの下半身が反応し、パジャマの前を変化させていた。
アランはじらすように、「はい、うつ伏せ。」というと、
ダニーの背中を背骨から肩甲骨にかけてマッサージするようにこすり上げる。「あぁん。」
「上は羽織ろうな。下を脱がすよ。」アランはパジャマごとトランクスを脱がし、臀部の丸みにそってタオルを進める。
片膝を立てさせ、見晴らしがよくなったところで、小さな蕾の部分をなぶるようにタオルを動かした。
ダニーの足が小刻みに震える。
「ダニー、どうした?」「もう我慢できない!」そういうと、ダニーはアランの首にしがみついた。
「俺を抱いて、アラン!」「いいのかい?」「うん。抱いて欲しいんや。」
アランは部屋着を脱ぐとダニーの隣りに身体をすべらせた。
「冷たくて気持ちいい。」ダニーは全身をぴたっとアランに摺り寄せる。
「まだ熱っぽいね。」額にキスすると「熱があるのに悪い子だ。」とアラン。
「だって、アランが刺激するんやもん。」ダニーは恥ずかしそうに布団に潜った。
ずっと潜り続け、アランのペニスのそばまで口を寄せ、一気に咥え込む。
「あぁぁ。」アランがため息を漏らす。亀頭まで唇を戻し、舌で円を描くと、次には喉の奥まで咥え込む。
「あぁ、ダニー、よすぎて、言葉もないよ、あー。」
ダニーはサイドテーブルの引き出しからローションを出すと、自分の後ろとアランのいきり立ったペニスに塗りこんだ。
「来て、アラン。早う。」「あぁ、行くよ。」
アランはダニーを四つんばいにさせると、小さな蕾にたけった自分のペニスを添え、ぐっと中に挿入した。
「うぁ、いい〜、アラン、もっと来て。」「あぁ、締まるぅ・・いいかい?」
「うん、すごくいい〜。もう俺、我慢できないよ〜。」「まだだ、まだイクな。」
「うぅ、でっでも、俺、もうっ、くぅぅ!」ダニーは限界だった。
はぁという息とともにシーツに向かって射精した。身体が小刻みに痙攣する。
その振動を受けて、アランも前後動を激しく、速度を速めた。
「ダニー、イクよ。あぁぁぁ。」アランはもう存分ダニーの中に注ぎ込んだ。
アランが荒い息のまま、ダニーの上に倒れこむ。ダニーも息も絶え絶えだ。
「よかったかい?」「うん、アラン、すごいね。」ダニーが目を細めて笑っていた。
「そう言ってもらえて良かった。」「何、また年の話?」ダニーがタオルでアランの身体を綺麗にしながら尋ねる。
「あぁ。」「心配性やねー。」「君が魅力的すぎるからだよ。マーティンでなくとも心配する。」
「俺はアランを裏切られへん。それ、判ってる?」「そうなのかい?」
アランがやっと顔を上げて、ダニーと向き合った。ダニーがアランに優しくキスする。
「うん、アランは心配しすぎや。」「それならいいが。じゃ、シャワーしようか?」
「うん。」二人は手をつないでシャワールームに入る。ダニーは、一汗かいてすっかり元気を取り戻したようだ。
アランがベルガモットのシャワーソープで泡を沢山立てて、ダニーの身体を包む。
「あわあわやなー、気持ちええなぁ」ダニーはアランにもたれかけて立ちながら、
アランの身体を泡でおおった。「あぁ、こんなに幸せなのも久しぶりだ。」
「そう?もうジャックの事思い出さない?」「あぁ、もう大丈夫だよ。君のお陰だ。ありがとう。ダニー。」
「そんなん、ええって。さぁあがろう!」
二人は冷蔵庫からサン・ペリグリーノを出して一気飲みした。
「気持ちええなぁ。アラン、俺、腹減った。なんか作って。」
「じゃあ、チキンスープの残りでリゾットにするか。」「うん!じゃあ、ワインも開けようよ。」
男二人、夜中にリゾットとワインで乾杯とは。アランは思わず微笑んだ。
ダニーも微笑み返しながら思った。神様、こんなに幸せでええんでしょうか。
677 :
fusianasan:2005/12/14(水) 13:38:00
書き手1さん、ダニーを幸せにしてくれてありがとう。風邪を引いて大変だったけど
看病してくれるアランがいてくれて良かった。いつも読んでいてダニーとアランの手
料理が食べたくなります。
書き手2さん、ダニーが哀れになってきました。ダニー萌えとしては悲しいけど、書
き手2さんの思惑があるのでしょうね・・
ドラマの枠を越えて、もう一つのお話として毎日楽しみに読んでいます。
寒くなってきましたが、風邪など引かない様にこれからも頑張って下さい。
678 :
石田くるみ:2005/12/14(水) 16:40:23
679 :
レイネ・ヴァレンティー:2005/12/14(水) 17:05:16
なんかやばいサイトおしえて やばいの自分の皆さんのH度b
>>677 さん
読んでいただいてありがとうございます。スピンオフもここまで来ました。
これからもダニー、マーティン、アランその他の活躍をお楽しみに!
インフルエンザが完治し、支局に出勤したダニー。
マーティンが上目使いにそんなダニーを見つめていた。
「よ、マーティン、久しぶりやな。」「ああ、元気そうだね。」」
「まあな。鬼の撹乱や。」「よかったね。」
いちいちトゲのある言い方が気になったダニーだったが、PCを立ち上げ、
仕事を始めた。「ダニー、私のオフィスに来なさい。」早速お呼ばれだ。
「はい。」部屋に入るとボスが座るように促した。「?」
ダニーは困惑した顔で席に座る。
「また副長官からDC行きの打診が来たぞ。」
「それはもうお断りしたはずです。」
「副長官はそうは思ってないらしい。」「困ります。」
「私も困っている。私が引き止めているように思っておられるらしい。」
「そんな。じゃ、ボスは俺がDCに行ってもいいんすか?」
「いいわけないだろう。」「じゃ、守ってくださいよ。」
「あぁ、出来るだけのことはする。お前も、身辺綺麗にしとけよ。
それと直接アプローチがあったら、きっぱりと断ることだ。」
「了解っす。」「よろしい。話は以上だ。」
アチャー、俺がここにいるのって副長官からみたら意に背いたことになるんか。
困った。ダニーがうつむき加減で席に戻ると、マーティンが心配そうに伺っていた。
「捜査会議?」マーティンからのメールだ。「了解。」ダニーはうなだれながら返事する。
お前の親父さんがいけないんやで!ダニーは心の中で叫んだ。
ダニーはブルックリンの自宅でマーティンを待っていた。
「ただいま。」マーティンが合鍵で入ってくる。「おう、待ってたで。」
「ごめん、父さんから電話があってさ。」「何だって、親父さん。」
「クリスマス休暇の事さ。何度も何度も打診されて疲れちゃった。」
「お前、帰れるところがあるって貴重やぞ。帰った方がええんちゃうか?」
「え、僕とイヴを過ごしてくれるって言ったじゃない?」
「そりゃ、言うたけど。まさか俺と過ごすとは言うてへんやろな。」
「まだね。」「何やそのまだってのは。」
「最後の砦だよ。父さん、ダニーの事は気に入っているし。許してくれるんじゃないかな。」
「バカいえ!やめてくれ。俺を困らすなよ。」
「ごめん。今日、何食べるの?」「それが、家に何もないねん。外食しよか?」
「アランの家にずっといたら、買い置きもないよね。」マーティンはまたトゲのある言い方をした。
「お前、感じ悪いやないか。どうした?」
「だって、ダニー、アランとは医者と患者の関係だって言ったのにさ・・」
「そうや。だから、何やねん!」「アランは違うこと言ってたから。」
「うん?アランは何て?」ダニーは顔色を変えた。
「ダニーの事大事な人だって。」ダニーの頭はくるくる回転した。
「お前、アランに担がれてるわ。俺かて、アランは大事な人と思うよ。でもそれとこれとは違うって。」
「そうかな。」「とにかく、何か食いに出かけよう!グルマルティーズでええか?」
「うん。」空腹では話し合いもいい方向に向かわない。
ダニーはマーティンを連れて「グルマルティーズ・ピザ」へ向かった。
ソアヴェクラシコでとりあえず喉を癒す二人。「お前、何する?」
「僕、ルッコラと生ハムのピザ」「じゃ、俺、ゴルゴンゾーラのリゾット。」
「サラダも頼んでね。」「ああ、シーザースサラダな。」「うん。」
ピザを待つ間、二人は黙りこんだ。沈黙が痛い。ダニーが沈黙を破る。
「お前、アランの言ったこと、間に受けたんだ。」
「当たり前だよ。あの人が嘘つくなんて思えないもの。」
「俺とアランはな、何ちゅーか、親子みたいなもんや。俺、親をほとんど知らないやん。
彼がその代わりしてくれてる。それには感謝してるんや。」
「一緒に寝るのも親代わりだからなの?」
マーティンの真摯な目がダニーの目に刺さる。
「俺が熱があったから看病してくれてたんや。それだけや。」
「すごい親身なんだね。」
「だから言うたやろ、親子みたいなもんやて。」
「ふうん。そうなんだ。」
熱々のピザが運ばれてきた。早速、がっつくマーティン。
「お前、いつもよくそんなに食えるな。」「そうかな。」
マーティンはピザで口を一杯にしながら、答える。
そこへダニーの携帯が鳴る。「はい、テイラー。」
「ごほっごほっ、ダニーかい?」「アラン、どうした?」
「どうもこうも、ダニーのウィルスをもらったようでね。苦しい。」
「大丈夫なん?」「それが・・胸が苦しいよ。」「判った、すぐ行くから。」
ダニーは携帯をしまうと、「ごめんな。俺の親にインフルエンザ移ってしもうたみたいや。」
「そうなんだ。」マーティンはうなだれるしかできなかった。
「それじゃ、リゾット、ドギーバッグにして帰れや。俺の分の勘定おくから。」
ダニーは50ドルを置くと、足早に去っていった。
後には途方に暮れたマーティン一人が残った。
アッパーウェストサイドのアランの家に合鍵で入ると、
アランがダイニングでミネラルウォーターを飲みながら、ぼーっとしていた。
「アラン、ベッドにいなきゃいけないやん。」
「君が来てくれるか不安だったんでね。」
「何言うか。俺とアランの仲やん。来ないはずないやろ。さぁ、ベッドに行こう。」
ダニーはだるそうに歩くアランをエスコートしてベッドに運ぶ。
「食事はとった?」「ああ、ポタージュスープを飲んだよ。」
「じゃあ、寝るに限るで。」「判ったよ。テイラー捜査官。」
アランはそう言うと、安心したようにベッドで寝息を立て始めた。
ダニーはキッチンに行き、フレンチトーストを作って夜食にした。
ダニー用のアイスマスクが冷凍庫で冷えていた。
「はい、アラン、アイスマスク。安眠が肝心や。」アランが薄く目を覚ます。
「ありがとう。ハニー。」「そんなん、言いっこなしやで。俺、今日泊まるからな。」
「うん。」アランはまた寝息を立て始めた。
アランはアイスマスクの替えを確認して、アランの傍らに身を横たえた。
「うぅぅん。」アランが思わずうなる。「アラン、寝とき。」
今度はダニーがアランのサラサラの髪の毛に触れ、頭を撫ぜる番だった。
「ええ子や、アラン。」アランは眠りに落ちていった。
ダニーもそれを見届けて、眠りに落ちた。
翌朝、ダニーは物音で目が覚めた。
アランがコーヒーを入れている。「アラン、大丈夫か?」
「おはよう、ハニー。おかげさまで熱が下がったよ。今日は、ハムとチーズのベーグルサンドでいいかな?」
「そんなん、俺したのに。」「昨日の罪滅ぼしだよ。呼びつけて悪かった。」
「気にせんといて。同僚との夕食だから。」「ひょっとしてマーティンじゃないのかい?」
「ああ、マーティンや。妙な事言われて戸惑ってたわ。」ダニーはやれやれという顔を見せた。
「それは多分に僕に非があるな。マーティンを惑わせる事を言ったから。」
「うん、何か支離滅裂やった。アランが告白したの何のって。」
「それは事実だ。」「え?」「僕は正直に話しただけなんだが、マーティンにとっては刺激が強すぎたようだね。」
「そうなんか。」ダニーは黙りこくった。ベーグルをかじりながら一呼吸置く。
「俺がアランの事、肉親みたいに思うのはいけないことなんかな?」と尋ねる。
「僕にとってはこの上ない状況だが、マーティンには理解しがたいんだろうね。」
「俺どうしたらええ?」「とにかくマーティンの誤解を解くことだ。話はその次だよ。」
「判った、俺マーティンにもう一回説明してみる。」
「ああ、それがいいね。」カフェラテを注ぎながら、アランはほくそ笑んだ。
君たちのおままごとは見ていて楽しすぎる。
いつダニーを僕だけのものにするか、その瞬間が今から楽しみだよ。
15日から18日の間、連載をおやすみさせていただきます。
ダニーは支局を出るとマーティンのアパートに行くことにした。
このままではマーティンを失ってしまう不安と、
気持ちのすれ違いに耐えられなくなっていた。
アパートまで行ったものの、やはり合鍵を使う気にはなれず、
意を決してインターフォンを押した。
ダニーは緊張しながら応答を待つ。
「はい」・・・出たのはスチュワートだった。ダニーは何も言えずにいた。
「ドラゴンアレイ?」マーティンが聞いている。
「いや、何も言わないんだ。ドラゴンアレイって言葉がわからなかったっけ?」
「ううん、いつもわかるよ。ピンポンダッシュじゃない?最近多いんだ、ったく!」
乱暴に切られ、ダニーは成す術もなくアパートを出た。
入れ替わりにドラゴンアレイのバイトがチャイニーズカートンを大量に運んでいった。
ベメルマンズ・バーに寄り、カウンターでドライ・マンハッタンを飲んでいると肩をたたかれた。
「やあ!」この前の若い男だ。
「ああ・・・えーっと、ごめん、名前を失念してしもた」
「酔ってたもんね。ジョシュだよ」
「ああ、そうやった。まだ泊まってんの?」
「うん、明後日までいるんだ。仕事が終わったからね」
「そうか・・・」ダニーはさほど興味もなく、キャンドルに目をやった。
「ニューヨークって最高だね。コロラドなんて全然ダメだ」
「ふうん、コロラドから来たんか」
「ああ、デンバーで投資目的の不動産を扱ってるんだ」
「はは〜ん、その様子やったら売れたんやな」
「まあね、来た甲斐があったよ。僕の部屋で飲まない?」
ダニーは迷ったもののジュシュと一緒にバーを出た。
ジュシュは部屋に入るとルームオーダーでシャンパンを頼んだ。
初めて入ったカーライルホテルの部屋は落ち着いた雰囲気で、
ダニーはくつろぎながら夜景を眺めた。
マーティンのアパートが見え、ダニーは唇を噛みしめた。
あいつ、今頃トロイとチャイニーズディナーを食べてるんやろな。
ダニーは悔しくて怒りがこみ上げた。
「飲もうよ」ジュシュにグラスを渡され、ダニーはソファに座った。
勧められるままにグラスを重ねるうちに、酔って意識が朦朧としてきた。
「ジャケット脱ぎなよ。おでこが汗ばんでるじゃん」
「ああ、サンキュ」
ダニーはジャケットとネクタイを横に置いた。
気がつくと、ベッドの中でジュシュに愛撫されている自分がいた。
ウォーターフルーツの香りがする。ウルトラマリンか・・・マーティン・・
「オレのこと許してくれたんか?」ダニーはマーティンと勘違いした。
「まかせて、忘れさせてあげるよ」ジョシュはダニーの股間に舌を這わせた。
「うん?お前誰やねん!」ダニーは驚いて体を起こした。
「ジョシュだってば!いい加減覚えて。何度も聞かれると傷つくよ」
「ごめんな」
「いいよ、許す。ちゃんとゴム着けるから僕にまかせて」
ジョシュはダニーのアナルにオイルを塗りこんだ。
「おい、ちょっと待ってくれ」
「もう我慢できない」ジュシュはコンドームを着けるとアナルにゆっくり挿入した。
「ああっ!」
ダニーは後ろから絶妙なタイミングで挿入され喘いだ。
「すごくいいよ、君の中・・うぅぅ気持ちいい」
ジュシュは激しく動きダニーはイキそうになった。
「マーティン、オレもうダメや・・・んっくぅ」
ダニーは久しぶりの射精で大量の精液をぶちまけた。
「僕もイクよ・・ぁっぁっああー」
ジュシュは果てるとダニーの上にぐったりともたれた。
「はぁっはぁ・・君、すごくよかったよ」
「それはどうも」
ダニーは後味の悪さを感じていた。
「オレ、帰るわ」
「泊まればいいのに。もう一度やろうよ」
「そんな元気ないねん。もう若くないから」
「マーティンって誰?」
「え・・・何でもないねん。おやすみ」ダニーは逃げるように部屋を出た。
ダニーはマーティン以外の男と寝たことで動揺していた。
マーティンでも無理やりボスに犯されたわけでもない。
男との浮気に、自分で自分が許せない。
信頼の回復どころか、取り返しのつかないことをしてしまった。
オレ、最低や・・・誠実に接すると誓ったばっかりやのに・・・・・。
女との浮気や、娼婦を買ったときとは違う罪の重さに押しつぶされそうだった。
708 :
fusianasan:2005/12/15(木) 02:00:12
いつも楽しく読ませていただいてます。
書き手2さんのダニーですが、ダニー萌えの私からみても、今回の試練は
必要悪なんじゃないかと思います。だって、いつもダニー、常勝軍団で
マーティンに心配ばっかりかけてきたじゃないですか。たまには反対の
気持ちを味わうのも人生勉強だと思ってます。だから、私は、へこんだ
ダニーも萌えで読んでいます。
これからも、連載がんばってください。応援しています。
709 :
fanですw:2005/12/15(木) 02:34:10
書き手1さん!
ダニーが幸せすぎて、なんだか頬がゆるみますよ。
いつまで、幸せが続くんですか?また奈落の底に落ちそうで
ファソとしてはハラハラドキドキです。
ダニーはほとんど眠ることもできず腫れた目で出勤した。
「ダニー、おはよう」
デスクでドーナツを食べていたマーティンが振り向いた。
「お、おはよう」
話しかけられドキッとしたが、なんとか挨拶を交わした。
サマンサも今日から出勤している。
「サム、牡蠣に中ったんやて?」
「そうよ、ものすごく苦しかったんだから!
マーティンとドクター・バートンがいなかったらどうなってたか!」
「独り占めするから罰が当たったんや」ダニーはからかった。
「バカね、罰なんてもんじゃなかった。臨死体験みたいなもんよ」
サマンサは思い出したのか身震いしている。
「それよりマーティンってやさしいのよ。一晩中背中を擦ってくれたんだから」
「へぇー、ボンもなかなかやるなぁ。トロイは?」
「私、お姫様抱っこされちゃった。意識が朦朧としてたのが悔やまれるわ」
「そんな余裕なかったじゃない」マーティンは苦笑いしている。
「今度、二人にお礼しなくちゃね。命の恩人だもん」
「そんなのいいよ。気にしないで」
マーティンはやんわり断るとトイレに立った。
ダニーは少し遅れて自分もトイレに行った。
誰もいないか確かめ、マーティンに近づく。
「今夜、予定あるか?」
「ごめん、帰りにおもちゃ屋に行くんだよ」
「おもちゃ屋?またゲームか?」
「ううん、スチュワートが甥っ子たちにクリスマスプレゼント買うから付き合ってほしいって」
「そうか、わかった」
また今夜もトロイと過ごすんか・・・ダニーはがっかりしながら背を向けた。
ダニーは仕事中にうとうとし、ボスに居残りを命じられた。
もうどうでもええわ、投げやりな気持ちで書類整理をする。
「ダニー、反省したか?」ボスがオフィスから出て来た。
「はい、申し訳ありませんでした」
「よろしい、一緒に帰ろう」ボスはダニーと車に乗りこんだ。
「今夜は早く寝ろよ。目が真っ赤だぞ」
「はい・・・」
「もうすぐワシントン行きだな。ご苦労なこった」
ボスはフッと忍び笑いを漏らした。
「マーティンはお前と一緒に帰れるから張り切ってるんだろう?」
「さあ、よくわかりません」
ダニーは本当のことを言うわけにもいかず、曖昧な返事を返した。
「うん?おい、あれ見ろよ」
ボスが指し示したほうを見ると、トイザラスの前で
マーティンとスチュワートがおもちゃを大量に車に積もうとしていた。
「マーティンはあいつといるから張り切ってるのか?」
ダニーは何も言わずに楽しそうな二人を見つめた。
ボスは車をTVRの後ろに止めた。
「ボス、なんで止めるんですか。早く帰りましょうよ」
「サマンサが世話になった礼を言わんと。手を出されたらかなわんからな」
ボスはいそいそと車から降り、仕方なくダニーも続いた。
「ドクター・バートン、部下が大変お世話になりまして」
ボスはにこやかに礼を言い、話し込んでいる。
ダニーは荷物を積むのに苦労していたマーティンに近寄った。
「甥っ子らにこれ全部プレゼントするんか?」
「まさか!CDCの研究で滞在したベトナムの病院に送るんだって。
甥っ子たちの分はこの二つだけだよ」
「そうか。でも、これ全部は積めんやろ」
「コンバーチブルにして網をかけるってさ。そんなの寒いよね」
マーティンは困ったように積まれたおもちゃを見た。
スチュワートはボスと話し終わると荷物を積み始めた。
「ちょっと買い過ぎたかもな。クリニックまで近いから二往復してもいいし」
「ダニー、行くぞ」ボスが呼んでいる。
「ボス、これ運ぶの手伝ったらどうでしょう?」
ダニーは手伝いを買って出た。マーティンに寒い思いをさせたくない。
「そうだな。お手伝いしましょう」
「すみません、助かります」荷物を積み込み、二台の車はクリニックに向かった。
「どうもありがとうございました。さすがに買い過ぎたようです」
荷物を運び終えると照れくさそうに笑い、スチュワートはボスとダニーに礼を言った。
「いえいえ、こんなことぐらい大したことありませんよ。こちらこそ頭が下がります」
ボスはスチュワートを褒めた。マーティンもにこにこと頷いている。
「それじゃ、我々はこの辺で」ボスはダニーを促し、クリニックを出た。
「ボス、オレ、全然勝ち目ないみたいや・・・」
ダニーはもう自信が崩壊してしまっていた。昨日のジョシュと寝たことも気にかかる。
「ああ、トロイもいるしな。一気に競争率がアップだな」
「ボス、トロイはあいつですよ。何を言ってるんですか!」
「ん?バートン=トロイなのか?くくっ、あっははー」
ボスは自分の勘違いに笑い出した。
このおっさん、何やねん!ダニーは笑い転げるボスにため息をついた。
ひとしきり笑うとボスは落ち着いた。
「ダニー、もういいじゃないか。お前は元々女が好きなんだし支障もないだろ」
「いやや、オレはマーティンを失いたくない・・・」
ダニーは半泣き状態で首を振った。
「そんなに好きならもっと大切にしてやればよかったな。覆水盆に返らずだ。
まあ、あのバートンもどこまで本気かわからんがな、いいヤツなのは確かだ」
ボスに言われ、ますます落ち込むダニーだった。
マーティンはスチュワートを手伝ったダニーを見直していた。
そろそろ許してやろうかな・・・でも、ダニーは僕を売ったんだ。
それがどうしても許せないマーティンだった。
「手伝ってくれてありがとう。はい、これは君に」
きれいにラッピングされた箱を渡され戸惑いながら見上げた。
「ありがとう、開けてもいい?」
「もちろん!」スチュワートは嬉しそうにニヤニヤした。
マーティンに会いたい、それも今すぐ!
ダニーは家で悶々としていたが、マーティンのアパートへ向かった。
合鍵で部屋に入ると、リビングにスチュワートがいた。
クリスマスカードを書いているようだ。
「はぁっはぁっ、マーティンは?」
「やあ、テイラー捜査官。さっきはありがとう。マーティンなら眠ってるよ」
ダニーはへなへなと床にへたり込んだ。
「大丈夫か?ほら、これ飲めよ」スチュワートは水を差し出した。
水を飲み、一息ついたダニーはそっとベッドルームを覗いた。
バカバカしいパジャマ姿のマーティンがぐっすり眠っている。
「な、言ったとおりだったろ」
リビングに戻るなり言われ、ダニーはムッとした。
「あいつが寝てるんやったらお前は帰れば?」
「まだこれが残ってて・・」クリスマスカードを指差す。
「そんなん家でやればええやん」ダニーはケンカ腰で言い放った。
スチュワートは相手にせずクリスマスカードを書き続ける。
マーティンが憧れるのも頷けるほど達筆だ。
ダニーの嫉妬心はさらに倍増した。
「明日までに出さないと間に合わないんだ。帰りに中央郵便局に持って行くのさ」
「ふうん」
「今すぐ帰らないなら手を洗ってうがいしてくれないか。オレは咽喉が弱いんだ」
「はいはい」ダニーは渋々バスルームへいった。
ふと見ると、使った後のバスタオルが二枚ほったらかされていた。
カッときたダニーはバスタオルを掴み、リビングに戻った。
「完全にあいつを手に入れたつもりか!」
「フフン、オレなら容易いって言っただろ。君には負ける気がしないともね」
ニヤつくスチュワートにダニーはバスタオルを投げつけた。
「マーティン、かわいいよなぁ。オレのセックスですすり泣くんだぜ」
スチュワートはダニーを挑発した。
「ふざけるな!」ダニーはスチュワートに詰め寄った。
「形勢逆転だな、テイラー捜査官。今ではマーティンはオレのものだ」
「そんなわけないっ、お前なんか、お前なんか・・・」
ダニーは悪態をつこうにもパニクって何も思い浮かばない。
「お前なんか?何だよ、続きを言ってみろよ!」
嘲笑うスチュワートにダニーは言い返すこともできず唇を噛みしめた。
「さてと、オレはマーティンと寝るとしよう。おやすみ、テイラー捜査官」
書き終わったクリスマスカードの束を箱に入れ、ダニーをそっちのけにベッドルームへ入る。
ダニーは迷ったものの、あとを追ってベッドに入った。
マーティンは何も知らずに眠っている。
ダニーは懐かしいベルガモットの香りに胸が切なくなった。
昨夜からほとんど寝てないのに眠れそうになかった。
いつの間にかスチュワートも眠りにつき、ダニーはマーティンの体にすがった。
すやすやと眠るマーティンは気づきそうにない。
オレのそばにいてくれ!頼むから・・・ダニーは涙が溢れて来た。
今ではもう、お前はオレのものなんておこがましくて言うのもはばかられる。
マーティンの体にすがりついたまま、ダニーは静かに泣きつづけた。
マーティンは目覚めると、ダニーとスチュワートに挟まれているのに気づき驚いた。
ダニーが自分の腕にしっかりとしがみついている。
どうなってんの?わけが分からないままそっと腕を抜き、トイレに行った。
座ったまま用を足していると、スチュワートが入って来た。
「おはよう。おい、座っておしっこするなんて女かよ!」
「朝立ちしてると飛び散るからさ・・・それより、なんでダニーがいるの?」
「1時頃、急に来たのさ。それでちょっとね」
「またケンカしたんじゃないだろうね?」
それには答えず、スチュワートはニヤッとした。
「やっぱり!」
「早くしろよ、漏れそうだ。それとも、このままかけようか?」
朝立ちしたペニスを露出させ、マーティンをからかう。
「うわっ、待ってよー、もう終わるからさ」
マーティンはあたふたと用を足し、慌ててトイレを譲った。
ダニーはまだ眠っている。マーティンは頬にそっと触れた。
「ぅぅん・・」ダニーは薄っすらと目を開け、マーティンがいるのに気づくと抱きついた。
「マーティン!」困惑するマーティンをダニーはぎゅっと抱きしめた。
マーティンは必死に抱きつくダニーの体にそっと腕を回した。
「もう支度しないと遅れるよ。またボスに叱られちゃう」
マーティンは体を離した。ダニーは下を向いたままだ。
「さ、シャワー浴びよう。ダニーの頭、寝癖でボサボサじゃん」
マーティンに促され、ダニーは渋々ベッドから出た。
「おはよう、テイラー捜査官」
ダニーは黙ったまま先にバスルームを使ったスチュワートと入れ替わる。
ダニーが出てくると二人はシリアルを食べていた。
「ダニー、早く。僕はシャワー浴びるから食べててね」
ダニーを急かすように座らせ、マーティンはシャワーを浴びにいった。
「泣いたのか?」スチュワートはダニーの泣き腫らした目を見て尋ねた。
「泣いてへんわ!」ダニーは乱暴にシリアルをボウルに入れ、何もかけずに食べ始めた。
「ミルク取ってやろうか?」
「いらん。ミルクかけたの嫌いやねん」
「オレと同じだ。ヘンなとこで気が合うな」
スチュワートはくすくす笑うとシリアルを食べた。
マーティンが出てきてシリアルにミルクをかけた。
二人にじっと見られ不思議そうな顔をする。
「どうしたのさ、ヘンなの!」
ダニーとスチュワートは一瞬視線を交わしたが、すぐに目を逸らした。
三人は慌しく着替え、一緒に地下駐車場まで降りた。
「それじゃ、行ってくるよ。早く君に会いたいな」
スチュワートはマーティンにキスすると行ってしまった。
ダニーとマーティンはぎこちないまま立っていた。
「オレらも行こか」
「うん・・・」
ダニーは車に乗ると恐る恐るマーティンと手をつないだ。
マーティンに手を振り払われるかと思ったが、そっと握り返してくれた。
今のダニーにはこれだけで十分満足だ。
二人は支局までの道のりを何も言わずに過ごした。
ダニーは毎晩メゾネットの物件を探している。
もう一緒に暮らすしかないと腹をくくった。
チェルシーとグラマシー以外ならどこでもよかったが、
メゾネットの物件があるのはこの二つの地域が圧倒的に多い。
はぁ〜、今日も空振りや・・・ダニーはがっかりしながらPCを閉じた。
ダニーとマーティンが帰り支度をしていると副長官から電話が入った。
マーティンは丁度いい機会だと思い、帰れないことを伝えることにした。
「父さん、実は中耳炎になりまして帰れなくなりました」
「中耳炎?」
「ええ、風邪を引いて鼻を強くかみすぎたのが原因らしいです」
「クリスマス休暇までに治らないのか?」
「ええ、飛行機は無理だと言われました。慢性化するとかで・・」
「まったく、お前ってヤツは!」ヴィクターの冷たい声が響いた。
マーティンはダニーと目が合うとニヤリとした。ダニーも自然と笑みがこぼれる。
「病気なら仕方ない。早く治しなさい」
「はい、父さん」
「それと、ドクター・バートンに丁重なカードをいただいたお礼を申さねばなるまい」
「スチュ・・ドクター・バートンにですか?」
「ああ、そうだ。素晴らしいクリスマスカードが届いた。私が大層喜んでいたと伝えておいてくれ」
「はい、伝えます。失礼します」
マーティンは電話を切ると父を出し抜いたことに飛び上がって喜んだ。
「よかったな、信用したみたいや」
「うん、あー肩の荷が下りたよ」ダニーはにっこりするマーティンが可愛かった。
「マーティン、中耳炎って何のことだ?」
いつのまにかボスがデスクの横に立っていた。
「あの、それはその・・・」
「お前も段々と悪知恵がついたようだな。ヴィクターはすっかり信用していたぞ」
ボスは意地悪そうな表情を浮かべている。
「よくやった!」マーティンの肩をポンとたたき、オフィスへ戻っていった。
ボスの意外な反応に二人は顔を見合わせた。
「よし、帰ろう!」
ダニーはマーティンを急かし、エレベーターに乗った。
「久しぶりにメシ食いに行こうか?」
ダニーの誘いにマーティンも同意し、支局をいそいそと出た。
二人はチャイナタウンに行き、喧騒の中で熱々の飲茶を楽しんだ。
マーティンが舌を火傷し、ベーっとする様子をダニーは懐かしく感じた。
「誰も取らへんて、慌てすぎや」
「ん、そうだね。熱かったー」
マーティンは照れくさそうに笑った。
マーティンのぎこちない箸使いも、旺盛な食欲を見るのも久しぶりだ。
「今日は泊まっていかへんか?」ダニーは唐突に切り出した。
「うん、いいよ」
断られると思っていたのに快諾されホッとする。
今夜、一緒に住もうって誘おう、ダニーは決意した。
「ダニー、もう食べないの?」
「いや、食べる。食べるで」
ダニーは慌てて春巻きをかじり、自分も舌を火傷して笑われた。
ブルックリンのアパートに帰るなり、ダニーはマーティンを抱きしめた。
マーティンを壁に押しつけ、やさしくキスしながら目を見つめる。
「ダニィ・・・」
「しー、あのな、オレと一緒に住もう」
「え?」マーティンは意味がよくわからず混乱した。
「今、メゾネットの物件探してるんや。だから、その・・オレと・・」
ダニーは言いにくそうに続ける。
「どうして急にそんなこと言うの?」
「え・・・・それはその・・」
「前に僕が誘ったときは断ったじゃない。それってスチュワートがいるから?」
「オレとずっと一緒にいてほしいからや」
ダニーはずばり言い当てられ返事に困ったがなんとか答えた。
「そう・・・」マーティンは困惑した表情をみせた。
それ以上この話には触れず、ぎこちないまま二人は朝を迎えた。
マーティンは迷っていたし、ダニーは返事の内容が気になり平常心でいられない。
ダニーお手製のパンケーキを食べると、地下鉄で出勤した。
考え事をしていたせいか二人はうっかり駅を乗り過ごし、
慌てて支局まで急いだが遅刻してしまった。
「二人ともたるんでるぞ!ただでさえ年末で慌しいんだ!」
「すみません・・・」朝から叱られ最悪の気分だ。
仕事に身が入らないままPCのモニターに見入る。
ダニーは時折チラッとマーティンを見るが、マーティンも上の空のままだ。
今までやったら喜んで飛びついてきたのに・・・ダニーは寂しくなった。
「マーティン、今夜の予定空いてる?」サマンサが話しかけた。
「空いてるけどどうして?」
「この前のお礼がしたくて。ドクター・バートンも一緒にね」
「そんなのいいよ」
「いいからいいから。診療報酬も払ってないから気になるのよ、ね?」
「うん、それじゃ気乗りしないけど・・・」
「よかった!バートン大先生にも今夜のお伺いを立ててね」
サマンサは妙にはしゃぎながら行ってしまった。
仕方なくマーティンは昼休みにスチュワートに電話した。
空いてるとのことで、折り返し場所を連絡すると伝え電話を切る。
サマンサはミッドタウンのイタリアンレストランで待ち合わせることにした。
嫌がるダニーも無理やり誘う。
「あぁー、早く終わらないかなぁ」
待ちわびるサマンサを複雑な心境で見つめる二人だった。
三人が待ち合わせ場所に着くと、スチュワートも丁度着いたところだった。
「やあ、今夜はお招きいただきありがとう。すっかりよくなってよかったな」
サマンサは嬉しそうに頷き、スチュワートにエスコートされながら入っていった。
ダニーとマーティンもあとに続く。
サマンサは料理を待っている間、スチュワートと話し込んでいたが、
ダニーだけをテイラー捜査官と呼ぶ理由を尋ねた。
あちゃー、サマンサが地雷踏んじゃったよ・・・マーティンは気が気でない。
「オレとテイラー捜査官はそれほど親しいわけじゃないから。ですよね?」
「ええ、まあ」
「そうなんだ。ダニーは人と親しくなるのが早いんだけどね」
サマンサは不思議そうにダニーを見つめている。
「ノロウィルスって怖いよね」マーティンは急いで話題を変えた。
スチュワートはわざといろんなことをダニーに話しかけた。
ダニーも適当に答え、表面上はにぎやかなディナーに見える。
マーティンは二人の顔色と、サマンサに怪しまれていないかをチェックするのに忙しい。
「マーティン、今夜は小食だな。具合でも悪いのか?」
「いや、そんなことないよ。ねえダニー、パスタ取って」
どぎまぎするマーティンをスチュワートはおもしろそうに見ていた。
「あ、父さんがクリスマスカードのお礼を伝えてほしいって」
「そうか、喜んでもらえてよかった」
こいつ・・・ダニーはスチュワートを睨みつけた。
「あの副長官が喜ぶなんてよっぽどよね。いっつも気難しそう。あっ、ごめん!」
サマンサが口を押さえた。
「いいよ、本当のことだから。気にしないで」マーティンは苦笑した。
おしゃべりしながらジェラートを食べ終えると、サマンサはチェックを済ませた。
「ご馳走さまでした。診療報酬より高くついたんじゃない?」
「いいの、どうしてもお礼がしたかったから。
夜中に来てくれる人なんてそうそういないじゃない」
「それじゃお言葉に甘えて。女性にご馳走されるなんて初めてだ」
また調子ええこと言うてるわ、ダニーは冷めた目でスチュワートを見た。
「それじゃオレが送っていくよ。どうぞ、サマンサ」
スチュワートはTVRのドアを恭しく開けた。
「ありがとう。ダニー、マーティンまた明日ね」
サマンサは嬉しそうに車に乗り込み、シートベルトを締めた。
スチュワートはマーティンに意味ありげなウィンクをすると車を出し、
残された二人はぶらぶらと歩き始めた。
「ほな、いってくるで。」ダニーは元気良く支局へ出かけていった。
やれやれ、アランは気だるさを振り払うようにシャワーをし、午前のアポイントに備えた。
ランチタイムにダニーはアランに電話を入れる。
「はい、ショア。」「アラン、どう具合は?」「あぁ、ダニー。随分良くなったよ。ありがとう。」
「そんな。」ダニーは顔を赤らめて照れた。
「当たり前やん。今日、俺、食事作るから。」「助かるよ。」「それじゃ。」
マーティンは携帯で談笑するダニーを恨めしげに眺めていた。
僕と一緒の時は絶対に見せなくなった笑顔だ。
どうして、こんなにダニーとの距離が遠くなっちゃったんだろう。
アランが中に入ったからだ。
でもあんな大人と張り合っても、僕に勝ち目なんてないよ。
マーティンは絶望的な気持ちになっていた。
「どうしたの、マーティン。サンドウィッチの中身が落ちてる!」
サマンサがティッシュを持って駆け寄ってくれる。
「あぁ、ありがと、サム。」「子供みたいね。」
くふふっとサマンサは笑いながら席に戻っていった。
僕ってほんとに子供みたいだ。マーティンは自己嫌悪で一層落ち込んだ。
定刻になり、着々とPCを片付けるダニーを横目に、書類が出来ず、うんうんうなっているマーティン。
「なんや、報告書か?」「うん、今日は乗りが悪くて。」「明日にしいや。それじゃ、お先。」
今日こそ一緒に夕飯が食べられると思ってたのに・・
マーティンのそんな気持ちを知りもせず、ダニーは「ホールフーズマーケット」で
ツナ缶と有機栽培のトマト、バジル、ナスと手打ちのフィットチーネを買い込み、
アランのアパートへ急いだ。
「ただいま。」合鍵で開けると、アランがリビングで医学書を読んでいた。
「おかえり。」アランがダニーに近寄り、軽くキスを交わす。
「俺のインフルエンザがブーメランで戻ってきそうや。」
ダニーが照れ笑いをする。
「昨日は本当にありがとう。おかげで、考えられない程に良くなったよ。」
「じゃあ、今日はパスタでもいける?ダメなら、スープにするけど。」
「スープはさすがに飽きたよ。パスタがいいね。」
「じゃ、シチリア風フェットチーネでーす。」
「それじゃ、モンダヴィのジンファンデルを開けようか。」
「いいなぁ。それ。」
アランがワインを準備している間にダニーは手際よくナスとトマトをオリーブオイルで炒め、
バジル、ツナ缶とあわせてソースを作る。
フェットチーネもアルデンテに茹で上がった。
ケーパースを上に乗せて出来上がりだ。
「乾杯!」一口食べてアランは「美味い!」を連発した。
「家にはシェフが二人いるね。」ダニーも満足そうだ。
「久しぶりにダニーの家に泊まりたいな。」「そうなん?」
「君の病気の時、ここに缶詰めだったからね。気分転換さ。」
「じゃあ、今日、泊まる?」
「ああ。明日は幸い、午前はアポイントがないんだ。というか断ったんだが。」
アランが恥ずかしそうに笑う。「じゃ、俺も午前中、休もうかな。」
「いいのかい?連邦捜査官君。」
「俺一人いなくたってFBIは仕事を休まないって。」
「安心したよ、国民の生活を守る大事な人を拉致するわけだからね。」
「そんなん大げさやん。」
ダニーはまんざらでもない顔でフェットチーネを丸めて口に放り込んだ。
二人はディナーを終えて、アランのボルボでブルックリンに向かった。
「どうぞ〜。」「ただいま。」「狭くてごめん。」
「何を言う。いつも整理整頓されていて気持ちがいいよ。葉巻吸ってもいいかな。」
「どうぞ。」アランはベランダで星を見ながら気持ち良さそうに一服している。
ダニーは、シャルドネを開けて、ピアノを弾きながらワインをすすっていた。
すると玄関のドアが開いた。「マーティン!」「ダニー、いたんだね!ただいま!」
「いやあ、マーティン、副長官とのディナー以来だね。」
アランがベランダから中に入ってくる。
「あ、アランもいたんだ・・僕、おじゃまだよね。」
「何言う。せっかく来たんやから、ワインでもどうや。」
ダニーがワイングラスを持ってきてマーティンに勧める。
「じゃあ、一杯だけ。」マーティンがジャケットを脱いでネクタイを緩め、ソファーに腰掛ける。
ダニーはピアノ、アランはベランダ、マーティンはソファーといった図だ。アランが一服を終えて、部屋に入ってくる。
「煙いだろう。シャワー借りるよ。」アランがバスルームへ消えた。
「アラン、ダニーの家の事、良くわかってるんだね。」「親代わりやからな。」
ダニーは言葉少なく対応する。
「ねぇ僕が邪魔なら言ってよね。」「邪魔なんて言ってないやん。」
アランがバスローブを引っ掛けて出てくる。僕が着てたバスローブ。
マーティンはショックを受けた。もう僕って用済みなのかも。
この間のセックスも欲望のはけ口みたいだったし。
「僕、帰る。ダニー、明日、支局でね。」「あぁ、俺、明日、半休して午後から出るから。」
マーティンの顔色が変わった。「そうなんだ。それじゃあ。」
「マーティン、何か悩み事があったら、アポイントとってくれよ。」
「はい、ドクター。」マーティンがドアを出ると、ダニーはふぅーとため息をついた。
アランがそばにより額に手をかける。「緊張したかい?」「うん。ちょっと。」
「まだマーティンは状況に慣れていないね。慣れてもらわないと困るんだが。」
「そうやね。」ダニーはマーティンに済まない気持ちで胸が押しつぶされそうだった。
「そろそろ寝るかい?」「うん、俺もシャワーするわ。」
「ダニー、そのままベッドに来てくれないか。」
「?」「君の匂いが恋しいんだ。」
ダニーはクロゼットに消えて、パジャマに着替え、アランと一緒にベッドへ向かった。
「俺、汗臭いよ。」ダニーは遠慮がちにアランに言った。
「それがいいんだよ。君のエキゾチズムが僕に火をつけるんだ。」
「アラン・・。アランてもしかして、俺のエスニシティーが好きで、俺とこういう風になったんか?」
「違う。君が君だからだよ、ダニー・テイラー。」
そういうとアランはダニーのわきの下の香りを思う様吸い込んだ。
「あぁ〜、この香りだ。」
「何や俺には汗臭いだけなんやけどな。
俺より若くて元気なヒスパニックが現われたら、アランそっちに行くんちゃうかな?」
「まさか、君を置いて?出来るわけないだろう!
僕らはいいコンビなんだ。それを忘れないで。」
アランはそう言うとダニーのパジャマの前をはだけ、薄い胸の肉を噛んだ。
「あぁ。」ダニーが思わずため息をつく。「跡をつけるよ。」「うん。」
アランは身体のすみずみまで噛み跡を残し、ダニーをアザだらけにした。
「俺もアランにつけたい。」アランはバスローブを脱ぎ全裸になった。
ダニーは胸、腹、下腹部へと口を運び、自分の足跡を残していった。
二人とも身体中キスマークだらけになった。思わずアランが笑う。
「二人で天然痘にでもなったようだな。」「ふふふ。」ダニーもおかしそうに笑った。
「人前で裸になれないね。」「ああ、君がそうしないことを願うよ。」
「そんなんするわけないやん。」「それを聞いて安心して眠れるよ。」
「アラン、だるいんか?」「ちょっとね。」「じゃあ、早う寝て。」
「ありがとう。おやすみ、ハニー。」
そういうとダニーの方を向いてアランは寝息を立て始めた。
ダニーはじっとアランの長いまつげや白い顔を見ていたが、そのうち、眠りに落ちた。
772 :
fusianasan:2005/12/19(月) 11:14:19
書き手1さん、おかえりなさい。また、連載が始まってうれしいです。
ダニーとアランの関係が甘くて、外は寒いけど暖かな気分になれました。
これから、色んな事があってもダニーが主人公でいて欲しいと願うばかりです。
>>772 さん
いつも感想をありがとうございます。
暖かな気分になっていただいてよかったです。
でも、今日はちょっと不吉な影がよぎります。
「ただいま。」ダニーがアランのアパートに入ると、
リビングのソファーでアランが誰かと話し込んでいた。ケンだ。
「あぁ、ハニー、おかえり。」アランが顔を上げ、挨拶を返す。
心なしかシリアスな様相だ。
「俺、帰ろうか。」ダニーがやっとの事で声を出す。
「僕が帰るから。」ケンがそう言うと立ち上がった。
「ケン、今日は泊まっていけよ。一人じゃ寂しいだろう。」
アランがケンの手を握る。
何やねん、これは!ダニーは何が何やら判らなかった。
「ケン、どうしたん?」
ケンは息を吸い込むと「ギルが別れてくれって言い出したんだ。」とだけ言い、アランの胸に泣き崩れた。
「何やて?」「ギルの別れた奥さんが戻ってきたんだよ。中学生になる息子を連れてね。」
アランが嗚咽するケンの代わりに答える。
「ギル、息子が可愛くて仕方ないみたい。僕はお払い箱なんだ。」
ケンがやっとの事で答えた。
「それで、お前、引き下がったのか!」ダニーは声を荒げた。
「お前らしくないやん。それでもインターポールかよ。」
「恋愛に、インターポールもFBIもないよ、ダニー。僕、本気でギルを愛してた。」
「まぁまぁ、ダニー。ケンをいじめても仕方がないじゃないか。今日は泊めてやろうよ。」
アランは胸にすがるケンを振りほどこうともせずに言った。
「アランがいいなら仕方ないけどな。」
ダニーはそれだけ言うと、クローゼットでアディダスの上下に着替えた。
「ダニー、済まないが、夕飯のオーダーしてくれないか。ピザでいいだろ、ケン。」ケンはこくりと頷いた。
ダニーはデリバリーピザを注文し、ワインセラーからシャルドネを出すと、イータラのグラス3つに注いだ。
アランはリビングでケンをあやすように慰めている。
ダニーはローテーブルに二人の分のグラスを置いた。
ニューヨークピザの配達が届くと、ダニーはダイニングに皿を並べ、食卓の用意をした。
今日は久しぶりに外食しようと思ってたのに、よりにもよって、ケンの奴、アランに泣きつくなんて。
ダニーは内心面白くなかった。ケンがアランを解放しないで話し込んでいるのも腹立たしい。
「用意できたで!」リビングに向かって叫んだ。
アランがケンの肩を抱きながら席に着いた。
ケンの漆黒の瞳には涙が一杯だ。
ケン、ほんまにギルの事好きやったんやな。
ダニーは初めてケンに同情した。俺もアランがいなくなったら、どうするやろか。
アランがケンにミモザサラダとピザ・マルゲリータを取ってやると、静かにケンが食べ始めた。
ダニーがアランの皿に同じようにピザとサラダを取り分ける。
「ありがとう、ハニー。」
湿っぽいディナータイムが過ぎ、ケンがシャワーに入ると、
アランがダニーを抱きしめた。
「ハニー、すまない。ケンをほっておけなくて。」
「判ってるって。今度、ディナーおごってな。」
「もちろんだとも。今日は3人でベッドに入ることになりそうだけれど、いいかい?」
「仕方ないやん。でも、俺、真ん中な。」
ダニーはアランとケンを引き離したかった。
「おおせのままに。」
ケンがシャワーから出ると、アランとダニーは一緒にシャワーブースに入った。
その様子をうらやましそうにケンが見つめていた。
頭をブルッと振るとケンは一人ベッドの隅っこに遠慮がちに横たわった。
アランとダニーがシャワーを終える頃には、涙の跡を頬に残しながら、寝息を立てていた。
「ケン、寝てるわ。」
「泣いて疲れたんだろう。僕らも寝ようか。」
「俺、真ん中な。」「はいはい。」
ダニーはケンに背中を向けて横になった。
アランはダニーの方を向いてダニーに優しくキスをすると、背を向けた。
夜中、ダニーは臀部に硬いものが押し当てられる気配で目が覚めた。
振り向くとケンが局部をダニーに押し当てていた。
「ケン、お前・・」
「シー、アランが目を覚ますよ。」
ケンは静かにベッドから抜け出ると、キッチンからオリーブオイルの瓶とタオルを持ってきた。
「何する気だ。」
「ダニーを抱きたい。いいでしょ。」
そう言うと、ダニーのパジャマの下をトランクスごと押し下げる。
オリーブオイルを手にとって、自分のいきり立ったペニスとダニーの後ろに塗布するケン。
「おい、やめろ。」
「アランが目を覚ましてもいいの?」
ダニーは黙るしかなかった。静かにケンがダニーに押し入る。
「あぁぁ。」ダニーが思わず吐息を漏らす。
「うぅん。」アランがうなった。
二人ともアランに感ずかれる緊張感が興奮に変わっていた。
ゆっくり抜き差しを繰り返すケン。
ダニーのペニスも後ろからの刺激でだんだん硬くなってきた。
「はぁ。」ケンはため息をつくと、ダニーの中で果てた。
ダニーを自分の方に向けると、布団の中に潜り込み、ダニーの半立ちのペニスを咥える。
絶妙な舌技のおかげで、ダニーはものの1分も経たないうちにケンの口の中に精をぶちまけていた。
音を立てて飲み込むケン。口でダニーを綺麗にした後、ダニーの後ろをタオルで拭く。
「美味しかった。ダニー、ご馳走様。」
そう言うと、ダニーに背を向けてまた眠りに落ちるケン。
身体の芯がうずいたままダニーもまた眠りに落ちた。
朝になり、アランが目を覚ます。
ケンの側のベッドサイドにオリーブオイルと汚れたタオルが落ちている。
「?まさか・・・」
ダニーが次に目を覚ました。「アラン、おはよう。」
「ハニー、おはよう。ケンを起こしてくれるかい?」
アランは動揺を押し殺して、やっとの思いで言った。
「うん。ケン!朝やで!」アランはシャワーを済ませると、コーヒーを入れにキッチンへ移動した。
ベッドルームに残されたケンとダニー。
「ケン、お前な、いい加減にせいよ。」
「だって人肌が恋しかったんだもん。」
「早よシャワー浴びてこい!」「はあい。」
昨日あれだけギル恋しさで泣いたケンが今朝は一転元気になっていた。
俺ってお人よしやな。ダニーは汚れたタオルとオリーブオイルを自分のクロゼットにしまい、
ケンと入れ替わりでシャワーを浴びる。
シャワーから出て、出勤の身支度に着替えると、
ケンがスーツ姿でアランとダイニングで談笑していた。
「ダニー、本当にご迷惑かけました。二人のお陰で落ち着いた。」ケンが言葉巧みに礼を言う。
「良かったな。今日、ギルとオフィスで会うんだろう。」
「うん、職場一緒だし仕方ないです。耐えるしかない。」
そう言うと、アランが焼いたトーストをカリっとかじるケン。
ダニーはアランの顔を直視出来ず、うつむき加減で席に座る。
すかさずアランがコーヒーとトーストを出してくれた。
こんなアランを俺は裏切ってもうた。
急いで朝食を済ませると、ダニーは「じゃ、俺、先に行くわ。」とそそくさとアパートを出た。
支局に出勤すると、30分も経たないうちにダニーの内線が鳴った。
「はい、テイラー。あ、俺の客です。上がってもらってください。」
ケンだった。「ダニー、おはよう!」「お前、こっち来い。」
ダニーはケンを取り調べに使う個室に押し込めた。
「怒ってる?」ケンはいきなり切り出した。
「当たり前やん。アランに知られたら、俺めちゃめちゃ困る。」
「僕、話しちゃった。」
「え?何やて?!」
「ダニーが出勤した後、アランにタオルとオイルの事、詰問されて、仕方なく、話しちゃった。」
「お前、何したか判ってる?」
「だって、二人があまりに幸せそうなんだもん。それに、僕、ダニーに恋してるからね。」
「お前、舌の根も乾かぬうちに今度は俺か?ギルはどうした?」
「過去は過去だよ。前向きにならなくちゃ。ねぇ、アランめちゃくちゃ怒ってた感じだったよ。
ごめんね。話はそれだけ。」
打ちのめされたダニーを個室に残し、ケンは出て行った。
夜、ダニーはアランのアパートに合鍵で入る。
「ただいま。」しーんと静まり返った室内。
アランはリビングで葉巻をくゆらせていた。ブランデーグラスが置いてある。
「ダニー、言いたい事があるだろう。」
「アラン・・・」
砂色の瞳が射るような光を放っている。
「ごめん!ケンとやってもうた。」
「ケンから聞いたよ。オイルとタオルは始末した。しばらく君の顔は見たくない。出て行ってくれ。」
「アラン・・・」ダニーはただならぬアランの雰囲気に威圧され、アパートを後にした。
アランに捨てられる!ダニーは言いようのない恐怖を感じていた。
肉親から引き離されるような思いだ。まっすぐ家に帰る気になれず、
アルゴンキンホテルの「ブルーバー」に寄って、ブラディーマリーを経て続けに3杯お代わりした。
これじゃ、血まみれマリーやなくて、ブラディーダニーや。
ダニーはマーティンとアッパーイーストのアパートに帰った。
うがいと手洗いを済ませ、並んでソファに座る。
「なぁ、一緒に住むこと考えてくれたか?」
「まだ・・今日はいろいろあったからこれから考える」
「そうか、わかった。風呂入って寝よう」
ダニーはバスタブに湯を張りにいった。
即答してくれないもどかしさにがっかりしている。
今までいっぱい騙したからなぁ・・・上がる水位を見ながら一人ごちた。
ベッドに入るとマーティンが体を寄せて来た。
「マーティン・・」ダニーは横向きに寝てマーティンを見つめた。
伏し目がちなのは後ろめたいからやろか?
それともトロイのことを考えてる?
ダニーは気づかないふりをして抱きしめた。
「ダニィ、クリスマスディナーのオファーはまだ有効?」
突然マーティンが話しかけてきた。
「ああ、もちろんや。何でも作るで!」ダニーは嬉しくてマーティンをキス攻めにした。
「やめてよー、くすぐったいよ」
ダニーはおもしろがって体を羽交い絞めにしてくすぐった。
「やだよ、うわぁー」二人は重なり合ったままベッドから落ちた。
「痛っい・・・だからやめてって言ったのにバカッ!」
「ごめんごめん、お前が嬉しいこと言うからや」
ダニーはマーティンを押し倒し、パジャマをはだけた。
ピンクの乳首にそっと手を触れると、瞬時に硬くなった。
ダニーは自分もパジャマを脱ぎ、マーティンの体にむしゃぶりついた。
トロイよりももっと強い快感を与えてやる!
ダニーはマーティンの体を隅々まで愛撫し、足の指を舐めた。
マーティンは驚いたが、ダニーの真剣な様子に何も言えず快楽の波に身を委ねた。
次第に舌を上に這わせ、震える内腿からペニス、アナルにまで舌を這わせる。
「くふぅ・・ぁん」マーティンはドキドキして息も絶え絶えだ。
ペニスもとろけるようにぬるぬるしている。
ダニーは亀頭を嬲りながらアナルに舌をこじ入れた。
「んんっ!」ゾクッとした快感に肌が鳥肌立つマーティン。
「まだや、もう少し我慢してな」
ダニーは言い聞かせるようにつぶやき、指をそっと沈めた。
ひくつくアナルに沈めた指で内壁をなぞるように動かす。
マーティンの反応を確かめるように丁寧に内部を探った。
「ぁぁん、ダニィ!」マーティンの体が弓なりに仰け反った。
ダニーは満足げな笑みを浮かべ、さらに敏感な部分を執拗に擦った。
マーティンの体がガクガクしている。
「ああ、もうダメだ、限界だよ」
興奮したダニーは自分のペニスをあてがうと、一気に挿入した。
内壁の振動が自分のペニスに絡みついてくる。
「うぅ・・マーティン・・すごい締め付けや・・」
ダニーはマーティンの腰を掴むと、何度も打ちつけた。
「ダニィー、僕はもうダメだ、ああっんっ・・・」
「出してもええで、あぁ・・オレもや・・うっっっ」
ダニーはマーティンが射精したのを見届けると自分も出した。
はぁっはぁっ・・・二人とも息が出来ないくらい消耗していた。
ダニーはマーティンのペニスを咥えると精液を舐め取った。
恥ずかしそうにするマーティンに見せつけるように飲み込む。
「バカ!」マーティンははにかみながら小さく抗議の声を上げた。
「なんや嬉しいくせに!」ダニーはお返しにデコピンをする。
以前の二人に戻ったような時間が流れた。
「ダニー、僕がもし同棲を断ったら嫌いになる?」
不安そうにマーティンが尋ねた。
「いいや、嫌いになんかならへん。正直に答えてくれたらええねん」
「ん、わかった。もう少し考える時間がいる。僕は本気だから」
「オレも本気やで。それだけは忘れんといてな」
ダニーはやさしくマーティンにキスして目を閉じた。
明くる日、ダニーは出勤してきたサマンサに何気ない風を装って近づいた。
「サム、おはよう。あれからどうやった?」
「おはよう。ただ送ってもらっただけだけど?」
「ヘンなことされへんかったか?」
「そんなことするわけないでしょ。運転させてもらって別れた」
「運転?サムが?」
「してみたいって言ったら代わってくれたの。私はマーティンより上手いって」
サマンサはおかしそうに笑った。
「僕は年寄りでももっとマシだって言われたよ」
横で聞いていたマーティンも会話に加わった。
「お前はヘタすぎるからな」
ダニーはうっかりデコピンしかけてごまかした。
「それでね、モルダーみたいなのはいるかって聞くからドゲットならいるかもって言っといた」
サマンサとマーティンは笑っていたが、ダニーはニヤつくスチュワートを思い出しムカついていた。
ダニーは帰りにリッツォーリ・ブックストアに寄り、料理本を読み漁った。
今までにないようなクリスマスディナーにしたい。
ダニーの目が一冊の本で留まった。「ハリー・ポッターCooking Book 」これや!
中身を確かめ、いそいそと買い求めるとダニーはアパートまで急いだ。
これならマーティンも喜んでくれる、ダニーは地下鉄で材料をメモると買い物をして帰った。
804 :
fanですw:2005/12/20(火) 17:09:40
書き手1さん
ラブラブ路線が一転して大変なことになりましたね。ダニーを幸せにして
あげてください。
書き手2さん
久しぶりにダニーとマーティンが仲が良くてほっとしました。やっぱりこの二人が
最強です。
ダニーはアパートに着くと早速料理の試作品を作り始めた。
手始めにハグリッドのロックケーキから取り掛かる。
ダニーにはハグリッドが誰かなんてどうでもよかった。
マーティンが喜ぶなら何だっていい。
レシピではレーズンだったが、レーズンよりチョコが好きなマーティンのために
チョコチップで代用し、オーブンに入れた。
ロックケーキを焼く間にシェパーズパイを作る。
ただのミートパイやん、オレはあんまり好きやないなぁ・・・。
ダニーはマッシュドポテトと挽肉のトマトソース煮込みを作り、
耐熱皿に交互に敷いた。ロックケーキが焼け、入れ替わりにオーブンに入れる。
他のレシピも試してみよう、ダニーはあれこれ作り始めた。
魔女かぼちゃジュースとバタービールも作ったものの、一口飲んでシンクに吐いた。
これ、本気かよ!ダニーはレシピを何度も読み直したが間違いない。
あかん、どれもこれも陳腐な味や。オレの舌がおかしいんかな?
ダニーは不安になってきた。こんなクリスマスディナーは最悪だ。
オレが普通に作ったほうがおいしいで、ほんま。
ダニーはごつごつのロックケーキを試食しながら頭を抱えた。
これはクリスマスディナーにはふさわしくない、ダニーは決断するとマーティンに電話した。
「オレや、もうメシ食った?」
「今、作ってるとこ」何やらかちゃかちゃ音がする。
「へぇー、何作ってるん?」
「キャンベルのスープ・・・」
「ええもん作ったんや、持って行くわ」
「本当?助かったー!」無邪気なマーティンにダニーは思わず笑った。
焼けたばかりのシェパーズパイとロックケーキを箱に入れ、
迷ったものの魔女かぼちゃジュースとバタービールも一緒に詰めた。
まあ、無駄にはならんかったっちゅうことやな。
ダニーはがっかり半分の複雑な気持ちでアパートを出た。
マーティンのアパートに車を入れているとスチュワートと鉢合わせした。
またこいつか・・・ダニーは仕方なく一緒にエレベーターに乗った。
「奇遇だな、テイラー捜査官」
「ああ、ほんまやね」ダニーはさっさと降りると合鍵でドアを開けた。
「おかえりー」マーティンが玄関に飛んでくる。
「ただいま。おい、お前も早よ入れや」
ダニーはそっけなく言い、見せつけるようにマーティンにキスした。
「何でトロイまでいてるん?」ダニーは意地悪く聞いた。
「僕らスカッシュに行ってたんだよ。それで・・・」
「それで?」
「僕が負けたんだけど、家で何か食べたいって言うから・・・」
「外食に飽きたのさ。オレはライ麦パンを買いに行ってたんだ」
「ふうん。それやったらオレ帰ろうか?」
「いいや、何も帰ることないさ。君ともたまにはゆっくり話したいしね」
スチュワートは余裕たっぷりにダニーに微笑みかけた。
ダニーはテーブルに持ってきたものを並べた。
マーティンが小さな声でごめんねと謝る。
ここで怒ったら負けや、ダニーは怒りを抑えて対応した。
「オレは気にしてへんから。ほら、ハリー・ポッターの料理やで」
「うわー、すっげー」歓声を上げるマーティン。
ダニーは喜ぶマーティンの髪をくしゃっとして、どうだと言わんばかりにスチュワートを見た。
スチュワートは同じような視線を返す。
「あっ、スープを忘れてた!」
「オレがするから、座っとき」ダニーはキッチンへいった。
生ぬるいキャンベルのクリームマッシュルームスープを温めなおす。
「本当はハリー・ポッターなんて興味ないんだろ?」
冷蔵庫を漁っていたスチュワートが話しかけてきた。
「ああ。オレは興味ないけど、あいつが好きやから」
「やさしいんだな、テイラー捜査官」
「別に。ちょっとこの鍋、見といてくれへんか?」
「ああ、いいよ。60rpm前後で攪拌すればいいんだろ?」
「え?」ダニーは耳慣れない言葉にきょとんとして聞き返した。
「60rpmじゃ早すぎるのか?」
「・・・何でもええから焦げつかんように混ぜたらええねん」
食べる気失くすやろ、トロイ!ダニーは呆れながらキッチンから出た。
すっかり食事の支度が整い、三人は席に着いた。
「いただきます!」マーティンはシェパーズパイにがっついた。
「おいしい、ダニー最高だよ!」
「そうか、よかった」ダニーは胸をなで下ろした。
「その魔女ジュースとバタービールは微妙やねん」
言い終わらないうちにマーティンが困ったような表情を浮かべた。
「うへぇ・・・これは僕でもダメだ」
「本当だ」スチュワートも味見してクスクス笑い出した。
「レシピどおりに作ったんやけどなぁ。イギリスの食い物はどうもあかんわ」
ダニーは二人にロックケーキを勧めた。
「これはハグリッドだね?」
「らしいな、まあ食べてみ。レーズンの代わりにチョコにしたんやけど」
ダニーはよくわからなかったが、マーティンもスチュワートも感激しながら食べている。
テーブルの上はすっかりからっぽだ。
「テイラー捜査官、どうもありがとう。最高のディナーだった」
スチュワートも満足したようで感動している。
「ダニーがいなきゃスープとライ麦パンだけだったもんね」
マーティンを喜ばせるのに成功し、ダニーは鼻高々だった。
後片付けをしているとスチュワートの携帯が鳴りだした。
「ちょっと失礼。・・はい、バートン。ああ、すぐ行く」
ため息混じりに電話を切る。「すまない、行かなきゃ。またな」
スチュワートは緊張した面持ちで急いで部屋を出て行った。
「何や、あいつ?」
「さあ?」ダニーもマーティンも呆気に取られ顔を見合わせた。
昨夜のことが気になっていたマーティンは昼休みに電話してみた。
「はい、バートンです」女が出た。
「あ、あのスチュ・・ドクター・バートンは?」思わずしどろもどろになる。
「少々お待ちを。スチュー、電話よ」
かなり親しそうな様子にマーティンはがっかりした。
「おい、勝手に出るなよ。はい、バートンですが」
「あの僕だけど・・・」
「マーティン、昨日はごめんな。ん?どうした、病気か?」
「何でもない。それじゃ」マーティンはたまらなくなり電話を切った。
すぐに切ったばかりの携帯が鳴りはじめる。
マーティンは仕方なく電話に出た。
「はい・・・」
「なんで切るんだよ!あ、さっき出たのは妹だ。嘘じゃないぜ」
「妹?」
「そう、エミリー。写真で見たチビだよ。痛っ!叩くなよ」
電話の向こうでふざけあう二人の声が聞こえる。
「今夜、ゆっくり話そう。疑うなら一緒に連れて行くけど?」
「いや、いいんだ」
「そうか?オレの信用度も上がったもんだ。愛してるよ」
「なっ、そんなこと言ってもいいの?」
「いいんだ、オレはマーティンを愛してるから。それじゃ」
マーティンはホッとした自分自身に驚いていた。
僕って欲張りだ、ダニーもスチュワートも選べない。
ダニーはその後もブラディーマリーのお代わりを繰り返し、7杯目で酩酊した。
タクシーに転がり込むように乗り、ブルックリンに戻る。
留守電をチェックしたが、当然アランからの伝言はない。
代わりにケンが伝言を残していた。
「ダニー、いる?本当にごめんなさい。でも、ダニーの事好きなのは本心なんだ。
こんな形で告白する事になっちゃったけど、信じてね。良ければ電話ください。」
ダニーは酒の勢いも手伝ってケンに電話をかける。
「はい、ケンです。」
「おい、ケン、これから住所言うからこっち来い。」
「ダニー?いいの?」
「ああ、待ってるで。」
ダニーはストリートアドレスを言うと電話を切った。
30分も経たないうちに、インターフォンが鳴った。
「ダニー、開けて。ケンです。」
ダニーが開錠するとケンが上がってきた。
「ダニー、はい。これ。」
ケンは部屋に入ると、ダニーに小さな包みを渡した。
「なんや、これ。」
ろれつの回らないダニーは包みを振ってみた。
「お香。日本のアロマキャンドル。怒りを鎮めてくれる香りを選んできた。」
「お前でも反省っちゅう言葉をを知ってるようやな。」
「ダニー、酒臭いよ。飲んでたの?」
「ああ、お前のお陰で俺とアランの仲はめちゃくちゃや。」
「ごめんなさい。でも何で僕を呼んだの?」
「お前をいたぶれば、少しは気が晴れると思ってな。」
「ダニーになら何されてもいいよ。」
ケンはむしろ喜んでいるようだった。
「お前、ヘンな趣味ないか?」
「うん?セックスならアブノーマルも好きだよ。」
ソファーに座り、ケンはくつろぎながら答えた。
漆黒の目がきらきら輝き、しなやかな身体の線が誘っている。
ダニーはドキっとし目をそらすと、キッチンの戸棚からブランデーを出して、
マグカップに注いで飲み干す。
「僕にもちょうだい。」「自分で注げよ。」
ケンは音も無くダニーに近寄ると、背伸びしてダニーにキスをした。
「お前って懲りない奴な。」
「ダニーのこと好きだもん。」
「そんなに好きなら俺の言う事何でも聞くか?」
「もちろんだよ。何でも言って。」
「じゃあベッドに来い!」
ダニーはアルコールと怒りから嗜虐的になっていた。
クロゼットからネクタイを数本持ってくる。
「服、早く脱げや。」
ケンは嬉しそうにセーターとパンツを脱いでトランクスだけになる。
「全部や。早う。」
トランクスを脱ぐと、すでにケンはペニスを大きくして次の命令を待った。
「手を万歳してうつぶせに寝ろ。」
ダニーはだまって服従するケンの身体の上に乗った。
「うっ、重いよ。」「だまれ!」
ダニーはケンの両手首をベッドヘッドにそれぞれネクタイで括りつけた。
「ダニー・・」ケンはこれから始まる事に期待をこめてダニーの名を囁いた。
ダニーはそんなケンの首にもネクタイを巻きつけ、後ろに思いっきり引っ張った。
「うぐっ!」アルコールで混濁したダニーは力の加減がわからなくなっていた。
「苦しいっ!」ケンがもがけばもがくほど、ダニーは力を入れた。
ケンがぐったりした。
しかしダニーの責めは終わらなかった。
自分のペニスをしごいて大きくすると、何の準備もないケンの蕾に押し当て、一気に挿入する。
「あぁ〜。」ケンが痛みと喜びの声を上げた。
ケンの声に刺激され、ダニーは腰を強く何度も何度も打ちつける。
「ダニー、いいよ〜、死にそう〜!」
ケンは自分でも腰を大きく動かし、摩擦を増やした。
ダニーは我慢が出来なくなりケンの中に思いっきり射精し、そのままケンの上に横たわった。
「ダニー、ダニー!」
ダニーはケンの中に入ったまま眠ってしまっていた。
早朝、ダニーは寒さで目が覚めた。
ケンが横ですやすや眠っている。
何や、俺、どうした?手首の拘束を解くとケンが横向きになって眠り続ける。
ダニーは自分のペニスに射精の跡を見つけ自己嫌悪に陥った。
あちゃー、俺、またケンとやってもうたんか。最悪や。
シャワーの熱い湯を浴びながら、涙を流した。
こんな俺、アランに愛される資格なんてない。捨てられて当然や。
ケンが眠そうにバスルームに入ってきた。
「ダニー、おはよう。」「お前、何で来た?」
「自分で呼び出したのに、忘れたの?昨日のダニー、最高だったよ。あんなセックスも出来るんだね。」
ケンは背伸びしてダニーにキスをした。
「やめろ!」
「あんな事しておいて、やめろはないよ。僕、もうダニーの虜だよ。」
ケンはそう言うと、血で汚れた太ももを洗い流した。
「お前、怪我したん?」
「だって、ダニー、容赦ないんだもん。すごかったよ。痛っ!」
「手当てしなくて大丈夫か?」
「うん、自分でするから平気。」
ダニーはますます自己嫌悪に陥った。怒りに任せてケンをいたぶった自分。
そんな事をする俺やないのに。昨日は魔が差したんや。
ダニーがだまっていると、ケンがボディーソープを泡立てて、ダニーの身体をまさぐる。
「ダニーの身体ってすべすべでアジア人みたいだね。」
くくっと嬉しそうに笑うと手をアヌスに滑らせる。
「お、おい!」「昨日はここを可愛がれなかったから、挨拶だよ。」
ダニーは手を振り払い、そそくさとバスから飛び出した。
「ダニーのけち!」ケンは鼻歌を歌いながらシャワーを続けた。
支局に出勤して、ダニーは気分を変えようと仕事に打ち込んだ。
キーボードをマシンガンのようにたたきつけ、しゃにむに調べものをしている。
「ダニーどうしたの?」サマンサがダニーの殺気に押されて尋ねる。
「もうすぐ年末やから、仕事片付けよう思ってな。」
「そうなんだ。気合はいってるね。じゃあ、コーヒー入れてあげる。」
サマンサが去るとマーティンがおずおずと寄ってきた。
「ダニー、目が血走ってるよ。」
「あぁ、昨日飲み過ぎてな。」「アランと一緒?」
「その名前は言うてくれるなよ。」
それだけ言うとまたPCに向かった。
マーティンはそんなダニーを不思議そうに見つめていた。
マーティンは決意してメールを送る。「捜査会議?」
ダニーの身体が一瞬硬直したような感じがした。
一呼吸置いて返事が入ってくる。「所用あり。」
マーティンはがっかりした。
ダニーに何事か起こったはずなのに、僕には言ってくれないんだ。
ダニーも考えにふけっていた。
どんな面下げてマーティンに話が出来よう。
定時になり皆が帰った後もダニーは一人残業して書類の整理をしていた。
気がつくとボスが傍らに立っていた。
「どうした、遅いんだな。」
「年末っすから、仕事片付けようと思いまして。」
「いい心がけだ。ところで、クリスマスはどうするんだ?ドクター・ショアとでも過ごすのか?」
ボス、お願いやから、その名前は言うな〜!
「いえ、決めてません。」
「そうか。まぁあんまり根を詰めるなよ。じゃあお先に。」
「気をつけて。」
一人だけの事務所。携帯を取り出して着信サインを見る。着信履歴なし。
かかってくるわけないよな。俺、最悪の形でアランを裏切ってもうた。もう終わりかもしれん。
気がつくとダニーの両目に涙が溢れていた。
マーティンは午後からの仕事に身が入らず考え事をしていた。
「マーティン、車を出せ」
見かねたボスが地下駐車場に呼び出した。
「どこに行けばいいんですか?」
「裁判所に行ってからダウンタウン犯罪センターだ」
ボスは目的地を言うとシートにもたれて目を閉じた。
マーティンは考え事をしながら運転していたため、裁判所の駐車場で車を擦ってしまった。
ギギギギ・・・・嫌な音と振動を感じ、はっと我に返る。
「マーティン!何やってんだ、バカっ!」
ボスが降りて確かめると右のドア二枚分に横線がくっきりと入っていた。
「お前はまったく!これは始末書ものだぞ」
「申し訳ありません」マーティンはなすすべもなくうなだれた。
ボスはマーティンを車で待たせ、裁判所に入っていった。
残されたマーティンは車の傷を指で擦るが後の祭りだ。
始末書か・・・くそっ、事後処理がややこしそう。
父さんが知ったら怒るだろうな・・・。
マーティンは憂鬱な気持ちで過ちを悔やんだ。
ボスが戻って来た。今度はダウンタウン犯罪センターへ向かう。
何も言われないのが余計にショックだった。
またぼんやりしかけ、慌てて運転に集中する。
今度は失敗するわけにいかない。
マーティンは細心の注意を払って狭い駐車スペースに車を止めた。
「行くぞ」ボスはマーティンに一瞥をくれると足早に入っていった。
外に出るとすでに太陽が傾きかけていた。
「このまま支局に戻られますか?」不機嫌なボスに恐る恐る尋ねる。
「ああ、そうしてくれ。みんなはもう帰っているかもしれんな」
マーティンは慎重に車を出し、支局へ向かった。
「ボス、始末書は明日までに提出します」
「ぼやぼやしてると命を落とすことも有り得るんだ。気をつけろ」
「はい」マーティンは気を引き締めた。
支局に戻るとダニーが待っていた。
「おかえり。一緒に帰ろう」
「ダニー・・・」
「どうしたん?泣きそうやん」
「車を擦った・・・今から始末書書かなきゃならないんだ」
「あほやなぁ、オレがまた運転教えたろ。気にすんなって」
ダニーはマーティンの肩をポンとたたいた。半泣きのマーティンも弱々しく頷く。
「ほな早よ書いてしまい。オレ、待っとくから」
「うん、ありがと」マーティンは書類に事情を書き始めた。
「考え事で上の空て・・・これ、笑えるなぁ」
ダニーが横から覗き込んでケタケタ笑っている。
「目的地へ急ぐにあたり、十分な確認をしませんでしたって書いたほうがええで」
「ダニーの嘘八百もこんな時はありがたいね」
マーティンは苦笑しながら書き直した。
二人は書類を提出し、支局をあとにした。
ダニーは落ち込むマーティンを連れ、フルートに行った。
「始末書ぐらい気にすることないって」
「うん・・でもさ、初めてだからショックなんだよ」
マーティンはスプマンテを一気飲みし、手で顔を覆った。
「あーあ、また父さんに顔向けできないや。最悪だよ・・・」
「よしよし、それ飲んだら帰ろう」ダニーはあやすように背中をたたいた。
マーティンのアパートに着くと、二人はまず留守電をチェックした。
副長官からのメッセージはない。ふーっと大きく息を吐き顔を見合わせる。
安心したのも束の間、携帯が鳴りはじめた。
「副長官か?」
「いや、スチュワートだ。僕、出るね」
マーティンは後ろを向くと電話に出た。
「うん。ごめん、今日は仕事でちょっと・・・わかった。またね」
マーティンは携帯を切るとダニーに謝った。
「またスカッシュか?」
「ううん、妹と食事しないかって」
「ふうん、あいつに妹なんかおったんか。どんなんやろな」
ダニーはスチュワートの妹に興味が湧いた。
「場所聞いたか?」
「アオザイだって。ホビロンが入ったらしいよ」
「うわぁ、あのグロい卵か・・気持ち悪い。オレも今日はベトナム料理食べたいな」
「えっ、ダニーあの卵食べたいの?」
「あんなもん食えるか!あれやったらまだサソリを選ぶわ」
「サソリで吐いたくせに」マーティンがからかった。
「よし、オレらも行こか」
「嫌だよ、僕は行きたくない。ドラゴンアレイの上海焼きそばが食べたいんだ」
ダニーはマーティンが嫌がるので渋々あきらめた。
二人はデリバリーのチャイニーズを食べ、ソファでゴロゴロしていた。
「ダニー、低温ロウソク覚えてる?」
「ああ、あれな。熱かったなー。クリスマスにキャンドルとして使おか」
「・・僕さ、仕事でミスった時は罰せられたくなる」
「は?頭大丈夫か?たぶん酔うてるんやで」
「酔ってないよ」マーティンはぼそっとつぶやいた。
ダニーはどうすればいいのかわからず戸惑った。
こんな時ボスやったら興奮してめちゃめちゃするんやろうけど、オレはちょっと・・
「何かしてほしいことあるか?」
「うーんとね、キスされたい」
「それ罰とちゃうやん!むしろご褒美やん!」
ダニーはソフトなキスから一転して舌を絡め、口の中を存分に味わった。
マーティンのペニスは反応してカチカチになっている。
「おしまい!」ダニーはわざと体を離した。
慌ててマーティンが体をすり寄せてくる。
「ダニィ・・続きしようよ」
「あかんあかん、今日は何もしいひんの。罰や!」
ダニーは意地悪な笑いを浮かべてマーティンを見つめた。
マーティンは諦めきれずにダニーを見る。
「そんな目で見てもあかんで。やりたかったらオナってみ」
ダニーはマーティンがどうするのかニヤニヤしている。
「わかったよ、見ててね」
マーティンはためらいながらペニスを取り出した。
右手で掴もうとするとダニーが左手でするよう命じる。
慣れない左手でぎこちなくペニスを擦るが、
いつもと勝手が違うのがもどかしい。
「ダニー、このままじゃイキそうにないよ。右手でもいいでしょ?」
「いや、あかん。イクまでやるか、諦めるんやな」
ダニーは薄笑いを浮かべたまま見物している。
「いじわる・・」マーティンは止めるに止められず手を動かし続けた。
手が攣りそうになるころ、ようやくイキそうになってきた。
「ダニィ、イクよ・・んっあっっあぁー」
ダニーは飛び散った精液を手に取るとゆっくり舐めた。
マーティンは疲れてぐったりしている。
ダニーはそっと抱きしめ、ベッドまで連れていった。
「もう眠くなってきた・・」大きな欠伸をするマーティン。
「おやすみ、オレのぼんやり王子。愛してるで」
これでゆっくり眠れるやろ、ダニーはキスすると布団をかけてやった。
ダニーは眠れぬ夜を過ごした。携帯を常に手にして、少しでも振動したら、
すぐ出られるように準備しているのも虚しい。
ベッドが広く冷たく空ろに感じられた。
身体の一部をもぎ取られたような虚無感がダニーを蝕んでいた。
携帯が振動する。「アラン!」「残念でした。ケンだよ。」
「お前か、今度は何だよ。」
「ねぇ、職場でクリスマスパーティーがあるんだけど、来てくれない?」
「なんで俺が?」
「だって、僕、友達いないじゃない。アランには頼めないし。ダニーが来てくれたら、一晩に何回もイカしてあげるよ。」
「そんなんで釣られると思うてるのか?」
「だって、アランと寝られないんじゃ、溜まっちゃうでしょ。」
「あほ!」「一生のお願いだから来てよ。ね。」
「うーん、もう俺たちに構わないって約束するか。」
「するする!」「安請負するのが怪しいわ。」
「明日の19時からクライスラービルのオフィスだよ。
服装はスマート・カジュアルね。グッチのスーツかなんかで決めてきてよ。」
「うるさい!もう切るで。」「約束したからね!」
ダニーは携帯をベッドの上に置くと、静かに目を閉じた。
いつの間にか朝になっていた。ダニーはのろのろと起き上がると、だるそうにシャワーを浴び、
グッチのスーツに着替えた。なんで俺、ケンの言うとおりにしてるんや。思わず苦笑する。
まぁええわ。ただ酒飲んで帰ることにしよ。
仕事を終え、クライスラービルにタクシーで駆けつける。
1階でケンが待っていた。
アルマーニのスーツでいかにも弁護士然としているのがおかしかった。
「来てくれたんだ!」「約束は約束やからな。」
「オフィスの大会議室が会場なんだ。」
ダニーはケンにエスコートされ、会場に入った。
シニアパートナー数人がサンタの格好をしている。
ギルもいた。ダニーを見つけて驚いている。ギルの奥さんらしき女性と息子が、ギルにまとわりついている。
「おい、息子、あんまりギルに似てないちゃうか?」
「男の子って母親に似るじゃん。」
「でも、ブルーネット同士からブロンドが生まれるか?」
ダニーは捜査官の勘が働き、胡散臭さを嗅ぎ取っていた。
「染めてるんじゃないの?」
ケンはギルの家族を見ようともしない。
ケンがシャンパンを取りに行っている間、ギルがダニーに話しかける。
「今日はアランと一緒じゃないんだね。」
「ああ、俺たち今難しい時期なんや。」
「アランも後で来るよ。」「え?」
「彼も大事なクライアントだから。」
あちゃー、こんなところでケンといるところ見られたら、もう最後通牒みたいなもんや。
ケンがダニーにシャンパングラスを渡す。「乾杯しよ!」
ケンは、事務所の女性陣がダニーの噂をしているのが、鼻高々だった。
あからさまにケンに紹介しろと名刺を渡してくるスタッフもいた。
「ダニー、なんだかすごい評判になってるよ。」「なんで?」
「弁護士と違う匂いがするからかな。やっぱり捜査官って男っぽいよね。」
ダニーは久しぶりの女性の話のネタになっている自分を懐かしく思った。
こんなん久しぶりやな。ドナテラどうしてるやろ。
ぼーっとしていると、ケンがカナッペを運んできた。
キャビアとクリームチーズ、生ハムとアスパラガスのカナッペを摘まむ。
アランが来ないうちに帰ろう。
「俺、帰るわ。」ケンに耳打ちすると、「いいじゃん。まだ始まったばかりだよ。」
ケンと同じ研修生が数人集まってきて、握手を求める。
ダニーは愛想よく皆に応対していた。ケンが「アランが来た。」とだけダニーに伝え、ダニーから離れていった。
ダニーはすぐさま駆け寄りたい衝動を抑え、アランの一挙手一動を見守っていた。
アランもすぐさま女性に取り囲まれ、シャンパンで乾杯している。
ダニーと目が合い、一瞬動きを止めたが、目をそらし、また話の輪に入っていった。
ダニーは打ちのめされた。もうほんまに終わりなのかもしれん。
あぁ、俺、何しちまったんやろ。
ダニーはシャンパンをあおるように飲み、気分が悪くなってトイレに入った。
ケンが追いかける。「ダニー、大丈夫?水持ってこようか?」
「お前、もう俺に構うな。」
「だって顔が青いよ。待ってて。」
ケンがミネラルウォーターを持ってくる頃には、ダニーはトイレの個室でへばっていた。
寝不足でシャンパンをあおったのがいけなかったらしい。
「僕、アラン呼んでくる。」「いや、そ、それはやめてくれ。」
ケンは病人が出たとだけ言い、アランをトイレに連れてきた。
個室で正体を無くしているダニーを抱きかかえると、アランは会場を去り、
自分のアパートに連れ帰った。冷たいタオルが額に置かれ、ダニーは
目が覚めた。見慣れた天井が目の前に広がっている。
アランの家?まさか、俺、幻覚を見てるんや。
アランが何も言わず、水を運んできた。
「アラン・・ほんまにアランなの?」「水を飲みなさい。」
アランはそれだけ言うと、ベッドルームから去った。
ダニーはまた眠りに入った。
夜中、静かにアランがベッドに入ってきたのに気がつかない。
早朝、ダニーは目覚めた。ジャケットとネクタイをはずしただけの姿で寝ていた。
隣にはアランが規則正しい寝息を立てている。
いたたまれなくなり、ダニーはジャケットとネクタイを拾うと、
アランのアパートを後にした。俺、酔いつぶれるなんて最悪や。
もうこんな醜態さらした俺なんか、アランが許してくれるはずない。
その日、ダニーは休みを取った。ベッドの中で、一日中泣いていた。
携帯が震える。マーティンだった。
「ダニー、どうしたの?」「飲み過ぎや。」
「最近、良く飲んでるね。心配だよ。」
「大丈夫や。何か事件あったか?」「今日は静かだよ。」
「そか、じゃ俺また寝るから。」
「僕に出来ることがあったら何でも言ってね。」
「ありがとな。それじゃ。」
マーティンに済まなくて頼めるわけがなかった。
冷蔵庫の中からオレンジジュースを出して、一気に飲み干す。
さすがに腹が減ったな。
前のインフルエンザの時はアランがチキンスープを口まで運んでくれた。
思い出が様々蘇り、ダニーはその度に枕を涙で濡らした。
がちゃ、ドアが開く音がした。ダニーは怖くて布団を被っていた。
キッチンで何かを作る音が聞こえてきた。「?」
そのうち、ベッドサイドに誰かが立った。ダニーは布団を被ったままだ。
「何か食べないと元気になれないぞ。」アランの声だ!
ダニーは目だけ出して、ベッドサイドにたたずむアランを見上げた。
「アラン・・」
「病人を助けるのは医者の務めだ。君をほっておけない。さぁ、トマトスープだ。飲みなさい。」
それだけ言うと、アランは静かにアパートから出て行った。
ダニーは涙を流しながら、アランの作ってくれたトマトスープをすすった。
アラン!俺のアラン!俺を置いていかんといて!
心の中でダニーは何度も何度もアランの名前を呼んだ。
マーティンはいつもより早く目が覚めた。
横ではダニーがグーグー眠っている。
「痛てー」左手を伸ばしかけて痛みに顔をしかめた。
あー、昨日のあれで筋肉痛になったんだ。
マーティンは腕を擦りながらベッドを出た。
お湯を張る間にニュースを見ると、今日もストが続いている。
オフィスまで歩かなくてはならない。
「ダニー、起きて。まだ地下鉄が動いてないよ」
「うん?ふぁ〜あ、おはよ・・」
ダニーは起き上がってからもまだうとうとしている。
「支局まで歩かなきゃならないんだよ!早く出なくちゃ!」
ダニーはようやく目が覚めた。
「この寒いのに歩きかよ・・・」
二人はバスタブに浸かり、慌しく体を温めた。
玄関で靴を選んでいると、ダニーがスケボーを見つけた。
「オレ、これで行こうかな。歩くよりマシやし」
「えぇー、マジっすか?」
「マジっすよ。お前は?」
「僕は・・・あっ、いいのがある!」
マーティンはほったらかしにしていたBMXを思い出した。
ブリーフケースの中身をデイパックに移し変え、二人はアパートを出た。
オフィスへ急ぐ人々が急ぎ足で歩いている。スケボーやローラーブレードの人もいる。
通勤とは思えないような不思議な光景だった。
マーティンは街のスケボー少年のようなダニーに笑いながら後ろからついて行った。
「ダニー、やるじゃん!」
「おう!」ダニーはニヤリとするとスピードを上げた。
支局に着き、マーティンはBMXのワイヤーロックを忘れたことに気づいた。
「どうしよう、盗まれちゃうよね」
「オフィスの窓辺にでも置いとけ」
ダニーは事も無げに言うと、エレベーターにBMXを乗せた。
「ボスに怒られないかな?」
「盗られたら元も子もないやろ。だって鍵ないねんもん」
マーティンは仕方なく納得した。
「おはよう」サマンサとヴィヴィアンがマグのコーヒーで手を温めていた。
「おはよう、歩いてきたん?」
「そう。マーティン、いいもの持ってるわね。あら、ダニーはスケボー!」
お互いの顔を見やったあと、四人はいっせいに吹き出した。
「タクシーもつかまらないし、歩くしかなかったから凍えちゃった」
「道路も渋滞してるしね。あんた、鍵を忘れたんでしょ」
ヴィヴに指摘され、マーティンは笑われながらBMXを窓辺に置いた。
昼休み、二人はいつものカフェでランチを食べていた。
「ストが終わるまでしばらく泊まってもええか?」
「いいよ。ブルックリンからじゃ遠いもんね」
ダニーはマーティンが完全に許してくれたと思い、ジョシュとの浮気を封印した。
「ありがとう。迷惑かけんようにするから」
よし、このままクリスマスに突入や!ダニーは頬が緩むのを感じた。
二人はアパートまでふざけながら帰り、途中で買ったデリのパックを並べ
テーブルに着いた。まだ熱々のフライドチキンにマーティンが早速手を伸ばした。
「今夜はクリスマスディナーのメニュー決めようか?」
「そやな。明日の帰りに買い物できるしな」
ダニーはサーモンのカルパッチョを食べながら頷いた。
「車を取りに行きたいけど、ブルックリンまでスケボーは痛いわ」
「イーライズでいいじゃん。近いしおいしいよ」
「そらそうやけど、あそこ高いねん。お前のチャリで帰ってもう一回来よか?」
「寒いからよしなよ。イーライズでいいの、クリスマスなんだから!」
マーティンは言い張って譲らない。
しゃあないなぁ、ダニーはあきらめて同意した。
食事が終わるとマーティンがなにやら熱心に書いている。
ダニーが見ようとすると慌てて手で隠した。
「見せやな作られへんやん、見せろって!」ダニーはメモを取り上げた。
・ローストチキン・かぼちゃのスープ・ブルスケッタ
・スティックサラダ・アップルパイ・ローストビーフ・パエリア・ニース風サラダ
・チーズ三種(ブリー、ロックフォール、カマンベール)
・海老と蟹のトマト煮・フルーツタルト・シャンパンと白ワイン
「なんじゃこりゃ・・・」ダニーは呆れてマーティンを見た。
「だって、何でもいいって言ったじゃん」
「二人分やで?オレとお前しか食べる人いいひんのに?」
「いいんだよ、サラダは僕が作るからさ。ね?」
マーティンの懇願にダニーは負けた。
「ほな、買い物リスト作るわ。けどな、残したらしばく!わかったな!」
「わかってるよ!」マーティンはにっこりと頷いた。
次の日、仕事が終わると二人は食材を買いに出かけた。
カートいっぱいに買い物をし、意気揚々とアパートに帰る。
「楽しくなりそうだね!」マーティンは嬉しそうに買ってきたものを並べている。
ダニーは下ごしらえの必要なものを分け、マーティンにも手伝わせた。
「ねー、サンタのクッキーは?」
「ちゃんと買ったけど、まだ食べたらあかんで」ダニーは先に釘を刺した。
「ん、食べないよ。来年は大きなツリーがほしいね」
「ああ」ダニーは曖昧に返事を返した。先のことなんかわからへん・・。
「明日はイブだから今夜は早く寝よう。
クリスマス休暇がこんなに楽しみなんて初めてだ」
「そやな、オレもお前と一緒に過ごせてうれしい。もうあかんかと思てた」
ダニーはマーティンを抱きしめながら神に感謝していた。
翌朝、ダニーはまぶたを腫らして支局に出勤した。マーティンが
さり気なく寄ってくる。「大丈夫?」「あぁ、心配かけたな。」
「もうお酒はだめだよ。」「ああ、ごめん。」
ダニーはそれだけ言うとPCを立ち上げた。
躊躇したものの、アランにお礼のメールを打つことにした。
「昨日は本当にありがとうございました。D」
これだけ打つのがやっとだった。
どんなに言葉をつむぎ合わせても、アランは許してくれないだろう。
ダニーは絶望的な気持ちになっていた。
近くのカフェでパニーニの簡単なランチを済ませると、ダニーはフェデラルプラザの周りを散歩した。
零下2度の空気が冷たい。俺の心の温度と一緒や。
帰りにスタバでカフェラテのグランデを買う。
オフィスに戻ってPCのメールボックスを見た。アランから返信や!
「具合はどうだい?A」ダニーは泣きそうになった。
「誰かのトマトスープは万病の薬。D」「大人をからかうのはよくない。A」
サマンサが次々にメールを打ち込んでいるダニーに驚いている。
「ダニー、ヘンなサイトにはまってるんじゃない?鼻の下のばしてメールずっと打ってる。」
「クリスマス近いから、デートの相手でも捜してるんじゃないの?」
ヴィヴィアンも呆れ顔でにやけるダニーを見ていた。
ダニーは、一目散でアランのアパートに行きたい気持ちを抑えていた。
メールが来たとはいえ、まだ許してくれるとは限らない。
焦りは禁物や。タクシーでブルックリンまで戻る。
留守電をチェックしたが、アランからはなかった。
その代わり、またケンから入っていた。
「ダニー、大丈夫?すごい心配してます。声が聞きたいので、電話ください。」
暇にまかせて電話を返す。「はい、ケンです。」
「俺や。」「ダニー!元気だった?」
「昨日休んだからな。」
「僕、アランが来るの知らなかったんだよ。ごめんなさい。」
「もうええよ。」
「ねぇ、ご飯食べようよ。今から行ってもいい?」
「勝手にしな。」
ケンが寿司のテイクアウトと日本酒を持って現われた。
「なじみの寿司屋のおやじさんに握ってもらった新鮮な寿司だよ。」
「美味そうやな。」
「日本酒はうちの親父からのクリスマスプレゼント。」
「そんなん俺と飲んでいいんか?」
「ダニーと飲みたくて、取っておいたんだ。」
ケンはダニーにぴたっとくっついて、背伸びしてキスをする。
「おい。今日はエッチはなしな。」
「えっ?そうなの?」
「メンスなんや。」
「まぁいいや。ダニーの家、知っちゃったしね。」
ケンはダイニングで寿司の包みを開けて準備している。
ダニーもグラスを持ってきて、ダイニングに並べた。
ケンが持ってきた日本酒は今まで飲んだことのないようなこくと香りがあって、
1杯目からダニーを酔わせた。
「お前と日本酒飲むとろくなことがないから、気いつけんとな。」
ダニーはトロをつまみながら、ケンに言った。
「何か僕ってダニーにとってお邪魔虫みたいじゃない。もう何度も寝てるのにさ、ひどいよ。」
「お前がヘンな策を弄するからやないか。あの居酒屋の晩はしてやられたわ。」
「ははは。懐かしいね。僕さ、アランも好きだけど、ダニーの方がもっともっと好きだよ。」
「言ってな。」
「今日はアランの事話しても怒らないんだね。」
「まぁな。」
「まさか、もう仲直りしたの?」
「そんなわけないやろ。お前のした事の痛手は大きいで。」
「ごめん。」ケンはほっとしたように胸をなでおろした。
「お前、本気で俺とアランの間に入れると思ってるんか?」
「うん。なんで?」ケンは不思議そうな顔で尋ねる。
「お前って不思議な奴。得な性分やな。」
「よくそう言われる。インターポール本局の研修では猛烈ないじめにあってさ。
いつも泣いてたんだよね。気がついたらこんな性格になってた。」
「ブリュッセルにもいたんか?」
「うん。お陰でフランス語とオランダ語が出来るようになったよ。」
「すごいな。俺はスペイン語だけや。」
「スペイン語、素敵な言葉だよね。ダニーにスペイン語で口説かれたら、腰がくだけちゃうよ。」
そう言うと、ケンは漆黒の瞳をきらきらさせた。
「お前、その目やめろよ。誘ってるやんか。」
「誘ってるんだもん。」
「だから、もうお前とはエッチなしやて。」
「そんなわけないよ。僕、自信あるからね。」
ダニーは最後に残ったホタテの握りを摘まむと、
「さぁ、もう帰った帰った!」とケンを追い立てた。
「今日は病人に免じて退散するけど、今度は絶対、ダニーと寝てみせるからね。」
ケンはそう言うと、残り少なくなった日本酒の瓶と共に帰っていった。
ケンがダニーのアパートから出るのをじっと見ている人物がいた。
アランだった。悔しそうな顔をすると、アランは静かにボルボを発進させ、
アッパーウェストエンドに戻って行った。
892 :
fusianasan:2005/12/23(金) 18:57:58
いつも楽しく読ませていただいてます。
書き手1さん
ダニーはマーティンからどんどん離れていってますね‥私はアランよりマーティンの方が好きなので、マーティンの事を思うと切ないです。
アランは少し卑怯な気がします‥。
書き手2さん
ダニーとマーティンがこのまま幸せになってくれたら嬉しいです。
お二人共これからも頑張って下さい。
ダニーが食材の下ごしらえをしているとインターフォンが鳴った。
誰だろ?マーティンがきょとんとしながら出る。
「バートンです」
スチュワートだ・・・思わずダニーを見る。
「あ、どうぞ入って」マーティンは仕方なくロックを解除した。
マーティンがドアを開けるとスチュワートが立っていた。
「どうしたの?」
「今夜は一緒に過ごす約束をしてただろ。忘れてたのか?」
スチュワートはマーティンを抱きしめた。「会いたかった・・」
息が酒臭い。ひどく酔っているようだ。
マーティンは体を支えるとリビングへ連れていった。
「やあ、トロイ先生。今夜はどうかされたので?」
キッチンからダニーが出て来た。
「オレはトロイじゃない。そっちこそ何でいるんだ?」
「オレは料理作ってるんや。明日のためにな」
「そうか・・マーティン、オレはずっと待ってたんだぞ」
「ごめんなさい」謝るマーティンをスチュワートは横に座らせた。
「わかったよ、オレよりテイラー捜査官が好きなんだもんな。約束なんて忘れて当然だろうよ」
スチュワートは自嘲気味に言い放ち、マーティンの手を握り締めていたがため息をつくと手を離した。
「それじゃ帰るよ」
立ち上がったがバタンとひっくり返ってしまった。
「ねえ、大丈夫?」マーティンが抱き起こすがフラフラしてて真っ直ぐに歩けない。
「こいつ、こんなんでどうやって来たんや。おい、トロイ、車か?」
ダニーの問いかけにも答えずスチュワートはぼんやりしていた。
ダニーはポケットを探り、車のキーを取り出した。
「ちょっと地下まで行って来るわ」ダニーは様子を見に行くことにした。
地下駐車場まで降りると、スチュワートの車が駐車スペース二台分を占領していた。
あのアホ、やっぱり!ダニーは止めなおそうとして車に乗った。
ブレーキペダルに足が届かないのに気づき、毒づきながらシートを寄せる。
きちんと車を止め、部屋に戻った。
マーティンがスチュワートのジャケットをハンガーに掛けている。
「あいつは?」
「とりあえず寝かせた。すごく酔ってるんだもん」
「ああ、車もめちゃめちゃな止め方してたわ」
ダニーはマーティンにキーを投げた。「入れといたり」
マーティンはキーをポケットに戻し、ダニーにも謝った。
ダニーはムカついていたが、マーティンに怒れずキッチンへ戻った。
「なぁ、マーティン、あいつのことも好きなんやろ?」
「え・・・何でそんなこと聞くの?」
「顔に書いてあるから。お前、あいつのセックスですすり泣くらしいやんか」
「そんなことないよ!何てこと言うのさ!」
「あいつが言うてた。オレやったら物足りひんのとちゃう?」
「ダニーひどいよ、僕が本気なの知ってるくせに・・・」
とうとうマーティンは泣き出した。
「あーあー、もう泣くなよ。オレが言い過ぎた、ごめんな」
なんでこんなことになるねん・・・ダニーは情けなくなってきた。
「ごめんな、スカンピの殻剥くの手伝ってくれる?」
ダニーは両手にスカンピを持ち、マーティンの顔に近づけた。
「怖いよ、ダニー」マーティンは泣き笑いのヘンな顔だ。
「よし、早よ剥け!でないとケツに突っ込む!」
ダニーはおもしろがってさらにスカンピを近づけ脅かした。
マーティンがチキンの皮にフォークを突き刺しているとスチュワートが起きてきた。
「見ててもいいかな?」二人が頷くと椅子に座って見学を始めた。
ダニーはチキンにハーブをはりつけ、ラップをして冷蔵庫にしまった。
「ローズマリーとローリエ、あとは何だっけ?」見ていたスチュワートが話しかけた。
「タイムや、肉の臭みが取れるねん」ダニーが答えた。
「ああ、母も同じことを言ってたな。懐かしい」
「何か手伝う?」マーティンが聞いたがスチュワートは首を振った。
ダニーはアップルパイ用のリンゴをスチュワートの前に置いた。
「皮、むけるか?」スチュワートは黙って手を洗うとリンゴの皮を剥き始めた。
「むいたら六つに割っていちょう切り。できるか?」
「いや、皮むきまでしか出来ない」
「それでも僕よりマシだね」
「威張って言うな、お前も練習しろ」
ダニーはデコピンするとリンゴを切り鍋に入れて火に掛けた。
「よっしゃ、今日はここまで。これで明日は楽や」
ダニーは一通り確認し、三人はリビングへ戻った。
「もう遅いし、お前も泊まれば?」ダニーがぼそっと言った。
「いいのか?」スチュワートが驚いて聞き返した。
「ああ、元々お前が先に約束してたんやろ」マーティンは口がぽかんとなった。
「ありがとう、テイラー捜査官」スチュワートは素直に礼を言った。
ダニーはクローゼットからブランケットと枕を取ってくるとソファに置いた。
「オレはここで寝るから。バスルーム、先に使い」
「ダニー?」
マーティンが聞き返すが、ダニーは軽く手を振って二人を追い払った。
スチュワートが入っている間、マーティンはダニーの横でもじもじしていた。
「もうええから。ほら、風呂入って来い」
マーティンがバスルームに行き、入れ替わりにスチュワートが戻ってきた。
「ありがとう」
「ああ」
お互いに短い言葉を交わし、スチュワートはベッドルームに消えた。
ダニーは風呂から出るとバーボンを飲み始めた。
二人は今頃ベッドで・・・・思い出さないように頭を振り、グラスを傾ける。
マーティンとスチュワートも眠れずにいた。
「スチュー、起きてる?」
「ああ、眠れそうにないな」
「僕もだ」二人はどちらともなく起き上がった。
二人がリビングに行くと、ダニーが慌てて目を閉じた。
「狸寝入りだろ?テイラー捜査官」
「見てたんか・・・何やってんねん、早よ寝ろや」
「みんなで一緒に寝よう。ダニーを誘いに来たんだ」
スチュワートが上半身、マーティンが両足首に手を掛けた。
「せーの!」ダニーは抗議する間もなく抱え上げられベッドに連れて行かれた。
マーティンを真ん中にそれぞれ手をつないだ。
「なんかドキドキする」マーティンは胸を押さえた。
「おい、トロイ!今日だけ特別やからな!」
「ああ、クリスマス精神だろ?君にも寛大な心があったってことだな」
「うるさい、黙ってオレに感謝しろ!」
「そうそう、オレたち、今夜は寝てないぜ。おやすみ」
スチュワートはマーティンにキスすると目を閉じた。
ダニーも負けじとキスをし、マーティンは困ったまま固まっていた。
渋滞で出勤に一時間半もかかり、すっかり遅刻してしまったダニー。
「ダニー、時間に余裕を持って出勤しろ!ストライキだからって特例はないんだからな!」
ボスがかりかり来ていた。
「すんません。」
朝から渋滞にはまった上に怒られて最悪の気分だ。
コーヒーをFBIマグに注いで席に戻り、PCを立ち上げる。
メールボックスの中を見るとアランからメールが来ていた。
いい事もあるやん!ダニーはドキドキしながらメールを開いた。
「今晩家に来ないかい?A」ダニーは目を疑った。うそやないやろな。
アラン、許してくれるんやろか。ダニーは、口笛を吹きながら返事を打つ。
「身一つでOK?D」「OK。A」
サマンサが訝ってダニーを見ていた。
やっぱりダニー、ヘンなサイトにはまってるみたい。
「ダニー・ボーイ、クリスマスのデートの相手は決まったの?」
ヴィヴィアンが声をかける。「あと一息や。」
ダニーはにやっと笑って答えた。そんな様子を複雑な顔をして見ているマーティン。
クリスマスイヴは僕と一緒だよね、ダニー!マーティンは慌ててメールを打つ。
「24日の捜査会議確認。」ダニーは一瞬身を硬くして画面に見入ると、「確認承諾。」と打った。
マーティンが後ろでため息をついている。あぁ、忘れるとこやった。俺、ボンとイヴは過ごすんやった。
寒さで凍てついた街は失踪事件一つ起こらず静かなものだった。
定刻になり、皆三々五々帰っていく。
ダニーもそそくさとPCを仕舞い、支局のビルから出る。
タクシーを30分待って、アッパーウェストサイドまで上る。
どこもかしこも渋滞だ。早うストライキが終わって欲しいわ。
ダニーはイライラしながら右手で太ももをドラミングしていた。
コロンバスアヴェニューに入り、車は全く動かなくなった。
「運ちゃん、すまん、ここで降ろして。」
ダニーはタクシーを乗り捨てると、10ブロック歩くことにした。
アランのアパートに着く頃には身体が凍ったように冷たくなっていた。
合鍵で入るのも気が引け、インターフォンを押す。
「はい?」「ダニーやけど。」
開錠される音がした。
部屋へ上がるエレベータの中でダニーは心臓が口から出そうになる位緊張していた。
手には脂汗がじっとりだ。
玄関のベルを鳴らす。アランが静かにドアを開けてくれる。
「お入り。」「うん。」
「寒かったろう。暖炉をつけておいたよ。」「ありがと。」イータラの
グラスにブランデーが注がれて手渡される。「温まるよ。」「ありがと。」
いつもと変わらないアランだった。
キッチンからは、何かをグリルする音と、アランの包丁の音が聞こえてくる。
ダニーは、着替える事も出来ず、暖炉の前でじっとしていた。
「?着替えないのかい?」「いいの?」「ああ。」
ダニーはクロゼットに入り、アディダスの上下を出す。
洗濯したての匂いがした。アラン、洗濯してくれたんや。
ダニーの視線が涙で曇った。
ぐすん、鼻を鳴らしながら、クロゼットを出ると、アランがダイニングにミートローフを運んでいるところだった。
ポテトとブロッコリの付け合せも出来上がっていた。
「さぁ、食べようか。」「うん。」
アランがピノ・ノワールを開けてダニーの目の前のグラスと自分のグラスに注いだ。
「ダニー、この前は僕が大人げなかった。」「アラン・・」
「ダニーを失うかもと思ったら、我を忘れた。」
「アラン、俺が悪いんやで。ケンの誘惑に引っかかってもうて・・・
もう頭を上げてえな。俺もアランを失うかと思って、この数日間、気が気でなかった。」
「それでも、ケンを家に上げるんだ。」
「な、なんて?」
「昨日、君の家にいったんだよ。そうしたら、出てきたケンに出くわした。」
「違う。この前は、ケンにはまったけど、昨日は飯を奴が持ってきたから食っただけや。」
アランはワインを一口飲むと、ダニーの目を見つめた。ダニーも見つめ返す。
「君を信じられなくなりそうだった。本当に僕はどうかしてるね。乾杯しよう。」
「アラン、許してくれるん?」
「君は僕のダニーだ。それは変わらないよ。」
「ありがとう!」ダニーは溢れる涙を止める事が出来なかった。
「ミートローフが冷めてしまったね。温めよう。」
ダニーは立ち上がったアランにしがみついた。
ピンク色の唇に自分の唇を押し付ける。
ダニーが舌で唇をこじあけ、アランの舌と絡ませた。長い長いディープキスだった。
「はぁ、はぁ。」ダニーは思わず息を吸い込む。
アランはダニーの手を握り、ベッドルームへ入っていった。
二人はたっぷり2時間お互いの身体をむさぼりあった。
消えかけていた身体のキスマークをつけ直し、二人とも満足そうに笑った。
「さぁ、夕飯にしよう。」「うん。」
アランが料理を温めなおしている間、ダニーはぴとっとアランの背中にくっついて回った。
「おいおい、料理をこぼしそうだよ。」
「アラン、俺のアラン・・・。」
「続きは、また今度だ。さぁ食べよう。」「うん。」
アランのミートローフには中に、アスパラガス、セロリ、コーンが入って、
特製グレービーソースがかかっていた。
「美味そうや。いただきます!」ダニーもアランも腹ペコだった。
ワインを飲み、見つめあって、どちらからともなく笑い出す。
「ダニー、クリスマスの事だが・・」
「うん、ジャネットとの食事な。こんな俺でええの?」
「もちろんだ。ぜひとも同席して欲しい。」
「何着ればええのかな?」
「プラダの新作を買ったんだ。それを着てくれるかな?」
「うん。イル・ムリノに何時?」
「8時に予約した。早く着いたらバーコーナーにでもいてくれ。」
「判った。ドキドキするなぁ。アランのお姉さんに会うなんて。」
「自然体でいてくれたらいいよ。ジャネットの毒気に当てられないようにだけ気をつけてくれ。」
ダニーはトムの言葉を思い出した。鬼婆・・・。
「俺、猛烈に気に入られたい。アランにふさわしい人間になりたい。」
「可愛い事言ってくれるね。愛してるよ、ダニー。」
「俺も。アラン。愛してる。ねぇ、今日、泊まってもええか?」
「もちろん。バスを入れてくるよ。」
ダニーは立ち上がってバスルームに向かうアランの後姿に見惚れていた。
ああ、アランに許してもらえた。神様、ありがとうございます!
>>892 さん
感想ありがとうございます。
アランはご指摘の通り、ダニーを手に入れるためなら何でもやる
狡猾な人間です。マーティンをないがしろにしてすみません。
これから新展開を検討しますので、よろしくお願いします。
ダニーは張り切って目を覚ました。
今日のディナーのことで頭がいっぱいだ。
マーティンもスチュワートもよく眠っている。
この三人で寝るとは・・・・・
ダニーはそっとキスをしてベッドから出た。
キッチンでベーグルを解凍しているとスチュワートが起きてきた。
「おはよう、昨夜はどうも」
「ああ、おはよう。ボンは?」
「まだ寝てる。ドキドキして眠れなかったんじゃないかな」
「あいつらしいな」ダニーはニヤッと笑った。
「オレのも作ってくれるのか?」
「ああ、もうすぐできる」ダニーはてきぱき野菜を洗った。
朝食をテーブルに運んでいるとマーティンが起きてきた。
「おはよう、二人とも早いね」
「おはよう、メシ食ったら家に帰って車取ってくるわ」
「それはいいけどさ、すっごく寒いよ?」
「オレが送ってやるよ。昨日のお礼だ」
「・・・ほな頼むわ」ダニーは嫌だったが送ってもらうことにした。
地下駐車場に降り、二人は車に乗った。
「あれ、足がつっかえてる。マーティン、車庫入れ上手くなったなぁ」
スチュワートがひどく感心している。
「あ、それはオレや。昨日めちゃめちゃしてたやろ」
「なるほど、君か。すっかり迷惑掛けたな」
「別に気にしてへん」
「そうだ、アパートまで運転するか?」
「マジで?」
「ああ、構わない」スチュワートはダニーと入れ替わった。
ダニーは遠回りまでして思う存分TVRを乗り回した。
「これ、めっちゃええなぁ。オレも印税が欲しいわ」
「バーカ、印税なんてほとんどないさ」スチュワートは苦笑いしている。
「マーティンがお前のこと好きなんわかる気がする」ダニーは突然言った。
「やさしくて思いやりがあるもんな、お前」
「何だよ、敗北宣言か?」スチュワートはニヤニヤした。
「いいや、でもあいつはオレとお前の両方が好きやから・・・・」
二人はそのまま黙りこんだ。
アパートに着き、ダニーは礼を言って降りた。
「今夜はパーティーか?」
「いいや、明日はパーティーだけど今夜は一人だ。DVDでも見て過ごすよ」
「そうか・・・送ってくれてありがとう」
スチュワートは軽く手を挙げると帰っていった。
さあ、早よ戻ろう!ダニーはマスタングに乗り、来た道を急いで戻った。
アパートに着くとマーティンがまた眠っていた。
ダニーはそっと近づき、冷たい手で顔に触れた。
「ひゃあ!」慌てて飛び起きるマーティンを羽交い絞めにしてくすぐる。
マーティンはキャーキャー言いながら転げまわった。
「このまま続けたいけどそろそろ支度しやなあかん」
マーティンは残念そうだったが、ダニーはベッドから出た。
ダニーはきびきびと働き、マーティンもできる範囲で手伝いながら料理を楽しんだ。
二人のおなかがグーグー鳴るころ、クリスマスディナーが完成した。
「出来たんはええけどものすごい量やな・・・」
「ダニー、しばくってのは無しにしてね」
マーティンがいたずらっ子の顔で見つめた。
「いいや、しばく!」ダニーはマーティンを促し手を洗った。
「トロイも呼ぶか・・・」席に着いたダニーが言い出した。
「え・・・でもさ・・」
「二人じゃ食べ切れへんからあいつも呼んだれ。ほら、携帯は?」
マーティンは狐につままれたような気持ちでスチュワートに電話した。
「来るって。すっごく喜んでたよ」
「よかったな」ダニーはグラスとお皿を追加した。
しばらくするとスチュワートが来た。
「今夜はお招きいただきありがとうございます。これ、皆さんでお召し上がりください」
恭しく頭を下げるとドンペリのロゼを差し出した。
「そんなに改まらなくてもいいよ、どうもありがとう。さあ、早く食べようよ」
三人は席に着き食事を始めた。
ローストチキンを取り分け、ダニーは嬉しそうなマーティンを見て心が和んだ。
トロイも呼んでよかったな、料理も無駄にならんで済んだし。
「もうやめとけって、腹痛になるで」
マーティンは次々とがっつき、ダニーはとうとう止めに入った。
「平気だよ、まだ入るもん」
「君の満腹中枢はどうなってるんだ?」スチュワートも呆れている。
「待って!タルトをもう一切れだけ」マーティンは最後まで食べ切った。
結局ほとんど食べつくし、三人は酔いも手伝って笑い転げた。
「お前異常やで、どっかおかしいのと違うか?」
「ああ、検査が必要だ。オレが調べてやる」
「嫌だよ、どこも異常じゃないよ」マーティンは二人におなかをペチペチ叩かれた。
ダニーはマーティンのペニスが勃起しているのに気づいた。
「エロいなぁ、こんなん触りたくなるやん」ダニーは脱がせにかかった。
暴れるマーティンの下半身を露にし、ダニーはキスを始めた。
スチュワートは呆気に取られてそばで見ていたが、自分も興奮してきた。
オリーブオイルをマーティンのアナルに塗り、弄ぶ。
ダニーは喘ぐマーティンの口にペニスを咥えさせた。
口の端から唾液が垂れ、息も絶え絶えだ。「次は僕がする!」
マーティンはダニーの体を四つんばいにし、オリーブオイルを塗るとペニスを挿入した。
ゆっくり出し入れし慣らしていく。スチュワートはマーティンの体を掴み、自分も入れた。
「うぁぁぁー」前も後ろも責められ、マーティンは声を上げた。
スチュワートはさらに手を伸ばし、ダニーのペニスをしごく。
「んっぅぅ」ダニーのアナルがマーティンのペニスを締め付けた。
「ダニー、きついよ・・あぁん」
スチュワートは絶妙な動きで二人を快楽に導いた。
「だめだ、出すよ・・んくっ・はぁっはぁっ」
ダニーは何度もビクンと痙攣するマーティンのペニスを感じ、自分もイキそうになった。
スチュワートは後ろからさらに突き上げる。
マーティンはイッたばかりのペニスがくすぐったくてたまらない。
あいつより先にイクのは嫌や!ダニーは何度も堪えた。
「おい、くっ・もうイキそうなんだ・・・君は?」
「オレもや・・限界や・・」スチュワートは激しく腰を使った。
「うっ・・・・はぁっはぁっ」スチュワートとほぼ同時にダニーも果てた。
えらいことしてしもた、間接的やけど3Pや・・・。
ダニーは薄れる意識のなかで動揺していた。
マーティンも呆然としていた。スチュワートが優しく頬を撫でる。
気だるい体を寄せ合いまどろむ。
疲れきった三人は服も着ずに眠りについた。
イヴの朝、ダニーはアランの胸の中で目が覚めた。
身体を離すとアランが寝返りを打って、背中向きになった。
「おはよ、アラン。」
ダニーはクリスマス風景を写すTVニュースを見ながら
コーヒーを入れた。その合間にシャワーを浴びる。
身体中がアランがつけたキスマークだらけだ。
くくっとダニーは笑いを漏らした。そこへ、アランがやってきた。
「おはよう、ダニー。」
「おはよー、アラン。」
「失礼してトイレをするからね。」
「見てへんよ。」
しっかりアランの姿を目に焼き付けるダニー。
アランが用を足し、シャワーブースに入ってきた。
「おはよう、ダニー。」
繰り返すと、ダニーの唇に優しくキスをした。
「今日は、ジャネット迎えに行くんやったな。」
「ああ。ホテルに直行だよ。」
「俺、今日いなくても大丈夫?」
「ああ、リトルジャパンの日本食にでも連れていくよ。」
「今晩は俺、マーティンと食事やから、連絡とれへんかも。」
「ああ、そうなんだ。じゃ何かあったら留守電に残すようにするよ。」
「うん。」ダニーもアランにキスをするとシャワーブースから出た。
「それじゃ、明日な。」「ああ。」
地下鉄の駅に向かう間、ダニーは、思わず鼻歌を歌っていた。
アランに許してもらえるなんて、思ってもいなかった。
そうやケンに電話したろ。
「はい、ケンです。」
「おー、俺や。おはよう。」
「ダニー!朝から嬉しいな。何?クリスマスディナーのお誘い?」
「いや、違う。俺、アランと仲直りしたから。」
「えっ何だって?」
「残念やったな。もう元通り修復したで。」
「そうなんだ・・・残念だな。今度はもっといい話で電話してよね。」ガチャっ。
こいつも少しは懲りてくれたかな。アランに手でも出されたらたまらんよって。
ダニーはブルックリンのアパートに戻って暖房を入れると、
またトロトロ眠くなり、ベッドで眠りをむさぼった。
携帯が震えているのにも気がつかない。
「ダニー、僕だけど。今日のディナー、「ノブ」で7時に予約したからね。来てね。」
ふっと起きると6時半だった。やばー、ボンを待たせたかな。携帯の留守電を聞くダニー。
どうやら、間に合いそうや。いかんな〜。
アランの事で眠れない日が多かったとはいえ、これじゃボンに嫌われるわ。
マーティンはトライベッカの「ノブ」に行き、バーコーナーでシャンパンを飲んでいた。
7時少し過ぎにダニーがやってきた。息を切らしている。
「来てくれたんだ!」「当たり前やん。はぁ、はぁ。」
「どうしたの?」「タクシーがちんたらしてたから、走ってきたわ。」
「そうなんだ。」マーティンはダニーにぴったりくっついた。
「おい、お前!」
「いいじゃん、今日は誰に見られても平気だよ!支局の奴らがここにいるわけないしさ。」
マーティンはカミングアウトを決意したかのように大胆だった。
ダニーの額の髪を持ち上げ、おでこにキスする。
バーテンダーがひゅーっと口笛を吹く。
ダニーはマーティンを振り払うと、グラスを受け取る。
「じゃあ、乾杯!」「僕らの未来に!」
メイトルDが二人をテーブルまで案内する。さすがにすでに席は満杯だ。
「フィッツジェラルド様、今日はノブ・マツヒサ・スペシャルでよろしかったですか?」
「ああ、そうして。」「お飲み物は?」「ドン・ペリニオンをお願いします。」
「かしこまりました。」
ダニーは堂々と指示するマーティンの姿を見て、頼もしいと思った。
自分とて最高級レストランが不得意なわけではないが、どうしても臆してしまうダニーがいた。
貧乏性なんかな。ダニーは思わず笑った。
「どうしたの?ダニー?」
「いや、お前、こういう場所に似合ってるなと思ってさ。」
「ヘンなの。ダニーだって来なれてるでしょ。アランと付き合ってるんだから。」
「まぁな。でも、お前、間違うてるで、俺はアランと付き合ってないって。」
「どうだかね。」「イヴにお前といててもだめなんか?」
「ごめん。何だかカリカリしちゃってさ。」前菜が運ばれてきた。
真ダコとドライトマトのマリネだ。「あらためて乾杯!」
「来年のイヴはダニーが僕を招待してよね。」
「そやな〜。」ダニーには未来は不透明な世界だ。確約できるものではない。
曖昧に返事をしながら、未来をかたくなに信じているマーティンを愛おしいと思った。
次の料理はカンパチ、マグロとアボガドのタルタルステーキだ。
ゆずのソースとかんずり、胡麻を合わせて食べる。
「うへ〜、この赤い奴辛いなぁ。」「日本のホットソースみたいだね。」
「お前、よくテーブル予約できたなぁ。」
「実は10月から予約してたんだ。」「そんなに前からか!」
「ダニーとディナーしたいって思ってたから。」
そう言うと、マーティンは顔を赤らめた。
料理はあん肝とブルーチーズのピザ、サーモンのわさびソースポアレと続き、神戸牛のステーキまで来た。
「これって神戸牛?」
「ダニーも知ってたんだ!そう。これって芸術品だと思わない?」
マーティンはミディアムレアに焼けたステーキを一片切って口に運ぶ。
「口の中でとろけるね。」ダニーも頷いた。
「今年、色々な事あったな。まず、お前が失踪班に加わったのが、俺にとっちゃ一大ニュースやった。」
「僕は、ダニーに出会えたのが、一大ニュースだよ。今年だけじゃなくて、僕の人生の一大ニュースだ。」
マーティンが感慨深げに話している。
「お前みたいな立場なら、色々出会いもあるだろうに、何で俺だったん?」
「ダニーが僕の前でも変わらず接してくれたからかな。ワシントンじゃ、副長官の息子で通ってたから、
皆腫れものに触るような感じでさ。本当の友達が出来なかった。」
「俺って無粋やからな。ごめんな。」
「それが良かったんだよ。最初、ダウンタウン・テイラーって言うからどんなおっさんかと思ったら、
ダニーだったんだよね。」二人で思わずぷっと噴出す。
「俺、そんなおっさんに思われてたんや。」
「ワシントンでも、ダニーの名前、良く聞いてたし。」
「ふぅん。有難いな。」「で、父さんのワシントン行きの誘いはどうするの?」
「お前、それ、知ってんのか?」
「だって、ダニーの成績を根堀葉堀聞くんだもん。下心ありありだよ。」
「俺は行かへんから。」「でも出世のチャンスだよ。」
「ボンを置いて俺が行けると思うか?いつまで失踪者班にいられるか判らんけど、
次の辞令が降りるまでは、お前と一緒や。」「良かった!」
「今日、どうする?」マーティンが上目遣いでダニーを見る。
「お前んとこ泊まりたい。んやけど、明日、俺、会食があってん。その準備せにゃ。」
「そうなんだ。」明らかに肩を落とすマーティンに申し訳なくなったダニーだった。
「でも、来客が終わったら、また会えるで。」
「大事な来客なんだね。」「まぁな。」
「判った。今日は諦める。じゃ、ニューイヤーズ・イヴは宿り木の下に立つって約束だよ。」
「ああ。約束な!」デザートの前にチーズを頼むマーティン。
メートルDがブランデーを持ってきた。大きな目を細めてマーティンを見つめるダニー。
マーティンはこのまま時間が止まればいいと思っていた。
ダニーは寒さに目が覚めた。なんだか頭が重い。
まだ夜中の四時前だ。あれっ、リビングで寝てる?
自分が全裸なのに気づき、昨夜のバカ騒ぎを思い出した。
マーティンとスチュワートは寒さのせいか身を寄せ合って眠っている。
ダニーは布団を取ってくると二人に掛け、バスルームにいった。
熱い湯に浸かり、体をあたためながら目を閉じる。
あかん、大分酔うてたんやな、オレ・・・。
でも、まあ、トロイより先に果てへんかったからよかった。
大きさでは完全に負けてるんやから、耐久時間で勝負や!
ダニーは妙な優越感に浸りニヤッとした。
バスルームから出ると、服を着て後片付けを始めた。
食器を片付け、手早くゴミをまとめる。
これでよし!ダニーはもう一眠りするために二人の横をすり抜けベッドに入った。
ブランケットにくるまり目を閉じる。
体が温まったせいか、すんなり眠りに落ちた。
マーティンが目を覚ますと、スチュワートの腕に抱きしめられていた。
ダニーの姿はどこにもない。
そっと腕から這い出るとキッチンへいった。テーブルはすでに片付けられている。
ダニーどこ?マーティンは急いでベッドルームへいった。
ブランケットに丸まりながらダニーはよく眠っている。
よかった、帰ってなくて。マーティンはホッとしてダニーにキスをした。
「うぅ〜ん・・ボンか、おはよう」
「おはよう。メリークリスマス、ダニィ」
「ああ、メリークリスマス、マーティン」
ダニーはとろんとした目を擦りながら起き上がった。
「シャワー浴びて来い、昨日のままやから汚いで」
「ん、わかった。あとでプレゼント開けようね」
マーティンは嬉しそうにベッドルームを出た。子供やなぁ、ダニーは再び目を閉じた。
マーティンがシャワーを浴びているとスチュワートが入ってきた。
「おはよう・・・」
「あ、スチューも起きたんだね」マーティンは気恥ずかしくて目も合わせられない。
スチュワートは後ろからマーティンの体をまさぐった。
「照れるなよ、オレだって恥ずかしいんだからさ」
「だってさ、あんなことになるなんて・・・」
「真ん中が一番いいポジションだよな」
スチュワートはうつむくマーティンの耳を軽く噛んだ。
「気持ちよかっただろ?認めろよ」
後ろから乳首をつままれ、マーティンはこくんと頷いた。
かわいいヤツ・・・スチュワートは振り向かせるとディープキスをした。
ぼーっとしたままマーティンは舌を絡められ、反応した下半身を手で覆い隠した。
「今は何もしないさ。あいつに悪いからな」
スチュワートはくすっと笑い、もう一度軽くキスをすると先に出た。
着替えを済ませたマーティンはダニーを起こした。
「もうお昼だよ、ダニー」
「ん、わかった・・わかったから」ようやくダニーもベッドから出た。
気まずいままスチュワートを見ると、輝くような笑顔が返ってきた。
「おはよう、テイラー捜査官」
「おはよう」ダニーは視線を逸らしソファに座った。
「はい、ダニー。僕からだよ」
「サンキュ、これはオレから」二人はプレゼントを交換した。
ダニーが箱を開けると、濃紺に水色とオレンジのレジメンタル柄のネクタイが入っていた。
マーティンのは、ワインレッドにペールオレンジとサンドベージュのレジメンタル柄だ。
「あれ?二人ともレジメンタルを選んだんだね」
「ほんまやな。でも色もパターンも違うから誰も気づかへんわ」
二人はお互いに首に当てて見せあいっこした。
「一つ聞いてもいいかな?ポール・スミスなのも偶然なのか?」
「いいや、ポール・スミスで選ぶって条件やねん。でないとコイツがまたヘンなの選ぶから」
ダニーは口を尖らせるマーティンの肩を軽くたたいた。
「なるほど。二人ともよく似合ってるぜ。お揃いさんってわけだ」
スチュワートは羨ましそうだ。
「休み明けにこれ使う約束やねん。似合うか?」ダニーはここぞとばかりに見せびらかした。
「ああ、マーティンはセンスがいいな」
スチュワートはマーティンを褒めて髪をくしゃっとした。
「それじゃ、オレは帰るよ。ご馳走様でした。料理もセックスも最高だったよ」
「ああ、うん・・・」セックスのことを言われ、ダニーは一気に気まずくなった。
「今夜はパーティーに行くの?」
「ああ、メディカルスクールの仲間が集まるんだ。今夜は邪魔しないから安心してくれ」
「わかった。ダニー、僕、下まで送ってくるよ」
マーティンはスチュワートと部屋を出た。
「オレもネクタイ欲しいな」スチュワートがぼそっとつぶやいた。
「いいよ、交換しようか?」
「本当に?それじゃ約束だぜ。あ、オレにレジメンタルは似合わないから」
「わかってるよ。好きなブランドとかあるの?」
「ポール・スミス!」
「絶対嘘だ!もう、スチューったら!」
「いいんだ、約束な。テイラー捜査官には内緒だぞ」
スチュワートは名残惜しそうに手を握っていたが帰っていった。
マーティンが部屋に戻るとダニーがネクタイを締めていた。
「ええ感じや。オレにぴったり!」
「当然さ、僕が選んだんだもん」マーティンは得意気ににっこりした。
ダニーはネクタイを大切そうに箱に戻した。
「早よ使いたいな。こればっかり着けてしまいそうや」
「僕も!」二人は嬉しそうに顔を見合わせた。
「ダニー、いろいろ気を遣ってくれてありがとう」
「ええねん、お前のためやから。
でもな、トロイには譲らへん。お前はオレのものやからな!」
ダニーはしっかり抱きしめるとベッドに押し倒した。
「今日は二人っきりでのんびりしよう。ダニーのピロートークショーやで」
ケタケタ笑うマーティンに、ダニーはやさしく微笑んだ。
ディナーを終え、ダニーは酔っ払ったマーティンをアパートまで送ることにした。
こんなんでボンに何か起こったらたまらんで。
「ダニー、泊まっていきなよ〜。ねぇ〜。」
エレベーターの中で暴れるマーティン。
「おいおい、エレベーターが落ちるで!また今度な。」
「今度って、いつだよ、嘘つきダニー。」
ひどいな、こいつ、いつも俺のこと嘘つきやと思うてるんやな。
ダニーはひどく反省した。
それなのに、これからアランのアパートにスーツを取りに行かねばならない。
「ごめんな。俺、悪い男やな。お前を踏みにじってばかりやもんな。」
「ばかダニー!泊まってけ!」命令口調に変わっている。
アパートの部屋に入れ、暖房をつける。
マーティンはソファーですぐ軽いいびきをかいて寝始めた。
「おい、風邪ひくで。」「うぅん、ダニー、愛してる。」「俺もや、ボン。」
ダニーはマーティンを引っ張って、ベッドに連れていった。
マーティンがダニーの身体に腕を回したままなので、二人で倒れこむ。
「ダニー、抱いてよ・・・」「お前・・」ぐぅ〜。
なんや、寝言か。こいつ、欲求不満なんやろな。
ごめん、今は寝るわけにはいかんのや。
アランのつけたキスマークが消えるまで待ってな。
ダニーは優しくマーティンに布団をかけてあげると、アパートを去った。
イーストサイドからウェストサイドへの移動に、タクシーが止まらない。
仕方なくセントラルパークを足早に横切る。
もうすぐセントラルパーク・ウェスト通りに出るところで、3人の黒人に取り囲まれた。
「何やねん!お前ら!」一人のジャブがダニーの左頬を強打する。
「威勢がいいな、兄ちゃん、おいサイフおいてけ。」
「嫌だと言ったら?」「こっちは3人だぜ、本気かよ。」
「ああ、本気も本気。俺HIVポジティブなんやで。血でも浴びるか?」
ダニーはにやっと笑うと、ボールペンを取り出して腕に刺すまねをする。
口の中が切れて、血を吐き出すと、3人は顔を見合わせて、「まぁまぁ、熱くなるなって。また今度な。」
「おととい来やがれ!」3人はとっとと退散した。
まったく酔いが醒めてしもうたわ。アランの家でブランデーでも飲もう。
合鍵でアランのアパートに入ると、リビングに電気がついていた。
ソファーでアランが転寝をしている。「アラン、アラン、風邪ひくで。」
「ん?ああ、ダニーか。おい、その顔どうした?」「うん?」
「左が腫れて色が変わってるぞ。冷やさないと。」アランはのろのろ起き上がり、冷凍庫からアイスマスクを出してくれた。
「セントラルパークで3人組に襲われた。」
「で、大丈夫だったのかい?」アランが心配顔で見つめている。
「ああ、俺は捜査官やで。やられる玉とはちゃう。サイフも無事。怪我は顔だけや。」
「それにしてもこれは明日のディナーまでには引かないなあ。」
「あ、ごめん。」「今日は、家に泊まれ。少しはましな顔になるだろう。」
「ひどい言い方やね。」
「何しろ相手はジャネットだからな。今日もリトル・ジャパンで大変だったんだ。」アランの目の下にはすでにクマが浮いていた。
そんなに大変な相手なんや。ダニーは気を引き締めた。「シャワーするかい?」
「うん、身体の芯から冷えた。」「じゃあバスにしようか。」
アランが湯を張りに行き、戻ってくるとキッチンでブランデーを用意してくれる。
「温まるよ。」「ありがと。」ダニーがバスに入っていると、アランが入ってきた。
「一緒に入るよ。」身体が上気して、お互いの身体に残したキスマークが紅く浮かんできた。
「わぁ花みたいやな。」ダニーがアランの身体にまた噛み付く。
「おいおい!またかい!」アランも負けずにダニーに噛み付く。
二人してしばし戯れ、ボディーソープで身体をまさぐる。
「アラン、欲しくなった。」「じゃあベッドに行こうか。」「うん。」
二人はバスローブを羽織るとベッドに急いだ。
アランのバスローブを性急に脱がせると、自分も全裸になってアランの前に立つ。
アランがダニーの乳首を唇でころがす。すぐにピンと立つのがわかる。
「んっはぁはぁ・・アラン〜!」
ダニーはペニスを大きくさせてアランの口を待っていた。
アランが乳首からわきの下に舌を這わせ、わき腹から下腹部に移動させる。
ダニーは我慢できず、アランの口に自分の硬くなったペニスを押し当てる。
アランが奥まで深く咥えこむ。
「あはん、うぅん。いい〜、アラン、もっと!」
アランは口でダニーを咥えこみながら、手はダニーのアヌスに伸ばす。
指で蕾をこじ開ける。
「あぁぁ。すごい、アラン、感じすぎて、俺、も、もうイキそうやわ。」
「待て。」アランはサイドテーブルからストロベリーの香りのローションを出した。
甘い果実の香りが部屋に溢れる。手にとって、ダニーの蕾と自分の指に塗りこみ、
さらにダニーの中の敏感な部分をなぶる。ダニーの身体が小刻みに震える。
「どうした、ハニー。我慢できないかい?」「うぅ。もうだめや。アラン来て。」
アランは自分のペニスにもローションを塗布すると、
ダニーを四つんばいにさせ、後ろから思うさま一気に挿入した。
「うわあー!」ダニーが絶叫する。
指でダニーはもう絶頂寸前まで来ていた。
あとボタン一つで、ダニーは発射寸前だ。
「アラン、もう行くで〜!あぁー!!」
ダニーは身体を痙攣させて精を吐き出していた。
それを見届けるとアランもダニーの中に果てた。
二人とも息も絶え絶えだ。「眠ろうか。」「うん。」
「おやすみダニー。愛してる。」「俺もアラン、愛してる。」
ダニーはアランの厚い胸板にしがみつくように眠りに落ちた。
翌朝、珍しくアランが寝坊している。昨日のディナー、大変やったのかな。
ダニーはメモをベッドサイドに置くと、プラダのスーツをガーメントバッグに詰めて
タクシーでブルックリンに戻った。もう一眠りしたい。ずきずき痛む左頬に、氷の袋を当て
ベッドに入った。夜7時、電話が鳴った。アランからだ。
「ハニー、具合はどうだい。」
「腫れ引いてないけど、俺、行くわ。怒らんといてな。」
「じゃ、待ってるよ。」シャワーを浴び、クラブソーダ片手に身支度を整える。
イル・ムリノに着くと、アランとジャネットは既に席に座っていた。
ドキドキしながらテーブルに案内される。
「初めまして。ダニー・テイラーです。」心なしか声が震えてしまった。
ジャネットが立ち上がり、ダニーをハグする。
「あなたがダニーなのね。会えて本当に嬉しいわ。!」
ダニーは面を食らった。ジャネットはまさにアランの女版だった。
ブロンドの髪といい砂色の瞳といいそっくりだ。えらいべっぴんやー。
ダニーは心臓が口から出そうになっていた。
ジャネットはそんなダニーの頭のてっぺんからつま先までジロジロ見ていた。
値踏みされてるわ、俺。ダニーは奴隷にでもなった気がしていた。
お眼鏡にかなえば、万々歳や。
「その顔の傷は、お仕事で?」ジャネットの容赦ない詰問が始まった。
「いえ、昨日、かっぱらいに襲われまして。」
「まぁ、危険を呼び込むタイプなのかしら?FBIに入局して何年?」
「5年です。」「楽しい?」「やりがいはあります。」
「それで、アランのどこが好きなの?」核心をつく質問だ。
「アランは、アランは俺の命の恩人ですし、親代わりです。」
それだけ言うとダニーはシャンパンを飲み干した。
「貴方、ご両親は?」「11歳の時に交通事故で亡くなりました。」
「そうなの。」ジャネットはダニーの手を取り、握り締めた。
「アランの不幸な過去を知ってるでしょう?私はそれを繰り返して欲しくないの。それだけよ。」
「それなら、任せて下さい。アランを幸せにします。」「信じていいのね、テイラー捜査官。」「はい。」
アランが割って入る。「ジャネット、詰問ばかりしてたら、せっかくの料理が冷めるよ。」
「アラン、ごめんなさい。仕事以上にシリアスになってしまったわ。」
「判りますよ。ご兄弟がいてうらやましい。」
「貴方はご兄弟は?」「兄がいますが、施設でバラバラになりましたので、今はどこにいるのやら。」
「貴方も苦労してきたのね。」ジャネットの砂色の目がダニーを探るように見つめている。
ダニーも負けずにまっすぐジャネットの目を見返した。
「ダニー、気に入ったわ。貴方の言葉を信じましょう。その代わり、アランを
不幸にしたら、私が貴方を許さない。FBIにもいられなくするわ。いいわね」
「おいおい、ジャネット。おだやかじゃないよ。」アランが慌てて取り繕う。
「アラン、私がやると言ったらやる事位、よく知ってるでしょう。ダニー、いいわね。」
「はい。わかりました。」ダニーはそう言わざるを得なかった。マーティン、済まない!